実力至上主義の学校で平穏を求めてみる (さっきのピラニア)
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入学式

駄文ですがお楽しみください。


あなたは普通を求めていますか?

 

→はい

いいえ

 

 

 

あなたは平凡を求めていますか?

 

→はい

いいえ

 

 

 

あなたは退屈を求めていますか?

 

はい

→いいえ

 

 

 

 

…あなたは戦いを求めていますか?

 

→はい

いいえ

 

 

 

 

あなたは強さを求めていますか?

 

→はい

いいえ

 

 

 

力はあるに越したことは無い。世界に目を向けるとよく分かる。力の強い国が弱い国を従えさらに大きな力になって世界を支配している。

従わない弱い国は蹂躙されるだけだ。力とは何のためにあるのか?それは自分を守るためだ。力にもいろいろある。地頭・運動・コミュニケーション・他人との駆け引き、その中で俺は単純に力を求めた。男の子だからね。俺なりの平穏な日常を求めて。

 

今日は高校の入学式だ。進学先は高度育成高等学校。希望先就職率99.9%、全寮制で最新設備を備える自由な校風の学校らしい。ただ一度入学すると外部との接触は一切禁止。家族を含めて、だ。ただ学校の周りは一つの町があり、暮らす分には不自由しないらしい。

 

事前に俺は1年B組だと封筒が来ていたので移動する。教室に入ると生徒がちらほらいた。とりあえず席に座って大人しくしておくことにする。人が増えてくるがこの教室には俺の興味のある人間はいなそうだ。チャイムが鳴り、ホームルームが始まる。めがっさ美人の女教師が入ってきた。教師からの説明を掻い摘むと、クラス替えは行われないこと、月の初めに10万ポイントが支給されるらしい。支給された端末を見ると10万ポイントと記載されていた。一ポイント一円でこれで生活を送る必要があるらしい。高校生一人にそんなにお金を毎日渡すのは流石に異常すぎる。財源どうなってるんだか。登校する際に先輩を何人も見かけたが、そんな裕福そうな印象は受けなかった。何か裏がありそうだ。例えば来月はポイント支給されないとかね。

 

説明が大方終わると入学式が始まる。他の生徒を見渡すと面白そうな生徒がちらほらいた。すげえでかい黒人とか、筋肉隆々そうなハゲ、一件普通そうなイケメンに女子にもちらほら。もしかすると、このクラスはハズレだったかもしれない。

 

入学式が終わる。今日の授業は無い。これから生活する街の探索に行こうかと思案していると、一人の女子生徒が発言する。

 

「みんな、注目してもらって良いかな?これから三年間同じクラスなわけだし、お互いの自己紹介をした方が良いかなと思って。」

 

彼女の一声で一人づつ自己紹介が始まる。少しピンクの入った金髪の少女は一之瀬帆波と言うらしい。不良かな?今時の女子はこんなもんか。最初にこんな事を言うのはとても勇気がいる。少なくとも俺はできないしするつもりもない。彼女がこのクラスを引っ張っていきそうだな。

 

「赤羽 巧です。昔、武道を少し習っていました。よろしくお願いします。」

 

無難な自己紹介を終え。今日は解散になる。最後に明日、委員を決めるからやりたい事を決めておいてねと言っていた。学級委員以外ならなんでもいいか。部活動の紹介があるらしいが興味がないからパス。そのうち勧誘がありそうだしその時でも良いだろう。

 

 

とりあえず校内を散策する。最新設備がある以外は普通の学校だ。ただ自販機の水が無料なのと、やたら監視カメラがあるのは気になった。そういえば教室にもあったな。

 

街を回ると、これまた至る所に監視カメラがあった。これから日本はこんな感じで監視社会になってしまうんだろうか。まぁ面倒事があった時に証拠になるから良いのかもしれない。寮の近くのスーパーに行ったが品ぞろえは普通だ。ただ、無料の食材もあった。普通は割引でおいてあるはずなんだが…しかも少し傷んでいる様子もない。このポイント制は何かカラクリがありそうだ。節約するに越したことはなさそうだ。

 

帰りにコンビニの近くを通ると、三人が言い争っていた。確か入学式にいたから全員1年生だった気がする。二人は個人的に興味がある人間だったから覚えていただけかもしれないけどな。言い争っていたがとりあえず和解したらしく解散していく。ただ喧嘩腰だった一人が先輩らしき人たちとまた喧嘩になりそうになっていた。血の気多いな彼。結局喧嘩にはならなかったが、先輩が奇妙な言葉を残していった。可哀そうな不良品と。この学校にはやはり何か特殊なシステムがありそうだ。喧嘩腰の彼と一瞬目が合ってしまう。

 

「何だコラ!俺は今、虫の居所が悪ぃんだ。これ以上関わんならぶっとばすぞ。」

 

「いやぁそんなつもりは…」

 

「なんかその口調がムカつくんだよ!一発殴らせろ!殴りがいのありそうな顔してるなお前。」

 

入学早々面倒を起こすつもりはないので、俺は脱兎のごとく逃げた。後ろから待てコラ!と聞こえた気がしたが無視して走る。逃げるが勝ちですよこういう時は。

 

 

 

寮に戻り、明日の準備とか適当に過ごしていると結構良い時間になる。今日はいろいろあったが、不良に絡まれるとは思わなんだ。次、彼に会ったらまた面倒な事になりそうな気がする。まぁその時考える事にしよう。

 

日課を行い、今日は眠りについた。明日から遂に普通の高校生活が始まる…普通だったらいいなぁ…。

 

 

 

 

 

4/1時点

 

氏名  赤羽巧

クラス  1年B組

部活動 無所属

 

学力   B

知性   B

判断力  A-

身体能力 A

協調性  D

 

備考 学力・知性共に平均以上で武道に優れ、Aクラス相当の実力があるが、昨年の行動の件によりBクラスに配属する。

 

 




他の作品を書く息抜きで書いていたら一話できたので投稿してみました。そっちの方が終わったら本格的に書き始めようかな~と思っている次第です。

感想、おまちしております。


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不良少年、再び

駄文ですがお楽しみください。


学校生活2日目。今日は中々いい天気だ。良いことありそうな気がする。

身支度を済まして家を出て教室に向かう。

 

「あ!お前!」

 

「げ。」

 

廊下に先日の不良少年がいた。そりゃあ同じ学年っぽかったし会うよね。何て日だ!

 

「おう、昨日俺から逃げた奴じゃねぇか。バスケ部の俺から逃げ切ったその足は認めるが、今日は逃がさねぇぞ。一発殴らせろ。」

 

「お断りしますぅ。痛いのは勘弁ですぅ。」

 

「お前の話を聞くつもりは無いんだよ!」

 

そう言って不良少年は俺に拳を放つ。

俺は咄嗟に前羽の構えを取る。運動能力が高い人間は武道をおさめた人間をフィジカルで負かすことができるが、彼はまだ高校生。そこまで身体能力の開きはないだろう。…武道の心得はないんだろう。確かに速いが…ただそれだけだ。

彼の拳を避ける、受け流す。蹴りも飛んできたが、後ろに飛んで避ける。周りから悲鳴が聞こえる…あまり目立ちたくはないんだけどなぁ…

 

「ねぇ!須藤くん止めなよ!彼が困ってるでしょ!」

 

一人の少女が間に入ってくる。おそらく同じクラスなんだろう。助かった。

 

「ごめんね。ケガはない?」

 

「大丈夫。止めには入ってくれて助かったよ。ありがとう。」

 

「どういたしまして。私はD組の櫛田桔梗って言います。あなたの名前は?」

 

「俺はB組の赤羽 巧だ。」

 

「赤羽くんだね。こんな出会い方なのは申し訳ないけど、これからもよろしくね。私、皆と仲良くなりたいんだ。」

 

「こちらこそよろしく頼む。あと彼には今後俺を襲わないように言ってもらえると助かる。面倒ごとは勘弁だからさ。」

 

「うん分かった。…須藤くんには私からちゃんと言っておくから。」

 

「さっきから二人で無視してんじゃねぇよ!」

 

「須藤くんも気が済んだでしょ、教室に行こうよ。…じゃあね赤羽くん。またお話しようね。」

 

「…おう。」

 

彼がまた食ってかかろうとしてきたが彼女が止めて教室に戻ってくれた。助かった。

彼の攻撃受け続けても問題は全くなかったが、倒してしまうのも大事になってしまう。もうすでに注目されてしまったから後の祭り感が否めないけど。俺は平穏で平凡な日常が欲しいのだ。

 

「ねぇ、さっき喧嘩になりかけてたけど大丈夫だった!?」

 

教室に入ると、一ノ瀬帆波が話しかけてきた。どうもさっきのいざこざを見られていたらしい。

 

「大丈夫大丈夫。見ての通り怪我してないでしょ。怪我しなければ万事オッケーよ。」

 

「でも喧嘩はいけないと思うな。」

 

「あっちから仕掛けてきたからなぁ。こっちは殴ってないから問題ないでしょ。監視カメラで証拠残ってるはずだし。」

 

「え?監視カメラなんてあったの?」

 

「そこら中にあるよ。分かりづらくしてあるけどこの教室にもあるしね。」

 

俺は黒板の上の方を指さす。よーく見ると小さいがカメラが仕込んである。

 

「ホントだ、良く気がついたね。」

 

「視線には敏感だからね。」

 

「フフッ何それ。もう一回言うけどもう喧嘩はしないようにね。」

 

「善処します。」

 

「もう、そこは絶対って言うとこでしょ。」

 

そこで授業の予鈴が鳴る。彼女のお説教も終了だ。うーん、疲れる。

 

「あ、チャイムなっちゃった。じゃ、またね。」

 

そう言って彼女は席に戻っていった。

 

 

ーー放課後

 

 

「みんな注目〜!じゃぁ昨日話していた委員を決めていこうと思います。」

 

黒板に委員が書き出され、各々担当が決まっていく。俺は学級委員以外ならなんでも良い。面倒いやつじゃなければ。

で、結局俺は保健委員ということになった。さっき喧嘩紛いの事したのに怪我の治療するのはお笑い種だ。自分の治療しろってか。

 

学級委員は最後まで揉めた。一之瀬ともう1人の生徒で多数決を取ることになり、一之瀬に決まった。俺?一之瀬に投票したよ。もう1人の事全然知らないから、そりゃ知ってるほう選ぶだわさ。

 

委員決めも終わったので帰り支度をする。何だかんだで、クラスの人とはあまり話せていない。そりゃ入学2日目から喧嘩したらそりゃ距離取られるよね。俺殴ってないけど。ハローぼっちな高校生活。出来ればこんな生活は送りたくなかったよ。

 

「ねぇ、赤羽くん。ちょっと良いかな?」

 

顔を上げると、話しかけてきたのは一之瀬だった。俺はまだぼっちは確定していないみたいだよ神様。その幻想をぶち殺せ。

 

「高校入学早々、ぼっちなりかけの俺に何か用ですかい?」

 

「えーっと、ちょっとこれからお話できない?たしか自己紹介で武道やってたって言ってたよね。D組の怖そうな彼にも物怖じしてなかったし、ちょっと話聞いてみたいなって。私が話していたら、安全な人だってクラスのみんなも思って、話しかけてくれるんじゃないかな?」

 

彼女はしゅっしゅって言いながら拳を突き出す。威力もないし可愛らしい動作だった。

 

「物怖じしてないのは勘違いじゃないかな。昨日絡まれた時はめっちゃ尻尾まいて逃げたからね。」

 

「そうなの?」

 

「そうなの。武道ってのは相手を倒すんじゃなくて自分を守るためのものだからね。合意のない相手を殴るのは御法度なのさ。」

 

「そうなんだ。じゃあさ、私にもちょっと教えてくれない?時間がある時で良いからさ。自己防衛はできないよりできた方が良いと思うし。」

 

「ちょっとなら良いけど、最近は完全に我流になってきたからあまり参考にならないかもよ。」

 

「強くなるわけじゃないから大丈夫。暴漢に襲われそうになった時とかに役立ちそうだしさ。」

 

「まぁそれくらいなら。」

 

「じゃぁ約束ね。あと連絡先交換しようよ、連絡できると今後いろいろ便利だし。」

 

「まぁ、そうだな。」

 

彼女と連絡先を交換する。今回の騒動で友達を増やす機会を失ったが委員長と連絡できるとのは悪くないかもしれない。一人ってのはかなり少ない方だけどさ。

 

 

今日も日課を終え、明日の準備を済ませてベットに入る。

今日はそこそこ災難な一日だったね!明日こそは平穏な高校生活になるよね、ハ〇太郎?

 

……誰も答えてはくれなかった。そりゃ部屋で一人なんだからそうなんだけどさぁ!

…もう寝よう…。




息抜きで書き始めたこの作品の方が筆が進みますね。なんでや。

感想、評価お待ちしています。更新が早くなるかもです。


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水泳

駄文ですがお楽しみください。


先日、盛大なフラグを建ててしまったけど、そんな問題がポンポン発生することはなく、普通の日常が続いていた。やっぱ平和が一番よ。

 

で、今日は水泳の授業。4月から水泳が出来る設備がある学校ってどれ位あるんだろうか。流石は最新設備を備える学校だよな。ありがてぇありがてぇ。

 

男女着替えてプールに移動する。屋根付きの温水プールとか始めてなんだよね。中学とかは吹きさらしのプールでガタガタ震えながら泳いでいたのを思い出す。雲泥の違いですよねぇ。

 

生徒を見渡すと思ったより欠席している生徒はいなかった。まぁ女子は多少いるけど。いろいろあるから仕方ないよね。数少ない知人である一之瀬は参加していた。健康美少女美ボディですよいやぁ眼福眼福。…前屈みにならないように心は無にしておこう。心頭滅却すれば顔まで猪木アル…違うか。

 

男子はグループに分かれて泳ぎ、その中からタイムの早い奴5人が決勝に進めるらしい。2回も泳ぐの面倒いな。まぁ一位の人は五千ポイントもらえるらしいので、できるだけやってみますかね。生徒の話に耳をそばだてていたとき、男子に現役の水泳部員がいるらしいという話があったので、流石に厳しいか。

 

先のグループでその水泳部員が泳いでいたのを見ていたけど速い速い。参考になるのでしっかり見ておきましょーねー。あと、もう1人も早い奴がいるな。たしかサッカー部の柴なんとか…だったっけかな。忘れた。

 

前のグループが終わり自分の番になる。手堅くクロールで泳ぎ、そのグループの中では一番になる。運動神経だけはそこそこだからね俺も。

 

全てのグループが泳ぎ終わり、俺の結果は3位だった。なんとか決勝って所よね。もちろん1位は水泳部の彼。だって速かったもん。

 

さてさて決勝戦。1位目指して頑張りますか。2位じゃ駄目なんですか!?…駄目だよだって五千ポイントもらえないじゃんアゼルバイジャン。

 

教師の笛を合図に水の中に飛び込む、飛び込みは3位か。順位的に妥当かな。

中盤で柴なんとかを抜き水泳部の彼と一騎打ちに。うーん地力が違うか。流石に追いつけない。

 

ふと思い出す。実は自由形は上半身クロールで下半身がバタフライだと少し速いとネットニュースで読んだ気がする。身体の負担が大きいらしいけどまだまだ若いからね。大丈夫っしょ。と、いうわけでトランスフォーム!お、少し速くなった気がする。

 

最後まで接戦だったけど、水泳部の彼に逃げ切られて結果は2位。2位じゃ駄目なんですか?駄目なんですよ…。

 

 

泳ぎ終わった後、水泳部の彼から入部しないか誘われたが断った。だって水泳で時間取られるの嫌じゃん。本業は武道だしねぇ。柔道とか空手部に所属するつもりはないけど。俺の考える武とは違うのよね。あれはあくまでスポーツよ。

 

 

「凄かったね赤羽くん!どこか運動部に所属する気はないの?」

 

 

「いやー運動部はちょっとねぇ。あの体育会系!みたいなノリが好きじゃないのよねぇ。時間取られるのも嫌だし。」

 

「そっか、残念。」

 

「そっちの結果はそれなりって感じだったねぇ。」

 

「アハハ、運動はあまり得意じゃないんだよね。勉強は良いんだけどさ。」

 

「誰にも適材適所ってもんがあるでしょうよ。それは神から先天的に与えられて、後天的に努力して伸ばしていくのだぁ!」

 

「面白い考え方だね!確かに人には適材適所ってあると思うな。赤羽くんは武道でしょ?」

 

「そうそう。ここではそんなに役立ちそうにないけどねぇ。」

 

「そんな事ないよ!運動神経も良いし、どこかで役立つ機会が来るはずだよ絶対。」

 

「お気遣いありがとさん。さ、授業も終わるし着替えましょっか。」

 

「そうだね!また後で!」

 

 

そう言って彼女は去っていった。いやぁ平穏な日常って素晴らしいねぇ。こんな日常が送れると良いんだけど。




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小テスト

今日は午前中に抜き打ちで小テストがあった。

教科は5つ。家庭科とか体育とか音楽ってテストが無い学校も多いけどこの学校もそんな感じなのだろうか?

難易度は中学生でも回答できるものから、明らかにまだ勉強していない内容のものまで。何か意図がありそうだけど分からんな。まぁ解ける所は解いていきましょうや。

 

小テストが終わりみんな大好き昼食のお時間だ。

俺は無料の山菜定食を注文し、席につく。味気無いが食べられないほどでもないし、お金も勿体ないので結構食べていたりする。無料だしね。タダは正義よ。

 

 

「…ねぇ、お昼ご飯一緒に食べても良い?」

 

そう言って一之瀬は前の席に座る。俺、まだ何も言って無いのだけれど…

 

「人気者の一之瀬さんが、ボッチの私の所にくるのは珍しいねぇ。なんか変なものでも食べた?」

 

「食べてないよ!失礼しちゃうわね!…赤羽くんってその山菜定食良く食べてるよね。それあんまり美味しく無くない?やっぱりポイントの節約してるってこと?私たちってそこまで困るほどじゃないと思うんだけど…。」

 

「節約してるってのもあるが、味は悪くないぞ、無料だし野菜もちゃんと取れるしな。普通の定食も食べるし、肉とかは晩飯で食べれば良いしな。ポイントはいざという時の為にあるに越したことは無いしな。」

 

「へー変わってるね。」

 

「そんな事聞く一之瀬も量が少ないんじゃないのか?」

 

「私はダイエットだよ!女の子は皆、体重を気にする生き物なんですぅ。」

 

「ほーそんなもんかねぇ。ダイエットは気にした事は無いな。」

 

「赤羽くんは細身だからもうちょっと食べた方が良いんじゃないかな?」

 

「極端に体重とかは増やしたく無いんだよね。いざっていうときの動きが鈍るからね。」

 

「ふーんそうなんだ。武道が関係してるってこと?」

 

「そーゆーこと。まぁもうちょっと食べても良いかなとは思ってるけどさ。」

 

「…で、ちょっと話は変わるんだけど、今日の小テストどうだった?」

 

彼女は話題を変えてきた。本題はそっちってわけね。

 

「…どうだったと聞かれてもなぁ。難易度にばらつきがあるというか…明らかに勉強していない内容が出題されていたな。」

 

「だよね!私も最後の方の問題は解けなかったもん!」

 

「そういえば、一之瀬は入学試験で首席だったな。首席で合格しているのにBクラスってのはちょっと引っかかるが…まぁそれは良いとして、中間試験の範囲が授業で習う所だ出るのかちょっと疑問ではあるな…この学校は何かと分からないことが多すぎる気がするなぁ。知らんけど。」

 

「そっかー、私あとで先生に試験範囲を確認しに行ってみるよ!」

 

「お、それはすげー助かる。」

 

「あとさ、この前話をしてた護身術?みたいなの教えてくれない?試験範囲と交換条件ってことで。」

 

「それは前から約束してたから良いが、じゃあ今日の放課後に屋上で良いか?」

 

「うん!」

 

 

ーー放課後

 

「はい、さっき先生から試験の範囲聞いてきたから、これメモね!学生の本文は勉強だからお互い頑張ろ~!」

 

「俺は勉強は至って普通なのだけど…まぁ出来る範囲で頑張るよ。それじゃあ始めますか!」

 

「よろしくお願いします!師匠!」

 

ふんす!、と彼女は気合いを入れているみたいだけど、そんな難しいことは教える気はないぞ。

 

「んじゃぁ、一つ質問だ。一般的に女性が男性に力で勝るにはどうしたら良いと思う?」

 

「ええと…筋トレする…とか?」

 

「ある意味では正解だけど、それは現実的じゃない。答えは相手の力の弱い箇所で勝負することだ。で、もう一つ質問。その箇所はどこだと思う?」

 

彼女は俺を上から下まで見ながら考えこむ。

 

「…指?」

 

「イーグザクトリー!そう、指を自分の手で掴めれば力では負けることは殆ど無い。と、いう事で、指を取る練習をしてみようか。あくまで練習だから実戦で同じことが起こるかは分からないけどね。」

 

「はい!師匠!」

 

「よろしい。おそらくだけど、相手は一ノ瀬の場合だと、腕か胸に触れようと手を出してくるはずだ。それを弾いて、その指を逆に掴んでやる。できれば一番弱い小指がベストかな。で、あらぬ方向に引っぱってやれば部分的にだけど力で勝つことができる。んじゃ掴む所までやってみようか。」

 

そう言って俺は何度か彼女に動きを見せた後に実践してもらう。最初はゆっくり、そして徐々に速さを上げながら身体で覚えてもらう。飲み込みが早いようで助かりますねホント。

 

「で、次が本番だ。結論から言うと怯んだ相手に思いっきり金的を食らわす。それで一人なら無力化できるはずだ。じゃあ実践してみようか。」

 

「え?赤羽くんに私が…その…金的するの?大丈夫なの?」

 

「そうそう、遠慮はしなくて良い。んじゃ手を弾くところからやってみようか。練習だけど手加減はしないようにね。本番でできないと寧ろ自分が危ないからね。あと指は曲げないでくれよ、流石に痛いから。」

 

「…うん…分かった。」

 

そう言って俺は右手を一之瀬に伸ばす。彼女はその手を弾いて小指を掴む。そして、俺に思い切り金的を食らわせる。中々良い蹴りだ。

 

「…うん。これくらい蹴れれば大丈夫っしょ。」

 

「赤羽くんは大丈夫?金的ってすっごい痛いって聞いたことがあるけど…」

 

「大丈夫大丈夫。空手にコツカケって技術があってね。これが使えれば金的を狙ってくる相手に不意打ちできるんだよね。まぁ使える人って殆どいないんだけどさ。」

 

「そうなんだ…。」

 

「それじゃあ今日はこれで終わりかな。これを実際の生活で使わないことを祈るよ。あと試験範囲聞いてくれてありがとう。」

 

「どういたしまして!こっちこそありがとう!流石にいきなり金的するとは思わなかったけどさ。」

 

「相手の弱点を突くのが戦いの基本さ。対人のスポーツだって基本的にそうだと思うぞ。」

 

「そうかにゃ?」

 

「そうなの。んじゃあ今日はこれで解散で。じゃあの、お節介焼きのスピードワゴンはクールに去るぜ、また明日。」

 

「アハハ変なの!じゃあね赤羽くん!また明日!」

 

と、いうわけで今日は解散になった。

 

俺の平穏っぽくない平穏な日常は続いていく。…試験勉強しなきゃな。面倒くさ。



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5月1日

本日も駄文ですがお楽しみください。


5月1日、待ちに待ったプライベートポイント支給日だ。学校に向かい教室で確認したが十万ポイントは振り込まれていなかった。履歴を確認すると、六万五千ポイント増えていた。教室内でもその話題で持ち切りだった。世の中毎月10万円も貰えるほど甘くないよね。六万でも十分多いけど。

 

担任に話を聞くと、授業態度や生活態度がポイントに反映されているらしい。クラスポイントという形で。Bクラスは650ポイント。

 

放課後、学級委員長である一之瀬がみんなの前で話をし、授業態度を良くしてこれ以上ポイントの減少は無いようにしようという結論になった。クラスの皆も納得している様子だった。団結力と理解の速いクラスで助かるし、妥当な判断だな。教室にある監視カメラで授業態度とかを観察していたのだろう。学校の中と街中のカメラの位置を頭の中に叩き込んでおいた方が良さそうだ。なんか喧嘩ふっかけてくる不良少年もいるし。できればカメラが無い場所でそういう事はやったほうが良さそうだ。

 

「ねぇ、もしかしてこのポイント制度って気付いてたりした?」

 

一之瀬が話しかけてきた。さっきの話し合いで何も発言しなかったのは不味かったかね。

 

「いんや全然。どうしてそんな事を俺に聞くんだ?」

 

「カメラの事もあるし、赤羽くんは察しが良さそうだから聞いてみただけだよ。そっかー残念。」

 

「俺はこれから予定があるから失礼するわ。話し合いも終わったようだし。」

 

「そっか、赤羽くんにはクラスの皆ともう少し絡んでくれると嬉しいかな。結構一人でいることが多いし。」

 

「いやぁ、あの一件以来少し距離取られてる感じなんだよねぇ。皆も不良に絡まれたくないだろうししょうが無いんじゃないかな。」

 

「アハハ、それもそうかもね。」

 

「んじゃ俺はこれで失礼するわ。」

 

「じゃあね、また明日。」

 

教室を後にして学校を回る。改めて見るとそこら中に監視カメラあるのよねぇ。自販機で無料の水を飲みながら校内を回る。自販機の水が無料で飲めるって逆に良いことなんかと思うんだけどどうなんだろうかね。

 

 

校内を散策したあと、近所のスーパーに向かう。惣菜コーナーで値引き商品を漁っていると、視界の端に入学式と時目を付けていた少女がいるのを発見した。名前は知らん。他のクラスだしね。

 

「何でこっち見てんのよ?なんか用?」

 

「用って程じゃ無いんだけど偶然視界に入ってね。俺はB組の赤羽 巧。君の名前は?」

 

「C組の伊吹 澪。よろしくするつもりは無いわよ。…もしかしてこの前D組といざこざしてたのってアンタ?」

 

「合ってるがどうして分かったんだ?」

 

「何となく同じ人種な気がしただけ。昔何かやってたでしょ。」

 

「まぁ多少はね。そのうちどっかで手合わせ願いたいもんだ。そこらの大人よりはよっぽど強そうだ。」

 

「今からでも良いわよ。ま、逃げるってんならそれでも良いけど。」

 

彼女はやたら自信ありげにこちらに言ってくる。

 

「あらら、それは願ってもないから手合わせお願いしようかね。できればカメラのないところでさ。」

 

お互い買い物もそこそこにカメラの無い路地裏に移動する。

 

「ルールはどうしようか?」

 

「どっちかが戦えなくなったらで良いんじゃない?」

 

「じゃあ、どっちかが参ったって言うのも追加で。」

 

「随分弱気ね。ま、私は参ったなんて言うつもりはないけど。さ、始めましょ。」

 

そう言って彼女は構える。綺麗な構えですねぇ。彼女は小柄だからリーチの長い足技主体で仕掛けてくるかな。どっちでも結果は同じかもだけどさ。俺は両手を顔の前に置き、前羽の構えを取る。

 

「はっ、随分弱気じゃない。守ってばかりじゃ私には勝てないわよ。」

 

彼女は構えの意図は読めるらしい。楽しくなりそうだ。

 

「初撃は譲ってやるさ。レディーファーストさ、なんつって。」

 

「そんな口、すぐ叩けなくしてやるわよ!」

 

そう言って彼女は上段蹴りを放ってくる。一瞬フェイントを入れてくるあたりは油断している様子は無さそうだ。片腕で受けた瞬間に逆方向に力を入れる。ほんの少しバランスを崩した彼女との間合いを詰め、彼女に首に手刀を寸止めする。

 

「これで一本かな。」

 

「私は参ったって言うつもりは無いって言ったでしょ!!」

 

そう言って彼女は俺の顔面にジャブを放ってくる。掌で受けて、距離を取る。威勢が良いなこの子は。確かに参ったルール追加したのは俺だけど、普通に無視してくるのは驚いた。

 

続け様に彼女は間合いを詰め拳を放ってくる。何発か躱し、受け流しをしながら反撃のチャンスを探る。彼女が回し蹴りを放った直後、間合いを詰め、両手首を掴む。そこから頭突きを食らわせて僅かに怯んだ瞬間に彼女の顎に軽いジャブを放つ。

 

俺のジャブはちゃんと決まったようで、糸の切れた操り人形のように彼女は崩れ落ちる。一応頭は打たないように支えておく。脳は揺らしたけどね。これで流石に決着だろう。

 

 

数分後、彼女は意識を取り戻した。こちらを一瞥して、

 

「…完敗よ。一発もアンタに当てられなかった。」

 

「まぁ何とかしのぎ切れたからな。」

 

「思ったより余裕そうだったじゃないアンタ。」

 

「俺は隙を見つけて攻撃しただけだからな。そっちの隙が無かったら、俺が負けていたかもしれない。」

 

「全く隙を見せなかったアンタが言うと嫌みに聞こえるわよ。」

 

「そりゃどうも。」

 

「私のクラスにはもっと強い奴がいるわよ。龍園とかアルベルトとか。」

 

「アンタ以外だとデカイ黒人にしか興味はないな。」

 

「アルベルトの事ね。龍園にも気を付けた方が良いわよ。彼は暴力でC組を支配しようとしている。そして頭も切れるから奇襲不意打ちには気をつける事ね。」

 

「忠告ありがとさん。もう立てるか?」

 

「もう立てるわ。そのうちどっかでリベンジするから覚悟しなさい。負けっぱなしは性に合わないのよ。」

 

「へいへい。んじゃあ連絡先でも交換しておきますか。気が向いたらまたやろう。実戦が少ないと鈍るのよね。」

 

「…分かった。」

 

 

彼女と連絡先を交換し、今日は別れた。いやぁ久々の戦闘らしい戦闘だったねぇ。たまには良いもんだ。しばらくはこれで退屈はしなさそうだな。




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中間テスト

さぁて、やってきましたよ中間試験。あれから、特に何もなく日課をこなしながら平穏な日常を俺は過ごしていましたよ。

勉強に関しては凡人ですからね。クラスの足は引っ張らないように勉強はそこそこにやってまいりましたが、どんなもんでしょうかね。

試験範囲はおおかた一之瀬からもらった試験範囲通りですねぇ。小テストで警戒はしていたけど杞憂だったみたいね。知らんけど。平均よりちょい上くらいは取れたんではないでせうか。

 

 

 

クラス内での俺の立ち位置は相変わらず。他のクラスより結束力が強いと言われているBクラスだけども不良は警戒されてしまうようなのよね。誤解だけど。一之瀬がそこはフォローしてくれてるようだけれども、第一印象は払拭し辛いなんですよね。時たま水泳部の彼が勧誘ついでに話しかけてくれる位。残念ながら断ってるけどね。

 

さっき結果も出て、クラスのポイントも増えて懐具合は全く寒くはない。自分へのご褒美にそのうち焼肉でも食べに行きましょうかね。ギュウカックギュウカック♪結果は可も無く不可も無く。勉強はそこそこ出来てりゃ良い派なので満足よ。

 

そういえば一之瀬から女子の護身術の指導をして欲しいってお願いされていたけどどうしようかね。ぶっちゃけ面倒くさい。流石にクラスの女子全員から金的はされたくないしなぁ。そんな事したらあだ名が金的になりそうで嫌です。可愛い女子に踏みつけられるのは良いかもね!(ヤケクソ)

 

最近は誰とも手合わせしてないから退屈だねぇ。平穏なのは良いことだけど、退屈は嫌なんですよね。人間って面倒くさい生き物ですよねまったく。

 

噂によると夏休みに学校で豪華客船での旅行があるみたいだけど、そんな美味しい話があるもんなんですかねぇ。美味しい話にゃ裏があるって死んだばっちゃんが言ってた。まだ全然元気に生きてるけど。

 

そろそろ新技も開発したいので、週末あたりに良い場所探しに行かないとなぁ。この街って監視カメラ多すぎて中々そういう場所見つけるのが大変なんだわさ。

 

 

で、放課後帰り支度をしていると一之瀬に話しかけられた。委員長も大変だね、皆の事を気にしないといけなくてさ。

 

「お疲れ赤羽くん!テストの結果はどうだったかにゃ?」

 

「まぁ普通よ。クラスの足は引っ張るつもりはないさ。腫れ物ポジションを確立しつつあるし面倒ごとは増やしたくないからね。」

 

「アハハごめんね私からも誤解は解こうと動いてるんだけど、ケンカの噂に尾ひれがついちゃって収拾つかなくなっちゃってるんだよね〜。酷いやつだとDクラスの人を半殺しにしたとかさ。」

 

「えぇ…そりゃあ距離取られるのも納得ですわ。俺から言っても説得力無いだろうし、一之瀬から言ってもらえると助かる。申し訳無いんだけどさ。」

 

「もちろん!赤羽くんもクラスのみんなと仲良くしてもらいたいしね!あと、女子の護身術の指導の件なんだけど、引き受けてくれる?」

 

「いーや、それはお断りしておくよ。これ以上変な噂立てられると困るしね。あと流石にクラスの女子全員から金的されるのは避けたい。」

 

「それもそうかもね。女子のみんなにはそう伝えておくね!」

 

「スマンな。んじゃ、俺は帰るわ、また明日。」

 

「うん!バイバイ、また明日だね!」

 

 

そう言って彼女と別れる。さて焼肉でも行きますね。腹一杯食うぞ!毒を食らわば皿までもっ!皿を食らわば盆までもっっ!!…って誰の言葉だったっけかなぁ。

 

たらふく焼肉を食べ、上機嫌で帰宅している途中、生徒会長の堀北先輩とばったり会ってしまう。入学式で代表挨拶をしていたような、していないような。まぁ全くの他人ってわけでもないので挨拶する。先輩だしね。

 

「堀北先輩、お久しぶりです。」

 

「赤羽巧か、久しぶりだな。この学校に入学してくるとは意外だったな。お前はもっと別の道に進むものだとてっきり思っていた。で、お前みたいな有名人がどうしてここに居るんだ?」

 

「夕飯の帰りですよ。あとこの街じゃあ堀北先輩の方がよっぽど有名人ですよ。」

 

「まぁそうかもな。どうだ?久しぶりに手合わせしないか?」

 

「先輩から誘ってくれるのはありがたい限りです。どこでやります?」

 

「…校内の武道場に行こう。あそこならこの時間に邪魔は入らないからな。」

 

「りょーかいです。」

 

俺達は武道場へ移動する。こんな場所で立ち合いするのも久しぶりだな。馴染む。

 

「どちらかがギブアップするまでやるか。手加減はしなくて良いぞ。」

 

「手加減するか決めるのは俺ですよ。じゃ、始めますか。」

 

堀北先輩は両手を胸の前に構える。オーソドックスな空手の構えですねぇ。俺は天地上下の構えを取る。前羽の構えでも良いけど堀北先輩程の相手だと警戒して打ってきてくれないからね。

彼は挨拶代わりジャブを放ってくる。半歩後ろ下がって避けるが、さらに踏み込んでくる。拳を下に受け流しさらに距離を取る。構えはもちろん崩さない。

 

「どうした?打ち込んでこないのか?」

 

「俺はそこまで攻め攻めのスタイルじゃないので。強みを生かせってやつです。」

 

彼は一歩踏み込み上段蹴りを放ってくる。俺は軽くしゃがんで避け元の体制に戻る。相手もすかさず顔面にジャブを放ってくる。俺はその拳を強めに上に捌く。…ここだね。

 

「シッ!!」

 

俺の蹴りは彼の正中線を捉える。正中線三段蹴り。流石に金的はしない。痛いからね。

モロに攻撃を食らった先輩は膝をつく。

 

「ぐガッ…参った。やはり勝てんな。」

 

「まぁこっちもこっちで鍛えてますから。急所突かれて完全にダウンしないのは流石ですね。」

 

「本気で攻撃してないのによく言うよ。…一つ質問だ。…一年間、お前はあそこで何を見てきたんだ?」

 

「あれ?この学校だと外部の情報って生徒は知ることができないんじゃなかったでしたっけ?」

 

「生徒会長は特別な権限があってな。」

 

「さいですか。その件は言えませんね。ただ、俺の求めるモノはそこに無かった。それだけです。」

 

「そうか。お前がAクラスに所属していないのは甚だ疑問だがな。」

 

「俺は武道しかないですからね。他は普通です。」

 

「何を言うか。それだけでも十分だ。」

 

「楽しかったです。またそのうち手合わせお願いします。」

 

「…なぁ、生徒会に入る気はないか?歓迎するぞ。」

 

「いやお断りします。プライベート第一なんで。」

 

「…そうか。気が変わったら声をかけてくれ。歓迎する。」

 

「頭の隅には置いておきますよ。」

 

そう言って彼と別れた。生徒会ね。入った時の特典ぐらい聞いておけばよかったかな。まぁそれは気が向いたらにしよう。

夜の街を歩く。様々な人が様々な立場を持って歩いている。ここは平和で平穏だ。俺はその平穏を噛み締めながら帰路についた。




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暴力事件

最近、CクラスとDクラスの間で暴力事件があったらしい。事情を知っていそうな一之瀬に話を聞いてみると、D組の例の不良少年とC組とのいざこざらしかった。

話をかいつまむと、不良少年くん呼び出されて殴り掛かられて、Cクラスの三人を返り討ちにしたらしい。ふっかけたのはCクラス側の三人らしいが不良少年の実力で3人を一方的に制圧が出来るだろうか?呼び出したのがCクラス側なら喧嘩慣れした人物もいただろうに。

監視カメラもある校内でそれを行うのは中々に難しいと思う。…まぁ俺は不良少年が3人いようが問題ないが。

 

そっちの話が盛り上がって、俺の件がうやむやになってくれないかなぁとか思っていたり思っていなかったりする。流石にぼっち街道まっしぐらじゃ学生生活っぽく無いしね。

 

「ねぇ、赤羽くんはどう思う!?」

 

「うーん…俺視点だと、あの不良少年がCクラスの3人を圧倒できるとは思えないねぇ。もしあの実力で3人に勝つとしたら俺なら動きながら戦うし、その時におそらく監視カメラに映ると思う。Cクラスに嵌められた可能性はあるかな。」

 

「そうかぁ、ありがと!すっごい参考になったよ!」

 

「参考になったようで何より。」

 

「あと、風の噂で聞いたんだけど、赤羽くんが生徒会に勧誘されたって本当?」

 

「それは本当だな。この前手合わせした時に誘われたんだよね。断ったけど。…堀北先輩もおしゃべりだねぇ。」

 

「実は私も入りたくて話をしに行ったんだけど断られちゃってさ。」

 

「へぇ、一之瀬みたいな人気者でも断られるんだねぇ。選ばれる基準が謎だな。」

 

「で、一つお願いなんだけど、生徒会長さんに赤羽くんから口添えしてもらえないかにゃ?もちろんお礼はするよ!」

 

「話するだけなら構わないけど交換条件として一緒に入れとか言われたら嫌だなぁ。生徒会ってなんか忙しそうだし。」

 

「あははは…、ダメ元でも良いから話してもらえると嬉しいかな。一緒に生徒会に入ったら楽しそうだし!」

 

「俺は実務はてんでダメだぞ。堀北先輩は多分他の意図で誘ってきたような気がするけどね。まぁ暇なときに話だけはしておくよ!」

 

「お願いします!そういえば赤羽くんと生徒会長さんって昔からの知り合いなの?なんか不思議な繋がりだよね。」

 

「昔、空手をやってた時に知り合ったって感じかな。学年が離れてるからそこまで繋がりは無かったはずなんだけど、覚えられてたみたいね。俺も一部では有名みたいなんでね。あ、入学当初のいざこざの件じゃないぞ。たぶんそれがなきゃこんな良い学校に入れなかったと思うし。」

 

「ふーんそうなんだ!生徒会の件の話はよろしくね!約束だからね!それじゃあまた明日!」

 

そう言って彼女は立ち去った。他クラスにわざわざお節介焼きに行くなんてお人よしだねぇ。生徒会もやろうなんて彼女も学級委員長で忙しいだろうに。彼女には彼女なりの行動原理があるんだろうさ。

まぁ俺は今回は傍観者を決め込むことにするか。興味ないし。

 

 

結果としてニクラスのいざこざは一之瀬の介入もあり、丸く収まったらしい。詳細は知らないけどな。実質Bクラスが介入してDクラスを応援した形になるけど、Dクラスを支援してCクラスとDクラスの差を盤石にしてからBクラスを叩きに来るって青写真をCクラスが考えていたのなら、一之瀬がDクラスに介入したのは結構正解なんじゃないかと思えてきた。一之瀬さんマジ政治家気質。

 

もしかすると、事の発端はC組の伊吹が気を付けろと言っていた龍園って奴の仕業なのかもしれないな。どうでも良いし興味ないけど、彼だけでなく出来れば誰からも目を付けられずに過ごしたいよなぁ。平穏な日常が壊されるのはこりごりだ。



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アルベルトと龍園との邂逅

ーー放課後

 

 

「なぁ一之瀬。これから堀北先輩の所行くんだけど一緒に行くか?」

 

「あ、赤羽くん!ついて行っていいの!?そっちから話しかけてくれるの珍しいね!」

 

「本題は別だけど、生徒会の話はお願いされていたからな。ついでだついで。」

 

一応堀北先輩にはこれから会いに行くことは連絡済みだったりする。先輩にアポを取らずにいきなり行くのは失礼だからね。なんかいきなり団子食べたくなってきたな。そのうちモールに売ってないか探しに行ってみようかな。

 

生徒会室に移動して堀北先輩に挨拶する。

 

「こんにちは、堀北先輩。」

 

「おう、赤羽…と一之瀬か。なんだ、赤羽はやっと生徒会に入ってくれる気になったのか?」

 

「それはこの前お断りしたでしょうに。こっちの一之瀬が生徒会に入りたいと言ってるのでその紹介と、ちょっと新技の実験台になってもらおうと思いまして。この学校で強くて信頼がある知り合いが堀北先輩しかいなくて。お願いします。」

 

「先輩を実験台としてこき使う後輩なんてお前くらいなもんだ。まぁそっち分野では将来有望なお前の頼みだ、付き合ってやる。」

 

「ちょっと広い所でやりたいんですが良いですかね?そこまで時間取らせないんで。」

 

「じゃあ生徒会室の廊下前でやるか。カメラもあるが、会長権限で今回のは不問にしておく。お互い同意がある上でやってるわけだしな。」

 

「お気遣いありがとうございます。」

 

そういって俺らは廊下前に移動する。

 

「先に言っておきますけどこの技はカウンター系なんで、先輩からの打ち込みお願いします。ただ強くやりすぎるとそっちが大怪我しかねないんで。そこんとこはそっちにお任せします。」

 

先輩は前回の構えを取る。俺は両手を腰の前に真っ直ぐ出して軽く握り右足を前に出して構える。

 

「お前はカウンター系というか、相手の攻撃を防いでから戦うことが多いよな。守備的なのも良いがクセになると防戦一方になって苦しくなるぞ。」

 

「相手の出方と実力を伺ってから戦うスタイルってだけですよ。あと攻撃の新技は現在開発中です。そのうち実験台になってもらうかもしれないので、そのときはよろしくお願いします。」

 

「まだ始まってないのに、もう次のお願いか。嘗められたものだな。」

 

「こういうのは先に言っておいた方が良いかなと思いまして。」

 

「相変わらず生意気な奴だ。…行くぞ!」

 

堀北先輩はこちらに突っ込み正拳付きを放つ。新総理の得意技だったな~とか思いつつ。相手の正拳に正面から掌を当てる。相手のインパクトの瞬間の反射を意識しながら。相手の力と自分の力を相手に流し込むイメージで。

 

相手が突っ込んできた速さ以上のスピードで後ろに吹っ飛ばされる。いやぁ、廊下でやって良かったね。狭い部屋だったら壁にぶつかってだろうし。

 

「ぐっ…!…合気か…。その年で良くやるもんだ。その道の達人でもその年齢で出来てなかっただろうに。」

 

「この分野だけは、俺は天才みたいなんでね。あと何発か自由に打ち込みお願いします。ちゃんと受け身も取ってくださいね。流石に怪我はさせたくないんで。」

 

二人で何度か手合いを続ける。身体にも馴染んできたし、あとは自分でなんとか練度を上げていけそうだな。

 

「ふぅ…先輩ありがとうございます。いい練習になりました。」

 

「…一応本気で打ち込んだつもりだったんだがな。これは末恐ろしい。こちらも業務で運動不足気味だったから良い運動になった。感謝するよ。」

 

「それはどういたしまして。」

 

「そういえば一之瀬と言ったか。」

 

「はい!」

 

「お前の生徒会入りは以前断ったはずだ。まぁ、そこの男が一緒に入るというなら話は別だがな。」

 

「ちゃっかり俺を生徒会に入れようとするの止めてくださいよ…。」

 

「…冗談だ。俺も忙しい身なのでな。これで失礼するよ。」

 

「ありがとうございました。またやる時はお願いします。」

 

 

 

 

 

「アハハ、また断られちゃった。…でさ!赤羽くんってホントは凄い人だったんだね!合気…ってやつ?…あんなの初めて見たよ!」

 

「まぁ一般人は中々見る機会は無いかもな。徒手空拳では結構有名なんだけどな。まぁカウンター技だから使い手って殆どいないんだけどさ。」

 

「へー!」

 

 

俺たちは雑談しながら教室の戻る。途中の裏庭に二人組がいた。たぶんC組のアルベルトと…誰だアイツ?

 

「龍園くん…」

 

龍園と言うらしい。伊吹が言ってたヤツか。

 

「よう、一之瀬。この前はDクラスと組んで裏でいろいろやってたみてぇじゃねぇか。」

 

「…お互いね。」

 

彼女は俺の服の裾を掴んで答える。二人はおそらくこの前の暴力事件について話し出した…と思うんだけど、俺の場違い感すごくね?帰っていいっすかね?

 

「…Dクラスを潰したら次はお前たちだ。せいぜい覚悟しておくんだな。」

 

彼も結構凄みのある雰囲気で話している。対する一之瀬は少し弱気だ。まぁ宣戦布告みたいな状況だし、そりゃ怯えるか。

 

「話終わったんなら、ちょっと良いっすかねぇ?」

 

「なんだぁ?テメェ……雑魚に興味は無い。失せな。」

 

「いやアンタには興味ないけど、隣の彼とは一度手合わせ願いたいのよねぇ。ここにはカメラも無いし丁度良い。」

 

「この俺に興味が無いとは良い度胸だな。それとも今ここでコイツとやるか?」

 

隣のでかい黒人が両手を鳴らしている。

 

「俺はそう言ってるんだが…。あと、この勝負はクラス間での暴力行為に当たらないとお互い約束してからにしてもらって良いかな。その方が後腐れなくやれるし。」

 

「…面白ぇ、ちょっとは腕に自信があるようだがその威勢がいつまで続くか見ものだな。アルベルト、やれ。」

 

彼がそう言うと黒人が突っ込んでくる。やっぱ彼がアルベルトって言うのね、覚えとこ。

俺は一之瀬の手を払い、アルベルトと対峙する。

前羽の構えを取り彼の拳を受ける。受けると同時に後ろに飛んで衝撃を受け流す。うへぇ、俺今5メートルは飛んだよな。新記録だ。流石にパワーではまだ彼には勝てそうにはないな。

 

さらに彼は突進してくる。流れで押し切る算段のようだ。確かにそれは正しい選択だ。相手が俺じゃなければの話だけど。

俺も前に出る。しゃがみ込みんで相手の足下に潜り込んでバランスを崩させる。そこから掌で相手の顎をかち上げる。…そして相手の突進の威力を殺さないようにして地面に顔面から叩きつける。うへぇ地面少し陥没してるよ。さっき合気の練習していた甲斐があったってもんだ。相手にも圧倒的なパワーがあったけど、技術不足だな。それじゃあ拳は俺には届かない。

 

彼は再び立ち上がったが、かなりフラフラのようだ。体格に見合ってめっさタフやん。それに引き換え、こっちはまだ無傷。彼は一歩前に進んだが、バランスを崩して顔面から倒れた。勝負アリかな。

 

「…勝負アリみたいだけど、アンタもやる?」

 

「……マジかよ。…俺は遠慮しておくぜ。B組にもお前みたいな奴がいたとはな…潰し甲斐があるってもんだ…帰るぞアルベルト、立て。」

 

「出来れば、潰しに来ないでもらえると助かるが、そうはいかないんだろうなぁ…。」

 

龍園は彼に肩を貸して立ち去ろうとする。結構いいやつじゃんか。

 

「あ、最後に一言。アルベルト、またやろうな。真っ正面から打ち合えるように俺も鍛えとくよ。」

 

彼はこちらを一瞥し親指を立てる。彼も武道家の端くれだと信じたいもんだ。

彼らが立ち去ると同時に一之瀬が近づいてきた。

 

「ねぇ、大丈夫なの!?凄い飛ばされてたけど!」

 

「んーそんなに問題ないかな。殴られるときに後ろに飛んでたしね。」

 

「そう…良かった…。」

 

彼女は俺の言葉を聞くと、安心したように座り込む。

 

「いやぁ彼とは手合わせして見たかったんだよねぇ。やっぱ力こそパワーよねぇ。憧れるねぇ。」

 

「…あんまり危ない事はしないでよね。でもありがと。」

 

「…よー分からんがどういたしまして?」

 

彼女の手を取って立ち上がらせる。腰が抜けている様子も無さそうだ。

やたら甘い香りが俺の鼻をくすぐる。どんな香水つけてるんですかねぇ、と疑問に思いながらも教室まで戻る。

 

「じゃあ今日は解散だな。生徒会の件は残念だったな。」

 

「うん!わざわざありがとうね!…」

 

一之瀬も俺を生徒会に勧誘してくる。自分も入りたいという算段もあるだろうけど、まぁやらないよね。俺に何もメリットないからね。

 

「お断リーです。俺に何もメリットないしな。」

 

「そっか…そうだよね。ごめんね無理言っちゃって。」

 

「そっちにもやりたい事があるんだろうし良いじゃないかな。利害が一致しなかっただけよ。んじゃ今日はこれで。」

 

「うん!バイバイ赤羽くん!また明日ね!」

 

 

…今日は中々に良い日だった。合気の練習と実践を両方できたわけだしね。ただ一つ課題が出来た。やはり大柄の相手とやるとパワー不足が目立つな。新たな鍛錬法も思いついたし、やってみますかね。




一之瀬の生徒会のタイミングがおかしいかもしれませんが、作者が勝手にアルベルトと戦わせたかっただけです。身勝手だけど許して…許して…
物理的にありえないという疑問は刃牙ネタがベースだからなんとかなるってことで了承していただけると助かります。


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彼の事

私の名前は一之瀬帆波って言います。

私には最近気になっている人がいます。

 

その人の名前は赤羽巧くん。

学校での彼の授業態度は至って普通です。先生に指名されたら答えるし、宿題も忘れちゃう様子もありません。見た目は良くも悪くもないです。悪く言っちゃうと、目立たない生徒って感じかな。

 

でも、入学当初にD組の人といざこざがあって、クラスのみんなとは不良だと思われちゃって距離を取られちゃってます。実は誤解で彼は手を出してないみたい。私も誤解を解こうとしてるんだけど、最初の印象って中々変えられなくて苦労しちゃってます。

 

そういえば、彼は昔、空手か何かの武道で凄い人だったみたい。生徒会長さんとも知り合いだったみたいで生徒会に勧誘されていた。彼は断ってたんだけどね。

私は断られちゃったのに、羨ましいなぁ。

 

縁あって彼の戦う姿を見たけど、良く分からなかったけど凄かった!相手はC組の山田アルベルトくん。とても背が高くて筋肉質な人だ。

なんかこう、相手の攻撃を避けてばーんどかーんって感じ。言葉にすると難しいや。…格好良かったなぁ。

 

彼は普段どんな生活をしているんだろう?

放課後、彼が帰るのにこっそりついて行きます。

 

彼は特にこちらに気付いた様子もなく移動していきます。

大通りからどんどん路地裏に移動していきます。何処に行くつもりなんだろう?

 

彼が路地裏の角を曲がったのでついて行く。曲がる時に突風が吹いてきた。前を見ると彼の姿はなかった。さっきまで居たはずなのにどこにいったんだろう?

 

「俺に何の用だ?」

 

後ろから心臓を刺すような冷たい声が聞こえる。ゆっくりと振り返ると赤羽くんだった。さっきまで前を歩いていたはずなのにどうやって回り込んだんだろう?

 

「あら、一之瀬じゃんか。…俺もまだまだだねぇ。」

 

彼は頭を掻きながらため息をついている。何がまだまだなんだろう?

