死神英雄譚 (ちゃむこ)
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本編
1話 黒いファミリア


地下迷宮(ダンジョン)

それは、世界に唯一のモンスターがわき出る『未知なる穴』。

数多の階層に分かれ、その広く深過ぎる『穴』の全容を掴んだものは誰一人いない。

 

未知なる穴(ダンジョン)

…それは

未知なる資源と、未知なる体験と、未知なる危険…

あらゆる可能性が眠る場所…

そして、その『未知』に挑む者達を人は〈冒険者〉と呼んだ。

 

 

                         

 

 

【ダンジョン50階層】

ここは安全階層(セーフポイント)呼ばれる、たくさん階層があるダンジョンの中で、モンスターの出現し難い数少ない階層であり、そう言った階層はダンジョン攻略をする冒険者達の貴重な休息地帯(レストポイント)になっている。

 

だが、そんな安全階層は今完全な戦場になっていた。

オラリオに数多く存在するファミリアの中でも、屈指の実力を持つ『ロキ・ファミリア』。

もう何回もこなしているダンジョン遠征に出ていた彼らは、今までに見たこともない新種のモンスターに襲われていた。

特徴として、芋虫のような見た目をし、体内には一級武装ですら溶かしてしまう腐食液を吐き出していた。

しかも、その芋虫モンスターは単体でも厄介なのに、ダンジョンの道を埋め尽くせるぐらいの群れで襲ってきていた。

その光景はまさに〈異常事態(イレギュラー)〉だった。

 

新種のモンスターに苦戦を強いられるも、さすがはロキ・ファミリア。

なんとか芋虫型を殲滅するのに成功した。

だが、異常事態はまだ終わっていなかった。

 

先ほど倒した芋虫の身体に、人間の女性のような上半身を模している人型の巨大モンスターが、突如49階層の地面から這い出てきたのだ。

30Mはあるその巨大に、芋虫型の特徴である腐食液、虫の羽のような形をした腕部、それだけでも厄介なのにも関わらず人型は広範囲に、爆発を発生させる粉ー爆粉を撒き散らす。

 

先ほどの芋虫型でも苦戦したのに、さらにその上位互換の新種のモンスター。

この状況に、ロキ・ファミリア団長のフィン・ディムナは、撤退の命令を下した。

だが、そのような行動をする冒険者を逃すほどモンスター達は優しくない。

この新種の人型だってそうだ。

そこでフィンはある決断をする。

 

「アイズ、あのモンスターを討て。一人で(・・・)だ。」

 

撤退が完了するまでの時間稼ぎ。その役目をフィンはアイズに任せた。

他の幹部達がアイズを一人にさせたくないと猛抗議するがフィンの決断は変わらない。

フィンの真剣な目に幹部達も命令にしたがった。

アイズと人型モンスターの交戦が始まる。

 

敵の腕部の堅さは《(エアリアル)》で強化されたアイズの剣をも弾く。

そして無数の触角からは腐食液、さらには爆粉による広範囲の爆発。

だがそのどれもを、アイズは長年培った冒険者の戦闘経験で突破していく。

激闘の中アイズは想った。

 

(つよくなりたい)

 

大事な人達を守れるように

二度と失くさないために

…悲願のために

そして…『彼』のように……

 

その瞬間、アイズの脳裏に一人の青年が浮かび上がる。

 

全身が黒に包まれ、そこに光が差しているかのようにキラキラと銀色に輝き綺麗な髪を持つ青年。

ずっと憧れていた人。ずっと背中を追いかけていた人。

いつか隣に立って一緒に戦い、そばにいたいと思った人。

アイズは戦いの中、鮮明に彼の姿が浮かんでいた。

いつもなにかと戦っている時、必ずと言っていいほど毎回彼の姿が浮かぶ。

 

彼の隣に立ちたい。そう思うだけで…

 

私はどこまでだって強くなる

 

「リル・ラファーガ」

 

アイズの風の最大出力での突撃。

刹那ーー100m以上離れた相手に対し、一瞬の躊躇もなく全力防御態勢。

この神がかった反応は、まさに怪物(モンスター)の本能のなせるわざ。

ーーだが

 

閃光は止められない

 

爆風と同時に、人型が倒されたことにより体液が飛び散った。

アイズが勝ったのだと、団員達の顔には歓喜の笑顔と、安心したような表情が生まれた。

…だが、その安心も一瞬で絶望へと変わった。

 

ズズンッ! ベキベキ ベキバキ

 

先ほどの人型が現れた時と同じような地響きと、木々をへし折りなぎ倒す音が聞こえた。

 

それも三つ(・・)

 

全員が音の方へと目を向けと皆その光景に顔を青ざめた。

そこから出てきたのは先程アイズが倒した人型のモンスターが三体出てきていた。

 

「うそ…」

「あと…三体も」

 

団員の中には、その絶望に体の力を奪われて立つこともできなくなっていた。

だがアイズだけは違った。

先ほどの全力の戦闘で見た目は軽傷に見えるも、身体の中はもう戦闘を続けるのさえ厳しいぐらいボロボロだった。

だがそれでもアイズは立ち向かった。

 

(きっと『彼』なら…)

 

幾度も限界を超えてきた彼なら、この状況でも勝ってみせるだろう。

だったら自分も…

 

その想いでアイズはモンスターに立ち向かう。

人型の腕部が振り下ろされるも、アイズはそれを躱し距離を詰める。

だが、敵は一体じゃない。まるで連携をとっているかのようにアイズが躱した先に二体の人型が腐食液を吹き出していた。

 

(…避けれない!)

 

アイズは直撃を覚悟して、戦闘を続けられる可能性を残すため身構えた。

一級武装を溶かす腐食液の前ではその少しの抵抗も無意味。

腐食液がアイズにかかろうとしたその瞬間、ピキピキとと音がした。

そして急激に寒気を感じた。

なんだろうと思いゆっくり目を開けようとしたら今度は逆に暖かくなった。

アイズが目を開けたら目の前は真っ黒だった。

アイズは体の感触で今抱きしめられているというのを理解して、次第に視線を上げると先ほど思い浮かんだ人物に似ているキラキラと輝く銀色。

じっと見てると視線を感じたのか目があった。

赤と青、左右で色の違う瞳にアイズが映る。

 

「…お疲れ」

 

「…え、あ…」

 

「…どうかした?」

 

「…う、ウル…?」

 

「そうだよ」

 

アイズの反応にウルはクスクス笑いながら、ロキ・ファミリアがいるところまでアイズを抱えて行った。

アイズはその間、優しく抱擁されているということに恥ずかしくなって頭からプシュ〜と煙が出ていた。

 

「「アイズ(さん)!!」」

 

アイズが無事だったことにロキ・ファミリアのみんなは安心した。

皆がアイズに駆け寄っていく中、ロキ・ファミリアの幹部達はアイズを助けたウルに視線を映した。

 

「おい女男!なんでてめえがここにいやがる!?」

 

ベートはウルを見るなり突っかかるが、それをガレスが止める。

 

「…1ヶ月ぶりだねウル。まずはアイズを助けてくれてありがとう。お礼をしたいところなんだけどまずはあれらを対処しなきゃなんだけど」

 

フィンは視線を人型の方に移す。そして先ほどフィン達が51階層から戻るときに通った道からは、先ほど倒した数と同等の数の芋虫型が侵入していた。

それを感じ取ったロキ・ファミリアの幹部達は覚悟を決めたように戦闘態勢に入る。

皆が皆満足のいかない武装をしているロキ・ファミリアをウルはじっと見ていた。

 

「フィン達は武器がないのか?」

 

「あの新種は武器を溶かす腐食液を吹き出すモンスターでね。不壊属性の武器じゃないと一回の攻撃で武器をダメにしてしまうんだよ」

 

「それを知らずに攻撃してしまったからの、わしらは今武器はないんじゃ」

 

フィンは苦笑し、ガレスは手をぷらぷらと振っている。

 

「わかった。フィン達は何もしなくていい。ここは俺たち(・・・)がやろう」

 

「そう言えば君の仲間はどこにいるんだい?」

 

フィン達は先ほどから見えないウルの仲間を探すもどこにも見当たらない。

幹部達の行動にウルは首を傾げる。

 

「…何をしてる?みんなならずっといるぞ(・・・・・・)?」

 

言った途端に、ウルの()が後ろに広がる。

するとそこから大小様々な黒い柱が十本出てきた。

それが剥がれていくと中にいたのは、黒いマントを羽織っている10人。

その背中には鴉を囲む三本の大鎌が描かれていた。

そのエンブレムは、現在のオラリオで最強と謳われるファミリアの証。

人数は中位派閥よりも、もしかしたら少ないその数は、たったの10人。

だがその誰もが卓越した才能と実力を持っている。

まさに少数精鋭のファミリア。

その名も…

 

「あとは俺たちハデス・ファミリアが受け持とう」

 



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2話 ハデス・ファミリア

ロキ・ファミリアの面々は、驚愕していた。

 

先ほどロキ・ファミリアが戦闘していた新種のモンスター達。

芋虫型と人型の2種類のモンスターはロキ・ファミリアが勝利したものの、その被害は大きかった。

再び大群で襲いかかってきたモンスターに対抗するのは、ロキ・ファミリアの前に現れた一つのファミリア。

オラリオ最強のファミリア、その名もハデス・ファミリア。

その最強のファミリアは、ロキ・ファミリアの前でその実力を魅せつけていた。

 

「ちょっと何よこいつら!めちゃくちゃ気持ち悪いんですけど!?」

 

芋虫の見た目に顔を引きつらせながらも、芋虫をどんどん屠っていく。

彼女が指を鳴らすだけで、芋虫は炎に包まれ爆発していく。

彼女はエルカ・スカー。レベル6の第一級冒険者。

髪や眼、着ている戦闘衣もワインレッド色のドレス。そして炎を操る魔法。

ついた二つ名は【紅蓮姫(クリムゾン・ヘル)

 

「もう少し静かに戦えないのかお前は。お前の炎だけでも鬱陶しいのにさらにその煩さは一種の呪詛だな」

 

「はぁ!?それは一体どう言う意味かしら?その口を閉じるついでに焼いてあげましょうか、フェルト・サハールさん?」

 

「お前が私に魔法を当てれるならな」

 

フェルト・サハール。エルカと同じレベル6。

紫色の綺麗な髪に赤い瞳。深紅の槍を振るう彼女の白と紫色のドレスには一滴も血がついていない。優雅に踊るように芋虫を刺し殺す戦い方から、【串刺し姫(スクル・ヘル)】と呼ばれている。

 

そんな2人の目の前にそれぞれ一本の黒いナイフが通り過ぎ、目の前の芋虫が絶命する。

 

「危なっ!?どこ狙ってるのよチビ!燃やすわよ!」

「私に当てるなら容赦はしないが、あっちに当てる分には応援しよう。さぁ、もっとよく狙え」

「ぶっ殺すわよあんたら!」

 

芋虫を貫通して宙をまうナイフ。するとその場所に一瞬で姿を現したのは金髪に金色の目の少年。ナイフを空中で掴むと、シュンッ!と一瞬で姿を消してもう一本のナイフがある場所に、まるで瞬間移動のように現れる。

 

「狙ってないって、自意識過剰だなー。たまたま狙った場所に2人がいたんだよ」

 

「まだまだこんなに数いるのに、わざわざ目の前のを狙わなくて良いでしょ!」

「あとでゆっくり話す必要があるな」

 

「あはは!遠慮しとくよ!」

 

少年はマントの内側にしまっている大量のナイフを駆使して芋虫を倒していく。投げたナイフの場所に瞬時に移動しては斬り捨てまた瞬間移動。見る見るうちに数が減っていく。

 

「あはっ!こいつら弱すぎ!あの2人怒らせてあとで模擬戦してもらおうかな」

 

ニコニコ笑顔でナイフをくるくる回している少年、クラン・ティシャル。

見た目は中性的な美形の少年。

だがそんな彼の二つ名は【狂人形(バーサークドール)

レベルは4とハデス・ファミリアの冒険者の中では一番低いが、第一級冒険者と肩を並べられる実力を持つ。

 

「聞こえてるんですけど?私はいいわよ?骨も残さず灰にしてあげるわよ!」

 

「私は炎バカと違って子供じゃない。子供は子供らしく子供同士で遊べ」

 

「「誰が子供だ!(よ!」」

 

三人が睨み合って今にも戦闘が始まりそうになっていたが、三人の頭上からキュイィィィンと高い音が聞こえる。

三人が上を見ると、1人の犬人が弓を向けていた。だがその弓には、獲物を射るための普通の矢ではなく光り輝き、弓の前には魔法陣が浮き出ていた。三人はそれを確認するとものすごい速さでその場から離れる。

 

「一矢千撃♪二矢全め〜つ♪」

 

歌っぽい何かを終え、えいっ!と引いてる弦を離した。すると光る矢は魔法陣を通過した。その瞬間、光の矢は千本近く増え的確に芋虫を仕留めていく。

 

「終わった終わったー!」

 

スタッ!と着地を決めた犬人の少女。彼女も第一級冒険者でレベルは5。

名をエメ・アロイ。楽しそうに獲物を射る姿から付けられた

二つ名は【楽狩者(ハンター)

 

「あれ?…あちゃー何体か隠れてたかな!…でも大丈夫か!あっちにはあの子たちがいるし!やる気が出る魔法の言葉もちゃんと伝えたし!」

 

エメはロキ・ファミリアのみんながいる方を見るも平気!平気!とスキップしながら、先ほど、何やら楽しそうに会話していた自分の家族のもとへゆっくり向かった。

 

 

「団長!芋虫が数体こっちにきます!」

「わかった。僕たちで片付けよう。ティオネたちも戦闘準備だ!」

 

「「はi…「大丈夫ニャ!シャルたちに任せるニャ!」…え?」

 

「この数なら問題ない。…多分」

 

フィン達、幹部組が武器を構えて芋虫を迎え撃とうとした時、フィン達の上を大きなボールの様な影が二つ通り、目の前に止まった。

ボールかと思ったその影はよく見るとサポーターが持つ大きなリュックだった。

 

「近くで見たらブニョブニョで気持ち悪い…。あ…無理そう」

 

芋虫をよく見るなり顔を青ざめているのは、

黒髪黒目の猫人のマリル・ハース。

拒絶反応か身体はブルブルと震えている。

 

「行くにゃマリル!エメちゃんが言ってたニャ!これ倒したらウル君からご褒美が貰えるらしいニャ!」

 

そんなマリルを鼓舞するのはマリルと同じ黒髪で青目の猫人。

マリルの双子の姉のシャルル・ハース。

シャルルは姉らしく、怖がる妹を先程エメが教えてくれた情報でなんとか妹のやる気を上げさせようとした。だが彼女達はサポーター。しかも年齢はわずか10歳とまだまだ子供。いくら双子だからって性格が必ずしも似るわけもない。

姉のシャルルは好奇心旺盛で明るいのに対して妹のマリルは少し臆病で大人しい。そんな子がいくらご褒美が貰えるからと言ってすぐに戦えるまで気持ちが上がるわけが…

 

「行こシャルル。今なら何体来ても勝てるよ」

 

上がった

 

もの凄い上がっている。目に見えるほどマリルの体からはやる気の炎がメラメラしていた。そして2人はどんな手品を使ったのか一瞬にして自分の身体の倍以上ある武器ーーシャルルは大槌、マリルは巨斧ーーを出し、構えた。

 

「「せー…のっ!!」」

 

2人はそれぞれの武器を力一杯振り回し、芋虫を潰したり真っ二つにする。

その可愛らしい見た目に反しての豪快な戦い方に、フィン達は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「やったニャマリル!これでシャル達はウルにご褒美が貰えるニャ!」

 

「今のうちに何がいいか考えとかなきゃ…楽しみ」

 

2人の子供は楽しそうにご褒美の内容を考えていた。

ちなみに終始背負っていたサポーター用のリュックを見てフィン、リヴェリア、ガレスは、昔アイズがダンジョンについて行くためにあのでかいリュックでみんなの荷物を一生懸命背負っていたことがあったなと思い出していた。

 

ひとまず芋虫の大群は全滅したがまだ厄介なのが残っていた。レベル5のアイズでも苦戦した人型の新種。しかも三体。芋虫を殲滅しているハデス・ファミリアに目を奪われていたが、さっきからその人型のモンスターがいる方が静かだった。ふと全員が人型三体の方を向くと、三体ともピンク色の四角い結界の様なものに閉じ込められていた。

しかし芋虫達が全滅したとわかったのか突如として、その結界が消える。

 

刹那ーー三体のうち一体が真っ二つ、もう片方はバラバラに斬られた。二体は倒した証である爆発と腐食液が飛び散るも先程の結界がその爆発と腐食液を押さえ込んだ。

その一瞬の出来事にロキ・ファミリアの面々は開いた口が塞がらないでいた。

 

 

【数分前、バラバラside】

 

そこにはクマのぬいぐるみを大事そうに抱える少女がいた。濡れ羽色の髪に真っ黒のドレス。目は血の色の様に赤い。

そんな少女はじっと結界に入っている人型を見上げていた。

 

「なんでネロがこんなめんどくさいことしないといけないのだ…

レベル6(・・・・)で終わるだろうけど、それじゃこのイライラは収まらないゾ」

 

ネロ自身の影が広がると、その中から4本のチャクラムの様な武器が出てきた。

その武器はネロの周りを回転しながら浮遊している。

ネロは芋虫が出てきた方に視線を向けた。

 

「あっちは終わった様だゾ。てことはもうそろそろティエリアの魔法が解除されるはず…細切れにして遊ぶとするのだ」

 

ネロが右手を上げるとチャクラムが不規則に動きながら回転速度が上がる。

 

「ティエリアの性格上、ウル君は花として最後にするだろうから、ネロと一緒のタイミングは団長っぽいのだ。…と言うかネロが相手しないでティエリアがすればいいのに…なんでネロなのだ」

 

ぶつぶつと文句を呟くネロ。その時人型を閉じ込めていた結界が解除された。それと同時に、ネロは素早くチャクラムを操り一瞬のうちに人型をバラバラにした。爆風と腐食液が飛び散りそうになるも、再び発動した結界にそれらは阻まれる。

 

「新種だからどんなものかと思ったらこの程度。ネロの相手じゃなかったゾ」

 

そんな自信に満ち溢れるネロのレベルは、先ほどの彼女らよりも上のレベル7。

オラリオにレベル7以上は五人しかいない。そのうちの1人がこの少女だ。

チャクラムが自分の影に戻ると、ネロはスタスタとみんなが集まるだろうところへ戻っていった。

 

side out

 

 

【真っ二つside】

 

「…あっけなかったな」

 

大剣を振り下ろした状態でフリーズしている巨漢。

結界が解除された瞬間に振り下ろした一撃は、なんの抵抗もなく人型を真っ二つに斬り伏せた。

見事な一撃を放ったこの男こそ、

ハデス・ファミリアの団長、ベルク・ドラグス。レベル8の第一級冒険者だ。

210Cの巨体に鍛え抜かれた肉体。そして自分と同じぐらいの大きさの大剣を軽々振るい、時には素手でモンスターを撲殺するその戦い方から、

ついた二つ名は【鬼人】

 

「新種相手だから、油断せずに挑んだが。おそらくティエリアの魔法が強力すぎて、向こうの本量が出せなかったんだろう。新種とはいえ2対1は大人気なかったな、すまない」

 

真面目な男前の顔のベルクは、その見た目通りの真面目さで先ほどまで人型がいた方に軽く頭を下げた。

 

「またどこかで戦うことがあったら、その時はサシで殺り合おう」

 

ベルクは皆のもとへ向かうと、右の道から1人の女性が現れる。

 

艶のある深緑色の髪に緑色の目。そして特徴的な長い耳。そして見る者全員が美しいと答える容姿。彼女はハデス・ファミリアの副団長であり、ベルクと同じレベル8。名をティエリア・ストル・リールブ。

種族はエルフだが、彼女はエルフの中でも王族のハイエルフ。

ちなみにロキ・ファミリア所属のハイエルフ、リヴェリアとは従兄弟関係で凄い仲良しだ。

 

「お疲れベルク。相変わらず君は速いな。少し魔法の発動が遅れていたらあの腐食液は防げなかったぞ?」

 

「それを言うならティエリアこそ魔法の発動が速いじゃないか。さすがオラリオ一の魔導士だ」

 

「揶揄うのはよせ。それにオラリオ一の魔導士は私ではなくリヴェだ。彼女は【九魔姫(ナイン・ヘル)】、9つの魔法を使えるんだ。私とでは魔法の才能が違うし、そもそも私は純粋な魔導士ではないからな。所詮半端者だよ」

 

ティエリアはくすくすと笑う。

 

「それに私の魔法は他の者達と少し違うからな。比べることもないよ」

 

「…確かにお前の魔法には常識というのが欠けてると言えるぐらいにはずるいからな。詠唱が長いが、完成したらいくら俺やウルでもお前に勝つことは難しいだろう」

 

「少し大袈裟に言い過ぎだぞベルク?2人にかかれば私なんぞ一瞬だろう。

ベルクとは初期からずっと共にやってきたからある程度はお互いわかるが、ウルの場合、あいつは戦い方が多種多様すぎる。いくら私の魔法が変幻自在でもウル相手には難しすぎr「今ここでウル君の話をしてなかったか?」…地獄耳の域を超えてるなネロ。お疲れ様」

 

突如後ろから現れたネロに、特に驚くこともなく話すティエリア。

ベルクもネロに「お疲れだなネロ」と言うとネロも「ベルクこそお疲れだぞ」

と言葉を交わして三人で並んで歩く。

 

「ところでティエリア。いつまでウルの分を閉じ込めているんだ?」

 

「…ああ、ウルの魔法は美しいからな。なるべくゆっくり見たかったんだ」

 

「ウル君の魔法はどれも黒っぽいからな」

 

「ティエリアって意外にダーティなの好きだよな」

 

「私はエルフのいきすぎた価値観は好きじゃないからな」

 

「「ぶっちゃけすぎだな(だゾ)」」

 

ティエリアはハッハッハッと笑いながら最後の一体の人型の方を見る。

そして魔法を解除した。

 

「さぁ、今回はどんな色(・・・・)を魅せてくれるんだ?」

 

ティエリアは指を鳴らし魔法を解く。

またしても勝負は一瞬でついた。

 



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3話 いつのまに

「ネロもベルクも流石だ。………それにしても少し遅い?」

 

ウルは自分の家族が倒した人型を見て、自分もいつ戦いが始まってもいい様に気を抜かないでいた。…がいつまで経ってもティエリアの結界が消える気配がなく、若干だが焦れったくなっていた。

 

「それにしても芋虫と人型の新種…魔石は確保した方が良いのか…。

この大きさなら魔石もでかいはず…今回は見送るかな。…あ」

 

と、色々考えてるうちにティエリアの結界が解除された。人型は心なしか少し苛立っている様に見える。すると人型は自分の前にウルがいることに気付き、大量の爆粉と腐食液をウル目掛けて吹き出す。

 

「…れ…え」

 

小さくウルが何か呟いた。すると腐食液と爆粉は、ウルに直撃することなく何かに防がれる様にウルの周りだけに被害を出した。

人型は直感で爆粉と腐食液が効かないことを理解したのか、自分の腕部でウルを叩き潰そうと振るった。

 

「灰に帰せ…」

 

なにかの詠唱なのか、ウルが唱えた瞬間膨大な魔力が周囲を覆う。

それを感じたのかロキ・ファミリアは驚愕を、ハデス・ファミリアは当然と言う様な誇らしげな表情を浮かべる。

 

「…リベリオン」

 

魔法の名前を唱える。その瞬間、人型が黒い炎に包まれた。振り下ろされた腕部はウルに当たる前に灰になる。人型が倒された時になる爆発と腐食液もろとも黒炎に包まれる。

ウルは今もなお焼かれる人型を背に、みんなが待っている方へ歩く。

すると、前から誰か走ってくることに気付く。

綺麗な金色の髪をなびかせながら一生懸命に走る少女。

 

「アイズか、どうした?そんなに慌てて」

 

ウルの元に来たのは【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだった。

全力で走ったのだろうアイズは、はぁ…はぁ…と肩で呼吸していた。

 

「…わから、ない。気付いたら走ってた」

 

アイズはなぜ自分が思いっきり走ったのかわからなかった。ただあの人型を抑える結界が消えた瞬間、妙にウルのそばに行きたかった。ウルが勝つことなんてわかってたのに無性にそばにいたくなっていた。

 

「そういう直感で動くところは昔から変わらないな」

 

ウルは昔の良くも悪くも真っ直ぐな、子供の頃のアイズを思い出していた。

一方でアイズはなにを言われてるのかわからないのか首を傾げている。その頭には?マークが浮かんでいる様に見える。

その姿も昔から変わらないなと思ったウルは、アイズの頭を優しく撫でる。

その突然の行為が恥ずかしかったのか、アイズは頬をほんのり赤らめる。

 

「…あと、無理をしてそれを隠すところも」

 

ウルはアイズの頭から手を離し、エリクサーを彼女に渡した。

ウルの手が頭から離れた時、あっ…と少し名残惜しそうな声が出たアイズだったが、今度はウルがくれたものにえっ…と声を出した。

ウルが渡したエリクサー(万能薬)はどんな傷でもあっという間に治す効果を持つ。しかもこれを作ったのは医療系ファミリアでは有名なディアンケヒト・ファミリア。その額は1本50万ヴァリスはくだらないほどの価値。

それをウルは躊躇せずにアイズに渡した。

 

「ウル、これ…なんで…」

 

「大方(エアリアル)で無理でもしたんだろ、体の内側がボロボロで立ってるのもやっとなはずだから、これからはあまり無理はしないように」

 

アイズはそのウルの指摘に驚いていた。確かにアイズは人型との戦闘で、全力の風を発動して身体が悲鳴を上げていた。でも誰にもバレずにいたのに、ウルは少し見ただけで見破った。そのことに驚きつつも少し嬉しかった。

 

「そんな驚いてる顔してるけど、当たり前だからな。昔からアイズに戦い方を教えていたのは誰だと思ってる」

 

ウルの言った通り、まだロキ・ファミリアに入って日が浅いアイズに戦い方を教えたのはウルだった。元々ウルのことは小さい頃から知っていた。ウル自身幼い頃から冒険者をやっていて、わずか1ヶ月でレベル2に。その記録は、つい最近までウルと同じファミリアの者が破るまで誰も塗り替えることの出来なかった偉業。そんな偉業を成したウルを知らぬ者などいなかった。

そんな2人の出会いはアイズが一人でダンジョンに行き、死にかけた時に助けてくれたのがウルだったのだが、この話はまた今度に。

そんなわけでアイズの異変はウルにとっては、わかるのだ。

 

「でも私…」

 

「フッ…わかってるよ。本当はすぐ使って欲しいけど、アイズが遠慮するのはわかってるから…ほら、おいで」

 

ウルはアイズの前に背中を向けてしゃがむ。ようはおんぶだ。

昔からウルに模擬戦をしてもらった後は、動けなくなってウルにおぶってもらっていた。だが、それはあくまで子供の頃の話。レベルも上がってどんどん成長していってからは完敗はしても、動けなくなるまではいかなくなった。

今やアイズも16歳になりおんぶしてもらっていた頃とは違う。

じっとウルの背中を見つめるアイズ。

懐かしい背中。おんぶしてもらってた時、いつも温かく心地よかった。

そんなことを思い出していたアイズ。

 

(迷惑じゃないかな……でも…)

 

どうしようかとオドオドしていると、待っていたウルが口を開く。

 

「大丈夫ならいk「乗る」…はいよ」

 

言いながら体勢を戻そうとした途端に、凄い早さで乗ることに決めたアイズに笑いそうになりながらも再びしゃがむ。

少し申し訳なさそうにゆっくり体重を預けていくアイズ。一方ウルは「素直でよろしい」とアイズに向けて言うと、しっかりアイズをおんぶする。

 

(髪きれい…ウルの匂い落ち着く…それにあったかい……でも久しぶりだからかな?胸がドキドキする…)

 

 

 

まだ子どもだったのが16歳になり、世間からは【剣姫】と呼ばれるようになっても、やはりまだ子どもなんだなと背負いながら思うウル。

するとふと思い出したのか口を開く。

 

「あの新種の人型を1人で倒したんだろ、仲間のためにボロボロになるまで。

…また強くなったなアイズ」

 

「…うん、ありがとう、ウル。でも私は、もっと強くなりたい。ウルみたいに」

 

「お前ならできるよ。アイズはもっと強くなれる。アイズがしたければ、地上に出た後いくらでもまた手合わせしてやる」

 

「…!ほんと?」

 

「フフッ…いいよ。したい時うちのホームでも俺に直接でも来ていいから」

 

「うん…ありがとう」

 

そんな感じに話しながらしばらく歩いていくと、先ほどファミリアのみんながいたところが見えて来た。みんな急にいなくなったアイズがいたからか手を振って呼んでいるが、そのアイズがウルにおんぶされていることに気付きプチパニックが起きていた。

