ソードアートオンラインif withマクギリス 「変革、償い、そして決別」 (白石憂騎)
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プロローグ
「マクギリス・ファリド」


とりあえずのプロローグです。


 『むかーしむかしあるところに一人の男の子がいました。その男の子は綺麗な金色の髪を持ってる美少年でした。しかし男の子にはお母さんとお父さんがいなくて、貧乏でした。

 

 ある日、男の子のことを迎え入れようとするお偉いのおじさんが現れました。おじさんは男の子の金色の髪をたいそう気に入ったため迎え入れたです。

 

 でも、おじさんのところは全然いいところではありませんでした。

 

 毎日が沢山の嫌がらせ、沢山の暴力でした。それらはいつしか男の子の心を歪めていきました。そして男の子は気付いたのです。この世界は()こそ全てだと。

 

 そして男の子は暴力によって力を示し始めました。他の子供達を蹴散らして…。その姿にびっくりしたおじさんは跡取りとして認めることにしました。男の子は力を求め始めました。おじさんの家で生活をするうちに男の子は2つのことを知りました。一つはこの世界では権力こそ最も強い力だということ。もう一つはそれらを含んだ全ての力の象徴が()()()という存在だということ。

 男の子は頂点を手に入れることを心に決めました。

 

 そんなとき男の子に、親友が出来ました。その親友男の子の身分を気にせずいつも仲良くしてくれます。そんな二人に男の子も仲良く接していきました。利用するために…

 

 やがて男の子は青年へと成長していきました。そして親友と共に最も力のある組織の一員となりました。それと同時に青年はバエルを手に入れる作戦を始めることにしました。最初に親友の妹を利用しました。その次に親友の大切な部下であり、友であった者を組織を貶めるために利用し、死なせました。そして最後には、青年は親友を自らの手で殺めました。沢山の裏切りの果て、青年は遂にバエルを手に入れることが出来ました。その力でみんなを従えようとしました…昔からの目標、身分の差別をなくすために

 

 しかし、みんなは言うことを聞いてくれません。そう、バエルが力の象徴だったのは昔の話。もうその効力は薄れていました。さらに青年に追い討ちをかける事実がわかりました。自らが殺したと思っていた親友が生きていたのです。そのことで青年のやったことがみんなにバレて組織を敵に回すことになりました。

 

 追い詰められた青年は最後の手段に出ることにしました。それは一人で組織の大将を討ち取り、天下を取ること…それは無謀に等しい行為でした。しかし、後戻りできない青年は前に進むしかありません。青年は沢山の敵を倒していき、果ては大将の懐までたどり着きました。けれども勝利の女神は青年には微笑んではくれませんでした。

 

 青年の前には、裏切られ、怒りをあらわにした親友であった者が現れたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャラルホルンを追われた俺がアリアンロッド艦隊の司令を一人で葬る!その行為が世界を変える。生まれや所属など関係なく己が力を研ぎ澄ますことでこの退屈な世界に嵐を起こすことができるのだと!己が持つ牙の使い方を知らず、ただうずくまるだけの獣が一斉に野に放たれる。そうなれば・・・」

 

「俺の勝ちだ!邪魔だガエリオ。」

 

 

「やはり俺を見てはいないのだな。マクギリス。行くぞアインッ!」

 

「俺の行く手を阻むのならば今度こそ殺してやろう!」

 

「お前の目には俺は見えない。お前には俺の言葉は届かない!俺を見ろーッ!アイン!俺の全てを使ってマクギリスの全てを奪ってくれ!」

 

「そうだガエリオ、もっとお前の力を見せろ!見ろ!純粋な力だけが輝きを放つ舞台にヤツらは圧倒されている。お前が力を見せることで俺の正しさは更に証明される!」

 

「違う!これはお前の信じる力とは違うものだ!アイン!頼む、届けさせてくれ!一人ではないこの戦い!」

 

 

 

「まだだ・・・はぁはぁはぁ・・・。あと少しで、俺の目指した世界・・・。その世界の扉がもうすぐ・・・もうすぐ開かれるのだ。うっ・・・はぁはぁはぁはぁ・・・。・・・!ガエリオーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青年と親友の一騎討ちの勝敗は、純粋な力のみを追い求めた青年ではなく、青年が捨てた友情・・・愛情・・・信頼・・・といった感情を持っていた親友に軍配があがりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ・・・。」

 

「まだ死ぬな。俺を見ろマクギリス。」

 

「ガ・・・エリオ・・・。」

 

「見ろ!お前が殺した男だ。そしてお前を殺した男だ!ちゃんと俺を見ろ。お前を友と信じ、その思いを裏切られ、信頼する仲間たちを奪われた!」

 

「言われずとも見えているさ。いや、見えていながら見えないふりを・・・していた。」

 

「マクギリス・・・。」

 

「お前たちを否定しなければ俺は前へ進めなかった。お前たちと共にいるとずっと抱いていた思いが揺らいでいくようで目をそらした。アルミリアも幸せにすると約束したが・・・。」

 

「そんなもの偽りの幸せだ。」

 

「幸せに本物と偽物があるのか・・・。」

 

「そんなことも分からないのか!」

 

「なぜ泣く?」

 

「えっ?」

 

「ガエリオ・・・お前は俺にとっ・・・。」

 

「言うな!お前が言おうとしている言葉が俺の想像どおりなら、言えば俺は・・・許してしまうかもしれない。頼む、言わないでくれ。カルタのために、アインのために、俺は・・・。俺は!お前を・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青年は、親友の目の前で死を迎えました。

 

 青年の目指した世界、生まれや所在の関係ない世界は

彼が亡くなった後実現されていくのでした。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………『マクギリス・ファリド』と書かれた本を読み終えた少女は思ったことを声に出した。

 

 「ねぇ、お母さん。この男の子はもしかしたら、本当はお友達が…自分を隠さないで話し合える友達が欲しかったのかな?」

 

 少しの間の後、母は少女に言った。

 

 「そうだね……差別に縛られず、友情、愛情、信頼等を捨てなければそう素直に伝えられたのかもね…。」




うーん表現が難しい。
これでプロローグは終わるので次回から原作と絡めていきます。


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第一章 「彼の目指した世界と狂気のデスゲーム」
「彼の目指した世界」


今更ですが、現実の世界の人間関係などの設定などは結構原作改変しているのでご了承下さい。



 俺が目指した世界、この世界はまるでそれを体現したような世界だ。生まれや所属による隔たり、奴隷という概念がなく誰もが努力をすれば満足な生活のできる。

 

 この世界だったらお前と親友で居られたのかも知れないな…ガエリオ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            

            

 

 

            ━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…兄……ん…お兄ちゃん?ねぇ、聞いてる?」

 

「ん?あぁ、すまない。少し考え事をしていた。」

 

 そう言うとその男…桐ヶ谷和人はおもむろに立ち上がり、キッチンへと向かった。

 

「あっ!今日の朝ごはんとお弁当は私が当番だよ!お兄ちゃんは夕ごはんでしょ。」

 

「…そうだったな。いつも助かるよ、スグ。」

 

 そう言いながら和人は妹の桐ケ谷直葉の頭をそっと撫でた。

 

「わわっ!お…お兄ちゃんはまた朝ごはんはパンでいいよねっ!」

 

「あぁ、任せた。」

 

 和人はご飯を作る直葉を尻目に自分の書斎へと向かった。

 

 和人と直葉は母親である桐ヶ谷 翠を含めた三人暮らしをしている。父親の桐ヶ谷 峰嵩は現在海外へ単身赴任中だ。しかし、母親はパソコン情報誌の編集者で、〆切前は出版社に篭りがちになりほとんど家に帰ってこない。つまり、大体二人暮らしをしているようなものだ。

 

(全く…頼もしい妹だ。結局いつも頼ってしまう。恥ずかしい限りだ。)

 

 和人を自分の学校のバッグを玄関に持っていくため、中身を確認し、昔のことを思い出した…。

 

 和人は正確に言うとこの家の子供ではない。まだ彼が生まれて間もない頃、本当の両親は他界した。死因は事故。和人もその事故で大怪我を負いつつ、一命はとりとめた。その出来事があったことにより、自分の従妹にあたる直葉の家族に引き取られたのだった。

 

(まぁ、この事故が後にあの頃の記憶を取り戻すきっかけとなったのだがね…。)

 

 和人と直葉にとってお互いが幼い頃から一緒にいて、なおかつ、母親も父親も教える気がなかったので知るよしもなかった。

 

 その事実を知ったのは彼が9歳の誕生日のことだった。偶然、両親が事故の話をしているところを聞いてしまったのだ。それと同時に自分のことを気遣って教えていないということも…。

 

(私のことを、自分の子供でもない私をまるで我が子のように親身になって育ててくれた二人にはとても感謝してもしきれないな。いや、もう一人感謝しないといけない者がいたな…。)

 

 直葉は、和人にとって守るべき妹だが、同時に自分を導いてくれる姉のような存在だった。8歳の頃、和人と直葉は、祖父に無理やり剣道を習わせられた事があった。筋のいい和人は剣道場で腕を磨き、たった半年で道場で負けなしまで至り、県大会に推薦されることとなったのただった。

 しかし、その県大会の決勝戦で問題が起きた。相手に技術で負けそうになり、和人が誰も見たことのない剣術を見せたのだ。その剣術は西洋の騎士のような美しい剣術だった。でも、それ以上にそれはまるでスポーツとしてのではなく、人を殺すための剣術のようだった。結果は圧勝だった。相手が恐怖で腰を抜かしたからだ。だが、それを見た剣道の先生は和人を危険と判断し、彼に破門を命じた。それを聞いた祖父は和人を殴り、激怒した。その時、泣きながら直葉が「自分が二人分頑張るから、これ以上叩かないで。」と懇願したのだった。

 

(あの時から、私はスグにとっての本当の兄になると誓った。私に人を信じさせてくれるようになったアイツに…。それが私の出来ることだ。)

 

「ご飯できたよー。………………ちょっとお兄ちゃん、学校間に合わなくなっちゃうよ!」

 

「急かさないでくれ、今行くよ。」

 

そう言いながら和人は直葉の元へと向かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スグ、忘れ物はないか?」

 

「大丈夫。さっきしっかり確認したよ!」

 

「そういって昨日私の作った弁当箱を忘れて家に帰ったあと、こそこそ食べていたのは知っているぞ。」

 

「えっ!バレてた!?」

 

「全く…そう言う時には私に一言かけてくれよ。」

 

「うっ、今度から気をつけるから…ごめんね?」

 

「フッ…じゃあそろそろ行こうか。」 

 

「うん。」

 

 今、二人が通っている中学校のは、よくある普通の中学校だ。そこで直葉は勿論剣道部、和人は援助部といういわゆる何でも屋のような部活に入っている。

 

「ちなみに今日の剣道の練習時間はいつも通りか?」

 

「うん。そうだけど……あぁ!もしかして今日がアレの開始日なんだっけ?」

 

「そうだ…だから今日は先に家にいるとするよ。やらないとアイツがうるさいからな…。」

 

「だ・れ・が・うるさいだって~!?」

 

 その声と共に和人に殴りかかる人物が背後から現れた!

 

「やはり後ろにいたか。零次ッ!」

 

 そう言いながら和人は拳を避け、そのままその腕をねじあげた。

 

「イダダダダダッ!ギブッ!ギブッ腕外れる~!」

 

「うっわ…痛そ~。」

 

 彼の名前は田中零次。生粋のゲーマーであり、援助部の一員だ。

 

「相変わらず、うるさい連中ですわ…おはようございます天才兄妹。」

 

そう言いながらもう一人、女子が近寄ってきた。

 

「一緒にしないで下さい……おはようございます涼子先輩。」

 

 彼女の名前は、清水寺涼子。清水寺財閥の一人娘で、援助部の部長だ。

 

 ちなみに、和人は学年別全国模試で毎回全国一位をとっていて、直葉は中学一年生ながら先月にあった新人戦で全国ベスト16という成績を残しているため、学校では天才兄妹としてその名を轟かせている。

 

 「時に和人君、君は確かあの一万人分しかないと巷で話題のSAOの初回ロットを運良く買えたのでしょう?」

 

「えぇ…まあ本当にたまたまですよ。」

 

そう言うと零次は「なんだその言い方!買えなかった俺への当てつけか?」と頬を膨らませながら返した。

 

 実は少し前に和人は零次のすすめで一緒にソードアートオンラインというゲームを買うため連れていかれたのだが、その際人数のオーバーで、零次は買うことができなかったのだった。和人はいらないのでやると言ったのだが、零次いわく「自分で買ってないゲームはやる価値なし。」とのことで感想を言うため開始日にやることになっていたのだ。

 

(まさか、ただ付き合い程度でと思っていただけのゲームを自分一人でやることになるとはな…)

 

「まぁいいさ追加のロットが出たらすぐ買って追い付いてやるぜ!」

 

 そう言うと零次は全速力で学校へと走っていった。

 

「よし!私達も行こう!涼子先輩!お兄ちゃん!」

 

「あぁ」「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、和人は早速SAOのを始められるように未開封の各種機器の準備を開始した。

 

(零次にやり方のメモを書いてもらったのは正解だったな。初めての事が多すぎる。)

 

 数十分後、セッティングを終え、ナーヴギアを装着した和人は次にSAOの設定を始めた。

 

 (アバターの設定か…面倒くさいな。自分の姿をそのまま使えばいいか…。)

 

 アバターの設定を終えると次はアバター名の設定を要求された。

 

(名前…か。零次が言うには自分の名前を使うのはNGらしいが……あの頃の名前を使………いや、私はあの頃の自分とは袂を分かったのだ。今更使えるものか。ならどうするか…そういえばアイツが例を挙げていたな…確かカズ、ヤト、キリトとかだったな……キリトか…アイツの割にはいいネーミングセンスだな。利用させて貰おう。)

 

    アバター名に キリト と入力した。

「確か始めるときはこう言うんだったな…

 

       

 

 

       リンク・スタートッ!! 

 

 

 

                       

                        」

 

 

 

 

和人は始めてのフルダイブへと旅立った。この後、沢山の試練が待ち受けているとも知らずに…

 

 

 

 

 

 

 




田中零次と清水寺涼子はオリキャラです。彼らはメインキャラとして扱うかどうかまだ、しっかりと決まってないのですが、どちらにしてももう一回以上は出てくると思います。


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「彼に課せられた罪の試練」


 最近、SAOの知識を深めるために今更小説を買っていますが、SAO編とても短いですね。アニメやゲームから入った身からするとえッ!って感じです。ストーリー実質一巻で終了はさすがに…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが完全(フル)ダイブ……そしてこれがソードアートオンラインの世界か…。」

 

 そう呟くと和人…改めキリトは意識を五感に集中させた。

 

(まるで本物のように心地よく吹く風の感覚、電話や通信とは違う本当にその場にいるように正確な音、そして目でみている通りの手触りの仮想の物体…これほどのものだったか、フルダイブというものは。技術というものを戦争のためで使うか娯楽のために使うかの違いなのだろうか…?)

 

 キリトはフルダイブに慣れるため、そして楽しむために色々見て回ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(嗅覚も味覚も凄い再現度だったな。)

 

 一通り見て回るとキリトは次に、武器、防具屋に向かった。

 

(ここが武器屋か。早速…おっと凄い列だな…。)

 

 武器屋はゲームの始めたばかりの人々にとっては人気らしく列が出来ていた。とりあえず武器の値段の相場を見たかったキリトは最後列に並ぶことにした。列はどんどん進んでいき、キリトの手前まで進んだ。しかし、彼の手前の者…小柄な少女でその列の進みはすっかり止まってしまった。

 

「ど、どうしようかな…。」

 

 なぜ、止まっているのか気になったキリトがのぞきこむと、少女は困った様子で自分の手持ちと二つの商品を見比べていた。

 

(なるほど、現在の持ち金で買える武器を買うべきか、それとも初期の武器でコルを稼いでもう少しいいのを後で買うべきか迷っているといったところか…。フッ…そういえば…)

 

キリトはかつて、援助部を設立する際、部長である涼子に言われたことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この援助部の活動内容は困っている人が居たら助けを求められなくても手を差し伸べるですわ。しっかり実行するように。特に…和人ッ!」

 

「ッ!…わ、私がどうかしたか?」

 

「あなたには初対面の人への思いやりというものがどうも欠けている節があります。さっき言ったことをしっかりと心がけるように!」

 

「い、良いだろう、受けて立とう……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(彼女の言われた通りに手を差し伸べること、あの世界なら通用しないだろうな…。)

 

 そう考えつつ、キリトは少女の肩に軽く手を添えた。

 

「っひゃいッ!?す、すみません!いま退きますので。」

 

「そう言う意味ではないよ。驚かせてすまなかったね。…困っているのならこれを使うといい。」

 

 和人が差し出したのは少女が買いたいと思っていた武器の値段に近い数のコルだった。

 

「こ、これって…。」

 

「それぐらいですまないが、使ってくれると嬉しいよ。」

 

「でも、こんなに…。」

 

「人の厚意は、素直に受け取られると喜ばれるものさ。」

 

 そう言うとキリトは列を抜けて少女の元を離れていった。すると

 

「待ってくださいっ!」

 

 どうやら少女は早めに買ってキリトの元まで走ってきたようだった。

 

「さっきはありがとうございました。あ、あの…」

 

「ん?何か?」

 

「えーと、その………名前…、そう名前は?」

 

「私か…私はキリトだ。」

 

「シリカです。あの…失礼します…」

 

「あぁ、またな…。」

 

 そうキリトが返すと、シリカはそそくさと走り去っていった。

 

(さて私も…そういえば武器を見損ねたな。次は町の外に出るべきか…)

 

そんなことを考えていると、横から二人の男が近寄ってきた。

 

「ねぇ、君。さっきの一部始終見させてもらったよ!優しいね!」

「おう、お前超良い奴じゃねえか!」

(どうやら貧乏くじを引いてしまったらしいな…)

 

          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の名前はディアベルとクラインと言う。なんでもキリトの先ほどの行動に感動し話そうと思ったらしい。二人の関係は、ディアベルがβテスターだったためクラインがゲームのことを知るために教えを乞う、という関係らしかった。

 

(貧乏くじかと思ったが、むしろちょうどよかったな…)

 

「すまないがディアベル、私も二人に同行してもいいか?」

 

「え、あぁ勿論!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町の外にある弱いモンスターばかりが出現する場所で、キリトとクラインの二人はディアベルにソードアートオンラインのいろはや、コツを教えてもらいながら実戦で慣れていった。

 

(この感じは……仮想の身体を自分の思い通りに動かそうとする感じは、どこかモビルスーツを動かす感覚に似ているな。)

 

「凄いな、まるで本物の騎士のように綺麗な動きだ…もしかしてリアルで何か習っていたのかい?」

 

「剣道を少しな…。」

 

「羨ましいぜ!俺なんかさっきの猪相手ですら手こずるのによ~…。」

 

「でもクラインも最初よりもとても良い曲刀さばきをするようになったよ!」

 

 そんな中、一つの問題が起きた。

 

 

「…あ、そうだ俺夕飯のためにピザを頼んで頼んでたの忘れてた!俺、そろそろ落ちるわ。サンキューな、二人とも。これからも宜しく頼むぜ」

 

「あぁ」「また会おう!」

 

 そう言うとクラインはすぐさまログアウトボタンを押そうとした…………………………………………………………………………………が出来なかった。

 

「あれっ」

 

 クラインの頓狂な声が響いた。

 

「なんだこりゃ。……ログアウトボタンがねぇぞ?」

 

 その一言にディアベルは当然の疑問を発した。

 

「そんなバカな。…ちゃんと探したかい?」

 

「勿論。でも…やっぱどこにもねぇよ。おめぇらも見てみろって。」

 

 その言葉を聞いたキリトとディアベルはすぐさまログアウトボタンを探してみた。だが…

 

「本当だ、どこにも見当たらない…。」

 

「あぁ、私も同様だ。」

 

「だろ!ったく運営何やってんだよ…」

 

 クラインがそう呟いた瞬間、突然、リンゴーン、リンゴーン、という、鐘のような━━あるいは警報音のようなサウンドが鳴り響き、三人の足元が青く輝き始め…青い光の柱と共に《転移》させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

青い光が止み、三人が目を開くとゲームのスタート地点である《始まりの街》の中央広場にいた。

 

「今のは転移!?」

 

「ったく、次から次へとなんだよ~!?」

 

 キリトが周りを見てみると、そこには沢山のプレイヤーらしき人達がいた。どうやら自分達と同じような状況らしく騒がしくなっていた。

 

 突然、誰かが何かに気付いたような素振りを見せ、指を指した。キリトも釣られて空を見る…

 

「な、なんだこれは…」

 

 それは、異様な光景だった。空は深紅に染め上げられ上空にある天上から血のような液体が流れ出る、そして噴水の上にモビルスーツサイズの大きなローブの顔のない男が浮かんでいる。