 

「今どうやって私の後ろに回り込んだの?全然気づかなかった!」

 

「それは企業秘密だ。俺のとっておきの一つだからね。…で、何で俺の後を付けてきたのか聞かせてもらっていいかねぇ?」

 

「ただ赤羽くんがどこに向かうか気になったからついて来ただけだよ。他意は無いよ、本当だよ!」

 

本当に他意は無い。彼が普段どんな日常を送っているか知りたかっただけだ。

 

「ま、そういう事にしておくよ。だけど、ストーカー紛いの行動はあんまり良くないんじゃ無いかな?」

 

「そ、そうだけど…」

 

「例えば、だ。つける相手が龍園とか危ないやつだったとする。その時危険が及ぶのは確実に一之瀬の方だぞ。俺だったとしても、お前を襲おうと意図して誘い込んでいたらどうする?ここに逃げ場はないぞ。」

 

「赤羽くんはそんな事しないよ!」

 

赤羽くんはそんな事はしないと本当に思っている。彼は理由無く相手に暴力は振るってこない。

 

「まあ俺は面倒事を増やすのは御免だからそんなことはしないが、例えばって話だ。その時は確実にお前は酷い目に合う。たとえクラスの為としても、そういうリスクのある行動は止めておいた方が良い。勇気ある行動は賞賛するが力無き者は蹂躙される。これは肝に命じておいた方が良い。特にこの学校ではな。あまりにも一之瀬にとって危ないやつが多すぎる。」

 

彼は私に近づいて手首を取ってきます。そして鳩尾に軽く拳へ触れてきた。

 

「今ここで衝撃を加えられたら、一之瀬は呼吸困難で気絶する。そのままどこかに運ばれて情報を引き出されたり、慰み物にされて今後まともな学校生活を送れなくなるかもしれない。お前はBクラスの代表なんだ。行動には少しは注意した方がいい。現時点だと特にCクラスとかな。」

 

「…そうだね。」

 

もし、これがC組の龍園くんとかだったら、危なかったかもしれない。

 

「ま、荒事の時は俺を頼ってくれて良いよ。クラスの為なら俺も喜んで協力するさ。でも、あまり巻き込まないでくれると助かるけどな。」

 

「…うん。」

 

「寮まで送るよ。今こんな事言った手前だしね。」

 

「…ありがと。」

 

彼に見つかっちゃったので、彼の話は終わりです。結局彼の普段の生活は分からなかった。今度遊びに誘ってたら分かるかなぁ。




後ろに回り込んだカラクリは、また後日説明?します。察しのいい人はもう気付いているかもしれませんが…

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無人島①

本日も駄文ですがお楽しみください。


さて夏休み、学校の所有する豪華客船で無人島に移動しながらの2週間のバカンス旅行って事らしい。公的機関が生徒の為だけに無人島持ってるのおかしーなーとか思ったりしたけど、深くは考えないことにする。

それより無人島でのバカンスですよ!なんですかね、そこに学校所有のホテルとかがあって、そこで過ごす感じなんですかね。心躍りますよそれは。

この豪華客船も見事なもので、観劇やらレストランやらカフェやらで普通に素ん晴らしいまでの豪華客船。

 

で、無人島周辺に船が着いたというアナウンスがあった。ちょいと奇妙なアナウンスだった。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、ぜひデッキにお集まりください。間もなく景色が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

船のデッキに上がって無人島を眺めてると、ザ・バカンスって感じのなんか良い所の御曹司とかが所有している無人島だった。

ただ、無人島には200人近くの学生を泊まらせるホテルがあるようには見えなかった。客船で宿泊してバカンスを楽しむって話だったら嬉しいんだけど、普通はホテルに泊まるはずだよなぁ。

これはちょっと覚悟しておく必要がありそうだ。

 

追加で、島に上陸する際はジャージになること、携帯以外の私物の持ち込みは禁止するというアナウンスがあった。…きな臭くなってきたな。

 

船を降りて点呼を取ると、携帯も没収され、代わりに腕時計型の端末を渡された。これで生徒の位置や健康状態をチェックできるらしい。ずいぶん大掛かりなイベントなこった。

さらにここで一週間のサバイバル生活を行うらしい。簡易トイレとテント2つは支給する事、無人島用に300ポイントが支給される事、他の物品は無人島での特別ポイントが必要な事、比較的生活しやすい場所にチェックポイント的な所があってリーダーのみが場所の占有が出来る事、リーダーが当てられるか他クラスのリーダを外すと50ポイント失う事、リーダーを当てると50ポイント得る事、そして余ったポイントはクラスポイントとして加算される事…と、いろいろと説明された。全部は覚えきれないから後でマニュアル見せてもらおう。そんなに頭は良くないのでね。天才になりたい。

 

 

そしてこの特別試験のテーマは「自由」だそうだ。…こんな閉鎖と管理された島で自由とは何の皮肉なんだろうかねぇ。笑わせてくれるよ、草バエル。

 

 

「やっほー赤羽くん。大変な事になっちゃったね!クラスの皆でこれから集まって話をしようと思うんだけど良いかな?」

 

「おーきーどーきー。いやぁせっかくの平穏なバカンスだと思ったのに面白い事になっちゃたねぇ。退屈しなさそうだ。」

 

「アハハ結構ポジティブだね…もしかしてサバイバルとかって経験あったりする?」

 

「勉強とかとかは普通だがこういうのは好きな方だ。一人なら1週間とは言わず一カ月はいれるな。…ただ、集団では俺は役に立たないかと思うぞ。」

 

「アハハ、私は初めてだから分からないけど、流石に一カ月はかんべん今日かにゃ〜。」

 

彼女は頬を掻きながら答える。

 

「で、一つお願いなんだが、自由時間はある程度島の中を散策させてもらえないか?最低限クラスでやらないといけないことは手伝うし、集合時間時間には戻ってくる。クラスには迷惑をかけるつもりは無い。どうだ?」

 

「それは良いけど…私も付いて行っちゃダメかな?」

 

「最初は厳しいんじゃないか。一之瀬は人望もあるし、学級委員長としてクラスをまとめる方が適任だろうに。」

 

無人島用のポイントで購入できる物も有るらしいし、そういうのはトップである程度決めてもらった方が手っ取り早い。トイレとかは早めに欲しいよね。男子はともかく簡易トイレは女子には辛そうだ。

 

「そうだよね~!生活が落ち着くまでは拠点探しとクラスのまとめる方を優先するね!それで、時間があるときに赤羽くんに島の中を案内してもらおっかな。」

 

「了解!まぁ探索は何人か必要だと思うし、そっちの班に割り振ってもらえると助かる。」

 

 

Bクラスは全員集まって担当の役回りを決めていく。他クラスを様子を伺っていたが、動き始めだけはAクラスと同じ位になりそうだ。

結局、俺は探索班として行動することになった。さて、今回の試験のテーマは自由だそうだし、こっちも自由にやらせてもらいますかね。

 

 




さて、始まりました無人島生活。これを書くために、この作品を書き始めたと言っても過言ではなかったりします。

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無人島②

本日も駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。


まず最初は拠点探しから、これは複数班に分かれて時間を決めて散策する。運よく見通しの良い川沿いの場所を見つけたので、そこに拠点を構える事になった。バーベキューとかしたら最高に楽しそうだな~とか思いつつ拠点の設営準備に取り掛かる。一之瀬を中心とした首脳側が既に交換する物資の選定を済ませていた様で、設置はスムーズに行えた。さす之瀬さんですね。

設営も終わったので一応一之瀬に残りの仕事が無さそうなのを確認しておき、探索に出ると話を付けておく。何か食べ物でも見つけておけば問題は無いだろう。

 

散策中、人の通った跡のような獣道が幾つかあったが、あえて通らずに、他のクラスとばったり鉢合わせなのも敵対相手同士なので避けたいところである。

驚きだったのは、普段見かけるバナナだったりパイナップルだったりと、スーパーでお見掛けする食材が点在していることだった。クラスが飢えないようにとの学校側の配慮なのだろうが、少し苦笑いしてしてしまう。一人では大量には運べないので一つだけ頂いて後でクラスのメンバーを引き連れていく事にしましょうかね。

 

暫く無人島内を適当に散策していると、人が入れそうな手頃な洞窟を発見した。そして入り口にトイレが二つとAクラスのハゲ…確か葛城とかいうAクラスのリーダ格と取り巻きっぽい一人が立っているので、おそらくここがA組の拠点なんだろう。俺は茂みから出て話しかける。

 

「ハローハロー。B組の赤羽でっすー。ここがAクラスの拠点ってことで良いっすかねぇ…?」

 

「…Bクラスがここに何の用だ?」

 

葛城が威圧を含ませた声色で言い放つ。

 

「…そりゃあ、こんなクソ暑い中、特別試験で敵対クラスが二つ……偵察でしょう…?」

 

「…帰れ。こんな所で事を構えたくは無いのでな。こっちは2人でお前は1人。結果は分かるだろう?」

 

「普通なら、だけどな。お前さんはともかく、そっちは大したことなさそうだ。監視カメラも無いこの無人島は多少なりの荒事は学校側も認識してるんじゃないか?」

 

俺はふぅ…と小さくため息をつく。

 

「…フン。用が無いなら、さっさと自分の拠点に戻るんだな。」

 

ハg…葛城は汗を軽く拭い、こちらに背を向け、拠点内に戻っていく。敵対クラスにわざわざ拠点を口にするのは迂闊だと思うが、ありがたい情報なのでちゃっかり頂いておこう。ノーリスクローリターン。

 

「そっちの拠点も判明したって収穫もあったし、そうさせてもらいますよ。んじゃまた。この島でまた会わない事を願うよ。」

 

 

そう言って、俺もAクラスの拠点を後にした。万が一だが追跡されて拠点がバレると面倒なので、あえてグルっと遠回りして戻る。

拠点には出来なさそうなチェックポイント数個と、他クラスの拠点は気付かれない様には確認しておいた。とは言ってもCクラスは浜辺でBBQと海水浴、龍なんとかさんもバッチリバカンスを決め込み、物陰にいる俺を認識することは無さそうだったが。Dクラスはなんかバラバラでウロウロしていた。拠点を探してる途中なのだろうが、今時間なら普通はそんな所だろう。

ぼちぼち成果もあったのでBクラスの拠点へ戻った。他の生徒も食料を見つけた様で何人か応援を貰い、食料の回収に向かう。一之瀬が気を回してくれたのか、俺をそこまで怖がっていない生徒だけだったのはありがたい。あとこの状況でも件の水泳部彼は勧誘してくるので止めて欲しかった。

 

あとクラスメイトの一部とはいかない位には俺は怖がられているのは自覚しているので、寝泊まりを少し離れた所でして良いか聞いたが、テントが手狭な事もあり意外とすんなり了承が貰えた。奇妙な視線も向けられていたので、やべぇ奴のボルテージは1段階上がってしまった気がする。既にほぼMAXだから気にしない気にしない、一休み一休み。

ビニールシートもついでに頂戴し、蔦をかき集めて編んで拠点の見える所に簡易ハンモックを作っておく。こいつらを組み合わせておけば寝る位は問題ないだろう。

俺のゆるキャン(無人じゃない無人島生活)、スタートです。




お久しぶりです。久々に書くと書けないもんですね。
そろそろ長期連休なので、少しずつリハビリ兼ねて書いていけたらなぁ。とは思っていますよ。執筆中の煙草が美味い。

皆様も熱中症にはお気を付けください。それでは。


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無人島③

本日も駄文ですが、お楽しみください。


さてさて無人島生活も序盤も序盤。まだ二日目である。

我がBクラスは特に大きな混乱もなかった言い方悪いけどこの環境はちょっと不便なキャンプ位だしね、とは思っていたりする。

とはいえ、クラス全員から大きな不満も出させず回してのける一之瀬さん流石っス。さす之瀬さんマジパないっス。

 

そんなことはさておき、やはり直面するのは食糧事情。僕たち私たちは押しも押されぬ高校生、そう食欲旺盛な若い男女なのである。果物だけじゃぁ満足できない身体に、この甘ったれた豊かな現代社会でみっちりもっちり鍛えられあげてしまっている。ヘルシーな食事もお肌にゃ良いが、タンパク質たっぷりの食事にもありつきたい所存でございまする。

 

と、いうわけで、俺はロンギヌスの槍(尖った棒)を握り締め、川の中の様子を伺っていた。気分は川の濱〇優である。…この伏字の位置だと全然隠れてないなコレ。

ちょっと離れた場所でも同クラスの男子が川魚達を取ろうと躍起になっているけれども…戯れているようにしか見えないな、うん。あと魚が逃げるから波を立てるのは止めていただきたい。

 

俺は気を取り直して川の中を眺める。水源が良いためか川魚達はそこそこいる。

こんな所でも学校側が配慮しているのかと思うと、その苦労に涙がちょちょぎれる思いではあるが、食料が欲しいのでこの魚達には塩焼きになっていただきます。ちょちょぎれるって日本語、今日日聞かねぇな、久々に使ったわ。

 

川魚達は悠々と川の中を泳いでいるが勿論油断などしていない。俺達みたいな人間を、それより自然では狡猾な動物たちに常に注意を払い、警戒し、子孫を残すために懸命に生きている。

今回は俺とその魚たちの生存競争。ロンギヌスの槍(棒)を逆手に構え、神経を研ぎ澄まし、魚達の動向を伺う。魚の位置、水の入射角を思い出しながら、狙いを定める。野生の魚とて常に警戒できるわけではない。自分が相手から感じ取れるほんの僅かな隙を、外から殺意を持って付き込まれる槍に気付くことの出来ないが必ずある。俺は槍をすっく、と突き刺す。その手応えは勿論魚のもの。俺は彼らとの勝負に勝った。まずは一勝。心の中ではおっさんが取ったどー!と叫んでいるが恥ずかしいので表には出さない、というか出したら「何だあのイタイやつ…って」さらにクラスで浮くことになる。捕まえた魚は水の張った容器に放り入れ、次の獲物へと向かう。…一人分は兎も角、クラスの分の魚取るってめがっさ大変やんけ。

 

さくーっと魚を取って戻る。と、別クラスの知らん奴が増えていた。

話を聞くと、他の探索班がCクラスを追い出された男子生徒を発見し拠点に連れて来たとの事。彼のビジュアルは大分ボロボロである。Cクラスは浜辺で大いに海水浴を楽しんでいたし、それに異を唱えて龍園に懲罰を食らって追い出されたのだろう。暴れドラゴンこと龍なんとかさんがトップだと苦労しますねCクラスは。

 

Cクラスの男子によって、食いぶちは増えたが一番の問題だった食糧確保もも徐々に解決しつつある。Cクラスは論外としてAクラスも同等かそれ以上の速さで解決。Dクラスもぼちぼち終わると想定すると、何か仕掛けてきてもおかしくはない。リーダーを他クラスに当てられると50ポイント失う以上、最大でここから±約150程度の増減はある。仕掛けてきそうなのは準備万端の可能性の高いAクラス。俺が無暗に動いても徒労に終わるだけなので取りあえずは拠点で様子でも見てましょうかね。

 

三日目、ぶっちゃけると他クラスが攻めてくるとかの面白イベントは無し。DクラスがBクラスの現状把握に来たという点と、Cクラスがリタイアして船に戻ったという話、そしてDクラスにも龍なんとかさんに楯突いた人間が追い出されてCクラスの生徒を匿っている、という話だった。俺はというと食料調達ノルマ(魚)を終えて自家製ハンモックの上で休憩中。多少蒸し暑いが川のせせらぎと風通しも良いので、ほとんど普通のキャンプを楽しんでいる状況。平和だけど退屈しちゃうね全く。

 

今ある数少ない違和感のある情報と言えば、B・DクラスにCクラスの生徒がいることである。Cクラスはもう船に戻っている状況で戻らないのは居心地が悪いのもあるだろうけど、こんな現代人には過酷な場所に残り続けているのが不思議でならない。あくまで仮定の話だけれど、Cクラスがリーダーを見抜くためのスパイと仮定すると多少は納得できるのだが、真意は不明である。と、なるとスパイ(仮)は龍なんとかさんの忠実な部下、という話になるが、それを決定づける証拠が現状何もない。…情報収集のために多少動く必要がありそうですねぇ。赤羽、動きます。とか考えていたら下から声が。

 

「お~い赤羽く~ん。ちょっと良い~?」

 

下を覗くと我が学級委員長である一之瀬大先生である。ひょいっと俺はハンモックから降りる。

 

「え!マジ!…!大丈夫なの赤羽君!?…怪我とかしてない!?」

 

一之瀬がこっちに駆け寄ってくる。

俺の寝床は地上から5メートル位の所でプラプラしているハンモック。普通は。落ちたら怪我じゃ済まないからね。

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

一之瀬さん心配から一転、マジでドン引きのご様子。俺も俺にドン引きである。

 

「えぇ…降りるのはまぁ良いとして、どうやって登ってるの?」

 

「そりゃあ駆け上がれば良いだけだけど。」

 

「…それ出来るの赤羽君だけだよ…そうじゃなくて!ゴメンなんだけど、明日から魚もうちょっと取ってもらえないかなって。果物だけだと不満が出ちゃってさ。お願いします!」

 

「それくらいならお安い御用で。」

 

「どこか行くの?」

 

「ちょっとお散歩でも。じっとしているのも暇だしねぇ。」

 

「にゃはは、多少クラスは落ち着いては来たけど、ここまで余裕あるんのは赤羽君だけだと思うよ。完全にサバイバル楽しんじゃってるもん。」

 

「こーゆーの全然嫌いじゃないんでね。んじゃ、ちょっとしたら戻るよ。」

 

「はーい、いってらっしゃい。気を付けてね。」

 

そう言って俺は拠点を後にする。さて情報収集の始めますかっと。

 



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無人島④

本日も駄文ですがお楽しみください。


さて、愛しの拠点から移動して、今はAクラス拠点の洞窟の前。

見張りは先日いた葛城の隣に居た男子生徒、名前はまだ知らない。というか興味ないんで聞かなかったな。

 

「こんにちは~葛城君います~?」

 

「…あんな突っかかり方しておいてお前はまた来たのか…?今は葛城は奥で休憩中だ。で何の用だ。」

 

「いや何となく。葛城君元気かなーと思ってさ。」

 

「はぁ何言ってんだお前?頭おかしいんじゃないのか?」

 

「客観的にはそれは否定できない所が痛い所。で、呼んでもらって良いですかね?」

 

「うわぁ話通じないよコイツ…」

 

…くだらない禅問答をくりかえしていると、洞窟の奥から足音が近づき、帳が開く。葛城の登場である。何度見てもデカいなコイツ。それより気になるのが何でこいつ上裸で弓背負ってんの!?その出で立ちで下半身馬だったらケンタウロスって呼んでまうわ。

 

「…何事だ?……お前は確か…赤羽だったか…Aクラスの拠点に何の用だ?こちらとしては他クラスとは接触する気は無いんだがな。」

 

「そんな釣れない事言わないで相手してくれたって良いじゃないかぁ。強いてしまえば暇つぶし?俺とお前との仲じゃないか、話すのまだ二回目だけど。いやぁ~警備も厳重になったねぇ~。他のクラスと揉め事でもした?」

 

ただでさえ強面の葛城の顔が更に険しくなる。おー怖い怖い。隣の彼も大分ビビッてるじゃんかよ。

 

「…どうして気付いた?」

 

「いや分かるっしょ。こんな分かりやすい気配。」

 

木陰からAクラスであろう人物達が出てくる。数は全員合わせて11人、防衛にしては人数が多すぎる気がするねぇ。中に何か隠してるか情報を外に漏らさないためか。…もしかしてこの中にワンピースが!?ってそんなわけないよねピーッパッパラッポ。あいむすきゃっとま〜ん。

 

「この前は見逃してやったが、1つのスポットを1つのクラスが占有する、その暗黙のルールを破ったらどうなっているか分かってるだろうな?」

 

「勿論。現に俺は暇つぶしに来ただけ。争うつもりは無い。おーけー?」

 

「…フン、下らんな。怪我をしたくなければ大人しく帰る事だな。この人数を相手にするなら話は別だが?」

 

このハg…じゃなくて葛城の顔が相変わらず大分怖い。本当に高校生ってレベルよ。後ろからゴゴゴって音聞こえてきそうだもん。

 

「う~ん…棒を持った人を殴った事も無いカカシがいくら揃ったって、俺は制圧できないよ。ち・な・み・に・。先にそっちが手を出したらそれなりの対応は取らせてもらうよ。俺の懸念はそっちが勝手に襲ってきて返り討ちにして、Bクラスに迷惑かける事ぐらいかねぇ。」

 

俺は周りを見渡しながら答える。棒の持ち方が素人ばかりで吹き出しそうになる。

 

「…それとも…アンタが相手してくれるの。その獲物を使ってさ。」

 

俺は笑いを堪えながら葛城の背後の弓を指差す。多人数を相手にするのも良いが、やっぱりやり合いはサシでしょう。さて、相手はどう出るか。

 

葛城が返答する前に、横の生徒が棒での攻撃を仕掛けてくる。威嚇なのか単調でつまらない一撃。

俺は特に焦る事もなく、振り下ろされた棒を避けてすれ違い様に奪い取る。

 

「…そちら側から仕掛けて来たってことは、正当防衛は成立って事で良いっすかね。」

 

俺は奪い取った棒切れを上に放り投げる。

その棒切れ目がけ、シッ、と短く息を吐き手刀を振り下ろす。

カラカラリン、と真っ二つになった木片が足元に転がる。…後で薪にするんなら縦に割っときゃ良かったな。

 

その様子を見てA クラスの面々が後ずさる。

これはメッセージだ。次の仕掛けて来た奴はこの木片と同じになるぞ、と。

 

膠着状態が続く。誰からくるか、誰からやるか。そんな事を考えていると、

やはりこの静寂を破ったのはこの男。

 

「…聞きたい事がある。Bクラスを仕切っているのは本当に一之瀨か?お前が裏で糸を引いているんじゃないか?」

 

「いや、一之瀨で合ってるよ。俺みたいな人望もない奴が委員長務まる訳無いでしょうに。…で、やるの?」

 

「…やらん。…お前が裏で操ってるわけではないのは本当なんだな。」

 

「本当だよしつこいなぁ。…そっちの質問に答えたから俺からも質問だ。AクラスでCクラスの人間を匿っていたりするか?」

 

「…?…いや、そんな奴はここにはいない。」

 

「本当にぃ?」

 

「…お前は俺に悪魔の証明をしろと?」

 

「…うへぇ、一本取られましたねぇ。…AクラスにCクラスは匿っていない。そう言う事にさせてもらいますよ。んじゃ、俺は戻らせてもらいますよ。また暇だったら来ますよ。」

 

「…」

 

葛城は何も答えない。手を出してくるような気配もない。沈黙は金と言うが、裏を返せばYesともとれる。

俺も何も言わず。その場を去らせてもらった。特に追っ手が付いてくる事も無かった。

 

帰路につきながら思案する。内容はCクラスから追い出された人間がスパイかどうか、だ?

Cクラスの人間を匿っていれば白、そうでなければ限りなく黒に近いグレー。俺はそう予想した。理由は3つ。スパイ(仮)の外傷が顔面だけと言う事。動きを見る限り日常動作に支障が出ている様子は無かった。龍なんとかさんあたりが同情を誘う為、分かりやすい怪我を負わせたとすれば納得がいく。2つ目はBとDクラスが同盟を結んでいる現状で、AとCクラスが最も選択の可能性が高いのはこちらも同盟を結ぶ事。Bクラスが一番困るのはAとDクラスの同盟だったのだが、それは一之瀬が以前の暴力事件の際に回避している。最悪を想定していたのか、単なるお人よしだったのかは彼女に聞いてみるしか真意は分からないが。

3つ目は何かまではさっぱり分からないがAクラスの洞窟の中にあるであろう隠し物の事。それは今回の警備の人数の多さから推測がつく。あの人数を割いていれば多少なりとも食料に不満が出るはずだ。他クラスと比べて一番生存に必要な水源から離れているにもかかわらず選択してるのも気になる所。一番有力なのはCからAに食料中心に物資の融通。そして何か密約が交わされた。Cクラスが今後Bクラスを落とすための何か、と考えるのが妥当だろうか。もし、A・Cクラスに優待者を当てられた場合は100ポイント失う。と、いうことはおそらくCクラスは無人島の中に残っている。最低一人、または複数人で。もし一人の場合、島の中を探索してスパイを逃がすのは完全に愚策。俺の中ではスパイ(仮)の監視を行うことで固まった。

それにしても葛城も甘ちゃんというか慎重というか。あの時あの人数差で仕掛けて来なかったのは、あまりに消極的過ぎる。怪我の一つでも負わせられただろu…いや無いな。

 

 

 

拠点に戻り、俺は一之瀬の所に向かう。

 

「一之瀬、ちょっと良いか?」

 

「にゃ?どうしたの赤羽君?君から話しかけてくるの珍しいね!」

 

「ちょい~と気になる事があってね。Aクラスってどんなクラスなのかなって。雰囲気というかそんな感じ。」

 

「赤羽君が他人に興味持つの珍しいよね。…う~ん。私が知ってる事と言えば、Aクラスは葛城派と坂柳派で分裂してるって事位かな。今回は坂柳さんがお休みしてて、葛城君が代表として指揮を取っているみたいだよ。」

 

「ほぇ~そんなクラス事情があるのね。他のクラスと比べて、Bクラスはめちゃ平和ってことね。」

 

「委員長の仕事も大変なんだよ!孤立しちゃってる人もいるし!」

 

「それ完全に俺の事ですねホンマすいません…」

 

「それでさ、何か気になる事あるの。Aクラスの事?」

 

「…いや、俺の思い過ごしだったみたいだ。気にしなくて良い。」

 

「そっか…じゃ何か分かったら教えてね!約束だからね!」

 

「ほいほい。俺は寝床に戻らせてもらいますよっと。」

 

木を駆け上がり、俺は寝床へと戻る。ここだけが今無人島内で唯一の安息の場所だ。Aクラスの分裂しているとは知らなかった。つまり、今洞窟内には何か隠されている可能性もより高まった。かといって現状を打開できる策を思いつくわけでもないので、状況が動くのを待つしかない、スパイ(仮)が動きを見逃さない様にしないとなぁ。




ストックが早くも無くなりそうです。降りてこい新ネタ。降ってこい文才。


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無人島⑤

ガバガバな物語ですが、作者の道楽ということでご容赦くださると幸いです。


 

 

三日目以降、スパイ特に動きは無かった。

ぶっちゃけ暇である。多少増えた食料調達ノルマをクリアし、あとはこっそり監視するだけである。見る人が見たら、ホモである。まずうちさぁ、屋上(ハンモックの上)あんだけど....焼いてかない(日光浴)?

 

 

…六日目、遂に動きがあった。大分待たされました。…耐え忍ぶ者 それが忍びというものよ…

同じクラスの…たしか白波だったか…?と、スパイ(仮)が森の奥へと消えていく。俺も気付かれない様、後を追う。

 

俺は白波がカードを取り出し、スパイ(仮)が写真にバッチリ収めるのを見届ける。

というかウチのクラスのリーダーって白波だったのね。僕ちゃんBクラスなのに知らなかったよ(血涙)。リーダーが裏切りって…Bクラスは団結力が売りな所は返上しないとですなぁ。一番団結乱してる俺が言うなって話だけど。

 

二人が解散した後、スパイ(マジ)の尾行を開始する。

 

森の奥深くでトランシーバを取り出しかけた瞬間に、俺は彼の意識を刈り取った。

カメラとトランシーバーは別々にし、隠しておく。メモリーカードは念のため塵(物理)にしておいた。

 

俺が考えた案は二つ。尾行し、おそらくリーダーである龍園の居場所を付き止め、その現場を押さえる事。

もう一つは、スパイが確定した後、彼を裏で抑える事。

 

今回は証拠を写真で収めたのを確認した為、後者を選択した。前者はぶっちゃけ、俺自身へのペナルティを怖れたためである。つまりチキンである。ポンコツである。その方法だとリーダを当てられる事を防げないというのも理由ではあるのだけれど。

後者のデメリットは口頭でリーダーを伝える可能性がある事である。これはカメラとトランシーバーを持っている事から可能性は低いと考えた。彼は龍なんとかさんの潜伏場所を知らされていない。龍なんとかさんは全ポイント放出という大胆な案を使いながら、慎重さも持ち合わせたタイプだと推測した。クラスメイトを本当の意味で信用していないって言った方が正しいか。

ぶっちゃけ中途半端で穴だらけな予測である。これが俺の能力の限界ってことだ。後は運を天に任せるだけ。…と言いたい所だけど、監視生活からやっと解放されたので、深夜の外出をそのまま続けることにする。この圧倒的な解放感、たまんねぇっすわ。

 

木々を飛び移り、闇の森の中を移動する。気分は完全にナ〇トである。でも火遁も雷遁も土遁も出来ない模様。

 

暫くひゃっはーしていると、人の気配を探知。バレていないかちょっとハラハラしながら木上の陰に身を隠す。客観的に見たら俺の動き完全に猿である。猿かぁ…。

 

下の方を見下ろすと確かCクラスの伊吹がいるのが確認できた。俺は彼女の前に降り立った。

 

「うひゃぁっ!何!?…って赤羽か…」

 

「ど〜も〜!その反応酷くな~い釣れなくな~い?」

 

「U・Z・A」

 

「うわぁマジで酷いなコイツ…ってことは。Dクラスのスッパイさんは伊吹ってことね。オーキードーキー。」

 

「…どうしてそれを知ってる?」

 

「Bクラスにもスパイが潜入してたからな。いや~尻尾掴むまで苦労しましたよホント。」

 

「…アンタが知ってるってことは、アイツはミスったって事ね。使えないわね。」

 

「よっぽど俺よりBクラスに馴染んでましたよ。なんか言ってて悲しくなってきたな…」

 

「じゃ、私は船に戻るから。」

 

「もし俺が今龍園を探してるって言ったらどうすr…っていきなり仕掛けてこないでくんなまし。人が話してる途中でしょうよ。」

 

人が喋ってる顔に上段蹴りとか、えげつない事しますねぇ…いや実践格闘なら起こりえるかぁ。

 

「とは言え不意打ちの割に前みたいな技のキレが無いねぇ…誰かと一線交えた?それとも無人島生活疲れちゃった?」

 

「…ツッ!…うっさいわ。ねっ!」

 

罵声をこちらに浴びせながら攻撃の手は止める様子はない。

 

「手を出して来たって事は図星ですかぁ。手を出してきたのはそっちから。こっちもぼちぼち反撃させてもらいますよ。」

 

対人でしか試せない技があるのでやってみますか。流石に死んだりしないよね、多分。

勝負所と見たのか、はたまた無理を承知での特攻か、頭への蹴り。それを避けず、逆へ前に出て腕で止める。足技は如何に先端を相手に当てるかが要。それができなければ威力はほぼ無いに等しい。

前に出て防がれるとは思っていなかったのか、後ろへ退くのが僅かに遅れる。俺は掌を彼女の鼻と口に密着させる。掌を当てられた身体は糸を切れた人形の様に崩れ落ちた。…上手くいきましたねぇ。

 

空掌ーーー拳の中に酸素比率6%以下という、人間にとって有害な真空状態を作り出し、物体に接触させ急激に押し戻す技。吸い込めば意識を失い、その場所を抉りとることも可能である。

 

気絶した伊吹を木に預け、意識が戻るのを待つ。烏が俺にまとわりついたり、バイクを素手で止めたり、人を背負って川を渡るイベントは起こりません!

 

あと流石に意識の無い女子を放置するのはねぇ…薄い本が厚くなっちまうよ…!

とか要らんことを考えていると、伊吹が意識を取り戻す。俺を見るや否やクソデカ溜息をはきだした。

 

「…負けたわ。龍園の所でも好きな所に行きなさいよ。私にはアンタを止められない。」

 

「居場所を話す気は?」

 

「無い。というか分からない。多分明日の制限時間まではどっかに潜伏してるんじゃない?」

 

「ほ〜ん、じゃ俺は拠点に戻ることにしますかねぇ。」

 

「何、探さないわけ?私に情けをかけるつもり?」

 

「伊吹の今までの努力を無駄にしない俺なりの気遣いですますよ。保険をかけるなら龍なんとかさんを見つけた方が得策ではあるけどねぇ。」

 

「情けと変わんないじゃない…あと、さっきの技は何?逃げようとして気付いたら、もうやられてた。」

 

「それは企業秘密。情報引き出されたくないんで、ぼかぁは帰りま〜す。」

 

「あ!ちょっと待ちなさいよ!…クソ、逃げられた…」

 

 

 

――伊吹視点

 

龍園への報告が終わり、一応私の役割も終わらせることができた。想定外のトラブルもあったけど。これでDクラスは終わりだ。Bクラスも上手くいけば差を縮める事が出来る。

龍園の言いなりになるのは癪だけど、アイツに従うしかCクラスが上に上がれる方法は無かった。

 

船に戻る途中で、上から何かが落ちてきた。猿か何かかと思ったら、赤羽だった。一番出会いたく無い、逆立ちしても勝てる気がしない相手に。彼は軽口を挟みながらこう言っていた。

 

「もし俺が今龍園を探してるって言ったらどうすr…っていきなり仕掛けてこないでくんなまし。人が話してる途中でしょうよ。」

龍園が見つかったら無人島での私の苦労が、Cクラスが上に行く大事なポイントがパーになる。それはどうしても避けたかった。

 

アイツは話し続けるが攻撃する手は止めない。こっちが攻めているはずなのに弄ばれている違和感が拭えなかった。

 

決めてを欠いた攻めでは、直ぐさま反撃が待っている。可能性は限りなく低いが意識を刈り取れれば、最悪少しでもダメージを与えられれば良いと思って放った今日渾身の蹴り。

でもそれは通用しなかった。気付けば私は気絶させられていた。アイツの手が顔の前にあった所までは覚えている。でも何をされたのか全く分からなかった。

 

私以上に遥か先へと行ってしまった様な錯覚へと陥ってしまう。腕っ節ではそこらの男子には全く負ける気がしない。でもこの男には私の技が全く通用しない。たまらなく悔しかった。

 

結局、アイツは何をしたかも教えてくれず、かといって龍園を追うこともせず。何処かへ去ってしまった。疲労の色濃く残る身体を引きずり、私は船に戻った。次は絶対にひと泡吹かせてやる。

 




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無人島⑥、そして

ワクチンの副反応でダウンしてました。ぼちぼち更新再開です。


時間は変わりまして七日目、つまり最終日である。

 

ぶっちゃけやることは無いので、暇である。

暇つぶしに龍園探しでも行こうかとも思ったが、伊吹に探さないと言ってしまった手前見つけてしまうのも気が引ける。時間も無いし見つけられるか微妙ってこともあるけど。

俺は特に何をするわけでもなくハンモックでぶらんぶらんと暇つぶしである。もう少しで短い間だったが愛しのマイホーム兼秘密基地ともお別れである。これから待っているのは帰りの豪華客船での優雅なクルーズ…にしたい所である。

 

時間になったので全てのクラスが点呼場所へと集まる。

目立つのはCクラスの点呼場所にいる唯一の人物…やっぱりいましたね龍なんとかさん。一週間の無人島生活で大分ワイルドな見た目になっていらっしゃいます。

 

結果が発表となる。

4位、Cクラス0ポイント。3位、Aクラス120ポイント。2位、Bクラス190ポイント。1位、Dクラス225ポイント。

Bクラスの消費ポイントをきちんと把握はしていないが、おそらくスパイの手からはポイントを守れたんじゃないんですかねぇ…知らんけど。後で一之瀬に確認しておこう。

 

所は変わって船の中、無人島での生活は終わり、うって変わって豪華客船での天国の様な生活の始まりである。

 

船内の食事を含む全ての施設の利用にはポイントが必要ない。和洋中の料理からジャンクフード、スイーツ含め全て食べ放題。映画や演劇の公演、プール、カラオケ、ゲームセンターまで遊んでも遊び尽くせない程施設が充実していた。

それもあってか、生徒たちは少し遅れた夏休みを各々満喫していた。

 

で、俺はというと、船内に備え付けてあるトレーニングルームにいた。一般的なジムにある設備は一式揃っているし、公営よりも良いもの揃っているのがパッと見て分かる。何でもあるよねこの豪華客船。

ガララと扉が開き、誰かが中に入ってくる。珍しくお客さんが来たと振り返ると一之瀬である。というか俺がほぼ貸し切りなだけあって俺の部屋ってわけではないけどね!

 

「あ~赤羽君見つけた!どこにも居ないから無人島に永住するって教師を説得しちゃったのかと思ったよ~」

 

「…一之瀬でもそういう冗談は言うのね…」

 

「にゃはは、もしかして暇なときはずっとここにいた?」

 

「まぁそうだな、身体動かせる所がここ位しか無いのよね。暇な時は殆どここに入り浸ってるねぇ。」

 

無人島生活からの解放感か、遊びたい盛りの高校生しかこの船にいないからか。この船のトレーニングルームには人の出入りは殆ど無い。実質貸し切りなので快適ではある。

 

「そうなんだぁ…。で、気づいちゃったんだけどさ、赤羽君は今回の無人島生活で1ポイントも使わなかったよね?テントも使って無かったし、食事も困って無かったし…もしかして意識してたりした?」

 

「いや、そんな事は無いぞ。トイレは普通に使ってたしな。」

 

そういえばなぁ、と無人島生活を思い返す。厳密に言うとポイントが必要無かったと言った方が正しいのだが。

 

「いにゃあ~それは流石にノーカンでも良いんじゃない?赤羽君みたいな人がもっといたら楽だったかなと思っちゃったよ。」

 

「俺みたいな奴これ以上いたら、それこそ学級崩壊だろ…」

 

「それは確かに…」

 

彼女もマズい事を言ってしまったと思ったのか、一瞬の沈黙が流れる。

 

「…あとさ…もしかして無人島の時、裏で何かしてた?Cクラスの子、いつの間にかいなくなっちゃってたし。」

 

彼女もCクラスの人間はスパイだと推測していた様だ。クラス内に裏切り者がいたのは想定していない様だったけれど。

クラスをまとめて無人島生活を営むだけでも相当大変だったろうに。聡い女の子である。

 

「…いや、特に何も。Aクラスとやりあいかけたが、そこはとりあえず切り抜けたよ。」

 

「え!?何それ!大丈夫?怪我とか無かった?」

 

「全然問題なし。Aクラスはそこまで手荒な真似が得意な奴はいなかったしね。葛城はやれそうだったが、日和って仕掛けて来なかったし、期待外れというか何というか。」

 

「アハハ、そんな風に言えるのは赤羽君だけだよ。」

 

「違いないな。…そ~いえば時間ができたら聞こうと思ってたのだが、Aクラスの坂柳ってどんな奴だ?」

 

「坂柳さんかぁ。私も詳しい情報は知らないんだけど、葛城君とクラス内で対立してる女の子で、他のクラスに仕掛けてポイント変動させたい坂柳さんと、地力で差をつけていきたい葛城君で対立してるってイメージかにゃぁ。」

 

あ、女の子だったのね。眼鏡かけた線の細い弱そうな男子だと勝手にイメージしてた。

 

「ほぇ~、Bクラスとしては坂柳派に気を付けた方が良さそうねぇ。」

 

俺たちが情報交換兼雑談を交わしていると、扉がガラガラと開かれ、複数人の足音が中に入って来る。

制服に身を包んだ学生とそれに守られるように女子生徒が入って来る。このトレーニングルームに運動には似つかわしくない人間が多数を占めてしまったこの光景は異様ではある。

 

「逢瀬の所、失礼しますよ。それとも、また時間を改めましょうか?」

 

「え?この光景が万が一ラブコメに見えているとしたらどんな目してんの?もしかして有名な映画かラノベにそんなシーンあるの?もしあるんだったら教えてクレメンス。」

 

トレーニングルームというラブコメには程遠い場所である上、ちなみに走り込んでいた為に、俺は上裸で下ジャージである。

 

「…赤羽君空気読んでよ…」

 

一之瀬に釘を刺されてしまう。こういう空気をぶち壊したくなってしまうのは俺の悪い癖である。一応小声で謝っておくが、心の中ではデビルマンがスマァ――ン!って言っているので全く反省はしていない。

坂柳が一度咳払いをして話し始める。

 

「私は坂柳有栖と申します。」

 

「それはご丁寧に。俺は赤羽巧。で、一之瀬に用か?」

 

「いえ、今日は貴方に用があってきました。今まではノーマークでしたが、無人島で面白い動きをしていた様なので。興味本位で一目確認しておきたかっただけですよ。」

 

「ほ~ん。その割に引き連れてる人数を見ると穏便に済ませる気は無さそうだけれど。」

 

「これはボディガードですよ。敵が多い身のもので。」

 

「さいですか。今仕掛けて来るなら相手するが。」

 

「そんな事はしませんよ。この程度の人数で相手になるとは思っていませんし。」

 

葛城派との無人島での一件は把握しているらしい。

 

「…それでは、またの機会に。」

 

そう言って坂柳+ボディガード達はトレーニングルームから出ていく。うわトレーニングルーム使わないのか冷やかしかよ。俺の隣のレックカールが泣いてるよ。

 

「…ふぅ。びっくりしたね。」

 

空気化してた一之瀬が息を吹き返す。

 

「あれが坂柳ねぇ…葛城と対立してるって言うからどんな奴かと思ってたけど、なんか想像と違ったなぁ。でも頭は切れるんだろうなぁ…。」

 

「…で、さっきの会話で気になったんだけど、無人島でAクラスと喧嘩みたいになったって話だったけど、もしかして結構ヤバかったの?」

 

一之瀬が心配そうに聞いてくる。あまり掘り返してほしくは無かったが、話を蒸し返されてしまった。

 

「まぁ10人位はいたかねぇ…ほぼ全員素人同然だったから。威嚇がてら素手で木片割ったら戦意喪失してたけどな。葛城とは一回やってみたかったんだけどねぇ…」

 

「うわぁ…」

 

一之瀬さんドン引きである。

 

「私としては、あまり赤羽君にはあまり無茶しないで欲しいな。怪我してからじゃ遅いんだよ。」

 

「とは言っても俺はこれしか無いからねぇ…」

 

この学校生活はどちらかというと頭の良さ、チームワークが重視されている傾向があるように俺は感じている。というわけで俺はこの学校生活ではあまり自由には動きづらいのが中々辛い所だったりする。

 

「じゃ、私も戻るよ。あまり無茶はしないでね。」

 

「へいへい。」

 

というわけで、一之瀬との逢瀬(謎)も終わりである。…坂柳に聞きそびれたな。あまり会いたくはないが、今度聞いておこう。




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優待者試験、始まります。

総合日間82位、二次日間67位入りました。読者様のお陰です。
嬉しくてグルグルパンチです…


無人島での試験も終わり早数日。学校側から新たな試験をぶっこまれる事もなく、平穏な日常を過ごしています、どうも赤羽です。

僕ちんは相も変わらずトレーニングルームに入り浸る日々です。やりたい事をやりたいだけやれる環境って最高っすね。後は実戦だけです。学校戻ったら堀北パイセンにでも話をしよう。あの人、クラスとか生徒会とかでストレス溜まってそうだし。

 

そんな事を考えていると、携帯のバイブレーションが鳴る。この携帯ほぼ誰とも連絡先を交換してないのに鳴るのは珍しいっすね。自分で言ってて悲しくなってきたわ…

メールを見ると、学校側の連絡である。指定された時間に指定場所に集まれとの事。うん、試験の嫌な予感がする。嫌な予感に限って必ず当たるのって何故なんでしょうね。名瀬の兄貴、教えて欲しい…でも彼はダインスレイヴで既に帰らぬ人に…兄貴…

 

と、言うわけで彼の死への悲しみを乗り越え、時間通りに集合、部屋に入ると、Bクラスのメンバーが既に集まっていた。

俺も席につき教師の説明を受ける。ひっじょーに分かりにくい説明だが、ざっくり言うとこんな感じだと理解した。

 

毎日2回1時間の話し合いが合計3日で1日のお休み。

結果1はグループ内で優待者情報を共有し、裏切り者を出さずに全員ポイントを得る。

結果2は優待者グループが優待者を守り切り、優待者がポイントを得る。

結果3は裏切り者に優待者を見抜かれ、見抜いた側はポイントを得、見抜かれた側はポイントを失う。

結果4は裏切り者が優待者を外し、優待者がポイントを得、裏切り者がポイントを失う。

 

こーゆー駆け引きとか頭使うタイプの試験は専門外なのよねぇ…一之瀬とか頭の良い人たちにお任せしましょうず。

 

 

特に動きはなくネクストデイの朝。もはや根城としつつあるトレーニングルームで無限ランニング中である。先程、優待者か知らせるメールが来ていましたが、違いましたよ。何の基準で選ばれているのかしらん。

唐突に扉がガラっと乱暴に開かれる。公共施設は大切に使いましょうね。見覚えが無きにしもあらずの龍なんとかさんと伊吹ご一行である。朝早くから何の用かしら。

 

「よう。こんな朝っぱらからランニングとは随分ご熱心だねぇ。」

 

「あらあら、これは有名人の龍園さんじゃないですかぁ。試験以外の時間って結構暇なもんで。」

 

メーターを見たのか、龍園は少し引いている様に見えた。メーターには走ったのは3時間程、走行距離は60キロを超えた位を示している。随分遠くまで来たもんだ。

 

「…無人島で俺らのスパイに仕掛けたのはお前だな。」

 

「ほえ~。で、証拠は?」

 

「闇夜の中、奇襲できる身体能力があるのはお前しかいねぇ。」

 

「そりゃあ優秀な推理なこって。」

 

どうせ伊吹が話したか、Bクラスのスッパイさんとは落ち会えなかったんでしょうねぇ。

そんな情報無くても龍園は結局この結論にたどり付いたでしょうに。わざわざ確認に来るのは律儀というか何というか。

と、伊吹が唐突に踏み込み、蹴りを放ってくる。俺は片腕で軽く受け止めておく。…今日は元気そうですね、良かった良かった。

 

「…う〜ん95点。龍園さん?せめて犬の首輪位しっかり握っておいてくれませんかねぇ…」

 

「そいつが勝手にやった事だ。で、一つ気になる事がある。俺の存在に気付きながらどうして直接仕掛けに来なかった?」

 

「そっこのお嬢さんとの約束だったもんで。彼女の頑張りに免じてアンタを抑えに行かなかっただけ。で、Aクラスと差が縮まったので結果オーライ♪って感じよ。」

 

龍園が伊吹を睨みつけ、彼女は目を逸らす。…そこんとこは話して無かったのね…そこは伊吹の報連相が出来ていなかったってことで。ボクワルクナイモン!グレイモン!

思考を無限大の彼方へスッ飛ばしているにも関わらず、龍園は話を続ける。ちなみに俺の頭の中はご機嫌な蝶である。

 

「…食えねえ奴だな。」

 

「まー他クラスに関しては手出しする気はないけどねぇ、Bクラスに関わる様なら俺も動容赦はしないつもりよ。スパイへの攻撃は警告ってことで。一応自分もポイントかかってるもんで。あとプロテインのグレード落としたく無い。」

 

「ケッ、お前の出来る事なんて、たかがしれてるんだよ。退学したく無ければ大人しくしておくんだな。」

 

「あ、ちなみにAクラスの妨害なら大歓迎です!坂柳って奴に目ぇ付けられちゃったんで、なんか今後やりにくそうなんっすねぇ〜」

 

「…人の話聞かねぇなコイツ…」

 

「元々こんな奴よ。行きましょ。コイツといると頭がおかしくなりそうになんのよ。」

 

「違ぇねぇ。」

 

そう言って二人はトレーニングルームから出て行く。

っていうかぁ!ナチュラルに頭おかしい奴扱いしませんでした!?僕泣いちゃいそうよ。涙ちょちょぎれちゃうよ。

 

 

軽い運動も終わらせ朝飯に丁度良い時間なので、お片づけを済ませ移動を開始する。場所どうしましょうかねぇ…甲板の方にオシャンティーなカフェがあった筈だから偶にはそっちにでも行ってみますか。

カフェにとあるアベックらしき二人組が丁度退店する所だった。そういえばカフェってそういうお店でしたね。何か悲しくなってきたから引き返そうかしら。そういえばアベックって日本語、もう使われなくなりましたねぇ。

で、そのアベックはというと、無人島試験で一躍時の人となったDクラスの堀北…ってひとだったかなぁ。龍なんとかさんを出し抜いたんだから相当な人物なんでしょうねぇ。こちらが見ているのがお気に召さなかったのか、つんけんどんな口調で言葉を放ってくる。

 

「…何か用かしら?黙ってジロジロと見られるのは不快なのだけれども。」

 

「こりゃこりゃ失礼しました。Dクラスの有名人が朝早くに珍しいなぁと思ってねぇ。あ~申し遅れましたBクラスの赤羽巧です~お見知りおきを~。で、そちらの旦那さん。お名前は?」

 

「…綾小路清隆だ。というか旦那でも何でもないぞ。只のクラスメイトだ。」

 

「こんな冗談は会話の綾でしょうに。そう真剣に取りなさんなって。一応Bクラスとは同盟関係って事になってるでせう?」

 

「…まぁ、それはそうだな。」

 

「とは言いながらも、個人的には今一番殺り合いたいのはアンタなんだけどねぇ…そっちのお嬢さんもやり手のように見えるけれどさ。」

 

「…どういう意味だ?」

 

「あ~強さ的な意味でね。アンタみたいに真ん中に一本芯が通ってる人間なんてそうそう居ないもんでね。そっちがやる気の機会にいずれやりましょうや。」

 

「…」

 

そう言い俺はカフェへと入っていく。まずは腹ごしらえして、優待者の試験に臨みますかぁ…面倒臭いっすねぇ。




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優待者試験、始まってます。

先日、総合日間77位、二次日間62位入りました。読者様のお陰です。
嬉しくて3階の窓から5点着地です…


で!何だかんだで始まってしまいました優持者試験。指定時間に集合すると各々のクラスは既に集まっておりました。試験開始と同時にBクラス主導で自己紹介が始まっていく。あれ?何か事前協議してましたっけ?俺、何にも話聞いてないんですけど!?流れとしては議論を進めて行きたいBクラスと静観を貫く方向性のAクラス。騙し合いを前提にすると、少しでもポイントを稼ぎたいBと結果1狙いのAクラスとでは話は平行線になるわな。で、今回の方式ではBクラスの団結力はあまり有効に働かない試験で、Aクラスは能力が高いにも関わらずクラス単位で守りに入られている現状。こりゃあ厳しいっすわ。この時間で情報集めて優持者見抜くって普通に難易度高いっすよね。

 

特に大きな進展も無く一時間が経過する。改めて思うのは俺が頭の良さを問われる試験に向いて無いって事。とりあえず脳トレの本でも読んでおきますか。たぶん読まないけど。

 

そして2回目も大きな進展は無く時間は過ぎ去ってします。こりゃ俺には無理だわ。コミュ力が足らん。情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!そして何よりも ―― 速 さ が 足 り な い !!

…そんな冗談はさておいて今日はとりあえず解放された。今日も今日とて俺はトレーニングルームにいますよ。場所がワンパターンだって?ぼっちは人のいる所は苦手だからね!エネギリッシュ引きこもりよ!分かってくださいコミュ障の気・持・ち!

 

 

「やっほ ~!お!今日も頑張ってるね~!」

 

ふい~と扉に首を向けると一之瀬の姿、俺はランニングマシンを飛び降り、休憩がてらドリンクを片手に彼女の元に向かう。

 

「はろはろ~。で、今日は何の御用で?って優待者試験の話ですよねやっぱり。」

「うん!大体はその話。でさ、そっちのグループはどんな感じかにゃ?」

 

特に秘密にする必要も無いので、グループでの現状を正直に話す。ちなみに優待者でも無い。

 

「にゃはは…私たちのグループも大体そんな感じかな~。Aクラスの防御が固くって。時間内に優待者までたどり着くのは結構難しいかも。」

 

一之瀬が率いてるグループでも大変なのね。そりゃこっちも厳しいわけだ。

諜報活動(盗み聞き)も出来ないわけではないが、10以上のグループ、かつ全クラスの情報を仕入れて判断するのは物理的に無理だ。エース級が揃っている所に集中しても良いが、試験の禁止事項が細かすぎてノーリスクで出来る保証はない。今回の試験は俺と相性が悪すぎる。

 

「一応、私が知ってる分だけだけど、Bクラスの優待者の情報、赤羽君は知りたい?」

 

ぶっちゃけ、同じクラスの優待者の情報は興味が無い。同じクラスとはいえ、俺の場合は漏らす相手が、そして力づく聞き出される可能性が無いっていう方が正しいのだけれど。

 

「いや、止めとくよ。俺から漏れる可能性もゼロじゃないしな。」

 

「赤羽君はそんな人じゃないと思うんだけどにゃあ…」

 

「万が一もあるからな。試験の結果に直接結びつく重要な情報は、ここぞという限りは漏らさない方が良いでしょ。たとえクラスで信頼してる人物だったとしてもさ。信頼も一歩間違うと妄信になる。」

 

「そうなんだけどさぁ…知ってる事が多いと抱え込んでうがー!ってなっちゃって大変なんだよねぇ…」

 

グループ内での突破口が見つけられていない現状で、クラスの事も考えないといけない。流石の一之瀬も大変なご様子です。お疲れ様です。

 

「ここで俺から一つだけ言わせてもらおう…ドンマイ♪」

 

「…他人事。」

 

ぶ~いじわる!、と一之瀬がめがっさ不機嫌そうな顔で呟く。彼女としては俺に愚痴を聞いて欲しかったのかもしれない。俺なりの励ましのつもりなんだけど、どうやら伝わらなかったらしい。壊れるほど愛しても1/3も伝わらないのでしょうがないね!ドンマイ!俺!