アイズは実力もさながらその美しい容姿もあって尊敬やらなんやらの人気がある。そんな子が男におぶられていたらその男に突っかかりたくもなるが、相手はオラリオ最強ファミリアの団員。

しかもそのレベルは、ファミリアどころかオラリオでもトップのレベル9。

実質オラリオでこの男に勝てる者などいない。だから文句があっても言えないでいた。そんな最強の男に歯向かえる者などいるのか

 

「ちょっと!なんであんたが【剣姫】をおぶってるのよ!」

「私も詳しく聞かせて欲しいな」

「ネロもその話聞きたいゾ?ちゃんと納得させるほどの理由があるのか楽しみだゾウル?」

「みんなが聞くならエメちゃんも聞く聞く!」

「なんでウルさんがアイズさんをおんぶしているんですか!?」

 

いた

 

それも五人。だが4人ほどは同じファミリアだからこそ、気にせず突っ込めるのだろうが、一部おかしな人物がいた。

ロキ・ファミリアのレベル3、【千の妖精(サウザンドエルフ)レフィーヤ・ウィリディスだった。

 

「おー!第二級冒険者がウルに噛みついてる!身の程知らずなのかな?」

 

「こら、ナイフをしまえクラン。ロキ・ファミリアを相手にしたらいくらお前でも死ぬぞ」

 

「あはは!僕はただ身の程をわきまえてほしいだけだよ?それに半端な第一級冒険者じゃすぐ壊れちゃう(・・・・・・・)し」

 

「あぁ?なにレベル4がいきがってんだ?」

 

クランの挑発的な言葉に反応したのはロキ・ファミリア所属の狼人でレベル5【凶狼(ヴァナルガンド)】のベート・ローガだ。

 

「いきがるもなにも事実だよ?も〜冗談はそのツンデレだけにしてよ〜レベル4がレベル5ごときに勝てないと本気で思ってるのかな。

そんなわけないと思うなら……本当に殺る(・・・・・)?」

 

クランは親指で中指を鳴らし、戦闘態勢に入る。体からはバチバチと静電気が走る。

 

「はっ!あとで後悔して泣き喚くなよなぁ!」

 

今にも衝突しそうな二人の雰囲気にロキ・ファミリアの幹部以外の面々はオドオドしていた。同じハイエルフで仲のいいティエリアとリヴェリアはハァ…と呆れていた。

 

「双方、そこまでにしてもらおうか」

 

二人を止めたのはロキ・ファミリア団長フィン・ディムナだった。

隣にいたのは同じ団長という立場のベルクだった。先ほどまで何か話していたようで、終わって止めに来たようだ

 

「やめろクラン。殺り足りないならこれから楽しめばいい。ネロ、エルカ、フェルナ、エメお前たちも、今更そんなので怒るな。お前らが頼んだらいつでもしてくれるだろうよウルは」

 

ベルクはウルに視線を移す。ウルはこちらを見た意味がわからなかったのか、首を傾げながらも「俺にできることなら構わないよ」と伝える。

その言葉に女性陣は目を光らせる者や、人間の何倍も聴こえる自慢の耳をフル活用した者、耳は耳でも別の、種族特有の長い耳をぴくぴくと微かに動かす者もいた。もっともその人物は自覚はないが。

 

「それと俺たちに依頼だ」

 

「はぁ?ちょっと誰よこのタイミングで依頼って!」

「…これだからバカは嫌いなんだ。少し考えればわかることを、炎を使いすぎて思考回路も燃やしたか?」

「上等じゃない!どっちが上かハッキリさせy「いい加減にしろお前たち!」…だってティエリア、フェルナが!」

 

また騒がしくなる光景にベルクはため息を吐き、その辛さを知るフィンは自身と重なり苦笑していた。

 

「早速依頼を言うぞ、依頼主はロキ・ファミリア、内容は簡単だ」

 

今までアイズを下ろすタイミングを失っていたウルだったが、依頼内容を聞くためにアイズを下ろした。アイズは居心地よかったのか名残惜しそうにしていた。

 

「それでベルク内容は?」

 

「そんなに真剣にならなくても気楽なやつだ。内容は護衛。新種との交戦で物資が少し足りないらしいから、俺たちのものを分けながら無事ロキ・ファミリアを地上に送ることだ。報酬は500万ヴァリスと、今度ロキ・ファミリアのホーム『黄昏の館』でご馳走すると」

 

「一緒に帰るのか?」

 

「俺たちは5階層までだ。ハデスに伝えた帰還日まで、順調にいけば1日余るからな」

 

ハデス・ファミリアの遠征は、他のファミリアの遠征よりも長く行われる。その長さはおよそ1ヶ月間。普通なら物資が持たないのを、ハデス・ファミリアはオリジナルの魔道具で可能にしている。

そしてハデス・ファミリアの遠征時のルールとして、行く前に決めた日にちゃんと帰還するというものがある。表向きの理由は、1番に子どもに会いたいからというハデスの可愛いわがままとなっているが、単に遠征中ハデスもどこかフラフラしていて、それを隠すためというのが本音だ。

ちなみにハデスはバレていないと思っているがみんなちゃんと知っている。

それでもルールを守るのは、みんなが一応どこかでハデスに恩を感じているからか。

 

「なるほど、了解した」

 

ウルはその依頼内容に納得した。いくら幹部組が第一級冒険者でも武器がなければ無事帰れるかはわからない。それにイレギュラーだってあるかもしれないと考えると不安が強い。武器があるアイズ一人では対処できないだろうこともわかった。

と考えるてるウルの服をくいっと引っ張るアイズ

 

「一緒にいられるの?」

 

「団長が依頼を受けたなら完遂するだけだ。だからもうしばらくよろしくな」

 

「!…うん!」

 

アイズは一緒にいられると知って、感情が読みにくい無表情が崩れ、微かに口角が上がる。そんなアイズの頭を撫でるウル。

いつの間にかふんわかしてる二人の世界。

後日、その光景を恨めしそうにそして羨ましそうにしていた女性陣から、色々とおねだりされる事をウルはまだ知らなかった。

 



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4話 護衛①

「これが…最強ファミリアの力っすか…」

 

ロキ・ファミリアのラウル、そしてロキ・ファミリア一同は戦慄していた。

今目の前で行われてるのは冒険者とモンスターの戦闘などではなく、ただ一方的な殺戮。

50階層との戦闘を終えたハデス、ロキ・ファミリア一同は、団長のフィンが上層階までの護衛をハデス・ファミリアに依頼し、一同は着々と階層を登っていた。

その際、現れたモンスターはハデス・ファミリアが対処しているがその仕方が圧倒的すぎた。深層にもなるとモンスターの戦闘力も上がり、第一級冒険者とて命を落とす可能性も十分にある。

普通の第一級冒険者ならモンスターとエンカウントしたら進行をやめ、戦闘を始めるはず。

だが、未だにハデス、ロキ・ファミリアは一度も(・・・)歩みを止めていない。

なぜなら…

 

「モンスターが出てきても、すぐさま爆発。一差し、バラバラ…挙句にはなんすかあれ…ウォーシャドウよりも人間な、黒い兵士が勝手にモンスターを殺すって…しかも何よりなんで無言であんな綺麗な連携が取れるんすか…意味がわからないっすよ…」

 

「ガッハッハ!あやつらに常識があると思ったか?冒険者は皆当たり前に力を、強さを求めるが、あやつらの場合は他よりも求めすぎておるんじゃ。わしらにはわからんがそうなる理由があったんじゃろうな。それ故にあやつらは力に固執し貪欲に求める。だが、そんなあやつらも口では言わないがお互いを家族として信頼しきっておるんじゃろう……………多分じゃがな」

 

ガレスはラウルの隣を歩きながら、ハデス・ファミリアに感じたことを言う。良いこと言えたと思い、フフンッ!とドヤ顔するガレスだったが、目の前には先ほども口論で騒がしかった3人組が言い合いをしていた。

その光景に、目の光が消え無心になったガレス。その隣でラウルはなんとかガレスを励ます奇妙な絵面があった。

 

「ウルは戦わないの?」

 

「ウルがわざわざ動くこともないのだ。こんな雑魚、ネロの兵たちですぐ終わるゾ。

それより【剣姫】も、【大切断(アマゾン)】も少しウルに近い気がするゾ。早く離れるのだ」

 

「えー!だって1ヶ月ぶりにウルと会ったんだよ?たくさんお話ししたいじゃん!」

 

ティオナはウルの右腕に抱きついた。ウルの左側にいたアイズは、そのティオナの行動に、驚き目が大きく開く。一方でネロは普段の落ち着きはどこへやら、美しい黒髪が生き物ののように逆立つ。

 

「落ち着けネロ。ティオナやアイズ、他にもウルと話したい者は沢山いる。毎回そうなっては疲れてしまうぞ?」

 

「ネロはただウルの…側にいたいだけなのだ!ティエリアだってそう思ってるはずだゾ」

 

「ウルはハデス・ファミリアなんだ。ネロや私はいつでも話せる。だが他の者はそのタイミングがないんだ。他者と話すのもウルは楽しんでいる。それでもどこか気持ちが晴れないならウルと話して来い。それにもうそろそろ時間(・・)だろう。無理をしない程度に休んでおけ」

 

「…わかったゾ。ティエリア、ありがとうだゾ」

 

ネロはウルの元へ駆け寄るとそのまま背中に飛びつく。

 

「あれー?ネロってばヤキモチでも妬いたのかな?さっきも私のこと名前で呼んでくれなかったしー」

 

「君は少しうるさいんだゾティオナ。少し眠たいから寝るだけだゾ。

…ウル、影は残しとくから次の安全地帯(レストポイント)まで戦わなくていいんだゾ?わかったか?」

 

「わかった。ありがとうネロ、おやすみ」

 

「おやすみだゾ…ウ…ル…」

 

「ありゃ?ネロ寝ちゃったよ」

 

スースーと気持ちよさそうに眠るネロにそれをおぶるウル。その光景にアイズは少しいいなと思う。ティオナもネロの寝顔を可愛いなーとじっくり見ながらもちょっと気持ちよさそうかもと思う。

その様子を後ろから微笑ましく見守るのはハイエルフの2人。

 

「どうして私たちハイエルフというのは似たような立ち位置になるんだろうな」

 

「フッ、お互い面倒な立場になってしまったね。でもリヴェも話したければ話していいんだぞ?リヴェもウルのことは気に入っているだろう?」

 

「まあな。ウルは私をハイエルフとしてではなく、ただのリヴェリアとして接してくれる。フィンやガレス達とは違う、また別に気を使わなくていい、親しみやすい友人だと思っている」

 

「ウルは種族とかは気にしないからな。…それにしても“友人”か。なるほど、なるほど…」

 

ティエリアはリヴェリアの言葉を思い出し、ニヤニヤしながら笑う

 

「なんだその顔は…。お前は昔から私を揶揄う時その顔をするが、いつ見てもムカっとさせるな。それより私の発言のどこかおかしいんだ」

 

「“ただの”友人じゃないだろう?私は知っているんだぞリヴェ。ウルと冒険者なりたてのアイズとリヴェで、アイズの特訓のためにと定期的に簡単なクエストを受けていた時があっただろう?その時、アイズが疲れて寝て、2人も休息をとるとなった時、リヴェからウルに膝枕をしてあげたことをね」

 

「…な、なんで知っている!?ウルが言ったのか!いや、そんなことをする奴じゃない。ということはまさか…見ていたのか!?」

 

「あの時、ウルが寝た後そっとウルの頭を撫でている君の表情を見たとき、思わず驚いたよ。幼い時から真面目で高貴で、今こうして【九魔姫(ナイン・ヘル)】と呼ばれ恋愛に興味のなさそうなリヴェリアが、まさか頬を赤らめ少女の顔になっていt「や、やめろおぉー!やめるんだティエリア!」…ハハハハ!わかったわかった。リヴェは定期的に私がガス抜きさせないとな」

 

いつも凛としていたリヴェリアはどこへやら、ティエリアの揶揄いによって慣れない恥ずかしさでその目は少し潤んでいる。

リヴェリアはその恥ずかしいところを誰かに見られてしまったのでは!?と周りを見渡すも自分たちは陣形の最後尾にいたため誰にも見られていなかった。

そのことに一先ず安心したリヴェリア。

だがすぐにキッ!とティエリアを睨む。

 

「ハハハッ!私が悪かったからそう怒るな。別にウルに惚れるのは仕方のないことだ。性格も良く、実力もある。品もあるし、その容姿のせいか美の女神のように人は皆あの子に魅了される。変な輩ならまだしもリヴェやアイズやティオナ、その他私の気の許せる者達なら、たとえ他派閥でもあの子の側にいて欲しい。ハデスも言っていたしな」

 

ティエリアは前に主神に言われたことを思い出す。あの妙に見た目だけは良い、頭のネジが数本外れている駄神を。

 

『ハーレムは男の夢。英雄に必須の条件。(オレ)が知る中で、ウルはもっともその資格がある!ハーレムの資格を!

よってティエリアよ。あやつに相応しい娘をお前が定めろ。数は問わん、だが良い娘だぞ。ウルを心から愛し、支えられる者だ。種族は問わん!たとえ神でもだ。そしてお前もそれに加わり、我はそれを肴に酒を飲み傍観し、新たな英雄譚として記す。

-

…フフ…フハハハ!よい!よいぞ!これほど未来を楽しみにしたことはない!そうと決まればティエリアよ!今すぐ探して来い!探して我を楽しませi……』

 

「待て、なんでお前はそれを了承した!?神ハデスがおかしいのは知っているが、そこまで馬鹿なことをお前が了承するはずが……………いやあるな」

 

「フッ、そういうことだ。だから応援しているぞリヴェ。君が加われば私もより一層楽しみが増える」

 

「お前は昔から私の前では貴族らしくなかったが、こうして大人になってからというものそれが増したな。

それより…保険として先に行っとくぞ。…私はいつかお前を刺すかもしれん」

 

「その時は是非とも君の最高級の魔法にしてくれ。もっとも死ぬ気はないが」

 

「…そこはまずやられないようにしてくれ」

 

今のリヴェリアをロキ・ファミリアの面々が見たら驚きの表情を浮かべるだろう。なぜなら今の彼女は普段見せないほどコロコロと表情を変えながら楽しそうに幼馴染みと話していた。

 

そして一向は着実に上層に登った。

 



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5話 護衛②

気付いたらお気に入り150を超えていて驚きました!
すっごいすっごい嬉しいです!
これからも楽しんでもらえるように頑張ります!

今回は少し雑談?が多いです笑

これから番外編も描いていこうと思うのでよろしくお願いします!
それではどうぞ!


【37階層:安全地帯】

 

ハデス、ロキ・ファミリアの面々は体力の限界もあり、37階層で野営することになった。

ロキ・ファミリアの面々は人数が多いため大量のテントを用意する。何個かダメになったのもあって、収容規定人数よりも多くなるようだ。

各々が夜営の準備をする中、食欲をそそる良い匂いが皆の鼻をくすぐる。

 

(…良い匂い)

「あれ!?すっごい良い匂いがする!」

「ほんとね。今日の料理当番って誰だったかしら?」

「本日はハデス・ファミリアの皆さんがご用意して下さるみたいですよ?」

 

ロキ・ファミリアのおなじみ4人(アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ)は匂いのもとへつられる。

少し歩いた4人の目の前では、ダンジョンの中とは思えないほど、設備の整ったキッチン。そして手際よく調理を進めるハデス・ファミリアの男子陣。

巨大鍋を片手でかき混ぜながら、もう片方の手で食材をまな板の方へ投げるベルク。投げられた食材を巧みなナイフ捌きで次々と切っていくクラン。横に五口あるコンロを巧みに使い、様々な調味料を使いながらどんどん料理を完成させていくウル。その完璧な連携に思わず息を飲む4人。

 

一方女性人は、入手したドロップアイテムなどを整理していた。

ハデス・ファミリアで唯一、鍛治スキルを持つエメは、皆の武器を整えていた。ハデス・ファミリアの武器はどれもが不壊属性を持つ特殊武装。例え壊れることはなくても整備は冒険者として大事なことだ。

整理が終わったのかアイテム等をいくつもある巨大リュックにしまう。突然ハデス・ファミリア全員がつけている指輪が光ると巨大リュックは一瞬で消えた。その異様な現象に今度は驚く4人。

基本他所のファミリアの干渉はいけないことだが、あの指輪の正体が気になりティオナが話しかけようとしたところに他のロキ・ファミリアの面々がやってきた。

 

「悪いね、食事まで作らせてしまって。本当に君たちが来てくれて助かった。団長として心からの感謝を。ありがとう」

 

「なら私は幼馴染みとして礼を言おう、本当にありがとう」

 

「良してくれ。元々この護衛を了承したのはうちの団長だ。それなら我々はその護衛を完璧にこなすだけだ。食材も有り余ってることだしな。食事というのは皆でした方が美味しかろう」

 

フィンとリヴェリアが頭を下げて礼を言うとティエリアは気にするなと伝える。そのあとティエリアはウル達に視線を送ると、ウルから料理が完成したと言う意味で頷く。それをちゃんと理解したティエリアはフィンたちに配膳の準備をして欲しいことを伝え、ネロ達にも食事の準備を伝える。

 

「そうだ、すまないが今回の食事は各々のファミリアで食べるようにしてくれ」

 

「それはなぜだい?僕たちのことを気にしているのなら全然平気だけど?」

 

「そう言ってもらえるのはありがたいがな。

 

お前たちは我々と面識もあるが、他の者たちはそうでもないだろう?

自分で言うのもなんだが、我々は良くも悪くも有名だ。今まで疲労が溜まっている者たちもいるだろうその中に、我々が一緒に食事をしてみろ、緊張やらで満足に休まんだろ?食事はお前たちが今度ホームでご馳走してくれると聞いている。ならその時に紹介をしてもらえると助かる。…それにこっちはこっちで少し面倒だからな」

 

ティエリアはすまないなと苦笑しながら、ロキ・ファミリアの団員たちに盛り付けた料理を渡しているウルを見る。

それに釣られてフィンたちもそれを見ると、自分たちの女性団員がウルにもらう時、全員が頬を赤らめ恥ずかしそうにしている。

そしてその女性団員をシャー!と威嚇するハデス・ファミリアの女性陣。

その光景にフィンたちは頬をぴくぴくとなんとも言えない表情をしている。

 

「…そう言うわけで食事はすまない。

そのあとはぜひ話でもしよう。一部の者は少し発散したりするかもで騒がしくなると思うが、私やベルク、ウルも比較的暇にしているからな」

 

「確かにティエリアの言うことも一理あるね。わかったよ、こっちのことも考えてもらってすまない。君たちには助けられてばかりだね」

 

「なに、気にするな。こちらは敵対する理由がなければ基本争わんからな。

もっともロキ・ファミリアとはそうなりたくはないのが私の気持ちだ。そちらと1番因縁があるだろう人物は、うちではウル(・・)だけだ。それも本人は気にしていない。お前たちが変なことをするとも考えにくいしな。だからというわけではないが、これからもうちをよろしく頼む」

 

優しく微笑み話をを終えたティエリアは、また後でなと言ってウル達の元へ向かい、未だに威嚇している女性陣の頭に軽くゲンコツを与え、自分たちの食事の準備をしていた。

 

しばらくしてそれぞれのファミリアは、わいわいと楽しく食事を始めた。

ロキ・ファミリアの面々はあまりの美味しさに皆が舌を巻き、料理がどんどん吸い込まれていく。

ハデス・ファミリアは相変わらず騒がしいが、その場の空気は楽しさに包まれていた。

食事が終わり、各々が自由に過ごしていた。団長どうして話す者や同郷と話す者、1ヶ月ぶりに会うため沢山話す者、いつも通り言い合いから喧嘩を始める者と様々だった。

全員疲労が溜まっているため、ロキ・ファミリアはフィンの指示のもと早めに睡眠を取っていた。テントの数には限りがあるため、第一級冒険者たちも数人で一緒のテントで寝ている。

 

「ん…ふわぁ〜あれぇ?どしたのアイズ?」

 

ティオナは一緒のテントで寝ていたアイズが起きたことに気付き目が覚めた。

横では自身の双子の姉であるティオネとエルフのレフィーヤがスースーと寝息をたてている。

アイズはティオナを起こしてしまったことに申し訳なさそうにしていた。

 

「ちょっと、目が覚めちゃって…」

 

「確かに普段とは違うから慣れないよねー。そうだ、ちょっと歩こうよ?

気晴らしにさ!」

 

そういうやティオナはティオネ達を起こさないようにアイズと一緒にテントを出て行った。もうみんな寝ているからかテントはどこも暗かった。

 

2人はしばらく歩くとハデス・ファミリアの拠点近くへと来た。

だが、近くに来ても物音がしないことからあちらも寝ているんだろうと察した2人はその場から離れる。

 

「やっぱりみんな寝てるよねー。ここまで来るとちょっと暇だよねー」

「きっと、みんな疲れてるから…あれ?」

「アイズ?どうかしたの?」

「…音が聴こえる」

「音?……あ、ほんとだ!笛かな?めちゃくちゃ綺麗だね!」

「前にも…聴いたことがある。姿は見てないけど、きっとウル」

「うそ!?ねえ!ちょっと行ってみよ!」

 

アイズの手を取り音色が聴こえる方へ向かう。一定の距離に近づくと、2人の前にピンク色の花びらがひらひらと何枚も横切る。

 

「きれい…」

「ほんとだね!でも37階層にこんな綺麗な花見たことないよ?」

 

2人はさらに音の方へと進む。近づくにつれ花びらの数が増えていく。

少し開けた所に行くと、中央に少し高い岩があった。

その岩を囲むように大量の花びらが渦を巻いていた。

その中央では美しい笛の音が響いていた。

 

「あれがウル?」

「わから…ない」

 

2人はその人物が、本当にウルなのかわからなかった。それもそうだ。

今のウルの姿は普通の人の姿ではなかった(・・・・・・・・・・・・)

いつもの黒に染まった格好とは真逆の、真っ白な和装に包まれていた。

そして何より目がいくのはその頭にある狐のような耳。そして綺麗な真っ白の尻尾が生えていた。狐人の特徴を持っていたが、なにより異質なのはその数。ウルの腰には1本ではなく9本の尻尾があった。

 

「あれって狐人だよね?ウルって狐人だったの?あれ?でも普段耳とか尻尾ないよね?!でもなんで9本?!アイズ何か知ってる?!」

 

「私もあの姿は、初めて見る。確か前にウルはなにかの混血だって言ってた。

…多分それが狐人なんだと思う。でも9本の狐人なんて聞いたことがない」

 

本来、狐人の尻尾は1本。逆にそれ以上の尻尾の数を持っている者は、今までいたことはない。

だが2人はその幻想的な姿に見惚れていた。ウルの整いすぎている容姿に美しい銀髪、そしてその身体を包む純白の和装。今までと違う神秘的な雰囲気に2人は息をするのも忘れていた。

なおも続く演奏。綺麗に舞う花びらに妖艶な姿、そして横笛を吹くその様は、一枚の絵画のようだった。

 

「2人とも起きていたのか?」

 

しばらく見入っていた2人に気付いていたウルは演奏をやめ2人の顔を覗き込んだ。2人はウルが近付いていたことを察知できず、急に目の前に現れたことにビクッ!とはねた。

2人の視線はウルの顔から、頭に生えているケモ耳へと移動する。

 

「ウル…その姿は?」

 

「ああこれか。一部しか知らない事なんだけど、俺は人と狐人の混血なんだよ。ただこの姿は突然変異というか、俺だけなんだけど」

 

「なんでそれを隠してたの?凄い綺麗だし気にしなくて良いと思うんだけど?」

 

「ありがとティオナ。だけど、少し色々あってな、詳しくはまた今度説明する。だからもう寝な?2人とも疲労が溜まってる」

 

ウルは軽く2人の額をコツッと小突く。すると2人は呆気なくバランスを崩す。倒れる前にウルが2人を受け止めるが、2人は何が起きたのかいまいちわかっていなかった。

 

「普段ならこれぐらいで崩れることはなかっただろ?それだけ疲れている証拠。今からテントに行ってティオネとレフィーヤを起こしちゃうかもしれないから、今日は俺のテントで寝ろ。送ってってあげるから」

 

ウルが軽く腕を振るうと、今まで舞っていた花びらが集まり花の絨毯のようになったそれにアイズ達を乗せる。2人を乗せてもふわふわと浮くそれは、ウルの歩くスピードに合わせて隣を飛行する。

 

「凄い凄い!これもウルの魔法なの?」

 

「この姿限定のな。…ほらさっきも言った通り、これはまた今度説明するから。もう寝な」

 

2人の頭をそっと撫でるウル。それを気持ちよさそうにされる2人。

 

「うん…わかった」

「はーい、おやすみウル!」

 

テントに着く前に寝た2人。新種との遭遇などもあってよほど疲れていたんだろう。

 

「…はい、おやすみ」

 

すやすやと気持ちよさそうに眠る2人を見て、少し微笑みながら頭を撫でて自分のテントまで送る。

1人で使うにしては広いテントの中に入り2人を下ろし、毛布をかけテントを出たウルはじっと下を見ていた。足元ではなくずっと奥の、まるでダンジョンの深層(・・)を。

 

「まだ起きてたのか?」

 

「ベルクか。…いつも通り笛を吹いていただけだ」

 

「そうか。それにしても今下を見てただろ?…あいつ(・・・)か?」

 

「…ああ。もうすぐでまた蘇るらしい。地上に帰っても長くゆっくりはできないかもな」

 

「あいつに勝てるのはお前だけだ。そのことを俺やティエリアそれに他のみんなも不甲斐なく思っている」

 

「わかってる。みんな優しいからな。俺はもう誰も失いたくない、そのために力をを求めてきた。今回も一緒だ。復讐を終えるまで、俺は誰にも負けない。どんなやつだろうと俺の前に立ちはだかるなら殺し、力の糧にするだけ。

だからこれは俺のわがままだ。

俺が謝ることはあってもみんなが謝ることはない」

 

「……なんでも良い。些細なことでも俺たちを頼れ。俺たちは家族だ。一度それを全て失い辛かっただろう。…だが約束する。俺たちは誰一人いなくならない。それだけは覚えていろよ」

 

「ありがとうベルク。助かった」

 

「気にするな。お前は弟みたいなものだからな」

 

ベルクはウルの頭をガシガシと雑に撫でる。

それをウルは目を閉じ少し口角を上げて気持ちよさそうにしていた。

 



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6話 護衛③

「ねーつまんないんだけど。なんでこうも中層って雑魚ばっかりなのかなー。もっとこう…斬りごたえというか、簡単に壊れないのっていないの?」

 

「流石バカね。ここはまだ26階層、25階層までは下層の範囲よ。ちゃんとお勉強しました?これからはさすばかって呼んであげるわ」

 

「あはは!ごめんごめん!あまりにも弱かったからてっきり中層かと思っちゃった。そーだよね、エルカにとって、ここのレベルはちゃんと下層ってわかるぐらいには強く感じるんだよね。ごめんよエルカ、僕はもう少し気を使えるようになるよ」

 

「ちょっと…それどういうことかしら?こんなモンスターなんて上層も下層も関係なく雑魚よ!なんならどっちが多く狩るか勝負でもする?…あ、でも無理よね〜レベル差で私が勝つのは当たり前だし、それであんたが泣いちゃったらめんどくさいもの!」

 

「自分から言っておいて逃げるのはダサいんじゃないかな?まぁ、負けるのが見えちゃったなら無理に言わないよ」

 

「…上等じゃない…負けた方は奢りよ!勝負は18階層まで、良いわね?」

 

「いいよ!せいぜい悪あがきでもするんだね!」

 

「「よーい…すt「子供だな」誰が子供だ!(よ!)」」

 

少しは黙ってろ馬鹿者共が!

 

((((((((超うるせー!!))))))))

