このすば!この微笑ましい双子に幸運を (先導)
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登場人物紹介

これは話が進めばさらに追加します。


アカメ

 

容姿:真紅の髪の短髪、目はつり目

 

服装:赤の左右非対称の軽装

 

   (右腕が長袖で左腕が袖なしの服。

    へそが出ている。

    ピンクのマフラーをつけている。

    左足の丈が膝まであり、右足が丈がないズボン。

    左手に黒グローブをはめ、ブーツを履いている)

 

年齢:16歳

 

職業:シーフ(盗賊の上級職)

 

誕生日:6月19日

 

好きなもの:カレーライス(特に激辛が好き)

 

嫌いなもの:アクシズ教徒(死ねばいいのに)

      小動物(私の側に近づけないで)

 

イメージCV:五等分の花嫁:中野二乃

 

ウェーブ盗賊団に属する盗賊団員の1人でティアの双子の姉。

毒舌家で人を罵倒するような言動が目立つといったように割と好戦的な性格。そう言うこともあって、放送禁止用語を言い放つことが多々ある。自分を噓つきと評しているが、その真相は不明である。ドS気質も備わっており、人をからかったり、いじめぬくことにたいして、高揚感を抱いてたりもする。その裏では誰かを気遣ったり、困った人間に手を差し伸べるなどといったように、不器用ながらの優しさを持っている。

カズマのパーティ内では物理攻撃担当でティアのサポートを受けながら短剣スキルによる攻撃スキルで攻撃をするという役目を持っている。欠点はティアが一緒にいない時と、お互いの意思疎通が皆無になってしまったら攻撃性能が0になってしまうことである。

辛い食べ物が好きで特にネクサスに教えてもらったカレーライスが大好物だ。カレーの中でも激辛が特に好き。

アクシズ教徒を嫌っており、いつかその宗教を滅ぼそうと考えていたこともあった。だが、アクシズ教徒の勢いが凄まじすぎて、それは無理だと判断し、諦めている。

小さい頃に小さな毒蛇に噛まれ、生死を彷徨う経験をしたことがあり、それ以来彼女はそれをトラウマとし、大の小動物嫌いになった。彼女の側に小動物を近づけたら・・・。

 

 

 

関係図:ティア➡憎たらしいけど大切な妹であり、家族。守るべき大切な肉親。

    カズマ➡パーティメンバーであり、気が合う友人の1人。彼の悪巧みに悪乗りすることから鬼畜コンビとよばれつつある。

    アクア➡パーティメンバーであり、憎めない悪友。彼女の調子乗りや幸せを気に入らなく思っているが、憎いとは全く思わない。女神ということを信じていない。

    めぐみん➡パーティメンバー。良き友人であり、爆裂道同盟同士。彼女の爆裂魔法の威力を眺め、採点するのが最近の楽しみになりつつある。

    ダクネス➡パーティメンバー。気を許せるよき良き友人であると同時にアカメ専用の玩具。彼女をいじることが何よりの愉悦であり、楽しみでもある。

    アレクサンダー➡自分たちのペット。力強さが特に気に入った。

    ウィズ➡手間のかかる店主と思っている。表向きではつんけんした態度をとるが、裏では母親であってほしいと願っている。

    クリス➡盗賊仲間。詳しい人柄はあまり知らない。

    マホ➡変わり者の店主。借金がある間は逆らえない。

    ゆんゆん➡めぐみんに付きまとうぼっち。金づるの才能があると考えている。

    ミミィ➡訓練生時代の同期であり、同じチームだった。現在は部下と上司の関係だが、本人たちはそうは思わない。

    バニル➡一応は商談相手。常にからかわれて屈辱すぎる。

    ネクサス➡命の恩人であり、彼の部下という認識。憧れたりもする。

    カテジナ➡お頭の付き人という認識。お頭の崇拝ぶりが狂気じみてる。

    バーバラ➡死ね!アクシズ教徒!

    スティ―ヴ➡【ピーー―】の変態野郎。

    レントン➡正直よくわかんない。

 

 

ティア

 

容姿:紺色の髪の短髪、目はパッチリ

 

服装:青の左右非対称の軽装

   (左腕が長袖で右腕が袖なしの服。

    へそが出ている。

    水色のマフラーをつけている。

    右足の丈が膝まであり、左足が丈がないズボン。

    右手に白グローブをはめ、ブーツを履いている)

 

職業:シーフ(盗賊の上級職)

 

年齢:16歳

 

誕生日:6月19日

 

好きなもの:カレーライス(特に中辛が好き)

      料理作り(絶賛レパートリー増幅中!)

 

嫌いなもの:アクシズ教徒(怖すぎる!!)

 

イメージCV:ウマ娘プリティーダービー:トウカイテイオー

 

ウェーブ盗賊団に属する盗賊団員の1人でアカメの双子の妹。

活発的で人見知りせず思ったことを口にできる社交的な性格。仲間を思いやる気持ちがあり、ここぞって時には気を利かせて傷つけるような発言を控えることができる。だが万が一自分に危険が迫った時に仲間や実の姉を躊躇せずに犠牲にしようとするなどといった腹黒さを持っている。紅魔族と似たようなセンスがあり、紅魔族の名乗りや名前を素敵だと思っていたり、野良猫にへろへろなどといった名前を付けようとするなど、残念な一面を持っている。

カズマたちのパーティではサポート、ダンジョン探索担当でカズマ以上の敵感知能力や罠索敵、お宝解除もすいすいとこなす。戦闘もバインドや潜伏、武器に異常属性付与を与えてサポートする。欠点はアカメが一緒にいない時と、お互いの意思疎通が皆無になってしまったら使用スキルが全て中途半端になってしまうことである。

姉と同じくカレーが好きで辛さは中辛が好みである。

砂漠にいた頃から料理が得意でその中でもスイーツ系が1番の絶賛らしい。彼女なりのオリジナルメニューも作ったりしており、そのレパートリーは日に日に増えていく。

 

 

 

関係図:アカメ➡忌々しいけど大好きな姉であり、家族。ずっと一緒の肉親。

    カズマ➡パーティメンバーであり、気軽に話せる友人。ただ姉が悪乗りしそうな悪巧みはやめてほしいと常々考えてる。

    アクア➡パーティメンバーであり、世話がかかる友人。姉が行き過ぎた暴行を止めるストッパー役になっている。そうならないように自重してほしい。

    めぐみん➡パーティメンバーであり、気が合う友人。紅魔族の流の名乗りをひっそりと教えてもらっている。使う日が楽しみだ。

    ダクネス➡パーティメンバーであり、尊敬できる友人。ただ、彼女のドMの趣向だけは理解できないし、したくもない。慣れたけど。

    アレクサンダー➡自分たちのペット。飼い始めるとだんだんかわいく見えてくる。

    ウィズ➡自分にとってはもう1人の母親的存在。ついつい彼女に甘えてしまう節あり。

    クリス➡盗賊仲間。詳しい人柄は姉と同じく知らない。

    マホ➡ちょっと変わった趣向を持つ店主。借金がある間はあまり会いたくない。

    ゆんゆん➡いつもめぐみんに近づく紅魔族。紅魔族の中でも変わり者だと思っている。

    ミミィ➡訓練生時代の同期であり、同じチームだった。現在は部下と上司の関係だが、本人たちはそうは思わない。

    バニル➡一応は商談相手。悪魔は本当に質が悪すぎる!

    ネクサス➡命の恩人であり、彼の部下という認識。憧れたりもする。

    カテジナ➡そんなにお頭が好きなら告白すればいいのに。

    バーバラ➡お願いだから近づかないで!!

    スティ―ヴ➡何を考えてるのかわからない。

    レントン➡正直わかんない。

 

 

アレクサンダー

 

容姿:胴体が部分が紫色の走り鷹鳶

 

好きなもの:魚(鳶は魚を食べるので数少ない鳶要素)

 

嫌いなもの:危険を脅かす存在

 

アカメとティアの双子のペットとなった走り鷹鳶。

元々はアルカンレティアに行く道中でダクネスの固さに惹かれてやってきた繁殖期の走り鷹鳶の群れの1体。冒険者の攻撃の際によって倒れて群れと分散し、アカメと激突。そのアカメとの取っ組み合いでアレクサンダーの力強さに惹かれ、双子の手によって飼いならされた。飼いならし方法は企業秘密。

性格は割と大人しめだが、危険を察知したり、興奮したりすると声を荒げるというようにかなり慎重。おそらくはペットになってからつけられた性格だと推測する。

 

関係図:アカメとティアの双子➡自分のご主人様たち。この人たちには逆らってはいけない。

    カズマ➡ご主人様たちの仲間。彼をちょっと見下している節あり。

    アクア➡ご主人様たちの仲間。うるさい、やかましい、静かにしろ。

    めぐみん➡ご主人様たちの仲間。ブサイクな名前を付ける厄介者。

    ダクネス➡ご主人様たちの仲間。メスの気を引くための交尾道具。

    ウィズ➡たまにご飯をくれるから結構好き。

 

 

櫻井真穂

 

容姿:短い茶髪を小さく後ろに結んでいる。

 

服装:白い服装に黒いマントを羽織っている

   (両手には茶色のグローブ

    紺色の長ズボンを履いている

    茶色のブーツを履いている)

 

職業:アークウィザード

 

年齢:25歳

 

誕生日:8月30日

 

好きなもの:異世界のモンスター(愛らしい・・・)

 

嫌いなもの:大事なものを壊されること(ゴートゥーヘル!!)

      借金を踏み倒す連中(特に、ダストとかな!)

 

イメージCV:新サクラ大戦:東雲初穂

 

アクセルの街に存在するモンスターショップの女店主。

江戸っ子気質で男勝りの性格。一度やると決めたからには妥協を許さないといった頑固者だが、非常に義理堅い。

カズマと同じ日本からの転生者で、日本で交通事故にあって1度死亡し、アクアの導きによって転生特典である魔導書ネクロノミコンと共に異世界に転生を果たした。

1度は魔王討伐を目指していたが、異世界でモンスターと出会っていくうちにその愛に目覚め、モンスター愛好家を増やすためにモンスターショップを立ち上げた。カズマいわく、異世界の頭のおかしさに浸食されたという。魔法を自在に操ることからかつては魔道の勇者と呼ばれていた時もあった。

日本で借金を踏み倒す男を見たり、異世界で自身も借金を踏み倒されている経験からそのような人物は無責任と認識して嫌っている。そのため借金を踏み倒したり、セクハラ発言をするようなダストを拒んではいないが非常に嫌いである。

 

関係図:カズマ➡同じ日本の同郷者。手始めにモンスターの素晴らしさを理解してほしい。

    アクア➡自分を転生させたクソ女神。見ているだけで腹立たしい。

    カズマパーティ(めぐみんたち)➡アクアに振り回されて同情している。

    ウィズ➡最近知り合った経営者仲間。リッチーであることを知っている。結構気が合う。

    ゆんゆん➡最近街をうろうろしている紅魔族。1人で何かしてる姿が痛々しい。

    ミミィ➡いつも落ち込んでいるから正直に言って苦手。

    バニル➡利害の一致によって商談の契約を交わしている。曲者だがよき商談相手。

    ダスト➡金返せ。

    リーン➡かわいい妹分。日頃の苦労を労ってやりたい。

 

 

 

ミミィ

 

容姿:銀髪の長髪にウサギの耳がついている。目はたれ目で赤色の瞳。

 

服装:白い長袖の服に青色のベストを少し閉めて着込んでいる

   (水色の短パンを履いており、お尻にウサギの尻尾がある。

    白色の靴を履いている。

    両手には弓用の籠手を着けている)

 

職業:レンジャー

 

年齢:20歳

 

誕生日:2月2日

 

好きなもの:人参(大好物の食べ物)

      故郷のみんな(みんな・・・元気かな・・・)

 

嫌いなもの:自分のネガティヴ思考(こんなゴミでごめんなさい・・・)

 

イメージCV:ご注文はうさぎですか?:メグ/奈津恵

 

ウェーブ盗賊団のアクセル支部で活動している盗賊団員の1人であるウサギの獣人。前支部長の強い希望によって跡を継いだ新人支部長。

非常にネガティヴな性格をしており、高いステータスを持っているにも関わらず、自分を卑下するような思考を持っており、いつも落ち込んでいる。自分と相手の能力を比較する癖があり、自分は相手より下であると思い込んでいる。頼りなさそうに見えるが、仲間がピンチの時に真っ先に駆け付ける頼もしい一面もある。

寒い地域、サムイドー村の出身で野菜作りがうまい獣人の中でも最も野菜を作る技術が高い。が、やはりネガティヴ思考もあり、自分には才能がないと常に思い込んでる。 

 

関係図:アカメ、ティアの双子➡盗賊団の入団時の同期。訓練生時代では一緒のチーム。現在は上司と部下の図ではあるが、本人たちはそうは思わない。

    カズマパーティ➡双子を助けてくれた恩人。とても賑やかな人たちだと思っている。

    ウィズ➡街の魔道具店の店主さん。貧乏で見ていてかわいそう。

    マホ➡世にも珍しいモンスター関連のお店の店主さん。怖いけど、頼りになりそう。

    ゆんゆん➡実はかなり気になっている女の子。でも緊張して声をかけられない。

    バニル➡お願いですから・・・こんなゴミをからかわないでください・・・。

    ダスト➡唯一こんな人物にはなりたくないと思う。この人よりはひどくはない。

    ネクサス➡自分の才能を見出してスカウトしてくれた人。期待には応えてみたいと思える。

    カテジナ➡とってもかっこよくて、強い憧れを持っている。

    バーバラ➡入信書は間に合ってますうううううう!!

 

 

ネクサス

 

容姿:跳ね返った赤い長髪。目はきりっとしている

 

服装:白いシャツに茶色の毛皮ベスト

   (首にドクロのネックレスをつけている。

    灰色の長ズボンを履いている。

    栗色の靴を履いている)

 

職業:シーフ

   ソードマスター(団長になる以前の職業)

 

誕生日:3月24日

 

年齢:41歳

 

好きなもの:盗賊団の仲間たち(双子も幹部も例外じゃない)

      冒険者時代だった思い出(あの頃は懐かしかった)

 

嫌いなもの:魔王軍

 

イメージCV:めだかボックス:人吉善吉

 

ウェーブ盗賊団の2代目団長。アカメとティアが恩人で尊敬に値する人物。

さばさばした性格で裏表がなく、誰とでも接しやすい。団員誰もが一貫性のない呼方(例えばお頭とかリーダー、ボスなど)を密かに気にしていたりする一面もある。

団長という立場から子分の問題、特に双子の問題の後始末を毎日やっているため意外に苦労人。双子がアクセルの街に転属してもそれは変わらない。

実はアヌビス出身ではなく、アクセルの街出身であるため、アクセルの街の人間にはだいたい人間関係が豊富である。

かつてはソードマスターを生業としてとある冒険者のパーティに加わっていたこともあり、冒険者としての心得、知識も豊富である。

 

 

 

関係図:アカメ、ティアの双子➡大切な子分。彼女たちの父親代わりを務めていた。

    ウィズ➡冒険者をやっていた時からの知り合い。昔からよくしてもらってるので頭が上がらない。

    クリス➡盗賊仲間。いつも手伝ってくれているので深く感謝している。

    ミミィ➡大切な子分。支部長になってからもより一層の高みに期待している。

    カテジナ➡大切な子分。いつも自分を慕ってくれている最高の騎士。ただ、忠誠心が重すぎて困る。

    バーバラ➡一応は幼馴染。階級を下げようかと考えているが、常人より仕事ができるから下げれない。だから困る。

    スティーヴ➡大切な子分。サキュバスの店はほどほどにな。

    レントン➡大切な子分。優秀な盗賊団の研究者。

 

 

カテジナ

 

容姿:長い長髪を団子結びにしており、凛とした青い瞳を持つ。

 

服装:黒色のスーツ

 

職業:クルセイダー

 

年齢:32歳

 

誕生日:9月30日

 

好きなもの:ネクサス様(なんと麗しゅう・・・)

 

嫌いなもの:悪魔族

 

イメージCV:五等分の花嫁:中野五月

 

ウェーブ盗賊団の団長、ネクサスの秘書を務めており、2人しかいない最高幹部の1人。本名はカルヴァン・メレーデ・クラリッサであり、名門貴族、カルヴァン家の第一後継者。

絵に描いたような真面目な性格で冗談は通じなく、ネクサスやバーバラにも頭が固いと言われるほどの真人間。ただ、ネクサスにたいしては深く心酔しており、その信仰ぶりは周りが言うには狂気じみてるとのこと。

どういった経緯かは知らないが、ネクサスとはまだウェーブ盗賊団が誕生する前からの顔見知りで、当時はネクサスのことをまだ一般人としか見ていなかった。だが、ウェーブ盗賊団が誕生し、悪魔関連の事件から救ってもらってからはネクサスに忠誠を誓うようになり、ウェーブ盗賊団こそが自分が進むべき騎士道であると考えるようになった。

 

関係図:アカメ、ティアの双子➡仲間だと思ってるが、ネクサス様の手を煩わせる問題児。

    ダクネス➡彼女に剣の指導をしていた。未だに免許皆伝には至ってはない。

    ミミィ➡かわいい妹分。彼女が剣の道に進まないことが残念。

    ネクサス➡偉大なるお方にして、生涯忠誠を誓い、一生お守りするべきお方。

    バーバラ➡自分と同じ最高幹部とは思えない自堕落の権化。愛称最悪。

    スティーヴ➡女の敵

    盗賊団の仲間➡文字通りの仲間。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 

バーバラ

 

容姿:橙色の長髪、アメジスト色の瞳を持つ。

 

服装:アクシズ教徒の修道服

 

職業:アークプリースト

 

年齢:34歳

 

誕生日:7月15日

 

好きなもの:女神アクア様

      ところてんスライム

 

嫌いなもの:エリス教徒(邪悪な使者め!!)

 

イメージCV:めだかボックス:不知火半袖

 

ウェーブ盗賊団の団長、ネクサスの秘書を務めており、2人しかいない最高幹部の1人。ネクサスとは年の離れた幼馴染。

アクシズ教徒らしい自由奔放な性格。ウェーブ盗賊団一番の問題児として、ネクサスの頭を抱えさせられるトラブルメーカー。

どんな仕事でもやらせれば確実にこなせる天才だが、本人はそれをやろうとはせず、仕事の方は全部カテジナに押し付けて自分は女神アクアに祈りを捧げたり、遊びに行ったりする。

かつてはネクサスと共にある冒険者のパーティに加わっていた。

パーティが解散してからはネクサスにウェーブ盗賊団に誘われるまではアルカンレティアでアクシズ教徒のシスターをやっていた過去を持つ。

 

関係図:アカメ、ティアの双子➡アクシズ教徒の素晴らしさを説いてあげたい。

    アクア➡アクア様・・・どうか我らアクシズ教徒をお導きください(アクアが現代に降りてきていることは知らない)

    ミミィ➡さあ!今こそアクシズ教に入信を!

    ネクサス➡幼馴染。エリス教から解放してあげたい。

    カテジナ➡自分と同じ最高幹部とは思えない堅物。愛称最悪。

    盗賊団の仲間➡どうかアクシズ教徒をよろしくお願いいたします!

    エリス教徒➡この邪教め!ぺっ!!

 

 

スティーヴ

 

容姿:金髪で片目は眼帯をしている。

 

服装:ピンクの半袖の服に青の長ズボン

 

職業:戦士

 

誕生日:12月10日

 

年齢:19歳

 

好きなもの:サキュバスの店

 

嫌いなもの:レントンの発明品

 

イメージCV:ペルソナ3:伊織順平

 

ウェーブ盗賊団の団員。とはいえ、盗賊としての才能はなく、主にアジト防衛の戦士兼、運び屋。

欲望には忠実でバレバレなのに隠そうとするどうしようもないむっつりスケベ。が、色々とわきまえている部分があるため、覗きは決して行わない。情が熱く、意外にも仲間思い。信頼されているのかどうかよくわからない。

アヌビスのサキュバスの店の常連客でこの店の情報だけは守り通してみせている。が、いろいろと怪しい部分があるため、女性の誰もが疑いの目を向けられている。

レントンの発明品の被害者の1人で度々ひどい目に合わされている。

 

関係図:アカメ、ティアの双子➡この2人だけは絶対にサキュバスの店を知られたくない。

    ネクサス➡尊敬できるボス。あんたもあれをお望みですかい?

    カテジナ➡・・・なんかどっかで見たことあるような・・・。

    バーバラ➡入信書はらめええええええ!!

    レントン➡実験台にするのはやめろぉ!!

 

 

レントン

 

職業:クリエイター

 

誕生日:1月29日

 

年齢:12歳

 

好きなもの:発明

 

嫌いなもの:外に出ること

 

ウェーブ盗賊団の団員。主に研究、発明を担当する発明家。盗賊団に入った理由はただスカウトされたからだと。

基本的に部屋の中でずっとこもりっぱなしで滅多なことでは絶対に外から出ようとしない困りもの。外に出ようとする際はフードで姿を隠すため、その姿を見た者はよき理解者とネクサスしかいない。だが理解者経由だがちゃんと交流は行っている。

発明をすることが大好きでよく誰かで実験を行ったりしている。だが度々実験が失敗してしまい、その失敗から発明品を人々は忌み嫌われている。成功する例は極稀である。

 

関係図:ネクサス➡雇い主。自身の意志を尊重してくれる。

    盗賊団全員➡姿を見せたくない。

    理解者➡自分の意見を伝えて。

    スティーヴ➡いい実験体。

 

 

伊藤勝広

 

容姿:黒髪でたれ目

 

服装:ジャージ

 

最終職業:冒険者

 

誕生日:10月10日

 

享年:25歳

 

好きなもの:ゲーム、妻、娘

 

嫌いなもの:アクシズ教徒

 

イメージCV:おそ松さん:松野おそ松

 

異世界の死者の世界に居座っている魂。自称、死者の国の住人。

一言で言えばダメ人間で面倒くさがったり、働いたら負けと本気で考えているようなどうしようもないバカ。だがここぞって時には頼りなる一面も。

カズマと同じく異世界転生者であった。一応は転生特典はもらっていたのだが元はバカなので使用方法もわからず、最初は苦労ばかりしていた。だが異世界にも慣れ、転生特典をうまく使いこなせてきて順風満タンになってきたころ合いに妻と結婚し、子も授かった。全てはこれからだという時にボスキャラと戦い、封印したのちに死亡してしまった。

その後はエリスの導きによって死の世界に来たが本人はどうしても転生をする気はなく、結果として彼の心残りがなくなるまでは死者の世界に居座ることになった。死者の世界に残って、16年目になる。ちなみに、千里眼的なもので異世界の様子を見ている。

 

関係図:カズマ➡日本人の中で唯一復活した例。羨ましく思っている。

    エリス➡転生行きはまだまだ待ってください。後、エリス様ってパッド入りだったのね。



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番外編
この素晴らしいチョーカーに祝福を!


今回はちょっと息抜きに番外編を書いてみました。

今回の話はOVA沿いのお話でございます。時間軸としては・・・そうですね、初代バニルを討伐した後日ってところですかね。


願いを叶えるチョーカーを覚えているだろうか。それはまだ双子がウィズの店で居候していた時にアカメが偶然見つけたものでそのチョーカーを首に付けた瞬間、その人間の願いを叶える・・・なんていう夢のあるものではなく、実際には自分で願いを叶えないとチョーカーは外れないどころか日を追うごとに装備した者の首を締めあげていくというとんでもない不良品の魔道具である。

 

今回の物語は、その願いを叶えるチョーカーを身に着けた愚か者と、その者の欲望に巻き込まれる女性たちのちょっとした閑話である。

 

 

 

 

このすば!この微笑ましい双子に幸運を

 

番外編、この素晴らしいチョーカーに祝福を!

 

 

 

 

アクセルの街のある日のこと、今日は双子はウィズの店の手伝いのためにカズマたちを連れてやってきた。

 

「ウィズー、今日は店を手伝いに来たよー」

 

「手足となる奴隷共を連れてきたわよ。感謝なさい」

 

「おい、誰が奴隷共だ。ようウィズ、今日は手伝わせてもらうぜ」

 

「ああ、今日はよろしく頼む」

 

「なんでアンデッドの店なんか・・・」

 

みんな手伝いに乗り気だが、その中でアクアだけが不服そうに頬を膨らませている。

 

「アカメさん!ティアさん!それに、皆さんも!今日はわざわざありがとうございます!」

 

「・・・?」

 

めぐみんは商品棚の後ろに誰かが隠れていることに気が付いた。その隠れている人物はじーっとめぐみんを見つめている。

 

「・・・ふん」ぷいっ

 

その人物についてよく知っているめぐみんは顔をしかめ、そっぽを向いた。

 

「!!?い、今見たよね!!?なんで無視するの!!?」

 

隠れていた人物、めぐみんの自称ライバルのゆんゆんは無視されたことで涙目になって商品棚の裏から出てきた。

 

「我が自称ライバル、ゆんゆんじゃありませんか」

 

「自称って言わないでよ!!」

 

「おや、違いましたか」

 

「違うから!!ちゃんとライバルだから!!」

 

自称云々は置いておいて、ゆんゆんはいつもの恒例のように、めぐみんに指をさし、勝負の申し込みをする。

 

「さあめぐみん!!たまたま偶然、ここで会ったわけだけど、ちょうどいいわ!!今日こそ決着をつけるわよ!!」

 

「・・・決着も何も、今まで勝負はほとんど私の勝ち越しじゃないですか」

 

「う、うるさいわよ!!・・・あ、すいません。お店に迷惑をかけないよう、外に出てやりますので・・・」

 

ゆんゆんは店の迷惑をと考え、ウィズたちに頭を下げる。

 

「いえ。ゆんゆんさんがこの店に通うようになってくれたのも、めぐみんさんたちがたまに遊びに来るって聞いてからですし」

 

「ああああああああ!!あ、あ、あの!!今日はこれください!!このかっこいいチョーカー・・・」

 

「はいはい、照れ隠し照れ隠し」

 

「ほらほらみんな手伝って。バニルがいない今がチャンスなんだから」

 

ウィズに真実を暴露されて顔が赤くなったゆんゆんは商品棚から1つのチョーカーを取り出す。慌てるゆんゆんを余所に、双子は陳列する商品の箱を取り出し、仕分けを開始する。

 

「なぁゆんゆん。その・・・遠慮せず、いつでも私たちの屋敷に来ていいのだぞ?」

 

「えっ⁉本当に?でも・・・たくさんのお菓子とジュースを持って遊びに行ったら・・・『えぇ?本当に来たの?社交辞令って知ってる?』みたいな迷惑そうな顔しません?」

 

ゆんゆんの面倒くさい思考にめぐみんは我慢できず、ゆんゆんの胸倉を掴んで突っかかる。

 

「相変わらず面倒くさい子ですね!!来たいなら来ればいいじゃないですか!!それで、どうするんですか!!勝負するんですか!!?」

 

「あ、あ、待ってめぐみん!!こんなにたくさんの人と話せる機会がないから・・・勝負は夕方とかに・・・うあああああ!!」

 

「本当に煮え切らない子ですね!!これだからボッチは!!」

 

「ねぇー、私お茶ほしいんですけど。後お菓子ほしいんですけど」

 

「「はああん?」」

 

紅魔族のいちゃつきを余所にさっそくくつろぐ気満々のアクアの言葉に双子たちは視線をアクアに変える。

 

「奴隷の分際で何言ってんのあんた?相当お仕置きされたいらしいわね?」

 

「それを言うなら手伝いが終わってから言いなよこのごく潰し!!」

 

「いひゃいいひゃいいひゃいいひゃい!!!奴隷って何よ!!この高貴な女神様に向かってそんな・・・いひゃいいひゃい!!」

 

アクアはアカメに頬を引っ張られたり、ティアはアクアの頭をぐりぐりられるなどのお仕置きを受けている。

 

「あ、あの・・・お2人とも、アクア様にそんな乱暴な・・・」

 

「あ、アクアばかりずるいぞ2人とも!!やるなら私にやるんだ!!むしろやってくれぇ!!」

 

双子の暴行を止めに入るウィズとダクネス。ダクネスの場合は根本的に欲を優先させているが。

 

「相変わらず騒々しい連中だ・・・たまには癒しが欲しい・・・ん?」

 

騒がしいメンバーと一緒にいて疲れが出ているのがわかるカズマは先ほどゆんゆんが落とした商品のチョーカーに気が付いた。

 

「これは・・・当店では珍しく売れている人気商品、願いが叶うチョーカーです・・・珍しく売れてるとか書いちゃうのは、どうかと思うが・・・」

 

ウィズの説明欄を読んでツッコミを入れるカズマはこのチョーカーの値段を確認する。

 

「・・・お値段は強気の十万エリス・・・」

 

カズマはチョーカーの値段を見た後、すぐに騒々しいメンバーを見る。

 

「なんですか!!なんですかこの胸は!!また育ったのですか!!見せつけているのですか!!」

 

「やめてぇ!!自分が育たないからって私に当たらないでぇ!!」

 

めぐみんはゆんゆんのよく育った胸に当たって胸に往復びんたをかましている。

 

「これでもか!!これでもお菓子が欲しいと物申すか!!そんな怠惰は誰かに変わってお仕置きよ!!」

 

「痛い痛い痛い!!!誰かって誰よ!!?そこは月に変わっておし・・・ぎゃああああああああ!!!!」

 

「これは体罰じゃないの!!アクアのためを思ってのことなの!!もっと自立してもらうために!!」

 

双子のお仕置きはだんだんエスカレートしていき、ついにはもっともらしいことを言ってアクアにプロレスの寝技を繰り出している。

 

「もうその辺でいいだろう・・・ところでウィズ、さっき見つけたこの獣に群がられるポーションというのは?た、例えば、飢えた野獣のような男たちに襲われやすくなるとか・・・」

 

「それは獣型モンスターが集まってくるポーションです。休む間もなく次々とモンスターが襲い掛かってきて・・・」

 

「いただこう!!」

 

ダクネスは絶対にいらないポーションを見つけては興奮して買おうとしている。そんなハチャメチャなメンバーたちを見て、カズマは思わずため息がこぼれる。

 

「・・・装備すると幸運度が上がるとか、そんなものか?」

 

少し気になったのでカズマはお試し感覚でそのチョーカーを首に装備した。

 

「だいたいあんたは・・・て、はああ!!?」

 

「え?何?どうしたのお姉ちゃん?」

 

「!!か、カズマさん!それ・・・」

 

アカメの視線がカズマに変えた時、アカメはありえないと言わんばかりな顔をする。ウィズもそれを見て、顔が青ざめていく。

 

「あんたあれ捨てなさいって言ったわよね!!?なんでまだここにあんのよ!!」

 

「ご、ごめんなさい!!他の商品が全然売れなかったので・・・つい魔が差したんですぅ~・・・」

 

「この【ピーーッ】がぁ!!!」

 

「ひ、ひどい!!」

 

かなりオーバーな反応を示しているアカメにもしかして、やらかしたかみたいな顔になりだすカズマ。

 

「な、なぁ・・・どういうことだ?」

 

「お姉ちゃん、たかがチョーカーでしょ?もしかして、お試しで使ったらまずい?」

 

「まずいどころの話じゃないわよ!!あれは自分の願いを叶えるまでは外れない上に日を追うごとに徐々に首が締まっていく最悪の魔道具よ!!」

 

「えええ!!?」

 

「呪いのアイテムかよ!!!」

 

「ち、違います!女性に人気の商品なんです!死ぬ気になれば絶対に絶対に痩せられるっていう・・・」

 

「ウソっ⁉自分で叶えないといけないの!!?」

 

「バカにしてんのか!!?」

 

あまりにもばかばかしい魔道具の説明にティアは驚愕し、カズマは憤慨する。

 

「いてて・・・やっと解放された・・・それで、カズマはいったい何をお願いしたのよ?」

 

「それが・・・特に何か願ったわけでもないんだよ・・・」

 

「ちょっと!どうすんのよそれ!!このままだとあんた、チョーカーがゆっくりとじんわりと首を締めあげて、4日後に・・・あんたの首は・・・」

 

「俺はこんなバカバカしいダイエット器具で死ぬってのかぁ!!?」

 

願いを叶えないと最終的には死を意味すると理解し、カズマはさらに憤慨する。

 

「私のせいだ・・・私がそのチョーカーを落としたせいで、カズマさんが・・・」

 

チョーカーを落としてしまったゆんゆんはこんな事態になってしまったことに責任を感じている。

 

「ゆんゆんにつかみかかった私も悪いですよ・・・」

 

「ううん、私がアクアのお仕置きに集中してたから・・・ごめんカズマ!」

 

「いや、私やウィズが双子の仲裁に気を取られていなければ・・・すまない、カズマ・・・」

 

「いや、悪いのは私の方よ。1番最初にあのチョーカーを見たのは私で、それに気づけなかったわけだし・・・」

 

「1番悪いのは私ですから!アカメさんの忠告を聞かずに、魔が差してこんな危険な商品を店を並べていたのが悪いんですから・・・」

 

罪悪感を感じていたのはこの場にいる全員がそうだった。・・・ただ1人、アクアだけ除いては。

 

「カズマさん・・・なんとしてでもそのチョーカーを外してみせますから・・・安心してください!」

 

「私も協力します!!」

 

「こ、紅魔族随一の天才たる我にかかれば、その程度の魔道具など!」

 

「私も尽力しよう!!」

 

「ウェーブ盗賊団の掟、仲間を見捨ててはならない!!」

 

「ま、私たちが仲間と決めた以上、何とかしてみるわ」

 

ウィズをはじめとした全員がカズマが着けたチョーカーをなんとしてでも外そうと決めた。

 

「・・・わ、私は何も悪くないわよ?でも一応言っておくわ・・・ごめんね?もし死んでもリザレクションかけてあげるから!」

 

・・・前言撤回。空気を読めていない愚か者がここに1名いた。アクアの空気の読めていない発言にカズマは白けたような顔になっている。

 

「・・・今度死んだら生き返らないでおこうかなぁ」

 

「え?」

 

「人生をストライキするわ」

 

カズマの生き返らない発言にアクアは焦り始めた。

 

「な、何言ってるの?私と魔王討伐するのはどうなるのよ?」

 

「後俺が死んだら、膨らんだ借金全部お前のものだから」

 

「わああああああ!!!わかったわよ!!私も協力すればいいんでしょ!!?」

 

ここで借金が決め手となり、アクアも涙目ながらに協力することを決めた。

 

「カズマのチョーカーが外れるまで、みんなで何でもする(・・・・・)わよ!!」

 

「・・・今、何でもする(・・・・・)って言った?」

 

アクアのこの一言で、カズマはにやりと口元に笑みを浮かべた。こうして、カズマのチョーカーを外すための4日間が今、始まろうとしていた。

 

 

ーこのすばぁ(ゲス声)ー

 

 

1日目・・・

 

「あ、あの・・・カズマさん・・・?」

 

「うん、カズマだよ」

 

「寝心地はいかがですか・・・?」

 

チョーカーが外すために必要なことは、カズマの願いを叶える、ただそれだけである。しかしカズマ自身が何も願いを考えていなかったので、それがなかなか難しい。ならば、カズマの欲望を叶えることこそが、チョーカーを外せる・・・と、考えているのだが・・・現在カズマはさっそく欲望のままにウィズに膝枕をしてもらって、寝っ転がっている。

 

「ウィズの太ももは~ひんやりしていて悪くない。後、とても柔らかい。そして・・・ウィズが恥ずかしがってる様子もとてもいい」

 

「そ・・・そうですか・・・それは、その・・・ど、どうも・・・///」

 

ウィズの太ももに頭をのせているカズマは彼女の太ももを愛でるように撫でている。膝枕をしているウィズはとても恥ずかしそうにしているが、チョーカーを外すためと思い、耐えている。この時カズマは思った。願いのチョーカーはいいものだ、首が完全に締まるまで四日もあるからなんとかなる、と。

 

「この男・・・願い事の一発目から欲望全開ですよ・・・」

 

「サイッテー・・・」

 

「このゲスが・・・」

 

この光景を見ているめぐみんたちはドン引きしている。双子は軽蔑の視線を向けており、ダクネスはどんな指令が来るかワクワクしている。

 

「いいだろう!貴様が何を望むか知らないが、この私が全て受け止めて・・・」

 

「お前は鎧を脱いで腕立て伏せ100回」

 

「ん・・・くぅぅ!!///」

 

最後まで言わせてもらえず、突如出されたカズマの指示にダクネスは興奮する。そして、ダクネスは指示に従い、自分の身にまとっている重い鎧を全て脱いで、腕立て伏せを開始する。腕立て伏せをするたびに、ダクネスの大きな胸が床に当たり、カズマはそればかり凝視している。

 

「・・・ほぉ・・・これは悪くないな」

 

「なっ!あ、あんなけだもののような視線に晒され、逃れることもできないとは!奴の頭の中で私はもっとあられもない姿で剥かれ・・・や、やめろおおおおおお!!」

 

「うわぁ・・・こんな時でも平常運転だね・・・」

 

カズマの視線に気づいたダクネスは平常運転であらぬ妄想を繰り広げていた。そんな姿にティアはカズマもそうだが、ダクネスにドン引きしている。

 

「だが!私は騎士として・・・屈するわけにはいかない!!」

 

「なんてこと・・・この男ったら・・・ここぞとばかりに美しい私たちに欲望の限りを尽くすつもりね!!」

 

カズマの欲望を見て次は自分がああなるであろうと恐怖をするアクア。

 

「お前はダッシュで焼きそばパン買ってこい」

 

「なぁんでよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

「アクア様ーー!!」

 

「・・・アクアがこうもパシリが似合ってるのはなんでだろう・・・」

 

だがカズマがアクアに命令したのはおいしい展開とは無縁のパシリであった。欲望の対象外として認定されたアクアは悲痛な叫びをあげながら焼きそばパンを買いに走っていった。

 

「さて、双子には・・・」

 

カズマの欲望の矛先が双子に向けられ、双子は警戒心を露にする。

 

「今から俺が用意した衣装に着替えてもらいます」

 

カズマの出した指令はただ衣装に着替えるだけ。それだけの指令に双子はお互いに目を見開いてお互いに顔を見合わせる。

 

「・・・マジですか・・・それだけでいいの?」

 

「・・・まぁ・・・それで済むのなら別にいいわよ」

 

「衣装は俺の部屋に置いてあるから、着替えてくるといいよ」

 

「う、うん・・・」

 

「じゃあ・・・着替えてくるわ」

 

なんだか変に違和感を覚える双子はカズマが用意した衣装に着替えるため、カズマの部屋へと向かっていく。

 

「あの・・・カズマ。あなたはいったい何の衣装を用意したのですか?」

 

「んー?後のお楽しみにだな」

 

めぐみんの問いかけにカズマは何も答えない。しばらくすると・・・

 

「いやあ!!!なんなのこれぇ!!!???」

 

「ざっけんなざっけんなざっけなあのクソッタレェ!!!!!!」

 

カズマの部屋から双子の怒号が響きわたった。双子の大声にめぐみんとゆんゆんはカズマに軽蔑な視線を向ける。カズマは非常に悪そうな顔つきでにやついている。

 

「・・・さて・・・お前たち、ライバル関係だったよな?」

 

「いえ、ゆんゆんが勝手に・・・」

 

カズマの欲望の矛先がついにめぐみんとゆんゆんに向かれ、2人は警戒心を露にする。

 

「2人には、今から勝負してもらいます」

 

「はあ!!?」

 

カズマの口から勝負と聞いて、めぐみんは驚愕し、ゆんゆんはとっても嬉しそうな顔になる。

 

「し、しょうがないわねぇ!勝負よ、めぐみん!!」

 

「何を嬉しそうにしてるんですか・・・」

 

「対戦内容は俺が決め、勝敗も俺の独断と偏見で決めます」

 

「「へ・・・」」

 

勝負内容も勝敗もカズマが決めると聞いて、めぐみんとゆんゆんはすごく嫌な予感を感じ始めた。

 

 

ーこのすば(イケボ)ー

 

 

勝負をする場所は屋敷の庭でやるそうだ。そして、勝負の見届け人であるカズマはというと・・・

 

「・・・あ、あのぅ・・・」

 

「・・・スゥー・・・」

 

ウィズに膝枕をしてもらって寝ているのだが、その寝方がウィズの太ももに顔を埋めるという変態行為である。

 

「膝枕って顔の向きが逆なんじゃあ・・・」

 

「俺が生まれた国ではこういう膝枕もあるんだ」

 

「そ、そうですか・・・」

 

噓八百の説明でウィズを無理に納得させるカズマ。すると、焼きそばパンを買いに行っていたアクアが戻ってきた。

 

ふぁってふぃたわ(買って来たわ)!!」

 

「遅い!!後、買ってきましただろ!!」

 

ふぃました(来ました)!!」

 

カズマはアクアが買ってきた焼きそばパンの袋を受け取り、中から焼きそばパンを取り出した・・・が、その焼きそばパンは半分だけなくなっていた。アクアの方を見てみると、頬がリスみたいに膨らんでおり、口の周りには青のりやらソースやらがついていた。とどのつまり、アクアは焼きそばパンを半分食べたのだ。

 

「・・・おい。お前これ半分食っただろ」

 

ふぁってない(食ってない)!!」

 

「こいつリスみたいな顔しやがって・・・!」

 

勝手に人が頼んだものを食べたアクアにカズマが一言物申そうとした時・・・

 

「「くぉらああああああああ!!!クズオおおおおおおおおお!!!」」

 

カズマの部屋で指定された衣服に着替えていた双子が怒り狂ったように現れた。アクアはそんな双子の姿を見て固まった。

 

「やってくれたわね!!!何よこれは!!!」

 

「は、恥ずかしくて死んじゃう・・・!///」

 

今双子が着こんでいるのは動物の毛を使った水着であった。しかも、動物耳のカチューシャに動物グローブ、動物ブーツに動物の付け髭、おまけに尻尾の5セット付きである。アカメは犬のような姿で、ティアは猫のような姿である。こんなのに着替えさせられた双子は当然顔が真っ赤である。

 

「うんうん、俺の目に狂いなく、よく似合っているじゃないか」

 

「あんたって奴は・・・!」

 

「あのさぁ・・・やっていいことと悪いことが・・・」

 

いくらチョーカーを外すためとはいえ、このような格好させられた双子はカズマに物申そうとした時、カズマはアカメに片手を出す。

 

「お手。語尾はワンで」

 

「「は?」」

 

突然差し出され、お手と言われたことの意味がわからないでいる双子。

 

「お手」

 

「・・・あ、もしかして、お手しろってことじゃない?」

 

「はぁ!!?ざけんなこら!!!誰がそんなことするか!!!」

 

本当に犬みたいなことをしろとティアに指摘され、プライドが高いアカメは断固として否定の意を示している。すると、カズマはわざとらしくチョーカーに触れる。

 

「あー・・・どうしたことかなぁ・・・首がどんどん締まってきた気がするなぁ~俺死んじゃうのかなぁ・・」

 

「くっ!!こいつぅ!!!」

 

実際にはまだ首が締まっている段階ではないことはアカメにはわかっているのだがチョーカーを例に出されては逆らえなく、仕方なく四つん這いになり、カズマの言うとおりにする。

 

「わ・・・ワン・・・///」

 

「はぁ・・・やはりペットはかわいいなぁ・・・よしティア、おすわり。語尾はにゃあで」

 

「うっ・・・うぅ・・・///。にゃ・・・にゃあ・・・///」

 

今度はティアにおすわりを指名され、逆らえないとわかっているティアは語尾をつけて正座で座り込む。が、ここでカズマが指名する。

 

「違う!!そこは犬猫のおすわりだろ!!もう1回!!」

 

「ううぅ・・・///!にゃ、にゃおーん///!!」

 

座り方まで指示を出され、ティアは猫の鳴き声を真似しながら両足を屈み、両手を地面につけ、本当に犬猫のおすわりになった。しかも、両腕でティアの胸が強調されるので、それを見てカズマはにやけている。

 

「あんた・・・びっくりするくらい欲望にストレートね・・・!さすがの私もドン引きだわ・・・!」

 

欲望に正直すぎるカズマにアクアは超が付くほどにドン引きしている。するとカズマは今度はめぐみんとゆんゆんの方に視線を向ける。

 

「「じゃんけんぽん!!」」

 

めぐみんとゆんゆんはじゃんけんをしており、めぐみんはチョキで、ゆんゆんはパーでめぐみんの勝利だ。

 

「ふっ・・・我が勝利こそ・・・世界の定め・・・」

 

勝利しためぐみんは紅魔族らしくかっこつけ、敗北したゆんゆんはなんと、自分が履いているスカートを脱いだではないか。パンツを隠そうとしているゆんゆんは当然ながら顔を赤くさせる。

 

「・・・ね、ねぇ・・・あの2人は何をしてるの・・・?」

 

「野球拳させてる」

 

「あんたの欲望は、とどまるってことを知らないの?」

 

野球拳とは歌い踊りながらじゃんけんをする宴会芸、郷土芸能である。ただじゃんけんをすればいいだけなのだが、バラエティの影響で負けた相手の服を脱がせるという本来の趣旨が異なっている。その異なった部分を認識しているカズマは決まり顔、双子やアクアはドン引きしている。

 

「ゆんゆん、このままでは共倒れです」

 

「い、いずれ紅魔族の長となる者として、めぐみんに負けるわけにはいかないのよぉ!!」

 

「こんな時だけ強情な・・・!!」

 

めぐみんは何とかゆんゆんに勝負をやめるよう説得するが、めぐみんに負けたくないゆんゆんは勝負を譲ろうとしない。

 

「まさか!次は私にもあれをやれっていうつもりじゃあ・・・!」

 

アクアは自分にも野球拳させられると思い、カズマから距離をとる。

 

「次は高級シュワシュワ買ってこい」

 

「なぁんでよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

「アクア様ーー!!」

 

だが指示を出されたのはまたもやパシリであった。またも欲望の対象外として認定されたアクアは悲痛な叫びをあげながら高級シュワシュワを買いに走り出していった。

 

「「じゃんけんぽん!!あいこでしょ!!あいこでしょ!!」

 

めぐみんとゆんゆんの野球拳は今もなお続いていた。しかし、あいこばかりが続くので、見ているカズマとしては面白くない。

 

「あいこが後3回続いたら2人とも1枚脱ぐこと」

 

「「!!?」」

 

カズマから出された指示にめぐみんとゆんゆんは固まった。束の間の沈黙が続き、めぐみんがゆんゆんに声をかける。それも、煌びやかな笑顔で。

 

「・・・ゆんゆん。私は信じていますよ。我がライバルであり、友人でもあるあなたは、あんな言葉に惑わされたりしないことを」

 

「め、めぐみん・・・」

 

めぐみんから友人と言われたゆんゆんは感動の涙を流している。

 

「私もあなたを信じてる・・・行くわよ」

 

ゆんゆんはカズマの言うことを真に受けず、このままじゃんけんを続行させる。この次もきっと、あいこが来るであろうと信じて。

 

「「あいこでしょ!!」」

 

じゃんけんの結果はゆんゆんがチョキで、めぐみんがグーとなっている。見事にめぐみんに裏切られたゆんゆんは固まり、当のめぐみんはしてやったりと言わんばかりに憎たらしい黒い笑顔を浮かべている。

 

「・・・わああああああああ!!!」

 

めぐみんに裏切られたゆんゆんは涙を浮かべて逆切れをして、めぐみんの服を脱がそうとつかみかかってきた。

 

「な、なんですか!!?負けたからと言って逆切れですか!!?ああ!!ちょっと待ってください!!ポロリと行きます!!」

 

めぐみんはゆんゆんに脱がされまいと必死になって抵抗を続ける。そんな姿にウィズはどうすればいいかおろおろとしだす。その間にも焼きそばパンを食べ終えたカズマは標的を双子に変える。

 

「よーし、ワンちゃんネコちゃん、今からこの骨を投げるからそれを取ってこーい」

 

「「はあ?」」

 

カズマの言うことに双子は何言ってんだこいつみたいな顔をする。

 

「ちなみに・・・これを取ってこれなかった片方は、今よりきわどいのを着させる」

 

「「!!??」」

 

今より恥ずかしいものを着させると告げられた双子は衝撃を受けた。その間にもカズマは骨を投げる体制に入る。

 

「そーら、取ってこーい」

 

カズマが骨を遠くへ投げ、双子はそれを取ろうと一斉に骨に向かってダッシュしていった。

 

「ちょっと!あんた邪魔よ!どきなさいよ!!」

 

「そっちが邪魔してんでしょ!そっちがどいてよ!!」

 

「これでも惨めなのにこれ以上きわどいのとか嫌よ!!」

 

「私だって嫌だよ!!お姉ちゃんが犠牲になってよ!!」

 

「あんたが犠牲になれこのダメネコ妹!!」

 

お互いに今以上に恥ずかしい格好になりたくない双子は不毛な喧嘩をしながら骨を取ろうとする。だが同時に取ったのでここからは骨の奪い合いだ。

 

「何やってんのさ!その手を離してよ!!」

 

「あんたが離しなさいよ!!」

 

「これは私が先に取った骨だよ!!」

 

「何言ってんのよ!あんたは後出しでしょうが!!」

 

「そっちが後出しでしょこの生意気犬!!」

 

骨を巡った喧嘩が双子の間で始まった。あっちで喧嘩、こっちで喧嘩でウィズはもうおろおろするしかなかった。

 

「あ、あの・・・カズマさん・・・これ以上は・・・」

 

「ウィズ・・・仕方ないんだ・・・こうでもしないと・・・チョーカーは外れないから・・・」

 

「・・・そう・・・ですね・・・」

 

「ありがとう、わかってくれて」

 

チョーカーを引き合いに出して今の状況を続けさせた小賢しいカズマとチョーカーがある以上、何もすることができないウィズであった。

 

「カズマ!腕立て100回終わったぞ!」

 

するとそこへ屋敷に1人取り残され、腕立てを終えたダクネスがやってきた。

 

「まさか1人だけ室内に放置されるとは思わなかったが・・・屈辱感と孤独感がなかなか・・・」

 

「次は腹筋100回な」

 

「ひゃ、ひゃい~!」

 

カズマはまたもダクネスに筋トレを命じた。ダクネスは最後まで言わせてもらえず、またも興奮する。もはやこの状況、カズマの思うがままである。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

こんな状況は夕方まで続いた。その頃にはゆんゆんとめぐみんは地面に突っ伏し、双子も殴り合いの末に倒れる。ダクネスは地面に倒れ、息を整える。

 

「う・・・うぅ・・・私、汚された・・・女神なのに汚された・・・うわああああん!!!ひどいよぉ~~!!」

 

一方カズマの遊びに付き合わされ、顔に墨汁で落書きされたアクアは泣きわめく。

 

「えっと・・・まだ、チョーカー外れませんか・・・?」

 

「うん・・・とても残念だが・・・明日も俺の願望を叶え続けるしかないな・・・」

 

明日もカズマのゲスイ願望を叶えなければいけない。そう宣言されたアクアは泣き止み、固まった。そう、カズマの欲望は、まだ、とどまるところを、知らない。

 

 

ーこ・の・す・ば!!ー

 

 

2日目・・・それからカズマは思いつく限りの願いを叶え続けた。例えば、ソファに寝っ転がってウィズの胸を枕として使ったり・・・

 

「なんで私がこんなことを・・・!」

 

アクアが大きな羽団扇を使ってカズマを涼ませてあげたり・・・

 

「今日も・・・筋トレ・・・なのか・・・?」

 

ダクネスの重い鎧を脱がせて、今日も筋トレをする姿を拝んだり・・・

 

「うぅ・・・恥ずかしい・・・///」

 

「この服の選択に悪意を感じます・・・」

 

ゆんゆんをバニーガールの制服に着替えさせたり、めぐみんにブルマの体操服に着替えさせたり・・・

 

「今日も・・・なんなのよ、このふざけた服は・・・!」

 

「うぅ・・・2人はプリ○○アって何なのさ・・・!」

 

女児童が好むアニメのコスプレを双子に着させてそのポーズをさせたりと、もうやりたい放題である。

 

 

ーいいねぇ!!はい次!!ー

 

 

3日目・・・今日のカズマの願いは混浴・・・つまり他のメンバーと一緒にカズマはお風呂に入るのだ。しかも、カズマはめぐみん、ゆんゆん、ウィズ、双子に体を洗ってもらって、いい御身分である。

 

「・・・私は、自分の身体を洗っているだけでいいのか・・・?」

 

「そうだ。それでいい。そしてそれを見ている俺!!」

 

ダクネスに出された指令はただ自分の身体を洗うだけ、カズマはそれをじっくり見つめるのだ。

 

「今日も女神たる私を汚すつもりね!!いったい何をさせるつもり・・・?」

 

アクアの場合だとただの自意識過剰なのだが、カズマは気にすることなくアクアに指示を出す。

 

「お前は天然温泉掘り当てろ。できるだろう?」

 

「は?なんでよ?」

 

思っていた指示と全然違っていたアクアは思わずきょとんとする。

 

「お前水の女神だろ?おっと悪い、宴会芸の神だったか」

 

「!!やってやるわよ!!女神の実力、見せてやるわ!!」

 

宴会芸の神様と言われて、意地になったアクアは天然温泉を出そうとその気配を感じ取ろうとする。

 

「カズマ、どこかかゆいところはない?」

 

「ふむ・・・しいて言えば前の方かな」

 

「「「「!!??」」」」

 

前がかゆいと言い出して、ティアを含めた女性陣は顔を赤くさせる。

 

バキィッ!!