友達全然いないから、ここで愚痴言っても漏れないだろうしね。ドンマイ!俺!泣きそう!

 

「あともう一つはさ、無人島試験の話。あの時の事いろいろと思い出してたんだけどさ、やっぱり赤羽君はBクラスの為に動いてくれてたんじゃないのかにゃ~って思ってさ。」

 

「ほ~ん。」

 

「Cクラスを追い出されてBクラスに来た子の事なんだけどさ、私も最初は疑ってたんだけど、Bクラスに馴染もうって姿勢を見ているうちにさ、情が移っちゃってまぁ大丈夫かな~って思っちゃってたんだよね。でもさ、6日目の夜に居なくなってちゃって。夜になっちゃったし探しにも行けないし、どうしよっかな~って途方に暮れてたんだ~。でさ、赤羽君どうしてるかな~って思って寝床に行ってみたら居なくってさ、もしかしたらって思っちゃったんだよね。」

 

「…俺が気晴らしに散歩行ってただけだとしたら?」

 

「それも何か違うかなって。試験の最初の方はさ、結構出かけるな~って思ってたんだけど、Aクラスに行った後位かな?食料調達とか最低限しか動いてなくてどうしてかな?って思ってたんだけど、赤羽君が独自で情報仕入れてCクラスの子がスパイだって判断したと仮定すると納得できるんだよね…どう?当たってる?」

 

「…まぁ、おおよそは。いや~参ったねぇ。」

 

流石、我が学級委員長である。腫物扱い気味の筈の俺の事もきちんと見ている。そして頭も切れる。だから、皆が彼女を信頼してクラスを任せられるのだろう。

 

「…あんまりさ、一人で抱え込み過ぎないで欲しいかなって。私たちは頼りなく見えているのかもしれないけどさ。私もいる。クラスの皆もいる。誰でも良いから相談して欲しいかなって思うな。何かいいアイデアがあるかもしれないし。抱え込み気味の私が言っても説得力無いかもだけどさ。」

 

「…俺なりに、クラスの事を考えて動いたつもりだったんだけどな。俺の出来る事には限界はあるしな。頭の出来もそうでもないし。本当にヤバそうな時は相談させてもらうよ。」

 

ふと見やって俺の目に映るのは委員長としての彼女。そしてそんなしがらみから解放された自分を心配してくれる普通の女の子。

 

「…もうこのクラスになって何か月か経つけどさ、今回の試験で赤羽君の事、実は全然知らなかったんだなって。」

 

「ま、そんなもんでしょ。相手の事を理解したつもりでも、そうじゃなかったりする。十数年生きてきて人には言えない事くらい、1つや2つも、それ以上できて、それは他人に容易に打ち明けられるもんじゃない。一之瀬もそうなんじゃないのか?俺は一之瀬がAクラスじゃないのが不思議でしょうがないんだけどな。」

 

「…そうだね…でも、私のはまだ秘密にしておきたいかな。」

 

そう言う彼女の瞳は俺を映していないように見えた。変えられない過去。彼女の中にある過ちと後悔。もしタイムマシンなんてものがあるんなら、どんな犠牲を払ってでも本当に本当に変えたかった過去が。

その瞳を見て俺も思い出してしまう。俺自身の過去、戻れない時間。何か出来たのではないかという後悔。どんなに努力しようが拭い払えない身体を蝕み、突き落とすどうしようもない毒を。

 

「で!も!それとこれとは話は別だよ!委員長の私にさえ黙っていたんだから、お詫びとして、今度何か奢ってもらうからね!」

 

「えぇ…まぁ、それはこっちにも多少非はあるので了解。あるんかなぁ…」

 

「あ!る!の!約束だからね。」

 

「…はいよ。」

 

沈みかけていた俺の気持ちを、強引に今に戻されてしまった。強いな、彼女は。約束を取り付けられてしまったのはしょうがない。

心に残った過去の棘。絶対に抜けないソイツを、いつか見向きをしなくて良い時が来るのだろうか。




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で、ここからは余談になります。
私の過去作をお読みの方は既にご存じかもしれませんが、どちらかというとシリアスな書き口が好みだったりします。
現状この作品では殆ど飄々というか陽気な書き口にしておりますが、
原作の関係上、人の心の中のトラウマ、そういったものに焦点が当てられる事があります。ですので、今後彼の過去、彼女の過去、何故彼がこの行動を取っているのか、そして彼女にどういった言葉を投げかけるのか。まだ私としてはフワッとしておりますが描写していきたいな、と考えております。そんな将来の話にも少し期待していただきながら、私なりに書かせていただきますので、応援していただけると嬉しいです。


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優待者試験、終わりそうです。

試験は過ぎ去り過ぎ去り、かくもよろしく良くも無く。…はい、5回目終了です。

こっちのグループの状況は相もかわらず、そのまんま東で膠着状態。個人的には早くこの時間終わってくれないかな状態である。何の成果もっ…得られませんでしたっ…!

 

落ち込んでいるかと言われればそんなことは無く割り切っているので、今日も俺はトレーニングルームで自由にやっている。次回の試験から本気出す。相性良いやつだったらね。

 

いつもの如く訪問者がやってきたが、今日も今日とて一ノ瀬である。最近は試験の話ばかりですんで今回は肩身が狭いのよね。クラス内では俺はいつも狭いですねスンマセン、反省してまーす(棒)

俺は特に進展なしとの情報を伝えておく、足手まといでスイマセンね本当に。

 

「あはは…そっちも大変みたいだね。私たちのグループは進展があったよ。」

 

「ほへ~ん。さっすがですねぇ。」

 

俺は大きく気にした様子もなく返事をする。

流石の一之瀬さん、略してさす之瀬さんである。こんな言ったら機嫌悪くしそうなので心の中にしまっておく。

 

「龍園君がB・C・Dグループで協力して、優待者を割り出そうって提案があったよ。Dクラスには即座に却下されて、こっちにより強く協力を求められて、最終的に断ったって流れ。おそらくだけど、龍園君はCクラスの優待者を全員把握してて、もしかすると他のクラスの優待者にも気づいてる素振りを見せてたかな。あと、兎グループで一緒の綾小路君と話をしてね、B・Dクラスで優待者かどうかの情報共有ができた所。」

 

クラス内の優待者情報入手ずみとか、龍なんとかさんパないっスねぇ…良い意味でも悪い意味でも、クラス内を一番盤石な状態にできてるのはCクラスってことか。

 

「ヤベぇ奴なのは勿論承知してたけど、龍園やりますねぇ…!…そんでもって綾小路ねぇ…。」

 

「綾小路君がどうかした?」

 

「まぁちょっと彼の事は思う所があってね…。とはいえ一之瀬は知らなくても良い情報かねぇ…。」

 

「赤羽君は私の知らない情報を持っていたりするし、教えてくれると嬉しいかな。」

 

「有益な情報では無いと思うんだが…まぁ隠しとく必要も無いし良いや。…綾小路は腕っぷしの点ではおそらく相当のやり手だ。一応、気を付けておいた方が良い。頭が切れるかは知らん。」

 

「う~ん…強者は強者のことが分かる…そんな感じなのかな?」

 

「まーそんな感じ。野生の勘ってやつ。」

 

「赤羽君より?」

 

「それはない。」

 

「そこは自身満々だね…。その点は凄く頼もしいかな。あまり嬉しくは無いんだけど…。」

 

「彼の実力は見せてくれなんだが、少し腕に覚えがある位では手を出さない方が良い位とは忠告はしておくよ。あんな高校生いるなんてチビっちゃうよホントに。」

 

「それ言っちゃうと赤羽君も綾小路君寄りの人なんじゃ…」

 

「そっち寄りというか俺はそっち側特化な人間なもんで。だから、今回の試験は完全にお荷物なんですよ。ひじょ~に申し訳ない。」

 

「私もやれる事はやってるけど、手ごたえは感じ取れてないし、むず痒い気持ちかな。」

 

「一之瀬は俺なんかより十分やってる様に俺は見えますけどねぇ。俺はお荷物にならない様に必死ですよ。」

 

「赤羽君も出来る事はやってもらってるよ。無人島でも助けてもらっちゃったし。これからの試験で活躍出来そうな時は活躍して欲しいな。クラス内で信頼してもらえれば友達も増えると思うし。」

 

「そう言ってもらえると助かる。万が一だが、荒事になった時は呼んでくれ。流石にこの試験では無いとは思うが。」

 

「うん!分かった!いろいろ気を使ってもらっちゃってありがとうね!」

 

俺の方がよっぽど気を使われてしまっているような気がするが…これが一之瀬の通常運転なのだろう。人間としての徳が高い。

 

「そ~いえばそ~いえば、髪型がいつもと違うけど、イメチェン?」

 

一之瀬はいつものストレートではなくお団子頭である。通称しまりん団子である。コンニチハ! 正式な結び方は知らん。

 

「アハハ…え~っと、この施設の中って何を利用してもポイントかからないでしょ。ケーキとか甘い物食べ過ぎちゃって…ちょっとお腹が…理想のウエストラインが…と、いうわけでちょっとダイエットを…」

 

「ほ~ん。」

 

アカバネアイで一之瀬をスキャン。特に体形が変わった様子は感じられない。お年頃の女の子はそこんとこが敏感なのでしょう。知らんけど。

 

これ以上特に話すことも無いので、各々マシンを使って時間を過ごす。俺はもっぱら走ってばっかりである。陸上部顔負けの速度で走り続けてるせいか横でひょえ~、とか聞こえるけれども気にしないことにする。

一之瀬もえっほ、えっほ、とか、こっちを意識してかうがーとかダッシュして見事スタミナ切れ起こしてたり横目で見ている分には愉快である。危なっかしいけど。

 

1時間程すると満足したのか一ノ瀬は先に戻るね、との言葉を残し部屋へ戻っていった。一ノ瀬が器具を物色していろいろと試したり、ちゃんと運動したりしている間も一定のペースで爆走していたので、普通に体力お化けとドン引かれた。慣れます。

彼女は少々お疲れの様子ではあったけれども最後の話し合いは大丈夫なのかしら。




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優待者試験、終了です。

ネタが出て来ねぇ…と煙草ふかしていたら何とか書きあがりました。
駄文ですがお楽しみ頂けると嬉しいです。


最終の6回目の話し合いが行われた。動かざること山の如し、何もしない事無能の如し。

んで、結果発表ー!(CV.浜田雅功)が行われまして結果はこんな感じ。

 

A:-200cl 200万

B:変動なし 250万

C:+150cl 550万

D:+50cl 300万

 

Cクラスの圧勝、Aクラスの惨敗。という結果となった。Bクラスの変動は無し。Aクラスとの差は縮まったがそれ以上に問題になりそうなのはCクラスの猛追である。無人島・優待者試験を顧みると、試験でのポイント差の変動は最大で400弱。次の試験次第ではCクラスがAクラスに躍り出る可能性も否定できなくなった。とはいえ、現時点でBクラスとAクラスのポイント差が一番縮まっている点があるので、もしかするとBクラスが浮上できる可能性もある。とはいえ特別試験でのBクラスの結果は芳しくないので上がれるかは微妙な所ではある。

特別試験を振り返ると、中心人物はやはり龍なんとかさんである。クラスを強引にまとめ上げ、ルールの穴を見つけ、敵を増やしながらも全体的には結果をきっちり残している。無人島試験のDクラスの動きも不穏だが、まずはCクラスへの対処が最優先に今後なっていくんかねぇ。そして目立ちながらも成果を上げられていないトップを一応ひた走るAクラス。今回の結果から、坂柳派が今後力を付けていきそうな気配があるので、葛城さんはそろそろ苦しい立場なんじゃないんでしょうか。

 

そーんな事を考えながら俺はいつものの如くトレーニングルームでトレーニングちう。ここでの豪華客船での生活もいよいよ終了。学校に戻れば残りの夏休みを謳歌して、そしてまた新学期が始まって。特別試験というクラス同士のぶつかり合いが今後激化していくのは必至だろうし、この学校では暫く退屈はしなさそうですねぇ。

とか考えていると、扉が開き人が入って来る。無人島試験以来、顔を全く合わせていなかった葛城である。珍しいお客さんである。

 

「あら?珍しいお客さんだこと。」

 

「…赤羽か。」

 

「オッスオッス赤羽でっす〜。」

 

「…相変わらず騒がしい奴だな。」

 

「人間の性根は簡単に変わらないもんで、そちらさんはどんな御用で?」

 

「優待者試験も終わったので気晴らしに、な。」

 

彼はトレーニングルームをひとしきり眺めた後、マシンに座りがっちゃこがっちゃこ、と筋トレを始める。元々の見た目がガッチリマンデーしてるせいか、ボディービルダーに見えなくもない。肩に小っちゃい重機乗せてんのか〜い!

 

「…Aクラスも大変そうねぇ。特に今回は龍園に一杯食わされちゃってるもんねぇ。」

 

「…俺としてはベストな選択だったのだがな。龍園は優待者の法則に気付いていたように見える。」

 

「ほへ~ん、あの短期間で見抜けるもんかねぇ…。龍園は大分、この学年では異分子ですよなぁ。」

 

「俺から見たら、お前も十分異分子だがな。…あの時、Aクラスがお前に仕掛けていたらどうなっていたと思う?」

 

「う~ん。A クラス贔屓に考えても、俺に多少ダメージ与えて、そっちの全滅でしょうねぇ…で、俺は洞窟の中を突撃隣の晩御飯で情報収集して悠々帰宅って所。」

 

「…そうか。」

 

「あの時の判断は正しかったって事さ。俺としては、戦りたかったけどね、お前含めて、な。」

 

「…一つ忠告しておく。坂柳には気を付けろ。対立するなら、俺以上に厄介で危険な相手だ。」

 

「アンタは厄介だとは思ったことはあるけど、危険とは思わなかったけどねぇ…。クラスが違う以上、坂柳とは対立するのが必至なのが難点よねぇ…。忠告ありがとさん。」

 

無人島といい優待者といい、守りに入った戦略が多い傾向があったため、葛城はあまり争い事を好まない印象がある。その点がクラス内で若干の優位を保てていた理由に関する俺の考えである。Aクラスという圧倒的に優位な立場にある以上、その必要が無いってのが正しいかもしれないけれど。

逆に言うと、坂柳は攻め、相手に仕掛けて来るタイプの相手であるという事。対処としては龍なんとかさんの様にルールの穴を突き、気先を制して優位な立場を譲らないか、戦略のどこかで横槍を入れて戦略自体を崩壊させるか、裏で何かしらの不可侵条約を締結するか。坂柳がどう仕掛けて来るか分からない以上。こっちとしては状況が動くのを待つしか出来ないのだけれど。

 

俺として最近気になるのは、クラス毎の人員の振り分けの塩梅である。Aクラスは坂柳・葛城、Bクラスは一之瀬、Cクラスは龍なんとかさん、Dクラスは堀北。坂柳は不明だが、試験の結果を鑑みると、CとDクラスが結果を残している現状。AクラスはCに嵌められたこともあるが、Bクラスは試験ではぶっちゃけ空気な気がしている。それが各リーダーの能力によるものか、ポイント差での偶然の悪戯か。入学当初の自力ではBクラスにつけていても、Dまで落ちる可能性は全然あるなと判断せざるを得ない。一之瀬がトップであることに全く不満は無いが、Bクラスとしては何か相手クラスの脅威となるきっかけが欲しい所ではある。

とはいえ、こんな事を考えていてもクラス状況が変わるわけもなく、Bクラスで誰かすげぇ奴が隠れてくれていれば良いですなぁ。




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過ぎる夏休み、そして占い

先日低評価頂きましたが何故か安心している自分がいます…高評価してくれる方のほうが嬉しいのは勿論ですが同時にプレッシャーなんです…


無人島・優待者の試験も終わり、みんな大好き夏休みが本格的にスタートである。

特にやる事も誰に誘われることも無く日々を過ごしていると、携帯が鳴る。なんじゃらほいじゃらと確認してみると、画面には一之瀬委員長の文字が。そういえば…遠い昔…おごる約束を取り付けられた記憶が…うっ、頭がっ…。

誰かに毒電波を浴びている様な気がしたので、頭にアルミホイルを取りあえず巻き付けておく。これでタイムリープもしないし、ゲル赤羽にもならないし安心ですね!

ポチリと携帯のボタンを押し、できる限りの爽やかボイスで電話に出る。

「お電話ありがとうございます!赤羽運送です!集荷のご依頼ですね!伝票はお持ちでしょうか?」

「え!あの…えっと…間違えまし…って!この番号が運送会社に繋がる訳ないよね!っていうか全然赤羽君の声だし!」

「お気づきになりましたか。」

電話口のドッキリって難しいよね。俺がボケ散らかして話が大分逸れていたが、一之瀬が一呼吸おいて話を切り出す。

「でさ!話を戻すけど、明日って時間空いてる?前話してた約束で私におごってくれって話あったでしょ!」

「さういえば、そんなお話もありましたねぇ…ええですよ、何処へでも付き合わせてもらいますよお嬢さん。」

「じゃあさ、今、流行りの占い師が来てるみたいで結構話題にゃんだよね~!」

そういえば夏休み限定で、流行りの占い師が来ていたという噂を聞いたような気がする。

「で、その占いって二人一組で行かないとダメみたいなんだよね。赤羽君が良かったらどうかな~って思って。」

「おーけーですよお嬢さん。」

「やった~!じゃあさ、場所とかの詳細は後で連絡するね!…あと、何かシャリシャリって金属が擦れる、みたいな音が聞こえるけど…」

「そりゃあ!今、頭にアルミホイルグルグル巻きにしてるからね!」

「…私、赤羽君の行動が不明過ぎて付いていけないよ…」

一之瀬が電話先で頭を抱えている姿が容易に想像できる。大丈夫、俺の自分の行動の意味なんて考えて行動していない。理由も、意味も、無いんだよ。

「じゃあ、明日ね!頭にアルミホイルは巻いて来ないでね!」

頭に、ってとは他の所には良いのか、ゆってぃスタイルは許されるって事か…ゆってぃ頭にも銀色の何か巻いてましたね、却下です。

「ほいほ~いまた明日~。」

 

 

と、言うわけで次の日。俺ら学生たちにとって心のオアシス、ケヤキモールへと向かう。

指定された場所に時間の数分前に到着すると、一之瀬は先に到着していた。

こちらに気付くと同時、胸をほっと撫でおろしている。そんなに俺がアルミホイル巻いて来る事を懸念していたのだろうか…信用無いね、俺。

 

「すまんね。待たせちゃったみたいで。」

「いや、全然大丈夫だよ!でも他の女の子と約束する時は待たせちゃダメだからね!」

 

雑談もそこそこに目的地である占いの行われている場所へと向かう。既に行列が出来かけているので、ちゃっちゃと最後尾に並び、順番を待つ。周りがカップルらしき人物ばかりなので普通に気まずい。どちらかというと俺はナンパ対策的な立ち位置なのだけどね。

順番が回ってきて、怪しいというか雰囲気のある簡易的な如何にも占いしますよ、っていう建物の中へポイントを支払って入る。雰囲気づくりって大切ですよね。ポップなお化け屋敷とか廃墟みたいな遊園地に入りたいとは思わない的な。俺としては占いってのは特に信じているわけではない。神社のおみくじ程度の信頼度位。

 

一之瀬の方は特に興味無しなので聞き流していたが、彼女はやたら真面目な表情で占い師の話を聞いていた。結構そういうの好きで影響されやすいタイプなのね。

 

そんでもって俺の番が回って来る。名前と生年月日、血液型を答え占いを行ってもらう。

大変苦難な道を自ら歩んできた事。遠くない未来、2度選択の時が迫られる事。その選択は今の現状を大きく変える選択になるとの予言だった。そしてこれから厄介な事に巻き込まれるとの事。

占いらしいというか何というか、当たり障りない予言めいた話である。選択の時が2度あるという占いの内容は多少気になるが。

 

まぁこんなもんか~と思いながら俺たちは建物を出る。一之瀬はちょっと満足げは表情をしていた。女の子ってこういうの好きだよね。次は一緒に行く相手考えてね。気まずくて俺大分まいっちんぐしてしまいましたよ。

 

 

占いが終わりまして、どこかで休憩しようとの事になったので、現在は良い場所を探してモール内をぶらぶら散策中である。人気の多い場所でも彼女本来のオーラの違いからかちょくちょく視線が飛んでくる。ついでに何でこんな奴と…的な視線も飛んでくるが、俺としてはどうしようもないのでガン無視である。すいませんね隣に居るのが冴えない奴で。

とか考えていると、ちょっとガラの悪い生徒含む数人組が近づいて来る。恐らく我が校の先輩方である。…このシチュエーション、進研ゼミで見たやつだ!本当にラピュタはあったんだ!面白イベントに遭遇したなと内心感動している内に、パツキンの先輩らしき人物が話しかけてくる。イベント前だけど、もうちょっと余韻に浸らせて欲しい。もしかして厄介な事ってこれですかね?

「そんな冴えない奴と一緒にいないで俺達と遊ばねぇか?ソイツよりはよっぽど楽しく過ごせるぜ。」

頭の中には冴えない奴とはなんですとぉ!プンスカプンスカ、と怒っている自分と、何も言えねぇ…、と水着姿で金メダルを取った某選手が同居している。頭の中でも俺は冴えない奴認定されているのか…

「…南雲先輩…」

一之瀬の知り合いですか、雰囲気としては何とも言い辛い所ではある。

「あの〜、一応、先約が入っているんでお帰り願えませんかねぇ…?」

「モブはすっこんでろ。」

「アッ、ハイ。」

俺、モブ扱いかぁ…これは進研ゼミでやった所じゃないなぁ…。

「で、どうだ一之瀬?何なら生徒会に入って俺の女になるか?」

と、言うことはこのパツキンは生徒会役員って事か…堀北パイセン、もう少しちゃんとした人選出来なかったんですかねぇ…生徒の模範とはほど遠い人物ですよねぇ…

「…今日は、丁重にお断りさせていただきます。それと…生徒会の事は…まだ、もうちょっとだけ、考えさせて下さい…。」

「…チッ、まぁ良い。結果は変わらないだろうがな。」

と、言いながらパツキン先輩が一之瀬に手を伸ばして掴もうとする。俺はすかさずその腕を掴んでインターセプト、Ya-ha-!

多少痛みを感じさせる程度にギリギリと握り絞めた後、パッと腕を離す。

「…テメェ…」

「…先輩とは言え、オイタはご遠慮願いますよ。一之瀬もあまり乗り気じゃないご様子なんで。」

「ここで痛い目に合わせても良いんだが、俺は寛大なのでな。今日は見逃してやる。」

「さいですか。助かります。」

危うく一触即発(でも返り討ち)な事態になりかけたが、寛大なパツキンパイセンの慈悲深いお言葉でそれか回避される。寛大な人間は自分で寛大なんて言わないと思うんですけどねぇ…。

 

 

ところ変わって俺たちはかっふぇに到着する。俺たちは飲み物を受け取り席につく。ここは約束していた俺の奢りポイントである。ポイントも枯渇しているわけではないし、占いの所での奢っても良かったのだけれど、自分の占いは自分でとの事で拒否られてしまった。

「ふ~、びっくりした~。」

「良いのか一之瀬?生徒会に入る絶好のチャンスだったんじゃないのか?」

「にゃはは…生徒会には入りたいけど、南雲先輩の下で働くってなるとちょっとどうなのかなって躊躇しちゃって。」

「ほ~ん。」

「赤羽君は気が変わったりしてない?堀北会長に誘われてたしさ。」

「嫌でしゅ。」

「だよね~。」

一応、堀北パイセンに生徒会に誘われている俺だけれど、あんなのがいる内情を鑑みるとやはりゴメンである。絶対一悶着じゃ済まないですよ。面倒臭い事になる事この上ないよ。

「もし仮にだが、パイセン達の性格を考慮して対立してると仮定して、堀北パイセン側で入る俺とパツキン先パイセン側で入る一之瀬だと同じクラスとは言え、生徒会内で対立せざるを得ないんでない?一之瀬がパツキンパイセン裏切ると生徒会の立場怪しくなりそうだし。」

「う~ん、そう言われると辛いかも。みんな仲良くってのは難しいにゃよね~。」

「難しいですにょ~。Bクラスが他のクラスと比べて平和的に纏まっているのが一之瀬の力もあるけど驚異的なんですたい。」

「結構大変な事もあるけど、私たちのクラスだから出来る事はしないとね。赤羽君ももうちょっとクラスに溶け込んでくれると良いんだけどね…」

「それは現状で厳しい相談ですねぇ…」

俺は何とかフラペチーノをズズズと啜る。どうしても最初に喧嘩紛いの事態になってしまったせいで。クラスの俺を見る目は冷ややか気味である。一度落ちた評価は中々に戻すのは大変なのです。俺がクラスに貢献的な行動が出来ていないのが一因だと思うけれど…一之瀬さん、苦労かけます。

「…いっそ無人島での赤羽君の活躍をみんなに話してみる?スパイだって結構最初から見抜いてた話をしてさ!もしかすると評価も上がるかも!」

「…それは五分五分って所じゃないんですかねぇ…クラス内で活躍した所でそれを悪い意味で取る人間もいるだろうし。」

「赤羽君は自己評価低いなぁ…」

「こういう性格なもんで。すまんの。」

 

ダラダラと雑談を交わしながら適当な時間を過ごす。お互いの飲み物も飲み終わった所で今日は解散となった。

夏休みも終盤戦、次の学期からはクラス間の対立が激しくなりそうですねぇ。




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次回から身体能力ブッパ武闘派主人公、たぶん活躍予定の体育祭編、始まります。


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体育祭、準備開始です!

お待たせしました。身体能力ブッパ武闘派主人公、たぶん活躍予定の体育祭編、始まります。
コイツ人間じゃねぇ!というツッコミは刃牙ネタをふんだんに盛り込んだキャラという事で受け付けないので悪しからず。キャラの調整が難しい…


担任の星乃宮先生から体育祭が開催される旨がBクラスに通達される。全学年を赤組と白組に分けた対戦方式で、白組がBとCクラスで構成されている。全員参加競技と推薦参加競技があり推薦参加競技の方が貰えるポイントが多い。全学年の総合点で負けた組はクラスポイントが100引かれる。各学年、総合点で1位を取ったクラスはクラスポイントが与えられる。それ以下はゼロかマイナスとなる。個人競技で1位を取った場合はプライベートポイントか筆記試験での加点が貰える。全競技で最も高得点な生徒、学年別で最も高得点な生徒にはプライベートポイントが支給される。個人で高得点を狙えはするが、クラスポイントを上げる方法は無さそうだ。

 

説明の後、全クラスが集まり組ごとに分かれてご対面である。4クラスあるのはハリーポッターみたいだなとどうでもいい考えが巡る。強引に分けるならばAクラスがレイブンクロー、Bクラスがハッフルパフ、Cクラスがスリザリン、Dクラスがグリフィンドールって感じかねぇ。Dクラスにハリーがいるのかしらん。Cクラスのフォイは間違いなくあの人…

三年生Bクラスの生徒のご高説を賜った後、各学年のご挨拶…となる予定だったんだけど。早速ウチの委員長の一之瀬さんと、Cクラスの龍なんとかさんの交渉が決裂している。

会話が終わったようで、龍なんとかさんがのっしのっし、とこちらに歩いてくる。あの…注目浴びるんで止めてもらって良いっすかね。

 

「お前と一緒に戦うことになるとはな…ま、お前のことなど眼中に無いが。せいぜい邪魔をしてくれるなよ。」

「龍園さんがお仲間とは心強いねぇ…。足は絶対に引っ張らないのでご心配なく。…今回は俺は純粋な体育祭だと思っている。あまり策略を巡らせ過ぎないようにしてくださいな。」

「お前の忠告を聞く理由は無いな。」

「さいでっか。」

 

それだけを言い残し、龍なんとかさんは去って行った。特にかける言葉も無いのでそのまま見送る。かけてやりなよ、デミグラス…ハンバ!ーグ!

カーッ!と頭の中でビブラスラップの独特な音色が鳴り響く。その後は特に何もなく放課後となり解散となった。

 

 

そんでもって時間は週に一度設けられるホームルーム、Bクラスは一之瀬を中心としてで種目の振り分けを行う事となった。

「それじゃあ!まず最初に、推薦参加種目を決めたいと思います!は自薦でも他薦でも良いからね!」

俺はスイーと手を上げる。ハイ、赤羽君!と一之瀬に指名されたので俺は発言する。あまり発言しない為か、クラスの皆は物珍しそうに俺の方に振り向く。俺は動物園のライオンじゃありませんよ。

「推薦参加種目は全て参加させてもらいたい。んで、俺がもらえるポイントはBクラスで下位になった人物に充ててもらって構わない。それで不満なら最優秀生徒報酬のポイントをクラスで山分けでも構わない。…俺にはそれ位しか出来そうにないんでね。」

「…運動神経が良いのも分かる。おそらくお前の力は借りるつもりだが、それで良いのか?実質タダ働きになるぞ。」

神崎が俺の提案に口を挟む。そこまで目立つわけではないが、彼はクラス内では一之瀬の参謀ポジション付いているため、一之瀬に次いで発言力のある生徒である。俺は勝手に副委員長扱いしている。

「大丈夫だ、問題ない。Bクラスは今までの試験で目立った成績を残せているわけでは無いからねぇ。ここで一度目立って学年全体の主導権を取るってのもアリじゃない?」

言ってから気づきましたが、完全に死亡フラグですねありがとうございました!

「凄い自信だね…大丈夫かな…勝てる保証があるわけじゃないし。」

「体育の授業の時とかBクラス内の運動神経良い奴だけで、一度競争すれは良いんでない?その後で決めてもらってよいさほいさ。」

「もしそうするとして、一般参加種目はどうしよっか?」

一之瀬がこちらに質問を飛ばしてくる。

「そっちは相手方のエースが参加する順番に放り込んでもらえれば良かねぇ…運が絡む競技は負けるかもしれんが、個人の競技ならなんとかしましょう。」

クラス内での俺の立ち位置としては、水泳等の授業もあり、ちょっと運動神経が良くて、喧嘩が強いちょっと怖い奴位だと認識している。クラス内での発言力は皆無に等しいが、運動神経に関してはクラス内では上位の認識は持ってもらっているだろう。クラスの反感を多少なりとも買うのは承知の上での発言になってしまうが、既にクラスでの評価がドベなので気にすることでも無かったりする。

 

後日、体育の授業で競争が行われた。距離は100メートル走。相手は神崎、サッカー部柴田と水泳部とその他自信がある奴らである。結果は2位の柴田と一馬身差をつけてゴールである。ぶっちゃけぶっちぎりである。

すご…との声が聞こえてくる気がするが、聞き流しておく。運動部に誘われたりしたら面倒だからね。

「…凄いね!運動部の誰よりも早いのは驚き!」

一之瀬がこちらに駆け寄って来る。

「拙者、絶賛帰宅部を謳歌中でござるよ!おろろ!」

俺は息を切らさずに答える。帰宅部といって運動が出来ない訳では無いのだよ!自分で勝手気ままに鍛錬しておりますんで。

「その発言で全部台無しな気がするけど…」

 

「それはともかくとして次はこれね!」

一之瀬から握力計を手渡される。身体能力を測る上で数値化出来るのは手っ取り早くて良いですね。

「ふんもっふ!」

「凄い独特な力の入れ方だね…」

握力計の示した値は機械のMAXの100kg。俺の握力は…200kgだ…!とはいえ俺は邪眼を持ってないし、GetBackersでもないし、雷帝と呼ばれた相棒もいないし、某赤屍氏の様に全身にメスを隠し持っているわけでもない。

「…うわぁ…この握力計で測れないのは驚き…というかゴリラだね。」

しれっと罵倒を食らってしまった。俺から身体能力取ったら何も残らないのでは…とは思ったが黙っておいた。言いたい事も言えないこんな世の中は…Poison。

 

「一つお願いなんだけどさ、今回の体育祭でさリーダーになってくれないかな。実力は誰もが認めるだろうし、私も推薦するから。私は運動は抜群ってわけじゃないから、こういうのは一番良い人がやるべきかなって思うんだけど…どうかな?」

「え、嫌だけど。」

俺は即答で拒否する。

「何でぇ!」

「柄じゃない。」

「えぇ…」

「今まで通り一之瀬か、神崎がやるのが妥当でしょうに。」

運動が出来ても、クラスをまとめ上げて勝ちに結びつけられる自信は無いのが正直な所。個人的には神崎がベストではないかなぁとは考えている。学力・運動神経・クラスの立ち位置のバランスが良い山本選手的立ち位置なんでね。

「それもそうだけどさぁ…個人的にクラスでもうちょっと存在感出してもらいたいなと思って。」

既に存在感は出している。喧嘩紛いの事含めて悪い意味でだけど。

「いやぁ…俺の立ち位置はこれ位で丁度良いっしょ。練習にはちゃんと出るんで許してちょんまげ。」

一之瀬は食い下がるが、全く付き合わない俺の様子を見て早々に諦めを見せる。

「しょうがないっか…じゃあ練習の時の指導お願いね!」

「分かりましたおかのした。でも人に教えるのは得意でないんで期待はせんでくだせい。」

「そうかなぁ?この前教えてもらった時、結構上手だったと思うんだけどなぁ…」

「そんな事もありましたねぇ…」

そういえばひと昔護身術的な事を教えましたね…特別試験が濃すぎてすっかり忘れておりましたよ。

さてさて、やっと活躍出来そうな機会が訪れましたんで、頑張らせてもらいましょうかねぇ。




今話総文字数が5万字を超えました。他の投稿者様と比べると随分少ないかと思いますが個人的には満足しています。次は10万字を目指してぼちぼち書いていきますよ。


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体育祭①

本日も駄文ですがお楽しみください。


時は大して変わりませんで、体育祭の練習です。Bクラスは一之瀬を中心にまとまっているので、振り分けは大きな不平不満が出ずに最終的に決まった。俺が出る競技の順番は殆ど最初になった。他クラスの出場選手の情報が無い現状でクラスを勢い付けるのが俺の役目である。他クラスも様子見で無難な生徒が来れば堅実に勝ち星を貰い、同様の戦略を取って来た場合は勝って相手クラスの戦意を落とす重要な役割である。一番槍としてかき回させていただきます。

俺は結束力が求められる練習をぼちぼちしながら、他の生徒の指導に当たる。殆どクラス内で人と絡んで来なかった為、最初はぎこちない感じではあったが、一之瀬や何故か俺に友好的な水泳部の助けもあり何とかなっていら。一ノ瀬さんの真の狙いってクラスが勝つことじゃなくて俺をクラスに馴染ませる事の様な気がしてならない。知らんけど。あと未だに水泳部にちょくちょく勧誘するのは止めていただきたい。

俺が一番懸念していたのは二つある二人三脚だったが、両方足の速めの相手と組めたので問題ないでしょう。なんか配慮してくれました。俺のポイントは殆どクラスで分ける予定ですしおすし。

 

 

さてさて、時間はすっ飛ばしまして体育祭本番です。

クラス内の指導も怒られない程度にやりつつ、準備はしてきましたんで、勝つか負けるかは運次第。人事を尽くして天命を待つって事です。

最初の100メール走、この組で速そうな相手はD クラスの喧嘩大好きボーイこと須藤選手。

体育祭の練習の偵察でリーダー的ポジションにいた情報もあるので、ここでDクラスのモチベーションを落として差を付ける機会を得られたのはラッキークッキー八代亜紀である。コーナーで差を付けろ。

「あらら、須藤さんでないかい。お手柔らかに。」

「あ?集中力が途切れるから話しかけんな。」

「いやん、釣れないにゃあ。」

そんな御託もそこそこにスタート地点へ並ぶように合図があったので大人しく並ぶ。位置について…よーい…パァァン、と開始のの雷管が鳴り響く。スタートから抜けたのは須藤と俺。そんでもってちょっと俺がリードなう。

他のクラスからは驚きの声があがっているのは、俺が腕を組んで十傑集走りしているせいでせうか。流石Dクラスのエースと言った所で、突き放しを図っても須藤は離されまいと、しっかり付いて来ていらっしゃる。とはいえ、最初に付いた差はどうしようも無いもんで、俺が1位でゴールテープを切らせてもらいました。

D クラスからは溜息が、Bクラスからは歓声が沸き起こる。一応一番槍としてお仕事は出来たようですねぇ。

「クソッ!」

レース直後、悔しそうに須藤が太股をパンッ!と叩く。スマンね。こっちもクラスで大見得切った手前、負けられないんですよ。

「…お前、意外と速いのな。完敗だぜ。」

「逃げ足だけは速いもんで。俺以外だと須藤が一番速いんでないかい?」

一時期須藤に追いかけられて一度も捕まっていない事はお忘れの様らしい。

「お前に言われても嬉しくはねぇよ。次は絶対勝つ。」

手を、出されるかと思ったが穏便に話が切り上がる。彼は見た目に反してスポーツマンシップはあるようですねぇ。夏休み前に何度か殴りかかられたけど。

 

「お疲れ様〜!Dクラスエースの須藤君に勝っちゃうなんてやるねぇ赤羽君は!」

とてとてと一之瀬が近づき、うりうり~、と肘でこちらを小突く。

「はいはいありがとさんありがとうさん。」

学年でトップクラスの運動能力の須藤との直接対決に勝てたのがクラスの士気上げに繋がれば良いですねぇ。

「じゃこの調子で他の競技も頼むよ!応援してるぞエースっ!」

エースと言われると、期待されていると思う前に某敗北者を想像してしまう。ハァ…ハァ… 敗北者……?

「そちらも負けじと一位をもぎ取ってくれると嬉しいねぇ。」

「ニャハハ…ちょっと自信ないけど、頑張ります!」

一之瀬は運動神経が悪い訳では無いが、女子のエースを張れる訳でも無いので、人には適材適所ってものがあるもんで、全てが完璧ってのは難しいよね。こういったクラス対抗でのポイントの争いは、中堅どころが僅差でも良いので勝つのが重要である。俺が出来るのはその勢いを作るサポート位なものである。

 

次のハードル競争は特に対抗馬になる相手はおらず。俺は特に問題なく一位を頂く。競技の最初に登場して変な走りで一位をかっ攫うやべぇ一年がいるという噂が流れ始めている様だが多分俺ですね。帰宅部だったためか、俺のマークは現時点ではそれほど厳しい印象は無い。選手のオーダーは体育祭前に事前提出になっている為、分かっていても既にどうする事が出来る訳では無いのだけれど。

Bクラスのもう一人のエースである柴田も同様に一位を取れていたので、Bクラスの運動できる組は順調な滑り出しとなっている。

さて、ぼちぼち始まりました体育祭、何事も無く進んで行けば良いけど、どうなるんでしょうかね。




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体育祭②

物理的にありえないって?知らん!(責任放棄)


引き続きまして体育祭、3つ目の競技は団体競技の棒倒しである。棒倒しって…なんかエッチな響きですよね(腐女子的危険思考)

俺は練習の攻撃側で無双をキメすぎた為、Bクラスが守りの場合も攻撃側に参加することになった。理由は俺の突破力が高すぎる為である。身体の使い方と経験、そして馬力が違いますよ。ぶるんぶるん。あと攻撃は最大の防御って言うしね。

競技開始の雷管な校庭に鳴り響く。相手方もクラスで攻守を分けた戦略の様だ。

絶賛守備中のB クラスに攻め入ってるのはDクラスの様で、そちらも激しい戦いが繰り広げられている様子。あっちの方が面白そうだったね失敗しました。自分の仕事に集中しませう。

攻撃側のCクラス+俺はというと、アルベルトさんが豪腕を唸らせていた。分かりやすく目立ってくれていたので、動きやすくて助かります。

ナイスアシスト、と親指を立てるとアルベルトが僅かに笑った気がした。トゥンク…格好いい…でも恋は始まりません。

 

棒の周りの人間がある程度減り、防御が薄くなったため、勝負に出る。少し距離を取り、爆速ダッシュ&ジャンプ&レッツ&ゴー。止めに入る為に向かってくる相手は躱し、捌き、時には力づくで振り払う。

加速の付いた所で俺は地面を踏みしめ跳躍する。奇怪かつ大胆な行動に、観客達から、驚きの声が上がる。相手クラスは茫然と下から見上げているだけとなる。

狙うは棒の先端。右腕でむんずと掴み、運動エネルギーとてこの原理で力任せになぎ倒す。まずは一勝である。

 

棒倒し2戦目はDクラスが守りの様だ。

 

今回は本丸に切り込まずにCクラス主力に任せ、サイドからの攻撃に徹する。一戦目に目立ったせいか、守備側で俺に向かってくる人数が多い。幾ら威勢が良かろうが、人数が増えようが、俺にとっては捌くのは問題ない。荒事は大の得意分野である。あと良いんですかね?Cクラスの攻撃から守り切れませんよ。

やはり俺へ人数を割きすぎている為か、防御側のDクラスは劣勢へと傾いていく。B・C側が僅かに優勢である。

アルベルト含むCクラスの本陣が、棒を倒すべく切り込んでいく。俺もサポートすべく、先程同様に動き、注意をこちらに反らす。Dクラスは2か所の攻撃に警戒しなければならない為、戦局はよりB・Cクラスへと傾いていく。

棒の中央で守備の要となっている男、須藤は体勢を崩され、表情を歪めながらも棒の守りに専念している。流石の根性である。

こちらの守備側もAクラスに崩され始めているが、何とかこちらの攻撃が間に合いそうだ。

混戦になる中央だから仕方が無いが、須藤に攻撃が集中する。あの中にいるのは大変そうですねぇ…

そして須藤が片膝を着いた瞬間に放たれる、龍園の背中へ向けた躊躇いの無い踏み込み、俺でなきゃ見逃しちゃうね。

須藤が倒され、同時にDクラスが守っていた棒も倒れた。少し不満もあるが、こちらの勝利である。

「龍園さ〜ん、反則ギリギリのプレーは止めてくれませんかねぇ…肝が冷えまする。あんな事しなくても勝てたでしょうに。」

「…何の話だ?」

龍園は何事も無かったようにお惚けていらっしゃる。とんだタヌキですね。

龍なんとかさん、今後の競技でも何かやらかしそうなんせうよね。あまりチーム不和を起こす行動は止めて欲しいんですけどねぇ。

 

さて、始まりました2クラス対抗綱引き、現状は一勝一敗で五分、2戦目はこっちが取っているので流れとしてはこっちが有利でありまする。

 

3戦目が始まる。やはり情勢としてはこちらが僅かに優勢。勝ったな、風呂入ってくる、とか

考えていると、突然、後ろからの引きが弱くなる。あ、これ龍なんとかさん何かしましたね。こちらも負けられないんで、奥の手を使わせてもらいますよ。

俺は脚を強く振り下ろす。ドギャア、と校内で鳴ってはいけない音が鳴り響き、俺の脚は15センチ程地面にめり込んでいた。

「そんなのありかよ…」

相手チームの誰かがそう呟く。俺は単純に脚を強く踏み込んで引っ張っているだけである。

 

さてここで柔道において寝技が成立する理由を考えてみよう。結論だけ言うと、地面は破壊出来ない剛体であるという前提があるからである。もし、地面がゼリーの様に柔らかい場合は簡単に逃げられて寝技は成立しない。何が言いたいかというと、俺にとってこのグラウンドは皆が定義する剛体ではない、と言うことである。

脚で地面に杭を打ち込み縄を引っ張っていく。人数差は二倍。そう言えば一般的に技術で補える体重差は二倍までと言われていた様な気がする。ただ脚を地面に埋めるのが技術なのかは甚だ疑問である。

縄を自陣まで引き込み、競技終了を知らせるホイッスルが鳴る。B クラス対A+Dクラスという圧倒的に不利な状況だったが、なんとか辛勝である。Cクラスは後で糾弾するとして、勝利を喜びましょう。相手チームが審判に抗議しているが、脚を地面に突き刺してはいけないというルールは書いて無かったのでセーフである。というか出来る人間の方が絶滅危惧種である。勝てばよかろうなのだ!と俺の頭の中のハム太郎が言っている。大分過激派なハム太郎である。ヘケッ♪

 

競技が終わったので、Cクラス内で王様気取りの龍園の下へ向かう。

「龍園さ~ん。さっきのはどういう事か説明してもらえませんかねぇ…Bクラスに実害がでる行為なんで説明を求めまする。」

「チッ…面倒クセェのが来たな…偶然だ。偶然、手が滑っただけだ。」

「Cクラス全員が?」

「あぁ。」

「ほぉん…」

確かにCクラスの行為は違反というわけでは無い。Bクラスにも実害がない訳ではないがこれ以上糾弾する材料も無い。

「これ以上のオイタはご勘弁願いますよ。警告しとくが、次Bクラスに実害が出たら容赦しませんぜ。」

「ケッ、ご忠告感謝するよ。」

コイツ全然話になりませんね。どっかのスノーボードのオリンピック選手の顔がよぎりましたよ。

 

Bクラスの休憩場所に戻ると一之瀬が駆け寄ってきた。何言われるんでしょうかね。

「赤羽君、龍園君と何か話してた?」

遠目に俺と龍園のやり取りを見ていた様である。

「綱引きの件でちょいと注意をね。あれは反省してませんよ。どうしたもんかねぇ…」

「あとさ、綱引きの最後のやつなんだけど…あれはちょっと人間業じゃないというか…」

「結果勝ったから見逃してくれませんかねぇ…」

「えぇ…」

 

一之瀬との絡みはさておきまして、ネクスト競技は二人三脚である。俺のペアは運動神経の良い神崎である。要するに負けるのが許されないペアでもある。全ての競技のノルマが1位なのは結構大変ですね。

こちらも特に問題なく一位をとれたので、ホッとしている。誰かと組む競技は苦手なもので。そのあとの障害物競走は問題なく一位を頂きました。

 

 

続いての騎馬戦は4人一組となり8対8の形で行われる。一騎馬につき50点、大将騎は100点を保持しており、相手のハチマキを取ると、その分のポイントが貰える。他種目と比べ、ポイントが多いので大変です。

俺を大将騎にし、下には神崎、柴田、水泳部で固めた、動いて良し、当たって良し、ハチマキもブン取れるという、ぶっちぎりのエース騎である。事前の練習では1対3でも敗北しないまで鍛え上げたので、相手のエース騎であろうが負ける気はしない。

競技が開始する。DクラスがCクラスへと突っ込んで行くのが見えた。ってことは俺らBクラスはAクラスの相手ってことですかね。俺は事前に立てていた作戦を皆に通達する。各々がAクラスの騎馬に向かい、1対1の勝負となる。この作戦の為に簡単にやられない様に守りの練習はみっちりしているので、簡単には負けない筈だ。お膳立てしていただいた所で、俺達は大将騎である、葛城の前に立つ。

「…やはりお前が相手か。正々堂々、遠慮なくやらせてもらう。」

「御託は良いんでさっさと始めましょうや。後ろが詰まってるんで。」

 

両軍の大将騎同士がぶつかり合う。俺が伸ばした腕を葛城が弾こうとしてくる。が、その前に俺の腕は葛城の手を避け、逆に掴み返す。そんでもって力を下方向にかけて騎馬のバランスを崩しササッとハチマキを奪い取る。強引過ぎるが力こそパワーである。

大将騎の戦いは終了しましたので、残りの騎馬達へのフォローに入る。こちらの騎馬が一騎崩され、現状は3対3の膠着状態。と、言いたい所だがAクラスの大将騎は既に落ちているので、状況的にはこちらが有利。作戦はこのままタイマン勝負続行である。俺達がAクラスの騎馬を一つ倒すと、こっちも一つ落とされ未だに絶対優位は取れていない。

おそらく、Aクラスはバランス重視での騎馬の配分を行っていたか、もしくは単なる自力の高さの違いか。葛城にうまくしてやられたようである。さすら城さんです。結局、Bクラスは大将騎でAクラスを全て討ち取る事になり、思ったより時間がかかってしまった。

B クラスの騎馬達よ。何か時間稼ぎみたいな役割させちゃってすいませんねぇ…。あと…エース騎にしてたとはいえ、大将騎の負担大きすぎませんかねぇ…

こっちの戦いは勝てたので、Cクラスへの援護に向かう。状況はCクラスが龍なんとかさん、アルベルト含む大将騎馬で、Dクラスが大将騎含む二騎。俺は龍なんとかさんに向けて問いかける。

「別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう…?」

立派な死亡フラグを立てながら、Dクラスの大将騎の方を指さす。先程の綱引きのパワープレイを見ていたせいか、その騎馬の生徒達は狼狽えている。正々堂々と戦っているはずなのに悪役気分になるのは何ででしょうかねぇ…多分龍なんとかさんが味方にいるせいだそういう事にしよう。

「好きにしろ、残りカスは譲ってやる。」

「は〜い了解で〜す!」

と、言うわけで龍なんとかさん曰く残りカスと言われてしまった方々にとの一騎討ちとなる。結果は瞬殺だったので特に言うことも無し。余裕の勝利だ、馬力が違いますよ。

龍園なんとかさん騎の方も勝てたみたいでございます。彼の鉢巻がヌルヌルしている様に見えたが、また抗議するのも面倒なので今回は見逃させてもらいますよ。

 

騎馬戦が終了し、悶着もありながら午前中の競技は終了である。

「午前中お疲れ〜!いや!びっくりびっくり!赤羽君が想像以上に活躍してくれてクラスの雰囲気も良いし、午後も頑張ろうね!」

俺がクラスの雰囲気の向上に役立っているかは甚だ疑問である。

 

「隣良いかな?」

俺がモシャモシャと弁当を咀嚼していると、柴田が話しかけてくる。俺はジェスチャーで了承の意を示す。食べてる時に話すのはマナー違反だからね。

クラスでも目立つ男子と一緒にいるのは何となく気まずいものがある。生来のぼっちの宿命か…

「いや~綱引きの時本当に危なかったよね!赤羽君がいなかったら多分負けてたと思うよ。」

「あれは奥の手だったんで追求しないでクレメンス。黒歴史になりそう…」

「活躍したのに黒歴史なんだ…」

「陰キャなもんで変な目立ち方はしたくないのですよ。」

「あの走り方をして目立たないって言うのは無理があると思うよ…」

十傑周走りの事ですね!そういえば既に悪目立ちしていました本当にありがとうございました!

「じゃ、午後もよろしく!本当はこういう場で直接対決してみたいって気持ちはあるけどね!」

柴田は最後に一言残して去って行った。人当たりの良いさわやかボーイである。

 

弁当をモシャリ終わったところで、ぼちぼち午後の競技も始まりますね。

苦手競技というか運ゲーの競技もあるんでどうなることやら。




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体育祭、終了です!

体育祭も後半戦。原作と組み合わせ等々違うのは勿論承知の上で書いております…ご容赦ください…
原作ではほぼ描写の無かった四方綱引き。ようつべで見てみましたが、駆け引きもあり奥の深そうな競技でしたね。

それでは、本日もお楽しみいただければ幸いです。


さて始まりました、高度育成高等学校名物体育祭!実況はわたくし、赤羽巧がお送りしております!

うら若き学生たちが汗を迸らせ!熱き魂をぶつけ合い!青春を謳歌しております!先程まで行われていた午前の競技の結果をご報告させていただきます!

現在のポイントですがB・Cクラス連合、負けております!俺の活躍は関係ないみたいです!泣きそう!