 ローブの男は突然声を発した。

 『プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ。……私の名前は茅場明彦(かやばあきひこ)。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

(茅場明彦…。確か数年前まで数多ある弱小ゲーム開発会社のひとつだった『アーガス』を、最大手と呼ばれるまで成長させた若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。そういえば、彼がナーヴギアの基礎設計者で、さらにこのゲームの開発ディレクターだったな。しかしなぜこんなことを…。)

 『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアートオンライン》本来の仕様である。……諸君は今後、この城の頂点を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合

━━ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し生命活動を停止させる━━』

 

その場全体が時が止まったように硬直した。

 

「はは…何いってんだアイツ、おかしんじゃねぇのか。んなことできるわけねぇ、ナーヴギアは…ただのゲーム機じゃねぇか。脳を破壊するなんて……んな真似ができるわけ…」

 

「…いや、出来るな。ナーヴギアに内蔵のバッテリーがあれば…。」

 

「そういえば、聞いたことがあるよ。ギアの重さの三割はバッテリセルだって。」

 

 茅場の話は続いた

 

『ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果━━残念ながら、既に213名のプレイヤーが、このゲーム及び現実世界から永久退場している』

 

 この言葉が出た瞬間、狂い乱れる人が多数出てきた。

 

『諸君がこのゲームから解放される条件はただひとつ。百まである階層を登りボスを倒しクリアする。これだけだ』

 

 その言葉にクラインは吠えた。

 

「できるわけねぇだろ!?βじゃろくに上がれなかったって聞いたぞ」

 

「ディアベル、それは本当か?」

 

「うん、十階層までが限界だったよ…」

 

 ディアベルはキリトに重い口調で答えた。

 

『ちなみにこの世界で死ぬということは、現実でも死ぬということだ。つまりHPが0になった瞬間、君たちの脳はナーヴギアによって破壊される。…そうだ。最後にプレゼントを渡しておこう。』

 

そう茅場が言うと手元に手鏡が現れた。

 

「なんだよ、こんなもんッ!」

 

 そう、誰かが言った瞬間、手鏡がまばゆい光を発した。そして…

 

「……二人はディアベルとクラインで合っているか?」

 

「君は誰だい?」「誰だお前?」

 

 どの人間もさっきまでと違う顔になっていた。

 

「あれ、これって俺の顔じゃねえか」

 

クラインは手鏡で自分の顔を見ながら言った。

 

「僕もだ……というか、キリト…君は変わっていないけど…」

 

「考えるのが面倒くさかったからな…そのままの姿さ…」

 

『なぜ私がこんなことをするのか。なぜなら…この状況こそが、私の最終的な目標だったからだ。この世界を創り観賞するためナーヴギア、SAOを造った。そして今全ては達成せしめられた。

 以上でチュートリアルを終了する。』

 茅場がそう言うと全てが元の景色に戻った。そして先ほどまで少数だった暴動が大きくなった。

「二人ともこっちへ!」

 ディアベルがそう言うとクラインとキリトはそれに付いていった。

 

 「君たちはどうする?僕はとりあえず攻略のため努力するつもりだ。」

 

 「俺はリアルのゲーム仲間が心配だからそっちにいくぜ…。ったく、意味わかんねぇよ…キリトは?」

 

「やはり、試練があるか…」 

 

「? キリト?」

 

「あぁ、すまない独り言だ…私はとりあえずディアベルについていくとしよう。まだわからないことが多いしな…」

 

「わかった。ならフレンド登録を互いにして、解散としよう…クライン死ぬなよ…。」

 

「おぅ、またな。」

 

解散後、キリトは、ディアベルに付いていった。その中でキリトは新たな覚悟を決めていた。

(ソードアートオンライン(狂気のデスゲーム)、これが俺に課せられた罪への試練だと言うなら……一度は俺には出来ない生き方だと思っていた考えを改めさせてくれた彼女らのために……見せてやろう。茅場明彦。本当の自由を手に入れた私の持つ全てをねじ伏せる力を。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 戦闘シーンを期待していた人がもしいたらすみません。でも、次の話から戦闘シーンが入ると思います。

誤字脱字、アドバイス、意見等があったら連絡下さい


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「《閃光》と最初の攻略戦」前編

 今回の話は前編と後編の二話構成でいきます。理由は時間配分を間違えたからです。すみません(汗)
 後、この話から次回予告を入れていきます。ちなみに特に理由はありません…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、キリトは薄暗い迷宮区の中を一人で進んでいた。

 

(レベリングの為、ある程度強くなったら迷宮区に行けとディアベルは言っていたが…なるほど、これはなかなか効率がいいな…。)

 

 クラインと別れた後、キリトはディアベルにSAOで生き延びる為の基礎知識、立ち回り、アドバイスを教えてもらった。しかし、ディアベルのスピードについていけず、足を引っ張ると考えたキリトは、「ソロでレベリングをする」と言い、現在に至る。

 

(そろそろ第二階層に入るな…。さて、次はどの程度のものか…)

 

そう考えつつ早速足を踏み入れた。…二階層に着くと目の前にモンスターが、門番のように立ちはだかった。

 

(一階層と同じモンスター、しかしレベルが1高いな…だがッ!)

 

目の前のモンスター…レベル7ルインコボルド・トルーパーは、手斧による、横の凪ぎ払いを仕掛けてきた!

 

「フッ!…ハァ!」

 

 キリトは、それを跳んで回避をし、その流れで剣を逆手に持ちそれを突き刺しそのまま振り下ろした。…HPバーが4割ほど減った。

 

「貴様では勝てんよ…。」

 

 そう言った後、ソードスキルである《スラント》を放ち、フィニッシュした。

 

(他愛のない…しかし、ソードスキルを使わないとダメージを稼げないのに厄介だな…。)

(さて、先に進むと…ん?奥の方で戦闘中のような音が…向こうか?)

 気になったキリトは、音のする方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そこでは、モンスターと……フードを深く被り顔を隠した人物が戦闘していた。

 

(レイピア使いか…。しかし大丈夫か?さっきからフラフラしているが…。)

 

 そんなことを考えていた時、突然フードの人物が鋭い閃光を放った。そうすると、半分近く残っていたモンスターのHPバーが0になり…消滅した。

 

(今のは、細剣のソードスキル《リニアー》か?しかし、前に他の人に見せてもらったものより威力も、スピードも、鋭さも桁違いだったが…。)

 

「誰…!?」

 

 キリトが考えに耽っていると、フードの人物が鋭い視線をこちらに向け、声をかけてきた。

 

(気づかれたか。…この声は女性プレイヤーか?)

 

「あぁ、すまない。少し通りがかっただけだ。」

 

「そう…なら向こうに…いって…行ってて…くれない?」

 

 その彼女はいい放った。

 

「それはいいが…大丈夫か?」

 

「か…まわないで…。あっち…行っ…」ドサッ

 

 その音と共にフードの人物は倒れた。キリトがその人物に近づきフードの中を覗くと、疲れきって熟睡している少女の顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…ここは?」

 

 先ほどまでの位迷宮区ではなく、一本の大きな木の下だった。

 

「…目が覚めたか。」

 

 少女が顔をあげ、キリトの顔を見た瞬間…不機嫌そうな顔をした。

 

「何で助けたの?」

 

「あの状況で見捨てられる訳がないだろう。…しかし、あんなところにいったいどのぐらいこもっていたんだ?」

 

「…4、5日位?」

 

「はぁ、死にたいのか?」

 

 そうキリトが呆れていうと、少女はうつむいた。

 

「どうせ、遅かれ早かれ皆死ぬのよ…。なら、私は早く楽になりたいだけ。わたしがわたしでいるため、最後の瞬間まで自分のままで死にたいから…。」

 

 それを聞いてキリトは残念そうな顔をわざとらしくして、

 

「それは残念だな…君のような筋のいい、そして美しい少女が攻略組の中に入り、第一層のボスに参戦してくれれば士気が上がり、活躍も出来ると思うのだが…何てね。でも気が向いたら参加してくれないか?じゃあ失礼するよ美しいお嬢さん(レディ)

 

 そう言うとキリトは、含み笑いをしながら町の方へ歩いていった。

 

「なッ……!?」

 

 その言葉を聞いた少女の頬と耳は紅く染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいな…。何も言わず呼び出してくるとは、なぁ…アルゴ。」

 

「今回は…。それなりにワケありという訳サ。キー坊」

 

そう答えたのはアルゴという女性プレイヤー、彼女は所謂情報屋でいろいろな情報を売り買いする。キリトはそのアルバイトとして働いていて、情報の裏取りや、調査をさせられている。

 

「しかしなぜ…」

 

「…実は、最近調査依頼が来てナ…。その内容が、桐ヶ谷和人という本名を持つプレイヤーを探して欲しい。というものだったのサ…。この話、どう思うカ?」

 

「…なに?」

 

(なぜ俺を?しかも、現実の名前の方(リアルネーム)で探しているだと?)

 

 キリトは驚きつつ、あり得うる可能性を考えたが、特に思い当たる節はなかった。

 

 「しかし、それを何故俺に?」

 

 そう聞くとアルゴは頭をかきながら、ばつが悪そうにすると、

 

「それを知りたいなら、1000コルナ…。と言いたいケド自分でふった相談事だしナ…。これは、決定的な根拠もないただの憶測でだケド…。キー坊と名前が似ているから聞いてみたんダ。もしかしたらもしかするんじゃないのかと普通なら考えるダロ?」

 

 その顔は確信しているのか、ニヤついたような顔だ。

 

「はぁ…その顔、もう9割方私だと思っているのだろう。相変わらず鋭い洞察力だよ。流石は《鼠》と言われる事だけはあるな…ご名答だよ。」

 

「随分素直に認めるナ?もう少し粘って言わずに去るのかと思っていたんだがナ…。」

 

「貴様に隠す必要はないしな、それに『リアルの情報は売買しない』のだろう?」

 

 こうキリトが言うと、アルゴは親指を立てた。

 

「あぁ、だから、その依頼は突っぱねておいたヨ。さっきのは、ほんの興味本位による質問サ…。」

 

 その言葉をきくと、キリトは改めて

 

「なら、これぐらい聞かせて貰っても良いだろう…多少の金なら払う、その依頼者のプレイヤー名は?教えて欲しい。」

 

 と聞いた。

 

「それは無理だナ…。口止め料5000コルもらっているから。」

 

 その言葉にキリトは驚愕した。

 

「5、5000コルだと!?」

 

依頼した人の名前や、情報提供者の名前は本人達が名前を匿名にしたい場合お金でアルゴが隠してくれるのだが、それを上回るお金を第二、三者が払うと匿名を解除する事ができる。そして普通、情報の伏せで使うのは、精々1000~2000コル程度だが…その2倍以上。そんな金があったら、武器などに費やすだろう、と言われるレベルだ。

 

「そんな、たかが名前を聞くだけで大量のお金を使いたくないダロ」

 

「………………わかったパスだ」

 

キリトは口惜しそうに、渋々引き下がった…

 

「賢明な判断だナ…。それじゃ!」

 

 そう言いながらアルゴは手をあげ、走りながら去っていった…。

 

(一体誰が私を調べているのか…まぁ、それより今はボス攻略の事を考えていた方がいいのかもしれないな…。)

 

 そんな事を考えていると次第に夕食の時間が近づいてきた。

 

(…まずは夕御飯を適当に見繕うとするか…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ━━━

「次回予告か。あっち(・・・)では2度程度しかやっていなかったな。なに、軽く尺を稼いでくれ?なら、…私が現実の世界(リアル)で気にいっているアニメキャラがあってな…それはfa〇eシリーズに出てくるプロトアーサーと呼ばれるキャラなんだが…個人的に3000アグニカポイントを贈呈したい位さ…これぐらいでいいか?…なに?コラボもしていない名前を出すな?…作者め、全く困った無能だ…。

  次回:ソードアートオンラインif withマクギリス  

 

   『「《閃光》と最初の攻略戦」後編』

 

 この最初のボス戦、何も起きず無事に成功すればいいが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後編は頑張って早めに出すよう頑張ります。


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「《閃光》と最初の攻略戦」後編

あ…ありのままさっき起こった事を話すぜ!俺は前編と同じ位の量の文を書こうと思ったら、いつのまにか二倍以上の量で書いていた。な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何そうなったかのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

なんて冗談はさておき、長くなってスミマセン。


 

 

 

 フードの少女は、1コルというとんでもなく安く売られている黒くて硬いパンを食べていた。

 このゲームの中で食事をしても当然腹は膨れない。しかしこのゲームは、仕様で空腹というものを完全に再現しているで何も食わないでいると当然のように腹がへる。勿論食事をとれば腹はふくれる。しかし、まともな食事をとろうすればいい金額になってしまい、それを毎日三食も続けたらあっという間にスッカラカンになる。そう言った問題があるため大体のプレイヤーが1コルという破格の安さと引き換えに余りにも美味しくないそのパンを一回は口にしたことはある。しかし…

 

(こんな美味しくないパンでもここ何日も食べていないと美味しく感じてしまう自分が憎い…)

 

 そんなことを考えている少女に近付いてくる影があった。

 

「フッ…奇遇だな、こんなところでまた出会うとは…………そういえば名前を聞いていなかったな。教えてはくれないだろうか?」

 

 少女が声のした方に顔を向けるといつぞやの少年━キリトがいた。

 

「…アスナよ。」

 

「そうか…私はキリトだ。改めて宜しく頼むよ…アスナ。」

 

 そしてキリトは続けるように、「4、5日も迷宮区に籠っていたのに、それだけしか食べないのか?」と聞いた。

 

「えぇ、そうよ。悪い?」

 

 アスナは機嫌悪そうに答えた。

 

「いや、悪いとは言ってないさ。ただ…」

 

 キリトは自分の夕飯だったホットドッグとホットミルクをアスナの隣に置いた。

 

「無理はするなよ?」

 

 アスナは、はぁ…とため息をつくと呆れた顔をした。

 

「それ自分のでしょ。…この前もそうだった。何でちょっと前に知り合っただけのわたしにそこまでするの?」

 

「他意はないさ…ただの善意だ。受け取って貰えないだろうか?」

 

「……わかった。」

 

 しばらく、二人の間に長い沈黙が訪れた…。

 

   そんな沈黙を破ったのはアスナだった。

 

「ねぇ、何で絶望せず前に進もうとする事ができるの?絶対に助からないのに…」

 

「君は何故絶対に助からないと決めつけるんだ?まだ死ぬその瞬間まで抗おうともしていないのに。

………俺は最後まで戦い抜く。どんなに無理だ、無駄だと言われようと、そして例え一人になってもな。俺が望んだ世界を体現したようなあの世界に帰るために…。」

 

そう言い、遠い目をするキリトが、アスナには一瞬あの男と重なって見えた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスナー結城明日奈の人生は、戦いの連続だった。幼稚園の入園試験を幕開けに、次から次へと大小無数の試練が課せられ、それら全てに勝ち抜いてきた。一度でも敗れれば自分は無価値な人間になると思い定めたうえで、その重圧をはね除け続けてきたのだ。その結果沢山の周りの人間を蹴落としてきた。そんな中、彼女が十歳の時に母親に誕生日プレゼントとして本を買ってもらった。彼女にとって始めての本のプレゼントだったので、興味本位でその本…『マクギリス・ファリド』を読むことにした。

 

 本の内容は、身分のなかった少年が権力という強力な力を知り、その力を手にいれるためどんな手を使ってでも様々な試練に勝ち抜き、仲間を犠牲にしてでも目的を達成しようとし、その結果権力を手に入れたと思ったら犠牲にした仲間に粛正される、という話だった。

 

 本を読んだ時、この物語の少年に少し共感をした。勿論生まれも、苦労のレベルも全く違うが… 

 

 その日の夜、明日奈は夢を見た。物語の少年(マクギリス)その親友(ガエリオ)の一騎討ちの夢だった。余りにも鮮明で、記憶に残るその夢は余りにも切なさのにじみ出ていたものだった。だが、少年が親友に討たれるその瞬間、不思議な事が起こった。その少年の記憶が流れ込んできたのだ。それはとても小さな、でも少年が忘れたくても忘れられない親友との記憶だった。 

 彼の本音、それを垣間見た明日奈は大切な、そして単純なことに気付いた。

 

(わたしは…わたしが求めているものって自分の事を価値があるかないか関係なく一緒に支えてくれる人が欲しかったのかな…。彼と話してみたいな…少し違うけど人との関係で悩んだ彼と…)

 

 

 

 そして、彼女は今回の《ソードアートオンライン》という不可能にも近い試練に直面した。

 

(彼ならどうするんだろう?)

 

 彼女は絶望し、諦めると同時にそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なら、証明してみせて。諦めなければ帰れるって、そして、見せてよ。あなたが言った果ての世界を。わたしは見届けるから。」

 

「…フフッ………良いだろう証明してやろう。この茅場が作った悪趣味な監獄から脱出してな…ならまずは一階層の攻略からだな。」

 

「えぇ、行きましょう。」

 

 二人は攻略組参加者集合場所である噴水の広場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディアベル、久しぶりだな」

 

「うん?…おぉ、キリト君じゃないか!君も参加してくれるのは心強いよ。…それでそちらのフードの方は?」

 

「あぁ、迷宮区で出会った仲間だ。実力は私が保証しよう。まぁ、言える立場じゃないが……おい、初対面とはいえ、命を預け合う仲間だ。そろそろ取ったらどうだ…フード。」

 

「…そうね。」

 

 そう返すとアスナは装備であるフードを外した。

 

「アスナです。宜しくお願いします。」

 

「なるほど女性プレイヤーだったのか…全くキリト君も隅に置けないね。」

 

「その言い方はやめて貰いたいな。」

 

 そんな三人の近くに寄ってくる者がいた。

 

「ディアベルはん、そろそろ会議の始まる時間や。…ん、誰や?そっちのボウズと嬢ちゃんは?」

 

「あぁ…キバオウ、彼はキリト君そして彼女がアスナさん二人ともとても筋のいいプレイヤーだよ。」

 

 そう、ディアベルが言うとその男ーキバオウは、目を細め、「一応やが、二人はまさかベータテスターやないやろなぁ?」と聞いてきた。

 

「残念ながら、ベータテストどころか今までゲームすらやったことのない初心者さ…。」

 

「…私も、そう。」

 

 それを聞いたキバオウは、「そうか…ワイはキバオウや!今回の攻略戦絶対成功させようや!」といい、手を振りながら噴水の方に去っていった。

 

「今の彼の感じ、まさか…」

 

 キリトが言いかけると、ディアベルは困った顔をして頬を人差し指でかいた。

 

「ハハッ…。そう、ベータテスターを恨んでいるよ…だけど僕の事を言い出せてないんだ。」

 

「なるほどな…………とりあえず会議にしよう。」

 

「うん、そうだね」「えぇ」

 

 三人は会場に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場には沢山のプレイヤーが来ていた。

 

「すごい数…こんなに集まるなんて」

 

 その様子をみたアスナは思わずつぶやいた。

 

「あぁ、どうやら四十弱の人数がいるな、初回の人数としては上々だろうな。」

 

 そんな話をしていると、今回の主催者であるディアベルが少し離れた所から、みんなに呼び掛けた。

 

「今日は、僕の呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!僕はディアベル!今回のリーダーだ!職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

 大きな歓声が湧いた。

 

「それで今回の攻略戦なんだけど、まずこれをみてほしい。これはついさっき入った新しい情報の本だ…。これになんとボスについての情報がかいてある。これで、僕たちは最初からボスに全力であたれる。この情報に感謝しよう!」

 

 その言葉に多くの人が納得した。

 

「では「ちょっとまってや。ディアベルはん。」その声と共にディアベルの話はさえぎられた。声を上げたのは

キバオウだった。

 

「その前に、この中に隠れとるベータテスターがいるはずや。そいつらに責任を取らせなければならへん。」

 

「責任?」

 

 ディアベルは聞いた。

 

「そうや、ベータテスターどもは自分らだけがどんどん穴場に行き、一人占めしたやろ?そのせいで、なにも知らないで始めての奴ら情報が足りずぎょうさん死んだ、その責任をとるべきや!」

 

 キバオウは吠えた。それと共に周りがザワザワし始めた。

 

(めんどくさいことになりそうだな。)

 

 キリトがそんなことを考えていると、突然肌黒で大柄な男が「発言、いいか?」と手を上げた。

 

「俺はエギルだ。キバオウさん、アンタはベータテスターが情報を開示しなかったからその他の人が沢山亡くなった。だからここで謝罪と情報を渡せといいたいんだろう?」

 

「そ、そうや。」

 

「アンタはそう言うが、キバオウさん。情報は渡しているぞ。…これは、このデスゲームが始まった時に無償で配られたガイドブック、そしてこっちがディアベルさんが言っていたボスの事が書いてある本だ。」

 

 そういうと、先ほどディアベルの見せた本と、最初に配られたガイドブックを裏返してみんなに見せてみた。

 

