異世界狂騒曲 ―ハイスクールD×D×D (グレン×グレン)
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序章 運命が始まる寸前
プロローグ1 俺の原風景と、和平前の大きすぎる小競り合い


 ……どうしても、どうしても「魔術師たちの狂騒曲」をリベンジしたかったんだ…………っ!









 そんなわけでかなり仕立て直しまくって第三ラウンド。

 今回はクロス先をあえて大量に増やしました。これはある意味で「ケイオスワールド」という第一部を完結させることができた作品にあやかった物です。ゲン担ぎです。

 まあクロスオーバーといってもグレンさん風味ですので、原作のキャラが出てくるとか言うのは一部を除いてないですね。

 一応あらすじでクロス作品はわかるようになってますが、あえて本格的に出てくるまでは出さない方針を出すことにします。

 まあ、すぐにわかるといえばわかるのですがね………。


 原風景というのは、案外馬鹿にならないものだ。

 

 何せ人生最初の記憶なわけで、最初とかそういうのはある意味でインパクトがあるものだ。

 

 初恋は特別というやつはいるだろうし、童貞卒業を思い出にするやつはいるだろう。殺し合いにおいて最初の殺しというのは最大の試練かつその後の人生の味方を左右するだろうし、偉業というのは基本として前人未到かどうかで重要度が左右される。

 

 もちろん人によりけるだろうけど、俺の場合、物心ついた時の記憶は人生に影響を与えまくっている。

 

 俺は今でも覚えている。

 

 まるで絶望に泣きはらした後としか思えない、今思い返せば返すほどそう思う、憔悴しきっていた顔。

 

 そこに笑顔を、そして喜びから生まれる涙を浮かべて、彼女は俺を抱きしめる。

 

 おずおずと、壊さないように、愛しい宝だといわんばかりに。

 

 そうして抱きしめたその女性(ひと)は、決意と救いを顔全体で浮かべながら、こう告げてくれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―守ってみせるから、笑顔で生きて―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉は、俺の生き方を決めたと今でも断言できる。

 

 小学校に入る前の時に、海外のテロに巻き込まれて孤児としてそのままその国を放浪する羽目になった。少なくとも、生きて日本に戻れる可能性があり、両親を弔う機会は残っていた。不幸中の幸いだ。

 

 そして二年ぐらいで変な組織に捕まり、「実験体になれ。運良く死なずに成功したら、開放して好きに暴れればいい」等と言われた。検体が健康じゃないと成功するものもしないからか、とりあえず衣食住には困らないし健康にも気を使われてるから、むしろ孤児の時より生活水準はいい。しかも割とストレスフリーだから、頑張って成功すればいいから前向きに行こう。

 

 

 そして数年後に入ってきた被験者とねんごろになったら、そいつらの手引きで入ってきた謎の武装勢力が暴れだして大惨事。その恐怖から逃れようとする生存本能が引き金になって、成功したうえ脱出できたから、まあ不幸中の幸い。

 

 そして放浪してたら教会に拾われ、実験の結果得た素質を見込まれて悪魔祓いにスカウト。しかし俺の特殊性を気づかれて暗部じみた組織に送り込まれる。社会的保障や給料は割といい上、義理立て程度のちゃちな信仰でも「まあ、信仰の有無より心を救い死者を悼む方が優先だしね」と上司が両親の鎮魂のミサをよくやってくれているから、むしろこれ、改造人間とかいう立場からすると厚遇じゃね?

 

 まあ、仕事は大変だけど「悪党退治」はやりがいがある。食事は基本質素だけど、週一ぐらいはこっそり買い食いを許してくれるありがたい上司なので、ある意味ラッキー?

 

 ……まあ、一つだけ断言できる現状の不幸はある。

 

 ……敵のグレードが跳ね上がりすぎた。

 

 今回の任務、めちゃくちゃめんどい。死ぬほどめんどい。普通に危険手当が欲しい

 

 だって、敵は堕天使最強クラスのコカビエルだから。

 

 うん、俺がいるのは実はバチカンの助祭枢機卿がトップを務める組織なんだ。

 

 名前は「イスカリオテの聖剣」。もうこれだけで真っ当じゃないことが分かるやつには分かる。

 

 何せ教会でイスカリオテとくれば、神の子を裏切って磔にする要因となったイスカリオテのユダだ。そいつの聖剣なんて名前がついている時点で、どっちかというと汚れ役ってイメージは確実に出るだろう。

 

 ちなみにこの組織、「教会の信徒としてどうよな実力者」を有効活用する為の組織だ。そいつにそこその腕を持つガチガチの信徒をお目付け役として付けることで有効活用を目的としている。

 

 まあ、俺との化学反応で俺の相方はだいぶ丸くなってくれたからそこは良かった。……むしろ説教とかが発生しやすくなったから、そういう意味だと面倒か?

 

 いやまあ、最初に会った頃の人形みたいな雰囲気よりはマシなんだけどな? でも、俺との化学反応が絶対に変人方向に引っ張った感じなんで、ちょっと後悔してるところはあるんだよなぁ。

 

 まあそれはそれとして話を戻す。

 

 とにかくそんな俺達なので、仕事は大抵難易度が高い。

 

 やれ信徒達をたぶらかす上級悪魔をボコってこい。信仰に問題だらけの悪魔払いが数十人規模で堕天使側に逃げたからちょっと逃げ切られる前に始末してこい。ちょっと吸血鬼共が村を占領してるから、ちょっくらぶった切って聖水撒いてきなさい。

 

 普通にハードだ。命の危険だらけだ。いや、悪魔払いになった時点でそういう仕事なのは分かってるけど、たまにはイージーな任務が欲しい。

 

 と、思ったら今までで一番難易度の高い任務が出てきたんだから、俺も逃げたくなるってもんだ。

 

 なんで、俺ははっきりと告げる。

 

「……他の奴にやらせてください」

 

「うん、悪いけど無理だねぇ」

 

「……何を馬鹿なことを言ってるんですか、鶴来(つるぎ)

 

 やんわりとしつつもはっきりとした却下に、ジト目と共に突き刺さる叱責のダブルアタック。

 

 まあ当然の反応だけど、俺がこういうのも当然だろうに。

 

「いや、グレイバー猊下。普通ガキに与える任務じゃないでしょ? ここはどっかのイスラム原理主義者みたいなテロ組織じゃないんですよ? あとリア、普段よりはよっぽど普通なこと言ってるつもりなんだが?」

 

 俺は即座に反論するけど、隣のジト目はため息に変化した。

 

「……普段も今以上にまともにやってください。最近の買い食いは食べることより「如何に周囲の目をかいくぐるか」が目的になってますよ? そんな手段と目的を入れ替えるのは誰ですか~?」

 

「すいません俺です。悪かったのでこめかみをぐりぐりしないでいただきたいですごめんなさい!」

 

 俺のこめかみをぐりぐりするのは、十文字(じゅうもんじ)リアという悪魔祓い。

 

 両親を殺されて教会に送られたという俺ほどではないハードな過去と、この年で俺のお目付け役として一緒にコカビエル追撃を命じられるだけの実量がある相方だ。

 

 なんだかんだで週一に「相方のガス抜き」と伝えて外食に付き合ってくれるのはありがたい。買い食いレベルならともかく、それなりに美食を追及すると、一人では行きづらい店もあるんで助かってる。

 

 そんな俺達を見て、俺達に命令を伝えたトップがニコニコと笑顔を浮かべる。

 

「はっはっは。過酷な任務を控えても、いつも通り仲が良い事で結構だよ」

 

「あ、すいません猊下!」

 

 慌ててリアがたたずまいを正すけど、猊下は特に咎めることなく温かい目をリアに向ける。

 

「いや、君が年頃の少女らしさを持ってくれて嬉しいぐらいさ。最初に会った時は行ってはいけない方向に突き進みそうだったけど、鶴来君をつけたかいがあったのかもしれないね」

 

 などという猊下の本名は、グレイル・グレイバー助祭枢機卿殿。

 

 俺みたいな問題児を信仰の為に有効活用する方法としてこの組織を立案しながら、さっきみたいな事を言う食えないおっさんである。

 

 どうもこのオッサン「信徒として行き過ぎている実力者」を「信徒としては問題だけど善人」と組み合わせて双方の中和を狙っているらしい。そう先輩に言われたけど、俺ってそこまで善人なのか?

 

 ふと思い出して俺が首を傾げてると、猊下は静かに苦笑しながら肩をすくめる。

 

「僕としてももっと戦力を集めたいんだけどね? 事が事だから最小限の人数で動かしたがっていた人達が多い上、逆にその動きに感づいた過激派が凄いのを送り込む事にしちゃってね? こっちもカウンターウェイトを押し込まないと、ややこしい事になりそうで怖いんだよね?」

 

「「というと?」」

 

 ついリアとシンクロして俺が聞くと、猊下は心底疲れた顔をした。

 

「埋葬連隊だよ。それも、一個大隊規模で潜伏地点をカバーするようにして押し込もうとしているうえ、とどめにコカビエルの潜伏箇所が悪魔の縄張りなんだ」

 

「……それは、懸念材料が多いですね」

 

 リアが指を顎に当てて考え込む。

 

「コカビエルほどの高位の堕天使が、態々敵対している悪魔の縄張りに潜伏する。まず真っ先に警戒するべきは「悪魔と堕天使が共闘する可能性」ですか」

 

「そういうことだよ」

 

 そう頷く猊下の目は、笑ってないどころかかなり懸念の色がある。

 

「最悪、埋葬連隊(やつら)はその判断だけで戦争再開を目論見かねない。人間社会の核減縮事業にかこつけて、冥界を焼き払う為に何発も核兵器を集めてるんじゃないかって連中だからね。むしろ「いつでも戦争に勝てるように」できた連中だからねぇ」

 

 ああ、あいつらそういうところあるからなぁ。

 

 義理立て程度の信仰心しかない俺からすれば、流石にガチの戦争は俺の生きている間にはやめてほしいです。いやマジで。

 

 でもあいつら、マジでそういうことしかねないからなぁ。

 

「確か枢機卿()も「ガス抜きの為に無茶ぶり」で技術的成果を求めたんでしょ? そしたら―」

 

「上がってしまったんですよね。それで発言力は上がり始めている……と」

 

「そういうこと。だからコカビエル相手に成果を上げたら、厭戦気分の僕達より、戦争上等の彼らの発言力が上回っちゃうわけ」

 

 俺とリアにそう続けると、そのうえで猊下は手を組んで俺達を見る。

 

「……そうなれば天界も押し切られかねないし、今回の騒動はつつき方を間違えると戦争という爆発が起きる火薬庫だ。厭戦派である人達は、若いゆえに好戦的な本来の担当や、戦争を起こす為に頑張っている連隊だけに任せたくないんだよ。でも今、空いている人員が君達だけだから―」

 

「……了解でーす。俺もガチ戦争とか嫌なんで、監視役やらせていただきまーす」

 

 心底いやだけど仕方がない。

 

 ここで何もしない方がまずいからなぁ。

 

 戦争が起きたらまずいけど、動けるのが俺達ぐらいしかないなら仕方がないか。

 

 俺が渋々納得したことで、猊下も苦笑しながら頷いた。

 

「ほんとごめんね? なにせコカビエルだけでもあれなのに、あいつがいるところの担当官もあれだから」

 

「悪魔側もですか? 最上級悪魔が担当している区域ということでしょうか……」

 

 そう懸念するリアに、猊下は静かに首を振った。

 

「ある意味もっと酷い。何故なら―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―そこの担当官はリアス・グレモリーとソーナ・シトリー。現四大魔王、サーゼクス・ルシファー及びセラフォルー・レヴィアタンの妹だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、俺が運命と再会する大事件。

 

 エクスカリバーを強奪したコカビエルが、魔王の妹二人がいるところに潜伏するという大事件。

 

 一歩間違えれば三大勢力の戦争が再発しかねない大事件にして、それ以上の大きな争いが起きる前の、言い方は悪いけど小さな騒ぎ。

 

 その戦いから、この世界は大きく揺るぐことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 具体的に言うと、何重もの異世界と関わる縁が生まれる、その一つの要因がここで生まれるわけだよ。

 




 主人公を教会側にしましたが、これは悪魔にすると「メインキャラを大量に作る必要がある」必要性が高いので、こんな感じです。

 ちなみに狂騒曲の真主人公であるイルマがいないですが、彼女もきちんと出てきますのでご安心を。


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プロローグ2 一触即発と赤毛の乱入者

 はい、かなり長くなりますがプロローグの第二段です。

 時系列はかなり飛んで、原作におけるリアスたちとゼノヴィアたちが旧校舎で出会うシーン。

 ぶっ飛んだ将来的な敵なども出てきますが、中盤でちょっとギャグあり終盤で仕立て直したかつてのキャラが一人出たり、しかしイルマはでなかったりします。


 

 さて、自己紹介が遅かったな。ぶっちゃけ作者が忘れげふんげふん。

 

 俺の名は麻宮(あさみや)鶴来(つるぎ)。生年月日の記憶から逆算して、大体今のところ17歳。

 

 来歴に関しては前に言ったが、おさらいしておこう。

 

 幼少期は日本に住んでいて、小学校に入る直前に両親の都合で海外に引っ越しすることになった。で、そこでテロに巻き込まれて孤児になったわけだ。

 

 その後二年間浮浪児をやってけど、変なテロ組織じみた連中に拾われて実験台になった。そして何年間か実験台をやっていたら、そこが侵入者の手引きで襲われて壊滅。俺は実験の結果手に入れた力で生き残り、その後半年ほどまた浮浪児。

 

 そして教会に拾われた俺は、素質などもあってイスカリオテの聖剣に選ばれる。そこで十文字リアを相方に、二年ほど教会の敵相手に大立ち回りをやっていたわけだ。

 

 で、そんな俺たちに「コカビエルをぶっ飛ばしてきて」とか無茶ぶりがなされたわけですよ。

 

 ここでコカビエルについて説明しよう。

 

 俺が教会に所属していることはもう言った。勿論聖書の教えのそれであり、彼らは悪魔や堕天使と敵対してるわけだ。この三勢力を三大勢力と業界では呼んでいるから覚えとくように。

 

 で、その堕天使のトップクラスな奴の1人がコカビエル。より具体的に言うと堕天使の統括組織である神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部の1人がコカビエルだ。

 

 そして奴はなぜか教会の施設を襲撃。かつて三大勢力の戦いで砕け散り、七本になってしまった聖剣エクスカリバー。その内六本を教会は確保してたんだが、内三本を野郎は強奪しやがった。

 

 挙句の果てに、なぜか奴さんは悪魔の縄張りに入りやがった。しかもその担当が悪魔のトップである四大魔王の妹で、しかも別の魔王の妹もいるという飛んでも状態。上層部は「あれ? 悪魔と堕天使が手でも組んでるのか?」と邪推してる。

 

 ちなみに、かつての大戦で本来の四大魔王は全員死亡。その後は悪魔側で今後の流れを考慮した内乱の末、本来の魔王一族は追放されて今は当時最強の四人の悪魔が四大魔王を襲名してる。

 

 で、上層部は「下手につつくとまずい」と、勝率五割未満でエクスカリバー使い二人を送り込んでる。こういう時、信仰心強いと「五割未満とか多いな! 殉教上等!」だからめんどい。

 

 ……だがしかし、ここで面倒な連中が名乗りを上げた。

 

 その名も埋葬師団。四人の規格外の戦士である四方聖座と、部下として動く四つの代行大隊で構成される大規模戦闘部隊。教会のタカ派にして武闘派のガス抜きとして作られた実験部隊が、成果を上げてしまって本格的な軍事部隊となった連中。

 

 例えば、悪魔になり下がった者から主の恵みを取り返すための神器摘出技術。例えば、四肢を失うなどで戦えなくなった戦士たちの戦意に応えるための義体技術。例えば、巨大な異形を叩き潰すための大型人型兵器。更には悪魔の力を奪い、聖書の教えのために使っているやつまでいるとか言う眉唾な話まである。

 

 まあそこはともかく。重要なのは奴らが生粋のタカ派だってことだ。

 

 下手すると近年の核減縮ムードに乗じて、核兵器を確保しているなんて噂まである。

 

 なので、我らがイスカリオテの聖剣のトップであるグレイル・グレイバー猊下は俺たちを派遣して抑え込みを図っているらしい。

 

 なにせ埋葬師団は一個大隊を派遣しているからな。下手すると戦争が再発することになりかねない。

 

 ……俺、もしかして責任重大?

 

 うっわ~。がんばらないとまずいよな~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……よし。そろそろ現実逃避終了。

 

 俺は差し出されていた紅茶を一口飲んで、ふぅ、とため息をついて現実を向き合うことにした。

 

「……この状況でお茶を飲むとは、余裕なのかしら?」

 

「いや~。これは現実逃避ッス。今戻りました」

 

 ジト目でこっちを見てくる赤毛のお姉さん。彼女の名はリアス・グレモリーといって、この駒王町の異形的な親玉だ。ちなみに魔王ルシファーを襲名しているサーゼクスって人の妹さんでもある。

 

 で、俺は苦笑いしながら周りを見る。

 

 一番問題視するべきは、二人の金髪少年。

 

 片方は部屋中に神器か何かを使ったのか魔剣を生やしやがった、リアス・グレモリーの従者である悪魔の少年。

 

 ちなみに神器(セイクリッド・ギア)というのは、人間に聖書の神が与えた力。そしてその人間なのだが、後天的に悪魔になることができる。

 

 初代四大魔王を失った悪魔は、他種族を悪魔に転生させる技術を確立。チェスの駒に見立てた悪魔の駒(イーヴィル・ピース)で転生することで主の従者として転生。ちなみに転生した悪魔は功績次第で貴族に昇格できる。

 

 まあそこは置いといて、問題はもう一人の金髪少年。

 

 こちらはこちらで胸にロザリオを吊るした少年が、こっちはこっちで聖剣を部屋中に生やしている。

 

 こっちも視線は絶対零度であり、しかも両手には聖剣を六本も持っている。

 

 ちなみにこの聖剣、名を聖鍵と呼び、俺たちイスカリオテの聖剣のメンバーか、こいつのいる埋葬師団のメンバーだけが具現化可能になる神器もどきというべき代物だ。

 

 ちなみにうちのトップであるグレイバー猊下は「禁手で得たものだよ。まあ、たぶん同郷っぽいから同じ発想に至るのは当然かな?」とか言ってたけど、どういうこっちゃねん。

 

 ……まあそれはそれとして。

 

「とりあえず、全員落ち着いてもらえませんか? 一人ずつ説教させてください。特にゼノヴィアとそちらの……兵藤くん」

 

「え、俺も!?」

 

「私が悪いのか?」

 

 リアがもう明らかに頭痛を感じている表情で、こちらも聖鍵を展開して全方位に牽制しつつ、とりあえず元凶ともいえるもめごとを起こしたうちのゼノヴィアと相手方の兵藤一誠ってやつに非難の目を向ける。

 

 ゼノヴィアは教会が最初に派遣した聖剣使いの1人。攻撃力特化型のエクスカリバーである、破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)の持ち主で、更に奥の手を持っていることから、当初の勝算を四割にまで高めたある意味で切り札です。

 

 で、兵藤一誠ってのはリアス・グレモリーの眷属の1人。どうも兵士らしいけど、戦士の動きじゃない割には度胸がある。少なくともただの一般人が大口叩ける空気じゃないから、どうしようもない馬鹿じゃなければ大物の素質ありだな。

 

 で、事の発端の前に事情を説明しよう。

 

 まず俺たち教会組は、上からの意向である「お前ら堕天使と俺たちの争いに手を出したら承知しねえぞ?」という、まあ喧嘩売ってるよなぁてきな宣言を伝えに来る羽目になった。

 

 ちなみにこれで切れられた場合を想定し、いざという時は俺が相手方に土下座倒しを敢行し、「悪魔に下手に出る気か!?」とかほかの連中がキレないように、リアが後ろでなだめる手はずだ。これに関してはリアス・グレモリーが苛立ちながらも事を荒立てないように抑える姿勢を見せたので、まあ結果オーライ。

 

 が、ここで面倒な子がリアス・グレモリーの眷属になっていることが発覚。

 

 その名はアーシア・アルジェント。

 

 もともと癒しの力を持つ聖女と呼ばれていたのだが、ある時悪魔をいやしてしまったことからさあ大変。

 

 捕虜の取り扱い条約なんて結ばれてるわけでもないこのご時世。のこのこと教会の敷地内に悪魔が入っただけで殺し合い勃発って世の中で、治して逃がしちまったらその時点で大騒ぎだ。

 

 まして癒しの力とは、基本的に神の祝福を受けた存在でしかありえない。悪魔や堕天使を治療する力は、基本的にフェニックスの涙とか言った悪魔側の特注品程度だ。

 

 おかげでその子は追放されたんだけど、何の因果かリアス・グレモリーの眷属悪魔に。それもまだ信仰を持っているとかなんだとか言われ、当人も「捨てきれないだけ」と事実上肯定。

 

 で、ゼノヴィアが「ならば我が刃を受けるがいい」的なことを言っちゃったもんでさあ大変。

 

 当人は善意の介錯のつもりだったんだろうけど、教会を敵視してるだろう悪魔側からすればたまったもんじゃない。こっちがゼノヴィアを止めた方がいいかと悩むより早く、さっきの兵藤一誠が割って入ったわけだ。

 

 で、そこで目の前の兵藤一誠、寄りにもよって「アーシアを殺そうってなら、相手が神だろうと戦ってやる」なんて言った挙句、それに便乗して最初から敵意満々だった金髪が魔剣を生み出し、こっちはこっちで金髪が聖剣を具現化するという緊張状態。

 

 ……暑い日に、マジ返りたいと、ボヤきたい。

 

 ……三流の一句だ。真剣に俳句をやっている人が聞いたら激怒しそうな一句が思い浮かんだよ。

 

「……いいですか? 信徒にとって神とは絶対の存在です。そして私たちは主の敵を打ち倒すために命を懸けて戦うことで信仰を示す存在です。そんな相手に「神だろうが戦う」なんていった時点で宣戦布告と同じですよ? 一下級悪魔が三大勢力の緊張状態を爆発されるなど論外でしょう? 下手したらあなたが悪魔政府に処刑されますよ?」

 

「で、でもあんたらはアーシアを―」

 

「そこでゼノヴィアに説教を移しますから黙ってください」

 

「だからなぜ私なんだ?」

 

 ゼノヴィアは不服極まりない表情だったが、リアは額に青筋すら浮かべながら聖鍵を構えている。

 

 ……状況次第じゃリアがゼノヴィアを殺しそうに見えるな。まあ、そのタイミングで俺をちらりと見てるんで意図は読めた。

 

 俺は阿吽の呼吸でこっちも聖鍵を構えると、それでリアとゼノヴィアの間を遮った。

 

 ジロリとリアが意図的にそうしている非難の演技を理解し、俺もジロリと睨み返す。

 

「落ち着け馬鹿。信徒が悪魔に落ちながら信仰を持つものを見たのなら、「これ以上悪魔として人々を腐らせる真似をさせて、苦しめさせないためにも」介錯しようってのは美談っちゃ美談だ。もしここでゼノヴィアと一戦交えたら、お前が教会から処罰を受けかねないぞ?」

 

「……はぁっ!?」

 

 俺がわかりやすく言ったおかげで、一番わかってほしい兵藤一誠にも伝わったらしい。

 

 素っ頓狂な声を出して、兵藤はむしろ怒り顔になるが、爆発する前に俺がさらに続ける。

 

「面倒くさいことに教会ってのはそういう思考に陥りやすい。何せ自殺を最大級の大罪として禁じているから、信仰心が強ければ強いほど自殺を選択肢にできないからな。俺みたいにいい加減な奴でもない限り、自殺したくてもできない奴はそれを哀れんだ奴に介錯してもらわないといけなくなるんだよ」

 

 そう言いながら、俺は懐から一本の短剣を取り出して、それを見せびらかすように軽く振る。

 

「ちなみにこれが同僚の介錯用にイスカリオテの聖剣(ウチ)で支給されるミゼリコルデって短剣だ。名前の由来は慈悲を意味するミゼリコルディア。さっき言った通り自殺ができない宗教柄、瀕死の騎士に慈悲の一撃を与えるって意味で名づけられたのさ」

 

 わかりやすくいろいろ語ってから、俺は立ち上がって兵藤の肩に手を置いた。

 

「価値観ってのは宗教や歴史でいろいろ変わるもんさ。とりあえずあれでも善意でやってるってことだけは理解しとけ。悪魔の常識、教会の非常識。逆もまたしかり」

 

 最後の一言はゼノヴィアに意識を向けながら言って、俺は肩をすくめるとリアに続きを譲る。

 

 リアも俺の長いセリフでボルテージが下がった風を装って、聖鍵を消してからゼノヴィアに向き直る。

 

「ゼノヴィア。慈悲の一撃を与えようとするその思想は立派とも取れますが、TPOをわきまえてください。この国の言葉でいうのなら、郷に入っては郷に従えといっておきましょう」

 

 リアの言葉に、ゼノヴィアは隣にいる相方の紫藤イリナに顔を向ける。

 

「……どういう意味か知ってるか?」

 

「勿論!」

 

 すっごい自信満々に胸をたたく紫藤イリナ。相方が長続きしないゼノヴィアの相方を務めており、珍しく長続きしてレコード更新中の、形を自由に変えることができる擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の持ち主だ。

 

 ちなみに兵藤一誠とは小学校に入る前ぐらいまで幼馴染だったらしい。なんでもこの駒王町、リアス・グレモリーの前任を教会の戦士たちが討ち取ったとかいう話だそうだ。

 

 ……なんだろう。日本人が日本のことわざに自信満々だっていうのに、不安しか覚えないんだが。

 

 ああ、「聖剣の能力がわかっても遅れなんてとらない」とか無自覚煽りをぶちかましていたからか。

 

 ま、まあ自信満々な日本人なら、日本のことわざぐらい―

 

「郷は偉大な人だから、彼の部下になるなら素直に従った方がいいって意味よ! でもリアス・グレモリーがグレモリー本家時期当主だからって、私たち信徒が言うことを聞く必要があるのかしら?」

 

「……全然違います」

 

「あらあら。日本から離れすぎてて記憶違いを起こしてますわよ?」

 

「っていうかそれ郷〇ろみ! いくら何でもことわざになる時代の人じゃねえだろ!?」

 

 速攻でグレモリー眷属からツッコミが連続で響いた。

 

 白髪のロリっ()に黒髪ポニーテールのお姉さまに、勿論日本人の兵藤一誠のトリプルコンボ。ちなみに金髪は金髪同士でにらみ合っているからスルーしてる。

 

 むしろ日本の芸能人について知ってることが驚きだよ。

 

「……残念なイリナは無視して話を進めましょう」

 

「ざ、残念ってどういうこと!? っていうかどういう意味!?」

 

「よそ者は素直にその土地の流儀に従っとけって意味だよ」

 

 リアにバッサリ切られて涙目になるイリナに、俺は慈悲の言葉を叩き込んだ。

 

 これをミゼリコルデツッコミとでも名付けるべきだろうか? いや何考えてるんだ俺は。

 

「あのですね? 私たちは今から相手の勢力圏内で別の勢力と殺し合いをしようというのですよ? 手出し無用だなんて喧嘩腰で言っておきながら、勝手な判断で相手の身内を殺そうなんて論外です。殺されても文句が言えません」

 

「何を言うか! 信仰を持つものが悪魔になっているのなら、せめて速やかに神の身元に送ってやるのが―」

 

「これは教会の流儀ではなく、それ以前の問題です。今のあなたの行動は正義ではなく、正義の名を借りた横暴ですよ」

 

 ゼノヴィアに鋭い視線を叩き込みながら、リアは再び聖鍵を構える。

 

 本気で攻撃しかねない態度を見せながら、リアはゼノヴィアにはっきりと言い切った。

 

「私たちは主の敵を倒すことで信仰を示すものであり、同時にこの場においては主の代理とみなされるもの。私たちが愚行をすれば、それはすなわち主の名を汚すことになるとわきまえなさい」

 

 そう言い切ると、リアは振り返ってリアス・グレモリーに向きなおる。

 

 その時一瞬目が合ったので、俺は苦笑でねぎらった。

 

 こっそり俺にだけ見えるように、リアが俺にサムズアップしたから、感謝されてるんだろうな。

 

「……申し訳ありません、リアス・グレモリー。何分我々はタカ派寄りで若いものが多いので、なんというかこう……向こう見ずというか無謀というか」

 

「……まあ、わかってくれればいいのよ。問題は―」

 

 と、そこでリアス・グレモリーとリアの視線が同じ方向に向けられる。

 

 そこでは、魔剣と聖剣を生やしている手合いがにらみ合い状態だ。

 

「……さて、先ほどから「殺しに行ける大義名分」を欲しがっているようだね。こちらとしても「悪魔も打倒できる想定外」が欲しかったし、どうせならここで殺しあうかい?」

 

 おーい。挑発しないでくれませんかねー?

 

「いい度胸だね。僕はエクスカリバーさえ折れればそれでいいんだけど、どうやらアーシアさんを切れる理由も欲しいようだ」

 

「普通に考えて、わざわざ探す理由もないんだけどね。人間の欲望を刺激して魂を地獄に導くのが、悪魔という畜産業者だろう?」

 

 金髪の殺意満々の態度に、同じく殺意満々だけど余裕は満点な金髪。

 

 この面倒な構図で、余裕の態度を見せないでくれませんかねぇ?

 

「本来主の裁きを代行する僕たち埋葬師団からすれば、人を家畜に落とす悪魔や多神教を正すのは義務だとも。悔い改めるなら救いを手を差し伸べるけど、そのつもりがないなら断罪を行使するべきだろう?」

 

 すごいこと言ってくるこの男。本気で言っているから始末に負えない。

 

 この連中、自分達を悪魔祓いということすら避けるくせがあるからな。

 

 ただ追い払うのではなく、正しく滅ぼすことを目的とする武闘派集団。それこそ最上級悪魔数人をその眷属ごと滅ぼしたという武勇伝すらある武闘派集団。

 

 その名も―

 

「この埋葬師団が四聖座が末席、後方、ロザール・クロベル。……目の前に悔い改めぬ悪魔がいるなら、必ず滅ぼすことを己に課しているんだけどね」

 

 ―こいつ本当に、めんどい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やあ、俺イッセー! いまめちゃくちゃやばいです!

 

 教会からの使者が「堕天使と戦うけど手を出すな」とか言ってくるし、あろうことかアーシアを殺そうとするからつい文句を言ったら大変なことになった。

 

 なんか懇切丁寧に「善意なんです」とか言われたけど、これが教会の基本なら俺は悪魔でよかったよ。いや、ちゃんとわかるように言ってくれて、その上でたしなめてくれたリアさんって人や麻宮って奴や信用できそうだけど。

 

 で、そのゼノヴィアよりもっと問題っぽいのが、ロザールとかいう奴。

 

 俺の眷属仲間の木場祐斗とにらみ合いになってるけど、敵意はあるけどそれ以上に余裕の色が見える。

 

 こいつ、身内にだってあれな視線を向けられているのになんだよ、この余裕は。

 

「……我が目の前で信徒をたぶらかし悪魔に落としていることまで証明された以上、やはりこの場で殲滅してからコカビエルにあたるべきかな」

 

「ッ! ロザール・クロベル! いくらあなたが埋葬師団の四聖座といえど、枢機卿の意向すら無視して強行作戦は問題行動です!」

 

 なんかとんでもないこと言ってきて、とっさにリアが声を荒げるけど、ロザールとかいう奴は首を傾げた。

 

「おかしなことを言うね? 埋葬連隊の悪魔滅殺は、文字通り主の代行。枢機卿と言えど埋葬連隊(僕ら)の現場の判断をひっくり返すには、それこそ相応の権限がいるものだけれど?」

 

 ……あ、こいつヤバイ奴だ。お近づきになったらいけないタイプだ。

 

 しかも平然と横を向いたせいで、今度は木場が更に切れかけてる!?

 

「どこまで僕をなめ―」

 

 言いながら木場は魔剣を突き付けようとし―

 

「安心してくれ。すでに直下の代行大隊は配置しているさ」

 

 そう言いながら、ロザールは通信機を手に取る。

 

 そして、木場の右腕が落ちた。

 

「な………っ?」

 

「祐斗!? 貴方は……っ!」

 

 呆然とする木場より早く、リアス部長が激高して魔力を右手に込め―

 

「先に剣を抜いたのはそっちじゃないか」

 

 そんな軽い言葉とともに、部長の消滅の魔力が吹き飛ばされる。

 

 みれば、ロザールの右手には部長より高密度の魔力の塊があった。

 

「「「「……な!?」」」」

 

 って、なんで教会の御方々が驚いてますか!?

 

 驚くのは俺たち悪魔だよ!? だってあいつ、教会の人なのに魔力つかってるんだよ!? 驚いて当然だよ!? でも君たち知ってるよね!?

 

 え、なに? これあいつの伏せ札!?

 

「驚かれても困るね。これぐらいの手札がなければ、四聖座の末席にあずかれるわけがないだろう?」

 

 そう苦笑するロザールに、何か言ったのは俺達じゃない。

 

「―驚くのは当然です。これこそが、埋葬連隊の極みである四聖座の御業なのですから」

 

 一人、明らかに悪魔な女の人が始める。

 

「―そう、人の御業を超える、神の奇蹟に匹敵する領域外の力こそ、四聖座の力」

 

 もう一人、悪魔っぽい男が続いた。

 

「真なる神なら余技とはいえ、薄汚い我ら堕落したものが神の御業を見れば、戦慄してもおかしくないでしょうに」

 

 そして、今度は堕天使っぽい男が占める。

 

 ……ってちょっと待て!? 悪魔二人に堕天使が……どこから!?

 

「……いきなり気配が増えました。これは……転移?」

 

 後輩の小猫ちゃんがけげんな表情を浮かべる。

 

「いえ、これはまるでアバドンの特性である、(ホール)……っ」

 

 先輩の朱乃さんも戦慄する。

 

「……ロザール・クロベル、あなたは、今何をしたの!?」

 

「……殲滅の準備を整えて、だけど悔い改めるかいはあることを示しに来たのさ」

 

 そして、いつの間にか現れた十人以上の()()()()使()を後ろにして、ロザールのやつははっきり言った。

 

「今からこの町を悪魔から浄化することを決定した。だけど悔い改め善と正義の試練の道を歩むのなら、僕直下の代行大隊の一員として迎え入れようじゃないか」

 

 ……の野郎っ!

 

 どんだけ余裕だよ。そして、リアス部長たちを殺させると思ってるのか!?

 

「……上等だ。やれるもんならやってみろ」

 

 おいドライグ。フェニックスとやりあったときと同じこと、できるよな。

 

 俺はその答えを聞くことなく、本気を出すことにした。

 

 そして左腕を包むのは、俺に宿った神器(セイクリッド・ギア)

 

 十三種存在するとか言う、オンリーワンの神すら殺せるかもしれない力。

 

 それに気づいて、リアと麻宮が振り返りながら目を見開いた。

 

「……神滅具(ロンギヌス)!?」

 

「っていうかあれ、確か文献で見た……!?」

 

 ああそうさ。

 

 神滅具の一つ。神や魔王すら超えるという、二天龍の一角である赤き龍ドライグ。

 

 その魂を封印した、俺の神器は……。

 

「リアス部長に、俺の仲間に手を出すってなら! この、エロと熱血で仲間とハーレム設立のために生きる、今代の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の宿主、兵藤一誠が相手になってやる!」

 

 俺は思いっきり宣言すると、イリナとゼノヴィアも一歩下がって警戒する。

 

 ま、エクスカリバーつっても七分の一だしな。一本や二本じゃ神滅具は怖いってか?

 

 俺がふと思うと、籠手が光って声が響く。

 

『まあビビるだろうな。本来のエクスカリバーならともかく、今のエクスカリバーでは禁手(バランス・ブレイカー)にさえなれば十分に勝てるさ』

 

 俺の籠手に宿るドライグからもお墨付きいただきました!

 

 ちなみに、俺は代価をささげることで禁手(バランス・ブレイカー)っていうパワーアップ形態になって、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)に10カウントだけなれるのだ! めっちゃ強いぜ!

 

 ま、一回なったときは左腕全部ドラゴン化したんだけどね。でもその調整のために部長や朱乃さんに指をチューチューしてもらえるし、おかげで左腕は聖水や十字架も問題なく振れれるから、ある意味ラッキーかな?

 

『そういうことが言えるのは相棒のすごいところだが、今回は気をつけろよ?』

 

 ……ああ。わかってるってドライグ。

 

 目の前のロザールは、俺を見ても警戒はしてても一歩も引かない。

 

 むしろの、ため息をつく余裕まであるぐらいだ。

 

「……主の奇蹟のたまものでありながら、不の実績があるゆえに危険視される神器(セイクリッド・ギア)が三つもとはね。魔剣創造(ソード・バース)にしろ聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)にしろ信仰のために使うべきだというのに、挙句の果てに赤龍帝の籠手が悪魔となるとはね……」

 

 やれやれと言わんばかりに、ロザールは首を横に振り―

 

「せめて信徒に牙が届かないよう、ここで浄化するのが信仰の証かな?」

 

 ―躊躇なく両手に聖剣を構えやがった!

