泡沫のスピカ(恋愛ゲームRe:rise ███攻略√) (世嗣)
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僕が描く明日
なんかリライズってヒロインのバリエが恋愛ゲーム感あるよね。
頬を撫でる風が心地よい。
「ふわ……」
風がそよぐ草原のディメンションで、ヒロトは寝転がりあくびを一つ噛み殺す。
ぼうっと、空を見上げていた彼の目線が、横へと滑っていく。
「……ん、コアガンダムの肩の塗装、少し落ちてるな」
彼は、見上げつつ「直さなきゃな」と重ねて呟く。
彼はここでいつものように『彼女』を待つ。
ここは、ヒロトが初めてこの世界──『
正直言って利便は良くないし、待ち合わせするにはいちいち歩いたり、もしくはガンプラに乗ってこなければならない。
それでも、ヒロトも、そして『彼女』も、この場所で待ち合わせすることに不満は持たなかった。
しばらくして、暇を持ちあましたヒロトがウインドウを開いてぱちぱちといじり始めた。
どうやら今日行く予定のミッションを確認し始めたらしかった。
「……んー、水中、砂漠地帯……絞っては来たけど、どこに行ったものかな」
呟き、頬を指でかく。
「今日持ってきたのはアースアーマーと、それにヴィートルー……あ、宇宙」
ハッとしたようにヒロトがウインドウをスクロールする。
「月、とかどうだろう」
悪くない、と頷く。
「なんというか、月っぽいもんな。髪とか、それにあの笑顔の感じが──」
「何の話?」
「う、うわっ!」
「きゃっ」
不意に、ヒロトの頬を風を孕んだ金糸の髪がくすぐった。
思索にふけっていたヒロトから驚きのあまり大声が漏れて、それに驚いた金糸の持ち主がぐらりと体勢を崩す。
「あっ」
思わずヒロトが手を伸ばしぐい、と金糸の──『彼女』を抱き寄せた。
ぽす、と小さな身体がすっぽりとヒロトの胸の中に収まる。
「……え、えと」
「そ、その」
彼女が胸の中でヒロトの顔を見上げ、ヒロトは少し気まずげに頬をかく。
「い、いきなり声かけるのは、やめてくれ。その、びっくりするし、危ない」
「……うん、そうね。次からはやめるね」
「別に、気を付けてくれるならそれでいいよ」
まるで壊れ物に触れるようにヒロトが自分よりもずっと小さな肩に手をかけて、ゆっくりと距離を取る。
すると、少女は緩い弧を描く眉をハの字に下げて、彼の横顔を覗き込んだ。
「さっきはごめんね、ヒロト」
「謝ることじゃないよ。でも、君が怪我したら大変だから」
「へ?」
「え?」
ぽかん、と彼女が目を丸くした。
そして、小さくぷっと吹き出すように口元を抑えた。
そして、口元を抑えたままころころと肩を揺らして笑い始める。
「な、なんで笑うんだよ」
「だってヒロトがあまりにもおかしなこと言うから……」
「おかしなことって、君が怪我したらたいへ──あ」
「ふふ、気づいた? ここGBNだよ? 転んだくらいじゃ怪我なんてしないよ」
「だ、だからって、笑うことないだろ。君が転ぶのは、なんか、良くない。汚れたり、するかもしれないし」
「……ふふ、そっか。心配してくれてありがとね、ヒロト」
「別に……」
ぶっきらぼうにそっぽを向いてウインドウをいじり始めるヒロトだが、髪に隠れた耳がほんのり朱に染まっているのが見える。
「それより今日のミッション、どれやりたい? 一応いくつか見繕って来たけど」
「わあ本当? 見てもいい?」
「うん、勿論」
少女と少年はぐっと距離を寄せて、一つのウインドウを覗き込む。
肩が触れ合うような距離。顔と顔が近づき、時々話に夢中になって顔と顔がぶつかりそうになって、その直前で気づいた二人が笑い合う。
他にそれを見る者はいない。
穏やかで、満たされた時間。
「よーし、じゃあ行こっ、ヒロトっ!」
しばらくして今日のミッションが決まったのか、少女が跳ねるように立ち上がり、座ったままの少年に手を伸ばした。
それに対し、少年は気負わず手を伸ばす。当たり前のように。
きっと、二人は出会った時からずっとこうして来たのだろう。
ずっと、こうして二人で手を繋いで、世界を旅して来た。
