勇者ヨシヒコと魔法少女 (ぶんた)
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その1

いろいろ足りないクロス冒険活劇!

まどマギ×勇者ヨシヒコ
舞台はまどまぎ中盤、人魚結界からとなりますゆえ、
まどまぎ未視聴の方にはネタバレになります。
ご注意を!


 海の底のように青く暗い闘技場で、ひとつの闘いが幕を閉じようとしていた。

 

 異形と化してしまった友人を正気に戻すべく、杏子とまどかはそれと対峙したのだった。心の底から訴えれば、優しくて正義感の強い彼女は正気を取り戻してくれると二人は信じて。

 

 そして。結果は無残なものになりつつあった……。

 

 さやかであった巨人は多腕に持つ剣で杏子に斬りつけ、車輪を投げつける。優れた敏捷性を生かしての強襲離脱を得意とする杏子にとって、まどかを守りつつ防御に徹する闘いは、最も不得手な戦闘行動。そんな彼女が記録的な時間を防ぎ稼いだ時間をもって訴えても、巨人に変化はなく。むしろ手ごたえのない相手に苛立ったのか、攻撃は激しさを増していき……。

 そして満身創痍の杏子はついには倒れ、巨人に捉えられてしまったのだった。

 

「杏子ちゃん!」

 

 まどかが悲痛な叫びをあげる!それをかき消すように観客席の楽器をもった影たちは、悲劇を彩る演奏をより一層盛り上げた。

 

 ああ、やっぱりそうだ。現実は非情なんだ。愛だの夢だの魔法だのじゃあ、それが覆ることなんて、ない。そんなことわかっていた。わかり切っていた。誰よりもわかっていたはずだった!

 でもあいつなら……。ボロボロになっても夢と理想を目指し、自分を曲げなかったあいつなら、甘っちょろいキレイ事でうまくいくかもしれないって思ってしまったのだ。いや、思いたかったのだ。

 元に戻ったさやかとまどかと三人で笑いあう、未来がくることを。

 

「神様……。こんな人生だったんだ。せめて一回幸せな夢を見させてよ……」

「……ョーコ、キョーコ」

 

 杏子がらしくない泣き言をこぼしたそのとき、彼女に呼びかける声がしたのだった。

 

「ううん?誰だ?」

 

 助っ人か?いや、心当たりはまったくない。だが事態の変化によって、まどかを逃がすことはできるかもしれない。杏子は周りを見回し気配を探る。

 

「あ、あれっ……!」

 

 驚きのまどかが指さす先に、それはいた。いつのまにかもくもくとわいた雲の合間から、ブサイクなおっさんがキョドっていた!

 

「な、なにここ?なんかこわっ!さむっ、こわっ!」

 

 状況把握に長けたベテラン魔法少女の杏子だが、あまりのことに思考が固まり判断できない。

 

「ぶつぶつ頭に、大きくて地味な顔!大きな耳たぶと袈裟!後光も差してるし間違いないよ。あれは仏様だよ!」

 

 まどかが興奮して叫ぶ。いや仏って、あんな顔のでかい、さえないおっさんが?

 

「ね。あれよばわりってなに?それにきみもなんか失礼なこと思ってるだろ?仏にはわかっちゃうんだぜ?」

「やっぱり仏様だ!仏様お願いです!さやかちゃんを助けてください!かんぴょーほーれんそー!」

 

 両手を合わせ膝をつき、まどかは記憶の底からからひっぱりだしたお経を唱えだす。

 

「おい、桃子。それツッコミまちか?おまえなーいくら可愛くても許されることと許されないことがあってだな……」

「なんでもいいから、なんとかしてくれよ!おっさん!」

「なんとかっておい!藪から棒になんとかいわれたってわかるわけねーだろが?」

「あのおっきいのが、さやかちゃんなんです!」

「あれにさやかとかネーミングセンスなくない?いじめ?」

「いろいろ違うがこっちは急いでんだ!仏なんだから、なんとかしてくれ!はやく!」

 

 実際掴みつぶされる寸前の杏子に余裕はない。

 

「あーもうね!わけわかんない!それに人にものを頼むならそれ相応の頼みかたってのが……」

「おねがいです!仏様!さやかちゃんを元に戻してください!」

 

 涙ながらに訴えるまどかを見て、仏は盛大にため息を吐く。

 

「あーもう、わかったわかった。女の子に泣きつかれちゃあなぁ。えーと、そのでかいのね?」

 

 仏はおもむろに人魚の巨人に掌を向けて、むにゃむにゃつぶやきながら体をくねらしだす。次の瞬間、巨人は光り輝き消滅する。

 

「はーい!なおっちゃった!なおしちゃいましたー!」

 

 仏は得意絶頂で叫んだ!

 

「やった!やったよー!さやかちゃーん!」

 

 巨人の居た場所に倒れてたさやかに、まどかは駆け寄る。

 

「どうよどうよ?まぁね、ほら、仏だし?やろうと思えばできちゃうわけよ」

 

 あまりの事態に固まる杏子だが、(自称)仏のドヤ顔はその大きさもあってひたすら鬱陶しいとだけ思っていた。

 

「なにがどうなっているの……」

 

 まどかを救うべく人魚の魔女結界最深部に侵入したほむらは困惑していた。

 元にもどるはずのないさやかにまどかが抱き着いている。あの喜びようだから死体ではないのだろう。その横で呆然と佇む杏子。極めつけが雲の合間から覗く、顔の大きな怪しいドヤ顔したおっさん。今まで見たことのない事態だ。

 

「さて、四人そろったところでと」

 

 自慢げに体をくねらせていた仏に視線を向けられて、ほむらは体を硬直させる。

 

「こっちも忙しいんだからさ、さっそくはじめるぜ?えーごほんごほん。あー、山を一つ越えたところにある村に……天空の鍵があるという噂が……あるようだ……。ヨシヒコとその仲間たちよ、至急赴き鍵を手に入れるのだ!」

 

 仏は空を指さし、決め顔で高らかに宣言する。

 

 ――暫しの沈黙の後、杏子がつぶやいた。

 

「……ヨシヒコって、誰よ?」

「え……え?」

 

 仏は目をぱちくりする。ちっとも可愛くはなく、鬱陶しさ増し増し。

 

「よくみれば女の子四人って……、ヨシヒコ達の変装だったりする?」

「いや、ぜんぜん……」

 

 杏子は首を横に振った。

 

「いやさっき、呼びかけに答えたでしょ?答えないとこれ、繋がらないからさ!そこの赤子がヨシヒコでしょ?」

「キョウコ!私はヨシヒコじゃなくて、キョウコだ!」

「キョウコ?ヨシヒキョー……。ヨシフィキョーゥ……、ヨシフィ、キョーゥコゥ?」

 

 仏は頭を捻りながらブツブツいっていたが、ぽんと手を打って頷きだす。

 

「ああー。フランス語っぽく呼んだから、違うとこに繋がっちゃったのか!謎は解けた!ごめんごめん!まーしょうがなくね?」

 

 仏は片目をつぶりながら舌を出した。

 

「おっさんのテヘペロうぜぇ」

 

 杏子は苦虫を潰したような顔で吐き捨てた。

 

「でもさ、ふつう間違ってますよー?とかいうもんじゃない?最近の若い子はさ、どうなの?あーもう損した!こうみえて暇じゃあないんだぜ?仏だし!あ?こう見えてって、どう見えるの?暇そうにみえるの?もうほっとけー!仏力も結構つかったしなぁ、経費でおちるかなぁ……」

 

「仏様!さやかちゃんを助けてくれてどうもありがとうございました!」

 

 テンション高く一人でしゃべり続ける仏に、まどかが声をかける。

 

「むぅ。きみはよくできた娘さんだね。じゃあきみに免じてよしとするけどさ。これは貸しよ?貸し!じゃーそういうことで!あー、ヨシヒコ?ヨシヒコー……」

 

 小さくなる呼びかけの声とともに、仏の姿は薄くなり消えてしまった……。

 

 魔女の結界が消えたそこは、暗闇に沈む多くの電車車両のある車庫のようだった。静かに寝息をたてるさやかに、まどかはしがみつき、すすり泣く。杏子とほむらは余りの事態に固まっていたのだった……。

 

 

 そうして暫くした後、杏子はぽつりと呟いた。

 

「仏教、すげぇ……」




手探り投稿ですいません。どうでしょうか……(汗)
のんびり、お付き合いいただければ幸いでございます!

まあ二朗さん変換なだけで、こんなんでもわらっちゃうますよネ!(w
そうでもない?ゴメンナサイ……;


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その2

 ……数日後。

 風見市に戻った杏子の前に、それは現れた。

 

「……ウコー、キョウコー!」

 

 見回せば前回と同じように、雲の合間からおっさんが顔を出していた。

 

「ほとけっ!……さまっ」

 

 杏子なりにあの後、いろいろ考えた。

 これっぽっちの神々しさもない鬱陶しいおっさんではあったが、結果的には大いに助けられた。

 今度会うときには、それ相応の敬意を払わねばなるまい。それが筋ってもんだ。

 

「あれれー?」

 

 そんな杏子の殊勝な素振りを、仏は顎に人差し指を当て、小首傾げて観察する。

 

「ちょっと見ない間に、すっかりいい子ちゃん?感心、かんしーん!」

 

 下卑た高笑いとともに指を指されるとかもう、杏子のイライラ急上昇。

 

「あのね、今日はお願いがあるっていうかー、貸しを返してもらうっていうかさぁ」

 

 仏は体をくねくねしだし、舌っ足らずな口調で話し出す。媚びた視線も含め、可愛いと思っているらしい。

 

「いやさ、私は全然悪くないのよ?ヨシヒコが勝手にドジふんでさ。でも、このままじゃあ世界大ピンチ!まいるよねーまったく!でもさー私が直接なんとかするとかは、ダメなわけ!仏的にさ!そこで、キミの出番なのよ!ちゃちゃっとヨシヒコ助けてやってくんない?ね、ね?ちょっとだけ!もう先っちょだけだから!プリーズ!」

 

 合わせた手を擦りながら、懸命にまくし立てる仏を見て、杏子はため息一つ。

 

「いいよ。このまえの借りがあるからね」

「そんなこといわないでさー仏、一生のおねがい!……ん?ひとゴネもなしに快諾?まじまじ?うっわ!マジ感謝!ホトケ、カンゲキ!」

「そのきたないウインクをすぐやめろ」

 

 しきりとウインクする仏に、杏子は顔をしかめる。

 

「あのね?年頃の女の子にそういうこといわれるとね、おじさん的にきっついんよ?やめたげて!きーっ!」

「いいから話をすすめろよ……」

 

 取り出したハンカチを噛んでいた仏に、杏子の呆れた言葉が投げかけられた。

 

「ん?ああ、そう?そうね。じゃあ気を取り直してっと」

 

 すかさず仏はノリを変える。

 

「じゃあとっととコッチに送っちゃうから、チャッチャとやっちゃって?チャッチャとさ。とう!」

 

 仏が大きく手を振ると、杏子は閃光に目がくらみ一瞬の浮遊感を感じた……。

 

「お、おい。なんだここは……」

 

 恐る恐る目を開けてみればそこは草原の真ん中で、見知った人物が並んでいた。

 

「はぇ?」

 

 びっくりまなこをパチクリしているまどか。

 

「…………」

 

 周囲を警戒している臨戦態勢のほむら。

 

「恭介ぇー……ぇ?」

 

 おかしなポーズで固まっているさやか。

 

「全員集合!おー!」

 

 仏の素っ頓狂な雄たけびが、風の音だけが聞こえる固まった空気をぶち壊し、さらにトドメと激しく拍手!

 

「えーっと。このさきにあるー洞窟みたいなところに……ヨシヒコが捕まっているーようだ……。ヨシヒコを助けたら任務達成!元の世界に戻してあげるからネー!ぐっどらっきゅ!む!カミマミタ!グッドラック!」

 

 キメ顔でサムズアップした仏が薄くなって消えていった。

 

「えーっと、今の声が私を助けてくれたっていうホトケ様?」

 

 さやかがつぶやいたのは、仏が消えてしばらくの後だった。

 

「う、うん……」

 

 まどかが小さく頷く。

 

「そっか、そっか。よくわかんないけど、受けた恩はかえさなきゃね。よーし、がんばるぞ!」

 

 さやかは、ぞいっと胸元でこぶしを握りしめる。

 

「うんうん!わたしも頑張っちゃうよ!」

 

 そんなさやかに、まどかは笑いながら抱き着いた。

 

「おまえら、前向きだなぁ。……まぁ、借りは返さなきゃ気持ち悪いもんな」

 

 やれやれと、杏子は頭の後ろを掻きつつ応じる。

 

「じゃあ、ちゃっちゃといくか」

「おー!」

 

 さやかとまどか、二人がこぶしを上げて笑いながら元気な声を上げた!

 

 もうすぐワルプルギスの夜がくるっていうのに、はやく帰らなくちゃ……。

 そんな三人を見つつ、ほむらは内心の焦燥を抑えていたのだった。

 

 

 

*******

 

 

 

「えーっと、ここは……。私、どうして……?」

 

 一面、ざわわと風に揺れる背の高い草原。その真ん中で巴マミは目を覚ました。

 身を起こし、こめかみに手を添えつつ懸命に思い出そうとするが、答えはでてこなかった……。



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その3

「洞窟って、どこだよ……」

 

 山道を歩いてずいぶん経った。傾きゆく日を感じると、今晩はどう過ごそうなどという不安もわいてくる。

 野宿にゃあ馴れてるけれど、山の中は初めてだ。私はともかく、こいつら平気かな……。

 チラリと観察しつつ、杏子は考える。さやかとほむらは魔法少女だ。体力的には問題ないだろう。だが……。

 

「まどか、大丈夫?休憩しよっか?」

「ううん、へいき……だよっ!先にすすも?」

 

 さやかの問いかけに強がりを言っているが、肩で息をしてよろけているまどかは限界が近そうだ。無理もない。元から運動は得意なほうではないだろうし、魔法少女でもないのだ。

 

「ありがとう、さやかちゃん!さっき休憩したばかりだし、私は大丈夫だから!」

 

 限界が近いくせに自分よりも相手に配慮し、無理をする。

 まどかという少女の、美徳を過ぎた欠点だ。

 

「……鹿目まどか。わかっているでしょう?あなたの歩調に合わせていたら、日が暮れてしまうのよ」

「あ、うん……」

「ちょっと!まどかだって懸命に……」

 

 ほむらはさやかの抗議を無視してまどかの前に立ち、くるりと後ろを向きしゃがむ。

 

「わたしが背負うから、大人しくのりなさい。いいわね?」

「うん……。ありがとう。ほむらちゃん」

 

 おずおずと、まどかはほむらの背におぶわれた。

 

「ま、ふつうにいってもきかないタイプだしな。あれが正解じゃん?」

 

 不服そうな顔のさやかに、杏子が肩をすくめた。

 

「さ、急ぎましょ」

 

 まどかを背負ったほむらを先頭に、移動を開始するのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

「とーうちゃくっと!」

 

 さやかが一番乗りにはしゃぐ。

 日が暮れるれるぎりぎりのところ。偶然みつけた細い山道を辿って、小さな村に着くことができたのだった。

 

「しっかし、ずいぶんチンケな村だな」

「ないよりましよ。今晩の宿を探しましょ。洞窟の情報も得られればいいのだけれど」

 

 杏子とほむらも、ゆっくりと村に歩をすすめる。

 

「こんにちは!すみませーん!」

 

 早速見かけた村人に、さやかは声を掛けた。

 

「ここはクゾンサの村だ。どうしたんだい?お嬢ちゃんたち」

 

 一行に気付いた村人は、うさん臭いものを見る表情で答える。

 

「ここらへんにヨシヒコって人が捕まってる洞窟があるらしいんだけど、知りませんか?」

「……さて、わからないな」

 

 粗末な着物を着た人相の悪い男は、無精ひげのあるあごを数回撫でまわした後、そう答えた。

 

「すみません。宿屋はどこですか?」

 

 男の答えを聞いた途端、さやかは眉を寄せて黙り込む。ほむらは、そんなさやかに首を傾げつつ男に問いかけた。

 

「ここは街道から離れた山間の小さな村だ。宿屋なんてないな」

「そうですか……」

「旅人かい?泊まる場所がないんじゃ難儀だろう。空き家をつかうといい」

 

 乏しい表情ながら困り顔のほむらに対し、男はボロ屋を指さすのだった。

 

 

 

******

 

 

 

「ぶえー」

 

 さやかとまどかは、だらりと疲れを癒していた。空き家というだけあってかなり埃っぽく、野宿とどちらがマシかといった具合ではあったが、移動続きの彼女らにとって、一休みできる場所はなによりのものだった。

 

「それに食べ物もわけてくれるなんて親切なひとでよかったね!」

 

 一休みして元気を取り戻したまどかが「うぇひひっ」と笑う。

 

「……そうね」

 

 そんなまどかを眩しそうに見つめつつ、ほむらが頷いた。

 

「お前ら、その食べ物に手を出すんじゃないよ?」

「ええっ!」

 

 突然信じられないことをいう杏子に、まどかは驚愕の視線をむける。

 

「佐倉杏子。あなた、独り占めにでもしたいの?」

「違うって!どう見たってなんか盛ってるにきまってるだろ?」

 

 ほむらからの厳しい視線をうけてか、杏子は慌てて答えた。

 

「えっ!」

 

 杏子の答えに、まどかは目を見開く。

 

「あの人相だよ?山賊そのまんまじゃないか」

「ひ、ひとを外見で判断するのは、よくないんじゃないかって……」

「わたしも杏子に賛成ー」

 

 まどかの決死の反論を、さやかがのんびりさえぎる。

 

「あのひと、私達に嘘ついてた。なんとなくわかっちゃうんだよねー」

「さやかちゃんまで、そんなっ……!」

 

 さやかはまどかの幼馴染。まどかは昔から、さやかの嘘に対するするどい勘を度々見せつけられていた。

 さやかがそういうのならば、そうなのかもしれない……。

 

 そうだったの?てっきりいいひとなのかと……!

 

 衝撃を受けているまどかの横で、ループによる経験則以外には弱いほむらも、ひそかに動揺していた……。




ヨシヒコ要素……ゼロッ!
ラートム!


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その4

「とはいえ、お腹空いたなぁ……」

 

 へたり込んださやかは、お腹を押さえた。

 

「あ!私ね、コンビニで買い物した帰りだったんだ!おにぎりあるから、みんなで食べよ!」

 

 まどかが、じゃじゃん!と買い物袋を掲げる!

 

「なぬ?でかしたー!サスまど!やっぱり私の嫁だよー!」

「うぇひー!」

 

 抱き着くさやかに、まどかは笑顔を向けた。

 

「ええと、梅、こぶ、鮭、ツナマヨ……。全部違うんだ」

「うん!面白いよね!私は全部好きだから、みんな先に選んで!」

 

 袋から取り出したおにぎりを並べるさやかに、まどかは微笑む。

 

「私は……梅以外ならなんでもいいわ」

 

 ほむらがぽつりと答えると、杏子とさやかはビキリと反応した!

 

「……これはアレだな。クジにしよう」

「そうだね。恨みっこなしのクジがいいね」

 

 杏子とさやかから、不穏な空気が漏れ始める……。

 

 

 

*****

 

 

 

「……それでどうして、私が梅なの?」

 

 不機嫌の塊と化したほむらの視線が、手元のおにぎりに向けられた。

 

「クジの結果だしなぁ」

「うんうん。公平なクジだし?あるよねーこーゆーの」

 

 にまにまと、杏子とさやかはほむらを見つめる。

 

「私、梅も平気だからこうかっ……」

 

 すかさず声を掛けようとするまどかを、杏子が引っ張った。

 

「まどか。やつはなんか隠してる。ゆさぶりをかけてるんだから、黙ってな」

「え、うん……。でも……」

「お前のことだから、信用したいんだろ?じゃあ、黙ってみてな」

 

 杏子は、にやりとまどかを黙らせた。

 

「せっかくのまどかのおにぎりだしね。しっかり食べないとだよ?」

 

 にこにこと、さやかもほむらに圧をかける。

 

「……もちろんよ」

 

 ほむらはおにぎりを手に、大きく息を吐いた。

 

 とはいえ梅は苦手だわ。とりあえず梅を避けてたべましょ……。

 ほむらはゆっくり食べ始める。

 

 周りを齧るとか品のない食べ方が上品に見えるとかほんとすごいね。でも……。

 さやかは、こっそりと観察する。

 

 そいつはむしろ悪手だぜ?ごはんで誤魔化せなくなるぶん、むしろ事態は悪化するよ?

 杏子はニタリと、ネズミを嬲るネコのような笑みを浮かべた。

 

「……!」

 

 舌先に掠めた梅にビクリと体を固め、ほむらはフルフルと打ち震える。

 

 駄目。ちょっとでも凄く酸っぱい……。どうしよう……。

 苦手だといって残す?駄目よ!弱みを見せることはできない!

 時を止めて捨てる?まどかのおにぎりを捨てるとか、ありえない!

 一息で食べる?私にできるかしら?ううん?やるしかない……。でも、でもっ……!

 

 さあ、どうするほむら?さあ、さあ、さあ!さあっ!

 食べかけのおにぎりを持って固まるほむらに、杏子とさやかの視線が突き刺さる!

 

 その時。

 ほむらの食べかけのおにぎりを、まどかがひょいっと取り上げ、ぱくりと自分の口に放り込んだ。

 

「あっ!」

 

 驚きに声をあげ固まる三人を他所に、まどかはもぐもぐごくり。

 

「横取りしちゃて、ごめんね?ほむらちゃん!ごちそうさま!」

「…………」

 

 まどかからいたずらっぽく微笑みかけられたほむらは、目を瞬かせ、がばりと顔を伏せた。髪で顔が隠れる。

 

「えええ!実は楽しみだったのかな?ごめん、ほんとごめんね?」

 

 想定外のほむらの反応に、まどかは慌てた。

 

 俯いたほむらは激しく動揺していた。唇が震え、涙が滲む。

 まどかの誤解を解こうにも、伏せられた頭を力なく横に振り意思を伝えるのが精一杯。黒髪が揺れる。 

 

 どんなときでも私を守ってくれるのね。ありがとう、まどか……。まどかが助けてくれたのだもの。落ち着かなきゃ。

 

 ほむらは悟られないよう涙を拭った。そして目を閉じ、胸元で両手を合わせる。

 

 ……あれ。でもこれって間接キ……っ?!

 

 ぎらり!ほむらの瞳が見開かれた!顔が熱い。ほむらは両掌を頬に当て悶絶するのだった。 

 

 顔伏せたまま、肩を震わせているほむらを、まどかは心配そうに見つめていた。

 隠し事があるのかな?でも絶対いい子だよ!もっと仲良くなれるといいな。まどかは思うのだった。




ヨシヒコ要素……いまだナシっ!
ガガントス!






