テイマー姉妹のもふもふ配信 (龍翠)
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配信十八回目

壁|w・)ハーメルン様は私にとっての古巣なので、こっそり投稿していきます。
こちらでは不定期更新ですが、よろしくお願いします。


 視界全てが緑の絨毯のような草原の中、私は配信の準備をしていた。まあ準備といっても、変な装備になってないか確認する程度だけど。

 私の装備は赤を基調とした軽鎧。腰には短めの片手剣。アクセサリーの指輪はステータス上昇の指輪。どれもがいわゆるガチャで手に入れられるアイテムだ。しかも最高レア。金に物を言わせた装備だ。

 

 あまりこういう装備は使いたくないところだけど、あの子を守る名目として黙認、どころか推奨されてる。もっといい装備を、と言われ続けた結果、これに落ち着いた。ちなみにこれが出るまでにかかったお金は……考えたくない。まあ、私のお金じゃないんだけど。

 

 私の目の前には握り拳程度の光球が浮かんでいて、これがカメラの役割を担ってくれる。光球の上には大きめの黒い板のようなものが取り付けられていて、ここに書き込まれたコメントが表示される仕組みだ。設定すれば音声としても配信者、つまり私の耳に届くようになる。

 さて、もうすぐ配信。予約してるから、十秒後に自然と開始されるはず。そろそろあの子を呼び戻さないと……。

 

「あれ? れんちゃん? れんちゃーん!」

 

 配信の相棒がいない! 相棒というか、あの子主役なのに!

 

「れんちゃあああん! どこおおお!」

 

『はじまた』

『初手からの行方不明、何回目だwww』

『いつものことすぎて驚きもしねえwww』

 

「わー! どもども皆さん! れんちゃんはただいま行方不明です、ちょっと探すね!」

 

『おk』

『いてら』

『がんばれ』

 

 視聴者さんに許可を取ってかられんちゃんを探す。どこに行ったんだろうあの子。ついさっきまで隣にいたはずなのに。

 でも予想はしておくべきだったかな。初めてのフィールド、初めてのモンスター、れんちゃんが落ち着いていられるわけがない。

 

「ああ、もう! 草うざい! 誰だこんなフィールド選んだ馬鹿は!」

 

『お前なんだよなあ』

『うざい言うても膝丈程度の……、うざいなw』

『見回したらいるんじゃねえの?』

 

「いないんだよね! 私の予想としては、新しいモンスターを見つけてめっちゃ観察してる気がする!」

 

『ありえるwww』

『れんちゃんだしなw』

 

 れんちゃんは、リアルの事情もあって、モンスターが大好きだ。特に柔らかい毛で覆われたもふもふなモンスターが大好きで、そういったモンスターを見つけるとすぐにそっちに走ってしまう。配信なんて完全無視。視聴者さんにとってはそれがいいらしいけど。

 

『進行方向右三十度。草が変に揺れてるぞ。あれじゃね?』

 

「おおっと。正確な情報ありがとう! どれどれ……」

 

 言われた方へと歩いてみれば、果たしてれんちゃんがそこにいた。

 薄い青色をアクセントにした和服の女の子。うずくまって何をしているのかと思ったら、何かを撫でてるみたいだ。

 

「れんちゃん?」

「あ、おねえちゃん」

 

 れんちゃんが顔を上げると、撫でていた何かを私に見せてきた。

 

「お友達になったよ!」

 

 白いふわふわもこもこのウサギ。頭についている角がなければ、本当にただのウサギだ。鼻をぴすぴす動かしているのがとても愛らしい。名前の表示を見てみると、テイムした証の緑色の文字色で、『BOSS:巨角ウサギ』とあった。

 

「視聴者の皆さん。私のかわいい妹が新しいモンスターをテイムしました。かわいらしいもふもふウサギです」

 

『おお!』

『早速か! 見せて見せて! もふもふ!』

『いや、まて、おい。そこで出てくるウサギのモンスターって……』

 

「察しのいい視聴者さんは嫌いじゃないよ」

 

 ふっと笑みがこぼれる。本当に、この子は、相変わらずだ。

 

「またボスだよおおぉぉ!」

 

『草』

『草ww』

『草に草を生やすな』

 

 きょとん、と首を傾げるれんちゃんとウサギ。仕草がリンクしていてとてもかわいい。かわいいけど、なんか、うん。まじかよ。

 

「へい、詳しい視聴者さん、情報よろ!」

 

『あいよ。悠久の草原のフィールドボス。小さくて弱そうに見えるけど、そのフィールドのせいで姿が全然見えない。気付かぬうちに殺されることも多い鬼畜外道の強ボスだ。ちなみにHPや防御力が低い代わりに攻撃力に極振りしたかのようなふざけた攻撃力。防御極振りプレイヤーでも突進三回で死ねる。普通は即死』

 

「クソゲーか!」

 

 あまりにも無理ゲーすぎる。HPと防御が低いということは、まさに殺られる前に殺れ、という仕様なんだと思うけど……。なんとも尖ったボスだ。

 

「れんちゃん。私も抱いていいかな……?」

「うん!」

 

 れんちゃんがウサギを差し出してくれる。そっと抱き上げると、ああ、すごい、ふわふわもこもこだ。ウサギも安心したようになんだか丸くなってる。

 

「これが、殺人毛玉……。もふもふだあ……」

 

『文字通りの意味だと誰が思うだろうか』

 

 もふもふを堪能してたら、れんちゃんがじっとこちらを見つめてきた。ああ、うん。分かってる分かってる。ウサギをれんちゃんに返すと、れんちゃんはまた嬉しそうに撫で始めた。

 

「私の妹は世界一かわいい」

 

『シスコンめ。だが同意である』

『残念だったな! 俺の妹の方がかわいいぜ!』

『この配信にはシスコンしかいないのか?』

『だが(俺の妹は)男だ』

『どういうことなの』

 

 その先は地獄だろうから聞いちゃいけないやつです。

 ウサギを堪能しているれんちゃんをのんびりと撮影する。うんうん。絵になる。もうかわいすぎてかわいすぎて。

 

「鼻血出そう」

 

『お前はいきなり何を言ってるんだ』

『へ、へんたいだー!』

『何を今更』

 

 待ってほしい。だって、こう、八歳の妹がウサギを抱いてもふもふしてにこにこしてるんだよ? 最強でしょこれ。とりあえず我慢できないのでれんちゃんの後ろに座って、膝に載せました。役得役得。

 

「おねえちゃん?」

「なんでもないよー」

「そう?」

 

 きょとん、と首を傾げるれんちゃんかわいい。そうしながらもウサギを撫でることをやめないれんちゃん本当にかわいい。

 

『だめだこいつ、はやくなんとかしないと』

『手遅れなんだよなあ』

 

 失礼な人たちだね本当に。

 のんびりとした時間を過ごしていると、ひょこひょこ他のモンスターも姿を見せてきた。小さい熊とか、狼とか、変な鳥とか。

 

「わあ!」

 

 瞳を輝かせるれんちゃんの周りにモンスターたちが集まってくる。れんちゃんはウサギを抱きながら、その子たちも撫で始める。幸せそうな妹を見ているだけで、私もほんわか嬉しくなる。

 

『ところで病状はどんなん?』

 

 不意に、そんなコメントが流れてきた。

 

「ん……。進展なし。悪化もないのはいいことだけど、どうにもならない手詰まり感がね」

 

『そっか。じゃ、これ足しにしてくれ』

 

 そのコメントの後に、お金のマークと数字が表示される。これは配信者の私に振り込まれるお金だ。いわゆる投げ銭とか、そんなやつ。それを皮切りに、たくさん振り込まれてくる。本当に、有り難い。大事に使わせてもらおう。

 

「いつもありがとうございます。何か進展あれば伝えますね」

 

『ええんやで』

『大変だろうけど頑張れ』

『一日でも早く、少しでも良くなりますように』

 

「ははは……。ありがとうございます。本当に」

 

 本当に、みんな優しいなあ……。

 そうして、ある意味でお金が振り込まれている張本人のれんちゃんを見やれば、いつの間にかたくさんのモンスターに囲まれて遊んでいた。うん。これはもう、反応は期待できないかな。

 

「ではでは皆様。れんちゃんはもふもふモードに入りました。のんびりれんちゃんともふもふを映していくので、勝手に癒やされやがってください」

 

『お口わるわる』

『癒やし助かる』

『かわええんじゃあ』

 

 その後はのんびりと、視聴者さんたちとれんちゃんを見守ることになった。

 




壁|w・)こんなお話、なサンプルみたいなもの、でした。
次回は配信前からのお話です。

もしも続きが読みたいと思っていただければ、なろう様の方が進んでいます、です。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。


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準備期間

 授業の終わりのチャイムが鳴る。それを聞いてすぐに、私は帰り支度を始める。ホームルームが終わったらすぐに帰るために。

 

「大島。授業を真面目に聞いてくれるのは評価するけどな。せめてホームルームが終わるまで待てないか?」

 

 担任の先生に言われて顔を上げると、私の、というより妹の事情を知る先生は苦笑していた。本気で言っているわけではないと分かっているので私も笑顔で言う。

 

「やですよ。一秒遅れたら面会時間も一秒減るじゃないですか。なので先生、さっさと終わらせてください。さあ、はやく!」

「まったく……」

 

 呆れながらも、先生は手短に連絡事項を伝えてくれた。さすが先生、分かってる!

 すぐにホームルームが終わり、席を立つ。すると隣の席から声をかけられた。幼馴染みのななちゃんだ。

 

「未来。この後みんなでカラオケに行くんだけど、未来は来ないわよね?」

「分かってて聞いてるでしょ」

「ええ、もちろん。本当に、妹ちゃんが中心になっちゃってるわね。まあかわいいものね。あの子」

「私の妹は世界一かわいいよ!」

「うるさい、シスコン。早く行きなさい」

 

 怒られた。しょぼんと落ち込みつつ、みんなに手を振って教室を出る。今回のクラスメイトはみんな優しくて、笑顔で手を振り返してくれる。

 学校を出て、向かうのは一駅隣にある大学病院だ。

 

 

 

 私は大島未来(おおしまみく)。今年高校に入学したばかりで、高校は上の下といったところ。中学の担任の先生にはもっと上を目指せると言われたけど、必死にならないと勉強が遅れてしまいそうな学校には行きたくなかった。

 私には、年の離れた妹がいる。学校に通っていれば、小学校二年生。去年、突然家族になった妹だ。父の再婚相手の子供なのだ。

 

 父は五年前に、色々あって離婚した。まあ、その、どう言えばいいのか……。母が出て行っちゃったのだ。理由は、知らない。父も教えてくれなかった。

 しばらくは男手一つで私を育ててくれたんだけど、勤め先の病院でいい出会いがあったみたいで、去年その人と結婚して。その人、今の母にも子供がいた。少し面倒な病気をかかえた女の子。

 

 だからまあ、父の再婚にはいろいろあった。他でもないその母がやめた方がいいと反対したし。理由は単純で、病気の子供がいるから苦労をかけてしまうことになるって。

 父はそれでもいいと何度も言って、けれど父の子供、つまり私が納得しないだろう、という話になったらしくて、それならと私はその母と会うことになった。

 

 ちょっといいレストランでのお食事。で、その子供のことを聞いて、二人の気持ちも聞いて、それならその子にも会いたいって話をして。

 翌日に病院に行って、面会させてもらった。

 一目惚れした。

 

 いや待って。そういう意味じゃない。私にそういう趣味はない。

 ただ、儚げで、かわいくて、すごく守りたくなっちゃう子だった。

 初めて私を見た時のその子は不思議そうに首を傾げて、おねえちゃんだれ? って聞いてきて。

 とりあえずかわいかったので抱きしめて、唖然とする父と母予定の人に言った。この子のお姉ちゃんになるって。二人そろって呆れられたのは言うまでもない……。なんて。

 

 その後はとんとん拍子に話が進んで、翌月には正式に家族になって、私には年の離れた、血の繋がらない妹ができたってわけだ。

 私が男子だったらラブコメが始まったかもしれない。残念ながら同性だし私にも妹にもそんな趣味はない。

 でも私はこの妹を、佳蓮(かれん)を溺愛してる。溺愛してると公言してる。かわいいかわいい、大事な妹だ。

 

 てなわけで! 今日もお邪魔します!

 病院に入って、面会手続きをして、十階へ。妹のための病室はちょっと特殊だけど、無菌室とかそういったものでもない。なので制服のままドアをノックする。

 

 ノックして、ドアを開けて、中に入る。小さな小部屋。ロッカーとか、荷物を置くためのスペースがあるだけの、本当に小さな部屋。いらないものを置いて、この小部屋の電気を消すと、さらに奥のドアの鍵が外れた。ここを暗くしないとこの先には進めないようになっているのだ。

 奥のドアを開けると、暗い、けれど広めの部屋にたどり着く。窓は、ない。天井の電気も切られていて、部屋の隅にある小さな淡い電球だけが唯一の光源だ。

 

「れんちゃん、きたよ!」

 

 ベッドにいる妹、れんちゃんに声をかける。でも、返事がない。

 

「む……」

 

 そろりそろりと近づいて、ベッドの中を見てみると、真っ白な髪の女の子が眠って……、あ、これ、寝たふりだ。笑いを堪えてる。

 ふむふむ。ならばやることは一つだ。

 

「そっか、れんちゃん寝てるのか。じゃあ帰ろっと」

「わ、わ! だめ! だめ!」

 

 れんちゃんが慌てて私の腕にしがみついてくる。かわいい。

 

「行っちゃだめ!」

「はいはい。大丈夫大丈夫。ちゃんといるよ、ここにいるよー」

「むう……」

「でもいたずらしようとしたれんちゃんが悪いよね」

「ん……。ごめんなさい」

「許してあげましょう」

 

 れんちゃんをなでなでしつつ、鞄からチョコレートを取り出す。はい、と渡してあげれば、れんちゃんは顔を輝かせた。

 

「ありがとう、おねえちゃん!」

「いえいえ」

 

 嬉しそうに包装を破って食べ始める。もぐもぐ幸せそうな顔だ。

 にこにことその様子を眺めていたら、れんちゃんと目が合った。れんちゃんはすぐにチョコレートを小さく割って、私に差し出してくる。

 

「ん?」

「お姉ちゃんの分」

「あはは。ありがとう」

 

 断ると拗ねちゃうので、有り難くもらっておく。私が食べると、れんちゃんも嬉しそうにはにかんだ。

 私の妹がかわいすぎる。天使だ。いやもう女神だ。拝もう。

 

「おねえちゃん、何してるの……?」

「拝んでる」

「なんで?」

「れんちゃんは私にとっての女神様なのさ!」

「おねえちゃん、気持ち悪い」

「うぐう……」

 

 その罵倒は心にくるよれんちゃん……。

 

 

 

 れんちゃんは、極度の光線過敏症だ。蛍光灯とかの光にすら炎症を起こすし、お日様の下にでも行こうものならあっという間に痛くて泣き叫ぶ、らしい。私がれんちゃんと会った時にはすでにこの病室から出なくなっていたから、お母さんに聞いただけだけど。

 本来、光線過敏症というものは日光に反応するものらしい。けれどれんちゃんは、どんな光にでも反応するみたいで、部屋を常に暗くしておかないと日常生活すらままならない。

 

 原因は、不明。血液検査とか、なんだか小難しい名前の検査とか、色々とやったみたいだけど、全くもって原因は分からなかったらしい。日本で唯一の奇病ということで、テレビで特集されたりもした。

 私としては見世物にしているみたいで嫌いだけど、本人は別に気にしてないらしい。いや、あれは気にしてないというよりも、どういうことか分かってないだけかもしれない。テレビすらほとんど見てないから。

 

 お父さんは取材については悩んだらしいけど、治療とかの寄付金を募ることを代行してもらうことで許可を出した。それ以来、入院費含む治療費は寄付金から賄われている。れんちゃんはお金の心配をよくしていたので、その点だけは一安心だ。

 れんちゃんの負担にならないように休み休み検査は続けられてるけど、未だに治療法どころか原因すらも分からない。まだまだ先は長くなりそうだ。

 

「れんちゃん、新しい友達はいる?」

「また?」

「いらない?」

「いる!」

 

 鞄から今月のお小遣いで買ったぬいぐるみを取り出す。手触りが良いまるっこい犬のぬいぐるみだ。れんちゃんに渡してあげると、れんちゃんは顔を輝かせて受け取った。

 

「ふああ……。かわいい……」

 

 ぬいぐるみをもにもにして、ぎゅっと抱きしめるれんちゃん。頬ずりまでしてる。見ていて、なんだか心がぽかぽかしてくる。

 れんちゃんのベッドにはいくつかのぬいぐるみがあって、棚にはさらに多くのぬいぐるみがある。れんちゃんは毎晩あの棚からぬいぐるみを交換して一緒に寝ているらしい。

 れんちゃんは動物とぬいぐるみが大好きなのだ。いつか、本物の犬を一緒に見に行きたいものだ。

 

 ちなみにれんちゃんは一日一時間だけ、限界まで暗くしたテレビを見るんだけど、必ずアニマルビデオを見ている。れんちゃんのお気に入りは子犬がたくさん戯れる動画。私も一緒に見たことあるけど、その時のれんちゃんの顔は、とても、羨ましそうだった。

 動物と直接触れ合いたい。それが、れんちゃんの、ささやかな願い。

 

 ならば! 頼れるお姉ちゃんとして! 叶えてあげるしかないでしょう!

 というわけで。

 

「れんちゃん」

「んー?」

「今日はれんちゃんに、もう一つ、とびっきりのプレゼントがあります!」

「へ? えっと……。わんちゃんならもうもらったよ?」

 

 ぬいぐるみを抱きながら小首を傾げるれんちゃん。まあ、私のプレゼントって、ほとんどがぬいぐるみだからね。そう思ってしまうのも無理はない。

 しかし! お姉ちゃんはがんばったのだ!

 鞄からごそごそ取り出したのは、紙袋。それを渡すと、れんちゃんは不思議そうにしながらも紙袋の中身を取り出した。出てきたのは、ゲームソフト。

 

「なにこれ?」

「アナザーワールドオンライン。VRMMOだよ」

 

 なおも首を傾げるれんちゃんに、私はざっくりと説明することにした。

 

 

 

 フルダイブ技術が確立されてから、はや六年。数多くのゲームが開発されて、VRMMOもまた多く発売されてきた。あまりにも競争率が高くて八割以上のゲームがサービス終了しちゃったけど。

 アナザーワールドオンライン、略してAWOはその中でも高い人気を誇るゲームだ。システムは一昔前のMMOそのものなのでそこは賛否両論だけど、特筆すべきは他の追随を許さない圧倒的なグラフィックとNPCの高度なAIにある。まるで本当に剣と魔法の世界で生きているようだと評判なのだ。

 

「ふうん……」

「あまり興味なさそうだね」

「うん……。戦うのとか、やだ」

 

 それはそうだろう。れんちゃんは優しい子だからね。でも、その部分はわりとどうでもいいのだ。

 

「圧倒的なグラフィックって言ったよね」

「うん」

「動物たちもリアルです。かわいい犬さん猫さんたくさんいます」

「え!」

 

 おっと、れんちゃんが食いついた! さっきまでの冷めた目に一気に熱が入っていってる!

 

「テイムスキルがあります。つまりテイマーになれます」

「テイム?」

「簡単に言うと、動物やモンスターと友達になれるスキルだ!」

「わあ!」

 

 れんちゃんが期待に目を輝かせてる! きらきらしてる! でも、すぐにしょぼんと落ち込んでしまった。悲しげにゲームを見つめて。

 

「でも、お医者さんが許してくれるかな……」

「その点は大丈夫。許可は取ったよ」

「え? 本当!?」

「うん」

 

 れんちゃんは病室にこもりっきりだけど、小学二年生、勉強をしないわけにもいかない。どうやってそれをしているかと言えば、ここでフルダイブ技術の出番だ。

 脳波がうんぬんかんぬんの難しい話はよく分からないけど、VRマシンとフルダイブは問題なく使えるとのことで、れんちゃんは日中はVR空間で勉強をしてる。ただ、長時間続けると気分が悪くなるそうで、朝二時間、お昼二時間、夜二時間の使用のみという形だ。

 

 れんちゃんは勉強の成績は優秀らしくて、れんちゃんの主治医の人に相談してみたら、夜の二時間をゲームで使ってもいいということになったのだ。

 しかもそれだけじゃなくて、あらゆる方面の許可もその先生がわざわざ取ってくれた。

 

 許可というのは、実はVRゲームは小学生は禁止されているためだ。情操教育に悪影響がうんたらかんたらで世の中のお父さんお母さんたちが動いてしまった結果だね。

 中学生以降なら現実と虚構の区別ぐらいちゃんとつくだろうとこういう制限におさまったわけだ。まあ、中学生も制限時間は決められてて、自由に使えるようになるのは高校生からだけど。

 先生は運営会社と市役所にわざわざかけあってくれて、特例として許可が下りた。先生には感謝しかないよ。多分私だけだと絶対に無理だった。

 

「というわけで。お医者さんにはちゃんとお礼を言っておいてね」

「うん!」

 

 すっごく嬉しそうなれんちゃんの笑顔。私はもうこの笑顔が見れただけで満足だ。

 でも、本番はここから。ゲームで失敗すると、笑顔が曇るどころじゃないと思う。

 

「今日は夕方六時から。先生と一緒にゲームの設定をしてね。設定の注意事項はこの紙を読んでおくように。特に初期スキルは要注意!」

「うん……」

 

 れんちゃんはすぐに手渡したA4のプリントを読み始めた。これなら大丈夫そうかな。

 

「では、れんちゃん!」

「あ、はい!」

 

 私が大声で呼ぶと、れんちゃんがすぐに顔を上げた。どきどきしてるのがよく分かる、ちょっとほてった顔。

 

「ちょっと早いけど、私は帰って急いで宿題を終わらせます!」

「うん……」

 

 ちょっと寂しそうだけど、でも、大丈夫だ。

 

「だかられんちゃん。今日の夜は、あっち側で会おう!」

 

 はっとした様子のれんちゃんは、すぐに何度も頷いてくれた。

 れんちゃんを撫でて、手を振ってから病室を出る。さあ、急いで宿題を終わらせないと!

 



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キャラ作成

壁|w・)れんちゃん視点です。


 

 

 佳蓮は暗い部屋で、じっと時計を見ていました。もう何度も読んでほとんど記憶してしまった、大好きなお姉ちゃんからのお手紙を改めて読みます。

 お姉ちゃんは、よく分からない佳蓮の病気を怖がらなかった数少ない人です。原因が分からない病気なのでみんなが、それこそ一部の看護師さんも佳蓮を避けるのですが、お姉ちゃんはためらうような素振りも見せず、佳蓮のことを抱きしめてくれました。

 

 だから、佳蓮はお姉ちゃんが大好きです。忙しいのに毎日顔を見せてくれて、いろいろとお話ししてくれるお姉ちゃんが大好きなのです。

 そのお姉ちゃんがプレゼントしてくれたゲームは、動物が大好きな佳蓮の興味を惹くのに十分なものでした。動物と友達になれるなんて、とっても素敵です。

 わくわくしながら待っていると、佳蓮の病室にお医者さんのお兄さんが入ってきました。

 

「やあ、佳蓮ちゃん。待たせたね」

「んーん」

 

 首を振る佳蓮に、お兄さんは優しく笑ってくれます。

 お兄さんは部屋の隅にある機械を、ごろごろと足が回る台にのせて持ってきました。その機械は、佳蓮が使っているVRマシンです。大きな、けれど特殊な素材でとっても軽いヘルメットを佳蓮の頭にかぶせます。

 お兄さんもヘルメットをかぶりました。初期設定までは一緒にやってくれるそうです。

 

「それじゃあ、始めるよ」

「うん!」

 

 お兄さんがヘルメットの顎のところにあるボタンを押すと、音声が流れてきました。

 

『十秒後にログインします』

 

 ベッドに横になって、目を閉じます。するときっかり十秒後に、不思議な浮遊感を感じて、次に目を開けると夜の草原にいました。

 

「ちゃんとログインできたね」

 

 その声に振り返ると、にこにこ笑っているお兄さん。

 

「ほら、れんちゃん。前を向いて」

「前?」

 

 言われて、もう一度振り返ります。目の前にきれいなお姉さんがいました。

 

「初めまして。アナザーワールドオンラインへようこそ、大島佳蓮様」

「え、あ、あの、初めまして!」

 

 挨拶は元気よく! 佳蓮が大きな声で言うと、お姉さんは微笑んでくれました。

 

「うん。改めて……。私はゲームマスターの山下よ。運営の人で分かる?」

「分かる!」

「ふふ、いい子ね。本来はAIでの自動案内なんだけど、佳蓮ちゃんは特殊な事情なので私が手伝ってあげるね」

 

 山下さんはそう言って佳蓮を撫でてくれます。むむむ、この撫でられ心地はお姉ちゃんに匹敵するかもしれません。強敵です。

 

「まずは、ゲームで使う名前を決めるね。どんな名前がいいかな?」

「名前? 佳蓮だよ?」

「ふふ……。そうじゃなくて、ゲームで使うあだ名みたいなものよ。ゲーム中は本名は使っちゃだめなの。分かる?」

「分かる!」

 

 つまりあだ名を自分で考えてほしいということでしょう。あだ名を自分で考えるのって普通なのでしょうか。ちょっぴり恥ずかしいです。

 

「じゃあ、れん、で!」

「え? あ、ええっと……。本当のあだ名ということじゃなくて……。うーん……」

 

 山下さんが困ったように佳蓮の後ろを見ます。多分、お兄さんの方を。佳蓮も振り返ると、お兄さんは苦笑して頷きました。

 

「問題はないでしょう。そのまま進めてあげてください」

「畏まりました。それじゃあ、佳蓮ちゃん。ゲーム中は、れん、と名乗ってね?」

「はい!」

 

 ぽん、と佳蓮の目の前に、黒い四角形が出てきました。なまえ、と書かれていて、その横にはれんと書かれています。これがステータス、というものなのでしょう。ちょっと感動です。

 

「では次に、ステータスの割り振りです。Str、とか言っても分からないかしら……。れんちゃんは何の能力を上げたいのかな?」

「んっと……。お姉ちゃんにお勧めを聞いてるの」

「そうなの?」

「うん! えっとね、直接戦うことはあまりないはずだから、移動しやすいように……あれ? なんだっけ」

 

 何を上げるのか確かに書いていたし覚えていたはずなのですが、忘れてしまいました。横文字、ということは分かるのですけど。

 

「えっと……えっと……。あじ、あじ……あじり!」

「惜しい! AGI、アジリティね。他に希望は? なければ、他は万遍なくしておくけれど」

「じゃあ、はい。それで」

 

 難しいことはよく分からないのでお任せです。山下さんは頷くと、手元で何かしています。見えないキーボードでもあるのでしょうか。すぐに、佳蓮のステータスが追加されました。

 

 ちから:5、ぼうぎょ:5、たいりょく:5、きよう:5、はやさ:35、まほう:5。

 

「ステータスは一度だけ無料でリセットできるから、変更したい時はよく考えてね。もしもその後も変更したくなったら、課金アイテムになっちゃうから、お姉ちゃんに相談するように。大丈夫?」

「うん、だいじょうぶ!」

 

 お金がかかることはしたくないので、多分このままになるでしょう。

 

「次は、スキルです。初期スキルの中から三つまで自由に習得できるよ。ここで習得しなくても、ゲーム内でも条件を満たせばいつでも習得できるから、気楽に考えてもいいけど……。希望はある?」

 

 山下さんに聞かれて、佳蓮はお姉ちゃんからお手紙を思い出します。ええっと、確か……。

 

「テイムと、調合と、片手剣!」

 

 テイムはとても大事です。これが一番大事です。動物と友達になれるとっても素敵なスキルです。

 調合は、材料さえあればなんと動物のご飯を作れるそうです。ご飯を作って、手にのせて、食べてもらう……。想像しただけでとても楽しみです。

 片手剣は自衛手段らしいです。お姉ちゃんが片手剣を使っているそうで、お姉ちゃんが使っていた剣を譲ってくれるとのことでした。

 それらも山下さんに説明すると、山下さんはなるほどと少し考えて、

 

「そうね……。少しだけ、アドバイスしてもいいかな?」

「はい!」

 

 これはお姉ちゃんにも言われていたことです。もしかしたらスキルについてはお勧めを教えてもらえるかも、と。その時はちゃんと自分でよく考えるように言われています。

 

「片手剣スキルじゃなくて、騎乗スキルにしましょう。きっとれんちゃんも気に入るよ」

「んー? でも、モンスターさんに襲われることもあるんだよね?」

 

 佳蓮は戦いなんてしたくありませんが、襲われたら逃げるためにも少しは必要だと思います。そう言うと、山下さんは考えるように少しだけ視線を彷徨わせました。

 

「ちょっと待ってね……」

 

 山下さんの動きが止まります。どうしたのでしょう。

 

「多分、一時的にログアウトして上司か誰かに何かを聞いているんだろうね」

 

 お兄さんがそう教えてくれました。なるほどです。

 すぐに山下さんは戻ってきたみたいで、こほんと咳払いをしました。

 

「れんちゃん。あまり一プレイヤーに肩入れ、えこひいきはしちゃだめなんだけど、れんちゃんにはきっと必要な知識だから特別に教えてあげる」

 

 はて。何でしょう。

 

「このゲームに限らず、ほとんどのゲームのMMOにはノンアクティブモンスターとアクティブモンスターがいるの。ノンアクティブがプレイヤーが近くにいても襲ってこなくて、アクティブが襲ってくるモンスターね。分かる?」

「うん。大丈夫」

「うん。それでね、このゲームのアクティブモンスターは、ちょっと特殊なシステムになっているのよ」

「特殊?」

「そう。このゲームのアクティブモンスターは、プレイヤーの敵意に反応して攻撃してくるの。つまり、敵意さえ向けなければ、襲われることはないの」

 

 なんと。それはびっくりです。つまり、

 

「近づいてもふもふするだけなら大丈夫!?」

「そう。大丈夫。あと、PVPシステムもれんちゃんは小学生だから、オフにされてるよ。プレイヤーに襲われることは、どこにいてもあり得ない。だから、れんちゃんに片手剣スキルは必要ないと思うな」

 

 そういう理由なら片手剣はいらないでしょう。佳蓮も戦いたくはないのです。自衛がいらないのなら、ひたすら動物をもふもふなでなでするスキルがいいです。

 

「じゃあ、それで!」

「はい。じゃあ、それで設定しておくね」

 

 ステータス画面がさらに追加されました。

 

「次は、容姿だけど……。身長や体格とかは、リアルとの誤差を最小限にするために変えられないの。顔の輪郭とかならある程度変更できるけど、どうする?」

「りんかく?」

「ああ……。形ね。顔の形。あとは、目や髪の毛の色も変えられるわ。希望はある?」

「そのままで!」

 

 姿を変えるつもりはありません。だって、それをすると、お姉ちゃんが気付いてくれないかもしれないのです。お姉ちゃんに気付いてもらえなかったら、とっても寂しくて、多分ゲームなんてやめちゃいます。

 山下さんは頷いて、そのまま進めてくれました。

 

「最後に、最初に転移できる街を三つから選べるわ。街の名前は……知ってる?」

「知らないです!」

「ふふ。正直なのはいいことね。それじゃあ、特徴だけ……」

「あ、あの、お姉ちゃんが、ファトスって街で待ってるの!」

「あ、そうなんだ。それなら、ファトス開始にしておくね。……これで、よし」

 

 どうやら終わりのようです。なんだかちょっぴり長く感じました。

 でも、これで、いよいよお姉ちゃんと会えて、動物と友達になれる! そう考えると、とても、とっても、わくわくします!

 

「それじゃあ、れんちゃん。僕はここでお別れだから。お姉ちゃんと会ったら、いっぱい楽しんでくるんだよ」

 

 お兄さんがそう言ってくれたので、れんちゃんはしっかりと頷きます。お兄さんは満足そうに笑って頷くと、消えてしまいました。

 

「それでは、れんちゃん。楽しいファンタジーライフを!」

 

 そう言って、山下さんが手を叩きます。すると、佳蓮の体がゆっくりと浮き上がりました。

 

「れんちゃん! 最後に、お姉さんから、個人的なアドバイス!」

「んー?」

「このゲームのモンスターは、どんなモンスターでもテイムできるから! 友達になれるから! たくさんのモンスターと出会ってみてね! 友達になりたいっていう気持ちのテイムなら、敵意判定は受けないから!」

 

 その後も何かを言っていたようでしたが、残念ながら山下さんの姿は見えなくなってしまい、声も途切れてしまったのでした。

 

 



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草原ウルフ

 

 午後六時十分前。私は最初に選べる街の一つ、ファトスに来ていた。ファトスの中央には大きな噴水があって、初めてのプレイヤーは必ずここに現れるのだ。

 最初はチュートリアルのクエストがあるから初心者さんは見守るのがマナーなんだけど、リアル知人の場合はその限りではない。まあ、当たり前だね。

 

 噴水の側で待っていると、ちらちらと私の方にも視線が向けられてくる。でもすぐに興味なさそうに逸らされた。知り合いを待ってるんだろうと判断されてると思う。

 のんびり待つことしばらく。噴水の側に魔法陣が唐突に現れて、白く光り始めた。誰かが来る合図だ。みんなが興味深そうにちらちらと視線を送ってくる。今から驚く表情が目に浮かぶね。

 次の瞬間、ふわりと、小さな女の子が降り立った。

 

「んー……?」

 

 あはは。容姿については何も書かなかったんだけど、全くいじらなかったみたいだね。毎日見てる姿のままだ。れんちゃんは周囲を見回して、そして空を見て、何か感じ入っている様子。VRゲーム内とはいえ、太陽なんて久しぶりに見ただろうから、それでかもしれない。

 で、その姿を見た周囲のプレイヤーは、例外なく驚きに固まっていた。まあ、当然だと思う。

 VRゲームはリアルとの齟齬を最小限にするために、体の骨格を変更することはできない。身長はリアル準拠ということだ。

 

 それはつまり、年齢相応の見た目のれんちゃんは、いわゆる合法ロリか、本当の小学生ということになるわけで。さらには小学生は普通ならプレイできないことを考えると、合法ロリの可能性が極めて高くなるってことだね。

 合法ロリなんてそうそういるわけがないのに、男どもはいったい何の夢を見ているのやら。

 ざわざわとうるさい周囲を無視して、私は最愛の妹に駆け寄った。

 

「れんちゃーん!」

「あ、おねえちゃ……むぐう」

 

 ぎゅっと抱きしめる。ああ、さすがAWO。抱き心地もリアルと同じだ。素晴らしい。れんちゃんはゲーム内でもかわいいなあ!

 

「お、おねえちゃん、だよね……?」

「ですよー! れんちゃんの頼れるお姉ちゃんだよ! ちなみに私以外はこうして抱きしめることなんてできないから、安心していいよ」

「そうなんだ……。お姉ちゃんのことはどうすればひきはがせるの?」

「ひどい!?」

 

 私がショックを受けていると、れんちゃんは小さく噴き出した。冗談だったみたいだ。よかった、本気で言われていたら一週間は立ち直れなかったと思う。

 

「さてさてれんちゃん。ここは騒がしいので場所を移動しましょう」

「うん」

 

 れんちゃんの小さな手を握って、歩き始める。周囲はすごく声をかけたそうにしているけど、全て無視だ。

 れんちゃんを連れて行った先は、街の外の草原フィールド。初心者さんが最初に狩りをするフィールドで、今もれんちゃんと同じ初期装備の人がせっせと最弱モンスターを倒している。

 れんちゃんはそれを見て、ちょっとだけ嫌そうな顔をした。ゲームでも生き物を殺すのは嫌みたいだね。……あれ、ゲームの選択肢、間違えたかな……?

 

「れんちゃんれんちゃん。こっちこっち」

「んー?」

 

 手招きして、さらに少し移動。たどり着いたのは、初心者キラーと名高い草原ウルフが出てくるエリア。

 このエリア、初心者が狩るモンスターのエリアと隣接する上、同じ草原フィールドなので、調子に乗った初心者さんが手を出してよく殺されている。ある意味通過儀礼として定番のイベントだ。修正しろ運営。

 ただ、このフィールドのモンスターはボスのウルフリーダーを含めてノンアクティブ、つまりあっちから襲ってくることはないので、のんびり雑談するのは問題ない。

 

「さてさて。れんちゃん、ステータス見せて」

「どうするの?」

「こう、指を下から上に振ると出てくるよ。運営さんが私限定の可視モードにしてくれてるはず」

「かしもーど? おかし?」

「れんちゃんはかわいいなあ!」

 

 なでくりなでくり。れんちゃんの表情が微妙なものになっていたので大人しくやめます。嫌われたくはないのだ。

 れんちゃんが言われた通りの動きをすると、黒っぽい長方形の枠が出てくる。のぞき見ると、ちゃんとステータスが表示されていた。

 

「ふむふむ……。名前はれん、なんだね。呼び方変えなくていいから私は楽だけど、よかったの?」

「え?」

 

 首を傾げるれんちゃん。ああ、これ、よく分かってなかったパターンか。まあ、本名でもないし、大丈夫かな。

 

「スキルはっと……。え、なにこれ。武器スキルは!?」

「んー……。げーむますたー? のやましたさんが、いらないって」

 

 何故、と首を傾げる私に、れんちゃんは頑張って説明してくれた。その説明の内容は、初めて知るものだった。

 いやいや。ちょっと待ってほしい。アクティブモンスターが敵意に反応するとか、初めて知ったんだけど。新情報じゃないのそれ。

 でも、言われてみると納得することもあるんだよね。実は。

 

 以前、急いで別の街に行こうとしていた人が、アクティブモンスターが大量にいるエリアを突っ切ったことがあったらしい。多少のダメージは覚悟して突っ切ったらしいけど、驚くことに一切襲われなかったそうだ。

 それを聞いた検証大好きな変人たちが、いろいろなパターンを試して実験したらしい。同じように隣の街を目的に駆け抜けてみたり、装備なしで近づいてみたり。どこかへと駆け抜けた時のみ襲われなかったそうだ。

 それで検証の人たちは、アクティブモンスターが反応するまでに多少の猶予があるのだろうと結論を出していた。急ぐ人のための温情措置だろうと。

 

 でも、れんちゃんの話だと、あたらずとも遠からず、だったみたいだ。

 別の街に行くのはモンスターへの敵意がないから反応しなくて、装備を持たずに近づいた場合はモンスターが目的だから敵意と判断された、のかもしれない。多分。

 脳波を読み取るか何かしているVRゲームならではのシステムかな。実際の内部処理は分からないからなんとも言えないけど。

 

「でもだからって、武器スキルなしは思い切ったね……。驚いたよ」

「戦いなんていらないもん。なでなでしたいだけだもん」

 

 ちょっと拗ねて頬を膨らませるれんちゃんかわいい。天使だ。いや女神だ。拝もう。

 

「それはもういいよ」

「はい。ごめんなさい。まあ、そういうことなら、そのままいってみよっか」

 

 武器スキルなんて習得そのものはとても簡単だ。必要になれば覚えればいい。

 

「それじゃあ、れんちゃん!」

「はい!」

「お手本、ではないけど、こんな子がいるよってことで」

 

 テイムスキルは私も持っているのだ。私も動物は好きだからね。生き物に責任を持つっていうのがちょっと怖くて飼ってないだけで、もふもふは大好きです。

 

「おいで、シロ」

 

 私が呼ぶと、目の前に魔法陣が現れて、のっそりと名前の通りに真っ白な狼が出てきた。

 私の自慢の子。通常の草原ウルフは茶色系統の色なんだけど、ごく稀に真っ白な個体が出現するのだ。たまたま見かけて、エサをあげてみたらなんと懐いてくれた。

 それ以来、毎日のように手入れしてあげてる。かわいがってる。すっごくもふもふだ!

 

「わあ……!」

 

 れんちゃんの目が輝いてる! ふふふ、いいでしょうかわいいでしょう!

 

「撫でてもいいよ?」

 

 私がそう言うと、れんちゃんはおっかなびっくりといった様子でシロの体に触れた。シロもこの子が私の身内と分かっているのか、抵抗なんてしない。むしろれんちゃんのほっぺたをぺろぺろ舐めてる。

 

「かわいい……!」

 

 れんちゃんがシロを抱きしめた。すりすり頬ずりしてる姿は本当に愛らしい。いやあ、眼福眼福。

 

「お姉ちゃん、私もわんちゃんがいい!」

「お目が高いねれんちゃん!」

 

 犬扱いされたシロが少しショックを受けてるけど、気にしちゃいけない。シロが抗議の視線を送ってくるけど、気にしちゃいけない! あとでご飯をあげてご機嫌を取ろう……。

 

「それじゃあ、れんちゃん。テイムのやり方を教えるね」

「うん!」

 

 元気よく挨拶をするれんちゃん。挨拶しつつも、シロをもふもふし続けている。シロの毛並みを気に入ったのかもしれない。

 

「やり方は簡単。テイムしたいモンスターにエサをあげるだけ。モンスターが食べてくれれば、絶対にではないけど友達になってくれるよ」

「それだけでいいの?」

「うん」

 

 正確には、それが最低限の方法、というだけだ。実際は最初に戦闘をして、相手の体力を残りわずかにしてからエサをあげれば仲間になる確率は高くなる。でも、そんなことはれんちゃんに教える必要はないはず。教えても、嫌がるだろうから。

 それに、ここのモンスターは全てノンアクティブだ。エサを上げ続けていれば、そのうちどの子か仲間になってくれるはず。

 

「それじゃあ、手を出して」

 

 素直に両手を差し出してきたれんちゃんに、私が作っておいた魔物のエサを渡してあげた。れんちゃんにあげる、と口に出せば、システム的にも譲渡完了だ。

 れんちゃんに渡したのは大きな巾着袋。その中にはお団子みたいなエサが十個ほど入っている。これだけあれば草原ウルフならテイムできるはず。

 

「それじゃあ、がんばれ、れんちゃん!」

「うん!」

 

 れんちゃんはもう一度シロを抱きしめると、早速駆けだしていった。

 

 

 

 最初のテイムは、なんだかんだと特別だ。私もこのシロが初めてテイムしたモンスターだけど、やっぱり他よりもかわいく思える。

 まあ、だから、れんちゃんが悩むのも仕方ない。右を見ても左を見ても草原ウルフだらけの中、れんちゃんは考えながら歩いて行く。私は暇だし、というよりもれんちゃんのためにいるようなものだし、のんびりと付き合ってあげよう。

 れんちゃんはたまにこちらに戻ってくると、シロをもふもふなでなでしていく。よほど気に入ったみたいで、シロも喜んで受け入れていた。なんだろう、見ていてとっても和む。

 

「ごめんね、お姉ちゃん。時間かかっちゃって」

「いいよいいよ。気にせずゆっくりしてね。シロとのんびり待ってるからさ」

 

 ありがと、とれんちゃんが頷いた直後、シロがぴくりと鼻を動かして、耳を動かして、そして少しだけ首を動かして視線を固定させた。なんだろう?

 

「何かあるの?」

 

 れんちゃんも気付いてそっちに視線をやれば、

 

「あ」

「へえ……」

 

 視線の先、少し遠い場所に、白いウルフが出現していた。しかも、小さい。かなり小さい真っ白な狼。

 珍しいものを見た。あれはこのフィールドに低確率で出現するレアモンスターだ。シロみたいな白い草原ウルフよりもさらに稀少。噂では、一日に一回、こっそりと出てきて、そしてすぐに消えてしまう、なんてことも言われてる。

 見られただけでも運がいい、と思ったけど。

 

「シロ。もしかしてシロって、あの小さいウルフを見つけられるの?」

 

 シロがこちらを見る。何を今更、みたいな顔、の気がする。そういうことなんだろうなあ……。

 

「かわいい!」

 

 れんちゃんが真っ直ぐに駆けだしていった。

 

「あ、れんちゃん、その子は……!」

 

 あの子が稀少と言われる理由は、出現頻度もそうだけど、何よりもその逃げ足にある。プレイヤーを見つけると、あっという間に逃げ出して見えなくなってしまうのだ。高レベルのAGI極振りプレイヤーですら追えないほどの速さで。だから、こうして、見守ることしか……。

 

「あれ?」

 

 驚いたことに、小さいウルフは逃げなかった。なんとれんちゃんは無事にたどり着いて、小さいウルフを撫で始めている。

 

「うわあ……。ふわふわもこもこ……」

「お、おお……」

 

 どうしよう。すごく気になる。すごく! 気になる! でも私が行くと、今度こそ逃げられちゃいそう! いいなあれんちゃん! 私も撫でたい!

 結構な時間、れんちゃんはその子をもふもふしていたけど、思い出したみたいにエサを上げた。うんうん。せっかくのチャンスなんだから、ちゃんとチャレンジしないとね。さすがに一個じゃ無理だろうけど、あの様子なら何回かチャンスが……。

 

 うん。うん。なんで一回で成功してるの? なんで嬉しそうにれんちゃんの足下を走り回ってるの? え、いや、え? はい? なんで?

 つんつん、とシロが足をつついてくる。そちらを見やれば、シロは何やってるんだお前、みたいな顔をして、れんちゃんの方へと歩いて行ってしまった。なんだろう、とても、負けた気がする。シロに負けた気がする! 悔しい!

 

 シロに続いてれんちゃんの元へと向かえば、れんちゃんは小さいウルフを腕に抱えてもふもふしていた。なんだこれ。かわいい。かわいいとかわいいがまざりあって最強だ。

 改めて見ると、本当にこのウルフは小さい。子犬程度の大きさしかない。本当に子供だったりするのかな。

 

「れんちゃん、テイムできた?」

「うん。えっと、ともだちになれました、て出てきたよ」

「その表示もれんちゃん専用なんだね……」

 

 ちなみに普通は、テイムに成功しました、だ。すごく特別扱いされてないかなこの子。

 

「ステータス見せてもらってもいい?」

「えっと……。こう、かな」

 

 れんちゃんが表示してくれたステータスを後ろから見てみる。

 このウルフは、ラッキーウルフ、というらしい。そのまんまかい。

 種族の説明には、草原ウルフの上位種、白いウルフに守られているウルフのお姫様、とあった。戦闘能力は高くないけど、連れて歩けばいろいろな恩恵があるらしい。

 説明文を読み上げてあげれば、へえ、と気のない返事。そっちには興味がないらしい。れんちゃんらしい。

 

「れんちゃん。名前を考えてあげないと」

「名前!」

 

 ふわふわもこもこウルフを抱いていたれんちゃんがむむ、と唸る。いい名前をつけてあげてね。

 

「らっきー!」

「まって。いやほんとに待って。え、え? それでいいの?」

 

 首を傾げるれんちゃん。その仕草もかわいいね! でもね、本当にそれでいいの!?

 ラッキーって、そのまんますぎるよ! それに確かに犬の名前にラッキーって使われる時もあるけど、その子、狼だからね!?

 

「おねえちゃん、登録されたよ!」

「う、うん……。そっか。いや、れんちゃんがそれでいいなら、いいんだけどね?」

 

 なんとも色々と言いたくなるけど、れんちゃんがいいなら、いいか。うん。

 

「えへへ。らっきー」

「わふん」

 

 ぺろぺろれんちゃんのほっぺたをなめるラッキー。あざとい。実にあざとい。狼じゃなくて犬だね、間違い無い。

 ところで。そう、ところで、だ。私はね、とっても嫌な予感がしているわけですよ。

 ラッキーウルフの説明文には、ウルフのお姫様とあった。それはつまりさ、親がいるってことじゃないかな。王様みたいなのがいるってことじゃないかな!? そして私は残念ながらそれに心当たりがあるんだよね!

 

 ずしん、と地面が揺れる。まあくるよね、と振り返れば、大きな大きなウルフさん。他のウルフの五倍ぐらいの大きさ。でかい。このフィールドのボスモンスターだ。

 娘さんを取り返しにきたのかな。そうなんだろうな。そうとしか思えない登場の仕方だったよね。

 まあ、倒せるのは倒せる。危なげなく倒せる自信がある。フィールドボスといっても、最初のフィールドだしね。今更後れを取るとは思わない。

 でもなあ……。れんちゃんの前で、ゲームのモンスターとはいえ、生き物を殺したくないなあ……。

 

「おねえちゃんおねえちゃん!」

「んー? お姉ちゃんは修羅場を乗り切る方法を考えるのに忙しいけど、どうしたの?」

「友達増えた!」

 

 は? とまた振り返れば、草原ウルフが三匹ほど取り囲んでれんちゃんをぺろぺろしていた。なんだこれ。しかも全部テイムしたみたいだし。

 

「あ」

 

 お、れんちゃんがボスに気が付いた。

 

「おっきないぬ!」

 

 やめてあげて! 犬扱いにボスですら一瞬動き止まったから! モンスターにもAIが積まれてるかも、とは聞いたことあるけど、真実味が増すね。こんな気づき方はしたくなかったけど。

 そしてれんちゃんは恐れることなくボスに向かっていった。すごいよれんちゃん。怖い物知らずだね。

 

 まあ、ノンアクティブだから問題はないんだけどね。ぺたぺたボスを触って、ふわあ、なんて間延びした声を上げてる。ぺたぺた、というか、もふもふ、というか。いいなあ、柔らかそう。

 ボスもまた白いウルフで、じっとれんちゃんのことを見つめていた。顔を近づけて、ふんふん臭いを嗅いでいる。

 

「あ、そうだ! あなたも食べる?」

 

 れんちゃんが、エサを差し出して。ボスが、ぱくりと食べて……。

 

「えー……」

 

 ボスのテイムに成功するとか、どういうことなの……。

 

 

 

 ボスのテイムは、テイマーたちがずっと試してきたことだ。眠らせてみたり、ぎりぎりまで体力を減らしてみたりして、どうにかテイムしようとみんなが躍起になっていた。

 けれど、誰一人として成功することはなかった。確率が低いだけなら、いつかは誰かが成功するだろうに、ただの一人も成功しなかったのだ。

 出された結論は、ボスモンスターはテイムできない、というもの。私もそれを疑ってなかったんだけど……。

 

「えへへー。ディアももふもふだあ」

 

 ボスの背中にのって、全身でもふもふを堪能するれんちゃん。現実逃避したくなる。

 そのれんちゃんの頭の上には、小さいウルフのラッキー。なんか、すごい光景を見てる気がする。

 ちなみにボスはディアと名付けられました。かっこいい名前だね。うん。

 他の草原ウルフについては、名付けはなし。何か名前をつけようとしたけど、私が止めた。

 

 テイムには二種類ある。名付けをするかどうか、だけど、この差が大きい。

 名付けをした場合は、どこにいても名付けをした子を呼び出せる。ただしこれには上限があって、一人につき五匹までだ。取り消しもできるけど、れんちゃんがそれをするとは思えない。この先に他の出会いもあるかもだし、草原ウルフの名付けは止めさせてもらった。

 

 名付けをしない場合は、フィールドに来るたびにテイムした子たちが駆け寄ってくる。これは何匹でもできるけど、来てくれるのは毎回ランダムで五匹まで。もふもふするなり一緒に戦うなりは人次第だね。

 この辺りのシステムは後日のアップデートで変更が入るかもしれないけど。

 

「それにしても……」

 

 まだ一時間程度だというのに、なんでこんな怒濤の勢いでやらかしてるのかな。誰かに迷惑かけるようなことじゃないからいいけどね。いいけどさあ!

 

「ごろごろー」

 

 ああ、大きな犬の上でごろごろ転がるれんちゃんがかわいい……。なんか、考えるのが面倒になる。いいなあ、私もごろごろしたい。

 

「シロでごろごろとか……。どう考えても無理か」

 

 うん。変なこと言ったのは分かってる。何言ってんだこいつ、みたいな冷たい視線はやめるんだ。

 草原の隅っこで、ウルフたちと戯れるれんちゃんをのんびり眺める。なんだかこう、幸せな気持ちになる。と思っていたら、れんちゃんがディアの背中から下りてきた。草原ウルフが集まってきた。何も知らない人が見たら初心者さんが襲われてるように見えるのかな。

 

「わ、わ、わ……!」

 

 ウルフたちにもみくちゃにされてる。ほっぺた舐められまくってる。見ていてちょっと面白い。

 ウルフたちはひとしきり舐めると満足したのか、離れていく。一定距離まで離れて、丸くなった。あれは、もしかしてれんちゃんを守る布陣なのかな。

 

「おねえちゃーん!」

 

 おっと、呼ばれたので行きますか。

 シロを連れて、れんちゃんの元へ。れんちゃんはとことこ走ってきて私に抱きついてきた。ぎゅっと抱きしめておく。

 

「わぷ……。おねえちゃん、苦しいよ?」

「寂しかったもので」

「えー」

 

 嘘ではないけど、まあ見ているだけでも十分でした。こっそり視覚撮影でスクリーンショットもたくさん残した。ほくほくですよ私は。

 

「それで、どうしたのれんちゃん。もういいの?」

「んー……。この後は何するのかなって」

「特に予定はないよ。街を案内しようかなと思ったけど、れんちゃんはこの子たちと遊びたいんでしょ?」

「うん!」

「それなら、街は明日にしよう。今日はたっぷり遊んでおいで」

 

 背中を押してあげると、れんちゃんは嬉しそうにディアの元へと駆けていった。あんなに楽しそうなれんちゃんを見るのは久しぶりだ。

 ディア、ラッキーと遊び始めるれんちゃんを眺めながら、私はシロをもふもふした。寂しいわけじゃない。ないったら、ない。

 



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ファトス

 

 午後六時。今日は看護師さんがVRマシンの準備をしてくれます。二時間後に取り外しに来てくれるそうです。

 

「それでね、それでね、ちっちゃい犬とおっきな犬と友達になったの!」

「ふふ、そうなんだ。良かったね。どんな名前にしたの?」

「ちっちゃい方がラッキー、大きい方がディア!」

「そっか」

 

 すぽん、とヘルメットをかぶります。看護師さんに促されて、ベッドに横になりました。

 昨日、ゲームを終えてから、この時間がとても待ち遠しいものでした。はやくラッキーとディアに会いたいのです。お姉ちゃんにも街を案内してもらう予定なので、それもとっても楽しみです。

 佳蓮が機嫌良く笑っていると、看護師さんは小さく笑いました。

 

「楽しそうで良かった。今日もたっぷり遊んでくるのよ」

「うん!」

 

 佳蓮は知らないことですが、ずっとこの病室にいる佳蓮は看護師や他の患者からとても心配されています。だからこそ、こうして屈託のない笑顔を見て、彼ら彼女らはとても安心していました。

 

「はい、それじゃあ、いってらっしゃい」

 

 看護師さんの声に送られて、佳蓮はゲーム内にログインしました。

 

   ・・・・・

 

 午後六時少し前。私はれんちゃんと会う前に、報告のためにとある場所に来ていた。来ていた、というか、呼ばれたんだけど。

 なんだか古くさい山小屋の中。私の対面に座っているのは、ゲームマスターの一人、山下さんだ。

 

「なるほど。一応こちらでもモニタリングしていましたが、楽しんでくれているようで何よりです」

「いやあ。本当に、皆さんにはなんてお礼を言えばいいのか。あんなに楽しそうなれんちゃんを見るのは久しぶりで」

「そう言ってもらえると、運営一同とても嬉しく思います。おそらく、あの子がこの世界を一番楽しんでいるでしょうから」

「あははー。私もそう思います」

 

 このゲームは決して戦闘がメインのゲームじゃない。むしろ異世界での生活を主題としたゲームだ、と山下さんも言っていた。だからこそ、戦闘よりももふもふ一直線のれんちゃんが彼女たちにとっても好ましいらしい。

 

「開発曰く、動物やモンスターのデザインに一番苦労したらしいんですよ。触った時に、リアルのような、むしろそれ以上の肌触りになるように、と苦心したそうで。あの子の映像を少しだけ見せてあげましたが、それはもう狂喜乱舞していて、気持ち悪かったです」

「あ、はは……」

 

 苦労が報われたら嬉しいのは分かるけど、それはちょっと聞きたくなかった……。

 

「では、そろそろ六時ですし、今日はここまでにしておきましょう。何かあれば、いつでもご連絡ください。最低でも私はすぐに対応できるようにしておりますので」

「すみません、ありがとうございます」

 

 運営にとっても、やはり小さい子の様子は気になるらしい。主に、健康面で。まあ戦闘なんてせずにひたすらもふもふと遊んでいるだけになりそうなので、問題ないとは思うけどね。

 

「あ、ところで山下さん、れんちゃんがテイムしたあのウルフについて聞きたいんですけど……」

「ああ……。ラッキーウルフが逃げなかった理由と、ボスが簡単にテイムできた理由、でしょうか」

「です」

 

 山下さんは答えていいか少し悩んだみたいだったけど、まあいいかとばかりに話してくれた。

 

「ラッキーウルフはアクティブモンスターです。ただ、攻撃をしてくることはなく、全力で逃走するの一択ですが」

「あー……。なるほど……。だから敵意なしのれんちゃんは簡単に近づけたんですね」

「そういうことです。ボスについては、テイムしたラッキーウルフが近くにいる時の特殊効果ですね。テイムできる確率が跳ね上がります」

「おお……」

「ちょっとずるいと思うかもしれませんが、戦闘能力皆無のモンスターで、守りながらテイムしないといけなくなる、という内容だったのですが……。純粋な子って怖いですね……」

 

 山下さんもラッキーウルフをいきなりテイムするとは思ってなかったらしい。てっきり運営が気を利かせてくれたのかと思っていたけど、まったくの偶然みたいだ。

 

「敵意がないために攻撃されなくて、友達になりたいとテイムしていて、さらにはラッキーウルフで確率まで上げられていて……。大丈夫ですかこれ。なんか、こわいんですけど」

「チートをしていたならともかく、公式の設定ですから。さすがにこの合わせ技は我々も予想外でしたけど」

「ですよね……。ラッキーウルフの人気が高まりそうです」

 

 私がそう言うと、山下さんはにやりといたずらっぽく笑った。いや、むしろ、とっても黒い笑顔だ。頬を引きつらせる私に、山下さんは意味深に言った。

 

「ふふ……。友達になりたい、は敵意なしと判断されますけどね。能力が欲しいからテイムしたい、は当然のように敵意判定を受けますよ」

 

 テイムできる方はいるでしょうかね、と笑う山下さんの笑顔は真っ黒だった。大人怖い。

 

 

 

 そんな報告会を終えてやってきたのは昨日の草原。れんちゃんの姿を探すと、昨日と同じ草原の隅に大きな狼がいるのが見えた。そちらへと向かってみれば、案の定と言うべきか、れんちゃんがいた。

 ディアが大人しく寝転がっていて、その体をお布団にしてれんちゃんは眠っている。抱き枕はラッキー。こちらも大人しくして……、あ、寝てる。

 

 ディアがこっちに視線を向けてきたので会釈してみる。なんと、会釈を返された。かしこい。

 いやあ、それにしても……。いいなあ、これ。もふもふ天国だ。私ももふもふを布団にしてもふもふを抱いてもふもふで寝たい。もふもふ!

 ただ、ほどよいところで起こさないといけない。うたた寝の場合、三十分ほどで強制ログアウトだ。気持ち良く寝ていた時に強制ログアウトで目覚めると、なんだか微妙に気分悪いんだよね。体調が悪くなるってわけでもないんだけど。

 

 すぐに起こすのは申し訳ないので、私はれんちゃんの側でシロを呼び出して、とりあえず抱きしめた。もふもふである。

 そうして待つこと二十分。それでも起きないのでそろそろ起こしましょう。でも起こす前にもう一枚、写真をとる。……うん、いい感じ。よしよしではでは。

 

「れんちゃん」

 

 とりあえず呼んでみる。反応なし。

 

「れんちゃん!」

 

 叫んでみる。反応なし。

 仕方ないのでアラームだ。普通は人のアラームなんて聞こえるわけがないんだけど、私は保護者ということで私のアラームはれんちゃんにも聞こえるようになっているのだ。

 

 一分後にタイマーセット。するとぽん、とすごく古くさい目覚まし時計が目の前に落ちてきた。開発の人の趣味かな。その目覚まし時計をれんちゃんの側に置いて、と。

 私が耳を塞ぐと、シロとディアも前足で耳を塞いだ。なにこのかわいい仕草。

 そしてけたたましく鳴る目覚まし時計! 飛び起きるれんちゃんとラッキー! 一人と一匹はびっくりした顔できょろきょろしてたけど、私と目が合うと頬を膨らませた。

 

「おねえちゃん、ひどい」

「ごめんごめん。でももう少ししたら強制ログアウトだったよ。どっちみち起こされるなら、ディアたちに囲まれたここで起きたくない?」

「むう……。それはそうだけど……」

 

 ぽふん、とディアにもたれるれんちゃん。そのれんちゃんのほっぺたをラッキーがなめて、れんちゃんがラッキーをぎゅっと抱きしめた。ふわふわしてそう。

 

「そろそろ街の案内に行きたいけど、いいかな?」

「うん」

 

 れんちゃんが立ち上がって、歩き始めようとしたので慌てて言った。

 

「ちょっと待ってれんちゃん。ディアには一度帰ってもらっていい?」

「え? どうして? 一緒に行きたい」

「うん。気持ちは分かるけど、こんなに大きな狼が街の中を歩いてたら、れんちゃんならどう思う?」

「かわいい!」

「だよね!」

 

 れんちゃんならそう答えるだろうね! でも違う、そうじゃない、そうじゃないんだよ……!