 

「ぶはっ!!?」

 

調子に乗りすぎているカズマはもう我慢の限界と言わんばかりにアカメがカズマを思いっきりぶん殴った。ぶん殴られたカズマは倒れ伏し、ぴくぴくさせる。

 

「調子に乗るな・・・!!」

 

「お、お姉ちゃん何やってんの!!?みんな、お姉ちゃんを抑えて抑えて!!」

 

そのまま追撃で殴ろうとするアカメにティアを含めた女性陣全員が止めに入る。

 

「お、落ち着いてくださいアカメさん!!そんなことしたらカズマさんのチョーカーが・・・」

 

「関っ係ないわよ・・・!」

 

「あ、アカメさん!気持ちはわかりますが落ち着いて!」

 

「アカメ!ここは冷静に、冷静になりましょう!!」

 

みんながアカメを止めているおかげで、進行は思いとどまっている。

 

「!!来たぁ!!!」

 

ブシャーーーーー!!!!

 

「ぎゃああああああああああああ!!??」

 

そこへ、アクアが天然温泉の気配を感じ取り、女神の力でその温水を噴射させる。ただその温水は倒れ伏しているカズマに直撃する。当たりどころがかなり悪いのでカズマは苦しい悲鳴を上げている。ただその後のカズマの顔はまるで乙女のような顔でとても気持ち悪かった。

 

 

ーこ・の・す・ばぁ♡ー

 

 

風呂上り・・・一同は一度大広間へと移動し、カズマのチョーカーの様子を確認する。首についているチョーカーは一向に外れる気配が全くない。

 

「・・・なぜ、取れないんだろう・・・?思いつく願いは、叶えてるはずなのに・・・」

 

「カズマの思いつく願いって、あんなのばっかりですか・・・」

 

「うんうん・・・」

 

カズマの思いつく願いにめぐみんはカズマをどうしようもなく思い、ゆんゆんもそれに同意する。

 

「・・・ウィズ、シュワシュワを飲ませてくれ」

 

「は、はい!」

 

「口移しで」

 

「ええ!!?」

 

「あああああああああああもう!!明日で4日目よ!!?カズマのクズい願望を叶えててもダメなんじゃないの!!?」

 

「なんだとこの駄女神!!!」

 

こんな時でもゲスイ願望を叶えようとするカズマにアクアが正論を言い放った。これによってカズマとアクアは互いに言い争いになる。

 

「もういっそのこと首ちょんぱすればいいんじゃないかしら?経験済みだしいけるでしょ」

 

「それ死んじゃうじゃないですか!!そんなことしなくてもチョーカーだけをどうにかすればいいんじゃあ・・・」

 

アカメが物騒なことを言い出し、ゆんゆんが必死になってそれを止める。

 

「カズマカズマ!!じわじわと首を絞められていくってどんな気分だ!!?最高かカズマ!!?じっくりとコトコトと縛っていくのは最高か!!?」

 

「や、やめろおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

ダクネスはただ単純に聞いているだけだと思うが、内容が内容だけに物騒すぎる故にカズマは想像し、頭を抱えてしまう。

 

「ねぇカズマ!!他になんか願いはないの!!?あんなゲスイ願望とかじゃなくて、心の奥底から願いたいことはないの!!?」

 

ティアはカズマが真に願っていることを聞き出そうとした時、カズマはぴたりと止まって動かなくなる。

 

「・・・・・・思いつかない」

 

どうやらゲスイ願い以外は何も思い浮かばないらしく、もうほとんどお手上げ状態になってしまっている。

 

「思いつかないじゃないですよ!カズマに死なれては、私も困ります!」

 

カズマが死なれては困るのはこの場にいる全員が同じ考えだ。だがそれでも、カズマの願いがわからない以上、夜も遅いので今日は終わり、最終日の明日にチョーカーを外すしか選択肢がなかった。

 

 

ーこのすばー

 

 

どうすることもできず、今日はもう解散する形となった。解散した後、双子は屋敷の屋根の上に上り、何をするわけでもなく、ただぼんやりと、きれいな星空を見上げていた。

 

「・・・明日・・・カズマ、死んじゃわないよね・・・?」

 

「そういうことは、思ってても口にするべきじゃないわよ」

 

「それはわかってるけど・・・」

 

カズマに残された猶予は明日しかない。そう考えると、双子の気持ちをどんよりと沈んでいく。

 

「・・・明日、絶対何とかしてチョーカーを外そうよ」

 

「はぁ・・・あいつ自身の願いが何なのかわかんないのに?」

 

「それでもやるの!!」

 

お手上げ状態の中でも、ティアは最後の時まで諦めず、何とかカズマのチョーカーを外そうと意気込んでいる。そんな妹にアカメは肩をすくめるアカメ。

 

「・・・ま、仲間を見捨ててはならない。それがうちらの掟だしね。どちらにせよやるしかないわ」

 

「うん。それに・・・私たちが今日まで頑張ってこられたのは、カズマのおかげだから・・・」

 

双子はアヌビスでの出来事を振り返る。普段から喧嘩ばかりするおかげで仕事は失敗ばかり。喧嘩に巻き込まれることもあって他の盗賊団の仲間は誰も双子とパーティを組みたがらなかった。たまたま組んだ相手だってネクサスの口添えがあったからこそ組めただけで真のパーティとは言えなかった。転勤を言い渡され、アクセルにたどり着いても同様だった。自分たちで初めて組んだパーティで自分たちの本性を知られてから、パーティは解散し、誰も進んでパーティを組んでくれなかった。困っていた時に見つけたのが、アクアたちが出したパーティ募集の張り紙だ。あれがあったからこそ、双子はカズマと出会えて、今日までカズマのパーティとして仕事を取り組むことができたのだ。感謝してもしきれないほどに、双子にはカズマに多大な恩があるのだ。

 

「とにかく!大きな恩がある以上、それを返さないのは失礼だよ!」

 

「何それ?恩返しってわけ?」

 

「嫌そうなこと言って、本当はお姉ちゃんだって同じ気持ちなんじゃないの?」

 

「はぁ・・・本当、なんでこういう時だけ、あんたと思考が同じになっちゃうのかしらね」

 

「当たり前じゃん。だって私たちは、双子なんだから」

 

「あ?」

 

「は?」

 

同じ思考になるのは当たり前と言われた時、アカメはティアを睨みつけ、ティアもアカメを睨みで返す。睨みあうこと数秒で、双子はお互いににっと口元に笑みを浮かべる。

 

「・・・ま、とにもかくにも、明日は尽力を尽くしましょう」

 

「もちろん!カズマには、もっと生きていてもらいたいし!」

 

必ずカズマのチョーカーを外すという気持ちを固め、双子は屋根から降りて自分たちの部屋へと戻り、睡眠に入るのであった。

 

 

ーこ・の・す・ば!!ー

 

 

最終日・・・今日こそはチョーカーを外そうと意気込むメンバーたちは大広間に集まった。そこで女性陣が目にしたのは、カズマの誠心誠意の土下座であった。その姿には当然女性陣はきょとんとしている。

 

「ありがとうみんな。俺、幸せだったよ」

 

「「「「「「「・・・はあ?」」」」」」」

 

カズマの口ぶりからして、まるで死を悟っているかのような言い草であった。それには当然女性陣は口をあんぐりとしている。

 

「・・・昨日みたいにひどい命令は・・・」

 

「もういいんだ・・・今まで付き合ってくれてありがとう。本当に、ありがとう」

 

「どうしたのよ急に・・・らしくないわね・・・」

 

「そ、そうだよ。まるで、死を受け入れてるみたいじゃんか」

 

「わ、私は筋トレして体を洗っただけだぞ!もっとえぐい命令・・・を・・・?」

 

先日みたいに欲望のままに命令してもいいと言っているのだが、当のカズマはそれらを思い返して、まるで虚無そのもののような顔つきになっている。

 

「・・・恥の多い人生を歩んできました。欲望のままふるまっても、ただ虚しさが残るだけ・・・」

 

「クズは欲望が抜けると死ぬんですか・・・⁉」

 

今までに見たことのないカズマの姿にめぐみんたちは戸惑いを隠せないでいた。その間にカズマは愛用していたジャージを女性陣に渡す。

 

「俺が死んだら、このジャージをもらってくれ。俺がこの世界にいたせめてもの証に」

 

「ま、待ちなさいよ・・・」

 

「アクア・・・お前が買ってきた焼きそばパンとシュワシュワ・・・おいしゅうございました」

 

カズマはアクアににこやかな笑みを浮かべて、手を合わせてそう言い放った。

 

「「「「カズマ・・・」」」」

 

「「カズマさん・・・」」

 

女性陣全員は死を悟っているカズマに近づき、カズマのために涙を流している。

 

「死なないで、カズマ・・・私と一緒に、魔王を討伐するんでしょ?・・・確か・・・」

 

「私たちは、まだあんたと一緒に冒険したいのよ・・・簡単に諦めるんじゃないわよ・・・」

 

「カズマを・・・死なせたくない・・・。何でもいいから・・・もっと、命令してよ・・・」

 

自分のために涙を流してくれているメンバーたちを見て、カズマは少なからず、"癒し"を得ていた。仲間たちの気遣いに、カズマは涙を流している。

 

(ああ・・・これが・・・癒されるってことか・・・)

 

心が癒されてきたカズマは晴れ晴れとした顔ですっと立ち上がる。

 

「・・・そっか・・・だったら最後に・・・謝りたいことがあるんだ」

 

どのみち命が尽きると悟っているカズマはみんなに思っていることを懺悔し始める。

 

「めぐみん・・・爆裂魔法を撃った後、お前をおぶって帰ってた時、平らな胸の感触を少しでも感じられるように、わざと揺らしたり、体制を変えたりしてたんだ」

 

「!!??」

 

「ごめんな・・・」

 

非常に欲望全開の懺悔にめぐみんは信じられないといった顔になる。カズマの懺悔はまだまだ続く。

 

「ゆんゆん、ウィズ・・・実はお前たちと話す時、俺の視線はいつも胸のところに固定されてたんだ。ウィズは豊かだし、ゆんゆんは胸元エロイし・・・そんな体をしているお前たちが悪いんだって思ってたんだ」

 

「「えぇ!!?///」

 

「ごめんな・・・」

 

カズマが自分たちをまさかそんな目で見ていたなんて思わなかったウィズとゆんゆんは胸元を隠しながら顔を赤らめている。まだカズマの懺悔は続く。

 

「アカメ、ティア・・・お前たちは胸以外は同じだって思ってたけど、実はアカメはお尻が僅かにティアに勝ってるんだって気づいて、俺はお前たちの胸とお尻の成長を、嘗め回すように見守っていたんだ」

 

「「!!!??」」

 

「ごめんな・・・」

 

カズマがスリーサイズを見守るようなことをしていたと告白され、アカメはお尻を抑え、ティアは胸を隠して嫌悪感丸出しの顔になる。カズマの懺悔は終わらない。

 

「ダクネス・・・屋敷で一緒に暮らし始めてからお前には、おっぱいしか求めていない。お前は・・・おっぱいだ、おっぱい」

 

「・・・っ!!」

 

「ごめんな・・・」

 

ダクネスは自分にはどんな言葉が来るんだろうと期待をしていたが、カズマの求めるものに、逆に鳥肌が立ちそうになる。

 

「まさか!女神である私まで汚すようなことを・・・」

 

最後になったアクアはまさか自分にも何かしら事をやったのではと危惧している。そして、カズマは懺悔する。

 

「アクア・・・馬小屋で寝泊まりしていた時・・・何とかお前をヒロインとしてみようと思ったけど無理だったわ・・・」

 

実際の懺悔はアクアが思っているようなことではなく、逆にアクアがヒロイン失格の烙印を押してしまったことであった。今までアクアに変な要求をしてこなかったのは、それが理由だったようだ。

 

「ごめんな・・・」

 

「あっきらめないでよカズマさん!!諦めないでよぉ!!お願い、お願いだからもうちょっと頑張ってよカズマさぁん!!」

 

ヒロイン失格の烙印を押されたアクアは涙を流しながらカズマに訴えかけている。

 

(これで思い残すことはない・・・本当に、ありがとう・・・)

 

懺悔することを全て懺悔したカズマは心の奥底から仲間たちに感謝していると・・・

 

パサッ・・・

 

なんと、あれほど外れなかったはずのチョーカーがカズマの首から外れたではないか。

 

「・・・あれ?なんで?」

 

どうして今になって外れたのかわからないカズマは記憶を探って一から思い返してみる。そこで、1つだけ、思い当たる節があった。それは、カズマがチョーカーを着けたあの日、めぐみんたちがハチャメチャをしていた時を見て、言い放った一言・・・。

 

『たまには癒しが欲しい』

 

そう・・・カズマの真の願いとは、疲れ切った心を真に癒すことだったのだ。つまり、死を悟っていたカズマを思う女性陣の気持ちによって、カズマは真に癒されたのだ。

 

「俺の願いは・・・癒されることだったのか・・・」

 

チョーカーが外れたのを見た女性陣たちは先ほどのカズマの懺悔で怒りがあるため、さっきとは打って変わってカズマをゴミを見るような目で見つめている。目のハイライトも全員から消えていた。

 

(おっと皆さん・・・ごみを見る目ですね・・・)

 

何も言わなくても女性の怒りを感じ取ったカズマは冷や汗をかき始める。

 

「・・・ねぇクズのクソゲス野郎・・・もう1度このチョーカーを着けてみなさいな♪」

 

「大丈夫だよ・・・優しいみんながきっと助けてくれるから・・・ね♪」

 

「は、はは・・・ははは・・・」

 

アカメはチョーカーを拾い上げ、カズマにもう1度チョーカーを着けようと迫ってきている。この場に逃げ場がないのはわかっているカズマは・・・ただ苦い笑いを上げることしかできなかった。

 

 

ーそしてその後・・・ー

 

 

女性陣からチョーカーを着けられ、許しを請うという願いを叶えられなかったカズマは今、死後の世界の神殿におり、目の前には女神エリスとマサヒロがカズマを見つめていた。

 

「・・・あの・・・1つ言ってもいいですか?」

 

「・・・どうぞ・・・」

 

「・・・こんなくだらないことで死なないでください・・・」

 

「だから言っただろ?変な欲望を抱くと、早死にするって」

 

(・・・ぐぅの音も出ない!!)

 

その後カズマは何とか許しを得てアクアからリザレクションをかけてもらい、蘇生することに成功した。カズマたちの、バカでくだらない冒険は、まだまだ続きそうだ。




おまけ

ティア「・・・ところで私たちが着たあの服って何なの?」

カズマ「あれは俺の故郷でやってた女児が好むアニメで主人公2人が変身した時の服装がそれなんだよ」

ダクネス「アニメ・・・?」

めぐみん「変身してあんな格好になるんですか・・・」

アカメ「はっ、あんな格好をして、主人公もかわいそうね」

アクア「そうかしら?私はかわいいし、かっこいいと思うわ。あ、あの時の2人はなかなか様になってたわよ!2人は○○キュアってね」

双子「あああああああああああああああ!!!///」

当時のことを思い出し、顔を真っ赤になり、手で顔を覆いながら地面を転げまわるのであった。


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プロローグ
この微笑ましい双子に幸運を!


どうも始めまして。

最近このすばに再びハマりだして書いてみたくなったので書いてみました。

この作品はこのすばシナリオにオリジナルキャラを入れてみた感じになっています。面白くできているか、特有のキャラクターの残念さが出ているかどうかものすごく不安ですが、こっちでも頑張りたいと思います。

最初はこれを入れて2話くらい原作前を描いて、その後に本編を書こうと思います。

後後書きにたーまに次回予告的なものを書いたりするので、そっちもよければ読んでみてください。


砂漠都市アヌビス・・・そこは灼熱の街と呼ばれており、そこに住む人々は砂漠の地獄のような暑さをもろともせず、砂漠にしか手に入らない珍しい品物を他の街に輸出したり、街に訪れた観光客に売ったりして、街に繁栄をもたらしている。しかしながら、その中には、あくどいやり方でお金を貪ろうとする行商人や貴族たちも少なからずいる。そのため、街の経済も中々安定しないのも事実である。

 

そんなアヌビスの街の夜中、あくどい貴族の屋敷に忍び寄る影あり。その影の数、およそ2人。

 

1人は身軽そうな左右非対称の赤色の装束を着込み、短い赤い髪を持った少女。

 

もう1人はその少女と全く同じ顔で、左右非対称の青色の装束で短い青い髪を持った少女。

 

この2人の少女は隠れるような形で屋敷の外壁に張り付きながら、屋敷の門まで近づいていく。青い少女はスキル、『施錠』を使って扉の鍵を開けて屋敷に侵入する。侵入した2人はスキル、『潜伏』を利用して、誰にも見つからずに屋敷の奥へと進んでいく。奥へ進んでいくと、屋敷の主らしき人物が呑気にすやすやと眠っている。その横には厳重そうにされている宝箱がある。

 

そして青い少女が施錠を使って宝箱を開ける。宝箱には大量のお金が入っていた。それを見て赤い少女は袋の中にお金を全て入れる。お金を袋に詰め終えた2人はそれを持って部屋の窓を開ける。

 

「ん・・・んん・・・?」

 

寝ていた屋敷の主がようやく目が覚まし、いち早く空になった宝箱と、屋敷から出ようとする2人の姿を視認した。

 

「んなぁ!!?ど、泥棒!!」

 

主の驚きとは対照的に2人はいたって冷静だ。

 

「あら?私たちが泥棒なら、あなたはなんなのかしら?」

 

「汚いやり方でお金をむしり取ったり、悪徳商人と結託して相手を地のどん底まで陥れる・・・そんな相手に、泥棒なんて言われる筋合いはないよ!」

 

「そういうこと。だいたいあんたみたいな【ピーーッ】で【ズギャギャン!】なドクズなスケベおやじに更正の機会を与えてやってるのよ。むしろ、命を取らないでやってるだけありがたいと思いなさい」

 

「これに懲りたら、あくどいやり方はやめて、地道に働いて、お金を稼いでね」

 

「キーーッ!!誰がスケベおやじじゃ!!泥棒のお前らに言われたくはないわい!!」

 

主は文句を言い続けるが2人はどこ吹く風だ。

 

「覚えておきなさい。悪行を働く場所に、私たちは現れるわ」

 

「私たちはウェーブ盗賊団!不届き者に、更正の機会を与える、善良なる盗賊集団だよ!」

 

2人はそれだけを言い残してこの屋敷の外へと出ていった。屋敷から主の声がキーキーと響いている。2人が出ていくと同時に、屋敷に潜入していた他の盗賊団があくどいやり方で手に入れたお金を全て持って屋敷から逃走していく。

 

「後は、このスケベおやじに騙された連中に金を返せば、今回の任務は完了ね」

 

「これでまともな人に生まれ変わってるといいね」

 

「それはあくまであのスケベおやじ次第よ」

 

「そうだね。さあ、早く終わらせて帰ろうよ。夜の砂漠は冷えるからね」

 

盗賊団は屋敷の主に騙された人たちの家に赴き、盗んできたお金を、取られた金額分置いていった。彼女たちは、ウェーブ盗賊団。不正で得たを全お金て奪い取り、その者に一からの更生を促す者たち。そして、人々に、安寧をもたらす者たちである。

 

 

ーこのすば!-

 

 

常夏の神殿の遠く離れ、砂場にウェーブ盗賊団のアジトが埋もれている。このウェーブ盗賊団のアジトは裏は悪徳者から騙し取られた者の盗みを行ってはいるが、表では冒険者ギルドとしても活動も行っている。そんな盗賊団のアジトで、屋敷の主の一件の一仕事を終えたメンバーたちは皆、晩酌でワイワイと騒いでいる。

 

「・・・金が、欲しいわね・・・」

 

そんな中で、赤い髪の少女、アカメがキンキンに冷えたシュワシュワを飲みながらそんなことを呟く。

 

「また言ってるよ・・・さっきもらったばっかでしょ?」

 

アカメの愚痴に青い髪の少女、ティアはやれやれと呆れて同じくキンキンに冷えたシュワシュワを飲む。

 

「あんなちんけな金じゃいくらあっても足りないわよ。あんたならそこのところ、妹ならわかるでしょ?」

 

「仕方ないじゃん。あんなに人がいたら、支払われる報酬だって限られるんだから」

 

会話、そして髪色と胸以外は見た目が全て同じであることからわかるように、アカメとティアは双子の姉妹なのだ。姉がアカメで妹がティアといった感じだ。

 

「全く・・・これだから毒舌欲張りお姉ちゃんは・・・」

 

「は?聞き捨てならないわね、この腹黒ドクズ妹が」

 

「お?」

 

お互いの発した言葉にアカメとティアは互いに火花をバチバチと散らしている。この2人は双子だからといって別段仲がいいわけではない。というよりむしろ・・・

 

「前にクエストに出てた時なんて、互いに協力しようって言ったくせにいざ危険が迫ったら真っ先に逃げたくせに。これを腹黒ドクズと言わず何なのよ」

 

「そういうお姉ちゃんだって、その毒舌でいろんな人に喧嘩を吹っ掛けてたりして、私に迷惑をかけてるでしょ?身に覚えがないのに・・・」

 

「私の名前で勝手にわけわからない会員のメンバー登録をするような奴にいい薬でしょ?」

 

「私の名前を使ったせいで私が変な人に追われてるの、知らないとは言わせないよ?」

 

「あ?」

 

「は?」

 

このように仲が悪く、いつも口喧嘩が絶えない。しかもそのほとんどが双子を利用した責任転換によるものである。もちろん、個々の能力面でもそうだが。そういうこともあって盗賊団のメンバーたちはこの双子のことを・・・

 

「おー、またやってるな、あの問題児姉妹」

 

「今日はどっちに賭ける?」

 

「アカメに1票賭けるぜ」

 

「いや、今日はティアが勝ちだと思う。ティアに1票!」

 

「いやいや、今回は誰かに止められる!俺の勘がそう告げてる!」

 

問題児と評して、この喧嘩を利用した賭けを催している。もはや娯楽として扱っている分あたり、これがいつも通りの光景である。

 

「お、いたいた。おい、そこの問題児姉妹」

 

「「あ?」」

 

喧嘩している最中に盗賊団の頭の男、ネクサスの発言に双子は頭に向かって睨みをきかせる。その様子に一部の人間は第3者が止めたことに歓声を上げた者がいる。

 

「ちょいと話したいことがあるんだけど・・・ちょっと来てくれ。というかさっさと来い。拒否権はない」

 

「・・・仕方ないわね。ティア、一時中断よ」

 

「・・・仕方ないなぁ。お頭の話だもんね」

 

頭であるネクサスの話ということもあって、断るわけにも・・・というかどうやら選択肢がないらしいので仕方なくネクサスについていく双子。

 

「それでお頭、私たちに何か用なの?」

 

「用があるなら今のうちにキリキリ吐きなさい」

 

「妹はともかく、何で姉はそう上から目線なんだよ。別にいいが・・・」

 

ネクサスはこほんと咳払いをして、気を取り直して双子に視線を向け・・・

 

「お前らは明日、このアジトから出ていってもらうから」

 

と、そう言ってのけた。

 

「「・・・はあああああああああ!!?」」

 

その知らせに双子は目を見開かせて驚愕する。

 

「今のうちに荷物・・・」

 

「ちょ・・・ちょっと待って!お姉ちゃんはともかく、何で私がここから出なくちゃいけないの⁉️」

 

「そうよ!ティアはともかく、私が出ていかないといけないってどういうことよ!納得できないわ!」

 

「は?」

 

「あ?」

 

「おう、お前らやめろ。話は最後まで聞け」

 

話に納得のいっていない双子はネクサスに突っかかってきたが互いの発言でその矛先が双子に変わる。その様子を止めるネクサス。

 

「すまん、言葉が足りなかったな。正しく言えば転勤だ」

 

「「転勤?」」

 

転勤・・・つまりはこの砂漠地帯の本部から別の街にある支部に配属されるということだ。このウェーブ盗賊団は砂漠の他にも様々な場所に別の拠点が多数存在している。

 

「転勤先は始まりの街、アクセル。お前らはそこのアクセル支部で活動を開始してもらうぜ。住む場所は俺の知り合いの伝手があってな。住む場所が決まるまでそこに居候させてもらうことになってる。まぁ、そこに行ってもやることは変わらねぇ。本業をやるなり冒険者ギルドに行って仕事をするなり、好きにしてくれ」

 

「「ちょっと待った」」

 

話を続けるネクサスに双子はまだ納得がいっていないのか口を挟んできた。

 

「・・・なんだよ。まだ何か納得いかない点が?」

 

「転勤は別にいいわ。でも、アクセルって始まりの街でしょ?ティアはともかく、なんでベテランの私がそんな初心者の街に行かなくちゃいけないわけ?」

 

「そうだよ!お姉ちゃんはまだわかるよ?でもなんでステータスが高い私がそんな所に行かないといけないの?」

 

「黙れなさいこの攻撃無能の妹シーフ。誰のおかげでレベルがあげれてると思ってるのよ?」

 

「うるさいよこの盗賊技能皆無の姉シーフ。短剣スキルだけをあげちゃってさ。おかしくない?」

 

「やっかましいわ!!!!俺から言わせればどっちもどっちじゃい!!!!」

 

また口喧嘩を始めた双子の姉妹をいい加減煩わしく感じたネクサスは怒声を上げる。

 

「まずアカメ!!お前は確かに戦闘面で言えば非常に優秀だ!だが盗賊行為は皆無と言っていいほどにダメすぎる!前の仕事で無策に敵モンスターに突っ込みやがって!お前は戦闘マシンかなんかか!!?」

 

「攻撃こそがシーフに必要・・・」

 

「それは聞き飽きたわ!!次にティア!!お前の盗賊技能は仕事の方面でも、ダンジョン探索にも非常に向いている!だがお前の戦闘能力はハッキリ言ってゴミ以下だ!!役に立つと言えば精々バインドで敵の動きを止めるだけ!バカにしてんのか!!?」

 

「だって、探索こそがシーフにとって1番・・・」

 

「1番の問題は・・・お前らの実力は双子の息がぴったり合ってないと全く発揮しない。そうなったらお前らは無能、いわばお荷物に近い状態になるということだぁ!!本当・・・なんだこれ⁉ただでさえ個人で仕事は無理なのに喧嘩で息が合わないお前らがベテランだと⁉お前らを1つにまとめる俺らの苦労をなんだと思ってやがる!!謝れよ!お前らのおかげで苦労してる全員に謝れ!!」

 

「「ご、ごめん・・・」」

 

今までの苦労が爆発するかのようにネクサスは顔を真っ赤にしながら声を張り上げている。その勢いに双子は思わず謝罪の言葉を口にする。

 

「はぁ・・・なぁ問題児姉妹よ。お前らは確かにステータス面で言えば非常に優秀だ。なのにいつも無駄な空回り。いつも俺たちを見守って下さる女神エリス様がかわいそうと思わんのか?」

 

「「私たち、エリス教徒じゃないし」」

 

「いやまぁそうなんだが・・・せめて気持ち・・・」

 

「「当然、アクシズ教徒でもない」」

 

「やめろ・・・おぞましい名を口にするんじゃない。てかお前らはなんでそういう時だけ息ぴったりなんだよ」

 

双子が口にしたエリス教徒とは幸運を司る女神、エリスを御神体にした宗教であり、人々からの信仰が非常に高い。その証拠にこの世界のお金の単位はエリスと名がつくほどだ。

 

一方のアクシズ教徒とは水を司る女神アクアを御神体にした宗教なのだが、エリス教徒と比べればその信仰は少ない。その理由はアクシズ教徒は変人ばかりが集まる噂されており、現にアクシズ教徒の奇行に人々は頭を抱えているからだ。ちなみにネクサスはエリス教徒であるが、双子はそのどちらも入信していない。

 

「まぁなんにせよ、今のお前らに必要なのは戦闘能力でも盗賊技能でもない。環境の対応能力だ。初心者の街で初心に戻って自分を見つめ直すんだな」

 

「はーい・・・わかりましたよー・・・」

 

「お頭もついていってもいいのよ」

 

「俺は子分を甘やかさない、そういう男だ」

 

ネクサスはそう言いながら双子に手を振ってその場を去っていく。取り残された双子は何とも言えない感情を意味もなくお互いにぶつけるように睨みつけてる。そうしてると話を聞いてた先輩盗賊団員(冒険者)たちが声をかけてきた。

 

「気にすんなよ。ボスはああ見えてもお前らを気にかけてんだよ」

 

「そうそう、可愛い子には旅をさせよっていうでしょ?」

 

「そうかなー?」

 

「そうは思わないけど」

 

先輩盗賊団の言葉にあまり賛同していない双子。

 

「それに、むしろよかったんじゃない?」

 

「「何が?」」

 

「だってお前ら、この砂漠地帯から出たこと、1度もないだろ?」

 

その言葉に双子は少し目を見開かせる。それもそのはず、先輩盗賊団の言うとおり、双子は仕事は砂漠地帯しか受けておらず、この砂漠から出たことは1度もない。ゆえに双子は砂漠の外の世界のことは本で知っていても、その目で見たことはないのだから。

 

「外の世界はいいぞ~?砂漠にはない珍しいもんはいっぱいあるし、飯もうまい、夢もロマンも、外の世界には腐るほどあって素晴らしいぜ」

 

「それに、団長はあなたたちに外の世界を知ってもらいたいから、あなたたちでもやっていける、アクセルの街を転属先に選んだんじゃない?」

 

双子は少し考えた。なんだかんだ言いながらも双子は何度もネクサスにはお世話になりっぱなしだった。それに自分たちが盗賊団員としてやっていけてるのも、自分たちが生きていられてる(・・・・・・・・・・・・・)のも、全てネクサスのおかげだ。それに外の世界はずっと見てはみたいとは思った。初心者の街とはいえ、外の世界を知るには絶好の機会だと考えた。ネクサスの厚意と、知的好奇心によって、このチャンスは逃すまいと思った。

 

「うん・・・そうだよね。お頭は私たちのことを気にかけてくれてたもんね。ここで断ったら、それこそお頭に申し訳ないもんね!」

 

「ティア?」

 

「よーし、そうと決まったらさっそく準備しなくちゃ!それじゃお姉ちゃん、先に部屋に戻って準備してるね!じゃあねー」

 

「ティア⁉」

 

ティアはルンルンしながら自分たちの部屋へと戻っていく。アカメは急に様変わりしたティアを見て唖然としている。

 

「で?アカメはどうするの?どっちかが1人残っても仕事には全く役に立たないと思うけど?」

 

「べ、別に行かないとは言ってないわよ。・・・まぁ、外の世界には興味あるし・・・いい機会だとは・・・思ってるわ・・・」

 

一応はティアと同じ考えなのか、アカメはほんの少し頬を赤らめて髪をくりくりといじっている。

 

「お、出たな、ツンデレめ」

 

「それ以上口にするとあんたの【ピーッ】を【ドオオオオオオオン】するわよ。それも、ぐちゃぐちゃにね」

 

「やめて!!俺の心が壊れちゃう!!」

 

「ふん・・・。まぁ、そのアクセルとやらでそれなりに楽しんでこようかしらね。私も部屋に戻って準備してくるわ」

 

アカメは鼻を鳴らしながら自分の部屋へと戻っていく。その様子に先輩盗賊団はくすりと笑いを浮かべている。

 

「本当に、アカメは素直じゃないんだから」

 

「全くだ。ま、頑張れよ、でこぼこ姉妹」

 

 

ーこのすば!ー

 

 

部屋に戻った双子は明日アクセルの街へと行くための準備を進めている。ティアは外の世界を見るのが楽しみなのか荷物を多めに入れ、アカメは必要最低限のものを入れている。

 

「・・・相変わらず単純ね、あんたは。遊びに行くわけじゃないのよ」

 

「わかってるよ!でも、砂漠には見たことがないものがいっぱい見れるかもしれないよ?ワクワクしない方が無理だよ」

 

「まぁ、それはわかるけど」

 

「それに・・・外の世界を回ったらもしかしたら・・・お母さんに会えるかもしれないよ!」

 

「・・・・・・・・・そうね」

 

ティアは世界のどこかにいるかもしれない母の存在に会えるかもという期待を抱いているが、アカメはそうでもない。むしろ会いたいとは全く真逆。アカメはその母親に捨てられたとずっと思いこんでる。そのため母親の存在を酷く憎んでおり、会いたいとは全く思わない。今現在のアカメの性格はその反動によるものなのかもしれない。

 

「・・・まぁ、どっちにしろ、明日朝すぐに出るから、さっさと寝なさいよ。私はもう寝るわ」

 

「うん。もう少し準備したら寝るよ」

 

「そう」

 

ティアはまだ荷物を整理し、アカメはすぐに眠ろうとベッドに潜り込む。

 

「・・・ティア」

 

「なにー?」

 

「この先何があるかは知らないけど・・・あんたは、何があっても、私が守ってあげるわ」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

毎回喧嘩しているとしても、なんだかんだ言ってたった1人の家族。アカメは姉としての使命感をティアに伝えた。

 

「・・・急に何言ってるの?ハッキリ言って気持ち悪いよ?」

 

「うるさいわね。私だって気持ち悪いって思ってるわよ。もう寝る」

 

せっかくの思いを無下にするようなティアの発言にアカメは寝返る。

 

「お姉ちゃん」

 

「何?」

 

「私だって守られてばかりじゃないよ?私だってお姉ちゃんを守ってあげるからね」

 

「・・・・・・」

 

ティアもアカメと同じ考えなのか妹としてそう伝えた。

 

「・・・戦闘力ゴミカスのあんたが何言ってんのよ。寝言は寝ていいなさい」

 

「ひどっ!まぁ・・・事実だけど・・・もう!いいよ!さっさと寝ちゃえ!」

 

アカメのあんまりな言い方にティアは怒ってそっぽを向く。

 

「・・・ティア」

 

「・・・何?」

 

「・・・ありがと。おやすみ」

 

「・・・うん。おやすみ」

 

アカメは伝えたいことを伝えてそのまま眠りだす。ティアも早く準備を済ませてからベッドに入り、そのまま就寝する。

 

 

ーこのすば~-

 

 

翌日の朝一、盗賊団アジトの門の前、双子はモンスターの一種、走り鷹鳶の馬車に乗り込み、盗賊団員からの見送りを受けていた。

 

「これ、私の作ったお守りだよ。2人分あるから使って」

 

「俺は爆発ポーションをやるよ。いざって時に使ってくれ」

 

「俺はジャイアント・サンドワームを使ったミミズカツを作ったぜ。食べてくれよな」

 

「僕の家宝の鉛筆をあげるよ」

 

「俺は究極の笑いネタ帳」

 

「私は・・・」

 

「ありがとうね!」

 

「大事に使うわ」

 

双子は見送りの品を団員全員から受け取っている。双子のパーティには入りたがらないが、それ以外では結構愛されているようだ。そしてもらった品物を双子は途中でほとんどのものを捨てるとは誰も想像はしなかった。

 

「最後に俺からはお前らに先代団長のマフラーをくれてやるよ」

 

「わあ・・・ありがとう!」

 

「へぇ・・・結構いいじゃない」

 

「気にすんな。数だけは腐るほどあるからな」

 

ネクサスは先代の団長のマフラー(数は結構ある)を双子に渡した。双子にはかなり好印象のようだ。

 

「外の世界はどんな光景が広がるんだろう?楽しみ!」

 

「まだ言ってるの?気持ちはわかるけど、もっと緊張感を持ちなさい」

 

「その通りだ」

 

未だに浮かれてるティアにアカメが指摘すると、ネクサスはそれに同意した。

 

「世間では俺たちを正義の盗賊団と謳っているが、政府ではそうはいかない。一応被害者たちが自由に暮らせるために悪人から盗みをやってるが俺たちのやってることは所詮偽善だ。ここにいる全員、捕まって裁きを受けてもおかしくない。お前らも盗賊団でやっていきたいなら・・・」

 

「盗賊団であることをしゃべるな、でしょ?わかってるよ。私だってウェーブ盗賊団の一員なんだから!」

 

「ま、私も盗賊団ならではの誇りはきちんと守るつもりよ」

 

「・・・わかってるならいいさ」

 

双子・・・特にアカメの性格を考えると変な不安は覚えるが、一応は・・・というより無理やり納得するネクサス。

 

「・・・スティーヴ、後は任せたぞ。無事にこいつらをアクセルまで送って行けよ」

 

「へへ、任せてくだせぇリーダー。仕事はきっちりこなしてみせますぜ!・・・こいつらといると不安っすけど」

 

「本音出てるぞ、お前」

 

ネクサスはコホンと咳ばらいをし、双子に視線を向ける。

 

「頑張って来いよ、お前ら。お前たちに、女神エリス様のご加護があらんことをってな」

 

『あらんことを!』

 

盗賊団員たちに見送られながら、団員スティーヴは双子を乗せた走り鷹鳶の馬車を走らせ、アクセルへ向かって砂漠を走るのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

馬車に揺られながら双子たちは砂漠のいつもの光景を見ながら自分たちの使用する武器、アカメは短剣、ティアはロープの手入れをしている。その際に双子はミミズカツを食べたり、団員からもらった餞別品(ゴミ)を捨てたりしている。

 

「おーい、なんか後ろでごそごそ聞こえるんだけど、何やってんだ?」

 

「何って・・・武器の手入れー」

 

「後、ゴミの処理よ」

 

「ゴミって・・・まさか餞別品を捨ててるんじゃないだろうな?」

 

「何言ってるのよ。捨ててるわけないじゃない」(大嘘)

 

「んー!」(口封じされてる)

 

「本当か?アカメは大ウソつきだからなぁ・・・平然と嘘をつくし・・・どこまでが嘘でどこまでが本当か全然わかんねぇし・・・」

 

ゴゴゴゴ・・・

 

スティーヴがアカメを疑っていると突如砂場がうごめき始めた。

 

「これは・・・」

 

「おいでなすったわね」

 

「おいおいマジかよ・・・こいつは・・・」

 

ザバアアアアンッ!!

 

「----・・・」

 

盛り上がった砂から出てきたのは、馬車より巨大な大きさを持った巨大ミミズ、砂漠地帯によく現れるモンスター、ジャイアント・サンドワームだ。

 

「くそっ!こいつらが現れない道を通ったのに・・・はぐれワームか⁉ついてねぇ!逃げるぞ!」

 

ジャイアント・サンドワームが現れたことにより、スティーヴは何とか迂回しようと考えるが・・・

 

「迂回なんてしてたら追いつかれて食べられちゃうよ!ここは・・・」

 

「ええ。戦うしかないわね。行くわよ、ティア」

 

「うん!やろう、お姉ちゃん!」

 

「あ!ちょっと待てお前らぁ!!」

 

その前に双子が馬車から降りて現れたサンドワームを迎えうつ。双子が現れたところでサンドワームは大きな口を開け、双子を丸のみにしようとする。

 

「あぶねぇ!!」

 

「まずは砂に潜れなくするわよ。ティア!」

 

「わかってる!バインド!!」

 

アカメの指示に従い、ティアは盗賊の継承スキル、バインドを使う。ティアから放たれたロープはサンドワームを縛り上げ、身動きを取れなくさせる。

 

「今だよ、お姉ちゃん!!」

 

「任せなさい」

 

身動きを取れなくなったサンドワームにアカメが目にも止まらない素早さで近づき、短剣を取り出し、攻撃スキルを発動させる。

 

「ダブルアタック!!」

 

ズババッ!!

 

「------ッ!!!」

 

アカメはサンドワームに短剣による斬撃を2回繰り出す。サンドワームはその攻撃によって苦痛に歪んだ声を上げ、バインドから抜け出そうと力を力ませる。

 

「させない!バインド!」

 

そこにすかさずティアがバインドを発動させて締め付けを強くさせる。そしてアカメは短剣にスキルによって雷を纏わせる。

 

「サンダーエッジ!!」

 

ドオオオンッ!!

 

「----------ッ!!!!」

 

「おお!すげぇ!!体力が高いはずのサンドワームがもう弱ってきてる!!」

 

雷の刃にサンドワームはさらに苦痛を上げる。盗賊の上級職、シーフは本来近接戦闘の職業に比べればその攻撃力はかなり低い。だがアカメの場合はソードマスターなどに負け劣らないほどの攻撃性能を誇っている。それに加えてティアのサポート能力は盗賊より早く、より的確だ。もちろん、戦闘面でなく、ダンジョン探索も、2人が協力し合えば右に出る者はいない。この2人の姉妹による息の合ったコンビネーションはまさに無敵を誇る。・・・そう、息が合えば、だが。

 

「----!!!」

 

「やばい!最後の悪あがきだ!」

 

サンドワームは悪あがきするかのようにバインドを食い破り、双子を飲み込もうと迫る。

 

「まずい!バインドが間に合わない!散開しろ!!」

 

「「了解!」」

 

スティーヴの指示に従い、双子は散開する・・・

 

 

・・・ことはなく、どういうわけか逃げる方向が同じで散開ができておらず、サンドワームはそんな2人を追いかけている。

 

「おいぃ!!?何やってんだ!!?散開しろっつってんだろ!!?」

 

「「あ?」」

 

同じ方向に逃げていることに気づいた双子はお互いに睨みつける。

 

「何やってるのよ。散開しろって、聞いてなかった?」

 

「お姉ちゃんが私と同じとこに逃げてるだけでしょ!」

 

「は?あんたがついてきてるだけでしょ?いいからどきなさい」

 

「ああどきますとも!どいてやりますよ!」

 

言い合いをしながら双子はまたも散開する・・・ことはなくまたも逃げ道が同じでまたもいがみ合う。

 

「お姉ちゃん!やっぱついてきてるでしょ!」

 

「バカ言わないでよ。あんたが勝手に私と同じ場所を走ってるだけよ」

 

「あー!!お姉ちゃん、私の言葉真似しないでよ!!」

 

「してないわよ。そっちが私の真似をしてるだけでしょ。気持ち悪い」

 

「なんなの⁉」

 

「何よ」

 

「だー!!お前らこんな時にいがみ合うな!!」

 

いがみ合いがヒートアップし、ついに双子はお互いを決別するような行動に出る。

 

「もういいよ!勝手にすれば!!」

 

「ええ、勝手にやらせてもらうわ」

 

「おいバカやめろお前らーーーー!!!」

 

決別するように双子は互いに離れ、息がバラバラの動きを始める。

 

「ここで一気に仕留めさせてもらうわよ。いじっても面白くないクソミミズ」

 

「私だって、1人でモンスターを仕留められるってとこ見せてやる!」

 

「サンダーエッジ!!」

 

「バインド!!」

 

全く息が合ってないタイミングでお互いの得意スキルでサンドワームを仕留めようとする。アカメのサンダーエッジがサンドワームに当たる直前・・・ティアのバインドがアカメを締め付ける。

 

「ふぎゅっ⁉」

 

「「あ・・・」」

 

バインドによって縛られたアカメは重力に従いそのまま落ちていく・・・サンドワームの口めがけて。

 

お・・・覚えてなさいよこのクソビッチのドクズ・・・

 

パクッ、ゴクンッ

 

サンドワームは落ちてきたアカメを口に入れ、そのまま丸のみにする。そして矛先はすぐにティアに向ける。ティアはそれに冷や汗が大量に出始める。

 

「あー・・・えっと・・・サンドワームさん?さっきのは言葉のあやというかなんというか・・・。あなた様をここまで痛めつけたのは我が姉のせいで・・・」

 

「・・・・・・」

 

「い、いやいやいやいやサンドワーム様!!?た、食べるなら私じゃなくてあそこにいるスティーヴさんをお願いします!!私なんて食べてもおいしくないですよ!!?」

 

「おい!!!お前仲間を平然に差し出すとかどういう神経してんだ!!!頭おかしいんじゃないか!!?姉が姉なら妹も妹だな!!!」

 

ティアはサンドワームに食われないようにいろいろ必死だが相手はモンスター・・・聞く耳を持つはずがない。

 

「さ、サンドワーム様!!!せ、せめて優しく!!!丸のみはやめて優しくおいしく食べ・・・」

 

パクッ、ゴクンッ

 

必死の説得も空しく、サンドワームに丸のみにされるティア。

 

「お・・・お前らあああああああ!!!!食われてんじゃねえええええええ!!!!」

 

スティーヴは食われた双子にツッコミを入れながら双子救出のために両手剣をサンドワームに振るった。

 

 

ーこのすばぁ!!!-

 

 

サンドワームを倒し、何とか双子を救出に成功したスティーヴはアクセルへ向けて再び馬車を走らせる、が・・・

 

「うええぇ・・・マジで臭ぇ・・・唾液の匂いがプンプンする・・・」

 

「「・・・ふん!」」

 

双子に塗れているサンドワームの粘液のあまりの臭さに顔を歪めている。粘液塗れの双子は未だに仲直りができておらず、顔を互いにそっぽを向いている。

 

「おええぇぇ・・・このままじゃ吐いちまう・・・。仕方ねぇ・・・一旦常夏の神殿のオアシスを使うか・・・」

 

スティーヴは急遽予定を変更し、常夏の神殿へ向かい、そこにあるオアシスで休憩することになった。スティーヴは双子にバスタオルを渡し、オアシスに行くように急かさせる。

 

「俺はここでサンドワームの肉を調理しとくから、お前らはさっさと臭いを落とせ。鼻がひん曲がっていけねぇ・・・」

 

スティーヴに急かされた双子は互いを睨みあいながらオアシスへと向かっていった。残ったスティーヴは手に入れたサンドワームの肉を取りに馬車の中に入る・・・が、すぐに顔を歪ませる。理由は2人がついた粘液の匂いが馬車に染みついてるからだ。

 

「おえ・・・せっかく新調した馬車なのに・・・先に消臭ポーションでも撒いとくか」

 

スティーヴは馬車の消臭を行ってる間、双子は水着でオアシスの水で身体についた粘液を洗い落としてからオアシスに入る。2人の関係はまだ険悪だ。

 

「・・・ティア。私を縛り上げたの、許さないわよ」

 

「まだ言ってるの?何ともまぁ器の小さいお姉ちゃんだこと。これだから」

 

「あ?」

 

「あ、そっか!胸が小さいから、そーんなに器が小さいんだねー?何ともかわいそうにねー?」

 

ムカッ!

 

「私の場合、そんな脂肪の塊、欲しくもなんともないわ。・・・そういえば、前に太ったとかどうとかほざいてたわよね?いい機会だからフードファイターにジョブチェンジしたらどう?」

 

ムカッ!

 

「ちょっと食べすぎただけですー!フードファイターになんてなりませんー!お姉ちゃんだって、そんなんだから男の子に寄り付かないんじゃないのー?寂しがり屋さん?」

 

「そんなくだらないことで話を掘り下げようだなんて、あんたもまだまだ、お子ちゃま・・・いや、赤ん坊同然ね」

 

・・・・・・

 

ブチィッ!!×2

 

「このクソビッチがぁ!!何よこの無駄に出来上がった脂肪はぁ!!あんたなんてシェフに調理されて人肉になる方がお似合いだわ!!」

 

「ならお姉ちゃんは痩せ細った身体に相応しく、絶食して干上がらせて、だーれにも見つけられないようになる方がみんなのためだよ!!」

 

いがみ合いがヒートアップし、ついには取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。だが傍から見れば、ただじゃれあっているようにも見える。その様子は馬車の方でも聞こえているようだ。

 

「オアシスで起こる美女2人のキャットファイト・・・そそるな・・・帰ったらサキュバスの店で注文するか・・・ぐへへへ・・・」

 

オアシスで繰り広げられてるキャットファイトにスティーヴは妄想を膨らませ、浮ついた表情を見せている。

 

 

ーでゅふ・・・このすばぁ・・・w-

 

 

オアシスできれいになり、昼食も食べ終えたところで一行は再び馬車を走らせ、アクセルの街へと急ぐ。双子はというと、オアシスの件でまたかなり拗れてしまい、互いに距離を取っている。馬車の中にこもり切っており、外の景色を見る様子はない。

 

「よーし!砂漠を越えたぞー!外の景色を見てみろよ!」

 

スティーヴの一声に双子は馬車から顔を出し、外の光景を覗く。

 

「!わあぁ・・・」

 

「へぇ・・・」

 

双子の視界に映ったのは、砂漠とは違った美しい大自然の光景だ。地面に草木は生えており、辺りには木が数えきれないほどあり、砂漠には生息しないモンスターや野菜が飛び回っている。普通の人にはこれが当たり前でも、砂漠を出たことがなかった双子には感動的なのだ。この感動は本で見ただけでは味わえない。

 

「すごい・・・すごいよ!お姉ちゃん!これが・・・砂漠の外の世界なんだ!」

 

「そうね。さすがの私も、これは想像以上だわ」

 

「ははは、そうだろうそうだろう!これが外の世界だ」

 

繰り広げられる光景を見て、双子はいつの間にかよりが戻っている。この双子はいつもこうなのだ。喧嘩していても、時間が経ったり、きっかけがあればすぐにいつも通りに戻る。なのでいくら喧嘩していたとしても、盗賊団にとっては双子の喧嘩は些細なことなのだ。

 

「・・・ん?なんか焦げ臭いな・・・。お前ら、なんか変なもん持ってきてないか?」

 

すると馬車から何か焦げた匂いが漂ってきて、スティーヴは顔をしかめた。双子もそれに気づいたのか自分たちの荷物を調べる。すると、残った餞別品の中から何やら煙が出ていた。

 

「何これ?」

 

「何かしら?」

 

気になって煙の元を取り出してみる。その正体は餞別品の1つ、爆発ポーションだった。ポーションは怪しく赤く光っている。

 

「これは・・・レントンがくれた爆発ポーションね」

 

「え・・・レントンが・・・くれたポーション・・・?」

 

盗賊団員レントンはクリエイターという職業がら、何かしらの発明品を作るのが趣味なのだが、その趣味が人に多大な迷惑をかけることでも有名だ。この爆発ポーションもその1つである。ゆえに双子は嫌な予感がひしひしと感じ取っている。

 

「お姉ちゃん、このポーションの説明書とかない?探してみて」

 

「もしかして・・・これかしら」

 

いやな予感がしてアカメは手に持ったポーションの取扱説明書を確認する。内容は・・・

 

『注意、このポーションは特別製です。これに変なものを近づけないでください。特に消臭ポーションは撒かないでください。ポーションの成分が刺激し、1時間後に爆発を引き起こします』

 

この説明書を見て双子は顔を青ざめ、互いに顔を見つめる。そしてすぐにポーションを投げ捨て、馬車から出る。

 

「スティーヴーーーー!!!逃げてーーーー!!!」

 

「レントンのポーションが爆発するわーーー!!!」

 

「何いいいいい!!?レントンのだとお!!?」

 

双子の叫び声を聞いてスティーヴも顔を青ざめて馬車から急いで離れていく。3人が馬車から離れた瞬間・・・

 

ドガアアアアアアアアアアン!!!