 

 

で、午後最初の競技は200メートル走。100メートルがあるのに、200メートル走があるのは甚だ疑問である。結果はこれまで通りである。

 

全員参加の種目は終わり、続いては推薦参加種目。各クラスの選りすぐりの相手が出てくるため。全員参加種目の様に簡単にはいかないんでしょうね。

 

最初の競技は借り物競争。この競技は足の速さというより運ゲー要素が強い。確かに運も実力のうちとは言うけどねぇ…騎馬戦の方が推薦種目っぽいなと思ったが学校側の思惑など分からないので、目の前の競技に集中しませう。

ここ位しか走力が生かせない所が辛い所である。

箱の中の紙を取り出して開く。どんな無茶振りが書いてあるのやら。

『担任』

比較的辺りの部類の借り物?である。先日近くの神社で御神籤引いてlack値上げておいたので助かりましたよ。というか担任って借り物なのか…

教員席に我がBクラスの星乃宮先生がいたのでダッシュ&ゴー。

「あら、赤羽君どうしたの?」

先生に紙を見せて、借り物である旨を説明して了承してもらう。

「担ぎ方どうします?」

「お姫様抱っこなんてどうかしら?もっとロマンチックな場面でしてもらいけど、そこは許しちゃうわ♪」

リクエストがありましたので、先生をお姫様抱っこする。

「先生、軽いっスね。」

意外に、という言葉は言わないでおく。正直な言葉は時に人を傷つけるからしょうがないね。

「あら~お世辞でも嬉しいわよ♪でも、オイタはダメよ。」

えっほえっほと星乃宮先生を連れゴールへ向かう。他クラスはまだ、借り物探しに苦戦している様で、一位でゴールできた。ラッキーでしたね。

生徒達から何故かブーイングがあがっているが気にしない事にする。先生可愛いからねしょうがないね。役得…かは微妙だなぁ…年齢がなぁ…

 

続きまして四方綱引きである。

意外な事にDクラスのエースかと思っていた須藤は参加していなかった。温存するような競技では無かったはずだが、何か意図があるんでせうか。

一年の全クラスが時計回りに並べられ、スタートの合図を待つ。

「アルベルトさん、よろしく頼んますね。」

「…」

僅かに彼の口角が上がった気がした。

 

スタートを示す雷管が鳴る。

「左!」

俺が一言叫び、Bクラス寄りに縄を引く。戦略としては先にA・Dクラスを先に不利な状態にし、あとはB・Cクラスで1・2位を分け合う。

アルベルト率いるCクラスも意図を汲み取り、Bクラス寄りに縄を引く。これで疑似的に2対1対1の形を作る。咄嗟に思いついた作戦でしたが上手くいきましたね。

Dクラスは須藤が居ないせいか早々に縄を持つ選手達の体制が崩れる。これで縄をB・Cクラス側へと引き込みながらほぼ一騎打ちの状態を作る。

結果としてBクラスが勝利した。勝因は各クラスの立ち位置である。総崩れしたDクラスはさておき、Bクラスの隣はAクラス。再度2対1の形を作り出して勝ち切った形でございまする。意外と力だけの勝負じゃなくて面白かったですね。

 

3つ目の競技は男女混合二人三脚である。実はこの競技、既に俺は一位は諦めていたりする。何故かと言うと、俺のペアの予定だった女子が午前の競技で怪我で離脱してしまっているためだ。

俺のベアは急遽一之瀬になった。人選として彼女はクラスの中で早くも無く遅くも無く、という感じなのでどうしたもんでしょうか。

 

「ちょっとそこで10メートル位走ってみてくれ。なるべく全力で。」

「え…うん…」

一之瀬の走りを一度見せてもらう。走り出しのタイミング、加速期から最高速に到達するまでの時間、定速、そして減速。一度見た動きの流れを何度か頭の中で反芻する。

「よし、覚えた。本番はさっきと同じ感じで走ってくれ。合わせる。」

「本当?大丈夫かな…。」

「なんとかなる。というか俺が何とかする。と、いうわけで頼んまする。」

「うん!分かった!」

 

紐を結んでスタート地点に立つ。

「さっきの感じで、ゴール以外は気にするな。」

「うん…」

一之瀬は緊張した声色で答える。あとは一之瀬が予定通りに走れるか、そして俺がそれに合わせられるか。ぶっつけ本番の緊張はあるが、ぶっつけ本番だからこそ興奮が昂る、と俺は思っている。

競技開始を合図する雷管が鳴る。全クラス一斉にスタートし、こちらの出だしは悪くない。彼女動きに合わせ、加速、最高速に到達。そして維持。当然ではあるが、混合二人三脚は女子の走力以上では走れない。なら俺が彼女の全力に合わせればいい。

二人でグランドの風を切り走る。隣に彼女の走る吐息が聞こえる。ただ彼女に合わせる事に集中する。

レースはやはり彼女の速さの関係で接戦となる。が、僅差ではあるが何とか1位でゴールする事が出来た。

「やったね!赤羽君!初めて一位取れたよ!」

彼女は一位を取れた事がよほど嬉しかったのか。こちらに抱きついてきた。あの~ふくよかなモノが当たるので早く解放していただきたい…

「良かった良かった。恥ずかしいんで離れてもらえないですかねぇ…」

「あ!ゴメン!」

にゃはは~、と一之瀬は照れ臭そうに笑っている。まぁ勝てたんでクラスとしては良しですね。

 

さてさて最終競技、全学年対抗1200メートルリレーでございます!

で、何でここだけ俺アンカーなんですかね?接戦になるか読めないのでやり辛い事この上ないんですが…

「そりゃあ赤羽君が一番速いからね!期待してるぞっ!」

近くにいた一之瀬が俺の心の声を読んだのか答えて俺の背中を叩く。もしかして心の声漏れてました?

「…接戦なら頑張らせてもらいますよ。」

 

雷管が鳴り響き、各クラス一斉にスタート。一番手に男子に据えているクラス群が一歩リードする。先程まで居なかった須藤が一番手で走っている。このリレーの為に温存してたんすかね。

 

我がBクラスは抜きつ抜かれつ奮闘し、何とか2位でバトンを受け取る。先頭は2年Aクラスの南雲パイセンである。お膳立ては十分。脱兎の如くダッシュ&ゴー。さほど時間もかからずに彼に追いつく。

「まさか君と最後に勝負になるとはね。」

走りながら南雲パイセンは話しかけてくる。結構余裕あるんですねぇ…生徒会副会長かつ運動神経万能でイケメンとか完全に勝ち組スペックですね。運動能力ブッパの俺とは大違いである。

「…そうですね。こっちもアンカーなんで負けられないんですよね。これが全力なら勝たせてもらいますよ。」

「それはどうかな。」

彼はさらに加速し、俺と距離を離そうとする、がピッタリ俺はついていく。

「これが南雲パイセンの本気ですかね?」

彼の表情がこわばる。

「じゃ、失礼します。」

俺は更に加速し、彼との距離を離す。そのまま追いつかれることは無く。最初にゴールテープを切った。

ゴールテープを切り、後ろのアンカーの生徒達を確認する。堀北先輩、そして綾小路が中々の速さで他クラスをごぼう抜きしていた。やはり綾小路は実力を隠してたみたいですねぇ…

「はぁ…はぁ…、まさか僕が負けるとはね…今まで目立たなかったのが不思議な位だ。」

南雲パイセンが額の汗を拭い話しかけてくる。

「運動だけは得意なもんで。他は普通なんで地味なのは実力ですよ。」

「今日は完敗だったけど、次はそうはいかないよ。」

「多分、運動以外だったら先輩が圧勝しそうですけどね。」

「お世辞でも嬉しいね。んじゃ、また。」

 

 

んでんで、全競技が終了しまして、結果発表~!(CV浜田雅功)

B・Cクラス連合チームは僅差で敗北です。午前の競技の差が響いたのか巻き返しきれませんでしたトホホ…

全競技と学年での一番高得点だったのは、そう私でございます。最初に言った通り、ポイントはクラスに還元しているので俺の物にはならないんですけどね。多いに越したことは無いらしいが現時点でも余っているので要らん。

 

体育祭も無事?終わり帰り際、下駄箱をパカリと開けると手紙が入っていた。書かれていたのは、時間と場所のみ。残念ながら公園では無い。

イタズラかと思い無視しようかと思ったが暇なので行くことにした。果たし状っぽい。行ったら強敵待ち構えていたら面白いんだけどなぁ…




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庭園にて

二次日間87位入りました。読者様のお陰です。
嬉しくて天内流格闘術です…


夜。指定された園芸部の庭園に向かう。晩夏の夜は昼とは違い肌を刺す暑さも無い。ただ纏わりつく湿気だけがまだ夏の残滓が残っている事を身体に知らせていた。

そこには一人の少女が佇んでいた。俺を呼び出した人物。坂柳有栖である。

別の意味で強敵である。Aクラスのリーダー格がBクラスの平生徒の俺に何の用でせうか。

「こんばんは赤羽君、急にお呼びしてしまってすみません。」

「…で、何の用何ですかねぇ…。こんな時間に呼び出してさぁ~。」

「大した要件はありませんよ。ただゆっくりとお話をしてみたいと思いましたので。」

「TDNお話とねぇ…俺の事を分かってそうな割に、丸腰で一人なのは用心が足りないんじゃないか?」

「Aクラスの人間が何人居ようと貴方には太刀打ち出来ないでしょう?」

「ハハッ、違げぇねえや。でも、護身用の用意は当然していると。」

「今回は本当に何も用意はしていないのですよ。」

「…どうだか。噂はかねがね聞いているのでね。相当に頭が切れる人間って話はさ。」

「あら、それは光栄ですね。」

クスクス、と彼女は微笑を浮かべる。

「…一局付き合ってもらえませんか?」

彼女はテーブルの上にあるチェス盤を見つめて言った。

「…駒の動き位しか分からないんだが…。」

「会話を楽しむための潤滑剤の様なものです。初心者の様ですし、先攻は貴方に譲りますので。」

「それはありがとさん。」

「…お互いやる気を出すために何か賭けましょうか。もし貴方が勝ったら何でも言う事を聞いてあげますよ。」

「…アンタが勝ったらどうするよ?」

「ちょっとしたお願い事を聞いてもらいます。」

「…じゃあアンタが負けたら、両腕両脚の関節を外して一日放置にさせてもらいますよ。」

「…冗談でも笑えないですよ…万が一でも私が負ける事はありませんが。」

「その割には声が震え『黙りなさい』…ハイ、スンマセン調子乗りました…」

声の怒気がスゴい。危うくチビっちゃうとこだったわ…

チビってしまう前に、俺はポーンを1マス進める。彼女も俺と同じ列のポーンを1マス進めた。

「貴方はどうしてこの学校に?」

「学費がタダなんでそれに飛びつかせてもらった。で、そっちは?」

「私の父親がこの学校の理事長をしておりますので。」

「うわぁボンボンやんけ。何不自由ない暮らししてそう。」

「意外かもしれませんが、そこまでではないと思いますよ。生まれつき身体が弱いもので、」

「…そりゃあ大変なこって。」

「貴方が同じAクラスでなかったのは、少し残念な気持ちはありますよ。体育祭での活躍は目を見張るものがありましたし。」

「身体には自信があるが、頭の方は平々凡々なんでね。Bクラスに入れただけでも個人的にはラッキーだと思ってませうよ。クラス分けの基準はさっぱり分からんけど。」

「…貴方の存在のせいでBクラスは少々厄介ではあると感じているのですよ。」

「それはどうしてさ?」

「純粋な力というものは、世間一般的に優位に事を運ぶ為には必要不可欠ですので。ただ、他クラスへの暴力行為は厳罰ですので、この学校のルールは多少有利には働きますが。」

「だねぇ~ここのルールは思ったより俺には制限が多くて厳しいねぇ~。」

「私の協力があれば、もう少しこの学校では動きやすくなるかもしれませんよ?」

「…俺にBクラスを裏切れ、と?」

「私にとってはそれが一番ベストかもしれませんが、貴方は応じないでしょう?私は短絡的な考えはしていませんよ。いずれ欲しいものは全て手に入れるつもりはありますが。」

「貪欲だねぇ。」

「人の欲望には限りがありませんので。」

「今後、そっちのクラスともやり合わなきゃいけないのは面倒臭いねぇ。水面下でバチバチやり合うのは性に合わなくて。」

「ここで貴方には手出しをするつもりはありませんよ。この学校生活で潰してしまうのは、あまりにも惜しい存在ですので。」

「そんな過大評価頂いてありがたい限りですよっと。」

「私に圧倒的に足りないモノが、貴方は持っているので。」

彼女は杖に目を落とす。その瞳が彼女の言う圧倒的に足りないモノを映し出していた。

「…俺の負けだな。」

 

盤面は俺の敗北を映し出していた。

お互いを削り合って、零れ落ちたものは二度と元には戻らなくて。

この盤面はいつかの自分を暗示している様にも見えた。

 

「初心者とは思えない程、固い守りで制圧するのに苦労しました。戦い方を知らなかっただけの様に見えましたし。」

「で、お願いを聞かなきゃなんだよな。何にするつもりだ?」

「…それでは、何か見せていただけませんか?貴方の力を示すものを。」

「ん~そ~だな~分かりやすいやつか良いかな~」

キョロリキョロリとあたりを見回す。近くに拳より少し小さい位の大きさの石があったので、拾い上げ坂柳に手渡す。

「何の変哲も無いただの石だ。」

「そうですね。ただの石です。」

彼女は石を撫でまわしながら、それを確認する。

「そいつを俺に放り投げてくれ。」

俺は数歩彼女から遠ざかる。彼女が放り投げた石を手刀で真っ二つにし、それを掴んで握り潰す。バキバキ、音をたてながら石は崩れ落ちていった。

「…」

坂柳は絶句していた。そっちが見せてくれと言ったんだろうに。

「ドン引くなよ…分かりやすくて良いだろ?」

「…今こうして対峙している相手が、丸腰で来てしまった事に後悔する位、脅威であることは分かりました。」

「さいですか。じゃあ次は護衛でもなんでも連れて来てくださいな。」

「貴方個人とは敵対するつもりはありませんよ。…私はいずれ、Aクラスを手中に収めるつもりですが、葛城君達に付いている人間も多少いるので少し手間取っているもので。…彼とのゲームは悪くはないですが、ちょっと退屈ですね。」

「方向性は違うがBとCクラスはまとまっているしな。優秀な人間が多いと大変だねぇAクラスは。」

「私に貴方程の力があったら簡単でしたが。暫くはこのゲームを続けることにしますよ。」

「クラスをまとめるつっても、龍園みたいなやり方は好かないねぇ。」

「そうですか?一番効率的だと私は思いますよ。」

「可愛い見た目して頭の中は過激だねぇ…あの程度の暴力じゃ。喧嘩が強いだけのヤンキーだよ。頭は俺より相当切れるんだろうけど。」

「彼は私ほどではありませんよ。いずれ潰します。」

「うへぇ。同じクラスだったら頼もしかったのにねぇ。」

「それならBクラスを裏切って私の所に来ますか?」

「お断りだ。そっちがBクラスに来るんだったら考えておくよ。」

「…フフッ、それも面白いかもしれませんね。」

夜も更けて来たしそろそろお開きかと思い立ち上がる。…と思ったがちょっと思いついた事があるので試してみますか。

「ちょいと後ろを向いてもらえるか?」

「…?何をするつもりですか?」

彼女は立ち上がり後ろを向く。彼女の身体から目に飛び込んで来る箇所を少し強めに指で突いた。

「うひゃぇっ!何ですかいきなり……!…少し身体が軽くなったような気がします。」

「人の身体に存在する綻び?言い換えると弱点みたいなやつ?をちょっと弄らせてもらっただけだ。勝ったお願いがあまりにもショボかったのでおまけだと思ってくれ。」

「…貴方は底が知れない人間の様です。でも、少し助かりました。ありがとうございます。」

「ど~いたしまして。んじゃ、俺はこれで失礼させてもらうよ。」

「はい、おやすみなさい。」

「おやすみ~夜道に気を付けてね~。」

 

ーー坂柳視点

 

待ち合わせ場所で彼を待っていました。彼との対峙は初めてではありませんが護衛なしでの1対1。実力を試す為に仕掛けるのも面白いですが、彼にとっては何人引き連れていようが関係ないのでしょうが。明確な敵対行為をしてしまうのは、私としてもメリットはありませんから。

 

現れた彼は最初相手を針で刺すかの様なピリピリとした雰囲気を漂わせていました。でも私を見ると落胆したような表情をして、警戒を解いた様子でした。

 

身体能力は申し分無し。無人島での報告と体育祭での常人離れした速さと膂力。そして、先程見せてもらった力。人間って石をいとも容易く粉砕できるモノなんですね…。

チェスは初心者と言っていましたが、雑談を交えながらも盤に向かう時でも明らかに分かる集中力。飄々とした態度を取りながら、弱みを気取られない狡猾さも持ち合わせている。

頭は平凡とは言っていましたがどこまで信じて良い物やら。

 

現状、私が学内で使えるカードでは彼に対抗できる手段はありません。特に純粋な暴力では圧倒されてしまうでしょう。逆に彼を私の陣営に引き入れる事が出来れば弱みは消え、かつ強力な駒になる。

彼はこちらから仕掛けない限りは様子見なのでしょうね。特に退学覚悟の捨て身での報復に注意しないといけない所でしょうか。

弱みも容易に晒してはくれないでしょうし、奥の手を考えないといけなそうですね。

 

これまでにどのような人生を歩み、何を感じて生きて来たのか、知るのも一興、壊すのも一興。楽しみです。




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休日、俺の部屋にて。

二次日間81位入りました。読者様のお陰です。
嬉しくて一人転蓮華です…
高評価して頂いた方々ありがとうございます。これからも楽しめる話を書けるよう精進します。


日は変わりまして週末。日課の鍛錬を終え、俺は部屋でテレビを見ながらダラダラしていた。体育祭も終わって束の間の休息である。坂柳という不安要素は増えたけど…

 

ペコポーンと部屋のチャイムが鳴る。ここは地球。扉を開けると一之瀬さんのご登場である。何の御用ですかね?

「はい~何で来たか分からんけどようこそ~。」

「お邪魔しま~す!って、甚平って渋いね赤羽君…」

「気にしなすんな。どうぞ入りんしゃいよ。」

一之瀬の言葉はさておき、部屋への招き入れる。

「…!?…おぉ…和室だね…なんか赤羽君っぽくないね…」

なんだァ?テメェ…喧嘩売ってんのかぁ?

と、ご冗談はさておき、一之瀬が呟いた通り、部屋のテーマはザ・和室である。

フローリングは流石に剥がすことは出来ないので畳っぽい茣蓙を敷いて和室っぽくしており、机とベットは撤去してある。そのため、他の生徒の部屋よりは広めである。寝る時はクローゼットから布団を引っ張り出している。真ん中には冬には炬燵としても使える正方形の座卓が鎮座している。

流石に障子は設置できなかったので、窓の外に簾をかけ、日差しを遮る効果と景色をそれっぽくしている。

壁には秋口になので薄の掛け軸を飾ってある。冬になったら鶴に変更する予定である。

ベタだが白檀のお香も焚いている。檜も好きだが、今日は白檀の気分だったので。ただマンションは風通しが良くは無いため、数分燻らして残り香を楽しむ程度にしている。クローゼットから座布団を引っ張り出し、一之瀬が座るであろう所に置いておく。

「…なんか…田舎のおじいちゃんの家に来た気分だね~」

「お茶入れて来るので、そこに座ってちょいとお待ちを。」

「は~い!」

 

一之瀬には少しお待ちいただいて、いそいそとお茶を入れにキッチンへ移動。鉄瓶に火を入れお湯を作り、茶葉を入れた急須に注ぐ。湯気と共に滋味深いお茶の香りが広がる。お湯を注いで香りが解き放たれる瞬間が良いんですよね。急須で葉を蒸らし、温めておいた湯呑へ交互に注いでいく。最後の一滴まで注ぎ終わった後、お茶請けと共にお盆へ乗せ、部屋へと戻る。

お茶請けはネギ味噌煎餅と和菓子。来客用では全く無く、完全に自分が食べる用である。快適な室内で食べるネギ煎餅とお茶は贅沢なのである。

 

「…粗茶でございますが。」

「どうもどうもご丁寧に。」

コト…と座卓にお茶とお茶請けが並べられる。

お互い、向かい合わせに座り、まずはズズズ、と茶を一口。和菓子を黒文字にて一口大に切り、口に運び、さらに茶を啜る。

一之瀬も同様に和菓子を美味しそうにハムハムと食べ、お茶を啜っていた。ふふふ、たんと食べて大きくなりなさい。心はすっかりおじいちゃんである。

「…ふい~落ち着く~」

お菓子とお茶で気が緩んだのか、ふにゃふにゃな声で一之瀬が呟く。くつろぎタイムを満喫していただくのは結構なのだけど、何をしに来たのかしら。

俺は頬杖をつきながら何の用ですかねぇ…と呟くと、ハッ!、と彼女は目を見開く。和の雰囲気に呑まれていた彼女も本来の目的を思い出したらしい。良かったよ記憶を失って無くて。IBM5100を見つけられずに許して許して許して許してされるのはご勘弁である。

「にゃはは…えーっと、体育祭で赤羽君が貰ったポイントを返しに来たんだ。クラスで成績が振るわなかった人にはその分の補填はしちゃったけど、やっぱり本人が貰ったポイントだから返すべきだと思って。」

彼女はポチポチと携帯を操作する。俺の携帯のバイブが鳴ったので、おそらくポイントが振り込まれたのだろう。

「必要無いって言ったはずなんだけどねぇ…」

「赤羽君は頑張ったんだから貰っておいてよ。ポイントは幾らあっても困らないしね。」

「へ〜い有難く頂戴させて頂きますぅ〜」

「よろしい!」

 

彼女の用事が終わり帰るのかと思いきや、そのままくつろぎモードに戻っていく。この空間が気に入ってもらったのは良いが、半分ぐらいうまる~ん化している。ぽていととコーラ与えたら完全にうまる化改めほなみ~ん化しそう。クラスでの頼りになる彼女はどこへやら。

「赤羽君はさ~週末はどう過ごしてるの?」

「鍛錬してあとは基本的に部屋で過ごしてるねぇ。そちらさんは?」

「私は友達と買い物行ったりが多いかな~こっちから誘う時もあるけど誘われて行く方が殆どかな~」

「うわぁ大変そう…」

「それが楽しいんじゃん!」

「その気持ちが分かりませんで。週末の過ごし方の方向性の違いで解散ですね!」

「そ~ですnって解散しないから!そんなんで解散してたらキリが無いから!」

 

はぁ、と一之瀬はため息を一つ吐いて話を流す。お茶をずずーっと啜り、また話し始める。

「…あとさ、体育祭の時はありがとうね。いっぱい引っ張ってもらっちゃった。」

「運動でしか俺の見せ場は無いからねぇ。ま、俺なりに楽しませてもらったよ。」

「クラスの人とも仲良くなれたんじゃない?いざって言う時に頼りになる人って皆に思ってもらえたと思うよ。」

「どうなんだかねぇ…?部活の勧誘はあったけどな。陸上部とか空手部とか。」

「空手部?」

「誰か中学ん時の俺を知ってる奴がいたみたいでねぇ、断ったけど。」

もしかして堀北先輩が流したか。いや、あの人はそういう人では無いな。

「へぇ~結構凄かったの?」

「まぁぼちぼちよ。」

「運動神経良かったから結構良いとこまで行ってたり?」

「一応全国で優勝はしたけど。」

「凄いじゃん!有名人じゃん!」

「過去の栄光だからねぇ…今はどうなるやら。」

「体育祭でさ、他のクラスにも意外と運動できる人いたよね。例えば綾小路君とか。堀北会長ともの凄い速さで走っててビックリしちゃった。」

「いやぁ、あれ位は出来るでしょうに。」

「そういえば前も言ってたね。凄い強そうだって。」

「そのうちやり合いたいけど、あっちのやる気を出させるのが難しそうでねぇ…」

「にゃはは…荒事は程々にね…」

「へ~い。」

 

話が終わった後も、テレビを見ながらお互いにくつろいだり雑談しながら適当に過ごし、彼女は帰っていった。

その後彼女が何故か入り浸る様になってしまったのは別のお話。俺のプライベートはどこへやら。




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ペーパーシャッフル①

先日、総合日間75位、二次日間61位入りました。読者様のお陰です。
嬉しくてアライ・猪狩状態です…


本日は晴天なり、そして中間テストの結果発表である。

試験テストの内容は中学問題が多く比較的難易度が低い…筈だったんだが結果としては大分やらかしてしまった。頭の出来は何ともし辛い所である。

担任の星乃宮先生から期末試験に関しての話があった。小テストの結果を元にペアを決めて試験に臨まなければならないそうだ。8科目合計800点、二人合わせて1600万パワー。各科目のペア二人の合計点が60点以上かつ総合点のボーダーの約700点を下回ると退学。

ベアークローを両手につけて二倍、いつもの二倍のジャンプを加え、三倍の回転を二人で加えれば2×2×3×2の19200万パワーですね。これでバッファローマンにも負けないね。

しかも問題は生徒が作るときたもんだ。攻撃側と防衛側の総合点をそれぞれ比べ、多い方が50クラスポイントを得る。例えばAクラスと直接対決をして攻撃も防衛を成功すれば100クラスポイント奪う事ができるわけだ。その逆もしかり。で、例年2組程度の退学者を出しているらしいので注意しないといけない。…意外と少ないですね。

 

先生の話が終わり放課後、一之瀬委員長からお声がかかる。

「神崎君、柴田君、それと赤羽君、ちょっと時間良いかな?」

「大丈夫だ。」

「うん、良いよ!」

「…何で俺なんですかねぇ…」

一人ごちた後、聞こえないフリして帰ろうとしたが、一之瀬に強引に腕を掴まれて連行された。場所は近くの空き教室である。

 

「結局連行されてしまった。帰りたい。」

「そんなこと言わずにさ。赤羽君二人三脚の時、咄嗟の機転が利くタイプなのが分かったし!」

「あれは咄嗟の機転じゃなくてアドリブ一発勝負のパワープレイじゃないですかねぇ…?運動と今回みたいな頭の良さが求められる試験は別でない…?」

「期待してるぞ、赤羽君!」

バシンバシンと背中を叩かれる。どうしちゃったんでせうか一之瀬さん。体育祭で鍛えすぎてパワー系委員長になってしまったのん?

「…全然話聞いてくれねぇ…」

「仲が良いのは喜ばしいんだけど、そろそろ本題に入らないかな…」

柴田が苦笑いで話をインターセプト、ナイス柴田。流石サッカー部なだけはある。

「にゃはは…ゴメン。」

俺は…早く…帰りたいです。…安西先生…

 

「それじゃ、今回のペーパシャッフルの試験での意見を聞いてみたいと思います!何でも良いよ!」

一之瀬の元気な声が空き教室に響く。人気者柴田とブレイン神崎はともかく俺は要らないんじゃないのでせうか。

「帰りたい、って言っても聞いてくれないんだろうなぁ…。じゃ勝手に推測しちゃいますと、とテストのペアで一番可能性がありそうなのは、小テストの点数の一番高い奴と低い奴からペアを組まされる事ですかねぇ。それ以外の候補色々とあるが…他は似たり寄ったりだろうねぇ…」

「成績の良い順のペアや完全ランダムの可能性は本当に無いのか?」

神崎が質問を飛ばす。何か推測を補強するデータが欲しい所。

「一之瀬は先輩達の退学状況とか分かんないっかね?」

こういうときに頼れるコミュ力お化け、情報通の一之瀬委員長である。

「えっと…二年生も三年生もDクラスの退学者がちょっと多いかな位でクラスが崩壊する人数にはなってなかったと思うな。先生もこの試験での退学者は1か2ペア位って言ってたし。」

「上の学年の退学者の数が理由になりそうねぇ…クラス分けがある程度成績順で決められているのは周知の通りだと思うから。過去のDクラスが成績の良い順にペアを組まされていたとしたら。現時点で残りの人数は壊滅的だと思う。でもそんな事は無いので可能性は高そうってのが俺の意見ですぅ。」

「…お前達、事前に話す内容を決めて臨んで来てないか…?」

チュッ チュクチュッチュ〜チュクチュッチュ〜チュッ チュクチュッチュッチュ 違います!(DJ数学教師)

傷付くわ〜と思いながら心の中のファンタを開ける。俺は早く帰りたいだけである。あと相談する時間なんて無かったでしょうに…

 

「んで、クラスのポイント差を考慮すると、確定はDクラスがCクラスを狙う。あくまで学力差の総合力順でクラス配分されているなら、一番勝率高めでクラスが上がる目も出るからねぇ…。Aクラスは現時点での派閥次第だが、坂柳が指揮を取るならBクラス狙い。葛城が指揮を取るならDクラスかCクラスだな。龍園は知らん分からん理解するつもりもない。」

「私も概ねそんな感じだと思うな。じゃあ私たちはどのクラスを狙おうか?」

「Aクラスだな。トップがまだ確定してない今の段階が叩ける数少ないチャンスだと思う。」

「僕もそうかな。今が一番Aクラスに上がれる可能性が高そうだし。」

神崎と柴田はAクラスを狙うのに賛成な様だ。

「赤羽君は?」

「Cクラスだな。同盟を破棄する覚悟ならDクラスだ。」

「…どうして?」

一之瀬は俺の答えが意外だった様だった。理由を聞こうと俺に問いただす。早く帰りたいが、言いたいことなので言っときましょう。

「坂柳が指揮を取ると仮定するとあまりに分が悪すぎる。あの身体能力でAクラスに在籍しているということは、反対に頭の方は言わずもがななわけで。俺らの想像を超えて何かしてきそうだな、と。ぶっちゃけ葛城相手でも勝てるとは思えない。……正々堂々やりたいなら、多数決で俺は従いますよ。」

今回の試験はクラスが上なほど圧倒的に有利な試験だ。確かに勝てればAクラスになれるが、おそらく地力は相手が上だろう。坂柳さん攻撃的な性格以外、何考えてるかサッパリ分からんのよね。そのうち夢に出てきて精神攻撃とかしてきそう。

「…私もAクラスを狙うのに賛成かな。勝てればAクラスに上がれるし。」

と、いうわけでこの場ではAクラス狙いで話はまとまった。俺、必要でしたかね…?




アンケートの回答ありがとうございます。皆さん烈海王好きすぎじゃないですかね。私も好きです。個人的な話ですが、烈海王が亡くなった時に友人が中国に黙祷を捧げたっていうエピソードでクソ笑いました。彼の命日って何日なんですかね、誰か知ってたら教えてください。

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ペーパーシャッフル②

アンケート回答のありがとうございました。R18の方はぼちぼち書き始めていますが、これでいいのか感が拭えない…ブレインが欲しい…

本日も駄文ですがお楽しみ頂ければ幸いです。


後日のホームルームにて、小テストは成績上位者と成績下位者がペアになる様に点数を取る算段となった。ペアでのマンツーマン家庭教師を行い、余裕のある生徒は集まって勉強会に参加。ペアの指導が合わない場合は別途相談とのこと。

で、小テストの結果の調整も上手くいき、ペアの振り分けの目論見は予想通り…ではあったのだが…

「宜しくね!赤羽君!」

「…ランダムでこの結果なら受け入れよう。」

一之瀬さんとは何かとご縁があるようで。神様のメモ帳に組まされると書いてあったのだろうか…。仲の良いクラスメイトもほぼ居ないので良かった事にしておきましょう…

 

…で、勉強場所は俺の部屋なのね…

「良いじゃん!ここ落ち着くし、美味しいお菓子もお茶もあるし!」

「委員長様が平生徒にたかるんじゃありませんよ…」

「じゃあ、今回からは勉強代ってことで。」

「…ちゃっかりしていらっしゃる。」

「そういえばさ、今回の赤羽君っていつもより成績落としてたよね。中間試験は中学の範囲も多かったし、難易度はそこまでじゃ無かったと思うんだけど…」

一之瀬さん、クラス全員の大体の成績把握してるんですね…新手のストーカーみたいで怖いです。

「…それ聞いちゃいますぅ?…ぶっちゃけ話したくないですぅ…」

「茶化さないで。ちゃんと理由が知りたいんだから。」

「…」

ぶっちゃけ過去については詮索されたくない。どこまで話すべきか…

「…話したくは無いが掻い摘んで圧縮すると、中三の時はやんちゃしてたって事で説明は許して貰えないですかね?これ以上は話せないな。」

「…ふ~ん…」

「一之瀬も詮索されたくない過去もあるだろ?」

「それはあるかもしれないけどさ、赤羽君は謎が多いっていうか隠し事があるって感じる時があるんだよね。今みたいに聞いても教えてくれないし。中学では意外と空手で有名人だったのに今は続けてなかったり。それなのに身体はちゃんと鍛えてたり。」

「あ~それはあの習慣と言うか、動いてないと死んじゃうマグロみたいな認識ぐらいで結構よ。」

「またそうやってはぐらかすし…」

一之瀬は不満げな顔で頬杖をついて睨みつける。そんな事しても話せる事はありませんよ。

「…じゃぁさ、こっちが昔の事を話したらさ、話してくれたるする?」

「それは内容次第でない、俺がどうでも良い内容だと感じたらどうでも良い事しか話すつもりは無いし。」

「イジワル…」

「話すべき時が来たら話すかもさ。断言はできないけどな。」

「そっか…じゃあその時になったら話してもらうからね。」

どうして一之瀬はやたらと俺の過去を詮索したがるのでせうかね。知らなきゃ良い事もあると思うのだけれど。

「なして一之瀬は俺の昔話を聞きたいと思うんだ?」

「良く話をする人とかさ、今までどんな風に生活してきたんだろうって気になっちゃうのが普通じゃない?」

「そんなもんかねぇ…」

「そんなものなの。赤羽君は私の昔話は気にならない?」

「ぶっちゃけてしまうと気にならんな。」

「気にならないんだ…色々あるじゃん!例えば家族の事とかさ。」

「じゃあ家族の事を聞かせてもらうとしませう。」

「なんか私が誘導してるみたいじゃん…家族はお母さんと妹がいるよ。今は会えてないけど、結構仲は良かったかな。赤羽君は?」

普段の生活からしても家族との仲は良さそうだ。家の中だと不機嫌になる性格だとは思わないし。

「両親は既に他界してる。入学するまでは母方の祖父母の所で暮らしてたよ。」

「…そうなんだ……ゴメン。」

「気にするな。もう過ぎたことだ。」

過ぎた事、と割り切れるほど大人だったら。もしかすると俺はここにはいないのかもしれないが。

「あまり話したがらなかったのは、家族の事を聞かれるのが嫌だったりしたからかな?」

「それも無きしもあらずだが、別の理由もあるな。まぁ知りたいなら聞いてもらっても良い。けど答えるかはまた別のお話よ。」

「そっか…そうだよね…」

少し気まずい沈黙が流れる。部屋に流れるのはBGM代わりに付けていたテレビの音だけ。

 

「…赤羽君はさ、Aクラスは本気で目指してる?」

「一之瀬にはどう見える?俺がAクラスを目指しているかどうか。」

「…う~ん。ちょっと判断付かないかな。クラスに協力的ではあると思うんだけど、常に全力って訳では無いって私は感じてるかな。」

「…ぶっちゃけ、Aクラスになりたいかって言われたら正直どっちでも良いな。特権には特に興味は無いし。」

「そっか、赤羽君みたいな人がいるのはしょうがないけど、私は本気だよ。Aクラスになった時、赤羽君も一緒にいてくれたら嬉しいな。」

俺を見つめる真っ直ぐな瞳が、彼女が本気だと如実に伝えてくる。

「…じゃ、勉強始めよっか。」

「よろしくです、一之瀬先生。」

「うむ、苦しゅうない。では厳しくバシバシいきますぞ。」

「お、お手柔らかに…」

 

この後、めちゃめちゃ勉強した…しんどかった…




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ペーパーシャッフル③

本日も駄文ですがお楽しみ頂ければ幸いです。


西暦20XX年。IT産業の急激な発達により、「Smartphone」と呼ばれる携帯端末をすべての人が所有し、その中にいる擬似人格型プログラム「Google先生」を介して、日常のほとんどの行為をネットワーク上で行うことができる。人々のくらしは、数年前とは比べ物にならないほど便利になっていた。

…しかし、その一方でネット犯罪が深刻化し、各地のネットワークでウィルス・ネットテロ対策が社会問題化していた。ネット犯罪集団の悪質な行為により、倒産する企業や、データを全て消去され社会から取り残される人が続出していた。ネット犯罪集団の凶暴なウイルスの前には、ネットポリスも打つ手が無い状態だった。

…デンサンシティ、秋原町、ではなくここは高度育成高等学校。戦いの得意なひとりの少年がいた。その名は「赤羽巧(あかばね たくみ)」。彼はその能力ゆえに、これから大きな事件の渦に巻き込まれていくのだったーーー

 

ーープラグイン!ロックマン.exe!トランスミッション!!!ーーーー

 

と、下らない茶番はさておき、ぼかぁは期末試験に向け、一人勉強をしている所でございまする。

ペアが容姿端麗、成績優秀コミュ力お化けの一之瀬なので退学する可能性は低そうだが、勉強しておくに越したことはないのですよ。

 

ペンポーンとチャイムが鳴る。誰でしょうか一之瀬家庭教師でせうか。

「はいは~い、って坂柳さんじゃないでせうか?どうしましたこんな所に?」

「こんにちは赤羽君。暇でしたので、一局どうかな、と。」

彼女の小脇にはチェスボードが抱えられていた。お前は友達の家にゲーム持って来る小学生かよ。

「…俺が暇かどうかは確認はしないのね…期末試験前に余裕ですね。」

「私にとって期末試験の内容は些末事ですので。勉強でお忙しい様でしたら退散する予定したがお相手して頂けますか?」

「さいですか。ま、勉強ばかりしていても息が詰まるのでどうぞ入んなさいな。」

そう言って部屋に彼女を招き入れる。

「ほう…面白いインテリアの部屋ですね。学生らしくないというか…」

坂柳は和風部屋に驚いた様子だった。

「俺の趣味だ、気にすんな。」

来客との事で茶を沸かしていると、またもやチャイムが鳴る。今日は来客が多い日ですね。

「やっほ~赤羽君、お待たせしちゃってごめんね!今日も勉強しよっか~…って坂柳さん!?」

想定外の人物の存在に彼女は眉を寄せる。大丈夫、俺も同じ気持ちだよ。

 

来客用のお茶と菓子を用意し、部屋に戻ると、一之瀬と坂柳が対面で座っていた。

「…どうして坂柳さんが赤羽君の家に居るのかな?」

「どこに居ようが私の自由ではありませんか?」

二人の後ろに白虎と青龍が見える。怖いです。

俺は現実逃避の為にお香に火を点ける。あ~いい香りですね(思考停止)

「どうして坂柳さんがここにいるの?」

一之瀬がこちらに近寄り耳打ちしてくる。

「俺が知りたい位だわ…」

「コホン。それでは赤羽君、始めましょうか。」

坂柳が一つ咳払いをして、脇に置いてあったチェスボードを座卓に置く。この状況で二人でゲームをしようとする胆力よ。

「…私がやる!赤羽君は自習してて!」

一之瀬がお相手する事になった。あなた、そんな暇な人じゃないでしょうに。また勉強しなきゃいけないのかぁ…

 

「…私の勝ちですね。」

「むむむ…」

勝負は坂柳の勝利で終わったようだ。

「さて、勝負も終わったことですし、赤羽君、以前して頂いたアレをもう一度お願いできますか?」

「え?何?赤羽君坂柳さんに何かしたの?」

空気を読んでいないのかあえて読んでいないのか。多分後者である。

「ご存じの通り、坂柳は弱いみたいでね。で、俺が何故かツボ押しが出来てしまって頼まれている訳でして…」

「…ふーん。」

悪い事をしていない筈なのに罪悪感が苛まれるのは何ででせう?

 

「彼の言う通りそういう事ですので。それでは失礼しますね。」

坂柳がうつ伏せで寝そべる。前回同様に俺は彼女の腰、背中辺りをグニグニと押していく。

見る人が見れば事案である。今、事案一歩手前である。

「んっ…」

坂柳が艶めかしい声をあげた。絶対わざとだ。

「これは施術ですよ、一之瀬さん。特に厭らしい意味はありませんよ。」

挑発交じりの笑顔でで坂柳は言葉にする。

「むむむ・・・」

対して一之瀬のご機嫌は更に急降下していく。空気に耐えられなくなった俺は考えるのを…やめた。

「ふぅ・・・。ありがとうございます、赤羽君。この学園内の医療施設ではこういった事が出来る人間がいないもので。助かります。」

「そりゃどうも。我流なんで効果あるかは分からんがな。」

「でも私には効いていますので。」

俺らが会話している横で一之瀬さんは大分ご機嫌斜めである。セイセイセイ、

「赤羽君!私もマッサージしてよ!」

「えぇ…」

一之瀬が何故かマッサージを要求してくる。そもそもこれはツボを突いて悪い部分の歪みを正すだけでマッサージではないのだが…

一之瀬のご機嫌を損ねさせるのも忍びないので適当にマッサージする。うりうり、ここがええんじゃろ。ここがええんじゃろ。

「あ・・・これ・・・良い・・・あぁ・・・」

一之瀬は恍惚交じりの声を発する。お楽しみ頂けて何よりです。

「…楽しそうですね。」

うつ伏せで寝そべった体制のまま、こっちに微笑みかける。目が全く笑っていない。怖い怖い怖い。

一之瀬の方はそこそこに坂柳側へと移動。だが片方を始めるともう片方が不機嫌になる。無間地獄である。心が保たない。

「・・・あへ・・・凄く良かった・・・」

「・・・ふう・・・これは癖になってしまいそうですね・・・」

しっかり解されたようで二人の身体はすっかり脱力している。ご満足頂けて何よりです。赤羽接骨院でも開業しようかしら、1回91,000ペリカで。

「…赤羽君にもお返ししなきゃね!」「…フフフ、そうですね。」

一之瀬と坂柳が指ををわにわに動かしながら近寄って来る。

どうして急に息ピッタリになるのん?最初の険悪ムードはどこに!?仲悪いよりはよっぽど良いけどさァ!?

 

そのあと、滅茶滅茶マッサージされた。役得なんだろうが、どうしてこうなった…

 

二人が帰った後、携帯のバイブが鳴った。確認すると坂柳からだった。

『今日はありがとうございました。また来ます。』

…どうやら携帯の連絡先を勝手に交換されていたらしい。見られて困るものはないけれど俺のプライバシーはいずこへ…




こーゆの好きだろう?僕も大好きさ!(チャー研並感想)

舞い降りて来たネタはストーリを曲げてでも容赦なくぶち込んでいくスタイル。
ロックマンエグゼは名作でしたね。リメイクがあればSwitchで通信対戦してみたいものです。今年で20周年か…

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ペーパーシャッフル④

先程、総合日間26位、二次日間21位に入りました。目標としていた総合日間50位に入れて大変嬉しいです。応援してくれている読者様の方々、ありがとうございます。


ペーパシャッフルも中盤戦、学力優秀組に問題の作成はお任せして、ぼちぼち俺は勉強に励んでおります。餅は餅屋ですよ。

ここで問題発生である。その問題は1年生全員に送られた一枚のプリントだった。

そこには印刷された文字で、

『1年Bクラス、一之瀬帆波が不正にポイントを集めている可能性がある。龍園翔』

と書かれていた。

不正にポイントを集めているとは飛んだ言いがかりである。だが、それはクラスの中での話。他のクラスとの一悶着の種になりそうだ。目的はBクラス内の混乱の為なんですかねぇ…

そして問題はこれを誰が入れたか、だ。紙には龍なんとかさんと書かれているが、これは情報操作の為の罠だろう。彼ならやりそうな手法だが、今回は戦うクラスが違う。一番怪しいのはAクラス、次点でDクラス。

 

俺が判断するには情報が足りませんねぇ…面倒なので手っ取り早い方法でいきますか。

俺は携帯を取り出して、とある相手を呼び出した。

 

「赤羽君から呼び出しとは、珍しいですね。」

場所は変わりまして、俺のマイルームである。落ち着いて話が出来る所があたしんちしかないのである。んで、呼び出したのは坂柳。Aクラスのトップに聞いてしまうのが一番手っ取り早いよね(安直思考)

「まぁな、ちょっと聞きたいことがあるんだが良いか?」

「私が答えられる事なら。」

「単刀直入に聞くが、一之瀬のポイントの噂を流布したのは、Aクラスか?」

「違いますね。あんな安直な事はしませんよ。」

「そうなると、Dクラスか。誰か心当たりあったりしませぬ?」

「そうですね…私は綾小路君ではないかと推測しています。」

「ほ~ん綾小路ねぇ…」

「彼はホワイトルームという英才教育の機関の出身でして。知識・戦闘教育に関しては只の高校生とは比べ物になりませんよ。まぁ、私が潰す予定ではありますが。」

ホワイトホワイト。ホワイトケーキ、ホワイトマッシュルーム、WWW(ワンダーワイドホワイトボール)、ケーキ食べたくなってきた。どら焼きじゃないよ。

「そ~ゆ~ことね~一度やり合ってみたいんだけど機会がなくてねぇ。」

「貴方は気付いていたいんですね、綾小路君の本当の実力に。」

「頭の良さの方は全く分からなんだが、腕っぷしの方は気付くっしょ。分からない奴はその程度の人間ってことよ。」

「彼は私の因縁の相手ですので、貴方が手出しする様なら、私も容赦はしないかもしれませんよ。」

「お前と俺とでは興味のジャンルが違うでしょうに…一応利害関係は一致してるって事で良いんですかねぇ…?」

「彼はまだ実力を隠してはいますが、Aクラスも目指すなら出さざるを得ないでしょう。もし、出さない様なら私が出させます。」

「それは頼もしい事で。俺はそのおこぼれにあずからせて頂きますよ。」

「貴方の力が必要になったら協力はして頂けますか?」

「…状況によるな。お前の弾除けに必要なら手を貸すかもしれないとは言っておく。」

「それは頼もしいですね。必要な時にはこき使って差し上げますよ。」

「丁寧な口調でえげつない事言いますねぇ…で、綾小路の目的は?」

「…さぁ?流石の私でもこの情報で彼の意図までは読み切れませんよ。」

「はぁつっかえ。」

「…流石に怒りますy「大変申し訳ありませんでしたぁ!」」

俺は爆速で坂柳にジャパニーズDOGEZAを決める。その潔さアッパレである(自画自賛)。その発言自体はウカツ!であったが。

「…もう少しプライドを持った方が宜しいのでは?」

「プライドは父親の睾丸の中に置いてきた。」

「…その発言はどうかと思いますよ…」

坂柳さんに軽く引かれてしまった。悪いとは思っているが反省はしていない。

「まぁそれはそれとして、情報ありがとさん。」

「どういたしまして。情報のお礼と言っては何ですが、一つお願い事を聞いてもらっても宜しいですか?」

「…無理なお願いじゃ無ければ聞きませう。」

坂柳のお願いですか…普通に嫌な予感がします。俺は詳しいんだ(またしても何も知らない大泉 洋さん(23))

「会って頂きたい方がいます。」

「ほむほむ、それは拒否しても良い案件でせうかね?」

「拒否権が無い訳ではありませんが、貴方の退学させる事も可能な権力者、とだけは言っておきます。」

「…実質強制じゃねぇか…分かりましたよ、行きますよ。」

「それでは、都合の合う時に連絡させていただきますね。」

「嫌な予感しかしないゾ。」

「フフッ。それはどうでしょう?」

情報を貰った代わりに面倒なお願いをされてしまった。はてさて、どんな人物が現れるのやら。




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ペーパーシャッフル、終了です。

私が投稿した作品の中でこの作品が一番のお気に入り数になりました。ありがとうございます。
ついでに過去作の紹介しておきます。

原作 『彼女お借りします』
タイトル『一ノ瀬ちづるに幼馴染がいたら』
https://syosetu.org/novel/232928/

初投稿作品だったのですが、思いの他好評でほっとした思い出があります。
原作途中で強引に完結させましたが、むしろ良かったと思っています。原作は絶賛連載中なので、今同じ作品を書けと言われても書けないですね。今の状況を読んで書き切れる気がしません。
ちなみにこのジャンルで唯一の完結ssだったりします。

それでは本編の方、お楽しみください。


時は移りましてペーパーシャッフルの結果発表~!(CV.浜田雅功)(恒例行事)

残念ながら僅かな差でAクラスの勝利となってしまいましたよ。地力の違いだったのか、はたまた何か仕掛けられていたのか。

クラス内も多少お通夜ムードが拭えないが、終わってしまったものはしょうがない。一ノ瀬さんが一番悔しいだろうに押し隠してクラスを励ましていらっしゃる様で。お疲れ様です。

 

放課後、ぼちぼち帰りましょうかねぇと帰宅の準備をしていると、Dクラスからちょいとガヤっとした音が聞こえますねぇ…赤羽イヤーは地獄耳っ!あ~くまのち~から~み~に~つ~けた~

教室で耳を澄ませていると、C・Dクラスの一部の生徒の集団が移動していく足音、何となく一悶着ありそうだよね。

俺は気付かれない距離から遠巻きに彼らについて行く。あ、Aクラスとも合流しましたね。カオスですね。

Aクラスの男子が坂柳を庇って吹っ飛ばされていたが、まぁ気にしないことにしておこう。

解散したみたいなんで今日は終わりですかね。龍なんとかさんは存在Xを見つけるために本気で動き出したみたいね。俺も暫くは龍園の行動に気を付けさせてもらいましょうか。で、美味しい所は頂かせてもらいまする。

 

所変わって俺の部屋。そして向かい側には、何故か坂柳さんがお茶を啜っていらっしゃる。ブルータス、お前もか。お前も一之瀬みたいに入り浸ってしまうのか…俺の安息の地に…

ついでなんで坂柳からさっきのいざこざのお話を聞かせてもらった次第です。

「…ドラゴンボーイか。高円寺も中々にお笑いが分かっていらっしゃる。」

「私は赤羽君のお笑いが面白いとは思ったことはありませんけどね。」

「あらやだ。失礼しちゃうわね。リトルガールちゃん。」

坂柳はリトルガールの所は話していなかった。赤羽イヤーは地獄耳っ!俺でなきゃ聞き逃しちゃうね。

「…次言ったらどうなるか分かっているでしょうね…」

目を細めて笑っている坂柳の後ろに悪魔が見える。これがデビルウーマンか…

「サーセン(すマーン)。」

「…まぁ良いでしょう。先程も貴方が傍にいれば然程問題にもならなかったでしょうし。傍観者に徹しすぎるのは勿体ないと思いますよ。」

「う~む~カメラある所でやるのはちょっとねぇ…」

「あら?私の様な美少女の隣に居るのは光栄ではありませんか?」

「美少女というよりはリトルg…今日はこれ位にしといて差し上げましょう…あとスンマセン。」

二度目の悪魔が現れかけたので即座に謝罪をキメる。多分三度目は無い。謝罪と賠償を要求されたら今は甘んじてライフで受ける次第であります。

「…はぁ、償いついでに今日もお願いします。また調子が少しずつ悪くなってしまいまして。」

あ、そっちが本命でしたか。謹んで施術させていただきます。お代の91,000ペリカは見逃してあげましょう。坂柳さん地下で一か月も重労働できそうにないですしおすし。

 

坂柳も帰宅しまして一日の終わりを謳歌しようと茶を沸かしているとペンポーンとチャイムが鳴る。一之瀬の訪問である。

お茶とお菓子を用意して部屋に戻ると何故か一之瀬さんのご機嫌は斜めであった。どぼぢて?俺、また何かやっちゃいました?

「…坂柳さんの匂いがする…」

何?一之瀬さんの嗅覚は犬並みなの?怖!

「確かにさっきまでいましたねぇ…」

特に隠す事では無いのであっさり暴露。ただ、正直に話した所で状況は好転する訳では無い。まいっちんぐ。

取りあえず餌付けして様子を見ませう。懐にはサファリボール30個、そして石。後で『なみのり』と『きんのいれば』取りに行かなきゃ。

「もぐもぐもぐ…美味しいお菓子でも機嫌は良くならないんだからね…」

もぐもぐって喋る人って存在してたんだ…ラピュタはあったんだ…!

一之瀬さん既にoffモード全開である。ご機嫌取り駄目だったら、そのもぐもぐ止めなさいよ。

ほいほいほいとご機嫌を取るべく一之瀬にお菓子で餌付けを続けていく。何度か続けていくと、ふしゅ〜と満足そうな息を吐いた。取りあえず爆発は逃れられましたかね。

 

「そ~いや生徒会に入ったのな。この前は微妙な反応してた割に。」

「にゃはは、生徒会は大変だけど結構楽しいもんだよ。情報も入って来るし。赤羽君もどう?今年中なら堀北前会長の推薦ってことで入れるとは思うけど。」

「お断りです~南雲パイセンの下でこき使われるのは嫌です~」

「こき使われるの前提なんだ…」

にゃはは、一之瀬はと困ったように頬をかく。腕っぷしだけの人間が入った所で大して使える訳でもなし、堀北パイセンに意図はありそうだが、俺にメリットがあるとは思えないしにゃあ…

 

俺が生徒会に入らない意思を強固にしていると、一之瀬は両手の指先ををクルクルさせている。何かのおまじないなのん?