「そしてここをみてほしい。ここに《これは、ベータテストの時に集めた情報です。間違いがあったら情報屋に連絡して下さい》と書かれているだろう?…これでもまだベータテスターを攻めるのか?」

 

「それは…でも、その情報は基礎的な事しか…「キバオウ。そろそろいいんじゃないか。」

 

 まだ、反論が足りないといった顔をしていたキバオウを遮ったのは、いつの間にか立ち上がっていたキリトだった。

 

「私達が今憎むべきは本当にベータテスターか?そうじゃないだろう。その怒りを、私達ここにいる全員のプレイヤーでこの地獄を脱出し諸悪の根元である茅場明彦にぶつけるべきだと思うけどな…。さぁ…ディアベル続きを頼むよ。」

 

「あ、あぁ…」

 

 そう返事を返すとディアベルは今回のボス攻略の話し合いを始めた。そんな中、キバオウは、まだ何か言いたげにしていたが、特に何も起きず会議は解散となった。

 

「おいボウズ。ボウズが言っている事は一理あるとワイもそう思うてる。でも、ワイはベータテスターは許せへんのや…。」

 

 解散後、キバオウは、キリトに近づくとそう言って帰っていった。

 

「おい、君はキリト…でいいのか?」

 

 その後、あのキバオウに最初に反論した大柄な男ーエギルがキリトに話しかけてきた。

 

「先ほどは助かった。アイツのヘイトを一緒に背負ってくれてな…ボスは互いに生き残ろう。」

 

「あぁ」

 

「相変わらずのお人好しね。…それで、どうするの?わたし達余り物の二人編成のチームになったけど…。」

 

 話し合いの結果ゲーム未経験者で一人は女性だということで、キリトとアスナは援護班という所謂(いわゆる)裏方の仕事が適任とされたのだった。

 

「それはしょうがないだろう…私達は所詮ゲーム未経験者だぞ。とりあえず、今日は早目に解散して明日に備えるとしよう。」

 

 そうキリトが言うと、

 

「よくあんな気の休まらない宿に早目に帰る気になれるわね。ベッドしかないのに…」

 

「いや、ベッド以外にも風呂とか…一応あるだろう?」

 

 そんなキリトの呟きにアスナは凄い反応示した。

 

「…………………なんですって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトが泊まっている宿に付いていったアスナは驚いていた。

 

「なにここ?大きなベッドに風呂まで付いて、私の所の半額だなんて…」

 

「まぁ、所謂穴場、というやつだからな…」

 

 そんな事を言っていると、NPCの店員がとんでもないことを言い出した。

 

「すみません。今空いているのが二人部屋しかないのでそちらで取らせてもらいますね。」

 

「「はっ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先、風呂入るから…」

 

「あぁ、大人しくしているよ…」

 

 この宿は、他の所より安く風呂まで付いている代わりに、デメリットとして部屋は自動的に決められるのと、キャンセルしようとすると20倍近くのキャンセル料を取られ、部屋から一時間以上出るとキャンセルとみなされるというものがある。

 

「まさか、あんなデメリットがあったとは…あの《鼠》め。情報料が安いと思ったら…抜け目がないな。」

 

「オレっちが、ナンだって?」

 

 キリトが買い出しに向かおうと部屋のドアを閉めようとすると、目の前に愚痴の対象であったアルゴがいた。

 

「い、居たのか…」

 

「さてはここのデメリットの事で愚痴っていたナ…それに関しては聞かないキー坊が悪いダロ?」

 

「聞いたら追加料金を取られるだろうに…それで何かようか?」

 

そう聞くとアルゴは、

 

「次のバイトの件の話、持ってきておいたゾ。といってもいつも通りのヤツばっかだけどな…」

 

そういって何個かの仕事の詳細を軽く5分程した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、あともうひとつだけ…前に話したキー坊の本名を知っていた依頼人だがナ…あのあと一度も来ていないゾ。」

 

「それだけか?」

 

「勿論。一応、伝えた方がいいと思ってナ。あと、明日のボス協力戦頼んダゾ。成功すれば全プレイヤーのモチベーションが上がるからナ…そういうことでじゃあナ♪」

 

「任せてもらおう」

 

 その言葉を聞いたアルゴは親指を立て宿を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

(しかし本当に、私の現実名で調べているのは誰なのだろうか?)

 

 そんな事を考えていて、さっきまでの事を忘れていたキリトはいつもの癖で無意識に風呂場で続きを考えようとしていた。…今、自分が置かれていた状況すらも忘れて…

 

 そこには、先ほど風呂を入り終えたアスナがいた。

 

「………………………きゃあああああぁーーッッ!」

 

「ガエリオォォォォォォッ!!!」ゴスッ

 

キボウノハナー

 

少女の悲鳴と、少年の絶叫が鳴り響いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも!昨日はお楽しみ…というよりは災難だったのかな?」

 

 攻略戦当日、早めに来たキリトとアスナの間には近寄りがたい雰囲気が醸し出されていた。それをみたディアベルは近寄りたくない気持ちを抑え、話し掛けてきた。

 

「取り敢えず、これから攻略戦だからそのギスギスした空気を抑えてね…。」

 

「分かってる。切り替えるから。」

 

 機嫌の悪そうなアスナは淡々と答え、

 

「あ?…………あぁ…」

 

 何か疲れたような顔をしたキリトは上の空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員が揃うと、リーダーとしてディアベルがボス戦に向けて最後の言葉を発した。

 

「みんな…僕から言うことはただひとつ、勝とうぜ!」

 

  迷宮区の攻略には二時間近く要した。何度か危険な場面はあったが、取り敢えず全員でボスの前にたどり着いた。

 

「いくぞっ!」

 

 ディアベルのその言葉を起に全員でボス部屋に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボスの名前は《イルファング・ザ・コボルドロード》右手に骨を削って作った斧、左手には革を張り合わせたバックラーを携え、腰の後ろには差し渡し1メートル半はあろうという湾刀を差している獣人の王だ。とても強くベータテスト時にはなかなか苦戦したらしい。とはいえその辺りの情報は既にみんなの手に渡っていたため、なんの苦もなく25%近く削る事が出来た。

 

(このまま、行けるのか?)

 

キリトは後ろで沢山湧いてくる《ルインコボルド・センチネル》をアスナと処理しつつ期待していた。

 

 イルファングは4分の1の体力になると腰にある湾刀を使い始める。それはベータテストの情報だった。

 

 それを知っている全プレイヤーは身構え始めた。しかし、そこで前に出る者がいた。

 

「ディ、ディアベルはん!?」「正気か!?」

 

 それはディアベルだった。彼にとっては既に経験済みの戦闘場面、前に出るのは当然…なのだか、

 

(何故だろうな、何かイヤな予感がするな…。気のせいか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その予感は最悪の形で的中した…。

 

 イルファングが腰から武器を抜いた。但し湾刀ではなく…曲刀だった。そして、イルファングが今までに誰も見たことないソードスキル《旋車》を繰り出した。ディアベルがそれに気付いた時には全てが遅く、ディアベルは吹き飛ばされた。

 

「ディアベルッ!」

 

近くにいたキリトはすぐさま駆け寄った。

 

「今すぐに回復を!「無駄だよ、もうHPバーがないからね。」なら、何故こんなことを?」

 

「僕がLA ボーナスを取ろうとしたのさ。リーダーとしてみんなの士気を高めるために…。」

 

「貴様は…」

 

「後は、キリト君。君に任…」

 

 ディアベルは消滅した…

 

「…どうするの?」

 

 アスナは気まずそうに聞いた。

 

「……決まっているさ…。ここで全てが水泡に帰す訳にはいかない…」

 

 キリトはそういうと、ディアベルが消滅しボスの情報が違うことで士気が完全に失われたプレイヤー達の前に立つと、大声を張り上げた。

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 そう言うとイルファングの仕掛けてきた全ての攻撃を受け流し、乱舞を仕掛け、イルファングを後退させるまで至った。

 

「そうだ、ディアベルさんの弔い合戦だ!」

 

「ぜってー赦さねぇ!」

 

 キリトのその姿に感化され、他のプレイヤーも闘志を取り戻した。その努力も相まってボスのHPバーもミリになり、もう少しで倒せる所まで至った。

 

「アスナ、俺に続けッ!」

 

「勿論!」

 

 その返事と共に二人は突貫した。途中のイルファングの攻撃はキリトが全て払いのけ、イルファングの目の前までたどり着いた。

 

「ハァッ!」「ハッ!!」

 

 二人の放った《スラント》と《リニアー》はイルファングの喉元に致命傷を与え…消滅した。

 

  「「「ウォォォッッーーーーー!!!」」」

 

 その瞬間、クリアを理解したプレイヤー達が勝ちどきをあげた。

 

「終わったか。」「はぁ…。」

 

そんな中、

 

「何で…何でや、ディアベルはん…。」

 

 項垂れたキバオウが嘆いた。

 

「キバオウ…ディアベルは元ベータテスターだ。」

 

「なんやて!?」

 

「今回、前に出た理由はラストアタックボーナスを取ってみんなを導き、キバオウ…貴様に黙っていたことを謝ろうとするためだった。彼はベータテスターだが、貴様が言う通りのヤツらに見えたか?」

 

 そうキバオウにキリト自身の考察を混ぜたディアベルの言葉を教え、そこを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どこに行くの?皆と一緒に居るのかと思ったけど…」

 

 走ってキリトを追いかけてきたアスナはそう聞いた。

 

「一応、大切な仲間が一人亡くなったからな。私は取り敢えず、先に進むとするよ…」

 

「そう…じゃあ行きましょう。見せてくれるんでしょう?」

 

「そうだったな…なら行こうか」

 

 そう言いキリトは先ほどラストアタックボーナスでもらった黒い外装で身を包みアスナと共にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、階層攻略の際、ピンチになると力を示すキリトの事を攻略プレイヤー達は《黒の剣士》と呼ぶようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ━━━     

「はい!今回、次回予告を担当する《月夜の黒猫団》のサチと…」

「《鉄華団》のシノだッ!…しかし、羨ましいもんだぜ!オレも主人公になって暴れてみてーなぁ…」

「いいじゃないですか。シノさんはとてもカッコいい死亡シーンがあって、活躍もしているし、きっと別の次元では他の世界で転生とかして楽しくしていますって。それに比べて私なんて…本編では活躍ほとんどないし、この物語ではカットされちゃうし…うぅ…」

「お、おいおい泣く程でもねぇーだろ…おっと忘れてた…次回、ソードアートオンラインif withマクギリス

『「小竜使いの少女とピナの心」(仮)』

おーい、ほらお前がウサギ呼ばわりしてたオレの流星号に乗せてやるから元気だせよー!」

「本当に!?」

「お、おう…」

 

 

物語の少年(マクギリス)




話が後半になるに連れてだんだん話の進みが早くなってしまっているような…。しかも、戦闘シーン凄い薄いし…。
 誤字脱字等あったら言ってください。


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「小竜使いの少女と思い出の丘」前編

 前回間違いがあった為、前の話で《ヴォーパルストライク》と表記したところを別の技に置き換えました。改めて、教えてくれた方ありがとうございます。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリト達、攻略班が最初のボス攻略をクリアしてから2年近く経過した。その間沢山の階層が攻略されゴールまでそれなりに近付いたものの、未だゴール出来ずそれと共に何人ものプレイヤーが命を落としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シリカは、アインクラッドでは珍しい《ビーストテイマー》だった。

 ビーストテイマーとは、システム上で規定されたクラスやスキルの名前ではなく、通称である。戦闘中、通常は好戦的なモンスターがプレイヤーに友好的な興味を示してくれるというイベントがごく稀に発生する。その機を逃さず餌を与える等して飼い馴らしに成功すると、モンスターはプレイヤーの《使い魔》として様々な手助けをしてくれる貴重な存在となる。その幸運なプレイヤーを称賛とやっかみを込めて、ビーストテイマーと呼ぶ。そんな中、シリカがビーストテイマーになれたのは、マンガのご都合展開並みに途方もなく幸運だったからだ。

 何の予備知識もなく、気まぐれで降り立った層の理由もなく踏み込んだ森の中で初めて遭遇したモンスターが攻撃せずに近寄ってきて、前日に何とはなしに買った袋入りのナッツを放ったところ、それがたまたまそのモンスターの好物だったというわけだ。シリカはそのモンスター…フェザーリドラに《ピナ》という名前をつけた。12歳であるシリカにとって、不安や寂しさを紛らせてくれたピナはパートナーのような存在となった。

 以来一年、シリカとピナは順調に経験を積み、短剣使いとしての腕も上がって、中層クラスのプレイヤーの間ではそれなりのハイレベルプレイヤーとして名前が通るまでになった。そして、とても少ない女性プレイヤー、幼い容姿、ビーストテイマーという三つの要素を兼ね備えた、シリカは多くのファンを持つ人気ものとなり沢山のパーティーに勧誘されるようになった。そんな状況で13 歳のシリカが多少舞い上がってしまったのは無理もない事だと思う。それが、取り返しのつかない過ちを犯させることになったのだが…

 

 きっかけは些細な口論だった。シリカは少し前に誘われたパーティーにいたのだか、クエストの途中、そこのもう一人の女性プレイヤーと回復アイテムの持ち分で口論となったのだった。そこで女性プレイヤーに色々な嫌味にも似た文句を言われたために、頭に血が上ったシリカは1人でパーティーを抜け出し町に戻ろうとした。しかし、そこで問題が発生した。ダンジョン内で道に迷ったの

だ。そのダンジョンは《迷いの森》。広く、色々な道があるそのダンジョンは、出てくるモンスターはそこまで強くなくシリカ1人でも倒せるにしろ、道に迷いやすくこのダンジョン内では転移結晶を使ってもランダムで森のどこかに飛ばされる仕様になっている。

 そのせいで完全な迷子になってしまったシリカは、いつか町に戻れるかもしれないと思って色々な方向に進んでみたが結局町に戻れず辺りは薄暗くなってきてしまった。取り敢えず、何とか休める場所とした時ーーー。肩の上でピナがさっと頭をもたげ、一声鋭く、きゅるっ!とないた。警戒音だった。現れたモンスターはドランクエイプ。1、2匹ならシリカにとって何の問題もなく処理できるモンスターだった。しかし、現れたのは、4匹のドランクエイプだ。正直、ギリギリの対処になるが対処出来ないことはないと考えたシリカは臨戦態勢に入った。

 

 結果からいうと、タイミングが悪かったとしか言い様がない状況だった。いつものシリカなら対処出来ただろう。しかし、今の彼女は1日ダンジョン内でウロウロしていたせいで体力的にも精神的にも限界で思うように戦えず反撃出来ない状況まで追い詰められてしまった。

(ど、どうしよう…)

 抵抗したいが出来ない…そしてもう回復も尽きた…尻もちをついてしまったシリカは木の下まで追い詰められてしまった。そして一匹のドランクエイプが棍棒を振り上げている…

(や、やられるッ!)

 そんな時シリカとドランクエイプの間に小さな影が割り込んできた。それはピナだった。ピナはシリカを守るようにドランクエイプの棍棒をその身に受け………消滅した…

「あ、ああ…う、うそ………」

  シリカは絶望した。この世界で唯一の支えであったピナを失ったのだから。そんな彼女の気持ちも露知らずグレイプエイプ達は次の攻撃を仕掛けようとしてくる…

(もう……だ…め…)

 その瞬間、シリカの目の前に横一閃に光が走った。そしてその光と共に3匹のグレイプエイプは消滅した。そして目の前に黒い影が現れた。残った一匹のグレイプエイプは黒い影に対して戦闘態勢をとろうとしたが、全てが遅くその腹に大きく穴が空き、消滅した。すると、黒い影はこちらに声をかけてきた。

 

「すまない…助けるのが遅くなってしまった…」

 

 それは、かつて始めたばかりで武器のことで悩んでいたシリカに手を差し伸べてくれたキリトだった。

 

「キ、キリト…さ…ん……くうっ うぅッ!」

 

 それを認識した瞬間、シリカはキリトの元へ駆け寄りその胸元で泣きじゃくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさかこんなところに出くわすとは…)

 

キリトは泣きじゃくるシリカを宥めながらそう考えた。

 

「すいません…突然…」

 

「大丈夫だ。気持ちはわかる……その……」

 

「いいんです…結局のところ、私が撒いた種なんです。私が…」

 

 そう言うと、シリカはピナが消滅した時に落とした《ピナの心》という羽根のアイテムを拾い上げ、それを胸元で優しく握りしめた。それを見たキリトは少し考える仕草をすると、

 

「アイツなら…」

 

 と言い、彼のこういった場合一番信用できるアルゴに連絡を取り、現在自分のいる階層に呼んだ。

 

「取り敢えず町に戻らないか?」

 

「え?…はい」

 

 そう声をかけると、キリトはシリカの手を引き町へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないなアルゴ。こんなところまで呼び出して…」

 

「あぁ、今更ダロ…それより何ダ?隣にいる少女絡みカ?」

 

「まぁ、そんなところさ…実はな…」

 

 取り敢えず町に戻った二人は、キリトが呼んでおいた情報屋であるアルゴと落ち合い、事の顛末を伝えた。

 

「なるほどナ…そこで使い魔を蘇らせる方法がないか聞きにきたという訳カ…。………結論から言うと、蘇らせる方法は無いことはないゾ。」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 それを聞いたシリカの目に光が戻った。

 

「しかし、その情報は最近入ったばかりで確証もないし、新鮮な情報は高額ダ。それでもいいか?」

 

「ちなみに、いくらなんでしょうか?」

 

「……一万と言いたいところダガ、さっきの話を聞いて安くしない訳にもいかないしナ…取り敢えず8000でどうカ?」

 

「8000!?…うぅ、全然足りないな…お金稼がさないと…」

 

「それは無理ダナ。蘇生は対象が消滅してから3日以内しか出来ないからナ。」

 

「そ、そんな……」

 

「…ならこれでいいのだろう。」

 

 そう言うとキリトは8000コルをアルゴに渡した。

 

「え?」

 

「事は急を要するんだろう?なら、ここは私が持つさ。」

 

「にゃはは♪毎度あり…じゃあ情報のデータを送るヨ。」

 

 金が入って嬉しそうなアルゴはそのアイテムの詳細のデータを送ってくれた。

 

「じゃ、また情報が欲しかったらよろしくナ~」

 

「あぁ、また何かあったら頼むよ。」

 

「あの、ありがとうございます…」

 

 シリカは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「気にするな…それよりこの情報の開示は、何処か人目のつかない所でしたいな…」

 

 キリトは周りを気にしながら、そう言った。

 

「…あ!それなら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトはシリカが泊まっている宿で部屋を借り、そこで遅くなった夕食を摂ったあと、先ほどの情報を確認することとなった。

 

「…さて、もらった情報によると我々が探しているアイテムは、47層の南にある《思い出の丘》というフィールドダンジョンに咲く花みたいだな…ただ、難易度が高いようだな…」

 

「それって、私でもクリア出来るんでしょうか?」

 

「…無理だろうな…。でもまぁ、私が全面的にバックアップする…任せてもらおう…。」

 

 そうキリトが言うと、シリカはこちらをじっと見つめてきた。

 

「…あの、今更なんですけど…最初会ったときから、何で初対面だったのに私に優しく手を差し伸べてくれたんですか?」

 

 そうシリカが聞くと、キリトは何か考える素振りをしながら重く口を開いた。

 

「ただの良心だ…と言ってもその顔は納得しなそうだな。……これは私なりの贖罪…いや、偽善なのかも知れないな。」

 

「贖罪?偽善?」

 

 そうシリカが返すとキリトは何かを思い出すように上を向いた。

 

「私は、君が今思っているほど良い人間じゃない…ということさ。………かつて私は親友だった者を裏切り、利用した…、それを償いたいのだけどな………。だから、せめてここでは同じ過ちを犯さずむしろプラスに持っていきたい…そう考えたから偽善でも誰かを助けたいと思ったのさ。」

 

 

 

 

(私はいつになったら…何をすればお前に顔向けすることが出来るようになるのか……。アルミリアを悲しませた私は…)

 

 キリト(マクギリス)は、かつての昔の事をゆっくりと思い出していた。

 

 

「ッ!すまない。少し考え事を……ん?」

 

 ふと、肩に軽い圧力を感じたのでキリトが我に返ると、いつの間にかシリカはキリトに寄り添ったまま小さい寝息を立てていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…んん……あれ?もしかしてあの後私、キリトさんの部屋でそのまま寝ちゃって…あれ!?)

 

 シリカが目を醒ますとそこはベッドの上で、自分の体にはいつの間にかシーツがかけられていた。

 

(これって…もしかして…)

 

 シリカが周りを見渡すと部屋のドアの前で立ったまま寝ていたキリトがいた…

 

「…む?…あぁ、起きたのか…。」

 

「すみません…私がキリトさんの部屋のベッドを使ってしまって…」

 

「何、別に私が勝手にベッドに運んだだけさ…気にするな。…さて、そろそろ行こうか。」

 

「…はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は朝早く出発しシリカのレベルを上げられるだけ上げ、その後思い出の丘へと向かった…。

 

「ここが思い出の丘だな。」

 

「うわー…とても綺麗なところ……早く行きましょう。キリトさん!」

 

 シリカはどんどん前に進んだ…

 

「ま、待て!あまり一人で突っ込むと…」

 

 突然歩く草のようなモンスターが現れ、触手をシリカの足へ巻き付けてきた!