 

 やろう、ビビる必要もないってか?

 

 ならこっちも、禁手になる準備はした方がいいな!

 

「いいだろう。やはりアーシア・アルジェントはここで介錯するべきか」

 

「ああ、幼馴染が悪魔になるなんてなんて悲劇! でもこれも主の試練なら、乗り越えてイッセー君を裁いてこそ信仰なのよね!」

 

 なんかゼノヴィアもイリナも乗り気だよ! っていうかイリナさん? あなたこの状況愉しんでませんか!

 

 だめだ、ゼノヴィアもあれだけど、イリナとロザール、そしてその後ろの連中はあまり付き合いたくない人種ですよこれは!

 

 俺がちょっと気圧されたその瞬間、今度は俺をかばうように麻宮とリナが割って入った。

 

 こっちもロザールと同じタイプの聖剣を指に挟んで臨戦態勢だ。

 

 っていうかお二人さん? この状況下で悪魔の味方していいの?

 

「落ち着きなさい! ここで私たちが殺しあっても、コカビエルの思うつぼですよ!?」

 

「っていうかちょっと落ち着けや。さっきからごり押しでマナー違反してるのは教会(こっち)側だろ」

 

 あれ? マジで止めてくれるの?

 

 教会にもいいやつがいるんだな~って思ってると、ロザールは二人をにらみつける。

 

「悪魔の味方をするとは論外だね。やはりイスカリオテの聖剣は信仰に問題がありすぎる。……一応審問会にかけるためにも生かしておくべきか」

 

 あ、あいつ完全に俺たちごと二人をつぶす気満々だ。

 

 させるか。こうなったらこの二人も守るぐらいでやるしか―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでにしてほしいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、俺たちがいた部屋全体が、銀色に包まれた。

 

 そして、その銀色が針のように伸びて、俺たち全員の首元に突き付けられる。

 

 ……ってなにこれぇ!?

 

「……まったく。コカビエル殿の暴走にも困ったものだ。こんなくだらない小競り合いまで起きては、実に面倒だな」

 

 そううんざりした口調でいうのは、赤い髪だった。

 

 リアス部長の紅とは違う、本当に赤といった方がいい赤い髪を、長めのボブ風に切りそろえた、俺と同じぐらいの女の子。

 

 なぜか大人びて見えるその凛とした姿は、リアス部長がお姫様なら、姫騎士とかそんな印象を与えてくれる。

 

 そんな彼女を見て、リアス部長は目を見開いた。

 

「あなたは、何でここに……っ」

 

「久しいですなリアス嬢。本家で行われた5年前のパーティ以来でしょうか」

 

 そう言いながら苦笑する、その赤毛の人は俺たちに視線を向け―

 

「………っ」

 

 ―なぜか、一瞬だけ麻宮をみて目を見開いた。

 

 でも、まるで気のせいだったのかと思えぐらい一瞬で元に戻ると、凛とした表情ではっきりと告げる。

 

「神の子を見張る者の研究機関が一つ、「チームカルンウェナン」のリーダを務めているスピネル・(グレモリー)・マルガムだ。取り込み中すまないが、火急の要件ゆえ強引に割って入らせてもらう」

 

 そのよく通る声は、俺たち全員が思わず聞かないといけない風に思えてしまい―

 

「―脱走して双方に迷惑をかけているコカビエルについて話がしたい。火急の要件故にまず聞いていただえると嬉しいのだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『はぁああああああああ!?』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 え、なに!? コカビエルってそっちでも迷惑かけてるのかよ!?

 

 思わず俺たち全員が絶叫するほど、スピネルさんの宣言は驚きだった。

 




 と、いうことでプロローグは終了。次は簡単に設定資料集を用意して、序章としてエクスカリバー編にする予定です。




 今回で登場した完璧オリジナルであるロザール・クロベルですが、この時点のヴァーリ相手なら十分渡り合える実力者です。まあうすうすわかっているとは思いますが、グレンさんよくあるネタである「教会系過激派敵勢力」担当で、状況次第ではイッセー達が三年生になっている時でも強敵として立ち回らせるかもしれません。ちなみに名前は教会系の登場人物ということで、十字架……すなわちロザリオとクロスをもじった感じですね。

 ちなみに魔術師たちの狂騒曲のリベンジである以上、訓練された型月ファンならもう想像ついているとは思いますが、埋葬連隊は埋葬師団からインスパイアした連中です。なので状況次第では枢機卿の意向すらごり押ししますし、討伐対象と認定されたら大司教だろうと問答無用でぶち殺します。その上で「悔い改めて信仰に生きるのなら」悪魔だろうが吸血鬼だろうが堕天使だろうが構成員になりうる組織でもあります。





 そしてラストに登場したスピネル・G・マルガム。まあ水銀で予想がついていると思いますが、彼女です。

 大幅に手直しをすることをした時点で、アザゼル杯編も考慮してオリキャラチームは堕天使側をメインとしつつ教会を加える方向になり、そこで彼女の大幅手直しを行いました。ちなみにスピネルは赤い宝石の一種であり、マルガムは堕天使側についたことでつけた便宜上のファーストネームで「アマルガム」という水銀の化合物の総称から。もうこの時点で魔術師たちの狂騒曲を知っている方々なら正体がもろバレですね。









 さて、当然のごとくハードモード超えてインフェルノモード入っているコカビエルですが、常連さんなら知っているようにグレンさんは「味方を強化するなら敵も強化する」が基本思想。

 ……当然、コカビエルも大幅に強化されております。


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各種設定資料集
設定資料集 味方編(暫定的に他の敵関係も)


と、言うわけで設定資料集です。

最終的に味方オンリーになる予定ですが、文字数の都合もあるので敵(将来的)もいったんこっちに入れることがあるのでご容赦を。









9月16日 投稿


◎イスカリオテの聖剣

 

 教会の属する特殊組織。信徒として問題がある実力者と信徒として行き過ぎ気味な実力者を組み合わせて中和して運用することを目的とした組織。半面双方ともに実力者であるからこそなので、任務の難易度は高いが成功率も生存率も高い。

 

 ◇麻宮(あさみや)鶴来(つるぎ)

 本作メイン主人公。イスカリオテの聖剣の第五剣を務める少年。

 日本出身だが、海外でテロにあって孤児→違法実験施設に捕われて実験体→施設の壊滅に伴い再び浮浪者→教会に拾われて(形の上は)信徒→能力を見込まれて悪魔祓い見習い→真の力と精神性をグレイルに気づかれてイスカリオテの聖剣……という波乱万丈の半生を送っている。

 

 三大欲求を中心に俗物的な欲求が割と強いが、拾ってもらい社会的地位までもらった義理から週一程度でできる限りこっそりと満たす程度にとどめるなど、義理はそれなりに通す主義。

 

 物心ついた時の思い出が原風景であり、それゆえに前向きに物事を考える癖がある。結果として波乱万丈な半生を送りながらも、変人ではあるがひねくれてはいない人格を持つ。

 

 

 

 ◇十文字(じゅうもんじ)リア

 イスカリオテの聖剣に所属する悪魔祓い。第五剣である鶴来のお目付け役を務める。

 

 信仰心が強すぎて逆に問題ありとみなされており、人間的には善性だが信徒としては問題とみなされた鶴来とお互いに中和することを目論んでパートナーになる。結果としてかたくなさは取れ鶴来の欲求発散も上手くとりなせる人格になっている。むしろ鶴来を意図的にカウンターウェイトにして上手く立ち回るやり口すら覚えている。

 

 

 ◇グレイル・グレイバー

 イスカリオテの聖剣を結成した助祭枢機卿。

 人が良く気弱な風に見え、割と命令は押し通す主義。また基本的には平和主義だが、平和のためにやるべきことは多少えげつないこともやれる食えない人物。

 

 

 

◎チームカルンウェナン

 堕天使側の研究組織の一つ。

 コカビエルの独断行動に対応するため、駒王学園に来訪しリアス・グレモリー眷属と接触する。

 

 ◇スピネル・(グレモリー)・マルガム

 チームカルンウェナンのリーダー。ミドルネームからも分かるが、グレモリー家に所縁のある少女。

 

 

 

◎埋葬連隊

 教会のタカ派武装組織。元々は戦争再開派の信徒のガス抜きとして結成されたのだが、成果が出てしまったことでタカ派の集まりどころか生成集団と化している。

 

 〇四聖座

 埋葬連隊の最強戦力にして最高幹部。一人一人が魔王クラスすら単独で打倒の余地がある戦闘能力を持ち、人の領域を超えた力を持つ。

 

 ◇ロザール・クロベル

 埋葬連隊から派遣された、最強戦力にして筆頭幹部「四聖座」の後方。

 悪魔の特性を使い、悪魔や堕天使を率いているのが特徴。

 悔い改めるなら悪魔や堕天使を部下として迎え入れる度量を持つが、悔い改めないなら躊躇なく殺しに行ける人物。



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第一章 三大勢力同盟編
第一章 1  薄氷の共同戦線


……プランを変更して、ロンギヌス・イレギュラーズのようにある程度の話の流れの方向性に合わせて章を作るスタイルにしました。

第一章は三大勢力同盟に至るまでの流れで行く予定です。


『『『『『『『『『『はぁああああああああ!?』』』』』』』』』』

 

 どうも。いまかなりの人数とともに絶叫した、麻宮鶴来です。

 

 さて、教会(こっち)の問題児共のせいで、悪魔をかばって大立ち回りをすることになるかと思ったら急転直下。とんでもない情報が堕天使側からもたらされてきましたよ、奥さん。

 

 なぜか俺の後ろ(かばってるからね)の後ろにいるリアス・グレモリーの分家と思われる(リアス・グレモリーが本家の娘だからね)、スピネルとかいう人が、堕天使側の人員として来訪。

 

 チームカルンウェナンとかいうグループの一員とか言った彼女は、コカビエルが()()とか言ってきた。

 

 おかげでいま大合唱。俺も含めてほとんどの連中が大声を上げたよ。

 

 そしてそれを想定してたのか、スピネルは俺たちを軽く見渡して顔の認識とかやっているようで―

 

「「―――ッ」」

 

 ―俺と目が合った瞬間、なんかビビっときた。

 

 こ、これは―

 

「……まさか運命の相―」

 

「―ああ、スマンが私は同性愛者だ。自分でも困っているんだが異性に恋愛感情が抱けなくてな。女装してから出直してこい」

 

 バッサリ切られた。

 

 あ、でも―

 

「……すいません。俺教会に行く前にいた実験施設で、両性愛者(バイセクシャル)の彼氏がいる女研究員がぐっと来たんで「女装するんで変則スワッピン〇したいんですけど」って言ったらOKもらったんで、問題無いでぶろぉ!?」

 

「―教会に入る前とはいえ、そんなとんでもない性に対する暴走具合を暴露しないでください」

 

 絶対零度の視線とともに、リアのかかとが俺の背中にめり込んだ。

 

 こ、この女! 蹴り倒したうえにそれかよ!!

 

「……それぐらいの捨て身が必要なのか。なんて厳しいんだ、エッチなことをするのは……っ」

 

 なんか赤龍帝が戦慄している!?

 

 あれ? 俺なんか変なこと言った?

 

「おいおい。男は〇ナ〇で感じるようにできてるんだから、前をお姉さんでいっぱいにしておっぱいにうずめれば問題ないだろ? むしろ後ろも前も気持ちよくて総合的にプラすぶろぉ!?」

 

「それ以上、教会の戦士が語ったら異端審問抜きで殺しますよ?」

 

 真剣に痛い! 殺意が、かかとに殺意が!?

 

「……はぁ。来歴を聞いたこともあったので、多少の性欲処理は見過ごしてきましたのは手ぬるかったようです。……私の努力は何だったのか……もうっ」

 

 すいません。ため息つきながら聖鍵を具現化しないでください。

 

 それなに? 処刑する気満々? 殺害後の取り調べの予行演習かなにか?

 

 ヘルプミー! ヘルプミー!

 

「……割と高確率で地獄に落ちるね、君」

 

 ロザールぅううううう! 心底見下げ果てたなんて表情を浮かべるんじゃねえええええええええ!!!

 

 男だろ! エッチなことしたくなる年頃だろ!? 何もなくても股に血流があつまる年代だろ!?

 

 なんでそんな他人事なんだよ!

 

「いや、スコプツィを見習って切り落としているけど、肛門も切除した方がいいんだろうか?」

 

 こいつ去勢してやがった! ロシアの少数派閥を参考にしてるんじゃねえよ!

 

 童貞のままちょん切るとか、男としてどうなんだ!? しかも十代でやるとか正気じゃねえ、掘られる専門のホ〇か!

 

「……スコプツィも子供を設けるまでは切除しないと聞いたが?」

 

 ゼノヴィア、そこじゃねえ!

 

 俺を助けろ、フォロープリーズ!!

 

「実は生まれつき無精子症でね。必要性がかけらもないなら、余計な重荷は捨てた方がいいじゃないか」

 

 そうですか。それは大変ですねロザール。

 

 でもインポじゃないならもっと入れたいと思って大切にしていいよね!?

 

 やっぱ正気じゃねえ!

 

 っていうか誰か助けてくれ。っていうか紫藤イリナは何か言えよ!

 

「……スケベも度が過ぎるとこうなるのね。主は許さないでくれると嬉しいけど、イッセー君もスケベはほどほどにね?」

 

「………ああ、俺はこんな風にはならない!」

 

 敵味方(悪魔と信徒)に分かれた幼馴染の和解に俺を使うなぁああああああ!

 

 特に兵藤一誠。お前はもう少しロザールにツッコミを入れたらどうだ。

 

「俺は麻宮もロザールも見習わない。一生現役のまま、ついでに後ろもかわいがってくれるお姉さんとエッチなことをして、ハーレム王に俺はなる!」

 

 ……おい、おしりをいじられる想像したのか鼻血が出てるぞ?

 

「まずイッセー君のほうを裁くべき気がしてきたわ。悪魔になったからって汚れすぎよ!」

 

「……なる前からこんなので有名です」

 

 おい紫藤に悪魔のロリっ娘。なにを兵藤と俺に冷たい視線を向けてから視線を交わして頷きあうんだ。

 

 兵藤のアレっぷりに引くだけにしろよ。なんで俺の合理的な判断にドン引きするんだ。

 

「……まあ、性器は挿入(いれ)たり挿入(いれ)られたりすれば快感を感じるようにできているからな。……どうせ子供を作るつもりだし、本気で女装するなら考えてもいいぞ?」

 

「スピネル。再開していきなりすごいこと言うのやめて」

 

 なんかありがたいことを言われたら、リアス・グレモリーがツッコミまで入れてきたぞ。

 

「……合理的と言ってほしいな。リアス嬢のような当主を継ぐ者からすれば、こういう合理的判断はした方がいい時もあるぞ?」

 

 すごい合理的な対応ありがとう! 俺が教会出身でなければ逆ルパンダイブだったよ!

 

 と、そんな返答にリアス・グレモリーが顔を赤らめて周りを見る。

 

「私は普通に男が好きだからいいのよ。……この状況で言わせないでよ」

 

 ……視線が結構な頻度で兵藤一誠に向けられてないか?

 

 ふと、俺たちの視線はリアス・グレモリーと兵藤一誠を交互に向けてしまう。

 

「あらあら。わかりやすいですわね、部長」

 

「……気づかないのは当人ばかりなり」

 

「ぶ、部長さん! 木場さんの治療をしてる時にずるいです!」

 

「え、ど、どういうこと? ……まさか、部長についに恋人が!? 嘘だぁあああああああ!?」

 

 ……あー。女性陣の対応で現状がわかって来たわ。

 

 つまり、兵藤一誠は主と同僚から想いを寄せられてるけど、一切気づいていないと。

 

 どこのハーレム物主人公だよ。リアルにこんな鈍感がいるとか驚きだな。

 

 っていうか、今緊張状態だから絶望すんなや。

 

「……スピネル様。そろそろ入ってもよろしいでしょうか?」

 

 と、そこで更に扉の向こうから声が届く。

 

 みればそこには、三人の男女の姿があった。

 

 全員まじめな表情をしてるけど、年齢は一人の男が二十代で、あとの男女は俺と同じぐらいか?

 

 いや、悪魔が率いる堕天使のチームだ。わけがわからなさすぎるけど、外見年齢で惑わされてはいかんいかん。

 

 実は数百歳とか普通にあると考えるべきで―

 

「……ちょっと」

 

 と、そこで少女の方が俺に視線を向けてきてた。

 

「なに? 逆ナンパ」

 

「………私はまだ十九歳だから。これでもスピネルさ……様より年上だけど、それでも変に年長者扱いしないでよね」

 

 あ、そうですか。

 

 っていう心読むなや。

 

「ちょ、ちょっとミーラ。この緊張してるのか混乱してるのかわからない状態で、あまり刺激するのは―」

 

「まあ落ち着けラルド。見る限り、彼はこちらに対する敵意はないようだ。……別の意味で不安だからこそ、ミーラが警戒するのもわかるものだけどな」

 

 と、少女の後ろで少年の方が二十代の男に止められていた。

 

「……あ、ごめんラルド、ナクサ先輩も」

 

 と、少女のほうが振り返りながら軽く頭を下げる。

 

 なるほど。どうもこの三人はプライベートでも気安い関係ということか。

 

 そして年長の男がナクサで、少年がラルドで、少女がミーラと。

 

 そしてスピネルの方はどこかほっこりした表情でそれを見ていることと言い、結構カルンウェナンとかいったチームはフレンドリーなのかもな。

 

 ちょっとうらやましいぜ。教会組織はどうしてもお堅いから、俺みたいないい加減なタイプは時々だらけたくなるからなぁ。

 

 ……さて。それじゃあそろそろ気を取り直して真剣になるか。

 

「……で、堕天使さんがどういうことで? できればさっきの話を真剣に考えるぅぶろぉおおおおお!」

 

「ちょっと黙っててください。……ですが、この状況下で入ってくるのは命知らずと言えるものではないでしょうか?」

 

 俺がバカを言ってリアが二重の意味でシメる。これまでやってきた円滑な話を持っていくためのコンボを叩き込みつつ、俺たちはそれとなくロザールを見る。

 

 見るからに「殺す相手が増えた」程度の認識の目線をしているロザールに、正直不安だ。

 

 下手をしなくても大惨事になりかねない。タカ派からすれば、教皇猊下や高位の天使に匹敵する信奉者を持つ埋葬師団の四聖座。本人がちょっと前に言った通り、こいつの現場の判断は、冗談抜きで下手な枢機卿を超える発言力を持つだろう。

 

 だからこそ、こいつが黒といえば、即座に直下の代行大隊がこの街が戦場になる。冗談抜きでリアス・グレモリー及びソーナ・シトリー達上級悪魔とその眷属に、同時にスピネル・(グレモリー)・マルガムが率いるカルンウェナンを同時に相手どって殺し合いだ。

 

 何せ文字通り代行大隊とは、歩兵一個大隊規模の大勢力。さらに全員が、基本的に俺たちイスカリオテの聖剣の戦士たちと同様に聖錠と聖鍵を保有している。

 

 つまりは全員神器(セイクリッド・ギア)保有者と同義。比較的には下位なんだけど、それでも異形相手に通用するレベルの神器を保有。しかも元から神器を持っていれば、性能が上乗せされてるようなもんだ。

 

 そんな連中が歩兵一個大隊規模。堕天使最強格のコカビエルを相手にするならまあ納得物で、(タチ)の悪いことにこいつらは敵が増えた程度で戸惑う連中じゃない。

 

 ……まずいな。確実にまずい。

 

「……さて。神の子を見張る者(そちら)の幹部が教会(こちら)を襲撃してるんだ。どんな言い訳をするつもりか知らないけど、僕の権限をひっくり返せる言い訳ができるのかい?」

 

 そう。ロザールは遠慮する気がかけらもない。

 

 微笑みすら浮かべて、いつでも殺せる体制に入っている。遠慮する気が全くなく、すでにグレモリーとシトリーの眷属ごと殺せる体制に入っている。

 

 そんなマジヤバイ状況下に、スピネルは―

 

「―安心してくれ。今から言う共闘要請は、四大魔王とバチカンにも、時間差はあれど届くからな」

 

 ―そのロザールすら一瞬固まるほどの内容をたたき出した。

 

 共闘要請……は、コカビエルが暴走しているといっていたからまだいい。

 

 だけど待て。四大魔王とバチカンにも?

 

 ……それってつまり―

 

「現四大魔王には冥界と地続きだし、バチカンも地球ならつながっているから連絡はできる。私は現地の担当かつ時間稼ぎ担当だ」

 

「……お兄様たちにも!? ちょっと待ちなさい!」

 

 リアス・グレモリーが泡を食ったかのように食って掛かる。

 

 なんかマジで焦ってるみたいなんだが、何事?

 

「……今のお兄様に心配をかけさせるわけには―」

 

「―リアス嬢」

 

 そんなリアス・グレモリーを、スピネルは遮るように告げる。

 

 そこには同年代とは思えないほどの、年長者が幼子を気遣うような労りがあった。

 

「自分の力量を越えている問題というのは、可及的速やかにできるものに助けを求めるべきだ。追い詰められた状態でいきなり伝えられるよりは、初期段階で伝えて準備をする余裕があった方がマシだろう」

 

 スピネルの言葉に、リアス・グレモリーは反論したそうだったけど、できないと判断したのか我慢して座った。

 

「……でも、セラフォルー様がソーナの窮地を知って冷静になれるかしら」

 

「……フリーダムすぎるからな、異形社会は」

 

 グレモリーの二人が遠い目をする。

 

 あのすいません。現四大魔王って、戦争継続とかを好んでないとかって話では?

 

「……それで、時間稼ぎというのは?」

 

 話を進めようと、リアがため息交じりにそう促す。

 

 それに対し、答えるのはスピネルではなくナクサだった。

 

 そしてスピネルも文句を言わない。むしろ部下にも役割を与えないとと言わんばかりのその態度は、自分一人で何でもしないという雰囲気が見せられた、人を動かすものとして優秀な奮起が見せられる。

 

 外見年齢はリアス・グレモリーと同じ感じだけど、もしかして百年ぐらい生きてる感じか?

 

 俺がそんなことを考えながら、ナクサはしっかりと背筋を伸ばして口を開く。

 

「僭越ながらこちらが説明を。まず前提として、現状の神の子を見張る者(グリゴリ)において、運営陣で戦争再開を望んでいるのはコカビエル殿だけ。つまり、この戦争の本格再開すら危ぶまれる事態は完全な彼の独断です」

 

 ……独断でこんなことしてるの?

 

 とんでもない事態を起こしてくれたと思ったりしてたんだが、どうやら堕天使側もそんなことを思っていたらしい。

 

 大半の連中が堕天使側に同情の視線を向ける中、ナクサはしれっと話を続ける。

 

「そのため本来は我々がどうにかするべき状況なのですが、事情と思惑が一つずつありますので、共闘という形にもっていこうとしております」

 

「……というと?」

 

 リアス・グレモリーが促し、それにうなづいたナクサはさらに続けた。

 

「……まず事情の方ですが、戦争継続は筆頭のコカビエル殿は強化装備をいくつも用意しております。また奪取したエクスカリバーの使い手も見繕える状況です」

 

 え~。まさかと思ってたけどそれができるのかよ。まじで面倒なんですけど。

 

 俺たちがちょっと警戒度合を上げる中、ナクサは申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「対しこちらは、コカビエル殿をどうにかできる人員が手を離せない状況です。コカビエル殿もそのタイミングを見計らっており、現状最も早く動ける白龍皇も、どれだけ早くとも明日になってからでしょう」

 

『……ほぉ。白いのは堕天使のところにいるのか』

 

 と、そこで兵藤の籠手から声が聞こえる。

 

 どうやら赤龍帝ドライグの意識らしい。楽しそうだな。

 

 と、そこで兵藤の方が首をかしげる。

 

「……確か、お前と一緒に三大勢力に迷惑かけまくったっていう?」

 

 どうやら、兵藤一誠はこちらの業界に入って日が浅いらしい。

 

 ある程度の知識を持ってれば、仮にも赤龍帝が対を成す白龍皇に対して知識を持っているべきだろう。こと、堕天使を意識せざるを得ない悪魔になったのなら。

 

 ゼノヴィアがそこに対してぽつりとつぶやく。

 

「白龍皇は堕天使勢力でも五指に入る実力者になっているそうだな」

 

「ええ。狗刃(スラッシュ・ドッグ)白龍皇(アルビオン)は、双方ともに別の意味でも特例。そのためすでに神の子を見張る物全体でも指折りの実力者です」

 

 そう返答したナクサは、そのまま静かに告げる。

 

「つまり、現状では悪魔や教会ともめつつ状況を打開することは困難なのが実情。彼はどうやら政権奪取でセラフを刺激し、その足で現魔王の親族を殺して開戦の火ぶたを切ろうとしている様子。余計な四つ巴になっては世界にとっても神の子を見張る者にとっても理にならないと判断しております」

 

 そして、そう言い切ると同時にスピネルが静かに手を上げ、そこからは自分でいうと示しながら口を開く。

 

「それが事情で、そして思惑もつながるのだよ。……神の子を見張る者は、この事態を終えた後に三大勢力で会談を申し込みたいと願っている」

 

『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』

 

 俺も含めて堕天使側以外の全員が驚く中、スピネルは指を鳴らす。

 

 そしてナクサ以外の二人が、それぞれ悪魔側と教会側に見えるようにタブレットを取り出すと、画像を見せる。

 

 そこには、メールが広げられていた。

 

 内容はそれぞれ現魔王政府及びバチカン市国に向かった人員からの報告書。

 

 その内容は単純明快。

 

―了承得たり

 

 その事実に、ロザールが本気で苦虫をかみつぶした表情を浮かべたその瞬間。

 

「と、言うことだ。とりあえず明朝には増援も来るようなので、全員でそれまで警戒をしていようではないか」

 

 勝者の余裕を見せつけながら、今ここに三大勢力の共同戦線が成立した。




 アザゼル「この流れを利用して、いっそのこと和平の流れを作っちまった方がいいんじゃねえか?」

 ってな感じで堕天使側が先手を取った形です。

 ちなみに、コカビエルが本格的に動くまであと二話ぐらいなのじゃよ。














 あとクロスオーバーする作品、増やそうか悩み中です。

 いや、この作品のクロスの方向性的に、クロスオーバーといっていいのかというツッコミは飛んできそうですけどね?


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第一章 2 嵐の前の変態談義

さて、三勢力の薄氷の同盟が成立して、ほんの少しの時間。


 

 共同戦線が成立したといっても、まあ何でもかんでも混成部隊というわけでもない。

 

 何せ数の上での主力は埋葬連隊の代行大隊一つ。こいつらは生粋のタカ派であり、悪魔や堕天使が悔い改めてもいないのに共闘なんて論外って連中ばかりだ。

 

 しかも末恐ろしいことに、ロザール配下の代行大隊は三割ぐらいが堕天使や悪魔、もしくはその血を引いている者だったり転生悪魔だったりするそうだ。悔い改めて教会に入ったからこそ、悔い改めずに悪逆非道を繰り返す同族に対する敵意は強い。入ってきた連中は発見即抹殺(サーチアンドデストロイ)をしない程度には理性的な連中を、投降の余地ありと見せつけるために用意していたらしい。

 

 その外周部を警戒する連中は、あくまで殺し合いをしないという程度で待機。場所をきちんとカルンウェナンに伝えることで、「近づいた堕天使陣営は敵」という認識にすることで対応している。

 

 そしてゼノヴィアとイリナも別行動……というより、代行大隊から部隊をある程度融通してもらって、この駒王町でコカビエル一派がいないか探索中。

 

 リアス・グレモリー眷属たちは、全体の情報統括などを行ってもらってるんだが―

 

「………」

 

 ―そこで待機という名のお目付け役をすることになった俺は、敵意満々の金髪に辟易していた。

 

「……あの、僕たちが何かしましたか?」

 

 ラルドとか言った少年がそう言いたくなるのもわかるぐらい、金髪はこっちに敵意満々の視線を向けている。

 

 主が手を組むといったから我慢してますが、いやいやです。……それが見え見えだった。

 

 ったく。こっちとしてもコカビエル側のやばさが面倒なことになってるみたいで、余計な戦闘はしたくないんだがな。

 

 コカビエルに同調して消えたはぐれ悪魔祓いや堕天使は四桁を超える。さすがに潜入する都合上全員が入っているとはいいがたいが、それでも粒ぞろいの連中があつまってる可能性は十分にあった。

 

 そんな状況下で余計な内輪もめはしたくないんだがなぁ。

 

 と、思ってたらドアがノックされて、なんか駒王学園(ここ)の生徒っぽいのが入ってきた。

 

 見るからに男子学生っぽいけど、この状況で入ってくるということは関係者か?

 

「……あのー。会長……いや、ソーナ・シトリー様からの使いできたんですがー」

 

「あ、この街に住んでいる異形関係者についての名簿なら、堕天使側(こちら)が頼んだものです」

 

 と、ラルドとか言っていた少年が、片手を上げて応じる。

 

「ありがとうございます。増援との兼ね合いでもめないためにも、ある程度の把握は必要でしたから」

 

「……そりゃどーも」

 

 和やかに応対するラルドに対して、生徒の方はちょっと警戒している。

 

 ま、悪魔と敵対している教会側や神の子を見張る者側のやつ相手に警戒しない悪魔の方がどうかしてるわな。

 

 それは当然なんだが、生徒はちらりと金髪の方を見ると、俺たちを手招きする。

 

 なんとなく素直に応じたら、そのまま小声でこそこそと耳打ちしてきた。

 

「……何かしたのか? あのさわやかイケメン王子が何であんな荒んでる状態なんだよ?」

 

 ……さわやか。

 

 それとなーく、金髪のほうを見る。

 

 ……さわ、やか?

 

「……ふだん、そんな感じなの?」

 

 ラルドが敬語を忘れてそう聞くぐらいには、イメージが直結しない印象なんですけど。

 

「そりゃもう、この駒王学園男子人気でたぶんトップ独走の男だぜ。……畜生、俺にも一割ぐらい、一割ぐらいあんな感じのがあれば……っ」

 

 あのすいません。歯ぎしりまでして血涙流しそうな悔しげな表情を浮かべないでください。

 

 どんだけ悔しいんだよ。いや、年頃の男ならもてたいと思うのは当然だけども。

 

「……あのさぁ。こういう年頃の女の子ってのは恋愛とかそういうのに幻想見てるし、男は男で似たようなもんなんだよ。まず童貞を遊びでいいから捨てろ。まずはそこからだ」

 

 俺はポンと肩に手を置きながら諭す。

 

「……君はもうちょっと性的にまじめになった方がいいと思うよ?」

 

「あんた、それでも教会の悪魔祓いか」

 

 おい、(転生)悪魔と堕天使(陣営)がそろって信徒に見下げ果てたものを見る目を向けるな。

 

「いや、俺は教会に拾われた義理で信仰してるだけだから。むしろお前らは悪魔や堕天使側なんだから、もうちょっと遊んだほうがいいと思うぞ?」

 

「いや、たしかに僕堕天使になってるけど、そんなにはっちゃける気はないよ?」

 

 ………ん?

 

 ラルド君、ちょっと待とうか。

 

「「今なんつった?」」

 

「……あ」

 

 ラルドはちょっと詰まったかのように視線を逸らすけど、やがてちょっとため息をついて気持ちを切り替えたらしい。

 

 うん教えて。転生制度は悪魔側だけが実用化している代物なのに、なんで堕天使が転生しとるねん。

 

「……スピネル様の研究で、一応転生悪魔ならぬ転生堕天使技術は確立してるんだよ。上層部は正式採用しなかったから、スピネル様の独占技術になってるけど」

 

「え、マジで? っていうか転生制度却下したのかよ!?」

 

 転生悪魔の人が驚いてるけど、当然だな。

 

 堕天使側にとっても転生制度はメリット多いだろうに。いったいなんで?

 

 ……っていうか再現できたのなら、もしかして転生天使とかもできるのか?

 

 いやいや、まず聞くべきは一つだろ、一つ。

 

「……なんでまた」

 

「いや、不良天使をわざわざ増やす必要もないとか。天使が堕ちるのは大歓迎とか言ってたけど」

 

 俺の質問に素直に答えてくれることと言い、どうやらマジらしい。

 

 いや、マジか。

 

 戦争再開に興味を持ってないのはスピネルが言っていたけど、こりゃマジっぽいな。

 

 なるほどなるほど。よくわかった。

 

「……んじゃ、とりあえず話し戻すけど、異性に夢を見すぎてもいいことないから童貞はさっさと捨てた方がいいぞ?」

 

「切り替え早いな!? っていうか、もっと深く聞いた方がいいんじゃね?」

 

 ええ~? だって深く踏み込んで答えてくれる方がどうかしてるだろ、そんなもの。

 

 そんなことより、変に女に夢を見て人生こじらせるほうが問題だって。

 

「女だって性欲はあるし、男とは別の意味でアレなところはあるんだよ。へんな純情保ってないで卒業しとけ」

 

「絶対に断る! 俺は、会長で童貞を捨て、そして―」

 

 俺の説得を振り切るように、転生悪魔は息を吸い込み―

 

「―会長と、できちゃった結婚をするんだ!!」

 

 ―魂からの本音を叫んだ。

 

 ………うん。

 

「なんか、ごめん」

 

「なんで謝る!?」

 

 いや、なんとなく。

 

「……あの、どういうこと?」

 

「……彼は匙元士郎といって、この駒王学園で生徒会長を務めている支鳥蒼菜ことソーナ・シトリー先輩の眷属悪魔なんだよ」

 

 後ろでラルドが、毒気を抜かれた金髪にフォローを受けている。

 

 うん。これは何というか、シリアスになれないよな。

 

 少なくとも、シリアスになったらいけないことだと思う。

 

 っていうかこれでシリアスになれる奴がいたら見てみたいって。

 

「……そう、だったのか」

 

 なんか、めっちゃシリアスなトーンが聞こえる。

 

 振り返ると、そこには赤龍帝の兵藤一誠が、全身を震わせていた。

 

 そして静かに震える手で、匙の肩に手を置く。

 

「匙。俺は、俺の夢は、部長のおっぱいを吸うことだ」

 

 ……命知らずと言いたいけど、たぶんその夢はすぐにでもかなえられると思うぞ?

 

 俺はそう思ったが、匙もまた全身を震わせる。

 

「主の、おっぱいを? そ、そんなことが―」

 

「できるさ。少なくとも、俺は部長の生おっぱいをこの目で見たし、何より顔を埋めることもキスしてもらうこともできた」

 

「「なん……だと」」

 

「あれ? なんで君までショック受けてるの?」

 

「なんというか、あの三人……似てるのかもね」

 

 はっ! 後ろでラルドと金髪が指摘しなければ、俺は自覚できなかった。

 

 あのおっぱいを服ではなくマッパで見て、更にはダイブできたなど、なんて奇跡だ。

 

 思わず声が出るぐらいの衝撃だ。なんてことだ。義理がなければ転生悪魔になりたいといってしまいそうだ。

 

 我慢我慢。そんな理由で教会を抜けるのは、お世話になった人たちに対してあまりに礼儀がなってないだろう。

 

 我慢だ、我慢!

 

「俺たちは同士だったんだな。それなのに、俺はお前のことを嫌って……」

 

「気にすんな、嫌われるのは慣れてる。それより、今この場で生まれた友情の方が大事さ」

 

「……たぶんくだらないことでもだえ苦しんでいる教会の戦士と、おっぱいで意気投合した悪魔の友情………カオスだ」

 

「その、三割ぐらいごめん」

 

 うるさいな!

 

「っていうかそこの金髪! さっきから共同戦線を張るってのに睨んでばっかってのも空気悪いだろ! なんで睨んでるのか理由を説明しろ! 理由を!」

 

 納得できれば大抵のことは流せるんだよ。納得できるどころかそもそも理由が出てこないから困ってるんだよ俺は!!

 

「……ああ、木場は聖剣計画で失敗作として殺されかけたって部長から聞いたけど」

 

 ……そんな奴がエクスカリバー使いを見れば、そりゃいい感情は浮かばいね。

 

 当然だったわ。納得!

 

 説明ありがとう兵藤一誠!

 

「……え? 聖剣計画? なにそれ?」

 

「……あ~。そういえばコカビエルさんに同調した人に、当時の計画責任者がいたような……」

 

 ………ん?

