H×H イル×メル (@れんか)
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ハンター試験
1話 ゾルディック家×ルイス家


 

木々が生い茂る庭に子供たちの声が聞こえている。

太陽は真上に移動し照り付ける日差しから隠れる様に二人の子供たちは木陰に腰を下ろしていた。

 

「イルミはどうしてそんなに強いの?」

プラチナブロンドをした少女メルは美しい黒髪の少年イルミに問う。

「んー、努力?」

 

イルミのその言葉にメルは大きな瞳を更に見開かせて大声で笑った。

「あはは‼その言葉イルミに似合わない!」

イルミは表情一つ変えずに「酷いなぁ」と呟いた。

 

「これこれ、何をしておるんじゃ?」

 

ゆっくりとこちらへ向かって歩いて来たのは生涯現役と書かれた服を着た白髪の老人であった。

メルはその姿を見るなり目を輝かせて飛びついた。

 

「ゼノ様!」

「おぉ、メルよ。修行はどうじゃ?」

「イルミに修行をつけてもらっていたのだけど…やっぱり勝てなくて」

「ハハ、イルミ相手に傷一つ負っていないのじゃから大したもんじゃよ。そう落ち込むでないわい」

 

メルにとってゼノは憧れの存在であった。

殺し屋稼業を生業とする者ならばゾルディック家は誰でも知っている程有名な暗殺一家だ。そんなゾルディック家で、前線に身を置き華麗に仕事をこなすゼノの事をメルは尊敬していたのだ。

 

「どれ、仕事もひと段落したことじゃしわしが見てやろうか」

「いいのですか!」

メルは飛び上がるように喜んだ。

 

「イルミ、お前もじゃ。わしからしたらまだまだひよっこ。教えることは沢山あるわい」

「ふうん、まぁよろしく頼むよ」

イルミもようやく腰を上げてメルとイルミはゼノとの修行に励んだ。

 

修行を始めて1時間が経った頃。

メルは肩で息をしながら「もう無理…」と地面に腰を下ろしていた。

 

「以前よりは格段によくなっておるぞ」

「なんでイルミは立っていられるの?」

するとイルミは平然とした顔でメルを見ていた。

 

「メルは体がまだできてないからね」

「いや、私が10歳でイルミは14歳で4つしか違わないのに!」

「4つも離れてたら流石に違うでしょ」

 

その様子を見ていたゼノはフッと笑みを浮かべていた。

何に対しても関心を示さないあのイルミがメルといる時は楽しそうじゃ。

 

「イルミよ、毎日鍛錬を怠っていない証拠じゃな。そのまま続けるがよい」

「はーい」

イルミはメルに手を差し出した。

「立てる?」

「ありがと」

メルはイルミの手をしっかりと掴み体を起こした。

 

「そうじゃ。そろそろ迎えが来る時間かの?」

ゼノは思い出したかのようにポンっと手をついた。

その言葉でメルは腕時計を見て「あ!」と声を上げる。

 

「早く準備しなきゃまたイリアに怒られちゃう!」

「あぁ、あの女の付き人ね」

 

「そうそう、この後ピアノのレッスンなんだ」

「殺し屋なのに大変だよね、メルのところは」

言いながらイルミはメルの土をポンポンと払う。

 

「まぁルイス家はうちと違って暗殺業一本じゃないからのぅ。全く、手広く色んな所に手を出しまくっているというのにうちとトップ争いをするなんて、大したもんじゃよ」

 

「前までゾルディック家とはずっと競い合っていたんですよね?でもお爺様とゼノ様が大の仲良しで、その頃からこうして時間があれば共に修行をする様になったとか…」

 

「そうじゃな。お前のところのあのくそジジイとは何度か仕事をともにしたことがあるのじゃがその度に何かと突っかかってきてのぅ。暗殺対象者を取り合っておったわい。帰ったらそろそろ引退せぇと伝えてやっておくれ」

 

「フフ、お爺様はまだまだお元気ですからね。引退なんて考えてないと思いますよ」

 

するとメルの携帯が鳴った。

携帯画面を見て、メルの顔はどんどんと青ざめていく。

その様子を見て迎えの者から早くする様に言われたのだろうと想像できた。

 

「もう行きますね!今日はありがとうございました。またお願いします!…イルミまたね」

メルはひらひらと手を振り足早にゾルディック家をあとにした。

 

 

 

 




HHのイルミが大好きなのでイルミ主体の小説です。
*自己満足作品になっています。
文章が稚拙な部分が多数ありますがご容赦ください。
楽しく書いていきます♪


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2話 暗殺者×ハンター

ふと目を覚ますと白い天井が見えた。

窓の方へと視線を移すと朝焼けの光が差し込んでいた。

 

随分と懐かしい夢を見たなぁ。

 

ぐっと背伸びをして起き上がった。

子供の頃は念を習得した時も人を初めて殺した時もいつもイルミと一緒だった。

でも私も一人前と認められてからは一人で仕事をすることが多くなって、イルミとも次第に会わなくなった。

最後に会ったのいつだっけ…?

確か4年前に一度仕事中に見かけたくらいか…、ってそれはあった内に入らないか。

 

そんなことを考えているとコンコンとドアを叩く音がした。

 

「メル様入ります」

 

そういって中へ入ってきたのは緑の長い髪を一つに結い、スーツを美しく着こなしたイリアだった。

イリアは私が起きている事に驚いたのか少し間を置いてから話し出した。

 

「メル様がこんな朝早くに起きられるとは珍しいですね。何かあったのですか?」

「随分と懐かしい夢を見てね。もう少し見ていたかったなぁ」

「フフ、いつもならあと1時間は寝ているのに残念でしたね」

 

イリアは微笑みながら手帳を出した。

「今日の予定ですが、10時からレイモンド氏の依頼が1件、午後からロンド氏の依頼が1件あります」

「あぁ、あの趣味の悪いレイモンドさんとロンドさんね」

 

名前を聞いてメルはため息をついた。

仕事をする上で依頼主のことも調べ上げるけど、この2名は人身売買や人体コレクターであることが分かっている。

この業界にいるから珍しくもないけど、集め方が気に入らない。

生きたまま人間の一部を取り除き、要らない部分は飼っているペットの餌になるとか。

本当に趣味が悪い。でも依頼されたら仕方がない。

 

「二人ともサディスティックな面が有る様ですが会うのは数分です。もし何かメル様に失礼なことがあればこの私が始末致します」

にっこりと微笑みながら恐ろしいことを言い切るイリア。

ルイス家の娘である私に仕える使用人であるイリアは念能力者。それも達人レベルだ。

そこらの人間では歯は立たない。

 

「ありがとうイリア。気持ちだけ受け取っておくよ。さぁ、準備しよう」

メルはシャワーを浴びて髪を一つに結った。

メルの戦闘服は、黒くタイトなワンピースに黒のコート姿であった。コートにはレイス家のカラーである青色のラインが綺麗に映えている。

 

 

10:00

レイモンドとの約束の場所、レストシティのミナミビル地下1F駐車場にメルは現れた。

黒いスーツ姿の男3名は、突然人間が現れたことに驚きを見せた。

 

「お、お前があの…、ルイス家か?」

 

恐る恐る話し出す男は髪をオールバックにしてジャラジャラとアクセサリーを巻き付けている。

依頼主レイモンドだ。

他の2名の男は銀色のアタッシュケースを持っていた。

 

「はい。ルイス家の者です。先に代金をいただきます」

レイモンドは私を見るなり態度を変えた。

「はっ、ルイス家と言うからどんな大男が出てくるのかと思っていたが…お前の様な小娘だったとはな。本当に大丈夫なのか?」

レイモンドのその発言にイリアは鋭い殺気を飛ばした。

 

「ひっ‼」

短い悲鳴をあげるレイモンドを、メルは笑って見つめた。

その瞳は美しい碧眼で怪しく妖艶であった。

 

ぞくぞくと鳥肌が立ち、恐怖感にレイモンドは背筋を凍らせた。

なんなんだっ、ただの小娘なのにっ‼この俺がっ…震えている…‼

 

「私は御覧の通り華奢ですが、貴方も依頼をする時に私の名と実績で選んでいただいたのでは?もし、不安であればこの取引はなかったことにしても構いません」

「いっ、いや、頼むよ。ルイス家に取り次いでもらうだけでも多額の金がかかっているんだ。無駄にはできない」

「そうですか。では、代金の3憶を先に」

 

レイモンドの部下たちはイリアにアタッシュケースを渡した。

「確かに受け取りました。では仕事が終了した時点で一度連絡を入れます。」

「あぁ」

メル達が姿を消すとレイモンドは冷たいコンクリートにドサッと尻餅をついた。

 

「あれは…、本物の殺し屋の目だ…‼」

レイモンドはしばらく震えが止まらなかった。

 

イリアは自身の念能力である”異空間(アナザーワールド)”を発動させた。

「相変わらず便利だね、イリアの能力は」

「メル様の為の能力ですから。お役に立てて光栄です」

 

イリアの念能力”異空間(アナザーワールド)”は、空間を捻じ曲げて作り出す歪みに何でも収納が可能なのだ。

それだけではなく、空間と空間をつなぐ事も可能。

つまり、その空間を通れば一瞬にして人間が移動することも可能なのである。

これを暗殺に応用するならば、殺したい相手を空間の中に入れてさえしまえば時空事引き裂くことも、永遠に出口のない空間へ閉じ込めてしまうことも可能。

これ程有能な能力だ。

もちろんクリアする為の条件がある。

 

1つ目は、忠誠を誓った主の為になること。つまりメルが関係していないと能力を使えない。もしそれを破ってしまえば死。

2つ目は、自分が一度行ったことがある場所でないと空間を繋げることができない。破ると死。

 

 

 

「イリアは先に屋敷に帰っていていいよ。お金はもう手に入ったしね。現金払いを選択された時が一番困るんだよね。あのケース本当に重たいから」

「ではメル様、仕事が終われば連絡していただけますか?近くまで迎えに来ます」

「わかった」

 

 

 

私はイリアと別れて単独でターゲットがいるホテルへと向かった。

レイモンドが依頼してきたのはコレクター仲間の男。

暗殺理由は何とも幼稚なことで、その男と欲しいコレクションが被ってしまい口論になり暗殺依頼をしてきたのだ。

全く…、こんなことで依頼をするなんて。

この世界も終わったものだ。

 

メルは白いワンピースに着替えて男の部屋の階へとやってきた。

誰がどう見てもメルを暗殺者だとは思わなかった。

 

そしてターゲットの部屋の前まで行き、予め用意していたマスターキーで中へと侵入した。

音を消し、絶で気配を断つメルを一般人は認識さえできない。

今回のターゲットは念能力も使えないただの一般人。

その相手に対して自分の能力を出すほどの労力は必要ない。

 

今回はナイフ一本で終わりだね。

 

懐に隠していたナイフを握った。

足をゆっくりと進めた時だ。

「そこにいるのは誰だ?」

 

男の声が部屋に響いた。

「っ!?」

明らかに今入ってきた私に向けられた言葉。

 

私の存在に気付いた?

どうやって?

今回のターゲットは念能力は使えない。

普通絶をしている私に気付ける訳ないのに…‼

 

メルは警戒して瞬時に円を使った。

するとこの部屋には二人の男の姿があった。

しかも一人は念能力使い。それもかなりの腕前だ。

私の円に反応している。

 

「-っ」

一度部屋を出るべきか…?

否、二人とも仕留めてしまえば問題ない。

 

メルは足にオーラを集中させて、通常よりも格段に速いスピードでまずはターゲットの男の首元を狙った。

だがその横にいた男に阻止された。

 

この男から消すしかないか…

 

距離をとり、相手の姿をお互い認識した。

間違えない、一人はターゲットの男。

念能力者の方は、ターバンをぐるぐると頭に巻きたばこを咥えていた。

 

「おぉ、やっぱりお前狙われてるじゃねぇか」

「ひいっ、本当にあんなことで殺し屋を雇うなんて…‼」

「まぁレイモンドのやつぁ昔から短気な奴だったからなぁ」

この状況下で男は豪快に笑う。

 

「すみませんがこちらも依頼を受けた身ですので容赦はできません」

「まぁそうだろうな。でもよ、こいつぁ俺の古いダチでなぁ。昔俺が遺跡の発掘資金を募ってる時に世話になったんだよ」

「…そうですか。それは残念ですね。お別れの言葉を交わしてください。それくらいは待ちます」

「ははっ、あんた殺し屋なのにおもしれぇな!」

「おもしろい?そんなこと始めて言われたけど…」

「あんた、ルイス家のもんだろ?」

 

男のその発言でターゲットの男は悲鳴を上げた。

「ルイスってあの!?」

 

「えぇ」

「それも相当腕が立つやつみたいだ。俺としてもあんたとやりあってただで済みそうにねぇ。どうだ?ここはひとつ取引をしねぇか?」

「取引ですか?…まぁ条件次第ですが」

「はは、ほんと話が早くて助かるぜ」

 

なんなの?この人。

普通、殺し屋を前にこんなに堂々としかも笑いながら話ができるものなの?

こんな人初めてだ。

 

男が出してきた条件は、レイモンドが出した倍の金額を支払うこと。そしてこのターゲットの男を戸籍上消去し完全に別人とすること。つまり私が見逃したことがばれない様にすると言ってきたのだ。

 

「それが可能ならいいけれど、会ったばかりの人にそこまで信用はおけない。ルイス家が見逃したとなれば信用も落ちてしまうからね。残念だけどここで死んでもらうしかないわ」

「それが可能なんだ」

「?」

男は懐からあるカードを取り出した。

 

「これはハンターライセンスだ。俺はハンターだ」

「ハンター…、だから?」

「見てろ?」

男は携帯を取り出したかと思えばスピーカーにして私にも内容が聞こえるようにした。

 

その電話一本で男は役場の者と掛け合いターゲットの男を戸籍上消したことにし、別の新たな戸籍を作ったのだ。

それもたった数分のうちに。

「あなた…何者なの?」

「俺は遺跡ハンター。二つ星なんだぜ?」

 

ハンターという職業は表の世界では権力と決定権を持つものなの?

遺跡ハンターってことは各地の色んな遺跡を旅してまわって調査しているのかな。

他にも色んなハンターがいるってことだよね?

うぅ…知りたい…‼

 

メルは女の身でありながらルイス家の顔ともいわれる程上り詰めたのには理由があった。

それはどん欲なまでの『知識欲』‼

自分が知りえないことはすべて調べつくすまで気が収まらないのだ。

 

そして今未知の世界に身を置く男が目の前にいる。

それもかなりの実力者だ。自分も極めた念能力に対してもかなりの知識と経験があるこの男にメルは興味を惹かれていた。

自分の中で高鳴る思いを必死に抑え込み、あくまでポーカーフェイスを崩さない。

 

「ルイス家の名が汚れず報酬も倍額頂けるならこちらとしても何も言うことはないです。後日、この口座に6憶、振り込んでおいてください。7日目になった瞬間、その男は必ず消します」

「ハハッ、6憶な?」

男はメルから口座がかかれた紙切れを受け取り、携帯を操作して6憶を振り込んだのだった。

 

6憶って大金だよね…?

そんなお金ポンっと他人に支払えるんだ、この人。

その行動を見てポーカーフェイスを崩さなかったメルは口角を上げて笑った。

 

「あなたみたいな人間もいるのね」

「あぁ、この世界は広い。俺みたいなやつは沢山いる。お前はどうやらまだ世界を知らないようだな」

「そんなに楽しいの?ハンターの仕事は」

男はハンターの話をする時よく笑っていた。

殺し屋と対面しても笑えるなんてやっぱり凄いことだよ。

 

「あぁ、すげぇ楽しいぜ。俺はジン・フリークス。待ってるぜ、メル・ルイス」

「!」

男はそう言ってターゲットの男と共に姿をくらませた。

 

「私の名前知っていたんだ」

メルは「ふぅ」と一息つき、後ろにあったベッドにもたれかかった。

 

携帯の電源を入れて依頼主のレイモンドへと繋ぎ、ターゲットを始末したと伝えた。

「まさかこんな方法で逃げられるなんてね。…はぁ~、何があるか分からないな」

ハンターか。

少し知らべて見ようかな。

 

それから数分後イリアが迎えに来てくれてそのまま私は次の仕事へと向かった。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 




メルの挿絵挿入しました。
ちなみにメルは美人設定です。
思うように描けなかったのですが雰囲気はこんな感じ。
挿絵は練習着を着せています。
裏設定でイルミから貰ったものです。


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3話 兄×兄

私はあのジン・フリークスという男に会ってからハンターについて調べた。

調べつくしたけどジン・フリークスというハンターについての情報は本当に少なかった。

ルルカ遺跡の発掘、二首オオカミの繁殖法の確立などの功績は出てきたが詳しくはどこにも記されていなかった。

おそらく、閲覧制限がかけられている。

 

「あ~、知りたい‼知らないことばかりで気になる‼」

メルはベッドの上でパソコンや本を広げてゴロゴロと転がった。

その様子を見ていたイリアは深いため息をつくのであった。

 

私の主人は20歳にしてこのレイス家の顔と言われるほど優れた暗殺者。

仕事の依頼はあのゾルディック家とも引けを取らない。

尊敬し忠誠を誓った主が今‼ハンターに魅了されている‼

これは有識事態だ!

 

「あ~気になる‼ハンター気になる‼」

メルは相変わらずベッドで転がりながら本を読み漁っていた。

 

見かねたイリアは耳につけている無線で他の部下へ指示を出した。

「こちらイリア。メル様はまだハンターについて知らべておられる。ハンターはなかなか奥が深い職業だ。一から全部知らべているときりがない。メル様の興味を薄れさせるために早くハンターに関する書類をまとめ上げろ‼」

 

別のところで部下たちは総出でメルに捧げる資料を徹夜で作り続けていた。

ルイスの使用人ともなれば様々な教養が備わっていないと付けず、特に優秀なメルの使用人達が本気を出せば何とも分かりやすくハンターについての魅力を語った参考書類が出来上がったのであった。

 

それから数日後。

メルはある考えに至ったのだ。

 

よし、ハンター試験を受けよう‼

 

不覚にもイリア達の労力はすべて水の泡となるのであった。

 

ハンター試験を受けるにはまず申し込みをしなければならない。

その申し込みをするにもなかなか一人で外へは出られる環境では無い。

必ず協力者が必要なのだ。

 

 

「…ラルお兄様しかいない‼」

 

 

ルイス家にはメルの他にも兄弟がいるのだ。

長男、エル・ルイス。次男、ラル・ルイス。

長男のエルは暗殺業に身を置き、メルと共に数々の仕事をこなしている。

次男のラルは、ルイス家が手掛ける多くの企業の副取締役代表を務めているのだ。

 

エル兄様と違ってラル兄様は暗殺業以外の職業について明るい。

きっと私を応援してくれる筈‼

 

メルはラルの部屋のドアをノックした。

「どうぞ」という声を聞いてから、ドアノブに手をかける。

 

重厚感のある扉の向こうには、本棚が何重にも立ち並ぶまるで図書館の様な部屋であった。

所々に趣味の観葉植物が多く置かれている。

背の高い男は、窓際にあるディスクに座り、本を片手に碧眼の瞳の中にメルを映していた。

プラチナブロンドの長い髪を一つに束ね、最愛の妹を見るなり目を細めて笑みを見せている。

メルと同じく美形のその顔は、そこらの女性より色気があり美しい。

 

「おや?どうしたんだい?」

ラルはパタンと本を閉じた。

 

 

「ラル兄様…、実はお願いがあって…」

 

 

そういうと、ラルは右手を口元に当てくすくすと笑っていた。

メルの頭の中には「?」が浮かぶ。

 

「ごめんごめん、そろそろ来る頃だと思ってね」

「何をお願いしようとしていたか分かっているの?」

 

するとラルはメルをしっかりと見据えて「ハンター試験の事だろう?」と言ったのだ。

 

メルは驚き目を見開いた。

「え!?なんでわかったの?」

 

「僕の所にもメルがハンターに関心があるって情報は届いているよ?それにあれだけ使用人が毎夜資料を作っているんだから誰でも分かるよ」

言い終わるとまたクスクスと笑う。

 

「笑いすぎです兄様!私真剣なんです!ハンター試験を受けてハンターの資格を取りたいの。ハンターになって自分が知らない世界を見てみたいの!それにハンターライセンスがあれば普段行けないような場所での依頼も可能だし、ちゃんと仕事にも活かせるから……お願いします!」

 

頭を下げると、コツコツと足音が近づいてくるのが分かった。

すると温かい大きな手がメルの頭に置かれた。

 

「いいよ。行っておいで」

 

優しく頭を撫でるラル。

メルは、そんなに簡単に許しがもらえるとは思ってはいなかった為ぽかんとした表情でラルを見ていた。

 

「なんて顔してるの?メルが真剣なのは分かっていたよ。行くからには必ずライセンスを取ってくるんだよ?」

「……はい!あ、エルお兄様には内緒にしてね?バレルと凄く怒られそうだから……」

 

「はいはい、分かっているよ。申込日に間に合うように、5日後に屋敷を出ようか。僕の念能力”目に見えない行為(インビジブルアクト)”で姿を消して屋敷を一緒に出てあげる」

「ラル兄様ありがとう~‼」

 

メルはラルに抱き着いた。

ふわっとラルがつけているシプレの香りが鼻をくすぐった。

 

「はいはい。じゃぁちゃんと準備しておくんだよ?あ、そうだ。仕事の依頼はどうにかして振り分けておくから試験中は仕事のこと忘れて精いっぱいやっておいで」

 

流石ラルお兄様‼

本当に頼りになる‼

メルは鼻歌を歌いながら自室へと戻った。

 

メルが出ていくと本棚の後ろに隠れていた、ラルと同等の背丈の男がゆっくりと姿を現した。

黒いスーツを着て、プラチナブロンドの髪をオールバックにしている。鋭い青の眼光はラルを捕らえていた。

 

その姿を見るなりラルはブッと噴出すように笑った。

「メルってば兄さんがいることに全く気付いていなかったね!」

腹を抱えてケラケラと笑うラルを見て、長男エルは深いため息と共に瞳を閉じた。

 

「暗殺者としてなっていない。まだまだ未熟な証拠だ」

「でもハンター試験を受けに行くことに関しては賛成なんでしょ?兄さんにしては珍しいよね」

「大事な妹だ。たった一人では行かせんよ」

 

 

その発言にラルは笑いを止める。

 

「もしかして……、ついていくつもりじゃないよね?それ、メルが知ったら相当嫌われるよ?」

真剣な顔でやめておけと言うラルに対してエルは再びため息をつくのであった。

 

「俺じゃないよ」

「?」

 

 

誰か知り合いが今回の試験受験するのか?

兄さんがメルを任せる程の人って誰だろう。

相当な実力者だと思うけど…?

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 





挿絵にエルとラルのラフ画挿入しています。
よければご覧下さい♪
ルイス家の兄妹は美形設定なのでイケメンに描くのが大変でした。
もう少し描きこめば良かったのですが……時間が足りませんでした。
とりあえずUpです。
小説投稿しながら画力も徐々に上げていきます!


ようやく本編のハンター試験へメルが挑戦します。
次から原作沿いになっていきます!






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4話 メル×ハンター試験×危険

メルは5日後、予定通りラルと共に屋敷を抜け出した。

共に向かったのはザバン市。

定食屋さんの前までやって来ていた。

 

「ここが今年の試験会場みたいだね」

「こんなお店でどうやって試験するのかなぁ」

 

「フフ、まぁ行ってみれば分かるよ。メル、約束事覚えてるかい?」

「人は殺さないこと、目立たないこと、死なないこと、ですよね?ちゃんと覚えてます!」

「よろしい。じゃぁ気を付けて行ってくるんだよ?試験が終わったらちゃんと迎えに来るからね」

「ありがとう兄様」

 

凄く多忙なのに半日も私の為に時間を割いてくれた。…しかもお迎えも来てくれるって…。本当に優しいな。

よし!必ずハンターになって一番に報告しよう!

 

メルはラルと別れて、一人定食屋へと足を進めた。

この距離からでも分かる濃いソースの匂いはメルの空腹感を呼び覚ました。

「そう言えば…、朝早く出たからご飯あまり食べられなかったんだった」

おなかすいたなぁ。

 

そんなことを思いながら扉を開けると、パチパチと油が弾ける心地よい音が聞こえてきた。

「わぁ、おいしそう」

「お嬢さん、一人?」

厨房に立つ小太りの男はメルに尋ねた。

 

「はい、一人です。奥の部屋開いていますか?」

その言葉で男の目つきが鋭くなった様な気がした。

 

「ご注文は?」

「目からうろこが落ちるようなステーキ定食一つ!一人前!」

「焼き方は?」

「弱火でじっくりことこと飽きるまでお願いします」

「あいよ、奥の部屋どうぞ」

 

毎年数百人と希望者がいる試験を受けるには最初の段階で振るいに掛けられる。

この情報をいかに入手するか、既に試験は始まっている。

 

通された奥の部屋には中華テーブルがあった。

仕方なく椅子に座ると数分後においしそうなステーキがやってきた。

 

ガーリックの良い香り!

焼き方も注文通り完璧!

「いただきます」

 

メルは躊躇なくかぶりついた。

と、同時に部屋ごと下の階へと下がっていく。

 

なるほど、エレベーターになっていたんだ。

ん~それにしてもおいしいお肉。

メルは急いでステーキを飲み込んだ。

 

動きが止まると壁が開き、そこには大きな空間が広がっていた。

既に何人もの受験者が集まっていたのだ。

 

わぁ、凄い!

こんなに人数がいるんだ!

にしても…、皆からの視線が痛いな。

 

メルは目立たない様に黒い帽子を深く被った。

すると目の前に緑色の豆の様な形をした者が丸いナンバープレートを手渡してきた。

 

「はいどうぞ。必ず胸につけて紛失しない様にお願いいたします」

それだけ言うと豆さんはどこかへ歩いて行った。

 

私のナンバーは450番。

豆さんに言われた通り胸につけた。

 

すると青い服を着た小太りの男が近づいてきた。

「?」

「やぁ、見ない顔だね。僕はトンパ」

「初めまして」

「僕はもう35回も試験を受けているんだ。まぁ、試験のベテランというやつさ!」

 

35回‼

そんなに試験を受けているんだ…。

試験のベテランって…うーん、あまり威張れることではないけれど…

それだけハンターになりたいっていうことだね!

それは私も同じだ。

 

「わからないことがあったら何でも聞いてくれ」

「ありがとうございます。私はメルです」

「メルちゃんかぁ。かわいい名前だね」

 

 

話をしていると、すぐ近くで男の叫び声が響き渡った。

「うわぁああああああああああああああ‼」

同時にここら一体に体の芯まで震える程のオーラが放たれた。

メルはすぐに反応して人が集まっている場所へと向かった。

 

そこにはピエロの様な服を着た男が立っている。

「あら不思議。腕が花びらとなって消えちゃった。気をつけようね?人にぶつかったら謝らなくちゃ」

最後ににっこりと笑っていた。

 

あの人念能力者だ!

なんてピりついたオーラなんだろう。

 

「あいつは奇術師ヒソカさ。今年もヤバい奴が紛れ込んだな」

「今年も?」

「去年合格確実と言われていたけど試験監督者を半殺しにしちまってね」

「ヒソカ…」

気を付けないと。

 

そう思っていると、ヒソカはちらっと私の方を向いていた。

「!」

いけない、念能力に反応してオーラを出してしまった。

 

目が合ってしまった…。

咄嗟にガードしたからって変に興味を持たれては困る。

メルはすぐに絶をして人ごみに紛れた。

 

目立たないことを約束に連れ出してもらったんだから気を付けないと…。

 

姿を消すことに夢中で意識せずに歩いているとコツンと硬いものにぶつかった。

「-いた…」

鼻をさすりながらぶつかったものを見ると、針が大量に刺さったカタカタと奇妙な音を立てている男にぶつかっていたことをようやく認識した。

 

こ、この人も変だ‼

にしても…、いくら意識していなかったといえど私が人にぶつかるなんて。意図して存在感を消していたに違いない。それも絶の達人レベルの…。

「やぁ」

「ごめんなさい、前を見ていなくて」

「いいよ別に」

 

話してみると…普通だな。

見た目ほど怖い人ではないのかな?

 

「君、絶がうまいんだね。近くに来るまで気がつかなかったよ」

「貴方の絶も凄いわ。前を見てなかったと言えど下手な絶なら見ないでも避けられるのに気が付かなかった。相当な念の使い手なんだね」

「…まぁね」

 

まぁねってこの人…。余程自信があるのね。

やっぱり少し変わっているかも。

 

「じゃぁ私はこのまま人ごみに紛れるから」

「なんで?」

「ピエロみたいな人に目を付けられない様にする為だよ。貴方も気を付けてね。あの人挑発する様にオーラをぶつけてくるから」

「あぁ、あいつは俺の協力者だよ」

「へ?」

 

予想外な言葉につい間の抜けた声が出てしまった。

「きょ、協力者?…仲間のことを悪く言ってしまってごめんなさい。私には関わらないでって伝えておいて欲しいな」

「んー、伝えるだけならいいよ」

「ありがとう!貴方とは仲良くなれそう!じゃぁね」

 

メルは早々にその場から立ち去った。

すると針男のすぐ後ろから「妬けるなぁ」と言いながらヒソカがやってきた。

 

「聞いていたんだろ?関わるな、だってさ」

「そんなの無理無理。あんなに洗練されたオーラはそういない。いい玩具が見つかった♢今回は退屈せずに済みそうだよ♡そんなことより、君も少し興味を持っている様だけど?」

「んー、少し気になることがあってね」

 

「気になること?」

「うん。もしかしたら知り合いかも」

「え?そうなの?同業者とか?」

「合ってたら、そうだね。同業者だよ」

「ふぅん、益々興味が湧いて来たよ♡」

すると針男はグリンっと首を曲げてヒソカを見た。

「ヒソカ、あの子の正体がわかるまで手は出してはだめだよ?」

「はいはい♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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5話 長距離走×友情 

RRRRRRRRin

けたたましくベルの鳴る音が鳴り響いた。

「大変お待たせいたしました。ただいまをもってハンター試験受付時間を終了いたします。では、これより、ハンター試験を開始いたします!私はサトツ、試験官を務めます」

紫紺のスーツに身を包んだ試験官が現れると同時に大きな石の壁が開いた。

 

「最終確認です。この試験は運が悪かったり実力が乏しかったりすると大怪我をし、最悪死に至ることもあります。それでも構わないという方のみ、私に付いて来てください。そうでない方は後ろのエレベーターから速やかにお帰り下さい」

 

ここで帰ったら来た意味がない。

あたりを見渡すも誰も微動だにしない。

…やっぱり誰も帰らないよね!

 

「承知しました。第一次試験、457名全員参加ですね」

そう言うとサトツはクルッと方向転換し、前へと歩き出した。

 

サトツさん…

ハンターについて調べ上げた時に名前があったな。

確か…、遺跡ハンター。

ジンさんとも仕事をしたことがあるとか…。

話聞きたいなぁ。

 

メルはワクワクしながら歩いた。

ん?…普通に歩いているように見えるけどサトツさん足早いな…。

走らないと追いつけないな。

 

「言い忘れておりました。私は今から貴方たちを二次試験会場へ案内します。」

二次?じゃぁ一次試験は…?

 

「一次試験は、二次試験会場まで私について来ること、それが一次試験です」

サトツさんの説明に受験者たちはざわついた。

「場所や到着時刻はお伝え出来ません。ただ、付いて来てもらいます」

 

どこまでついていけばいいのか分からないということは身体的、精神的にもかなり負担がかかる。

なるほど、なかなか面白い試験だね。

…私は念を足をに集中させて滑る様に走っているから殆ど疲労はないけれど他の受験者たちはこの試験かなり堪えるだろうな。

 

試験開始から二時間。

受験者たちが走った距離はスタートから30㎞を超えていた。先の見えない単調なコースが数名の脱落者を出していた。

 

「コラ待てガキィイイ‼てめぇハンター試験舐めてんのか!?」

後ろの方で男の怒鳴る声が聞こえてきた。

ガキって…、子供も参加しているのかな?

 

メルはスピードを落として声のする方へと向かった。

「そのスケボー反則だろ‼」

眼鏡をかけた叔父さんにスケボーに乗ってる男の子が絡まれてたってわけね。

…って、あの子…‼キルア…!?

 

昔、キルアの修行を私はよく見ていた。

キルアは慕ってくれていて、新しい技を教えてってせがまれたっけ…。

大きくなったねキルア。

 

キルアはすぐ近くにいる男に声をかけていた。

 

 

キルアとよく似た年頃の子もいる。

キルならこの試験クリアできると思うけどあの子はどうだろうか。

子供にとってはこの試験は少し過酷すぎる。

せっかくハンターになりたくてここまで頑張ってきたのになんだか可哀そうだな。

バレない様にサポートできたらいいのだけど…。

 

 

「ねぇ、そこのお姉さん。さっきから何?人の事じろじろ見て」

「あー…」

 

見すぎた…。

この際ばれてもいいか。

私の髪の毛の色は珍しいけどこの状況下で他人の事に意識なんていかないよね。

つまり、目立たない、よね?

 

メルは自分に言い聞かせる様に繰り返して、帽子をとった。

ふわっと長いプラチナブロンドの髪が靡く。

その姿を見てキルアは目を大きく見開いた。

 

「メッ、メルゥウウ!?」

「久しぶりキルア」

「久しぶり、じゃねぇ‼ルイス家がなんでここに付き人も無しにたった一人でいるんだよ‼」

「それはキルアだって同じじゃない。それに私に護衛なんかいらないよ」

「ま、まぁメルの強さなら護衛は必要ないのかもしれないけどさぁ。~ったく、驚かせてくれるぜ」

「はは、私も驚いたよ。まさかキルアに会えるとは思わなかったからね」

メルは久しぶりのキルアが可愛くてついつい頭を撫でまわした。

 

「メ、メルっ。俺もうそんなガキじゃねぇよ」

少し照れた顔でこちらをみるキルア。

 

可愛い‼

私に弟がいればきっとこんな感じなんだろうな。

 

「キルアの知り合い?」

ひょこっと顔を出して来たのは先ほどキルアと喋っていた子供だった。

するとキルアが紹介してくれた。

「あぁ、この人は一時期俺の修行の師匠をしてくれてたメル。そんで、メル、こいつはさっき知り合ったゴン。俺たち同い年なんだ」

「そうなんだ、よろしくねゴン」

「こっちこそよろしく!メルさん!凄く綺麗な人だね」

「わぁ、ありがとう。私の事は呼び捨てでいいよ」

「本当?ならメルって呼ぶね」

「うん!」

 

一気に二人も弟ができた気分だった。

するとすぐ横にいた眼鏡をかけた叔父さんはゴンに「おい、俺も紹介しろよ」と呟いていた。

 

「メル、俺の仲間も紹介するよ。こっちはレオリオ。医者を目指しているんだ。」

「よっ、よろしくな!メルちゃん!いや俺も呼び捨てで呼んでもいいか?」

「いいよ、宜しくねレオリオ」

 

「それでこっちがクラピカ!」

「…よろしく」

「よろしく、クラピカ」

 

クラピカはメルを見て少し考えこんでいる様子だった。

それに気づいたゴンはクラピカの横を走った。

 

「どうしたの?クラピカ。さっきから難しい顔しているよ」

「あぁ、メルというあの女性。外見がルイス家の一族の者と一致するんだ」

「ルイス家?」

 

「ゴンは知らないのか?世界中で様々な事業を展開している大富豪さ。裏では暗殺業もしているという噂もある。ルイス家の一族はクリスタルの様な美しい髪をしており瞳は宝石の様な碧眼。肌は陶器のように白い。その3つが特徴として挙げられているんだ」

「わぁ!それって全部メルに当てはまるね!」

 

ゴンはその話を聞いてそのままメルに聞き返したのだ。

「ねぇ、メルってルイス家の人?」

 

クラピカはため息をついてゴンを見ていた。

自分から名乗らなかったということはあまり知られたくないということ。

ゴン…、少し無神経すぎるぞ。

 

メルは少し驚いた顔をしてすぐに「えぇ、そうよ」と答えた。

「やっぱり!」

するとレオリオが口を大きく開けて驚いていた。

 

「ルイス家っていやあの大富豪の一族じゃねぇか。なんでまたこんな試験に!?」

「ん~、仕事中にあるハンターに出会ったんだ。そこで自分が見てきた世界がいかに小さかったか気づいたんだ。私はもっと世界のことを知りたい。それにはハンターライセンスが必要なんだ」

 

「ふぅん、結構ちゃんとした理由じゃん」

キルアはスケボーに乗りながらメルを見た。

「分からないことは一から全部知り尽くしたい性格だからね。…それより、キルアさっきからいいモノに乗っているね」

「あぁ、これか?メルも乗る?」

「いいの?」

 

私はひょぃっとジャンプしてキルアの後ろに飛び乗った。

肩に手を置いて片足で地面を蹴った。

「わぁ、快適だね」

「だろ?じゃぁ俺たちちょっと先に行ってるわ」

「皆、また後でね」

メルはゴンたちに手を振って先頭集団へと加わった。

 



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6話 自然の掟×ヌメーレ湿原

ヒソカは長いプラチナブロンドの髪をした女が、スケボーに乗る少年と一緒に先頭集団の方へ加わる様子を見ていた。

「ワオ。ねぇ、あの子、帽子をとったら凄く綺麗だね。君の知っている子であっているのかい?」

 

針男、否ギタラクルはその様子を見て深いため息をついていた。

 

「間違いない。あれはメル・ルイスだ。てことでヒソカ、手を出すのはやめてよね」

「まさかあのルイス家?それにしてもククっ、君がそんなことを言うのは珍しいね」

「まぁメルとは幼馴染みたいなもんだしね。家族付き合いのある家の子だから」

「ルイス家って言えば、結構秘密主義で有名だけどあんなに堂々と顔を晒して大丈夫なの?」

 

「大丈夫な訳ないよ。全く…、見たところ一人で家を出てきて無理やりこの試験を受けているみたいだけど…。試験さえ始まれば皆自分のことに必死になるからバレないとか思ってるんじゃない?」

 

「フフ、随分とお転婆で可愛いじゃないか♡」

 

メルを見てニタニタと笑うヒソカ。

それをギタラクルは目を細めて睨んでいた。

 

「ヒソカ、分かっているよね?」

「ん?」

「メルを玩具にするのはやめてね」

「分かっているよ♢でも僕もあの子と仲良くなりたいな♡」

「…」

 

相当嫌っていたから多分無理だよヒソカ。

それにしても無茶ばかりする。

そこは昔から変わっていないな。

 

まぁ、顔を見られていてもルイス家として知られなければ問題はないか。

写真なんかも取られていないか確認しておかないと…。

 

にしても、あの妹馬鹿のエルがメルを一人で送り出すはずがない。

…まさか、父さん。ルイス家に俺が今回の試験を受けることを伝えたな?

俺が参加すると知っていたからエルも了承したということか。

…試験が終わったらエル、覚悟しておきなよ?

 

 

 

 

ギタラクルとヒソカは余裕で完走した。

常にメル達が確認できる距離感を保ちつつギタラクルは二人を見ていた。

 

ったく、メルもキルも…、殺し屋に友達なんかいらないよって昔散々言い聞かせてきたのになんで二人とも聞かないの?

キルなんてゴンとかいう子供とあんなに仲良くして。

 

メルもメルだ。もう20歳にもなるんだからいい加減自分の立場を自覚しないとね。

まさかここまで注意力がないとは。

ルイス家の人らも大変だ。

代わりに少し灸を据えないとね。

 

 

「クク。君、今すごくいい表情をしているね」

「ん?なに?」

「なんでもないヨ♡」

 

 

家族以外の人間にそんな表情をする君を見たのは初めてだよイルミ。

それほど彼女が大事な存在なのかな?

それを僕が壊したらどんな表情をするだろう。

…あぁ、考えただけでもゾクゾクしてきちゃうヨ♡

 

 

試験管のサトツはメルの姿を見て目を見張った。

まさかあの子は…、ルイス家の?

彼女だけでなく他の受験生もこんなに沢山ここまでついて来られるなんて…今年のハンター試験は粒ぞろいが揃っていますね。

サトツは少し微笑んでいた。

 

 

「ヌメーレ湿原。通称詐欺師の塒。二次試験会場へはここを通って行かねばなりません。ここに生息する生き物たちは人間をも欺く狡猾で獰猛な凶悪な生き物です。十分注意してついて来てください。…騙されると、死にますよ?」

 

サトツのその言葉に受験者たちに緊張が走る。

「この湿原の生き物はありとあらゆる方法で獲物を欺き捕食しようとします。騙されることの無いようにしっかりと私の後に付いて来てください」

 

「騙されるのがわかっていて騙される訳がねぇだろう」

レオリオはケッと悪態をつく。

すると

「騙されるなぁあ‼」と受験者の1人が叫んだ。

 

「だから騙されねぇって」

そういって全員が声のする方向を見た。

 

そこにはボロボロになった男が立ちサトツを指さしていた。

「そいつは、嘘をついている‼そいつは偽物だ!俺が本当の試験官だ‼」

男のその発言で全員が動揺した。

 

男は続いてサトツに似たサルを引っ張り出してきた。

「こいつを見ろ‼」

 

わぁ、サトツさんそっくりだなぁ。

メルは目を見開いて猿を見た。

 

「こいつは人面猿だ!こいつは新鮮な人肉を好む。しかし手足が細長く非常に力が弱い。だから人に化けて言葉巧みに人間を湿原に連れ込み、他の生物と手を組み食い殺す。そいつは、ハンター試験に集まった受験生を一網打尽にするつもりだ‼」

 

どう見てもサトツさんは本物だ。

走っている時にオーラも感じ取れた。

まさか猿が念を使える訳ないしね。

…ないよね?

 

するとヒソカはトランプを両者に投げつけた。

サトツは華麗に全てのトランプをキャッチし、男は胴体に鋭いトランプの角が突き刺さった。

 

「ククク、なるほどなるほど。これで決定。そっちが本物だろ?…試験官は審査委員会から依頼されたハンターたちが無償で任務に就くもの。我々が目指すハンターの端くれともあろう者があの程度の攻撃を防げないはずがないからね」

 

「誉め言葉として取っておきましょう。ですが、今後私への攻撃は試験官への攻撃とみなして即失格とします。いいですね?」

「はいはい」

 

判断するにはわかりやすいけど…

サトツさんにオーラを纏ったトランプを投げつけるなんて…

やっぱり危険な人だな、44番ヒソカ。

 

ヒソカはちらっとメルを見て笑顔を向ける。

 

 

 

はぁ、完全に目をつけられているし…。

困ったなぁ。

しかもまたオーラを飛ばしてきてる。

戦いたくてうずうずすると言わんばかりの挑発する様なオーラ。

もうため息しかでないよ。ああいうタイプとは関わらないことが大事だよね。

無視無視。

 

 

 

メルはヒソカから目をそらして可愛いキルアを見ることにした。

「キルア~」

ヒソカのオーラに堪えている私を癒してくれるのはキルアだけだよ。

 

ぎゅっと後ろから抱きしめるとキルアは顔を真っ赤にさせていた。

「ばっ、ばかっ!何してんだよ!」

「ちょっと補充させてね」

「何言ってんだよっ!メル!」

 

その様子を見ていたヒソカはまた怪しく微笑んだ。

つれないなぁ。こんなにもたぎっているのに、少しは僕に興味を持ってくれてもいいんじゃない?♢

 

メルにオーラを飛ばすヒソカをギタラクルは睨みつけていた。

…おっと落ち着けないと彼に叱られそうだね。我慢我慢…と。

あァ、楽しくなりそうだなァ

 

 

 

「私を人面猿扱いし、何人か連れ去ろうとしたのですね。こうした命掛けの戦いが日夜行われているのです。現に、何人か騙されて私を疑ったのではありませんか?」

その言葉にレオリオと忍びの服をきた男は頭を掻きながら目を泳がせた。

 

「一度この私を見失うとまず、二次試験会場にはたどり着けないでしょう。では、行きますよ?注意して下さい」

 

サトツさんのその言葉で再び地獄のマラソンは始まった。

ここまでで、36名の受験者が脱落していた。

 

ヌメーレ湿原かぁ。地面がぬかるんで走りにくい場所だな。

私は足にオーラを集中させているから関係ないんだけどね。

周りの皆はどんどんスピードが落ちてるし…。

横を走るキルアはこんなのなんてことないってくらい涼しい顔してるけど…。

 

 

 

「メル、ゴン、もっと前の方へ行こうぜ?」

「ん?いいよ」

「試験官を見失うといけないしね」

 

「それより、ヒソカから離れていた方がいい。メルなら感じているんだろ?」

「あぁ、あの人ね。私も近くにはいたくないなぁ」

「あいつ絶対やばい」

「うん。そうと決まれば、前へ行こうか。…皆‼私たちもっと前の方へいくね!」

私がそう叫ぶとキルアは驚いた顔をしていた。

 

「なっ…、ったくメルってば緊張感がねぇなぁ」

「さっ、いこ!」

私達は速度を上げてサトツさんの影を追った。

 

途中でゴンはクラピカとレオリオの事が気になるからと言って別方向に向かっていった。

 

んー…。

さっきゴンが走っていった方向から鋭い殺気とヒソカのオーラがムンムンなんだよね。

 

無視しようと思っていたけど…無理だ。

近くにゴンやクラピカ、レオリオ達もいるみたいだし。

せっかく仲良くなったのにあんな人に傷つけられるのは気が引ける。

 

「…キルアごめん。ちょっと皆の様子見てくるよ。先に行ってて?」

「はァ!?なに言ってんだよ。見失ったらもう追いつけねぇぞ!」

「私なら大丈夫だよ。必ず追いつくから」

「っ・・、絶対だからな‼」

「うん!」

 

私はより殺気が渦巻く方向へと向かった。

私が到着したと同時に、ゴンはヒソカに釣竿をぶん投げて直撃を喰らわしている所だった。

 

えぇ!?あの釣竿武器だったの!?

ってそんなこと言っている場合じゃない!明らかに目をつけられたよ?ゴン!

 

始めの一撃こそ喰らったがそれ以降何度投げても釣竿はヒソカにヒットすることはなかった。

私はタイミングを見てゴンとヒソカの間に割り込み、ゴンの体を抱えて後ろへと飛んで距離をとった。

 

「私のお友達に手を出さないで下さい」

「おや♡やっと話ができたね」

「本当はしたくなかったんだけどね」

 

ゴンはメルを見て目を見開いていた。

「メル!なんでここに!?キルアと先に行ったんじゃ‼」

「皆が心配で戻ってきちゃった。大丈夫?」

「う、うん」

 

ゴン、少し震えてる。

もしかしたらゴンはここで殺されていたのかもしれない。

周りに倒れている男たちみたいに。

周囲を見渡していると、その中にレオリオも混ざっていた。

 

「レオリオ!?」

「あぁ、彼は合格だから生きているよ。ちなみに君たち二人も合格♡後ろにいる金髪の君もね♡」

後ろにはクラピカが様子をうかがっていた。

 

 

「君、ルイス家なんだってね?」

「さぁ」

「クク、酷いなぁ。僕には教えてくれないのかい?」

「…知ってて聞いて来ないで下さい」

「つれないなぁ。そう冷たくしないでくれよ☆僕は君と仲良くなりたいんだよ」

「仲良く…?」

「僕はヒソカ。よろしくね、メルちゃん」

「…話し相手くらいにはなるから、代わりにその横に倒れてる人、無傷で渡してほしいのだけど…」

私は倒れているレオリオを指さした。

 

 

「彼は合格してるから殺すつもりはなかったんだけどね、話し相手に昇格できるならラッキーだね♡」

 

試験管ごっこでもしていたの?

なんの基準で合格かどうかは分からないけど…

 

「君一人で運ぶのは少し大変だろ?次の試験会場まで案内しながらこの人運んであげるからそれまで話相手になってくれるよね?」

そういいながらレオリオを担ぐヒソカ。

 

 

軽い脅しだね。

断ればレオリオの命はないと言われてるみたい。

私に拒否権なんてない。

本当に嫌なタイプだ。

 

 

「分かりました。…ゴン、クラピカは私の後ろをついてきて?」

少しでも不安を二人に与えない様にメルは笑顔を向けた。

 

「わ、分かったよ」

「あぁ」

 

二人とも凄く緊張しているな。

 

私はヒソカの横を歩いた。

 

 

あぁ、いい。いいよメル。愛らしい顔だけどその瞳は鋭く僕の動きを過敏にとらえている。

そればかりか瞬時に対応できるように絶妙な間合いをとってそれを一切崩さない。これほど隙が見えない人、そうはいないよ♡

 

 

「君のこと、もっと知りたいな」

「何が知りたいの?」

「そうだなぁ、根掘り葉掘り聞きたいところだけど質問は1つ」

「?」

「君の好きなタイプは?」

「すっ、好きなタイプ!?そんなの知ってどうするの?」

 

危ない。

少し動揺してしまった。

あまりにも予想外な質問でびっくりしちゃった。

 

「そりゃ君ほどの人のタイプを聞いて、少しでも近づけたらいいなと思っているからサ♡もしかして好きな人とかいたりするのかな?」

 

その言葉に同様し私の足は今まで完璧な間合いを取っていたのにそのリズムが崩れてしまう。

 

ヒソカの言う通り、私には好きな人がいる。

 

「分かりやすいなぁ、そんな一面もあるんだね」

「少し動揺しただけ」

「それで、どこが好きなの?」

「…ど、どこって」

 

メルの顔はみるみる赤くなっていく。

クク、こんなことでこんなに顔を赤くさせるなんて、本当に可愛らしいね。一体君をここまで乱すのはどんな奴なんだろうね♡

 

なんでそんなことヒソカに言わないといけないの…。

…って、私がちゃんと答えないとレオリオが危ない。

少ししか喋っていないけどこの人はどうやら気まぐれな性格だ。私の返事に嘘や、気に入らない返事をしてしまったらレオリオを殺してしまうかもしれない。この場合、偽らず素直に答えるべきだ。

 

「強くて美して、心から尊敬できる人なの。…これでいい?嘘は言っていないわ」

「僕も強くてなるべくスマートに戦える自信はあるんだけど立候補できたりするのかな?」

「無理です」

「それは残念♡」

 

メルの後ろを歩く二人は、ピりつく緊張感の走る空気に息をするのがやっとだった。

 

なぜこの空気のなか普通に会話ができるんだ?…さすがルイス家と言ったところか。

クラピカの額からは冷や汗が流れ落ちた。

 

ゴンもクラピカ同様に体をこわばらせていた。

メルがヒソカの間に入ってくれているからまだマシだけど、いなければ息を吸うのもしんどい筈だ。それくらいの重たい空気‼

 

「次は私が質問してもいい?」

「ん?なんだい?なんでも答えてあげるよ」

 

「なんでハンター試験を受けようと思ったの?会って間もないけど、貴方みたいな性格な人が試験なんてルールに縛られるものを受ける理由が分からなくてね」

「ふふ、僕のことを短い時間でよく理解してくれているんだね♡僕たち相性が良いのかも」

「冗談は結構です」

 

「クク、そうだあなぁ。ハンターライセンスって人を殺しても免罪になるんだよね。それって便利だと思わない?」

「…思いません。私は貴方と違って殺しを楽しむタイプの人間ではないの」

「本当に?」

ヒソカの眼光は鋭くメルを見ていた。

 

「えぇ…、あ。試験会場についたみたい」

「本当だ、君との会話が楽しくてあっという間だったね」

「そう?…ではレオリオは返してもらいます」

「はいはい♡」

 

ヒソカはゆっくりと木陰にレオリオを下ろした。

私に手を振りながらようやくヒソカは私達から離れていった。

 

それと同時にゴンとクラピカは大きく息を吐いた。

「はぁ!疲れたぁあ!」

ゴンは地面に座り込んで伸びをしている。

 

「流石だな、メルは。あのプレッシャーをものともしないとは。私は緊張で体がこわばってしまっていたよ」

「いや、私も疲れたよ。もうヒソカとは会いたくないなぁ」

 

 

メル達から離れたヒソカは協力者の元へと歩いて行った。

 

おや?少し怒ってる?♡

 

「ヒソカ、メルに手は出さないって言ったよね?」

「手は出していないよ。ただお喋りをしていただけさ。あ、そうそう。彼女好きな人がいるんだって。誰だか知っているかい?」

それを聞いてギタラクルはグリンと首を傾げた。

「…え?それ本当?」

 

 

「彼女が言っていたし本当だと思うよ。心当たりある?彼女も気になるけど彼女が惚れるそいつも気になるんだよねぇ。玩具は多い方が楽しいし」

「んー、心当たりはないけど…」

 

メルが惚れるってことは間違えなく自分自身よりも強い人間だと思うけど…

この業界にそんな人間は数えるくらいしかいない。

俺の知る誰か…。

仕事で出会ったのか?

なんにせよそんなことより、

 

「ヒソカ。二度と、メルには近づかないでよね」

「はいはい♡」

 

ヒソカはギタラクルの様子を見てニヤニヤと笑っていた。

君、もしかして…♡

 



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7話 美食×豚狩り

 

あたりを見渡すとこちらに向かって走ってくるキルアの姿が見えた。

 

「あ!キルア!こっちこっち!」

手をひらひらと振り手招きした。

 

「メルのバカー‼もう少しで時間切れだったんだからな!」

「ごめんごめん、でもちゃんと合流できたでしょ?」

「ま、まぁそうだけどさ」

 

 

フフ、私を心配してくれていたんだよね。

あー可愛い。

試験終わったら家に連れて帰ろうか。

……いやそんなことがイルミにバレたら殺される…。

 

「ん?どうしたんだよ。震えてるぜ?」

「いや、昔のこと思い出してね」

「はぁ?メルってばたまに訳わかんねぇ事いうよなー」

 

昔、キルアに頼まれてゾルディック家からルイス家にキルアを連れて帰ったことがある。

そのことを知ったイルミはとんでもなく怒ってそれからしばらく私の修行見てくれる時地獄だったんだよね…。

 

私はブンブンと頭を振った。

全員一次試験合格したし、次は二次試験だ‼

集中集中~‼

 

 

「皆さん、お疲れ様でした。ここ、ビスカ森林公園が二次試験会場となります。では、私はこれで。皆さんの検討を祈ります」

 

 

サトツさんはそういうとゆっくりと歩いてどこかへと消えていった。

それと同時に森林公園の巨大な門が開いた。

 

そこには柔らかそうなソファにどっしりと座る女と太った巨大な男がいた。

「一次試験を通過した受験者の諸君、中へ。ようこそ、私は二次試験監督のメンチよ」

「同じく、ブハラ~」

 

あれが次の試験監督者ね!

もちろん、調査済みです!

あれは美食ハンターとして有名なメンチさんとブハラさん!

ということは今回の試験内容は動物を仕留めたりすることとか…?

 

全員が二次試験の内容に注目した。

「二次試験は、料理よ!」

 

メンチのその言葉に会場はシンと静まり、全員の頭の中に「?」が浮かんでいた。

 

「俺たちはハンター試験を受けに来たんだぜ?」

「そうよ?私たちを満足させられる料理を作る。それが課題よ」

「なんで料理なんだよ‼」

「なぜか?それは私たちが美食ハンターだから」

 

そういうと、受験者の多数はケラケラと笑い始めた。

 

あぁ…、メンチさん怒ってる…。

ピリピリしたオーラになっちゃってるよ。

 

すると代わりにブハラが説明してくれた。

「今回指定する食材は豚だよ。このビスカの森にいる豚なら種類は自由。その豚でここにある調理器具を使って作った料理で俺たち二人が揃っておいしいといったら合格だよ」

「味だけじゃだめよ?料理は奥が深いんだから。ちなみに、私たちが満腹になった時点で試験は終了」

「それじゃぁ、二次試験スタート‼」

 

豚を使った料理かぁ。

にしても、今になってルイス家の英才教育に救われたな。

料理なんて使用人がいる家では普通しないもの。

でも、うちは違う!

ルイス家は自宅で簡単にできる時短料理の本から高級料亭料理長も御用達の雑誌も出版している!

料理の基礎はバッチリ仕込み済み‼

さぁ、豚狩りだ‼

 

「なぁ、メルって料理できたよな?」

キルアが少し不安そうに聞いてきた。

「うん、ある程度はできるよ」

「あのさ、俺料理なんてからっきしでさ。できたら一緒にやらねぇか?」

 

恥ずかしいのかうつむき気味に話すキルア。

 

「もちろんいいよ、一緒にやろう!」

そういうと嬉しそうに顔を上げて笑顔を見せてくれた。

 

私たちは森の奥へと入り、獲物を探した。

「メル、いたよ」

 

木の隙間から除くと、そこには4匹の巨大な豚がいたのだ。

「…あの豚は…グレイトスタンプ。世界で最も凶暴な豚だよ。ついでにあの豚は肉食だから気を付けてね」

するとキルアはヒュ~と口笛を鳴らした。

「さすがメル。何でも知ってるんだな」

 

「ちにみに、弱点は額だよ」

「メルと組んで正解だよ」

 

キルアはジャンプして豚の額に鋭い蹴りを喰らわせる。

 

お!いい蹴りだね、キルア。昔の倍以上の威力だ。

私も負けてられないな。

 

メルは胸元に隠していたナイフを取り出して正確に額に投げつけた。

素早くナイフを回収し次の豚を仕留める。

その頃には最後の豚がキルアに狩られていた。

 

「俺たちなかなかいいコンビじゃない?」

「フフ、そうだね」

豚4匹を仕留めるのにかかった時間はわずか10秒程だった。

 

「キルア、二匹運べる?」

「全部持てるからメルは持たなくていいぜ?」

「じゃぁお言葉に甘えようかな」

「おう!任せとけ!」

 

小さな体で4匹の巨大豚を担ぐ姿は他の受験者を委縮させた。

「あ…、あいつら何者だ?」

メルとキルアは要注意人物としてその光景をみていた受験者から意識されることとなった。

 

「それでメル?…何作るんだ?」

「もう考えてあるの!」

 

まずはこの豚を捌かないとね。

ナイフを取り出して薄くオーラを纏わせた。

こうすることで切れ味が抜群に変わるんだよね。

一番油がのっている個所を切り出して、塩コショウを振りかける。

小麦粉、卵、パン粉を付けたら170~180°の油で一気にきつね色になるまで上げる。

 

「うぉお!うまそう!」

「これはとんかつっていうんだよ。ジャポンという国の料理なんだ」

「俺も食いたい‼」

「豚は沢山あるし食べていいよ?」

 

メルはキルアの口に揚げたてのとんかつを近づけた。

キルアはサクッと良い音をたててかぶりつく。

「うんまーい!お前ほんと天才だよ!」

「へへ、誉めすぎだよ~」

 

そしてメルとキルアは綺麗に盛り付けたとんかつを試験管の前に出した。

「へぇ~、少しはまともなのが出てきたじゃない。他の受験者は皆丸焼きしか知らなかったのに」

「どうぞ召し上がって下さい」

「んじゃ、円了なく」

 

メンチは黙ってすべてを間食した。

「完璧な料理だった。…二人とも、合格よ」

 

メルとキルアはお互い顔を見合わせてハイタッチをした。

「やったね!」

「あぁ!」

 

だがそれ以降合格者はなかなか出ずにいた。

 

 

「ねぇ、君さ。メルと仲が良いんだったら協力してくれるように頼んできてよ」

「はぁ?ヤだ」

 

メルに何か頼むなんて、後で絶対見返りを求められるに決まってる。

どうせ自分が見たことない分野の珍しい参考書や古書を探して来てほしいとか言われるんだろうな。

あれ結構時間かかるし骨が折れるしたまに割にあわない時があるんだよね。

そんなの御免だよ。

 

「このままじゃ二人そろって脱落だよ?☆」

「……」

 

そうこうしているうちに、メンチはしびれを切らせて二次試験の終了を告げた。

 




なぜとんかつにしたかって?
今日の晩御飯がとんかつだったからです。
揚げたてのとんかつ美味しいですよね~


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8話 どきどき×たまご狩り

「まさかこれで終わり…!?」

「嘘だろっ…冗談じゃねぇ‼」

受験者たちが怒るのも無理はない。

実力を出し切れていないのに1年に1度の試験が終わりを迎えたからだ。

 

 

「不合格の決定は変わらないわよ?」

メンチは毅然とした態度で淡々と話出した。

 

 

「私は豚を使った料理でおいしいと言わせろといったのよ?どいつもこいつも似たような料理ばかり。工夫が無さすぎるのよ‼ちょっと工夫したかと思えば見た目だけ。味へのこだわりがないし、料理を舐めているとしか思えないわ‼」

 

ブラハは横目でメンチを見た。

そもそもメンチを満足させられる料理なんて数えるほどしかいないのに。…にしても、あの二人。いい料理の腕をしていたな。一体何者なんだろう。あ~またあのお肉食べたいなぁ。

ブラハは口端からは大量の涎が零れ落ちていた。

 

「美食ハンターごときに合否を決められたくない‼俺は賞金首ハンターえを目指しているんだ‼」

金髪の受験者は怒りを露わにしてメンチ向にかって走り出した。

 

するとメンチが動く前にブラハが平手打ちをキメて受験者を吹き飛ばしてしまった。

 

キルアは口笛を吹いて楽しそうにその様子を眺めていた。

「ハハッ、メル!見たかよ?あいつすっげぇぶっとんだぜ!」

「うわぁ、生身で喰らうのは流石に痛そうだね」

 

メンチはブラハの行動に口を出す。

「ブハラ、余計な真似しないでよ」

両手には長い包丁が握られている。

 

あの受験者を守るためにブラハさんが代わりに平手打ちをしたのね。

メンチさんにあのまま突進してたら綺麗に卸されてたね。

 

「注意力もない、未知のものに挑戦する気概もない。それだけで十分ハンターの資格なしよ」

 

メンチのその言葉に誰も口答えをする者は現れなかった。

受験者の中には、自分はもう落ちてしまったんだという現実を受け止め始める者が出てきた。

 

 

 

「それにしても、合格者が2人だけというのはちと厳しすぎやしないか?」

 

 

 

拡声器から聞こえる声は、はるか上空から聞こえてきた。

全員が上を見上げると、凄まじいスピードで何かが地上へ落下するのが見えた。

認識した頃にはソレはもう、土煙を上げてこの試験会場へと降り立っていた。

 

煙が晴れるとそこには、白髪の老人が立っていたのだ。

 

あれは‼

ハンター協会会長の、ネテロさん‼

 

メルはネテロの姿を目にし、驚愕していた。

なんという洗練された動き。

ただ普通に立っているだけなのに隙が全く見当たらない。

ただ者ではない。

ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

 

コツコツと下駄を鳴らしてこちらへ近づいてくる。

「ネテロ会長…」

「メンチ君、君は未知のものに挑戦する結果を問うた結果全員その気概がないと判断した訳かい?」

「いや、…受験者に美食ハンターのことを軽んじる発言をされてついカッとなり必要以上に審査が厳しくなってしまいました」

「つまり、自分でも審査不十分だと分かっているのだな」

「はい。料理のこととなると周りが見えなくなってしまいました。私は試験管失格です。試験のやり直しをさせてください」

 

「ふむ。しかし、急に別の試験管を用意するのも面倒じゃ。よし、ではこうしよう。試験管は続けてもらう。だが、新しい試験には君にも実演として参加してもらう。その方が受験者も納得しやすいじゃろう」

「そうですね。わかりました。…では次の新しい課題は、“ゆでたまご”ってことで‼」

 

ゆでたまごって…

一体どんな試験なの!?

 

「そうじゃ、メンチが合格を認めた君たち二人は次の試験は免除とする」

ネテロはちらっと私を見て少し目を大きく見開き何かを悟った様に微笑んだ。

 

 

あれ?

もしかして…ばれた?

 

 

 

私たちは飛行船に乗り、真二ツ山まで移動することになった。

飛行船を降りると、大地が真っ二つに割れた深い溝がある。

覗き込むも底は全く見えない。

 

 

「うわっ、谷底深いなぁ~」

キルアは身を乗り出した。

 

「キルアよく見て?糸が無数に張られて、そこに卵があるでしょ。あれ、“くも鷲の卵”だよ」

「なんだそれ?」

「くも鷲は、外敵から卵を守るために谷底で産卵するの。世界で最も入手困難な食材の一つなんだよ」

「へぇ~」

 

「そこのお嬢ちゃんが言う通りじゃ。くも鷲の卵は別名“幻の卵”とも呼ばれている。…早速実演してもらおうかの」

ネテロのその言葉を聞いて、メンチは躊躇うことなく谷底へと飛び降りた。

 

しっかりと糸をつかみ、タイミングを見計らい卵を掴んだと思えば上昇気流に乗ってすぐに戻ってきて見せた。

「はい、これでゆで卵を作るのよ?」

 

簡単でしょ?と言わんばかりのメンチに受験者たちは後ずさりする。

誰でもこの高さから飛べと言われて躊躇うことなく飛び込めるのは限りなく少ない。

 

 

「こういうのを待っていたんだ‼」

ゴン達は足を竦めることなく飛び込んだ。

 

 

それを見たキルアは指をさして笑っていた。

「ハハ!さすがゴン!」

 

その様子を見て 自分も! と一歩を踏み出し始める受験者たち。

 

 

私たちはこの試験はパスしている為少し離れた場所で試験が終了するのを待っていた。

するといつの間にか私とキルアの後ろに立っていた者がいた。

振り向くとそこにはネテロ会長が笑いながらこちらを見下ろしていたのだ。

 

 

「初めまして。前途有望な若者たちよ」

「…は、初めまして」

 

うわぁ!いつからいたの!?

全く気が付かなかった!

 

挨拶するもキルアはなんとフル無視。

 

 

 

「確か、メルにキルアと言ったか?」

「はい」

「メルよ、ちとお主には心当たりがあるのじゃが」

「はぁ、何のことでしょうか」

「そう隠さずとも良い。…実はお主の家の者からハンター協会に依頼が来ておってのぅ」

「えっ!?」

「娘が行方不明だから内密に探してほしいという内容じゃった。それもこのワシを指名した依頼じゃ」

「そ、そうでしたか」

 

 

 

私の顔からは大粒の汗がしたたり落ちた。

家に帰ったら父様とエル兄様に怒られるんだろうな……。

当分外出禁止になりそう……。

 

「じゃが、数時間後この依頼はキャンセルされたのじゃ」

「へ?」

「どうやら情報の行き違いがあったようでな。娘はハンター試験を受験しているから宜しく頼むと返事が来ておったわい」

 

ハンター協会会長に、そんなこと頼めるなんて……

「ネテロ会長は父様を知っているのですか?」

「フフハハッ、知っているも何も、お前の父ウィリアム・ルイスはわしの弟子じゃからのう」

「えぇ!?」

「なんじゃあやつ、何も言っておらんかったのか。お主が生まれた時はわしも直接祝いに行ったんじゃぞ?」

 

全然知らなかった。

ネテロ会長の弟子ということは……

「まさか父様って、ハンター?」

「あぁ、その通りじゃ」

 

 

やっぱり!

でもあれだけ知らべていたのに何も情報がなかった。

それはつまり、ジン・フリークスと同じように閲覧制限がかけられている。

それもジンよりも厳重に。

父様は一体……何をしているの?

 

 

「ふむ、その様子じゃハンターについて何も聞かされていなかったようじゃのう?ちなみに、お主の兄、エルとラルもハンターじゃぞ?しかもわしの門下じゃ」

 

 

ふぁ!?

もう何が何だか分からない……。

というか、何で私には何も教えてくれなかったの!?

 

 

この話を横で聞いていたキルアは段々興味が出てきたのか口をはさみ始めた。

「メルの家ハンターだらけじゃん!」

 

ハンターだらけなのに全くその情報を掴めなかった私って……

流石に落ち込むんだけど。

そんなに情報収集力なかったのか……

それ暗殺者として致命的なんだけど。

 

「そう落ち込むでない。お主の家にはハンター協会の闇の部分を担ってもらっているからのう。表に出ることはそうはない。だからお主がいくら知らべても出てこなかったんじゃろうよ」

 

闇の部分……?

 

「それに、エルもラルも当時は父親がハンターをしているなんて全く知らんかったようじゃぞ?各々が自分で考えて選んだのが、ハンターだったのじゃ。それは、お主も同じな様じゃな」

 

兄様達も私と同じような気持ちだったのかな……

 

そう思うとなんだか嬉しかった。

自分が尊敬する父や兄と同じ道を進んでいる。

メルのは自然と口元が緩んでいく。

 

「父や兄達と同じようにお主にも、奴らと似た才能を感じておる。期待しておるよ」

ネテロは目尻にしわを寄せて優しく笑顔を見せて、コツコツと下駄音をさせながらどこかへ歩いていく。

 

 

「まさかメルの父さんやエル達もハンターだったとはなぁ~」

「私も驚いたよ。もしかしてゾルディック家の誰かもハンターだったりするかもしれないよ?」

「ハハっ、それ笑える!」

「あのイルミがハンターだったりして!」

「それはない!絶対ない!」

「あはは!だよね~!」

二人は顔を見合わせて笑った。

 

 

 

その話を聞いていたヒソカはブッと噴出した。

「クク、君。あんなこと言われてるけど?」

「好きに言わせておけばいいよ。後でまとめてお仕置きするし」

 

 

メルはブルッと体を震わせた。

ん?なんか一瞬寒気が……。

気のせいか……?