 

「クエエエエエエエ!!!??」

 

爆発ポーションは馬車は木っ端微塵に爆発してしまった。爆発の近くにいた走り鷹鳶はそれらを恐れて一目散へと大自然へと走り出してしまう。

 

「あああああああああああああ!!!!俺の・・・俺の馬車がああああああああああ!!!!俺の走り鷹鳶があああああああああ!!!!レントンの野郎ううううううううううう!!!!変なもん持たせんなって言っただろうがああああああああああ!!!!」

 

新しく買って大事に使おうと決意していた馬車がこうもあっさりと早くにオジャンになってしまってスティーヴは血涙を流している。

 

「危なかったね、お姉ちゃん」

 

「はぁ、先が思いやられるわね」

 

双子はというと実にのんきなものである。

 

「さて、こんなとこにいないで、さっさと行きましょう」

 

「そうだね、一分一秒の時間も惜しいもんね」

 

「ちょ、ちょっと待てお前ら!俺の馬車に労りの言葉はないのか⁉というか、どうやってアクセルまで・・・」

 

「どうやってって・・・」

 

「歩いてに決まってるじゃない常識的に考えて」

 

双子のその言葉を聞いて、スティーヴは絶望に染まった顔つきになった。そして盗賊団本部にいるレントンには多額の借金が背負わされるとは夢にも思わないのであった。

 

 

ーえぐぅ・・・このすばぁ・・・-

 

 

爆発ポーションのせいで歩いてアクセルへ向かう羽目になった3人。厄介ごとに巻き込まれたスティーヴは一刻も早くアヌビスに帰りたい気持ちでいっぱいになっている。そして、長い時間をかけて歩いていると、ティアが元気いっぱいに走り出した。

 

「お姉ちゃーん!スティーヴー!見えてきたよー!」

 

「やれやれ・・・やっと着いた・・・」

 

「ここが例の?」

 

「そうだ・・・ここが冒険者の始まりの街・・・アクセルだ・・・」

 

そう・・・ティアが走り出した理由は目的の街の門の前まで辿り着いたからだ。こここそが、冒険者のはじまりの大地と呼ばわれる街・・・アクセルだ。

 

「はぁ~・・・やっと着いたか・・・」

 

「うーん・・・アヌビスの街と比べると普通だね」

 

「そりゃそうでしょ。初心者の街だもの」

 

やっとたどり着いたアクセルの街を見て、双子はそう発した。スティーヴはやっと仕事が終わったことに安堵を覚える。

 

「おーい!こっちだよー!」

 

ふと自分たちを呼ぶ声が聞こえてきたので3人はそちらに視線を向ける。そこにいたのは双子と同じくらいの軽装で頬に傷跡が残っている短い銀髪の美少女だった。

 

「予定よりずいぶん遅かったね、スティーヴさん。目が死んでるけど・・・何かあった?」

 

「気にすんなクリス・・・予定外の連発が起きただけだ・・・」

 

「あ、あははは・・・大変だったみたいだね」

 

銀髪の少女はスティーヴの苦労を察してか、苦笑を浮かべる。そしてすぐに双子に視線を向ける。

 

「さて、君たちがアクセル支部に転属になった双子さんだね?確か、姉のアカメに、妹のティア」

 

「うん!よろしく!」

 

「あんたがこのアクセル支部のマスター?」

 

「あー、違う違う。私はウェーブ盗賊団ってわけじゃないんだ。ただ本物のマスターはクエストに出かけちゃってて・・・それで私がネクサスさんに頼まれて迎えに来たってわけ」

 

銀髪の少女は苦笑しながら頬をかいている。ネクサスに頼まれたという部分を聞いて双子はネクサスにたいして意外と顔が広い?と考えた。

 

「私はクリス。見ての通り盗賊だよ。同じ盗賊職同士、よろしくね」

 

銀髪の少女、クリスは双子に手を差し伸べる。アカメはよろしくの意味を込めてティアの分も一緒に握手で返す。

 

この瞬間より、双子はアクセルの街の一員となったのだった。




次回予告的なもの

アカメです。お頭に定時報告です。

ついにアクセルの街へと到着いたしました。砂漠では見たこともないものがいっぱいでとても新鮮です。
ここでも人々が困っていれば、すぐにでも盗賊団の仕事に入ります。やる気はあります。ティアと一緒にうまくやってみせます。
え?ティアとはどうかですか?もちろん仲睦まじく、いつまでも仲良しです。あまりの仲良しっぷりに周りからちやほやされるくらいです。
嘘じゃありませんよ?本当ですからね?

報告書作成者、アカメ

頭の一言:バレバレな嘘をつくんじゃない。

次回、この貧乏店主に居候姉妹を!


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この貧乏店主に居候姉妹を!

砂漠都市アヌビスから始まりの街アクセルまで辿り着いたアカメ、ティアの双子の姉妹は出迎えてくれた盗賊の少女、クリスと握手を交わした後、さっそく本題に入る。

 

「じゃあ、さっそくだけどウェーブ盗賊団のアクセル支部の仕事内容について説明するね」

 

「「ちょっと待った」」

 

仕事の説明の話をしようとした途端、双子がストップをかける。

 

「何?どうしたの?」

 

「どうしてクリスが盗賊団のことを・・・それも仕事内容も知ってるの?お頭は知り合いだからって、他の人に軽く仕事の話をするような人じゃないよ?」

 

「は・・・まさかあんた・・・お頭の隠し娘・・・とか・・・もしくは隠し彼女ってわけね!お頭の【ピーッ】とか、【ピーッ】とか、【ピーーーッ】を知ってるわけね!」

 

「んなわけねぇだろ、アホか」

 

ティアの疑問にアカメは的外れな発言をする。顔も心なしか興奮しているように見える。その様子に双子を町まで送った本人、スティーヴがツッコミを入れる。

 

「ははは・・・まぁ、お互いに仕事仲間だから、と言っておこうかな?たまにアタシの仕事を手伝ったり、盗賊団の仕事をアタシが手伝ったりしてるから、自然とね」

 

「あ、なーんだそういうことなんだ!納得ー!」

 

「なんだ・・・隠し娘じゃないのね、つまらないわ。ちっ・・・」

 

「え?今なんで舌打ちされたの?」

 

「気にすんな。姉はただ娯楽に飢えてるだけだ」

 

「は、はぁ・・・」

 

ティアはクリスの説明に納得するが、アカメは理不尽な舌打ちをしている。

 

「き・・・気を取り直して、アクセル支部の仕事は本部とたいして変わらないよ。諜報部の情報を待って、その人が真っ黒と判断したら改心のために盗みを決行してもらうって感じかな」

 

「本当だ、本部と全く同じ仕事だー」

 

「・・・と言っても、今はまだ仕事はないかなー。まだ真っ黒っていう感じの人はこの街にはほとんどいないからね」

 

「なんだ、結局はいつもと変わらないじゃない。期待して損したわ」

 

アクセルの街に移動してもやることは結局変わっていないことにたいして双子は残念そうにしている。ちなみに、アヌビスの街では黒い噂の連中は多くいたが、行動には至っていない。理由は盗賊団を深く警戒しているからだ。

 

「まぁそういうわけだから、この街でのんびりするもいいし、冒険者ギルドでお仕事しても特におとがめなしだから、君たちの好きなように振舞ってよ」

 

「言われなくても、すぐに冒険者ギルドで仕事をするつもりよ」

 

「えっ?何言ってるの?せっかく来たんだから街の観光からでしょ?」

 

「バカ言わないでちょうだい。そんなもん後でいくらでもできるでしょ」

 

「いーや!今日からこの街に住むんだから今のうちに見ておいて損はないでしょ!」

 

「一時的の滞在でしょうが。この街に深く馴染むつもりはないわ。先に仕事に行くべきよ」

 

「それでも住んでる街で迷子なんてなったら笑い話にもならないでしょ!先に観光が大事ー!」

 

まだクリスの話が終わっていないにも関わらず、双子はいつもの如く、喧嘩を始めてしまう。この光景を初めてみるクリスにとっては中々に面白い光景だ。

 

「すまんな、クリス。話の途中だってのに、こいつらときたら・・・」

 

「ははは、いいよいいよ。本当に、面白い子たちだね」

 

「度が過ぎてることもあるがな。まぁ、ちょっくら止めてくるわ」

 

このままにしたらいつまでたっても話が進まないため、スティーヴが止めに行った。仲裁によって喧嘩が収まり、盗賊団3人で話し合っている。そして、待つこと数分・・・

 

「話し合いの結果、まずは冒険者ギルドに挨拶をしてから、この街の観光をするってことでまとまった」

 

「ふふん、まぁ当然だよね!今から仕事に行ったって、今日は戻れなくなるだけだし!」

 

「この愚妹が・・・あまり調子に乗ってると痛い目に合わすわよ」

 

「やれるもんなら・・・」

 

「あー、もうやめろ。ティア、アカメを煽るようなことを言うな」

 

「大変だね、スティーヴさんも」

 

「全くだ」

 

喧嘩が始まる前にスティーヴがそれを止める。そんな苦労人のスティーヴをに労いの言葉をかけるクリス。

 

「じゃあ、アタシが冒険者ギルドを案内するよ。すぐにでも移動できるかな?」

 

「問題ないわ」

 

「いつでもいいよ」

 

「じゃあクリス、後のことは任せるぞ」

 

双子がクリスの案内で冒険者ギルドに向かおうとすると、スティーヴは出口とは別の道を進んでいく。

 

「あれ?スティーヴ、どこ行くの?出口はそっちじゃないよ?」

 

「このまま帰ったってアヌビスに着くのはどうせ明日になる。今日はここに泊まっていく。ついでにこの街にあるサキュ・・・げふんげふん!と、とにかく!クリスに迷惑かけんなよ、お前ら!!」

 

何か言いかけて慌てだしたスティーヴはその場から逃げるように走り出していく。

 

「よくわからないけど、一瞬最低な顔をしてたわね」

 

「うん、最低な顔だったね」

 

「怪しい・・・」

 

一瞬スケベな顔をしていたスティーヴに残された3人は怪しい眼差しでスティーヴが去っていった方向を見つめるのだった。

 

 

ーん・・・このすばー

 

 

とりあえずクリスは双子をこのアクセルが誇る冒険者ギルドまで雑談をしながら案内していく。

 

「そういえばさ、なんで2人は盗賊団になろうって思ったの?」

 

クリスは好奇心で双子にそんなことを聞いてきた。当の双子はお互いに顔を向き合っている。

 

「んー・・・何でだっけ?」

 

「さあ?私たち、気づいたら盗賊団になってたって感じだし」

 

「ふーん・・・そうなんだ」

 

「あ、でもきっかけでって言えば・・・やっぱお頭かな?」

 

「そうね。あいつがいなかったら、私たちはいなかったし。一応、感謝はしないとね」

 

具体的なことはよくわからないが、双子はよほどネクサスによくしてもらっていた・・・いや、愛されていたのかがわかる。そう思うとクリスはくすりと微笑ましく笑った。

 

「・・・何笑ってるのよ」

 

「あ、ごめんね?おかしいとかじゃなくて・・・」

 

「気にしなくていいよクリス。お姉ちゃんはいつもあんな感じだから」

 

「ううん、笑ったのは事実だし・・・と、着いたよ」

 

話し込んでいると、ようやく、それらしき建物が見えてきた。

 

「アクセルの冒険者ギルドへようこそ!」

 

冒険者ギルドにたどり着き、クリスは改めて、双子を歓迎する。

 

「ふーん、ここが、ねぇ・・・」

 

「中はどんな風になってるんだろうね?」

 

「じゃあ中に・・・と言いたいところなんだけど・・・ごめん!」

 

中に興味がある双子にクリスは申し訳なさそうに手を合わせて謝罪する。

 

「本当はギルドや街を案内してあげようと思ってたんだけど・・・アタシもこれから仕事があって・・・。予定よりだいぶ遅くなっちゃったから、時間が迫ってて・・・」

 

「謝らなくてもいいよ。ギルドに案内してくれただけでもありがたいよ」

 

「ま、観光は自由気ままに楽しむわ。観光は本当に不本意だけど」

 

「本当にごめんね。支部の人たちには、アタシの方から言っておくから、2人は観光、楽しんでおいでよ」

 

クリスは本当に申し訳なさそうにしているが、双子は別段気にした様子はない。

 

「おっと!急がないと・・・それじゃあね!今度機会があったら、シュワシュワ一杯、奢らせてもらうよ!」

 

「うん!また会おうね!」

 

クリスは双子に手を振って冒険者ギルドを後にする。そんなクリスの背中を双子は手を振って見送る。

 

「さて、行くわよ、ティア」

 

「うん、行こう、お姉ちゃん」

 

双子は意を決して冒険者ギルドの扉を開け、中へと入っていく。そこで映った光景はアクセルの冒険者たちがシュワシュワを飲んだり、クエストを選んだり、わいわい騒いでたりと何かと賑やかだ。

 

「へえぇ・・・これがアクセルの街の冒険者かぁ・・・」

 

「何よ、うちのアジトと似たような雰囲気じゃない」

 

目の前に繰り広げられている光景にティアは目を輝かせるが、ティアはたいして変わらないと感じており、特に感動はなかった。

 

「おいお前ら・・・その装束・・・砂漠の冒険者だな?」

 

そんな2人に話しかけてきたのは、いかにも厳つそうな肉体に髭を生やしたモヒカンヘアの荒くれ者だった。

 

「え?うん、そうだけど・・・」

 

「砂漠は危険と隣り合わせの地域だ・・・そんな奴らがここに何の用だ?」

 

「へ?そりゃ、このアクセルの街の冒険者になるつもりだけど・・・」

 

「ま、初心に戻って、自分を磨くため、と言っておこうかしら」

 

クリスのような例外はいるものの、自分たちが盗賊団員であると知られるわけにはいかないゆえ、そう発言する双子。とはいえ、嘘自体はついていない。双子の答えを聞いて、荒くれ者はふっと笑みを浮かべる。

 

「ふっ・・・地獄を経験し、更なる地獄へと突き進むか・・・」

 

「「は?」」

 

「いいだろう・・・地獄の門へようこそ、命知らず共」

 

荒くれ者は笑みを浮かべて妙なことを言いながら親指をぐっと突き立てる。言ってることは理解できないが、とりあえず歓迎はしてくれてるようだ。

 

「何あれー?」

 

「さあ?変な奴であるのは変わらないけど」

 

荒くれ者は放っておいて、双子は早いところここで仕事ができるようにするため、ギルドの受付カウンターまで歩いていく。

 

「ようこそ、冒険者ギルドへ!」

 

受付カウンターで双子を出迎えてくれたのはティアより大きな胸を持ち、金髪を後ろに括りあげたギルドの受付嬢、ルナであった。

 

「ネクサスって奴から私たちのこと、なんか聞いてないかしら?」

 

「私たち、その人に言われてここに来たんですけど・・・」

 

「ネクサスさんから・・・ですか?少々お待ちください」

 

双子の言葉を聞いてルナは資料を探しだし、目的の資料を取り出して確認する。

 

「お待たせ致しました!冒険者ギルド、熱風の波のギルドマスター、ネクサスさんからの紹介ですね?お話は伺っております」

 

「私たち、ここでクエストを受けられるようになりたいんです」

 

「そのための手続きをしに来たのよ」

 

「承りました。お2人は既に冒険者登録をしていますので、登録料は必要ございません。お2人の持っている冒険者カードを提示していただきますが、よろしいですか?」

 

「はい!」

 

「ええ」

 

ルナの説明に従って双子は自身の冒険者カードを提示する。ルナは2人の冒険者カードを受け取り、登録手続きを行う。

 

「こ、この数値は・・・お2人ともすごいです!お2人とも素早さも器用さも幸運値も非常に素晴らしい数値を示しています!まさにシーフに相応しい数値です!」

 

2人の職業、シーフと聞いて周りの冒険者たちはざわめいた。それもそうだ。ここは初心者の街。初めから上級職になれる人材は限られてきているのだから。そして2人は他所の冒険者ギルド(盗賊団)から来たシーフなのだから、皆が彼女たちをパーティに誘い、お金儲けができるチャンスが転がってきたのだから騒がない方が無理だ。

 

「私たちのこと、すごい見てるよ、お姉ちゃん」

 

「ま、当然の反応ね」

 

ざわつく冒険者の声を聞きながら登録手続きが終わるのを待つ双子。

 

「お待たせいたしました。登録手続きが完了いたしましたので、冒険者カードをお返しいたします」

 

「てことはこれで・・・」

 

「はい。いつでもこのアクセルの街でクエストを受けられるようになります」

 

『おおおおおおお!!』

 

「やったね、お姉ちゃん!」

 

「やれやれ、やっとかしら」

 

アクセルに新たな冒険者、それもベテランのシーフがやって来たことに冒険者たちは大声で双子を歓迎してくれている。

 

「では改めて・・・ようこそ!アクセルの冒険者ギルドへ!あなた方のご活躍、期待しております!」

 

こうして双子は正式にアクセルの街の冒険者として認められたのだった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

冒険者登録を終えた双子はギルドから出ていって街の道のりを歩いていく。

 

「さて、登録も終わったし、この後は観光だ!お姉ちゃんもそれでいいでしょ?」

 

「・・・私がその約束を守らずにどっか行ったら?」

 

「その時は人の約束をろくに守らない正真正銘の最低のクズって街中に広める」

 

「大袈裟すぎるでしょそれは・・・」

 

アカメは非常に面倒くさそうに頭をかいてため息をだす。

 

「はぁ・・・どうせ今日はスティーヴの【ピーーッ】野郎が街に滞在してるし、別行動してたらより一層面倒なことになるし、仕方ないから・・・」

 

ついていってやる、と言おうとしたら当のティアはどこかに消えていった。

 

「お姉ちゃん、このポスター、新人踊り子メンバーの野外公演のお知らせだって!お姉ちゃん!この近くだし、早く行こうよ!」

 

「・・・はぁ・・・何が悲しくてこいつの好奇心に付き合わなくちゃいけないのかしら・・・」

 

ティアは近くに張ってあった踊り子のポスターを見て興味がくすぐられていき、踊り子の野外公演会場へと移動している。アカメはため息をこぼしながらティアについていく。ティアはアカメのように街に無関心というわけではない。その真逆で見るものはなんにでも興味を示してしまうほどに知的好奇心の塊だ。彼女のこの純粋さは両親がいないことの寂しさからの反動なのかもしれない。そしてなんだかんだ言いながらもその好奇心に付き合うあたり、アカメも少々妹に甘いところがある。

 

「て、何よこれ。人が全然少ないじゃない」

 

「新人なんだからだいたいそうなんじゃない?」

 

到着した野外公演会場を見てみれば、確かに人は数えられるほどではないが、お客が少なかった。よほど踊り子のレベルが低いのか、それとも興味がないのかわからないが、とにかく少なかった。原因を考えていると踊り子の公演が終了し、踊り子が退場し、司会進行役が登場する。

 

「はい!ありがとうございました!それでは、お時間も惜しいですが、次のメンバーが最後の公演となります!それでは登場していただきましょう!期待の新人、アクセルハーツだぁ!!」

 

進行が進んでいき、この公演の最後の踊り子ユニットが登場する。踊り子の人数は3人。踊り子3人が入場すると少し変わった挨拶をする。

 

「ぼ・・・僕のこと知りたい?教えろ教えろシエロちゃん!」

 

「み、見た目はクール、中身はホット!リアでほっと一息ついて、ね・・・」

 

「世界中の可愛いが大集合!可愛さ1000%、エーリカでーす!」

 

中々に独特な挨拶に初めて見る人たちは珍しがっている。それはこの双子の姉妹も同然であった。

 

「わぁ・・・これが外の世界の踊り子かぁ・・・。私、こんな個性的な挨拶をする踊り子初めてかも!」

 

「そうね。私が知る限りでは、アヌビスの街であんな挨拶をする踊り子はいなかったわね」

 

「これが外の世界ならではの挨拶なのかなぁ?」

 

「いや、独自で考えたんでしょ。周りの奴ら、目が点になってるし、何より世界には紅魔族なんて頭のおかしい奴がいるくらいだし」

 

「アヌビスの街でも何人か紅魔族がいたけど、そんなにおかしいかなぁ?」

 

「そうだった・・・あんたのセンスは紅魔族並みの出来の悪さなんだった・・・」

 

「今すごくムカつく単語が出てきたけど・・・許してあげるよ。公演中でよかったね」

 

双子が話し込んでいる間にも公演は進行していっており、現在は彼女たちの踊りや歌をお披露目している最中だ。その美しい立ち振る舞いにティアは見惚れていた。

 

「わぁ・・・きれい・・・」

 

「・・・?んん?」

 

するとアカメは長い黒髪を持った青い瞳の少女、リアにたいして目を細めている。

 

「?どうしたの?お姉ちゃん?」

 

「いや・・・あいつ、どっかで見たことあるような・・・」

 

「お姉ちゃんの友達?でもお姉ちゃん、知り合いは多くても友達はいなかったような・・・」

 

「それはあんたも同じでしょうが。まぁそれはどうでもいいのよ。なんだったかしらあの子・・・」

 

アカメはリアをどこで出会ったかと思いだしているが、全く心当たりがなかった。

 

「もう、そんなの後でもいいじゃん。お姉ちゃんの事情なんてどうでもいいし」

 

「あんたはもう少し姉にたいして興味を持ちなさいよ」

 

双子は何かといがみ合いが発生しそうになるが、公演中ということもあってちゃんと大人しくしていた。公演にいる周りの客はというと、踊り子ユニット、アクセルハーツの美しい声や踊りに見惚れて、辺りは大歓声を上げていた。

 

「すごく・・・きれいだね、お姉ちゃん・・・」

 

「私の勘だとあの子たち、いつか大物になるわよ」

 

この大物発言だが、そのための経緯がまさか自分たちが関わることになることになるとは思わなかっただろうが、今は関係ない話だ。大歓声からして、アクセルハーツの初の公演は恐らく大成功だと思われる。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

公演が終わった後、双子はアクセルの街の観光を再開させる。アクセルの街では砂漠の街では見たことがないものばかりでティアは新鮮な気持ちが隠せないでいる。アカメも無関心でありながらも、心なしか胸が躍ってるような気分になっている。

 

「へえ~・・・あれもこれも見たことのないものばかり・・・。外の世界に来れるきっかけをくれたお頭に感謝、だね!」

 

「うーん・・・やっぱ見たことあるのよね、あの子・・・」

 

ティアはアクセルの街に感激して周りを見て回っているが、アカメは少しだけ踊り子のリアのことを考えている。

 

「まだ考え事?これだけ考えても出ないなら、やっぱ知り合いじゃなかったんだよ。大体、お姉ちゃんがあんな可愛い子が知り合いなわけないじゃん」

 

「こいつぅ・・・!後で絶対に泣かす・・・!」

 

アカメはティアの発言にちょっとイラつきを見せている。

 

「あ、キツネのモンスターのぬいぐるみだ!可愛いなぁ・・・」

 

「キツネ?キツネ・・・キツネ・・・」

 

キツネのモンスターのぬいぐるみを見て、アカメは記憶を振り返り、思い出したような顔をする。

 

「あ、もしかして・・・コン次郎の時の奴かしら」

 

「・・・コン次郎って・・・誰?」

 

「あの黒髪の踊り子の持ってるぬいぐるみの名前よ」

 

「え・・・まさか・・・お姉ちゃん、本当に踊り子と知り合い?」

 

まさかのアカメがリアの知りあいだったことに驚いている。

 

「他2人は知らないけど、あいつは本当にたまたまよ。アヌビスで1人で歩いてたらたまたまあいつとぶつかってね。その時にコン次郎がいないとか喚いててね。あまりにうるさかったから、コン次郎探しを手伝ったってわけ」

 

「そうなんだ。お姉ちゃんって意外にも優しいとこあるからなぁ」

 

「意外には余計よ。私は常に優しいのだから」

 

「どの口が言ってるんだか、この嘘つきは」

 

相変わらずのいがみ合いはともかく、リアと知り合った経緯には納得するティア。

 

「・・・ところでさ、なんでさっきからぬいぐるみをコン次郎呼びなの?」

 

「あの場でぬいぐるみとか言ったらブチギレられてね。仕方なくその場の流れで呼んでたらいつの間にか定着したのよ」

 

「え・・・何それ・・・変なの・・・」

 

こん次郎をぬいぐるみ呼ばわりたいしてリアが過剰なほどに怒り狂ったことを聞き、ティアはかなりドン引きした。

 

「そんな奴がこんな街で踊り子とは・・・魔王退治はやめたのかしら?」

 

「魔王?それって世界のどこかにいるあの魔王?」

 

魔王・・・その存在はこの世界において邪悪の化身という存在。現にこの世界は今、魔王の配下である魔王軍による破壊活動が行われている。といっても、それはどこかに限られており、この街は未だにその影がないため平和そのものゆえだ。

 

「ええ。あいつ、魔王を倒すために来た、なんて事を言ってたわ」

 

「へぇー、勇者候補と似たようなことを言うんだね」

 

勇者候補とは、誰が決めたのか知らないが、魔王を討伐するための存在、勇者として選ばれているものたちのことだ。ちなみに、この世界でもっとも有力な勇者候補は、最近現れたという魔剣の勇者だ。

 

「私はてっきりそんな事を言うのは魔剣の勇者だけかと思ってたわ。名前は確か・・・オコノギだったかしら?」

 

「!?」

 

アカメが魔剣の勇者の名前を口にした時、偶然すれ違った青い鎧を着こんだ青年が変に反応する。

 

「違うよお姉ちゃん、魔剣の勇者はそんな名前じゃないよ。ほら・・・セセラギだよ!」

 

「!!?」

 

「ま、魔剣の勇者なんて、どうでもいいけど」

 

「!!??」

 

先ほどから聞き耳を立てている鎧の青年は何やら信じられないといった顔をしている。

 

「なんせ魔王を倒すのは私たちよ。踊り子でも魔剣の勇者アマガニでもないわ」

 

「!!!??」

 

「私たちが魔王を倒せば、私たちの存在が政府に認められて、堂々と歩き回れるもんね!」

 

「そうよ。功績が認められて、非公式から正式に活動できるようになる、万々歳よ」

 

「うわっ!なんだかやる気がみなぎってきた!」

 

双子たちはどうにも魔王を倒す気でいるようでそれ前提で話を進めている。

 

「わかったなら、さっさと居候先に行くわよ。もう十分に観光したでしょ。明日のクエストに向けてもう今日は休みましょう。魔王を倒すためにね」

 

「う・・・まだ観光したりないけど・・・わかったよ、お姉ちゃんも疲れてそうだし」

 

「じゃ、行くわよ。踊り子の奴にも魔剣の勇者アカガニにも負けてられないわ」

 

双子はここで観光を終わらせ、居候先へと移動を始める。その様子を鎧の青年はプルプルと震え、双子に向けて叫び声をあげる。

 

「ぼ・・・僕の名前はミツルギだあああああああああ!!!

 

 

ーちくしょおおおおおお!!-

 

 

双子がこのアクセルで住む場所の名はウィズ魔道具店。魔道具を取り扱っている店だ。双子はその店へ向かって、メモに書いてある住所へと向かっている。

 

「魔道具、かぁ・・・」

 

「あまりいい思い出がないわね・・・」

 

双子は魔道具にたいしてあまりいい思い出がない。というのも前日、盗賊団のアジトでネクサスにクエストの大失敗によるお仕置き兼仲直りのきっかけと評して魔道具を付けられたことがあった。魔道具を付けられた後、双子はすぐに喧嘩したが、その喧嘩に魔道具が反応して、爆発を引き起こしたのだ。ちなみにその魔道具は爆発を引き起こすことで喧嘩を仲裁させるためのもので、この爆発からなる恐怖心で仲直りさせる代物である。結局爆発に巻き込まれても双子が喧嘩をやめることはなかったが。

 

「メモだと・・・この辺りよね」

 

「あ、ここじゃない?」

 

話し込んでいる間にも目的の魔道具店にたどり着いた双子。ウィズ魔道具店にはcloseの立て札がかけられている。

 

「閉まってるのかな?」

 

「私たちは居候者なのよ。こんなの無視よ無視」

 

「お、お姉ちゃん・・・」

 

アカメは立て札を無視して扉を開けようとする。扉は普通に開いていた。

 

「開いてる・・・」

 

「ほら、入るわよ」

 

「お、お邪魔しまーす・・・」

 

中に入ってみるとそこには数多くの魔道具が飾られている光景が映る。

 

「すごい・・・魔道具がいっぱい・・・」

 

「そりゃ魔道具店だからね」

 

辺りを見回しているとカウンター席から何かごそごそという音が聞こえてきた。そっちをじーっと見てみると、席の方からこの店の主らしき女性が現れた。長い茶髪で片目が隠れており、ルナよりも大きな胸を持った女性は双子の姿を確認すると、途端に慌てた振る舞いを見せる。

 

「あ、ああ!お、お客さん!困ります!今日は店じまいでして・・・勝手に入られると・・・その・・・」

 

あまりに弱気な忠告に双子は店主に対して頼りなさを感じる。

 

「はぁ・・・私たちは客じゃないわよ」

 

「あのぅ・・・今日からここに住むことになったんですけど・・・」

 

「え?」

 

途端にこの店に住む発言をするティアに店主は首を傾げ、すぐに気づいたのか笑顔を見せてポンと手を叩く。

 

「ああ!じゃああなた方がネクサスさんの!お話は伺っています。ようこそ、ウィズ魔道具店へ」

 

店主は双子にそれぞれ手を差し出し、互いに握手を交わす。

 

「私はウィズと申します。この魔道具店の・・・そのぅ・・・店主、をやってます」

 

「私、ティアと言います。この人がうちの残姉ちゃんのアカメです」

 

「ちょっと、誰が残姉ちゃんよこの愚妹」

 

「他に誰がいるっていうの残姉ちゃん」

 

「言わせておけばこの!」

 

アカメはティアの態度に怒ってティアの頭にげんこつを与えた。

 

「痛っ!何すんの!」

 

「やろうっての⁉」

 

「上等だよ!」

 

「え・・・ええ!!?」

 

双子は取っ組み合い喧嘩をウィズの目の前でやってしまい、ウィズは戸惑ってしまうがすぐに止めに入る。

 

「や、やめてください!お店の中で暴れないでください!」

 

「この【ピーーーッ】が!!」

 

「この毒舌噓つきが!!」

 

ウィズが止めに入っても双子は喧嘩をやめる気配はない。

 

「ああ・・・いったいどうすれば・・・あ!あれがありました!」

 

何かを閃いたウィズは棚から2つのベルトを取り出し、それを笑顔で双子に見せつける。それを見た双子は顔を青ざめながら喧嘩をやめ、ウィズから距離を取り始める。

 

「う、ウィズさん・・・?そ、それって・・・」

 

「ふふふ、これはですね・・・」

 

「仲良しのベルト・・・でしょ・・・仲直りさせるための魔道具・・・」

 

「あ、ご存じだったんですね。これはですね、いつも仲が悪い人たちの関係修復にとても役に立つ優れも・・・」

 

「「そんな爆発して命の危険のある魔道具のどこが優れもの!!?ゴミ同然よ(だよ)!!」」

 

「え、ええええ!!?」

 

下手をすれば命を落とす危険な魔道具を優れものというウィズに双子は息ピッタリでツッコミを入れる。

 

「お、おかしいですね・・・ネクサスさんはいい品物だって言ってたのに・・・」

 

「ちょっと待ちなさい。お頭が?」

 

「これを、いい品物?」

 

「はい。だからネクサスさんがはるばるアヌビスからここまで来て買ってい・・・」

 

「「このゴミを売ったのはあんただったのかぁ!!?」」

 

「ほえええええ!!?」

 

自分たちによくない思い出を作った原因がウィズであったことに双子は大きく声を荒げて叫んだのだった。

 

 

ーこのすばあ!!!-

 

 

ごたごたがありながらも、ウィズは双子に魔道具店の奥にあるリビングへと案内し、そして双子の部屋を案内していった。そしてその後は双子が観光の際に買ったものを調理して、ウィズと共に夕食を食べた。そして、夕食を食べ終えた双子は各々の時間を満喫している。

 

「ふぅ~、さっぱりしたよぉ~・・・」

 

ティアは風呂から上がってパジャマに着替え、濡れた髪をバスタオルでよく拭きながらリビングへと向かっていく。リビングにはウィズが何かとにらめっこしている。ティアの存在に気付いたウィズはにっこりと微笑んでいる。

 

「あら、ティアさん。お湯加減はいかがだったでしょうか?」

 

「あ、はい。最高でしたよ。ウィズさん、ありがとうございました」

 

「それは何よりです」

 

ティアは髪を拭き終えてウィズの隣まで歩いていく。

 

「ウィズさん、何してるんですか?」

 

「ウィズさんだなんて、そんな・・・。普段通りの接し方で大丈夫ですよ。呼び捨てにしても構いません」

 

「じゃあ、ウィズ。何してたの?」

 

「今月の魔導具の売れ行きを確認していたんです。まぁ・・・と言いましても、全く売れませんので、赤字続きですが・・・」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「絶対に何かがおかしいんです・・・。間違いなく売れる商品だと思っていたのに・・・」

 

ウィズの店はどうにも魔道具が売れず赤字が続いているようで、それを気にしているウィズは目に涙を浮かべている。

 

(そりゃあんな売れないものを売ってたらそうなるよ・・・)

 

その原因が魔道具にあるとわかっているティアは心でツッコミを入れる。

 

「ぐすん・・・それでティアさん、何か不自由なことはありませんか?気になったものがあれば、何でも言ってくださいね」

 

「ああ、大丈夫だよ。割りといい部屋で私もお姉ちゃんも、気兼ねなくくつろげてるよ」

 

「そう言っていただけると、頑張ってお部屋を掃除した甲斐があります」

 

ティアの正直な感想を聞くとウィズは安心したようにっこりと微笑む。

 

「・・・ねぇ、ウィズ。どうして初対面の私たちをここに置こうって決めたの?」

 

急なティアの問いにウィズは少し困ったような顔をした。

 

「えっと・・・ネクサスさんにどうしてもと言われまして・・・熱意に負けてしまい、承諾したんです。いらないといったのにお金や食料も無理やり受け取っちゃいましたし・・・」

 

「お頭が・・・」

 

「それに・・・ネクサスさんの話を聞いていたら・・・失礼かもしれませんが、かわいそうと思ってしまったんです」

 

「かわいそう?」

 

ウィズの放ったかわいそうという単語にティアは首を傾げる。

 

「あの・・・ご両親が、いないんですよね?」

 

「・・・うん」

 

「ご両親の愛情を受けることができないどころか・・・会うことも叶わないだなんて・・・そんなの、悲しすぎます・・・」

 

「はは、まぁ・・・人から見たらそりゃ悲しいと思われても仕方ないよね」

 

ウィズの言葉を否定しないのかティアは少し苦笑しているが、そこに後ろめたさはない。

 

「でもね、私は悲しくなんかないよ。だって、私には盗賊団のみんながいる。みんなが私に希望を与えてくれたんだよ。盗賊団がいたからこそ、私は、生きていられるんだ。悲しいより、嬉しいの方が勝っちゃってるね」

 

「ティアさん・・・」

 

「それにね、お母さんはこの世界のどこかで生きてるのはわかってるんだ。可能性は0ってわけじゃないんだよ。だから私は立派になって、どこかにいるお母さんに会って、私たちを置いていった性根を盗んでやるんだ!それで、改心したら・・・思いっきり甘えるんだ!」

 

ティアの揺るぎない決意と願い、そして屈託のない笑顔を見て、ウィズは微笑み、ティアの頭を撫でた。

 

「ティアさんは、思っていた以上に強いんですね。感心しました」

 

ティアはウィズに撫でられたことに目をぱちくりとさせている。

 

「はっ!す、すみません!つい・・・」

 

「ううん、ウィズなら、撫でられても・・・大丈夫だよ」

 

ティアはウィズに身をゆだねるように体を寄せてきている。それに合わせてウィズは微笑み、またティアの頭を撫でる。

 

「なんだろう・・・ウィズに撫でられると・・・とっても心地がいいな・・・。なんでだろう」

 

「ふふふ」

 

ティアとウィズのこの光景を見つめる影がある。その正体はアカメだ。

 

「ふん・・・」

 

会話の内容を聞いていたアカメは鼻を鳴らし、この場を去る。

 

 

ーこのすば!-

 

 

翌日の朝の魔道具店、双子は朝食を食べ終えた後、本格的にアクセルの冒険者として仕事を行おうと思い、各々がその準備をしている。そしてアカメはそのために役に立つ魔道具がないか探している。

 

「お姉ちゃん、何してんの?」

 

「魔道具探しよ。こんなゴミばっかでも、1つくらいは役に立つものがあるはずよ」

 

「ご・・・ゴミだなんてそんな・・・ひどいです・・・どれも苦労して仕入れてきたものなのにぃ・・・」

 

自分が仕入れた魔道具をゴミ呼ばわりされて、ウィズは涙目になる。

 

「長くなりそう?」

 

「手伝う気がないなら先にギルドに行きなさい。じろじろ見られたら目障りよ」

 

「むっ・・・せっかく待っててあげるのに何その言い方?」

 

「いいからさっさと行きなさい」

 

「はいはい先に行ってますよーだ。全く、これだから・・・」

 

朝からでも仲が悪い双子の様子にウィズは喧嘩しないかハラハラしているが、先にティアが店から出るようで事なきを得た。

 

「あ、ティアさん、道中は気をつけてくださいね」

 

「平気平気ー。アクシズ教徒が現れない限り、私は大丈夫だからー」

 

ティアは盛大なフラグを残して魔道具店から出ていった。それを見てアカメはため息をこぼす。

 

「はぁ・・・あいつ、また余計な一言を・・・」

 

「ほ、本当に大丈夫でしょうか?この街にもアクシズ教徒の方々は少なからずいますし・・・」

 

「いや、絶対大丈夫じゃないわ。変なことを言ったらあの子必ず・・・」

 

アカメが続けて口を開こうとした時・・・

 

「ぎゃーーーーーー!!!!出たーーーーーー!!!!」

 

「待ってください素敵なお嬢さん!!あなたほどの美しい人はぜひともアクシズ教に入信してください!!今ならもれなく、お金ももらえて、アクシズ教徒と名乗れる素晴らしき名誉、さらにはこの洗剤も差し上げますからー!!」

 

「いや本当結構です!!お帰り下さい!!」

 

店の外から悲鳴に近いティアの声と、アクシズ教徒と思われる人物の声が聞こえてきた。どうも追いかけまわされているようで声がだんだんと店から遠ざかっていく。

 

「はぁ、やっぱり。予想以上に早かったわね」

 

「あの・・・いいんですか?放っておいて」

 

「いいのよ。余計な一言を言ったあの子の自業自得だし。それに私もアクシズ教徒には関わりたくないのよ」

 

双子は共通で大のアクシズ教徒嫌いである。正確には苦手の方が正しいが。そういうこともあってアクシズ教徒絡みは例え姉妹がピンチでもお互いに関わりたくないのだ。

 

「で、ですが・・・」

 

「心配しなくても私たちはシーフよ。アクシズ教徒くらい、逃げ切れるわ。ていうかそうでないと困るわ。入信させられるもの」

 

「は、はぁ・・・」

 

「ま、愚妹なんてどうでもいいわ。それよりも魔道具よ。さっきよさそうなものを見つけたんだけど」

 

アクシズ教の話を終わらせるためにアカメは1つの魔道具を取り出した。形はダウジングの道具のように見える。

 

「あ、その魔道具は採掘クエストにとっても便利な魔道具です。その魔道具にクエストに必要とされる鉱物の名前を入力すれば、自動的でその鉱物がある個所を示してくれるんですよ」

 

「へぇ、これさえあれば探す苦労もせずに目的なものが取れるってわけね」

 

「はい。ただ、その魔道具は常に使用者の魔力を異常に吸い取ってしまうので・・・すぐに疲れてしまい、1週間も身動きが取れなくなってしまうという欠点が・・・」

 

「ただのゴミじゃないのよこれ!!!」

 

よさげな魔道具かと思えば欠点が大きすぎて使い物にならず、思わずアカメは魔道具を地面に叩きつける。

 

「・・・で?この願いが叶うチョーカーはどう?当店で珍しく売れてるって書いてるけど・・・」

 

「あ!アカメさん!それを首につけちゃダメですよ⁉それは願いを叶えるまで外れないうえに、日を追うごとに徐々に首が締まってしまうもので・・・」

 

「呪いのアイテムじゃないこれ!!これのどこが売れるってのよ!!?」

 

「そ、そちらは女性の人気のアイテムでして・・・死ぬ気になれば絶対に絶対に痩せられるという・・・」

 

「しかも自分で願いを叶えるの!!?あっぶな・・・付けなくてよかったわ・・・」

 

またも命の危険のある魔道具を手にしたことにアカメはひどい冷や汗をかいた。

 

「・・・これは?」

 

「そちらは・・・」

 

アカメは次々に気になった魔道具をウィズに解説してもらったが、どれもこれも使える代物どころか、自分に負担しか返ってこない魔道具しか置いておらず、激しい頭痛にあう。

 

「いったいどうなってんのよ・・・全部ゴミでしかないじゃない・・・これでよく売ろうと考えたわね・・・」

 

「うぅぅ・・・ごめんなさい・・・」

 

あまりに疲れ切ってるアカメにウィズは申し訳なさそうにしている。その様子を見てアカメはため息をこぼす。

 

「はぁ・・・仕方ないわね・・・。クエストで何かよさげな魔道具が見つかれば、無償で譲ってあげるわ。それを売って生活の足しにしなさい」

 

「え?」

 

「あ、後、時間があれば店も手伝うわ。客足が来ないんじゃ、あんたも潤わないでしょ」

 

「あ、あの、アカメさん?」

 

「それから、命に関わる魔道具は全部捨てなさい。お試しで使って死んだら経営どころじゃないでしょ」

 

アカメの急な優しさを見せている姿にウィズは戸惑っている。

 

「あの・・・もしかして・・・私を気遣って・・・?」

 

「勘違いしないで。私は恩を仇で返すような真似をしたくないだけよ。別にあんたのためでも、お頭のためでもない。全て、私のためよ」

 

口ではきついことを言ってはいるが、心の奥底では、深い優しさが込められていた。ただアカメは不器用なだけなのだ。

 

「・・・ありがとうございます。アカメさんは、お優しいですね」

 

アカメなりの優しさを見てウィズは少し嬉しそうにしている。アカメは表情を変えることなく、その優しい発言を否定する。

 

「優しい、なんてバカバカしい。私には無縁なものよ。私は、嘘つきなのだから」

 

アカメはそう言い切って魔道具店の扉を開いて、外に出ようとする。

 

「アカメさん」

 

そんなアカメをウィズはきちんと見届ける。

 

「いってらっしゃい」

 

ウィズの言葉を受け取ったアカメは振り向かず、扉を閉めてそのままギルドへと向かっていく。この時のアカメはらしくないことをしたと考えている。そう考えているうちにギルドへの道のりを歩いていると・・・

 

「わああああああああ!!!お、お、お、お姉ちゃーーーーん!!!!」

 

「お待ちをーーー!!!」

 

「入信してくださいーーーー!!!」

 

「洗剤あげますからーーー!!!」

 

「今なら石鹸もプレゼント!!!」

 

未だにアクシズ教徒から逃げていたティアがアカメに向かってきている。しかも、1人とかではなく、複数人・・・恐らくは10はいってるだろう。

 

「げええええええ!!?こっち来ないでよ!!!」

 

「そ、そんなこと言わずに助けてよ!!!」

 

アカメは巻き込まれたくない一心でティアとアクシズ教徒から逃げ出す。ティアはアカメを追いかけ、アクシズ教とはそんな2人を追いかける。

 

「あんたの言葉はアクシズ教徒ほいほいと似たようなもんなんだから余計なことを言って増やしてんじゃないわよ!!!」

 

「お姉ちゃん!!怖いよ!!アクシズ教徒がこんなにいるなんて想像してなかったよ!!アヌビスの温泉のアクシズ教徒のおばちゃん並みに怖いよ!!」

 

「あのクソババアの方が遥かにマシよ!!こんなのはそれを越えた地獄よ!!」

 

迫りくるアクシズ教徒の恐怖から双子は悲痛な叫びをあげながら必死に逃げている。

 

「そこのお嬢さんはこの方のご家族なのですか⁉」

 

「それはなんと幸運でしょう!!ぜひともアクシズ教に入信を!!」

 

「お2人とも入信すれば、ご家族まとめて、アクア様のお恵みが齎されるでしょう!!」

 

「ああ、何と幸福なことでしょう!!」

 

アクシズ教徒たちは2人に入信してもらおうと必死な勢いで迫っている。

 

「しかも今ならなんと!!洗剤や石鹸も付いてくる!!」

 

「そしてお得な話、この洗剤、飲めるんです!!!」

 

「飲めるかああああああああ!!!!」

 

「さらにこの石鹸、食べられるんです!!!」

 

必死の勢いでアクシズ教徒から逃げていく双子。この追いかけっこはもう1時間、いや2時間も続いたような。

 

 

ー食えるかああああああああ!!!!-

 

 

ようやく冒険者ギルドにたどり着いたころには、双子はもうすっかりまいっている。2人とも心が死んだように机に突っ伏しており、目にも光が宿っていなかった。

 

「は・・・ははは・・・石鹸や洗剤って・・・飲めるんだね・・・知らなかったよ・・・ははは」(ハイライトオフ)

 

「女神アクア・・・あいつは・・・女神なんかじゃない・・・悪魔の生まれ変わりよ・・・」(ハイライトオフ)

 

アクシズ教徒に振り回された双子は夕方になるまでこの状態が続いたような。

 

 

ーこのすば・・・-

 

 

「へぇっくしょん!・・・誰か、女神である私の悪口を言ったような気がするわ」

 

「おらぁ!カズマ!手が止まってるぞ!働けぇ!!」

 

「は、はいぃ!!」

 

「おーい、お嬢ちゃん、こっちに水を頼むー」

 

「あ、はーい」




次回予告的なもの

ティアです・・・定時報告です・・・。

アクセルの街は魔窟のような場所でした・・・。一見すれば、街もにぎやかですし、食べ物もおいしいです・・・。ウィズも優しくて、温かくて、とても居心地がよかったです。でもそれ以上にこの街に住むアクシズ教徒は怖いです・・・。たった数日で、砂漠に帰りたくなってきました・・・。ああ・・・アクシズ教徒に呪いを・・・。

報告書作成者、ティア

頭の一言:アルカンレティアの方が地獄だからまだマシだ!!

次回、この異世界転生者に駄女神を


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この異世界転生者に駄女神を!