 

 あのすいません。匙と一緒についていけてないラルドさんや。

 

 今、なんつった!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……コカビエルの配下に、「皆殺しの大司教」が?」

 

「その通りだ。ゆえにコカビエル殿が奪っていったエクスカリバーに、使い手が見繕わられている可能性は大きいだろう」

 

 リアスは、リアやスピネルと交わした情報交換で、何かしらの運命を感じてしまった。

 

 自分の眷属の木場祐斗は、聖剣計画の被験者になり、そして失敗作として処分されそうになって逃げだした瀕死の状態だったのを、自分が救った少年だ。

 

 その当時の計画主任であるバルパー・ガリレイという男は、その行動を問題視され教会を追放。そして堕天使側についていたらしく、しかも今回のコカビエルの暴走に同調している。そうなれば当然のこと、コカビエルが奪取したエクスカリバーの使い手も用意できている可能性がある。

 

 さらにそのコカビエルの追撃に、完成した人工聖剣使いが二名も参加している。

 

「……はっきり言ってできすぎね。運命というものを信じたくなったわ」

 

「そういうこともあるものだよ、リアス嬢。世の中、全くドラマチックな出来事を経験せずに一生を終える者もいれば、望んでもないのに日常茶飯事で驚天動地な物語に巻き込まれる手合いもいる者さ」

 

 したり顔でそう諭しながら、スピネルは紅茶を一口飲む。

 

 それで気分を切り替えたのか、スピネルはリアスの隣にいる朱乃に視線を向ける。

 

 正直な話、朱乃はスピネルに対して警戒心をしっかりとむけている。そしてそれは自分の眷属であることや転生悪魔であることとは関係ない。ついでに言えば、スピネルが堕天使側に行く前から、そのあたりの情報を彼女は知りえていたはずだ。

 

 さらに堕天使側についてからも情報があるだろうし、何か言ってくるのかもしれない。

 

 そう思ったのだが、スピネルはもう一度紅茶を口に運び、それで切り替えたのか顔をリアの方に向ける。

 

「さて、次は連携を考慮するべきことだろうな。とはいえ、こちらもすべてを開示できるわけでもないのだが」

 

「……そうですね。あまりお互いに話しすぎるのは、現状では避けるべき状況です」

 

 このピーキーな問題を理解していないリアは素直に返答するが、しかし耐えきれないものがいてもおかしくないのが実情だ。

 

「……スピネルさん。貴女は、私に言うことはないのですか?」

 

 そして、朱乃は耐えられなかった側だったようだ。

 

 なんとなく予想できていたからこそ、リアスもため息はつかずに眷属の意思を汲むことにする。

 

「……そうね。神の子を見張る者(グリゴリ)の首脳陣から言われて派遣されたのなら、当然知っていてもおかしくないことがあるわ」

 

「……ふむ、まあ知ってはいるが―」

 

 リアスにうなづきながら、然しスピネルはちらりとリアを見てから、静かに首を振った。

 

「思うところはあるが言うことはない。他人が言うのは野暮というものだし、そんなことをするような関係ではないのだから」

 

「………一応、お礼は言ってきますわ」

 

 朱乃はそう言って一礼するが、然し態度は硬くなっている。

 

 どうやら、そういう関係扱いされたこと自体が癪に障ったらしい。

 

 代わりに謝るべきかと思ったが、この場でやると朱乃の不興を買いそうなので、見えない角度で軽く手で謝るにとどめておく。

 

 リアの視界には映っているが、うかつに深入りしていい内容ではないと判断して、静かに紅茶を一口飲んで流すことにしたようだ。

 

 それに感謝しつつ、リアスは話を進めようとして―

 

『―リアス、大変です』

 

 ―念話でソーナが連絡を入れてくる。

 

 ソーナにも協力を要請し、今はある程度の準備をしてもらっていたところなのだが、その口調には緊張感がにじんでいた。

 

「どうしたの?」

 

 手短かに促すと、ソーナもまた即座に応えてくれる。

 

「……教会側がコカビエル側と接敵したようです。一応こちらにも連絡が来ましたが、今追撃戦が行われているようですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおん! なんて話だ、許せねぇえええええ!!」

 

 大泣きして鼻水すら流す匙に軽く引きながら、しかし俺もまあ同意ではある。

 

 教会の醜聞である、聖剣計画の初期責任者であるバルパー・ガリレイ。その所行を被害者の視点で語られると、確かにこれはきっつい。

 

 全く。正義を成す側と行動が正義であるかは別の話だってのに、その辺を考えない連中が多すぎるのは困ったもんだ。

 

 ……あれ? 俺ってめちゃくちゃ信徒としていい加減な生活してるけど、こいつと比べたらましに見えてきたぞ? 比較対象が悪いだけだとは思うけど、頑張ってくれよ本格的な信徒め。

 

 俺がため息をついていると、俺たちの耳元に魔方陣が展開して通信が入る。

 

 内容は単純明快。エクスカリバー使いのゼノヴィア・イリナ組が接敵して追撃しているらしい。そこに代行大隊も一個分隊ほど追随しているとか。

 

 こりゃ、俺たちも行った方がいいか。

 

「仕方ねえ。ちょっくら行ってくるか」

 

 俺は話を聞くように渡された紅茶をあおり、そして飲み干して立ち上がる。

 

「……一緒に行っていいかな? バルパーがいるなら、できればこの怒りを叩きつけたい」

 

 木場祐斗も立ち上がりかけるが、俺はそれを手で制す。

 

 なにせ代行大隊が向かってるなら、連携が取れる気がしない。

 

 流れ弾に見せかけて殺すなんて面倒な事されても困るからな。その辺は気を使わないと。

 

「見つけたら半殺しにして突き出すよ。だから待ってろ」

 

 俺はそういうと、軽く伸びをしながら歩き出す。

 

「おい、気をつけろよ」

 

「……そうだね。本隊が来るまで無茶は避けてね」

 

「ああ、頑張れよ」

 

 後ろから次々に声援が来る。

 

 なんというか、すでに仲間意識が芽生えてるみたいだな。

 

 そんな簡単に敵味方が変わるわけでもないんだが。いや、こいつらならそういう軽い切り替えができるかもな。

 

 んじゃまあ、俺が言うべきことはなんだろか……よし。

 

「コカビエル倒したら自分にご褒美をしたいんでな。あとでうまい飯屋を教えてくれや」

 

「「「「それ死亡フラグ!?」」」」

 

 ………あ、やべ。

 

 総ツッコミ受けて初めて気づいた。

 

 ま、まあ大丈夫……だよな?

 




はい、次からコカビエルが本格的に動き出します。

こっからが大変ですぜぇ?


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第一章 3 開戦派の猛威!

 さて、それでは戦闘タイムに入ります!


 

 大丈夫だけど大丈夫じゃなかったぁああああ!!!

 

「っしゃぁ! 死ねやぁ!」

 

「やかましい!」

 

 思わず裏拳で、襲い掛かってきたはぐれ悪魔祓いを叩きのめす。

 

 なかなか鍛えられた動きで突きを繰り出してきたが、殺気が駄々洩れなので後ろから突いてきた意味がない。

 

 ったく。ここまで大騒ぎになるとは思ってなかったな。

 

 俺たちが追いついた時点で、すでにコカビエル一派と代行大隊は戦闘を開始していた。

 

 ……問題は、敵が結構戦力を集めていた……どころではないことだ。

 

「……これはいったいどういうことでしょうか?」

 

 同じく襲い掛かってくる敵堕天使に、攻撃を最小限に動きで回避しつつ聖鍵を叩き込んだリアが、怪訝な表情を浮かべる。

 

 敵陣営の人数は精々50人程度。堕天使も一割程度いたが、まあこの程度なら人数は大したことがない

 

 対して代行大隊はすでに二個中隊が合流。代行大隊では五人一班で構成し、単位が増えるごとに三倍するといっていい。つまり90人いるわけだ。

 

 人数的にはこちらが圧倒しており、防衛戦であることを考慮しても、聖剣使いがいることを考慮すれば有利なはずだった。

 

 が、ここで想定外の事態が頻発する。

 

「ひゃぁ! 死ねやぁ!!」

 

 その原因がやってきた。

 

 明らかにテンションがアレなモヒカンのはぐれ悪魔祓いが、俺たちを狙って飛び降りて斬撃を振り下ろす。

 

 この技量なら紙一重レベルの動きで回避することは余裕だった。普段なら追加効果などを警戒しても、そこまで派手に回避行動をとるような攻撃ではない。

 

 だが、今回は事情が違う。

 

「鶴来!」

 

「リア!」

 

 俺とリアは同時にお互いを蹴り飛ばし急速回避。多少痛くても確実に距離をとることを優先した結果、一気にお互い20メートル離れることができた。

 

 そして、飛び降りながら振るわれた相手の斬撃は、地面に叩きつけられると同時に直径15mほどのクレーターをぶちかます。

 

 近接攻撃であることを考慮すれば、上級悪魔クラスの難敵だと判断するだろう。少なくともこの程度の動きのはぐれ悪魔祓いができることじゃない。

 

 だが、持っている獲物を見れば一発で納得できる。

 

 そしてそれを一番許せない相手が、遠慮なく怒りを叩きつけた。

 

「貴様ぁ! そのまがい物をすぐに捨てろ!!」

 

「ぬぉっとぉ!」

 

 豪快に振るわれるゼノヴィアの破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を、奴さんは全力のフルスイングで迎撃する。

 

 そしてその攻撃は、盛大にぶつかり合いながらも拮抗する。

 

 驚くべきことだけど、驚くべきことじゃない。

 

 その矛盾した事実は、お互いの()()()()()だからこそできる矛盾だ。

 

 そして年期と技量と才能の差でゼノヴィアが攻防を制して相手をぶった切り、めちゃくちゃ歯噛みした。

 

「……どういうことだ! なぜエクスカリバーが5本も敵にわたっている!」

 

 そう、この敵共は、5人が分割されたエクスカリバーを持っていたのだ。

 

 ……冗談抜きでありえないだろ。エクスカリバーは七本あるけど、それぞれすべてがオンリーワンだってのに。

 

 破壊の聖剣、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)

 

 教会が死守した祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)や、紛失した最後の一本を除いた五本が目白押しだった。

 

 本物持ってるゼノヴィアやイリナは、それに血が上っている。そして代行大隊もそれに面食らって連携が崩れ、こうしててこずってるわけだ。

 

 だが、腐ってもエクスカリバーは性能を発揮している。そのせいでこっちもかなり苦戦気味だ。

 

 死者は特に出てないようだが、重傷者は多数。だいぶ削れているけど、エクスカリバー使いが残っていることと代行大隊に転生含めた悪魔が結構いることもあって厄介だな。

 

 しかも―

 

「戦士イリナ! しっかりしてください!」

 

「……大丈夫よ~。だっていま、主とミカエル様がニコニコ笑顔で手を振ってるわぁ~」

 

「だめだ! 幻覚見えてる!!」

 

 ―イリナが開幕速攻の集中攻撃でリタイアしている。

 

 むしろ集中攻撃からカウンターで一人ぶった切っていることも考えると大金星なんだけど、この状況下でこれはまずいな。

 

「まずいですね。というより、ロザールたちはどうしました?」

 

「まずいです。あちらも同数の敵に襲撃を受けている模様です!」

 

 リアの質問に返ってきた答えは、面倒なことの証明だな。

 

 ……だが、肝心のコカビエルが行方不明ってのはきついんだが―

 

「……おい、やばいぞ!」

 

 と、そこで通信機を片手に連絡を取り合っていた代行大隊の戦士が声を張り上げる。

 

「今度はなんだよ!」

 

「コカビエルは駒王学園です! そこでエクスカリバー合一化の儀式を行い、この町の住民ごとリアス・グレモリー達を殺すことで、開戦の狼煙を上げるとのことです!」

 

 やばすぎだろ!

 

「……残敵掃討にはどれだけの人員が必要ですか!?」

 

代行大隊(我々)だけで十分ですが……よろしいので?」

 

 リアに答える通信担当の考えている内容は、何となくだがわかる。

 

 生粋のタカ派である埋葬連隊の一員としては、こちらが命を懸けてまで、悪魔や堕天使側を助ける必要性を感じないのだろう。

 

 だけどなぁ……。

 

「悪いが、俺は悪魔=で断罪対象って判断はしない主義なんでな」

 

「この町に住む無辜の民も守る。少なくともそれはいいことである以上、彼女たちに共闘するには十分な理由です」

 

 俺もリアも、その辺はしっかりきっかり同意見なんでな。

 

 だからこそ―

 

「行きますかね」

 

「行きましょう」

 

 お互いそこは、確定事項だ。

 

「そういうことなら私も行こう」

 

 っと、そこでゼノヴィアさんまで来ますかい。

 

「いいんですか?」

 

「ああ。コカビエルやバルパー・ガリレイには、聞きたいことが山ほどあるんでな」

 

 ならいいか。

 

 さて、堕天使側の増援とやらが来るまで、凌がさせてもらいますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、イッセーです。お約束潰しって概念を、俺は現実に目のあたりしています。

 

 というより、状況が大ピンチすぎる。

 

 まず第一に、俺たちは堕天使コカビエルに追い込まれてる。

 

 戦争が起きなくて退屈だから、エクスカリバーを盗んだりリアス部長を殺したりして、天界や魔王様を挑発しようとか言うとんでもない奴だ。

 

 しかも、開戦の狼煙としてこの町の人間ごと殺すとか言ってきやがった。

 

 だから何とかしようと出てきたけど、前座のケルベロスだけでてこずったし。

 

 しかもコカビエルについてきやがった奴が、バルパー・ガリレイ。

 

 こいつが語った聖剣計画の真相が最悪だ。

 

 なんでも、聖剣使いの適性は肉体にある因子で決まるとか。で、バルパーはその因子を人から摘出して、移植することで聖剣使いを人工的に生み出す技術を作り上げた。今の教会でも技術そのものは流用してる。

 

 ……だけど、こいつは因子を抜き取った後の木場や同僚たちを、用済みとして殺しやがったんだ。

 

 そしてその時の因子の結晶を投げて飛ばしたけど、そこから奇跡が起きた。

 

 俺の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の影響か、結晶に込められた残留思念が解放され、木場はその影響で禁手に至った。

 

 その名も、双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)。魔剣と聖剣の双方の性質が融合した、聖魔剣を作り出す能力だ。

 

 聖魔剣の力は絶大だ。間違いなく、俺が代償を払って至る疑似的な禁手以外なら、俺たちの中で最強だろう。

 

 その力は本当に絶大で―

 

「―だがたりないぜええええええ!」

 

「……くぅっ!」

 

 ―それでも、フリードを崩せない!

 

 フリードのエクスカリバーは、まるでゼノヴィアやイリナのエクスカリバーの力まで取り込んだかのように、変幻自在で威力もでかい。

 

 それどころか、フリードがまいた聖水が、まるで俺が赤龍帝の籠手で強化したときみたいに強い浄化の力で木場の動きをけん制する。

 

 なんだよこれ、ちょっとは空気を読めよ!

 

「ふむ、さすがに本来の力通りなら、エクスカリバーでどうにかできるということか。ありえない聖と魔の融合と言えどこの程度……いや、むしろフリードがまだ慣れてないとはいえ食い下がられているあたり、絶大というほかないな」

 

 バルパーの野郎は、余裕の表情を浮かべながら、足元を見る。

 

 そこにはでかいクレーターができていて、中央部にはまだ光の槍が残っている。

 

 バルパーがなんか言いかけた時、コカビエルが放った槍だった。

 

 それを躱したバルパーのやつは、苦笑しながら飛んでるコカビエルに視線を向ける。

 

「まったく。確かに秘匿事項なのは想像できるが、どうせばらしても問題ないだろうに。なぜ隠す」

 

「……それもそうだな。なら、ちょうどいいしグレモリー共に冥途の土産でも」

 

 その時、なんかすっごい聖なるオーラが感じた。

 

「コカビエルぅ!」

 

 突貫するゼノヴィアに、それを追い越して援護射撃で飛んでくる、十字架っぽい聖剣が合計12本。

 

 たしかリアや麻宮が使ってたのと同じ聖剣! ってことは、あいつら戻って来たのか!

 

 そしてその十字架を翼で吹き飛ばしたコカビエルは、ゼノヴィアを見て面食らった。

 

「……デュランダルだと!?」

 

「ああ、貴様相手では手抜きはできん!!」

 

 ゼノヴィアの一撃を、コカビエルは光の剣で受け止める。

 

 その光景を見て、バルパーのやつは口をあんぐり開けていた。

 

「馬鹿な! 私でも出来なかったデュランダルの適合者製造を、バチカンのやつらができているだと!?」

 

「安心しろ。私は天然物でね。デュランダルは強すぎて加減ができないから、破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)も兼任していただけだ!」

 

 すごいこと言ってるんですけど、ゼノヴィアのやつ。

 

 だけど、バルパーはともかくコカビエルのやつは、なんか残念そうにため息をついた。

 

「デュランダルはさすがに驚いたが、使い手がこの程度ではな」

 

 そうため息をつくと、コカビエルはいったんゼノヴィアから距離をとると、光の剣を消して―

 

「先代はお前ぐらいの時に俺を一人で追い詰めたぞ? その程度では拍子抜けだな」

 

 ―なんか両手からほとんど透明なガトリングガンを出してきたんですけど。

 

「蜂の巣になるといい」

 

 しかもなんかほんとに弾丸ばらまいてきたんだけどぉおおお!?

 

「チッ! 数が多い―」

 

「させると思いますか!」

 

 リアがゼノヴィアの前に躍り出て、そしてさらにその前の前に鱗みたいなオーラが表れた弾幕を防ぐ。

 

 おお、なんか頑丈だな、これは!

 

 ってそんなこと言ってる場合じゃない。こっちも反撃しないと。

 

「雷よ!」

 

 そこで朱乃さんが雷を叩き込む。

 

 と、思ったらコカビエルが片手をふるった瞬間に氷の壁ができてそれを受け止めた!?

 

 え、なんなのアイツ。氷魔法の使い手か何かかよ!

 

「……なかなかに便利だな。だが、これを突破できんとはバラキエルの血が泣くぞ?」

 

「私を、あのようなものと一緒にするな!」

 

 コカビエルによくわからないことを言われて、朱乃さんがなんか切れた!?

 

 だけどコカビエルは雷を無視しながら片手をふるうと、今度は氷でできた鳥が舞い踊って、朱乃さんを叩き飛ばす!

 

 ってまずい! 頭から落ちてる!

 

「うぉっとぉ!? 朱乃さん、無事ですか!?」

 

「……っ。あ、イッセーくん……」

 

 よし。まだコカビエルに怒ってるのか顔は赤いけど、大丈夫そうだ。

 

 あの野郎、絶対許さねえ!

 

 しかもコカビエルの野郎、なんかめちゃくちゃ余裕そうじゃねえか、っていうか退屈そうじゃねえか。

 

「どいつもこいつもこの程度か。ま、仕えるべき主を失った勢力などその程度なのかもな」

 

 あの野郎、馬鹿にしやがって!

 

 っていうか、仕えるべき主ってどういうことだよ。

 

「まだリアス部長は健在だぜ、この野郎!」

 

 俺が大声で文句を言うけど、コカビエルは「お前何言ってんの?」とでもいいそうな目をむけてきやがった。

 

「お前は何を言っている。少しは周りを見てみろ」

 

 ほんとに言うかコラァ!

 

 ……ん? 周り?

 

 なんとなく周りを見てみると、誰もがちょっと動きを止めている。

 

 え、なに? どういうこと?

 

「使えるべき主……? 悪魔は初代の魔王だろうけど、信徒(こっち)は?」

 

 麻宮が首をかしげるけど、どういうことだ?

 

 まあ初代の魔王様はみんな死んでるのは知ってる。だけど、教会の仕える側って、神様だよな?

 

 ん? どういうこと?

 

 俺が首をかしげていると、バルパーがため息をついた。

 

「いい加減気づいたらどうだ。聖と魔は本来交じり合わないのが世界の在り方。それが起きているということは、世界の在り方すら揺るがすほどの事態が起きてバランスが乱れているということだ。……図らずも、聖魔剣こそが物的証拠なのだよ」

 

「僕達の聖魔剣が……証拠だと?」

 

 木場がそう吐き捨てるけど、なんか顔色が悪くないか?

 

 え、なに、どういうこと?

 

 俺が首をかしげていると、バルパーとコカビエルがため息をついた。

 

「……今代の赤龍帝は察しが悪いな」

 

「同感だ。バルパー(お前)が真っ先に気づいたのは優秀だが、ここまで言われたらさすがに気づけよ」

 

 こ、この野郎……っ!

 

 馬鹿で悪かったな。だったら教えろよ。

 

 そう思ったそのとき。フリードが授業中の生徒みたいに手を挙げた。

 

「せんせーい! もしかして聖書の神のくそったれって、とっくの昔に死んじゃってるんですかー?」

 

 ……………

 

 はい?

 

 俺が、その質問に固まると同時に、バルパーはちらりとコカビエルに目を向ける。

 

「だそうだが、答えは知っているやつが言え」

 

「正解だ」

 

 ………え?

 

 あの、それって……。

 

 神様死んでるのかよぉおおおおお!?

 

「嘘だ……嘘だ!?」

 

「そんな……では、救いは……主の救いは?」

 

「………ぁ………」

 

 っていうか、ゼノヴィアのアーシアが今にも倒れそうになってる。リアさんも茫然自失になって、手に持っていた聖剣を何本か落としている。

 

 そんな様子を見て、コカビエルはつまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

「フン。事実だから、お前たちのような熱心な信徒にも取りこぼしが出ているのだろうに。聖書の神はシステムを作って奇蹟を起こしているから死後も多少は機能するが、それでも神が生きていた時のようにはいかん。ミカエルたちはよくやっているが、これまで通りにいくわけがないさ」

 

「……ぁ………っ」

 

 ってアーシア!?

 

 俺は全力で走り寄ると、倒れたアーシアを抱きかかえる。

 

 くそ、めちゃくちゃ茫然としてやがる。ゼノヴィアも崩れ落ちてるし、リアも今度こそ全部の聖剣を取り落とした。

 

「ふん。デュランダル使いも、至っていないのに俺の攻撃を聖龍の献身(タラスコン・シェルター)で防いだ女もダメージがでかいか。だから秘匿されているのさ」

 

 コカビエルは二人を馬鹿にしながら、そんなことを言ってきた。

 

「結局人間のほとんどはすがるものがいなければ碌に立つこともできん生き物。ミカエルはもちろん、我々堕天使やお前たち悪魔すら上層部以外にはこの事実を伝えんのもまあ、わからんではない」

 

「だったら……っ」

 

 そのコカビエルの言い草に、リアス部長が歯を食いしばって吠えた。

 

「だったら、今更何でこんなことをするというのよ!!」

 

「逆だ。だからこそだよ」

 

 コカビエルは、なんか即答する。

 

「むしろそんな情勢下になっているのにのうのうと縮こまっていることの方が問題だ。ただでさえその影響か来訪者がいつ来るかわからんというのに、いまだほかの神話どころか三大勢力の覇権すら握らないなどばかげている。……アザゼルめ、なにが「二度目の戦争はない」だ!」

 

 コカビエルは最後にそうなんか勝手に怒ると、拳を掲げて大きく吠える。

 

「貴様らがやらんのなら俺がやってやろう。堕天使が最強だということを……否、堕天使が最強になるのだと、今この場で世界全てに宣戦布告をしてくれる! そうすれば鎖国に興じている馬鹿な神どもも目を覚ますだろうしなぁ!!」

 

 そして、コカビエルは魔法陣を展開した。

 

「教えてやろう。本当はエクスカリバー合一の余波で生まれるエネルギーを使って街を吹き飛ばすつもりだったが、技術試験もかねてそのエネルギーを利用して住民事貴様らを殺す存在を具現化することにシフトしたのだよ。それを、貴様ら見せてやろう」

 

 何のつもりだよ、てめえ!

 

「第一の命令を下す。宝具、青髭鰐の暴食(ブルー・ベアード・アリゲーター)大罪の大喰(グラトニー・メーカー)を同時発動し、この街の住人を食らいつくし魂食いもしろ」

 

 な、なんだなんだ?

 

「第二の命令を下す。ただしこの魔法陣に登録された者たちには宝具の鰐も含めて汝が危害を加えることを禁ずる」

 

 いや、誰に言ってんだよ?

 

 俺が首をかしげていると、コカビエルはどこからともなくなんか銃を取り出した。

 

 ら、ライフル銃?

 

「第三の命令を下す。……貴様に向いた武器を用意したから、この無尽銃・破甲(ブレイクアーマー・ガーランド)を武器に使え」

 

 た、たましいぐい? わに?

 

 ど、どういうこと―

 

「その三種の命を専攻契約として、さあ、我が命に従い分身を下ろせ、バーサーカー……ジョーボール!」

 

 ば、バーサーカー!?

 

 ど、どういうことだぁ!?

 




 はい、ついに出てきましたFate! サーヴァントが出てきました! あともう一つクロス作品出てきましたが、これに関しては種を語るのにもうちょっとかかるので、もう少しお待ちください。








 まあ、いきなりオリジナルサーヴァント出てきてますけど、そこはご了承ください。サーヴァントステータスは結構後になってしまうことをご了承ください。

 まあ、基本は幻霊側な手合いを出しましたが、これに関しても裏があります。連続殺人鬼系列は変なキャラ付けしてもあまり気にならないんで、怪人ポジションレベルで出していこうかと思っております。


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第一章 4 来訪する罪人

 さて、クロス作品はもうちょっと増やすことにしました。どれぐらい増やすかはもうちょっと考え中ですけどね。

 あと、それによって埋葬連隊と原作でいう英雄派が強化されるということを前もって伝えさせていただきます。








 そして、運命との再会はもうすぐそこに。


 その気配を、スピネル・G・マルガムは理解した。

 

 可能性は想定していたが、どうやら本当に使ったらしい。しかもこの感覚からすれば、召喚された存在はかなり特殊な系列らしい。

 

「やってくれたな、コカビエル殿……っ」

 

「何が起きたかわかるのですが、スピネル」

 

 ともに結界を張って周囲をカバーしているソーナが、怪訝な表情を浮かべる。

 

 事情を理解できていないのなら当然ではある。それゆえに、スピネルは簡潔に答える。

 

「敵に増援が追加された。端的に言えばそれだけだが、問題が一つある」

 

「問題!? 問題っていったいなんだよ!?」

 

 ソーナの隣で結界展開を支援していた匙元士郎に、スピネルが噛んで含めるように言った。

 

「その増援が誰かはわからないが、何かしらの切り札を持っており、それの内容次第ではコカビエル殿を超える難敵になりえるということだ」

 

 実際、最悪の場合を想定すれば、実に厄介なことになりかねない。

 

 たとえば―

 

「……禁手に至った神滅具(ロンギヌス)が敵に回る可能性もある。そう考えていいだろう」

 

 そのスピネルの言葉に、誰もが目を見張った。

 

 この状況下でそうなれば、この町はほぼ確実に終わる。

 

 その懸念を多くのものが覚えた時、ナクサは一瞬瞑目してから、スピネルに視線を向ける。

 

「スピネル様。そうなれば現状で対抗可能なのはスピネル様です。主を危険にさらすのは不本意ですが、ここは私に任せてコカビエル殿の迎撃を」

 

「……それも考えるべきか」

 

 スピネルもうなづくと、指を鳴らして一つの物体を具現化させる。

 

 それは二十リットルほどの内容量を持つ金属製のタンク。

 

 そして、スピネルは息を軽く吸い込んでから、それを起動させる。

 

「湧きたて、我が血潮」

 

 その言葉とともに、タンクの蓋が内側からあき、中から液体がひとりでに飛び出した。

 

 それはまるでプラチナのような輝きをもった液体金属。それがまるで意思を持ったスライムのように動くと、スピネルの体にまとわりつく。

 

 それは服の上から白金の鎧にサーコートのような形状で集まり、そして一部液体金属がスピネルを守るかのように形を変え、薙刀に変化。更にそれでも余っている液体金属が、まるで風船のように膨れ上がり、二つの球体

 

 それはまるで、ゲームの女騎士のようなちぐはぐな装いだったが、不思議とマッチするその印象に、誰もが一瞬見とれる。

 

 そしてそれを意識することなく、スピネルはまっすぐに駒王学園を見据える。

 

「……せめてあいつが間に合えばよかったんだが―」

 

「……ぅぉおおおおおおい!」

 

 その声が聞こえた瞬間、スピネルは瞼を閉じて一瞬だけ沈黙した。

 

「……来ましたか」

 

 ナクサは静かにうなづき。

 

「何も知らないと出待ちに思えるこのタイミング。意外と主人公属性あるわね、あいつ」

 

 ミーラは苦笑しながらも喜色を隠さず。

 

「……というより、タッグで市外の警戒とかに回された彼も大変だろうけどね」

 

 ラルドは同行していたもう一人の同僚を思い。

 

 そして、スピネルは声を張り上げてそれを喜ぶ。

 

「―よく間に合わせた。助かったぞ、義弟!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―ああ! 道交法無視して突っ走ってきたからね! 後処理よろしく、義姉さん!」

 

 その声に、答える少年の声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うぅうううううう! 親友を、親友を無視しないで! このカルンウェナンのエースを無視しないでぇええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 本命は別の少女なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああくそ! イスカリオテの聖剣が第五剣、麻宮鶴来の人生はここで終わりなのか!

 

 そう言いたくなるぐらいには詰んでるっていうか―

 

「Gaaaaaaaaaaaッ!」

 

「おっと!」

 

 とっさに伏せて、放たれる銃弾を回避。さらにその勢いで前転してから、流れるように走って回避。

 

 そして連射で放たれる銃弾を全部避けながら、俺はとっさに襲い掛かってきた鰐三匹をぶった切り、そのまま縦に積んで盾にする。

 

 クソッタレ。あの野郎が出てきてから面倒なことになってるな、オイ。

 

 現れたのは、見るからにどっかの外国で酒場を経営してそうな男性だった。ただし目は血走っており、明らかに正気じゃない。

 

 こいつはこいつで神の子を見張る者の施設からコカビエルが失敬したっぽい弾丸撃ち放題の銃剣付きオートマチックライフルで攻撃してきてるけど、それ以上にやばいのはあいつが出てきてから現れまくるこの鰐共。

 

 鰐の中にはちゃちなライフル弾ならはじける表皮を持つのもいるが、それにしても結構頑丈というかなんというか。

 

 それこそ対物ライフルに対して数発程度なら盾にできるのは凶悪だろうに。どうなってんだオイ。

 

 しかもぽこじゃかぽこじゃか召喚されるという素敵仕様。そのくせ人肉狙いなのか俺たちだけでなく外に出ようとしてくるので、結界はあるけどコカビエルの興が乗ってぶっ壊されたら大変だから、こっちも始末しないとまずい。

 

 しかも現役信徒のリアとゼノヴィアは動きに精彩を欠いており、聖魔剣を手にした木場祐斗も若干尾を引いている。悪魔になってなお信仰を捨てなかったアーシア・アルジェントに至ってはまだ茫然自失状態だ。

 

 おかげでこっちの負担も大きいが、コカビエル・フリード・バルパーに至っては、完全に観戦ムードだ。野郎ぶちのめしてやる。

 

 つっても伏せ札を使うにもタイミングってもんがある。下手に切ってもエクスカリバー持ちのフリードとコカビエルを同時にやるのは無理があるから、あいつらまで介入させて負担激増でアウトになったら終わりだ。

 

 堕天使側の増援とか、ロザールとかどうなってんだ畜生が!

 

「面白いことになってるな! おい、そのままだと鰐に食い殺されるぞ?」

 

「ボス! 俺っちポップコーン買ってきていいですかい?」

 

「ああ、これはこれで面白そうだからついでに酒を買ってきてくれ……どうせこの町は滅ぼすのだし、殺して奪ってきてもいいぞ?」

 

 ……やっぱりここで開放してやろうか。俺の堪忍袋にも限界があるぞ、コラ。

 

 くそ、あの野郎マジでぶっ飛ばしたい。だけど俺一人では鰐を相手にしながらエクスカリバー(フリード)やコカビエルを相手にするのは―

 

「……てめえら! さっきから聞いてりゃふざけんな!!」

 

 イッセー! お前結構頑張ってるな!

 

 っていうかマジ頑張ってるな。下手したら俺より倒してないか? いや、あのオッサン俺に意識向けてるからってのもあるけど。

 

「俺のハーレム王になる夢と、俺の大事なリアス部長やアーシア達と、俺の住んでるこの街を、なんでお前の都合で滅ぼされなきゃならないんだよ、ふざけんな!」

 

 イッセー、お前根性あるな!

 

 コカビエル相手にそこまで言えるとか、ただのバカじゃなければ大物の素質あるぞ!

 

 コカビエルもちょっとだけ興味が引かれたのか、少しだけ面白そうなものを見る表情だった。

 

「ふむ、夢に関してだけでいいなら、俺についてくればかなえてやるぞ? それなりに美人を見繕ってやる。なにせ神滅具はそこらのおもちゃとは違って優秀な力だからな」

 

 三下の悪党みたいな勧誘するなよ。

 

 お前はこの国が生んだ伝説的ゲーム第一作のラスボスかよ。全く信用できないっての。

 

 なあ?

 

「………マジか」

 

 呆然となるな鰐が口開けてるからぁああああ!

 

「イッセー! 何を惑わされてるのよ!」

 

「状況考えろ! B級映画みたいな状況なんだぞ馬鹿!」

 

 リアス・グレモリーと一緒にツッコミ入れる羽目になったよ! ついでに鰐をぶった切ったよ!

 

「イッセー! あなたはどうしてこういう時にシリアスを持続できないの!」

 

「っていうか周り見て! マジで危なかったんだからな、マジで!!」

 

 またリアス・グレモリーと連携ツッコミを入れる羽目になったじゃねえか。

 

 兵藤は兵藤でちょっと後ろ髪惹かれてるし。

 

「ご、ごめんなさい! どうもハーレムという言葉に弱くて―」

 

「うん。気持ちわかるけど落ち着け。今は一瞬の油断が命取りだからな? B級パニック映画じみた状況だからな」

 

 なんで俺は、男として共感しつつも敵対しているはずの勢力の男に対する説教を、鰐をぶった切りながらしなけりゃいけないんだよ。

 

 リアス・グレモリーも鰐を消し飛ばしながら額に手を当てていた。

 

「もう。そんなに言うなら、コカビエルをどうにかできたら何でもしてあげるわよ」

 

 その瞬間、兵藤は固まった。

 

「だから状況考えろぉおおおおおお!!」

 

 なんで俺はカバーする相手をこんなくだらない理由で増やされなきゃいけないんだ!

 

「……なんでも? なんでもって……吸っても?」

 

 今そこ!? 今そこじゃないよ!?

 

 俺頑張ってるよ!? 一生懸命鰐を切ったり射抜いたり突き刺したりしてるよ!?

 

 お願い、すぐにこっちに戻ってこい!!

 

「コカビエルをそれで倒せるなら、安いものね」

 

 グレモリーさぁあああああん!?

 

 そっち!? 今怒るところじゃないでしょうかねぇ!?

 

 くそ、こうなったらちょっと無謀だが切り札を―

 

「ぃいいいいいいっよっしゃあああああああああっ!」

 

 ―なんかすごいオーラ出たぁあああああ!?

 

 兵藤から出てきたオーラで、鰐の大群が吹き飛んだぁああああ!?

 

 俺はかろうじて耐えれたよ! この位置だと吹き飛んだら校舎に直撃して大けがだよ!

 

 え、何この展開。

 

 おっぱいちゅーちゅーできるから覚醒って、ここなんてエロゲぇ!?

 

 はっ! いや冷静に考えろ。

 

 これなら、俺が切り札を使えば、フリードとコカビエルまでならなんとかできる!