 

「でも他の人はやっぱりちょっと怖いんだよ。大人しいって知ってるのは私たちだけだから。連れて歩いちゃうと、怒られるかも」

「そっか……。ごめんね、ディア。また後で会おうね」

 

 れんちゃんがそう言ってディアの体を撫でると、ディアはそれでいいと言いたげにれんちゃんのほっぺたを舐めた。うん。なんか、よだれすごそう。ゲーム内だから表現はとても控えめだけど、これリアルだったらとんでもないことになってるんだろうなあ。

 またあとでね、とれんちゃんが手を振ると、ディアは突然出てきた大きな魔法陣で消えてしまった。送還はいつ見ても少し驚く。れんちゃんも凍り付いて動かなくなってしまった。

 

「お、おねえちゃん! ディアが!」

「うんうん。あとで会えるから落ち着いてね。ほら、行くよ」

「う、うん……」

 

 なんだか不安そうにディアがいたところを何度も振り返るれんちゃんがおかしくて、ちょっとだけ笑ってしまった。

 

 

 

 多くのプレイヤーが訪れる街だけあって、最初の街のファトスはとても広い。ただ、広いといっても、正直なところこの街は……。

 

「あのね、お姉ちゃん。ここって、街なの? 村じゃなくて?」

「街と言えば街なのです。まあ、多分他と統一してるだけで、村だよこれは」

「だよね……」

 

 ファトスは初心者さんが初めて降り立つ噴水を中心として、その周辺の少しは石造りの街並みで整備されてるんだけど、そこを少しでも外れるとのどかな田園地帯になる。プレイヤーの人数も、他に選べる街と比べると少し少なめだ。

 

「多分れんちゃんは説明を飛ばしちゃったんだと思うけど、最初に選べる三つの街は、実はすぐ側にあるんだよ。この街の隣はもう一つの街、セカンがあるし、そのもう少し向こう側には最後の一つのサズがあるの」

「そうなの? じゃあ、どうして別々にしてるの?」

「プレイスタイルによってわけられてるみたいだね」

 

 と、説明されるはずだったんだけどね。間違い無く説明を飛ばしちゃったねこれ。

 ファトスは、農耕とか釣りとか、そういった自然を活かした生産スキルを教えてもらえることができる街だ。ファンタジーライフ、というよりも、田舎の生活に近いかもしれない。

 

 セカンは物作りなどの生産スキルが主になる。当然ながら物作りの職人が多くいるので、攻略ばかりしている人もセカンにはよく訪れる。だから一番栄えている街だ。

 

 サズは、戦闘メイン。すぐ側には初心者用のダンジョンもあるし、戦闘スキルの使い方を教えてくれる修練場なんてものもある。私も一度だけお世話になったけど、本当に丁寧に教えてくれて助かった。

 それをざっと説明したんだけど、ふーん、の一言で片付けられた。興味なしですかそうですか。

 

「まあ、うん。テイムはここファトスに分類されてるから、ここを選んでもらったってわけだね」

「んー……」

「えっと……。イメージと違った? セカンに行ってみる?」

 

 すでにテイムも覚えてテイムモンスターもいるなら、ここにこだわる理由はない。いわゆるファンタジーライフはセカンが一番イメージに合うと思う。そう思って聞いてみたんだけど、れんちゃんはゆるゆる首を振って、にぱっと笑った。

 

「ここがいい。のんびりしてて、好き」

「あー……。そっか。そうだね」

 

 確かに、セカンより向こう側はなかなかに騒がしい。ここを拠点にしている人はゆっくり過ごしている人も多いし、動物と戯れるならここだろうね。

 れんちゃんを連れて案内して場所を教えるのは、道具屋や武具屋など、施設関連。しかしそれらは場所だけ知っていればいいのです。目的地は、村の……じゃなかった、街の郊外にある、ここ!

 

「テイマーズギルド!」

「おー」

 

 大きな木造平屋の建物。でもメインは、その向こう側に広がるギルドの所有地! ここはテイマーさんたちが交流する場所で、その所有地の放牧地ではテイムしたモンスターと一緒にみんなで遊ぶことができるのだ!

 まあ遊ぶというか、我が子自慢ばかりだけどね! 自分がテイムした子が一番かわいいと言い張って譲らない連中だからね! 変人ばっかりだね!

 まあ私もシロがかわいいけどね? 一番かわいいのはれんちゃんです、当たり前だよね。

 

「なんか、おねえちゃんの目が気持ち悪い」

「ひどい」

 

 しょんぼりしつつ、ギルド内へ。ギルド内は椅子とか机とかは最小限で、ここでもみんなテイムしたモンスターを出して自慢してる。

 

「わあ……! たくさんいる……!」

 

 れんちゃんの瞳が輝いて、あっちこっちに視線がいってる。大きな鹿に興奮したかと思えば、巨大な水槽に浮かぶイルカのような何かに歓声を上げて、とても楽しそうだ。

 

「え、うそ、子供?」

「どう見ても小学生だよな? まさか合法ロリ!?」

「そんなもんいるわけねえだろ。……いや、でも、そうだとしたら小学生? どうやって?」

 

 居合わせた人はみんなれんちゃんに驚いて、そして、

 

「なあ、あの子が抱いてるのって、まさか……」

「うそ!? 小さいウルフ!? テイムしたのか!?」

「うわあ! ふわふわもこもこしてる! さ、触ってみたい……!」

 

 ラッキーに釘付けになった。さすがは動物好きが集まるテイマーズギルド。幼女よりも子犬とは、さすがだ。

 

「れんちゃんこっち」

 

 建物の奥、カウンターにれんちゃんを連れて行く。

 

「何するの?」

「まずはギルドに登録。お姉さんに話しかけてみて」

「うん」

 

 登録といっても、難しいものじゃない。基本的な情報はシステムに登録されてるわけで、ここでするのは利用しますという宣言みたいなものだ。特に何か聞かれることもなく、名前を告げて、畏まりましたと言われておしまい。本来はそのすぐ後に説明もしてもらえるけど、今回はれんちゃんに必要な部分だけ私がすればいいので省略。

 

「それじゃあれんちゃん。メニュー出して」

「うん……」

「メニューに新しい項目できてるでしょ? ギルドホームってやつ。そこに触れてみて」

 

 頷いたれんちゃんがメニューに触れた直後、れんちゃんの姿が消える。とりあえずは無事に移動できたらしい。私も早く追うとしよう。

 私もメニューのギルドホームをタッチする。するとれんちゃんにはない、別のメニューが出てくる。マイホーム、と、れんのホーム、という項目。保護者特権だ。ふふん。

 れんのホームをタッチすると、すぐに視界が切り替わった。短い草と少しの木、そして小さい家しかないフィールドだ。

 

「あ、おねえちゃん! なにこれなにこれ!」

 

 れんちゃんがぱたぱた腕を振り回して聞いてくる。すごく興奮してるのが分かるけど、いつもと違う仕草がとてもかわいい。

 そのれんちゃんの側には、尻尾をぶんぶん振ってるディアがいた。犬か。犬だな。

 

「ここはプレイヤー一人一人に与えられるフィールドだよ。広さはあまりないけど、定額課金で広くすることもできるよ。で、ここのフィールドには、テイムしたモンスターが全部いるからね。名付けしてなくても、ね」

 

 れんちゃんと一緒にフィールドの奥へと視線を投げれば、草原ウルフが走ってくるところだった。わあ、とれんちゃんが歓声を上げて、遊び始める。思わず頬が緩む。

 このフィールドは、いわゆるハウジングシステムの代わりだ。最初はそれぞれの街で実際に家を購入できるようにしていたらしいんだけど、プレイヤー数が想像を遙かに超えてしまったために足りなかったらしい。

 

 それならと運営は、プレイヤーが管理できる小さいフィールドを提供して、街にある家々はクラン専用として、クランマスターのみが購入できるようになった。

 ちなみにクランっていうのはプレイヤーが集まるコミュニティみたいなものです。ほとんどのオンラインゲームにあるいつものやつだね。

 と、ここまで口に出してはいたんだけど、れんちゃんは興味がないらしい。まあいいんだけど。

 

「れんちゃんれんちゃん。もうちょっといいかな」

「はーい」

 

 れんちゃんがディアに乗って戻ってくる。……いやちょっと待って。

 

「なにそれ!?」

「え? のせてってお願いしたら、のせてくれたよ?」

「うそお!?」

 

 ウルフに乗れるなんて聞いたことないんだけど!?

 試しにシロを呼び出して、のせて、とお願いしてみる。何言ってんだこいつ、みたいな顔をされた。ひどい。

 でもどうしてだろう、と少し考えて、れんちゃんの初期スキルを思い出して納得した。

 

「このための騎乗スキルか……!」

 

 さすが運営だよ本当に! 私もあとで取りに行こう。馬に三十分ほど乗って練習すれば取得できるスキルだったはずだ。多分。

 

「おねえちゃん?」

「あ、ごめんごめん。あれ、気付いてる?」

 

 私の後ろを指差して、れんちゃんと一緒に振り返る。そこにあるのは、小さな可愛らしいログハウス。

 

「わあ!」

「あれ、れんちゃんのお家だからね。好きにカスタマイズ……模様替えしていいからね」

 

 それにしても、太っ腹な運営だ。本来の初期状態なら、本当にシンプルで何もない家のはずなんだけど、れんちゃんのお家は最初から小さい庭も完備されているし、中を見てみると小さいながらも椅子やテーブルも完備されていた。至れり尽くせりだね。

 

「じゃあ、今日はここでのんびり遊びましょう。モンスターもテイムした子以外は出てこないから、好きに遊んできて大丈夫だよ」

「はーい!」

 

 家の中をきょろきょろ見回していたれんちゃんだけど、私がそう言うとすぐに外に駆けだして行った。やっぱり家よりもふもふらしい。その気持ちはよく分かる。

 

「もふもふと戯れるれんちゃん……。後ろ姿なら、いいかな」

 

 ちょっと自慢したくなったので、後ろ姿が写るように写真を撮る。頭にラッキーを載せて、ディアに抱きつくれんちゃんだ。

 

「れんちゃんれんちゃん。顔は見えないようにしておくから、ちょっと写真を公開してもいい?」

「いいよー。テレビだっけ? それで顔出てるし、別に気にしないよー」

「あ、うん……。なんか、ごめん……」

 

 あれ。れんちゃんもしかして結構気にしてたのかな……?

 許可ももらえたので、公式サイトのスクリーンショット掲示板に投稿しておこう。コメントは、私の妹は世界一、と。

 

 

 

 夜。

 なんか、コメントがたくさんついてるんだけど。お気に入りすごいことになってるんだけど。なにこれ。お前らみんなロリコンか何かなの? バカなの?

 いやでも、れんちゃんだからね! さすが私の妹! ふふん!

 で、ちょっとだけ心惹かれる書き込みがあった。動画で見たい、だって。

 

 ふむう……。まあ、私も、もっと自慢したい気持ちはあるけれど。どうしようかな。

 このゲームは、とある大手の動画投稿サイトと提携していて、ゲーム内の様子を生配信できる。このサービスを使えば本来の配信に必要な機器は必要ないので、いつもそれなりの人数が配信してる、らしい。私はあまり見ないけど。

 それを使えば、もっとみんなにれんちゃんを自慢できるかも。んー……。

 とりあえず、れんちゃんに聞いてみようかな?

 



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掲示板1

壁|w・)普段掲示板ってあまり見ないので、変だったらごめんね!


 

AWOについて語るスレ

 

 

1.管理人

 

ここはAWOについての雑談する場所です。

どんな内容でも、好きに語りましょう。

 

 

 

 

233 名無しさん

草原ウルフ強すぎぃ!

 

 

234 名無しさん

草原ウルフってことは初心者さんかな?

 

 

235 名無しさん

新鮮な初心者さんだ! かこめ!

 

 

236 名無しさん

座布団を用意しろ!

 

 

237 名無しさん

お茶をお出ししろ!

 

 

238 名無しさん

>>233さん この三馬鹿は放置でいいからな

で、どうしたの

 

 

239 名無しさん

お、おう あまりの勢いでびびった……

いやさ、さっきまでウサギを倒してたんだけど、経験値の入りが悪くなったんだ

だから側の草原ウルフとやらに手を出してみた

 

 

240 名無しさん

ああ……

 

 

241 名無しさん

ここにも犠牲者が……

 

 

242 名無しさん

だからフィールドの構造をもう少し変えろとあれほど……

 

 

243 233

え、どういうこと?

 

 

244 名無しさん

次の適正モンスは街を挟んで草原の逆、森にいるスライムな

 

 

245 名無しさん

正式名は劣化スライミー

次の狩り場はそこだから、悪いことは言わんからそこにしろ

 

 

246 233

マジか

あの小さいウルフに会いたかったんだけどな

 

 

247 名無しさん

小さいウルフ?

 

 

248 233

そう

風が気持ちよくてうたた寝しちゃったんだけどさ

 

 

249 名無しさん

わかる

 

 

250 名無しさん

俺もやった

敵もノンアクティブばかりだからのんびりできるし

 

 

251 名無しさん

まあ周囲の戦闘音とかうるさいし変な目で見られるけどな!

 

 

252 名無しさん

誰もが通る道だなあれは

 

 

253 名無しさん

あんなに気持ちのいいフィールドなのが悪いんだ

 

 

254 名無しさん

結論、運営が悪い

 

 

255 名無しさん

ひでえw

 

 

256 名無しさん

 

 

257 名無しさん

なんでや! 運営は何も悪くないやろ!

 

 

258 233

続きいい?

 

 

259 名無しさん

おk

 

 

260 名無しさん

正直すまんかった

 

 

261 名無しさん

ええんやで

 

 

262 名無しさん

やさしい

 

 

263 233

それでさ、起きたら腹の上に小さいウルフがいたんだよ

腹の上で丸くなってて、すっげえかわいかった

是非ともテイムしたい

 

 

264 名無しさん

ああ、>>233さんはテイマーなのか……

 

 

265 名無しさん

それは、その、なんというか……

 

 

266 233

なんだよ

 

 

267 名無しさん

その小さいウルフ、レアエネミーなんだ

 

 

268 名無しさん

しかも未だテイムできた報告が一度もなく、街での目撃も一切ない

 

 

269 名無しさん

そもそもとしてテイムできる機会がない

あれ、こっちが無警戒だと気付いたら近くにいるけど、気付いたら即逃げるからな

 

 

270 名無しさん

しかもAGI極振りの上位プレイヤーですら追いつけないほど

 

 

271 名無しさん

ただ、その後の確率が関わるスキルは成功率が結構高くなるらしい

だからそういう趣旨のレアエネミーなんじゃないかって話だ

 

 

272 233

つまり、テイムできない?

 

 

273 名無しさん

そういうことだな

 

 

274 233

そんな……

わりと本気でショック……

 

 

275 名無しさん

まあ、落ち込むなよ

見れただけでも幸運だよ

 

 

276 名無しさん

テイムスキルの成功率も上がってるはずだから、試しに草原ウルフにエサでもあげてみ

 

 

277 233

おう……

ちょっといってくる

 

 

278 名無しさん

元気出せよ

 

 

279 名無しさん

まあ一時、みんな必死になってテイムしようとした人気モンスだからな

気持ちは分かる

 

 

280 233

草原ウルフテイムできた!

いやこの子はこの子でいいなあ、かわいいなあ、かわいいなあ!

 

 

281 名無しさん

はえーよwww

 

 

282 名無しさん

落ち着けwww

 

 

283 名無しさん

大丈夫か、その子戦わせられるのか?

 

 

284 233

は? アホか、そんなかわいそうなこと、するわけないだろ!

この子はもふもふ枠なんだ……愛でるんだ……

かわええんじゃあ……

 

 

285 名無しさん

お、おう

 

 

286 名無しさん

新たなもふもふの犠牲者が……

 

 

287 名無しさん

いやでも分かるよ、このゲーム、動物が本当にリアルだからな……

そしてもふもふだからな……

 

 

288 名無しさん

あのもふもふを経験すると他のゲームに行けなくなる

行ってもすぐに戻ってくることになる

 

 

289 名無しさん

わかる

 

 

290 名無しさん

このゲームのもふもふは魔性のもふもふやで……

 

 

   ・・・・・

 

 

323 名無しさん

こちらファトスのテイマーズギルド、重大事件が起きた

 

 

324 名無し

おう、なんだどうした

 

 

325 名無し

誰かが露出プレイして捕まったか?

 

 

326 名無し

それ、たまに誰かがやるよな

馬鹿は何故減らない

 

 

327 323

ちょっと前に幼女のプレイヤーを見かけたって話あっただろ?

 

 

328 名無しさん

あったあった

 

 

329 名無しさん

SSもないし嘘か見間違いってなったやつな

 

 

330 名無しさん

そのわりには目撃者も多かったけどな……

 

 

331 323

今その幼女、テイマーズギルドにいる

 

 

332 名無しさん

ふぁ!?

 

 

333 名無しさん

まって

いや、え、まじで?

 

 

334 323

まじまじ

俺以外にも見てるだろ?

 

 

335 名無しさん

見てるぞ

ペロッ、これは間違い無く、幼女!

 

 

336 名無しさん

は?

 

 

337 名無しさん

ギルティ

 

 

338 323

通報した

 

 

339 名無しさん

ごめんなさい

 

 

340 323

でさ、報告がまだあるわけよ

 

 

341 名無しさん

情報の小出しはやめるんだ

 

 

342 名無しさん

はよはけ

きりきりはけ

 

 

343 323

小さいウルフを抱いてた

白いし間違い無くすぐに逃げるあいつだ

 

 

344 名無しさん

は?

 

 

345 名無しさん

テイムできたってことか!?

 

 

346 名無しさん

うっそだろ!?

 

 

347 名無しさん

俺もギルドにいるけど、マジで小さいウルフだ

こんなに近くで見るのは初めて

 

 

348 323

もう見るからにふわふわもこもこのもふもふ

幼女とかどうでもいいから触ってみたい、是非とも抱かせてほしい

 

 

349 名無しさん

だよね、だよね! かわいいよね!

ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから抱かせてくれないかなあ!

 

 

350 名無しさん

すげえ、発言内容際どいのにまったくそうと思えねえ

 

 

351 名無しさん

テイマーってすごいよな

その、いろんな意味でさ……

 

 

352 323

あ、行っちまった

 

 

353 名無しさん

ちょっとだけ会話が漏れ聞こえたけど、ホームを登録しに来ただけっぽい

 

 

354 名無しさん

そうか

できれば俺も見たかった……

 

 

355 323

入ってきた時、周りを見てはしゃいでたから多分また来るぞ

 

 

356 名無しさん

それはつまり?

 

 

357 名無しさん

ちょっとウサギテイムしてくる

 

 

358 名無しさん

今更テイマーに転向とかアホだろwww

ちょっとウルフテイムしてくる

 

 

359 323

お前らさあ……

俺はトラをテイムしてくる

 

 

360 名無しさん

いやお前テイマーじゃないのかよ!?

 

 

361 名無しさん

 

 

362 名無しさん

ドラゴンとかだとどうなんだろう

やっぱりかわいい方がいいかな

 

 

363 名無しさん

そりゃそうだろう

女の子だぞ

 

 

364 名無しさん

そっかー

 



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配信一回目

 

「やる!」

 

 配信の打診をしてみたところ、れんちゃんは即答だった。断られるだろうと思っていたからびっくりした。

 

「え、あの、いいの?」

「うん! みんなに見てもらうんでしょ? 見てもらう! 自慢する!」

 

 それを聞いて、妙に納得してしまった。血は繋がってないけど、私の妹だなあ、と。

 つまりれんちゃんは、テイムしたラッキーとディア、それにたくさんの草原ウルフを自慢したいのだ。私が妹を自慢したいように、この子は友達を自慢したいのだ。

 分かる。分かるよれんちゃん。その気持ち、とっても分かる!

 今、ここに! 私とれんちゃんの利害は一致した!

 

「よし、じゃあれんちゃん。早速だけど、今日は配信してみよう!」

「うん!」

 

 と、ここまでが病室でのやり取りなわけだ。

 帰宅した私は早速ゲームマスターの山下さんに連絡した。するとすぐにゲーム内で会いたいと言われたので、ログインして山下さんと会ってみた。

 

「正気ですか?」

 

 大変失礼ではあるけど至極真っ当なお言葉でした。

 

「だ、だめですか?」

「だめ、とは言いませんけど……。佳蓮さんがそれをやりたいと言っているなら、止めはしませんけど……」

 

 なんとも不思議な表情。山下さんが何か悩んでいるのは分かるけど、それが何なのかは分からない。私が首を傾げていると、山下さんは少し考えながら口を開いた。

 

「佳蓮さんもやりたいのなら、こちらとしては構いません。お二人なら妙なことはしないと思いますし……。ですが、佳蓮さんのテイムモンスターを見せるのですよね?」

 

 ラッキーとディアのことかな。それはもちろん出すことになる。むしろれんちゃんはあの子たちを自慢するのが目的みたいだし。かわいいからね、気持ちは分かるとも。

 

「必ず、心無い言葉をぶつけられます。これに関しては、断言します。それでも、大丈夫ですか?」

「あー……」

 

 なるほど。ちょっと考えてなかったけど、当たり前だ。きっと、チートとかそんなことを疑う人も出てくると思う。罵詈雑言も、きっとある。

 

「そのことも、一度佳蓮さんに話してみてください。それでもやってみたいということでしたら、こちらでもできる限りのサポートはさせていただきます」

「すみません。ありがとうございます」

 

 その後は色々と細かい部分を決めてから、時間になったのでれんちゃんに会いに行くことにした。

 

 

 

 で、話した結果のれんちゃんの反応は。

 

「別にいいよ」

 

 とってもあっさりしたものだった。これには私の方が予想外です。

 

「いいの? 私が言うのもなんだけど、やめた方がいいかもしれないよ」

「だいじょうぶ。いやならやめるよ!」

「あ、はい」

 

 それもそうか、とも思う。れんちゃんの目的はこの子たちだものね。変な悪評が立ってパーティに入れなくなった、なんてことがあっても、関係ないのは確かだ。多分気にせずここでもふもふし続けてる気がする。

 

「それにね、そういう怒られるのも、いいかなって」

「れんちゃんが変態さんになった!?」

「おこるよ?」

「ごめんなさい」

 

 いや、でもだって、そんな怒られるのもいいとか言われたら、いわゆるMな変態さんになったと思うと私は思うのですよ。私だけですかそうですか。

 

「あのね、そうじゃなくて」

「うん」

「わたし、他の人を知らないから」

「あー……」

 

 納得した。してしまった。

 れんちゃんは病室から出ない。出られない。だから、れんちゃんの世界はあの部屋で完結してしまっている。れんちゃんにとって、他の人というのは、家族を除けば主治医のおにいさんと、れんちゃんのことをよく知る看護師さんの二人だけ。

 

 もちろん検査とかで会う人もいるけど、稀にしか会わない人はいないものと大差ないだろう。あの子にとっての他人は家族含めても五人しかいなくて、五人ともれんちゃんを叱るということがあまりない。れんちゃんが良い子だから叱る必要もないだけなんだけど。

 だから、れんちゃんにとっては、人の悪意ですら珍しいものなんだと思う。見てみたい、と思うほどに。こればかりは、私には理解したくてもできない感覚だ

 

 けれど、うん。れんちゃんがそれでいいなら、やってみよう。

 というわけで、配信準備です。まあ準備といっても、タイトルやコメントを考えるだけで、あとは自動的に設定してくれるんだけどね。

 

「ところでれんちゃん。さっきから、ラッキーが私をよじ登ろうとしてるんだけど」

「うん。かわいいね」

「いやかわいいけど」

 

 さっきから、小さい足で私の足をのぼろうとしてるんだけど、まあ当たり前だけどうまくいってない。私が座ってるならともかく、立ってるし。だからなのか、前足でぺふぺふ叩かれてるだけになってる。

 仕方ないので抱き上げてみる。何故かとっても嬉しそう。

 

「れんちゃんれんちゃん。この子ちょうだい」

「は?」

「いやごめん。冗談だからそんなに怒らないで」

 

 びっくりした! れんちゃんのマジギレなんて初めて見たんだけど! 怖い!

 幸いすぐに怒りは治まったみたいで、れんちゃんは私が呼び出していたシロをもふもふしてる。とりあえず、一安心。

 ラッキーを頭に載せて、改めて準備だ。

 えっと、とりあえずタイトルは、テイマー姉妹のもふもふ配信、でどうだろう?

 

 

 

 午後七時前。カメラの役割になる光球がふわふわ浮かぶ。この光球が私たちを撮影して、皆さんにお届けする、らしい。淡い光の光球には小さい黒い点があって、これが向いている方向を撮影している、とのことだ。光球そのものは配信者である私を自動追尾して、思考を軽く読み取って私が撮りたいものを撮ってくれる。

 

 で、その光球の上には大きめの真っ黒の板みたいなものがある。ここに、誰かが書き込んだコメントが流れてくる、という形だ。一応設定で、視界にそのまま表示されるようなこともできるらしいけど、私だけ見れても仕方ないからこの形式にした。

 

 主役のれんちゃんは、ウルフたちと追いかけっこの真っ最中だ。まあ、うん。勝手に始めよう。

 というわけで、七時になりましたので配信開始をぽちっとな!

 わくわく、わくわく!

 

 …………。

 うん、まあ、初配信にいきなりコメントがつくわけが……。

 

『初見』

 

「なんかきた!?」

 

『ひでえw』

 

「あ、ご、ごめんなさい。いや、正直なところ、誰も来ないと思ってました」

 

『大手のゲーム配信だから初放送でもそれなりに来る』

『もう結構来てるぞ』

『百人。一回目でこれなら十分では』

 

 そんなばかな。半信半疑で視聴者数を見て……、あれ? どうやって見るんだっけ?

 

「すみません。視聴者数ってどうやって見るんですか?」

 

『うそだろwww』

『コメントの右下にちっちゃく出てるぞ』

 

「ありがと! ……おお、ほんとだ。百人こえてる」

 

 言われて黒枠の右下を見てみると、視聴者数の欄があって人数が書かれていた。百二十人。十人いくかな、程度しか思ってなかったからびっくりだ。

 

「百人も、何するか明記されてない配信に……。暇なの?」

 

『辛辣ぅ!』

『ははははは。その言葉は俺にきく』

『まあなんだかんだと、やっぱりゲームは男の方が多いからな』

『女の子の配信、しかも姉妹、数が取れないわけがない』

 

「はあ……。そんなもんですか。退屈な配信だと思いますけど、ゆっくりしていってください」

 

『あいよー』

『ところでもふもふは? もふもふは!?』

 

 おっとそうだった。れんちゃんを探すと、真っ先にディアが視界に入る。いやあ、さすがに大きいから一番目立つね。

 

『あれってフィールドボスか? てことはここは、ファトスのお隣?』

 

「あ、いえ。妹のフィールドです」

 

『待って。それって、フィールドボスをテイムしたってこと?』

 

「ですよー。我が最愛の妹のテイムモンスターです。もふもふです」

 

 そう言った瞬間、なんか大量のコメントが流れ始めた。やっぱりフィールドボスがテイムされてるってのは衝撃だったらしい。気持ちは分かる。とても分かる。

 ディアは追いかけっこには参加せずにひなたぼっこをしているみたいなので、手招きしてみる。すぐに気が付いてくれて、こっちに来てくれた。のっしのっしと、貫禄がある。改めて見るとかっこいい。

 

『うわ本当にテイムしてやがる。情報! 情報はよ!』

『まてまて落ち着け。テイムしたのは妹さんだろ? 主に聞いても仕方ないだろ』

『そう言えば完全に流れてたけど、自己紹介してくれ』

 

 なるほど自己紹介。そう言えばしてなかった。光球に向き直って、こほんと咳払い。わざとらしい、なんてコメントが流れたけど、私は気にしない!

 

「皆様初めまして。今日から配信を始めましたミレイです。この配信では妹がテイムしたもふもふをのんびりうつしていきます」

 

『戦闘とかは?』

 

「予定はないです。のんびりまったり配信です」

 

『把握』

 

 よかった。戦闘しろ、とか言われたら面倒なところだった。

 きょろきょろ見回す。この先はれんちゃんに聞かれたくないからね。視聴者さんたちが不思議そうにしているので、すぐに視線を戻した。

 

「というのが妹の方針です」

 

『ん?』

『おや?』

 

「私の目的はもふもふをもふもふする妹がとってもかわいいので自慢したいだけです。妹がとってもかわいいので。とっても! かわいいので! 大事なことなので三回言った!」

 

『草』

『把握www』

『シスコンかw』

 

「ああそうだよシスコンだよ文句あるかこの野郎! れんちゃんかわいいからね、仕方ないね!」

 

『自分で言うなw』

『やべえ久しぶりにぶっとんだ配信者だw』

『で、その妹さんはどこ? ミレイと同じ美人さん?』

『もしくは妄想の中の妹とか』

 

「ぶっ殺すぞ」

 

『ヒェ』

 

 まったく。失礼な視聴者さんだ。いや、私も沸点低くなりすぎかな。どうにも、れんちゃんが絡むと怒りやすくなりがちだと思う。もう少しのんびりしていきましょう。

 

「妹はれんちゃん。美人というか、かわいいよ」

 

『どういうこと?』

 

「んー……。見れば分かる!」

 

 というわけで、改めてれんちゃんを探します。れんちゃんれんちゃんどこですか。いや、その前に側まで来てくれたディアの相手かな。

 

『でけえ』

『間近で見ると迫力あるな』

『紛う事なき初心者キラーだからな。調子に乗った初心者を絶望にたたき落とす』

 

「うんうん。私も苦労した。勝てるかあほ、とか思った」

 

『わかるw』

 

 みんなが通る道だと思う。

 そんなことよりれんちゃんを探しましょう。

 

「ディア。れんちゃんを探したいんだけど、乗せてもらってもいいかな?」

 

 ディアは頷くと、私が乗りやすいように寝そべってくれた。なんてかわいい子なんだ。よしよし、のどをもふもふしてあげよう。ここ? ここがいいの? うりうり、かわいいやつめ。

 

『いや、妹さん探せよw』

 

「は! そうだった!」

 

 ディアの頭を撫でて、その背に乗る。ディアがゆっくりと立ち上がった。おおう、見晴らしいいね。いい景色だ。

 視聴者さんもあまり見ない光景に興奮してるみたい。まあ大きいウルフに乗るなんてみんな初めてだろうからね。

 さてさてれんちゃんは、と……。追いかけっこはもう終わってるみたいで静かだ。でも、すぐに見つけることができた。草原ウルフが三匹集まっていて、その中心でもふもふしていた。

 

「見つけた!」

 

『え? ちょっと待って、小さくない?』

『まてまて落ち着け、制限に引っかかる。ミレイさんよ、妹さんは何歳だ?』

 

「七歳。今年で八歳」

 

『アウトじゃねえか!』

『チートか!?』

 

「ほんっとうに失礼だね。説明してない私も悪いけど」

 

 まあさすがに黙っておくわけにはいかないとは思ってる。それに、仮にもれんちゃんは一度だけとはいえテレビに顔を出しているのだ。気付く人もいるだろうと思えば、早めに言った方がいいと思う。

 ディアから下りて、もう一度撫でてかられんちゃんの元へと向かう。

 

「れんちゃんに関しては特例で許可をもらってるの。もちろん、行政にも届けてあるよ。なので、ちゃんと公認です。疑うのなら運営に問い合わせてもいいよ」

 

『はえー。なにそれずるい』

 

 そう言われるのは分かっていたけど、実際に言われるとちょっとだけ頭にきてしまう。口を開こうとしたところで、

 

『本当にそう思うのか?』

 

 そのコメントに、口を閉じた。

 

『どういうこと?』

『運営と行政が許可を出したってことは、それなりの理由があったってことだろ。間違い無く楽しい話じゃない』

 

 ああ、それだけで察する人もいるのか。当然と言えば当然だけど、でも少し驚いた。気付いても、何も言わないと思ってたし。

 

『まあそれ以前に、ミレイの妹っていったら、あの子だろ?』

『おや?』

『なんだ、知り合いか?』

 

「え、誰? 知ってる人?」

 

 コメントしか流れてなくて名前まではないから分からない。せめて声があれば分かるけど、仕方ないね。

 

『エストだ』

『おま、正真正銘の上位プレイヤーじゃねえか!』

『なんでこんな配信にいるんだよ!』

 

 さりげなくバカにされたような気がするけど、けれど、その名前を見た瞬間の私の反応は一つしかない。これ以外あり得ない。

 

「うげえ……」

 

『めっちゃ嫌そうwww』

『顔w 顔がひどいことにw』

『そこまで嫌がらんでも……』

 

「おっと、失礼」

 

 エストはちょっとしたことで知り合った私の知り合いだ。何かしらイベントがあると常に上位に名前を連ねるプレイヤー。つまり、正真正銘の、

 

「廃人さん……」

 

『事実だけど。事実だけど!』

『エストがここまで嫌われるって珍しいなw』

 

 まあ、うん。なら説明役とかは任せてもいいかな。だからもう放っておこう。そうしよう。触らぬ変人になんとやら、だ。

 れんちゃんの元まで行くと、れんちゃんは頭にラッキーを載せたまま草原ウルフに乗って頬ずりしていた。我が妹ながら大丈夫かいろいろと。

 

『おお、幼女だ』

『これは間違い無く、幼女!』

『幼女! 幼女!』

 

「へ、へんたいだー!」

 

『お前が言うな、シスコンw』

 

「さーせん」

 

 否定できないので謝っておく。れんちゃんはかわいいからね。変態さんを大量生産しても致し方なし! れんちゃんかわいいからね!

 

「れんちゃん」

「あ、おねえちゃん」

 

 れんちゃんがこっちを見る。私の少し上を浮かぶ光球と流れるコメントを見て、首を傾げて。すぐに配信のことを思い出したのか、あ、という顔になった。

 

「お、おねえちゃん、もう始まってるの?」

「始まってるよ。れんちゃんがウルフにだらしない顔で頬ずりしていたのもばっちり撮ったよ」

「ええ!? ひどい! おねえちゃんのばか! だいっきらい!」

「え」

 

 あ、まって、そのことば、結構心にきちゃう。すごく痛い。心が痛い。

 

「れんちゃんに嫌われた……」

 

 膝を突いて、がくりと落ち込む。するんじゃなかった……。

 

「あ、あ、おねえちゃん、ごめんね、ちがうの、きらいじゃないよ、だいすきだよ」

「本当に……? 許してくれる?」

「うん。怒ってない。おねえちゃん、だいすき」

「れんちゃんありがとうかわいいなあああ!」

「わぷ」

 

 れんちゃんはなんて優しいんだ! 思わずぎゅっと抱きしめて頬ずりする。はあ、もちもちだ。ここまでリアルとか、すごいね運営。れんちゃんいい子!

 

『なるほど姉妹だ』

『てえてえ』

『てえt……いや違うだろw』

 

 れんちゃんがもぞもぞ動いているので放してあげる。もう少しなでなでしたかったけど、うっとうしがられると泣きたくなるから。立ち直れないから。

 

「おねえちゃん、えと、カメラ? って、どれ?」

「それ。そのぼんやり光ってるやつ。ちなみに黒い穴がレンズみたいなもの、なのかな? で、上の黒い部分がみんなのコメントね」

 

『れんちゃんこんちゃー』

『幼女! 幼女!』

『れんちゃんはれんちゃんでいいのかな?』

 

 なんか変な人がまじっている気がするけど、まあネットゲームなんてそんなものだから。

 れんちゃんを見ると、少し緊張しているみたいだったけど、丁寧に頭を下げた。

 

「初めまして! れんです! えと、テイマー? です!」

 

『えらい』

『挨拶できてえらい』

『ミレイとは全然違うな』

 

「はいはい挨拶忘れてすみませんでしたよ」

 

『ところでれんちゃん。その頭にのってるのって、もしかして……』

 

 やっぱり気が付く人もいるか。れんちゃんは頭の上のラッキーを撫でて、言う。

 

「えと、私が初めてテイムした子です。らっきーです。ラッキーウルフ、なんだって」

「察してる人もいるみたいだけど、あの逃げる小さいウルフね」

 

『マジかよあれテイムできたのか!』

『かわいい! すごくかわいい! もっと見せて!』

 

 そのコメントに、れんちゃんがぱっと顔を輝かせた。ラッキーを持ち上げて、ずいっと光球に近づけて。さすがにそこまで近づけると、視聴者さんからはラッキーの顔、というかお腹しか見えてないんじゃないだろうか。

 

「この子はね! すごくもふもふしてふわふわしてるの! すっごく甘えてきてくれて、かわいくてかわいくて! すごく、すっごく! かわいい!」

 

『なるほど姉妹』

『れんちゃん落ち着いて落ち着いて。見えないから。お腹しか見えないから』

『お腹だけで分かる圧倒的ふわふわ感。しかし近いw』

 

「あ、ごめんなさい」

 

 慌ててれんちゃんがラッキーを下げると、それはそれで不満なのか、もう少し、もうちょっと、というコメントが流れてきた。どっちなんだよ、と思わず呆れてしまう。れんちゃんも困惑してるみたいだ。

 ネットゲームだからね。いろんな人の意見があるから、全部聞いていたらきりがない。

 

『すぐ逃げるのにどうやってテイムしたん?』

 

 当然くるよね、その疑問。私は山下さんから答えを聞いてるけど、れんちゃんには話してない。というより、それ以前にれんちゃんはすぐに逃げられることすら知らないと思う。言ってないし。

 

「え? 逃げなかったよ? 近づいたら、こっちを見てたの。だからおねえちゃんからもらったエサをあげたの。手のひらにおいて近づいたら、ぺろぺろなめてね。すごくかわいかった!」

 

『なるほど、わからん』

『かわいさだけは伝わった』

『チートでもしたんじゃねえの? もしくは運営のえこひいき』

 

 そういう意見も出てくるだろうね。れんちゃんは意味が分からなかったのか首を傾げてる。仕方ない、代わりに答えよう。

 

「チートはない。なんなられんちゃんはずっと運営に見守られてるから、すぐにばれる」

 

『つまりそれって、仮に俺らが無理矢理聞き出そうとしたら……』

 

「いわゆるBANじゃないかな?」

 

『ヒェ』

 

 おっと、他の視聴者さんたちからも当たり前だろうが、馬鹿か、とすごく突っ込まれてる。仮にだから、と言い訳してるのが面白いけど、私としては助かった。わざわざ説明しなくて済んだからね。

 

「おねえちゃん、チートってなに?」

「あとで教えてあげる。とりあえずラッキーをもふもふしていなさい」

「はーい。もふもふもふ……」

 

『なにこれかわいい』

『子犬も嫌がるどころかめっちゃ気持ち良さそう。なにこの癒やし空間』

『子犬www 狼だからなw』

 

 子犬と言いたいのはとても分かる。見た目子犬だからね、仕方ないね。

 

『チートはないとして、えこひいきの疑いはあるんじゃね?』

 

「んー……。それは私じゃ否定できないけど、ないと思うよ。一応、私は仕組みを聞いて納得したし。教えていいっていう許可をもらってないから、内緒だけど」

 

『仕組みがあるってことは、やろうと思えば俺たちもできるのか』

『すっごい気になる』

 

「内緒だよー。ちなみに誰でもできる可能性はあるけど、少なくとも私には無理だ」

 

 テイムしたい、という考えですら敵意判定を受けるなら、一般プレイヤーはほとんどが難しいのではなかろうか。れんちゃんみたいに、ただただ純粋に仲良くなりたいとか思えないよ。

 

「私はいつの間に、こんなに心が汚れてしまったんだろう……」

 

『急にどうしたw』

『哲学だな……。結論、生まれた時から』

 

「うん。れんちゃんと比べたら私は生まれた時から汚いね」

 

『だめだこいつ、はやくなんとか……、手遅れか』

『草』

 

 ほっとけ。

 

「でもちょっとした特別扱いは感じてるよ。いろんな表記の違いとか。例えばステータス表記だけとっても、私たちはstrだけど、れんちゃんはちから、だし」

 

『小学生にも分かりやすく、かな』

『わざわざれんちゃんのためだけに変更入れたのか』

『優しい』

 

「あとは、びっくりしたのはテイムした時。みんなならテイムに成功しました、だろうけど、れんちゃんの場合は友達になれました、らしいから」

 

『なにそれかわいいw』

『運営いい仕事してるなw』

『確かにえこひいきだけど、それなら許せる』

 

 うん。まあシステム的には優遇されてるわけじゃないしね。それでもこれがあるなら優遇も、なんて思われるかもしれないけど、それならもう勝手にそう思えばいいと思う。

 

『ところでミレイさんや。一つ聞きたいことがあるんだがね』

 

「はいはい。なにかな?」

 

『なんでミレイもれんちゃんも初期装備なの? 着飾ってあげなよ』

 

「あー……」

 

 痛いところを突かれてしまった。

 いや、ね。私も最初は考えたんだよ。配信するんだし、いい服を買ってあげようかなって。でもれんちゃんが服にまったく頓着しないんだよね……。毎日同じ服だから仕方ないのかもしれないけど。

 れんちゃんが初期装備なら私もそれに合わせよう、ということでこうなってる。

 

「せめて時間があれば、買っておいても良かったのかも」

 

『時間とは?』

 

「一昨日れんちゃんがこのゲームを始めて、昨日もふもふするれんちゃんがかわいくてスクリーンショットを投稿して、もっと自慢したくなって、今日配信してます」

 

『行動力の化身w』

『まさかの三日目w』

『何よりもたった二日しかないのに小さいウルフとフィールドボスをテイムしてるって、どんなプレイスタイルだよw』

 

「あ、ちなみにその二匹をテイムしたのは初日です」

 

『ええ……』

『草も生えないw』

『生えてるじゃねえか』

 

 ふむう。服。服か。でも私もあまりゲーム内の衣装に詳しいわけじゃないんだよね。

 

「明日あたり、れんちゃんと一緒にセカンにでも行ってみようかな」

 

『服を買いに?』

 

「うん。生産者さんが作った服もあるだろうし。まあ、予算は少ないけど……」

 

 私は基本は戦闘スキルメインだったけど、のんびりスタイルだったからお金はたくさん持ってるわけじゃない。それでも、服ぐらいなら買えるかも。

 

「ちなみに参考程度に聞きますが、一番高い服はおいくらまんえん?」

 

『M単位。つまり百万以上』

 

「無理」

 

『知ってた』

『普通は無理だわなあ』

『安心しろ、何かしらエンチャントされたようなものがその値段だから』

 

 服や鎧に特殊な魔法効果をつけるものがエンチャントだ。なるほどそんな効果があるのなら、高くなるのも頷ける。さすがに買おうとは思えないけど。

 

「それじゃ、明日はれんちゃんと一緒に行こうかな。れんちゃんれんちゃん」

「もふもふもふ……。もふ?」

「いやいつまでもふってるの!? 心なしかラッキーがぐったりしてないかな!?」

 

 いつの間にか、気持ち良さそうな顔をしていたラッキーが疲れたような顔になってる。それはそれでかわいいけど、もふり過ぎではなかろうか。

 

「れんちゃん。明日は買い物に行こっか。服を買いに行こう」

「服? これでいいよ?」

 

 ラッキーを頭に載せたれんちゃんはとても不思議そう。視聴者さんも困惑を隠せないようで、どうして、なんて言葉が並んでいる。れんちゃんはこういう子なのです。

 

「私がかわいい服を着たれんちゃんを見たいの。だめかな?」

「んー……。よく分からないけど、いいよ」

 

 とりあえず許可をもぎ取りました。一安心だ。

 

「ありがとう。お礼に、お買い物が終わったらテイマーズギルドの放牧地に行こうね。他のテイマーさんのモンスターと触れ合えるよ」

「行く! 行きたい!」

 

 れんちゃんの瞳が輝く。素直なのはいいことだけど、服より動物っていうのは本当にれんちゃんらしい。

 

「じゃあ明日は買い物だね。明日も同じ時間に配信するからね」

 

 後半は視聴者さんたちに向けたものだ。私が終わろうとしていることに気が付いたみたいで、でも特に引き留められることもなく、配信を終えることができそうだ。

 

「それじゃあ、そろそろ終わるよ。れんちゃん挨拶」

「はーい。ばいばーい」

 

『かわいい』

『おやすみー』

『ばいばい』

 

 メニューを開いて、配信を終了させる。そこまでやってから、視聴者数を見てなかったことに気が付いた。それを見て、思わず絶句してしまった。

 

「おねえちゃん?」

「い、いや、なんでもないよ」

 

 さすがに視聴者数千人はびっくりだよ……。大丈夫かこの国。

 

 

 

 配信を終えた後は、ディアにもたれてのんびり過ごす。れんちゃんはお腹にラッキーをのせて、もふもふに挟まれて幸せそうだ。

 

「配信はどうだった?」

「んー……。自慢したりない……」

 

 それはまあ、確かに。れんちゃんは結局もふもふし続けてただけだしね。でもかわいかったので、私は満足です。

 

「おねえちゃん」

「ん?」

「お金、大丈夫?」

 

 それはどっちの意味だろうか。リアルなのか、ゲームなのか。どっちも、だろうなあ。

 

「大丈夫大丈夫。れんちゃんは気にしなくていいからね。もっともっと遊びましょう」

 

 そう言って、れんちゃんを撫でてあげる。するとれんちゃんは気持ち良さそうに目を細める。やっぱり私の妹は世界一かわいい。

 



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セカン

 

 学校の休み時間。私はスマホでAWOの服について調べていた。調べてみると、出るわ出るわたくさんの種類に生産者。ゲーム内でNPCから買えるものだけでもかなりの数があるというのに、それ以上に裁縫スキルで作られた服が多いこと多いこと。有名なRPGのコスプレ衣装もあれば、何故か十二単なんてものまであるみたい。十二単って誰が着るんだ。

 そんな私の目の前の席に、誰かが座った。視線を上げてみれば、小学生の頃からの腐れ縁、青野菫だ。趣味とか全然違うのに、何故か妙に気が合う。少し、不思議な相手。

 

「未来。何見てるの?」

 

 菫が私のスマホをのぞき込んでくる。すると、何故か驚いたみたいで少し目を丸くした。

 

「へえ。未来が服に興味持つなんて珍しいわね。どこのブランド?」

「いやいや。ゲームのやつだよ。れんちゃんに何か買ってあげたいなって」

「あ、そうなんだ。一緒に買いに行こうかなと思ったのに」

「あはは……。また今度ね……」

 

 そう言えば、菫と一緒に買い物したのって、最後はいつだったかな。軽く一年以上前だったような気がする。

 恐る恐る顔を上げてみると、案の定菫は冷たくこっちを見つめていた。

 

「その今度は、いつになるんでしょうね?」

「い、いや、あはははは……」

 

 これは微妙に怒ってる。怒ってるというか、拗ねられてる。

 これは私が悪いかな……。何度も誘ってもらってるのに、れんちゃんを理由にして断ってるから。れんちゃんからも優先しすぎないでって怒られることがあるし、気をつけよう。

 

「じゃあ、次の日曜日のお昼あたりでどうかな……?」

「ん……。まあ、いいわそれで。面白そうな映画があるの。一緒に行きましょ」

「わーい。菫とデートだー」

 

 そんなことを言ってみる。この子は照れた反応がかわいいから。なんて思ってたのに、菫はなんだか微妙な表情になっていた。

 

「え、な、なに?」

「ん……。未来のその発言のせいで、たまに私にレズ疑惑かかってること、知ってる?」

「え、嘘。マジで?」

「マジよ。ちょっと気をつけなさい。彼氏に、レズかと思ってた、て言われた私の心境、考えてみて」

 

 考えた。地獄である。うん。なんか、ほんとうにごめん。

 

「でもさすがにそれは予想できないよ……」

「ええ、そうね。だから怒ってはないから。ちょっと、へこんだだけでね……」

「いや、うん。ごめんね?」

 

 少し言動に気をつけようと思いました。まる。

 

 

 

 さてさて。やってきました生産者の楽園、セカン! なんかもう、人が多い! すっごい多い! あまりの人の多さに口をあんぐり開けて放心してるれんちゃんがとってもかわいい! とりあえずスクリーンショットを。

 ファトス、セカン、サズの三つの街は、それぞれの街の入口にある転移石というもので簡単に行き来ができるようになっている。転移石はぷかぷか浮かぶ大きな青い石。触れると街の名前が書かれたメニューが出て、それをタッチするとその街の転移石の側に転移するという仕組みだ。

 

 それを使ってれんちゃんと一緒にセカンに来たわけだけど、いやあ人が多いのなんの。私は何度も来たことがあって知ってるからそんなに驚かないけど、れんちゃんはもう驚きっぱなしで、さらには頭のラッキーもぽかんとしていて、その様子もかわいい。写真写真。

 

「人が、すごくたくさん……。おねえちゃん、みんなプレイヤーさんなの?」

「一部NPCもいるけど、ほとんどプレイヤーだよ」

「人って、こんなにたくさんいるんだ……」

 

 やめて。なんか、こう、聞いてて辛い……。

 れんちゃんの手を握って、どんどん歩く。れんちゃんははぐれまいと私の腕にしがみついてる。ぎゅっと。ぎゅうっと。かわいいなあ!

 そんなれんちゃんは、少し注目を浴びていた。単純に幼いプレイヤーに驚いている人もいるけど、配信がどうのと漏れ聞こえてくる声もある。昨日見てくれた人もいるんだろう。まあこれだけ人がいるんだから、いてもおかしくはない。

 

「おねえちゃん、どこに向かってるの?」

「中央にある商業ギルドだよ」

 

 プレイヤーは商業ギルドでお金を払って許可証を買うことで、この街の大きな道に露店を出すことができる。買い手側のプレイヤーはそれぞれの露店を巡って欲しいものや掘り出し物を探すわけだ。

 なんて、ちょっと面倒くさいのは雰囲気を楽しみたい人向け。実際には商業ギルドでカタログをもらうことができる。随時更新されるカタログで、欲しいものがあればそのページを叩いて、出てきたメニューで購入を選べばいい。すると手持ちのお金が減って、自動的にインベントリに追加される。

 

 カタログの利点としては、カタログさえ手元にあれば街のどこにいても購入できること。ただし街から出ると使えない。

 露店の利点は、値段交渉を行えること。露店を出す人、巡る人はそれもまた楽しみの一つらしいので、遠慮しちゃだめなんだそうだ。値段交渉が嫌なら露店だけ出して、店番のNPCを雇ってまた生産に勤しむらしい。

 私たちはこれからカタログを買って、それを見ながら露店巡ることになる。まあ、その、あれだよ。手持ちがね、ちょっと、厳しいからね……。ははは……。

 

「れんちゃんはどんな服がいい?」

「なんでもいいよ」

「一番困るやつ……」

 

 れんちゃんの場合、そもそもとして服に興味がないから余計に困る。むむう……。

 とりあえず商業ギルドに入る。大きな酒場みたいな雰囲気。カウンターにはカタログが山のように積まれていた。一冊もらって、すぐに出る。さてさて、服のページは、と……。

 

「うぐ……」

「おねえちゃん?」

「い、いや、なんでもないよ……」

 

 高い。どれもこれも、高い。いや、まあ、服が作れるようになるのって、裁縫スキルでも結構上らしいから、仕方ないのかもしれないけど。それにしても、高い。

 最低十万。高いものだと、まさかの一千万。まあこれは、バトルジャンキーも納得の性能だからだろうけど。私たちには無用の長物だ。

 

「あ」

 

 ぱらぱらめくっていると、れんちゃんが小さな声を上げた。何か欲しいもののページがあったのかなと思ったけど、れんちゃんの視線は別のところへ向かっていた。

 れんちゃんが見ている方を見ると、そこにあった露店はテイマーが使うものが並べられた露店だった。なんというか、れんちゃんらしい。

 

「行ってみる?」

「うん!」

 

 れんちゃんと一緒に、その露店へ向かう。

 露店は大きな敷物に商品を並べる形になる。あとは、自前で大きめの板を用意して、そこに商品をつり下げるみたいなやり方もある。服とかはそっちになるかな。

 

 れんちゃんが見ていたのは、ちょっと小さめのブラシだ。高級ブラシ、なんて書かれてる。お値段驚きの十万。

 れんちゃんが私を見て、すぐに表情を曇らせた。むう、高いと思ったのが顔に出ていたらしい。

 買えないことはない、けど……。手持ちは、三十万しかない。ここで十万使うと、さすがにちょっと厳しいかも……。

 

「あれ? 私のお店に用?」

 

 そんな声が聞こえて振り返ると、いわゆる巫女服を着た女の子がいた。見た目は私と同い年か、少し上ぐらいかな? にこにこ快活そうな笑顔だ。

 

「女の子だし、もしかして服を買いに来たりした? ごめんね、今日は片手間にやってるテイマーの道具なんだ。どうせ作るならって売り物用に二つずつ作ってね。それで販売中」

「そうなんですか」

「うんうん。見たところ、初心者さんだよね? テイマーさんなのかな? これらは趣味用のアイテムだから、正直初心者さんにはお勧めしないよ、やめた方がいいよ」

 

 なんというか、露店を出していてそれっていいんだろうか。いや、私が気にすることじゃないのは分かってるけどさ。買わない方がいい、と言われるとは思わなかったよ。

 ちら、とれんちゃんを見ると、相変わらずブラシに釘付けだった。

 

 うん。うん。まあ、なんだ。服なんて私の押しつけみたいなものだし。れんちゃんが本当に欲しいものを買うべきじゃないかな。うん。

 想像するんだ私。ブラシを持って、もふもふをもふもふする妹を。……天国かな?

 

「この高級ブラシをください」

「いや、ええ……。人の話聞いてた? 初心者さんには十万は安くないでしょ。その、あれだよ、値引き交渉とか、してもいいよ?」

「人にプレゼントするものを値引きなんてできるか!」

「あ、はい。かっこいいけどなんか違う……」

 

 巫女服の人にお金を渡して、高級ブラシをもらう。それをはい、とれんちゃんに渡した。

 

「え……。いいの……?」

「いいのいいの。服なんてまた今度買えばいいの。その代わりそれでたくさんもふもふするのだ。配信するから」

「うん!」

 

 にぱっと笑うれんちゃん。天使かな?

 思わず頬を緩めていると、巫女服の人の小さな声が聞こえてきた。

 

「うそ……」

「んー? どうかした?」

「その子、NPCじゃないの!? プレイヤー!?」

「ああ、うん。私の妹。プレイヤーだよ」

「れんです!」

 

 ぴっと右手を挙げて元気な挨拶。何故かラッキーも右前足をあげてわん、と挨拶。なんだろうこのダブルパンチは。写真! スクリーンショット! たっぷり保存だ!

 

「ああ、ちなみに、ちゃんと許可をもらってるからね」

 

 配信でも言われたしね。先に言っておいた方がいいでしょう。

 とりあえず告げておくと、巫女服の人はぷるぷる体を震わせていた。なんだ?

 

「君! 君が保護者なの!?」

「え、あ、はい。そう、です、けど……」

「名前は!?」

「ミレイです」

「フレンド登録しよう!」

「はい」

 

 は! しまった! なんかちょっと怖くて流れに任せすぎた!

 気付けばフレンドリストに名前が登録されました。新規マークで、アリス。

 なんか、どこかで聞き覚えがあるような、ないような……。

 

「ミレイちゃん! お願いがあるんだけど!」

「えっと。はい。なに?」

「この子の服作らせて! お金も素材もいらないから! ミレイちゃんの服も作るから! ね!? ね!? いいでしょ!?」

 

 なんだこの人怖い!? なんでこんなにぐいぐい来るの!?

 

「だめ? だめかな? じゃ、じゃあ、月に一回ぐらい、タダで作ってあげる! どう!?」

「いや、あの……。ありがたいけど、なんで……?」

 

 正直怪しさしかない。断りたい気持ちにものすごく傾いてる。れんちゃんなんかいつの間にか私の後ろに隠れて顔を半分だけ出すという謎の警戒の仕方。……写真。

 私の問いに、アリスさんは勢いを止めると、目を逸らしてふっと笑った。

 

「今は知り合いの依頼だけ受けてるんだけどね。ほとんどの依頼が、男物なんだよね……。女の子の知り合いもいるけど、バトルジャンキーでかわいさよりも実用性一辺倒なんだよね……。たまに思うわけですよ。私、せっかくのゲームでなにやってるんだろうって」

「うわあ……」

 

 思わず出た声がれんちゃんと重なった。漂う哀愁。とても哀れだ。

 でも少し仕方ないと思う。昔よりは敷居が低くなったとはいえ、やっぱりゲームは男性の方が人数が多い。リアルな動物がかわいい、なんて言われて女性プレイヤーが比較的多いと言われてるこのゲームですら、女性プレイヤーは全体の三割ほどらしいし。

 

「それにこの子ちっちゃくてかわいいし! この子に着てもらえるなら、喜んで作るよ! たくさん作るよ! だから、お願いします!」

 

 ぺこり、と頭を下げてくるアリスさん。えと、どうしよう……。

 ちらりとれんちゃんを振り返れば、れんちゃんはじっとアリスさんを見つめていて、そしておもむろにラッキーを突き出した。なんだ?

 

「え、なに?」

 

 アリスさんもちょっと困惑していたが、

 

「わふ」

 

 ラッキーが鳴くと大きく目を見開いた。どうやらテイムモンスターとは思っていなかったみたいだ。ぬいぐるみだとでも思ったのかな。

 

「かわいい!」

 

 アリスさんがおそるおそるラッキーを受け取って、もふもふする。おお、すごい。なんか、顔がふにゃふにゃだ。ラッキーもされるがまま、だけどれんちゃんの時とは違って微妙に表情が硬い気もする。仕方なく触らせているような、そんな感じ。

 

「おねえちゃん」

「ん?」

「お願いしてもいいと思う」

「ふむ。理由は?」

「もふもふ好きに悪い人はいないから!」

 

 なんともれんちゃんらしい理由だ。でもまあ、れんちゃんがそう判断したのなら、れんちゃんに従おう。何か問題が起こったら、それこそどうにかするし、どうにかしてもらうさ。お姉ちゃんらしく頑張ります。

 

「えと、アリスさん」

「ふへ、かわいい……。あ、はい。あ、呼び捨てでいいよ。年も近そうだし」

 

 アリスさん、じゃなくて、アリスがラッキーをれんちゃんに返しながらそう言う。少しだけ名残惜しそうなのは見なかったことにしておこう。

 

「それじゃあ、お願いしてもいい? 手持ちは、あまりないけど……」

「や、お金はほんとにいいってば。作らせてもらって着てもらうだけで満足です。んふふー」

 

 本当に大丈夫かな。不安になってくるんだけど。

 

「とりあえず、お試しということで、作り置きのやつあげる。趣味で作ったやつだけど」

 

 トレードの画面が開かれた。トレードの画面は左に私が出すものを入れて、右に相手が出すものが表示される仕組みだ。お互いに承認すれば合意となって交換される。

 アリスはこちらが何かを提示する前に、服を二着出してきた。

 

「何も入れなくていいよ。そのまま承認押してね」

「あ、うん……。本当にいいの?」

「もちろん。着てくれると嬉しいな。ちょっとファンシー過ぎて他の人に渡せないから……」

「おい待てこら」

 

 それってれんちゃんは似合うけど私がおかしくなるやつ!