 

ハデス、ロキ・ファミリアの面々はこんな騒がしくしながらも順調に階層を登っていく。

それもこれも、モンスターが出現した瞬間に殺しているハデス・ファミリアのおかげなのだが。

ダンジョンによって生み落とされたその瞬間に、その命を絶たれるモンスター達に段々と同情の気持ちが芽生え始めていたロキ・ファミリア。

それからも着々と歩みを進める一同。

 

 

「俺たち、いつの間にか18階層にいるよな」

「なんかあっという間だよな」

 

一同は【18階層・迷宮の楽園(アンダーリゾート)】に来ていた。

 

迷宮の楽園とは冒険者達が初めて訪れる安全階層。

ここの特徴としては地下でありながら“空が存在する”

天井を埋め尽くす青水晶群に中心の巨大な白水晶が、時間と共に光量を変化させ、地上とは違ったサイクルで『朝、昼、夜』をつくり出す。

そしてこの階層には、冒険者達が経営するダンジョンの宿場街【リヴィラの街】がある。

 

昨日この階層に着いた時、すでに夜だったためハデス、ロキ・ファミリアの面々は着いてすぐに眠り、久しぶりの朝を経験していた。

 

「ねーねーティオネ!みんなで水浴びしに行こうよ!」

 

「良いわね、そうと決まればアイズ、レフィーヤ行きましょ」

 

「水浴びですか?…アイズさんが行くなら…」

 

「…良いy「早くいきましょう皆さん!」

 

「あんたってそんな現金だったっけ?」

 

「よーし!それじゃしゅっぱーつ!」

 

アイズ達は、森の中に滝が流れる小さな泉へ水浴びしに向かう。すると道中でアイズ達と同じ目的地へ向かうハデス・ファミリアの女性陣+リヴェリアと会った。

どうやらリヴェリアはティエリアに誘われたようで、アイズ達にも声をかけようとしたがいなかったらしく、ちょうどすれ違っていたようだ。

アイズ達は泉の近くで服を脱ぐ。見回りはネロの影兵がするらしく、ネロの影から6体ほど出てきて早々に、周りに散っていった。

 

「フッ、どうしたレフィーヤ・ウィリディス、私たちが水浴びするなど意外だったか?」」

 

「は、はい!…じゃ、じゃじゃなくて!すいません!私顔に出てましたよね!?すいませんティエリア様!」

 

「ハハッ!お前は可愛らしいな。そんなに緊張するな。もっと砕けて話していい…と言っても難しかろう。リヴェと同じで構わんよ。リヴェに聞いたことがあるかも知れないが、私はハイエルフとか王族だとか別にどうでもいいからな」

 

「あ、ありがとうございます…ティエリア様。…それでその、「意外か?」…はい…」

 

「フフ、レフィーヤは正直者だな。そうだな、確かにあの二人は喧嘩が耐えないが、神々の言葉を借りるなら、ツンデレというやつだ。そちらの【凶狼(ヴァナルガンド)】と似たようなものだ」

 

ティエリアは今も言い合いをしてるエルカとフェルナに目線を移す。

 

「え…ベートと一緒ってちょっと最悪」

 

ボソッとティオナが呟き、それを聞いたティエリアはまた笑った。

レフィーヤは、先ほどから綺麗な笑顔を見せるティエリアを見て、失礼かも知れないが変わった人だと思った。

ほとんどの者が持つエルフのイメージは清廉潔白で品のある感じ、それが王族であるハイエルフとなると、さらにイメージは高くなる。

レフィーヤ自身エルフなため、自分より上のハイエルフに対してそのようなイメージを持っている。自分のよく知るハイエルフのリヴェリアはそのイメージを具現化したような存在だと思っている。

だが、同じハイエルフのティエリアは少し違い、動作一つ一つは王族のそれだが、笑う時は声を出して笑い、話す時もすぐに相手の緊張を和らげる。不思議なオーラを持った人だとレフィーヤは感じた。

 

「ティエリアに気に入られたゾ【千の妖精】。ティエリアは気に入った相手には意外とぐいぐい来るゾ。早めに慣れたかないと後々大変だゾ」

 

「あ、ネロさん。ありがとう…ございます?」

 

「フフッわかるぞレフィーヤ。アイズ達も最初は慣れない様子だった。ハデス・ファミリアは最強派閥故に近寄りがたい感じがするが、こうして話すと皆優しく個性的だ。なにより変わり者(ティエリア)が副団長だからな」

 

「おいリヴェ、いい風に言ったようで少し私を馬鹿にしてないか?

…だがまぁ、リヴェの言った通りだよ。私たちと関わろうとする人は限られていてな。良かったらあの子達と仲良くしてやってくれ。エルカもフェルナもあんなに喧嘩をするが、凄い仲良しだ。同じエルフだしな」

 

 

「え!?フェルナさんはわかりますけどエルカさんもなんですか!?」

 

「あの子はちょっと特殊でね。エルフとアマゾネスの混血なんだよ。エルフの血が強かったのか、今までアマゾネスはアマゾネスしか産まない筈だったのだが、何故かアマゾネスの特徴である褐色の肌ではなくてな。魔力もエルフと同じぐらいで、アマゾネスらしくないからと里を追われた子だしな」

 

「そんなことがあったんですか…」

 

「本人はあまり気にしてないがな。他にもうちは色々と複雑でな。だから良かったらみんなと友達になってやってくれ。みんなきっと喜ぶだろう。

…ほら見てみろ、あの3人なんか会話が聞こえていたのかウェルカム状態だぞ」

 

ティエリアがある方向に指を刺す。レフィーヤはその方向を見ると、エメと、シャルル&マリルが凄い勢いでブンブンと手を振っている。友達になってくれるかもとわかったのか、シャルルとマリルはキラキラな笑顔だった。

エメは誰とでも仲良くなれる性格だからか、アイズ達4人でいるときに何回か出かけたことがある。

レフィーヤはこれから少しずつでも、ハデス・ファミリアのみんなと絡んでいこうと心に誓った。

 

「あれ!?泉に誰かいるよ!」

「先約がいたんじゃない?」

 

ヒュリテ姉妹の声に全員が反応し、みんなでこっそりと泉の方へ視線を移す。

そこには確かに人影があった。

全員はその人影をじっと見る。

背中を隠すほど伸びた美しい銀色の髪は水に濡れ、泉に反射する光も合わさって神々しい。雪のように白い肌にすらっと高い身長、どれをとっても完璧なその姿は泉の妖精のよう。

あまりの美しさに息を呑み、放心状態になる一同。

 

「全員なんで裸で固まっている?なにかの遊び?」

 

件の人影が首を傾げる。頭からは大量の?が浮かんでいる様に見える。

綺麗で落ち着いた男性の声。一部の者は今までの特徴からして、人影が誰だかすぐにわかった。

 

「「「「ウル!?(さん!?)」」」」

 

ヒュリテ姉妹、レフィーヤ、リヴェリアは顔を真っ赤にして驚き、アイズは恥ずかしかったのか顔を赤らめる。

一方でエルカ達は、ウルとわかってからすぐにウルの元へと突撃する。

ティエリアは面白いものを見たと言わんばかりに満足そうな笑顔だった。

 

「え!?ウルいつから入ってたの?」

 

「1時間前から……そっちも水浴びか?」

 

「そーだよ!せっかく18階層にいるんだから浴びなきゃ勿体ないし!

そーだ!ウルも一緒に遊ぼーよ!」

 

「…誘いは嬉しいが、また今度誘ってくれ。俺はもう行くよ。

……不快な思いをさせたレフィーヤ。あまり面識もないのにすまなかった。

近いうちなにかお詫びでもする」

 

ウルは一瞬で全身が隠れるローブを着る。去り際顔を赤くして口をぱくぱくと固まっているレフィーヤの頭を軽くぽんっと撫でてその場を後にした。

 

「ウル君行っちゃったぞ…」

「まぁ流石に今回は仕方ないんじゃない?うちらだけってわけじゃないんだし」

「今度は初めからウルも誘うとしよう」

「エメちゃんもそれで良いと思う!」

「シャル(まりる)もー!」

 

ハデス・ファミリア女性陣は、気持ちを切り替えて水浴びをする。

リヴェリアとティエリアは端で

ヒュリテ姉妹も水浴びを楽しむ中、アイズとレフィーヤは固まっていた。

アイズは、昔に依頼後一緒に風呂に入ったことが何回かあったが、それはあくまで自分が子供の時の話。恋愛などわからなかったため、ウルの身体を見ても今以上に反応はしなかった。だが先ほど、久しぶりにウルの身体を見た時、急に鼓動が早くなり体が熱くなった。自分でもなにがあったのか分からず、アイズはフリーズしていた。

 

一方でレフィーヤは、一気に色々ありすぎて軽くパニクっていた。

 

(み、見られた!?それに事故ですけど…初めて男の人の裸を見ちゃった…

無駄のない引き締まった身体…女性とは全く違う…って何を考えてるんですか私は!?」

 

「あ〜レフィーヤ、今ウルのこと思い出してたでしょ?」

 

ピクピク…

 

「そ、そそそんなこととな、にゃいですよ!」

 

「あんたそんなに動揺してると信用性ないわよ…」

 

レフィーヤはまた顔を真っ赤にして手をブンブンしながら否定するも、動揺しすぎで余計怪しくなっていた。どうしたら納得してもらえるのか必死に考えるレフィーヤ。そんなレフィーヤの後ろにゆらりと忍び寄る人影。

ギギギ…と壊れた機械のようにゆっくりと後ろを振り向く

 

「その話…」

「詳しく…」

「聞かせてもらおう」

 

上からネロ、エルカ、フェルナが目を光らせながらレフィーヤをロックオンしていた。

 

「ぎゃああぁぁぁぁ!!」

 

第一級冒険者から拷問(精神的)を受けるレフィーヤの叫びは18階層全体に響き渡る。

その間ヒュリテ姉妹は距離を離れ、せめてもの償いとして静かに合掌していた。

 




なんかだんだん書いていくうちにわけわかんなくなってきましたね笑
これ以上伸ばしてもアレなのでもうそろそろ話を進めます!笑

どうかこの話を読んでつまんないと思っても、次回から頑張っていくので、もしよかったら読んでください!笑

それではこれからもよろしくお願いします!


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7話 予感

お気に入り登録が200を超えました!
ありがとうございます!

そして評価も平均8.1ととても高評価で驚きました!
本当にありがとうございます!
…本当にありがとうございます!笑


数日18階層で休んだのち、ハデス、ロキ・ファミリアは部隊を二つに分けて進んでいた。

ウルのグループは、ハデス組が[ウル、ネロ、エルカ、クラン]の4人。

ロキ・ファミリアの主戦力は、[リヴェリア、アイズ、ヒュリテ姉妹、ベート、レフィーヤ]

 

「ねーこれ僕たちいる?殺る事なくて退屈〜」

 

「ベルクが引き受けたからには、一応やっとかないとダメよ。ほんとあんた…ちょっとぐらい我慢できないの?」

 

「目の前にモンスターいるのに戦えない。これほどもどかしいことはないね」

 

現在、ハデス・ファミリアの面々は護衛の依頼を受けているが、モンスターが襲撃しても手を出さことはなく、そのモンスターとの戦闘はロキ・ファミリアが行っていた。

ロキ・ファミリアにはある規則があった。

それは、中層では下の団員に経験を積ませるために、アイズ達第一級冒険者も手を出さず見守る。ラウルに指揮をとらせて他の団員がモンスターを倒す。

流石ロキ・ファミリア、連携は中々様になっているとウルは素直に感心する。

 

「…でもこうしてると、クランほどじゃなくても少し退屈だゾ」

 

「ちょっとネロ、あんたの口からそんな戦闘狂みたいなセリフ聞きたくなかったんですけど?」

 

「我慢にも限界があるんだゾ。神ほどじゃなくても、今の状況は少し娯楽に飢えるのだ」

 

「まぁでも、よく考えると不完全燃焼ではあるわね。これならまだハデスに振り回される方がマシだわ」

 

「あー今回だけは、エルカの考え僕もわかるかも」

 

ハァー…と3人が深いため息をつく。その頃ウルは、泉の件以降から1度も会話どころか目も合わせないレフィーヤの事を何処か具合が悪いのではないかと心配していた。

その事をリヴェリアに言うと、リヴェリアはクスクスと笑っていた。

 

「流石と言うべきか…お前は一向にそういうのが苦手だな」

 

「?…なにが言いたいのかよく分からないけど、大丈夫なのか?もし体調が悪いのなら、もう少しペースを落としてもいいと思うが」

 

「ハッ!天下の【死神】様がいちいち雑魚を心配してんじゃねよ。

お前のそういうところが気にくわねぇんだ」

 

ウルの発言に苛立ち文句を言うベート。かなりの実力主義者で、ファミリア内でも大体の者たちから恐れられたりしている。

なぜベートが苛立っているかというと、ウルはオラリオ最強のレベル9。絶対的な存在であるウルが、弱者を心配し気にしているのが気に食わないようだ。

 

「俺は知ってるよベート。お前は口が悪く誤解されやすいが、実は誰よりも他人を心配する奴だって事を」

 

ウルは全身を包むマントから右手をスッと出し、力強くサムズアップする。

その表情は真顔だったが、目からは「わかっているから安心しろ」と言っているように見える。

そんなウルにベートが吠えるも、横からティオナとティオネが「うるっさい!」とベートを殴り飛ばしていた。

 

「ベートのことは気にするな。それにレフィーヤは特に体調が悪いわけではない。いたって元気だから安心してくれ」

 

「…そうか。リヴェリアがそう言うならそうなんだろう。リヴェリアはみんなの事をよく見ているからか、いつも自然とリヴェリアの言葉は信用し納得してしまう」

 

「そ、そうか?ま、まぁ私も伊達に『ママ』などとよばれてないからな!」

 

(((((リヴェリア様がテンパっている?!!!)))))

 

リヴェリアの初めて見る姿に団員達が驚いていると、ウル達の進行方向からゾロゾロとモンスターが現れる。

 

「進行方向!…ミノタウロスの大群です!」

 

牛頭のモンスター・ミノタウロス。推定レベル2であるミノタウロスの犠牲になった冒険者は決して少なくない。

 

「リヴェリア、これだけいるし私たちもやっちゃっていい?」

 

「構わん。ラウル、後学のためお前が指揮を執れ。ハデス・ファミリアはすまないが待機で頼む」

 

「ハァー…わかったよ」

「こればかりは仕方ないわね」

「わかったゾ」

「了解」

 

最初からそうなるだろうと思っていたウル達は、やっぱりかと言う感じで特に期待はしていなかった。

獲物がなく一方的な撲滅を始めようとしたヒュリテ姉妹とベートは、ボキボキと骨を鳴らし腕をグルングルン回しながらジリジリとミノタウロスの群れへと近づく。

 

第一級冒険者の3人からでる強者のオーラを感じ、命の危険を察知したミノタウロス達は恐怖で涙を流しながら一斉に逃げ始めた。

モンスターのいきなりの逃亡にティオナ達が唖然としていると、その緊急事態にリヴェリアはすぐに指示を飛ばす。

 

「追えお前たち‼︎パニック状態のモンスターが何をするかわからんぞ!」

 

その言葉にアイズ達は一斉にミノタウロスを追いかける。

 

「ちょっとあれ!!ミノタウロスたち上層への階段上ってない!?」

「ウソだろ!?上は低レベルの冒険者(ザコ)だらけだぞ!!」

 

ミノタウロスの大群はパニックのあまり上層へと続く階段を上っていた。

上層は主にレベル1や冒険者になりたての者が戦闘を慣れるためなどにいる階層。そんなところにレベル2のミノタウロスが現れたら確実に冒険者の命はない。そのことがわかっているからアイズ達は全速でミノタウロス達を追いかける。

 

「…リヴェリア緊急事態だ。俺たちもやるぞ」

 

「すまない!頼む!各階層に1人残ってくれるだけでいい!

各階層にハデス・ファミリアが順に残る!お前たちは全速力で先頭で逃げるミノタウロスたちを追え!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

「17〜10階層をネロ、次に1階層ずつクラン、エルカ、俺の順で残れ。緊急事態だ、各階層隅まで回り、念のため遭遇したモンスターは始末していい。パニックで他所の冒険者に死なれなきゃいい」

 

「やったー!この際なんでも殺せれば良かったからラッキー!」

 

「間違えて冒険者まで殺すんじゃないわよ!?」

 

「クランなら有り得なくはないゾ…」

 

「…モンスター限定だ」

 

ウルの指示通りに動く3人。ネロは影から7人の兵を出し、ウルの指示通りに各階層に向かわせる。

 

「ちっ!どこまで逃げる気だ雑魚が!」

 

「5階層に逃げてきたのは6体で、今5体倒したから…あと1体いないよ!?」

 

「ベート!あんたの鼻で場所わからないの!?」

 

「うっせえ!わかってんだよ!…匂いだ!来いアイズ‼︎」

 

ベートが残るミノタウロスの匂いを嗅ぎつけ、アイズを連れて向かう。

目の前でミノタウロスに襲われているのはまだ動きが素人の新人冒険者。

ミノタウロスに壁際まで追い込まれ、その拳を振り下ろそうとしていた。

 

(このままじゃ間に合わない!)

 

どうすると瞬時にあらゆる手を考えるアイズ。しかしどの考えも間に合う気がしないでいた。このままじゃあの冒険者を見殺しにしてしまう、と焦るアイズに声が聞こえる。

 

「跳べアイズ」

 

落ち着く声の指示に従いその場に跳ぶアイズ。すると自分の足に一瞬だが足場の感覚があった。その瞬間アイズは察した。昔一回だけ思いつき、ウルにやってもらった、他人が聞いたら100%正気が疑われる戦法。

 

それは至極単純で、レベル9のウルの蹴りにアイズが乗りスピードを上乗せするというもの。昔からレベルの差は変わってないが、付き合いは長くお互い信頼を寄せているため失敗はないだろう。

 

アイズの体にあまり負担をかけない様、絶妙な力加減で蹴り、アイズもタイミング良くウルの脚を蹴り、スピードを乗せミノタウロスの元へ向かう。

一瞬でミノタウロスの方へ距離を詰めると、【剣姫】の二つ名に相応しい剣さばきで、一瞬でミノタウロスをバラバラにした。

ウルはアイズの元へは行かず、どうしようかと考える。

しばらく考えていると、ベートの笑い声がしたが特に気にすることもないと無視すると、後方からヒュリテ姉妹と合流したリヴェリア達が来た。後方にネロ達を見つけ、見える範囲で怪我がないか一応確認をする。

 

「まさか5階層まで来ていたとはな…下の階層は被害者はいなかったがどうだ?」

 

「5階層にも被害者はいない。少し緊急事態はあったが、無事依頼は達成したな」

 

「それは良かった。…ああ、ありがとう、ご苦労様だ。お礼は後日渡そう。そんなに日にちは伸びないはずだ」

 

「わかった。俺たちはここでベルク達を待つ。また後日会おう」

 

「ああ、また後日」

 

ウルとリヴェリアは握手をし、リヴェリアは上へ行く準備を団員に指示する。

ウルはネロ達の元へ行こうとすると、クイッと引っ張られていることに気付き振り向くと俯いているアイズがいた。

 

「あの…ウル」

 

「ん?」

 

ウルは俯いているアイズの顔を覗く。自然と顔の距離が近くなることでアイズはすぐに顔を真っ赤にするが、さすが鈍感のウルは一向に喋らないアイズを心配そうに見ている。

 

「あ、あのね…」

 

「フッ、ゆっくりでいい。ちゃんと聞いてるから深呼吸して落ち着いてな」

 

地面に膝をつきアイズの手を取るウル。俯いているアイズの視界には、威圧感を与えない様にか、しゃがみ込み優しく微笑むウルの姿。

その優しさに、さらに鼓動が早くなり体に熱がおびるのがわかる。

だが、ウルの言われた通り、深呼吸をしてなんとか気持ちを整えるアイズ。

 

「いつ…会える?」

 

「……ああ、そう言うことか。何かすごい重大なことかと思った」

 

あははと笑ったあと、安心したと言わんばかりに優しい顔になったウルは、アイズの目をそっと見る。

 

「明日の昼ごろ俺たちは地上に着く。遠征から帰って次の日ハデス・ファミリアは入手したアイテムとかを換金しに行く。俺は補充と交渉が担当だから10時ぐらいには広場にいると思う」

 

「…?」

 

「アイズが会いたい時に来たらいい。他所のファミリアだからといって敵じゃない。昔から言ってるけど遠慮とかもしなくていい。わかった?」

 

「!…うん!」

 

(((((アイズさんが笑顔になってる!!!///)))))

 

普段表情の変化があまりないアイズだったが、今は満面の笑顔で返事をしていた。ロキ・ファミリアの団員達は、初めて見るアイズの笑顔に悶絶していた。

ウルは立ち上がりアイズの頭を軽く撫でていると、また誰かに引っ張られ視線を移すとそこにいたのはティオナだった。

 

「ティオナか、どうした?」

 

「あたしも行っていいのかなー…なんて」

 

あははは、と照れくさそうに頬を掻くティオナ。どうやら自分たちはどうなのか心配しての発言だろうと察したウル。そしてよく見るとずっと顔を合わせないレフィーヤも片耳をぴくぴくと動かし、話を聞いている様だった。

なぜレフィーヤが?と考えるウルだったが、早くティオナの問いに答えた方がいいと思い、考えは一旦置くことにした。

 

「ティオナがそうなるのは珍しいな。ああ、もちろん構わないよ。1人で来るでもアイズやティオネ、レフィーヤの4人組で来るのもどちらでも構わない。

お前達が来るとハデスも喜ぶし俺も楽しいからね。遠慮はするな、な?」

 

「!…うんうん!ありがとウル〜!わかったよ!ウルにもハデス様にも会いに行くよ!みんなも連れて!めちゃくちゃ行くよ!」

 

「あはは、分かった。その際はこっちもできる限り持て成すよ」

 

ピョンピョン飛び跳ねるティオナの頭も撫でる。

傍から見たから両手に花の状態のウル。大半の冒険者は、この状況に陥ったら幸せのあまり昇天するだろうが、そこらへんの感覚がおかしいウルは至って平然としていた。

 

「テメェいつまで…」

 

気持ちよさそうに撫でられるアイズとティオナ。

そこへものすごいスピードで走り迫る者がいた。

 

「アイズの頭を撫でてんだあぁぁぁ!」

 

その正体はウルの顔面目掛けて飛び蹴りをするベートだった。自慢の蹴りでウルを蹴り飛ばそうとしていたのだ。

ウルはロキ・ファミリア一の瞬足の持ち主。そのベートのトップスピードは第一級冒険者でなければ目で追うことも難しい。

その勢いをつけた蹴りはほとんどのモンスターを一撃で仕留める威力を持つ。

そんな恐ろしい飛び蹴りが、今ウルにの頭に当たる瞬間、ウルは2人の顔を見るためにしゃがみ込んだ。

 

「オラアアアァァァァァァァァァァァァ…ァァァ…ドガァァン

「それじゃまた後日な」

 

「「うん!」」

 

「…ベート、なんの遊びかわからないが、早くしないとリヴェリア達に置いてかれるぞ」

「避けんなクソ!舐めやがって…いいか!俺はぜってえお前を越えるからな!」

 

蹴りを避けられたベートは無様にダンジョンの壁に激突していたが、なんとか復帰してウルに悪態をつきながらもリヴェリア達と一緒に登っていった。

ウルはなぜベートの機嫌が悪かったのかわからなかったが、ベートの最後の言葉は嬉しかったと思っていた。

 

「…あの狼ってあんなにダサいキャラだったかしら?」

 

「ウル君が天然の力を引き出してるからそう見えるんだゾ」

 

「僕今回は少しベートが可哀想だと思ったな」

「「確かに…」」

 

「まぁあくまで今回だけだけどね」

 

それからしばらくして、ウル達はフィン&ベルク達と合流し、フィン達を見送った。

 



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8話 最強ファミリアの帰還

先に言っておきます。



ハデス様は、本当はとてもカッコいい神様なんです。本当です。
嘘はついてないです。


チチチ…チチチ…

 

朝日が廃教会を照らす。

その教会には地下室があり、その朝の始まりを知らせる朝日も、鳥の鳴き声も届かない場所で1人の少年は起床した。

 

「…んー5時ぴったし…」

 

いつもソファーで寝ているのか、少年は起き上がりダンジョンに潜る準備をしながらも、自分の主人が寝ているであろう一つしかないベットを見る。

 

(あれ?神様がいない?)

 

「おや?おはようベル君!」

 

「わぁっ!」

 

後ろから急に声をかけられたことに驚く少年。髪は白く赤い目を持った少年。誰もがその見た目をウサギに連想するだろう。

 

「神様!おはようございます!今日は早起きですね?何か用事ですか?」

 

ベルは自分を驚かした存在に挨拶をする。見た目は幼女っぽい美少女。艶のある黒髪をツインテールに結びその長さは腰まで届いている。髪を結いてるリボンには銀色の鐘。丸い顔と頬は幼い容貌を形作っているが、その幼さとは不釣り合いに豊かに成熟した双丘は、誰もが目を引き寄せられるだろう。

彼女の名はヘスティア、ベルが所属する『ヘスティア・ファミリア』の主神。

 

「ちょっとお昼ぐらいに用があってね。僕の友神の子たちがダンジョンから帰ってくるんだよ!その中に僕の大切な子もいてね!1ヶ月ぶりに会うんだよ!

…あ!ベル君、もしダンジョンに潜るにしても、その子達が帰って来てからの方がいいと思うよ?」

 

「そうなんですか?」

 

「もう少ししたら広場が人や神でいっぱいになるだろうからね。午後になったらみんな散るだろうからその時がおすすめだぜ!」

 

「わかりました!神様の言う通りダンジョンは午後行こうと思います!」

 

「うんうん!僕は少し寄るところもあるからもう出るよ!それじゃベル君気をつけていってくるんだぜ?」

 

「はい神様!いってらっしゃい!」

 

【ダンジョン入口・摩天楼施設(バベル)・中央広場 正午】

 

ここには大勢の人が集まったいた。

オラリオに住む一般人や冒険者、神様など様々な人。

主に女性が多いその人だかりの中心には数名の有名()が集まっていた。

 

「ヘスティアにヘファイストスではないか!なんだお前たちもハデスに呼ばれたのか?」

 

「やあ!タケにミアハ!ナァーザ君も!…ん?いや僕たちは違うよ?ほら、ハデスのところには1年間だけだったけど僕の子(・・・)もいるからね!」

 

「私はヘスティアに呼ばれてついて来ただけよ。もっともハデスの子たちは、うちのお得意様でもあるからね」

 

「なるほどな。私もハデスに呼ばれたからだが、ウルには良くうちの商品を高く買ってくれたり、依頼も受けてくれたりと世話になりっぱなしだからな。元々ナァーザを連れて来ようと思っていたんだ」

 

「あそこは見かけによらずお人好しが多いからね。主神は微妙だけど」

 

ヘファイストスの言葉に、ヘスティア達は頭に神友(ハデス)を思い浮かべてあはは…と苦笑する。

 

「おー!よく来たな我が神友よ!」

 

するとそこへ、フハハハハと笑いながら歩いてくる全身を黒いローブに包みフードをかぶっている神が歩いて来た。

大勢いた人々や神達はザザァーとその神に道を開ける。

 

「やはり我が愛しの子を迎えるには賑やかな方が良いからな!だが1番に労いの言葉を送るのは我だからな?そこの順番は守ってくれよ?」

 

真っ黒の神は歩き喋りながらヘスティア達の前に行くとフードを取った。

フードの中身は黒髪赤目の誰もが認める美青年だった。

彼こそがオラリオ最強派閥【ハデス・ファミリア】主人の神・ハデスだ。

 

「ところで我が神友達よ!元気か?まぁ元気だろうよ!なんせお前達とは一昨日も飲んでいるからな!フハハハ!」

 

ハデスのテンションの高さに頭を抑えるヘスティア達。

神ハデスは見た目は良いが、機嫌がいいととことんうるさくなることから一部の神達からは“残念な神”と呼ばれている

 

「相変わらず君はうるさいな!?自分の子が帰ってくるから嬉しいのはわかるけど!あと、一昨日だけって言ってるけど、ウル君達が遠征に行ってる間の1ヶ月間ほぼじゃないか!」

 

「何をそんなに怒っているヘスティア?我はお前に1ヴァリスも出させていないのだぞ?感謝はされど文句を言われる筋合いはない!」

 

「そうだ、そのことに関しては私も礼を言わなくてはな。いつも私とナァーザを誘ってくれてありがとうハデス、お前やウル達には本当に世話になっている」

 

「ありがとうございますハデス様」

 

ミアハとナァーザはハデスに頭を下げた。

ハデスはよくヘスティアやミアハ達にご飯をご馳走する。

それは決して性格の悪いとかではなく、ハデス曰く一緒に話をしたいからと言う自分のわがままだから相手の時間を買っていると言う解釈らしい。

それにミアハには時々、無料でポーションをもらっているとウル達から聞いているため、そのお礼も兼ねているが本人には伝えていない。

ミアハは毎回遠慮しているが、ハデスが半ば無理やり支払っている。

一方でヘスティアはその店の高いやつをちゃっかり頼んだりしている。

 

「良い良いミアハ、ナァーザ!お前達は我が友だからな!あやつらも友だから一緒にいるだけで、世話をしてるなどと思ってないだろうよ。

またいつでも我がホーム【夜空の邸】に来るがいい!

ヘファイストス、お前もまた椿を連れて来い!あやつとは飲み比べの勝負が負け越しだからな」

 

「それは別にいいけど。それよりもあなたのホームの名前決まったの?

前にも名前つけては女性陣に批判されてなかった?確か【黄泉夜邸】だっけ?」

 

「男どもには大好評だったがな。まぁ今回は無理やりにでも通す!