 

「乳を吸えるかもしれんというだけでこの力。……貴様、何者だ?」

 

「あーボス? たぶんそれ、聞いたら頭痛しかしない返答が来るパターンな気がするんですがねぇ?」

 

 よし、コカビエルたちの注意の兵藤が(意図せず)引き付けてくれている。

 

 今のうちに―

 

「覚えとけ、俺はおっぱい大好きハーレム王になる男、兵藤一誠!」

 

「……抜刀(セット)

 

 剣を鞘から引き抜くイメージを―

 

「エロと熱血で生きる、今代の赤龍帝でリアス・グレモリー様の兵士(ポーン)だぁあああああ!」

 

 ―もうちょっとシリアスになってくれない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその時、声が響いた。

 

「いい感じだねぇ! その意気や、よし!」

 

「まあ確かに。理由は少々困ったものだが、まっすぐで気持ちのいい馬鹿は嫌いにはなれんな」

 

 スピネルの声に堕天使側の増援と思い、リアス・グレモリーはとっさに声のしたほうを振り返る。

 

 ……そして、その格好にちょっと面食らった。

 

「リリカルマジカル悪党退治! ふと見た露店で魔力残滓。そのまま買って修理して、なつかれたので相棒に!」

 

『わん!』

 

 緑色の髪を背中にまで伸ばした少女が、そこにいた。

 

 ちなみになんかかっこつけたポーズをとっており、微妙に痛い。

 

 そして肩には十数センチ程度の小犬のぬいぐるみが、なぜか少女のポーズを真似しながら乗っかっていた。

 

 普通に落ちそうなのだが落ちないあたり、魔法か何かを使っているのだろうか。無駄な技術を使っている気がする。

 

「西にマフィアの悪事があれば、助走をつけてぶちのめし! 東で魔術で生贄かるなら、走って殴ってぶちのめす! 悪党退治の道中に、命落とすと覚悟をしてれば、会えぬと思った親友が!」

 

「……兵藤一誠、ちょっとそこを動くな」

 

 誰もがあきれ半分で見ていると、いつの間にかスピネルがイッセーの近くにまで来ていた。

 

 なぜか彼女は白金の装備を身に着けておりそこからつながっているかのように白金の液体金属が動き、イッセーの足元に魔方陣らしきものを作り出す。

 

 そこに宝石と見まごう樹脂の塊を規則的に置きながらスピネルはイッセーに告げる。

 

「兵藤一誠。貴殿は禁手には目覚めているか?」

 

「へ? いや、代価を払えば十秒程度だけど―」

 

「では勝てんな、時間が足りん」

 

 そうバッサリと切り捨てながら、然しスピネルはにやりと笑う。

 

「だから少し待て。こちらで対価の変わりとなる術式を用意すれば、十分程度は持続できるはずだ」

 

「だ、堕天使の技術はそんなことまで!?」

 

 思わずリアスが目を見張るが、スピネルは作業をしつつも器用に胸を張る。

 

 リアスには大きく劣るが割とある胸に、イッセーが見とれるがそれは余談。

 

 スピネルの表情には、明確な勝機を見出した者が持つ独自の雰囲気があった。

 

 そして同時に、それは自分がすごいことをしていると思ったもの特有の得意げというものもあった。

 

「いや、これは私の半固有技能とでもいうべきものだ。堕天使の技術では莫大なコストと時間を必要とする道具が必要となるのでな」

 

「な、なんかわかりませんけど、どれぐらい待てばいいんでしょうか!?」

 

「そうだな、例えば―」

 

 そうスピネルが語る中、ポーズをとっていた少女が大きき声を張り上げる。

 

「……きれいな世界を汚さぬために! 汚泥が泥を新たにかぶろう! イルマ・クリミナーレの贖罪街道、止めれるものなら止めてみよ!!」

 

『ワン!』

 

 決めポーズを、いつの間にか頭の上に登っていた小犬のぬいぐるみとともにびしっと決めた、イルマ・クリミナーレといった少女を見て、コカビエルは半目を向ける。

 

「……これで強いから始末に負えん。フリード、そいつは聖魔剣やデュランダルのガキ共より手ごわいから本気で行け」

 

「え、まじで? こんなおふざけお姉さんが……って俺もでしたー! ならモヤッとしないですっきりデース!」

 

 コカビエルにそう答えるなり、フリードはエクスカリバーを構えると下をだらりと揺らす。

 

「ねえねえ? 結構出るとこで切るし、俺とあとでしっぽりしな~い? ……死姦だけどね!」

 

「う~ん。イルマさんは自分も気持ちよく相手も気持ちよくお互いに存しない鬼畜度ゼロのSE〇しかしないので、パスで!」

 

「そっかー。でもどうせ殺すから返事はいらなかったね、残念!」

 

 その言葉とともに、フリードは拳銃を引き抜くと発砲した。

 

 エクスカリバーという鳴り物をあえておとりにしての射撃。拳銃自体、悪魔祓いが使う悪魔すら殺せる特別性の光の銃だ。

 

 ただの人間なら当たれば頭部が砕け散るその射撃を―

 

「―わん!」

 

 ―小犬のぬいぐるみが前足で弾き飛ばした。

 

 そのシュールな光景に、かなりの人数がぽかんとなる。

 

 数少ないぽかんとしてないコカビエルは、自分に振り返ったフリードに対し、ため息をついた。

 

「だから言ったんだ。そいつはこの場においていうなら、俺たちの敵で一番強いと思え」

 

「その通り! カルンウェナンのエース、イルマさんは強いのだ! そしてセットアップ!」

 

『わおぉおおおおっん!』

 

 イルマに応えるようにぬいぐるみが吠えた瞬間、イルマとぬいぐるみが緑色の光に包まれる。

 

 そして一瞬で変化したその姿に、誰もが一瞬あっけにとられる。

 

 レオタードをインナーに、半そでコートやブーツを中心とするその姿は、まるでSF要素を組み込んだ魔法少女とかにいそうな外見だ。

 

 そして小犬のぬいぐるみはどこかに消えながらも、イルマは空間系統の魔法で異空間から拳銃を二丁取り出すと、素早く回転しながら連射する。

 

 それはすでに増えていた鰐たちをことごとく打ち抜くと、イルマは不敵な笑みを浮かべて宣言する。

 

「ふっふっふ。イルマさん呼んで魔法戦士マジカル☆イルマ! 融合型デバイスとかいうどっかの遺物を調整した、我が相棒グラマがいる限り、悪の好きにはさせないじゃん!」

 

『わん!』

 

 ふざけた態度だが、この一連の動きには隙があるようで見えなかった。

 

 まず間違いなく難敵だと、フリードが嫌そうな顔をする。

 

「えー。せっかく無双タイムだと思ったのにハードモードってまじ萎えるー。すいませーん、テイク2お願いしまーっす!」

 

「残念! 時代はノーコンクリアが原則のクソゲーなのさ!」

 

 ふざけてるとしか思えない会話だが、双方ともに武装込みで精鋭であることが証明されている。

 

 そしてお互いがふざけた態度でにらみあうなか―

 

「―――いや、悪いがここでお前は終わりだ」

 

 ―そこに、絶大なる輝きが表れる。

 

「――抜刀術式(ブレイドコード)最強幻想(ラスト・ファンタズム)

 

 そこにあるのは、絶大な魔力を輝きとして漏らすことで証明する、一振りの聖剣。

 

 そこに込められた絶大な魔力が、今この場における最強の定義を根底から覆す。

 

 その光、まさに星の輝き。

 

 その力、少なく見積もっても神格クラス。

 

 それを誰もが理解し、唖然となる。

 

「え、ちょ、ちょっと待って!? それ何、それ何ぃ!?」

 

 思いっきりターゲットにされているフリードが狼狽する中、その持ち主である麻宮鶴来は、何を言ってるんだという表情を浮かべる。

 

「おいおい、ハンムラビ法典にもあるだろう? 目には目を、歯には歯を。すなわちエクスカリバーにはエクスカリバーを」

 

 そして、鶴来ははっきりと告げる。

 

「これぞ約束された勝利の剣(エクスカリバー)。十三議決を五つも開放した、星が作り上げし人々の想念の結晶。こうであってほしいという願いによる、勝利の道を切り開く聖剣だよ」

 

 ともに戦うものは勇者であり、

 

 己より強大な者との戦いであり、

 

 人道に背かぬ戦いであり、

 

 精霊と戦うわけではなく、

 

 邪悪との戦いで振るおうとしている。

 

 ゆえに、その力はまさに絶大。

 

 その場にいる全員が瞠目するその力を前に、フリードは頬を引きつらせていた。

 

「ちょ、ちょっとちょっとバルパーのおっさん! こんなの聞いてねえよ!? エクスカリバーってこんなことできるの!?」

 

「あり得ん! エクスカリバーにそのような力などない、あるわけが……っ!?」

 

 その時、バルパーは真実に気づいた。

 

 そもそもエクスカリバーを本物抜きに具現化する術は、今のところ自分にしかできない。

 

 そしてその技術の一部は―

 

「貴様、異世界のエクスカリバーを………っ」

 

「さて、俺は詳しく知らねえんだよ!! グレイバー猊下はそんなこと言ってたがなぁ!!」

 

 そして、鶴来は遠慮なくその力を解放する。

 

約束された(エクス)―」

 

 星々を滅ぼすものにすら通用する、絶大の極みともいえるその一撃を―

 

勝利の剣(カリバー)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―空で唖然としているコカビエルに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……ぁあああああああああ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 当然だが、想定外のターゲット修正にコカビエルは回避が遅れ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 思いっきり呑み込まれた。

 




 バーサーカーの詳細ステータスはまた後程説明することになると思いますが、概要だけ説明するなら、半ば伝承と化しているけど実在している殺人鬼です。

 殺した女の死体を鰐に食わせるという方法で死体処理を行っており、警察が捜査の手を伸ばしたことで自殺しているため、詳細な人数を把握することができずじまいになった殺人鬼です。それゆえに信仰が若干強化され、かろうじてサーヴァントとして呼べる程度の信仰を得たといっておきましょう。

 宝具としては伝承に由来して人を食べる鰐の動物霊を、サーヴァントのような実体化状態で連続召喚。さらに「意外と鰐は小食」という豆知識も流れで知り、こいつが飲食店経営者である情報も知ったので、そこを利用して「食欲歩進」の神器を持っているという設定にしました。原作では異能バトルに使える者ばっかり出てますけど、神器って本当は人間世界で通用するものが多いそうですから、こういうのもいけるかと判断しました。







 そして満を持して、真の主人公イルマ登場! 今作ではFate系列キャラであると同時に、新たなるクロス作品の要素まで得て参上です。

 ちなみに当初の段階でのクロス作品は、エクスカリバー編のエピローグ的な話でざっと出すのでそこで一気に追加する予定。新規追加作品はいろいろ出てきますが、これも順次出していく予定であります。

 だからまあ、わかってると思うけど直接名前は出さないでね? 明言するまでそれとなく……ね?

 あと基本的にグレンさん作品のこれまでのクロスの流れと同じなので、クロス作品の原作キャラとか原作に出てきた能力とかは期待しないように! Fateは仕様上出すこともあり得るけど、たぶん原作キャラが出てくるクロス作品はあと一つだから!







 そしてイルマの活躍を食らうメイン主人公。

 エタった前作とは異なり、こいつFate世界のも使える……と言えば、やばさが違うと判断していただけるでしょうか?

 しかもハンムラビ法典をたとえに出してフリードを狙うかと思いきや、コカビエルを不意打ちかましてぶちのめすという強引なやり口で叩きのめしました!

 なお、当人は「だってフリードにぶっ放したら駒王町の人や建物がごっそり吹き飛ぶし……」などと供述しております!


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第一章 5 運命との再会

 さて、対コカビエル戦はもうほぼ終了。

 そして、この後の展開は―


 彼にとってそれは不幸中の幸いなのか、コカビエルはかろうじて生き残っていた。

 

 本能的に大量の氷と光力で防御を行っていたらしく、胴体に深い切り傷を負っていたが、かろうじて致命傷は避けていた。

 

 そして地面に墜落するコカビエルを見て、バルパーはあきれているのが動揺しているのかわからない表情を浮かべていた。

 

「……技術の出所から言って、可能性はあるとは知っていたが………それはデュランダルの間違いではないのかね?」

 

「いや、正しくそれはエクスカリバーだよ。ただし、貴様の想像通りこの()()()()()()()がね」

 

 それに答えたのは、スピネル・G・マルガムだ。

 

 苦笑を浮かべたスピネルは、ぽんと肩に手を置いた。

 

「……すまん、間に合ったがこれでは乳は吸えんな」

 

「……俺は、至ったけどもうダメかも」

 

『オイ相棒! そんなあほな展開はマジでやめろ!!』

 

 赤毛のスピネルに謝られながら、赤い鎧のイッセーが崩れ落ち、赤龍帝ドライグが気を持ちなおさせようと声を張り上げる。

 

 割とシュールな光景がそこにあった。

 

「いやいやいやいや、ちょっと待ってやぁ!」

 

 思いっきりツッコミを入れたフリードは間違ってない。

 

 というより、意味が分からない。

 

「この世界じゃないってどういうことだよ、おい!」

 

「その辺については後で監獄にでも叩き込んでから説明してやろう。まあとりあえず、先ほど麻宮が使ったのは、まごうことないアーサー王が使っていたエクスカリバーだよ」

 

 フリードにはっきりと告げながら、スピネルはそして続ける。

 

「ついでに言おう。……もうお前たちのサーヴァントも撃破できたが、どうする?」

 

 その言葉に、フリードとバルパーははっとなって振り返る。

 

 そこでは―

 

「……思ったより弱いんだけど。サーヴァントってこんなに弱かったっけ、義姉さん」

 

 ―背中に車輪を翼のように一対取り付けたパワードスーツが、謎の成人男性を叩き潰していた。

 

 首があらぬ方向に捻じ曲げられた男が、光の粒子となって消えていく。

 

 鰐もまた、光とともに消えていく光景は、B級パニック映画でありそうな展開ではある。

 

 そして、それを成したパワードスーツから少年の声が響く。

 

『……で、スピネル義姉さんも言ってたけど、どうするんだよ?』

 

 その声が向けられるのはバルパーとフリード。

 

 すでにコカビエルとバーサーカーは倒され、戦力は一気に低下している。

 

 更に赤龍帝が意気消沈しているとはいっても禁手に疑似到達しており、こちらは強大化しているのだ。

 

 普通に考えれば、まず間違いなく趨勢はひっくり返っており―

 

「……へぇ。コカビエルを一撃で叩きのめすとは、やるじゃないか」

 

 ―さらに、そこに白が舞い降りる。

 

 先ほどの約束された勝利の剣に吹き飛ばされた結界の向こう側。そこから白い鎧が舞い降りた。

 

 その鎧に気づいて、スピネルが苦笑を浮かべる。

 

「スマンなヴァーリ。すでにコカビエルは倒された後だ」

 

「みたいだね。やれやれ、コカビエルはこの体たらくだし、どうも倒したのは赤龍帝というわけでもなさそうだ」

 

 スピネルにそう言われて苦笑する白い鎧の宝玉が、ほのかな輝きを放つ。

 

 それと同時に放たれる声は、鎧の中のものに対してなだめるような声色だった。

 

『そういうな。先ほどの魔力の放出、主神であろうと楽には出せないほどだったからな。いかにコカビエルと言えど、あれを不意打ちで食らえばどうしようもあるまい』

 

「なるほど。そういう意味では素敵な競争相手がいるということか」

 

 鶴来はそっと距離をとったが、そこは余談。

 

 そして、何より警戒するべきは―

 

「……それで? どうするのかしら?」

 

 リアスはほのかに魔力を見せながら、フリードとバルパーに言外に選択を迫る。

 

 すなわち、投降かこのまま殺されるか。

 

 禁手の二天龍が二人がかり。さらにデュランダルと聖魔剣。この時点で、エクスカリバー一本でどうにかできる問題を越えている。

 

 フリードもそれを理解しているのか、逃げるタイミングを探っているようだが探り切れてないのが実情だ。

 

 そんな中、バルパーは冷静な表情を浮かべていた。

 

「……ふむ。データは十分に取れたのは事実だ。なら、次があればもっと面白いこともできそうだな」

 

「この状況下で何言ってんだこのジジイッ! 俺たちちょっとマストダイなんですけどぉ!?」

 

 フリードが食って掛かるのも当然の窮地と余裕だが、バルパーはそれでも冷静だった。

 

「落ち着けフリード。とりあえずエクスカリバーを貸してくれ。すべてはそれからだ」

 

「……ん? いいけどさぁ、最期にエクスカリバーふるってみたいってオチだったら怒るよ?」

 

 フリードが渡しながらそういうのも当然ではある。

 

 バルパー・ガリレイはエクスカリバーに対するあこがれから、エクスカリバーの使用者を人造することに成功した一種の傑物。執念の恐ろしさを体現する男といってもいい。

 

 だからこそ、詰みの状況下でせめて願望をかなえようという考えなのかと思ったその瞬間、擬態の力で触手となったエクスカリバーが、フリードの腰に巻き付いた。

 

「ではな。また会おうかフリード」

 

「……はぁい?」

 

 そして首を傾げたフリードが軽く百に分身し、そして一斉に別々の方向に投げ飛ばされた。

 

 投げ飛ばされたフリードの分身は、軽く100m以上吹っ飛んで、崩壊した結界の向こう側へと消えていく。

 

「……なんですって!?」

 

「意外だな。奴をそこまでかばうとは」

 

 リアスはその行動に目を見開き、スピネルは舌打ちはしつつも冷静にバルパーに視線を戻す。

 

 バルパーがフリードを自分より先に逃がすとは思っていなかった。

 

 そういう人情とは無縁と思っていたし、フリードは精々優秀な駒程度の認識だったからだ。

 

「これは効率の問題だよ。すでに()()私は用済みなのでね。時間稼ぎは私がするべきだ」

 

 そんなことを言いながら、バルパーはエクスカリバーを軽く振るう。

 

「ふむ。いい剣だ。ふるってみるとこんなものかとも思えるが、やはり長年の夢がかなうのは気分がいいな」

 

「そうか。なら、ここで終わるといい」

 

 そこに、木場祐斗が聖魔剣を構えて切りかかる体勢になる。

 

 祐斗からすれば、バルパーは恨むべき怨敵だ。

 

 個人的に許せる相手ではないし、これだけのことをした手合いを逃す理由もない。

 

 下手に生かしておけばまた被害者をうむこともわかっている。逃がす理由が存在しない。

 

「まあ投降してもたぶん極刑だしねー。最後に思い残しがないようバトる?」

 

「……何なら俺が相手するぜ。部長のおっぱいを吸えない悲しみと、木場やその友達を苦しめた怒りも、まとめてぶつけてやる!!」

 

 イルマとイッセーはそう言いながら前に出るが、その首根っこをスピネルと小猫がつかんで引っ張った。

 

「「ぐえっ!?」」

 

「……事実だが下手な挑発はやめろ。あと殺すな。エクスカリバーの件について、そいつには聞き出したいことがあるんだ」

 

「……その二つを同列にしないでください、変態ドラゴン先輩」

 

 当然のツッコミを入れられる中、祐斗は聖魔剣で切りかかるために腰を落とす。

 

 聞くわけがないと思いつつも、然し最後の一線を踏み越えるために警告も入れようと判断する。

 

 どうせ聞かないからこそ、この男の引導を渡す。そのための一種の通過儀礼として、祐斗は口を開いた。

 

「エクスカリバーをおいて投降しろ。さもなければ今度こそ―」

 

「そんなに欲しいのならくれてやろう」

 

 その瞬間、空高くにエクスカリバーが放り投げられた。

 

―え?

 

 全員がそう思うのも当然というぐらいの、まさに虚をつく行動だった。

 

 ある意味今回の戦いの中心にいたといってもいいエクスカリバー。そしてそれに対する執着心でここまでの騒ぎを起こしたバルパー・ガリレイ。

 

 そんな二つの組み合わせから起こったこの流れだからこそ、誰もが一瞬とはいえ注意散漫になる。

 

 そして、その瞬間にバルパーは木場達を通り越して全員の位置取りから見て中心点へとたどり着き―

 

「ではな。なかなかに興味深い実験だったぞ」

 

 ―その言葉とともに、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……アブねぇ。まさか自爆するとは思ってなかった。

 

 あいつは一昔前の特撮の悪役か。せめて必殺技を受けてから爆発しろってんだ。

 

 俺がそんなことを思いながら起き上がると、同じタイミングで起き上がる人がいた。

 

「痛た……。まさかそういう方向で来るとは、イルマさんビックリだなぁ」

 

 と、起き上がるのは助っ人で現れたとか言うイルマとかいう女。

 

 俺はエクスカリバーをぶっ放すための準備に忙しかったし、あれは結構消耗するからちょっと意識を向けきれなかったんだよなぁ。残ってたバルパーとかフリードとか、あと白龍皇とか気を付けないといけないのが多かったし。

 

 ま、とりあえずいったん終わった感じだし、ちょっと一言言っといたほうがいいか。

 

「お互い何とか無事っぽいな。あとあんたのおかげで準備ができたようなもんだし、感謝するぜ?」

 

 俺が手を差し出すと、イルマは振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を、俺は一生忘れない。

 

「うん、ありがとう。イルマさんも、結構守れて良かったよ」

 

 その笑顔が、どこかほっとしている表情が、うれし泣きのようにも見えるその表情が―

 

「………あのっ!」

 

 ―それを我慢させてくれず、俺はどうしても尋ねた。

 

「ん、なにかな?」

 

 その人は不思議そうな表情をして、だけど笑顔で促してくれる。

 

 だから俺は、それを聞く。

 

「―俺たち、どっかであったことないか? なんていうか、十五年以上ぐらい前」

 

 可能性はあるかもしれない。

 

 堕天使側なら堕天使である可能性はあるし、ラルドが言うにはスピネルは転生堕天使技術を作ってるから、少しぐらいはいるだろう。

 

 髪の色は全然違うし顔つきも違うと思うが、どこか似た印象を感じるし、何より物心ついた時だから何かしらの覚え違いとかあいまいな部分が変な補完がされたことがあるかもしれない。

 

 だから、もしかしてと思った。

 

 そして彼女はそれに対して目を見開いて―

 

「………新手のナンパ? このイルマ・クリミナーレさんは産まれてから17年間ヨーロッパ育ちで、日本に来たのはカルンウェナンに入った二年前ぐらいだけど?」

 

 ―残念だけど、違う気がする。

 

 俺が日本から出たのは小学校に上がるぐらい。そしてあの記憶が俺の最初の記憶である以上、なら会ってるわけがない。

 

 だから、ちょっと残念だ。

 

 だけど―

 

「………でも……よかった、かな?」

 

 ―その表情は、本当に感慨深げで―

 

「ちゃんと守れて、笑顔でいてくれて」

 

 ―本当に報われたといわんばかりの、そのほっとした表情は―

 

「……なんていうか、救われたかな」

 

 ―本当に、きれいだと思ったから―

 

「――あんたに惚れた。友達から始めないか?」

 

 ―つい言ってしまった。

 

 そしてイルマの表情が固まる。

 

 うん。衝動的に何言ってんだ俺は。

 

 一目ぼれって確かにドラマチックだけど、つまり相手のこと何も知らないんだよな。友達からって言えたのはなかなか俺も頑張ってるけど、それでもちょっと失礼だったか。

 

 いや、そもそも俺は教会の戦士で、相手さんは神の子を見張る者の人員だ。どっちかが寝返らないとまずいけど、俺から願えるのは義理に反する。

 

 だからイルマがこっち側に来てくれないと困るんだけど……

 

「……あ~。私もスピネルを裏切る気はないんだよね~。そっちは鞍替えする?」

 

 ですよねぇ~。

 

「……それじゃ、俺も無理だな。教会には拾って世話してくれた恩義があるし、まっとうな信徒はたくさんいるからそういう裏切りはちょっと」

 

 義理を捨て去るのはどうかと思う。

 

 教会側がどっぷり腐敗してるならまあ義理なんて知らないけど、別にそういうわけじゃない。問題のあるやつやロクデナシもいないことはないけど、基本的に大半の構成員は善良だから、追放されるならともかく自分から抜ける気にはなれない。

 

 それに、さ。

 

「……何より相棒を裏切る気はないんでな。残念だけど、縁がなかったってことかね」

 

 あいつを裏切るのは、いやだな。

 

 それに、いまあいつはかなり追い込まれてるだろうしな。

 

 それをほっとくようなやつになったら、あの彼女に顔向けできない。

 

 何より俺が放っておけない。

 

 その様子を見たイルマは、苦笑しながら手を差し伸べる。

 

「そっか。手放しちゃだめだし、思い上がりで理解した気にもならないように気をつけなきゃだめだよ?」

 

 そんなアドバイスに苦笑しつつ、俺も手を伸ばす。

 

「そうだな。ま、無理しない程度に頑張るさ」

 

 握手を交わすと、なんかお互いに照れて頬が赤くなった。

 

「んじゃ、イルマさんは事後処理に行くから。縁があったら姉のように慕ってくれていいよ?」

 

「オーライ。じゃ、俺も相棒のフォローに行ってくるさ、イルマ()()()

 

 俺の呼び方に、イルマ姐さんはくすっと吹いた。

 

 それがかわいくて、いろいろ疲れが吹っ飛んだのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、この日こそが俺の運命の再始動。

 

 俺はこの時、運命と再会した。

 




 と、言うわけでエクスカリバーは回収できたけどかなりモヤッとするところもあったりなかったり。








 そして、ついにであったメイン主人公と真の主人公。


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第一章 6 嵐と嵐の間の静けさ

 さて、とりあえずはこれでエクスカリバー編は終了。またの名をハイスクールD×Dでよくある、主人公出ない人たちだけの会話だけタイム。


 

「…………」

 

「………なあ、元気出せよ。一応勝ったんだから」

 

 事後処理をグレモリーとカルンウェナンに任せ、俺はリアを連れて教会陣営の仮説拠点へと戻った。

 

 エクスカリバーは三本を合一化させた状態であり、力そのものもその程度。

 

 なんで砕ける前の段階のように力を振るえたのかは分からないが、まあ回収できたのは僥倖だろう。いや、それ以上か。

 

 なにせ三本とはいえ合一したんだ。ある意味オリジナルに近くなったという意味でめでたい。ここばかりはバルパーに感謝してもいいぐらいだな。

 

 俺はそんなことを思いながら、仮説拠点の警護・作業スタッフである代行大隊の連中にエクスカリバーを預ける。

 

 そしてある程度の事後処理の段取りを聞いてから、俺達用の待機ルームに移動する。

 

 ……さて、どうしたもんか。

 

 ゼノヴィアはなんか戻る様子を見せなかった。

 

 後処理はしておくと言われたので、相棒を優先してこうして戻ったんだが、さて困った。

 

 困ったからどうしたもんかと思ったその瞬間―

 

「……はぁ」

 

 あのすいません、脱がないでください。

 

 いや、こいつの裸を見たことがないわけではない。

 

 ラッキースケベというわけじゃない。ただなんというか……その……。

 

「……堕天使陣営のイルマという方に、懸想してましたよね」

 

「……はい」

 

 反論できないので、素直に頷く。

 

 義理とはいえ信徒だ、あまり嘘をつくのは褒められたことじゃない。

 

「一目惚れで即告白とか……。貴方をアウトローと勘違いした恋に恋してしまう女子信徒の告白を「いや、よく知らないのに恋愛とかちょっと……」と言って断ってきたのは誰なんですか?」

 

 いやまあ、確かにそうだけどね?

 

「いや、とりあえず友達から始めたぞ? その後いい加減っぷりに辟易して離れてったけど」

 

「ですよね。ドラマチックな恋愛に焦がれているだけの女子では、むしろ恋愛の後の面倒ごとを先行体験させる鶴来との相性は悪いでしょう」

 

 酷い!

 

 反論できないけど今いうか!?

 

「だからこそです。貴方が風俗通いなんて真似をしないようにする為には、当然の如くズリネタというものを提供しないといけないでしょう。そして、お目付け役である私がするのが基本ではないですか」

 

「うん。前から思ってるけど、お前も結構ずれてるぞ」

 

 あと心も読むな。

 

 疑問符などつけるまでもない。まず間違いなく変人だ、こいつは。

 

 まあ確かに、リアはプロモーションもいいし可愛いから、そういう風に見てしまうことはある。

 

 そしてリアは俺がいい加減で信仰に殉じるとかできるタイプじゃないことを理解して、適度なガス抜きを妥協している。むしろ自分のストレス発散の言い訳に俺のガス抜きを利用している。

 

 だが色欲関係は難しいので、こういうわけの分からないやり口になっている。

 

 ちなみに全く使ってない。このシュールっぷりといろんな意味でのアレっぷりゆえに使えず、小規模だがちょっと本部筋から離れたところに存在する裏ルートで立ち読み(金払って)して使うのを記憶している。持ち込んでいたのがばれたら死にかねない。

 

 ……結果的にいろんな意味で俺が気まずくなって、それを利用した首輪になっているから計算以上なのだろうが………。

 

「なあ」

 

「なんですか?」

 

 顔を赤らめてもいない半裸のリアに、俺はぼりぼりと頭をかいてから、まっすぐいうしかないだろう。

 

「無理はするなよ。俺も利用しないしな」

 

 ……そう言ってから、俺はリアをポンと抱き寄せる。

 

 なんていうかこう、分かり易い展開だ。

 

 辛い思いを一時でも忘れる為に体で交わるとか言う、そういう手合い。

 

 そういうのも必要な時があるし、ないと耐えられないこともある。

 

 だけど……。

 

「悪いけど、そういうの利用して処女を奪うような趣味はない。っていうこっちのメンタルが削れるわ」

 

 俺は、俺の都合でまず断る。

 

「エッチなことはお互い愉しむ遊びなり、どっちかが金ゲットでガッポガッポな商売なり、何よりお互いがそうしたいからする愛情でやるべきだ。こういう作業でするもんじゃない」

 

 だからまあ、どうしたもんか。

 

 俺がこういうこと言うの、何かとは思うんだけど……いうしかないか。

 

「それに―」

 

「―本気で信仰しているなら、そういう過ちはしない方がいい」

 

 俺の言葉を遮って、俺の言いたいことをリアが言い放つ。

 

 そして俺の胸元に額をこすりつけながら、リアは苦笑か自虐だがつかない笑みを浮かべたようだ。

 

 気配だけだけど、なんだかんだで何度も死線を潜り抜けてるから、それぐらいは的中率高めでわかる。

 

 だからまあ、ぽんぽんと後頭部をぽふぽふ叩く。

 

「愚痴っていいぜ。それぐらいのことはしてもらってる自信がある」

 

「情けない自信ですね、ほんと」

 

 そして、リアはプルプルと震え始める。

 

「……両親が殺されたとき、私は彼の弁護をしました」

 

 ああ、知ってる。

 

 グレイバー猊下からも聞いている。それに俺達だって腹を割って話して相互理解には務めてるんだ。

 

 だから、俺はリアが両親共に熱心な信者だと知っている。リアも彼らの教えをよく受けて、素直に従っていたことも知っている。その為両親が生きていた()()親族からも評判がよかったとも聞いている。

 

 そして、リアの両親はリアが小学生ぐらいの頃に殺された。

 

 犯人はその場で捕まったそうだ。

 

 犯人は近所に住んでいた一人暮らしの学生。恋人に浮気されて捨てられ、両親が事故死し、大学卒業も間近なのに就職が決まらない。わずか半年でこれだけの苦境が連続で訪れたうえ、白血病までこじらせて詐欺にあって貯金すらなくなるという、人生に追い詰められた男。

 

 そんな男を近所の付き合いではなく本心から励ましていたリアの両親だが、それこそが犯人の神経を逆なでしたようだ。

 

 その結果、衝動的に彼は二人を殺害。そして我に返ってパニックになっているところを、近所の人に発見されて警察に逮捕されている。

 

 そんな彼に対し、リアは減刑を嘆願した。

 

「彼の心が追い詰められて、彼が我に返って後悔していることもわかっていました。だからこそ、そんな風になった人を許すことが、信徒として正しいと思い、あの時は本心から彼が再起できる可能性を望みました」

 

 そして、彼女はそういうだけでなく行動まで起こした。

 

 自らクラスメイト達に署名を求め、アドバイスを受けてネットを利用して署名を求めた。

 

 その結果、リア自身が美少女であったこともあって割と人が集まり、結果として二人も殺した殺人事件としては異例に短い懲役年数で済んだそうだ。今は墓参りまでしたうえで、リアの親族にも土下座でお詫びを敢行。今は詐欺の訴訟を主体とする弁護士事務所で働きながら、ネットで同じように追い詰められている人の愚痴を聞いてガスを抜くセラピストもどきをしたり、詐欺まがいの方法で金をだまし取られた人同士で民事訴訟のための費用を折半するコミュニティを作ったりと頑張っているそうだ。

 

 だけど―

 

「……思えばあの時、私はただ「それが正しいといわれたから」、そうしただけなんだと思います」

 

 ―その結果、リアは教会に預けられた。

 

 要は厄介払いだ。善良な人柄かつ敬虔な信徒で、まず間違いなく心から愛情を注いでいた両親を殺されて、それでも何の躊躇いもなく殺人犯の為に動いたリアを、親族は恐れたんだろう。事実、当時の学校では教師達まで腫物を触るような対応をしていたと、時々思い返してリアは語っていた。

 

 そして異形と戦える神器を持っていたこともあって、リアは悪魔祓いとして訓練を受けることになる。

 

 訓練成績は非常に優れていて、14歳で正式な悪魔祓いになった。それは訓練をまじめに受け、「自主鍛錬も必要」「分からないことは人に聞く」を素直に受け止めて効率的な自主トレーニング法を考えてもらったとおりにし続け、体が追い付かない部分は記録映像をみて過ごしてきたからだ。

 

 それはすなわち、己の欲望に対してリアが全く頓着していないことの証明。少なくともグレイバー猊下はそう思ったんだろう。

 

 それを、義理でしか信仰していないがゆえに、割と欲望発散をする俺みたいなやつとぶつけることで、化学反応で中和させることを試みたってことなんだろう。

 

 結果として、リアは結構成功している部類だ。

 

 だけど―

 

「……私は、それでも「正しい」ことをしたくて、「正しい」側につきたいんです」

 

 リアは、それでも正義と善を愛している。

 

 だからこそ、正しい側に就く者として、間違ったことをしないよう自分を常に律している。

 

 だから正義の笠を着た横暴をしないよう気を使っているし、ちょっと前のゼノヴィアのような自分が正義で相手が悪だから何をしてもいいと思ってるような真似には食って掛かるようになった。

 

 おかげで揉めた事もあるけど、まず俺がふざけ倒して張り倒すという流れを作ることで、まあ何とかなっている。

 

「……常に自分が正しいか意識したいです。間違ったことはしたくないし、悪人になんてなりたくないです。もし彼と再会しても、恨みなんて言いたくないのに、自信が無くなってきました」

 

 そう。きっとそれは美徳だと思う。

 

 自分が恨み節を叩きつけるかもしれないと思いつつも、そうしないで済ませたいと願えるのは本当にすごいと思う。

 

 だからこそ、少しでも正しくありたいと願っているし、その為の努力をしている。

 

「だから、信徒として正しく生きるのは、そうしようと戒めるのは私にとっても重要なのに……!」

 

 だが、一神教において、善と正義は神によって示されるものだ。

 

 そして、聖書の教えにおいてそれを成す神は、もう―

 

「……私は、何をもってして正しいといえばいいんでしょうか」

 

 俺は、少しだけ考え込んだ。

 

 ここで「自分の信じる正義を貫け」というのは間違いだろう。

 

 正義ってのはすなわち「誰も」が「やるべきこと」だと思う。

 

 だから、それは最低でも集団において共有できるものじゃないとダメだろう。自分がしたいだけで人がどうするかは関係ないってのは、「自分」が「したいこと」なんだから。それはきっと、リアも正義という形にはめられないだろう。

 

 そもそもそういう曖昧な正義の組み立て方が、一神教の教えとかみ合ってない。信徒として理解することも難しい価値観だ。

 

 だから―

 

「……もし主に面と向かってあったとしても、恥じることなく宣言できる。そんなことを考えたらどうだ?」

 

 俺は、そういうことしかできない。

 

「俺もまあ、主ではないけど恥ずかしいと思われたくない相手はいるぜ? だけど、俺はその人と一度しかあったことがなくて、名前も知らないから確認ができない」

 

 ほんと、あの泣き笑いの表情と言葉しか覚えてないんだから、我ながら変なところで純情だよなぁ。

 

 結局、あの人のことを思い出すからこそ、俺は恋愛だけは未だに経験してないんだよなぁ。

 

 それがまあ、なんということでしょう。

 

「……それは聞いてます。で、その人を思わせる相手だから、言ってしまったと」

 

「……情けないことにな」

 

 いやぁ、それっぽい人と会っただけでつい言っちゃう当たり、俺は本当にいい加減というか……うん。

 

 情けないなぁと思ったら、リアもまた、俺がしてるように俺の後頭部をぽんぽんと軽く叩く。

 

「まあ、いいんじゃないですか? あなたにとってその思い出は、きっと何にも代えられない大事なものだと思いますし」

 

 なんか、どっちが慰められてるのか分からないな。

 

 俺が苦笑してると、リアも苦笑して俺から離れた。

 

 ほんのり頬が赤いのは、単純に異性に接触して恥ずかしくなってるからということにしておこう。

 

「まあとにかく。これから色々あると思いますが、本調子になるまでは足を引っ張らせてもらいます」

 

 リアはそう言うと、ちょっとムッとしながら俺に指を突き付ける。

 

「私がこうなったのは、ある意味貴方の所為なんですから。責任ぐらいはとってください」

 

 ………ああ、そうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、アイネス?」

 

「……その言い方なら、私はスピネルではない私として、イルマではなく日美子と応えよう」

 

「気づいてた?」

 

「まあな。そういう眼を持っているのだから、近距離で見れば流石に気づくさ」

 

「言ってほしかったなぁ。乙女ねぇも美子も探してるけど、まさか真っ先に会うのがあの子なんて」

 

「今は同年代だろうに」

 

「残念でしたー。今の私は19歳でーす!」

 

「私達からすれば二年は誤差……とまではいわんが、普通の十代とは違うだろうに」

 

「……まぁそうだけど。でもいきなり告白されるとはねぇ」

 

「案外、本能的に勘付いているんじゃないか? だからだと思うがな」

 

「まあねぇ。だけど、……初対面の相手にいきなり告る?」

 