アクセルの街の冒険者ギルド、双子はここでの初めてのクエストにとりかかろうとクエストボードを確認している。

 

「さて、今日から初めてのクエストだけど・・・どれにする?」

 

「そうね・・・とりあえず、まずは近場に慣れるっていう意味を込めて、極めて簡単なクエストにしましょうか」

 

「私たち、ここに来てまだ日が浅いもんね、異議はないよ」

 

まだこのアクセル領地を深く知らない双子は高難易度のクエストはやめて、近場でもこなせそうな低難易度クエストを選択することにする。

 

「でも問題はパーティはどうするの?私たちだけじゃまともにこなせないよ?」

 

この双子特有の喧嘩は仕事に支障が出るほどなのだから2人だけでクエストに行くのは得策ではない。それは砂漠で仕事をこなしてきたからよく理解しているから断言できる。彼女らに必要なのは彼女らを導くことができる指導者なのだと。

 

「そうね。とりあえずクエストを選んだらすぐにパーティ募集を見るわよ」

 

「話は聞かせてもらったぜ!」

 

その会話を聞いていたのかすぐ隣にいた冒険者が待ってましたと言わんばかりに声をかけてきた。

 

「砂漠のお嬢ちゃんたち、一稼ぎしようってんなら、俺たちのパーティがおすすめだぜ」

 

「そうそう、俺たちとパーティを組めよ。そしたら、金なんて溜まり放題だぜ?」

 

「こう見えても俺たちは、このギルドじゃそこそこの強さを誇る。熟練者のあんたたちなら、わかるよな?」

 

このパーティご一行は双子がこのギルドに来た時から双子をずっと目をつけていた。自分たちの金の稼ぎの役に立ちそうという簡単な理由を持っていたからだ。

 

「といってもねぇ・・・」

 

「あんたたち、シーフっていう上級職なんだろ?だったら大丈夫さ。あんたたちさえいれば、どんなクエストでも楽勝さ」

 

いかにも根拠のない発言だが、能力を認めているというのは間違いないだろう。・・・この双子ならではの問題があるということも知らずにだが。

 

「あら、中々にわかってるじゃない。そうよ、私なら討伐でも採掘でも楽勝よ」

 

「お姉ちゃん?」

 

アカメはこの強者パーティに賛同的だが、ティアはなんだか不安を覚えている。すると、一部始終を聞いていた他のパーティが割って入ってきた。

 

「ちょっとあんたたち!またそうやってまた変に取り込もうとして・・・絶対にダメだからね!」

 

「なああんたら、こいつらのパーティはやめた方がいい。こいつらはベテランに取り入ろうとするどうしようもない奴らなんだ。自分たちの稼ぎのことしか考えてない」

 

「僕たちの元に来るといい。一から経験を積んで、一緒にアクセル領地を知っていこう」

 

どうやらこのパーティは双子たちを心配してこうしてパーティを誘ってくれているようだ。当然ながらこの割り込みに強者パーティは反論する。

 

「はあ?別に1人締めしようってわけじゃねぇんだからいいだろうが。つか経験者なら一からとか、必要ねぇだろ」

 

「経験者だとかそんなのは関係ない!彼女たちはここに来たばかりなんだ。ならまずこの場所を慣れさせてからでも遅くはないはずだ!」

 

「どうせあんたたちは上級職が相手ならなんだって構わないから媚びを売ってるんでしょ!」

 

「ああ!!?誰でもいいわけねぇだろ!この間連れていった頭のおかしい爆裂娘のせいで俺たちは偉い目にあったんだぞ!」

 

「ちゃんと話を聞かないからそうなるんだ!」

 

「なら聞くが、お前は自分を女神とか言い張ってる残念な新人を連れていきたいと思うか⁉」

 

「それは・・・私たちも嫌だけど・・・どうもアクシズ教関連みたいだし・・・」

 

お互いの方針が全く異なっているために、強者パーティと慎重派パーティは言い争いをしている。その間に双子は少し話し合う。

 

「ねぇお姉ちゃん、この人たちの言うとおり、一から経験を積んだ方がいいって。私たち、まだこの地を知らないんだよ?」

 

「何よティア、怖気ついたとでもいうの?情けないわね。それでも私の妹かしら」

 

「そうじゃなくって!いきなり遠くへ行くのはリスクが高いって言ってるの!わっかんないかなぁ!」

 

「じゃああんたは大儲けしたくないわけ?私たちの生活にもきっと潤うはずなのに?」

 

「そりゃしたいけど、別にそんなドカンと一発勝負じゃなくてもいいじゃん!地道にやっていこうよ、ね?」

 

「人生はギャンブルというでしょ?」

 

双子の話し合いがだんだんとヒートアップしていっている。

 

「あ、あのー・・・お2人さん?」

 

「もうそろそろ・・・」

 

それに気づいた両パーティも恐る恐る止めているが、聞く耳が持たない。そしてついには・・・

 

「いい加減にしろって言ってるでしょ!!何で私の言うことを聞けないのよこの【ピーーッ】の【ピーッ】の【ピーッ】が!!」

 

「お姉ちゃんが自分勝手すぎるから言ってるんでしょこのすっとこどっこい!!放送禁止用語の達人!!」

 

『・・・・・・』

 

この激しい取っ組み合いを見て周りの冒険者は厄介ごとに巻き込まれないように他人事だと装ってる。パーティに誘ってきた両メンバーも若干ながら後悔している。

 

「もういい!!勝手にすれば?私はこの人たちと安全にお仕事をこなすから!!」

 

「え?あ、ありが・・・とう・・・?」

 

ティアは慎重派のパーティに入ることを決めたようで慎重派のパーティはどう反応すればいいかわからなかった。

 

「あっそ、好きにすればいいじゃない。私はこいつらと大物を狙い続けてやるわ」

 

「お、おう・・・?そいつは・・・頼もしい・・・な・・・?」

 

アカメは強者パーティに参加を決め、こちらも同様、何がどうなっているかわからなかった。両パーティたちは別々になった双子たちを交互を見る。

 

「いいよそんなわからず屋は。どうにも、そっちの野蛮人と一緒の方がいいみたいだし」

 

「は、はぁ・・・」

 

「そんな臆病者は放っておきなさい。どうせまともな戦力にもなりはしないのだから」

 

「お、おう・・・」

 

アカメとティアはそれぞれのパーティから離れさせるように促し、パーティリーダーを連れ歩く。

 

「あー・・・えーっと・・・なんか当初の予定と外れたが・・・気を取り直して・・・今回俺たちが受けるクエストは一撃熊の討伐だ!俺たちのパーティじゃ勝てることはなかったが、俺たちにはベテランのシーフが来てくれた!その知識さえあれば、もう怖い者なしだ!!」

 

「任せておきなさい、どんな相手だろうと、私がいれば一捻りよ」

 

「おおお!!なんて頼もしいんだ!!」

 

「この人さえいれば、俺たちは無敵だ!!」

 

強者パーティはアカメが入ってくれたことにたいして大きく喜びを見せている。一方の慎重派のパーティはというと・・・

 

「えーっと・・・何が何だかよくわからないけど・・・とりあえずはいったんは私たちと同じパーティにいるってことでいいんだよね?」

 

「もちろん!あんなんがいたら気が休まらないし」

 

「ああ・・・まあ、いいならいいが・・・。じゃあ気を取り直して・・・。今回受けるクエストは採掘クエストだ。目的の鉱石を必要数納品すれば依頼達成だ。洞窟は何があるかはわからないからな。シーフの探索スキル、当てにさせてもらうぞ」

 

「任せて!しっかりサポートしてみせるから!」

 

慎重派も慎重派でティアの能力を期待はしているようだ。

 

「よーし!さっそく行くぞぉ!!俺たちの未来は明るい!!」

 

「時間が惜しい、早く行こう。日によって危険が高くなるかもしれん」

 

話がまとまったところで両チームはそれぞれのクエストに向かいに行くのだった。その際双子はお互いを睨みあう。

 

「「ふん!!」」

 

だがすぐにそっぽを向き、それぞれのパーティの元へ行き、クエストへと出かけるのであった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

それから数日後、夕方ごろのウィズ魔道具店・・・

 

「「大変申し訳ございませんでした!!」」

 

リビングで双子がお互いに向かって土下座をして謝っている姿が映し出された。その姿を見ているウィズは困惑している。

 

「あ、あの・・・アカメさん、いったい、何があったのでしょうか・・・」

 

アカメが言うにはこうだ。先日の一撃熊の討伐に向かった強者パーティご一行についていったアカメは一撃熊を倒そうと試みた。だが、一撃熊の攻撃は全て避けることができたのだが、どういうわけか攻撃スキルが全て一撃熊には当たらなかった。しかも、隙ができて動きが止まっているのにも関わらずにだ。それだけでも苦労しているのに、攻撃スキルによる轟音によって、途中で初心者殺しが現れ、散々だったらしい。それによってクエストは大失敗、その後も討伐クエストに何度も出かけたのだが、どれもこれも結果は散々だったらしい。いよいよ使えないと判断した強者パーティはアカメをパーティから除名し、今に至る。

 

「そ、それで、ティアさんの方は・・・」

 

ティアの方はというと、クエストに必要な鉱石が出る洞窟へと向かったのだが、そこでティアは敵感知スキルや罠感知スキルを使って安全を確認しながら奥へと進んでいった。だがそのスキルはどれも完全に発揮することができず、採掘の途中でモンスターが現れ、危険を晒されたり、感知できなかった罠を踏んでしまい、危険な目にあってしまい、こちらも散々だったらしい。その後も簡単なクエストを受けたようなのだが、結果は同じだったそうだ。さすがに命が危ないとのことで慎重派のパーティはティアをパーティに除名して、今に至る。

 

「・・・私は改めて思ったのよ。意見や主張が違っていても、私にはやっぱり妹であるあんたが必要なのであると」

 

「そうだね・・・事あるごとに喧嘩をしたり争ったりするけど、私が万全な状態でいるにはお姉ちゃんが必要なんだとわかったよ」

 

「これからはお互いに、協力していきましょう・・・」

 

「それは保証しかねないけど・・・頑張っていこう、お姉ちゃん・・・」

 

アカメとティアはお互いに手を取り合い、笑顔で笑っている。だが笑ってはいるが、これまでの振る舞いが許せないのか、互いにキリキリと手を握る力を強めている。

 

「あのぅ・・・それで、パーティに入る当てはあるのですか?」

 

「ないけれど何とかするしかないよ」

 

「ええ。とりあえず明日にでもパーティ募集の張り紙でも見てみるわ」

 

「お2人が天職と言えるパーティに巡り合えることを、私は祈ってますよ」

 

「ありがとう・・・気持ちが楽になったよ」

 

「ま、期待してて祈ってちょうだい」

 

いろいろと災難はあったものの、一応?は双子の結束が固まって、より一層絆が団結したのである。・・・多分。

 

 

ーこのすば!ー

 

翌日、本格的にパーティに入れてもらえるような人材を探すためにパーティ募集の張り紙を1つ1つ見ていく双子。

 

「とにかく何でもいいから入れてもらえそうなやつを見つけようよ」

 

「・・・でも、これは中々に厳しいわよ・・・。これを見てみなさい」

 

アカメは1つのパーティ募集の張り紙をティアに見せる。文面自体は普通の募集となんら変わりはない。だが問題はその注意書きだ。注意書きにはこう書いてある。

 

『ただし、仲違い双子、頭のおかしい爆裂娘、ドMはお断り!』

 

「・・・他のはともかく・・・この仲違い双子って・・・」

 

「完全に私たちのことね・・・」

 

姉妹喧嘩の仲裁を面倒がってか、それとも、2つのパーティのような危険を恐れてかは知らないが、双子の噂は瞬く間に広まり、誰も双子を雇ってくれそうなものがない。

 

「全く、命の危険があるからって、とんだ薄情な奴らね」

 

「これじゃあアヌビスにいたころと全く変わらないよぅ・・・」

 

「あの時はお頭が仲間を連れてきてくれたから何とかなったけども・・・」

 

「お頭の存在が本当にありがたく感じるよ・・・」

 

アヌビスの方ではネクサスが双子の仕事のために何人かをついていくように指示していたが今回ばかりは違う。その頼れるネクサスはいない。自力でなんとかして仲間を作らなければならないのだ。とはいえ、双子のギルドでの評判はガタ落ち、難しいことであるのは事実である。

 

「本当どうしよう・・・このままじゃ仕事に出かけることもできないし・・・ウィズにも迷惑が・・・」

 

「ん・・・?いや、ちょっと待ちなさい。1つだけ私たちを否定しないものがあったわ」

 

「え!嘘⁉どれ⁉」

 

アカメが1つだけパーティに加われそうな紙を見つけ、それをティアに見せる。その内容は上級職に限るが、どんな人材でもOKとのことだ。しかも、お断りのことは何も書いていない。

 

「本当だ・・・お姉ちゃん!これって!」

 

「ええ・・・ようやく、私たちにまともな仕事ができるってわけよ・・・。こんなチャンス、逃す手はないわ」

 

「でも・・・もしも私たちを除名って言われたら・・・」

 

「その時はあの手この手を使って、無理やりにでもパーティに居座ってやるわ。例え除名されたって、弱みなんて、誰にだってあるもの。それを速攻で見つけてだして・・・」

 

「さすがはお姉ちゃん!卑怯なことを実践するその心意気さえあれば、きっといけるよね!」

 

「そう褒めなくてもいいわよ。さてと・・・ちょっといいかしら?」

 

さっそくこれを張り出した人物を特定するために近くを通りかかった受付嬢、ルナに声をかける。

 

「はい、どうされましたか?」

 

「この募集を張り出した奴って今どこにいるのかしら?」

 

「ああ、それでしたら・・・ほら、ちょうどあそこに・・・」

 

ルナが指した場所には、もう何時間も待っているであろう人物たちがいた。1人はこの世界では見たことがない服装、ジャージを着こんだ男、もう1人は美しい長い青い髪、青い服を着こんだ女がそこにはいた。どうも彼らで間違いないようだが、誰も彼らの元には訪れていない。

 

「何よ、いかにも冴えない男じゃない。こんな張り紙を出すのも納得だわ」

 

「でも、もうなりふり構ってる余裕はないよ、お姉ちゃん」

 

「わかってるわ。教えてくれてありがとう」

 

多少のことは我慢はすると決意して、双子はさっそくこの募集を張り出した2人組の元に近づくのであった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

カズマこと佐藤和真は異世界転生者である。この世界に来る前は日本で自分の家で引きこもっていたが、たまたまが外出していた際に、命を失ってしまったのだ。だが、その死に方がトラックに跳ねられそうになった女子高生を助けて死んだ、なんてかっこいいものではなく、実際にはトラクターをトラックと勘違いし、轢かれたという恐怖心からなる心臓麻痺のショック死という、人類史上の中で最も情けない死に方をした男である。しかも、助けようとしていた女子高生も、カズマが突き飛ばさなければ怪我することもなかったゆえに、何とも不憫な男である。

 

日本で死んだカズマは死者の案内所らしき場所で女神アクアと出会い、3つの選択肢を迫られた。1つはその名の通り、天国に上るということ。天国といってもカズマが思ってるような場所でなく、ただ天国にいったものとおしゃべりするだけの場所である。

 

もう1つは新しい人生としてもう1度生まれ変わられるものである。もちろんその場合は生前の記憶は消されてしまうが。

 

そして最後の選択肢はこの世界に向かい、魔王を討伐するというものである。俗にいう異世界転生である。正しくは転移かもしれないが。もちろんその場合、普通のモンスターがいるために、危険が伴うが、もともとゲーム好きであるカズマは迷わずにこの世界の転生を望んだ。

 

そして、異世界転生の際、何かしらの特典・・・いわばチートをもらえるようなのだが、カズマが選んだ特典はなんと女神アクア、その人物であった。理由としては女神の力で楽できると思ったからだ。全然そんなことはなかったが。もう1つは自分をバカにするその態度が気に入らなかったからその仕返しである。

 

そういう経緯でこの世界に転移してきたカズマとアクアは冒険者として活躍する・・・かと思いきや2人は土木作業員として今の生活を勤しんでいた。数日がたって、さすがに違うと考えたカズマはアクアを連れてクエストを決行・・・したのだが、結果は散々、おまけにアクアは粘液塗れになってしまうという何とも哀れなものだ。

 

これではいけないと思い、パーティ募集の張り紙を張り、上級職で自分のパーティに入ってくれるものを待っているという。ちなみにこれを張り出したのはカズマではなくアクアの方である。結果はご覧通り、誰もが知らんぷりだが。

 

「・・・なぁアクア、さすがにハードルを下げようぜ。どう考えたって上級職は無理があるって」

 

「ううぅぅ・・・だってぇ・・・だってぇ・・・」

 

自分の思い通りの展開になっていないことにアクアはかなり涙目になっている。

 

「このままじゃ本当に誰も来ないぞ?そりゃお前は上級職のアークプリーストだけどよ・・・俺は最弱職の冒険者だ。俺の肩身が狭くなる一方だ。それじゃ困る」

 

カズマはそう言って募集の張り紙の条件を変えようと席を立つと・・・

 

「上級職を求めてるって張り紙を見て来たんだけど」

 

自分たちに話しかけてきた。まさかこの問題ありの張り紙で来るとは思わなかったカズマは目をぎょっとして話しかけてきた人物を見る。

 

1人は身軽そうな左右非対称の赤色の装束を着込み、短い赤い髪を持った少女。

 

もう1人はその少女と全く同じ顔で、左右非対称の青色の装束で短い青い髪を持った少女。

 

そう、この2人はアカメとティアの双子の姉妹である。歳はカズマと同じくらいである。

 

「あんたみたいな冴えない奴と一緒にいるのは少々あれだけど、ま、このベテランの私たちが、あんたたちのパーティに入ってあげてもいいわよ」

 

なんだこの偉そうな態度の女は。カズマは心の中でそう思ってると、ティアが謝罪をする。

 

「ごめん!お姉ちゃんは誰に対してもこうなんだ。不快にさせてしまったら謝るよ」

 

「あ、ああ、気にしてないから大丈夫だ」

 

なんて素直でいい子なんだ!とカズマは心の中で喜びを表している。

 

「一応話は聞いてやるけど・・・とりあえず、なんか頼もうか?」

 

「あ、本当?なら・・・蛙のから揚げを頼もうかな」

 

「私も同じもので。後、シュワシュワもちょうだい」

 

「カズマカズマ!私も蛙のから揚げを頼んでちょうだい!そして私にもシュワシュワを飲ませなさい!」

 

いかにもアカメとアクアが図々しいと思いながらもカズマは蛙のから揚げとシュワシュワを頼んだ。

 

 

ーこのすば!-

 

 

蛙のから揚げとシュワシュワが来たところでアクアはさっそくから揚げにガブリつき、シュワシュワを飲んでご満悦だ。一方の双子はアカメがシュワシュワを飲み、ティアがから揚げを食べて食事を楽しむ。そこでカズマが本題に入る。

 

「まずは自己紹介だな。俺はカズマ。で、こっちがアクア。よろしくな」

 

カズマとアクアの名前を聞いて、双子は珍しい名だと思った。何せカズマの名は先代団長と似たような名前であり、アクアの方はあの悪名高いアクシズ教徒のご神体であるアクアと同じなのだから。まぁ、アクアは本物の女神だが。

 

「私はアカメ、シーフよ」

 

「私はティア。アカメの双子の妹で姉と同じくシーフだよ」

 

「へぇ、2人は双子なのね。通りで同じ顔だと思ったわ」

 

アカメとティアが双子だと聞いてアクアは驚くどころか逆に感心している。

 

「なぁアクア、シーフって上級職なのか?」

 

「ええ。盗賊の上級職ね。盗賊技能が盗賊よりも遥かに上だし、探索や隠密スキルなんて役に立つスキルが盛りだくさんね。もちろん、戦闘に使える武器スキルも多彩よ。雇っておいて損はないと思うわそれに・・・」

 

アクアは双子が着こんでいる服装を見て口を開く。

 

「その衣装を見る限り、アヌビスから来たのは間違いなさそうだし」

 

「アヌビス?」

 

「灼熱の街って呼ばれてる砂漠都市の名前よ。そこの周りにいるモンスターってこの街の外のモンスターと比べると結構レベルが高いのよ。そしてこの子たちがそこ出身ってことは・・・」

 

「かなりレベルが高い冒険者ってことか!!?」

 

まさかの大ベテランが自分たちのパーティに入ってくれるなんて思わなかったカズマは非常に感動した。これで楽ができる、と。

 

「ま、そういうことよ。私たちをパーティに入れれ・・・」

 

「ぜひとも入ってくれ!いや、入ってくださいお願いします!!」

 

アカメが何かを言う前にカズマが土下座をして2人にパーティ入りを懇願している。それを聞いた瞬間、ティアはぱぁと明るい顔になる。

 

「やったねお姉ちゃん!これで・・・これでやっと・・・うぅぅ・・・」

 

「好きなだけ泣きなさい・・・今日は好きなものを何でも頼んでいいから・・・」

 

パーティ入りしたことでうれし涙まで流すティア。そんなティアをなだめるアカメ。パーティ入りでなぜそこまで泣くのか少し気になったが、カズマにとっては些細なことだった。

 

「あのー・・・それで・・・なんですけど・・・」

 

「何よ?地味男。何か言いたいことでも?」

 

「カズマだよ!!いやそうじゃなくて・・・そのぅ・・・実は俺たち今、クエストを受けてるんだけど・・・」

 

「要するに手伝ってほしいの?」

 

「はいそうです」

 

カズマのクエストを手伝ってほしい宣言に双子はやる気を見せている。

 

「もちろん!カズマに私たちの実力、見せつけてあげようよ!」

 

「期待以上の戦果を挙げることを約束するわ」

 

「おおお!!すげぇ頼もしいぜ!!」

 

「うんうん!これで、もうあのカエルなんか恐るるに足りないわ!今こそ、あのカエルにリベンジよ!!」

 

非常に期待が膨らんでいるカズマだが、後々に後悔することになる。なんで、この2人を仲間にしたんだろうと・・・。

 

 

ーこのすば!-

 

 

『討伐クエスト!!

3日以内にジャイアント・トードを10匹倒せ!!

2日目』

 

討伐対象モンスターである巨大なカエル、ジャイアント・トードが現れる平原にやってきたカズマパーティ一行は討伐対象であるジャイアント・トードを2匹発見する。

 

「とりあえず、私たちの実力を見せつけてあげたいんだけど、あのカエルが1匹が邪魔になってるんだよ」

 

「戦闘中に加入されたら面倒よ。1匹は私たちがやるから、あんたたちはそいつの足止めをしてちょうだい」

 

「よしわかった!おいアクア!聞いての通りだ!元何とからしく、しっかりとお前も役に立てよ!」

 

「元何とかってなによ!!言っておくけど私、現在進行形でちゃんと女神なんですけど!!」

 

アクアの放った女神発言に双子は首を傾げる。

 

「「・・・女神?」」

 

「というのがあいつの妄想なんだ。気にしないでくれ」

 

「ちっがうわよ!!妄想なんかじゃなくて私は本物の・・・」

 

「あー・・・アクアって、かわいそうな子だったんだね・・・」

 

「いくら女神アクアと同じ名前だからって・・・本当、哀れね」

 

アクアが本物の女神であると信じていない双子はアクアに同情した顔つきになる。その様子にアクアは涙目になっている。

 

「なぁんでよー!!何で2人とも私をそんなかわいそうな目で見るの!!?私、本当に女神なの!!お願いだから信じてよ!!」

 

「と言われてもね~・・・」

 

「あんたが女神だっていう証拠がないじゃない」

 

女神の証拠と聞いてアクアは急にやる気を見せている。

 

「証拠を見せれば女神だって信じてもらえるのね!!なら見せてやろうじゃない!!女神にしか使えない、とっておきの技を!!」

 

「お、おいちょっと待てアクアーーー!!」

 

アクアはやる気を出してジャイアント・トードに向かって走り出していく。その様子を止めるカズマだがもう遅い。アクアは勢いよくジャンプし・・・

 

「女神の必殺スキル!!ゴッドブレイク!!!!」

 

そのままジャイアント・トードに向かって勢いのついた強力な蹴りを放つ。

 

「ゴッドブレイクとは!!女神の怒りと闘志が合わさった一撃!!相手は死ぬ!!!」

 

「す、すごい・・・あんなスキル、見たことないよ!!」

 

「でもジャイアント・トードって確か・・・」

 

「ご察しの通りだ・・・あのカエルは・・・」

 

ぷよんっ・・・

 

どてっ

 

「打撃が利かない」

 

アクアの放った蹴りはジャイアント・トードに当たったが、その柔らかい肉体が打撃を吸収し、勢いが弱まったアクアはそのまま地面に滑り落ちる。そして、ジャイアント・トードを見上げて一言・・・

 

「・・・ねぇ、よく見たらあなたって、素敵だと思うの」

 

パクッ

 

恐らくは褒めて食べられるのを防ごうとしたのだろうが当然、ジャイアント・トードには通用せず、アクアは空しく食べられてしまう。

 

「「・・・・・・」」

 

なんの活躍もなく無様に食べられるアクアを見て、双子は何とも言えない表情になる。

 

「よし!アクアが1匹のジャイアント・トードの足止めをしてる間に思いっきりやれぇ!!」

 

カズマは仲間であるにもかかわらずアクアをそのまま放置している。何とも薄情である。

 

「わかった!やるよ、お姉ちゃん!」

 

「ええ、カエルごとき、ぶちのめしてやるわ」

 

双子も双子でアクアのあの行動をなかったことにしている。こちらも薄情である。

 

「まずは先手必勝よ。ティア!」

 

「うん!バインド!!」

 

ティアはバインドを放ち、ジャイアント・トードの身動きを取れなくさせる。

 

「スキル発動速度が・・・速い!!」

 

身動きが取れなくなったジャイアント・トードは顔だけをティアに向け、舌を伸ばして捕食しようとする。

 

「ティア!!」

 

「わかってる!!」

 

当然その動きを感知し、ティアはその舌をジャンプして躱し、さらにバインドでジャイアント・トードの首を締め上げる。

 

「げ・・・ゲコ・・・コ・・・」

 

「これでもう舌は伸ばせないはずだよ!お姉ちゃん!!」

 

「必殺の一撃を食らいなさい」

 

完全に動けなくなったジャイアント・トードにアカメは素早い動きで近づき、サンダー・エッジよりも強力な雷を短剣に乗せる。

 

「ライトニング・エッジ!!!」

 

ドオオオオオオオンッ!!

 

サンダーエッジよりも強力な雷の斬撃がジャイアント・トードを包み込み、1匹の討伐を成功させる。

 

「おおお!!速いだけでなく、すげぇ威力だ!!」

 

凄まじい威力にカズマは強く感心している。

 

(双子ってことはティアもアカメと同じくらい強いはずだよな!この2人の強さが合わされば、ジャイアント・トード10匹なんてあっという間・・・いや、もっと高難易度のクエストだってこなせるはずだ!頭がおつむな駄女神を連れて、もうダメかと思ってたけど、いっきに俺の異世界生活の未来は明るくなったぜ!!)

 

カズマが妙な希望を見出していると・・・

 

ボコッ、ボコォ・・・

 

先ほどの轟音で目が覚めたのか、地中に潜っていたジャイアント・トードが姿を現し、カズマたちを捉えた。

 

「へへ!また出たことろで、この2人の敵じゃねぇ!ティア!アカメ!ジャイアント・トードをまとめて片付けてくれ!」

 

「「まとめて?いやそれ、無理だから」」

 

「よーしじゃあ・・・今なんて?」

 

無理発言を聞いたカズマは聞き間違いと思いたかった。されど現実はそうでもなかった。

 

「無理だって言ったのよ。そんなことも聞こえないのかしらこの地味男は」

 

「私たちが相手できるのって、精々1匹ずつでしかないから、複数で来られたら、私たちじゃ対処できないんだ」

 

「い、いやいやいや、だとしてもだ!あいつらは今2匹で来ている!お前ら双子だろ⁉2対2でも対処できるはずだろ⁉同じ戦闘能力なんだろ⁉」

 

「・・・いつ誰が同じ戦闘能力って言ったの?」

 

カズマの勝手な解釈にティアは目が点になる。その様子にカズマも目が点になり、アカメが説明に入る。

 

「何か勘違いしてるようだから言わせてもらうけど・・・ティアは戦闘能力を全く有していないいわばゴミ同然の子よ。この子に戦闘で何かを期待してる時点で、あんたの目論見は大きく外れてるってことよ」

 

「ちょっと。いくら戦闘能力がないからと言って、その言い方はないでしょ?謝ってよ、私をゴミ扱いしたことを謝ってよ」

 

「事実なんだから謝る必要なんかないでしょ」

 

「その態度に謝れって言ってるの!!」

 

「お、おい喧嘩はやめてくれ!・・・っていうかそれだと・・・まさか・・・」

 

また変に喧嘩をしようとする双子にカズマが止めながら、嫌な予感がして、恐る恐るジャイアント・トードに振り向く。ジャイアント・トードは今まさに、カズマたちまで迫ろうとしていた。

 

「・・・お姉ちゃん・・・」

 

「・・・ええ。ここは・・・」

 

「「逃げるが勝ち!!」」

 

「結局こうなるのかよおおおおおおお!!おわあああああああああ!!」

 

アクアと同じ二の舞になるのを避けるため双子とカズマは2匹のジャイアント・トードから必死に逃げ回る。

 

「やばいやばいやばい!!カエルに飲み込まれるなんて、俺はごめんだぞ!!」

 

3人は必死にジャイアント・トードから逃げるが、ジャイアント・トードは執念深いように、3人の追跡を諦めない。

 

「カズマカズマ!!」

 

「カズマですが何か!!?」

 

「君の犠牲は忘れないよ!!」

 

「はっ!!?」

 

ゲシッ!!

 

「ぐえぇ!!?」

 

必死に逃げていたティアは隣にいたカズマを蹴り上げる。ティアに蹴られたカズマはごろんと転げる。飲み込まれたくない必死さでここでティアの腹黒い部分が出てしまった瞬間である。

 

「こ、こいつやりやがったな!!?いくらカエルに飲み込まれたくないからって仲間を・・・」

 

カズマが起き上がろうとした時、ジャイアント・トードはすでにカズマの目の前まで迫っている。それを見たカズマは冷や汗をかいて・・・

 

「いいいいいいいいいやああああああああああああ!!!!」

 

すぐさまに起き上がり、ジャイアント・トードから逃げていく。1匹はカズマに夢中になったが、もう1匹はまだ双子を追いかけている。そして、ティアはこう思った。

 

(ここでお姉ちゃんも犠牲にすれば、私は飲み込まれずに済む!!)

 

腹黒ティアはさっそく実践に移そうと、さっきの段階と同じように、アカメを蹴り上げようとする。

 

「あああっと!!足が滑ったーーー!!」

 

「させるかあああああああ!!」

 

ところが、さすがは双子と言ったところか。ティアの考えはアカメには丸わかりであり、ティアの蹴り上げた足をアカメは蹴りで受け止める。

 

「ちっ!引っかかると思ったのに!」

 

「あんたの考えなんて最初から丸わかりよ!なーにが協力しよう、よ!思いっきり裏切り行為をしているじゃない!」

 

「協力しようって言ったのはお姉ちゃんじゃん!お姉ちゃんだって同じ立場だったら同じことするくせに!」

 

「はあ?自分の身を自分で守って何が悪いのよ?そこに仲間とか妹とか関係ないわよ!」

 

「ついには言い切ったね!!この人でなし!!」

 

「腹黒のあんたには言われたくないわよ!!」

 

ジャイアント・トードに追われている状況だというのに双子は立ち止まって喧嘩を始めてしまう。それを見たカズマはさっきまでの良好な関係はどこに行ったんだと言わんばかりの顔をしている。この騒動に気付いたカズマ側のジャイアント・トードは立ち止まり、双子を見つめる。

 

「人でなし人でなし人でなし!!」

 

「1番の人でなしは何も言わずに平然と裏切るあんたの方よ!」

 

喧嘩している間にも双子側のジャイアント・トードは双子まで辿り着き、そして・・・

 

パクッ

 

「あ・・・」

 

ティアはぱくりと食われてしまう。そして、それと同時にカズマ側のジャイアント・トードは舌を伸ばし、アカメを捕まえ・・・

 

「あっ⁉あああああああ!!!」

 

パクッ

 

そのままぱくりと食われてしまう。ティアの方は自業自得であり、アカメの方は妹の責任は姉の責任、いわば連帯責任である。仲間が全員食われているこの光景はカズマが昨日見た光景と全く同じであった。

 

「お・・・お前らあああああああああ!!!!」

 

カズマは食われた仲間を救出しに、ジャイアント・トードに剣を振るい放った。

 

 

ーこのすばぁ!!!-

 

結局、この2日目でジャイアント・トードを10匹倒すことは叶わず、討伐した数はカズマが昨日討伐したのを合わせれば6匹、クエスト達成には程遠い。しかもクエストの期限は明日まで。いよいよ本格的にやばくなってきている状況だ。

 

「うっ・・・うぐっ・・・ぐすっ・・・生臭いよぅ・・・生臭いよぅ・・・」

 

「あ?」

 

「お?」

 

夕方になり、とりあえずアクセルまで戻ってきたカズマたちはアクセルの街に戻ってきたカズマたち一行。カズマの後ろにいるアクアはさっきからめそめそ泣いているし、双子は互いに睨みあっていてなかなかにないシュールな絵だ。

 

「はぁ・・・とりあえず今後の戦闘面ではアカメを頼りにしてだな・・・えーっと・・・ティアは何が得意分野なんだ?」

 

「え?私は今日みたいなサポート・・・それから、ダンジョンの探索が結構得意、かな?」

 

「じゃあこれからは喧嘩しないように、討伐クエストはアカメを連れていって、探索クエストはティアを連れていくようにするか。それなら思う存分自分の能力を発揮できるだろ?」

 

「残念なことに、それは無理よ」

 

効率のいい提案をカズマが提案するとアカメはそれを否定した。その様子に訝し気になる。

 

「は?なんでだよ?何か問題があるのか?」

 

「私たちはその・・・姉妹揃ってないと使えるスキルが中途半端になっちゃって・・・思うような効果が発揮できなくなるんだよ」

 

「ただ揃ってるだけじゃダメよ。私とティアの意志がちゃんと合わさっていないと中途半端になってしまうのよ」

 

「・・・てことは何か?お前ら・・・個人だけじゃまともに仕事をこなせないってことなのか?」

 

「結果的にそうなっちゃうね・・・。これまでも別々のパーティで仕事をやってたら散々な結果になったし・・・てへぺろ」

 

「これでわかったでしょ?効率を求めるなら、私たちをちゃんと連れていった方がいいわ」

 

まさか双子が個人だけでは全く役に立たないお荷物になると聞いて、カズマは落胆する。そしてアクアはというと・・・

 

「素晴らしい!実に素晴らしいわ!歪な間柄でも、互いの欠点を補い、姉妹を助け合う!なんという美しい姉妹関係なのかしら!私は感動したわ!」

 

「へへ、ありがとう。そう言ってくれるのはアクアが初めてだよ」

 

「あら、ちゃんとわかっているじゃないアクア。あんたのこと、見直したわ」

 

妙に感動して双子を称えている。当の双子たちもまんざらではない様子だ。だがカズマだけは訝し気だ。

 

(ダメだこいつら・・・。ただでさえこいつらの仲が悪いのに、こいつらの意志を1つに合わせるだと?そこまで気を配ってたらこっちの苦労が増えるばかりだ!そんな苦労はこの駄女神だけで十分だ!)

 

そこまで考えるとカズマは決断する。この双子をパーティから外そうと。

 

「あー、そうかー。よくわかったよ。俺たちのクエストをここまで手伝ってくれて、ありがとなー。後は自分たちだけでも何とかなりそうだー。仕事が終わったら報酬は山分けしてあげるからさ。おっと、俺たちはこっちだから。そっちも茨の道だろうけど、達者でなー。機会があればまた・・・」

 

カズマは遠回しに双子をパーティから除名するようなことを言ってその場を去ろうとした時、双子はそれぞれカズマの右腕、左腕を掴んで引き留めている。

 

「カズマ、ここは乗り掛かった船だしさ、最後までクエストは付き合うよ。持ちつ持たれつっていうでしょ?」

 

「ありがとう。でもこれ以上ベテラン様にご迷惑になるわけにもいかないし、俺たちは弱小冒険者らしく、地道にコツコツとやっていくからさ。きっとお前らでもやっていけるパーティが見つかるはずさ」

 

「あら、あんた随分都合のいいことを言うじゃない。あんた、自分で言ったことを忘れたのかしら?私たちをあんたらの仲間に入れてほしいって」

 

「ああ、言ったさ。でもな、よく考えてほしい。そっちはベテランで上級職のシーフ、俺は初心者で最弱職の冒険者、どう考えたって俺たちと釣り合うのは難しいだろ?」

 

双子は何とかカズマのパーティに居座ろうと考えているが、カズマの意志は変わらず、双子を追い出そうとしている。そして、互いに沈黙し・・・

 

「わーん!!お願いだから私たちを見捨てないでよ!!この街で私たちの評判がガタ落ちして、誰も私たちをパーティに誘ってくれないんだよー!!カズマだけが頼りなんだよー!!」

 

「ええい!!離せえ!!どうせそんなこったろうと思ったよ!!自業自得だ!!パーティに加入してほしかったらすぐに喧嘩を引き起こそうとするお前ら姉妹関係をどうにかしてから言え!!お前らの姉妹喧嘩の仲裁に巻き込まれるなんてごめんだ!!」

 

「あんたどうしようもないクズね。こんなにかわいらしい美少女がこんなに頼み込んでいるのに、平気な顔をして断ろうとするなんて、恥を知りなさい」

 

「俺は真の男女平等主義者で女でもドロップキックをかませられる、カズマさんだぞ!都合の悪いときに美少女と名乗ってかわい子ぶって同情を引こうとしてもそうはいくか!クズと呼ぶならそう呼べ!俺は決して曲げたりしないぞ!!」

 

あまりにも固い意志を持つカズマに普通の手段じゃダメだと判断したアカメは手を放し、未だにカズマの手を引っ張っているティアに耳打ちをする。内容を聞いたティアはアカメと共に首を縦に頷き、カズマの手を放す。

 

「はぁ、やっと理解してくれたか。それじゃあ・・・」

 

カズマが手を放してくれたのを安心して去ろうとすると・・・

 

「お兄ちゃん!ひどい!!私たちを・・・こんなにヌルヌルにしておいて、飽きたら捨てるだなんて・・・あんまりだあああああ!!」

 

「んなぁっ!!?」

 

ティアがカズマを兄さん呼びをして、周りの住民に聞こえるようにわざとらしく被害者ぶって大きな声をあげる。それにはカズマは動揺を隠せない。

 

「私・・・お兄ちゃんを喜ばせるのに必死だったのにぃ・・・だからこんなヌルヌルにも我慢したのむぐっ!」

 

「だあああああ!!黙れえええええ!!誤解されるだろおおおお!!」

 

これ以上の被害者面されるとこの街の拠り所がなくなることを恐れたカズマはすぐにティアの口をふさぐが、それだけでは止まらない。アカメもいるからだ

 

「見損なったわ兄さん!!私たちをヌルヌルを使って、あーんなことや、こーんなことをしておいて・・・私たち兄妹の絆はそんな薄情なものだったの!!?」

 

「そのヌルヌルはカエルに食われた結果だろ!!そして俺はお前らの兄貴じゃねぇ!!」

 

どうにか黙らせようと奮闘しようとするカズマに街の人のひそひそ話が聞こえてきた。

 

「やだ、あの男・・・自分の妹を粘液塗れにしておいて、捨てようとしているわ」

 

「隣のあの子だってヌルヌルの粘液塗れよ・・・」

 

「とんだクズの変態野郎ね。自分の欲望のためならなんだってする鬼畜な男に違いないわ」

 

間違いなくあらぬ誤解を生みだしてしまったカズマはかなり冷や汗をかいている。双子の顔を見てみると、してやったりといった顔をしている。

 

「お兄ちゃあん・・・ティアを見捨てないでぇ・・・」

 

「兄さん・・・アカメも見捨てないでよ・・・どんな変態プレイにも耐え・・・」

 

「よーーし!!わかったーー!!今後ともよろしくなー2人とも!!」

 

これ以上の風評被害を避けるため、結局カズマは双子のパーティ入りを認めることとなった。

 

 

ーこのすばー

 

 

「ウィズー、ただいまー」

 

「ほ、ほええええ!!?アカメさん!ティアさん!どうして粘液塗れになってるんですか!!?」

 

「ああ・・・とりあえず、シャワー、使わせてちょうだい」




次回予告的なもの

拝啓、お父さん、お母さん、カズマです。

僕は今、異世界までやってきています。まるで生まれ変わったように清々しい気持ちでいっぱいです。
家も仕事も見つかって気力十分です。
僕には新しい仲間もできたし、そして何より、女神様が付いているんです。だから、心配なんてしなくてもいいんですよ。
大丈夫・・・大丈夫・・・多分・・・。

仲間の会話
ティア「家ってどこに住んでるの?」
アカメ「どうせカズマのことよ、馬小屋かなんかでしょ?」
アクア「ちょっとカズマ、もう会えないのに家族の手紙なんか書いててちょー受けるんですけどー、プークスクスw」
カズマ「なんで住まいを知ってんだよ!?後アクア、お前は後で絶対に泣かす!」

次回、この中二病に爆焔を!


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ああ、駄女神様
この中二病に爆焔を!


ジャイアント・トード10匹討伐クエスト2日目の翌日、カズマのパーティに加わった双子はまだ達成していないクエストを果たすために、ひとまずパーティリーダーであるカズマの元へと向かう。冒険者ギルドを見回していると・・・

 

「もっと仲間を募集しましょう!それしか方法はないわ!」

 

やたらと元気のあるアクアの声が聞こえてきた。何やらカズマと話をしていたようだ。

 

「おはよー。カズマ、アクア、朝から早いね」

 

「あら、遅かったじゃないアカメ、ティア。作戦会議はもうすでに始まってるわよ」

 

「いつから作戦会議になったんだよ」

 

「で、何の話をしていたのよ」

 

アカメの問いかけにカズマが答える。

 

「パーティ募集の話を急にアクアが言い出してな」

 

「昨日から考えてたの。確かに、アカメとティアの能力は非常に素晴らしいわ。でもね、昨日クリアできると踏んでいたのに、結果はギリギリまで持ち込んでしまったわ。この調子では、最終日の今日にクエストできなくなるかもしれないの」

 

「それで?」

 

「悩みに悩んで、私は自身の過ちに気付いたわ!私たちのパーティは、まだまだ未完成であったと!その未完成を埋めるためには、もっと強力な仲間が必要なのよ!」

 

「で、このバカは今日も仲間を募集するって言い張ってるんだよ」

 

力説するアクアにカズマがドライに補足を入れる。バカ発言が気に入らなかったアクアはカズマに突っかかる。

 

「ああ!!カズマ、今私のことバカって言った⁉私は崇高な存在である女神なのよ⁉人とは違う存在なの!!謝ってよ!私のことバカって言ったこと謝ってよ!!」

 

「ああ・・・鬱陶しい・・・」

 

アクアの女神云々の話は置いて、双子は仲間募集には大いに賛成している。

 

「アクアが女神というのはともかく、仲間募集は私も賛成かな」

 

「そうね。仲間がもっといれば、私の活躍の場面を、引き出せるかもしれないわ」

 

活躍どころか足を引っ張るかもしれないがなとカズマは思ったが、面倒事を避けるためにあえて口には出さない。

 

「で、どうやって仲間を集めるのよ」

 

「もしかして、私たちが見つけたあの張り紙をまだ使うの?」

 

ティアが言っているあの張り紙とは、アクアが張り付けた上級職のみ募集のあの紙だ。

 

「俺はあの募集を捨てて、新しいのがいいんだが・・・」

 

「何言ってるのよ!昨日こうしてアカメとティアがやってきたのよ!てことはまだまだ上級職がいるはずよ!昨日みたいにじーっと待っていれば、きっと私の魅力に気づいて、パーティに入れてください、て懇願してくるに違いないわ!」

 

「・・・とまぁ、昨日お前らが来たおかげで調子に乗ったアクアが断固として曲げなくなったんだよ」

 

「・・・私はいい張り紙だと思うけどな」

 

「そうね。スリルとロマンスがあっていいじゃない」

 

「2人ともわかってるじゃない!」

 

「え?この中で空気読めてないのって、俺だけ?俺だけが頭がおかしいのか?」

 

あの張り紙に好印象を持っているアカメとティアの発言を聞いて、自分は頭がおかしいんじゃないのかって疑いを持ち始めるカズマ。

 

「ま、こうして待っていたら、いずれ来るわよ」

 

「そんな簡単にいくとは俺は思えないんだが・・・」

 

とりあえずは仲間を待つということで話がまとまったが、カズマは絶対に来るはずがないと考えている。

 

「ねぇ、このパーティにどんな人が来てくれたら嬉しい?」

 

「そんなの決まってるわ!」

 

唐突にティアの発言にアクアは自信満々に答える。

 

「そんなの、上級職全部に決まっているじゃない!大勢いれば、私を楽させてくれそうだし!あ、でも、アークプリーストはダメよ?すでに私という、美しく優秀なアークプリーストがここにいるんですもの!」

 

この会話だけでアクアがどういう人物なのかすぐにわかった双子である。

 

「そういうティアはどんな奴が来てくれたらいいんだ?」

 

「私?うーん・・・やっぱり、アーチャー、かな?弓兵がいれば、私もみんなのサポートに専念することができそうだし。お姉ちゃんは?」

 

「当然、クルセイダーよ。肉か・・・じゃなくて、盾役の人材がいれば、安心して攻撃に専念することができるじゃない」

 

「今肉壁って言いかけたよな?」

 

「気のせいよ」

 

双子はそれなりの理由を持っているからこそ、できるだけ先ほど述べた職業、もしくはスキルを持った人材には来てほしいと願っているようだ。アカメが肉壁と言いかけたことをカズマは気になっていたが。

 

「で?カズマはどんな人材が欲しいのよ?」

 

「俺か?俺も最初は戦士系の職業がいいって思ってたけど、アカメの攻撃力はそれの群を抜いてたから今は戦士はいいかな。そうなってくるとやっぱり遠距離攻撃ができる、優秀な魔法使いが希望だな」

 

カズマたちどんな人材がパーティに入ってくれたら嬉しいかと話していると・・・

 

「上級職の冒険者募集を見て来たのですが、よろしいでしょうか」

 

このパーティに入ってくれそうな人物が声をかけてきた。声をかけてきた人物は、赤い服に黒マントに黒ローブを着込んだ、杖にトンガリ帽子を羽織った少女・・・というかロリっ子魔法使いだ。

 

「あなた今、優秀な魔法使いが欲しいと、そう仰いましたね?ふっふっふ・・・この邂逅は世界が選択せし定め・・・私も・・・あなた方のような人たちの出現を待ち望んでいた!」

 

そしてロリっ子は突如マントをバサッと翻した。

 

「我が名はめぐみん!!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操りし者!!」

 

ロリっ子魔法使い・・・めぐみんはあまりに中二くさい自己紹介にカズマとアクア、アカメは何とも言えない表情になっている。

 

「えっと・・・」

 

「ふっ・・・あまりの強大さゆえ、世界に疎まれし禁断の力を、汝は欲するか」

 

「は?」

 

「ならば、我と共に深淵を覗く覚悟をせよ。人が深淵を覗く時、深淵もまた、人を覗いているのだ」

 

めぐみんの中二くさい発言の連発に、カズマとアカメは冷めた顔でこう一言。

 

「「・・・・・・冷やかしに来たのか(かしら)?」」

 

「ち、違うわい!!」

 

どうも冷やかしに来ているわけではないようだが、めぐみんの発言は3人からすれば胡散臭いことこの上ない。すると、さっきからプルプルと震えているティアが一言・・・。

 

「・・・かっこいい・・・」

 

「「は!!?」」

 

「はぁ・・・」

 

ティアのかっこいい発言にカズマとアクアは信じられない目つきになっている。アカメは少しあきれたような顔になっている。かっこいい発言を聞いためぐみんは感極まっている。

 

「お・・・おおおお!!あ、あなた・・・本当に私のこの、かっこいいセリフを、本気で!!そう思ってくれてるのですか!!?」

 

「もちろんだよ!私も常々から、紅魔族の名乗りをずっと、ずぅーっと考えているくらいだもん!むしろ、かっこいいと思わない方が頭おかしいよ!」

 

「悪かったわね、私たちが頭おかしくて。後ティア、紅魔族の名乗りは恥ずかしいからやめなさい」

 

「おおおおおお!!今日というこの日まで生きてきましたが・・・外の世界の人間でそんな風に言ってくれる方は、あなたが初めてですよ!!我が同志よ!!」

 

めぐみんとティアは互いに意見が合っているのかお互いにグッドサインを送って互いを称え合っている。

 

「えっとアカメさん?ティアさんはいったいどういう・・・」

 

「見ての通りよ。ティアは今目の前にいる子並みのセンスの持ち主で、ああいう胡散臭い発言が好みなのよ」

 

「マジかー・・・」

 

カズマの問いにアカメが答える。ただでさえ腹黒さを持ったポンコツなのに中二設定が好きとか、もうダメかもしんないと思ったカズマである。

 

「あら?その黒い髪に紅の瞳・・・あなた紅魔族ね?」

 

アクアがロリっ子の特徴に気が付いたのかめぐみんにそう尋ねる。

 

「あっ!本当だ!紅魔族の特徴と一致してる!」

 

「へぇ、あんた紅魔族なのね。通りで・・・」

 

双子もめぐみんの特徴に気付いたのか納得した声をあげる。この中で唯一わかっていないのはカズマだけだ。

 

「いかにも!!我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の魔法、爆裂魔法は山をも崩し、岩をも砕く!!・・・というわけで、優秀な魔法使いが今目の前にいますよ?ぜひともパーティに入れてください」

 

めぐみんがそこまで言うと・・・

 

くぅ~・・・

 

めぐみんのお腹からかわいらしいお腹の音が聞こえてきた。

 

「・・・後、ずぅずぅしいお願いだと思うのですが、何か食べさせてくれませんか?もう3日も何も食べていないのです」

 

「飯を奢るのはいいけどさ、その眼帯はなんだ?怪我をしているのなら、こいつに治してもらったらどうだ?こいつ、回復魔法だけは得意だから」

 

「だけ!!?今だけって言ったこのヒキニート!!」

 

「ひ、ヒキニートじゃないから!!」

 

カズマの発言にアクアが突っかかってきたのは置いておいて、めぐみんのつけている眼帯について話を振られると、めぐみんは不敵に笑う。

 

「ふっ・・・これは我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテム。もしこれが外されることがあれば・・・その時はこの世に大いなる災厄が齎されるであろう・・・」

 

「さ、災厄・・・!封印的なもの・・・なの?」

 

「へぇ。じゃあどんな災厄が降りかかるか、見せてもらおうじゃない」

 

めぐみんの眼帯の説明にティアは大いにワクワクしているが、アカメはそんなのに構わず、めぐみんの眼帯を取り、大きく引っ張り上げる。

 

「あ!!ごめんなさい!!嘘です!!これ、単にオシャレで付けてるだけです!!だからそんなに引っ張らないでください!!や、やめ・・・やめろー!!!」

 

「だと思ったわ」

 

「嘘なのか・・・がっかり・・・」

 

めぐみんの眼帯はオシャレで付けているだけとわかり、アカメは予想通りといった感じ、ティアは非常にがっかりしている。

 

「何なんだこいつ?さっきからやたら変なことを言うし・・・」

 

紅魔族のことを理解していないカズマにアクアが説明に入る。

 

「あのね、彼女たち紅魔族は生まれつき高い魔力と知力を持ってて、たいていは魔法使いのエキスパートで、みんな変な名前を持ってるわ」

 

「へぇー、そうなのか。・・・それよりアカメ、そろそろ放してやったらどうだ?」

 

「そうね。手も疲れてきたし、あんたのお望み通り、放してあげるわ」

 

「お、お願いしますね?あ、でもゆっくり、ゆっくりおろして手を放してくださいね。この距離で放したらシャレにならな・・・」

 

バチーンッ!!!