 

「い、いやぁッッ!!た、助けて下さいーッ!」

 

「言わんこっちゃないな…。だが、そのモンスターはあまり強くないぞ…倒せるレベルだろうに…。」

 

「き、気持ち悪いんですよッ!………見てないで助けてくださいよッ!」

 

 逆さまにされて、つるし上げられたシリカは今にも捲れそうなスカートを必死に抑えながら叫んだ。

 

「・・・フッフフフフ・・・ハハハハハ!ハッハハハハッ!ハハハハハッ!」

 

 キリトの笑い声が響いた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いです…もっと早く助けてくださいよ…。」

 

「いやぁ、悪かったよ…」

 

 キリトがそう軽く返答すると、シリカはキッと睨み付けると…

 

「……見ました…?」

 

「ん?…あぁ、良いものを見せて…」ゴッ

 

 瞬間、キリトは強い衝撃と、既視感(デジャヴ)を感じた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ!原作でも、こっちでも早々退場してしまったディアベルだ。…誰か、俺の主人公作ってくれないかな…

 そういえば、現実でも、ゲーム内でもよく知り合いに『撃てッ!撃ち続けろ!銃身が焼け付くまで撃ち続けるんだ!』とか

『倍返しだああっっ!』とか言って、って言われるんだ…。SAOに居たときもキバオウと一緒にいると…15001500のシロー・イザークコンビだっ!て言われるし…そんなに似ているかな…。

 

次回

 

『 SAOif withマクギリス

 

 《「小竜使いの少女と思い出の丘」後編》

                      』

 

これだけは言っておく絶対に死ぬな。…こんな感じかな…。」

 

 

 

 

 

 

 




 後編はまた、一週間以内には出せるよう頑張ります。
誤字脱字、間違い、アドバイスあったらまたお願いします。


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「小竜使いの少女と思い出の丘」後編

 皆、もうそろそろ鉄血のオルフェンズが五周年迎えるそうなんだ!(少し前にガンダムチャンネルで知った)
 これを機に鉄血のオルフェンズもう一度観てみようぜ!…私はラフタの死亡シーンで精神持っていかれそうなんで嫌ですけど。






※タグにいくつか追加しました。あと、今回はほぼ意味のない次回予告はないです。そして、少し作品タイトルを少し変えました。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数々のモンスターを協力して倒し、高く繁った木立の連なりをくぐるとシリカとキリトは丘の頂上に着いた。

 

「うわぁ…!」

 

 シリカは思わず数歩駆け寄り、歓声を上げた。空中の花畑、そんな言葉が相応しい場所だった。一面に美しい花々が咲き誇り、良い香りが辺り一面に広がっている。

 

「着いたな」

 

「ここにあるんですよね。」

 

「━なるほど、真ん中辺りに岩があり、その上に…」

 

 シリカは最後まで聞かずに走り出していた。大きな岩の上を覗きこむとそこに探していたアイテムが…なかった。

 

「ない、ないです!キリトさん!」

 

 シリカはキリトに訴えるように叫んだ。

 

「そんなはずは…ん? フッ…。そこを見てみると良い」

 

 キリトの目線に促され、シリカは再び岩の上に視線を戻した。すると━

 

「あっ!!」

 

 苔のような緑がかった所に、とても小さい一本の芽が伸びようとしていた。それは段々成長していき、やがて先端に大きな蕾を結んだ。そしてそれが開き、優しく輝く花が咲いた。

 

「これが《プネウマの花》ですか!これでピナを生き返らせることが出来るんだ…」

 

 遂に念願のアイテムを手にいれたシリカはその嬉しさを隠しきれていなかった。

 

「目的達成か…取り敢えず町に戻ってからその作業をするとしよう。」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道ではほとんどモンスターと出くわす事はなかった。

 

(もう少しで、やっとピナと…)

 

 シリカがそう考えながら胸を弾ませていると…

 

「少しいいか?」

 

 突然キリトがシリカの前に手を出してきた。

 

「…そろそろ出てきたらどうだ?ストーキングも疲れただろうに。」

 

 すると、短い橋の向こうから女性が現れた。

 

「あら、お見事!よくわかったわね。随分デキる剣士サン。」

 

「部屋の中での話を盗み聞きされれば流石に気付くさ…」

 

「あれに気付くなんて…よくあんたみたいな雑魚で雇えたわね。身体でも差し出したの?」

 

 その女性の姿にシリカは驚愕した。

 

「ろ、ロザリアさん!?何であなたがここに?」

 

 それは、シリカがピナを失うこととなった出来事の発端となった女性プレイヤー、ロザリアだった。

 

「━なるほど」

 

 キリトは何か理解したように呟くと、

 

「君の次の獲物はシリカだったという訳か、犯罪者(オレンジ)ギルドのロザリア」

 

 と続けて言い放った。

 

「それってどういう…」

 

「はぁ、そこまでバレていたのね。そう、そこのおチビさんを殺して全て奪うつもりだったのに、すぐにカッカしてあのパーティーから抜けちゃうんだもの。でも、良かった。そんなレアアイテムと、いいもん持ってそうな剣士サンのオマケをつけてわざわざこんな襲いやすい場所に来てくれるなんて♪」

 

 自分があのままパーティーに居たら殺されていた事を知り、愉しそうに微笑むロザリアに恐怖を感じシリカは、同時に湧いていた疑問を口にした。

 

「…でも、何でそんな事知っていたんですか?…それにさっき次の獲物って言ってましたけど、ロザリアさんは一人も殺していない(グリーン)ですよ?」

 

「━少し前にな、《シルバーフラグス》というパーティーが同じ被害に遭いリーダー以外が死亡した。そのことで生き残ったリーダーは情報屋に依頼したのさ…『誰か強い人に、敵を討ってくれるように頼んでくれ』とな、その白羽の矢が私に飛んできたんだ…まぁ、そのお蔭でこういう状況に立ち会う事が出来たからな。」

 

 キリトがそう解説したあと戦闘態勢をとりながら、続けた。

 

「そして、ロザリアが何故グリーンなのかという疑問に答えるとな……」

 

 キリトがそれを言い終わる前に、オレンジのマークがついた7人程のプレイヤーが現れた。

 

「━こういうことさ。」

 

「い、いつの間に!?」

 

「シリカ!後ろに下がれ。」

 

 そう言い、キリトはシリカを自分の後ろに庇うように隠した。

 

「でも!キリトさん一人だけだと…「ここから先は私一人で十分だ。」

 

 シリカの言葉を遮り、そう言い残すとキリトは待ち伏せしていた面々に突貫した。

 

「き、キリトさん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら!チャッチャとやっちゃいな!!」

 

 ロザリアがそう言うと、三人の男性プレイヤーが先陣をきった。

 

「「「オゥラッ!!」」」

 

 三人はそれぞれの武器を構え、キリトに斬りかかる。それをキリトはバックステップし避け、敵が武器を地面から引き抜くまでの一呼吸の間で真ん中の敵に後ろ回り蹴りを放った。

 

「グハッ!!」

 

 食らった相手は後ろに大きく吹き飛んだ。

 

「キサマっ!」「よくもッ!」

 

 残りの二人がそう言い第二の攻撃に移ろうとしたが…時すでに遅し。いつの間にか懐に潜り込んでいたキリトの横一閃を食らいダウンした。

 

「仕方ない、ここはオレが!」

 

 そう言う別のオレンジプレイヤーがレイピアを構え、即座に《トライアンギュラー》を放った。

 

「その程度なら…」

 

 キリトがそう呟くとそれを片手剣でいなしつつ、回り込むようにステップしその背中に剣を突き刺しゆっくり抜き払った。

 

「悪いな…。「━貰ったッ!」

 

 先ほどのプレイヤー達のリーダーらしき男が、背後から奇襲をかけてきた。

 

「ッ!…甘いな!」

 

 キリトはスレスレで攻撃を受け止めると、剣の柄でリーダーの顎を弾いた。

 

「…す、凄い」

 

 その凄まじい戦闘で、洗礼された戦い方にシリカは格好良く憧れを抱いた。

 

「…ちょっと!!なにボサッとしてんだい!?さっさと行きなッ!」

 

 キリトの戦闘に圧倒された残りのプレイヤーは固まってしまっていた。ロザリアに叱咤されたプレイヤー達は即座に動こうとしたが、

 

(今が好機か!)

 

 彼らが動く前に、キリトは全力でロザリアに体当たりをかまし、馬乗りの態勢から剣を喉に突き刺さしトドメをさそうとした…が、

 

(ッ!…何故だ?まさか躊躇っているのか、私は…)

 

 相手を殺すことに躊躇いが出ている自分に戸惑っていたキリトは、このままなにもしない訳にはいかないと考え、咄嗟にロザリアに誤魔化すように脅しをかけた。

 

「…さて、どうする?この回廊結晶で監獄エリアにワープし、牢屋に入っていればこれ以上危害を加えないが、それでも抵抗するなら徹底的にやらせてもらおう…」

 

「チィ…お手上げだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何者なんだい?アンタ…」

 

 先ほど奇襲をかけてきたオレンジプレイヤー達と素直に牢屋に入る事を渋々了承したロザリアは、こわばった顔をしながら質問を投げ掛けてきた。

 

「ただの攻略組さ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シリカが《ピナの心》にプネウマの花の中の雫をかけると、淡い光と共に、羽根でしかなかったアイテムが少しずつ小竜の形を象っていき…

 

「ピナッ!!」

 

 ピナが蘇ると、シリカは涙を浮かべながら真っ先に優しく抱いた。

 

「ごめんね…ピナ。…もう二度と失わないからッ…」

 

「きゅるッ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シリカはピナとのスキンシップを一通りし終えると、キリトに改めてお礼をいった。

 

「本当にありがとうございました。」

 

「気にするな…では、そろそろ私はいくよ。」

 

 シリカとキリトのレベル差は激しい、これ以上一緒にいると迷惑をかけてしまう、シリカにもそれは分かっていた。

 

「やっぱり寂しいな。信頼できる人が居なくなると…」

 

 そう言い、シリカはうつむいた。

 

「そうか…なら、私の《チーム》に入るか?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                      ~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━それで、先程話していた友達の経営している鍛治屋というのはあそこか?」

 

「そうだよ。あ!でも、彼女をナンパしないでよ?」

 

 キリトとアスナは、アスナの友人がいるという鍛治屋に向かっていた。目的は、自分のチームへの誘いだ…ギルドではないがそれに近いものを作ろうと話し合った結果、人数が必要になったのだ。

 

「ナンパなんて軽々しい事、した記憶がないが?」

 

「そんなこといって、少し目を離した隙にシリカちゃん連れてきたくせに…」

 

「シリカは、昔の知り合いだ。連れて来ても別に良いだろう?」

 

 ちなみに、あの後シリカは少し前チームに加入した。他にもエギルや、クラインなどが加入している。エギルとは数々の攻略や、アイテム鑑定等で親しくなった経緯がある。そしてクラインは元々別のギルド《風林火山》でリーダーをしているが、このチームはギルドではないので昔交換した連絡手段で誘っていた。

 

「━よし、ついた。…来たよーっ」

 

 アスナはドアを開くとさっさと入っていたので、キリトは慌ててそれに続いた。

 

「いらっしゃーい…お!来た来た、彼が噂のキリト君だね?」

 

 すると、桃色で短髪の少女がこちらに反応し声をかけてきた。

 

「うん、そう。あ、紹介するね、彼女がリズベット。それで…あれ?リズ、アインは?」

 

(アイン(・・・)?何処かで…)

 

「あ、そうそう…おーい、アイン!アスナがキリト君連れてきたよー!!」

 

 すると、奥から一人の男…だがキリト…いや、マクギリス(・・・・・)にとってよく知っている人物が姿を現した。すると、その男はキリトに近づき耳元で囁く。

 

「お久しぶりですね。桐ヶ谷和人…というより《マクギリス・ファリド》と呼んだ方がピンときますか…?」

 

「貴様、アイン…ダルトン(・・・ ・・・・)なのか?」

 

 それは、かつて自分がガンダムバエルを手に入れる為に必要な阿頼耶識システムの実験材料として利用し、命を散らすこととなったアイン・ダルトンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 はい、最初に追加する新たな鉄血キャラはアイン・ダルトンでした。…え?何でもっとメジャーなキャラ出さないのかだって?彼は必要キャラなんですよ…皆さん大好きあのキャラ達も後に出すのでそれまで待ってください。
(ここら辺だとストーリー上、手こずる場面ないから戦闘シーンが盛り上がらないな…)


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「アイン・ダルトン」

 今更なんですが、ここまで私の作品に着いてきてくれた方々…本当にありがとうございます。まだまだこの作品も序盤なんですが…最後まで見届けてくれると嬉しいです。(勿論、完結させる努力は惜しみません。)


《前回のあらすじ》

 アスナの友人だと言うリズベットをグループにひきいれることとなったキリト。そのお誘いをアスナと行った所、そこでかつて自分の目的の為に利用し死に追いやった、アイン・ダルトンと再会することとなった…

 

 

 

 

          ━━━━

 

 

 

 

「何故…キサマが…」

 

 キリトが疑問を投げ掛けようとすると、

 

「その話は外でしませんか?━リズ、悪いけど少し二人になっていいかな?」

 

「オッケー!」

 

 その返事を聞くと、アインはキリトを連れて裏口へと迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は店の裏に出ると、近くにあったベンチに腰を下ろした。

 

「アイン・ダルトン。君もここに来ていたとは…」

 

「はい…オレも多分、貴方と同じ状況に置かれているんだと思います。ファリド特務三佐。」

 

 キリトはその言葉を聞くと、改めて目の前の人物がアイン・ダルトンだと実感した。そして、

 

(あの事を正直に伝えないとな)

 

 マクギリスにとってあの時、つまりアインを利用した時の事を気にしていた。

 

(いつかは向き合わないと行けないことだと思っていたしな…)

 

 そう考えると、アインに改めて向き直った。

 

「━実は、私は君に伝えなくては行けない事がある。私は君を…「知ってますよ。」…何?」

 

 アインが返した返事にマクギリスは衝撃を覚えた。

 

「し、知っている…?」

 

「はい。といっても断片的にですけどね…」

 

 そういうと、アインはおもむろに立ち上がりマクギリスの前に立ちはだかった。

 

「…オレがグレイズアインとなりあの少年に殺された後、本来だったら記憶がなかったはずなんですけど、何故かあの時の記憶はあるんです。貴方とボードウィン特務三佐のその後のことが…」

 

 マクギリスは、それを聞くとあり得そうな理由を考えてみた。

 

(そういえば、確かガエリオは私を殺すために、アインの脳を阿頼耶識システムtype-Eと呼ばれる生体コアとして使っていたな…まさか、あれの影響か?)

 

 考えているマクギリスを尻目にアインは続けた。

 

「…ファリド特務三佐。貴方がしたことは許されない…でも、オレはあの時貴方がしたことについてこの世界にまで引きずるつもりはないですよ。」

 

「だが…私は…」

 

 口ごもるマクギリス、それを見たアインは浅く一呼吸おいた。

 

「オレはこの世界に来たとき、改めて自分の考えを改められましたよ…。クランク二尉が亡くなった時、オレはずっと鉄華団を恨んでいました。クランク二尉を殺した鉄華団の子供達は罪のある子供達だと考えて。でもこの世界で分からせました。罪のある子供なんていない、それを産み出したのは結局オレたちと同じ大人だったってことを…。」

 

 そう言うとアインは遠くを見上げるように上をみた。

 

「オレも、あっちで過ちを犯しているんです。それに頭を下げないといけない相手もいる…。

 アスナさんから聞きましたよ。貴方も変わろうとしてるですよね?だったら、一緒にこの世界でやり直していきましょう。…それでも、ケジメがつかないなら…」

 

 アインは拳を握りしめると、それをマクギリスの右頬に振り抜き…

 

            ゴッ!

 

 鈍い音が響き、マクギリスは尻餅をついた。

 

「グッ!」

 

「これで手を打ちませんか?」

 

「……あぁ。ありがとう、これで君が納得してくれるなら…」

 

 その言葉を聞くと、アインはマクギリスに手を差し伸べた。

 

「改めてこれから宜しくお願いします。」

 

「あぁ、こちらこそ…な。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、何故私がマクギリス・ファリドと知っていたんだ?誰にもその名は口にしたことはないが…」

 

「その話は長くなるんですが…それでも良いですか?」

 

「あぁ、構わないさ…」

 

 マクギリスがそう答えると、アインは一息ついた。

 

「では…ファリド特務三佐はアルゴという情報屋から貴方を本名で探している依頼がある事をきいてますよね。」

 

「そうだが、何故知っている?━まさか…」

 

「はい、私が依頼しました。それも多額の口止め料を払ってですけど…。あれには理由がありまして…。桐ヶ谷和人という名前の人物がオレと同じ世界の転生者ということと、このゲームで出会うことになることは知っていたんですが、アバター名も私の知っている内の誰かすら分からなかったですから…。その為に保険で口止め料を払ったんです。」

 

 「……それで?これでは結局分からない事が増えただけだが?」

 

「すみません…ここからの話から長くなるので、先にこちらを伝えました。ここからはオレのこの世界での生い立ちと織り交ぜて伝えた方がいいと思いまして…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレがこの世界で再び生を得た時、実はアイン・ダルトンとしての記憶はありませんでした。…といってもその頃の記憶は余り関係無いものなので割愛させて貰いますが…。

 

「そうか…勿体無いな。それなりのを話してくれれば尺稼ぎに…「それ以上は言わないでください!…アスナさんから色々聞いてはいましたが、本当に変わりましたね…。ファリド特務三佐。」

 

 で、では話を戻します…。オレが記憶を取り戻したのは12歳の頃でした。その日、普段は全く見ないのに珍しく夢を見ました。と、いっても夢というよりは前世の記憶を見たと言った方がいいかもしれないですが…。《アイン・ダルトン》としての記憶を。

 最初は全く理解出来ませんでした。それは勿論、今自分が生きている世界とは全くの別物ですから…。でも、見ている内に自分の心の底が反応するんです。まるで懐かしむように…そして色々な記憶を見て、最後にある人物を見て全て思い出しました。…『クランク二尉』です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            *

 

 クランク・ゼントとの記憶を見たアインは、自分に足りなかったものが戻ってくるような感覚を感じた。

 

(そうだ、ボク…いや、オレは…。しかし、なんで今更こんな夢を見て記憶を思い出したんだ?)

 

 そんなことを考えていると今までみていた自分の記憶とは違う、全く身に覚えのない記憶が流れ込んできた。それは名前の所に《桐ヶ谷和人》と書かれた身分証のようなものと、その名前の者らしき人物と何のゲームかは分からないが、そのゲームの中で何かの為に命懸けで戦い抜こうとする記憶だった。

 

(…なんなんだ今のは?知らない記憶だ。あ!そういえば、オレはあの記憶の中では桐ヶ谷和人という人物に『アイン』の名前で呼ばれて、前世の世界の話もしていたが、さっきのはもしかしたらオレに関係する記憶なのか?)