「一目惚れは存在するのだろう。むしろ、友達からというスタンスなのはよかったのではないか?」

 

「……え、どうしろと? 私に童貞もぐもぐ食べろと!?」

 

「童貞ではないそうだ。むしろ今のお前とタメを張れる変態に育っているな」

 

「……マジで?」

 

「自己申告ではな。だがまあ、まずは再会までの心の準備をしておくことだ」

 

「で、できるの?」

 

「十中八九な。つなぎはとっているのだから会談は確定だ。となれば当事者の多くは参加することになるだろうさ」

 

「……埋葬連隊ってのは大丈夫なの? どう考えてもイカレポンチ神秘集団にあやかってるとしか思えないけど? 絶対聖堂教会のアレな連中かかわってるじゃん」

 

「私も大概の連中の出身だがな。魔術教会も聖堂教会も一般人目線ではアレではある」

 

「自覚して抑えてるなら十分でしょ? 自覚してなかった私よりはマシだよ」

 

「恵まれた環境であえて入る連中より、追い込まれたお前の方がマシではあるだろう」

 

「……やらかした内容が、そういうもんじゃないでしょ?」

 

「それでも、私はお前の親友(とも)でいたいとも」

 

「…………ありがと、アイネス」

 

「素直に受け取るよ、日美子」

 

「……んじゃまあ、友達になるにしろ敵対が続くにしろ、何の因果か付き合うことに万が一なっちゃうにしろ、イルマさんはイルマさんらしくお姉さんぶるとしますか」

 

「そうだな。なら、私もスピネル・G・マルガムとして適度にフォローするとするさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……曹操。世界が大きく動きそうになっているな」

 

「ああ。どうやら俺達も動く時が来そうだね」

 

「でもよかったのか? 禍の団に与すれば、あなたは下手をすると―」

 

「構わないさ。俺にとって禍の団は人材発掘の場に過ぎない。今の世の中に不満を持つ者がいるのなら、きっと彼方を目指す者がいるだろうしね」

 

「それはそうなんだが、()()()は禍の団につきかねないんだろう? ニーナやラース達の話からすれば、むしろこの世界に降臨する土壌は整っている」

 

「だからこそ目くらましにもなる。分かり易く敵対するだろう三大勢力にいきなりつくより、当面は利用する相手でいる方が、懸念材料は少ないさ」

 

「そういうものか?」

 

「そういうものだよ。御しやすいと思っている相手に対する注意は薄くなりやすいものさ。その間に俺達は世界に示さなければならないものがある」

 

「……龍神を下す、か。できるのか?」

 

「確証はないけど勝機はある。何よりそれぐらいできなければ、ニーナやラースのところの巨人やホムンクルス、何よりあいつらの打倒なんて夢のまた夢だろう?」

 

「まあな。私達の側も勝機はあるが、当面はてこずりそうだ」

 

「それももう少しの辛抱さ。既に禍の団で俺達に同調する者はいる。既に派遣した彼らだって、活躍してくれているんだろう?」

 

「まあな。生身であいつらを何十体も討ち滅ぼしてるし、おかげでレジスタンスの士気も上がっている」

 

「それは重畳。なら、その間に第一段階を終えるとするか」

 

「龍神打倒が第一段階とは、この世界にとってとんでもない男だよ、君は」

 

「それはそうだろう? この狭い地球なんかで頂点争いなんて序盤の序盤だ。ニーナのところの彼らのように、やるなら銀河スケールを目指さないと」

 

「そうだな。それが成しうる者を知ったのだから、せめて後追いぐらいはしないとという気にはなるよ」

 

彼方にこそ栄えあり(ト・フィロティモ)こそこの世の真理さ。人間、進歩と発展を望みここ以上のどこかを求め続けないとな」

 

「ああ、どうせ君に賭けた身だ。私達に夢と救いと未来をくれた君に、私達は全力で応えよう」

 

「いやいや。俺は聖者じゃないから慰撫し救うのはガラじゃない。王者として、人を鼓舞し導いたうえで、清濁併せのんで欲望の臨界を求めるよ、アルス・ラブレス君」

 

「……了解だ。征服を始めようか、グーレイル諸島連合国の真の盟主よ。イスカンダル・曹操の覇道を見せてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おやバルパー、体の方はもういいのかい?」

 

「……お前か。まあ、あの抜け殻はもうないよ。死んだと見せかける為に派手に自爆させたからな」

 

「なるほどねぇ。まあ、脂肪部分をジェル状のTNTに置き換えて爆発させたから分からないだろうね。あの体に脳はないなんてさ」

 

「ああ。なにせこの体があれば、私はエクスカリバーを存分に振るうことができる。なら研究と不摂生で脆弱な肥満体など必要なかろう?」

 

「代行者の中には体を義体に置き換える手合いはいたし、魔術師でも必要ならスペアを作るぶっ飛んだ手合いはいるけどめ。脳だけ付け替えて元の体を(デコイ)にする手合いは少数だと思うよ?」

 

「そういう風に誘導したのは貴様だろうに。……いや、それより伝えておくべきことがある」

 

「なんだい?」

 

「……例の壊滅したデミサーヴァント実験を行っていた魔術師(メイガス)共の遺産だ。それらしいものを見つけたぞ」

 

「本当かい?」

 

「十中八九な。アレクサンドロス三世や織田信長を宿した連中が言っていただろう? 奴らの本命はアーサー王だったと」

 

「そうだね。英国出身の魔術師の集まりによる「蘇ったアーサー王に英国を統治させる」とかいうトンチキ研究集団。十人近い魔術師が集まって動いていただけあって、それ以外も含めたデミサーヴァント実験はてこずってたみたいだけど」

 

「……真名開放とやらで莫大な魔力斬撃を放つ機能を持った宝具を見た。真名がエクスカリバーだった以上、まず間違いなく関係者だろう」

 

「なるほどね。デミサーヴァント実験なんて頭イカれた研究で、しかもアーサー王を本命にする組織なんてそうはいないだろう。来訪者しかいない魔術師(メイガス)の事情を考えれば尚更だ」

 

「ちょっかいをかけるなら好きにしろ。私もそろそろ再調整をかけておかなければならん」

 

「……ああ、付加魔法(エンチャント)魔水晶(ラクリマ)は成功したみたいだね。コカビエルに使ってたとかいう、氷の造形魔法は?」

 

「そこその出来だが、コカビエル自身は捕まったよ。流石にカバーしきれなかったしな」

 

「まあいいや。人工聖剣使いに通用するレベルなら、売ればそれなりの金になるし、組織の兵器として使うのもいい。ま、生産技術を一部の派閥に売ったから、あとで情報共有する必要があるだろうけど」

 

「単独での大量生産が難しいからといって、資金援助の代わりに快く提供するとは酔狂な奴だ。まあ助かっているが」

 

「まあね。実験用に少し売ってたのが神の子を見張る者に見つけられたのは残念だけど、成果が上がったのならラッキーだね」

 

「まあいい。それで、次はどう動くのだ?」

 

「そうだね。三大勢力の動き次第だけど、彼らが大きく動くなら、そこを突こうと思ってるよ」

 

「………異世界技術を利用した大規模テロ組織による、世界に対する戦争か。まるで映画だな」

 

「異世界が30ぐらい集まって合衆国みたいに運営されてるのに比べれば、序の口だよ。いずれは彼ら時空管理局も混沌に包みたいし、ぜひジェイルには僕達の側に引き入れたいしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「正気の沙汰ではないな。如何に龍神がいても無理があるのではないか?」

 

「だからいずれはだよ。その為に亜種聖杯を18個も完成させて使ってるんじゃないか」

 




 まさか、鶴来だけがデミサーヴァントもどきと思ったか! そしてそこまでは予測できても、まさか原作キャラをデミサーヴァントにするとは思うまい!

 などといった感じで、英雄派はめっちゃ強化されてます。ALalalaaaaaai!とか言いながら現れて、出会った猛者には「うちに来ない?」とスカウトする要素が入ってきます。
 いえ、前から思っていたんですよ。曹操って「Fateのイスカンダルとあったらら、結構同調するんじゃないか」とは。ぶっちゃけイスカンダルのようなタイプは、イッセー達のような守るタイプとは相性悪いけど、原作の英雄派とかは原作以上の覚醒を引き出すタイプではないのだろうかと。
 なので、原作キャラにクロス要素を加えて魔改造するタイプの自分としては、いっそのこと曹操をめっちゃ強化しようと判断しました。
 英雄派にはオリジナル幹部が何人か出てきますし、スタンスも原作とはちょっと変化。結構な強化がされると思いますので、その辺を楽しみに。
 あと曹操は禍の団に入るオリ勢力と相いれない状態になっているので、新たなるクロス要素を出すのは結構遅れる……と見せかけて、一つほどすぐに出します。


 そしてバルパーはバルパーでとんでもない方法で生存。体がデコイだと見抜いていた人はいたけど、まさか「脳だけ取り除いた本物」だとは思わなかったでしょう? まあ、かなり手を加えてはいますけど。
 ちなみに会話しているやつによって、最初に前書きで書いた方のクロス作品要素の半分ぐらいは引き寄せされている感じですね。ただし大量生産などは難しかったので、その辺も禍の団の力を借りている感じです。そして一部を実験的に流出といったところです。
 あとまあわかりきっているのでここで告げますが、クロス作品の一つはリリカルなのはシリーズであります。世界観の都合上、唯一原作メインキャラが顔出しぐらいはするクロス作品です。









 では、鶴来達の今後についてちょっと愚痴じみた話をついかで。

 鶴来をハーレムにするつもりですが、どれぐらいにするかはちょっと悩み中。

 一応この作品でのメインオリキャラは、鶴来・イルマ・リアをメインオリキャラで、スピネルをソーナや匙相当の準メインオリキャラにする予定で、他はシトリー眷属より出番は多いけどサブキャラにするスタンスなため。あまり数が多いとただでさえ登場人物が多いハイスクールD×Dだと埋もれそうでもあるので。

 とはいえ、アザゼル杯編に到達すればだいぶ状況も変わるとは思っておりますので、キャラを増やすつもりではあります。とはいえ鶴来はまず間違いなくイルマが一番……というか他とは比べられない特別になるので、そのあたりもあるとリアだけをハーレム入りにさせるわけにもいかない。
 だができる限りサブにとどめるにしろ、どういう流れて惚れさせるかは重要である……といった感じです。

 一応、最低でも一人はヒロインを追加する予定ではあるんですけどね。タイミングとしてはデイウォーカー編ぐらいになると思います。


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第一章 7 三大勢力の揺らぎ

はい、というわけでヴァンパイア編に突入します。

といっても、今回は鶴来達の視点もあって、駒王町にすらいかないんですけどね?


 鍛錬は戦士として日常的に行うべきものである。

 

 俺は遊び体盛りだけど、だからって一日中特訓し続けるのは効率が悪いから十分遊べるし、休息だって成長には必要だから問題ない。

 

 それに、拾ってもらった恩もある。だからこそ頑張らないといけないからな、うん。

 

 とはいえ、遊びたい気持ちだって十分にある。こと義理で信徒やってる身としては、いい加減な信仰で本気の信徒達の生活は堅苦しい。尚更遊びたい。

 

 頑張って訓練しないと戦闘で死ぬ可能性は上がるが、かといってただでさえ毎日がつまらないのに訓練で遊びの時間を消し飛ばすのもきつい。

 

 なのでこの辺のバランス感覚が重要なんだが、ここ最近はその感覚がどうも狂っている。

 

「……まだやってるんですか?」

 

 と、リアが俺に声をかけてくれて、漸く俺は夕食の時間になっていることに気づいた。

 

 ヤバイ、いつもなら一時間前に終わっておいて、ストレッチやシャワーを浴びている段階だぞ。

 

 俺がうっへぇとなっていると、リアは更にため息をついた。

 

「今日の夕食は食堂じゃありませんよ? そういう予定でしたでしょう?」

 

「あ、そういや」

 

 うっかり忘れてたわ。いかんいかん。

 

 俺としては休める時関連でポカやらかすのはめったにないんだけど、盛大にやらかしてしまったな。

 

 いつもならポカの方向性に関わらず説教を一分ぐらいはするのがリアだけど、今回はため息はついたけど苦笑も浮かべる。

 

「まあ、今回ばかりは仕方ないですね。私も結構気が気でないですし、鶴来も別の意味でそんな感じでしょう」

 

 リアの言うとおりだ。

 

 なんてったって、今月中にとんでもないことに参加する羽目になってるからなぁ。

 

「……三大勢力の会談が、駒王学園でやるってだけでも結構異例な出来事だろうに」

 

「私達も参加ですからね……」

 

 俺達は同時にため息をつく。

 

 コカビエルが戦争を再開させる為暴走した事件から数週間。時期は既に七月に到達している。

 

 そしてその時、堕天使側からの対応部隊であるカルンウェナンや、現魔王の妹二人にその眷属と共闘した。

 

 そして、その時カルンウェナンのリーダーであるスピネルがこんなことを言ってきていたのだ。

 

 堕天使側は、この事件を利用して三大勢力で会談を行うつもりだと。

 

 だからまあ、何とかコカビエルをどうにかしたこともあって、会談が本当に起こることになった。それはいい。

 

 そしてその場所が駒王学園になった。まあ、これも現場であることもあり、かつ当事者の中で最も多いグレモリー・シトリー両眷属が担当している土地なんだから、そこにするのが一番手っ取り早い。これもまあいい。

 

 だが、まあそんなおかしなことでもないけどね。それでも困ったことがあってね?

 

「……俺達も参加かよぉ」

 

「うっへぇとか、鶴来みたいなことを言いたい気分です」

 

 俺もリアも、顔を見合わせてため息をついた。

 

 そう、俺達も参加なのである。なので、俺とリアはそれぞれ別の意味で気が気でない。

 

 なにせ、この会談には天使長ミカエル様、堕天使総督アザゼル、そして現ルシファーと現レヴィアタンが参加するのだ。

 

 俺は義理でいい加減な信仰の持ち主だ。そんな奴がこんな大物だらけの会談の場に呼ばれるとか勘弁してほしい。

 

 リアとしても、信徒としてすでに死んでるというとんでもない事実を知っているわけだ。その上で主の代行をしているミカエル様と同じ部屋にいるとか、光栄ではあるけど精神的にきついだろう。

 

 全く持ってどうしたもんか。

 

 しかも何故か、グレイバー猊下まで参加するらしい。

 

 何なのこの状況。俺みたいないい加減な信徒が、なんで教会の命運を左右する会談に関わらなきゃならないんだよ。

 

 心底うんざりとしていたが、そこでリアが気分を切り上げるように両手を叩いて大きな音を出す。

 

「……この際それはもういいでしょう。それ以上に、まずシャワーを浴びて気分を切り替えないといけません」

 

 ああ、確かに。

 

 ……なにせ、一信徒が熾天使と一緒に、堕天使の長や現四大魔王の出てくる会談なんぞに出てくるのだ。

 

 いい加減な信徒からすれば精神的にきつい。真っ当な信徒でも恐れ多すぎる。

 

 と、言うわけで―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、ここは英国だから飲酒は問題ないね。急性アルコール中毒にならないようにその辺のワインを適当に飲んでいいからね? はい、乾杯」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 グレイバー猊下の音頭に乗り、俺達はやけくそでグラスをぶつけ合う。

 

 はっはっはっは。飲み会だよ飲み会。もうすぐ会談だから、参加することになった信徒でちょっとした親睦会を猊下がセッティングしてくれたのさ。

 

 まあ猊下が独自に確保したホテルの一室で、猊下が持ってきた酒とかジュースとかお菓子とかおつまみとかでわいわいする感じだけどな。

 

 よし、飲もう!

 

 酒に関しては飲んだ経験がないでもないが、あんまり飲みまくっているわけではない。二日酔いになったら次の日がグロッキーで、余暇も訓練も悪くなるからな。

 

 だが、会議は三日後だ。明日は丸一日休みであり、明後日に日本に向かって出立する。そして出立用の荷物は既に準備万端だ。

 

 飲むぞ! 飲まなきゃやっていられるか!!

 

 まず猊下に聞くことがあるぜ!

 

「猊下! どんな酒あります!?」

 

「信徒的な言い訳の為、ワイン一択だね。ただし赤白ともに、普通のワインから甘めの貴腐ワイン、スパークリングワインまで多岐に亘ってるから、それなりに飲み比べできるよ」

 

「よし、全部グラス一杯ずつ飲みます!」

 

 俺は呑むぞ!

 

「あとつまみはチーズやクラッカー、チョコレートとか持ってきているね」

 

「ゴチになります!」

 

 いやっほぉ~い! 飲むぜ呑むぜ呑むぜ!!

 

「……ぶはぁ! もう一杯!!」

 

 っていうか、もう飲んでる人がいるんですけど!?

 

 何してんですか、紫藤イリナさぁん!?

 

 というより、瓶をラッパ飲みするなよ女の子が。

 

 そんなイリナに、リアはちょっと引き気味で止めに入るが―

 

「何言ってるのよ、もう呑むしかないじゃない!」

 

 ―大泣きだった。

 

「主が、主がすでに亡くなっているだなんて! 悪魔の中にいいひとがいる可能性よりありえないでしょうに! なんでこんなことになっているのよぉおおおおおおおお!!!」

 

 ………うん。まあ、ガチの信徒が「神死んでます」なんて知ったら、ショックでこれぐらい取り乱しても問題ないな。

 

 リアですら結構ダメージ入ってたんだ。そりゃこうなるヤツがいてもおかしくないわな。

 

「っていうか猊下、イリナに伝えてたんですかい?」

 

「まあねぇ。コカビエルの一件で会談をする以上、彼が主の死を告げたことも言わないとねぇ」

 

 あ~なるほど。

 

 そりゃそうだ。言わないと駄目だ。サプライズにしても限度があるわな。

 

 だがこの流れ、たぶんちょっと前に言われたんじゃ―

 

「この一週間ショックで寝込んでたんだもの。せめて一日ぐらいやけ食いやけ呑みさせて頂戴!」

 

「いえ、それどう考えてもアップダウンが激しすぎですから止めた方がいいと思いますよぉ!?」

 

 ―思った以上にダメージが大きかったぁ!?

 

「ちょ、猊下。止めた方がいいんじゃないですか? リアの言う通りアップダウンが激しすぎでしょ」

 

「いやぁ、それで体調不良になって参加できないならそれでもいいけど、何の発散もさせずに会談で爆発させるとまずいからねぇ」

 

 ……割と酷くね?

 

 俺がどうしたもんかと思っていると―

 

「失礼。遅くなった」

 

 と、ドアが開いて更なる乱入者が入ってきた。

 

 外見は三十代手前ぐらいのギリギリ青年って感じの男性。ついでに言うと、手にはポリ袋が膨れている。

 

「手ぶらで来るのも何だったのでな。つまみになるものをいくらか持ち込んでおいた」

 

 そう言いながら入ってくる男性に、猊下は朗らかに笑いながら手を挙げる。

 

「やあルーラー殿。これはありがたいですねぇ。なにせ酒の消費量が思った以上に多くなりそうで」

 

「まあ、敬虔な信徒が主の死を知れば、正気を失ってもおかしくあるまい。一日ぐらいやけ酒をしても、さほどの罪にはならないだろうな」

 

 と、年下なのにフランクな態度のルーラーさんと、逆に枢機卿なのに相手に対して腰が若干低めの猊下。

 

 ん、この人誰?

 

「あの、どちらさまなのでしょうか?」

 

「どちらさまですか?」

 

 リアとイリナも首を傾げるけど、イリナもう酔ってるな。止めないと急性アル中でぶっ倒れるんじゃないか?

 

 それを見て苦笑しながら、ルーラーさんはイリナの頭の手を置くと軽くなでる。

 

「暗部出身のルーラーと言っておこう。衝撃的な事実を叩き込まれて大変だろう。飲んで忘れるのを止める気はないが、飲み過ぎは危険だから愚痴も吐くと言い。それぐらいは聞いてやる」

 

「あ~。この人いいひと~! そうなんれすよ~! 主が、主がぁああああああ!!!」

 

 ああもうぼろ泣きだよ。大変ことになってるよもぉ。

 

 っていうかグレイバー猊下が相手を上に見てるような態度をとっている時点でかなりの人物だろうに。そんなことしていいのかよ。

 

 俺は不安になってちらりと横を見ると、リアも同じ感じなのか不安げだった。

 

「どうします?」

 

「どうしろと?」

 

 俺達が顔を見合わせていると、猊下はワインを美味しそうに飲みながらはっはっはという。

 

「気にしなくても大丈夫だね。なにせ、彼は何十年も主の死を知りながらも信仰の為に頑張っている方だからねぇ」

 

 ………そんなこと、言われてもなぁ。

 

 大丈夫………か?

 

「まあ、会談そのものはスムーズにいくと確信しているから、ちょっとぐらいグロッキーでも大丈夫だね。何より問題な埋葬連隊は、一応締め出しといたからね」

 

「それは伺っておりますが……それとは別の意味で大丈夫なのでしょうか?」

 

 リアの懸念はもっともだ。

 

 今回の会談、ロザールたち埋葬連隊の連中は締め出している。

 

 一応のガス抜きとして警備の一部に組み込んでいるが、同時に俺達以外のイスカリオテの聖剣が総出で監視体制に入っており、完全に信用されてない。

 

 なにせあいつらは超タカ派だ。そんな奴らを会談に入れたところで、過激な発言で相手の神経を逆なでするところしか想像できない。

 

「でも不安ですね。こちらがタカ派を締め出しても、相手側がどう対応するかが読めなければ……」

 

「まあ、そこも大丈夫だと思うよ。気を付けるべきは他にあるねぇ」

 

 リアが会談の成否について気にしているところも言っていたが、そこを猊下は平然としていた。

 

 いや、堕天使側の会談のビジョンや目的も、現四大魔王の対応だってよく分からないんだし……。

 

「重要なのは中じゃなく外側だね。会談にテロが起きる可能性こそ一番気を付けるべきところだねぇ」

 

 俺達はこの自信が分からず、顔を見合わせるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、この慧眼がいろんな意味で的中したのは驚くべきか嘆くべきか。

 

 とりあえず、あいつらは絶対しばきたおすと決意はしてるけどな。

 




 今回はアニメ版を参考にした流れにしますので、イリナも参加。そして盛大に大ダメージが入っております。

 さらに登場する新たな人物。そしてクロス作品のタグが付いている以上、想定できるその正体の一端。



 会談を襲撃する禍の団は面倒なことになりますが、同時に会談そのものもすごい変化球が入ることになると予告します。


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第一章 8 会談前の一息

 と、言うわけで会談までカウントダウンが始まります。


 

 そして日本に再び到達。そんなこんなで今日の夜が会談である。

 

 心臓に悪いというほかない状況下。俺もリアも半日休息をとって心を休めている。

 

 ちなみにイリナはメンタル的な疲労より、主の死のショックをどうにかするべきとグレイバー猊下が判断された。その為、あえて猊下の身の回りの警護をする方向で精神の安定を図っている。

 

 まあ、それはいいんだが―

 

「……観光って気分にはならないんだよなぁ」

 

「ええ。何せ一瞬でも遊び惚けれるような状況ではないですからねぇ」

 

 なので俺達は適当にぶらついた公園で、ジュースを片手に黄昏ている。

 

 仮眠はしっかりとったから、合流するまでの五時間ぐらいが暇なんだが。

 

「そういえば、こういうチャンスを逃さず、お菓子とかこっそり調達したらどうですか? 異空間の魔法を習得していることは分かっています。登山用のバックパックぐらいは習得しているそうですね?」

 

「何で知ってる!?」

 

 俺の動向をどれだけ知ってんだお前。

 

 くそ、いつでもどこでもこっそり買い食いできるように、今少しずつ練習中だってのに。

 

 まあ、それも今する気にはなれないしな。

 

「……流石にこんな状況下で、お前に余計な負担はかけられねえよ」

 

「ふむ。そういう心がけはいいですね。適度なガス抜きは認めてますが、それはそれとしてしっかりしてくれるに越したことはありません」

 

 俺の微妙な殊勝な態度が、ちょっと嬉しかったのかねぇ。

 

 ちょっと口元が緩んでるな。

 

 あ、そうだ。

 

 普段面倒をかけてる分、ここは俺がリアに面倒をかけられよう。ちょうどいい時間だしな。

 

「リア。そういやそろそろ三時だし、どっかでお茶でもしようぜ? 奢るぞ」

 

「え、本当に?」

 

 おいおい。お前は何でそんな疑問符浮かべてんだよ。

 

 俺だってお前には結構感謝してるんだぜ?

 

「お前が俺の首輪役になってくれたおかげで、教会での立ち回りが楽になってるしな。説教の手間分は奢るさ」

 

「そこは構いませんよ? 私もそこでは感謝してますし」

 

 ………はい?

 

「え、お前マゾ?」

 

「やっぱり奢ってもらいましょう」

 

 問題ないけど藪蛇つついたか?

 

 一応給料は貰ってるが、清貧をよしとする信徒として動いているから金に限度はあるんだけどなぁ。

 

 第一、俺はいい加減な信徒だから、お目付け役やってるお前より給料は低いからね? その辺考えてね?

 

 なんて視線で願っていると、リアはため息をついた。

 

「そうではなくてですね。ただ「これが正しいからこうする」しか出来てなかった人形一歩手前の私は、これでも信徒でもちょっと浮いているところがあったんですよ」

 

 ああ~。なるほど。

 

「信徒も結構人間臭いってわけか」

 

「まあ、だからこそ評価してくれる人も多いですが、グレイバー猊下はむしろ問題視していたのでしょう。だから、欲とか俗とかを人並み以上に持っている鶴来と組み合わせたんでしょうね」

 

「……自覚はあったんだな」

 

 俺はそうだと思ってたけど、お前はそういうところは素直だと思ってたよ。

 

「貴方のおかげで少しはですけど。まあ、猊下ほどの目はないお堅い人からは評価が多少下がりましたが」

「やっぱりごめん?」

 

 謝った方がいいかと思ったが、リアは苦笑すると首を横に振った。

 

「いえいえ。確かに困ることも多いですが、代わりに生きているって実感は得られますから……まあとんとんで」

 

 そ、そっか。

 

 まあ、その、なんだ。

 

「相棒として信頼があるならそれはよかったよ」

 

「ええ、その辺は安心してください」

 

 リアはそう言って微笑むと、少し勢いをつけて立ち上がった。

 

「ですので、相棒としての親睦を深める為にもどこか行きましょうか。大仕事の前に小腹を美食で済ませるぐらいなら、草葉の陰の主もお目こぼしくださるでしょう」

 

 ………あれ? なんかかなり機嫌がいい?

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺達は、大いなる問題にぶち当たった。

 

 そう、それは大いなるシンプルな問題点。

 

「「……どこに行こう」」

 

 俺達、観光関係の知識なんぞ持ってないよ。

 

 いやぁ、駒王町は観光名所があるわけでもないし、かといって近年ある喫茶店のような田舎というわけでもない。名門学園駒王学園はあるが、そういうのは現地向けであり遠いところから来た人向けでは断じてない。

 

 つまり、そういうのを探すのがある意味面倒だということだ。

 

「下手に学生向けの店を探しても、当然だけどカップル扱いに見られるしな」

 

「ですよねぇ。一目惚れが失敗した直後にそれはないですよねぇ」

 

 俺達は首を捻ってどうしたものか考える。

 

 いや、本当にどうしたらよろしいのでしょうか。

 

 もうこれ、帰った方がいいんじゃないだろうか―

 

「……おや、そちらさんも大仕事の前の一休み?」

 

「なんだ。考えることは皆いっしょか」

 

「ふむ、これは奇縁もあるものだな」

 

 ………

 

 俺達は後ろを振り向くと―

 

「「あ」」

 

 イルマ姐さんとスピネルが、もう一人年下っぽい少年と一緒にいるんですが。

 

 え、なに? どういうこと?

 

「まあ待て。どうせ会談に出席ということで来たのだろう? なら私達三人もそうなので、こちらも余計なことをするつもりはない」

 

 と、スピネルがそう言って、視点で隣を示す。

 

 そこには、チェーン店系列の喫茶店があった。

 

「好きなものを頼んでいい。ちょっと話をしないか?」

 

 と、言われたので俺達は店内に入る。

 

 なんというか、このままだと時間を無為に過ごしそうだからな。

 

 と、言うわけで俺達はコーヒーとか紅茶とかを頼みながら、適当にだべっていた。

 

 本当にだべっていただけだったりする。日本食はこんなのが美味いとか、俺達が英国に行ったことでイギリスメシマズ伝説とかだ。

 

 とくにスピネルはものすごくその二つに食いついていた。

 

「ああ。英国最大の欠陥はそこだろう。21世紀になってだいぶマシになっていてもメシマズ伝説なのだ。20世紀の時は本当に酷かった………」

 

 なんで十代後半程度でそんなに1990年代の英国メシマズ事象に詳しいんだよ。

 

「それに比べて日本はいい。羊羹はまさに極東の神秘。そして卵かけご飯は日本が誇る最高峰の食文化だ。卵かけご飯こそ日本が世界を凌駕する最高峰の食文化社会だとは思わないか?」

 

 どんだけ日本文化好きなんだよ。いや、俺も卵かけご飯はある意味日本のすごいところだと思うけど、そこまで言うか?

 

「ごめんねー。スピネルの大好物だからさ、ほら、そういうのって饒舌になるじゃん」

 

「ま、まあそうですね……」

 

 とまあ、イルマ姐さんとリアも苦笑い。

 

 さて、然しこれはチャンス。具体的にはイルマ姐さんとお近づきになるチャンス。

 

 ぜひこうあれだ、会話を続けたいんだが―

 

「しかしリアちゃんはかわいいねー。ねえねえ、女の子同士って興味ない? それとも妻妾同衾は?」

 

「あの、私聖書の教えを信仰しているんですが!? ついでに言うと今は21世紀なんですが!?」

 

「気にするなリア嬢。イルマのそれはツッコミ前提のギャグだ。こいつSEXの経験は豊富だが彼氏いない歴=年齢だからなぁ」

 

 ……会話……。

 

「そんな!? だって乱〇もスワッピン〇もアウトな人ばかりなんだよ!? イルマさんは最低でのひと月に一度は脂ぎった中年男性の情欲をたるんだおなか事ぶつけてくれないと頭痛と胃痛に悩まされるのに!」

 

「そこはもう少し直せ。ときどき思うんだが「売春グループに縄張り荒らしとか言われたくないし」とかいう理由で「じゃ、募金しに行こうか」と万札五枚も募金させるのはどうなんだ?」

 

「いやいやスピネル。イルマさんはSE〇目的だし、金に困ってないし、する必要のない犯罪に興味ないし。だけど変な敵作らないようにするには相場以上のお金をもらった方がいいし。だからこう、世の為人の為になる義賊的な?」

 

「それもそれでどうなんでしょうか。いえ、堕天使側の人にとやかく言うのもあれですけど……」

 

 ………。

 

「よし、とりあえず今日からサラダ油を毎日200ミリリットル飲もう」

 

「飲むなよ」

 

 オイ少年。ツッコミを入れるな。

 

「少年。俺は今真面目な話をしてるんだからな」

 

「イルマさんのあれは基本スタンスだから無理だ。諦めろ、あの人は常人にはきつい」

 

 なんだと? それはつまり―

 

「……なら普通に問題ないな。……待てよ? 同性OKならいっそのことバイセクシャルのカップル二組捕まえてダブルでサンドイッチとかしながら会話できるのか」

 

 なるほど。興味深い新世界を開けるわけだな。

 

「……誰かその破戒信徒を吊るしたらどうだ?」

 

「すいません。ここ数年は抑えてるんです。当人的には相応に気を使っているんです」

 

 リアはなんでスピネルに謝る。っていうかスピネルはなんで堕天使なのに俺にツッコミ入れる。

 

 俺は女装程度なら大丈夫ですし、体型とか顔とか女装が似合うって自覚はあります。だから初めて会った時の発言は結構まじめに検討可能ですぜ?

 

「……ふ、ふぉおおおおおおお………っ」

 

 あれ? イルマ姐さん、顔真っ赤。

 

「いや、ドン引きしましょうよイルマさん」

 

「諦めろ義弟よ。こいつは妙なところで純情なんだ」

 

 義弟に対してそういうスピネルを見て、俺はふと思った。

 

「そういや、おたくとは初対面か?」

 

 顔に見覚えはないんだが……どっかで会ったような気がしないでもない。

 

 と、そこでスピネルがポンと手を打った。

 

「いや、コカビエルが召喚した増援を倒したパワードアーマーを着た奴がいただろう? その中身がこの我が義弟、アルファルド・マルガムだ」

 

「うっす。アルファルドっす。カルンウェナンじゃ一応オフェンス担当やってるんで、よろしく」

 

「ん、ああよろしく……義弟?」

 

 義理っていうと………。

 

 は、まさか!

 

「言っとくがエロゲ的展開はない。前にも言ったと思うが、どうも私がガチの同性愛者らしくてな。後継者を産まなければならないというのに困ったものだ」

 

 いや、心を読まないでください。あとすごいこと言わないでくださいな。

 

 俺が内心でツッコミを入れたうえで、今度はアルファルドがぼりぼりと頭をかきながら、遠い目をする。

 

「実は俺記憶喪失で。身寄りもいないし身体データもあれ何で、神の子を見張る者《グリゴリ》に面倒を見てもらう時に、縁のあった義姉さんの義弟って扱いになったんだよ」

 

「それは大変ですね。身元や記憶が分かることを祈りたいですが、既に主は死んでますし堕天使側に加護を与えるのもあれですし……」

 

 リアがすぐに同情して、さらに困り始める。

 

 こういうところはいいところなんだろうけど、結果的に自分にダメージ入ってないか?

 

 ほれ、アルファルドも苦笑してるし、イルマ姐さんもスピネルも同情的な目をお前の方に向けてるぞ。

 

「まあ気にするな。もし神の加護があるにしても、それは本当に苦難を乗り越える努力をした者に与えられるべきものだろうしな」

 

「うんうん。転生堕天使になってるから時間には余裕があるし、もらうにしても一世紀ぐらいは頑張ってからじゃないとねぇ」

 

 フォローありがとう! あと、確かに正論だな。

 

 人事尽くして天命を待つとかこの国じゃいうし、まずは一生懸命頑張るべきだ。神様に何か恵んでもらいたいなら、それなりのものはきちんと用意するべきだからな。

 

 せめて一生懸命頑張るぐらいして、加護を与えてもいいような人間だと証明しておかないとな。

 

 いや、転生堕天使らしいけど。

 

 と、なんとなくうんうんしているとスピネルがこっちをまじまじと見つめていた。

 

「……な、なに?」

 

「いや……」

 

 見れば、イルマ姐さんも俺を見て、何やら感慨深い表情をしてる。

 

「ん~。一目惚れされた人から言った方がいいと思うけど、君……今幸せ?」

 

 そんなことを言われて、俺はふと考える。

 

「まあ、俺は結構欲望発散しやすい生活を送ってたからなぁ。教会暮らしは堅苦しいから大変にも思うけど、幸いちょっとやそっとの息抜きならお目こぼししてくれる上役や、それを名目にして自分もちょっとはガス抜きする相棒にも恵まれてるな、うん」

 

「……あの、私にも恥の概念はあるんですが?」

 

 別にいいだろ相棒。俺が週一でかつ丼とラーメン食べる間にちょっとパフェ食べる程度の息抜きぐらい、問題視されないとも思えるけどな。

 

 ま、教会にいた時もちょっとはお目こぼししてくれるシスターにも恵まれたし―

 

「うん。総合的に見てやりがいもあるし保証もあるから、幸せな部類じゃねえの? ……命の保証は微妙だけど」

 

「なるほど。なら会談は頑張らないとな」

 

「うんうん。いい感じに終わらせたいね」

 

 ……顔を見合わせてニッコリしてるところ悪いんですが、どういう感じ?

 

「あの、もしかしてと思いますが……脈ありなんですか?」

 

「どうなんだろう? なんていうか、二人ともなぜかそちらの相棒さんを気にしてる感じがあって」

 

 ほれ、外野も気に知れるじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしまあ、会談ねぇ。

 

 前代未聞レベルだし、何もないなんて思う方がどうかしてるよなぁ………。

 




 スピネルの義弟であるアルファルド。彼は将来的に超重要なキャラになる予定です。

 ……そこまで書きたいぜぇ


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第一章 9 明かされた真相

とりあえず先行で内容をネタバレすると。









これ聞いてたらコカビエルが憤死するとだけ言っておきます。


 

 まあそれはそれとして、ついに会談が始まるタイミング。

 

 来訪タイミングとしては俺たちの方がグレモリー眷属側より早い。

 

 これはメインである三大勢力のトップの護衛も兼ねているからであり、ある意味でゲストであるリアス・グレモリーは順序として後になったからだ。

 

 まあそんなわけなんだけど………。

 

「いいね、なかなか強そうなのがいるじゃないか」

 

「ヴァーリ。変なちょっかいをかけるようなら、貴様に麺類を見たら食欲が減衰する呪いをかけるぞ」

 

「………解呪できる自信はあるけど、できれば喰らいたくない呪いだね」

 

 などと、銀髪の少年相手にスピネルが釘をさす光景が映って気が気でない。

 

 あのすいません。この人面白半分でこっちにけしかかろうとしてませんでした?