彼が、笑う。
「ああ、行こう、██」
「──っ! ここは!」
目を開き、半ば跳ねるように起きて、周囲を見渡す。
「俺の、部屋?」
目覚めた少年──クガ・ヒロトは癖のある黒髪を手櫛で治しつつ、嘆息。
「……当たり前、だよな」
一応周囲を見てみるがあるのは見慣れた自分の部屋。
ガンプラ製作の際に傷つき年季の入った学習机も、小学生の頃にガンプラ製作でとったトロフィーも、昨日手直しが終わったアーマーも、記憶のままだ。写真立てだって、ちゃんと二つある。
ここはGBNではない。
エルドラの決戦から早くも二ヶ月。
もしかするとあのあまりにもリアルな体験が、イマイチ抜けきっていないのかもしれない。
「……起きるか」
今日見た夢のことを思い返しながらベッドから降りたヒロトは軽く伸びをして着替え始める。
「俺、あんなんだったのかな」
だとしたら少し格好がつかない。アレではあまりにも、照れているのが丸わかりだ。ポーカーフェイスは特技だと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。
「けど、嫌にリアルな夢だったな」
風に揺れる草木も、微笑む彼女も、まるでぼやけていなかった。もう二年以上経つのに。
ワイシャツに袖を通しネクタイを締める。中学に入ったばかりの頃は苦戦していたものだが、五年間着ればそれなりに慣れるものだ。
最後にブレザーに手をかけた時、扉越しにくぐもったノック音が響いた。
軽く一回、強めに二回。
一瞬誰だ、と眉を寄せそうになったが、それよりも早くこのノックの仕方に紐づけられた少女の顔が浮かび上がる。
時間的に朝食に呼びに来たのだろう。
「ヒナタだろ、朝食ならすぐ行くよ」
ドアが開けば、やはり姿を見せたのは幼なじみのムカイ・ヒナタ。
エルドラを救う戦いで場所は違えど常に自分を応援し続けてくれた、『BUILD DiVERS』の最後の一人。
「わ、声かけなかったのにわかっちゃうんだね」
「まあ、聞き覚えあるノックの仕方だったし」
「ふうん、じゃあオサムさんとかのノックも覚えてるの?」
「父さんは俺の部屋をノックしない。母さんは声をかける。この家で俺の部屋をノックするのはヒナタだけだよ」
「この家って……私、ヒロトの家族じゃないんだけどなあ」
「週の半分はウチで飯食べてるだろ……あれ、今日朝練は? ウチで食べて行ったら間に合わないからって最近食べてなかったよな」
「もう、忘れたの? 今日からテスト期間で部活は休みだよ?」
「え? テストって文化祭の前じゃ……」
「なに? 寝ぼけてるのヒロト? 来月には文化祭だよ? クラスで仕事分けだってしたじゃん」
「あー、そう、だっけ……?」
「そうです。と、い、う、か、ヒロト、何か忘れてるんじゃない?」
「ん、ああ……おはよう、ヒナタ」
「うん、よろしい。ヒロトもおはよ」
ブレザーを手にかけ、カバンに手をかけるとリビングに向かう。
「おはよ、母さん」
「ん、おはようヒロト。あ、これ運んでくれるー?」
「わかった」
「あ、私も手伝いますよユリコさん」
「あら〜、ごめんねヒナタちゃん。じゃあさっきトーストが焼けてたから取り出してもらってもいい?」
「はい、勿論です!」
ヒナタが手慣れた様子で食器棚から皿を取り出すのを横目に、ヒロトはちらりと父の書斎へと目を向けた。
そこには無骨な文字で「執筆中」と書かれたボードが下がっていた。
「お父さん、今山場なんだって」
ヒロトの視線に気付いた気づいた母ユリコが、疑問に答えるように言った。
「なんでも、この前の仕事が上手くいったから続編の話が来てるとか……来てないとか……詳しいことはまだわからないけど、結構気合入ってるみたいなの」
「そっか。いいの、書けるといいな」
ヒロトの口角がわずかに緩む。
ヒロトはアルスとの決戦の後、その顛末を両親に伝えた。
まるで夢や絵空事の話をこの両親はきちんと受け止め信じてくれた。
とりわけ、ヒロトの父はその事実を興味深く受け止めたようでしばらくは根掘り葉掘りいろいろ聞かれた。
少し鬱陶しかった面もあったが、そうした話も今こうして頑張る父の役に立ったのかもしれないと考えればそう悪い気もしないのだろう。