コソコソ話
ほむらさん酸っぱいもの苦手は、完全でっちあげです。

そして次の日読み返して。
ほむらさんが盛大にメルっとしててびっくり!
深夜の勢いってこわいですね……。
当初の予定に近い感じに方向修正してみました


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その5

「苦手なものを食べさせるとか絶対駄目だよ?今度やったらイモムシ食べてもらうから」

 

 腕を組んだまどかは、微笑みながら恐ろしい倍返しを宣言した。 

 

 ……やばい。まどか、すっごい怒ってる。幼馴染であるさやかは冷や汗だらだらだ。まどかの後ろに、威嚇してくる荒ぶるチワワを幻視する……。

 

「あーちょっとやりすぎた。わるかったよ」

「めんご!めんごね!」

 

 ほむらの前に並んだ杏子とさやかは、ほむらに頭を下げた。

 

「……もういいわ」

 

 ほむらはいつもの調子でそっぽを向き、手櫛で髪をなびかせる。

 

「まあ、遊んでる場合でもないんだよね。見張りの順番きめて、さっさと寝ようぜ?」

 

 目を瞬かせる三人に、杏子はかしげた首をめぐらせてにやりと笑いかけた。

 

 

 

*****

 

 

 

 ――深夜。

 暗闇に紛れて何人もの男達が移動していた。

 

「そろそろだろうなぁ」

「ああ、なれない山道で疲れたところに睡眠薬よ。ぐっすりだろうさ」

「あの様子じゃあ、ここが山賊の村なんて夢にも思うまいよ」

「上玉の娘四人とか、ボロ儲けだな!」

 

 人相の悪い男達が口々にわかりやすい会話をしつつ、ゆっくりと目的の小屋に向かう。到着するとともに包囲する。

 

「……さあて、邪魔するぜ?」

 

 満面に下卑た笑みを浮かべた門番の男が小屋の戸を開けた。

 次の瞬間!その男は錐揉みながら吹っ飛んだ!

 

「やれやれ。レディの寝室にノックも無しなんてね」

「なっ……!」

 

 驚愕に息をのむ山賊達の前に、深紅の魔法少女は槍を肩にゆっくりと歩を進める。

 

「ばればれだっての。臭すぎるんだよ、あんたら」

 

 杏子はつまらなそうに山賊達を見回す。

 

「お、おまえら!とっ捕まえろ!」

「容赦しないよ?おらっ!」

 

 杏子の持つ槍はばらりと分解し鎖で繋がった数珠状の鞭となる。ぶんと振り回されたそれに、一斉に飛びかかった山賊達はギャフン!と弾き飛ばされた。

 

「ちょっと杏子、暴れすぎ」

 

 白いマントをなびかせた青い魔法少女は肩をすくめる。

 

「ええ……!やっぱり悪い人達だったんだ……」

 

 おそるおそる顔を出したまどかは、桃色の短めのツインテールをしゅんとさせる。

 

 ……あなたはほんとそう。でも。私が守るから、そんなあなたでいてね?

 

 銃を片手に警戒しつつ、ほむらはそっとまどかを見つめていた。

 

 

 

*****

 

 

 

「さて。あんたらが捕まえてるヨシヒコって人はどこさ」

「あ、あっちだ……」

 

 杏子の問いかけに、観念した盗賊は素直に答えた。

 

 そうして……。

 案内された牢屋に到着し、囚人を全員解放したのだった。

 

「やれやれ、苦労したよ。おい、仏……さまー!」

「んんん?こんな夜中になんだってのよ?」

 

 杏子の呼びかけに夜空にもくもくと雲がわき、その中からこれ見よがしなナイトキャップを被った仏が目を擦り擦り現れた。

 

「あんたのいってた人達を助けてやったよ」

「え、まじで?仕事早くない?惚れちゃいそう!」

「なんでもいいから、元の世界に戻して頂戴!」

 

 杏子と仏のやり取りに、思わず割り込みほむらが叫ぶ。

 

「えーっと、それでヨシヒコはどこ?」

「えっ!?この人じゃないの?」

 

 さやかの指さす男に、仏が怪訝な視線を向ける。

 

「……あんた、誰?」

「ヨツヒコ……ですけど」

「!」

 

 仏と娘達に衝撃が走る!

 

「別人じゃーん!」

 

 深夜の山に、絶叫と悲鳴がこだました……!

 

 

 

*****

 

 

 

「あーあ!なんだよもう!期待して損しちゃったよ!寝てるとこ叩き起こしやがってさ!どうしてくれるんだよ!」

「なっ!アンタの情報がガセだったんだろ?」

「は、俺?俺のせいだっていいたいの?なにそれ。流石の仏だって、怒っちゃうよ?ちゃんと調べたんだぜ?ほら、これにさー」 

 

 杏子の抗議に対し、仏は怒りもあらわにタブレット持ち出し操作しだす。

 

「ほら!ここよ。ここのこれが……。ん?あれ、あれれ?」

 

 仏はあからさまに目をパチクリさせた。

 

「……んんん?あれー?……ヨツヒコだったみたい。ゴメン!ゴメンネ?や、ほらっ、急いでたししょうがなくない?うんうん!間違えちゃうって!ヨシヒコとヨツヒコよ?ウォーリー並だろうがっ!小学生は絶対引っかかるって!」

「……あなたが小学生並みってことかしら?」

 

 必死の仏は、ほむらの絶対零度の視線に縮み上がる。

 

「ちょ、きっつ!あ、ほら、ね、ね?仏の顔も三度って言葉しってる?仏が間違っても3回は顔をたててあげようって意味なんだぜ?試験にでたでしょ?残機2機だし、ね?」

「……あんなに謝ってるし、許してあげよう?」

「ナイスッ!ナーイスピンクッ!」

 

 まどかがおずおずと場をとりなすため声を掛ける。救いの手の出現に、嬉しすぎてはしゃいじゃた仏は懸命にテヘペロウインクしつつ、両手でまどかを指さす!

 そのあまりの鬱陶しさにまどかの眉がはね、微笑みのまま、びきりと凍り付いた!

 

「え、えっとー。そこから東の亀王の城にヒントがあるみたいよ?あばよ!」

 

 自ら助け船を轟沈させ、晴れて敵しかいない事を肌で感じた仏は、まくしたてた後、逃げるように、とっつぁーんと消えてしまった。

 

「……とりあえず寝るかぁ」

 

 杏子は伸びをしつつ大きなあくびをした後、やれやれと肩をすくめたのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 マミの放った砲撃は、魔物の群れを吹き飛ばした!

 魔法の残滓で創造した紅茶を一口。ふうと、マミは一息つく。

 

「村は救われたー!」

「お嬢ちゃん、ありがとう!」

「……よかったわ」

 

 歓声を上げる村人たちにマミは微笑みかけた。

 

 ……うん。どこだって、いつだって、私は正義の魔法少女だもの!

 

 マミは小さく頷いて、決意を新たにするのだった。




ヨシヒコファンはピンときてるかもですが、マミさんがヒサ枠となります
つまり、なんとかひと段落……
ペース配分ひどい;


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その6

 てーててってっててーてーててってっててー

 

 十分に休養をとった少女達は軽快に街道を進む。

 

 てれてれてん!

 

 そんな彼女達の前に不審な人影が立ち塞がった!

 

「ちょっとまちなぁ……!」

 

 その二人組は全身緑色で背中に甲羅を背負い、片手に物騒なトンカチを握りしめていた。

 

「……か、かめ?」

「おらっ!」

 

 さやかが首を傾げるのと同時に、問答無用と杏子の持つ槍はバラバラと分解。多節棍となり、うなりを上げつつ不審者に襲い掛かる!

 

 ぎゃぎゃん!

 

 攻撃は見事に当たり、派手な音が響き渡った!

 

「おっふぅ……。だが、甲羅のおかげで無傷!」

「なっ!」

 

 ひるんだものの、へんなポージングで無傷をアピールする二人組に杏子は驚愕する。

 

「……なら、これはどう?」

 

 ぱらららら……!

 

 ほむらの、いつの間にか構えた軽機関銃が火を放った。近距離からのこれは、まさに必殺の威力!

 

「……おっふぅ。きくねぇ。だが、無傷!」

「なっ!」

 

 弾丸着弾の煙を漂わせつつ、亀人間達は無傷をアピールするために、むっきりとサイドチェストをキメる!

 ほむらはその信じられない光景に、目を瞬かせた。

 

「ゴッグ!ゴッグだよ!なんともないんだよ!」

「ごめんまどか。ちょっとなにいってるかわかんない」

 

 ひるむまどかとさやかを含め、少女達になすすべもない。

 カメカメとにじり寄る不審者たちに、じりじりと退却を余儀なくされる……。

 

「そいつらの弱点は頭です!頭を攻撃してください!」

 

 不意にかけられた声に、さやかとほむらがすかさず反応!魔法少女の身体能力を生かし高く跳躍、亀人間の頭を着地がてらに踏みつけた。

 

「……縞!」

「……白!」

「あらよっと!」

 

 かこーん!

 

 謎の言葉を吐きつつ固まる亀人間を、杏子は一掃した。

 

「ふう。助かったよ。それで、あんたは……」

「私はキノコ人のキノヒコといいます。お見事でした」

 

 声の主は木陰からゆっくりと現れる。赤く丸い斑点を散らした白い笠を被ったその男は杏子に会釈した。

 

「ああ、それより……」

 

 杏子は同行者達に視線を向ける。

 

「きょうすけにもみられたことなかったのに……」

「…………………………」

「ひどい。あんまりだよっ!」

 

 しゃがみこんでスカートをおさえて震えるさやかとほむらの横で、まどかが涙ぐんでいた……。

 

「……駄目だこりゃ」

 

 杏子は額を手で押さえた。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「ええっとキノヒコさんだっけ?あんた亀王の城って知ってるかい?」

「ええ実は私、姫様をお救いすべく亀王の城に向かう最中だったのです」

「そりゃいいや。道案内をお願いできるかい?」

「ええっ!こちらこそ大助かりですよ!それにしても……亀人間は狂暴凶悪!その巣窟になんの御用が?」

 

 キノヒコの問いかけに杏子は溜息ひとつ。傾げた首につられ、赤いポニーテールが揺れる。

 

「仏がいうには勇者の手がかりがあるらしいのさ」

「なんと!仏様の使いの方々でしたか!私、腕っぷしのほうはからっきしで。できれば姫の救出にご助力おねがいできれば、と……」

「できるだけは手伝ってあげたいけどね……」

「ありがとうございます!」

 

 食い気味なキノヒコの謝辞をよそに、杏子の同行人達に視線をむけた先には……。

 

「…………」

「…………」

「さやかちゃん!ほむらちゃん!」

 

 どろりとした瞳でとぼとぼ歩くさやかとほむら。まどかが必死に励ましていた。

 

 ……だいじょぶかよ?

 

 いまだ立ち直れていない同行者らの惨状に、杏子は静かに溜息を吐くのであった。 




早速修正
むむむ。すんごい悩みました
それを1日悩むとかやばい;
異論はうけつけます……




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その7

「よっと!」

 

 頭を踏まれ甲羅に引っ込んだ亀人間達を、杏子はひょいっと蹴り飛ばす!

 

 かこーん!

 

 幾つもの甲羅は軽快な音を立て、遠くにすっとんでいく。

 

「お見事です!亀人間を難なく退けるその身のこなし!……もしかすると配管工のひとですか?」

 

 激しく拍手するキノヒコに、杏子は首を傾げて困惑の視線をむけた。

 

「配管工?なんだい、それ」

「ええ。われらが英雄マルオ様です!」

「残念ながら人違いだね」

 

 テンションあがるキノヒコに反比例して、杏子はわけのわからなさにタジタジとなる。

 

「そのマルオって人はどんな人なんですか?」

 

 ひょいっと現れたまどかが、キノヒコに問い掛けた。

 

「配管工を生業としつつ医者としての知識もおありで。さらにレース、格闘技を含むあらゆるスポーツを嗜むお方です!」

「すごい!万能の天才さんだよ!」

「ええ!トレードマークは赤い服装とひげ……」

「おい。ひげってなんだ?」

 

 盛り上がる二人に杏子が割り込んだ。ひげを生やした人物扱いは流石に乙女の沽券にかかわる。

 

「ひっ!……いえ、マルオ様は様々な戦闘形態をお持ちでして……。新たにJC形態を開発されたのかと……」

 

 怒りの杏子にひるむキノヒコが、冷や汗だらだらと弁明した。

 

「他にはどんなものがあるんですか?」

「カエル、たぬき、お地蔵さんなどなど!」

「すごい!すごいよ!」

 

 カエル、たぬき、お地蔵さん……。すごいのか?

 

 再び盛り上がる二人をよそに、杏子は眉をよせるのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

「ち……。囲まれたね」

 

 杏子は鋭く視線を周りに走らせた。

 

「……ここから先にはいかせないぜぇ?」

 

 行く手を阻むように全身緑、甲羅を背負ったムキムキの亀人間達が姿を現した。少女達に緊張が走る。

 

「ただの亀人間だと思うなよ?我らは魔法化学で生み出されたエリート!デジ亀人間様なんだぜぇ?」

 

 そう!亀人間達の双眼はカメラのレンズのようになっており、ウィンウィンと照準を合わせようと気味悪く蠢く。

 

「……ひっ!」

 

 さやかとほむらが、あまりの恐怖に身を縮めた!

 

「偵察と情報収集にも優れた我らが、甲羅に搭載しているえっちでーでー容量一杯に貴様らを撮影してやるんだぜぇ?」

「いや!きょうすけー!」

「そんな、そんなことって……。あんまりだよ……」

 

 デジ亀人間のワイルドな死刑宣告にさやかとまどかが恐怖に震え、抱き合ったまましゃがみ込んだ。

 その時。二人を隠すようにほむらは、ゆっくりと歩を進めた。

 

「……ほむらちゃん?」

 

 ……まどか。私はあなたを守る。私がどうなっても、あなたを救ってみせる!

 

 群れる亀人間と対峙したほむらの瞳が強い決意に輝く!

 

「わ、私を撮りなさい!!」

 

 叫ぶほむらはぴしりとキメ☆ポーズ!

 

 まどかはおびえている!

 さやかはおびえている!

 ほむらはこんらんしている!

 

「……なんなんだよ。おい!」

 

 杏子はあまんまりにあんまりな状況にガビーン!と驚愕!

 

「くっそ、踊らせてやんよ!」

 

 杏子の孤独な闘いが幕をあけた……!




だらだらとしたくだらない感じに、ヨシヒコっぽさがでてるとよいのですが。
次回、亀王編終了(予定)
満を持してのあれが登場(予定)


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その8

「あーしんど。結局1人でやるはめになるとはね……」

 

 全ての亀人間を撃退した杏子は、さすがに「ぶえー」と、へたり込んでいた。

 

「おつかれ杏子!これでも飲んでよ」

「さんきゅー」

 

 さやかの差し出した竹の水筒に、杏子は口をつける。ぬるいのは残念だが、体を動かした後の水分は格別だ。

 

「ぷあ!」

 

 杏子は一気に水筒を飲み干し、大きく息を吐く。そんな杏子を見つめつつ、さやかはそっと隣に座った。

 

「……あの、ありがとうね」

「あ、ああ。まったく感謝してもらいたいね。こちとら、おかげでへとへとさ」

「それもなんだけど……」

 

 さやかが歯切れ悪く言いよどむ。

 

「私が魔女になったときのことだよ。杏子、すぐ風見野に戻っちゃってお礼いえなかったからさ……」

「……ああ、あれね」

 

 俯くさやかに、杏子は首を傾げてため息を漏らした。

 

「礼にはおよばないよ。実際私はなにもやっちゃいないしね。仏がきてくれなきゃ、私もまどかもやられてた。まったくもっての考え無しさ」

 

 結果オーライと考えないようにしていたが、魔女を説得するなんて、まともな判断ではなかった。杏子は肩をすくめる。

 

「……仏様がきてくれたのは二人のおかげなんだ。二人の起こしてくれた奇跡なんだよ」

 

 さやかは膝を抱えて背を丸めた。

 

「あんなに心配してくれたのに、私いっぱいいっぱいでつっぱねてあの様でさ。だから……ごめん。ほんとごめん」

「……いいじゃないか。奇跡は起きたんだからさ」

 

 ぐずぐずと鼻をすするさやかに、杏子は軽い口調で声をかける。

 

「折角やりなおせるんだ。今度こそ、正義の魔法少女ってやつを目指して一緒にがんばろうぜ」

 

 正義の魔法少女……。偉大な先輩の後ろ姿がちらりと脳裏をかすめた。

 

「それにさ……」

「……う、うん?」

 

 さやかは言いよどむ杏子を不思議そうに見る。

 

「……困ったときはお互いさまだろ?と、友達で、な、仲間なんだしさ……。だから礼とかいいって!」

「…………」

 

 らしくないのを自覚して杏子は顔を赤くする。さやかはそんな杏子を見つつ、目を瞬かせた。

 

「杏子……。あ、じゃ、あの亀人間おねがいね!なんかもーあれ苦手で全然駄目なんだよね!あははっ!ほんと助かっちゃう!」

「え?あ、お、おう……」

 

 そうしてさやかは手をひらひらさせつつ、笑いながら去っていった。

 

「……ん?んん?んんんんー?」

 

 いろいろと腑に落ちない杏子がぽつり一人取り残された……。

 

 

 

*****

 

 

 

 どどん!と、そびえる亀王城前。

 

「さて、のりこむか」

 

 杏子を先頭に復活したさやか、ほむら、キノヒコ、まどかが続く。

 

「マルオ様ー!」

 

 その時、一人の人物が城の中から走りでてきた。

 

「キノヒコ!マルオ様はどこ?」

「ビッチ姫様!」

 

 ティアラののった流れる金髪。桃色のドレス。絶世の美貌はきょろきょろと周りを見回す。

 

「マルオ様はお忙しいようでしたので……。仏様の使いの方々とお迎えにきたのです!」

 

 キノヒコは片膝をつき報告した。

 

「なんてことなの。……女ね。マルオの奴を捜すわよ!」

「姫っ!」

 

 ビッチ姫は般若の表情で走り出した。キノヒコはそれを追いかける。

 

「ええー……」

「……やれやれ。やっとでていったわい」

 

 ぽかんと取り残されていた少女達の後ろに、のしのしと続いて現れたそれは疲れ切っているようだった。

 緑の全身に背負った甲羅。頭に輝く王冠。そしてなにより巨体ッ。その威圧感に少女達は息をのむ。

 

「あなたは……」

「わしが亀王よ」

 

 いきなりのラスボス登場に少女達に緊張が走る!

 

「まったく。ビッチ姫のやつマルオの気をひこうと押しかけてきては、誘拐だのなんのと騒ぎ立てるのよ。迷惑でたまらん」

「なんだそりゃ……」

 

 あんまりな展開に少女達が眉をよせた。

 

「わしは静かに引きこもりたいだけなのよ。さ、まぎれこんだキノコ人と一緒に、おまえらも帰ってくれ!」

 

 

 

*****

 

 

 

「……まったく酷い目にあった」

 

 急展開に門前払いをくらって呆然とする少女達。その横の人影がつぶやいた。

 彼女たちの向けた視線の先にいたのは、さらさら金髪のマッシュルームカットの男だった。

 

「あの、もしかしてヨシヒコさんって知ってます?」

「…………」

 

 おそるおそるの、まどかの問いかけに、その男は小さな咳払いを何度もしつつ、その金髪をなびかせ偉そうに杖を構えた。ローブがばさりと揺れる!

 

「おやおや。おやおや娘達。娘達?おやおや!それを私に聞くのかい?勇者ヨシヒコパーティの魔術師にして参謀。賢者メレブとは私のことだよ!」

「…………」

 

 高らかに宣言するメレブのあまりのうさん臭さに、少女達の視線の温度はだだりと下がる。

 

「ははっ!褒めるがよい!褒め称えるがよいぞ?このホクロをっ!」

 

 メレブはドヤ顔で少女達をねめつけた。

 

 

 

*****

 

 

 

「へいへいへい!そこ行くお嬢さん!お茶しようよー!」

「さっきからいってるでしょ?お断りです!」

 

 マミは付きまとう、全身赤い恰好のひげの男に辟易していた。

 

「そんなこといわないでさ!君のワガママバディにボクのキノコで1UP……」

「ティロ・フィナーレ!」

 

 マミの、いわせねーよ!とばかりに放たれた砲撃が、男に直撃!

 

「マンマミーヤー!」

 

 ドップラー効果で小さくなる悲鳴の尾を引きながら、赤い不審人物は空の彼方へ飛んで行き……。キラッ☆!と、きたない星となった。




メレブがなかまにくわわった!


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その9

 メレブの名乗りに、少女達も自己紹介をすます。

 とりあえず。詳しい事は今晩の寝場所を確保してからとし、一行は移動を開始するのだった。

 

 ……その夜。5人は運よく見つけた廃寺で囲炉裏を囲んでいた。

 

「猫の手も借りたいっていってもさ。実際、猫の手どうするの?迷惑じゃん?で……。助っ人がこの娘達?あの馬鹿なに考えてるの?ロリなの?パヤオなの?」

「私ら三人は魔法少女だからね。実際、かなりなもんだと思うよ?」

「……魔法少女ぅ?」

 

 ブツブツ文句をいうメレブの言葉を杏子が遮るが、逆に胡散臭い視線を向けられた。

 

「この偉大なる魔法使いたるメレブを前に、魔法を語るとはねぇ。フゥー!」

 

 メレブは肩の位置で両の掌を上に向け、目を閉じ小さく首を何度も振り、長く息を吐く。アメリカ人ばりの呆れと挑発表現に少女達がイラリとする。フルフルと揺れるさらさらの金髪が、まったくもって鬱陶しい。

 

「!」

 

 次の瞬間。メレブの頭の上に、大きい真っ赤な達磨がのっていた。ほむらを除く全員が驚きに目を見開く。

 

「少なくとも片手間にこんなことはできるわね」

 

 つんと、ほむらは手櫛で髪をなびかせた。

 いつの間にか取り出してのせる凄まじい手管!するとこの達磨はほむらの物なのだろうか。政治家の選挙で見るような大きな達磨のどどん!とした圧倒的存在感ッ……。

 

 ……なぜ達磨?というか、なんでこんなのもってるの?

 

 そしてなにより。その達磨は片目!よっぽど叶えたい願いへの願掛けなのだろうか?

 

 ……叶うといいね。がんばれ、がんばれ!

 

 やさしさに包まれたなら、きっと……。

 やりかえしてちょっと得意げなすまし顔のほむらを、皆が微笑みながら見つめていた。

 

 

 

*****

 

 

 

「やれやれ。魔法のプロとして、後れを取るわけにはいかないね。そうして、新しい呪文を習得した私だよ」

「すごい!この世界には魔法があるんだね!」

 

 得意げにゆらゆら動くメレブに、まどかが興奮し声を上げる!

 

「ほんと大丈夫?」

「そんな青子に、えい!」

 

 胡散臭げな視線を向けてくるさやかに、メレブはすかさず杖を振った!

 ぴろりろりん!呪文発動音が響く!

 

「っ!」

 

 次の瞬間。さやかは体をビクリと震わせ目を見開く。

 

「お、おい。さやか平気かよ?」

「え。う、うん。なんだろ?なんかびっくりした」

「ふふふ。私の呪文の効果だよ」

「えっ!」

「この呪文をかけられると、ちょっとびっくりしてしまうのさ。『メガテン』の呪文と、私は名付けることにするよ」

 

 メレブはドヤ顔で呪文を解説し、驚く少女達を眺めた。

 

「……ねえ、杏子。これってどうなの?」

「そうだね。地味かもしれないけれど、ギリギリの勝負はちょっとしたことで勝敗がわかれるからね。そういう意味ではアリなんじゃないか?」

「…………」

 

 戦闘経験豊富なベテラン魔法少女である杏子の意見を聞いたまどかは、真剣な表情で頷く。

 

「……すごい。魔法すごいです!」

 

 まどかの発する圧に周りは引き気味。

 

「かけてください!かけてみてください!ほむらちゃんに!」

「ええっ!なんで私?」

「えいっ!」

 

 ぴろりろりん!ほむらに呪文が発動する!