 

            *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その答えが出るのは、何年も経った時でした。それは巷で『ソードアートオンライン』と呼ばれている画期的なゲームが制作されているという話を聞いた時です。…驚きましたよ。なんせ、ゲームのPVで放送されたところがあの時自分が見た桐ヶ谷和人という人物と一緒にいた記憶の時の場所の世界観、ゲーム内のステージ等が全く同じだったんですから…。

 それをみたときこう考えたんです。もしかしたら桐ヶ谷和人という、オレと同じ境遇に置かれているかも知れない人物とSAOというゲームで会うことが出来るかもしれない…そして、何故オレは前世の記憶を取り戻したのか知ることが出来るのかもしれない…って。それで、このSAOを買ったんです。それで結果的にこんなデスゲームに巻き込まれましたが、それと同時にオレの目的も達成することが出来たんです。

 桐ヶ谷和人をゲーム内で探すとき、最初は情報屋に頼りましたが流石に現実の話題を情報として売買出来ないと言われ、諦めかけました。でも、たまたま遠目でみた攻略メンバーの中で夢でみた人物と同じ顔のプレイヤーを見つけて、もしかしたら…と思って色々、探りを入れてみたらその結果に驚きました。まるでみたことある戦闘スタイルで…それを見て桐ヶ谷和人はマクギリス・ファリドで《キリト》というプレイヤーだ、と確信したんです…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            

 

 

 

 

 

 

 

 アインの長い説明を聞き終えると、マクギリスは納得した顔を浮かべた。

 

「なるほどな…しかし、君も(・・)一時的に記憶を失っていたのか…」

 

「と、いうと?」

 

「あぁ…私もさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続く

*何か不備があったら教えてください、それと何か意見、こういったものを求めている…とかあったらコメントとしてください。場合によっては参考にしたり、本編以外でやれるかもしれません。


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「桐ヶ谷和人の過去」

 新しく挿絵を追加しました。絵が趣味だった友人に書いてもらえたので助かりました…。自分、絵は苦手だったので…


 

           

         ~時は遡る~

 

 

 

            *

 

「ここか。やっと会えたな、バエル、いや・・・新しい時代の夜明けだ。目を覚ませ、アグニカ・カイエル。これは・・・!フッ・・・。」

「やはりここに来たか。」

「ガエリオ・ボードウィン。」

 

「お前がラスタル・エリオンに飼われているとはな。」

「彼とは利害が一致している。あくまで対等な立場だ。」

「すぐに人を信用するのはお前の悪い癖だな。」

「そうかもしれないな。なんせ親友だったはずの男に殺されたのだから。親友・・・いやその言葉は違う。俺は結局お前を理解できなかった。俺にとってお前は遠い存在だった。だからこそ・・・憧れた。認められ、隣に立ちたいと願った。そのうちにお前は仮面を着け本来の自分を隠すようになった。しかし・・・」

 

「隣に立つことがかなったと思った。お前は俺の前では仮面を外してくれているとそう感じた。なのに・・・」

 

「俺は確かめたかった。カルタや俺や寄り添おうとしている人間を裏切ってまで、お前が手に入れようとしているものの正体を。」

「ふっ・・・たどりついたようだな。」

「ああ。この場所にお前がいるということ、それこそが答え。」

「満足したか?」

「おかげで決心がついたよ。愛情や信頼、この世の全ての尊い感情はお前の瞳には何一つ映らない。お前が理解できるのは権力、威力、暴力。全て力に変換できるもののみ。ここにいるということは乗れるのだろう?バエルに乗れ。」

「てっきり止めるのかと思っていたが・・・。俺がこれを手に入れることの意味分かってるんだろう?それとも一度は死んだ身、何も失うものは持たないと?」

「いや逆だ。」

「ん?」

「今の俺は多くのものを背負っている。しかし全てお前の目には永遠に映らないものたちだ。お前がどんなに投げかけられても受け入れようともせず否定するもの。それら全てを背負いこの場で仮面を外したお前を全否定してみせる。」

            ・

 

            ・

 

            ・

 

 

 

 

 

ガエリオ:「ぐっ!アイン!俺の全てを使ってマクギリスの全てを奪ってくれ!」

マクギリス:「そうだガエリオ、もっとお前の力を見せろ!見ろ!純粋な力だけが輝きを放つ舞台にヤツらは圧倒されている。お前が力を見せることで俺の正しさは更に証明される!」

ガエリオ:「違う!これはお前の信じる力とは違うものだ!アイン!頼む、届けさせてくれ!一人ではないこの戦い!んんっ!」

マクギリス:「ぐっ!俺がガエリオに負ける?くっ!」

 

 

            ・

 

            ・

 

            ・

 

「ぐっ・・・。」

「まだ死ぬな。俺を見ろマクギリス。」

「ガ・・・エリオ・・・。」

「見ろ!お前が殺した男だ。そしてお前を殺した男だ!ちゃんと俺を見ろ。お前を友と信じ、その思いを裏切られ、信頼する仲間たちを奪われた!」

「言われずとも見えているさ。いや、見えていながら見えないふりを・・・していた。」

「マクギリス・・・。」

「お前たちを否定しなければ俺は前へ進めなかった。お前たちと共にいるとずっと抱いていた思いが揺らいでいくようで目をそらした。アルミリアも幸せにすると約束したが・・・。」

「そんなもの偽りの幸せだ。」

「幸せに本物と偽物があるのか・・・。」

「そんなことも分からないのか!」

「なぜ泣く?」

「えっ?」

「ガエリオ・・・お前は俺にとっ・・・。」

        

           

 

 

 

            *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!ハァ…ハァ…」

 

 まただ、またあの夢(・・・)。オレの知らない記憶の夢。でも、見ていると胸がギュッとなるように痛い。まるで自分のことのように…

 この夢を見始めたのは産まれてすぐの頃…だと思う。正直、その日何があったかなんて覚えている訳がないし!知りたいとは思えない。でもその時大きな痛みを感じたこと、そしてその時からあの夢をみるようになったことはおぼえている。

 

(顔、洗ってこよう…)

 

 心のモヤモヤを忘れる為に洗面所に向かうことにし

た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洗面所に着くと、先客がいた。

 

「あ…」

 

「…あ、おはようお兄ちゃん。」

 

 スグだった。スグはオレに挨拶すると、すぐに顔を洗うのを止めた。

 

「ちょっと待ってね?………よし!もう使っていいよ。」

 

「ありがとう」

 

「うん!あぁ、あとお母さんがもう朝ご飯出来たって言ってたよ!」

 

「分かった、後で行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま」「じゃあ私達言ってくるね」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 朝ごはんを食べ終えてスグと学校へ向かおうとすると、お母さんに呼び止められた。

 

「はい、これカッパ。今日帰りは雨降るかも知れないから一応ね…」

 

「うん、ありがとう。」

 

 そう返し、学校へ向かった。

 

 

 

「はぁ…」

 

 つい、ため息をついてしまった…あまり行きたくない学校、どうしても足取りが重くなる。

 

「大丈夫?…なんか辛そうだよ?」

 

 最近よくため息をつくせいか、どうやら心配されてしまったらしい。

 

「何かあったら私も力になるよ?」

 

「大丈夫だって」

 

 そう言いつつ、ちょっぴり恥ずかしくなった。兄貴なのに、妹に心配されるなんて…やっぱり、学校のことは前向きに考えようかな…別にアイツに会わなければいいんだから…

 そんなことを考えながらいつの間にか着いていた学校の自分の教室に入り、授業の用意をした…

 

 

 

          

 

 

 

 

 

          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

 

 

 

  

 

            *

 

 

「力が必要だった。友と呼べる者もなく親の愛情も知らなかった。力なき者は地べたを這い、力ある者が全てを手に入れる。それが私に見えていた世界の形。それはあの男に拾われたあとも変わらなかった。変わったことがあるといえば力にはさまざまな種類があると知ったこと。俺は力を示した」

 

「俺はファリド家の跡取りに納まった。しかしそれによって俺の生活が特に変わることもなかった。俺にはまだ力が必要だった。そして見つけた。今この世界で最高の力の象徴・・・権力、気力、威力、実力、活力、勢力、そして暴力。全ての力を束ねる存在。ギャラルホルンのトップ、アグニカ・カイエル・・・真理を」

 

 

 

            *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━て。起きてよ、お兄ちゃん。帰ろ?」

 

「ぅわ!あ…ごめん」

 

 どうやら、最後の授業で居眠りしてしまったらしい。でも、よりによってまたあの夢を見るなんて…ついてないな今日は…

 

「じゃあ、早く帰ろうよ!」

 

「分かった」

 

 

 

 帰り道、スグはオレに今日の学校での出来事を色々楽しそうに話してくれた。毎日そうやって学校のことを話してくれるスグを見ていると、なんだかとても嬉しい気持ちになる。そんなことをを考えている時だった。

 

「お、やっと見つけたぜ、和人!休み時間コソコソ俺から逃げやがって…帰りは妹と楽しく帰宅かよ!」

 

 最悪だ、まさかスグいるときにコイツと出くわすなんて…

 

「べ、別にそういうつもりじゃないよ。睦月君」

 

 彼は睦月。家の学校で一番『力』のある奴でよくオレに絡んでくる。勿論、悪い意味で…オレは関わるのが嫌で今日の昼休み、彼から逃げるように屋上に隠れていたんだけど…どうやら裏目に出てしまったらしい。

 

「…知り合い?」

 

「ま、まぁそんなところかな…。先、帰っていいよ。彼の相手しないと…」

 

 スグには睦月君といるところを余り見られたくない…そう思って帰るようにいったけど、オドオドしながら言うオレにあまり良くない状況だと悟られたみたいで全然言うことを聞いてくれなかった。それどころか、彼に向き直って睨み付けるように見上げていた。

 

「ちょっと通してよ、お兄ちゃんと私は今アンタに関わってる暇はないの!」

 

「おいおい、お兄ちゃんの言うことは聞いた方がいいと思うけどな…あぁ、こんな女みたいな顔した弱そうなヤツお兄ちゃんには見えねーか!…ハハッ!」

 

 睦月君はオレのことを指さしながらゲラゲラと笑った。あぁ…これではまたスグに心配をかけてしまう…そう、嘆いていると案の定オレの事を心配してくれたらしく…

 

「お兄ちゃんを悪く言わないでよッ!」

 

 睦月君に殴りかかった…が、オレですら軽くでボコボコにされてしまったのだから…勿論、簡単に抑えつけられてしまった。

 

「ちょっと!放してよっ!」

 

「なにいってんだ?これはセートーボーエーってヤツだろ?オレに絡んできたオマエが悪いんだぜ!?」

 

 そう強くいい放ち、スグの髪を強く引っ張り上げた。

 

「痛いよ、やめてよっ!」

 

 頑張って抵抗をしているけど、その目には涙を浮かべている…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いいのか?オレはこのまま何もしないで…妹が目の前で酷い目に遭っているのに、敵わないからって何もしないのか?嫌だ!

 

         『力』が欲しい

 

 目の前にいる妹くらいは守れる力が…そう心の中でいつの間にか叫んでいた。すると、いつも見ているあの夢を突然思い出した…

 

 

 いや、さっきから何を言っている?()は。力が欲しい?俺はかつて全ての頂点に立つ『力』手に入れた筈だ…しかし、かつて持っていたその力は俺の元にはない。だが、知っている…『力』の使い方。今ある力であの男を倒し、妹を守ることぐらい容易いものだ。この《マクギリス・ファリド》にとって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ以上妹に手を上げるなら、俺は貴様を許さない。」

 

「あ?」

 

 睦月は俺に、何を言っているんだコイツは…とでも言いたそうな顔を見せてくる。俺はその呆けた顔に攻撃を加えた━

 

 

 

 

    

            ~

 

 

 

            

 

「お、お兄ちゃん?」

 

「すまなかったな、巻き込んでしまって…」

 

 睦月を追い払うことに成功した私は、力の抜けて立ち上がれないスグを抱き上げた。━この私が、守りたいという理由で人を助けるとはな…力しか興味がなかった私が…記憶を失っていたこと、このおかげでこの『護るための力』というのを知れたのかもしれないな。

 顔を真っ赤にしているスグを流し目しながらそんな事を考えた。

 ガエリオ、私は何の因果かもう一度手に入れた生のチャンスを、力以外の物を手に入れるため生きてみるとするよ…

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「特務三佐、どうしました?」

 

「すまない、少し昔のことを思い出してな」

 

「そうですか…とりあえずリズの所へ戻りましょうか?」

 

 そういうと、アインは裏口の扉に手をかけた…

 

「いや、待って欲しい。あと一つだけ…」

 

「何ですか?」

 

 キリトは改めるようにアインの目の前に寄り、手を差し出した。

 

「今の私は高校生のプレイヤー、キリトだ。君の方が年上だろう?敬語は止してくれないか?」

 

「そうですね、なら……改めて、これから宜しくキリト。」

 

 アインはキリトの手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ━━━

 

「よ、今日の次回予告を担当するユージンだ。しかし、久々の次回予告を俺が担当していいのか?…と、わりぃ。…しかし、モビルスーツも、銃もねぇ近接武器で戦う世界か…。ソードアートオンラインってのは最初の頃の明弘みてーな考えの奴等がいっぱいいるのか?ただ、剣だけで戦うのもなんかかっこ良さそうだな…意外とモテんじゃねーの?

 

    次回、SAOif withマクギリス

    『「世界線は狂い始める」』

 

 え?最後に一言?と言われても…何?カンペを読め?まぁいいけどよ…いくぜ?

 諸君ら、あんまり生真面目に人生送ってるとバカ見ちゃうよぉ!!

…ってなんだこりゃ?」

 

 

 

 

 

          

 

 

 

 

 

 




 一人称視点で書くのあまり好きじゃないのに、過去編で使ってしまう自分を責めたい…

誤字脱字あったら連絡下さい


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「世界線は狂い始める」

 エクストリームバーサス2クロスブーストにフラウロス参戦…。覚醒技が最後のダインスレイブだと、当たらない気が…


 キリトがアイン、リズベットの二人をチームに引き入れてから、またさらに時間が経過した。とはいえ、現在までで74階層までの到達。もうそろそろゴールが見えてくるといった状況で、残った多数のプレイヤー達の中にモチベーションの高い者が少しずつだが増えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトとアインは、エギルの店の端の席で向かい合っていた。エギルの店とは、エギルが少し前キリト達の協力によって手に入れることの出来、経営することとなった、アイテムや、道具を売り買いすることもでき、酒場としても利用できる、多目的店といったところの物だ。

 

「アイン、それでこの件に関して君はどう考える?」

 

「どうと言われても…取り敢えずこの話は他の人には伏せていた方が…」

 

「ちょっと!何コソコソ二人で話てんの?」

 

 突然掛けられた声に、キリトとアインは驚いた。

 

「ッ! リズか…」

 

「ど、どうしたんだい?」

 

 アインが動揺を隠せずまま質問をすると、リズは疑いの目を向けてきた。

 

「…その動揺っぷり、とっても気になるんだけど?ま、いいや!それより、隣の席を集合場所に使うけど…いい?」

 

「それはいいが…どうしたんだ?」

 

 アインが聞くと、リズベットは笑顔で答えた。

 

「いやぁ実はね、今日やっとアスナがあっちの仕事にけりをつけられて、これから私とシリカのレベル上げを手伝ってくれるんだって。…でも二人とも遅いなぁ」

 

 リズベットが呟いていると、勢いよく店のドアが開いた。

 

「すいませんっ!もしかしたらまたせちゃいました!?…ってキリトさんにアインさんまで…どうしたんですか?」

 

 息を切らすように飛び込んできたシリカは近くにいたキリトとアインに気付き、頭を下げた。

 

「あぁ、オレたちのことは気にしなくていいよ。たまたまだから…」

 

「…丁度いいな。私達はそろそろ退散させてもらおう。エギル!飲み物の代金は後で払っておくぞ」

 

 そういうとキリトは、アインとともにさっさとドアの方へ向かった。

 

「おう、毎度アリ~ってまた払わない気かっ!?お前相当ツケがたまってるぞ!?」

 

「悪いな、いつも」

 

「お、お前なぁ…。」

 

 エギルの叫びを受け流しながら、キリトが店のドアノブに手をかけた時だった。

 

「もう、いい加減にしてよっ!」

 

 ドアの向こうから、聞き慣れた叫び声が聞こえた。

 

「━━今の声は…」

 

「行くぞ、アイン。」

 

「は、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこでは、どうやら激しい口論が行われているようだった。

 

「やはりアスナだったか。」

 

「でも、もう片方の男は知らない血盟騎士団の者みたいだけど…」

 

 補足しておくと、現在アスナは血盟騎士団というギルドに所属しており、そこで副団長をしている。最初は腕を磨き、攻略に貢献するだけの理由で入ったが、その見事な細剣けん捌きと、只でさえ珍しい女性プレイヤーの中でさらに美しい少女ということもあり絶大な人気を誇ったこともあり、副団長に任命されたのだった。

 

「取り敢えず、私が間に入るとしよう。」

 

 そういうと、キリトはアスナともう一人の血盟騎士団の男の間に割って入っていった。

 

「これ以上は、周りの人の迷惑になる。…アスナ、何があった?」

 

 キリトの存在に気づいたアスナは即座にキリトの背中に隠れた。

 

「…どういう状況だ?」

 

「助けてッ!ストーカーなの!」

 

「冗談は困ります、アスナ様。私はただ護衛のために付き添っているだけですよ。」

 

「要らないわよ!仕事は終わらせたでしょう?なんで休日まで、アンタに付きまとわれないといけないわけッ!?」

 

「それが私の仕事ですから。」

 

「あ~~、もうッ!しかも人の泊まってる宿までいちいち調べ上げて…現実だったら警察沙汰よッ!!」

 

(なるほど、完全にストーカーだな)

 

 そう、キリトが話の内容を頭の中で整理していると、

 

「これ以上こういう事続けるなら…このキリト君が赦さないからッ!!」

 

 キリトは、アスナにストーカーの方へ押し出された。

 

「…何故私を巻き込む?」

 

「え?君なら助けてくれると信じてるからだよ?」

 

「まぁ、元よりそのつもりだったが…」

 

 キリトはそう言うと身構えた。

 

「はぁ…まぁ良いでしょう。この小僧を黙らせればアスナ様は仕事の邪魔をしないのですね?」

 

 そう告げると、ストーカー男はキリトにデュエルの申し込みをしてきた。

 

【クラディール から1vs1デュエルを申し込まれました。

         受諾しますか?

       YES      NO        】

 

(このストーカー、クラディールというのか…)

 

「━ところでいいのか?こんなことをしても…」

 

 キリトが聞くとアスナは即答した。

 

「いいわよ、私がけしかけたみたいなものだし…。それに後で団長に話しておくから。」

 

「了解した。」

 

「…どうしたんですか、この騒ぎ?…ってアスナさん!?ここにいたんですか?」

 

「ごめん!色々あって」

 

「…それって、もしかしてアレ…のことですか?」

 

「そうだよ。」

 

「ほぅ、しかしキリトの奴もよく面倒事に巻き込まれるもんだなぁ」

 

 どうやら、流石に店の外の喧騒が気になり出したのか、シリカや、エギル等も顔を出しアスナとアインに質問を投げ掛けていた。

 

「さて、そろそろ始めようか?…ストーカー君。」

 

「このガキィ!言わせておけばァッ!!」

 

 突然、キャラが変わったクラディールがキリトに斬りかかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言ってしまえば、決着はすぐ着いた。只でさえ攻略組の上位層のレベルを誇るキリトと、普通レベルのクラディール。さらに決定的な戦闘の技術の差…当たり前の結果だった。

 

「俺がこんなザコに負ける訳がッ!…クソッ!」

 

 完全にキャラが壊れたクラディール。

 

「見せもんじゃねぇぞッ!散れ!散れ!」

 

 いつの間にか増えていたギャラリーに当たり散らすと、

 

「このガキィ…覚えていろ!」

 

 そう言い残し、転移して消えた。

 

「また、随分典型的な…」

 

「ごめんね?こんなことに巻き込んじゃって…」

 

「気にするな、お節介を焼くのはいつもの事さ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラディールは人目のない通路にいくと、壁に八つ当たりをした。

 

「クソッ!クソッ!!」

 

「おいおい、随分あったまっているな…」

 

 突然、背後から声をかけられたクラディールは驚きを隠せなかった。

 

「見てたぞ、随分ヤられたな…」

 

「煽っているのか?キサマァ、殺すぞ?」

 

「…本当に殺したいのはあの小童だろう?」

 

 そう言うと、男はフードをとり隠していた顔を表した。

 

「どうだ?取引をしないか?」

 

 髭の濃い、いい歳をしてそうなその男はそう言いながら連絡の交換を要求してきた。

 

「お前の望み、手伝ってやろう。俺もあの男に用があるからな。」

 

 男のプレイヤーネームはガランというらしい。クラディールは取り敢えず話くらい聞いてみることにした。

 

 

 

 

         

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ━━━

 

「あ、そろそろ始める?………よし!初めての人は初めまして。クッキーです。ほら、クラッカも!」

 

「あ、ごめんね…クラッカです。今日は私たちがじかいよこく…?をするよ?…そういえば、このお話って私たちが前会ったチョコレートをくれた人のお話なんだよね?」

 

「そうだよ、あの人とってもいい人だったよね、あとチョコおいしかった!…あのときは三日月やアトラ、お兄ちゃんも一緒だったよね…もしかしたら、このお話でも三日月出るのかな?だって三日月はとっても強いから。」

 

「うーん、どうなんだろ?わからないよ、だって今までで私たちが知ってる人だれも出てないんだもん。…さくしゃさんどうなの?………え?こっちにふらないで?あ、ごめんなさい。でも、出てきたら嬉しいな…って、そうだ私たち、じかいよこくしにきたんだった。…クッキーお願い!」

 

「うん!…次回、ソードアートオンラインif withマクギリス

『     

     「ヒースクリフという男」(仮)

                        』

…これでいいのね。………え?ごほうび?くれるの?……クラッカ!ごほうびにお菓子もらったよ!」

 

「本当!?…じゃあ、お兄ちゃんにも見せないとっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 誤字脱字あったらごめんなさい


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『VSヒースクリフ』

 一部原作改変といってますが、その一部が結構多いのでご了承ください。
 例えば《軍》がいないとか(コーバッツファンの方すみません)、キャラの性格、喋り方とかです。(他にもあります)
 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「災難だったなぁ…ソイツは奢りだ。」