「さっ、ヒロトもヒナタちゃんも早く朝ご飯食べちゃって」
母の促しに従って、ヒロトとヒナタが席につき、トーストをかじる。
「ヒナタちゃん、最近、部活はどーお?」
「あはは、これが中々思うようにはいかなくて……もう先輩もいなきゃだし頑張らなきゃいけないんですけど……」
「もう、そんなに気負わないの。ヒナタちゃんたくさん練習してるんだから大丈夫よ。ね、ヒロト?」
「え? ああ、うん。ヒナタは頑張ってて凄いと思う」
「うわー、凄い生返事。ぜーったい他のこと考えてたでしょ」
「いや、そんなことないって」
「ふうん、はっ、母さんわかったわよ。アレでしょ、最近GBNで知り合ったっていうあの子でしょ! 美人だって言ってたものね」
「メ……彼女はそういうんじゃないよ。なんというか、仲間だ」
「まっ、誤魔化して! いやねえ、ヒナタちゃん」
「あはは……別に隠すことじゃないんじゃない?」
「……はあ、ご馳走様。皿は洗っとくよ」
母のおもちゃになる気配を感じ取ったヒロトがため息混じりに残りの朝食を口に放り込み、席を立ち皿を洗い始める。
二ヒヒと下世話な顔でこちらを見ている母を視界の中から追い出しながら、ちょうど食べ終わって皿を台所に持って行こうとしていたヒナタに手を伸ばす。
「ん」
「いいの?」
「ついでだから」
「そっか、ありがと。今度お礼にガンダムベースで一品奢るね」
「じゃあブライトポテト」
「一番安いのじゃん。奢り甲斐がないなあ」
「じゃあ今度カザミあたりを連れて行った時に高いの奢ってくれよ。GBNでもいいけど」
「カザミくんかぁ。ふふ、相変わらず仲良いね、ヒロトとカザミくん」
「──?」
「え、何そのこの前見た00の主人公が初めてガンダムを見たみたいな顔」
「いや、俺とカザミが、仲が、いい……?」
「悪くないでしょ、いつも一緒にいるんだし」
「いや、いつも一緒ではないとは思うけど」
「そーお?」
首を傾げるヒナタに「そうだよ」と返しつつ、洗った皿を拭き、並べてそのままの流れで手を拭いた。
ちらり、と時計を見ればそろそろ登校したほうがいい時間だ。
「そろそろ学校行ったほうがいい時間だね。じゃ、私、先行くね、ヒロト」
その言葉に、ヒロトが眉根を寄せた。
「先……?」
「え、なんでそんなに不思議そうな顔?」
「いや、だって目的地は同じだから。なんで?」
一緒に行くんだと思っていた、と言外に伝える。
小学生の頃から高い頻度で学校に行っていたし、中学に入ってからは朝練のあるヒナタとヒロトでは登校時間が合わなくなったが、それでも時間が合うときは一緒だった。
それを、なんで急に変えるのか、ヒロトは不思議に思ったのだろう。
「ヒロト、なんでって……それ本気で言ってる?」
「え、うん」
急にずいっと距離を寄せて来た幼なじみに気圧されるように頷くと、今度はジトッと粘土のある目線で見上げられた。
「ほんと、ヒロトはさあ…………」
はあーーー、と運動部らしい肺活量で一際大きなため息をしたヒナタが、カバンを手に持ち玄関へと向かう。
「ヒナタ?」
「ヒロトってほんとーに、ヒロトだよね」
「なんで俺の名前が罵倒に使われてるの」
「あのね、いくら私でも、あの空気に割り込むのは無理だよ。どうせ、今日も約束してるんでしょ?」
「いや、なんの──」
「はいはい、わかりました。ユリコさん、ご飯美味しかったです、ありがとうござました」
「はーい、また来てね、ヒナタちゃん」
ぺこり、と礼儀正しく一礼したヒナタはそのまま玄関へと向かった。やや経って、玄関の扉が開く音がした。ヒナタが出て行ったと推理するのは難くなかった。
「母さん、あれ、どういうことかわかる?」
「うーん、そうね、00的にいうならフェルトを取るか……それともマリナを取るかってことよ」
「なんかやたらと00に例えるな。母さんとヒナタで二人で視聴会でもしたの?」
「あら、バレた? ヒロトはどっちが好きなの?」
「いや、俺はAGEのユリン……って、母さんからかってるだろ」
からからと笑う母ユリコに、ヒロトが今日何度目かのため息。