 

 

この後ギタラクルは服に刺さっている針を入念に手入れするのであった。

 

 

 



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9話 恋慕×懐旧

ゴン達は難なく、くも鷲の卵を無事持って帰ってきた。

「これで全員合格だね!」

そう言うと、ゴンは嬉しそうに「うん!」と首を縦に振った。

 

次の試験会場には、飛行船で移動することになった。

あたりはすっかり日が落ち、星が輝き始めていた。

 

「残った42名の諸君らに改めて挨拶をしておこうかのう。わしが今回のハンター試験審査委員会代表責任者のネテロである」

「秘書のビーンズです」

 

あ!

ナンバープレートを渡してくれた豆さん!

会長の秘書をしていたのね!

 

「本来ならば最終試験で登場するはずじゃったが、一旦こうして現場に出てきてみると、何とも言えん緊張が伝わってきていいもんじゃ。せっかくだからこのまま同行させてもらうわい」

「次の目的地へは、明日の朝8時に到着予定です。食堂に食事も用意しています。各自自由に時間を使ってください。部屋はこちらで適当に決めています。前のホワイトボードに張り出していますので確認してください。では、解散とします」

 

部屋割りとかあるんだ。

ヒソカと一緒な部屋は嫌だ‼

えっと……私の名前名前…、

 

ホワイトボードと睨めっこしていると、後ろから声をかけられた。

「よろしくね」

カタカタと言わせて後ろに立っていたのは、一次試験の時に少し会話した顔に似合わず案外優しいカタカタ男さんだった。

 

「あなた、ギタラクルさんって言うのね。メルです。よろしくお願いします」

「うん」

 

 

ギタラクルと話をしていると、自然と人が遠ざかる。

誰も怪しすぎるギタラクルの近くへは寄りたくないのがひしひしと伝わる。

 

皆そんなに避けなくても。

喋ってみると案外まともな人なんだけどなぁ。

 

「私もう休もうかと思うんだけどギタラクルさんはどうする?」

「んー、じゃぁ俺も休もうかな」

「そう、じゃぁ一緒に行きましょ」

 

ギタラクルの隣を歩くメルを見てキルアは心配そうに見守っていた。

 

あいつ大丈夫かよ。

あんなやばそうなやつと同室かよ。

ついてねぇな。

でもまぁ、メルのことだ。何かあっても何とかするだろう。

 

キルアはゴンと共に飛行船の中の探索へと出かけた。

 

 

メルとギタラクルは部屋の前までやって来ていた。

中へ入ると、壁の両端にシングルベッドが置かれていた。

中央を境に、ベッド、机、椅子が対称に置かれている。

 

普通の部屋だ。

なんだか疲れちゃったし今日は早く寝よう。

 

メルは「う~ん」と言いながら背伸びをした。

「今日は疲れたね。まさか一次試験であんなに走ることになるとはね~」

笑いながらギタラクルの方を見た。

 

「ほんと疲れたよ。顔変えるのって案外神経使うんだよねー」

「へ?」

 

顔を変える?

 

頭に「?」が浮かべているとギタラクルは顔中に指していた針を一つずつ取っていく。

 

メルはその針に見覚えがあった。

というか、服に仕込んである針でなぜ気づかなかったのか。

 

ブクブクと顔の形を変形させながらすっきりしたシャープな顔の輪郭へと変わっていく。

長い黒髪がバサッと宙を舞い、大きくクリっとした瞳をパチパチと瞬かせて美しい男は私をメルを見ていた。

 

「や」

そう言って右手を上げた。

 

「イッ、イルミッ!?」

 

「うん、久しぶりだねメル」

 

「何でイルミがここにっ!?」

 

「それはこっちのセリフだよ」

 

「はぁ」と深いため息をつきながらイルミはてくてくと私との距離を詰めてくる。

自然に私の足は後ずさりしていくも、ドンッと壁へとぶつかり逃げ場所を失った。

イルミは右手をドンと壁につけて、私を見下ろした。

顔の横にひんやりとした艶のある黒髪が時折揺れてくすぐったい。

 

「ねぇ、護衛もつけずに一人で何をしているの?もう少し自覚しなよ。メルの家は俺たちゾルディック家とは違って裏だけじゃなく表でも有名なんだから狙われるリスク半端なく高いの分かっているよね?最近はルイス家に恨みを持った連中が組織を作っただなんて噂も聞くけど?メルならそんなこと知っているよね?なのになんでそんな危ないことするの?」

 

……イルミのこの目。かなり怒っている。

でも……私は自分のやりたいことを見つけたんだ……‼

 

メルはにこっと笑顔を見せた。

「イルミ、私なら大丈夫だよ。イルミに修行を見てもらっていた頃よりも大分強くなったんだよ私。もし命を狙う人達が来ても返り討ちにできるよ」

 

だから退いてくれないかな……

ちょっと距離が近くて心臓が破裂しそうなんで……‼

 

ヒソカに今日突拍子の無い質問をされてつい意識してしまう。

そう、メルがずっと想っていたのはイルミなのだ。

 

メルはイルミの胸に手を置いてグッと押し返す。

普通の人間であれば後ろに押し返せる程の力を使ったつもり。

だが今目の前にいるのは普通の人間ではない。

しかも久しぶりに会えた自分の想い人が目の前にいれば、いくら本気で押し返そうとしてもどこか力が入らない。

 

「そんなんで返り討ちにできるの?」

イルミは微動だにしてはいなかった。

 

「だって目の前にいるのイルミだし……」

するとまたため息が降ってきた。

 

「敵が俺に変装してたらどうするの」

 

「それは流石に分かるよ。」

 

「完璧に真似る念能力があるかもしれないだろ?」

 

そういわれてしまえば否定はできない。

……もしそんな状況があれば私はどうするんだろうか。

敵がいくら完全にイルミに化けているとして、私はそれを殺すことができるんだろうか。

多分……いや、絶対に私は殺せない。

こんなこと素直にイルミに言ったらまた怒られるんだろうな。

……イルミが反対の立場ならどうするんだろうか。

馬鹿だな私は……イルミのことだ。絶対に迷いなく殺すはずだ。

 

自分で考えていただけなのに悲しくなった。

そんな表情を見てかイルミは、ぽんっと私の頭に手を置いた。

「反省しているみたいだし、許してあげるよ。まぁ幸いこの試験、俺も受けてたから何かあればメルを守ってあげられるしね」

「!」

いつまでもイルミの足枷にはなりたくはない!私も一人前の暗殺者として認められていんだから!

「私はもう守ってもらわなくても……!」

そう言いかけた時だ。

 

スッとしなやかな手が私の頬に添えられた。

 

「ふぅん、俺より弱いのに?」

 

イルミは私と同じ目線までかがんだ。

その距離はあと少しで吐息がかかりそうなほど近い。

 

目が離せなかった。

漆黒の瞳につい吸い込まれそうになる。

胸の鼓動が徐々に速くなっていくのを感じていた。

煩い……、煩い‼

早く落ち着けなきゃ

イルミに聞こえてしまう……‼

 

ぎゅっと固く目を瞑った。

すると今まで近くにいたイルミが私から離れたのが分かった。

 

安心したと同時に少し寂しい気持ちになった。

 

本当に馬鹿だな私。

イルミの行動だけでこんなに振り回されている。

 

昔から何をしてもイルミは私の先を歩いていた。

追いつきたくて必死に追いかけていた。

一人前の暗殺者になってからは全くと言っていいほど会えなくなってしまったけど……

子供の時から抱いていたこの気持ちは今も変わらない。

私は、イルミのことが好きだ。

 



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10話 休息×急速

 

 

「いつまでそこに突っ立っているの?」

 

ゆっくり目を開けるとイルミはベッドに腰かけていた。

私は深呼吸をして向かいのベッドに腰を下ろした。

ギシッと音を立てるスプリングは固くいつも自分が使っているベッドがいかに良いものだったのかつい比べてしまう。

 

「何してるの?」

イルミはクリンと首をかしげながら自分が座るベッドのすぐ横をポンポンと叩いていた。

 

「へ?」

隣に来いっていうこと!?

 

「メルってさ、たまに間抜けな声出すよね。とてもじゃないけど暗殺者には思えない」

「おっ、大きなお世話だよ!」

「なんでそっちに座るのさ。早くおいで?」

「っ」

 

ふいにそんなことを言うのはズルい……。

 

メルは顔を赤らめながらゆっくりとイルミの隣へと座る。

同時にふんわりとローズを主体としたフローラルな香りがイルミの鼻を擽った。

ふと視線を落とすと、真っ白な肌が少し赤みを帯びていた。

 

何緊張してるんだろ?

メルって緊張したらすぐに赤くなるんだよね。

色が白いから本当に分かりやすい。

 

イルミは「はい」と、メルにお茶を手渡した。

「あ、ありがとう」

「久しぶりだから緊張してるの?」

「す、少しね」

 

「ふうん。会うの何年ぶりだろうね?4年?5年?」

「そうだね、もうそのくらい立つね」

「メルの噂はよく聞いていたよ。随分活躍してるみたいじゃない?今じゃエルに続いてルイス家を代表する殺し屋みたいだね」

「エル兄様には及ばないけど、結構頑張っていたんだよ」

 

俯いていた顔を上げてメルは嬉しそうにイルミに笑顔を向けた。

「誉めてあげたいところだけど気を抜きすぎだよね。噂が嘘なんじゃないかって思ってしまう程だよ」

 

メルの笑顔はシュンッと消えてしまいまた俯く。

「うぅ……。ごめんなさい。でも久しぶりに会ったんだからもう少し誉めてよぉ」

 

「んー」イルミは人差し指を顎において、メルのいいところを思い浮かべている様だった。

「あ」何か思いついたのかポンと手を打つ。

 

「メルって綺麗だよね」

「へ?」

 

突然の誉め言葉に驚きまた間抜けな声が出てしまう。

それも自分のことを“綺麗”とはっきりいってくれたことがとても嬉しかったのだ。

メルは顔を赤らめてイルミを見ていた。

 

「容姿もそうだけど中身も。全く濁っていないよね?それって何でなの?多少濁るのが普通だと思うんだけどなぁ」

「何で私が濁っていないってわかるの?」

「メルって相手を殺したらどんな相手でも花を手向けてるでしょ?」

 

確かに私は相手を殺したら白薔薇を添えている。

それは初めて人を殺した時から今まで続けている。

 

亡くなる命があるからこそ自分が生きていけるのだ。

私はただの人殺しではない。

 

自分が生きるために奪ったその命が安らかに天に帰れるようにと、

その命をリスペクトしているからこそ私は今でも花を添えている。

 

白薔薇の花言葉は「純潔」「尊敬」。

どんな罪を犯した人間でも還る時は「純潔」に、

今まで生きてきた人生に「尊敬」の意を。

 

「俺が見てきた暗殺者はメル以外そんなこと気にしない奴らばかりだからね」

「仕事に対しては自分なりにちゃんと向き合っているつもりだよ」

揺らぐことの無い瞳はイルミをしっかりと捉えている。

先程まで恥ずかしがってた少女はそこにはいなかった。

 

「変わった暗殺者もいたもんだね」

私今誉めてもらう流れだったよね!?

なんか誉められている気がしないんだけど!?

 

「もういいよ」

メルは頬を少し膨らませる。

 

「あ、もう一つあった」

「なになに!」

 

「メルといると落ち着くんだよねー」

そ、それは素直にうれしい…・…。

 

「オーラにも表れているよね。限りなく澄んだクリアなオーラだし、親和性が高く柔らかい。今までそんなオーラ性質は見たことがないしレアだと思うよ」

「ありがとう」

 

「ま、殺し屋に必要なの?って疑問に思う所もあるけどね」

一言余計なんだよ‼

 

なんて思っているとイルミは私の首に手を回し抱き寄せる様にベッドに横になった。

「!?」

ギシッとスプリングが軋み私たちの体は少し沈み込む。

 

「もう寝ようよ。俺も疲れちゃったし」

イルミは耳元でささやく。

吐息混じりのその声は妙な色っぽさを感じさせる。

 

「こっ、このまま寝るの!?わっ、私向こうのベッドに行くよ!」

「なんで?」

「なんでって、ベッドが2つあるんだし……」

 

イルミは腕の力を緩めるつもりはないらしく、私の先ほどの言葉完全にスルーされた。

 

離れないと……。

心臓の音が聞こえる……‼

 

「メルって昔から良い匂いなんだよね」

ふいにスッと顔を近づけてくるイルミ。

私は緊張して固まってしまう。

 

確信犯なんじゃないかと思ってしまうほどのイルミの行動に私はいちいち胸を高鳴らせた。

しばらくしてイルミから寝息が聞こえてきた。

 

私は少し上を向きイルミを見上げた。

長い睫毛は閉じられており、その姿はまるで彫刻の様に美しい。

 

規則性のある寝息を聞きながら自分も瞳を閉じるとメルは深い眠りへと落ちていった。

 



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11話 束縛×嫉妬

しばらくしてイルミは瞼をゆっくりと開く。

自分の腕の中で眠るメルはスゥスゥと寝息を立てている。

 

「無防備。マイナス50点。こんな所誰かに襲われたら死ぬよ?」

 

耳元で囁くと「んん……」と声を漏らすメル。

流石に起きるのかと思いきや、メルはイルミの背中に回していた手を強めて更に体を密着させる。

 

「イル……ミ……」

寝言で自分の名を呼ぶメルを見てイルミは胸の奥が熱くなっていた。

 

「俺の夢でも見ているの?」

ゆっくりと頬に手を添える。

白く陶器の様な滑らかな肌は触れると心地良かった。

メルの長い睫毛が影を落とす姿が色っぽく感じさせた。

そしてイルミは優しくメルの額にキスを落とす。

 

メルは俺の中での“特別”

キルアのことは家族として大事にしているけどメルはまた別。

 

昔からメルが傷ついたり危険な目に会うのがなぜか嫌だった。

他人に傷つけられるくらいなら縛り付けて誰の目にも晒されない様にとも考えたこともあった。

まぁ、それは妹馬鹿のメルの兄エルやラルがいる限り無理と結論が出て以降諦めた。

 

俺がメルに対して抱いているこの感情の名は“愛情”。

始めは病気かと思った。

心臓が痛くて締め付けられる様な感覚。

それを感じるのはいつも、メルの事を考えている時だった。

 

我ながら情けない。

こんな感情ごときでこの俺の行動や考えを簡単に変えてしまうのだから。

 

メルを縛り付けて置くことが不可能ならば、メル自身が自分の身は自分で守れるように、“最高の暗殺者”に育て上げる方が余程現実的。

だから俺は手塩にかけて昔から厳しくメルを育ててきた。

 

今はメルを守るルイス家の者はいない。

なら俺がメルを守ってあげる。

 

誰にも傷つけさせはしない。

 

メルを抱く手につい力が籠る。

するとメルはむにゃむにゃと寝言を言い始める。

「……ミ……、すき」

 

イルミがその言葉を聞き逃すはずはない。

 

 

ん?

今好きって言ったの?

 

そういえばヒソカが言っていたな。

メルに好きな人がいるって。

 

俺の知らない所でメルが知らない男に笑いかけその男のものになるのなんて許さない。

 

メルは俺のもの。

誰にも渡したりはしない。

 

今すぐにこの欲望を吐き出してしまいたいけど今はその時ではない。

それよりも先にやることがある。

まずは、その男を見つけ出して殺してしまわないとね。

 

 

 

 

窓から差し込む光がちかちかとメルの顔を照らす。

メルは重い瞼をゆっくりと上げる。

すると徐々に昨日の出来事が思い出される。

 

そうだ!私昨日イルミと一緒に寝ちゃったんだ!

 

なんて思っていると「おはよ」と、上からイルミの声が降ってきた。

メルよりも先に起きていたイルミはベッドの端に座り携帯を片手に、メルを見下ろしている。

 

「お、おはよう」

「よく寝ていたね。メルってば全く起きなくて驚いたよ。暗殺者なら寝てる時こそ警戒しなきゃね」

 

イルミの匂いがして、温かくて、安心して眠れた、だなんて言えない……!

「何でだろうねぇ、なんだか昨日は特別よく眠れたんだよねぇ」

ハハハと笑いながら誤魔化すメル。

 

「ふうん。それより、次の会場にそろそろ着くみたいだよ。顔洗っておいでよ」

「え!そうなの!?早く言ってよ~!」

メルは飛び起きてすぐに支度を始めた。

 

部屋の窓から顔をのぞかせると、大きな高い塔が見えている。

どうやら次の試験会場はあの塔で行われるみたいだね。

 

「そろそろ顔変えておこうかな」

「毎回思うけど痛くないの?」

「ん?そりゃ痛いさ。メルもしてあげようか?あまりその顔を多数に晒さない方がいいし」

「いや遠慮しておくよ‼」

メルはブンブンと首を横に振った。

 

「そ?」

と返事するとイルミは容赦なく自分の顔に針を刺していく。

するとブクブクと顔が変形しあっという間にイルミはギタラクルへと姿を変える。

 

準備が整った二人は仲良く並んで飛行船を降りる。

すると周囲からは好奇の目を向けてくる。

 

「ねぇ、イル……、ギタラクルさぁ、もうちょっとまともな顔はなかったの?」

「ん?いいじゃないこれで。誰とも被らないし」

「まぁその顔は被らないと思うけどさ……、まぁギタラクルが良いのならいいけど」

 

カタカタという奇妙な男と美少女という不思議な組み合わせに周囲は動揺していた。

キルアは遠くから心配そうにメルを見ていた。

メルはキルアの視線に気づき、ひらひらと手を振ると顔を赤くさせながら小さく手を振り返す。

 

「か……かわいい」

「いいなぁ、俺もしたい」

「ギタラクルはだめだよ。その容姿だしキルアにも少し引かれてるよ?」

「酷いなぁ、やってみないと分からないでしょ」

 

そう言ってギタラクルはメルと一緒にキルアに手を振った。

するとキルアはぴたりと固まり困惑した表情をしている。

 

「ほらね!」

「キルアもまだまだだね。あんなに分かりやすく態度に出すなんてさ」

「いや仕方ないよ」

メルは少し笑いながらギタラクルを見る。

 

にしても、次の試験はどんな内容なんだろうか。

この高さの塔だ。

多分下に降りるのが目的だと思うけど……?

 

メルはスゥと深呼吸をした。

ハンター試験が始まってから私、わくわくしてる。

未知の世界に飛び込むこの感覚は、新しい分野の本や参考書を見つけた時の高揚感と同じ感覚だ。

ハンターとはこの感覚を常に味わっていけるのかと思うとぞくぞくする!

 

 

イルミは楽しそうに笑うメルを見て目を細めるのであった。

 





イルミとメルの絡みをもっと書きたいのですが書き込めばR15ではおさまらないので我慢です。
見たい人いればコメント下さい♪


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12話 死神×ヒソカ

ビーンズは小さく咳ばらいをして話し始めた。

「皆様、三次試験のスタート地点はここ、トリックタワーと呼ばれる所です。合格の条件はこの塔を、生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間です。ではこれより三次試験を開始いたします。皆様の検討をお祈りいたします」

 

説明が終わると、受験者以外のスタッフは全員飛行船に乗り込み塔からどんどんと離れていく。

「ふぅん、下まで降りるのが試験内容かぁ」

メルは塔の下を眺めながら呟く。

 

念を使えばこの高さから降りても問題はないけど……

ハンター試験は念が使えない受験者たちにも合格できるようになっている筈。

ならばここから飛び降りるだけ、という訳ではなさそう。

何か仕掛けがあるはずだ。

 

すると一流のロッククライマーだと言い張る男が、塔の外壁のわずかな隙間に手足をかけながら降りていく姿がメルの目に留まった。

「器用な人もいたものだね」

「……でも、見てみなよ」

 

赤い体をし、大きな翼をもつ怪鳥が翼を羽ばたかせながら男を丸のみにしてしまったのだ。

メルはその様子を見て目を丸くした。

「や、やっぱり外壁から降りるのは違うみたいね」

「そだね。まぁ、十中八九この床に仕掛けがあるんだろうね」

そう言いながらギタラクルはコンコンと地面をたたく。

すると反転する床を見つけたのだ。

 

「ほらね」

「本当だ。……その狭さなら一人しか通れないね」

「メル、その床も反転するよ」

 

ギタラクルが指さしたのは斜め上の床板だった。

「ありがとう。じゃぁお互い無事に下で会おうね」

「うん。メル、くれぐれも気を抜かないようにね」

「分かってるって」

 

そういうと、メルは思い切り飛び込んだ。

メルは軽やかに着地する。

辺りは暗いが等間隔に蝋燭が並べられている。

 

ゆっくりと立ち上がると「や」という声が暗闇の中から聞こえてくる。

姿を現したのはギタラクルだった。

「随分と短い別れだったね」

メルは呆れたように笑みをこぼした。

 

「そだね。まさか下で繋がっているとはね」

「でも安心したよ。私達二人なら余裕でクリアできるね」

 

なんて言うと、更に暗闇の奥から喉を鳴らしながら笑う声が響いた。

「ククク、残念だけど僕もいるよ♡」

怪しく笑うピエロを見てメルは驚きと共にため息をつく。

 

「酷いなぁ、邪魔者扱いはよしてくれ」

「別にしてませんよ」

「そうかい?クク、まぁこれから72時間はずっと時間を共有しないといけないみたいだから仲良くしてね♡」

「はいはい」

投げやりに返事をするメル。

 

すると上空から男の音声がしてきた。

「私の名はリッポー。刑務所所長兼第三次試験の試験管だ。このタワーには幾通りものルートが用意されている。お前たちが選んだのは、“暴虐の道”。男二人はいいとして、この道を女の子が引いてしまうことになったのは些か可哀そうだが、自分の運がなかったと悔やむしかないね」

 

暴虐の道かぁ。つまり、惨い行為で人を苦しめる道。

明らかにこれから何らかの戦闘を強制されそうだなぁ。

でも私は普通の女の子じゃないし、むしろこの方が分かりやすくてやりやすい。

 

「ハンターとしての強さと勇敢さを見せてもらう!では君たち三人に検討を祈る!!」

 

男の声が聞こえなくなると同時に鉄の扉が開いた。

扉の先には薄暗い通路が蝋燭の光に照らされていた。

「なんだか嫌な道だね」

「ま、俺たちに打ってつけな道だよねー。さ、早く行こうか」

「そうだね♢」

 

全員が扉の先を潜ると、鉄の扉は再び閉まり、後戻りはできなくなった。

しばらく歩いた頃であった。

この道の先からとてつもない殺気が立ち込めている。

「クク、どうやら僕のお客みたいだね」

 

この殺気を出している人、相当ヒソカを恨んでいるね。

自分に向けられたモノではないけど肌が痛いよ。

 

通路の先には広い空間があった。

そこに一人、男が立っている。

殺気はあの男から出ていた。

 

「待っていたぜ、ヒソカ。今年は試験管ではなくリベンジャーとしてな。去年の試験以来貴様を殺すことだけを考えていた」

そういうと、男は変わった形の刀を取り出した。

切っ先は三日月の様に綺麗な弧を描いている。

 

「この傷の恨み、今日こそ晴らす!!」

 

男の体には無数の切り傷が付けられた跡が残っていた。

 

あぁ、トンパさんが確か言っていたなぁ。

ヒソカは去年のハンター試験で試験管を殺しかけたとか……。

あの人がそうなのね。

 

メルとギタラクルは壁にもたれて二人の戦闘を見守っていた。

 

「フフ。君が試験管として能力が足りなかっただけの事。それを逆恨みと言うんだよ」

「ほざけ!ヘッヘ、覚悟しなァア!」

 

男は次から次に同じ形状の刀を取り出していく。

合計4本の刀は上下左右上面背後お構いなしにヒソカ目掛けて飛んでいく。

 

「わぁ、曲芸みたいだね」

メルは少し目を見張る。

 

ヒソカは華麗に全てを交わしていく。

「お前を切り刻む!!」

男は休むことなく色んな角度から投げ込み続ける。

 

「確かにこのまま避け続けるのは少し難しそうだ」

少し喉を鳴らしながらヒソカは高速回転しながら飛び回る刀をいとも容易く受け止めた。

「なら、止めてしまえばいいだけのこと」

舌先でぺろりと刃を舐めとる。

 

あれくらいヒソカなら受け止められて当然だ。

にしても……一度ヒソカと手合わせをしているのにこれでよく勝てると思ったね。

貴方の残念な所はヒソカと戦って命があったのに自らその命を差し出しに行ってしまったこと。

メルは静かに目を閉じた。

 

「無駄な努力ご苦労様♡」

ヒソカは刀を投げ返し、その刃は男の首を綺麗に両断した。

 

「おつかれー。全然大したことなかったねー」

ギタラクルはゆっくりとヒソカの元へと歩み寄り、クリッとした大きな瞳で男の死体を見下ろした。」

「もっと強くなって戻ってくるのかと思ったけど期待外れもいいところだね。さ、次に行こうか」

 

メルは黙って死体の横を通り過ぎた。

ヒソカは強い人間と戦うことしか考えていないんだね。

少しずつ分かってきたよ。

戦闘という自分の快感を満たしてくれるならどんなこともするサイコキラー。

私はやはり貴方のことは好きになれそうにないな。

 

メルの表情を見てヒソカはぺろりと舌を舐める。

いつかは君という極上の果実を……♡

 

その様子を見てギタラクルはヒソカに針を投げつけた。

軽々と避けるヒソカは「危ないじゃないか」と余裕の表情。

 

「何度も言ったよね?そんな目でメルを見ないでくれるかな」

「ククク。仕方ないじゃないか♢とっても美味しそうなんだから」

するとギタラクルは更に針を構える。

 

それを見たヒソカは両手を上げて「ごめんごめん」と笑いながら謝る。

 

お楽しみは最後までとっておく主義なんだよ?僕は♡

 

ギタラクルはため息をつきながら針をしまう。

3人は更に奥の暗闇へと足を進めていくのであった。

 



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13話 メル×血の乱舞

目の前にはまた大きな鉄の扉が道を塞いでいた。

3人が扉の前まで立つと、どこからかリッポーの声が響いた。

 

「この扉の先ではまた一人試させてもらうよ。先ほど戦ったヒソカではなく、残りの二人のうちどちらかに、この先にいる猛者を倒してもらう。時間は何時間でもあるんだ。よく話し合って決めるといい。どちらが戦うか決まればその者が扉を開けること。では、検討を祈る」

 

ギタラクルはクルッと反転してメルを見た。

「メル、どうする?あの話しぶりじゃ、この扉をクリアしても同じように戦闘を強要されるだろうね。どうせ後で戦うことになりそうだし、俺は今でも後でもどちらでもいいんだけど」

「じゃぁ私が先に行くよ」

「……分かった。メル、油断はー…「しないから大丈夫!」ギタラクルが言い終える前にメルは言い切った。

 

そしてメルは扉を開けた。

 

すると再びリッポーの声が響く。

「よく決心した。受験者メル、先へ進みなさい」

 

扉の先には、空間の中央に円形状に作られた広場へと繋がる一本の細い道が繋がっている。

その周りはそこが見えないほど深い絶壁。

 

メルはリッポーを指示通りに細い道を歩き広場へと足を進める。

すると今まで歩いてきた道が跡形もなく崩れ落ちる。

 

「メル以外の後の受験者には別の道を用意してある」

ヒッポーが言い終わると、地響きを立てながら新しい道が出現する。

ヒソカとギタラクルは躊躇なくその道を進むと、少し広いスペースになっており、中央で戦う者を鑑賞する為の椅子まで用意されていた。

 

席に座るとメルが戦う姿が一番よく見える位置である。

中央広場とギタラクル達がいる小さなスペースとの間は干渉できない程の距離があり、外野席からメルを助けることは不可能であることをギタラクルは悟った。

 

二人が席に座ってしばらくすると、メルが立つ方とは反対の扉からぞろぞろと大柄な男たちがやってくる。

全員手足には手錠をかけられている。

 

見たところ囚人のようだけど……?

 

「メル、君には今から囚人100人と戦ってもらう!全員が死刑囚になるような極悪人だ。遠慮なく君の実力を出し切ってくれたまえ。ルールは簡単。どちらかが戦闘不能になるまで戦うこと!」

 

本当に、分かりやすくて助かるわ。

 

すると今まで囚人たちの手足の自由を拘束していた手錠たちは乾いた音を立てながらすべて外れていく。

「質問だァア!もし俺たちが勝てばこの女を好きにしてもいいのか?」

男たちはメルを見ながら嫌らしい目つきで舐める様に見ていた。

 

「生きるか死ぬかの戦いになる。戦闘不能にし、その後どうするかは勝者が決める権利がある!つまり、お前たち囚人が勝てば好きにしても構わないということだけ伝えておこう。メル、やめるならば今だ。試験を続行するかね?」

 

メルは満面の笑みで「えぇ、もちろん」と答える。

 

「そうか。では検討を祈る」

 

リッポーの声が聞こえなくなるなり、男たちは一気に騒ぎ始める。

「女ぁ!俺たちが勝って何度も天国にイかせてやるよ!!」

「ありゃ上玉だなぁ!本当にとことん運がねぇぜ?俺たちに死ぬまで可愛がられるなんてよ!」

 

全く……、下品な人たちだな。

なんで私に勝てると思っているんだろうか。

 

「私に勝てば好きにしてもらっても構いません。代わりに私は貴方方の命をもらいます」

メルは右手を前へと突き出すと、念で作り上げた刀を具現化させた。

刀身から柄まで美しい純白な刀は怪しい光を灯しているように見えた。

 

ヒソカは目を輝かせながらその刀に釘付けになっていた。

「へぇ、メルは具現化系なんだねぇ。それにしても美しい刀だ」

 

囚人たちはメルの手に刀が握られていることを視認した。

瞬きをすると、さっきまで目の前に立っていたはずのメルは姿を消した。

 

「どこだ!?どこにいった!?」

辺りを見渡す囚人たちは、今まで視認していた人間が一瞬のうちに消えたことに同様していた。

 

メルは足にオーラを集約させて、常人では追えない程のスピードで上空へと飛び上がっていた。

そして地上へ降りた頃には、刀の間合いにいた囚人の頭部がコトンと冷たい地面へと落ちていた。

それと同時に激しく吹き上がる血しぶきは囚人たちの戦力を喪失させるには十分であった。

 

「なにが起きているんだ……」

 

囚人たちは目の前で起きていることを理解することができず、ただただその光景をぼんやりと眺めていた。

メルは舞うように刀を振り下ろしその度に数名の頭を胴から切り離してゆく。

 

5分が立った頃には、血だまりと肉塊の上にはメルだけがぽつんと立っていた。

ヒソカは興奮して息を荒げていた。

「いい、いいよメル!君、最高だよ♡」

 

ギタラクルはそんなヒソカを見てまた深いため息をつくのであった。

 

メル、ヒソカに念能力を見せたことはいただけないな。

でもまぁ、その念刀だけしか能力を使わなかっただけよしとするか。

お蔭で君が、具現化系の能力者だと思っている様だし。

 

「メル、まさか君が全員を倒してしまうとは思ってもみなかったよ。全員が死刑囚だから死の責任を感じることはないよ。さぁ、次の扉へと進みなさい」

 

壁にはまた、大きな鉄の扉があった。

ギタラクルとヒソカは別の通路からメルと合流する。

 

「おつかれ」

そう言いながらギタラクルはメルの顔に付いた血をふき取る。

「随分と楽しい時間だったよ♢」

「それはどうも」

 

「では次の扉には、最後の受験者ギタラクル。君がその扉を開けるんだ」

「はいはーい。……ヒソカ、分かっているよね?」

ギロリとギタラクルはヒソカをにらみつける。

 

メルには手を出すな?だろう♡

 

「分かっているさ♡」

「イル、……ギタラクル!頑張ってね!」

そういうとギタラクルはメルの頭にぽんと手を置く。

「俺がクリアできない筈がないでしょ」

 

ギタラクルは重たい鉄の扉を開けるのであった。

 



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14話 イルミ×罠

 

扉の先は上下左右ガラスの壁で囲まれた部屋になっていた。

メルの時と同様に、この試練を受ける者と観戦する者とで道が分かれている。

「じゃぁ行ってくるよ」

ギタラクルはガラスの部屋へと足を踏み入れる。

メル達は観戦者用の道を進むと、また小さなスペースがあり石の椅子が2つ用意されてる。

 

ギタラクルが部屋に入るとまたリッポーの声が聞こえてくる。

「ギタラクル、君には15分の間この部屋に仕掛けられた色んな罠を全て避けてもらう。一つでも当たれば死に直結する罠もある。さぁ、どうする?」

「もちろん受けるに決まってるよ」

「いいだろう。では、検討を祈る」

 

 

すると突然ギタラクルの背後から鋭く光る電撃が飛んでくる。

ギタラクルは華麗に避けるも次は着地した足元目掛けて沢山の針の嵐。

息つく間もなく繰り返される罠。

普通なら初めの電撃で感電して終わる所だが、暗殺者界を代表とするゾルディック家長男がこの程度の罠を潜り抜けられない筈がない。

全てを華麗に交わしていく。

 

その様子を見てメルはホッと胸をなでおろした。

ヒソカはにこにこしながらメルを見ている。

その視線に流石に耐えられなくなりメルの方から口を開いた。

「何ですか?」

 

「さっきの、君の能力があまりにも美しかったから少し驚いていたんだ。刀をわざわざ具現化させたってことはあれ、ただの刀じゃないでしょ?少し教えてよ♧」

「誰かに自分の念能力を見せる筈ないじゃない」

「でもイルミは知っているんだろう?」

「まぁね。だって私に念を基礎を教えてくれたのはイルミだったからね」

 

クク、イルミが教え込んだ子かぁ。

つくづく興味が湧いてくるよ♡

 

「ゾルディック家とルイス家って暗殺者の家計同士なのに随分と仲が良いんだねぇ」

「お爺様同士が仲が良くてね。今は協定を結んでる」

「そこは教えてくれるんだ♡」

「知られてても不利になることはないからね。私も、少し聞いていいかしら」

「なんだい?」

 

メルは少し顔を赤らめながらヒソカを見ていた。

「私イルミと4,5年くらいあっていないの。その間貴方は毎日でないにしろ数回はイルミと会っているでしょう?その……、イルミとどんな所に行ったとか、どんな表情をしてたとか覚えてる限りでいいから教えてくれないかしら」

 

ヒソカはまた喉を鳴らす。

「やっぱりメルはイルミの事が大好きなんだね♡」

「なっ!ま、まぁそうなんだけど……」

ヒソカに知られてても別に問題はない。

それよりヒソカからイルミの話を聞きたい。その気持ちの方が勝っていた。

 

「いいよ、教えてあげる」

 

あぁ、可愛いなぁ♡

僕のこんな言葉で目を輝かせるなんて。

君本当に暗殺者なの?って、つい思ってしまうよ。

 

「イルミとは5年前ヨークシンって言う街で初めて出会ったんだ。とても美味しそうで楽しそうな香りに釣られて路地裏にこっそりと入ったらそこにイルミがいたんだ。僕を品定めするかの様なあの目は堪らなかったよ♡その間に肌に突き刺さるような鋭い殺気も出してくれていたからね」

 

「仕事現場を見ちゃったんだね」

 

「そうみたい♤」

「仕事現場で顔まで見られた場合、相手を殺すという決まりがあるの。なのに殺さなかったということは何か取引でもしたの?」

「その通り。僕と戦ったら自分は怪我をするのは確実だから取引をしようと持ち掛けられたんだ♡」

 

イルミがそう判断したということはこのヒソカという男……相当強いということ。

一体どんな念能力を使うんだろうか。

「どんな取引を?」

 

「お互い困ったことがあれば協力する、協力者という関係を結ぶっていう取引さ。案外これが便利でね。メルは僕が殺しを楽しむことは知っているだろう?強者がどこにいるか、何人いるか情報をイルミは渡す。僕は仕事で人数が必要な時に駆り出される特別要員☆僕としては美味しい取引さ♡」

 

「なるほどね。イルミは随分とヒソカの能力を高く評価してるみたい」

イルミが仕事で他人と組むなんて……!

 

「嬉しい限りだよ♡僕としては君とも取引をしてもいいんだけどね」

「私と取引?」

「そう♡君はイルミが好き。僕はイルミの情報を渡すし、なんならくっつける手助けまでしてあげてもいい♡それに君が困っていれば助けてあげる」

「なっ、何でそんな取引を急に……」

「僕は気に入った相手でないとこんなことは言わないよ♤僕はイルミと同様に君のこともお気に入りになってしまったからね」

 

「私は何をすればいいの?」

「そうだなぁ、僕と友達になってよ♢」

 

予想外な言葉が出てきた為メルは「はぁ!?」と大声を上げた。

「とっ、友達!?」

「そう♡」

 

もうヒソカが何を考えて何を企んでいるのか全く分からない。

もしかすると何も考えていないのかもしれない。

本当に奇術師の様なつかみどころのない人間だな……。

にしても、友達になるくらいでイルミの情報が手に入るのならば安い!!

 

「いいわ。友達になりましょう」

「取引成立♡」

 

メル、気づいているかい?

“友達”っていう言葉は君が考えているよりも相当厄介なんだよ♢

これからよろしくね、メルチャン♡

 

 

その頃、ギタラクルは相変わらず美しいフォームのまま華麗に罠を交わしていた。

時折観戦席から見えるヒソカとメルの様子を伺う。

 

メルってば警戒心なさすぎ。

あんなにヒソカと話をするなんて。

ヒソカもヒソカだ。

あれだけメルには手を出すなと言っておいたのに。

協力者の関係を切ってもいいくらいだ。

あの時は仕事中だったしその後も仕事を何件か抱えていたから取引を持ち掛けたけど、いつでもヒソカを切ってもいいんだよ?そしたら困るのはヒソカの方じゃない?

俺が裏ルートで手に入れた情報があってこそヒソカは自分の欲を満たしてこれた。

それと天秤にかけてもどうやらメルに対して興味を示している。

全く困ったものだ。

 

すると終了を告げるブザーが部屋中に鳴り響いた。

「終了だ。……まさかこの部屋もクリアしてしまうとは。君たち三人はどうやら“特別”の様だ。さぁ、先へ進みなさい」

 

ギタラクルは速足でメル達と合流する。

「ギタラクルお疲れ様!流石に傷一つないね!」

「まあね。メルはヒソカと楽しそうにしてたけど何の話をしていたの?」

メルは少し肩をびくつかせる。

 

「君の話をしていたんだよ♤あまりにも綺麗に避けるから見入ってしまったよ」

ヒソカ……あなたナイスフォロー!

 

「……ふうん」

「さ、次の扉へいこう!」

鉄の扉を開くとまた薄暗い道が続いていた。

メルたち三人は再び暗闇の中へと姿を消してゆく。

 



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15話 嘘×変装

何時間歩いただろうか。

あれからもう3時間は経過してる筈。

槍が飛んできたり底が抜ける落とし穴があったり、トリックタワーの名前通り色んなトラップが仕掛けられてはいるけど正直に言って、私達には全く意味をなしていない。

「いい加減退屈してきちゃうね♢」

欠伸をしながら眠たそうにヒソカは目をこする。

 

「そうやって油断してると足をすくわれるんだよ、ヒソカ」

「クク、僕の心配をしてくれるのかい?優しいんだねメルは」

「別に心配なんてしてないけど」

 

二人のやり取りを見ていてギタラクルはクリンと首をかしげる。

「二人とも、何かあったでしょ」

 

するとメルは慌てて否定した。

「い、いや!何もないよ?ね?ヒソカ」

「クク☆そんなに慌ててたら何かあったみたいじゃないか♡まぁ僕は別にいいんだけどね♡」

「今そうやってからかわないで!」

恐る恐るギタラクルの方へ目線を向けると、疑うような目つきでメルを見ていた。

 

メルの額からはタラタラと汗が流れ落ちる。

いや、絶対に言えない!!

イルミのことが知りたくてヒソカと友達になっただなんて!!

そんなこと口が裂けても言えない!!!

 

「実を言うと、さっきメルとは昔話をしていてね♡」

「昔話?」

 

ちょっと!ヒソカいきなり何を言い出すの!?

メルはハラハラしながらヒソカの言動に耳を傾ける。

 

「そう♡実は僕たち実は昔会ってたのさ♡」

「どういうこと?」

ギタラクルは歩くのをやめてヒソカを睨みつける。

 

二回目!!

いきなり何を言い出すの!?

あなたとは完全に初対面なんだけど!?

 

「6年前にメルがポートシティに来てる時に会ったんだ。美味しそうな香りがしたから僕は興味津々でね。ワザと、メルにぶつかってきっかけを得ようとしたんだけど、あっけなくあしらわれてすぐにどっかに行っちゃった。当時メルは変装もしてて6年も前のことだから忘れていたんだけどね」

 

「なんでそのぶつかった奴がメルだと今分かったのさ」

「君があまりにも華麗に避けてるもんだから会話がどんどんと暗殺業の話になっていってね、今までどんな変装をしてたのかって話になった。そこでメルがしてた変装を聞いてピンときたのさ」

「ふうん、余程印象に残る変装だったみたいだけど、一体どんな変装してたのさ」

「クク、聞いたら君、驚くだろうなぁ」

「なに?早く言いなよ」

 

ヒソカはちらりとメルを見つめる。

「メルはちょび髭をつけて髪型はリーゼント。おまけに服装は袖の無いかなりワイルドなジャケットを着ていたんだ。でもどこからどうみても女の子でね。想像してみてよ。印象に残るだろう?」

 

メルはぴしゃりと固まった。

3回目

何を言い出すんだこの人!?!?!?!?

 

ギタラクルに目線をやると、スッと目線を逸らされた。

そして口角を微妙に上げていた。

 

わ、笑ってる!?

絶対笑ってるよね!?

 

「メル、ごめんね。俺がきちんと変装の仕方まで教えていなかったからだね」

ギタラクルはよしよしと頭を撫でた。

その手は僅かに震えている。

 

やっぱり笑ってるねイルミ!?

メルは涙目でヒソカを睨む。

 

ククク、ごめんごめん♡

でもこれで普通に会話してても怪しまれないだろう?

 

メルは肯定するしかなく、ちょび髭リーゼントを容認せざる得なかった。

ヒソカ……、覚えておきなさいよっ……。

にしてもなんであんなスラスラとありもしない作り話ができるんだか。

助かったかもしれないけど礼は言わないわよ、ヒソカ。

お蔭でこっちは笑いものにされているんだからね!!

 

ギタラクルはまだぷるぷると震えていた。

その様子を見てメルはがっくりと肩を落とすのであった。

 

 

 

更に2時間を歩いた頃ようやく次の扉が見えてきた。

扉を開けると囚人たち総勢200名がお出迎えしていた。

 

するとリッポーの声が天井から聞こえてくる。

「これが最後だよ。さっき、メルが戦った100名とは比べ物にならない程凶悪な死刑囚達を集めた。全員を倒すこと。それがこの先の扉を潜る条件だ。検討を祈る」

 

「分かりやすくて助かるよ♡」

「1人66~67人だね」

そう言いながらギタラクルは針を手に持つ。

 

「あまり強そうには見えないし5分で終わりそうだね」

メルも刀を具現化させていた。

 

ヒソカはニタァと笑う。

「始めようか♡」

 

 

リッポーは画面越しにこの部屋で起きている惨劇を目に焼き付けていた。

「なんて奴らだ。……とても手に負える連中ではない。すでに全員が念能力を習得している。それもかなりの実力者たちだ。今回のハンター試験、一波乱ありそうだ」

 

次々と息絶えていく死刑囚達。

3人の前では虫けら同然にその命が一瞬にして消えていく。

 

5分が経過した頃には立っているのは3人だけだった。

床には血の水たまりができていた。

「三人とも、3次試験は合格だ。その扉をくぐるといい。できれば二度と君たちには会いたくはないな。そう言わせるほど君たちの実力が素晴らしく、そして恐ろしいと評価している。ハンターとして正しき道へ進んでくれることを切に願うよ」

 

リッポーが言い終わると同時に大きな鉄の扉は自動的に開いていく。

その先には広い部屋へと繋がっていた。

 

「受験番号44番ヒソカ、99番ギタラクル、450番メル。第三次試験合格。時間6時間17分」

 

3人は72時間という制限時間の中わずか6時間足らずでクリアしてしまった第一号の通過者となった。

 



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16話 友情×仲間

「俺たちにとって楽勝すぎたねー」

ギタラクルは壁にもたれかかって気怠そうな表情をしていた。

「本来なら私たちが通った道はハズレの道だよね。他の受験者にあの道はかなり厳しかっただろうね」

メルはギタラクルの足元で膝を抱えて座り込んでいた。

 

キルアやゴン達があの道を引かなくてよかった。

キルアはともかく、ゴン達には恐らく無理だ。

あんな道があるくらいだ。他にも危険な道が用意されていても可笑しくはない。

皆無事に合格できればいいんだけど……。

 

「あと66時間もあるね。何して暇つぶししようか♡」

ヒソカはどこか楽し気に笑顔を見せている。

対照的にギタラクルは面倒くさいと言わんばかりに眉間にしわを寄せる。

 

「俺は寝るよ?」

「クク、君は相変わらずマイペースだね」

「私も休ませてもらうよ。休める時に休んでおかないとね」

メルはう~んと伸びをして瞳を閉じる。

 

その言葉を聞きギタラクルはクリンと首をかしげる。

「メルも寝るの?」

「まさかハンター試験で人を殺すなんて思ってなかったからね。もしかしたら次の試験内容はもっと過酷かもしれないから今のうちに休ませてもらうよ」

 

「ふうん、わかった」

短く返事するとギタラクルはメルとヒソカの間に腰を下ろした。

 

「クク、心配性なんだから♡僕は何もしやしないよ♢」

「メルはたまに抜けてる所があるからね。さ、寝よう~」

ギタラクルはそういうと早々に瞳を閉じる。

メルは少し顔を赤らめ、次第に眠りに落ちていく。

 

 

 

その様子を見てヒソカは「クク」と喉を鳴らした。

本当にメルと仲が良いね、イルミ。

君は自分の感情に気付いているのかな?

感情は暗殺者には必要ないといつも言っていた君がその感情に振り回されている。

それも一番やっかいな“愛情”とはね。

いつかイルミとも戦いたかったけどいいシチュエーションが思いつかなくてね♡

メルとイルミをくっつけて、今以上に更に強固な関係を結ばせて、昔から大事にしていたメルを殺されたら君はどんな顔をするだろうか。

あぁ、想像しただけでゾクゾクするよ♡君は恐らく前回とは違って協力関係を結ぼうだなんて言いはしない。必ず僕を本気で殺しに来てくれるだろう?♡

メルと戦うのも楽しみだけどその後にもちゃんとイルミという極上のお楽しみが待っている。

「一度で二度おいしいとはこのことだよね」

ペロリと舌なめずりをしながらヒソカは、一人でトランプを積みかねて遊ぶのであった。

 

 

 

それから4時間が経過した。

扉が開く音がしてメルとギタラクルは目を覚ますとツルツルの頭をした男が「クソッ!一番じゃないのかよ」と言いながらやってきた。

「メルおはよう。ちゃんと起きれたんだね」

「さっ、流石に起きるよ!」

「ふうん、昨日は何しても起きなかったからこんなのでやっていけるのか少し心配してたんだよね」

 

 

ん?

今“何をしても”って言った!?

「何かしたの!?」

「……ん?さぁ?」

何!その間!!

 

 

 

わーわーと騒いでいるメル達を見てハンゾーは少し顔をしかめた。

あの三人、特別やべぇ。俺は鼻が利きすぎる方だからな。

血の匂いがぷんぷんしてきやがるぜ。

どんな道を通ってきたのかは想像できるが……、問題は誰も傷一つ負っていないことだ。

この匂いに対してなんで誰も傷がない?

それはこいつらがが化け物だってことを現している。

あんな華奢な女の子までいるのに恐らく俺よりも実力は上だろう。

ったく、嫌になるぜっ!!

ハンゾーは「ちっ」と舌打ちをする。

 

 

すると何時間かおきにぞくぞくと合格者たちが集まっていく。

そして、試験終了3分前の知らせをビーンズは告げる。

「まだキルア達が来てない!!」

「まぁ、ここで脱落するならそれは実力がなかった。そういうことだよ」

 

キルアのことを大事にしている癖にこういう時はやけに冷たいんだから。

でも本当は心配しているんでしょ?

さっきからまだ開いていない扉をずっと見てるし。

 

するとボロボロになったキルア達がようやく到着した。

メルはキルアを見るなり駆け出した。

「心配したよキルア!」

「ワリィ!あ~、危なかった~!!」

「凄く汚れているけど一体どんな道だったの?」

メルはぽんぽんとキルアの土埃を払う。

 

「いや本当に大変だったんだぜ!?多数決の道ってところだったんだけど、意見が合わないわ誰かさんが女に鼻の下伸ばしたお蔭で時間なくなるわでほんと参ったよ!!最後は全員通れるが長く険しい道を行くか、短くて安全な道だけど一人しか通れないかまた選ばされたんだ!」

 

「皆いるから長くて険しい道を選んだんだね。だからこんなにボロボロに…」

「違う違う!ゴンのやつがとんでもないこと言い出したんだ!長く険しい道に全員で入って、壁をぶっ壊して隣の短くて安全な道を来たんだ!壁をぶっ壊してた時にもう汗だくでさ、だからこんなになってんの!」

「フッ、なんだか楽しそうだね」

「楽しいもんかー!こっちはハラハラしてたんだぜ!!」

 

悪態をつきながらも楽しそうに何があったか話すキルアの姿を見て口元が緩んだ。

いい仲間に出会えたんだねキルア。

この仲間はきっとキルアを助けてくれるよ。

 

キルアは昔から同年代の友達を欲していた節があった。

でもゾルディック家には必要ないとイルミに教えこまれていたから誰一人としてキルアに友達はいない。

ルイス家とゾルディック家の大きな違いとして、ルイス家はその血を受け継ぐ者たちが主となり自分たちが選んだ部下を付ける。ゾルディック家の様に執事はいないけど彼らがその役割を担い、その関係性はもっと分け合いあいとした言わば“友人”や“仲間”と呼ばれる類に等しい。

でもゾルディック家にはその様なものはいない。

私には年も近いイリア達がいてくれたからキルアの様に寂しさをあまり感じなかった。

でもキルアは違う。

きっとずっと寂しかったはずだ。

今こうして笑っているキルアを見ると心から安心する。

良かったね、キルア!

 

 

 

 

「メルはどんな道だったんだ?」

「ん?私の道は暴虐の道って名前だったよ」

「ぼっ、暴虐って……。ろくな道じゃなかったのは確かだな」

 

 

 

 

すると第三次試験終了のブザーが鳴り響いた。

「第三次試験終了。通過人数25名」

アナウンスが入るとコンクリートでできた扉が開き、そこからは朝日が差し込んでいる。

 

ともかく、無事に全員クリアできてよかった!!

次は一体どんな試験なんだろう!

 

メルは期待に胸を躍らせながら光の中へと足を進めた。

 



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17話 ターゲット×取り合い

メルは大きく深呼吸した。

何だか外に出るのは久しぶりだ。

 

外にはこのトリックタワーの支配者リッポーが待っていた。

「諸君、第三次試験合格おめでとう。残る試験は第四次試験と最終試験のみ。第四次試験はあの、ゼビル島にて行われる」

そういってヒッポーは後ろに見えている島を指さす。

 

「早速だが諸君にはこのくじを引いてもらう。狩る者と、狩られる者。この中には24枚のナンバーカード。即ち、今残っている諸君らの受験番号が入っている。それではタワーと脱出した順にくじを引いてもらう」

狩る者と狩られる者か……

つまり今から引くナンバーカードの相手を狩るという意味かな?

 

メルは挙手をする。

「あの、3人同時に脱出したのですが」

「その場合、ナンバープレートの早い順から引いてもらおう」

「じゃぁ僕からだね♡」

 

全員が息をのんで三人に注目した。

異質な3名が固まっていたからだ。

人殺しを平気で行う危ない受験者ヒソカに見るからに怪しすぎる見た目のギタラクル。それに謎の美少女

妙な組み合わせの3人を見て驚いたのはキルアもであった。

 

メルのやつあのヤバそうな2人とクリアしたっていうのか!?

お前ってばつくづくついているのかついてないのか……。

 

キルアは「はぁ」とため息をついてメルを見守っていた。

 

メルの順番になり、引いた番号は371。

まだ受験者達はこの趣旨に気付いていない者も多く、胸にナンバープレートを張り付けていた。

メルは直ぐに相手を確認した。

371…・・、いた。

額に黄色いバンドを巻いた格闘家らしき男だった。

 

この試験の趣旨に薄々感づき始めた者たちはプレートを鞄の中へと隠す者が増えてきた頃、メル、ギタラクル、ヒソカは気づきながらもプレートを外そうとはしなかった。

プレートをしていても自分が負けるはずがないという絶対的自信があったからだ。

もし負けるとすればこの3名のうち誰かのターゲットになった場合のみ。

 

「ギタラクル、ヒソカ、何番を引いたの?」

すると二人ともプレートを簡単に見せてくれる。

その番号を見てメルはほっと胸をなでおろす。

 

「メルは何番を引いたの?」

「371番だよ」

「あぁ、あの男ね」

ギタラクルは番号を聞いただけで誰か分かったようだ。

 

「まさか全員の番号と顔を一致させてるの?」

「まぁね。情報収集に抜かりはないよ。371番は格闘家ゴズっていう人だよ。まぁメルなら余裕だと思うから安心しなよ」

 

メルは驚いていた。

さすがイルミ……。

初め400人以上人数がいたのによく覚えられたな……。

 

 

「それぞれのターゲットがその番号だ。今、諸君が何番のカードを引いたかはこの箱のメモリーにすべて記憶されている。したがってもう、そのカードは各自自由に破棄して貰って結構だ。奪うのはターゲットのナンバープレートだ。もちろん、プレートを奪う手段は何でもあり。まず命を奪ってからゆっくり奪っても構わない。いいか諸君、自分のターゲットとなるナンバープレートは3点。自分自身のナンバープレートも3点。それ以外のナンバープレートは1点。最終試験に進むのに必要な点数は6点。ゼビル島での滞在期間中に6点分のナンバープレートを集めること。それが第四次ハンター試験合格のクリア条件だ」

 

やはりこのカードにかかれたナンバーがターゲット。

それ以外で3人倒してプレートを奪うっていうのもありなんだね。

殺しがオッケーならこの二人は間違いなく殺して奪うんだろうなぁ。

ヒソカなんてさっきから楽しみなのか殺気が出てるし、あまり一緒にいたくないな。

 

「船を用意してある。全員この船に乗ると言い」

中型船に受験者たちは重い足取りで乗り込んでいく。

どうやらゼビル島に着くまでに2時間程かかるようだ。

メルは自然にヒソカから離れて一人で海を眺めていた。

 

するといつの間にかキルアが横へやって来ていた。

「メル、お前……何番だったんだ?」

少し不安そうな顔のキルア。

 

メルはキルアの頭に手を置いて「大丈夫、私のターゲットはキルアじゃないよ」といった。

すると安心したのか緊張していた顔が和らいでいく。

 

「俺、199番だったんだ。メルは?」

「私は371番のゴズって人だよ。どうやら格闘家みたい」

「なっ、何で名前まで把握してんだよ」

「フフ。受験者達の顔とナンバーを全て把握してる人がいてね。その人から教えてもらったの」

「なっ!?そんな奴がいるのか!?化け物かよ!!」

「ほんとにね!」

「メルは今回の試験一人で行くのか?よかったら俺と一緒に行動しない?一人で行くのもつまらないし」

「キルアとならいいよ!私もそっちの方が楽しく過ごせそうだし」

「よし!決まりな!」

キルアは嬉しそうにガッツポーズをする。

 

その姿が可愛くてつい抱きしめてしまう。

「おっ、おいメル。俺は人形じゃねぇぞ!」

「ごめんごめん、つい可愛くって」

「~っ!」

 

その様子をギタラクルは遠目で眺めていた。

「あらら♡メルは今回はキルアと一緒に行動するみたいだね♡」

「そうみたいだね」

「取られて嫉妬しているのかい?さっきから顔、すごいけど♡」

「ん?別に」

 

そういってギタラクルはぷいっと顔をそむける。

 

船は順調に進み、あっという間に2時間は経過していた。

船を降りる順番はタワーを合格した順番であった。

メルは先に船を降りて、絶で気配を消して森の中へと溶け込みキルアが出てくるのを待った。

 

「キル、こっち」

茂みの中からメルの声が聞こえてビクッと肩を跳ね上げるキルア。

「ビックリした~!ったく気配を消すのうまいよなメルって」

「誉めてくれてありがとう。さ、行こうか」

 

二人は森の奥へと姿を消していくのであった。

 




書いててキルアが可愛くて仕方がありません。
こんな弟が欲しかったな。
次はついに第四次試験開始します。
メルはキルアと行動を共にしますがイルミももちろん関わってくる展開にします♪


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18話 追跡者×狩り人

森の中はまだ昼間というのに薄暗かった。

メルとキルアは一定の速度を保って歩いていた。

 

キルアはチラチラとメルを見る。

相変わらず足音しねぇ

というかこんなに近くにいるのにメルから気配を感じない。

メルは普通に歩いているだけなのに。

これが差ってやつなのか、嫌でも俺の立ち位置を思い知らされる。

 

昔からメルは凄い。

あのスパルタ兄貴の修行メニューを文句言いながらも全部こなしてた。

今じゃルイス家を代表とする暗殺者だもんな。

 

「キル?」

ぼうっとしているキルアの顔をメルは覗き込んだ。

「考え事?余裕だねぇ」

メルはにこにこと笑顔を見せる。

 

俺はこの笑顔に何度助けられたことか。

お前には感謝してるんだぜ?メル。

寂しい時にいつも傍にいてくれた、俺の大事な人。

 

キルアはメルの頬を両手でつかみ横に引っ張った。

「いへへ」

「ハハッ、変な顔」

「ひほい」

 

メルは頬をさすりながら辺りを見渡した。

「キルア、気づいてる?」

「あぁ。つけられてるな」

 

4人いるな。

キルアと半分こして2点ゲット。つまりあと1点とれば合格か。

これは仕留めるしかない!

 

キルアは後ろを振り向いて追跡者に声をかける。

「おい、出て来いよ。遊ぼうぜ」

 

だが誰も姿は現さなかった。

ったく、バレバレなんだよ。

下手に跡をつけられるこっちの身にもなってくれよな!!

 

キルアは苛ついて短く舌打ちをする。

「時間の無駄ですよー。私たちを付け回してよくわかったでしょ?隙なんてどこにもないって」

 

すると3人の男が姿を現した。

「ま、女子供だけだしどうにかなるだろ」

メルとキルアは呆れたようにため息をつく。

 

まさか相手の力量の差も分からない相手だったとは。

「キルア、軽く遊んでおいでよ」

「ほーい」

 

キルアはゆっくりと3人の方へと歩いたかと思えば、一瞬のうちにナンバープレートを全て奪ってきたのであった。

「お、手早いねぇ」

「まぁねー」

キルアは涼しい顔でナンバープレートを確認する。

「お♪ラッキー、俺のターゲットじゃん♪」

 

キルアの動きが速すぎて何が起きたのか理解できない3人は、そのまま逃げればいいものを、なんとメル達に向けて攻撃を仕掛けてきたのだ。

メルは一瞬で3人の背後を取り、手刀を首裏にあてて意識を奪った。

「悪いけど試験終了するまでここで眠ってもらうよ」

3人は冷たい地面へと倒れこむ。

 

「サンキュー」

「いいよこのくらい。それよりターゲットのナンバープレートがあったんだって?ついてるね!」

「これで俺は合格だ。次、メルのターゲットの奴探そうぜ。それかこの2点分と、そこに隠れている奴1人ヤッて3点分にする?」

キルアのその言葉を聞いて、身を潜めていた者は猛スピードでその場所から離れて行った。

 

 

「あの人は賢明な判断だね。逃げる人は追わないわ。それに、まだまだ時間はあるんだ。せっかくだし私もターゲットのゴズって人探して3点ゲットするよ」

 

「これから楽しくなりそうだな!」

「うん!!」

 

 

そんな二人をギタラクルは眺めていた。

ぎりぎりメルに気付かれない間合いを常に取りながら二人の動向を見守っていたのだ。

 

二人が一緒に行動してくれて俺としても監視しやすくて助かるよ。

メルは抜けてるし、キルアは大事な時期だし、俺がしっかりしないとね。

ギタラクルは静かに追跡しながら自身の獲物を探すのであった。

 




2話 暗殺者×ハンター に挿絵を挿入しています。
メルを描いたのでぜひご覧下さい♪


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19話 メル×仕返し

「探すったってどうしようか。ただ闇雲に歩いているだけじゃ時間の無駄だしなぁ」

キルアは腕を組みながら「う~ん」と考える。

 

メルにはゴズを探す方法はあったのだ。

それは自身の念能力を使えば容易いのだが、まだ念に目覚めていないキルアの近くで発動させてしまえば何かの拍子に精孔を開いてしまうかもしれない。

そのリスクを恐れてメルは手を出しあぐねていた。

 

ヒソカにはうまく具現化系だと思われていると思うけど、私は特質系だ。

能力は3つ程ありトリックタワーで使ったのは、“神の略奪者(テオスプランダラ)”。

念の刀を出現させて、その刀で対象者を斬り血液を吸わせることで対象者のモノならば何でも奪うことができるという能力だ。

つまり一太刀でも入れれば、対象者の能力や感覚から、心の臓まで好きに奪うことができるのだ。

まぁ発動条件は4つ程あるけど、正直仕事ではかなり便利な能力で重宝している。

あの時はヒソカがいたから本当の能力自体は使わなかったけどね。

 

そしてもう一つが“気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)”。

望む能力を何でも作り出すことができる能力だ。

この能力を使えば自分の思った能力を想像するだけで作り出すことができるのだ。

私が女の身でありながらルイス家でエル兄様に並んで代表されている理由がこの絶対的能力のおかげだ。

 

ゴズという人間を簡単に見つけ出すことができる能力を作れば今の現状は簡単に解決される。

ただ、これを発動させると私を中心に広範囲に術式が地面に展開されてしまう。

その術式の上にいる者のオーラを私の意志とは関係なく勝手に吸い取ってしまうのだ。

つまり、キルアは完全にアウト。

キルアを危険に晒すそんな念能力は使えないしなぁ。

 

「まぁ、どうにかなるでしょ!」

「ったく、相変わらず楽観的だよな~」

そんな会話をしながら先を進んでいくと、色んな方角から血の匂いや殺気がしていた。

 

受験者同士がぶつかっているんだね。

とりあえず匂いのする方へ行こう。

ゴズにもターゲットがいるから、もしかしたら戦闘中かもしれないしね。

 

木陰に隠れながら様子を伺う。

そこには矢で撃たれた受験者の姿があった。

恐らくもうプレートは奪われた後だ。

男の周りには多くの吸血蝶が集まっておりその男の傷の深さを現していた。

 

この試験思ったより多くの受験者が死ぬんじゃないかな。

ヒソカやイルミだけじゃなくても、相手を殺してプレートを奪うのが一番手っ取り早い。

ハンター試験って、想像していたより過酷な試験なんだ。

メルは静かに目を閉じ黙祷を捧げる。

 

「メル、向こうからも血の匂いがするぜ。あっちはまだ戦闘中っぽい」

「行ってみよう」

 

キルアの言う通り別の場所では受験者同士の激しい戦闘が行われていた。

だが二人ともメルのターゲットではない。

派手に火薬なんか使ってるから他の受験者達も様子を伺いに来ている筈。

 

ふと意識を周囲へ向けた。

「やっぱり……、私たちの他にも4人もこの近くにいる」

しかもそのうちの一人はヒソカだ。

あまり会いたくなかったのだけど……

 

恐らくヒソカも私達が近くにいることに気付いている。

その証拠にさっきから私達の方向に殺気を飛ばしまくってる。

 

“気付いているよ♡”とでも言っている様だ。

あまりにもしつこいのでメルも冷たい殺気を返す。

“いい加減にして”

そんな意味を込めると伝わったのかぴたりと殺気を送るのがやんだ。

 

キルアはキョロキョロと辺りを見渡している。

ヒソカの殺気に当てられてかなり警戒している。

 

「大丈夫だよキルア。何かあったらちゃんと守ってあげる」

そういってキルアの頭にポンと手を置くとメルのすぐ後ろから「ククク」と喉を鳴らす声が聞こえた。

 

キルアはビクッと肩を上げて後ずさりする。

キルアが逃げ腰なのも無理はない。

ヒソカは獲物を見る目で愉しそうに笑っているからだ。

 

メルはキルアの前に立ってヒソカに向き合う。

「さっきから何?邪魔しないでほしいのだけど」

「邪魔なんてしていないよ♡君たちが近くにいるものだからつい、ね」

「つい、であんなに殺気とばされちゃ迷惑なんだけど。ヒソカのせいで集まってた残り三人が逃げてしまったわ」

「ククク。ごめんごめん♡」

 

そんな会話をしていると、受験者二人の戦いもいつの間にか終わっておりその場所には私達だけになってしまっていた。

「キルア行こう」

メルはキルアの手を握りその場から離れようとする。

その後ろをヒソカはついて来るのだった。

 

「もー!ついて来ないでよー!」

メルは次第に駆け足になっていた。

だがヒソカは笑いながら追いかけてくるのだ。

 

「いいじゃないか☆」

「よくなーい!!ヒソカといると受験者と会えないじゃない!キルア、ちょっと本気だすね」

そういってメルはキルアを抱きしめて足にオーラを集中させる。

 

オーラを使用したことで飛躍的に速くなるメルを見てヒソカは目を見張り更に笑うのであった。

「僕、鬼ごっこは大好きなんだ♡」

ヒソカも本気で追いかけようとした時だ。

 

ギタラクルがヒソカの目の前に降り立った。

「何してるのヒソカ」

「んー?♡鬼ごっこ」

「なに?刺されたいの?」

手には鋭利に尖った針が握られている。それも禍々しい色の針だ。

 

「ククク、つい楽しくってね♡」

「まったく。ヒソカってもの分かり悪いの?何度同じこと言わせるのさ。いい加減にしないともう協力関係切っちゃうけど」

「それは困るね」

「なら二人に手を出すな」

「はいはい♡」

ギタラクルは呆れた顔でヒソカを見るのだった。

 

無事に逃げ切ったメルは、ヒソカの気配を感じない場所まで移動するとキルアを下ろした。

「もう大丈夫みたい」

キルアは少し顔がこわばっている。

 

私のキルアをこんなに怯えさせるなんて!!

ヒソカ許せない!!