 

 エギルは、席をつき俯いているアスナの前に飲み物を置いた。

 先ほどの出来事…ストーカー事件ですっかり気分を落としていたアスナ、それを見計らってエギルは店を開け、皆で励ますために皆で集まることとなったのだ。

 

「…ごめんね?二人のレベル上げ手伝えなくて…」

 

「き、気にしないで下さいっ!私も前に似たような経験があるので気持ち、よくわかりますから。」

 

 シリカはそう言うと、嫌な事でも思い出したのか、死んだ魚のような目をしてガタガタ肩を震わせた。

 

「赤い衣装に、ロリ属性…確かに、どっかの赤い彗星が好みそうなタイプだな。」

 

「(そういっている貴方も大概ですけどね…)」

 

「(うっ!じょ、冗談は止してくれ、アイン。鉄華団のあの双子の時も、アルミリアも、そう言う邪な考えで近寄ったりはしていない…ぞ?)」

 

「(何でそこで動揺を見せるんですか…)」

 

「おーい、何の話してるか知らねーけど、キリトもアインも脱線してるぞ?」

 

 クラインがそういうと、二人はアスナの方に意識を戻した。

 

「でもよぉ、ギルドでの仕事を理由にストーカー行為だっけか?そういうことって始めてなのか?」

 

「ううん、ギルドに入った事からよく、ナンパとか、ちょっと付きまとわれたことは、他の人にもされたことあるんだけど…流石に今日みたいのは、いままでにないかな…」

 

 そこまで言うと、アスナは改めるようにおもむろに立ち上がった。

 

「実はさ、皆に相談したいことがあるんだよ。最初は聞こうか迷ってたんだけど…今回の事もあってやっぱり本格的に考えなくちゃと思って…。」

 

「勿論、何でもいっていいが…それで、その相談したいこととは?」

 

 アスナは、もう一度全員の顔を確認すると、悩みを打ち明け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相談の内容を簡潔にすると、血盟騎士団を退団しようか悩んでいるというものだった。血盟騎士団に入団したばかりの頃は、そこまで忙しいものではなかったのだが、副団長になってから団統括や、沢山のダンジョン探索、更には治安維持や、パトロールまでの仕事。ここまで来ると休む暇などなく、更には今回のような嫌がらせ行為も少なからずあり、アスナの精神をすり減らしていた。だから、この出来事を起に、真剣に考えてみようと思い至ったようだ。

 

「それで、どうかな?」

 

「…難しい質問だな。」

 

 キリトの意見に皆が同意した。

 

「あのギルドで抜けるってなると後がめんどくさそうよねぇ…。アスナの場合、只でさえ副団長なのにみんなの人気者だし、…はぁ、私はアスナやシリカみたいにそういうのないからなぁ…」

 

「リズさんも人気出るくらい可愛いと思いますけど…多分、そうやって話に出てこないのは、多分……彼のせいだと思いますか?」

 

 シリカはそう言い、アインの方に目を向けた。

 

「?…何かな?」

 

「いえ、別に?…お二人ともなんかお似合いって雰囲気ですよねぇ…」

 

「ッ!!な、何いってんの!?ただの店長と店員なだって…」

 

 リズベットは、照れを隠すように強い口調で言った。

 

「と、とにかく!あんなことあったんだし、取り敢えず休暇貰う位いいんじゃない?」

 

「そう…だね…そうさせてもらおうかな。」

 

「もしかして、不安なら誰かに付いていって貰えば?」

 

 その言葉に同意したアスナは、少しの間考えると、

 

「なら、キリト君。一緒に行ってくれない?」

 

「私か?まぁ、いいが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ていうことで、色々考える時間が欲しいので長期休暇が欲しいんです。」

 

 アスナが、そう頼むと、血盟騎士団団長━━ヒースクリフは困った顔をした。

 

「最近、君には負担をかけすぎているのは分かっている…だがね、それにクラディールの件もすまないと思っている。だがね、今の私達のギルドも厳しいのでね。知っているだろう?最近多くのプレイヤーが行方不明になる事件があったことを…あの事件の被害者にうちの精鋭達も何人か巻き込まれてね。だから、今君が抜けるのは厳しいのさ。」

 

「そう…ですか…」

 

 このまま二人で話していても、こちらの意見は通らないと踏んだキリトは口を開いた。

 

「ヒースクリフ団長、賭け事をしませんか?」

 

「え?」

 

「君は…確か攻略メンバーの一人のキリト君だったな…それで、賭け事?」

 

「ええ、そうです。私と」

 

「ちょ、ちょっとなに勝手に…「なるほど、面白そうだ。詳しく聞こうか。」

 

 あたふたしているアスナを尻目に、キリトは話を続けた。

 

「勝負内容は1vs1のデュエル。もし私が勝ったら!アスナの長期休業を認めてもらいます。しかしもし、私がまけたら…そうですね、私があなたのギルドに加入してお手伝いをしましょう。今、人手に困っているのでしょう?なら、悪くない条件だとは思いますが…。」

 

 

 ヒースクリフは、少し驚いた素振りを見せた。

 

「…君の事は、アスナ君からよく聞いていてね。ぜひ我がギルドに引き込みたいと思っていたのだが…なら、一週間後、私が指定したところにきてくれ、そこで決闘しよう。」

 

「ありがとうございます。…では、失礼します。」

 

「すまない、最後に一つ…。…クラディールの件だが、あの後話したら、何でも心を入れ換えたから、アスナ君とキリト君に詫びを入れたいと言っていたよ。後でもう一度会って貰いたいな…」

 

「そうですか…まぁ、検討しておきます。…ではッ」

 

 そう言うと、キリトは足早にギルド本部を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ストップ。」

 

 キリトがさっさとエギルの店に駆け込もうとすると、後ろから伸びてきた手、低く冷めた声に止められた。

 

「━待て、待って欲しい…結果的にどちらに転がっても良いものになっただろう?勝手に介入したのは謝るが…」

 

 焦ったように弁明をしようとするキリトは、アスナはため息をついた。

 

「あーもうっ!もうやめてよね?すぐに自分を犠牲をするのは。なんかこっちが申し訳なくなっちゃうよ。そういうところ君の悪い癖だと思うよ?」

 

「…いや、むしろ今回は私も目的があったからな、ヒースクリフはユニークスキル持ちなんだろう?一度は戦って見たかったからな。…それに、アレを使うには良い機会だからな。」

 

「アレ?」

 

「…いや、何でもないさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦当日、キリトとヒースクリフはお互いに所定の位置に着いた。 

 

「…さて、それではデュエルを始めようか…ん?どうしたのかね?」

 

「いや、まさかここまでギャラリーを呼ぶとは思いませんでしたよ…」

 

 そう、今二人は広場にて、多くのギャラリーに囲まれてのデュエルをしようとしていた。これは周りの人からの提案で、あまり戦闘にも出てこないヒースクリフが、攻略組でも上位層に入るキリトとデュエルをするので、是非とも他のプレイヤーにも公開してくれと沢山の声が上がったからだ。その結果は絶大で、かつて色々な層で攻略を手助けした救世主と、現在最大手ギルドで、頂点に君臨する団長のドリームマッチという事もあり、沢山のプレイヤーがこぞって集まったのだった。

 そして、勿論アインら、チームの全員もギャラリーの中にいた。

 

「…どっちが勝つと思います?アインさん。…ヒースクリフさんの戦闘の様子、見たことあるんですよね?」

 

「ううん、どうかな?…詳しくは言えないけど、多分キリトが不利だろうね。でも、キリトには今回切り札がある。アレならヒースクリフとも渡り合えると思うけど…」

 

 シリカの質問にアインは難しい顔を浮かべながら答えた。

 

「切り札?なんだそりゃ?」

 

「もしかして、前にキリト君が言ってたヤツかな…」

 

 

 クラインとアスナが向けてきた疑問の目にアインはしまったと考えるが誤魔化すように返した。

 

「ま、まぁ見てれば判るよ。」

 

(ヒースクリフは強敵だ。でも、ファリド特務三佐の本来のスタイル(・・・・・・・)で戦えば、あるいは)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、では始めようか。いつでもかかってくるといい」

  

 ヒースクリフは強者故の余裕なのか先手を譲ってきた。

 

「ならばその余裕、戦局の糧とさせて貰うッ!」

 

 キリトは一直線に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━激しく、鋼と鋼のぶつかり合う音が何度も響き渡る。その様子を素人が見れば互角の戦いを繰り広げているように見えるだろう、だが、実際にはそうではなかった…

 

(不味いな…決定打が作れない…)

 

 現在、キリトの体力は8割を切っていた…それに対してクラディールの体力はほとんど減っていない。このデュエルはどちらかの体力が半分を切った時点で勝負が決まる。この時点で相当不利なのはキリトの方だ。

 その大きな理由はヒースクリフの圧倒的なステータスと手数の違い、そしてユニークスキルの影響なのだろう。戦闘経験が豊富なキリトからすれば、ヒースクリフの戦闘の力量はそこまで高いものではない。だが、おそらくレベル差によるステータスの違い、装備の違いによる手数の違い、そして、それに加え能力の内容は明かされてないがユニークスキルの効果。これにより、実力の差が埋まるどころかむしろ、キリトの方が不利な状況に追いやられていたのだ。

 

(クッ!…ここら辺が限界か…。だが、ここまでやれば十分だろう、これならッ…)

 

 キリトは、一旦下がり自分のコンソールを少し弄ると、すぐにまたヒースクリフの懐に飛び込むように駆けた。

 

「…また、それかね?全く君は何か策を転じてくるタイプかと思っていたのだが…」

 

 ヒースクリフは、呆れたようにその毎度同じような攻撃を盾で弾いた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思った矢先、ヒースクリフ(・・・・・・)の腹部に一閃が走る。

 

「何ッ!?」

 

 ヒースクリフが驚愕した顔を向けたその先に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ━両手に二本の剣を携えた(・・・・・・・・・・・)キリトがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回予告はネタが思い浮かばなかったんで、
ないです。
 誤字脱字あったら連絡下さい


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「隠された力《バエル》?」

 投稿がとても遅くなってしまいごめんなさい。その分今までで一番文字数が多くなったんで…いや、逆に長くて読みづらくなってるかもなので…重ねて謝罪します。(私いつも謝ってばっかりだな…)


 

 

 

 

 

 

 

「に、二刀流ッ!?聞いてねぇぞ!?」

 

「そんなこと出来たんですか!?」

 

 前代未聞の事態に、クラインとシリカは驚きを隠せず、アインを問い詰める。

 

「気持ちは分かるよ。オレも最初聞いたときは驚いたからね」

 

 そう返すとアインは、軽く説明を添えた。

 

「あれは、エクストラスキル『二刀流』…って言うらしい。ちなみに入手方法は分かってないけど…いつの間にか入手してたみたいだ」

 

 リズベットは納得するように首を縦に振った。

 

「なーるほど…だから、アタシにキリトの新しい剣の話持ち掛けたのか…」

 

「…悪かったよ、突然頼んで」

 

「今更でしょ?…大体、最初にアンタに会った時から何回も迷惑かけられてるから…」

 

「そ、その話は今しなくていいってッ!?…取り敢えず、決着まで見届けよう。この戦いを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう?そんなものを隠していたとは…。いやはや、恐れ入ったよ」

 

 ヒースクリフは興味深そうに声をかけた。

 

「さて、これで戦力の差も少しは拮抗するだろう。先程よりは楽しませてくれよ?」

 

 そう言いヒースクリフは盾を前に構え、突進を仕掛けた。

 

「いいだろう、ねじ伏せてやろうッ!」

 

 キリトはそれを跳躍で避け、背後から斬りかかる。だが、その斬擊はすぐに持ち直したヒースクリフの盾によって防がれる。

 

「ならば、強引に突破するまでだッ!」

 

 追撃するように、『ダブルサーキュラー』を放つ。しかし、それすらも上手く防がれる。そのような攻防が何度も続いたが、徐々にその均衡は崩れていった。

 

「おお!キリトの奴、押してやがる!」

 

 現在の体力は、キリトが六割、ヒースクリフが五割半といったところ。

 

「これで幕引きとしよう!」

 

 キリトはそう言うと、両手に力を込めた。

 

「くッ!」

 

 ヒースクリフは顔を歪ませながらも、強く盾を構え防御体制に入る。

 

「押し通るッ!」

 

 キリトは盾を右の剣で弾き、左の剣で腹部に一閃を叩き込む。

 

「ぐぁッ!」

 

「散れッ!」

 

 もう一度両手に力を込め、二つの剣を力強く振り下ろす。ヒースクリフの体力ゲージは半分を切る。そのまま後方にぶっ飛び、大きな砂埃が起きた。

 

「…辛勝。と行ったところか」

 

 キリトは剣を仕舞うと、未だに立ち込める砂煙に目をやった。

 

「ヒースクリフ。成る程、最大手ギルドの頂点に立つだけのことはあるな…強かった」

 

 キリトは、そう呟くと砂埃に背を向け立ち去ろうとする…

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に、勝負をつけないでもらいたいな」

 

 次の瞬間、キリトの胸から(・・・・・・・)刃が出た。

 

「な…がッ!…」

 

 キリトはその場に跪く。キリトの体力ゲージは半分を切る…

 

「…何故、動ける?」

 

 キリトが後ろを振り返ると、そこには体力ゲージが半分切っていないヒースクリフがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまなかった…」

 

 試合後、近くの広場にてキリトは頭を下げる。

 

「…あれはしょうがないよ。それにこれから私達の仕事を手伝うんでしょ?なら、私が頭下げないといけない方だよ」

 

「しかし、二刀流か…。そんなもん隠してたとはな…」

 

 エギルは改めてそう言った。

 

「その件もすまないと思っている。…まぁ、敵を欺くならまずは味方から…というだろう?」

 

「それで、二刀流はどうするんだ?あんな大勢の前で使ったんだ。他のプレイヤーが黙ってないだろ?」

 

「ヒースクリフも似たようなものを持っているんだ、彼が何も言われていないなら大丈夫だろう。だが、一応はアルゴに最低限の情報を開示した」

 

「そうか。それで?確か負けたから、血盟騎士団に所属したんだろう、仕事はないのか?」

 

 そう聞かれると、キリトは考え込むように口に手を当てた。

 

「あぁ、今のところは…てっきりすぐに仕事を回されると思ったんだがな。どうやら、他の者にも来ていないらしい…」

 

 キリトが考え込んでいた直後、メッセージが届く。

 

「これは…。団長から?」

 

「お、どうした?仕事か?」

 

「その様だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事の内容は、血盟騎士団の中で班を作り、調査をするというものだった。目的は、最近行方不明になったプレイヤーの行った場所の調査と、プレイヤー同士の親睦を深めること。今回は五十五階層にある、広い荒野のフィールドの調査だ。

 

(正直、クラディールを信用出来ない…アスナと一緒にするのは不安だな。だが、あそこまで強く謝罪をしたのだ。それに他の知り合いの遠征メンバーもいる。人を信じるのは苦手だが、今は頼るとするか…)

 

 クラディールは前回のことに対して、深く謝罪し、土下座までしてきた。流石にそこまでされてしまうと二人は何も言えなくなってしまい、許すこととなったのだ。

 

「キリト殿、そろそろ休憩をとらないか?」

 

 班のリーダーがキリトにそう声をかけてきた。

 

「ええ、そうしましょう」

 

(だが…分かってはいるのだが…何故だ?胸騒ぎがする…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達の班の調査範囲は、何度も調査された事もあって強いモンスターも出現しないし、今のところ大きな問題も発生していない。最初はクラディールが、なにをしでかすかわからなかったから警戒していたけど、むしろ彼は私に対して距離を取っていたので杞憂だった…のかな?

 

「副団長、そろそろ休憩の時間だ」

 

 この班のメンバーであるレイヤーがそう伝えてくれた。

 

「そうだね…休憩にしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイヤーは二つの飲み物を受け取ってくると、私に片方を差し出した。

 

「ありがとう」

 

「気にするな…しかし、どうやら彼。しっかり反省してくれてるようだな」

 

 その眼の先には、律儀に飲み物を配っているクラディールがいた。

 

「そうだね、最初は不安だったけど、あの様子なら心配なさそう。前までは、異様にストーカー紛いなことばかりをしていたけど、今は他の人の仕事を変わってあげたりだし」

 

 そう呟いていると、直後に後ろからバタバタッと何か、沢山のものが次々と倒れる音が響く。

 

「な…」

 

 驚いて、私が振り返るとそこではほぼすべての班の団員が、一人一人膝をついたり、倒れたりしていた。

 

「これって、どうゆう…」

 

 いまいち状況が飲み込めないでいると、すぐとなりでレイヤーがうなり声を挙げ、膝をつく。

 

「大丈夫ッ!?」

 

 私は突然苦しみだしたレイヤーにすぐに駆け寄ろうとした…でも、そうはいかなかった。

 

「うっ…何…こ…れ…」

 

 身体の言うことが利かない…ッ!まるで何かのバッドステータスにかかったように…でも、今のところ何かそうなる可能性のものを使われた思い出はないのに…。その疑問はすぐに解けた。

 

「ダイジョーブですか、アスナサマァ?」

 

 声がする方に目を向けると、唯一影響を受けていない様子にみえる、クラディールが駆け寄ってきた。

 

「クラディール、無事だったの!?良かった、それならみんなを…」

 

 私がそう聞くとクラディールは想定外のことを吐いた。

 

「そちらはご安心を。もう死ぬので。」

 

「え…?」

 

 クラディールが指をならすと、木陰や、岩陰から次々と柄の悪そうな人達が現れ…

 倒れている団員を次々と殺し始めた。

 

「な、何をして…」

 

「さて…私達も始めましょうか」

 

「何…を…」

 

           グサッ

 

「イッ!?…アァ…!!」

 

 右のふくらはぎに今までに感じたことのない痛みが走った!

 

「ハハッ!いい反応してくれますねぇ!」

 

 あまりの痛みに顔を歪める私を嘲笑うかのように見下ろすクラディール。私の頭の中は恐怖やら、怒りやら、痛みやらでごちゃごちゃになる。

 

  ゲームなのに本物の様な痛みが身体中を駆け巡る

 

 …何故かなんて分からない、というかそんなことを考えている余裕なんてなかった。

 

        ザクッ!…ザクッ!

 

「━━ッ!…ァァッ!」

 

「ハハハッ!」

 

 何度も、何度も刺される。もう、なにもかんがえられない。イやだ、イヤだ、もういたいのは。

 ━そこから先は何も憶えていない。でも唯一、こんな状況でも来てくれそうな気がする、自分より年下の癖に大人の様にしっかりとしてる、あの黒い姿を思い浮かべて、助けを求めていたことだけは憶えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

 キリトの元にメッセージが届く。

 

「…どうかしたか?」

 

「いや、別に…」

 

 何かと思いメッセージをみる…

 

(これは━ッ!)