 

「……んっ!」

 

 小さく体を震わせ、ほむらは目を瞬かせた。

 ……その様を全員に観察されるという公開処刑!あまりの羞恥に、ほむらの体が固まり唇が震える。頬が染まる。

 

「…………」

 

 ほむらの首がぎりり……と、まどかに照準をあわせ、恨みのこもった涙目を向ける!

 

「やっぱり、ほむらちゃんもびっくりしたりするんだね。驚いてるほむらちゃん、とっても可愛いかったなって」

「……っっ!」

 

 そんなほむらに、まどかはにっこりと微笑みかけて褒め殺しでの追い打ち!

 

 こうかはばつぐんだ!!

 

 ほむらのゲージがぐりぐり減っていく……!

 

「ま、まどかっ、そういうことでなく……」

「うぇひ?ごめん。ごめんね?でも、そんなほむらちゃんもすっごい可愛いなって!」

「……ううっ!もう!まどか、もうっ!」

 

 あのほむらが両手でまどかをポカポカ叩きながら追いかけまわしてる……!その様に杏子とさやかは呆然としていた。

 

 ほむらが壊された……。コイツ、実はすごいのかもしれない……。

 

 ごくりとつばをのむ杏子とさやかの驚愕の視線に、満足気に気味悪くにやにやするメレブであった。




投稿はもうちょい後の予定だったんです
でも、メレブの呪文ははずせないですよね!
ニタニタ興奮しながらの強行軍。
いろいろやばい;


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その10

 ……ョウコー、キョウコー!

 

 山寺で一泊した後。メレブの仲間と合流するために移動している一行の上空にもくもくと雲がわき、仏が顔をだした。

 

「あっ!てめーこのキノコ野郎てめー!どの面晒してこの仏の前で息してるんだよ!」

「いやさ、あれはもう全面的にヨシヒコのせいでさ。でも、お前も悪いのよ?」

「はぁ? でた!でましたー!他人に責任転換で誤魔化そうとする奴!」

「貴様が困ってる村人がいるけど、その原因の氷の魔女の城にはいくなっていたからだよ!」

「は?氷の魔女に手をだしたの?あいつ、大人しく引きこもってるけど魔王級にクソ強いからやめろよ?絶対やめろよっていったよね?」

「だからそのダチョウったのが原因だっていってんだよ!このクソ馬鹿!」

 

 激しく罵りあう二人から少女達は完全置いてきぼり。

 

「……ねえ、雲のとこになんかいるの?」

「えっ?!」

 

 眉をよせていたさやかのこそっとした問いかけに、尋ねられた杏子は目を見開く。

 

「はい!さやかちゃんには仏様が見えないそうです!」

「ちょ、ちょっとまどか!」

「…………」

 

 由々しき事態と真面目にぴしりと挙手して、まどかが報告する。慌てるさやかに、言い合いをぴたりとやめた二人の視線が集まる。

 

「え、あれ?あれあれ?助けてあげたの君だよね?私のこと、見えないの?」

「えと、あの!なんかほんとごめんなさい!」

「そっか。君がこのヨシヒコ分担当なのね。んーなんか眼鏡っぽいものがあるといいんだけどな」

「……はい、これ」

 

 なにかないかとごそごそしていたメレブに、ほむらが鼻・ヒゲ付きのパーティグッズの丸眼鏡を差し出した。

 

「お、さんきゅー!おい青子、これこれ」

「あ、はい」

 

 ほむらから受け取ったメガネをメレブはさやかに渡す。さやかは受け取ったそれをつけて周りを見回し、見違った光景に目を見張った。雲の真ん中にさっきまで見えなかった顔の大きいさえないおっさんがいる!

 

「おい青子。てめーなんか失礼なこと思ってるだろ?そーゆーのわかっちゃうんだぜ?」

 

 さやかはぷるぷると首を振り、両掌を胸の目でひらひらさせての、そんなことないですよ?と、全力アピール。そんなさやかの頭にパーティグッズである銀の星が散りばめられた青い円錐形のとんがり帽子が、ほむらによってかぽりとはめられた。

 

「え、やーごめんなさい! ちょっとさやかちゃん、びっくりしちゃって!その節は本当にありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 

  仏に対してさやかは深々とお辞儀をした。自分だけじゃない。元に戻すために命を懸けたまどかと杏子の恩人でもあるのだ。受けた恩は計り知れない。そんなさやかの横で、杏子とまどかも同じように深々と礼をする。

 

「あーまぁわかってるならいいよ?うん。ホトケポイントすっからかんの赤字だったけど。まぁよかったよ」

 

 礼儀正しい三人に、仏は怒りを収めることにしたようだった。

 

「ご恩を返すためにさやかちゃん、がんばっちゃいますから!」

「そう?じゃあまぁよろしく」

 

 胸元でぞいっとこぶしを握り宣言するさやかに、仏は雑な返事を返す。真面目な流れなくせに、パーティメガネとパーティキャップ着用という、さやかのわけのわからなさをどう扱ったものか、困り顔だ。

 

「まあいいや。それよりヨシヒコのことよ。なにがあったんだよ?ホウレンソウしろよ」

「……村人に頼まれてヨシヒコが乗り込んで。結果ヨシヒコは城で氷漬け。他三人は追い返されてさ」

「いわんこっちゃない! やっぱり全滅してんじゃん!」

 

 メレブの報告に仏が頭を抱える。

 

「勇者だから困ってる村人をほっとけなかったんだろ?」

「え?あーうん……」

 

 なんとなく似たような状況を思い浮かべてか、杏子がフォローにまわる。それを聞いたメレブはなぜか視線をそっと逸らした。

 

「うっわ。最悪。マジ最悪。あいつの氷漬けでは死なないから死に戻れないんだよ。乗り込んで取り戻すしかないぞ?」

「うむ。流石に我ら三人で魔王クラスは無謀。色々と策を練っているところだよ」

「ふーん?試しにいってみ?」

「……炎の宝珠」

「あーそれな。でも超レアだぞ?」

「だから手分けして捜してるんだよ!」

 

 仏の指摘にメレブが逆切れ気味に叫ぶ。残念ながら、同じ魔王級である亀王の城でも見つけることはできなかったのだ。

 

「あれに対抗するにはそれくらいしかないものな。まあいいや。私も調べておくわ」

「グリーフシードを準備してくれたら、手助けしてやってもいいけど」

「まじ?そこまで手伝わすのは悪いなって思ってたんだけどさーいやー助かっちゃう!」

 

 杏子の提案に、仏が小躍りして喜んだ。

 

「まてまて。まずはグリーフシードだ。無い袖は振れないね」 

「その、ぐりー……、ってなにさ?」

「私ら魔法少女はね。魔法を使って濁ったソウルジェムを回復するためにグリーフシードが必要なのさ」

 

 杏子の説明に、仏とメレブが眉をよせる。

 

「つまりMP回復がしたいってこと? 宿屋で寝ればいいじゃん」

「……は?いやいや。そんな簡単な問題じゃないんだよ」

「宿屋で全快は常識だぞ?ここではこういう感じなんだ」

「…………」

 

 仏とメレブに口々に反論されて杏子は考える。こっちではそうなのかもしれない……。

 

「じゃあそれが確認できるまで助っ人の話は保留だ」

「そう。じゃあそれもそれでいいや。それはともかくそっちはどうなってるの?」

 

 仏は困惑に眉をよせる。その視線の先には……。

 パーティメガネとパーティキャップに加え、ネクタイハチマキと大漁旗を模したようなハッピを着用。ハイビスカスの花輪を首にかけ、両手に『I♡NY』とプリントされた大きな団扇とマラカス。パーティグッズフル装備のさやかがそこ居た。

 恩人である仏が話しているのを遮るのもと大人しくしているとさやかを、ほむらが黙々と飾り付けているのだった。なぜほむらはそんなにパーティグッズを持っているのか?なぜそこまでさやかをおめでたくするのか……?ほむらを見つめる全員が唾をのんだ。

 さらに追加と口に咥えさせられたぴろぴろ笛をぴろぴろさせながら、さやかは視線で助けを求めてくるのだが……。

 巻き込まれないようにと仏、メレブ、杏子はあからさまに顔を背けてそっちを見ないようにし、ほむらを心配そうに見つめるまどかも気付けなかった。




ヨシヒコ勢のやりとりがはじまるともう、話がぜんぜんすすまない

ヨシヒコ成分でギャグ空間な話のはずだったのだけど、マギカ成分に侵食されてせつない感がにじみ出てくるという迷走運転……書いてる私が超困惑状態;

ギャグで終わるはずのオチに、わざわざ悲しみ成分ぶっこんで台無しにするぶれぶれぶり
実は私にとってまどマギはトラウマ案件で、そっちに引っ張られちゃうんですよね

大幅修正。ヨシヒコ節に戻っているといいのですが


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その11

 ――本編より暫し前の出来事。

 

「……残念ですが、氷の魔女討伐は仏に禁じられているのです」

 

 氷の魔女の城から漂う冷気によって、麓の村々は深刻な冷害を受けていると村人は訴える。

 その助けを求める声に、ヨシヒコは苦渋の返答を絞り出したのだった。

 

「お願いです!このままでは村は……。氷の魔女は見目麗しい外見に反し、恐ろしい魔物なのです」

「!」

 

 村人の叫びに、ヨシヒコが激しく反応する!

 

「そこ、もうちょっと詳しくお願いします」

「恐ろしい魔物です」

「違う!その前!」

「見目麗しい外見?」

「そう、そこ!」

 

 ぐいぐい食いついてきたヨシヒコに、村人はどん引きだ。

 

「氷の魔女は妙齢の美女。絶世の美貌と、ボン!キュッ!ボン!な、魅惑のわがままボディ……」

「行きましょう」

「は?」

「勇者として、やはり困っている人を見過ごすわけにはいきません。速やかに美女の城に向かうべきです!」

「ヨシヒコや。欲望がだだ漏れているぞ」

 

 暴走をはじめたヨシヒコにメレブはあきれ顔。

 困ったことになった。こうなったヨシヒコを止めることはできないだろう。三人の仲間がため息を吐いた。

 

 

 

*****

 

 

 

 はらはらと落ち続ける小雪と、風に舞い上がる粉雪。そこは一面の銀世界だった。吐く息も白くなる。

 そんな険しい山の中に氷の魔女の城はそびえ建っていた。いくつもの尖塔。その真ん中の主塔は天を刺すよう。その名の通り氷でできているのだろうか。曇天の空にもきらきらと美しく光る。

 

「ここが氷の女王の城……」

 

 紫色の布を頭に巻いた男、勇者ヨシヒコが城を見上げた。

 

「どこもかしこも凍り付いているな。まったく冷えるわい」

 

 見事なもみあげの渋い男が独り言ちる。この男の名はダンジョー。手練れの戦士だ。

 

「氷の城とかけまして、ムラサキの胸と解く。そのこころは、つるつる~!」

 

 おどけた口調でなぞかけを披露した金髪マッシュルームカットの男はメレブ。ローブと長い杖というまさに魔法使いといった様だ。

 

「あああ?氷の城とかけまして、メレブの冗談と解く。そのこころは、スベリまくりなんだよ!」

 

 凄みを効かせてメレブを睨み、すかさず応戦した女は村娘ムラサキ。小鳥を肩に止めている。もちろんただの村娘ではない。様々な技や術を使いパーティの危機を幾度も救っている。

 

「おお、二人ともうまいものではないか!どれ、儂もひとつ……」

 

 ぐぬぬ、と睨み合う二人を顎を撫でつつ眺めていたダンジョーが視線をさ迷わせだしたその時。

 

「先を急ぎましょう!」

「なにっ!まだなぞかけができていないぞ!」

「おっさん、いいから!それ心底どうでもいいから!」

「うむ。誰も得をせぬ」

「むむむ……」

 

 足早に進むヨシヒコに置いて行かれないようにと、メレブとムラサキが不満顔のダンジョーを引っ張る。

 そうして、氷の魔女の城攻略が開始された!




回想シーンに突入!
長くなりそうだったので、短めだけどここまで


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その12

 なんやかんやの後。城最奥、玉座の間の巨大な扉前。

 冷気、いや凍気はすでに肌を刺すまでのものになっていて、その場にいるだけでダメージを受ける。魔王級の危険度と仏が恐れるのも無理はないようだ。

 四人はお互いに視線を向け小さく頷きあい、覚悟を決め扉を開けた!

 

「氷の魔女!でてこい!」

「ここはわたしの城よ?逃げも隠れもしないわ」

 

 ヨシヒコの叫びに、ゆっくりと答える声があった。

 玉座の間は何本もの柱の並ぶ広大な空間だった。凍気が白く渦巻く奥。玉座に座していた人影がすくりと立つ。

 小さなティアラが彩る、腰に届く豊かに流れる金髪。長い睫毛に縁どられた大きな目には星輝く瞳。型のよい鼻と、愛らしい唇。

 襟元が広めに開き胸元や肩をあらわにしたドレスであるローブデコルテは、豊かな胸ときゅうとくびれた腰、そして大きなヒップによって裾丈が床に至るまで魅惑の曲線を描く。

 ドレスと肘上まである手袋は、クリスタルのような光沢のある素材でできている。その滑らかな表面は小さな立体的な模様が一面に施されており、少しの光でキラキラと輝く。それはまるで星空を纏っているかのよう。

 噂以上の魔女の美しさに、ヨシヒコ一行は息をのんだ。

 

「わぁ……」

「なっ……!ダンジョーさん、まさかあれは……」

「うむ。もしかしたら、もしかするかもしれん……」

 

 女の子憧れのドレスコーデに目を輝かせるムラサキの横で、ヨシヒコは驚愕の表情でダンジョーを見た。その視線をうけ、ダンジョーは大きく頷く。

 

「氷の魔女!聞きたいことがある!その身に着けているお召し物は……」

「これ?キラキラで綺麗でしょ?氷でできてるんだぞ」

 

 ヨシヒコの問いに魔女はいたずらっぽい微笑みを浮かばせつつ、ドレスをつまんで見せた。

 

「な、なんてことだ……。ダンジョーさん!」

「ああ、ヨシヒコよ。氷でできているというのならば、光の加減であれやこれやが透けて見えることもありうる……。否っ!むしろ、なんとなくあれやこれらかと思っていたものが、まさしくあれやこれらの可能性すらある!」

 

 ヨシヒコの視線を受けてのダンジョーの言葉に、ヨシヒコはさらなる驚愕に表情を歪ませた!

 

「ありのまますぎるっ!」

「お前らほんと、サイテーだな!」

 

 ヨシヒコの魂の叫びに、ムラサキの罵倒がとんだ!

 

「いいかヨシヒコ。大事なのは集中力と角度よ」

「集中力と角度ですか?!」

「うむ。まずは目を細めるのだ。これによって人間の目はいつもより良く見えるようになる。さすれば活路も見いだせる!」

「ああっ!本当だ!見えます!よく見えます!」

「……まずいぞ。氷の魔女は噂以上の美貌とプロポーション。ヨシヒコの壊れっぷりが想定以上にヤバイ」

 

 ヨシヒコとダンジョーが下種な作戦会議をはじめたその横で、メレブは焦りの表情を浮かべていた。 

 

「なあ、メレブってホモ?」

 

 そんな光景を不思議に思ったムラサキは、メレブに問い掛ける。

 

「はぁ?突然なにをいいだすのだ?ムネタイラよ。貴様は脳みそもまっ平か?」

「あ、いや……。あの二人と違って冷静だからさ」

「ラスボス戦だぞ?それどころではないだろうが!」

「あ、はい」

 

 まともに見える……。初めてメレブがまともに見えることに、ムラサキは愕然とするのだった。

 

「次は角度よ。上下左右、小刻みに首を動かすことによって視線の角度を変えるのだ」

「こう?こうですか?」

「うむ。こればかりは手探りに色々試してみるほかあるまいて」

 

 そうして。目を細めつつ壊れた人形のように首をふるふると動かし続けながら、魔女をガン見する不審者がそこに現れた!

 

「……それであなた達、何しに来たの?一応聞いてあげるわ」

「はい?いえあの……氷の魔女様の冷気で……近隣の村人達が迷惑……してるんです……」

「うわ。ガン視しながら『様』つけちゃった。だめだこのエロヒコ」

 

 氷の魔女は眉をひそめつつ目の前の奇行種と化したヨシヒコに問う。それどころでない奇行種がのろのろ答える様を見て、メレブは頭を抱えた。

 

「わたしがここに来たのは、誰も居なかった五百年も前よ?後から来て文句いうとか、穏やかなわたしでもカチンときちゃうんだぞ」

「はぁ……まぁ……そうですよね……。すいません。それより動かないでもらえませんか?角度が大事なので」

「ヨシヒコー!上目遣いだ!首の角度が重要だ!」

「こう?こうですか?」

「おーい、ヨシ君ー。目を覚ませー」

「ヨシヒコ!そんなことやってる場合じゃないだろ?!」

 

 ヨシヒコの酷い惨状に、正気に戻そうとメレブとムラサキの声が飛ぶ!

 

「うるさい!こっちはそれどころじゃあないっ!!」

 

 振り返ったヨシヒコは、鬼気迫る表情でメレブとムラサキを睨みつけ一喝した!

 

「少しは楽しませてもらえると思ったんだけど、時間切れね。そんなにそうしていたいなら、そうさせてあげるわ」

 

 人差し指を頬に添え小首を傾げた氷の魔女は、ため息一つ。すると凍気が白く渦を巻き、ヨシヒコを包み込む!

 その渦が消えた後には、細目でへんな首の角度の不審者の氷の彫像がカピカピと光っていた……。

 

「ヨシヒコッー!」

「んーこんな彫像もういらないし、あなた達は帰してあげるわ。ばいばーい」

 

 凍り付いたヨシヒコに驚愕する仲間達に、氷の魔女はのんびりお別れを言う。

 

 ……こうしてヨシヒコ一行は全滅したのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 玉座の間、とある柱の影。白い布の被り物をした娘が玉座を覗く姿で氷の彫像となっていた……。




 目を細めるとよく見えるようになるのって、ピンホール効果っていうらしいですよ?
 まめしばー


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その13

「ここはトーレボ王の街だ」

 

 槍を持った衛兵が声を掛けてきた。

 話には聞いていたがメレブ達が待ち合わせるトーレボ王の街は大きな街だった。見上げるほどの外壁にぐるりと囲まれ、その中に広がる中世西洋の街並み。多くの人々の行きかい活気が渦巻くその光景に、少女達は息をのむ。

 

「わあ!ほんとに大きな街!外国みたいだよ!ほむらちゃん、いこっ!」

「ちょっと、まどか……」

 

 テンション高くまどかはほむらの手を握り歩きだす。ほむらが迷惑そうに戸惑っていようとも、満面の笑顔でお構いなし。

 

「ほうほう」

 

 そんな二人の後ろ姿を、さやかは興味深く見つめていた。

 鹿目まどかは大人しい性格で引っ込み思案。そんなまどかがあそこまでゴリゴリいくのは珍しい事だ。

 そして幼馴染であるさやかは知っている。ああなったまどかは、ルンピカ!無敵なのだ!

 ほむら、覚悟するんよ?

 さやかはにんまり微笑んだ。

 

 

 

*****

 

 

 

 メレブ達は酒を含め、食事を提供する『ギルガメスの酒場』で落ち合ったのだった。

 大きめのテーブルにて7人が、ソーシャルディスタンスに席についた。

 

「メレブ。それでそのお嬢さん方は……」

 

 軽い自己紹介の後。ダンジョーが切り出す。

 

「ああ。この娘達は仏の助っ人さ」

「むう。確かに猫の手も借りたい状態だけどもな……」

「あの仏、何考えてんだよ。ロリコンか?パヤオか?」

「あれ。待って、ちょっと待って。なんだろ、なんかすっごいデジャブ」

 

 助っ人という少女達に疑いの視線を向けるダンジョーとムラサキに、メレブはあたふたと慌てだした。

 

「私らは魔法少女だからね。助っ人としてはそこそこだと思うけどね」

「あ、知ってる。やっぱりこれ知ってるよ。ねえこのままだと……」

 

 杏子が二人に答える様を見つつ、メレブがきょろきょろわたわたと、ミンティアを探すように視線をさ迷わす。

 

「!」

 

 次の瞬間。ダンジョーの頭の上に大きな達磨がどどん!と鎮座していた!

 

「やっぱり!あるー!」

 

 満願成就祈願である達磨さん出現と、すまし顔で得意げなほむらに一同ほっこり。

 そして暫し、やさしさ空間が展開されたのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

「ならさ」

 

 杏子がシャフト流法(モード)に首を傾げて声を掛けた。紅いポニーテールが揺れる。

 

「おっさん、戦士なんだろ?じゃあその小娘の腕前とやら、試してみるかい?」

「ふむ。だがそれより、おっさん呼びはやめなさい。せめておじさんになさい」

「ふうん?私に勝てたら考えてあげるよ」

「ほほう。ずいぶん自信があるようだな。ひとつその鼻っ柱をへし折ってやるわ」

 

 杏子とダンジョーはにやりと笑いあい、臨戦態勢となる!

 

「ちょっ、ケンカはよくないんじゃないかなって……」

「まーいいんじゃねえの?ああいうノリのやつらは勝手にやらせとけばさ」

 

 外へ移動を開始する二人を前におろおろするまどか以外、ムラサキはじめ一同が勝手にやらせとけという判断のようだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 外に出た二人は手ごろな空き地で対峙した。

 

「さて。じゃあ、こっちからいくよ」

 

 槍を片手に無防備に立っていた杏子だが、その言葉の直後、地を蹴り跳躍。そのまま強烈な突きをお見舞いする!

 

 がいん!

 

 ダンジョーは驚きに目を見開きつつ、鞘に収まったままの剣でその穂先を反らした。

 

「……ほう」 

「なっ!」

 

 人間相手だからと加減はしたものの、まさかあっさりいなされるのも杏子としては想定外だった。

 近接した杏子へダンジョーの三連撃が叩き込まれるが、鞘付きのこともあり易々と躱される。

 

 ……このおっさん、強い!

 まさか人間がここまでとは思わなかった。身体能力は魔法少女であるこちらに分があるはずなのに……。

 

「身体能力は上なのに。と、思っているのだろう?」

 

 そんな杏子に、ダンジョーはゆっくり答える。

 

「人間はな。牙も角もなく、力も弱い。だからこそ武術に磨きをかけるのよ」

 

 ……とはいえ。冷静な風を装っていてもダンジョーは心底驚愕していた。

 優れた身体能力だがそれだけではもちろんない。武術を全く知らないであろうこの少女がここまでの武の高み。百回の試合より一回の死合。そうして幾多の死線を越え、ここまで研がれたのだろうか?

 

 ……まさに深紅の魔槍よ。

 

 ダンジョーは戦慄せざるをおえない。

 互いを好敵手と認めた二人はニヤリと笑い、ぶつかる視線は火花を散らす。

 一拍の静寂後。戦闘が再開された!

 

 

 

*****

 

 

 

「やれやれ。埒が明かないね。おっさん、全然本気じゃないだろ?」

 

 激しい剣戟の後。首を傾げた杏子がダンジョーに声を掛けた。

 

「ふふ、キョウコ。その言葉はそっくりかえしてやるわ」

 

 視線を合わせた二人は、にんまりと笑う。

 

「じゃあ、ちょっとは本気みせてあげようか」

「ならば、おもしろいものをみてやろう」

 

 必殺のタイミングで蛇腹鞭を叩きつけてやろうと目を細める杏子の前で、ダンジョーは、いそいそと脱衣をはじめた!