そして、カバンを持ってヒナタと同じように学校へと向かおうと玄関へと向かい、靴に手をかける。
その背中に、ユリコの声がかかる。
「ねー、今度その噂の女の子、ウチに連れて来てもいいのよー? 私も会ってみたいしー」
「無理だって。メイはELダイバーなんだからそうそう連れて来たりできないよ」
「える、だいばー?」
「いや母さんこの前説明したろ。俺がエルドラに行って戦った時のこととかさ」
「なんのこと?」
「はあ、母さん、俺をからかうのは……」
ヒロトが呆れ混じりに振り返って、
「母、さん……?」
そこでヒロトが自分の頭を抑える。まるで
(何かが、おかしい)
不思議そうな顔をした母親。
イマイチ会話の噛み合わないヒナタ。
何より起きた時から拭えない違和感。
(何かはわからないけど、間違いなく、何かが、おかしい、気がする……)
困惑の最中、突然玄関のチャイムが鳴った。
ポーン、とヒロトの感情に逆らうような、能天気な音に、ヒロトの体は自然と動いていた。
まるで、そうするのが当然のように。
まるで、
がちゃり、と扉が開く。
「おはよう、ヒロト」
不意に風が、吹いた。
強く、悪戯な風は扉の前にいた少女の髪を──金糸の髪を弄んだ。
それは、ありえない光景だった。
だって、彼と彼女はずっと前に別れたはずで。
「? どうかした?」
ヒロトの心が「有り得ない」と言い、でも、それを目の前の現実が否定する。
混乱の中でヒロトは、目の前の『彼女』に──
「イヴ…………?」
制服を着たイヴちゃんについてはいい感じに妄想で補ったり、ネットの海に旅立ったりしてください。
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恋愛ゲームにありがちな最初のやつ
ようやっと恋愛ゲームらしいことができました。
クガ・ヒロト。17歳。高校二年生。趣味はガンプラ作成。父母ともに健在。GBNではダイバーネーム『ヒロト』として『BUILD DiVERS』に所属する。幼なじみは一人。
けど、その彼の『日常』が狂っている。
(なんで、俺、当たり前に登校してるんだ)
ヒロトがちら、と今自分の横を歩く制服の少女を見る。
自分の肩ほどまでの背丈、長い髪は極上の絹のように柔らかで、瞳は深い空の色。
そして、耳には、ヒロトのかつてあげたイヤリング。
でも、あり得ない。
イヴはGBNに住む電子生命で、こうして現実に出てこれるはずなんかなくて、そして何より。
(イヴはもう、こうして話すことはできない、はずなんだ)
心の中で呟き、唇を軽く噛んだ。
「どうかしたヒロト?」
「え?」
「すごく難しい顔してるよ? 何か悩み事?」
「いや、そんなことはない……と思う、けど」
「ふうん……」
言葉を濁すヒロトの頬にちくちくと疑いの視線が突き刺さる。再び目だけで隣を伺えばそこにはぷく、と頬を膨らまして不満を示すイヴが。
「あ、いや、その……君は……」
──こんなところにいるはずがない。
そう続けようとして、開いた口が力なく閉じられる。
「……その、なんで、俺の家の前に?」
結局、出てきたのはそんな疑問。
「なんでって、昨日約束したから?」
「俺と、君が? なんで?」
「なんでって……私とヒロトが一緒にいるの理由がいるの?」
「──!」
「ヒロト?」
「や、なんでもないから」
ヒロトが眉間を揉むふりをしつつ、少し赤くなった顔を隠した。
未だ目の前の光景が現実と信じられなくとも、それはそれとしてこれだけの美少女に好意全開のことを言われればやはり照れる。
ヒロトだって、まだ思春期の男の子ということだ。
が、そんな男の子の機微がイヴには感じ取れないらしい。
「ヒロト」
くい、とヒロトの制服の袖がひかれる。
「今日のヒロト、なんか変。風邪でもひいちゃった?」
「え? いや別に、普通だよ」
「むー、なんか隠してるでしょ。ほら、おでこ出して、熱測るから」
「ちょ、ここは人目もあるし駄目だって!」
「え、きゃっ!」
イヴの白魚のような手がヒロトの方へと伸ばされると、反射的にヒロトが大きくのけぞった。