 

「ミレイちゃんミレイちゃん。確かにミレイちゃんは少し浮いちゃうかもだけど、かわいい妹さんとお揃い、着たくないかな……?」

「是非! お願いします!」

「あ、うん。即答でさすがにびっくりだよ」

 

 愛してるし愛されてるなあ、というアリスの笑い声を聞きながら、トレードを完了させる。うん、これはなかなか……。いや、でも、れんちゃんが着てるのを想像すると、ありだ。すごく、ありだ。

 

「是非とも見せてね。スクリーンショットとか、ほしいかな!」

「あ、それだったら、アリスが嫌じゃなければ配信で着てもいい?」

「ん? 配信してるの?」

 

 頷いて、配信のことを教えると、へえと興味を持ってもらえた。必ず見る、とまで約束してくれる。

 

「配信中は着てくれてももちろんいいよ! 私も宣伝になるしね!」

「あはは。ありがと。それじゃあ、使わせてもらうね」

「うん!」

 

 ぐっと握手。いきなり声をかけられた時はどうなるかと思ったけど、なかなかいい縁かもしれない。これもれんちゃんの、ラッキーウルフの幸運パワーかな! いやさすがに関係ないだろうけど。

 

「それじゃあ、そうだね……。三日ほど時間ちょうだい。かわいいもの作ってくるからね!」

 

 アリスはそう言うと、善は急げとばかりに行ってしまった。そんなに急がなくてもいいけど、本人がとても楽しそうだし何も言わないでおこう。

 

「とりあえずれんちゃん。服をもらったし、帰ったら着てみよう」

「はーい」

「そのブラシも早く使いたいでしょ?」

「うん!」

 

 力強い返事。やっぱりれんちゃんにとっては服よりもブラシか。まあ、れんちゃんだしね。

 その後は軽く露店を見て回る程度にして、さっさとファトスに戻ってきた。

 



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配信二回目

 

『お、はじまた』

『れんちゃーん! ……あれ?』

『誰もいないぞ?』

『なんだ、設定ミスか?』

『いやまて、映像動いてる』

『てことは見えないだけで、ミレイはいると』

『れんちゃんいた! かわええ!』

『おお、草原のど真ん中でブラシで撫で回すとか、かわいすぎかよ』

『初期装備じゃない! なんか、ふりふりしてるぞ!』

『おお!』

 

 さてさてそんなわけで配信のお時間です。今日はちょっと趣向を変えてれんちゃんスタート。ラッキーが仰向けに寝ていて、れんちゃんがそのお腹をブラッシングしてる。うんうん。

 

「私の妹がかわいすぎる……!」

 

『ミレイwww』

『いつも通りで安心するわw』

『さすがミレイさん、そこにしびれないし憧れない!』

 

「うるさいよ!」

 

 まったく、君らこそいつも通りだねほんとに。

 光球の前に立って、ぺこりと頭を下げる。今日の私は昨日とはひと味違うのだ!

 

『初期装備じゃない! 買ってきたの?』

『かわいい。てかこれ、もしかしなくても、れんちゃんとお揃い?』

 

「おお、察しがいいですねえ。その通り、れんちゃんとお揃いです。なんか、奇妙な縁に恵まれたというかなんというか……。れんちゃんが夢中で使ってるブラシを買ったら、店主さんに服をもらいました」

 

『どういうことなの』

『まるで意味がわからんぞ』

 

「大丈夫だ、私も分からない」

 

 いやはや、自分で言って改めて思う。脈絡も何もないな、と。でも本当に、そうとしか言えないのだ。それに、きっとこれはとってもいい出会いだったと思う。

 

「でもちょっと変態さんだったかもしれない……」

 

『ミレイからそんな言葉を聞くとは』

『ミレイが言うってよっぽどじゃないかw』

『れんちゃんは! れんちゃんは無事ですか!』

 

「君らは私をなんだと思ってるのかな?」

 

 ほんっとうに失礼だなこいつら!

 

「ともかく、どうかなこれ。れんちゃんはすごく気に入ったっぽかったんだけど」

 

 そう言って、くるりと一回転してみた。

 青いワンピースに白いエプロンドレスに赤いリボン。スカートには白いフリルつき。シンプルだけど、ちょっとファンシーかなと私も思った。

 

「多分、イメージとしては不思議の国のアリスなんじゃないかなと思う。私にはちょっとファンシーすぎるかな?」

 

『大丈夫。かわいい』

『似合ってる似合ってる』

 

「そ、そう? ありがとう」

 

『れんちゃんも見てみたいなあ!』

 

「はいはい、仕方ないなあ」

 

 れんちゃんを呼ぶ。聞こえなかったのか無視された。もう一度呼ぶ。やっぱり反応なし。嫌われてるのかなと思っちゃう。単純に気付いてないだけって知ってるんだけどさ。

 今度は近づいて、れんちゃんのほっぺたをつつく。ぷにぷに。

 

「んむ……。なあに、おねえちゃん」

「配信中だぜぃ」

「え!?」

 

 ぐるんと振り返って私を見て、光球を見て、慌てて立ち上がった。

 

「あ、えと、こんにちは!」

 

『こんにちは』

『挨拶できてえらい』

『どこかの無言開始の誰かさんとは全然違う』

 

 うるさいよ。

 

『れんちゃんれんちゃん。服見せて』

『是非! お願い!』

 

「あ、うん。えっと、こう、かな?」

 

 くるん、とれんちゃんが一回転。れんちゃんの服も私と同じだ。少しファンシーなこの衣装も、れんちゃんだととても似合ってる。とってもかわいい。さすが私の妹。天使。

 

「ふへへ」

 

『れんちゃんとってもかわいいけど、隣の姉のだらしない緩み顔が全てをもってくw』

『ちょっとは隠せよw』

『れんちゃん逃げて!』

 

 こてん、と首を傾げるれんちゃん。意味が分からないよね。それでいいんだよれんちゃん。うん。

 

『それにしても、不思議の国のアリスね。なんか、AWOにいるアリスも作りそうだよな。あの人、こういうの好きそうだし』

 

「ああ、うん。知ってるの? そうだよ、この服、アリスにもらったの」

 

『   』

『   』

『   』

 

「な、なに!?」

 

 急に無言投稿を大量に送りつけてくるのやめてほしいんだけど! 怖い!

 

『ああ、そっか、そう言えばアリスってテイムも少しやってたな……』

『戦闘メインのプレイヤーには有名だけど、それ以外だとそんなに知られてないのか……』

『商人ロールとかやってたら噂ぐらい聞くだろうけど、ファトスではまず聞かない名前だろうしなあ』

 

 あれ、やっぱりアリスって結構有名人? なんとなーく、少しだけ聞き覚えがあるような気がしたけど、気のせいじゃなかったのかな。

 

「アリスさんはね、面白いおねえちゃんだったよ!」

 

『照れる』

『本人いるのかよ!?』

 

「でもちょっと怖い人でもあったよ」

 

『へこむ……』

『草』

 

 まあ、すごい勢いだったからね。正直私ですら若干引いちゃったぐらいには。でもまあ、悪い子ではないっていうのは、今なら私も何となく分かるけど。

 

「アリスって有名なの?」

 

『少なくとも戦闘メインの攻略プレイヤーなら誰でも知ってる』

『鍛冶と裁縫スキルをカンストさせた頭のおかしい生産者』

『どっちか一つだけならそれなりにいるけど、両方カンストはアリスが唯一』

 

「え、うそ、本当にすごい……」

 

 戦闘スキルに関しては制限がかかっていて途中までしか上げられないんだけど、生産スキルは全て上げることができるのだ。ランクの上げ方は決められたクエストを達成して、レベルアップでもらえるポイントを振ることで上げることができる。

 このクエストが問題で、途中までは簡単なんだけど、最後の方がかなり鬼畜な内容だともっぱらの噂。あまりに鬼畜すぎて、諦めて他のスキルを上げ始めたり、カンストさせたはいいけど他のものを上げる気が失せたりと、なかなかすごい話も聞いてる。

 そんな生産スキルを二つも上げるなんて、アリス……!

 

「すごい変態……!」

 

『ミレイちゃん!?』

『草』

『よく考えなくてもマゾにしか思えないからなwww』

 

 スキルレベルが高いほど色々とできるようになるらしいから、高ければ高いほどいいっていうのは分かるけど……分かるけど……!

 

「れんちゃんれんちゃん。アリスは変態さんだからね、気をつけるんだよ」

 

『ちょお!? 何吹き込んでるの!?』

 

 きょとり、と首を傾げて。

 

「つまりおねえちゃんと同じってこと?」

「え、はい? ええ!?」

 

『あっはっは! ざまあ!』

『なんだこの低レベルな争いw』

『もうめちゃくちゃだよw』

 

 うん。よし。これ以上は私にもダメージ来そうだからやめよう。れんちゃんの私に対する評価をこれ以上聞くと、いろいろと取り返しがつかない気がする……!

 

「アリス。仲直りしよう」

 

『そうだねミレイちゃん。私たちは親友だよ……!』

『なんだこの、なんだこの……茶番……』

『俺たちは一体何を見せられているんだ……?』

 

「んん! ともかく、アリスが有名ってことは分かった。ありがたやありがたや……。ところでアリスの服ってまともに買うとどれぐらい?」

 

『ピンキリだけど、平均百万こえるはず』

 

「うへあ」

 

 なんか、すごい桁違いのお金が……! てことはこの服も、実はすごく高いものだったりするのかな。着るのが怖くなる! 所詮はデータと言われたらそれまでだけど!

 

『それにしても羨ましい。依頼を引き受けることすら稀だって聞くのに、どうしてまた』

『いや、だって君らの依頼、男物とかごつい装備とか実用一辺倒でしょ。私はかわいい子にかわいい服を作りたいの。れんちゃんに作ってあげたいの』

『あ、はい……』

『ぐうの音も出ない……。すんません……』

 

 依頼してた人もいるのか。あれ、ということは、そんな人たちもこの配信を見てくれてるってことかな。攻略情報なんて何もないけど、いいのかな……?

 

「おわりー!」

「ん?」

 

 いつの間にか、れんちゃんはラッキーのブラッシングを再開していた。ラッキー、とってもご満悦。なんだこのかわいい生き物。好き。

 そして次にれんちゃんはディアの方へと駆けていく。主役はれんちゃんだし、私も追いかけよう。

 

「あ、そうそう。アリス。ブラシありがとう。れんちゃんすごく気に入って、今日放牧地に行く予定だったのに、ブラッシングで一日終わりそうだよ」

 

『気に入ってくれて私も嬉しいよ!』

『そんな!? そろそろ来るんじゃないかと、ファトスの放牧地で待機してたのに!』

『草。大きいウルフの隣に立つと、本当に不思議の国というかなんというか……。せめて、ウサギなら……!』

 

「それは私も思った」

 

 もちろんウルフたちもかわいいんだけどね。もうほとんど犬みたいなものだし。草原ウルフたちがブラッシングの順番待ちをしているのを見ると、なんかもうすっごくほっこりしちゃう。

 いや、ちょっと待って。ねえ待って。草原ウルフの中に見慣れた白いウルフがまじっているんですが。どう見ても私の相棒なのですが。ええ……。

 

「私のテイムモンスターが、順番待ちにまざってる……」

 

『誰だってかわいい幼女の方がいいからね、仕方ないね』

『テイムモンスターに裏切られるテイマーがいるってマ?』

 

「うるさいよ」

 

 ちょっぴり寂しいけど、まあ、いいか。れんちゃんもシロのことは気に入ってるみたいだしね。

 

「ディアー。背中ブラッシングするよ! のせてー!」

 

 丸まっていたディアが欠伸をして、尻尾でれんちゃんを絡め取った。きゃー、と楽しそうな声を上げるれんちゃんを持ち上げて、器用に背中にのせる。すごい、あんなことできたのか。

 そのままれんちゃんはブラッシングを再開したみたいだけど、ここからじゃよく見えない。

 

「ふむ。れんちゃんが見えなくなったし、配信はここまでかな」

 

『そんな!?』

『もっと! もっと癒やしをください! ラッキー見たい!』

 

 ラッキーか。周囲を見回して探してみると、ブラッシングしていた場所でまだ横になっていた。仰向けになったまま、どうやら眠っているらしい。

 

「ちょっと、つつきたくなっちゃう……」

 

『分かる』

『やめてやれw』

『もふもふだあ……』

 

 これだけでもいいみたいなので、とりあえず今日はラッキーで終わることにした。うーん、撫でたいなあ……。

 




壁|w・)ちょっと短かったので、2時間後に掲示板回も予約しておきます。


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掲示板2

配信一回目と二回目の掲示板回です。
なお、本日二回目の更新です。


AWOの配信者について語るスレ

 

 

1.管理人

ここはAWOで配信をしている人について語るスレです。

アンチは別スレへ。

 

 

566 名無しさん

やっぱり攻略勢の配信は見応えあるなあ

 

 

567 名無しさん

スキルの使い方とか、本当に参考になる

 

 

568 名無しさん

俺としては最終ダンジョンの配信が忘れられん

もう一度見たい

 

 

569 名無しさん

わかる

誰かまたやってくれないかな

 

 

570 名無しさん

癒やし大好きな俺、好みの配信を見つけた……

 

 

571 名無しさん

お、見つけたってことは初配信とか?

 

 

572 570

そう、配信名は、テイマー姉妹のもふもふ配信

さっき終了したところだから、繰り返し再生がまだできるはず

 

573 名無しさん

姉妹? マ?

 

 

574 570

マ しかも妹は正真正銘の幼女

 

 

575 名無しさん

嘘乙

小学生ができるわけねえだろ

 

 

576 名無しさん

嘘ならもっとましな嘘つけよ

くっだらねえ

 

 

577 名無しさん

いやいや待てよ

配信名で検索かけたら実際にあるし、ざっと見たところマジで幼女がいるぞ

 

 

578 名無しさん

そんな嘘につられるわけが……

いやマジじゃん

 

 

579 名無しさん

えええええ!?

どういうことなのどういうことなのどういうことなの!?

 

 

580 570

姉曰く、ちゃんと許可は取ったらしい

 

 

581 名無しさん

そんな簡単に取れるもんなの……?

 

 

582 名無しさん

普通は無理だぞ

あの妹さんなら、まあ無理もないかなとは思う

 

 

583 570

事情知ってる人?

できれば教えてくれ

 

 

584 名無しさん

特殊な病気で病室の外に出られんのじゃ

ニュースにもなったり寄付金募ったりもしてたから、そこそこ有名

 

 

585 名無しさん

視聴中

俺も知ってるわこの子

原因不明の過敏症で光そのものがダメな子だっけ

 

 

586 名無しさん

ああ、だから病室から出られないのか

なにそれすごくかわいそう……

 

 

587 名無しさん

いやでも、見てきたけどすっごく楽しそうだったな

素直にかわいいって思える

 

 

588 名無しさん

それな

姉が溺愛するのもよう分かる

 

 

589 名無しさん

あれは溺愛するわ

妹ちゃんも姉にはめっちゃ懐いてるみたいだし

 

 

590 名無しさん

仲の良い姉妹って、いいよね……

 

 

591 名無しさん

いい……

 

 

592 名無しさん

とてもほっこりする……

 

 

593 名無しさん

まあ姉は危ない発言多かったけどなw

あれは俺らと同類と見たw

 

 

594 名無しさん

同類ってか、妹限定だろあれは

いやでも、初回からぶっ飛んでたなwww

 

 

595 名無しさん

俺まだ見れてないんだよな

はやく見たいぜ

 

 

596 名無しさん

妹ちゃんも気になるけど、おれとしてはあのモンスたちだな

 

 

597 名無しさん

あれな

テイマーの掲示板見てきたけど、大騒ぎだったぞw

 

 

598 名無しさん

そりゃ騒ぎにもなるわ

テイムできないとすら思われてたのが、いきなり二匹ともテイムされてるんだから

 

 

599 名無しさん

小さいウルフとかどうやっても逃げられると思うんだが

どうやったんかね

 

 

600 名無しさん

ラッキーウルフだっけ

やばいよなあれ、めっちゃかわいいよな

 

 

601 名無しさん

あれだけでテイマーになりたいと思っちまったよ……

 

 

602 名無しさん

もっふもふだったよなあ!

写真とか動画で見る子犬そのもので、ふっわふわで……!

 

 

603 名無しさん

あれは本当に、やばい

実際に触りたいし抱きたいしもふりたい……!

 

 

604 名無しさん

テイマー諸君には是非とも頑張ってほしい

テイムの方法が分かったら、わたしはテイマーになる

 

 

605 名無しさん

テイムモンスもそうだけど、初日にテイムしたってのもびっくりした

 

 

606 名無しさん

どんな遊び方したんだよって思ったわwww

いや本当、見てみたかった

 

 

607 名無しさん

いつかテイムを実演してみせてほしいよな

こっそり期待してる

 

 

608 名無しさん

俺も俺も

 

 

609 名無しさん

そんなことよりラッキーもっと見たい! 触りたい!

 

 

610 名無しさん

落ち着け、しかし同意見だwww

 

 

   ・・・・・

 

 

322 名無しさん

もふもふ配信の2回目がきたぞー!

 

 

323 名無しさん

待ってた!

 

 

324 名無しさん

のりこめー!

 

 

325 名無しさん

誰もいない、と思ったけど、ちゃんとれんちゃんはいた

 

 

326 名無しさん

れんちゃんの衣装が変わってるぞ!

 

 

327 名無しさん

なんか、ふりふりっぽい?

 

 

328 名無しさん

ちゃんと見たいな

 

 

329 名無しさん

ミレイさん、あんたって人は……

 

 

330 名無しさん

こんな姉で大丈夫か?

 

 

331 名無しさん

大丈夫じゃない、問題だらけだ

 

 

332 名無しさん

しかし俺たちには何もできないのだ……

 

 

333 名無しさん

俺たちは……なんて無力なんだ……!

 

 

334 名無しさん

たまにお前らのノリについていけねえわ

 

 

335 名無しさん

考えるな、感じるんだ!

 

 

336 名無しさん

なんというか、ミレイが言う通り、ファンシーな服だな

 

 

337 名無しさん

エプロンドレスってやつかな

れんちゃんはかわいい

ミレイは、その……かわいい、よ……?

 

 

338 名無しさん

そこは言い切ってやれよw

 

 

339 名無しさん

ブラシを買って服がついてくるか

なるほどまるでわからん

 

 

340 名無しさん

随分と太っ腹な人もいたもんだ

 

 

341 名無しさん

でもしっかり作られてるよな

裁縫ランク高そうだけど

 

 

342 名無しさん

おいおいおいおい

 

 

343 名無しさん

うっそだろwww

アリスかよ!

 

 

344 名無しさん

ランク高そうどころか、カンスト組じゃねえか!

 

 

345 名無しさん

いやなんだこの茶番w

 

 

346 名無しさん

ミレイとアリスは多分なんとなく合うんだろうな

波長とかそういうの

 

 

347 名無しさん

言いたいことはわかる

息の合ったいいコンビだ

 

 

348 名無しさん

しかし俺たちは何を見せられたんだ……?

 

 

349 名無し

てえてえ

……ごめんてえてえ要素一つもなかったわ

 

 

350 名無しさん

ああ……、アリスに申し訳ない……

 

 

351 名無しさん

ふっつーに鎧依頼したわ

 

 

352 名無しさん

すまぬ……すまぬ……

 

 

353 名無しさん

今日もれんちゃんとラッキーがかわいい配信でした

 

 

354 名無しさん

もふもふをもふもふするれんちゃんが本当にかわいい

 

 

355 名無しさん

れんちゃんにもふもふされたい

 

 

356 名無しさん

は?

 

 

357 名無しさん

しねよ

 

 

358 名無しさん

名前出せ、ぶっころす

 

 

359 名無しさん

ごめんなさい!

 

 

360 名無しさん

いやでもお前ら、実はちょっと思ってるだろ?

 

 

361 名無しさん

…………

 

 

362 名無しさん

…………

 

 

363 名無しさん

…………

 

 

364 名無しさん

黙るなよwww

 

 

365 名無しさん

かわいいからね、仕方ないね!

明日が待ち遠しい……!

 



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配信五回目

 

 何度か配信を繰り返して、そろそろ私とれんちゃんも慣れてきたので、少し遠出をしてみようかと思います。つまりは新しいもふもふに出会いに行こうというわけですよ。

 

「そんなわけで、れんちゃん!」

「はい!」

「今日は猫をテイムしよう!」

「にゃんこ!」

「そう! にゃんこだ!」

 

 ファトスの側の草原では犬がテイムできるように、セカンの隣の草原はたくさんの猫がいる。いや、犬じゃなくてウルフだけどさ。

 犬役がウルフなんだから猫は虎かライオンでは、なんて言われそうだけど、猫は何故か猫のままだ。いや、猫又なんだけどね。尻尾二本です。初級魔法の使い手だけど、例のごとくノンアクティブなので複数から狙われるようなこともなく、一対一で戦っても相手が詠唱中に攻撃できちゃう。

 

 魔法がどういうものか体験できる敵、と思ってもいいかもしれない。猫好きさんにとっては天敵らしいけどね。攻撃できないんだって。とても分かる。

 フィールドボスはここにはいなくて、その代わりにダンジョンがある。ダンジョンに生息するのは、ライオンとか虎とか。

 

 余裕があれば行くのもいいかもだけど、ここは猫と違ってアクティブモンスターしかいないのでちょっと危険。れんちゃんから聞いた運営の話が本当なら、れんちゃんなら問題ないかもだけど。

 そしていざ出発という時にメッセージが届いたので、同行者が増えました。

 

「というわけで、れんちゃん。アリスがいるけど気にせずにもふもふしてきていいよ!」

「うん。私はここで仕上げをしてるからね! れんちゃんのもふもふを見ながら!」

「はーい!」

 

 うーん、素直! れんちゃんの目にはもう猫しか映ってないねこれは!

 れんちゃんが早速猫へと突撃。でも猫は猫だからね、結構気まぐれで、なかなか寄ってきてくれない。むむ、とれんちゃんは唸りながら、今度はゆっくり近づき始めた。

 

「配信でも思ったけど、れんちゃんは本当に楽しそうにモンスターと戯れるね!」

「うん。バーチャルでも、動物と触れ合えるのがとっても楽しいらしくて。リアルでも、すごく楽しいって、笑顔が増えたよ」

「そっか……。大変そう、だもんね。あの、ごめんね、ちょっと調べちゃった」

「ああ……。別にいいよ。テレビにも出たぐらいだから、簡単に調べられるだろうし」

 

 そんなに申し訳なさそうにされると、むしろこっちの方が困ってしまう。間違い無く、れんちゃんも気にしないだろうから。

 

「まあ、どうしても気になるなら、服がお詫びってことで。もらいすぎの気がするけどね」

「まさか! そんなことないよ! 頑張って作るから! ということで、はい!」

 

 おおう!? トレード画面だ! 仕上げって、渡すことだったのか。

 画面に表示された服を見て、お、と思わず声を上げた。

 

「和服?」

「うん。和服。リアルだと着たことなさそうだし、喜ぶかなって。似合うかなって! まあぶっちゃけ私の趣味だけど!」

「いいねえ和服! 早速着てもらおう!」

 

 ということでれんちゃんを呼ぼうと思ったんだけど、れんちゃんはいつの間にか猫に囲まれていた。地面に座って、膝の上に猫をのせてゆっくり撫でている。れんちゃんの周りの猫は、順番待ちかな?

 

「にゃあにゃあにゃあ」

「猫の鳴き真似をする妹がとてもかわいい!」

「ミレイちゃん!? 落ち着いて!」

 

 くそ! どうして私は配信してなかったんだ! 配信さえしておけば、動画も勝手に保存されるのに! これは是非とも写真じゃなくて動画がいい! 失敗した!

 れんちゃんは膝の上の猫を撫で回して、顎のあたりをもふもふして、とても楽しそうだ。これはとてもいい癒やし空間。妥協して写真は撮っておこう。

 

「すごく自然にテイムしてる……。すごいねれんちゃん。ここの猫、かなり警戒心が強くてなかなかテイムできないはずなのに」

「私の妹はかわいくて最強」

「あ、うん。そうだね」

 

 どうしてどん引きするのかなアリス?

 

 

 

「そんなわけで、猫が増えました。上限五匹」

 

『あの猫をいきなり上限までテイムできるなんて、そんなわけwww』

『なってるんだよなあ……』

『いや待って。自然と流されてるけど、服かわってる!』

 

 おお、気付くの早いね! そう、私とれんちゃんは早速もらった服を着ています。れんちゃんはもふもふで忙しいので、とりあえず私から。

 

「くるっと。アリスからもらったよ。どう? どう?」

 

『自信作だよ! えっへん!』

『かわいい』

『どっちが?』

『どっちも』

 

 反応はそれなりかな?

 青い袴に白い上衣のシンプルなもの。私のはそれに胸当てつき。まあ一応戦闘にも使えるよ、ということらしい。れんちゃんも同じで、胸当てがないだけ。

 

『巫女服の色違いみたい』

『ん。いわゆる巫女服の袴は緋袴って言って』

『そういううんちくは求めてない』

『そんなー』

 

 ああ、うん。アリスは平常運転だね。大多数の人が緋袴? とか分からないしあまり興味ないとも思うよ……。興味があれば、自分で調べてもらいましょう。

 

「れんちゃんー。そろそろいい?」

「はーい」

 

 猫を頭に載せたれんちゃんがこっちに走ってくる。足下をついてくるラッキーが、なんだか少しかわいそう。哀愁漂う様子で主人を見上げてるよ。気付いてあげてれんちゃん。

 

『ラッキーw』

『早くも居場所を奪われてて草』

『なんでや! ラッキー悪くないやろ!』

 

 そんなコメントにれんちゃんは首を傾げる。そしてラッキーを抱き上げると、ぎゅっと抱きしめた。

 

「みんなかわいいの」

 

『おまかわ』

『もふもふをのせてもふもふを抱きしめる幼女……。いい』

『かわいいが過ぎる!』

『俺たちを萌えさせて誇らしくないの?』

 

 ふふふ。さすが私の妹だ。そして私の口が開く前に、

 

「でね! でね! この子が最初に友達になったにゃんこ!」

 

 れんちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねる。多分頭の猫のことを言ってるんだと思う。私から見たらみんなにエサ上げててどれが最初かなんて分からなかったけど、れんちゃんには分かったのかな。

 そしてこれはあれだ。長くなるやつだ。

 

「それがこの子! まっしろにゃんこ! ラッキーみたい!」

 

『白い子が好きなのかな?』

『なんかこの子もラッキーみたいに子供っぽいよな』

『レアだったりするのかな?』

 

「しらなーい。えへへ、ふわふわ……」

 

 ラッキーと白猫を抱えてすごく幸せそう。なんかもう、表情がふにゃふにゃしてる。

 

「それでね、次はえっと、あの子……。ちょっと待ってね!」

 

 ぱたぱたと遠くにいる猫を捕まえに行くれんちゃん。視聴者さんはほったらかしである。相変わらずもふもふに一直線だ。

 

「あっはっは。うん。悪いけどちょっと付き合ってあげてね」

 

『りょ』

『かわいいから良し』

『聞いててほっこりする。飽きないから大丈夫よ』

 

 みんないい人で、すごく有り難い。本当にね。

 その日は結局最後までれんちゃんの猫自慢が続いた。よくまあ話が続くものだよね。

 




壁|w・)短め。次回は長くなります。


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配信七回目:れんちゃんのいたずら

壁|w・)れんちゃん視点です。


 

 暗いいつもの病室で、佳蓮はゲームの準備をしてもらっています。未だ昼過ぎ、つまりは二回目のフルダイブで、本来なら勉強の時間なのですが、今日は日曜日です。いつも勉強を教えてくれる先生はお休みなので、午前はお休みすることを条件にお昼もゲームをさせてもらうことになりました。

 それを昨日お姉ちゃんに伝えたのですが、すでに友達と約束してしまっていたらしく、とても後悔していました。友達の約束を断ろうか、なんて言っていたのでさすがにお説教しました。ちゃんと友達は大事にしないといけないのです。

 そんなわけで、お昼は一人でログインすることになりました。

 

 

 

 いつもの自分のホームに降り立ったれんは、とりあえずラッキーとディア、それに猫たちと遊びました。みんなのブラッシングをして、ごろごろもふもふして。しっかりと満喫してから、れんは思います。

 いたずら、してみようかな、と。

 

 れんも子供です。たまにはこんないたずら心も出ちゃうのです。

 そんなわけで。れんはうんうん唸りながらメニューを眺めます。

 おねえちゃんが教えてくれたことがあります。配信で使っているアカウントはれんと共有していて、れんでも使えるのだと。ただ、あくまでそういうものだという説明をされただけなので、使い方は分かりません。

 

 うんうん唸って唸り続けて、これかな、というものを見つけました。はいしん、というそのままのメニュー。それをタッチすると、またずらっといろんなものが出てきたので、とりあえずそれっぽいものを押してみました。はじめる、を。

 すると、何かを書き込む枠が出てきました。これはきっと配信のタイトルのことでしょう。

 

「えっと……。れん、と」

 

 ですが残念ながられんはそもそもとして、配信にタイトルが付けられていることすら知りません。れんはこれが自分の名前の入力欄だと勘違いしてしまいました。

 そして、そのまま始めました。

 唐突に出てきた光球と黒い板のようなものにれんは驚きましたが、よくお姉ちゃんが使っているものだと気が付いて一安心です。少しすると、コメントが流れてきました。

 

『なんだこの放送』

『配信者はミレイの名前だけど……』

 

「あ、あの、こんにちは」

 

『れんちゃん!?』

『え、え、一人!?』

『ミレイはどうしたの?』

 

 なんだか皆さんとても慌てているみたいです。不思議ですね。

 

「えと。今日はわたし一人、です。日曜日なので友達と出かけてます」

 

『れんちゃん残して遊びに行くなんて』

『いやそう言ってやるなよ。ミレイにも同年代の付き合いがあるだろ』

 

「うん。わたしが今日はお昼も遊べるって知ったら、お友達にごめんなさいしようとしたから、友達を大事にしなさいってめってした」

 

『怒ったのかw』

『小学生に怒られる高校生』

『れんちゃんえらい!』

 

 そんなに怒ってはいないですけど、なんだかちょっぴり勘違いされてるような気もします。けれど、他に言い方も分からないので、このままにしておくことにします。間違ってはいないですし。

 

「それでね。今日はわたし一人です」

 

『れんちゃんもミレイの妹なんだなあ』

『行動力あるよね』

 

「こーどーりょく?」

 

『舌っ足らずかわいい』

 

 なんだか微妙にばかにされた気がします。れんがむう、と頬を膨らませると、多分さっきの人が謝ってきました。れんは心が広いので許してあげます。

 

「今日は、おねえちゃんにいたずらしようと思います」

 

『れんちゃん!?』

『急にどうしたれんちゃんwww』

『まさかのいたずら配信w』

『何するの?』

 

「今から新しいお友達をここに連れてきて、おねえちゃんをびっくりさせます!」

 

『かわいい』

『かわいらしいいたずらだなあw』

『そういういたずらならいいと思う。応援する』

 

「ありがとうコメントさん!」

 

『うん。うん。あれ? 俺らって人として認識されてない?』

『俺らの本体はコメントだった……?』

『私は人……コメント……私とは一体……?』

『お前ら落ち着けwww』

 

 なんだか変なことになっていますが、とりあえずコメントさんたちの賛成は得られたので出発することにしましょう。目的地も、次に仲良くなりたい子ももう決まっています。

 

「コメントさんたちがいいって言ってくれたから、がんばる」

 

 ふんす、と気合いを入れるれんは、流れるコメントに気が付きません。

 

『あれ? これってもしかしなくても、共犯にされたっぽい……?』

『お。そうだな。嫌なら帰って、どうぞ』

『ふざけんな。今回神回確定だろ。馬鹿野郎俺は見届けるぞ!』

『ミレイの反応が楽しみすぎるwww』

 

 さてさて、出発です。まず最初に向かうのはセカンです。

 このフィールドはいつでも来れるれんのホームです。ここから出るにはメニューを開いて、ファトスに移動をタッチします。すると次の瞬間には、ファトスの転移石の目の前です。

 この転移石から、次はセカンに移動。サズも気になりますが、そこに行くとさすがにお姉ちゃんに怒られるような気がします。

 セカンについたら、先日お姉ちゃんと一緒に行った草原へ。そこにれんの目的地があるのです。

 

『れんちゃんれんちゃん。そろそろどこに行くか教えてほしいなって』

 

 そんなコメントが流れてきました。そう言えばまだ言っていませんでした。

 

「この近くにあるダンジョンだよ。トラとかライオンがいっぱいいるんだって」

 

『待って』

『それアカンやつ』

『れんちゃんだめだ考え直せ!』

 

 なんだかコメントさんたちが必死です。どうしたのでしょうか。

 

「むう? よくわかんないけど、だいじょうぶだよ?」

 

『大丈夫じゃないからあ! 行っちゃだめだあ!』

 

「……?」

 

 どうしてそこまで言うのでしょう。れんには分かりません。

 そしてもう、ダンジョンは目の前です。れんの目の前には、地面にぽっかりと空いた大きな穴があります。ここに飛び込むとダンジョン内部だそうです。

 ちなみに、気付かずに転げ落ちた人のために、落ちた先には脱出の魔法陣があるようです。親切ですね。まず穴にするなよとよく言われているらしいですけど。

 

「行ってきます!」

 

『ああ! 本当に行っちゃったああ!』

『おいこれ俺らも間違い無くミレイに怒られるぞ!』

『甘んじて怒られよう……。せめて見守ろう……』

 

 穴はとても深かったのですが、不思議な力で落ちるのはゆっくりでした。そのまま地面に着地して、周囲を見回してみます。

 薄暗い、いかにもな洞窟です。ゲームやアニメに出てきそう。

 

「王道? な洞窟! わくわくするね!」

 

『わかる』

『すっげえリアルだから余計にな』

『冒険してるって気がする』

 

「うんうん!」

 

 ぴちょん、ぴちょんとどこかで落ちる水の音が雰囲気を際立たせています。本当に、天然の洞窟に来ているかのようです。

 

「でも、ここにいるのってライオンとトラだよね? こんな洞窟に……?」

 

『それ以上はアカン』

『そこまでリアルさを求めるとほとんどのゲームは成り立たなくなるからな』

『多分住んでる一部が定期的に狩りに出てるんだよ』

 

「ふうん……。そうなんだ」

 

 とりあえずれんは、頭にのってすぴすぴ寝ているラッキーを軽く叩いて起こします。ラッキーはすぐに欠伸をして起きてくれました。きょとん、と首を傾げるラッキーを腕に抱きます。

 

「ラッキー、どっちに行けばいいかな?」

 

 洞窟は道のど真ん中から始まりました。前にも後ろにも道があります。ラッキーはくんくんと鼻を動かすと、目の前に向かってわん、と吠えました。

 

「ありがとう」

 

 たくさん買って貰ったエサをラッキーに与えます。ラッキーは嬉しそうにぱくりと食べました。

 

『へえ。小さいウルフにはそんな能力があるのか』

『ますます欲しい……』

『やめとけ。れんちゃんを知った連中が試そうとしたけど、相変わらずすぐ逃げられて何もできなかったらしいぞ』

 

「そうなの? 大人しい子なのに」

 

 ラッキーを撫でながら進みます。途中の分かれ道も、ラッキーに教えてもらって、迷わず進みます。はずれの道も気になりますが、今は後回しです。

 やがて大きな部屋にたどり着きました。そこにいたのは、

 

「ライオンさんだ!」

 

 部屋の中央に堂々たるたたずまいの、たてがみが立派な雄ライオン。それを守るような布陣の雌ライオン。そのさらに周囲に座るトラたち。

 

「トラさんっていつからライオンさんの部下になっちゃったの?」

 

『それはあれだよ。ゲーム的な都合ってやつさ』

『気にしちゃだめなやつ』

 

「そっかー」

 

 ライオンさんたちを見てみます。みんな寛いでいるみたいです。大きな猫みたいでかわいいです。

 れんちゃんが部屋に足を一歩踏み入れると、全ての視線がこちらへと向きました。

 

『ヒェ』

『ゲーム的には大して強くないけど、本能というかなんというか、今でも怖い』

『分かる』

 

 そしてれんは。

 

「かっこいい!」

 

 そう言って、駆け出しました。

 

『躊躇なく行ったー!』

『まじかよww』

『さすがに草』

『いやでもやばくないかあいつら全部アクティブだぞ!』

 

 ああ、なるほど、とちょっとだけれんは思いました。だからみんな焦ってくれていたのか、と。普通ならアクティブモンスターは、こちらが何もしていなくても襲ってくるモンスターらしいです。れんのことを心配してくれていたのでしょう。

 でも、れんは知っています。山下さんが教えてくれました。敵意がなければ襲われないって。

 果たしてトラたちはこちらをじっと見つめるだけで襲ってはきませんでした。

 

「わあ……。おっきい……」

 

 どことなく警戒されているような気もしますが、一先ず襲われる心配はなさそうです。座っているトラに近づいてみます。トラはこちらをじっと見つめるだけです。

 

「さ、触ってもいいかな……? 怒るかな?」

 

『それよりもどうして襲われていないのか、これが分からない』

『お、おう。エサでも上げてみればいいんじゃないか』

 

「エサ!」

 

 早速エサを取り出して、トラに近づけます。トラは一瞬だけ身を硬くしたようですが、すぐにれんの持つエサに鼻を近づけてひくひく動かしました。

 

「かわいい……」

 

『え』

『あ、うん』

『カワイイナー』

 

 どうやら理解してもらえなかったようです。こんなにかわいいのに。

 トラはしばらくエサの臭いを嗅いでいましたが、やがてべろんと大きな舌で食べてしまいました。もぐもぐと少しだけ口を動かして、すぐに呑み込んでしまいます。そしておもむろに立ち上がりました。

 

「おっきい……」

 

『今度こそやばいのでは!?』

『逃げて! れんちゃん逃げてー!』

 

 そしてトラは、れんのほっぺたをべろんと舐めました。

 

「うひゃ! び、びっくりした……」

 

『ええ……』

『懐くの早すぎませんかねえ……』

『れんちゃんのピンチに頭を悩ませていたはずが、いつの間にか肉食獣とのほのぼの動画を見ていたらしい……』

 

 一匹目の後は、どんどんと周りからきました。トラはもちろんのこと、雌ライオンもたくさん寄ってきます。エサはたくさん用意していたので、みんなにせっせと配っていきました。みんな嬉しそうに食べてくれます。そんなに美味しいのかなこれ。

 

「…………。あむ」

 

『いきなり何食べてんのれんちゃん!?』

『いや、分かる。どの動物もモンスターも、美味しそうに食べるもんな』

『テイマーはみんな試す。そして後悔する』

 

「まず……」

 

 何でしょう。この、表現の難しい味は。なんか、すごくすごくねばっこい肉団子でねっちょりしていて、お肉の味なんてせずにむしろ苦みがあってとても不味い。

 れんが呆然としている間に、そのかじられたエサを横からトラが食べてしまいました。なんというか、ちょっとだけこの子たちの正気を疑ってしまいます。

 

『れんちゃんの表情がwww』

『分かる。分かるよれんちゃん。そういうものだと割り切るしかないよ』

『まさか食べる人なんているとは思わなくて適当に味が設定された、気がする』

 

 そうなのでしょうか。そうかもしれません。あまりに不味すぎます。

 最後に近づいてきたのは、たてがみりっぱな雄ライオンでした。

 

「はい、どうぞ」

 

 ぺろん、とそのライオンも食べてしまいます。美味しそうで満足そう。あと、ふわふわそう。

 

『れんちゃんの視線がライオンに固定されてるんだけど』

『れんちゃんにとってはあれももふもふ枠なのか……?』

『いや、でも、気になるのは分かる』

 

 そっと手を伸ばして、たてがみに触れてみます。すごく、ふわふわ。

 

「はわあ……」

 

 これは、いい。とてもいいもふもふです。

 

『れんちゃんの顔が!』

『すっごいとろけてるwww』

『いいなあ、俺も触ってみたい』

 

 もう、幸せです。左手でエサを持ちながら、右手でもふもふ。幸せなのです。

 しばらくなでなでさすさすしながらエサを上げ続けていると、ぽろんと何かのメッセージが出てきました。

 

『友達になれました!』

 

 あ。

 

「おともだちになれたよ」

 

『うっそだろ』

『ライオンはテイムの難易度高いはずなんだけど』

『いや、まあ戦いもせずにエサを上げ続けていたら妥当、なのか……?』

 

 難しいことはよく分かりませんが、れんとしてはちゃんとお友達になれたので満足です。ちなみに雌ライオンとトラもテイムしていました。それぞれ二匹ずつです。

 

「あのね、ライオンさん」

 

 たてがみのライオンに言うと、ライオンはじっとこちらを見つめてきます。とりあえずもふもふ。

 

『れんちゃんwww』

『なんだろう、ライオンが困惑しているように見えるw』

 

「もふもふもふもふ……。あ、そうだった! ねえライオンさん。白虎さんってどこにいるの?」

 

 なぜかコメントさんたちが騒ぎ始めました。何しようとしてるの、危ないから、とか色々言われていますが、れんの目的は最初から白虎と遊ぶことです。

 ライオンはこちらをまじまじと見つめ、やがてその場にぺたんと座りました。そしてこちらをまた見つめてきます。乗れ、ということでしょうか。

 

「乗っていいの?」

 

 こくん、とライオンが頷きます。れんは破顔してライオンにまたがりました。ライオンがちょっと大きすぎて、他の雌ライオンやトラに手伝ってもらったのは内緒です。

 

『なんだこのほのぼの』

『乗りたくても乗れなくてしょぼんとするれんちゃんを他のライオンやトラが手伝って乗せてあげる。いい』

『誰に向かっての解説だよw』

 

 ライオンにまたがって、たてがみをもふもふしながら移動開始です。ライオンがのっしのっしと歩いて行きます。それに追随する雌ライオンとトラたち。なんだかちょっぴり楽しくなります。

 

『鼻歌歌うれんちゃんがかわいい』

『歌上手いな。お歌配信してくれないかな?』

『ミレイに言ってみ。多分通るぞ』

 

 途中何度もライオンたちがいる小部屋に入りましたが、ライオンたちはれんを一瞥するだけでした。みんな思い思いに過ごしています。毛繕いしたり、二匹で遊んでいたり、見ていてちょっと面白いかも。

 

『いや本当に、どうなってんのこれ』

『こいつらアクティブだよな?』

『なんで襲われないの?』

 

「んっとね。アクティブモンスターって、敵意があるかどうかで判定してるんだって。それがなかったら襲われないらしいよ」

 

『え、なにそれ』

『初めて聞いた』

『誰から聞いたんだそれ』

 

「げーむますたーの山下さん」

 

 運営の情報かよ、とコメントさんたちはまた大騒ぎです。これって言ったらまずかったのかな? 少しだけ思いましたが、まあいいかと流します。きっと大丈夫。

 

『街の移動でアクティブモンスターに襲われないのはそれが理由か』

『確かに移動に敵意も何もないな』

『いや、でもそれでもれんちゃんはおかしくないか? テイムしたいは敵意だろ』

『多分、最初は敵意判定で警戒されたんだろ。それなのに実際にライオンを見たれんちゃんの反応がかっこいいかわいいだぞ? モンスも困惑するわ』

『長文乙。なんとなく納得した』

 

「だってかっこいいもんねー。もふもふもかわいいよね!」

 

 たてがみをもふもふしつつぎゅっと抱きしめます。がう、と返事がありました。なんてかわいいのでしょう。もっともふもふしちゃいます。もふもふもふもふ。

 

『主目的が忘れられてる気がするのは俺だけか』

『奇遇だな、俺もだ』

『でも! それがいい!』

 

 のんびりライオンの背中に揺られること、十分ほど。なんだか大きな部屋にたどり着きました。その部屋の中央に、とっても大きな白いトラがいます。白いトラ、白虎はれんを見つめて小さく首を傾げていました。

 

『ついに来たぞ』

『いつ見てもでけえ』

『さあ、れんちゃんの反応は……』

 

 白虎の大きさはディアぐらいでしょうか。つまり今更この程度の大きさで特に驚くこともなく、つまり残るのは白くてかっこいいトラさんという要素。

 

「かっこいい!」

 

 つまりもふる対象なのだ!

 ぴょん、とライオンから飛び降りて、白虎の方へと走りました。

 

『行ったー!』

『一切の躊躇なし! ぶれねえな!』

『さすがやでれんちゃん!』

 

 白虎に近づきます。白虎は困惑しているようでしたが、れんが触るのを嫌がりませんでした。そっと、その大きな足に触ってみます。

 

「さらさらしてる」

 

『へえ』

 

 白虎が顔を近づけてきました。とっても大きなお顔です。鼻を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めました。かわいい。

 

「わあ! かわいい!」

 

『おまかわ』

『大きすぎてちびりそうになるけど、こうして見るとかわいいかも』

『ウルフのボスと並び立つ初心者キラーなのに、こうして見ると本当にかわええ』

 

 鼻の頭をかりかり、喉あたりもかりかり。とても気持ち良さそうにしてくれているのが分かって、れんも楽しくなってきます。ずっとこうしていたいです。

 

『れんちゃん、エサもあげなよ。食べてくれるよ』

 

「あ、そうだね!」

 

 れんにとってはとても不味いエサですが、この子たちにとっては美味しいらしいです。手にとって差し出してみると、ぺろっと食べてしまいました。うん。美味しそう。

 

「もっと食べる?」

 

 エサを取り出してみると、またぱくりと食べました。もぐもぐと、味わっているみたいです。

 ライオンたちにも渡すと、こちらもまた食べました。

 

「よく食べる子はよく育つんだって。たくさん食べてね」

 

『いやれんちゃん、その子らは所詮データだから……』

『やめろよ。楽しそうなんだから、野暮なこと言うなよ』

『そうだよ。空気読んで』

『あ、はい。すみませんでした』

 

 喧嘩はよくないと思います。

 白虎たちにエサをあげていたら、れんもお腹が空いてきました。そこで取り出したのは、お弁当箱です。なんとこちら、お姉ちゃんにもらったものなのです。

 

『なにそれ』

 

「お弁当! 昨日、おねえちゃんが作ってくれたの」

 

 昨日、明日のためにとゲーム内で食べられるお弁当を作ってくれていました。綺麗なお花畑がある場所も教えてもらっています。安全な場所なのでピクニックにでも行っておいで、ということだったのでしょう。

 

「だから今日のこれはピクニックなの」

 

『ピクニック(ダンジョン)』

『ピクニック(ウィズ肉食獣)』

 

「おこるよ?」

 

『ごめんなさい』

『許して』

 

「仕方ないなあ」

 

 にこにこお話ししながら、お弁当の蓋を開けます。中は塩味をしっかり効かせたおにぎりと、唐揚げやサンドイッチなど。れんの大好物です。

 

『おいしそう』

『ミレイのスキル構成が謎すぎる。料理までできるのかよ……』

 

 ぱくりとおにぎりを食べます。美味しい、幸せなお味。

 

『なんだこのかわいい生き物』

『ふにゃふにゃれんちゃん』

『いい。すごくいい』

 

 もぐもぐ食べていると、白虎がれんのお弁当を見つめていました。食べたいのでしょうか。

 一応、トラは肉食らしいです。なので唐揚げを差し出してあげると、ぺろんと食べてしまいました。ちょっと残念と思わなくもありませんが、美味しそうに食べてくれたので良しとしましょう。

 

『お友達になりました』

 

「あ」

 

『ん? どした?』

 

「おともだちになったよ」

 

『草』

『はやすぎぃ!』

『仮にもボスなのにwww』

 

 理由は分かりません。少し不思議です。けれど、友達になれた事実は変わりないので、れんとしては満足です。このまま一緒に連れて帰っちゃいましょう。

 

「一緒に来てもらえる?」

 

 れんが聞くと、白虎は頷いてくれたのでした。

 

 



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配信七回目:頭を抱えるお姉ちゃん

壁|w・)最後『・・・・・』から先はれんちゃん視点です。


 

 さて。ゲーム内の保護者である私は今、頭を抱えています。隣には腹を抱えてぷるぷる震えている菫の姿が! おのれ、他人事だと思って!

 

「佳蓮ちゃんは本当にかわいいわね」

 

 笑いを堪えながら菫が言う。その意見には同意だけど、この後どんな顔をして会えばいいんだろう。

 今回、れんちゃんが配信に使ったアカウントは私と共用。そして共用と言っても、ゲーム内での保護者は私、つまりあのアカウントのメインは私なのだ。まあ、うん。れんちゃんが配信を始めた時点で私に連絡が来たんだよね。

 菫に事情を話すと、苦笑いしながら一緒に配信を見てくれることになった。喫茶店に入って、軽く食べ物をつまみながらスマホで配信を見る。そしてれんちゃんが白虎をテイムして、れんちゃんのホームに戻ったところで配信は終わった。

 

 何が言いたいかと言うと、私はもうれんちゃんがホームに連れ込んだ子たちを知ってるわけだ。たてがみふさふさの雄ライオンと、雌ライオン二頭とトラ二頭。そして白虎。

 知らなかったら驚くけど、知ってたら驚くものでもないわけで。さて私はどうしたらいいんだろうね。実は見てました、と正直に言うべきか、驚いてあげるべきか。

 

「どうしたられんちゃんが一番喜ぶかな……」

「そうね。今すぐ記憶を抹消して、何も知らないままログインすることね」

「無理難題にもほどがある……」

 

 そんなことができたら苦労しない。できるなら今すぐやりたい。そうしたら、きっとれんちゃんの望み通りの反応ができるのに!

 

「私は、私はどうすればいいの……?」

 

 私が頭を抱えていると、菫がため息をついて助言をしてくれた。

 

「あのね、未来。私に相談されても、そのゲームを知らないんだからアドバイスなんてできないわよ」

「うん……。ごめんね、分かってる」

「だからさ。未来にはゲーム内に頼れる相談相手がたくさんいるでしょ。いや、頼れるかは分からないけどさ」

「つまり?」

「ちょっと早めにログインして、相談してみなさい。どうせ暇人ばかりなんだし、少し早めに始めても誰かいるでしょ」

「なるほど!」

 

 言い方は少し気になるけど、それはいい手かもしれない。頼りになるかは本当に分からないけど!

 

「はい。そうと決まれば、さっさと買い物終わらせましょ」

「だね。ありがとう、菫」

「はいはい」

 

 その後は菫に連れ回される形で、ショッピングを楽しんだ。菫はちょっと買いすぎだと思います。

 

 

 

 午後五時半。菫の助言に従い、私は少し早めにログインした。そしてすぐに配信の準備をする。少しの待ち時間の後、すぐに配信できる状態になった。

 光球を叩いて、配信開始だ。

 

『お? またこんな時間?』

『今度はミレイか』

『おい馬鹿お前ら』

『そうだった、忘れてくれミレイ。それでどうしたんだ?』

 

 この人たちは少なくとも、サプライズをしたいれんちゃんに合わせるようだ。いい人たちだな、と思う。私は、なんともいえない表情になってしまった。

 

「とても簡単に伝えますけど」

 

『おう』

 

「私が配信で使ってるアカウント、れんちゃんと共有なんです」

 

『うん』

『いや、待って。まさか』

 

 お、はやい。もう察してくれた人がいるみたいだ。構わずに、続けて言う。

 

「私はゲーム内ではれんちゃんの保護者なので、アカウントのメインの権利は私にあるわけですよ」

 

『あー……』

『おいおいおいおい』

 

「れんちゃんが配信始めた時点で私に連絡が来まして、私も見ていたんですよね」

 

『ははは……。つまり?』

 

「れんちゃんのホームに何がいるか、知ってるんだよ! 私、今からどんな顔してれんちゃんと会えばいいの!?」

 

『草』

『これはひどいwww』

『れんちゃんが気付くべきだった、というのは小学生には酷か』

 

 当たり前だけど、れんちゃんに責任を求めるつもりなんて毛頭ない。まさかやらないだろうと説明していなかった私が悪いのだ。れんちゃんは何一つ悪くない。

 それでも悪いと言うなら、ただただひたすらにタイミングが悪かった。

 

「というわけで、助けてください。私はどうしたらいいかな。会った瞬間に謝って配信を見てましたって言うべきか、知らない振りをするべきか」

 

『究極の二択だな』

『素直に伝えるべきじゃね? 黙っていても罪悪感あるだろうし、ばれたら絶対に怒るぞ』

『黙ってようぜ。ばれなきゃいい。それよりもせっかくのれんちゃんのサプライズだぞ! 楽しめよ!』

 

 とまあ、たくさんの意見を頂戴できたわけですが。数えると、ほぼ同数という結果に。これは、本当にどうしようかな。

 

『今更だけど、もう謝るのは遅くないか?』

 

「ん……? なんで?」

 

『いや、だって、謝るなら配信終わった直後じゃないか? 何時間経ってると思ってんの?』

 

「あ」

 

『あ』

 

 そうだよ当たり前じゃないか謝るなられんちゃんがログアウトしたタイミングでないと意味がない……! どうして今まで黙ってたのか聞かれたら何も答えられなくなる!

 

『これは詰んだなw』

『まあ、お前はよくやったよ。骨ぐらいは拾ってやる』

『大草原の中から骨を探してみせるよ!』

 

「それおもいっきり笑ってやるって言ってるようなもんでしょうが!」

 

 くそう、他人事だと思って! いや、事実彼らにとっては他人事だけどさあ!

 ああ、もう時間だ。覚悟を決めるしかない……!

 

「じゃ、切るから! 行ってくる……!」

 

『逝ってこい!』

 

「うるさいよ!」

 

 ああ、もう、なるようになれだ!

 

 

 

 

 れんちゃんからメッセージが届いた。フィールドに入らずに待っててね、だってさ。ははは、胃が痛い……!

 了解、と返事をしてからしばらくして、ファトスの門の前で待っていた私の元にれんちゃんが走ってきた。なんかもう、すごい笑顔。まさにいたずらっ子の笑顔。純粋な笑顔。汚れた私にはきっついよ……。

 

「おねえちゃん、お待たせ!」

「うん……。あ、いや、待ってないよ。それで、行っていいの?」

「あ、待ってね」

 

 れんちゃんがささっと配信を始める。おお、一回で慣れたのか。

 ん……?

 

『反応』

 

 反応……? あ。

 れんちゃんを見る。こちらをわくわくしながら見ていた。そうだよね私から見たら初めてのはずだもんね!

 

「す、すごいねれんちゃん! 自分でできるようになったんだ!」

「うん! うん! すごい? すごい?」

「すごい! れんちゃんすごいなあ!」

「えへへ……」

 

 照れ照れれんちゃんとてもかわいい。抱きしめたい。でも配信中なので自重します。

 というわけで、いよいよれんちゃんのホームへ。れんちゃんと一緒に、転移します。そうして広がるれんちゃんの草原。その、目の前に、いた。

 ライオンやトラたち、そして大きな白虎。

 よし。よし。やるぞ!

 

「わ、わあすごい! ライオンとトラに白虎まで……! れんちゃんいつの間に友達になってきたの? びっくりしちゃった!」

「ふうん。おねえちゃん、配信見てたんだね」

「!?」

 

 即バレである。まじかよ。

 

『草』

『通り越して大草原』

『むしろサバンナ』

『トラだけにw』

『何言ってんのお前』

 

 こいつら他人事だと思って……!

 思わずコメントを睨み付けていると、れんちゃんも私のことを睨んでいるのに気が付いた。怖いです。

 

「ふうん。ふうん。そうなんだ。へえ、そうなんだ」

「あ、あの、れんちゃん……?」

「ふーん。ふーん。へえ。そう、なんだあ」

「すみませんでした!」

 

 秘技、土下座! 言い訳なんてそれこそできない! 怖い! れんちゃんがすごく怖い!

 返事がないので恐る恐る顔を上げると、れんちゃんは頬をぷっくり膨らませていた。

 

「おねえちゃんなんて、だいっきらい!」

「ぐはあ!」

 

 れ、れんちゃんに嫌われた……嫌われた……。ぐすん……。

 

   ・・・・・

 

 膝を突いたお姉ちゃんはそのままに、れんは白虎の方に向かいました。頭にはいつものようにラッキーが居座っています。

 白虎の元にたどり着いて、その大きな体に抱きつきます。ふわふわ。

 れんの苛立ちが分かるのか、ウルフたちも含めてみんなが集まってきます。れんのことを代わる代わるなめていきます。それだけで、少しだけ落ち着きを取り戻しました。

 ちょっと、言い過ぎたかもしれません。

 

『れんちゃん』

 

 ふとコメントが目に入りました。今回はれんが配信を開始したので、光球もれんについてきたようです。

 

『ミレイちゃんはミレイちゃんなりにとっても悩んでたよ。れんちゃんのことが大事だから、すごく悩んでたの』

 

「うん……」

 

『れんちゃんの気持ちも分かるが、あまり怒らないでやってくれ』

『できればさ。二人が仲良くしてるのを見たい』

『けんかをしてるのを見ると、ちょっと悲しい』

 

「うん……」

 

 本当に、いい人たちだと思います。

 れんだって、分かっています。ちょっとめちゃくちゃ言った気がします。勝手に配信しちゃったのはれんなのです。本来なられんが怒られてもおかしくないのです。

 いわゆる逆ギレというやつです。だめな子です。

 

「謝ってくる……」

 

 れんがそう言ってお姉ちゃんの方へと向かうと、

 

『えらい』

『自分から謝れてえらい』

『がんばれれんちゃん、俺たちがついてるぞ!』

 

 そんなコメントが流れて、れんはくすりと笑いました。

 お姉ちゃんの前に立ちます。お姉ちゃんが顔を上げます。

 お姉ちゃんの、とても悲しそうな顔。意を決して、れんは口を開きました。

 

「ごめんね、おねえちゃん」

「れんちゃん?」

「ちょっとね、いらいらしちゃってたの。だから、ごめんなさい」

 

 お姉ちゃんは目を何度かぱちぱちしていましたが、

 

「れんちゃん、許してくれるの?」

「うん。だからね、あのね、わたしが勝手に配信しちゃったのも、許してほしいな……?」

「許すよ! 全部許しちゃう! ごめんねれんちゃんありがとうれんちゃん!」

「わぷ」

 

 お姉ちゃんが抱きついてきました。なんだかいつもより力が強い気がします。ぎゅーっとされています。ちょっとだけ苦しいですけど、でも悪い気はしないのです。

 

『うんうん。やっぱりこうでないとね』

『てえてえに似た何か』

 

 とても、調子の良いコメントさんたちです。ちょっとだけ怒るべきでしょうか。そんなことを考えていたら、お姉ちゃんの呟きが聞こえてきました。

 

「はあ、れんちゃん……んふふ……」

「うあ」

 

『こわいwww』

『これはwww』

『おいおい、死んだわあいつ』

 

 おねえちゃんの肩を叩きます。おねえちゃんは体を起こして、れんの顔をまじまじと見つめてきます。そんなお姉ちゃんに、れんはにっこり笑顔でいいました。

 

「きもちわるい」

「…………」

 

 固まるお姉ちゃん。れんはふんと鼻を鳴らして、もふもふに戻るのでした。

 

『そういうところやぞ』

『あーあ。せっかくフォローしてやったのに』

『これはもう自業自得』

 

 どうやらコメントさんたちも今回は賛成のようです。

 れんはくすくすと小さく笑いながらお姉ちゃんへと振り返ります。おねえちゃんは呆然とこちらを見つめていましたが、

 

「おねえちゃん、もふもふする? この子、さらさらだよ」

 

 白虎を撫でながら言います。ふらふらと近づいてきたおねえちゃんに苦笑しながら、れんはもふもふさらさらを堪能するのでした。

 



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掲示板3

 

テイマー姉妹について語るスレ

 

 

1.管理人

 

ここはAWOで配信しているテイマー姉妹の、ミレイとれんちゃんについて語るスレです。

どんな内容でも、好きに語りましょう。

ただしアンチ、てめえはだめだ。

 

 

 

121 名無しさん

猫を抱きしめるれんちゃん……かわいい……

 

 

122 名無しさん

服もまたいい

和服はどうかとちょっと思ったけど、これはこれで

 

 

123 名無しさん

さすがアリス、いい仕事するよ

どう考えても俺らの依頼より力入れてる気がしないでもないけどw

 

 

124 名無しさん

まあ仕方ないだろ

実用性重視のつまらん依頼よりかわいい幼女の方が気合いが入る

 

 

125 名無しさん

へ、へんたいだー!

 

 

126 名無しさん

しかし紛う事なき事実である

 

 

127 名無しさん

くっそ、否定できねえ……。

 

 

128 名無しさん

癒やし空間過ぎて昇天しそう

 

 

129 名無しさん

浄化されそう……

 

 

130 名無しさん

れんちゃんを見てたら、自分がどれだけ汚れているのかよくわかるな!

 

 

131 名無し

やめろください

 

 

132 名無しさん

俺たちも、小さい頃はあんなに純真だったんだぜ……

 

 

133 名無しさん

えっ

 

 

134 名無しさん

えっ

 

 

135 132

うんごめん、言ってて思った

ねーな

 

 

   ・・・・・

 

 

223 名無しさん

いたずらは結局不発だったけど、これはこれで良かった

 

 

224 名無しさん

さらっと重大情報も言ってたよな

 

 

225 名無しさん

日曜仕事の俺、準備の配信を見逃す……

 

 

226 名無しさん

あー……

 

 

227 名無しさん

おつとめご苦労様です!

 

 

228 名無しさん

意味が違うだろそれw

 

 

229 名無しさん

履歴で視聴できるはずだから見てこい

いやむしろ見てくださいそしてここで語り合おうじゃないか!

 

 

230 名無しさん

神回?

 

 

231 名無しさん

俺的には神回

 

 

232 名無しさん

見所のポイントはな、いっぱいあるけどな、そうだな……

 

 

233 名無しさん

全てだ

 

 

234 名無しさん

あ、はい

 

 

235 名無しさん

ちゃうねん

全編通してかわいかってん

だから見ろ、見れば分かる!