…それよりもあやつら遅いぞ!一体なにをしている!」

 

殺されないようにねとヘファイストスは呆れた表情で言う。

ハデスはそんなヘファイストスの言葉は届いてなく、まだかまだかと落ち着きがなくなっていく。

 

するとダンジョンの入口から複数人の足音と騒がしい声が聞こえて来た。

黒いマントに包まれている集団は、特に疲れている様子もなく何名か言い合いをしながらも出てきた。

オラリオ最強【ハデス・ファミリア】が姿を見せると、そこに集まっていた大勢の者が騒ぎ始めた。

 

「あれが最強のファミリアかよ…」

「オーラがちげえ…」

「なんて迫力だよ…」

 

一瞬でその場は、一種のお祭り騒ぎになるもハデス・ファミリアの連中は特に気にすることなく、自分たちを待つ主神の前へ進む。

ハデスは全員無事か数えると9人。1人足りなかった

 

「…?ベルクよ、ウルはどうした?ここにいない様だが」

 

「途中どっかの冒険者が危ない状況になってて、それを助けに行った。

すぐ戻って来ると……ああ、来たようだ」

 

ダンジョンの方からコツ…コツ…とこちらは歩いてくる人影。肩には救出した冒険者だろう者達を担いでいた。その場にたまたまいたギルド職員に冒険者を預けるとベルク達の元へと向かう。

みんなと同じマントを羽織り全身黒かったが、ウルはさらにダンジョンではつけていなかった黒い仮面の様なものもつけていた。

 

「【死神】のウル…」

「オラリオ最強のレベル9!」

「やべえ…俺足の震えが止まんねぇ…」

「「「ウル様ぁぁぁああー!」」」

「女はすげえな…」

 

ウルは真っ直ぐベルク達の元に着く。

するとベルク達は一斉にハデスの前で片膝をついた。

その光景にその場にいたものは一気に静かになった。

 

「神ハデス、あなたの名に恥じぬよう、我ら10名無事帰還しました!」

 

先頭のベルクの言葉に、ハデスは目を瞑りフッと軽く笑った。

先ほどまでのうるささはどこへやら、ハデスはゆっくりと目を開けベルク達一人一人を見る。

 

「ああ、その様だな。…此度の遠征もご苦労であった!すぐにでも話を聞きたいが…まずはお前たちの休息が優先だ!

一先ず帰るぞ!我らのホーム【夜空の邸】へ!」

 

ハデスは腕を組みフハハハと高笑いする。ベルク達は挨拶を済ませて立ち上がり、先ほどハデスが言ったホーム名を呟いていた。

女性陣はゆっくりとハデスを囲み周りからはハデスの姿を見えない様にした。

 

「フッどうだ?今回の名はなかなか良いだ…ろぅ…やめ、やめろ!そんな目で見ても変えないからな!?変えなぃ…から…あ…やめtぎゃあぁぁぁ!」

 

その場にいた者たちの耳には、先ほどまでかっこよかった神からは想像もできない悲痛な叫び声しか聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

一方でベルク、ウル、クランの男性陣は「おぉ…!」と密かに目を光らせていた。

 




ちなみにウル君の仮面をつける理由は、騒がれると恥ずかしくて照れてしまうかららしいです。

クラン君も一時期、ウル君の真似して仮面つけると言うブームがありましたが、うざったいって理由でつけなくなったらしいです。
ちなみにそのマスクはウル君から貰った物らしくお部屋に大事に飾っています


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9話 炉の女神

ベル君の入団時期少し変えてます!


ハデスが女性陣にしばかれて数分が経ち、ウルたちはその場に来ていたミアハ達に挨拶を済ませた。

 

「久しぶりだねウル君!」

 

「…ヘスティアか。久しぶりだな」

 

ヘスティアはウルに微笑む。その姿を見てウルもヘスティアに微笑んだ。

 

「そうだ!怪我はないかい!?多分君のことだから大したことはないのだろうけど、それでも君は無理をするからね!君が遠征に行ってからそればっか考えちゃって、しばらく僕は生きた心地がしなかったよ…」

 

「心配させてたのならすまないヘスティア。一年前とはいえ、ヘスティアは俺の()()だと言うのに配慮が足らなかった。

今回のような長期遠征は当分ないだろうから、前に言っていた“休日に出かける”と言う約束なら、基本いつでも大丈夫だ」

 

ウルは身長差が凄いからかその場にしゃがみ込んで、しょんぼりするヘスティアの頭を撫でながら告げると、その最後の言葉にヘスティアはさっきまで落ち込んでいたのがまるで嘘かのように、今は目をキラキラと輝かせている

 

「ウル君!それはほ、本当かい!?いつでも()()()()いいのかい!?」

 

「フッ、ああ()()でも構わないよ。ただ、ロキの所とも色々約束があってな。ヘスティアの空いてる日を事前に教えてもらえると助かる」

 

「やったー!全然構わないよ!ありがとうウル君!やっぱり君は初めて会った時から素敵な子だよー!」

 

ヘスティアはウルに飛びついた。しゃがんでる状態での飛びつきに、他のものならバランスを崩しそうだが、さすがのレベル9のポテンシャルで難なくヘスティアを抱き抱えた。

ヘスティアを抱いたまま立ち上がるウル。ヘスティアは慣れた感じでウルの首に手を回しギュッと密着する。

嬉しそうにするヘスティアだったが急に何かを考えるように顎に手を添えた。

 

「…ん?ウル君。君は今、“ロキの所”って言ったかい?…もしかしてまたヴァレン何某じゃないだろうね?」

 

「そのもしかしてだけど…そう言えば、前からヘスティアはアイズに敵意を向けていたが、やはり何かあるのか?ずっと聞いても教えてくれなかったが」

 

ウルの言った通り、ヘスティアは前からアイズに敵意を向けていた。

敵意と言ってもそんなドロドロした感じのではないが。

何故ヘスティアがアイズをライバル視しているのか分からなかったウルは、良く主神であるハデスやミアハ、ヘファイストスにタケミカヅチといった神友に相談をしていたが、みんな口を揃えて「気にするな」と言っていたからウルは深く考えないでいた。

ハデスだけは、「これでまた1人増えたな!なんと愉快なことだ!その調子で頑張れウル!フハハハ!」と楽しそうにしていた。

 

「ぐぬぬ…ほんとヴァレン何某は厄介だね!僕の子にも影響を与えてくれちゃってさ!クソー!」

 

ヘスティアは昨日のことを思い出していた。自分の子であるベルが5階層でミノタウロスに襲われて、ギリギリをアイズに救われたこと。そしてそれがトリガーになりベルに成長系のレアスキルが発現してしまったことを。

 

「こうなったらヴァレン何某よりもたくさん一緒にいる時間を増やさないと…

ウル君!言質は取ったからね!僕とたくさん出かけていっぱい思い出つくって素敵な日々を送ろうぜ!」

 

ヘスティアは可愛くウィンクをしながらサムズアップする。

 

(相変わらず、太陽の様な(ひと)だな。…だからこそ俺は救われたんだろう)

 

ウルはヘスティアに微笑み、それを間近で見たヘスティアは顔を真っ赤になり顔をウルの方に押し付ける。その時にふとヘスティアの耳あたりがキラッと光った。

 

「ヘスティア、そのピアス…ちゃんといつもつけてくれてるのか?」

 

「あ、当たり前じゃないか!君が()()()()()()()()()()()()()9()()()()()()、そのモンスターの魔石から君が作ってくれた僕専用の魔道具だぜ?そんな大層なもの、と言うよりも君がくれた物を僕が付けない理由がないよ!」

 

小さな赤い石が埋め込まれたピアス。これはウルが1年間だけヘスティア・ファミリアに所属していた時、ヘスティアのために作ったオリジナル魔道具。

ハデス・ファミリアは長期の遠征を行うため、なるべく出費を抑えるようにと自分たちで魔道具などを作ることがある。武器の調整は、鍛治のアビリティを持つエメが行うこともあり、魔道具に関しては公には発表していないがレアアビリティである『神秘』をウル、シャルル、マリルの3人が発現しているため、とても高性能な魔道具を作ることができていた。

 

ちなみに、このピアスにある魔石にはヘスティアの神血が素材になっており、ある魔法の術式と、ヘスティアが付けている時、このピアスは変幻自在になり、ネックレスにもブレスレットにもなるという便利性能があったりする。

特に変幻自在のところをウルはこだわったらしい。

 

「見てくれよ!この輝き!こんなに綺麗な物は君じゃなきゃ作れないと思うね!本当に本当にありがとうウル君!これは僕の一生の宝物だよ!!」

 

「フフッ、気に入ってくれてるなら良かった。

…さて、もうそろそろ行かないとな」

 

ウルはヘスティアをそっと下ろす。ヘスティアは、「あ…」と名残り推しそうにするも、すぐにウルが「またすぐ会える」と頭を撫でるとパァァ!と笑顔になっていた。

 

「そういえば、遠征前に倒れていた子は大丈夫だったか?」

 

「ウル君が連れてきてくれた子なら、僕のファミリアに入ってくれたよ!

昨日ミノタウロスに襲われちゃったらしいんだけど、なんとか逃げ帰ってくれたよ!なんだかそういう危なっかしい所は君に似ててね!もしかして兄弟とかじゃないだろうね〜?」

 

手を輪っかにして双眼鏡のようにしてウルを覗くヘスティア。

ウルは穴を閉じたり開いたりして遊んでいる。

ちなみにこの遊び、酔っ払ったネロも時々やっていて、

ネロの場合穴を閉じたら「ウ、ウル君が消えたゾ!どこにいるんだウルくーん!」

穴を開けたら「あ!ウル君が見えるのだ!ウルくーん!」と少しおバカになったりする。

一方でヘスティアは…

 

閉じたら…「うわ!ウル君見えないよ!真っ暗だ!」

開けたら…「見える…見えるぞウル君!僕はもしかしたら千里眼を持っているかもしれない!」

 

シラフで同レベルだった…。

その姿にハデスは今にも吹き出しそうに口元を抑え、他の3神は頭を抱えていた。

 

(昨日アイズが助けたのがその子だったのか。顔は見てなかったからわからなかったが、ヘスティアの眷属になったか、それならもしもの事がなくて良かった)

 

「そうだウル君!今度会ってあげてくれないかな?彼君に憧れてるみたいなんだ、ベル君って言うんだけどね!どうかな?」

 

「ああ、構わない。…それじゃこれ以上待たせるのは悪いからもう行くよ」

 

「そうだね、僕も今日はバイトの打ち上げがあるから帰らなきゃ!ウル君もまたじゃが丸くん食べに来てくれよ!」

 

「フッ、ああ。必ず行くよ」

 

ウルは優しくヘスティアを撫でる。ヘスティアは気持ちよさそうに目を細めた。その後我慢できなかったのかギュッとウルに抱きつくヘスティア。

 

「すぐに出かけるから空けておいてくれよ?約束だよ?」

 

「ああ、約束だ」

 

ヘスティアはウルから離れると、ウルの小指を自身の小指と絡めて指切りをした。

 

「それでは我が神友達よ!我が子のために良く来てくれた!改めて礼を言う!それではまた後日会おう!」

 

フハハハと笑いながらもハデスは歩き始め、それにベルク達もついていく。

最後まで手を振るヘスティア達、それに気付いたウルはクスクスと笑いながらも小さく手を振った。

 

やっぱいい子だなと4柱は改めて思った。

 



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10話 豊穣の女主人

更新遅くなってすいません!

そして気づいたらお気に入りが450を突破していました!
本当にありがとうございます!これからも頑張ります!


あと、先に言っておきます、今回オチが……笑


ダンジョンから帰ってきたハデス・ファミリア一向は、ハデス達のお迎えを終え、ホームへと帰っていった。

遠征から帰ってきた当日は、男女順番に風呂を終え、個人の時間を過ごしている。

ウルも普通ならみんなと同じように遠征後はのんびりなのだが、彼は今ある場所へと向かっていた。

 

「シルも良くやるよねー、わざわざ待ち伏せしてまでウルをお店に誘うとか」

 

「豊穣の女主人には世話になってるからな、誘われなくても近いうち寄ろうと思ってたんだよ」

 

 

 

 

クランはウルの隣を歩きながら、数時間前のことを思い出していた。

それはハデス・ファミリアが揃ってホームへ帰ろうと向かっていた時だった。

 

誰もが都市最強のファミリアの雰囲気に呑まれ、話しかけることもなく道を譲って行く中、緑を基調としたどこかの制服を着ている少女が笑顔でハデス・ファミリアへと近づいていった。

 

「おぉ!シルではないか!どうした、我に何かy「ウルさん!」…デスヨネェ」

 

(((ハデス様がモブ扱い!?)))

 

笑顔で手を振っていたハデスに完璧なスルースキルを決めたシル。

ハデスも分かってはいただろうが、こんな完璧にスルーされると流石に応えたのか、少しばかりやつれていた。

そんなハデスの様子に、周りにいた一般人はあまりの光景に目が飛び出そうにつっこんだ。

 

「シルか?久しぶりだな、どうした?」

 

ハデスに完璧なスルーを決め、ウルの前へと走ってきたこの少女、名をシル・フローヴァ。

ヒューマンで灰色の髪と目を持つ、誰から見ても可愛らしい美少女。

 

「お久しぶりですウルさん!私こうして今日ウルさんに会う為に、1ヶ月間身体に鞭打って辛いお仕事頑張りましたよ!」

 

「それは凄いな、お疲れ様。だがあまり無理はするなよ?シルが倒れでもしたらリュー達が心配する」

 

「むぅー…ウルさんは心配してくれないんですか?」

 

「するに決まっているだろ。だから頑張るのも良いが、適度に休め。分かったな?」

 

「えへへ〜はい、ウルさんがそういってくれるなら、もう無理はしません!

約束です!」

 

「フフッ、ああ約束だ」

 

頭を撫でながら告げるウル。それを気持ちよさそうにしながらどんどん表情が溶けていくシル。なんだが周りに花が見えるその空間に、ハデス・ファミリアの女性陣(ティエリアとエメ以外)は背後に般若のようなオーラを幻視させる。

 

「それで?そんなことわざわざ言う為に僕たちの前に来た訳じゃないでしょ?」

 

「そうでした!私としたことがつい大事なことを忘れていました!

今日、もし良かったらウチに来ませんか?リューも喜ぶと思いますし、何より私が一緒にいたいので!なんだったらクランさんもご一緒に!」

 

「なにそのついで感。そしてなんで僕なの?ベルクは…予定あるけどティエリア…は僕たちの遠征のまとめでネロ達は…あんなだからそっか、僕しかいないか」

 

クランははぁ…と溜息を吐いた。

 

ベルクは毎度、遠征帰還の当日はやる事があり、ティエリアも後日休みの代わりに当日は僕たちファミリアのことで忙しい。ネロ達も普段は仲良しだけどシルの時々するこれを見たあとじゃ、バチバチが止まらないし…

 

「わかった、僕も行くよ。ウル、僕もいいかな?」

 

「久しぶりに2人で外食だな。今度はベルクも一緒に男会をやろう」

 

【男会】

ハデス・ファミリアの女性陣が、意外にも定期的に女子会をやっているので、それじゃ男もやろうと言うことで始めたもの。

ちなみにその男会の日ハデスは神友達と飲みに行く日と決めている。

 

「ああ。今度は俺も参加させてもらうさ」

 

「良い返事が聞けて良かったです!クロエもクランさんに会いたいって言っていたので、きっと喜びますよ!」

 

「あー…それはなんだか…聞きたくなかったかも…」

 

クランは苦い表情をする。

クロエとはシルと同じ豊穣の女主人で働く猫人の女性。

好きなタイプが少年という事で、年齢、見た目ともにドストライクのクランによく絡んでいる。

 

「それじゃ席も取っときますので、お二人とも今夜お待ちしてますね!」

 

そう言ってシルはウル達とは反対方向へと走って行った。

 

 

 

 

「まあ、あそこのご飯は僕も好きだから全然良いんだけどね。あの猫さえいなければもう少しマシだけど」

 

「だがあそこにいる時のクランを見るに、案外あそこの雰囲気は嫌いじゃないんだろ?」

 

「うちも騒がしいからかね。似たような場所だから慣れちゃっただけだよ」

 

「ハハハッ、そういう事にしておく」

 

2人は仲良さそうに話しながらも、しっかりと目的地の豊穣の女主人へ向かっていった。道中、美青年と美少年だからか、女性とすれ違うたんびに少し騒がしくなっていたがなんや感やで目的地へとついた2人。

それに気づいたのか、店内からタッタッタッとこちらにかけてくる足音。

 

「ウルさん、クランさん!お待ちしてました!どうぞこちらへ!」

 

シルの案内で店内へと入り、店の奥にあるカウンター席の端っこに座る2人。

一応店に入る前に二人は気配をほとんど消した。あまり目立ちたくない有名人は色々と大変なのである。

ウルとクランは飲み物と料理を一通り注文した。

シルは注文を受けてから、店の前で立っていた少年に気付き、ウル達の前のカウンターへと案内した。

 

(あれは…もしかしてあの子ヘスティアに預けた…今はいいか)

 

クランは自分の前方に座った白髪赤目の少年・ベルを見て1ヶ月前、遠征前日に裏道で倒れていた少年のことを思い出していた。

昼にヘスティアが自分のファミリアに入ってくれたと言っていたから、今は冒険者として奮闘しているんだろうと、心の中で少しばかりの応援をした。

 

「ウルさん、クランさんお久しぶりです。こちらご注文の品です」

 

「クラ〜ン会いたかったニャ!ウルも久しぶりニャ」

 

「リュー、クロエ久しぶり。ありがとう」

 

「げっ、クロエ…」

 

しばらくして、二人に料理を運んできたのは、見目麗しいエルフのリュー・リオン、そしてクランを気に入っている猫人のクロエ・ロロ。

 

クロエにしつこく絡まれるクランを視界の端に置いて、ウルはリューと話していた。するとそこに先ほどまでベルと会話をしていたシルも合流する。

 

「あっちは凄い楽しそうですね」

 

「仲が良くて嬉しいが、迷惑になってないか?」

 

「毎回クランさんがクロエの標的になっていますからね。私たちも慣れましたし、ウルさん達が来てくれた時、あの様子を見るのは私たちも楽しいですから」

 

「ありがとうリュー。そう言ってもらえるとありがたい。

……今日も美味いよミア母さん」

 

ウルは目の前にいるこの店の主人・ミアに料理の感想を伝える。

ウルの言葉にミアは、フッと笑った。

ミアの機嫌が良いとわかったのか、シルはクランとは反対側のウルの隣に椅子を持ってきた。

 

「ミアお母さん、今少しだけ外れてもいいですか?」

「ああ、構わないよ」

「ありがとうお母さん!ね、リューもどう?」

「…シルのお誘いは嬉しいですが、その機会は別の日に取っておきます。私まで休憩したらアーニャがうるさいと思うので。

…それではウルさん、ごゆっくり」

 

するとリューは仕事の方に戻っていく。ウルはミアが了承したのなら大丈夫だろうと、ミアにシルの分の飲み物と軽い食べ物を注文した。

 

「そ、そんな悪いですよ!」

 

「俺が勝手に注文しただけだ。無理にとは言わないけど、少しでもシルと一緒に食事したいっていうちょっとしたわがままだ。だからシルが良ければ付き合ってくれると嬉しいよ」

 

「…ウルさんのそういう言い方、少しずるいと思います!」

 

「フフッ、今度から気をつけるよ」

 

「それ前も聞きました!」

 

とシルはプイッと顔を逸らすも、すぐに出てきた料理をぱくぱくと摘んでいた。モグモグと少し膨らませてる頰はほんのりと赤く染まっていた。

 

『いらっしゃいませー!』

 

しばらくして店員の一人が大きく挨拶をし、ウル達もちらっとそちらに視線を向けた。

 

「……巨人殺しの【ファミリア】」

「あれが…」

「ハデス、フレイヤ・ファミリに並ぶ、第一級冒険者のオールスターじゃねえか」

「誰が噂の【剣姫】だ?」

 

ゾロゾロと大人数で入ってきたのは、これから遠征の打ち上げを行うロキ・ファミリアだった。

 




なかったです…


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11話 弱肉強食

「よっしゃあ!ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!」

 

乾っ杯ー!!

 

豊穣の女主人に入って、大量にメニューを頼んだロキ・ファミリアは、ロキの音頭を終えすぐに騒がしくなっていった。

 

「団長つぎます、どうぞ」

「ありがとう、ティオネ。でもさっきから、僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけど、酔いつぶした後、僕をどうするつもりだい?」

「なんもありませんよ?どうぞ、もう一杯!」

「ほんと、ぶれねぇなこの女…」

「うおーっ、ガレスー⁉︎うちと飲み比べで勝負やー!」

「ふんっ、いいじゃろう。返り討ちにしてやるわい」

「ちなみに勝った方は、“リヴェリアのおっぱいを自由にできる権利”付きやァッ‼︎」

「じっ、自分もやるっす‼︎」

「俺もおおお‼︎」

「オレもだ‼︎」

「私も!」

「ひっく。あ、じゃあ、僕も」

「団長ーっ⁉︎」

「リ、リヴェリア様…」

「言わせておけ…」

 

「相変わらず騒がしい連中だね…」

「主神が主神だからな」

 

さらにヒートアップする宴に、クランは苦い表情を浮かべ、ウルは特に気にすることなくワインを飲む。

 

「そう言えば、お二人はよくベルクさんと三人で来てくれてますが、毎回クランさんとベルクさんはたくさんお酒を飲まれるのに、ウルさんってワインを2、3回おかわりするだけですよね?お酒弱いんですか?」

 

「普通だと思う」

 

「あはは!シルは良くそんな細かいところに気付くね。ウルはホームで飲む時以外は基本抑えてるんだよ。()()()()()だからね、ウルは」

 

()()()()()という言葉をクランが言った瞬間、ピクピクと耳を動かしたシル。近くで料理を運んでいるリューもこっそりと聞く耳を立てている。

 

「その()()()()()というのは一体どんな感じに大変なんですか!?

クランさん詳しく!」

 

「それは…ここでは秘密にしておくよ。もし機会があればそん時に自分で酔わせてみなよ、きっと楽しいから!ね、ウル?」

 

「楽しいかはわからないが、まあ今度なシル」

 

「はい!いつでもお待ちしてます!」

 

元気よく返事したシルは、一旦、先程案内したベルの元へ向かった。慣れない場所で1人だったからか、あまり食事が進んでなく、心配で見に行ったんだろうと察したクランは、シルは中々周りを見ているなと思っていた。

一方ロキ・ファミリアの方はというと、アイズが酒を勧められていた。

 

「アイズさん、お酒は飲めないんでしたっけ?」

「アイズにお酒を飲ませると面倒なんだよ、ねー?」

「え?どういうことですか?」

「下戸っていうか、悪酔いなんて目じゃないっていうか…ロキが殺されかけたていうか……ウルを襲ったっていうかぁ」

「ティオナお願い、その話は…」

「あははっ!アイズ、顔赤〜い!」

 

その会話を聞いて思い出すウルとクラン。

ウルからすると、ただアイズが何度も体に触れたり抱きついてきたりするだけとあまり気にしていなかった。

ただクランからすると、ウルも酔った時は、案外似たような感じだけどなと思っていた。

 

アイズ達の会話はシルにも聞こえていたのか、向かいのカウンター席から黒いオーラを出し笑顔でウルを見ているシルがいた。

ウルはその視線に気付いたが、黒いオーラまでは見えなかったのか、微笑みながらシルに向かって軽く手を振るウル。

それを見たクランは、(流石のシルもこれじゃ許さないだろ…)と、そっと視線をシルに向けた。

 

(いやデレデレなのかよ…)

 

先ほどまでの黒いオーラはどこへやら、ぽわぽわと暖かいオーラに包まれ、顔の筋肉が緩んでいるんだろう、顔を手で隠すシル。

 

(もうどうでもいいや)

食事を再開いしたクラン。

一方、さらに馬鹿騒ぎするロキ・ファミリア。

店はより一層騒がしくなっていた。

 

「そうだアイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

酔いが回ったのか顔を赤くしているベートは、ふらふらになりながらも大声で話す。

 

「あれだって、帰る途中で逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ⁉︎そんでほれ、あん時いたトマト野郎の!」

「ミノタウロスって、17階層で返り討ちにしたら逃げたやつ?」

「それそれ!奇跡みてえにどんどん上層に上っていきやがってよ。オレ達が泡食って追いかけていったやつ!」

 

その話に反応したのは三人。ロキ・ファミリアの掟として、その場にいたが手を出さなかったウルとクラン、そしてもう一人は…

 

「それでよ、いたんだよ。いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ冒険者(ガキ)が!」

 

その出来事により恐怖を植え付けられたベル。ベルの体が微かに跳ねたのをウルとクランは見逃さなかった。

 

「あれには腹抱えて笑っちまっまぜ。兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!可哀想なくらい震え上がっちまってやんの‼︎」

「ふむぅ?それでその冒険者どうしたん?助かったん?」

「アイズが間一髪でミノを細切れにしてやったんだけどよぉ、そいつ…あのくっせー牛の血を全身に浴びて…真っ赤なトマトになっちまったんだよ!」

 

机を叩き大爆笑するベート。アイズは俯いていてだんまりしていた。

そのベートの様子を見ていたウルとクラン。ウルは食事を続けていたが、クランはバレない程度にベートに殺気を放とうとすると、ウルがそれをやめさせた。

 

「あれは向こうのファミリアの話だ。いくらクランがベートが苦手でも、他所のファミリアの雑談に首を突っ込まなくていい。自分たちで終わらせるべきだ」

 

「…ごめん」

 

クランはもう気にしまいと、お酒をぐいっと飲み干しおかわりをした。

尚も話してるベートの声にイライラはするものの、ウルの指示に従い無視する。

 

「それにだぜ?そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ…ぶくくっ! うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

「………くっ」

「「アハハハハッ!」」

「そりゃ傑作やぁー!冒険者怖がらせるアイズたんマジ萌えー‼︎」

「ふっふふ… ご…ごめんなさいアイズっ。流石に我慢できない…!」

 

その場は笑い声に包まれ、誰もが遠慮なく笑い声を上げていた。

ベートの話が聞こえていたのか、他の冒険者もクスクスと笑っている。

 

「……」

「ああぁんほら、そんな怖い目しないの!可愛い顔が台無しだぞー?」

 

アイズがだんまりしていることに気付いたティオナは、なんとかアイズを励ましていた。

アイズのテンションを下げた張本人のベートの話はまだ終わらない。

 

「しかしまぁ、久々にあんな情けねぇヤツを目にしちまって胸糞悪くなったな。野郎のくせに泣くわ泣くわ」

 

「いい加減、そのうるさい口を閉じろ、ベート」

 

バカにする様に話すベートに痺れを切らしたリヴェリアがベートを止める。

そしてその話を笑っていた他の団員にも非難の声を上げる

 

「ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利はない。恥を知れ」

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねえヤツを擁護して何になるってんだ?ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

「これやめえ、ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

彼らの主神であるロキが止めるが、ベートの口は止まることはなかった。

 

「アイズはどう思うよ?自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎を」

「…あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」

 

アイズの言う通りだ。

ベルは1ヶ月前に冒険者になって、レベル1の新米冒険者。そんな者がレベル2のミノタウロスと対峙したら恐怖に陥るのは当然だった。

 

「けっ…じゃあ質問を変えるぜ?あのガキとオレ、ツガイにするならどっちがいい?」

「…ベート、君何言ってるかわかってる?」

 

ベートの発言に軽く驚くフィン。誰がどう見ても今のベートは酔っ払って悪絡みしている。

そんなベートは、フィンの問いかけを一蹴して、アイズに問う。

 

「ほらアイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちにめちゃくちゃにされてぇんだ?」

 

アイズの隣に座るレフィーヤは、顔を赤くしてあわあわとしていた。

そしてちゃんとその会話も聞こえていたウル達。

ウルはよく異性から言われるツガイの意味をいまいちわかっていなく、ベルのところから戻って来ていたシルに聞くも、顔を真っ赤にしてゴニョゴニョと呟いていたため聞き取れなかった。

一方クランは、アイズがウルを想っていることは察しているので、分かりきっている結末に、心の中で笑っていた。

 

「私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

「無様だな」

「黙れババァッ!…じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してる抜かされたら受け入れるってのか?」

 

アイズの言葉に、わかってたとは言え、いざその言葉を聞くと吹きそうになったクラン。

 

さらに続くベートの質問に言葉を詰まらせたアイズ。

アイズにはそんな余裕がなかった。

アイズは常に強さを欲していた。どんなに強くなろうと、限界を越えようと、さらに上の高みを目指していた。

その事は、長年一緒にいるウルもわかっていた。

 

 

「そんな筈ねぇよなぁ。お前よりも弱い雑魚、気持ちが空回りしてる軟弱野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねぇ。

他ならないお前がそれを認めねぇ」

 

ベートはさらに続ける。完全に酒が回ったベートは、さらにその嫌な性格を発揮し、踏み込んではいけない域に愚かにも入ってしまう。

 

「…あいつ…お前が心を許す()()()()()だってそうだ」

 

ベートの出した名前に、誰よりも早くクランがピクッと反応した。

 