流石に予告なしで触られるのは看過できなかったための行動だが、ヒロトの袖を掴んでいたイヴはヒロトの動きに引っ張られるように前へ突っ込んだ。
それは、自然と目の前の人物の──ヒロトの胸に突っ込むことになるわけで。
「──」
「ーーー」
二人の顔が意図せず近づき、ヒロトは空色の瞳の中の自分を、イヴは淡い黒の瞳の中に写る自分を覗き込んだ。
一瞬、二人が時が止まったかのように動きを止めた。
「「 ご、ごめん! 」」
ほう、と互いの息が頬を撫でた瞬間、金縛りから解放された二人が、しゅばっと通学路の端から端に分かれた。
(近い柔らかいめっちゃいい匂い──じゃないそうじゃない何か言わなきゃ。謝らなきゃ。えっとまずはえっといい匂い違うじゃない。まずは機体を唱えて落ち着けガンタンクガンキャノンガンダムボールジムザクグフドム)
テレビシリーズ登場機体をあらかた唱え終わり一瞬で高まったボルテージを落ち着けると、後ろを振り向いた。
するとそこにはほんのり紅のさした頬を制服の裾で隠すイヴがいて。
「あ、え、と……」
それを見てヒロトの頭が尚更真っ白になって────
「おっヒロトじゃねえか! そんなとこで出会うのは珍しいな!」
クソデカくてやかましい声が割り込んできた。
その声の人物は手慣れた様子でヒロトの首に腕を回し力任せに引き寄せた。厚い胸筋にヒロトの顔が押し付けられカエルが潰れるような声が漏れる。
「よっ、朝に会うのは珍しいな。なーにチンタラしてんだ?」
「その声まさか」
「ふっ、声でわかっちまったか。そう、俺がお前の親友ジャスティーーーース」
「カザ……誰?」
「っておーーーい! 俺だよ! カザミだよ! お前の親友だよ!」
「いやだって、お前は……」
ヒロトが自分にひっついていたカザミをひっぺがすと上から下までしげしげと見つめる。
ヒロトよりも頭ひとつ大きい体躯、鍛え上げられた筋肉、トレードマークの赤いバンダナはGBNの時と変わらない。
「俺と同じ学校じゃないはずだ」
けど、その見慣れたカザミは何故か
それに、ヒロトは知っている。
現実のカザミはこんなに筋骨隆々ではない。
身長だってせいぜいヒロトと同じくらいである。
現実に
が、しかしカザミは「何言ってんだ?」とばかりに目を細める。
「俺とお前は高一の頃からおんなじクラスじゃねえか。ヒロトがジョーダンなんか珍しいな」
「いやそういうんじゃ」
ヒロトがカザミを押しのけようとしたとき、ふとカザミがヒロトの隣の少女に気付いてこれまたデカイ声を上げた。
「ん、って、そこにいるのはイヴ先輩?! な、なんでヒロトの野郎と一緒に?!」
「あはは、おはよう、カザミくん」
「お、おう、おはようございますっ!」
「なんで敬語で話してるんだ」
「る、るせっ!」
ちら、とヒロトが隣を伺うとちょうどイヴも同じタイミングでヒロトを見ていたのか、二人の視線が合った。
「あ、えと、先。私、先に行くね、ヒロト」
「え、あ、うん、じゃあ」
「……」
「イヴ?」
不意に、ぐっとイヴがヒロトとの距離を詰めて、ヒロトにだけ聞こえる声量で耳元でささやいた。
「今日お昼、話したいことがあるから屋上に来て」
耳に息がかかる。だが、それも束の間。
イヴは言うや否やヒロトから素早く離れ、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。
「……じゃあね、ヒロト。カザミくんもまたね」
「う、ウスっ!」
ひらひらと手を振って小走りで学校に向かうイヴの背中を見送りつつ、カザミがポツリと一言。
「何、お前ら付き合ってんの?」
「うるさいな」
いくつか、分かったことがあった。
一つ、この世界はヒロトの知ってる現実とかなり高いレベルで同じということ。通う学校も、その他の常識なんかもおかしな点は特に見当たらない。
二つ、この世界にもGBNはあるということ。登校の時にそれとなく話を振ってみたが、カザミはGBNのことをきちんと認識していた。
そして、最後。
「こら、ヒロト少年、どこを見ているのかな」
物思いにふけるヒロトに声が降ってくる。
つらられように目線を上げると、そこには圧倒的な赤いスーツを着た巨漢が煌めく笑顔を見せていた。