 

「あああああああ!!!!いったい目がーーー!!!!」

 

眼帯を放そうする際、めぐみんが注意を入れていたにも関わらず、アカメは引っ張った状態のままで眼帯を放した。当然その際に勢いがつくため、眼帯がめぐみんの目に直撃し、非常に痛がるめぐみん。

 

「えっと、めぐみんって言ったか?悪かったな。俺はてっきりからかってるだけかと思ってた。わけわからないこと言うし、変な名前だし」

 

「いたたた・・・変な名前とは失礼な。私から言わせてみれば、街の人たちの方が変な名前をしていると思うのです」

 

「うんうんそうだよね。特にアカメなんて、変な名前だよね」

 

「言っておくけど、ティアって名前も紅魔族から見れば変な名前よ」

 

「は?」

 

「あ?」

 

紅魔族と似た感性を持つティアはアカメを罵声するように助長している。そしてアカメもティアと同じやり方で仕返しする。それによって双子は睨みあっている。

 

「まぁ、こいつらは置いといて・・・ちなみに両親の名前は?」

 

「母はゆいゆい!!父はひょいざぶろー!!」

 

めぐみんの両親の名前を聞いて、ティアはゾクゾクと気持ちが高ぶり、カズマ、アクア、アカメは何とも言えない表情になっている。

 

「・・・この子の種族は、いい魔法使いが多いんだよな?」

 

「・・・ま、こいつらは魔法のエキスパートだしね」

 

「お、おいそこの3人!!私の両親の名前について言いたいことがあるなら聞こうじゃないか!!」

 

 

ーひょいざぶろーーーーーー!!!!-

 

 

ひとまずめぐみんをパーティに入れるかどうかを判断するために、4人はひとまずめぐみんの冒険者カードを確認する。めぐみんはあまりの空腹によって机に突っ伏している。

 

「冒険者カードは偽造できないから、めぐみんは上級魔法が使える上級職、アークウィザードで間違いないよ」

 

「確かにこの子の最大魔力値、高いな・・・。この子、仲間にしても問題ないか?」

 

元よりめぐみんに好印象なティアはともかく、カズマはめぐみんを仲間にしていいかアクアとアカメに尋ねてみる。

 

「いーんじゃない?彼女のステータスを見れば、かなり期待できると思うわ。それに、彼女が本当に爆裂魔法が使えるならすごいことよ?爆裂魔法は習得が極めて難しいと言われる爆発系の最上級クラスの魔法だもの!」

 

「ま、こいつを入れるのは賛成よ。私も興味はあるわ。あの爆裂魔法がどれほどのものか、この目で見られる機会なんて、滅多にないし」

 

「おい・・・同志はともかく、この子とか彼女とかこいつとかではなく、ちゃんと名前で呼んでほしいんですが・・・」

 

アクアとアカメが賛成を示しているのはいいのだが、3人がちゃんと名前で呼んでくれていないことにめぐみんは不服そうにしている。

 

「まぁ腹が減ってるんだろ?とりあえずなんか頼めよ。俺がカズマ。こいつがアクアで、こいつらがアカメとティアの双子だ。よろしくな、アークウィザード」

 

カズマがメニュー表を渡し、めぐみんは何か言いたげだが空腹の方が回っているのか何も言わずにメニューを受け取り、食べたい料理を注文するのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

『討伐クエスト!!

3日以内にジャイアント・トードを10匹倒せ!!

3日目

クエストの現在の達成率、10分の6』

 

食事を済ませたカズマパーティご一行は腹を満たしためぐみんを連れてあの忌まわしき存在、ジャイアント・トードの討伐のため、再び平原に訪れた。今日こそは確実にクエストを達成するために。

 

「爆裂魔法は最強魔法。その分、魔法を使うのに準備時間がかかります。準備が整うまで、あのカエルの足止めをお願いします」

 

めぐみんの杖が指す方向にはまだこちらに気付いていないジャイアント・トードの姿があった。

 

「わかった!やってやる!」

 

「カエルなんて一撃で仕留めてやるわ」

 

「お姉ちゃん、カズマ、援護するよ」

 

「!カズマ、あっちにも!あそこにもいたわ!」

 

カズマが片手剣、アカメが短剣を構えると、アクアが他のジャイアント・トードを2匹発見する。2匹ともこちらに近づいてきている。

 

「3匹同時か・・・。めぐみん、遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ」

 

「わかりました」

 

「俺たちは近づいてくる方をどうにかするぞ!」

 

「わかったわ」

 

「任せてよ」

 

「やってやろうじゃない!今度こそ、あんたたちに女神の本当の力というものを見せてやるわ!」

 

アクアの放った女神発言にやっぱりめぐみんも首を傾げている。

 

「女神?」

 

「と自称しているかわいそうな子だよ。たまにこういうことを口走るけど、そっとしておいてほしい・・・」

 

「かわいそうに・・・」

 

「スキルはすごいのにね・・・」

 

「哀れだわ」

 

カズマはともかく、この場の全員アクアを女神と信じていないことに、アクアは涙を溢れさせている。

 

「うぅ・・・な、何よ!打撃系が利きづらいカエルだけど・・・今度こそ!!」

 

アクアは女神と信じてもらおうと、1人で先走ってジャイアント・トードに向かって走っていく。

 

「見てなさいあなたたち!!三度目の正直!!本物の女神の力を見せてやるわ!!」

 

アクアの放った三度目の正直と聞いて、双子は首を傾げる。

 

「さ、さん・・・?え、何?」

 

「アクアの奴、何わけわからないこと言ってるのよ?」

 

「あれはな、俺の故郷に伝わる言葉で、1度と2度の失敗を糧にして、3度目の成功を確実にさせる言葉だよ」

 

「へぇー・・・カズマって物知りなんだね」

 

自分たちの知らない言葉をカズマから聞き、カズマの知識に感心する双子。その間にもアクアは行動に移す。

 

「震えながら眠るがいい!!ゴッドレクイエム!!!」

 

アクアは杖を振るい、強力なエネルギーを杖に収束させる。

 

「ゴッドレクイエムとは!!女神の愛と悲しみの鎮魂歌!!相手は死ぬ!!!!」

 

アクアはエネルギーを纏った杖をジャイアント・トードに突き刺そうとしたが・・・

 

パクッ

 

当たる前にアクアはジャイアント・トードに食われてしまい、技は不発に終わってしまった。

 

「・・・二度あることは三度ある・・・さすが女神、身を挺した時間稼ぎだ・・・」

 

またも自分たちのわからない言葉をしゃべるカズマに双子は首を傾げる。

 

「また変なのを・・・」

 

「それはどう言う意味なの?」

 

「これも俺の故郷に伝わる言葉で、2度目の失敗は3度目もあるって意味がある」

 

「はぇー・・・カズマの故郷って奥深いんだね・・・」

 

意外にもカズマを博識と思えてしまう双子はその知識に感心を抱く。

 

「と・・・感心してる場合じゃなさそうね」

 

「そうだよ!もう1匹近づいてるんだった!」

 

もう1匹近づいてくるジャイアント・トードにカズマたちは武器を構え直す。

 

「まずは2人の武器を強くするよ!パラライズエンチャント!」

 

ティアはシーフのスキルを使用し、カズマとアカメの武器に細工を施した。ティアが2人に向かって手をかざした瞬間、2人の武器からバチバチと音が聞こえる。

 

「おお!なんだこれ!俺の剣に電気が!」

 

「状態異常属性を付与するスキルだよ!これならどんな武器でも、強力な武器へと生まれ変わるよ!」

 

「戦闘能力がカスで地味なあんたからすれば、効率がいい作戦でしょうね」

 

「あっ!!今、地味って言った⁉カスって言った⁉」

 

(あ・・・なんか嫌な予感・・・)

 

アカメの言葉に反応してティアは憤慨する。それを見てカズマは嫌な予感がひしひしと伝わってくる。それは現実になるだろう。

 

「そうでしょうよ。自分はバインドで、私たちに麻痺効果の武器を使って敵を封じるなんて、地味以外のなんだというのよ?」

 

「その私のバインドを利用して、ちまちまと敵に攻撃を仕掛けているのはどこの誰ですかー?」

 

「さあ、誰でしょうね?ま、それでも、自分ではまともにモンスターを倒すことができない誰かよりはずっとマシでしょうけど」

 

「う、うううううぅぅ!!」

 

今回はティアが押し負けているようで、アカメに何も言い返せない。

 

「悔しかったら1匹くらい、討伐してみせたらどう?モンスターもろくに倒せない人間は、さぞ悔しいでしょうねぇ」

 

そしてこの発言がトリガーとなって、ティアは自分の持っている短剣を取り出す。

 

「いいよ!やってやろうじゃん!!カエルくらい何さ!あんな雑魚モンスター・・・私にだって!!」

 

「あ!おいちょっとティアーーーー!!!」

 

ティアはそのままジャイアント・トードに向かって突進していく。

 

「攻撃スキルがなくなったって!このスキルさえあれば!ポイズンエンチャント!」

 

ティアは自分の短剣に毒属性の能力を付与させて、その短剣でジャイアント・トードを・・・

 

パクッ

 

仕留める前にティアは食われてしまった。食われてしまった際に短剣を落としてしまい、ジャイアント・トードには当たらず、毒は回らない。結局ティアはモンスターを倒すことはできなかった。

 

「バカね。見栄を張るからそうなるのよ」

 

バシンッ!

 

「お前何やってんだーーーー!!!」

 

アカメがティアを哀れんでいると、カズマがアカメの頭をはたいた。

 

「お前バカか!!?ティアに戦闘能力がないって知ってるくせにモンスターに突っ込ませるように唆すとか、お前は悪魔か何かか!!?そのせいで、妹食われたんだぞ!!?残ったお前1人でこの後の討伐ができるのか!!?」

 

「・・・あ」

 

「おい、お前完全に忘れてただろ」

 

双子の欠点は2人揃ってないと全能力を発揮できないこと・・・そしてティアがジャイアント・トードに食われたということは、もうアカメは戦力として使えなくなったということだ。

 

「ま、まぁ・・・足止めできたってことで・・・」

 

「おい、目を逸らすな」

 

目を逸らしながら言い放つアカメにカズマは冷ややかな目を送る。と、その時、空気中の大気が震えている。その中心地となっているのはめぐみんからだ。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が真紅の混交を望みたもう・・・覚醒の時来たれり・・・無謬の境界に落ちし理・・・無響の理となりて現出せよ!踊れ・・・踊れ・・・踊れ・・・!我が力の奔流が望むは崩壊なり・・・並ぶことなき崩壊なり!万象等しく灰燼と化し、深淵より来れ!」

 

めぐみんは長い詠唱を唱えながら、その狙いをジャイアント・トードへと定める。ジャイアント・トードの周りからも、大気が震えているのが誰が見てもよくわかる。

 

「これが、人類最大威力の攻撃手段・・・これこそが、究極の攻撃魔法!!」

 

詠唱を唱え終えためぐみんはジャイアント・トードに杖先を突き付けた。そして同時に、杖先が光を放った。

 

「エクスプロージョン!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!!

 

めぐみんが魔法を発動した瞬間、ジャイアント・トードがいた場所からとんでもない威力の大爆発を引き起こし、平原に1つの炎の柱が出来上がる。炎が晴れると、その場にはジャイアント・トードの姿はなく、残ったのは爆発による辺りの焼け野原と、煙のみ。

 

「すげぇ・・・これが魔法か・・・」

 

「爆裂魔法の存在は知っていたけど・・・これほどとはね・・・」

 

カズマとアカメがめぐみんの爆裂魔法に関心を抱いていると・・・

 

ボコッ、ボコォ・・・

 

昨日と全く同じで爆音によって目覚めたジャイアント・トードが地中より現れた。

 

「ちっ・・・またカエルが目覚めたわよ」

 

「まずいな・・・このままじゃ全滅しちまう!めぐみん!いったん離れて・・・」

 

カズマはいち早くめぐみんに指示を出そうとしたが、当のめぐみんはなぜだか地面に伸び切って倒れている。その様子にカズマは頭に?を浮かべる。

 

「・・・ふっ・・・我が最強の奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大・・・」

 

「簡単に言えば、限界を越えた魔力を使ったから、全く身動きが取れないんでしょ?爆裂魔法って、そういう魔法だから」

 

「そういうことです・・・はい・・・あ、さっきの爆裂・・・気持ちよかったです・・・」

 

「おまっ!!?知ってるならそういうことはもっと早く言え!!!」

 

「いや、常識でしょ」

 

「俺は知らなかったから言ってるの!!」

 

カズマがうだうだ言っている間にもジャイアント・トード2匹がカズマたちを食べようと近づいてきている。

 

「ちょ・・・近くにカエルが湧きだすとか予想外なのですが・・・。やばいです・・・食われます・・・すいません、ちょっとたす・・・」

 

パクッ

 

いい終える前にめぐみんは身動きも取れずにジャイアント・トードに食われてしまった。

 

「ああ・・・もう・・・本当に・・・なんで俺の周りはこんな奴らばっか・・・」

 

自分のパーティのあまりのポンコツぶりにカズマは嘆いている。そうしている間にも、もう1匹のジャイアント・トードが近づいてくる。

 

「嘆いている場合じゃないわよ。もう1匹近づいてくるわ。私が・・・露払いをしてくるわ!!」

 

「おい待て!!お前1人じゃ・・・!!」

 

アカメはティアを突っ込ませた責任として、そのままジャイアント・トードに突っ込んでいく。倒せるはずがないと思っているカズマはアカメを止めるがもう遅い。

 

「ティアから受け取ったこのコンビ技を、食らいなさい!」

 

アカメは麻痺属性が入った短剣を構えて、それをジャイアント・トードに振るった。

 

「トリプルアタック・パラライズ!!!」

 

アカメは麻痺の短剣を振るい、ジャイアント・トードに斬撃を放つ。技を放った後、わずかながらの沈黙・・・そして・・・

 

「・・・ふふ・・・カズマ・・・後は任せ・・・」

 

パクッ

 

アカメはジャイアント・トードに食われた。攻撃はジャイアント・トードに当たったが、どういう原理か全くダメージが入っていない。不思議な現象が起こったものだ。

 

「お・・・おーまーえーらあああああああ!!!!食われてんじゃねえええええええええ!!!!」

 

結局カズマが仲間を食べているジャイアント・トードを倒し、仲間を救出・・・ついでにこれでジャイアント・トードの討伐数を達した。

 

『討伐クエスト!!

3日以内にジャイアント・トードを10匹倒せ!!

クエスト達成!!』

 

 

ーこのすばぁ!!-

 

 

クエストを達成したカズマたちパーティは達成報告をして、報酬を受け取るために冒険者ギルドへと向かっているのだった。

 

「うぐぅ・・・ひぐぅ・・・もう・・・カエルは嫌ぁ・・・もう飲まれるのは嫌ぁ・・・」

 

「・・・殺す・・・」

 

「・・・消してやる・・・」

 

「・・・カエルって・・・生臭いですけど、いい感じに温いんですね・・・おかげで温まりました」

 

「知りたくもない、そんな知識」

 

アクアは3度飲み込まれて(正確には4度)ジャイアント・トードにたいして深いトラウマを植え付けてしまった。双子は相も変わらずいがみ合っている。物騒な単語を出している辺り余計に拗れている。めぐみんはジャイアント・トードに飲まれた感想をカズマにおんぶされながら述べている。

 

「今後、爆裂魔法は緊急時の時以外禁止な。これからは他の魔法で頑張ってくれよな」

 

「使えません」

 

「は?何が使えないって?」

 

「私は爆裂魔法以外使えないんです。他には一切、魔法は使えません」

 

「・・・マジで?」

 

「マジです」

 

めぐみんが爆裂魔法しか使えないと聞いて、カズマたちは沈黙した。双子も喧嘩をやめるほどのことなのだから。

 

「・・・は?あんた、アークウィザードよね?」

 

「はい、アークウィザードです」

 

「え?だったら爆裂魔法だけじゃなくて、他の魔法だって使えるはずじゃないの?」

 

「そうよ。私なんか、宴会芸スキルを習得してからアークプリーストの魔法を習得したし」

 

「宴会芸スキルって何に使うんだよ」

 

アクアの宴会芸スキルはともかく、爆裂魔法しか使えないめぐみんは急に語り始めた。

 

「私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃないんです・・・爆裂魔法だけが好きなんです!!もちろん、他の魔法を覚えれば楽に冒険ができるでしょう。でも、ダメなのです!!!私は、爆裂魔法しか愛せない!!!1日1発が限度でも、魔法を使った後に倒れるとしても!!!それでも私は!!!爆裂魔法しか愛せない!!!!なぜなら私は、爆裂魔法を使うためだけにアークウィザードの道を選んだのですから!!!!!」

 

めぐみんの沈黙にカズマたちは再び沈黙した。そして、その沈黙を破ったのは、ティアだった。

 

「すごい・・・すごいよめぐみん!私、すっごく感動したよ!!非効率ながらもロマンを求めるその姿!!めぐみんこそ、紅魔族の中の紅魔族だよ!!」

 

「お・・・おおお・・・わかってくれますか・・・同志ティアよ!!」

 

「もちろん!!ね、アクアもそう思うでしょ!」

 

「もちろんよ!そのロマンを求めて突き進んでいく者を誰が咎めようものですか!」

 

めぐみんの力説にかなりノリノリのご様子のティアとアクア。一方、めぐみんの思想を全く理解できないが、カズマとアカメ。

 

「・・・カズマ、こいつダメだわ。捨てましょう」

 

「!!??」

 

アカメは辛辣的にめぐみんをパーティ入りをするべきでないと発言すると、めぐみんは焦りを生じ始める。

 

「ああ・・・俺も同じことを思った。よりにもよってアクアが同調してるのがその証拠だ。アクアは、全く役立たずとわかったからなおさらだ」

 

「「!!!??」」

 

アクアが役立たずと聞いて、びくりとなっている。めぐみんもアカメの発言に同調しているからさらに焦りが強くなる。

 

「と、いうわけだ。クエストの報酬くらいは渡してやる。ただでさえ問題児3人を抱えてるんだ。これ以上ぐええええ!!?」

 

カズマがめぐみんを下ろそうとすると、めぐみんは強くカズマを抱きしめて、降ろさせまいと奮闘する。

 

「ふっ・・・我が望みは爆裂魔法を撃つことのみ・・・何なら、無報酬でもいいと考えています。そう・・・アークウィザードの強力な力が今なら食費と雑費だけで・・・これはもう、長期契約を交わすほかないだろうか」

 

「ええい離せ!!1日1発しか使えない魔法使いとかマジいらねぇから!!だいたい、ダンジョンに潜った中では爆裂魔法なんて狭くて使えないし、いよいよ役立たずだろうが!!」

 

「お、お願いですから捨てようとしないでください!!もうどこのパーティでも拾ってくれないのです!!荷物持ちでも何でもしますからその手を離そうとしないでください!!」

 

「お前もそういう口かよ!!だったらなおさら連れていけるかぁ!!!もう頼むからこれ以上厄介ごとを増やさないでくれぇ!!!この3人だけでもいっぱいいっぱいなんだよぉ!!!」

 

カズマはめぐみんをパーティに入れまいと、めぐみんはパーティに残ろうと奮闘している。すると昨日の街の人がカズマを見て引いたような顔をしている。

 

「うわ・・・あの男、今度は幼気な子供まで捨てようとしているわ・・・!」

 

「しかも見て!あの子も、妹のあの2人もまたヌルヌルしているわ・・・!」

 

「本当に救いがたい変態ね!!そんなにヌルヌルしたプレイが好きなのかしら!!深く関わりたくないわ・・・!!」

 

「ち、ちがあああああああう!!!!!」

 

またもあらぬ風評被害を受けているカズマは思わず声を張り上げてそれを否定する。そしてそれを聞いためぐみんは、思いついたかのように、カズマに向かってあらぬことを言いだそうとする。

 

「どんなプレイでも大丈夫ですからーーー!!!先ほどのカエルを使ったヌルヌルプレイだって・・・」

 

「あああああああああ!!!!わかったーーー!!!パーティに残っていいからこれ以上はやめろおおおおおお!!!!」

 

「ちょっ!!?」

 

カズマがめぐみんをパーティ入りを認めた際にはアカメは信じられないような顔つきになっている。

 

「あんた!!もう少し頑張りなさいよ!!あんたが変態という名誉を受け入れれば、この子を外すことが・・・」

 

「うるさあああああああい!!!そもそもこの風評被害を作った原因はお前らにあるんだよ!!!これ以上、この街の評判を悪くしてたまるかああああああ!!!これは決定事項だあああああああ!!」

 

カズマはあくまでも自分の評判を悪くしないためにも、しぶしぶめぐみんをパーティ入りを認めるのだった。カズマの強い決定ということもあり、アカメも強く言うことができず、仕方なく決定に従うのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

冒険者ギルドに戻った後、女性陣は皆、ギルドにある大浴場で身体に纏った粘液を洗い落とすのだった。その中でもアカメは早風呂派なので最低限汚れを洗い落としたらすぐに大浴場から出た。大浴場から出たアカメはカズマを探す。キョロキョロ見回すと、カズマが1人、今回の報酬を確認している。

 

「で?どうだったのよカズマ、今回の報酬は」

 

「あれ?アカメ、風呂に入ってたんじゃなかったのか?」

 

「私は早風呂派なのよ。で?どのくらいの金額が入ったのよ?」

 

アカメが報酬の話をすると、カズマはずんと暗くなる。

 

「・・・今回の報酬、15万5千エリス・・・5人で山分けすると、ざっと3万千エリスってところだ・・・」

 

「まぁ、初めてにしては割といい報酬じゃない」

 

「パッと見ればな・・・。でもな、よく考えてみろ・・・命を懸けてまでやって、1人3万千だぜ?割に合わなすぎだろ・・・」

 

「そう思うならもっと高い報酬のクエストを選べばいいじゃない」

 

「そう思って他のを見たんだけど・・・無理・・・体がぶっ飛びそうな危険な仕事しかなかったわ・・・」

 

「あんたってやっぱ貧弱冒険者ね・・・」

 

今回の報酬の件、さらに自分ではまともにこなせないクエストばかりでカズマは泣きそうになっている。アカメはそんなカズマに呆れている。

 

「はぁ・・・生まれ故郷に帰りたい・・・」

 

「ホームシックにはまだ早いわ。あんたもここに来たばっかなんでしょ?もう少し頑張りなさいよ」

 

「でもな・・・お前みたいに問題児が4人もいたんじゃあなぁ・・・」

 

「その顔面かち割ってあげてもいいのよ?」

 

カズマがアカメと2人で話し合っていると・・・

 

「募集の張り紙、見させてもらった。まだパーティメンバーの募集はしているだろうか?」

 

突如として白い鎧を着こんだポニーテールの金髪の美人女騎士がカズマたちに話しかけてきた。歳は恐らく、カズマたちよりも年上だろう。女騎士の容姿を見て、カズマは内心ドキドキしている。

 

「あ・・・えっと・・・募集はしてますよ?といっても、あまりお勧めはしないですけど・・・」

 

「あんた・・・何ドキドキしてんのよ、気持ち悪い」

 

「ど、ドキドキしてねーし!!?」

 

募集していると聞いて、女騎士は安堵している。

 

「そうか・・・よかった・・・。あなたのようなものを、私は待ち望んでいた」

 

そして・・・なぜだか女騎士は微かながらに何か興奮しているように息を荒げている。その様子を見て、アカメはどことなく、自分の琴線に触れる何かを感じた。

 

「私の名はダクネス。クルセイダーを生業としている者だ。ぜひ私を・・・私を・・・ぱ、ぱぱぱ、パーティに加えてもらえないだろうか?」

 

「いいわ。あなたを歓迎するわよ、クルセイダー」

 

「ちょおおっと待てい!!!」

 

女騎士、ダクネスのパーティ入りの懇願にアカメは即答でOKを出したがカズマはそれを許さない。

 

「お前何OK出してんの!!?バカなの!!?死ぬの!!?こんな無茶苦茶パーティにこの人を加えられるか!!?」

 

「カズマ・・・あんたには感じないのかしら?私の・・・琴線に触れる何かが・・・あの女には、ビンビンと感じるのよ」

 

「え!!?マジで!!?だったらなおさら入れられるか!!お前の琴線なんて、絶対になんかあるに決まってるだろ!!」

 

アカメの琴線に触れると聞いただけでカズマはこのダクネスからアクアたちと似たようなものがあると感じ始めた。するとダクネスは興奮して食い入るようにカズマにぐいぐいと来ている。

 

「そこの女性はあのドロドロの3人の仲間だろう?そしてこの女性もまた、ドロドロに・・・!いったい何をしたらあんな目になれるんだ!!?」

 

「あー・・・いや・・・あのー・・・」

 

「なんてことないわ。ジャイアント・トードに食われただけだから」

 

ダクネスの問いにカズマは渋々しているが、アカメは包み隠さずに話した。それを聞いたダクネスはさらに興奮状態になる。

 

「なっ・・・なん・・・だと・・・!!?くうぅぅ・・・想像以上だ!!」

 

「羨ましいかしら?」

 

「なっ!!ち、違う!!あんな年端もない少女がそんな目にあるだなんて・・・騎士として見過ごせない!!」

 

アカメの発言に必死に否定するダクネスだが、そんなダクネスの気持ちを助長をするマネをするアカメ。

 

「我慢しなくてもいいのよ?本当は羨ましいのよねぇ・・・?ほら・・・我慢せず・・・解放しても・・・いいのよ?ほら・・・ほら・・・ほらぁ!!」

 

「く・・・くうふうううぅぅぅん!!」

 

「お前は話がややこしくなるからやめろ!!!」

 

「むぐっ!!」

 

嬉々とした表情でダクネスをいじるアカメ。そしてそのいじりにまた、興奮した様子を見せるダクネス。さすがにこれ以上はと思ったカズマはアカメの口を閉じさせていじりをやめさせる。

 

「ああ!!・・・いい言葉攻めだったのに・・・」

 

「は、話を戻しますよ?パーティ入りですけど、本当にお勧めしないですよ?1人は何の役に立つのかよくわからないし、もう1人は1発しか魔法が打てないし、こいつには妹がいるんですけど、そいつと息が揃ってないと戦力外だし、俺は最弱職、他のパーティをお勧めします」

 

「ならなおさら都合がいい!!」

 

カズマは何とかダクネスをパーティ入りを見送らせようと試みるが、なぜかダクネスには好感触のようだ。

 

「いや・・・実は・・・言いづらかったのだが・・・私は力や耐久力には自信があるのだが、不器用で・・・その・・・攻撃が全く当たらないのだ・・・」

 

「ちょっと何言ってるかわからないです」

 

「というわけで!!盾代わりにガンガン前に出るので、ぜひともこき使ってほしい!!」

 

ダクネスは興奮した状態でカズマに顔を近づける。それによってカズマの心はもうドキドキで心臓バクバクだ。

 

「ねぇカズマ。こいつがこう言ってるんだし、仲間にしたらどうよ?」

 

「お前めぐみんとの温度差が激しいな!!!」

 

ティアの場合はめぐみんを推していたが、アカメの場合はダクネスを押しているのに対して、カズマは叫ばずにいられなかった。

 

「当然よ。何せこいつはクルセイダー。必要な時には盾代わりに・・・」

 

「望むところだ!!」

 

「万が一にはこいつを身代わりにして粘液塗れに・・・」

 

「むしろ望むところだ!!!」

 

「うるさい、ちょっと黙ってなさいこの変態が」

 

「変・・・!!くうぅ・・・いいぞ・・・お前のその容赦のない罵声・・・お前とはうまくやっていけそうだ・・・はぁ・・・はぁ・・・///」

 

アカメとダクネスのこのやり取りを聞いて、カズマは察した。ダクネスの何がダメなのか・・・そしてアカメの琴線の正体を。

 

まずアカメは・・・相手をいじることや辱めるが大好きな存在・・・つまりドSであることを。そしてダクネスは・・・いじられたり辱めらることが大好きな存在・・・つまりドMであることを。埒が明かないと思ったカズマはとりあえず飲みすぎたと言ってその場を離れて、やり過ごすのであった。




次回予告的なもの

拝啓、お父さんお母さん、カズマです。

僕は異世界の生活にすっかり慣れて、頼もしい仲間たちと毎日忙しい日々を送っています。
仕事も順調でまれにみるスピード出世だともてはやされています。
あまりのリア充っぷりに疲れや寂しさも憤りも感じる間もありませんですよ。
本当です、本当ですよ?

仲間の会話
アカメ「あんた・・・嘘書いてて恥ずかしいと思わないのかしら・・・」
ティア「我が名はティア!アクセルの街の・・・」
めぐみん「違います違います!同志のポーズにはまだかっこよさが足りません!!いいですか・・・こうです!!」
アクア「ねー、なんか喉乾いたんですけどー。シュワシュワ買ってきてほしいんですけどー」
カズマ「お前にだけは言われたくねぇよ!!?後お前ら、うるさい。もう少し静かにできんのか」

次回、この右手にお宝(パンツ)を!


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この右手にお宝(パンツ)を!

ウィズ魔道具店のリビングで、双子はリビングに集まり、ウィズと共に朝食を食べている。今日の朝食は走り鷹鳶の卵を使った目玉焼きトーストと、キャベツのサラダである。アカメが目玉焼きトーストを食べようとすると、ティアがキャベツのサラダをじっと見つめているのを気づいた。

 

「何してんのよ?食べないの?」

 

「ううん。ただ・・・もうすぐだなーって思って」

 

「もうすぐって・・・何が?」

 

意味深なティアの発言にアカメは首を傾げながらフォークを持って千切りキャベツをぶっ刺す。心なしかキャベツが動いたような気がした。

 

「ティアさんはもうすぐ収穫の時期だと言いたいんですよ」

 

「ああ。そういえば、この街の予報では今日だっけ?収穫」

 

「その通り!!」

 

アカメの疑問にウィズが答える。アカメが納得するとティアが興奮したように足をテーブルに乗せる。

 

「その収穫の時期こそ!!私が冒険者レベルをアップするための唯一の手段の1つ!!取りまくるよ・・・そしてガッポガッポと、お金も経験値も、稼ぎまくるよぉ!!ヒャッハーー!!!」

 

異常にテンションが上がっているティアに、アカメは気にせず朝食を食べ続け、ウィズは苦笑しながらティアを注意する。

 

「あの、ティアさん?お気持ちはとてもわかりますが・・・とりあえず、足を下ろしてもらえませんか?お行儀が悪いですよ?」

 

「ああ、ごめんね」

 

ウィズに注意されたティアは申し訳ないように足を下ろしてキャベツのサラダを食べ始める。

 

「まぁ確かに、この子がレベルアップする手段なんて限られてきてるし、一応、手を貸してやらんこともないわ」

 

「さすがはお姉ちゃん!大好き!」

 

「その気持ち悪い発言はやめてちょうだい。ご飯がまずくなる」

 

アカメのこの発言でウィズはまた喧嘩が始まると警戒しているが・・・。

 

「まぁまぁそう言わずに♪お姉ちゃんが協力してくれたら心強いのは事実だし♪」

 

「あ、あれ?」

 

普段なら突っかかってくるのは間違いないのに、ティアはそれをしなかった。それにはウィズは目を丸くしている。

 

「この子、この時期になるとレベリングと金儲けにだいぶ浮かれてるのよ。私の発言を気にしないほどにね」

 

「は、はぁ・・・」

 

「私の未来は明るいぞー!!」

 

ティアは唯一のレベリング手段と金儲けで有頂天になっているため、アカメの嫌味は受け流せるほどに寛容的になっているのだ。

 

「で?ウィズは収穫には参加すんの?」

 

「もちろんです。ここのところ、赤字続きでしたので、それを取り戻そうと、やる気に満ちてるんですよ」

 

どうやらウィズもお金儲けのためにその収穫とやらには参加するようだ。理由は言わずもがな、ゴミ魔道具が全く売れないことにある。

 

「ふーん。ま、私たちの邪魔さえしなければ、好きにすればいいわ。ごちそうさま」

 

「私もごちそうさまー!」

 

「はい、お粗末さまでした」

 

話し込んでいる間にも、双子は朝食を完食する。

 

「食器、片付けておきますね?」

 

「いや、私も手伝うわ。どうせ夜まで帰るつもりはないし、朝くらいは手伝わないと」

 

「で、でも・・・」

 

「でももクソもない。ほら、とっと皿洗いを済ませるわよ」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「お姉ちゃん!お皿洗いが終わったら収穫の準備を手伝ってよ!」

 

「はいはい、終わったらね」

 

アカメはウィズの皿洗いの手伝いをした後、ティアの収穫の準備を手伝ってからギルドに向かうことにしたのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

ティアの準備、およびウィズの店の手伝いを終える頃にはもうすっかり昼ごろになっており、双子は揃って冒険者ギルドに向かっている。

 

「収穫収穫~♪早く来ないかなぁ~」

 

「鬱陶しい・・・」

 

あまりに浮かれているティアにアカメは本当に鬱陶しそうにしている。冒険者ギルドにたどり着き、扉を開けると、遠くでアクアが宴会芸を他の冒険者に披露している。

 

「そーれ!花鳥風月~♪」

 

「おおおお!いいぞー、嬢ちゃんー!」

 

アクアの扇子に水が噴き出すという宴会芸は冒険者たちには受けているようだが、双子からすれば不評のようで何とも言えない表情をしている。ティアも浮かれ具合が覚めるくらいなのだから。

 

「あら!2人とも遅かったじゃない!どう?私の宴会芸スキルは!女神に相応しいスキルだと思わない?」

 

((単なるゴミスキルじゃない(じゃんか)・・・))

 

クエストには役に立たないスキルだと思っているが、双子はあえてアクアには言わないことにした。

 

「そ、それよりもアクア、カズマとめぐみんはどこにいるの?」

 

「ああ、それならカウンター席にいるはずよ」

 

「そう、わかったわ。あんたはそのまま宴会芸を続けてなさい」

 

カズマとめぐみんの場所を聞いた双子はすぐに2人がいるカウンター席へと向かう。カウンター席にはアクアの言うとおり、カズマとめぐみんがいた。

 

「やっほー、カズマ。何やってんの?」

 

「ああ、お前ら。お前らも昼まで寝てたのか?」

 

「私はあんたと違うんだから、そんなわけないでしょ。野暮用よ野暮用」

 

「ふーん」

 

双子はカズマの隣の席に座り、カズマとめぐみんを見る。めぐみんはスモークリザードのステーキを食べており、カズマは自分の冒険者カードをじっと眺めている。

 

「それで、本当に何やってたの?あ、私、カエル肉のバーガーくださーい」

 

「昨日のカエルのクエストでレベルも上がったから、たまったスキルポイントを使って、スキルを覚えようと思ったんだけど・・・おかしいんだよ」

 

「おかしいって、何がよ?私はワニ肉のバーガーをお願い」

 

「いや、俺のカードのスキル習得欄、1度見たスキルしか出てこないんだよ。これって、まだレベルが足りてないってことか?」

 

「ああ、そのことかー」

 

「心配しなくてもいいわ。それは仕様よ、仕様」

 

カズマの疑問に双子はしっかりと答える。仕様の意味がわからないカズマは首を傾げる。

 

「えっと、冒険者っていう職業はレベルアップだけじゃスキル習得はできないんだ」

 

「じゃあどうやったら習得できるんだ?」

 

「簡単だよ。まず誰かにスキルを教えてもらうんだよ。そしたらカードにスキル獲得項目にそれが現れるから、溜まったポイントをその項目に振ればスキル習得完了ってなるんだよ」

 

ティアの説明を理解したカズマは感心した声を上げる。

 

「へぇー。じゃあつまり、めぐみんに教えてもらえれば、俺でも爆裂魔法が使えるようになるってことか?」

 

「その通りなのです!!!!」

 

「うおっ!!?めぐみん!!?」

 

話を聞いていたのかめぐみんは目をキラキラと輝かせている状態でカズマにぐいっと迫ってきた。

 

「その通りですよカズマ!爆裂魔法を覚えたいならいくらでも教えてあげましょう!というか、それ以外に覚える価値があるスキルなんてありますか?いいえ、ありませんとも。さあ!!!私と共に、爆裂道を歩もうじゃないですか!!!!」

 

「なんか軽く私たちの習得スキルをバカにされたような気になるのは気のせいかしら?」

 

「仕方のないことだよ。めぐみんの爆裂道愛は本物だからね」

 

ぐいぐい迫ってきているめぐみんをカズマはとりあえず彼女の肩を掴んで落ち着かせる。

 

「ちょ・・・落ち着けロリっ子!つか、今の俺じゃ爆裂魔法の習得には全然・・・って・・・めぐみん?」

 

「・・・ろ、ロリっ子・・・?」ガーン・・・

 

「あれ?」

 

誰が見てもわかるようにロリっ子発言にショックを受けためぐみんは席を座り直し、ステーキについていたニンジンを切り、それを口の中へと運ぶ。

 

「・・・ふっ・・・この我が・・・ロリっ子・・・」

 

よほどショックを受けたのかめぐみんはかなり遠い目をしている。

 

「はぁ・・・なぁ・・・双子よ・・・なんかお手軽なスキルないか?俺でも簡単にお手頃に使える感じのやつ・・・」

 

「ああ、それだったら・・・」

 

ティアが何かお勧めのスキルをカズマに教えようとすると・・・

 

「探したぞ。昨日の話をしようじゃないか」

 

「げっ・・・!!」

 

「あら、ダクネスじゃない」

 

パーティ入りを諦めていないダクネスがカズマたちに話しかけてきた。ダクネスのことは話を聞いていただけのティアは首を傾げている。

 

「昨日は飲みすぎだと言っていたが・・・大丈夫か?」

 

「あ、ああ・・・お気遣いなく!」

 

カズマは飲みすぎといってやんわりと断りを入れていたつもりだったが、ダクネスにはその意図が全く伝わっていなかったようだ。

 

「では、昨日の話の続きだ。私をあなたのパーティに・・・」

 

「お断りします!!!」

 

「くうぅぅぅん!!!即断・・・だと・・・!はぁ・・・はぁ・・・///」

 

カズマは即決でダクネスのパーティ入りを拒否するとダクネスは非常に喜び、興奮をしている。それがたまらなく嬉しかったのか今度はアカメが絡んできた。

 

「ねぇ・・・?ダクネス・・・あんた・・・どぉーしても入りたいのかしら?」

 

「もちろんだ!!!」

 

「なら・・・もっとふさわしい言い方ってのが・・・あるでしょう?ほら・・・言ってごらんなさい?ぜひともこの薄汚いメス豚風情の私めを、パーティに入れて、めちゃくちゃにしてくださいって。ほらぁ・・・さぁ・・・言ってごらんなさい?」

 

「く・・・くふぅ・・・わ、私は騎士の端くれ・・・このような辱めには・・・///」

 

「ちゃぁーんと、言えたなら・・・もぉっといい快楽を・・・教えて、あ・げ・る♡」

 

「もっと・・・いい快楽・・・それって・・・もっと・・・しゅごいことぉ!!?」

 

お互いの琴線に触れあっているのか、アカメもダクネスも非常に嬉々とした表情になっている。

 

「うわー・・・喜んでるし・・・」

 

「うわー・・・お姉ちゃんがドSモードに・・・引くわー・・・」

 

このカオスな光景を見て、カズマもティアも2人を引いた目で見ている。

 

「あはは、ダメだよダクネス。そんな強引に迫っちゃさ」

 

盗賊の少女、クリスがダクネスの興奮を軽く声をかけて抑える。

 

「あら、クリス、久しいわね」

 

「クリス、久しぶりー」

 

「やぁ、アカメにティア。久しぶりー。ダクネスとお楽しみのようだね」

 

久しぶりにクリスと出会い、アカメとティアは軽く挨拶をする。

 

「なんだクリス、この2人と知り合いだったのか?」

 

「うん。まぁ、仕事関係上で、ね」

 

ダクネスがクリスが双子と知り合いだったことにたいして、少なくとも驚いてはいる。クリスのことを知らないカズマが尋ねてきた。

 

「えっと・・・あなたは・・・」

 

「アタシはクリス。見ての通り盗賊だよ。ダクネスとは友達で、双子とは盗賊仲間かな」

 

非常にまともそうな人物が現れて、カズマは内心ほっとしている。

 

「君、役に立つスキルが欲しいみたいだね。盗賊系のスキルなんてどうかな?」

 

「え?」

 

「さすがにシーフに劣るところはあるけど、盗賊技能は冒険者には結構お勧めだよ。シーフと比べてもスキル習得ポイントも少ないし、便利なスキルが盛りだくさんで役に立つよ」

 

「へぇー!」

 

自分でも手ごろに使えて冒険に役立つのならカズマにとっては魅力的な話だ。双子の職業、シーフのお得スキルも気にはなるが、それでも初心者でも簡単にこなせる盗賊スキルの方が重要だとカズマは考えた。

 

「どうだい?今ならシュワシュワ一杯で教えてあげるよ」

 

「安いな!よし、お願いします!すみませーん!こっちの人にキンキンに冷えたシュワシュワを1つ!」

 

カズマはその魅力的な話を受けるためにクリスにシュワシュワを一杯奢るのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

クリスがシュワシュワを一杯飲み、双子も昼食を食べ終えて、カズマはギルドから外に出て、クリスからスキルを伝授してもらっている。双子とダクネスはその協力者としてついてきている。まずクリスは敵感知スキルと潜伏能力を使い、その技をカズマに見せつけた。ただその際、スキルを教えるためとはいえ、クリスがダクネスに小石をぶつけたせいで、ダクネスが無言で怒って、クリスが隠れていた樽を転がすというトラブルはあったが。

 

「とまぁ、盗賊のスキルには、このように敵感知とか潜伏とかがいろいろあるけど、特に私の1番の一押しはこれ。行くよ、よく見てて」

 

「うすっ!クリスさん、よろしくお願いします!」

 

クリスはカズマに向かって手をかざしている。スキルが発動するであろうとカズマは身構える。

 

「スティール!!」

 

クリスがスキルを発動すると、クリスの手から光が発する。そして、光が止むと、クリスの手元にはなんと、カズマが持っていた銭袋があった。

 

「あっ!俺の財布!」

 

「これが窃盗スキルのスティール。成功すれば、相手の持ち物を奪い取ることができる。そして、君がこのスティールを習得できれば・・・アカメ、お願いできる?」

 

「仕方ないわね。・・・スティール」

 

クリスに頼まれ、アカメもクリスに向かって窃盗スキル、スティールを放つ。そして、発動した瞬間、クリスの持っていたカズマの銭袋はアカメの手元にある。

 

「あっ!アカメの手に俺の財布が!」

 

「ま、こんな感じで奪われてもこうやってスティールが成功すれば、取り返すことが可能ってわけ。理解できたかしら?」

 

「ああ!ためになったよ。ありがとうな」

 

「じゃ、財布を返・・・」

 

「待った、そのままでいて」

 

アカメがカズマの銭袋を返そうとした時、クリスが待ったをかけた。

 

「ねぇカズマ君、アタシと勝負しない?」

 

「勝負?」

 

「君も盗賊スキルを覚えて、アタシから当たりを1つ、盗んでみなよ。そうすれば、財布を返すし、その当たりもあげちゃうよ」

 

「おー!それはいいね!ぜひとやっちゃいなよ!」

 

突然持ちかけられた勝負にティアは勝負を受けるようにカズマにそう言った。

 

「お、おい・・・それはあんまりではないのか?」

 

「何言ってんのよ。世は弱肉強食、シュワシュワ一杯で安請け合いしたこいつが悪いのよ」

 

(まぁ、それは確かにな・・・高い授業料だと思えば、なんてことないか・・・)

 

ダクネスはやりすぎではないかと思っているようだが、カズマはアカメの言っていることに心の中で同意している。

 

「まぁ、どっちにしても君、冒険者なんでしょ?時には危ない橋もちゃんと渡らないとね」

 

「クリスの言うとおりだな。よし、いいぜ。その勝負受けるよ」

 

「決まりだね!じゃあ冒険者カードを使って、スキルを習得してみせてよ。私から習ったスキルが表示されてるはずだよ」

 

クリスの勝負を受け、カズマはさっそく自分の冒険者カードを取り出す。スキル習得欄には確かにクリスから習ったスキルがあった。

 

「敵感知スキルに1ポイント、潜伏スキルに1ポイント、窃盗スキルに1ポイント・・・」

 

クリスに習ったスキルにポイントを振り分けていくカズマは、ここで1つ、気になるスキルを見つける。

 

「・・・花鳥風月?花鳥風月ってなんだ?」

 

「ああ、それ?それ、アクアが披露してた宴会芸スキルだよ」

 

「宴会芸のくせに5ポイント取るのかよ!!?高すぎるわ!!これはポイ捨てしてっと・・・」

 

カズマは宴会芸スキルを項目から抹消してからスキルポイントを使って、盗賊スキルを習得する。

 

「さあ!これで盗賊スキルは君のもの!いつでもどうぞ!」

 

「よーし!何を盗られても泣くんじゃねぇぞ!!」

 

「それでクリス、何を当たりにするの?」

 

ティアが何を当たりにするかを尋ねると、クリスは得意げに笑う。

 

「ふふん、当たりはこのマジックダガーだよ」

 

「マジックダガーって・・・1つ40万エリスする超高価な代物じゃない!私もずっと狙っているやつ!」

 

「おおおお!!」

 

40万もする代物にカズマは非常に関心を示している。アカメがそう言うくらいなのだからカズマも欲しいくらいだ。

 

「ちなみに残念賞は、この石っころだよ!」

 

「あああ!!汚ねぇ!!」

 

「ふふん、これで当たりを引き当てる確率は低くなったね?」

 

「な、舐めんなよ!やってやる!」

 

例え低い確率だとしても、ここは引くべきではないと考えるカズマは、クリスの挑戦を受けた。

 

「行くぞ!!スティーーーーール!!!」

 

カズマはさっそく窃盗スキル、スティールを放った。光が晴れると、カズマの右手には何かが握られていた。

 

「よし!とりあえずスキル習得は成功だ!」

 

「!あ、ああぁ・・・!!」

 

するとクリスはなぜだか顔を恥ずかしそうに顔を赤く染めあげている。

 

「・・・で、なんだこれ?なんか布みたいな・・・」

 

何を盗み取ったのか気になったカズマはそれを広げてみる。

 

「!!お・・・おお・・・!!?」

 

カズマが広げたそれは・・・純白の白に、かわいらしいリボンの柄が入った布切れ・・・

 

「当たりも当たり・・・大当たりじゃああああああああああああ!!!!!」

 

「いやあああああああああああああ!!!!!ぱ、パンツ返してえええええええええ!!!!!」

 

そう、カズマがクリスから盗んだものは、クリスがさっきまで履いていたパンツだったのだ。

 

「ひゃっはあああああああああああああああ!!!!!ぐわああっはっはっはっはっはっはああああ!!!!!」

 

カズマは興奮したようにクリスのパンツをぶんぶんと振り回している。パンツを盗られて恥ずかしがっている本人の前で、何とも鬼畜な所業である。

 

「うわぁ・・・カズマってとんでもない変態だったんだね・・・」

 

「見なさい、あの血走った目を・・・本当、最低のクズね・・・」

 

この光景を目撃している双子はカズマを信じられないものを見る目でかなり引いている。

 

「な・・・なんという鬼畜の所業・・・やはり私の目には狂いはなかったぁ!!!」

 

そしてダクネスはというとカズマは期待通りの人間らしく、パーティ入りの思いがますます強くなった。

 

 

ーこのすばぁ!!(ゲス声)-

 

 

あの大惨事を終えた後、カズマたちはギルドへと戻っていった。クリスはというと一応はパンツは取り戻せたが、未だに泣いている。

 

「あ、カズマ、それにアカメにティア。どこに行っていたんですか?」

 

「・・・て、その人どうしたの?」

 

カズマたちを出迎えたアクアとめぐみんは泣いているクリスを見て、どうしたのか尋ねてきた。

 

「クリスは盗賊スキルをカズマに教えてたんだけどね、そのスキルでパンツを盗られた上に所持金全部をむしり取られて泣いてるんだよ」

 

「おいティアあ!!?何口走ってんだぁ!!!?」

 

「事実でしょうが」

 

事実ではあるものの、そのことを話したティアにカズマは本気で焦っている。それも当然だ。このギルドには男冒険者だけでなく、女性冒険者、女性従業員もいるのだから、女性からは冷ややかな目で見られるのは間違いない。

 

「財布返すだけじゃダメだって・・・ぐす・・・じゃあいくらでも払うからパンツ返してって頼んだら・・・うぐ・・・自分のパンツの値段は、自分で決めろって・・・う、ううううぅぅ・・・!!」

 

「待てよ!!?おい待てぇ!!!間違ってないけど、本当まてぇ!!!」

 

「さもないと、このパンツは・・・うぐ・・・我が家の家宝として奉られることになるってぇ!!!」

 

「ちょおお!!??本当にやめて!!?アクアやめぐみんだけじゃなくて、他の女性の方全ての目が冷たいものになってるから・・・本当にやめて!!!」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「ええ・・・本当に、変態ね」

 

「当事者のお前らまで冷めた目で見るのはやめてぇ!!!」

 

クリスの発言で女性は全員カズマに冷たい視線を送っている。カズマがこんなことになっているのは、自業自得である。当のクリスはそんなカズマの顔を見て、してやったりといった顔をしている。どうやらクリスなりにやられた仕返しを行っていたようだ。

 

「それで、カズマは無事に盗賊スキルを覚えられたのですか?」

 

めぐみんの発言にカズマは得意げな顔になる。

 

「ふふふ・・・まぁ見てろよ・・・行くぞぉ、アカメぇ!!」

 

「は!!?ちょ、待ちなさいあんた・・・」

 

「スティーーーール!!!!」

 

カズマは証拠とするためにアカメにスティールを放った。光が収まると、カズマの右手には何かが握られていた。何かを盗られたアカメはカズマにどす黒く、冷たい視線を送っている。

 

「・・・何だこれ?赤・・・」

 

カズマの手に握られていたのは、真っ赤な布切れ・・・それすなわち、パンツである。

 

ドグシャッ!!!

 

「ぐはあああああ!!?」

 

自分の勝負パンツを盗られたアカメはカズマに無言でアッパーを放つ。アッパーをくらったカズマは宙を舞って、そのまま地面に不時着する。倒れた状態のカズマをアカメは容赦なくカズマの顔を踏みつける。

 

「ふがっ!!?」

 

「あんた・・・私から勝負パンツを盗もうなんて・・・いい度胸しているじゃない・・・このごくつぶし変態野郎・・・」

 

「しゅ・・・しゅみましぇん・・・」

 

カズマを踏みつけているアカメの目は本当にゴミを見るかのように黒く、冷たかった。その視線に恐れを抱いたカズマは謝罪する。

 

「ゴミのあんたに2つ選択肢を与えてあげる・・・。このまま永遠に地面に這いずるか、パンツを返してきついのを1発もらうか・・・どちらがお好みかしら?」

 

「ぱ・・・パンツ返却でお願いしみゃす・・・」

 

アカメの選択肢をカズマは消去法で後者を選んだ。パンツを返してもらったアカメは足を下ろして、カズマの胸倉をつかんで立たせる。

 

「いい子ね・・・そんなゴミにご褒美よ!!!」

 

バチーンッ!!!