「今はあんな【オラリオ最強】って言われてるが、15年前にあいつは負けたんだ。全てを失い仲間も主神も帰る家すら守れない…敗北者の雑魚だ!」

 

ウルはそっと目を閉じ15年前の出来事を思い出していた。

 

 

 

当時、自分が所属していた、オラリオで最強と謳われていた二つの派閥の一つ、名を【ゼウス・ファミリア】。

そしてヘラ・ファミリアと協力して行った三大冒険者依頼のこと。

 

「団長、みん、な…どうして…どうして…俺…を」

「お前、は…まだ…子供…だ…俺たちの…分まで…想…い、を…託す…ぞ

生…きろ……ウ………ル………」

「あ、あぁ…ああああああぁぁぁぁぁアアアアア‼︎」」

 

 

 

 

今でも鮮明に覚えてる記憶。どんどん体の奥底から黒いモノが溢れ出てくる感覚に襲われるウル。我慢するように拳をギュッと握り、溢れ出てくる黒いモノを必死に押さえ込む。

その様子をクランとシルは心配そうに見つめる。

 

クラン含め、ハデス・ファミリア全員、ウルの過去をハデスから聞かされていた。

彼の今までの人生がどれほど辛く、残酷だったかは話を聞いた時、容易に想像出来た。

ハデス・ファミリアの団員で、初期団員のベルクとティエリアを除いた他の団員は、過去にウルに助けられてファミリアに入った者たちだった。

もちろんここにいるクランもそうだった。

自分に希望を、道標を、生きる意味を与えてくれたウルのことを、クランは主神のハデスよりも敬愛し憧憬し尊敬していた。

そんな自分にとって大切な人を、敗北者と、雑魚だと馬鹿にされたら誰もが怒るだろう。

 

実際、クランは限界だった。

 

あと一言でもベートが口を開き、その耳障りな声を出したら、自分の理性を止められるのか分からない状態にまでなっていた。

 

()()じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

 

()()】、その言葉を聞いた瞬間、クランの中で何かが切れる音がした。

自分の憧れを…誰よりも孤高で強く、だが誰よりも優しい、クランにとってどんな英雄譚に出てくるよりも英雄だと思った人物。

それを【()()】呼ばわりされたことに、クランの中でドロドロとした感情が湧き上がる。

 

 

【剣姫】と釣り合うとかはどうでも良い…

どこの誰かをバカにするのもどうでも良い…

雑魚は雑魚。この世界は弱肉強食、強者が弱者を見下すのは強者の特権、そんなのわかってる。

あいつは酒に酔ってるだけ、普段なら思ってても言えないだろう。

だけど…

 

俺の英雄を見下す奴は、どんな奴だろうと、どんな状況だろうと…

 

 

殺す

 

 

 

金髪の少年は瞬時にナイフを取り、標的へと投げつけた。

 

ベートの前に座っていたアイズはわずかに気付いた。ベートの頭上が一瞬、何かが反射して光ったことを。

刹那、ベートの顔面はもの凄い音を立てながら床へ叩きつけられていた。




お気付きかも知れませんが、クラン君はウル君大好き人間です。


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12話 万全と挑発

ベートが床に叩きつけられたと同時に、1人の少年が店から飛び出していったが、一同はそのことよりも現在の状況に意識を持ってかれていた。

ベートの頭が机を壊しながら床に叩きつけられたことにより、その勢いで料理が落ち、皿が割れる音が店内に響いていた。

 

ベートの頭を叩きつけたのは金髪の美少年。もう片方の手には片手ナイフを持っていた。

 

そこでアイズは気づいた。頭上で光った正体はあのナイフだと。

同時にアイズは驚愕していた。ナイフが飛んできてからの金髪の少年・クランの動きが()()()()()()()()ことに。

 

「さっきからうるせぇんだよ…誰が雑魚だ…敗北者だ…いい加減うぜぇんだよ駄犬。どこのどいつだろうがウルを笑った奴はたとえ神だろうと壊す、俺はそう決めてるんだ。だから…その腐った脳みそ諸共壊してやるから、有り難く逝けよ」

 

「…あぁ?上等じゃねえか人形野郎…レベル4が強がんなよなぁ!」

 

今にもクランとベートが衝突しようとしていた。フィンたちや豊穣の女主人で働いている従業員含めこの場にいる全員がまずいと焦り始めた。

豊穣の女主人の従業員の中には元冒険者、暗殺者などの手練れが数名いるため、大抵の騒ぎは鎮圧できるが、今回ばかりは彼女らには荷が重すぎた。

方やロキ・ファミリアの第一級級冒険者【凶狼(ヴァナルガンド)】、そしてもう片方に関しては、ハデス・ファミリア1の戦闘狂であり、相手がモンスターでも人でも、普通の人間ならしないような惨虐的な闘い方をすると言われる【狂人形(バーサークドール)】なのだ。

 

そんな2人の戦いを止めることなど、彼女らには荷が重すぎた。

この店の主人ならできそうだが、その人物は意外にも、特に干渉することもなく料理を作り続けている。

 

「ミア母さん、これ修理代と迷惑料。最小限にはするから」

ウルはたくさんのヴァリスが入った袋をテーブルに乗せた。

 

2人の喧嘩が始まりそうになり、フィン達や従業員含め、なんとか止めるために動こうとしたその瞬間、その場にいた誰もが死を感じた。

 

やめろ

 

たった一言、少し殺気を込めてウルが呟く。

それだけで空間はまるで絶対零度のように凍え、恐怖のあまり全員呼吸ができなくなった。店にいた数名の冒険者は泡を吐きながら倒れていくが、そんな事を気にする余裕が自分たちにはなかった。

それもそうだ、ロキ・ファミリアの幹部組ですら、この殺気で一瞬だが、恐怖で身体が痺れ動けなかったのだから。

 

だが、クランだけはその殺気に耐えていた。クランの頬からツゥーと汗が垂れるも顔は未だベートに対して怒りの表情を浮かべていた。

 

「クラン、怒ってくれるのは嬉しいがここは店の中だ。外で殺り合うなら文句は言わない。

…ただもし中で殺り合うなら、申し訳ないが俺は2人を止めないといけない。

…その意味が分かるよな?」

 

「…わかったよ。それじゃ外で殺るね」

 

クランは外の地面目掛けてナイフを投げた。

 

「おい雑魚、てめぇさっきからなに巫山戯たこといっt」

 

今度はベートの顔面をもう一度鷲掴みすると、2人は一瞬で姿を消した。

と思ったら、先程外に投げたナイフの場所に瞬間移動していた。

フィン達ロキ・ファミリアは、その出来事に驚きつつもすぐに外へと出ていった。

 

「「ウルさん!」」

 

シルとリューがウルを呼び止める。先ほどまでとてつもない殺気を出していたウルだったが、2人の心配そうな顔に思わずクスッと笑った。

 

「店に迷惑をかけてすまない。今度なにか…あ、今度うちのホームでいつものパーティーをするんだが良かったら来てくれ。

…ミア母さん、あなたもどうだ?今回のお詫びってわけじゃないが、その日一日店を貸し切る。それで休みでもして、みんなでホームに来てくれ。

ハデスもきっと喜ぶ」

 

ウルはシルとリューの頭を撫でながら、ウルの前へと移動したミアに相談する。ウルの提案にアーニャとクロエ、ルノアはおぉ〜!と目を輝かせていた。

一方でシルとリューは、撫でられている事に頭がいっぱいなのか頭から煙が出て話を聞いてないようだった。

自分の店の従業員であり、可愛い娘達でもあるシル達の表情を見て、はぁ…と頭を抑え溜息を吐くミア。

 

「前回も一度断ったら、あの神がしつこく説得してきたからね。

前みたいなのはごめんだから仕方ない…それで手を打ってやるから早く店の前の勝負を終わらせな。どうせあの2人だ、止めたところで聞きやしないだろ、ならさっさと勝敗つけな!

…あんたらは、いつまでデレデレしてんだいバカ共!さっさと仕事に戻んな!」

 

ミアは、シルとリューの頭にゲンコツを落とし、無理矢理に覚醒させた。

2人は突如襲った痛みに、若干涙が出るもミアの怒りの前に、すぐに仕事へと取り掛かる。

 

「それではウルさん!私楽しみにしてますから!」

 

「私も楽しみにしています。あなたのことですからなにもないと思いますが、お気をつけて」

 

シルは薄らと頬を染めながら小さく手を振り、リューは丁寧にお辞儀する。

ウルも2人のマネとして、一度お辞儀をしてから慣れない感じで軽く手を振り、

人だかりができてる外へと向かった。

 

「状況は?」

 

「あ、ウル…」

 

「あ!ウル、ごめんねベートが変なこと言って。ウルだってイライラしただろうに…でも大丈夫?クランはレベル4とは思えないぐらい強いのは知ってるけど、ベートも強いよ?今は()()()()()()けどそれでも…」

 

ティオナが言った()()()()()()()と言うのは、狼人なら誰もが持っている能力で、月の光を浴びると獣化してアビリティに補正がかかる能力。ダンジョンでは発揮されないスキルだが、今は外な為に、その能力が発動できる状態ではあるが、幸か不幸か現在空は大量の雲に覆われていて月は出ていなかった。

 

「お前は優しいなティオナ。他派閥のクランを心配してくれて、ありがとう。

アイズもあんな事を酔っていたとはいえ、みんなの前で言われたのは嫌だったろ。クランが終わった後、俺も少し話すから一緒に言っておく。

店を飛び出したあの子のことも、俺たちが対処するからもう落ち込むな。わかったか?」

 

「ウル…うん、ありがと」

 

「ん、どういたしまして」

 

ウルはアイズの頭をぽんぽんと撫でながらも、距離を空けて向かい合っているクランとベートを見る。

 

「でも本当に大丈夫かなー。ティオネはどっちが勝つと思う?」

 

「普通ならベートでしょうけど、相手はクランよ?ウルも含めハデス・ファミリアに常識はないしね。あんたが言ったみたいに、月が出てなければいい勝負するでしょ。でしょ、ウル?」

 

「確かにそうかも知れないが、怒ってる時のクランは、万全な相手を徹底的に潰す。なら分かるだろ、あいつがこれからすることは」

 

「「なに(なによ)それ」」

 

「…すぐわかるさ」

 

ウルの言葉にアイズとヒリュテ姉妹は頭に?を浮かべながらも、今にも始まりそうな二人に視線を移す。

どちらが先に動くか、いつ始まっても見逃さないように、囲む人々は集中していると、クランが真っ直ぐベートを見て口を開いた。

 

「今は月が出てない」

「だからなんだよ」

「俺はキレてる。お前を殺したいほどに。だけど、殺しちゃうと後々戦争になるかr…いやでも、このことみんなに知られたらどっちみち戦争になるんじゃ…ま、いいや…とにかく殺すのはダメだから、お前が1番嫌なことをしようと思う」

「人形のお前が俺を殺す?はっ、相変わらず口は一丁前だなぁ格下が!」

「その格下に万全の自分が負けたら、一体どうなるんだろうなぁ犬!

…と言うことで、ウルお願いしていいかな?」

 

クランはウルに視線を向けると、顔の前で手を合わせお願いした。

自分のために怒ってくれているとわかっているため、断りづらいウルは渋々うなづく。

 

「…アイズ、その剣借りてもいい?」

 

アイズは、今日ゴブニュ・ファミリアで愛刀の整備をしてもらってる間に渡された代剣をウルに渡した。

ウルは剣を受け取りスッと抜くと、刀身を見る。

 

「良い剣だな。…すまないが少し離れてくれると助かる」

「?わかった」

「ウル?何するのー?」

「ちょっ…あんたまさか」

 

ティオネはウルが何をしようとしているのか察したらしく、冷や汗をかく。

そしてそれを近くで見ていたフィン達も、ウルが何をしようとしているのかわかったらしい。

 

「彼は本当に…」

「ああ…」

「相変わらず…」

「「「化け物だね(だな)(じゃな)」」」

 

ウルは空に向かって、視認できないスピードで剣を振るった。物凄い風が吹きあられ殆どの者が一瞬目を瞑った。

そしてすぐに風が止み、目を開けると、その場は()()()()()()()()()()()。全員はまさかと思いバッと空を見上げた。

 

「う、嘘…そんな…」

「こんなの…ありえないっすよ…」

 

レフィーヤとラウルは、ただ目の前の光景が信じられなかった。

それもそうだろう。都市最強とはいえ、魔法も使わず、ただ思いっきり剣を振っただけで()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「ありがと、ウル!…俺がやった訳じゃないけど、ほら、月が出たよ」

 

「…そこまでして俺に力を出させてぇか…あとで無様に泣き喚いても遅えぞ…

いいぜ…お前の望み通り…」

 

月が出たことにより、ベートの体がやや一回り大きくなり、髪の毛や尻尾の毛が逆立ち凶暴的になっていく。

そして上昇したステイタスを使い、思いっきり脚に力込め、地面を蹴った

 

ぶっ殺してやるよクソ人形ガァァァァ!

 

獲物を狩るように、もの凄いスピードでクランとの距離を詰めるベート。

もはやその場にいる第一級冒険者ぐらいにしかベートの姿は捉えキレていない。

そんな速さで向かってくるベートの姿を、じっと見ていたクランはニヤァと、不気味な笑みを浮かべた。

 

「たっぷりと遊んでやるよ…【凶狼(ワンちゃん)】」

 

スッと両手を前に出し、クランは呟く。

 

「《轟け(チャージ)》」

 

 




タイトルってどう書けば良いのかわかりません…笑


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13話 レベルの差

更新遅くなってすいません!

今回で、クラン君ファンが出てきたら嬉しいなって思います笑
それではどうぞ!


「…ウソ…でしょ?」

「そんな…」

 

この場にいた誰もが、目の前の状況に追いつけないでいた。

冒険者にとって『レベル=強さ』と言うのは誰もがわかっていた。

例えば、同レベルでステイタスも同じだった者が2人いたとしよう。その片方のステイタスを昇華し、すぐに2人を戦わせたら、ステイタスを昇華させた者が容易に勝つだろ。それぐらいレベルと強さは比例している。

そのため冒険者は基本、自分より上のレベルの者たちとは争わない。

その理由は至極簡単だ。勝てないからである。誰も負ける戦いをわざわざする奴はいないだろう。

 

今回の騒動の中心であるクランとベートは、レベル4とレベル5。そしてどちらも接近戦を得意とするため、ステイタスの上がり方もほぼ一緒だろう。

これまでの説明をまとめると、間違いなく勝つのはレベルが1つ上のベートだと誰もが思うだろう。現に2人の戦いが始まるまでは、その場にいた誰もがそう思っていた。

だが、

 

()()()()()()

 

 

あはっ…あははははははは!

 

ロキ・ファミリアの団員や野次馬たちに囲まれた即席の舞台(リング)の中央で、高笑いする()()()()()

その身体には傷どころか汚れひとつなく、それどころか身体は淡く光り、バチバチと雷を纏っていた。

その少年は、()()()()()()()の上に跨っていた。

 

「おいおい、どうした【凶狼(ヴァナルガンド)】。レベル5の第一級冒険者さんが地面に寝っ転がって。金でも落ちてたか?」

 

「く、そっ…テメェ…」

 

クランはニタァと不気味な笑顔を貼り付けたまま、現在椅子がわりにしているベートを見下す。

完全にクランが勝っていた。レベル4がレベル5を圧倒していた。

 

(本当に一瞬だった…)

 

アイズは目の前で起きたことを整理する。

 

(ベートさんがもの凄いスピードで向かっていって、同時にクランさんが何か呟いた。その瞬間クランさんが消えて、いつの間にかベートさんのふところ入って1発。そのあと、多分3()()、私でも厳しい威力のをベートさんに当ててる…

それにしてもあの雷、雷を纏ってる様な姿にこの魔力…まるで()()()()()()…」

 

アイズはクランと纏っている雷をじっと見る。流石にロキ・ファミリアの幹部組と、魔法使いであるレフィーヤは、そのクランの異常な魔力に気付き、説明を求める様にウルに視線を移す。

レフィーヤ達はともかく、ロキ・ファミリアの初期メンバーであるフィン、リヴェリア、ガレスは気付いていた。

アイズの魔法とクランの魔法、その発動の仕方や魔力の質まで似ていることに。その事も踏まえて、説明してほしいと言う意味で視線を移していたのだが、基本他派閥とは、魔法やスキルなどは一緒に行動しない限りは秘密なため、ウルは首を横に振った。

 

「この事をこの場で、俺から言えることは一つだけ、()()って事だけだ」

 

ウルの言葉にフィン達は眼を見開き、バッとクランへと視線を戻す。

クランとベートの戦いは終わっていなかった。

ステイタスが強化されたベートの攻撃は、一撃一撃がクランにとっては致命傷になるほどの威力。その力に自慢の速さまで加わった連撃を、クランは涼しげな顔で紙一重に避けていく。

 

「なんで当たんねえ!たかがレベル4の雑魚が、どうやったら今の俺の攻撃を躱せれんだよ!」

 

「雑魚雑魚うるせえんだよ犬っころ」

 

ベートがクランの顔目掛けて拳を振るうと、逆に、まるで電光石火の様に早い一撃をベートの腹に食らわすクラン。

 

「がはぁっ…」

 

「誰が雑魚だ、誰が弱者だ!誰が敗北者だ‼︎ウルは誰よりも強く、優しく、偉大な人だ。お前みたいなやつが馬鹿にしていい相手じゃ…ねえんだよ!」

 

クランの1発が入ると、そこから立場は逆転し、今度はクランがベートに連撃を叩き込む。1発1発が重く、そして速いその連撃はほとんどの者が目で追いきれないでいた。

 

「他の誰を馬鹿にしようが、僕にとってはどうでもいい。だが、ウルだけはダメだ。僕にとってウルは、誰よりも尊敬する大英雄だ。

お前は僕の英雄を貶した。その罪は重い、本来なら死をもって償えと言いたいけど、それはあまり君には罰にならない。だから君にとって死よりも屈辱な事をしようって決めたよ!」

 

クランはどこから取り出したのか、5本のハイポーションをベートに見せた。

 

「今から僕は君で遊ぶ。死ぬ前に回復させてあげるから安心してよ!レベル5だから大丈夫だと思うけど…すぐに壊れないで…ね?」

 

バチッと電気が弾けるとクランは姿を消す。

刹那、ベートの右足が本来曲がらない方向へと曲がった

 

「がぁぁぁぁあああぁ!」

 

「今のは大腿骨。次に膝蓋骨に関節。…痛い?でもこんな痛み慣れてるよね。さぁ、どんどん行こう!足だけを責めるのは可哀想だから、ハイ上腕骨、次に前腕の骨2本、尺骨と橈骨。手先は細かいから全部一緒に踏み砕くね?」

 

「がぁぁぁあ!クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが!」

 

普段から過激な言葉で自分たちを見下していた、自分たちの幹部であり絶対的な存在であったベート。そんなベートがボロボロにされている姿にロキ・ファミリアの団員は顔色が真っ青になる者、食べたものを吐き出す者など様々だった。

だがクランはそんな事も気にせず、どんどん続けた。

 

「肩甲骨に鎖骨、肋骨、あっもう片方の手足もやってくね?

………あはっあははは!凄いね!さすが全然壊れないね!でも、もうそろそろやばいだろうから、はい、これ1本目ね」

 

クランは無理矢理ベートにハイポーションを飲ませ、骨折を治癒させた。

痛みに耐えながらも、意識を飛ばさずクランを睨むベートの姿に、クランは眼をキラキラと輝かせ不気味な笑みを深くさせた。

そしてまた骨を折ろうと足をあげるクラン。

いくらベートが悪いと言っても流石にこれはやりすぎと判断したのか、ロキは神威を使ってでも無理矢理止めようと動こうとした瞬間、それよりも早く動いた者達がいた。

 

「いくらベートが悪いからと言っても…」

「流石にこれはやりすぎじゃ」

「これ以上は我々も見過ごせん」

 

フィン、ガレス、リヴェリアがクランを掴む。

レベル6の3人に抑えられているクランは、ニコニコと笑顔を崩さず、口を開いた

 

「あれ〜?これは僕と彼の喧嘩だと思ってたんだけど、それは僕の勘違いかな

?ハァ……無様だなベート・ローガ。口では雑魚だなんだと弱者を見下し、強者と疑わないお前が、ロキ・ファミリア最大レベルの3人に守られるなんて。

確かお前は前にも、どっかの酒場でその場にいた冒険者に言っていたな、確か『雑魚は雑魚らしく泣き喚いて逃げ恥を晒せ、雑魚が調子に乗って死ぬほど見苦しいものはないからな』だっけ?

良いね、その言葉。少し借りてお前にこの言葉を送るよ、“雑魚は雑魚らしく、泣き喚いて逃げ恥を晒せ。レベルでしか強さを語れない敗北者が”」

 

爽やかな表情とは裏腹に、吐き捨てる様に言ったクラン。その言葉に先ほどまで地獄の様な経験をしたベートは、ピクリと反応して、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がった。

 

「オ…レは…雑魚じゃ、ねえ…俺は()()()とは違え!

俺は強くなった!俺は【凶狼(ヴァナルガンド)】レベル5の第一級だ!俺は誰よりも強くなる!誰も俺を雑魚とは言わせねえ!」

 

周りから見たらベートはクランの方を向いて叫んでいた。だが、ベートの目はクランを見ていなかった。ベートの前にいるのは幼き頃の自分。全てを失い、強くなることを決意した時のベート・ローガの姿だった。

 

「なにが【猛者】だ、なにが【鬼人】だ、なにが【死神】だ!俺はお前らを蹴落とし、ぜってぇ越えてお前らを見下してやる!俺は誰にも守られねぇ!守られる雑魚には!弱者に成り下がらねぇ!だからさっさと俺に…ぶっ殺されやがれぇぇぇ!!」

 

「お前がウルに噛み付くなら、俺がその牙を全部引っこ抜いてやるよ!ベートォォォォ!」

 

2人は同時に動き拳を振るった。不意の動きに止めに入ったフィン達は反応が遅れでしまった。お互いに力が込められた拳は、お互い当たれば、大怪我は免れない威力。誰もがまずいと思ったその時、2人を囲む様に空中に現れた無数の金色に輝く波紋。そして、その波紋から伸びる鎖はがっちりと2人の身体の自由を奪っていた。

2人の動きを止めたこの鎖、一体誰がやったのかとざわつく団員たち。だが自然と答えが出た。ロキ・ファミリアの誰かならその場にいた者はすぐ気付くだろう。と言うことはロキ・ファミリアの団員以外となるとこの場にはクランともう1人。

レベル5とそれを圧倒する冒険者を、簡単に抑えられる強者。

都市最強であり、絶対的存在【死神】のウル、彼しかいなかった。みんながウルに視線を移すと、ウルの近くにいたアイズ達は、ウルの色違いの両眼が光っていることに気付いた。

 

「2人とも、そこまでにしとけ。さっきのフィン達の言った通り、クランは少しやりすぎだ。一歩間違えれば戦争になってもおかしくなかったぞ、でもクランが俺の分も怒ってくれたから、俺はクランに助けられた、ありがと」

 

ウルはクランを拘束していた鎖を消し、クランを自由にした。

 

「でもウル、こいつは君を!俺の…僕の英雄を馬鹿にしたんだよ?

…君は、ずっと暗殺者で孤独だった僕を、暗闇から救い出してくれた。今まで抱きしめられたこととかなくて、血の温もりしか知らなかった僕を、初めて抱きしめてくれた!

他にも僕は、君に色々なものを貰った。自分で作った料理は意外と美味しいとか、ただの口喧嘩が楽しいとか、ハデスやベルクやティエリア、ネロ達もまぁ案外嫌いじゃないし……特に君の隣にいれば!ただそれだけで心が満たされてたんだ…」

 

クランは自身の頬を濡らしながらも、ゆっくりとウルに近づき、ぎゅっとウルに抱きつく。ウルとの身長差は40C近くあるため、クランの体はすっぽりと埋まっていた。

 

「…僕は君に沢山貰ったんだ。お返ししたくてもどんどん君から貰ってばかり。僕は君になにも返せない、だから…だからせめて、君の邪魔になる奴は僕が消して、少しでも力になりたかった…

でも僕は…エルカ程じゃないけど、すぐに怒っちゃうから…君の迷惑にならない様にって気をつけてたのに…今こうして君に迷惑をかけちゃって…

言いたいこと全然まとまんなくてごめん…

でもね、これだけは知ってて欲しいんだけど…僕は…

 

 

…僕は(家族)を馬鹿にざれでも黙ってる奴にはなりだぐないっ‼︎」

 

ぎゅっとウルの服を掴み、綺麗な顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらも、真っ直ぐウルの目を見るクラン。

 

ウルはクランと初めて会った時の事を思い出していた。

暗殺者として自分を殺しに来た金髪の子供。ナイフを構えるその姿は、ウルからはどこか寂しそうに見えた。

暗殺者らしからぬ、無策な特攻を仕掛けてきた当時のクランを、普通なら簡単に避けれるそれを、わざと受けて抱きしめたこと。

 

 

 

『なんで…』

 

『君が、どこか寂しそうに見えた。抱きしめて欲しいって訴えてた』

 

『そんなわけ……そんなわげ…ねえだろ…俺はお前を殺しにきたんだ…

それなのになんで…なんで…涙がどまんないんだよ…

なんなんだよごれ…

なんでただ抱きしめられてるだけなのに…こんなにあったかいんだよ…』

 

『君はまだ子ども、泣きたい時は泣いて良い。わがままを言っていい、抱きしめてほしいなら、いつでも俺が抱きしめてあげる。俺も俺の仲間のみんなも、きっと君を1人にしない。だからもう我慢しなくていい』

 

『う…ぅ…うあぁぁぁああああ‼︎』

 

 

 

(あれから3年、大きくなったな)

 

ウルは、優しくクランを撫でながら、ハンカチでクランの涙を拭いていく。

しばらくして、涙が止まったクラン。

普段泣かないクランは、みんなの前で泣いた事で恥ずかしくなったのか、顔をウルの服に埋めて静止している。

少し可哀想に思えてきたウルは、一刻も早くクランをこの場から離脱させるために、クランにあるお願いをした。

 

「クラン、今からダンジョンに行ってもらえない?」

 

「…なんで」

 

「クランがベートを叩きつけたときに、ちょうど店を出て行った白い髪の男の子わかる?」

 

「……わかるけど。もしかしてそいつを追えって事?」

 

「そう。その子多分ヘスティアの眷属で、死なせたくない。話しかけなくて良いから死にそうになったら助けてあげて。あとで俺も向かう」

 

「……わかった」

 

「フフッ。ありがとクラン」

 

「…別に…君のお願いだから聞くだけだよ」

 

クランはスッとウルから離れダンジョンの方へ数歩進むもUターンしてベートの元へ行った。

 

「…なんだよクソ人形が」

 

「今回はこれで終わらせるけど、忘れるなよ、君は全力を出して僕に負けたんだ。レベルが下の僕にね。今度ウルを雑魚だなんだと馬鹿にしてみろ、次は完全に殺してやる…例えウルに止められてもね」

 

「…なにが言いてえんだ」

 

「今はそんな態度でも、心の内では悔しくて苦しくて堪らないだろ。君はレベル4の僕に負けた、その事実をちゃんと受け止めて、また1から(強さ)を磨きなよ【凶狼(ヴァナルガンド)】」

 

「ハッ泣き虫野郎がよく言uグハッ!「何かいったかな?駄犬」…クソが!」

 

「お前こそクソだ馬鹿犬!」

 

クランはベートに向かって思いっきりベーッ!っとやるとダンジョンへと向かっていった。

一方でウルは、未だ拘束されているベートの前へ移動する。

 

「今度はてめえかよ」

 

「俺がベートに言うことはそんな多くない。さっきお前が言った通り、俺はずっと負けてる。どんなに強くなったと思っていても、失ってしまう。

…お前の言った通り、俺は弱い」

 

「…は?なに言ってやがる!さっきはああ言ったが、都市最強のお前のどこが弱えんだよ、レベル9が一体なにに負けんだよ!バカにするのも大概にしやがれ!」

 

「孤独」

 

「…あ?」

 

「どんなに強くなっても孤独には勝てない。一度人の優しさを、楽しさを、温かさを、愛を、光を知ってしまったら、俺はもう知る前には戻れない。手放したくないと思うよ」

 

ウルは自分の胸に手を当て、ゆっくりと諭すように言った。

 

「どんなに努力してレベルを上げ強くなって、色んな痛みに慣れたとしても、孤独の寂しさは全く慣れない。人間は本当の意味で一人では生きていけない。どんなモンスターに勝とうが、どんな絶望的な状況も打破できる力を持ってようが、人は孤独には勝てないんだよ」

 

ウルは少し悲しそうに、まるで消えてしまうかのようにベートに微笑む。

同時にベートを拘束していた鎖も金色の粒子へと変わり消えていく。

 

「お前が優しいのは知ってる。なぜお前が自分より弱い人にきつく言うのかも大体想像はつく。でもお前の知らないところで、お前は周りに助けられてるって事を自覚しろ。

…あと、俺のことは、もうどうでも良いがアイズには謝っとけ。いくら酔ってたからって女の子に言って良い事じゃない。後日アイズに聞いた時、謝罪してなかったら…な?」

 

「…チッ、わかったようるせぇな」

 

ベートはめんどくさそうにしながら、スタスタと店の方へ歩いて行く。…が、急に糸が切れたようにその場に倒れる。横にはいつの間にか移動したウル、その手には縄を持っていた。

 

「なに当たり前のように店に戻ろうとしてる。お前は今日はもうダメだ、夢の中で反省しなさい」

 

スパパッとベートを縄で縛り、担いでフィン達のもとへ持っていくウル。ベートを落としてから持っていくまでの流れが、一瞬すぎてその場にいた殆どの者達は理解できていなかった。

 

「本当にすまない。君にはまたお礼と謝罪をしなければいけない事が増えてしまったね」

 

「今回はこっちもやりすぎた節がある。今回のは気にしなくて良い」

 

申し訳なさそうにするフィンに、ウルは気にするなと手を向けた。

 

「久しぶりやなウル。元気そうで何よりや」

 

そんな二人の間に割った入ったのは、赤い髪にやや露出の高い格好をしたパッと見女性に見えない女神、ロキ・ファミリアの主神ロキだった。

 

「ああ。ロキも元気そうだな」

 

「うちはいつでも元気やで!あ、まずはダンジョンでのことフィン達から聞いたで、うちからも礼を言うわ。ありがとな、うちの大事な子たちを助けてくれて」

 

ロキは珍しく真面目に頭を下げて礼を言う。最近礼を言われるのが増えたなと少し困るウルだった。

 

「目の前にいたから助けただけだ。今回のことも特に気にしていない」

 

「そう言ってもらえるとうちらとしてもありがたい「ただ」…ん?」

 

「…いや、ベートに酒はほどほどにと伝えてくれ」

 

「…わかった、しっかり伝えとくわ。また後日礼と謝罪させてや」

 

「ああ」

 

ウルはクラン達の方へ向かおうとすると、妙に視線を感じ振り向くと、シュンッとした顔をしているアイズがいた。

 

「あの…ごめん」

 

「なんで謝ってるんだ?」

 

「私たちが起こしたトラブルなのに、ウル達に迷惑かけちゃって…」

 

「フフッ、そういうことか。別にアイズが気にすることじゃない。だけどもし、ずっと負い目を感じるのなら、俺たちの分まで楽しんでくれると助かる。そして次会った時その楽しかった話を聞かせてくれ、そうしたら俺は今日の事を良い思い出として上書きできる。だからたくさん楽しめ、いいな?」

 

「…そんな事で、良いの?」

 

「それで充分だから言ってるんだよ。わかったか?」

 

「うん、いつもありがとう」

 

「フッ、はいよ」

 

ぽんぽんと軽くアイズの頭を撫でたウルは、ティオネ達やフィン達にも軽く別れを言うと、ダンジョンへと向かっていった。

ウルの姿が見えなくなり、ロキ達はベートを逆さにつるしてから店へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、今回の件でもう一波乱ある事をこの時のロキ達はまだ知らなかった。



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14話 忍び寄る最恐

更新遅れてすいません!