 

 この爆薬満載の会談にそんなものをださないでくれませんかねぇ。爆発したらどうするんですかねぇ、ほんと。

 

「総督さん、ヴァーリはこの会談に連れて着たらまずかったんじゃないですか? イルマさんとしては天界の方々が埋葬連隊を締め出したみたいにした方がいいと思うんですけど?」

 

「まあ大丈夫だろうよ。いくらこいつが戦闘狂でも、ここにいる連中全員を同時に敵に回すほど酔狂じゃないさ」

 

 イルマ姐さんは堕天使総督のアザゼルと、結構フレンドリーに話してるし。

 

 くそ、うらやましい!

 

「そこ、嫉妬しない」

 

 相棒はあっさり俺の内心を見透かすし。

 

 マジ勘弁してくれないかねぇ、ほんと。

 

 あとちょっと気になることが一つ。

 

 問題は現魔王と一緒に席に座っている男だ。

 

 外見年齢は二十歳前後。貴族っぽい恰好をしていることと言い、おそらく上級悪魔。

 

 というより、外見通りの年齢ではまずない。ついでにいうと、その地位は最上級悪魔とか七十二柱本家当主とかでないとおかしいだろう。

 

 なぜって? それは―

 

「なかなかユーモラスな会談になりそうですね、サーゼクス様にセラフォルー様」

 

「そうだね。さすがはアザゼル、なかなか面白そうなものをスカウトしているようだ」

 

「今日は予定を開けてくれてありがとうなのよ、メルガスちゃん」

 

 ……フランクに会話しているうえ、どうも魔王側が呼んだっぽい。

 

 うん、これもしかして、とんでもないことになるんじゃないだろうか―

 

「……失礼します」

 

 と、そこでグレモリー眷属が入ってきた。

 

 そしてゼノヴィアもきちんといるな。

 

 ……あの女、事後処理を終えた後でリアス・グレモリーに自分を売り込んだらしい。

 

 いや、主が死んだことで信仰が揺らぐのは当然だとは思う。一神教で神が死んでいるなんて、冗談抜きで世界に知られたら大混乱で大騒ぎで、年間自殺者数が十倍どころか百倍ぐらいになってもおかしくない。下手したら億を超えるかもしれないしな。

 

 だけどね? いきなり悪魔になるか普通。

 

 あ、イリナがいることにぎょっとなって、勢い余って祈って頭痛で悶絶している。

 

 アーシア・アルジェントもつられて祈って悶絶しているし、君たち落ち着きなさいな。

 

 特にアーシア。オタクはもう数か月は悪魔になってるだろ。そろそろ慣れろよ。追放されて悪魔になってなお祈るとか、どんだけ筋金入りの信者なんだよ。

 

 まあ、それはともかく。

 

 ………これから、激務が始まるってわけなんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……会談が始まるようだな」

 

「そうですか。それで、こちらはいつ仕掛けますか?」

 

「まあ待て。まずはバチカンの方が先だ。そのあとこちらを迎えに来るのだから、そのあたりは考慮するべきだろう」

 

「それはそうですが、逃げることが前提というのも味気ないですね。しかたないですけど」

 

「それは仕方がない。偽りの天使の長に堕天使の長、更に悪魔どもの長二人に肩を並べられる女傑もいるのだ。一人でも殺せれば僥倖だが、誰一人として殺すこともできない結果に終わる可能性もかなりある」

 

「ま、そうですね。……真なる天使はいつごろ来るのですか?」

 

「今回はおひとりのみだ。残念なことに、この世界は例外であるがゆえにすぐにはこれないようでね。真なる座天使お一人と、真なる主天使お二人が来る程度だそうだ」

 

「旧魔王派の末裔も一人来て、英雄派とかいうのも一人来るのでしょう? 彼らはどれぐらいできるのでしょうか?」

 

「旧魔王派は無限の力を借り受けたようだが、良くて先代魔王程度だろう。英雄派は恐れ多くも聖槍を持っているようだが、持っていたところで信仰もなしに真の力を発揮できるとも思えん。期待薄かつ、命をきちんと使い切るためにも投げ捨てないようにしなければな」

 

「了解です。さすがは我らのリーダー足る四聖座の右席ですね」

 

「年の功というものだ。グレーゾーンにどっぷりつかったものとはいえ、だからこそ信仰のためにできることはあるさ。これでも主の領域の代行を担当しているのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、まずは和平を結ぶ場を作ることができたことを祝うとしようか」

 

 などと、最初に魔王サーゼクス・ルシファーがとんでもないことを言ってきた。

 

 俺やリアス・グレモリー眷属たちがぽかんとなっている中、今度はアザゼル総督はくっくっくと肩を震わせる。

 

「ああ、まったくだな。コカビエルはザマァとありがとうを同時に言ってやりたかったが、まあ知らないうちにコキュートスに叩き込んどいたぜ」

 

「意地が悪いですよアザゼル。まあ、きっかけを作ってくれたおかげで予定を五年も縮めることができたのは僥倖ですが」

 

 などと、たしなめるミカエル様すらちょっと笑っている。

 

「うんうん。おかげでこっちもスムーズに事が進められたのよねん。いっそのこと打ち上げとかもしちゃう? いきなり予約しても怒られない居酒屋とかあったかしら?」

 

 なんて、魔王セラフォルー・レヴィアタンに至っては、もうこれが終わった後のことを考えている始末。

 

 え、え、え、え、え?

 

 俺は思わず隣のリアを見るが―

 

「………ほわ~」

 

 あ、だめだ。あまりの展開に現実逃避している。

 

 俺が相棒を現実に引き戻すべきか考えている間も、トップ陣は朗らかに和平を進めている。

 

「しかし苦労を掛けたね諸君。とくにスピネル君には汚名をかぶらせてしまったことを詫びなければならない」

 

「お気になさらないでください、サーゼクス様。メルガスに権限を集中させることも兼ねた策でしたし、そもそも献策したのは私とメルガスです」

 

「全くですよ。むしろスピネルを追放しなければ、ヘルズ・クロックワークの軌道をここまで安定させることはできませんでしたからね。これもまた貴族の務めの一つというものです」

 

「それでもだよ。君の名誉の回復や褒賞は必ず用意することを、魔王ルシファーの名に懸けて誓わせてくれ。」

 

 などと、なぜか魔王ルシファーは、隣のメルガスとかいう悪魔と一緒に、脱走しているはずのスピネルをねぎらったり詫びたりしている。

 

「そちらのグレイバーちゃんもありがとうなのよ。貴方がミカエルちゃんにあたりをつけてくれなかったら、余計なトラブルが起きたかもしれないもの」

 

「はっはっは、お構いなくといったかんじか。なにせ、絶対埋葬連隊とかが後々反旗を翻すだろうからね。それにルーラー殿がこちらに接触をしてくださったからだから、感謝をするなら彼にしてほしかな?」

 

「まあ、問題も発生するだろう。それでも、これこそが最善だと判断したからこそ協力したのだ。感謝ならその価値がある策を提示したスピネルやアザゼル総督にするといい」

 

 魔王レヴィアタンに至っては、グレイバー猊下やルーラーさんにお礼言ってるし。

 

 あのすいません。状況読めないんだけど大声上げていいですか?

 

「まあまあ皆さん。そろそろついていけてない方に説明をした方がいいのではありませんか?」

 

 と、俺が爆発する前にミカエル様がそう仰って、事情を知っている組がはたと手を打った。

 

「おっと! 悪い悪い。こういうのは後で種晴らしをするからこそ面白いし、何より裏でこっそり進めておく必要があったからな」

 

 などと、いたずらっ子の笑顔を浮かべていい感じなアザゼル総督が、なんか嫌な予感をさせてくれるよ。

 

 いったいどういうことなんだ?

 

 なんで、これまでとっかかりすらできてなかった三大勢力の初会談が、こんなスムーズに進んでるんだ?

 

 いや、スムーズなんてもんじゃない。もうとっくの昔に示し合わせて内容が決定していて、会議そのものは形だけやっておけばいいって感じでしかないだろ、これ。

 

 うん、ここは俺が行くべきだな。

 

「たぶんこの場で一番いい加減に仕事してる俺が聞くべきでしょう。……ことと次第によっちゃあ約束された勝利の剣(エクスカリバー)ぶっ放すぞこら」

 

 結構威力関係はいい線行くと思うんだよ。いや、冗談抜きで。

 

 あとぶっ放すのも冗談抜きじゃないからね? ほんとにぶっ放すことも考えてるから、覚悟しろよ?

 

 俺がさっきでそれを示していると、まず真っ先に咳払いをしたのはスピネルだった。

 

「では順を追って説明しよう。まずは私が堕天使側にいるあたりの事前情報だ」

 

 うんうん。

 

「そもそも私はグレモリー分家の当主の娘。ただし堕天使と人間のハーフが母親であり、また純粋な悪魔の本妻から生まれた姉もいた」

 

 ふんふん。

 

「しかし父が不正を行っていることから私はそれを告発し、抵抗した父を討ち取った。しかし実の父親を裏切ったとして一部から白い目で見られた私は、同時に立ち上げに協力した組織である「へルズ・クロックタワー」での政争にも負けており、一部の技術をもって堕天使側に亡命。そしてその技術などの評価もあり、特殊研究班であるカルンウェナンというチームを与えられて活動している……という感じだな」

 

 なるほど。人に歴史ありとは言うが、悪魔にも歴史ありなのか。

 

 人、堕天使、そして何より悪魔。その三つの種族の血を引いているとは、なかなか大変な人生が確約されている感じな奴だな。

 

 で?

 

「だがこれは表向きのストーリー。実態は父を討ち取ったところからが大きく異なる」

 

 なんてことをスピネルは言ってきたんですが。

 

 え、どゆこと?

 

 というより、なぜかリアス・グレモリーが思わず立ち上がっている。

 

「異なるとはどういうこと!? 実際にお兄様たちもその旨を公表しているのよ! お兄様に限って嘘の罪で人を貶めるような真似をするわけが―」

 

「それは違いますね」

 

 そういうのは、メルガスとか言っていた若い悪魔。

 

 リアス・グレモリーの言葉を遮ってから、メルガスははっきりと言い切った。

 

「そもそも追放というのが表向きのカバーストーリー。彼女は現魔王政府から直々に神の子を見張る者(グリゴリ)に派遣された使者ですからねぇ」

 

 ………。

 

 今、なんていった?

 

「……待ちなさい。貴方たちへルズ・クロックタワーは政治的追及などを行ったとも聞いているけれど?」

 

 リアス・グレモリーが追及すると、メルガスとか言われた悪魔は苦笑しながら肩をすくめる。

 

「カバーストーリーを兼ねた八百長試合ですよ。何分へルズ・クロックタワーの設立目的を達成するには、私とスピネルが同時に在籍するわけにはいかなかったものでして」

 

「その上で、目的を達成する場合にどちらがかじ取りをするべきかとなると、エルメロイの私よりトランベリオのメルガスが最適なのでな。幸か不幸か父上が愚行を行ったうえ、討ち取るほかない状況になってしまったので、もういっそのことそれを苦にして脱走……という風に見せかけることを提案したのだよ、リアス嬢」

 

 状況が微妙に呑み込めないが、とりあえずめっちゃ苦笑いしている魔王二名の様子から見て、事実っぽいな。

 

「お、お兄様は了承なさったのですか!?」

 

「了承したというより、しないわけにはいかなかったといっておくべきかな」

 

「へルズ・クロックタワーの内情はリアスちゃんも知ってるでしょ? 大王派の力の源泉ともいえるヘルズ・クロックタワーが安定しないといろいろと不安だし、それと引き換えと言われたら……魔王としては断れなかったのよん」

 

 リアス・グレモリーに対する、笑いになり切ってない苦笑いをしている二人の返答に、俺は同情心が湧いてきた。

 

 どうやら、不本意だけど認めないわけにはいかなかった……ということか。

 

 まあそこはいい。問題は……だ。

 

 俺は視線をグレイバー猊下とミカエル様に向ける。

 

 ちなみに、不敬覚悟で怒気は出してる。

 

 これだけの飛んでもどっきりをしでかしてくれたんだ。できる限りはっきりと事を問いただすべきだし、問いただすなら義理でしか信仰してないいい加減な俺がやるべきだろう。敬虔な信者のリアやイリナはまだ動揺しているし、強気に出れる相手じゃないしな。

 

 と、言うわけで。

 

「ではなんで教会に話が通っているか説明プリーズ。内容次第じゃほんとに聖剣ぶっぱしますから、そのおつもりで♪」

 

「はっはっは。割と本気で言ってるから怖いね。自分がいい加減だからこそ、こういう時まじめな信徒の変わりに泥をかぶれるのは美徳だね」

 

 いいから説明しろよ猊下。

 

 さすがに俺、怒っていいですよねぇ?

 

 とりあえず聖剣を具現化した方がいいかと思い、魔術詠唱の準備を始める。

 

 そのタイミングで、ルーラーさんが俺の肩に手を置いた。

 

「その件については私が説明しよう」

 

「……あの、そもそもあなたは誰ですか? 俺、この場の人の中であなただけ心当たりがないんですけど」

 

 と、そこで兵藤が手を挙げて質問する。

 

 あ、そういえば。

 

「……そういえば、ミカエル様はアスカロンを渡すときに顔を合わせておられてたのだな。では挨拶からしよう」

 

 と、そこでルーラーさんがごほんと咳払いした。

 

「私はルーラーのサーヴァント。かつて人類史に名を遺した存在の分身のようなもので、世界に大きな悪影響が生まれることを阻止するため、そこのスピネルやイルマと共闘したもの」

 

 なんか世界の危機とか言ってきたルーラーさんは、さらに一呼吸おいて―

 

「そしてスピネルに伝手を頼られ、三大勢力和平をもくろむネットワーク設立の教会担当を担っている男だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ。なかなか面白いことになっているようだね」

 

「全くだね曹操。まさかコカビエルが道化でしかなかったとはね」

 

「馬鹿ではあるだろうけどね。だけど、どう転んでもコカビエルの目的はかなわなかったということだけは確定だ」

 

「それで、どのタイミングで仕掛けるのかな?」

 

「そうだね。魔法使い側が提唱した、「リアス・グレモリーの眷属」を利用するプランの成否判定次第かな」

 

「成功したなら勝率は上がるだろうけど、やり口としては好みじゃないと思うけど、いいのかい?」

 

「同盟を結んでいるというのは厄介だって話さ。ま、禍の団に参加している理由は「打倒龍神」に「人材発掘」だからね。出来ればスカウトの機会が欲しいから、失敗してくれるといいんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、重要なのはそっちじゃないからね。どう転ぼうが、俺がサーゼクス・ルシファーと戦う確率は10000パーセントさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、まあ語った内容の通り、三大勢力のトップは和平を行うための根回しを行っていたわけだ」

 

 スピネルがそういうと、今度はメルガスが続ける。

 

「しかし会談による正式な停戦を通り越して和平条約ですからね。寿命の長さも考慮して、少なくとも数十年単位で時間をかけるつもりではあったんですよ。本来は」

 

 そして二人は同時にため息をついた。

 

 どうやら、コカビエルの行動は二人にとっても想定外だったらしい。

 

 それに同情したのか、イルマがスピネルの肩をポンポンと叩いた。

 

「まあ、その過程で戦争継続派の締め出しもやってたんだけどね~。別件のイレギュラーとかにコカビエルの意識が向いちゃって、その研究成果による出し抜きとそもそも危機感をあおられたこともあって、結果として暴走しちゃってさあ大変!」

 

「だけど、うまく利用すれば三大勢力共闘という事実に会談を行うためのとっかかりができるわけでね。だったらいっそのこと、それを利用して和平までの流れをつつこうということになって、いろいろと動いてたんだよね」

 

 と、グレイバー猊下もうなづいた。

 

 ……なるほど、ねえ?

 

 つまり、最終的に追加すべきところがあるとするなら―

 

「―しかし教会側のタカ派もこれ幸いと戦争再開を兼ねて派手に動いたと」

 

「……そういうことだよ」

 

 と、俺のボヤキに魔王ルシファーが苦笑する。

 

「まさかリアスとソーナを狙うとは思わなかったしね。不幸中の幸いは、我々悪魔は戦争継続派を初代魔王死亡後の内戦で追放していることか」

 

「全くもう。ついうっかり、全戦力をもってコカビエルに決闘を申し込むところだったのよねん。それだと共闘という象徴がなくなるから、駒王町の外でぐっと我慢したけど」

 

 魔王レヴィアタンもそういうけど、なんかいいように危機に投げ込まれた気がして複雑ではある。

 

 それ以前に、何かあったときのためにスタンバってたのか。まあ相手は魔王にケンカ売れるレベルだし、これはシスコン過ぎるとは言えないか。

 

 まあそれはそれとして、やっぱりちょっと聖剣で勝利を約束したい。

 

 とはいえ、そう思っている方が少ないようだ。

 

 とくにソーナ・シトリーは、得心が言ったという蒼すらしている。

 

「確かに。事情を知らないものを主体としたからこそ、共闘という事実には価値が生まれますからね。むしろスピネルたちを送り込んだのは問題一歩手前ですね」

 

「まあ、何も知らないものだけに任せるのも気が引けた……ということにしてほしいな」

 

 スピネルはそう苦笑し、そして隣にいる銀髪―そういえばこいつが白龍皇らしい―が肩をすくめる。

 

「気が悪いから賛同する気はないが、和平のための茶番に利用するとは、二天龍を何だと思っているんだ、アザゼル」

 

 どうやらこっちは事情を知らない口で、命令をだしたアザゼルに不満らしい。

 

 しかしアザゼルはどこ吹く風。両手を広げて肩まですくめてる。

 

「むしろ和平前に最後の大暴れさせてやったんだろうが。ま、和平結んだからこそ、魔王に模擬戦や立ち合いを挑む機会はできるだろうよ」

 

「ああいえばこういう奴だ」

 

 なるほど。白龍皇は堕天使側では結構自由に動けているようだ。総督相手にタメグチなら、結構な権限もあるんじゃないか?

 

 俺がそんなことを思っていると、スピネルが軽く肩をすくめる。

 

「まあ実際のところ、コカビエル殿の懸念も決して間違ってはいないから考え物だ」

 

「ですね。コカビエルの選択は問題ですが、懸念するだけの状況ではあるから始末に負えません」

 

 と、メルガスも同時に同調する。

 

 ……おいおい、勘弁してくれよ。

 

「え、どういうこと? 和平を結んだのに、戦争になるとか言う感じ!?」

 

 兵藤が嫌そうな顔をするのもわからんではない。

 

 和平結んだと思ったら戦争とか、コンボが最悪なのは言うまでもないだろう。上げて落とす以外の何物でもない。

 

 マジで勘弁してほしいんだが、どんな感じになるんだ、オイ。

 

 仕方がない。ここはやはり、普段から義理で信仰しているだけのいい加減な俺が言うべきだな。万一怒られてもまっとうに頑張ってる連中の立場が悪くなりにくい。

 

「あの、具体的にどうやばいんですか? 仕掛けてくるのはアースガルズか、それともオリュンポス?」

 

 俺は仮想敵として、他の神話体系とかを想定していた。

 

 アースガルズを主体とする北欧神話。もしくはオリュンポスを主体とするギリシャ神話。まあほかの神話においても、キリスト教が世界最大宗教となる過程で恨みも買ってるからな。

 

 だから敵対するなら他の神話体系になるのが確実なんだが―

 

「残念ながら、想定している敵……というより、異分子は全く異なるね」

 

 そう告げるのは、なぜかグレイバー猊下。

 

「これがまた、実に面倒なことにどれぐらいの脅威なのかもわからないんですよねぇ」

 

 そう続けるのは、メルガス。

 

「まあ、こっち側でも面倒なのが出てくるっぽいのが難点なんだがな」

 

 そしてアザゼル総督がそうため息をつき、他の首脳陣も同じく頷く。

 

 そして、いつのまにか手を組んでいたスピネルが、なぜか俺に強い視線を向けている。

 

 っていうか、イルマ姐さんまでもが向けているのは、どういうこと何でしょうか………?

 

「この世界には大きな異分子が入り込んでいる。しかも少なく見積もっても数種類、そして人数は一種類だけで千人以上は確実で、その戦闘能力は使いこなせれば未熟な神滅具使いを打倒することが可能なものも数多い」

 

 やけに具体的に言うな、オイ。

 

「具体的に言ってくれているところ悪いけれど、もっとわかりやすく言ってくれないかしら?」

 

「それもそうだな、リアス嬢。ならわかりやすく貴女が見たことのあるもので説明しよう」

 

 え、あるの?

 

「一つは、コカビエル殿がゼノヴィア嬢を相手にして使った氷の異能。二つはコカビエル殿が召喚したあの男やルーラー」

 ……まじか。

 

 確かにどっちも面倒だった。で、それってどういう意味で異分子とか言ってるんだ?

 

 俺が首を傾げた時、同時にスピネルは俺に視線を向けた。

 

 あの、なんか嫌な予感がするんですが―

 

「そして、もう一つは目の前にいる私やイルマ、メルガス達へルズ・クロックタワーの二割強やグレイバー殿―」

 

 そこまで言って、スピネルはしっかりと俺に目を向ける。

 

 思わずうろたえる俺の目の前で、スピネルははっきりと告げる。

 

「そして君もだ、麻宮鶴来。私たちはこの世界の外側から来訪した異分子の要素を持っているのだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………はい?




 ちなみにこの会話、ヴァーリに盗聴器を持たせて禍の団の連中は出マチをしております。








 そしてアンケートの結果は最後です。今回の話において、スピネルを堕天使と悪魔(ついでに人間)の混血にしたのは、これをよりスムーズに進めるための布石も兼ねております。あと将来的な展開を踏まえると堕天使側のオリチームを出して、将来的に駒王町に派遣するのがバランスとりやすかった。

 わかりやすく簡単に箇条書きにすると。

1:三大勢力で和平が結べるなら結びたい現魔王たちの意向を、スピネルとメルガスが察知。

2:後でより詳細に説明するヘルズ・クロックタワーの安定化のために、出来レースでスピネルがメルガスに政争で負けてどっかに逃げるというプロットが欲しいところに、更にスピネルの現世の父がやらかしてスピネルが討伐するという流れが設立。

3:これ幸いとスピネルたちが「もろもろの政治的問題から逃げたスピネルが、血が流れている堕天使側に逃げ込む」という風に見せかけて、堕天使側に和平の遺志があるかどうか探るための使者になることを提案。現魔王側、ヘルズ・クロックタワー側の状況ゆえに乗り気でないけど容認。

4:アザゼルを中心とした和平側と、サーゼクスたちの間にスピネルと解してコネクション締結。その後、次の話でそれとなく書く亜種聖杯戦争でスピネルがイルマと再会しルーラーと共闘。

5:スピネルの話を聞いたルーラーが、天界・教会側に和平の意思を確認するメッセンジャーをついでに実行。その後、グレイバーとも親交を結ぶ。

6:ある程度の時間をかけて和平を結ぶまでのプロットを作ろうとしていたところ、コカビエルが思いっきり暴走。多数決で「逆手にとって共同戦線でコカビエルを打倒することで、和平を結ぶための会談のきっかけと象徴ともいえる出来事を同時に作る」が成立。シスコンの胃を痛めて想定外も置きながら、然し結果として無事成功

 と、言う流れになります。







 それで次回は最初の前書きで書いた異世界関係のある程度の情報を、語り部をスピネルとして明かす予定です。それが終わったら禍の団が動き出す感じですね。

 あと、禍の団は禍の団で序盤からめちゃくちゃ強化されます。そのタイミングで滑り込んで追加参戦枠をつるべ打ちしますが、とりあえず某人物がいたら歓喜の雄たけびとともに失神するとだけ言っておきます。


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第一章 10 来訪者の存在

あ、申し訳ありません。

アンケートなんですが途中で「あ、Pixivに投稿してるのと被ってる部分は修正しないと!」と思い至って修正した際、間違えて正解を一つしか入れてませんでした。

アンケートの部分が修正できないので、こちらで謝罪をさせてもらいます。


 

 よし、深呼吸。

 

 うん、息を吸って吐いて……さん、はい。

 

「……はぁああああああああああああああ!?」

 

 驚くに決まってるだろうがぁ!

 

「どういうことぉ!?」

 

「え、どういうこと!? 異世界!?」

 

 俺はもちろん、兵藤も度肝を抜かれている。

 

 っていうか、事情知らない組と思われる人達は、どいつもこいつも面食らっている。

 

 それを静かに受け止めた魔王サーゼクスは、うんうんと頷いていた。

 

「気持ちはわかる。私も初めて聞いた時は耳を疑ったからね」

 

「でも私達はマシよん。だって異世界って言っても一つずつ知ることになったものね~」

 

 あのすいません魔王レヴィアタン。今なんつった?

 

 え、どういうこと!?

 

 俺が盛大にパニクっていると、リアス・グレモリーはぽかんとしていた口を閉じて我に返った。

 

 そして、食って掛かる勢いでスピネルに顔を向ける。

 

「どういうこと!? だってあなた、確かにグレモリーの一族で―」

 

「理由は簡単。この国の創作物でよくあるだろう? ……死んだと思ったら生まれ変わった類だ」

 

 マジですかい。

 

 即答であっさりと言われたので、俺はふとグレイバー猊下に視線を向ける。

 

 にっこりとほほ笑みながら頷いてきやがった。

 

 あれ? 信徒的に輪廻転生って……あり?

 

「ちなみに、埋葬連隊にも一人は確実にいるね」

 

「……根拠はあるのでしょうか?」

 

 リアが何とか我に返ってそう尋ねると、猊下は静かに頷いた。

 

「そもそも埋葬連隊の埋葬は、()()の世界に存在した埋葬機関という組織から取られているといえてねぇ。あの組織、「教義上の矛盾は物理で殲滅」というスタンスと言い、権限の持ち方と言い、もうそのままだから間違いなく一人はいるよ」

 

 あ~。なるほど。

 

「隠す気なしですかい」

 

「まあ、そこのスピネル君やメルガス君の前世の組織とは、「記録に残さない」を前提として殺し合いしまくっている関係だからねぇ」

 

 とりあえず、裏社会的な感じなのだけは分かった。

 

 俺達がなんとなく分かり始めていると踏んだのか、スピネルは頷くと話を進める。

 

「私達のいた世界は、表向きな人間世界は大して変わらないが、裏ではいわゆるアカシックレコードに近い「根源の渦」を目指す魔術師(メイガス)が存在するが、神は物理的に世界に存続できず、ドラゴンなどは世界の裏側――と言っても分からんから、異世界的なアレを想定してくれればいい―にいてな。ごく一部の幻想種や、人為的に人間がなった死徒という吸血主がいる程度でな」

 

 そこで一旦切って、スピネルは―

 

「―まあぶっちゃけ異能に関わっている連中の九割はサイコパスとマッドサイエンティストとマフィアを足して二で割った存在な魔境の出身だ」

 

「「酷いなおい!」」

 

 思わず兵藤とシンクロツッコミ入れちまったじゃねえか。

 

 もう内情が犯罪組織だろうが。事情知らない連中がドン引きしてるし、事情知ってる連中も苦笑いしてるし!

 

 酷い世界だなぁ、おい。まじで帰っていいかおい!

 

 ……よし! ここは下手につつかずに自然に任せて―

 

「……それで、麻宮鶴来君がそうだという確信の理由は? 当人にも自覚がない以上、把握する方法がないと思われますが」

 

 ……おい、ソーナ・シトリーさん。

 

 余計なこと言わんといてくれませんかねぇ!?

 

 俺が内心でもだえ苦しんでいると、スピネルはうんうんと頷いた。

 

「そうだな。そもそも私達の世界における魔術師(メイガス)という存在は、基本として魔術回路という常人にはない内蔵とでもいうべきものを持ち、それによって生命力などを魔力に変換し、そのオドと魔術回路を使って魔術を行使する。が、これに関しては転生悪魔技術等といった各種研究により、下の下でよければ人為的に生成可能だ。どうも埋葬連隊でも魔術回路の人工的移植施術が可能になっている為、証拠としては薄い」

 

「それに魔術回路は血縁で遺伝するものですからね。そもそも魔術師は自身より優れた魔術回路を持つ子供を作りますから、第二世代とかの可能性もあるでしょう」

 

 スピネルを補足するメルガスだけど、ちょっと待て。

 

 それ、つまり内臓を自分より優れた子供を人為的に作れるって言ってるようなもんだぞ?

 

 怖いな、メイガス。

 

 ……それはさておき。というか、さておかせてくださいな。

 

 俺は、気分を切り替えてスピネルに向き合った。

 

「で、判別の種は?」

 

「眼だ」

 

 そう言って、スピネルは自分の目を指で示した。

 

「君の眼ではなく私の眼だ。私達のいた世界では、目で見るという行為だけで詠唱や道具を必要とせずに複雑な魔術行使すら可能とする魔眼という特異技能者が存在する」

 

 そう言うと、スピネルは一旦切った。

 

「そして、私はそれをある方法で後天的に会得したのさ。より具体的に言うならば、かつて魔術師の才をもってあの世界にいたものを認識する魔眼をな」

 

 ほうほうなるほど。

 

 でもすいません。

 

「俺そんな記憶ないんですけど」

 

「それは仕方あるまい。前世を持つからといってそれが物心ついているかというのは別の話だ。嘆かわしい話だが、赤子の頃に死去するという話、悲惨ではあっても希少とまでは言い難いものだよ」

 

 俺の反論は、スピネルの正論に一蹴される。

 

 な、な、なるほどぉ。

 

「まあ少なくとも、何かしらの形で出生に転生者が関わっている事は間違いない。その辺りはグレイバー殿からも聞いているから間違いないさ」

 

「うんうん。なんたって魔術回路を持ってるからねぇ」

 

 ……スピネルと猊下が頷き合ってるけど、とりあえず聞くことが多い気がするんだが。

 

「……具体的に聞いていいかしら? その魔術回路っていうのは何?」

 

 リアス・グレモリーがそう聞くの当然だろう。業界的に聞いたことがない。

 

 ソーナ・シトリーの方も興味を惹かれたのか、少し首を傾げながら口を開いた。

 

「話を聞くに、魔法を行使する為の器官といった感じですね。ですが魔法の発動に異能の特性はあまり関係ないはずですが」

 

「それはこの世界の話でしょう? 我らの世界において魔法とは使えることが規格外の証明です」

 

 そう苦笑いするのは、メルガスだった。

 

「魔術師達にとって魔術と魔法は「結果を科学で再現できるか」という違いがあり、明確に区別されています。細かい内容は活用しますが、まあところ変われば品変わると言っておきましょうか」

 

「あと、あの世界での魔術行使には生命力を魔力で変換し、詠唱や行動の補佐で方向性を制御させる一種の臓器が必要でね? それを魔術回路と呼称するんだけど、誰にでも持てるものじゃないんだよ」

 

 と、メルガスを補足するように猊下が告げる。

 

「先に言ったかと思うが、後天的に魔術回路を生成するのは転生悪魔技術を流用したヘルズ・クロックワークスや我々カルンウェナンの技術。別口で技術を作ったにしても、そもそも概念として魔術回路を理解してなければ作れるものではない。この時点で、彼が我々の世界よりであることは証明される」

 

 と、更にスピネルが告げることで俺も納得。

 

 そう、つまりは。

 

「俺って、中二創作の主人公みたいなやつだったのか!」

 

「そもそもそれがなくてもそうですよね?」

 

 リアが冷たい。ちょっとぐらいふざけさせろよ。

 

 ん? ってことはあの記憶ってもしかして前世か?

 

 それに、今の話が本当なら―

 

「ってことは、イルマ姐さんも?」

 

「その通り! イルマさんは前世でもスピネルの親友なのさ!」

 

「ああ、自慢じゃないが私は前世でイルマの最期を看取った仲だ」

 

 そう言いながら、イルマ姐さんとスピネルは右手をこつんと合わせる。

 

 うん、息があってて実に仲がいいな。

 

 ……ということは、もしかして俺はイルマ姐さんと縁があるかもしれないってわけか。

 

 後で機会があったら、それとなく尋ねてみたいな。

 

 ハッ! 待てよ!?

 

 もしそうだとしたら、俺はイルマ姐さんにおしめを代えられた仲なのかもしれない。

 

 そうだとしたら、イルマ姐さんからしたら恋愛対象外になりかねねえ! 下手したら前世じゃ親子って可能性すらある!

 

 ……よし! 精神的インセストタブーだと自覚したら気が引けるかもしれないし、あえて聞かないことにしよう。

 

 世の中には、曖昧だからいい事もあるよな!

 

「なにか変なことを考えてませんか?」

 

「安心しろ。俺の人生の決断をしていただけだ」

 

「不安すぎます。あとでこっそり白状するように」

 

 くそう。俺の相棒は俺の行動や思考をある程度読んでくるから困ったもんだぜ!

 

 ドン引きされそうな想像かもしれないんだが、まあ人に言いふらすタイプじゃないから、なんか美味しいものでも奢っておけばいいんだろうか……。

 

「まあ話を戻そう。あとへルズ・クロックワークスについても説明しておこう」

 

 と、スピネルがこっちに怪訝な表情を向けながら、そう言った。

 

 そしてそれに頷いたメルガスは、こちらを見渡しながら話を始める。

 

「ヘルズ・クロックタワーは、この世界にいるだろう魔術師達を集め、研究施設や資材の確保などといった手間の簡潔化と引き換えに、魔術師達に管理する為の組織です。上述の通り魔術師には一般人目線でアレな人物が多いので、資金や資材などがなくなった状態のスタートで暴走してとんでもないことをしでかしかねないので」

 

 そう苦笑すると、メルガスは更に続けた。

 

「人工的な魔術回路の研究も、その為の資金確保の為ですね。基本魔術師は根源の渦に到達する為に魔術を研究する存在であり、一般人を見下しやすい傾向があるゆえに魔術をただの金もうけに使うことも嫌悪しますから。「世界が違うからある程度は変化が必要」と説得すれば金策用の魔術を片手間に編み出してはくれますが、それを使って積極的に金儲けに尽力しろというのは抵抗もあるでしょうし、それが出来ればヘルズ・クロックタワー(我々)の価値が半減しますから」

 

「まあ、魔術回路は血に宿り代を重ねて成長するもの。果ては当主が代々己が研究の結晶を組み込むことで強化される魔術刻印を受け継いでこその魔術師なので、あらゆるものが最底辺に近い半端ものだがな」

 

 スピネルがそう言って謙遜するけど、何故かサーゼクス・ルシファーが額に汗を浮かべていた。

 

「……その最底辺でも行使できる魔術によるワインをはじめとする醸造酒及びそこから派生する酢系統。もちろん系列の近い発酵産業だけで経済的に他の勢力や国家を侵略できるほど荒稼ぎしているよね。悪魔社会はパン類が主食になりやすいし、主食産業を席巻しているとある意味怖いよ」

 

「あと、各種治癒魔術の礼装のおかげで、冥界の医療業界に革命を起こしてるわよねん」

 

 セラフォルー・レヴィアタンまで続き、更には隣にいたかの伝説の女王(クイーン)であるグレイフィア・ルキフグスまでもが頷いた。

 

「加え、教育関係においても新しく手を出す向きがあるとか。既に小国の年間国家予算に届く財力で大王派の権限向上に尽力していますが、和平設立後は三大勢力でも有数の富豪集団になるのではないでしょうか?」

 

 ……すげぇ。

 

 俺も魔術覚えようか。自分でチーズとか美味しく作れたら、質素に美味いものが食えて便利な気もする。

 

 あ、ナタデココとかタバスコも発酵食品だったよな。結構面白そう。

 

「個人的には関東風のくずもちにも興味がある。いい機会だし塩辛や酒まんじゅうにも手を出してほしいのだが―」

 

「スピネル、その辺は自分でしよ?」

 

 イルマ姐さんがツッコミを入れるぐらい、目がキラキラ輝いてたぞ。

 

 一応日本人の俺でも馴染みが薄い日本食に興味持つとか、あんたどんだけ日本の食文化にのめりこんでるんだよ。あとくずもちって発酵食品だったの!?

 

「まあ、今そこは置いておきましょう。問題はいくつも存在していますし、話を進めないといけないですしね」

 

 と、メルガスが苦笑しながら話を切り替える。

 

 そして、目の色が少し変わった。

 

 ……サイコパスやらマフィアやらマッドサイエンティストの要素持ち、ねえ?