 

 

236 名無しさん

おk、今から見てくる

 

 

237 名無しさん

いてらー

 

 

238 名無しさん

てらー

 

 

239 名無しさん

それにしても、れんちゃん単独配信は本当良かった

もうずっとかわいかった

 

 

240 名無しさん

わかる

いたずらってのもまたいい

かわいらしいいたずらだったし

 

 

241 名無しさん

目的地がライオンのダンジョンって知った時は本気で焦ったけどなw

 

 

242 名無しさん

あれは本当に心臓が止まるかと思った

 

 

243 名無しさん

その後の重大情報で心臓止まった

 

 

244 名無しさん

成仏して

 

 

245 名無しさん

敵意に反応するって今まで聞いたことなかったよな

 

 

246 名無しさん

誰か確かめてきたか?

 

 

247 名無しさん

俺検証班、確かめてきた

 

 

248 名無しさん

さすが変人の集まり!

 

 

249 名無しさん

さあ吐け! きりきり吐け!

 

 

250 名無しさん

お前ら喧嘩うってんの?

まあいいけどさ

結論から言うと、確かめられなかった

 

 

251 名無しさん

ん?

 

 

252 名無しさん

どういうこと?

 

 

253 名無しさん

仲間といろいろ試してみたけど、全部最初のトラでかじられたよ

で、お前らに聞きたいんだけど

敵意って、どこからでどこまでだ?

 

 

254 名無しさん

は? そんなの決まって……

 

 

255 名無しさん

ああ……なるほどな

 

 

256 名無しさん

いや、どういうことだよ

 

 

257 名無しさん

わからん?

じゃあさ、そうだな……

トラを狩って素材が欲しいは敵意だな?

 

 

258 名無しさん

当たり前だろ

 

 

259 名無しさん

じゃあ、トラをテイムしたいは?

 

 

260 名無しさん

テイムは……あれ? どっちだ?

 

 

261 名無しさん

隷属、調教するわけだから敵意だろ

 

 

262 名無しさん

ダンジョンの宝箱を取りたい、は?

ちなみにこれ、よく考えたらモンスの住処を荒らすことだからな

 

 

253 名無しさん

あー……

 

 

254 名無しさん

敵意ってのが明確に分からないから、調べようがないってことか

 

 

255 名無しさん

そういうことだ

だから運営に問い合わせてみた

 

 

256 名無しさん

はえーよwww

 

 

257 名無しさん

有能

でも答えてくれんのかそれ?

 

 

258 名無しさん

答えてくれたぞ

事実です、だってさ

 

 

259 名無しさん

まじかあああ!

 

 

260 名無しさん

これは革命が起きるのでは!?

 

 

261 名無しさん

うん、その、なんだ

あまりにあっさり答えてくれたからなんでかなと思ったらさ

簡単な基準も教えてくれたぞ

 

 

262 名無しさん

やべえどうした運営、大盤振る舞いじゃないか!

 

 

263 名無しさん

はよ!

もったいつけずにはよ!

 

 

264 名無しさん

先の例は全てアウト、襲われる

あれはれんちゃんだからできることだと思え

 

 

265 名無しさん

まじかよ……

 

 

266 名無しさん

いや、まあ、俺たちじゃ無理だとは分かってたさ……

 

 

267 名無しさん

それってれんちゃんのための設定なのか?

 

 

268 名無しさん

いや、元々だろ

街の移動で襲われなかった理由がこれで説明つくから

 

 

269 名無しさん

ああああ! たしかに! 移動に敵意も何もねーわ!

 

 

270 名無しさん

時間差説は完全に否定されたな……

 

 

271 名無しさん

れんちゃんの純粋さが上手く噛み合ったってことか

 

 

272 名無しさん

さすがれんちゃんやで!

 

 

273 名無しさん

ミレイが最初に言ってたのってこれだったんだな

 

 

274 名無しさん

あん?

 

 

275 名無しさん

何か言ってたっけ

 

 

276 名無しさん

いや、確かミレイはれんちゃんがラッキーをテイムできた理由を知ってるって言ってただろ

その時に自分はできない、心が汚れてるから、とか

 

 

277 名無しさん

あー

 

 

278 名無しさん

なるほどな……

心が汚れてるから、か……

 

 

279 名無しさん

ははは、そうだな、汚れたよ……

 

 

280 名無しさん

おれだって、おれだって小さい頃はもっと純粋で……!

 

 

281 名無しさん

いやいや

 

 

282 名無しさん

それだけはない

 

 

283 名無しさん

断じてない

 

 

284 名無しさん

ひどいw

いや俺もないと思うけどw

それなりに悪ガキだった気がするw

 

 

285 名無しさん

やはりれんちゃんは純粋でかわいい……

 

 

286 名無しさん

そう言えば今回のいたずらのテイムで、また結構増えたよな

 

 

287 名無しさん

ホームのモンスか

増えたなあ

 

 

288 名無しさん

そろそろ上限じゃね?

 

 

289 名無しさん

確かに、そろそろやばいはず

 

 

290 名無しさん

どうするつもりなんだろうな

 

 

291 名無しさん

課金しかないはずだけど

さすがに運営もそこまでのえこひいきはしないだろうし

 

 

292 名無しさん

俺としてはしてくれてもいいけどな

もっと甘やかしていい

特別扱いしてあげろ

 

 

293 名無しさん

別にれんちゃんがどこかのダンジョンを攻略してるわけでもないしな

リアルが大変なんだから、ゲームぐらい快適に過ごしてほしい

 

 

294 名無しさん

だな

で、本音は?

 

 

295 名無しさん

そしてもっと配信をして萌えさせてください

 

 

296 名無しさん

正直でよろしいw

 

 

297 名無しさん

まああんなに仲の良い姉妹だし、きっとお姉ちゃんがどうにかしてくれるはず

 

 

298 名無しさん

がんばれミレイ、期待してるぞ!

 

 

299 名無しさん

シスコン過ぎてたまに引くけどな!

 

 

300 名無しさん

そこはまあ許してやれよ

だってれんちゃん、本当にかわいいからな

 

 

301 名無しさん

わかる

明日の配信も楽しみだ

 



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配信九回目:放牧地

 

「おねえちゃん、放牧地は?」

 

 今日も今日とでわんわんとにゃんこをもふもふする様子を眺めていたら、最愛の妹からそんなことを言われました。

 ふむ。放牧地。ふむ。

 

「忘れてた……」

 

 わ、私はなんということを! 他の人のもふもふと戯れて、もふもふをもふもふするもふもふれんちゃんを見たいと思っていたのに! もふもふ!

 それに何よりも、れんちゃんに怒られる。

 と、思ってたんだけど。

 

「えへへ。わたしも」

 

 そう言ってはにかむれんちゃん。かわいい。好き。

 

「うん。せっかくだし、今日行こうか。配信もしちゃおう」

「うん!」

 

 

 

「というわけで、突発的ですが放牧地突撃回!」

 

『放牧地キタ!』

『いきなりすぎませんかねえ!? 今から行くぜ!』

『残念だったな、れんちゃんが入っていったからか、テイマーたちは我先に放牧地に入った。すでに人数上限で入れない』

『野生のお前ら積極的すぎじゃね?』

 

 うん。まあ、そうなのだ。放牧地に行こうとテイマーズギルドに行ったら、テイマーさんに声をかけられてね。ミレイさんとれんちゃんですかって聞かれたから頷いたら、いつの間にか大勢集まってた。意味が分からない。

 いや、なんとなくは分かるんだけどね。れんちゃん、一週間程度ですごい人気になったからね。今も視聴者さんが続々増えてる。怖い。

 多分、内容がおもしろいとかじゃなくて、れんちゃん目当てだと思う。普通はいない幼女プレイヤーだからね。興味を持つのは分かる。それにれんちゃんだからね! かんわいいからね! 仕方ないね!

 

「おねえちゃん、なんか気持ち悪い」

「ひどい」

 

 うん。落ち着こうか。

 とりあえず放牧地を見回す。大勢のテイマーさんたちが、こっちをちらちら見てる。こっち、というかれんちゃんを。

 

『なんか、妙な雰囲気だな』

『いやいや、テイマーの俺には理解できるぞ』

 

「うん。私も理解できちゃう。普段から放牧地にいるようなプレイヤーは生粋の動物好き、自分の子大好きな人だからね。自慢の子を見せたくなるものだよ」

 

『親馬鹿心理』

 

「否定はしない」

 

 ただ、蛇とかテイムしている人は、あまり期待はしてなさそう。こっちを見てるけど、少し離れた場所にいる。

 安心してほしい。れんちゃんは特にもふもふが好きなだけで、生き物全て好きだから。博愛主義者だから。さすがれんちゃん、

 

「私の女神!」

 

『お前はいきなり何を言ってるんだ』

『おまわりさん、この姉です』

『おまわりさんです。お医者さんを呼んでください』

 

「ひどくないかな!?」

 

 そこまで言わなくても。

 

「おねえちゃん……」

「おっと、ごめん」

 

 れんちゃんがうずうずしながら私を見てくる。うん、おあずけで待たされてる子犬みたい。ちょっとこれはこれでかわいいかもしれない。

 れんちゃんの頭を撫でながら、

 

「じゃあ、行ってらっしゃい。私は後ろからついていくからね。何かあったら呼んでね」

「はーい!」

 

 嬉しそうに駆け出すれんちゃんを見送りながら、私はだらしなく頬を緩めた。

 

「私の妹がとってもかわいい」

 

『しかしその姉の顔はとても気持ち悪い』

『一度鏡見た方がいいよミレイ』

 

「うるさいよ」

 

 

 

 れんちゃんがまず最初に向かったのは、リスによく似たモンスターだ。そのモンスターをテイムしているらしい少年の顔が強張る。まさか自分のところに来るなんて、とか思ってるのかもしれない。

 れんちゃんは少年の足下のリスまで駆け寄ると、わあ、と小さな歓声を上げた。

 

「あ、あの、この子!」

「は、はい」

「抱いても、いいですか!」

 

 れんちゃんの声に、少年は目をぱちぱちと瞬かせていたけど、すぐに小さく笑った。リスを抱き上げて、れんちゃんへと渡す。受け取ったれんちゃんははわあ、と妙な声を上げていた。

 

「かわいい……。ちっさいのにふわふわもふもふしてる……!」

「ふふ……。そうだろ? 僕の自慢の子さ。お願いすれば木の実とかも取ってきてくれるんだよ」

「すごい! 見たい!」

「いいよ」

 

 下ろしてもらったリスへと少年が何かを囁くと、リスがどこかへと駆けだしていく。あのリスのモンスター、そんなことができたんだね。面白い能力だ。

 

『木の実ガチャだな。無料でできるガチャ。なんて甘美な響き』

『いいなあ、無料ガチャ』

『肝心の木の実の使い道は?』

『美味しいよ!』

 

「いや微妙すぎるでしょ」

 

 盛り上がるコメントに思わず突っ込みを入れてしまう。無料のガチャは楽しそうだけど、木の実の使い道はかなり限られてるみたいだ。美味しいだけでもいいと思うけど。

 リスは一分もせずに戻ってきた。口に何かをくわえていて、それをれんちゃんへと差し出している。見ていて微笑ましい光景だ。

 

「あ、あの……」

「もらってあげて。美味しいよ」

 

 少年に促されて、れんちゃんが木の実を受け取る。れんちゃんがリスを撫でると、リスも心なしか嬉しそうにしていた。なんだろう、この、癒やし空間。頬がにやけちゃう。

 

「ありがとうございました!」

 

 少年にお礼を言って、リスをまた一撫でして次に向かうれんちゃん。私も少年に会釈すると、少年は少し照れたようにはにかみながら頭を下げてくれた。

 

 次にれんちゃんが向かったのは、驚いたことに蛇のモンスターだ。蛇をテイムしているのは、私よりも少し年上に見える女の人。女の人は目をまん丸にして驚いていた。もちろん私も驚いた。

 確かにれんちゃんは生き物が好きだけど、それでもやっぱりもふもふしている子の方が好きだと思っていた。まだもふもふはたくさんいるのに、蛇を選ぶなんて。

 

「あの、この子、さわってもいい?」

「え、ええ。もちろん」

 

 女の人が慌てて返事をしている。足下でとぐろを巻いてる蛇にれんちゃんが触れると、蛇は体を持ち上げてれんちゃんを見つめ始めた。威嚇かな?

 

「ええっと。れんちゃん、よね?」

「はい! れんです!」

「撫でてあげると、その子も喜ぶから」

 

 早速れんちゃんが蛇を撫で始める。なんだか気持ち良さそうなお顔。蛇なのに。

 

「わあ。すべすべ……」

「気持ちいいでしょ? 撫でたら落ち着くのよ。うふふふふ……」

「あ、えと、はい」

 

 珍しいことにれんちゃんがなんだかとっても微妙な表情だ。そして何故私を見る。なにかな、私と同類だとでも言いたいのかな? 怒るよ? 怒っちゃうよ?

 

「おねえちゃんみたい……」

 

 やめて。本当に言われると怒るよりも前にへこむから。

 

 

 

 その後もれんちゃんはいろんな人のモンスターと触れ合った。特にれんちゃんがあえて最後に残していた人、そのテイムモンスターには興味津々だったようだ。

 

「どら! ごん! だー!」

 

 緑色の、いかにもなファンタジーのドラゴン。正直私も気になってた。

 

『おいおい。ドラゴンって、こいつ前線組だろ』

『現時点でドラゴンは最新のダンジョンの最深部限定だろ』

『なんで都合良くそんなやつがいるんだよ』

 

 視聴者さんたちも困惑してる。私も困惑してる。ここに集まる人は戦闘なんてどうでもいい、テイムモンスターを愛でたい人がほとんどだ。こんな、いわゆるガチ勢が来るような場所じゃないはずなんだけど。

 

「いや、その、なんだ。俺はれんちゃんの配信を最初から見てたんだけどさ」

「わあ! ありがとうございます! じゃあ、もふもふ好き!?」

「いや、もふもふもだけど、どっちかというとそれに癒やされる二人を見るのが楽しみだったよ」

 

『わかる』

『むしろここにいるほぼ全員がそうだと思う』

 

 私もれんちゃんを自慢したいがための配信だからね。満足な感想です。れんちゃんは首を傾げてたけど、れんちゃんはそのままでいてね。

 

「でさ、俺のこいつを、是非ともれんちゃんに自慢したくて。なんせ、俺のフレはみんなこいつを戦闘力でしか見ないからさ……」

 

『あっ(察し)』

『ああ、うん。その、落ち込むな』

『ペット自慢には不向きな連中ばっかりだもんなあ……』

 

 前線組と呼ばれる人はそれはもう戦闘大好きな変態さんたちだ。バトルジャンキーばっかりだ。ドラゴンを見て思うのは、多分かっこいいとかそんなことより、強そう、になると思う。

 

「自慢したくて、そろそろかなと思って、待機してました。すみません」

「そうなんだ! 会わせてくれてありがとうございます! あのね、触ってもいい?」

「うん。もちろん」

 

 れんちゃんがそれはもう嬉しそうにドラゴンに触る。ぺたぺたなでなで。そんなにいいものなのかな? 私はふわふわな子の方が好きだから、よく分からない。

 

「れんちゃんはドラゴンも好きなんだね……。生き物が好きらしいから分からないでもないけど、そこまでの反応はお姉ちゃんは予想外です」

「だってドラゴンだよ! かっこいいんだよ! ぐわーって!」

「ぐわーとは」

 

『ぐわー』

『意味が分からないけど大好きは分かった』

 

「だってだって! 男の子の憧れだよ!」

「うん。そうだね。でもれんちゃんは女の子だね」

「男の子も女の子も関係ないの!」

「あ、はい。……男の子のくだりは必要だったの……?」

 

『興奮しすぎて勢いで喋ってるんだろうなあw』

『これはこれで、いい』

『まあドラゴンは初めて見ただろうしなw』

 

 なるほど、それもあるのか。もふもふはディアやラッキーで堪能してるものね。初めて見るドラゴンに興奮する、というのは分かるかもしれない。

 

「ちなみに、背中に乗せてもらえるよ。飛べる」

 

 テイマーの青年の発言に、れんちゃんの目が輝いた。すごいすごいと大はしゃぎだ。確かにプレイヤーを乗せて飛べるモンスターなんて聞いたことがない。このドラゴンが初めてなのかも。

 

「乗ってみる?」

 

 青年の問いに、れんちゃんはすぐにぶんぶんと首を縦に振った。

 

 

 

 というわけで、ファトスの外に来ました。

 青年がドラゴンに専用の鞍を取り付けて、れんちゃんを乗せてくれた。れんちゃんのわくわくが私にまで伝わってきそうだ。

 

『いいなあ、俺も乗りたい』

『ドラゴンのテイムってやっぱり難しいのか?』

 

 ああ、それはちょっと気になる。れんちゃんも気になってるだろうし、聞いてみようかな。

 

「ドラゴンのテイムって難しいですか?」

 

 というわけで聞いてみました。

 

「いや、ごめん、実は分からないんだ」

「分からない?」

「うん。たまたま見かけて、たまたま持っていたエサを上げたら一発でテイムしちゃって」

 

『なんという豪運』

『前線組の私、ドラゴンのテイムに失敗すること千回以上』

『あー……。どんまい……』

『いじれよぉ! 慰められると泣いちゃうじゃん!』

 

 まあ、つまりはそれだけ確率が低いってことだね。千回やってもテイムできないってよっぽどだと思う。よくやるよ。

 

「れんちゃん。騎乗スキルは持ってるかい?」

「持ってる! 山下さんに勧められたの!」

「確かゲームマスターの一人だっけ。いい選択だね」

 

 まったくだ。騎乗スキルがなかったら、そもそもディアに乗れなかったと思うし、さすがは運営の人だね。片手剣なんて取らなくてよかったと今なら思う。

 

「それじゃあ、補正がかかるから落ちることはないから安心していいよ」

「なかったら落ちるの?」

「落ちる。落ちた」

 

『経験談かw』

『すっごく怖そう……』

『想像しただけで、ちょっと、むずむずする』

 

「あれだね、いわゆる玉ひゅんだね」

 

『女の子が言っていい言葉じゃないからな!?』

 

 それは失礼。

 さてそんな話をしている間に、あちらの準備は終わったみたいだ。青年がこちらに駆け寄ってくる。……あ、出発前にやることが一つ。

 

「れんちゃん!」

「なあに?」

「光球、れんちゃんを追うようにしておくから! 楽しんでくるんだよ!」

「はあい!」

 

『おお! 助かる!』

『空からの景色とか初めてじゃないか!?』

『これは良い判断。ミレイやるな!』

 

「むしろ私が見たいだけだよ。あとで見るから」

 

『納得したw』

 

 お、ドラゴンが走り始めた。れんちゃんいてらー!

 

 

   ・・・・・

 

 さて、空の旅を始めたれんですが。

 

「たかーい! こわーい! あははははー!」

 

 テンションうなぎ登りの天井知らず。ひたすらに笑っています。これでもかと笑っています。あっちこっちを見て笑顔を振りまいてます。

 

『すごい景色!』

『やばいなこれ。楽しそう。でも怖そう』

『れんちゃんのテンションが完全にぶっ壊れてるwww』

 

 だってとっても楽しいですから。

 

「みゃー!」

 

『何故猫w』

 

「わんわん!」

 

『落ち着けれんちゃんwww』

『気持ちは分かるがw』

 

 楽しい。とても楽しいです。れんは今、風になっているのです!

 

「たーのしぃー!」

 

『れんちゃんwww』

『ここまでテンションの上がったれんちゃんは初めてではw』

『れんちゃんの病気を知ってると、涙が出そうになる』

『おいばかやめろ。触れないようにしてるんだから』

 

「生きてるだけで嬉しいっておねえちゃんは言ってくれるのー!」

 

『ミレイ……』

『いや、うん。よくネタにするけどさ。やっぱりいいお姉ちゃんだと思うよ』

『本当にな』

 

 それはれんも知っています。誰よりも、両親よりも、れんが一番知っているのです。

 

「おねえちゃんはねー! わたしの、自慢の、大好きなおねえちゃんなのー!」

 

『そっか』

『どうしよう。ちょっと泣きそう』

『本当に、いい姉妹だ』

 

「でもたまに気持ち悪いのー!」

 

『れんちゃんwww』

『もう色々と台無しだよwww』

『草w』

『草に草を定期』

『ちょっとは反省しろミレイw』

 

 空の旅を楽しみながら、れんはコメントさんたちと楽しくおしゃべりするのでした。

 

   ・・・・・

 

 そして私は膝をついていましたとさ。

 

「きもちわるい……きもちわるいて……」

「いや、うん……。その、何て言えばいいか……。ほら、お姉ちゃんが大好きって言ってくれてたじゃないか」

「そうだけど……。ぞうだげどぉ」

「ガチ泣きじゃないか……」

 

 れんちゃんの言葉の前半がなんかもうとっても嬉しくて涙腺にきて、そして後半で落とされてもう感情がぐちゃぐちゃだよお!

 

「ひぐ……。あ、そうだ、フレンドになろう……。たまにでいいからドラゴンに乗せてあげて……」

「あ、うん……。それぐらいでよければ」

 

 泣きながらフレンド登録。フレンドリストにエドガーという名前が登録された。今度は私も乗せてもらいたいところだ。ということで。

 

「エドガーさん。次の機会でいいので私も乗りたい」

「ん? 別に今でもいいよ?」

「そろそろ配信を終える時間なの。配信が終わったらぱぱっとお片付けをして、れんちゃんが落ちるのを見届けないといけないからね。時間超過は病院に怒られるので」

「病院……」

 

 エドガーさんが神妙な面持ちになる。そんな顔をしないでほしいんだけどね。なにせ、れんちゃん自身がそれほど気にしてないから。

 

「その、確認だけどさ。れんちゃんって、光そのものに過敏に反応するっていう……」

「お。テレビのまとめでも見たの? 名前が大島だったられんちゃんだよ。よければ寄付もよろしく」

「もちろん。必ず」

「あ、いや。言っておいてなんだけど、無理しない範囲でいいので……」

 

 そんなに即答されるとは思わなかった。助かるのは助かるけど、無理に出させたと思われると、私も心外だしれんちゃんも悲しむ。それだけはやめてほしい。

 

「うん。分かってるよ。れんちゃんがテレビで言ってたぐらいだしね。……戻ってきたよ」

 

 あ、はやいかも。

 エドガーさんに言われて空を見ると、真っ直ぐにドラゴンが落ちてくるところだった。垂直に。怖くないかなあれ!?

 そんな私の心配なんて知らないとばかりに聞こえてきたのは、

 

「あはははは!」

 

 れんちゃんの楽しそうな笑い声。うん。楽しそうで何よりです。

 ドラゴンは地面の直前に一瞬だけ浮かぶと、ゆっくりと着地した。

 

「ただいまー!」

 

 うわあ、まさに満面の笑顔。とても、とっても、機嫌がよさそうだ。

 

「おかえりれんちゃん。楽しかった?」

「楽しかった! びゅーんが空でぐわーなの!」

「なるほど、まるでわからん」

 

 まあそれでも、すごく楽しかったというのはよく分かった。私としても、すごく嬉しい。でも少し心配なのは……。

 

「おねえちゃん、おねえちゃん」

 

 ドラゴンから下りたれんちゃんが私の元に駆け寄ってきて、私の服をつまむ。とても、とても嫌な予感がする。

 

「わたしも、ドラゴンと友達になりたい!」

 

 ですよね、そうきますよねー! エドガーさんまで表情が引きつってるじゃないか! やめなさい、その、俺やらかしちゃいましたか、みたいな顔やめなさい!

 

「そ、そっか。うん。どうしようかな……」

 

 あのダンジョンは、現時点でのエンドコンテンツの位置づけだ。このゲームにもメインストーリーというのがあるんだけど、そのストーリークエストを全てクリアして初めて挑戦できるダンジョンなのだ。

 つまりは、れんちゃんは行くことはできない。

 でもなあ……。できれば、会わせてあげたいよね。この期待の眼差し、裏切りたくないよね。

 

「れんちゃん、ちょっと待ってもらっていい?」

「うん」

 

 不思議そうに首を傾げるれんちゃんに愛想笑いをしつつ、光球をこちらに戻して振り返る。コメントのウィンドウを小さくして、と。

 

「助けて」

 

『言うと思ったwww』

『あのきらっきらな目は裏切れないよなw』

『言うて、あのダンジョン以外にドラゴンなんて出てこないぞ』

『ワイバーンなら出てくるけど……』

 

「あんなにドラゴンに喜ぶれんちゃんだよ? 期待してたのに出てきたのがワイバーンだったら、がっかりするでしょ」

 

『だな』

『それは俺らとしても見たくない』

『いやでも、マジでドラゴンなんてどこにもいないぞ』

 

 やっぱりだめか。いや、まあ私も無茶ぶりがすぎるとは思う。正直に、れんちゃんに話すしかないかな……。

 そう思い始めたところで、そのコメントが流れた。

 

『いや、ドラゴンならいるだろ』

 

 は?

 

『どこにだよ。フィールドボスにすらいないのに』

『最終ダンジョンの最後で否応なく戦うじゃん』

 

「あ」

『あ』

『あ』

 

 盲点だった。盲点だった、けど。いや、でも……!

 

「あれはだめじゃないかなあ!?」

 

 ストーリーのラストの最終ダンジョン、そのボス。つまりはラスボス。私もまだ見たことはないけど、動画とかでその姿は知ってる。れんちゃんがイメージしているような鱗のドラゴンじゃないけど、確かにドラゴンだ。

 ただし、でかい。冗談抜きででかい。れんちゃんが乗ったあのドラゴンが赤ちゃんだと思うほどにでかい。豪邸レベルの大きさだ。

 まあそのサイズよりも、理不尽なほどの強さの方が有名だけど。ストーリーで味方にかけられるバフ特盛りでもぎりぎりの戦いだし、そもそもとして倒しきることを想定していないボスだったりする。

 

『ストーリーは見れないけど、最終ダンジョンに同行するだけならストーリーをやってないプレイヤーでも行けるはず』

 

「つまり、私に最終ダンジョン直前までクリアしろってことだね」

 

『そうなるな』

 

 それなら、まあ、どうにかなるかもしれない。さすがにソロでは厳しいだろうけど、幸い協力してくれそうなプレイヤーならたくさんいる。ここでお願いしても、きっと誰かが助けてくれるはず。ただ、それでもれんちゃんとの時間を優先したいから、すぐには無理だろうけど。

 

「決まりだね。とりあえずれんちゃんに説明して、待ってもらうようにするね」

 

『がんばえー』

 

「気の抜ける言い方だなあ……」

 

 さて、と振り返ると、何故かれんちゃんがしょんぼりしていた。その隣にはおろおろと慌てるエドガーさん。これは、話しちゃったかな?

 

「どうかしました?」

 

 念のために聞いてみると、エドガーさんが申し訳なさそうに眉尻を下げた。

 

「いや、ごめん。せめて説明だけでもと思って、ダンジョンのこととれんちゃんは入れないってことを伝えたんだけど……」

「ああ……。落ち込んじゃった、と」

「うん……。その、本当に、申し訳ない……」

「あはは。まあ、大丈夫です」

 

 さすがにこれでエドガーさんを責めようとは思わない。説明だけでもしてくれただけ有り難いからね。おかげで時間の短縮ができるというものさ。

 

「れんちゃん」

「うん……」

 

 ああ、でも、しょんぼりしちゃってる。こう、しょぼーん、て。

 

「しょんぼりしてるれんちゃんもかわいいなあ」

「おねえちゃん?」

 

『草』

『お前ほんといい加減にしろよ?』

『いつかれんちゃんに心の底から嫌われるぞ』

 

 それは困る。こほんと咳払いして、改めて言う。

 

「ドラゴンだけどね。エドガーさんと同じドラゴンは、ちょっと会いに行くのは難しいの」

「うん……」

「でも、違うドラゴンなら、時間をもらえれば会いに行けるよ」

「え!」

 

 れんちゃんが勢いよく顔を上げて、エドガーさんも目を丸くした。やっぱりエドガーさんも思い至っていなかったみたいだ。いや、すぐにあれが思い浮かぶ方がおかしいと思うけど。

 

「一ヶ月ほど、待ってもらえる? とびっきりのドラゴンに会わせてあげる」

 

 一ヶ月でストーリークリアっていうのは、学生の私にはかなり厳しいところではある。でも、れんちゃんのためならやってやりますよ。

 

「だから、ちょっとだけ待ってね?」

「うん!」

 

 私の言葉に、れんちゃんは嬉しそうに頷いた。この笑顔だけで私はがんばれるよ……!

 



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配信十回目:投げ銭

 

 いつもの配信の直前、私は山下さんに呼び出されて、へんてこ空間に来ていた。なんと山下さんの個人用アカウントの、山下さんのホームだそうだ。

 何がへんてこかと言うと、何もない。それに尽きる。

 

「こんなホームが作れますって見本を見せてくれたゲームマスターの個人用とは思えない」

「あちらはほとんど制限なく、プレイヤーが手に入れられるものなら何でも使えましたから。こちらは個人用なので自分で手に入れないといけません。そしてそんな時間はありません」

「も、もしかしてブラックですか……」

「ご想像にお任せします」

 

 うわあ……。どんな企業にも黒いところはあるとは思っていたけど、運営さんも真っ黒だったんだ。個人でゲームも楽しめないとか、私なら耐えられない。

 私が知られざる運営の闇に戦いていると、山下さんが小さく噴き出した。

 

「ごめんなさい。冗談ですよ。単純に、仕事が終わってから、もしくは休みまでAWOをしていると、休んでいる気がしないためです。オフの時は食べ歩きがメインになっています」

「ああ、なるほど……。太りません?」

「…………」

「ごめんなさい!」

 

 こわい! 笑顔なのに笑ってない! 山下さんにとっての地雷らしい。この話題は封印しよう。

 

「本題ですが」

 

 こほん、と咳払いをしてからの山下さんの言葉に、私は背筋を伸ばした。

 

「投げ銭の申請が通りました。本日から利用できます」

「本当ですか!?」

「はい。ただし、他の方と違い、現金が入金されることはありません。ミレイ様のアカウントのゲームコインとして扱われます。また、要望の通り、ミレイ様のアカウントには一つだけ特別なメニューを入れておきましたので、適時ご利用ください」

「了解しました!」

 

 投げ銭は、視聴者さんが配信者にお金を支払うシステムだ。これをしないと配信が見れなくなる、なんてこともなく、まあ寄付みたいなものになる。金額も百円から三万円までで、視聴者さんの好きなようにできるというもの。

 投げ銭の一割は運営さんに支払われて、九割が配信者さんの利益になる。本来なら通帳を登録して月に一回そこに振り込まれることになるんだけど、私は未成年で、なによりもれんちゃんがいるということで、全額ゲームの課金アイテムを購入できるコインになることになった。

 

 私としては文句なんてない。別に儲けたいから投げ銭に申請したわけじゃないし。いや、ある意味で儲けたいから、なのかな……?

 ともかく、視聴者さんに報告しないとね!

 

 

 

「というわけで、投げ銭解禁だー!」

 

『おめ!』

『申請してたのかw』

『早速……できねえぞ?』

 

「あ、説明させてください。それまで止めてます」

 

 いきなりすぎるでしょこの人たち。念のために止めててよかった。

 

『れんちゃんがディアの上で何か読んでる』

 

「あ、うん。投げ銭についての説明文。私がみんなに説明してる間に、れんちゃんは基本的なお勉強です。……ごろごろれんちゃんかわいい。うえへへへ」

 

『誰かこいつをどうにかしろよ』

『できるわけがないんだよなあ……』

『ミレイちゃん、早く説明しよ?』

 

 怒られてしまった。反省はしないけど!

 

「まず投げ銭は手数料を除いて、ゲームコインになります」

 

『ほう』

『なんで?』

 

「私が未成年っていうのもありますけど、それ以上にれんちゃんがいますから。あまり現実のお金に直結させるのはよろしくないのでは、とのことで」

 

『気にしすぎだと思うけどな』

 

「まあ私も、れんちゃんは賢いので心配しすぎだと思います。でも私自身お金稼ぎしたいわけじゃないので」

 

『そうなん? せっかく登録者数も視聴者数も順調なのに』

『上手くやれば配信で生活できるぞ』

 

 それは、まあ。考えなかったと言えば嘘になる。確かにとても順調に、どころか順調過ぎるほどにどちらも増えてるけど、でもだからといってそれで生活できるとも思えない。

 不安定過ぎる、いとも簡単に稼げなくなる、というのもあるけど、それ以上に。

 

「これはれんちゃんのための配信だからね。みんなも、れんちゃんに会いに来てると思うし。だからこの配信での投げ銭は、れんちゃんのために課金アイテムとか買っちゃいます」

 

『把握』

『了解ー』

 

 とりあえず納得はしてもらえたらしい。荒れなくて安心した。

 

「それに、私にも将来の夢があるわけで」

 

『へえ。何になりたいの?』

 

「保育所とかで働きたいなあって……」

 

『よせ。やめるんだ!』

『お前が? 冗談は寝てから言わないと誤解するだろ?』

『保育所の子供たち、逃げて!』

 

 いや、ひどくないかな!? 私のれんちゃんへの接し方が原因っていうのは分かってるつもりだけど、それでもあまりにひどいと思う!

 

「いやいや、確かに子供はかわいいけど、そういう意味じゃないからね!?」

 

『誤魔化さなくてもええんやで?』

 

「誤魔化してないから!」

 

 確かにれんちゃんがきっかけにはなったけど、それが全ての理由じゃない。ただ、れんちゃんと触れ合って、子供の相手が意外と楽しかった、ただそれだけ。それだけなんだってば。

 残念ながら私の説明は、分かってる分かってると流されてしまった。折を見てちゃんと説明しないと……!

 

『使い切れなかったコインはどうすんの?』

 

「ああ、それらは寄付です」

 

 メニューを操作して可視化する。そうしてから、課金アイテムの購入ウィンドウを出した。他の人にはない、私だけの特別メニューが商品一覧にあるのだ。

 それを指し示すと、案の定視聴者さんたちは困惑していた。

 

『寄付って、こんな項目あったか?』

『今確認してみたけど、ないぞ?』

『こちらも同じく。ミレイちゃん、それってなに?』

 

「これは私だけの特別メニューです。れんちゃんの病気の治療でいつも寄付金募ってるんだけどね、そこに募金しますよっていう項目。余ったらこっちに入れるので、無駄なくれんちゃんのために使われます」

 

『徹底してるなあw』

『ほほう。つまり、れんちゃんのための募金目的で投げ銭するのもあり?』

 

「ありです。その時は言ってくれれば、その金額先に募金します。そしてとても助かります。その、れんちゃんにはあまり言えないけど、結構お金かかるからね……」

 

『だろうな』

『れんちゃんのための医療費になるなら、投げ銭してもいいかなって思える』

『待て。待ってくれ。れんちゃんって何か重い病気なんか?』

 

 おっと、そう言えばどうせ調べるだろうと思って言ってなかったね。ついでに説明するのもありかな……。んー……。

 

「なんだったかな。原因不明、過敏症、のセットで検索したらまとめが出てくると思うから、そっち見てほしい」

 

『まとめあるってことは、マジで重い病気?』

『命の心配はないけど重い病気ではある』

『調べてお前も投げ銭するんだよお!』

 

「無理強いだめ、絶対。れんちゃんが知ったら怒るからね」

 

『あ、はい。気をつけます』

 

 十分に気をつけてほしい。……いや、何様だよとか言われそうだけどさ。れんちゃんが悲しそうにするからね。

 

「あの子は、自分のために誰かが無茶をするっていうのを、すごく嫌がるから。私たちは気にしないのにね……」

 

『ミレイ……』

 

「もっとれんちゃんのために働いてれんちゃんにほめてもらいたい。なでなでしてほしい。是非に」

 

『ミレイwww』

『お前はほんとにさあ!』

『イイハナシダナー』

 

 いや、まあ冗談だけどね。さすがにね。

 ともかく、これで説明は以上だ。というわけで、

 

「投げ銭解禁だー!」

 

 ぽちっとな!

 …………。いや、馬鹿なのかこいつら。

 

「とりあえずいきなり三万円ぶちこんだ人の頭がちょっと狂ってるのは理解した」

 

『辛辣ぅ!』

『ひでえwww』

『まあまあ、数人ぐらいはそういう人もいるよ』

 

「ちなみになんか五十万コインになりました」

 

『多すぎぃ!』

『うんごめん。ミレイに同意するわ。馬鹿かお前ら』

『うっせ。そう言うお前も投げたんだろ? 言ってみ?』

『は? 上限三万に決まってんだろ』

『お前が一番馬鹿じゃねーか!』

 

 いやさ。ほんとにさ。私はどうすればいいのかな。え、いや、ほんとに。なにこれ。五十万って、え。どういうことなの。

 

「な、なにこれ。私どうしたらいいの? え、脱ぐ?」

 

『落ち着いてミレイちゃん! そういうのじゃないから!』

『お前らがいきなりアホなことしたせいでミレイが壊れたぞ!』

『え? 最初から壊れてね?』

『確かに』

 

 ひどい。

 いや、でも、なにこれ。まだ増えるんだけど。ええ……。

 

『慌てなくても、初回ブーストだと思えばいい。俺もさすがに毎日投げ銭できるわけじゃなし』

『そうそう。余ったコインは募金だろ? 是非とも医療費に回してくれ』

 

「うん……。いや、でも。ごめん。ちょっと。本当にありがとうございます」

 

 ただの同情。そうかもしれない。でも、それでも、実際にお金を出してくれる。それがどれだけ有り難いことか、安っぽい言葉よりも、よほど価値がある。

 ん……。ちょっと限界。

 

「れんちゃんれんちゃん」

 

 今日はお話があるからとディアたちと遊んでもらっていたれんちゃんを探す。うん。もふもふに囲まれて幸せそう。和む。

 

「おねえちゃん? どうしたの?」

「ちょっと……。ぎゅー」

「わわ……! お、おねえちゃん?」

 

 ん……。すごいよね、このゲーム。ちゃんと、れんちゃんの温もりを感じる。うん。あったかい。

 

「おねえちゃん……?」

「………。ぐす」

「ん……。よしよし」

 

 撫でてくれるれんちゃんの手が心地良い。本当に、うん。うん。みんな、あったかい。

 

 

 

『これはてえてえ』

『なんか、うん。良かれと思ってやっただけなんだけど……』

『ミレイにとっては大切な妹が当事者だもんな……』

 

 

 

「お見苦しいものをおみせしました」

 

 とりあえず落ち着いたので土下座である! いやあ、ちょっぴり恥ずかしい! これは長くからかわれるやつだね! 自業自得だけどさ!

 

『ええんやで』

『おれらは何も見てない』

『よくあることよくあること』

 

「う、うん。なんか。優しくされると、ちょっと困る……。いや、ありがと」

 

 からかわれると思ったらなかったことにしてくれた。いい人たちで私はとても嬉しいです。いや、本当に、ね。

 

「それはともかく! コインが手に入りました!」

「コイン?」

「そうだよれんちゃんコインだよ! あー……。たくさん!」

「たくさん!」

 

 とりあえず誤魔化す! 察せられないように!

 

「つまり! これで色々するよ!」

「いろいろ?」

「そう! まずはこれだ!」

 

 テイマー必須の定額課金アイテム! 月千コインでできるマイホーム自動拡張システムだ!

 

『それを買うとどうなる?』

『名付けをしてないテイムモンスターも無制限でここに呼べるようになる上に、呼べば呼ぶほどホームが広くなる』

 

「そう! つまりは! もふもふパラダイスが作れる!」

「もふもふぱらだいす!」

 

 おっとれんちゃんが食いついた! そうだよね作りたいよねパラダイス! 名付けなしのモンスターは五匹まで、なんて制限もなく呼べちゃうのだ! まあ、連れて歩けるのはさすがに五匹までだけど。

 

「ちょっと前にウルフ百匹テイムとか、馬鹿なことした配信者もいたよね」

「百匹! すごく楽しそう!」

「そうだね楽しそうだね、すごくいいアイデアだよね!」

 

『手のひらクルックルやなw』

『ミレイのお手々はドリルってマ?』

『れんちゃんが全ての中心だから……』

 

 何か文句でもあるのかな、こいつらは。

 とりあえずぽちっとな。……うん、まだあんまり違いは出てないけど、この先増やしていけば分かると思う。楽しみだね。

 

「ただ、引き継ぎの購入を忘れちゃうと一気に減っちゃうんだよね」

 

『ウルフ百匹の人もそれで絶望してたよな』

『自業自得とはいえ見てて辛かった』

『その後二百匹に増やしたのを見た時は正直頭がいかれてると思いました』

 

「二百匹! 楽しそう!」

 

『そうだね楽しそうだねいいアイデアだよね!』

『お前もドリルじゃん』

『うるせえ当たり前だろうが!』

 

 喧嘩はよくないと思います。とても気持ちが分かるので!

 

「おねえちゃん、行ってきていい?」

「え? あ、うん……。ディアと一緒ならいいよ」

「わーい! ディア、行こう!」

 

 というわけで、れんちゃんがディアとラッキーを連れて行っちゃいました。ウルフが増えそう。どうなることやら。

 

「とりあえず忘れたら怖いので、ある程度の引き継ぎ購入をしておこうと思います。いいかな?」

 

『おk』

『そのコインはもう二人のものだから好きにしたらいいと思う』

『忘れてれんちゃんが泣くぐらいなら賛成だ』

 

「ありがとー。ではとりあえず十年分ぽちっとな」

 

『ふぁ!?』

『ええ……』

『いや確かにそれなら安心だけど。安心だけど……!』

 

 まあ私もさすがに買いすぎかなとは思うけど、念のためにね。万が一にもれんちゃんの泣き顔なんて見たくないからね!

 

「でも半分も使ってない……。うん。有り難いけど投げ銭しすぎだと思うなあ!」

 

『ほんまになー』

『れんちゃんのためになるなら!』

 

「有り難いけど……。えっと、あと何か買うものあったっけ。お家周りはれんちゃんに任せるとして……」

 

『ガチャやろうぜガチャ』

『金にものを言わせてレアアイテムをゲットだ!』

『真面目に言えば、れんちゃんにあの最高レアの卵をプレゼントしてほしい』

 

「あー……。あれか」

 

 このゲームにもスマホで流行ったゲームのようなガチャがあるんだけど、まあお遊び要素みたいなものだ。最高レアの装備とか、あれば攻略が楽になるけど、なくても別に問題ない、という程度のもの。

 その程度のお遊び要素だから、確率もお察し。最高レアが出る確率はわずか一パーセントで、最高レアそのものも二十種類ある。まあ正直、狙ったものはまず出ないと思った方がいい。

 

 一応いわゆる天井は設定されてて、百回、一万円で必ず最高レアは出るようになってる。ピックアップとかはなし。

 最高レアの卵というのは、テイマー向けのアイテムで、正式名称は四聖獣の卵。孵化させることができれば、朱雀、青龍、白虎、玄武のうちどれかが手に入る、らしい。

 ちなみにこの間れんちゃんがテイムした白虎は、本当にただ白くて大きいトラなだけで、四聖獣とはまた別物。わかりにくい。

 

「んー……。きりがなくなりそうだし、一日十回ずつやっていくね」

 

 というわけでぽちっとな。

 

『わくわく』

『他人のガチャってなんでこんなに楽しいのか』

『自分の金がかかってないからだろ』

『よく考えなくても最低だな!』

 

「はいはい。結果発表! クズアイテムです本当にありがとうございました」

 

『ですよねーw』

『知ってたw』

『まあそんな甘くはねーわなw』

 

 いきなり最高レアが出る方がおかしいから、こんなものだ。まあそのうち、何かくるだろう。

 ところで、だ。さっきから、妙に楽しいことが起きてるんだけど。光球をそちらへ向けまして。

 

「ねえ、あれってなんだと思う?」

 

『続々ウルフが入ってきてる』

『前触れなく急に出てくるんだな』

『これってもしかしなくても』

 

「れんちゃん、だろうね……」

 

 なんだろう。ウルフに囲まれながらわしゃわしゃもふもふしながらエサを上げてるれんちゃんを容易に想像できる。ここは本当にもふもふパラダイスになりそうだ。楽しそう、だけどさ。

 その後のんびりとウルフが出てくる様子をみんなで眺めていたら、百匹ほどでれんちゃんが戻ってきた。有言実行しちゃったよこの子。

 

「おともだちたくさん!」

「うん。そうだね」

 

『ミレイの目が死んでる……』

『なんか、すごい光景になったな……』

『自動拡張はちゃんと働いてるな。ウルフの住処なのかちっちゃい森もできてる』

 

 ああ、ほんとだ。森、というか林? みたいなのができてる。ウルフたちはみんなでそっちに行くみたいだ。なるほどこうなるのか初めて知ったなあ。

 

「おねえちゃん?」

「なんでもないさー」

 

 とりあえずれんちゃんに与える情報はもう少し考えようと思いました。

 



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配信二十一回目:最終ダンジョンツアー

壁|w・)十回分飛んでいるように見えますが、仕様です。
さくっと最終ダンジョンやりたかったの……。


 れんちゃんと一緒にドラゴンに会いに行こう企画は、正直なところ暗礁に乗り上げていた。

 

「勝てぬ……」

 

 ストーリーは三部構成で、ドラゴンは三部の最終ボス。で、私は二部の最終ボスで躓いています。変な巨人みたいなボスが倒せないです。目からレーザーとか意味わからん。

 

「というわけで、助けて」

 

 夜の九時。れんちゃんが落ちた後、ストーリーの攻略に挑んでボスに詰まった私は、配信で助けを求めた。あれは無理です勝てません。どうして二部は強制ソロなの……。

 

『二部のラストって巨人だっけ』

『目からビームというロマン兵器のボス。運営の遊び心が満載だな!』

『殺意の高い遊び心だなw』

 

 ほんとにね。目からビームが一番威力高いからね。予備動作が大きいからそれだけなら避けるのは簡単なんだけど、取り巻き召喚しまくって本当にうっとうしい。

 

『ちなみに三部はあの巨人が当然のように出てくる』

 

「ええ……」

 

 なにそれ絶望しかないんだけど。ええ、これまだまだクリアできなさそうなんだけど……!

 

『このストーリーは一年を目安にじっくり取り組む難易度のはずだからな。そもそも一ヶ月というのが無茶すぎた』

 

「だよね……。でもれんちゃん、あんなに楽しみにしてるしなあ……」

 

 どうにかして、最終ダンジョンに行けないものかな。

 むう、と唸っていると、意外な人から声がかかった。

 

『やっほー、ミレイちゃん。アリスだよ。苦労してるみたいだね』

『アリスきた!』

『新衣装か新しい服なのか!?』

『うるさい。今はミレイちゃんとお話ししたいの』

 

 それはちょっと横暴すぎやしないだろうか。苦笑しつつ、用件を聞いてみる。なんだか、服の用事ではなさそうだけど。

 

『ミレイちゃんは、別にストーリーをクリアしたいってわけじゃないんだよね?』

 

「だね。最終ボスのドラゴンに会いたいってだけだから」

 

『うん。じゃあ丁度いいかな。明日で良ければ行かない?』

 

「え」

 

 それは。それはつまり、アリスは最終ダンジョンに挑むということだろうか。それは、でも、えっと、いいのかな?

 

「アリス。あのね、れんちゃんがいるから……」

 

『だいじょぶ。分かってる。戦闘は一切なし、れんちゃんのテイムをまったり眺める。それでいいよ』

 

「多分、時間かかるよ?」

 

『いいよいいよー。れんちゃんを見て和んでおくから!』

 

 それはそれで、保護者として許可していいのか分からなくなるんだけど。いや、気持ちは分かるけどね。ふむう。

 

『ミレイ。是非とも付き合ってやってくれよ』

 

「ん? アリスのお知り合い?」

 

『おう。一緒にストーリーやってた。こっちの方が早ければミレイちゃんとれんちゃんを誘うんだって張り切ってたんだ』

『なに言っちゃってるのかなあああ!?』

『これは恥ずかしいw』

『アリス、いいところあるな……』

『ちなみに三日前にいつでも行けるようになったのに、恥ずかしくてなかなか言えなかったらしい』

『やめろおおおおお!』

『草』

『かわいいw』

 

「う、うん。えと。どうしよう反応に困る……」

 

 そ、そういうことなら、お願いしてもいいのかな……? むしろこれで断る方がかわいそうな気もするし……。

 うん。ありがたく、お願いしよう。

 

「お願いします」

 

 私が頭を下げると、一瞬だけ慌てたようなコメントの後に、

 

『こちらこそ、よろしくお願いします』

 

 そんなアリスのコメントが流れてきた。

 

 

 

「というわけで、やってきました最終ダンジョン!」

 

 現在、私たちがいるのは真っ暗な草原。草も木も何もかもが黒い漆黒の世界。その世界にぽっかり広がる赤い穴。ここが、最終ダンジョンの入口だ。

 そして一緒に行くのはもちろんこの二人、れんちゃんとアリスだ。

 

「わーい!」

「いえーい!」

 

 無駄にテンションが高い。大丈夫かなこれ。

 

「今回も一応配信していますが、雰囲気を重視してコメントは全てカットです! だから何を言っても私たちは反応しないからそのつもりで!」

 

 ぷかぷか浮かぶ光球にそう告げる。今も誰かが何かを言っているかもしれないけれど、残念ながら私たちにその声が届くことはない。ここに来る前に注意事項として伝えたから大丈夫だとは思うけど。

 

「ミレイちゃんの本気装備はやっぱり格好いいね。さすがお金のかかる装備……」

「言わないで……」

 

 私の今の装備は赤を基調にした軽鎧で、その、なんというか。ガチャの最高レアです……。

 いや、違うの。違うんだよ。少し前の配信でね、れんちゃんと一緒に遠出してみるよって言ったらね、れんちゃんを守るならもっといい装備を、みたいな話の流れになってね……。

 あれよあれよとガチャしまくりました。気付けば最高レアの装備一式が揃いました。揃ってから私も視聴者さんたちも正気に戻って、みんなで何やってんだろうと自己嫌悪しちゃったよ。

 

 この装備、強いは強いけど、やっぱり装備で強くなるのはちょっとなあ、と思うわけです。なのでこの、いわゆる本気装備は、れんちゃんと一緒に遠出するための装備になりました。

 ちなみに四聖獣の卵はまだ出てない。これが物欲センサー。

 

「アリスは……弓?」

「そうそう。生産スキルはDEX、つまり器用さがよく上がるんだけどね、弓のダメージに直結するんだよ。生産職の人に弓士が多いのはそれが理由だね」

「なるほどね……」

「まあそもそもとしてあまり戦わないけどね!」

「だよね」

 

 アリスは誰かが素材を持ち込んでくることの方が多いらしくて、あまり戦闘はしないそうだ。だから趣味スキルばっかり覚えているのだとか。それでも最低限として弓は覚えたらしいけど。

 そんなアリスの装備はいわゆる弓道着。白い上衣に黒の袴。アリス曰く、馬上袴というものらしい。弓道着というのはうんたらかんたらと十分近く熱く語っていたけど、ごめん、ほとんど聞き流した。

 

 そして本日、というかいつもの主役のれんちゃんは、いつもの着物、とはちょっと違って、袴を膝辺りで切ったもの。こういうの、なんていうんだっけ? アリスがこれもまた熱く語ったような気がするけど、全て聞き流した。いやだって、長いから……。

 着物はれんちゃんのお気に入りだけど、もう少し動きやすいようにという要望でこうなった。れんちゃんのホームではいつも通りなんだけどね。

 

「さてさてれんちゃん! エサの貯蓄は十分かな!?」

「えっとね。百個セットが百個あるよ!」

「なんて?」

 

 さすがにそこまで持ってるとは思わなかった。アリスも目を丸くしてるし。いや、多すぎでしょ……。

 

「ディアもラッキーもみんなも、ちょっとずつ好みが違うの。だからいろいろ配合を変えてちょっとずつ増やしてたらこうなったの」

「え、なにそれ。初耳なんだけど」

 

 アリスを見る。首を振られた。どうやらアリスも、エサの好みなんてことは知らなかったらしい。

 

「エサに種類なんてあるの?」

 

 アリスに聞いてみると、少し考えてから答えてくれた。

 

「あるにはある、かな……。品質、という項目があるよ。ただ、品質でテイムの確率は変わらないから、何のためのものか誰も知らなかったんだけど……。味、違ったんだあれ……」

「むしろ味あったのか、あれ……」

 

 れんちゃんがみんなに配ってる時、モンスターたちがとても美味しそうに食べていたからちょっとかじったことあるけど、まあ人間が食べられるものじゃなかった。だからこんなものと思うことにしたんだけど……。さすがというか、よく見てるなあ……。

 

「うん。気を取り直して、行こっか!」

 

 深く考えても仕方ないからね!

 

 

 

 このゲームのストーリーのダンジョンは、基本的には何らかのイベントがある部屋が十部屋と、最後のボス部屋の全十一部屋になっている。これに関しては初めから終わりまで一貫していて、例外はこの最終ダンジョンのみ。十部屋目とボス部屋が入れ替わってるらしい。

 

 昔からのゲーマーさんにとっては物足りないらしいけど、これは仕事をしている社会人の人に配慮してそうなってるらしい。あまりに長いダンジョンだと、いつまでたってもクリアできずに詰まるかもしれないってことだね。

 適正レベルなら一時間前後がクリアの目安だと公式でも書かれていた。

 というわけで、一部屋目です。

 

「最終ダンジョンは出てくるモンスターはランダム要素なしの固定のみだよ。で、一部屋目は……」

「オルトロス、と。……オルトロスってタコじゃなかったっけ?」

「ミレイちゃん、お父さんが古いゲーム持ってるでしょ。もしくはリメイク」

「なんで知ってるの?」

 

 確かにお父さんが古い家庭用ゲームを持ってて、少し遊ばせてもらったことあるけど。

 オルトロス、と赤い文字で表示されたモンスターは、二つの頭を持つ犬だった。真っ黒な犬で、とても大きい。ディアより一回りは大きいと思う。二つの頭は、先頭にいるれんちゃんを睨み付けていた。

 

「むむ!」

 

 れんちゃんがなんか反応した! 両手を上げて、叫んだ! がおー! 何がしたいのこの子。

 

「モンスターにも簡単なAIが積まれてるって聞いたけど、ほんとなんだね。オルトロスが微妙に戸惑ってる……」

「ほんとだ……」

 

 オルトロスは敵意が薄くなって、ちょっと困ったような様子。れんちゃんをじっと見つめて、そして助けを求めるかのように私たちを見た。何故。

 

「これで私たちが動けば、戦闘開始だね。動かないけど」

「残念だったねオルちゃん、がんばってれんちゃんと遊んでください」

 

 敵意がないと襲われない、はここでも正確に反映されてるみたいで、オルトロス改めオルちゃんは身動きできずに止まっていた。じっと、れんちゃんを見つめている。

 対するれんちゃんは、モンスターを呼び出した!

 

「ラッキーおいでー」

 

 ぽてん、とれんちゃんの頭の上に落ちてきたのはいつもの子犬のラッキー。ラッキーはオルちゃんを見上げて、首を傾げて、そして何もせずにれんちゃんに抱かれた。

 れんちゃんはラッキーの前足を持ち上げて、

 

「がおー!」

「…………」

 

 オルちゃんが涙目になってる。なんだこの子、かわいいかよ。

 

「がおー!」

 

 三度目の咆哮。……咆哮? いいや咆哮で。

 今度は、オルトロスも反応した。

 

「ガアアァァァ!」

「ぴゃ!」

 

 れんちゃんが目をまん丸にして驚いてる。そして、どうなるのかと思えば、

 

「かっこいい!」

 

 まじかよれんちゃん。さすがだねれんちゃん。

 

「わあ、おっきいけどもふもふだ。ディアと同じくらい? もっと? もふもふしてる……。にくきゅうさわりたい。ぷにぷにしたい! 足持ち上げて! そうそうありがとー! おー、ぷにぷにだー!」

 

 なんだこれ。いつの間にかオルちゃんは言われるがままなんだけど。オルちゃん色々諦めてない? 大丈夫?

 

「オルトロスってね、三部で出てくるボスなの」

「へえ?」

「というかね、ここのダンジョンって今までのボスが相応に調整されて出てくるダンジョンなの」

「昔のアクションゲームのボスラッシュだね」

「そんな感じ」

 

 ということは、アリスはオルトロスとも戦ったことがあるってことだね。普通に戦うと強そうだ。私が苦戦中の二部のラスボスより強いのかもしれない。

 

「それはもう、苦労したよ。結局強いフレさんに頼ったしね」

「そっか。……今、すごく骨抜きにされてるけど」

「ね」

 

 いつの間にかオルトロスがお腹を見せてる。そのお腹をれんちゃんがなでなでしながら、エサを上げてる。なんだこれ。

 

「泣きそう」

 

 そう呟いたアリスの肩を、私はぽんと叩くしかなかった。

 

 

 

 なんということでしょう。開始五分で仲間が増えました。双頭の犬、オルトロスです。れんちゃんを背中に乗せてご満悦です。アリスの目は死んだ。

 

「ドラゴンにたどり着く頃には仲間がそれだけ増えそう。なるほどまさに総力戦! ストーリーの最後にふさわしい!」

「確かにドラゴン戦で、一定時間ごとに仲間や以前の敵がかけつけてくれるって聞いてるけどね? 少なくともオルトロスはいなかったと思うなあ」

「細かいことは気にしちゃだめです」

 

 これもある意味総力戦。うん、間違い無い。

 オルちゃんの部屋を出て、それなりに長い通路を歩く。このダンジョンは通路や部屋の隅を溶岩が流れていて、独特な雰囲気がある。ちなみにこの溶岩は見た目だけで、触れることはできない。透明な床が上にあるからね。

 さて、二部屋目だ。れんちゃんはオルちゃんの上で、次はどんな子かなとわくわくしてる。

 そして部屋に入った瞬間、アリスが消えた。

 

「え」

 

 びっくりした。本当に、なんの前触れもなく消えた。なんだろう、そういう能力を持ったモンスター? どんな能力だよと言いたいけど。

 部屋の中へと視線を移せば、オルちゃんが丸くなって欠伸をしていた。あれ?

 

「れんちゃん? ここのモンスター、もうテイムしちゃったの?」

「んーん。オルちゃんが寛ぎ始めちゃった。安全なんだと思う」

 

 どういうことだろう。ふむ、こういう時は視聴者さんに聞こう。

 というわけで、コメントを可視化して、と。

 

「どもども。アリスが消えちゃったんだけど、どうなったのこれ? 今時珍しい回線落ち?」

 

『オルちゃん(笑)に突っ込みたいけど、違うぞ』

『十部屋目を除く偶数部屋はイベント。三分から五分程度で戻ってくるはず』

『お手伝いはイベントを見れないので、待ちぼうけです』

 

「あー、そっか。イベントか」

 

 要所要所でイベントを挟むと。最終ダンジョンだからそれも当たり前か。戦闘する部屋が減るからいいことかもしれない。

 

「ありがとう。じゃあ、不可視化します」

 

『まって』

『ちょっとそこのオルちゃんについて詳しく!』

 

「終わったらね」

 

 ぽちっとな。

 さて、正直配信するべきじゃなかったとは思うけど、一応山下さんには許可をもらったし、きっとどうにかするでしょう。私もオルちゃんを撫でようかな!

 

 ということで、れんちゃんと一緒にオルちゃんをなでもふしていたら、アリスが戻ってきた。心なしか涙ぐんでいるような……。

 

「ど、どうしたの?」

「ストーリーがね……良かったの……」

「そ、そっか。えっと、待とうか?」

「いや別に?」

 

 あ、涙がひっこんだ。切り替え早くないかな!? アリスの視線はオルちゃんの肉球をもにもにしているれんちゃんに注がれてる。によによ笑い始めた。ちょっと、気持ち悪い。

 

「れんちゃん最優先だよもちろん。ドラゴンを見た時の反応が楽しみだね!」

「それはまあ、うん。分かる」

 

 れんちゃんに声をかけて、先に進む。また長い通路を歩いていく。さてさて、本当にこの先もテイムできるのかな?

 

 

 

 三部屋目、九つの首があるヒュドラ。れんちゃん曰く、かわいいらしい。時折この子の趣味が分からなくなるよ……。ヒュドラに触ったれんちゃんの感想は、すべすべで気持ちいいそう。この子の上でお昼寝したい、なんて言われた。反応に困る。

 当然のようにテイムしてました。緊張感も何もない。

 

 五部屋目。三つ首のケルベロス。わんこの首が増えたところでれんちゃんが怖がるはずもなく、もふもふしまくってた。肉球ぷにぷにしてた。オルちゃんより一回り大きかったけど、そんなのは関係ないらしい。ちょっとぐらい怖がってもいいんだよ……?

 当然のように以下略。

 

 七部屋目。キマイラ。獅子の頭に山羊の体、そして尻尾は蛇。すごいのが出てきた。さすがにこれはれんちゃんもどん引きなのでは、なんて思ったんだけど。

 

「もふもふとすべすべが合体した!」

 

 まじかよ。それでいいのれんちゃん!? なんかこう、気持ち悪くないかな!? さすがのアリスもその反応にびっくりしてるよ! 私もびっくりだよ!