どうにかして仕返してやりたいな。

数分後、メルはにやっと不敵な笑みを見せるのだった。

 

もう辺りはすっかり暗くなり1日が終わりに近づいていた。

そんな中、メルとキルアは闇に乗じて移動を繰り返し、受験者達が夜をしのぐであろう場所を割り出して見つけた受験者達を次々と手刀で眠らせていく。

 

「メル、もうこれでプレート4枚目だぜ?合格は確実だけどまだするのか?」

「ヒソカに仕返しだよ」

「これが仕返しになるのか?」

キルアは眉を潜ませる。

 

「ヒソカには効果抜群だよ。ヒソカはこの試験にも戦闘を求めている。でも私たちが受験者達を全員眠らせてしまえばヒソカはその欲を満たせないでしょ?これ以上にヒソカが苦しむことはないよ」

 

「なるほどな。確かにあいつ、戦闘狂だし。そんな奴が戦いたくても戦う相手がいなけりゃ相当ストレスになる筈だ。メルってばよくこんなこと思いつくよなー」

「フフ、見てなさいヒソカ!!」

 

そしてメル達は一晩で13個ものプレートを奪い取ったのであった。

 





3話 兄×兄にメルの兄エルとラルの挿絵を挿入追加しています。
よければご覧ください♪


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20話 特別×念能力

 

 

東の空は徐々に白み、輝いていた星々を消し去っていく頃、メル達は洞窟の中にいた。

 

「流石に少し疲れたぜ」

そう言いながらキルアは大きな欠伸をした。

「少し休もうか。出入口が一つしかないここなら安全だと思うし」

「まぁ、俺たちだったらどこで寝たって問題ねぇけど用心するにはこしたことねぇからな」

「うんうん、じゃぁ私もそろそろ寝るね~」

二人は冷たい地面に横になり体を休めた。

 

 

二人が休憩をしている頃、ヒソカはあることに気付く。

 

受験者に全く出会わない。

初日はあんなに戦闘が行われて気配が幾つも感じ取れたのに一夜明けると全くと言っていいほど感じ取れないのだ。

 

夜中に戦闘が行われた感じもしていない。

この試験を受けに来た受験者なら、初日の様に派手に戦いが行われるはず。

そんな戦いが起きていれば気付くけど、全く何も起きていない。

いや、起きていたとしてもそれを感じ取れない程一瞬で受験者を片付けた者がいるということを示唆している。

そんなことができるのは二人しかいない。

イルミは無駄なことはしない性格だし、こんなことするとは考えられない。

残るは……

「メルか」

ヒソカは一人笑うのであった。

 

 

メル達が眠りについて4時間が経った頃、洞窟に足音が響いた。

二人はすぐに目を覚まし、顔を見合わせた。

 

洞窟の岩陰に身を隠し侵入者の姿を見ると、頭にターバンを巻いた男が警戒しながら歩いていた。

男の体からは何匹か蛇が顔を覗かせている。

 

蛇使いか。

それも猛毒を持った個体だ。

幸い私もキルアも、毒の耐性はあるから噛まれても大丈夫だけど……

問題は蛇の数だ。

一体あの服の下に何匹連れているんだろう。

逃げ道は一か所だけだからあの男は倒さなければならない。

一体ずつ蛇を処理しても良いのだけど流石に骨が折れそうだな。

こういう時に便利なのが私の能力だ。

 

私は男の前に姿を現した。

すると何百という蛇も主の危機を悟って服の中から飛び出してくる。

私は“神の略奪者”テオスプランダラを発動させた。

 

手には白い念刀がその形を成し実体化した。

「あなた、名前は?」

「俺はバーボン。お前は受験番号450番のメルだな?」

「私のことを知っているのね」

「要注意人物として把握している。だが、この洞窟という逃げ道がなく限られた空間の中でなら俺のこの蛇たちが有利!!残念だったな。既にお前は詰んでいるのだ。仮に俺を倒した所でこの蛇達はお前を絶対にここから逃がしはしない」

「そうだと思ったよ」

「なに?」

 

メルは足にオーラを集約させ滑る様にバーボンとの距離を詰める。

その際飛び掛かってくる蛇達の頭部を全て切り裂いた。

あまりのことにバーボンは「まっ、待て!!」と叫ぶもメルは止まらない。

 

そして、バーボンは怖気づき尻餅をついた。

メルはバーボンの頬に刃先を少し当てると簡単にバーボンの柔らかい皮膚から赤い液体が流れた。

ゆっくりと頬から流れ落ちた液体は刀に染み込んでいく。

 

これで条件は揃った。

「あなたのモノを一つもらうわ」

「モっ、モノ!?一体なにを……」

「あなたの蛇を所有する力をもらう」

 

メルがそう言うと、バーボンは頭に「?」を浮かべていた。

「もうこの蛇はあなたのモノじゃないよ」

「おっ、お前さっきから何を言って……」

「おいで」

 

メルがそう言うとさっきまでバーボンにくっついていた蛇はメルにすり寄ってきたのだ。

「そっ、そんな!?」

「いい子だね。全員森に帰っていいよ」

そう言うと、蛇は列を成して次々と洞窟の外へと出て行ってしまった。

 

「キルア、もう出てきてもいいよ」

ひょこっと顔を出すキルアは目の前で起きていた事を全て見ていた。

 

キルアは、念能力は知らないけど昔から私の能力は知っている。

だから私のことを“特別”と思っている。

私としては念能力について教えてあげてもいいのだけど、イルミの教育方針に勝手に手を加える訳にはいかない。

 

「メルってほんととんでもねぇ技使うよな。一体どうなってんだか」

「説明してもいいのだけどイルミに教えてもらうのが一番だよ。私をここまで育てたのはイルミだし」

「うっ、……ま、まぁ追々でいいかな」

 

キルアはこの通り、イルミの事を避けている。

二人の間に一体何があったのか。

気になるけど、簡単には聞けない。

 

洞窟を抜けると、太陽はもう少しで真上まで登る所だった。

「じゃぁブラブラ歩きながら残りの受験者をまた狩っていこうか」

「おう!」

 

 

ゴンやクラピカやレオリオ達とは合わないけど3人とも大丈夫かな?

私たちが受験者を狩っていくことで3人もプレートを手に入れにくくなっている筈なんだよね。

 

「ゴン達にも合流したいね」

「そうだな!よし!あいつら探すか!」

「うん!でもどうやって探そうか」

 

「あ、俺ゴンのターゲット知ってる」

「ならその人の近くにいれば自然とゴンに会えるって訳ね。でもその人をどうやって探す?」

「それは大丈夫。あいつのターゲット、ヒソカなんだ」

「え!?」

「ヒソカならすぐに見つけられるだろ?殺気出してたら昨日みたいに勝手にやってくるんだから」

 

それはそうかもしれないけど……

多分私たちが受験者を狩っていってることはヒソカなら気付いてる。

逆恨みされそうで会うのが少し怖いんだけどな。

でも、ゴン達が不合格になるのは嫌だし。

 

それに、ヒソカは間違えなく滾っている筈。

そんなヒソカの前に、あんなに怯えてたキルアを連れて行くのは気が引ける。

ここからは別行動をした方がいいかもしれないね。

 

「いい作戦だけど、私一人で行くよ。ヒソカと少し話することあるし、キルアは船の近くで待っててよ」

「船の近くで?」

「今日は二日目だし、プレートを手に入れた受験者は船の近くで待機していると思う。その受験者を狙って船の近くにまだプレートを集めきれていない受験者もいる筈。クラピカやレオリオなら頭が良いからそっちに行ってる可能性が高い」

「なるほど。確かに、レオリオはともかくクラピカならそう考えそうだ。分かった、俺は船の近くで二人を探してみるよ」

「うん!なら一旦解散だね。ゴンと合流できたら船の近くに行くから後で落ち合おう」

「了解。……メル、気を付けていけよ」

「ありがとうキルア。じゃぁまた後で」

 

森の奥深くへと入っていくメルの後ろ姿をキルアは心配そうに見つめ、自身も目的の場所へと移動するのであった。

 



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21話 メル×自我を持つ念能力

 

この辺りでいいか。

メルはヒソカに向けて殺気を放つと同時にぶわっとメルを中心に木の葉が舞い散った。

 

それからしばらくすると簡単に目的は達成された。

低い声で喉を鳴らしながら奇術師は現れる。

 

「君の方から僕を誘ってくれるなんて嬉しいじゃないか♡」

「少し用があったからね」

そう言いながらメルは近くにあった木を切り倒してその上に座る。

 

「釘を刺しておこうと思って」

「一体何のことだい?」

「キルアに何かしたら、私許さないよ」

 

メルの瞳は酷く冷酷で、鋭く研ぎ澄まされた殺気を孕んでいる。

ヒソカは少し目を見張りニヤリと口角を上げる。

 

「キルアのこと、玩具にしようとしているのは分かってるよ。昨日の、ヒソカがキルアを見る目は明らかに獲物を見据えた目だった。キルアは私にとって弟みたいな存在なの。手を出したら友達でも容赦はしないよ」

 

ヒソカは予想外な展開に酷く喜んでいた。

どの時期にどのシチュエーションで誰を殺せば一番楽しめるのか、頭の中で想像を膨らませるだけで快感が達してしまいそうだった。

 

すると近くの茂みに誰かの気配を感じた。

それはヒソカも気付いており、笑いながらそちらを見る。

「楽しい時間に水を差さないでおくれよ。さぁ、出てきなよ。いるんだろう?……来ないならこっちから行こうか」

 

そういって茂みに向かって歩き出すヒソカ。

すると男が茂みから姿を現した。

 

メルはその男を見てぽかんと口が開く。

なんとその男はメルのターゲットであるゴズだったのだ。

 

ゴズは手に持っていた槍をブンッと振り回した。

空気を斬る音がその場に響く。

 

「手合わせ願おう」

「死ぬよ♡」

 

ヒソカが忠告したにも関わらずゴズは勇敢にも戦いを挑んだのだ。

ヒソカは綺麗にゴズの槍を交わしていく。

一度も手を出さずにひたすら避け続ける奇術師に、ゴズは怒りを込めながら「なぜ攻撃してこないっ」と声色を震わせる。

 

「このまま避けていれば君は勝手に死ぬからね」

「!」

「その夥しい数の好血蝶が君の傷の深さを物語っている。既に誰かに致命傷を負わされているんだろう。最後まで戦士たろうとするその心意気は分かるけどね」

「貴様っ。そこまでっ…、そこまで理解していながらそれでも私とは戦ってくれぬというのかっ!!」

「うん…、死人に興味はないんだ。君はもう死んでいるよ。目が」

 

そういってヒソカはゆっくりとメルが座る倒木に腰を下ろす。

「ばいばい」

 

ゴズは最後の力を振り絞ってヒソカを切り倒そうと足を踏み出したその時、見覚えのある針がゴズの喉元に付き刺さる。

 

あの針は…イルミの……!

 

すると次々に針が突き刺さり、ゴズは鈍い音を立てながら後ろへ倒れる。

「ごめんごめん、油断して逃がしちゃったよ」

ヒソカとメルの後ろからイルミの声が聞こえてくる。

 

振り向くと針を構えるギタラクルの姿があった。

「嘘ばっかり、どうせこいつに死にゆく私の最後の願いをとか泣きつかれたんだろう」

「だってさぁ、可哀そうだったから。どうせ本当に死ぬんだし」

「どうでもいい相手に情けをかけるのはやめなよ」

フッとヒソカは笑った。

 

「ヒソカだってたまにあるだろう?相手にとどめを刺さずに帰っちゃったり」

「僕はちゃんと相手を選ぶよ。どうでもいいやつに興味はない。今殺しちゃ勿体ない相手だけ生かすわけ♡」

「ふうん。あ、そうだ。はい、メル」

 

そういってギタラクルはメルにゴズのプレートを渡した。

「これでメルも合格だね」

「あ、ありがとう。イル……ギタラクルはもうプレート集まったの?」

「まぁね。誰かさんが受験者を狩っていくから探すのに苦労したけど」

「ご、ごめん」

 

 

「で、何で二人一緒にいる訳?」

「あぁ♡メルが誘ってくれたんだよね」

「メルが?」

ギタラクルは目を細めてメルを見る。

 

この目は!

何で危険に自分から突っ込むんだと言っている……!!

でも今回はちゃんと理由があるんだからね!

 

「ヒソカがキルアのこと狩ろうとしたからだよ。私は忠告しに来たの。キルアに手を出したら許さないって」

「ヒソカがキルを狩ろうと?」

ブワッとギタラクルを中心に殺気が放たれた。

近くにいた鳥やリスなどの小動物たちは危険を感じてバッとその場を避ける様に離れていく。

 

この殺気……、さすがに痛い。

イルミ、本気だ。

メルは生唾を飲み込んだ。

自分に向けられた殺気ではないが、肌が粟立ち冷や汗がつたえ落ちた。

 

ヒソカはそのイルミを見ても動じることなく、この上なく嬉しそうな笑顔を見せていた。

 

ヒソカは本物の戦闘狂だ。

この状況でよくあんな笑顔を出せるな。

メルはヒソカを見て顔をしかめる。

 

「イルミ、落ちついて。狩ろうとしたと言っても、嫌な目でキルアを見ただけ。キル自体に手を出そうとした訳じゃないよ。そうなる前に忠告してただけなんだ」

「あ、そうなんだ。何かした訳じゃないんだね。それを早くいってよね」

 

イルミはいつもの調子に戻りヒソカを見る。

「ククク、全く君は相変わらずいい殺気を出すね♡」

「そう?」

 

メルは二人を見てため息をついた。

今度から言葉選びには気を付けないとね。

こんな所で二人が戦闘し始めたら流石に試験どころじゃなくなっちゃうからね。

 

そんな3人の様子を茂みの中からある少年が体を震わせながら見ていた。

ゴンは野生で育った為気配を消すことを自己流で身に着けており、それはまさしく絶の達人と呼べる域であったのだ。

経験を積んでいるこの3名の誰も、この場にゴンがいることに気付いてはいなかった。

 

なんだあの殺気は……

早くこの場から立ち去れって全身が言っている感覚だった。

メルはなんであの中にいるんだろう。

キルアとは一体どういう関係なんだろう。

 

ゴンは一息つき、精神を落ち着けて茂みの中に姿を隠し続けるのであった。

 

 

「もう全員合格圏内だけど二人ともこの後どうするの?」

ギタラクルはカタカタと言わせながらクリンと首をかしげる。

 

ヒソカがプレートを付けているという事はゴンはヒソカの元へこれから来る可能性が高い。

「私はヒソカのことが信じられないからしばらくヒソカを見張っておくよ」

「なるほどね。キルアのこと任せたよ」

「うん」

 

「僕はもう少し受験者狩りを楽しみたいなァ♡」

「あっそ」

「聞いておいて酷いじゃないか♡」

 

流石にヒソカはもうメルとキルに手は出さないだろう。

あれだけ釘を刺したんだ。

次は殺すと伝わっただろう。

それに今ここで戦いを強いられるのはヒソカも望むところではない筈。

ま、この試験中はもうメル達は安全かな。

 

「俺は試験終了するまで寝るよ。試験終わったら起こしてねー」

そう言ってギタラクルは地面に穴を掘り潜っていってしまった。

 

つ、土の中で寝るのね。

まぁ、安全と言えるけど考えもしなかったな。

メルは苦笑いをしながらこんもりと重ねられた土を見た。

 

 

「僕、君に受験者を狩られて少し滾っているんだよね。その責任はとってもらいたいんだけどな♡」

「私と戦闘したらイルミが許さないと思うけど」

「君と戦うんじゃない。僕が戦う為の手伝いをしておくれよ♡僕たち、友達なんだからこれくらい利いてくれてもいいだろう?」

「うっ……、はいはい。分かったよ。受験者を見つけ出してヒソカにぶつければいいんでしょ?」

「そう♡話が早くて助かるよ♡」

 

メルはため息をつきながら「じゃぁ探してくるから」と言い残してその場から離れた。

メルは辺りに誰もいないことを確認し、気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)を発動させた。

すると白い光を放つと同時に地面に円形の術式が浮かび上がる。

 

発動させると脳内に機械の音が聞こえてくるのだ。

『マスター。今日はなんの能力をご所望でしょうか?』

この念能力は何故か自我を持っており、私はそれに名前をつけている。

 

カプリスエンペラーでは長いから通称カプ。

 

カプ、今日は人を見つけ出せる能力を創りたいの。

『その程度の能力なら条件は、マスターのオーラの3割を頂ければ可能です』

分かった。それでいいわ。

『了解しました』

カプのその声の後すぐにごっそりと必要な分だけのオーラが吸い取られた。

『…………創造完了。能力名“探索者(ファインダー)”。能力名を口に出すと周囲にいる人間を探知できます。能力を終了する時は戻れと唱えれば自動的に消えます』

了解。

 

「”探索者(ファインダー)”発動」

そう呟くと、障害物に隠れている人間が透けて見えるようになった。

 

なかなか便利な能力だな。

『恐れ入ります』

カプ、目立つからもう下がっていいよ。

『……』

どうしたの?

『最近マスターが私を呼んでくれないので少し拗ねているのです』

 

……あなた本当に念能力よね?

 

『もちろんです。私はマスターのお役に立つために生まれた能力です。もっと使ってください』

カプのことはいつも頼りにしているよ。

 

『最近私より神の略奪者(テオスプランダラ)の方が使用回数が多いのですが』

ま、まぁ神の略奪者(テオスプランダラ)は暗殺向きだからね。

『マスター……』

そう落ち込まないでよ。貴方がいるから安心して仕事ができるんだから。

 

『マスター!』

声色が高くなりどうやら喜んでいる様だ。

 

じゃぁまた呼ぶからその時はよろしくね。

『もちろんですマスター!』

 

すると術式は消えてカプの声も聞こえなくなる。

自分でも思うけど本当に変わった能力だ。

念能力なのに自我を持ち、他の念能力に嫉妬するなんて。

それに自分の意志で念を終了させることができない。

カプがシャットダウンすると自ら思わない限り終了することができないのだ。

そこが少し厄介な所ではある。

 

もう少しカプを使ってあげないとまた拗ねてしまいそうだ。

 

メルは隠れている受験者の元へ降り立ち、早速追いかけまわした。

その先にはヤル気満々のヒソカが待ち構えている。

受験者の絶望した顔はあまり気持ちの良いものではなかった。

 

ヒソカの持つトランプがスパッと受験者を斬りつけて地面に倒れる。

「ククク、さすがメル♡次も頼むよ」

「はいはい」

 

あまりにもこの受験者が可愛そうなのでメルは簡単に止血をしてあげる。

もう少しで試験も終了するし、それまで命が持つように手当を施した。

 

そして3人目の受験者を追い込んだ時であった。

ヒソカと私に囲まれた受験者は、ヒソカに抵抗しようするもあっけなくやられて地面に倒れた。

するとその瞬間、茂みの中から釣竿が見えてその針は器用にヒソカのプレートを引っかけたのだ。

 

突然のことにメルもヒソカも唖然としてその方向を見つめると、44番のプレートを手にしたゴンが立っていたのだ。

 

いつからそこに!?

全く気が付かなかったんだけど!?

メルは驚いて開いた口が塞がらなかった。

 

「ゴン……」

メルがそう呟くと、ゴンは急いでその場から姿を眩ませた。

「まっ、待ってゴン!」

私が追いかけようとするよりも先にヒソカがゴンの後を追いかけた。

「ヒソカ!!待って!!」

 

まさかゴンをヤる気!?

「ヒソカ!!」

メルは叫びながらヒソカの後を追った。

 

―っ、なんて速さなの。

私が追いつけないなんて……!!

早くしないとゴンがっ、ゴンが殺されてしまう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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22話 敗北×屈辱

 

息を切らしながらヒソカに追いつくと、そこには地面に倒れたゴンをヒソカが見下ろしていた。

「ゴン!!」

駆け寄るとすぐ近くに、肌の焼けた男も倒れている。

 

一体なにが…!?

 

「ヒソカ、これは一体どういうこと?」

「やぁメル。少し遅かったね。ゴンはこの男の毒にかかって動けないだけさ。僕はね、ゴンを称賛しているんだよ。野生の獣並みの気配の消し方。それに、タイミングも完璧。僕が攻撃をする時の殺気に自分の殺気を紛れ込ませた。実に見事だった」

 

そう言って自分のプレートをゴンの目の前に投げた。

「この毒は筋弛緩系の毒だそうだよ。まぁ、ゴンなら数時間で動けるようになるだろう」

 

筋弛緩系か。

メルはホッと一息つく。

とりあえずすぐに命に係わる様な毒ではない。

大量に撃ち込まれると流石に命に関わるがゴンの様子ではそれは大丈夫そうだ。

 

「待てよ。……プレートを、取り返しに、来たんじゃ、ないのか」

筋肉が緩んでゴンは話すのも辛そうだ。

 

「うん。誉めに来ただけ。この男は僕のターゲットだったからね。だからそれはもういらない」

「俺もいらない」

「そう言うなよ。それは貸しだ。いつか返してくれればいい」

 

するとゴンは足を震わせながら立ち上がって見せたのだ。

筋弛緩剤を打たれたのに立ち上がれるなんて……

メルは目を大きく見開いた。

 

「借りなんてまっぴらだ。今、返す」

そう言って44番のプレートを差し出そうとした。

 

ヒソカは笑いながらゴンに近づいていく。

「断る。…今の君は僕に生かされている。君がもっと倒し甲斐のある使い手に育つまで、君はずっと僕に生かされている」

そう言うとヒソカは思いっきりゴンの頬を殴りつける。

ゴンの小さな体は簡単に数メートル程吹き飛んだ。

 

「今みたいに僕の顔に一発ぶち込むことができたら受け取ろう。それまでそのプレートは君に預ける」

そう言って笑いながらヒソカは森の奥へと消えていった。

 

 

メルは吹き飛んだゴンの元へとゆっくりと歩く。

なんて声をかければいいのだろうか。

ゴンからすると、屈辱だっただろう。

倒したい敵に情けをかけられ、それにより生かされているという現実はかなり悔しいだろう。

でも、ゴン。

これはゴンにとっていい経験になるよ。

自分の弱さを痛感することができたんだ。

後は強くなるだけだ。

その一歩を、ゴンなら踏み出せる。

 

 

メルはゴンの腫れた頬に触れた。

「ゴンはきっと強くなれる。ヒソカの顔に一発キメてやろう。私は協力するよ」

ゴンは悔しさか、それとも痛みからか大きな目に涙を貯めている。

 

「まずはその怪我を何とかしないとね」

メルは第三の念能力を発動させた。

私の念能力は主に3つ。

神の略奪者(テオスプランダラ)気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)、そして、最後の一つは、回復系の念能力。

高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)

 

発動条件は対象者に触れること。

メルが触れた、ゴンの腫れあがった頬はみるみるうちに赤みが引いていく。

そして痺れもいつの間にかなくなっていく。

 

「メル、君は一体何者なの?」

「ん?言ったでしょ?私はルイス家。暗殺者であり、統率者でもある一族。ゴン、強くなりたい?」

そう聞くと、ゴンは黙って頷く。

 

「この試験が終わったら私が強くしてあげる。一応ヒソカとは友達だけど、気に入らない所が多くてね。ヒソカをぎゃふんと言わせてやろうよ」

ゴンは「うん!!」と力強く頷くのであった。

 

 

 

探索者(ファインダー)”でキルアを見つけて私は無事に合流を果たし、この能力を終了させた。

キルアは目的通りクラピカとレオリオを見つけ出して行動を共にしていたようだ。

 

キルア達はゴンの様子がおかしいことにすぐに気づく。

「何かあったのか?」

 

メルはちらっとゴンに視線を移す。

ゴンは一息ついて笑顔を見せた。

 

「実は……」

 

ゴンは今さっき起きたことをキルア達に話した。

「まじか!?お前ヒソカからプレートを取ったのか!?」

「まぁ、ぶん殴られたけどね。このプレートは絶対強くなってヒソカに返すんだっ…!!」

力強く言い切るゴンを見てメルは口角を上げて微笑んだ。

 

ゴンは素直な子だ。

教え甲斐がある。

ゴンは元々才能に溢れてるし、適切に教えれば必ず成果を出してくれる筈。

どれだけ強くなるだろうか。

これからの成長が本当に楽しみだ。

 

「そういえば、全員プレートは手に入れたの?」

メルはクラピカとレオリオに問う。

「なんとかな。受験者に出会わなくて少し困ったぞ。お前たちが原因だとは思いもしなかったが」

「あはは……、ごめんごめん」

メルはキルアと目を見合わせて口元を引きつらせながら笑う。

 

「そろそろ試験も終了するな。まっ、第四次試験無事に合格だな!」

レオリオは背伸びをしながら喜んでいた。

 

「あ!」

メルはあることを思い出す。

イルミを起こさないと!!

 

「ごめん。皆はここにいて?やり残したこと思い出しちゃった」

「俺も協力するぜ?」

キルアは気を利かせて言ってくれるが正直一人の方が動きやすい。

 

「大丈夫、キルアもここにいて?すぐ戻るから」

そう言ってメルは足早にイルミが眠る場所へと向かった。

 

その場所にはまだ土がこんもりと積まれている。

「そろそろ起きて!もう試験終わっちゃうよ!」

そう言いながら土を掘り返す。

 

するとガバっと土煙を立てながらイルミは出てきた。

「んー、よく寝た」

 

「おはよう。そろそろ行くよ?」

服についた土埃を払いながらメル達は船が待つ、海岸へと歩むのであった。

 

 

「ただいまをもちまして、第四次試験は終了となります。受験者の皆様は速やかスタート地点までお戻りください。ただいまより一時間を猶予時間と致します。それまでに戻られない場合はすべて不合格とみなしますのでご注意ください。なお、スタート地点到着後のプレート交換は無効です。確認され次第無効となりますのでご注意ください」

 

 

島全体に響き渡るアナウンスを聞き、メル達は船へと乗り込んだ。

「では到着した人からプレートを確認します。…44番ヒソカさん。53番ポックルさん。99番キルアさん。404番クラピカさん。403番レオリオさん。405番ゴンさん。301番ギタラクルさん。450番メルさん。191番ボドロさん。291番ハンゾーさん。以上10名の方が合格者で~す!」

 

その映像を飛行船内で見ていたネテロ会長は高らかに笑っていた。

「10人中7名がルーキーか!豊作豊作♪」

 

ネテロを含め、今回のハンター試験の試験監督を務めた者たちはひとつのテーブルを囲い食事をしている所だった。

「こんなことって前にもあったんですか?」

巨大な肉を食べながらブラハはネテロに尋ねる。

 

「うん。大概前触れが合って10年くらいルーキーの合格者が1人も出ない時が続く。そして突然ワッと有望な若者が集まりよる。わしが会長になってこれで4度目かのぅ」

ネテロは楽しそうに笑うのであった。

 

 

 

 

 



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23話 頑固×オブ×頑固

 

「ところで、最終試験は一体何をするのでしょう?」

サトツを始め、他の試験監督者もそのことを知らなかったのだ。

 

 

「ふむ。それじゃが、一風変わった決闘をしてもらうつもりじゃ。まず10人それぞれと話がしたいのぅ」

 

 

ネテロの話を聞き、ビーンズは受験者達にアナウンスを入れる。

「受験者の皆様にお知らせします。これより、会長が面談を行います。番号を呼ばれた方から2階の会長室へとお越しください。まず、受験番号44番ヒソカさん」

 

ヒソカの名前を聞いてゴンは体を固くする。

メルはそんなゴンの肩に手を添えて微笑みかける。

「大丈夫」

「ありがとうメル」

 

それにしても、これが最後の試験なのかな?

面談が試験って……

ハンター試験の試験内容は本当に様々だな。

一体何を聞かれるんだろうか。

 

すると「450番、メルさん。お越しください」と私の番号が呼ばれた。

「行ってくるね」

 

2階の階段を登り、会長室の扉の前までやってきた。

深呼吸をしてからノックをするとネテロ会長の声が聞こえた。

「どうぞ」

 

「失礼します」

中へ入ると、椅子が用意されている。

「そこにかけておくれ」

「はい」

 

 

「早速じゃがメルよ。なぜハンターになりたいのじゃ?」

「ネテロ会長はご存じかと思いますが私は今まで暗殺ばかりしてきました。自分の仕事が嫌になったからとかではなく、仕事には誇りをもって向き合っています」

 

「ほう、ならば何故ハンターなのじゃ?」

 

「私は、新しく経験することが好きなのです。この世界のことをもっと知りたい。自分が目を向けてこなかった世界が、あまりにも魅力的だと教えてくれた人物がいるのです。その人はハンターをしていました。私は本で得た知識だけではなく、実際に目で見て、感じたい。その人の様に自由に世界を見たいと思ったのです。幸い、ハンターライセンスは私の仕事にも応用することができるし、このきっかけを大事にしたいと思ったので今回このハンター試験を受けたのです」

 

ネテロはにこにこしながら髭を撫でていた。

「フォッフォッフォッ、まるで若い頃のお前の父ウィリアムを見ている様じゃ。どうやらお主は父親に似た様じゃな。では次の質問じゃ。お主以外の9人の受験者の中で一番注目しているのは?」

 

「99番キルアと405番ゴンかな……」

「ほぅ。では最後の質問じゃ。9人の中で今一番戦いたくないのは?」

「99番キルア、405番ゴン、44番ヒソカ、301番イル…ギタラクル。あと、403番レオリオ、404番クラピカもかな……。キルアやゴン、クラピカ、レオリオとは友達だし戦えない。試験なら仕方ないけど……。44番と301番とは、一度戦闘が始まっちゃうと、他の受験者も巻き込んでしまいそうだし試験どころではなくなりそうだからね」

「ふむふむ、なるほど。質問は以上じゃ。もう帰ってよいぞ」

 

「は、はぁ」

 

これで終わり?

これって次の試験に向けた面接かな……?

 

メルはお辞儀をして部屋から出て行った。

全員の面接が終わり、受験者達は広い部屋へと集められた。

 

 

 

ネテロ会長はホワイトボードを持ち寄り、掛けられていた布を捲った。

 

 

「最終試験は、一対一のトーナメント形式で行ってもらう」

 

 

ということは勝ち残った最後の一人だけが合格ということになるのか。

1人だけだなんて厳しい戦いになりそうだなぁ。

それに、イルミともヒソカとも戦わないといけないとなると骨が折れそうだ。

最悪大怪我を覚悟して挑まないといかない。

 

メルはゴクッと生唾を飲み込みつい握りこぶしに力が入る。

 

するとネテロ会長はそんな私の考えとは全く真逆のことを言い始めたのだ。

「たった一勝で合格が決まる。勝ったものが次々と抜けていき、負けたものが上へ登っていくシステムじゃ。つまり、この表の頂点は不合格者を意味するのじゃ。もうお分かりかな?」

 

 

要するに…、不合格者はたった一人ということ……!!

 

 

「それで、その組み合わせはこうじゃ」

名前が隠されていたテープが捲られる。

 

私の対戦相手は……、191番ボドロさん!!

「なかなか良い組み合わせじゃろう?誰にも2回以上勝つチャンスがあるのじゃ」

 

「でも、この組み合わせだと人によっちゃ5回もチャンスがある奴もいるぜ?」

「ふむ。成績できめさせてもらっておるのじゃ。どんな内訳かは言えんがな」

 

そう言われてしまえば何も言えないな。

私は4回チャンスがある。

イルミは2回しかチャンスがないんだよね……。

まぁ、イルミなら大丈夫か。

 

「戦い方は単純明快。武器も何を使ってもおっけーじゃ。相手に参ったと言わせれば勝ちじゃ!ただし!!相手を死に至らしめてしまった場合は即失格!!その時点で残りのモノが合格。試験は終了じゃ!!よいな!!」

 

ネテロ会長の掛け声で早速第一試合が始まった。

まずはハンゾーVSゴン。

 

今のゴンには実力差がある相手であった。

この試合はすぐに一方的な試合展開へと動き出した。

ハンゾーはゴン以上に力も早さも判断力もどれをとっても格上。

ゴンを気絶させない程度に手刀を打ち込み地面に倒れさせてしまったのだ。

ゴンは軽い脳震盪を起こしていた。

 

その様子を見てメルは少し目を細める。

あれはきついだろうなぁ。

最悪の気分だろうね。

 

ハンゾーは何度もゴンに「参ったと言え」と促すもゴンの性格上その言葉は決して口にしなかったのだ。

クラピカ達はゴンが痛めつけられる様を見て体を震わせていた。

 

会場にはもう何度目かの鈍い音が響き渡っていた。

あれから既に3時間が経過している。

ゴンはもう声を出すこともできなくなっている。

 

 

すると、ハンゾーはため息をつきながら倒れるゴンの左腕を背中へと回し抑え込んだ。

「最後だ。参ったと言え。じゃないと、腕を折る」

「っ、嫌だああああ!!」

 

すると骨が砕け散る音が響き渡る。

メルは静かに目を閉じた。

 

 

もう見ていられないな。

早く終わらないかなこの試合。

終わればすぐに直してあげるよ、ゴン。

 

 

だがゴンは腕を折られたのに、まだ諦めてはいなかった。

ハンゾーが逆立ちをしながら、自身の生い立ちを話早く参ったと言えと話をしている所に思い切り蹴りを喰らわせたのだ。

ハンゾーは不意打ちを喰らい吹き飛んだ。

 

メルは目を見開く。

「フッ」

ゴン!さすがだね。

いい根性してるよ。

 

 

「くそっ、痛みと長いおしゃべりで頭は少し冷えてきたぞ!!この対決はどっちが強いかじゃない!!最後に参ったって言うか言わないかだもんね!!」

するとハンゾーは素早く起き上がる。

 

「わざと蹴られてやったのだが?」

と平然と言うが、鼻血を出しているその顔では説得力は皆無であった。

 

「分かってねぇぜお前は。俺は忠告しているんじゃない。命令していんだぜ?俺の命令が分かりにくかったのか?もう少し分かりやすく言ってやろう。次は、足を切り落とす。取り返しのつかない傷を見ればお前も分かるだろう。だがその前に最後の頼みだ。参ったと言ってくれ」

 

そう言うと、手に仕込んでいた刃を出しながらゴンへとゆっくりと近づく。

 

「それは困る!!!!!」

 

ゴンの発言に全員ぽかんと口を開けた。

「足を斬られちゃうのは嫌だ!!でも降参するのも嫌だ!!!だからもっと別のやり方で戦おう!!!」

 

ゴンの提案にハンゾーは怒鳴る。

「てめぇ自分の立場が分かっているのか!!」

 

ゴンの発言にメルは耐えきれなくなり声をあげて笑い出した。

「あっはははは!もうゴンってば面白すぎる!!」

目に涙を貯めて腹を抱えながら笑うメルを筆頭に他の受験者も次々と笑いだす。

 

「お前!勝手に進行してんじゃねぇ!その足本当にたたっ斬るぞー!!」

「それでも俺は参ったとは言わない。それに、そしたら血がいっぱい出て俺は死んじゃうよ?それじゃぁ失格するのはそっちの方だよね?」

 

試験管は「はい」と返事をする。

 

「そうでしょう?だから考えようよ」

ハンゾーはもうどうしたら良いのか分からず歯をかみしめる。

 

「お前、死んだら次もくそもねぇんだぜ?考えろ。俺はここでお前を死なせてしまっても来年またチャレンジすればいいだけの話だ。俺とお前は対等じゃねぇんだ!!」

 

ゴンはそれでも参ったとは言わなかった。

「なんでだっ、来年また挑戦すればいいじゃねぇか!命よりも維持が大切だっていうのか!?そんなことで本当にくたばって本当に満足なのか!?」

 

「……俺は親父に会いに行くんだ。親父はハンターをしている。だから俺は親父みたいなハンターになって親父に会うんだ!!いつか、会えると信じて…。もし、俺がここで諦めたら一生会えない気がする。だから、引かない」

 

「引かなきゃ、死ぬんだぜ……?」

そう言ってもゴンのまっすぐな瞳は揺らがない。

 

するとハンゾーは「参った、俺の負けだ」と負けを認めた。

「俺にはお前は殺せない。かといってお前に参ったと言わせるすべが思い当たらない。俺は負け上がりで次へ進む!!」

するとゴンは、「そんなのズルイ!!ちゃんと二人でどうやって勝負するか決めようよ!!」と怒鳴ったのだ。

 

メルはその言葉にまたツボってしまう。

「あっはは、もう止めてゴン!笑い死んじゃう!!」

自分が気持ちよく勝てるような勝負方法を一緒に考えようと言っているようなものだ。

素直で自分勝手でまっすぐな子。

なんてこれから先が楽しみな子なんだろう。

 

 

ゴンはハンゾーに殴られて完全に意識を飛ばしてしまっている。

メルは笑いながら怪我をしたゴンに近づいていく。

骨はどうやら綺麗に折ってくれているみたいだね。

治療がしやすくて助かるよ。

 

 

にしても……

「ネテロ会長。ゴンが目を覚ましたら辞退すると思います。不合格者は一人というこのルールならこの後の戦いは無意味になるんじゃないでしょうか」

ネテロは何も言わずに髭を撫でて何か考えている様であった。

 

 

 

 

 

 



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24話 メル×拳法使い

 

 

「もう勝負は決した。なら他の受験者に干渉しても構わないでしょう?そんなルールはなかったし」

そう言ってメルはゴンを運ぶ。

 

「ゴンの治療をしたいのだけど、私の試合は後回しにしてもらえませんか?5分で戻ってきますので」

するとネテロはそれを了承した。

 

「5分くらい待ってやってもよいぞ」

「ありがとうございます!」

 

メルは医療班と共に会場から姿を消した。

その様子を見ていたギタラクルは深いため息をつくのであった。

 

 

 

高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)を使う気だな。

まぁあの能力は定期的にその能力で誰かを助けないと、今まで助けてきた者の傷や痛みが全て自分に返ってくるっていう能力でもあるからね。

ここで使っておくのもありか。

 

 

 

ゴンを医務室に連れていき、メルは念能力を発動させていた。

みるみるうちにゴンの怪我は完治していく。

後はゴンが目を覚ますのを待つだけ。

その能力を見たサトツは驚いていた。

 

 

なんだこの異質な能力は……

 

 

 

「さすがルイス家ということでしょうか」

「いえいえ。私なんてまだまだですよ。世の中にはもっと凄い能力の持ち主がいますからね」

「貴方以上の能力……?」

 

メルはにこにこと笑いながらその場を離れて会場へと戻った。

 

 

 

 

 

「本当に5分で戻ってくるとはのぅ」

ネテロはニヤニヤとしながらメルを見た。

 

5分で治療を済ませるとは、一体どんな能力なんじゃ?

いつか見せてもらいたいものじゃ。

 

 

 

「お待たせしました」

メルはペコっとお辞儀をして会場に入る。

 

 

そしてようやく、メルとボドロとの試合が始まった。

 

 

ボドロはメルを見るなり怪訝そうな顔をしていた。

「女を相手にするのはちと気が引ける」

 

「女だからと言って舐めていては足を救われますよ」

にっこりと微笑み返すとボドロは戦闘態勢に入った。

 

 

どうやら構え方からして拳法使いの様だ。

なら体術で相手をするのが礼儀。

メルも戦闘態勢に入る。

 

 

お互い対峙してから微動だにせず相手の動きを伺っていた。

ボドロはメルの隙の無い構えを見てなかなか仕掛けられないでいた。

 

 

この小娘、ただ者ではないな。

死角がまったくないし気の緩みは微塵も見当たらない。

それになんだ、この感じは。

まるで、歴戦の拳法使いと対峙しているかの様なそんな気さえする。

ボドロはゴクっと生唾を飲み込みこんだ。

 

 

「来ないなら、こちらから行きますよ?」

 

 

仕掛けたのはメルの方からだった。

間を詰めて鋭い回し蹴りを喰らわせるもボドロはなんとかそれを受け止める。

右腕でガードするも蹴りの重さに骨がミシミシときしんでいた。

「-っく!」

 

ボドロは掌打を打ち込もうしたが、それはメルには当たらない。

メルは体を反らせて綺麗に避けると、ボドロの大きくあいた胴に素早く蹴りを入れた。

 

もろにメルの技を喰らいメルより大きな体は数メートルほど吹き飛んだのだ。

壁にぶち当たりゴホゴホッと激しくせき込みながらボドロは血を吐いていた。

 

 

 

「あ」

 

 

 

少し強く蹴りすぎたかな!?

どうやら内臓が損傷してしまったみたい。

大丈夫かな…?

早く終わらせてあげよう。

 

 

 

「貴方は私には勝てません。次の試合にかけた方が良いかと思われます。貴方のダメージではもう立ち上がれないでしょう?」

「舐めるな小娘っ!!」

「……へぇ。これでもまだ言えますか?」

 

 

メルは冷たい目でボドロを見た。

そしてこれでもかと殺気を放ったのだ。

 

 

その会場にいた全員が息を飲むほどの氷のような殺伐とした空気に、他の受験者は体を強張らせる。

ボドロの体は次第にガタガタと震え、メルと目線を合わすことさえできなくなっていた。

息をするのもやっとの様で、ボドロは酸素をうまく取り込めず過呼吸になっていた。

ポタポタと冷や汗が溢れ出て、ボドロは絞り出すように「参りました」と言ったのであった。

 

 

 

参ったと相手が言ったのになかなか審判が私の名を呼ばないからチラッと見ると、怯えた様に肩をびくつかせていた。

「私の合格でいいんですよね?」

にこっと微笑むメルを見て、審判は声を裏返らせながら「勝者メル!」と言った。

 

 

 

クラピカはメルを見て警戒心を強めていた。

やはり殺し屋一族ルイス家だけあってなんて目をするんだ。

あんなプレッシャーをかけられればただの格闘家など相手にすらならないだろう。

普段温厚で優しい性格のメルだが、これもメルの一面ということか。

 

 

メルは観戦者側へと戻るのだが、全員がメルを警戒して誰も目を合わせようとしなかった。

 

 

「やりすぎちゃったかなぁ」

眉をㇵの字にさせながら少しため息をつくと、ギタラクルはメルの頭に手をのせてよしよしと撫でてくれた。

 

「やればできるじゃない」

「こんなの誉めてくれるのイル、ギタラクルだけだよ」

 

「殺気で勝敗をつけようとしたのは相手の体を尊重したからだろう?これ以上ダメージを与えたら次の試合は放棄しないといけなくなってただろうしね」

「そこまで分かってたんだ。さすがだね」

「まぁそのくらい見てれば分かるよ。これでメルは合格だね。おめでと」

「ありがとう。ギタラクルも頑張ってね」

 

 

えっと、次の戦いは……

メルはホワイトボードに目を向ける。

 

 

 

「げ」

 

 

クラピカの相手ヒソカなの!?

 

 

 

クラピカは平静な顔をしてヒソカと対峙していた。

すごく落ち着いてる。

ヒソカ相手にどうやって戦うんだろう?

 

 

血を見ることになるかと思いきや、この試合は実にあっさりとしたものだった。

ヒソカがクラピカに耳打ちしたかと思えば、耳打ちしたヒソカが「参った」と言ってしまったのだった。

 

 

へ!?

まさかこんな展開になるとは思わなかったな……。

何を言ったんだろう?

 

 

クラピカは目を閉じて誰も受け付けない様子だった為メルは話かけられずにいた。

また時間をおいて聞いてみよう。

 

 

次は、ハンゾーさんとポックルさんの試合か。

この二人も明らかな戦力差があるからハンゾーさんが勝つだろうね。

 

 

 

メルの予想通り、ポックルはすぐに「参った!!」と素直に負けを認めるのであった。

 

 

 

次は、レオリオとボドロさんだ!!

 

拳法使いのボドロに分があると思われていた試合だったが、メルとの戦いで予想以上に消耗していたボドロは隙を見せてそこをレオリオにつかれてしまうのであった。

これ以上戦うことができなくなったボドロは素直に「参った」と負けを認めるのであった。

 

 

次はキルアとポックルさんの試合かぁ。

まぁキルなら問題なくすぐ合格をキメてくれるはず。

 

と思っていたが、キルアはなんと対峙した瞬間に負けを認めたのだ。

 

 

 

「え!」

メルはつい大声を上げてしまう。

 

 

 

 

あっさりと観戦者側へと戻ってきたキルアにメルは問い詰めた。

 

「キルアなら勝てたのに!」

「だってあいつ弱そうなんだもん」

「へ?」

 

 

メルはぽかんと口をあけた。

「ま、まぁ、強い人と戦いたいって気持ちは分からないでもないけど……」

 

 

 

キルアの次の対戦相手、イルミだよ!?

大丈夫かなぁ……

 

 

 

メルは一人で慌てるのであった。

そして次はボドロさんVSヒソカの試合が始まる。

 

 

 

言うまでもなくヒソカの圧勝だなぁ。

しかももうボドロさんは戦えないんじゃ……?

私が強く蹴りすぎてしまったからかもしれない。

加減はしたんだけどな……

このトーナメント戦はボドロさんの敗退で決まりかな。

 

ヒソカはボドロに勝利し、合格を勝ち取った。

 

 

 

 

そして次はキルアVSギタラクルの試合へと移っていく。

 

私はこの時まだ知らなかった。

 

この試合展開になってしまったことを激しく後悔することになるということを。

 

 

 

 

 



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25話 イルミ×キルア

 

キルアは兄と戦うことなど知らずに会場の中央へと歩き出す。

その背中を見てメルはキルアを呼び止めた。

 

「キル!」

「ん?」

「あの……、頑張ってね」

「おう!」

 

結局何も言えずにメルはキルアを送り出した。

 

 

 

 

イルミのことだ。この戦い、恐らく容赦なんてしない筈。

何事もなければいいのだけど。

 

 

 

 

二人は向き合うと、ギタラクルは「久しぶりだねキルア」と話しかける。

そしてゆっくりと顔に指していた針を抜いていくのであった。

顔が変形し、元の姿をキルアの前に晒したのだ。

 

それを見たキルアの顔は段々と青ざめていく。

「兄貴……!?」

 

長い黒髪をした美少年は片手をあげる。

「や」

 

キルアはあまりの驚きに体が硬直している様子であった。

「母さんとミルキを刺したんだって?」

「…まぁね」

「母さん泣いてたよ?」

 

キルア、キキョウさんとミルキを刺してここへ出てきていたんだ。

まぁ、それくらいしないとあのキキョウさんから逃れられないだろうね。

 

「感激してた。あの子が立派に成長してくれて嬉しいってさ」

その言葉でレオリオはずっこける。

 

「でもやっぱり外に出すのは心配だからって、それとなく様子を見てくるように頼まれたんだけど、奇遇だねぇ。まさかキルアがハンターになりたいと思っていたなんて。俺次の仕事の関係上資格を取りたくてさぁ」

 

「別になりたかったわけじゃないよ。ただなんとなく受けてみただけさ」

キルアは目を反らしながらボソッと口を開く。

 

「そうか、安心したよ。心置きなく忠告できる。お前はハンターには向かない。お前の天職は殺し屋なんだから」

キルアは大きな目を更に大きく見開かせてイルミを見ていた。

 

「お前は熱を持たない闇人形だ。自身は何も望まず何も欲しがらない。影を糧に動くお前が唯一喜びを抱くのは人の死に触れた時。お前は親父と俺にそう育てられた。そんなお前が何を求めてハンターになろうと?」

 

「確かにハンターになりたいと思っているわけじゃない。でも俺にだって欲しいモノくらいある!!」

「ないね」

「ある!!!!」

「……ふうん、言ってごらん。何が望み?」

 

するとキルアは下を向いて俯いてしまう。

「……」

「どうした?本当は望みなんてないんだろう?」

 

「違う!!!」

キルアの小さく握られた拳は震えていた。

「……ゴンと、友達になりたい。もう人殺しなんてうんざりだ!!ゴンと友達になって普通に遊びたいっ!!!」

 

絞り出すような声で言ったのは、普通の子供が当たり前の様にしているあまりにも平凡な願いだった。

 

その言葉を聞いてメルは胸の奥が締め付けられる様に痛くなった。

 

キルアがこんなにも友達を切望していたなんて。

こんなにも、殺し屋になりたくないと思っていたなんて。

喉の奥が熱くなり、メルの目に涙がたまっていく。

 

同時に小さい頃からのキルアとの思い出がフラッシュバックした。

私はキルアに幾つも暗殺術を教えていた。

キルアはそんなの望んでいなかったんだ。

ただ普通の子と同じように友達と遊んだりして普通に生きたかっただけなんだ。

 

私はキルアが友達を欲していることを知っていた。

でも、ゾルディックの事だからと何もしてこなかった。

せめてもと思いキルアの寂しさを紛らわすことができればと、足げなく通い、その度に色んな暗技を教えた。

それはただの私の自己満足で、しかもキルアは望んでいなかった。

 

私はなんてことをしてしまっていたんだろうか。

これ程までにキルアを追い詰めてしまっていたなんて。

こんなにも縛り付けてしまっていたなんて。

 

 

だがイルミは冷酷に言い放つ。

「無理だね。お前に友達なんてできっこないよ。お前は人というものを殺せるか殺せないかでしか判断できない。そう教え込まれたからね。今のお前はゴンが眩しすぎて測りきれないでいるんだ。ゴンと友達になりたい訳じゃない。彼の傍にいれば、いつか殺したくなるよ。殺せるか、殺せないか、試したくなる。なぜならお前は根っからの人殺しだから」

 

その言葉を聞きキルアは小さな体を震わせていた。

 

「イルミ!!……言い過ぎだよ」

試合中にメルは堪らなくなり口をはさんだ。

 

「メルは黙ってなよ」

「黙ってるなんてできない!!」

すると黒服を来た試験管達はメルの前に立ちふさがる。

 

「対戦者に妨害を加えることは禁止されています」

「~っ」

 

「メルはそこで見ていなよ。これはゾルディック家の問題だ」

 

「ゾルディック家の問題だからと言ってもうキルアを放っておくことなんて私にはできないよ!!」

キルアはこんなにも誰かに助けを求めている。

必死に足掻いて足掻いて、でもどうすることもできない現実の中その小さな体で一人で耐えてきたんだ。

 

 

「キルア‼イルミのことは聞き耳持たなくてもいい‼それに、とっくにキルアとゴンは、友達同士なんだだよ!?」

そう叫ぶと、レオリオも加勢する。

 

「メルの言う通りだ‼少なくともゴンはそう思っている筈だぜ‼」

 

するとイルミはクリンと首をかしげる。

「え?そうなの?」

「あったりまえだぜ!!」

 

 

イルミは困ったように右手を口元に添えて何か考え始めている。

「そうか、参ったな。あっちはもう友達のつもりなのか。よし、ゴンを殺そう」

 

 

 

「!?」

いけない。

イルミは本気だ。

 

 

 

 

自分のせいで初めてできた友であるゴンが死ぬ。

その現実はキルアの動きを完全に静止させてしまった。

 

「ゴンはどこ?」

試験管達はイルミを止めようとするも、顔に針を投げ飛ばされブクブクと顔の原型を留めてはいられなくなっていた。

「いぎぎっ……控室に…っ」

「どうも」

 

 

スタスタと歩くイルミ。

その前に、クラピカ、レオリオ、ハンゾーは立ちはだかった。

そして、メルもイルミと対峙する形となった。

 

 

 

「参ったなぁ。メル、君もそっちにつくのかい?」

「行かせない。ゴンは私の友達でもあるからね。殺させはしないよ」

 

「全く、キルもメルも……俺があんなに教えたのになんで友達なんて不必要なモノを作ろうとするの。……仕事の関係上俺は資格が必要なんだけどなぁ。ここで彼らを殺しちゃったら俺が落ちて自動的にキルアが合格しちゃうね。あぁ、いけない。それはゴンをやっても同じか。……そうだ。まず合格してからゴンを殺そう!なら仮にここの、メル以外の人間を殺しても俺の合格が取り消されることはないよね?」

 

するとネテロは「ルール上は問題ない」と答える。

 

「私がそんなことさせない!!」

「メルが?君にそんなことできるのかい?」

 

 

 

私にイルミが止められる?

……恐らくそれは難しい。

私の感情が必ず邪魔をするからだ。

でも……

 

「-っ。そんなの、やってみないと分からない!!」

 

 

するとイルミは深いため息をつく。

「メル、君にはあとからお仕置きだよ。こんなに聞き分けが悪いとはね。少し俺と離れた時間が長かった様だね」

「~っ…」

メルは唇を噛んで俯く。

 

「キル。俺と戦って勝たないとゴンを助けられない。友達の為に俺と戦えるかい?」

キルアは未だに体を震わせている。

 

キルア……

「やめてっ、もうこれ以上キルアに何も言わないで」

メルは蹲りながら涙を流した。

 

「できないね。なぜならお前は友達なんかよりこの俺を倒せるか倒せないかの方が大事だから。そして、お前の中で答えは出ている。俺の力では兄貴は倒せないと。…勝ち目のない敵とは戦うな、俺が口を酸っぱくして教えたよね?」

 

キルアの額を冷たい汗がつたう。

「少しでも動けば戦闘開始の合図とみなす。同じく、お前と俺の体が触れた瞬間から戦闘開始とする。止める方法はひとつ。分かるね?……だが忘れるな。お前と俺が戦わなければ大事なゴンが死ぬことになるよ?」

 

レオリオは「やっちまえキルア!!どっちにしろお前もゴンも殺させやしねぇ!!お前のやりたいようにしろー!!」と叫ぶがキルアの耳には届かなかった。

 

 

「……参った。俺の負けだよ」

それは今にも消え入りそうな声だった。

 

するとイルミはパッと表情を明るくする。

「はー良かった。これで戦闘解除だね。ハハッ、嘘だよキル。ゴンを殺すなんて嘘さ。お前をちょっと試してみたんだよ」

そう言ってキルアの肩に手を置く。

 

 

「でも、お前に友達を作る資格はない。必要もない。今まで通り親父や俺の言うことを聞いて人を殺していればいい。ハンター試験は必要な時期がくれば俺が指示する」

キルアは黙ってイルミの言葉に耳を傾けていた。

 

勝敗が決するとイルミはメルの元へと歩いてやってきた。

「いつまで座り込んでるのさ」

そう言って手を差し伸べる。

 

「全く、キルもメルも俺が教えた筈なのになんでそんなに甘く育っちゃったんだろうね」

メルは目に涙を貯めながら差し出されたその手を見ていた。

 

「しかも、メルは泣き虫になっちゃったのかい?」

そう言って涙をぬぐった。

 

「キルに…っ、酷いこと言わないで」

ひっくひっくと言わせながらボロボロと涙は止まらない。

「だから冗談だって言っただろう。あれは俺がキルに負けを認めさせるために言ったんだよ」

 

 

あれが、冗談?

うそだ。

あれは本気。

イルミの本音だ。

 

 

「…キルアを傷つけないで」

イルミは差し出した手を取らないメルを見て、ため息をつきながら「はいはい」と言いメルを抱きしめた。

 

 

イルミは優しい

でも怖い

簡単に人を傷つける

それが自分の大切な人であっても

 

どうしてだろうか

こんなに嘘つきで怖い人なのに

私はやはりイルミのことを嫌いにはなれない

 

それはキルアを昔から知っているようにイルミの事を知っているからだ

イルミがキルアに抱く感情は明らかに歪んでいる

でも全てゾルディック家の為であり、キルアの為

ゾルディック家という環境に生まれて来た弟を必死に守ろうとしているだけなんだ

その為には手段を選ばないだけ

愛情表現がうまくできないだけ

本当はキルアに傷ついて欲しいとは思っていない

誰よりもキルアを考えているんだよね

私は分かっているよ、イルミ

 

 

でも、イルミが言った言葉はキルアの心を抉るには十分すぎた。

キルアの為とは分かっているが、キルアを思うとどうしようもなくやるせなかった。

 

 

矛盾する自分の気持ちと、キルアを傷つけてしまっていた自分の行いとでメルの感情はぐちゃぐちゃになり余計涙が止まらない。

 

メルはうわーんとイルミの胸で涙を流すのであった。

時折「イルミのバカー!!」と言いながら、ポカポカと叩くメルを宥める様にイルミはよしよしと頭を撫でていた。

 

ひとしきり泣くとメルは目をこすりながらキルアの元へと行き強く抱きしめる。

キルアはぼうっと一点を見つめていた。

 

「キルアごめんね。私キルアが望まないことを教えていたんだね。ごめんね、キルア」

言葉にして出すとまたポロポロと涙が零れ落ちる。

 

 

 

「イルミのバカ。冷徹男!…イルミの言葉なんて聞かなくていいからねキルア。試験が終わったらゴンの所に一緒に行こうね」

「メル?俺を怒らせたいの?」

イルミはクリンと首をかしげるのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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26話 協定×弟子

 

 

メルが話しかけてもキルアは何か考えている様で、心ここにあらずという言葉がふさわしかった。

「キルア?」

 

 

様子がおかしい……

余程ショックを受けたんだ。

無理もないか……

キルアなら当然分かった筈だ。

キルアの為ならイルミは本当にゴンを殺してしまっただろうということを。

あの言葉は冗談なんかじゃなく、本気だったということを。

大切にしたい友達を危険にさらしている。

しかも、キルアは自身で選んでしまった。

イルミと戦うより、ゴンを殺してしまう選択を。

 

 

 

キルアはそのままの状態で、次の試合が始まった。

キルアとボドロの試合。

それは衝撃的な展開になるのであった。

 

 

なんとキルアはボドロさんを刺し殺してしまったのだ。

全員、その光景を息をのんで見つめていた。

 

「キル……ア」

 

あそこにいるのは、本当にキルアなのかと疑ってしまう光景だった。

メルの中ではキルアはいつも笑顔だった。

そのキルアはどこにもいない。

全く別人の様な姿だった。

 

自動的にキルアは不合格となり、試験は最悪な展開で幕を閉じた。

 

 

「キルア‼待って‼」

メルが呼び止めてもキルアは振り返ることさえせずに会場の門をくぐり一人姿を消してしまった。

 

 

「メル、何驚いてるの?」

「え?」

「キルは殺し屋なんだからあんなの普通でしょ」

「違う!!キルアは、あんなことしない。自暴自棄になっただけだよ。そうさせたのはイルミなんだよ?……この後合格者に講習があるみたいだからそれが終わったら一緒にキルを追いかけようね」

 

「えー」

「えーじゃないよ!絶対行くからね!!」

メルはイルミが逃げられない様に右手を握る。

 

講習が始まってしばらくすると、出入口の扉が開いた。

ゴンがやってきたのだった。

 

「キルアに謝れ!!」

そう言いながらイルミの前に来て言い放った。

 

どうやらサトツさんから何があったのかを全て聞いた様だ。

 

 

「ゴン、落ち着いて」

ゴンを宥めようとするも、メルの言葉は全く耳に入っていない。

怒りでイルミのことしか頭に入っていないな。

イルミ、頼むから挑発するようなことは言わないでっ。

 

 

「謝る?何を?」

「そんなことも分からないの?」

「うん」

「お前に兄貴である資格はないよ」

「兄弟に資格がいるのかな」

 

すると、ゴンは怒りのあまり血管を怒張させ、イルミの腕をつかんで引っ張り上げた。

イルミは宙に浮くも、綺麗に着地する。

 

「友達になるのだって資格はいらない!!」

そう言ってゴンはイルミを掴む腕に力を込める。

 

ミシミシと骨がきしむ音がした。

いけない、ゴンってばイルミの腕をへし折るつもりだ!!

 

「ちょっ、ゴン!やめてっ!!試験が終わったら私がイルミを連れてキルアに謝りにいくつもりだから!!」

「誰かに連れられてじゃないといけないの!?」

「それはー…」

何も言えなくなりメルは口ごもる。

 

「もう謝らなくていいよ。キルアの所に案内してくれるだけでいい」

「そしてどうするの?」

「決まってるじゃん!キルアを連れ戻す!!」

「まるでキルが誘拐でもされた様な口ぶりだなぁ」

「自分の意志じゃない。お前に操られているんだから誘拐されたも同然だ」

 

すると、ネテロが口を開いた。

「ちょうどそのことで議論していた所じゃよ。クラピカやレオリオからキルアの不合格は不当だと意義が唱えられてな」

 

「キルアは明らかに不自然だった。大戦の際に何らかの暗示をかけられたからあの様な行為に至ったと考えられる。通常ならいかに強い催眠術をかけても殺人を強要するなんて不可能だ!!でも暗殺一家として育ったキルアにとって殺人は日常のことで倫理的抑制が効かなくなったとしても不思議ではない!」

クラピカは立ち上がりネテロ会長に訴えかける。

 

「いずれにせよ、キルアは自らの意志で行動できない状態であった。よって今回の不合格は不当だ!!

レオリオもクラピカに続いた。

 

するとポックルも口をはさみ始めた。

「不自然な合格だというならば、クラピカとヒソカ戦も相当不自然だったぜ?ヒソカに何かを囁かれて合格したんだ。何らかの密約が交わされたとしか考えられない」

 

各々が自らの意見を出し合い議論をしていると、ゴンは「そんなのどうだっていい!!」と叫んだ。

ゴンの言葉で会場は静まり返る。

 

「人の合格にとやかく言うことはない。自分の合格に不満があるなら満足できるまで精進すればいい。キルアならもう一度ハンター試験を受ければ絶対に合格できる。それより、もしキルアに望まない人殺しをさせていたなら、お前を許さない!!」

 

ゴンの言葉はメルにも大きく突き刺さった。

 

「許さない、か。で?どうする?」

「どうもしないさ。お前からキルアを取り戻して合わせない様にするだけさ」

 

イルミはゴンに手を伸ばそうとする。

その手はオーラを纏っていた。

メルはそれを見逃さなかった。

 

「イルミ!!」

メルは両手を広げてゴンの前に立つ。

イルミはぴたりと動きを止めた。

 

 

「ゴンはキルと私の友達。それに、ゴンは私の弟子なの。手は出させないよ」

 

メルの弟子発言にイルミは眉を潜ませる。

「は?今なんて?」

 

 

 

「私ゴンを育てることにしたの。今のままゴンを一人にしておくのは危険だしね。イルミ、ゴンのこと本気で殺そうと考えそうだし。でもゴンが私の弟子なら簡単に手は出せない。ゾルディック家とルイス家は今協定を結んでいるからね。ゴンに手を出したら、ルイス家に脅威を示す存在になり、協定に違反することになる」

 

キルアの友達は私が守る。

キルアに何もしてあげられなかった分、これからは沢山してあげたい。

もっと自由に生きて欲しい。

もっと心から笑った顔を見せて欲しい。

 

そんなメルを見て、イルミは深いため息をつき伸ばしていた手を引っ込めた。

 

 

 

 

するとネテロはゴホンッと咳ばらいをする。

「さて、いいかな?ゴンの言った通り、自分の本当の合格は自分で決めるといい。他人の合格云々を言っても我々は合格を取り消すつもりはない。キルアの不合格は変わらんし、お主たちの合格も変わらん」

 

 

その言葉で全員納得し、立ち上がっていた者は席へ腰を下ろした。

 

 

メルも一息ついて椅子に座る。

イルミは何事も無かったかのような涼しい顔でメルの隣に座った。

 

ふと視線を落とすと、ゴンが掴んでいたイルミの腕はぷっくりと腫れあがっていた。

 

「!……イルミ、その腕……」

「ん?あぁ、折れてるね。まぁ大丈夫だよ」

「後で治すよ」

「うん」

 

 

 

重たい空気の中、ビーンズは講習の続きを始めた。

それはハンターライセンスの説明であった。

 

このカードがあれば民間人が入国禁止の90%と、立ち入り禁止区域の75%まで入ることが可能になるかぁ。

しかも、売れば人生7回くらい遊んで暮らせるし持っているだけでも一生遊んでいられるとか

 

正直全く頭に入らず、キルアを早く追いかけることで頭がいっぱいだった。

 

「では、ここにいる8名を新しくハンターとして認める」

ネテロ会長のその言葉で講習は締めくくられ解散となった。

 

 

 

メルとイルミは立ち上がり会場を出ようとすると、ゴンが走ってやってきた。

 

「ギタラクル!!キルアの居場所、教えて」

 

 

「本当に連れ戻す気?やめた方がいいよ」

「キルアは俺が連れ戻す!!」

強い意志を持つ瞳に、揺らぎは一切なかった。

 

「後ろの二人も一緒かい?」

ゴンの後ろにはクラピカとレオリオがいた。

「当然」

 

するとイルミはため息つく。

「いいだろう。教えたところでどうせたどり着けないし。……ククルーマウンテン。その頂上に俺たちの住処がある」

 

「ククルーマウンテン……。メル!メルも一緒に行こうよ!!メルだって心配でしょ?」

そう言ってゴンはメルの手を握った。

 

「うん、必ず行くよ。でも、一緒に行くのはちょっと難しいかも」

メルは申し訳なさそうな顔でゴンを見た。

「?」

 

 

 

会場の外には黒いスーツを着た者達が取り囲んでいたのだ。

合格者たちは全員何事かと身を固くして警戒態勢に入る。

 

異変に気付きネテロ会長や他のハンター試験監督者たちもやって来ていた。

「あ~、……やっぱりこんな大人数で迎えが来ちゃってる」

メルは少し苦笑いをして黒服達を見つめた。

 

 

 

 

 

 



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27話 繋縛×愛情

 

「お迎え?」

ゴンは首を傾げる。

 

すると長身の男が笑いながらメルの方へ近づいてきた。

長い髪を結った男はひらひらとメルに手を振っている。

 

「ラル兄様!何もこんなに大勢で来なくても……」

「いや僕も本当は一人で来るつもりだったんだけどね、メルを心配してこんな人数が集まっちゃったって訳さ」

 

ラルはネテロを視認すると深くお辞儀をする。

顔を上げると、メルの隣に立つイルミを見たラルは「久しぶり」と声をかけた。

 

「ラルか。久しぶりだね」

ラルはイルミの腕を見て少し目を見開く。

 

「あれ~?どうしたのイルミ。その腕、折れてるんじゃない?君ともあろう者がどうしたのさ」

「あぁ、これ?そこの子供に折られたんだよ」

そう言ってイルミはゴンを見る。

 

ラルはブッと噴出した。

「あっはは!イルミの腕を折っただって!?君!やるじゃないか!」

ラルはゴンの肩に手を置きながらクスクスと笑う。

 

「あぁ、そうだ。イルミ腕今直しておくよ」

メルはイルミの腕に触れると腫れは直ぐに収まり砕けた骨は見事にくっついていた。

「ん。ありがとー。あ、そうだ。ラル」

 

「ん?」

「その子供、メルの弟子になるみたいだよ」

 

「えぇ!?」

ラルはぴしゃりと固まった。

 

「ちょっ、イルミなにも今言わなくても!」

「いつ言ったって同じだろう?」

 

恐る恐るラルを見ると、にっこりと微笑んでいた。

「メル?少し話があるんだ。いいかな?」

「は、はい」

 

ラルの目は笑っていない。

怒られるな……。

相談もなく勝手に弟子をとるなんてこと、流石に許してはくれないか。

でも、ゴンを弟子にしておかないとイルミがゴンに何をするか分からない。

それに、ただ単純にゴンを育てたいという気持ちも強い。

鍛えればゴンは必ず強くなる。

こんな原石をこのままにしておくのは勿体ない。

近くでゴンの成長していく様を見守りたい。

 

 

 

すると、後ろから低い声がした。

「これがメルの弟子か?」

 

 

 

振り向くとそこにはプラチナブロンドの髪をかきあげた美形の姿があった。

メルはその姿を見て目を大きく見開いた。

 

 

「エル兄様!?なんでここにっ!!」

 

 

エルは仕事が忙しすぎて自由な時間を殆ど作れない。

今も仕事をこなしている筈なのになぜこんなところにいるのか、とメルは驚いていた。

 

「お前が心配でな。ラルと共に迎えに来たのだ。それで?弟子をとるのか?」

「は、はい」

 

 

するとエルはゴンに目を移す。

ゴンは緊張した面持ちでエルを見上げた。

 

 

この人がメルのお兄さん。

兄妹だからとてもよく似ている。

でも、この人とはあまり一緒にいたくない……

服に血はついていないけど、なんて濃い血の匂いがするんだ。

目を合わしているだけなのに、物凄いプレッシャーを感じる。

 

 

エルはゴンを見下ろすと少し微笑んだ。

「?」

ゴンはその表情を見て警戒を解いた。

 

やっぱり、この人はメルのお兄さんだ。

怖いけど、少し笑った顔はメルと同じく温かい。

 

「好きにすればいい」

エルのその言葉にラルは驚いた。

 

「ちょ、兄さん!?好きにすればって、仕事はどうするのさ!」

「問題ない。全て俺に回せ」

「全てって、メルの仕事、予約埋まってるの知ってるでしょ!?兄さんだって何年も予約埋まってたでしょ!?」

 

「構わない。俺もお前も、好き勝手した時期があっただろう?」

そう言って口角を上げて笑っていた。

 

エルはメルと同じ目線までかがみ、頭に手を置いた。

「お前は自由だ。好きにして来い。困ったことがあればいつでも戻っておいで」

「エル兄様……!!」

 

その様子をみてラルは諦めた様に一息つく。

「兄さんがそう言うなら、メルの仕事は全て兄さんにつけておくよ。メルとまた離れるのは少し寂しいけど、息抜きだと思って思う存分外を楽しんでおいで」

「ラル兄様…!二人ともありがとう!!」

メルは今までにない以上に喜び二人に抱き着いた。

二人ともよしよしと溺愛する妹を撫でた。

 

「あ、そうだ」

イルミは思い出したかのようにポンっと手をつく。

 

「エル。君さ、この試験俺が受けること知ってたでしょ?それでメルが試験受けに行くの許可したんだろ?」

イルミのその言葉を聞いてエルはニヤッと笑う。

「まぁな」

 

「エル、この借りは高くつくよ」

「そうか?お前も満更じゃない様だが?」

 

イルミはムッと目を細めた。

「……君ってつくづく嫌な性格だね」

「お前には言われたくない」

 

 

エルは知っているのだ。

イルミがメルに好意を寄せていることを。

イルミの性格上メルを一人にさせることはできない。

エル達が頼まなくとも、勝手に気にかけてくれるとエルは分かってメルを送り出したのだ。

 

 

こいつ、俺の前でメルに自由にしてこいって言ったのもわざとだな。

試験の延長で俺にメルを見張らせる気か。

でも俺がいくら気に掛けると言っても仕事もあるし限度もある。

メルが一人になる時間は必ずできる。

それなのに、妹馬鹿のこいつが自由にすると言い切ったという事は、何名かメルにルイスの見張りがつくってことだ。

これで本当に自由と呼べるのか疑わしいけど、メルは喜んでるしまぁいっか。

 

 

「エル、今回は君の作戦にのってあげるよ。でも、面倒な仕事手伝ってもらうから覚悟しといてよね」

「フッ、かまわん」

 

 

「兄様、もう少し一緒にいたいのだけど私すぐにキルアを追いかけたいの」

「キルに何かあったのかい?」

ラルは首をかしげる。

 

「うん……ちょっとね。さ、イルミ行こう?」

そう言ってイルミの手を握るもイルミは微動だにしない。

 

「?」

「俺今から仕事があるんだよね」

「今から?仕事なら仕方ないけど……」

落ち込んだ顔で俯くメルを見たエルは「イルミ、その仕事引き受けてやってもいいぞ」と言い始めたのだ。

 

イルミは一瞬間を開けた。

「は?何言ってるの?」

「だから仕事を引き受けると言ったのだ。もちろんお前の手柄にしてもらって構わんぞ。今回試験中にメルを見てくれたからな。その礼だ」

 

ラルは、もうどうにでもしてくれと言わんばかりに呆れた顔でエルを見ていた。

「エルってさ、本当に馬鹿なの?」

イルミは首をグリンと傾げる。

「俺も大概だけどエルは度を越してるよね」

 

「お前にだけは言われたくない」

そう言いながら片手で携帯を取り出しどこかに電話をかけ始める。

話し終わって、エルは「許可もおりた」と言うのだ。

 

「許可?……まさかエル、さっきの電話……」

「あぁ、シルバさんにかけた。問題ないと言っていた」

イルミはため息をつく。

 

父さんはかなりエルを買っているからな。

それにうちが損をしないこの取引は断る理由がない。

でも、父さんにこんな理由で取引をしてしまうのは君くらいだよエル。

妹のメルが暗い顔をしていたから

なんて理由で君に殺される相手が少し気の毒になるよ。

 

 

「分かったよ。父さんがいいなら俺も構わない」

イルミは諦めた顔をしてメルを見た。

「じゃぁ行こうかメル」

「うん!!兄様本当にありがとう!帰ったら何かお礼をさせてね!」

にっこりと微笑むメルをみて、エルもラルも表情を柔らかくする。

 

 

「そうだ、すぐそこに飛行船を停めてるからそれでククルーマウンテンまで送ってあげるよ」

ラルはゴンの後ろにいるクラピカやレオリオにも声をかけた。

二人とも緊張した面持ちで頷く。

 

メル達が会場を出て飛行船へ乗り込んでいる時、エルはネテロ会長に挨拶をしていた。

「久しぶりじゃなエルよ。随分と活躍しておるようじゃな」

「お久しぶりですネテロ会長。メルがお世話になりました」

「ふむ。実に良い子じゃったぞ」

メルをほめるとエルは笑いながら「当然です」と断言する。

 

「フォッフォッフォッ、昔お前が妹のことをあまりにも話すからどんな子かと思っておったが、お前の話通り魅力のある、実に優秀な人材じゃった。本当に、昔のお前たちを見ている様でつい懐かしんでしまったわい。やっぱり良いのぅ、前線で若い才能を見つけるというのは。こういう人材と巡り合えるからこそ辞められんわい」

 

「フ.もう年なんですからほどほどにして下さいね。また、裏の依頼お待ちしていますよ」

「ふむ」

 

 

エルは一足遅れて飛行船へと乗り込んだ。

乗り込む際中、ちらりとある男に視線を向ける。

エルは冷たい瞳でそれを見るも無視をして飛行船の扉を閉めた。

 

 

あぁ♡

なんて極上の果実なんだァ

イルミと出会った時のことをつい思い出してしまう♡

あの冷たい瞳……

堪らない

あぁ

今すぐに……

コワシテシマイタイ

 

ヒソカは一人悶えながら飛び立つ飛行船を眺めるのであった。

 

 

 

ルイス家が所有する飛行船は、メル達の瞳の色を象徴する青が使われておりただの飛行船なのにどことなく気品すら感じる。

中の内装にも青が使われており、ゴンは目を輝かせた。

「うわぁああ!!」

へばりつく様に窓から外を眺めるゴンを見て、ラルはその首根っこを掴む。

 

「こらこら。君、もうメルの弟子なんでしょ?つまりルイス家傘下の一員になったという事だ。メルの顔もあるんだからそんなはしたないことしないでよね」

 

「ふうん、そうなんだ。メルって凄いんだね!!」

ゴンを見てラルは呆れたようにため息をつく。

 

「メル、本当にこの子でいいのかい?弟子なんて初めてなんだしもっとちゃんとした子でも……。メルに教えを請いたいって人間はかなり人数がいたし」

 

「へぇメルって人気なんだねぇ」

するとラルは力が籠る。

「だってメルってばこんなに可愛いでしょ?しかも歴代のルイス家の中でも戦闘センスは飛びぬけているんだ。だからメルに教えを請おうと、毎年群がる虫が沸いちゃうんだけど」

 

「兄様恥ずかしいからそんなこと堂々と言わないで下さい!!」

メルは耳まで赤くなる。

 

するとクラピカはクスクスと笑い始めた。

「失礼。……ルイス家は噂ではとても冷たい印象しかなかったからギャップが凄くてな」

 

「俺たちは別に好きで人を殺している訳ではない。これが稼業だからだ。俺たちは普通に笑うし、普通に誰かを愛したりもする。お前たちと何も変わらんよ」

そう言ってエルはソファに腰を掛ける。

 

「ククルーマウンテンまでしばらくある。メル、ハンター試験でどんなことがあったか教えてくれるか?」

エルのメルを見る目は優しくて、普通の兄そのものだった。

ゴンをはじめ、クラピカ、レオリオの3名は緊張はすっかり解けていた。

 

分け合いあいとメルと話をする様子を見て、ラルもエルも時折笑顔を見せている。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、目的のククルーマウンテンへと到着した。

 

「3人とも、メルをよろしく頼んだよ」

ラルは手を振りながらゴン達を見送った。

 

「それじゃぁ行ってきます兄様」

「あぁ。たまには顔を見せにおいで」

「はい!」

メルは嬉しさに揺れるような微笑みを見せた。

 

 

イルミとエルは目線だけを合わせる。

そしてそのまま何も言わずにイルミはエルの横を通っていく。

 

 

俺は他人にメルを任せることはしない。

メルはルイス家始まって以来の逸材だ。

失うことは許されない。

ゾルディック家でいう、キルアの様な存在だろう。

 

かといって、メルの顔を曇らせるようなことはしたくはない。

メルは頭の良い子だ。

自分のルイス家での立ち位置をよく理解し、仕事にも自分なりに折り合いをつけて向き合っている。

 

俺はメルの笑顔には何度も助けられた。

ルイス家として必要な存在である以前に、メルは俺にとってかけてはならない特別な人間だ。

だからこそ、メルが望むならば俺は何でもしよう。

 

だがメルが危険に晒されることはあってはならない。

本来なら俺が守ってやってあげたいが、流石にメルの仕事を引き受けながらずっと傍についておくことはできない。

イルミ、お前だからメルを任せられるんだ。

 

 

 

お前はメルを裏切れない。

お前はメルを愛してしまっているからな。

 

エル達は、5人の背中を見送り各々を待つ仕事へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 



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ゾルディック家編
28話 ゾルディック家×家族


 

 

「ここにキルアが……」

ゴンは目の前に聳え立つ巨大な門を見上げる。

 

「別名、黄泉への扉って呼ばれる門だよ。私たちは試しの門って呼んでる」

「試しの門?」

「そう。キルアに会いたければ、この門を自力で開けないといけない」

「えっ?この門を自力で!?」

 

「おいおいそりゃ無理ってもんだ。あんな巨大な扉どうやって開けるんだよっ」

レオリオは門を指さした。

 

「この門さえ開けられない者は会う資格はないということ。試しの門以外から侵入した場合、ミケっていう魔獣に食い殺されてしまうの」

「友達を試すなんて変だよ!!俺は塀をよじ登ってでも中へ入る!!」

 

もう!本当に頑固なんだから!