 

 あんたも、そっちの素質がしっかりあるようで何よりだよ。

 

「問題がいくつか発生しているけど、その過程においてはとある亜種聖杯戦争が原因でスピネルが見つけたんですよ。ですので、リアスさん達には亜種聖杯戦争から説明しようかと」

 

「……聖杯と聞くと、幽世の聖杯(セフィロト・グラール)と呼ばれる神滅具の一つを思い出しますが、たぶん違うのでしょう?」

 

 ソーナ・シトリーの言葉に頷いてから、メルガスは片手を広げる。

 

「魔術師世界においては「聖杯」というのは願いを叶えるマジックアイテムの類を指します。そして聖杯戦争とは、その争奪戦の呼称ですね」

 

「例えば「特定の時期と時間に最も己を感動させる踊りを踊った者の欲しいものを取り寄せ(アポーツ)できる」聖杯の特性を持った巫女の類がいた場合、その聖杯戦争はいわばダンス大会になるわけだな」

 

 ……それ、戦争?

 

「せ、戦争っていう割には平和なんだな。もっとこう、血みどろのものなのかも」

 

「そういうのも少なからずある。というより、亜種聖杯戦争の場合はまさにそれだ」

 

 イッセーがぽつりと漏らした言葉に、スピネルがそう告げる。

 

 え、まじで?

 

 俺達がちょっと引いていると、イルマが苦笑しながらパンと手を叩く。

 

 それを合図にしたのか、グラマとか呼ばれてたぬいぐるみが、同じようなポーズとすると同時になんか空中にウインドウが!

 

 ふぁ、ファンタジーな領域なのにSFっぽい!

 

「ここからはイルマさんタイム! 亜種聖杯戦争ってのは、私達の世界の日本が九州になる地方都市、冬木ってところで60年周期で三回ほど開催された、特殊な聖杯戦争のデッドコピー!」

 

 そして映る映像は……凄い事になってる。

 

 見てみると、紫色の炎を纏った槍を持ったルーラーが、また別の戦士と戦っている映像が映る。

 

 その戦闘能力は……コカビエルにもケンカ売れるレベルじゃねえか。すげえなおい。

 

「アーサー王とかヘラクレスとか、人類史に名を刻んだ英雄や偉人は、そんな彼らに対する憧憬や畏怖といった「信仰」に後押しされて、英霊という存在に昇華する。その英霊達の分身であるサーヴァントを従えた魔術師が、バトルロイヤルで殺しあって優勝賞品として高レベルの願望器である聖杯を奪い合うのが、冬木の聖杯戦争。そして亜種聖杯はそのデッドコピーなんだよねぇ」

 

「ちなみに、この亜種聖杯は冬木の霊脈とリンクした特殊な魔術礼装によってサーヴァントを呼び出し、打ち倒されたサーヴァントを無色の塊に変換して溜め込むことで、そこに方向性を与えて願いを叶える仕組みでね。教会としては強大な聖杯は無視できないけど、偽物オブ偽物だから使う気になるやつも碌にいない。結果として毎度毎度監視する羽目になる面倒な代物だったねぇ」

 

 はっはっはぁと笑うグレイバー猊下だけど、またこう、どす黒いどろどろとした何かがある関係だったんだろうな。そっちの教会と魔術師は相性悪そうだぜ。

 

「ちなみにいうと、サーヴァントは英霊そのものではない。しいて言うなら魔術師というノートPCにクラスというごく一部のデータをコピー&ペーストしたようなものでな。なので理論上は同じサーヴァントが違うクラスで召喚されて戦争することもあるし、別の聖杯戦争で召喚されたサーヴァントは、他の聖杯戦争の記憶を引き継ぐことは基本的にない」

 

 ルーラーがそう補足説明してくれるけど、なんでPCで例えた。

 

「ついでにいうと、クラスってのはまあ「その英霊の側面を取り込む箱」みたいな物! 剣士のセイバー、弓兵のアーチャー、槍兵のランサー、騎兵のライダー、魔術師のキャスター、暗殺者のアサシン、狂戦士のバーサーカーが基本的だけど、中にはそうじゃないエクストラクラスもいます! ルーラーはその中でも特殊な系列!」

 

「魔術師は基本的に俗世の覇権とかに興味がないけど、例外はやはりいるからね。そういう「世界が破滅に導かれる」時や「特殊すぎるルールがあって監督役が必要」って時に呼ばれる、特殊なサーヴァントだよ」

 

 と、イルマ姉さんとグレイバー猊下が補足説明。

 

 な、なるほど。

 

「とはいえ、転生なんてイレギュラーで大きく状況がひっくり返った時点で、その辺りも不安ですからね。こと魔術師はある意味で「世界で好き勝手出来ない理由」がなくなっているから、尚更危険ですので、ヘルズ・クロックタワーである程度の監視をしているのですよ」

 

 そうメルガスがため息をつき、そしてスピネルも同時にため息をつく。

 

「だが、当然ヘルズ・クロックワークスにつかない者も少なからずいるし、この転生現象は亜種聖杯戦争頻発化と時期が一致している為、既に子飼いにしている異形も多少は確認できている。……要因候補の一つに聖書の神の死で世界のバランスが歪んでいる事が、この世界に漂着しやすい土壌を整えているという有力仮説があるからな。……そして、問題はもう少し捻られている」

 

 そう言いながら、スピネルが出したのは二つの物体。

 

 一つは宝玉。一つは果実。

 

 問題は、果実の方は唐草模様とでもいうべき特徴的な模様が浮かんでいることと、宝玉から確かに魔力が放たれているということ。

 

「そこのルーラー殿が召喚された亜種聖杯戦争。イルマが偶発的にサーヴァントマスターになり、発生に感づいた私と再会することになったこの亜種聖杯戦争で、正規のマスターは魔水晶(ラクリマ)か悪魔の実と呼ばれるものを体内に取り込んでいた。そして問題は―」

 

 そこでスピネルは一旦切り、目を閉じた。

 

「―我々がいた世界とは異なる形で異世界に由来する可能性が非常に高いという、とんでもない事実だよ」

 




 というわけで、とりあえず今回はスピネルの視点でわかっている説明会。

 あくまで概要的なもので、まあほかの説明はできるところがあったら少しずつって感じでさせてもらいます。その辺はご了承ください。








 あと、話が長くなったので禍の団襲撃はもう一話ほど開けて行われそうです。その辺もご了承くださるとありがたいです。


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第一章 11 強襲開始

さて、そろそろ禍の団も動き出しますぜぇ………!


 

 それに対して、イッセーが手を挙げる。

 

「し、質問はいいっすか!?」

 

「なにかね?」

 

 スピネルはあっさり認めており、それをイッセーは素直に頷いた。

 

 っていうかなんだ?

 

「異世界異世界って言ってますけど、冥界とか天界とかと違うんですか? なんか、他の神話体系も自分達の世界を持ってるという話を聞いたことがあるんですけど」

 

 ………。

 

 ああ。そういうことか。

 

 それに対して、リアス・グレモリーがこほんと咳払いする。

 

「そういえば言ってなかったわね。イッセー、この場合の異世界は「私達異形側も一切知覚していない異世界があるかどうか」の話なのよ」

 

「実際、数千年間「あるんじゃないか」とは言われていても本当にあるかどうかは分かってなかったからね。なんで、この事実を公表したら結構大騒ぎになると思うかな?」

 

 と、グレイバー猊下も補足する。

 

「しかし根拠は? 未発見の新種の植物という可能性も十分ありますし、新技術の誕生ということもあり得ますが」

 

「その辺についてはシンプルだ。亜種聖杯戦争を開催していた勢力と一戦交えた際、研究データを一部入手した結果だよ」

 

 と、リアの疑問にスピネルが答える。

 

「……そいつらはどうも私と同類でな。亜種聖杯を利用して更に異なる世界の異分子を入手しようという行動を起こしていたらしい。今回の亜種聖杯は、欲望にかられた連中を利用して、実働データをとることだったらしい」

 

 そこまでスピネルが言ってから、今度はスピネルにちらりと視線を向ける。

 

「更にだ。再会したイルマが持っているこのグラマなのだが、更に別口の異世界としか思えない技術体系の産物だった。……広範囲にある大気中の魔力を吸収して力に変える所有者と連携する自立型マジックアイテムとでもいうべき代物でな。少なくとも魔術師(メイガス)の世界では考えられないし、この世界で天才がひらめいたにしても、技術のこなれ方が明らかに数世代蓄積されているレベルだ」

 

「ふっふーん。イルマさんとグラマは運命の出会いを果たしているのだ! ブイッ!」

 

 すいませんイルマ姐さん。オタク、つまり最低でも三十代の人間なんだろ?

 

 もうちょっと落ち着きというか慎みがあってもよくね? いや外見年齢よりちょっと若めの精神年齢だし、隣にいるセラフォルー・レヴィアタン(推定数百歳)がいるから言ったら死にそうだし言わないけど。

 

 そんでもって、スピネルは更に空気を重くした。

 

 そして今度はアザゼルがそれを告げる。

 

「しかも質が悪いことに、追跡調査で俺達が追っていた連中と繋がりをもって、とんでもない連中をトップに迎えて大規模組織化している可能性が発覚した」

 

「というと? コカビエルのような戦争再開派でしょうか?」

 

 ソーナ・シトリーがそう尋ねるが、アザゼルは首を横に振る。

 

「いや、いろんな勢力のはずれ物が、世界に破壊と混沌をもたらす為に集まった、異形の悪党どもの寄り合い所帯だ。名前は禍の団(カオス・ブリゲート)で、トップは無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)、オーフィス」

 

 ………はい?

 

 俺は周りを見る。

 

 どうも経験が浅くてぽかんとしているイッセー以外は、既に知ってる組は目を伏せて、名前を知っていた組は目を見開いている。

 

 なので、俺は代表して分かり易い説明台詞で問い質そう。

 

「あの~。無限の龍神と言えば、この世界の強者ステータスで強さの桁が三位以下と二つぐらい離していると言っても過言でない、あの一対の龍神の片割れのあのオーフィス」

 

「そう。そのオーフィス。俺達神の子を見張る者(グリゴリ)の中でも、頭のネジがぶっ飛びすぎて人をどれだけ巻き込んで殺しても躊躇せず研究を進めたがる馬鹿を追いかけてたら、たまたま発覚してなぁ。旧魔王の連中や、神滅具保有者数名が確認されてる」

 

 うんうん。なるほど。

 

 俺は、それに対して理解し始めているイッセーと目を合わせる。

 

 うん。リアクション担当をやろうじゃないか。

 

 さん、はい。

 

「「えぇええええええええええええええ!?」」

 

 だってこれ絶叫ものじゃん。誰か絶叫しないといけない的なレベルじゃん。

 

 その気になれば一人一神話体系を蹂躙できそうな化け物だぞ! そんなのがボスやってるとかどういうことだよおい!

 

「まあ、そういうことも含めて和平は必須だったんだよ。なにせ旧魔王血族が盛大にテロってくる以上、三大勢力は間違いなくどこもターゲットになってるだろうからな」

 

「ああ。彼ら旧魔王血族は、三大勢力での戦争を続けるつもりだった為内戦になった。おそらく我々を打ち倒して冥界の覇権を握ったうえで、冥界全土は元より天界すら制圧する腹積もりだろう」

 

 アザゼル総督がぼやきサーゼクス・ルシファーが沈痛な面持ち的な表情を浮かべている。

 

 うっわぁ。これ、ほんとすごい規模になりかねないな、うん。

 

 俺も正直嫌な予感に震えている。具体的には過労死の予感に震えている。

 

 だってこれから対テロ戦争とか、和平に反対するだろう一部小規模な争い込みで戦闘連発しそうだしなぁ。過労死はしなくてもコカビエル級の難敵を相手にして戦死……とか普通にありうる。

 

 俺が心底嫌な予感を覚えていると、セラフォルー・レヴィアタンがにっこりを微笑んだ。

 

「まあ、それは和平そのものとは違うから、また別の機会に話し合えばいいのよん。今はもっとこう、和平に関わるお話をするべきなのよねん」

 

 そ、そうだね!

 

 俺達が今ここで震えてても、意味ないよね!

 

「ま、まあ。三大勢力でそれぞれの神器関連の情報を持ち寄れば、勢力に属する神器保有者の強化はできるでしょう。その辺りで戦力強化を進めていけば、勝機を見出すことは十分できるでしょうし」

 

「前向きな理想論ですね。しかし、三大勢力間での技術協力ができるというのは明確なメリットです。現場で反感を抱くものも出るでしょうが、むしろ共通の敵がいる現状なら比較的スムーズに和平も進みますか」

 

 と、リアとソーナ・シトリーが前向きかつ建設的な思考回路を見せてくれる。

 

 ま、まあ確かに。それぐらいはできるだろう。できないと、困るし?

 

 俺がそんなことを思っていると、今度はミカエル様が口を開いた。

 

「ええ、気分を切り替えて行きましょう。……とりあえず必要な話は終えましたし、個人的に赤龍帝と話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

 み、ミカエル様が赤龍帝と話すこと?

 

 俺とは別の意味で突き抜けた変態なんですけど。いくら和平結んだとはいえ、色欲の大罪突き抜けてる手合いと話していいのだろうか?

 

 いや、俺のような突き抜けた変態を護衛扱いにしているからいいのか! よし、そういうことならまあいいか!

 

「……なんで麻宮くんは、なにか重荷が減ったような感じしてるのかしら?」

 

「あれは開き直りというものです。おそらく兵藤一誠とミカエル様が対話することと示し合わせて、自分の変態性に開き直りを見せたのかと思います」

 

 ……こそこそ話していたイリナとリアが、俺にジト目を向けてくる。

 

 あ、はい、ごめんなさい。

 

 ほんとに開き直ってました。やっぱり自制はきちんとします、はい。

 

「先日アスカロンをお預けする時に、聞きたいことがあると言っていましたね? いい機会ですし、気分転換も兼ねてここで伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「………その前に、一応アーシアに確認をとってもいいですか?」

 

 ………あ~。これ、アーシア・アルジェントの追放の件を聞くつもりだ。

 

 信徒からすれば「追放もやむなし」なんだが、まあこの国の宗教観だとちょっと受け入れがたいところはあるわなぁ。

 

 ………余計な揉め事になりそうだから、流石に教会に戻すというのはまずい気がするんだが。

 

 さて、大丈夫……かねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……戦闘準備は完了です。詰所の戦闘もバチカンの戦闘もいつでもできます」

 

「そうか。なら、こちらも戦闘態勢を取ろうではないか」

 

「どうかなされたので?」

 

「偽りのミカエルはやはり偽りだったというだけの話さ。まさか悔い改めのしない悪魔の癒すことを、問題視するどころか認めることができないことを悔やむとは」

 

「なんと! 善にして正しくあるべき日々修練を行う者達に、そんなことで顔向けできると!?」

 

「思っているのだろうよ。だからこそ、可能な限り早く片付けるべきだ」

 

「了解しまし……! お待ちください、緊急事態です」

 

「なんだ?」

 

「他の派閥も攻撃態勢が整いました。どうやら、魔法使い共は失敗したようです」

 

「………ふぅ。困ったものだ。だがまあ、やりようはあるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……失礼。話も終わったようですが、緊急の要件が入り居ました」

 

 そこで、メルガスがそう呟いた。

 

 俺たちの視線が集まる中、メルガスはリアス・グレモリー達に視線を向ける。

 

「リアス嬢。どうやら先ほどの禍の団、こちらに侵入してきたようです。何故かリアス嬢の眷属のギャスパー殿を狙っていたようですね」

 

「なんですって!?」

 

「なんだってぇ!?」

 

 リアス・グレモリーと同じタイミングで、兵藤が反応したのも意外だな。

 

 新入りでかつ日が浅いと思ったんだが、既に他の眷属と仲が良いってことなんだろうか。

 

 というより、二人して食って掛かってあげないでやって。ちょっと引いてるよメルガスとやらが。

 

「ああ、ご安心を。保険として眷属と私兵を展開していたので、その警戒網に引っ掛かりました。……ですので―」

 

 はっはっはとにこやかにメルガスは告げ―

 

「やってしまいなさい、ボウゲツ」

 

「承知」

 

 その瞬間、鮮血が撒き散らされる。

 

 その凶行を成したのは、細身の女性。

 

 忍者用のまっすぐな刀身の刀を持ち、それを振るった女性は、しかし表情を変えずに手に手裏剣をもって、仕損じた相手に投げつける。

 

 それを回避した男は、頬の傷を嬉しそうに撫でながら微笑んだ。

 

「なんだ、あっさり白状したのか。結局作戦も失敗しているし、困った連中だな」

 

 ―ヴァーリはそういうと、静かに周りを見渡した。

 

「さて、質問があるなら、知っている範囲なら応えるよ」

 

「そうか、ならイルマさんが聞こうかな?」

 

 既にグラマと一体化したイルマ姐さんは、両手に光の剣を構えつつ、一歩前に出てヴァーリを睨む。

 

「……何考えてるの? っていうか、いつから組んでたの?」

 

「つい最近、コカビエルを連れ帰る途中だよ。「アースガルズと戦ってみないか?」なんて言われたら、戦いがしたい俺には断れないさ。聞いての通り、アザゼル達は戦争そのものを嫌がっているからね」

 

 悪びれもしないその言葉に、アザゼル総督は面白そうな表情と呆れを混ぜこぜた感じにした複雑な表情を浮かべている。

 

「俺は「世界を滅ぼす要因にだけはなるな」って言ったんだがなぁ。……ま、自由気ままが信条のドラゴンを宿した、欲望を司る悪魔の王族に言っても無理な話か」

 

 そういってアザゼル総督はため息をついた。

 

 いや、ちょっと待って?

 

 二天龍を宿しているから龍扱いは構わないけど、()()()()

 

「……ああ、そういえばこれは、和平会談が終わったときに言う予定だったんだっけね」

 

 と、ヴァーリが得心した表情を浮かべると同時にはっきりと告げる。

 

「俺の名はヴァーリ・ルシファー。初代ルシファーのひ孫なんだが、母親が人間だった所為で、こうして神器まで手にしてしまった存在だ」

 

 ………冗談だろ、おい。

 

 オイオイオイオイちょっと待て。俺がなんか違う世界から転生したとかいう飛んでも情報出てきたと思ったら、こっちはこっちで悪魔の最高峰と人間の最高峰の特性の悪魔合体とかどういうことだよ。

 

 え、なに? ブリテンの赤き龍と白き龍ってアーサー王伝説と縁があるよな? つまり、俺はこいつの宿敵候補とか、因縁の相手となる壮大な物語の主人公とライバルとでもいうつもりか!

 

 いや、ここには兵藤一誠という、白龍皇と対を成す赤龍帝がいるんだ。なら、兵藤に………。

 

「………いや、違うな」

 

 ああ、俺は何を考えているのやら。

 

 それは、違うよな。

 

「さて、ヴァーリ・ルシファー。つまりお前、死んでもいいってことなんだろう?」

 

「……へぇ? 俺を殺すと?」

 

 俺の言葉に、ヴァーリはそう不敵に笑みを浮かべる。

 

 余裕なようでご苦労さん。だがな、俺には言いたいことがある。

 

「テロリストになり下がるってのは、殺される覚悟を決めたってことだろう? 容赦する必要はかけらもねえってことだよなぁ………っ!」

 

 俺は躊躇なくエクスカリバーを展開する。

 

 何分めちゃくちゃな体質なので、エクスカリバーそのものを使える土壌は碌にない。

 

 だが、それでも最高クラスの聖剣を使用することはできるんでなぁ!

 

「……俺は恥ずかしい真似を見せたくない奴がいるんでな。真っ当に一般人やってたルーキー君に任せるわけにはいかねえだろうが!」

 

 俺は速攻で切りかかり、そしてヴァーリを弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい。あの聖剣使い君、意外とやるじゃねえか」

 

 おっす俺イッセー! 俺はアザゼルがそんなのんきなことを言ってるのに、ちょっとイラっとなった。

 

 麻宮の奴がヴァーリを弾き飛ばして戦闘を開始するけど、その前に一瞬俺を見たのを覚えている。

 

 麻宮、あいつまさか俺のこと気にしてくれたのかよ。

 

 俺がまだ、悪魔としてもこの異能社会に生きてるやつとしても新米だから、ヴァーリみたいなチートなライバルと関わらせたらいけないとか、そんなこと思ったんじゃないだろうなぁ!

 

 そりゃ二天龍の因縁なんて知ったこっちゃねえけどさぁ。だからってお前にはコカビエルの時で恩があるんだ。そんな風に投げっぱなしにできるかよ!

 

「……くそ! ドライグ行くぞ! 今すぐあの裏切り者を殴り飛ばす!」

 

「……いや、イッセー君は下がっていたまえ」

 

 あれぇ!? なんでサーゼクス様が俺を止めますか!?

 

「ヴァーリ・ルシファーはすでに神の子を見張る者(グリゴリ)でもトップクラスだ。今の君で太刀打ちできる存在でもないし、疑似的な禁手の為に君に代償を払わせるつもりもない」

 

「でもサーゼクス様! どっちにしてもこのままってことはないでしょう!」

 

 このまま終わりってことはないだろうし、そしたら結局俺達だって戦うことになるだろうし。

 

 だったら、俺達だって戦うのが転生悪魔の使命のはずだ。

 

 リアス部長も同感なのか、一歩前に出ると胸に手を当てて真っ直ぐサーゼクス様を見る。

 

「魔王様。どちらにしてもギャスパーの保護は主の私の仕事です。……どうか許可をくださいませ」

 

 その言葉に、サーゼクス様も納得したのか頷いた。

 

「……分かった。だが、どうやら眷属全員を送るというわけにはいかないようだ」

 

 ん? ちらりと横を見てどうかしました?

 

 と、思ったら………なんか霧が満載しているぅうううう!?

 

 え、なにこれ? 何があったの!?

 

「これはいったい……? 魔法か、それとも神器でしょうか?」

 

「後者が正解だ。それも神滅具(ロンギヌス)だな、こりゃ」

 

 ソーナ会長にアザゼルがそう答える。

 

 って、神滅具!? 俺やヴァーリのと同じ!?

 

「結界系神器の最高峰、絶霧(ディメンション・ロスト)。転移装置にもなる霧の結界を展開する神滅具さ。……来るぞ」

 

 ……そして、アザゼルの言う通りそこにはたくさん来た。

 

 霧から現れるのは、真っ白な二メートルぐらいの禿の大男達が、千人ぐらい。

 

 それを率いるのは五人の男女。だけど問題はそこだけじゃない。

 

 更にその後ろに現れるのは………。

 

「………ロボットぉ!?」

 

 俺は大声で絶叫したよ。

 

 なんか、人型ロボットが出てきたんだけどぉ!?

 




………今の段階ではネタ晴らしに時間がかかるので、あえてアンケートは残します。






そして次回の投稿に合わせて、タグの一斉追加を行いつつ追加のクロス作品も話で明かす感じになりますので、あともうちょっと待ってほしいのじゃよ。


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第一章 12 スパロボでもあまりないこと

 さて、前回の話でも書きましたが、アンケートの記入をミスってあそこに書いてある作品では一作品しかかかわるものがありません。マジごめんなさい

 それはそれとして題名の通りなことが起きます。さて、答えはなんだと思うかなぁ?


 

 うおおおおい!

 

 俺は、兵藤一誠はファンタジーの世界に来たと思ったらSFの世界に迷い込んでるのか!?

 

 何あのロボット!

 

 左腕がガトリングガンで、右腕が大砲みたいになってるんだけど。あと両肩にミサイルランチャーっぽいのくっついてるんだけど。

 

 マジで何あれ!?

 

「……神の子を見張る(ウチ)でも量産体制なんて確立してねえぞ、戦闘用大型ロボット兵器なんて」

 

 アザゼルが面白がってるのか呆れてるのか分からない感じで、そんな風に言ってくる。

 

 ん? っていうかなんか両腕の大砲をこっちに向けてきてません………か?

 

 ん? それと、なんか大男を引き連れた奴の中の、豪華な神父服を着た男が、片手を上げてる?

 

 ………号令?

 

「撃て」

 

 ぶっ放してきやがったぁあああああ!?

 

 うわぁ! 目の前で結界が展開して全部防いでる!

 

 すげえ、こんなの全部吹っ飛ばせるのかよ!

 

「……上級に喧嘩売れる程度の火力をぶっ放すロボットとか、夢が広がるな。神の子を見張る者(ウチ)も量産するか」

 

「その時は悪魔仕様も求めようかな。まあ、ここを切り抜けてからだろうけどね」

 

「天界や教会も一枚かませてもらいましょう。ですが………」

 

 サーゼクス様やミカエルさんもそれに乗っかるけど、そこでミカエルさんは相手の男に視線を向けた。

 

「どういうつもりですか? 埋葬連隊指導者、四聖座が右席、クロッサー・ストムソン……っ!」

 

「これは異なことを。あなた方の逆をしているだけですがなにか?」

 

 堂々と言い返す男とミカエルさんの間で、視線がぶつかり合う。

 

 こ、こいつがロザールのやつと同じ、埋葬連隊の四聖座かよ。

 

 なんか不気味っていうか怖いっていうか。とにかくあれだ、危険な予感しかしない。

 

 絶対仲良くする気ないよ。こっちと殺し合う気満々だよ。

 

 やっぱり、俺も禁手になった方がいいから、新しく代償を用意した方がよさそうだよな……。

 

「リアス、そしてイッセー君」

 

 そこで、サーゼクス様が肩に手を置いた。

 

「君たちはギャスパー君を助けに行きたまえ。ただし、何人かは貸してもらうよ」

 

「魔王様!? いいのですか?」

 

 リアス部長にサーゼクス様は頷いた。

 

「もうすぐここは激戦地区になるが、そんな中でギャスパー君を利用されたら流石に危険だ。流石に全員を送り込むわけにはいかないが、それでも人員を増やして対応したい」

 

「……分かりました。朱乃、祐斗、小猫、アーシア。……お兄様達をお願いね」

 

「「「「はい、部長!」」」」

 

 よし、みんなも元気よく返事してくれるから頼もしいぜ。

 

 だったら俺も頑張らないとな。待ってろよ、ギャスパー。

 

 俺達が駆け出そうとしたとき、アザゼルが片手を上げる。

 

「ちょうどいい、ならこいつを持っていきな」

 

 そう言ってアザゼルが投げて寄越したのは、二つのリング。

 

 ………腕輪?

 

「そいつは神器の制御ユニットになる。お前さんの禁手の代価の変わりにもなるぜ、赤龍帝」

 

「俺は兵藤一誠だ」

 

 俺が素直に頷き難くてそういうと、アザゼルは素直に頷いた。

 

「ならイッセー。そのリングで禁手になったとしても短時間しか使えない。それは切り札とわきまえとくんだな」

 

「お、おう」

 

 ご、ご丁寧にどうも。

 

 って、そんなことを言ってる場合じゃないから―

 

「行くわよイッセー! ギャスパーは私達が守るべきだわ!」

 

「勿論です、部長! 待ってろよ、ギャスパー!」

 

 今行くぜ、後輩!

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕、木場祐斗は、リアス部長達を見送ると、まっすぐに前を向く。

 

 警護の人員に囲まれながら、襲来した禍の団(カオス・ブリゲート)と思わしき軍勢は動揺の色を見せない。

 

 というより、数の大半を占める大男達は、まるで人形のようにも見える。人間というより人工的に作られたゴーレムのような印象がある。

 

 それを疑問に思ったのは、僕だけではなかったようだ。

 

「……ホムンクルスか? それにしては何か違和感があるようだが」

 

「おそらく、科学的な改良も加えているんでしょう。それも異世界技術まで組み込んでいると考えるべき相手ですね」

 

 スピネル・G・マルガムに同意するのは、グラシャラボラス家分家の次男坊にしてヘルズ・クロックワークスの盟主であるメルガス・グラシャラボラス様だ。

 

 まさか輪廻転生によって力を持ったまま異世界からやってくるとは思わなかったけれど、そんな彼らが何かに気づくということは、つまりは異世界の力なのだろう。

 

 そしてそれに答えるのは、中央にいる五人の男女の1人である、小柄な女性だ。

 

「はい。ベース技術にはホムンクルスを採用していますが、より使い捨ての雑兵として再設計したものです。識別コードはデストリアンです」

 

 そうにこやかに告げた女性は、どこか儚げで、まるでここにいることがおかしいとしか思えない女性だった。

 

 ……明らかに要職についていると、明確に自分から禍の団にいると分かる立ち位置。にも関わらず、僕は一瞬「助けなければ」という違和感を覚えていた。

 

 いったいなんでだ? 彼女の表情は明らかに自発的に望んで参加している風にしか見えないのに、一瞬とはいえ被害者のように感じてしまったのは、どういうことだ?

 

 自分がそんな風に感じたことに寒気を感じる。明らかに誰かに害成す存在だと直感が告げたのに、本能が害成す存在から彼女を守るべきではないかと訴えかけた。

 

 そして、そういう風に感じたのは僕だけでは断じてなかった。

 

「なに……? この、庇護……欲?」

 

「精神干渉? 庇護欲をそそるタイプの神器があると?」

 

 教会から来た紫藤イリナや十文字リアが怪訝な表情をする。

 

「これは、魔力による精神干渉か?」

 

「え、あれ、あの……」

 

「駄目ですよ、アーシアちゃん。あれはどうやら危険な手合いの様です」

 

「……何をしたの?」

 

「これは、洗脳能力……?」

 

 ゼノヴィアも、アーシアさんも、朱乃さんも小猫ちゃんも、ソーナ会長や森羅副会長も、僕と同じような違和感を覚えている。

 

 あの女性は、明らかに敵で、こちらに悪意を向けている。

 

 それが分かっているのに、いったい何なんだこれは。どういう神器、いや能力なんだ?

 

 そう思った時、スピネル・G・マルガムが一歩前に出た。

 

「……お初にお目にかかる、ルイン・ディーザス嬢。まさか低ランクとはいえ魔眼を持っているとは思わなかったよ」

 

 スピネルの言葉に、ルインと言われた女性は目を見開く。

 

 そして数秒後、不敵な笑みを浮かべた。

 

「なるほど。取り漏らしが一人ぐらいいるとは思ってましたし、回収する前に死んだ人も多かったですからね。……誰か伺っても?」

 

「ナクサ・リデューサー。……忘れているだろうが、あとで思い出しておいてもらえると助かるな」

 

 ルインに対してそう告げたスピネルさんの言葉。

 

 それに対して、ルインは少しだけ考えると僅かに目を見開いた。

 

「……ああ、そういえば彼絡みの一件から暗示をかけた人がごっそり我に返ってましたっけ。死んだというのは欺瞞情報かもと思ってましたけど、やっぱりですか」

 

 そうため息をついたルインは、静かに片手を振るう。

 

 そしておそらく神器だろう。盾と剣を具現化させると、五人組から離れていく。

 

「戦闘と一緒にお話をしませんか? 私は今回、このデストリアンがきちんと動作するかの確認に来ただけなんですよ。制御系統に魔術を組み込んでいたもので」

 

「なるほど。……だが断る」

 

 そういうなり、スピネルさんはいつの間にか展開していた液体金属を正面に集め、これまたどこから取り出したのか、あるものをそこに乗せた。

 

 具体的に言うと、重機関銃だ。

 

 液体金属を銃座にして、そのまま引き金を引いた。

 

「まずは序の口だ。死んだら死んだで拍子抜けだがな」

 

「魔術師が銃を……そんなレベルで!?」

 

 どうも重機関銃を使ってきたことに驚いたのか、ルインの動きに隙が生じる。

 

 ……魔術師って、銃とか嫌うんだろうか。

 

 ふとそんなことを思ったその瞬間、大量の銃弾がルインを襲い―

 

「―武装錬金」

 

 隣にいたクロッサーがそう言いながら多角形の金属を取り出したその瞬間。六角形の物体をいくつも組み合わせたような盾が、その銃弾を弾き飛ばす。

 

「―あまり油断されても困る。こちらも同盟を結んでいるとはいえ、魔術師(メイガス)を助けるのは不本意なのだ。……虚を突かれる気持ちはわかるが」

 

「これはすいません。まさか、魔術師があそこまで科学全開の装備を使うとは思ってなかったので」

 

 そんな風に言い合う二人に視線を向けながら、スピネルさんは鋭い視線を向ける。

 

魔術師(メイガス)とは根源到達の為に魔術を使う者。ならば根源到達以外の事柄においては、研究以外でそれ以上に効率的な物を主体にするのはおかしなことでもあるまい?」

 

「いや、そこを魔術で代用したがるのが魔術師の業の深さだと思うのだがね」

 

 スピネルにそう反論するクロッサーに対し、今度はメルガスさんが失笑した。

 

「異世界での新たな出発ともなれば、相応の発想の切り替えやスタンスの変化は当然ですよ。私もこんなものを使いますしね」

 

 そう言いながら彼が構えたのは、……なんだろう。

 

 ライフル銃とリボルバーを足して二で割ったような銃だった。

 

「ちなみにリボルバーカノンに近い機関銃です。魔術を併用しているのでほらこの通り」

 

 いくつも弾丸が一斉に放たれるが、これまたクロッサーは盾でそれを防いだ。

 

 防ぎながらクロッサーは、苦笑すら浮かべている。

 

「まったく。埋葬機関第七位としては、たかが半端な魔術師相手に、余計な労力は使いたくないんだが―」

 

「―そこは安心してくれていい」

 

「ええ。ご安心ください」

 

 クロッサーのそのボヤキじみた言葉に、スピネルさんもメルガスさんも、何故か少しだけ得意げな笑みを浮かべた。

 

 え、ど、どういうことです……か?

 

前世(かつて)の名をあえて名乗ろう。時計塔が12のロードに連なる者、アイネス・エルメロイ・アーチホールだ」

 

 そう胸を張って告げるスピネルさんに、メルガスさんも続いた。

 

「同じく名乗りましょう。時計塔が12のロードに連なる者、ギウス・トランベリオ・アルシャフトと申します」

 

 ………どうしよう。

 

 どっちも知識がないからよく分からない。

 

 ここは知識があるだろうルインとクロッサーの反応を見て知るべきだろうか。

 

 ………なんか、二度見してお互いに顔を見合わせて首を傾げている。

 

「……あの、ヘルズ・クロックワークスはガチガチの血統主義者である大王派に与してますよね?」

 

「……どう考えても民主主義派のトランベリオではなく、貴族主義派のエルメロイがトップになるべきではないのか?」

 

 どうやら、スピネルさんとメルガスさんは、前世では対立する関係だったらしい。

 

 あと確かに、名前から推測できる価値観から見ると、確かに大王派に与するならスピネルさんの方が向いている気がする。

 

 だけど、何故か二人揃って失笑すらしていた。

 

「家紋の派閥が自身の信条と合致しているかは別の話だ。私はエルメロイではトップクラスのリベラル派でな。くわえて12で組織を運営するなど、大王派では難しいだろう」

 

 そう言うスピネルさんに、メルガスさんも頷いた。

 

「それに時計塔の民主主義派は「歴史の浅い家でも優秀な才能があるなら取り立てるべき」ですしね。むしろ個人的には才能ある者達を新たな貴族にすることも貴族の責務と思ってますゆえ。家柄しか価値のない無能に回すリソースももったいないでしょう?」

 

 そううそぶくメルガスさんに、クロッサーは苦笑すらした。

 

「中々革新的な貴族達だ。これは面倒な手合いが敵に回ったものだ。……なら」

 

 そういうと、クロッサーは静かに懐に手を入れると、何かを起動させる。

 

「……いったい何をしたのかねぇ。その後ろのロボット兵器とか、さっきから使っているその神器擬きと関係があるのか?」

 

「神器擬きというのは勘違いだ。それは、神器とは全く異なる力だよ」

 

 そう返答したのは、今までしゃべってなかった一人の少年だった。

 

 中国の民族衣装である漢副を腰に巻いた、僕達とそう年の変わらないだろう人間の少年。

 

 彼は不敵な笑みを浮かべながら、アザゼル総督やサーゼクス様たちに視線を向ける。

 

「お初にお目にかかる、三大勢力のトップ達。俺は英雄派のイスカンダル・曹操という。……ついでに一応名乗ったらどうだい?」

 

「そうですね。一応名乗っておきましょうか」

 

 曹操に促されて一歩前に出るのは、純血悪魔と思われる一人の女性。

 

 彼女を見て、サーゼクス様やセラフォルー様が歯噛みする。

 

「やはり来たか、初代レヴィアタンの血を継ぐ者……」

 

「カテレアちゃん、どうして!」

 

 ……初代レヴィアタンの血族までもが、ここに来たのか。

 

 旧魔王血族やそのシンパが禍の団に与しているのは聞いていたけれど、いきなり来るとはね。

 

 そしてカテレア・レヴィアタンは、不快げな表情をセラフォルー様に向けた。

 

 ……旧魔王血族は、今の四大魔王様方を特に憎悪しているとは聞いている。そこに関しては彼女も同じようだ。

 

「私からレヴィアタンの座を奪った女に言われる筋合いはありませんね。それに答えは簡単です。神も魔王もいないのなら、我々で新たな秩序を構築したいのですよ」

 

 そのカテレアの憎悪のこもった言葉に、クロッサーはうなづいて前に出る。

 

「そう。そして偽りの天使達はそこに必要ない。……いずれ悪魔と堕天使は禍の団の者も含めて下すが、流石に順序だてる必要はあるからこそ、こうして一時共闘しているのだよ、偽りのミカエルよ」

 

「おいおい、マジモンのミカエルに対して酷いこと言ってやがるなぁ、おい」

 

 クロッサーに対して、アザゼル総督がそう茶化した。

 

 どう考えても挑発だけど、クロッサーは平然と受け流している。

 

 あれは、自分の発言に対して自信があるということなのか?