 

「え……? おねえちゃん、この子かわいくないかな……?」

「かわいいと思うよ!」

「ミレイちゃん……」

 

 なにかなその目は。れんちゃんが大正義だ。れんちゃんが白と言えば灰色も白になるのだ。黒を白と言ったらさすがに注意するけど。

 当然以下略!

 

 そして、九部屋目。

 

「ストップ」

 

 九部屋目に入る前にアリスが止めてきた。不思議に思いながらも立ち止まる。れんちゃんたちも止まった。うん。さすがにこう、大きなモンスターが四匹もいると、圧迫感がやばい。

 

「九部屋目のボスはストーリーの黒幕みたいな敵だよ」

「へえ……。それもテイム……」

「できないと思う」

「そうなの?」

「うん。だって相手、人間タイプだから」

 

 なるほど、と納得できた。ゲームマスターの山下さん曰く、全てのモンスターがテイムできるらしい。それは逆に言えば、モンスターでなければテイムできないってことだと思う。

 まあ、当然だろうとは思う。スケルトンとかならともかく、さすがにNPCと同じような人をテイムしてたら普通に引く。

 

「しかもそのキマイラとかより強いらしいから、れんちゃんには待機してもらった方がいいんじゃないかな?」

 

 ということは、私とアリスの二人で戦うことになるのかな。正直自信はないけど、それを倒せばれんちゃん念願のドラゴンだ。今こそ限界を超える時!

 

「ねえねえアリスさん」

「どうしたの? れんちゃん」

「あのね。あのね。それって、悪い人? すっごく悪い人?」

「うん。すっごーく、悪い人」

「そっか!」

 

 れんちゃんが嬉しそうに笑う。あれ、待って、なんだか、すごく、嫌な予感がするのですが。気付けばアリスも、微妙に笑顔が引きつっている。

 

「ミレイちゃん。とてもすごく嫌な予感がするの。気のせいかな?」

「奇遇だね、アリス。私もすごく、そんな気がする」

 

 二人で顔を見合わせて、笑う。はははまさかねははは。

 

「れんちゃんは外で待機だよ? いい?」

「うん!」

 

 あれ、予想に反していい返事。杞憂だったかな?

 アリスと共に、九部屋目に入る。部屋の中央に、黒い甲冑の男がいた。ネームを確かめてみると、赤黒い文字でジェガとある。見ただけで分かる強敵の気配。これは気を引き締めないと……。

 私たちが歩いて行くと、ジェガががしゃりと剣を抜いて……抜いて……。

 抜こうとして、何故か私たちを、というよりもその奥を見て硬直していた。

 

「気のせいかなアリス。嫌な予感が現実のものになった気がするよ」

「奇遇だねミレイちゃん。振り返りたくないよ」

 

 でもそうも言ってられないので、二人そろって振り返る。

 オルトロスが。ヒュドラが。ケルベロスが。キマイラが。ジェガを睨み付けて唸っていた。どう見ても臨戦態勢です。これはひどい。

 

「みんながんばってー!」

 

 れんちゃんの声援が届くと、四匹が嬉しそうに尻尾を振った。見事に飼い慣らされてる。もう一度言おう。これはひどい。

 そして、私たちが呆然としている間に、四匹がジェガに襲いかかった。

 

 

 

 結果を言えば、ひどい蹂躙でした。

 いや、うん。仕方ないと言えば仕方ない。いくらジェガが四匹よりも高いステータスだったとしても、四匹も直前でボスをしていたモンスターだ。一対一ならともかく、一対四は多勢に無勢というやつだろう。

 

 少しずつ減っていく四匹のHPに対して、目に見えて分かるほどの勢いで減っていくジェガのHP。笑うしかないとはこのことだ。

 五分もかからずにジェガは消滅して、四匹は勝ち鬨を上げるかのように吠えていた。

 

「みんなすごい! 強い! かっこいい!」

 

 れんちゃんの無邪気な歓声に、四匹は嬉しそうに尻尾を振る。キマイラさん、尻尾の蛇がちょっとかわいそうなことになってるよ……?

 

「ははは……。黒幕が一瞬で……。はは……」

 

 アリスが真っ白になっちゃった。気持ちは分からないでもない。一般のゲームで例えるなら、ラスボスが突然出てきたNPCに勝手に倒されたような感じだと思う。

 

「アリス、その、ごめんね……?」

「あ、うん。いや、うん。大丈夫、うん。正直私たち二人だと結構微妙だったし、ちょうど良かったよ。……かき集めてきた回復アイテムは無駄になっちゃったけど」

 

 アリスが言うには、このジェガ戦のために、今まで作った服とか可能な限り売って、回復アイテムを用意してくれていたらしい。百回は完全回復できて五十回は蘇生できる程度、だって。とても申し訳ない気持ちでいっぱいです……。

 

「でも、見ていて面白かったしいいよいいよ! ストーリーですっごくむかつくやつだったからね! すかっとした!」

「それなら良かった……のかな?」

 

 フォローされてるような気もするけど、何も言わないでおこう。あとで、お礼しないとね……。

 

 楽しそうにじゃれ合うれんちゃんたちに声をかけて、次の部屋に向かう。小さい女の子が巨大なモンスターと遊ぶ光景はなかなかシュールだ。システム的にあり得ないと分かっていても、食べられちゃいそうで見ていて怖い。

 

「あの四匹がいれば、ドラゴンも余裕そうだね」

 

 そうアリスに言ってみると、意外なことにアリスは無理、と首を振った。

 

「え、どうして?」

「うん……。今のレベルの上限、知ってる?」

「百だよね。今のところは」

 

 レベル上限の解放は定期的に行われてるから、またすぐに上がるだろうけど、今のところは百までだ。ちなみに私は五十三。高くもなく低くもなく、過半数のプレイヤーがこのあたり。

 れんちゃんは確か十だったかな。戦闘せずのんびりもふもふしたり、ラッキーと一緒に釣りをしたりしているだけだから、妥当だと思う。

 

「ドラゴンのレベルは千だよ」

「なんて?」

「千」

「いや無理ゲーすぎるでしょ」

 

 一とか二そこらで大きく変わるわけじゃないけど、さすがに十の差があれば大きく変わってくる。百の差があるならまずダメージなんて通らないだろうし、九百以上の差とかどう考えても勝てるわけがない。

 

「うん。だから特殊なバフが山盛りにかけられるんだよ。そこから耐久しながらストーリーが進むのを待って、全てのNPCが揃ったら最終決戦、みたいな流れ」

「王道だね。もしかして実質的なラスボスって……」

「ジェガだね!」

「ごめんなさい!」

 

 そっか、あれラスボスだったのか……! つまりこの先のドラゴンは、本来はイベントありきの戦闘で、生き残ることを考えればいいってことか。

 

「ある程度HPを削らないと進行しないから、逃げ続けていいわけでもないけど」

「それでも楽は楽だね」

 

 まあどっちみち、私たちはれんちゃんを見守るだけなんだけど。アリスも今回でクリアできなくてもいいらしいし。アリスが言うには、一度クリアした部屋は再挑戦の時に素通りできるらしい。とても優しい仕様だと思います。

 さてさて。最後の部屋にたどり着きました。重厚な扉が道を塞いでいます。

 

「ドラゴン! ドラゴン! わくわく!」

「かわいいなあ」

「かわいいねえ」

 

 期待に目を輝かせるれんちゃんがとてもかわいい。アリスと頷き合って、小さく言う。来て良かった、と。

 

「オルちゃん、ヒューちゃん、ケルちゃん、キーちゃん、大人しくしててね!」

 

 呼ばれた四匹が頷いた。名前、にはなってないのかな。あくまで愛称扱い? それとも名付けしちゃったのかな。あとで聞いておこう。

 

「おねえちゃん、入っていい!?」

「いいよー」

 

 私が頷くと、れんちゃんは嬉しそうに扉を押し始めた。ゆっくり開いていき、やがて全開になる。

 扉の先は、ただただ広い空間だった。壁は見えないし、空は夕焼けから変化がないみたい。多分、異空間、みたいな設定なんだと思う。ここに封印でもされてるのかな?

 そして目の前には、そのドラゴンがいた。

 

 白い大きなドラゴン。いわゆる西洋のドラゴンに近いと思う。真っ白な羽毛のようなものに覆われていて、見ているだけで神々しい。ぞくりと、背中が冷たくなる。これは、穢しちゃいけないものだ、と本能的に思ってしまった。

 名前を見てみると、始祖龍オリジン、とあった。

 

「あはは……。実際に生で見ると、すごいね……。怖いとはまた違うけど……。うん。すごい」

「だね……」

 

 アリスの呟きに頷く。これと正面から戦うプレイヤーは素直にすごいと思う。

 さてさて、我らが妹は。

 

「もふもふのかっこいいドラゴンだ!」

 

 大興奮である。なんか、目が怖い。れんちゃんの目が怖い。れんちゃんは一切躊躇なんてせずにドラゴンに向かって走って行った。

 

「うええ!? いいのあれ!? 大丈夫なのあれ!?」

「だ、大丈夫じゃないかな……?」

 

 アリスの歯切れが悪い。いや、仕方ないとは思うけど。誰も攻撃するわけでもなく突っ込むようなことはしたことがないだろうし。

 私たちの心配とは裏腹に、れんちゃんはドラゴンにたどり着いた。恐る恐るとその大きな体に触れて、そしてドラゴンが目を開いた。

 

「……!」

 

 これはさすがにまずいかもしれない。アリスと頷き合って、れんちゃんを助けるために駆け出そうとして、

 

「すっごいもふもふだね……。えへへ、ふわふわ……」

「…………」

 

 ドラゴンは何もしなかった。むしろどう見ても困惑してる。なんだろうこの子、みたいな顔、と思う。あれ? もしかしてこのドラゴン、かわいい?

 

「あ、起きたの? 起こしちゃってごめんね。もうちょっと触っていい?」

 

 遠慮無くそんなことを聞くれんちゃんに、ドラゴンは引き気味に頷いていた。れんちゃんが強すぎる……。

 どうやらこのドラゴンも、ちゃんとモンスターの枠組みに入るみたいだ。アクティブだけど敵意がなければ攻撃してこない。だかられんちゃんはこうしてもふもふを堪能できると。

 

「長くなりそう、かな?」

「ふふ。そうだね」

 

 この後どうなるかは分からないけど、すぐにどうにかなるわけでもないみたいだし、のんびりとすることにしましょう。

 

 

 

「ミレイちゃんミレイちゃん」

「なにかなアリス」

「そろそろもふもふし始めて一時間だけど」

「そうだねえ」

「よく飽きないね……」

「ほんとにね……」

 

 この部屋に来て一時間。れんちゃんは変わらずドラゴンをもふもふしてる。変わらずといっても、いつの間に仲良くなったのか、れんちゃんはドラゴンの鼻に触れて喜んでる。ドラゴンもふんふん息を吐き出していて、なんだかちょっと楽しそうだ。

 おやつがわりに上げてるのか、エサもばんばんあげてるみたい。体に合わせてか、一気にたくさん上げてる。なんか、すごい。

 ちなみにこの間オルちゃんたちは気ままに毛繕いをしていた。それでいいのかボスモンスター。

 でもそろそろ時間がまずいかも、と思っていると。

 

「ええ!?」

 

 アリスが大声を上げた。どうしたのかな。

 

「アリス?」

「いや、ええ……。和解って、こんなのあるの……?」

「へ……? あ、いや、まさか」

 

 多分、アリスは何かしらのイベントが始まったのかもしれない。……あ、アリスが消えた。

 れんちゃんを見る。れんちゃんはドラゴンを撫でながら、叫んだ。

 

「じゃ、えっとね、君の名前はレジェ!」

 

 名付けしちゃった……? いや、待って。え、うそ。それってつまり……。

 

「おねえちゃーん! お友達になったよー!」

「まじかよ……」

 

 嘘みたいなほんとの話って、あるんだね……。

 れんちゃんの方へと歩いて行く。レジェと名付けられたドラゴンは、今もれんちゃんに鼻を触らせてあげてる。気持ちいいのかな?

 大きいドラゴンだけど、こうして見るとかわいいかもしれない。……いや、それはない。大きすぎて恐怖心の方が先にくるよこれ。

 

「れんちゃん」

「なあに?」

 

 わあ。すごく機嫌のいい声だ。まあ、うん。念願のドラゴンだもんね。嬉しくもなるよね。

 

「ステータス、見せてもらってもいい?」

「はあい」

 

 ささっとれんちゃんがレジェのステータスを見せてくれる。レベル表記を見てみると、千のままだった。いやいや、正気なの? いいのこれ? やばくないかなこれ!?

 どうしよう。山下さん呼ぶべきかな。ここで? 今? それはそれで、問題起きそうな。え、ほんとにどうしたらいいの?

 

「えへへ……。もふもふ、かわいい……」

 

 かわいいかなそれ!? いや、うん。れんちゃんが幸せそうならいいや……。

 その後は時間いっぱいまで、れんちゃんがレジェを撫で回すのを眺めることになってしまった。いや、本当に、どうしようかな……。

 



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配信二十二回目:山下さんとのお話

 レジェとの出会い、そして懐柔……違う、友情イベントを終えた、翌日。私はれんちゃんと会う前にゲームマスターの山下さんと会っていた。忙しいとは思うけど、ちょっと会えないかなって

相談したのだ。

 山下さんに呼ばれた場所は、山下さんのホームだった。

 

「始祖龍オリジンのことでしょうか」

 

 開口一番、山下さんにそう聞かれた。まあ、予想がつくよね。誰だって分かるか。

 

「そうです。あれって大丈夫なんですか?」

 

 私としては、だめだと思う。確かにれんちゃんは戦闘そのもの、ダンジョン攻略とかにも興味がない子だけど、バトルジャンキーたちがそれで納得してくれるとはどうしても思えない。

 あいつら、比較的常識人な人もいるにはいるけど、色々とおかしいからね……。

 

「結論を言えば、問題ありませんよ」

「そうなんですか?」

「ええ、まあ……。実を言いますと、始祖龍オリジンはテイムを想定していなかったモンスターではあります」

「え」

 

 いや、それはおかしい。間違い無くれんちゃんはテイムしていたし、れんちゃんのホームにいることも確認したのに。

 

「条件がとても厳しいんです。ここだけの話ですが、テイムの条件は、敵意がなく、そして最終ダンジョンでジェガ以外のモンスターをテイムしていることになります」

 

 あ、なるほど。それは確かに無理だ。まず最初の条件の敵意がないがほとんどのプレイヤーで引っかかるし、他の四体もまともにプレイして全てテイムできると思えない。

 

「それに、始祖龍は通常召喚できない、ホーム専用のテイムモンスターです。厳しい条件ですが、かといってもし他の人がテイムして召喚してしまうと、バランス崩壊どころじゃないですから」

 

 それは確かにそうだ。まず不可能だとは思うけど、この先れんちゃんみたいに、モンスターとただただ友達になりたいって人が出てこないとは限らないわけで。そんな人がテイムしちゃうと、間違い無く問題になる。誰も勝てなくなる。

 まあ苦労した結果召喚できないっていうのは、ちょっとどうかと思うけど……。でもあれはホームにいるだけで満足感があるのは間違い無いと思う。いやあ、あのもふもふはね……。私も触らせてもらったけど、他のモンスターとは一線を画すからね……。すごいよあれは……。

 

「ですが、れんちゃんだけ特別に、例外を設けました」

「え。なんか、聞くのが怖いんですけど……」

「大丈夫です。悪いことにはなりませんから」

 

 山下さんはそう言って、にっこり笑って、

 

「れんちゃんが恐怖を感じた時、もしくはシステム的に危険な状態と判断された時、始祖龍が自動的に召喚されてれんちゃんを守ります」

「うわあ……」

 

 そもそもとしてシステムでPKから守られてたれんちゃんだけど、これで本当に盤石になってしまったような気がする。

 でも、それぐらいならいい、かな? れんちゃんは普段はダンジョンに潜らないし、レジェが呼び出される時はよっぽどということになる。たまに私がいなくてもログインするし、あの子の守り手としてはいいかもしれない。

 

「いかがでしょう?」

「いいと思います!」

 

 うん。いい。すごく、いい。私もとても安心できるからね。

 

「では、ミレイ様。ここから先は別件なのですが」

「え、あ、はい」

 

 なに? なんか、ちょっと真剣な顔になってるんだけど……。何か、やっちゃったっけ……?

 

「ミレイ様とれんちゃんに、依頼したいことがあります」

「はい?」

 

 

 

「なにやら騒ぎになってるね……」

 

 十八時になる前に、つまりれんちゃんが来る前にログインしての雑談配信です。れんちゃんのホームにお邪魔して、配信を始めての私の第一声だ。

 

『ほんとにな』

『廃人どもが最終ダンジョンに挑戦する人に同行してるな』

『始祖龍テイムしようとして、しゅんころされてるの草』

 

「ああ、あの後配信で挑戦した人がいたみたいだね。当事者の私はちょっと笑えなかったよ……。申し訳なさすぎてさ……」

 

 その人は、やっぱりだめでしたねと笑ってたんだけど、視聴者があいつはチートだったんだ不正だとすごく騒いでたらしいんだよね。その視聴者を配信者が諫めてたのは本当に申し訳ないのと有り難いのと、複雑な気持ちになったよ。

 その時の配信者さんはれんちゃんがアクティブモンスターのことを言ってた時に見てくれてたみたいで、わざわざ説明してくれて。本当に、ありがとうございます、だ。

 

『ところでさ』

『いるの? いるのかそこに?』

『始祖龍いるの?』

 

「んー? ああ、なんか今日はやたらと視聴数多いなと思ったら、それが目的?」

 

『むしろそれ以外に何があると?』

『ばっかお前、ミレイという美人を見て……いや何でも無い」

 

「おい今なんで言うのやめたんだこら。怒らないから正直に言いなさい。怒るから」

 

『ヒエッ』

『どっちなんだよwww』

 

 まったく……。

 光球をくるりと回して、れんちゃんのお家の向こう側を映す。

 

『うわ』

『まじかよほんとにいる……』

『改めて見るとでけえ……!』

 

 ほんとにね。れんちゃんのお家がすごく小さく見えるよ。

 私がそのドラゴン、レジェに手を振ると、レジェはのっそりと起きて、こちらに顔を近づけてきた。レジェの鼻を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細める。うん。意外とかわいいかもしれない。

 

『ラスボスとは思えないな……』

『意外と愛嬌がある……?』

『ただし戯れ一撃でプレイヤーは死にます』

 

「よく考えなくてもぶっ壊れだよねこの子」

 

 戦闘では呼び出せないからいいんだけど、本当にぶっ飛んだステータスだと思う。

 ちなみに山下さんとお話しした後、運営から正式な告知があって、始祖龍はテイムしたとしても戦闘には呼び出せず、ホームに居座るだけとお知らせをしてくれた。それでもテイムしたいって人が後を絶たないみたいだけどね。気持ちは分かるとても分かる。

 

「ちなみに、配信を見てたなら知ってると思うけど」

 

 光球の向きを少しだけ変える。レジェの隣へと向ければ、期待通りの反応が返ってきた。

 

『ふぁ!?』

『なんか、なんかいるう!?』

『そうだった、テイムしてたんだった!』

 

 そこにいるのは、オルちゃん、ヒューちゃん、ケルちゃん、キーちゃんの四匹だ。もちろん、オルトロス、ヒュドラ、ケルベロス、キマイラのことだ。

 愛称で呼んでいたから、もしかすると名付け判定されるかも、なんて思ったけど、あくまで愛称として認識してもらえたらしい。名付けはされてないので、れんちゃんはここを出ると呼び出すことができないみたいだった。

 まあ、あんな大きなモンスター、ほいほい召喚されたら困るんだけどね。

 

「オルちゃん」

 

 れんちゃんのテイムモンスターは私にも懐いてくれる。多分、保護者特権だと思う。文句なんてあるはずもない。私だってもふもふは大好きなのだ。

 顔を寄せてくれたオルちゃんを撫でてあげると、気持ち良さそうな顔になる。犬みたいでかわいい。ただ、片方を撫でるともう片方がこっちも撫でろと寄せてくるんだよね。うん。かわいい!

 

『うらやま』

『お前ばっかずるいぞ! 俺も撫でたい!』

『改めて見るとそいつらももふもふやん。もっふもふやん!』

 

「んふふー。敵として見ると二つ首とか三つ首とか怖いけど、こうなるとすごくかわいいよね」

 

 役得役得。まあ私の役得は何よりもれんちゃんを……。

 

「何やってるのおねえちゃん……」

「うひぃえ!」

 

『れんちゃきた!』

『なんて声出してんだw』

『オルトロスがびくってしてるの草。お前ボスだろ』

 

 振り返るとれんちゃんがこっちを見てた。怒ってるのかと思ったけど、呆れられてるだけみたい。うん。それはそれで悲しい。

 れんちゃんはオルちゃんから順番に撫でていくと、レジェに抱きついて頬ずりした。れんちゃんの一番のお気に入りはレジェかな? ……あ、いや、頭にラッキーがのったままだ。ラッキーは特別なのかもしれない。

 

「れんちゃんが構ってくれなくて私はちょっぴり寂しいです」

 

『れんちゃんはあれだな、ちょっと猫っぽいな』

『構い過ぎると逃げちゃうけど、構わないでいると寄ってくるってやつ?』

『それな』

『分かる』

 

 なるほど、れんちゃんは猫かもしれない。なるほどなるほど。

 

「よし想像してみよう。れんちゃんに猫耳と猫尻尾……」

 

『ひらめいた』

『ひらめくな』

 

「あ、健全な絵ならください。よこせ。変な絵書いたら通報するからね。容赦なくやるからね」

 

『うい。描いてくる』

『ほんとに描くのか……』

 

 釘を刺されても描くっていうことは、ちゃんとしたイラストなのかな。それなら私も見たい。むしろ私に見せるべきだと思うのです。

 それにしても、猫耳れんちゃんか……。

 

「鼻血でそう」

 

『おい保護者w』

『猫耳妹に興奮する姉がいるってマ?』

『非常に残念で遺憾ながら、マ』

 

「うるさいよ」

 

 いいじゃないか、れんちゃんかわいいんだもん。

 ひとしきりもふもふして満足したのか、れんちゃんが戻ってきた。ふにゃふにゃれんちゃんだ。すごく満足そう。

 しかし! しかししかし! そんなれんちゃんを、もっととろとろにしてあげよう!

 

「れんちゃん。メッセージは読んでくれた?」

「うん! 大丈夫! やりたい!」

「了解。それじゃ、山下さんにメッセ送るよ」

 

 フレンドリストを呼び出して、山下さんにメッセージを送るを選択する。プレイヤー多しといえども、ゲームマスターがフレンドにいるのって私ぐらいだろうなあ……。

 少し前に依頼されたことを承諾する旨を送れば、すぐにありがとうございますと返信がきた。さすが、仕事が早い。

 

『なんだ? 何が起きてる?』

『置いてけぼりなんだけど』

『ミレイちゃん、何かするの?』

 

「んー? もう少し待ってね。れんちゃん、お家の前に出してくれるって」

「わーい!」

 

 れんちゃんがぱたぱた走って行く。私ものんびり歩いてその後を追う。いや、すぐそこだから、追うってほどの距離じゃないけど。

 

「視聴者さんに先に言っておくけどね」

 

『ん?』

『なんぞ?』

 

「これは正式な依頼で、そして正式な報酬。もふもふともっと触れ合いたいっていう要望を運営に出した人がいて、よければどうですかってこっちに依頼があったんだよ」

 

『どういうこと?』

 

「来週の日曜日の夜だけどさ。何があるか、覚えてる?」

 

 まあ、プレイヤーで覚えてない人はいないだろう。直接関係ないれんちゃんはそもそも興味がないみたいだったけど、参加しない私ですらそれぐらいは把握している。

 

『当然』

『公式イベントだな』

『ただ、戦闘関係のイベントだからなあ』

 

 そう。来週の日曜日の夜は公式のイベントがある。メインは闘技場でのPvP大会なんだけど、闘技場の周辺ではたくさんの出店が開かれるらしい。

 運営は出店希望のプレイヤーを募っていて、もうすでに上限以上の申し込みがあるんだとか。ちょっとしたお祭りみたいなものだね。

 

「でね。もっと動物と触れ合いたいっていう要望が多かったらしくて、闘技場の隣に一回り小さい会場が用意されることになったんだってさ。その会場が、触れ合い広場」

 

『あっ(察し)』

『なるほど。どういうことだ?』

『何がなるほどだったんだよw』

 

「うん。れんちゃんがその触れ合い広場を担当することになったのだ! つまりれんちゃんのテイムモンスもみんな行くよ!」

 

『おおおおお!』

『会えるのか!? 触れるのか!? このもふもふたちに!』

『運営もミレイも、そして何よりもれんちゃんありがとおおお!』

 

 わあ。すごいコメントが流れていく。さすがに追い切れない。まあ、これだけ喜んでくれると私としても嬉しいし、れんちゃんもたくさん自慢できて……。

 あ、いや、れんちゃんすごくわくわくして待ってる。すごく待ってる。さっさと説明を終わらせよう!

 

「というわけで、運営には先払いで報酬をもらうことになっててね。これからそれが来るよ」

 

『なるほど。れんちゃんが楽しみにしてるのはそれか』

『つまり、新たなもふもふを運営が用意したってことか』

『もうえこひいきを隠さなくなったなw』

『でも許せる。むしろもっと甘やかすべき』

 

 優しい視聴者さんたちで私はとても嬉しいです。

 山下さんに合図代わりのメールを送ると、お家の前の景色が歪んだ。そして次の瞬間にできあがったのは、背の低い柵だ。丸い円形の柵で、広さはれんちゃんが走り回って遊べることができるぐらい。一般家庭の一部屋分ぐらいかな? 小さい出入り口が一つだけある。

 そしてさらに、その柵の中に黒い穴みたいなのがうにょんと出てきた。

 

『うお、なんか黒いのが……』

『効果音がwww』

『うにょんってw』

 

 その穴から、小さなもふもふがとことこ歩いて出てくる。ふっわふわでもっふもふの子犬たち。ラッキーの色違いで、黒い子犬と茶色の子犬が三匹ずつ。

 

「わあ……」

 

『見た目で分かるもふもふっぷり!』

『やばい! すっごくかわいい!』

『いい仕事するなあ運営!』

 

 うん、これは本当に、なんだろう。すごいもふもふ。

 子犬たちは全部出てくると、思い思いに動き始める。何匹かは遊び始めて、お互いの体を上ろうとしてころんと転げたりしてる。かわいい。

 

 れんちゃんは早速柵の中に入ると、その子犬の集まりに近づいて行った。

 子犬たちがれんちゃんを見る。でも、どの子も逃げようとしない。興味深そうにれんちゃんを見ている。

 れんちゃんが一匹の黒犬に手を差し出すと、ぺろ、とその子犬がなめていた。

 

「はわあ……」

 

 そっと黒犬を抱き上げるれんちゃん。黒犬はふんふんとれんちゃんの匂いを嗅いでいたみたいだけど、なんだか安心したようにその身を委ねた。

 これは、いい。すごくいい。かわいいが過ぎる……!

 

『あかん、萌え死ぬ』

『しっかりしろ! 傷は深いぞ!』

『いいなあいいなあ……。もふりたいなあ……』

 

 ふむ。これは誘惑が強すぎたかな? ……いやその前に、私も入っていいかな。抱いてもいいかな。でもれんちゃんの邪魔をするのは不本意だし……。

 と、そんなことを考えていたら、れんちゃんが黒犬を抱いたまま戻ってきた。すごく優しく抱いているのが見ているだけで分かる。

 れんちゃんはそのまるっこい毛玉を、私に差し出してきた。

 

「はい、おねえちゃん。すっごくふわふわ!」

 

 これはあれだよね、れんちゃん公認ってことだよね! それじゃあ、遠慮無く……。

 

「うわあ……。なにこれすごい……。ええ、なにこれ……」

 

『語彙力が圧倒的に足りてないw』

『いやでも、実際抱いてみたらこうなるんじゃね?』

『いいなあ、羨ましい……』

 

 れんちゃんに視線を戻すと、いつの間にかれんちゃんは柵の中に戻って他の子犬と戯れていた。れんちゃんの体に他の子犬たちがよじ登ろうとしてる。

 なんだか、見ているだけで和むねこれは……。

 

「私もうここから動きたくない。ここでずっとれんちゃんともふもふを眺める……」

 

『ええで』

『配信切らなければそれでよし』

『かわええのう……』

 

「うん。じゃあ、このまったりもふもふ空間から、追加のお知らせ一つ」

 

 私がそう言うと、なんだなんだとコメントが流れてくる。まあ、何人かは察してるみたいだけどね。

 

「どうして報酬が前払いか、という話ですよ」

 

『え? どういうこと?』

『ああ、つまりやっぱり、そういうことね』

『おいおい、分かるように言えよ』

 

「うん。まあ単純な話、触れ合い広場にはあの子たちも行くことになるからね。あのふわふわもふもふな子犬たち」

 

 おお!? コメントがすごい流れ始めた。みんな大興奮みたいだ。まあ少し狙って言ったから、成功して私としても嬉しい。

 

「というわけで、触れ合い広場には期待してね!」

 

『おk』

『超期待して楽しみにしとく』

『れんちゃんに会うのももふもふと触れ合うのも楽しみだ!』

 

 よし。まあこの程度でいいかな。れんちゃんも、せっかく自慢できるって張り切ってるのに、誰も来なかったら寂しいだろうからね。これでみんな来てくれるはずだ。

 そんなれんちゃんは、いつの間にか寝転がっていて。もふもふにまとわりつかれていた。

 

「何あれ楽しそう」

 

『あれはまさか!』

『知っているのかコメント!』

『いや知らんけど』

『知らんのかいw』

『草』

 

 まあ知ってる方がおかしいけどね。

 うん、それにしても気持ち良さそうだ。見ていて、本当に私も和む。

 

「それじゃあ、そろそろ終わるよ。みんな今日もありがとー」

 

『いかないで』

『勝手に終わるな』

『もうちょっと! ちょっとだけでいいから!』

 

 切ろうとしたらそんなことを言われてしまった。まあ、うん。映すだけでいいなら、いいけども。

 その後はれんちゃんが落ちる時間になるまで、視聴者さんたちと一緒にれんちゃんともふもふを見守ることになった。私は私で抱いたままの黒犬をもふもふ……。ああ、幸せ……。

 

 

「ところで、私もみんなも子犬子犬言ってるあの子たちだけどさ」

 

『ん?』

『なんだ?』

『あー……』

 

「あの子たち、ラッキーと同じ種族だからね。つまりは立派な狼だ」

 

『なん、だと……?』

『あんなかわいらしい狼がいてたまるか!』

『どこからどう見ても子犬な件について』

 

 それについての文句は運営様にお願いします、てね。

 




壁|w・)だいたいこのあたりまでが、私の中での一章扱いでした。
一応まだ続いていますが、もう少し書きためてから投稿しようと思います。
具体的に言えば、なろうで三章が書き終わってからぐらい……?
その時にまた、お読みいただければ嬉しいです。

と言いつつ、明日からは掲示板回を三回ほど投稿します。
よろしくお願いします。


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掲示板4

壁|w・)配信九回目の掲示板です。
変になってたらごめんなさい。


テイマー姉妹について語るスレ

 

 

111 名無しさん

放牧地のお時間です!

 

 

112 名無しさん

きたか!

 

 

113 名無しさん

放牧地だやったー!

 

 

114 名無しさん

のりこめー!

 

 

115 名無しさん

悲報、一瞬で上限到達する

 

 

116 名無しさん

えええええ!?

 

 

117 名無しさん

ちくしょうめええええ!

 

 

118 名無しさん

枠埋まるの早すぎるだろ

 

 

119 名無しさん

てか本当に上限なんてあったのかw

初めて見たぞw

 

 

120 名無しさん

同じく

 

 

121 名無しさん

間違い無く、今までで一番賑わってるだろうなwww

 

 

122 名無しさん

れんちゃんを直接見たかった……

 

 

123 名無しさん

いつも通り配信で我慢するしかないか

 

 

124 名無しさん

次こそは……次こそは……!

 

 

125 名無しさん

お、れんちゃんいた

 

 

126 名無しさん

こうして見ると、配信を見てるかどうかってよく分かるな

 

 

127 名無しさん

見てる人→そわそわ

見てない人→きょとん

 

 

128 名無しさん

お前ら一般の人に迷惑かけんなよ

 

 

129 名無しさん

でも知らない人少なそうだよな

 

 

130 名無しさん

確か放牧地って上限百人だっけ

 

 

131 名無しさん

れんちゃんとミレイを除いて98人ってことだな

画面に映ってる限りじゃきょろきょろしてんの一人だけだな

 

 

132 名無しさん

なんだかんだとれんちゃん人気者になったからなあ

 

 

133 名無しさん

数少ないどころかほぼ間違い無く唯一の幼女プレイヤーでもふもふ好き

しかも姉妹で二人ともきれいどころ

人気が出ないはずがない

 

 

134 名無しさん

配信内容がクソでも見てたと思うわ

 

 

135 名無しさん

幼女を眺めてるだけで満足です

 

 

136 名無しさん

おまわりさんこいつです

 

 

137 名無しさん

おまわりさんこいつもです

 

 

138 名無しさん

おまわりさんこいつらです

 

 

139 名無しさん

おまわりさんです、手が足りません

 

 

140 名無しさん

ですよねw

 

 

141 名無しさん

最初はリスか

 

 

142 名無しさん

いいな、かわいい

 

 

143 名無しさん

見た目まんまリスだけど、モンスター?

 

 

144 名無しさん

一応モンスだな

セカン開始で最初に戦うぞ

 

 

145 名無しさん

ええ……

 

 

146 名無しさん

俺、セカン開始だと詰んでたと思う

 

 

147 名無しさん

こんなかわいいリスを殺すなんてできるわけないだろういい加減にしろ!

 

 

148 名無しさん

え、れんちゃんヘビ大丈夫なんか

 

 

149 名無しさん

予想外すぎるわw

 

 

150 名無しさん

そっか、生き物が好き、だもんな

は虫類も例外じゃないのか

 

 

151 名無しさん

れんちゃんにはもふもふをもふもふしておいてほしいなあ……

 

 

152 名無しさん

さすがにヘビはな……

 

 

153 名無しさん

それにしても飼い主の人が地味に怖いw

 

 

154 名無しさん

れんちゃんも地味に引いてるじゃないかw

 

 

155 名無しさん

ちょwww

 

 

156 名無しさん

無情な流れ弾がミレイを襲う!

 

 

157 名無しさん

お姉ちゃんみたいwww

 

 

158 名無しさん

ミレイ……強く生きろ……

 

 

159 名無しさん

ただし自業自得である

 

 

160 名無しさん

何も言えないw

 

 

161 名無しさん

それにしても、本当にいろいろいるんだな

 

 

162 名無しさん

全部のモンスを見たつもりでいたけど、そうでもなかったんだな

 

 

163 名無しさん

れんちゃんを知らないっぽい人が、それでもでれでれとれんちゃんに自慢してる

わかる、とてもわかる

 

 

164 名無しさん

自分のペットのことを聞かれて嬉しくないテイマーはいない

 

 

165 名無しさん

これはまた視聴者が増えるなw

 

 

166 名無しさん

でも俺はあれが気になってる

 

 

167 名無しさん

あれな

 

 

168 名無しさん

多分れんちゃんも気になってるんだろうな

それでもあえて避けてるっぽい

 

 

169 名無しさん

たまにそっちを見てるから、嫌いってわけではなさそう

 

 

170 名無しさん

最後のお楽しみ、かな?

 

 

171 名無しさん

れんちゃんは楽しみは後に取っておく派だな!

 

 

172 名無しさん

見れば分かるわw

 

 

173 名無しさん

お、ついに行った!

 

 

174 名無しさん

どら! ごん! だー!

 

 

175 名無しさん

かわいいw

 

 

176 名無しさん

れんちゃんのテンションがどんどん高くなってるw

 

 

177 名無しさん

前線組だと自慢できないか……

そうだよなあ……

 

 

178 名無しさん

一部のやつは本当にただのバトルジャンキーだからな

 

 

179 名無しさん

ちょっとだけ同情するわ

 

 

180 名無しさん

それにしてもれんちゃんがおもしろいw

 

 

181 名無しさん

ぐわー

 

 

182 名無しさん

ぐわーwww

 

 

183 名無しさん

ぬわー!

 

 

184 名無しさん

それ違うやつ

 

 

185 名無しさん

今日はあれか? 神回か?

 

 

186 名無しさん

この配信は毎日が神回です

 

 

187 名無しさん

れんちゃんのかわいいシーンを切り出そうとしたら膨大な量になる件

 

 

188 名無しさん

知ってる

 

 

189 名無しさん

おお、乗れるのか!

 

 

190 名無しさん

飼い主じゃなくても乗れるのはしらんかった

 

 

191 名無しさん

いいなあ、楽しそう!

 

 

192 名無しさん

これはドラゴン人気が高まる予感!

 

 

193 名無しさん

おお、ミレイいい判断だ

カメラれんちゃん追尾とか最高だな!

 

 

194 名無しさん

空の旅だー!

 

 

195 名無しさん

たかーい!

 

 

196 名無しさん

こわーい!

 

 

197 名無しさん

れんちゃん荒ぶりすぎwww

 

 

198 名無しさん

れんちゃんってこんなにテンション高くなるのかw

 

 

199 名無しさん

唐突なシリアスはやめるんだ

 

 

200 名無しさん

れんちゃんはシリアスでもなんでもないけどな

 

 

201 名無しさん

いろいろぶっ飛んだところが目立つけど、ミレイっていいお姉ちゃんだよな

 

 

202 名無しさん

妹のために特例を認めさせたってことだもんな

 

 

203 名無しさん

いや、実際にやったのは医者だって話だろ

 

 

204 名無しさん

馬鹿かお前

ミレイが動いたからこそ、医者も動いてくれたんだ

ミレイが何もしなかったら変わらなかったってことだぞ

 

 

205 名無しさん

そりゃれんちゃんも懐くわ

 

 

206 名無しさん

まあれんちゃんからの評価は……

 

 

207 名無しさん

でもたまに気持ち悪いの!

 

 

208 名無しさん

くっそwww

 

 

209 名無しさん

シリアスさんは定時帰宅しました

 

 

210 名無しさん

ミレイは本当に少し反省しろw

 

 

211 名無しさん

ドラゴンと友達になりたいかあ

そうなるよなあ

 

 

212 名無しさん

でもあのエンドコンテンツのダンジョンしか出ないだろ

どうすんだこれ

 

 

213 名無しさん

ああ、ラスダンか……

 

 

214 名無しさん

いや、言いたいことは分かるが、お前……

 

 

215 名無しさん

俺ストーリーやってないんだけど、何かやばいの?

 

 

216 名無しさん

システム的に倒せるようにできてないぶっちぎりの化け物

 

 

217 名無しさん

超弩級の大きさ

今日のドラゴンなんてただのトカゲだと言い切れるレベル

 

 

218 名無しさん

特殊バフ特盛りでさらに演出で駆けつける味方を含めてようやく対等

 

 

219 名無しさん

なにその化け物……

 

 

220 名無しさん

ミレイストーリーやるのか

大丈夫か?

 

 

221 名無しさん

手伝えるところがあるなら手伝ってもいいけどな

問題は第二部のソロ強制ダンジョン

 

 

222 名無しさん

あそこだけは未だに批判が多いからな

 

 

223 名無しさん

是非ともミレイには頑張ってほしいところだな

 

 



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掲示板5

壁|w・)配信十回目の掲示板です。


 

テイマー姉妹について語るスレ

 

 

201 名無しさん

ついに投げ銭解禁だああ!

 

 

202 名無しさん

早いとか思うけどそれ以上に、申請してたことに驚いた

 

 

203 名無しさん

今まで一度も申請してるなんて言ってなかったしな

 

 

204 名無しさん

未成年ってかなり厳しく審査されるらしいけど、その辺大丈夫だったんかな

 

 

205 名無しさん

説明きたぞ

 

 

206 名無しさん

さすがにお金が振り込まれるわけじゃないのか

 

 

207 名無しさん

まあれんちゃんいるしな

金に直接関わらせるのはやばいってことかな?

 

 

208 名無しさん

ゲームコインならそのあたりはゆるいか……?

 

 

209 名無しさん

しかしコインか

1円=1コインだっけ

 

 

210 名無しさん

そう

結構面白いアイテムもあるから、何に使うか楽しみだ

 

 

211 名無しさん

たとえば?

 

 

212 名無しさん

マグロソードとか

 

 

213 名無しさん

完全にネタ武器じゃねえかw

 

 

214 名無しさん

でもそのネタ武器、ストーリー第二部になら通用するステータスなんすよ……

 

 

215 名無しさん

まじかよwww

 

 

215 名無しさん

冷凍マグロを振り回さしてゴーレムと戦うのか

 

 

216 名無しさん

シュールすぎるwww

 

 

217 名無しさん

それより誰かミレイの夢につっこめよ

 

 

218 名無しさん

保育所で働きたい

 

 

219 名無しさん

危ない、これは通報しなければ!

 

 

220 名無しさん

いやいい夢じゃん

応援してやれよ

 

 

221 名無しさん

ネタにマジレス、カッコワルイ

 

 

222 名無しさん

ネタと通じないネタはネタとして問題があるネタだと思います

 

 

223 名無しさん

しかしネタは鮮度が大事なネタであり、ネタとして使うならやはりネタはネタであるべきで

 

 

224 名無しさん

まるで意味がわからんぞ!

 

 

225 名無しさん

考えるな、感じるんだ!

 

 

226 名無しさん

結論、がんばれミレイ

 

 

227 名無しさん

>>226 は裏切り者

 

 

228 名無しさん

異議なし

 

 

229 名無しさん

裏切り者は豚である!

 

 

230 名無しさん

つまり、出荷よー

 

 

231 名無しさん

そんなー

 

 

232 名無しさん

顔文字がない、やり直し

 

 

233 名無しさん

余ったコインは寄付だってさ

 

 

234 名無しさん

余すところなくれんちゃんのために使われる

素晴らしい!

 

 

235 名無しさん

これは投げるしかないでしょう!

 

 

236 名無しさん

おい! 10万投げようとしたのにできねえぞ! 不具合だ!

 

 

237 名無しさん

石油王か何かなの……?

 

 

238 名無しさん

こういうやつたまにいるけど、どっから金が出てるんだよ

 

 

239 名無しさん

独り身はお金が余るから……

 

 

240 名無しさん

やめろお!

 

 

241 名無しさん

いやでも、お前ら投げすぎるだろ

俺も上限投げたけどさ

 

 

242 名無しさん

だって苦労してるの知ってるし

本人たち明るいから忘れそうになるけどさ

 

 

243 名無しさん

毎日はできないけどこれぐらいはな

 

 

244 名無しさん

れんちゃんにバブみを感じる……

 

 

245 名無しさん

ミレイも泣く時ってあるんだな

 

 

246 名無しさん

ミレイも人間だったってことだろ

 

 

247 名無しさん

そうだn……、いやなんだと思ってたんだよw

 

 

248 名無しさん

シスコンのど変態

 

 

249 名無しさん

…………

 

 

250 名無しさん

否定できない、だと……?

 

 

251 名無しさん

自動拡張か

まあ順当

 

 

252 名無しさん

むしろそれが真っ先になるわな

 

 

253 名無しさん

もふもふぱらだいすが楽しみすぎる

 

 

254 名無しさん

いやでも、十年分はさすがに草

 

 

255 名無しさん

気持ちは分かるが何やってんだこいつwww

 

 

256 名無しさん

果たして10年後はまだサービスが続いているのだろうか

 

 

257 名無しさん

続いてほしい

れんちゃんのためにも

 

 

258 名無しさん

そのれんちゃんはウルフをテイムしにいきました

 

 

259 名無しさん

なんか、100匹テイムに触発されてたっぽいけど……

 

 

260 名無しさん

いやいやまさかそんな

 

 

261 名無しさん

さすがにれんちゃんでも、そこまではしないはず……

 

 

262 名無しさん

ミレイのガチャの映像の隅っこに、なんか出てきてるんだけど

 

 

263 名無しさん

ウルフが……ウルフがいっぱいきてる……

 

 

264 名無しさん

いやいや

いやいやいやいや

 

 

265 名無しさん

ミレイも気付いてるか

心なしか目が死んでるような

 

 

266 名無しさん

まあさすがに、ほんとにやるとは思わなかったんだろうw

 

 

267 名無しさん

100匹テイムは予想できんわw

 

 

268 名無しさん

れんちゃん帰ってきた!

 

 

269 名無しさん

祝! 100匹テイム!

 

 

270 名無しさん

まじかよれんちゃんw

 

 

271 名無しさん

さすがれんちゃん!

おともだちたくさん!

 

 

272 名無しさん

ふんすふんす!

 

 

273 名無しさん

くっそかわいい

 

 

274 名無しさん

どや顔れんちゃんかわいい

 

 

275 名無しさん

あとあと大変そうだけど、がんばれミレイw

 

 

276 名無しさん

れんちゃんのためだ

ミレイなら大丈夫だろ

 

 

277 名無しさん

いやでも、このもふもふの集まりはちょっと憧れる

 

 

278 名無しさん

うむ

 

 

279 名無しさん

だな

 

 

280 名無しさん

…………

 

 

281 名無しさん

ちょっとウルフ100匹テイムしてくる

 

 

282 名無しさん

猫又を100匹誘惑してくる

 

 

283 名無しさん

リスを100匹餌付けしてくる

 

 

284 名無しさん

テイム祭りだあああ!

 

 

285 名無しさん

お前ら単純すぎるだろwww

 



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掲示板6

壁|w・)配信二十一回目の掲示板です。
長いのでまったりお読みいただければと思います


 

テイマー姉妹について語るスレ

 

 

101 名無しさん

ついにきたか、この時が……!

 

 

102 名無しさん

最終ダンジョンの時間だぞ!

 

 

103 名無しさん

ガタッ

 

 

104 名無しさん

やっとか!

 

 

105 名無しさん

いや早いからな?

 

 

106 名無しさん

普通にやったら一年ぐらいかかるからな

 

 

107 名無しさん

まあ結局、アリスの最終ダンジョンに同行って形になったけどな!

 

 

108 名無しさん

今まで急いで進めてたのは何だったの……?

 

 

109 名無しさん

それは言わないお約束

 

 

110 名無しさん

すまん、昨日の配信見逃したんだけど、どゆこと?

 

 

111 名無しさん

ミレイ、第二部のソロ強制ダンジョンで詰まる

 

 

112 名無しさん

アリスが最終ダンジョンに誘ってくれる

 

 

113 名無しさん

あ、あれ? 二行で終わっちゃった……

 

 

114 名無しさん

昨日の配信、まだ残ってるだろうから見てこい

 

 

115 名無しさん

前半のれんちゃんうとうとがすごくかわいいからな!

 

 

116 名無しさん

アリス関係ねえw

 

 

117 名無しさん

後半でアリスが誘うシーンがあるぞ

 

 

118 名無しさん

俺、知らなかった

アリスってかわいかったんだな

 

 

119 名無しさん

お前らお気づきじゃないかもしれないが、アリスは女の子だぞ

 

 

120 名無しさん

な、なんだってー!?

 

 

121 名無しさん

お前嘘つくならもっとましな嘘つけよw

 

 

122 名無しさん

アリスが女の子なわけwww

 

 

123 アリス

…………

 

 

124 名無しさん

すみませんでした

 

 

125 名無しさん

いや、うん

正直すまんかった

 

 

126 名無しさん

無言が逆に怖いです……

 

 

127 名無しさん

…………

 

 

128 名無しさん

い、いったか?

 

 

129 名無しさん

いったっぽい

 

 

130 名無しさん

お前らアリスが来ることぐらい想定しろよ

 

 

131 名無しさん

当事者じゃないのに俺まで怖かったぞ……

 

 

132 名無しさん

ごめん

 

 

133 名無しさん

お、合流した

 

 

134 名無しさん

れんちゃんとアリスのテンションが高すぎるw

 

 

135 名無しさん

れんちゃんは分かるが、アリスはなんでだよw

 

 

136 名無しさん

ここでいらっとしたのを誤魔化してるだけでは?

 

 

137 名無しさん

あっ……

 

 

138 名無しさん

よおし! 忘れようか!

 

 

139 名無しさん

ああ、コメント消されるのか

 

 

140 名無しさん

まあ最終ダンジョンの放送ではよくあることだな

 

 

141 名無しさん

でも寂しい……

 

 

142 名無しさん

何言ってるんだ

お前には俺たちがいるだろ……?

 

 

143 名無しさん

きもい

 

 

144 名無しさん

言ってる俺もきつかった

 

 

145 名無しさん

草www

 

 

146 名無しさん

草に草を略

 

 

147 名無しさん

今回はさすがに全員本気装備だな

 

 

148 名無しさん

お、そうだな(れんちゃんから目を逸らしつつ)

 

 

149 名無しさん

れんちゃんはな

あれでいいんだよ

 

 

150 名無しさん

ミレイは本当に金がかかってる装備だなw

 

 

151 名無しさん

何も知らなかったら成金にしか見えねえなw

 

 

152 名無しさん

実際は100%投げ銭だけどなw

 

 

153 名無しさん

アリスもなかなか似合ってる

 

 

154 名無しさん

和服美人

 

 

155 名無しさん

アリスもなんだかんだでかわいいよな

 

 

156 名無しさん

だが変態生産者であることが全てを帳消しにしている……

 

 

157 名無しさん

生産スキル二つがカンストとか今でも頭おかしいからな

 

 

158 名無しさん

れんちゃんはかわいい

 

 

159 名無しさん

ちょっと身軽になってる?

 

 

160 名無しさん

ともかくかわいい

 

 

161 名無しさん

百個セットが百個とは

 

 

162 名無しさん

すげえエサの量だ……

 

 

163 名無しさん

つまり、千個あるってことか

 

 

164 名無しさん

おう、そうだn……、え?

 

 

165 名無しさん

一万個だよ

大丈夫か、小学生レベルの計算だぞ

 

 

166 名無しさん

すまん素だった恥ずかしいごめんちょっと黙る

 

 

167 名無しさん

お、おう

 

 

168 名無しさん

あまり気にすんな

……ちょっとだけかわいいと思っちまった

 

 

169 名無しさん

わかる

 

 

170 名無しさん

一部屋目はオルトロスか

 

 

171 名無しさん

なあ、タコってなんのことだ?

 

 

172 名無しさん

有名なゲームにオルトロスってタコのモンスターがいるんだよ

 

 

173 名無しさん

ダンジョンのボスとかそんな使い捨てじゃなくて、何度も戦うボスな

 

 

174 名無しさん

うっとうしいけど憎めない、いいボスだったなあれは

 

 

175 名無しさん

お前ら全員年がばれるぞ

 

 

176 名無しさん

ごめん今のなし

 

 

177 名無しさん

忘れてくださいお願いします

 

 

178 名無しさん

手遅れなんだよなあ……

 

 

179 名無しさん

こうして見るとオルトロスも結構でかいよな

 

 

180 名無しさん

オルちゃんwww

 

 

181 名無しさん

ミレイw

かわいらしい愛称をつけるなw

 

 

182 名無しさん

れんちゃんはと言えば……

ん? 何やってんのあれ

 

 

183 名無しさん

何か言ったっぽい……?

 

 

184 名無しさん

あ、ラッキーを呼び出した

 

 

185 名無しさん

相変わらずのもっふもふのふわふわわんこ

 

 

186 名無しさん

でもなぜラッキー

 

 

187 名無しさん

足をあげましてー

 

 

188 名無しさん

がおー!

 

 

189 名無しさん

がおー!

 

 

190 名無しさん

(「・ω・)「がおー!

 

 

 ・・・・・

 

 

999 名無しさん

(「・ω・)「かおー!

 

 

1000 名無しさん

(「・ω・)「がおー! で埋まるとかまじかよ

 

 

   ・・・・・

 

 

010 名無しさん

よしお前ら、そろそろ落ち着いたな?

 

 

011 名無しさん

普段書き込まない奴らも絶対にいただろうなw

 

 

012 名無しさん

配信の方で反応してくれないからこっちに来てる人もいるだろうしな

 

 

013 名無しさん

そりゃ千人単位できたら即埋まるわ……

 

 

014 名無しさん

がおーの間にオルちゃんテイムしちゃってるんだけど

 

 

015 名無しさん

まじかよ

まじだ

 

 

016 名無しさん

さすがやでれんちゃん!

 

 

017 名無しさん

近くで見るとオルちゃんももふもふだな

 

 

018 名無しさん

このゲームの開発の、もふもふに対する情熱はなんなのか

 

 

019 名無しさん

本当にこだわりすぎてて草

いいぞもっとやれ

 

 

020 名無しさん

お次はヒュドラか

 

 

021 名無しさん

ヘビはどうなんだろうな

嫌いではないみたいだったけど、今回はでかいぞ

 

 

022 名無しさん

サイズ程度で止まるならオルちゃんで止まってるんだよなあ

 

 

023 名無しさん

なるほどたしかにw

 

 

024 名無しさん

ヒューちゃん

 

 

025 名無しさん

ヒューちゃんwww

 

 

026 名無しさん

そんな可愛らしい外見じゃねえw

 

 

027 名無しさん

アホかお前

れんちゃんがかわいいって言ったらかわいんだよ!

 

 

028 名無しさん

なるほどその通りだ

すまんかった

 

 

029 名無しさん

わかればよいのだ

 

 

030 名無しさん

なんだこいつら……

 

 

031 名無しさん

そして初手がおー

 

 

032 名無しさん

(「・ω・)「がおー

 

 

033 名無しさん

もういいから

さすがに管理人に怒られる

 

 

034 名無しさん

ああ、うん……

 

 

035 名無しさん

そしてテイムである

 

 

036 名無しさん

俺さ、こいつらにめっちゃ苦戦したんだよ

苦戦、したんだけどなあ……

 

 

037 名無しさん

俺も俺も

でもさ、れんちゃんが嬉しそうだから、もうなんでもいいや

 

 

038 名無しさん

れんちゃんかわいいよれんちゃん

 

 

039 名無しさん

このスレにはロリコンしかいないのか?

 

 

040 名無しさん

このスレにいる時点で全員そうだと思う

 

 

041 名無しさん

否定できねえw

 

 

042 名無しさん

ケルベロスだー!

 

 

043 名無しさん

ケルちゃん!

 

 

044 名無しさん

予想してたw

 

 

045 名無しさん

うん、まあ知ってた

 

 

046 名無しさん

アリスの目が死につつあるぞw

 

 

047 名無しさん

アリスもさんざん苦労しただろうからなw

 

 

048 名無しさん

首が三つに増えたところで、れんちゃんは気にしない!

 

 

049 名無しさん

れんちゃんが強すぎる……

 

 

050 名無しさん

俺としてはれんちゃんががおーしてる間の保護者二人が気になるんだけど

 

 

051 名無しさん

ただの雑談してたぞ

 

 

052 名無しさん

もはや心配すらしてねえw

 

 

053 名無しさん

お次はキマイラさんです

 

 

054 名無しさん

もはやただの流れ作業

 

 

055 名無しさん

もふもふとすべすべが合体した!

 

 

056 名無しさん

その発想はなかったw

 

 

057 名無しさん

合体すればいいってわけじゃないだろいい加減にしろ!

 

 

058 名無しさん

お前それれんちゃんに言うつもりか?

 

 

059 名無しさん

処す? 処す?

 

 

060 名無しさん

処す

 

 

061 名無しさん

ごめんなさい許して

 

 

062 名無しさん

絶対に許さない、絶対にだ

 

 

063 名無しさん

いいか?

れんちゃんが白と言えば灰色も白になるんだよ!

 

 

064 名無しさん

なお、保護者(ミレイ)のセリフです

 

 

065 名無しさん

あんな保護者で大丈夫か……?

 

 

066 名無しさん

大丈夫だ、問題ない

………………………………たぶん。

 

 

067 名無しさん

めっちゃ葛藤してるじゃねえかw

 

 

068 名無しさん

さて、次はジェガが

 

 

069 名無しさん

あれはモンスターじゃないからな

さすがにテイムできんわな

 

 

070 名無しさん

間違い無く悪い人である

 

 

071 名無しさん

まって

ミレイたちも言ってるけど、嫌な予感するんだけど

 

 

072 名無しさん

奇遇だな、俺もだ

 

 

073 名無しさん

いやいやまさか、さすがにそんなわけ……

 

 

074 名無しさん

ジェガきたー!

 

 

075 名無しさん

正真正銘の悪役だけど、俺こいつ好きなんだよね

 

 

076 名無しさん

わかる

純粋にかっこいい

 

 

077 名無しさん

あれ? なんか、ジェガの動きが止まった?

 

 

078 名無しさん

ミレイたちを見てるわけじゃなさそうだけど

むしろその奥?

 

 

079 名無しさん

なんかきた

 

 

080 名無しさん

でかいのがいっぱいきた

 

 

081 名無しさん

現実逃避やめーや

夢の対決だぞ、喜べよ

 

 

082 名無しさん

ジェガ

VS

オルトロス&ヒュドラ&ケルベロス&キマイラ

 

 

083 名無しさん

これはひどいwww

 

 

084 名無しさん

確かにジェガはキマイラよりもずっと強いボスだけどさ

でも4体がかりはいじめにしかならないと思うの

 

 

085 名無しさん

なあ、ちょっと気になったんだけど

 

 

086 名無しさん

どした?

 

 

087 名無しさん

大型ボスって強制ノックバックのスキルあるじゃん

 

 

088 名無しさん

一時的に動き止められるやつな

 

 

089 名無しさん

どんな耐性つけてても貫通してくる鬼畜スキルな

連続して攻撃してこないから慌てず対処すればいいけど

 

 

090 名無しさん

ジェガに効いてね?

 

 

091 名無しさん

…………

 

 

092 名無しさん

あー……

 

 

093 名無しさん

一体咆哮、一体が咆哮のクールタイム、残り二体が攻撃

その繰り返しをするだけの簡単なお仕事です

 

 

094 名無しさん

草ァ!

 

 

095 名無しさん

思った以上の三倍ぐらいひどかったw

 

 

096 名無しさん

やめたげてよぉ!

 

 

097 名無しさん

これはひどい、ひどすぎるw

 

 

098 名無しさん

あ、終わった

 

 

099 名無しさん

なあ、アリスの目が完全に死んでるんだけど

 

 

100 名無しさん

まあ、実質ラスボスが蹂躙されてたらね……

 

 

101 名無しさん

正直笑うしかねえわこれw

 

 

102 名無しさん

いやあ、ジェガは強敵でしたね!

 

 

103 名無しさん

まさしく最強の敵だった!

 

 

104 名無しさん

お、そうだな

咆哮のスタンハメされてたけどな

 

 

105 名無しさん

言うなよ笑っちまうだろw

 

 

106 名無しさん

さていよいよドラゴンだ

 

 

107 名無しさん

ずっと待ってたよ、この時を……

 

 

108 名無しさん

れんちゃんの反応が楽しみすぎる

 

 

109 名無しさん

ざわ……ざわ……

 

 

110 名無しさん

始祖龍きた!

 

 

111 名無しさん

いやあ、いつ見てもかっけえなあ、このドラゴン

 

 

112 名無しさん

神々しさがやばい

本当に、やばい

 

 

113 名無しさん

やばいという言葉しか見つからない

 

 

114 名無しさん

そしてれんちゃんはやっぱり躊躇いなくいくんだなあ

 

 

115 名無しさん

さすがに始祖龍はまずくないか?

 

 

116 名無しさん

設定からして、人間を、てかこの世界の生命体を見限ってるドラゴンだからな

 

 

117 名無しさん

でもふつうにもふってるけど

 

 

118 名無しさん

なんでやwww

 

 

119 名無しさん

純粋な子供って、どうしていいかわからないからね……

 

 

120 名無しさん

だからってなすがままはさすがに笑うw

 

 

121 名無しさん

いいなあ、俺も撫でてみたいな

 

 

   ・・・・・

 

 

222 名無しさん

そして一時間が経ちました

 

 

223 名無しさん

いつまでもふってるんだこの子はw

 

 

224 名無しさん

れんちゃんが幸せそうで何よりです

 

 

225 名無しさん

始祖龍もどことなく楽しそうだしなw

 

 

226 名無しさん

始祖龍(笑)

 

 

227 名無しさん

やめろw

 

 

228 名無しさん

おや、アリスが消えた

 

 

229 名無しさん

ほう、レジェか

……名付け、しちゃったかあ……

 

 

230 名無しさん

つまり?

 

 

231 名無しさん

レベル1000のラスボスをテイムしたってことだな!

 

 

232 名無しさん

まじかよ

 

 

233 名無しさん

れんちゃんならもしかして、とは思ったよ?