現実で色々忙しくて、かけてませんでした!


ロキ・ファミリアと別れ、クラン達の元へ向かったウルは現在、6階層へと向かっていた。

モンスターの気配を微かに感じ取れるウルは、6階層に着くなり大量のモンスターが同時に、()()()()()()()()()()ことに気付き向かうと、ウルの視線の先には、数十匹のモンスターに囲まれている、先ほど店から飛び出した白髪頭の少年と、それを岩陰から見ているクランだった。

ウルはもう自分に気付いているだろうクランの元へ向かい、バレない様に隣に隠れる。

 

「クランから見てどうだ?」

 

「悪くないんじゃない?多少動きに無駄があるけど、1ヶ月前に冒険者になったってんなら、そこらのレベル1よりはマシかな。でも所詮それまで。酒場から今まであいつは一種の興奮状態になってる。そして多分だけど、この階層に来たことは、多分0回かあっても数回程度。それであんなにギリギリの戦いしてたら、すぐに脳や体に限界が来る。…ほら、段々と足取りが…ってあと2体残して気絶しちゃったよ」

 

クラン達の前で戦っていたベルは、ウォーシャドウを残り2体まで減らすも、そこで倒れてしまう。残り二体のウォーシャドウはベルにとどめを刺そうと、鋭い爪を振り下ろした。

あと数センチでウォーシャドウの爪が当たるその瞬間、勢いよく二体のウォーシャドウの頭に風穴が空いた。

 

「なんで石なんか持ってるの?」

 

「ここまで来る間に襲ってきたモンスター用で拾ってた。なんとか役に立ったな」

 

ウルの手には小さな石が数個あった。それを投げてウォーシャドウの頭を貫通させたのだろう。するとウルはベルの方へと歩いていくため、クランも後についていく。

 

「クランは右の魔石を頼む。俺は左を集める」

 

「はーい」

 

ウルはクランに魔石を入れる袋を渡した。すると2人はベルが倒したモンスターの魔石を慣れた手つきで拾っていく。

なぜこの2人が魔石を拾うのを慣れているかと言うと、ハデス・ファミリアはダンジョンに潜った際、冒険者とサポーターという関係は一応あるものの、特にこれと言って冒険者とサポーターの上下関係と言うものに興味がないため、ひと段落したらみんなで拾っているからだ。

 

一通り拾い終わった二人。ウルは拾った魔石をクランに渡した袋に入れてもらうと、さらにポッケから大量の魔石を出して同じ袋に入れた。

 

「今の魔石は?」

 

「来る道中に倒したモンスター達のだ。これも一緒に入れれば少しは足しになる。ヘスティア・ファミリアはまだ団員が一人、金はいくらあっても足りない」

 

「それはわかるけどさ、確か今の神ヘスティアが住んでる廃教会の地下部屋って、元々はウルがヘスティア・ファミリアにいた時のまんまでしょ?しかもわざわざ君が住みやすい様に色々作り直したりとか、家具を揃えて並の宿屋よりも良い環境になったやつ。

それに君が脱退する時、君がヘスティア・ファミリアにいた時に稼いだお金とか全部、ヘスティア様にあげたんだろ?ウルが一生懸命稼いだお金をウルの事が大好きなヘスティア様が無駄遣いするとは思えないんだけど?」

 

「それでもヘスティアには不自由してほしくないからな。

ヘスティアは最初服も一着しか持ってなかったんだ」

 

「それは昔のことでしょ。と言うか僕知ってるからね、君が定期的に今もヘスティアに服とか食材とか買ってあげてるの。…いや君の場合、剣姫達やアミッドとかと出かける時もなにかプレゼントとかしてあげてるのは知ってるけどさ。それでも君はもう少し自分のためにお金を使うべきだよ?」

 

「?…俺は自分のために使ってるよ?」

 

「…あー、うん。…ウルは優しいもんね。

まぁ良いや、それでどうするの?」

 

「ベルをヘスティアの所まで送る。きっと心配してるからな」

 

するとウルはベルをお姫様抱っこの形で抱くとそのまま歩いていく。

ウルとベルの体格差のせいか、何故かベルが女の子に見えるクランは、軽々と抱きかかえながら歩くウルの姿を見て、心の中で祈っていた。

 

(どうかエルカ達には見つかりません様に!見つかりません様に!見つかりません様に!見つかりません様に見つかりません様に見つかりません様に見つかりません様に!見つかりません様に!)

 

ただひたすらに祈るクラン。結果、その願いが届いたのかヘスティアの元へ着くまで、誰も知人とは会わなかった。

 

 

 

 

ヘスティアside

 

いくらなんでも遅すぎる…!

 

「どこに行ったんだベル君…!」

 

今は天気が悪くて暗いけど、朝の5時。

今までこの時間までに帰ってこないことなんてなかったのに……

 

僕がキツくあたっちゃったから?

でも、あの子はそんなんで人に心配をかける様な子じゃないし……

 

クソッ!こんな不安になることなんかウル君にたくさん経験させられたのにちっとも慣れない…

ヘファイストスやみんなは、ウル君は強いから大丈夫だって言うけど、違う。

あの子は()()()()()()()なんだ…

冒険者としては誰より強くても、人としては彼は誰よりも弱い。ベル君や下手したら僕なんかよりも…

そういう意味では、ベル君はしっかりしてる。自分の危険を察知する能力は長けてるはず…

 

となるとやっぱり、何か事件に巻き込まれたんじゃ…!

 

「や、やっぱり捜しに……!ぷぎゅ!」

 

痛ったあぁ…あれ?あまり痛くない?…あ、胸がクッションになって威力が落ちたのか!よかったー胸があって!今度ロキのやつに自慢してって違うそんなことよりベル君を!

 

「…ヘスティア?」

「へ?」

「大丈夫か?今思いっきりドアにぶつかっただろ?」

「う、ウル君!?」

「ああ、ウルだよ」

「な、なんでこんなところにウル君が!?」

 

そうだ、このままウル君に申し訳ないけど、ベル君を一緒に捜してもらえるようお願いしようか…でも今日長期遠征から帰ってきて疲れているだろうに…

でもベル君の命が危ないのに躊躇してられない!

 

「ウル君!君に頼みが「落ち着けヘスティア。ベルは無事だ」…え?」

 

今ウル君はなんて言った?ベル君が無事?

 

「落ち着いたな?ベルなら今は寝てる。途中から雨が降ってきたから俺の服で包んでて見えにくかったか」

 

ウル君はそう言って、前で抱えていた服をどかしてベル君の顔を見せてくれた。所々怪我はしてるものの軽傷のようで、今はスースーと寝息を立てていた。

 

「良かった…でもこんな時間にこんなボロボロで…一体どこにいたんだい?」

 

「ダンジョンだ」

 

「ダンジョン!?なんでこんな時間から」

 

「それは本人から聞いた方がいい。だが簡単に言うとな」

 

「強くなりたかったんでしょ」

 

ウル君の言葉に続いて、ウル君の後ろから声が聞こえた。声の主はひょこっと顔を出し僕と目が合う。

 

「クラン君までいたのかい!?というか強くなりたかったって…」

 

「そのまんまの意味。その子は強くなりたくて、夜遅くからダンジョンに潜った。それだけだよ」

 

「クランの言った通りだ。ベルは強さを欲してダンジョンに潜ってた。おそらく、これを聞いたヘスティアの性格上、何か力になってあげたいと思ってるんじゃないか?」

 

ウル君は真っ直ぐ僕の目を見る。本当に君ってやつは、どうしてこうも僕の心が読めるんだろうね。確かに君の言う通り、ベル君が強くなりたいと言うなら僕はいくらでも力を貸してあげたい。けど僕に出来ることなんて…

 

「僕はどうしたら良いのかな」

 

「それはヘスティア自身で決めなきゃいけないことだ。俺たちには答えがない、ヘスティアだけがその答えを決められる。

…もう時間だから、俺たちは一旦帰る。ベルは雨には濡れてないが少し体が冷えてる。ベッド使うぞ?」

 

そう言ってウル君はベル君の服を脱がして、深めに布団をかけた。首までちゃんと布団をかぶっているベル君は、気持ちよさそうに寝ている。

 

 

「うん…ありがとうウル君、クラン君。ベル君を助けてくれて」

 

「僕はウルに頼まれただけだから、ヘスティア様は特に気にしなくて良いよ」

 

「今回のような事があったら、構わず頼って良いからな?ヘスティアは変に遠慮する事があるからな」

 

「そんな事言われたら、僕はずっと君に甘えてしまうよ。いつも僕は君からもらってばかりで何も返せてないよ」

 

これは僕の心の底からの本音だ。

ある日から君が僕のファミリアに入った時から…いや、初めて会った時から僕は君から色んなものをもらってきた。

物で言ったら、ここにある家具だってそうだし、君がくれたたくさんの服もそう、それにこのピアスだって。

それ以外にも、あんなに楽しくて幸せな日々を君は教えてくれた。本当に色んなことを…

でも僕は未だに何も返せてあげてない。だから僕は…

 

「返せてないと言うなら俺の方だよ」

 

「…え?」

 

「ヘスティアに助けられた時、俺は暗闇にいた。何も見えない、何も感じることのない闇に一人。そこに光を、温かい炎を灯してくれたのはヘスティアだ。その炎で俺は助けられた。今の俺がいるのはその時、ヘスティアが俺を助けてくれたからだ。だから返すもなにもない」

 

「そんなことで…」

 

「ヘスティアにとっては当たり前のことでも、それで俺は救われたのは事実だよ。だからヘスティアは返すとかそんなの考えなくていい。ただ側にいてくれれば、それだけで俺は救われてるよ」

 

「う、ウルくぅぅん!!」

 

ウルの言葉にうわぁぁん!と泣きながらウルに抱きつくヘスティア。そんなヘスティアをウルは大切なものを触るときのように、優しくゆっくりと撫でていた。

 

その状態がしばらく続くと、今まで空気だった者がやっと口を開いた。

 

「…もうそろそろ帰らない?」

 

クランはジト目で、目の前で良い雰囲気になってる2人(うち片方の女神)を現実に連れ戻す。

 

「あ、ああ!そ、そうだよね!?もうこんな時間だし、ハデスや君たちの仲間も心配してるだろうしね。本当に2人ともベル君をありがとう。主人として礼を言うよ、近いうちちゃんと改めてお礼させてくれるかい?」

 

「そんな気にするn「うん!ありがとうヘスティア様」…クラン?」

 

ヘスティアのお礼を断ろうとしたウルだったが、クランが言葉を遮った。突然のクランの対応にウルは疑問を浮かべたのか首をかしげた。

 

「こういうのは適度に貰っておけばいいんだよ。あまり会わない人とかだったらともかく、ヘスティア様とはこれからも一緒なんだよ。あまりにもお礼を受けとらなかったらヘスティア様も困るだろうし」

 

「…なるほどな。流石だなクラン、ありがとう」

 

クランの説明に納得したウルはヘスティアに、無理をしない程度に頼むとお願いした。

ヘスティアもそれに頷き、別れる前にヘスティアは再度ウルに抱きつく

 

「またいつでもここに帰って来てくれよ、ここは君の場所でもあるんだから。その時は僕とベル君と一緒に、君の作ったこのテーブルで食事をしよう。もちろんクラン君もいつでも遊びに来てくれよ?」

 

「…ああ。ちゃんと帰ってくるよ、この場所に、ヘスティアの元に」

 

「僕も気が向いたらお邪魔させてもらうよ」

 

「ああ!絶対だよ!僕は楽しみに待ってるからね!」

 

ヘスティアはウルから離れた。

ウルとクランは最後に軽く挨拶してからヘスティア・ファミリアのホームを後にした。

 

 

そして2人は雨の中、ずぶ濡れになりながら自分たちのホームへと帰り、眠かったのかシャワーを浴びて2人はすぐに眠った。

ファミリアの中でも、一度深い眠りに入ると中々起きない2人は、それから10時間以上寝ていた。

 

 

 

 

【ウル達が帰宅した日、現在時刻は19:30】

 

[ロキ・ファミリア]本拠(ホーム)・黄昏の館へと向かっている者が7名。

その者達を見かけた通行人や冒険者達はただ恐怖し、道を開けていた。

中にはあまりの恐怖に泡を吹き気絶している者までいた。

そんな事態を起こしている集団の先頭を歩く、()()()()()()()()

普段、皆の知る性格や行いからか、あまり感じ取れない神格が今回ばかりは溢れ出ていた。

その神は全身を黒に包み、ニタァと不気味な笑みを浮かべていた。

 

「ふむ…オラリオも少し平和になりすぎたか。どうやら、どちらが上なのか忘れてしまったようだな。…酒に呑まれただろうがなんだろうが関係あるまい。我の子を貶す事は我を貶す事と同意。

どんな状況、状態であれ、それを易々と許すほど我は優しくない。

そんな事、古い付き合いの神ならば分かるだろう。

 

 

なぁ…ロキよ」

 

 

 

 

 

 

 




終わりがおかしいかも…
ほんとすいません!


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15話 訪問

【黄昏の館】

それはオラリオで屈指の実力を持ち、三大派閥でもあるロキ・ファミリアのホームである。幹部組は第一級冒険者であり、その数は7人と他派閥と比べてもかなり多い。それに、何よりの特徴は幹部組以外にもかなりの実力を持つ者が多数存在し、その団員数と統率力はオラリオ一と言える。

 

そんな彼らは自分たちのホームの門を、交代制で主に若者たちに見張りを任せている。

だが見張りを付けているからと言って、オラリオで名を轟かせているロキ・ファミリアのホームを襲う者などいるわけがなく、殆どの仕事は精々人払いぐらいだろう。

ただ今夜はそんな簡単な仕事ではなかった。

 

 

「止まれ。ここはロキ・ファミリアのホームだ。この時間から人が来るとは聞いていない、すぐに帰れ」

 

門番が前からまっすぐやってきた7名の集団に、去るよう伝える。

だがいくら言ってもその者たちは動かさぶりを見せず、じっと大きな城のような建物、黄昏の館を見ていた。

そんな彼らに痺れを切らしたのか門番はさらに強く言い聞かせる

 

 

「聞いているのか()()()!ここは我らロキ・ファミリアの「…ほう?()()()、か」…なに?」

 

門番の言葉に真ん中に立つ黒髪赤目の神が、まるで相手を射殺すかのような鋭い視線を門番に向けた

 

「どうやら貴様は我らが誰か分からないらしいな。遠い田舎から来た新人か、はたまたまただの馬鹿か…相変わらずあの道化は子の数は増やすが、躾というのが出来てないらしいな」

 

「…き、貴様!我々を馬鹿にする気か!」

 

「する気ではなくしているのだ。そんな事も一々他人に聞かなくてはいけないのか愚か者が。…貴様と話すのはつまらん、早く我の道を阻む門を開け、貴様は消え失せろ。今ならそれだけで先程までの無礼を許してやる」

 

「先ほどから舐めた事を!ここはオラリオ()()()()()()()()のホームだ!喧嘩を売ってただで済むと思っているのか!?」

 

「…さっさと開けろ、次はないぞ」

 

「貴様ぁぁぁ!」

 

門番は集団に武器を構えて突撃した。流石はロキ・ファミリアなだけはあり、その速さはそこらの冒険者よりも研ぎ澄まされていた。

だが悲しいかな、目の前の相手にその程度の速さは、残念ながら移動というカテゴリには入らない。ただずっと止まっているようにしか見えない。

 

「邪魔だゾ」

 

7人の中で一番小さい影が、突撃してきた門番の腹に鋭い蹴りを食らわせた。

レベル差的に殺してしまいそうなその蹴りは上手く力を調節したのか、門番の意識を刈り取るだけに収まった。

 

「うわぁ…これってもしかしてネロガチギレなやつじゃない?」

「もしかしなくてもガチギレだろう、あのネロが自分の身体で攻撃したんだぞ」

「ネロちゃんは1回怒ると、止められるのはウル君ぐらいだからね〜。これはエメ、ちょっとティオナちゃん達が心配だよ〜」

 

エルカ、フェルナ、エメは普段見ないネロのガチギレに若干の冷や汗を出していた。エメはともかく、ロキ・ファミリアの団員達に強者の印象を与えているエルカとフェルナですら、この状態のネロにはあまり近づきたくない様子。

それもそうだ、おそらくハデス・ファミリアで最も怒らせてはならないのは、種族で一番力のない小人であるこのネロなのだから。

 

ネロとハデスは倒れている門番を無視して先に進む。それに続いてエルカ達も進んでいき、その姿をベルクとティエリアは、はぁーと大きな溜息を吐きながら、ベルクは倒れている門番を敷地の方で寝かせてから後についていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキ・ファミリアside

 

こちらでは夕食の時間だったのか皆が揃って食卓を囲っていた。

勿論フィン達幹部組も仲良く食事をしていた。

 

「ほんとすごかったよねウルとクラン。クランはレベルが上のベートに勝っちゃうし、ウルなんて剣を一振りで雲を割っちゃったし!」

 

「確かにあれには驚かされたわね…さすがレベル9、あの殺気も悔しいけど全然動けなかったわ」

 

「私なんか意識失いかけましたからね…アイズさんはどうでした?」

 

「私も全然…あんなに怒ったウルは初めて」

 

仲良し4人組はあの酒場の件が忘れられないのか、その話題しか話していなかった。そんな会話にフィンやリヴェリアやガレス、ロキも混ざっていた。

ベートはクランにやられた事が未だに引っかかっているのか、イライラしている様子だった。

みんないつものように楽しく会話をしていた。いつもの幸せな日常を過ごすロキ・ファミリア。だがその日常は一瞬にして消え、楽しいその空間に闇が訪れる。

 

コツ…コツ…と不気味に響く足音に、ロキ・ファミリア一同は廊下に通ずるドアに視線を移していた。

 

「なんやこの音?」

 

ロキが眉間に皺を寄せてドアを睨む。そしてロキやリヴェリア、アイズ達は五感に自信があるフィンに視線を移す。

 

「フィン、この音は」

 

「足音は一つだけど気配は7人。だけど人物の特定ができない程度に抑えてる…相当な手だれだ」

 

フィンの推理に幹部組は、少し動揺するも流石は第一級冒険者か、すぐにドアの近くへと移動し戦闘態勢に入る。そしてそれと同時にドアが吹っ飛び煙が舞う中、気配の正体は食堂へと入っていく

段々と煙が晴れていき、侵入してきた者の姿が見えていく

 

「…ほう?どうやら食事中だったようだなロキ」

 

「な、ハデス!?何やってるんや自分!?」

 

「ティエリア!?なぜお前がいる!?」

 

「ベルクにネロ、エルカやフェルナやエメまで!?え!なんで!?」

 

侵入者の正体がハデス・ファミリアだと気付いたロキ達は、驚きのあまり固まっていた。なぜここにハデス・ファミリアがいるんだとみんな疑問になっていた。

 

「なに、少しばかり()()()()()()だけだ」

 

「…邪魔するなら帰ってや〜って言いたいところなんやけど…そんな雰囲気じゃなさそうやな」

 

ロキは鋭い眼差しでハデスを見る。普段のおちゃらけているロキとは全く別神の雰囲気を纏っていた。だがハデスはそんなロキの視線を受けても、特に気にする事なくロキ・ファミリアの幹部組合わせた全員に視線を配り、目を瞑った。

 

「ああ、我としても残念ではあるんだがな。今回ばかりは少し無理だったようだ」

 

「…なんのことや」

 

こちらも普段の明るい感じとは違う、重く押しつぶすようなハデスの声にロキ含めこの場にいる全員が警戒体制を取っていた。

ハデスの後ろにいるベルク達にも警戒する幹部組。

だがフィンやリヴェリア、ガレスはすぐに気付いた。

ネロやエルカ達はともかく、ベルクとティエリアに関しては普段と変わらない気配だと言うことに。

その事に一先ず安心した3人だったが、すぐにその余裕はハデスの一言によって崩れてしまうこととなる。

 

 

「まさか貴様らを、()()()()()()()事になるとはな」

 

 

ゆっくりと開かれた血の色のように赤い双眼は、万物を凍らせる絶対零度の様に冷酷な眼でロキ達を見た。

その眼に無意識に生存本能が出たのか、フィン達は咄嗟にハデス達へと向かっていった。

ただ…その中でもリヴェリアだけは動けなかった。

冷静さでは団長であるフィンの方が上だろうに、何故か今回はフィンは向かって行き、リヴェリアは止まっている。それは何故か、答えは簡単、()()()()()からである。

 

ある1人の力を。その規格外さを。恐ろしさを。

こういう面倒ごとに、普段のめんどくさがりな性格からして絶対に来ないであろう人物がいる時点で、リヴェリアの心臓は破裂するのではないかと言わんばかりにバクバクとなっていた

その人物はハデス・ファミリアの団長ではなく、仲のいい従兄弟でもなく。ましてやエルカ達でもない。

オラリオに5人しかいない、自分たちより上の存在(レベル7以上)の1人。

 

その人物は、自分たちに襲いかかってくるフィン達を、まるでゴミを見るように睨みながら小さく呟いた

 

「…捉えて

 

その瞬間、リヴェリア達の足元が影に呑まれた。

リヴェリアは一瞬だが視線だけを下に移すとそこには、まるで生き物の目の様な赤い光が怪しく光った。



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16話 冥府の神と道化師

大変遅くなりました!すいません!

これからまた少しずつ書いていくのでよろしくお願いします!


生存本能ゆえに、ハデス達へと向かっていったリヴェリア以外の幹部組は現在、ウォーシャドウよりもさらに人間らしい、騎士の様な見た目をした兵達に取り押さえられていた。 

 

(これは…あの時の影!?)

 

アイズはその兵の姿を瞬時に思い出した。自分たちの護衛をウル達がしてくれている時に、自分たちを守る様にモンスターを倒していた影兵。

 

『ウル、()()()()()()()()()…』

 

そしてアイズは、その影兵を操っていた人物を思い出した。

ハデス・ファミリアが助けてくれた時と同じように、クマのぬいぐるみを大事そうに抱えるも、その可愛らしい見た目に反してこちらを見る彼女の眼は誰よりも冷めている。

 

「誰が動いて良いって言ったのだ?

君たちは、自分たちの立場をちゃんと考えたほうがいいゾ。

 

…もし、考えた上でネロ達に向かってくるなら、残念だけど()()()()()

 

現在フィンたち幹部組を、見事に取り押さえている影兵を従えるレベル7のネロは、言葉とは逆に特に寂しそうにする事なく、ただ冷徹にフィンたちを見ていた。

 

「くっ…流石レベル7【血塗れの女王(ブラッディクイーン)】のネロ・ムーライトだね。この影の兵士の力はどうやら僕らと同等か、それ以上の様だ」

 

「いくら神であるハデスの殺気に当てられたからといっても、ネロ達に挑むほど余裕がなくなるとは思ってなかったのだ。

正直、ガッカリだゾ【勇者(ブレイバー)】。オラリオ()()()()()()()()()の団長が、たかが神の、それも神威が含まれていないただの威圧に生存本能が反応するなんて、拍子抜けにも程があるのだ」

 

ネロは影兵に頭を掴まれ床に取り押さえられているフィンの事を、見下す様に視線だけ向けていた。

そして明らかにフィンを馬鹿にした発言をする。

だが、フィンの事を悪く言うことに黙っていない者がいた。

 

「おいてめぇネロ!団長に向かってなに言ってんだ!」

 

フィンに恋心を抱いているティオネは、大好きな人を馬鹿にされた事で怒っていた。自分を抑えている影兵を馬鹿力で僅かだが抵抗していく。

 

「団長を馬鹿にする奴はいくらお前でも許さね「黙れ」…ガハァ!」

 

「「「ティオネ(さん)!」」」

 

ネロの言葉と同時に、影兵はティオネの力をさらに上回ってティオネの顔面を床に叩き抑えた。

バキィ!と音がした床は少しひび割れているが、レベル5のティオネに怪我はなかった。

 

「誰が喋って良いって言ったのだ【怒蛇】。…さっきから君たちは少し自分勝手すぎるゾ。少しは自分たちの副団長を見習った方がいいのだ」

 

ロキやフィン達は視線を自分たちの副団長へと向けた。

皆が知るロキ・ファミリアの副団長であるリヴェリアは、常に冷静で聡明、そして団長のフィンとはまた違ったカリスマ性を持つ、誰もが憧れ認める冒険者だろう。

 

だが、今の彼女は皆の知る彼女とは別人だった。

恐怖で震える身体を守るように自分で抱きしめ縮こまる姿は、皆から“ママ”と呼ばれる彼女とは遠くかけ離れた、例えるなら今にも泣いてしまいそうな少女の様だった。

 

「リヴェリアどうしたの!?」

「リヴェリア!?」

「「リヴェリア様‼︎」」

 

アイズやティオネ、レフィーヤなどロキ・ファミリアのみんながリヴェリアに声をかける。

 

「…私は大丈夫だ。お前達に余計な心配をさせてしまったな」

 

リヴェリアは震えながらも、なんとかアイズ達に大丈夫だと笑顔を見せた。

そのリヴェリアの様子にフィンは口を開く

 

「君がそれほど怯えるのは初めて見る…一体なにがあった」

 

「…「その話はリヴェリアちゃんには少しきついんじゃないかな〜?」エメ…」

 

リヴェリアがなんとか話そうとする、だがそれを止める様に割って入ったのはエメだった。

フィンはなぜリヴェリアが話すがのがきついのかエメに聞くと、エメはこの重い空気には似合わない明るい笑顔で説明した。

 

「少し前にディヤウス・ファミリアってあったの覚えてるかな?」

 

「確か30人の構成員がいて全員レベル3〜4の中堅ファミリアだったよね。

一年ほど前にダンジョンで20名ほどが命を落とし、残りの者は主神と共にオラリオを去った。それが一体…いや、まさか」

 

フィンは思い出す。

ある日のリヴェリアが一人でダンジョンから帰ってきて様子が少しおかしかったこと。それからすぐにディヤウス・ファミリアがオラリオを去ったこと。

そしてフィンは理解した。今この場でなぜその話をエメが出したのか。

アイズや他の団員もフィンの表情から段々と話の結末が見えてきて、体から嫌な汗が出てきていた。

 

エメはフィンや他の団員が気付いたことに、ニッコリと笑顔を向けて答えを告げた

 

「みんなが想像した通りだよ〜!