 

「おおい!」

 

 周りの観戦人に戦慄が走る!

 

「おもしろいモノって、ナニみせるつもりだ?おっさん!」

「だめだから!今のご時世、それマジだめだから!ヤバイから!ヨシヒコメンバーとかいわれちゃうから!」

 

 慌ててムラサキとメレブが声を掛ける!

 

「んん?なにを騒いでおる?おもしろいものを見せてやるだけなのだが……」

「えっとごめん。よくわからないけど、そのおもしろいモノってナニ?」

「ああ。ここの訓練場で忍者に転職してな。その忍者の真価を発揮するには装備を全て外さねばならん」

「それってつまり?」

「全裸最強よ!」

「はい!アウトー!」

 

 メレブのジャッジが下った!

 らしくなく、真っ赤な顔をして杏子が固まり。両手で両目を隠し見てませんアピールしつつ、さやかとまどかは指の間から興味深々な視線を飛ばす。

 騒然とする周りを一瞥し、ダンジョーは不敵な笑みを浮かべた。

 

「まあ、折角だしな……」

「おい!おっさんやめろ!」

 

 そのまま脱衣を続けようとするダンジョーに、ムラサキの罵倒が飛ぶ!

 

「…………!」

 

 その次の瞬間!

 激しい電撃でもくらったのだろうか?アフロな髪型、薄汚れた顔に煙を吐き出しつつ、白目を剝いたダンジョーがばたりと倒れた。あまりの急展開に観戦人は全員息をのむ……。

 

 ……まどかに見苦しいものは見せないわ。

 

 その集団に背を向けて立つほむらは、スタンガンをしまいつつ、髪を手櫛でなびかせた。 




『流法』と書いて『モード』と読むッ!ルビふれ?やりかたわかんないんれすー;
はうあー、ごめんなさい、つぎこそはもうちょっと;
 
→ふふ!ルビってみましたよー!(ふんす!


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その14

 翌朝。冒険者の宿。

 

「今だとダーマ神殿に匹敵する賑やかさだね」

 

 ゆっくりめの朝食を取りながら、ムラサキが少女達に教えてくれる。

 トーレボ王の街が大きく活気に満ちているのはいくつかの要因があり、その一つが『転職』できる施設があるかららしい。

 この世界では、戦士や魔法使いといった『職業』に就くことにより、その『職業』特有の技能を使用できるようになる。そうして戦闘を有利に進めることができるそうなのだ。

 さらに『職業』を変えることにより、より多くの技能を習得することもできる。その世界でも数少ない『転職』ができる施設があるというのだ。

 

「おい、それよりこれ……」

 

 驚き顔の杏子がとりだしたのは深紅のソウルジェム。少しの曇りなく深い輝きを放っている。

 

「わ。なにそれ、宝石?すっごい綺麗じゃん!あんたにぴったりだね」

「……そりゃどうも。それより濁りが無くなってるんだけど」

「!」

 

 その指摘にさやかとほむらが反応する。『魂』を褒められたからか、杏子はなんだか気恥ずかしい。

 

「ほんとだ……」

「……」

「なにそれお揃い?どれも綺麗な色だね。可愛いじゃん!ぴったりにあってるよ!」

「ぅ……」

 

 それぞれのソウルジェムを確認し目を見開いているところ、不意に飛ぶムラサキの褒め殺しに微妙な反応となる。

 

「よくわかんないけど大抵のものは宿屋で一泊すれば全快するからさ。ここは大きな街だから宿代かさむけどね」

 

 ムラサキは驚く少女達に微笑みつつお茶を一啜り。

 

「あんた達、仏に連れてこられて動き詰めだったんだろ?今日くらいは観光気分でゆっくりするといいよ」

「ありがとうございます。ムラサキさん!」

 

 蓮っ葉にツッコミをいれる好戦的なイメージのムラサキだったが、そんなことはないのかもしれない。

 メレブ、ダンジョー、仏。必然的にツッコミ役となっているのかな。ムラサキに対する印象を変えてお礼をいうまどかだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 一面に広がる中世西洋の街並みは巨大なテーマパークのよう。少女達のテンションは上がりまくり。はしゃぎながら街中を巡る。

 ひときわ大きい店構えの『ボッタクリ商店』。なんだか粗野な客で満員なので少女達はスルー。

 静かなたたずまいの『カントー寺院』。神聖で荘厳な宗教施設はやはり胸打たれるものがある。三拍三礼しだしたさやかが睨まれたり。

 見慣れない品の並ぶ屋台を見てまわるだけでも、とてもおもしろく。

 

 ……そうして。ムラサキからもらったお金で軽食を屋台で購入し、一休み。

 

「あ!じゃあ、あれもいっちゃう?『訓練場』!」

「ああ、『職業』ね。あのおっさんが人間であれだけ強いのも、それなのかもな」

「…………」

 

 『転職』することによって、私も足手まといでなくなるかな?まどかはきゅっとこぶしをにぎる。そんな緊張しているまどかの様子を、ほむらはそっと見つめていた。

 

 

 

***** 

 

 

 

 『訓練所』はやはり多くの冒険者でにぎわっていた。

 暫しの順番待ちの後。それぞれに係員が付き、様々な質問をしたり宝石をかざしたり。これによって『職業』適正を測定するのだという。

 

「おお!これは……!」

 

 杏子の測定員、続いてさやか、ほむらの測定員が驚愕の声を漏らす。

 

「素晴らしい!これならどの『職業』も選びたい放題だよ!」

 

 三人のリトルルーキー少女出現に会場が沸く!

 

 ――その横で。

 

「……うーん。君は帰った方がいいよ?」

 

 無慈悲な戦力外通知に、まどかが押しつぶされていた……。




いつもの大変更;いじくりまわしです
みゃー!毎回超ごめんなさい!
長くなりそうなんで切ったんだけど、そうすると構成的に当初の冒頭は次回の冒頭にまわします;


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その15

「はぁ……」

 

 トーレボ王の街は平地にある大きな街で、街中を二分するように幅広い川が流れている。その川にはいくつもの橋が架かっていて、まどかはそうした橋の欄干に寄りかかり水面を眺めつつ、ため息をついていた。

 

「そんなため息をつくと、しあわせが逃げるぞ?マドカ。なにか悩み事か?」

「あ、ダンジョーさん……」

 

 偶然通りかかったダンジョーが、そんなまどかに声を掛けたのだった。

 

「じつは……」

 

 まどかは川面に視線を落としつつ、ぽつりぽつりと話し出しだす。

 

 

 

*****

 

 

 

 緩やかに流れる水面を並んで眺めつつ、まどかが『訓練場』での出来事を話すのを、ダンジョーは静かに聞いていた。

 

「私、得意な学科とか、人に自慢できる才能とかもなくて。『職業』に就ければ少しはみんなの役に立てると思ったのに……」

「なあマドカ。おぬしはまだ子供よ。そうしたことはゆっくりさがせばいい。見つかるまで儂ら大人がちゃんと守ってやる」

「…………」

「それと。自分だけ魔法少女とやらでない事に引け目を感じているのではないか?」

「それはあると思います。私、守ってもらってばかりだし……」

「やはりな。まずそれは気にするな。仲間なのだ。それぞれ補い合えばいいのよ」

「足引っ張ってばかりの私が補ってるものなんて……」

 

 ちからなく首をふるまどかを見つつ、ダンジョーは微笑む。

 

「儂の見立てだと、おぬしら四人の中心はマドカ、おぬしだと思うぞ?」

「え……、私?」

「うむ。リーダーはキョウコのようだがな。他の三人に対して最も気を配ってるのはおぬしよ。それがちゃんと三人にも伝わっているからこそ、まとまっているのだ。安心せい。おぬしはしっかり役に立っている」

「……はい」

 

 まどかはダンジョーの優しい指摘に思わず涙ぐむ。そんなまどかの頭をダンジョーはゆっくり撫でた。 

 

 ドボーーン! 

 

 そして、突然の大きな着水音!

 

「……まどか、だいじょうぶ?」

 

 驚きに目を見開いたまどかの前には、ダンジョーではなくほむらが立っていた。 

 

「あの変態。まどかを泣かすなんてゆるせない」

「え、え?」

 

 怒りに打ち震えているほむらの横で、まどかは状況確認のため周りを見回す。その視線の先、いつの間にか川に落ち、下流へと流されていくダンジョー!

 訓練場ではぐれたまどかを捜していたほむらは、涙ぐむまどかを発見。すかさず時を止め、その原因であろうダンジョーを川へと蹴り落したのだった!

 

「がぼがぼがー」

「ダ、ダンジョーさん?もう!ほむらちゃん!そうじゃないから!ダンジョーさんを助けなきゃ!」

「……え?」

 

 ……すったもんだの挙句ダンジョーを救出。ほむらはメッチャまどかに怒られた。

 

 

 

*****

 

 

 

 救助された濡れネズミのダンジョーは退場。まどかによるほむらへのご指摘中に杏子、さやかが合流する。

 そんな時。四人に声が掛けられた。

 

「お仕事にお困りもぐぅ?」

「え、はい……」

 

 少女達が振り返ると、そこには白い着ぐるみに白い被り物をした人物が立っていた。

 着ぐるみは動物のようにもこりとしていて、背中に小さな蝙蝠翼と、お尻に尻尾を模したであろう赤い球体が付いている。

 被り物は大きく丸い頭の上に犬のような三角耳。その真ん中、頭頂部辺りからのびた紐の先には、やはり赤い球体があり、垂れさがったそれはぶらぶらと揺れる。広い額の下に並ぶ二つの大きな孤。閉じられた目に当たるのだろうか?そして顔の中央、鼻の位置にはやはり赤い球体。

 そして被り物のサイズが大きすぎるためおさまりが悪いのだろう。常に被り物の位置(ポジ)を気にしているようだった。 

 異様な圧を発するゆるキャラの登場に少女達は息をのむ……。

 

「クポはクーポリ。お仕事をさがす人のお助け妖精もぐぅ」

「…………」

「クポはね、あの『訓練場』のボーナスポイントには断固反対なんだもぐぅ。あれのせいでどれだけキャラメイクに時間かけたことか。機械的にポチポチやってたら、高ポイントのヤツ消しちゃったりさ。あ、もぐぅ。ともかくね、クポのほうがいろんな仕事紹介できるもぐぅ?」

 

 固まる少女達にクーポリは、ゆれる被り物を頻繁に抑えつつ力説した。

 

「……『職業』をさがしてくれるんですか?」

「もちろんもぐぅ。このアンケートとワーキングシートに記入をお願いするもぐぅ」

 

 震えるまどかの問いかけにクーポリは、被り物が落ちないように押さえつつ頷く。

 

「これで適正、経験、希望を踏まえて、お仕事を紹介しちゃうもぐぅ」

 

 

 

*****

 

 

 

「それじゃあ『ジョブ』を発表するもぐぅ」

 

 回収した紙をしばらく眺めていた後。クーポリが少女達に振り返った。

 

「まずキョウコ。槍持ちて天空を駆ける竜騎士!」

「槍だけに?安直だね」

「竜騎士には小竜の相棒が付くもぐぅ」

 

 杏子の反応におかまいなく、クーポリは子猫くらいの大きさの生き物を差し出した。それは背中に小さな蝙蝠羽根、オタマジャクシな尻尾のあるブサイクなカエルに見える。

 

「……竜?これカエルじゃない?」

「竜もぐぅ」

「いやカエルだろ?尻尾がオタマジャクシだし」

 

 杏子の抗議にクーポリは無反応スルー。カエルはそんな杏子の頭に勝手に着地鎮座。

 

 ……かわいいっ!

 

 ほむらはキュンキュンしていた。

 

「さて次はサヤカもぐぅ」

「あ、はい!」

「片手剣と盾、回復能力で味方を守るナイトもぐぅ」

「おお!なんかかっこいいね!んーでも盾が違うかな」

「え?いや、むしろナイトには盾が……」

「さやかちゃんは高機動に手数を活かした連続攻撃がウリでしてねー。そんな感じのナイトってことで!」

「……もぐぅ」

 

 さやかの発言にいろいろ言いたそうなクーポリだったが、自分の中に押し込めることにしたようだった。

 

「さてホムラ。銃とギャンブルで味方をサポートするコルセアもぐぅ」

「ちょっと。博打打ちの海賊とか完全無法者よね。どうして私がそうなわけ?」

 

 不服なほむらはクーポリのこめかみに突きつけた拳銃の撃鉄を起こす。

 

「……たぶん、そういうところもぐぅ」

 

 クーポリは小さく答えた。

 

「さて。ではマドカだが……」

「…………」

 

 まどかはクーポリを見つめ、つばをのむ……。

 

 

 

*****

 

 

 

「その様子だと、なにか嬉しいことがあったのかい?」

 

 その日の夕食。全員が揃ったテーブルで満面の笑みを浮かべるまどかにムラサキが話しかけた。

 

「は、はい!私も『職業』に就くことができたんです!」

「ほう。それはよかったな。それでどんなものなのだ?」

 

 喜ぶまどかを一同が祝福する。そんな時。

 

「おめでたいこの瞬間、呪文を思いついたわたしだよ」

 

 あまりに空気を読まないメレブに非難の視線が突き刺さる。

 

「……呪文!すごい、すごいです!どんな呪文なんですか?」

 

 だが、当の本人であるまどかがノリノリなので、周りは沈黙した。

 

「ちょっと、まどか……」

「そんな青子に、えい!」ぴろぴろり!

「な、なんでやねーん!」

 

 まどかを諭そうとしたさやかに呪文が直撃する。

 さやかはいきなり肘九十度にまげた平手をズビシ!と横に当てつつ、ツッコミをいれた!

 

「お、おい。さやか、どうした?」

 

 さやかの奇行に一同は驚き、目を見開く。

 

「う、うん。よくわかんない……」

「それは私の呪文の効果だよ!」

「!」

「この呪文をかけられたら、とりあえずツッコまなくてはいられなくなるのさ。私はそう、これを『アホカアンタ』の呪文と名付けるよ!」

「……すごい!」

 

 一同を置いてけぼりに得意げなメレブに、まどかが飛びあがりつつ賛同する。

 

「すごい、すごいです!かけてください!かけてみてください!ほむらちゃんに!」

「ええっ!やっぱり私?!」

「えい!」ぴろぴろりん!

 

 まどかの要請に従い、メレブの呪文がほむらに炸裂!

 

「……な、なんでゃ……ねぇん……。ぅぅ……」

 

 涙目に真っ赤な顔をしたほむらがツッコミを絞り出す。そのあんまりな様に周りは、ほっこり。

 

「ふふ。絶大なる威力に恐ろしくなるね」

「…………なってない」

 

 得意げなメレブの横から漏れた異議の声の主に一同の視線が集まる。その先には……。

 両手を腰にあてたまどかが、ふんすと眉をよせていた。 

 

「全然なってない。そんなツッコミ、ぜんぜん駄目だよ。照れちゃ駄目!もっと元気に勢いよくだよ?ほむらちゃん!」

「……な、なんでや……ねん……」

「うん!さっきよりずっといいよ!でももっと、元気よく!」

「な、なんでやねん!」

「ほむらちゃん!その調子!」

「なんでやねん!」

「すごい、ほむらちゃん!でも、もっと!」

「なんでやねーん!」

「すごい、すごいよほむらちゃーん!」

 

 やりきったほむらに、まどかが満面の笑みで抱き着いた!

 

 あの二人はどこに向かっているのだろう……?

 

 すっかり置いてきぼりな一同は、二人をただただ眺めていた。




まどかのお笑いに厳しい(さんま並)のは、ねつ造になります

ちょこり修正
かなりFF11ネタでしたー!
FF11は、ちょっとマイナーですかねぇ。
盾持たないさやかと、ダイス買ってない(買えない)ほむらは、LVアップしても
恩恵があまりないwってとこがオチ。わかりづらっ!


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その16

 その翌日。

 

「おはよー」

「オハヨ、オハヨー」

 

 やはり遅めの朝食をとりつつ、ムラサキが少女達に説明する。

 トーレボ王の街が賑わっている要因のもうひとつが、街の近くに巨大な迷宮があるからだそうだ。多くの冒険者がその迷宮に挑み、貴重な品を持ち帰る。まさに一獲千金のゴールドラッシュ!そうしたアイテムの中に炎の宝珠があるのではないかとメレブ達は考えたのだ。

 

「迷宮に入って探す時間はないからね。街中で見つけられればいいのだけど……」

 

 ため息をしつつ、肩をすくめるムラサキを見ていた少女達は視線を交わして頷きあう。

 

「私達も手伝います!」

「ありがとうね」

 

 まどか達の言葉を受け、ムラサキはにっこり微笑んだ。

 

 

 

******

 

 

 

「探し物たってどこから探したものか、見当もつかないよ。異世界だしさ」

 

 そうして街中をうろついていた杏子とさやかは、やたらに大きく派手な建物を見やる。

 

「なぁさやか。あの店さ、きにならないか?」

「看板からすると……カジノじゃない?杏子、遊ぶことばっかり考えて!」

 

 掲げられた看板の文字は読めないが、マークや出入りする人間の雰囲気でなんとなくわかるものだ。楽しそうに、にんまりする杏子をさやかが睨む。

 

「炎の宝珠ってかなりレアなんだろう?そこらのお店にホイホイ売ってるわけないじゃん。カジノの景品にあったりってゆうのはゲームのお約束だろ?」

「そりゃまぁそうだけど……」

「調査だよ、調査!さ、いってみようぜ!」

「もう、しょうがないなぁ」

 

 杏子がテンション高くカジノの扉を開け、さやかが続く。

 カジノの中はとても広く、多くの人で賑わっていた。

 

「カードにダイス、ルーレット。スロットもあるのか。モンスターバトルってなんだ?」

 

 二人は一通りの賭場を眺めて回る。

 

「ほほう……。さやかちゃんのハナがウズいちゃいますね」

 

 とんがり鼻をひくひくさせながら、さやかがざわざわ……とつぶやいた。

 

「さやか。あんた、ギャンブルは得意なのか?」

「ふふ。見滝原のハコテンちゃんといえば、このさやかちゃんさ!」

「さやか……。ハコテンって意味わかってるのかよ?」

「え?箱入り娘的な?」

「……いい。おまえは絶対賭け事するな。絶対するなよ?」

「ええっ!」

 

 杏子の反応に、さやかは目をぱちくり。

 

 ……フリなのかな?ダチョウ的な?

 

 さやかは首を傾げた。

 

「こちらが交換所になりまぁす」

 

 バニーガールの綺麗なお姉さんがにっこり微笑みかけてくる。

 

「ほほう……」

 

 武器や防具のような装備品すらあり、並べられた品々は多岐に渡る。

 

「ね、杏子。あれ、それっぽくない?」

 

 さやかの指さす先には赤い球。ラベルの文字は読めないが、かなりそれっぽい。

 

「うーん。アタリなのかもね……」

「ん?」

 

 なにかいいたそげな杏子の視線の先を、さやかも見やる。そこには……。

 

「くそっ!次こそは勝つるのに!我がホクロに賭けて!」

 

 身ぐるみ剥がされたメレブが正座させられていた……。

 

「おお!キョウコとサヤカ!いいところに!」

 

 関わりあわないようにくるりと背を向けた二人に声が掛かる。

 

「……なんとなくはわかりますけど。一応聞きますね。メレブさん、なにやってるんです?」

 

 さやかが嫌々メレブに尋ねた。

 

「うむ。ついに目的の炎の宝珠を見つけてな。入手しようと奮闘していたわけだが、あと一歩のところでしくじったのよ……」

「要するにギャンブルに負けてスカンピンか……」

「ねえ、メレブさん。あれって高いの?」

「うむ。カジノコイン二万五千枚。なかなかに法外よ」

 

 カジノコインが一枚二十G。まともに買うなら五十万G。ムラサキが準備したという購入資金は一万Gといってたから、足が出るどころかそれこそ丸裸になっても足らない。それを資金にギャンブルするとしても、なかなかに厳しそうだ。

 

「さて。どうしたものかね」

 

 首を傾げ考えをめぐらす杏子の後ろで、いつのまにやらメレブの隣でさやかも正座させられていた……。

 

 

 

*****

 

 

 

 氷の魔女の城。凍気渦巻くその玉座の間。

 

「ええっと。それでなんの御用?」

 

 氷の魔女は来訪者に声を掛ける。

 

「麓の村の人達が困っているんです。せめて冷気を弱めてもらうとか……」

 

 魔女に対峙するは巴マミ。村人達に助けを乞われてこの場に来たのだった。

 

「それはできないわ。こっちにもいろいろ事情があるのよ」

「話し合いで解決したいのですけど……」

「同意するわ。でも無理みたい」

「…………」

「交渉決裂ね。どうするの?」

 

 眉をよせるマミを氷の魔女は楽しそうに見やる。

 

「できればこういうことはしたくなかったのだけれど」

 

 マミがつぶやいたその瞬間。氷の魔女目掛けて無数の黄色いリボンが伸びる!

 

「なっ!」

 

 しかし、驚きの声を上げたのはマミだった。

 全てのリボンは氷の魔女に至る前に動きが止まっていた。その表面が白く霜降りている。

 凍らされた……。マミは息をのむ。

 氷の魔女がパチリ!と指を鳴らすと、凍ったリボンは全て粉々になった。

 瞬時にマミは氷の彫像の陰へと跳躍。次の瞬間、出現させたマスケット銃を両手に構え、すかさず発射した。

 マスケット銃はいつものものより銃口が大きく銃身が短いものだ。殺傷能力を抑えたゴム弾を発射することができる。

 ゴム弾は氷の魔女に命中!だが魔女の姿は白い凍気となって渦を巻いた。

 

「氷の結晶を使って虚像を見せる事もできるんだぞ?」

 

 マミを囲うように複数の氷の魔女が現れる。

 

「そこ!」

 

 マミが直感のまま銃口を向け引き金を引く。

 発射されたゴム弾はなにかしらに弾かれ、明後日の方に飛んだ。

 

「ちょっ……。あなた何者?でも、残念。それくらい防ぐのはわけないわ」

「くっ……」

 

 多くの虚像からいきなり本体を狙い撃たれて、魔女は目を見開いた。

 

「わかるでしょ?人間ではないようだけど、この凍気の中、そう長く行動できないわ。降伏なさい。降伏すれば、好きなポーズで凍らせてあげるわ」

 

 氷の魔女は余裕の笑みを浮かべつつ、圧倒的魔力を漂わせてマミに立ちはだかる。

 

「折角だけど。魔法少女は魔女に屈することはできないの!」

 

 マミは氷の魔女を強く睨みつけた。




あ。さやかがギャンブル弱いは、ねつ造です
運は強いけど、調子にのって台無し!ってイメージ


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その17

「わあ!お店がいっぱいだよ!」

「まどか。そんなにはしゃがないで」

 

 まどかとほむらも炎の宝珠を求め、露店を巡っていた。

 

「ん……。いい匂い!あれなんだろう?」

「焼いた肉をパンのようなものに挟んでるわね」

「ハンバーガーみたいなものかな?美味しそう!」

「まどか。遊んでないで探し物をしなくちゃだめよ」

 

 軽食の露店に激しく反応するまどかに、ほむらが特大のくぎを刺す。

 

「ううっ。そ、そうだよね……」

「……しょうがないわね。少し早いけれどお昼にしましょうか」

「うん!やったぁ!」

 

 未練たらたらのまどかに、ほむらはため息をつき、譲歩するのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 軽食を屋台で購入し、手ごろな芝生に並んで座る。

 

「いただきまーす!」

「…………」

 

 上機嫌なまどかに、ほむらは困り気味。遅めの朝食からあまり時間も経っていない。食べきれるか少し心配だ。

 まどかって、そんなに食べるほうだったかしら?