でも本当にテイムするとは思わなかったよ……

 

 

234 名無しさん

とりあえず俺はれんちゃん最強プレイヤー説をおすわ

 

 

235 名無しさん

レジェがいる限り間違いなく最強なんだよなあ……

 

 

236 名無しさん

さすがにこれは、ちっとやばくないかな……?

 

 

 

   ・・・・・

 

 

501 名無しさん

運営からお知らせきました

 

 

502 名無しさん

さすがに始祖龍はテイムしても戦闘には出せないらしいな

 

 

503 名無しさん

まあ当然だわな

他に誰かがテイムしたらその人の一人勝ちになるだけだし

 

 

504 名無しさん

でもさ、ホームにいるってのも魅力的だ

 

 

505 名無しさん

わかる

 

 

506 名無しさん

正直言って羨ましい

 

 

507 名無しさん

ちょっとまじめにテイムを頑張ってみようかな……

 

 

508 名無しさん

いいよな始祖龍

もふもふしてみたい

 

 

509 名無しさん

それよりももふもふ始祖龍をもふもふするれんちゃんをどう思う?

 

 

510 名無しさん

れんちゃんかわいいやったー!

 

 

511 名無しさん

もうこの映像だけで満足ですわ

 

 

512 名無しさん

控えめに言って最高だな!

 




壁|w・)ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。
続きは、またいずれ。


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はじめてのぬいぐるみ

 夏も近づき、少しずつ気温が高くなってきたとある木曜日。私はれんちゃんのお見舞いのために病院に来ていた。もちろん学校からそのまま。まあ毎日のことだけどね。

 

「れんちゃん、きたよ」

 

 れんちゃんの暗い病室に入ると、れんちゃんはベッドの上でお昼寝していた。今日のれんちゃんのお供は白い犬のぬいぐるみらしい。よくよく見ると、なんだかラッキーに似てるかも。

 

「あー……。なるほどそういう……」

 

 少し昔を、れんちゃんと会ってまだあまり間もない頃のことを思い出してしまった。なるほど、だからラッキーか。

 れんちゃんが抱いてる小さい犬のぬいぐるみは、私が初めてプレゼントしたぬいぐるみだ。れんちゃんはそれはもうとっても喜んでくれて、そのぬいぐるみにラッキーと名付けていた。

 

 少し前に見たアニマルビデオの犬の名前がそうだったから、とか。

 最初から、あの小さいウルフを見た時から、連想していたのかもしれない。なんとなく、思い出せなかったことがとっても悲しくて情けない。

 私にとっても、大事な思い出のはずなんだけどね。

 

 れんちゃんの頭を撫でる。真っ白な、さらさらの髪。昔からここに勤めていてれんちゃんをよく知ってる看護師さんたちが、毎晩のお風呂で丁寧に洗ってケアしてくれてると聞いてる。

 新しく入ってくる看護師さんは原因不明の病気を抱えるれんちゃんを少し避けてしまう人もいるけど、気にしない人はいつも気に掛けてくれていて、感謝してもしきれない。

 

 何かお礼がしたいと思ったことが何度もあるけど、いつだってあの人たちは受け取ってくれない。それどころか、いつでも人前に出られるようにと、いろいろとれんちゃんに教えてるぐらいだ。

 みんな、れんちゃんの病気が治ると信じてくれてる。それが、とても、嬉しい。

 

「んむ……」

 

 もぞもぞれんちゃんが動いて、目を開けた。ぼんやりとした目で私を見つめて、ふんわりと笑う。

 

「おねえちゃん、おはよー」

「おはよう、れんちゃん。夕方だけどね」

「そっかー」

 

 犬のぬいぐるみを大事そうに抱えて、れんちゃんが起きる。小さな欠伸。

 

「その子、まだ大事にしてくれてるんだね」

 

 ぬいぐるみのことを言うと、れんちゃんはふんわり笑って、

 

「うん。大事なお友達。あっちのラッキーに似てるでしょ?」

「似てるね。ちょっと驚いちゃった」

「おねえちゃんは忘れちゃってたみたいだけど」

「うぐ」

 

 ジト目のれんちゃんの視線がとても痛い。いや、ほんとに、申し訳なく……。

 私が何も言えないでいると、れんちゃんはくすくす笑って、

 

「冗談だよ、おねえちゃん。わたしは毎日この子を見てるけど、おねえちゃんは最初の時だけだもん。しかたないよ」

「れんちゃんのフォローが心にしみます……」

 

 れんちゃんの棚にはぬいぐるみがぎっしりだからね。一つ一つはさすがに覚えられない。でもやっぱり、最初の子ぐらいは覚えておけよと自分でも思った。ちょっとだけ、自己嫌悪。

 

「うあー……」

「もう……。気にしすぎだよ?」

 

 私のほっぺたに柔らかいものが触れる。れんちゃんがぬいぐるみの手で私のほっぺたをぷにぷにしてた。もう……。

 

「よいしょ、と」

「わわ」

 

 れんちゃんを膝に載せて、後ろから抱きしめる。ぎゅー。

 

「もう……」

 

 れんちゃんは呆れてるみたいだったけど、抵抗はしなかった。

 

 

 

 れんちゃんは食べ物のアレルギーは全くなくて、なんでも食べる。動く機会が少ないからか量はあまり食べないけど、食べたことのないものにはいつも興味を示してくれる。

 それでも好きなものは、子供らしく甘いもの。

 アーモンドが入ったチョコレートを渡してあげると、れんちゃんは目を輝かせて早速食べ始めた。幸せそうでとってもかわいい。

 

「さてさてれんちゃん。食べながらでいいから聞いてね」

 

 チョコレートをもぐもぐしながら頷くれんちゃん。なんというか、猫じゃなくてリスみたいだ。喉をこちょこちょすると気持ち良さそうに目を細める。やっぱり猫か。

 

「次だけど、雀とかどうかな」

「すずめ?」

「そう。分かる? ビデオで見なかった?」

「んー……」

 

 こういう時、結構不便だ。

 普通なら、雀なんて説明しなくても通じる。よく電線とかにとまってる小さい鳥と説明したら、ほとんどの人が雀を思い浮かべると思う。

 けれどれんちゃんの場合は、そもそもとして外に出ない。電線もほとんど見たことがなく、そこにとまる小さい鳥なんて思い浮かべることもできない。

 そして、ペットにしている人はあまりいないために、れんちゃんがたまに見るアニマルビデオにもほとんど出てこない。だから説明がとても難しい。

 

「あとで調べてみるね。見に行くの?」

「うん。どうかなって。雀をテイムしてる人と会ったことがあるけど、ふわふわだったよ」

 

 これが間違い無くリアルと違うところで、AWOの雀はそれはもうふわふわだった。柔らかい羽毛に覆われた雀は、その小ささも相まってとても可愛らしい。手のひらの上でうたた寝する雀は見ているだけで癒やされた。

 きっとれんちゃんも気に入ってくれるはずだ。

 

「行ってみたい! どこ?」

「ファトスに近いからすぐ行けるよ。じゃあ、今日は雀さんと友達になるってことで」

「うん!」

 

 楽しみに目を輝かせるれんちゃんはかわいいなあ。

 というわけで、今日は雀さんに会いに行くことになった。

 




壁|w・)こちらではお久しぶりです。
宣伝がてら、こちらも更新しておこうかと思いました。
今回はあと何度か、毎日17時5分で投稿します。



というわけで、宣伝なのです。
この度、このお話『テイマー姉妹のもふもふ配信』が本になることになりました!
レーベルは『オーバーラップノベルス』で、6月25日に発売です……!
れんちゃんへの投げ銭代わりに、よければ是非!

詳しくは小説家になろう様での活動報告をご覧頂ければと思います!
活動報告はこちら

もしくはオーバーラップ様の広報室(ブログ?)でも詳しく書いてもらっています!
テイマー姉妹のもふもふ配信紹介ページ

是非是非、よろしくお願いします……!



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配信二十五回目:空も飛べる気がする

 

 れんちゃんのホームはとても愉快なホームだ。ログインしてれんちゃんのホームに入ると、いつも思う。もふもふがたくさんだ……!

 れんちゃんのお家の側には、木の柵で囲まれた小さなエリア。ここではいつも子犬たちが遊んでる。そしてれんちゃんも遊んでる。子犬と一緒にころころ転がってる。なにあれかわいい。

 

 ふわふわもこもこな子犬とじゃれ合うれんちゃんの写真を大量に保存しつつ、次に目を向けるのは新しくできあがった森だ。いや、ちょっと前まで林だと思ってたんだけど、気付けば鬱蒼と生い茂る深い森になってた。何を言っているのか私でもちょっと分からない。

 ここにはれんちゃんが連れてきたウルフが百匹近く。他にも猫やらトラやらライオンやら。どんな森だよと言いたくなるけど、まあいっか。

 

 お家を挟んで反対側には、最終ダンジョンでテイムした子がずらりと勢揃いしてる。この子たちは普段はずっと寝てるんだけど、ひとたびれんちゃんが遊びに誘うと、それはもう犬みたいに尻尾をぶんぶん振って遊び始める。なんというか、幼女と追いかけっこする巨大モンスはなかなかシュールな光景です。ホラーかな?

 

「れんちゃん」

 

 子犬と遊んでいたれんちゃんを呼ぶと、すぐに子犬を優しく離して、こっちに戻ってきた。なんだろう、心なしか顔がつやつやしてる。そんなに良かったのかな……。

 

「おねえちゃんおねえちゃん」

「なにかなれんちゃん」

「お手々出して!」

「んー?」

 

 言われた通りに手を出す。

 

「両手広げて!」

「こう?」

 

 両手を広げて手のひらをれんちゃんに向けると、れんちゃんが私の手の上に何かを置いた。何か、というか、子犬だ。行儀良く私の手に座って、こてんと首を傾げて私を見てくる。

 なにこれ。かわいい。なるほどこれは、かわいい!

 わふん、と小さく鳴いて、私の手にすりすりしてきて、ふわふわで……!

 

「どう? どう?」

「かわいい!」

「でしょ!」

 

 嬉しそうに笑うれんちゃんもかわいい! ああ、そっか、私の楽園はここにあった……!

 

「ところでおねえちゃん。雀さんは?」

「おっと、そうでした」

 

 今日の目的を忘れそうになった。いやでも、私は悪くない。いきなり子犬をのせてきたれんちゃんが悪い。……れんちゃんが悪いわけないでしょうが私!

 子犬をそっと地面に下ろすと、なんと自分でてこてこ歩いて柵の中に戻っていった。さすが賢い。私からもれんちゃんからも視聴者さんからも子犬子犬と呼ばれてるけど、狼だもんね。さすが狼。

 

「さて。それじゃあれんちゃん。配信を始めます」

「はーい」

 

 ではでは、ぽちっとな。

 ふわりと光球が現れて、コメントが流れる板みたいなものも出てきて。そしてすぐに、コメントが流れ始めた。

 

『新鮮な配信だー!』

『待ってたぜ! この時をよぉ!』

 

「ノリがうざいから終わっていい?」

 

『待って』

『許して』

 

「仕方ないなあ」

 

 やれやれと首を振ると、れんちゃんがくすくす笑っていた。うん。遊びすぎかな。

 

「さてさて、今日は新しいもふもふと友達になりに行くよ」

 

『おお! ついに新しい子!』

『次はどこだ?』

『まだまだいるからな。タヌキとか』

 

「今日は雀さんだ!」

 

『え』

『なんか、意外なチョイス』

『雀ってそんなにもふもふだっけ?』

『テイマーしか知らないだろうな。このゲームの雀はもっふもふやぞ』

『知らんかった』

 

 コメントがどんどん流れていく。視聴者数は、あっという間に二千をこえた。本当に、すごい増えたよね……。

 

「とりあえず、いきましょー」

「はーい」

 

 れんちゃんのホームから出て、ファトスへ。向かう先はすでに懐かしく感じてしまう、草原ウルフがいるエリア。その隣にある穀倉地帯が雀のいるエリアだ。

 ちなみにこのゲームの雀はプレイヤーが育てた農作物は無視してくれる。さすがにリアリティよりもゲームとしての快適性を重視したんだと思う。親切設計だね。

 

「さてさて、穀倉地帯に到着しました」

「ぱちぱちぱちー」

 

『かわいい』

『れんちゃん見てるとほんと和むわ……』

『一日の疲れが癒やされる……』

 

 何か変なコメントが流れてる気がするけど、気にせずいきましょう。

 道を、空を、あっちこっち見ると、たくさんの雀がうろうろしていた。光球を雀たちに向ける。ファトス開始の人以外はあまり雀を見ないらしいからね。しっかり映しておこう。

 

「おねえちゃんおねえちゃん、すごくまるっこい!」

「でしょ?」

 

 このゲームの雀は本当にまるい。いや、まあるい。まあるい毛玉のようになってる。そんな毛玉なのにちゃんと翼で空を飛ぶ。でも、そんな動きもかわいいとテイマーの間では評判だ。

 戦闘能力はあまり高くなくて、そしてノンアクティブ。ほとんどの人は気にしない子なんだけど、何かしらの依頼で討伐をしようと思うとかなり難易度が高かったりする。

 

 まず攻撃が当てにくい。雀があまりにも小さくてすばしっこいから。そして雀からの攻撃は固定ダメージ。どれだけ防御力を上げても、必ず一ダメージは貫通してきちゃう。

 まあ、この子もノンアクティブだかられんちゃんには関係ないだろうけど。一応気にしないとね。

 

「おねえちゃんおねえちゃん」

「ん?」

「はい」

「んん!?」

 

 れんちゃんが差し出し当て来た手には、見慣れたまあるい小さな鳥が!

 

「いや早すぎるよ!」

 

『ほんとになw』

『確かに雀は懐きやすいけど、だからってこれは早すぎるわw』

『れんちゃん、雀はどう? かわいい?』

 

「かわいい! ちょっとくすぐったいけど、ふわふわしてるの。すっぽり包めちゃうんだよ」

 

 れんちゃんが両手で雀を包むと、なるほど確かにほどよい大きさみたいだ。雀さんの顔だけがちょっぴり出てます。苦しくないのかと思いきや、なんか気持ち良さそうというか、落ち着いてる感じ。いいなあ、私もやりたい。

 周囲を軽く見回してみるけど、ほとんどの雀はこちらを遠巻きに見てるだけだった。なんだろう。逃げられてるわけではないけど、近づいてもこない。ちょっと寂しい。

 

「まあ、仕方ないね。それじゃあれんちゃん、遊んできてもいいけど、別のエリアに行っちゃだめだよ」

「はーい」

 

 雀を肩に載せて走って行くれんちゃん。見ていてなんだかほんわかする。

 シロを呼び出して、シロにもたれかかる。ふむ。快適だ。

 シロにエサをあげながら、私はれんちゃんをのんびり見守ることにした。

 

 

 

 で、見守っていたわけですが。

 

「誰か説明」

 

『俺たちはれんちゃんを見守っていたんだ』

『れんちゃんは……れんちゃんは……!』

『着実に雀さんを友達にしていったんだ……!』

『で、気付いたらこうなってた』

 

「なるほど、わからん」

 

『大丈夫だ、俺たちもわからない』

 

 今、私の目の前には、どう説明したらいいのかな……。毛玉がいるというか、なんというか。

 れんちゃんはれんちゃんなんだけど、体中に雀がとまってる。なんだこれ。雀に覆われててれんちゃんの顔しか見えない。あと頭のラッキー。すごくへんてこ。

 

「お友達たくさん!」

「う、うん。そうだね」

 

 それはいいんだけどね? いんだけどさ。どうやって雀たちはとまってるの? いや、うん。本当に、なんだこれ。

 

「わたし、今なら空も飛べる気がする……!」

「落ち着けれんちゃん。空はこの間飛んだでしょ。我慢しなさい」

 

 それ以前に雀だけで飛べるわけがない。と思う。……飛ばないよね?

 れんちゃんの意志を汲んだのか、それとも私に馬鹿にされたと思ったのか、雀たちが一斉に小さな翼を動かし始めた。最初は小さく、徐々に大きく。

 

「わ、わ、わ……!」

 

 さすがにれんちゃんも少し慌ててるみたいだ。

 そして、ついに!

 

『おおお!?』

『飛んだ! れんちゃが飛んだ!』

『飛んだ……飛んだ?』

 

「えっと……。五センチぐらい?」

 

 ほんのちょっぴり地面から浮かび上がって、そしてそのまま止まってしまった。雀たちは今も頑張ってるけど、それ以上は飛べないらしい。

 

「雀さん、もういいよ?」

 

 れんちゃんがそう声をかけると、ゆっくりと地面に降り立った。ぼとぼと雀が地面に落ちていく。疲れ切ったみたいだ。システム的に言うならスタミナを使い切った、かな?

 

「ごめんね、疲れたよね、ありがとう」

 

 一羽ずつ撫でながらお礼を言うれんちゃん。撫でると姿が消えていくのは、お友達になってるからなのかな。多分、ホームに送られてるんだと思うけど。

 

「あー……。それじゃあ、そろそろ帰る?」

「うん!」

 

 どうやられんちゃんも満足したみたいだ。

 その後はファトスまで戻ってから、ホームに帰った。

 

 

 

「ホームの森にいるのは、草原ウルフと猫又が百匹ずつに、ライオンとトラが十匹ずつ。そして雀が百羽増えました」

 

『草』

『多すぎて理解できない』

『増えすぎじゃね?』

 

「ほんとにね」

 

 れんちゃんのホーム。お家の側にある森は、それはもう巨大化してとんでもない広さの森になってしまった。縄張りがあるわけじゃなくて、テイムしたモンスはみんな仲良く生活してる。

 

「そして我らがれんちゃんはあんな感じです」

 

 森の入口に目を向ければ、たくさんのもふもふに包まれてるれんちゃんがいる。いろんな子から舐められてて、それでもれんちゃんは幸せそう。

 

「写真ぱしゃり」

 

『人はそれを盗撮と言う』

『黙っていてほしくば、撮影したスクリーンショットをこちらにもよこせ!』

 

「仕方ないなあ、あとで投稿しておくよ」

 

『ありがとうございます!』

 

 正直だなあ。

 さてさて。れんちゃんは今でもとても幸せそうだけど、私としては他のモンスターも気になるところなんだよね。

 まあ、そのあたりは明日決めるとしましょう。多分れんちゃんはあのまま戻ってこないだろうからね!

 とりあえず、もふもふをもふもふする妹がとてもかわいいです。うえへへへ……。

 

『おまわりさんこっちです』

『だから手遅れだってば』

 

「うるさいよ」

 



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祈願成就のキツネさん

 

 ある日の夜。自室の荷物の整理をしていると、少し懐かしいぬいぐるみがダンボールから出てきた。お座りしたキツネのぬいぐるみだ。

 デフォルメされたキツネで、祈願成就、という言葉が書かれた札を首から提げてるぬいぐるみ。確か、小学生の頃にどこかの神社で買ってもらったものだ。

 

 一目見て気に入って、その時のお母さんに必死になっておねだりしたのを覚えている。引っ越しの時にどこかのダンボールに入れた覚えはあったけど、今まで見つからなかったんだよね。

 それなりに古いぬいぐるみだけど、丁寧に、大事にしていたから、まだまだふわふわできれいな子だ。ちょっとだけもふもふしつつ、少し考える。

 れんちゃんにあげたら、喜ぶかな?

 

 なんとなく、この子はれんちゃんの元にいるべきだと思う。この子は祈願成就のキツネだから、私のじゃなくてれんちゃんの願いを叶えてあげてほしい。

 というわけで、明日持って行くものとして、そのキツネを鞄に入れておいた。

 

 

 

 翌日。いつもの病室に入ると、

 

「えへへー。もふもふもふもふ……。もふもふもふ……」

「…………」

「もふもふも……、!?」

 

 たくさんのぬいぐるみをベッドの上に並べて、もふりまくるれんちゃんの姿が! れんちゃんは最初私に気付かなかったみたいだけど、途中で気付いて硬直してしまった。かわいい。

 しばらく見守っていると、れんちゃんは無言でベッドから下りて、ぬいぐるみを一個ずつ丁寧に棚に戻していく。棚に戻す前にぬいぐるみを一撫でするのも忘れない。さすがれんちゃん、もふりマスターだ。

 全てのぬいぐるみを戻して、ベッドに座って、れんちゃんはにっこり笑顔で言った。

 

「いらっしゃい、おねえちゃん」

「うん。その、なんというか……」

 

 よし。こういう時こそ、姉力(あねちから)を発揮する時!

 

「れんちゃんは今日もかわいいね!」

「ばかー!」

「ぶへ」

 

 枕が飛んできた。うん、なんか、間違ったっぽい。お年頃って難しいなあ……。

 

 

 

 気を取り直して。椅子に座って、れんちゃんを見る。れんちゃんはそっぽを向いて、私と目を合わせてくれない。怒ってますよアピールだ。なお、チョコ一枚で機嫌が直ります。

 けれど今日は! チョコじゃないのだ!

 鞄からキツネを取り出して、れんちゃんの膝の上へ。れんちゃんはすぐにキツネを見て、ぱっと顔を輝かせた。

 

「キツネさん!」

 

 れんちゃんはキツネを手に取ると、もにもにしながらくるくるする。つまり丁寧に触りながら隅々まで確認する。そうしてから、不思議そうに首を傾げた。

 

「もしかして、ちょっと古いぬいぐるみ?」

 

 少しだけ、驚いた。隠すつもりはなかったけど、それでもれんちゃんに上げるから綺麗にしてきたつもりだったんだけど。

 

「よく気付いたね。ごめんね、新しい方がよかったかな……」

「あ、ううん。ちょっとだけ気になっただけだよ? かわいい」

 

 きゅっとキツネを抱いて、微笑むれんちゃん。抱きながらキツネの耳を触ってるから、気に入ってくれたのは間違いないみたい。一安心だ。

 

「一応、それなりに古いかな。私がれんちゃんの年ぐらいに買ってもらった子だよ。れんちゃんはまだ赤ちゃんだったんじゃないかな?」

「そうなの? じゃあ、おにいちゃん?」

「それはない」

 

 絶対にない。断じてない。そのポジションは私だけのものだ。

 なんて思ってたら、れんちゃんに苦笑いされてしまった。

 

「わたしのおねえちゃんは、おねえちゃんだけだよ?」

「れんちゃんはかわいいなあ!」

「わぷ」

 

 ぎゅっとしてなでなでする。ついでに喉あたりもこちょこちょすると、気持ち良さそうに目を細めた。うん、今日もやっぱりかわいい。

 

「おねえちゃん」

「んー?」

「この子、おねえちゃんがもらったものでしょ? いいの?」

 

 キツネを私の目の前に割り込ませてくる。むう、れんちゃんが見えない。キツネのくせに生意気だ。もふもふしてやれ。

 

「いいのいいの。私の部屋でダンボールの中にいるより、れんちゃんの部屋でお友達と一緒にいた方がいいだろうからね」

「ダンボール……かわいそう……」

「いや、うん。面目ない……」

 

 本当にね。一年以上ダンボールの中で眠ってたことになるからね。そんな私と一緒にいるより、れんちゃんや仲間と一緒にいた方がきっと喜ぶはずだ。間違い無い。

 

「大事にするね」

「うん。れんちゃんなら大丈夫だと知ってるからね」

 

 キツネをきゅっとするれんちゃん。とりあえず視覚撮影をしたくなりました。どうして私は! 今スマホを手に持ってないんだ! 私の馬鹿!

 

「キツネさん、かわいいね……」

「うん」

「あのね、おねえちゃん」

「ん?」

「あっちにも、いる?」

 

 あっちってどっち、なんてことは言わないとも。AWOにいるのかってことだよね。

 答えは、もちろんいる。いる、けど……。

 

「キツネさんと友達になりたい?」

「うん!」

 

 わあ、とても元気な即答だ。ふむ、ふむ、そっか。

 

「二日ほど、キツネさんに会うのに一緒にいろいろしてもらうけど、大丈夫?」

「え? えっと……。ホームにも帰れないの?」

「や、それは大丈夫。ホームには帰れるよ」

「それならいいよ!」

 

 うん。まあ、そうだろうなとは思ってた。まあ、れんちゃんがいいなら、行くとしましょうか。

 

「よし分かった。じゃあ、今晩から早速お出かけするから、そのつもりでね!」

「うん!」

 

 ふんす、とれんちゃんが鼻息荒く頷いた。でもまだ時間あるからね? ほらほら、こちょこちょ。ごろごろごろ。……やっぱり子猫っぽい……。

 



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配信二十九回目:キツネさんと防寒具

「そんなわけで、キツネさんを探しに行きます」

「行きます!」

 

『開始一言目がそれか』

『まあ経緯なんてどうでもいいさ』

『キツネってことは、あのクエストか』

 

 午後六時半。れんちゃんのホームで配信を始めると、何故か呆れられた。まあ唐突過ぎたとは思います。うん。まあ詳しいことは説明しなくても、簡単な経緯は分かるでしょ。

 

「れんちゃんがキツネさんに会いたいらしいので会いに行く。今更そんな説明がいるの?」

 

『いらないなw』

『むしろそれ以外に理由がないw』

『れんちゃん、どうしてキツネなの?』

 

「かわいいから!」

 

 れんちゃんの即答に、微笑ましいというコメントがいくつも並んでいく。とりあえず、おまかわが多すぎる。何を分かりきったことを書いているのやら。

 

「あのね、おねえちゃんにキツネさんのぬいぐるみをもらったの。それがかわいかったんだ。だから、会いたいなって思いました!」

 

『とても分かりやすい説明です』

『いいお姉ちゃんしてるじゃないか……』

『普段とのギャップがすごい。まさか、偽物?』

 

「喧嘩を売るなら買いますが。追放の形で」

 

『やめてください死んでしまいます』

『今更この配信が見られない生活なんて耐えられない!』

『ごめんなさい許してお願い』

 

「必死すぎて逆にびっくりだよ……」

 

 さすがれんちゃん、人気者だね。れんちゃんの頭を撫でてあげると、れんちゃんは不思議そうに首を傾げてすり寄ってきた。もっと撫でて、ということらしい。今日は甘えモードかな?

 なでくりなでくりこちょこちょこちょ。

 

『おれたちは……何を見せられて……』

『甘えるれんちゃんかわいすぎないか?』

『れんちゃんは普段からかわいいだろ何言ってんだお前』

 

 まったくだ。れんちゃんはいつもかわいいです。

 とりあえず満足したので、まだ何も聞いてないれんちゃんのためにも説明を始めましょう。知らない視聴者さんもいるみたいだしね。

 

「ではれんちゃん。キツネさんのテイムのための説明です」

「はい!」

「かわいいなでくりしちゃう!」

「はやくしよ?」

「あ、はい。ごめんなさい」

 

『れんちゃんつよいw』

『飴と鞭の使い分けをしてる……?』

『普段からミレイに苦労かけられてるからな……』

 

 いや待ってほしい。私そんなに苦労かけてるかな? え、そうなの?

 れんちゃんを見る。いつの間にかラッキーを頭にのせてもふもふしていた。うん。いつも通りだ。何も問題はない!

 

「はい続きです」

 

『おk』

『時間は有限だ、さくさくいこう』

『おまいう』

 

「知ってる人もいると思うけど、キツネは普通のモンスと違って、クエスト限定のモンスです。今後のアップデートとかイベントとかで変わってくるかもしれないけど、今のところはね」

 

『ああ、どうりで。このゲームで見たことなかったけど、そういうことか』

『気付かなくても仕方ないがもったいない』

『もっふもふやぞ』

 

 そう。このクエスト、知らないとまず気付かない。そしてさらに報酬も特に良いものがあるわけじゃないから、クエストをクリアする意味もあまりない。

 検証大好きな人たちは何かあるはずだって調べてたみたいだけど、結局何も分からなかったらしい。今ではキツネやタヌキを見るためのクエストという扱いだ。

 

「ちなみに場所はファトス方面。みんなセカンに向かうから気付かないみたいだけど、その逆方向、スライムがいる森を抜けると雪山があるよ。そこがクエストの場所。ちなみに防寒装備にしないと、寒さでダメージ受けるから要注意」

 

『最初の方のフィールドでそれはちょっとひどいと思うw』

『ちゃんと山の入口にNPCがいて、装備してなかったら警告してくれるぞ』

『いやまずファトスの側にそんな山を置くなよ』

『それは言わないお約束』

 

 ほんとにね。正直私たちは慣れてしまったところがあるけど、初心者さんはちょっと困ると思う。防寒装備はちょっとだけ高いからね。店売りはされてるけど。

 

『本当にそう思うのか?』

『ニキ! 君は行方不明になっていた本当にそう思うのかニキじゃないか!』

『すまんな、やってみたかっただけで別人なんだ』

『絶許』

『ごめんて』

 

「喧嘩よくないよ。で、どういうこと?」

 

『いや、公式のホームページに周辺地域の説明文あるだろ?』

 

 え、そうなの? どうやら気付いてなかったのは私だけじゃないみたいで、そんなのあるのかって多くのコメントが流れていく。ああいうのって、あまり見ないで始めちゃうからね。

 

『そこに、雪山の綺麗な水がファトスに流れて、多くの生産業に利用されてるってあるぞ』

『まじかよ、実は重要なエリアだったのか』

 

「そんな設定あったんだね……」

 

 実はキツネやタヌキはその守り神とか、そんな扱いだったりするのかな。調べてみるのも面白いかもしれない。……まあ、検証勢がすでに調べた後だとは思うけど。

 

「よし、説明はそれぐらいにして。れんちゃん!」

「はーい」

 

 振り返ると、れんちゃんはレジェに遊んでもらっていた。大きく翼を広げたレジェに喜んでるれんちゃんは、とても年相応だ。

 いや、というか、あっちに固まってるボスモンスたちがみんな立ち上がってるんだけど。

 

「がおー!」

 

 れんちゃんが叫ぶと、ボスモンスたちも雄叫びを上げた。なんだこれ。いや本当になんだこれ。本能的な恐怖が! こわい!

 

『今ミレイがびくっとしたぞ』

『俺もびくってした。びっくりした』

『おおおおおお落ち着けお前らおれれれれおれはへいじようしんんん』

『お前が落ち着けwww』

 

 いや本当に、急にやられると怖いんだけど。れんちゃんのその、やってやったぜ、みたいなやりきったお顔はなんなの? 何の意味があったの?

 お家の前の子犬たちが一切動じていないのも逆に怖い。私が知らないだけで、もしかしてよくやってるのかな?

 

「れ、れんちゃん、急にどうしたの……?」

「え? えっとね、かっこいいところを見たいなって言ったら、やってくれるようになったんだよ。かわいくてかっこいいでしょ?」

「あ、うん……。そうだね……」

 

『ミレイ! そこで諦めるなよ!』

『お前が止めなくて誰が止めるんだ!』

 

「え、じゃあ君たちが止めなよ。私は無理。たまにがおーを見られるなら、それでいいかなって」

 

『なるほど同意』

『あまりにも早い手のひら返し、俺じゃなくても見逃さないね』

 

 街中でやるなら怒らないといけないけど、ホーム内でなら問題ないでしょ。むしろ定期的にやってほしい。次は是非とも写真がほしいところだ。

 

「うん。おもいっきり脱線したけど、れんちゃんそろそろ……」

 

『ミレイちゃんミレイちゃん!』

 

「次はなに!?」

 

 さくっと説明してさくっと行くつもりが、もうすぐ七時だよ! いつになったら出発できるのかな!? もしかしなくても説明だけで終わらないかなこれ!?

 

『防寒装備用意しておいたよ! きっといつか行くはずだって思ってたから! 雪山の前で待ってるからね!』

 

「あ、アリスか……。えと、ありがとう? でもファトスで買っても……」

 

『もこもこれんちゃん、見たくない?』

 

「是非! お願いします!」

 

 それは是非とも見てみたい! 店売りの防寒着って本当に必要最低限でかわいげも何もないからね! アリスなら、きっと分かってくれてるはずだ。

 

『もこもこれんちゃん』

『やばい、楽しみになってきた』

『はやく行こうぜさっさとしろよミレイ!』

 

「ひどくないかな?」

 

 むしろ時間かかってるの、君たちのせいでもあると思うんだけどね私は。

 ともかく、あまり待たせるのも申し訳ないので、れんちゃんと一緒に雪山に向かうことにした。

 

 

 

 ファトスから出て少し歩いて、れんちゃんにディアを召喚してもらう。れんちゃんがお願いすると、私たち二人を背中に乗せてくれた。いい子だ。

 

「もふもふごろーん」

「もふもふごろーん」

 

『この姉妹はw』

『似たもの姉妹w』

『少し羨ましい……。気持ちよさそう……』

 

 ディアは大きいからね、ごろんとできる。でもさすがに二人だとごろごろは少し危ないけど。

 ディアの背中に揺られながら、スライムの森を駆け抜ける。れんちゃんがスライムにも興味を示したけど、そっちはまた今度だ。きりがないからね。

 

「スライムさんかわいかった……」

「うん。まあ、ぽよぽよしててかわいいかな。意外と愛嬌があるし」

「むう……。キツネさんの次はスライムさん!」

「了解です!」

 

 動物じゃないからだめかなと思ってたんだけど、スライムも大丈夫なのか。忘れないようにしないとね。

 しばらくディアの上で揺られていると、すぐに森を抜けることができた。森を抜けた先は一本道が延びていて、その奥に雪山が見える。ちなみに森と雪山の間は雪原だ。

 私は以前も見た光景だから気にしなかったんだけど、れんちゃんは私の服をちょんちょんと引っ張ってきた。

 

「ん? どうしたのれんちゃん」

「ゆき」

「うん」

「あのね……。ゆきだるま、とか、ゆきがっせん、とか。してみたい」

「…………」

 

 とりあえず私は自分のことを殴りたくなった。

 れんちゃんにとっては雪も初めてだ。知識として雪だるまとか雪合戦とかは知っていても、そもそもとして雪に触れたことすらない。遊んでみたいって思うのは当たり前だ。

 でも、雪だるまならともかく、雪合戦は二人でやるのはちょっと寂しい。

 

「れんちゃん。キツネさんの後でもいいかな? どうせなら、キツネさんと一緒に遊ぼう?」

「うん!」

 

 お。納得してくれた。むしろ楽しみにしてくれてるかも。一安心だ。

 

『ああ、そうだよな。れんちゃん、雪も初めてか』

『普段から元気いっぱいだから忘れそうになるな』

『是非ともたくさん遊んでほしい』

 

 終わったら、ね。れんちゃんも、たくさんの友達と一緒に遊ぶ方が楽しいだろうし。

 雪原を走ると、すぐに雪山が見えてきた。この一本道はその雪山に真っ直ぐ続く。雪山のクエストがある場所も道の先だから迷うことはない。とても便利。

 で、その道の途中、山の入口の前に、見知った人影があった。

 

「れんちゃーん! ミレイちゃーん!」

「あ、アリスさんだ!」

 

 れんちゃんが大きく手を振ると、アリスもぴょんぴょん飛び跳ねて手を振ってきた。私と同い年ぐらいに見えるのに子供っぽい。

 アリスの隣にはエドガーさん。その隣には、彼のテイムモンスのドラゴン。アリスとエドガーさんに面識があったことに驚くけど、なんとなく、彼がここにいる理由を察してしまった。

 二人の前でディアから下りる。山の中だとディアは少し大きすぎるので、残念ながらこの子はここまでだ。

 

「ディア、また遊ぼうね」

 

 れんちゃんがディアをなでなでもふもふしている間に、私は二人に向き直った。

 

「早いね、アリス。まあ予想がつくけど」

「まあね。優秀な足を見かけたからね!」

「どうも、足です」

 

 哀愁漂うエドガーさん。ドラゴンは飛べて楽しかったのか、どことなく機嫌がよさそうだ。

 

『ファトスにいるれんちゃんたちより早いって不思議だったけど、そういうことか』

『エドガーさん、ご苦労様です』

『でも美少女と二人きりとか。裏山』

 

「だったら今すぐ代わってほしいかな。ドラゴンで飛んでる間、早くして急げって何度も蹴られたからね。女性恐怖症になりそう」

 

『草』

『いやそれでも、お前の立場が羨ましい。だって、れんちゃんと気軽に会えるんだぞ』

『それな。お前ほんと自慢するのもいい加減にしろよ?』

 

「あれー?」

 

 コメントに罵倒されまくってるエドガーさんはそのままにして、私は早速アリスから衣装を受け取った。れんちゃんと、私の分。うん、いいかも。

 

「れんちゃんやーい」

「はーい」

 

 ディアがいなくなってちょっとだけ寂しそうなれんちゃんがすぐに駆け寄ってくる。おっと、抱きついてきた。とりあえずぎゅー。

 

「れんちゃんの防寒着をアリスからもらったよ!」

「わ! ありがとうアリスさん!」

 

 にっこり笑顔でお礼を言うれんちゃん。うん、アリス。すごく笑顔がだらしないよ。でへへ、なんて効果音が聞こえてきそうなぐらい。

 とりあえずれんちゃんに服を譲渡して、早速着てもらった。

 れんちゃんの防寒着は、薄い青色の毛糸の帽子に、真っ白なもこもこセーター。下はスカートだけど、もこもこが足を覆ってる。手袋ももこもこ。全体的にもこもこ。

 

「まさにもこもこれんちゃん。何これかわいい。写真写真」

 

『かわいい』

『もこもこしてる!』

『れんちゃんれんちゃん! くるっと!』

 

「んー? こう?」

 

 れんちゃんがその場で一回転。かわいい。何度も言う。かわいい。もう一回言う。かわいい。

 

「大事なことなので三回言ってついでに三回言う! かわいいかわいいかわいい!」

 

『落ち着けお姉ちゃんw』

『間違い無く俺たちよりも興奮してるw』

『こんな保護者で大丈夫か?』

『大丈夫じゃないけど手遅れだ』

 

 いやだって、本当に、かわいい。もこもこっていいよね。とりあえず後ろからぎゅっとしてみる。おお、ふわふわもこもこ……。

 

「あったかい……。アリスさんありがとー!」

「いえいえ、どういたしまして。……すごいね、ミレイちゃんが急に抱きしめても動じてないよ」

 

『日常茶飯事なんやろなw』

『てえてえ……?』

『てふてふ』

『なんて?』

 

 いやあ、役得役得。お前らが何を言おうとも、この場所は譲らないよ。ふふん。

 

「アリスさん。このちっちゃい帽子ってもしかして……」

「うん。ラッキーの帽子」

「わあ!」

 

 頭で寝ていたラッキーをれんちゃんが両手で持ち上げる。起きたラッキーがふわ、と眠たそうに欠伸をして、小さく震えた。さすがに寒いのかな?

 そんなラッキーの頭に、れんちゃんが小さな帽子を被せてあげた。れんちゃんとお揃いの帽子だ。ラッキーは不思議そうに首を傾げていたけど、すぐに嬉しそうにれんちゃんのほっぺたを舐めた。まあ、多分、分かってはないだろうけど。

 

「ラッキーかわいいよ!」

「わふん」

 

 おまかわ。

「おまかわ」

『おまかわ』

 

 うん。みんなの心が一つになった気がする。

 

「おねえちゃんは?」

「ああ、うん」

 

 れんちゃんから離れて、私もアリスからもらった衣装を装備した。

 私の方はシンプルだ。赤いコートで、首回りがちょっともふもふ。生地は柔らかい素材みたいで、なんだかちょっとマントみたいにひらひらしていた。

 シンプルだけど、ちゃんと防寒具扱いみたいでぬくぬくしてる。うん。いいと思う。

 

「ミレイちゃんは鎧を装備することもあるからね。ちょっとシンプルにしてみたよ」

「うん……。ありがとう、アリス。気に入った」

 

 悪くない。むしろ私の趣味だ。さすがアリス、分かってる。

 

「おねえちゃん! くるって! くるって!」

 

 れんちゃんの要望があったのでその場で一回転。くるっと。ほれほれ、どうかなれんちゃん。

 

「おねえちゃんかっこいい!」

「そっかそっか。よしアリス、言い値で買おう!」

「うん。落ち着こうかミレイちゃん。前も言ったけどあげるから」

 

 さすがアリス太っ腹! いや、まあ、実際は請求されても払えないんだけどね。アリスの服って高いからね……。いや、本当に、頭が上がらない。

 

「いつもありがとうございます」

 

 深々と頭を下げると、アリスが少し慌てたのが分かった。

 

「いやいや急にどうしたの!? いいから! そんなのいいから!」

 

 それよりも、とアリスが続ける。

 

「れんちゃんに、お願いしたいことがあってね……」

「なあに?」

「その、今度でいいから、ホームに呼んでほしいなって。私もレジェをもふもふしたい……!」

 

 ああ、そう言えば……。アリスは、結局レジェに触ってないんだよね。れんちゃんがレジェをテイムした後、アリスはイベントが始まったみたいで、終わった時にはセカンの広場にいたそうだ。私たちも気付いたら同じ場所にいて、レジェはすでにいなかった。

 当たり前と言えば当たり前で、あんな街中で始祖龍が出てきたら大騒ぎだ。アリスはクリアの喜びなんて吹っ飛んでもふもふできなかったことを心の底から悔しがってたけど。

 

 あの後はれんちゃんがログアウトしないといけない時間だったからすぐに解散したけど、そうだよね、アリスも触りたかったよね。

 れんちゃんはぱちぱちと目を瞬かせた後、

 

「いいよ!」

 

 にっこり笑顔でそう言った。

 

「ありがとうれんちゃん! 楽しみにしてるね……!」

 

『くっそ羨ましいんだけど』

『まあまあ。俺たちもイベントの時には触れ合えるわけだし……』

『ああくそ、今から楽しみすぎる……!』

 

 羨ましい、というコメントが多いけど、さすがに全員招待なんてできないししたくない。アリスなら歓迎するけど、正直エドガーさんでも微妙なところだ。

 ホームはれんちゃんの聖域だ。だからこそ、招待する相手は慎重に選びたい。

 

「まあでも、今はキツネさんだよね。邪魔してごめんね!」

 

 アリスとエドガーさんが一歩下がる。エドガーさんはひらりとドラゴンにまたがった。なにあれかっこいい!

 れんちゃんもきらきらとした瞳でエドガーさんを見つめていて、エドガーさんは照れくさそうに頬をかいた。

 

『処す? 処す?』

『処す』

『エドガー。戻ってきたら覚悟しておけ』

 

「なんで!?」

 

 うん、まあ、なんだ。がんばれエドガーさん!

 

「それじゃあ、またね!」

 

 手を振るアリスとエドガーさんに、私たちも手を振る。そしてドラゴンはあっという間に見えなくなってしまった。

 

「さてさて……。気付けば時間も残りわずか。せめて、村までたどり着きたいかな」

「村?」

「そう。そこでクエストがあるんだよ」

 

 というわけで、出発だ。入口の側にいるNPCに頭を下げて挨拶して、横を通る。れんちゃんも同じようにしていた。何故かその頭のラッキーも。ぺこって。

 さくさくとした雪特有の感触に、れんちゃんは顔を輝かせていた。私の見える範囲でラッキーと走り回ってる。すごく楽しそうだ。

 

「あはは! すごい! 気持ちいい!」

 

『れんちゃん楽しそうだなあ』

『初めての雪なら感動するだろうな』

『雪なんていいものじゃないって思ってたけど、少し好きになった』

『北国の人か。大変だよな』

 

 こんなに喜ぶなら、先に雪遊びしても良かったかもしれない。まあでも、今更か。時間も残り少ないし、まずは村に到着してから考えよう。

 れんちゃんと一緒に雪に覆われた道を歩いて行く。リアルだと絶対に途中で疲れるこの道も、ゲームだけあって楽に歩いて行ける。れんちゃんもずっと走り回ってるぐらいだ。そろそろ落ち着いてほしいけど。

 十分ほど歩き続けて、やがて小さな村にたどり着いた。

 

「わあ……」

 

 れんちゃんの目がきらきらしてる。すごくわくわくしてる。こっちを先にして正解だったかな。

 村そのものは何の変哲もない村だ。木造の家がいくつかあって、雪に覆われた畑らしきものもある。池は凍り付いていて、道具さえあればスケートもできるかもしれない。

 そんな村に、キツネはいる。テイマーの村なのかと思ってしまうほどで、それぞれの家にキツネが必ず一匹いるのだ。外に出て遊んでいる子もいるけど、ほとんどは家の中で丸まってるんだけどね。

 れんちゃんはそれはもううずうずしていた。分かる。とても、分かる。すごくもふもふだからね、ここのキツネ。

 

『すげえ。なんだこのキツネ』

『遠目でも分かるもふもふ感!』

『はやく近くで見たい!』

 

 ここのキツネを知らない視聴者さんもいるみたいだね。キツネがすごく楽しみらしい。

 それじゃあ、行くとしましょうか。

 

「れんちゃん。まずは村長の家に行くよ」

「き、キツネさんは? キツネさんはまだ?」

「んー……。気持ちは分かるけど、先にクエストだけ発生させておこうね。明日のお楽しみで。ね?」

「うう……。わかった……」

 

 すごいしょんぼりしてる。そのしょんぼりした姿を見てもほっこりしちゃう。コメントも微笑ましいといったものばかりだ。

 村長の家は村の中央にある大きな家だ。大きな家といっても、木造二階建ての家だけど。ちなみに他の家に二階はないのでこれでも一番大きい。

 村長の家の扉を叩くと、すぐに扉が開かれた。

 

「おや、いらっしゃい。旅の人かな?」

 

 初老の男の人。おひげたっぷり。いかにも、

 

「ザ・村長って感じだよね」

 

『わかる』

『でも今言うことじゃないw』

『村長が困惑しておられるぞ』

 

「おっとすみません。はい旅人です。疲れたので泊めてください」

 

『ストレート過ぎるw』

『ちなみに本来はもう少し会話があります』

『こいつ面倒だからってすっ飛ばしたな』

 

 だってショートカットできるんだし、いいかなって。私はこのクエスト、終わってるしね。

 このクエストは何度でもクリアできるのだ。だからこうしてれんちゃんと一緒に受けることもできる。まあ、だからこそ、何かあるのではとか思われてるわけだけど。

 

「うむ。小さい村ゆえ、宿がないからな。泊まっていきなさい」

 

 村長が中に入れてくれるので、れんちゃんと一緒に入る。

 村長の家は中央に囲炉裏がある。ちなみに煙は空中でどこかに消える不思議仕様です。絶対開発の人面倒になったな。

 囲炉裏の上にはお鍋があって、くつくつと何かが煮込まれている。晩ご飯で食べさせてもらえます。

 どうぞ、と座布団を出してくれたので、座らせてもらった。

 

「あ」

 

 れんちゃんも座ろうとして、部屋の隅にいるキツネに気が付いた。私は知らなかった。あんなところにいたのか。

 

「あ、あの! キツネさん! キツネさん!」

「ん? ああ、儂がテイムしているモンスターだよ。遊んでやってくれ」

「わーい!」

 

 れんちゃんが嬉しそうにキツネさんの元に向かっていく。村長は柔らかい笑顔でそれを見ていた。これがNPCなんだから、本当にすごい。

 れんちゃんはキツネと見つめ合って、ゆっくりと手を伸ばした。キツネはしばらくれんちゃんを見つめていたけど、その指を舐める。おお、れんちゃんの顔が輝いた。

 れんちゃんが両手を広げて、キツネがそこに飛び込んで。

 

「えへへ……ふわふわだあ……」

 

 丁寧にキツネの背中を撫でるれんちゃん。キツネは身を委ねていて、気持ち良さそう。いいなあ、まざりたい。

 

「ということであります。引き受けてくださりますか?」

「いいですよ引き受けます」

 

『おおおい!? 話全然聞けてないんだけど!』

『俺も。れんちゃんに意識いってたw』

『ミレイも完全無視してたしなw』

 

「いやだって、一度聞いたし……」

 

 このクエスト、別に特別なストーリーがあるわけじゃないのだ。むしろ内容としてはとてもありきたりなもの。近くにモンスターの親玉が棲み着いたのか畑を荒らされてしまうので討伐してほしい、という内容だ。

 

「そんな話を聞くぐらいなら、私はれんちゃんを愛でる!」

 

『わかる』

『全面的に支持しよう』

『そしてさりげなくれんちゃんを捕獲するなw』

 

 キツネを抱き上げていたれんちゃんをさらに私が抱き上げて、膝の上に載せる。後ろから抱きしめると、れんちゃんが不思議そうにこちらを見つめてきた。

 

「おねえちゃん?」

「なんでもないよ」

「そっかー」

 

 れんちゃんは再びキツネのもふもふに戻った。

 

「尻尾おっきいねえ……。ふわふわしてる……」

 

 れんちゃんがそんなことを言うと、キツネが尻尾でれんちゃんの顔をくすぐった。嬉しそうに笑いながらキツネを抱きしめて……。ほんわかしてきた。

 

「キツネの尻尾ってすごく気になるよね。抱きしめて寝たい」

 

『キツネの尻尾抱き枕ってのが昔あったなあ』

『え、なにその魅惑的なもの』

『普通に欲しい』

 

「おなじく。何か情報あったらよろしく」

 

 調べてくれるらしいので、視聴者さんにそのあたりはお任せしよう。

 キツネをもふもふするれんちゃんを、さらにもふもふする私。もこもこれんちゃんなので抱き心地が抜群だ。やわらかもこもこれんちゃんだ。とりあえずのどをこちょこちょ。

 

「んう……」

 

 くすぐったそうにしながら、私に体重を預けてくる。それでもキツネもふもふはやめないあたり、さすがれんちゃんだ。

 なんとなく幸せな気分に浸っていたら、耳にアラーム音が聞こえてきた。私にしか聞こえないアラーム音。時間を確認すると、夜の八時五分前。れんちゃんのログアウトの時間だ。

 

「れんちゃんれんちゃん。時間だよ」

「えー……」

「気持ちは分かるけど、ログアウトしましょう。明日から制限されちゃうよ」

 

 それはやだ、とれんちゃんは残念そうにしながらキツネを床に下ろす。キツネもお別れの時間だと分かったのか、尻尾をふりふりしてれんちゃんに挨拶していた。なんだこのかわいい毛玉。

 

「キツネさん、また明日ね」

 

 れんちゃんが撫でながら言うと、キツネは小さく一鳴きした。

 



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配信三十回目:白いふわもことしょんぼり九尾

 

 いつものようにログインして、れんちゃんのホームへ。私がここに入ると、真っ先にシロが出迎えてくれる。この子、私のテイムモンスのはずなのに、ずっとここにいるんだよね。解せぬ。

 

「ねえ、シロ。シロって私がテイムしてるよね?」

 

 私が聞くと、シロがすり寄ってきた。うんうん。だよね。かわいいやつめ。

 わしゃわしゃとシロを撫でていたら、れんちゃんがログインしてきた。キツネが楽しみなのか、わくわくしているのが見ているだけでも分かる。そんなれんちゃんは私とシロを見つけると、

 

「あ、おねえちゃん!」

 

 嬉しそうに手を振って、そしてシロがれんちゃんの方へと走っていった。

 うん。いや。えー……。

 

「わ! えへへ、シロもかわいいね」

 

 シロの首回りをもふもふするれんちゃんと、れんちゃんを舐めまくるシロ。

 ねえ、シロさん。れんちゃんが来た時の方が嬉しそうに見えるんだけど、どういうことかな……?

 いやいや、うん。気持ちは分かる。分かるとも。れんちゃんかわいいからね!

 勝手に一人で納得してたら、シロが戻ってきていた。何やってんだお前、とばかりの冷たい視線。やめてください、心にきます。

 

「おねえちゃんおねえちゃん」

「んー?」

 

 呼ばれて前を見てみたら、れんちゃんが白虎に押し潰されていた。嫌がってるわけではなさそうだけど、大丈夫なのかなあれ。白虎はぐるぐる鳴きながられんちゃんに頬ずりしてるけど。

 

「三十分だけ、遊んでも、いい?」

「ああ、うん。いいよ。もちろん。遊んでおいで」

 

 ぱっと顔を輝かせて、れんちゃんは嬉しそうに頷いて。

 そして集まってきたウルフや猫や雀にもみくちゃにされていた。

 うん。よし。いつもの光景だね!

 

 

 

「てすてす。マイクのテスト中。いろはにほへとちりぬるを。れんちゃんかわいいやったー!」

 

『お前はいきなり何を言ってるんだ』

『大丈夫? 大丈夫じゃない? 知ってる』

『おいしゃさん、このひとです』

『手遅れです』

『即答で草』

 

「いきなりの罵倒の嵐に私の心は折れそうだよ……」

 

 みんな知らないだろうけど、私はなんだかんだと打たれ弱いのだ。本当だよ?

 

「まあれんちゃんがいれば全回復するんだけどね!」

 

『ですよね』

『知ってた』

『何を今更』

 

 ふむ。いやでも。あれを見ても、同じことが言えるかな?

 てなわけで、私に向けていた光球をれんちゃんの森の前に向ける。そこには、ディアを背もたれにして子犬たちを抱えるれんちゃんがいる。れんちゃんの顔はとても幸せそうだ。

 他の子犬もれんちゃんのお腹の上に陣取っていて、頭の上はやはりラッキー。

 

『死ぬ。死んだ』

『しっかりしろ! 致命傷だ!』

『かわいいとかわいいが合体して最強に見える。いや最強になってる』

 

 うんうん。いやあ、いいよねえ。もう、見てるだけで幸せな気持ちになれるよ。楽園はここにあったのだ。なんて。

 

「れんちゃん、そろそろ行こっか」

「はーい」

 

 よいしょ、とれんちゃんが子犬たちをいつもの柵の中に連れて行く。連れて行く、というか、れんちゃんが歩くと子犬たちもとことこ歩いてついていった。いいなあ、私もやってみたい。

 れんちゃんが柵の中に入ると、子犬たちがそれぞれ遊び始める。れんちゃんは満足そうに頷いて、私の方へと戻ってきた。

 おお。なんか、子犬たちがれんちゃんの方を見て尻尾をふりふりしてる。さよならの挨拶かな。れんちゃんもすぐに気付いてにこにこしてる。れんちゃんが手を振ると、子犬たちの尻尾の動きが早くなった。

 

『かわいい』

『あああああああ!』

『いかん、こいつには刺激が強すぎた!』

 

 なんか、コメントが阿鼻叫喚なんだけど。うん。触らぬ神に何とやら。放置だ。

 私はコメントを全て見なかったことにして、れんちゃんと一緒にホームを後にした。

 

 

 

 というわけで、戻ってきました雪の山。村を出て、山頂を目指します。そこに討伐対象の九尾のキツネがいるわけだ。

 

『なにそれ強そう』

『強そうだろ? でもここ、最初の街のすぐ近くなんだ』

『つまり?』

『周囲のフィールドボスと大差なし』

『えー……』

 

 まあ、うん。そうなのだ。九尾のキツネはいろんな作品に出てくる妖怪で、どれもこれも最終ボスとか、そうでなくても強敵として描かれるけど、このゲームでは初期のボス扱いだ。

 

「つまりはある程度レベルが上がった私からすると……」

 

『ぶっちゃけザコ』

 

「はっきり言うな」

 

 事実だけどさあ! そこはこう、ちょっとはぼかそうよ!

 そして依頼を受けてから村から先に進むと、たくさんのモンスターが出現するようになる。本当に、たくさん。

 

「ただし全てノンアクティブです」

 

『ええ……』

『何も知らないで来たら緊張しそうだなw』

『気付いてしまうと拍子抜けだけどな』

 

 本当に。私も最初は知らないで来たんだけど、その時はやばいクエストを始めてしまったと後悔したものだ。あっという間にクリアしちゃったんだけど。

 まあ、でも違うのだ。私が言いたいのはそういうことじゃない。

 

「つまりさ。ノンアクティブとはいえ、キツネさんがたくさん出るわけですよ」

「キツネさん!」

「そう、キツネさん! ……あ、出てきてる」

 

 れんちゃんの視線の先を見てみると、茶色にも見えるキツネがこちらを見つめていた。睨んでいるわけでもなく、じっと見つめている。れんちゃんの反応はいつも通りだ。

 

「かわいい!」

 

 れんちゃんは早速そのキツネに近づいて行く。けれどそのキツネは、れんちゃんが近づいた分だけ離れてしまった。

 

「んー?」

 

 首を傾げて、れんちゃんが立ち止まる。キツネも止まった。

 

「おいで。おいで」

 

 れんちゃんが手招きする。けれど動かないキツネさん。あ、いや、ちょっと誘惑されてるみたい。耳をぴくぴくさせながら、れんちゃんをじっと見てる。

 

「別の意味で緊張してきた」

 

『おなじく』

『ここのキツネは警戒心が強いのかな……?』

 

 れんちゃんはなおも手招きしていて、しばらくそれが続いて……。

 突然、キツネの奥の茂みから何かが飛び出してきた。

 

「んん!?」

 

『なんだ、敵か!?』

『ミレイ体を張ってれんちゃんを守れお前はどうなってもいいから!』

『さりげなくひどいw』

 

 本当にね!? いやもちろんそれでいいんだけど!

 でも私が動くよりも前に、飛び出してきたものはれんちゃんの前で立ち止まった。尻尾をふりふりしているのは、真っ白なキツネ。れんちゃんは白い子に好かれる能力でもあるのかな?

 

「わあ……」

 

 白いキツネは、もふもふだった。ふわふわだった。いや違う。もっふもふでふっわふわ。なにこの毛玉。

 

『あれはまさか!』

『知っているのかまさかニキ!』

『多分モデルはホッキョクギツネだな! 寒いところに住むキツネだからか他の種類よりももふもふだ! あと白い!』

『本当に知ってた……』

 

 ほほう。ホッキョクギツネ。あとで調べてみようかな。

 白いキツネは尻尾をふりふりしながられんちゃんに近づいて行く。この子は警戒心のけの字もないらしい。迷いなくれんちゃんの腕の中に飛び込んだ。

 

「わわ……」

 

 慌てながらもれんちゃんは優しく受け止めて、何故か白いキツネと見つめ合った。じっと。じぃっと。そしてこれまた何故か、ぎゅっと抱きしめた。ぎゅーっと。

 

「かわいい……!」

 

 うんうん。やっぱり懐いてくれる子はかわいいよね。分かるよ。とても分かる。だからお姉ちゃんにも抱かせてほしいなあ。もふもふしたいなあ……。

 その白いキツネを皮切りに、茂みからたくさんのキツネが出てきた。おっかなびっくりといった様子で、たくさんのキツネが少しずつれんちゃんに近づいて行く。

 れんちゃんは気付いてるのかな? 白いキツネに夢中だけど。白いキツネはれんちゃんをぺろぺろ舐めて甘えてる。ちょっとどころかかなり羨ましいです。

 

 あ、れんちゃんが気付いた。すっごく顔が輝いてる。笑顔が眩しい。なんて嬉しそうな顔なの。

 おお!? キツネが一斉にれんちゃんに飛びかかった!

 

「私の妹がキツネさんに気に入られた件について」

 

『めっちゃ懐かれてるwww』

『もふもふ祭りや!』

『相変わらずれんちゃんはモンスたらしだなw』

 

「たらし。正しいかも……」

 

 あっちもぺろこっちもぺろぺろ、尻尾でもふもふ。なんだこれ。かわいい。

 

「問題があるとすれば、キツネに埋もれてれんちゃんが見えなくなったことだね!」

 

『問題しかねえw』

『助けてやれよw』

 

「いやあ、すごく楽しそうな笑い声が聞こえるから……」

 

『この人でなし!』

 

「なんで!?」

 

 キツネの山かられんちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえるからきっと大丈夫。キツネの山……。キツネって、なんだっけ。

 私ももふもふしたいな。一匹こないかな?

 

 じっとキツネたちを見つめていたら、一匹だけこっちを振り向いた。とことことこっちに歩いてきて、私の目の前で立ち止まった。黒いキツネさんだ。これはこれでかわいい。

 私が手を差し出すと、ぴょんと飛び跳ねて私の首にまとわりついてきた。

 

「おおー……。尻尾もふもふ……」

 

『ミレイ! この裏切り者!』

『久しぶりにキレちまったよ……』

『ミレイちゃんのばかー!』

 

「ええ……。なんでこんなに怒られてるの私」

 

 真面目に意味が分からない。一匹ぐらいなら、誰でもテイムできるはずなんだけど。

 黒いキツネさんの尻尾をもふもふしていたら、ずしん、と地面がわずかに揺れた。その揺れは、少しずつ近くなってる。これは、やっぱり……。

 

 ぬっと、奥の方から出てきたのは、大きなキツネだった。九本の尾を持つ巨大キツネ。間違い無く、九尾のキツネだ。

 うん。いや待ってほしい。なんでボスが下りてきてるの!? 頂上から動かないはずでは!?