 

「ぶっ!!!!」

 

アカメの強力なビンタをくらったカズマはそのまま地面に倒れる。そんなカズマにめぐみんが声をかける。

 

「カズマカズマ」

 

「はい・・・カズマだよ・・・」

 

「レベルもステータスも上がって、転職は別にいいのですが・・・変態にジョブチェンジはやめた方がいいですよ」

 

「いや・・・このスティール・・・盗れるものはランダムのはずなんだけど・・・」

 

痛い目にあったカズマはビンタされた跡を抑えながらゆっくりと立ち上がる。するとダクネスがカズマに一言物申す・・・

 

「こんな公衆の面前で女性の下着を剥ぎ取るなんて!!真の鬼畜だ許せない!!そして・・・その女性のあの蔑んだようなあの視線・・・!!ぜひとも私を、あなたのパーティに入れてほしい!!!」

 

かと思いきや、パーティ入りを懇願してきた。

 

「いらない」

 

もちろんカズマはそれを即拒否。

 

「あはああぁぁん・・・!!」

 

それには自重することなく、ダクネスは喜んで興奮している。

 

「ねぇ、カズマ・・・この人、昨日言ってた私とティアとめぐみんがお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」

 

間違いなく知ってほしくないメンバーにダクネスの存在を知られた瞬間である。

 

 

ーこのすばぁ・・・♡ー

 

 

とりあえずパーティ一同はダクネスの面接のため、ダクネスの冒険者カードを一度確認する。

 

「ちょっと!この方クルセイダーではないですか!断る理由がないのではないですか?」

 

「私もそう言ってるんだけど・・・カズマがねぇ・・・」

 

ダクネスのパーティ入りはパーティ一同が賛成しているが、カズマはかなり渋っている。理由は当然、ダクネスが身も心もドMだからだ。

 

「ダクネス・・・実は君には、どうしても聞いてもらいたいことがある」

 

ダクネスを追い出す方法を思いついたのか、カズマがダクネスに声をかける。

 

「実はな・・・俺とアクアはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと思っている」

 

「そうなの!すごいでしょ!」

 

得意げにしているアクアは放っておいて、カズマは話を進める。

 

「この先、俺たちの冒険はさらに過酷なものになるだろう・・・特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら大変だぞ?それはもう・・・とんでもないことを晒される役どころだ!」

 

「ああ・・・全くその通りだ。昔から、魔王にエロい目に合わせられるのは女騎士としての仕事だと相場が決まっているからな。それだけでも、行く価値がある!!」

 

「あれ?」

 

カズマはダクネスがドMだというのは気づいているが、まさか自分から危険な目にあいに行くとは思わなかったカズマは完全に予想外だと思った。

 

「め、めぐみんも聞いてくれ!相手は魔王!この世で最強の存在に喧嘩売ろうってんだよ?そんなパーティに、無理して残る必要は・・・」

 

「我が名はめぐみん!!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者!我を差し置き、最強を名乗る魔王・・・そんな存在は、我が最強の爆裂魔法で消し飛ばしてあげましょう!!」

 

この際にめぐみんを除外しようと説得しようと思ったが、こっちも効果なしだった。

 

「アカメにティアも!魔王という存在は人々に危険を齎す存在だ!そんな奴らと戦おうという集団に、お前たちが身を投じる必要は・・・」

 

「上等じゃない。魔王の苦痛に歪む表情・・・想像するだけで興奮するわ」

 

「人々の自由を奪おうとする魔王なんて、私たちがやっつけるよ!!」

 

双子もパーティから除名しようと説得したが、全滅。全員残る気満々で、カズマは思わず頭を抱える。

 

「カズマカズマ、話を聞いてたら、なんだか腰が引けてきたんですけど。なんかもっと、楽な方法とか思いつかない?」

 

「お前が1番やる気出せ・・・」

 

そんな中で1番の関係者であるはずのアクアだけが戦意喪失しかけている。すると・・・

 

『緊急クエスト!!緊急クエスト!!冒険者各員は至急、正門に集まってください!!』

 

緊急クエスト発令放送を聞いて、街にいる冒険者は全員、ギルドから出ていって、正門前に集まる。カズマたちもこれに乗じて、正門に前に集まる。

 

「緊急クエストってなんだ?モンスターの襲撃なのか?」

 

「違う違う。キャベツだよキャベツ、キャベツの収穫」

 

「はあ?」

 

緊急クエストがキャベツの収穫と聞いてわけわからないといった顔をするカズマ。

 

「今年は荒れるぞぉ・・・」

 

「嵐が・・・来る・・・」

 

荒くれ者とめぐみんが一言発すると、徐々にアクセルに近づいてくる緑の物体の数々が見えるようになる。そして・・・

 

『収穫じゃああああああああああ!!!!!』

 

「マヨネーズ持ってこーーーーい!!!!」

 

冒険者全員は声を張り上げて気合を入れている。ティアなんて特に、誰よりも気合が入っている。緑の物体を確認できたカズマはこう叫ぶ・・・

 

「なんじゃこりゃあああああああああああああ!!!!???」

 

『キャベキャベキャベキャベ・・・』

 

カズマが確認できた緑の物体の正体は、空を飛ぶ生きたキャベツであった。

 

『全員参加クエスト!!

街に飛来したキャベツを収穫せよ!!』

 

「皆さーん!今年もキャベツの収穫時期がやってまいりましたー!今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき1万エリスです!できるだけ多くのキャベツを捕まえ、この檻の中に収めてください!」

 

『ヒャッハーーーーーー!!!!』

 

街の冒険者全員はこの時を待っていたのか全員笑顔でキャベツを多く収穫しようとキャベツの大群へと突っ込んでいく。

 

「カズマは知らないでしょうけど、この世界のキャベツは・・・飛ぶわ。味が濃縮して、収穫の時期が来ると、簡単に食われてたまるかと言わんばかりに、町や草原を疾走とする彼らは、大陸を渡り、海を越え・・・そして最後に、人知れぬ秘境の奥で、誰にも食べられずに、ひっそりと息を引き取ると言われているわ。それならば!私たちは一玉でも多く捕まえて、おいしく食べてあげようってわけよ!!」

 

「・・・俺、帰って寝てもいいですかね?」

 

この世界でのキャベツの常識を知らないカズマにアクアが説明を入れる。するとカズマは急にやる気がなくなってきている。

 

「行けええええぇぇ!!!」

 

『おおおおおおおお!!!!』

 

荒くれ者の合図で冒険者一同はキャベツに向かって突進し、キャベツを切ったり、射抜いたり、捕まえたりしてキャベツの収穫に勤しむ。

 

「いよーーーし!!!ガッポガッポと、取りまくるよぉーーーー!!!そーれバインドぉ!!!」

 

ティアは周りの冒険者に負けないようにバインドを駆使してキャベツを1つ、また1つと捕まえていく。

 

「ふはははははははー!!!こうやって捕まえるだけで経験値がガッポガッポ稼げるだけでなく、お金までもらえるこのイベント・・・気持ちが高ぶらずにいられますかぁ!!いやない!!!絶対ない!!!キャベツ!!君たちは本当に最高だーーーーー!!!」

 

「キャベべーーーー!!」

 

キャベツを1つ1つ捕まえていくティアに別のキャベツが体当たりを仕掛けようとしている。すると・・・

 

ザシュッ!

 

「キャベーー!!?」

 

ティアを守るようにアカメが短剣で体当たりしてきたキャベツを真っ二つに切り裂く。

 

「ティア!あまり調子に乗りすぎよ!もう少し冷静に・・・」

 

「さあキャベツ!!今すぐに私に捕まってよ!!そしてその血肉を、私の経験値とお金に捧げちゃいなよーー!!キャベツに血とかでないけど!!」

 

「聞いちゃいない・・・たく、世話がかかるわね!」

 

ザクッ!

 

「キャベ!!?」

 

体当たりしようとしたところにまたキャベツを切るアカメ。一応はキャベツを捕まえたいという双子の気持ちは一緒なのか双子のコンビネーションはこれでもかというほどに息ピッタリである。

 

「俺はこの異世界でキャベツを倒すために来たわけじゃないのに・・・。ティアなんかもう血走ってるような目をしてるし・・・。はぁ・・・もう・・・日本に帰りたい・・・そして家に引きこもりたい・・・」

 

普通じゃありえない光景を目にし、そして狂気的な気持ちの高ぶりを見せているティアを見て、カズマはもう日本へとホームシックしたくなってきている。

 

「カズマ、といったか。ちょうどいい機会だ。私のクルセイダーとしての実力を、その目で確かめてくれ」

 

ダクネスはカズマにそう言って、両手剣を構えてキャベツの群れに向かって突進していく。

 

「はああああ!!!」

 

スカッ、スカッ、スカッ、スカッ・・・

 

ダクネスは一心不乱にキャベツに攻撃を加えようとしているが、両手剣はキャベツに当てるどころかかすりもしない。これは不器用どころの話ではない。

 

(全然当たらないじゃないか・・・)

 

これはもういよいよ使えないと思い込んでいるカズマ。

 

「ぐわああああ!!!」

 

キャベツたちの逆襲と言わんばかりに、冒険者たちはキャベツの体当たりで倒れる者が続出する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・さすがに、堪えるわね・・・」

 

「ぜぇ・・・はぁ・・・さすがに、疲れてきたよ・・・」

 

怒涛のキャベツラッシュに双子も疲れの色が見え始めてきた。

 

「キャベーー!!!」

 

「!しまった!」

 

「きゃあっ!!」

 

双子が疲れてきたところにキャベツが双子たちに向かって突進しようとしている。

 

「危ない!!!!」

 

ドゴォッ!!

 

体当たりが双子に当たる直前、ダクネスが双子の前に立ち、キャベツの体当たりを身を挺して防いだ。

 

「ここは私に任せて・・・今のうちに・・・」

 

「「ダクネス!!」」

 

数多くのキャベツの怒涛の体当たりはまだまだ続く。キャベツの重い一撃が1発ずつダクネスに直撃し、少しずつ鎧が壊されていく。

 

「鎧が!!」

 

「何のこれしき!!」

 

「バカやってんじゃないわよ!!やられてる一方じゃない!!早く逃げなさい!!」

 

「バカを言うな!!!仲間を見捨てる行為など・・・できる・・・ものかぁ!!!」

 

素肌が少しずつ見え始めてきても、仲間に一喝を受けても、ダクネスは仲間を守る行為を決してやめることはなかった。

 

「騎士の鑑だ・・・」

 

「早く逃げて騎士様!!」

 

男冒険者、特に騎士系の冒険者はダクネスの姿を見て、尊敬を覚えており、女性冒険者はダクネスの身を心配している。

 

「・・・・・・」

 

そんな中でカズマはダクネスを見て、冷めたような目で見ている。

 

(み・・・見られている・・・男たちが私の肌を見て興奮している・・・!なんという辱め・・・!汚らわしい・・・たまらん!!最高のご褒美だ!!!)

 

(やっぱり・・・喜んでる・・・)

 

ダクネスはキャベツの体当たりを食らい、男たちの興奮した目つきで見られて、ドMとして興奮している。カズマはそれを見て、ダクネスをかなり引いている。

 

「あんなになってまで人を守るなんて・・・」

 

「俺も騎士として見習わないとな・・・」

 

(違う!!!みんな誤解してるぞ!!!目を覚ましてくれ!!!)

 

そうとは知らない他の冒険者は盛大に勘違いしている。

 

「ふ・・・肉壁のくせに・・・生意気よ!私だって負けてられないわ!!」

 

ザシュッ!

 

「キャベー!!?」

 

「あんなの見せられたら・・・疲れなんて・・・どこのそのーーー!!」

 

ダクネスの勇姿を見た双子はダクネスが取り逃がしたキャベツを切り裂いたり、捕まえたりして元気を取り戻す。そしてそこに・・・

 

「真打登場。我が必殺の爆裂魔法の前において、何者も抗うことなど敵わず・・・」

 

「ここにもややこしい奴がーーーー!!!!」

 

めぐみんが爆裂魔法を放とうと、狙いを大量のキャベツに向ける。

 

「あれほどの敵の大群を前にして、爆裂魔法を放つ衝動を抑えられようか・・・いやない!!!!だから撃つのです!!!!」

 

「いやあるよぉ!!?まだ他の冒険者がいるだろぉ!!?」

 

カズマのツッコミもいざ知らず、めぐみんは爆裂魔法の詠唱を唱え始める。

 

「光に覆われし漆黒よ・・・夜を纏いし爆炎よ・・・紅魔の名の元に、原初の崩壊を顕現せよ。終焉の王国の地に、力の根源を隠匿せし者・・・我が前に統べよ!!!」

 

詠唱を唱え終えると、ダクネスたちの周りの大気が大きく震え始めている。

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「ええ・・・ここは・・・」

 

「「逃げろーーーーー!!!!」」

 

めぐみんが爆裂魔法を撃とうとしているのを見た双子は守ってくれたはずのダクネスを置いて一心不乱に逃げていく。

 

「エクスプロージョン!!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!!!!

 

爆裂魔法の大爆発によって、双子と周りにいた冒険者たち、そしてキャベツの一部はその爆風で吹き飛ばされていく。そしてダクネスは多くのキャベツと共に爆裂魔法の大爆発に巻き込まれるのだった。

 

『全員参加クエスト!!

街に飛来したキャベツを収穫せよ!!

結果:大豊作!特別ボーナス獲得!!』

 

 

ーこのすば!-

 

 

キャベツの収穫を終えた冒険者たちは捕まえたキャベツの料理を食べながら騒いだり飲んだりしてどんちゃん騒ぎだ。カズマたちのパーティもキャベツを使った野菜炒めを食べている。

 

「納得いかねぇ・・・なぜたかがキャベツの野菜炒めがこんなにうまいんだ・・・」

 

カズマはぶつぶつと文句を言いながらも、キャベツの野菜炒めをうまいと言いながら食べている。

 

「あなた、さすがクルセイダーね。あの鉄壁の守りにはさすがのキャベツたちも攻めあぐねていたわ」

 

「いや・・・私など、ただ固いだけの女だ。誰かの壁になって守ることしか取り柄がない」

 

アクアがダクネスのクルセイダーとしての能力を褒めると、ダクネスは照れている。

 

「アカメとティアのコンビネーションも中々のものでした。お互いを守り合いながらあのキャベツの大群をなぎ倒すのですから。紅魔の里でも、あれほどのコンビネーションは滅多に見られませんよ」

 

「冒険者歴10年の私たちなら、当然のことよ」

 

「喧嘩することが多いけど、意思疎通は出来てなきゃ、ね」

 

めぐみんはアカメとティアの双子のコンビネーションを高く評価しており、アカメは鼻を鳴らして自慢し、ティアは少し照れ臭そうにしている。

 

「それよりアクアの花鳥風月も見事なものだったわ。正直、見直したわ」

 

「だね。冒険者のみんなの指揮を高めつつ、収穫したキャベツの鮮度を保つなんて。バカにしてた自分が恥ずかしいよ」

 

「まぁね。みんなを癒すアークプリーストとしては当然よね!」

 

「それ、絶対いらないだろ・・・」

 

双子がアクアの花鳥風月を褒めて、アクアは結構ご満悦だ。カズマは未だに花鳥風月をバカにしているが。

 

「めぐみんの魔法も凄まじかったぞ。キャベツの群れを一撃で吹き飛ばしていたではないか」

 

「ふふん!紅魔の血の力、思い知りましたか!」

 

「ああ・・・あんな火力の直撃は・・・今まで食らったことはなかったぞ・・・。あれは・・・いい!」

 

「直撃させんなよ・・・いつか死ぬぞ・・・」

 

ダクネスは爆裂魔法の威力を思い出して、興奮している。めぐみんは爆裂魔法を褒められて、鼻が高くなっている。

 

「あ、カズマ!あんたも中々なものだったわよ!」

 

「確かに・・・潜伏スキルで気配を消して、背後からスティールで強襲するその姿は、まるで暗殺者の如しです」

 

「冒険者歴10年の私たちだけど、スティールをあんな風に使う奴はあんたが初めてよ」

 

「うんうん。私たちでさえ、あれで捕まえたことなんて、1度もなかったし」

 

パーティ一同はカズマのキャベツ方法について褒めていたが、カズマはちっとも嬉しそうにしていない。

 

「カズマ、女神の私の名において、華麗なるキャベツ泥棒の称号を授けてあげるわ」

 

「お前そんな称号を本気で与えたらマジでぶん殴るからな」

 

アクアからもらった称号が気に入らないのかカズマはこめかみがひくひくさせている。

 

「では改めて・・・私の名はダクネス。一応は両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。何せ、不器用すぎて攻撃が全く当たらないんだ。だが、壁になるのは大得意だ!」

 

正式にカズマのパーティに加わったダクネスは改めてメンバーに自己紹介をした。中々濃いメンツが揃って、アクアは得意げだ。

 

「ふふん、うちのパーティの顔ぶれも中々豪華になってきたじゃない。アークプリーストの私に、シーフのアカメにティア、アークウィザードのめぐみん、そしてクルセイダーのダクネス。6人中5人が上級職のパーティなんてそうそうないわよ?」

 

それとは対照的に、もういろいろと苦労させられる気がしているカズマはもうため息をつくしかなかった。

 

「それではカズマ、これからも遠慮なく、私を囮代わりに使ってくれ。パーティの足を引っ張るようなことがあれば、アカメのように強めに罵ってくれ!何なら!捨て駒として見捨ててくれたっていい!ふふ・・・想像しただけで武者震いが・・・」

 

想像するだけで興奮するダクネスを見て、もうカズマはもういろいろと諦めている。

 

「改めて、これからよろしく頼むぞ」

 

ダクネスは笑顔を浮かべながらカズマに手を差し伸べた。カズマはもう諦めて、渋ったような顔でダクネスと握手を交わすのだった。




次回予告的なもの

拝啓、学校の先生、佐藤和真です。

僕は今、異世界で勉学を学んでいます。
社会の仕組みを、人間というものを、生きるということを。
ここで起きる素晴らしい出来事の何もかもが自分を成長してくれてるんだと感謝しています。
ありがたすぎて、うれし涙が出てきます。
枕で涙を濡らさなかった夜は一夜もありませんでした。
・・・いや、いい意味で、いい意味でですよ?

仲間の会話
めぐみん「カズマ、急にどうしたのですか?お腹でもくだしましたか?」
アカメ「て・・・あんた・・・本当に泣いてんの?」
ダクネス「お、おい・・・いったいどうしたというのだカズマ」
カズマ「何でもない・・・何でもないからほっといてくれ・・・ぐす・・・」
ティア「よくわかんないけど・・・きっといいことあるよ!多分・・・」
カズマ「いやそこ自信持てよ・・・」
アクア「ぐーすかー・・・zzz」

次回、この夜の墓場にリッチーを!


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この夜の墓場にリッチーを!

朝早くの冒険者ギルド、双子は今回はパーティメンバーの誰よりも朝早くに来ており、朝からシュワシュワを飲み、シュワシュワに合うつまみを食べながらカズマたちが来るのを待っている。

 

「平和だねぇ~・・・」

 

「そうね。本当に平和だわ」

 

平和だというのは砂漠にいたころと全く変わっていないが、やはり盗賊稼業は砂漠にいた頃と比べれば、極端に少ないために、双子は刺激が足りなく感じている。とはいえ、今のパーティの方がスリルを楽しめるし、別の意味で退屈していないため、不満は何1つない。

 

「そりゃ、まだ3日しか経ってないけど、カズマのパーティは面白くて好きだよ?でも、こうしてると、盗賊稼業が恋しくなる時って、ない?」

 

「言いたいことはわかるわ。でも、このアクセルの街ではほとんど黒っていう奴がいないのも事実よ。こうして呑気に飲んだくれてる奴らがそれを物語っているわ」

 

「クリスに聞いても、ここに黒い噂の悪者は数えられる程度しかいないっていうからねー・・・」

 

「ま、0ってわけでもないのだから、のんびり行きましょう。今の私たちにできることといえば、自分の腕を衰えないようにすることだけよ」

 

今後黒の悪人が人を騙し、破滅へと誘う者は現れないとは思っていないアカメはそう言いながらつまみの焼きカエルたれ味を食べる。すると、アカメの発言がおかしいのかティアがにたにたと笑っている。

 

「衰えないようにするって・・・そもそもお姉ちゃん、盗賊技能はスティールしかとってないじゃんw」

 

「は?何笑ってんのよこのクソビッチ」

 

ティアが自分を見て笑っている姿が癪に障ったのかアカメはティアに突っかかってくる。

 

「だって、だってさ、スティールしか使わない間抜けなシーフだなんて、聞いたことがないんだもんwこれが笑わずにいられる~?」

 

「その分を戦闘で補っているって毎回言ってるわよね?なぜ理解しようとしないのかしら?」

 

「じゃあ聞くけどさ、お姉ちゃんはなんで盗賊技能をスティールしか振ってないわけ?施錠は?敵感知スキルは?何もかも振ってないから能力足りなすぎだと思うんだけどw」

 

「ぬぐっ・・・スティールしかとってないのは、大事なものを奪われた瞬間の間抜け面が・・・」

 

「うんうんたまらなく好きなんだよね?でもさ、その人が大事なものを常に身に着けてるっていったい誰が決めたのかな~?そういう場合のこと、ちゃんと考えてる~?」

 

「ぐっ・・・こ、こいつ・・・!」

 

今回の喧嘩の言い合いはアカメが言い負かされており、アカメはこめかみをひくひくしている。

 

「悔しかったら盗賊技能を振ってみれば~?その場合、お姉ちゃんのアイデンティティずったずただけどねw」

 

「い・・・いいわよ?振ってやろうじゃない。アイデンティティがなんぼのもんよ」

 

悔しさのせいかアカメは自分の冒険者カードを取り出し、盗賊スキルを覚えようとするが、表示されているスキルポイントは0だった。

 

「お姉ちゃん忘れたの?お姉ちゃんのスキルポイントは、短剣スキルの威力強化のために全部使ったんじゃん~w」

 

「・・・・・・」

 

「前にもこんなことがあったのに、またやらかすなんて、本当、こりないんだから~w」

 

いい加減堪忍袋の緒が切れたのかアカメはすっと席を立ちあがり、ティアの胸倉を掴み上げる。

 

「あんたちょっと表に出なさい。今日こそ姉に歯向かう妹の末路ってものを教えてあげるわ」

 

「望むところだよ。姉は妹より勝るって間違った認識を正してあげるよ」

 

自分の胸倉を掴んだアカメにたいしてティアはやり返しとしてアカメの胸倉を掴み上げる。そしてお互いに怒りの火花がバチバチとこみあがっている。

 

「お、おい!何をやっているんだ2人とも!喧嘩はやめないか!」

 

今にも殴り合いになりかねない様子を止めたのはちょうどいまギルドにやってきたダクネスだった。

 

「放してよダクネス。私はこの能力を偏った姉の根性を叩き直すんだから」

 

「それはこっちのセリフよ。戦闘力ゴミのあんたが、取っ組み合いで勝てると思ってんの?」

 

双子の怒りの矛先は未だに変わっていないのか、ダクネスに視線を合わせようともしない。その様子にダクネスはなぜか頬を赤らめる。

 

「た、確かにお前たちは家族同士なのだからお互いのことで鬱憤が溜まるだろう。だ、だ、だから・・・そういう鬱憤は、ぜひとも私に向けてくれ!なんだったら、私を殴ってくれても構わない!!いや、むしろ殴れ!!」

 

「「・・・・・・」」

 

相も変わらずドM根性むき出しのダクネスを見て、双子は喧嘩がバカらしくなったのかお互いの胸倉を掴んだ手を放す。ティアはかなり引いた様子で、アカメは嬉々とした様子で。

 

「へぇ・・・私の鬱憤、晴らさせてくれるっていうのかしら?なら、付き合ってもらおうじゃない?私の鬱憤晴らしに」

 

「望むところだ!」

 

「今ちょうど機嫌が悪かったし、今ならあんたを喜ばせてあげられる快楽を、味わえるチャンスよ」

 

「む、むむむ、むしろ望むところだ!!」

 

アカメはダクネスを連れてギルドの奥へと向かっていく。

 

「・・・はぁ・・・せっかく有利に立ててたのにな・・・つまんないの」

 

「何ですか?またアカメと喧嘩をしていたのですか?」

 

ティアがアカメが去ったのをつまらなさそうにしていると、ちょうどめぐみんもやってきた。

 

「あ、めぐみん。そうなんだよ。まぁ、私が喧嘩を吹っ掛けたから私が悪いんだけど」

 

「アカメとティアは本当に姉妹なのかというのを疑ってしまいますよ・・・」

 

アカメとティアの仲が悪いことにめぐみんは少しあきれている。

 

「それで、何が原因で喧嘩を?」

 

「スキル関連についてだよ。お姉ちゃんのスキル習得に偏りがあるからさ・・・」

 

「それはティアも言えたことではないのですか?攻撃スキル、1個も習得してないじゃないですか」

 

「めぐみんにだけは言われたくないよ。まぁ、そうなんだけど・・・。それでも限度ってものがあるじゃん?お宝の鍵の解除や敵感知もできないシーフなんて・・・」

 

ティアがアカメに対して文句を言おうとした時、ここでティアは考え始めた。

 

(待てよ?カズマの敵感知はシーフに劣るからいいけど・・・もしもお姉ちゃんがシーフの能力を全振りしてたりしたら・・・私の存在意義がなくなる!!?)

 

ないとは思ってはいるが、アカメがシーフのスキルを全振りした場合にたいして、自分が存在する意味がなくなることを危惧し始めたティア。

 

「や、ややや、やっぱりお姉ちゃんは今のままの方が1番だよ!」

 

「はぁ・・・今ティアが何を考えてるのか、手に取るようにわかるようです・・・」

 

焦り始めているティアを見て、いったい何を考えているのかわかってしまうめぐみん。

 

ドゴォン!!

 

「ぶはっ!!?」

 

「あふん♡」

 

「ティア⁉それに、ダクネス⁉」

 

話し込んでいるとアカメに投げられたダクネスはティアと激突する。

 

「ふ、ふふふ・・・さすがはアカメだ・・・実に・・・私好みの攻めであったぞ・・・!」

 

「お・・・お姉ちゃん・・・」ムカムカッ

 

「あー、ごめん。手が滑ったわ」

 

全然悪びれてない様子のアカメを見て、ティアはまた怒り出す。

 

「この・・・バカぁ!!」

 

ベチャッ!

 

「ぶっ!!?」

 

怒ったティアはどこからか取り出したパイをアカメの顔面に投げて直撃させる。それによってアカメも標的をダクネスからティアに変更する。

 

「・・・やってくれたわ・・・ね!!」

 

ベチャッ!

 

「ぶっ!!?」

 

アカメもどこからかパイを取り出し、ティアの顔面に向けて投げて直撃させる。

 

「もーー怒った!!!謝ったって許さないよ!!!」

 

「上等よ!!!その顔も体も汚しきってやるわ!!!」

 

一度は収まった喧嘩が再び起こり、双子によるパイ投げ合戦が始まる。そのおかげでギルド内は滅茶苦茶だ。

 

「おー!!いいぞ双子共ー!!やれやれぇ!!」

 

「や、やめてください!!ギルドがパイで汚れてしまいます!!」

 

周りの冒険者たちは悪ノリしているが、ルナを含む従業員はパイ投げ合戦をやめるように声を上げている。が、その程度で双子は止まらない。

 

「わっ!もういい加減にしてくださいよ!こっちにも被害が飛びます!」

 

「ああ!アカメ!なぜまた標的をティアに変えるのだ⁉そのパイ投げの刑はティアではなく私にやってくれぇ!」

 

飛んでくるパイを避けながらめぐみんは喧嘩をやめるように言っている。ダクネスは別の意味で声を荒げているが。

 

「なになにー?何の騒ぎかしら?私も混ぜなさいよー」

 

「なんだ?いったい何の騒・・・」

 

ベチャッ!×2

 

『あ・・・』

 

そこに遅れてやってきたアクアとカズマがやってきて、その2人の顔にパイが直撃した。それを見た双子と周りの冒険者たちは唖然となる。それも当然だ、アクアはともかく、昨日の一件でパンツ脱がせ魔と評されているカズマに当たったのだ。どうなるかなんて予想もつかない。

 

「・・・・・・おい、このパイを投げつけた奴は誰だ?」

 

『この2人です』

 

明らかに怒気を含んでいるカズマを見て周りの冒険者たちは事の発端である双子を簡単にカズマに差し出した。

 

「・・・お前らのことだ。言ったところで喧嘩をするのは目に見えてるからそこは諦める。だがしかし・・・今度こんなパイを使った喧嘩をしてみろ。その時は・・・」

 

「「その時は・・・?」」

 

「お前らを縛り上げて身動きの取れない状態でジャイアント・トードの口の中へと運び込ませる。それが出来ないなら今すぐにでも放り込ませてやる。きっとパイの甘味がべっとりついてるから、さぞうまくてベロベロとなめまわしてきれいにしてくれるだろうよ」

 

「「すみません、二度としないのでそれだけはご勘弁を」」

 

「よろしい」

 

ジャイアント・トードにそれなりのトラウマを持っている双子はベロベロされる姿を想像してしまい、顔を青ざめながらカズマに土下座をする。カズマの例えを聞いためぐみんを含んだギルドにいる人物全員は顔を青ざめながら引いている。ダクネスだけは顔を赤くして興奮しているが。

 

「う・・・うぐぅ・・・汚された・・・私、汚されちゃったよぅ・・・私、女神なのに・・・。2人ともひどいよー!うわああああああ!!」

 

被害を受けたアクアはパイで汚れた顔を拭き取りながら泣いている。その際に拭き取っパイのクリームをペロリ・・・

 

「・・・あ、でも、このクリームおいしい・・・もっと欲しくなってきたかも!」

 

パイのクリームが絶妙においしかったのかすぐ泣き止んで、もっとパイを欲しがっているアクア。女神としてそれでいいのかと、カズマはそう思った瞬間である。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

その後、アカメとティア、アクアはギルドの浴場に入って、身体についたパイのクリームを洗い落とした。身体を洗い終えた後は、仲間と共に着替えを行っているカズマの到着を待つことになった。そして、待つこと数分後・・・カズマはいつもとは違う恰好で出てきた。

 

「へぇ・・・かなり見違えたね。かっこいいよ、カズマ」

 

「カズマがちゃんとした冒険者に見えるのです」

 

今のカズマの恰好はジャージではなく、長ズボンにブーツ、シンプルな服に緑のマントといった、ちゃんとした冒険者の服を着こなしている。

 

「ジャージのままじゃファンタジー感ぶち壊しだものね」

 

「ファンタジー感?」

 

アクアの放った単語を理解していないのかダクネスは首を傾げる。

 

「初級とはいえ、魔法スキルを習得したからな。盾は持たずに、魔法剣士みたいなスタイルで行こうと思う!」

 

「あんたってば、本当に言うことだけはいっちょ前よね、言うことだけは」

 

カズマのかっこつけた発言にアカメは少しあきれている。

 

「ではさっそく、討伐クエストにいきましょう!それもたくさんの雑魚モンスターがいるやつです!」

 

「いや!一撃が重くて気持ちいい・・・すごく、強いモンスターを!」

 

「バカね、弱くも強くもない奴に決まってるでしょ。抵抗してるモンスターが苦痛に歪む顔が見たいわ」

 

「いや!ここは探索系のクエストにしよう!今こそ、私の真価を発揮する絶好の機会だよ!」

 

(こいつら全員まとまりがねぇー・・・)

 

やりたいクエストがバラバラでまとまりが全くないパーティにカズマは少し危機感を覚える。

 

「んー・・・じゃあ、ジャイアント・トードが繁殖期に入っていて、街の近場に出没しているから、それでも受け・・・」

 

「「「「カエルはやめましょう!!!」」」」

 

またジャイアント・トードの討伐を受けようとカズマが提案するが、ジャイアント・トードにトラウマがある双子、アクア、めぐみんは声を揃えてジャイアント・トード討伐に反対した。

 

「?なぜだ?」

 

「あー・・・この4人はカエルに食われてるからそれがトラウマになってるんだ。頭からぱっくりいかれて、粘液塗れにされたからな」

 

「!!粘液塗れ!!」

 

「・・・お前今、変な興奮しただろ」

 

「してない」

 

粘液塗れと聞いてダクネスは変に興奮したが、それをカズマに突かれて即座に否定する。

 

「だったら別のにするか?つっても、このメンツでのクエストは初めてだから、楽にこなせるやつがいいんだが・・・」

 

「これだからヒキニートは。そりゃ、カズマだけ最弱職の冒険者だから、慎重になるのもわかるけど、優秀な私をはじめ、上級職ばかり集まったパーティなのよ?お金ががっぽり稼ぐことができる高難易度クエスト一択に決まってるじゃない!」

 

アクアのこの言葉によって、カズマはアクアにたいして冷めた目で見ている。

 

「・・・お前、自分が1番優秀みたいな言い方してるけど、このパーティの中で1番役に立ってないのはお前だからな」

 

「!!」ビクッ!

 

カズマの言葉にアクアはビクついているが、容赦なくカズマは続ける。

 

「双子の息が合ってないといけないっていう条件付きだが、アカメの方は物理攻撃力が戦士クラス以上に高いし、物理攻撃の要として非常に役立ってる。ティアの方だって戦闘ではバインドで相手の動きを止めたり、俺たちの武器に状態異常属性を付与できて、俺でも割と簡単にカエルを素早く倒せたくらいだ。めぐみんだって1発しか撃てないとはいえ、威力は絶大。俺とティアの潜伏スキルをうまく組み合わせれば、奇襲だって仕掛けることが可能かもしれんのだぞ。ダクネスは敵に突っ込みたがる癖はあるものの、その防御力がピカ一なのは実証済みだ。まぁ、敵が引っ込んでもまた突っ込んでしまうのは難だが」

 

だがしかし!とカズマはアクアを指して言葉を続ける。

 

「お前、今日の今までなんか役に立つことがあったか?少なくとも俺にはお前が役に立った場面を見たことが一度もないんだが?ていうか、お前の存在意義って何?これまでのお前の姿を見ていると、元なんとかっていう威厳が全く見えないんだが?そんなお前が俺たちのパーティで役に立つことってなんだ?言ってみろよ」

 

「あ、あのぅ・・・私・・・回復魔法が得意でして・・・そ、それと・・・私、今も現在進行形で女神なんですけど・・・」

 

「女神!!お前が女神!!?お前のやったことなんてただ単にカエルに食われていただけじゃねーか!!それにさ、お前キャベツのクエストの時何やってたの?最終的にはキャベツをたくさん捕まえてたみたいだが、ただキャベツから逃げ回って転んで泣いてただけだろうが!!そんな奴が役に立つ女神だって言えるのかこの惰眠を貪る宴会芸しか取り柄のないごくつぶしがぁ!!!」

 

「わ、わあああああああん!!!!」

 

カズマの容赦のない口撃にアクアは耐え切れず泣き出してしまう。

 

「何か役に立ちたいという気持ちが少しでもあるのなら、何か手軽にできて儲かる仕事でも考えろ。俺が商売やる時の参考にしてやるから。それが嫌なら、お前の唯一の取り柄である回復魔法を教えろ。俺だって回復魔法を覚えたいんだよ」

 

「嫌ーーー!!回復魔法だけは嫌よーー!!私の存在意義を奪おうとしないでよ!!私がいるんだから別に回復魔法覚えなくたっていいじゃない!!うわあああああああん!!」

 

あまりに容赦のない口撃にアクアは回復魔法を教えるのを拒みながら大泣きしている。

 

「あんた・・・私以上に容赦ないわね・・・」

 

「カズマの口撃力はお姉ちゃん以上にえげつないね・・・」

 

「ですね。本音を遠慮なくぶちまけると、大概の女性は泣きますよ・・・」

 

「うむ・・・ストレスが溜まっているなら、代わりに私を、口汚く罵ってくれても構わないぞ・・・」

 

「いやそういう問題じゃないから」

 

その様子にはパーティメンバーたちに呆れられている(1名は除く)。するとカズマはふとダクネスをちらっと見る。

 

「・・・それにしても・・・」

 

「?どうした、カズマ」

 

「ダクネスさんって・・・着やせするタイプなんですね・・・」

 

現在ダクネスの鎧はキャベツの体当たりで壊れているために、今の姿は黒のスカートに黒のタンクトップ姿。その姿に加え、女性として誇らしい体つきで、明らかに下心丸出しのカズマである。そしてアクアをなだめているティアを見る。ティアの身体つきはダクネスには劣るが、出ているところはしっかり出ており、しかも軽装ゆえに、男心をくすぐられているカズマ。

 

「な、なんかカズマが・・・エロい目でこっちを見てるんだけど・・・」

 

「み、見てませんけど?」

 

「む?今私のことを、エロい身体つきしやがってこのメス豚がといったか?」

 

「言ってねぇよ!!?」

 

ダクネスのこの発言で、女性は見た目でなく中身が重要と認識したカズマであった。

 

「カズマ、エッチなのはいけないと思うの」

 

「すいません」

 

ティアに痛いところを突かれ、ぐぅのねもでないカズマ。そこで、ダクネスと隣にいた貧乳のアカメとロリっ子のめぐみんを比較する。

 

「今こっちをチラ見したわね?何か言いたいことでも?」

 

「おい、こっちをチラ見した意味を聞こうじゃないか」

 

「意味なんてないさ。ただ、俺に貧乳属性やロリ属性がなくてよかったと思っただけだ」

 

カズマのこの一言が余計で、アカメとめぐみんの怒りを買ってしまう。

 

「へぇ・・・いい度胸してるじゃないあんた・・・。ぐちゃぐちゃにされる覚悟があるってことよねぇ・・・?」

 

「紅魔族は売られた喧嘩は買う種族です。よろしい、表に出ようじゃないですか!!」

 

2人の怒りを買ったカズマは慌ててアクアを見ながら本題であるクエストの話に戻す。

 

「は、話を戻すが!とりあえずこの頭の悪いバカのレベルを上げられるクエストにしたいと思うんだが・・・何かいいのはないか?」

 

「ああ、それなら・・・これなんかどう?街外れの墓地に現れるゾンビメーカーの討伐」

 

ゾンビメーカーとは、他のゾンビたちを操るアンデッド族の中で下級と言われているモンスターのことだ。

 

「いいのではないですか?アクアのレベル上げには最適ですよ」

 

「どういうことだ?」

 

めぐみんの言葉の意味を理解していないカズマにアカメが説明する。

 

「プリーストのレベリングは他と比べて難しいのよ。何せ、私たちと違って攻撃スキルがないのだから。そういうわけで、プリーストのレベリングに最適なのがアンデッド族ってわけ。アンデッドは神の力が逆に働くわけだから、回復魔法を唱えると体が崩れるのよ」

 

「ああ、大概のゲームに近い話だな」

 

アカメの説明にカズマは納得する。

 

「俺としてはアクアがレベルアップして、知能が上がってくれれば問題ないが・・・問題はダクネスの鎧がないことなんだが・・・」

 

「うむ!私なら問題ない!伊達に防御スキルに特化してるいるわけではない。鎧なしでも、アダマンマイマイより硬い自信がある!それに殴られた時、鎧なしの方がずっと気持ちいいからな!!」

 

「今殴られると気持ちいいって言ったか?」

 

「言ってない」

 

「言ったろ」

 

「言ってない」

 

ダクネスのドMの趣向は置いておいて、ダクネスは鎧がなくとも、防御力が高いから問題ないとのことだ。

 

「後は、アクアがOKって言えば、問題ないんだけど・・・」

 

「おいアクア、どうするんだ?黙ってないで少しは会話に参加しろよ。今お前のレベリングの・・・」

 

「ぐーすかー・・・zzz」

 

「寝てるし・・・」

 

当のアクアは泣き疲れたのかぐっすりと眠っていた。

 

「へっ!大した大物っぷりだぜ!!」

 

「違う!!絶対そんなんじゃないから!!」

 

近くにいた荒くれ者の発言にカズマはツッコミを入れる。とはいえ、これでカズマたちの受けるクエストは決まったのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

『討伐クエスト!

夜の墓場に現れるゾンビメーカーを討伐せよ!』

 

ゾンビメーカー討伐のためにカズマパーティ御一行は夕方の時間帯に街から出て、街外れにある墓地にまでやってきた。ゾンビメーカーが現れる時間帯は夜、まだ時間に余裕があるため、夜になるまでカズマたちはここでキャンプを行っている。とはいえ、墓の前でバーベキューなんて罰当たりなことをするわけにはいかないため、墓場より離れている場所でそれを行っている。

 

「あ!ちょっとアカメ!その肉は私が目を付けた奴よ!返してよ!私が食べようとした肉を・・・ああ!!食べられたーーー!!!」

 

「うるさいわね。世は弱肉強食、ボーッとしてる奴が・・・あっ!こらカズマ!それは私が食べようとした魚よ!魚や肉ばっか食べてないで野菜食べなさいよ!」

 

「世は弱肉強食じゃなかったのか?それに俺、キャベツ狩り以来どうも野菜が苦手なんだよ。焼いてる最中に飛んだり跳ねたりしないか心配になるから」

 

「大丈夫だよ。もしそうなってもお姉ちゃんの睨みで一ころ・・・というか、飛んだりするだけでどうして野菜が苦手になるのかわかんないんだけど」

 

「俺の故郷では野菜は飛ばないんだよ・・・」

 

なんやかんやあり、バーベキューを楽しんでいる間にも、もうすぐでゾンビメーカー出現時間の夜がやってくる。

 

「とりあえず眠気覚ましにコーヒー淹れるけど・・・誰か飲むやついるか?」

 

「ああ、私にも淹れてくれ」

 

「私も頼めるかしら」

 

「ああ、わかった」

 

カズマはまず3つのカップにコーヒー粉を入れ、そこに少量の水が出る初級魔法、クリエイト・ウォーターでカップに水を入れる。そしてそこにライターの火を出せる初級魔法、ティンダーをともして温めれば、コーヒーの出来上がりだ。これらの初級魔法はキャベツの収穫の際に仲良くなった冒険者から教えてもらったものだ。

 

「カズマ、私とティアにもお水をください」

 

「はいよ」

 

カズマはクリエイト・ウォーターでめぐみんとティアのコップに水を注ぎこんだ。

 

「カズマの初級魔法って便利だよね。初級魔法は誰も取得しないようなものなんだけど、ちょっと羨ましくなるよ」

 

「初級魔法って元々こういう使い方をするんじゃないのか?あ、そうだ。クリエイト・アース!」

 

カズマは突然初級魔法、クリエイト・アースを使ってさらさらと砂を出していく。この魔法についてめぐみんに尋ねる。

 

「なぁめぐみん、これって何に使うものなんだ?」

 

「その魔法で創った土で畑を耕すといい作物が取れるそうです。ただそれだけで他に使い道はありません」

 

この説明を聞いていたアクアは突如として割り込んできて、嘲笑う。

 

「何々、カズマさん、畑でも作るんですかー?冒険者から農家へとジョブチェンジするんですかー?土も創れるし、水も撒けるだなんて、さすがはカズマさん!私にはとてもマネできない汚れ仕事ですわー、プークスクス!」

 

「・・・クリエイト・アース!!&ウィンドブレス!!」

 

アクアの発言に怒ったカズマはクリエイト・アースで砂を出し、風を起こす初級魔法、ウィンドブレスで砂埃を発生させ、それをアクアの目元まで運び込む。

 

「ぎゃああああああああ!!!目が!!目がああああああああ!!!」

 

それには当然アクアは目に砂が入り、ゴロゴロとのたうち回る。

 

「す、すごいね、カズマは・・・魔法をあんな風に使うなんて・・・」

 

「へぇ・・・これが、初級魔法の正しい使い方なのね」

 

「違います違います!!普通はこんなことで初級魔法は使いませんよ!というか、なぜ初級魔法を魔法使い以上に使いこなせているんですかあの男は!!」

 

どうやら普通は初級魔法をこのような使い方をしないらしく、アカメやティアはおろか、魔法使いであるめぐみんでさえ驚いているのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

コーヒーを飲んでいるうちにすっかり夜になり、いよいよ本格的にゾンビメーカーを討伐しようと動き出そうとするカズマたち。だが、夜だからか、それとも墓場の近くだからか知らないが、カズマたちは寒さで震えている。

 

「ううぅ・・・さささ、寒い~・・・」

 

「真夜中の墓地・・・うぅ・・・余計寒気が・・・」

 

「あんたたちなんてまだマシな方でしょ・・・うぅ・・・寒・・・」

 

「私たちは軽装だから余計に寒気・・・へくちっ!」

 

「うぅ・・・早く終わらせたいところだな」

 

「ああ・・・全くだ・・・」

 

あまり長いしたくないカズマたちは早く終わらせたい一心だ。するとここでアクアが不吉なことを言いだす。

 

「ねぇ、引き受けたのってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな小物じゃなくて、大物のアンデッドが出る予感がしてるんですけど・・・」

 

「おい、そういう発言はやめろって!これがフラグになったらどうすんだ⁉」

 

「何よ!女神の言うことを信じないの⁉」

 

「お前の何を信じろって言うんだよ⁉」

 

カズマとアクアの方は放っておいて、そろそろ行動開始だ。

 

「そろそろだぞ、ゾンビが現れる時間は。カズマ、ティア、頼むぞ」

 

「うん!」

 

「わかった!」

 

カズマとティアは敵感知スキルを発動し、墓地に現れているゾンビを察知する。だが、その数は少し異常だ。

 

「お、反応が出たな・・・1体、2体・・・3体・・・あれ?めちゃくちゃ多いな」

 

そう、ゾンビメーカーが取り巻くゾンビは2、3体程度なのだが、これはそれを越えているのだ。それはつまり、この先にいるのはゾンビメーカーではない可能性が出てきたということだ。すると、ティアが驚いた様子でいる。

 

「これ・・・まずいかも・・・!」

 

「どうしたんだティア⁉」

 

「この先にいるの・・・ゾンビメーカーじゃない!アクアの言うとおりこれ・・・大物のアンデッドだよ!しかも、魔王軍幹部クラス並みの!」

 

「「「なっ!!??」」」

 

「それは本当なのかしら⁉」

 

「どんなアンデッドかは知らないけど、間違いないよ!」

 

まさかアクアの言ったことが現実になるとは思わなかった。メンバーは驚愕している。

 

「ほら言わんこっちゃねぇだろ!!!なんてことを言ってくれたんだ!!!」

 

「何よ!私のせいだっていうの⁉それより私の言ったこと、本当だったでしょ!謝ってよ!私を疑ったこと謝ってよ!」

 

「喧嘩してる場合じゃないわよ。あれを見てみなさい」

 

アカメの視線の先には、青い光を放った魔法陣が敷かれていた。その奥には、大量に湧き出たゾンビと、大物らしき黒いフードを被った人物・・・いや、アンデッドの方が正しいだろうか。

 

「本当にゾンビメーカーではないようだな。突っ込むか?ゾンビメーカーじゃないにしろ、こんな時間に墓場に現れた以上、アンデッドなのは間違いない」

 

「待ってください、奴らは都合よく一か所に固まっています。ここは我が爆裂魔法の一撃で灰燼に帰して差し上げましょう」

 

「お前ら待てって!!相手は魔王軍幹部クラスなんだぞ⁉特にめぐみん!爆裂魔法なんか使ったら、墓地事吹っ飛ぶだろうが!いいか?絶対やるなよ?絶対だぞ!!フリじゃないからな!!」

 

カズマはめぐみんに爆裂魔法を放つなというと・・・

 

「・・・・・・・・・・・・冗談ですよ。そんな念を押さなくても撃ちませんって」

 

「おい今返事に間があったぞ!!?撃とうとするなって!!!」

 

明らかに間があり、カズマは念入りにめぐみんに注意する。

 

「・・・ティア、気づいてるかしら、あのローブ」

 

「うん・・・絶対・・・あの人だよね・・・?」

 

黒いフードの正体に気付いたアカメとティアがひそひそと話していると・・・

 

「ああああああああああ!!!!」

 

「ちょっ!!?1人で飛び出すな!!」

 

アクアは勝手に1人で飛び出し、辺りに敷いてある魔法陣を踏み荒らす。

 

「リッチーがのこのことこんなところに現れるなんて不届きな!!!成敗してやるーーーーー!!!!」

 

「きゃあああああああ!!?」

 

リッチー・・・それは、ヴァンパイアと並ぶ最高位のアンデッド。魔法を極めた大魔法使いが魔道の奥義によって人の身体を捨てたノーライフキングと呼ばれるアンデッドの王である。

 

「やめ、やめ、やめてーーー!!!誰なのいきなり現れて!!?なぜ私の魔法陣を壊そうとするの!!?やめて!!やめてくださあああああい!!!」

 

魔法陣を壊そうとしてるアクアを黒いフードを被ったリッチーが止めに入る。

 

「うっさい!!黙りなさいアンデッド!!どうせこの怪しげな魔法陣でろくでもないことを企んでるんでしょ!!何よこの魔法陣!!この!!このぉ!!!」

 

そんなリッチーに構わず、アクアはリッチーが作った魔法陣を壊し続ける。その様子にはゾンビたちも戸惑っている。

 

「やめて!!やめてーーー!!!この魔方陣は成仏できない迷える魂たちを天に還してあげるためのものなんです!!ほら!!たくさんの魂たちが魔法陣から空に昇っていくのが見えるでしょう!!?」

 

リッチーの言うとおり、魔方陣のゾンビを見てみると、浄化されて霊となり、天へと昇っていく姿が多々あった。ただそれはアクアにとっては気に入らなかったようだ。

 

「はっ!!!リッチーのくせに生意気よ!!!そんな善行はこの私がやってあげるから引っ込んでなさい!!!見てなさい、こんなちんたら面倒にやってないで、この共同墓地ごとまとめて浄化してあげるわ!!!」

 

「ええ!!?ちょ・・・やめ・・・」

 

「ちょっ!!?」

 

「バカ!!やめ・・・」

 

「ターンアンデッド!!!!」

 

アクアは共同墓地全体に浄化魔法、ターンアンデッドを放った瞬間、墓地全体が白い光に包まれる。その瞬間、ゾンビたちが浄化され、天へと昇っていく。それはつまり、リッチーである黒ローブも・・・

 

「ほえええええええ!!?か、身体が消える!!!消えちゃう!!!や、やめてください!!!私の身体が消えてなくなっちゃう!!!成仏しちゃうからああああ!!!」

 

「あはははははは!!!愚かなるリッチーよ!!自然の摂理に反する存在!!神の意に背くアンデッドよ!!!さあ!!私の力で欠片ごと消滅・・・」

 

バチンッ!!!