「いい?今のゴンでは簡単にミケの餌になっておしまい」

「じゃぁどうすればいいのさ!」

「だから、修行するんだよ」

「修行?」

 

 

メルは守衛室を見た。

私とイルミの姿を見たゼブロさんは慌てて飛び出してきた。

 

「イルミ坊ちゃんにメルお嬢さん!!どうしたんですかこんなところで!」

はぁはぁと息を切らしてながらやって来た。

 

「ゼブロさん久しぶりです。紹介します、私の友人のクラピカとレオリオ、そして弟子のゴンです」

「えぇ!?メルお嬢さんの友人に弟子!?」

「キルアに会いに来たのだけど、まずは門を開けてもらわないとね。そこで、ゼブロさんの事務所で少し修行させてもらえますか?」

「それは構いませんが……」

「ありがとうございます!」

 

メルはぱあっと顔を明るくさせる。

そしてある建物の中へと入る。

部屋は主に木で作られており、部屋に置かれている家具は20kg以上のモノばかりだ。

つまりこの部屋で生活することで飛躍的に体づくりをすることができるのだ。

 

本当は手っ取り早く念能力を教えたいけど、まずは体を作る所から始めないと修行中に怪我をしかねない。

ここで最低ラインは超えてもらうよ、ゴン。

 

「あの…」

ゼブロさんは申し訳なさそうに話しかけてくる。

 

「メルお嬢さんの弟子であるゴン君がここで修行をするという事は、メルお嬢さんやイルミ坊ちゃんもここにお泊りになるということですか?」

 

「私は泊まるつもりだよ。あ、イルミは先に家に帰っててもいいよ。ゴンと一緒にすぐに追いつくから」

「だっ、だめです!!メルお嬢さんがこんな所で寝泊まりをするなんて!!ルイス家の方をこんな使用人の住まいで寝泊まりさせることはできません!!」

 

イルミは首をかしげる。

「メル、どうするの?」

 

ここはもう頼み込むしかない!!

「お願いします!!」

メルは深々と頭を下げた。

「できれば寝食をゴン達と共にしたい。今は少しでも時間を無駄にしたくないの!」

 

せっかく兄様達が作ってくれた時間。

有効に使わないと!!

 

「あっ、頭をお上げください!!分かりました!どうぞ好きに使ってください。でも、何か不便があったら遠慮なく申し付けてくださいね!!」

「ありがとうございます」

 

「話はまとまったみたいだから、じゃぁ俺先に家に帰っとくよ?試しの門が開いたら迎えに来るからまた連絡してね。それまでのんびりさせてもらうとするよ」

「分かった」

 

そう言ってイルミはスタスタと歩き欠伸をしながら片手で軽々と5の扉を開いて出て行った。

その光景を見てゴン達は唖然とするのだった。

 

「さぁゴン、クラピカ、レオリオ!始めるよ!」

 

その日から修行は始まった。

 

 

「かぁ~、メルって結構スパルタなんだな~!!」

レオリオは力尽きて布団に倒れこむ。

クラピカも同様に布団に腰を下ろした。

 

「だが、教え方はとても効率が良いものだった。彼女のメニューは厳しいが教え方は実に的を射ている。これなら短期間でパワーアップを図れそうだ」

 

隣の布団では力尽きたゴンがいびきをかいていた。

すると扉が開き風呂から上がったメルがやって来た。

 

「皆お疲れ様~、明日は朝早くからするからもう休んでね~」

そう言いながら平然と布団に潜り込むメル。

 

「っておおおいい!!お前まさかここで寝る気か!?」

レオリオはメルの布団をはぎ取った。

 

「え~?そのつもりだけど。私ももう眠たいから布団返してよレオリオ。というか何でまだそんな元気があるの?明日はもっと練習量上げないとだねぇ」

目をこすりながらメルは欠伸をする。

 

するとすぐにゼブロさんがやって来た。

「メルお嬢さあああん!!貴方の部屋はこっちです!!!」

「え~?」

そう言いながらメルはゼブロに連れて行かれるのであった。

 

 

レオリオは「何なんだあれは」とボソッと呟く。

「フッ。いいからもう寝るぞ」

クラピカは笑いながら布団にもぐる。

 

それから1週間が経過した。

その日の朝メルはゼブロの部屋にある黒電話で執事室へ電話を入れる。

「はい、執事室」

 

あ、この声。ゴトーだ!

「お久しぶりです。メルです。イルミに、今から門を開けるって伝えてもらえますか?」

「メル様お久しぶりです。イルミ様から話は伺っております。かしこまりました」

 

よし!電話連絡も入れたし、さっそく試しの門を開けちゃうよ!

 

ゴン、クラピカ、レオリオは試しの門の前に並び一誠に力を込めた。

「皆、呼吸を合わせてね。いくよ?1、2の3!!」

 

メルの掛け声とともに、ズズズウウン!!と音を立てて1の扉は開いたのだ。

「やったああ!!」

ゴンは目を輝かせて飛び上がる様に喜んでいた。

私が教えたことをこなして、それが達成できた時、こんなにも嬉しいモノなんだ。

メルもゴンと一緒になってはしゃぐ様に喜んだ。

 

「仮にも師匠ならこんなことくらいでいちいち喜んでたらきりがないよ?」

気付くとイルミがやって来ていた。

「や。思ったより時間がかかったね」

 

イルミは白いシャツに黒のズボンを履いており、髪を高く括っている。

始めてイルミを見る人間であれば美しい女性だと間違われても可笑しくない。

 

「イルミ!お迎えありがとう。キルアは屋敷のどこにいるの?」

「んー、今は独房にいるんだけど、メルはともかくその三人を屋敷の中に入れるのはだめなんだってさ」

「へっ!?そうなの!?」

 

今まで普通に出入りしていたから入れるものとばかり思っていた……。

せっかくここまで来たのに……

でもゾルディック家のことだから私が好き勝手にすることはできない。

 

すると森の奥から気配が二つ現れる。

1人は紫のドレスを着た肌の白い女であった。顔には包帯を巻いており赤く点滅する機械を装着している。

もう1人は着物を着た子供だ。

 

「お久しぶりね、メルちゃん」

「キキョウさん!カルト君!お久しぶりです!」

 

メルは深々とお辞儀をする。

「キルアに会いに来たようだけど、イルミが言った通り、今は会えないの。せっかく来てもらったのにごめんなさいね」

「いえ、仕方のないことですから……」

 

するとキキョウはメルの頬に手を添える。

ひんやりとしたキキョウの手はどこか心地よさを感じる。

 

「そんな悲しそうな顔をしないで?貴方ならいつでも歓迎よ?そうだ、これから一緒にお茶でもどうかしら?ねぇ?カルトちゃん」

「はい、僕もメル姉様と久しぶりにお話がしたいです」

 

カルト君は私を慕って姉様と呼んでくれている。

その姿があまりにも可愛くてついよしよしと頭を撫でた。

 

「キキョウさん、カルト君。お誘いは嬉しいのですが……私今この子の師匠をしてるんです」

そう言ってメルはゴンの肩に手を添える。

「ゴンが屋敷に入れないのなら私は行けません」

「まぁ!メルちゃんが師匠?」

「はい。どうしても、駄目でしょうか?キキョウさん、私この子にキルアを会わせてあげたいんです!」

「……貴方の頼みは聞き入れてあげたいけれど……、キルアは今とても大事な時期なの。友達なんて必要ないモノに時間を取られる訳にはいきませんわ」

 

その言葉はメルの表情を曇らせる。

これ以上ごねても仕方がないか。

キルアが独房から出てきてくれるしか会える方法は現状ない。

 

すると、突然キキョウが悲鳴を上げた。

「ああぁぁぁ‼なんてこと!?お父様ったら勝手に……せっかくキルが戻ってきたのにっ‼」

 

何か起こったのか?

 

「メルちゃん、私急用ができてしまったの。申し訳ないけど失礼させてもらうわね。また時間があったらいつでもいらっしゃい。いくわよ、カルトちゃん!!」

そう言って足早にキキョウはメル達の前から姿を消した。

 

「何が起こったんだろう?」

一同頭に「?」を浮かべる。

 

するとイルミが説明してくれた。

「んー、どうやら爺ちゃんがキルアを独房から出したみたいだね。キルが独房から出たなら待ってたら会えると思うよ?この先にある執事の館にでも行って待つ?」

「いいの!?」

「うん。ダメだって言われたのは屋敷内だからね。執事館については何も聞いてないから」

「イルミありがとう~」

「はいはい」

 

イルミはポンポンとメルの頭に手を置く。

「こんな頼りない師匠でゴンはいいの?ゴンにも師匠を選ぶ権利はあるんだよ」

「ちょっとイルミ!そんなこと言わないでよ!!」

メルはぽかぽかと硬い胸を叩く。

 

「うん、俺はメルがいいんだ!!他の誰かじゃなくて、メルじゃなきゃダメなんだ!」

 

その言葉はメルの感情を高ぶらせるには十分だった。

「ゴン……、もう私の技の全部を伝授するよ。なんなら秘術でも奥義でももう全部教えちゃう」

 

するとイルミの針の持ち手の丸くなっている部分がスコーンと飛んできた。

「いたたっ」

「コラ。ルイス家以外口外してはいけない技とか色々あるでしょ?それに、その時のゴンに必要でかつ、扱える技じゃないと教えたところで無駄になるからね?さらに言うと、秘術や奥義系なんかは術者にかなり負担がかかるものばかりなんだから簡単に教えちゃダメ。戦闘中にそれ頼りに発動させて相手は仕留めたけど自分も死んじゃいました、じゃ元も子もないからね」

 

「分かってるよー」

メルは針が当たった頬をすりすりとさする。

 

「本当に分かってるの?……俺ならメルが師匠だなんて嫌だけどね。こっちの方が見ててハラハラするし」

「ム!私もイルミが弟子なんて嫌だよ!教えたら全て一発でこなしちゃう弟子とか師匠の存在価値0になりそうだもん!それに比べてゴンはまっすぐで全部真剣に受け止めてくれるし、まだ体ができていないからそれなりに時間はかかると思うけどやりがいあるし、ゴンが弟子でよかったよ」

フン!と言い返すメルを見てイルミはため息をつく。

 

ゴンは二人の会話を聞いていて口を開いた。

「ねぇ、メルの師匠はイルミなの?」

「確か最後のトーナメント戦の時にちらっとそんな話が出ていたな」

レオリオは記憶をたどる。

 

 

「そうだよ?メルは俺の弟子。と言っても、メルの師匠は沢山いるからね。俺はそのうちの1人だっただけ」

「子供の時は年も近いイルミによく教えてもらってたんだ。」

「全く手がかかる弟子だったよ」

「一言余計だよ!」

 

「そうだったんだ。なんだか二人とも凄く仲がいい様に思えたからてっきり付き合っているのかと思ったよ。でも師匠と弟子の関係なんだね!だからそんなに息がぴったりなんだ!!」

なるほどね謎が解けた!という様なすがすがしい顔でゴンはとんでもないことを言う。

 

メルは明らかに動揺して少し顔を赤らめる。

その反応だけでクラピカとレオリオは察した。

 

メル、なんて分かりやすいんだ。

 

しばらく歩くと、森の中にひっそりと佇む館が見えてきた。

館の前には大勢のゾルディック家の執事がお出迎えをしてくれている。

メルとイルミの姿を見るなり深々と頭を下げ「お帰りなさいませ、イルミ様、いらっしゃいませメル様」と声をそろえるのであった。

 

「メル様、お久しぶりです」

目の前にやって来たのは眼鏡をかけた男、ゴトーだ。

「久しぶり。少しここでキルアを待たせてもらうね?」

「はい、畏まりました」

「ありがとう」

にっこりと微笑むメルを見て、ゴトーも笑顔を見せる。

 

館の中へ入ると、待合室へと案内された。

「こちらでお待ちください。キルア様はこちらへ既に向かっております」

 

メル達はソファに腰を下ろす。

するとゴトーは、時間つぶしにある遊びを持ち掛けてきた。

「もうイルミ様やメル様には通用しませんが、ゴン様達に付き合ってもらいましょう」

そう言って、ゴトーはコインを取り出す。

 

あ、ゴトー。コイン投げをするつもりだなぁ。

あれ初めて見た時は驚いたなぁ。

 

「メル様達はもう見飽きておりますでしょう。別の部屋を用意してありますのでそちらでどうぞごゆっくり寛いで下さい」

「分かった。じゃぁそうさせてもらうね」

メルとイルミは執事たちに案内されて他の部屋へと移動した。

 

残されたゴン達は何が始まるのかとゴトーを見ていると、突然人が変わったかのように眉間にしわを寄せて血管を怒張させる。

「俺はキルア様を幼い頃から知っている。僭越ながら親にも似た感情を持っている。正直キルア様を連れて行こうとするお前たちが許せねぇ!!」

あまりの迫力に3人は息を飲んだ。

 

「奥様は消え入りそうな声だった。断腸の思いで送り出すのだろう。ルイス家のメル様まで連れている所を見てなんて図々しいガキか、と思ったよ。あの方はお前達が軽々しく話が出来る様な方じゃねぇ。もし、勝負で俺に負けたらキルア様とメル様には遠くに行った為もう会えないと伝えさせてもらう。お前たちに拒否権はねぇ!!馬鹿みたいに返事だけしておけばいい」

 

「-っ」

 

そしてゴトーは素早くコインを投げる。

一人、また一人と脱落していき最後はゴンのみ。

ゴンはなんとかゴトーのコインを追って見事言い当てた。

 

 

ゴン達がゴトーのコイン投げに付き合っている頃、案内された部屋に入るとそこにはキルアがいた。

「え!?キル!?」

「あれ?メル!?なんだ、ゴトーのやつ。もうメル達来てるじゃんー!」

そう言ってキルアはチョコロボ君を食べながらリュックを背負う。

 

メルはキルアを見るなりぎゅっと抱きしめる。

「キルアごめんね。キルアは人殺しなんてしたくなかったんだね。なのに私いっぱい色んな暗技なんか教えちゃって……」

「なっ、何言ってんだよ!俺メルがいてくれたからなんとかやっていけてたんだぜ?それにメルが教えてくれた技は知ってても損はないし今でも役に立つことばかりだし…、だからその……あ~!もう!!」

キルアは泣きそうなメルの顔を両手でつかむ。

 

「メルに俺は助けられたの!だからお前がそんな顔するな!!」

「……うぅ、キルア~!」

メルはうわーんとキルアに泣きついた。

 

「結局泣くのかよ!!」

キルアは呆れたように笑いながらメルを見た。

 

「次、イルミの番だよ」

メルがそう言うと、ずっと静かに見ていたイルミはゆっくりとキルアの目の前までやってくる。

「キルア、俺があの時言ったことは全て本当だよ。今でも友達なんて正直必要ないと思ってるし暗殺者には邪魔になる存在だと思っている」

 

ちょっとイルミ謝る気あるの?

 

「あぁ、知ってるさ。兄貴が本気だったってことは直ぐに分かったよ」

「でもお前を傷つけたかった訳じゃないんだ。お前がそれで傷ついたというなら謝るよ、ごめん」

まさかあのイルミの口から謝罪の言葉が出てくるなんて思いもしなかったキルアは手に持っていたチョコロボ君を落とした。

「べっ、別に謝ってほしい訳じゃねぇし」

 

「メル、これでいいの?」

「うん。これで丸く解決だね!」

メルはにこにことしながらイルミを見る。

 

なんて楽天的な性格。

先が思いやられるよ。

イルミは腕を組んでメルを見ていた。

 

メル達3人は待合室へと戻ると、部屋からは拍手する音が聞こえていた。

「もしかしてゴトーに勝ったの?」

扉から顔を覗かせるとゴンは目を輝かせる。

「メル!キルア!!」

「ゴン!よく来たな!!」

二人はお互い走ってきゃっきゃっとはしゃいでいた。

 

「よし!それじゃぁ早くこの家出ようぜ?お袋が煩くてさぁ」

キルアはうんざりした顔をする。

 

「じゃぁ俺はここでお別れだね。次の仕事の準備があるから」

そっかぁ、イルミとはここでお別れか。

そう思うと急に寂しさを感じた。

次会うのはいつになるんだろうか。また4、5年も会えないのは嫌だなぁ。

 

「分かった。イルミ、ありがとう。私またイルミに会えて嬉しかったよ」

「……メル、携帯出して?」

「へ?」

「早く」

 

メルは鞄の中から白い携帯を取り出してイルミに渡す。

ピピピと何か打ち込んでいた。

「俺の番号登録しておいたから定期的に連絡をよこすように。いいね?」

「!」

「返事は?」

「う、うん!」

メルは嬉しすぎて喜びを隠せない。

口元は緩み満面の笑みをみせていた。

 

その様子を見てクラピカもレオリオも心の中で突っ込むのであった。

何でお前たちは付き合っていないんだよ!!と。

 

そしてメル達はククルーマウンテンをあとにした。

 






ゾルディック家編はこの28話で全て書ききってしまいました。
ゾルディック家大好きなのでスラスラと書いてしまいいつもよりも文字数が多いです。
ここまで読むの疲れ様でした。

メルとイルミはようやく番号を交換できました。
道のりはまだまだ長いようです。

次は天空闘技場編へ突入です!


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天空闘技場編
29話 闘技場×デ×修行


 

 

太陽が天頂を通過した頃、5人は電車の中にいた。

「皆はこれからどうするの?」

メルはキルアから貰ったチョコロボクンを口の中でコロコロと転がせながら皆を見ていた。

 

始めに口を開いたのはゴンだった。右手には44番のナンバープレートを握りしめている。

「決まってる!!俺はヒソカにこのプレートを、顔面パンチのおまけつきで叩き返すんだ!!」

メルはその言葉を聞いて「あっははは!」とお腹を抱えて笑い出した。

 

「ゴンいいねぇ、目標は高く持つことが大事だからね。顔面パンチだけじゃなくて、もっとこてんぱんにやってしまおう!!」

「こいつの力量じゃまだそんなこと無理だぜメル?」

キルアは呆れ顔でメルを見つめていた。

 

「まだ、ね。だからこれから修行するんだよ。ゴンには次の段階へ進んでもらうよ」

「「次の段階?」」

ゴンとキルアは口を揃えて首を傾げた。

 

「一般的には知られていない力がこの世界にはあるんだよ。それを教えてあげる」

「それって……メルや兄貴の強さにも関係があるのか?」

キルアは目を見開いて食いついてくる。

 

「その通り」

人差し指を立ててキルアを見ると、自分も教えて欲しいと声に出さなくても伝わってきた。

「キルアの教育はイルミが担当しているからね。あまり好き勝手に教えられなかったんだけど、今はシルバさんからの許しを得て外へ出てるから問題ないね。……いいよ、キルアにも教えてあげる」

「よっしゃ!!」

キルアはグッと握りこぶしをつくり気合を入れていた。

 

「私もその力には興味があるが……、キルアとも再開できたし私は区切りがついた。これからは私の目的の為に動くとするよ」

クラピカのその言葉にメルは反応する。

「クラピカの目的?」

そういえばクラピカってなんでハンターを目指しているんだろう。

 

「あぁ、メルには言っていなかったな。クルタ族、博識の君ならば聞いたことがあるんじゃないか?」

 

「えぇ、世界三大美色に数えられるクルタ族の紅い瞳。裏では有名だからね。クルタ族は幻影旅団、通称蜘蛛に襲われてその瞳を奪われた。今はその瞳が高値で裏競売等で売買されて……」

「流石だ」

私がクルタ族の瞳の事を話していると、クラピカの瞳は徐々に紅く染まっていく。

 

「も、もしかしてクラピカ、あなたは……」

「そう。私はクルタ族の生き残りだ。そして私の目的は、蜘蛛を全員捕縛することだ」

 

メルは昔父ウィリアムに言われた言葉を思い出していた。

“幻影旅団に手を出してはいけない”

父は、今はルイス家の企業の総取締役だが、昔はハクお爺様やエル兄様と共に暗殺業をこなしていた。

 

それもあのシルバさんと張り合える程のかなりの腕だったとか……。

その父が注視していた組織だ。

蜘蛛に関わるのは私の様に教育を受けた人間でも避けなければ危険な組織なのに、まだ念も知らないクラピカが安易に関わってはいけない。

でも、一族を皆殺しにされて自分一人が生き残ってしまったクラピカに、“関わるな”なんてそんな言葉はかけられない。

 

「クラピカ、蜘蛛は私達裏の世界でもなかなか手を出せない組織なんだ。……もしよかったらゴンやキルアの修行にクラピカも一緒に加わらない?」

蜘蛛に少しでも近づくのならば念の習得は必須!

 

「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ。これからは本格的なハンターとして雇い主を探し、自分自身で強くなる道を進んでいくよ」

何を言ってもクラピカの意志は固そうだなぁ。

 

「分かった。ならせめてこれをもらってほしい」

メルは鞄からある紙切れを渡した。

 

「私の携帯番号なの!もし行き詰まったり危険なことに直面したら電話して?私すぐに駆け付けるから!」

「ありがとうメル。君は暗殺者なのに本当に優しいんだな。頼りにさせてもらうよ」

少し心配だけどクラピカはとても思慮深い人だ。

むやみに危険に突っ込んで言ったりはしないだろう。

 

「レオリオはどうするの?よかったら一緒に来る?」

レオリオにも声をかけてみるもすぐに断られた。

「俺は元々医者になりたかったんだ。まずは、国立医大に合格する為に猛勉強ってところからだな!」

 

「えっ!レオリオ医者になりたかったんだ!!」

「おう!もしお前が怪我した時にはすぐに呼んでくれよな。お前なら無料で見てやるぜ?」

「ありがとう。じゃあレオリオも困った時には私にも連絡してね」

メルはクレオリオにも携帯番号が書かれた紙を渡した。

 

「サンキューな!!……ところで、ゴン。ヒソカに一発お見舞いさせるのはいいけど居場所に検討があるのか?クラピカも、蜘蛛を探すのはいいけど当てはあるのか?」

 

するとクラピカはトーナメント戦の時ヒソカに耳打ちされたことを話してくれた。

「当てならある。私はあの時、ヒソカから蜘蛛についていいことを教えようと言われた。それが気になって、試験後にヒソカを問いただしたんだ」

 

なるほど、だから試合放棄なんて性格上認めないクラピカが甘んじて受け入れた訳か……。

 

「9月1日、ヨークシンシティで待っていると言われた。9月1日と言えば世界最大のオークションがヨークシンシティで開かれるんだ。世界で一番金が集まる場所だ。奴らは盗賊だ。こんな絶好の機会は逃さないだろう。そういう訳で、その日ヒソカはヨークシンシティのどこかにいるはずだ」

 

なるほどね、ヨークシンのオークションか。

いかにも蜘蛛が現れそうだな。

強者を好むヒソカが蜘蛛を追っていても不思議じゃないし。

9月1日か、あと半年。

一体どこまで鍛えられるだろうか。

 

先を考えるとメルはなんだかワクワクしてきて酷く高揚していた。

新しい世界に飛び込む感覚だ。

私今本当に楽しんでいる。

 

電車は徐々に速度を緩め、次の街へと停車する。

5人は9月1日クークシンシティで会う約束をし、そこでクラピカとレオリオとは別れた。

 

「メル、修行するっつっても一体どこでするつもりだよ?」

「キルアも行ったことがあると思うけど、修行するには打ってつけだと思うんだよね。天空闘技場って場所はね」

「!」

キルアはなるほどと手をぽんっとついた。

「そこなら修行も金儲けもできるな!」

 

ゴンは訳が分からないまま二人に連れられて、天空闘技場の前まで連れてこられていた。

 

「地上251階、高さ991m、世界大4位の高さを誇る建物なの。ここはハンター試験みたいに難しい条件は一切ないんだ。相手を倒せればいいだけ!分かりやすくていいでしょ?さっ、登録しに行くよ!」

ゴンは初めて見る光景に目を輝かせていた。

 

うんうん、気持ち分かるなぁ。

私も小さい頃修行でここに来た時はそんな目でこの建物を見てたよ。

 

ゴン達はそれぞれ受付員に渡された用紙に必要事項を記入する。

「キルアゾルディック様は2054番、ゴンフリークス様は2055番。1F闘技場ではこの番号でお呼びいたしますのでお間違えの無いように」

 

闘技場の中は激しい歓声と熱気が立ち込めていた。

「うわぁ、何も変わっていないなぁ」

「まさかメルも修行で天空闘技場へ来てたなんて思わなかったぜ。俺は6歳の時に放り込まれて200階に行くまで戻ってくるなって言われてさぁ」

 

「私も似たようなものだよ。でもお蔭で体術や戦術は学ばせてもらったよ。キルアは200階まで登ったことあるから普通に相手をしたんじゃ修行にはならない。だから戦いに制限をかけさせてもらうよ?」

「そうじゃないと面白くないぜ!!」

 

 

「フフ。キルアには200階まで目隠しをして試合をしてもらう。手を変形させて鋭くさせたりは駄目。ここではポイント&ノックアウト制だけど相手をノックアウトさせてはいけない。10ポイントを獲得してTKO勝ちにすること。あと、力は4割にセーブすること。いいね?」

「ふうん、目隠しか。あとポイント制での勝利と力のセーブね。分かった、やる」

 

「ゴンは、まず自分自身がどのくらいの強さなのかを認識してほしい。何も考えずに相手を突き飛ばしてみて?」

「それだけでいいの?」

「うん。自分自身を認識することは基本中の基本!まずは自分の力量を把握することから始めよう」

「分かった!」

 

そして二人の名前が呼ばれる。

お互い別々のリングで対戦が始まった。

 

キルアには感覚を研ぎ澄ませる訓練。しばらく裏の世界から離れると嫌でも感覚は鈍ってしまうもの。視覚からの情報を遮断させて五感を研ぎ澄ませる。200階に行く頃にはキルアは仕事をしていた頃の様な鋭い感覚が手に入っている筈。

 

ゴンは戦闘経験が全くと言っていいほどに少なすぎる。まずは戦闘に慣れることが大切。その為に自分の力量の把握が必要不可欠。体の動かし方や相手の動きの捉え方なんかは徐々に教えていけばいい。ゴンは呑み込みが早そうだし200階に行く頃にはそれなりに良い動きができる様になるはず。

 

そして200階に行ってから念の修行を本格的に始める!!

 

メルは頭の中で二人をどのように育てていくか思考を巡らせているうちにゴンとキルアの勝敗が決していた。

ゴンは50階へ。キルアはゴンと一緒に進みたいと言い同じ50階へ進むことになった。

 

「俺、こんなに力がついていたんだね。ただ相手を張り倒しただけなのに!!」

ゴンは自身の手を見つめて己に身についた力を実感していた。

「そう、ゾルディック家の試しの門をクリアしたんだから相手を吹き飛ばすくらいの力はついているわ。でも、吹き飛ばすだけじゃ戦いとは言わない。ゴン、次は相手を攪乱させながらキメのはり手をキメて見せて?ゴンの瞬発力は4次試験の時に少し見せてもらった。いいバネを持っているね。それを最大限生かして戦ってきて欲しい」

 

メルってば本当に教えるのがうまいんだな。

指示も的確で分かりやすい。

「よし!!頑張ってみるよ!!」

 

「キルア、目隠しをしてみてどうだった?」

「んー、相手が弱すぎてなんとも……。でも自分が目に頼りすぎていた事は自覚できたよ」

「そう感じることが大切だよ。相手は少しずつ強くなるから大丈夫。正直キルレベルなら50階の相手でも少し物足りなく感じるかもしれないけど、ゆっくり進んでいこう。様子を見て、更に制限を設けていくから覚悟してね?」

「お、おう!」

 

メルって結構スパルタなんだよなぁ。

強さに関して貪欲というか……

だからあの兄貴の修行にも耐えれてたんだろうけど。

でも、こんなにメルに見てもらえるのは正直ラッキーだ。

ルイス家の中でもメルに修行をつけて欲しいって奴は噂でかなりよく聞いてたし。

食らいついてやる、絶対に兄貴やメルの強さの秘密を暴いてやる!!

 

そして50階での試合が始まる。

ゴンはメルの言った通り、素早い動きで相手を翻弄させて相手の死角から力強い張り手を喰らわせていた。

メルはその様子を見て笑みを浮かべる。

 

速さは申し分ない。

相手の隙をついたあの間も完璧だ。

それにゴンは気配を消すことにかなり長けている。

暗技との相性バッチリなんだけどなぁ。ゴンにその気があればスカウトしたいくらい。

でも性格は全くと言って良いほど暗殺向きではないから無理なんだけどね。

 

そんなことを思っていると次はキルアの試合が始まった。

相手はなんとキルアと同じ背丈の男の子だったのだ。

「あら。キルやゴン以外にも子供がいたんだ」

ボソッと呟くと隣にいた眼鏡をかけた男が少し微笑みながら話しかけてきた。

 

「あの子は私の弟子でね、名をズシと言うんです。貴方の弟子はキルア君ですね?」

「……何でそんなこと知っているんですか?」

不審な目を向けると男は慌てて謝罪した。

 

「これはすみません。まず名乗らせてください!僕はウイングと言います。ネテロ会長から貴方に言伝を頼まれています」

「ネテロ会長から!?」

 

「はい。ハンター試験には続きがあるのです。プロハンターを名乗るためにはそれなりの強さが必須です。ハンターの仕事は念能力者でないと務まらない。でも念の存在を公にすれば能力を悪用するハンター崩れの犯罪者が大量発生しかねない。その為、ハンターライセンス取得者のみに、念について教えるようになっているのです。普通は、1人につき1人に念の修得者が付き教えるのですが、メルさん、貴方は既に念能力を扱える。貴方と、ヒソカ、ギタラクルの三名には教える必要なしと会長は判断された様です。そこで、ゴン君とも仲の良い貴方が、今回ゴン君に念を教えるようにと、会長は仰っています」

 

「ハンター試験はまだ続いていたんですね。でもなぜキルアのことを?キルアは途中で失格になったのですが」

「会長からキルア君についても聞いていますよ。とても才能のある子だとか。会長はこうも言っていました。メルさんはゴン君とキルア君を恐らく連れているだろうと。キルア君に念を教えるか否は君が判断しなさい、と」

 

なるほど。

キルアに念を教えても悪いことに使う訳じゃないからそこは問題ない。

キルは犯罪なんて犯さないから。

それにしても、裏ハンター試験なんてものがあったなんて。

私は稼業が稼業だから念を習得したけど、普通はハンターライセンス取得者じゃないと念の修行ができないんだ。

そんなこと初めて知った。

 

「それにしても、あのキルア君という子は末恐ろしいね。目を隠して力もセーブしている様だけどなんて動きをするんだ」

キルアとズシの試合を見ていたウイングは目を瞬かせていた。

 

「あぁ、キルアのことを会長から聞いてるのならゾルディック家だってことも知っているんですよね?」

「えぇ。聞いております。噂でしか聞いたことの無い世界ですから少し現実離れした様な気になってしまいそうです」

 

「キルアは長く続くゾルディック家の歴史上才能はピカイチって言われているんですよ?それに、さっき戦っていたゴン。ゴンも才能だけで言うとキルアに引けを取らないくらい目を見張るものがあります。この二人が念を習得したらどうなるのか、私は今から楽しみで仕方ないのです」

メルは恍惚とした法悦の輝きを満面に浮かべていた。

 

ウイングは息を飲む。

メルさん貴方……、とんでもない怪物を育てているんじゃ……。

いや、それを育てる貴方自身もまさしく怪物……!!!!

 

キルアは制限内で、着実にポイントを重ねていく。

だが手ごたえの無い違和感を感じていたのだ。

いくら手刀をキメても相手は諦めない。

これだけクリンヒットが入れば、痛む声や体が硬直するような何らかの反応がある筈なのにそれが全く感じなかったのだ。

 

この相手は可笑しい

 

キルアがそう思い始めた頃、ズシという少年は何かを決心したかの様に息を整える。

メルはその様子を見て目を少し見開かせた。

 

「あれは……」

私が呟こうとすると、隣にいたウイングさんは会場中に響き渡る声で「ズウウウシイイイイイイイイイ!!」と叫んだのであった。

 

その怒号にメルは目が点になる。

び、びっくりしたぁ……

 

 

ウイングのその声にズシは今しようとしたことをやめた。

そしてそのままキルアのヒットが続き、10ポイントを制したキルアの勝利となった。

 

 

 

「すみませんメルさん。驚かせてしまいましたね」

「い、いえ。それよりズシ君はもう念が使えるのですか?」

「えぇ。まだまだですけどね」

「いい気迫でした。キルアやゴンと良いライバルになれそうですね。これから何度か対戦するかもしれませんし、宜しくお願いします。では私は二人を迎えに行ってきます。失礼します」

そう言ってメルは席を立った。

 

 

 

 

 

 



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30話 フロアマスター×ト×念

 

 

選手の出入口ゲート前まで行くと、キルアは不満そうな顔で私を見ていた。

 

やはりズシが念を使ったのに気付いたな?

念と知らずとしてもそれが危険なものであると感覚で察したんだね。

 

「メル、あいつの、さっきの何?もしかして俺たちが身に着ける強さって、あれのことなのか?」

「さすがキルアだね。まさかこのクラスで使える人がいるとは思わなくて気を抜いていたよ。その様子じゃ気になって次の試合どころじゃないと思うから今から教えてあげる。二人ともついてきて」

 

メルは慣れた足つきでエレベーター前へと移動する。

そしてメルが選択した階は245階。

「ちょっ、メル!押す階数間違えてないか!?」

「言ってなかったけど、私245階のフロアマスターなんだ」

 

「は!?」

「えぇ!?」

キルアとゴンは顔を見合わせて驚くのであった。

 

「ったくメルってばいつの間にフロアマスターになってたんだよ!」

キルアは少し悔しそうな顔でメルを見ていた。

 

「実は修行した時にフロアマスターまで行ったんだ。バトルオリンピアへの出場権も与えられているけど、流石にまだ一度も参加はできていないんだけどね」

 

そして、メルが所有するフロアへと到着した。

床や壁は全て光沢のある白い石で囲まれており、等間隔で温かい間接照明が置かれており神秘的な空間が広がっていた。

そこに、濃い青の絨毯が敷かれており白の床に青がよく映えている。

 

降りるとすぐにフロントがあり、メルを見るなりフロントに座っていた女は目に涙を貯めながら走ってきた。

「メル様ぁあああ!」

女はメルに抱き着いて肩を震わせている。

 

「久しぶりだねタキ」

「久しぶりだね、じゃないですよぅ!!メル様が多忙なのは知っていますがあまりにもここに戻って来て下さらないので私は一人でずっと待ってたんですよぉお!!」

わんわんと泣く女を見てキルアとゴンは少し引いている様子であった。

 

わっ、二人ともそんな目でタキを見ないで!!

良い子なんだから!

「キルア、ゴン、紹介するよ。私のフロアのフロントを担当してくれているタキだよ」

二人に紹介すると目をこすりながらタキはゆっくりとメルの隣にいる少年二人に目をやる。

 

「何ですかこの子たちは?」

「あぁ、私の弟子だよ。タキ、練習部屋を使わせてもらうよ。タキのことだからすぐに使える準備はできているよね?」

「メル様の弟子!?なんて羨ましいガキ…コホンッ。はい!もちろんお部屋の準備はできておりますよ。こちらへどうぞ」

 

タキは歩きながら、二人にこのフロアの説明をしてくれていた。

「このフロアにもフロントが設けられており、245階以下のフロアマスターはメル様にフロントを通して戦いを挑むことができるのです。ですが、メル様はご多忙な故なかなかその試合が通ることはなく、私はいつもその苦情処理をしているのです」

 

タキストレスがかなりかかってるみたいだな。

ごめんねいつもありがとうタキ。

メルは申し訳なさそうにタキを見た。

 

「でもさ、試合を何回も蹴ってたら流石にフロアマスターと言えども降格させられるか、最悪登録を消されたりするんじゃねぇの?」

 

「普通の選手ならばそうなります。ですが、メル様は普通の選手ではありません」

「どういうこと?」

ゴンは首をかしげる。

するとよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにタキは不気味な笑いをし始める。

 

「メル様の艶麗なこのお姿!むさ苦しい闘技場に現れた一凛の華!!これ程までに艶やかで美しいメル様には単純に熱烈なファンが多いのです!!そして、可憐なお姿から想像できない程の圧倒的な強さ!!この闘技場においてメル様は超人気選手の1人なのです!!そんなメル様を闘技場運営サイドは簡単に切り捨てることもできず、もしそんなことをしてしまえばメル様推しのファン達が暴動を起こすことでしょう。それも考慮してメル様のこの階は永久欠番扱いになっているのです!!」

 

「メルってそんなに人気あったのか!?」

まぁ、容姿は言うまでもないし強さを求めた猛者が集まるこの天空闘技場においてはメルの強さは崇めたくなるような熱狂的な信者がついても可笑しくないか。

 

「私のことはそこまでにして、さっ!早速“念”について教えていくよ」

 

メルの練習部屋は、芝生が生えているゾーンや険しい岩場で作られたゾーン、木の床でできた道場の様なゾーンなど、様々な環境下での修業が可能になっていた。

 

「兄貴やメルの強さは念っていう技なのか?」

「そう。自分自身のオーラ、生命エネルギーを自在に操る力のことを念というの。邪念をもって無防備の人間を攻撃すれば、オーラだけで人を殺すことも可能。まぁ、実際に体験してみるのが早いかな」

 

メルは練をしてみせた。

そしてそのまま、そこに少し殺気を込める。

するとキルアは耐えられなくなり、天井に張り付き私から距離を取った。

 

「キルアがイルミに感じていたのはコレでしょう?」

「あ、あぁ。それのもっと何倍も嫌な感じにしたやつが、兄貴の念ってことか」

 

「まずは、基礎から教えるよ。大きく分けて念には4つの基本技があるの。纏・絶・練・発、これら4つから説明していくわ」

メルはホワイトボードを取り出してキュッキュとペンを走らせる。

 

「まず、纏。たれ流しになっている生命エネルギーを肉体にとどめる技術。これにより肉体は頑強になるわ。次に絶。これはオーラを絶つ技術。気配を消したり極度の疲労をいやす時などに効果があるの。ゴンは自然にできていたから驚いたわ」

 

「えっ?俺が?」

「うん。恐らく自然に身に付いたんだろうね。たまにゴンみたいな人いるのよね。次は練!これは通常以上のオーラを生み出す技術のこと。そして最後に発。オーラを自在に操る技術のことよ。念能力の集大成なの。例えば、私が触れただけで怪我を完治させた所みたことあるでしょ?それは私の発なんだ」

 

「なるほどな。今までメルが特別そんな力が使えるのかと思っていたけど……俺も念を身に着ければ同じ能力を身に着けられるということか」

 

「それは少し違うよ?念は奥が深いんだ。オーラには6つの属性があって、誰もが生まれつきそのどれかに属しているの。

強化系、放出系、操作系、特質系、具現化系、変化系。各系統は円を描くようにして並んでおり、隣り合うものほど相性がいいんだ。ちなみに、私は特質系。各属性によって得意不得意があるし、同じ属性だとしても全く同じ能力を創りだすことは恐らく難しいかな?発は自分自身と向き合いながら能力を形にしていくもの。誰かと同じ能力を創ろうとしても全く同じものを創ることは恐らくできないね」

 

するとゴンはプシューと音を立てた。

どうやらショートしている様だ。

「ゴン!大丈夫?」

メルは頭から水をかける。

 

「んー、なんだか話が難しくて……」

「ゴンは実践型だからね。1つずつクリアしていけば良いからね」

「うん」

ゴンは少し自信無し気に答える。

 

「オーラが出る穴のことを精孔っていうんだけど、通常は座禅や瞑想でオーラの流れを体感しながらゆっくり開いていくの。でも今回はもう1つの方法で精孔を開くわ」

 

「もう一つの方法?」

「オーラを他人の肉体にぶつけて無理やり開くの。普通ならばこの方法はオーラを持たない者にオーラをぶつける訳だからとても危険で、場合によっては死もありえる。外道と呼ばれる方法でもあるわ。でも、二人には私がいる。死ぬことはあり得ないから安心して?疲労や怪我を回復させる能力もあるし、私には能力を創造する能力がある。だから二人は安心して修行できるってわけ」

 

能力を創造する能力だと!?

それって最強なんじゃ……

だって相手の弱点になる能力を創り出せたら実質メルは敵なしじゃないか。

でも、そんな都合のいい能力あるのか?

それなりに扱うにはかなりのリスクを伴わないと割に合わない能力だけど……

 

キルアは思案しながらメルを見つめていた。

 

「さ、二人とも上着を脱いで?さっそく二人にオーラを送り込むよ」

 

キルアとゴンは上着を脱いで背中をメルに向ける。

メルの手が触れた所が熱くなり、徐々に全身が迸るような熱を帯びていく。

 

「何だっ!?体中から白い湯気みたいなのが出てる!!」

ゴンは自身の体を見て声を上げた。

 

「目の精孔も開いているからね。それがオーラだよ。でも、その勢いのまま垂れ流し続けるのは危ないよ?全部出し切ると全身疲労で立てなくなる。さぁ、二人とも目を閉じてイメージして?オーラを自分の体の表面に留めるの。自然に体を巡るイメージだよ」

 

それだけの説明で十分だったのか、二人はすぐに纏をマスターしたのであった。

メルは目を見開いた。

 

これだけのアドバイスでできるものなのか。

私が初めて纏をマスターしたのは戦闘の最中だったからなぁ。

相手が念使いでオーラでの攻撃を仕掛けられて無理やり起こす方法になってしまったんだよね。

死と隣り合わせのあの緊迫した状況だったからこそできたと今でも思ってる。

やはりキルアとゴンには天性の才能がある。

 

「二人ともいいね。ちゃんとできているよ。じゃぁもう一度私が本気で練をして見せる。今度は始めよりも強く殺気を込めるよ」

「おう!」

「うん!」

 

するとメルは右手を前方へ伸ばしてオーラを放つ。

鋭い殺気は二人を簡単に包み込んでいく。

 

「うっ」

「-っく」

ゴンとキルアは少し怯むもなんとか堪えていた。

 

なんて殺気だ。

冷たい、怖い……!!

でも、この皮一枚纏った状態でならなんとか耐えられる……!!!!

 

 

するとメルはにっこりと笑い「合格」と言って二人の頭を撫でた。

「よくできたね。本当に呑み込みが早くて助かるよ」

 

「俺、自分が何の系統なのか気になるんだけど……、それって今すぐに分かるものなのか?」

「あっ、それ俺も気になる!!」

 

「うん、すぐに分かるよ。タキ、コップとお水持ってきてくれないかしら」

「はい!」

タキはすぐに透明なグラスを3つ持ってくる。そしてメルは森エリアから葉を摘んできて、グラスに乗せた。

 

「簡単に自分が何の系統かどうか確かめる方法を“水見式”と言うの。グラスを両手包み込むようにして練をするの。すると系統に合わせた反応が起きる。強化系は水の量が変わる、放出系は水の色が変わる、操作系は葉が動く、具現化系は水に不純物が出現する、変化系は水の味が変わる、特質系ならその他の変化が起きる。まぁまずは見てて?」

 

メルはオーラを手に集中させる。

するとグラスの中に入っていた水は紅く染まり、葉は枝を形成し花を実らせていた。

 

「この赤い水にはヘモグロビンが出現しているみたい。ヘモグロビンは酸素と結びつく事でこんなにも鮮やかな赤になるの。つまりこの水は血液になったってこと。これが私が特質系という証拠。さ、二人とも手にオーラを集中させてみて?」

 

すると、ゴンは水が少しずつあふれだす。

「ゴンはどうやら強化系の様だね。ゴンには合ってる系統だと思うよ」

 

キルアの方を見ると見た身は何も変わっていない様子だ。

「あれっ、俺ってばもしかして才能ない?」

少し焦るキルア。

メルはペロッとキルアの水を舐める。

 

「キルアは変化形だね。水が甘くなってるよ?」

「!」

 

キルアも自身の水を舐める。

「ほんとだ、少し甘い!」

「確かシルバさんも変化形だったよ。ちなみにイルミは操作系。ミルキ君も操作系だよ」

「そうなのか、父さんと同じ系統か」

キルアはどこか嬉しそうだった。

 

「纏を常に行って、試合が終わったら練を毎日疲れるまでやること!いいね?」

「うん!」

「おう!」

二人は力強く返事をする。

 

それからキルアとゴンは順調に階を重ねていきあっという間に200階クラスへと到達してしまうのであった。

 

 





誤字脱字が多くて毎回読みにくいと思われますがご容赦下さい。
気付き次第直していきます♪

文字数を徐々に増やしているのですが読みにくくないでしょうか?
これからもう少し文字数増えるかもしれません。
しんどかったらコメントにて教えて下さい。
調整します。



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31話 挑戦×成長

 

 

メルは悩んでいることがある。

それはイルミへの初めてのメールの文章であった。

一体なんて送ろうか。

元気?とか…?

でもそんなどうでもいいことを送られても困るよね。

何を送るべきか……。

 

「ん~」

メルはキングサイズのベッドに寝転がりながら携帯と睨めっこする。

その隣では練を疲れ切るまで行ったキルアとゴンが寝息を立てて眠っていた。

 

そんなことを思っているとメルの携帯が振動する。

「わっ!」

送ってきたのはイルミだったのだ。

名前を見るだけで心臓が飛び跳ねる。

体中の血液が沸騰するみたいに熱くなった。

 

“修行はどう?順調に進んでいるの?”

 

“うん。順調だよ。ちなみにキルアは変化形だったよ。ゴンは強化系だった。今は毎日練を疲れるまでやってもらってるよ”

 

“そう”

 

他愛無い会話。

こんなやり取りをするだけでも嬉しい。

 

「はぁ、会いたいなぁ」

 

ぼそっと呟きながらメルも瞳を閉じるのであった。

それから数時間が経った頃、メルは気配を感じて目を覚ました。

 

起き上がると出入口にはニタリと怪しげに笑う奇術師の姿があった。

ついため息が出てしまう。

「ここで何をしているの?」

「ククク。君に会いに来たのさ」

 

笑いながら奇術師は一歩ずつこちらへ近づいてくる。

「それ以上近づかないで」

メルはベッドから降りて眠るキルアとゴンの前へと立つ。

 

「わお。欲情的な恰好をしているね♡」

メルは胸元が大胆に開いたキャミソールタイプの白いワンピースを着ていた。

白い肌に月の光が当たり妖艶に照らしている。

 

「私に何の用?」

「分かっているくせに♡」

 

「まさか私と戦いたいってこと?」

「その通り」

「ヒソカはフロアマスターじゃないでしょ?私とはまずフロアマスターにならないと戦えないよ」

「ふうん、じゃぁフロアマスターになれば戦ってくれるんだね?♡あと1勝したらなれるんだよね~」

 

あと1戦!

「……じゃぁその1戦はゴンにくれる?」

「クク、構わないよ。それで君と戦えるのなら」

ヒソカは怪しく笑いながらメルを見据える。

 

「交渉成立だね。もう用はないでしょ、早く帰って?疲労しすぎて二人とも熟睡してるけどこれ以上長居されたら流石に起こしてしまう」

「分かったよ。僕は帰るとするよ♡」

 

そう言うとヒソカは背を向けて部屋を出て行った。

メルはため息をついて警戒を解く。

 

全く、油断も隙もないな。

ヒソカなら天空闘技場へ来ると思っていたけどまさかこんな所までやってくるなんて。

メルはふとゴンへと目を落とす。

 

ゴンはまだヒソカと戦うには早すぎる。

でも、戦い方次第では一発くらいは喰らわせられるか。

メルは小さく寝息を立てる可愛い弟子達を抱きしめながら再び深い眠りへと落ちていく。

 

次の日メルはゴンにヒソカとした約束を告げた。

するとゴンは全身に力が入ったのかオーラがボウッと迸る。

 

「やる気満々って感じだねゴン」

「うん!!……今の力を早く試したくてうずうずしてるんだ!!」

「次の試合は200階クラスだからね!まだまだ二人は念の初心者だから無茶はしないように。いいね?」

すると二人とも深く頷いた。

 

闘技場の観戦席へ入るとウィングが笑いながらこちらに手を振っていた。

どうやらキルアとゴンの試合が気になり見に来たようだ。

その隣にはズシ君もいる。

「押忍!!おはようございます!ウィング師匠からお話を聞かせてもらっています!ズシと申します!よろしくっす!メルさん!」

胸の前で両手をクロスしお辞儀をするズシは格闘家らしく礼儀正しい。

可愛くてメルはいがぐり頭をつい撫でてしまう。

「よろしくねズシ君」

 

 

「メルさん、ゴン君とキルア君の修行はどうですか?」

「あぁ、二人とも1日で纏・絶・練をマスターしていますよ」

私の発言を聞いてウイングは勢いよく振り向き目を見開いた。

「いっ、1日で!?って、あなたねぇ!!まさか無理やり起こしたんですか!?なんて危険なことを!!」

 

耳にキーンと響くウイングの大声にメルは肩をすくめる。

「おっ、落ち着いて下さいウイングさん!…あまり人に自分の能力を言いたくはなかったのですが、私には無理やり起こす方法をとっても、安全に修行ができる念能力があるの」

 

するとウイングは眼鏡をずらしながらきょとんとした顔をしている。

「そ、そうでしたか。これは失礼しました」

「いえいえ、あ。そろそろキルアの試合が始まりますね」

 

ウイングは眼鏡を直しながらメルを見つめる。

安全に修行ができる念能力だと?

回復系の念能力か、あるいはもっとあふれ出す念を抑え込む能力があるのか……

どれも異質なものであるのには変わりない。

貴方は一体……。

 

メルはリング上に目を向けていると入場ゲートからキルアが出てきた。

この数日毎日疲れるまで練をし続けさせ、私が体術もかなり向上させた。

今の2人ならそこらの念能力者相手ならばなかなかいい勝負をしてくれる筈。

 

えっと、……キルの対戦相手はリールベルトか。

200階へ入りたての者をターゲットにしてる卑怯な人たちだ。

リールベルトくらいならいい練習相手になるね。

キル、思い切り楽しんでおいで。

 

キルアは淀みない見事な纏をして相手の様子を伺っている。

リールベルトはキルアの纏を見て少し驚いた様子を見せるもすぐに顔つきが変わる。

キルアのことをただの子供と舐めていたがその様な考えがどうやら取り払われた様だ。

 

仕掛けたのはキルアの方からだった。

持ち前の早さを生かして空中に高く跳躍し、自身が最も攻撃しやすい体制へと体を捻り回転を加えながらリールベルトの背後を取ったのだ。そして練をして勢いよくリールベルトの首筋に鋭い一撃をくらわせようとしていた。

 

普通の人間ならばアレを喰らえば首が飛ぶね。

でもキルアは念を覚えたてだし、相手も念能力者としてこの天空闘技場の200階クラスを死守してきただけあって、そう簡単には首は飛ばないか。

でもキルアの動きはものすごくいい。

そろそろオーラの攻防力移動の修行に入ってもよさそうだなぁ。

 

メルの予想通りキルアの攻撃はかわされてしまう。リールベルトの車椅子に念が込められ物凄いスピードで回避したのであった。

するとリールベルトは「ツインスネイク!!」と叫びながら1本の鞭を取り出す。そして器用に鞭を扱い、パチンッと乾いた音をさせ地面をはじく。

 

キルアはそれを見て容易に荒れ狂う鞭を見事掴んで見せたのだ。すると、蛇の頭の様になっている鞭の先端がはキルアの両腕をガブリとかみついた。それと同時に激しい電流がキルアに走る。常人であれば失神するレベルの電圧がキルアの体に流れる。

 

だがその様子を見てメルは目を細める。

ゾルディック家で育ったってことがこんな形で有利になるなんてね。

 

キルアは拷問の訓練で電撃を毎日の様に浴びている。

あんな電撃キルアには効かない。

 

キルアは余裕の表情でそのままリールベルトに一歩、また一歩へと近づく。

「俺には効かねぇぜ?」

キルアはふと笑ったかと思えば、素早く地面を蹴り猛スピードでリールベルトへと距離を詰める。そして電撃を浴びながらリールベルトの肩を掴んだ。

 

「ああああああああああああああ!!!」というリールベルトの悲痛な声が会場に響き渡り、キルアの勝利が確定した。

 

キルア、言う事なしの試合だったよ。

次の段階へ進む頃合いだね。

さて、次はゴンだ!!

 

リング上の整備が終わると、ゴンは堂々とやって来た。

ゴンの対戦相手はギド。

対峙するなりゴンはギドへと真っ向から突っ走っていく。するとギドは“舞踏駒”を発動させた。リング上には小さな駒がぶつかり合いながら不規則に飛び跳ねながら回り続け、ゴンは足を止めた。

自身へと飛んでくる駒を避けながらなかなか前へ進めずにいるゴン。

 

持ち前の速さを止められて、どう攻める?ゴン。

メルは笑みを浮かべながらゴンを見る。だがメルの顔からすぐに笑顔は消えた。

 

なんとゴンはこの状況で絶をしてしまったのだった。

「ゴン!?」つい声を荒げて立ち上がる。

 

なんて無茶な真似をするの!?もし当たれば良くて骨折。当たり所が悪ければ死んでしまっても可笑しくない!!

この状況ならば練はせずとも纏は必須!!どうするつもりなの!?ゴン!!!

 

ゴンはリング上で絶をしながら感覚で駒を避け続けていた。

「!!」

笑ってる……。この状況を楽しんでるの……?

メルはゴンの戦う様を見て目を見開く。

 

 

メルが体術を教えてくれた時、筋肉の動かし方、関節の動かし方も一緒に教えてくれたけど自分の思った通りに体が動く!!

そうか、自分の力を理解して戦うというのはこういうことなんだ!!

なんて動きやすいんだ!!

でも今の俺じゃ集中するには絶をしないと完璧によけきれない。

もうちょっとこの中で戦いたい!!!

 

ゴンはメルによって高められた身体能力をまさに実践で実感していた。だがすぐにこの状況は終了してしまう。

ゴンが左へと避けた時、次に避ける方向はなく、駒はゴンの左腕に向かって飛んでいく。

メルは柄にもなく大声を上げた。

 

「ゴン!!!!練をしなさい!!!!」

 

メルの澄んだ声はゴンの耳にも届いた。

直ぐに防御に徹したゴンの左腕には、ギドの駒が鋭くめり込む。

「うぅ!!」

少し練をするのが遅れた為駒の当たる衝撃を完全には防ぎきれず鈍い痛みがゴンの左腕に走る。

メルは小さく握りこぶしを作りながらゴンを見守っていた。

腕が吹き飛ばずに済んでよかった…。

 

ゴンの左腕は骨折しており右手で左腕を抑えるゴンを見てメルは目を細める。

気が気でない。

ハラハラしてこっちの方が倒れてしまいそうだわ。

ゴン、その折れた左腕を庇いながら一体どうするつもり?

 

ゴンの額からは汗が流れる。

思った通りに動けるのが楽しすぎて少しやりすぎちゃったかな。

メルの声で咄嗟に練をしなかったらもしかしたら腕が飛んでたかも。

後でメルに怒られちゃうな。

 

ゴンは茶目っ気にベッと舌を出す。

よし、今度は新しく覚えた念を使って戦ってみよう。

「練!!」

ゴンは安定した練をギドに見せつける。

 

そういえば、メルっていつもどうやってあんなに速く動けるんだろう?念は奥が深いと言っていたけど、もしこのオーラを足に集中させたらどうなるんだろうか。もし、拳にオーラを集めたらどうなるんだろうか。それって、とんでもなく力が凝縮することができるんじゃ……。試したい…!!

ゴンのまっすぐな瞳がきらりと輝いた。

 

「おおおおおおおおおおお!!!!」

ゴンは歯を食いしばりながらなんとかイメージした様にオーラを練り始める。

 

それを見たメルは大笑いした。

「あっははははは!!!」

「メ、メルさん?一体どうしたんだろう」

急に笑いだすメルを見てズシは目を丸くする。

 

肉体の一部にオーラを集中させる技、まさしく凝!!!

あれを目にすることができたら陰でかくされたオーラを見抜いたりもできる。

まだ教えていないのに戦いの中で学んでいる!!

 

 

まだ未完成だがゴンは今自身が出来うる力を全て右こぶしに貯める。

そして、なんとか少しだけ足にオーラを集中させ思い切り踏み込み高く宙を舞った。

リング上でぶつかり合う駒のはるか上空へと飛び、落下する勢いも込めて大きく振りかぶった。

 

ギドはそれを見て慌てて自身を駒に見立てて回転し始める。

それでもゴンは止まらない。

「うおおおおおおおお!!!」

ゴンの重い一撃はギドの意識を完全に奪うのには十分な程の威力だったのだ。

 

すぐに審判はギドのノックアウトを告げてゴンの勝利が確定した。

メルはそれを聞き走ってゲート前まで移動する。

 

楽しそうに会話をしながら愛弟子2人は仲良く揃って出てきた。

メルは勢いよく2人を抱きしめて「よく頑張ったね!!」と頭を撫でた。

 

「うん!!」

「おう!!」

キルアとゴンは顔を見合わせて小さな拳をお互いぶつけるのであった。

 

 

 

 

 

 



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32話 ヒソカ×ト×ゴン

 

 

「驚いたよ♡」

ゲート場の壁にもたれかかっていた奇術師は嬉しそうに私たちを見下ろしていた。

 

「ヒソカ!!」

ゴンは警戒してヒソカを睨みつける。

「まさか短期間でここまで成長しているなんてね。余程師匠が良い様だ。これなら僕とも楽しく戦えそうだね」

 

「絶対お前にプレートを返してやる!!」

ゴンは人差し指をヒソカに向けて言い切った。

 

「ククク。楽しみにしておくよ♡その左腕の怪我が治ってから試合の日にちを決めよう。日にちは君が決めていいよ。連絡、待っているよ」

それだけ言い残してヒソカは暗闇の中へと姿を消していく。

 

 

「ヒソカとの試合もあるし、まずはその腕をなんとかしなきゃだね。……そうだ。せっかくだし凝を教えてあげる」

「凝?なにそれ?」

クリッと首をかしげる弟子たちは「?」を浮かべる。

 

「さ、私の部屋へ戻るよ!!」

メル達はすぐに245階へと戻り、練習室へと足を踏み入れる。

 

「初めに教えた、纏・絶・練・発は基本技っていうのは覚えているよね?これらを応用した高等技術の1つが、凝!凝は、練の応用技になるの。肉体の一部にオーラを集中させる。まさしくゴンがさっきやってたことだよ」

 

「えっ!そうなの?」

「うん、ゴンは右手に力を込めていたけど通常凝を使う時は目にオーラを集めるの。凝をすると、オーラをみにくくする技、陰を見破ることができる。私が今から念能力を発動させるからそれを凝を使ってみて欲しいんだ」

 

「やってみる!!」

2人とも息を整えて、目にオーラを集中させる。

 

高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)を発動させた。

凝が出来たならば私の両手に集まる高密度のオーラが見える筈。

 

「さぁ、何が見える?」

 

「うぅ……、これ結構きついな。よく戦いの最中に維持することができたなゴン」

キルアは顔をゆがませながらなんとか私を見る。

 

「……メルの両手が……白く光っている様に見える」

「ゴンは?」

「同じ。凄く濃いオーラが集まっている!!」

 

「2人とも流石だね。凝を維持しておくのはまだきついでしょ?もう解いていいよ」

メルのその言葉で2人はぜえぜえと息をしながら地面に倒れる。

 

「思ったより疲れるな~!!」

「ほんとに、あの時は戦いの最中だったからあまり気付かなかったけどちゃんと凝をしたらこんなに神経使うなんて!!」

 

メルは笑いながらゴンの左腕に手を添える。

すると赤く腫れあがっていた個所は見る見るうちに引いていく。

 

「まったくすげぇ能力だよなー。どんな傷でも治してしまえるのならメルを倒せるやつなんていないんじゃねぇのか?」

「ん?この能力は自分自身には使えないよ?」

 

「はぁ!?」

「え!?」

2人は驚いて飛び起きる。

 

「自分に使えないのになんでそんな能力作ったんだよ!!持ってても意味ねぇじゃん!」

「意味ないことないよ?だってこうしてゴンの怪我を治してあげれているし、ルイス家はよく部下と仕事をすることが多いからね。その時に怪我をした部下を助けられるでしょ?」

 

「そ、それはそうだけどさぁ。~…メル、お前の能力って結構危険なんじゃないか?能力を創造する能力とか、他人の傷なら何でも治せる能力とか……、相当のリスクがありそうなんだけど」

キルアは私の顔を伺いながら聞いてくる。

 

「流石キルアだね。うん、リスクはあるよ。」

2人になら知られててもいいか。

 

「……気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)は能力が能力だからオーラをかなり消費するんだよね。1つの能力を創造するたびに全オーラ量の3~4割は持っていかれる。だから戦闘中に能力を創り出せても2つか3つが限界。しかもこの能力を使用中にオーラが0になってしまえば、足りない分は私の命を削ってでも創造される。それも自動的にね。1度欲しいとカプにお願いしたら何が何でも創造する。たとえ私の命がなくなってもね」

 

「で、でも能力が完成してもメルが死んだら使えないんじゃ……」

「そうだよ、術者が死んじゃったらお願いしても無駄になっちゃうっ」

 

「それがそうでもないんだよ。念には死後、強まる念も存在する。自分が死んでも相手を殺したい、誰かを守りたいっていう時に使える。これは私の奥の手なんだ。まぁ、今のところ使うつもりはないけどね」

その言葉を聞いて2人はメルが置かれている環境を改めて認識した。

 

メルは暗殺一家ルイス家という特殊な環境で育ち、死と向き合いながら日々生きてきた。

だからこそ生まれた能力なのではないか、と。

キルアは生い立ちが似ているメルを見て少し拳を震わせる。

 

「ちなみに、さっき使った高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)は自身には使えないけど他人の傷なら100%治すことが可能。それは肉体だけでなく、疲労やオーラまで回復することができる。でも、その傷は全て蓄積されていてね、この能力を定期的に使っていないと蓄積された痛みは全て術者である私に返ってくる仕組みなの。まぁ、返ってこられたら死んじゃうんだけどね」

 

「ったんに……な」

キルアは体を震わせながら俯いていた。

 

「ん?キルどうし

「簡単に死ぬとか言うな!!!!」

 

「!」

キルアを見ると大きな瞳に涙を貯めて私を見ていた。

「キル…

「メルのバカ!!!なんでそんなに自分を犠牲にする様な能力ばっか作ってんだよ!!!お前の事大事に思ってる奴は沢山いるんだぜ!?そいつらのこと考えたのか!?」

「うん、ごめんね」

震えながら私を心から心配してくれているキルアを抱きしめた。

 

「ありがとうキルア。でも、私には守りたい人が沢山いるんだよ。だから生まれた能力なんだ」

「メルのバカっ!!!」

「はいはい」

メルは微笑みながらキルアの頭を撫でる。

 

「俺、怪我したらメルの所に行くよ。それで俺の傷、また治してね?メル」

ゴンも心配そうに私を見つめている。

「もちろんだよゴン。いつでも治してあげる。……さぁ、話が反れちゃったね。2人とも?実感したと思うけど凝は維持するのが始めはかなり疲れる。まずはそれに慣れるところから始めないとね。毎日30分凝を続ける所から始めようか。その後は、疲れるまで練を継続すること!!まだ教えたいことが沢山あるけど、1度に詰め込みすぎるのもよくないからね」

 

「おう!!」

キルは涙をぬぐって返事をする。

「分かったよ!!」

ゴンもしっかりとメルを見つめて力強く頷いた。

 

それから3週間後。

 

ゴンはヒソカとの試合の日を決めてヒソカにもそれを伝えた。

そして試合当日。

 

 

「今のゴンならヒソカに一発と言わず数発は食わらせることができると思うよ。でも、油断はしないこと!ギド戦みたいに無茶はしないこと!いいね?」

「うん!」

 

ん~まっすぐ見つめてくれるのはいいけどちょっと心配なんだよね。

ギド戦の時のゴンを見てしまったらどうしてもまた無茶をしそうだし

しかも相手がヒソカとなると、ゴンをうっかり殺しかねない。

やっぱり渡しておこう。

 

「ゴン、手を出して?」

「ん?」

 

メルはゴンの右手の薬指に指輪をはめた。

「わぁ、綺麗な指輪だね!」

白い薔薇の形に削られた石がはめ込まれたシルバーの指輪はゴンの手で輝いている。

 

「お守りだよ。ヒソカは強敵だけど、油断せずに自分が今できる全てを出し切ってきてね」

「うん!!!!」

 

 

私はキルアと共に観戦席へと向かう。

今日の試合は一段と人気らしく、チケットは直ぐに完売。私はフロアマスターの特権を使って簡単にチケットを手に入れることができたけど普通に手に入れるとなるとかなりの倍率だろう。

 

時間が来ると辺りが暗くなり派手にライトが点滅する。そして元気いっぱいに解説者がマイクを握る。

 

『レディースエンドジェントルマン!!!これより開始致しますのはぁ、未だ無敗の男!!奇術師ヒソカ選手とおおお、ギド選手を完膚なきまで吹き飛ばしたゴン選手との戦いです!!!!チケットは1時間もしない間に完売となりこの試合がいかに注目されているかが伺えますうううう!!!さああて、一体この試合!!どうなるのでしょうかあああ!!!!』

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

会場の熱気は始めからピークに達しており観客の声で空気が振動する様にびりびりとしていた。

そして、それぞれの入場ゲートからはヒソカとゴンが姿を現し更に会場は湧き上がった。

 

「そういや、メルがゴンに渡してたあの指輪ってなに?試合直前に渡したってことは何か秘密があるんだろ?」

「全く鋭いねキルアは。あの指輪は、私が事前にカプで作ったモノなんだ。能力名は“白薔薇の指輪”。右手の薬指にはめた者の死を探知するとどんな攻撃でも1度無効化することができる。まぁ、使わなかったらそれでいいんだけど、なんだか胸騒ぎがしてね」

「まぁ、相手がヒソカだからな。何が起こるか分からない」

 

 

 

ヒソカはいつもの様にニタリと不気味な笑みを浮かべてゴンを見ている。

すると会場が静まり返るような殺気がぶわっとヒソカから発せられた。

どうやらゴンがあまりにも真っすぐに自分を見つめているからたぎっている様だ。

あまりの高ぶりについ感情が抑えきれずに漏れた殺気。

全観客が息を飲んで2人に注目した。

 

まず動いたのはゴンからであった。足にオーラを集中させて人間離れした速さでヒソカへと向かっていく。通常の人間であればゴンの残像しか見えていない。そして右手でパンチを繰り出し、次に左足でヒソカの顔面目掛けて蹴り上げる。だがどれもヒソカは綺麗に交わしていくのだ。その顔はやはり笑っていてゴンの成長ぶりに興味津々という様子であった。

 

ヒソカはゴンのパンチを交わしながらゴンの小さな背中に肘を打ち付ける。その攻撃は纏をしていてもつい息が止まりそうなくらいの衝撃であった。「くぅっ」と苦しい声を上げるもゴンはなんとか体制を立て直してまたヒソカに高速ラッシュをお見舞いさせる。

だがやはり戦闘経験の差が顕著に表れていく。ゴンの攻撃は一発も決まらず、しかも攻撃の際にできる隙をヒソカが見逃すはずもなく、そこをつかれて仕掛けた筈のゴンがダメージを受けていたのだ。

 

ゴンは跳躍して1度ヒソカから距離を取った。

「ふぅ」と一息つき呼吸をまずは整える。

 

メルから教わったことを思い出すんだ。体術なんかは前と比べ者にならないくらい動けるようになったけどそれでもヒソカ相手だとどうしてもまだ劣ってしまっている。でも、ヒソカにも必ず隙ができる筈なんだ!!