真っ白な歯が電気に照らされきらりと光る。
「あ、すみません……キャプテンジオン先生」
そう、いまの現実にはヒロトがGBNで知り合ったプレイヤーがなぜか当たり前のようにいるのだ。
カザミはなぜ高校一年からの親友だったし、イヴは三年の先輩で去年の文化祭のミスコンで優勝したらしいし(カザミが登校の時聞いてもないのに教えてくれた)、そしてキャプテンジオンは歴史の先生をしている。
ヒナタが隣のクラスなのは変わらないが、この分だと『BUILD DiVERS』のメンバーや、他のGBNでの知り合いもいそうだった。
「では、今日の授業はここまで! 学級委員号令を頼むよ!」
教室のどこかで気の抜けたような「きりーつきょーつけーれー」という声がかかり、キャプテンジオンが去っていくと途端に教室がガヤガヤとうるさくなる。
それと同時にズシッと太い腕が首に回された。
「よっ、ヒーロト、学食に飯食いにいこーぜ」
「いいよ俺は。購買とかで適当に買うし」
カザミには言わないが少し学校を見回って今のこのよくわからない状況を整理したかった。
それに、イヴとの約束もある。
だが、カザミはヒロトの返答に納得せずやたらと食い下がる。
「なんだよいいじゃねえかよ、俺とお前の仲だろ? ほら、さっさと行くぞ」
「ちょっと、俺行くなんて一言も」
「付き合い悪いなぁ……あ、まさかイヴ先輩と飯食う約束でもしてんのか?!」
「……別にしてないって。イヴとは、そういうのじゃなかったから」
「かー、呼び捨てしやがってよ。いつの間にそこまで仲良くなったんだよ」
「別になんだっていいだろ」
「隠すなよみずくせえなあ。ほら、昼はこってり搾らせてもらうぜ。ほら、行くぜ! 立った立った!」
「あー、わかったから、行けばいいんだろ、行けば。でも途中で抜けるかもしれないからな」
どこか呆れたように、でもその頬が僅かに上がっていることをヒロトは気づいているのか、それともいないのか。
カザミは半ば引きずるようにヒロトを連れて廊下に出る。
すると、運良く、というべきか運悪く、というべきかちょうど廊下の曲がり角から出てきたヒナタに出くわした。
「おっと、悪いなヒナタ」
「わ、なんだカザミくんか」
「なんだとはなんだ。フォースのリーダーだぜ、俺」
「あはは、ごめんごめん。あれ、ヒロトもいるんだ」
「おう、今から飯に行こうと思ってよ」
「あ、そうなんだ。じゃあ、ちょっと遅かったかー」
「遅かった?」
ヒロトの目が「どういうこと?」と尋ねる。
するとヒナタは指をくんで、いじいじと何か言いにくそうに目を泳がせる。
ふわふわ、ゆらゆら、目が動く。
「え、と、ヒロト、今日お弁当持ってないでしょ?」
「え、ああ、そういえば……」
「実は朝、私百合子さんにヒロトの分のお弁当預かってたんだけど渡しそびれちゃって」
「ああ、今日ヒナタのも母さんが作ったのか」
「うん、正確には私と百合子さんで作ったんだけど、ね。今日の卵焼きとかは、わりと、自信作」
ゆらゆら。
「じゃあどうすればいい? 今から取りに行く方が」
「うん、それでもいいけど……カザミくんとこれからご飯なんだよね? それなら、無理強いはできないや」
ごめんね、とヒナタが笑う。
目が気にしないで、と言っていた。
(……弁当か)
きっと朝からヒロトの母と一緒に作ったのだろう。
自分の分もとなると、さすがに食べないのは気が引けてくる。
けれど、隣にはカザミがいる。
それに、朝した約束も。
(……どうしたものかな)
カザミと学食に行くか。
ヒナタの弁当を食べるか。
それとも、二人の誘いを断って今すぐイヴの待つ屋上に行くべきか。
選ばなきゃ、いけなかった。
この作品はアンケート選択分岐式の小説となります。
二日後にアンケートの結果一番多かった選択肢をヒロトが選び、行動することでルートの分岐が行われていきます。
読者の皆さんは、自分が見てみたいシチュやルートを考えながら投票してもらえると嬉しいです。
今日のところはこの四つ。
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