 

「やめなさいよこの【ピーーーーーーーっ】女ぁ!!!!」

 

「いたぁ!!!?」

 

リッチーが浄化されかけているところをアカメはアクアの頭を強めに叩いた。

 

「ちょ、ちょっとアカメさん!!?何をするの!!?」

 

「あんたこそ、うちの家主に何してくれてんのよ!!?」

 

「えっ?家主?家主ってなんだ?」

 

「ウィズー!!大丈夫ーー!!?」

 

後から出てきたティアは何とか踏みとどまったリッチーに駆け寄る。事情を知らないカズマたちは戸惑う。

 

「あ・・・アカメさん⁉それにティアさんも⁉なぜこちらに・・・」

 

「あれ?このリッチーと知り合いなのか?」

 

「知り合いも何も、私たちが住んでいるところの家主がこの人だよ」

 

「何っ⁉そうなのか⁉」

 

「ということは、2人は居候だったのですね」

 

そう、このリッチーの正体は双子が住んでいるウィズ魔道具店の店主のウィズであったのだ。

 

「えっと・・・アカメさんとティアさんのおっしゃる通り、お2人にお部屋をお貸ししているウィズと申します・・・。リッチーです・・・。危ないところを助けていただき、ありがとうございます、カズマさん」

 

「いや、俺は何も・・・あれ?俺、名前言ったっけ?」

 

ウィズが自分の名前を知っていることにカズマは首を傾げる。するとウィズはにっこりと微笑む。

 

「皆さんのことは、アカメさんとティアさんから伺っていますよ。冒険者のカズマさんに、えっと・・・アークプリーストのアクアさん・・・」

 

「はあ?」

 

「突っかからないでちょうだい」

 

ウィズにさん呼ばわりして不機嫌になったアクアはウィズを浄化しようとするが、アカメがそれを止める。

 

「アークウィザードのめぐみんさんに、昨日パーティに加わったクルセイダーのダクネスさん。お2人とも、楽しそうに皆さんのことを話していたので・・・」

 

「そうだったのか・・・」

 

「ちょ・・・ちょっとウィズ⁉何言ってんの⁉やめてよー!」

 

「・・・ちっ」

 

ウィズの話を聞いて、いろいろと納得がいったカズマたち。ウィズに話を暴露されてティアは顔を赤くしており、アカメは舌打ちをしている。

 

「だから話を聞いて、カズマさんには、お礼が言いたかったんですよ?」

 

「俺に?」

 

「お2人は、これまでちゃんとしたパーティに加わった経験がなかったようで・・・帰ってきた際には、少し悲しそうにしていたんです。それが今では、楽しそうに・・・。お2人に変わって、お礼を申し上げます。お2人をパーティに入れてくださって、ありがとうございました!」

 

「お・・・おう・・・」

 

ウィズの話を聞いて、カズマは双子をパーティに除名しようとしていたなんて口が裂けても言えないと思った。

 

「そ、それはそうと!ウィズ、こんな墓場で何してるんだ?魂を天に還すと言ってたけど、このアホってわけじゃないが、リッチーのあんたがやることじゃないんじゃないか?」

 

「ちょっとカズマ!こんな腐ったみかんと喋っているとあんたまでアンデッドが移るわよ!!?ちょっとそいつにターンアンデッド・・・」

 

「あんたは話がややこしくなるから黙りなさい。さもないとこの場で【ピーッ】して八つ裂きにするわよ」

 

「アクア、放送禁止用語に八つ裂きはさすがに止めるけど、本当に黙っててくれないかな?話の邪魔だから」

 

「う・・・うううぅぅぅ・・・何でよぉ・・・何でクソリッチーを庇うのよぉ・・・」

 

アクアがまたウィズにターンアンデッドをかけようとすると、アカメがどすの利いた目で睨みつけ、ティアが困ったようにしながら止める。仲間に強く言われ、ウィズを庇おうとする姿勢にアクアは涙目である。

 

「そ、そのぅ・・・私はリッチーですから、迷える魂たちの話が聞けるんです。この共同墓地の魂の多くはお金がないためろくにお葬式もしてもらえず、天に還ることもなく、毎晩墓場を彷徨っているんです。なので、定期的にここを訪れ、魂を天に送っているんです」

 

「いい人だ・・・アカメとティアが羨ましい・・・」

 

「それは立派だけど、そういうのはこの街のプリーストがやればいいんじゃない?」

 

ティアの至極全うな正論にウィズは少々困ったような表情をしながら答える。

 

「そ、そうなのですが・・・そのぅ・・・この街のプリーストさんたちは拝金主義・・・あ、いえ、その・・・お金がない人たちは、後回し、と言いますか、そのぅ・・・あのぅ・・・」

 

「要するにこの街のごくつぶしプリースト共は金儲け優先の奴ばっかで金が寄り付かない連中が埋葬されてる共同墓地には興味がないってことでしょ」

 

「あ・・・えっと・・・言い方はともかく・・・そうです・・・」

 

「ああ・・・」

 

「なるほど・・・」

 

「納得だ・・・」

 

「うん・・・いい例がいるしね・・・」

 

「ちょ・・・何よ⁉なんでみんなしてこっち見るのよぉ!!?」

 

ウィズの説明とアカメの解釈に納得した4人は真っ先にアクアを見つめる。

 

「まぁ・・・いいんだけどさ・・・ゾンビを呼び起こすのだけはどうにかしてくれないか?俺たちがここに来た目的って、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けてきたからなんだが・・・」

 

「あ・・・そうでしたか。でもその・・・呼び起こしてるわけではなく、死体が私に反応して勝手に目覚めちゃうんです。私としては、この墓場に埋葬されている人たちが迷わずに天に還ってくれれば、私がここに来る理由もなくなるんですが・・・」

 

「要はここのゾンビたちを浄化さえできれば問題ないって、ことだよね?でも、ここのプリーストはダメだってわかったからなぁ~・・・」

 

一同はどうすればよいのかというのを悩んでいると・・・

 

「いるじゃない。ここに1番の適任が。ねぇ?自称、女神様?」

 

「!」ビクッ

 

アカメがアクアの後ろに回り込んでゆっくりと肩を掴みかかる。それにはアクアはビクッと震わせている。

 

 

ーこのすば!-

 

 

そういうわけで、今後はアクアが定期的に共同墓地に赴き、ゾンビたちを除霊するという形で話がまとまり、とりあえず双子は残りのゾンビをアクアたちに任せて、ウィズを家まで送っていくという名目で魔道具店までの帰路を歩いていく。

 

「とりあえず、アクアに浄化されなくてよかったね、ウィズ」

 

「あ、ありがとうございます・・・すみません、ご迷惑ばかり・・・」

 

「まぁ・・・あいつのことだから、これで懲りるとは思わないけど」

 

数日の期間でアクアのことを理解している双子は若干ながら苦笑を浮かべる。

 

「・・・それはそうと、あんたがリッチーだったなんて、聞いてないけど?」

 

アカメの言葉にウィズは申し訳なさそうな顔をしている。

 

「ご、ごめんなさい・・・隠すつもりはなかったんです。ただ・・・そのぅ・・・なんといいますか・・・」

 

「大丈夫だよ。私たちはあそこに住み始めて、ウィズがどんな人かっていうのはもうわかってるから。そこにリッチーは関係ないよ」

 

「ティアさん・・・」

 

ティアの嘘偽りない言葉と気遣いにウィズは自分の素性を教えなかったことを本当に申し訳さなそうにしている。

 

「ま、害がないのなら、私から言うことは特にないわ。せいぜい自称女神様に浄化されないように、精進することね」

 

「アカメさん・・・」

 

素っ気ない態度ながらも、アカメはウィズにたいしてそう言い放った。双子はウィズがリッチーだからといって、態度が変わることはないようだ。

 

「でもあの場の相手がウィズでよかったよー。何せリッチーはアンデッドの王・・・もしもウィズじゃない奴だったら、カズマとめぐみんは間違いなく死んでたね」

 

「でも、アクアのターンアンデッドで浄化されかけていたのが、不思議でならなかったのだけど」

 

「確かに・・・不思議なことがあったものだねー」

 

「あ、あのぅ・・・」

 

双子が話し込んでいると、ウィズが申し訳なさそうに話しかけてきた。

 

「ほ、本当に私・・・今まで通りに、お2人と接してもよろしいのでしょうか?」

 

ウィズのその問いに、双子は互いに顔を合わせて、再びウィズに顔を見せる。

 

「何言ってんの?当たり前じゃん。嫌う理由がないもん」

 

「ま・・・こっちの期待を裏切るようなことがあれば別、だけどね」

 

「お姉ちゃん!」

 

「ま、せいぜい行動で信頼を強めることね」

 

双子の答えにウィズはほんの少し間があったが、すぐに穏やかににっこりと微笑む。

 

「・・・はい。ありがとうございます」

 

双子とウィズはウィズ魔道具店までの道のりを微笑ましい話をしながら、歩いていくのだった。

 

「・・・あ、そういえば思い出したけど・・・クエスト・・・どうしよう?」

 

「・・・あ」

 

「ああああ!!す、すいません!すいません!本当にすいません!!」

 

『討伐クエスト!

夜の墓場に現れるゾンビメーカーを討伐せよ!

リタイア!!』




次回、この強敵に爆裂魔法を!


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この強敵に爆裂魔法を!

本日の冒険者ギルドでは、キャベツのクエストで収穫されたキャベツが売り出されたため、冒険者たちはその報酬を受け取るためにカウンター席に並んでいる。もちろん、カズマのパーティもキャベツの捕獲分の報酬を受け取りに・・・というか、もうアクア以外は全員報酬を受け取ったために、その報酬を使った買い物に行って来ている。その中で、残っているのがカズマとティアで、報酬を受け取る冒険者たちの列に並んでいるアクアだけだ。

 

「ねぇねぇカズマカズマ」

 

「はいはいカズマですよ」

 

「カズマはキャベツの報酬、何に使うの?」

 

ティアの興味本位の質問にカズマは嘘偽りなく話す。

 

「俺たちの住まいが馬小屋なのは知ってるだろ?馬小屋生活脱却のために、とりあえずはどっかの一軒家を手に入れるために、ひとまずは貯金ってとこだな」

 

「そのお金でどっかの宿に泊まればいいのに・・・」

 

「今はどこも埋まってて、泊まれる場所がないんだよ。それから、ウィズんとこで寝泊まりしてるお前らにだけは言われたくない」

 

「大変だね・・・」

 

馬小屋生活を送っているカズマにティアは少し同情をしている。

 

「そういうティアは報酬を何に使うんだ?」

 

「う~ん・・・私、これといってほしいものはないんだよ。だから私もカズマと同じく貯金かなーって」

 

「だったらウィズになんか買ってやったらどうだ?一応住まわせてもらってんだし、そのお礼ってことでさ」

 

「あ・・・確かにいいかも。ありがとうね、カズマ。参考にするよ」

 

「おう」

 

カズマとティアが報酬で何に使うかという話をしている間にも、ダクネス、めぐみん、アカメが戻ってきた。そんな中で、ダクネスがカズマたちに話しかけてきた。

 

「カズマ、ティア、見てくれ!修理に出していた鎧が直ったのだが、以前よりこんなにピカピカになった!どう思う?」

 

今のダクネスの姿は初めて出会った時の鎧を着こんでいるが、彼女の言うとおり、鎧は以前と比べると見違えるほどに輝いている。着こんでいるダクネス自身もうれしそうだ。

 

「なーんか成金主義のぼんぼんが付けている鎧みたい」

 

「む・・・私だって、素直に褒めてもらいたい時があるのだが・・・」

 

カズマの発言はダクネスにとってはあまりいい言葉ではないようで、珍しく拗ねているような表情をしている。

 

「だが・・・カズマはどんな時でも容赦ないな・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

だがすぐに平常運転でドM心を発揮している。

 

「でも本当に綺麗で素敵な鎧だよ、ダクネス。まるで本物の貴族のお嬢様騎士みたいだね」

 

「き・・・貴族のお嬢様は・・・その・・・やめてくれないか?」

 

「あれ?褒めたはずなのに嬉しくない?」

 

ティアは素直に褒めたはずなのだが、ダクネスはあまりいい気持ちにはなれなかったようだ。

 

「まぁそれはいいとして・・・今はあいつらには構ってる余裕はない・・・というか、関わりたくない」

 

「ああ・・・それは、確かに・・・」

 

カズマとティアは自分たちの座っている席の隣にいるめぐみんとアカメを若干引いた目で見る。

 

「まずそこにいる変態共のあの浮かれ具合をなんとかしろよ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色つや・・・たまりませんねぇ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・ああ・・・ようやく巡り合えたわね、マジックダガー・・・あなたのその輝く刃で・・・何かを切り裂く瞬間・・・はぁ・・・想像するだけでよだれが・・・」

 

めぐみんは手に入れたマナタイト製の杖を頬ずりしており、アカメは念願のマジックダガーをうっとり見つめたり、べろりと刃を舐めまわしている。正直言って、危険人物と言われてもおかしくない光景である。

 

「何ですってーーー!!??もういっぺん言ってみなさいよあんた!!!!」

 

すると、アクアが従業員に突っかかっている声が聞こえてきた。そちらを見てみると、本当にアクアがルナに突っかかっている。

 

「みんなあんなに報酬をもらってるのに、なんで私だけこれっぽっちなのよぉ!!!私がどれだけのキャベツを捕まえたのかわかってんの!!?ちゃんと数えたのかしら!!?」

 

どうやらアクアの受け取った報酬の額が他の冒険者と比べて異常に少なかったことにたいして文句を言っていたようだ。

 

「それが・・・そのぅ・・・言いにくいことなのですが・・・」

 

「何よ?」

 

「アクアさんが捕まえてきたのが、ほとんどがレタスでして・・・」

 

「なんでレタスが混じってんのよーー!!?おかしいでしょう!!?」

 

どうもアクアが捕まえたキャベツの中にはレタスが混じっていたようで、その混じったレタスが多かったから報酬が少なかったようだ。

 

「あの中にレタスが混じってたのかよ・・・」

 

「確かに、レタスの換金率は低いな」

 

「でもレタスって最低でも30玉か50玉くらいしか混じらなかったはずなんだけどなぁ・・・」

 

「つまりは・・・その30か50のレタスをアクアが捕まえたってことだろ?」

 

「それは・・・ある意味すごいな・・・」

 

どう足掻いたところで報酬が変わらないと判断したアクアは抗議をやめてカズマに近づいてくる。カズマはというと、関わりたくないといった顔をしている。

 

「カーズーマーさん?キャベツで手に入れた報酬はおいくら万円ですかー?」

 

「・・・・・・150万エリス」

 

「「「「「ひゃくごっ・・・!!?」」」」」

 

一玉が1万エリスということは、普通ならカズマは少なくとも150玉は回収していることになる。だがカズマの場合、150なんて捕まえられるはずもない。ならなぜか?簡単だ。かなり高い経験値を持ったキャベツを収穫したため、普通より報酬が多いのだ。それだけ稼げているカズマにパーティメンバー全員は驚いている。そしてアクアの目の色が変わり、すぐに行動に入る。

 

「か、カズマ様ー?前から思ってたんだけどー・・・そこはかとなくいい感じよね!」

 

「そこはかとなく言うな。特に褒めるとこがないなら無理すんな。褒めた程度じゃ金はやらないぞ」

 

お金を出さない発言をされたアクアは目元に涙を潤ませ、すぐに駄々をこねた。

 

「カズマさん!!私、今回の報酬が相当な額になるっふんで持ってたお金全部使っちゃったんですけど!!ていうか大金は入ってくるって見込んでこの酒場に10万近いツケまであるんですけど!!」

 

「んなもん俺の知ったことか!!今回の報酬はそれぞれのものにって言ったのはお前だろ!!?」

 

「だって!!私だけ大儲けできるって思ったんだもん!!」

 

「お前最低だな・・・余計に払いたくなくなるわ・・・」

 

「お願いよ~!!お金貸して!!ツケ払う分だけでいいから~!!」

 

アクアのあまりにしつこい駄々にもカズマは聞く耳持たずだ。

 

「うるさい駄女神!!自分で招いた結果だろ!!自分の付けくらいは自分でなんとかしろ!!んなことで人様に迷惑をかけんじゃねぇ!!地道に働いて返しやがれ!!」

 

「わああああああん!!カズマに見捨てられた~~!!」

 

もうカズマではダメだと判断したアクアは今度はめぐみん、ダクネス、アカメに狙いを定める。

 

「お願いよ~~!!めぐみんでもダクネスでもアカメでもいいからお金貸してよ~~!!こんな4万ぽっきりじゃ全然足りないからぁ~!!このままじゃ私、ひどい目にあっちゃう~~!!」

 

アクアは泣きながらめぐみんたちにお金を貸すように頼んでみる。

 

「無理ですよ。これ払ったら今泊ってる宿代がなくなるじゃないですか」

 

「すまない・・・私も、鎧の修理費で報酬を全て使い切ってしまった」

 

「出さないわよ。生活費だって溜めてるんだから」

 

「うわあああああああん!!」

 

みんなお金を貸す余裕がないらしく、それを聞いたアクアは大泣きしてしまう。すると1人だけ報酬を使っていないティアのことを思い出し、アクアは最後の望みと思い、ティアにすがる。

 

「お願いティア!!お金貸して!!みんなお金を出してくれないの!!もうティアだけが頼みなの!!最後の希望なの!!」

 

「えぇ~・・・私、これから何か買おうと・・・」

 

ティアはお金を貸すのに渋っている。その様子を見てアクアは泣きながらティアが飲んでるジュースに指を突っ込む。するとティアのジュースが浄化されていき、色がだんだんと薄くなってきている。

 

「なぁんでよ~~~!!まだ報酬使ってないんだからいいじゃない!!ねぇ、お願いよ~~~!!!クエストの報酬で何でも買ってあげるから!!10万程度でいいから~~~!!!」

 

「きゃあああああ!!?じゅ、ジュースがあ!!?わかった!!わかったって!!払う!!払うからジュースに浄化魔法を使うのはやめてええええええ!!!」

 

結局ティアは自分の報酬の一部をアクアに渡したのだった。ちなみに、ジュースを浄化したのは浄化魔法ではなく、体質によるものだ。

 

 

ーこのすばぁ~!!!(泣)ー

 

 

「カズマさん・・・仲間って・・・いいわよね!」

 

「お前って奴は本当に・・・」

 

お金をもらって調子が上がったアクアはるんるんした気分で酒場の人間につけを払った。その様子にカズマは本当にあきれ果てている。一方、ジュースを浄化されてしまったティアはというと・・・

 

「・・・もうこれ・・・ただの水だ・・・私のジュース・・・」

 

「あんたは悪くないわ・・・。私がジュース買ってあげるから、元気出しなさい・・・」

 

好きなジュースだったのかティアは目が死んだように落ち込んでる。その姿にさすがに哀れと思ったのかアカメがティアを元気づけている。

 

「・・・では、アクアのツケ問題も解決したので、そろそろクエストに行きましょう。さっそくこの新調した杖の威力を試したいのです!!」

 

「そうね。クエストに行きましょう。私も、念願のマジックダガーの切れ味を、もう試したくて試したくて・・・」

 

「そうだな。なんか割に合うクエストが1つでもあるといいんだが・・・」

 

クエストに向かうという方針を決めたカズマたちはさっそくクエストボードでクエストを確認するが・・・

 

「あれ?なんだこれ?依頼がほとんどないじゃないか」

 

クエストボードにはいつもと比べて依頼数が極端に少なく、残っているクエストというのが・・・

 

「カズマ!!私はこれがいいぞ!!ブラック・ファングと呼ばれる巨大熊討伐を!!」

 

「んなもん俺はすぐに死ぬわ!!却下だ却下!!ていうか、なんだよこれ⁉高難易度のクエストしか残ってないじゃないか!」

 

そう、残っているクエストといえば、強敵モンスターの討伐などといった高難易度クエストしかないのだ。カズマが困惑していると、ルナが現状を説明する。

 

「申し訳ありません。実は最近、魔王の幹部らしき者が街の近くに住み着きまして・・・」

 

「えっ!!?マジですか!!?」

 

「はい・・・ですので、その影響か、近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しておりまして・・・」

 

「えええ~・・・何でこのタイミングで・・・」

 

「なので、腕利きの冒険者や騎士が王都から派遣されてくるまでは高難易度クエストしかできないと、お考え下さい・・・。大変、申し訳ございません」

 

ルナはカズマたちに頭を下げて謝罪してから通常業務に戻る。クエストが減った原因を聞いたカズマたちは落胆する。

 

「まったく、やってくれたわね!幹部だかなんだか知らないけど、もしアンデッドなら見てなさいよ!絶対浄化してやるんだから!!」

 

「わ・・・私は、高難易度クエストはむしろ望むところなのだが・・・」

 

「強敵討伐はやらないからな」

 

「むぅ・・・」

 

「つまり、元に戻るまでは、大人しくしとけってことかぁ~・・・辛いなぁ~・・・」

 

思わぬ邪魔が入ってしまい、カズマたちパーティはしばらくはクエストに行くのはやめるようだ。

 

「はぁ・・・マジックダガーの試し切りできると思ったのだけど・・・この退屈をどうまぎれさせたらいいのかしら・・・」

 

アカメが特にやることがなく、退屈そうにマジックダガーを眺めていると、めぐみんが声をかけてきた。

 

「暇を持て余しているのなら、ちょっと付き合ってもらいたいのですが・・・よろしいでしょうか?」

 

ウィズの店を手伝う以外はやることがないアカメは少しの刺激を得るためにめぐみんの誘いを了承するのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

めぐみんの誘いというのは、爆裂魔法の練習の付き添いらしい。めぐみんの爆裂魔法は1発撃てば動けなくなるため、最低でも1人はおぶる人材が必要なのだから当然と言えば当然だ。

 

「・・・で?なんで俺まで付き合わなきゃいけないんだ?」

 

爆裂魔法の練習の付き添いにはアカメだけでなく、カズマも来ていた。カズマは明らかに不服そうにしてはいるが。

 

「どうせ暇してるんだから少しは付き添いなさいよ。本物のニートになりたいなら、帰っても構わないけど」

 

「それは嫌だけどさ・・・魔法の練習なら1人で行けばいい話じゃねぇか」

 

「そうしたら、いったい誰が私をおぶって帰るのですか?1発撃ったら動けなくなるんですよ?」

 

「というわけで、動けなくなっためぐみんをお願いね」

 

「・・・まさか、そのためだけに俺を呼んだのか?」

 

「当たり前でしょう」

 

どうやらアカメはめぐみんをおぶって帰るのが面倒だからわざわざカズマを呼んできたらしい。ちなみにアカメは刺激が欲しいから来ているだけだ。

 

「もうこの辺でいいだろ?適当に魔法撃って帰ろうぜ?」

 

1秒でも早く帰りたいカズマはそう提案するが、めぐみんはそれを拒否する。

 

「ダメなのです!街から離れたところじゃないと、また守衛さんに叱られます!」

 

「今お前、またって言ったな。音がうるさいとか迷惑だとか言われて怒られたんだろう」

 

カズマの問いかけにめぐみんは恥ずかしそうにしながら首を縦に頷いた。

 

「なら、あれならどうかしら?あれならどんなにぶち壊したって、誰も文句は言わないでしょ」

 

2人より目がいいアカメが指しているのは、大きな崖にそびえ立っている不気味な雰囲気を放っている廃城であった。少し歩いたところで2人もその廃城が見えてきた。

 

「あれは・・・廃城でしょうか?」

 

「薄気味悪いな・・・」

 

「標的にするには、いい的だと思わないかしら」

 

「そうですね。あれにしましょう」

 

とりあえず標的を決めためぐみんはすぐに爆裂魔法の詠唱を唱える。

 

「紅き黒炎、万界の王。天地の法を敷衍すれど、我は万象昇温の理。崩壊破壊の別名なり。永劫の鉄槌は我がもとに下れ!!!」

 

詠唱を唱え終え、めぐみんは爆裂魔法を放つ。

 

「エクスプロージョン!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!!

 

廃城は爆裂魔法の大爆発に直撃したが、少しは頑丈なのか、原形はまだとどまっている。爆裂魔法を放っためぐみんはぐったりと倒れこむ。

 

「燃え尽きろ・・・紅蓮の中で・・・。・・・はぅ・・・最高・・・です・・・」

 

爆裂魔法を放った後はカズマがめぐみんをおぶって、アクセルの街へと帰還するのであった。

 

 

ーこのすばぁ♡ー

 

 

ということもあって、こうしてアカメ、カズマ、めぐみんの新しい日課の始まりであった。

 

一文無しのアクアはというと、毎日アルバイトに励んでいる。

 

ダクネスはしばらくは実家で筋トレをしてくると言って、帰省している。

 

ティアはウィズの店の手伝いをしている。アカメは同じくウィズの店の手伝いをしながら爆裂魔法の日課に参加している。

 

そういうわけで、特にやることがないめぐみんは同じくやることがないカズマを連れて毎日、あの廃城に爆裂魔法を放ち続けた。

 

「エクスプロージョン!!!」

 

それは寒い氷雨が降る夕方・・・

 

「プロージョン!!!」

 

それは穏やかな、食後の昼下がり・・・

 

「ジョン!!!」

 

それは早朝の散歩のついでに・・・

 

「「「ばっくれっつばっくれっつらんらんらーん♪」」」

 

どんな時でも、めぐみんは何度もあの廃城に赴き、爆裂魔法を放ち、めぐみんの傍らで爆裂魔法を見続けてきたカズマとアカメはその日の爆裂魔法の出来がわかるまでになっていた。

 

「エクスプロージョン!!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!

 

そして今日も今日とて、めぐみんは爆裂魔法をあの廃城に撃ち放った。

 

「お、今日のはいい感じだな。爆裂の衝撃波がずんと骨身に浸透するがごとく響き・・・」

 

「それでいて、肌を舐めるかのように、空気の振動が届いてくる・・・実に美しかったわ」

 

カズマとアカメは本当に爆裂魔法の出来を理解したようで、専門家みたいな発言をしている。

 

「「・・・ナイス、爆裂!!」」

 

「ナイス、爆裂」

 

カズマとアカメはめぐみんにグッドサインを送り、めぐみんもグッドサインで返す。これぞ、ナイス、爆裂。

 

「カズマもアカメも爆裂道がわかってきましたね。どうです?いっそ本当に、爆裂魔法を覚えてみては?」

 

「私はシーフとしての誇りがあるから、悔しいけど、断念するわ。カズマはどう?」

 

「うーん・・・まだ考えてないんだよな、そこは。でも将来、余裕があったら習得してみるのも面白そうだな」

 

「よい心掛けです」

 

こうして3人は今日も日課を終えて、めぐみんをおぶりながらアクセルの街へと戻るのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

翌日、今日は珍しくパーティ全員が冒険者ギルドに集っている。そろそろクエストを受けられそうかなと確認をしてみてるが、未だに進展はない。

 

「んー・・・今日も高難易度のクエストしかないなぁ・・・」

 

「本ッ当にムカつくわねー。ちょっと魔王軍の幹部でもしばいて来ようかしら?」

 

「軽くそんなこと言うなよ。相手は魔王の幹部なんだぞ?」

 

「それに、その魔王の幹部がどこに住んでるかなんてわからないでしょ?」

 

まだクエストが受けられない状況下にアクアはいら立ちを隠せないでいた。とはいえ、どこにいるのかもわからないのだからどうしようもできないのもまた事実である。

 

「じゃあ今日もクエストは休みってとこね」

 

「むぅ・・・私としては高難易度でもいいのだが・・・仕方ない。今日も実家で筋トレでもするか・・・」

 

とりあえず、本日も冒険者稼業は休みということに決めたカズマたち。

 

「ではカズマ、アカメ、今日も爆裂魔法の練習に行きましょう。今日は昨日より、いい爆裂魔法が撃てそうなのです」

 

「お、それは楽しみだな!」

 

「ふふふ、今日の爆裂魔法は何点なのか、採点が楽しみね」

 

「え、ちょっとカズマさん、私がバイトをやってる間にそんな楽しそうなことやってたの?」

 

「うわぁ・・・お姉ちゃんが爆裂中毒者になりかけてる・・・」

 

カズマたちがそんな話をしていると、緊急放送が鳴り響いた。

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門まで集まってください!』

 

街の緊急放送によって街にいる冒険者は全員、戦闘態勢を整えてから街の正門まで集まっていく。カズマたちも各々が戦闘の準備を整えてから街の正門まで集まっていく。

 

「あれは・・・!!ただ事じゃねぇ!!」

 

街の正門の前に待ちかまえていた存在を見て、荒くれ者を含めた冒険者たちは驚愕する。街の正門の前に立っていたのは、首が存在しない亡霊馬に乗り込み、暗黒騎士の甲冑を着込んだ首なしのアンデッド、デュラハンだ。デュラハンは自分の頭を担いで、じっと冒険者たちを見据える。

 

「・・・俺はつい先日、この近くの城に越してきた、魔王軍幹部の者だが・・・」

 

魔王軍の幹部の1人であるデュラハン・・・ベルディアはプルプルと震え、そして声を荒げて叫んだ。

 

「ま・・・ま・・・ま・・・毎日毎日毎日毎日毎日!!!!俺の城に毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでくる頭のおかしい大馬鹿者はどこのだれだあああああああああああ!!!???」

 

魔王軍の幹部であるベルディアは、それはもうたいそう、ご立腹でした。そしてカズマとアカメ、めぐみんはその城に心当たりがありまくった。

 

「・・・・・・」

 

「・・・まさか、あのデュラハンの城っていうのは・・・」

 

「・・・間違いなく、あの廃城のことだろ・・・なんてこった・・・」

 

そう、毎日爆裂魔法を放ったあの廃城こそ、ベルディアが住んでいる城だったのだ。まさか魔王軍幹部の城だったとは思わなかった3人は冷や汗をかきまくっている。

 

「もう1度聞く・・・毎日俺の城に毎日爆裂魔法を放つ頭のおかしい大馬鹿は誰だああああああああああああ!!!???」

 

もう怒り心頭のベルディアは声を荒げてもう1度要点を言い放った。

 

「・・・爆裂魔法?」

 

「爆裂魔法を使えるやつって言ったら・・・」

 

「爆裂魔法って言ったら・・・」

 

冒険者たちは誰が爆裂魔法を使えるのかというのを知っているため、全員がめぐみんをじっと見つめている。ビクついためぐみんは責任転換する気なのか他のウィザードに視線を向ける。それに合わせて冒険者全員はそのウィザードに視線を向ける。

 

「ええっ⁉私⁉なんで私が見られてるの⁉私、爆裂魔法なんて使えないよ⁉」

 

濡れ衣を着せられかけているウィザードは涙目になって自分じゃないと主張する。カズマとアカメは真犯人であるめぐみんをじっと見つめる。めぐみんは2人の視線と、涙目のウィザードに罪悪感を感じたのか、観念してベルディアの前まで歩いていく。

 

「き・・・貴様が・・・貴様が毎日毎日俺の城に爆裂魔法を撃ち込んでくる頭のおかしい大馬鹿者かぁ!!!!貴様!俺が魔王軍の幹部だと知っていて喧嘩を売っているつもりなら、堂々と攻めて来ればいいだろう!!?その気がないなら街の家でガタガタと震えていればいいだろう!!?ねぇ、なんでこんな陰湿な嫌がらせをするの!!?どうせ雑魚しかいない街だと思って放っておいてやったのに、調子に乗って毎日毎日ポンポンポンポンポンポン!!!撃ち込みにきおってからに!!!!頭おかしいんじゃないのか貴様ぁ!!!???」

 

鬱憤が溜まりに溜まって文句を言い放つベルディアにめぐみんは冷や汗をかきながら高らかに名乗りを上げる。

 

「我が名はめぐみん!!アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者!!!」

 

めぐみんの名乗りを聞いて、ベルディアの頭は白けたような顔をしている。

 

「・・・めぐみんってなんだ?バカにしてんのか?」

 

「ち、違うわい!!」

 

どうやらめぐみん・・・というか、紅魔族の名乗りは魔王軍の方でも不評のようだ。

 

「我は紅魔族の者にして、この街随一の魔法使い!我が爆裂魔法を撃ち続けていたのは・・・魔王軍幹部のあなたをおびき出すための作戦・・・こうしてまんまとこの街に1人で出てきたのが、運の尽きです」

 

『おおお・・・』

 

めぐみんの放った言葉に冒険者たちは感心の意味で驚愕しているが、カズマたちパーティは全くそんなことはなかった。

 

「めぐみんの言うことはかっこいいけど・・・あれ、本当に作戦だったの?」

 

「そんなわけないじゃない。あんなの、見栄を張って言っているだけよ」

 

「というかそもそも、俺たちはあの城があのデュラハンの城だったなんて知らなかったんだよ」

 

「しかもさらっと、この街の随一の魔法使いと言い張ってるな・・・」

 

「しー!黙っておいてあげなさいよ。今日はまだ爆裂魔法を使ってないし、後ろにたくさんの冒険者が控えてるから強きなのよきっと。今いいところなんだから、このまま見守るのよ!」

 

いろいろ言いたいことはあるが、今はアクアの言うとおり、見守ることに決めたカズマたち。

 

「ほう・・・貴様は紅魔族の者だったか。なるほど・・・通りでそんないかれた名を持っているわけだ。本当にバカにしているわけではないようだな」

 

「おい、両親からもらったこの素晴らしい名に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

「ふん・・・まぁ、そんなことはいい。俺はお前ら雑魚共にちょっかいをかけるために来たわけではない。この地にはとある調査のために来ただけだ。しばらくはあの城に滞在するつもりだが・・・これからは、爆裂魔法を使うな。俺が言いたいのはそれだけだ」

 

ベルディアは言いたいことを言ってからその場を去ろうとするが、爆裂魔法を使うなという指示をめぐみんは拒否する。

 

「嫌です。紅魔族は日に1度に爆裂魔法を撃たないと死ぬのですから仕方ないのです」

 

「お、おい!!聞いたことがないぞそんなこと!!てきとうな嘘をつくんじゃない!!」

 

もちろん、めぐみんが言っていることは嘘である。

 

「どうあっても爆裂魔法を撃つのをやめる気はないと、そう言いたいんだな?」

 

ベルディアの問いかけにめぐみんは首を縦に頷く。

 

「・・・俺は魔に身を堕とした身ではあるが、元は騎士である。弱者を刈り取る趣味は俺には持ち合わせていない。だが・・・これ以上俺の城にあのような迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ」

 

「迷惑をしているのは私たちの方ですよ!あなたがあの城に居座っているせいで、こっちは碌に仕事も回ってこないのですよ!余裕ぶってられるのも今のうちです。こちらには対アンデッドの専門家がいらっしゃるのですから!先生、お願いします!!」

 

めぐみんはアクアを先生と呼び、前に出させようとする。当のアクアはまんざらでもないといった顔をしている。

 

「しょうがないわねぇ~。魔王の幹部だかなんだか知らないけど、この私がいる時に現れるなんて運がなかったわね!あんたのせいで、まともなクエストが受けられないのよ!さあ!覚悟はいいかしら!!」

 

アクアは意気揚々と前に出る。

 

「私にも行かせなさい。あいつのせいでせっかく新調したマジックダガーがお蔵入りされかけていて、イライラが溜まっていたところよ。思いっきり切り刻んであげる」

 

「お姉ちゃん⁉」

 

「ちょ!お前まで行くなぁ!!っておい!!?なんでティアまで連れていくんだよ!!?」

 

クエストに行けないイライラが溜まりに溜まっていたのかアクアに続いてアカメもティアを無理やり連れていきながら前に出る。カズマが止めに入るがもうアクアとアカメはめぐみんと並んでベルディアの前までたっていた。ティアは3人の後ろに隠れる。

 

「ほう・・・これはこれは・・・プリーストではなくアークプリーストか。それにそちらは・・・盗賊ではなく、シーフ・・・しかもその装束・・・アヌビスの冒険者か・・・。駆け出しの街だと聞いていたが・・・そこそこの強さの冒険者が集まっているようだな」

 

ベルディアはアクアとアカメを見て、興味深そうにしているが、視線はめぐみんに定めたままだ。

 

「だが、俺は仮にも魔王軍の幹部の1人・・・こんな街の低レベルのアークプリーストに浄化されたり、アヌビス出身とはいえ、シーフごときに倒されたりされるほど、俺は落ちぶれてはいない。アークプリースト対策も施されているため、恐れるに足らんが・・・そうだな・・・ここは1つ、紅魔の娘を苦しませてやろうか」

 

ベルディアは手に暗黒の力をかざし、視線をめぐみんから・・・アカメへと切り替える。

 

「私の祈りで浄化してやるわ!!」

 

「もう遅い、間に合わんよ。汝に死の宣告を。汝は一週間後に・・・死ぬだろう」

 

「なっ・・・」

 

ベルディアはアカメに死の呪いの宣告を放った。呪いの力がアカメに当たる直前・・・

 

「ほれ」

 

「はあ!!??」

 

「えっ!!??」

 

後ろに控えていたティアを盾代わりに使うアカメ。盾代わりにされたティアもそうだが、ベルディア自身も驚いていた。死の宣告の呪いはアカメに当たることはなく、ティアに直撃した。

 

「あ、あいつそれでも姉かよ!!?自分の妹を盾代わりにしやがった!!?」

 

「ず、ずるいぞティア!!盾代わりなら、私の方が1番適任だというのに!!!お預けプレイか!!?お預けプレイなのか!!?」

 

「お前は変なところでうずうずしてんじゃねぇ!!ティアー!大丈夫かー!」

 

呪いを受けたティアの元にカズマと羨ましそうにしているダクネスが駆け付ける。

 

「き・・・貴様!人として恥ずかしくないのか!!?紅魔の娘から貴様に狙いを切り替えたのは、仲間同士の結束が高い貴様らならこれが堪えそうと思ったのになんだそれ!!?貴様には人という心はないのか!!?」

 

「何言ってるのよ。妹は姉のために存在する・・・なら、姉を守るのが妹の務めだというのは当たり前のことでしょう」

 

「お前血も涙もないド畜生だな!!!」

 

ベルディアの正論にアカメは暴論で返した。全く悪びれない様子のアカメにティアはアカメの胸倉を掴む。

 

「お姉ちゃんはとんでもない悪魔だ!!この人でなし!!もしさっきのやつで死んだらどうすんの!!?全部お姉ちゃんのせいなんだからね!!?」

 

「何言ってるのよ。あんたも同じ立場だったら、私と同じ事やるでしょ?」

 

「それは否定しない!!!」

 

「いや否定しろよ!!?なんで妹も姉と同じことをやろうと考えるんだ!!?くっそ!!この街には頭のおかしい連中しか集まってこんのか!!?」

 

ティアもアカメと同じことをやろうとしていたことを聞いてベルディアは思わず自分の頭を投げつけたくなりそうなほどに頭を抱える。

 

「・・・ま、まぁいい・・・その呪いは今は何ともない。若干予定と違ったが・・・どうもその娘は盾にした娘の妹らしいのだからより都合がよいか」

 

ベルディアは少し落ち着きを取り戻し、視線をめぐみんに切り替える。

 

「聞け、紅魔族の娘よ。そして呪いを受けたシーフの姉君よ。その娘は1週間後に死ぬ」

 

「「なっ・・・」」

 

「くくく・・・お前たちの大切な仲間は死の恐怖におびえ、苦しむことになるのだ。そう・・・貴様らのせいでな」

 

「「・・・っ」」

 

自分の行った爆裂行為が、自分の行為のせいでティアが1週間も死の呪いで苦しめられることになることに、罪悪感が募っていく。

 

「これより1週間、仲間の苦しむ様を見て、自らの行いを悔いるがよい!くくく・・・素直に俺の言うことを聞いておけばよかったのだ」

 

ベルディアの発言によって、ダクネスはプルプルと震えている。

 

「何ということだ・・・つまり貴様は、仲間に呪いをかけ、呪いを解きたくば俺の言うことを聞けと!つまりはそういうことなのだな!!」

 

「ふぁ?」

 

ダクネスの発言にベルディアは素っ頓狂な声を上げる。

 

「う・・・う・・・羨ましすぎるぞティア!!」

 

「な、何が・・・?」

 

「わからんのか!!見てみろ!!あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!!あれはお前をこのまま城へと連れ帰り、呪いを解いてほしくば黙って言うことを聞けと、凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者の目だ!!」

 

「えっ・・・」

 

ダクネスによる突然の変質者呼ばわりされて、かなり戸惑いを隠せないベルディア。それはそうだ。自分にそんな気は微塵もないのに突然そんなことを言われれば戸惑う。

 

「くううぅぅぅ・・・!!!この私の体は好きにできても、心までは自由にできるとは思うなよ!!城に囚われ、魔王の手先に理不尽な要求をされる女騎士とか・・・!!私は!!!そんなシュチュエーションを受けてみたかった!!!!ティア!!できることなら私と代わってくれ!!いや、お願いだから代われ!!私は、そのような辱めを受けた経験は、今まで1度もないんだ!!だからお願いだぁ!!!」

 

「え、ええぇぇ・・・」

 

「そんな経験しなくていいわ!!!というか!!あちらのデュラハンがめちゃくちゃ困っているだろ!!いいからお前は黙れこの、変態がぁ!!」

 

ドM根性むき出しの懇願にティアはおろか、ベルディアまでもが困惑している。話が進まないと判断したカズマは声を荒げてダクネスを黙らせる。それにはベルディアもほっとしている。

 

「と、とにかく!!俺の城に爆裂魔法を撃つのはやめろ!!そして紅魔族の娘よ、呪いを受けたシーフの呪いを解きたくば、俺の城まで来るがいい。俺のところまで来ることができたならば、その呪いを解いてやる。だが、お前たちに、果たしてたどり着くことができるかな?くくくく・・・はーっはっはっはっはっは!!!!」

 

ベルディアはそう宣言すると大きく高笑いをしながら、首なし亡霊馬に乗り、街から去っていく。あんまりの展開に、冒険者全員は呆然と立ち尽くす。それはカズマたちパーティも同じだ。そんな中でめぐみんは1人、街の外へ出ようとする。

 

「どこへ行こうというのかしら?」

 

そんなめぐみんをアカメが呼び止める。

 

「・・・ちょっとあの城まで行って、あのデュラハンに1発爆裂魔法を撃ち込んでティアの呪いを解かせてきます。今回の責任は、私にありますから」

 

めぐみんなりに責任を感じていたようで、決意は固いようだ。その決意にアカメはほんの少し、笑みを浮かべる。

 

「あんた1人でどうにかできる問題でもないでしょう。私も行くわ。妹に呪いがかかったのは、私の責任でもあるわ。苦しい戦いになるでしょうけど、ティアの苦しみに比べれば安いものだわ」

 

自分のやったことだとはいえ、ティアに呪いがかかったことに責任を感じているアカメもめぐみんと同じ決意を抱いて、ベルディアの城まで行くようだ。その様子にカズマは苦笑を浮かべる。

 

「俺も行くに決まってるだろ。アカメはティアがいないと思うような戦闘ができないし、めぐみんじゃ雑魚相手に魔法を使って、それで終わっちゃうだろ?というかそもそも、俺も毎回一緒に行きながら、幹部の城だって気づかなかったマヌケだしな」

 

「・・・では、一緒に行きましょうか」

 

仲間を思ってのことか、めぐみんは渋ったような顔をしているが、カズマの言うことも最もなので、同行を許可することにした。

 

「でも城にはアンデッドが犇めいているらしいです。となると、武器は効きにくいですね。私の魔法の方が効果的なはずです。なので、こんな時こそ私を頼りにしてくださいね」

 

「なら、ティアには全く及ばないが、俺の敵感知スキルで城内のモンスターを索敵しながら、潜伏スキルで隠れつつ、こそこそやっていこう。毎日城に通って1階から順に爆裂魔法で倒して帰還。毎日地道にそれで行こう」

 

「なら、見つかった際は、私が囮になるわ。私は足が速いから、あんたたちが逃げた後にでもすぐにでも撒いて見せるわ。1週間もあるし、何とかなるわよ」

 

「ならばその囮役、私も務めさせてもらおう。私は防御力が高いから、遠慮なく盾代わりに使ってくれ。それに、私はクルセイダーだ。苦しんでいる仲間を放っておくことなどできん」

 

「「「ダクネス・・・」」」

 

作戦会議中にダクネスも城に行くことを提案する。ダクネスの思いを聞いて、カズマたちはもちろんそれを承諾する。だが、ティアは仲間が危険な目に合うのを承諾できていない。

 

「みんな・・・私のためなんかに危険を冒すのはやめて。お姉ちゃんのやったことも、私、気にしてないから・・・」

 

「ティア、言ったはずよ。あんたは何があっても私が守ってあげるって。だから、ここはお姉ちゃんに任せて、あんたは安心して・・・」

 

「セイクリッド・ブレイクスペル!!」

 

アカメがティアを安心させようとしたところに、アクアが解呪魔法、セイクリッド・ブレイクスペルを発動する。ティアは解呪魔法の光に包まれて、晴れやかな表情になる。

 

「「「「・・・えっ?」」」」

 

突然のことで4人は呆然とし、魔法を受けたティアも晴れやかな表情の後、何があったのかと戸惑っている。

 

「この私にかかれば、デュラハンの呪い解除なんて楽勝よ!どう?私だって、プリーストっぽいでしょ?」

 

つまり先ほどの解呪魔法によってティアの呪いは解かれたようだ。アクアのこの行為に周りの冒険者たちは感激して、アクアをもてはやしている。確かに珍しくパーティ内では役に立ったことであろう。・・・さっきまでの状況でなければの話だが。取り残されたカズマたち4人はこう思う。

 

さっきまでのやる気を返してくれ、と。




次回予告的なもの

女神アクアです。経過報告をさせていただきます。

ごく一部にトラブルはあったものの、これまでほとんど・・・いえ、ばっちり良好でございます☆
むしろ私のおかげで極めて非力で社交性のない佐藤和真氏が身も心も救われているものです。
渾身的な私に和真氏も感謝しているようなので、つきましては私の天界への帰還の許可を・・・。
え?ダメ?そんな!!?そこをなんとか!!!

カズマのお言葉

カズマ「お前の行動のせいでこっちは散々で大迷惑してんだよ!!そんなお前にどう感謝しろって言うんだよこの駄女神がぁ!!!」

アクア「なぁーんーでーよぉーーーー!!!???」

次回、この魔剣の勇者に鬼畜コンビを!


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この魔剣の勇者に鬼畜コンビを!

魔王軍の幹部の1人、ベルディアがアクセルの街に現れて1週間がたった日、カズマたちパーティは普段と変わらずに平和に過ごしていた。本日、パーティ全員がギルドに集まった時・・・

 

「もう限界・・・耐えられないわ・・・。借金に追われる生活はもうまっぴらよ!クエストよ!!あのデュラハンのせいでキツイクエストしかないけど、クエストを受けましょう!!私、お金が欲しいの!!」

 

「「「「えー・・・」」」」

 

突然ながらアクアがクエストを受けようと言い始めた。キャベツの報酬でだいたい懐が潤っていることと、高難易度クエストしかないため、受けるのを明らかに渋っているカズマとめぐみんと双子。

 

「わ、私は、高難易度クエストでも、一向に構わんのだが・・・」

 

ダクネスはアクアの案には賛成だが、カズマがOKと言わない限り、クエストには行くことができない。そして4人は明らかにアクアから視線を逸らしている。当然それにはアクアは駄々をこねる。

 

「お、お願いよー!!もう商店街のバイトは嫌なのよ!!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!!頑張るから!!私、今回は全力で頑張るからあああああ!!うわあああああああん!!」

 

(惨めだ・・・この自称女神・・・)

 

泣きながら駄々をこねるその姿はもう女神とはかけ離れているため、カズマはアクアを哀れに思った。

 

「わ、わかったって。いずれ俺の金もなくなるだろうし、よさそうなクエスト、見つけて来いよ」

 

「わかったわ!!」

 

クエストを受けることを承諾すると、アクアは途端に元気になり、クエストボードでクエストを受けに向かった。

 

「・・・アクア、大丈夫でしょうか・・・」

 

「アクアのことだから、とんでもないクエスト持ってきそうな気が・・・」

 

「私は無茶なクエストでもいいが・・・」

 

「アホ。私たちが死ぬわ」

 

「確かに・・・あいつなんか変なの持ってきそうなんだよな・・・」

 

短期間でアクアのことを理解しているパーティメンバーは一部は除いてちょっと嫌な予感が感じ始めている。

 

「・・・ちょっと見てくるわ。ついでに、あいつが変なもん受けようとしたら全力で止めてくる」

 

カズマはアクアが無茶なクエストを持ってこないようにするために同じくクエストボードへと向かっていった。

 

「ま、カズマがいたら無茶なやつは取ってこないでしょう」

 

「ですね。私たちはのんびり待ちましょう」

 

「わ、私は無茶なものでも・・・」

 

「ダクネス、それさっき聞いたよ」

 

残ったパーティメンバーはカズマとアクアがクエストを持ってくるのをゆったりと待つことにした。待つこと数分、カズマとアクアが戻ってきた。

 

「おーい、クエスト持ってきたぞ」

 

「早かったですね。それで、どんなクエストを持ってきたのですか?」

 

「ふふん、これよ」

 

アクアは得意げながらに取ってきたクエストを4人に見せる。依頼は街外れにある湖が汚くなり、ワニのモンスター、ブルータルアリゲーターが住み着いたので湖を浄化してもらいたいという内容だ。報酬は30万エリス。なおこのクエストは湖の浄化が目的としているため、ブルータルアリゲーターは討伐しなくてもよい。

 

「湖の浄化ね・・・確かに、アークプリーストにはお誂え向きのクエストだけど・・・」

 

「規模はその湖を見たことがないからわからないけど・・・浄化にはかなりの時間がかかるんじゃない?最悪、丸1日を使うかも・・・」

 

双子の疑問を聞いて、カズマが問題なさそうに答える。

 

「どうもこいつ、触れてるだけでその水の浄化ができるんだってよ。その性質を使えば、普通の浄化より素早く済ませられるらしい」

 

「へぇ~・・・触れてるだけで・・・」

 

「珍しい体質を持ったものね」

 

「ですが・・・浄化の方は問題ないとしても、ブルータルアリゲーターはどうするんです?きっと群れで襲い掛かってくるはずですよ?」

 

「も、もしもその時が来たら・・・わ、私があのワニの群れの中に・・・」

 

「行くなよ?まぁ、そこも大丈夫だ。アクアが無傷で済み、湖を浄化できる方法がある」

 

めぐみんが言ったブルータルアリゲーター問題もカズマは問題なさそうに答えた。

 

 

ーこのすばー

 

 

湖の浄化クエストを受けたカズマパーティはさっそくその湖に向けて、道中を歩いているのだが、その光景が中々にシュールすぎる。

 

「・・・ねぇ、本当にやるの・・・?」

 

「俺の考えた隙のない作戦の、いったい何が不満なんだ?」

 

「私・・・今から売られていく捕まった希少モンスターの気分なんですけど・・・」

 

そう、カズマたち5人は普段通りに歩いているのだが、アクアは馬車に乗せたモンスター捕獲用の檻の中に入っているのだ。そこに女神の威厳もへったくれもない。そうしているうちに、カズマたちは目的地である湖までやってきた。湖はこれでもかというくらいにまで濁り切っていた。

 

『調査クエスト!!