 

“いい?ゴン。どんな相手にも隙は必ずできる。隙がないなら自分からそうなる様に仕掛けなさい”

メルの言葉が頭に響く。

「よし!!」

ゴンは右手にオーラを集中させる。

 

それを見たヒソカは目を大きく見開かせた。

「おりゃあああああああ!!」

ゴンは固い地面を砕き割ると、その衝撃で土煙が上がり沢山のコンクリート片が宙を舞う。

体の小ささを生かしてゴンはその欠片に身を隠しながら移動する。

 

絶はメルからお墨付きをもらっているんだ!!!!

 

ヒソカはオーラを感じないゴンを追うのは辞めて、土煙の動きに注目していた。

わずかに動いた土煙の方向を向いたその時だ。

鈍い痛みを感じ、今ゴンに殴られていることにヒソカは気づいた。ギロリと鋭い黄色の眼光が嬉しそうにゴンを映す。

ゴンに殴られた衝撃を、足に踏ん張りをかけて耐えたヒソカは「ククク」と低い声で喉を鳴らしていた。

 

すると両者は顔を見合わせたかと思えばリングの中央に向かってゆっくりと歩き出す。そしてゴンは44番のナンバープレートをヒソカに手渡した。ヒソカは何も言わずにそのプレート受け取った。そしてすぐに2人は十分な間合いを取る為リングの両端へと跳躍する。

 

「ククク。君、メルからどこまで念を習った?」

「基礎と、応用技を少し」

「そうかい♡さっきの、硬だろう?すごいねぇ、短期間でここまで仕上げてくるなんて。少し驚いたよ♡もっと僕を楽しませておくれよ」

 

そう言って今度はヒソカから仕掛けてきた。

猛スピードで笑いながら迫られてくると誰でも身じろいでしまいそうになる。だがゴンは勇敢にもそれに立ち向かっていく。その様子を見てヒソカは更に笑みを深くする。

「君、最高だよ。いいモノを見せてあげるよ♡」

 

そう言ってヒソカは人差し指を立てる。そしてクイッと指を曲げると、それに引っ張られるようにゴンはヒソカの方へと向かっていく。

「くそっ!!凝!!」

凝をすると自分の頬に粘着質なガムの様なものが付着しており、びよーんとヒソカの人差し指に繋がっている。それが縮み、ゴンの体は簡単に宙を斬りながらヒソカの方へと向かっていたのだ。

 

「どう避ける?ゴン!!!♡」

ヒソカは拳を既に振りかぶっている。

「逃げられないのなら向かっていくまでだあああああ!!!!!!」

ゴンは体制を崩しながらも右拳にオーラを込め始める。

「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

徐々にオーラが練られていく右拳を見てヒソカは今までにないくらいの高揚を感じていた。

良い!!!!

良い!!!!!!!

実に良いよゴン!!!!!!

その拳、その目、その心意気!!!1

あぁ、……今すぐ君を

コワシタイ!!!!!!!!!!!!!!

 

あぁ、でも我慢我慢。

青い果実は実ってから。

もっと、もっと、崩すのが勿体なくなるくらい熟れてから!!

高く積みあがるまでの我慢

 

ヒソカはゴンの硬を正面から受け止める為堅をしてみせる。

そしてゴンに自身の重たいパンチを振り下ろす。

 

「っかは!!!」

 

ゴンの視界はぐらつき、一瞬意識が飛びそうになる。

「くぅっ」

唇をかみしめて何とか耐えきるとまた距離を取った。

 

肩で息をしながら呼吸を整えるゴン。

「はぁはぁはぁっ」

蓄積されたダメージはかなり大きく、立ち上がるのもつらい。だがゴンはこの戦いを、いかに戦い抜くかということで頭がいっぱいであった。

 

何度殴り返しても変わらず闘志を燃やす瞳で向かってくるゴンに対してヒソカは更にヤる気を見せ始める。

「少し、本気をだしてもいいかもしれないね♡」

 

本気をだしてもいいだと!?

やっぱり今までのは本気じゃなかったのか!!!

「くそー!!!!」

その悔しさに、怒りに、感情的に地面に殴る。するとビキビキッと地面に亀裂が入った。

 

「ククク♡君、強化系だろう?単純一途な所がかわいいね。変化形の僕とは相性バッチリ。でも気をつけなきゃ。変化形は気まぐれだからね」

 

そう言ってヒソカはトランプのカードをどこからか取り出す。凝をしてトランプを見ると、鋭利な程研ぎ澄まされたオーラが纏われている。ゴンはゴクリを生唾を飲み込んだ。斬られた所によると即死だと嫌でも理解してしまう。それがゴンに緊張をもたらせていた。

 

「いくよ、ゴン!!!!」

 

ヒソカは狂気じみた笑みを浮かべまた人差し指をクイッと曲げてゴンを自身の方へと引き寄せていく。

怖い……、でもそれ以上に悔しい!!!!!見てろヒソカ!!!!!一泡吹かせてやる!!!!!!

 

 

ゴンは正真正銘全身全霊で今持ちうるオーラを全て右拳へと込める。念を知らない者でも分かるほど空気は乾き、振動し、ゴンを中心に何かが渦巻いていると理解できた。観客は声を出すことも忘れてその試合にのめりこむ様に見入っていた。

 

ゴンは右手で殴るかと思いきや、なんとわずかにオーラを込めた左足でヒソカのトランプを蹴飛ばし、右こぶしをヒソカの腹へとぶち込んだ。

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

「っは!」ヒソカは口から少し血を吐く。だが致命傷にまでは至らない。ヒソカは高度なオーラの攻防力移動が可能。この程度の窮地は幾度となく経験済みであったのだ。素早く腹へオーラを集めて衝撃に耐えきって見せたのだ。

 

ヒソカはギラついた瞳でゴンを見つめた時だ。完全にヒソカの瞳はゴンを殺すことしか考えてはいない様子。既に狩っしまっても良いのではないか?という疑問を持ち始めたヒソカはその行動を止められない。

「ゴオオンンンンンンンン!!!!!!♡」

 

その時だ。審判はゴンにダウンを告げてヒソカの勝利を判定した。

だがヒソカの振り下ろされた右腕は止まらない。倒れこむゴンの背中から心臓を一突きしようとしていたのだ。

 

「こら!!!止めなさい!!!」

審判員の言葉など高揚しきったヒソカの耳に届く訳もなくヒソカはゴンの柔らかい肉をえぐり取ろうとしたその時だ。

メルが渡していた“白薔薇の指輪”が発動した。

ゴンの体を包みこむ様にいくつもの蔓がゴンの体を覆い、沢山の白く美しい花を実らせていく。

ヒソカの右腕はその蔓に巻き取られて完全に動きを静止させられる。この蔓に触れているとオーラを練ることができず、完全に絶の状態を強制されているとヒソカは瞬時に気付いた。

 

ふと、観客席に座るメルの姿が目に入る。冷たい瞳でこちらを睨みつける青く美しい眼光にヒソカはゾクゾクと更なる高まりを感じたのであった。

 

ヒソカは高ぶった感情をなんとか抑え込み、メルという極上の獲物との戦いへと頭を切り替える。先ほどまで自身を楽しませてくれたゴンを見下ろし「もう少し強くなったら、次はここではなく真剣勝負をしよう」そう言い残して退場ゲートへと向かっていくのであった。

 

ゴンは完全に気を失っており担架に乗せられて運ばれていく。

私とキルアは急いで医務室へと向かう。ゴンはベッドの上で眠っており、背骨にヒビ、頭部外傷、打撲、擦過傷、両腕骨折、左足脛骨ヒビが入っていると天空闘技場の医師から告げられる。私はゴンを自身の部屋へ運び看病すると言って半ば無理やりゴンを自室へと連れて帰った。

 

「渡していてよかったな、指輪」

キルアはぼそっと呟く。

「うん。渡していなかったらゴンは心臓を抉られていた……」

 

キルアはビクッと肩を上げる。

メルから静かで、だが深く鋭い殺気が放たれていたからだ。

 

杞憂で終わってほしかったけどヒソカ、やはりあなたはゴンを殺そうとした。

それがどうしても許せない。

 

ヒソカは一応“友達”

イルミの事を教えてくれる大事な“協力者”

でも私の大切な人を傷つけるなら許さない。

 

ゴン、仇は必ず打ってあげるよ。

 

メルはゴンの頬に手を添える。ゴンの傷はスッと消失していく。

「メル、大丈夫か?」

 

私を心配そうに見上げるキルア。

「大丈夫だよ。次は私の番だね」

「どういうこと?」

「私、ヒソカと戦う約束してたの。お互い念能力を極めた者の戦いになるから見ごたえはあると思うよ。凝を一秒でも長く継続できるように修行しててね?最後まで見逃さずに私の戦いを見て欲しい。見るだけでも勉強になる試合をするよ」

 

「!!」

 

キルアはメルの話を聞いてから考え込んでいた。

あの試合が終わってからメルの様子がおかしい。

あまり笑わなくなったし、笑ってもどこか無理をしているみたいだ。

ゴンを傷つけられたからか?

それにしてもなにか他に理由がありそうな感じだ。

 

キルアは数日迷ったが、ある男に電話をすることを決意するのであった。

 



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33話  メル×ノ×トラウマ

 

 

 

ゴンがヒソカに殺されかけた時、ある光景が嫌でも思い浮かんでしまう。

もう過去のことなのにまだ囚われているのかと思うと自分の気持ちがいかに脆いか自覚させられる。

「はぁ」

深いため息をつきながらメルは頭を抱える。

 

ゴンは次の日には目を覚まして今では元通り元気になっていた。私の言いつけをしっかり守り、毎日キルと共に凝をいかに長く維持できるか修行をしている。でもここにはいない。

キルとゴンにはヒソカと戦う為にしばらく1人にさせてと言ってある。

 

タキにも休みを取ってもらい、このフロアでは私は今たった1人。

情緒が落ち着かない状態で他に人がいるとつい殺気を向けてしまうかもしれない。

それくらい私は気がたっている。

 

重たい体が沈み込み柔らかいベッドは私をすんなりと受け入れる。

冷たいシーツが迸る体を冷やしてくれて心地よい。

 

瞳を閉じると「メル」と私を呼ぶ声がした。その声はずっと聴きたかった声で、でもこんな姿を1番見られたくはなかった人だった。

起き上がり振り返ると、そこには長い黒髪が月の光に照らされてその美しさを強調させた長身の男が立っていた。

「イルミ……」

 

イルミはスタスタと歩きながらベッドへと近づき腰を掛ける。

「なんて顔してるの?」

イルミはメルの頬に手を添える。

 

「何でここにいるの?」

「キルアから連絡をもらったんだよね。メルの様子がおかしいって」

「キルから?」

「話は少し聞いてるよ。……大丈夫?」

イルミのその言葉で私の瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。

 

 

あれは私が8歳だった頃。

ルイス家に恨みを持った組織がまだ幼い私なら殺せると思いしつこく狙っていた。

その頃の私は、失敗した事もなければ自分が負けるなんて思いもしてなかった。

そんな私の馬鹿な油断のせいで、私を庇った母様は死んだ。

 

ぬくもりが自分の手の中で消えていく瞬間を初めて感じた。

自分がいかに無力だったのか否でも実感した。

自分の失いたくない人が目の前で息絶える顔を初めて見た。

大好きな人がこの世界から消え、残された人の悲しみや怒りを初めて知った。

今まで自分が何気なく奪ってきた命がいかに尊いものだったのか、初めて理解した。

 

その時だ。高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)の能力が目覚めたのは。

でも、遅かった。

母様はもう私の腕で息絶えていた。

 

私の能力は既に絶命した人間は生き返らせることはできなかった。

 

あれから私は失う事が怖くなった。

大切にしている人間を奪う人をどうしようもなく許せなくなった。

 

 

私は人の命を奪うのに、自分の事になると許さないのかと、自問自答し続けた。

つくづく私は矛盾していて、でも受け入れるしかなく、いくら考えてもそれが私の答えだった。

キルアも恐らくここで悩んだんだろう。

 

でも、私はこの仕事を続けることを選んだ。

私は命を奪う事は仕事と割り切れた。

私の心はどこか歪んでしまっていることも同時に自覚した。

 

イルミは私が1番つらかった時にいつも傍にいてくれた。

私が一人前の暗殺者になれるように一緒に思案して修行をつけてくれた。

 

今も、こうして過去のことを思い出しつらかった時に目の前に来てくれている。

それが堪らなく嬉しくて、私の涙は止まらなかった。

 

「メルの周りにいる人間はかなりの念能力者が集まっているから傷つくことはあっても、命の危機って程追い詰められたりはしないからね。だからゴンがヒソカに殺されそうになった時に反応してしまったんだね」

 

メルはイルミの胸に顔をうずめて黙って頷く。

 

「全く、メルがまだ引きずっているとは思わなかったよ。大丈夫だよメル。メルはあの頃みたいに弱くはないよ。今回だって、ゴンを守れたじゃない」

 

イルミは私が落ち着くまで抱きしめてくれていた。

「自分の大切な人がまた目の前で殺されそうになってっ……ひっく、トラウマが蒸し返されちゃってっ」

 

「うん」

 

「どうしようもなく許せなくて、あの頃の自分の感情が入り交ざってぐちゃぐちゃになってしまってっ……」

 

「うん」

 

イルミは途切れ途切れで聞き取りにくい私の話を丁寧に全部聞いてくれた。

「うわーーーん!!イルミー!!!」

何が言いたいのか訳が分からなくなりしばらくイルミの胸を借りることにした。

 

あれから1時間後。

ようやく落ち着いたメルは、鼻をズビズビと言わせていた。

一通り吐き出したお蔭でメルはすっきりとした表情をしていた。

 

「ごめんねイルミ。服汚しちゃって」

「メルの涙でびちゃびちゃだね。服貸してくれる?」

「私の服入るかなぁ」

呟きながらメルはクローゼットを漁りだす。

 

見つけたのはチャイナ服だ。細身のイルミなら恐らくギリギリ入る。でも丈はどうしようもないからズボンと合わせてイルミに手渡した。

 

「ありがと。じゃぁシャワー貸してね」

そう言ってイルミはシャワー室へと歩いていく。

浴び終えたイルミが寝室へ戻ると、大きなベッドに小さく丸まって眠るメルの姿があった。

 

「あれだけ泣いたなら疲れて寝ても仕方ないか」

 

イルミは眠るメルを見下ろして腫れた瞼にキスを落とす。

 

メルをよくもこんなに泣かせてくれたねヒソカ。

しかもメルと戦うだって?

ハンター試験の時あれだけ手を出すなと言っておいたのにどうやら伝わっていなかったみたいだね。

ヒソカと戦えばいくらメルでも無傷では済まないだろう。

ゴンを傷つけられて自分のトラウマまで掘り返されてメルは戦う気満々だけど、俺はメルに傷ついて欲しくない。

ならやることは決まってる。

ヒソカを先に殺してしまえばいい。

親父か爺ちゃんかに依頼して貰えばそれは問題ない。

でも黙ってヒソカが殺されてくれる筈もないんだよね。

なら、エルやラルにも手伝ってもらおうか。

あの2人ならこのことを話せば必ず協力してくれる。

 

イルミはエルとラルにメールを送る。

“メルが殺されるかもしれない。協力してくれるよね?天空闘技場245Fで待ってるよ”

 

それを送ってから30分も経たないうちに息を切らしながらエル、ラル、イリアがやってきたのだ。

これ程までに早く来れたのはイリアの念能力“異空間(アナザーワールド)”のお蔭だろう。

自分の主であるメルの危機ということで能力を発動することができたのだ。

 

少しキレ気味にエルはイルミに尋ねる。

「どういうことだ」

「ちょっと、静かにしてよね」

イルミは人差し指を口元に当てて「しー」と言う。

 

視線を落とすと、イルミの膝の上で目をはらしたメルの姿があったのだ。

「何があったの?」

ラルは小声で2人に近づいた。

 

「メル!目が腫れてる。泣き疲れて眠ってるの?」

ラルは心配そうにメルを見る。

 

「そ。後、この話聞かれたくないから俺の針も1つさしてるけど、軽い催眠効果しかないモノだから大声だされると起きちゃうから注意してね」

 

「イルミ、メルが殺されるかもしれないとはどういうことだ。早く言え」

 

「ヒソカっていう危ない奴がメルと今度戦うんだよ。ヒソカはかなりの戦闘狂だからどさくさに紛れてメルを殺しちゃっても可笑しくはない。それに強さで言うと、俺やエルと同等くらい手強い相手なんだ」

「なるほどね。それで俺たち2人と協力してメルと戦う前にそいつをヤろうってことだね?」

「そういうこと」

 

「……メルは何で泣いたんだ?」

「あぁそれは、メルの弟子のゴンっていただろ?あいつがヒソカに目の前で殺されかけたんだって。まぁメルがそれを防いだみたいだけど、その光景がメルの母さんを失った状況と重なって見えたみたいでね、トラウマを思い出しちゃったって訳」

 

エルは深いため息をついて「なるほどな」と呟いた。

「なら俺たちはそいつを殺すことはできない」

 

「!?」

ラルはガバッとエルを見る。

 

イルミも予想外な言葉に首を傾げた。

「可笑しいな。お前が、メルが殺されるかもしれないのに何もせずに見ている選択を選ぶなんて」

 

「お前達、メルの気持ちを考えろ。メルはヒソカと戦いたがっているんじゃないか?大切な人間を殺そうとした者を許せないんだろう。メルは弱くないし、ルイス家を代表とする暗殺者の1人だ。だが、万が一メルを殺そうとする瞬間があれば、迷わず俺が始末する。それで良い」

 

「僕もその日メルとヒソカの試合見せてもらうよ。確かに、殺そうとする瞬間に兄さんがいれば止められるしね」

 

「参ったな。まさか2人がヒソカと戦うことを認めてしまうなんてねー。俺はメルに傷1つつけたくないんだよね。その気持ちは同じだと思っていたんだけど」

 

「もちろん傷ついて欲しくはないが、なによりメルの意思を尊重してやりたい。母さんの件はメルの中で未だ昇華できずにいる問題だ。しかも、唯一対面した母さんを殺した相手にもまんまと逃げられている。メルは未だ探し続けているよ。母さんを殺した奴を。メルの気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)を使っても見つけられなかった程の相手だ。メルの中ではどうすることもできない課題の1つなんだよ。今回、弟子を目の前で殺されかけたが、相手ははっきりとしているし、しかもその相手と確実に戦える場が既に用意されている現状に、俺は邪魔したくない。……1番近くで見ていたお前なら理解できるんじゃないのか、イルミ」

 

イルミは深いため息をついて「分かったよ」と投げやりに言った。

「俺も当日天空闘技場にいるよ。少しでも危ないと判断したらエル、お前の登場なんか待たずにヒソカをやるからね」

「好きにしろ。だがメルの気持ちだけは踏みにじるなよ」

「はいはい」

 

なんとか丸く話を終えてずっと黙っていたイリアはホッと胸をなでおろした。

「イルミ、しばらくここにいるんでしょ?」

ラルはメルを見下ろしながら言う。

 

「うん」

「メルのこと頼んだよ。僕仕事中だったんだよね。早く戻らなきゃ」

「エルも仕事中だったの?」

「まぁな。メルの分の案件も同時進行で進めているからな。そろそろ戻らせてもらう。当日は必ず来る。それまでメルを頼んだ。お前に仕事が入っているなら俺につけておけ」

 

「そりゃどうもー。じゃ遠慮なく」

そしてエル達はイリアの“異空間(アナザーワールド)”を通って帰っていった。イリアの能力は自分の主であるメルが少しでも関わっていないと発動できない。帰りは、メルの仕事こなすためという理由で発動することができたのであった。

 

 

しんと静まり返る空間でメルは変わらず規則正しく寝息を立てている。

イルミはメルを撫でながら自身も瞳を閉じるのであった。

 

 

 

 

翌朝。

イルミにかっちりと抱きしめられながら眠っていたことに気付いたメルの「うわああっ!!」という驚いた声でイルミは目を覚ました。

 

「おはようメル。よく寝てたね」

「お、おはようイルミ。まさかまだいてくれてるとは思わなくてびっくりした。仕事は大丈夫なの?」

「うん。しばらくスケジュール空けれたからこっちにいるよ」

「!!」

メルは嬉しくて目を輝かせた。

 

メルはすっかりいつものメルに戻っていて、表情も明るく笑顔も自然に見せていた。

メルとイルミは揃って200Fの部屋にいるキルとゴンを訪ねた。

 

2人ともメルを心配して「大丈夫?」と声をかけてくれた。

「大丈夫だよ。心配かけてしまったね。ちょっと悩んでたことがあったんだけどもう大丈夫だよ。さ、今日から私もビシバシ修行しなきゃね!!!」

 

キルアはちらっと兄イルミを見ていた。

やっぱりメルのことになると兄貴は凄い。

俺にはどうすることもできなかったのに兄貴は一晩でメルを元通りにさせちまうんだから。

 

「なに?キル」

「いっ、いや!!なんでもねぇ!!」

キルアは気まずくなりすぐに目線を反らした。

 

「メル、修行するなら俺が練習相手になってあげるよ。相手はヒソカだろ?そこらの奴で練習しても、全く修行にならないだろうからね」

 

「いいの!?それなら助かるんだけど……」

「時間あるしいいよ。それに、メルがどこまで成長したのか見ておきたいっていうのもあるしね。だって、俺がメルの修行見てたのってメルが13、4歳くらいの頃だろ?6、7年間でメルがどこまで成長したか、実はずっと気になっていたんだよね」

 

「分かった。じゃぁ試合形式でやろうよ!…いい機会だし、キルとゴンも見てってよ。あと、私とイルミが試合してる時は常に凝をしていること!いいね?」

「分かった!!」

「うん!!」

 

全員メルのフロアの練習部屋へと移動する。

 

そしてイルミとメルの試合が始まった。

 

 

 

 

あの兄貴と、メルの戦いが見れるなんて!!!

しっかり分析させてもらうぜ!!

 

キルアはこれから繰り広げられる戦いをわくわくしながら見るのであった。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 






ルイス家兄妹とイルミの挿絵を挿入しています。
もう少し画力をあげたいですね( ;∀;)
私の中ではもっとイルミは美形フィルターかかっているのですがうまくかけません。
皆様の目に美形フィルターをかけてご覧ください。

キルゴンの成長が著しいですが、私も話数重ねるたびに画力成長できるように頑張ります!



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34話 メル×ノ×修行

34話ではメルの念能力が沢山出てきます。
分かりにくいと思いますのであとがきに能力をまとめています。
分からなくなっ方は1番下へスクロールしてご確認ください。




メルは首を回したり首を振ったりと軽い準備運動を済ませた。

イルミと修行するの久ぶりだなぁ。

私1回も勝てたことなかったけど、今なら1勝くらいはできるかなぁ

 

 

「イルミ、手は抜かなくていいからね」

「そのつもりだよ。安心しなよ、看病はしてあげるからね」

 

 

私に負けるつもりなんかないってことね。

よし!!強くなったところを見せつけてやるんだから!!!

 

 

イルミはやる気満々という表情のメルを見据える。

ヒソカと戦うというならメルの感度をできる限り高めて送り出すのがベスト。

メルに傷はつけたくはないけど、この状況では多少の怪我は仕方がない。

腕の1本や2本は折るつもりでいかせてもらうよメル。

 

 

イルミとメルはお互い顔を見合わせたかと思えば突然空気が重たいモノへと変わる。その急激な変化にゴンとキルアは肩を竦め、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

 

2人は足にオーラを集中させて高く跳躍し、身動きが取りづらい空中で高度な体術戦を繰り広げていた。イルミはメルの腕を吹き飛ばす程のオーラを込めた拳で殴りつけるも、メルはイルミが拳に込めたオーラの割合を完全に見抜いて相殺していく。

 

 

わ、驚いたな。メルってばこの速さで誤差0.1%くらいの精度で相殺してきてる。うん、腕を上げたね。じゃぁこれはどう?

 

 

イルミは少し距離をとり、死角から容赦なく針をいくつも投げつける。狙った個所は体の関節部分であった。陰を纏った針は修行を積んだ念能力者でも交わすのは難しい。

 

 

メルは、イルミが距離をとった瞬間に円を発動させて警戒を怠らなかった。お蔭で針の位置を全て把握することができ綺麗に避けていく。

 

 

だがそんなことは数々の経験を積んだイルミには予想通りの結果であった。常に先を考えて打ち込まれる針はメルを確実に追い込んでいった。避けるともうその場所にはイルミの針が飛んできていた。いくら円を使っていても逃げた場所に既に針が飛んできていれば避けるのは難しい。

 

 

するとメルの右手にはいつの間にか白い刀が握られている。メルの念能力“神の略奪者(テオスプランダラ)”である。金属器同士が弾ける甲高い音と共に、イルミの針は全て撃ち落されていく。

 

 

神の略奪者(テオスプランダラ)か。一度でもかすれば終わりだ。ま、かすらなければいいんだけどね。

 

 

イルミの針!!この針が1本でも刺されば終わりだ。イルミの念能力は強い。刺さってしまえば最後逃れることは決してできない。必ず全て叩き落す!!!!

 

 

両者の能力は1度でも触れてしまえば勝負が決まるという程強力なものだった。お互いの能力を知っているからこそ、今まで以上にイルミとメルは自身の感覚を最大限研ぎ澄ませていく。

 

 

メルはなんとか距離を詰めようと、速さにオーラを割き更に加速していく。その間もイルミの針は死角を狙って次々に投げられていく。

 

 

「っ!」

まったく嫌な所ばかりに投げてくるなぁ。針を投げるスピードがまだ上がってるし。流石にそろそろ全て撃ち落すのは厳しくなってきたな。やはり神の略奪者(テオスプランダラ)ではイルミを捉えるのは難しいか。簡単に距離を縮めさせてくれないし、刀が届かないなら能力を生かしきれない。それなら……!

 

 

メルは気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)を発動させる。

メルの足元には眩しい光をさせながら円形の術式が浮かび上がる。

 

 

イルミは少し目を見開く。

驚いた。神の略奪者(テオスプランダラ)を使いながら気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)を使うことができるのか。メルの能力はつくづく厄介なのばかりだからね。能力を創造されちゃ困る。その前にヤらせてもらうよ。

 

 

カプ。

『はい、マスター。何の能力をご所望でしょうか?』

イルミを捕まえる能力が欲しい。できるかしら。

『もちろんです!確認ですが、どの程度の拘束をお望みですか?ただ単純に動きを数分止められるものなのか、それとも永久に止めてしまうものなのか。それにより条件がかなり異なってきます』

 

 

その時だ。

イルミはなんと私との距離を詰めてきたのだ。

「-っ!」

 

 

しかも針の数は更に増えており、至近距離で撃ち込まれる針の速さは先ほどとは比べ物にならない。

メルは瞬きする間もないままに、必死に全てを避けようとするもそれは物理的に不可能であることをすぐに察した。鋭利な針先はメルの柔らかい皮膚を抉って後ろにある壁に突き刺さる。針は刺さらなかったものの、頬、腕、足に赤く細い線が引かれた。そこから、たらりと血液がつたい落ちる。

 

 

メルは距離を置きながらカプとの話を進める。

イルミの動きを10秒完全に止められたらいい。どのくらいオーラを使う?その他にクリアする条件は?

 

 

「メル、俺と戦っているのに他事考えてる暇は与えてやらないよ」

イルミの手には既に次の針が握られている。

「-っ」

 

 

オーラをカプに割いている分、メルの逃げるスピードは先ほどよりも確実に遅い。イルミは簡単にメルを追い詰めることができるのだ。

 

 

能力発動の為オーラを割いているとは言え、俺の針を少し喰らいながらも避けているのは及第点。成長したねメル。

イルミの瞳は少し細められる。

 

 

メルの頭の中ではカプが能力創造に必要な条件について詰めていた。

『了解しましたマスター。この能力創造に必要なオーラは4割程です。その他クリアしなければならない条件は、相手の名前、相手の能力の理解が必要ですが、マスターは既にクリアしていますので問題ありません。直ちに能力の創造へ移らせていただきます』

 

 

なるべく早くお願いカプ!!かなりキツイっ!!

 

 

メルの体はもう擦り傷だらけになっており、しかもイルミはメルの胴体を狙わずに抉られた傷を更に抉る様に針を投げ込んでいたのだ。

 

 

「―っひぅ」メルは小さく声を漏らす。

 

 

傷を抉られるたびにメルの顔は少しずつ険しくなった。イルミはゾルディック家で拷問の訓練も受けている為、人間に痛みを与えるにはどうすればよいかしっかりと学んでいるのだ。新たな傷を与えるよりは同じ個所を集中的にダメージを与えた方が効果的。その方が痛みを分散させずに相手に痛みを強く与えることができる。普通の人間ならば既に心が折れて簡単に死を選んでしまうだろう。

 

 

暗殺者として前線で活躍していたメルであっても、この状況では流石に息が上がっていた。イルミは、相変わらず涼しい顔をして容赦なく針で傷口を更に広げてくる。

 

 

カプに能力創造に必要なオーラをいっきに取られる時、イルミは絶対に見逃してはくれないだろう。

「メル、降参するなら今だよ?」

 

 

私の能力について知っているイルミは、これから私に最大の隙ができることももちろん知っている。

恐らくこれは最後の警告。

続けるなら今以上に痛みを与えるよ?ってことが言いたいんだ。

 

 

「降参なんてしない!!!」

強く言い切ると、イルミは「ふうん」と言いながら右腕を振り上げる。

 

 

その時だ。

私の体からどんどんと力が抜けていき、オーラがカプへと流れていく。すると、今まで少しのオーラで痛覚を麻痺させていたオーラが消えて、私の体には今受けているダメージが全て伝わってくる。

 

 

「っっぁ!!!!!」

あまりの痛みに涙がにじむ。

でもしっかりと目を見開きながら振り上げられたイルミの右腕を見据える。

 

 

メルは残ったオーラで堅をして、凄まじい勢いのイルミの拳を受け止める。カプにオーラが流れたのはほんの2秒程。3秒後にはメルの体にはオーラが淀みなく流れる。だが、3秒では遅かったのだ。既に受けた衝撃はメルの左腕を完全に砕いてしまう。だが、オーラの流れが通常通りになったことで、痛覚を緩和させる方へオーラを避けただけマシと言えよう。

 

 

メルの左腕はダランとしておりもう使い物にはならない。

土煙と共に見えたメルの表情を見て、イルミは少し目を見開く。

 

 

「まずいな」

笑ってる。能力が完成したのか。一体何の能力を?

 

 

イルミは直ぐにメルから距離を取る。

「“悪魔の首枷”」

メルがそう呟くと同時に、イルミの白い首には禍々しいオーラを纏った黒い首枷が嵌められる。そしてその首枷が繋がる黒い鎖はメルの右腕に握られていた。

 

 

「メルってばこんな趣味があったの?」

クリンといつもの様に首を傾げ、あくまでポーカーフェイスを崩さないイルミだが、これ程追い込まれた経験は初めてだった。

 

 

強制的な絶状態だ。これはまずい。

 

 

 

メルは素早くイルミへと距離を詰めて右拳にオーラを込める。

 

 

イルミは大きな目をぱちぱちと瞬かせる。

うん、このままあの拳で殴られたら俺死んじゃうね。メル、なんて良い目をするようになったの。完全に仕留める気満々の瞳。殺気も申し分ない。十分、合格点だ。

 

 

メルの拳はイルミの顔のすぐ横をかすめた。高濃度のオーラは空気のチリとなって消えていく。

そして満面の笑顔で「私の勝ち!!」と言いながら飛び上がっていた。

先ほど鋭い殺気を秘めた瞳をした持ち主だとは思えない程別人のメルの姿を見てイルミはため息を一つつく。

 

 

「まさか俺がメルに負けるなんてねー。ていうかこの能力凄くいいね」

そう言いながらイルミは自身に繋がれた首枷に触れる。するとパキンと砕け散りながら消失していった。

 

 

「やっぱり時間制限があるんだね。まぁあれだけの能力なら10秒やそこらが限界か」

「それ以上になると更に条件が必要になるみたいでね、そこまでイルミ相手にオーラは割けないよ」

「なるほどね」

「ねぇ、どうだった?私少しは成長したでしょ?」

誉めて誉めてときらきらした瞳を向けるメルを見てイルミは少し考えながら口を開く。

 

 

「メルの能力の欠点は明確だよね?なんでまだそこに対して何の対策も取っていないの?神の略奪者(テオスプランダラ)は近距離戦しか使えないし、しかも俺みたいに長距離から戦える相手には不利だよね。それに傷を負ってしまったら神の略奪者(テオスプランダラ)の能力は使えず、ただの刀に成り下がる。その条件少しはなんとかしたらどう?傷を負っても少しは使える様にしないと。新技でも何でも試すべきだよ」

 

 

「うぅ」

仕事で神の略奪者(テオスプランダラ)をほぼ使ってるけど、イルミみたいな相手にあたることは今までになかったから今のままで十分やっていけてたんだよね。だから何の対策もしてなかった。

 

 

イルミのご指摘はまだまだ続く。

 

 

「それに、気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)の方は、オーラを取られる時に最大の隙ができる。そんなとこ、初見でもヒソカは見逃してはくれないよ?今回みたいに残りのオーラで堅をするって方法しか今はないだろ?そんなこと、ヒソカでも予想できちゃうよ。あいつは嫌な性格をしているからフェイントを必ずかけてくると思うし、そうなればメルは大ダメージだよ。能力を2つ同時に発動できることをもっと生かした方がいい。メルのポテンシャルなら長距離攻撃なら必ず避けられることは相手も分かる筈。そこで必ず相手は近距離戦を仕掛けてくる。必ず仕留めるためにね。それを防ぐ為には近距離戦に有利な神の略奪者(テオスプランダラ)の能力を更に向上させることが課題だね」

 

 

あぁ、これだ。

昔もこうやって私と戦って分析しながら修行してくれた。懐かしいなぁ。

 

 

「ちょっと聞いてるの?」

イルミはメルの頬を両手で引っ張る。

 

 

「いっ、いはい!」

「でもまぁ、昔に比べてメルの動きは数段よくなってたし、課題はあると言えどこの俺を完全に拘束させてしまったのは十分に及第点だよ」

「あひがと」

 

 

イルミは私の頬を引っ張るのをやめてぽんぽんと頭を撫でてくれた。

すると、今までイルミを見てた筈だったの段々地面が近づいて見えた。

 

 

あれ?

 

 

メルが倒れそうになった所をイルミは抱き寄せる様につかんだ。

今まで物陰に隠れていたキルアとゴンは「メル!!」と叫びながらやって来た。

「兄貴!!やりすぎだ!!!」

ぽたぽたとメルの体からは血がしたたり落ちる。

 

 

「このくらいしなきゃメルの練習にはならないよ」

言いながらイルミは自分の着ている服を破り、自分が何度も抉った右腕と左足に布を巻き付けて止血する。

 

 

「メルは大丈夫なの?」

ゴンは険しい表情でイルミを見上げる。

 

 

「メルは自分の能力で自分は癒せない。そんなメルを回復させる専用の部下がルイス家にはいるんだよねー」

そう言いながらイルミは携帯を取り出してエルにかける。

 

 

「あ、俺だけどさ、今メルと修行しててちょっと怪我をしちゃったんだよね。彼女、呼んでくれる?……うん、うん。えー、まぁ仕方ないなぁ。じゃあね」

 

 

「今から来てくれるの?」

「うん。しかもエルってばメルの部下を2人もこれからずっとつかせるって言うんだよ。邪魔にならなきゃいいけど」

 

 

それから5分も経たないうちに、何もない空間から黒い渦を巻いたモノが突如現れる。

そこから女が2人出てきたのだ。

1人はイリア。もう1人は、メルの回復専門の部下リリーだ。

リリーは淡いピンク色の短髪をしており、メルを見るなり駆け寄ってきた。

 

 

「メル様!?」

そういうと同時にキッとイルミを睨みつける。

 

 

「あなたねぇ!いくら修行だからってやりすぎよ!!」

 

 

リリーは昔から俺のことをなにかと嫌っている節があった。まぁ、大好きなご主人様が俺に懐いているのが気に食わないのだろうけど。こいつにメルのことを治療できる能力がなければ直ぐに殺してたところだ。いつもキャンキャン喚いて煩いったらありゃしない。

 

 

「メルの成長には必要なことだよリリー。それよりさ早く治してよ」

「言われなくともやるわよ!!」

 

 

リリーは壊れ物を触る様に優しくメルに触れる。

血を失って少し冷たいメルの手を握りながらリリーは能力を発動させる。

 

「“神の祝福(シエルギフト)”」

 

 

すると沢山の蓮の花が突然出現しふわふわと空中に浮かんだ。その一つ一つは白く眩い光に包まれていた。花は徐々にメルの周りに集まっていく。花畑の中で安らかに眠っている様な光景であった。

 

 

イルミはそれを見て目を閉じる。

毎度思うけどこの光景はまるでメルが死んだみたいだ。それを彩る花も、この神秘的な光も全てメルの死を受け入れている様にさえ感じる。

メルを回復させるのはいいけど、気に食わない能力だ。

 

 

イルミが抉った傷は徐々に薄く消えていき、綺麗にその跡さえも消してしまった。

「治療完了。もう少しでメル様も目を覚ますわ」

リリーは横たわるメルを華奢な体で横抱きにする。

 

 

見た目よりも力があるんだ、とゴンはリリーを見上げる。

「なに?この子供」

「リリー、彼はメル様の弟子だ」

イリアは静かに答えた。

 

 

「えぇ!?こんな子供だったの!?」

 

 

ゴンはきらきらした眼差しをリリーに向ける。

「凄い能力だね!!」

「え?…あぁ、ありがとう。でも私の力はメル様にしか使えないから」

「え?メルだけにしか?」

 

 

するとイルミは口をはさむ。

「メルの部下には、熱狂的なメル信者が何人かいるんだよー。忠誠を、命を、その人生を全てメルに捧げるドM集団なんだよねー」

イルミのその言葉にイリアとリリーに青筋が走る。

 

 

「イルミ、貴方ねぇ!!いくら幼少期にメル様の事を教えたからって良い気にならないで頂戴!!!」

「全くだ。何がドM集団だ。我々はメル様に命を救われた者たちばかりだ。そのメル様に自分の全てを捧げると誓った忠誠心を、貴様にとやかく言われる筋合いはない」

 

 

イルミはケロリとした表情で話を続ける。

「とまぁ、こんな感じでねー、メルにしか能力は使えないっていう誓約と制約をして協力な念能力を手に入れてるってわけ。全くよくやるよねー」

 

 

「これ以上我々のことを侮辱するのは許さないぞイルミ」

ギラリと殺気を込められた瞳はイルミを見据えている。

 

 

両者を見てどうしたら良いか分からずゴンとキルアはあたふたとしていた。

「ん~…、煩いなぁ。なに?」

リリーに抱えられたメルは目をこすりながら目を覚ました。

 

 

それにより険悪な空気はスッと消える。

リリーはメルを見るなり涙を溢れさせる。

 

 

「メル様ぁああ!!もう聞いて下さいよぉ!!あの鬼畜冷徹男が私たちに酷いこと言うんです!!」

 

 

あれ、リリーだ。イリアもいる。そうだ、私意識を失ってしまったんだ……。イルミが電話して呼んでくれたのかな。

それより……

「鬼畜冷徹男?」

リリーの指さす方向を見るとそこにはイルミの姿がある。

 

 

メルは直ぐに察した。

前からイルミは私の部下とは仲が悪くて、デリカシーのかけらもないイルミの言葉でよく喧嘩をしていたことを思い出した。

恐らく今回もなにかイルミが言ったのだろうと容易に想像ができた。

 

 

メルはよしよしとリリーを撫でる。

「大丈夫大丈夫」

するとリリーは少し顔を赤くさせて嬉しそうにメルを見る。

 

 

リリーは、いいだろっと言わんばかりな表情でイルミを見た。

それを見たイルミは「ちょっとメル。いつまで引っ付いてるの」と、リリーからメルを引っぺがそうとする。

「いたたたたっ」

無理やりメルを引っ張るイルミ、それを阻止するリリー。

両者に板挟みになったメルを見てイリアは今までにない怒鳴り声をあげた。

 

 

「いい加減にしろ!!!!!!!!!!これ以上やるなら私の異空間(アナザーワールド)で永遠に閉じ込めるぞ2人とも」

イリアのその言葉で2人はメルから手を放す。

 

 

「メル様大丈夫ですか?」

イリアは心配そうにメルを見る。

「うん。大丈夫だよイリア。リリー、怪我を治してくれたんだね。ありがとう。イルミも2人を呼んでくれたんだね」

「まあね。本当はもう帰ってほしいけど、メルの修行するならいつでも回復できるように置いておけってエルに言われてるんだよねー」

 

 

エル兄様に?

「……もしかして兄様って私がヒソカと戦う事知ってるの?」

少し考える素振りを見せるイルミは「うん、知ってるよ」とケロリと白状する。

 

 

「えぇ!!!お、怒ってなかった?」

「うん、大丈夫だよ。そればかりか応援してるみたいだよ」

「兄様が応援!?」

 

 

兄様のことだからヒソカのことをある程度調べてる筈。

危険なサイコキラー男って知ってて私が戦うのを認めた!?あんなに心配性な兄様が?

珍しいこともあるもんだなぁ。

 

 

「メル様、サポートなら私たちがしますよ」

「頑張りましょう!!」

 

 

正直イリアとリリーがいてくれるのは有難い。身の回りのことはイリアがしてくれるし、怪我したらリリーが治してくれるし、修行に行き詰まったらイルミがサポートしてくれる。疲れたら見てるだけで癒してくれるキルアとゴンがいる。

これ程環境が整うなんて。

最高かもしれない。

 

 

「うん、私新技でも何でもやってのけれそうだよ!!」

するとスコーンと針が飛んでくる。もちろん持ち手の所。

「何でも楽観的に考えない」

「はーい」

いたたと頬をさすりながらイルミを見る。

 

 

「あ、そうだ。キルア、ゴン。凝はどうだった?イルミ相手だと2人のこと考える余裕なくて、全然見てあげられなかったんだけど、最後まで凝はできた?」

 

 

すると2人は自信満々な顔で「あぁ!!」「うん!!」と答えて見せる。

 

 

「レベルの差を嫌でも感じさせられたよ。念能力って前メルが言ってたみたいに本当に奥が深いんだな。俺も早く自分の念能力を身に着けてみたいぜ」

 

 

「キル、念能力を形にする時は本当に慎重にね。何度も考えてから作るんだよ?1回これだって思いついたのがあれば俺に教えてね」

「はぁ!?嫌だ」

「なんで?」クリッと傾げる兄イルミ。

 

 

「俺の師匠はメルなんだから、兄貴じゃなくてメルにまず相談するよ」

その言葉でイルミはギギギとメルの方を見つめる。

 

 

「あー、…はは」

イルミの目が怖い!!

 

 

「ちょっとイルミ!そんな目でメル様を見ないでくれる?」

するとイルミは「はぁ」とため息をつく。

「いい加減黙らないとヤっちゃうよリリー」

「いい度胸ね!!ヤれるもんならヤってみなさいよ!!」

 

 

本当にこの2人は火と油だ。

一緒にいるだけでどんどん燃え上がっていく。

イリアは呆れた顔で2人を見ていた。

 

 

「まぁまぁ2人とも、その辺にして。修行の続き始めよう!!」

「まったくメルは見かけによらずタフだよねー。メルは完全に復活したからいいけど、俺かなり消耗してるんだけど」

「あっ、そうだよね」

 

メルは高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)を発動させてイルミの怪我や体力、オーラをも回復させた。

「ありがと。じゃ始めるよ」

「うん!!」

それからメルの新技開発の為厳しい修行が始まるのであった。

 

 

 

 

 




*メルの念能力おさらい*

1.神の略奪者(テオスプランダラ)

・白く美しい刀の姿を具現化している。
・相手のモノであれば、あらゆる万物を自分のモノにできる能力。
(念能力や相手の体内にある臓器でさえ奪うことができる)
・発動するには条件が4つある。
 ①相手の名前を知っていること
 ②相手の血液を刀に吸わせること
 ③発動時は手に刀を持っていること
  (刀を投げて相手の血を吸わせることは不可)
 ④相手から傷を負っていないこと。
  (かすり傷1つでも相手につけられてしまえば相手の能力は奪えない)



2.気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)

・マスターであるメルが望む能力を何でも創造することができる能力。
・発動時はメルを中心に円形の術式が展開される。
・創造する能力によりメルからオーラを吸い取ることによって創造できる。
・1度カプに能力を依頼すると、メルのオーラが0になった時点で命を削ってでも自動的に能力が作り上げられる。(命を削って作られた能力はメルが死んでも発動することが可能)
・カプはメルの脳内で会話をしながら能力を創造する。
・念能力なのに自我を持っており他の能力を多く使用すると嫉妬することも。
・メル自身もまだカプについて分かりきっていない。


3.高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)

・他人の傷を100%回復させることができる能力。
 (肉体だけではなく疲労やオーラ回復も可能)
・他人の傷を修復すると、その痛みや傷は全て記憶されておりメルが半年間能力を使わなかった場合、蓄積された傷や痛みが全てメルに返ってくる。
・自分自身には使うことができない。




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35話 暗殺一家!?×大集合!?

 

 

それから1か月後。

ヒソカとの試合当日。

 

「メル、準備はいい?」

「皆のおかげでバッチリだよ。行ってきます」

そう言ってメルは入場ゲートの中へと入っていく。

 

この1か月間、マンツーマンでメルの新しい念能力開発に協力してきたけど、まさかあんなとんでもない能力ができるとはね。

ヒソカ、いくらお前でも相当手こずるだろうね。

いっそのこと殺してしまえばいいよメル。

 

イルミは観戦席へと行くと、足を止めて大きな目を瞬かせる。

キルアとゴンがいるのは分かるが、その隣にはシルバ、キキョウ、ゼノも座っていたのだ。

 

 

「何してるの」

 

 

 

「あらイルミ!早くここに座りなさい。メルちゃんが戦うって聞いたらそりゃ見ない訳にはいかないでしょ!」

興奮気味に話すキキョウは、顔に着けているゴーグルをピカピカと点滅させている。

まぁ母さんはメルのことかなり気に入っているから来たのは分かるけど……

 

「何で父さんや爺ちゃんまで来てるのさ」

「メルの成長を見るためだ。最近あいつの名ばかり聞くからな、どれだけ強くなったか見させてもらうにはいい機会だ」

「あの小さかったメルがどれだけ成長したか気になってここまで来てしまったわい」

 

メル、ほんと君って凄いよ。うちの家族が全員メルに期待して仕事を調整してまでやってきてるんだからね。

 

するとその後ろの観戦席から「来たかイルミ」という声が聞こえた。

そちらへ目を向けると、更に驚くべき光景が広がっていた。

そこにはなんと、ルイス家全員が勢ぞろいしていたのだ。

 

エルとラルがいるのは本人も来ると言ってたから分かるが、表世界の大御所、昔は父さんとも並ぶ程の暗殺者であったメルの父親ウィリアム・ルイス、裏世界で現役で活躍する伝説の暗殺者と呼ばれるメルの祖父ハク・ルイス、かつては絶世の美女と呼ばれ、毒を使った暗殺者で1番に名が挙がる一流の殺し屋、メルの祖母ミラ・ルイス。

イルミも全員が揃ったところを見るのは初めてでありその空気に圧倒される。

 

青い瞳にプラチナブロンドの髪、整った人間離れした容姿は彫刻の様に美しく、その空間だけがくりぬかれた様に別世界が広がっていた。

 

「やぁ、イルミ君。メルが随分お世話になっているね」

ウィリアムはにっこりと微笑みながらイルミに声をかけた。

 

「メルはどうだい?少しは成長できたのかな?」

ベルベットの様な声で娘のことを確認するウィリアムは、どうやら俺の反応を見ている。

その笑みには恐らく色んな意味が含まれており、娘の成長だけではなく俺の気持ちなんかも探っているみたいだ。

 

「メルの念能力の欠点を少しなくしたんだ。まぁ、負けることはないと思うよ」

その言葉を聞いてウィリアムは嬉しそうに笑う。

「メルを強くしてくれて感謝するよ。僕は仕事を理由になかなかメルを見てあげられなかったからね。シルバ、君の息子はやはり優秀な様だ」

 

するとニヒルな笑みを浮かべながらシルバは口を開く。

「珍しいな、お前が他人を褒めるなんて」

「フフッ、僕は優秀な人間にはちゃんと評価をする主義だからね。イルミ君、また今度メルと共にうちへおいで。ちゃんと御もてなしをさせて欲しい」

「分かった」

 

イルミはそう言ってキルアの隣に腰を下ろす。

 

キルアもゴンも心臓が飛び出てしまいそうな程緊張していた。

 

なんなんだこのメンツ!!!ヤバすぎるだろ!!!

暗殺界の頂点を取り合う殺し屋が全員この一角に集まってるなんてありえねぇだろ!!

ってかメルの親父すげぇプレッシャーだ!!

なんで兄貴はこんなに平然としてるんだ!?

 

「にしても、えらい人気だな」

シルバは会場を一瞥する。

 

「まぁメルちゃん可愛らしいから人気が出るのも分かるわぁ」

するとメルの祖母ミラがにっこりと微笑む。

「あら、キキョウさん。分かっていらっしゃるのねぇ。メルは本当に可愛くて良い子なの。孫の晴れ姿を見られるのは本当に楽しみだわぁ」

キキョウは憧れの存在であるミラに話しかけられたのが嬉しくてゴーグルが赤色から黄色へと点滅させた。

 

「ゼノよ、お前まだ現役でやっておるのか。早く引退してしまえ」

後ろの席からメルの祖父ハクは茶化すようにゼノを見る。

「お前こそ早く引退してしまえくそジジイ」

「わしがくそジジイならお前もじゃ。特大ぶうめらんというものじゃよゼノ」

ハッハッハッと笑うハクを見てゼノはやれやれと呆れ顔。

 

 

「あっ、キルア!そろそろ始まるみたいだよ!」

ゴンはそう言って天井を指さす。

照明は徐々に消え始めて、今から選手たちが戦うリングがライトアップされていく。

 

『レディイイスアンドジェントルマーン!!今宵の戦いは皆さんが注目しているあの2人!!!チケットは販売してから1分もしないうちに即完売となりましたああ!!今この試合をご覧いただけるそこのあなた!!あなた!!!あなた!!!なんと幸運なんでしょうかああああ!!!では紹介します!!天空闘技場に現れた一輪の花!!!!誰もが手を伸ばしたくなる程美しさ!強さを兼ね備えた最強の選手!!!!!メル選手が登場だああああああ!!』

それと同時に、白い煙が入場ゲートに噴出される。

そこから、深くスリップが入った白のチャイナ服を着て、髪を綺麗に編み込み団子を作った美少女メルが姿を現した。

 

すると会場のボルテージは一気に高まる。

「メル様ああああああああ!!!!」

「きゃあああああああああああああ!!!!」

「美しすぎる!!!!!」

「踏んでください!!!!!!!」

「罵って下さいいいいいいい!!!!」

 

 

『さてさて、美しすぎる最強メル選手の今宵のお相手はあああああ!!!未だ無敗の奇術師!!ヒソカ選手だああああ!!!!!』

 

 

すると反対側の入場ゲートから深い笑みを零しながらメルに手を振る奇術師が現れる。

「うおおおおおおおおお!!!」

「ヒソカアアアアアアアアア!!!」

「今日も見せてくれよおおおおおお!!!」

 

 

ヒソカは笑いながら手をくるくると捻る。

何も持っていなかったのに右手にはポンッと一輪の花が現れた。

 

ヒソカはそれをメルの頭にそっと添えた。

「どうも」

 

「ククク、今日の君はいつも以上に綺麗だね♡」

 

 

その光景を見てイルミは眉を顰める。

研ぎ澄まされたヒソカの感覚は、会場に座るイルミの僅かな殺気でさえも捉えた。

 

あぁイルミ、そこにいたのかい♡

おや?あれは……!!

全員90点台の極上の果実……!!!!

 

 

ヒソカはにやりと笑う。

「あらヒソカ。今から私とヤるのに他の人に意識を向けるの?」

「ククク、そんな訳ないよ。君とヤるのは本当に楽しみにしていたんだ。僕、もう滾って仕方ないんだから。早くヤろう」

 

 

『それではあああ!!試合、開始いいいいい!!!!』

 

 

ヒソカとメルの戦いが今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 



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36話 メル×ノ×新技

 

仕掛けたのはヒソカからだった。

今にも裂けてしまいそうな笑みを浮かべながら私の顔面に目掛けて振り上げられた右足。

 

服の上からでも分かる!

なんて鍛え上げられた肉体だろう。

イルミといい勝負してるんじゃないかな。

でも、体術戦は私も得意分野!

あのスパルタイルミにしっかりと仕込まれてるんだからね!

 

メルは少し微笑みながら真っ向からヒソカの蹴りを受け止めた。そこから目にも留まらぬ速さの高度な攻防戦が始まった。念の達人同士の戦いに、観客たちは何が起こっているのか理解できずに息を飲みながらリング上を見つめていた。

 

素早く正確なオーラの攻防力移動を可能にしているのはもちろん両者の圧倒的な戦闘センスもあるが、1番は積み上げてきた経験が大きかった。

 

 

僕と互角とはね♡

やるね、メル。

伸縮自在の愛 (バンジーガム)を見せてあげるよ。

 

 

ヒソカが念能力を発動させようとした時、イルミによって極限にまで研ぎ澄まされたメルの五感はそれを察知したのだ。それと同時にメルも自身の念能力を発動させた。

 

神の略奪者(テオスプランダラ)”!!

一瞬にしてメルの右手に現れた白く美しい刀を見てヒソカはすぐに距離を取った。

 

 

危ない危ない。

あの刀はやばいね。

ハンター試験の時にも見たけど、対峙してみたらかなり危ない匂いがするね。

 

 

「流石だねヒソカ」

「それはこっちのセリフさ。よく僕が念能力を発動させようとしてるのに気づいたね♡こんなこと初めてだよ」

ヒソカは人差し指を立てており、その先からはピンク色のガム上のオーラがぶら下がっていた。

 

 

ゴンとの試合時にも見たけど、戦闘中にアレを張り付けられたらかなり不利になるから気をつけないとね。

 

 

「私も、あんなに近距離にいたのに斬れなかったのは初めてだよ。能力を発動する時間は遅くはないはずなんだけどなぁ」

メルはにっこりと笑みを浮かべながらヒソカを見据える。

 

 

本当に、厄介な相手(奇術師)だ。

さてそろそろ、イルミが言った通り私の強みを生かしていかないとね。

カプ、出番だよ。

 

 

私の足元には円形の術式が浮かび上がり同時にカプの声が頭の中に響いてきた。

『はい、マスター!なんの能力をご所望でしょうか?』

 

 

ヒソカは私を見て目を大きく見開かせてさらに笑みを濃くする。

あぁ、メル!!!!

なんていいオーラなんだ!!

「さぁ!!見せておくれよ!!君の力を!!!!」

ヒソカはタガが外れた様に私に飛び掛かってきた。

 

 

カプ、今戦っている相手と同じような念能力が欲しい。伸び縮みする様な、まるでガムみたいな能力!!!!

『了解しましたマスター。4割ほどのオーラを使ってしまいますがよろしいでしょうか』

構わないわ。

 

 

ヒソカは私にオーラをくっつけようと陰を使って次々と伸ばしてくる。

これに触れる訳にはいかない!!

 

 

メルは避けながら隠し持っていた暗器のナイフを投げ込みヒソカのリズムを崩していく。

カプ、能力創造にかかる時間はどのくらい?

『10分です』

10分か。カプにしては時間がかかるね。

 

『申し訳ありませんマスター。今マスターが戦っている相手の能力の解析に少し時間がかかるのです。マスターが目で見て感じた情報を更に分析しているのです。1度あの能力に触れれば完成する時間を早められるのですが……』

 

なるほど。

……カプの能力は私もまだ知らないことが多い。相手の能力に似た能力を創造する時はそれなりの情報が必要って訳だね。

 

『マスター、今から別の能力を創造することは出来かねますのでご注意を』

分かっているよカプ。1度お願いした能力は創造するまでお願いできない、でしょ?

それに、今回はヒソカの伸縮自在の愛(バンジーガム)に似た能力で戦わないと意味がないの。

 

『理由を聞いても?』

同じ能力で負けた時ってかなり屈辱なんだよね。自分が今まで積み上げてきたモノを簡単に崩されるなんて、最悪だと思わない?それをヒソカには味わってもらう。私の弟子を目の前で殺されかけたんだからね。きっちりとお返しはさせてもらうんだから。

 

『さすがマスターです!どこまでもお供致します!!』

……時々カプが念能力だってこと忘れそうになるよ。さ、カプ。なるべく早く能力の創造お願いね。少しでも早く創造できるよう協力するからね。

『了解しましたマスター』

 

 

メルは逃げるのをやめて、ヒソカと向き合った。

その行動にヒソカは頭に「?」を浮かべる。

「一体何を企んでいるのかな?」

 

こちらへ向かっていた足を止めてヒソカはどうやら警戒しているみたいだ。

「ヒソカを楽しませてあげる為に逃げるのをやめてみただけだよ。私も近距離戦は得意だしね」

「ふぅん」

 

足元に浮かんでる術式を使った念能力も気になるけど……

これから仕掛けてくるのかな?

まぁなんにせよ、念能力者同士の戦いは()ってみないと分からないね。

 

 

ヒソカとメルは再び距離を詰める。

メルは刀を、ヒソカはトランプを握り激しい攻防戦が始まった。

 

 

私は幼いころから暗殺術を身に着ける為に数々の武器を扱ってきた。

その中でも1番しっくりときたのが刀。

それもあって、神の略奪者(テオスプランダラ)の形は刀の姿をしているんだと思う。

刀なら誰にも負けない自信がある。

なのにっ……

ほんとにどうなってるんだか。

私の剣撃をあんな周をしただけのトランプで防がれちゃうなんて。

認めざる得ない。

ヒソカは強い!!!

 

 

私が刀を振り下ろしてヒソカがまた見事にトランプで受け止めた時だった。ぬるっとするようなまるでスライムに切っ先が埋まってしまったような感覚だった。メルはすぐに察した。

 

 

ヒソカの念能力が発動してる!これを待ってたよヒソカ。

カプ!!分析頼んだよ!!

 

『お任せくださいマスター!!』

 

刀を振り上げようとしても伸縮自在の愛(バンジーガム)はカッチリと、刀とトランプとを固定してしまっていた。

ヒソカの念に触れることが目的で近距離戦を挑んだけど、このまままやられる訳にはいかない。

オーラ量を腕に集中させて無理やり引きはがしにかかったメルは、目を丸くした。

 

「あれっ、取れないや」

 

「ククク、1度着いたら付けるも剥がすも僕次第さ♡」

 

こんなにオーラを込めても剥がれないんだ。いい情報をありがとうヒソカ。

するとカプの声がその時を告げる。

 

『マスター、分析完了。あと10秒で能力発動できます。能力名はー……』

 

 

 

 

「メル」

 

カプが今から能力名を教えてくれるところで同時にヒソカは口を開いた。

 

「いいことを教えてあげようか」

「いいこと?」

ヒソカは笑顔で見つめる。

 

 

 

「イルミの想い人♡」

 

 

 

私は一瞬頭が真っ白になった。

「は?」

 

 

 

イルミ好きな人がいるの!?

全然知らなかったんだけど!?

しかもなんで今それを言う!!!

にっこり微笑みながら私にとっての爆弾発言をこんな状況でかましてくるなんて!!!!

 

 

 

あまりにもふいな発言に、私はついオーラを緩めて同様してしまったのだ。

しかもそれと同時に能力創造が完成してしまい私のオーラは一時的に減少してしまっていた。

それを見逃すヒソカではなく、伸縮自在の愛(バンジーガム)が私の左腕に付着し、勢いよく体が引っ張られて地面に思い切り叩きつけられたのだ。

 

「かはっ!!!!」

 

私がぶつかったリングの石面は粉々に砕けていかにその衝撃が強かったのか物語っている。

しかも、オーラが十分でなかった為内臓にかなりのダメージを負ってしまっていた。

口からはたらりと赤黒い血液が流れてぽたぽたと地面に落ちていく。

 

そして間髪入れずにヒソカの右手は私の細い首を掴み上げた。

簡単に宙に浮く私を見つめてヒソカはこれ以上ない程の笑みを見せている。

 

 

「あぁ、メル……!!いいよその表情!!!ダメージを受けてなお僕をヤる気満々のその瞳!!!!あぁあああ!!実にそそられるよ!!!!!」

ヒソカはペロリとメルの頬に飛んだ血液を舐めとった。

 

 

ひぃっ、今舐められた!?

 

 

ヒソカの怪しげなその瞳は観客席に座るイルミを捉えている。

イルミはポーカーフェイスを崩さずにその試合を見ていた。

キルアとゴンは立ち上がり「メルー!!!」と叫び、小さな拳を震わせていた。

 

「兄貴!!!メルが!!!!」

「うん。少しは落ち着きなよキルア」

「何でそんな冷静にいられるんだ!!!」

「冷静?俺が?」

 

イルミが座っている座席のひじ掛けは無残にもは粉々に砕け散っていたのだ。

 

「感情が出すぎているぞイルミ」

後ろからエルの低い声が響く。

「よく言うよ。エルこそ、その殺気なんとかしたら?」

 

「人の妹を舐めるなんて、兄さん。あいつやっぱり今やってしまった方がいいんじゃない?」

ラルも青筋を浮かべながらヒソカを冷たく睨む。

「しかもあいつ、こっちに気付いて見せつけてる様だし。俺が目に見えない行為(インビジブルアクト)で近づいて気付かれない様にやってこようか」

 

エルは何も言わずに冷たい殺気をヒソカへと送る。

ヒソカはもちろんそれを感じてゾクゾクと自身を高ぶらせていた。

 

 

暗殺一家の人間だというのにあまりにも取り乱す3人を見て、シルバとウィリアムはそれを諫めた。

「イルミ、落ち着け」

 

「エル、ラル。メルの試合に手を出すことは僕が許さないよ。最後まで見届けなさい」

 

 

その言葉で3人はスッと殺気を消し去った。

シルバは目線だけをイルミに向ける。

「イルミ、お前にそんな一面があるとは知らなかったぞ」

「別に。メルは俺の弟子だしあんなヤツに好きにやられたらそりゃいい気はしないでしょ」

そう言うとシルバは意味深な表情でフッと笑みを浮かべる。

 

 

「ラルはともかくエル、お前はルイス家の暗殺家業を継ぐ人間だ。それが妹が少し舐められたくらいでそう取り乱してはいけないよ」

「……すみません」

「今は冷静に落ち着いて観察するんだ。気を見て、その時にヤればいい」

にっこりと微笑むウィリアムを見てエルは目を伏せる。

 

 

父さんはいつも笑っていて何を考えているか分かりづらい。

でも、怒っているのは確かな様だ。

無駄を嫌う父さんが仕事でもないのにヤればいい、だなんて。

エルは少し口角をあげて、リングへと視線を移した。

 

 

「クククククッ。つくづく君といるといいことばかり起きそうで先が楽しみだよ。君がここで死んだらどうなると思う?君の次は超一流の暗殺者達とやれそうなんだ♡僕ってば運がいいよね。最後になると思うしメル、さっきの答え教えてやろうか。あくまで僕たち“友達”だし♡」

 

気道を徐々に圧迫されてそろそろ息ができなくなってきた。

「うぅ……」

 

ヒソカは私の耳元で囁く。

 

 

 

「君が1番よく知るとっても可愛くて強い子さ♡。じゃぁね、メル」

 

 

 

「うぅっ……やめて!!!!」

ヒソカは私の首を握り潰す勢いで力を込めた。

ポッキリと折れてしまうはずの私の首。

でも折れることはなくまだ綺麗につながっている。

ヒソカは目を見開いた。

 

 

「なんてね」

ぺろっと舌を出しながらヒソカを見ると目を丸くしていた。

 

 

「“変幻自在な愛”」

 

カプってば名前までそっくりにしちゃって。

 

そう呟くと、私のオーラ性質は変わっていき粘着性のあるモノへと変化した。

そして私の首を掴むヒソカの右手にぴたりとくっつき、ヒソカは一切腕を動かすことができなくなっていたのだ。

 

「なんだいその能力…」

「ヒソカの伸縮自在の愛(バンジーガム)を真似て作ってみたんだ。どう?うまくできているでしょ?」

 

私のオーラに包まれたヒソカの右手はググッと徐々に開かれていき、私の首から離れた。

ようやく地面に足をつくことができた私はヒソカににっこりと笑いかけてみる。

 

「君の念能力はあの刀を具現化ところをみると具現化系だ、と思い込んでいたよ。オーラを僕の念の様にゴムみたいな粘着性のあるモノへと変化させ、そしてその能力を君は 作ってみた と言った。つまり君は、特質系だね?」

 

「正解」

 

「考えたくはないけど、もしかして能力を好きに作りだせちゃったりして♡」

メルは笑顔を浮かべてまた「正解」と言う。

 

 

それを聞いてヒソカは目を大きく見開いた。

「あっははは、そんなとんでも能力がこの世に存在しているなんてね。メル、君はどうやら特別な様だ。それだけの能力を使いこなすには普通なら、メモリ不足になるものだよ」

 

 

「それがどうやら私にはないみたいなんだよね。特質系だからなのか私個人に原因があるのか、そこはハッキリしないけど、今のところ私は修行によって幾らでも念能力を習得することができる」

 

「そんな話、聞いたことも見たこともなかったよ。ますます君に興味が湧いて来たよ」

ヒソカから禍々しいオーラが放たれる。

ヒソカは全力で私と勝負したいという気持ちがひしひしと伝わってきた。

 

 

「全力のヒソカを叩き潰す!!!!」

「きなよメル」

「のぞむところよ!!!」

 

 

私はヒソカの右手を引っ張り地面にヒソカを叩きつけて刀を振り下ろす。

紙一重で交わしたヒソカの服はパックリと切れて、鍛え上げられた分厚い胸板が見え隠れしていた。

 

 

惜しいな。

服が切れただけか。

でもこの能力は神の略奪者(テオスプランダラ)と相性がいい。

相手が離れたらすぐに引き寄せて叩き切るチャンスが生まれるし、相手の重心も引っ張ればすぐに崩せるし応用がかなり利く能力だ。

でも、流石ヒソカ。

体制を崩されてもぎりぎりで避けていくし、たまに蹴りやパンチが決まってもあまりダメージを負っていないみたい。

 

 

私がある床に着地した時だ。ぬめっとした感触を感じて、凝をしてみるとヒソカの伸縮自在の愛(バンジーガム)が陰で隠されていたのだ。

しまった、左足に……!!