「…そのさ、赤羽君はクリスマスって予定ある…かな…?」

「ん~、無いな。いつも通りに過ごすだけだ。」

「そっか。…あのさ、どこか一緒に出かけたいなと思って、どう?」

「えぇ…寒いやん…イヤよん。」

「…分からずや…」

一之瀬が小さい声でなにか呟く。

「何か言いましたかねぇ…」

「ふーんだ。」

ご機嫌が少し戻ったと思いきや、また最初に逆戻りである。原因は断った俺にあるんだろうけどさぁ…やっぱ寒い中出かけるの嫌じゃんアゼルバイジャン。

「…へいへい分かりましたよ。不承不承私で宜しければお付き合いさせて頂きたい次第でございますよ。」

「…不承不承って所は気に入らないけどさ、言質は取ったからね。約束だからね。」

一之瀬は座卓の下で小さくガッツポーズしていた。隠れてませんよ…わざとですかね…

 

クリスマスに予定が入ってしまった。寒いのは嫌だが、退屈しない日になりそうだ。




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vs 綾小路清隆

活動報告で投稿頻度落ちると言ったな。あれは嘘だ。(何故か痛いの飛んでった)

最近の執筆中のBGMはマツケンサンバⅡです。


龍なんとかさんの動向を探って早数日。ようやっと彼は動き出した。待たされました。

龍なんとかさんは校舎の屋上へ向かったようだ。俺は校舎の壁を伝って屋上の真下の階の淵に腰掛ける。さて、どんなお話が聞けるでしょうか。龍なんとかさんの後に現れたのは、軽井沢という女子生徒の様だ。多分一年生、多分。

 

龍園は軽井沢が存在Xの情報を知っていることを付きとめ、それを問いただして誘き出すという算段らしかった。彼女はそれを拒否。それから30分以上、彼女は龍園に水を、言葉を浴びせられ続けた。意外と根性ありますね彼女。

流石に助けようかなと思ったが止めておく。はてさて、存在Xの正体は坂柳の推測が正しいのか、それとも他の人物なのか。見守らせてもらいましょう。

あと俺が出ていくと、それこそ超展開になっちゃうからね。この状況で出て行ったら俺が存在X扱いされて、Dクラスにいると確信している龍なんとかさんのメンツ丸つぶれだからね。

龍園が携帯で話しをした後、綾小路が現れる。彼が存在Xですかぁ…坂柳さん流石ですねぇ。さす柳さんですねぇ。これ坂柳に言ったら絶対怒られルンバ。

 

二人が話をした後、Cクラス4人と綾小路のバトゥ~!が始まる。カードバトルは始まっていないし、無限少女もここにはいないが。

結果は綾小路の圧勝。まぁ妥当ですね。綾小路が龍園の意識を刈り取るため。最後の拳を振り下ろす瞬間。俺は話しかけた。

「お~い、その楽しい遊びにも俺も混ぜちゃくれないかねぇ?」

「っっ…赤羽ぇ。どうしてお前がココに居る?」

龍なんとかさんが怒気交じりに俺に聞く。

「え?勿論綾小路と一戦交えるためだけど?」

「…お前は何時からソコにいた?何故気付いた?」

「それは企業秘密♪まぁ強いて言うなら直感よね、第六感ってヤツ?強者が本気を出す匂いを嗅ぎつけたら、向かっちゃうでしょ。」

 

嘘である。

以前貰った坂柳の情報を元に推測し、綾小路だったら良いなと思っていただけである。

現れなかったら、龍園ボコして帰る予定でした。テヘペロ。

「…お前は龍園側に付いているのか?」

「いや。俺は龍園では無く完全に第三者だ。でも龍園には感謝してるよ。こんな絶好の舞台を用意してくれた事にね。」

「…俺がお前に踊らされていたとはな…クソが…」

「龍園さ~ん、一応借り一つって事で。いや良かったねぇプライドを完膚なきまで圧し折られなくて。」

「…お前に助けられる義理はねぇ。死ね。」

「そう言えば、お前はさっき俺は窮地なのかって聞いていたな…。ここに俺がいる限り答えはYes、だ。と、言うわけで…遊んでもらうぜ。ついでに龍園、見せてやるよ。本当に振り切れた暴力の一部を、な。」

 

俺は綾小路に向かって踏み出し、右拳を突き出す。石崎よりも軽い一撃。綾小路は悠々とそれを受け止める。

「…何のつもりだ?」

綾小路は俺の拳を握り潰そうとする。俺も手を広げ、綾小路の手を掴む。ギリギリとお互いを握り潰そうとする音だけが屋上に響く。

「…」

綾小路が俺を突き飛ばし、すぐさま横薙ぎに中段蹴りを放つ。俺も綾小路の脚の軌道に合わせ、蹴りを放ちそれを止めた。

「お~良いねぇ。これ位やって貰わないと待った甲斐が無いからねぇ。」

俺は彼の顔面目掛けて掌底を放つ、それは紙一つで躱され拳が俺の身体に迫る。俺はそれを掴み合気で返そうとする。が、綾小路は読んでいたのか力を流し、何事も無かったかの様に再度攻撃を仕掛けてくる。ふむ、これは知っている人間の動きですねぇ…。俺は一度距離を取り話し出す。

 

「ん~これ位の技術は苦にしないって訳ね。良いですね良いですね、燃えてきましたね。」

「…お前の目的は何だ。何故俺に仕掛けて来た?」

「そちらさんが勝ったら教えますよ。つまり教えるつもりは無いって訳だけど。」

 

綾小路が仕掛ける。首目掛けて飛んでくる手刀を躱す。俺も同じく手刀を繰り出し綾小路が躱す。綾小路が蹴りを躱し、俺も返す刀で蹴りを放ち躱される。

攻防は続いていく。お互いに加速していく。だが攻撃は当たらず。空を切り続ける。人が見れば演舞にも見えるだろう。綾小路が表情を険しくして距離を取る。

「ふぅ、どういうつもりだ?」

「いや~思ったよりもガッカリでして。…と、言うわけでそろそろ終わりにさせてもらいますぅ。」

俺が両拳を上段に構える。綾小路も警戒して構えを取る。

片手を筒状にし、肺の中の空気を鋭く吐き出す。その空気は無警戒の綾小路の眼へと命中する。

俺が駆け出したど同時に綾小路は両腕をクロスさせ防御の体制を取る。咄嗟の良い判断だが、俺からみたら悪手じゃよアリンコ。

 

ところで、拳での攻撃とはどういった例に例えられるか、考えた事がある人はいるだろうか。単発のジャブ、そして連打。蛇口の水に例えてみよう。単発の攻撃は水道の蛇口から垂れる一滴の水。連打は蛇口からポタポタと垂れる水である。連打にはさらに上がある。無呼吸連打である。蛇口の水が永遠と流れるのをイメージして欲しい。その物量、威力は只の連打とは比較にも値しない。無呼吸連打はプロのアスリートでも数秒しか行えない。無呼吸連打を放てる人間は一握りしかいない。そう、俺である。

 

綾小路に向けられて振るい続けられる拳。相手は倒れ袋と屍すまで防御に徹する事しかできない。反撃の瞬間など存在しないのだ。

最初は立っていた綾小路も徐々に体制が崩れていく。片膝を付き、両膝を付き、柵際まで追い込まれていく。彼の背中が柵に付いた瞬間、相手の戦意が無くなるのを感じ取り、俺は拳を振るうのを止めた。

「…止めを刺さないのか?お前の勝利は確実だぞ。」

肩で大きく息をつきながら綾小路が話す。

「そんな態度をされちゃぁ詰まんないからねぇ。今日は満足しましたよ。次はマジでかかって来なさいな。武器を含め、お前の使えるあらゆる手段を使ってな。じゃ、俺は帰りますよ。」

戦いはお終いである。先程と同様に校舎の壁を伝って降りる。行きと帰りは同じ道にしなきゃね。誰が待ってるか分からないですしおすし。

 

所変わって場所は俺の部屋。今日は良い運動になりましたね。そのうちまた楽しい事が待っていると良いですね。へけっ☆

 

 

ーー龍園視点

 

 

赤羽は突然現れやがった。しかも屋上での一部始終を全部目撃された上で、だ。

それは良い。気に食わねぇのは、アイツが言った一言だ。

本当に振り切れた暴力の一部とは何だ。

「っっ…って赤羽がいる…どういう状況よこれ?」

気絶させられていた伊吹も目を覚ましたようだ。

「俺らは綾小路と戦うって言う赤羽の目的の為に踊らされてたって事だ。クソ気に食わないがな。」

終始、余裕そうな赤羽と険しい表情をしている綾小路。

「…アイツはやっぱり綾小路以上だったってわけね。」

「何だ、知ってたのか。」

「まぁね。何度かやり合ったけど一撃も掠りもせずに惨敗よ。オマケに訳の分からない術まで使われて、何されたか分かんなかったわよ…私は存在XはDクラスの誰かか赤羽かと思ってたけど違かったみたいね。結局アイツはここにいるわけだけど。」

伊吹は胡坐をかき、二人の戦いに見入っている。悔しいような羨むような目でな。

そして最後は赤羽の視認すら出来ない速さの攻撃で勝敗は決した。

俺らが全く歯が立たなかった綾小路を圧倒して見せた。

俺も修羅場を何度も潜って来た。何度も、だ。綾小路はそれ以上。そして赤羽はさらにそれ以上って事か?

しかも奴はあれで一部と言い放ちやがった。確かに綾小路を料理しているようにしか見えなかった。アイツにはまだそれ以上がある。全く底の見えない圧倒的な暴力。

奴の目的は戦いたいだけか?本当に只の戦闘狂か?今まで実力を見せなかった理由は何だ?お前の本気はどの程度だ?

アイツの考えは読めねぇが、一つだけ言える事がある。この学年で一番強えぇってことだ。確かにその片鱗はあった。

Dクラスを退けた後は、コイツを必ず倒さ必要があるって訳だ。おそらく無理ではない、が綾小路以上に手間と時間がかかる。一之瀬以外に他に組んでいる人間がいねぇとも限らねぇ。厄介な事この上ない。しかもヘマをすると物理的にデカいしっぺ返しもありそうだ。まずは本当の実力の分析をしねぇといけねぇな。




アンケートでお話していた。R18部分も1話投稿しました。とりあえず2話投稿予定。

https://syosetu.org/novel/267889/

えっちだ・・・と思った方はこっちに投票してね!(無言じゃない圧力)

無呼吸連打、1秒に100発らしいですね(空想科学読本作者YouTubeチャンネルより抜粋)

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クリスマス

お久しぶりです。クオリティは相変わらずですが、お楽しみいただければ幸いです。


時は幕末、じゃなくてクリスマス。玄関を出ると、顔面に感じる沁み込む様な肌寒さと自分と外界の境界を感じさせられる。今は冬です。ベリーコールドなう。

集合場所に向かう道すがらは如何にもクリスマスっ、ていう飾りつけで街は埋め尽くされている。クリスマス気分に浮かれてここの学生達は使わなくても良いポイントを吐き出してしまうんですね。俺もその一人ですね見事に罠に嵌っております。

一応、マナーってことで早めには到着している。寒い!でも俺には站椿がある!あったかい!むしろ熱い!調整が難しい!

 

と、一人葛藤しているとパタパタ、と足音を慣らし、一之瀬さんがご到着である。

「お待たせ~!寒いのにゴメンね~!」

「全然、とぼかぁは定番の返し文句を言わせていただきますよ。」

「それを言っちゃったら台無しだよ…」

一之瀬さん呆れ顔である。

「どう?」

一之瀬がくるりとターンしする。服の感想を聞きたいとのご所望である。

コートを羽織り、制服と同じく短めのスカートである。今回は長めのブーツで対策はしている様ではあるが、冬に露出するのは寒そうである。

あと、普段はしないシトラス系の香りが鼻をつく。一ノ瀬さん香水付け始めたんですね。年頃の少女ですもんね。

「寒そう。特に脚あたり。」

「似合ってるかの感想じゃないんだね…」

「わざとでございます。」

「もうっ!」

バシッ、と抗議の意味を込めてか肩を叩かれる。悪いのは俺だけど痛いです一之瀬さん。

 

「ん~ぶらぶらとモールを回って~な感じにしようと思ってたんだけどどうでせう?」

「それもあり!あとさ、映画館に行きたいんだけど良いかな?話題の映画があって観てみたいんだよね~!」

「おーきーどーきー。んじゃ、映画館に行って見ませうか。」

「うん!」

 

と、いうわけで俺たちは映画館へ向かう。

 

他の人から見たらカップルに見えるのだろう。

これ絶対誰かに見られていて、冬休み明けに話題になって居心地悪くなるんだろうなぁ、思わず唇をもにょもにょさせてしまっていた。

 

「どしたの?唇もにょっとしちゃってるけど?」

「いやぁ…冬休み明け面倒な事になりそうだなぁ、と思っていただけでございますよ。」

「にゃはは、そうかもね。知ってる?この前の試験で仲良くなった人達で結構カップル出来てるって話?」

「知らないねぇ…そういう情報には疎いもんで。」

「特にBクラスはマンツーマンで勉強会したからそうなった人も多かったみたいでさ。私達もそう見られるのかもね。」

ふむんふむん、と言う事はですよ。今日出かけてるのが知れ渡ると本人達は兎も角、周りからはそういった目で見られる様になる、って事でせうね。ますます学校行きたくなくなったな…

「グモモモ…」

「そういう感じで他の人に見られるのは嫌?というか独特な唸り声だね…」

「こういう風に出かけるのは良いんだけど、付き合ってる様に見られるのはちょっとね…男心は複雑怪奇なのよ。」

「複雑怪奇なのは赤羽君の行動とか思考回路の方だと思うんだけどね…」

「それは自覚している。反省はしていない。」

「反省はしてほしいかな…」

 

取り留めない会話をぼちぼち繰り広げながら、映画館にご到着である。上映時間はもうすぐだったので、急ぎ目でポップコーンとドリンクを買い込み席へと向かう。

ポップコーンって定番だけど、音が出るからマナー的には良くないと僕は思います!食べるけどね!

映画の内容としては身分違いの男女のベタな恋愛って感じでございまする。

最後の方のキスシーンで一之瀬がゴクリと唾を飲んでまじまじと画面を見つめていた。女の子ってこういうシーンに憧れるんですかね?年頃だからなんですかね?

 

ぼちぼち 映画も終わりまして当初の予定のケヤキモール内の ウィンドウショッピングなうでございます。多少の居心地の悪さも感じますが、まあそんな気持ちは胸に秘めておきまして服とか小物とかを見ておりますよ。

「赤羽君は何か買いたい物とかある?」

「いんや~特には。そちらさんは?」

「部屋に置く小物とか買おうかなって感じかな~何買うかは決めてないけどさ。」

 

お洒落女子の一之瀬さんは部屋に置く小物をご所望のご様子。一之瀬は時折可愛い~、と言って小物を手に取ったりしているが、ぼかぁには可愛い物のセンスは分からず終いですよ。女子の基準がさっぱり分からなんだ。

部屋に置けそうな物は無さそうやなぁ、と思案している傍ら、良さそうなブランケットがあったのかう~んう〜んと悩んでいた。寒そうな格好してるから欲しいのでせうか?というわけで、ブランケットを手に取り会計に向かう。一之瀬は?な表情をしていたが気にしない気にしない。一休み一休み。

店員さんに包んでもらい、一之瀬に手渡す。

「折角のクリスマスだしな。一応プレゼントって事で。メリ〜ィクリスマァ~ス(ねっとり声)」

「…大事な所で茶化しちゃうんだ…でも、ありがとう。」

一之瀬は大事そうにそのプレゼントを胸に抱えていた。そんな大したもんでもないですけどね。

 

「私も何かプレゼントしたいな〜!」

お返しする気満々の一之瀬さん、中々に張り切っているご様子である。そんなに張り切らなくても良いのよ。

「あれとかどう?」

一之瀬さんが指差したのはファッション系も扱う眼鏡屋さんである。お世話になったこと無いお店ではある。

「伊達メガネねぇ…買おうなんて考えたことも無かったですねぇ…」

「意外と似合うかもしれないよ!」

一之瀬に引き連れられ、わちゃわちゃと眼鏡選びがスタートする。

手渡された眼鏡を幾つかかけてみる。時折笑いを堪えてる様子の一之瀬さん…流石にハリーポッター眼鏡は似合う人限られるんじゃないですかねぇ…

一之瀬チョイスで眼鏡は決定する。こういうのは人任せの方が良いのよね。意外と自分に似合うモノって分からないものです。

 

「と、いうわけで!赤羽君!メリークリスマス!」

一之瀬からのプレゼントを受け取る。いつかければ良いのかしらね。取りあえず今はかけときますか。

「って直ぐ付けちゃうんだ!」

「今かけとかないと。あんま付ける機会無さそうですしおすし。」

「まぁ赤羽君そういうのお洒落で付ける印象ないもんね。」

「次いつ使いましょうかね…」

「そこ私に聞いちゃうんだ…赤羽君の気が向いた時で良いんじゃないかな?」

「そうよね~。ま、こんな感じで出かける時には忘れない様にはしますよ。」

 

ウィンドウショッピングやら何故か贈られたプレゼントやらで想像した以上に時間は早く過ぎていく。

特別試験に振り回された一年だったが、こうして今日も一之瀬に振り回されている。振り回される日常も悪くない。退屈過ぎる日常よりかは…ね。

 

「買い物も終わったしそろそろご飯にしたいね!どっか寄って食べてく?それとも何か買ってく?」

「ん~適当に買い物して家で食べましょうや。ケーキを店で食べるのも面倒だし。」

「そうだね!そうしよっか!」

と、言うわけで、ケヤキモールでチキンとかケーキとかとかを買い込む。

で、俺の家に戻ってきますた。愛しのマイホーム、最近とある二人に入り浸られている気がするけど。もう気にしたら負けである。

 

購入した食料達をテーブル広げ食べる準備は万端。普段とは違う食事ってテンション上がりますよね?上がりません?

「「乾~杯!」」

というわけでカチャン、とコップを合わせ乾杯。かんぱ~い、君に会えて良かった、なんつって。

各々に買い込んだ食べ物を楽しんでいく。チキンやらケーキやらシャンメリーやら。そういえばこんな風にパーティーをやるのはここに入ってから何だかんだで初めてですなぁ。

 

「…すぅ…すぅ…」

食事を終え、お互いまったりしていると、気づけば一之瀬は穏やかに寝息を立てていた。遊び疲れたんでしょうかね。

「…寝ちまいましたねぇ。」

ふぅ、と一つ溜息を吐く。流石に今日一日過ごした相手を叩き起こして自分の部屋に追い出すのも野暮ですかね。

俺は布団を敷き。彼女を横にして布団をかける。さて俺はどうしませう、しょうがないので床で寝ますかね。

壁へ背中を付け、腰を降ろす。この体勢で寝るの久しぶりですなぁ、とか思いながら俺は瞼を閉じた。

 

 

 

◇◇ 一之瀬視点

 

食事が終わってしばらくしてから私は寝たふりをした。彼はどんな行動を起こすのだろうか?

彼は一つ溜息を付き、私を抱きかかえた。そして彼の普段使っているであろう布団へと横たえさせられる。

布団から感じる彼の匂いが、普段使用している事を私に実感させる。彼に包まれている様で少しドキドキする。

 

坂柳さん程ではないけれど、私も美少女だとは思っている。体型は彼女より魅力的だとは思っているけれど、彼の好みは分からない。

今日はクリスマス当日。坂柳さんは上手くいかなかったみたいだけど、もしかしたら、ってこともある。男子生徒のその手の話は時折耳にしているし、高校生で興味が無い、って事は無いと思っている。でも赤羽君だからなぁ…

 

彼は私に布団をかけた後、特に何もせず壁に腰掛け、寝息を立て始めた。やっぱり何もなかったか。ちょっと期待した自分とちょっと残念な気持ちが私の中に渦巻く。

 

「…寝ちゃった?」

彼から返事は無い。私は彼の前に音を立てない様に移動し、彼の頬に触れる。

私はズルい女の子だ。今日、踏み出せただろうに何も出来なかった。坂柳さんが動いているのを知らされているのにも関わらず。

でも、これで良い気もした。何故かは分からないけれど、そんな事をしてしまったら、彼が私の前から居なくなってしまう様な気がした。消えてしまう様な気がしたのだ。

彼は何にも執着している風には感じられなかった。この学校にも、坂柳さんにも…そして私にも。そしていつかふっと私の前から居なくなってしまう。だから今はこのままなんだ。

「ごめんね、もうちょっと待っててね。私は赤羽君の隣に立てるように、頑張るから。」

この判断が正しいのかは分からない。けれど、もうちょっとだけ、この時間を、二人だけの時間を過ごすんだ。

彼の気持ちが変わったら私は一歩踏み出せるのかな?私が変われたら、彼は私の隣に立ってくれるのだろうか?

彼は何も答えない。静寂と沈黙。今はそれで良いのかなって思った。私は布団に戻り、彼の匂いに包まれながら深い眠りについたーーー




お久しぶりです。投稿の期間開けちゃてスイマセン…
体調とか出張とかモチベの低下とか文の間が埋まらないとかとかで久々になっちゃいました…書きたい気持ちと出来ている部分もあるのですが、これからもぼちぼち書いていきますよ…


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お正月

先日は久々の投稿にも関わらず日間総合63位になってました。評価・お気に入り・そしてお読みいただいている読者の皆様、ありがとうございます。


クリスマスの次の日の夜。

ペンポ~ン、と部屋に間延びしたチャイムの音が鳴り出てみるとそこにいたのは坂柳さんである。嫌な予感がします。俺の第6感辺りが警鐘を鳴らしているから間違いないね、うん。

彼女はニコニコとした表情で何も言わずスカズカと部屋の中に入って来た。

お茶を出した後も笑みを浮かべたまま無言で部屋でいつも通りに過ごしていた。

オレシッテル、カノジョ、イマメッチャフキゲン!(PS版タイニータイガーボイス)

I.Q.1061(大嘘)の頭脳で解決策を思案するが全く浮かばない。タイム・ネジネジマシーンで過去に逃げたいです…

俺、また何かやっちゃいました?とか異世界転生モノの主人公みたいなセリフが浮かぶが、何かやっちゃったんでせうねぇ…

 

 

「そういえば、昨日は一之瀬さんと楽しそうにお出かけしてましたね。」

「そ~ですね!(同意)」

「私は誘ってくれなかったんですね。」

「そ~ですね…(諦め)」

「と、言うわけで私が何を言いたいか分かっていますね?」

「そ~ですね!!(ヤケクソ)」

どっか連れてけって事ですね本当にありがとうございました!

「…で、どこに連れていけと?」

「…初詣なんてどうでしょう?」

 

ご機嫌が直るならどこへでも行きましょう…

 

と言うわけで、時は移り変わりまして12月31日の午後11時過ぎ。

 

俺は寮の外でちょいと早めにスタンバ~イである。彼女を待たせてキンキンに冷えてやがるビールにするのは忍びないのでね。

待機して間も無く、坂柳さんまさかの振袖でのご登場である。紫を基調とした水仙模様の立派な振袖である。落ち着いた雰囲気もあり彼女に非常に似合っていた。そういえば今日は杖持ってきてないんですね。

ちなみに俺も一応着物を着ている。年始はこの方が雰囲気出ますからね、ふいんき。

 

「こんばんは。お待たせしてしまいましたか?」

「いんや全然。グットイブニング坂柳。振袖お似合いですねぇ。」

「ありがとうございます。赤羽君も似合っていますよ。」

「こちらこそありがとさん、。んじゃ、行きませうか。」

「えぇ。」

 

コツ、コツ、と足音を鳴らしながら。俺たちは神社へと向かう。基本的に学生しかいないが、年末から年始に変わる時間であるからか。思ったより賑わっていた。

制服、私服での初詣が殆どの中、着物姿の我々はやはり目立つ。

しかも隣に居るのがAクラス代表の坂柳と言う事もあり更に目立つ目立つ。冬休み明けの学校での噂が怖い。特に一之瀬さんが不機嫌になりそうで怖い。

 

「…今さらだが、俺はここに来たことを非常に後悔している。」

「本当に今更ですね。私の隣に立つ人間なのですから、もう少し堂々として欲しいものですね。」

「うわぁ厳しいお言葉と他人の目線を気にしない屈強な精神力。そこにシビれる、あこがれるゥ!」

「雑兵は私は気に止まらないだけですよ。さ、行きましょうか。」

「アッ、ハイ。」

 

学校の中の事情か大きな神社ではないが、多少の出店はある。深夜なのにお疲れ様です。

出来れば知り合いに会いたくないなと思っていたが休憩所に堀北先輩の姿が、一応声はかけておきますか。

「堀北先輩お疲れ様で〜す〜。引退したのにこんな所にも顔出さないとなんて大変ですねぇ。」

「…赤羽か。日本の伝統行事だからな。俺は生徒が何かしない様に監視の目は光らせておかないとな。」

「問題行動でしょっぴかれる前に此処からは退散させてもらいますよ。」

「問題児だと思ってるならそうしてくれ。そういえばお前、先日の急に現れた理由は何だ?」

「うえぇ…それ言わなきゃいけない案件ですかねぇ…」

「お前があそこにいた事を誤魔化すのは大変だったんだがな。」

「それ言われると弱いなぁ…ま~あれですよ綾小路と一戦交えたかっただけ、それだけっすよ。」

「まさかとは思っていたが、本当にそれだけの理由だったとはな…戦闘狂の考える事は分からんな。」

「アイツは状況が揃って無いとやってくれなさそうな相手だったんでね。いやぁ彼との戦いは良かったですよ。最後は拍子抜けでしたが。」

「まあ良い。邪魔したな。青春を楽しめよ。」

「そういう冷やかしは要らないんだよなぁ…」

連れまわされるこっちの身にもなっていただきたいものです。

 

堀北先輩への挨拶はそこそこにその場から離れる。無料で配られていた甘酒を片手に反対の手にイカ焼きを持ち、ちょこちょこ場所を変えながら年明けを待つ。坂柳も同じものをはむはむと食べていた。振袖が汚れないように気をつけなさいね。

「先程元生徒会長とは何を話していたのですか?」

「あぁそれねぇ…綾小路を先につまみ食いさせてもらった、って話ですよ。」

「ふ~ん。」

「そう拗ねなさんなって。相手は同じでも、あんたさんとの目的は違うでしょうに。」

「…そうですね、まぁ良いです。」

 

そんな無駄話?をしながら、新年を待つ。鳴り響く除夜の鐘の音が年の終わりを、そして新たな年の始まりを告げようとしていた。

しばらくすると除夜の鐘が止まり、少し遠くで生徒がジャンプしているのが見える。新年になり新たな一年の始まりである。

 

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」

「あけおめことよろ。」

「…もうちょっと、年明けの趣ってのを味わったらどうです?」

「ぶち壊したくなるのが俺の性分でして。」

「はぁ…もう突っ込まない事にします。」

釣れないご様子の坂柳さん。略して釣れな柳さん、もう訳わかんねぇな。

 

新年も迎えたということで、賽銭箱の前に立ち。お賽銭を入れる。俺は縁起が良いらしい5円を。坂柳は45円を入れていた。その額何か意味があるんでせうか?

それはそれとして、2礼2拍手をして二人で手を合わせる。

 

 

『守護れますようにーー』

 

 

何を、という意味も無い曖昧な言葉。だが、今の俺を形成している言葉でもある。俺が必要としているものはこの学校で手に入るのでしょうかね。

 

最後に深く一礼し、お参りは終了である。

 

「さ、やる事やりましたし、帰りませうか。」

「…ほゎ…あ…はい…」

坂柳さん、心なしか表情がぽわぽわしている。俺の然程明晰でない頭脳が過去を遡る!キュピーン!と俺と矢木に電流走る。

もしかしてさっきの甘酒、麹じゃなくて酒粕のやつだったのかもねぇ…とはいえ殆どアルコールは無いはずなのだが坂柳さん弱すぎじゃないですかね…心なしか足元もふらついているし。

「ほい。」

俺は手を差し出す。流石にこんな所で倒れられても困りますお客様。

「…ありがとうございます。」

彼女の手は白魚の様に白く、そして少しひんやりとしていた。これ以上長居をして体調を崩されてしまうのも困るので帰りましょうか。




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看病

長らくお待たせしました…


 

次の日。

 

 

携帯の通知には一通のメール。お相手は坂柳さんである。

 

『風邪をひいてしまいました。』

 

メールを開くと短い言葉が一文。彼女は今、体調を崩しているらしい。原因は昨日出かけたせいなんだろうけど、連れ出された側なんだけどなぁ…でも俺が悪いんだろうなぁ…

友達居なさそうだし、お見舞い位行ってあげませう。俺も人の事言えないけどね!

 

スーパーで適当に食材とか飲み物を買って彼女の部屋に向かう。そういえば彼女の部屋に行くの初めてですね。

 

チャイムを鳴らしてちょいと待つと、ゆっくり扉が開く。

 

「はろ~、元気~…ではないわな。適当に食べ物とか買ってきましたよっと。」

「コホ、すみません。手間をかけさせてしまって。」

「そんなこと言うのは、らしくないねぇ。」

「…さっきのは撤回します。小間使い出来そうなのが貴方しかいなさそうだったので。」

しおらしくなったかと思えば、どぎつい言葉のストレートをかますお方ですね。そっちの方が似合ってますよ、バイオレンスマウスお嬢様。

「そっちの方が安心します俺は。ちゃっちゃと料理作ったら退散するんであげてくださいな。」

 

彼女の部屋の内装は俺と違って至って普通。ただ、壁には彼女の為の手すりが付いており、普通の人には分からない、普段の生活の大変さを物語っていた。

「手、貸しますかえ?」

「大丈夫ですよ、慣れてますので。」

「ま、そんな事言わずに。サービスですよサービス。」

「えっちょっ…」

拒否はサッと受け流し彼女を抱き抱える。ちなみに白い布を被って股間を見せつけてはいない。ヘッポコ丸もここにはいない。

「…ありがとうございます。」

こんな事するのは星ノ宮先生に続いて二人目である。一人目が先生って何か罪深いな。

 

と、いうわけで坂柳さんにはベットでお休みいただいて料理の準備を始める。

食材を切り鍋を温めつつ、何か使えそうなもの無いかな~冷蔵庫を開けると…豆乳がぎっしり詰まっていた…俺は上を向き無言でそっと扉を閉じた。

努力で超えられない壁は、きっとある。そう、かの天才、坂柳有栖であってもである…

 

ぼちぼち料理も出来上がりましたんで部屋に持っていく。

坂柳はと言いますと、ベットで相も変わらず具合悪そうにしていた。コホコホと咳をして苦しそうだ。

「さ、料理できましたよ。食べないと体力付かんし、冷めないうちにたんとお食べ。中国四千年の薬膳粥だ、梅干しも添えて栄養バランスもいい。」

何で薬膳粥?中国?とのツッコミが入りそうだがそんなのノリである。消化に良くて身体が温まれば良いじゃないか。

ついでに14キロの果糖入り砂糖水も用意しようかとも思ったが止めておいた。加藤じゃないよ果糖だよ。サンドバックには入ってないよ。

「…ありがとうございます。私としたことが、昨日は想像以上に無理をしていたようですね。」

「ま、誰でも風邪をひくこと位はあるでしょ。」

「貴方が風邪でダウンしてる姿は想像できませんね。」

「バカは風邪をひかないもので。」

 

雑談を交えながら、坂柳はもぐもぐと料理を食べ進める。口に合うかは知らん。

 

「赤羽君は料理も普通にできたのですね。意外です。」

「それは心外なお言葉で。ここで生活してると料理はせざるを得ない人も多いし出来る様になるっしょ。」

「そんなもんですかね。」

「そんなもんですんだ。」

 

雑談もそこそこに彼女の食の手は進み、完食

 

「ごちそうさまでした。美味しかったですよ。」

「お粗末様でした。ん〜他に何かしてほしい事はあるか?病人だから出来る範囲なら答えませう。」

 

坂柳はフム…小さく呟き少し考え込む。この際だからと無茶な要求をしてくる可能性も無きにしもあらず。出来る範囲だからね出来る範囲。

 

「…それでは、私が眠るまで手を握っていてもらえませんか?」

「…まぁそれ位なら、分かりましたおかのした。」

 

坂柳はもぞもぞとベットに入り、ちょい、と覗かせる。握ったその手は正月の時とは違い、ほんのりと暖かかった。

「お前さんでも寂しがることをあるんだな。」

「私も一人の人間なので。」

「さいでっか。」

悪戯なのか、坂柳は手をニギニギと動かしてくる。俺は居心地の悪そうな表情を返してやる。

彼女は何故か満足そうな表情だった。性格悪ぅ、と思ったがそういう人でしたよ彼女は。

 

「…もう少しで休みも終わりですね。」

「そうだな。」

「また特別試験が続くんでしょうね。」

「そうだな。俺は基本モブモブしてるが。」

「身体を使わない試験限定、ですけどね。体育祭での動きは目を見張るものがありましたよ。」

「あれは得意分野なもので。」

「これからの活躍も楽しみにして見させてもらうことにします。」

「敵に塩を送る発言もどうかと思うけどねぇ。」

「私は貴方の得意分野の時はモブモブしてるので。」

「どうなんかねぇ…何か策略巡らされてる気がしてならないねぇ…」

「フフ、どうでしょうね。」

 

しばらく雑談を続けていると隣からすう、すう、と寝息が聞こえてくる。ようやく眠ってくれましたか。

 

手は握られたままだったので、慎重に指を外す。流石に起きるまで居て上げる程、お人好しではありませんよ。

彼女を起こさないように静かに後片付けをして部屋を出た。原因作った俺が言うのもなんだが、早く良くなりますように。




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坂柳の恩返し

作者はビーストウォーズ履修済みです(唐突に不穏な一言)


 

坂柳の看病して二日経過し、冬休みも何だかんだで後半戦である。

特に何をしたって訳でも…まぁ一之瀬とかと出かけたりはしたか。

今日は何をしていたかというと、お茶を淹れ、菓子をつまみ、テレビ見ながら站椿をしたりと至って平穏な休日である。朝起きて歯を磨いてあっという間午後十時とか昼夜逆転生活はしていないのでご安心を。

 

愛すべき暇を持て余していると、ペンポーンと親の声より聞いたチャイムの音が。

さて誰でせうか?ここに訪ねて来る物好きは一之瀬か坂柳しか居ないわけでなんだけども。

 

ガッチャ! と人差し指と中指で扉を開けると、闇のデュエルの始まりだZE!

でも残念ながらバトルフィールとは目の前に広がっておらず、目の前に映るのはいつもの寮の廊下と小さな鞄を抱えた坂柳さんである。

 

「こんにちは、赤羽君。」

「Hello, World. 坂柳。風邪はもう良いのん?」

「えぇ。お陰様で。」

坂柳は俺のの流暢な英語を華麗にスルー。メンタルに100のダメージ!

「ま、お外は冷えるんで早よお入んなさいな。」

「えぇ、お邪魔します。」

 

「で、今日は何しにきたのん?いつものチェス?」

「今日は先日の看病して頂いたお礼をしようかと。」

「お礼ですかぁ…何か特別な事をしたわけではないんだけどなぁ…」

「私なりの感謝の気持ちですよ。」

「で、その心は?」

「借りを作ってしまうのは私のプライドが許しませんので。」

「うわぁ面倒な性格だこと。」

借りだと感じたら病み上がりでも即座に返しに来るとは中々の行動力である。恩を仇で返してくる訳では無さそうなのでありがたく受け取ることにしましょう。

そんでもって早く帰ってもらって休んでもらいましょう。

俺の小言はどこ吹く風か、坂柳はゴソゴソと鞄の中から物を取り出す。耳かきやら綿棒やら、何をするつもりなのん?

「さ、ここに頭を置いてください。」

坂柳はぽんぽん、と自分の太ももを叩く。

「耳かきですかぁ…何とベタな…」

「殿方はこういうのが好きと聞きましたので。」

「まぁ、嫌いではないが…相手が坂柳だとなんか怖いんだよなぁ…」

通常時にされたら違和感ありまくりである。今でもありまくりだけど。鼓膜破られそう、そして頭をクチ…おっと、ポックルさんの話はしないでおこう。

「つべこべ言わずに頭乗せてください。」

「アッハイ」

俺の抗議の声はどこへやら、言葉の圧力で俺の頭は坂柳の膝の上へ。もしかして民主主義は死んでしまった?Democracy ワズ dead.

坂柳さんは民主主義より独裁の方が好きそうですよねぇ…俺の勝手な偏見だけど外れてはいないと思うAクラスの現状を知る限りはね。

 

「どうです?女子高生の太ももの感触は?」

「女子高生って自分で言っちゃうのかぁ…ん〜苦しゅうない苦しゅうない。良きに計らえ。」

俺は白化粧の某殿様リスペクトのバカ声で答える。

 

坂柳さんはあんていの無視を決め込み、わしゃわしゃと頭を撫で回してくる。俺、何されてるのん?あと、俺の扱い慣れて来ましたね。悲しいとてす。

「髪、伸びてきましたね。もじゃもじゃです。」

「お前は俺のオカンか。そのうち適当に切りますよ。というか始めるなら早よ始めてくれ。」

 

「フフ、そうですね。じゃあ始めますね。」

 

彼女の手が耳殻に添えられ、耳かきが入ってくる。

カリ、カリ、と強すぎず、弱すぎずな丁度良い力加減で中を弄られる。

「どうです?気持ち良いですか?」

「ん〜良きですよ。」

 

「意外と綺麗にしているんですね。意外です。大事な事なので二回言いました。」

「二回言って遠回しに罵倒強めてくるの止めてもらえますぅ?」

「貴方はこんな軽口で逆撫でされるような人ではないでしょう?」

「まぁそうなんだけどさぁ…」

手玉に取られているような気がしてならないのは俺だけでせうか?

そんな雑談を交えながら俺の耳はほりほりされていた。

 

片耳が終わり、反対側を向いてもう片耳。坂柳にされるがまま耳をほりほりされる。

「さあ、そろそろ終わりですよ。」

彼女は顔を近づけ、

「ふ〜」

「おうおうおうおuおuおuおuおー」

「面白い反応をしますね。」

「びっくりしたのよ。こーゆーの慣れないもんで。」

「さ、終わりですよ。お疲れさまでした。」

 

むっくりと俺は起き上がり、膝を叩く。

「ん〜じゃあ選手交代で。」

「え?それでは私がやった意味が無くなりません?」

「まぁまぁ良いじゃないですか。人の好意は受け取っておくものですよ。」

 

おずおずと彼女は俺の太ももの上に頭を乗せる。

彼女の耳殻に手を添え、耳かきを入れる。

傷つけない様慎重に中をカリカリと弄っていく。

 

「ツッ…!んっ…」

恥ずかしいのか顔を見せたくないのか、やたら下を向こうとするのでやり辛い事この上無い。あと変な声を出さないで欲しい。

 

「はい!片側おわり〜!」

最後に耳に息をフ〜ッ、と吹きかけて耳かき終了である。ビクッ、ビクッ、と身体を震わせていたが気にしない事にする。俺もされましたしね。

 

ふらぁ…と坂柳が下を向きながら膝立ちになる。危機感を感じたのでガシィッ、と頭を掴む。

フーッフーッと何故か興奮している様子。あとお目目がぐるぐるしている。危険信号ですね。レッドです。

 

「ど〜うど〜うセイセイセイ、急に襲い掛かりなすんなさいよ。」

「貴方のせいですよ!体調悪くて発散出来なかったから溜まってるんですよ!」

「あなたの下半身事情なんて教えなくて良いから!いつもの冷静さを取り戻して!キャラ崩壊してるから!スマホウの前の皆さんも見てるから!」

「そんなメタネタで茶化しても無駄ですよ!先っちょだけ!先っちょだけですから!」

 

どこでそんなハシタナイ言葉をお覚えになったのかしらぁ!?意外とムッツリなのかしかね、むっつり。

ゴーゴー アラソイハストップイッ、と若干的外れな危険信号が頭の中で鳴り響いている。

坂柳さん理性がトランスフォームしちゃってますね…

こちらの腕をむんずと来る掴み引き剥がそうとしてくる。運動もしておらず細っこい腕の割に結構力が強い。火事場のクソ力ってやつでしょうか?個人的には修羅場穴場女子浮遊の一歩手前って所でせうか。憧れのPARADISE★、にはならんよ。つーかPARADISEは何処よ?やっぱ今修羅場っしょ。

 

ドッタンバッタン大騒ぎしてしまうのは近所迷惑になりかねないのでうつ伏せに押さえつけて冷静さを取り戻すのを待つ…のだが坂柳はジタバタをやめずに抵抗を続けてくる。

 

「あの~そろそろ収まってくれませんかねぇ…こっちも疲れるんですわ。」

「…勢いでいけるかと思ってましたが、上手くいかないものですね。」

「勢いで上手くいってたまるか!」

 

「そういえば、一つお願いがあるのですが。」

「この状況で変なお願いは聞かんぞ。」

「変なお願いではなくて、私の父…理事長が貴方に会いたいと言っておりまして。」

「これまた変なお願いだが…この学校のトップがお呼びなら流石に行かないとマズいよなぁ…急に退学とか言われるのは勘弁だが。ま、呼ばれたなら行きますよ。」

 

個人的に全く心辺りが無いのだが呼ばれたのなら行かなきゃ後でどんなペナルティ食らうかは分からないしね。学生の身分はつらいよ。風雲の巧次郎でございます。

 

「分かりました。理事長の予定次第になりますが、日にちは後日に伝えますね。」

「分かりましたおかのした。」

「貴方が何やらかしたのかは存じあげませんが、気を付ける様忠告だけはしておきます。」

「平穏に学校j生活送ってるだけなんだけどなぁ…」

「時々やってる問題行動のせいじゃありませんか?」

「監視カメラには気を付けてるが何も言い返せねぇ…」

「後、そろそろ退いてもらえません?」

そういえば坂柳を抑えつけたままでした。この体勢で全く関係ない話を始めた彼女も彼女だが。

「油断しましたね!隙あり!」

「甘いわ!鍛え方が違うんだよ鍛え方が!」

 

その後もわちゃわちゃ不毛な禅問答を繰り返し、全て返り討ちにして坂柳さんには帰ってもらいましたよ。油断も隙も夢もキボーもあったもんじゃない。

さて、そのうち会う理事長にはナインを言われる事やら。

 

何故か志村けんとバカ殿は別人と錯覚してて、またテレビでやらないかなと思い耽る時があります。



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新学期

 

冬休みも終わり、始業式当日。

ふぁ…と欠伸をしつつ学校へと向かう。

風は無いが、外気はザ・冬ですよ!と言わんばかりに寒く。肌の露出してる部分からは問答無用で熱を奪っていく。もう少し着込んで来れば良かったですかね。

さっさと教室で暖を取りたかったので、早足で学校へと向かう。すれ違う女子生徒達は上は暖かそうな格好はしているものの、当然かのように脚を出して登校してい人が多い。何?そういう修行流行ってんの?寒風摩擦的な?とか考えたりしているが彼女らなりのお洒落というものなのだろう。勿論タイツを履いている人もいるけれど。

校舎に入り、下駄箱を開けて内履きを取り出すと、中から一枚の紙が落ちる。内容はと言いますと、今日の放課後に校舎裏に来いとの事。カツなアゲでもされてしまうのかしらん?とも取れる内容で無視しても良かったが、どうせ暇なので行ってみますかね。坂柳さんといい、人を呼び出すのにアナログな方法が流行っているのかしらん?

 

手紙はさておきまして教室に行くとクラスの幾人から視線は感じる。気にしない気にしない、一休みひとやすみ。ただ嫌な予感はする。

 

ちらりと一之瀬さんはクラスの仲の良い女子に囲まれて談笑していた。

耳を傾けてみると、一之瀬と俺がクリスマスに出かけていた事を詰められていたり、俺と坂柳と正月に出かけているを見た人物が話をしてたりしていた。

話がひと区切り付いた後、一之瀬が一瞬こっちを見て、『後で説明して』と目で語られた。何を問い詰められるのでせうか…目は口ほどに物を言う事を実感させられます。

 

休み明け初日ということで学校は早めに終わり放課後。俺は指定された校舎裏で待機する。

誰が来るとかと待つこと十数分。、そこに現れたのは先日、龍なんとかさんに冷水を浴びせられていたDクラスの軽井沢だった。名前はうろ覚えだけど多分合ってるよね?で、何の様でせうか………

 

 

 

ーー軽井沢視点

 

始業式の朝、早めに学校へ向かう。

理由はあの男に1対1で会うためだ。

赤羽巧。

龍園達とは異なり、偶然ではあるだろうが私の過去を知ってしまった人物。そして今、私の過去を話す可能性が最も高い人物である。

 

放課後、校舎裏に向かうと、一人の人影がポツンと立っていた。あの時いた人物と間違いなく同じ。見た目からは予想がつかなかったけれど、彼は本当に強かった。彼はCクラスの喧嘩が強い4人を相手に圧倒した清隆を、簡単にねじ伏せてみせた。清隆が負けて、私も皆みたいにやられてしまうんじゃないか、と恐怖した。でも彼は急に興味を無くしてその場から立ち去った。思えば私は眼中に無かったのかもしれない。

 

さて、彼は呼び出し通りに来た。私の目的は私の過去の事を彼に口止めさせること。ここは実力主義の学校だ、そして相手は同盟を結んでいるとはいえ、敵であるBクラスの人間。彼の弱点も、弱みも、どんな人間なのかも何も知らない状況での対峙。そしてこっちは弱みを知られている状況で策も無い。しかし、策は無いとはいえ、なるべく早く行動し、手は打って置きたかった。

 

「アンタは赤羽巧で合ってるわね?屋上にあの時いた。」

「う〜んまぁそうだが?こんな所に呼び出して何の用でせうかね?」

彼は間延びした力の無い声で聞いてくる。弱みを握っている余裕の現れなのか、もしくは何も考えていないのか。

 

「私がこの学校に入学する前、虐められていたってのは聞いてたわよね?」

「…あ〜そんな話もしてましたねぇ。あのまま綾小路が来なかったら割って入ろうかとも思ってたけど、彼が来てくれて両者万々歳でしたねぇ。」

特に変わらない口調で彼は続ける。

「で、俺にその事だか昔のことだかの口止めに来たわけ、と。」

彼は一応は助けるつもりはあったらしい。結果は清隆に助けられたわけだけど。

 

「話が早くて助かるわ。その事を誰にも話さないって約束してくれたら、何でも願いを一つ聞いてあげる。それで手打ちにしない?」

「ん?今、何でもって言ったよね?言いましたね?たまげたなぁ。」

「私が出来る範囲でって意味よ!ポイント…はそんなに持ってないけど、多少なら渡す事もできる。何なら彼女になってあげてもいい。だからあの時の事は口外しないって約束して。」

彼は強い、取り入って彼の庇護下に入り、今後の学校生活をつつがなく送る為の手段とできるのがベストなのかもしれない。

「えぇ…何か弱み握られて女の子脅す悪役みたいなポジションみたいじゃんか俺…いや実際そうなんだけどさあ…。」

彼は口をもにょもにょさせながら困った様に呟く。

 

「じゃあ、ゲームにしませうか。軽井沢さんが俺の他人に広められると困る弱みを握ったら、お互いチャラにして終わり。制限時間は…俺の気分次第で。その間、俺が綾小路に関する情報を聞いたら素直に答えること。そして、俺の存在を綾小路に気取られないようにすること。このゲームが続く限り、俺は何も話さないことを約束するよ。」

「私に不利すぎる条件じゃない!?気分次第とかマジあり得ないんだけど!」

「そんなカッカしなすんなや軽井沢さんや。取りあえずは目的は一時的には達成できる。あとは俺の弱みを握ればそれで終わり。悪くはないのは思うけどねぇ。」

「…まぁ良い、分かったわよ。約束は守ってよね。」

「分かってますよ。んじゃ、俺は帰りますわ。」

そう言って彼はこの場を離れた。これから彼の弱みを握るために情報を集めなきゃいけない。面倒臭いけど私の立場を守る為にやるっきゃない…とは言ってもどうしたら良いのか分からないのよね…

 

 

ーー赤羽視点

 

彼女からの話は個人的にはどうでも良い事だった。あの時乱入した副産物なんだろうけど折角なので有効活用させてもらうため、俺は彼女にゲームを持ちかけた。

理由はこっちが常にアドバンテージを持っている状況を認識させ、緊張感を持ってもらうためだ。話さないって確信を持たれると、情報を話してもらえなくなりそうだしね。最初から彼女の過去を触れ回るつもりはないけどね!

恐らくだか、綾小路は俺の存在に気付くだろう。あっちから来てくれるならこっちのもの、来ないなら…また駄目で元々なので気にしないことにする。

 

連絡先を交換してこの日は解散する。さて、状況は今後どう動いていくでしょうかね。退屈しない感じで転がってくれると良いんだけど。

 



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ゲームという名の尋問

しおりの最新話の数が100以上になると、作者はめっちゃ焦り出します。


軽井沢との一件が終わり、さ〜て帰るかなと、荷物を取りに教室に戻る。

思わぬ訳ではないが一之瀨さんがまだ一人で教室に残って、俺の机の上で脚をブラブラさせていた。気分はトイレから戻ってきたら上位カーストに席を取られていて帰る場所の無いアレである。ま、俺は直ぐ帰るけどね!

 

「あ〜やっと戻ってきた〜!」

「いやぁ何で残ってるんですかねぇ…特に用事も無いでしょうに。」

机の横に引っ掛けていた通学鞄を取る。

 

「いや、まぁいろいろとね。話を聞かせてもらおうと思って。」

「新学期初日位はゆっくりさせてもらえませんかねぇ…久々の学校は疲れるものよ?」

「そう?」

一之瀨ははて、分からん、と小首を傾げている。コミュ力お化けの一之瀨さんには分からないでしょうね!

 

 

ーーー

 

 

で、場所は変わって喫茶店

 

「でさ、さっきどこかに行ってたみたいだけど。」

「ん~ちょっと野暮用で呼び出されておりましたよ。」

「誰に呼び出されてたの?」

「ん~それはちょっと内緒ってことで。ま、部活勧誘の延長位の話ってとこよ。」

「ふ~ん。まぁ良いけど。」

 

個人的にはこの状況は早めに切り上げて、おうちに帰りたい所存でございます。端から見ると、俺何でそこにいるよくるよ感が凄い。メンツがメンツなだけに明らかに俺が悪目立ちしている。一応両手には花。逆恨みされて闇討ちとかされないかしら?全部返り討ちにするけど。学校ではモブでありたい。

 

「偶然お見かけしたので、ご一緒させていただいただけですよ?」

「坂柳の周りの人達全員帰らせてたのは…」

「護衛は貴方一人居れば十分でしょう?」

「勝手にボデーガード扱いするの止めてくだせえょ。」

「何かあれば守ってはくれるでしょう?」

「時と場合による。そしてたまに逃げる。」

「うわぁ…一人で逃げるんだ…それはちょっと引くかも…」

「連れてけと言われれば二人抱えて逃げるけど。」

「それもちょっとヤだな…」

注文が多いですねぇ一之瀬さん。次は目の前のコーヒーシュガー顔に擦り込めとか言わないでせうね?

「私は構いませんよ。一之瀬さんを置いていっていただければ。」

「坂柳さんも地味にヒドい!」

「…さて、話を戻しましょうか。先程、赤羽君が誰に遭っていたか、でしたね。」

「戻さなくて良い話を戻すんじゃありませんよ…」

「フフッ。退屈凌ぎのゲームだと思ってください。幾つか質問を出すので、YesかNoで答えてください。ノーコメントでも構いません。」

「ゲームという名の尋問始まっちゃったよ…帰りたい…釈放されたい…」

と、言うわけで誠に不本意ながら尋問ゲームがスタートです!本当にありがとうございました!帰らせて!でも家まで付いて来て結局同じことになりそう!勘弁!

 

「会っていたのは女性ですか?」

「…ノーコメントで。」

「女性ですね。」「女の子だね。」

坂柳さん、一之瀬さん、早速断定の結論。勘鋭すぎません?ご勘弁を!

「一年生ですか?」

「イエス、マム。」

「Aクラスの人間ですか?」

「Aクラスだったら?」

「粛清します。」

怖えぇよ坂柳さん。民主主義の国にいる人間の発言じゃないよ。

「うへぇ…ノーコメントで。」

「Bクラスですか?」

「ノーコメント。」

「Cクラスですか?」

「ノーコメント。」

「Dクラスですか?」

「ノーコメント。」

何故か同じ様な質問を淡々と続けられる。笑顔のままじっと見られるのが地味に怖い。

「…フム。」

必要な質問は終わったのか。坂柳はキョロキョロとあたりを見回した後、まるで探偵かの如く顎に指を当て考え込み始める。

「貴方が先程会ってたのは、あちらにいる女子生徒…Dクラスの軽井沢さんではありませんか?」

坂柳が軽く指を振った先にはちう~。とドリンクを啜りながら時たまこちらをチラチラ見てくる軽井沢さんの姿が、ていうか居たんですね。ゲームって言ったのさっきなのに、行動が早い。裏を返せば彼女に取って知られたく無い情報って言っている様なものなので分かりやすいっちゃ分かりやすくて助かるが。

っていうか坂柳さん怖!精度高すぎない!?人間アキネーターかよ!ターバン巻いてそっちに就職したらどう?多分儲かる。

「うわぁ…あの情報だけで当てようとする推理力よ…」

「う~ん私もあれだけでは判断しようとは思えないなぁ…」

俺は勿論一之瀬さんもドン引きである。

「偶然、私が持っている情報で判断出来たまでですよ。一之瀬さんでも簡単ですよ。情報があれは、の話ですが。」

あの坂柳さん、突然棘のある言い方になるの止めません?仲良くしましょうよ。ラブ&ピース。

「会っていた理由は断定は出来ませんが推測は出来ます。人も多いですし流石に言わないでおきますが。」

「で、彼女にこうも見られていると目障りですね。泣かせてしまいましょうか?」

「いきなり喧嘩腰で行こうとするのは止めなさいよ…」「それは良くないと思うよ坂柳さん…」

俺と一之瀬両名は坂柳を言葉で制止する。

「フフッ、冗談ですよ。それでは、ゲームを続けましょうか。」

飲み物を一口含み、坂柳さんはまだまだやる気の様である。これ以上何を知りたいのん?

何か聞き出せる可能性も無きしもあらずだが、これ以上情報を抜かれるのは癪である。

「だが断る!と、いうわけでバイビー!」

「あ!ちょっ…ちなさい!」

坂柳の制止は無視し、ササッと店を出る。アスファルト ローファーを切りつけながら 昼下がり 走り抜ける!ついでに急いで店を出て来た軽井沢を振り切っておく。

そういえば一之瀬に呼ばれてあの場所にいた気がしないでは無いが、逃げ出してしまったものは仕方がない。自己保身大事!でも家に帰るだけだから普通に追って来られるけどね!詰んだ詰んだ!