 勢いよく食べ始めるまどかを見つつ、ほむらも小さく齧りだす。 

 

「お肉本来の味を引き出すために、お塩をふるだけにしているのかな」

 

 ……脂身の多い肉に、塩をまぶして炙っただけ。臭みが残っているわ

 

 ご機嫌に絶賛するまどかの横で、ほむらは眉をよせた。

 

「ザクザクと歯ごたえのある強い風味のパンに、お肉からあふれる肉汁が染み込んでる!」

 

 ……粉が違うのかしら?ぼそぼそするバンズ……。

 

「口の中に広がる確かな満足感!ん~!おいひいー!」

 

 ……素朴な味わいといえば聞こえはいいけれど、現代日本人の味覚には合わない粗末な料理だわ。

 

「はむっはむっ!」

「もう……、そんなに美味しいの?」

 

 まどかの父親は料理の達人だ。それだけ舌も肥えているのかと思ったけれど、そうでもないのだろうか。

 できたてを差し引いてもあんまりな食事をべた褒めし、がっつくまどかに、ほむらは呆れた視線をむける。

 

「うん!ヒンナだよ!できたてアツアツだしね!それに……」

 

 まどかは食べるのをやめてほむらに微笑みかけ、空を見る。 

 

「こんなにとってもきれいな青空の下で、大事なお友達と食べてるんだよ?格別だよ!」

「えっ……!」

 

 ほむらは目を瞬いて固まった。まどかの言葉を心が理解するまでに少しの時間が必要だったのだ。

 そして、のろのろとパンを齧る。

 口の中に広がる強烈な味覚!

 あの時から、何を食べても何も感じることが無かった。無くなっていた。それなのに。

 

 ……不思議だわ。とっても美味しい! 

 

「美味しいよね!ほむらちゃん!」

「ええ……」

 

 食事に夢中になっていたまどかがほむらを見やると、ぐずぐずと泣きながらほむらが齧っていた!まどかは驚愕にびくりとする。

 

 ……泣くほど美味しかったのかな?

 

「だいじょうぶ!だいじょうぶだよ、ほむらちゃん!」

 

 まどかは肩をぶつけるようにほむらにくっついて、微笑みかけた。俯いてほむらの表情は見えなくなってしまったけれど、小さく頷いてくれている。

 

 並んで座る二人のうえに、青い空がどこまでも広がっていた。

 

 

 

*****

 

 

 

「ふ~美味しかったぁ!」

「……さ。探し物を再開しましょ」

 

 ほむらは泣いてしまった気恥ずかしさを隠すように、つとめて冷静を装う。

 優しい彼女のことだ。お見通しでしらないふりをしてくれているのだろうけれど。

 

「ほむらちゃん、あれ!なんだか甘い匂いがするよ。ベビーカステラっぽくない?いってみよう!」

 

 あれ?ほむらはグイグイまどかに引っ張られながら、んんん?と首を傾げた。 




小説情報>アクセス解析で、どんな感じに読まれてるとか見れるんすよ
16話の数値が異常なんですけど……
なに?なんで?バグってません?(汗


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その18

「あー私がここの支配人ですけどね。お嬢さん、ここは貴女みたいなクソガキが立ち入るような場所じゃないんですよ」

「悪いけど余裕がなくてね。そっちにも悪くない話になるはずさ」

 

 カジノの支配人と名乗る人物の訝し気な視線を受けつつ、杏子は首を傾げつつ話しかける。

 

「こちらこそクソ悪いんですがね。忙しいんで相手をしてられないんです。つまみだせ」

 

 スーツを着た屈強な男数名と入れ替わるように立ち去ろうとした女だったが。

 

「なあ。話があるっていたろ?」

 

 大きな音に驚いて支配人が後ろを振り返れば、ガードの男達は皆倒れ、紅い少女だけが不敵に、にまりと立っていた。

 

「ほう。大口叩くほどの実力はあるんですか。話を聞きましょう」

 

 支配人は三白眼を細め、杏子を値踏みするように眺めつつ答えた。

 

 

 

*****

 

 

 とある酒場。羽振りの良い人物は、そう語った。

 

 さあさあ、じゃんじゃんやってくれ!ここはボクの奢りだ!

 今日のボクはツイてるからね!まぁ幸運のお裾分けってやつさ!

 なんだいなんだい?何があったか興味深々かい?欲しがるね!いいよ?いくらでも話してあげるよ!

 モンスターバトルは知ってるかい?四体のモンスターでバトルロイヤルをして、どれが生き残るか賭けるカジノのギャンブルさ!

 大穴を当てた?んーそんなんじゃ済まないぜ?

 ボクはね、あれで勝ちに勝ちまくったのさ!

 

 事のはじめは見なれないモンスター、まほうしょうじょのエントリーさ。

 聞いたことないだろ?勿論ボクもさ。名前からして下位の魔法使い系。魔法使い系は魔法は強いが貧弱だからね。モンスターバトルのような乱戦には向いてない。実際、倍率最高の大穴だったよ。

 でもね、ボクにピーン!と、くるものがあってね。それで早速チケットを購入したわけさ!

 

 正直、ゲートから出てきた実物を見た時は後悔したよ。

 だって、そうだろ?紅く長い髪を後ろで一つに結わいた女の子だったんだぜ?同じく長めの裾の赤い服に、槍っぽい杖。案の定、まほうつかい系さ。これはひとたまりもないと、ボクは目を覆ったね。

 実際バトルが始まってモンスターが暴れまわってる中、なにもできずにオロオロと闘いを眺めてるあり様さ。もうボクは気が気じゃあなかったさ!

 だがその結果。他の三匹が共倒れ、まほうしょうじょが生き残るというミラクル!

 これにはね、流石のボクも大興奮さ!

 

 それから、ちょいちょいエントリーされるまほうしょうじょは毎回生き残り、ランクをグングンあげていく。

 いいかい?話の本番はここからさ!

 そして、その日ラストのメインバトルと相成るわけさ!

 

 

 

*****

 

 

 

「サヤカ!キョウコのやつ、すっごいじゃないか!」

「う、うん……」

 

 大穴勝利連発の杏子に大興奮のムラサキに、さやかは生返事をした。

 

 なんだろう、胸騒ぎがする……。

 

 胸元で両手を組み、杏子との少し前のやり取りを思い出す。

 

「いいか、さやか。私がアレに出る。ムラサキさん連れてきてモンスターバトルで私に賭けな」

「杏子、何言ってるの?そんなの危ないって!」

「炎の宝珠を手にするには、まともな手段じゃ時間がかかるのはわかるだろ?それに何戦か観たけれど、たいしたレベルのやつらじゃない。全然余裕さ」

「でも……」

「メレブさんとさやかの借金も含まれてるんだからな。いいからダッシュ!」

 

 笑いながら手を振る杏子は、いつもの様子だった。だけど……。

 

 

 

*****

 

 

 

「さて。あいつらの準備をしてください」

「えっ!TOP3ですか?」

「ええ。予想以上の大盛況ですからね。お礼をしなくてはなりません。なにより、世の中舐めたガキを有頂天で返すわけにもいきません。きっちり、地面舐めさせてやる」

 

 支配人はつまらなそうに首を鳴らした。

 

 

 

*****

 

 

 

 その日のモンスターバトル最終回。

 ゲートが開き、対戦相手を見やった杏子に戦慄が走る!

 

 ドラゴンがあらわれた!

 ギガンテスがあらわれた!

 キラーマシンがあらわれた!

 まほうしょうじょがあらわれた!

 

 これまでのモンスターとは別格の強さが三匹。しかも気配からして意識されているのがわかる。

 

「ちっ。さすがに面倒なことになりそうだね……」

 

 杏子は独り言ちる。いままでのモンスターはおもむくままに闘っていて、杏子の誘導に乗っかってくれた。

 しかし、こいつらは違う。それなりの知能を備え闘技場のルールを理解している。バトルロイヤルでは強者を叩き落としていくのが定石。つまりターゲットは杏子!

 バトルが開始されると、露骨な集中攻撃が開始された!

 杏子に対しギガンテスの持つ棍棒が振り下ろされ、ドラゴンの吐く炎と、キラーマシンの矢が撃ち込まれる。

 

「くっそ。流石にきびしいね……」

 

 サシなら問題ない。二体一でもいけたろう。でも三対一。致命撃をもらわないようにするのが精一杯。削られ続ける。

 小さな勝機を掴もうと回避に徹する杏子の視界の中に、客席のさやかが入った。なにかを叫んでいる。なにをいってるかはわからないが、今にも泣きそうな顔でムラサキに抱き着いている。

 なんだよ、さやか。そんなに危なっかしくみえるのか?まあ、そうなんだろうけどさ。

 でも……。そんな顔して応援されちゃあ、やってやるしかないね。

 杏子の双眸が気合に輝く。

 

 次の瞬間!

 

 ギガンテスのつうこんのいちげき!

 

「杏子っー!」

 

 ギガンテスの持つ棍棒が杏子を直撃したのだ!さやかが目を見開き、口を覆う。

 だが……。振り下ろされたギガンテスの棍棒の下に杏子の姿はなく。代わりに直撃をくらったドラゴンが苦痛の呻きを吐いていた。

 

「……ロッソ・ファンタズマ」

 

 まったく別の場所に、ゆらりと現れた杏子が静かにつぶやく。

 ロッソ・ファンタズマ。相手に幻覚を見せることができる、杏子の固有魔法だ。

 

「おおおおおー!」

「ううっ、きょうこー!」

 

 満員の観客の怒号が沸き起こる。そんな中でも、杏子の耳にはさやかの泣き叫ぶ声が届いていた。

 涙目で叫ぶさやかに杏子は首を傾げて笑いかける。

 

「安心しな。もう無敵さ」

 

 

 

*****

 

 

 

「これでチェックよ」

 

 カチリ。氷の魔女のこめかみに銃口を突きつけ、マミがつぶやいた。

 

「私の負けね。ちょっとー。でも、普通そういうことする?」

「貴女があれだけ追い込んでくれたから、これくらいしか手がなかったんじゃない」

 

 唇をとがらせる氷の魔女に、眉をよせたマミは銃口を外し、ため息を吐く。

 

「それに貴女、全然本気じゃなかったでしょ?」

「失礼ね。あなたほどの相手に対して手を抜くわけないでしょ?」

「……じゃあ、遊びすぎです」

「あは!本当ね!ねぇ、名前を聞いてもいい?」

「巴マミ。正義の魔法少女よ」

「そう。私は氷の魔女……」

 

 自己紹介を済ませ微笑みあう二人だったが。

 

「ん……。さすがにげんかいか、も……」

「あら、ごめん」

 

 へくち!盛大にくしゃみして凍り付く寸前のマミに、テヘペロる氷の魔女だった。




 何某な女神だと思った?残念!どうでしょうでした!



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その19

あ、精神的に負荷のある描写があります!
生命に危機を感じた方は、速やかにサイトを閉じてください!


 てーててってっててーてーててってっててー

 

 炎の宝珠を入手した一行は、氷の魔女の城へと急ぐ。

 

 てれてれてん!

 

 その一行の前に立ちふさがる人影!

 

「山賊だっ!命が惜しかったら、身ぐるみおいていきなっ!」

「ほう、返り討ちだね」

 

 脅しをかけてきた男に、杏子、ダンジョー、さやかが応戦しようと身構える。

 

「……っがうだろっ」

「え?」

「ちがうっていってんだろうぅ!そんなんじゃないだろうぅ!」

「ええ?」

 

 男の否定の絶叫に一行は怯んだ。

 

「いいかっ。あんたらの前には無法者な山賊であるこの俺が現れたんだぜっ?そういう反応じゃ、だめだっていってんだようぅ!」

「……どうすりゃいいのさ?」

「決まってるだろぅ?ここは、あんたらにとって命の危機っ!大事な場面なんだっ。絶望を見せてくれよううぅ!」

「あーこれはあれだ。まどか、まかせた」

「え?私?」

「ああ。なんか最近見たし。こんな感じのやつ」

「そっか。やってみる。いこう!ほむらちゃん!」

「ええっ!私?」

 

 珍しく頼られてやる気をだしたまどかは、ほむらを引きずりつつ男と対峙した!

 

「山賊だっ!命が惜しかったら、身ぐるみおいていきなっ!」

「こんなことってないよっ!い、いのち、いのちだけはたすけてくださいっ!」

 

 刀を振り回す男の前でまどかはしゃがみ込み、よよよ、と絶望に打ち震える。

 

「合格だっ!」

「やったぁ!」

 

 男はまどかにサムズアップ!まどかは喜びに飛び跳ねる!

 

「さて、つぎはそっちの娘だな」

「ほむらちゃん!がんばって!」

「えええ……」

 

 やる気に満ちた男とまどかに迫られながら、ほむらは助けを求めて視線を走らせるが、他のメンバーは巻き込まれないようにとあからさまに顔を背けた。

 

 ――食事の準備ができたムラサキが呼びに来るまで、ほむらは紅天女を目指す勢いでしごかれていた……。

 

 まどか……。恐ろしい子っ!ムラサキはおもわず白目で唸った。

 

 

 

*****

 

 

 

 そんなこんなで夕飯後。恒例の回復タイムとなる。

 カジノで大勝した一行は、炎の宝珠とけんじゃのいしを入手したのだ。けんじゃのいしはアイテムとして使用することにより少量のMPを回復することができ、それによりソウルジェムの濁りを除去することができた。魔法少女達にはなによりの一品だった。

 

 ――キョウコの手柄なんだから、あんたらがそれもっていきな。

 

 カジノ支配人が負けを取り戻そうと吹っ掛けてきても、事情を知っていたムラサキが、けんじゃのいしを諦めず交渉した結果だった。

 

「この和みの時間。恐ろしい呪文を習得してしまった私だよ」

 

 メレブがつぶやく。

 

「なぁ……」

「うん。またどうしようもないやつかもね」

「どんな呪文なんですか!」

 

 呆れ顔の杏子とさやかと対照的に、まどかがグイグイ食いついた。

 

「実はあまりに恐ろしい呪文なので、禁呪として封印しようかと考えていたところさ」

「そんなに……」

 

 メレブの言葉に、まどかは目を見開く。

 

「しかし、これからの厳しい局面には有用になるかもしれない。ってことでサヤカにエイッ!」ぴろりろり!

「えー!また私?勘弁し……ふ、布団が()()()だ!」

「なっ!」

 

 その場の全員に緊張が走る!

 

「って、ええっ?なにヤダー」

「おいおいさやか、その駄洒落はなんだよ?さぶっ」

「ち、違うって!」

「その通り!私の呪文の効果だよ。この呪文をかけられると、駄洒落を言わずにはいられないのさ」

「!」

「言った本人は勿論、周りで聞いてしまった人々すら凍りつかせる恐怖の無差別範囲呪文……、『ドヒャア』の呪文と名付けることにするよ」

「そんな、そんなことって……」

 

 確かにこの呪文は恐ろしいものだった。

 

「で、でも。だからこそ、必要になるかもしれない……」

 

 戦慄に固まるその場で、震えるまどかは決意を固める。

 

「呪文をかけてください!かけてみてください!ほむらちゃんに!」

「ええっ!やっぱり私?」

「えい!」ぴろぴろりん!

 

 呪文の効果によって、ほむらはすくりと立って口を開く。

 

「ま、まどかが可愛すぎて、()()うしよっ()

 

 びゅーーーー!

 

 その言葉から発する冷気に その場の全員が背筋のぞわぞわに身もだえた。

 その時!そのほむらに対峙するようにすくりと立つは、我らが主人公鹿目まどか!

 その瞳は決死の覚悟に煌く!

 

「ほむらちゃんの可愛さこそ、()()()ん級だもん!」

 

 びゅーーーーー!

 

「!」

 

 さらなる冷気に一同が固まる中、ほむらも顔をあげる。

 

「まどかの可愛さには、()()()ーわ!」

 

 びゅーーーーー!

 

「もう!ほむらちゃんのほうが可愛いっていってるのに!()()()ーだ!」

 

 びゅゅーーーーーー!

 

 駄洒落の冷気だけではない。目の前でイチャつかれているようなやるせなさも盛られて、恐ろしいまでの精神攻撃になっていた!

 

「さ、さやか、しっかりしろ!」

 

 倒れているさやかを杏子が揺さぶるが、へんじがない。ただのしかばねのようだ……。

 

「おい、金髪!お前の呪文だろ!あいつら止めろよ!」

 

 ムラサキがメレブに詰め寄る。そのメレブは、白目で泡を吹くダンジョーを揺すっていた。

 

「ダンジョー!しっかりしろ!」

「…………」

 

 メレブの問いかけに意識を取り戻したダンジョーは眉をよせ、裂ぱくの気合で叫ぶ!

 

「る、ルミナス!」

 

 

 

*****

 

 

 

 翌日道中。

 街道にて、エンカウントバトル終了後。

 まどかは胸元でこぶし握りつつ、どきどきしながら倒れたモンスターを見やる。

 むくりと、青い色の水滴型のモンスターは起き上がった。

 

 なかまになりたそうにこちらをみている……。

 

「おいで、おいで!」

 

 まどかは懸命に両手を広げるものの、モンスターはくるりと背を向け去っていく。

 

「えええー!なんで……」

 

 まどかは、がっくり肩を落とした。

 

「マドカ、おぬし……」

「はい。私、まじゅうつかいなんですけど、全然モンスターが仲間になってくれなくて……」

 

 ダンジョーの問いかけに、まどかは力なく答えた。

 

「んんん?」

 

 なにかをいいたそげに、メレブが眉をよせる。

 

「なあ、マドカや。いくつか質問がある。モンスター牧場にいったことは?」

「ないです」

 

 まどかは目をぱちくり。

 

「ふむ。では、馬車は?」

「ばしゃ?ないですよ」

「モンスターロードの登録は?」

「なんですか、それ」

「まじゅうつかいのレベルは?」

「まだ1です……」

「……ふむ。ではこのメレブがマドカの疑問に答えてやろう」

 

 シャフト流法(モード)に首を傾げ、金髪マッシュルームをウザく揺らしながらメレブがポーズをとる。

 

「初期状態でのモンスター登録は三体まで!まほうしょうじょがすでに三体いるから、モンスターの仲間は増やせないの!」

「えええーー!」

 

 メレブによって、すんごい爆弾がさく裂した!

 

 

 

*****

 

 

 

 ……シヒコー!キョウコー!

 

 もくもくと湧いた雲の合間から仏が顔を出した。

 

「まあなんだ。どっちもやるのめんどくさいから、とりあえずお前ら合流しろよ」

「え?」

 

 仏の訳の分からない提案に一行は首を傾げた。仏は顎をくいくい傾げ、視線を誘導する。

 一行の視線の先には二人の人物。

 紫の布を頭に巻き、紫のマントを身にまとった男と、金髪の縦ロールに見滝原中学の制服を着た少女だった。

 

「ダンジョーさん!メレブさん!ムラサキ!」

「あら、みんなもこっちに来てたの?」

 

 二人はそれぞれの仲間に声を掛ける。

 

「ヨシヒコ心配したぞ!」

 

 ヨシヒコ一行はヨシヒコを中心に笑いあう。

 

「…………」

「?」

 

 目の前まで歩を進めたマミは、自分を見て目を見開いて固まっている四人の少女達を不思議な顔で眺めやる。

 

「どうしたの?オバケでも見るような顔して」

 

 マミは片手を頬に当てて首を傾げた。

 

「……ままま、まみさん?ほ、ほんとにまみ……さん?」

「はいはい。ほんとうのマミさんよ?」

 

 マミがにっこり微笑むと、まどかとさやかが表情をゆがめ、感情を爆発させる!

 

「「マミさあああぁーーん!」」

「ちょ、ちょっと……!」

 

 マミは抱き着いてきたまどかとさやかに、もみくちゃにされた。

 あまりの勢いにマミは驚く。

 その後ろの佐倉さんと暁美さんも、泣いている?

 異世界に飛ばされて、よっぽど心細かったのかしら?

 

「よしよし。もう大丈夫よ」

 

 ここは頼れる先輩として、皆を安心させてあげなくちゃ!

 まどかとさやかの頭を撫でながら、マミは大きく頷いた。

 

 

 

*****

 

 

 

「兄様。この合流にはヒサも感無量です……!」

 

 白い布を被った少女が、木陰から涙ながらに覗いていた。




 こっそり、多機能フォーム実験


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その20

「なんだこの野郎、馬鹿野郎!合流したからって盛り上がりすぎなんだよ!」

「おい仏!あっちはほっといてやれよ!」

 

 なんだかおいてきぼりでご立腹の仏だが、少女達の異常なテンションを感じたムラサキがフォローにはいる。

 あの喜びようは尋常じゃない。見ているこっちも泣きそうだ。ムラサキが目元を拭う。

 

「仏!心配かけましたが、なんとか復活いたしました!」

 

 ヨシヒコが明後日の方を向きながら宣言する。

 

「あちゃー。眼鏡的なものがないな……」

 

 メレブが顔をしかめる。この場でメガネ的なものを所持しているのはホムラのみ。

 

「あーもうこれは?」

 

 メレブが提案したのは親指と人差し指で輪っかを作り、目に当てるというもの。早速ヨシヒコはそれを行う。

 

「ん。なんとなく見えます」

「それはいいけど、なんで目を細めて首をふるふるしてんのさ」

 

 首を傾げる仏。

 

「まあ、いいや。おまえらな、魔王ほっぽりすぎなんだよ。このままじゃ世界大ピンチ……あれ?」

 

 言葉を止める仏に怪訝な視線が向けられる。

 

「おい。ちょっと。魔王どころじゃないじゃん。急いで氷の魔女連れ戻せよ!あいつがあそこにいないとあの山、大噴火で世界がマーマレードだぞ!」

「えええ!」

 

 仏の爆弾発言にヨシヒコ一行がひるむ。

 

「すまん、仏。発言の意味がよくわからない」

「だから!あいつは噴火を防ぐために古の契約であそこに居たんだよ!誰よ?あそこから移動させたやつは!」

 

 ダンジョー、メレブ、ムラサキの視線を受けたヨシヒコは、さらにマミに視線を向けた。

 他の四人と違って余裕のあるマミはその視線に気づく。

 

「彼女?ああ、北の方にいってくれるって。村の人たちは喜んでいたわ」

 

 マミがにっこり微笑む。

 

「おっふぅ……」

 

 仏をはじめ、ヨシヒコ勢は発する言葉を失った。

 

 

 

*****

 

 

 

「じゃあとりあえず、おまえらは氷の魔女を呼び戻せよな」

「すいませんが、それはできません」

「はぁ?」

 

 ヨシヒコの返答に仏、ダンジョー、メレブ、ムラサキが目を剝く。

 

「私を救ってくれたマミさんと結婚すると決めたのです。勇者は廃業です」

「おい!」

「もう!それはお断りしたでしょう!」

「私は命を救われた。命には命で返すしかありません。つまり結婚です!」

 

 総ツッコミをくらうもヨシヒコの決意は固い。

 困り顔のヨシヒコ勢の痛いくらいの視線を受けてマミは眉をよせる。

 

「わ、私は正義の魔法少女だから、やっぱり勇者が好み、かな?」

「私は勇者!勇者ヨシヒコ!」

 

 マミの言葉を受けてヨシヒコが大きく頷いた!