 

 

ヒソカはすかさず私の左足を引っ張り自身へと引き寄せた。

ううっ!!すごいスピードだっ……!!

私もやってやる!!!!

 

 

ヒソカの右腕をグイッと引っ張り上げてヒソカと私はお互いを引き寄せあった。

そして寸での所で私はヒソカを地面へと叩き落とし、ヒソカは私をブンッと遠くへ放り投げる。

 

私は観客席まで勢いよく飛ばされた。観客を庇いながらの体制になった為足首を捻ってしまい、ズキンとする痛みを感じた。

すぐにオーラを巡らせて痛みを和らげる。

 

 

「大丈夫ですか!?」

私がもう少しで下敷きにしてしまう所だった観客に目を移そうとすると、目の際でヒソカこちらに向かってきているのが見えた。

容赦なく観客席へと飛んできて鋭い一撃をきめようとしていたのだ。

私は避ける訳にはいかず、それを受け止める。

 

 

「早く逃げてください!!」

観客たちは悲鳴を上げてその場から走り去っていく。

 

 

「いけないなぁ♡僕をみていなきゃ」と言い、頬にぬめっとしたオーラが付着した感触がした。

「しまった!!!!」

 

 

ヒソカは勢いよく私の頬を引っ張り上げて振りかぶった右拳で殴りつけた。

「っあ!」

一瞬視界がぐらつくも、すぐに私は体制を整える。

 

 

こんなところで戦う訳にはいかない!!

メルはリング上へと戻ろうとヒソカから距離を取ろうとするも、左足に付いたヒソカのオーラが急速に縮められてすぐ真下にいる観客席へと落とされた。

 

 

ふいに引っ張られた為観客を避けることができず、勢いよく観客の海にダイブしてしまう。

いけない!!人の上にもろに落ちてしまった!!!!

 

 

目を開けると「メル、大丈夫?」と聞きなれた声が聞こえてきた。

 

 

 

落とされた場所はなんとイルミの上だったらしく、私を横抱きにしていたのだ。

「イッ、イルミ!?」

「人が邪魔で戦えないんだろ?なら、アレでしとめてしまいなよ」

 

 

 

アレ、……イルミと作った新技!!!

「うん!!!やってくる!!!」

 

 

 

するとヒソカは私の足をまた勢いよく引っ張る。

「僕と戦っているのに他のヤツにくっつくなよ♡」

 

 

「ヒソカが落としたんでしょ!!」

「あぁそうだった」

「私、ヒソカと戦う為に修行したんだ。新技の初めの獲物になってもらうよヒソカ」

「それは光栄だね♡」

 

 

そう余裕な表情をしていられるのも今のうちだよヒソカ!!!

……カプ、ありがとう。あれを使うからもう下がってて。

『はい、マスター』

メルの足元にあった術式は消え、同時にヒソカに付着した能力も消える。

 

 

傲慢な絶対君主(リベラロード)

 

 

メルを中心にぶわっと空気が変わった。

ルイス家とゾルディック家の暗殺者達は近くでメルの変化する様に目を見張った。

 

メルのプラチナブロンドの髪は黒く染まっていき、青い宝石の様な瞳も黒く吸い込まれそうな瞳へと変化していったのだ。

同時に、メルを取り巻くオーラはあまりにも禍々しくその能力の底知れない恐ろしさを醸し出していた。

 

 

エルは眉を顰めながらイルミを見る。

「イルミ、メルに何をした」

 

「修行してみて思ったよ。メルは天才だっ、て。俺はメルの背中を少し押したまでさ」

 

 

ヒソカはメルの豹変ぶりに目を輝かせ、まるで愛しいモノを見るかのような瞳でメルを眺めていた。

メルの黒いオーラはまるで生き物の様にグネグネと動き触手の様な形になっていく。

それからは一瞬であった。

 

 

その触手はヒソカ目掛けて飛び掛かり、逃げるヒソカを簡単にとらえてしまったのだ。

腰にぐるりと巻き付いた触手は、ゆっくりと私の前にヒソカを連れてきた。

 

 

「なんだいこの能力は」

「実感した方が早いよ」

 

 

するとヒソカの顔色が徐々に変わっていく。

「君、本当に…嫌な能力を…創ってくれたね」

初めて表情を崩すヒソカを見てメルはにっこりと微笑んだ。

 

 

傲慢な絶対君主(リベラロード)は相手のオーラを吸い取る能力。しかもこうして拘束することも可能なの。ヒソカも知っていると思うけど、私は2つの能力を同時に扱うことができる。それを生かして考えてみたの。神の略奪者(テオスプランダラ)は、傷さえつければ相手のモノならどんなモノでも奪うことができる。能力は強いけど、ヒソカレベルになると警戒されて当てること自体難しい。だから傲慢な絶対君主(リベラロード)で動きを止めて、オーラを奪い、そして神の略奪者(テオスプランダラ)で確実に相手に傷をつけて、能力やモノを奪う」

 

 

 

「ククク、君が暗殺者だってことをスッカリ忘れていたよ。全く容赦のない能力だ」

「さて、ヒソカ。貴方から何をもらおうか」

「ククク、何でもあげるよ。君になら殺されてもいいと思ってしまったからね」

 

 

 

すると後ろからひょっこりと顔を出すイルミ。

「そう。なら殺してしまいなよメル」

 

 

 

「イルミ!……私は仕事でもないのに命を奪ったりはしたくはないわ」

「じゃぁこういうのはどうだい?♡」

 

「ヒソカ、お前に選択権はないんだけど」

イルミは首をかしげる。

 

 

 

 

「メル、“友達”から“親友”にならないかい?“親友”にならただの友達に言えなかったことも言える様になるんだけどなぁ」

それはヒソカがあの時に言った、イルミの好きな人が誰か教えるってこと!?

 

でも、

「ヒソカの言う事なんて信用できない」

「僕は1度した約束は破らないよ。そんなに心配なら、君に嘘をついたら僕が死ぬような念を作ればいいじゃないか」

「あ、それ良い手だね」

 

 

するとイルミが私の頬をつねってきた。

「いはは!いはいよイフミ!!」

「なに相手の口車に乗せられようとしてるの。それに、何をそんなに知りたがってるのさ」

 

 

「イッ、イルミには内緒だよ」

「そう♡これはメルと僕だけの秘密のー…

「黙らないと殺しちゃうよヒソカ」

イルミは禍々しい針を構える。

 

 

「とにかく、まだ試合中なんだから口出しはなしだよイルミ!」

そう言って私は神の略奪者(テオスプランダラ)をしまい、カプを呼んだ。

 

術式が展開されたことで気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)を使用していることが簡単にばれてしまう。

 

 

 

あ、メルってばカプで本当にヒソカとの約束を拘束する能力を創る気だね。

イルミの目はスッと細められる。

 

 

 

イルミから嫌なオーラ出てるけど……怖くて見れないから無視無視!

さてと!

相手と約束をして、その約束を違えることがあれば相手を死に至らしめる能力を創りたいんだけどできる?

 

 

『可能ですマスター!ですが、かなりの拘束力を持つ念能力になってしまう為いつもよりオーラが必要になるのですがよろしいでしょうか?』

どのくらい?

『7割です』

あぁ、今なら大丈夫だよ。オーラの供給源は捕まえてあるから好きにしていいよ。

『流石ですマスター!』

 

 

「てことで、ヒソカ。今からオーラをかなり使わせてもらうよ。私に負けたから文句はなしね?」

「ククク、いいさ。すきにするといいさ

言いかけた時だ。ヒソカの顔が少し歪むのが見えた。

 

 

「くっ……これかなりきついんだけど」

「文句は言いっこなしだからね!ヒソカは私のゴンに手を出そうとしたんだから!!!0に近くなるまで搾り取らせてもらうんだからね!!!!」

 

 

それからしばらくしてヒソカはぐったりとした様子で触手に掴まれていた。

相当堪えたみたいだねヒソカ。

少しおもしろいかも。

 

 

「“拘束する戒めのリング”」

そう呟くとヒソカの指には黒いリングが自動的に嵌められる。

 

 

「私には嘘はつかず、困ったことがあれば必ず協力すること。守らなければこのリングから体内に毒が注入されてヒソカは確実に死ぬ。いいね?」

ヒソカは声を出す元気もないのか、1度頷いた。

 

 

「このリング外すことはできないからねヒソカ。指を切ってもまた別の指にはめられる。指を全部切ったときは……どうなるんだろ?カプ…、どうなるの?うんうん、へぇ。指を仮に全部切ってしまえば体内の血管にはめられるらしいよ。だからはずそうだなんて思わないことだねヒソカ」

 

 

もうなんでもいいから早く休ませてくれと言わなくても伝わってくる。

まぁ無理もないか。

本当に0に近くなるほどオーラを奪ってしまったからね。

 

 

ヒソカも流石に懲りただろう。

「審判さん!勝敗は?」

おーいと叫ぶと、「ヒっ、ヒソカ選手ノックアウト!!!しょ、勝者!!メル選手―!!!」と勝敗が決した。

 

 

 

観客たちは遅れて歓声を上げる。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

「メル様あああああああ!!!」

 

 

 

メルはやっと終わった、と一息ついた。

 

 

「メル、久しぶりだね。随分と成長した様だ」

振り向くと父ウィリアムが手を振っているのを見て、メルは目を見張る。

そして駆け足でウィリアムの胸に飛びついた。

 

 

 

「お父様!」

ウィリアムはよしよしと愛娘を撫でる。

 

 

「それにしても凄い能力じゃないか。僕でもメルに勝てるかどうか怪しいくらいだ」

「そ、そんなことないです!私がお父様に及ぶなんて……」

「これも全てイルミ君のおかげだね」

 

 

ウィリアムはイルミを見据える。

「メル、いい機会だからこのままうちへおいで。イルミ君と、君の弟子2人を連れてね」

「いいのですか!」

「もちろんだよ。メルがお世話になっているからね。ぜひお礼をさせて欲しいしね。てことで、君の息子2人、借りていくけどいいよねシルバ?」

 

「……構わん」

 

「シルバもああ言ってることだし、行こうか」

「待って父様。ヒソカも連れて行っていい?」

 

 

その発言に全員固まる。

「メル、馬鹿なの?」

イルミはメルの頬を引っ張る。

「いはいよイフミ!!」

「今から自分の家に行こうってなってるのに、自分の弟子を殺しかけてさっきまで本気でメルを殺そうとしてたやつを連れて行きたいだって?どこまで甘いの?」

「ヒソカはもう大丈夫だよ。私の能力で何もできないし、しばらくあんな調子だから」

 

 

ヒソカはぐったりと床に倒れている。

「連れて行ってなにする気?」

「それはー…」

ヒソカの知ってることを洗いざらい話してもらいたいんだけど……

 

 

イルミは私の顔を覗き込んできた。

「ヒソカから何か聞き出すつもりなんだろ?何が知りたいの?念について?それとも戦い方?」

「うぅ……えっと……」

「なに?俺にも言えないことを聞き出そうとしてるの?メル怪しい」

 

 

言えないものは言えないよ!!

もうどうしたらいいのー!

 

 

「イルミ、そこまでにしてやれ」

メルの肩に手を置いて助け船をくれたのはエルだった。

「聞かれたくないことの1つや2つお前にもあるだろ」

「んー、まあね。メル、危ないことしようとしてるならまず俺に相談してからにしてよね」

 

 

私はうんうんと首を縦に振った。

なんとかなった……

メルは両手を合わせてエルに「ありがとう兄様」と言う。

 

 

「俺はお前の能力も信じているからね。ヒソカはもうメルに何もできない。メルに絶対服従を虐げられているようなものだ。協力しなければ死ぬ、か。殺し屋らしくなったじゃないかメル」

 

 

こんなことで誉めてくれるのは恐らく私の家族だけだろうなぁ。

なんて思っているとシルバとキキョウ、ゼノがやって来た。

なんか今思ったけどなんだろうこの凄いメンバー!?

全員揃ってるし!?

ミルキ君とカルト君とマハさんがいないけど……この一角にルイスとゾルディックが集まってたの!?

 

 

 

シルバはニヒルに笑いながら私の頭を撫でる。

「いい試合だった。たまに気が抜けている所がなければ完璧だったぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

「フォッフォッフォッ、ゆずよ、成長したようじゃな。またいつでも修行でもなんでも見てやるぞ?」

「え!!それは嬉しいです!!」

 

「ゆずちゃん!なんて素晴らしい能力なのおおお!」

キキョウさん、相変わらずいつも通りだな。

 

 

 

皆やけに誉めてくれるなぁ。

まぁ、傲慢な絶対君主(リベラロード)神の略奪者(テオスプランダラ)との相性良すぎて正直負ける気がしない程自分でも自信はあるけど……。

まだわかっていない部分があるから気を付けて使わないとね。

ていうか早くここから離れた方がいいな。

私達物凄く目立っちゃってるし!!!

 

 

するとハクお爺様の察した様だ。

「そろそろお開きとしようかのぅ。イリアを待機させておるから“異空間(アナザーワールド)”で帰るとええわい。メルよ、お疲れさん。でも、敵の口車に乗せられて油断するとは何事じゃ。帰ったらまだまだ修行が必要じゃな」

「はい、お爺様」

 

 

するとハクの頭を祖母ミラはパシンとしばいた。

「このくそじじい!メルが落ち込んでしまうわ!!メルや、そう気を落とさなくてもいいのよ?たった1か月で新しい能力を手に入れたのは凄いことなんだからね」

「ミラお婆様ありがとう!」

 

 

「このくそばばあ!痛いわ!」

「その年にもなって相変わらずデリカシーがないのねぇ!」

「なんじゃとお!」

 

 

 

それを見たウィリアムは「はいはい2人ともそこまでですよ」と仲裁に入る。

私は兄様達の後に続いて、会場を後にした。

ヒソカはイルミが担いでくれて、なんとか回収することができた。

 

 

キルアとゴンは私の試合を見てから目を輝かせて自分たちがどんな念能力にするか思案している様だ。

なんだか天空闘技場には長いことお世話になった気がするなぁ。

また来るね、天空闘技場。

 

 

あ、タキに連絡入れとかないとね。

 

 

なんて思いながらメルはルイス家に向かうべくイリアの異空間(アナザーワールド)へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




天空闘技場編は36話で終了です!
メルとヒソカ戦は一気に書ききってしまいました。
今回も文字数が多いのですが、ここまで読んでいいただきありがとうございました。
分かりにくい個所などありましたらぜひコメント下さい♪



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ルイス家編
37話 メル×ノ×カゾク


イリアの“異空間アナザーワールド”を抜けると、メルが所有していた245階のフロアによく似た創りの空間が広がっていた。顔が映るくらい磨かれた白い石の床の上には塵1つない高級感のある深い青のカーペットが敷かれている。メル達が移動してきたのはルイス家の玄関であり、正面には巨大な大階段があり、天井には何個電球が使われている分からない程大きなアンティーク調のシャンデリアの柔らかい光が広い空間を照らしている。

ルイス家の主を待っていた黒服を来た部下たちは、両脇に綺麗に整列し声を揃えて頭を深く下げていた。

 

「おかえりなさいませ」

 

ゴンは圧倒されて目を終始輝かせていた。

「うわぁ!広い!!ここがメルの家なの??」

無邪気に笑いながらメルを見るゴンに、黒服達は少し眉間にしわを寄せる。自分たちが尊敬し忠誠を誓った主を呼び捨てにし、礼儀も弁えずはしゃいでいる子供を、どうしてやろうかと思いながらもすぐにその様な考えを取り払う。主の隣に立ち、その発言をルイス家の至高の存在であるウィリアムが何も言わない所を見て、ただの少年ではないとすぐに理解したからである。

 

「そう、ここが私の家。ゴンもゆっくりと寛いでね。修行するには休息も重要だからね」

「ありがとう!」

 

その会話を聞いてメルの部下はすぐに察した。主が弟子をとったと聞いて一体どんな奴だろうかと思い悩んでいたがあの様な子供を弟子にしたのか、と沢山の黒服と並んでいた3名は耐えきれなくなり列を乱してメルの元へと走ってきた。

 

「メル様!!まさか弟子がその様なガキ…、子供だったとは聞いておりません!!」

イルミとよく似た身長の金髪の男、名をレンと言い、5名いるメル直属の部下の1人である。赤い瞳をしているのが印象的で、忠誠的な顔立ちは男でありながら女性の様に美しい。

どこかクラピカを連想してしまう魅力的なその瞳を見てゴンはレンと目が合うも、すぐに目を背けられる。

 

「見たところ礼儀もなっていない様なそんな子供、メル様の品位を落としかねます」

濃い青の艶やかな長髪をし、眼鏡をしきりに直すこの男の名はレイ。メルの暗殺が無事に終える様作戦やプランを練っており、メル自身何度もレイの機転により助けられたこともありかなり信頼している。

 

「レイ、言い過ぎだよ。僕はフレッチャーって言うんだ。よろしくね」

満面の笑みを浮かべながらゴンに手を伸ばしたのは、茶髪の癖毛をした少年であった。年はゴンよりは上だが1番年が近いフレッチャーは、メルが選んだ弟子のゴンに興味津々であったのだ。

 

ゴンは「よろしくね」とその手を握り返した。

 

それを見ていたメルはゴンの肩にソッと手を置きレンとレイに目をやる。

「紹介するわ。この子はゴン!正式な私の1番弟子なの。レイもレンも、弟みたいに可愛がってあげてね」

主にそう言われてしまえば何も反対できず、2人とも渋々頷きながらゴンを見下ろしていた。

 

「礼儀や品位の話を持ってくるなら列を乱して走ってきちゃダメだよ?」

ラルは少し笑いながら話に参加してきた。

「気になる所はあると思うけど、メルが選んだ子だし信用してあげなよ?2人とも」

レンもレイも返す言葉がなく「すみませんでした」と声を揃えるも、レンはまだ何か不満があるのかある方向を見つめていた。

 

「メル様、なぜゾルディックであるこの男がいるのですか?」

その視線の先にはヒソカを担いだイルミが立っており、相変わらず何も表情を変えずに冷たい瞳でレンを見ていた。

 

「あぁ、そのことなんだけど」

口を開いたのはなんとウィリアムであり、レンは少し体を固くさせた。

 

「メルが随分イルミ君に世話になっていてね。いい機会だからわが家へお招きしたんだよ。ついでにキルア君とゴン君も招いて色々話を聞かせてもらえたらと思っているんだ。だからしばらくうちに滞在するよ。皆、失礼のないようにね」

 

それを聞き、メルの部下5人は目を丸くさせたのであった。主であるメルと幼い頃から仲が良く、口を開けば「イルミイルミ」と聞かされてきた為、主の気持ちを自分たちから奪った存在としてイルミには敵対心を向けている。そのイルミが数日間同じ空間にいて、しかも失礼のないようにもてなわなければならないこの屈辱的な状況に、5人は唇を噛みしめながらイルミを見るのであった。

 

レンは黙ってイルミに近づいていく。

メルはハラハラとした気持ちでそれを見ていた。

 

皆なにかとイルミに突っかかる節があったからなぁ。大丈夫かな?

 

レンはイルミの前まで行くと、今まで殺してしまいそうだった瞳が嘘の様に消え去り満面に笑みで「ソレ、お持ち致します」と言ったのだ。

 

「あぁ、コレ持ってくれるの?助かるよありがとう」

イルミは「よいしょ」と90kgはあろう男をレンに渡した。

「き、…君たち人をモノみたいに扱わないでおくれよ」

ふらふらのヒソカが呟くもレンは無視して肩に担ぐ。

 

「もうすぐ日が暮れる。今日はゆっくり休んで、明日茶会でも開いて色々と話をしようイルミ君、キルア君、ゴン君。申し訳ないが僕は仕事があるから今日はここで失礼させてもらうよ。後は頼んだよエル、ラル。」

そう言ってウィリアムは数名の部下を連れて屋敷の奥へと姿を消した。

 

いつの間にか祖父ハクと祖母ミラの姿もなく、2人も各々自分の仕事に向かったのだろう。

エルは咳ばらいを1つしてイルミ達を客間へと案内した。

 

長い廊下を歩いていると、少年組のキルア、ゴン、フレッチャーは仲良くきゃっきゃっと盛り上がっていた。元々キルアとフレッチャーは共に修行を積んだこともあり仲も悪くはなかった為久しぶりに会えた修行仲間との時間を楽しんでいた。

 

3人とも楽しそうでよかった。ゴンならすぐにフレッチャーと仲良くなれると思ったんだよね!!……問題なのは……。

メルは相変わらずイルミに敵対心を燃やす5人の部下を見てため息をついていた。時折抑えきれずに殺気も漏れているがそんなの全く気にしていない様子のイルミは流石と言わざる負えない。

昔から何度言っても距離が縮まらなかったから今更何を言っても無駄なのは分かるが、どうにかして仲良くなってもらいたいものだ、とメルは肩を落とすのであった。

 

案内された客間はフカフカの青いソファにアンテーィク調のローテーブルが置かれてある。部屋を彩る家具は値段が付けられない国宝級のモノまで置かれており、価値が分からないゴンにはただ綺麗な空間だという認識しかなく、容赦なくフカフカのソファにダイブをしていた。

 

「うわああ!フカフカだぁ!!」

ゴンに続き、キルアもフレッチャーもソファに座り話を続きをし始めていた。

 

「全くこれだからガキどもは」

ボソッとレイの口から洩れた言葉にイルミはギロリと視線を向ける。

「うちのキルアに何かしたら許さないからね?」

クリンと首を傾げるイルミを見据えて「分かってるよお前の弟馬鹿なところは」とレンが口をはさむ。

レンはドサッと別のソファに奇術師を置き、首を鳴らしながらメルの傍へとやってくる。

 

「部屋の準備を今忙している。ここでしばらく待っていてくれ」

エルもソファに腰を下ろして、部下に入れさせた紅茶を啜る。

 

ローテーブルにルイス家兄弟と、客人であるイルミ達にも紅茶が配られて、バターと蜂蜜を溶かして固められたタフィーも用意されていた。甘いモノに目がないキルアはそれを見てパクッと口に運ぶと「うめぇ~!」と言いながら次々に口に頬張っていく。

 

「メルの家に何度か来た事あるけど、毎回このお菓子出してくれてただろ?これが忘れられなくてさぁ!」

そう言いながらまた1口小さな口の中に運ばれる。

 

「そんなに好きなら作り方教えてあげるよ。キキョウさんに言っておくからゾルディック家で作ってもらいなよ」

キキョウの名前を出した途端うんざりとした表情になるキルアを見てメルは苦笑いする。

 

「これ俺も好きだったんだよねー。メル、母さんにちゃんと教えといてね?」

キルア同様に甘いものに目がない男がもう1人、口の中いっぱいにタフィーを頬張っていた。

 

2人が物凄い勢いで食べつくしても、決して茶菓子を切れさせない様にルイス家の部下達は次から次へとお菓子を運んでくる。

「2人とも食べ過ぎだよ」と呆れ顔のメルの口にイルミは、タフィーを1つ放り込む。キャラメルの様な甘さが口の中いっぱいに広がっていく。メルの口の中にイルミの細長い指先が少し触れ、ゆっくりと引き抜くと銀の糸が繋がっていた。イルミはその指を舌を出して舐めた。

 

「おいしいでしょ?」

顔を真っ赤にさせながらメルは「う、うん」と頷いた。

 

それを見ていたエルとラルはぴしゃりと固まり、5人の部下たちは運んできたお菓子を床に落としガシャンッという金属音が静まった空間に響き渡った。

 

エルの咳払いで全員何事も無かったかのように動き出した。あくまでイルミはおもてなしの対象。ウィリアムの命令は絶対だ。喉元まで出かかっていた暴言、罵声の数々をなんとか堪えて飲み込んだのだ。

 

キルアはそれを見て苦笑いをしながらイルミを見ていた。

ルイス家も大変だな。

にしても兄貴、やっぱりメルのこと気になってるのか?でもあの兄貴に限って誰かを好きになるなんてそんなことあり得るわけねぇか。多分メルは大事な弟子だからってだけでそれ以上でもそれ以下でもないだけなんだ。

 

そしてキルアは再びお菓子を詰めるのであった。

 

「イルミ、キル、ゴン。待たせてすまないな。今部屋の準備が出来たそうだ」

「全然いいですよ!」ゴンは笑いながらどんな部屋なんだろうとわくわくした面持ちでエルを見ていた。

「キルとゴンは一緒の部屋にした」

「エル兄さすが!分かってるね!」

キルアはヒューと口笛を鳴らしてゴンとハイタッチをする。

「イルミの部屋はキルとゴンの隣の部屋だ。その隣にヒソカの部屋も用意した」

「ん?俺メルの部屋で寝る予定なんだけど」

クリンと首を傾げるイルミを見てエルは眉を顰める。

「そんな予定などない。俺が直々にお前の部屋まで案内してやる」

そう言ってエルはイルミを引きずる様に出て行った。

 

無表情で引きずられる様はなんともシュールなものでメルは笑いながらイルミに手を振った。

「また明日ねイルミ」

 

イルミが何か言いかけたが、エルに引きずられて扉の向こう側へと行ってしまった為聞こえなかった。

しばらくここにいるしまた明日聞けばいいか。

メルはキルアとゴンを連れて部屋まで案内し、また明日と言って部屋を後にした。

 

ようやく自室へと戻ると、懐かしく落ち着く香りがスゥと鼻を擽る。至る所に白い薔薇が飾られており甘いフローラルな香りにホッと胸をなでおろした。

 

括っていた髪を解き、チャイナ服を脱いでそのまま自室のシャワールームに入った。シャンプーもトリートメントもルイス家特性の摘みたての白薔薇を使っており、売り出そうとラルが言い出して市場に並ぶと注文が殺到し今では世界一手に入りずらい高級シャンプー、トリートメントなのだ。メルはそれを惜しげもなく念入りに洗っていく。ヒソカとの戦闘中に擦り傷や内臓の損傷があったが全てリリーの念能力によって回復しており、鏡に映る自分の体には傷1つない。

 

泡を綺麗に流し終え軽く水けをふき取りキャミソールタイプのワンピースに袖を通した。そしてメルの体の何倍もあるキングサイズのフカフカのベッドに体を預け枕を抱きしめた。

 

ハンター試験が終わって、天空闘技場でゴンやキルアに念を教えて、イルミと新技を作って、ヒソカと戦って……

短期間のうちに色んなことがあったなぁ。

やっとゆっくりできる。

私はどこでも眠れるけど気を許して無警戒で眠ることはできなくて、どこか気が休まらなかった。

今日はしっかり眠らないとね。

髪の毛乾かさないといけないのに……

あぁ、駄目だ。もう起きれない。

「またイリアに怒られる……」

でもまぁいいか。今日は大目に見てくれるだろう。

 

メルは重たい瞳を閉じた。

それからしばらくしてベッドの軋む音がして目が覚めた。

熟睡してしまっていたから頭がまだぼぅっとしていたが、気配で誰がやってきたのかすぐに分かった。

「…んー、イルミなにしてるの?」

ベッドに入ってきたイルミは、白いチャイナ服を着て1つに結っていたゴム紐を外している所であった。ふわっと白薔薇の香りが広がりメルの鼻にまで届いた。

 

「あのシャンプーとトリートメントいいね。見てよ、髪がつやつやになったよ」

そう言いながら目の前に垂れている長い黒髪に触れると、確かに前よりも潤いが増してしっとりとした様だ。

 

「あれ私が育てた白薔薇を加工して作ったのが始まりなんだよね。出来がよかったからラル兄様が商品化してるけど、今じゃなかなか手に入らないんだよー。でも、定期購入するなら何%かおまけして安く売ってあげてもいいよー」

「じゃぁお願いしようかな」

 

そう言いながらイルミの長い両手はメルを包み込む様に伸びてきて華奢な体はすっぽりとイルミの胸に収まっていた。エルにあれだけ言われていたのに、自分の所に来たということは、イルミに何かあったんじゃないかと思い急に心配になってきて、ふとイルミの顔を見上げた。

「どうしたのイルミ」

 

イルミはいつも通り無表情で、表情からは何も読み取れない。

長い睫毛に影を落としながらイルミはぼそっと呟いた。

「眠れないんだ」

「……眠れない?」

「眠れるのは眠れるんだけど、心から落ち着いて眠れない。メルだってそんな経験あるだろ?ここはメルにとって落ち着く場所かもしれないけど俺にとっては敵だらけの場所なんだよ」

 

ゾルディック家とルイス家は、協定を結んで今は協力関係にあるが、昔は依頼が被れば命をかけて殺し合いをしてきた敵同士の家柄だ。しかもその敵の屋敷の中に1人でいれば眠れないと言うのも理解でき、イルミに申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。自分の部下は目の敵にするし、兄達もイルミを気にかける様子は全くないことから見ても、表情一つ変えないイルミだが心の中ではやはり不安な気持ちがあったのであろうとメルは推測した。

 

「いいよ一緒に寝よう」

そう言ってメルもイルミの背に手を回すと、先程よりも体が密着してイルミの熱を感じ取れた。普段は冷たく見えるが、温かくて、心地よくて、メルの瞼は一気に重たくなっていく。メルは5分も経たないうちに深い眠りへと落ちていく。

 

イルミが私を頼ってくれた。

そう言えば私といると落ち着くってハンター試験の時にも言ってくれてたなぁ。

私もイルミと一緒にいるとどこにいても落ち着いて眠れるんだよ。

いつか自分の気持ちを伝えたい。

匂いも、この温かさも、優しさも、強さも、美しさも全てが愛しく感じる。

イルミが好きだって素直に言いたい。

いつか

いつかきっと。

 

 

規則正しい寝息を聞きながらイルミも瞼を閉じる。

メルといると本当に落ち着く。

いつも俺を受け入れてくれる。

暗殺ばかりの毎日に、色がなかった毎日に、彩をくれたのはメル。

新しい感情を教えてくれたのもメル。

お前はいつも俺にないモノを与えてくれる。

あぁ、今日は眠れそうだ。

 



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38話 ウィリアム×ノ×憂鬱

窓から入る日差しを浴びてもメルとイルミは起きず、時間になっても起きてこないメルを起こしにやって来たイリアの叫び声でようやく2人は目を覚ました。

 

その後イルミとメルは、エルとラルにこっぴどくお説教をされる羽目になったが2人はどこかスッキリした表情であった。久しぶりに熟睡できた為体は軽く頭も冴えている。説教されたとは思えない程清々しい表情をしている二人を見てエルはため息をつき「もう行っていい」と言いようやく解放されたのだ。

 

「怒られちゃったけどすごく眠れた~」

うーんと背伸びをするメルを横目にイルミも「俺も」と呟いた。

心なしかいつも真っ白なイルミの顔色もどこか血色がよく見えた。

 

「今日はお父様も来るお茶会があるから服着替えなきゃね。まだ寝間着だし」

「俺何も服持ってないんだけど」

「それはこっちで用意するから大丈夫だよ!キルやゴンにも用意してあるんだ~」

「ふうん。メルはどんな格好なの?」

「青いドレスでね、腰の所がキュッて閉まっててスレンダーラインの綺麗な服なの!まるで星空みたいな服でお気に入りなんだけどね、それに合わせて3人の服も用意したの!多分イルミの部屋にもう置かれているんだじゃないかな」

「そうなんだ。じゃ俺着替えてくるよ」

 

それぞれ自室に戻り服に袖を通す。メルは長い髪を編み込んだお蔭でメルの細い首が更にスッキリとして見えていた。耳に服と同じ濃いブルーの宝石がはめ込まれたイヤリングをつけて準備完了。

 

「メル様綺麗!!」

「大変よくお似合いです!」

リリーとイリアが主の美しさに目を輝かせていると、ドアをノックする音が聞こえた。入って来たのはイルミで、濃紺のスーツを綺麗に着こなして、メルと同じ生地のネクタイをつけていた。

 

「わぁイルミ!!思った通りよく似合ってる!!」

「メルこそ綺麗だよ」

 

メルは少し照れながらもイルミの隣を歩き、茶会が開かれる中庭へと足を運んだ。

その様子を見ていたリリーは「はぁ」とため息を零す。

「イルミって、性格はあれだけどビジュアルだけはいいじゃない?ほんと嫌になるわ。2人が並んでるのを見たらお似合いだって、つい思ってしまった自分を殴りたいわ」

それを聞いてイリアはフッと笑みを浮かべた。

「私もだよ」

2人は少し距離を取りながらメル達の後を歩いた。

 

 

中庭には美しい花が咲き誇っており、白いテーブルを囲む様に椅子が配置されている。既にウィリアム、エル、ラル、キルア、ゴンは席についており、イルミとメルを見てその場にいた者は目を奪われる。

「わぁ!!メルとっても綺麗!!!俺たちと同じ柄の服だぁ!」

ゴンとキルアが来ているのは、メルと同じ生地のサスペンダーに、首元には濃紺のリボンが留められている。

 

「ありがとうゴン。2人も似合ってるね!せっかくだからお揃いにしちゃった。ゴンとキルアにあげるから、パーティや正装が必要な所に行くときに使って?」

「ありがとうメル!!」

「サンキュー!」

キルアもどうやら気に入っている様でゴンと一緒にはしゃいでいた。

 

テーブルには無類の甘いモノ好きな客の為に沢山の菓子が用意されていた。3段式のティースタンドにはスコーンやクッキーやマカロンなど色鮮やかなスイーツが並べられており視覚的にも十分楽しめる様工夫されている。キルアは早く食べたくてズズッと涎を啜っている様だ。

 

その様子を見てウィリアムはクスッと笑みを浮かべる。

「それじゃぁ茶会を始めようか。スイーツは気兼ねなく好きなだけ食べていいからね」

ウィリアムのその言葉を聞いてキルアはパクッとマカロンを手に取り口に頬張る。舌を唸らせながらゴンとどちらが沢山食べられるかという競争をしている様だ。

 

ウィリアムは早速イルミがメルにどんな修行をつけたのかを訪ねた。メルの念能力は特殊なモノばかりで誓約と制約や条件などが複雑に細かく決められていることが多く、命に繋がる力もある。その為父としては娘の能力を把握しておきたいという気持ちであったのだ。

 

「まずは、今ある念能力の欠点を全て書きだしたんだ。そしてそれをどうすれば補えるのか、具体的に詰めていったんだ。今ある能力の条件を変更することはできないことが分かって、いっその事新しい念能力を創りだした方が早いという結果にたどり着いて、そこからは早かったよ。俺は今ある能力との相性が良い能力を考えるのを手伝ったくらいかな。後はメルのイメージ力と念のセンスが凄かったからたった1か月で新技ができちゃったってわけ」

 

「いやイルミのお蔭だよ。客観的に指摘してくれなかったら自分では気づけなかったからね」

「まぁメルって実は凄いのにたまに抜けてるところあるからねー。能力を創る時誰かついてなきゃ、変な条件の能力創られるのも嫌だしねー」

 

「またってことは、他の念能力を創った時もイルミがいたの?」

ゴンは首を傾げる。

「私に念の基礎を教えてくれたのはイルミだからね。そのまま発も一緒に作ったの。“神の略奪者(テオスプランダラ)”はイルミと創った能力なんだよ」

「俺が仕事から帰ってから条件を決めるって約束だったのに、メルってば待ちきれなくて1人で勝手に条件決めちゃってさ、ややこしい条件だし傷を作ったら能力発動できないし、ほんと困ったもんだよ」

「だって想像してたら創る工程に入っちゃっててもう止められなかったもん」

「言い訳だね」

そう言ってイルミはフォークでぷっつりと突き刺したマカロンをメルの口に運び黙らせた。これ以上言い訳は聞きたくないよと言っている様で、メルは慌てて口を噤む。

 

「今回はどんな条件があるんだ?“傲慢な絶対君主(リベラロード)”と言ったか、あれはかなり強力な念能力だ。拘束する力も申し分ないし、それに相手のオーラを吸い取るなんて……。また変な能力を……」

エルはズズっと紅茶を啜る。

 

「変な能力ってカプのこと?自我を持ってるから今の聞いたら怒ると思いますよ兄様。…“傲慢な絶対君主(リベラロード)”はオーラの消費が多いくらいで特に条件はないの。オーラの消費が激しくても相手のオーラを吸い取ることができるから私には負担がかからないし凄く便利な能力なの!」

 

「ほぅ。それは凄いねメル。条件を決めるのが念能力を創る上で悩むところなのにそれが実質こちらの負担が0で扱うことができるのはかなり凄いことだよ」

父に褒められてメルは嬉しそうに微笑んだ。

 

やはりメルはルイス家始まって以来の逸材だと、ウィリアムを含めエル、ラルも再認識した。そしてメルの才能を引き出しているのは間違いなくイルミであるということにも、3人は気づいていた。恐らく、他の者がいくらアドバイスしても、どれほど有能な能力を創るまでには至らなかったであろう。ゾルディック家で培ってきた知識とセンスが、メルに良い方向で影響を与えていたのだ。

 

ウィリアムは益々イルミ・ゾルディックという人間に興味を惹かれた。良きライバルであるシルバの息子であり、今やシルバにも迫る勢いの業績を上げているゾルディック家長男のイルミ。不運なことにゾルディック家頭首として認められる銀の髪ではないものの、その腕はかなりのモノだ。そればかりか、メルにも好意的で良い影響を与えてくれている。だが、それら全ては外面だけであってイルミ自身を知ったことにはならない。もっと彼のことが知りたい。ウィリアムは前のめりにイルミに話しかけた。

 

「メルの修行を見てくれたイルミ君の手腕はかなり高く評価しているよ」

イルミはペコっとお辞儀をする。

 

「そうそう、話は変わるんだけど……。イルミ君ってそろそろ24歳だったね?もう婚約の話とかきている頃じゃないか?」

メルは父の言葉を聞いてフォークを落とした。

 

こ、婚約の話!?

そんなの聞いてない!!

勢いよくイルミの方を見ると表情一つ変えずに「うん。きてるよ」と答えるのだ。

 

メルは開いた口が塞がらず、ぽかんとしてイルミを見ていると、食べ物を催促していると思ったイルミは、メルの口に沢山お菓子を詰め込んでいく。

「そんなに欲しかったの?ほらいっぱいお食べ」

「もぐもぐ、あっ、これすごく美味しいね!……じゃなくて!イルミ婚約するの!?」

「わ、メルってば食べながら喋らないの」

イルミはナプキンでメルの口を優しくふき取る。

 

するとラルが笑いながら答えた。

「メルは知らなかったのかい?イルミには引っ切り無しに婚約してほしいだのなんだの書いた手紙が沢山送られてきてるよ?」

「まぁ全部破り捨ててるけどね。あれは母さんが勝手にやってることだし」

 

イルミはフォークでマカロンをブッスリと突き刺しながら淡々と話す様子を見て本当に興味がないんだ、とメルはほっと胸をなでおろした。

 

って、安心なんかしてる場合じゃない!だってイルミ好きな人がいるらしいし、……いやヒソカの言う事を信用していいのかな。……でも、“拘束する戒めのリング”を使ってるから嘘はつけない。キキョウさん絡みで、婚約の話が沢山きてたってことは間違えなく相手は暗殺者の家系かそれに属する人だ。仕事場であったりしたのかなぁ、あぁ、誰だろう。暗殺者の人なら私も相当詳しいし、多分名前を聞いたら知っていると思うんだけどなぁ。

 

するとキルアが笑いながら口をはさむ。

「メル、ババアが紹介する相手なんざろくな奴がいなかったぜ?死体愛好家に猛毒使い、人間の指だけを集める変な趣味の女とかな!」

 

キルアはメルが自身の兄に好意を寄せていることに薄々気付いており、少しでも不安を取り払おうとイルミに婚約を申し込んだ女がいかに酷かったかを語る。すると、自分ばかり言われいたのでは面白くないと、イルミも饒舌になっていく。

 

「キルアにもきてたじゃない。ゾルディックやルイスには及ばないけど有名な暗殺名家の令嬢とかね。体中を糸で塗ってる人もいたね。あ、そうそう。母さんってばキルがまだ子供なのに30歳の人を見合いさせようとしたこともあったねぇ」

 

「わっ、嫌なこと思い出させないでくれよ!!」

 

ゾルディック家兄弟の浮ついた話を聞いてメルは再びぽかんと口が開いていく。

驚いたな、まさかこの2人からこんな話が聞けるなんて。しかも2人はモテている!!いやそうでなきゃ可笑しいよね。

だってキルアはまだ子供だけどゾルディック家が期待している将来有望な子。イルミは綺麗なビジュアルだし暗殺も超一流なプロ。既にゾルディック家になくてはならない主要人物になってるし…、この2人は暗殺を生業とする人なら逃したくはないだろうね。

それに比べて私はー……今までそんな浮ついた話が1つもない!!!!

 

ゴンは「もちろんメルなら沢山そんな話があるんだよね?」と無垢な瞳で私を見ていた。

「うぅ……私そんな話一切ないんだけど……」

この2人の後に私に振らないでよゴン!!!

 

 

「えぇ!?」

「いやメルに限ってそんなことないだろ!?」

キルとゴンは驚いて口からポロっとクッキーが零れ落ちた。

 

そう言われても生まれてから1度もただの手紙でさえもらったことがない。暗殺者の娘に好意を寄せる者は少ないんだと思ってたけど、キルアとイルミの話を聞く限りそうでもないっていうのが分かった。つまり私自身にただ興味をもたれていないということ。

なんだか恥ずかしい。

イルミとの差がこれだけ明確に分かってしまうと嫌でも距離を感じてしまう。

 

 

「何落ち込んでるのメル。エル達がもみ消してるに決まってるでしょ?」

「へ?」

「毎年メルの婚約者に立候補する奴が多すぎて、ルイス家に裏で消される奴も少なくないって話もあるんだよ?」

 

なっ、何その話!?初耳なんだけど!?しかも消してるの!?

ちらっと兄エルを見ると、首を振りながら「俺じゃないよ」と言う。

 

その横に座る父ウィリアムに目を向けると、「そう、僕だよー」と満面の笑みを浮かべていた。

犯人お父様だったの!?

なんでそんなことを…!!

 

「僕が鄭重にお断りさせてもらっているんだ。それにまだ1つもいい話が来ていないから、メルまで話が下りてないんだよ。僕もいい人がいたら1人や2人、メルに紹介してあげたいんだけどねー、相応しそうな人がまだ見つからないんだ。たまに礼儀を知らない奴がいるから何人か消したことも確かあったねぇ」

 

そう、ルイス家の中で1番メルに執着しているのはルイス家の大黒柱、ウィリアムなのだ。娘を大事に思うばかりに、少しでも娘に近づこうものなら依頼もなれていないのに殺してしまう程の子煩悩なのだ。これにはエルもラルも呆れ笑いを浮かべている。

 

「父様!やりすぎです!いくら何でも消すことはないですよ!」

「何を言っているんだい。大事な娘に汚い手でちょっかい掛けようとしたんだよ?メルを傷つけるのが目に見えて分かる。そんな奴は消えて当然だよ。ね?イルミ君」

青い宝石瞳と黒い瞳が視線を絡める。

ウィリアムは、愛娘を傷つける様な真似をすればいくらメルが慕っていても消すよ、という意味も込めてにっこりと微笑んでいた。

イルミが答える間もなくウィリアムは続ける。

「そうそう、イルミ君はメルにどんな人が合うと思う?」

 

エルはイルミに視線を移しながら少し同情していた。

父さんも本当に人を試すのが好きだな。イルミがメルの事を好いていることくらい分かっている筈なのに。父さんはイルミに釘をさすつもりなのか?

 

イルミは相変わらず表情一つ変えず淡々と話す。

「メルを守れるくらい強い人であるのが絶対条件だよね。しかもメルって抜けたところがあるからそれをカバーしてあげられるような機転が利くやつじゃないといけない。そして俺たち暗殺一家に求められるのは非情さ。暗殺者にとって1番は仕事を達成すること。不自由な二択を迫られた時、そこに感情なんか必要ない。仕事をクリアする為に他者を切り捨てられる非情さが重要になってくる。それに、命を刈り取る時に躊躇う様じゃ仕事はおろか、何も守れない」

 

その言葉を聞いてメルはイルミらしいなと納得した。

確かに仲間が敵に捕まったとしてもなにより優先されるのは依頼を達成すること。敵に捕まれば、それは自分の修行が足りていなかったということだ。つまりは自業自得。その時に容赦なく仲間を捨てられる程の非情さが重要だっ、てイルミは言っているんだ。

 

ウィリアムは怪しげに笑みを浮かべている。

「やはり君はゾルディック家の様だ。君のその淡々とした口調に表情、相手に自分の考えを悟られない様かなり訓練しているね?まるで君は熱を持たない人形みたいに冷たく、そして非情な人間だと理解したよ。メルは君を師としてかなり慕い、信頼している用だけど父親としては少し心配なんだ。君の様な人間がメルに今後どう影響を与えるか、ね」

 

 

父のその言葉にメルは胸が締め付けられる様に痛んだ。膝の上で震える指を片方の手で強く握りしめた。

なんなの、……自分からイルミを招待しておいてなんでイルミを責めるようなことを言うの?

イルミが冷たくて、非情?

……違う。

イルミは優しくて暖かくて、……普段何事も無いように振舞っているけど実はとっても繊細なんだ。

私がつらい時に傍にいてくれて落ち着くまで抱きしめてくれるんだ。

きっと私やキルアが捕まったりピンチになった時は、非情な選択を選んだとしても仕事もクリアして最後はきっと助けてくれる。

それがイルミなんだ。

今まで私がどれだけイルミに救われてきたか。

きっと今も何ともない顔してるけど傷ついてる。

 

 

「のに……」

「?」

「何も知らないのにそんなこと言わないで!!」

普段温厚なメルの怒鳴り声にその場にいた全員驚き視線がメルに集まった。

 

すると、大きな目に少し涙を貯めてイルミの手を握って走り出した。

「父様の馬鹿!!!」

捨て台詞まで残して去っていく愛娘の後ろ姿を見てウィリアムは石の様に固まった。顔面蒼白で、ウィリアムは柄にもなくたらりと冷や汗を流していた。

 

「……エル。どうしよう、メルが、メルが僕に馬鹿ってっ、馬鹿って」

ウィリアムは初めて愛娘が自分に反抗したことに驚き、両手で顔を覆った。

 

「意地悪をするからです」

「それにしてもあんなに起こったメルは初めて見たなぁ。父さん、嫌われちゃったかも」

それを聞いてウィリアムは更にフリーズするのであった。

 

 

 

 

 

 



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39話 喧嘩×どきどき×謝罪旅行

 

庭を駆け巡りたどり着いたのは白い薔薇が咲き誇る美しい庭園であった。

握っている手から、メルが震えているのが分かったイルミは、「メル?」と呼びかける。

 

メルは、ポロポロと涙を流しながら振り向いた。

イルミはハンカチでメルの涙をふき取るも、次々に溢れてきて止まる気配はない。

 

「こんなにイルミは優しいのにっ!……父様は何も知らないのにあんなことっ、酷すぎるよ」

「それで泣いてるの?」

メルは小さく頷く。

 

イルミは右手を口元に当てる。

どうしよう、メルが可愛すぎる。

メルにとって、ウィリアムは絶対の筈。そのメルが反抗するなんて思わなかったな。

 

「冷たくて非情だ、だなんて酷い!!まるでイルミに心が無いみたいな言い方だもん!!」

「うん」

「イルミは修行で感情を表に出さない様に訓練してるからそう見えるだけで、心もあるのに何で同じ暗殺者だった父様があんな言い方できるの!!」

「うん」

「心が無いのは父様の方だよ!!」

「うん」

「しかもイルミが私に悪い影響を及ぼすみたいにも言ってたでしょ?もううんざりだよっ、縛られるのも、大切な人を悪く言われるのもっ!!そう思うでしょ?」

 

するとイルミはメルの頬を両手で包み込み、小さな唇に自分の唇を重ねた。

「…へっ?」

ちゅっと小さくリップ音がした軽いバードキスは、メルを落ち着けるには十分だった。

 

「イル…ミ?」

睫毛が触れるくらいの近距離で、イルミの黒い瞳に反射した自分が見えた。

「落ち着いた?」

「へ?あぁ、うん」

気付くと涙は止まっていた。

 

って今何された!?

イルミは何事も無かったかのように平然としている。

…キス、されたよね?

 

「人って突拍子もないことをいきなりされたら驚いて落ち着くんだよね」

あ、落ち着ける為にしたのか、って……私初めてだったんだけどな。

段々恥ずかしくなってきて、イルミの顔がまともに見れず目線を反らした。

 

「メル、あんなことで反抗しても良かったの?父さんのこと大好きだったじゃない」

「もういいよ。父様のことは尊敬してるし、大好きなのは変わりないけど、イルミにあんなこと言うのは許せない」

そう言いながら、少し頬を膨らせるメルを見てイルミはスッと目を細める。

 

「イルミもうしばらく休みある?」

「うん、あと4日くらい空いてるよ。エルに仕事丸投げしちゃったからね」

「せっかく家にまで呼んだのに嫌な思いばかりさせてるからお詫びさせて?」

「お詫び?何かしてくれるの?」

 

「ルイス家が経営している超高級サロンに行かない?イルミの髪を今以上に磨き上げて、全身の疲れが取れるマッサージもつける!それからルイス家御用達の超高級レストランで食事。どう?」

「うん、それ凄くいいね」

「決まりだね!!」

 

メルは着替えを取りにイルミと屋敷の中へ入ろうとすると、ラルが手を振りながら歩いて来た。

「ラル兄様……。私謝りませんよ」

 

顔を見るなり、目線を反らされたことに少し落ち込むラルであったが、すぐに笑顔を向けた。

「ハハ、父さんは相当怒らせてしまったみたいだね。別に父さんの肩を持つわけではないけど、メルの事を心配してるのは分かってあげてね。それに、父さんはイルミの事をかなり高く評価してたんだよ?じゃなきゃ、まずメルと近づけさせないから。父さんって、人を試すのが好きな人だから、イルミの反応が見たかったんだと思うよ。まぁ、言い方はアレだけどね」

 

「それにしたってあんな言い方は酷いと思うの。兄様、私イルミと外に出るからしばらく放っておいてって伝えて置いて」

「え!?今から!?」

これじゃぁ家出する様なもんじゃないか、とラルは慌ててメルを止めようとするも、メルの意思は固く、ラルはあたふたとしながら手をこまねいていた。

 

これはかなりまずいな。このまま行かせたらいつ戻ってくるか分からないし、メルが本気で姿を眩まそうとしたら、ルイス家の誰も痕跡がつかめない。ここは食い下がるわけにはいかない。

 

「イルミもなんとか言ってくれよ!」

「んー」

「頼む!お前から言ってくれたらメルも納得すると思うし!」

その言葉にメルはため息交じりにラルを見つめる。

「兄様、これ以上イルミに迷惑をかけるのはやめて下さい」

 

う、このままじゃ俺まで嫌われちゃうよ。

ラルは潤んだ瞳でイルミに助けを求めると、深いため息をついて今まで黙ってみていたイルミが「貸しだよラル」と呟いた。

 

「メル、お詫びの旅行に連れて行ってくれるのは嬉しいけれど、ルイスの誰とも連絡を取れなかったら少し厄介なことになると思うんだよね」

「……厄介なこと?」

「想像してもみてよ。メルの居場所がわからなかったら、あの心配性達は恐らくメルや俺に監視をつける筈だよ。ずっと見られるのも気が休まらないじゃない?」

 

確かに。というか絶対にそうなる。

「んー……それもそうだね。兄様、携帯は持っておくから付いて来るようなことはしないで下さいね?それと!」

「な、なんだい?」

これ以上最愛の妹に嫌われたくないラルは、にこにこと笑顔を作る。

 

「父様に伝えて下さい。イルミに謝罪するまで私は家に帰りませんって」

「メ、メル?それはちょっと難しいんじゃー…・…」

 

兄様の言う通り。父様は、表の世界ではかなりの有名人で絶大な権力を持っている。色んな国のトップとも有効な関係を築いているし、父様の言葉次第で財界や政界が動く。それ程の立場の父様が一個人に頭を下げ、謝罪をするなんて普通ならばあり得ない。でも、人として謝るのは当然のこと。それに、イルミには昔からお世話になっているのを、父様も理解している筈なのに、やっぱりあの言葉はいただけない。

 

「私はそれくらい怒っているってことです。では失礼します兄様」

メルは振り返りもせずにラルに背を向けて部屋の中へと入っていく。

 

ラルは頭を抱えながら壁に寄り掛かった。

「あぁ、父さんになんて伝えよう」

元々陶器の様に白く美しい肌は、血の気が引いたことで青ざめていた。

 

「んー、そのまま言うしかないんじゃない?メル、かなり怒ってるし」

「いや、そうなんだけどねー。あぁ、僕もメルに嫌われたかなぁ」

「……」

 

心配するところそこなの?本当にこの家は妹馬鹿の集まりだ。つくづく変わった奴ばっかりだな。そんな捨てられた子犬みたいな目されても困るんだけどなぁ。

 

「イルミ、僕たちはしばらくメルに近づけない」

「はいはい、分かってるよ。面倒を見ろってことでしょ?本当にエルもお前も、俺を何だと思ってるんだか」

まぁ、俺にとっては好都合なんだけどね。

メルを独り占めできるし。

 

「お前ねぇ、この状況ラッキーだと思ってるでしょ」

「んー、まぁね」

 

ラルは更に深いため息をついてイルミを見た。

まぁイルミ程この状況での適任者はいない。メルに何かあっても、イルミなら絶対にメルを見捨てない。もし見捨てる様ならその時は……。

深い青の眼光がギラリと光を帯びる。

 

すると、5分も経たないうちにバックを持ったメルがやって来た。メルはドレスから白いチャイナ風ワンピースに着替えていた。

 

「イルミお待たせ。じゃぁね、兄様」

「メル、気を付けるんだよ?知らない人にはついて行っては駄目だよ?もし何か困ったことがあったら、迷わず連絡するんだよ?」

「兄様、私もう20歳です!そんなに心配されなくても大丈夫ですよ」

と言っても、ラルの心配は止まりそうになく、最後メルは「分かりました」と言い、ルイス家を後にした。

 

 

メル達が向かったのは、ルイス家所有の島、シェラードアイランドと呼ばれる観光地であった。

 

この島にあるモノは、全てルイス家が経営、販売しているモノばかりで、旅行したい場所ナンバー1にも選ばれているのだ。

島に来る旅行客は、富裕層から貧困層の客まで全てが楽しめる様工夫されており、島には絶えず様々な人間が足を運んでいる。

 

島へ向かうには、ルイス家が経営する空港から飛行船に乗るか、港から就航している客船に乗船しなければならない。だが、ルイス家の人間であれば、一般客と相乗りせずとも、そのまま島へ直行することができるプライベートジェットがあるのだ。

 

「ルイス家が経営するモノの中でもここってかなり人気の場所だよね。1度行ってみたいと思っていたんだよねー」

イルミはジェット機の中で服を着替えており、青いチャイナ服に白いズボンを履いている。以前、天空闘技場でイルミにチャイナ服を着せた時に、あまりにも似合っていた為、こっそりと用意していたものなのだ。

 

やっぱりイルミにチャイナ服は必須アイテムかもしれない!!

似合い過ぎている。

今度は明るい色も試してみようかな。

 

「ねぇ、聞いてるの?」

「いはは」

メルの頬をキュッとつまんだことで、ハッと我に返ったメルは「はっち」とサロンの場所を指さした。

 

「なんだ、すぐ近くじゃない」

「海も見えるし、眺めは最高なんだよね」

 

サロンに付くなり、経営責任者が慌てて出てきて、プライベートルームでの施術を受けることとなった。急遽用意されたのにも関わらず、部屋の手入れは手を抜いておらず、さすが末端とはいえ、ルイス家が経営しているだけはある。

 

ベッドが二つ用意されており、目の前は一面ガラス張りで美しい海が広がっている。部屋は薄暗いが暖かい照明ランプがぼんやりと燈っており、優雅で落ち着きのある音楽ともマッチして、視覚や聴覚的にもリラックスできる空間になっていた。

 

2人ともベッドに横になり、プロの施術師に施術を受けること2時間。全身の筋肉を解され、ついでに肌もピカピカに磨き上げられており、2人の長い髪の毛も、艶やかに光を帯びていた。

 

「う~ん、気持ちよかったぁ」

すると、施術師たちは横一列に並び、深々とお辞儀をする。

「お嬢様、大変お美しゅうございます」

「突然来たのにありがとうね」

 

ルイス家の人間を施術したということは、この施術師たちにとって誇りであり、尊敬する絶対的主に褒められたことは、光栄なことであるのだ。

「いえ!!あっ、ありがとうございましたぁあ!!!」

 

お礼を言わないといけないのはこっちなんだけどね。

メルは苦笑いしながら、店を出ると、ツインテールの金髪の女の子に声をかけられた。

 

「なんて綺麗な髪!?それに磨き上げられたもちすべのお肌!!!!!あんたたち!!!何者なのだわさ!!!!!」

メルとイルミは顔を見合わせてまた視線を女の子へと移す。

なんて答えようかと言葉を選んでいると、すかさずイルミが口を開いた。

 

「人に聞く前に自分から名乗るのが筋だよね」

「まぁそれはそうだわさ!!あたしはビスケ!!この島で、サロンを開いてるのよ。あんたたち、もしかしてあのルイス家が所有すると言われる超高級サロン“シファ”に行ったんじゃないでしょうねぇ!!!」

「そうだけど?」

「きゃあああああああああ!!!私あそこ1年待ちなんだわさ!!どんな施術だったのか教えてー!!」

 

きゃっきゃっと目を輝かせるビスケを見据えてイルミは首を傾げながらメルを見た。

「じゃメル行こうか。こんなの相手にするのは時間の無駄」

「無駄ってなんなのさ!!!」

あからさまな態度に、どんどんと目つきが怖くなるビスケ。

 

「ビスケちゃん。私はメルっていうの。施術について知りたいなら、“シファ”の施術師を紹介するわ。それで許してくれるかしら」

「メル?……あなたまさかとは思うけれど、メルルイス、本人なのかしら?その綺麗なプラチナブロンドに青い宝石の様な碧眼の瞳、真っ白な陶器のような美しい肌……。あたしが今まで見た人間の誰よりも美しいわ。それに、簡単に“シファ”の施術師を紹介できるなんて、そうとしか思えないのだけれど」

 

「お前、知りすぎだよ?」

イルミはいつの間にか針を構えており、明らかにビスケに対して敵意を向けていた。

 

「こらイルミ!!針をしまって!……ビスケちゃん怖がらせちゃったね。お詫びにこのクーポン券もあげる」

メルが手渡したのは、シファの50%割引券だった。

 

「きゃああああ!!シファの割引券だわさ!!!」

「喜んでくれて良かった。私、最近ハンターになったのだけれど、自分がなる職業にどんな人がいるのか、徹底的に調べつくしたことがあるんだ。あなた、もしかして二ツ星ストーンハンターのスケット・クルーガーさんかしら?」

 

するとビスケは口角を上げて笑いながら「流石だわさ。何でわかったの?」と首を傾げた。

「やっぱり!!兄様達が心源流拳法の使い手でね、貴方の名前は聞いたことがあったのよ。たまにビスケさんの話をしてたことがあったの!!体術で勝てない人がいるってね。あの兄様達にそこまで言わせる人ってどんな人だろうって、興味があったの。外見も聞いてたし、会ってみてただ者ではないなって思っていたわ。この一定に保たれた絶妙なオーラと、内に秘めた力を感じたし、だからイルミも少し警戒してたしね。もしかしてって思ったの!!」

 

「あっははははは!!いいわねあんた!あの生意気兄弟の妹とは思えないくらい愛嬌もあるしね」

「私の事はメルでいいです」

「あたしのことは気軽にビスケでいいだわさ」

「よろしくねビスケ!さ、イルミも挨拶」

あからさまに嫌そうな顔をするイルミだが「よろしく」と呟いた。

 

「メルもそうだけど、連れのあんたもただ者じゃないね?」

「んーまぁね。俺、ゾルディック家だし」

「ゾッ、ゾルディック!?ちょ、ルイス家の娘とゾルディック家の息子がなんで仲良く一緒にいるんだわさ!?商売上敵同士じゃない」

「今は協定を結んでいて、両家とも交流があるんだよ。今はちょっとした旅行中って感じだよ」

 

「へぇ~、まさか2人とも付き合ってたりして」

冗談で言ったビスケだが、すぐに顔を赤らめるメルを見て、更に笑みを深くするのであった。

 

なんか面白いことになってそうだわさ。

イルミは、クールでドライな印象。黒い漆黒の髪と大きく吸い込まれそうなほど美しい瞳は、まさかに孤高の美しさを放つブラックダイヤモンド!!!

 

メルは、この世の者とは思えない程の白く透明感の肌を持つ絶対的な美の持ち主!!人を笑顔にする無邪気な笑顔は、人の心を浄化させると言われる、ホワイトトパーズそのもの!!!!涙の結晶のように美しい透明感と、内に秘める若干の切なさと憂いから放たれる輝きが、良いギャップを生み出す美しい宝石!!!!

 

ブラックダイヤモンドは、単体でも非常に魅力的な宝石だけれど、無色透明のホワイトトパーズと組み合わせれば、至高のコントラストを生みだす、まさにこの2人は相性ピッタリ!!!!!!

 

見たところ、メルはイルミにホの字の様だし、イルミも満更ではないんじゃない?

殺し屋として名高いゾルディック家とルイス家の子供たちの恋愛!!!!!

きゃああああああ!!これほど心躍る出来事そうそうないわ!!!!!!!

 

ビスケは怪しい笑みを浮かべながら、「2人とも、この後予定がなければあたしの家に来ない?」と提案した。

メルは目を輝かせながらイルミを見上げ、「はいはい」とそれを了承せざる負えないイルミであった。

 

 

 

 

 

 

 



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40話 子×ト×煩悩

 

メルとイルミが施術を受けている時、ルイス家ではー……。

 

青ざめた顔のラルが茶会場所に戻ってきたことで、大体察しがついたエルはゴホンッと咳ばらいを1つした。

「その様子じゃ、うまく説得できなかったようだな」

「メルってば今回は本気みたいでね……、それでー・・・…」

 

「何か条件を言われたみたいだねラル。メルは何て?」

同じく青ざめた顔のウィアムは息を飲む。

「父さんがイルミに謝罪をするまで家には帰らないって」

 

それを聞いたエルは飲んでいたお茶を吹き零した。

「ゴホッゴホッ、……それは本当かラル」

「こんな冗談僕が言う訳ないでしょ」

「父さんの立場を知っての発言か。……メルは相当怒っている様だな」

 

今までお菓子を食べていたキルアとゴンも、漂う異質な空気にその手を止めた。

おいおい、これかなりヤベェことになってないか?

ルイスとゾルディックは協定を結んでいるからとは言え、親父レベルのメルの父さんが頭を下げるなんて、そんなこと普通あり得ない!!ただの一般人が頭を下げることとは訳が違う。簡単にできないと知って、それを要求しているという事は、メルはかなり本気だ。もしかしたら最悪、ゾルディックとの協定がおじゃんになってしまうことだってあり得る!!!そうなったら俺、ここにいるのかなりヤバいかも……?

 

キルアの様子を見て、ウィリアムは「心配しなくていいよキルア君」と声をかけた。

ウィアムはキルアが考えていることを全て理解していた。

 

「このことでゾルディック家とどうこうなることはないし、そんなことはさせないよ。僕にとって大事なのは子どもたち。エルとラルはもう立派な大人だし、もう僕が気に掛けるほど子どもじゃない。でも、メルは違う。女の子だし、妻にそっくりな彼女のことをきっと僕は何歳になっても気にかけ続ける。メルの安全が第一なんだよ。僕が謝罪しない限り、メルが戻って来ず、そのことで危険に晒されることにでもなれば僕は自分を許せない。メルの為ならこの頭を下げることなんて軽いことなんだよ」

 

「まぁ、メルがイルミのこと気にかけてること知って、年甲斐もなく嫉妬してあんな意地悪なこと言った父さんが悪い。潔く謝って下さい」

「エル?だってメルってば久しぶりにあった僕よりイルミ君の方ばっかり見てるんだよ?そんな場面見せつけられたら嫉妬くらいしちゃうでしょ」

 

キルアとゴンはその発言に苦笑いだ。

想像していた人物像と大分違うな。もっと厳しくて威厳のある感じかと思っていたけど、この兄達あってこの父ありという感じだな。でもまぁ、うちとどうこうなりそうな感じではないし、ひとまず安心かぁ。-ったく、メルってば本当無茶苦茶しやがって。早く戻って来いよなぁ。

 

すると、キルアとゴンの携帯が一斉に振動した。

こそっと携帯を確認すると、送り主は問題の中心人物であるメルからであった。

 

今からイルミと旅行に行ってくるね。

急にお茶会から抜けちゃってごめんね。

屋敷には何日居てくれても構わないから自由に使って?

私の直属の部下5人には、キルアとゴンのこと面倒見てくれるよう頼んであるから何かあったら言ってね。

それじゃぁね!!

 

「って!じゃあねじゃねえよ!」

ったくあいつ!

 

なんて思っていると、後ろからひょいっと携帯をラルに奪われる。

「あっ!!」

手を伸ばすも180もある身長のラルから携帯を奪える筈もなく、キルアは直ぐに諦めた。

 

「メルってばキル達にはメール送ってるよ。僕にはあんな態度だったのに」

あからさまにしょぼくれるラルを見て、気の毒に思ったゴンは同情の目を向けていた。

 

「ラル、そう落ち込むな。父さんが謝れば全て解決だろ?それで、メル達は今どこに?」

「メールには場所までは書いていないけど、旅行に行くって言ってたよ」

その言葉を聞いて、ウィリアムから鋭く深いオーラが放たれる。

 

「へぇ、旅行?若い男女が二人きりで、旅行かぁ」

満面の笑顔であるが、父親として愛娘を想うあまりドス黒いオーラが抑えきれないウィリアムを見て、キルアとゴンは全身の皮膚が泡立っていた。

 

なんてオーラしてやがる!!!

 

怖い!!!!

一秒たりともこの場にいたくない!!!!