 

 

ーーーーーー

 

「…逃げられてしまいましたね。」

坂柳はストローでドリンクをかき混ぜながら呟く。

「そうだね…」

「追いますか?どうせ彼は寮に戻っただけだと思いますよ?」

「流石に悪いと思うんだけど…」

「それでは止めておきましょう。これ以上は話をする必要はありませんしね。」

「うん。私も知りたい事は知れたしオッケー…かな?」

「そういえば一つ伝え忘れていたことがありました。」

「何かな?」

一之瀬ははて?と、首を傾げて坂柳の言葉を待つ。

「2学期でAクラスはほぼ手中に収めました。…後は言いたい事は分かりますね?」

「…戦線布告って事?」

「戦争とはそういうものなのですよ。国家間でも盤上でも相手に伝えてしまえば嫌でも始めなければいけないのですよ。」

「…負けないから。私たちのクラスがいつかAクラスに上がってみせるからね。」

「私はこの戦争のキーマンは赤羽君になると踏んでいます。彼は否定するでしょうが。」

「そうだね。赤羽君はあまりAクラスに拘ってはいないだから。もっとやる気と言うか、協力的だと助かるんだけどね。」

「彼は戦いは好んではいますが、自分自身を標的にさせて積極的に争い事は起こらないように立ち回っている節があります。そして、彼には純粋な力という武器がある。もし、これが国の争いなら驚異的です。鉄砲で核ミサイルと対峙している様なものですから。」

「彼ってやっぱそんな凄いんだ…」

「私でも彼の本当の力は知りはしませんけどね。推測するに、彼はまだ何枚もカードを隠し持っている。一之瀬さんも私も、彼のカードを使える保証はありませんし、逆にお互いが彼にやられてしまうかもしれません。」

「そんな話をしちゃって良いの?私達に塩を贈る様なものなのに。」

「私達、ですか。いつまで彼は味方でいてくれるのでしょうね?」

「…どういう意味?」

「言葉のままの意味ですよ。彼を利用したい人間は私以外にもいるだろうという事です。利害関係が一致すれば、いつかクラスを裏切る可能性もある。この学校の仕組み上、有能な人材は目を付けられやすいですから。そしてあなたは彼を持て余してしまっている。」

「…」

坂柳は盤上の駒を動かすかの如く、テーブルに指を置き、そして滑らせる。

「彼を傍に置いておけば、物理的な報復はほぼ不可能になります。その優位な状況を手に入れられれば、他のクラスに仕掛け易くなるのは当然の事。あなたはそのチャンスを9ヶ月も使わなかった。Aクラスに上がる機会も、Cクラスに差を付ける機会もみすみす逃した、という事ですよ。」

「私は私なりに出来ることを考えて今までやったつもり。坂柳さんには甘く見えたのかもしれないけど、今まで上手くやってこれたと思ってるよ。」

「仮にですが彼がAクラスに所属していたら今、どうなっていたか推測出来ますか?葛城派に付いていたらまだクラス内の対立は続いていたでしょうね。そして私に付いていたら、既にBクラスは倒し終えていた。まぁ彼はどっちつかずの立場を崩さなかった可能性も否定できませんが。私にとっては今の状態はとても都合が良い、ということです。」

「…」

「…お喋りが過ぎましたね。今日はここまでにしましょう。」

 

坂柳はすっくと立ちあがり、ゆっくりと店を出て行った。

カフェの中は喧騒に溢れていたが、彼女の周りだけはまるで封絶されたかのように、暫く静まり返っていた。

 



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逃げた後。

 

 

 

さて、脱兎の如く二人+一人から逃げおおせ、現在マイホームなうである。ダブルミーニングになっているのは気にしない。

 

いらんことでやたら疲れたのでもうお休みをキメたい所である。湯船の蛇口をひねり、お湯を貯め始める。逃げてきたのも若干後ろめたいので一応は玄関の鍵位は開けておく。追いかけてくるのかは知らん。

 

お湯が入るまで暇なのでブイーンと掃除機をかけていると、ガチャリと玄関の扉が開く音が聞こえた。二人共追って来たのか、はたまた片方が来たのかしら?

 

「…お邪魔します。お湯を入れる音がしたのでお風呂でしょうか?…って、何をやってるんですか貴方は…」

「バレちった。」

坂柳さんは俺と目が合うと、ため息と共に一言。

かという俺はどこに居るかというと部屋の天井角でALS〇Kしている。目から見守りビームは出ない。ワンチャン気付かれず帰ってくれないかなとも思ったがこの1Kの部屋では無理でした。

「で、何しに来よったん?」

「部屋に戻ろうかとも思いましたが、逃げられたままというのも癪だったので。」

「用は無いのに来たってことか…負けず嫌いな事で。」

 

そんな話をしていると、そろーっと扉が開く。

「…お邪魔しまーす。鍵が開いてたから入らせてもらったよ…あ…坂柳さん…って赤羽君どうして天井に張り付いてるの…!?」

「またバレちった。」

来客がもう一人、結局逃げてもここしか帰る場所が無いからこうなりますよね。

 

「二人が来た所悪いんだけど、お湯が冷めてしまうんでお風呂に入らせていただきますよっと。」

「え…?」

「今入るんだ…マイペース過ぎない…?」

 

「…」

「…」

ゆっくりと湯船に浸かり、いつも通りに来客用のお茶を淹れ、部屋に戻ると無言で座っているお二人。何?今何か話してたのん?

「気まずい雰囲気で僕ちゃんは押しつぶされそうだよ…何かあったんですかねぇ…?」

「…いや…え~と、にゃはは…」

「ここでは何もありませんでしたよ?」

苦笑いを浮かべて返答する一之瀬さんといつも通りの坂柳さん。

ここでは、ってことは俺が逃げた後に何かあったんですかねぇ(邪推)…

「せーめてここでは形だけでも平和にしておいてクレメンス。あと、用が無いなら帰ってクレメンス。ちゃんとお茶を飲み干してからね。」

 

えぇ~、とか言いながら一之瀬委員長はお茶を啜ってお菓子を食べている。早速、入り浸る気満々である。

隣の坂柳暴君も同様。他人の不幸こそ最高の娯楽ぞい!と内心思ってそう。Aクラスでえげつない方法で生徒奴隷にしてそう。

 

「そうだ!さっき聞きそびれた事があったんだ!…年末に赤羽君と坂柳さんが初詣に行ってたって話題になってたけど…本当?」

「…あぁ…そのことねぇ…」

「本当ですよ。ねぇ?赤羽君?」

坂柳はそう言って視線を俺に流す。そうなのだが答えづらい質問なので言葉に詰まる。

「…ふ~ん。やっぱ本当なんだ…」

 

「一之瀬さんはクリスマスに一緒だったでしょう?おあいこですよ。その日は何も無かった様ですし。」

「うっ…」

勝ち誇った様に微笑を浮かべる。個人的には小さいことで一々マウントを取り合うなと思うんだが、負けず嫌いが集まると口撃の撃ち合いになってしまうのは仕方が無いんでせうか?出すならパンチが良いね!そっちの方が駄目だね!

 

「でっ、でもプレゼント交換したもんね!」

「…ほう?」

坂柳さんの声のトーンが一つ下がる。あれ?暖房付けるの忘れましたかね?誰かアイスステージのバトルチップスロットインしました?あと近くにステルスマイン仕掛けてあります?いつ起爆スイッチが押されるか分かったもんじゃないので気が気でないね。まいっちんぐ。

「で、赤羽君。それは事実ですか?」

「…あぁ…まぁ…」

坂柳さんの圧が凄い。何故か始まってしまった修羅場。どうしてこうなった?出来れば修羅場は蚊帳の外から眺めていたいものである。

 

さて、次は俺のターン!と言わんばかりに坂柳が話し始める。言いくるめられるのホント嫌いなのねこの子。

「そういえば、先日、彼が私の部屋に訪れましてね…熱い一日を過ごさせていただきました。」

「熱出した坂柳を看病したれただけなんだよなぁ…」

さて、引き続き俺の冬休みの行動履歴の紹介が続く。彼女らと過ごすと俺のプライベートは無いらしい。

あと明らかな誤解釈を生む表現は止めていただきたい。

「そこ、黙ってください。」

「えぇ…」

「ふ~ん。でも赤羽君は看病しただけなんだよね?」

まず事実確認なのか一之瀬は冷静に俺に質問してくる。

「飯作って軽く看病しただけだな。」

「赤羽君の作ったご飯かぁ…一回食べてみたいかも。」

「ま、機会があればな。」

「あと、私が寝付くまで、手を握ってもらいましたね。」

「うげ…」

あ、そんな事もありましたね。火にガソリンを注ぐの止めて!

「ふ~ん。」

炎上しそうな内容に反して。一之瀬さんの声のトーンは冷静で低いまま。いつものギャップなのか坂柳さんより怖いです。助けてヘルプミー。

事実だけなのに俺が追いつめられていくのは何故!?事実陳列罪辛い!

坂柳さんは続ける。

 

「後日、私の体調が良くなった後にお返しをしに行きましてね。」

「お返し?…何をしたの?」

「秘密です。」

片目をつぶり人差し指を口に当て、坂柳は答える。

「赤羽君。」

「…黙秘権を行使する。」

「…ケチ。」

不満げに唇を尖らせる一之瀬さん。私としても生活を赤裸々に語るのは恥ずかしいんですよ。分かる?

「ついでに仕掛けてもみましたが、上手く躱されてしまいましたね。この朴念仁は。」

「あれはアンタが暴走しただけでしょうに…」

「あら?そうでしたっけ?忘れてしまいました。」

俺のヘタレ指摘&おとぼけを決める坂柳さん。絶対覚えてるだろこコレ。ていうか、そっちは言っちゃうのね。

 

「さて、収集もつかなそうですし、いい機会です。ここで彼にどちら側に付くかを選んでもらいましょうか?」

「え…?」

「なんだその超展開。」

余裕綽々の顔でとんでもない事を言う坂柳。ぶっ飛んだ提案に目を白黒させる一之瀬。そんでもって地獄の選択肢を突きつけられた俺。どうするぅ?逃げるぅ?逃げ場無いね。ここ、俺の部屋だからね。

「良い機会ですのでここで丸め込んでおこうかと。」

坂柳さんがどんな腹づもりなのかは分からんが、個人的にはうわぁ…って感じでござる。

「どうしますか一之瀨さん?今二人で襲いかかれば朴念仁のフリをしている彼もその気になるかもしれませんよ?」

「えっ!?それはちょっとマズいんじゃないかな?」

「一之瀨さんは逃げていただいても結構ですよ?」

「むむむむむ…」

坂柳の悪魔の囁きにしばらく唸っていた一之瀬だが覚悟を決めたのか目をつぶって頷いている。え?マジで?

「赤羽君…ゴメンだけど坂柳さんに乗らせてもらうね。」

「さて、一之瀬さんもこちら側に付きましたし、今日は逃がしませんよ?」

「マージぃ?一旦座ってお茶飲んで落ち着かない?」

一転、超展開&ピンチである。煽る坂柳もだが乗る一之瀨も大概である。

 

ファイティングポーズを決め、ジワジワと二人は俺に距離を詰めてくる。どうしませうか?やはり得意の力技か。

二人の間をすり抜け、クビ根っこを掴む。狭い室内で二人いようが黙って良いようにやられるつもりはありませんよ。

流石に二人の行動に怒気がムネムネしちゃうね。もうケツだけ星人は規制されちゃいましたね。臀部の蒙古斑は見られないんですね。そんな表現無かったけど。フゥーハハハ!!!!…ハゥーン!

「流石に看過できんので強制退場してもらいまーす。」

ちょっやめっ、とか、あわわわ、とか抗議の声と多少の抵抗があったが問答無用で部屋から追い出し、鍵をかける。最初からこうしとけば良かったよ。結局、お茶は残っちゃいましたねぇ。

 

 

ーーーーーー

 

「…追い出されてしまいましたね。少し調子に乗りすぎましたか。」

「アハハ…だね…」

そう呟き二人は肩を落とす。

「…彼がこの学校に入学した目的は何なのでしょうね?」

坂柳は小さく呟く。

「やたら好戦的ではありますが、裏で暗躍している様子もありませんし、あの身体能力と戦闘技術はいつ、どのようにして身に付けたのでしょう?」

「赤羽君は非協力的ではないけど、Aクラスは特に目標にしてないって言ってたかな。もう少し頑張って欲しいな、って部分は無きにしもあらずだけど。」

「私も学費が免除されてる以外の理由は聞いていませんね。」

「私たちの考えすぎかもしれないけどね。」

「そうでしょうか?…もし、彼が入学したしたのは別の目的があるとしたら?」

「別の目的?」

「はい。ここに入ってくる生徒は将来に旨みがあるから入ってきている人間が殆どです。

そして学校のシステムを知らされ、希望した所に就職・進学するためにAクラスを目指す筈ですがその行動を起こさない事に疑問がある、という話ですよ。」

「ふ〜む。確かにそうかもだけど考えすぎじゃないかな。」

「とはいえ、この話は私の推測に過ぎないですし。彼に直接聞いてみないと分からないですけどね。」

「う〜ん、どうだろ?今度聞いてみようかな。」

「どうせ彼の事です。いつも調子ではぐらかされるに、決まってますよ。」

「にゃはは、それはあり得るかも…あり得るなぁ…」

一之瀨は苦笑いを浮かべる。

「まだ多くを隠しているのでしょうね。興味の尽きない人です。」

お互いにふぅ、と一つ息を吐く。

「…これ以上考えても埒があかなそうですし、今日は解散にしましょうか。」

「そうだね。じゃあね、坂柳さん。また学校で。」

「ええ。」

少し肌寒い通路。遠くに響く生徒の笑い声。どこからが香るペンキの匂い。

別れの挨拶を告げた後、二人の足音は徐々に離れていった。

 



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映画館と伊吹と日常と

学校にやって来た不審者を自分が撃退する。街中でひったくり犯を捕まえて表彰される。

多くの人がそんな事を妄想したりするだろう。しかし、そんな妄想が現実になる…なんて事は無く。

万が一、そこに居合わせとしても、巻き込まれないように傍観者・野次馬に徹する。それが一般的な人間の行動である。

もし、その万が一が現実に起こった時、その行動が出来る人間もいる。

そう、私です。(唐突な中二病的自分語り)

 

そんな前置きはさておき、とある日の放課後である。偶には映画でも、という気分だったので俺は一人映画館に足を運んでいた。

特に理由は無い、偶にはダラダラと映画でも鑑賞しながらポップコーンを摘まもう、そんな気分だったからだ。

人が多いのは嫌だったので、人気の無さそうなやつを選び、ポップコーンと飲み物を買う。

館内に入ると読みが当たったのか席の混み具合はあまり無い。

時折入ってくる人をよそに、俺はポップコーンをパリパリと摘まみながら上映開始を待つ。偶に食べるキャラメルポップコーンは何でこんなに美味しいのかしらね?

 

「げ!」

声にふと目を移すと映画の半券を片手に持った伊吹さんご登場である。

 

「あらあら?伊吹じゃないの?偶然ですこと。ポップコーン食べる?」

「いらないわよ。」

「あらそう。美味しいのに。」

 

拒否の言葉と半券に書いてあるのか共に俺の席の隣に座る。

そんな混んでいるわけでも無し、嫌なら離れれば良いのになと思うが、何とも律儀な人間である。

 

「…ちょっとこの後時間ある?」

「映画の後ですよね?まぁ問題ないが。何用?」

「私とアンタの接点と言えば一つしかないでしょ。」

「ははっ、違いない。」

 

映画のオープニングムービーが始まる。盗撮禁止のあのキャラクター結構好きなのよね。憎めないキャラと言うか何というか。盗撮はダメ、ゼッタイ。

あと伊吹に上映中にいらないと言っていたポップコーンを何故か少し横取りされた。なんでや。

 

 

場所は変わってとある場所。

 

「…ここら辺で良いわよね。」

「まぁ良いんでない?」

 

カメラがそこら中にあるこの敷地内だが、完全に無いという訳では無かったりする。この学校も完璧ではない。鍛錬中にちょこちょこそんな場所はある。探せば見つかるものである。

 

「…この前、アンタと綾小路がやり合った後、綾小路と戦ったわ。」

「で、全然歯が立たず返り討ちにされたと。」

「何でそんなことが分かるのよ。」

「俺はどっちともやり合ってるんでそれ位は分かるさ。」

「…っつ!気に入らない!」

 

そう言うと同時に回り蹴り。俺には当たらずその蹴りは空を切る。

「俺と綾小路、対峙してみてどっちが強かった?」

「さぁ?どっちかしらね?」

「遠すぎて差は分からないと。」

「うるさい!」

伊吹はリーチの大きい足技では無く、隙の小さいジャブ中心の攻撃へと切り替える。それも俺は難なく捌いていく。

 

「…理解できないわけでは無いが、どうして俺に何度も挑む?ここでは安全は保証されてるが、外の世界はそうじゃない。その時でもお前はこんな風に戦えるのか?」

「知らない!そんなの私の勝手!」

「…無謀と蛮勇は違う。勝てないなら尻尾をまいて逃げるのも賢い選択だと思うけどねぇ。」

「アンタの説教なんて聞きたくない!」

 

俺は彼女の蹴りを避けなかった。彼女の脚が俺の側頭部に吸い込まれていく。攻撃する場所、威力、共に申し分ない。俺はその攻撃を受け、そして舞った。

「…?!」

当たった筈なのに手応えが無い、彼女はその不思議な感触に戸惑っているようだった。まるで宙を舞うティッシュにカミソリを振り下ろすかのような、心許ない感触を。

その隙を見逃さず勢いそのままに相手の首元に蹴りを放ち、寸前の所で止める。

 

「…勝負ありだ。…どうする?まだ続けるか?」

「っつ…!クソっ!」

俺が脚を下ろすと、悔しそうに伊吹は拳を地面に叩きつける。痛そう。

「…悔しいけど、止めておくわ。また完敗。…相変わらず奇妙な技を使うわね。」

「ま、どんな技かはいつもの如く企業秘密ってことで。持っているカードは多い方が良いんでね。」

「…ムカつく奴。一つだけ分かった事があるわ。アンタと違って綾小路は容赦はしなかった。実力を殆ど見せてくれないのは同じだったけど。」

「俺は甘いと言いたいんですかねぇ?」

「ま、そうとも言うわね。」

「俺が本気で伊吹とはやらないとは思うけどねぇ。」

「その余裕ぶった態度がムカつくのよ!」

「敗者が何を言っても響かないのよねぇ…。ま、いつか容赦しないでやり合う日が来ない事を願ってるよ。」

 

雑談はそこそこにし、その場で俺たちは解散した。模擬とは言え本気の相手とやり合わないと面白くないと思うのは俺だけでしょうかね。

 

 

ーーーー

 

 

「あ、赤羽君おかえり~!」

「こんにちは。お邪魔していますよ。」

部屋に帰ると一之瀬と坂柳が普通に部屋で寛いでいた。

 

鍵はかけた筈だが…覚えてねぇな。ここでポンコツ頭発動である。

「…どうして俺の部屋が君達の溜まり場みたいになってるんですかねぇ…」

「いやぁ…ここに来たら既に坂柳さんがいたんだけど…」

にゃはは、誤魔化す様に笑みを浮かべながら一之瀬さんが答える。

「そうですね…この学校にポイントで買えないものは無い、とだけ言っておきましょうか。」

え?何!?ポイントってそんな事にも使えちゃうの?

「…冗談です。鍵を開けっぱなしなのは不用心ではありませんか?」

俺のミスでした!やっちまったZE!冗談キツイぜ坂柳さん!

というかそんなのポイントで買えたら大問題だからね!逆だったら普通に事件だよ!逆じゃなくても事件じゃなイカ?…

 

「あ、あとお土産。普通に食べかけだけど。」

「わ~いありがと~!」

映画館で1/3程食べ残したポップコーンを机に置く。

そんでもって素直に受け取って食べる一之瀬さん。意外と食いしん坊なのよねこの子。

 

「でさ、帰り遅かったけど何処か行ってたの?」

一之瀬がこっちに疑問を投げかけてくる。

「あ~何となく映画見たい気分だったから映画見て来た。そんで偶然そこで伊吹に会って何か流れでそのまま手合わせをしてた訳ですよ。」

「伊吹さんってCクラスの?」

「そーそー。彼女結構武闘派でねぇ。そこいらの男子よりよっぽど強いぞ。」

「だからって男子が女子に手を上げるってのはダメだと思うな…」

一之瀬は渋そうな顔で苦言を呈してくる。

「そこはお互い了承の上だから見逃してクレメンス。」

例外で無人島での一件もあるが、話すと面倒なので黙っておきませうか。

「伊吹さんですか。…意外な伏兵が出てきましたね。」

「一応言っとくが、知り合ったのは坂柳よりよっぽど早かったぞ。」

「むむ…」

「敵対クラスだから仲が良いかと言われれば違うけどな。多分、同じクラスだったとしても剣呑な可能性まである。因みにちゃっかり入り浸っているがお前も敵対クラスだからな坂柳さんよ。」

「あら?そういえばそうでしたね。」

「しらばっくれますねぇ。何故ここに居るか未だに不明だ…」

「それは手駒に加えたいからに決まってますよ。」

「うわぁ直球ストレートで迷惑だ…」

「私も坂柳さんがいなければ、もうちょっとここでまったり出来るかもなのにね~」

「入り浸ってるのは一之瀬もだぞ~。」

「は~い反省してま~す。」

全然反省してませんね彼女。今日は一之瀬さんに俺の緩い空気が伝染してしまっている様な気がする。悪い所が似てしまわなければ良いですね。俺が直せって意見は聞き入れる気はありません!



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理事長とご対面

冬、朝、登校しようと寮のエントランスを出ると、誰かを待っている様子の坂柳さんが一人。護衛も無しにいるのは珍しい事この上ない。

嫌な予感がしたので、通り過ぎようとする。

「おはようございます、赤羽君。挨拶も無くスルーするのは人としてどうかと思いますよ。」

「ヤな予感がしたからスルーしたかったんだけどなぁ…。まぁともかくおはようさん坂柳。今日は護衛代わりのクラスメイトは居ないのね。」

「貴方がいれば仕掛けて来る事は無いと思いますので。」

「それは喜んで良いのか悲しんで良いやら…」

「光栄な事ではありませんか?」

坂柳は首をコテンと傾げこちらに問いかけてくる。彼女は本気でそう思ってそうではある。どこからそんなに自信が溢れて来るのか教えて欲しいものである。七つの大罪のアレが当てはまりそうではあるが、知ってて否定してきそう。

 

挨拶はそこそこに、足取りに合わせていつもより少し遅い歩調で学校へと向かう。

「で、わざわざ待ち伏せなんかして何か用ですかねぇ…?」

「待ち伏せとは人聞きの悪い事を。私の父…理事長が本日都合が付いたから会いたいそうで。ご都合はよろしいでしょうか?」

「そういえば以前そんな事言ってたねぇ…お断りするのは。」

「都合が合わない様なら後日になるだけですが?」

「ですよねぇ……呼ばれたなら行かないとhave toだよねぇ……」

似非ルー語は坂柳には絶賛スルーされてしまった。

んでんで、特に遠いわけでは無い校門とかとかは直ぐ通り過ぎ、教室の前に到着する。

「んではまた放課後に。」

「えぇ、また放課後に。」

 

つつがなく授業は終わり放課後。

「おまたへ。」

「それでは行きましょうか。」

「へいへい。」

 

んで、彼女に付いていくとやったら豪華なお部屋の前に連れて来られた。

ノックをすると、どうぞ、と柔らかな男性の声が聞こえる。

理事長室に入ると、そこにいたのは温和そうな姿の男性である。彼が理事長なんでせうね。

「失礼します。こんにちは、お父様。」

「こんにちは、有栖。よく来たね。」

「彼を連れて来ました。」

「ありがとう有栖。初めまして赤羽君。坂柳の父であり、この学園の理事長をやっています。」

「ドーモ。リジチョウ=サン、イチネンBクラス ノ アカバネ デス。」

俺は理事長にオジギをする。対面した際のオジギとアイサツは不可欠であり、これらが済む前に攻撃を仕掛けることはスゴイ・シツレイ、なのである。ナオ、攻撃はしない模様。アンブッシュはしない主義である。

「まーた変な事やってますね彼は…」

坂柳さんは呆れた様子で溜息を吐く。やった側だが俺も禿同である。

「…彼なりのお茶目ってものじゃないかな。有栖は下がっていてくれるかな。彼に大事な話があってね。」

「…はい。」

坂柳は部屋から出て行く。少し不服そうな表情をしていたのは、大事な話に自分が混ぜてもらえなかったからでしょうかね?

坂柳が部屋を出て行った後、彼は少し声のトーンを落として話し始めた。

「…さて。何故、君をここに呼び出したか分かるかな?」

「さぁ?心当たりはさっぱりありませんね。」

「…君の過去の行動の事だ。君は過去にあまりにも破天荒な行動をしすぎたのは、承知しているね?」

「ええ、まぁ。」

「この学校に入学する生徒はありとあらゆる個人情報を調査し、厳正な審査を得て入学許可がされている、というのはご存じかな?」

さて、過去の事と言えば思い当たる事は多少なりとはあるのだが、もしかして河原でビニ本探ししていた事まで調査済みなんでせうか?あそこには男のロマンが眠ってる。

「いえ?俺は学費免除の学校だ入れたらラッキー位の気持ちでしか応募していませんよ。審査基準も知らないもんで。」

「君は君が選んでこの学校に入学したわけではなく、入学させられているとしたら?」

「ふむふむ。入学したにしろさせられたにしろ、俺は実際にこの学校にいられてるんで何も問題ないですけどね。」

「君が納得しているのなら良いのだけれどね。さて、話を本題に戻そうか。中学時代、正確には2年生以降の行動によって、この学校に入学させられている。何をしたかは分かっているね。」

「えぇまぁ。大分『やんちゃ』していた認識はしていますよ。」

「やんちゃ、と言うには常識から逸脱していると客観的には考えられる行動であった認識はしているかな?」

「まぁ、そりゃそうかもしれないですね。」

「何故そういった事をしたのか、君の頭の中は分からないが、事実だけ言うと、その件でとある大国と国際問題になりかけていてね。仕掛けた側があちら側と聞いているが面子の問題もあって、君の扱いをどうするかは国の間で現在も話が行われているよ。現在はその態度は保留にしてある。国としての回答は、君を外から完全に隔離された環境での管理、悪く言ってしまえば軟禁する事を一時的に決定している。その決定により3年間、我が国はその国に説明をする時間を保留させてもらっている。つまり、この完全監視された学校に在籍していることが、保留の条件と言っていい。」

「何だかよく分からんまま、国の判断で俺はまんまと入学させられたって訳ですかぁ。」

「そういう事になるね。そして、ここに呼び出した理由として、お願いを一つ聞いてもらいたい。」

この学校に入学する前の俺の行動が原因ねぇ…。ビニ本探しをしていた事では無かったのはありがたい限りである。国家機密ビニ本があれば話は別だけど。

「…聞ける範囲だったらですが聞きますよ。」

「話が早くて助かるよ。…この学校に在籍している間、あと2年ちょっとの間は退学することだけは避けて欲しいんだ。」

「学校側から退学と言われない限りは辞める気はありませんよ。…もしかして学校何かしらのサポートってあります?」

「残念ながら表立って何もしてあげる事はできないね。だからお願い、って形になってしまうんだ。」

表立って、と言う事は誰にも気取られ無い形でサポートするからそのサインを見逃すなって事で良いんですかね?敢えて聞くのは野暮そうだ。

「一つ質問良いですかね?」

「答えられる範囲でなら構わないよ。」

「いつ、面白いイベントが起こるってのは教えてもらえますか?」

「…正確な時期は答えられない、というのがこちら側からの回答になるかな。」

「了解っす。暫くは何も無ければ大人しくしておきます。特別試験があると、難しそうな気はしますけどね。」

その特別試験以外には特に思いつく要素も無いので、何か上位入賞やらMVPがあるとメリットがありそうね。飛び級で卒業とか?いや、この学校に縛り付けたい意図があるみたいだから違うか。

「こちらからの要件は以上かな。……ところで、有栖とは仲良くやっているかい?」

「う~ん、他のクラスなんそっちの話は知らなんだですが、個人的には言動と行動に棘とか攻撃性が強すぎてまいっちんぐですよ本当に。親の顔が見てみたいや。」

心当たりがあるのか、俺の皮肉に苦笑しながら彼は答える。

「身体が弱い事もあってか、過保護に育て過ぎてしまったのかもしれないね。とはいえ仲良くやっていける人物が居るのは何よりだ。これからも有栖をよろしく頼む。」

「特別試験とかAクラスしか希望の就職先へ行けない、なんてルールが無ければ、平穏によろしくできたんですけどねぇ。」

「大変申し訳ないけれども、それは学校の仕組み上出来ない相談だね。…最後に一つだけ忠告をしておくよ。この学校の中では、君という存在の脅威を、くれぐれも他人に悟られないようにした方が良い。常人はナイフを突きつけられただけで会話なんて出来なくなるという事を、心に留めておいてくれ。」

「…ま、使うことはあるかもしれんですが、経験はありますんで出来るだけ気は付けますよ。一部の人間にはバレていそうな気はしますが。…それじゃあ俺は家に帰りますんで。」

「あぁ、すまなかったね時間を取らせてしまって。」

「いえいえ学園長に会える機会なんぞ平生徒には早々無いもんで面白かったです。それでは失礼します。」

 

軽く一つお辞儀をし、ガッチャ!と理事室の扉を開ける。扉の先の廊下では坂柳さんがちょこんと立っていた。そんな所で待たずに帰っていれば宜しいものを。

「お待たせ、待った?」

「その言い方、貴方らしくないですね。」

キザっぽくセリフを吐いてみたが彼女のお気には召さなかったらしい。

「まぁまぁそんな冷たい言い方しないでくんなさいな。お待たせして悪うとは思っている所存でございますですよ。」

「そんな申し訳無さの欠片の無い謝罪をされても響かないですよ。話が終わったのでしたら、とりあえず帰りましょうか。聞きたい事も幾つかあるので。」

「へ~い。」

と、いうわけで、俺たちは学生が帰るべき寮へと戻る。彼女の歩速は以前より速くはなったものの人並みでは無いので、多少牛歩気味ではあるのだけれど。話は長くなりそうだ。

「…で、先程、父と話していた内容に関してです。貴方は入学したのでは無く、させられた存在である理由とは何なのですか?」

「ありゃ、聞いてたのね。自分の父親の言う事を聞けないなんて悪い子ですねぇ。」

「盗み聞きするな、とは言われてはおりませんので。」

「とんちというか屁理屈だねそれは…。その話はあまり吹聴はするなと理事長に釘をさされちゃったからねぇ。」

「それは私にも、と言う事でしょうか?」

坂柳は俺の目をじっと見つめてくる。その目は私が口外するとでも?と語っていたが、わざわざ開けっ広げに言う事ではないのだよ。

「人の口に門は立てられないもので。その明晰な頭脳で推理しておいてくださいや。」

「ケチですね。」

抗議の意味を込めて軽く脚で小突かれる。痛くも痒くもありませんよ。

「ケチで結構コケコッコー。」

「…まぁそれは貴方が話してくれるのを待たせてもらいましょうか。もしくは私がそのうち言い当ててみせますよ。」

「さいでっか。期待せずに待ちますよ。」

「フフ、楽しみにしておいたくださいね。…あと一つ、赤羽君に確かめたい事があります。綾小路君は天才だと思いますか?」

ん~ここで綾小路ですか。彼の事は交えた事以外では話せないんで、その回答を求められているんでしょうね。

「ん~俺の得意分野だけしか判断出来ないが、天才で間違いないでしょう。あの年齢で努力だけで得られる強さは遥かに超えてるっしょ。」

将来有望、前途多難な人間であることは間違えなさそう。あと、家庭の事情で電気浴びてても驚かないよぼかぁは。

「貴方の分野ではそうなのかもしれませんね。私の視点ではそうは思いません。」

「天才ってのは同年代に一人って訳ではないのでは?」

「勿論天才は一人では無いのは理解しています。でも序列はあります。私はこの学校で一番になりたいのですよ。彼よりも、そして貴方よりも。」

「俺は坂柳の括りとは違う気がするんだけどなぁ…出来れば俺の事は無視してクレメンス。」

 

のんべんだらりと話をしているうちに、俺達は寮の前に到着する。何故かやたら長く感じた放課後の時間もこれで終了ですね。

「んじゃあ話はこれ位にして今日はお開きですかね。」

「いえ?今日もお邪魔させてもらうつもりですよ?」

「えぇ…疲れたんで今日は大人しく帰ってくださいよ…」

帰宅後に彼女とボードゲームに興じ、もちろん全敗した。帰り際にニッコニコで帰って行った坂柳さんマジ性格悪いっス。いつか泣かせてやるっス。

 



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混合合宿①

さてはて、ぼちぼち3学期が始まりまして、俺は今クソデカ観光バスに揺られて高速道路を絶賛走行中である。

で、俺は今何をしているかというと、バスの前の窓際で頬杖を付いて絶賛景色をお楽しみ中。学校内では味わえない大自然が高速で移り変わっていく風景を眺めているだけで、籠の中の日常から出されたという充実と圧倒的解放感を感じますね。うっかりバスが崖から落ちてRefrainするとかは勘弁。もしかして特別試験は夢の中でタイムリープして野球……?ってそんな訳無いか。過去を思い出して自分の弱さと向き合え。代打バース。

 

「ねぇ、今回はどんな試験だと思う?」

久々の校外のせいか和気藹々としたバスの中、クラスメイトとの談笑の合間を縫って一之瀬がこちらに話しかけてくる。無人島以来の久々の学校の外での活動、つまるところの特別試験がこの先ではある位しか分からんぜよ。

というか一之瀬さんどぼぢて隣にいるんですかね?ぼかぁは喧騒から離れたいんで後ろの方でガヤガヤやっとってくださいよ。

 

「さぁ?ディ〇ニーランドでも行くんでない?」

「アハハ、…そうだったら嬉しいけど、絶対違うと思うよ…。真面目に考えてほしいなぁ…」

俺のやる気の無い答えに苦笑いの一之瀬である。

「んじゃあ逆に俺らはどこに行くと思うかい一之瀬委員長?」

「ん~そうだな~。この前のは無人島で海だったから今回は山…とかかな?」

一之瀬は俺の軽い挑発は気にも留めずに答える。出来た人なこって。

「海の次は山ねぇ…確かにそれは有磯海。」

山のサバイバルは無人島より管理が大変だから流石に無さそうだけど。

「でしょでしょ!」

 

 

「はーい!お楽しみの所ちょっと悪いんだけどちゅうもーく!」

担任の星乃宮先生がマイクで生徒達に声をかける。各々楽しんでいた会話は無くなり、バスの中はエンジンの音のみになる。

先生の説明によると、山の中の林間学校に向かっている事、学年を超えての集団行動を7泊8日で行うらしい。林間学校、というと夏のイメージだが、無人島と林間学校の時期が逆だったら過酷だからだろうか?とか思いつつ特に気にしない事にする。そこそこ分厚い資料をもらい眺めると、合宿地の生活をするのであろう部屋や食堂やらの写真が記載されていた。男女別に6つの小グループを作り、同様に作られた2・3年生と合流して大グループになるだったり、グループには2クラス以上在籍することだったり、なんやかんやと細かい説明がされていた。細かい所までは覚えられん。そういえばバスの台数も1年生が乗る台数分より大分多かったので、2・3年生もいたんでしょうね。全学年合同で特別試験とはびっくりおったまげである。

この中で大事な所はざっくり3つ。4位以下のグループはポイントが減点される事。小グループに所属するクラス数と総人数が多いほど報酬が多くなる事。そして最下位になり、かつ小グループの平均点が下回る場合、グループの責任者と責任者の指名した一人を退学に出来る事。

 

で、この特別試験の目的としては社会性やら普段関わらない人間と関係と円滑に築けるかを学ぶ、ってことらしい。社会性の無い俺が苦手なやつですねこれは。

「どう?結構合ってたでしょ?」

一之瀬はこちらに小さく耳打ちする。

ふ~、と興味無さげに特別試験に対する不満の意を返しておくと、一之瀬に脇腹を肘で小突かれた。リアクション薄めだったことが不満だったのか面倒そうな顔だったから真面目にやれとの激か。たぶん両方か。

既に共同生活をすることがmustになっただけでテンションだだ下がりですよぼかぁは。フリーの時間も少なそうだし。一之瀬はこーゆーの得意そうね。とはいえ今回男女別でグループを作らにゃいかんので少々面倒である。神崎あたりが男子側のリーダポジションで上手くやってくれるんでしょ、たぶん。

 

 

バスは合宿所に到着し、小グループ作りがスタートする。

スタートして早速、Aクラスの的場という生徒が、Aクラス14人+他クラス1名で小グループを作成したいと、提案してきた。受け入れてもらえればその生徒は極端に足を引っ張らなければ最下位になっても退学者の指名は無いとの事。

Aクラスプラス一人という状況にはなるが、デメリット自体はほぼ無いと言っても良い。悪くはない提案である。この作戦を坂柳が考えたなら何か裏があるんだろうけど。こちとら理事長に出来れば退学だけはするなとお願いされてしまった手前、知った事ではない。約束を果たす義理は無いけど。

その提案を聞きDクラスのインテリメガネ金田、Cクラスのイケメン平田、Bクラスのクールボーイ神崎が何が話始めたが、面倒臭いので話はそこそこに俺は手を挙げる。

「んじゃ、俺が行きますよ。何処にいてもあんま変わらなそうだし。」

俺が名乗り出ると提案した側のAクラスの表情が少し曇る。煙たがらないでくださいよこれから一緒にやって行くんでしょうに。ただ、的場は表情を崩した様子は無いのはどうしてでせうね?

「良いのか?Aクラスが裏切る可能性もあるぞ。」

神崎は俺に忠告する。

「Aクラス側もリーダー格が来ないことは承知の上だから良いっしょ。それならあっちに乗って下っ端をあてがうのが正攻法よ。」

「…お前は貢献していると俺は思うがな。」

「と、いうわけでAクラスの方々、俺を嵌めるなら、個人的にそれなりに報復することが無きにしもあらずなのでよろしく~。」

「…受け入れられない言葉も無きにしもですが…道連れにしない事はお約束しましょう」

的場は少し渋い顔をして了承する。彼は無人島の件を覚えているんでせうね。囲まれた時に対峙してたのかは全く覚えとらん。

「…割と容赦無い忠告するなお前は。」

「褒め言葉、と受け取っておくことにするよ神崎副委員長。」

「…お前にはどこかのグループの責任者になって引っ張って欲しかったんだがな。」

「えらく評価してくれますねぇ…もう一度いうけど俺は下っ端よ。人を纏める器は俺にはありゃしませんよ。」

俺みたいな小市民はなるべく悪目立ちせずに足を引っ張ら無い立ち回りをさせてもらいましょうか。出来る限りで。

坂柳は俺の行動を何処まで読んでいるのか知らなんだが。読まれている様な気がする。

さて、何が目的なのやら。いつもの言動から推察すると退学させる、なんて大胆な事はしてこなそうだが。

「んじゃ、よろぴくねAクラスの皆さん。頭はポンコツ、フィジカル激強枠で使い倒してくださいや。」

 

小グループ作成が終わり続きまして2・3年生との大グループ作りが始まる。なんやかんやあって、堀北先輩のいるグループへと配属される。

「あらら、堀北パイセンと同じですねぇ。取りあえずよろしくっす〜。」

「ふぅ…厄介なのと同じグループになってしまったな。」

「うわぁ一発目からひでぇや。」

「心配はしていないが変な事はするなよ。」

「荒事は積極的に関わるつもりは無いので安心してくださいよ。俺ってそんなに信用無いんですかね?」

「無いな。この学園での行動を自分の胸に手を当てて思い出すんだな。」

「うわぁやっぱりひでぇや。」

俺、何かやらかしちゃいましたかねぇ?(すっとぼけ)心当たりが無きにしも有らずだが、基準がぶっ壊れの我なので無い事にした。俺が堀北先輩と関係があるのに驚いた表情をする生徒もいたが、その関係も偶然っちゃ偶然かと思うので気にしない事にする。

お互い軽口を叩き合った後、堀北パイセンは南雲パイセンに勝負を挑まれていた。

挑戦的な南雲パイセンを堀北パイセンが受け流しつつ話が付き、一瞬俺と目が合う。体育祭の件があったとはいえ、俺は敵にもならないと思われているのか特に絡む事は無かった。面倒な人に絡まれると面倒なので一安心である。

 

で、時は変わって食事の時間である。さて、僕らのしばらくの食事処は如何程か?と食堂に向かうとデカァァァァァいッ説明不要!!約500人を収容できるだけに広い。が人も多いのでそこそこにごった返しである。適当に定食をチョイスし空いてる場所に腰を降ろしてそこそこ煩いが優雅なお食事タイムである。

 

「ふえぇ〜あぁ〜疲れたぁ〜」

帆にゃ抜けた声を発しながらこちらに流れてきたのは、我らがBクラス委員長、一之瀨帆波さんである。あっ、お疲れ様です。

「何となくだが大変だったのは伝わってくるな。同情しかできんけど。」

「そ〜なんだよ〜疲れたよ〜おこたでミカンとお菓子食べて寛ぎたいよ〜」

「勝手に人の部屋で寛ぐ願望は止めてくれませんかねぇ…俺のプライベートはどこに?」

「ダメなら何か私にご褒美を〜マッサージとか〜何か報酬を〜」

「全く人の話を聞いていらっしゃらない…」

一之瀨さん、お疲れで本能が剥き出しかけていらっしゃいます。誰か木パテで埋めてあげて。

そんなお疲れモードの彼女を労うため、ぽふぽふと撫でておく。これで治まってくれませんかねお嬢様。

「はふ〜なんか落ち着く~」

何故だか知らないがご満悦のご様子。取りあえず良かったでゲスな。

「そういえば神崎君から聞いたけど、男子の方はそんなに揉めなかったみたいだね~い~な~。」

ご飯をパクつきながら、羨ましそうにこちらに話を投げかけて来る。ていうかもう情報仕入れているのね。行動力の化身。

「女子は同姓同士の好き嫌いというか相性というかそういうの気にしてる子が多くて調整が大変なんだよ~。男子ってそういう所は女子よりドライで羨ましいなって思ったり思わなかったりかな~。」

ラジバンダリ。と頭の中でダブルダッチが駆け抜けていく。とりあえず労いの言葉でもかけてやりましょうデミグラス。

「ま、Bクラスの委員長らしくクルーシオして頑張ってくれたまえよ。」

「ひどーい!でも赤羽君はなんかいつも通りで安心したよ。良くも悪くもマイペースっていうか。」

一之瀬からはいつも通りとのお言葉を頂戴いたしました。でも、そのマイペースは全然誉め言葉じゃないぞ。悪口の後、いい意味でって言われてもその悪口は消えないあの感じに似ている。

 

「んじゃ、俺は食べ終わったんでお暇させていただきますよ。」

そう言って俺は空の器を持って席を立つ。学年でも目立つ一之瀬といるのは徐々に居心地悪くなってきたのもある。じゃ~ね~一之瀬はひらひらと手を振ってこちらを見送ってくる。そーゆーのが目立つ原因になるから止めて欲しいんだよなぁ…。



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混合合宿②

評価者が50人になりました。投稿作品でゲージが初めて評価ゲージが満タンになるのを見ると感慨深いものがありますね。



用意された寝室へと向かう途中、見覚えのあるスキンヘッドが見えた。皆さんお分かりかと思うがAクラス葛城さんである。サイクリングロードでポケモンバトルを仕掛けてくる暴走族ではない。

そういえば、小グループの責任者になった割りには随分大人しくしていましたね。無人島の頃の彼はどこへやら。

「カツラァギサァ↑〜ン!コォ↑〜シテハナスノハ、オ↑ヒサシブリ↑〜デスネェ↑!」

「その話し方は耳障りだから止めてくれないか。」

彼は強面を一層深く強面ばらせてこちらに注意してくる。表情はもう少しで般若である。

「相も変わらずつれないこって。」

「お前が変な絡みをしてくるから、それ相応の対応になるのが道理だろう。」

彼の前だと特にふざけたくなるのはなんででせうね?嫌がられるの含めてリアクションが良いのよね彼。

 

「ついやっちゃうよね〜なんでだろ〜ね〜。で、話しは変わるけどボス猿の奪い合いは負けたって認識でいいんですかね?」

「…まぁ。今はな。お前もあいつ側か?」

彼は坂柳派と比べて穏健なイメージなので、妨害行為というか卑怯な真似が好まないんだろう、そこを見抜かれた上で漬け込まれた訳だから相手が悪かったと言わざるを得ない。幾度となく機会があって悉くやらかして落とされた手前、こっから盛り返すのはかなり大変そう。

「どう思うかはそっち次第では?あくまで俺は俺の利益になる相手にしか協力する気は無いねぇ〜。あとクラスに害を与える相手にはそれ相応の対応をするだけよ。」

「そういう答えになるか。今回はよろしく頼む。」

「うっすうっす。出来る限りで頑張りますよ。」

こんな状況でも律儀に自分の役割はやろうとする所は人間として出来てるからなんでせうねぇ…真似出来そうにありまへんなぁ。

 

「で、この話はこれ位にして、明日以降俺が朝部屋に居なくても起床時間には戻るから気にせんといてね。」

「何かするつもりなのか?」

「まぁ日課のやつなんで気にし無さんといておくんなます。」

「分かった。グループには話しておく。」

「助かるゼェーーーット!」

 

 

ーーーーーー次の日の朝

起床を促すBGMが合宿所内に流れる。夜が明けると、朝になるんですよ。

教室に集合し点呼、その後指示された場所の清掃を行った。

次に移動された場所に入る。い草特有の香りが鼻腔を擽る道場での座禅タイムである。

担当者から叉手やら結跏趺坐やら十牛図とやらの説明を受ける。チー牛図。

で、朝食になるのだか今回以降はグループで作るとのこと。合宿らしいですが、毎日朝カレーは勘弁したいですね。イチローになっちゃう。

授業もグループで受ける。いつもと違うメンバーで新鮮ですね。

お昼以降は持久走メインの基礎体力作り。体力には自信があるので、さくさくっとこなし苦戦する生徒を眺めるのが恒例行事になりそう。最後に駅伝があるみたいなので、そこ位しか貢献は出来なそうですね。

 

ぼちぼち授業と夕食を終え終わり部屋に戻っていると、廊下に男女の人集りが出来ていた。なんじゃらほいと野次馬根性丸出しで向かうと、坂柳と多分1年の生徒が接触したらしく。坂柳が尻餅をついていた。

「あらあら?此処は休憩場所ではございませんことよ坂柳さん?」

俺は軽口を叩きながら人集りに入り、特に了承も得ずに腕を引き彼女を立ち上がらせる。

坂柳は助けなぞ必要無いと言わんばかりに、ムッとした表情を浮かべる。助けてやったので感謝の言葉の一言が欲しい所ではある。

ついでに転がった杖も拾い上げて手渡しておく。

「人の好意は素直に受け取っておくのが心の広い人じゃありゃせんか?」

「私はそこまで心の広い人間では無いですよ。と、いうことでお礼の言葉は無しにさせていただきます。」

「おぉひでぇ。とは言えそんなに威勢が良けりゃ心配は無さそうでんがな。んじゃこれにて失礼。」

人集りを抜けて俺は部屋に戻る。スピードワゴンはクールに去るぜ!

「…ありがとうございます。」

去り際、坂柳の声が聞こえた気がしたが気のせいでしょうね。

 

 

時間は過ぎ去りまして三日目の夜、場所は大浴場。

皆慣れたためか1、2日目よりガヤつきも多くなってきたなと他の生徒達が騒ぐ喧噪を聞きながら、俺はわっしゃわっしゃと懇切丁寧に髪を洗っていた。合宿所だがホテル並みに中々に良いアメニティが揃っている。洗った後の髪の艶がいつもより良いのでご機嫌な蝶になる。

誰かが呼び出され、歓声が上がり、また誰かが呼び出され、歓声が上がる。耳を傾けるとワクワクチンチンの大きさ選手権を行っている様子。うん、嫌な予感がするZE!

須藤、葛城、アルベルト、高円寺、そして以外にも綾小路が参加している様子。綾小路は龍園に一杯食わされたみたいだったが。

「これで終わり。と言いたい所だが、もう一人、勝負出来そうな面白い奴がいるぜ。」

誰だろな~面白い奴って~、と思ってたが気付くと俺は1年男子に囲まれて高円寺と対峙している。

嫌な予感が当たっちまったZE!

「面白い男がいると言われて出てきたのは、赤羽ボーイか。ま、私の敵ではないがね。」

暫定1位の高円寺は自信満々のご様子。

「…俺も巻き込まれたんだ。諦めるんだな。」

若干うんざりした様子の葛城さん。ブルータス。お前もか。

どこからひょっこり現れたのか、柴田が俺のマイサンを守るタオルをグイグイ引っ張ってくる。

「イヤ~ン!堪忍、堪忍なさっておくんなます~!」

自分のを隠して俺を引っ張り出した龍園さんよ!性の喜びを知りやがって!許さんぞ!

周りの男子共も早く取れやら、諦めろとガヤを飛ばしてくる。明日以降の風呂には入らにゃならんので逃げ場は無いようである。俺が観念した様子を察したのか、柴田の引く手も引っ込む。

「大したモンではないんだけどなぁ…。そ~れボロンッ!」

おちんちんランド開園。お互いのイチモツが公衆の面前に晒される。結果を息を飲んで静まり返る観衆たち。高円寺からもフッ…と笑みがこぼれる。

「…これほどの人物がまさかBクラスに隠れているとはね。この場ではブラボーと言わせてもらうよ。」

ドッ!っと男子たちが歓声を上げる。と、いう訳で1年生イチモツバトルは幕を閉じた。おちんちんランド閉園。こんな所で目立ちとう無かったよぼかぁは。

 

 

所変わって次の日の食堂にて

「赤羽君。昨日はお楽しみだったようですね。」

「え?何々何のお話?」

数少ない安息の時間である食事時に対面しているのは、Aクラスのやべぇ奴でおなじみの坂柳さん。

ついでに隣には一之瀬もいる。ついでにって言っちゃったよ。

「えぇ?何のお話ですかねぇ(すっとぼけ)」

「昨日の大浴場での一物比べの件ですよ。」

「うわぁ言っちゃったよこの人。」

「いちもつ…?…!!ちょっとここじゃあマズいんじゃないかな…。」

あっけからんという淑女たるもの、恥じらいを持って頂きたいものである。隣の一之瀬さんを見習って、と思ったらここじゃなきゃ良いのかよ。どこでも駄目です。

ズズズとお茶を啜りながら苦み走った顔をしているのが自分でも分かる。茶は普通に美味い。

どうしてそんな情報が女子に回っているのか不思議でならない。あれは男同士の聖域では無かったのか!裏切り者はこの食堂のなかにいるっ!

「あれは龍園に嵌められたんだよ。俺は被害者だ。」

「結果は芳しかったようで。」

「芳しかったんだ…」

そんな情報まで筒抜けなんですね…マジの粛清案件ですこれはこれは。

あと一之瀬さん、下の方チラチラ見るの止めてもらえませんかねぇ…。悲鳴を上げるな…陰茎が苛立つ…

「私も女子ですので、殿方のそう言った話にも興味はあるのですよ。ねぇ一之瀬さん?」

「にゃはは、その話題は私に振らないで欲しいかな…」

その意見には俺も禿同である。禿同なんてきょうび聞かねぇな。

こんな所でこれ以上話題膨らむのは堪らない。エロ柳さんは放って置いて俺は席を立つ。膨らむのは腹だけで十分です。

 

さ、部屋に戻って明日に備えましょうね。




体操服の坂柳の挿絵…えっちだ…


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混合合宿③

二次日間67位に入れました。ありがとうございます。
急に評価者とお気に入りが増えて情緒がFooooooooooooooooo!!