 

『九尾キター!』

『おいおいおい、なんでボスが下りてきてんだよ』

『この二人はほんっとうにイレギュラーばかり遭遇するなw』

 

 本当に。こっちは好きでやってるわけじゃないけど。

 九尾の様子を注意深く見つめていると、九尾はれんちゃんの方を見た。れんちゃんもじっと九尾を見つめている。いつの間にか、他のキツネたちはれんちゃんと九尾の様子を見守ってるみたいだ。

 じっと見つめる。見つめ合う。しばらく見つめ合って、ようやくれんちゃんが動いた。

 

「こんにちは」

 

 にっこりにこにこの挨拶。九尾はそれでも動かなかったけど、しばらくしてから九尾の周りに火の玉が浮かび上がった。確か、狐火、というスキルだったはず。

 正真正銘の、攻撃スキルだ。

 

『おい、さすがにまずいんじゃ……』

『どう見てもれんちゃんを攻撃しようとしてないか!?』

『ミレイやっちまえ!』

 

 私も思わず間に入りそうになったけど、もう少し様子を見たい。狐火は確かに攻撃スキルだけど、でもそれはあくまで、このフィールドのボスが使う攻撃スキル。つまり何が言いたいかと言えば、さほどダメージが入るわけじゃない。

 

「しかもれんちゃんはもこもこれんちゃんだ」

 

『いや何の関係が?』

『どうしたミレイ。大丈夫か? 頭』

 

「うるさいよ」

 

 失礼な人だね本当に。

 

「そうじゃなくて、れんちゃんはアリスの服を装備してるってこと」

 

『あー……』

『なるほど、服とはいえ、ある程度の性能もあるのか』

『もちろんあるよ。市販の鎧よりも防御力高いよ!』

 

「だよね。……物理的には納得できないけど」

 

『それは言わないお約束』

 

 いや、まあ、分かってるけどね。多分魔法的な理由だ。きっとそうだ。

 さて。九尾もそこまで本気で攻撃の意志はないみたいで、狐火はゆっくりとれんちゃんに近づいて行く。なんだろう、どんな意図があるのかな。

 そして、れんちゃんは近くまできた狐火を、不思議そうに見つめながら右手で触れた。

 

「いたっ」

 

 れんちゃんの、小さな悲鳴。

 このゲームは、ダメージを受けると少しだけその部分がしびれてしまう。痛いってほどじゃないけど、何も知らなかったらびっくりする程度だ。れんちゃんも、痛がってるわけじゃなくて、戸惑ってる方だった。

 でも。けれど。敵意は、向いた。

 

 思わず動きそうになった私じゃなくて。狐火を出した九尾でもなくて。もちろん不思議そうにしてるれんちゃんでもない。

 れんちゃんの周囲にいたキツネたちが、漏れなく自分よりも体の大きな九尾を睨み付けていた。

 

 うん。なにこれ。ちょっと怖い。キツネたちがれんちゃんを守るように前に立って、そして漏れなく全てのキツネが九尾を睨み付けてる。なんだこれ。

 

『れんちゃん、実は全部テイムしてたのか……?』

『いやいやさすがにそれは……。ええ……』

『数が多いからか圧がすげえw これは怖いw』

 

 本当に。殺気だったキツネの集団って、なかなか怖い。九尾もまさか仲間たちからそんな敵意を向けられるなんて思わなかったのか、見て分かるほどに狼狽してる。

 後退る九尾。ゆっくり近づくキツネたち。

 そして、小さな動物たちの頂上戦争が始まろうと……!

 

「喧嘩、だめだよ?」

 

 れんちゃんのその一言で敵意が霧散した。

 

「みんな仲良くしないと、だめ。ね? でないと、えっと……。おこっちゃうぞ!」

 

 がおー、のポーズで言うれんちゃん。かわいい。

 でもキツネたちには効果はあったみたいで、見て分かるほどに慌て始めた。キツネたちが我先にとれんちゃんに集まっていく。ごめんね、と謝ってるのかな。

 

「なんだろう。さっきまで剣呑だったのに、今はすごくほのぼのしてる」

 

『かわええのう』

『たくさんのキツネと戯れる幼女……』

『いい……』

『いやお前ら、あそこで立ち尽くしてる九尾にも反応してやれよw』

 

 九尾の方へと目をやれば、呆然と突っ立ってた。なんだかちょっぴり悲しそう。哀愁が漂ってる気がする。

 そんな九尾にれんちゃんは近づいて行って、にっこり笑って手を差し出した。

 

「なかなおり!」

 

 九尾は、逡巡してたみたいだったけど、そっとその手に顔を寄せた。

 

『イイハナシダナー』

『なんだろう、この……。なんだこれ』

『それでいいのか九尾のキツネw』

 

 うん。まあ、いいんじゃない、かな……?

 私はそれよりも、ボスを倒さずにクエストクリアしたことに驚きだよ。村で受けたクエストは討伐だったはずなのに、すでにクリア扱いだ。どういうことなのやら。

 

 

 

 れんちゃんと一緒に村に戻る。後ろにたくさんのキツネと、さらには九尾を引き連れて。

 うん。その。どうしてこうなった。

 

『これはまさか!』

『知っているのかコメント!』

『百鬼夜行ならぬ、もふも夜行!』

『三点』

『そんなー』

 

 仲いいなあ、この人たち。

 れんちゃんは比較的大きなキツネさんの背中にいる。れんちゃんの頭の上にはらっきーがいて、肩の上には白いキツネ。尻尾ふりふりがかわいらしい。

 れんちゃんもそれはもう楽しそうに鼻歌なんて歌っちゃって。とても機嫌がよさそうだ。すごく楽しそうな雰囲気。いいね、こういうの。

 そんな私たちを出迎えたのは、なんと村人全員だった。なにこれ。こんなイベント知らないんだけど。

 

 ざっくりと、簡単に説明しようと思う。

 私が知ってるイベントの流れは、ボスを倒して村に戻ると、村そのものがなくなってる、という終わり方だった。この理由はずっと不明のまま。報酬も当然もらえない、本当によく分からないクエストだったのだ。

 これでボスが強かったら苦情も多かっただろうけど、幸いと言うべきか、ボスが弱いから特に問題なくクリアできるクエストなので、そういうイベントなんだろうと一応は納得できた。

 ただ、人によっては、村は残ったままだったとか、そんな報告もあったみたいなんだけど……。

 で、今回、村人さんたちから話を聞いて、その理由も分かった。

 

 とても、とても、単純な理由。九尾と村がグルだった。九尾が倒されてしまったから村人たちは逃げ出した、というのが真相だったみたいだね。

 九尾がれんちゃんにテイムされちゃったので、村人さんたちはれんちゃんと共に来るらしい。いやいやさすがに人はと思ったけど、全員キツネだった。うん。なんか途中からそんな気がしてたよ。

 というわけで、れんちゃんのホームに九尾とキツネ百匹超が新たに増えました。魔境かな?

 

 

 

「雪山が増えてる」

「ゆきやま!」

 

 そんなクエストを終えてれんちゃんのホームに戻ってきた私たち。森の他に雪山が増えてた。キツネがたくさんいる雪山だ。なんか、ウルフの何匹かが遊びに行ってる。ウルフとキツネが遊んでる。かわいい。

 

「おねえちゃん! ゆき! ゆきがある! ゆきー!」

「あはは。だねえ。いつでも遊べるね」

 

 うん。これなら、みんなでいつでも雪遊びができるかも。

 

『雪山とか、初めて知ったぞ』

『テイマー板で聞いてきた。実はわりと知られてたらしい。検証勢役立たず説を提唱したい』

『やめてさしあげろw』

『まあ実のところ、検証勢に生粋のテイマーが少ないってのが理由だろうなあ』

 

 テイマーさん曰く、ここはテイムに慣れた人が、手軽にある程度強いモンス、つまり九尾をテイムできるところなんだって。雪山は、自動でホームが拡張されるサービスを購入していたら追加されるのだとか。

 

「んー……。リサーチ不足でした。悔しい」

 

『どんまい』

『まあこれは仕方ない』

『テイマーさんも知らない人多いみたいだったしな』

 

 もう少し、特にテイマーさんには話を聞かないといけないね。

 それはともかく、ですよ。

 

「アリスとエドガーさん!」

 

『はいはい! なにかなミレイちゃん!』

『どうかした?』

 

 おお、さすが! ちゃんと見てくれてる!

 

「れんちゃんが雪遊びをやりたがっています。というわけで明日の配信は雪遊びです。一緒にやらない?」

 

『よろこんでー!』

『俺でいいなら、是非』

『くっそ羨ましいんだけど』

『せめて配信を、ぜひに……!』

 

「はいはい、もちろんやりますよっと」

 

 れんちゃんを見る。いつの間にか雪山でごろごろしてた。真似して白いキツネもごろごろしてた。写真写真。

 

「キツネさんとも無事にお友達になったので、明日は雪遊びをするよー」

 

『楽しみ』

『ゆきともふもふのこらぼれいしょん』

『ゆきもふまつりじゃ!』

 

 うん。明日も楽しくなりそうだ。

 



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(勝手に)おひるね配信

 れんちゃんの病室に入る前の、狭い部屋。私は新しく購入したスマホを操作しています。ふふふ、れんちゃんきっと驚くぞ……。

 スマホのカメラが問題なく動いていることを確認して、イヤホンをする。イヤホンからは機械音声が流れてきた。いろんな人が誰でも使えるまったりボイスというやつだ。

 

『あれ? れんちゃんのホームじゃない?』

『てかこれ、普通にリアルの建物では?』

『れんちゃん? ミレイ? おーい』

 

 うん。ちゃんと配信されてるね。

 今日買い換えたスマホは、面倒な設定をしなくても配信ができる優れ物だ。AWOのアカウントを設定してあるので、そのアカウントからリアルの配信ができる。ゲームの配信じゃないから黒に近いグレーだけど、一応ゲームマスターの山下さんから許可をもぎ取った。

 特例ですからね、と何度も念押しされちゃったけど。

 というわけで、ミレイアカウントでのリアル配信なのだ!

 

「どもども。こんにちは」

 

『お? ミレイの声だ』

『どこだここ? ゲームにこんな場所あったか?』

『さすがにゲームでこんな建物ないだろ』

 

「ですね。運営さんから特別に許可をもらって、リアル配信です」

 

『やっぱりか!』

『おいおい、大丈夫なのかよ』

『特定班来ちゃうぞ』

 

 本来禁止されてる理由が主にこれなんだよね。当然だけどリアルで配信するってことは、配信者の住所とかの個人情報が特定される可能性があるってわけだ。

 自己責任の範疇なんだろうけど、もし何か事件とか起きた時にゲーム会社としては面倒なリスクを背負いたくない。だから、原則禁止、なんだって。これは理由も含めて配信者への規約に書いてあった。

 ただ、この点については、私に関してはあまり意味が無いものなのだ。

 

「特定も何も、テレビの番組で病院名まで出ちゃってるから……」

 

 つまりは今更なのである。

 

『ん? てことは、そこって病院?』

『まさか、れんちゃんの病室とか?』

 

「お、正解です。正確に言えば、れんちゃんの病室に入る前の準備室みたいなところだけど」

 

『病室に入る準備室とは』

 

「うん。どこかから番組探してきて。この構造も説明されてたはずだから」

 

 確かに普通の病室にはない構造なので不思議に思うだろうけど、れんちゃんが取り上げられた番組にこの構造についても説明されてたはずだからね。私が変な説明をするよりも、そっちを見てもらった方が分かりやすいと思う。

 

「というわけで、れんちゃんの病室に入ります。ちなみにれんちゃんには、そのうちリアルで配信するかも! とちゃんと説明してあるよ」

 

『そのうちwww』

『それは説明と言えるのかw』

『絶対に後で怒られるやつw』

 

「その時は素直に怒られましょう」

 

 そっとドアを開けて、中に入る。いつもの、とても暗い部屋だ。

 

『暗いな』

『光に弱いって聞いたけど、こんなにか』

『ほとんど何も見えないんだけど』

 

「おっと、ごめんね」

 

 スマホをちょちょいと操作する。えっと、このモードなら、ある程度は見えるはず……。

 

『お、見えてきた』

『白黒のやつだけど、ほんのり色も分かる』

『個人の配信でこの機能使うやつほとんどいないぞw』

 

「だろうね。私もあまり聞かないよ」

 

 洞窟に行ってみたとか、そんなやつぐらいだと思う。

 

「ところでここまでれんちゃんから反応ないんだけど。もしかして、寝てる?」

 

『何もやることなさそうだしな……』

『正直ここまでとは思わんかった』

『ミレイちゃん、ちょっと心が痛いんだけど……』

 

「あー……。まあ、寄付ももらってるし、今のれんちゃんとかちゃんと見せないといけないかなって。もうちょっとだけ付き合ってね」

 

『なるほどな』

『気にする人は気にするだろうし、しゃあない』

『どうせ見るなられんちゃん見たいです』

 

「正直だね」

 

 私としても、こんなところでぐだぐだ話すよりもれんちゃんと話したい。ということで、ベッドに近づいてみる。れんちゃんを見ると、祈願成就のキツネを抱いて眠っていた。

 

『かわいい』

『ほーん。ミレイは俺を萌え殺す気だな?』

『地味に祈願成就がきつい……』

 

「それはさすがに気にしすぎでしょ」

 

 こんなことで気にしてばかりいたら疲れるだけだよ。折り合い大事。幸い、命が危ないってことでもないしね。

 れんちゃんのほっぺたをつついてみます。ぷにぷに。

 

「やわらかいなあ」

 

『やめたれwww』

『この姉はw』

『お前はほんとに怒られろw』

 

 あははー。それこそ今更です。

 ぷにぷにつついていたら、れんちゃんがむう、と体をよじらせた。キツネさんでガードされる。むむ、このキツネ、やりおる……!

 でもすぐにキツネさんを枕元に置くと、器用に私の手を掴んで引き寄せてきた。私の手を引き寄せて、ほっぺたにすりすりする。かわいい。すごく、かわいい……!

 これは撮るしかないでしょう!

 

『ありがとうございます!』

『寝顔れんちゃんかわいい!』

『でもお前、絶対に間違い無く怒られるぞw』

 

「うん。そんな気がする」

 

 さすがにそろそろ起こそうかな。掴まれてる手を動かして、もう一度ほっぺたぷにぷに。

 

「れんちゃんれんちゃん。そろそろ起きてほしいかな?」

「んう……」

 

 れんちゃんがゆっくり目を開ける。私を見て、構えてるスマホを見て、首を傾げた。

 

「おねえちゃん、何やってるの……?」

「配信です」

「配信……」

 

 もぞもぞれんちゃんが動き始める。ゆっくり体を起こして、目をこしこしして、大きく欠伸をする。ふあ、と。

 

『かわいいが過ぎる!』

『あああああああ!』

『まずい! モブAが壊れた! 衛生兵! 衛生兵!』

 

 こいつらはテンションを上げすぎではなかろうか。

 れんちゃんはこっちに向き直ると、ふんわり笑って頭を下げた。

 

「こんにちは。れんです。もふもふが、好きです」

 

 ところで、とれんちゃんは私をじっと見つめてきた。

 

「何の配信?」

「いつものやつ。視聴者さんも同じです。れんちゃんの寝顔を撮りました」

 

 私は逃げも隠れもしない女。言い訳のしようがない、というよりもあとで記録を見られたらどのみちばれるので、素直に謝る。もちろん、もうしないとは口が裂けても言いません。

 私はれんちゃんを自慢したいからね!

 れんちゃんは、予想と違って別に怒らなかった。そうなんだ、と頷いて、それだけ。これには私の方が拍子抜けだ。いや、怒られたいわけじゃないんだけどね?

 

「怒らないの?」

「え? なにが?」

「あ、いや……。別に……」

 

 どうやられんちゃんの怒りポイントではなかったみたい。一安心だけど、いいのかな、これは。

 そう思ってたら、れんちゃんがぽつりと呟いた。

 

「だって、もうテレビで流れてるし。今更だよ」

「あー……」

 

 うん。ちょっと、否定できない。

 怒ってはないけど、不愉快ってわけでもないってところかな?

 スマホを置いて、れんちゃんを抱き寄せて、撫でる。

 

「ごめんね」

「んー……。もっと撫でて」

「うん」

 

 甘えてくるれんちゃんをひたすらに甘やかした。

 

 

 

 たっぷり十分間、なでなでしました。

 

『てえてえ』

『ほとんど無言だったけど、それでも良かった』

『れんちゃんは本当にお姉ちゃんが好きなんだな』

 

「うん。大好き」

 

 ぎゅっと私に抱きついてくるれんちゃん。かわいい。すき。

 ちなみにれんちゃんにもイヤホンを渡してる。片耳だけだけどね。もともとそのつもりだったから、コードには余裕のあるやつを選んでる。聞きたがると思ったからね。

 

『迷いのない即答。良かったな、ミレイ』

 

「嬉しすぎて死にそうです」

 

『迷いのない頭のおかしい発言、いつも通りだな、ミレイ』

 

「うるさいよ」

 

 まあそれはそれとして、この後はどうしようか。れんちゃんの病室を紹介しようと思っただけで、何かをやりたいってわけでもない。むしろ何もできないし。

 

「病室の紹介も、紹介するものないし……」

 

『まあこんな真っ暗な部屋で、光が全てアウトってなると、なんもないだろうな』

『テレビもダメなら、ゲームもほとんどアウトってことだしね。れんちゃんは普段何して過ごしてんの?』

 

「んー?」

 

 れんちゃんはベッドから抜け出すと、壁際の棚に向かう。ぬいぐるみの棚と並んでもう一つある棚。そこはれんちゃんのおもちゃ箱だ。ん? おもちゃ棚かな? ただまあ、おもちゃ棚っていうよりも、半分以上は本なんだけどね。

 さすがにコードの長さが足りないので、私もれんちゃんと一緒に向かいます。

 

「本を読んだりしてるよ」

 

『本? 絵本とか』

 

「えっとね。らいとのべる?」

 

『まじかよ』

『れんちゃんラノベ読むのか!』

『ちな、お気に入りは?』

 

「ちな……? えっと、この、女の子がいろんな国を見て回るお話」

 

 れんちゃんのお気に入りだ。何度も読んでるらしくて、ちょっとだけ他の本よりも傷んでしまってる。れんちゃんは気にしないみたいだけど。

 

『こんなに暗い部屋で読めるの?』

 

「うん。読めるよ?」

「ちなみに私は読めません」

 

 多分だけど、この暗さに慣れたというか、適応したというか。それがいいことなのか悪いことなのかは分からないけど、ただこの病気が治ったら少し苦労しそうだなとは思う。

 

『こっちから見える映像がほとんど白黒なんだけど、れんちゃんの髪って……』

 

 ん? 今更そんな質問がくるとは思わなかった。

 

「れんちゃんの見た目はゲームと同じ。髪色も含めてね。真っ白だよ」

 

『あれってキャラメイクの時に変更したわけじゃないのか』

『元からあの色なのか……そうなのか……』

『ちょっと痛ましい……』

 

 そういう見方もある、かな? ただれんちゃんは髪の色についてはあまり気にしてないみたいだ。

 

「んー……。えっとね。他の人と違うのは、ちょっとだけ気になったよ」

「え、そうなの?」

 

『やっぱりそうだよなあ』

『自分だけ真っ白だもんな』

『そりゃ気になるわ』

 

 あれ? でも、気にしてる様子なんてなかったような……。

 

「おねえちゃんがね、白くてきれいな髪だねって言ってくれたの。だからわたしも、この髪の色が好き」

 

『ミレイさりげなくファインプレーしてる』

『お姉ちゃんが好きだから好きなのか』

『心が苦しいっす……』

 

 うん。全然知らなかった。えっと、どうしよう、ちょっと反応に困る。

 

『ミレイの反応がないぞ』

『照れてると予想』

『多分顔真っ赤なミレイちゃんやーい』

 

「う、うるさいよ……」

 

『うるさいにキレがない』

 

 ほっとけ。

 もうまったくこの子はもう! ぎゅっとしちゃえ!

 

「おねえちゃん? どうしたの?」

「なんでもないです。なんでもないのでぎゅっとします」

「意味が分からないよ?」

 

 いいんだよ、分からなくて。

 三分ほど抱きしめて、れんちゃん分を補給。生き返るわあ。

 

「お姉ちゃんはれんちゃん分が足りなくなると行動できないのです」

「え? そうなの? えっと、もうちょっとぎゅっとしてもいいよ」

「れんちゃんはかわいいなあ!」

「うるさいのはや」

「あ、はい。すみません」

 

『れんちゃんが冷静すぎるw』

『いつものことなんやなってw』

『ゲーム内とほとんどかわらんなw』

 

 私もれんちゃんも完全に素だからね。

 

「さてさてれんちゃん。そろそろ終わるけど、紹介しておきたいところとか、ある?」

「ある! あるよ!」

「お、なにかな?」

 

 正直、ちょっと意外だった。何かあったかなと考えていると、れんちゃんはすぐ隣の棚に移動した。

 うん。察した。

 

「ぬいぐるみ!」

「…………。これ、長くなるやつ」

 

『わかる』

『さすがに俺らも覚えた』

『リアルでも変わらず始まるもふもふ自慢』

 

 小声での呟きに視聴者さんたちも反応する。れんちゃんのもふもふ自慢は今に始まったことじゃないからね。ここでもそれは変わらないってことだ。

 

「えっとね。まずこのキツネさんがあのキツネさん。ちょこんって座ってるのがかわいいの。あとね、あの白い犬が……」

 

 れんちゃんの自慢はひたすらに続く!

 

「正直好きなものを自慢するかわいいれんちゃんを見せるのは私としては不満だけど、特別にそのまま視聴を許してあげましょう」

 

『ありがとうございます!』

『ものすごく楽しそうなれんちゃんがとてもかわいい』

『好きなものの自慢って楽しいよね』

 

 まったりスマホを構えて、れんちゃんのもふもふ自慢を眺め続けるのでした。

 いやでも、さすがに一時間も話し続けるとは思わなかったよ。かわいかったけどさ。

 

 

 



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配信三十一回目;雪遊び!

「いやあ、ぬいぐるみ自慢するれんちゃんはかわいかったね!」

 

 れんちゃんのホームに来て、配信をさっさと始めてそう言った。

 

『挨拶ぐらいしろよw』

『でも全面的に同意する』

『え、なに? 何があったんだよ』

 

 病室での配信を見てなかった人もいるみたいだね。告知もせずにいきなり始めたから、当然だとは思うけど。

 

『もったいないな。夕方にリアル配信あったんだぞ』

『れんちゃんの病室配信だ』

『ぬいぐるみを自慢するれんちゃんはとてもかわいかった』

『なにそれ!? うわ、くそ、まだ仕事中だよその時間!』

 

 ああ、なるほど。夕方だとお仕事もあるし、学校で部活してる人もいるよね。そう言えば、視聴者数もいつもより少なかったし……。

 でもこればかりは許してほしい。だって面会時間が決まってるから。

 

「見逃した人は後で見てください。過去の配信って見れたよね?」

 

『問題ない。見れる』

『むしろ毎日過去放送見てます』

『同じく。お気に入りはれんちゃんのソロ配信』

『いたずら失敗配信かw』

 

 ああ、最初の方のやつか。私としては、ちょっぴり苦い記憶でもある。まあ、見守るのも楽しかったけど。

 

『で、れんちゃんは?』

 

「アリスたちを待ってるよ。待機中」

 

 光球をお家の前、柵の中に向ける。いつものようにラッキーを頭にのせて、さらに両手で子犬を抱えたれんちゃんが、見て分かるほどにわくわくした様子で待っている。

 誰かを招くのは初めてだから楽しみなんだって。少しだけ、ちょっぴり、緊張もしてるみたいだけど。来るのはアリスとエドガーさんだから、大丈夫でしょ。

 アリスからは準備ができたらすぐに行くと連絡がきてる。なのでのんびりアリスを待ってるところだ。

 

「アリスが来るまでは子犬を抱えてたまに頬ずりするれんちゃんをお楽しみください」

 

『どういうことなの』

『いや、普通に言葉通りの意味だろ』

『ほんとだ。たまに頬ずりしてる』

 

 待ってるだけだと退屈なのか、れんちゃんは時折子犬をぎゅっと抱きしめたり、頬ずりしたりと楽しそうだ。頬もにやけてる。かわいい。

 そんな風に視聴者さんたちとれんちゃんを見守っていたら、不意にメニュー画面が開いた。内容は、プレイヤーアリスがれんのホームへの訪問を希望しています、というもの。許可しますかと出てきてるから、はいを選択すればアリスがこのホームに入ってくることになる。

 れんちゃんがこっちを見つめていたので、とりあえず報告しよう。

 

「アリスが来れそうだけど、許可していい?」

「うん!」

 

 元気なお返事。ではでは、早速。

 ぽちっとな。

 

 すぐにアリスとエドガーさんが転移してきた。人の転移の瞬間ってあまり見る機会がないんだけど、こうして見るとちょっと拍子抜けというかなんというか。突然出てくるから驚くけど、その程度。

 アリスはきょろきょろと周囲を見て、れんちゃんを見つけて声を上げた。

 

「れんちゃん!」

「アリスさんいらっしゃーい!」

 

『ぴょんぴょん飛び跳ねるれんちゃんかわいい』

『それ以上にやっぱりくっそ羨ましいんだけど!』

『いいなあ行きたいなあ!』

 

 れんちゃんが大人気で私としても嬉しいけど、ここはれんちゃんの聖域だからね。さすがにだめです。

 そして、れんちゃんはと言えば。

 

「アリスさんエドガーさん!」

「うん?」

「なにかなれんちゃん」

 

 二人がれんちゃんを見る。私はそっと耳を押さえた。何をしようとしてるのか、知ってるから。

 

「がおー!」

 

 れんちゃんのがおーと同時に、咆哮を上げるテイムモンスたち。レジェはもちろん、オルちゃんたちもディアたちも、同時咆哮。

 

「うひゃ!」

「うお……!」

 

 二人とも驚いてる。目をまん丸にしてる。やると知ってる私でも驚くからね。当然の反応だ。いや、ほんと、レジェ単独の咆哮なら私も慣れてきたけど、まとめての咆哮は本当に怖い。分かってても身構える。それぐらい怖い。

 

「みんなありがとー!」

 

 そんな怖いモンスたちは、れんちゃんにお礼を言われるとそれはもう嬉しそうにぶんぶん尻尾を振っていた。本当にこの子たち、れんちゃんのことが好きだよね。

 コメントを見る。咆哮で阿鼻叫喚の騒ぎだけど、まあ、うん。そのうち落ち着くでしょう。

 

「それにしても、アリスは面白い悲鳴を上げるね。うひゃ、だって。うひゃ!」

「ミレイはひどくないかな!? あれは本当に、怖いから。やってくるかな、とは思ってても怖いから」

「うん、知ってる。何度も聞いてる私でも驚くから」

 

 不思議なことにれんちゃんは全く動じない。それどころか、あれをやるといつも嬉しそうだ。今ではログインの時のお楽しみになってる。

 まあ、それはともかく。

 

「ではではれんちゃん! あとアリス、ついでにエドガーさん!」

「俺はついでか。いや、いいけどね」

「さくっと雪山に行くよ!」

 

 というわけで、移動開始。いや、近いけどね。

 みんなで防寒具を着て、雪山に向かいます。

 

『もこもこれんちゃん。やっぱりかわいいな』

『ぬくぬくしてそうだよね。アリスはミレイの色違いっぽい?』

 

 アリスを見てみると、なるほど確かに私と似たデザインだ。私の視線に気付いたみたいで、アリスがにやりと笑った。

 

「うん。ミレイちゃんとお揃いだよ。本当はれんちゃんの色違いにしようかと思ったけど、多分怖いお姉ちゃんが怒ると思ってね」

「私を差し置いてれんちゃんとお揃いとか、絶対に許さないよ。絶対に」

「あ、はい。うん。大丈夫。作ってないから」

 

『こえーよw』

『こいつ、これで平常運転なんだぜ』

『平常だけどまともではない』

 

「うるさいよ」

 

 君たちこそいつも失礼すぎると私は思います。

 さて。雪山の周囲は仕様なのか分からないけど、雪原になってる。雪遊びをするならこの雪原が一番だ。ちなみに雪山は雪山で、凍った池のスケートリンクや、木がまったくなくて坂道だけのスキー場みたいなところもある。まさに至れり尽くせりだ。

 

「まあ全てお金の力だけどね!」

 

『草』

『本当に事実だからなw』

『雪山の機能拡張だっけ。こんなのがあるならもっと早く知りたかったよ』

 

 ほんとにね。

 雪山がホームに加わると、課金メニューが増えるのだ。雪山の機能拡張が数種類。池のスケートリンク作成だったり、スキー場作成だったり、雪原エリア拡大だったり。

 もちろんすぐに買いました。幸い、投げ銭はあの後も続いていて、コインに困ってないから余裕なのだ。なのでこの雪山はれんちゃんの遊びスポットになってます。もちろん、モンスたちもたくさん住んでるよ。

 

「まずは何する?」

「夜の八時までだからね。二時間近くあるとはいえ、有効活用しないと」

「れんちゃんは何をしたい?」

 

 三人でれんちゃんを見る。頭のラッキーを撫でていたれんちゃんは、え、と一瞬固まって、視線を泳がした。その後、上目遣いに私を見て、

 

「おねえちゃんと一緒なら、なんでもいいよ……?」

「れんちゃんはかわいいなあ!」

 

 本当にもう、れんちゃんはすごく嬉しいことを言ってくれる。だから、抱きしめようとしたら、何かがれんちゃんを真横から突き飛ばした。

 何か。そう、白い毛玉みたいなもの。

 あんぐりと口を開けて固まるアリスに思わず苦笑して、れんちゃんを見る。

 

「あはは、や、くすぐったい……!」

 

 れんちゃんを押し倒してぺろぺろ舐めてるのは巨角ウサギだ。以前、配信中にテイムしたフィールドボス。もふもふウサギさんだ。

 れんちゃんと会えたのが嬉しいのか、れんちゃんを舐め続けてる。れんちゃんもそんなウサギをぎゅっと抱きしめて、見てるだけで微笑ましい。

 

『おお、巨角ウサギ。配信に出てくるの久しぶりだよな』

『やっぱりウサギもいいよな』

『襲ってこなければ本当にただのウサギだからな』

 

「ちなみに草を食んでる姿が私は最高だと思います」

 

『わかる』

『あれはあれでとても癒やされる……』

 

 そんなかわいいウサギだけど、私としてはれんちゃんとのスキンシップを邪魔されてとても不愉快です。ウサギ鍋にしちゃうぞ。

 あ、ウサギがこっちに振り返った。なんか、私にとびついてきた。甘えてきた。

 

「そ、そんな甘えてきても、許さないんだからね……!」

「そう言いつつでれでれだよミレイちゃん」

「だってもふもふかわいいし!」

 

『さっきまでのいらいらしてる表情はどこへ』

『単純だな、と言いたいけど、そのもふもふの誘惑には俺も勝てそうにない』

『いいなあ、ウサギ……』

 

 いや、ほんとうに、ふわふわもふもふ……。

 いやいやそんなことよりも、何するかだよ。何に時間使ってるのかな!?

 

「れんちゃん、雪遊びは調べた?」

「うん!」

 

 れんちゃんには前もって、どんな遊びをしたいか聞いておいたのだ。そもそも雪遊びをあまり知らないみたいだったから、ちょっと調べるということだったけど。

 

「あのね。あのね。かまくらに入りたい!」

「なるほどかまくら」

「いいよねかまくら。子供の憧れだよね」

「いや、納得してるけど、二人は作って入ったことあるの?」

 

 あるわけないじゃないか。アリスと二人で黙って目を逸らすと、エドガーさんに笑われてしまった。

 

『ないのかよw』

『いやまあ、ある程度雪が降らないとそもそもとして作れないぞ』

『それはそうだけど、そうなら言えよと』

 

 私だって見栄を張りたい時ぐらいあるんだよ。ほっといてほしい。

 とりあえずかまくらは作ることに決定。でもれんちゃんの言い方から察すると、かまくらに入りたいだけで、自分で作りたいってわけでもないみたいだ。

 なので、かまくらに関しては私が作ることにしよう。

 

「あとは、雪だるまと雪合戦!」

 

 ふむふむ。

 

「じゃあまずは雪合戦だね。先に他を作ると余波で壊しちゃうかもだし」

 

『まって』

『余波で壊すとは』

『大丈夫? 雪合戦だよ?』

 

「分かってるよ」

 

 私が住んでる地域はあまり雪は積もらないけど、それでも雪合戦ぐらいは知ってる。当たり前だ。でも、ここにはテイムモンスたちがいるからね。ただの雪合戦で終わるわけがない。

 

 というわけで、チーム分けです。

 

「れんちゃんともふもふな仲間たち!」

「わーい!」

 

 れんちゃんは一人だけど、その代わりテイムモンスの参加を許可だ。たくさんいるよ。ディアもいるし白虎もいるし、なんならオルちゃんたちまでいる。レジェはその後ろでのんびりこっちを眺めてる。

 

「ばーさす! ミレイと愉快な仲間たち!」

 

 こちら側はなんと三人だ。私とアリスとエドガーさん。いやあ、一対三とか、すごく不公平だよね! ごめんねれんちゃん、勝負は非情なのだ!

 

「いやいやミレイちゃんミレイちゃん」

「なにかなアリス」

「人数差ァ!」

 

 ふむ。人数差。

 

「私たちが三人。れんちゃんは一人。なるほど確かに不公平だね」

「いや違うから! あっちのテイムモンス何匹いると思ってるの!?」

 

『これは草』

『ひどい戦力差だwww』

『なるほど、確かに一対三だな。れんちゃんはテイムモンスに頼ってるだけだもんな』

 

「テイムモンスを人数に入れるとか、テイマーさん全員を敵に回すよ」

「いやいや! いやいやいやいや! 数! 数! あっちの数!」

「うん……。大丈夫だね!」

 

 たくさんいる。だからなんだと言うんだろうか。アリスは騒がしいなあ。

 

「え、なにこれ。私が悪いの!? エドガーくんも何か言ってよ」

「いやいや、アリス。考えれば分かるよ」

「なにが!?」

 

 あははー。あっはっはー。

 

「これじゃあこっちの勝ち目がないから! 可能性がとても低いじゃなくて、ないから! 勝てるわけないから!」

「アリスは不思議なこと言うね。れんちゃんに勝つつもりでいたの?」

「え」

 

 にっこり笑って問いかける。どうして固まるのかなアリス。顔が青くなってるよアリス。不思議だね。

 

「本当に勝つつもりでいたの? それなら、残念だよ。開始すぐに、私がアリスを倒すから」

「味方が……いない……?」

「よっしそれじゃあ、始めましょう!」

「ちょお!?」

 

 私が開始を宣言してすぐに、蹂躙が始まった。

 

 

 

「ガアアァァァ!」

「うぴゃああぁぁ!」

 

 ちょっと離れたところで、ケルちゃんの咆哮とアリスの悲鳴が聞こえてくるけど。

 

「気のせいだね」

 

『ひどいw』

『助けようとは思わないのかw』

 

「助けたところで勝てるわけないしね」

 

『これは間違い無く鬼畜の所業w』

 

 失礼だなあ。

 私はただいまかまくらを作るために、雪合戦から少し離れています。アリスとエドガーさん、まあ二人で何とかするでしょう。

 実際には、れんちゃんも不公平だとは思ったみたいで、雪合戦に参加してるモンスはオルちゃんとケルちゃんだけだ。いや、まあ、この二匹を選んだあたり、れんちゃんも負けず嫌いなのかもしれない。正直に言えばその二匹が出てきただけで戦力差がおかしいからね。

 でも、れんちゃんを見ると楽しそうだし、これでいいと思う。あ、れんちゃんはケルちゃんに乗ってるんだね。……いや、あれは当てられないでしょ物理的に……。

 

「アリス。エドガーさん。君たちの犠牲は無駄にはしないよ……」

 

『草』

『無駄にはせずにかまくらを作ります』

『れんちゃんの要望だからね! 仕方ないね!』

 

 そう、れんちゃんがかまくらを望んでるのだ!

 というわけで。ここで問題が一つ。

 

「かまくらってどうやって作るの?」

 

『知らないのかよw』

『まあ俺も知らないけどな』

『同じく』

 

 困った。どうやら視聴者さんの多くが知らないらしい。仕方ない、今から調べて……。

 そんなことを考えていたら、いつの間にか足下に何かが来ていた。

 

「お。白キツネだ」

 

 私の足下にすり寄ってきてたのは、あの雪山で真っ先にれんちゃんに向かった子だ。ふわふわの尻尾をふりふりさせてとても可愛らしい。抱き上げてみると、白キツネは嬉しそうに短く鳴いた。かわいすぎる。

 

「どうしたの?」

 

 優しく撫でながら聞いてみると、白キツネは短く鳴いて、すぐに私の腕から下りてしまった。むう、もうちょっともふもふしたかった。

 

『ミレイの表情w』

『残念そうだな』

『本当に白いのは他よりもふもふだよなあ』

 

 撫で心地も抜群でした。いやあ、役得だね。

 白キツネは私から離れて、ぺしぺしと地面を叩く。何してるんだろう。

 不思議に思いながら見守っていると、白キツネが今度は大きく鳴いた。その瞬間、雪がいきなり盛り上がってきた。

 

「わわ!?」

 

 すぐに大きな雪玉になった。雪玉、というか、ドームみたいなもの。半球みたいな感じだね。そして今度は白キツネが雪玉を掘り始めた。

 

「ん……? これを掘れば、かまくらになるのかな?」

 

『さあ?』

『何事もやってみればいいさ』

『レッツチャレンジ!』

『なあに、崩れてもミレイが生き埋めになるだけさ!』

 

「それは嫌なんだけど」

 

 白キツネを真似て、私も手で掘っていく。スコップぐらい買っておけばよかった。リアルと違って、手で掘っても冷えすぎることはないけど。ちょっとだけ冷たく感じる程度だ。

 私と白キツネがそんなことをしていたら、ウルフや猫又たちも集まってきて、みんなで掘り進めることになった。

 そして、数が数だからか、あっという間に中が空洞の雪のドームができあがった。

 

「完成! これ、かまくらでいいかな」

 

『いいのでは?』

『十分だと思う』

『まるで俺の頭のよう……』

『おいやめろ。俺にもダメージが来るだろうが』

 

「……?」

 

『分かっておられない』

『若いって、いいよね』

 

 本当に何言ってるんだろう。

 まあ、いいか。うん。いいや。とりあえず完成したのでれんちゃんを呼ぼう。

 

「れんちゃんやーい」

「はーい!」

 

 おお、すぐに反応があった。見ると、アリスとエドガーさんがオルちゃんとケルちゃんの下敷きになってる。何がどうなってそうなったんだあの二人。

 でも、どことなく幸せそうなのは何故だろう。

 

「変態さんかな……?」

 

『そのレッテルはさすがにかわいそうだからやめてやれ』

『もふもふの下敷きだからな。もふもふしてて幸せなんだろう』

『うんうん。うん……? 十分変態さんでは?』

『しゃらっぷ! 気付いちゃだめなやつ!』

 

 なるほどやはり変態さん。

 

「おねえちゃん!」

 

 おっと、いつの間にかれんちゃんが目の前に。いつの間にか白キツネはれんちゃんに抱かれていた。白キツネさん、ご満悦である。すりすりとれんちゃんに頭をこすりつけてる。本当に、すごくれんちゃんに懐いてるよね。かまくらも、れんちゃんが見たがってたから手伝ってくれたんだろうし。

 そう言えば、あの雪玉は白キツネのスキルなのかな。私はあの子のステータスを見れないから分からないけど、白キツネの種族名を考えると、その可能性は十分ある。

 

 ちなみに白キツネの種族名はスノウフォックス。思わずそのまんまかい、と突っ込んでしまった私は悪くないと思う。

 で、その白キツネだけど、れんちゃんに甘えるのに満足したのか、いやあれでも満足してないのか、今度はれんちゃんの首に器用に巻き付いていた。

 

「白キツネさんのマフラー!」

「よしれんちゃん動かないで。ちょっと写真撮りまくるから」

「え、あ、うん」

 

 れんちゃんが戸惑ってる間に激写激写! いやあ、いい絵だね! もこもこれんちゃんに白キツネさんのマフラー、まさにこれは!

 

「ふわもこれんちゃん!」

 

『お前はいきなり何を言ってるんだ』

『まあ言いたいことは何となく分かるけど』

『だがあえて言おう。落ち着け』

 

「だが! 断る!」

 

 次いつ見られるか分からないからね! 今のうちに、たくさん撮らないと!

 

「んー……。おねえちゃん」

「なにかなれんちゃん!」

「おねえちゃんが見たいって言ってくれたら、いつでも着替えるよ?」

 

 そう言って、ふんわり笑うれんちゃん。

 

「私の妹が天使すぎる。かわいい」

 

『わかる』

『なにこの天使』

『あかん、死ぬ』

 

 やはり私の妹は世界一だ。間違い無い。異論は聞こえない。

 

「かまくら完成してるよ。その子が頑張ってくれました」

 

 そう言うと、れんちゃんは少しだけ驚いたみたいで目を丸くして、白キツネさんを撫でた。

 

「ありがとう」

 

 白キツネさんが嬉しそうにれんちゃんに頬ずりしてる。いいよね、こういうの。

 とりあえず、せっかく作ったのでかまくらに入ることにしましょう。いや、私が手伝えたのってほんの少しだけだけど。

 

 今回作ったかまくらは、少し大きめのサイズだ。ディアが入るとなると厳しいけど、人なら四人ぐらいは余裕で入れると思う。

 かまくらには雪で作った椅子とテーブル。ウルフたちがかりかり削って作ってて、それはそれでかわいかった。三匹ほどがくるくる回って雪の塊を削っていくのは見てて面白かった。

 

「ああ! かまくらもうできてる!」

 

 おっと。アリスが戻ってきた。先に入ってた私たちに続いてアリスも入ってくる。中央の何もないテーブルを見て、にやりと笑った。

 

「れんちゃん」

「なあに?」

「おもちとか、どう?」

「おもち!」

 

 おもち。なるほどそれはいいと思う。絵本とかでも、七輪とかにのせて焼いて……、あれ? あれってかまくらの中でやってよかったっけ? そもそも溶けないの?

 

『ゲーム内でそんなこと気にするなよ』

『むしろ俺らとしては、足下の方が気になるんだけどな?』

『気付いてる? 気付いた上で無視してる?』

 

 気付いた上で気にしないようにしてる方だね。気にするとくすぐったくなるし。

 

「うわ!? なんだこれ!?」

 

 お、エドガーさんも戻ってきた。で、真っ先に反応してくれた。

 私たちの足下はキツネさんがたくさんです。何故かアリスが入ってきたあたりから、キツネたちも続々と入ってきて、足下はキツネの群れになってる。れんちゃんはいつの間にかキツネに埋もれてるし。

 

「テーブルにおもち置くよ」

 

 アリスが動じてない!? あ、いや違う、考えないようにしてるだけだ。

 とりあえず近くの椅子に座る。と、私の隣にキツネの塊が座った。違う。キツネにまとわりつかれたれんちゃんが座った。れんちゃんなのかキツネなのかこれが分からない。

 

「あー……。れんちゃん?」

「ふぁい」

「うん。ちゃんといるね」

 

『雀もそうだけど、よく動物にまとわりつかれる子だなw』

『れんちゃんは動物を引き寄せるフェロモンでも出してるのか?』

『ミレイを引き寄せるフェロモンなら出てるな』

 

「いやいや、フェロモンじゃなくてれんちゃんの魅力に引き寄せられてるのさ!」

「何言ってるのおねえちゃん」

「うん。その冷たい目は私にききます」

 

 やめよ? 口で言わなくても、気持ち悪い、と言われてる気がするよ?

 

 エドガーさんもゆっくりキツネの隙間を縫って椅子に座った。この人、ここに来て一番体力使ってるんじゃないのかな。もしくは気力。キツネを蹴飛ばすと間違い無くれんちゃんから嫌われるから、気を遣うのも分かるけど。

 

「みんな、ちょっと下りてね。足下ならいいからね?」

 

 れんちゃんがそう言うと、キツネたちはするするとれんちゃんから下りていった。白いキツネはれんちゃんの首にいるままだけど、この子は特別枠みたいだ。

 さて。おもちである。雪の上、かまくらの中、あったかいおもちを食べる。

 

「なんかこう、風情があるよね。冬って感じがする」

 

『わかる』

『冬と言えば雪、雪と言えばかまくら』

『お餅も冬って感じだよな』

 

「まあ今はぎりぎり五月なわけですが」

 

『草』

『それを言うなw』

『季節感も何もないなw』

 

 ログアウトしたら夏の入りを感じ始める気温だからね! 暑いわけじゃないけど、寒いとも言えないほどよい気温。まあ最近は春なんてほとんど感じられないぐらいに短いから、すぐに暑くなるだろうけど。

 

「ミレイちゃん。れんちゃんはお餅は大丈夫だよね?」

「ああ、うん。病院ではあまり出ないから、私がたまにスーパーでやわらかいお餅を買って持って行ってる」

 

 れんちゃんからお餅が出たとは聞いたことがないから、あの病院ではお餅を出してないのかもしれない。私が入院してるわけじゃないから、そこまでは分からないけど。れんちゃんが甘えんぼモードになって泊まることになっても、コンビニでお弁当買ってくるし。

 

「れんちゃん、お餅はお醤油をつけたやつでいいかな?」

「うん!」

 

 アリスからお皿に入ったお餅がれんちゃんに渡される。れんちゃんは見るからにうずうずしていた。お餅をぱくりとかじって、

 

「うみょーん」

 

『うみょーん』

『かわいい』

『よくのびるお餅だなw』

 

 ほんとにね。のばしたお餅を噛み千切れなくて、結局そのままもぐもぐしてるし。

 気に入ったのは気に入ったみたいで、嬉しそうな笑顔でもぐもぐしてる。かわいいなあ。

 キツネたちはそんなれんちゃんの様子を、どことなく羨ましそうな顔で見てる。もしかして、食べたいのかな? でもさすがにこれだけのキツネの分は持ってないだろうし……。

 

 アリスを見てみると、引きつった笑顔で首を振られた。そりゃそうだ。

 私もお餅をかじる。うみょーん。……漫画でもここまでのびないと思う……。キツネに上げたくなるけど、不公平になるだろうしなあ……。悩ましい。

 そう考えていたら、先に食べ終わったれんちゃんが、ごちそうさまでしたと手を合わせた。

 

「あ、そうだった。キツネさんにもあるんだった」

「え、なにが?」

 

 れんちゃんがインベントリからテーブルの上に出したのは。

 

『うおお……』

『圧巻の一言』

『山盛りのお揚げ様じゃあ!』

 

 うずたかく積まれた油揚げ。なにこれすごい。

 れんちゃんは油揚げを一枚手にとって、少し持ち上げてぷらぷらする。キツネたちの視線がそれを追ってふらふらと。ゆらゆらと。なにこれかわいい!

 

 れんちゃんはくすくすと小さく笑って、はい、と近くのキツネに渡した。キツネが嬉しそうに油揚げをくわえて、外に出て行く。その後は山盛りの油揚げに群がる、なんてこともなく、みんなお行儀良くれんちゃんからもらうのを待っていた。

 たくさんのもふもふが、じっとれんちゃんを見上げて待ってる様子は、なんだかとっても微笑ましい。一匹ずつもらって、嬉しそうに走り去っていく。

 でもさすがに油揚げが足りないのでは、と思ってたけど、なんと追加があった。山盛りどん!

 

『れんちゃんいくつ用意したの……?』

『山盛りおかわりはさすがに草』

 

「んー……。百個セットが百個!」

 

『どこかで聞いたことのあるセリフ』

『つまり千個かwww』

『やめろお! 俺の古傷をえぐるなあ!』

 

 うん? 何の話かな。視聴者さんたちの間で何かあったみたいだけど。

 それにしてもれんちゃん、いつの間にこんなに用意したのかな……。あまり一人で出歩いてほしくないっていうのは、過保護すぎかな? ちょっと困るところだ。

 お餅を食べ終えて、かまくらを出る。風情はあるけど、特に何かをするわけでもなかったから、早々に飽きちゃった。次は何か持ち込まないといけないかな。

 

 外に出た私たちを待ってたのは、雪像だった。大きな犬と虎にキツネ。それぞれウルフと猫又、キツネたちがどや、とばかりにふんぞり返ってる。

 えっと……。雪だるまの代わり……?

 

「どう見ても雪だるまじゃなくて雪像です」

 

 いや、まあ、れんちゃんが喜んでるからいいか。

 

「すごーい! おっきーい!」

 

 楽しそうに走り回るれんちゃんと、その後ろに続くモンスたち。なんだかすごい光景だ。

 

「あれって、モンスターたちが作ったのか?」

「そうじゃないかな」

 

 エドガーさんの問いに頷いておく。それしか考えられないし。れんちゃんの要望を聞いて、考えて行動したのかもしれない。AIって、すごい。

 

「いや、これは逸脱してるような……。まあ、いいけど……」

 

 ふむ。エドガーさんが何かを気にしてるけど、まあ、うん。大丈夫でしょう。

 

 

 

 のんびりと、モンスたちを追いかけっこするれんちゃんを眺める。たまにはこうしてゆっくりする日も悪くないね。そう思いました。

 

「ゆっくり……?」

 

『どう見てもハードな一日でした』

『ゆっくりとは』

『感覚狂ってきてるなw』

 

 うるさいよ。

 




※『百個セットが百個、つまり千個!』
最終ダンジョンの掲示板回のネタ、なのです。


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配信三十二回目:れんちゃんのファトス探検

 

 ぽちっとな。

 れんはレジェにもたれかかりながら、配信開始をぽちっとしました。光球と文字の流れる黒い板がふわりと出てきます。早速、黒い板にたくさんの文字が流れ始めました。

 

『はじまた』

『あれ? れんちゃん?』

『れんちゃんこんちゃー』

 

「え? あ、えと……。こんちゃー?」

 

『かわいい』

『付き合ってくれるれんちゃん、いい子だなあ』

『ミレイはどうしたの?』

 

 レジェのもふもふを感じながら、れんは答えます。

 

「あのね。次の日曜日のことで、山下さんとお話ししてるよ」

 

『ああ、なるほど』

『そっか、そろそろ準備とかしないとな』

『ぶっつけ本番でするかと思ったw』

 

 れんとしては、みんなを自慢するだけなのでそれでもいいと思っています。みんなでもふもふもふもふすればいいのです。そうしたらきっとみんな、嬉しいはずです。間違い無い。

 

「さすがにそれはだめなんだって。だから、うちあわせ? してるよ」

 

『おk。この配信はちゃんと許可取った?』

 

「うん。シロと一緒にいることと、お外には行かないことって約束して、それならいいよって」

 

『その条件で認めるなんて』

『成長したなあミレイ……』

『褒めてるようで馬鹿にしてるなこれw』

 

 れんはよいしょ、と立ち上がりました。とりあえずレジェの大きな体に抱きつきます。もふもふ。やっぱりレジェのもふもふはとっても気持ちいいもふもふです。

 

『あ、それレジェか!』

『近すぎてわからんかったw』

『近いとよく分かるもふもふ感……。触ってみたいな……』

 

 やはりレジェは人気者です。さすがなのです。

 昨日ここに来てくれたアリスとエドガーさんも、帰り際にレジェをもふもふしてました。二人とも、すごく興奮していたのを覚えています。自分でもテイムしたくなっちゃった、そうです。アリスさんは生産しないといけないから、やらないそうですけど。

 もふもふぎゅー。……よし、大丈夫です。

 

「それじゃあ、今日は探検に行きます!」

 

『お? 探検?』

『そこの森? それとも雪山?』

『確かにモンスの住処としか聞いてないけど』

 

「あ、ううん。今日はね、ファトスを探検します!」

 

『ふぁ!?』

『ファトス!? 一人で!? 街に行くの!?』

『百人中百人が村だろって突っ込むけど街に行くのか!?』

 

「怒られるよ?」

 

 確かに、比較対象が少ないれんですら、ファトスは村だと思います。セカンと比べると、とてもではないですが街とは言えません。

 それはともかく。今日はファトスにお出かけして、お散歩するのです。お姉ちゃんから少しだけ案内してもらいましたけど、あの時は興奮していてあまり覚えていなかったりします。

 

『ホームの散歩で必ずシロといろっていうのは過保護すぎだろって思ったけど、そういうことか』

『まあファトスから出ないならやっぱり過保護だけど』

『それでもまさか、ミレイが許可出すとはな』

 

 正直なところ、れんとしても実はダメかなと思っていました。でも、お姉ちゃんは、認めてくれました。ファトスの中だけなら、と。

 

「五分ぐらいかな。悩んでたけど」

 

『地味に長いw』

『ミレイの葛藤が容易に想像できるw』

『それでもちゃんと許可もらえたんだね。ミレイちゃんはすごく心配してそうだけど』

 

 それは、れんでも分かります。離れる時もすごく心配そうにこっちをちらちら見ていたぐらいです。

 でも、きっと。

 

「きっとおねえちゃん、見てるでしょ?」

 

『ぎくぅ!』

『お前ミレイかw』

『まあいるだろうなあw』

 

 不満がない、と言えば嘘になります。でも、お姉ちゃんが見てくれていると思うと、それはそれで安心です。ふんにゃりしちゃいます。ふんにゃり。

 

『私の妹が世界一かわいい』

『お前はコメントになってても変わらないなw』

『でも確かにかわいい』

『ふにゃふにゃれんちゃんかわええ』

 

 なんだか失礼なこと言われてる気がします。

 ともかく、これからファトスに行きます。とても、とっても、楽しみです。

 

『ファトスに何しに行くの?』

 

「犬さんとか猫さんとかもふもふしたい!」

 

『ぶれないw』

『そうだろうと思ったよw』

 

 もちろんディアたちもかわいいのですけど、街にはモンスターではなく、動物の犬猫がいるそうなのです。れんとしては、その子たちにとても興味があります。

 是非ともなでなでしたい。もふもふしたい。今からとてもわくわくです。

 というわけで、出発!

 

 メニューを開いて、ホームから出るを選択します。するとすぐに移動して、れんはファトスの入口に立っていました。

 ファトスは、広さだけならセカンや、サズというまだ見たこともない街に勝るそうです。主に田畑が多いという理由で。なのでやっぱりのどかなのです。

 早速歩き始めます。のんびりゆっくりまったりと。今日は急ぐ予定もないので、今日のれんはのんびりれんです。のんびりゆっくりまったりと。

 

「犬さんどこかな? 猫さんどこかな? 羊さんでも牛さんでもいいよ?」

 

『犬猫はうろうろしてるけど、羊と牛は放牧地だよ』

『案内いるか?』

 

「んーん。平気」

 

 場所が分かっているなら、後でも行けばいいでしょう。今は他の子を探します。

 のんびり歩いていると、田園地帯を抜けて家屋の多い区画に入りました。なんだかちょっぴり視線を感じます。あちこちから見られてるような。

 どうしてかな、とちょっと考えたところで、れんは見つけました。茶色の犬。

 

「犬さん!」

 

 思わず叫んでしまいました。犬がびっくりして逃げてしまいます。どうしようかな、と思いましたが、れんは追いかけることにしました。

 

 れんのレベルは低いですが、速さにステータスのポイントを多く振っているので、犬程度なら見失うことなく追いかけられます。家の裏に、細い道にと走る犬を追いかけると、いつの間にか田園地帯に戻ってきてしまいました。

 

「あれ……? 見失っちゃった」

 

『あらま。残念』

『まあまた会えるさ』

 

 それなら嬉しいのですが。

 仕方ないので戻ろうかな、と思ったところで、

 

「あれ? もしかして君、れんちゃん?」

 

 そう声をかけられました。

 

『誰だ!? 不審者か!?』

『助けないと!』

『野郎ぶっ殺してやる!』

『お前ら過激すぎて逆に怖いぞ……』

 

 なんだかコメントさんたちは大騒ぎです。れんは気にせず振り返ります。

 そこにいたのは、麦わら帽子を被った女の人でした。こんがり小麦色の肌です。その人はれんを見ると、嬉しそうに笑いました。

 

「やっぱりれんちゃんだ! こんなところにどうしたの? お姉さんは?」

「あ、えっと……。その……」

「うん?」

「おねえちゃんが、知らない人と話しちゃだめって……」

 

『草』

『それは間違い無いなw』

『教えることはちゃんと教えてるんだなw』

 

 コメントさんたちも同意見のようです。

 女の人は、どうにも困ったように眉尻を下げてしまいました。

 

「あー、そっか。そうよね。どうしようかな……」

 

 れんも、少し困ります。おねえちゃんとの約束を破りたくはないのです。

 二人で困っていると、おねえちゃんからのコメントが流れました。

 

『れんちゃんれんちゃん』

 

「あ、おねえちゃん……?」

 

『シロが側にいるから、大丈夫。ただ、ファトスの外についていく、はだめだよ』

 

 許可が下りました。同じものを見ていたお姉さんがほっと安心しています。れんも一安心です。

 

「お姉さんは、もふもふが好きな人?」

 

 つまり、配信を見てくれているのでしょうか。少しだけわくわくしましたが、お姉さんは困ったように首を振りました。

 

「ごめんね。動物は好きだけど、配信は見てないの。ログインできる時間が短くて、こっちに全部時間使ってるからね」

 

 そう言ってお姉さんが隣の田んぼを指差します。たくさんのお米です。なんだかきらきら輝いて見えます。

 お姉さんが育ててるのかな、と思っていると、稲の間からひょこりと犬が姿を見せました。

 

「あ、犬さん!」

「え? あ、この子追いかけてたのか。なるほどね」

 

 犬がとてとてお姉さんの側へ行きます。お姉さんが犬を撫でると、犬はとても気持ち良さそうに目を細めました。いいなあ、撫でたいなあ。

 

「ファトスの犬はみんな人懐っこいから、いつでも撫でられるよ」

「え、でも……」

 

 れんは、逃げられてしまいました。もしかして、モンスターに好かれる代わりに、犬には嫌われてしまっているのでしょうか。

 しょんぼり肩を落としていると、お姉さんは困ったような笑顔で言います。

 

「いや、その……。狼が追いかけてきたら、逃げると思うよ……?」

 

 はっとして、振り返ります。シロがお座りして待機しています。かわいい。いやそうじゃなくて。

 

『なるほど確かに!』

『言われてみれば当然だなw』

『しかもシロってミレイのテイムモンスだろ? それなりに育てられてるのでは?』

『そりゃ逃げるわw』

『私のせい……!?』

 

 シロが原因だったみたいです。こんなにかわいいのに。シロを手招きして、首元を撫でます。くるる、と気持ち良さそうな鳴き声です。

 シロをもふもふしていたら、いつの間にか犬が近くまで来ていました。怖くなくなったのかな?