 

「リーダー、悪いが後は任せます」

 

「え?それってどうゆう…って!キリト殿!?」

 

 リーダーの制止を聞かず、キリトは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程のメッセージはクラディールからだった。内容は

     『助けに行かなくていいのか?』

 

(明らかに、何かある。しかし、不味いな…アスナの班は何処に行ったんだ?この辺なのは憶えているが…)

 

 事前の会議でそれぞれの班の休憩場所は把握していたが、今何処にいるのかが分からない…そんな状況にキリトは焦っていた。

 

「…お探しは血盟騎士の副団長サマか?それならオレの雇い主がお相手してるぞ。」

 

「ッ!?」

 

 その声にキリトが振り返ると、そこには丁度中年位の髭の濃い男がいた。

 

「…それで?」

 

「おいおい…そんなカリカリしないで欲しいんだがな…別に俺は「御託はいいッ…知ってることを吐け…」

 

 キリトは男が油断している隙に、首に剣を突きつける…その顔は殺気のこもったものだった。

 

 男はやれやれ…という仕草をすると後ろを指差した。

 

「探し物はこの奥だ」

 

「…フンッ」

 

 キリトが男の指差す方向へ走り出した時だった…

 

「仲間の為に必死になる…か。マクギリス・ファリドは変わったな。

 そして、あの男も用済みだ…」

 

「何?」

 

 再びキリトは振り替えるが、そこにはもうすでに、あの男は去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの男何者だったんだ…?いや、今はそれどころではないな…)

 

 一本道を抜けると少し広い道に出る、休憩地点の一つだ。

 

「遅かったじゃねぇか」

 

 真ん中に堂々と立っていたクラディールが声をかけてくる、他の血盟騎士団のメンバーは一人もいない。そしてその足元には気を失っているアスナがいた。

 

「クラディール…。貴様、何をした?」

 

 クラディールは剣を抜き放ち、笑い声を響かせる。

 

「なーに、ちょっと副団長サマで遊ばせてもらっただけさ…ククッ!ホントいい声で泣いてくれたぜ…まぁ、もう壊れちまったがなァ!」

 

「狂っているな、貴様ッ!」

 

「そんな奴に一瞬でも気を許したオマエも大概だろ?」

 

「ッ!減らず口を!」

 

 キリトは二本の剣を抜くとクラディールに斬りかかる…だが、その剣はクラディールには届かなかった。

 

「伏兵かっ!」

 

 キリトの前に何処からか現れた二人の男が立ちはだかる。

 

「当たり前だ、お前みたいなのとマトモにやっても勝てねぇのは百も承知だからなぁ!?」

 

 その言葉を起点とし他にも潜んでいたのであろう、四人の男が襲いかかってくる。

 

「なっ!?まだいたのかッ」

 

 あまりの数の多さに対応しきれず、キリトは何度か攻撃を受けてしまう。

 

「ぐっ!…だがこの程度でッ」

 

 そう言い、一度態勢を立て直そうとする。

 

 が…その行動は突如現れた激痛と、倦怠感によって遮られた。

 

「ッ!か、身体…がッ!」

 

 突如起きた自身への異変に思わず膝をついた。その姿に、クラディールは心底嬉しそうな顔を浮かべる。

 

「ヒャハハ!どうだよ?オレの協力者が寄越したもんの効果は?」

 

 そう言うと見慣れないビンをキリトの目の前に置く。

 

「よく知らねぇけど、コイツを使うと一時的にゲームにない痛覚を現実レベルに持ってく事が出来るらしいぜ?それに麻痺のデメリットを付け足した特別製だ。騎士団の奴らいい反応してくれてたぜ?」

 

「他の団員はどうした?」

 

「おいおい俺が用あったのは、オマエと、副団長だけだぜ?他の奴なら……殺したに決まってんじゃねぇか!」

 

「…やはりか」

 

「何、他人事みてえにいってんだ?オマエもこれから同じ目に遭うってのによぉー!?」

 

 クラディールは剣を高く掲げると真下━キリトの元へ振り下ろす。

 

「ァッ!き、貴…様ッ!」

 

「ハッ!コイツは嬲り甲斐があるなぁ!」

 

 クラディールは高笑いし続けながらキリトを一方的に嬲り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        『力が欲しい』

 

 ここまで渇望したのは、何時ぶりだろうか?俺がマクギリス・ファリドであった頃は自らの為に力を求め続けた、自由を勝ち取る為に。

 だがこの世界で桐ヶ谷和人として生きている内に、俺は何時しか力を求めなくなっていた。俺のことを力を示さずとも受け入れてくれる家族。暴力を快いものとしない世界。そして、俺を信用し支え合い認めてくれる友という存在が、力しか知らなかった自分にそれ以上に重要なものがあることを気づかせてくれた。

 そんな俺が、今もう一度力を強く求めている。だが、今までと違う…今の俺は他人の為…いや、友の為に…俺は立ち上がらなければッ…

 

《なら、分かるはずだろ?アンタが持っている本当の力…そしてその解放の仕方。》

 

(本当の…力?)

 

《そう…昔スグを護る時、記憶を取り戻すと同時に無意識に使っているはずだ》

 

(そうなのか?)

 

《体格差がある相手に、ただ前世の力を取り戻しただけで返り討ちには出来ないだろ…》

 

(なら、どうやって解放出来る?)

 

《だから、知っているって言ってるだろ?意識を集中させろ!知っている感覚が来るはずだ。》

 

 頭に響く声の通りにする。すると、昔阿頼耶識を使用したときの様な感覚…そして、それはスグを助けたときのものとも似ていた…そう、まるで自分のリミッターを外すような…

 未だに身体はあちこちが限界を迎えているのか、悲鳴をあげている。しかし、麻痺効果はいつの間にか切れていたようだ。

 

(バエルに代わる新たな力か…。この状況を打開なら何だって使ってやろうッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか蹲まり、なされるがままだったキリト。クラディールは攻撃の手を止める。

 

「おっ?ハハッ!遂に壊れやがったか!?…こうくたばっちまえば、只のガキか…オレ様に散々かかせやがって…。」

 

 クラディールは後ろを向くと協力していたプレイヤー達に声をかけた。

 

「おい、ガランの奴に終わったと伝えろ」

 

 その直後、クラディールにメッセージが届く…それはキリトの班のリーダーからだった。

 

「チッ!流石に時間をかけすぎたか…。まぁ、強力なモンスターに奇襲をかけられ、オレ以外全滅。ガキは知らねぇってことに…「勝手に行方不明にしないでほしいな…」

 

 突如後ろから飛んできた声、そして強い殺気にクラディールは思わず回避行動をとる。そして、声をする方に目を向けると…先程まで壊れていたと思っていたキリトがいた。

 

「何で…テメェがッ!?」

 

「トドメを刺さなかったからだろう?」

 

「クソッ!…おい、お前ら!ソイツを殺せ!」

 

 その掛け声にクラディールの協力者達が駆け寄ろうとする。…が━

 

「んなっ!?き、消えたッ!?」

 

 クラディールの視界からキリトが突然消える。

 

「そんな訳がないだろう?」

 

 背後から声をかけられ、剣を突きつけられる。

 

「なッ!?テメェ、いつの間に…」

 

 クラディールは後ろに振り返り、疑問を投げ掛けようとする。しかしその言葉を続けることは出来なかった…

 

(誰なんだコイツは?…後ろにいるコイツは一体何者なんだよ!?)

 

 今、彼の後ろにいるのはキリトだ。だが、今の姿はそれとは大きくかけ離れていた。

 

 真っ白で機械仕掛けの姿、その手に持つ二本の金に輝く剣、そして禍々しいほどの殺気。それはまるで

 

(白い…悪魔だ…)

 

 クラディールが今までにない恐怖を抱いていると、首元の剣がピクリと動く。

 

「ヒィッ!ま、待て!はやまるな!!…そ、そうだ!何でもするッ!何でもするから殺すのは勘弁してッ━「なら答えろ…コレは何処で手に入れた?」

 

 キリトは、先程彼が見せたビンを顔に押し付けるように見せつける。

 

「それはッ!?…ソイツはオレの協力者が寄越したもんだ!確かガランってプレイヤーネームで……それ以上は知らねぇよ!」

 

 クラディールはそう返すと、今度は懇願するように再び口を開く。

 

「ここまで言ったんだ。もういいだろ?そろそろ許して…」

 

 そこまで言いかけた時だった…

 

 

 

「ッあ?…ガハッ!?」

 

 突如、クラディールが糸の切れた人形の様に膝をつく。そして、その身体はディアベルの最期の時の様に崩れていく…

 

「なっ!?どうした!?」

 

 キリトが焦るように近寄る。しかし、

 

「ナ…んダコ…りゃ?ハら…腹が痛ぇ…!!」

 

(この苦しみよう、まさかさっきのアイテムか?…いや違うまさか、現実の方か!?なら、何故?)

 

 絶え間無くのたうち回るクラディール。そして…

 

「い、嫌だッ!!俺は…死に…た…k」

 

「お、おい!?」

 

 断末魔を上げながら、クラディールは消滅した。

 

(死んだ…のか?)

 

 クラディールの突然の死に、キリトは頭の整理が追い付かないでいた。

 

(…そう言えば)

 

 キリトは、この場所に来る前に出会った中年の男を思い出す。

 

(奴はクラディールのことを雇い主と呼んでいた。なら、クラディールをに薬を渡したのは奴…みたいだな。そして、用済みだから消した…と考えるべきだろう。

 だが、プレイヤーには現実の者と連絡する手段はない。ならばこれは、茅場…もしくはそれに所縁のある者が関係しているのだろうか?

 それに奴は私を知っていた。私に復讐するためにクラディールを利用した?

 

「…いや、今は置いておこう。」

 

 キリトは意識を少し遠くで横たわっているアスナに集中させた。

 

(奴の取り巻きがいない。恐らく、クラディールが苦しみだした辺りで撤退したんだろう。それよりも、今私が気にしなくてはいけないのは…)

 

 キリトは、未だ目を覚まさず横たわるアスナの元に駆け寄る。

 

「しっかりしろ、アスナ!」

 

 その声に呼応するように目を覚ます。

 

(すぐにエギルの所に連れていかなければ…)

 

 キリトは、アスナを起こそうと手を伸ばす…が、

 

「ッ!?  こ、来ないでッ!!」

 

 アスナは虚ろな目、そして顔を恐怖で歪ませて後ずさった。

 

(しまった…だか、この反応はやはりなのか…?)

 

「き、キリト…君?」

 

 今すぐにでも消え入りそうな声で返す。

 

「そうだ、だからもう…安心してくれていい」

 

(彼女はコワレた。そして…)  

 

「もう…痛いの…ない?」

 

「あぁ」

 

     

 

 

 

      (これは…私の招いたミスだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ━━━━━━ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクギリス「今回の次回予告は私とキリト(本家)、そしてアスナの三人で担当するわけだが…。実はな、キリト。一つ君に質問したい事があってな…」

 

キリト「別にいいぜ…しかし、何を聞きたいんだ?」

 

マクギリス「私が強くなるためにはどうすればよかったと思う?」

 

キリト「…は?」

 

 

アスナ「マッキーは今でも強いと思うけど…」

 

マクギリス「ガエリオにバエルを使ってでも負けたんだ。強くはないだろう。だが、キリト。君はほとんど大切な戦いでは負けないじゃないか。私はその強さが欲しい。」

 

アスナ「だったら、必殺技を作るとか?キリト君だったらスターバーストストリームとか色々在る訳だし…」

 

マクギリス「なるほど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ガエリオ『アイン!頼む、届けさせてくれ!一人ではないこの戦い!』

 

マクギリス『ぐっ!俺がガエリオに負ける?くっ!…だが、そうはいくものか!』

 

『食らえ、我が奥義《アグニカ・バエル・ストリーム》をッ!!』

 

ガエリオ『ぐぅ!?だが、負けるものか!奥義ッ!《禁止兵器・最強の鉄棒(ダイン・スレイブ)》!』

 

マクギリス『ぐぁ!?ガエリオ~~~~ッ!!』

 

 

 

 

 

キリト・アスナ「なんか、負けそうだな(だね)…」

 

マクギリス「う…嘘だ~~~!(ガリガリ感)」

 

アスナ「アハハ…、えっと、次回!『タービンズ・カウンセラーと謎の少女』ってことでまたね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回予告の世界は『何でもあり』ってことにしてるんで本編には関係ないです。

誤字脱字あったらご報告下さい。


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「タービンズのアミダ・アルカ」

 遅くなりましたがUA10000到達ありがとうございます。読んでくれた人々のおかげです。


 日も落ち、辺りも暗くなった人通りの少ない一階層の大通り。

 少年がフードを深く被る少女を連れ歩く。

 

          ドンッ

 

「おっわッ!?」

 

 少女は、向かいから通る男と肩がぶつかってしまう。

 

「…ッ!?」

 

「チッ!…ったく、気を付けやがれっての…」

 

          ビクッ

 

 男性の舌打ちに驚き、少女は肩を震わせ少年の背に隠れる。

 

「すまないな…」

 

 少年は深く頭を下げる。

 

「い…いや、こっちも悪かったよ。強く言い過ぎた」

 

 そういい残し男は再び歩き出す。

 

「我々もいこう…」

 

 少年も、また少女を引き連れて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やって来たカ」

 

 キリトが、その店の戸を開ける途端に奥から声を掛けられる。かつて、彼がアルバイトとして仕事を手伝ったりした中であるアルゴだ。

 

「…少し、あってな」

 

 そう返すと、キリトはアスナと共にアルゴが待っている席に腰を下ろす。

 

「その様子だとまだ駄目みたいダナ。」

 

「時間経過でなんとかなるというものではないだろうからな。」

 

 

 クラディールの死後、ヒースクリフはアスナとキリトにギルドの一時的脱退を認めた。彼も、今回の騒動は自らにも責任があるとして強く頭を下げていた。

 

『これは、作戦を立てた私にも非があるだろう…本当にすまなかった。こちらで後の処理はやっておこう。二人が元通りに戻ってくると信じているよ』

 

(そう言う割には随分冷静だったな…。本当は何か知っているのではないだろうか?…なんてな)

 

 

「それにしても、災難だったナ。まぁ…事の筋を聞い限りそうなってしまうのは仕方がナイ」

 

 彼女…アスナの状態はあまり宜しくなかった。

 心的障害(トラウマ)━外的内的要因による肉体的及び精神的な衝撃(外傷的出来事)を受けた事で、長い間それにとらわれてしまう状態で、また否定的な影響を持っていることを指す。

 彼女の状態はまさしくこれに当てはまっていた。そのトリガーとなるのは男性。男性が近づくと強い拒絶反応を示し、最悪塞ぎ込んでしまう。しかし、何故かキリトだけにはそういった拒絶反応をみせず、それどころかむしろ好意的な様子だった。

 

「それで、どうだった?」

 

「あぁ、実は残念なお知らせと、良くない知らせがあるんだケド…」

 

「どちらも変わらなくないか?」

 

「まぁナ…まず一つが、リアルで精神科関係の仕事を探してくれとい依頼だが無理だったヨ」

 

「まぁ、リアルの情報を売らないのが暗黙の了解になっているからな」

 

「悪いナ…それで、もう一つなんダガ…」

 

 そう言うと、アルゴは机の上にあの時のアイテムを置いた。それはクラディールがクライアントから貰ったと言っていた、ゲームにない痛覚を現実レベルにするものだった。

 

「例のこのアイテム。これは恐らく正規の(・・・)アイテムじゃないダロウな」

 

「どういうことだ?」

 

 キリトがそう聞くとアルゴは、うーんと強く唸った。

 

「多分だケドナ…このアイテムはGM(ゲームマスター)、つまりこのゲームの開発に携わった誰かがこっそり仕込んだものだろうってことサ。このアイテムに関しての資料や解説が一切見つからず、入手方法もわからないシナ」

 

「なるほど」

 

 キリトがそうかえすと、アルゴは立ち上がり、店の戸に手をかけた。

 

「てことで報告は以上だ。何かあったら連絡をくれヨ?」

 

「あぁ、そうさせて貰おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし最初の頃にはあんなに人がいた一階層も、今ではここまで人数が疎らになっていたとはな…」

 

「うん…」

 

 キリトはすっかり人がいなくなってしまった大通りを流し見ながら、そう呟く。

 

          ドンッ

 

「おっと…すまない」「おっとっと!なんや全く…」

 

 キリトは、余所見をしていたせいで何者かと肩をぶつけてしまう。しかし、その面影は何処か見覚えのあるものだった。

 

「ん?…誰かと思えばあの時のボウズやないか!」

 

「お前は…キバオウか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワイが見てない間にそないなことになってたとはな…」

 

「まあな…」

 

 

 キリトとキバオウは今までの出来事の話を互いに交換し合った。

 キバオウはどうやら一階層で、SAOの中で困っているプレイヤー達に救援やアドバイスをしているらしい。

 

「しかし心的障害か…」

 

「なにかそれに携わるプレイヤーがいれば…な…」

 

 キリトがそう言うとキバオウは何か考える素振りを見せた後、意を決した様に問い掛けた。

 

「なぁ…その件。ワイに預けて貰えへんか?」

 

「何?」

 

「心当たりがあるんや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後、キリトがアスナと共に指定された場所にアスナを連れていくと、キバオウが仁王立ちをして待っていた。

 

「おお!来てくれたんか。こっちや!」

 

 キバオウは、目の前の建物のドアに手をかけると中に入っていく。二人は、それに付いていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連れてきたで!」

 

「おや、来たのかい?」

 

 建物に入ると三人を、褐色の女性が出迎えた。

 

「アンタが噂に聞く黒い剣士とはね…。まだ毛の生えたばかりの青二才じゃないか…」

 

「知っていたのか?」

 

「SAOでは有名だからね。トッププレイヤーは」

 

 そう言いつつ、女性はキリトに近づくと手を差し伸べた。

 

「私はアミダっていうんだ。宜しく」

 

 そう言うと、女性…アミダはアスナに近づき頭を撫でた。

 

「彼女のことは私に任せな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           




 特になし


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解決の糸口

 前回の話の下に何ら関係ないものが入っていました。あれはただのボツ案なので記憶から抹消してくれると助かります。しっかり消しておいたんで…混乱させてすみません。


 

 

 

 

 

 

 

 

《前回までのあらすじ》

 

 クラディールとの一件以降、アスナは軽い精神障害を患ってしまう。キリト(マクギリス)は彼女を救うため様々な策を講じてみるが、なかなか収穫を得られないでいた。

 そんな中キリトは、かつて共に戦い、互いに共通の友を失ったキバオウと再開する。キバオウは、精神障害に精通している人物に心当たりがあるらしく、ある場所に連れてこられる。そこで出会ったのはアミダと名乗る女性だった…

 

 

          ーーー

 

「彼女がそうなのか?」

 

  キリトがキバオウにそう聞く。

 

「そうや。コイツはなかなかの腕やで」

 

「…頼んできたときはへり下って、何度も頭下げてきたのにオマエ呼ばわりとはね…」

 

「お、おい!そないなこと言わんでええやろッ!?」

 

 キバオウが慌てたように二人の間に割って入る。

 

(キバオウが私達にそこまでしてくれるとは…だが…)

 

 「何故?そこまで…」

 

 キリトがそう尋ねると、キバオウは恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「ボウズには感謝してるんや。あの時あんさんが色々言うてくれんかったら、ワイはずっとβテスターに当たり散らしてたかもしれへんし、ディアベルの事も知らんでいた…でも、ボウズのおかげで色々考え直す事ができた。だから借りを返したかったんや…」

 

「キバオウ…恩に着る…」

 

 キリトが感謝の意を示すと、キバオウは照れくさそうにドアノブに手をかけた。

 

「じゃ、じゃあ!ワイはもういくでッ!」

 

 キバオウはさっさと出ていった。

 

 「…さて、そろそろ本題に入らせてもらうよ?」

 

 アミダの一言にキリトはもう一度そちらに向き直った。

 

「嗚呼、構わない」

 

「なら、アンタはここで待っていてくれないかい?私とこの娘は向こうでカウンセリングをするから」

 

「了解した」

 

 キリトが了承すると、アミダはアスナを連れ、奥の部屋に入っていった。

 

「あぁ…あと…」

 

 アミダが振り向くと、もう一度口を開いた。

 

「もしかしたら、他に二人組が入って来るかもしれないけど…仲間だし、事情は話しているから気にしないでくれると助かるよ」

 

「そうか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…」

 

 どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい…。ここの所アスナに付きっきりだったから疲れが残っていたのだろうか?…全く、私らしくもない…

 そんなことを考えながら頭を上げると…

 

「おッ!起きた?」

 

 後ろから声をかけられる。その声を探ろうと辺りを見渡すと、薄茶色…だろうか?ポニーテールの女性がいた。

 

「…誰だ?」

 

「あれ?姐さんから聞いてない?…私、ラフタ。よろしくね」

 

「あぁ…後で二人組が来るとかなんとか言っていたな…キリトだ。もう一人は何処に?」

 

「もう一人なら、いま向こうに…お、来た」

 

 入り口のドアが開き、そのもう一人が入って来る。その姿に私は驚きを隠せなかった。

 

「カ、カルタ…か?」

 

「は?」

 

「い、いや…なんでもない。人違いだ…」

 

 私はつい開いてしまった口を紡ぐ。…バカか私は?あまりにも酷似しているとはいえアインの様にいるとは限らないだろうに…。突然、知らない名前で呼ばれたら困惑するだろう…と奇異の眼差しを向けられているだろうと考えていた私だが、その予想は大きく反することとなった。

 

「…何故、私の名前を?何処かであったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へぇ、しかしその姿にマクギリスの面影はまるでないな…」

 

 彼女に、私がマクギリスだと明かした。しかし、まだ私は全てを話せていなかった。それは…

 

「おぉ…この人があのギャラルホルンを革命しようとした人か…カルタはこの人が好きだったんだっけ?」

 

「余計なことを言うな!」

 

「ご、ごめんって!」

 

 彼女が今の人生を楽しんでいるからだった。この状況で暗い話を持ち込む程、空気の読めないことは出来ない。そんなこんなで私は話を切り出せないでいた…

 因みに先程からカルタと話している、ラフタと、カウンセリングしてくれているアミダも私達と同じ境遇の者で、テイワズのタービンズのクルーらしい。もしかしたら何処かで会っているかも知れない。

 

「…それにしても」

 

 カルタは改めて私の全身を流し見る。

 

「髪を伸ばしたら、女に間違えられるんじゃないのか?」

 

「冗談でもやめてくれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったよ」

 

「それで…どうだった?」

 

 一瞬、場に静寂が訪れる。

 

「そうだな、正直に言おうか…確実に治す方法はない」

 

「ッ!?」

 

 キリトの中に亀裂が走る。

 

「そんな顔になるのは分かる。でも取り敢えず最後まで聞いて貰いたいね」

 

 アミダはふぅ…と一息ついた。

 

「まず、彼女が壊れた原因だけど…襲われたとき刷り込まれたと見て間違いないね。そこの記憶を取り出そうとしたら、散々な目に会ったよ…」

 

「何かあったのか?」

 

「まぁ…。拒絶反応が…それも現実で何かされたような反応がね。あんな反応を起こすなんて、リアルではありえない」

 

「それは…あの薬のせいだろう」

 

 キリトは、アミダに例のゲーム内に痛覚を一時的に持ち込む薬の説明をした。

 

「詳しい事は聞いていなかったけど…。まさか、そんなアイテムが流出していたなんてね…だけどそれなら…納得だ。こうなっちまうのも無理はない」

 

 アミダは、アスナの頭を優しく撫でる。

 

(初対面だったというのに、あそこまで懐かれるとは…流石、その道のプロ…ということか?)