--一之瀬視点

 

林間学校当日の就寝前。

何だかんだあったけれども、二転三転、紆余曲折、波乱万象な展開を繰り返しながらも、とりあえずは試験に挑む仲間が決まった。夕食の席で赤羽くんにはらしい励ましをもらったけれど、彼の言葉通りにならなきゃ良いな。彼ってもしかして予言者じゃないよね!?大丈夫だよね?あぁ、そういえば夕食の席では赤羽君の雰囲気に呑まれて大分気を抜いてしまっていたなぁ……今更ながら恥ずかしくなってきたよ……

 

「あのさ、一之瀬さんって彼氏いたことあるの?」

私が自分の世界に入ってしまっている間に、Aクラスの女子がわつぃに対して質問をぶつけてきていた。我を取り戻し、言葉を返す。

「んーーいやぁ……お恥ずかしながら、恋愛経験無くて……」

「そうなんだ~超モテそうなのに以外~もしかして理想高い系?」

「そんなことは無いと思うんだけど……どうなんだろ?」

「じゃあさ、今好きな男子はいたりしないの?」

「えぇええ~」

話の流れとはいえ、そんなことを聞かれ、私は慌てるしかない。

「噂じゃさ南雲先輩といるとことか結構見られてるけど……」

確かに生徒会に入ってからは南雲生徒会長と行動を共にすることは多い。けれどもそんな噂が立っているとは思ってもみなかった。

「いや~私が好きとか嫌いとか以前に、南雲先輩の眼中になんてないって。」

「そんなことないよ、ねぇ?」

「そうそう。一之瀬さんが南雲先輩と付き合ってもおかしくないかな。」

「そういえば、同じクラスの赤羽君と良く一緒に過ごしていますよね。同じ学年ですし運動神経も抜群ですし、彼とはどうなんでしょう?」

椎名さんがこちらに問いかけて来た。意外と細かいところまで普段は目を配っているのかもしれない。

「え!…えっと…赤羽君とは良いお友達というかクラスメイトというか、そんな感じかな。私が困った時とか、多分私の気付かない所で助けて貰ったりして、私も彼に何かしてあげられたらなって思うけど、思いつかなくて……」

「それって……」

女子たちの言葉を遮って私は続ける。

「どっちにしても今は好きな人はいない、かな……」

「ふ~ん……」

「え?何々?私変な事言っちゃった?」

「ううん。ただなんていうか、何でも真面目に答えちゃうんだなって、嘘もつけなそう。」

そんな話でも盛り上がる女子たち。だけど、その部分は否定した方が良いだろう。

「にゃはは、そんなことは無いかな。ホントに。」

「え~ホント?」

「ホントホント!例えば特別試験でさ、駆け引きの一つや二つ必要になるじゃない?その時は誤魔化したり嘘を付いたりはするよ。」

「じゃ、嘘を付くことは平気なんだ。」

「……ん~ちょっと違う、かな。誰でもだと思うけど、嘘なんて本当はつきたくないよ。だから出来るだけ嘘をつかない、というか、人を傷つけない嘘は苦手、かな……」

「それって変じゃない、人を傷つけない為に嘘を言うんじゃないの?」

「そうだね。人を傷つけない為の嘘は、きっと優しい嘘なんだと思う。」

ちょっと矛盾がある事を指摘されたが、私の曖昧な回答をそれ以上追及してくる女子はいなかった。

私は嘘をついた。そして私の場合は違うのだ。これは自分に課した一つの試練なんだ。

私の嘘は人を傷つけない為の嘘じゃない。自分が傷つかないための、自分を守るための保身の嘘。

誰かに知られて、失望されて、人が離れて行ってしまう事が無いように、私が私の価値を守れるように。みんなが思い描く正直で嘘が下手でな一之瀬帆波で居続けるために。

一つ嘘をつくと、バレない様にまた嘘をつく。その嘘は雪だるまみたいにどんどん大きくなって。私だけじゃいつか抱えきれなくなって。でも、私はやり遂げないといけない。もう繰り返したくない。

 

 

あのつらい日々を。

 

 

あの、残酷な時間を。

 

 

--赤羽視点

 

試験5日目。午前中は全て運動にあてられる様で、最終日に行われる駅伝のコース往復18キロを走るとの事。だいたい星ケ谷杯である。試験は駅伝で2キロ程度なのにどうして?

 

やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことは手短に。とはいうものの、ただ走るには長すぎる。18キロという距離は。

 

スタートと同時に快足を飛ばす。

俺に付いて来る人間がいた。3年Aクラスリーダーで元生徒会長の堀北パイセンである。

「ちょっと話良いか?」

「走りながらで良いなら。」

「それなら問題ない。」

3年AクラスのリーダーがBクラスの下っ端に話とは珍しい事もあるもんだ。

「グループ内のサポートは良いんですか?この距離は結構キツイ人もいると思いますが。」

「多少心配な面もあるが、問題ないだろう。」

「さいですか。」

「南雲の事はどう思う?」

現生徒会長南雲。体育祭でリレーの勝負で多少関わった位である。Aクラスかつ生徒会長の実力者でもある。俺とは住む世界の違う人間だし小市民の俺とは関わる事は基本無いんだろうな。

「南雲先輩ですか〜興味は無いですね~。面倒そうなので出来れば関わり合いたくないってのが正直な所です。」

「まぁ、お前の琴線には触れん相手だろうな。…だが俺はあと数か月で卒業だ。その後は南雲が学校内で一番影響力が大きくなる。そして必ず何か仕掛けてくるはずだ。」

ここの生徒会は雑用係程度にしか役割のない他の学校の生徒会と違い、裁量と権限が多い。そのアドバンテージを使ってルール作りなり、特別試験への介入をしてくる、って感じなんですかね。

「その仕掛けてくる内容の心当たりはあったりします?」

「…残念ながら心当たりは無いな。俺の代わりになる実力のある人物を探すための何かはするだろうな。そしてそのとき少なくない退学者が必ず出る。」

堀北先輩に代わる競争相手、もしくは潰すおもちゃを炙り出して潰す、といった所だろうか。

「そりゃ怖い怖い。気を付けなきゃですね。」

「南雲は一之瀬を生徒会に入れたようだな。」

「一之瀬が生徒会に入れなかったのは堀北先輩が拒否したせいですからねぇ。」

「まぁな、どうしてだと思う?」

頭は良く人当たりも抜群で信頼もされている。が、人の裏をかく行動だったり策略を実行する事は本人の性分かしないイメージではある。その矛先が今後Bクラスに向けられた場合に対処できるかは不安である。

「ん~、南雲先輩を止められない、って所位しか思いつきませんね。南雲先輩が学校にいるのは長くて1年ですし、今後の生徒会を担う、って名目であの時一之瀬を入れても良かったんじゃないです?」

俺は一之瀬が頼みに行ったときに推さなかったし、俺も入るのは断ったんだからそこまで強く言えないけどね!

「俺にとっては生徒会に相応しいと思う人材ではないと思ったらからな。」

「南雲先輩を抑えて先輩の思う生徒会を継承できない人材だったからじゃないですか?」

「…」

「1年生の誰が入ろうと、南雲先輩が生徒会長になるのを防げなかった時点で、ある程度の変化は受け入れないといけないと思いますよ。ここは実力主義の学校といわれていますしおすし。」

「…お前は何もしないのか?このまま学生生活を続けるつもりなのか?」

「ん~、俺は俺のやりたい事をやるだけですよ。ま、当分はクラスの方針に逆らわずにしていこかなと。ンジャメナ何か自分に出来そうなこと考えときますか?絶対に堀北先輩が嫌がりそうなやつを。」

「はぁ…お前に話しておいたのは保険だ。俺は生徒たちの退学が増えるのは望んでいないからな。」

「後輩のこれからの学生生活の事も憂えるのは流石、生徒会長って感じですね。ぼかぁにはまねでにねぇや。ま、優秀な対抗馬を見つけられるのをお祈りしておきます。」

「お前に心配される話ではないがな。」

「ま、そうでしょうね。話はこれ位にしましょうかね。んじゃ俺は先に行きます。」

「無理はするなよ。明日に響くからな。」

「そこはご心配なく。」

そう言い残し、俺は更にスピードを上げる。先輩の足音は次第に小さくなっていく。

 

やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことは手短に。

1時間程度で戻って来て教師陣にドン引きされたのはまた別のお話。



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混合合宿の終わりと揺れるBクラス

で、なんだんだで試験当日。

 

座禅から始まり、入りから出まで審査される方式の様だが特に問題なくクリア。

ペーパーテストとかとかは、まぁ、、うん、、、普通くらいだよ。察して…

 

最後はもちのろん駅伝である。得意分野なのでちっとは貢献したいところ。

だかしかし!Aクラス陣営からは1.2キロで良いと言われてしまった。ラストで順位俺がグループで一番速いんですがねぇ…まあ良いや。

 

「ふーん、ラストランナーは赤羽ボーイだったか。お手柔らかに頼むよ。」

そう言い横に並ぶのは記憶に新しいお風呂での対決のあった高円寺さん。個人的には黒歴史ですよあれは。

「こちらこそお手柔らかに頼むよ高円寺ボーイ。」

「フフフ食えないねぇ。君とサシで走るのも面白そうだが、少し分が悪そうだねぇ。」

「ほぇ~自信家に見える割に謙虚なこって。」

「私自身の実力は自分が一番分かっているからねぇ。相手の実力もまた然りだよ。」

高円寺はクシで髪を整えながら答える。何となしに質問を返す。

「はほーん。で、俺はどう見えるんですかねぇ…?」

「殆どの部分では平々凡々に見えるねぇ…ただ一部に関しては超天才の私を凌ぐ、と言った所かねぇ。」

「で、その分野で俺とやり合う気は?」

「無いねぇ。勝敗が分かっていて愚かな事はしないのだよ私は。」

「さいでっか。」

雑談をしていると、後ろには俺のグループの生徒が見え始めた。高円寺と走り合う事は無さそうだ。

「んではお先に。機会があれはヨロシクヨロシク。」

「後ろ向きに検討しない事にするよ。、赤羽ボーイ。」

完全なお断りと言葉を貰ってしまった。お互いに食えない者同士と行った所でしょうか。

駅伝は特に波乱も無く一位でゴールし、いつもの結果発表-!(cv.略

 

グループ一位でした。俺が貢献してたかは不明だけど。

波乱と言えば堀北先輩の3年Aクラスの女子が退学になりかけてポイントで阻止した、って事位でしょうか。端で話を聞いていた限りでは南雲先輩が一枚噛んでいたご様子。こっちのクラスには実害ないので特に口出しはしなかったけれども。

 

 

ーーー

 

合宿も無事?終わり、学校へ戻って今は2月上旬。

学年内にあまり良くない噂が流れ始めた。

 

一之瀬帆波は犯罪者である、と。

 

風の噂に興味の無い俺でも暴な力やら援助な交際やら窃な盗やら薬な物やらやらなんたらかんたらうんからかんたら、と耳に入って来る来る鬱陶しい事この上ない。あのこの文章読みづらい事この上ない。

人の噂は七十五日と言ったものだが、二ヶ月半って結構長くて、二ヶ月と15日位ですね。

神崎あたりが噂の出所を突き止めようと動いているみたいだけど、突き止めた所で解決はしなさそうだけどねぇ…。

 

噂の張本人である一之瀬さんは何故か曖昧な返答をしている様子なので、鎮火するのも時間がかかりそうですね。

 

さて、噂の出所は何処からか?フーダニット。分かりやすいのは一之瀬あるいはBクラスを揺さぶって一番得をするのは誰か?一つは堀北先輩の妹率いるCクラス。Cクラスは一応同盟関係らしいが、Bクラスが射程圏内に入りDクラスからCクラスに上がって勢いのある今、仕掛けて来ている可能性は十分にある。確証は全く無い。

もう一つは坂柳率いるAクラス。一之瀬を崩して下位3クラスを団子にしてしまえば、Aクラスの位置は暫く盤石になる。この類の噂は何時でも仕掛けられるので、何故今感があるが意図は分からんよ。

あとはワンチャン一之瀬に恨みを持つ人間。彼女は恨みを買う人間では無さそうだけど、なんかの理論で二割は何をしても嫌われるらしいのでそこらへんの可能性もあるよね。ホワイダニットは知らん。

ま、確証も持てないししばらくは静観って事にしておきましょうかね。

 



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噂話①

文章がハネないですね。理性のリミッターを外せ。


そういえば一之瀬の噂騒動が始まってから、一之瀬が部屋に来る頻度がめがっさ減った。神崎あたりがAクラスの奴を問い詰めた様だが噂は相変わらず。一之瀬も相変わらず。ぼちぼち試験も迫っているので勉強もしなきゃなと思っている所存でございます。

 

そして金曜日の放課後、噂の件はまた動きを見せた。生徒達のポストに投函されていた一枚の紙。

 

『一之瀬帆波は犯罪者である。』

 

ここで言葉での噂話程度だったものが遂に形に現れた。愉快犯なのか噂を流した張本人なのか?

指紋とかを調べれば分かるかもしれないが、明確な犯罪行為ではないのでそういった捜査まではいかないのだろう。犯人もそう踏んでいるかと思ったが、そもそも万が一を考えて一学生の俺でも思いつくヘマをするとはお茂和無いけど。そもそも金曜の放課後だし事が動き出すタイミングにしては微妙なタイミングですね、とか思うんだが犯人の思惑は如何に?

と、一ひと事件ありながら週末に入る。学校に行かないという事は噂話での動きは一時的に鎮静化するが、開けてからまた動きだすんだろうなぁ…とか思いながら特に何か動こうというつもりは無い。個人的にうざったい案件はあるにはあるが、特に問題なく捌けているので気にしない事にしようそうしよう。

日課のトレーニング後、勉強しようかなと座布団に腰を降ろすと携帯が一回震える。何かメッセージが来た様。

 

『ごめん。体調崩しちゃった。』

一之瀬だった。そして何とも返答に困る一文である。というか風邪ひいてたのね。取りあえず無難に返しておこう。坂柳からのチョコを摘まみながら指を動かす。

『お大事に。』

『無難だね…あ〜寒気がするな〜鼻水も止まらないな〜。誰か来てくれないかな〜。』

『えぇ…十分な栄養取って暖かくして寝てください、以上。』

『来てくれないの?』

『いやぁコレがコレでアレでして…』

『坂柳さんのお見舞いは行ったのに?』

あれは出掛けた直後に風邪を引かれたからであって……と、思ったが連れ出したのは坂柳である。今更ながら何で俺行ったんだろうね?マインドコントロールでもされてたのん?

『分かりましたよ。行きますんで大人しく待っていてくださいな。』

 

一応鍵は開けといてくれと伝えておく。

んで、水やら食材やらを適当に買い込み、一之瀬の部屋に向かう。そういえば初めて行くなとかどうでも良い事を考えながら、部屋の前に到着、チャイムを鳴らすとマスク姿の一之瀬が登場した。

 

「ハロー一之瀬。強引な呼び出しに応じてお見舞いに来させて頂きましたよ。」

「ズズッ…いらっしゃい。ごめんね、こんな風に呼び出しちゃって。」

「いやぁ…中々エグイ呼び出し方されたなぁと思いましたが、体調悪いと不安になるもんよ。ま、病人は大人しく寝てなさんな。何か食えそうなもの作りますんで。」

こめんねー、と言う一之瀬をベットに追い返し俺はキッチンへ。

 

冷蔵庫に飲み物とかメイト的なモノを詰め込んでおく。そんでもって突撃!冷蔵庫チェック!こっちにはイソフラボン的なモノは入っていない!才能とは…いつも残酷だ…。

 

定番のお粥にいくつかのみじん切りにした野菜を投入し七草粥風にする。お粥煮る時間がそこまでないので五分粥程度にしかできないがそこには目をつぶってもらおう。もちろん梅干を添えてバランスを良くしておく。

 

一之瀬の部屋は風邪のためか加湿器がフル稼働中だが、スパゲッティの芳香剤やら枕元にぬいぐるみやら、彼女らしいというか女の子らしい内装になっている。

 

「お粥作ったで~。あといつもの緑茶も。味は人の好みがあるからご愛敬ってことで。」

「ありがとー」

出来上がった料理をテーブルの上に置いた。食いしん坊(当社比)の一之瀬さん、テーブルの上で人差し指をクルクルさせて、あー、えーと、とか言って食べようとはしない。

「どしたん。食欲無いとかなら後で食べてクレメンス。」

「食べさせてくれたりしたりしなかったりしてくれたら嬉しいなーってしてくれるのかなーって思ったり思わなかったり。」

「えぇ…」

恋人ならいざ知らず、TDNクラスメイト同士でそこまでやるのは気が引ける所である所存でごさいまするよ。

「坂柳さんはどうだったの?」

「流石にそこまでは要求はされなかったでせうねぇ…」

 

このお嬢様、体調悪いのを良いことにやりたい放題である。風邪でどっかのリミッターはずれてしまったのん?病人って面倒くさいなぁ…(坂柳比)

 

「サービスで一口だけなら。」

レンゲでお粥を一口すくい、一之瀬の口元に近づける。はむっとそれを一口食べ、一之んはニマニマと笑みを浮かべている。

「フフ、ありがと。」

「…でーいたしまして。」

一之瀬は一言お礼を言った後、お粥を普通に食べ始めた。食欲はきちんとあるようなので大丈夫そうですね。

 

お粥も食べ終えてひと心地付いた後。一之瀬さん既にベットの中である、

 

「…赤羽君は何も聞かないんだね。良く言うと相変わらずって感じ。」

噂の件の事だろう。クラスの皆も動いているし、俺が何を出来る訳も無し。疑わしい人間を全員と問い詰めるなり脅迫するなりの手段はあるにはあるが、相手が何も知らない場合もあるし俺が交渉話術に長けているわけでも無い。リスクに対するリターンがあまりにも無さすぎるな、と思っている。

「そりゃー体調を崩しました。んでお見舞いついでにご飯を作った。それだけでない?」

「そうなんだけんどさ…」

一之瀬は何か言いたげではあるが

「ま、その件で俺に出来る事は何もありゃせんのでね。んじゃ、俺は戻りますよ。お大事に。」

「…うん、ありがとう。」

 

やることやったしミッションコンプリートと言う事で、そそくさと俺は部屋を出る。

一之瀬は話を聞いて欲しかったのだろうか。いや、聞いた所で解決策が咄嗟に浮かぶわけでも無し、そもそも一之瀬が最初から完全否定していればここまで事が大きくはならなかったろうに。曖昧な回答のままってことは本人に後ろめたい事がある可能性があるが、本人が話さないのだから知りようが無い。

う~ん堂々巡りだ。考えるほどドツボにハマりそうだから俺は考えるのをやめた。

後ろ髪惹かれる思いもあったり無かったりするが、戻って話を聞き直すのも照れ臭いので結局戻ることにした。ま、時間が解決してくれればいいっスね、



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噂話②

頭の中でストーリーを考えただけで書いた気になって、後で原稿見た時に書いたはずなのに…無い!…となる現象の名前を僕達はまだ知らない。…多分痴呆。


次の週の月曜日、案の定というか何というか、一之瀬は学校を休んだ。Bクラスには体調不良との話が星乃宮先生からあったがクラスメイト達は本当かどうか疑っている様子。まぁ彼女の体調不良は事実だから何も言う事は無い。

 

そんなこんなで放課後。

最近、彼女が来なくなって部屋のお菓子の消費量が減って平穏な時間が増える…訳も無く俺の部屋に入り浸るもう一人の人物である坂柳さんは相変わらずの訪問率だった。こっちはあまりお菓子を食べない方である。あと今回の噂の首謀者筆頭のご本人様である。今の状況Bクラスの生徒に見られたら裏切り者とか言われても良い訳出来ない状況でもある。叩いても何も出てこないけど。

 

「フフ、今日も二人の様ですね。赤羽君。」

言葉を交わしながら今日も今日とてチェスの駒を動かしている。何だかんだで一度も彼女忖度されたことが無い、っていうか負けず嫌い過ぎるだろ!また私の勝ちですねってドヤ顔されるのは見飽きたよドラえもん!新しい道具出してよ!坂柳ジャイアンをぎゃふんと言わせてやりたいんだ!

と、願ってもドラえもんが現れて『まるごとコピーカム』で坂柳といい勝負が出来るはずも無く…いや、『いいとこ選択しボード』で体力を知能にブッパすればワンチャン勝てるのではないのか…

「赤羽君の手番ですよ。もしかしてもう降参でしょうか?」

妄想に気を取られていて坂柳に急かされてしまった。いかんいかんですね。

「いんや?まだまだ負けるわけには行きませんよ。」

勝てない可能性が高いにしてもここは安全なボードゲームの上。やるだけやらなきゃsing a songですよ。

ふと思い出した事があるので聞いてみる。

「そーいえば、Cクラスの生徒に良く会うようになったんだってな。」

「あら?ご存知でしたか。」

どうせ何か裏がありそうだが、俺にその裏がわかるはずも無く。

「とやかく言う事はしたくないが、火遊びにはお気をつけなはれよ。」

「とある人が釣れないのでその腹いせですよ。」

「うわぁ…こっちに火の粉が飛んでくるとは思わなんだ。」

腹いせの仕方が陰湿じゃあありゃせんか?当て馬の彼が可哀想だと思わなくもなくもない。

「まぁ、これから面白くなって行くと思いますのでお楽しみに。」

「それは楽しみにしたくないなぁ…」

坂柳は最近やたら上機嫌に見える。言動・行動両方にサドッ気のある彼女の事、この噂の首謀者だとしたら今の現状が楽しくて仕方が無いのは頷けるが明確な確証が得られない以上は

あー止め止め。この部屋は他愛も無くくつろぐ所ジャマイカ中立に行こうじゃないかマイダーリン。

「チェックメイト。また私の勝ちですね。」

「うげぇ。」

「それでは今日は私の言う事を一つ聞いてもらいます。」

「いつも勝っといて身勝手なこって。」

「これを受け取ってください。」

そう言って坂柳は鞄から何かを取り出す。掌に少し大きいサイズの包装されたシンプルな箱だった。そういえば今日バレンタインでしたね。完全に蚊帳の外だったので早くも忘れてしまっていましたよ。

「うわぁ…キャラじゃ無くない?」

「想像していたのと違う反応ですね。もっと飛び跳ねて喜ぶものかと。ちなみに、釣れない人への腹いせですよ。」

「日頃の行いを胸に手を当てて考えなさいよ…。ありがとうと言っておくけど、Cクラスの彼マジで浮かばれないな…毒とか入ってない?」

「入ってませんよ。感想はそうですね…1か月後にでも聞かせてもらいます。」

1ヶ月後と言えばホワイトデー、相場通りなら三倍だか十倍返したが天空山田返しだかをしないといけないんですかね。

「へいへい、期待しないで待っておくんなます。ちなみに何が欲しいか聞いてもよろしい?」

「そうですね。Aクラスに貴方が欲しいですね。」

「これまた直球どストレートなやつが来ましたね…それはお断りです。」

「あら残念。」

フフフ、と口元は相変わらず笑っているがさっきと違い目が笑っていない。殺気すら感じるYo!ヤイサホー。

 

渡す物を渡して坂柳は帰って行っていった。彼女の本位なのか社交辞令なのか、はたまた何かの策略なのか全く読めないのが怖い所である。

 

仮テスト当日、また噂事件に動きがあった、チャットアプリの掲示板にAクラス以外の噂が書き込まれていた。内容としては嘘か本当かは微妙なラインの所である。クラス内でも当事者達は否定をしているが、詰められた際にやってないかの悪魔の証明なんて出来っこないので、質が悪い事この上ない。そんでもって一之瀬は今日も休みである。体調はそろっと回復しても良さそうな所がちょっと気になる所ではある。

 

仮テストは何とか平均点を叩き出し無事終わる。今回クラスでのテスト勉強会どころでは無いので、成績が中くらいの俺では不安な所ではある。

放課後、べんきょーしなきゃな―たいへんだなーベンキョーベイベーだなー合格する気しかしねぇぜぇーー!!ホアァーー!!、とか考えながら玄関前の扉を開けると声をかけられた。

「ちょっと良いか?」

振り向くとそこにいたのは神崎と柴田だった。珍しい客人な事で。

 

「お菓子と茶位しか出せないがどーぞ。」

俺は二人を部屋に招き入れて現在ご対面中。二人が来たって事は面倒になってきましたねぇ。

「意外と手慣れてるね…一之瀬さんが良く来てるのは本当みたいだ。」

「Aクラスの坂柳が出入りしている話もあるのは気に入らないがな。」

「まぁまぁ。そこは赤羽君のプライベートだし、自由で良いんじゃないかな。」

そんな話をしに来たんじゃないでしょ、と柴田がたしなめる。そうだったな、言った後に神崎がこちらに顔を向ける。

 

「一之瀬が閉じこもっている件について話したい。」

神崎が机に両肘をついて手を組んだ状態で話し始める。もしかしてエヴァに乗れとか言い出さないでしょうね?

「ん~あんまりここではそういった話はしたくないけれども、まぁ今回はしょうがないですかね。」

この部屋を安息の場所、としているのは俺だけだ。お外は危険がいっぱいだ!

「噂の件で一之瀬と何か話はしたか?」

俺はかぶりを振る。

「いんや何にも。一之瀬が気にしなくて良い、って言うなら黙って見守るしかないでせう?」

「それは一理ある。が、そうも言ってられない状況だ。俺も独自で調べたがAクラスが口裏を合わせてやってる可能性が高い。」

「とはいえ、誰が犯人かの確証はないんでせう?」

「まぁ、な。情報収集をしてAクラスの橋本を問い詰めたが口を割らなかった。だが俺はAクラスが仕掛けてきていると確信してる。」

「まぁ~可能性は高いよね~。」

「お前は何とも思わないのか?一之瀬にあんな噂を流されて黙っていろと言うのか?」

「んーこの問題は噂を流した奴が悪いのは確定なんだけども証拠不十分な時点でお手上げですかねぇ。」

何も出来ない訳では無いが、事が終わってからでも遅くないと俺は考えている。疑惑止まりの状況で直接的な報復は完全にこちらが不利な立場になる。こういうのは先に手を挙げた方が悪くなるし周りが全員敵になって集中砲火を浴びて負けるのですよ。相手も中々狡猾なこって。

「一之瀬と一度向き合って話をして欲しい。俺は一之瀬から本心は聞くことが出来なかった。お前なら可能性はある。頼む。」

「僕からもお願いしたいな。同じBクラスの危機でもあるし協力して欲しい。」

「ん~まぁ、出来る範囲でやってはみますよ。あんまり期待しないでクレメンス。」

 

「あとは頼んだぞ。」

「お願いね。一之瀬さんを助けてあげて。」

そう言って二人は部屋から出て行った。いやぁ大変な頼まれ事をされてしまった。こういう役回りは非常に苦手である。

 

さて、頼まれてしまった以上、何かしらアクションをしないと夢見が悪い。

 

そもそも一之瀬のスペックを考えるとBクラスにいるのが不思議ではある。犯罪者である噂、否定しない本人。この情報だけでも馬鹿な俺でも彼女が何かしら犯罪を犯してしまったのだと推測できる。

それが些細な事だったとしても、正義感の強い彼女の事、大事に考えすぎている可能性はある。とはいえ、この日本において犯罪を犯す心理的ハードルは高い。何か事情があったのかもしれないが特に一之瀬みたいな人間は引きづってしまうのも頷ける。そしてそのわだかまりは彼女の中では消化しきれていない問題である。尚更、本人次第な所があるとは思うが、この学校のシステムはそんな弱みさえも許さず、クラスが這い上がるための手段に利用される。

 

誰だって人に言い難い過去の一つ二つはあるだろう。それが他の人に取って取るに足らない内容だったとしても。コンプレックス・トラウマの形は人それぞれで、そして自分では今は乗り越えられないからそんな名前が付いた言葉が存在しているわけで。

 

もし、一之瀬が俺にその話をしたとしても俺は大した問題では無いと思ってしまうかもしれない。俺はどう返すのが正解なのかは分からない。気にするなと励ますのは欺瞞だろうか?一緒に乗り越えようと鼓舞するのは偽善だろうか?大変だったねと同情するのは身分不相応だろうか?

ただ一つ言えるのは、俺達は一之瀬が選んだ選択を止める事が出来ないだろう、と言う事だ。

噂が事実であり、彼女が退学を申し出たらクラスの皆は止めるだろう。でも一之瀬はその決断をおそらく曲げる事は無い。逃げと言う者もいるだろう。そもそも、この学校でなければそんな噂など全く立たず、平穏な学校生活を送れていたのではないのだろうか?虐めで学校を点々として、何処かで自分が安心して生活出来る場所が見つかる人だっている。今回はその形に近いんじゃないのだろうか?

 

ふとベランダの外を見ると考えに耽っていたためか、すっかり辺りは暗くなり、夜の帳が降りてしまっていた。

さて、ここから踏ん張り所。どこに転ぶか分からないが、まずは行ってみないと話は始まらない。

 



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私の過去と、彼の過去と。

投稿を始めた時、くっきりとした姿が見えてるわけではないけど、おぼろげながら、浮かんできたんです。46という数字が(48話目)

と、いうわけで一年生編Bクラスの一番の山場、読者の皆様が楽しめる内容か、納得のいく内容になったか多分に不安ですが、お楽しみください。


--一之瀬視点

 

綾小路君が少し前に帰った。最近彼は私の所に来てくれて話をするわけでも無く、ずっと私が話してくれるのを待っていてくれた。綾小路君には申し訳ないけど、寄り添ってくれているのが彼だったらなと思ってしまった。

ふと窓の外を見た。私の心とは正反対に月が綺麗に見えて、このままあの空に飛んで行っちゃえたらいいのに、と出来もしない事を空想してしまう。

 

「やー。」

部屋へと視線戻した後すぐに、誰も居ないはずの窓の方から聞き慣れた声が聞こえた。両手をチョップの形にして顔の前に出して、赤羽君が窓のベランダとも言えない場所に立っていた。

「え?」

「やー。」

私は驚いてそれ以上は何も言葉に出来なかった。私の反応がイマイチだったのか、彼は気まずそうに一つ咳払いをしていた。

「さて、気を取り直して。ハーローマドモアゼル。ひとつ夜のお散歩でも、と思いまして。」

 

彼は私を連れ出した。誰も思いのつかない所から、私にとって一番どこかへ連れ出して欲しいタイミングで。それは偶然なのかもしれない。おとぎ話の様にロマンチックとは言い難いかも知れないけど、彼は今、私の前に来てくれたんだ。

 

私はコートを一枚羽織り、彼の手を取った。

 

彼は私を抱きかかえた後、ベランダから飛び降りた。

私は突飛な行動に声をあげそうになった。口を押されえられた。

私が出せないであろう速さで駆け抜ける。

怖くて何度か悲鳴が出そうになったが我慢した。ここで大声を出して深夜徘徊で大ごとになるのは良くない。

彼の身体に身を任せていると、さらには壁を器用に登っていき、止まったのは学校の屋上だった。私はそこで降ろされる。

 

「悪いな。病み上がりの所に。」

「ううん。大丈夫。でもどうしてここに?」

「誰にも聞かれたくない話もあるかな、って思ったんでございまするよ。」

話をするためだけに屋上に連れて来るなんて、あまりにも無茶苦茶だ。今までそんなやり方を私の知らない所でやってくれていたのだろう、何だかんだで彼らしいと思わせるやり方だな、と思ってしまった。

 

「まー俺は不干渉でいるつもりだったんだけどねぇ…」

「そうだったんだ?」

クラスの皆が私を心配する中、彼はこの騒動で踏み込んで来なかった。彼なりの考えがあったのか、騒動に巻き込まれるのを嫌がったのか。私には彼の気持ちは分からなかった。

彼は一息ついてから、予想外の一言を告げた。

 

 

「逃げるか。」

「え?」

彼は空を指さしてそう言った。

「バレたくない秘密があって、この学校に居るのがもう辛いんなら、そういう選択もして良いんじゃないか、と思ってな。」

確かにそれは一つの選択肢だ。でも私はそれは逃げだと思っていた。今まで積み上げていたものを全て投げうってしまう一つの選択肢だ。それは勿体ないなと思ってしまうのは私だけなのだろうか?

一つ、気になる事があるので聞いてみる。

 

「……もし、さ、私が学校を辞めたいって言ったら、赤羽君は付いていってくれるの?」

「いや〜お断りです〜巻き込みはキツいっすね〜」

駄目元で言ってみたが躱されてしまった。彼はいつも通りだ。それに少し安心してしまう。

「ははっ、やっぱり駄目だよね。」

「ま、止めるつもりは無いけど。」

「そうなんだ?それはちょっと寂しいかも。」

「そーゆー大事な選択を止める権利はありゃしますんので。」

彼はどんな判断しても私の自由だと言った。でもな、と彼が告げた後、

 

「そんな選択をお前はするのか?」

「…それは…嫌かな…。」

 

追いつめられて逃げ場なんて無くなって。

それでも私はここに居たかった。皆で苦労して皆で乗り越えて、そしてAクラスでこの学校を卒業する。夢、という程大きくは無いけれども、その目標の為に出来ることは何でもする、少し前の私は覚悟していたはずだったのに。

 

「さっきさ、聞かれたくない無い話もあるって言ってたじゃん?」

「ま、さいですね。」

「私が秘密にしたいことをここで話したら、赤羽君も何か他の人に話せない秘密を話してくれる?」

「…善処しましょう。」

私がここで交換条件を出すのは狡いのかもしれない。彼はいつもの調子ではぐらかす。

自分はもしかしたら、彼に聞かれるのを待っていたのかもしれない。

私の罪は消えるわけでは無いのに。

 

「あのねーーーーー」

 

私は彼に噂になっている犯罪者の噂が事実だということを話した。家が貧乏で、家族の為に万引きをしたこと。その事を母に怒られ、学校にも知られて罪悪感に苛まれて半年間引き籠もってしまったこと。

 

彼は何一つ言わず、黙って聞いていた。

 

「………という訳なんだ。……私のこと失望した?」

 

私は出来る限りの笑みを浮かべた、いつも話を茶化す彼の様に。でも、彼みたいにそんな上手くはいかないなぁ。どんな事も大した事じゃないって飄々とすり抜けて笑っている彼の様には。

この話は彼には話して良いと思った。受け入れてくれても構わない、罵声を浴びせられても構わない。ただ彼には私の汚れた過去を知ってもらいたかった。

 

「そうか。」

彼は一言そう発した。肯定とも否定とも取れない一言を。

 

暫くの沈黙の後、彼は続けた。

 

「その気持ちは大切にしておけ。」

「え?」

「大切にしておけ、と言ったんだ。」

「どうして?」

 

彼は何かを言いあぐねている様な、何か覚悟を決めようとしている様な表情をしていた。

 

「ん〜、そうだな……。これは俺の友人の昔話なんだが……」

少しでも言いにくそうに口籠もった後、彼は語り出す。

 

「これは彼が小学校1年生の時の話だ。彼は母子家庭で育ってな。裕福という訳では無かったけれども幸せに暮らしていたよ。そして、このまま中学生になって、高校生になって、大学を出て、社会人になって。親孝行をして、孫を見せて、そして、母が病気になって、家族みんなで母を看取って。そんなありきたりでありふれた将来があるんだと、最大公約数的な未来を歩むんだろうなって、おぼろげながら考えていたんだ。」

 

 

通り魔。

 

 

彼はそう言った。

 

「母親と街に出かけた日だった。なんて事無い母子家庭の普通のお出かけ。そうなる筈だったんだ。通りを歩いている時、男の叫び声がした。俺は急に抱きかかえられた。何が起こったのか分からなかった。何かが肉を抉る音が何度か聞こえた。そして母は倒れた。何度話しかけても反応してくれなかった。大きくなっていく血溜まりを見て、冷たくなっていく母親を見てもう助から無いんだと悟ったよ。」

 

そう言う彼の顔には表情は無かった。

「男は捕まった。多分それなりの罰は受けたんだと思うが知らないな。」

「俺がもっと強ければ、もっと年をとっていれば、あの日あの場所に居なければ、他の誰かが襲われていたら、誰かが助けてくれたら。

今更後悔したって戻れないのは分かってる。俺が悪くないことも。その通り魔が悪いことも。じゃあ、悪くないから割り切れるのか?割り切れないだろ。

だから、強くなろうとした。もう誰にも負けないように。

そこからは俺は鍛える事にした。

小学校、中学生ではあらゆる武道をやった。大会に出て、負けて、勝てるまで鍛えて。そして負けなくなった。どうやら俺には才能があったらしい。ケンカもした。最初はやられた。でもしばらくすると負けなくなった。道場破りもした。それもしばらくすると負けなくなった。〇ク〇にも一人で向かった。それも負けなかった。他にも思いつく限り出来る事をやった。」

 

 

もう、負けて後悔をしないように。

 

 

無茶苦茶だろ、と彼は言った。

確かに無茶苦茶だ。現実味が無い。見知らぬ人に突然そんな話をされたら嘘だと思うだろう。

でも彼を1年近くで見てきた私にはそれは本当なのだろうと確信できた。

 

「俺は忘れろとは言わない。乗り越えろとも言わない。ただ、忘れずに、大切にしておけ。何度でも向き合えばいい。それは生きる糧になる。自分の道になる。俺はそうやって生きてきた。昔の事をここで全て言うつもりは無いが、俺の方がよっぽど悪人だよ。」

 

彼は最後自嘲気味に言った。

 

「その過ちがあって今まで善く生きれたなら、その過ちは間違ってはいないさ。」

 

彼はそうしたのだろう。忘れていないんだろう。乗り越えていないんだろう。そしてまだ苦しみ続けてるのだろう。でも彼は向き合って、前に進んでいる。

 

「で、またソイツが顔を出してきてどうしても駄目だな、と思ったとき、俺の所にくればお茶とお菓子位は出してやるさ。」

 

そう言って彼は小さく笑った。

私の今までの行動はあの時の償いだ。偽善だ。罪を隠して皆を騙していたんだ。

 

赤羽君はそれでも良いと言った。一度間違えても正しい道に戻れるなら。また間違えそうになったとき、何度も振り返って、毎日の生きる道しるべにして。

 

私は向き合わないといけないんだ。自分自身の過去と。

 

「ごめん。」

私は彼の胸に顔をうずめた。顔を見せない様にして。

「…ごめん。ちょっとこのままでいさせて。」

私は小さく嗚咽を漏らしてしまっていた。我慢するはずだったのに。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

私が落ち着くまでしばらく待った後、再度問いかけてきた。

「どうする?逃げるか?」

私はかぶりを振る。

「それでこそ『一之瀬帆波』、だ。」

「……帰ろっか。あと…………ありがとう。」

 

 

 

--赤羽視点

 

彼女を送り届けた後。

 

あの時、俺はどんな表情をしていたんだろうか?

彼女の目は大分腫れていた、この後も泣くのだろう。

 

彼女は本当は自分の話をしたく無かったのかもしれない。でも話をしてくれた。

俺もそれなりの誠意で返す必要があっただろう。長い自分語りをしてしまった。

俺の言葉が彼女に届いたのかは分からない。届く必要は無いのかもしれない。結局は彼女自身の問題なのだから。

 

 

 

--一之瀬視点

 

彼と別れた後、部屋の中でいっぱい泣いた。後悔も反省も自分への怒りも侮蔑もいろんな感情をごちゃ混ぜにしながら。だからもう大丈夫。

 

ベッドで横になりながら思い返す。

 

 

で、彼はいつ救われるのだろうか?

 

彼は最終的に何を求めているのか?どこへ向かうのか?

彼の強さはもう誰にも負けないための強さだ。

でもこの先彼の後ろに転がるのは倒された人々の屍だけだ。

 

私では力不足かもしれないのは分かっている。

彼がもし本当に困った時、隣にいるのは私であったら良いな、と強く思った。




あと話がベタだって?ベタが一番最高なんだよ!(声高)

私はずりいと思ったんですよ。何も自分も事を話さずに解決した綾小路の事を。んじゃあどうしましょうか?って事で主人公の過去を交えて出来上がったのがこのお話です。やっぱり主人公には自己犠牲的な主人公に一つの回答を求めてしまうのは2010年代前半のラノベ読みの宿命なのでしょうか?作品は勿論アレとかアレとかです。ご想像にお任せします。


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噂の終わりと、戻る日常。

お久しぶりです。生きてます。
スプラトゥ〇ンとポ〇モンにドハマリして放置しておりました…


次の日、一之瀬は学校に登校していた。

 

んで昼休みにAクラス登場。案の定一悶着である。今日はパンを買っていたのでモグつきながら経過を見守る。他のクラスも騒ぎを聞きつけたのか野次馬にやって来る。

柴田が坂柳に問い詰めたりしている。まぁ気持ちも分からなくは無いが落ち着きなさいよ。

坂柳曰く、Bクラスを救いに来たとの事。

一之瀬と坂柳が何言か交わしていたが、一之瀬を守る様に何人かの生徒が間に入っている。一触即発の状況で動じない坂柳さんメンタルヘラクレス。

坂柳が突いてきた話はBクラスのポイントを一之瀬が溜め込んでいる件についてである。そしてそのポイントを一之瀬に預けている事は危険だ、との弁。

 

クラスの生徒を制し、教壇の前に立つ。

「……ごめんみんな!」

そう言って一之瀬は頭を下げる。動揺し、言葉を遮る生徒もいたが、止めずに一之瀬は続ける。

 

「私は今までの一年間……ずっと隠してきたことがあるんだ……この数週間であった噂の事。その中に一つだけ嘘じゃない本当の事があるの。それは……私が犯罪者だって事。」

喧噪の中、ザワ……ザワ……ついていた教室が静寂に包まれていく。

 

「みんなに黙っていたことを、今から告白します。」

 

そうして、一之瀬は万引きをした事、何故万引きに至ったかの経緯を説明した。それが原因で引きこもってしまったことを。

坂柳は茶番劇だと一蹴して指摘する。クラスのプライベートポイントを盗み取ってAクラスに上がってしまうのではないか、と。今回の様に身の上話をして、同情を誘って上がっていくのではないのかと。クラスの皆にポイントを返すべきだと。

確かにそれは一理ある意見ではある。ただBクラスの過半数以上が返してもらいたい場合に限るけれど。

 

そして、神崎が問いかける。一之瀬はどうしたいのか、と。

判断は一之瀬に委ねられた。

「話が良すぎますね。悪人だと疑われてその事実を認めて、なおリーダーに居続ける。恥ずかしいとは思いませんか?」

「そうかもしれないね。その罪は認めるし、絶対に忘れられない。だからこそ、この過去は大切にしたい。私はみんなの思う一之瀬帆波であることは変わらないから。恥ずかしながらこんな私だけど、このままクラスのみんなに最後までついて来てくれないかな?そして今まで通り、みんなで頑張って、Aクラスで卒業する!それが私の目標!」

 

一瞬の沈黙。

 

「ついて行くに決まってるよなぁ!?」

柴田が問いかける。クラス内がドッと沸き立つ。皆がエールを送る。俺もまばらに拍手を送る。流石の演説力ですねぇ。ぼかぁには真似できないやつですよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

--綾小路視点

 

一之瀬は登校していた。俺の計画より一日早く。

かつ、考えたストーリーとは違う形で、だ。そして事態は収束した。

 

俺の想像以上に早く壊れて立ち直ったのか?違う。じゃあそれは誰か?Bクラスで部屋の前で話しかけていた女子らか?違う。その程度だったらもっと早く立ち直っている。神崎か?違う。彼は秘密は教えていない様子だった。南雲か?違う。可能性はゼロでは無いがアイツはそんな時に手を差し伸べるタイプの人間では無い。

 

じゃあ誰か?残りの思い当たる人物、赤羽巧。俺は彼をあまり知らない。

 

彼はBクラスの中心人物の一人という訳では無い、が一之瀬に信頼はされている様子。彼が彼女の秘密を聞き。何か話をした。おそらく俺が考えていたやり方に近い方法で。

 

偶然か?偶然にしては出来過ぎてはいないか?

赤羽の方が同じクラスなので、一之瀬には勿論近い、信頼されてもいる。表舞台には積極的とは言えないが、活躍している場面もあった。

 

頭を過るのは屋上の一件。

赤羽は純粋に勝負することだけが目的に見えた。俺がやる気を無くすと残念そうに去っていった。龍園の件で対峙はした。対峙して分かったのは純粋な力の底が見えない事。本気で戦って勝てる相手かは分からなかった。まだ手札を持っている事は十分に考えられる。あの時俺に打ってきた純粋な連打、目潰しの空気砲、並大抵の身体能力の人間が出来る技ではない。膂力は相手が上、スピードも上だろう。とはいえ、今はその件はさほど重要ではない。

 

万が一を考えて行動はしていた。想定外が起こらない様に考えてはいた。ただ、赤羽巧への対策は唯一手詰まりだった。俺と彼との接点がほぼ無い事、彼と交流のある人物が俺が付き合っている人間の中にいない事。情報を集めた限りでは一之瀬とは仲は良さそうだがその手段は論外。計画そのものが破綻してしまう。坂柳とも交流があるらしいがこれも論外。今回の騒動の渦中の人物二人からわざわざ接点を作るにはメリットが無さ過ぎた。

 

彼について考えられるのは、一つは坂柳レベルの切れ者の可能性があるということ。以前の屋上の一件にピンポイントで現れたのも不可解だった。その割にはほぼ何もせず立ち去った点も不気味さを感じさせる。もしかすると坂柳から情報を得て、なおかつ出し抜いた可能性も考えられる。坂柳も自分の計画を失敗させる情報は出すはずが無いだろうが、結果だけ見ると何かしらの情報を得て、俺が動いているのを承知の上で一番都合の良いタイミングで行動した、とするのが、一番納得出来る。屋上の件はともかく、今回はBクラス最大の事件だ。一之瀬退学を防ぐために本腰を入れて動いたのだろう。

 

一之瀬の信頼を完全に得る機会だったが、終わってしまったものはしょうがない。

俺達がAクラスに行く際の障害に彼はなっていくだろう。警戒レベルは上げないといけないか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ーー坂柳視点

 

噂の騒動が終わった夜。

園芸部の管理する庭園、彼と初めて1対1で対峙した場所にいる。

 

 

「待たせたな。」

 

彼はいつの間にか音も無く私の前に現れていた。

いつもとは明らかに違う雰囲気。あの時、彼が現れて警戒を解く直前を思い出される。

 

「貴方から呼び出されるなんて、珍しいこともあるものですね。」

「まぁな。」

ジャリ、と彼の靴と小石が擦れる音が立つ。

「私が呼び出されたのは一之瀬さんの件の話ですよね?」

「まぁ、そんな所だ。」

 

「あの件の直後、綾小路君と話しました。結果的には彼にしてやられかけて、貴方に横槍を入れられた、という形になるのでしょうね。」

「綾小路が裏にいたのね。俺は全く分からんかったよ。…ま、それは結果論で偶然だ。俺は運とタイミングが良かった。それだけだ。」

「私が仕掛けた事と彼の行動は認識していない、と?」

「…まぁ、知らんね。」

「それで、一之瀬さんの件に対する報復でしょうか?」

「ん〜、まぁ、二対八くらいででそんなもんかねぇ。」

う〜ん、と悩ましげに彼は答える。彼の話の本題はどこだろうか?一つ話題を変えてみる。

「割合は存じ上げませんが、以前の様に何か面白い事を見せてくれるんでしょうか?」

「ん~どうだろうねぇ。それは坂柳の感じ方次第だ。ま、大事な事は差し置いてご希望の余興に興じるとしませうか。」

 

ザッ、ザッとわざとらしく音を立てて庭の中央に立ち、構える。

私は近くの椅子に座り、彼の一挙手一投足を見守っていた。

 

「…何が見える?」

「!…巨大な…螳螂が見えます…」

「俺は何を持ってる?」

「…日本刀、でしょうか?…」

「OK。」

 

彼は短くそう言った。彼の前には彼の2メートル近くある半透明の螳螂が対峙していた。

…勿論実体では無い。しかしイメージ、想像の力だけで、自分だけでなく他人にもこうも錯覚を見せる事が出来るのだろうか?

 

そして彼は剣を構える仕草をする。

構えた彼の手には何も握られてはいない。しかし、透き通る真剣が彼の手には握られていた。波紋までも目に映る程はっきりと。

 

「本来は長物の扱いは得意では無いんだがね!」

 

彼はそう言って前へと踏み出す。

 

鎌の先端は私の目では全く捉えることの出来ない速さだった。

臆することも無く振り下ろされた鎌を避け、返す刀で逆袈裟に切り上げる。相手もそれを受け止め、お互いに距離を取る。螳螂は彼を威嚇しながら次の出方を窺う。言葉を紡ぐ雰囲気も余裕すらも、全く感じさせ無い、雰囲気だった。

 

両者は幾度となく切り結ぶ。少しずつ、趨勢が彼に傾いていく。

右の鎌先が切り飛び、左の鎌先が飛び、根元の節が飛ばされても相手は怯む事は無い。鎌が無くなった後も傷を受けながら一矢報いようと噛み付かんとする。野生とは、戦いとは、何処までも真剣で、勇敢で、そして、敗者に残酷だった。

 

最後の大刀が相手の首を撥ね飛ばす。流麗な剣捌きだった。

 

「ふぅ…こんなもんですかね。」

「…お見事でした…。」

私は胸の前で小さく拍手をした。彼の持つ自信への裏付けへの確信がそこにあった。化け物と退治しても動じない胆力、そして単純な強さ。彼から暴力での勝利をもぎ取るのはどれ程の犠牲を払えば良いのだろうか?今、私の持ち駒で結論を出すのは時間がかかりそうだ。

 

 

「で、本題はこれからだ。ま、本来はこんなお節介をする必要は無いんだけど。」

 

そう言い放った直後、彼は私の前に現れ、その透き通る存在しない刃を私の前で真横に振った。

存在しないはずの刃が、私の皮膚、筋肉、骨を通り過ぎていく。感じるのは身体を通る刀身の冷たさと、過ぎた後の熱さだけだった。

私の上半身は両断され、両腕が落ち、地面へ崩れ落ちていく様子がありありと、そして何故か他人事かの様に感じられた。

 

 

「?!…っーー!」

 

私は自分の両手を見つめる。実際には身体は切られていない。今も立っているし、痛みも出血も、ましてや身体には傷一つさえも付いていない。頭でも否定出来ている。しかし、肉体が切られた、という事実をどうしようもなく伝えてくる。

 

「これは知らせだ。また事は起こしても良い、が、それなりの覚悟を持って、今後は攻めて来ることだな。」

「…」

「さて、今日はこれ位にしておきますか。それではバイナラ〜♪」

 

そう言い残し、彼は去っていった。

姿が見えなくなった後、私は椅子に腰を下ろして考える。

彼はこれは知らせ、だと言っていた。その言葉は何を意味するか?

先程、私は明確な死を感じた。冷たい水の中に引き込まれて目の前が暗くなって存在が消滅していく感覚。私はあの感覚に何度も耐えられるのだろうか?誰も普通は味わう事のない確実な死という感覚。

剣術は彼の得意分野ではない。と、いうことは私が行動を起こしたとき、彼はそれ以外の方法で更なる牽制の手段に出てくるのだろうか?

 

あの手段でなら私にも他人にも容易に牽制する手段として使用することが出来る。あの手段で私の知らない所で協力者の引き込みをしていても何らおかしくない。あの手札があるなら、とっくに学年を、全生徒を支配下に置くことも可能だろうに。

何よりも恐ろしいのは、彼が持っている手札はこれだけでは無い可能性が非常に高い、ということ。私がどんなに被害を訴えても見た目上の被害は無い為、学校側への抗議は無意味だ。まず空想の刀で切られましたと言った所で狂人扱いされて相手にされないだろう。そしてあれは私が近くに要ればいつでも出来、そして防ぐ手段が無いということ。もしこれが彼の切り札だとしても余りにも強すぎる。今後も彼らに攻撃を仕掛ける事は出来る。しかしその報復のリスクを考えると対抗手段が無い現状。現実にあるとは思えない、しかし確かに存在する防御不可能の矛であり強固な盾でもある 。攻撃は最大の防御、とは言うが、まさかこんな形で私が攻撃されるとは全く想像していなかった。

彼がこれから行動を起こすかは不明だが、Bクラスが今後自滅するのを待つのも性分に合わない。彼を倒すか、引き入れるか、取り入るか、もしくは屈するのか。どこかで決断を迫られる事になるのは間違いない。

 

それでも今は彼の傍にいようという気持ちは変わらない。これは打算か憧れか、それとも別の何かだろうか。

 

 




使いたい刃牙ネタを、惜しげもなく使っている。次はどう使いましょうか。


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私の宣戦布告。

更新再開していますが、数ヶ月前に書いていたのを修正して出しているだけだったり。
感想・お気に入り登録・評価感謝です。コメントで作者の尻を叩くと喜んで更新早まるかもしれません。
実は最新話のしおりの数が100超えると焦ります。サボってて12月末120超えてて焦り散らかしました。


 

--一之瀬視点

 

私のせいで学年末試験もクラスの皆での勉強会は殆ど出来ていなかったけど、なんとか退学者は出さずに乗り越えることが出来た。私の件もケジメを付けることが出来た。

 

「いや〜流石に自分の話をクラスの皆に言うのは緊張したな〜疲れたな〜、ってことでまたお邪魔させてもらうよ赤羽君。」

そんでもって今は赤羽君の部屋で絶賛寛ぎ中。この部屋に来るのは久々だ。彼は歓迎しているのかしてないのか微妙そうな顔をしてるけど。

「まぁ良いんだけどさぁ……うん、深くは考えないことにしようそうしよう。」

「え~いつでも来て良いって言ってたじゃんさ~」

「まぁそうなんだけどさぁ…またお菓子の減りが早くなるなぁ…と懸念している次第でございまするよ。」

「私もお菓子持って来てるから良いじゃん!あとカロリーも気を付けてるから問題ないし!多分……」

最近部屋を出ていなかったからもしかしてもしかするかも…不安になってきた…

「ま、取りあえず一難は去ったわけですからヨシとしましょうかねぇ。」

赤羽君はお菓子の事は気にしていないらしい。女の子は特に体型を気にする生き物なのに、失礼しちゃうなぁ。確かに赤羽君はダイエットとか気にして無さそうだなぁ…恨めし…羨ましい。

噂の騒動には終止符を打つことが出来たけど、ふと気になった事があるので聞いてみる。

「ねぇ…もし、さ。私が万引きをしてなかったら、噂も無くて坂柳さんとも仲良く過ごせたのかな?」

「……さぁな。言えそうなのは、一之瀬はAクラスに居てBクラスとは敵対していたんじゃないか?」

私がBクラスになった原因は確かにその可能性が高かった。私がAクラスだったらと想像してみる。坂柳さんと仲良なって、Bクラスと敵対して、たぶん私は今この部屋に居ない。赤羽君の事は運動神経の良い他のクラスの生徒止まりだっただろう。

「それは嫌、かな。やっぱ無し!この話は終わりで!」

パン!と手を叩いて私はこの話を打ち切った。もしもの話は考えたってしょうがない。私は今このクラスでAクラスを目指したい。

「自分から話して自分で打ち切るのか…まぁ良いけど。」

 

しばらく彼の部屋で過ごして帰り際。

 

「じゃ、私もう帰るね。あと、え〜遅くなっちゃったんだけどさ、コレ、受け取ってもらっても良いかな?」

彼との別れ際、私はカバンから一つ包みを取り出す。

中身はバレンタインチョコ。彼はどんな反応をするのだろうか?