 

そんな二人を見て、エルは咳ばらいをする。

「父さん、少しは冷静になって下さい」

エルの言葉でハッと我に返るウィリアムは客人2人に謝罪をすると、ゆっくりと立ち上がった。

 

「さて、メルを迎えに行くとしようか」

「どこにいるかもわからないのにどうするの?」

警戒した表情のゴンは首を傾げる。

 

「メルの携帯にはGPSが付けてあるんだよ。どこにいても居場所が分かる様にね。僕は仕事で忙しいからこんなことでしか娘の場所を把握できないのは情けないことなんだけどね。-……なんだ、シェラードアイランドか。結構近くじゃないか」

 

「父さん、今から行くの?仕事は?茶会の為に無理やり時間を作ったのに大丈夫なの?」

「メルと仕事、どっちが大事って聞かれたらラル、お前ならどう答えるんだい?」

「そりゃ迷わずメルを取るけど」

「そういうこと。機転の利くラルなら分かるよね?」

「……はぁ、父さんがいない分僕が仕事を回すってことね。おーけー、分かってるよ父さん」

「全く、頼りになる息子で大助かりだよ」

 

「兄さん、父さんが暴走しない様にちゃんと見張っててよ」

「勿論だ。キルとゴン、お前たちはどうする?一緒に来てもいいが」

 

「俺たちはもう少しここでお邪魔させてもらうよ」

「フレッチャーとも遊びたいしさ!」

 

「了解した」

「じゃぁエル、行こうか」

 

庭には、タイミングよくプライベートジェットが降り立ち、2人はメルとイルミがいるシェラードアイランドへと向かうのであった。

 

 

 





その頃―……。
メルにオーラを吸い取られたヒソカは、こっそりと部屋から抜け出してルイス家を見て回った後誰にも気づかれずに姿をくらましていたとさ。

メル覚えておきなよ♡



「くしゅん!!!」
「なに?風邪でも引いたの?お腹出して寝るからだよメル」
「だっ、出してないし!!」

あれ?何か大切なことを聞かないといけなかったんだけどな。
なんだっけ……?

ヒソカの存在をスッカリ忘れてしまっていたメルであった。






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41話 動く心×ト×襲撃事件

 

ビスケの家は、シェラードアイランドでも一等地と呼ばれる場所にあった。閑静な住宅街に建てられており、ひと際キラキラと輝いている家が1つある。

 

 

窓や扉などの金具には、ビスケのこだわりが詰まっているのか、宝石でできているのだ。ドアノブはなんと、巨大なブルーサファイアでできており、値段はつけられそうにもない。

 

 

惜しみなく宝石が散りばめられた家が、こうしてなんの被害もなく建てられているのには、ルイス家が統括しているこのシェラードアイランドという場所のおかげでもあった。

 

 

この島で犯罪を犯してしまえば、ルイス家の手の者により処分される。それを同意しなければこの島には入れないのである。つまり、この島で犯罪行為を犯してしまえば、永遠にルイス家から追われることとなるのだ。

 

 

その為、この島では犯罪を犯す者はなく、ビスケの様に宝石を外壁に散りばめていても盗む者は1人も存在しないという訳なのである。

 

 

中に入ると、玄関ホールからリビングまで、今までビスケが採取してきた数々の宝石が並べられている。

 

「凄い宝石。これ全部売ったら一体いくらになるんだろうね」

イルミは並んでいる宝石を値踏みし始めた。

「コラ!!!!!売るなんてとんでもない!!!!!なんてこと言うんだわさアンタ!!!」

ベシンッとイルミの頬に強烈なビンタが飛んできた。

 

 

「!!!」

イルミがビンタされてる!?

しかもすさまじく早いビンタ!!!

イルミが反応できないなんて!!!

 

 

 

するとイルミはギロリとビスケを見据える。その瞳には殺気が籠っていた。

……まずい。

 

 

 

 

メルはイルミの前に立ってぎこちない笑顔を向けた。

「イ、 イルミ!見て、この宝石。キルアにぴったりじゃない?あ、こっちのダイヤモンドなんかゴンみたいだよねぇ」

「……んー、キルアはこっちのブルーサファイアじゃない?ゴンはなんでもいいけどうちのキルには安っぽそうな宝石は似合わないよね」

 

 

ふぅ、どうやら気を紛らわすことに成功したみたい。

困ったらキルアの名前をしばらく出させてもらおう。

 

 

「さてさて、とりあえずこっちに座りなさいな。お菓子も用意してあるし」

リビングには宝石の様にキラキラとしたお菓子が用意されており、メルもイルミも目をキラキラとさせていた。

 

 

「ふふ、二人ともお菓子には目が無いようね。好きなだけ食べるといいだわさ!」

「わぁあ!ありがとうございます!!」

 

 

「ところで、何であんたたちはこの島に来ているのだわさ?あんたたち、仕事柄忙しいんじゃない?」

 

「兄様が代わりに仕事をこなしてくれているの」

「へぇ?エルが?あの子そんな一面もあるのねぇ。全く想像できないわ」

 

「エルは妹馬鹿だからね。あ、メル、こっちも美味しいよ」

「え?どれ?……あ、本当!!ん~あまぁい!!イルミ、こっちのフルーツのってるやつイルミの好みだと思うよ」

「ほんとだ。これもいけるね」

 

 

そんな様子を見ていて、ビスケは首を傾げるのであった。

 

 

何であんた達まだどうこうなってないんだわさ。こんな仲良しなのに。

メルがイルミにホの字なのは分かるけど、イルミの方は何考えてるか全く分からないだわさ。

行動はメルに気がある様には見えるけど。

一体どうしてやろうか。

あの生意気兄弟の妹だけど、メルは素直で良い子だし、シファのクーポンをもらい、かつ、施術師まで紹介してくれたし、このビスケちゃんが恋のキューピットとして一肌脱いじゃうわよ!!!!!

 

 

 

「あら?お菓子がもう底をつきそうだわ。メルならこの島のこと詳しいし、おすすめのお菓子を買ってきてくれないかしら?」

「あ!確か、すぐ近くに美味しいお菓子屋さんがあったの!私買い出しに行ってくるね」

するとイルミも立ち上がろうとするが、それをビスケが阻止した。

 

 

「あんたには、ここの片づけをお願いするわ。次のお菓子が来るんだから、テーブルを片付けたいし、手伝いなさいよ」

「ビスケとか言ったね?お前、俺に命令してるの?」

「イルミ!今から行くお店、イルミの好きなお菓子もあるんだよねぇ。だからビスケの手伝いして待ってて?すぐ近くだし、この島はルイス家の島だし大丈夫だよ」

 

 

「……メルがそういうならいいけど。寄り道せずに早く戻ってくるんだよ?」

「は~い、行ってきます!」

 

 

メルは手を振りながら出ていった。

「で、ビスケ。メルを追い出してまで俺に何を聞きたいわけ?理由によっちゃ、ただでは済まさないけど」

「なんだ、気づいていたのね。大した役者ぶりだわさ。でもまぁ、あんたにとってメルが相当大事なことは分かっただわさ」

イルミは静かに針を握る。

 

 

「アタシとやろうってのかい?物騒なモンをしまいな。危害を加えるつもりなんざ更々ないわよ。生意気兄弟の妹は私としても身内みたいなもんだわさ」

 

「お前の目的はなに?」

 

「単刀直入に聞くけど、あんたメルのこと好きなの?」

「……」

イルミはまた静かに針を構える。

 

「だから、それをしまいなさいって言ってるでしょうが!!あたしはねぇ、心躍ることが好きなわけ。お互い思い合っているのになかなかくっつけずにいる若者を見て、あたしが協力してやろうって言ってんだわさ!!!」

 

イルミは怪訝な顔をしながらクリンと首を傾げる。

「……お前、暇なの?」

「いちいち腹が立つわねあんた」

「メルと俺をくっつけて、お前に何の得があるわけ?」

 

「この年になるとねぇ、心ときめく出来事なんてそう起こることないのよねぇ。メルはいい子だし、あの馬鹿どもの妹ってこともあるし、幸せになってもらいたい親心ってもんが短い間だけど湧いちゃったわけ。あんたも分かってるかもしれないけど、メルは相当あんたにほれ込んでるよ。女の気持ちはコロコロ動きやすいものなのよ。今のうちに奪ってしまいなさいよ」

 

「……メルが、俺を?」

「あんたまさか気付いてなかったの?あんなに好意を向けられてるのに」

 

 

イルミは口元を押さえて少し考え込んだ。

「メルは好きなやつがいるって言ってたんだ」

「そう。あんた、自分のことだって思わなかったわけ?」

「……」

イルミは黙って頷いた。

 

「呆れた。鈍感にもほどがあるだわさ」

 

するとそこにタイミングよくメルが帰ってきた。

「ただいま~!思ってたより近くてね……、て、どうしたの?2人とも。テーブル全然片付いてないけど……あ!イルミサボったんでしょー!」

「いやビスケがさぁ、宝石について熱弁するからそれを聞いてやってたの」

イルミはチラッとビスケを見据える。

 

はいはい、合わせろってことね。

「こいつ宝石の魅力全く理解していないから説明してやってたのよ」

 

「へぇ、そう言えば私宝石についてはまだ未知の分野の1つだったなぁ。今度とことん調べてみようかなぁ」

するとビスケは目を輝かせながらメルの両手を握る。

 

「メル!!!あんたって子はなんて素敵なのだわさ!!!もぅ、私の弟子にならない!?」

「えぇ!?」

「私ならあんたのレベルをまだまだ磨く事ができるだわさ!!!光を放つ宝石を更に磨き上げる……あぁ、なんてワクワクするの!!」

「た、確かに兄様が体術で敵わなかったビスケから教わることは多いと思うけれど、う~ん」

 

 

今はあまり時間がないんだよね。

せっかくのお誘いだけどイルミともう少し過ごしたいし……。

 

 

するとイルミはビスケからメルを引っぺがした。

「メルの師匠は間に合ってるよビスケ」

後ろから抱きしめる様にメルに手を回すイルミ。

ちらっと視線を落とすと、メルは白い肌をほんのりと赤らめていた。

 

 

 

ビスケの言葉が頭の中で繰り返される。

メル、俺を意識しているの?

だから赤くなってるの?

他人から言われたことを真に受けたくはないけれど、思い返してみればメルが見せる反応はいつも俺を受け入れてくれるものだった。

でもこれで違って、変に押してしまったら、もうこの関係には戻れないんだろうな。

……はぁ、この俺がこんなこと考えてるなんて、昔の俺からしたら本当に驚きだよね。

さて、どうしたものか。

 

 

 

「まぁ、いいわ。それより、メルが買ってきたのって、……まさか!!」

メルが大事そうに持っているのは、可愛らしい紙袋であった。

 

「あぁ、“ミルミル”のケーキだよ!それも1番人気のイチゴが乗ってるやつだよ!!」

「きゃああああ!!!!あんた“ミルミル”っていやぁ、世界でもトップクラスの美食ハンターが経営する超高級店じゃない!!しかもそこのイチゴケーキなんて予約がいっぱいで数か月待たないと買えないと言われる程の幻のケーキ!!!!!」

 

「美味しいよねぇ、ミルミルのケーキ。私小さい頃よく食べてたんだぁ~」

「あ、よくうちにメルが持ってきてくれてたやつ?」

「そうそう!イルミも好きだったよねぇ」

 

「ルイス家の特権ってやつね!!小さい頃から“ミルミル”を食べてたなんてまぁああなんて贅沢してたのよ!!!」

「店に行ったら奥に連れて行ってくれてね、沢山もらっちゃって、後で他のお菓子も届けてくれるんだって」

 

「え!!??本当!?きゃあああ!!!!」

 

ビスケは飛び上がる様に喜んでいた。

その後、ビスケの家には沢山の“ミルミル”のスイーツが続々と届いたのであった。

3人はひとしきりお菓子を食べきり一息ついていた頃、テレビに何気なく流れたニュースに釘付けになっていた。

 

 

『緊急速報です。あの、ルイス家の本社が何者かに襲撃を受けました!!犯人は現在逃走中です。被害状況ですが、12名もの死者が出ている模様です。負傷者は正確な人数はまだ確認されていませんが、現時点で100名程負傷者が出ているという情報が入りました!!』

 

「ルイス家の本社が襲われた!?一体何が起きてるのだわさ!!!」

 

「……メル?」

イルミは自分のすぐ隣にいるメルに目を落とすと、小刻みにメルは震えていた。

 

メルは身近な人間の死にはかなり敏感だっ、て天空闘技場の時に分かったけど、こんなに怯えるなんて。

母親を亡くしたトラウマは相当根深いね。

 

イルミは携帯を取り出してエルに電話を掛けた。

 

 

「あ、エル?今ニュースで見たんだけど大丈夫なの?……うん、ふうん。……そうなんだ。うん、いいよ。……メル、エルが話があるって」

イルミはメルの耳に自分の携帯を押しあてた。

 

 

『今どこにいる?』

「今はビスケの家にいるの。エ、エル兄様……、ラル兄様や父様は大丈夫でしょうか……」

『ゴホッゴホッ、……今なんて?ビスケの家?なんで筋肉ババアと一緒に……まぁいい。逆に好都合だ』

「え?」

 

 

するとコンコンとドアをノックする音がした。

「誰かしら。あ!追加のお菓子が来たんじゃないかしら!!!」

ビスケはスキップしながら玄関の扉を開けると、そこには携帯を耳に当てたエルと満面の笑みを見せているウィリアムが立っていた。

 

 

「筋肉ババ……、ビスケ、久しぶりだな」

そう言うとビスケは笑顔のままエルをぶん殴った。

 

 

「こんのクソガキ。全く変わってないわね!!!」

 

 

「君がビスケットクルーガーさんですね。息子がお世話になっています。僕はウィリアム・ルイスです。お目にかかれて光栄です」

「まっ!♡」

 

 

この人がウィリアムルイス!!!!

直で見ると本当に良い男だわぁ!!!!

 

 

「聞けば、メルもこの中にいるとか。娘までお世話になってしまい申し訳ありません」

「いやいいんですの!このクソガキ……ゴホンッ、エルはともかくメルは本当に素直で良い子ですもの」

「誉めていただけて僕も嬉しく思います」

 

すると、ビスケの後ろから青ざめた顔のメルがイルミに連れられてやって来た。

「兄様、父様っ!…良かった、無事で……、ラル兄様は…!?し、死者が12名も出たって……」

 

ウィリアムは優しくメルを抱きしめた。

「メル、落ち着いて。ラルは無事だよ。ラルのおかげで被害が最小限に済んだみたいだ。かすり傷一つ負っていないそうだよ」

「そ、そう……良かった……」

「……」

 

 

ウィリアムは少し思案する様子で、イルミを見つめた。

「そうそう、僕たちがここに来たのはイルミ君に謝罪をする為なんだよ。大人げなく意地悪なことを言ってしまってすまないね。でも、勘違いしないで欲しいのは、僕は君を高く評価しているということ。今から言うことも、イルミ君だから、と受け入れて欲しいのだけれど……。僕とエルはこれからルイス家本社にいるラルと合流し、今回の騒動の犯人を捜さないといけない。その間、メルのことを君にお願いしたいんだ」

 

 

「なっ、……父さま‼犯人探しなら私が‼」

そう言うと、ウィリアムは鋭い眼光でメルを見据えた。

 

 

「今回の件、メルは関わるな。いいかい?これは命令だ」

「!!」

 

 

父様が私に命令……!?

「……分かりました……」

 

 

「そう落ち込むことはないよ。メルの手を使う程じゃないということだよ。イルミ君も数日休みがあることだし、今は2人で過ごしなさい」

「……はい」

 

 

「イルミ、世話をかける」

エルはビスケにぶたれた頬を赤くさせながら相変わらずポーカーフェイスだ。

 

 

「その顔で言わないでくれる?まぁ、元々メルとはこの休みずっと一緒にいるつもりだったからね」

「イルミ君、苦労をかけるね。この島はルイス家のものだから、遠慮せず自由にのびのびと過ごせばいいよ。この島を堪能するには、数日はかかるからね。隅から隅まで楽しんでおくれ」

そう言うと、足早に2人は姿を消した。

 

 

 

なるほどね。

この件、メルを関わらせない為にこの島でメルを留めて置けってことね。

メルの力を借りればすぐに犯人なんて捜すことができるのに、そうしなかったということは、既に犯人に検討がついているからか。

しかも、その犯人とメルを接触させたくない様子。

命令までして、どうしても犯人と接触させたくない理由……。

そんなの分かり切っている。

メルのトラウマ……、つまり母親を殺した者が絡んでいるということ。

あの件が少しでも絡むとメルは震えて、動けなくなってしまうからね。

 

 

 

メルの方を見ると、少し顔色は戻ったが元気はない。

まぁ、無理もないね。

自分だけ外されたんだからね。

 

 

「メル、仲直りできてよかったね」

「あ、……うん」

「そうだ、メルの父さんがこの島を堪能しろって言ってたけど、ここってそんなに観光スポット多いの?俺そういうのあんまり知らないんだよね」

「あー、かなりたくさんあるよ?でももう日が暮れるし、……どうしようかな」

「せっかくなら1番のホテルに行こうよ」

「ん~、それなら“アルヴァホテル”だね!」

 

 

「なんですってぇえええ!!あんた達今からあの超高級ホテル、アルヴァに行くって言うの!!!???」

 

 

「そうだけど。なに?ビスケ、お前も行きたいっていうんじゃないだろうね」

イルミは怪訝な顔をしてビスケを一睨みする。

 

 

「ビスケも行きたいなら一緒にどう?せっかくだしね!」

メルはにっこりと微笑みながら提案してくれるが、ビスケは葛藤していた。

 

 

 

超超超超行きたいー!!!!!!!

でも、あたしがここで行ってしまったら邪魔になっちゃうのよねぇ。

さっきからイルミが来るなって顔で睨んでるし……

仕方ない、ここは引き下がるか。

 

 

 

ビスケは泣く泣くメルの誘いを断り、2人を見送ることにした。

 

 

「イルミ、あんた。メルのこと頼んだわさ」

「お前に言われる筋合いないね」

「泣かすんじゃないわよ」

「俺が?そんなことする訳ないだろ」

 

 

 

そう呟いて、イルミはメルの隣へと歩き、ビスケの家を後にした。

 

 

 






これからメルの過去編が絡んできます。
母親を殺した事件と、イルミとの恋愛が同時に進んでいく展開になります。
原作とはかけ離れたオリジナルになってますのでご注意ください。

この件が終わったら、ヨークシンシティー編やグリードアイランド編に移っていきます!



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42話 白銀×ト×ブルー

 

ルイス家が経営するシェラードアイランドの南東に位置する、最高級五つ星ホテルアヴァホテル。クラッシック調の、150階建てのこのホテルの最上階は、所謂VIPしか泊ることのできない価格帯で設定されており、多額の金を出す程の最高の絶景が広がっている。

 

 

シェラードアイランドを一望でき、反対側からは、どこまでも続く美しい海が広がっているのだ。まさに「非日常」が味わえるこの場所は、普段仕事や家事などに頑張っている自分へのご褒美として、また、煩雑な日常の中でリフレッシュして英気を養う為に、多くの人がこぞって予約を入れるのだ。

 

 

メルとイルミがホテルのフロントへ行こうと足を踏み入れると、「ようこそお越しくださいました」と頭を下げる白髪の男がやって来た。

 

 

「セバス!久しぶりですね」

「はい。メルお嬢様、大変お美しくなられて。お連れ様はイルミ様ですね」

「うん。なんで俺のこと知ってるの?ここに来たのは初めてなんだけど」

「私は総支配人のセバスと申します。ルイス家からお電話を頂いておりましたので」

 

 

メルはセバスのその言葉で、少し苦笑いをする。

電話を入れたのは父様かエル兄様だろうなぁ。私がここに来るってわかってたのね。流石だな。

 

 

「メルお嬢様、最上階のお部屋を用意しております。どうぞこちらへ」

「ありがとうセバス」

 

 

案内された150階の部屋は、150平米もの広さで、入ってすぐ目に入る、シェラードアイランドを一望できる絶景にメルは目を輝かせた。

 

 

「お食事はお部屋で取られますか?それとも、レストランになさいますか?」

「う~ん、イルミどうする?」

「メルの好きな方でいいよ」

「じゃぁレストランにしてもらっていい?シェフにも挨拶したいし」

「それは大変お喜びになるかと思います。では、準備ができ次第お呼びいたします」

「お願いね」

 

 

セバスは丁寧に一礼して、扉を閉めた。

「凄い景色だね」

イルミはコンコンとガラスをたたく。

「しかも防弾ガラスか」

 

 

「ここには有名人がよく泊まるから、警備も万全なものになってるの。このガラスはルイス家の特別性でね、銃弾なんか通らない作りになってるの。もちろん、念弾も弾くわ」

 

 

「それはすごいね」

「でしょ?」

きゃっきゃっとはしゃぐメルを見てイルミは目を細める。

でも、メルはどこかから元気な様子であった。

 

 

やはり、ルイス家を今回襲撃した事件が引っかかっている様だ。

「イルミ、……どう思う?」

「ん?」

「ルイス家を襲撃した犯人のことだよ。父様や兄様は多分検討がついてるみたいだし、私に関わるなって言ったってことは………、母様を殺した人が関わってるってことなんじゃないかって」

 

 

「俺もそう思うよ。だからメルを遠ざけたんだろうね」

「私……私だけこんな所にいていいのかな。……だって、……私が、私があの時、母様を殺したあの男の子を仕留めていれば……こんなことにはならなかったのに、……私だけが母様を殺した人の顔を知っているのに……」

 

 

「あぁ、黒髪黒目の男って言っていたね。そもそも、それも怪しいよ?姿かたちを俺みたいに変えてたかもしれないし」

「そうだけど……」

「メルは心配しすぎ。メルの父さんやエルに、ラルだっているんだよ?あのメンツで仕留められない相手なんてそういないよ。メルもそう思うだろ?」

「うん……。そうだね。皆なら大丈夫だね」

 

 

力なく笑うメルに、イルミの心臓はぎゅっと締め付けられた。

 

こんな顔なんてさせたくないんだけどな。

……そもそも、今回の事件は何か変だ。

一体何が目的なんだ?

昔は、まだルイス家として幼いメルが標的だった。じゃぁ今回は?なぜ、メルがほとんど足を踏み入れない本社を襲ったんだ?

メルの母さんを殺した犯人が、まだメルに執着しているのなら、なぜ今なのかその理由も気になるし。

今は情報が足りなすぎる。

エルからの連絡を待つしかないね。

とりあえず、今はメルから目を離さないようにするのが一番。

 

 

するとタイミングよくセバスがやって来た。

メル達は案内されたレストランの一席へと腰を下ろした。

 

 

このレストランも、VIP部屋と同様に防弾ガラスで作られた、端から端までの大きなガラス窓がはめ込まれており、その間には鮮やかな魚が泳ぐ水槽になっている。まるで、夜空を魚が泳いでいる様な幻想的な空間になっていた。

 

 

運ばれてくる料理はどれも絶品で、メルとイルミの好物ばかりがずらりと並んだ。

「なんで俺の好きな料理がさっきから運ばれてくるの?何も言ってないのに」

「ルイス家の情報網を甘く見ちゃだめだよ。イルミの情報は既に調査済みってことだよ」

「へぇ~、やるじゃない」

 

 

イルミは完璧なテーブルマナーで、上品に美しく柔らかいステーキ肉を頬張る。

その姿はまるでどこかの貴族の様だ。

 

 

「ん~、美味しいねぇ!」

と、イルミを見た時だ。一瞬、イルミの表情が強張ったような気がした。

いつも表情を何一つ変えないイルミだが、付き合いの長いメルだからこそ気付いたほんの些細な変化。

 

 

イルミが何を見たのか。

それが気になって振り向こうとする気持ちを、メルは必死に抑えた。

 

 

“見てはいけない”

イルミは相変わらずポーカーフェイスを崩しておらず、イルミが見たモノを、私には気づかれたくないような、そんな気がしたのだ。

 

 

メルはいつも通りに振舞って、後ろを振り向きたい気持ちをなんとか押し殺した。ゴクッとラム肉を飲み込む時、動揺していたせいかソースが気管に入ってしまい、激しくせき込むという失態を犯してしまった。

 

 

「ちょっとメル大丈夫?」

イルミはウエイターに水をもらい、メルに渡した。

 

 

「ゴホッゴホッ、あ、ありがとう」

「もー、落ち着いて食べなきゃだめだよ?またいつもみたいにかきこんだんじゃないだろうね」

「そ、そんなことないよっ、ゴホゴホッ」

ジト目で見てくるイルミを見て少し安心した。

いつものイルミだ。

 

 

高級レストランで激しくせき込んだ私に、周りの客からの視線が集まっていることに気付き、体が段々と熱くなってきた。

その時だ。

「…!」

どこからか、鋭い殺気を感じた。

それはあまりにも一瞬で、本当に殺気だったかどうか怪しいレベルのモノだった。

 

 

辺りを見渡してもそれらしい人物はおらず、首を傾げるメルを見てイルミは目を細める。

 

 

「メル、次デザートだよね?どんなのがくるの?」

「あぁ、ここのデザートはその時期旬のフルーツを使ったものが出てくるんだけど、毎月新しい新デザートを作っているから私も何が出てくるかは知らないんだ~」

「へぇ、毎月新作を?それは凄いね」

イルミがこんなに素直に誉めることは珍しく、それが嬉しくてメルはにこにこと微笑んだ。

 

 

運ばれてきたのは何とも見目美しい杏子のタルトだった。絶妙な甘さのカスタードクリームが敷き摘まれており、口に頬張ると杏子の甘さと、カスタードの中に入っていたバニラが何とも良い塩梅で、メルとイルミの下を唸らせた。

 

 

「美味しい~!!シェフ呼ぶけど、イルミも挨拶するよね?」

「そうだね。一言言わせてもらおうかな。うちに引き抜きたいくらいなんだけどって」

「え!!だめだめ!!引き抜きなんて許さないよ!」

 

 

セバスに連れられてやって来たのは、まだ若い男のシェフである。

「メルお嬢様お久しぶりでございます。ご堪能いただけましたでしょうか?」

「勿論!!本当に美味しかったわぁ。ねぇ、イルミ!」

「うん。君、名前は?ゾルディック家で働く気ない?」

「え?え?ゾ、ゾルディック家で!?」

 

 

「あぁ、無視していいよ。それでね、あのラム肉のあの柔らかさがなんとも絶妙で~、そうそう!あの野菜はー……

メルがシェフと話し込んでいる様子を見てイルミは「ちょっと席を外すね」と言って立ち上がった。

 

 

セバスはお手洗いだと思い、「あ、場所はー…」と、案内しようとするも「大丈夫。入ったときに把握したから」と、一人でスタスタと行ってしまった。

 

 

イルミはトイレには行かず、レストランから少し離れた休憩スペースに腰を掛けている女に声をかけた。

美しい白銀の髪に、大きなブルーの瞳をした女は、メルを連想させる出で立ちである。体のラインがくっきりと分かるドレスは大胆にも胸元が開いており、周囲の男の視線を独占していた。

 

 

「久しぶり。こんな所で何してるの、イザベラ」

イザベラはイルミを見るなり、上目遣いでクスリと笑みを浮かべる。

 

 

「久しぶりねぇ、イルミ。最近全く連絡がないから何してるかと思えば、あのお人形ちゃんとまだ一緒にいるなんてね」

 

 

お人形とはつまり、メルのことだ。その言葉に少し腹が立つが、こちらの感情を悟られないようにポーカーフェイスは崩さない。

彼女の名前は、イザベラ・テイラー。

 

 

テイラー家と言えば、ルイス家やゾルディック家には劣るが歴史ある暗殺一家の1つ。テイラー家は、毒を使った暗殺が得意で、一人娘のイザベラも、念能力は毒に関するものだ。暗殺もこなすが、裏では死体処理や表の病院では見せられない人間の傷を手当する医者としても、暗殺界では有名だ。

 

 

イザベラ、通称ベラは、俺よりも4つ年上で昔はよく組手をしていた。親同士が勝手に決めた許嫁でもあるし、よく顔を合わせていた。彼女本来の姿は、栗色の毛に翡翠の瞳だが、俺がメルに興味を持っているとバレてからは、何かとメルを意識して今じゃ白銀の髪にブルーの瞳へと変えている。昔は釣り目だったのに、整形したのかクリっとした大きな瞳になっていて、遠目で見ればメルと見間違える程その完成度は高い。

 

 

いくら姿形を似せようとも、メルではない人間に俺は興味を持てなかった。

でも、ベラの執着心は異常なものがあり、いくらそっけない態度を示しても、ベラだけは離れようとはしなかった。

 

 

俺はそんなベラを利用して、呼びつけては欲望をぶつける都合の良い相手として割り切っていた。

 

 

それは彼女も同意していたからやっていたことだ。

でも、こうしてメルと一緒にいる場に姿を現すのは初めてのことで、さっきはメルの前で少し動揺してしまったけれど……。

さて、どうしたものか。

面倒になる前に殺してしまってもいいんだけど。

 

 

「貴方に話があって来たのよ。キキョウさんからお手紙を頂いてね。私とあなたの結婚のこと、もういい年なんだからそろそろどうかって」

「はぁ?」

 

 

流石に怒りを覚えるよ母さん。

勝手にやるなって言ってるのに、こうして手紙を送りつけて話を進めて。

それにベラとの婚約は絶対にしないってあれだけ言ってるのに。

 

 

「それ、本気にしてるの?」

「だって、ゾルディック家を取り仕切るシルバさんの奥さんからの手紙よ?効力はあるに決まっているでしょう」

 

 

「母さんが勝手にしてるだけだから。俺はベラと婚約なんかしないって昔から言ってるよね。関係を持つのも、お互い都合の良い相手として割り切るって。あれ、嘘だったってこと?条件を守らないなら殺すって、前に言わなかったっけ?」

 

 

イルミは懐から鋭く尖った針を取り出す。

そんなイルミを前にしても、ベラは余裕の笑みを浮かべており、なんとも肝の据わった女であった。

 

 

「フフフ、相変わらずせっかちなんだから。まぁ、今回貴方にわざわざ会いに来たのも、他に理由があるからなんだけど。それも、あのお人形ちゃんが関わることなのよね」

 

 

その言葉にピクリと反応するイルミ。

「どういう事?」

 

 

その反応が気に入らなかったのか、ベラは怪訝な顔をしてイルミを見ていた。

なに?あの人形のことならそんな顔もするの?美しくない。貴方は死体の様に美しい冷たいままが一番なのよ。

 

 

「ベラ、早く言わないと針をぶち込むよ。操ってもいいんだからね」

「はいはい。まぁ、ここは場所が悪いわ。今夜23時に私の部屋125に来てくれる?ここは最新の設備が整っているし、盗み聞きなんてされる心配なんてないしね」

「……分かった」

 

 

イルミはクルッと踵を返して、メルの待つレストランへと戻っていった。

メルは相変わらずいかに料理が美味しかったのかをシェフと語っており、誉められたシェフも気分を良くして饒舌になっている所だった。

「まだ話してたの?」

 

 

イルミのその言葉でハッと我に返ったシェフは、シェフ不在になったことにより戦場と化している厨房からの痛い視線に気づき、慌ててメルとイルミに一礼して戻っていった。

 

 

「あ、悪いことしちゃったなぁ。ついつい話こんじゃった」

「まぁメルらしいよね。そろそろ戻る?」

「そうだね」

 

 

するとセバスが絶妙なタイミングでやって来て、温泉の案内をし始めた。

「メルお嬢様、イルミ様。お部屋の露天風呂も格別ですが、当ホテル自慢の温泉へ行かれてはいかがでしょうか?海を一望できるようになっており、それはもう大変美しいと評判なのです」

 

 

すると話を遮ったのはイルミだった。

「だめ。大浴場は俺がメルと一緒にいれないし、その間に何かあったら……」

 

 

さっきの、イザベラのこともあるし今メルを1人にするのは危険だ。

彼女はメルに対して悪意を持っている。

メルがせき込んだ時、一瞬殺気を込めたのも彼女だ。

メルは気のせいだと思っているみたいだけど、ベラがメルに干渉することがあれば、何をされるか……。

それに、メルに関する話があるって言ってたし、2人を引き合わせるのは危険だ。

 

 

「イルミ。流石にお風呂までは一緒に入らないよ?は、恥ずかしいし……、それに何かあっても私は大丈夫だよ。ルイス家が今大変な状態なんだから、私も嫌でも警戒してるから」

 

 

「だめ」

 

 

「?」

可笑しいな。なんでこんなに頑ななんだろうか。心配性な所はたまにあったけど今回は何だかいつもと違う様な……。

 

 

 

すると、コホンとセバスが咳払いをする。

「イルミ様。僭越ながらこの年寄りから一言助言をさせて下さいませ。メルお嬢様はルイス家を代表する最高の暗殺者にございます。それに、当ホテルの支配人はこの私めにございます。ルイス家に忠誠を誓って早60年が経ちます。老いぼれではありますが、ルイス家の皆様に認められているこの私の目はまだ曇ってはございません。現在当ホテルに滞在している607名のお客様の中にメル様を攻撃しようとする人間はおりません。もし、上手く隠していていたとしても、メル様に怪我をさせる様なことは決してございません」

 

 

 

「セバスの念能力は、このホテルでの異常を全てキャンセルすることができるというものなの。つまり、このホテルに居ればひとまず安全ってこと。どう?これでも心配?」

 

 

心配には変わりないけど、この支配人の念能力はかなり強力な様だ。このホテル限定だけど、異常の排除なんて能力はチート級だよ。ここでメルに不信感を持たせる訳にもいかないし、仕方ないか。

 

 

「まぁ、それならいいんじゃない?」

そう言うと、メルは満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 



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43話 クロロ×ノ×陰謀

 

イルミの様子が少し可笑しい。

あの時からだ。

私の後ろにいた“なにか”を見てからだ。

 

 

いや、レストランにいたんだからモノではなくそれは人であったに違いない。

イルミをここまで動揺させて、警戒させる程の人物。

……思い当たらない。

そもそも、イルミが動揺することなんて、今までにあっただろうか。

こんなイルミを見るのは初めてだ。

 

 

 

「どうしたの?メル」

今はすっかり元のイルミに戻ってるけど……

私に気取られない様に振舞っているんじゃないか、と思うと胸がざわつく。

 

 

一体、誰がいたの?

イルミの知る人物と言えば、暗殺者関係だろうけど、……もしかして私の命を狙っている人だったりして。

だからこんなに警戒しているのかな?

イルミに全く信用されてないのかな私。

念を使えば、天空闘技場でもイルミに勝ってるんだけどな。

 

 

考えれば考えるだけ沼にハマっていく思考を、頭をブンブンと横に振って消し飛ばした。

「何でもないよ。それより、温泉楽しみだねぇ」

 

レストランから出る際、ふと目の際に捉えた、とある女性が嫌でも目に入ってきた。

「……わた…し?」

 

白銀の長髪にブルーの瞳……。

まるで、自分を見ているみたい。

……でもよく見れば、色味は少し違うし、スタイルも身長も今目に映っている人の方が良いし……

これが所謂ドッペルゲンガーっていうやつなのかな。

…ってことは私死んじゃうじゃない!!

 

 

足を止めて、ある方向に目を向けるメルの、目線の先にいたベラを見て、イルミは目を見張る。

スッとメルの肩に手を回してエスコートしながら、その場から立ち去ろうとするイルミの瞳には静かに殺気が籠っていた。

 

 

びりびりと感じる殺気に、メルの背筋から冷や汗が流れ落ちる。

この反応で嫌でも分かってしまった。

イルミが見ていたのはあの人だって。

 

 

どんな関係?

あの人も暗殺者の人?

なんで私にあんなに似ているの?

 

 

聞きたいことは沢山あった。

でも、私の口が開くことはなかった。

聞いてはいけないような気がしたからだ。

結局一言も話さないまま、温泉の入口へとやって来てしまった。

 

 

「じゃ、じゃぁね」

「……」

 

 

イルミは何も言わなかった。

その目はいつもより黒く、深く、闇を映しているみたいだった。

その瞳にゾクッと再び背筋が凍りつくような感覚に陥った。

 

咄嗟に目線を反らして、踵を返して背を向けて、私は逃げこむ様に女風呂の扉を開けた。

「はぁ」

 

 

感じ悪かったかな……?

聞きたいこと、沢山あったけど何も聞けなかったなぁ。

聞いてしまうと、何かが変わってしまう様な気がする。

イルミから何も言わないっていう事は、聞くなっていうことだよね?

 

 

「……はぁ、考えても仕方ないし、セバス自慢の温泉でまったりしよう」

メルは服を脱いで、用意されていたバスタオルで軽く体を隠しながら大浴場の扉を開けた。

それと同時に、立てこもる熱気と湯気と共に、温泉の香ばしい香りが鼻をくすぐった。

 

 

「わぁ!!」

シック調で統一されており、全体的に黒が主体だが所々映える赤がなんとも心を騒がせる空間に仕上がっていた。明かりは温かみのある間接照明が置かれており、暗すぎず、明るすぎないこの空間は別空間とも言える、非現実があった。

 

 

温泉は様々あり、各効能ごとに分かれている。客もちらほらと見られており、全員がこの湯と空間にうっとりと心と体を休めていた。

温泉の奥には、全面ガラス張りの大きな扉があり、その先にはシェラードアイランドの夜景と、その先にある美しい海とを一望できる、和モダンな露天風呂になっていた。

 

 

「さすがセバスだわ!!」

おっと、ここでマナーは忘れちゃいけないね。

まずは体を洗って、……よし!!

 

 

長い髪を高い位置でまとめてゆっくりと体を湯に沈めた。

「はぁ~」

 

 

体が心の底から気持ちいい!!って言ってるよ~!

温泉から出たらセバスをほめちぎらないと!!!

それでイルミにも感想を聞いて……って、そうだ。

イルミと少し変な感じになっちゃってるんだった。

でも、こういうのイルミも好きだと思うし、きっと温泉から上がったら元に戻ってるはず。

やっぱり、聞いてみよう。

温泉の感想も、あの人とどういう関係なのか。

イルミならきっとちゃんと話してくれるはず。

 

 

気分も良くなり、小さく鼻歌なんて歌っていると「お隣、よろしいかしら?」と声がした。

こんなに広い温泉なのに、わざわざ隣に?

「はい?」

 

 

後ろを振り向くと、先程レストランで見かけた私に似た人が立っていた。

「あ、……・はい。どうぞ」

としか言えず、少し俯く私を見てか、クスッと言う笑い声がした。

 

 

ん……笑われたのかな?

「あの、何か用でしょうか?」

そう言うと、ゆっくりと肩を並べて湯に浸かり「あなた、メル・ルイスね?」と笑顔で尋ねられた。

 

 

イルミが知ってる人と言えば、暗殺関係の人だろうし、……同業者だと私の顔を知っていても不思議じゃないか…。

「はい。そうですが……。貴方は?」

「あら?イルミから何も聞いていないの?」

「!」

 

 

イルミの名前が出てきて咄嗟に肩がビクッと上がり、あからさまな反応をしてしまう私を見て、私のそっくりさんはまたクスクスと笑っていた。

「私は、イザベラ・テイラー。イルミの婚約者よ」

「あのテイラー家の?……って、今なんて……」

「あら?聞こえなかったかしら。私、キキョウ様にも認めてもらっている、イルミの婚約者なの」

 

 

こ、こ、こ、……婚約者!?

待って、でも、イルミは確か、お茶会で、そんな手紙は全て破り捨ててるって言ってたけれど……それってつまり婚約するつもりはないってことだよね!?

なのに何で婚約者がいるの??

 

 

「そ、その、イルミの婚約者さんが私に何の用が……」

そう言うと、イザベラの顔から一瞬にして笑顔が消え去った。

「それ、本気で言ってるの?」

「…あ…」

 

 

そうだ、この人が本当にイルミの婚約者なら、こうしてイルミを独占して連れまわしている私は言うなれば浮気相手……みたいになっちゃう。

 

 

「でも、イルミからそんな話は聞いてな…「貴方に言うまでもなかったんじゃなくて?だって、貴方相当箱入りで育てられてるみたいじゃない?箱入りのお嬢ちゃんなんて、すぐ傷ついて泣いてしまうでしょう?ゾルディック家とルイス家は今協定を結んでいるし、その友好に傷を付けたくなかったから、貴方のおもりもしてるのよ。その他にも私が昔イルミに、下の子の面倒も見なさいって言っちゃったこともあって、それでイルミは貴方のこと弟子として育ててたって訳。でも、そろそろ返してもらってもいいかしら?あの人は、私のなのよ」

 

 

頭がまわらない。

一体どういうこと?

この人がイルミの婚約者で、今までイルミが私と一緒にいたのは協定を守るための友好の証としての行動だったってこと?

それにこの人に言われて私を弟子にって……。

 

 

イルミが人の言う事を素直に聞くような性格じゃないのを知ってるからこそ、にわかに信じがたいなぁ。

私の傍にはいつもイルミがいた。

沢山の言葉と、力と、勇気をくれた。

イルミはちゃんと私のことを、ちゃんと弟子として、友達として、大事な人として見てくれていた。

そう、イルミはいつだって私を心配してくれて、大切にしてくれた。

この人の言っていることに、何一つとして信憑性はない!!

私はイルミを信じる。

 

 

 

「なにその顔?納得してないって表情だけど……。じゃぁ、何で私達がこんなにも容姿が似ていると思う?」

「……分かりません」

 

 

「フフ。少し教えてあげる。言っておくけど、私、貴方よりもイルミと過ごした期間は長いわよ?イルミが小さい時から組手をしてあげてたし、5歳くらいまでは私が暗技を教えたことだってあったわ。イルミはよく懐いてくれてね、それは可愛かったわぁ」

 

 

イルミを教えていた!?

一時でも、あのイルミの師匠をしていたっていうの!?

 

 

「テイラー家は暗殺家業の他にも医者をしていてね、私も忙しかった時があったのよ。そんな時、私によく似た貴方をイルミの傍で見かけるようになった。いい?彼にとって、貴方は私の代わりなのよ」

 

 

違う。

 

 

「貴方を見ている様で、本当はその奥にいる私を見ていたの。貴方にかけられた言葉も、行動も全て、貴方に対してじゃないわ」

「違う…っ、イルミは、ちゃんと私を見てくれて……」

 

 

ボソッと呟く私に、イザベラは苛立ちを露わにしたかのように、深いため息をついた。

「はぁ、聞き分けの悪いお人形さんねぇ。はっきり言うけど、もう二度と、私たちの邪魔をしないでくれるかしら?ウロチョロされて迷惑なのよ」

イザベラは私の顎を掴んで無理やり上を向けさせた。

 

 

「まぁ、なぁに?その目。まだ信じてるの?」

「何か誤解があったのかもしれません。一度、イルミも交えてお話してみませんか?ここで私達が話会うには、役者不足ではないでしょうか」

 

 

黙ってなんかいられないよ。

今、イルミと過ごした全ての時間をこの人に否定されたんだから。

そんなの許さない。

 

 

イザベラは怪訝そうな顔で私を見下ろしていた。

生意気な子ねぇ。

すると、突然何かを思いついたかのように、イザベラは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「貴方、イルミから求められたことある?」

「も、求められたって……?」

「流石に全部言わなきゃ分からないくらいお子ちゃまじゃないでしょう?」

 

 

つまり、……体の関係があったかって聞いてるの?

「それは……ないけど。でもそれは今関係ないんじゃ…

「そう。ないんだ」

明らかに私の方が上だ、と言わんばかりの表情に、怒りと共にどこか寂しい気持ちになった。

 

 

この人はイルミと関係を持ったことがあるんだ。

そう思うと、大人びた体つきと自分のまだ未熟な体をつい見比べてしまい、恥ずかしさがこみあげてきた。

でも、この人が勝手にそう言っているだけかもしれない。

イルミはハッキリと、手紙は破り捨てた、と言ってたし、破り捨てる行動は、婚約を否定しているも同義。

そこにイルミの気持ちはないはずだ。

 

 

でも、もし、私にイルミが嘘をついているとしたら?

この人の事が全て本当だとしたら……?

今までイルミが私にしてくれたことが、全て気持ちも何もなかったことになってしまう。

 

 

「なんだか可哀そうになってきたわぁ。イルミが何も教えていなかったのがいけないんだし、代わりに私が教えてあげる。今夜、イルミは私の部屋に来ることになっているの。貴方なら、オーラや気配さえも完璧に消して、私の部屋に来ることなんて簡単でしょう?」

 

 

「自分の目で見て確かめろって言いたいの……?」

「そう。結局は他の誰かの言葉なんて、信じられないでしょう?なら、自分で実際に見てみるべきだと思うのよねぇ」

「……」

 

 

それだけ言うと、イザベラは笑いながら「お先に失礼」と言って、先に出て行ってしまった。

 

 

もぅ、何なの?

今日は何でこうも色々あるのよ。

ルイス家本社を襲った犯人も気になるし、イルミとイザベラのことも気になるし……。

「はぁ」

 

 

素直に温泉を楽しめなくなっちゃった。

温泉を出ると、イルミが待っていた。

色白のイルミの肌はほんのりと赤みを帯びていて、温泉を堪能できたのがそれだけで分かった。

 

 

温泉良かったでしょ?

気持ちよかった?

あの景色良かったよね!!

 

 

話すことなんて幾らでもあった。

なのに、何一つとして喋れなかった。

 

 

「メル?」

様子の可笑しい私を首を傾げるイルミ。

「あ、ごめん。少し上せちゃって、……ちょっとぼぅっとしてるっていうか……その……・」

口ごもっていると、ふわっと体が宙に浮いた。

 

 

「えっ!?」

イルミは軽々とメルを抱きかかえてスタスタと歩き始めた。

「上せてるんでしょ?部屋でもう休みなよ」

「う、うん」

 

 

このイルミの行動も、私自身を想ってのことじゃなくて、イザベラに似ているから?ルイス家との協定の友好の為?

…違う。

これは私に向けられた優しさだ。私に対するイルミの行動だ。

イザベラやルイス家は関係ない。

イルミは私自身を見てくれてる。

 

 

イルミの首に回す手にきゅっと力が籠った。

部屋に戻るとベッドに寝かしつけられて、セバスから貰った扇子で仰いでくれた。

 

 

「も、もういいよ。ありがとうイルミ」

「そう?まだ顔色悪いけど」

イルミの手が私の頬に触れてくる。

 

 

「何かあった?」

核心をついてくるこの言葉に、動揺を隠しながら「何もないよ」と少し微笑みながらいう私を見て「そう」そっけない返事だけが帰ってきた。

 

 

「今日は色々あって疲れちゃった。私もう寝るね」

「分かった。お休み」

 

 

優しく大事なモノを触れるように優しく髪を撫でてくれた。

やっぱりあの人の言う事は信じられない。

これが嘘だなんて思えない。

 

 

今日23時にあの人の部屋に行って確かめよう。

それでちゃんと言おう。

イルミは私に嘘なんてついていないって。

 

 

******************

 

 

23:00

 

 

イルミは静かに起きて、ドアから出ていった。

閉まる音を聞いてから私はゆっくりとカプを呼んだ。

 

 

『お呼びでしょうかマスター』

うん。

 

『……元気がないようですが…』

ほんとカプって、人間みたいな感情持ってるよね。

念能力って忘れそうになる。……今日は透明化の能力が欲しい。

 

 

『畏まりました。精度はいかがしますか?ただ姿を相手から見えなくするだけなのか、それとも触れられても相手に物体として認識できないようなものにするか。これによって消費するオーラ量が異なってきます』

 

んー、そうだなぁ、なら後者にしてくれる?それに、ドアを開けなくても中に入れる、つまりすり抜けることもできる能力にしてほしい。

 

『分かりましたマスター。……能力創造完了。能力名“認知不可領域(クリアゾーン)”』

 

 

この能力、仕事で役に立つだろうなぁ。

でも、カプを使う程の仕事があれば、だけど。

 

 

「よし!」

確かめにいくぞ~!!

イルミがイザベラの部屋に行く理由は……よく分からないけれど何か行かなければならない事があるに違いない。

イルミは無駄なことはしない主義だもの。

 

 

確か、部屋の番号はー……。

125と書かれた扉の前まで来た。

 

 

カプの説明では、絶対不可領域発動中は、声を出しても相手には聞こえず、まさに私の存在自体を一切認識することができないというもの。でも、これだけ有能な能力だから制限は多少ある。

 

 

1つは時間。

10分間というこの時間が過ぎてしまえば、能力は自動的に解除されてしまう。

でも、更にオーラを使用し続ければ、その時間を延長することができるというなんともチートな能力。

 

 

もう1つは、この能力発動中に他の念能力は使用できないというもの。

まぁ、話を少し聞いて出ていくだけだから、戦闘になることもないし時間もそうかからない筈。

ゆっくりと深呼吸を繰り返して、私は扉の中へと足を進めた。

 

 

中に入るとイルミとイザベラの声が聞こえてきた。

どうやら寝室にいる様だ。

 

 

寝室の扉をすり抜けると、そこにはイルミがイザベラにキスを落とした所であった。

「え?」

 

 

聞こえて無い筈なのに、つい口元を手で押さえこんだ。

イザベラは自身の体に相当自身があるのか、こんなに明るい部屋にも関わらず、肌が見える程薄く透明なネグリジェを着ており、そのイザベラをイルミが押し倒している様な状態だった。

 

「イルミ、貴方のその表情が1番好きなのよねぇ。どんな状況でも変わらないその冷たい顔、瞳。あぁ、本当に最高だわ。まるで死体みたいでうっとりしちゃうわぁ」

 

「……ネクロフィリアなのは変わってないようだね」

「それで、さっきした話を聞いて、あのお人形さんのこと、どうするつもりなの?」

イザベラはにやっと微笑みを浮かべる。

 

「俺には関係ない」

 

 

 

「……」

胸がさっきからズキズキと痛む。

関係ない……か。

イルミらしいと言えば、イルミらしい……かぁ。

でも、じゃぁイルミの今までの言葉は……?

「全部嘘なの?……イルミ」

 

 

 

ぶわっと涙があふれてきた。

カプ、声が聞こえない仕様にしてくれてありがとう。

こんなの、……声を我慢するなんてできないや。

 

 

 

「イルミ……ふぅっ……うぅっ……」

ぽたぽたと雫が床に落ちていくが、シミはできず、どうやら体から離れた物質さえ、このカーペットも認識できないらしい。

 

 

 

「まぁ、貴方あのお人形と随分親しそうにしていたじゃない」

「形だけはね。ルイス家とは仲良くしておかなくちゃゾルディックが困るからね。ルイス程力を持った同業者はいないからね。もし、ゾルディックの存在を脅かす者がいたとしたら、それはルイス以外いない」

 

 

「ふぅっ…うぅ……」

本当にここにいるのはイルミなの?

いつも私に優しくしてくれてたイルミは嘘で、私の事なんて何とも思ってなかったってこと?

 

 

心のどこかで、イルミは私の事を好きなんじゃないかって思ったこともあった。

好き、イルミがそんな感情を私に抱く筈なんかったんだ。

だって、ただの友人でもない。

私はイルミにとって、どうでもいいその他大勢の1人だったんだ。

 

 

「じゃぁ貴方、別にあの子に何か特別な感情があった訳じゃないのね?」

「特別な感情?そんなの、俺が持ち合わせているように見えるの?」

「ふふっ、やはり貴方は他の男とは違うわぁ」

 

 

 

私はすぐにその部屋から出ていった。

これ以上何も聞きたくなかったからだ。

 

 

私は部屋にも帰らずに、そのままホテルの外に出た。

気付くと15分が立っていて、自動的に“認知不可領域(クリアゾーン)”は解けていた。

 

 

「うぅ……ヒック、…ふぅ…うっ…イルミのバカっ。……何もしなくてもルイスとゾルディックの協定は続くに決まってるじゃない。お爺様とハク様、お父様とシルバさんが大の仲良しなんだから今更どうこうなるようなことじゃないよっ。……顔も見たくない」

 

 

 

1番許せないのが、私を見ているようで、その奥にいるイザベラを見ていて、それを私に隠そうとしたことだ。

嘘をつかれることが1番堪える。

 

 

 

私はルイス家の娘として、幼い頃から色んな人を紹介された。

有名な資産家、一流企業の総取締役、カキン王国の3大マフィア、十老頭……

ルイスというブランドに群がり、仲良くなることでそのお零れを少しでも啜ろうと、まだ手懐けやすい、幼ない私を懐柔させる為に、色んな人が挨拶に来た。

 

 

その人達の顔はどれも同じで、いかにルイスと近づくか、悪意に満ちたそんな顔。

人を利用しようとばかり企む人たちに嫌気がさして、イルミにも相談したなぁ。

 

 

あの時イルミ、「俺もうんざりするよ」って言ってて、私と同じ悩みを持つ人ができたって、嬉しかったな。

でも、貴方もその人たちと同じ。

私個人を見ずに、私のブランドを見ていた。

そして、イザベラと重ねて私と接してたんだ。

 

 

そこに私という個人は存在しない。

私は、一体何だったの……?

「私は……貴方の何だったの?……イルミ」

 

 

 

シェラードアイランドは、夜でも煌びやかで今の私にはあまりにも眩しすぎる。

ルイス家に戻ろう。

もう、誰とも関わりたくない。

飛行場へと向かおうとした時だ。

 

 

 

誰かが私の前に立っていた。

月明かりがその人を怪しげに照らす。

ゆっくりと視線を上に向けると、その姿に全身がぶるっと震えた。

 

 

「あなたー……」

「俺を覚えているか?」

 

 

黒い髪、黒い瞳。

背丈はあの頃よりも随分と伸びて、体格もしっかりしている。

でも、どんなに成長したからと言って、私が見間違える筈ない。

その声、そのオーラ。

間違いない。

 

 

「忘れる筈ないでしょう。母様の仇なんだから」

空気がカラッと乾く程に、メルから鋭い殺気が放たれた。

 

 

「ふっ。俺も君を忘れたことはないよ。君の能力は素晴らしい」

「……私の念能力が目的だったのね。せっかくこうしてまた会えたんだから、名前くらい教えてくれないかしら」

「いいだろう。俺はクロロ・ルシルフル」

 

 

クロロ・ルシルフル。

メルは笑みを浮かべた。

 

 

「この状況で笑うか。流石はルイス家で、イルミの女だけあるな。そのお前がなぜ1人で泣いている?イルミに捨てられたか?」

「うっ、……煩い」

「どうやら図星の様だ。まぁ、お前を1人にする為の作戦だったが、こうも簡単にいくとはな」

 

 

私を1人にする為の作戦……?

「-……!!」

メルは目を見張った。

 

 

私が目的なら、なぜ私が普段出入りしないルイス家本社を襲った?

それはルイス家の重鎮、父様や兄様をその件で足止めする為。

私の事を、イルミの女とまで断言しきったということは、私とイルミが一緒にいるという情報をどこかで得た。

つまり協力者がいた筈。

私を部屋に呼んでイルミとの関係を見せつけて、私1人出て行かせた張本人は、イザベラ。

このクロロとイザベラは始めから手を組んでいたということだ。

 

 

「その様子じゃ全て理解した様だ」

「随分と回りくどいことをしますね。私はずっとあなたを待っていたというのに」

にっこりと微笑むメルの右手には、白い刀がいつの間にか握られていた。

 

 

「ほう。神の略奪者、テオスプランダラか」

「私の能力もご存じということは、余程有能な情報収集能力をお持ちなんですね」

「情報収集が得意な仲間がいるからな」

 

 

するとクロロの右手には1冊の本が握られていた。

あの本!!

そうだ、この人の能力は他人の能力を盗むことだ。

 

 

母様はあの本から出現した能力で殺された。

「ふぅ」

 

 

落ち着くのよ、メルルイス。

急いではいけない。

落ち着いてクロロの能力の分析をするの。

相手は近接戦闘が得意だったから、なるべく間合いを取ってまずは様子を見る。

 

 

「やけに慎重じゃないか。俺を殺したかったんじゃないのか?」

「暗殺者たるもの焦ってはいけない。機を待つことこそ1番大切」

「この状況でもそんなことが言えるか?」

「?」

 

 

 

すると、突然周囲を囲む様に凄まじい念能力使い達が現れたのだ。

「なっ……!!」

11人!?

 

 

それもかなりの念能力の達人レベル!!!

クロロだけならまだしも、このレベルを相手しながら戦うのはいくら私でもかなり厳しい。

ぽたりと冷や汗がつたい落ちる。

 

 

「流石にこの人数はいくらルイス家と言えどキツでしょ」

にこにこと笑いながら金髪の男、シャルナークはメルを見据える。

 

 

「ガッハハハハ!!!団長、今回の目当てはこいつか?お前も不運だったな。団長に目を付けられるなんて」

「ウボォー。不運どころじゃねぇだろ。流石に少しは同情するぜ」

「ノブナガは流されやすいからね」

「なんだとマチ!!俺がいつ流されたっていうんだ!!」

 

 

 

「チッ。こんな小娘にこんな人数必要ないネ」

「フェイの言う通りだぜ。団長、俺1人で十分だ」

「バカねあんた達。あの、ルイス家の娘よ?強いに決まっているでしょう。それに、団長が昔から狙っていたのになかなか手に入れられなかったのよ?相当手こずるわよ?」

「パクノダは黙ってるネ」

 

 

1人1人が凄い能力を持っているって嫌でも分かる。

私に死は許されない。

ルイス家の娘として、こんな所で死ぬわけにはいかない。

なんせ母様の仇が目の前にいる!

この大事な戦いで私も死ねば、父様や兄様がどんなに悲しむか。

……死ねない。

こんな所で……

 

 

「ルイス家に負けは許されない」

「はぁ?お前なにほざいてるネ。この人数見てわからないのカ?」

 

 

傲慢な絶対君主(リベラロード)

私の髪はプラチナブロンドから真っ黒に染まっていく。瞳まで黒くなった所で、私は直ぐに行動した。

先手必勝!!!

 

 

私の黒いオーラは形を変えながら11人全員を捉えようと、物凄いスピードで追いかけた。

「なんだこれ!?」

「おい!!おろせ!!」

 

 

さすが母様を殺した人の仲間だけある。

初手では何名か捕まえきれなかったけど、全員捉えるのに時間はかからなかった。

 

 

全員をすまきの様にぐるぐるにオーラを巻き付けて縛り上げて、宙にぷらりと吊るしてみたはいいけれど……

かなりキツイ!!!

これだけの念能力者を拘束するのはやはり厳しい。

オーラの消費量も激しいし、絶えずこの12人からオーラを奪っていないと維持できない。

 

 

 

この状況で神の略奪者(テオスプランダラ)を発動させる余裕なんてなく、捉えたと同時にしまわなければ、拘束が解けてしまう程だ。

「-っく」

嫌でも顔が歪んでしまう。

 

 

それを見て宙ぶらりんになりながら自身も私にオーラを吸われているというのに、クロロは至って冷静であった。

「ほぅ。これは凄いな。君にオーラが絶えず流れている。だが、俺たちを捉えておくにはかなりきつそうだな。その集中力が途切れるのが早いか、俺たちのオーラがなくなるのが早いか、一体どちらが早いか」

 

 

「なあに悠長なこといってるのクロロ!!もし俺たちのオーラを吸い取られたら、何もできずにこの子になぶり殺しになるんだよ!!」

シャルナークはじたばたとしながらクロロに一括を入れる。

 

 

「ふむ。それもそうだ」

「バカネ」

「団長……」

 

「いいか?この能力はオーラは吸い取られるが、強制的な絶状態を強いられているわけではない」

「つまり、オーラがなくなる前に全力で足掻けってことだね」

 

 

「!?」

全員一気に自身の念能力を発動させた。

それと同時にぎりぎり抑えられていた黒いオーラがブチブチとちぎれていった。

 

 

すると、凄まじい速さでフェイタンと呼ばれる小柄な男は、仕込み刀で斬りつけてきた。

咄嗟に神の略奪者(テオスプランダラ)を発動させて剣戟を受け止めると、その横から大きく振り被った大柄の男、ウボォーギンの協力な一撃“超破壊拳(ビッグバンインパクト)”が振り下ろされる。

 

 

横に回避しながら堅で防御力を高めると、避けた先にいたシャルナークが笑顔でアンテナを投げつける。

イルミと同じ操作系の能力者!!

当たるわけにはいかない。

 

 

空中へと回避すると、待っていましたと言わんばかりにノブナガが思い切り刀を振り下ろした。

空中では踏ん張ることができず、簡単に私の体は地面にたたきつけられた。

 

 

「ゴホッゴホッ!!」

土煙立ち込める中、土煙の僅かな揺らぎを見てフェイタンの剣劇やシャルナークのアンテナを避けていく。

 

 

あ~、キツイ!!

避けるのが精いっぱいで反撃に転じれない!!

 

 

誰かに助けを呼ばないと本当に死んでしまうかもしれない……!!!!

誰かー……

ふと、頭に浮かんだのはイルミだった。

 

 

駄目だ。

イルミにはもう頼れない。

やっぱり自分でなんとかするしかない。

 

 

私は唯一絶対にオーラを離さなかった男、クロロを一瞥した。

相変わらず宙ぶらりんで、既にかなりのオーラを吸い取られている筈なのになぜか余裕の表情をしている。

 

 

「いいの!?貴方たちのボスはまだ私のオーラの手中にいる!!この場を引いてくれるなら、この男を離すわ。でも、このまま続けるというのなら、この男の命だけは私が死んでももらう」

 

 

その言葉でぴたりと11人の攻撃がやんだ。

やはり仲間の命は惜しい、そういうことよね?

 

 

と思っていたメルの考えはすぐに覆された。

「メル・ルイス。お前は何か勘違いをしている。頭がなくても動ける組織、それが幻影旅団…蜘蛛だ」

「幻影旅団!?」

 

 

そうかこの人たちが幻影旅団。

父様に何度も言われた。

幻影旅団には近づくなって。

 

そういう意味だったの。

やはり父様は分かっていたんだ。

母様を殺した犯人のことを。

 

私が知ってしまったら、必ず1人で過去を清算しに行こうとしてただろう。

それを見越して……。

 

胸が熱くなった。

私はずっと守られていたんだ。

 

父様……。

ごめんなさい。

私はもしかしたら死ぬかもしれない。

 

親孝行できなくてごめんなさい。

でも、母様の仇だけは、……クロロだけは道ずれにする。

 

 

 

「カプ」

『はい、マスター何の能力をご所望でしょうか?』

 

 

「私とクロロ、2人きりにしてほしい。邪魔が入らない様な空間、作れるかしら」

『畏まりました。どんな物理攻撃も完全に遮断する空間、ということでよろしいですね。では、能力創造開始します』

 

 

「お前、何をブツブツ言っているネ」

「“超越する部屋”」

 

すると、私の周りにいた幻影旅団員達は全員弾き飛ばされた。

私取り囲む周囲50mの透明な立方体は、外部からのどんな事象も干渉できない。

この透明な空間に触れると、軽く数メートルは弾き飛ばされる使用になっている。

 

 

傲慢な絶対君主(リベラロード)を解除する。

「俺との一騎打ちをご所望か」

 

 

「えぇ。このまま貴方のオーラを吸い続けて殺すのも良かったけれど、ずっと追っていた相手に対してこんなに簡単に終わらせてしまうのは失礼だからね。クロロ、貴方とはちゃんと戦いたい」

 

 

「フっ。お前、死ぬ気だな。もし俺を殺しても、その後仲間に殺される。それを分かって、この空間を作っているだろう?恐らく、この能力には制限がある。時間制限があるか、術者のオーラが一定ライン以下になると解除されるかのどちらかだろう。恐らく前者。この手の能力は維持するのにかなりのリスクを伴うだろうからな。時間制限、といった所が妥当だろう」

 

 

勘がいいな。

「えぇ、その通り。私は15分以内に貴方を倒す」

「いいだろう。その申し出、受けよう」

 

 

再びクロロの右手に本が握られた。

私も神の略奪者(テオスプランダラ)を強く握る。

 

 

両者は同時に地面を蹴り、距離を詰めた。

クロロは本を出しながら、片手にはベンズナイフを握っている。

 

 

あの形状は……仕込み毒がある筈。

シルバさんがベンズナイフ好きだったから昔調べ上げたことがあったんだよね。

その知識がこんな所で役に立つとは。

 

 

長物を使っている私の方が、剣戟戦では有利!!

メルは得意の剣劇でクロロを追い詰めるも、クロロは相変わらず余裕の表情でどこか笑ってさえいる。

 

 

 

メルの超越する部屋の外で、クロロとメルの戦いを見ていた団員達はいつの間にか酒をどこからか掻っ攫い、飲みながら鑑賞していた。

「ちょっとアンタたち。真面目にしなよ」

マチはため息をつきながらウボォーやノブナガ、フィンクスを一瞥する。

 

 

「マチ!てめぇも飲め!!」

「飲まないってば」

 

 

「しっかし、あの嬢ちゃんありゃかなり強ぇな!殺しちまうのが勿体ねぇくれぇだぜ!!」

ノブナガはカッカッカッと大笑いしながら酒を飲む。

 

「ま、ルイスって名乗るだけはあるネ」

「だって、あんた達が束になっても簡単に避けられてたしね」

「黙るネパクノダ」

 

 

「ルイス家って、容姿もいいからどっかのマフィアや貴族連中にはかなり評判良いと思うんだよねぇ。能力を奪った後は、高値で売ってしまった方がいいと思うんだ~。どう??」

無邪気に笑うシャルナークの意見に、異を唱えたのはフェイタンであった。

 

 

「シャル、それこそ勿体ないネ。ワタシが拷問して遊んでからならイイヨ」

「フェイタンの拷問かぁ、人格を保ててたらいいんだけどね。人格破綻したら流石に値が落ちちゃうよ」

 

 

「なぁ、お前ら、結局この戦い、どっちが勝つと思う?あのメルって奴かなり押してるぜ?しかも、正々堂々と戦いたいからって、あの黒いオーラ引っ込めて戦ってんだろ?あれ使えばもしかしたら団長やられてたんじゃねぇ?」

 

 

「何言ってるのフィンクス。団長が負ける訳ないじゃない」

「もし負けたら、この能力解いた瞬間にワタシ等で殺して終わりネ」

 

 

 

 

 

メルは何度も自ら仕掛けに行くがなかなか攻撃が決まらないでいた。

それは、ヒソカ並みの体術がクロロに備わっていたからだ。

しかも、右手で本を開きながら私と同等に渡り合っている。

 

 

これがもし両手だったらー……。

そう考えると背筋がゾッとする。

この人……強い!!!!

 

 

 

「流石、幻影旅団の団長を務めるだけありますね。攻撃が当たりません」

「それはこちらも同じだが。かすり傷一つ負わせられないのは初めてで興味深い」

「それはどうも」

 

 

すると、クロロは少し思案する様子を見せた。

だが、それを待つメルではない。

 

 

隙があれば見逃さない。

刀を振り上げようとしたその時だ。

 

 

「メル・ルイス。お前、俺たちの仲間にならないか?」

「………はぁ?」

 

 

呆れてメルは振り上げられたまま、硬直した。

「な、なに言ってるの?私があなたたちの仲間になんてなる訳ないでしょ」

「そうか。なら、条件を出そう」

「条件……?」

 

 

「お前が仲間にならなければ、イザベラ・テイラーを殺す」

「!!!」

 

 

ドクンドクンと心臓が飛び上がる。

「何を……言っているの」

「イザベラ・テイラーはイルミの婚約者だそうだな」

「……そ、それが私になんの関係が」

 

 

「俺は昔、お前の母親を殺してから、お前の行動を見張っていた。お前の傍にはいつもイルミがいたな。あいつのおかげで手を出すのに時間がかかったが、お前がイルミに寄せている感情は愛…

「やめて!!!!!」

 

 

私はふーふーと肩で息をする程呼吸が乱れていた。

「フッ、お前の性格はよく知っている。イルミがお前を捨てても、お前はイルミを捨てられない。そのイルミの婚約者を、お前は殺せないだろう。師として、最愛の人間として、イルミの幸せを心から願っている。―…何とも人間という生き物は感情に流されやすいモノだ。自分を捨てる原因になった女の為に、お前は命を張って蜘蛛に入団するのだからな」

 

 

「………っ」

殺したい……この男を今すぐに殺したい……!!!

でも、代わりにイザベラが殺されたら?

イルミはきっと悲しむ。

イルミはああ見えて繊細なんだ。

私がいない分、イザベラが彼の傍にいなきゃいけない。

その彼女を殺される訳にはいかない。

 

 

……母様、ごめんなさい。

私はイルミに幸せになってもらいたい…。

 

 

「分かった。……蜘蛛に入る。その代わりに私からも条件がある」

「いいだろう」

「ゾルディック家、ルイス家、テイラー家に一切手は出さないこと。これを守ってくれるなら入団する」

「分かった。契約成立だ」

 

 

ぽたぽたと大粒の涙が流れ落ちる。

父様、兄様…ごめんなさい。

イルミー……元気でね。

 

 

 

私はシェラードアイランドを一望し、踵を返してクロロ達の後に続き、姿を眩ませた。

 

 

 

 

 



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44話 幻影旅団×ト×メル・ルイス

イルミはイザベラの部屋を出て、150階の部屋へと戻るが、そこにメルの姿はなかった。

「……メル?」

 

円をしてもメルの気配は見当たらなかった。

嫌な汗が流れた。

 

イルミはイザベラの部屋に行き、メルに関する情報を手に入れた。

ゾルディックと親交のあるテイラー家の令嬢に針を突き刺す訳にはいかず、その為に3流の殺し屋がやる色を使って情報を集めていたのだ。

 

「メルルイスを狙っているのは幻影旅団。あの子が心配なら1人にしないことね」

イザベラは俺に忠告をしていた。

そう、片時も離れてはいけなかったんだ。

 

俺がこの部屋から離れて2時間程経っていた。

クロロのことだ。

メルの珍しい能力に惹かれたんだろうけど、……まさかお前がメルの母親を殺していたなんてね。

 

 

イルミはヒソカに連絡をしてみた。

『や♡久しぶりじゃないか』

「メルはどこ?」

『ククク。君勘がいいよね』

「いいから早く答えて」

『何時間か前にシェラードアイランドに団長含め11人の団員が向かったはずだよ。もう既に接触している筈さ。僕はメルに手出しできない指輪をはめられてしまっているから今回はお留守番って訳♡まぁ、この指輪が壊れてないのを見ると、メルはまだ生きてるよ。でも、無事ではないだろうね♡メルも抵抗すると思うし、うちのメンバーは短気なのが多いからね♡』

ピと電話を切り、窓から外へ降りようとした時だ。

 

 

慌ててセバスがやって来たのだ。

「イルミ様、メルお嬢様がこのホテルにいらっしゃらないのです。私の能力は、チェックインした全ての人間の位置も把握できるのですが、忽然と姿を消されたのです!」

「それはいつからか分かる?」

「23時頃でしょうか……。少し様子を見ていたのですが、一向に感知できないので先程からずっと探しているのです!!もうこのホテルにはメル様はいらっしゃりません。恐らく、自身の能力で誰にも気づかれずに外に出たものかと……」

 

23時頃。

……俺がイザベラの部屋に行った時間と同じ。

 

セバスの能力でも感知できないということは、自分の存在を消すことができる能力を創った可能性が高い。

その時間、なぜそんな能力を創ったか……。

……考えたくないけど、メルはあの部屋にいた?