ディヤウス・ファミリアに所属していた30人のうちの20人、()()()()()()()()()()()()()()()()だよ〜」

 

エメのその明るく言われた言葉の内容に、その場にいた者は皆、ただ唖然としていた。

この話の流れからそうだろうとは思ったものの、やはり信じられないでいた。

 

「あの日亡くなったディヤウス・ファミリアの冒険者の20名のうち、17名はレベル4だった。その中にはファミリアの団長や幹部が含まれていた。

いくらレベル差が空いていたとしても、戦闘経験もかなりあるレベル4の17名を簡単に殺せるはずがない。

この影の兵を使えばそれは関係ないが、リヴェリアが恐怖を覚えているのはネロ自身だ。つまり…」

 

「そうだゾ。ネロが1人で20人を殺した。

ちなみにエメは関係ないのだ。

エメはその時ダンジョンを回ってて、ネロが殺すところを見てたリヴェリアに口封じしてたんだゾ」

 

フィンの言葉を肯定したネロ。淡々と答えたネロは、殺すのに何が悪い?と言いたげにあっけらかんとしていた。まるで殺すのが当然かのように。

フィンの頬にツゥーと汗が流れる。

 

「なんで自分そんなことしたんや」

 

ロキが疑問をこぼす。冒険者を20名も殺したのだ。それなりの理由があるはずだ。そう思って聞いたロキだったが、これが間違えだと気づくのが遅かった。

 

「…そんなこと?ネロの前でウル君を馬鹿にした事が、そんなことで済むはずがないゾ!

ただの私利私欲に溺れた冒険者のクズが、何か言っていい相手じゃないのだ!

ウル君はネロに命を、力をくれた!

地獄のような世界からネロを出してくれた唯一人の英雄だゾ!

それをあいつらは汚い口でベラベラと吐きながらも、汚い視線でネロを見ては慰めてやるだの、遊んでやるだの…

だからネロは望み通り遊んでやったのだ、コイツで」

 

ネロは影から自身の武器の一種であるタルリル(巨大なチャクラム)を8枚を出現させ、高速で回転させる。キュィィンと甲高い音が食堂に響いていた。

 

「なるほど。君がタルリルを使ったってことは、この影兵を使わず自分の手でその20人を殺したって事だ。君が昔からウルを大切に想っていたのは僕らも知っている、だから君が直接手を下した理由も怒る理由もわかるよ。

確かに、自分の恩人や憧れる人が馬鹿にされたら僕も怒っていると思うしね」

 

「…ほう?」

 

フィンはネロが怒る理由を理解していた。自身も過去に、小人族で信仰されている架空の女神『フィアナ』の事を、神に存在を否定されてただけでなく、小人を見下す冒険者達からも馬鹿にされた時に同じく怒ったことがあるから。

そんなフィンの、ネロの動機をすんなり認めた言葉に、いち早く反応した人物がいた。

 

「なにかな?神ハデス」

 

「ネロの気持ちを分かっているのならフィンよ、貴様の仲間である犬がウルを貶した事で起きているこの状況もわかるな?」

 

ハデスはネロが作った影の椅子に座ると、頬杖をつきながらもその赤い双眼をフィンに睨みつけていた。

ハデスはネロにフィン達の拘束を解く様に伝え、フィンに応えてみろと顎をクイッと動かす。

 

「拘束を解いてくれてありがとう。

それでね、その仕打ちは昨晩ベートがクランの手で直接裁かれてる。

また別日に謝罪はしに行くつもりだったけど、今回はこれで終わりにして貰えると助かるんだけどね」

 

「返事がノーならどうする?」

 

「君たちが僕たちの命を奪うつもりなら、抵抗させてもらうよ。オラリオ最強のファミリアを相手に無事でいられないのは分かるけど、黙って命を奪われるくらいなら僕たちは最後まで喰らい付くよ。

例えどんな手を使ってでもね」

 

フィンの言葉に応える様にロキ・ファミリアの面々はグッと拳を握り、まるで覚悟を決めている様な、勇ましい顔つきになった。

 

「…ロキよ。貴様のとこの団長はこう言っているが貴様はどうだ。こやつらと同意見で我らに歯向かうか?」

 

ハデスは今度はロキへと視線を移す。ロキはスッと眼を開いてはフィンやアイズ達幹部、そして自分の子どもたちの顔を一人一人見る。

そしてニヤリとハデスへと笑ってみせた。

 

「始めはうちらがやらかした事やしな。

ベートにはあとできつく言っとくてして、子ども達が覚悟を決めたんなら、うちがとやかく言うことはない。

うちも本気を出して、どんな手を使ってでもこの子達を生かして勝たす。

そしてハデス、自分をその最強という玉座から引き摺り下ろしたるわ」

 

「…フハハハハハ!

そうか、我らと戦うか!

潔く散るのではなく、最後まで足掻く事を選ぶか

それもまた一興

 

いいぞ、わかった。

ならば話はここまでだ、貴様らの事は我が記す英雄譚にちゃんと残してやろう」

 

手を前に差し出すハデス

 

「だから精々我を興じさせよ、道化」

 

パチンっと指を鳴らしたハデス。

その顔は今まで見せたどの表情よりも鋭く、冷めていた。

 

 



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17話 最強ファミリアの片鱗

明けましておめでとうございます!
これからもよろしくお願いします!



ちょっとここの話が思いの外長引いてます…
次回でハデスとロキの対談は終わらせれる様に頑張ります!

読みにくかったらすいません…


ハデスが指を鳴らした瞬間、ロキ・ファミリアの幹部達は自分たちが出せる限界の速さでハデス達へと立ち向かう。

 

フィンたちには満足な武器がない。だからと言って武器を取りに行こうとすれば、その瞬間に自分たちよりもレベルの低い仲間がやられてしまうだろう。だからフィン達は自らの手でなんとか足止めをしつつ、ラウル達に自分たちの武器と、態勢を整えさせる時間を作ろうと考えていた。

 

フィン、リヴェリア、ガレス、アイズ、ベート、ティオネ、ティオナのオラリオで名高い第一級冒険者が全力で向かっていく。

その速さは普通の人間では到底捉えきれないの速度だ。現に神というだけで他の力は普通の人間と変わらないハデスとロキには、フィン達の動きは見えない。

 

だがそれでも、ハデスは冷酷な表情を崩さない。

今現在、7人の第一級冒険者に狙われていても。

それは何故か、答えは簡単。

 

()()()()()()である

 

フィン達と同じスピードでハデスの前へと移動し、7人の動きをそれぞれ止めたのは、最強たるハデスの4人の眷属。

 

 

「ちょっとちょっと、それダメだよ〜!」

ロキ・ファミリアの近接戦闘員のガレスとベートの拳をそれぞれ片手で押さえつけているのはハデス・ファミリアの狙撃手である犬人。

 

「…さっきから黙って見てれば、あんた達判断間違えすぎじゃない?」

アイズとティオナを取り押さえている全身を真っ赤な衣装に包んだ少女は、若干呆れた表情をしていた。

そして

 

「愚かだな。流石に」

禍々しい朱槍を持つ少女はそれを使って、横並びになったフィンとティオネの前へ向け

 

「少々落ち着け、リヴェ」

ハデス・ファミリアの副団長は、優しく諭すように囁きながらリヴェリアの額に人差し指をコツンっと当てた。

 

((( !!! )))

 

今出せる最大の力を使っても、あっさりと動きを封じられた事に驚くフィン達。

それ以外のロキ・ファミリアの冒険者たちは、なにが起きたのか分からずただ呆然としている者が大半だった。

 

身動きが取れなくなり焦るフィン達。その中でも特に焦る者が2名いた。

それは本来の常識を考えると異質な事だった。

 

「どうなってやがる!?なんで敏捷や器用値だけが主な()使()()()()()()が俺らの力を抑えられてんだよぉ!」

「純粋な喧嘩なら今までの戦闘経験でレベルの差が関係なくなるのは分かるが、単純なステイタスではワシがお主に負ける事はない筈なんじゃがな…」

 

それは犬人の少女がベートとガレスの拳を真正面から抑えている光景にあった。

少女のレベルは抑えているうちの1人のベートと同じレベル5。

だが、そのアビリティの伸び方は、2人の戦闘方法からしてバラつきがある。

まずベートは近接戦闘が得意であるためアビリティの伸び方としては《力、敏捷》が大幅に伸びるだろう。

対して狙撃手が伸びやすいのは大体《器用、敏捷》であるため、パワーに関してはベートに軍配が上がるはずだ。

 

そしてそれよりも確かなのはガレスだ。ガレスはレベル6に加え、スキルで《力》のアビリティに高い補正をかけている。同じレベル6の中でもガレスは頭ひとつ飛び抜けて力が強いだろう。

だが、そのガレスの拳を犬人の少女は難なく片手で受け止めている。その事実が二人を、そしてロキ・ファミリア全員を焦らせる。

 

その件の犬人であるエメは、普段見せる明るい笑顔のまま、ギュッと二人の拳を握り離さないようにしている。

 

「凄いみんな混乱してるね〜!エメちゃんにはみんなの頭上に?マークがたくさん浮かんでるのが見えるよ〜。凄い知りたそうな顔してる!

と言うわけでそんなに知りたいなら特別に教えてあげるよ〜!」

 

 

全員の顔を順番に見ながら、本当に特別だよ〜?とニコニコな顔でお尻の尻尾をブンブン揺らすエメ。ベートはイラついているのか足でエメを蹴りつけるも、()()()()()()()()()()()事にさらにイラつかせていた。

一方で3人の事を横目で観察するフィンと実際捕まっているガレスは、この状況の答えが分かった。

 

「まさかとは思ったが、なるほど呪詛(カース)か」

 

「ピンポーン!大正解だよガレス!名前は【デルヘス】っていってね!

能力は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こと。

つまり…僕に打撃系の攻撃は意味がない」

 

エメはいつもの笑顔とは違う、ニヒルな笑みを浮かべ普段のテンションの高い話し方とは真逆の喋りで自分の呪詛を説明していた。一人称も『エメちゃんから僕』へと変わり、まるで別人のようだった。

 

「…まあ大幅に下げた所で意味ない人もいるけどね〜!大体レベル1つ差が完全無効、2つ差からはほんの少しだけしか意味がないけどね〜」

 

「つまりこの状況において、お主に武器なしで勝てる可能性があるのは【風】を使えるアイズだけ、というわけか」

 

打撃系の攻撃が効かないならば、魔法で自身を強化できるアイズならばエメに対抗出来るものの、その肝心のアイズは今現在、呆れ顔のエルカに捕まっている、そのためエメをどう攻略するかと考えるガレス。

そんな時隣のベートが吠える

 

「呪詛は使った本人にも何かしらの代償があるだろ!そこを突けばこんな犬っころなんか簡単に終わりだろーが!」

 

呪詛は基本的に強力な力を発現するが、その強力すぎる力の代償を術者本人に伴われる。これが呪詛の厄介な所であり、魔法との大きな違いだ。

だが先程から術者のエメは特に代償を払っている様子はない。そればかりかベートの発言を聞いてニヤァと不気味に口角が上がる

 

「任意発動。魔法詠唱、消費精神力、呪詛代償、スキル効果の()()()()()()()()()()()()()、エメちゃんって意外にぐーたらなんだよね〜。何もしたくない時は本当に何もしたくないの。だからかな、このスキル名は【怠惰愚者(リズィネス・フロール)】。これは僕が発現したスキルの一つだよ。このスキル効果の意味がわかるベート?」

 

「ま…さか…お主のそのスキルは…」

 

隣で聞いていたガレス、魔法を使うリヴェリアやレフィーヤ、そしてこの場にいる魔法を使う全ての冒険者の思考が停止する。

魔法は強力であればあるほど、使用するときの詠唱に時間を取られてしまい、精神力(マインド)消費も激しいため、魔法が使える様になるまでの間、味方が命懸けで守らなければいけない。

もしかしたら、自分を守っている間に目の前で味方が死んでしまうかもしれない、そんな恐怖や焦りと闘いながら魔導士はモンスターと戦っている。

 

だが、目の前で自分のスキルを説明したエメの言葉が本当なら、彼女は無詠唱で精神力も消費しないで魔法を放てることが出来るという事。

そんなもの、もはやチートでは無いかと誰もが思った。

 

「つまり僕には呪詛の代償とか無いんだよ。

みんなが武器を溶かされながら闘ったあの新種を射る時も、僕はただ弓を引くだけでいいの。そもそも【サーチス・シューティア】、あの新種に使った魔法だけなら弓を使わなくても発動できる。ほら、上を見てみなよ」

 

エメが顔を上げるにつれて、全員が食堂の天井を見る。すると写ったのは天井の前に大きく展開される魔法陣。

皆んなはすぐにこの魔法陣があの新種を殲滅する時にエメの弓の前に展開されていた魔法陣と一緒だったことに気付く。

 

「アハハ!これでわかったでしょ〜?エメちゃんに魔法や呪詛のことで突くところなんてないんだよ〜!残念だね?ベート」

 

エメはなんの動作もなく頭上の魔法陣を消すと、ベートを揶揄う様に笑う。その笑顔はいつも見せる笑顔だった。

 

ちなみに、もしかしてエメは二重人格かと考える者もいたが、一応どっちも素のエメである

 

今この場にいるハデス・ファミリアの中で、一番対応できそうだったエメの強さを知り、あとがないロキ・ファミリア。元々勝ち目が0に等しい勝負ではあったが、これで完全に勝機は無くなったと悟るフィン。

だがせめて後輩たちだけでも逃がす時間を稼がなくてはと、脳をフル活用する。

 

…が、すぐにそれが無駄な頑張りだと理解させられる

 

「私を前にして考え事かフィン・ディムナ。『一番レベルの低いエメが簡単に倒せないとわかった今、自分たちの勝ち筋は完全になくなった。ならばどうやって部下を逃がす時間を稼ごうか』と言った所か…」

 

「本当に君は人の考えを読むのが得意だね、フェルナ・サハール」

 

フィンとティオネに朱槍を向けるフェルナは、つまらんと言いながら自身の持つ禍々しい朱槍を引っ込めた。

その事にフィンは、なんの真似だい?と尋ねるとフェルナは興味なさげに呟く

 

「槍を持っても私に勝てないお前が、今の状況でどう私に向かって来ようと一瞬で勝負がつく。そんなつまらん事を私はしない

それに、…私たちが出なくともお前たち全員の死は、()()()()()()()()()()()()で決まってる」

 

フィンは視線をネロに移す。

確かにリヴェリアがああなるほどの恐怖を、事故ではあるがネロは植え付けた事から、ネロの本気はとても自分たちの範疇では収まりきらないのだろうと考えるフィン。

だが、なぜフェルナが、『自分たちの死はネロが来た時点で決まっている』などと言うのか、少しわからないでいた。

 

ネロは自身の武器のタルリルを自由に操り、強力な影の兵士を従える。だがあくまでネロの従える影兵は先程に自分たちを押さえつけた6体ぐらい、まだ出せるとしても10はいないだろうと予想したフィンは、それだけならまだ十分にやりようはあると思っていた。

ロキ・ファミリアの強みは、個々の強さもそうだが、何よりは団員の数とその連携技にあると自負していたフィンは、苦しくはなるものの、ネロと数体の影兵ならばいけるだろうと。

 

「『味方の数と連携でネロと数体の影兵ならなんとか勝てる』と、そう思っているなら、貴様は()()()()()()()()()()()()()()()()()な」

 

フェルナにまたもや思考を読まれたフィンは目を大きく開き驚く。

その隣にいたティオネも同じ事を考えていたのか、少し驚きつつもなんとか反論すべく前に出た。

 

「その考えのどこがおかしいってのよ?!確かにさっきは不意を突かれて抑えられたけど、真っ向からやり合えばこっちの方が手数が多くて有利よ!どんなに強くても数の暴力にはそうそう勝てるものはないじゃない!」

 

「確かに数の暴力とは恐ろしいものだ。だからこそ、お前たちはネロに勝てないと言っているのだ」

 

「…どう言う事よ?私たちの団員数は20やそこらじゃないのよ?ネロと、もしまだ出してない影兵を合わせたところで、精々10かそこら。ネロの武器を操る力は確かに厄介かもしれないけど届く範囲は中距離ぐらいでしょ。うちには強力な魔法を使えるリヴェリアやレフィーヤ、沢山の魔導士がいる。私たちが影兵を抑えて魔法を使えば…「愚かだな」…なんですって?」

 

フェルナの一言にカチンッと来たのか、額に血管を浮かばせるティオネ。

その二人のやりとりを、ハデスはニヤニヤ笑いながら見ている。

一方でロキたちはティオネとフェルナがバチバチしている事に焦るものや怖がるものたちがいた。

だが、確かにティオネの言っていることが正しいのに、フェルナはああ言ったのかわからないロキ・ファミリア。

『数の暴力は恐ろしい』それはフェルナもしっかりと認めていた。ならばなぜ数で優っているロキ・ファミリアが有利な筈なのにそれを認めないのか。

 

フェルナは別にネロが自分の仲間だから贔屓にしてるわけではなく、ただ真実を言っているだけである。

一つ言うならロキ・ファミリアは一つ、()()()()()()をしていたのだ

 

ネロは黙って自分の影を床に展開していく。

ズズズッと床を飲み込む影は、すぐに食堂の床、そして壁をも黒く染める。

そして不気味に床や壁が点々と光ると、次々と影兵が這い上がってきた。壁には上半身だけを出して武器を構える影兵もいた。

その数は10や20などくだらなく、およそ100体の影兵が食堂を埋め尽くす。

 

影の僕を従える女王はただ冷めた眼で、だが人を嘲笑うように少し口角を上げた

 

「一体いつから    ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ?」

 

その瞬間、一人の少女にある神は恐怖した。本来下界に住む人間になど慈愛の心は芽生えど恐怖などこれっぽっちも抱かない。

それが普通だった。

 

だが3年ほど前に起きたある事件で、オラリオに住む殆どの神がある冒険者に死の恐怖を抱いた。

人間なのにも関わらず、美の女神と並ぶほどの美しさを持つオラリオ最強の男。いつもの美しい銀髪は漆黒に染まり、次々と闇派閥とそれに関わる神を問答無用で殺した。

何人もの神を屠った冒険者は神々に恐怖という感情を植えつけたのだ。

今現在、少女に恐怖を抱いた神もこの時初めて恐怖を知った。

神は下界で殺されても、本来なら天界へと強制送還されるため死の恐怖など分からない筈が、漆黒に染まった剣を持つその冒険者を見た瞬間、死の恐怖が己を支配したのだった。

 

その冒険者の暴走とも言える事件はある1人の神の活躍によって収まった。

そしてその神を殺し恐怖を植え付けた最強の冒険者を神々は、【死神】と呼ぶようになった。

 

あれ以降は、下界の子どもたちに恐怖を芽生える事などなかった。

まぁ最も、そんな存在がゴロゴロといられても困るのだが。

だが、今1人の少女の力によって3年ぶりに神は恐怖を抱く。

 

(なんなんや…うちら神に恐怖を抱かせるほどのこの力!

こんな力…人一人が宿していい力やない…

ハデス、自分一体こんな力を集めて何がしたいんや…!)

 

ロキは影の玉座に悠々と座るハデスを睨む。

もしやハデスはよからぬ事を企んでいるのではないかと。

自分たちだけでなく、オラリオを、何もかもメチャクチャにするのではないかと

 

 

冷や汗を流しながらも、ハデスを睨む事をやめないロキ。

 

そんな時、ふとロキは見た。

 

玉座に座るハデスの後ろにずっと待機していた、オラリオ最強のファミリアを統率する男が動く瞬間を。

 




読んでいただきありがとうございます!

結構私はオリキャラ一人一人にこだわってますのでもし良かったらこのキャラ好きだよーとかコメントで言ってもらえたら嬉しいです!笑

それ以外にもアドバイス等ありましたら是非コメントしていってください!

ちなみに私は褒められると伸びるタイプです!|´-`)チラッ


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18話 一旦の収束

更新遅くなりました!

それと感想ありがとうございました!ネロちゃんが人気でとても嬉しいです!
これから他の子たちもより好きになってもらえる様に頑張ります!




迷宮の孤王・ゴライアスの一撃を、片手で受け止めるほどの怪力をもつ鬼は、自身の右腕をゆっくりと上げた。

本来なら命を狩る獲物を握るその手にはなにもなく、ただ拳を握っていた。

 

 

死ぬ

 

 

誰かの声が漏れた。それはロキか、幹部か、それとも部下か。もしかしたら声に出さないだけで全員が、その拳に明確な死を幻想させられたかもしれない。

あれを喰らったら間違いなく死ぬと。

 

鬼は拳を握りながらゆっくりと歩く。コツッコツッと数歩歩き、己の主神の後ろに着く。鬼の主神たるハデスは、冷徹にそして冷酷にロキたちを玉座から見下ろす。

ギュッと鬼の握る力が強くなる。

 

フィンはなぜ鬼がハデスの後ろに立つのかわからなかった。

拳を振った所で当てれる相手は一人に限定される、ならばその一撃を振るうためには相手の近くに行かないとダメなのではないかと。

だが、そこでフィンは思い出す。

レベル8程の力を持てば、空気を殴って波動弾の様に広範囲にやれるのではないかと。

鬼、【鬼人】と呼ばれるベルクは戦闘の際、主に大剣を振るい数種類の技を使う。

その中には空気を切り、斬撃を飛ばす技まである。既に似た技があるならば、それを拳で再現するぐらい容易いのではないかとフィンは考えた。

攻撃をする際に、自分たちを抑えているティエリアやエルカ達なら、ほんの一瞬で回避する事が出来るだろうと。

 

フィンの親指が疼く。このままでは死ぬと警告する。

 

 

 

 

 

ベルクは拳を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ直ぐ()()

 

 

「いい加減にしろ」

 

 

ボガァン!

食堂に大きな衝撃音と煙が舞う。ロキ・ファミリアの誰もが予想外の状況に呆然としていた。

ティエリアは、はぁ…と額に手を当て呆れた様に息をこぼす。

煙が晴れると、先程まであった影の玉座は綺麗さっぱりなくなっていた。

そして己のファミリアの団長の一撃を喰らった主神は、綺麗に食堂の床に体をめり込ませていた。

だが、さすがは最強ファミリアの主神と言うべきか、あの一撃を喰らったというのに目に見える傷は、頭の上に大きく膨らむたんこぶ一つだけだった。

 

「一瞬天界へ昇る光が見えたではないか、ワレぇ!」

 

 

ガバッ!と身体を起き上がらせたハデスは、自身を殴ったベルクへと文句をたれる。

 

「少しやり過ぎだハデス。ここにくる前に俺とティエリアと約束した筈だ。制裁はクランが行ったから今回は忠告だけだと。俺とティエリアは分かってたぞ、お前が途中から少し楽しんでいたことを。このバカデスが」

 

 

ベルクはつま先で蹴りながらハデスをジト目で見下ろす。

 

「エルカ達はなんとなく察して、怒りを収めてくれていたがネロに関しては本気の怒りだったぞ。ネロは普段こそ落ち着いているが、怒ったときの己の制御はあまり得意ではない。ネロが本気になれば、いくら私とベルクと言えど、この状況で皆を守りながらネロを落ち着かせるのは厳しい。少数でも死人が出てしまい、そうなれば今度こそ戦争になりかねんぞ。

そこのところをちゃんと理解しているのかこの馬鹿者。馬鹿神。なんと言ってみろバカデス」

 

 

そしてティエリアもまた、ジト目で一瞬で出した自身の相棒である杖でハデスのたんこぶをバシバシと叩いていた。

 

その光景を困惑しながらもただ呆然と見ていることしかできないロキ・ファミリア。

それに気付いたベルクは、ハデスを蹴りながらも器用に頭を下げて謝罪した。

 

「お前たちには怖い思いをさせたな、すまない」

 

「痛い!先程から痛いぞベルク!ティエリアもやめろ!」

 

「いや、元はこっちが悪いんだけど…これは一体…」

 

 

フィンは未だに状況の整理がつかないでいた。

 

「俺らがここに来た目的は、あくまで『次はないぞ』って言う忠告だけだ。そっちも自分たちに非があることは認めていたからな。戦争をしに来た訳じゃない。

失言したベートはクランに痛い目にあったと知っている。だからこの件はこれでおしまいだ。

ネロも影収めろ」

 

「だから痛いと言っておろうが!やめろと言ったら「少し黙れ」…はい」

 

 

「でもベルク!ネロはまだ「やめろネロ」…ティエリア」

 

 

ネロはまだ納得できなかったのか、ベルクに影をしまえと言われてもそれを渋った。まだ自分は自分の英雄を馬鹿にした奴らを許せないでいると、横からティエリアがネロを呼ぶ

 

「すまなかったな。お前にこそちゃんと今回のことを伝えた方が良いと思ったんだが、その…伝える前にお前が飛び出して行ってしまってな。言うに言えなかった、これは私が悪い。お前の怒る気持ちを我々はみんなわかっているつもりだし、同じ気持ちだ。でもどうかここは一度見逃してやってくれないか、ネロ。()()()()()()()

 

「…ティエリアはずるいのだ。そう言えばネロは逆らえる訳ないのを知ってて言ってるゾ。このファミリアの中でその言葉を言われて、嫌と言える奴はいないのに。…分かったゾ、今日のことはもう良いのだ」

 

 

ネロは影兵を影に潜らせ、その後食堂に展開した影を縮ませた。

そして常日頃から大事そうに抱えるクマのぬいぐるみをぎゅっと抱えると、クルッとロキたちに背を向けた。

そしてネロは「最後に一つだけ言っておくゾ」と呟く

 

「君たちは団員の数とその連携が武器であり、自分たちの強みだと思ってるようだけど、その考えは改めた方が良いぞ。

…今日君たちが相手したファミリアには、誰一人として数で勝敗が変わる奴はいないゾ。

ネロたちの前では数の多さ=強さじゃないのだ。その事をちゃんと覚えておくんだゾ」

 

 

ゾクッと背筋が凍る感覚に襲われたロキ・ファミリア。

半見でロキたちを睨むその紅い眼はギラリと妖しく輝いていた。

そしてなによりも不気味だったのは、ネロの肩から不気味な笑顔でロキ達を覗く様に見るクマのぬいぐるみだった。

まるで生きてるかのではないかと錯覚するぐらい、ケタケタと笑う様に動くそのぬいぐるみはまるで呪いのようだった。

 

ロキたちが恐怖に呑まれているのも知らずに、自分はもう何も言うことはない。

とネロは口を閉じた。

すると今まで散々ベルクとティエリアにやられていたハデスは、パンパンと服の埃を落としてながらもベルクたちの前に立った。

 

「どうだ道化、今の気分は。先ほど貴様のとこの門番が自分たちを最強のファミリアだと我らに言ったが、これでどこが上かいい加減わかったか?

ロキ、フレイヤ、そして我がハデス・ファミリアの事を、みなは三大派閥と呼ぶが些か偏りが激しいように感じるのは我だけか?」

 

「…いや、自分の言う通りや。うちらとハデスのとこでは差が開きすぎてるっちゅうのは今回で嫌と言うほどわかった。あとでちゃんとうちの子たちにも言い聞かせとく」

 

「フッ、当然だ。後にも先にも『最強』は我らしかありえん。

それよりも我も幾つか言いたいことがあった。

…おい、今回の件の元凶である狂犬よ」

 

ハデスは腕を組み、その双眼にベートを写す

ベートは舌打ちをしながらも、多少自分に非がある事を認めているのか「…なんだよ」と呟く

 

「貴様が弱者を嫌い、強さに固執する理由は()()()()()

 

「…!どう言う事だてめぇ!俺の…何を知ってるってんだぁ!ああ!?」

 

「それをここで言うのは容易いが、いいのか?貴様の嫌いな弱さをみなに教えて」

 

 

ハデスの言葉にクソッ!と吠えたベート。八つ当たりに床を踏み砕くも、ハデスは全く気にせずに話を続ける。

 

「貴様の過去は確かに辛かっただろう。貴様の事だ、己の非力さを怒り、呪い、それを糧に(つよさ)を磨いていったのだろう。

クランがよく言っていた、『この世の不利益は全て当人の能力不足』だと。

まさしくその通りだ。1回目は貴様はただ弱く、2回目はただ貴様が遅かった。

全て貴様の能力不足が引き起こした結果だ。

その様な事が起きれば弱者を過去の自分と重ね、貴様は弱者に、過去の自分に向かって吠えている。『今の俺はお前(過去の自分)より強い』と。

まるで言い聞かせているかの様にな。

違うか、【凶狼】ベート・ローガ」

 

 

ハデスが言い終えると同時にベートはハデスの胸ぐらを掴み激しく吠えた。

ちなみにハデス・ファミリアの全員は心の中で(それほぼ言ってるじゃん)とつっこむ

 

「…俺がそこらの雑魚に昔の自分をかさねてるだぁ?バカ言ってんじゃねえよ!俺は過去のことなんかどうでもいいんだよ!俺が雑魚共に言ってることは全部そいつらに向けて言ってるだけだ!