 

「それで…どうするつもりだ?」

 

「…さっき言ったように治す方法はない。何せ、電脳だ。だから負担を減らし、少しずつ回復させる処方で行く。」

 

 そう言うとアミダは何か紙のアイテムを取り出した。

 

「これは第一階層のある場所までの地図だ、そして…」

 

 アミダは地図の人目のなさそうな場所を指す。

 

「この場所で、アスナと一緒にそこで定住しな」

 

「…なるほどな」

 

 キリトは地図を受け取り、ざっと見やる。

 

「ここなら人との接触は少なく、一階層のモンスターなら難なく対処できる…」

 

「…現状の最善策だ」

 

 

 

 

 

 




 次回はもう少し早めに投稿出来るよう頑張ります。


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謎の少女…? episode.1

 大分時間が経ちましたが、投稿しました。最近、時間が無くて色々切羽詰まってます(大体自分のせい)。もう少し気合いを入れないと…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…フッ!」

 

 キリトの掛け声と共に振られた二本の剣は、真っ直ぐ、鮮やかに十字を描く。

 

「こんなものか…」

 

(勘が鈍ると思って久しぶりに振ってみたが…長年の慣れというのは抜けないものだな。いや、むしろ磨きがかかったように思える。…それにしても)

 

 キリトは周りに目を見やる。そこは広いフィールドだと言うのにモンスターの出現しない珍しい場所だった。

 

(本当にモンスターがいないとはな。張り合いがない、だいぶ奥まで来たというのに。これなら迷宮区の方に向かうべきだったか?)

 

 タービンズのアミダとのカウンセリングの後、キリトとアスナは彼女から貰った地図の通りに二十二階層にある《コラル》の村の一角にある家で過ごすことになって二週間が経過した。

 現在、キリトがいるのは家から北東へ二キロメートル程進んだ場所だ。アスナには留守番をしてもらっている。

 

「おっ…こんな所にプレイヤーか?」

 

 突然、横から声を掛けられる。キリトが目を見やると、若い男性プレイヤーがこちらに向かって歩いてくる。

 

「まあな…そっちこそ何故こんな所に?」

 

 キリトが男性にそう聞くと、誇るようにこう返してきた。

 

「おいおい、そりゃあ勿論…心霊スポットを見に来たからに決まっているだろ!?」

 

「心霊…スポット…?」

 

 キリトの疑問形の返しに、男は驚いたような表情を見せる。

 

「ん?オマエもそうじゃないのか?―いやぁ実は前に、そこの村に行った奴に聞いたんだが…この辺り、出るんだってさ。幽・霊」

 

 男が言い終わると同時に冷たい風が吹き込む。

 

「ゆ、幽霊?…珍しい幽体系(アストラル系)のモンスターでもいるのか?」

 

「そんなわけ無いだろ?モノホンの幽霊さ。何でもこの辺を彷徨う、カーソルのない白い服の少女の幽霊が出るんだとよ」

 

「…馬鹿馬鹿しい。ここは電脳(ゲーム)だぞ?」

 

 キリトが鼻で笑うと、男も同意するように頷いた。

 

「…ハッ!違いねぇ。現に俺も何にも出くわさなかったし、どうせデマだろ…。ま、万が一ってこともあるから一応気をつけとけ?…なんてな!じゃ、フハハ!」

 

 男は高笑いしながら、キリトが来た道の方へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男が去り、暫くするとキリトも歩を進めた。その足取りは少し重く、端から見ればソワソワしてるように感じ取れる。

 

 

「幽…霊か。フッ、そんな非科学的なもの―」

 

           ーカサッー

 

 その音と共に木の葉達が小さく揺れる。

 

「ッ!?……風か…。」

 

(全く…かつて何回もの修羅を経験した私が今更お化けとか言われる不確定な存在如きに―)

 

          ―カサカサッ―

 

「・・・」

 

(…そ、そろそろ戻ろうか…。べ、別に怖いわけではないが…)

 

 キリトがその場を後に、踵に返そうとすると…

 

           ―クイッ―

 

 突如、後ろからコートの袖を引っ張られる様な感覚に陥る…

 

「ね…ぇ…まっ…て」

 

「ッ!?」

 

(様な…ではなく、本当に引っ張られているのかッ!?)

 

「…どちら様だ?」

 

 キリトは、思わず後ろの存在にそう投げかける。すると…

 

 ―ストンッ…とキリトの背に何かが寄り添ってくる。その衝撃はとても軽いものだった。

 

(これは…)

 

 恐る恐る後ろを振り返るとそこには…

 

『…何でもこの辺を彷徨う、カーソルのない白い服の少女の幽霊が出るんだとよ』

 

「すぅ…すぅ…」

 

 男が言っていた通りの少女が、力が抜けたように小さく寝息を立てながら寄り添っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトが家の扉を軽く叩く…すると、暫くして戸が僅かに開き、アスナが顔を出す。

 

「悪いな。手間をかけさせてしまって」

 

「それは別にいいけど…その子どうしたの?」

 

 アスナがキリトの背におぶさっている、先程の少女を指差す。

 

「…それは、中で話そう」

 

 

 

 

 

 

 キリトは家の中に入ると、近くのベッドに少女を横たわらせた。

 

「随分小さいプレイヤーみたいだね…シリカよりも幼いんじゃないのかな」

 

「そうだな、恐らく9〜10歳ぐらいか」

 

(…プレイヤーか。この様に可憐な少女のような者も巻き込まれているといるとは)

 

「…それじゃ、そろそろ何があったのか話してよ」

 

 ある程度少女への介護が済む(とは言ってもゲーム内なのでたかが知れているが)とアスナは再び問をキリトに投げかけた。

 

「あぁ…」

 

 キリトは事の顛末を手短に話した。

 

「なるほど、そういう経緯があったんだね。」

 

 アスナは納得するようにベッドの方に目をやる。未だに少女は目覚めていないようだった。

 

「あぁ、今もあの娘は疲れ果てて寝ているのだろう。…だが、少し不可解な点があってな…これを見てくれ」

 

 そう言うとキリトは、自分の開いたマップをアスナに見せる。

 

「どれどれ?」

 

 アスナは覗き込む様にマップを見る。…そこには隣接する2つのプレイヤーカーソルが浮かび上がっていた。

 

「…2つのカーソル?これって…」

 

「そうだ。この少女に関して何も表示されていない。プレイヤーとしても、NPCとしてもな」

 

 そう、表示されているカーソルは2つのみ。目の前で横になっている少女は無表示になっていた。

 

「システムのバグかな?」

 

「そう考える方が無難だろうが…この様なバグ、聞いたことも耳にしたこともない…」

 

 キリトはここに戻ってくる途中、当てのありそうなアルゴや、アインにもメッセージを送ってみたものの、目ぼしい情報が手に入ることは無かった。

 

「…でもこの子、NPCではなさそうだよね。だって、キリト君がここまで連れて来れた訳だし…」

 

 システムが動かすNPCは、存在座標を一定範囲内に固定されておりプレイヤーの意志で移動させることは出来ない。手で触れたり抱きついたりすると、ほんの数秒足らずでハラスメント警告の窓が開き、不快な衝撃と共に吹き飛ばされてしまう。

 

「…それに、何かのクエストって訳でもなさそうだし…やっぱりこの子はプレイヤーで、何かの理由で迷子になっちゃって、その流れでカーソル表示関係のバグが発生してしまった。という推測が妥当なのかなぁ…」

 

(アスナの意見は実に的を射ている…正直私もほぼ同意見だ。だが、何なんだこの胸騒ぎは?このイレギュラーは何か裏があるように思えてならない…)

 

 しかしその胸騒ぎの正体を掴めぬまま、一日が過ぎて行くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 少し前にメモデフ復帰したんですが、いつの間にかソードスキルがリンクして二人でするようになってるし、アシスト召還出来るようになってるしで、付いていける気がしなかったです。まぁ、復帰した理由であったユウキの制服のやつを100レベに出来たのでいいのですが…


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謎の少女…? episode.2

 だいぶ間隔が空きましたが更新しました。(別に疾走していたわけじゃないんだよ?)


 

 

 朝の白い光の中でまどろむキリトの意識に、穏やかな旋律が流れ込んでくる。オーボエによって奏でられる起床アラートだ。キリトは覚醒直前の浮遊感の中、どこか聞き覚えのあるメロディーに身を委ねる。やがてスリリングスの軽快な響きと、クラリネットの主旋律が重なり、そこにかすかな声でハミングが重なる…。

 

(―ハミング?)

 

 歌っているのは彼ではない。キリトはぱちりと目を開け、ハミングのする方に顔を向ける。すると…

  隣のベッドから、黒髪の少女が瞼を閉じたまま――キリトの起床アラームに合わせてメロディーを口ずさんでいた。

 

(凄いな、一泊たりともずれていない。このアラートは私にしか聞こえないというのに…。)

 

 あまりにも正確なメロディーにキリトは思わず聞き入ってしまう。すると、気配に気づいたのか少女が目を覚まし、ゆっくりと体を起こす。

 

「あ…う…」

 

「…目が覚めたな。大丈夫か?…自分がどういう状況か分かるか?」

 

 言葉をかけると、少女は数秒のあいだ下を向いたまま口をつぐみ、小さく首を振る。

 

  「そうか。なら自分の名前とかは分かるか?」

 

「…な……まえ……。わた……しの…なまえ…」

 

 少女が首を傾げると、艷やかな黒髪が一筋頬にかかった。

 

「ゆ…い…?」

 

そう呟く彼女の顔には懐疑の念の様なものと不安が入り交じった表情が浮かんでいた。

 

(名前すらも怪しいのか…)

 

「ユイ…。それが名前か」

 

「う…ん…多分…」

 

 ユイと名乗った少女は、意識が戻ってきたのか、うつろだった目に

少しずつ光が戻って行く。そしてゆっくりと声の方へと顔を上げる。

 

(…ん?)

 

ふと、キリトの脳裏に疑問が浮かぶ。それはキリトに向けられたもの…その視線からだ。そのなにかに取り憑かれたように真っ直ぐ向けられた瞳に思わずたじろいでしまう。

 

「な、どうしたんだ?」

 

「マッ…キー?」

 

「…は?」

 

「マッキー!!」

 

 少女は先程とは打って変わったようなテンションの高さでキリトに飛びつく。

 

「ぐァッ!?」

 

突然のことで反応が遅れてしまい、衝撃を受け止めきれずキリトは思わず尻餅をついてしまった。

 

「あ…ご、ごめんね?」

 

ユイは申し訳無さそうに手を合わせる。しかしキリトにはそれよりも気になることがあった。

 

(今、この娘はマッキーと私の事を呼んだのか?)

 

 キリトは彼女の顔をじっと見つめる。その様子に少し恐怖を感じたのか、ユイはからだを攀じるようにしてその場を逃れようとする…

 

「待ってくれ。何故そのその名を知っている?」

 

キリトは思わず逃げようするユイの腕を掴む。その反動で彼女は床

に背を打ち付けてしまう。キリトは彼女に跨るようにし、逃さないようにする。

 

『マッキー』それはかつて、前世の婚約者であり、親友の妹でもあったアルミリアがマクギリスに使っていた呼び名だった。

 

(何故、この少女がその名を…)

 

考えれば考えるほど、その謎は深まるばかりだった。

 

 「君は、一体…」

 

 キリトが彼女に声を投げかけ、その顔に手を伸ばそうとした時…

 

「キリト君、女の子の様子はどう…」

 

その声とともに、ガチャリと扉を開く音が後ろから聞こえた。

 

「何…シテルノ?」

 

キリトは背後から殺気を感じ取り、恐る恐る振り返る。そこには、まるで汚物を見るような冷ややかな視線を送るアスナが立っていた。その視線に恐怖を感じ、改めて今自分が置かれた状況を再確認する。

病み上がりの少女を押し倒す自分。相手の少女は既に涙目になっていた。

 

(マズイ…)

 

「ま、待ってくれ。話せばわか…」

 

「問答無用ッ!」

 

空を切るような音と共に綺麗な弧を描いた拳が一閃。

 

 「ッ!?」

 

それを辛うじて避けることの出来たキリト。だが、反応できたのはそこまでだった。

 

アスナは、拳が外れたのを見越してたかのにすぐに体制を切り替え、姿勢を屈め、力を込めるような仕草を…

 

(なッ!?)

 

下からの鋭い閃光が真っ直ぐキリトの顔面に直撃する。

 

(右フックを囮にした…ガゼルパンチだ…と…)

 

「止まるんじゃねえぞ…」

 …そのネタはあなたのではないでしょうに。自称《火星の王》に怒られますよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトは少女を抱き上げて食卓の椅子に座らせ、温めて甘くしたミルクをすすめると、少女はカップを両手で抱えるようにして少しずつ飲み始めた。

 

「なるほど、そう言うことね。良かった…変態じゃなくて」

 

「そんなこと私がするわけ無いだろう?」

 

「そうかなぁ」

 

 キリトから先程あらかた説明を受けたアスナは納得したようにホっと息をはいた。

 

「えっと、この子…ユイちゃんだっけ?その子のことでわかっているのそれだけ?」

 

「…それすらも怪しいがな」

 

「記憶のない…か。これって記憶喪失ってことだよね?でもなんで…」

 

 アスナがユイの事を眺めながら疑問を呟く。

 

「…記憶障害にはいくつか種類がある。一番身近なのは、最近の一部の記憶が失われる短期記憶障害だ。だが、彼女の場合は全ての記憶が失われている。並の記憶障害ではないだろう。」

 

「…つまり?」

 

「今の所有力なのは全生活史健忘…多くは心因性で起こると言われている。」

 

「…それってなにか精神的なショックを引き起こす出来事があったって事?」

 

「実際年端も行かない少女にSAOという世界は厳しすぎる。それは君が一番良く分かっているだろう。」

 

 キリトの言葉にアスナは今までの事を思い出す。…ディアベルが亡くなった時の事、そしてクラディールの時の事…

 

「…このくらいの子には辛い…ね」

 

 場が少し重いムードに包まれ、その様子にユイは不思議そうにこちらに目を向ける。ユイにそれを感じとらせるのは不味いとアスナは考えた為、すぐに話を変えようとする。

 

「そ、それにしても!随分と詳しいんだね?」

 

「自分が交通事故にあった時にそんなことを医者に聞いた事があってな。とはいっても小さい頃の話ということで知ったのは数年前だが…」

 

「交通事故?それ、大丈夫だったの?」

 

「ああ、俺は…な」

 

 何か含んだ言い方をするキリトは少し遠い目をしていた。 

 

「それって…」

 

 どういう意味とアスナが続けようとした時、ユイがいつの間にか飲み終わっていたのか彼女の袖を引く。

 

「どう…したの?」

 

 キリトはしゃがみこみ彼女の顔に視線の高さを合わせる。

 

「何でもないさ…」

 

 (なんだろう…キリト君が事故の話をしたとき、なんかいつもと様子が違っていたような…)

 

「…アスナ」

 

「な、何?」

 

 キリトに突然呼び掛けられてアスナはすぐに意識を現実に戻す。キリトはユイの頭を撫でると提案するようにゆっくりと口を開いた。

 

「これから、彼女の事を知っている人探しをしないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユイはどうだった?」

 

「大丈夫、ぐっすりと寝ているよ。そろそろ昼食だから起こすけどね」

 

 あのあと、ユイをベッドまで連れていき午前中までいっぱい寝かしつけることにした。恐らく、まだ体力が十分ではないと判断したからだ。

 

「なら、私が起こしにいこう」

 

「うん。よろしく」

 

 

 

 

「ユイ、そろそろ起きられるか?」

 

 ユイの寝ている部屋に行きドアを軽くノックする。すると暫くして、眠たそうに目を擦りながらユイがドアを開け、キリトの前に立つ。

 

「ご飯、ママが作ってくれるの?」

 

「ママ?」

 

 キリトが聞き返すとユイは嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「マッキーがパパで、一緒にいたからママだから…ダメ?」

 

「いや、良いさ。彼女も喜んでくれるだろう」

 

 

 

 

 

「おはようユイちゃん。よく眠れた?」

 

 先に席についていたアスナがユイにそう言う。テーブルにはもう既に料理の用意は出来ていたのか、色鮮やかに彩られたフルーツパイが置れていた。

 

 ユイはまるで宝石でも見ているかのように目を輝かせていた。

 

「ママ…すごい」

 

「そう?そう言ってくれるととても嬉しいよ」

 

「…相変わらず見事な出来だな。流石に料理スキルがカンストしているだけのことはある」

 

 キリトはユキを席に着かせながら称賛した。

 

「そりゃこんな状況だし、料理位には気をかけたいもん」

 

 アスナは胸を張るように得意げな顔をした。

 

「とても昔は腹にたまれば何でもいいと言っていた奴とは思えない発言だ…」

 

「ユイちゃんの前で余計なこと言わなくていーの!…そうだユイちゃんは何飲みたい?キリト君はいつものコーヒーでっと…」

 

 そういいアスナはコーヒーの準備を始める。その様子を見てユイは少し間を空けて口を開いた。

 

「マッキーと同じがいい」

 

「ほう…」

 

「本当に?…少し苦いよ?」

 

 アスナはもう一度聞いてみるが、彼女は首を縦にしか振らなかった。

 

「わかったよ…ちょっと待っててね」

 

(流石にユイちゃんのはコーヒー牛乳にしておこう…)

 

 そう考えこっそり片方のカップにはコーヒー牛乳を注ぎ入れ、二人に手渡す。

 

「「ありがとう」」

 

 ユイはカップを受けとるとキリトの方と一緒に中身を確認する。

 

「これ、マッキーのと違うよ?」

 

 そうユイが差し出すコップには薄い茶色の飲み物、キリトの方には黒い飲み物が入っている。たとえコーヒーを知らないとしても、流石に色が違ければバレてしまうのは当たり前だった。ユイの声色は少し淋しそうな声だった。

 

「…あ、いや。えっとごめんね?それには理由が…」

 

「お子様にはコーヒー牛乳がお似合いなのさ」

 

 アスナが全部言い終わる前にそう言い、キリトは少し偉そうにカッ

 

プに口をつける。

 

(苦っ!?)

 

ミルクと砂糖が入ってると思って口をつけたキリトは、無糖だと知らず衝撃を受ける。

 

「あ、微糖にするの忘れてた…」

 

 アスナは砂糖とミルクを取りに行こうと立ち上がろうとする…が、それをキリトが手で制すると自分が立ち上がる。

 

「いや、それぐらい取りに行くさ」

 

 そう言い、コップを置きキッチンの方へと向かう。

 

「…。」

 

 その様子を見ていたユイはキリトが立ち上がるのを見計らってさっ

とコップを取る。

 

「…あっ!?」

 

 アスナがそれに気付き、制しようと立ち上がるが、キリトの隣にいたユイと向かい合わせになっていたアスナは間に合わせられる訳がな

かった。アスナがユイの元駆け寄った時には既にカップの中は空に

なっていた。

 

「え、嘘…。全部飲んじゃった…」

 

「私…飲めるもん…。お子様じゃないもん」

 

 そう呟くユイは涙を浮かべ顔をしかめていた。

 

(まさか飲みきってしまうとは…肝が据わっているな…)

 

「悪かったよ…わたしの負けだ。子供扱いして悪かったな…」

 

キリトはユイのもとへと向かうと、彼女の頭を撫でた。

 

「でも、あんまり無茶はするなよ?」

 

「…ごめんなさい…うぅ」

 

 ユイ苦味がまだ拭いきれないのか口を不自然に動かす。

 

「はい、これオレンジジュース。これで口直しして?」

 

 アスナはユイにジュースの入ったカップを渡す。するとユイはすぐにそれを受け取り、口をつけた。

 

 「さて…食事を再開しましょうか」

 

「そうだな。…アスナ。悪いがもう一度コーヒーを淹れてくれないか?」

 

 キリト頼むと、アスナはニヤニヤしながらユイの所にあったコーヒー牛乳をキリトに押し付けた。

 

「あれ?ブラックも飲めないお子様(・・・)にはコーヒー牛乳がお似合いなんでしょ?」

 

「・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 謎の少女編はあともう少し続く予定です。
 


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