 

「先ほど埋葬機関の第七位であることを告げたので、もはや隠さないでおこう。……私は異なる世界で聖書の教えの絶対性を守る為に命を捧げ死んだはずが、この世界の四十年ほど前に新たな生を受けてしまった」

 

 まあ、転生者であるということは、当然死んでいる経験があるということだろう。

 

「この時点で信徒としてはグレーゾーンに近いのだが、そこである疑問と仮説に思い至った私は、背教者となる覚悟の上、偽りの聖杯を用いてとある実験を行った」

 

 偽りの聖杯、それってつまり―

 

「亜種聖杯ですか。それを、いったい何に使ったというのですか?」

 

 ミカエル様の詰問に、クロッサーは隠す気もないようだ。

 

「……二つの並行世界に同じ神話宗教の概念が存在する。そこに着目した私は「神の原典と言えるものは高次元に存在し、並行世界に影響を与えているのではないか」という仮説を立て、それはある意味で一つの形を成した」

 

 そう告げるクロッサーは、ミカエル様に嘲りの表情を向ける。

 

「卵が先か鶏が先か。我らは信徒の思いが集まり、それを力としてどうしようもない状況における信徒の祈りに応えて世を統率する天使を遣わす世界を発見した。それが真なる神かは当事者にも分からぬことだが、少なくとも上位種であることには変わりあるまい?」

 

 な……なんだって?

 

「……またすごい新説が飛んできたな。で、オタクらはそっちに鞍替えしたってのか?」

 

「既に主が亡くなられているのなら、上位たる主に使える機会があるのなら、もはや答えなど一つであろう? そしてあのお方の奇跡は、文字通り世界の救済すら可能とする」

 

 アザゼル総督に断言するクロッサーは、抑えきれない笑みを浮かべて胸を張る。

 

「核戦争や再生させた天然痘の蔓延、自然環境の激変によって発生したポストアポカリプスに見舞われた多くの並行世界に救済の手を伸ばし、そして信仰によって統一したあの方々。そしてその力はそれを超える危機すら超える」

 

 その言葉とともに、彼が示すは自分の装備。

 

「錬金術研究の末に、闘争本能を武器へと変える技術と同時期に完成してしまった、人を人食いを対価として不老長寿の超人へと変える技術の流出による危機を救い揚げるだけにとどまらず、その力は宇宙にすら通用する」

 

 そして示すは、後ろのロボット兵器。

 

「銀河系規模で争いを行う巨人型生物兵器による強襲からも、地球を救い揚げるその力。真なる降臨さえ可能になれば、この地球すら統一できるだろう」

 

「……宇宙大戦争かよ! もしかしてそのロボット兵器はそれの流用か! ……解体してみたいな」

 

「アザゼル。アジュカみたいなことを言わないでくれたまえ」

 

 よだれを誑しそうになっているアザゼル総督をたしなめつつ、サーゼクス様は一歩前に出る。

 

「確かに強大だが、然しその苛烈な信仰を広めさせるわけにはいかない。我々は断固として抵抗を―」

 

「―まあ待ってくれないか? 君の相手は俺がする予定なんだ」

 

 そのサーゼクス様の声を遮って、一歩前に出るは先ほどの少年。

 

 イスカンダル・曹操と名乗った少年は、不敵な笑みを浮かべながら、腰に妙なベルトを巻き付ける。

 

『サウザンドライバー』

 

 人工衛星のようなバックルが付いたベルト。欲見ると、左右に何かを入れるスリットのようなものが入っている。

 

 それをつけた曹操は、同時に二つのプレートらしきものを取り出した。

 

『Growth!』

 

『Apocalypse!』

 

 二つのプレートをそれぞれのスロットに装填したその時、左右に青い光のサークルのようなものが具現化すると同時に、鈍い銀色のロボットのようなものが現れる。

 

『パーフェクトライズ!』

 

 人を模した姿のロボットと、十の角をもったキメラのようなロボットが曹操の周りを回り、そして蒼いサークルを通り抜ける形で、曹操を挟み込むようにぶつかり合い―

 

『I am a decade hephaistion!』

 

 銀色のアーマーを身に纏った、十の角を持つ金色と青色のボディースーツの戦士がそこにいた。

 

「……これは、とある道を誤った男が作り出した、強大なる戦闘兵器の更なる進化系」

 

 複眼となっているバイザーが光、そこから明確な戦意が透けて見える。

 

「人の力に黙示録の力を併せ持つ、100%(完璧)1000%(その先)すら超える者」

 

 そして、両手を前に出し、構えた曹操ははっきりと告げる。

 

「仮面ライダーテンサウザー。この力、君達の想定の10000パーセントと知るがいい」

 




A:いくつものオリジナル勢力登場。

……いや、並行世界系統のクロスなわけなので、ふと思ってたこともあったんですよ、「あれ? どの並行世界でも神話があるなら、これを一ひねりしてこんな感じにできるんじゃね?」ってな感じで。

まあクロッサーも言ってますが、くだんの世界が本当に「いわゆる聖四文字の神そのものか」という点では確証がないのが実情。ですが複数の並行世界に降臨し、彼らの信仰を力に変える以上は、一つ一つの世界より源流に近いだろうという考えです。









 そしてそんな感じで勢力下になった世界は多数ありますが、全部が全部独自技術があるわけでもない。ただし独自技術がある世界もあり、それがクロスしてきました。具体的に言うとマクロスと武装錬金。

 まあ原典そのままの世界ってわけでもありません。具体的に言うとディケイドのリイマジ世界的な感じ。より精密に言うなら「原作の時系列とは異なる段階でIFルートに入った」とかそんな感じです。

 そしてそれとは別口で曹操によりゼロワン系列が登場。これまたグレンさんナイズなのでオリライダーとなっております。そのまんま出すような手合いではないのが自分なのです。

 この場合は「令和ザ・ファースト・ジェレーションとは別の偶発的な形でアークが無事体験を離脱してしまったif」といった感じですね。この辺りに関しては、次の話でなぜ手にしているかについて軽く説明を曹操自身に言わせておくとします。


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第一章 13 しょっぱなからラスボス級の戦力同士のガチバトル勃発とか、ルーキーにとっては絶望でしかない

さて、本格的なバトルがそろそろ始まるのじゃよ


 

 十の角を持つ戦士の姿をした曹操は、軽く調子を確かめるように手を握ったり開いたりして、そしてこちらに視線を向ける。

 

埋葬連隊(彼ら)が色々やってた影響か、俺達も並行世界に接触することに成功してね。ちょっとスカイネット擬きが人類滅亡を目論んでたから、同じ人間のよしみで世界を救う英雄をやってたんだけど、これはその世界の技術を利用したものさ」

 

 ……更に並行世界が追加されるのか。なんでもありすぎる。

 

 というより、スカイネットってもしかしなくてもターミネータ〇!? え、アンドロイドが実用化されるレベルで科学技術が発達している世界なのかい!?

 

 あと、スピネルさんとメルガスさんが、遠い目をしているのは何故だろうか。

 

「……ゼルリッチの系譜になんといえばいいのでしょうか」

 

「この調子では時間旅行の科学的再現も間近だな」

 

 遠い目をして呟くメルガスさんとスピネルさんを無視して、曹操は苦笑している雰囲気を見せる。

 

「この装備はそのスカイネット擬きに悪意をラーニングさせた1000パーセントが口癖の男が開発した専用装備なんだよ。だけど人類が絶滅しかねないぐらい追い込まれたうえに見事に当人も返り討ちにあってね、まあ基本性能は絶大だから、救国通り越した救人類の英雄たる俺が使ってイメージを回復させようと思ったんだ。なんで、前仕様であるサウザーの十倍役に立つように、テンサウザーってゲン担ぎさ」

 

「……ああ、ヘパイトスって千人長って階級だったな。その十倍だから一万と」

 

「そういうしゃれた短文を付け加える仕様でね。まあ、大言壮語でないことだけは約束するよ」

 

 アザゼル総督の茶化しにそう答え、僕、木場祐斗の前でイスカンダル・曹操は僕達の前に右手を突き出す。

 

「学習という概念を体現する人間のライダモデルを組み込んだスタディングヒューマンプログライズキーと、黙示録の獣の情報を組み込んだファンタモデルを使用する新世代プログライズキー「ファンタライズキー」ことトライヘキサファンタライズキー。その相乗効果によるテンサウザーの力は、使用者を除いても神に通用すると自負している」

 

 そう言うなり、曹操は指を鳴らした。

 

 その瞬間、この一帯を強大な力が包み込んだのが分かる。

 

「……結界を更に結界で包み込んだ……?」

 

「え、そんなことする必要あるの?」

 

 ソーナ会長とイリナさんがそう戸惑う中、曹操ははっきりと告げた。

 

「こうでもしないと真の力を見せてくれない人がいるものでね。……サーゼクス・ルシファー殿にはっきりと言おう」

 

 そして、仮面ライダーテンサウザーという姿になった曹操は、サーゼクス様に指を突き付ける。

 

「……真の姿を見せるといい。出なければ、貴方はここで死ぬことになるだろう」

 

「………その為の結界か。私が本領を発揮しても問題のない空間を作ると―」

 

 その瞬間、テンサウザーという装甲がサーゼクス様の目の前に現れていた。

 

 ………速い!?

 

「だから、真の姿を見せろと言っただろう?」

 

 その瞬間、テンサウザーことイスカンダル・曹操の拳を食らい、サーゼクス様が弾き飛ばされる。

 

 そのまま校舎の壁を貫いて吹き飛ばされたサーゼクス様を追いかけ、テンサウザーの姿が消える。

 

 ……なんだ、今の速さは!?

 

「サーゼクス!? くっ―」

 

「追いかけさせんよ。そういうことになっているのでな」

 

 振り返って走り出そうとするグレイフィアさんに、クロッサーの投げた聖鍵と呼ばれた聖剣が襲い掛かる。

 

 それを速やかに回避するグレイフィアさんだが、これで機先を制された。

 

 更に、上空が輝いたかと思うと、そこから強い聖なる力を感じてしまう。

 

 思わず振り仰げば、そこには三つの存在の姿があった。

 

 うち二人は天使に似通った翼を持った、外套を羽織った騎士のような存在。だが、その二人に挟まれるように君臨する存在は、まさしく異形というべき姿だった。

 

 外周に人の顔のような物体が数十ほど組み込まれた車輪、その中央部に組み込まれるように天使の上半身と思しき姿が存在する。

 

 怪物のようでいてどこか神々しさすら感じさせる存在。あれが、クロッサーたちの言っていた真なる天使なのか?

 

 そう思った瞬間、車輪から聖なる力を宿した火炎弾が、雨あられと放たれる。

 

「っ! 避けなさい!」

 

「いきなりぶちかましてきやがるかよ!」

 

「させないのよねん!」

 

 とっさにミカエル様、アザゼル総督、セラフォルー様が攻撃を放ち、そして空中で炸裂する。

 

 ……とっさに放ったとはいえ、三大勢力トップの三人が相殺するのにもてこずるレベルか。

 

 なるほど、真なる天使と呼ばれるだけはあるようだ。

 

「……悔い改めぬ悪魔を許す、天使の資格無き者。天の意思として断罪を開始する」

 

 車輪の異形からそんな冷徹な声が響き、左右にいる異形が剣を構える。

 

 その様子を満足げに見て、クロッサーもまた聖鍵を構える。

 

「では、ネオ・スローネ様とネオ・キュリオテス様方に、偽りのミカエルは任せるとして、私達は誰を倒すかね?」

 

 そう尋ねるクロッサーに、ルインは苦笑すると一歩下がる。

 

「私は遠慮します。デストリアンの制御は成功の様ですので、お先に帰りますね。……では、有象無象を排除してください」

 

 そう言いながら転移魔法を展開するルインの声に、デストリアンがはじかれるように散開すると、警護の三大勢力の者達に攻撃を開始する。

 

 彼らは右手を振るうと何時の間にか、ガトリングガンやメイスを持って攻撃を開始している。

 

 これは、僕達も黙って見ているわけにはいかないようだね。

 

「……ルインに関してはまあいいか。メルガス、私達はクロッサーを足止めするぞ。……転生悪魔相手では懸念材料がある」

 

「そうですね。では眷属悪魔の皆さん、特に聖書の教えに縁深い方々はクロッサーには近づかないようにしてください」

 

 そう言いながら、スピネルさんとメルガスさんは、それぞれ銃器を構えながら飛び降りる。

 

 それに対して、あえて乗る形でクロッサーも移動を開始。それを見たカテレア・レヴィアタンは軽く息を吐きながらセラフォルー様を睨み付ける。

 

「では私はセラフォルーを。……積年の恨みを晴らすと致しましょう」

 

 そして魔力をたぎらせるカテレア・レヴィアタン。

 

 恐ろしいことに、その魔力はグレイフィアさんやセラフォルー様に匹敵するレベルにまで高まっている。

 

「オーフィスに力を借りたことで、貴方を殺すことも可能になりました。そして世界は我々によって新たな秩序が敷かれるのですよ!」

 

「ブフォッ!?」

 

 ………。

 

 今、アザゼル総督が盛大に吹いた。

 

 戦闘態勢をとっていたネオ・スローネやネオ・キュリオテスも止まった。

 

 それぐらい、これ以上ないタイミングで水が刺さった。

 

「アザゼル? 今私は、冗談を言った覚えはないのですが」

 

 誰が見ても分かるぐらい、カテレア・レヴィアタンは切れている。

 

 にも関わらず、アザゼル総督は肩をプルプル震わせていた。

 

「ならどうしようもねえなぁ。血筋至上主義の旧体制が、新たな秩序とかギャグでなきゃ言えねえだろ。ぶっちゃけ三下のセリフすぎだぜ? 死亡フラグを盛大に立ててるって自覚あるか?」

 

「……よくもまあここまで愚弄してくれるものです。セラフォルーの前に貴方を滅ぼしてあげましょうか?」

 

 完全に殺意の矛先を向けられたアザゼル総督は、それでも余裕の表情で肩をすくめる。

 

 そして、ちらりとセラフォルー様に視線を向けた。

 

「セラフォルー。お前はグレイフィアと一緒にミカエルに突っかかってくる神の天使様とやらを相手してろ。カテレアは、俺がやる」

 

 ……これは、正真正銘で凄い事になって来たようだ。

 

 和平を望んだ三大勢力のトップたちが、それに反対する三大勢力の反乱分子と乱戦にもつれ込んでいる。

 

 そこまで思って、僕はふとあることに気が付いた。

 

 そういえば、彼女はいったいどこに……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし! これでこの辺の敵は片付いたな!」

 

「ご苦労様、イッセー。それにあなた方も、ギャスパーを守ってくれてありがとう」

 

 一生懸命頑張って、ギャスパーをいまだに狙ってきた連中を殴り飛ばした俺達。

 

 リアス部長は、メルガスって人が派遣した人達にお礼を言うけど、その人達はもう跪いて頭を下げていた。

 

「い、いいえ! 元七十二柱次期当主のリアス様にお褒めになられるようなことでは!」

 

「そ、そそそそうです! 職務として行っておりますので、お礼のお言葉ならメルガス様にしていただければ!」

 

 おお、やっぱりリアス部長って人気あるんだなぁ。

 

 そして、部長も、震えているギャスパーを抱き寄せながら、それでもにっこり微笑んだ。

 

「勿論メルガスにもお礼は言うけれど、現場で助けてくれたのはあなた達だもの。私のギャスパーを守ってくれてありがとう」

 

『『『『『『『『『『お、お褒めにあずかり恐縮です!』』』』』』』』』』

 

 ……俺の主のアイドル的なアレがすごい。

 

 こんな主様と恋人とかそんな感じになれたら……とか思ってもできるか自信がね~。

 

 だってほら、これはもう俺もジャニー〇とかそんな感じにならないと無理でしょ? 何年かかるんだろうって感じなんだけど。

 

 いや、ここは気合を入れ直せ!

 

 なってやろうじゃねえか! 魔王様も俳優とかやってるみたいだし、俺だってそれぐらいできるようにならなきゃ、リアス部長をハーレムに入れるなんてマネできるわけがねえ!

 

 ……でもあの人魔法少女だし、俺もニチア〇キッズタイム的なあれを目指すべきなの……か?

 

「ギャスパー。俺って特撮向きなキャラしてるだろうか?」

 

「え? あ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は基本的に全身鎧の禁手(バランス・ブレイカー)ですし、相性はいいんじゃないかと……?」

 

 ごめんね、いきなり変なこと聞いて!

 

 でも一生懸命応えてくれて嬉しいよ。持つべきものはいい後輩だな!

 

 それはそれとしてアーシア達は大丈夫だ―

 

「ぬぉっとぉ!?」

 

 いきなり、俺の隣で大きな轟音が響いた。

 

 盛大に土煙まで浮かぶ中、何かが飛び出してくる。

 

 え、なになに!?

 

 思わず俺が身がまえるけど、そこにいたのは―

 

「あ、兵藤。……って、こんなところまで吹っ飛ばされてたのかよ!」

 

 麻宮だ。ヴァーリと戦ってたんじゃなかったのか!?

 

 っていうかボロボロじゃねえか。大丈夫かよ!?

 

 ……ん? ボロボロで吹っ飛ばされたってことは、つまりヴァーリに叩きのめされたってことか?

 

 それって、つまり―

 

「……わりと歯応えのあるね。何より半減をしのぐっていうのがいい」

 

 ―なんか楽しそうなヴァーリが来やがったよ!

 

「ヴァーリてめえ! まだ戦えてたのかよ!」

 

「まあね。前座としては中々楽しめているよ。メインディッシュが肩透かしな気がするなら特にさ」

 

 ……メインディッシュが肩透かし?

 

 麻宮って間違いなく強いと思うんだけど、それより強くない相手が本命ってことか。

 

 待てよ? それってつまり―

 

「……俺?」

 

「そりゃそうだろ。だから頑張ってどうにかしようとしたんじゃねえか」

 

 麻宮に半目で見られた!

 

 おいおい冗談だろ!

 

 俺は、二天龍の因縁とかどうでもいいんですけど!?

 

「しかし残念だ。この程度の魔法使いをたった一人で一蹴することもできないなんてね」

 

 凄い馬鹿にする言い方もあったもんだな。

 

 普通にリアス部長も中級悪魔クラスとか言ってたぞ。俺、まだ下級悪魔なんだけど。

 

 なのにヴァーリは、滅茶苦茶残念そうな顔をしている。

 

「まったく。白龍皇と魔王ルシファーの血を併せ持つ俺は、アザゼルから「現在過去未来全てにおいて最強の白龍皇になる」とまで言われたんだ。それなのに、記念すべき対を成す赤龍帝がこの程度とは、笑うを通り越して涙が出てきそうだ」

 

 滅茶苦茶酷いこと言ってきやがったな、オイ。

 

「……ルシファーのひ孫の白龍皇に、ルシファーの妹に仕える赤龍帝とか、十分対照的じゃないか?」

 

「そういう問題じゃないよ、麻宮鶴来。一応俺も、彼のことは調べてきているんだ。……驚くほどの普通過ぎる」

 

「普通で悪かったな!」

 

 麻宮の言ってことだけど、また馬鹿にされた感じなんで思わず怒鳴ったぞ俺は。

 

 だけどヴァーリは気にも留めない。滅茶苦茶やる気がなさそうな感じだった。

 

「先祖代々、調べた限り異形との縁はおろか異能とも縁がない。刃狗(スラッシュ・ドッグ)の鳶雄や紫炎のヴァルプルガみたいな鳴り物入りの来歴とまではいわないが、せめてもう少し何かないのかと思ったものさ」

 

 心底残念そうによく分からん事を言うヴァーリ。

 

 それに対して、麻宮は半目を向けてため息をついた。

 

「……70億近い人間にランダムで宿るたった一つの神器に、そんなレア要素を求めるなよ」

 

「求めたいさ。俺が知る限り、同期の神滅具保有者としては彼が一番普通なんだ」

 

 普通で悪かったな。

 

 なんか本気で腹立ってきた。俺だってハーレム作れるだけのかっこよさとか、なんかこう自慢できる特権とかいろいろ欲しかったよ。いや、歴代赤龍帝はもてるらしいから十分持ってるけど。

 

 俺がそんなことを言うべきか迷ってると、ヴァーリは肩をすくめて首をやれやれと言わんばかりに振ってくる。

 

 この野郎……っ。

 

煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)は現役最強格のエクソシストに宿っている。最強の神滅具である黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)は英雄派の曹操という、伝説の英雄の末裔にして、仮面ライダーという俺たちも知らない新技術を持ち寄って参戦している俺並みの特別。その曹操のもとに神滅具保有者は二人ほどついている。蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)究極の羯磨(テロス・カルマ)は二つを一人の男が使っているという。誰もかれも神滅具を持つだけではなく、それ以外にも特別を持つ俺の同期にふさわしい存在だ」

 

 そこまで言ってきて、ヴァーリは俺を冷めた目で見てきやがった。

 

「……にもかかわらず、俺と対を成す二天龍がこの体たらく。正直肩透かしもいいところだ。これでは二天龍同士の決着は簡単についてしまうじゃないか」

 

 そこまでボロッカスに言ってから、ヴァーリは指を一つ立てる。

 

「仕方ないから、俺は一つ思いついたことがある。より深い因縁を俺と結び、大きなモチベーションとなる出来事を作ればいい」

 

「………おい」

 

 そのヴァーリに、麻宮は声のトーンを一つ落とした。

 

「お前、何考えてる」

 

「簡単だよ。俺は俺の宿敵の憎しみの対象になろうと思ったんだ」

 

 ………は?

 

 俺が、わけがわからず声を漏らすと、ヴァーリは俺にしっかりと視線を向ける。

 

「俺が君に両親を殺せば、俺と君には特別な因縁ができるだろう? そうなれば君もモチベーションが上がり、普通ではありえないような成長を遂げそうだ」

 

 ……………は?

 

「正直いい考えだと思っている。君の両親もただのありきたりな人間だし、これぐらいのイベントの対象となった方がまだましだろう? そうなれば、君もかなり素晴らしい存在となりえるんじゃ―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと黙ってるといいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声が、ヴァーリのセリフを背中ごと叩き切った。

 

 

 

 

 

 

 

「……総督は育て方を間違えたね。ほんと、人ってのは魂が驚くほどに腐りやすいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対零度の殺意を目に込めて、イルマ・クリミナーレさんがヴァーリを絶大な聖なるオーラを纏った剣で切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあいいんじゃない? 黄昏の聖槍で殺される魔王末裔とか、テンプレっぽいけど絵になるでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「え?」」」

 

 今なんて言いましたかイルマさん!

 

 俺も麻宮もリアス部長も驚いたよ!?

 




 鶴来はさすがに苦戦するけど、本作のイルマはめっちゃ強いのじゃよ。具体的には次回をまて!


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第一章 14 デミ・サーヴァント

 

 ……俺こと麻宮鶴来は、惚れた女が俺を負かした男をぶった切る光景を見ることになった。

 

 うん、なんといえばいいんだろうか。

 

「男の沽券的なアレが傷ついてショック受けるべきか、惚れた女が俺を助けてくれたことに感激するべきか、どっちだろう」

 

「そういう状況なの!?」

 

 リアス・グレモリーにそう言われるけど、これは結構重要な問題だぞ。

 

 というかイルマ姐さん、強いなマジで。

 

 神滅具+魔王血族とかどこの二次創作のチート主人公だよっていうぐらいのチートを相手に、もろに攻撃を当てたうえで大ダメージだぞ。

 

 凄いぜ姐さん。俺が遊ばれるほどの相手を一撃でダウンさせるなんて!

 

「……忘れてたよ。君は俺にとって天敵と言っても過言ではなかったんだっけ」

 

 そう言いながらヴァーリは立ち上がるが、然しその声は弱っているのが丸分かりだ。

 

 まあ、あの剣はどうも原型のエクスカリバーにケンカ売れそうなレベルで聖なるオーラを放ってるからな。そりゃそんなもの不意打ちで食らったらきついだろうに。

 

 そんでもって、姐さんはマジで絶対零度の目でヴァーリを見下ろしている。

 

「……ほんと、人の魂ってのは驚くほどに腐りやすいよ。テロリストになったからって、いきなり一般市民を「宿敵の仇になる為に」殺そうとするとか、歴代最強の白龍皇は歴代最悪の精神性を持ちたいのかな?」

 

 そう言いながらイルマ姐さんは、獲物を剣から銃に持ち替える。

 

 見るからに普通の拳銃だ。っていうかあれ、アメリカとかなら普通に店売りしている拳銃じゃね? チンピラでも買えるような粗悪品じゃね?

 

 いくら何でも白龍皇の鎧をぶち抜くのは無理じゃないだろうか―

 

「殺す気で行くけど自業自得だから」

 

「―流石にいきなり死にたくはないね!」

 

 しかし、ヴァーリはイルマ姐さんの銃撃をとっさに回避。

 

 あと、銃弾がかすめた装甲が盛大にヒビ割れたんですけど。

 

 俺は、ふと後ろにいるリアス・グレモリーと視線を合わせた。

 

「……アレなに? デバイスってやつの力?」

 

「い、いくら何でも神滅具の禁手に通用するほどなんて、信じられないわね」

 

 ですよねぇ。

 

 俺も驚きだよ。異世界凄過ぎだろ。

 

 思わず瞠目していると、今度は兵藤の籠手から声が響く。

 

『……いや、どうやらあれはそういうものでもないようだ』

 

「どういうこと、ドライグ?」

 

 リアス・グレモリーがそう尋ねると、籠手から聞こえるドライグらしい声は、唸り声すら挙げた。

 

『あのオーラには覚えがある。あれはおそらく、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)のオーラだ』

 

 ………ん?

 

 俺は思わず首を捻る。

 

 さっきヴァーリのやつは、英雄派の曹操とかいうのが持ってるとか言ってなかったか?

 

 イルマ姐さんが持ってるっていうのは、説明がつかないんだが。どういうことだよ?

 

 リアス・グレモリーも怪訝な表情を浮かべると、ちらりと校舎の方に視線を向ける。

 

「確か、英雄派の曹操って今来てたはずだけど、そもそも男よ?」

 

 しかも来てるのかよ!

 

 俺達の疑問符が浮かぶ中、然しイルマ姐さんとヴァーリのガチバトルは続いていく。

 

 イルマ姐さんは何時の間にやら、背中に弾倉を背負ってからマシンガンぶっ放してヴァーリを追い立てる。一方ヴァーリもそれを高速軌道で躱しながら、魔力とオーラを砲丸にして投げつける。

 

 そんな射撃戦を展開している中、白い鎧の宝玉が光って、これまたアルビオンを思われる声が響いた。

 

『驚くほどのことではない……というより、麻宮鶴来。お前が言うなと言っておこうか』

 

 ん?

 

 なんで俺が名指し?

 

 俺が首を傾げていると、リアス・グレモリーがポンと手を打った。

 

「ああ。そういえばあなたも異世界の聖剣エクスカリバーを具現化していたわね。そもそもアレ、どういうこと?」

 

 あ、確かに。

 

 でもここで言うのかよ。

 

「……説明しよう。麻宮鶴来は「アーサー王の力を宿した存在」を作り出そうとした邪悪な研究者達に実験体として改造されたが、その施設が何者かの襲撃で壊滅したその時、自分自身がアーサー王の力を宿すことが出来る様になったのである! ……ちなみにマジ話です」

 

「………どこからツッコミを入れたらいいのかしら?」

 

 いや、マジなんですって。

 

「ちなみにほんとだよー! しかもあっちの世界のアーサー王……どころかかなりの「男性として伝わっている英雄」が「実は女」ってむしろ定番パターンです! いやぁ、エロゲのネタに困らない展開ですなぁ。……ズリネタを使う前に死ねば?」

 

「後で聞いたが、その聖剣は威力においてサーヴァントの中でも最上位のそのまた上位らしい。……それとイルマ、ずりねた……とはなんだ?」

 

 あ、激戦の最中に補足説明あざっす!

 

 ……あとヴァーリ今なんつった?

 

『真面目に捉えるなヴァーリ。まあそれは置いておくが、イルマはイルマで似たようなものだというだけだ』

 

 そう返すアルビオンは、更に続ける。

 

『スピネル・G・マルガムと再会した亜種聖杯戦で、イルマは偶発的に魔水晶と悪魔の実を受け取った直後のマスターの一人と鉢合わせてな。そのマスターが強引に命令を聞かせようとした時に、危険因子と判断して後ろから始末して、そのままマスターとなって亜種聖杯戦争を調べていたのだ』

 

「そしたら亜種聖杯戦争を嗅ぎつけて同じように参戦したスピネルとタッグ組んだんだけど、途中でサーヴァントと一緒に致命傷を負っちゃってねー。……あの決断にはほんとに感謝してるよ、本当に」

 

 なんか話を続けたイルマ姐さんが、後半しんみりしたトーンになって来たんだけど、何事?

 

 その疑問は、アルビオンがあっさり告げてくれる。

 

『幸か不幸か致命傷の位置が違ったランサーのサーヴァントが、自身の臓器を移植するという荒業を提案し、亜種聖杯はその後の追加治療とルーラーの存続に充てられた……だったな?』

 

「いやはやお恥ずかしい。相棒の身を削っての献身に、更なる追加の奇跡が必須とかランサーにちょっと申し訳が立たない感じ?」

 

 そう涙を流しながらヴァーリの攻撃を回避するイルマ姐さんは―

 

「―で、その影響でゲットしたランサーの宝具としての黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)。その身でお代わりしてくれていいのよん?」

 

 ―めっちゃいい笑顔浮かべて攻撃を再開しようとする。

 

 あ~。偶然の形とはいえ、俺と似たような形になってるのか。

 

 たぶん、亜種聖杯の力も利用した感じだな、これは。

 

 さて、俺も結構ダメージは行ってるけど、このままってわけにはいかないし、頑張って援護ぐらいは―

 

「……待てよヴァーリ」

 

 ―その時、今まで黙っていた兵藤の声が、やけに響いた。

 

 誰もが一瞬息を呑む中、兵藤は俺達より前に出る。

 

「……そりゃ、俺の両親は普通の人間だよ。今でも俺が悪魔になったこと話してないし、そりゃ目立った活躍とかしてるヒーローとかでも何でもない」

 

 その眼は、間違いなく怒りに燃えていた。

 

「だがなぁ、それでもこんな俺をここまで育ててくれたんだよ」

 

 その全身から、俺すら一瞬息を呑むほどの気配を放っていた。

 

 そして、兵藤は、渾身の敵意をヴァーリに叩き付ける。

 

「それをお前のどうでもいい理由で殺すとかなんだのと。………一発この手でぶん殴らなきゃ、気が済まねえだろうがぁああああああ!!」

 

 その叫びと共に、兵藤の二の腕につけられていたリングが光り、更に兵藤の全身に赤い鎧が形成される。

 

「へぇ。アザゼルのリングがあるとはいえ、まさかまだ実行に移してないに禁手になるとはね」

 

『奴の怒りに神器が呼応したのだろう。ああいう単純な感情の高ぶりは、ドラゴンとの相性もいいからな』

 

 アルビオンと平然と語りあって、ヴァーリは兵藤に向き直った。

 

「いいだろう。今の段階でどこまでできるか、俺が直々に試してやろうじゃないか」

 

「上等だ。てめえはここでぶちのめす……っ」

 

 そして兵藤はそのまま殴りかかろうとし―

 

「ってちょっと待―」

 

「これこれお前さんや。落ち着きなされい」

 

 俺が思わず止めようとしたとき、イルマ姐さんが物語の老婆口調で、めっちゃ機敏に足払いをかけた。

 

 ……盛大に顔面からいったぞ。

 

 これは恥ずかしい。滅茶苦茶恥ずかしい。

 

「イッセー、だ、大丈夫?」

 

 滅茶苦茶戸惑いながら、リアス・グレモリーが声をかける。

 

「……いくらなんでも酷くない?」

 

「いや、流石にちょっと可哀想」

 

 後ろで悪魔の方々もこそこそ言ってるし。

 

「何するんですか! 俺の両親殺すとか言ってるんですよ!? 俺がぶっ飛ばさなくてどうするんですか!!」

 

「いや、気持ちは買うんだけどね~。あのヴァーリは普通に禁手に至ってるどころか、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)まで行っちゃってる上に、ちょっと変則的な切り札まで持ってるからさ~。……一対一でぶつかったら百パー死ぬよ?」

 

 そう、最後で滅茶苦茶がつくぐらいシリアスな視線が兵藤を突き刺す。

 

 それは本気の言葉であり、本当の事実であり、だからこそ本心からの警告だった。

 

 戦えば死ぬ。だから任せろ。そういう、無茶をたしなめる年長者の言葉だった。

 

「アザゼル総督の言葉は本当だよ。向上心と才能がかみ合っている以上、ヴァーリは間違いなく歴代最強の白龍皇になるし、今の段階でも歴代でも指折りの領域。何より覇龍まで使われたら、今の君だと―」

 

「―それでもです」

 

 そんなイルマ姐さんの言葉を、兵藤は遮る。

 

「男には意地があります。俺は両親が大好きです。それを目の前で両親を趣味の為に殺そうとするようなやつを、一発もぶん殴らないでいたら俺は俺が嫌いになるし、リアス部長達に合わせる顔がないです」

 

 そうはっきり言って、兵藤はヴァーリを睨み付ける。

 

「お前は一発ぶちのめす。そのふざけた挑発をぶちかます口を、あごの骨ごと砕いてやらないと気が済まない!!」

 

 そう言い切る兵藤に―

 

「……男の意地ってのは理解するけど、今の時代は男女同権だよ?」

 

 そう言いながら、イルマ姐さんは苦笑しながら隣に並ぶ。

 

「―援護はさせてもらいます。それができないなら、不能の呪いをかけるからそのつもりで!」

 

「……童貞のまま死にたくないので、それでいいです!!」

 

 おお、妥協したうえで脅しをかけて了承させやがった。

 

 ……ふむ、なら―

 

「だったら、俺の援護も追加で受けてもらうぜ」

 

 俺もまあ、並び立たせてもらいますか。

 

「え、でも―」

 

「そもそも成り立ての元堅気に、余計な試練まで押し付ける気はないんでな。男の意地には理解はあるが、無理無茶無謀は流石に呑めねえよ」

 

 そもそも、そのつもりでヴァーリに突っかかったんでな。

 

 ああ、そこは断じて飲めないとも。

 

「二天龍同士の戦いに割って入るとは、ドラゴンに対する敬意が足りないね」

 

「そりゃどうも。生憎俺は秩序の必要性は分かってるんで、真面目にルール守ってる連中がバカを見るのは好きじゃねえんだよ。特にそういう手合いを阿呆が踏みにじるのは糞くらえだ」

 

 ヴァーリの軽口に対して、俺は聖剣を両手に構えてそう告げる。

 

 そしてイルマ姐さんも、両手にサブマシンガンを構えると俺と同じようにヴァーリを睨む。

 

「そういうこと。あと、あっちの世界のアーサー王はブリテンの赤き竜の因子があるから、ある意味ぴったりだよん?」

 

『『そうなのか』』

 

 ドライグとアルビオンがハモって感心してきやがったな。

 

 そしてその瞬間、遠くからなんか真っ白な禿げ頭がこっちにきやがった。

 

 あれなんだよ。

 

「あれは、禍の団の尖兵! こんなところにまで!」

 

 リアス・グレモリーがそう吠えると、俺達に視線を向けてくる。

 

 なんか滅茶苦茶不安な表情を浮かべたけど、すぐに意を決したのか禿頭達に向き直った。

 

「後顧の憂いは私が断つわ。………イッセー、必ず生きて帰りなさい」

 

「うっす! 俺も、ハーレム王になるまでは死にません!!」

 

 ……二人の間に割って入れない空気が入って来たな、オイ。

 

「いや~。若いっていいですなぁ。イルマさんは中身が三十超えてるから、時々追いつけない時があるよ」

 

「なら若い燕のエキスはいかがですかい? 俺なんかおすすめですぜ?」

 

 そんな軽口を叩き合いながら、俺達は兵藤より先に攻撃を開始した。

 




 反則じみた方法ではあるけど、たぶんこの方法ならデミ・サーヴァントを確実に作れると思う亜種聖杯のブースト。ちなみにケイオスワールドの兵夜とは異なり、イルマは肉体を聖杯にするための処置を受けていたわけではないので、この処置を施した時点で亜種聖杯による補填を必須としてスピネルたちは割と焦っておりました。

 そしてヴァーリはヴァーリでやはり原作より強化されています。この辺に関してはちょっとした仕込みを考えてますです、はい。


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