 シロから手を離して、犬を撫でます。今度は受け入れてくれました。

 

「えへへ、かわいい……」

 

『おまかわ』

『今回は逃げなかったな。なんでだ?』

『シロを撫でてたから、れんちゃんが上位者で安心だと判断したとか?』

『そう、なのか……?』

 

 どうなのでしょう。分かりませんし、あまり興味もありません。れんとしてはこうして撫でているだけで幸せなのです。

 ふと思い出して顔を上げると、お姉さんは優しい笑顔でそこにいました。

 

「ふふ……。なるほどね。みんなが夢中になるのも分かるわ」

「んー……?」

「こっちの話」

 

 お姉さんが笑います。れんも笑いました。笑顔が一番なのです。

 

「そうだ。れんちゃん。よければ、とれたての果物、お裾分けしてあげる」

「え?」

 

 戸惑うれんの目の前で、お姉さんの前に大きなかごが出てきました。そのかごには、たくさんの果物が入っています。お姉さん曰く、今日収穫したところなのだとか。

 

『確かこの世界でも収穫したてって美味しいんだっけ』

『そう。新鮮な味を味わえるのは農業をしてる人の特権』

『格別に美味しいってよく聞くね』

 

 そんなになのでしょうか。今食べてもいいでしょうか。

 お姉さんを見ると、小さく笑って何かを取り出しました。赤い果実。多分、りんごです。かごにもたくさん入っています。

 しゃくり、とおねえさんが直接かじりました。しゃくしゃくと、いい音が聞こえてきます。

 

『音が! 音が!』

『やべえ、リンゴが食いたくなってきた……』

『ちょっとりんご買ってくる』

 

 コメントさんたちも大騒ぎです。れんも、少し緊張しながら、りんごをもらいました。

 しゃくり、とかじります。とてもみずみずしくて、そして優しい甘さ。とても美味しいと思います。少なくとも、病院で食べる果物よりもずっと。

 

「おいしい……!」

「そう? よかった。それじゃあ、これ、持っていってね」

 

 そう言って、お姉さんがかごを押しつけてきます。れんとしては嬉しいですが、いいのでしょうか。

 

「いいのいいの。私も、有名人と会えて嬉しかったしね。是非とも味わって、宣伝もしてね」

「えっと……。うん。ありがとう。でも、あの、どうしてわたしのこと、知ってるの?」

 

 あの配信以外では、れんはあまり人に関わっていません。セカンでの買い物と、テイマーズギルドの時ぐらいです。

 お姉さんは、くすりと小さく笑いました。

 

「少なくともファトスで知らない人はいないと思うよ」

「え?」

 

『なんで?』

『ファトスにはテイマーズギルドがあるだろ? で、テイマーにはれんちゃんのファンが多いわけだ』

『同じ村で話題になってたら気になるだろ』

『そういうことか。でも村言うな。あれでも街だ』

『おっと失礼』

 

 そういうもの、なのでしょうか。れんにはよく分かりません。

 手を振るおねえさんにれんも手を振り返して、次は猫に会いに出発しました。

 

 

 

 猫の元へは、なんと犬が案内してくれるみたいです。多分。気が付いたら、ついてこい、とでも言いたげな様子でれんの前を歩いていました。そんなわけで、れんは今、犬の後ろを歩いています。

 

『なんだこの不思議パーティ』

『犬に幼女に狼にキツネ。謎パーティすぎるだろ』

 

「え? キツネ?」

 

『キツネ!?』

 

 慌てて振り返ります。コメントさんの言う通り、キツネさんがシロの後ろを歩いていました。真っ黒なキツネさんです。

 

「あ、クロ!」

 

『クロ?』

『黒色だからクロ?』

『いつの間に名付けを……』

『まって。そのネーミングセンスってまさか……』

『あっはっはっは』

 

 黒いキツネのクロを抱き上げます。クロは特に抵抗することなく、大人しく抱かれてくれました。嬉しそうにれんのほっぺたを舐めてきます。とても可愛らしいです。れんはクロをこちょこちょ撫でました。

 

「この子はおねえちゃんのテイムモンスターだよ。雪山に行った時に、偶然テイムしてたんだって」

 

『なるほどあの時』

『報告ぐらいしろよ』

『すみませ……いやそんな義務ないよね?』

 

 頭はラッキーがすぴすぴ眠っているので、肩にのせます。きゅ、と小さく鳴きました。とてもかわいいです。

 さて。犬に案内されたのは、ファトスにある池でした。大きな池で、釣りをする人のために桟橋がたくさんあります。でも、今日は一人だけです。

 

『寂しいところだな。釣りって不人気?』

『いや、それなりにやる人は多いぞ。ただやっぱり街中よりも、フィールドの川や池の方が釣果はいいんだ』

『ほーん。だからこんなに人がいないのか』

『そしてそれ以前に、ファトスにいるプレイヤーはここの視聴者がとても多い』

『なるほど!』

 

 ということは、つまり普段はここにも人がいるということでしょうか。それならいいのかもしれませんが、れんとしてはちょっぴり寂しく感じます。

 

『ここに来るなら待機してたのに!』

『れんちゃんに会える機会があああ!』

『おーおー、釣り師どもの嘆きが聞こえてくるぞ』

『愉快ですなあ』

 

 なんだかコメントさんたちが騒がしいですが、れんは気にせず桟橋をきょろきょろします。犬が案内してくれたということは、ここに猫がいるはず。

 そしてすぐに見つけました。一人だけで釣りをしている人の側に、三匹ほど。大きな猫と、多分子猫が二匹。二匹はじゃれあってます。

 

「かわいい……」

 

 ふわふわ子猫たちが遊んでいるのは、とっても、かわいい。

 

『れんちゃんが引き寄せられてるw』

『かわいいからね、仕方ないね!』

『桟橋にくる猫は人懐っこいから好き』

 

 気付けば、釣りをしている人の側に来てしまっていました。猫三匹もこちらを見上げています。もふもふしたいところですが、やっぱり声を掛けた方がいいでしょうか。

 

「あ、あの……」

 

 れんが声を掛けると、んー? という間延びした声でその人が振り返りました。そして、れんを見て、何故か固まりました。

 

「あの……?」

「え? え? れ、れんちゃん……?」

「れんです」

 

 ぱくぱくと、お魚さんみたいに口を開け閉めしてます。どうしたのかな?

 釣りをしていた人は、男の人でした。側に小さなバケツがあって、ちらりとのぞき込むとお魚が三匹ほど泳いでいます。かわいいですけど、食べちゃうのかな……?

 男の人はれんを、というよりも、光球を見て口をあんぐり開けました。

 

「配信中……?」

「うん」

「えっと……。今何時?」

「え? んと……。夜の七時過ぎ!」

 

 れんが答えた瞬間、男の人が頭を抱えて叫びました。

 

「やらかしたあああ!」

「うひゃ」

 

 ちょっとびっくりしちゃいました。シロとクロがれんの前に出てきます。多分大丈夫なので、シロをもふもふしましょう。もふもふ。

 

「ぼけっとしすぎた……! 配信見逃した……! ああ、くそ、何やってんだよお……!」

 

 うん。悪い人じゃなさそうです。

 

『釣りは暇つぶしがてらのんびりするのに丁度いいからなあ』

『のんびりし過ぎて忘れてたのかw』

『いやでも、こいつ運が良いだろう。それでれんちゃんとお話ししてるんだぞ』

『確かに。判定は?』

『ギルティ』

『ぶっ殺す』

『過激すぎだろこいつらw』

 

 コメントさんたちがちょっと荒れています。男の人もそれを見て、ひぇ、と顔を青ざめさせました。

 

「怖いこと言う人はいちゃだめ。帰ってね」

 

『ごめんなさい!』

『もう言いません追放はやめて!』

『許して……許して……』

 

「もう。仕方ないなあ」

 

 許してあげます。れんは心が広いのです。えっへん。

 

「猫さん、撫でてもいいですか!」

 

 れんが聞くと、男の人は頷きました。

 では早速、とれんは大きな猫を撫でます。優しく、ゆっくり。猫は特に抵抗せずに目を細めてくれます。とてもかわいい。

 けれど猫はすぐに抜け出してしまいました。ちょっぴり残念ですが、大きな猫は子猫を鼻でつつきました。子猫を撫でろってことでしょうか。

 子猫を撫でます。子猫はちっちゃくて、れんにとっては撫でやすい大きさです。丁寧に優しく撫でてあげて、喉のあたりをこちょこちょします。とても気持ち良さそうです。

 

「えへへ……かわいい……」

 

「おまかわ」

『おまかわ』

『おまかわ』

 

 れんがそうやって撫でていると、もう一匹の子猫が割り込んできました。じっとこっちを見つめてきます。撫でてほしいみたいなので、遠慮無く。もふもふなでなで。

 しばらくそうして猫たちを撫でていると、ぽちゃ、と水の音がしました。見ると、男の人がまた釣りを再開しています。見られていることに気付いた男の人は、笑いながら言いました。

 

「気にしなくていいよ。ゆっくり撫でてあげて」

「うん」

 

 ゆっくりなでなで。れんにとって、至福の時間です。犬もいいけど、猫もかわいい。

 

『れんちゃんは猫派かな?』

『犬派では? ラッキーもいるし』

『あ? やんのかコラ』

『お? やってやんぞコラ』

 

「どっちも好きだよ。喧嘩しちゃう人は嫌いかなあ」

 

『すみませんでした』

『ごめんなさい』

『お前ら学習能力ないのか……?』

 

 喧嘩はよくないのです。みんなかわいい。

 不意に、男の人が何かを釣り上げました。大きい猫が反応します。お魚を回収している男の人に、猫がすり寄っていきました。

 

「どうするかな……」

 

 男の人がれんを見ます。何か気にしているようですけど、何でしょうか?

 

『ああ、そこのプレイヤーさん。れんちゃんは別に猫が魚を食べていてもそれほど気にしないから大丈夫ですよ』

 

「あ、そうかい? それじゃあ……」

 

 男の人が魚をはずして、猫の前に置きました。ぴちぴちはねる魚を猫が押さえつけて、がぶりと食べちゃいます。すぷらったです。

 

『れんちゃん、本当に平気なのか』

 

「うん……。ちょっとかわいそうだけど、私もお肉とかお魚とか食べてるから……」

 

 むしろ大好きなので、ここで文句を言うのはずるっ子なのです。

 

「じゃくにくきゅうしょくだよね。ちゃんと知ってるよ」

 

『うん……うん?』

『弱肉給食www』

『間違ってるのに、意味合い的には間違ってない気もするw』

 

「あれ?」

 

 なんだか違ってたみたいです。ちゃんとお医者さんの先生にまた聞いておきましょう。

 

「れんちゃん。どうせなら釣りもやってみる? お魚をあげると、猫も喜ぶよ」

「やってみたい!」

 

 それはとても楽しそうです。れんの返事に、男の人は笑って頷きました。

 釣り竿を借りて、振ります。ぽちゃん、と落ちました。

 釣り竿が。

 

『知ってた』

『正直期待してた』

『れんちゃんがすっごい涙目になってるぞw』

 

「あ、あの……。ごめんなさい……」

 

 釣り竿を落としてしまいました。どうしよう。怒られる。

 ごめんなさいしましたが、男の人は何も言いません。恐る恐る顔を上げてみると、何故か笑いを堪えていました。

 

「いや、うん。気にしなくていいよ。うん。……期待してたし」

 

 最後はよく聞き取れませんでした。

 

『確信犯かよw』

『だが許そう。特別にな!』

『ちゃんとフォローしてあげてね』

 

 男の人は指を動かし始めます。多分メニュー画面を開いているのだと思います。すぐに池に落ちた釣り竿は消えて、男の人の手元に戻ってきました。すごく便利です。

 

「所有権を放棄しない限りは手元に戻せるから気にしなくていいよ、れんちゃん」

 

 男の人が釣り竿を振ります。ぽちゃん、と遠くの方で音が聞こえました。その後すぐに、釣り竿がれんに渡されました。

 

「え? あの……」

「いいから。がんばって」

「うん……」

 

 というわけで、再チャレンジです。

 のんびり待ちます。ゆっくり待ちます。桟橋に座ると、シロが背もたれになってくれました。ぽすんとシロにもたれかかります。ふわもふです。膝の上にはクロが座ります。ふわもふです。さらに子猫が側を陣取りました。かわいいです。

 

「俺、ここで釣りしててよかった……」

 

『処す? 処す?』

『殺す』

『こえーよw』

『怒るのはとても分かるが、れんちゃんがかわいいのでどうでもいい』

 

 不意に、竿が引かれました。ちょっと力が強いです。れんが慌てると、男の人が手伝おうとしてくれて、けれどどうしてか止めちゃいました。

 代わりに、れんの服を、シロが噛みました。

 

「う?」

「あー……」

『察した』

 

 シロが、おもいっきりれんを持ち上げて、ぽーんとれんは空に放り投げられました。

 

 

 

「…………」

 

 じっとりとした目でれんがシロを睨んでいます。シロはしょんぼり俯いています。その横では、猫たちがれんの釣り上げたお魚に大はしゃぎです。

 

『珍しくれんちゃんが怒ってるなw』

『まあさすがにあれはなw』

『ぷりぷりれんちゃんもしょんぼりシロもかわいいなあ!』

 

 あまり怒っていても仕方ないのは分かってます。助けてくれようとしたのも分かっています。まあ、ちょっぴり、怖かったですけど。

 

「もう……。許してあげる」

 

 シロを抱きしめ、もふもふします。シロは嬉しそうにれんのほっぺたを舐めてきました。

 シロをもふもふしていると、男の人が話しかけてきました。

 

「あー……。ちょっといいかい?」

「うん」

「れんちゃんが釣った魚、よければ調理しようか?」

 

 それはつまり、今すぐ食べられるということ。れんはすぐに頷きました。

 

 

 とても美味しいお刺身でした。猫たちも大満足だったみたいです。ちなみにれんが釣った魚は鯛(タイ)だったそうです。何故池で、という突っ込みはしちゃいけないそうです。

 美味しかったので、大きな葉っぱに包んでお持ち帰りです。お姉ちゃんへのお土産なのです。お姉ちゃん、喜んでくれるかな?

 

 猫の案内で向かっているのは、放牧地です。にゃんにゃんかわいい案内です。かわいいので子猫を一匹抱き上げてなでなでしています。もう一匹から羨ましそうに見られているので、あとでこちらも撫でておきましょう。

 え? クロも撫でてほしいの? 仕方ないなあ。

 順番にもふもふなでなでぎゅっとしていたら、いつの間にか放牧地にたどり着きました。

 

「ひつじ! さん! だー!」

 

 ふわふわもこもこな羊を見つけて、れんは思わず叫びました。

 

『羊サンダー?』

『…………』

『…………』

『その、すみません』

 

 コメントを無視して、れんは羊に駆け寄ります。触ってみると、とてももこもこしていました。ちょっとだけ、感動です。

 抱きつかれた羊は特に何も反応せず、嫌がるような素振りはありませんでした。それどころか、わざわざその場に座って、れんがもふもふしやすいようにしてくれました。

 すぐにれんは全身でもふもふ羊を堪能します。もふもふ。もふもふ。

 

「もふもふ……。レジェとはまた違う、すごいもふもふ……。ふわあ……」

 

『れんちゃんがとろけてるw』

『とろとろれんちゃん、かわええ』

『羊かあ……。羊のモンスターっていたかな……』

 

 それはれんにも分かりません。きっとお姉ちゃんが調べてくれます。

 羊をたっぷりもふもふしながら、れんはのんびりとした時間を過ごすのでした。

 

   ・・・・・

 

 ホームにれんちゃんが帰ってきた。

 

「おかえりー!」

「むぎゅう」

 

 ぎゅっと抱きしめる。ああ、れんちゃんだ。うえへへへ。

 

『ミレイの奇行を見ると落ち着くな』

『実家のような安心感』

『お前の実家やばすぎるだろw』

 

 本当にね。……いや待て、どういう意味かな?

 

「んー……。おねえちゃん、はなして?」

「だめ」

「えー」

 

 れんちゃんと遊びたいからこのゲームをしてるのに、一時間以上別行動になっちゃったからね。れんちゃん分が足りないのです。だからもうしばらく、このままで。

 ただ、このままだと動きにくいとは思うので、少し体勢を変えることにしよう。

 

 その場に座って、シロを呼ぶ。シロに背もたれになってもらって、れんちゃんをぎゅっと抱きしめる。仰向けになったれんちゃんは何か言いたそうだったけど、仕方ないなあとでも言いたげに笑われてしまった。

 我が儘なお姉ちゃんでごめん。

 そうして、のんびりとした時間を過ごす。後ろはもふもふ、前はれんちゃん、最高です。

 

「おいで。おいで」

 

 暇になってきたのか、れんちゃんが手招きし始めた。家の前にある、柵へ。すると柵から子犬たちが歩いてくる。子犬とはいえ、れんちゃんの言うことはちゃんと聞くみたいだ。

 

「子犬なのに賢いね」

 

『そいつら狼……、いや、気にするな』

『正直子犬も子狼も見分けつかねえし』

『何言ってんだ! 子狼はもっとこう、シュッとしてるんだよ!』

『つまりお前は見分けがつくと』

『つくわけねえだろ、アホか』

『どっちだよw』

 

 まあ、実際のところ、どうなのか分からないんだよね。このゲームで子犬なんて見たことないし、リアルだと子狼を見たことがない。違いってあるのかな?

 そんなことを考えてる間に、子犬たちはれんちゃんの元にたどり着いた。れんちゃんによじ登ろうとしたり、足をぺしぺし叩いたりと遊び始めてる。あ、ころんと転がった。かわいいなあ。

 

『ミレイちゃんミレイちゃん。ちょっといい?』

 

「んー? アリスかな? なに?」

 

『耳寄りの情報を仕入れたよ』

 

 おや、なんだろう。わざわざ私に言うってことは、もふもふ関係かな? 正直私は、今でも結構満足して……。

 

『ペンギン見つかったよ』

 

「ぺんぎん!」

 

 反応したのはれんちゃんでした。

 

「ぺんぎん! ぺんぎんいるの!?」

 

『いるよいるよ。さっき掲示板見てたらさ、ペンギン見つけたって報告があったんだよ』

 

 それはびっくりだ。私もこまめに掲示板は見るようにしてるけど、昨日まではそんな話はなかったはず。今日見つかったのかな?

 

『テイマー掲示板の情報だな。すでに色々調べられてるみたいだぞ』

『あのさあ……。ペンギン見つけたの、あたしなんだけど。あたしがれんちゃんに教えたくて頑張って調べたのに!』

『え、あ、ご、ごめん』

 

 ペンギンを見つけたのは視聴者さんだったらしい。れんちゃんに教えてあげようと、前もって色々調べておいてくれたんだって。いい人だ。

 その人曰く、キツネたちがいた雪山の頂上に洞窟があるらしい。九尾をテイムしていることが条件みたいで、テイムしてない人は見つけられないんだとか。

 

 その洞窟がペンギンたちの住処。しかもこのペンギンたち、モンスター扱いじゃないみたいで、襲ってこない。通常のテイムスキルは使えないみたいだけど、何らかの条件を満たせば仲良くなることができて、ホームにお引っ越ししてくれるらしい。

 ちなみにその条件は、まだ調査中。そこまでは調べられなかったとのこと。

 

『どう? 参考になった?』

 

「うん! ありがとうお姉さん!」

 

『どういたしまして』

『誰か知らないけど、満足顔を幻視した』

『俺は俺らに対するどや顔が見えた』

『ああ、そうだれんちゃん。調べてきたご褒美が欲しいなって』

 

「ごほうび?」

 

 む。何を要求するつもりだ。思わず顔が険しくなったみたいで、慌てたようなコメントが流れてきた。

 

『いや、ごめんごめん! そんな変なのじゃないから! できれば、名前で呼んでほしいなって。今回だけでいいからさ。だめかな?』

 

 まあ、それぐらいならいいでしょう。見上げてくるれんちゃんに頷くと、にぱっと笑った。かわいい。

 

『何今の笑顔』

『かわいすぎるんだけど』

 

「えと。それで、お姉さんのお名前は?」

 

『ルルよ』

 

 ルル。はて。どこかで聞き覚えがあるような、ないような。

 

『おそらく一番有名なテイマーだな。エンドコンテンツのダンジョンのモンスターを複数テイムしてるぞ』

『配信もやっててそれなりに人気だったな。れんちゃんに負けたけどな!』

『あ、それは別に気にしてないから。むしろそれでいいから。れんちゃんかわいいもの。かわいいは正義なの。いい? かわいいは、全てに勝るのよ』

『あ、はい』

『おいこいつ意外とやべえぞ……』

『変人だー!』

『うるさい、空狐ぶつけるぞ』

『やめてください死んでしまいます』

 

 ああ、知ってる知ってる。むしろこの人の配信をかなり参考にさせてもらった。咄嗟に出てこなかったのは、まさか見に来てくれてるとは思ってなかったから。そういうことにしておこう。

 

「ん……。えっと。それじゃあ……。ありがとう、ルルさん」

 

『…………。あたし、あと十年はがんばれる』

『お、おう』

『ああでもくそ、羨ましいなあ!』

『ちょっと俺も新しいもふもふの情報を探してくる!』

 

 れんちゃんに名前を呼んでもらうのって、嬉しいみたいだね。いや気持ちは分かるけどね! れんちゃんかわいいからね! ぎゅっとしちゃう!

 

「んぅ? おねえちゃん、どうしたの?」

「れんちゃんは私の妹だこの野郎、アピール」

「……? わたしはおねえちゃんの妹だよ?」

「うん。れんちゃんはかわいいなあ」

 

 なでくりなでくりこちょこちょ。くすぐったそうに身をよじるれんちゃん。でも嫌がってはいなくて、すり寄ってくる。

 

『てえてえ』

『ほんっとうに距離感近すぎるだろこの姉妹』

『もふもふがまとわりついてるw』

 

 れんちゃんが慌てて子犬を抱き寄せる。子犬も本当にかわいい。

 さてさてとりあえず。明日の予定は決まったね。

 ペンギンを探しに行こう。

 



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配信三十三回目:ペンギンさんとシロクマさん

 

 雪山のクエスト。何度もできるクエストだと思ってたけど、九尾がテイムできるまで、という条件付きだったらしい。れんちゃんと一緒に訪れた村には、もう誰もいなかった。

 

「こうなると、ちょっと寂しいね」

「うん……」

 

 もこもこれんちゃんと一緒に、村を見て回る。本当に、何もない。ルル曰く、村に残された本に氷の洞窟について書かれてたらしい。まあそれは何かしらのフラグになるわけでもないみたいで、見なくても場所さえ知っていれば入れるらしいけど。

 村を出て、頂上へ。キツネももういないみたいで、本当に寂しい山になってしまった。多分、こんな状態になっちゃったから誰も調べなかったんだと思う。だからこそ、今まで見つからなかったんだろうね。

 

 頂上は、大きな岩があるエリアだ。この大きな岩に九尾が立っていて、近づいてきたプレイヤーに襲いかかってくる、というのが私が経験したクエストの流れ。

 あの威風堂々とした九尾はとても格好よかった。あの姿を見るために、何の報酬もないのに雪山に来るプレイヤーがいるほどだ。

 その大きな岩の陰に、その大穴はあった。

 

「この穴が洞窟かな。まさかこんなところに、穴があるなんてね……」

 

 九尾をテイムしないといけないらしいから、私じゃもともと見つけられなかったとは思うけど。一応私もテイマーだけど、シロで十分であまり他をテイムしようと思わなかったし。

 

「さてさて。では、ぽちっとな」

 

 配信開始をぽちっと。すぐに光球が出てきて、コメントも流れ始めた。

 

『お、はじまた』

『ペンギンか! ペンギンなのか!』

『ん? どこだここ?』

 

「どもども。ただいま、例の雪山に来ています。前情報通り、九尾がいなくて岩の側に大穴があったよ」

 

 光球を動かして穴を見せる。おお、とコメントが流れていく。なかなかの大きさの大穴だからね。ディアぐらいの大きさなら通れると思う。

 

「それじゃあ、れんちゃん。まずは私が様子を見てくるから……」

「あ」

 

 説明しようとしたところで、れんちゃんが短い声を上げた。何が、と思う間もなく、見知った白い影が穴に飛び込んでいった。

 見知った、というか、ラッキーが。

 

「ら、ラッキー! 待って!」

 

 慌ててれんちゃんも飛び込んでしまう。取り残されるのは私です。

 

「ちょ、れんちゃん待ってー!」

 

 段取りも何もない! いや、れんちゃんはもちろん悪くないけどさ!

 私も慌ててれんちゃんを追って、穴に飛び込んだ。

 

『いきなりぐだぐだだなw』

『まあ生配信の醍醐味だ』

 

 五秒ほどの自由落下の後、さすがはゲームと言うべきか、特に衝撃もなく地面に降り立った。すぐに顔を上げて、それを見て。うん。なにやってるのあの子。

 

「ちっちゃい……かわいい……」

 

 ちっちゃいペンギン……雛かな? なでなでしてる。おまかわ。

 特に危険はないみたいだし、とりあえず周囲の確認かな。

 洞窟はドームのような部屋になってて、私たちが落ちてきたのはど真ん中。真上に小さな丸い光が見える。多分、あそこから落ちてきた……という設定だと思う。

 落ちたこの場所は、ちゃんとした土の地面。ただ、凍り付いていて、とても滑りやすそう。

 

「スケートとかしたら楽しそうだね」

 

『ここでスケートは死ねると思う』

 

「ですよねー」

 

 うん。分かってたよ。ほんとだよ?

 周囲は水。というか、氷? 多分、池になっていて、ここはその池にある小島みたいなものだと思う。池は全部凍り付いているんじゃなくて、所々穴があるみたいだ。……あ、穴からペンギンが出てきた。あそこから魚を探してるのかな。

 

『おお、ほんとにペンギンだな』

『よちよち歩きがかわいい』

『ペンギンの雛が特にかわいいな。ふわもこじゃないか』

 

 れんちゃんが撫でてる雛を見ると、なるほど確かにふわもこだ。れんちゃんもにっこりだね。でも、どう見ても最初から仲良くしてるんだけど……。

 

『まあれんちゃんだしな!』

『仲良くなる天才……っ!』

『実際のところ、敵意とかに反応してんじゃねえの? 捕まえたいとか思っても敵意判定だろ?』

 

「なるほど確かに。その辺りどうですかルルさん」

 

『否定はできない、とだけ。ペンギンがいるって知って来たら、やっぱりホームに連れて行きたいって思ってるだろうから』

『確かめる手段がないのがなあ』

 

 こればっかりは運営さんしか知り得ないだろうからね。私たちは推測するしかないわけで。

 まあ、それも含めて楽しむのがゲームか。

 さてさてれんちゃんは、と。

 

「わ、わ、けんかしちゃだめ……!」

 

 なんか、ラッキーとペンギンの雛がれんちゃんの前で睨み合ってる。なんだろう、視線で火花が散ってる光景が見える、気がする。

 

『なんだ、何があった?』

『幼獣決戦』

『慌てるれんちゃんもかわいいけど、助けてやれよ』

 

 いや、助けたいのは山々なんだけど、経緯がまったく分からなくて……。

 うん。とりあえず、引き離せばいっか。

 二匹に近づいて、首根っこを掴む。ぷらんとぶら下げた。ラッキーがわんわん、ペンギンがきゅうきゅう鳴いてる……怒ってる? けど、れんちゃん最優先です。

 そのれんちゃんは、あからさまにほっとしていた。

 

「で、どうしたのれんちゃん」

「あのね……。どっちが頭にのるかで、喧嘩してたの」

「あ、うん……。そっか……」

 

 うん。うん。そっかそっか。

 

「平和だなあ……」

 

『ミレイwww』

『いやまあ、思ったよりほのぼのとした理由だったけどw』

『ただの場所の取り合いw』

『しかもれんちゃんの頭の上w』

 

 焦った自分が馬鹿みたいだよ。

 ラッキーを頭の上に、ペンギンを地面に。悪いけど、れんちゃんの頭の上はラッキーの特等席だ。たまになら他の子に譲るみたいだけど、テイムもされてない子に譲るわけがない。

 ペンギンはちょっぴりしょんぼりした様子だった。そ、そんな顔をしても、無駄だからね!

 

『ペンギンの目がうるうるしてる』

『そんなにのりたかったのかw』

『何がそこまでさせるのだろうか……』

 

 いや本当に。れんちゃんの頭の上に何かあるの?

 ちょっとだけペンギンの雛に呆れていたら、親ペンギンかな? 大きなペンギンがこちらにえっちらおっちら歩いてきた。私たちを見て、けれど特に何もしない。そのまま視線が雛の方へ。

 雛は親ペンギンに気付くと、親の方にぺたぺた歩いて行った。そのまま、親の足下に入り込む。あれってどうなってるのかな。

 

「わ……入っちゃった……」

 

 れんちゃんも驚いてるみたいだ。きらきらした目でペンギンを見てる。

 

「あの! こんにちは!」

 

 ぺこりとれんちゃんが挨拶。親ペンギンはきゅ、と独特な鳴き声を上げて、そしておもむろに頭を下げた。

 

「礼儀正しいペンギンだね……。君たち見てる? ペンギンに負けてるよ?」

 

『おまいう』

『うるせえよ』

『いや待て、これはまさか!』

 

 なんだろう、一部のコメントが少し慌ててるような。私が首を傾げる前で、ペンギンは口の中からぼとりと何かを吐き出した。

 何か、というか、魚だ。微妙に溶けてる気がする。

 そしてその魚を、こちらに差し出してくる。

 

「これは、あれかな。子供の面倒を見てくれてありがとう、てことかな」

 

『そう、だろう、けど……』

『絵面がひどすぎるw』

『れんちゃんまで引いてるぞw』

 

 おお、ほんとだ。珍しいことにれんちゃんの頬が引きつってる。さすがにれんちゃんも、吐き出されたものは受け取りたくないらしい。気持ちは分かる、とても分かる。

 それでもれんちゃんは、動いた。お魚を手に取り、ペンギンに笑いかける。引きつってるような気がするけど、気にしない。

 

「ありがとう、もらうね」

 

 れんちゃんの言葉に、ペンギンは嬉しそうに羽をぱたぱたさせた。かわいいけど、なんだろう、さっきの光景のせいで、どうしてももふろうと思えない……!

 

『これは難易度の高いもふもふ』

『おかしいな、さっきまで微笑ましかったのに……』

『運営か開発か知らんけど、そこまでリアルにするなと言いたい』

 

 本当に。れんちゃんが引くってよっぽどだからね?

 さて、他のペンギンを、と考えたところで、ペンギンの親子はまだこちらを見ていた。正確には、れんちゃんを。雛も下から顔を出してて、とても愛らしい。

 

「えっと……。何かしてほしいことがあるの?」

 

『さすがれんちゃん、もふもふに優しい』

『俺なら絶対魚の一件で帰るわw』

 

 私も正直帰りたい気持ちの方が強いんだけど、れんちゃんが残るならそういうわけにもいかないからね。大丈夫、私は見守るだけ。そう、見守るだけなのだ。

 

『ミレイの目が死にかけてるんだけど』

『気持ちはよう分かる』

『がんばれミレイ。今回ばかりは素直に応援してやるから』

 

「あはは……。ありがと……」

 

 歩き出したペンギンにれんちゃんがついていく。どこに行くのかな。

 ペンギンが案内してくれたのは、凍り付いた池にある小さい穴だった。魚なら通れるけど、ペンギンは入れない程度の穴だ。そこにいる魚が欲しいのかな?

 れんちゃんも同じことを思ったみたいで、私の方に振り向いてきた。

 

「おねえちゃん、釣り竿ってある?」

「もちろん」

 

『何がもちろんなんですかねえ……』

『普通はそんなもん持ち歩かないんだよなあ……』

『何言ってんだお前ら。れんちゃんが釣りをやってただろ。あれで興味を持ってやるかもしれない。釣り竿を持つ理由なんてそれで十分だろうが』

『お、おう』

『もちろんミレイの思考な。ぶっ飛んでる』

 

「うるさいよ」

 

 綺麗に言い当てられたと思ったら、まさかそんな予想を立てられてるとは思わなかった。いや、いいけどさ。

 インベントリから釣り竿を実体化させて、れんちゃんに渡してあげる。銀色の、ちょっと近代的な釣り竿だ。

 

「ありがとうおねえちゃん!」

「いえいえ」

 

 がんばってね、とれんちゃんを撫でてあげたら、嬉しそうに頷いて駆けていった。

 

「あの笑顔だけで私は満足です」

 

『ミレイは平常運転だな』

『お、そうだな。平常が平常じゃないけどな』

『平常とは』

 

 喧嘩売ってるのかなこいつら。

 

「でもあの釣り竿は世界観考えろと言いたい」

 

『それなw』

『リアルにありそうな釣り竿だからなw』

『さすがはガチャ産やで……』

 

 そう。あの釣り竿は時折みんなとやってるガチャで出てきたものだ。比較的レアリティは高い方だけど、最高レアじゃないので実は複数所持してる。

 

「あ、そうだ。昨日れんちゃんと釣りをしてくれた人、今見てる?」

 

『あ、俺だ。何かあった?』

 

「いや、昨日のお礼に、あの釣り竿送ろうかなって。ていうか送るから。名前もちゃんと控えてるし。配信終了後に送るからね」

 

『ちょ、ま、いやそれは、有り難いけど!』

『てめえ……れんちゃんと会っただけじゃなくて、釣り竿までもらうだと……?』

『これは絶許案件』

『処す? うん、処す』

『ヒェッ』

 

 うん。なんか騒がしいけど、私は気にしない。

 

「みんなはれんちゃんに会えただけで十分とか嬉しいこと言ってくれるけど、それはまた話が違うと思うよ。お礼はちゃんとしないといけないと思います」

 

『うん。……うん? あれ? まともなこと言ってる?』

『ばかな、ミレイがまともだと!?』

『どうしたミレイ、体調悪いのか!?』

 

「君ら全員追放するぞこの野郎」

 

『ごめんなさい』

『すみませんでした』

『許して』

 

「まったく……」

 

 こいつらは私をなんだと思ってるのかな。常識ぐらいあるよ。あると思う。いや、れんちゃんが関わると、ぶっ飛ぶ自覚はあるけどね。

 ところでそのれんちゃんなのですが。

 

「そうこう話している間に不思議な空間になりました」

 

『こいつらこんなにいたのかw』

『すげえ……一羽お持ち帰りしたい……』

『同じく』

 

 うん。ばれないような気がするよね。

 れんちゃんの周りには、ペンギンの雛がたくさん集まってる。軽く三十羽はいるんじゃないかな。のんびりまったり釣り糸を垂らすれんちゃんの周りに、邪魔をしないように少しだけ離れて見守ってる。よく見ると座ってるれんちゃんの膝の上にも雛がいるし。

 こうして見ると、やっぱりかわいいよね。頬がにやけちゃう。

 

「で、ルルさん。こういうイベントなの?」

 

『うん。多分、仲良くなるとこのイベントが発生して、釣りに成功すると一部のペンギンがホームにお引っ越ししてくれる』

 

「…………。仲良くなると?」

 

『普通は最初から懐かれるなんてないから』

 

 ですよね。知ってた。

 お、れんちゃんの竿が動いた。れんちゃんが慌てて釣り上げようと……。

 

「お、おねえちゃん! 助けて!」

「れんちゃん。その釣り竿には自動機能があるよ。釣り竿を叩いたらメニューが出てくるから、自動をタッチして」

「えっと……。こうかな?」

 

 れんちゃんが釣り竿を軽く叩く。あ、とれんちゃんが声を上げたので、ちゃんと出てきたんだろう。すぐその後に、魚を釣り上げていた。

 

「ちなみに川の主とかそんな大物になると使えない機能らしいから、あまり期待しないように」

 

『今一瞬期待してたw』

『最高レアじゃないし課金してでも、と思ったけど、そうかだめか……』

『さすがにそこまで甘くないわな』

 

 れんちゃんが釣り上げた魚をえっちらおっちら側に下ろす。不慣れだと一目で分かる手つきだけど、そこはゲーム、釣り上げたという成果が出てるので、逃げられることはない。

 私もペンギンの雛の間を通って釣果を見に行く。お、穴に通るぎりぎりの、大きな魚だ。

 

『なんでやねん』

『お、どうした。何の魚か分かるのか?』

『鮭。キングサーモン。池じゃないだろうお前は』

『草www』

『草に草を生やすな』

『多分、あれだ。池の底で海と繋がってるんだよ!』

 

 そ、そうかもしれないね。うん。きっとそうだ。

 ちなみに鮭はゲーム内でまだ見つかってなかったはず。もしかしたら、昨日の時点で釣果として報告されてるかもだけど。

 れんちゃんは自分一人で釣った鮭を見て、すごく嬉しそうだ。こう、すごく堪えた笑顔。にまにましてる。かわいい。

 満足したのか、れんちゃんは改めて周りを見回して、

 

「わあ!? たくさんいる!」

 

 あ、気付いてなかったのかこの子。

 

「え、と。どうしよう。一匹じゃ足りないよね……。もうちょっと待ってね」

 

 れんちゃん、釣りを再開。どうやらみんなに行き渡るように釣りたいらしい。良い子だなあ……。でもさすがに時間がかかりそうなので、私も手伝うとします。

 釣り竿を出して、れんちゃんと同じ穴に糸を垂らす。リアルでこれをやると糸が絡んだりするだろうけど、ゲーム内では大丈夫。のはず。

 

「れんちゃん、その子にすごく懐かれてるね」

 

 膝にいる雛を見ながら言うと、れんちゃんは嬉しそうに頷いた。

 

「うん。すっごくかわいいよ。すごく人懐っこくて、もふもふしてるの。ぎゅっとしても、嫌がらないよ」

 

 れんちゃんが雛を抱きしめる。雛は目の前のれんちゃんの腕にすり寄っていた。なるほど、これは、かわいい。

 

『俺、絶対テイム覚える。九尾テイムして、ペンギンさんと会う』

『九尾をテイムするだけならそんなに難しくないらしいしな』

『俺もがんばるかな……』

 

 ペンギンの魅力にやられた人は結構多いみたいだ。

 その後、私が一匹、れんちゃんが二匹釣り上げて。計四匹になった。これで足りるかな?

 

『しれっと流してるけど、れんちゃん合計三匹で、ミレイは一匹のみです』

『ミレイ……』

 

「言いたいことがあるなら早く言えばいいと思うよ? うん?」

 

『すみませんでした』

 

 私だって実はちょっと凹んでるから、触れないでほしい。

 れんちゃんが鮭を地面、と言えばいいのか氷の上と言えばいいのか。とにかく並べると、ペンギンの雛たちが集まってきた。みんなでつんつんつついて食べ始める。れんちゃんはそれを、にこにこと見つめていた。

 

『ああ……。三匹以上、釣っちゃったのね』

 

「ん? どういうこと?」

 

『三匹以上の釣果で次のイベントが発生、ボス戦というか、なんというか……』

 

「ん……?」

 

 なんだろう。ちょっと煮え切らない返事だ。ボス戦? ペンギンはモンスターじゃないのに?

 

「おねえちゃんおねえちゃん!」

 

 どういうことかなと考えていたら、れんちゃんに呼ばれてしまった。はいはい今行きますよっと。

 

「こんなの出たよ!」

 

 れんちゃんが出てきていたメッセージを見せてくれる。えっと、なになに? 引っ越しを希望しているペンギンがいます。招待しますか。おお、目的達成だ。

 

「やったねれんちゃん。はいを選択してね」

「うん!」

 

 れんちゃんははいをタッチすると、何匹かのペンギンが前に出てきた。ペンギンが六羽と、雛が三羽。えっと、三家族かな? この子たちがれんちゃんの雪山に来てくれるらしい。

 

「うわあ! うわあ!」

 

 れんちゃん大喜び。歓声を上げてペンギンに抱きついた。ペンギンは抵抗とかはせず、されるがままだ。雛もれんちゃんの周りに甘えるように集まってる。

 いいね。これが見たかった。写真写真。

 

「タイトルは、そうだね。……ペンギンを籠絡した幼女」

 

『籠絡www』

『れんちゃんに怒られるぞw』

『けど間違ってはないと思ってしまう……』

 

「冗談だよ、冗談」

 

 さすがに本人に言うつもりはないよ。嫌われたくはないしね。

 ん? あれ、ホームに来てくれる予定のペンギンたちが歩き始めた。えっちらおっちら、時々れんちゃんへと振り返って。

 

「これが次のイベント?」

 

『うん。そう』

 

 ふむ。じゃあ、とりあえずついていこう。ボスということは、大きなペンギンかもしれない。

 ということで、れんちゃんと一緒についていきます。向かう先は、端っこの壁。方角が分からないからそうとしか言えない。

 その壁には横穴があった。人一人が楽に通れる大きさだ。中をのぞき込むと、このドームほどではないけど、それなりに広い部屋があった。

 その部屋の中央にいるのは、シロクマかな? 丸くなって寝てる……?

 

『そのシロクマがボスね。そいつだけモンスター扱いで、襲ってくるから』

 

「それはまた、いきなりだね。ペンギンは襲ってこないのに」

 

『そうね。だから十分気をつけてね』

『まあもう手遅れだけどな』

『お前ら絶対気付きながら会話続けてるだろ……』

 

 いや、まあ、うん。もちろん気付いてるけど、今更というか、なんというか。

 

「シロクマだー!」

 

 我らがれんちゃんは突撃しました。うん、知ってた。

 

「さすがれんちゃんだね。あははー」

 

『もはや心配すらしてねえw』

『まあ心配するだけ無駄だからなw』

『俺ならあんなでかい熊が目の前にいたら、ゲームだと分かっててもびびるわw』

 

 それが普通なはずだから、その感性を大切にしてほしい。

 あれ、シロクマが唸ってる。れんちゃんを攻撃しようとはしてないけど、威嚇してる。

 

『れんちゃんが……警戒されてる、だと……?』

『なんてこった、仕様でも変更されたのか!?』

『ここで変更してたら悪意ありすぎだろw』

 

 れんちゃんを狙った仕様変更ってことになるからね。怒るよ私は。

 でも、そんな心配は多分いらないと思う。れんちゃんが目の前に立っても、襲いはしないようだし。私ももうちょっと近づいてみよう。

 

「こんにちは!」

 

 れんちゃんの挨拶は当然のようにスルーされた。いや、まあ、熊だからね。

 れんちゃんは頭の上のラッキ……、ラッキーじゃない!? ペンギンの雛だ!

 

『いつの間にw』

『すり替えておいたのさ!』

『だとしたら、ラッキーは?』

『れんちゃんの背中にしがみついてるぞ』

『くっそwww』

『なにやってんだあれw』

 

 地味にかわいそうなんだけど! れんちゃん助けてあげよう!?

 れんちゃんも気付いてなかったみたいで、頭の上に手をやって一瞬固まった。目の前に雛を持ってきて、首を傾げて。

 とりあえずは続けることにしたみたいだ。雛の羽を持ち上げて。

 

「がおー!」

 

 がおー入りました! ペンギンはきゅー! だったけど。いや、でも、がおーもちゃんといたよ。背中のラッキーが必死になってがおーしてたよ。

 

『なんて涙ぐましい努力なんだ……』

『誰かれんちゃんに教えてやれよ……』

『ラッキーがんばれ、超がんばれ』

 

 うん。終わったら、教えてあげよう。

 さてさて。シロクマはというと、もう見るからに困惑してた。ですよね。

 見つめ合うれんちゃんとシロクマ。この子たちの間では一体どんな会話がされているんだろう。されていることになっているんだろう。それは誰にも分からない……。

 シロクマが突然歩き始めた。れんちゃんがそれを追いかけていく。何かが、進んだらしい。

 

「誰か解説してくれない? もう意味がわからないよ」

 

『こっちが聞きたい』

『戦闘にはならなさそうだよな』

『私もまったく知らない。是非とも、最後まで見たい』

 

「え、本当に誰も知らない? 他の人は?」

 

『言ったでしょ、ボスだって。みんな戦って倒したの』

 

「ええ……」

 

 いやでも、納得はできるかな。どう見ても戦闘する流れだったし、普通なら倒すと思う。

 シロクマが歩いて行った先は、大きな穴。この氷の下も池みたいだね。穴には真っ暗な水。れんちゃんは当然のように釣り糸を垂らし始めた。

 

「あー……。うん。とりあえずラッキーを助けようかな……」

 

『そうしてやってくれ』

『未だにしがみついてるのが健気すぎる……』

 

 れんちゃんに近づいて、背中からラッキーを引きはがす。ラッキーはれんちゃんのところに戻りたがってたけど、今日は私と一緒に見守っていてもらおう。きっとすぐに終わるはず。

 ラッキーを抱いて、もふもふする。うーん、やわらかくてふわふわ。かわいいやつめ。

 

『ラッキーはほんとにれんちゃんが好きだな』

『まだ戻りたがってるw かわいいなw』

『仲が良いのはいいことだね』

 

 ずっと一緒にいるぐらいだからね。私にとっても、れんちゃんの頭の上にはラッキーが当たり前になってる。

 お、れんちゃんの釣り竿に反応が。れんちゃんはすぐに釣り竿を引いた。自動のシステムがあるから、すぐに釣れて……。あれ?

 なかなか釣れない。れんちゃんがすごく慌ててる。

 

「これってつまり……」

 

『釣ろうとしてるのは、それだけ大物ってことだな』

『おいおい何してんだよミレイ! 早く助けてこい!』

 

「あ、そ、そうだね! ちょっと行って……」

 

 私が駆け出す前に、シロクマがれんちゃんの背後に立った。まさか不意打ちか、なんて思ってしまったけど、ただの杞憂だった。

 シロクマはれんちゃんの体を持ち上げると、ぽーん、と上に放り投げた。れんちゃんも、必死になって釣り竿を手放さないようにしてる。その結果、大きな魚も一緒に空中に放り出された。

 大きい、本当に大きな魚だ。見た目はさっきの鮭と似てるけど、大きさが全然違う。シロクマよりもずっと大きな鮭だった。

 

「って、れんちゃあああん!?」

 

 さすがに高すぎる! 落下ダメージは、発生するのかなここ!? あ、いや、でも大丈夫かな、シロクマがれんちゃんの下に……。

 いやちょっと待て。

 

「シロクマごときに! その役目を譲れるかああぁぁ!」

 

『草』

『ですよねー!』

『いつだって妹を助けるのはお姉ちゃんの役目だもんね!』

『シロクマと張り合う理由がくだらなさすぎるw』

 

 くだらないとは何事だ! 私にとってはすごく大事なことだよ!

 私はこれでもそれなりにレベルが高いんだ。こんな初期エリアにいるようなシロクマごときに素早さで負けるなんて、いや速いなシロクマ! うっそでしょ!?

 

「負けるかこんにゃろおおぉぉ!」

 

『俺たちは……何を見せられてるの……?』

『シロクマと人間の勝負だよ。見れば分かるだろ?』

『ただし人間側が一方的に張り合ってるだけです』

『うん。わけわからんわwww』

 

 誰が何と言おうと! れんちゃんを助けるのはお姉ちゃんの役目なのだー!

 

「せいやあ!」

 

 シロクマを追い越して、れんちゃんが落ちてくる前にキャッチした。勝った!

 

「わわ……。びっくりした……。ありがとうおねえちゃん」

「いえいえ。ふふふ……勝ったよ私は……」

「え?」

 

『れんちゃんのこのきょとん顔よ』

『知るはずもあるまい……。れんちゃんを助けようとしたシロクマと張り合ってたなんて……』

『普通は考えすら出ねえわw』

『シロクマも固まってるからなw』

 

 ふふん。悪かったねシロクマ。

 

「お前もまさしく、強敵(とも)だった……」

 

『いきなり何言ってんの? いや本当に何言ってんの?』

『意味が分からなさすぎるwww』

『今日の奇行はまた一段とひどいなw』

 

 うるさいよ。

 

「あ、ラッキー! おねえちゃんの頭にいたんだね!」

 

 わふん、というラッキーのお返事。ぱたぱた揺れる尻尾がちょっとくすぐったい。

 

『お姉ちゃんの頭にいた、というパワーワードについて』

『なんだろう、疑問に思って当たり前なのに、それほど変に思わない』

『れんちゃんに毒されすぎだろお前らw 俺もだけどな!』

『何か問題が?』

『ありませんねえ!』

 

 なんだこいつら。こいつらの奇行、というか変な発言もいつもよりひどいと思う。

 

「あ、シロクマさん」

「へ? うわ……」

 

 いつの間にか、シロクマはすぐ隣にいた。やめてよ驚くから。君、一応肉食動物だからね? 怖いからね?

 

『まあその肉食動物すらぶっ殺すのが我々プレイヤーなわけですが』

『むしろシロクマがびっくりだよ』

 

 れんちゃんがきょろきょろと周囲を見回す。少し離れたところに、あの大きな鮭も落ちていた。れんちゃんが安心したようにため息をついて、満面の笑顔。

 

「シロクマさん、あのお魚なら足りるかな?」

 

 何の話だろう。シロクマには通じたみたいで、頷いてる。いや、人の言葉分かるの?

 シロクマはのっしのっしと大きな魚の方に行く。そして、吠えた。

 そして、ひょこりと、どこにいたのか姿を見せたのは、小さなシロクマ。シロクマの子供。

 

「なにあのちんまくてもこもこでかわいい殺人毛玉は!」

 

『落ち着けミレイwww』

『ミレイちゃん、どーどー』

『でもほんっとうにかわいいな。もこもこふわふわやぞ』

 

 だよねだよね。れんちゃんも目を輝かせてる。本当に、かわいい。

 小熊はシロクマの元まで行く。大きな魚を食べ始めた。ああ、なるほど、つまりこの子たちのご飯を釣り上げることが、本来のイベントだったらしい。

 

『いや気付かないから! うっそでしょそんな単純だったの!?』

『まあいきなり肉食動物に吠えられたら、びびるし戦闘にもなるわなw』

『でも確かに単純なイベントだし、多分あと二、三日でれんちゃんでなくても気付けただろうな』

 

 それはまあ、そうだろうね。ペンギンの時も釣りをしたわけだし、それを考えると十分に予想できた流れだったと思う。ちょっと不親切だとは思うけどね。

 あの子熊はシロクマの子供かな。二匹で仲良く魚を食べてる。とても平和な光景だ。

 

「おねえちゃんおねえちゃん」

「ん? どうしたの、れんちゃん」

「シロクマさんもホームに来るんだって」

「え」

 

『知ってた』

『まあペンギンの流れでシロクマだからな』

『なるほどね。あたしも早速やってこようかな』

 

 ああ、うん。まあ、そうだよね。ペンギンのイベントを終わらせるとペンギンがホームに来るんだから、シロクマを終わらせたらシロクマが来るのは道理だ。……いや道理か?

 ともかく、とりあえずはペンギンとシロクマのイベントはこれで終わりらしい。魚を食べ終わったシロクマも、そしてあのペンギンたちも、私たちに頭を下げるとどこかに行ってしまった。

 まあ、どこかというか、れんちゃんのホームにだろうけど。

 

「それじゃあ、行ってみますか!」

「うん!」

 

 ではでは、いざれんちゃんのホームへ!

 あ、いや、その前に。

 

「どうやって出るのこれ」

 

『草』

『先に確認しておけよw』

『ちなみに、ドーム状の部屋の中央に魔法陣があるから、そこに乗ったら出れるよ』

 

「ありがとうございます!」

 

 うーむ、最後の最後でしまらないね。

 

 

 

 というわけで、戻ってきましたれんちゃんのホーム。出迎えてくれるのはもふもふな子たち。れんちゃんは子犬たちを撫でてから、雪山に走って行く。表情から分かる、わくわくしてるのがよく分かる。

 ところで雪原には雪像もかまくらも残ってるんだけど、あれってもしかして消えないのかな。消えないんだろうなあ……。

 れんちゃんと一緒に雪山を登って、途中の凍り付いた池に行くと、

 

「わあ……!」

 

 ペンギンの親子三組と、シロクマの親子がいた。子供だけで遊んでいて、なんだか不思議な光景だ。シロクマは肉食動物のはずなんだけどね。

 そんな子供たちは、れんちゃんに気が付くと我先に集まってくる。撫でて撫でてとばかりにれんちゃんにまとわりつき始めた。

 

「ふわふわだあ……えへへ……」

「れんちゃんの顔が、すごくとろけてる……」

 

『でれっでれだな!』

『幸せそうで、俺も嬉しい』

『なんだろうな。人の幸せって鼻につくけど、れんちゃんの幸せは素直に喜べる』

 

「いや、さすがにそれはひねくれすぎでは?」

 

 人の幸せも喜んであげようよ。

 あれ、れんちゃんが戻ってきた。ペンギンとシロクマは……それぞれの親の元に戻ったみたいだ。ご飯の時間なのかな。それぞれご飯を食べ始めてる。親子仲良く。平和だね。

 そう思って眺めてたら、れんちゃんに服の袖を引かれた。はて、なにかな?

 

「どうしたの? れんちゃん」

「ん……」

 

『お? れんちゃんはどうしたんだ?』

『なんか、ミレイにひっついてるぞ』

『足にぎゅっとしてるの、なんかかわいい』

 

 ああ、これは、そっか。いきなりだったけど、ペンギン親子とシロクマ親子が原因かな? れんちゃんは私にきゅっとしがみついてる。

 だっこして、背中を優しく叩く。れんちゃんが強くしがみついてくるけど、気にしない。よしよし、良い子良い子。

 

『なんだなんだ?』

『れんちゃん、どうしたんだ?』

『大丈夫?』

 

 あはは。みんな優しい人で、嬉しいよ。

 

「多分、ペンギンとシロクマの親子を見てたら、誰かに甘えたくなったんだと思うよ。すごく、仲よさそうだからね」

 

『へえ……。もしかしてミレイの両親って仲悪いのか?』

『お前リアルのこと聞くなよ』

『マナー違反だぞ』

『あ、ごめん。流してくれ』

 

 別にそんな慌てなくても、言いにくいことがあるわけじゃないよ。

 れんちゃんの顔をのぞき込む。ん、いやいやしてしがみついてきた。寂しくなっちゃったのかな。今から病院に行って、面会とかできるかな……?

 

『ミレイ? どした?』

『本当に大丈夫か?』

『配信中断する?』

 

 心配性だなあ……。

 

「あまり気にしなくて大丈夫だよ。私の両親だけど、普通に仲良いから心配しないで」

 

『そっか。安心した』

『でも、だったられんちゃんはどうしてそんなに?』

 

「んー……。いや、さ。ゲームを終えたら、暗い部屋に一人っきりだよ」

 

『あ』

『ああ……』

『そうだな。そうだったよな……』

 

 普段なら、ゲームを終えたらすぐに看護師さんと一緒にお風呂に入って、すぐに寝てしまう。手が空いてる看護師さんがいればしばらく一緒にお話しすることもあるみたいだけど、あまりないらしい。

 明るい世界で遊んで、遊び終えたら暗い部屋に戻る。正直、私なら気が滅入る。冷静になって考えてみると、れんちゃんを誘うべきじゃなかったのかもしれない。

 れんちゃんの苦しみは、れんちゃんにしか分からない。私のしたことは、ただのお節介を通り越して、ありがた迷惑だったのかも。

 

『ミレイ! おい!』

『ミレイちゃんまで暗くなったらだめだよ!』

『お前が元気づけないでどうすんだこのバカ!』

 

「バカとは何だバカとは。追放するね」

 

『まって、いきなり正気に戻ってカウンターうちこまないで』

『やめろください』

 

 いや、まあバカなのは認める。私がうじうじしちゃだめだな。

 

「れんちゃん」

「なあに?」

「あれ?」

 

『おや? れんちゃんの様子が……』

『戻った? 戻ったの……?』

 

 れんちゃんは私の顔を見て、いたずらっぽく笑った、すぐに私から離れて、にっこり笑ってくれる。

 

「もう大丈夫! ごめんね、ちょっと甘えたくなったの」

「そっか。もういいの?」

「うん!」

 

 そっか。そうか。

 

「れんちゃんが成長していて、嬉しいような寂しいような、複雑な心境です」

「おねえちゃん……」

「やめて。冷たい眼差しは心にくるから!」

 

『なんだこれ』

『てえてえかなと思ったけどそんなことはなかったぜ!』

『いつも通りかな?』

 

 うん。そうだね。いつも通りだ。

 

「おねえちゃん」

「うん。どうしたの?」

「今日はもう疲れちゃった」

「そっか。じゃあちょっと早いけど、ログアウトしよっか。ちゃんとお風呂に入って寝るんだよ」

「はーい。おやすみ、おねえちゃん」

「はい、おやすみ」

 

 れんちゃんの姿が、消える。

 …………。よし。

 

「じゃ、ちょっと行ってくるよ」

 

『おう。いってらっしゃい』

『もう暗いからな。気をつけて行ってこいよ』

『れんちゃんによろしくね』

 

 視聴者さんたちは察してくれたらしい。本当に、みんな優しくて、だから大好きだ。

 私は配信を終了させて、さっさとログアウトした。

 



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側にいてくれるから

 

 ログアウトした佳蓮は、ぼんやりとしていました。暗い、とても暗い部屋です。朝でも昼でも夕方でも夜でも何時であっても変わらない、暗い部屋です。

 ここには、誰もいません。佳蓮しかいません。もちろん家族は毎日お見舞いに来てくれますし、お医者さんや看護師さんもこまめに見に来てくれます。

 それでも、やっぱりこの部屋にいる佳蓮は、一人きりなのです。いつも同じ、暗い部屋で、たった一人で夜を眠るのです。

 

 寂しいです。みんなと、おねえちゃんとお話ししたいです。

 心細いです。一人きりの夜なんて、嫌いです。

 

 どうしてわたしだけが、なんて、何度も思いました。

 みんなが羨ましい、なんて、毎日思っています。

 

 それでも。最近は。お姉ちゃんが毎日来てくれる。たくさん、たっくさん、楽しいお話を聞かせてくれる。それだけで十分でした。満足でした。

 そのはず、でした。

 

 あのゲームを始めて、お日様の下を歩いて、動物たちと触れ合って、やっぱり思うのです。私も、もっとお外で遊びたいって。

 でも、そんなもの、叶うはずのない願いなんです。

 

 寂しいです。心細いです。そう思ってしまう自分が、迷惑をかけてしまっている自分自身が、大嫌いです。

 何よりも。何よりも。

 

「こわい……」

 

 怖いです。一人きりが怖いです。未だに病気のことはよく分かりません。この先どうなるかも分かりません。治るかも治らないかも分かりません。

 もしかしたら、もっと悪化して、誰とも会えなくなって……。

 

「れんちゃんやーい!」

「わひゃあ!」

 

 急に誰かが佳蓮に抱きついてきました。慌ててそちらを見てみます。お姉ちゃんが、佳蓮のお腹に顔をうずめてました。

 うん。何やってるんだこの姉。

 

「おねえちゃん……? 何やってるの?」

「れんちゃん分を補充してる」

「えと……。お医者さん、紹介、できるよ?」

「まって。それはどういう意味かなれんちゃん。いや結構きっつい罵倒だった気が!?」

 

 がばりとお姉ちゃんが顔を上げました。目が合います。じっと、見つめ合います。

 ふへ、とお姉ちゃんが笑いました。

 

「れんちゃんはやっぱりかわいいなあ」

「お姉ちゃんは時々気持ち悪いね」

「ぐへえ……」

 

 お姉ちゃんが突っ伏してしまいました。本当に、いつも通りです。

 

「おねえちゃん、おこってないの……?」

 

 恐る恐る聞いてみます。怒られるのは好きではないですけど、やっぱりあの態度はいけないと思いました。

 

「なにが?」

「だって、あんな終わり方しちゃったし、冷たくしちゃったし……」

「あっはっは。いつも通り過ぎて気にもならないね!」

 

 嘘です。だって、そうなら、こんな時間に来るわけが……。

 

「本当だよ」

 

 お姉ちゃんが、佳蓮の頭を撫でてきます。優しく、丁寧に。

 

「私はさ。まだ学生の子供だからさ。気の利いたことは言えないよ。普段は明るいれんちゃんが、夜に泣いてるって知ってても、私は気付かない振りをして普段通りにお話しすることしかできないの」

 

 気付かれていたことに、驚きはしません。だって、お姉ちゃんですから。

 黙って聞いてる佳蓮に、お姉ちゃんは言いました。

 

「でも、一緒にいることはできるから。今日も明日も明後日も。一年後も十年後もその先も、私がれんちゃんと一緒にいてあげる。お仕事で忙しいお父さんお母さんの分まで、れんちゃんを愛してあげましょう」

「それはいらないかなあ」

「ひどい!?」

 

 うん。やっぱり、これでいいです。これが、いいです。

 

「れんちゃんに届け、私の愛!」

「ていっ」

「はたき落とされた!?」

 

 こうして、楽しくお話しできる。お姉ちゃんがいてくれる。その点だけは、誰よりも幸せだと自信が持てます。

 お姉ちゃんはおばかです。気の利いたことを言ってくれることはありません。気休めの言葉すらかけてくれることもありません。そして、注意はされても怒られることもないのです。

 ただ、側にいてくれます。一緒にいてくれます。誰よりも長い時間、佳蓮のために時間を割いてくれるのです。

 

 お姉ちゃんのお友達も大事にしてほしい、というのは嘘ではありません。けれどそれ以上に、自分のために時間を使ってくれる。佳蓮が寂しくて泣きそうな時は、こうして駆けつけて側にいてくれる。佳蓮のことを優先してくれる、ということが、こんなにも嬉しい。

 ああ、やっぱり、わたしはとても、幸せです。

 

「おねえちゃん、今日はお泊まりしよ? いいでしょ?」

「もちろんだよ。一緒にお風呂に入って一緒に寝よう」

「おねえちゃん、お勉強は大丈夫? 怒られない?」

「小学生の妹に勉強の心配をされるって、どういうこと……? いや、大丈夫。ちゃんと平均九十点キープしてるから」

「おねえちゃん、おばかなのに大丈夫って、先生が優しいんだね」

「まって。ねえまって。おばかって誰が言ったの?」

「おとうさん」

「よし分かった。帰ったらとりあえず、気持ち悪いから洗濯は別々にして、て言おう」

「……?」

 

 いまいち、よく分かりませんでした。

 

「ねえ、れんちゃん」

「んー?」

「もしも、ゲームをやめたくなったら、言ってね?」

 

 ああ、やっぱり、言われると思っていました。佳蓮は内心で苦笑して、おねえちゃんには笑顔を見せました。

 

「だいじょうぶ。平気だよ。ラッキーたちと会えなくなるのは、寂しいから」

「そっか」

「うん」

 

 それに、ゲームとはいえ、お姉ちゃんと一緒の時間が増えるから。というのは、黙っておきます。

 

「おねえちゃん」

「ん?」

「ありがとう」

「え? あ、うん? どういたしまして?」

 

 やっぱり、よく分かってないみたいです。けれど、お姉ちゃんらしいので、それでいいのです。

 佳蓮は笑いながら、大好きなお姉ちゃんに抱きつきました。今晩は、独り占めです。

 




壁|w・)誰よりも、何よりも、優先して一緒にいてくれる、だから嬉しい。
そんなれんちゃんの、ちょっとした心境でした。

今回の更新は、ちょっと忙しくなってきたのでここまでにしておきます。
またふらっと更新しにくるので、その時はよろしくお願いします……。


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