俺たちの会話を聞いて、外に出たんじゃ……。

それにしてはあまりに不自然な程に物事が進んでる気がする。

メルは風呂場から出てから少し様子がおかしかった。

何かあった筈。

風呂場、女……、……イザベラしかいない。

彼女がメルに部屋に来るように言ったのか。

つまり、メルを1人にすることが目的。彼女は幻影旅団と手を組んでいたことになる。

 

「はぁ」

イルミの口から深いため息がこぼれる。

 

大体、クロロのやつ、何年も経つのにまだメルを狙うなんて粘着質な奴だ。

あいつがこれほどメルに執着する理由は恐らく能力に惹かれたことで合っているだろう。

イザベラとクロロが繋がっているとすれば、俺とメルが親しいことも伝えている筈。

となると、……俺が興味を持っている女、その情報だけでもクロロの興味は湧くだろう。

 

俺とメルとの関係性も、奴の興味を惹く原因になった可能性は高い。

もっとうまく立ち回ることもできた筈なのに。

よく考えればわかったはずだ。

ベラならいづれメルに危害を加えるかもしれない、と。

その前に殺さなければならなかった。

 

今すぐに殺したい衝動に駆り立てられるもイルミはグッと気持ちを抑え込んだ。

 

優先順位を間違えるな。

今はメルの安否が最優先だ。

 

 

「セバス、外は俺が探す。エル達に連絡を入れておいて」

「分かりました」

 

 

メルが飛び出したのは、多分、……俺とイザベラがしていたことを見聞きしてしまったからだ。

メルの情報を聞き出す為とは言え、あんな所を見られたのはさすがにまずい。

でも説明したらメルなら信じてくれる。

 

 

「クロロ。俺のモノに手を出して、ただで済むと思うな」

イルミからは鋭い殺気が溢れ出る。

 

 

ホテルの最上階からシェラードアイランド全体を見渡しても戦闘している様な気配は微塵もなかった。

既にカタがついたか、あるいはメルがうまくやり過ごして、戦闘になっていないかの二択。

メルの事だ。

きっとうまく隠れているに違いない。

メルには自我がある念能力、カプがついている。

 

 

もしうまくやり過ごせているなら、隠れられる場所はどこだ?

メルが頼る場所。

 

 

イルミはその場所へ行き、ドアをノックした。

「うるさいわねぇ!!!一体何時だと思ってるのー!!!!って……あれ?アンタどうしたのだわさ」

イルミが向かった場所はビスケの家であった。

 

戦闘能力で考えれば、ビスケの力を借りるのが妥当かと思ったけど……。

「メルいる?」

「いないけど……。なにアンタ!!メルに何かしたんじゃないでしょうね!!!」

「いないならいい」

 

そう言ってその場を去ろうとしたイルミの腕をビスケはガッシリと掴んだ。

「俺急いでるんだけど」

「何かあったのね?早く言いなさい」

 

「……メルが幻影旅団って盗賊に狙われてる」

「なんだって!!??それを早く言いなさい!!!私も探すからあんたは飛行場や港に行きな!!」

「…分かった」

 

 

港や飛行船はシェラードアイランドの北東に位置している。

やってきたはいいものの、深夜帯というのに旅行客がウロウロとしていた。

メルの容姿を知っている店員に聞けば、メルがここに来たかどうか分かるだろう。

そう思って片っ端から話しかけても、誰一人としてメルの姿を見た者は見つからなかった。

 

 

そして、メルが見つからないまま夜が明けた。

メルはこの島にはもういない。

幻影旅団と思われる人間も誰一人として目撃情報は得られず、メルはこの島から忽然と姿を消していた。

 

 

探している途中に分かったが、少し開けた森に近い公園で大規模な戦闘を行った痕跡が見つかった。

足跡も複数あり、その1つはメルの足の大きさと一致した。

つまり、メルは幻影旅団と遭遇し、この場所で戦闘をしたのだ。

ヒソカの指輪が壊れていないことから、メルは生きていると思われるが、この戦闘跡では無事ではないと想像がつく。

 

 

日が明けると同時に、ルイス家の人間が続々とシェラードアイランド港に集まった。

ラルは俺を見るなり殴りつけた。

殴られて当然だ、と自覚していたから避けはしなかった。

「お前っ……!!!お前が付いていながらっ……」

ラルは拳を震わせながらぽたぽたと涙を流している。

こんなに感情を表に出せたら少しは俺のこの気持ちも落ち着くのだろうか。

 

 

「イルミ。全て話せ。お前の言葉に嘘偽りがあれば、ゾルディック家との協定は白紙となる。そのくらい今回の件は重い」

エルも怒りを抑えられず、唇をかみしめていた。

 

それを宥める様に、ウィリアムがラルとエルの肩に手を置いた。

「イルミ君だけを責めるんじゃないよ。責任があるとしたら僕たちの方だ。まんまと蜘蛛の作戦にハマって、ルイス家本社にうまく誘導されていたんだからね。この件を重く見る必要はないよイルミ君。ただ、なぜメルが1人になったか、そこは詳しく聞かせてもらうけどね」

 

ぎらりと青い眼光が光った。

失望しただろうか。

メルを守りきれる自信があったのにこの体たらくだ。

メルと旅行を楽しんで気が抜けていたのか…?

メルが危険な状態なのは始めから分かっていたことだったのに。

いくらでも対策なんかできた筈だ。

ゾルディック家の地下室に連れて行けばこんなことにはならなかっただろう。

いや、……俺が始めからイザベラに針を刺しておけば良かった。

テイラー家なんてどうでもよかった。

メルの命と比べられるモノなんて何もないのに。

 

 

イルミは淡々とあったことを全て話した。

「なるほど。…彼女をここに」

ウィリアムの言葉で連れてこられたのは、イザベラだった。

無理やり連れてこられたのか靴は片方脱げていて動けない様に拘束されている。

 

「イルミ君、彼女が言うには君は婚約者らしい。そのことに対して反論は?」

「母さんが勝手に言ってるだけで、俺にそのつもりはない。何度もベラにそのことは伝えてる」

「そう。君にそのつもりはないということだね?」

頷くと、ウィリアムは笑みを浮かべながら携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。

 

「シルバに話はつけた。イザベラ・テイラーとの婚約の話は白紙だって。これでゾルディック家と彼女は関係ないね。実は、テイラー家にも既に連絡していてね、メルが行方不明になった原因の女性がお宅の娘だとちゃんと伝えたんだ」

 

ウィリアムは膝まづくイザベラと目線を合わせた。

「ひぃっ!!」

イザベラはビクッと肩を上げて震えていた。

それもそのはず。

にっこりと笑ってはいるが、今にも殺してしまいそうな殺気が立ち込めているからだ。

 

 

「テイラー家頭首、つまり君のお父さんからの言伝だよ。君との縁を切る、ルイス家に身柄を渡すからテイラー家との関係はこれまでどおり友好でいて欲しいと懇願された。でもね、僕もあまり人ができていないんだ。大事な娘を行方不明にしてくれたんだ。君1人で済む問題じゃないのは、理解してくれるね?」

 

「あっ、……あのっ……私……とんでもないことをー…」

「今更気付いても遅すぎるよね?」

怪しく微笑むウィリアムに、イザベラは終始びくびくと肩を震わせていた。

 

するとブーとエルの携帯電話が鳴る。

「……。父さん、連絡が入りました。テイラー家頭首とその一家全員の首を跳ねた、と」

「そう。流石メルの部下だ。仕事が早くて助かるよ。さて、テイラー家最後の生き残りになってしまった君には、少し聞きたいことがある。それから、死んだ方がマシだと思えるくらいの罰を用意してあげよう」

「そっ、そんなっ!!いや!!!」

 

じたばたと暴れるイザベラは、這いつくばりながらイルミのズボンの裾を掴んだ。

「イルミ!!助けて……!!!!!私、貴方が小さい頃からずっと、……面倒みてあげたじゃない!?………ひっ」

イザベラはイルミを見上げると、まるで芋虫でも見ているかの様に冷たい視線で自身を見下ろしており、小さく声を震わせた。

 

イルミは針を握りしめて容赦なくイザベラに突き刺そうとしたが、その右手を止めたのはウィリアムだった。

「メルに何かしたら殺す。そう言ったよね、ベラ」

「ひぃっ」

「イルミ君。怒りは最もだけど、彼女の処分はルイス家に任せてくれないかな?」

「……分かった」

 

「さて、君の得た情報の、メルが生きているという言葉を信じて行動しよう。イルミ君、君にもメル奪還の為に一肌脱いでもらうよ」

「分かった。協力はする。でも、俺は1人の方が動きやすいから独自で追うよ?」

「ならこうしよう。エルと組んでメルの捜索をしてもらう。その都度こちらにも情報をよこすこと。いいね?」

「…分かった」

 

 

こうして、メルの捜索が始まったのだ。

 

 

**************************

 

 

メルはその頃、ジェットボートの上にいた。

「まさかクロロが仲間にしちゃうなんてね。驚いたよ」

「チッ。拷問したかったネ」

「俺ぁノブナガってんだ。嬢ちゃんの持ってる刀、ありゃ相当良いのを持ってるな!!今度じっくり見せてくれよ!!」

「ガッハハハ!!女でも強い奴ぁ大歓迎だぜぇ!!お前も飲むか?」

 

 

わいわいと賑わうボートの上で、メルはポツンとその状況が飲み込めないでいた。

なんか……

想っていたのと違う。

こんな分け合いあいとしてるんだ?

もっと殺伐とした感じかと思っていたけど……。

 

 

「あんたら、相当ドン引きされてるよ。まずは自己紹介でもすれば?」

「そういうお前からしろよ」

「はぁ、……私はマチ。よろしくね」

 

 

「よ、宜しく」

戦いの最中、念の糸で私を拘束しようとしていた人だ!!

あの技凄かったなァ。

 

 

「私はシズク!!メルちゃん宜しくね!」

「う、うん」

 

 

この人は具現化系の人だ!!

確か…デメチャンって言ってたっけ?

掃除機で土煙吸い込んでたな。

 

 

「私はパクノダ。女性陣が増えて嬉しいわ」

この人、銃を構えていたけど……

ただの銃では、ないよね?

一体どんな能力なんだろう。

 

 

「俺はウボォーギン!!よろしくなァ、確かメルとか言ったっけ?お前酒は好きかぁ?」

「お、お酒は…あまり」

この人見るからに強化系なんだよなぁ。

戦闘中も、ビッグバンインパクト~って物凄いパワー系の攻撃してたな。

 

 

「さっきも言ったが、俺はノブナガだ!刀を具現化する程推してるなんて気が合いそうだなァ!よろしくな嬢ちゃん!!」

「は、はい」

そうだ、この人!一太刀が凄く重たくて受けるのが大変だったあの人だ!斬りかかっても全部受け止められちゃったし、この人相当な使い手だ!!

 

 

「俺はシャルナーク。分かってると思うけど操作系の念能力者さ。君と同じハンターライセンス持ってるから、ある程度の情報収集は得意だよ」

クロロが言ってた情報収集が得意な仲間って、この人のことだったんだ。

 

 

「僕はコルトピ。よろしくね」

…モップ?なんだかマスコットキャラみたいで可愛らしいな。戦闘にはあまり関わってない印象だけど、この人もただ者じゃないオーラがするんだよね。

 

 

「俺はフィンクスだ」

頭の被り物のセンス!!何か別のモノを被った方が似合う気が……。でもこの人顔怖いし何も言わないでおこう。

 

 

「俺はボノレノフ。あんたの戦い方美しかったよ。まるで舞いを披露しながら戦ってるみたいに見えた。俺の一族は世界一美しく戦うんだ。美しく戦える仲間ができて光栄に思うよ」

「……世界一美しく戦う…、ギュドンドンド族……?」

「わ!流石ルイス家だなぁ。博識だね!」

シャルナークは目を大きく見開かせる。

 

 

「はいはい、あと3人いるんだからテンポよくいくよー。次アンタだよ」

このバラバラなメンバーだけど、まとめ役がいたからやっていけたのね。マチさんが今までまとめてたりしてたのかな?

 

 

「俺はフランクリン。うるせーやつばっかりだがよろしくな」

この人両手から念弾を出す人だ!!かなりの威力だったな…。アヴァホテルのガラス割れないかしら……。

 

 

「…チッ。フェイタンネ」

フェイタンっていうんだ。正直この人かなり強いのよね。速さも力も群を抜いてる。この人ほど暗殺業に向いてる人そういない!!!

 

 

「最後、団長だよ」

すると、クロロは読んでいた本をパタンと閉じて私を見た。

「クロロルシルフルだ。メル、お前には蜘蛛についてと今後のことを説明しておく。これからアジトに行って、お前の体に団員ナンバーが入った12本足の蜘蛛の刺青を彫る。ナンバーは0だ。通常、欠員が出なければ団員の補充はしないのだが、お前は特別だ。お前の能力はかなり珍しい。それは皆も見て分かっただろう」

 

 

ざわついていたのに空気ががらりと変わり全員真剣な面持ちになっていた。

すると金髪の男、シャルナークが手を挙げた。

 

 

「クロロちょっと質問。メルから能力を奪ってしまえば、団員補充なんてしなくていいのに、なんでそうしないの?そもそも能力を奪って、あとは殺すか売り飛ばすかって話になってたのにさ?」

「こいつの能力は異質だ。恐らく、メル、お前自身も自分の能力について正確に把握しきれていないんじゃないか?戦いながらその結論に至った。俺のスキルハンターは、使い手が自身の能力を正確に全て理解し俺に説明しなければ、能力は奪えない。つまり、本人も理解してない能力を俺が奪える筈がないということだ」

 

 

「え?自分の能力なのに理解していないって本当なの?自分で制約とか初めに決めるじゃん」

全員の視線が私に向けられた。

ここで1つでも嘘をつこうものなら、なぶり殺しに合うのは目に見えていた。

こんな状況で嘘をつくのは得策でないのは馬鹿でも分かる。

 

 

「……えっと、はい。いくつか念能力を持っているけど、能力を創造する能力、“気まぐれな皇帝(カプリスエンペラー)”に関しては、まだわかっていない事が多くて…。カプリスエンペラーは自我を持つ念能力なの。何かあれば随時教えてくれるし、もし私に危険な状況になればそうなる前に忠告もしてくれる。聞けば教えてはくれるだろうけど、それが全てとは限らない。やっぱりその状況に陥ってみないと分からないというか……」

 

 

カプに関して分からないのは本当でこれ以上なんとも言えないのだ。

「じゃぁどうやってその能力に目覚めたの?制約はどんなの?」

 

 

ん、シャルナークって人ぐいぐいくるなぁ。

普通人の能力についてこんなに聞く!?

私かなり情報晒してるんだけど!?

 

 

するとそれを察したのかマチさんがフォローしてくれた。

「それくらいにしなよ。あんたらだって、自分の能力は他人に知られたくないだろう」

「まぁ、そうだけどさぁ」

 

 

マ、マチさん!!!

ありがとう!!!

 

 

というか、クロロ、私と戦いながらカプの分析もしていたってことだよね。

流石、幻影旅団の団長だけあるな。

 

 

「君特質系でしょ?ほんと特質系って変わった能力が多いよね」

シャルナークさんって突然仲間になった私に偏見とかないのかな。

あまり受け入れられる様な状況ではない筈だけど。

フェイタンって人やフィンクスって人はさっきから凄い警戒して睨んでるのに。

 

 

「やはり、自分でも能力について分かっていなかったのか。天下のルイス家の娘がとんだじゃじゃ馬だとはな」

そう言い放ちクロロはフッと笑みを浮かべる。

 

 

何だろう、小ばかにされたよね今。

 

 

「話を進める。団員は普段各自自由に行動していて、俺の招集に応じて集合し、旅団としての活動を行うが、当分お前に自由はない。ルイス家が血眼になって探しているだろうからな。しばらくは俺の傍で待機してもらおう」

 

 

「……分かった」

「俺の命令は絶対だ。団員同士の抗争は厳禁。もしトラブルが生じた場合はコイントスで解決することになっている。団員の命よりも、旅団の存続が優先だ。このくらいか。何か質問はあるか?」

 

 

蜘蛛に入ったっていう事は、私もクロロの命令があれば人を殺さないといけないのだろうか。

頭に浮かんできたのは、母様と部下のレン、クラピカの顔だった。

蜘蛛は目的の為ならば容赦なく殺戮を行う。

同じ“殺し”でも両者には大きな壁がある。

私は生きる為に仕事として殺す。

でも彼らは自分の私利私欲の為に殺す。

私の考えとは目的がかなり異なる。

 

クロロは私の能力が目的で母を殺した。

それだけじゃない。

例をあげればクルタ族も被害者だ。

 

彼らは世界三大美色である緋の目がたまたまクロロの目にとまってしまったばかりに一族が滅んでしまった。

私の友達のクラピカもかなり苦しんでいる。

私の部下のレンも、クルタ族。出身だ。

レンはあの日…、蜘蛛に襲われた日村にいたそうだ。

奇跡的に蜘蛛から逃れられ、私が偶然見つけた時には今にも死んでしまいそうな程深手だった。

高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)によってなんとか一命をとりとめたけど、レンの心には消えない傷ができてしまっている。

 

私の大事な人を殺し、今も苦しませている元凶の蜘蛛と一緒に、私もクロロの言う“殺し”をしなければならないの?

そんなの……絶対に嫌だ。

 

 

「……わ、…私は理不尽に命を奪ったりはしない」

ボソッと呟いたことだが、フェイタンはしっかりと聞き取れたようで、更に私をきつく睨んできた。

「ハッ。殺し屋が何を言ってるネ。お前、下手したらワタシ達より殺してるヨ」

「それは仕事だから。生きるために仕事として依頼を受けて殺すの。それにちゃんと取引相手は選んでる。同じ殺しでも、理由や目的が違うわ」

「でも殺しは殺しネ。正当化しようとしてもお前はワタシ等に近い存在な事に変わりないヨ」

 

 

するとクロロが話を遮ってきた。

「フェイ、その辺にしておけ。殺しに理由が必要な人間もいる、ということだ。メル、いいか?お前が殺しをするもしないも、俺の命令が全てだ。あの女の命がかかっていることを忘れるな」

「!」

 

 

そうだ、…逆らえばイザベラが死ぬ。

彼女もそこそこ腕の立つ殺し屋だろうけど、この人たちには到底及ばない。

残酷に殺されて、それをみたイルミはどう思う?

……恐らく顔色一つ変えないだろうけど、きっと酷く落ち込むんだろうな。

そんな顔みたくない。

 

私が傍にいなくても、イルミさえ幸せに生きてくれたら私はそれでいい。

その為に彼女は必要だ。

 

 

今は大人しく、この人の言う事に従うしかない。

もし、殺戮を求められたら……その時はー……。

メルはゴクッと生唾を飲み込んだ。

 

 

気分を変えようとメルは海を眺めた。

私がいなくなったことで、ルイス家が総動員で捜索を開始した頃だろうな。

こんな時に蜘蛛も大きな行動は起こさないと思うし、しばらく落ち着いて過ごせる筈。

深いため息をつきながら、メルを乗せたボートは着々とアジトへと向かっていった。

 

 

 



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45話 仲間×ト×ナカマ

 

ずっと海の上を走っているせいで普通の人なら方向感覚を失うだろう。

でもメルは違った。

太陽の位置を常に把握し、自分が今どの方角に向かっているのかを、ボートに乗り込んでからずっと見ていたのだ。

 

 

あの蜘蛛のアジト……。

一体どこにあるんだろう。

そろそろ港に到着する頃だと思うけど。

 

 

するとクロロはそんな私の考えまでお見通しなのか、目隠しをする様に命令してきた。

「お前が逃げたり、外部に連絡を取る可能性も考えられるからな。アジトに着くまでは目隠しをして、絶もしてもらう」

「…分かった」

 

 

マチは白い布をメルの目に当てて、後ろでしっかりと縛った。

目隠しや絶まで強要するなんて、普通ここまでする?

まぁ、あの旅団のアジトなんだから仕方ないか。

新参者はやっぱり信頼なんてされないよね。

 

 

それからわざとぐるぐるとジェットボードを走らせてくれたおかげで、私は方向感覚を完全に失った。

それから数時間後にようやく船はどこかの港に到着したらしいが、人の声が全く聞こえなかった。

まぁ、堂々と公用の港なんて蜘蛛が使う訳はないけど。

 

 

するとふわっと体が宙に浮く感覚がした。

「わっ!」

「しばらく大人しくしておけ。少しでも暴れたり絶を解けば容赦はしない」

 

 

どうやら私を抱っこしているのはクロロの様だった。

耳元でささやくものだから息遣いまで聞こえてくる。

 

 

しばらく歩いたかと思えば猛スピードでの移動が始まった。

目が見えないのと、絶をしているのとで、もしこのスピードでクロロに手を離されてしまえば私は間違えなく大怪我を負ってしまうのは確実だ。

常に身にオーラを纏わせている分、信頼できない相手、よりにもよって蜘蛛の団長に、命を預けているこの状況は、恐怖でしかなかった。

振り落とされない様無意識に、クロロの肩に回す手に力が籠る。

 

 

すると「フッ」と小さく笑い声がかすかに聞こえたような気がした。

また馬鹿にされたのかな。でも、ルイス家の人間が、たかだか移動するだけで怯えているなんて、自分でも滑稽で仕方ない。

 

 

その地獄の様な時間は結構長く感じた。

普段ならば体内時間と、風が体に当たる感覚などを加味しておおよそ港からどのくらい離れた場所なのかを推測することくらいはできたのに、状況が状況であった為、頭をそちらに使う余裕もなく、気づいたらアジトに到着していた。

やはり周囲からは人の声はおろか、気配さえ感じない。

 

 

クロロはゆっくりと私を下ろすも、なんと私の手足は震えていて立っているのがやっとな状態だった。

クロロの腕をつかんでおかないと今にも倒れてしまいそうな感覚だ。

自分の命を信頼できない他人に預けることがこんなに怖いなんて。

二度とこんな思い体験したくない…!!

 

 

「もう絶を解いてもいいでしょ?」

「あのルイス家でも怖いモノがあったなんてな」

「誰でも絶をして貴方みたいな人に命を預けたら怖いわ。それより、もういい?」

「あぁ構わん」

 

 

その言葉を聞いてすぐに体をオーラでつつみ目隠しをとった。

すると震えは嘘の様に止まり、クロロの腕からパッと手を離した。

まだ口元に少し笑みを零すクロロであったが、私は無視をして周囲を見渡した。

 

 

船の上ではあんなに輝いていた太陽は、分厚い雲に覆われてその姿を隠してしまっているせいで、辺りは昼間だというのに暗い。

そんな不気味な雰囲気の中幾つも似たような廃墟と化したビルが建っていた。

私たちはそのうちの1つのビルの前に全員立っている状態であった。

 

 

歩くとコツコツと足音が響き渡る。

辺りは外よりも更に薄暗く、空気もじめっとしていた。

配管はむき出しになっており、所々壁が崩れかかっている。

以前この廃墟はマンションだったのか、少し歩くとかなりの広さがあるエントランスらしき場所になっていた。

 

 

すると、見覚えのある嫌なオーラを感じた。

「やぁメル♡久しぶりだね。元気そうでなによりだよ」

「ヒソカ!……ここにいるってことは貴方蜘蛛のメンバーだったの!?」

「そういうこと♡」

 

 

そう言えば私ヒソカをルイス家に連れて帰って、イルミの好きな人を聞き出そうとしてたのに、あまりに存在感がないもんだからヒソカのことすっかり忘れちゃってたんだった。

でも聞き出さなくて正解だったな。

 

 

「イルミに捨てられたんだって?」

笑顔で触れられたくない話題をズカズカと振ってくる辺りはさすがと言える。

「その話はやめて」

「どうして?♡」

 

 

するとマチさんが横に来て「あいつのことは無視しなよ」と助言をくれた。

「ありがとう。そうする」

「つれないなぁ♡」

 

 

深いため息をついてやっと心が落ち着いてきたと思えば今度はクロロが口を開く。

「メル、お前の体に入れ墨を掘る。そうだな、フェイ。お前がしてやれ」

指名されたフェイタンはあからさまに嫌そうな顔で大きく「チッ」と舌打ちをした。

 

 

いや、私も嫌だから。

舌打ちしたいのはこっちだから。

 

 

「ついてくるネ」

スタスタと歩くフェイタンの後ろに続きとある部屋へと足を踏み入れるも、私はすぐにピタリと進むのやめた。

壁には数々の拷問器具がズラリと並べられており、数個は血が付着している。

血の乾き方から察するに1週間前くらいに使用したものと思われる。

無駄に知識がある分、こういう時にはかなりマイナスだ。

この部屋で行われたであろう惨たらしい行為を容易に想像できてしまうおかげで、私の足はこれ以上進むなと危険信号を出していた。

 

 

「何してル。早くはいるネ」

いや中に入ったら何をされるか分かったもんじゃない!!

 

 

するとその光景を見ていたシャルナークは笑いながら近づいてきた。

「ハハハ!女の子にその部屋はキツイでしょ。僕が一緒に中に入ってあげるよ」

 

 

と、来てくれたのは良いのだけれど、できればマチさんやパクノダさんの様な女性陣の方が数倍ありがたい……。

でもせっかく来てくれたのだし……。

 

 

私はゴクリと生唾を飲み込んで決意した。

「よ……よろしくお願いします」

 

 

「ハハハハ!何もされないから安心しなって!」

無邪気に笑うシャルナークとは裏腹に、私の顔は引きつったままで、大人しくフェイタンに言われた台の上に座った。

人一人余裕で寝れるくらいの大きさのステンレスで作られた台は、座るとひんやりとしていた。

寝そべると手や足の位置にくるであろう場所には、頑丈な鉄の拘束具が取り付けられており、所々錆びていた。

 

 

「どこに掘るネ」

「なるべく見えない所がいいんだけど……」

 

 

今は無理かもしれないけど、蜘蛛は活動がない時は自由に過ごせるみたいだから、後々ルイス家にも戻れる筈。

その時に、目立つ場所に蜘蛛の入れ墨なんか入れてたら皆気を使うと思うしなぁ。

 

 

「チッ。早く決めるネ」

「えっと………」

見えない場所と言えば、胸かお尻か太ももの付け根とか……。

下着で隠せるところがいい。

……待って、掘るってことは私この2人に見せないといけないじゃない。

 

 

恥ずかしさのあまり口ごもっていると、旅団の中でも短気な男、フェイタンの舌打ちが返ってくる。

「さっさとするネ」

 

 

まずい。

早く言わないと殺されかねない。

 

 

「じゃ、じゃぁ……お尻に……」

「なに恥ずかしがってネ。お前に興味なんてないネ」

「あ、フェイタンそれは酷いよー。女の子なんだからもっと労わらないと!」

「労わる?お前の口から出る言葉とは思えないネ」

「ハハハ!確かにね」

 

 

こ、この女の子の敵みたいな人達に肌を晒さないといけないのか……。

頑張るのよメル。

恥ずかしいのはきっと始めだけ!!

私はルイス家なんだからこんな羞恥、耐えれなくてどうするの!!!

 

 

「早く済ませよう」

さっきまで恥ずかしがっていたが、どこか吹っ切れた様に着ていたワンピースをたくし上げた。

 

 

「大胆なやつネ。そこに横になるよろシ」

幸いなことに下着はTバックの中でも面積が多めのタイプだ。

脱がずに済んだことだけでも良しとしよう。

1度水着だと思えば羞恥心は嘘の様に消えた。

 

 

「どっちに掘ル?」

「じゃぁ左に」

 

 

するとフェイタンの手が腰に添えられる。

真っ白い肌に鋭利な道具が当てられそうになった時だ。

深いため息が降ってきた。

「オーラ消すネ。消さないと彫れなイ」

確かにそうだけど……もうどうにでもなれ!!

 

 

 

オーラを消した瞬間、お尻に鋭い痛みが走った。

ついビクッと体を動かしてしまうとガッシリと掴まれて身動きが取れなかった。

「動くナ」

 

 

 

動きたい訳じゃないんだけど痛い……!!

ルイス家でも拷問の訓練はあるけど私は受けてはいない。

拷問されるようなことにはならない、と兄様や父様に言われて私だけその訓練は受けてはいないのだ。

今になって受けて置けばよかったと思ったことはないよ……!!!

 

 

 

瞳に涙が溜まっていく。

ガリガリと削られる感覚で、ひりひりと熱を帯びてくるのを感じた。

痛みに耐え続けて30分が経過した頃「終わったネ」と一言あり、フェイタンの手が離れた。

 

 

 

起き上がった私を見て、フェイタンとシャルナークは目を丸くしていた。

「アッハハハハ!」

「お前何泣いてるネ」

鼻を赤くさせ、目が潤っているのが自分でも分かるけど認めたくない。

 

 

「なっ、泣いて…ない」

そう言うとシャルナークはまた大笑いをしてしまい、フェイタンも服で隠れているがどうやら笑っているようだ。

「わ、笑わないでよぉ…」

 

 

「ごめんごめん!意外だったからさ!だって、あのルイス家の子がさっきは団長に連れられてる時に震えてたし、今は入れ墨入れられて泣いてるもんだから可笑しくてさ!!」

「私拷問の訓練受けてなかったから…」

「へぇ、じゃぁワタシが教えてやろうカ?」

「フェイタンの拷問はピカイチだよ!!」

 

 

「いややりたいなんて一言も言ってないんだけど」

「訓練したいならいつでもいいよろシ」

 

 

ふとフェイタンの後ろの壁に飾られている、痛そうな道具達を見てゾワッと悪寒が走る。

「いや、遠慮しておく」

この人確実にサディストだ!!

人が苦しむのを楽しむ人種だきっと!!!

 

 

外ではフェイタンの拷問部屋から叫び声とは違う、笑い声が聞こえてくるもんだから他の旅団が気になって扉を開けてきた。

中に入って来たのはフィンクスだった。

「笑い声がするからよ、来てみたら一体どういう状況だ?」

 

 

「それがさぁ、聞いてよ!」

と、シャルナークは私が泣いたことを話すとフィンクスは「まじかよ」と少し口角を上げる。

 

 

「お前なァ、入れ墨入ってんだからもう旅団のメンバーじゃねぇか。そんな奴が墨ごときで泣くんじゃねぇよ」

ポンポンと頭を撫でてくれるフィンクスに、メルは少し戸惑う。

 

 

こんな顔怖いのに実は優しいんだ?

もしかして慰めてくれているのかな。

……あの、旅団のメンバーが?

なんだろう、私の思っていたイメージとかなり違うんだけど。

こうして接してみると普通の人にしか見えない。

 

 

 

フィンクスに撫でられたり、こうして笑いあったりする空間は、不思議と嫌ではなかった。

広場に行くとクロロはまた本を読んでいた様で、私が来るなりパタンと本を閉じた。

「随分賑やかだな」

「あ、それはねぇ!」と、シャルナークがまた喋り出そうとしていたが、「話は全て聞こえていた」と言い、薄っすらと笑みを浮かべながらクロロは私を見据えた。

 

 

シャルナーク……、要注意人物だ。

何か秘密を知られたら速攻で皆にバラすタイプだなぁ。

気を付けないとまた笑いものにされちゃうな。

 

 

「しばらく予定はない。各自自由に過ごしてもらって構わない」

その言葉で全員消えるのかと思ったが、一向に誰も出て行こうとはしなかった。

 

 

その行動にクロロも疑問に思ったのか、メンバーに対して「どうした?」と訪ねた。

「メルがココにいるなら僕の残るよ♡」

まぁ、ヒソカが言い出しそうなことである。

私はヒソカにあからさまな嫌な顔を向けるも、全く動じておらず満面の笑みで返されてしまう。

 

 

「新人教育してやるネ。そいつ、面白いやつネ。きっと拷問したらいい反応するネ」

こっ、この人私を拷問するつもり!?

サッとクロロの後ろに隠れてみる。

 

 

「おっ、フェイタンにしては人に興味を持つなんて珍しいね。俺もルイス家について知りたいことあるし、メルともっと仲良くなりたいから残るよ」

さわやかにウインクを送ってくるシャルナーク。

私は信用しないからね!!

 

 

その他の人達も私と仲良くなりたい、もっと知りたいという理由でアジトから出て行かなかったという訳である。

そんなに興味を持たれても、何もないんだけどな……。

 

 

するとクロロは「いいだろう」と言って本をまた読み始めた。

えっ?それだけ?

 

 

「クロロ、私は何をすればいいの?」

「言っただろう。しばらく予定はない」

 

 

つまり何もせずにアジトで過ごせということね。

 

 

するとウボォーギンは「まぁまずは飯だな!!」と言って立ちあがる。

「お前も行くか?」

と提案されるも「いいの?私逃げるかもしれないのに」というと、大笑いしながら「俺たちから逃げられると思うか?」と言われた。

 

 

まぁ、確かにそうだ。

このメンバーなら地の果てまで追いかけてくるだろうな。

 

 

「なァ?団長、いいだろう?」

「絶をしたままなら外出してもいいが、一度でも絶を解けば強制的に連れて帰れ。また、逃げる素振りをしても、だ」

 

 

こうして外出許可が出たのは良いのだけど、買い出しメンバーはウボォーギン、ノブナガ、フェイタン、フィンクスの4人で、蜘蛛の中でも戦闘向きのメンバーばかりだ。

このメンバーから絶をしたまま逃げられる訳もなく、大人しく買い出しを楽しむつもりでアジトを出た。

 

 

絶をしたままで皆のスピードについて行ける訳もなく、ぜぇぜぇと肩で呼吸をしていると「チッ。情けないネ」とフェイタンが一言。

「いや絶のままでついて行ける訳なっ…わぁあ!!!」

言い切る前にウボォーが私を担ぎ上げ、逞しい肩にちょこんと座らされた。

 

 

「のっけてってやるぜ!振り落とされんなよ!」

「えっ!このままはちょっとおおおおおおおおおおおおお!!!」

猛スピードで風を全身に浴びて後ろに倒れそうになるが、ウボォーの首に手を回してなんとか耐える。

生身で新幹線に乗っている様な気分だったが、ゆっくりと目を開けるといつもより高い位置から見える景色に目を見開かせた。

 

 

さっきまで薄暗い廃ビルの場所だったのにいつの間にか森の中に移動しており、その景色はまさに紫幹翠葉という言葉がぴったりだ。

数時間前に雨が降っていたのだろうか、空気は少し水分を含んでおり、葉には雨の雫が落ちている。

そのせいで、太陽に照らされた木々は、青々しく美しい輝きを放っていた。

スゥと空気を吸うと、新鮮な空気に自然と体が軽くなるような気さえする。

 

 

「わぁ!!綺麗!!!」

きゃっきゃっとはしゃぐ私にウボォーは首を傾げる。

「そうかァ?ただの木しかねぇじゃねぇか」

「ウボォーさんは感情がないの?照り付ける太陽に瑞々しい木々が光って見えてこんなに綺麗な景色そうみられないよ!!」

 

 

「嬢ちゃん、ウボォーにそんなこと求めても無駄ってもんさ」

カカッと笑うのはノブナガだ。

 

 

まぁ確かに盗賊に美しさを訪ねても仕方ないか。

しばらくその景色を楽しんでいると、ようやく街が見えてきた。

仕事で色んな街に行ったことはあるけど、その街は見覚えが無くやはり今どこにいるのかは分からなかった。

 

 

ゆっくりと地面に下ろしてもらうと、いつもの目線の高さになりなんだか心惜しい気持ちになった。

いつもと違う高さでいるのも悪くないな…なんて思っていると、慣れた足取りで街の中へと皆入っていく。

危うく置いて行かれそうになるも、急いで追いついた。

 

 

私を逃がしちゃダメなのに普通先に行く?

可笑しいんじゃないのこの人達。

……いや、離れても追いかけられる自信があるからこその余裕の表れか。

全くとんでもないな。

 

 

「いつもどこで買い物をしているの?」

「買い物?そんなのしないネ」

「え?買い物しに来たんじゃないの?」

「嬢ちゃん俺たちゃ盗賊だぜ?」

「欲しいモノは盗む」

 

 

……そうだった!!

この人たち盗賊だった!!!

そうだよね、普通お金出して買わないよね盗賊は!!

私が馬鹿だったよ。

 

 

 

「メル、なんか欲しいのあるか?取って来てやるぜ?お前初心者だから盗むの気が引けるんだろ?」

フィンクスさん優しいんだけど言ってることは最悪。

 

 

「な、何でもいいよ。盗みやすいので」

「なんだそれ。俺たちが盗めないモノなんてあると思うか?」

まぁそれはないだろうけど……。

 

 

「適当にとってこいってことネ。はやく行くネフィンクス」

「へーへー」

 

 

そう言っておもむろに店内に入っていったフィンクスは、ものの数分で出てきて、両手いっぱいの酒や肉やらを掻っ攫ってきたのだ。

なぜ店員や客たちは、こんな堂々としている不審者がいるのに、一切騒ぎにならないんだろうか、と不思議に思うも考えるのをやめた。

常識が通じる相手じゃないから仕方がない、それが導き出した答えだった。

 

 

ウボォーはどこかからか大量の酒を、ノブナガは魚を、フェイタンは小籠包や肉まんを持っていた。

性格が分かれるなぁと観察していると、お前も行ってこいと背中を押されてやはり私も盗むことになった。

盗んだことのない私は人の目を気にしてキョロキョロとしているとフェイタンに一括を喰らう。

 

 

「そんな辺り見てたらバレルネ。お前バカカ?」

「そう言っても…。き、気になるよ」

「流れる様に取るネ。あのバカを見てみるネ」

そう言って指さす方向にはフィンクスがいた。

 

 

あの人もう既に両手いっぱいに荷物を持ってるのに更に肉を取ろうとしてる!!

なんて傲慢!!!

でもあの流れる様な手さばき。

自然に腕の中に肉が移動していく様にメルは目を見開いた。

 

 

「あんな自然に取れるモノなの?」

「普通ネ」

これが経験というやつ?

よし……。

 

 

私は弁当コーナーのから揚げ弁当に目を付けた。

人に紛れて自然に盗る!!!!!

よし!!!!!

できた!!!!

 

 

後は店を出るだけ。

心臓の音がバクバクと高鳴り、「盗りましたよね?」と声をかけられないか不安と罪悪感のまま店の扉を潜った。

盗ってみればなんともあっけないもので、誰一人として声はかけられなかった。

 

 

「嬢ちゃんそれだけでいいのか?」

「仕方ねぇな、俺が取ってきた肉分けてやる」

「ビビりすぎネ。お前本当にルイス家カ?」

「ガッハハハハ!!まぁ初めてなんだしこんなもんだろ!!」

 

 

まだ心臓はドキドキとしていたが、なんだろうこの達成感。

やっていることは最低なんだけど、盗ったことに対してこうも責められず、受け入れられるとなんとも変な気持ちだ。

 

 

帰りは同じようにウボォーさんが担いでくれて、私は夕焼けの空を眺めながらアジトへと戻った。

「おかえりー!」

「こいつもちゃんと盗んできたんだぜ?」

「へぇ、盗賊デビューおめでとうメル!!」

 

 

「デ、デビューって。あ、ありがとう…?」

そんな様子を見ていたヒソカはククっと喉を鳴らす。

 

 

意外にも蜘蛛のメンバーは、私の事を受け入れてくれている様で仲良くなるのに時間はそうかからなかった。

私が蜘蛛に入団してもう1週間が経とうとしていた。

 

 

毎日の様に盗みを繰り返しては夜遅くまでバカ騒ぎするという繰り返しだったが、嫌ではなかった。

むしろ心から笑っている自分に驚いていた。

メンバーのこともいつの間にか「さん」とつけるのをやめて、愛称で呼んだりするようになっていた。

 

 

そして団員のことも少しずつ分かってきた。

ウボォーは単純バカな所はあるけど蜘蛛のムードメーカー。

 

 

ノブナガはウボォーとペアを組むことが多いらしく、ボケとツッコミとうまい具合に分かれて、お互い背中を預けられる良いコンビなんだとか。

 

フィンクスは顔は怖いけど、意外にも優しい一面が多くて、私の事をよく気にかけてくれて結構頼りになる。

 

フェイタンはいつも私を小バカにしてくるけど、フィンクスと同様に私の事を心配してくる節がある。拷問好きなサディストのくせに意外な一面だった。

 

ボノレノフは戦いの話になるとついつい盛り上がった。美しさにこだわりが強く、かなりの質問責めにあったけどボノレノフとの会話はかなり楽しい。

 

シャルナークはルイス家に興味があったのか、ルイスの歴史についてかなり詳しく聞いてきた。眠たくなるような話なのに歴史に興味を持つなんて、蜘蛛一の情報収集家なだけある。

 

フランクリンは無口だが、私がフェイタンとフィンクスに小ばかにされているといつも「そのくらいにしてやれ」と助け船を出してくれる。一番優しいのはこの人だ。

 

コルトピはおっとりとしている性格で、ちょこんと私の隣に座っては外の景色を一緒に楽しんでくれた。他のメンバーなんて空を見ても「それが何?」というのにコルトピは「綺麗だね」と言ってくれて、ちゃんと感情がある様だ。一緒にいて実は一番落ち着く。

 

マチはお姉さん的存在だ。興味があった念糸について尋ねると快く教えてくれるし、妹の様に可愛がってくれる。もっと早く出会えていたら親友に慣れていたのかもしれない。

 

シズクは何を考えているのかたまに分からないけど、マイペースな気まぐれさん。デメチャンを見せてくれた時は服を吸い込まれそうになってかなり焦ったけど、話をするのは面白い。

 

パクは記憶を読めるみたいで、私に触れただけで過去を全て読み取ったらしい。少し涙ぐんでいたのはどの記憶を見た時だろう?母様が殺された時?それともイルミに捨てられた時?それとも他のことかな…?聞こうとしても「言わなくていいのよ」と抱きしめてくれるだけで何も教えてくれなかった。とても優しい人なんだと思った。

 

 

そう、旅団のメンバーは意外にも優しいのだ。

とても仲間想いなのだ。

私はどうしてもこのメンバーのことが嫌いにはなれなかった。

 

 

私の母を殺したのに。

レンやクラピカの仲間を全員殺したのに。

私はどうやら可笑しくなってしまったみたいだ。

 

 

感情がぐちゃぐちゃに入り混じって、憎しみや怒りはいつの間にか消えてこの、蜘蛛のメンバーとの時間を楽しんでいる。

私は蜘蛛の団長、クロロにあることを尋ねた。

全員酒を飲んで寝静まっても、クロロだけは蝋燭の火の下で本を読んでいた。

この人が1番何を考えているのかが分からない。

この個性的なメンバーの誰もが尊敬し、圧倒的リーダーシップのあるクロロはまさにカリスマなんだろう。

 

 

「クロロ。聞きたいことがあるの」

「なんだ?」

本を読む姿勢は崩さないがどうやら話には付き合ってくれる様だ。

 

 

「なんで、母様を殺したの?」

そう尋ねるとクロロはページを捲る手を止めて、静かに本を閉じた。

「お前の能力を奪うのに邪魔だったから」

ストレートすぎるその言葉で、あぁ、やはりこの人はあの幻影旅団の団長だと再認識すると同時に少しホッとする自分がいた。

幻影旅団には圧倒的悪であって欲しい。危うく私のこの怒りと憎しみを忘れてしまうところだった。

 

 

 

「そうよね。…母様は私のすぐ隣にいたしね。そもそもなぜ私の能力が分かったの?見た人は全員死んでる筈なんだけどな」

「フッ。シャルナークが徹底的に調べ上げたからな。シャルに操られた人間がいたということだ」

 

 

「なるほどね。あの日のこと、詳しく聞きたい。ルイスでは、まだ幼い私なら懐柔できると思った組織が私を狙って襲撃した、ということになっているのだけど……。その組織と蜘蛛とは、どんな関係なの?貴方達が組織に組するなんて思えないのだけど」

 

 

「まぁ確かに俺たちはあいつら(組織)に組した訳じゃない。利用できると思ったのさ。表向きは組織のせいにして、お前の能力を掻っ攫う。それが目的だった」

 

 

「いいように利用された組織は後でルイス家によって壊滅させられたけど、貴方の姿が無かったから可笑しいなと思ったの。ルイスではまだ組織の生き残りがいると思って捜索されてたの。どおりで見つからない訳ね。あなた、組織のメンバーじゃなかった訳だしね」

 

 

「不運な奴らだ。マフィア連中なんて幾らでも利用できる。うまい餌を垂らしてやればすぐに食いついたよ」

「私の身柄を好きにしていいとかなんだとか言ったんでしょう?」

「あぁ。まぁ、計画はうまくはいかなかったけどな。お前の叫び声を聞いて直ぐにお前の父親や兄達が駆け付けようとしたからその前に逃げるハメになったが。その後も機を狙っていたがいつも邪魔者がいたからな」

 

 

「……イルミのこと?」

「常に警戒してるもんだから一切近づけなかったよ」

 

 

……イルミ私の事を守ってくれてたんだ。

でも、それは私にイザベラを重ねただけであって、私個人を守るためじゃない。

私に向けられた行動に見えてもそうじゃない。

 

 

はぁとため息をつくとクロロは興味津々な顔つきで「お前、まだ気づいていないのか?」と言ってきた。

「何を?」

「イルミは別にお前を裏切ってはいない」

「……どういうこと?だって私ハッキリ聞いたんだけど。メルは関係ないって」

 

 

「お前がルイス家の娘かたまに疑いたくなるくらい抜けているな。イザベラと俺は手を組んでいた。お前が1人になる様に仕向けたんだ。あの夜イルミは恐らく色でもつかったんだろう?そうまでして、お前が誰に狙われているのかを知りたかったんだろうな。思ってもいない言葉を言ってあの女の信頼を得たかったんだろう。そこを見かけたお前はショックのあまり、イルミから距離をとった所を俺たちが掻っ攫うという計画だ。それでお前はまんまと作戦にハマり、ここにいるという訳だ」

 

 

 

「……は?」

じゃぁイルミは何も悪くなくて勝手に勘違いした私が1人飛び出して……・

「……最低」

 

 

メルの大きな瞳から大粒の涙がこぼれた。

一瞬殺気が籠ったせいで、寝ていたメンバーが飛び起きた。

 

 

「あれ!?団長がメル泣かせてる!?」

「何したのさクロロ!!!」

「メル大丈夫?」

 

 

「うぅっ…ふっ……」

なんで私の心配をするの?

なんでこんなに優しいのよっ。

 

 

「うぅっ……うわぁあああん!!!」

マチはよしよしと頭を撫でてくれる。

 

 

この人たちもこの作戦を知って、分かってて私を攫ってきたのに!!

なんでこんなに優しくするの!?

もう、分からない。

 

 

ひとしきり泣いている間、クロロから状況を聞いたメンバーはバツが悪そうな顔をする。

「男の1人や2人くらいお前ならすぐできるだろ。そう泣くなよ」

「うぅ…ヒック……ふぅ……イルミを信じられなかった自分に、腹が立つ。イルミは私の為に動いてくれていたのに……」

そう思うとまた涙がポロポロとこぼれる。

 

 

するとマチが背中をさすってくれた。

「メル、そう落ち込まないで。いい出会いはすぐにある。こうしてアタシらが会えたのもその状況があったからだし。アタシあんたのこと結構気に入ってるんだけど。メルはそうじゃないの?」

そ、そんなこと言われると複雑な気持ちになるじゃない。

でも…

 

 

「……私ももう皆のことが好き…なんだと思う。だから感情がぐちゃぐちゃで…どうしたらいいか…」

するとマチはフッと笑みを浮かべる。

「なら楽しめばいいじゃん」

「楽しむ?」

 

 

するとパクも隣にやって来た。

「人生なんて行き当たりばったりみたいなもんよ。その都度楽しまなきゃ勿体ないでしょ。もう、こんなに目を腫らして。かわいい顔が台無しよ?」

そう言って顔を拭いてくれた。

 

 

この状況を楽しむ?

楽しめるものなの?

全部を過去にしたまま、このまま前に進めるの?

考えなければ楽だけど、楽な道を行ってしまっていいの?

きっとイルミやルイスの皆は私を必死に探してくれているのに、私が、私だけが忘れるなんてそんなことできない。

でもそれを皆に言うこともできなくて、自分の気持ちを飲み込んだ。

 

 

このままここにいては自分が可笑しくなってしまいそうだ。

そんな気がした。

 

 

全員が寝静まった後、窓の近くへ移動して空を見た。

ガラスなんて存在してなくて、そこだけくりぬかれてているおかげで腰が下ろせるスペースができていた。

 

 

「はぁ」と重たいため息をつくと、「や♡」とやって来たのは空気の読めない奇術師だ。

今ヒソカの相手をするのはかなりしんどい。

 

 

無視をしていると「ここから出たいかい?♡」と囁いてきた。

「な、なに言ってるの?貴方一応蜘蛛のメンバーでしょ。クロロに背く様なことして、ただでは済まないわよ?」

「僕のご主人様は君だからね」

そう言って、指に着けている指輪を見せてきた。

 

 

「君が望むならここから逃がしてあげることもできるよ」

「い、一体どうするの?」

「それは秘密♡」

 

 

確かにあの黒い指輪……“拘束する戒めのリング”は、私には嘘はつかず、困ったことがあれば必ず協力することを強制できるというもの。守らなければこのリングから体内に毒が注入されてヒソカは確実に死ぬ。つまり、ヒソカが生きているということは、嘘は言っていないと自分の能力で証明されている。

 

 

「そんなことをしてヒソカは大丈夫なの?裏切ることになるんだよ?」

「そうはならないから安心して♡」

 

 

しばらくしてもヒソカには何も変化はない所を見ると、この発言も嘘はついていない様だ。

「私は……イルミに会いたい…」

考えるとまた涙が出てきそうだったのをグッと堪えた。

 

 

「OK。合わせてあげるよ」

「でも何で今なの?そんなことできるなら初めに言ってよ」

「クク。気づいてた?君の周りには常に2人以上のメンバーがいたんだよ?そんな状況でこんな提案はできないからね」

 

 

なるほどね。

確かに常にだれか傍にいたな。

 

 

「怪しまれるからもう行って。私はしばらくここにいるから」

「はいはい♡」

 

 

暗闇には大きな月が輝いていた。

もう時間は夜の2時を回ったところだ。

私も流石に睡魔がやってきて、まどろみの中に引きずり込まれそうになるのを引き留めたのは、無数の気配だった。

 

 

「!!」

私が気づいたということは、他のメンバーももちろん気付いており、警戒して辺りを見渡していた。

 

 

 

「囲まれているな」

クロロのその言葉は正しかった。

気配は一瞬にしてこの廃ビルを取り囲んでいたのだ。

この尋常でない程統率の取れた動きは、まさしくルイス家のそれだった。

すると敵陣の中堂々と中に入って来たのは、父様と兄様達、そしてイルミだった。

 

 

 

「皆!!」

すると、私の前に蜘蛛のメンバーがやって来て、クロロもいつの間にか私の隣にいた。

 

 

「まんまとしてやられたよ、クロロ・ルシルフル。うちの娘が随分と世話になった様だね」

「父様!」

 

 

私を見るなりにっこりと微笑んでくれて「少し待っていなさい」と言われた。

皆私を見て安堵の表情を浮かべるもすぐに臨戦態勢へと入っていた。

 

 

「クロロ。メルを返してもらうよ」

 

「フッ。手放したのはお前だろう?イルミ」

するとクロロは私の腰に手を回してきた。

それを見たイルミは素早く針を投げつけるもフェイタンに弾かれる。

 

 

「こりゃまた豪華なメンツが勢ぞろいだ」

「うわぁ、本物のウィリアム・ルイスにエル・ルイス、ラル・ルイスかぁ。売ったら幾らくらいするんだろうなぁ!」

わくわくと値踏みするのはシャルだった。

 

 

「シャル。流石に相手が悪いネ。この状況かなりやばいヨ」

「そうなんだよねぇ。クロロ、どうする?」

 

 

「…ウィリアムルイス。交渉に応じるつもりはあるか?」

「交渉…ねぇ」

「見逃す代わりにメルを返そう」

「ふむ……。いいだろう」

 

 

なんともあっさりと承諾するもんだから、蜘蛛のメンバーは拍子抜けした面持ちだ。

「うちの娘の命と君たちの命は天秤にすらかけられないよ。メルの安全が第一だからね。じゃぁメル、こっちへおいで」

 

 

これは嘘だ。

私が歩き出した瞬間に、クロロ達は逃げるだろうからそれを見越して父様たちはきっとクロロ達を追う筈だ。

完全に周囲を囲まれた状況では、流石の蜘蛛と言えど何人かは殺される。

 

 

私の脳裏にはこの1週間の思い出が流れた。

……最低な人たちに変わりない。

でも、…この人たちに死んでほしいとは思えない。

 

 

私は震える声であり得ない提案を自ら出した。

「父様……、提案があります。私がそちらに行ったら皆を追わないで下さい」

 

 

その言葉に全員目を見開いていた。

「メル?何を言っているんだ?まさかお前、操られて……」

ラル兄様は取り乱した様子で、私がシャルに操られていると思っているみたいだけど、私は正気だ。

 

 

「操られていたりもしてません。お願いです。……追わないで下さい」

頭を深く下げる私を見て、誰も何も言わなかった。

 

 

するとイルミのため息が聞こえた。

呆れてるんだろうな。

勝手に一人で出て行って、皆必死に探してくれたのに、最後はまた自分勝手に幻影旅団を追うな、だもんね。

見限られたかもしれない。

それでも……この人達には死んでもらいたくない。

 

 

 

「分かったよメル。今回だけ特別に、追わない。…エル、部隊を下がらせなさい」

「し、しかし父さん」

「メルの頼みだろう?聞いてあげようじゃないか」

「……はい」

 

 

 

エルは携帯を取り出して部下を撤退させた。

その証拠に、森側に広がっていた部隊は、素早く撤退したのか、何も感知できなくなっていた。

 

 

「ありがとうございます。……じゃぁね、皆」

そう言うと「またな、メル」そう言って全員目の前から姿を消した。

 

 

 

緊張が解けて、膝から崩れ落ちそうになったのをイルミが受け止めてくれた。

その手は震えていて、しきりに「ごめん…ごめん」と繰り返していた。

 

 

イルミの匂いだ。

イルミの温かさだ。

そう思うとぶわっと涙があふれてきた。

 

 

「謝るのは私の方だよ。ごめんねイルミ」

そう言うとイルミは強く私を抱きしめた。

 

 

「メル、無事で安心したよ。怪我もしてないし、見たところ健康そうだね」

「父様!来てくれてありがとうございます」

「当たり前じゃないか」

 

 

「メル、助けに来るのが遅くなってすまない」

「無事でよかったよ~!もう本当に心配したんだからね」

 

 

「兄様……、心配かけてごめんなさい。ありがとう」

 

 

 

しばらくイルミは放してくれなくて、兄様達の怒鳴り声と、父様の威圧が効いたのかようやく放してくれた。

放れたのはいいが、手はずっと握っていて「繋いでおかないとどこかに行かれちゃ困る」と言って、私の横にぴったりとくっついている。

 

 

 

「まぁ良いか。今回はイルミのおかげだしな」

「そうだ。何でここが分かったの?私1週間ここにいたのにどこにいるのかさえ分からなかったのに」

「ヒソカから連絡があったんだ。あいつ、何度電話してもすぐに切るから殺してやるつもりだったけど、ちゃんと場所教えてくれたし見逃すことにした。蜘蛛の情報も流してくれる約束したしね」

 

 

「そうだったんだ」

やっぱりヒソカが手を回してくれていたんだ。

 

 

「とにかく、無事でよかったよメル」

「ありがとうイルミ。それと、……勝手にいなくなってごめんなさい。私勘違いしちゃって」

「俺こそごめん。メルがあの場にいると気づかなかったよ。全く、カプに頼んでまた変な能力作って。まぁその精度は凄いけどさ。全く分からなかったんだから」

「うん。……あの、イザベラはあの後どうなったの?」

 

 

 

「彼女は今ルイス家の地下室で事情聴取をしているよ。メル、もう疲れただろう?早く屋敷へ戻ろう」

ウィリアムはそう言うと、メルの部下5名を呼びよせた。

 

 

 

「メル様ぁああ!!」

「ご無事で何よりです!!!!」

「あぁああ本物のメル様だ」

「どこかお怪我しておりませんか!?」

「早く帰りましょう!!!」

 

 

全員一斉に飛びついてきて倒れそうになるのをイルミが支えてくれた。

「はは、皆にも心配かけちゃったね。ごめんね」

 

 

ひと際心配していたのはレンだった。

赤い瞳は、ギラギラと輝いていて蜘蛛の話題を聞いただけで、過去を思い出すらしく緋の目が発動してしまうのだ。

 

 

レンにはなんだか悪いことをした気分だった。

仇である幻影旅団に、私も入団してしまったのだ。

しばらく隠そう。

とてもじゃないけど今は言えない。

機を見てちゃんと話そう。

 

 

イリアは異空間(アナザーワールド)を作ってくれて、私はルイス家へと無事帰還するのであった。

 

 

 

 

 

 



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46話 キキョウ×ト×セイオン

 

屋敷に着くなり、大勢の部下がホール全体を埋め尽くしていて、私の姿を見て全員が安堵していた。

 

 

「メル様ぁ!!よくご無事で!!」

「あぁ、本当に無事にお戻りになられたんだ!!」

 

 

全員が暗殺者だと言うのに、その表情は緩み切っており中には泣き出してしまう者もいた。

私の軽率な行動のせいでどれだけの人を心配させたのだろうか。この光景を見て痛いほど理解した。

私の胸はきゅっと締め付けられる様に熱くなった。

 

 

皆に何か言わなきゃ……!!

口を開こうとすると、涙がぽたぽたと溢れてきた。

あれ……?

なんで私こんなに泣いてるの……っ、うまく……喋れないよ……っ

 

 

泣きじゃくる私を見かねて父様はポンっと私の頭の上に手を置いた。

「皆、メルはこの通り無事だ。苦労をかけたね。メルは疲れてるだろうからそろそろ自室に戻る。メルに何か伝えることがあるなら、イリアを通す様に」

 

 

父様は私から、何があったのか、何かされていないか、蜘蛛の情報なんかも、聞きたいことはたくさんある筈なのに何も聞いて来なかった。

「今はしっかりと休みなさい」それだけ言うと、すぐに私の部屋から出て行った。

 

 

イルミは私のそばにいる様に言われたのかずっと隣に居てくれている。

「メル、1人になりたかったら俺も出て行くけど?」

「いや、……そばにいて欲しい……」

 

 

俯きながら、心細そうに喋るメルは、悪いことをした子供が親に怒られて落ち込んでいるかの様に小さく見えた。

「分かったよ」

 

 

「……私、イルミに話さなきゃいけない事があるんだ。……まずは、イルミに聞いてもらいたい」

あのホテルでの出来事で蜘蛛と出会った事を……。

そのメンバーになってしまった事を……。

この1週間皆を心配させていたのに少し楽しんでしまっていた事を……。

大好きなあなたには全てを知ってもらいたい。

 

 

 

メルは震える手でワンピースを脱いでイルミに背を向けた。

白く小さなお尻には、腰まで足が伸びる大きな蜘蛛の入れ墨が掘られていた。

ナンバー0

それがメルに与えられた旅団ナンバーであった。

 

 

 

「……!」

イルミは目を見開き少し動揺するもすぐにいつもの冷静さを取り戻した。

「メル、無理やり入れられたの?」

イルミの声は冷たく殺気が部屋中を覆った。

 

 

 

「クロロは私にこう言ったわ。イザベラさんを殺されたくなければ蜘蛛に入れって」

「……え?」

イルミは理解できないと言わんばかりにさっきまで研ぎ澄まされていた殺気が揺らいだ。

 

 

 

「……私、イルミの婚約者はイザベラさんだと思い込んでて、その人を殺されたらイルミが悲しむと思って。イルミって他の人から見ると、クールで誰も頼らずに生きていける人だと思われてると思うの。実際そうなのかもしれないけど、私から見えるイルミは少し違うの。寂しがりやで本当は誰か傍にいて欲しいと思ってる。イザベラさんは婚約者で、イルミの大切な人。だからその人を失ったらイルミは本当に1人になってしまう。イルミが1人になるくらいなら私は……っ!!」

 

 

 

段々と涙がこみ上げてきた。全ては愚かで浅はかな自分の勘違い。それが恥ずかしくて、悔しくて、信じられなかった自分に心底幻滅してしまう。

 

 

 

小刻みに震えるメルをイルミは後ろから抱きしめた。

「ばかだね」

「……っ!……ごめんなさい」

 

 

本当にバカだよメルは。

俺なんかの為に、1番憎んでいた母親の仇のメンバーになってしまうなんて。

でも、こうなってしまったのは俺のせいだ。

 

 

「ごめんねメル」

「……え?」

「俺、イザベラから蜘蛛に関する情報を聞き出すためにあの日イザベラの部屋に行ったんだ。イザベラから部屋に来るように言われたんだろ?」

 

 

メルは小さく頷いた。

「少しでもメルを危険から守りたくて、どうしても情報が欲しかったんだ。テイラー家とは確かに昔から繋がりはあって、イザベラには子供の頃世話になったこともあるし、たまーに仕事で遺体処理とかで手伝ってもらった事もある。母さんは婚約者としてベラを推してたのも本当。でも、俺に気持ちは微塵もない。知ってる?ベラって、少しでも俺の傍にいるメルに近づきたくて、顔も整形して髪の色だってわざわざ染めてるんだよ。ベラに何を言われたか分からないけど、あいつの言葉はほとんどは嘘だ」

 

 

そうだったんだ。

やっぱり私を通してイザベラさんを見ていたわけじゃなくて、イルミはちゃんと私自身を見てくれていたんだ。

 

 

「俺はメルしかいらない。誰もメルの代わりになんかならない。だから、俺の傍にいてくれる?」

大粒の涙が次々に溢れ出てくる。

「へへ、まるでイルミ告白してるみたい」

「え?そうなんだけど」

「……ん?」

 

 

 

 

しばらく沈黙が続いた。

「え!?こ、告白だよイルミ!?意味分かってる!?」

「何言ってるの?分かって言ってるんだけど」

開いた口が塞がらない様子を見て、イルミはクスッと笑う。

 

 

 

 

「ほんと、ばかだねメルは」

イルミはメルの小さな唇に自分の唇を重ねた。

「~!!!!!///////」

 

「ばかなメルでも、意味、分かるよね?」

「……は…ぃ」

 

 

すっかり委縮してしまったメルは、嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。

するとイルミはバサッと白いシーツをメルにかけた。

 

 

「早く服着なよ。メルはバカだから風邪引いちゃうよ」

ふと我に返ると今になって、イルミに下着姿を見られたことが恥ずかしくなって全身が脈を打つように熱くなっていった。

 

 

「わぁ!!もう見ないで~!!」

「何言ってるの?自分で脱いだくせに」

「そ、そうだけどあの時は~……!!」

口ごもりながらメルはシーツにくるまり、ワンピースに袖を通した。

 

 

「それにしても、これからどうするつもり?クロロはメルの事諦めないと思うよ。それにもうメンバーになっちゃってるんだから、必ず接触してくるに違いないね」

「私が教えてもらった事と言えば、団長命令は絶対ってことくらい。もし、クロロに何か命じられてそれが、私が絶対にしたくないことだった場合、旅団員全員に命を狙われるかもしれない。今回実際に旅団全員と対峙してみて彼らの強さはよくわかった。傲慢な絶対君主(リベラロード)でも、私は彼ら全員を前にしたら勝てない」

 

 

「メルって意外に傲慢な所あるよねぇ。さすがに全員を1人で相手するのはできないでしょ。俺もできないし。でも、前回と違って今回は俺がいる。それでもまだ形勢不利だ。つまり、1人ずつ確実に殺していくしかないよね」

 

殺すー…かぁ…

「蜘蛛はもちろん全員残虐な事を今までにしてきた。私の母様も、レンの一族だってそう。された恨みや憎しみは消えない。彼らはそれほど他者を傷つけている。でも、接してみて分かったこともあるの。蜘蛛の中には仲間を思い合える人達もいるの。仲間を大事に思える心があるのになぜ残虐なことができるのか。各々が私みたいに何らかの折り合いをつけているんじゃないかなと思うの。彼らは恐らくただの殺人鬼ではないわ。問題は、団長の命令には絶対のこのルール。クロロの思考を把握しないと、何が目的かは分からない。クロロは何かを知りたがっている。それを自分自身が知りたいがために、過去残虐なことをしてきたんじゃないかな」

 

 

 

 

「……はぁ」

イルミは重いため息をつく。

「たった1週間で蜘蛛の内情を把握分析したことは誉めるけど、まさか殺さないでって言いたいわけ?」

 

 

これを言ったらイルミは怒るかもしれないけれどー……

 

「私はこれから、ナンバー0としてこのまま蜘蛛に属してみようと思う。クロロの問題は、自分の欲求を満たすために間違った命令を下し、それを旅団員が実行してしまうこと。それを私が違う方向へ変えられたら……今後蜘蛛による被害者が少しでも減る。逆に私が、蜘蛛を抜けようとしたり旅団員を殺そうとすれば、その報復は私の命だけじゃきっと済まない。このルイス家にも必ず影響が出てくる。イルミと繋がっていることもクロロは知っているから、もしかしたらゾルディック家にも迷惑をかけるかもしれない。なら、旅団員としてうまく立ち回った方が賢明でしょ?それに、蜘蛛に属してるからすべての行動が縛られる訳でもない。基本命令が下るまでは、自由行動だし……」

 

 

 

イルミはさらに重いため息をついた。

「メルって1度言い出したら聞かないし、ま、仕方ないか。でも、条件がある。メルが旅団として活動する場合、俺も同伴。これは守ってもらうよ」

「え!?……私としてはイルミが一緒にいてくれるなら心強いけど……仕事とか大丈夫なの?」

「別に、今更どうってことないよ。エルやラルにも協力してもらうし」

 

 

「えー!兄様達を巻き込めないよ…!!ハンター試験を受ける時にもかなり迷惑かけちゃってるし……」

「いいよね、エル?」

「え!?エル兄様!?」

 

 

 

すると、イルミの携帯が鳴った。

「うんうん、あ、メル大丈夫だってー」

「にっ、兄様もしかして今までの会話全部聞いてたの…!?」

「えー、はいはい。メルに代われだって」

 

 

イルミから携帯を受け取った。

「メル、すまない。会話はそのー…全部きかせてもらった。今回のことがあったからルイス家は今厳重警戒中なんだ。とくにメルの部屋には異変がすぐに把握できるよう、センサーが張り巡らされている。今回はイルミがお前の部屋に入る為、イルミに小型マイクを仕込んでいたんだ。すまない」

すると後ろの方からラルの声も聞こえてきた。

「メルごめんね!!嫌だろうけど僕たちも心配なんだ」

 

 

 

「まったく、シスコンもここまできたらとんでもないよね」

イルミは、服の襟につけられた小型マイクに口を近づけて悪態をつく。

 

 

「メル、イルミに後で覚えておけと伝えておいてくれ。それから、俺たちの事は気にしなくていい。メルが安全ならそれに越したことはない。イルミの強さは俺も認めている。あいつがお前の傍にいるなら俺達も安心だ」

「兄様……。ありがとうございます」

「今日はもう休みなさい。イルミに変わってくれるか?」

「はい」

 

 

 

イルミに携帯を返すと、数秒話したと思えばすぐに携帯の通話を終了させていた。

「さ、もう疲れただろうしもう寝るよメル」

「い、一緒に寝るの?」

「何言ってるの?今日からずっと一緒に寝ることになるんだけど」

「え!?そうなの!?」

「だって常に一緒にいないとメル何するか分からないし」

 

 

 

そう言って無理やりメルをベッドに寝かしつけた。

どきどきと心臓が高鳴っていたが、久しぶりの柔らかいベッドは簡単にメルをまどろみの中へと引きずり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 





お久しぶりです。またぼちぼちと更新していきます!
今後メルは旅団員としてイルミと活動していく展開になります。
原作も絡めて進行していきますので次回をお待ちください♪





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