 

「じゃあ、そういう方向でよろしくたのむぜ?コッチもたいへんなのよ?bポイントカードの不正引き落としとかあって……」

「まって!まって、仏!それちょっとやばそうだから、マジやめて!」

「ブッダポイントが?」

「うーん。ならセーフ?」

「ねぇ仏!このヨシヒコって人見つけたら、元の世界に返してくれるのではなかったの?」

 

 仏と頭を捻るメレブの会話に、ほむらが慌てて食い下がる。

 

「んん?そうねぇ。そんな話だった気もする。ん、そうだろう?ん、どうだろう?」

 

 首を傾げながらヘンな言い回しで答える仏。なにかのマネなのだろうか?誰の心にも刺さらない。

 

「そういう話なら、もう帰してやれ。この娘達は、ずいぶん助けてくれた」

「ああ、そうだよ」

「うむ。まあ、そうさな」

「まってください。そういうことなら、私もマミさんと……」

 

 ヨシヒコ勢の援護を嬉しく思うも、困惑して顔を見合わす少女達。

 

「えっと、だいじょうぶ、ですか?」

「あたりまえだろう!」

 

 困り顔のまどかに、ダンジョーが笑いかける。

 

「そうだよ!こっちの心配はしなくていいって!」

 

 ムラサキがさやかと杏子を抱き寄せる。

 

「うむ。安心するがよい」

 

 なぜかメレブはほむらの前で、これ見よがしに首を傾げてシャフトポーズ。

 

「私はマミさんと……」

「勇者さんがすきなので!」

「あ、はい!」

 

 マミはにっこり微笑んで、ヨシヒコを完封する。

 

「んー。話は決まったようだな?じゃー杏子達は元にもどすぜ?とぅ!」

 

 仏が手を掲げるとともに、少女達の視界が白くなる……!

 

 ――こうして、長いようで短い少女達の異世界冒険は終わったのだった。




お話はもうちょっとだけ、続くんじゃよ


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その21。最終話上

 季節外れの大型低気圧の接近。

 伝説の超弩級魔女、ワルプルギスの夜襲来を知らせるものなのだ。

 マミ、杏子、さやか、ほむら、まどか。四人の少女は迎え撃つため、静かにその時を待っていた。

 

「それはいいけどさ。ほむらもマミさんも、いい加減にしときなよ」

 

 杏子が呆れた視線をむけた。

 

「駄目よ。これからの大一番にむけて、まどか成分の補給をしているの。邪魔しないでちょうだい。それと、マミさん。邪魔」

「奇遇ね。私も鹿目さんポイントを貯めなくちゃなの。暁美さんこそ邪魔よ」

 

 まどかは左右にべったり抱き着くマミとほむらに挟まれて、ちょっと困り顔。

 

「二人とも、喧嘩はよくないかなって」

「あ、はい」

 

 二人は、まどかの仲裁に大人しく従い、まどか成分摂取と鹿目さんポイントの確保のため、まどかに身を寄せる。

 

 ――色々あったなぁ。

 

 そんなやりとりを横目でみながら、さやかは思いをはせた。

 

 

***

 

 

 戻ってすぐ、ほむらは全員を自宅に呼び出し、全てを告白したのだ。

 あまりの内容に全員が固まる中、一番取り乱したのはマミだった。

 

「待って!暁美さんが時間を繰り返してる?鹿目さんを魔法少女にしないため?魔女になるってなに?ねえ、なにいってるのよ!」

「……!」

 

 ――しまった!マミさん、まだ知らなかったんだ!

 錯乱するマミに慌てる面々。

 

「私は魔女になるの?魔女になって人を襲うの?そんなっ……!魔法少女が魔女になるなら、今まで倒してきた魔女は、私のような魔法少女だったの?私は人殺しをしていたの?わたし、わたし……」

 

 光を失った瞳を見開き、頭を抱えるマミ。歯をガチガチと鳴らしながらブツブツとつぶやき続ける。

 幾度もの繰り返しの中、高確率でこの事実に押しつぶされるマミを知っているだけに、ほむらには致命的に思えた。

 ああ、折角これだけの条件でワルプルギスの夜を迎え撃てるチャンスなのに!

 また……。また、だめなの?ほむらの顔が絶望に歪む。

 

「マミさん、落ち着いて」

 

 錯乱するマミに、まどかが静かに声を掛ける。

 

「魔法少女が魔女になるんなら、わたしっ……!うううっ!」

「マミさん、だいじょうぶ」

「嘘だっ!!」

「嘘じゃないよ。だいじょうぶ。だいじょうぶだよ!」

 

 泣き崩れるマミを、やさしく抱きしめるまどか。頭を撫でながら、だいじょうぶと耳元で繰り返す。

 心配そうに見守る面々に、大丈夫だとまどかは頷いて見せた。

 そう。まじゅうつかいでマミの支配権を獲得している、まどかの『なだめる』は効果絶大!

 そうして一晩中なだめて安心させることにより、まどかはマミを立ち直らせることに成功したのだが、マミはすっかりまどかに依存してしまったのだった。

 

 

*** 

 

 

 長期間行方不明だったマミが現れたことで世間は大騒ぎとなった。マミは学校に呼び出されたり、警察に呼び出されたりと大忙し。

 

「マミさんはしばらく抜きで、私達だけでもワルプルギスの夜に備えましょ」

 

 ほむらの自宅で、少女達は作戦を練る。

 あちらの世界では一週間を超えるほど過ごしたはずだが、戻ってきても時間差は全くなかった。

 ほむらの話によれば、ワルプルギスの夜に見滝原が襲撃を受けるまで、一~二週間といったところ。それまでにできるだけの準備をしなくてはならない。

 まずはグリーフシードの確保。

 けんじゃのいしによって、ソウルジェムの濁りを癒すことはできるが、激戦での回復には追いつくものではない。余裕のあるグリーフシードの確保は絶対条件だ。

 それとメンバーのレベルアップ。

 いままで最終戦闘に参加しなかった、まどかとさやかの底上げだ。まどか自身は無力だが、まじゅうつかいのアビリティを使って、魔法少女の援護が大いに期待できる。

 そして、ほむらの武器調達。

 杏子がまどかとさやかを連れてグリーフシードを集めつつLVアップに励み、ほむらが武器確保に動く。

 方針は決まった。

 

 杏子、ほむら、さやかは、ジョブの恩恵をあまり感じなかったが、まどかのまじゅうつかいLVが上がっていくと効果は劇的だった。

 まどかのアビリティにより、支配下のモンスターにはボーナスが付くのだ。

 そのサポートを実感できればできるほど、まどかの支配力も増すという困った現象もあった。

 マミはますます依存度を深め、ついにはほむらも堕ちてしまったのだった……。 

 

 

***

 

 

「私は応援することしかできないし。皆が無事に戻ってきてくれるなら、なんだってするよ!」

 

 まどかが杏子に微笑みかける。

 

「な、なんだって……?」

 

 ごくり。マミとほむらが唾をのむ。

 

「ま、まどか……?」

 

 さやかは、二人の異常な気迫の高まりにびくりと身を固める。まどか、あんた、とんでもないこといってる自覚あるの?

 

「ありがとう、さやかちゃん!でも、本当の気持ちだよ。皆の無事のためなら、私は全てを賭けてもいい」

「まどか……」

 

 そう。まどかはいつもそう。他人のために自分を犠牲にする事を厭わない。

 つまり、ご褒美無限大!

 ほむらがこぶしを握った時だった。

 どしゃどしゃ!っと、へんな落下音。

 少女達が振り返った視線の先には、ヨシヒコ、ダンジョー、メレブ、ムラサキがもみくちゃに倒れていた。

 

「えっ、どうして……」

 

 そこに懐かしいメンツを確認し、少女達は目を見開いた!



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その22。最終話下

「えっ、どうして……」

 

 そこに懐かしいメンツを確認し、少女達は驚愕する。

 

「まったく、酷い目にあったわい」

「あれ?キョウコとサヤカ?」

「マミさん!」

 

 ヨシヒコ勢がわたわたと起きながら、少女達に気付く。

 

「いやな、魔王幹部の攻撃によって、眠らされているのだ」

「眠らされる?」

「うむ。我々の意識としては、夢の世界なのよ」

 

 ダンジョーの説明に、少女達は首を傾げる。

 

「そう、つまり。起きて、たたかえ。たたかえ!」

 

 メレブが決め顔で叫ぶ!

 

「?」

「あ、いいから。とりあえずちょっと、のっかっただけだから!」

 

 不思議顔のその他に、メレブはドヤ顔だ。

 

「ずいぶん悪い天気だが、皆揃ってどうしたのだ?」

「じつは……」

 

 ダンジョーの問いかけに、まどかは手早くカクカクシカジカと答える。

 

「これから運命の決戦とな?これはいいところに来たようだな」

「えっ?!」

「そうだね。助太刀するよ。碌な恩返しもできなかったからね」

 

 ダンジョーとムラサキがにっこり微笑みかける。

 

「うむ。私の呪文の恐ろしさを目に焼き付けるがよい」

「すみません。それより質問があります。マミさんはなぜにそこまでその娘にべったりなんですか?」

 

 よっぽど羨ましかったのか、ヨシヒコがへんな質問を投げかける。

 

「鹿目さんが、私のご主人様だからです」

「なっ!」

 

 まどかをぎゅうと抱きしめ、自慢げに宣言するマミ。ヨシヒコの顔が驚愕に歪む。

 

「娘!私もあなたの部下になる!マミさんと一緒に!」

「んーちょっと違うわね。鹿目さんは私の飼い主って意味?」

「なんだとっ!」

「ちょっと巴マミ!まどかが困っているでしょう?いいかげんになさい!」

 

 驚愕に固まるヨシヒコの横から、ほむらがマミに食って掛かる。

 

「なんかそっちもいろいろあったみたいだね」

「たはは。そっちはどうですか?」

「こうして罠にはまってるし、順調ではないかな。でもまぁ、ぼちぼちさ」

 

 ムラサキ、さやか、杏子は旧交を深める。

 

「その調子だと仲間とうまくやっているようだな」

「はい!ダンジョーさんのおかげです!」

 

 優しくまどかの頭を撫でるダンジョーに、殺意のこもった視線が飛ぶ。

 

『5』

 

「お、おい、そんな和んでる場合じゃなさそうだぞ?」

 

 異様な気配の高まりをいち早く察知したメレブが緊張する。

 

『4』

 

「娘、頼む!私の飼い主になってくれ!」

「ええっ!ちょっとイヤかも……」

 

 まゆをよせたまどかが、視線を逸らす。

 

『3』

 

「そうそうキョウコ。カジノの伝説になってるぞ?」

「ええー」

「まあ、あの時の杏子は鬼がかってたしね!」

 

『2』

 

「いやだから、もうちょっと真面目になれよ、お前ら!」

 

 めずらしく真面目なメレブが叫ぶ!

 

『1』

 

 ――アハハハハハッ!

 

「ええ?い、いつのまにっ!」

「だから和みすぎなんだよ!」

 

 響き渡るワルプルギスの夜の哄笑に、びくりと反応した面々にメレブの非難が飛ぶ。一同は、異常な圧を発する存在に視線を向けた。

 空中に浮かぶ、ごりごりと回る巨大な歯車。その下に逆さにぶら下がっているのは白い縁取りの青いドレスを纏ったような女性の姿。白い顔には、にまりとした紅い唇のみ。頭部には二本の角か帽子のようなモノが生え、そこに半透明のヴェールを着けている。背後に虹色の魔法陣がゆっくりと回る。

 

 超弩級伝説の魔女。ワルプルギスの夜。それがついに現れたのだ!

 

「でかいな」

「それに空を飛んでいるとなると、我々ではなかなか手がでぬぞ」

「私達が叩き落とすわ。あなた達は、まどかを守って」

 

 ワルプルギスの夜を観察するダンジョーとメレブに、ほむらが手早く作戦を伝える。

 

「だが、なかなかそうもいかなそうだぞ?」

 

 ダンジョーの視線は、ワルプルギスの夜の周りを飛び回る多くの使い魔、影魔法少女を捉えていた。

 

「さて。では露払いといこう。ゆくぞ、ヨシヒコ!」

「はい!ダンジョーさん!」

 

 二人は抜刀し、大きく構える。

 

「「風刃剣!!」」

 

 その振り下ろされた刃から発せられる風の刃!

 息ぴったりに放たれたそれはクロスの形に飛び、使い魔たちを吹き飛ばす!

 

「さあいけ!」

 

 マミのリボンの足場を利用して跳躍するマミとほむら。

 

「さ、力を貸してもらうよ」

 

 杏子は頭の上のカエルのような小竜に声を掛ける。竜騎士のSPアビリティによって、限定的ながら小竜の加護を得ることができるのだ!杏子の頭には角が生え、背中には竜の翼、そしておたまじゃくしの尻尾。竜人と化した杏子は空を飛ぶ!

 

 しかし、撃ち落とすことのできた使い魔は少ない。

 無数の使い魔が、まどか達に襲い掛かる!

 

「ギガデイン!」

 

 ヨシヒコが範囲魔法を放つ!勇者固有の雷魔法が空を切り裂くが、抑えきれない。

 メレブが杖を構えて立ち向かう!

 

「ブラズーレ!」ぴろりろり!

 

 飛び回っていた影魔法少女達の動きが突然ゆるくなる。

 『ブラズーレ』とは、メレブの編み出した呪文のひとつ。ブラがずれてしまってきになってしまう感覚に陥いらせる呪文なのだ。

 魔に落ちたとはいえ、元は少女達。

 こうかはばつぐんだ!

 動きの鈍った影魔少女を、ヨシヒコ、ダンジョー、さやかが迎撃する!

 

「ブラズーレ!ブラズーレ!マハブラズーレ!マハブラズーレズン!」

 

 呪文を連発し、影魔法少女を無力化するメレブだったが。

 

「おい、犯罪者。おまえ、いいから自首してこい」

 

 どう考えてもセクハラ攻撃に、女性陣のムラサキ、さやか、まどかの視線は氷点下だった……。

 

「さて、じゃー気合いをいれるかね!ハッスルハッスル!」

 

 だっさい掛け声とともに、だっさい踊りをはじめるムラサキに、さやかが目を見開く。

 

「なんです?それ……」

「ハッスルダンスさ!仲間を勇気づけるんだよ?」

 

 ムラサキが当たり前の顔で説明する。

 

「すごい!すごいです!わ、私もやります!ハッス……」

「まどかはいいから!まじゅうつかいに集中して!」

「あ、はい」

 

 そうしている間にアタッカー陣は、ワルプルギルの夜のへの十分な接敵を果たす。

 

「みんな、がんばって!」

 

 まどかがSPアビリティを発動!これにより支配下にあるモンスターが大きくブーストアップされる!

 

「杏子ちゃん!『断罪の磔柱』!」

「応!」

 

 まどかの指示により杏子が魔術を発動!ワルプルギルの夜を囲むように無数の蛇骨鞭が伸び、絡み、体に突き刺さる!

 

「マミさん!『ティロ・フィナーレ』!」

「はい!ティロ・フィナーレ!」

 

 動きの止まったワルプルギルの夜へ、マミは出現させた巨大な拳銃での砲撃を行う!

 その弾丸はワルプルギスの夜の胴体を貫通し、多大なるダメージを与えた!

 

「ほむらちゃん!おねがい!」

 

 まどかのオーダーに目を細めるほむら。時間が止まる。

 次の瞬間。ワルプルギスの夜の歯車の上には、無数の丸い岩が出現していた。

 そのモンスターの名は、ばくだんいわ。それぞれがちからをため、一斉に爆発する!

 

 ――アハハッ!アハハ……

 

 無数の爆発によって破壊され、地に落ちるワルプルギスの夜。やはり現代兵器ではなく、モンスターの攻撃は有効だったようだ。

 様子を見守る一行の前で、ワルプルギスの夜は崩壊していく……。

 カチリ。ワルプルギスの夜が巨大なソウルジェムを落とす。ついに雌雄は決した!

 

 

***

 

 

 ワルプルギスの夜との一戦後。ヨシヒコ一行はいつの間にか、姿を消していた。

 眠らされる攻撃から回復したのだろうか?いや、きっとそうに違いない。

 こうして。最悪の夜を越えた少女達に、新しい明日が訪れたのだった。

 

 数日後。

 

 ……ョウコー!キョウコー!

 

 仏の呼びかけがあったりするのは、また別のお話。




 なんとか完走できました!
 おつきあい、ありがとうございました!


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番外編。その1

ごめんなさい。
すっごいくだらないです


 てーってててっててー、てーってててっててー

 

 街道を行くヨシヒコ達。

 

 てれてれてん!

 

 その行く手を阻むように男が現れた!

 

「おいお前ら。食料と有り金。両方!置いて行っても、いい!」

 

 男は両手を振り回しながら絶叫し、キメ☆ポーズで一行をねめつけた。

 

「いえ。渡すものは何もありません」

「いや、ないだろう」

「なんなんだ?おまえ」

「ばーか。すっこんでろ」

「やっぱり、よくないんじゃないかしら?」

「踊らすぞ?おい」

「……」

「やーぜんぜん、いくないみたい」

「うん。よくないかなって……」

 

 一行は男を散々に全否定し、固まる男の横を通り過ぎるのだった。

 

 

*****

 

 

 てーってててっててー、てーってててっててー

 

 街道を行くヨシヒコ達。

 

 てれてれてん!

 

 その前に不審な男が立ちはだかる!

 

「おっと。金と食料を置いていきな!」

「ふん。返り討ちだね」

 

 ヨシヒコ一行が迎撃のため抜刀する。

 

「おおっと、大人しくしな。そうしなければ、俺は俺を斬るぜ?」

「!」

 

 右手に持つ刀の切っ先を、おのれの左腕に当てて、男は不敵に笑う。

 その意図が分からない一行の前で、そのまま腕を斬る。鮮血が飛ぶ!

 

「なっ!」

 

 少女達が目を見開く。

 

「ほらほら。足も斬っちゃうぜ?」

「!」

 

 男の足を滴る血液に、目を見開き口を覆う少女達。してやったりといった顔の男は刀を持ち換え、その切っ先を自らの腹に当てる。

 

「いいのか?斬っちゃうぜ?ほらほら」

「い、いやっ!やめて!」

 

 両手で口を押えたさやかが、大きく目を見開き叫ぶ。

 

「おおっと!うぇー」

 

 まさに斬る寸前、それをやめて男はおどけた。

 

「もう!」

 

 ほむらが悔しそうに苛立つ。

 

「おおっと!斬るよ?斬るよー」

「そ、そんなっ!だめだよ!」

 

 再び刀を腕に当てる男に、まどかが悲鳴をあげる。

 

「おおっと!うぇえー!」

 

 ドヤ顔で再び男は手を止めて、男はふざけた声をあげた。 

 

「なんなんだよ、おい!」

 

 イラっとした杏子が叫ぶ。

 

「さて。止めたかったら金と食料を……」

「てえい!」

 

 ドヤ顔の男に突然ヨシヒコが斬りかかった!

 

「!」

 

 今度こその惨劇に、少女達は目を見開いた。

 

「ぐあああぁ……」

 

 斬られた男は断末魔の叫びをあげつつバタリと倒れた。そして、ぐうすかぴいといびきをかきだす。

 ヨシヒコの持つ伝説の剣、いざないの剣は斬られた者を眠りに落とすものだ。

 

「あーあ。ヨシ君はやっぱり耐えられなかったか」

「まあ、いい頃合いであったろう」

「さ、いこうぜ」

 

 場慣れしたヨシヒコ勢に、取り残される少女達だった。

 

 

*****

 

 

 てーってててっててー、てーってててっててー

 

 街道を行くヨシヒコ達。

 

 てれてれてん!

 

 「ちょっと待ちな!」

 

 その前に不審な男が立ち塞がる!

 その男は丸坊主に髭面、緑の羽織、背中に赤いランドセル。その手には縦笛といった格好だった。

 ヨシヒコ、ダンジョー、杏子、さやか。迎撃のために抜刀する。

 

「まてまて。やるってんならこっちにも準備がある」

 

 男は縦笛を持たないもう片手を上げ、まったをかけた。

 

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……」

 

 男は全身を弛緩させ、だらしない表情で激しく呼吸しはじめる。

 眉をよせ、おもわずひるむヨシヒコ一行。

 

「い、いちおう聞くが、それはなんなんだ?」

「はぁはぁはぁ。これぞ、全集中の呼吸よ!はぁはぁはぁ……」

「でえい!」

 

 問答無用にヨシヒコが斬り捨てた!

 すやすやと倒れる不審者に、少女達は汚物を見るような視線を向けた。

 

 

*****

 

 てーってててっててー、てーってててっててー

 

 街道を行くヨシヒコ達。

 

 てれてれてん!

 

 「ちょっと待ってもらえます?」

 

 その前に不審な人物が立ち塞がった!

 つばの広いとんがり帽子。胸に金色のブローチ。ローブを纏い、浮かんだ箒に横座りする娘だった。

 

「あ、あなたは一体……」

 

 固まる一行の中でも、ヨシヒコが激しく反応!わなわなしつつ、問い掛ける。

 

「魔女の証であるブローチを付け、灰色の髪をなびかせてその美しさと才能の輝きに太陽さえ目を細めてしまう魔女とは誰でしょう?そう私です!ちょっと聞きたいことがありまして」

「いいですよ。結婚しましょう!」

「え?」

「結婚です!」

「ごめんなさい。わけわからないです」

「運命とは、そういうものだそうですよ」

「いやいやいや。あなたに聞きたいのは運命とかでなくてでしてね……」

 

 ヨシヒコと自称魔女のやりとりは、混迷を深めていく。

 

「あれはほっといて、キャンプの準備しよっか」

「はーい」

 

 なれたもので、ムラサキの掛け声に少女達はキャンプの準備を始めるのだった。




本編でいざないの剣オチができなかったのでつい……

ネタがたまったら、また!


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番外編。その2

 ヴァレンタイン編デス!


 ヨシヒコー!ヨシヒコー!

 

 呼びかけと共に、空に黒雲が沸き、その合間から仏が顔をだす。

 

「んー揃ってるようだな。じゃーちゃっちゃとお告げるぜ?」

「待ってください!」

 

 仏の言葉に、パーティーグッズのヒゲ付き眼鏡を着けたヨシヒコが待ったをかけた。

 

「ん。なに?」

「実はマミさんから聞いていたのです。今日、あちらの世界では、女子が男子に食べ物を渡す宴の日だと!」

「!!」

 

 男子の視線が一斉にムラサキに飛ぶ!

 

「は?悪いけど今聞いたんだから、なにもしてないよ?」

「そ、そう……」

 

 あからさまにガッカリする男子陣に、ムラサキはタジタジとなる。

 

「……や。間に合うなら、なんか準備するけどさ?」

 

 おずおずと切り出すムラサキに男性陣はガッツポーズ!

 

「で、なにを準備すればいいの?」

「んー」

 

 ムラサキの困惑した視線を受け、仏は首を傾げる。

 

「んー!なんだかカレーが食べたいっ!」

「!!!」

 

 仏の言い放った言葉に、一同は首を傾げる。

 

「なんだかね。急に食べたくなっちゃった。凄く。今」

「そのカレーとは……」

「ん?カレーはね。日本という国の国民食であり、飲み物という人気の食べ物なのよ」

「ふむふむ。ならば祝いの席で食するのも納得がいくな」

 

 仏の説明にダンジョーは深く頷く。

 

「じゃあ、そーゆーことで!カレー食べてこよっと!」

 

 仏は逃げるように消えていった。

 

「で、カレーってなに?」

 

 ヨシヒコ一行は首を傾げた。

 

 

*****

 

 

 てーっててってっててーてーっててっててててー!