 

「あ~ありがとうございます……?何倍返しですかねぇ……?」

「貰った瞬間にお返しの心配しちゃうんだ……」

もっと驚いてくれたり嬉しそうにしてくれるかと思ったけど、そうじゃなかった。残念半分、やっぱりかが半分。赤羽君が嬉しそうしているのはあんまり想像出来ないけど。

「貰ったものは返す義理堅い人間なもので。」

なんだろう。外されちゃうこの感じ。赤羽君って私が知らないだけで結構モテたりするのだろうか?

「私の感謝の気持ちだからとりあえず受け取って!……!もしかして坂柳さんからも貰ってたり……?」

「んぁー貰いましたねぇ……後が大変そうだ。ああてぇへんだてぇへんだ。」

やっぱり坂柳さんに先を越されちゃっていた。あの時は私も精神的に追い詰められていたのでノーカンでお願いしたいな。タイミングも大事かもだけど、やっぱり想いだよね想い!

「お返しは……楽しみにしてるね!」

「あぁこっちも後が大変そうだ。てぇへんだてぇへんだ。」

 

そう彼は困ったようにごちる。これは私からの宣戦布告だ。

「私はもう大丈夫だから!たぶん!これからもよろしくね、巧君!」

小走りで彼の部屋から去る。最後の彼の表情は見なかった。多分少し嫌そうな表情をしているのかなと思う。でも、どんな反応をされても私のやることは変わらないのだっ!

 

 

 

ーー赤羽視点

 

「これからもよろしくね!巧君!」

帰り際、一之瀬はそう言って帰っていった。バレンタインと突然の名前呼び。察しが悪い俺でも想像は付くのである。うーん、一難去ってまた一難。

 

「ま、明日の俺が上手くやってくれるでしょう。」

 

特に解決策も無いままモゾモゾと布団に入る。受け入れるのか向き合うのか、それとも突き放すのか。答えは出ないまま意識は暗い闇の中へと落ちていった。

 

 

 




原作の「ついて行くに決まってるよなぁ!?」を淫夢と錯覚した私はミーム汚染が進んでいるようです。手の施しようが無いですね。


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坂柳理事長

一之瀬の騒動も過ぎ去った朝、学校の準備をしていると携帯が鳴る。珍しいこともあるもんだ。

送信者は表示されていなかった。ただ本文には一行、こう書かれていた。

『本日の朝、理事長室に来るように。』

 

呼び出した人物に間違えようは無い。が、理由が分からない。急ぎの用事なのは分かる。もしかしたらイタズラか何かの罠なのかもしれないが、行かなければ結局分からない。真実はいつも一つ。件のコマーシャルの扉みたいだよね。理事長室前の扉って。

 

「失礼します。」

なんだのかんだのは特に無く放課後。

さて、どんな事件現場何だろうとノックして部屋に入ると、そこには坂柳理事長の死体が……あるはずもなく、理事長が窓の外を向いて立っていた。偉い人って座って正面向いてるか、外眺めてるかのどっちかなのよね。何?偉い人のトレンドなの?

 

「すまないね。急に呼び出してしまって。」

「いえいえ。それで何用でしょうか?」

「結論だけ単刀直入に言おう。私は理事長を降ろされることになった。詳しい理由は言えないがね。」

「ふむふむ。で、その目的は如何ほどに?」

理事長は顎に手を当て、推測の範囲は出ないが、と前置きして答える。

「恐らく、としか言えないが、綾小路君を退学させることが目的だろう。」

「ほ〜ん。それは多少俺にも都合の悪い案件だ。」

綾小路が退学してしまえば、このまま彼の本気を見れずじまいになってしまう。彼が苦境に立たされた場合、それをダシに交渉も出来るというメリットもあるにはあるのだが。それもアリかもしれない。

「どうしてだい?彼が退学するのはBクラスの君にとっては都合の悪いことでは無いだろう?」

「そこではなくてですねぇ、まだ全力の彼とバトっておりませんので。あの年であのレベルと手合わせ出来る機会は滅多に無いもんで。」

「…あまり荒事は止して欲しいかな。」

「そこんとこは上手くやりますよ。学校としては俺は問題無く振る舞っていると思いますけどね。」

「お願いするよ。私がいない間に状況は変わってしまうのだろうが、念のため君も注意しておいてくれ。流石に君を退学させる事は無いだろうが。万が一があるからね。」

 

万が一ねぇ…状況によっては綾小路と共闘、という形になるのかもしれないな。

「まぁ気をつけますよ。」

「あと有栖の事も頼むよ。娘は偶に自信過剰な所があるから危険に巻き込まれた時に守ってあげて欲しい。」

「ん〜そこは近くにいれば善処しますよ。そんな立ち回りする事は無さそうですけどね。」

策略家の彼女の事、何も手を打たずに危険な所に顔を出すとは思えなんだが一応気をつけておきましょうか。

 

「あー、全然関係無い話なんですが、一つ聞いても良いですか?」

「何かな?あまり答えられる情報は無いとは思うけどね。」

「まぁ軽く確認ですよ。二千万ポイントでーーーー」

 

俺は理事長に一つ確認をした。ポイントは何処までのものが買えるのか。

 

「……君が何を考えているか分からないが、善処しよう。私が戻って来れたらになるだろうけどね。」

「…ありがとうございます。まぁ、ほぼやる気はありませんが、念のための確認ですよ。」

 

完全なOKという訳では無いが、不可能では無いらしい。本当にこの学校でポイントで買えないものなんて無いんだなぁ。と

 

「それじゃぁ、失礼しますね。早めに戻れるのを期待してますよ。」

「あぁ、君もくれぐれも気を付けるようにね。君には力に自信があるかもしれないが、力だけではどうにも出来ない事もある。今の私の様にね。」

「ま、出来る範囲で気をつけますよ。」

大人は考える事が多くて大変だなぁ、なんて思いながら、一礼して俺は理事長室を退場した。さて、とりあえず部屋でくつろぎくつろぎしませうかね。

 



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追加試験

更新頻度が遅いのはスプラ3とポケモンと薩摩ホグワーツと妖怪と自分のせい。


3月2日、ひな祭りイブの朝のホームルーム。クラス担任である星乃宮先生から新たな追加試験の内容が告げられた。というかひな祭りイブって何なんだチョコボール。

 

ざっくり言うとクラス内投票。クラス内の賞賛票三つ、批判票も三つ、そんでもって他のクラスへの賞賛票一つを誰かに投票しろとのこと。

そして集計結果でクラス内一位にはプロテクトポイントなる退学取り消し君を与えられ、最下位には『お前もう船降りろ』と某海賊が言ったんだか言ってないんだかの台詞と共に退学させられる、とのこと。

温厚そうな坂柳理事長にしては苛烈な内容な気がするが、娘がアレな以上100%否定出来ないのが悲しいところ。

 

さて、今回の試験は俺にとってはマジヤバい。

どれ位ヤバいっていうとマジヤバい。ヤバヤバのヤバヤバだよヤバヤバ。

クラス内の誰かが退学する場合、クラスで大きいグループにいる人物、つまるところクラス内カーストが高い人物程有利なのは間違いない。そして言わずもがなクラス内カースト最下位であろう、とある人は狙い打ちにされた場合は終了です。ジ・エンドのバッドエンドです。そいつはは野に放たれます。虎の様に駆け、人を襲い、何やかんやあってバターになります。

 

ぼっちざぼっちの俺ではあるが僅かながら股間から漏れる光の如くある希望としては、クラスでは圧倒的に身体能力が優れる点だけである。すっかり忘れていたが体育祭ではトップを勝ち取っているので、そこらへんと脂とニンニクと野菜マシマシに加味してプラスになってたら良いなぁ…なんか要らないの混じったな。

 

クラスでは質問が飛ぶ。全体でプラマイゼロになった場合は再投票。一位と最下位が出るまで続けられるとのこと。救いがないね。

 

放課後、教壇には一之瀬が立つ。議題はもちのロン、追加試験の内容である。

誰を退学させるか。クラス内に重苦しい空気が流れる。

 

「ごめんねみんな。忙しい人もいるかもなのに、集まって貰っちゃって。」

「私に心当たりがあるから、一任させてくれないかな?試験前日の放課後まで。もしそれが駄目そうだったら、また相談させてくれないかな?それまでクラスのみんなにはいつも通りに生活して欲しいんだ。」

 

「僕は一之瀬さんに任せたいな。僕たちは今までこうして上手くやれて来た訳だし。」

柴田が賛同の意を示す。それに続いてか一人、またひとりと一之瀬に賛同する声が上がる。誰も反対する者はいなかった。

 

 

追加試験の話し合いが終わりその日の夜。チャイムが鳴る。こんな時間に客人ですか、とおっちらえっちらドアを開けると、一之瀬さんのご登場。

「あーいいらっさい。時間には目をつぶるとして、一応歓迎しますよ。」

「遅い時間にごめんね。お邪魔します。」

 

そんなこんなで一之瀬を部屋に招き入れる。お湯を沸かしながらこれは面倒なご相談事でもあるのかなと多少辟易しながら、いつものが如くお茶を淹れてお出しさせていただきます。客人はいつでも大事にするのが俺流ですよ。

 

「どーぞ。」

「ありがとう。」

いつもの様に手を付ける事はしない。大分思い悩んでいる様子ですね。

  

「巧君は平常運転みたいだね。羨ましいや。」

「一之瀬委員長とは違ってお気軽な身分なもので。」

一之瀬からのちょっとした嫌味はさらっと受け流しておく。

「明日、私が巧君を退学させる。ってクラスの皆に伝えたらどうする?」

おぉっとその考えは至りませんでした。坂柳理事長が気を付けろと言っていたのはこんな場合を想定していたんですかねぇ…

そんな俺の表情に満足したのか一之瀬は言葉を続ける。

「フフッ嘘嘘。そんな事しないってば。もし誰かを切るってなったとしても特別試験で活躍してた巧君が挙がることは無いんじゃないかな。誰も退学させない方法は一応考えてはいる…かな。」

「ほ~ん。」

 

一之瀬から退学はない言われたっ点は一安心だが、俺にはクラス内の団結力があるという訳では無い人間でございまして、大変遺憾でイカンであります。

 

「でね、南雲先輩に協力を求めたんだ。一時的にプライベートポイントを貸してくれないかなって。」

「南雲先輩ねぇ…なんとなく嫌な条件提示されてそうにゃぁ。」

「にゃはは、一応この話は秘密ね。先輩に口止めされている話だから。」

「へいへい。」

 

生徒会繋がりで納得の相談相手ではある。条件に関しては一抹の不安があるが、一之瀬が誤魔化したのだから、あえて突っ込んでいくのはよしましょうね。

Bクラスをかばいすべての責任を負った一之瀬に対し、2年生の主、生徒会長南雲が言い渡した交渉の条件とは・・・

 

「あ~あ、今回の追加試験は学校側からの意地悪で、本当は退学者なんて出さないんじゃないかな、って思うのは楽観的にかなぁ?」

「そ~だったらいいでせうねぇ…そんなことはないんでせうねぇ。」

 

俺は携帯を取り出してポチポチと幾つか操作する。

一之瀬の携帯が震え、ん、と小さな声をだして携帯を確認し、瞳を大きく見開きこちらを見つめる。

「足りんと思いますが、とりま全部渡しときますよ。俺にはこれ位しか出来そうにないんでね。」

「…ありがとう。」

今回の試験、ぶっちゃけ出来る事は殆ど無い。もし、Bクラスで無かったら、自分の実績を誇示したり、票の操作だったり、と裏で根回しをするのだろう。俺にそんな大立ち回りが出来る訳ないけど。俺に出来る事と言えば、強迫くらいだが脅迫は悪手じゃよアリンコ、俺。逆に退学させられチャグチャグ馬コ。

 

「ま、どうしようも無かったら俺を退学させてくれていいさ。」

「…大丈夫。巧君も、クラスの皆も誰も退学させないから。」

その言葉は確信めいた答えなのかそれとも彼女の願望だったのか。それが分かるのは数日後、賽は投げられた、俺は匙を投げた他人任せにしてスミマセンネどうしようもないじゃないかすき焼き食べたい。ま、とにかく様子見です。後は中心人物たちが頑張ってくらはっさい。

 



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彼女なりの追加試験

(投稿間隔が空いても)私は一向に構わんっ!(とは思っていない)



---一之瀬視点

 

追加試験。その内容は、全クラスに衝撃を与えたと思う。

クラスの中から1名必ず退学する。救えるのはプライベートポイント2000万ポイントのみ。

後、数か月この試験が遅ければ、もしくはクラスの皆に我慢してもらっていれば、クラスの中だけで完結することが出来たのかもしれない。しかし、現実は非情だ。誰かに助けを求めるしか現時点で退学を避ける事が出来ないのだ。

 

その日の放課後、南雲先輩に相談を持ち掛けた。答えは3か月後にきっちり返済する事、先輩と付き合う事を条件に出された。この秘密を知るのは二人だけ。誰にも伝えず、試験当日を迎えれば、クラスの誰かを犠牲にして本当に大事な時にプライベートポイントを使うことだって出来る。

私だって花の女子高生だ。損得勘定だけじゃなくて、自分の好きに惚れた腫れたをしたい。でも、クラスを纏めて引っ張っていく責任もある。そしてクラスを取ったら、南雲先輩と付き合う事になる。つまり、他の人とのそういった関係になれなくなってしまう。

 

クラスを取るのか、私のエゴを取るのか。

 

その日の夜。巧君にこの話をしてしまった。彼は誰にも話さないだろうが、これで策が無いから誰かを選ぶという選択肢は実質無くなってしまった。条件は彼には誤魔化してしまった。知られてしまうと、たぶん彼は賛同してしまうだろうから。その誤魔化しを察したのか、彼は深く追及はしなかった。

私は迷っている、というか踏み切れていないでいる。必要なさすぎポイントは400万ポイント弱。クラスの為を想えば勿論南雲先輩の提案に乗るべきだ。

 

南雲先輩と付き合えば、どういった生活になるだろうか。程々にデートに行き、そういった関係になるのだろうか。

もう一人の相手、彼とならどうだろうか。彼の行動を思い返すと、突拍子もないことだったり、想定外だったり呆れてしまう事も多い。しかも躱されるというか釣れない反応ばっかりだ。

でも、彼といると落ち着くのだ。いつ訪ねたとしても、表情と態度では少し面倒臭がりながらも、何だかんだで家に迎え入れるのだ。そしてお茶とお菓子を食べながら学校生活の大変さから解放されるのが心地いいのだ。不思議な感覚だった。いつもきちんと生活しなければいけないという呪縛だろうか。この学校ではそれが求められてしまう。クラス間の対立、クラス内の取りまとめ、友達のと交流、生徒会活動、あげればキリがない。社会人は忙しいと言われているが、高校生も忙しいのだ。忙しいの種類が、社会人から見たら違うのだろうか。

話がちょっと逸れてしまった。彼は私をどん底から救い上げてくれたのだ。彼にどんなに賞賛を与えても『大事な所はきっちり決める。そんな感じで誰かのひぃろぉ、に成れてたらカッケーですねぇ。』なんて間の抜けた表現で誤魔化されてしまうのかもしれない。この一年で彼のやり口は段々と分かってきた。ここを乗り越えて、彼に私をキッチリ見てもらうのだ。目を反らし続ける彼にこちらを向かせるのだ。まだ時間はある。辛くても、苦しくても、目を背けたい事があったとしても。それでも、それでも私は最後の最後まで抗い続けたい。

 

 

 

投票最終日前日の深夜10時。私は自分の部屋にいた。

現実私の取れる選択肢は二つ。クラスの誰かを犠牲にするか。南雲先輩と付き合う事を条件にポイントを借りて退学者を出さないか。

どちらの選択にも傷みが伴う。前者は退学者とクラス全員に、後者は私に。最大人数の幸福を優先するのなら、そしてポイントがあるのなら後者一択なのだろう。でもまだ私は迷ってしまっていた。こんな私じゃクラスのまとめ役として失格だ。答えなんて分かっている。今決められないのは私のエゴだ、我が儘だ。しかも時間的にはもう殆どタイムリミットだ。クラスの代表としてもう答えを出さないといけない。

 

メールの着信音が鳴り、ハッと我に返る。大分思考に耽ってしまっていたらしい。手元には皺が寄ってしまった一枚のブランケット。無意識に強く握り締めてしまっていたらしい。

メールの相手は綾小路君。私はもう一つの選択肢が出来るのを待っていたのだ。

 

彼から伝えられていたのはある条件次第ではポイントを獲得出来る可能性があるということ。

クラスの行く末を同盟関係とはいえ、他のクラスの生徒に委ねてしまっているのはどうなんだろうと、Bクラスの代表なのにだらしないなと軽く苦笑が漏れる。でも、これが私の出来る私なりの戦い方だ。

 

そのメールに直ぐ行くと返信し、膝の上のブランケットを丁寧に折りたたみベットの上に置く。今回は彼の助けは借りない。携帯を操作し、ふぅ、と一息つき、よし!と気合いを入れ部屋の扉を開ける。ここからは私だけしか出来ない戦いだ。

 

 

「お邪魔しまーす。」

綾小路君の部屋そう言って綾小路君の部屋に入る。既に部屋の中には石崎君と伊吹さんがいた。

「わ。もしかしたら誰かいるかもと思っていたけど、こんばんは。」

「こ、こんばんは。」

「…」

少し照れた様子で挨拶を返してきてくれた石崎君と、怪訝そうに何も発さない伊吹さん。挨拶の代わりに一言返してきた。

「…利害の一致、ってわけね。」

最初、私が現れた事に伊吹さんは驚いたようだったけど、理由に気づいた様子だった。石崎君はまだ理解していなかった様で首を傾げていた。

「龍園を助ける物好きはいない。けど、もしポイントで賞賛票を入れてくれる人がいたら、しかもそのポイントで退学を帳消しに出来るとしたら、協力者はいるかもしれない。で、その物好きで協力者ってのがアンタって訳ね。」

「協力者だとは思うけど、物好きではないかな。互いの利害が一致しただけ。私がBクラスの皆に呼びかけて40票の賞賛票を全て龍園君に入れるようにお願いする。代わりに伊吹さんは私たちに足りないプライベートポイントを穴埋めしてして欲しい。」

 

伊吹さんはこちらに視線を合わせる。普段私達は絡むことは無い。信頼しろと言う方が無理がある。それに値するか計りかねているのだろう。

「どうする?受けるか受けないか、それを決めるのはおまえだ、一之瀬。」

お互い言葉を交わさない事に焦れたのか、綾小路君が助け舟を出してくれた。立場上は私には複数の選択権があるので優位は私にある。

「私の答えは決まったよ。伊吹さんと石崎君がさえ良ければ協力させてもらうよ。」

「本当に良いわけ?」

「うん。二人の気持ちは確かめられたしね。」

「あっそ。私のセリフじゃないけど後悔しない事ね。龍園の代わりに私たちのクラスは誰かが泣く奴が出るんだ。それが私だってことは十分にある。」

「でも助けるんでしょ龍園君を。」

「まぁね。変な借り作られたまま終わるのは気に入らないだけ。」

「そっか。」

自分が退学する可能性があるとしても、龍園を助けたいという彼女の覚悟は強固らしい。

伊吹さんは携帯を操作し、私の携帯プライベートポイントが振り込まれる。

「ありがとう。綺麗に届いたよ。」

私は携帯を見せ、きっちり2000万ポイントであることを証明する。

「ここでの交渉は俺が証人になる。会話の内容も記録させてもらった。」

綾小路君は携帯を出し、公平な交渉であることを示す。

「伊吹は約400万ポイントへの提供。一之瀬は見返りに、40人全てが龍園に対し賞賛票を入れる事。もし破った場合は、」

「責任を果たしたことにはならないと思うけど、私は自主退学するよ。」

こうして交渉は成立した。

「…これで以上だな。解散するか。」

「そうだね。伊吹さん、石崎君、そして綾小路君、ありがとう。」

「これは正当な交渉。お礼を言われる筋合いは無いわ。」

「良いの。これは私が心から感謝してるんだから。」

「あっそ。これ以上いる必要も無いし、私たちも出るわ。」

「ああ。」

 

 

 

ーーーーーー

綾小路君の部屋から解散し、女子の居住スペースへ向かう途中。

「ねぇ。一つ聞かせてもらって良い?」

「何かな?」

「この作戦ってアイツも噛んでるの?」

「アイツって?」

アイツと抽象的に言われても全く心当たりが無い。Bクラスの誰かだろうか?

「赤羽巧。」

「巧君?どうして?」

彼の名前が出てくるのは想定外だった。伊吹さんは巧君と関わりがあっただろうか?

「その様子なら噛んで無さそうね。」

「伊吹さんって、巧君と話す事ってあったんだ。ちょっと意外かな。」

「偶に私がアイツに喧嘩吹っ掛けてるだけ。」

「そうなんだ。喧嘩するのはあまり関心しないかな。」

「お互い同意の上よ。あぁアイツの事思い出したら何かムカついてきた。次は絶対顔面に一発入れてやる…!」

「アハハ…お互い程々にね…」

伊吹さんと巧君は喧嘩仲間?らしい。あまり褒められた事ではないが、お互い大きな怪我をしている様子は無いし今はとりあえず見逃す事にしよう。

「話が逸れた。私がそう思ったのは、アイツには私に見えないモノが見えてる気がしたから興味本位。何もないなら良い。」

「そっか。確かに巧君はちょっと皆よりズレてるかもね。」

「ちょっと?こう何ていうか、喋ってても霞掴まされる感じがして嫌。あと身体能力は殆ど人間辞めてるわよ。蹴りも拳もまともに当たった事が無い、それが更にムカつくのよね。」

「まぁ喋り方は確かにそうかも…」

「じゃ、明日からまた敵同士だから。今日だけは協力関係だった。そこは忘れないで。」

「うん。ありがとう。おやすみなさい。」

明日はクラスの皆に投票をお願いしないとね。

 



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投票日。そして強引な約束

書き始めて思いますが、話マジで進まないですね…原作に一向に追いつかない(遅筆)


投票当日、一之瀬はクラスの皆を集め、Dクラスと交渉してポイントを獲得した旨を皆に説明した。

龍園の事は良く思っている生徒は居ないだろうが、退学の背に腹は代えられない、皆から特に異論もなく了承を得て投票を行った。批判票は神崎に集め、ポイントで退学を防いだ。これでBクラスだけは退学者を出さずに新学年を迎える事が出来る、と信じたい所ではある。ちなみに賞賛票1位は一之瀬さんである。流石だね。

 

 

んでもって投票も終わり俺の部屋でございます。

「で、昨日のは何ですかね?いーきなりポイント飛んできたから何事かと思っちゃったよ。」

「ごめんね。何も言わなくて。直前に咄嗟に思いついた事だったから。」

昨日の深夜10時過ぎ、一之瀬からいきなりポイントが譲渡の連絡があった。

何か意図があるのだろうととりあえず受け取っておき、一之瀬からアクションがあるまでは黙っておく事にしていた。

「危ないことするねぇ…Dクラスがどの位ポイント持っているか分からないのにようやったもんですねぇ…」

「結構賭けだったんだけどね、上手くいって良かったよ。ポイントは大いに越した事は無いしね。」

「みゃあしょうだけどねぇ…」

一之瀬の土壇場の胆力に感心しながら、携帯を操作しポイントを返却する。その額約40万ポイント。まぁ大金ですね。

「まぁ言いたい事はありますが、一之瀬さんの選択は尊重しますかね。」

「ありがとね、巧君。皆も生活があるからちょっとでもポイントは還元出来たのは大きいと思うんだ。」

幾ら分配するかはさておき、0ポイントで今後生活しなくて良いのは今後の試験ではプラスではあるだろう。もし龍園が本気で助かりたい場合に一之瀬に借りを作るっていうイベントが出来なかったってのはちと痛い所とは思っていたりする。

 

ズズズ…、とお互いに緑茶を啜っていると部屋のチャイムが鳴る。

はーいはーいと扉を開けると本日のご訪問のお客さんは坂柳さんである。いつもの事ながら良く来ますねお二人さんは。

「こんにちは、坂柳さん。」

「こんにちは、一之瀬さん。」

二人が挨拶しているのを横目に、俺はそそくさと新たにお茶を淹れる。ついでに一之瀬と俺のお茶も継ぎ足しておく。

「ありがとうございます。」

「ありがとう。巧君。」

 

ズズズ…、と再びお茶を啜る。何なんですかね?この時間?いつものどうでも良い時間潰しだったら平穏な一日で終わるんだけどね。

「さて、一之瀬さんがいますがまあ良いでしょう。私の父、坂柳理事長が謹慎となり、代わりに月城理事長代理が来た事はご存じでしょうか?」

なんか面倒事が来ましたよこれは。で、嫌な予感は大体当たる。俺は詳しいんだ。

「まぁ知ってはいる。そんなに俺に関係あるとは思えんのだけど。」

「私は初耳だけど…」

「赤羽君はお耳が早いことで、もう少し驚いてくれると思いましたがまぁ良いでしょう。」

「偶然でせうよ偶然。直接坂柳理事長から聞いたけど。」

「あら、直接でしたか。それなら話は早そうです。」

あのさぁ…学校のトップが変わったかって一学生がどうすることも出来んのよ?おわかり?ホームランおかわり。

「月城理事長代行の目的は何だと思います?」

「理事長曰く、綾小路の退学と聞いておりますよお嬢さん。」

「そうですね。で、彼の退学は貴方に取っても都合が悪いと思いませんか?」

「まぁそうだねぇ…でも俺に出来る事があるとは思えないけどねぇ」

綾小路があの時の本気でやっていたかも不明なので、もう一戦やっておきたいのが本音ではある。が、学校内政治に口を出せる立場では無いから静観しか出来ないのが現状ですね。

「理事長代行関係での問題が発生した場合、どこかでお力添えをしていただく場合がある事を伝えておきたくて。」

「…それって、坂柳さんに巧君が協力してもらうって事?」

だいぶ蚊帳の外気味であった一之瀬が坂柳に質問する。さういえばこの話一之瀬にしちゃって大丈夫なんですかね?

「そうです。先程お会いしてきましたが、一筋縄では行かない相手かと思います。最悪、実力行使もある得るかと。」

「何?もしかして権力使ってではなく、物理的に首根っこひっ捕まえて退学とかそうゆうことですかい?」

「可能性はゼロではありませんね。今はまだこの学校のルールに乗っ取った手段を取るとは思いますが。先程、私も危害を加えられかけました。綾小路君に助けて貰いましたが。」

「そりゃあ強引な理事長代行さんだ。」

実力行使は上等だが、坂柳にも無差別とは頂けない。一応、坂柳理事長には善処しますとは言ってしまったし、必要なら出張るとしましょうか。

「それと一之瀬さん。この話は他言無用でお願いしますよ。これ以上生徒の退学を増やしたくなければ。おそらく追加試験は彼の差し金ですし、一之瀬さんも被害者な訳ですから。」

「…分かった。この話は他の子には伝えないでおくよ。というか、言っても信じてくれない人の方が多そうだけどね。というか私この話聞かない方か良かったような…?」

「赤羽君をレンタルした時にクラスの代表の一之瀬さんの許可が無いと後々面倒ですので。」

「私にも牽制の意味で話してたってことかぁ…なんか見逃すにも判断に困る内容、って感じ…かな…」

一之瀬は困った様に苦笑いを浮かべる。それはさておき聞き捨てならないことが一つ。

「俺をモノ扱いするの止めてもらっていいですかねぇ…」

「あら?お話はもう纏まりましたよ。よろしくお願いしますね。」

坂柳さんは微笑を浮かべて話題を打ち切る。

話し相手があっちいったりこっちいったり坂柳将軍に掌で遊ばれている様な気がしますねぇ…

 

 

「そういえば一之瀬さん、赤羽君を下の名前で呼ぶようになったのですね。」

思いっきり話し変えてきましたね坂柳さん。僕はもう置物になるよ(思考停止)

「…ええっと、ま、まぁ同じクラスだし変な事じゃないんじゃないかな?」

一之瀬さんも話の変化についていけず戸惑っている様子。そうだよねそうだよねうんうん。僕知らない。

「そうですね。長くいれば親愛の情は沸くのでしょうね。貴方はどうです巧君?この際ですから、私たちの事を有栖、帆波と呼んでも構いませんよ?」

うわぁ…更に急に突っ込んできましたよ彼女。置物に徹したかったのになぁ…この子、不意打ちが急すぎる。あと圧が凄い。

「うわぁ…」

「坂柳さん⁉そんないきなりは名前呼びはちょっと…巧君も引いてるし…」

「あら?それなら私だけ名前呼びにしてただいてもかまいませんよ。一之瀬さんはそのままの方が良さそうなので。」

「それは…あの…急と言うか…悪くはないんだけど…」

淡々と話を進めていく坂柳とぽしょぽしょと小声になっていく一之瀬。

さてどうしようかどうしましょうか?とりあえずバグっておきましょうか。

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「巧君がバグった!」

「その回答は予想してませんでしたね…」

「…何だここが地獄か。俺は呼び方は変えぬぞ。一昨日来やがれてんだ。」

「意外と強情ですね巧君は。…それでは、ホワイトデーに一之瀬さんとお出かけをして。その時だけ名前呼びするというのはどうでしょう?」

そんでもって羞恥心の無い坂柳さんの予想外の話題の水平チョップ!彼女の秩序の無い思考回路にドロップキックを食らわせたい!病みそう!

「えぇ…話ぶっ飛びすぎじゃぁありゃせんか?」

「話がどんどん移り変わるのが会話というものです。一之瀬さんもバレンタインデーにチョコは渡したのでしょう?」

「…あの、えっと、一応渡したよ…誰かさんのせいで遅れちゃったけどね。」

坂柳の唐突な確認に対し、一之瀬さん非難の一言も付け加えて返す。意外と強いねこの子。頼もしいや。

「あらあらそれは大変でしたね。それでは巧君、エスコートはお願いしますね。」

「何で話が勝手に進んで行くんですかねぇ…もしかして坂柳さんもくる感じですかね?」

「いえいえ、そんな無粋な事はするつもりはありませんよ。お二人で楽しんできてくださいな。」

「何だ急にオカンみたいなりおったな。」

「オカンと言うのは止めてくれませんか。せっかくの親切心を素直に受け取っても良いのでは?一之瀬さん、どうです?」

「ウェッ⁉…その話、悪くは無いけど…巧君次第じゃないかな…」

出来れば受け入れて欲しそうな様子でこっちを見るんじゃない。夢ならどれほど良かったでしょうウェッ!?って状況ではある。俺の顔、今レモンのあの苦い匂い嗅いだ時みたいになってると思う。ウェッ

「巧君に拒否権はありませんよ。バレンタインデーは三倍返しが基本ですから♪」

満面の笑みで坂柳は俺の拒否権の発動を拒否する。界王拳三倍でこの部屋から脱出したい気分である。というか坂柳さん急に引くのは怖すぎる。何か企んでんだろうけど考えが読めん。わたしのことなどどうか忘れてください。駄目かぁ…

「…まぁ渋々々受け入れさせてもらいまするよ…三倍返しってキツイなぁ…」

「え…私と出かけるのそんなに嫌、だったり…?」

俺の難色の示し方に一之瀬さん悲しみの横顔。いやいや坂柳さんの話のペースに貴方も巻き込まれているんですよ!何をしていたの何を見ていたの!

「いやぁそういうわけでは無いんだけれども、こんな状況で取り付けられるのは想定外というか

何というか…」

「……あぁ…確かにそうかも…」

会話の内容を思い返し一之瀬さんもペースを取り戻してくれら様子。坂柳さん相変わらず怖い子ですね。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

「さて、当日は楽しみにしていますよ。」

「うわぁ絶対ストーカーしてくるぞこの子…」

「さぁ、どうでしょうね?行く場所は大体想像がつきますからね。」

 

すっとぼけをかます坂柳さん。見つけたら全力ダブルダッシュで逃げてやるからな、と俺は心に決めた。



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1年最後の試験

3月8日。

今Bクラスでは1年最後の特別試験が始まろうとしていたデデドン!

クラスに用意された席は40これは先日の投票で退学者が唯一を出していないBクラスだけ。他のクラスは一つずつ席が減っているのだろう。

ホームルームの開始の鐘の音と共に担任の星ノ宮先生が姿を見せる。

「ーーーそれじゃあ1年度の最終試験の発表を行うわね。」

静まり返る教室内で行われる最終試験の説明。生徒たちは固唾を飲んで内容を聞いていた。皆が静かだと騒ぎたくなる衝動に襲われるのは僕だけでせうか?僕だけでしょうね…

最後の試験名は選抜種目試験。対決クラスと種目を決め争うという内容の様だ。種目の数は10。それを学校側が決めたシステムで7種目ランダムに選び出される。実際に採用されるのは多くて4つ。内容は自由だそうだ。余りマイナーな競技やゲームは駄目だそうだ。試験は途中で勝敗が決まっても最後まで行われる。そして司令塔が一人立てられ、司令塔は全種目に関与し、補助が出来る。まぁ何とも難しい役回りではある。そして一番大事な点は負けた司令塔は退学というルールである。勝利を確信出来るもしくは無謀な人間、もしくはプロテクトポイント持ちじゃなきゃ立候補はキツいですねぇ。

 

その日の放課後、対戦するクラスを決定するため、一之瀬が特別棟に向かった。一之瀬が司令塔として立候補して誰からの反対も無く承認された。まぁ反対する人間はこのクラスにはいないわな。

指名するのはAクラス。上を狙うんには上を倒すしかない。虎穴に入らんば虎児を得ずって話ですな。俺は勝ち方分からんけど。

 

俺は暇なので、今のクラスポイントを確認しておく。

Aクラス:1001ポイント

Bクラス:690ポイント

Cクラス:377ポイント

Dクラス:318ポイント

今回動く最大のポイントは210+勝利の100ポイントなので、全部勝てばAクラスにもなり得るし、逆にDクラスにもなるポイント差。ここは踏ん張り所そうですねぇ…

 

 

時は過ぎて夕方。部屋にはいつもの事ながら一之瀬が来ていた。

 

「でぇ?対戦相手は坂柳さんで決まったんかえ?」

 

多少の興味もあったので一之瀬に確認を取る。

 

「ゴメン!くじ運悪くてDクラスになっちゃった!」

 

ぱん!と両手を合わせ俺に謝罪の意を示す。

何の成果も得られませんでしたぁ!ってことですかそうですか。

 

「まーまーえーじゃないか運なんて本番で発揮すれば良しとしましょうや。」

 

「だね。Aクラスと違って戦略は立てやすいしDクラスに今は集中しなきゃね。」

 

「ほーん。で、一応考えてる戦略とやらは聞いちゃってええのかい?」

 

「もちろん!対戦内容は学力試験を中心にするつもり。BクラスはDクラスよりは学力の平均は高いはずだから。」

 

まぁ、妥当な戦略ではある。一つ懸念があるとすれば、司令塔が龍なんとかさんだってことだ。彼の思考回路は私にゃ読めんので謀略の一つや二つや三つかまして来ても不思議ではない。あとその戦略だと俺は特に今回は出来る事はなさそうである。アーメン。

 

「まー良いのでは?」

 

「それなんだけどね。くじの時に来たのって龍園君じゃなくて金田君だったんだよね~。今回、龍園君は出てこないかもって思ってる。」

 

そういえばそういえば、龍なんとかさん最近クラスのリーダーから降りたみたいでしたね。居ないなら勝てそうだが、急に出張って来たら怖いですね。知らんけど。

 

「ほーん。で、今回の戦略では俺は何も出来そうにないから、バックアップモブモブしてりゃあ良いざんすかね?」

 

「戦略としてはそうだけどさぁ…ちょっとはやる気出さないとクラスの士気下がるから駄目だよ!」

 

「うぃ~手厳しいですね一之瀬さんは。」

 

ぼんやりサボリーマンな役回りかと思いきやたしなめられてしまった。それなら俺はガヤになりますよガヤガヤ。

 

「何か競技の内容で希望があったりする。ちなみに、危ないのは無しね。」

 

「え~。そうなると俺マジで出番無いんじゃないんですかね…」

 

「スポーツ系も入れるつもりはあるけど、BクラスでDクラスに確実に勝てるってのは正直殆どないんだよね…困った困った。」

 

「より今回の俺の存在意義無さそうな気がするねぇ…じゃあですねぇ、本当の本当に困った時に俺に任せるのはどうでしょう?」

 

「最後の最後でかなりプレッシャーかかる場面で使って欲しいって事?どうして?」

 

「その状況で勝った方がカッコいいじゃないか。」

 

「うわぁ…作戦でも何でも無かった…」

 

ガッカリした様子で一之瀬は肩を落とす。なんだァ?てめェ……男のろぉまんが分からねぇとは……ロマンの方向性の違いで解散もあり得ますよ。巧、キレちゃったよもうもう。

 

「とにかく!今回は学力で勝負するから明日からビシビシ鍛えていくからね!」

 

「うへぇ…」

 

「返事はハイ!だよ!」

 

「ハイ…」

 

力技で話をまとめられてしまった。次の試験までトホホって感じです。

 

「あと…」

 

「まだ何かあるんでせうか…」

 

「週末、楽しみにしてるからね!」

 

週末週末…と何かあったかなと思考を巡らせるとあったじゃないかブラッティーサンデーホワイトデー。お出かけの計画も考えなきゃいけないって事か…チュライ…ハタラキタクナイ…

 

「返事は?」

 

「ハイ…」

 

折り重なる面倒事に辟易。物事とは自分の都合良く運ばないものだなぁ(達観)。皆もそうでしょう(現実逃避)

明日は流れる季節の真ん中でふと日の長さを感じますな日になりそうですね(3月9日)




毎日更新!…とはいきませんが、書きたいシーンあるのでそこまでは突っ走らせていただきます…マグロ。


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選抜試験準備

選抜種目試験の告知が始まり、案の定事態は動き始める。

昼休み、柴田始め何人かからの一之瀬への打ち上げがあった。Dクラスからの嫌がらせが加速しているとの事。ま~大変だなぁ、と気の毒には思いますが、のほほんと俺は静観を決め込む。最近気苦労が多くてのぉ。要らん事は増やしたくないのよ。俺に何も無いのは空気だと思われてますかね?

んで、そこに綾小路達が通りかかったようで、なんか一緒に食事に行く流れになっていた。コミュ力相変わらずなぱいすね一之瀬さん。

 

 

カリカリカリカリ……

かりんとうでは無い、シャーペンの音である。つまり絶賛試験に向け勉強中である。ペーパー試験の再来である。勘弁である。場所はいつも通り俺の部屋である。

 

「巧君、ここ間違ってるよ。」

 

「うぃ~」

 

一之瀬は自分の勉強の傍ら、Bクラスのグループチャットでの意見収集と取りまとめだったり、こっちの勉強見たりとマルチタスクで大忙しである。さす之瀬さんですね。

 

「ん~!いったん休憩にしよっか。」

 

「うぃ~」

 

「1+1は?」

 

「うぃ~」

 

「えい!」

 

「あうち。」

 

一つ伸びをして一之瀬から休憩の許可が出た。そんでもって勉強で思考中だが一之瀬に対して思考停止中の俺は軽くはたかれる。僕はマルチタスク出来ないんですよアナタトワチガウンデス。

いったん、ってことはまだ勉強続くんですねそろそろ終わりにしたいな俺には俺の生活だったり人には人の乳酸菌とかあるんだよ?

 

「じゃ、ちょっと台所借りるね。」

 

「うぃ~」

 

そう言って一之瀬は台所に消えていく。今日は珍しく一之瀬が部屋から持参してきた紅茶である。オシャンティーなモノ飲んでまんな。ティーセットまでわざわざ持って来てたし。

 

「お待たせ~」

 

一之瀬が運んできた紅茶の香りと、酸味のあるシトラスの様なの香りが一緒にやって来る。シャンプーでしょうか柔軟剤でしょうか香水でしょうか?分からん。

 

「あざっす!いただきまっす!」

 

「どーぞーどーぞ召し上がれ。いつも準備してもらっちゃってるし。」

 

お互いにズズズと一口。紅茶特有のさわやかな香りが鼻を抜ける。味は…苦いお湯ですね。砂糖とミルクを追加投入してもう一口。びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛

 

「紅茶は甘い方が良いっスね。」

 

「そだね~私も入れちゃおっと。」

 

一之瀬も砂糖とミルクを入れ一口。美味し~と笑みを零しながら、小袋を開けてパクパクとハート形のパイっぽいアノお菓子をつまんでいる。甘い物に更に甘い物追加してますね。本人が幸せならそれでいいんじゃないかな。

 

「はい!一之瀬先生っ!質問があります!発言の許可をください!」

 

ビシィィ!と右手を上げ、一之瀬軍曹に発言の許可を依頼する。

 

「……うむ。許可する。」

 

一瞬怪訝な顔をしていたが、こちらのノリに付き合う事にしたのかノってくれた。やっさし~。

 

「試験についてであります!得意分野の種目で出していただきたいであります。」

 

「うむ。で、本音は何だ?赤羽二等兵?」

 

「勉強したくないであります!」

 

「その提案……却下!」

 

「そんなぁ~一之瀬えも~ん!なんとかしてよ~」

 

「しょうがないなぁ~のび太君わぁ~……ってそんな風に頼まれても乗らないからね!……一之瀬えもんって呼び方、語呂めっちゃ悪かったね……」

 

提案の却下と共に、一之瀬えもんの語呂の悪さを指摘される。もうケチョンケチョンである。ケチョンケチョンって、きょうび聞かねぇなぁ。

一之瀬えもんの大山のぶ代ボイス全く似てなかったでせうね。俺も大概か。残念!乗らなかった!エースッ!

 

「さ!休憩終わり!勉強に戻るよ巧君!」

 

「も~~~ん」

 

俺の悲痛な叫びはつゆ知らず勉強再開である。この後もすっかりこってりしっかり勉学に励まされました。ハゲそう。




感想お待ちしております。
連投できるなら週1で投稿しろ!との文句も受け付けております……時系列で書けないので時間空いて一気に何話も出来てしまうんや……賢い書き方がしたいです……


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龍園の戦略

オーバーロード、面白いですよね


--伊吹視点

 

対戦相手が決まった日。私たちはカラオケボックスで龍園を待っていた。それは勿論、龍園に力を借りるため。Bクラスとの対戦も龍園の口添えを発端に私たちが判断したものだ。

 

約束の時刻を過ぎても一向に現れなかったが、石崎たちに付き合って待てる所まで待つ事にした。このまま帰って勝利を見逃すより、龍園が現れるチャンスに賭けるしかなかった。

カラオケをし、予定から数時間待った後、

 

 

「なんだおまえら、まさか本気で来ると思ってまってやがったのか?」

 

 

龍園は現れた。多少軽口を交わしあった後(私は本気だったけど)話題はBクラスの分析に移る。

椎名さんがBクラスの強みの結束力の高さを指摘し、そしてただそれだけのクラスだと優し気な顔して結構えぐい分析をしていた。

 

「俺に言わせればBクラスの最大の欠点は一之瀬……いや、リーダーの不在にある。」

 

意味が分からなかった。バカにした表情で言葉を続ける。イラっとしたが、今は甘んじて受け入れるしかない。

 

「一之瀬も神崎も本来リーダー向きじゃねぇ。リーダーを支える参謀タイプだ。アレを頭に据える位なら、まだ鈴音や葛城を頭にしとく方がよっぽどクラスは上手く回る。だからこそ、この腐りきったDクラスにも勝機がある。……ただ、Bクラスにもリーダー気質の奴はいる。」

 

「誰よ?そんな奴いたっけ?」

 

「赤羽だ。普段は無能なだらけ切った人間にしか見えないが、頭は多少は切れる。俺ほどじゃないがな。じゃねぇとXの件の時の嗅覚の良さの説明がつかねぇ。あと無人島での闇討ちの件もな。奴が頭に据えられた時が厄介だがおそらく出てはこないだろう。一之瀬が意図してやってんなら話は別だが、俺からしちゃぁとんだ愚策だと思うがな。」

 

「アイツが……?」

 

赤羽とは面識があるが、ただ喧嘩の強いバトルジャンキーとしか認識していなかった。龍園は私の想像以上にアイツを高く買っているらしい。

 

俺無しだとほぼ勝ち目のない試験だろうな、と前置きし、龍園は一枚の紙を提示した。龍園が選んだ試験は肉体を酷使する種目かつ勝ち抜け戦だ。私達より学力の高いBクラス確かに私たちが勝てる要素と言ったら確かにこれしか無い。龍園は付け加える。

 

「事前に赤羽だけは確実に潰しておけ。俺様が出した種目だと奴が万全なら勝機が大分落ちる。」

 

確かに龍園の種目だと幾つかはアイツが必ず障壁になってくるのは容易に想像できた。

そして龍園は小さい袋を取り出し、こちらに放り投げる。これをBクラスに使えって事か。いくつかの私たちの今後の行動付きも指示された。

 

道を龍園は示した。後は私たちがどう動くか、それ次第だ。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

私は椎名さんと張り込みを行うことにした。場所は学生が良く使うスーパーマーケット。今、Bクラスの生徒のポイントは殆ど無いはずだ。だから外食はし辛い、ポイントのかからない食材や自炊をする可能性が高いと見てここを選んだ。

 

2日張り込んで、ようやく赤羽は姿を現した。私とアイツの共通の接点は一つのみ。下剤を飲ませる方法は私より頭が回る椎名さんに任せている。

 

「ねぇ。ちょっといい?」

 

「ん~?っとあ~ら伊吹さんじゃぁないですかぁ。あとはえ~っと…」

 

「こうして話すのは初めてになりますね。椎名ひよりと言います。」

 

「ドーモ、シイナ=サン、アカバネ タクミです。」

 

赤羽は仰々しくオジギをする。

 

「ドーモ、ゴテイネイニ。アラタメマシテ、シイナ=ヒヨリです。」

 

椎名さんを再度オジギを返す。私には全く分からないのだが共通言語があるのだろうか?

 

「ちょっと付き合いなさいよ。」

 

「あ~らどうしたのぉ?も・し・か・し・て、私とデートしたいのかしら~?」

 

急にオネェ口調になって返される。コイツと話すといつもペースを崩される。

 

「キモッ」

 

無意識に口から出てしまった。

 

「お口の悪い子ねぇ~。」

 

「アンタのクラスと戦うせいでクラスがピリピリしてんのよ!龍園もいないし、先が見えなくてストレス溜まるのよ。だから付き合いなさい。というかムカつくから一回殴らせろ!」

 

「んふ~ストレスは乙女のお肌の天敵よ。」

 

「そうですわよ。オホホホ。」

 

「アラ~気が合うじゃない。」

 

椎名さんは赤羽の悪ノリに同調し始める。どっちの味方よ!とツッコミたい所だが、本来の目的を忘れてしまわないようにしないと。椎名さんが忘れていないか心配だけど…

 

「ねぇ?で、付き合わないの?まぁこのまま去るって言うなら後ろから蹴っ飛ばしてやるけどね。」

 

「おぉ怖い怖い。暴力はいけませんわよねぇ~」

 

「そうですわ。淑女たるもの、いつでもお淑やかな振る舞いをしないといけませんのよ。」

 

「……」

 

椎名さん、本当にどっちの味方なんだろう…

 

 

人気のない場所に移動し、移動中も色々とムカつくことはあったが、コイツとの喧嘩を取り付ける事が出来た。ここからは私の仕事。

 

 

「さぁて、ぼちぼち始m「シッ!」おぉっとお!ここで伊吹選手の不意打ちだぁ。しかし こうげきは はずれて しまった!」

 

読んでいたのか反射神経か、側頭部を狙った廻し蹴りは奴には当たらず空を切る。しかも癇に障る実況調の言い回しのおまけ付き。本っ当にムカつくわねコイツ。

 

「ルール無用、不意打ち上等。何でもかんでもありのマッチというわけですかぁ。」

 

「こらこら、不意打ちとは卑怯じゃありませんか伊吹さん?こちらからお願いしてお相手してもらうんですから正々堂々と勝負しませんと。」

 

不意打ちに関しては椎名さんから窘められる。それ位しないと一発当てられ無さそうだったからワンチャンやってみたが不意に終わってしまった。というか本当に私がストレス溜めて当たっている様に見えてしまいそうだ。半分はそうだが。主にコイツのせいで。

 

一旦息を整え。相手に踏み込み何発かジャブを放つ。こちらはなるべく隙を見せない様に、相手が避ける動作が大きく鳴る様に。1秒でも長く。少しでも疲れさせるように。

 

「ほっ!はっ!なんのっ!そうきましたか!はい、ここで緊急ニュースです。」

 

こちらの考えはつゆ知らず。意味不明な掛け声と共に私の攻撃をいなしていく。一言ひとことが癪に障る。

 

回避に専念していたアイツだったが、私のジャブを打った際の手首を掴む。マズイと思ったが、身を引く間も無く後ろに回られ、そのまま強引に両腕を後ろ手に掴まれて、うつ伏せに倒される。

 

「勝負アリですかな?」

 

「クソっ!舐めんな!」

 

身体を思いっきり反らし、頭突きをかます。相手の勝利を確信した状況での不意打ち、お互いの頭がぶつかる直前、一泡吹かせてやったと心の中でほくそ笑む。

 

「ツッ!ーーー」

 

ガツッ!と鈍い音と共に私の視界に星が瞬き、一瞬意識が飛ぶ。

 

「あらあら、窮鼠猫を噛みきれませんでしたねぇ。ご愁傷様。」

 

頭も抑えつけれられ、完全に勝負は決まってしまった。私の負けだ。

というかなんっつう石頭してんのよコイツ。

 

「……参ったわよ。」

 

「さいでっか。」

 

そう言った後、私の手は離され自由になる。土埃を払って立ち上がり、体の状態を確認する。

掴まれた手首よりも後頭部が痛む。触ると鈍痛がするので、たぶんタンコブが出来てしまった。

 

「痛ッッ…」

 

「痛そうですねぇ自業自得ですねぇ…お大事に。」

 

こちらは全力でやったのに存外ぴんぴんしている。コイツの身体ホントにどうなってんの?

 

 

「二人ともいい勝負でした。お疲れでしょうからお茶でも如何でしょう?」

 

私たちの喧嘩を一部始終見ていた椎名さんは賞賛の言葉と共に水筒を取り出す。

 

「あらあら気の利くお嬢さんだこと。ありがとうございますぅ。」

 

「じゃ、俺は頂き来ましてお暇させていただきますよ。」

 

コポコポと注がれるそれをアイツは受け取り、私たちは喉を通すのを確認した。

 

そして彼はもうここに用は無いと言わんばかりに私たちから離れていく。

 

 

「敵は一人じゃありませんので。」

彼のと別れ際、椎名さんは一言放つ。

彼は意に介した様子も無く、一つ手を上げ去っていった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……上手く行ったわね。」

 

「……そうですね。昨日までは龍園さんの話は半信半疑でしたが、ようやく確信が持てました。私達の選んだ種目に彼が万全の状態で出られたら勝ち目は薄いでしょうね。当日は何とかなりそうです。あまり良いやり方とは言えませんが……」

 

あの水筒の中身はただのお茶だけでは無い。龍園から渡された試験当日に効く下剤も入っていた。これで多分アイツは当日万全の体調で試験には望めない筈だ。この役回りは石崎がアイツと対面するのを躊躇ったために私から買って出たものだ。屋上の一件で私とアルベルト三人がかりでも叶わなかった綾小路を圧倒した事に返り討ちを懸念していたらしい。男らしくない、ワンチャン狙ってみなさいよとは思う……が石崎たちが束になってかかってもやっぱり返り討ちだろう。

 

「それでもBクラスに勝つには汚い事もやんなきゃなんないのよ。ゴリラ並みの化け物だからあの下剤が本当に都合良く聞くかちょっと不安だけど。見た?頭突き食らってんのに全然ピンピンしてんのよ?」

 

「そこまで言いますか。彼も人間ですよ。大丈夫です。」

 

「フン、どうだか。」

 

椎名さんのフォローするが、鼻を小さく鳴らして答える。さて、ちょっと手傷も負ったが目的は達成できた。後は試験で調子を崩してくれる事を願うばかりだ。

 




オーバーロード、面白いですよね(すっとぼけ)
有能な怠け者理論的には完全に合ってるとは言えませんが。


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