力がねえ奴は全て失う、そんなのガキでも知ってる事だ!

だがそこらの雑魚はどうだ?!大事なもんを奪われてただ泣き喚くだけでなんもしねえ!泣けば失ったもんは戻ってくんのか?来ねえだろ!

だから俺は誓ったんだ!何も失われねえために誰よりも強くなる事を!二度と折れることのねえ(つよさ)を手に入れることをこの刺青に誓った!

いいかクソ神、もう一度そこらの雑魚と俺を一緒にしてみろ。

俺はここを出て行ってでもお前をぶっ殺すぞ」

 

「確かに貴様はそこらの者よりも強い。それは認めよう。

今現在まだ未熟な冒険者は貴様らの様な強い存在に憧れて冒険者になった者も少なくないだろう。だが冒険者とは常に限界を乗り越えられなければいけない、多くの者がその限界に押し潰され成長を停滞させている。そう言う意味では、貴様らは幾度も己の限界を超えて第一線で戦い、生き残ってきた強者と言える。

その中には貴様の様にただ純粋に力を求める者や、まだ見ぬ世界を見るために、そしていつか来る復讐のために強さを求めると言った様々な理由があるのだろう。目標を明確にする事は、そこに至る道のりをはっきりさせる」

 

「…なにが言いてえ」

 

「フッ、特に言いたいことはない。貴様が過去に囚われていないのなら、そうなのだろう。貴様が雑魚と言うのなら、其奴はどこか弱いのだろう。

だがこれだけは覚えておけベート・ローガ。

貴様は己が弱者と決めるとその弱い部分しか見なくなり、すぐに拒絶する傾向がある。ツンデレは中々人気があるが、貴様は少々ツンが多い。デレまでは行かなくともたまには少し甘さを加えることを勧めてやる。それとだな」

 

ハデスは自身の胸ぐらを掴むベートの腕を掴む。

普通の人と同じ身体能力しか持たない神の力など、第一級冒険者であるベートにとっては無に等しいのだ。

その筈なのだが、ベートの手はハデスの胸ぐらを離した。

 

「貴様の過去は我にとっては、この際どうでもいい。そこらの有象無象に雑魚と吠えたければ吠えるがいい。

…だが、我の眷属に吠えることは絶対に許さん。

我が眷属は我自身と心得よ。

もし、この様な件がまたあった場合、我は貴様をどんな手を使ってでも地獄を見せてやる。死ぬほうがマシだと思う様な地獄をな。

覚えておけ。下界に降り、力を失ったからと言って我ら神を甘く見ると…

 

いくら悔いても足りんぞ 雑種

 

 

ハデスの眼が淡く光り、髪がゆらゆらと逆立つ。微かにだが、神威を解放させた事を意味するその姿、その威圧に、目の前にいたベートや、フィン達第一級冒険者達は動く事が出来ないでいた。そしてこの場にいる、まだ冒険者として未熟だったんだろう複数人は、その威圧に耐えられなくなり泡を吹きながら気絶していく。

 

「これは此奴にだけ当てはまる訳ではない。ここにいる貴様ら全て、延いてはこの下界にいる者全てに当てはまる。

 

これからは発言に気をつける事だ。酒の席だとしても呑まれぬようにな」

 

神威を引っ込めたハデスは、くるっと回って出口へと向かう。

その後ろをネロが付いていき、部屋を出て行ったと思ったらひょこっと顔を出すハデス。

 

「確か貴様ら、ダンジョンで助けてもらった礼に飯をご馳走すると言ったらしいな?」

 

「あ、ああそうや。フィン達からそう聞いてるで」

 

まだ何かあるのかと、息を呑むロキ。そんなロキを見てハデスはニヤッと笑う

 

 

「その時は食料庫の貯蔵を怠るなよ。そしてソーマも準備しておけ。我はちんけな酒は好かんからな」

 

それだけ言うと今度こそ食堂を後にしたハデスとネロ。

 

「いい?ハデスの言った通り、もしまたあんた達の誰かがウルに変なこと言ったら骨も残さず燃やしてやるから!

だから…これからは気を付けなさいよ…」

 

「私はお前達がウルや私らより強いのなら、いくら言っても構わんぞ。“強いのなら”な。

もしそんな時があったら、是非とも一戦殺りあって貰いたいな。

その時は発言分、身体をこの朱槍で貫いてやる。

ではまたな、死神の鎌に囚われた愉快なピエロ達」

 

「二人とも待ってよ〜!

…あ、みんなを失わないで済んで良かったよ!

また今度遊ぼ〜ね〜!

ってちょっと、二人とも歩くの早いってば〜!」

 

 

エルカ、フェルナはそれぞれが言いたいことを言ってスタスタと帰って行き、それをエメは慌てて追いかけて行った。

そして最後まで残っていたベルクとティエリアは、今回は本当にすまない、とロキ達に謝罪した

 

「お前たちには本当に悪かったな。エルカやフェルナは言い方はあんなだったが、ただ少し恥ずかしいだけでお前たちと争わなくて内心安心してるんだ。エメに関しては言葉通りに受け取って良いだろう。ネロの事は、怖かったと思うが普段のあの子はとても良い子なんだ。どうかこれからも仲良くしてあげてほしい」

 

「…ああ、今回は全部僕たちに非があるから、君たちが謝る様な事じゃない。むしろこっちがしなければいけない立場だからね。

それに、口ではああも啖呵を切ったけど、実際は僕たちに勝ち目なんてなかった。こんな形で収まってもらえて助かったよ。だからありがとう

 

きっとみんなも彼女たちが優しいことを知っているし、仲も良い。今回の件でその関係が崩れる事はないと思うよ。どうかな?」

 

ティエリアの言葉を聞いたフィンは、後ろを振り返りネロたちと親交が深いアイズ達を見る。

 

 

「私は、大丈夫、です」

「あたしも全然気にしないよ!こっちが悪かった事だしね!」

「団長が気にしないなら私はなんとも思いません!」

 

アイズ、ティオナ、ティオネは頷く。それに良しと思ったフィンは、その3人とずっと一緒にいるレフィーヤに尋ねた。

 

「レフィーヤはどうかな?少し難しいかい?」

 

「私は…わかりません。まだハデス・ファミリアの皆さんとは、アイズさん達ほどそこまで仲良くなれていないですし…。

でも、仲良くなりたいとは思えど嫌いになったりとかはありません!」

 

レフィーヤ達の言葉に安堵の表情を見せたティエリアは四人に感謝を述べた。

 

「それじゃ俺たちはもう行く。

いつまでもここにいては、お前達があまり落ち着かないだろうしな。

行くぞ、ティエリア。流石に少し急がないとウルやクラン達が心配するかもしれん」

 

「ウルはともかくクランはしないだろうよ。

だが確かに急ぐ必要はありそうだな。

じゃあなリヴェ、また近いうちどこかお茶でもしよう。

レフィーヤもこれからよろしく頼むよ」

 

リヴェは「ああ、そうだな」と返事をし、レフィーヤは「こ、こちらこそ、よろしくお願いひましゅ!!」と嬉しさと噛んだことの恥ずかしさで顔が真っ赤に染まる。

それを見ていたティエリアは、ニッと笑顔で手を軽くふりながら、ベルクと共に食堂を出て行った。

 

 

こうして一先ずのハデス・ファミリアとロキ・ファミリアの抗争は何事もなく終わった。

 

 

 




終わり方がすっごい雑ですいません笑
どう終わらせたら良いのかわからなくなってしまったので笑


話の途中であったティエリアが話す前にネロが飛び出して行った所なんですがね、実は飛び出したには飛び出したんですが、小人族と言うことで歩幅が小さく、ハデス達はすぐにネロに追いついちゃいました笑
その事をネロは結構ショックで道中落ち込んでたりしました笑

って言うちょっとした雑談でした笑


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19話 死神の日常①

少し日常編挟みます!


長期遠征から帰ってきてから色々とあったハデス・ファミリア。

そんな彼らの日常の過ごし方は様々だ。

 

ギルドに提出する報告書の作成をする団長と副団長

 

昨晩のロキ・ファミリアとのいざこざを思い出しては、ムカムカしながらお気に入りのクマのぬいぐるみを抱いてふて寝する少女。

 

ハデス・ファミリア本拠地自慢のバルコニーで、優雅にティータイムを満喫する大人びた少女は、その隣で獣人娘3人組と騒がしくも楽しそうにトランプで遊ぶ炎少女(ばかおんな)をアホを見るような目で見下ろしていた。

 

一方で、遠征帰りだと言うのに暇つぶしでダンジョン中層まで潜っているのはハデス・ファミリアのクレイジーボーイ。

 

そんなまとまりがないオラリオ最強のファミリア一同。

それじゃあ、オラリオ最強の男は何をしているのかと言うと…

 

 

「最後はアミッドの所か。…にしても、やはり予定していた価格よりも大分多くお金を貰ってしまったな。

ファミリア全体としては嬉しいが、ここまでの額だと個人的に申し訳ない気持ちがあるんだが…」

 

朝早くからウルは遠征で入手したアイテムの換金、そして元々引き受けていた冒険者依頼(クエスト)の注文品を渡して回っていた。

 

換金はギルドでもできるが、貰える額はあくまで安全と信頼の最低価格になってしまう。

そのため、高値で買い取ってもらいたい冒険者は買い叩かれる危険性を承知で承認や商業系[ファミリア]との交渉(カケ)に出る

 

そしてそれはハデス・ファミリアとて例外ではなく、彼らも遠征帰りでの換金時は、色々なファミリアを回り交渉をしてはかなりの金を取ってきている。

 

まぁギルドで最低価格を貰っても、彼らが持ってくるアイテムはどれも最上級の品質なため、同じ最低価格でも他の冒険者とは自然と貰える金額に差が生まれる。結果として彼らハデス・ファミリアの財産は、いくら使っても使っても、減るどころか増えてく一方だったりする。

 

 

そんな大富豪ファミリアの中で、一番貰ってくる金額が多いのがウルなため、ほぼ換金は彼の仕事になってきている。

なぜウルが一番多いのか、もしかして凄い巧みな交渉術でも持っているのか、誰もがそう考えるだろう。だが答えは至極簡単であった。

 

ウルが換金をしに商業系ファミリアに入るだけ。たったそれだけ。

交渉相手が誰だろうとウルが行けば、勝手に買い取り価格が通常よりも0が一つ二つ多くなっている。

だからウルは今までまともな交渉をした経験が限りなく少ない。

 

だが、今回最後に向かう所は[ディアンケヒト・ファミリア]。

そこの団員で治療師をしているアミッドという女性は、ウルの数少ない交渉経験を積ませてくれる有難い相手だったりする。

 

ギィ…と目的地のドアを開き中に入るウル。

 

「いらっしゃいませ、ウル様。お久しぶりです」

 

中に入ったウルに声を掛けたのは、店のカウンター奥にいる小柄な女性だった。ウルと同じ白銀の長髪が特徴的で、若干無表情であるがとても大人しそうな美少女。

そんな穢れを知らなそうな彼女こそ、ディアンケヒト・ファミリアの団員【戦場の聖女(デア・セイント)】アミッド・テアサナーレだ。

 

「ああ、アミッド久しぶり。元気そうで良かったよ」

 

「ウル様も遠征を無事に終えられたようで良かったです。

貴方は昔から平気で無茶をする方ですから、こう見えて私は心配してるんですよ」

 

アミッドは両手でウルの顔を優しく包み、じっとその眼を見ていた。

ウルとの身長差は50C近くあるため、アミッドは少し高いカウンター側からさらに背伸びをする

 

「アミッドの作る万能薬(エリクサー)があるから、俺は怪我を恐れずモンスターと戦える。

…いや、俺だけじゃないか。アミッドのおかげで、みんな全力で戦えてる。

だからありがとうアミッド」

 

それと心配させてすまないな、とウルは左手でアミッドの手を握り、右手で少し申し訳なさそうにアミッドの頭を撫でながら言った。

 

「…ウル様はいつもずるいです。誰にでも優しくて、その人が一番欲しい言葉を簡単に言い当てちゃうんですから。

ネロ様達やロキ・ファミリアの皆さんが虜になるのも仕方ないですね。

正直に言うと、私よりも強い皆さんが少し羨ましいです」

 

アミッドは俯きそっと呟く。

ウルはアミッドが言った羨ましいと言った意味が分からず、ん?っと頭上に大量の?を浮かばせる。

そんなウルの表情を見たアミッドはクスッと笑った。

 

「ハデス・ファミリアの皆さんはともかく、アイズ様やティオナ様は誰もが実力を認める冒険者です。あれほどの力があれば彼女たちはウル様の隣に並んでモンスターと戦えます。それが羨ましいんです。

それに比べ私は傷は癒せど、ウル様の隣に並んで戦う事は出来ません。

貴方の背中を守る事は出来ません。

もしかしたら私の魔法は必要無いかもしれない。

なにより貴方の支えになれない事が、私は一番悔しいんです」

 

 

ポツポツと悲しい表情を浮かべながら言う彼女からは、普段の落ち着いた大人の様な雰囲気は感じられなかった。

まるで小さな少女の様に脆く、今すぐにでも簡単に壊れそうな彼女を見たウルは、少し早歩きでカウンターを回ってアミッドの前に行くと、膝をついてアミッドの眼を真っ直ぐと見る

 

「アミッドは自分が思ってるよりも全然強い」

 

「そんな事「ある。俺はそう確信してる」…なぜそう思うんですか」

 

「どんなに実力があっても、傷を負わされれば誰だって死ぬ。

どんなに力がない人でもやり様にやっては相手を殺す、命を奪うって事は簡単に出来る。

だけど命を救う事は簡単じゃない」

 

「命を救う事…」

 

「ああ。どんな冒険者でも必ず限界は来る。ごく僅かな傷でも数が増えればそれは致命傷へと変わるし、もしかしたら腕や足をやられて動けなくなるかもしれない。毒とかの状態異常にかかりながら戦闘を続けたら殆どの冒険者は毒が回って死ぬ。

だがアミッドがいればこの様な原因で死ぬ者はいなくなる」

 

優しく微笑見ながらアミッドを見るウル。

 

「いくら魔法が強力でも手傷を負った仲間を癒す事はできない。

そうして仲間を失い続ければ、残された者は今は生きていてものちに心は殺される。

何も前線に立ち戦うことだけが強さじゃない。

仲間の命を救い、心を救い、どんな状態でも自分が死なせないと言ってやれば、それだけで俺たちは立ち向かう勇気が湧く。

いくらでも力が出る。だからアミッド、お前は強いよ

もっと自分に誇りを持って良い」

 

ウルの言葉にポロポロと涙を流すアミッド。

それを見たウルはそっとアミッドの頬に手を添えて、親指の腹で優しく涙を拭き取る。

まるで壊れ物を扱うかの様に、優しく丁寧に触れる大きくも綺麗なウルの手をアミッドは気持ちよさそうに、そして愛おしそうに眼を細めて感じる。

 

「…それに俺は、支えて欲しいって理由でみんなといるわけじゃない。

俺がみんなといたいから、みんなのいる場所が心地良いから、勝手に俺がみんなの元へ行ってるだけだよ。

だからアミッドやアイズたちが俺をなんとかして支えなきゃとかは考えなくて良い。

みんなが幸せそうな笑顔を見せてくれれば、それが俺の1番の支えになるから。

だからもう泣くな。な?」

 

「…本当に貴方は、とても、ずるい人です。

そうやってすぐに人の心を救って、みんな貴方に夢中になる…

ここまでくると、最早一種の呪詛ですよ、これは」

 

「…?俺は呪詛は使えないぞ?」

 

「そう言う意外に抜けてる所も、貴方の魅力の一つなんですよ」

 

アミッドは涙で眼を赤くしながらも、いつもの無表情ではなく可愛らしく微笑みながらぎゅっとウルを抱きしめた。

それから数分間、二人は抱き合ったままだった。

 

 

 

「…コホンッ。それで今日はどんな物をお持ちに?

先日色々ありまして、ハデス・ファミリアの皆様が満足していただける金額を出せるか少々不安なんですが…」

 

アミッドは先程の光景を思い出し少し恥ずかしくなるも、なんとか仕事モードに切り替えようと顔と頭を切り替える。

 

 

「カドモスの皮膜、砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の紅鱗とかなんだけど、ここに来るまでに色んなファミリアを回ってて、なんでかいつもと同じで予定以上の額が貰えたから、あまり金額の事は気にするな。

と言うか近々エリクサーが欲しいから、次来る時に3本ほど譲って貰えると助かる」

 

「…私は全然構いませんが、それだけでよろしいんですか?

正直に申しますと、カドモスの皮膜だけでも品質が上々で1000万は堅いです。

それにこの砲竜の紅鱗の品質も稀に見ない上質です。

こちらも1000万は確実です。

合わせて2000万は超えるこちらを、ウチのエリクサー3本ではこちらにしか得がありません。

なのでいつ受け取りに来るかは分かりませんが、最低でも10以上はお渡しします。それでも宜しければこちらで受け取らせて貰いますが」

 

「それじゃあそれで頼む。ありがとうアミッド」

 

「お礼はむしろこちらの方です、ありがとうございます」

 

お互い丁寧に頭を下げながら礼を言い合う

ウルは店にある時計を見て、まだ他に寄るところがある事を思い出した

 

「…すまないアミッド。

久しぶりだからもう少しゆっくりしたかったが、この後まだ行くところがあってもう行かないといけない」

 

「わかりました。少し寂しいですが、遠征が終わったばかりでしばらくはゆっくりでしょうから、また暇な時いつでも来て下さい。

いつでもおもてなし出来るよう、良い茶葉を用意しておきます」

 

「フッ。…ああ、アミッドの入れる茶はどれも美味いから、楽しみにしておく。その時はこちらも良い菓子折りを持っていくよ。

それじゃまた近いうちに」

 

「はい。お待ちしています」

 

ウルは店を出て行き、アミッドはウルの姿が見えなくなるまで小さく手を振る。

 

(…早く来ないかな)

 

たった数秒前に別れたばかりなのに、すぐ会いたくなった気持ちに恥ずかしくなったアミッドは顔をカァーっと赤くしながら、約束のエリクサーを作るため調合室へと急足で向かった。

 

 



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20話 死神の日常②

久しぶりの投稿ですいません。
沢山のコメントをいただき本当に嬉しかったです!

これからちょくちょく更新していこうと思います。
よろしくお願いします!


アミッドと分かれたウルが最後に向かった場所はオラリオで超有名なブランド店だった。

共通語(コイネー)で【デウス・ドレス】と書かれた看板はその店の主神の好みなのか金ピカでゴージャス感満載だった。

売られている物はその看板に恥じることなく、品質は超一流であり、一着1000万ヴァリスする物も多くあった。

なぜウルがこの店に訪れたか、それは今日の夜にガネーシャ・ファミリアが開く『神の宴』にハデスも参加するため、わざわざ買いに来たのであった。

 

ハデス自身あまりファッションに興味がないのだが、ティエリア達は最低限の身だしなみは整えて欲しいらしく、時々みんなでハデスにプレゼントをしていたりする。

そして今回、ウルはハデスの他にもう一人プレゼントをする相手がいた。

それは彼の元主神である神ヘスティアだった。

ウルはヘスティア・ファミリア在籍中から、自分のために色々と我慢していたヘスティアの為に日頃のお礼という名目で主に衣類をプレゼントしていて、それはウルがファミリアを抜けた今でも続いている。

 

(ハデスは決まってるとして、ヘスティアはどうするか…

もしかしたらまたロキと取っ組み合いでもするかも知れない。

そうなるとロングは動きにくいか?…だからと言って膝ぐらいのものは既に持っている筈…仕方ない、ロキが来ない事もしくは揉めないことを願うか)

 

そんな事を考えながら、最終的に決まったヘスティアのドレスは蒼海色で沢山レースとフリルをあしらったドレスだった。

早速ハデスのと一緒に購入する。

合計金額は1800万を超えるも、流石オラリオ最強の男。

お財布の方も潤いすぎて高額な値段に臆する事なく買うと、ドレスの入った袋を持って店を出た。

 

 

(最後はヘスティアに渡すだけなんだが…ヘスティアのバイト先に寄ってみるか)

 

大事なプレゼントを持っている為、いつもより周りを気にしながらヘスティアのバイト先であるじゃが丸くんの出店へと少し急足で向かうウル。

徐々に出店が見えて来ると、丁度バイトが終わったのか店長に挨拶し終えたヘスティアを見つけた。

 

「ヘスティアっ!」

 

珍しく声を大きくして呼ぶウルに、流石と言うべきかすぐにウルを見つけたヘスティアは手を大きく振りながら走り、ウルの胸へ飛びついた。

 

「どうしたんだいウル君!君があんなに大きな声を出すなんて、珍しいじゃないか!もしかしてやっと僕の想いが届いたのか?!

…いいぜウル君、僕はいつでもウェルカムだ!」

 

「なにがウェルカムなのかはわからないが、一先ず落ち着けヘスティア。

突然で悪いが、今日この後の用事は?」

 

「くっ…やっぱりウル君は鈍感すぎるぜ。

…それでこの後かい?この後はガネーシャが開くパーティーに行こうと思ってるよ?

多分ハデスも行くんじゃないかな?あいつ騒ぐの好きだし」

 

ヘスティアは日頃のハデスのうるささを思い出し呆れた表情を浮かる。

そんなヘスティアの表情を見てクスクスと笑うウル

 

「それで、それがどうしたんだい?」

 

「ハデスが『神の宴』に参加すると言ってな、おそらく今回はヘスティアも行くだろうと思って。コレ、大した物じゃないけどプレゼント」

 

ウルはドレスの入った袋をヘスティアに渡した。

ヘスティアは首を傾げながらも、袋を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、その袋のロゴが目に止まると、カチーンッと石のように固まった。

 

「ちょちょちょちょっと待ってウル君!

コレ【デウス・ドレス】のロゴがあるんだけど!?

これ僕に?なんで?!」

 

「パーティーに行くにはドレスが必要だと思ってな」

 

「君が買ってくれたのがちゃんとホームにあるからそれ着てくつもりだったよ!?」

 

「ハデスのを買いに行く時に、たまたま目に入ったんだよ。

ヘスティアに似合うだろうと思ったからな。良ければ受け取って欲しい」

 

「それは凄い嬉しいけど、でも僕は君にあげれる物はないよ…」

 

「フッ…別にお返しが欲しいから渡すわけじゃない。

それにヘスティアの事だから、今回の神の宴に行くのも()()()()()んだろ?」

 

ヘスティアは目を見開き驚いた表情を浮かべるも、前からウルに秘密ごとなどは隠し通さない事を思い出して、君には敵わないなぁと呟く。

 

「君がベル君を運んで来てくれた後、ベル君が言ったんだ『強くなりたい』って。だから君が言ってくれた通り、僕は決めたんだ。

僕なりのやり方でベル君の願いを少しでも叶えてあげようって。

多分そう簡単じゃないけど、僕はベル君のためにも一歩も引かないつもりだよ!」

 

ふんっ!と腕を組み鼻息を荒くするヘスティア。

そんな気合の入っている彼女を見て小さく笑みを浮かべたウル。

 

(やっぱり…お前は眩しいよ、ヘスティア)

 

ウルは自分の心の奥底がじんわりと暖かくなっていくのが、ハッキリとわかった。

 

「そんな気がしたから、これは頑張れって応援も兼ねて受け取って欲しい。

…ダメか?」

 

ウルはヘスティアを見上げる形になるように屈むと、まるで捨てられた子犬のような顔で彼女を見つめる。

これはハデスが対ヘスティア用にと真剣に考えた(実際は3秒程度)、究極のおねだり。

ちなみにハデスは、こんなあからさまな態度などいくら駄女神(ヘスティア)といえど1、2回が限度だと予想していたが、結果は成功確率100%の一撃必殺だった。

 

 

「ぐはぁっ!…くっ、毎度思うけどその顔は反則だぜウル君…。

クソォハデスのやつ、なんて素晴らしi…悪質な技をウル君に教えるんだ…。

 

…わかったよウル君、ありがたく受け取らせて貰うよ!

君の愛のエールを受け取った僕は、まさに無敵!

今なら階層主にも勝てそうだぜ!」

 

 

ハデスに伝授された技を完璧に使いこなしたウル。

その技をもろに受けたヘスティアは、顔を覆い天を見上げては、しばらく1人で何か呟いていた、が、その後すぐに平常心を取り戻したヘスティアは、先程よりも鼻息を荒くしながらドヤ顔でシュッシュッ!っとシャドーボクシングをする

 

「ああ、今のヘスティアなら、きっとどんな奴が相手でも勝利を収めるだろう。

だが、だからと言ってパーティー先でロキと喧嘩はダメだぞ?」

 

「わかってるよウル君!今の僕からしたらあんな絶壁はもう眼中にもないね。

どんな罵声を飛ばそうがひらりふわりと華麗に躱しちゃうよ!

なんたって僕は無敵だからね!アハハハ!」

 

「まず喧嘩をしない様にな」

 

「う…わ、わかってるよ!任せろウル君!」

 

力強く親指を立てるヘスティア。

そんな彼女の頭をウルはそれなら良い、と納得して優しく撫でる。

えへへ〜と幸せそうな表情を浮かべるヘスティア。

そんな2人を、周りはほのぼのした様子で眺めていた。

 

「…おっと、もうこんな時間か。名残惜しいけどもうそろそろ行かなくちゃ…」

 

「そうだな、俺も服をハデスに届けないと。

だから近いうちにゆっくり話そう」

 

「う、ウル君から誘ってくれるなんて…僕はこれほど幸せな事はないよぉ!」

 

ヘスティアはあまりの嬉しさに嬉し涙を滝の様に流す。

そんな彼女を見てウルは、あれ、俺そんなに誘ってないのか…と少し不安げな表情を浮かべた。

ただヘスティアが毎度オーバーリアクションなだけで、今までもちゃんとたくさん誘っているのだが。

オーバーリアクションでいまだに泣くヘスティアを、ウルはその身体で優しく包み、頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

「それじゃあウル君!またすぐに2人でデートに行こうぜ!」

 

「ああ、必ず行こう」

 

「えへへ、…じゃあまたねウル君!ドレスありがと!大好きだよ~!」

 

ヘスティアはドレスの入った袋を大事そうに抱えながら走っていった。時折止まっては手を振るヘスティアに、ウルはクスクスと少し恥ずかしそうに笑いながら手を振り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

ウルがハデスとヘスティアのプレゼントを買っていた同日、あるファミリアの仲良し4人組も買い物をしに街へ出ていた。

 

 

「ん~、結局アイズに合う服はなにかな~」

 

「絶対にエルフの服ですよ!アイズさんには上品でエレガントなのがピッタリなんです!」

 

 

アイズの似合う服を考えているのはロキ・ファミリアのティオナとレフィーヤだ。

そしてその2人の前を歩いているのは同じファミリアのアイズとティオネ。

 

 

 

「わっ」

 

「おっとごめんよ!!」

 

突然誰かとぶつかってしまい少し驚くも持ち前のフィジカルで全くよろけないティオナ。

対してティオナとぶつかった少女もまた転ぶことはなかった。

 

 

「すまないアマゾネス君!急いでるんだ!」

 

「あ…うん」

 

よほど急いでいたのか、謝罪を済ませてすぐに走っていった少女。

そんな少女の姿をみたティオナは何故か固まっていた。

そんなティオナの様子がおかしいことに気づいたティオネは、そばに来て聞いた

 

 

「どうしたのティオナ?」

 

 

「今の子…」

 

 

「今の子…ティオナさんとぶつかった可愛い女の子ですか?

どこかで見たことある気がするんですけど、女神様ですよね?」

 

 

 

 

「あの身長で…胸がすごく大きかった…!!

 

 

 

 

 

「しかも持ってた袋に【デウス・ドレス】のロゴが入ってた…」

 

 

 

 

「【デウス・ドレス】ってまさかあの…」

 

「一着1000万ヴァリスするって有名な高級店…」

 

「よ、よかったわね、文句言われなくて。今の私たちじゃ弁償しろなんて言われたら危なかったわ」

 

レフィーヤとアイズはゴクリと固唾を呑む

ティオネは冷や汗をかきながらティオナに厳しく注意した。

 

この後パーティーから帰ってきたロキが、「うちもデウス・ドレス欲しいぃ!」と駄々をこねることを4人はまだ知らない。

 



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