 

 仏のお告げから数日。仏のいうことがまったくもってどうにもならなかった時。一行の前に山賊が現れた!

 

「はいっ!料理おにいさん、りゅうGでーす!」

「!」

 

 前掛けを身に着けたハイテンションの男は、にこやかに話しだす!

 

「ええとね、世間的には今日はバレンタインだからね。気合の至高レシピいっちゃおうかと!」

 

 緊張するヨシヒコ達に、りゅうGは不敵な微笑みを浮かべる!

 

「とりあえず燃料補給いっちゃいますかね?ふふー!」

 

 りゅうGは手持ちのグラスをゴクゴクと呑み出す!

 

「ええと。そのばれんたいんに、特別な料理が必要と聞いたんだけどさ……」

 

 ムラサキの言葉に、りゅうGは眉をよせる。

 

「チョコ以外に?んーなにはともあれ、相手を思いやって、美味しく食べてもらうことが一番かな」

「えっ?」

「お祝いの席での美味しい食事は、なんでも特別なものになるってこと。そういうことじゃないかな。そうして食べてもらえるって、作る側にとってもなにより嬉しいことりゃよ」

 

 りゅうGはそれらしいことをうさん臭く、爽やかに言い放つ。

 しかも酔っぱらって呂律回らず、大事なところで噛む始末。

 

「でえええい!」

 

 ヨシヒコがツッコミとばかりにいざないの剣で斬りかかり、グラス片手に語りまくるりゅうGはそのままぐうすかと寝始めた!

 

「よくわからんが、おそろしいやつだった……」

「ところで、カレーって結局なによ?」

「……」

 

 ヨシヒコ勢は、眉をよせるのだった。 




 あっれ?バレンタイン関係なくない?
 って、なんだかカレーが食べたいっ!っていわせたかっただけ!すんません!
 


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番外編。その3

ホワイトデー特番デス!


「ところで今日はホワイトデーだそうです」

 

 ヨシヒコが切り出した。

 

「ヴァレンタインの返礼として対になるイベントの日、だそうです」

「へー。じゃあたっぷりお礼がもらえるのかね」

 

 ムラサキが、にまりと笑う。ヴァレンタインは女性が男性に食べ物を振舞うイベントとしか結局わからなかった。

 仕方ないのであの日の夕食当番はムラサキとなり、ムラサキが自費で購入した肉によってちょっとしたご馳走となったのであった。

 

「そうですね。いろいろと考えて、これを準備しました」

「ひっ……!」

 

 爽やかにドヤ顔のヨシヒコの両掌にあるものを見て、ムラサキが息を呑む。

 そこにあるのは、山盛りのカブトムシの幼虫だった!

 

「うむ。ヨシヒコから聞いている。儂も準備しているぞ?」

 

 ダンジョーが差し出したものは、極彩色の明らかにやばそうなキノコ。

 

「私はこれだ」

 

 メレブの差し出した根菜は四肢のある人間のようだ。顔のような模様は苦悶の表情を浮かべ「ぉぉぉぉぉぉ……」と、ひたすら呪詛を唱えていた。

 

「おまえら……。それ、とりあえず自分らで食ってみせろよ……」

 

 ムラサキは額に青筋を浮かべ、三人を睨む。

 

「まあ待て。困ったときの神頼みよ。仏に聞いてみよう」

「ほとけー!ほとけー!」

 

 ヨシヒコの呼びかけに黒雲が沸き、その合間から仏が顔をだした!

 

「え、なに?今ゴイスーに忙しいんだけど?」

 

 仏は迷惑そうに眉をよせる。

 

「すまん。これらの食材でご馳走を作るにはどうしたらいいか?」

「えっ?」

 

 あまりの質問に、仏は目を丸くした。

 

「そういうことはリュウジに聞いてよ……」

「それ、誰だよ?とりあえず、さっくりいえよ!」

「君らもたいがい失礼だよね……」

 

 イキるムラサキに仏はあきれ顔。

 

「そーねー。みそ味にして全部ぶちこめば?豆腐と野菜増し増しね?」

「ええ?!まじかよ?って、これ食えるものなの?」

「あのねー仏が嘘つくと思う?って、この顔が嘘ついてる顔に見えるの?」

「………」

 

 きゃわいく目をぱちくりする仏に、四人は沈黙した……。

 

「じゃあね!」

 

 速やかに仏は退場。

 

 しかたないので、仏のいうように食材は鍋にぶちこまれた!

 

 

 

*****

 

 

 

「うっま!」

 

 一口食べたムラサキの第一声だった!

ほかの面々も満面の笑みを浮かべ舌鼓を打つのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

「ぅぅぅぅぅ……」

 

 ――翌日。

 鍋を食べた四人は見悶えていた。

 味はともかく。やはり、人体に害のあるものだったのであろう。

 どこまでも適当な仏への殺意を覚えつつ、四人は苦痛に耐えるのだった……。




すんません
次話で上書きしてたみたいです;


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番外編。その4

 エイプリル特番デス!


 てーってててっててー、てーってててっててー

 

 街道を行くヨシヒコ達。

 

 てれてれてん!

 

「ちょい、まちいなあ」

「!」

 

 その行く手に人影が立ちふさがる!

 左のワンサイドに纏めた色素の薄い長めの髪。三角のたくわん眉に少したれた大きな目。犬歯ののぞく、ふにゃりとした口元が愛嬌のある、おっとりとした感じの美少女だった。

 

「なっ……!」

 

 いざないの剣をいつでも抜けるようにと身構えていたヨシヒコが驚きに目を見開いた!

 娘の胸元が、その豊かなもので大きく盛り上がっていたためだ!

 

「なぁなぁ、おかむらー。今日って、なんの日やとおもうー?」

 

 その娘は楽しそうに微笑みながら、もじもじと問いかけてきた。

 オカムラって誰?ダンジョー、ムラサキ、メレブが首を傾げる横で、「はい!」ヨシヒコがぴしりと挙手をした。

 

「じゃあ、ターバンの君!」

「はい!今日はあなたと私が出会った運命の日です!」

「せやなー。そんでな。うちの村では、ウソをつきあって楽しむ日なんやで」

 

 ヨシヒコの発言を、するりと受け流し娘が続ける。

 

「ほう。それはまた、おかしな風習だな」

「そうだね。嘘をつかれたって、いい気はしないね」

「まったく。この世の理を見渡す賢者メレブに対して嘘を吐くなぞ、愚行としかいいようもないな」

 

 三人はそれぞれ眉をよせた。

 

「あっ!それ、聞いたことがあります!なんでも、マミさんの世界にもエイプリルフールなる日があるとか…」

「せやでー。百年続いた戦争をウソだけで終わらせてしまったエイプリルフール男爵の偉業を称えるための日なんやでー」

 

 記憶を探りながら小さく呟くヨシヒコに、娘が解説を付け加える。

 

「ほう、そのような偉人がいたとはな……」

「うそやでー」

 

 娘の博学さに感心したダンジョーの視線の先。娘は不吉なドングリ眼で佇んでいた!(*´◔σ◔)

 

「なっ!!」

「あかん、あかんでえ?そんなんじゃエイプリルフールを生き抜くことは、かなわへんよ?」

 

 すかさず騙され驚愕するダンジョーに、娘が首を傾げた。

 

「エイプリルフールって、いったいなんなのさ?」

 

 慄くムラサキが目を見開く。

 

「せやねー。とりあえず、発音がちょっとちゃうねー。エウィップ・ウリィ・フゥーッ!正確な発音はこうやねー。さ、いってみー?」

「えっ?えうぃっぷ・うりー・ふー?」

「もっと、ええ発音ださなー」

「エウィップ・ウリィ・フゥーッ」

「ええかんじ!」

「エウィップ!ウリィ!フゥーッ!!」

「その言い方な。うそやでー」

「んがっ!!」

 

 いい発音をしようと変顔になっていたムラサキは、娘の言葉で白目を剥いて固まる!そんなムラサキの横で、娘はどんぐり眼で微笑んだ!(*´◔σ◔)

 

「な、なんて恐ろしい日なんだっ!」

「うむ……。まさに生き馬の目を盗むが如し……。からの圧倒的……如しっ!」

 

 恐怖に顔を歪めるヨシヒコの横で、三角鼻のメレブがざわ……ざわ……と震える!

 

「しかし。将来的にマミさんの伴侶となる私は、こういった風習にも馴染まないと、と思うのです」

「……えっ?」

 

 まだ諦めてないんだ……。複数の呆れた視線がヨシヒコに向けられた。

 

「なので、とりあえずウソをついてみます!」

「お、おう……」

 

 異様に真剣なヨシヒコに視線が集まる。

 

「私は!おっぱいがきらいです!」

「!!!」

 

 いきなりそれ?周りは顔を歪める!

 

「そして!小さくても平気です!」

「!!!」

 

 あからさまなセクハラ発言に、その場に戦慄が走る!

 とくにその言葉をガン見されながら聞いた娘は、さすがに両手で胸元を隠し、眉をよせて目を逸らした。

 

「あ、あんな?私の胸そんな見ると、石になるんやで?」

「なっ!」

 

 ヨシヒコが顔を歪める!

 

「うそやでー」(*´◔σ◔)

「いえ!待ってください!私の体は石に成りつつあります!」

「?」

 

 娘は首を傾げる。

 

「私のここが、石のように……」

「ヨシ君!シャラップ!シャー、ラップ!」

 

 メレブが慌てて、まったを掛ける!

 

 ――駄目だこいつ……。早くなんとかしないと……!

 

 仲間の三人が阿吽の呼吸で飛びかかろうとした、その瞬間。

 

「天啓です!」

 

 突然叫ぶヨシヒコに、三人はびくりと固まる。

 

「今……。大切なことに気づきました。エイプリルフールはウソを楽しみためのものじゃなかったんです!」

「え?」

「ウソをつくことによって、物事を別の角度から見る。本当の自分と向き合う日だったのです!」

「なるほど……」

 

 ヨシヒコは一人、感動に体を打ち震わせていた。

 

「私は今までの自分は愚かだと気づきました!大きいとか小さいとか、色とか関係ない。おっぱいは、等しく素敵なのだと!まぁ、私は大きい方がよいですが!」

「!!!」

 

 ――今までといってることは、同じでは……?

 

 いい話でまとまりそうだったのに、いろいろ台無しだった。

 天を仰ぎ、恍惚の表情でつぶやくヨシヒコに、四人はあっけにとられてしまう。

 感極まったヨシヒコは、人差し指を立てた右腕を上に伸ばしてポーズを決め、雄たけびを上げた!

 

 ポーーウッ!

 

 もちろん左手は股間に添えられている。「ッダ!ッダ!」などと、リズミカルに動きながら爪先立ちになる始末。

 

「ねえ、ヨシヒコ。とりあえずマイケルに百万回謝って?」

 

 いつの間にか現れた仏が、ヨシヒコを半眼に睨む。

 

「とにかくね。そこの娘も聞いて?エイプリルフールはウソを笑う日だけれど、笑えないウソは駄目なの。そう、冗談にならないってことなーのよう!」

「!!」

「ウソを楽しむ日だけれど、だからってなんでもいいってわけじゃないの。ね?幸せなウソでいかなくちゃ。でしょ?」

 

 仏の言葉に、ヨシヒコ達は目を見開いた。

 

「な?だからこそ、さ。いうことがあるだろ?」

「あ、ああ……」

 

 仏は優しく微笑みながら、小さく頷いた。

 

「では……」

 

 五人は目を合わせ、息を合わせた。

 

「勇者ヨシヒコ続編決定ー!!まど☆マギ続編近日公開ー!!ゆるキャン△アニメ三期決定ー!!」

 

 仏、ヨシヒコ、バンジョー、メレブ、ムラサキ、娘の六人が、いい笑顔で思いっきり叫ぶ!

 

 そして。違う世界の、あの娘達の叫びも聞こえた気がした……!

 

「つぎはー願いを短冊に書いて、川に流すんやでー」

「マミさんから聞いています!綿流しですよね!」

「待て待て。その前に上手く折って飛ばして、飛距離を競うのだろう?」

「そうだね。一番遠くに飛んだものをキャッチした者が幸福になるんだってね」

「この風……。少し泣いている……。儀式にはぴったりだな」

 

 ヨシヒコに娘を加えた五人は、わいわいと盛り上がる!

 

「んんん?なんだろう?まって、ねえ、まって?ちょっと?いろいろ?へんだから!ねぇ?」

 

 腑に落ちないで慌てる仏を、五人はどんぐり眼で眺めた。(*´◔σ◔)




 (*´◔σ◔)
 うそいぬこ顔文字、すげー考えたんですけど、どうすっか?

 おっふ。へんな順番になってました……。すんません;

→2021.4.25。10周年記念でまどマギ続編『ワルプルギスの夜の廻天』発表!
→ゆる△キャン映画2022.7.1公開!
→ヨシヒコは監督が2017に「終わり」宣言をしているので、実は残念賞

→と、2021.4.1の段階で、実はかなりの的中率?だったという!(じゃじゃーん!


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番外編。その4。下

ずさー!
エイプリル特番下!


「わあ!桜が満開だよー!」

 

 晴天にひらひらと花弁の散る桜並木に、まどかは目を見開く。

 

「そうね」

 

 そんなまどかにほむらは目を細め、相槌を打つ。

 まどかは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうにくるくると回る。桜色の髪とスカートが揺れる。桜の中でおどけるまどかは、ほむらにはとても眩しくて。

 

「んーみんな、まだかなー」

「あら。まどかに連絡きていないの?三人とも急用だそうよ」

「ええー!」

 

 小首を傾げていたまどかは、ほむらの答えに仰天する!

 

「そっかぁ。残念」

 

 まどかは俯き、溜息一つ。

 

「じゃあ。みんなの分も、いっしょに楽しんじゃおうよ!」

 

 気分を切り替え、顔を上げたまどかは、ほむらに悪戯っぽく微笑んだ。

 

 こうかはばつぐんだ!

 

 まっかな顔をしたほむらは目を見開き、思考停止に固まってしまう!

 

「……暁美さん」

 

 その時。ぽつりと声が掛かった。

 

「?」

「!!」

 

 まどかとほむらの視線の先には一人の人物。

 それは、肩を大きく上下させている、巴マミだった!

 

「暁美さん。よくもまぁまぁ、こんなことしでかしてくれたわね……」

「ん。よくわからないわ?」

 

 異様な圧を発し言葉を発するマミに対し、ほむらは無表情でそっぽを向き、手櫛で髪をなびかせた。

 

「鹿目さん主催のお花見会の連絡に、ウソを混ぜたでしょう!」

「えーっと。情報伝達に齟齬があったのなら謝るわ。それに結果として嘘になってしまったとしても、ね?」

 

 ほむらは首を傾る。

 

「……エイプリルフールとでもいいたいの?」

「世間的にはそうみたいよ?」

 

 怒りに震えるマミに対し、ほむらは目を細め、にまりと笑う。

 

「!!!」

 

 マミの眉が跳ね上がり、その全身が怒気を纏う!

 

「まって!」

 

 一触即発の二人の間に、すかざすまどかがまったを掛けた。

 

「……二人とも、喧嘩しちゃだめっていっつもいってるよね?」

 

 険しい表情のまどかは、二人を睨む。

 

「……私との約束を破ってそんなに喧嘩したいなら、いいよ。私、二人のこと、嫌いになっちゃった……」

「!!!!!」

 

 まどかの肩を落としての呟きで、マミとほむらに激震が走る!

 

「か、かなめさん……?」

「ま、まどか……!」

 

 先ほどまでの臨戦態勢は霧消し、二人はおろおろと、項垂れるまどかを囲む。

 

「…………」

「鹿目さん、ごめんなさい!私、ちゃんと約束守るから!」

「私も!まどか、ちゃんといいつけにしたがうわ!ごめんなさい!」

 

 まどかは「……本当に?」と、二人に視線を走らせ小さく呟いた。

 

「ええ!約束するわ!」

「も、もちろんよ!」

 

 厳しい表情のまどかは、上目遣いに二人に睨む。

 

「もう……!マミさんも、ほむらちゃんも、私のとっても大事な人なんだよ?どんなことがあっても嫌いになるわけないよ。だから……エイプリールフールだからって、あんな嘘つきたくないよ……」

「!!!!」

 

 まどかは涙を流し、唇を震わせる。

 

「ひどい嘘ついて、ごめんね。でも、二人が仲直りしてくれて、よかった。本当よかったよ……」

 

 まどかは固まる二人を抱きしめて、ぐずぐずと泣き続けた。

 

 

*****

 

 

「えっと。たまにはまどかに叱られたいって、あなたの発案だったわよね?」

「ちょっ!賛同したのだし、あなたも一蓮托生の同罪よ!」

 

 正座して向かい合う、ほむらとマミの二人は、深く項垂れていた……。

 

 どこまでも優しいまどかに、たまには叱られてみたい!

 

 そんな二人の思い付きからの企みだった。

 あまりの反応に、エイプリルどっきりを告白するタイミングは失われ。まどかを盛大に騙す結果となった。

 二人は罪悪感に打ち震えていたのだ。 

  

「でも……」

「ええ……」

 

 いつもは見れないまどかの表情。そして、自分達への感情の吐露。

 

 あんなに思ってくれているなんて!

 

 二人は蕩けた表情で、にまにまとするのであった。




サイコレズ達のあとのまつりーよー(つんてけつんてけつんてってん!
ひさしぶりのまど☆マギサイドでした


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番外編。その5

 七夕特番デス!


 てーってて、てっててー。てーってて、てってってー。てろりろりん!

 

「ちょっとまて!」

 

 街道を進むヨシヒコ達の前に、立ちふさがる人物が現れた!

 

「む!山賊か?」

 

 険しい顔のヨシヒコ一行は、臨戦態勢となる!

 

「私は人を捜しているのだ!織姫という女人だ。心当たりはないか?」

「……」

 

 男の必死な問いかけに、ヨシヒコ達は眉をよせた。

 

「すみません。その女性には、心当たりはありませ……」

「なら!一緒に捜してくれよ!」

「!」

 

 ヨシヒコの答えに、男は豹変し叫ぶ!

 

「一年に一回。それも晴れた日だけなんだぞ?たったそれだけしか会うことのできない可哀そうな俺に、協力してくれよー!」

 

 男は涙ながらに絶叫した!

 

「…………」

 

 男のあまりに悲痛な在り様に、ダンジョー、メレブ、ムラサキは眉をよせる。

 どのような境遇かはしらないが、思い人同士が会うことに、それだけの条件を背負わされているのは気の毒に思えた。

 

「それはたいへんだな。私らも協力する……」

「ちょっと、待ってください!」

 

 ムラサキの言葉をヨシヒコが遮った!

 

「うまくいけば一年に一度は出会う機会があるのですよね?それって、恵まれてますよね?」

「ええっ!」

 

 ヨシヒコの力説に、周りが怯む。

 

「私は最愛のマミさんと、いつ会えるかもわからないのですよ?そういうあなたこそ、私に協力すべきです!」

「!!」

 

 理屈からいくとそうなるのだろうか?

 

「待て!ともかく私のチャンスは今日なのだ!人として協力してくれ!」

「ふざけるな!もしかするとマミさんと出会うことのできる、ねこやの扉がでているかもしれない!私の方が優先順位は上だっ!」

 

 男とヨシヒコは睨みあう!

 

「う、うーん。とりあえず、別々に捜せばいいんじゃね?」

 

 めんどうくさくなったのだろう。ムラサキはほっぽっとくことにした。

 

 

 

*****

 

 

 

「兄様……」

 

 そんな剣呑なやりとりをヒサは木陰から覗いていた。

 

「あんなに想われているのですよ?いってあげては?」

「ああいうところがイヤなのよ……」

 

 ヒサの隣の女が、さも嫌そうに首を横に振る。

 ヒサとついさっき知り合った織姫という女人だった。

 

「せっかくの機会のようですけれど、よろしいのですか?」

「そうなんだけど……」

 

 複雑そうな織姫の顔を、ヒサは心配そうに見つめる。

 

「織姫様。差し出がましいかもしれませんが、いわせてください。会いたいと願っても、会うことのできないことが当たり前なのですよ?会うことのできるその機会は、絶対逃してはなりません!」

「…………」

 

 ヒサの迫力に押されてか織姫は小さく頷き、ヨシヒコにつめよる男、彦星へと歩み出す。

 

 星の川輝く夜。多くの人が大切な人と出会えてますように。

 

 織姫の背中を見つめ、ヒサは祈るのだった。

 

「あ、そういえば貴女はいいの?」

「え?はい。私は見ていられるだけで」

「え?そ、そう……」

 

 釈然としない織姫は首を傾げた。 




 あなたのお住まいの土地の天候はどうでしょう?
 場所によっては、たいへんなことになっているようですので、気を付けてください。

→翌日読み返してびっくり。ひどい(汗)。なんかいい話でイケルと思ったらしいです。すいません……。
とりあえずオチっぽいとこ足してみたもののアカン;そのうち差し替えると思います


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番外編。その6

 てーってて、てっててー。てーってて、てってってー。てろりろりん!

 

  ヨシヒコ一行の前に、不審な人物が現れた!

 

「ああん?あんたらどこのモンよ?」

 

 金髪パーマに黒い恰好の若者は、敵意むき出しの視線をとばす。

 

「あ、いえ。私達は魔王を倒す旅の途中でして」

 

 下手にでたヨシヒコの説明に、若者の眉があがった!

 

「はああ?魔王?俺か?俺のことか?俺こそが魔王と恐れられるミツハシというものなのだがな?」

 

 両手をポケットにいれ、これ見よがしにのけ反りつつ、ミツハシはヨシヒコ一行をねめつけた!

 

「なっ!魔王だと?!貴様が魔王なのか?」

「ああ、そうよ!俺様こそが最強魔王!あ!魔王最強?うん。サイキョーマフォー?いやサイキョフマヲォーー!の、ミツハシサマよー!」

「なっ!」

 

 ヨシヒコは驚愕に顔を歪める!

 

「なるほど。この気配、流石の魔王。いや、マフヲォー!」

 

 緊張から額に汗を流し、ヨシヒコは唾をのむ。

 

「いや、ちげーし。明らかにちげーし」

 

 その横で、半眼のムラサキが言葉をはさんだ。

 

「タイラな姉さん。ちげくねーし?あ、ねーし?」

 

 ミツハシは不吉な顔でゆるゆるとムラサキにガンを飛ばす!

 

「ふむ。では仕方あるまいな」

 

 ダンジョーがゆっくりと腰の刀に手を掛ける。

 

「ま、まて!まてまてまってまって?ウィエイト!ウェイト!それ、剣だよね?」

「うむ。勿論そうだが?」

「んー!ええとね。そうゆうのってどうかと思うよ?危ないじゃん?お巡りさんに見つかったら没収よ?ボッシュートよ?ヒトシ君とちゃらららーんよ?」

「あ、うむ?」

 

 ミツハシの勢いにダンジョーは手を止めた。

 

「ほっ。そうそう。いい?だいたいね?魔王には剣とか効かないから!ね?」

 

 困惑に手を止めるヨシヒコ一行に、ミツハシは安堵の息を吐く。 

 

「んー、ごほんごほん。さて。この魔王に対峙したからは、覚悟はできているんだろうな?」

 

 仕切り直したミツハシは、ドヤ顔で不吉な視線を向けた。

 

「勿論です。私は勇者として、魔王を倒す!」

「まってー!まってまってってー!」

 

 厳しい表情で剣に手を掛けるヨシヒコに、ミツハシは慌てて待ったをかけた!

 

「うんうん。がんばってるね!とりあえず、今それはいいからさ!それで、なんか困ってることとかない?」

「ええと、私達は魔王を退治するのに必要な物を求め、ハレオラカウョキ村に向かっているところなのです」

「え!迷ってたの?いってよー!えーと、ここからだと、ああいってこういってねー」

 

 ミツハシは親身に行く先を教える。

 

「ありがとうございます!」

「ふ。困ったときはお互い様……。だろ?」

 

 ヨシヒコはキメ顔☆のミツハシと熱い握手を交わすのだった!

 

「えーっと。なにこれ。なに、このノリ。こんなんでいいの?再放送が面白かったってだけのこんなんでいいの?番宣?これ番宣なの?」

 

 眉をよせたメレブがやたらと金髪を揺らしつつ、首を傾げるのであった。




 →番宣かも?『今日から俺は』の再放送、くそおもしろかったので、つい;

 →→この共演観たかったなって、ヨシヒコ11話に賀来さんでてたらしいです!びっくり!


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番外編。その7

 ハッピーハロウィン!


「ハッピーハロウィン!」

 

 お化けかぼちゃを模した帽子を被ったまどかが、高らかに宣言した!

 マミ宅で行われる、けんじゃのいしを用いてのソウルジェムを浄化させる定例会でのことだった。

 

「すごい。お菓子がこんなに?」

 

 テーブルに並ぶ数々のケーキに、さやかが目を丸くした。

 

「ふふ!今日はハロウィンだし!マミさんと一緒に作ったんだよ!」

「ええ!鹿目さんと一緒に!二人きりで!」

「……」

 

 満面の笑みのまどかとマミ。マミの笑顔は主にほむらに向けられており。ほむらの表情は変わらなかったが、不穏な圧をダダ漏らしていた。

 

「ほむらちゃん?おこってる?」

 

 そんなほむらをまどかは心配そうに見つめる。

 

「……そんなことないわ」

「そっか。驚かせたかったから!喜んでくれると嬉しいな!」

 

 安心したまどかから手を握られ、微笑みを向けられたほむらは顔を真っ赤に染めた。

 

「そうまでして私を喜ばせようとしてくれたのね?私のために!」

「!」

 

 上目遣いなほむらからの視線に、ぴきりとマミの額に青筋が浮く。

 

「まあまあ、そのくらいにしておきなよ。さっさとはじめようぜ?」

 

 あきれ顔の杏子が溜息をつく。

 

「そーそー。折角だし、楽しくやらないとまどかが悲しむよ?」

 

 さやかがさりげなく牽制球を放ち、場を収拾させるのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 そうして楽しい時間は過ぎていき。宴の後。

 

「ふー。食った食った!」

 

 杏子が満足げに息を吐く。

 

「ソウルジェムの浄化も終わったよ!それと、お菓子のお土産もあるからね!」

 

 まどかは預かっていたソウルジェムとお菓子を渡していく。

 

「はい、ほむらちゃん!トリックオアトリート!」

「……」

 

 受け取ろうとしないほむらに、まどかは怪訝に首を傾げた。

 

「ほむらちゃん?」

「……トリック」

「うん?」

「まどか。私、トリックがいいわ」

「え?」

「いたずら、してくれるのでしょう?私がしてもいいのだけれど」

 

 ほむらからのいたずらっぽい視線を受け、まどかは目を瞬かせた。

 

「ふーん。ほむらちゃん、そんなこというんだ?いたずら、しちゃうよ?」

 

 目を細め、にんまりとしたまどかは、ほむらのソウルジェムに唇を当てた。

 

「!!!!!」

 

 それは魂へのキス。と、なるのだろうか?あまりのことにほむらは言葉にならない悲鳴をあげ、気を失ってしまった!

 

「ちょ!ほむらちゃん?!」

 

 まどかは慌ててほむらを抱き留めて、声を掛けるものの返事はなく。ほむらの顔は恍惚に蕩け、びくりびくりと体は痙攣する有様。

 

「ず、ずるいわ!鹿目さん!私も!」

「…………」

 

 マミが慌ててまどかに言い寄る!杏子とさやかは顔を真っ赤にしてソウルジェムを隠しつつ、ドン引き。じりじりとまどかと距離を取る始末。

 

「ええええー」

 

 よもやよもや。あまりにカオスな惨状に、まどかは動揺するのだった!




 まどかサイドがなんだか百合百合しくなってまうー


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番外編。その8。上

 てーってて、てっててー。てーってて、てってってー。てろりろりん!

 

 ヨシヒコ一行の前に、不審な人物が現れた!

 

「…………」

 

 黒と金のツンツン頭に全身黒装束。首から掛けた金色の逆四角錘のペンダントといういで立ち。両手をポケットにいれ、のけ反りつつ敵意ある視線を飛ばしていた。

 

「あの、すいません。通りますので、どいてくれませんか?」

 

 ヨシヒコがその人物に声を掛けた。

 

「……それはできない」

「えっ?」

「それはできないといっている!」

 

 その人物の激しい反応にヨシヒコは目を見開く。

 

「なぜだっ!」

「なぜ?そうそれは……。なぜなら。私がデュエリスト……だからだっ!」

「な、なんだとっ!」

「こうしてエンカウンしたならバトルするしかない。それが運命(さだめ)!デュエリストゆえに。そして勝負に負けた暁には、身ぐるみ置いてってもらう!」

「なんだこいつ。ただの追い剥ぎじゃねえか」

 

 デュエリストの言い分を、ムラサキが吐き捨てた。

 

「まて!まてまてまて!俺は追い剥ぎなどではなくデュエリストだと言っているだろうが!いいか?お互いの全力をぶつけての闘い!それこそが決闘(デュエル)!だからこそ決闘(デュエル)の結果は神聖にして絶対!」

「おお!」

 

 デュエリストの熱い語りにヨシヒコとダンジョーが頷く。

 

「ゆえに!俺が勝ったら身ぐるみおいていけといっているのだ!」

「うむ。それは追い剥ぎ。ただの。うむ。ただの追い剥ぎ。人はそういうのを、すなわち追い剥ぎという」

 

 メレブは呟いた。

 

「否!デュエリストだっ!」

「まーいいや。お前、そーゆー名前の追い剥ぎな」

 

 めんどくさくなったムラサキが雑にまとめる。

 

「では、勝負と行きましょう!」

「ああ!決闘(デュエル)!!」

 

 ヨシヒコとデュエリストの視線はバチバチと火花を散らした!

 

「まずは俺のターン!」

「なっ!」

「俺のターン!いい?俺のターン!」

 

 デュエリストの声に、剣に手を掛けたヨシヒコとダンジョーの動きが止まる。

 

「早いものから行動するものでは?」

「そうじゃない。決闘(デュエル)はターン制!そういうものなんだ!」

「よくわからないけど、わかりました」

 

 ヨシヒコは大人しくターンを待つことにした。

 

「では俺のターン!ドロー!」

 

 デュエリストはいつのまにか左手に肘から手首あたりまでの長さの板を装着。その板からカードを取り出す。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

「では私の番ですね」

「ターン。ターンだ!」

「私のターンです」

 

 デュエリストの迫力に思わず言いなおしつつ、ヨシヒコはいざないの剣の柄に手を掛けた。

 

「まて!まてまてまて!なにやってんだ!」

「なにって私のターンなので攻撃しようかと」

「その剣で?」

「はい」

 

 デュエリストは項垂れて深く息を吐いた。

 

「いい?決闘(デュエル)はデッキで戦うの!そんな危ないものもちだしたら反則!」

「な、なんだとっ!」

「このままだと、そっちの反則負けですー!」

「試合に負けて勝負に勝った的なやつで、やっちゃっていいんじゃね?」

 

 かなり面倒くさくなっているムラサキ。

 

「よくわからぬが、カードを使うらしい。うむ。ならば丁度ほむらから譲り受けたものがある。これを使うがよい」

「あ、はい」

 

 ヨシヒコはメレブからカードの束を受け取った。

 

「ええと。ドロー!」

 

 ヨシヒコはその《UNO》と書かれた黒いカードの束から一番上のカード勢いよく引く!

 

《Reverse》

 

 引いたカードを見つめ、ヨシヒコはわけのわからなさに首を傾げた。そしてなにより。

 

「すいません。カードを置く場所がないのですが……」

 

 ヨシヒコは左手にカードの束、右手に引いたカードを持ち困惑する。

 

「とりあえずこの木箱でいいんじゃね?」

「あ、はい」

 

 ムラサキが蹴り飛ばしてきた木箱の上に、ヨシヒコはカードを並べた。

 

「か、カードを伏せてターンエンド?」

 

 そして、とりあえずデュエリストの真似をしてみた。

 

「ふふ。流石だな。この胸の高鳴り。ゾクゾクするぜ。俺のターン!ドロー!」

 

 デュエリストは引いたカードを横目で確認する。

 

「俺は《モンスターマスターガール》を召喚!」

 

 その宣言とともに、デュエリストの前に桃色ツインテールの少女が出現する!

 

「ええっ?」

「なっ?マドカ?!」

 

 驚きに目を瞬かせる少女と、ヨシヒコ一行。

 その少女はヨシヒコ達の知り合いでもある鹿目まどか、その人であったのだ!

 

 

*****

 

 

「あの娘がくるなら、あの娘も……?兄様。ヒサは心配です……」

 

 その様子を木陰から覗いていたヒサはポツリと呟いたのだった。




「特別なカードを手に入れろ!」

 《モンスターマスターガール》はかなりレアかも!

 


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番外編。その8。中

「《モンスターマスターガール》、アタック!」

「えええ!」

 

 デュエリストの掛け声とともに驚き顔のまどかはヨシヒコへ走り出した。

 ヨシヒコの近くまできたまどかは、ペシペシとヨシヒコを叩く!

 

「ダメージは50!ターンエンド」

 

 ヨシヒコを叩いたまどかはデュエリストの前に戻り、なんだか臨戦態勢。

 

「えええーなんで?ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 それとはうらはらに、まどか本人は困惑の極みのようだ。

 

「むう。どうやらマドカは奴に操られているようだな」

「うむ。ふざけた出オチなヤツと思いきや、よもやよもや」

「くそ!卑怯なまねしやがって!」

 

 そうしたマドカを見つつ、ダンジョー、メレブ、ムラサキは憤りを露わにする。

 

「ヨシヒコ!マドカを傷つけないように解放しろ!」

「あ、はい。とりあえずドロー」

 

 ヨシヒコが引いたカードは《黄3》。

 

「こ、これは……」

 

 ヨシヒコは緊張に強張った顔で手札を見つめ、唾を呑んだ。

 

「私は〈黄8〉()〈黄3〉()〈黄3〉(サン)!ライドでヴァンガード召喚だ!」

「ええっ?」

 

 ヨシヒコが三枚のカードを叩きつけるとともに、やはり驚愕する巴マミが魔法少女姿で姿を現したのだった!

 

「マミさん!」

「鹿目さん?」

 

 突然のことに、二人は混乱状態。

 

「私の嫁がアタック!ターンエンド!」

 

 驚きに目を瞬かせるマミだったが、ヨシヒコのオーダーに従いデュエリストに射撃!多大なダメージを負わせた!

 

「その娘はマドカの友人か?」

 

 やはり突如現れたマミに、ダンジョーは驚きの視線を向ける。

 

「はい!私の嫁で「違います!!」」

 

 ヨシヒコの言葉をマミはキッパリ斬り捨てる。

 

「ふふ。なかなかやるな」

 

 デュエリストはふらふらと体を揺らしつつ、薄ら笑いを浮かべた。

 

「なかなか熱くなってきた!俺のターン!ドロー!《黒の射撃手》を召喚!」

「!!!」

 

 カードをセットしたデュエリストの前、まどかの横。なんとほむらが出現したのだ!

 

「なんてことだ!」

「くっ……」

「あいつ、汚いマネしやがって!」

「うむ。まさによもやよもや。うむ。まさに!よもやよもや!」

 

 少女達を強制的に闘いに巻き込むという卑劣。それも知り合いの少女達だ。ダンジョーとムラサキは怒りに震える。一人メレブは金髪を揺らしつつ、アレに乗っかろうと頑張っていた!

 

「…………」

 

 突然の事にほむらはすばやく視線を走らせ状況を推察する。どうやらまどかと同じ陣営で、対峙するのは巴マミ?その目が細くなる。

 

「……あら?マミさんが私とまどかの敵になるの?……本意ではないけれど、これだと仕方ないわよね?」

 

 ほむらの唇がにっこりと吊りあがった。

 

「あら?そうね。そうよね?とりあえず暁美さんが敵ってことは私も全然本意ではないのだけれど、操られてのことだし仕方ないことよね?」

 

 両手に自動拳銃を構え不吉に微笑むほむらに対し、マミの背後には無数のマスケット銃が浮かびあがった。

 対峙する二人は、にっこりと微笑みを交わす。

 

「ちょ!マミさんもほむらちゃんも、落ち着いて!」

 

 不穏な空気を漂わせるマミとほむらに、まどかは慌てる!

 

「仲間同士を戦わせるとは、なんとゆう卑劣!」

「ちっ!」

 

 一触即発の状態にダンジョーとムラサキは顔を歪ませたその時。

 

「こうして場は整った。俺の勝ちだ!」

 

 デュエリストはにやりと唇を歪ませる。

 

「《モンスターマスターガール》の特殊効果によって、場全ての魔法少女は《モンスターマスターガール》に支配される!」

「ええ!」

 

 それはマミとほむら、どちらの支配権も獲得したというデュエリストの高らかな勝利宣言だった!

 

 

*****

 

 

「んん-!んんんー!」

 

 竹を咥え唸るヒサもそのビッグウェーブにのっかる気満々だった!妹故に!




 すいません。ヴァンガードはとりあえずのっけてみました……。てへ。


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番外編。その8。下

「《モンスターマスターガール》の特殊効果によって、場全ての魔法少女は《モンスターマスターガール》に支配される!」

 

 その言葉の意味にヨシヒコ以外の顔が驚きに歪む!とっさのことでヨシヒコだけは理解が追いついていない。

 デュエルでの攻撃手段は場に召喚されたものの直接攻撃か、特殊な呪文カード。そして場に召喚されているのはまどか、マミとほむらの魔法少女のみ。デュエリストは場を掌握して一気に畳みかけようとしているのだ。

 

「なら!あきらめる必要なんて、ない!」

 

 まどかの瞳が輝く!

 デュエリストの魔法少女への支配権はあくまでまどかを介してのもの。自分へのオーダーが来る前の一瞬を、まどかは見逃さない。

 

「マミさん!ほむらちゃん!あのひとに集中射撃(フルアタック)!」

 

 まどか自身は非力だが魔獣使いとしての経験を積み、非凡なる戦闘指揮能力を開花させているのだった。

 

「「御意!」」

 

 二人の銃口はまどかのオーダーによりデュエリストに向けられ、集中射撃(フルアタック)が開始される!

 

 ダダンダーン!!ドンドカドン!!

 

 …………盛大な銃声の後。もうもうと煙漂う中、デュエリストは下着一枚に四角錘のペンダントのみという姿で、ぴくぴくと体を痙攣しつつ倒れていた。

 

「なっ!」

 

 デュエリストに幾つもの驚きの視線が向けられる。

 

決闘(デュエル)でのダメージは決闘者の服にダメージを与える……。敗北すなわち身ぐるみ剝がされるということなのだ……」

「やっぱり追い剥ぎじゃねえか!サイテーだな?おい!」

「エロゲーか?貴様が脱いでも誰得だが。否、むしろ皆損」

「この画期的システムによって命の危険なく決闘が……」

「やかましい!」

 

 ヨシヒコがすかさずいざないの剣でデュエリストに斬りつけ、速やかに沈黙させた!

 

 

*****

 

 

「ダンジョーさん!」

 

 涙目のまどかがダンジョーに飛びつく!

 

「ふふ!マドカよ!久しいな!」

 

 ダンジョーはまどかを抱き留め微笑む。

 

「ま、マミさん!」

「?」

 

 ヨシヒコも準備万端らしかったが、マミにはなにも伝わらなかった。

 

「えーっと。これは結局どうゆうことなんだい?」

 

 困惑に眉をよせたムラサキが首を傾げる。

 

「いきなりなことで、なにがなにやらさっぱり……」

 

 召喚された少女達は力なく首を振る。

 

「さて。こんな時だからこそ、呪文を思いついていた私だよ」

「「ど、どんな呪文なんですか!!」」

 

 またしてもまったく場違いなメレブの言葉に、ヨシヒコとまどかが激しく反応した!

 

「そう。それはいうなれば、大きな流れの力を取り込む呪文さ。私はそれをそう『ノリナミーラ』そう名付ける事にするよ」

「大きな存在から力を借りる……。素晴らしい!」

「そうして闘いを有利にすることができるんですね!」

 

 ヨシヒコとまどかは阿吽の呼吸でメレブに答える!

 

「な、なに?そのノリ……」

 

 メレブを挟み興奮するヨシヒコとまどかのテンションに周りはドン引き。

 

「「かけてください!かけてみてください!」」 

「「!」」

 

 そこまでシンクロしていたヨシヒコとまどかは、はっと互いに気づき視線を向けあう。

 

「メレブさんの呪文を試されるのは私だっ!」

「ううん!ほむらちゃんです!いつも楽しみにしてるのにっ!」

「いいえ、違うわ。そう、まったく。ねえ、まどか。私はそれいいから。ほんとそれ、これっぽっちのかけらもなくいいから。だからその争いをやめて、譲ってあげて?ね?いますぐ。なう」

 

 ぐぬぬと視線を飛ばすまどかに、ほむらが心からの声を掛ける。

 

「だが安心するがよい。そうしたことも見越した私。そう賢者たるこの私はすでに呪文を唱えているのだよ」

「!!!」

 

 メレブの言葉に場が驚愕した!

 

「うむ。そして安心せよ。まずこの呪文は範囲魔法であるからに全員にかかっている。あとは個人毎によって効果が表れているはずだ。因みに私。私はそう、かなり。かなりのっかっているよ。まさに霹靂」

 

 金髪をうざくサラサラさせたるメレブを見つつ、それぞれが自分を見たり周りを見たりとその効果を調べる。

 

「とくに私はなんともないようです。よもやよもや」

「…………よもやね」

「うむ。わしもだ。よもやの呼吸」

「私もです!あ!よもや全集中!」

「ティロよもや?」

「おまえらいい加減そこらへんにしとけ!よもやの呼吸!一ノ型 よもやよもや!」

 

 ムラサキがとりあえずのっかろうとしだした面々につっこむも、しっかりのっかっていた!

 

 

*****

 

 

「なんとかひと段落っぽいですけど、私達帰れるんでしょうか?」

「ううむ」

 

 心配そうなまどかの言葉に、ダンジョーは腕を組み大きく息を吐く。

 

決闘(デュエル)とやらが終われば元に戻れるはずだが。うむ。それが原因だった故に。うむ」

 

 したり顔でメレブが呟いた。デュエリストは斃され決闘(デュエル)は終わっている、はず。

 

「そういえば、私の伏せカードはこれです」

 

 ヨシヒコが箱の上に伏せられたカードをめくった。すると《Reverse》はトラップカードとして発動し光を放ち、まどか、マミ、ほむらの三人も光輝いた。

 

「む!それは帰還カードであったのか?か?あ!よもや!」

 

 メレブはひたすら金髪を揺らし、説明的なセリフを吐きつつどこまでものっかるの呼吸!

 

「会えてうれしかったです!いつか、また……!」

 

 涙ぐむまどかと二人はそうして消えていったのだった。

 

「うむむ。摩訶不思議な事があったものよ」

「まったくだね」

 

 ダンジョーとムラサキは事態に顔を歪めつつ、マドカ達の帰還を確認し溜息を吐く。

 

「ああっ!折角マミさんと再会できたのに!おいおまえ!なんとかしろ!」

 

 憤慨するヨシヒコは倒れるデュエリストに《UNO》カードを叩きつけていた!

 

「まあなんだ。いうなればまさに、よもや一閃よ。うむ!」

「でもあれよ?新編だと思ってたのに、映画編挟まれてよもやな人多いみたいよ?うん」

「な!仏?!」

 

 どこまでものっかろうとするメレブに答える声。当たり前のようにいつの間にか会話に入り込んだそれは仏のものだった!ヨシヒコ達は驚きの声を上げる!

 

「それよりね、いい?なに遊んでるんだってことなのよ。山賊パートいつまでやってんの?そこはほんのちょっとの掴みのコーナーなわけ。ね?その後の私のお告げパートが本番なのに、ソッチで尺使ってコッチの尺削れるとか本末転倒よ?ねえ?ソッチでそうやっていろいろ呼ぶってんならさ、コッチだって神々呼んだっていいのよ?いいの?やる?やっちゃうの?神VS人類最終闘争(ラグナロク)?!仏だけ徒歩すんぞ?ってなんで仏だけ徒歩?!」

 

 怒りに取り乱す仏にヨシヒコ達は眉をよせる。もっともヨシヒコに至っては視認すらできていない状態。

 

「あーとりあえずおちつけ」

 

 ダンジョーが仏をなだめる隙に、メレブはヨシヒコにほむらから受け取ったパーティーグッズのヒゲ眼鏡を手渡す。

 

「仏。先程の奴は尋常ならざる力を持っているようでした。あれはいったい……」

 

 仏を視認したヨシヒコはまっすぐな疑問を仏にぶつけた。

 

「ああそれね。うん。それはいい質問。すごく。うん」

 

 したり顔の仏は何度も小さく頷く。

 

「そう。あれは魔王の力!この度の魔王は強大な力を持つゆえ、ああやって異世界へ干渉することができるようなのだ」

「な、なんだと!」

 

 仏の言葉にヨシヒコ達は驚愕する!

 

「やつはその強大な力を用いて異世界に配下(トラック君)を送り、様々な世界の住人をこちらの世界へと送り込むとゆう荒業をも仕掛けようとしている。まさに移民を利用した……」

「えっ!それ今すっごい問題になってるやつよね?やめよ?ほんとやめよ?」

 

 仏の言葉をメレブが遮る。

 

「ともかくマドカ達を巻き込まぬように、魔王を斃さねばなるまい」

「ああ、そうだね。しっかし最近、魔王多くね?」

「それもいい質問。うん。我が仏アンテナはさらに強大な存在の気配を感じている……」

「おまえ髪の毛全部ブツブツじゃん。アンテナ的なもの、ねーじゃん?」

「ドーム型なんですー!複数のー!最新のものはそーゆーものなんですー!」

 

 厳しい表情のダンジョー。仏と言い争うムラサキの横で。

 

「マミさんとまた会える!」

「え。なに?これって続くの?それとも劇場版で続く的な?続くの?続けちゃうの?需要あったらって評価を催促?露骨に催促?」

「そこ!だから真面目にやれっていってんだろうがよ!」

 

 それぞれブツブツと勝手なことを呟くヨシヒコとメレブに、仏の怒号が響いたのだった!

 

 

*****

 

 

「ヒサの今日のまかない!」

 

 ヒサはこのタイミングでCパートぶっこむ気まんまんだった!




 『勇者ヨシヒコと魔王の城』は2011~なので、まどマギと同じ10周年!
 2017に完結は宣言されてるものの、勇者シリーズとしてでも復活するといいなぁと思います


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