水源の湖を浄化せよ!!』

 

湖まで到着したカズマたちはまず下準備のためにまず鎖を檻の鉄格子の柱1本と繋げる。そこでさらに、檻が遠くまで流されないように岩に鎖を巻き付けて、ある程度まで固定させる。下準備を終えれば、すぐにアクアが入った檻を湖の中へと移動させる。

 

「アクアー、何かあったら言えよー?檻ごと引き上げてやるからー」

 

「私・・・出汁を取られてる紅茶のティーバッグの気分なんですけど・・・」

 

そう、これがカズマの考えた安全策なのだ。檻の中さえいれば安心して水に触れて湖を浄化できるという算段だ。決して使えない女神を湖に投棄しに来たわけではない。

 

それから、2時間が経過・・・湖が浄化した気配は今のところない。さらに言えば、ブルータルアリゲーターも来る気配もまだない。

 

「モンスターが出てこないな」

 

「そのようですね」

 

「というかそもそも、浄化してる気配がないんだけど」

 

「本当に大丈夫?」

 

いくら湖の浄化と言えども、これほどまで変わってないと、若干不安になってくるパーティメンバー。

 

「にしてもお前、今日はなんか大人しいな、お前」

 

「え?」

 

「いつもだったら中二っぽいことを言って湖ごと吹っ飛ばそうとするだろ?」

 

「「「ああ、確かに」」」

 

「あなたたちは私にどんなイメージを持っているのですか!!?」

 

どうやら4人の解釈はだいぶ間違っているようで、めぐみんはかっこつけながらそれを訂正する。

 

「ふっ・・・我が究極の爆裂魔法は、ワニごときに使うものではないのです」

 

「なるほど・・・使う相手は決めてるってわけだね・・・さすがめぐみん・・・」

 

「あ・・・そうなのね・・・」

 

「こいつ普段は無駄にポンポン撃つくせに・・・」

 

話している間にも、浄化の状況が気になったカズマはアクアに声をかける。

 

「おーいアクアー!湖の浄化の方はどんなもんだー?」

 

「浄化は順調よー」

 

「水に浸かりっぱなしだと、冷えるだろー!トイレ、行きたくなったら言えよー?」

 

「あ、アークプリーストはトイレなんか行かないし!!!」

 

一部余計な会話があったものの、アクアが言うには湖の浄化の方は順調のようだ。

 

「どうやら、順調そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレなんか行きませんから」

 

「とりあえず、アクアを信じるしかないねー。ちなみに、シーフもトイレなんか行かないよ?」

 

「お前らは昔のアイドルか・・・」

 

「単に見栄を張ってるだけでしょ」

 

「わ、私も・・・クルセイダーだから・・・トイレは・・・トイレは・・・」

 

めぐみんとティアの発言にダクネスはもじもじと顔を赤らめながら変な抵抗心を見せている。やっぱり内容が内容ゆえに、さすがのダクネスも恥ずかし気があるようだ。

 

「ダクネス、無理して対抗するな。トイレに行かないと言い張るめぐみんとティアとアクアには今度日帰りじゃ終わらないクエストを受けて、本当にトイレ行かないか確認してやる」

 

「や、やめてください!紅魔族はトイレなんて行きませんよ!でも、謝るのでやめてください」

 

「私もごめんってー。私もトイレには行かないけど、謝るからそれはやめて」

 

「さすがは私の見込んだ男だ・・・!」

 

カズマの発言に、まだ見栄を張っているが、ちゃんと反省しているようで謝罪している。ダクネスは変な意味でカズマを称賛している。

 

「にしても、本当にワニが出ないわね。このまま何事もなく終わればいいのだけど・・・」

 

「おま・・・っ!フラグとしか言えないようなセリフを・・・」

 

アカメがフラグでしかない発言をした直後・・・

 

「か、カズマーーー!!?な、なんか来た!!なんかいっぱい来たんですけど!!!いやああああああああ!!!!カズマーーーー!!!カズマさーーーん!!!きゃああああああ!!?」

 

湖の中からブルータルアリゲーターが現れ、浄化している最中のアクアに近づいてきた。ブルータルアリゲーターは襲い掛かるようにアクアがいる檻に噛みついてきた。

 

 

ーこのすばーーーー!!!-

 

 

浄化開始から3時間が経過し、ブルータルアリゲーターは未だにアクアを食らおうとして、檻と戯れている。

 

「ピュリヒケーション!!ピュリヒケーション!!」

 

アクアはブルータルアリゲーターに食われないようにするのに必死で女神の力だけでなく、アークプリーストの浄化魔法を一心不乱に放った。一方のカズマたちはというと・・・

 

「よーし、野菜の切り具合はこんなもんでいい、かな」

 

ティアが昼食の準備を行っている真っ最中で、アクアの光景を見守りながら昼食ができるのを待っていた。

 

「とりあえず切った野菜を鍋に入れて、蓋をして・・・カズマー、火をちょうだいー」

 

「わかった。ティンダー!」

 

カズマはティアに言われた通り、その辺で集めた木の枝にティンダーを放つ。ティアはその火の上に鍋を置く。

 

「こうしてちょっと蒸せば野菜は動かなくなるから、動かなくなったところにお肉を入れて炒めるんだよ。ちなみに、玉ねぎは飴色にした方が、よりコクが出るんだよ」

 

「ティアは料理に詳しいんだな」

 

「当然よ。何せティアは私よりも料理が得意なのだから。味も絶品よ」

 

「おお!それは出来上がるのが楽しみになってきました!」

 

ティアの料理が絶品と聞き、カズマたちパーティは出来上がるのを楽しみにしていた。

 

「ちなみに、いったい何を作っているんだ?」

 

「カレーライスだよー」

 

「えっ?カレー?カレー、食えるの?」

 

「カズマ、カレーなるものを知っているのですか?聞いたこともない食べ物ですが・・・」

 

ティアが作っているのはカレーだと知り、カズマは少し驚愕する。この世界にはカレーが存在しないのか、めぐみんとダクネスは首を傾げている。

 

「俺の故郷では結構馴染み深い料理なんだよ。けど・・・めぐみんやダクネスも知らないのに、お前らはどうしてカレーを知ってるんだ?」

 

「私たちが前にいたギルドのギルドマスターに教えてもらったんだよ。当時の私たちも、皆と似たような反応だったから懐かしいよ」

 

カズマの問いかけにティアは鍋にカエル肉を入れて、野菜と一緒に炒めながら答える。

 

「ま、て言ってもカレーのレシピはギルドマスターの知り合いから教わってもらったって聞いたことがあるわ」

 

「へぇ、そうなのか・・・」

 

アカメの補足を聞いて、カズマはそのギルドマスターの知り合いという人物について考えている。

 

(どうもこの世界にはカレーがないらしいから・・・もしかしたら、そのギルドマスターの知り合いって・・・俺より先に来た異世界転生者なのかもしれないな・・・)

 

自分より先に来た異世界転生者がいるという可能性を考えて、もし会えるならカズマは会ってみたいと考えた。ちなみに、そのギルドマスターというのは言うまでもなく、ウェーブ盗賊団の団長であるネクサスである。

 

「はぁ・・・いい匂いです・・・」

 

「よーし、炒め具合はこんなものかな・・・。カズマー、お鍋にお水ちょうだいー」

 

「お、おう。クリエイト・ウォーター!!」

 

十分に炒め終えて、ティアの指示でカズマはクリエイト・ウォーターで鍋の中に水を入れる。

 

「こうやって水が温かくなるまで煮込んで・・・その後に、アヌビスにしか取れない唐辛子とうまみととろみを引き出すスパイスを入れて、じっくり長く煮込めば、カレーライスの出来・・・」

 

「み、皆ーーー!!?私のこと、忘れてない!!?さっきから檻が変な音を立てているんですけど!!?なっちゃいけない音がみしみしと聞こえるんですけど!!?お願いだから、私の話を聞いてえええええ!!!」

 

ティアがカレーに必要なスパイスを取り出そうとした時、未だにブルータルアリゲーターと戯れているアクアの悲痛な声が上がってきた。

 

「忘れてないってー!それよりアクアー!ギブアップするなら言えよー!鎖引っ張って、カレーと一緒に檻ごと逃げるからー!」

 

「いやよ!!ここで諦めたら、報酬がもらえないじゃない!!って、きゃああああああ!!?ワニがあ!!?ピュリヒケーション!!ピュリヒケーション!!ピュリヒケーション!!!」

 

カズマはギブアップするかと尋ねると、アクアはどうしても報酬が欲しいのか諦めないと言い張った。そして、アクアはブルータルアリゲーターの恐怖心と共に湖にピュリヒケーションを放ち続けた。

 

そして浄化が始まってから5時間が経過。湖はまだ浄化できておらず、未だにブルータルアリゲーターと檻の中のアクアとの戯れは続いていた。一方のカズマたちは・・・

 

「おお・・・このカレーという料理、中々においしいな」

 

「ガツガツガツガツ・・・!私・・・こんなにおいしい料理、生まれて初めて食べました!!おいしすぎます~!!」

 

2時間かけて煮込んだティア特製のカレーが完成し、遅めの昼食にありついている。みんなティアのカレーに絶賛しており、めぐみんなんかはもうがっつく勢いで食べ続けている。

 

「ティア、また腕を上げたわね。中辛とはいえ、私好みのピリ辛さだわ」

 

「ははは、そんなに褒めてもらえると、嬉しいなぁー。多めに作ってあるから、じゃんじゃんおかわりしてねー」

 

「おかわりです!!!」

 

パーティメンバー全員がカレーをおいしく味わっている中、カズマはカレーを食べながら泣いていた。

 

「う・・・うぅ・・・」

 

「ど、どうしたのカズマ⁉おいしくなかった⁉」

 

「違う・・・違うんだティア・・・。この味はまさしく俺の故郷のカレーそのもの・・・。ここに来て、馴染み深い料理が食えて・・・それがうれしくて・・・俺・・・俺・・・」

 

どうやらこの世界で再びカレーを食べることができたことに対するうれし涙のようだ。

 

「み、みんなーーーー!!?呑気にカレーなんか食べてないで、ワニ!!ワニどうにかしてよ!!ワニが、もう檻を壊そうとしている勢いなんですけど!!!いやああああああああ!!!!」

 

カズマたちが食事を楽しんでいると、ブルータルアリゲーターと戯れているアクアの悲痛な叫びをあげながら必死にピュリヒケーションを唱えている。

 

「アクアー!多分湖がきれいになってるからもう少しの辛抱だー!それともそろそろギブアップするかー?こっちはいつでも逃げれるようにしとくからなー!」

 

「な、何言ってるの⁉もう報酬が目の前ってところまできているのよ!!?ここまで来て、今更引き返せるわけないじゃない!!」

 

これだけひどい目に合っているのに、それでもあきらめようとしないアクアの姿勢に、カズマを含めた全員はひどく感心する。

 

「・・・あの檻の中・・・ちょっとだけ・・・楽しそうだな・・・」

 

「もう1度言うが、行くなよ?」

 

ほんのちょっぴり行きたがっているダクネスを念入りを込めてカズマが注意を入れる。

 

メキィッ!!!

 

「きゃあああああああああああ!!?メキィっていった!!!今、檻からなっちゃいけない音が鳴ったぁ!!!!」

 

どうもブルータルアリゲーターは知恵をつけ始めたようで、檻の鉄格子を食い破ろうとしている。それを見たアクアはさっきよりもさらに素早いスピードでピュリヒケーションを放ち続けた。

 

そして、浄化を始めてから、7時間が経過。あれほどまでに汚かった湖は、本来の美しさを取り戻したかのように、輝いていた。ブルータルアリゲーターも、どこか汚い水を求めてどこかへ行ったようだ。アクアもちゃんと生きている。

 

「浄化は完了したみたいですね」

 

「ワニたちも全部どっか行ったから、一安心だね」

 

カズマたちはボロボロになった檻を引き上げて、アクアの元まで駆け寄る。

 

「アクアー、無事かー?」

 

カズマがアクアの無事を確認するが、アクアは生気を失ったかのように、目が死んでいた。意識も上の空という感じだ。

 

「・・・アクア?」

 

「はぁ・・・アクア、どうしたのよ?」

 

さすがに心配になったのか全員アクアの様子をうかがう。少しすると、アクアはめそめそと泣き始める。

 

「・・・う・・・うぅ・・・うぇっぐ・・・ううぅぅ・・・」

 

「あ、アクア⁉ごめんね!私たちが悪かったよ!ほら、カレーだよ!食べるでしょ⁉」

 

「はぁ・・・そんなめそめそと泣くくらいならさっさとリタイアすればよかったのに・・・」

 

「全くだ・・・。ほらアクア、もう帰るぞ」

 

泣いている姿を見て、さすがにやっちゃったと思ったのかティアがアクアを慰める。その様子にはアカメもカズマもあきれている。

 

「なぁ、アクア、5人で話し合ったんだけど、今回の報酬、俺たちはいらないから」

 

「そうだぞアクア!30万エリスは全部アクアのものだ!」

 

「そうですね!今回は全てアクアの働きですから!」

 

「ほら、みんなもこう言ってるんだし、もう檻から出よう?ね?」

 

みんなアクアを檻から出そうと説得するが、当のアクアは体育座りをしたまま一歩も動かない。

 

「・・・ちょっと、いい加減檻から出なさいよ。もうワニはいないわよ?」

 

「・・・このまま連れてって」

 

「・・・なんだって?」

 

「檻の外の世界・・・怖い・・・。このまま街まで連れてって・・・」

 

どうやら今回のクエストは、アクアにブルータルアリゲーターというトラウマを植え付けてしまったようだ。

 

『調査クエスト!!

水源の湖を浄化せよ!!

湖の浄化に成功!!』

 

 

ーこのすば・・・-

 

 

クエストを終えてアクセルに戻ってきたころにはもう夕方ごろであった。生気を失ってしまったアクアはというと・・・

 

「ドナドナド―ナード―ナー・・・」

 

未だに檻に入ったままでドナドナの歌を歌いながらティア特製のカレーを黙々と食べている。その光景には当然、街の人たちはカズマたちパーティを生暖かく注目している。

 

「なぁアクア、街中でその歌はやめてくれ。ボロボロの檻に入って膝を抱えてカレー食ってる女を運んでる時点で人の注目集めてんだからな?というかいい加減出て来いよ!!」

 

「いや・・・この中こそが私の聖域よ・・・外の世界は怖いから、しばらく出ないわ・・・。あ、カレー、おいし・・・」

 

「もう、すっかり引きこもっちゃったね・・・」

 

「以前の俺みたいだな・・・」

 

「「「「?」」」」

 

「いや、何でもない・・・」

 

どれだけ言っても檻から出ようとしないアクアを見て、カズマは自身の引きこもり生活を思い出す。すると・・・

 

「女神様⁉女神様じゃないですか!!」

 

突然青い鎧を着こんだ青年がカズマたちパーティの前に現れ、アクアが入っている檻の鉄格子を両手で無理やりこじ開けた。

 

「えええ!!?」

 

「マジですか⁉」

 

「と、とんだバカ力ね・・・」

 

ブルータルアリゲーターでもこじ開けることができなかった檻をこじ開けた青年の力にカズマたちは驚きを隠せなかった。

 

「いったい何をしているのですか女神様!!こんなところで!!」

 

「おい、私の仲間に馴れ馴れしく触れるな。貴様、何者だ?」

 

アクアに触れようとした鎧の青年をダクネスが睨みをきかせながら止めに入った。明らかにアクアと無関係でなさそうな人物にカズマが声をかける。

 

「おいアクア、あれお前の知り合いだろ?女神とか言ってたし、何とかしてくれよ」

 

「・・・女神?」

 

「そうだよ」

 

カズマの放った女神発言にアクアは反応し、ほんの数秒してから・・・

 

「そうよ!女神よ私は!!さあ、女神の私に、いったい何の用かしら!!」

 

すっかり元気を取り戻したアクアは檻から出てきて、カレーを食べながら鎧の青年を見る。

 

「・・・あんた誰?」もぐもぐ・・・

 

アクアはどうも目の前にいる鎧の青年のことを忘れているようだ。

 

「何を言っているんですか!!?僕ですよ!!御剣響夜ですよ!!あなたにこの魔剣グラムをいただき、この世界に転生した御剣響夜です!!」

 

「・・・・・・?」もぐもぐ・・・

 

鎧の青年がそう言うと、アクアは今もカレーを食べながら頭を捻らせると、思い出したような声を上げる。

 

「あ・・・ああ!いたわねそんな人も!いやー、ごめんごめん、すっかり忘れてたー!結構な数の人を送ったわけだから、忘れたってしょうがないと思わない?」

 

「え?ええ・・・そうですね・・・」

 

アクアに忘れられた青年、御剣響夜こと、ミツルギは若干引きつった顔をしたが、気を取り直してからアクアと面と向かう。

 

「ええ・・・こほん、お久しぶりです、女神アクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張っています。職業はソードマスター、レベルは37まで上がりました。・・・ところで、アクア様はなぜこちらにいらっしゃるのですか?それに、なぜ檻の中に閉じ込められていたのですか?」

 

「・・・まぁ、簡単に説明するとだな・・・」

 

ミツルギの疑問にアクアの代わりにカズマがこれまでの経緯と、なぜ檻の中に入っていた理由を包み隠さず話す。

 

「はああああああ!!!???女神様をこの世界に引きずり込んで!!??しかも檻の中に閉じ込めて湖の水の中に漬けたぁ!!??君はいったい何を考えてるんですかぁ!!?」

 

事情を全て聞いたミツルギは憤慨してカズマに突っかかって胸倉を掴んできた。

 

「ちょ、ちょっと⁉私としては結構楽しい日々を送ってるし、ここに一緒に連れてこられたことはもう気にしてないし!それに魔王を倒せば帰れるわけだし!今日のクエストだって怖かったけど、結果的には誰も怪我せず、無事完了したし!それにクエスト報酬30万よ30万!それを全部くれるっていうのよ?」

 

カズマに突かかってくるミツルギをアクアは止めるが、彼は未だにカズマにたいして怒っている。

 

「アクア様!こんな男にどう丸め込まれたかは知りませんが、あなたは女神なのですよ!!?それがこんな・・・!それに、そんな不当な扱いを受けておきながら、たった30万エリス・・・嘆かわしい・・・!・・・ちなみに、今はどこで寝泊まりしているんですか?」

 

「えっと・・・今、馬小屋で寝てるけど・・・」

 

「は!!??」

 

アクアが馬小屋で寝ていると聞いて、ミツルギはさらに怒り、カズマの胸倉を掴む手の力が強まる。そこでダクネスが止めに入る。

 

「おい!いい加減その手を放せ!礼儀知らずにもほどがあるだろ!」

 

「だいたい、あんた誰よ?カズマと初対面のはずでしょ?」

 

「なんかこの人、お姉ちゃん以上にウザいしぶち殺したい・・・」

 

「撃っていいですか?この礼儀知らずな男に1発ぶちかましてもいいですか?」

 

「めぐみん、それはやめろ、俺も死ぬ。ティア、そのナイフをしまえ、物騒だぞ」

 

一部物騒な雰囲気を晒しだしているが、ダクネスに止められたミツルギはカズマのパーティメンバーに視線を向ける。

 

「君たちは・・・クルセイダーにアークウィザード・・・それに双子のシーフか。なるほど・・・パーティメンバーには恵まれているんだね。君はこんな優秀そうな人たちがいるのに、アクア様を馬小屋に寝泊まりさせておいて、恥ずかしいと思わないのかい?それに、君も見たところ、職業は最弱職の冒険者らしいじゃないか」

 

ミツルギの説教を聞きながら、カズマはこめかみをひくひくさせながら、アクアに問いかける。

 

「・・・なぁ、この世界の冒険者って馬小屋で寝泊まりなんて当たり前だろ?こいつなんでこんなにキレてんの?」

 

「あれよ、彼には異世界への移住特典であの魔剣グラムをあげたから、そのおかげで最初から高難易度のクエストをバンバンこなしたりして、今までお金に困らなかったんだと思うわ。ま、だいたい特典をあげた転生者なんてそんなもんよ。特典で成果を上げて、この世界で大規模の盗賊団を創りあげた人もいたみたいだし」

 

アクアの説明を聞いたカズマは、このミツルギという男にさらに怒りがこみ上げる。

 

(何の苦労も知らない奴に、なぜ一から頑張ってきた俺が上から目線で説教されなきゃいけないんだ?だいたい、こいつらが優秀?それは能力面だけだ。それ以外の、活躍なんて、片鱗、1度も!見たことが!!ないんだが!!!)

 

カズマが怒りをこみ上げている間に、ミツルギはめぐみんたち4人に優しく声をかける。

 

「君たち、今まで苦労したみたいだね。これからは、ソードマスターの僕のところに来るといい。高級な装備品を買いそろえてあげよう」

 

ミツルギの身勝手な提案に女性陣全員は引きつった顔をしている。

 

「ちょっと、やばいんですけど。あの人本気で引くくらいやばいんですけど。ナルシスト系入ってるみたいで怖いんですけど」

 

「どうしよう・・・あの男は生理的に受け付けられない・・・攻めるより受ける方が好きな私だが・・・あいつだけは無性に殴りたいのだが・・・」

 

「殴ればいいじゃない。というか私はこいつを【ピーッ】して【ピーッ】して【チュドオオオオオン!!】して切り刻んで捨てたいんだけど・・・」

 

「お姉ちゃん、今だけはそれを許すよ。思いっきりやっちゃって。正直、お姉ちゃん以外でこんなにムカつく奴は初めてなんだけど・・・」

 

「撃っていいですか?本当に撃っちゃっても問題ないですよね?」

 

「おい、お前ら本当にやめろ。グロイ光景になるだろ」

 

どうもアクアを含めた女性陣全員はミツルギのことは不評化のようだ。

 

「えー、聞いての通り、俺のパーティの仲間たちは満場一致であなたのパーティに入りたくないようです。じゃ、これで」

 

カズマたちはミツルギに別れを述べてからその場から離れようとするが、ミツルギはカズマたちの前に立ちはだかる。

 

「・・・どいてくれます?」

 

「悪いが、魔剣グラムという力を与えてくださったアクア様をこんな境遇に置いてはいけない。君はこの世界に持ってこられるものとして、アクア様を選んだということだよね?」

 

「そーだけど?」

 

「なら、僕と勝負をしないか?あまりに失礼なことだが、君はアクア様を持ってこられる者として指定したんだろう?僕が勝ったらアクア様をこちらに引き渡してくれ。君が勝ったら、何でも1つ言うことを聞こうじゃないか」

 

ミツルギが突然アクアを賭けてカズマに勝負を仕掛けてきた。展開を読んでいたカズマはため息をつく。

 

「はぁ・・・ちょっとタイム。おい双子、ちょっと耳貸せ」

 

「「?」」

 

カズマに呼ばれた双子は首を傾げる。カズマはミツルギに聞こえないように双子の耳元にごにょごにょと何かを伝えている。それを聞いた双子はお互いに首を縦にうなずき、了承を示している。話を終えるとカズマはミツルギに視線を戻す。

 

「先に言っておくが、お前は高レベルのソードマスターで俺は最弱職の冒険者だ。正攻法でやったって負けるわけだから、ハンデとして俺なりのやり方でやらせてもらってもいいか?呑むんだったら勝負を受けてもいい」

 

「もちろん、どんな方法で来たって構わない。どんな手段で来ようと僕は・・・」

 

「よしOK。じゃあ行くぞぉ!!!」

 

「えっ!!?ちょっ、まっ・・・!!」

 

カズマの問いかけにミツルギが了承すると、話の途中でカズマがいきなりミツルギに剣で切りかかってきた。突然のことだが、ミツルギはとっさにその剣を躱す。そして、転生特典である剣、魔剣グラムを構える。

 

「スティ―――ル!!」

 

そしてカズマはすかさずスティールを発動させる。光が晴れるとカズマの手にはミツルギの武器、魔剣グラムが握られていた。

 

ゴチーンッ!!

 

「ぐっはぁ!!?」

 

そして魔剣グラムを振り下ろして、ミツルギの頭部を思い切り強打する。

 

「くっ・・・だが・・・世界を救う勇者として・・・この程度では・・・」

 

だが、さすがは勇者を名乗るだけのことはある。この程度ではミツルギは倒れない。それはカズマの狙い通りだった。

 

ガシッ

 

「へっ?」

 

「死ね!!!!!この【ピーー―――――――――――――ッ!】野郎がぁ!!!!」

 

ドゴォ!!!!

 

「ごっはあああああ!!??」

 

ティアの潜伏スキルでミツルギの後ろまで近づいていたアカメはミツルギの頭を思いっきり掴み上げ、その勢いに任せて地面に叩きつけた。それによってミツルギは気絶をした。

 

「ふん、偉そうなことを言って、たいしたことないじゃない」

 

「あー、スッキリしたぁ!気分がスカッとしたよー」

 

「お前ら、よくやった」

 

先ほどカズマが双子に耳打ちしていたのはミツルギをはっ倒すための作戦をだったようで、作戦が成功してカズマと双子はグッドサインを送っている。

 

「ひ・・・卑怯者卑怯者卑怯者ーーーー!!!」

 

「この最低男!!正々堂々と勝負しなさいよ!!」

 

するとそこへミツルギの仲間らしき女性2人がカズマを罵倒している。

 

「卑怯って、高レベルの奴が低レベルの奴に勝負を仕掛けてくる方がよっぽど卑怯ってもんだよ。それこそ正々堂々も何もあるか。それに、俺なりのやり方でやっていいかって問いに了承したのはこいつだぞ?俺はルールに則っただけだ。だいたい、1対1なんてルールを誰が決めたんだ?決めてないんだったら文句の言いようがないだろ」

 

カズマの屁理屈ともいえる対処にミツルギの仲間であるクレメアとフィオは納得できておらず、カズマを睨みつける。

 

「ま、結果として俺の勝ちなのは変わりない。負けたら何でも言うことを聞くって言ったんだから、この魔剣をもらっていくぞ」

 

「なっ!!?バカ言ってんじゃないわよ!!それにその魔剣はキョウヤにしか使いこなせないわ!」

 

「え?マジで?この戦利品、俺には使えないのか?」

 

「マジです。残念だけど、魔剣グラムはあの痛い人専用よ。装備すると人の限界を超えた膂力が手に入り、岩だろうが鋼だろうがさっくり斬れる魔剣だけど、カズマが使ったって、普通の剣よ」

 

戦利品としてもらおうとした魔剣グラムがミツルギしか使えないという、アクアのお墨付きの説明に、カズマは少し落胆する。

 

「カズマ、あんたが装備できないってんなら私にくれないかしら?もちろん、シーフだから私も装備できないけど、他に使い道はあるから」

 

「俺が持ってても仕方ないし、戦利品はお前に譲るって約束だったしな・・・いいよ、やるよ」

 

カズマはミツルギから分捕った魔剣グラムをアカメに渡した。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」

 

「こんな勝ち方、私たちは認めないわ!そこのあんた!魔剣をキョウヤに還しなさいよ!!」

 

「はぁ・・・めんど・・・カズマ、対処よろしく」

 

「へいへい・・・」

 

未だ文句を言っているクレメアとフィオの対処をカズマに任せるアカメ。

 

「真の男女平等主義者の俺は女の子相手でもドロップキックを食らわせられる男だ。それ以上いちゃもんつけようってんなら・・・手加減してもらえるなんて思うなよ?公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ・・・」

 

「君たち、早く逃げないとこの男にパンツ、盗られるよ。何せパンツ脱がせ魔だから」

 

「「ええぇ!!??」」

 

カズマは2人に向かって、非常に悪党らしいゲスい笑みを浮かべながらスティールの態勢を取る。その姿勢とティアの説明にクレメアとフィオは後ずさる。

 

「ぐぅえっへへへへへ・・・さぁ・・・どうする・・・?ぬぅあっはっはっはっはぁ・・・ほぉれ・・・ほぉーれ・・・」

 

カズマはゲスく笑いながらスティールの手をいやらしくくねくねとくねらせる。

 

「「いやああああああああ!!!!」」

 

その姿勢に恐怖したクレメアとフィオはミツルギを置いて逃げ出していく。

 

「「「うわぁ・・・」」」

 

この光景は仲間であるアクアとめぐみんも引いている。ダクネスは若干興奮しているが。

 

「はい、対処ご苦労さん、変態」

 

「こうなるってわかっててカズマに任せるあたり、お姉ちゃんも相当クズだよ・・・」

 

「もういいだろ・・・行こうぜ」

 

これ以上他の人の注目を浴びないようにカズマはそう言って帰宅路を歩いていく。すると、アカメは魔剣グラム、そして気絶しているミツルギを交互に見る。それで何かを思いついたアカメはアクアに声をかける。

 

「ちょっとアクア、頼みがあんだけど」

 

 

ーこのすば!ー

 

 

湖浄化クエストから翌日の冒険者ギルド・・・

 

「なぁんでよーーーーーーーー!!!???」

 

クエストの報酬を受け取りに来たアクアが涙を流しながらルナに突っかかっている。

 

「アクアの声だったな」

 

「本当、いつもやかましいわね」

 

「何があったのでしょう?」

 

「何か問題を起こしたんじゃない?」

 

「あいつはとにかく騒ぎを起こさないと気が済まないのか?」

 

カズマたちはカウンター席でシュワシュワを飲んだり、料理を食べたりしていた。数分後、アクアがかなり落ち込んだ様子でカズマの隣の席に座り込む。

 

「・・・今回の報酬・・・壊した檻のお金を引いて10万エリスだって・・・。檻の修理代が20万エリス・・・私が壊したんじゃないのに・・・檻を捻じ曲げたのはあのミツルギって奴なのに・・・」

 

どうやら借りてきた檻が壊れたことによってその修理費を報酬から差っ引かれたようだ。報酬を減らされてアクアはめそめそと泣きだす。

 

「あの男・・・!今度会ったら絶対ゴッドブローをくらわしてやるんだから!!」

 

アクアがミツルギにたいして怒りを燃やしていると・・・

 

「探したぞ!!佐藤和真!!」

 

噂をすればなんとやら、カズマに勝負を挑んで負けたミツルギがクレメアとフィオを連れてカズマに近づいてきた。

 

「君のことは、ある盗賊の少女から教えてもらったよ・・・パンツ脱がせ魔だってね!!他にも女の子を粘液塗れにするのが趣味だとか、色々な人の噂になっていたよ・・・鬼畜のカズマだってね!!!」

 

「おい待て!!?誰がそんな噂を広めたのか詳しく!!!」

 

不名誉というか自業自得というか、変な噂を流された人物にたいして非常に怒っているカズマ。するとアカメはカズマの肩に手を置く。

 

「安心しなさい・・・あんたの魅力は・・・包み隠さず、話してあげたからね♡」

 

「お前かあああああああああああ!!!???」

 

どうやらカズマの不名誉な噂はアカメが流したものらしい。いや、ほとんど事実なのだが。

 

「お前何してくれてんだ!!?どおりで何か街の人から冷たい目で見られてると思ったら!!」

 

噂を流した本人であるアカメの肩を掴み上げ、ぐわんぐわんと揺らしていくカズマ。

 

「アクア様!僕が必ず魔王を倒すと誓います!ですから、僕と同じパー・・・」

 

「ゴッドブローーーーーー!!!!」

 

「ごっぱああああああ!!??」

 

「キョウヤ!!?」

 

ミツルギがアクアに話しかけた途端、アクアはミツルギにゴッドブローをくらわされた。文字通り、宣言通りの行動だ。

 

「ちょっとあんた!!!壊した檻の修理代を払いなさいよ!!元じゃ全然足りないわ!!元の5倍よ5倍!!30万の5倍の150万エリス払いなさいよ!!」

 

「え?あ、はい・・・」

 

ちゃっかりと修理代・・・というより、クエストの報酬分の5倍の値段の支払いというアクアの要求にミツルギは特にお金に困ってなかったのと、アクアの言うこともあって、すんなりと150万エリスを支払った。

 

「すみませーん!シュワシュワとカエルのから揚げ山盛りくださーい!」

 

150万エリスを受け取ってすっかり元気になったアクアは料理とシュワシュワを注文する。話はそれたが、ミツルギはカズマに視線を戻し、本題に入る。

 

「・・・あんなやり方でも、それを了承したのは僕だ。自分の負けをとやかく言うつもりはない。負けは負けだ。何でも言うことを聞くといった手前で虫がいいのはわかっている。だが頼む!魔剣は返してくれないか?この2人から話は聞いたんだろう?あれは君が持っていても、そこらの剣より斬れる程度の威力しかない。剣が欲しいなら代わりに1番いい剣を買ってあげるから頼む!!」

 

どうもミツルギは魔剣グラムを返してほしいがためにわざわざカズマたちの元までやってきたようだ。

 

「返してほしいならアカメに言えよ。魔剣ならこいつにやったからな」

 

カズマの言葉を聞いてミツルギはアカメに視線を切り替える。

 

「君はシーフだろう?君では魔剣を扱う以前に、大剣を装備できないのは理解しているはずだ。頼む!1番高級な短剣を買ってあげるから、魔剣を返して・・・」

 

「いいわよ」

 

「くれないか・・・て、え?」

 

あっさりと魔剣を返してくれる発言にミツルギは目を丸くさせている。

 

「え?いや・・・頼んでおいてなんだけど・・・本当に返してくれるのかい?」

 

「いいわよ。元々そのつもりで待っていたのだから。ほら・・・もう手放すんじゃないわよ」

 

「あ・・・ありがとう・・・ありがとう!!」

 

アカメは背中に背負った魔剣グラムを取り、それをミツルギに返した。ミツルギは喜びを隠しきれないような表情で魔剣を受け取ると、手に持った瞬間、違和感を覚える。

 

「・・・?軽い・・・?僕が持った時はもうちょっと重かったような・・・どうしてだ?」

 

「気になるなら、試してみるといいわ。ちょうど街の外に、ジャイアント・トードがいたはずよ。そいつで試し切りをしてみなさい。さあ、早く行きなさい。さあ・・・さあ・・・」

 

「わ、わかった・・・試してくる・・・」

 

明らかに試し切りを誘導しているような言動にミツルギは困惑しながらクレメアとフィオを連れて、冒険者ギルドから出る。

 

「・・・お姉ちゃん・・・もしかしなくてもまさか・・・」

 

「まぁ、もう少し待ちなさい。面白いのが見れるわよ」

 

アカメがそう口にして、待つこと数分後・・・息が絶え絶えな状態のミツルギが戻ってきた。

 

「き、君!!これは魔剣じゃなくて、牛乳パックの剣じゃないかぁ!!!」

 

疲れ切っているミツルギの魔剣は昨日までの輝きはなく、もうボロボロ、空くはずのない穴まで開いていた。その穴の隙間を見てみれば、牛乳パックのパッケージが見えている。そう、アカメが渡したのは牛乳パックで作った偽物の魔剣グラムだったのだ。

 

「やっぱりね・・・前にアクアが自作した造花を運んでたんだけど、それがかなりの出来だったから・・・。それを思い出したお姉ちゃんが昨日、魔剣と同じ形の剣を何かで作れないかって言ってて・・・」

 

「ぷはー!どう?中々の出来だったでしょ?あの剣を似せるくらい、朝飯前よ!」

 

「よくやったわ。後で報酬の10万エリスを払ってあげる」

 

「夜中にこそこそしてると思ったら・・・。しかし、マジですげー出来だな・・・」

 

どうやら、本物と見間違えるくらいの偽魔剣グラムはアクアが牛乳パックで作り上げたものらしい。

 

「僕が返してほしいのはこんな偽物じゃなくて!!!本物の魔剣グラムだよ!!!本当にお願いだ!!!君には何の意味もない代物のはずだろう!!?今なら、短剣だけじゃなく、高級な装備品も・・・」

 

くいっくいっ

 

ミツルギが本物の魔剣を返してほしいと懇願すると、めぐみんが彼のマントをくいくいと引っ張る。

 

「まず、この人が偽魔剣しか持ってなかった件について」

 

「・・・えっ!!?」

 

めぐみんの言葉にミツルギは改めてアカメの姿を確認する。確かに今のアカメには魔剣を持っているどころか、大剣らしいものがどこにもなかった。それにはミツルギはかなり顔を引きつりながら焦っている。

 

「き・・・君・・・ま、魔剣は・・・?ぼ、ぼ、僕の魔剣はどこへ・・・?」

 

「ああ・・・それなら・・・安心しなさい」

 

アカメは右手に持っていた銭袋をミツルギに見せながら、悪党らしいゲスい笑みを浮かべている。

 

「あんたの魔剣は・・・私のお財布事情に役立ってくれたわ♪」

 

この言葉からアカメは本物の魔剣グラムをこの街の鍛冶屋に売り払ったというのがわかる。

 

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

それに気づいたミツルギは魔剣を取り戻すために悲痛な叫びを上げながら鍛冶屋へと向かっていった。

 

「「キョウヤー!」」

 

急いで去っていくミツルギをクレメアとフィオは追いかけていく。

 

「ふぅ・・・いい愉悦だったわ」

 

「お姉ちゃんはえぐいね・・・希望から絶望を与えるなんて・・・」

 

「お前・・・本当、容赦なさすぎだろ・・・」

 

愉悦のためならどんな手でも使うアカメを見て、ティアとカズマは若干引いている。

 

「いったい何だったのだあいつは?・・・ところで、先ほどからアクアが女神だとか呼ばれていたが・・・何の話だ?」

 

「それを言ったら昨日も、その前も言ってたよ。自分は女神だって」

 

ダクネスの疑問にカズマはアクアにアイコンタクトをとる。自分は女神だとしゃべっていいという知らせだ。その意図に気付いたアクアは本当のことを4人に話す。

 

「・・・今まで黙っていたけど、あなたたちには言っておくわ。私はアクア。アクシズ教団が崇拝する、水を司る女神・・・そう!私こそがあの女神、アクアなのよ!!」

 

自信満々に真実を打ち明けたアクアであったが・・・

 

「「「「ていう、夢を見たのか」」」」

 

「ちっがうわよ!!」

 

当然の反応というか、全く信じてもらえてなかった。

 

「まぁ、仮に女神アクアだったなら、私たちはその存在を許さなかったね」

 

「へ?」

 

「ええ。この際、ハッキリ言っておくけど・・・私たちは・・・大大大のアクシズ教徒嫌いなのよ。だからそいつらが崇拝しているアクアって女神は、そいつらと同じくらい嫌いなのよ」

 

「だからね、いくら女神アクアと同じ名前だからって、軽々しく自分のことを女神って言わないでほしいな。不機嫌になる人だって、たくさんいるんだからね」

 

「「うんうん」」

 

「な・・・なぁーんでよーー!!?なんで誰も信じてくれないの!!?どうして双子はそんなに私の信者たちを嫌うの!!?本当にいい子たちなのよ!!だからそんなに嫌わないであげてよーーー!!!」

 

自分を女神と信じていないどころか、双子が自分の信者を嫌っているという事実にアクアは泣きかけている。その姿を見てカズマはアクアを哀れに思った。

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門まで集まってください!』

 

そんな話をしていると、またも緊急の放送がアクセルの街に響いた。

 

『繰り返します!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門まで集まってください!特に、冒険者サトウカズマさんとそのご一行は大至急でお願いします!!」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

まさか自分たちがご指名にあったことにたいして、カズマたちパーティはきょとんとしたのであった。




次回予告的なもの

女神アクアです。経過報告です。

佐藤カズマ氏はぐんぐんと力をつけ、明日にも魔王を倒す勢いです。
これもひとえに私の監督力があってのことです♪
母のように優しく、父のように厳しく、私の的確なコーチングに引きこもりニートだったカズマ氏も感心するばかりのようです。
つきましては、早急に、大至急に帰還の許可をいただきますよう・・・
え?ダメ?だからさ!!なんでなんですかーーー!!?

カズマのお言葉

カズマ「・・・お前さ、的確なコーチングとか監督力とか抜かしてるけど・・・俺、お前に教えられたことなんて1度もないけど?あ、もしかして今から教えてくれるのか?だったら教えてくれよ、お前の取り柄である回復魔法をさ。なぁ?女神、アクア様ー?」

アクア「いやーーーーー!!!回復魔法だけは!!回復魔法だけは嫌よーーー!!調子に乗った私が悪かったから!!謝るから!!それだけはやめてーーーー!!!」

次回、このろくでもない戦いに決着を!


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このろくでもない戦いに決着を!

アクセルの街の緊急放送を聞いたアクセルの全冒険者は武装を纏って戦闘態勢で街の正門まで集まっている。カズマたちパーティも武装を整えてから街の正門までやってきた。

 

「えー・・・また来てるよ、あのデュラハン・・・」

 

アクセルの街の正門に待ちかまえていたのは、一週間前にこの街にやってきた同一のデュラハン、ベルディアであった。例の如く、ベルディアは怒りの形相で待ちかまえていた。

 

「誰かと思えば、先日のデュラハンじゃない。どうしたのよ?今日は何の用?

 

アカメは特に臆することなく、軽々しくデュラハンに話しかけた。デュラハンは怒りに満ち震えながら叫びをあげた。

 

「な・・・な・・・なぜ誰1人として、俺の城に来んのだ!!!この人でなし共があああああああああああああ!!!!!」

 

「ええ!!?」

 

ベルディアの叫びを聞いて、冒険者は唖然とし、カズマは驚愕する。アカメは構わず対話を続ける。

 

「行く必要があるのかしら?私たち、あれから爆裂魔法は撃ち込んでないわよ?」

 

「撃ちこんでいないだと!!?何を抜かすか白々しい!!!!そこの頭のおかしい爆裂娘は、あれからも毎日通い続け、爆裂魔法を放ち続けておるわ!!!!」

 

「は?」

 

ベルディアはめぐみんを指を差してそう言い放った。それにはカズマたちは一斉にめぐみんの方を見る。するとめぐみんはそっぽを向いて白を切る。

 

「・・・お前えええええええ!!!行ったのか!!あれから行くなって言ったのに、毎日欠かさず行ったのか!!!」

 

白を切るめぐみんにカズマはめぐみんの頬を引っ張りお仕置きをする。

 

「いたたたたた!!違うのです!!話を聞いてください!!」

 

「・・・一応言い訳を聞こうか」

 

「今までならば、何もない荒野に魔法を放つだけで我慢できていたのですが・・・城への魔法攻撃の魅力を覚えて以来・・・その・・・大きくて、固いものじゃないと我慢できない体に・・・」

 

「もじもじしながら言うんじゃねーーー!!!」

 

もじもじと恥ずかしそうに弁明をするめぐみんにカズマがツッコミを入れる。

 

「おい、めぐみんだけを責めるのは違うだろカズマ」

 

「確かに・・・こいつは1発魔法を撃ったら動けなくなる・・・となると必然的に共犯者が・・・」

 

ダクネスの言葉にカズマは納得し、アクアの方を見つめる。アクアは全くうまくない鼻歌を唱えている。

 

「おーまーえーかあああああああああ!!!!」

 

「痛い痛い痛い!!!!だって!!だって!!あいつのせいでロクなクエストが受けられない腹いせがしたかったんだもん!!あいつのせいで、毎日毎日店長に叱られるはめになったのよ!!」

 

子供じみた言い訳をするアクアをカズマは頬をつねってお仕置きをする。

 

「・・・あー、悪かったわね。こっちの手違いがあったみたいで・・・。あいつらにはカエルの粘液より臭いジャイアント・アースワームの口に放り込ませるって罰を与えるからそれで許してよ」

 

「うえぇっ!!?あ、アカメ!!?」

 

「そんな!!?嘘よねアカメさん!!?嘘でしょ!!?嘘だといってよおおおおおおお!!!??」

 

「自業自得だ!」

 

アカメのドキツイ罰の内容にめぐみんとアクアは顔を真っ青にしている。だが、当のベルディアは全く怒りの色を変えなかった。

 

「他人事みたいに言うな!!!この鬼ド畜生の人でなし娘がぁ!!!!!」

 

「は?なんで怒ってんの?」

 

「聞け!この愚か者め!我が名はベルディア!!俺が真に頭にきているのは、何も爆裂魔法だけではない!!貴様ら・・・特に鬼畜生には、仲間を・・・家族の死を報いようという気持ちはなかったのか!!!??不当な理由で処刑され、怨念によりこうしてモンスター化する前はこれでも真っ当な騎士のつもりだった!その俺から言わせれば、貴様みたいな鬼畜生の盾にされ、仲間からも見放されたあの妹シーフの娘が不憫すぎて・・・」

 

「妹シーフって、あの子のこと?」

 

「へっ?」

 

ベルディアが説教してる中、アカメは全冒険者の中に紛れて隠れているティアを指を差している。

 

「・・・ど、どうも~・・・ははは・・・」

 

「・・・え?」

 

「いやー・・・まさかデュラハンにそこまで気を遣われていたなんて・・・ははは、なんだか申し訳ないなー・・・ははは・・・」

 

ベルディアに見つかったティアは本当に申し訳なさそうな顔をしている。それを見たベルディアは目が点になって、唖然となり、そして・・・

 

「・・・あっるぇええええええええええええええええええ!!!???」

 

ティアが生きていたという事実にベルディアは目を丸くしながら困惑の叫びをあげる。

 

「え?え?なんで生きてるの・・・?」

 

うろたえているベルディアにアクアは小ばかにしたように笑う。

 

「何々~?このデュラハン、ずーっと私たちを待ち続けてたのー?帰った後、ティアの呪いが解かれちゃったともしらずに?プークスクス!うけるんですけど!ちょーうけるんですけどー!」

 

普段なら小ばかにしたら1発げんこつをかまそうとするカズマだが、相手が敵ゆえにそれはやらなかった。小ばかにされたベルディアは怒りでプルプルと震えている。

 

「・・・おい貴様、俺が雑魚共が集う駆け出しの街をいつまでも襲わないと思ってバカにしているのか?俺がその気になれば、街の住民だって皆殺しにすることだってできるのだぞ。いつまでも逃がしてもらえると思ったら、大間違いだぞ」

 

「見逃してあげる理由がないのはこっちの方よ!今回は逃がしはしないわよ!アンデッドのくせに生意気よ!!ターンアンデッド!!」

 

アクアはベルディアに向かってターンアンデッドを放った。

 

「魔王の幹部がプリースト対策もなしに戦場に立つと思うなよ。俺は魔王様のご加護により、神聖魔法にたいして強い抵抗をぎゃああああああああああああああ!!!!!」

 

話している間にもターンアンデッドはベルディアを捉え、神聖な光がベルディアを包み込む。それによってベルディアが乗る亡霊馬は浄化できたが、ベルディア本人はじたばたと転がりこんだ後、煙をプスプスあげながら立ち上がる。

 

「ねぇカズマ、こいつ変よ!私のターンアンデッドが効いてないわ!」

 

「いや、結構効いてたような気がしたんだが。ぎゃあああって言ってたし」

 

ベルディアにターンアンデッドが効いていないことにアクアは若干戸惑っているが、カズマは冷静にそう返答した。

 

「く、くくく・・・話は最後まで聞くがいい。魔王様から特別なご加護をいただいたこの鎧と俺の力により、たかがプリーストの浄化魔法など効かぬわ!・・・でもお前、本当に駆け出しか?駆け出しが集まるところだろ、この街は。本当、どうなってるんだ・・・?」

 

だが一応はダメージは入っているのか、ベルディアはなぜアクセルの街のプリーストにダメージを与えられるのか困惑している。

 

「・・・まあいい。本来はこの街周辺に強い光が落ちてきたなどといううちの占い師がうるさく騒ぐから来たが・・・もう、この街を消してしまおう、うん、そうしよう」

 

国民的キャラクター並みの理不尽な発言をするベルディア。

 

「わざわざこの俺が相手をしてやるまでもない。出でよ、アンデッドナイトたちよ!!この駆け出しの冒険者たちに地獄を見せてやるがいい!!!」

 

ベルディアがそう言い放つと、地面から禍々しいオーラが放ち、彼の配下であるアンデッドの騎士、アンデッドナイトがわらわらとはい出てきた。

 

「あっ!あいつ、アクアの魔法が思った以上に効いてビビったんだぜきっと!自分だけ安全なところに逃げて、部下を使って襲うつもりだぜきっと!」

 

「へぇ、ずいぶんとビビりなヘタレなのね。」

 

「ち、違うわい!!魔王の幹部の称号はこんなことでビビってちゃ務まらんだろう!!まずは雑魚を片付けてからボスの前に・・・」

 

「セイクリッド・ターンアンデッド!!!」

 

「ひぎゃああああああああああああああ!!!!!」

 

カズマの発言にうろたえてるベルディアの話の途中でアクアがターンアンデッドより強力な浄化魔法、セイクリッド・ターンアンデッドを放った。

 

「あああああああ!!目が!!目があああああああ!!」

 

セイクリッド・ターンアンデッドを受けたベルディアがごろごろとのたうち回り、煙をあげながらよろよろと立ち上がる。

 

「ど、どうしようカズマ!私の浄化魔法がちっとも効かないんですけど!」

 

「ひぎゃあああって言ってたし、絶対すごく効いてる気がするが?」

 

またも浄化魔法が効いていないベルディアを見て、アクアがまたもうろたえるが、カズマはいたって冷静だ。

 

「こ、この・・・!人の話は最後まで・・・ええいもういい!!!アンデッドナイト共!!今すぐこの街の連中を皆殺しにしろ!!!」

 

何とか立っているベルディアの指示でアンデッドナイトたちはいっせいに動き出した。

 

『緊急クエスト!!

魔王軍の幹部、ベルディアを討伐せよ!!』

 

「おわあああああああ!!ぷ、プリーストはいるか!!は、早くプリーストを!!」

 

「誰か!!聖水を持っていたら今すぐに使ってええええ!!」

 

アンデッドナイトたちが街に侵入しようとする姿を見て、冒険者たちはうろたえ始めた。

 

「ははははは!さあ、貴様らの恐怖と絶望の叫びをこの俺に捧げ・・・て、ん?」

 

『んん?』

 

アンデッドナイトの動きに違和感を覚えたアンデッドナイトと全冒険者たちはアンデッドナイトたちを見つめる。

 

「・・・えっ!!?ひゃあああああああああ!!!!」

 

アンデッドナイトたちは街ではなく、アクアの方を目掛けて来ている。それを見たアクアはあまりの勢いで必死に逃げ出す。

 

「なんで!!?なんで私ばっかり狙われるの!!?私、女神なのに!!日頃の行いもいいはずなのに!!」

 

「「いやそれはない」」

 

「わああああああああ!!双子に否定されたああああああああ!!!」

 

必死に逃げ出すアクアの発言を拾い上げた双子は日ごろの行いは悪いという意味を込めて否定する。

 

「ああ!!アクアだけずるい!!私は本当に日頃の行いはいいはずなのにどうしてだ!!?」

 

『知らん』

 

ダクネスは変な意味でアクアを羨ましがっている。

 

「お、おいお前たち⁉なぜ他の冒険者たちではなくそのプリースト1人に執着するのだ!!?戻ってこーい!!!」

 

ベルディアもそれを見て本気で焦っている。だがアンデッドナイトがああまでアクアに執着するのは、アクアの女神としてのオーラを本能的に感じ取り、救いを求めているからなのである。

 

「めぐみん!あのアンデッドの群れに爆裂魔法を撃ち放てないか!!?」

 

「ええ?ああもまとまりがないと・・・撃ち漏らしが・・・」

 

カズマがアンデッドナイトを葬ろうとめぐみんに爆裂魔法を撃てないか聞いていると・・・

 

「わああああああ!!カズマさん!!カズマさあああああああん!!」

 

「わあ!?バカ!!こっちに来るなあああああ!!!」

 

「「ひゃああああああああ!!?」」

 

アクアがアンデッドナイトを引き連れて冒険者全員のところまでやってくる。それを見たダクネス以外の冒険者全員はアクアから逃げ出す。その際にカズマと双子が未だにアクアと共に追いかけまわされている。ダクネスはただ1人、ぽつんと立っていた。

 

「バカ!!アクア!!こっちに来んな!!」

 

「このアホ!!考えなし!!おたんこなす!!【ピーーッ】女ぁ!!そいつらを連れて来るんじゃないわよ!!」

 

「そうだよ!!そいつらはアクアが標的なんでしょ!!?何とかしてきてよ!!ご飯作ってあげるからさあ!!」

 

「私が作ってあげるから何とかしてぇ!!!こいつら、ターンアンデッド撃っても撃っても消し去れないのお!!」

 

あの甘やかされたがりのアクアがご飯を作ってあげる発言から、どうにも数が多すぎて手におえない状況らしい。

 

「もうこの際面倒だわ!!ティア!!そいつを蹴り上げなさい!!そいつさえ転ばしてしまえば、私たちは助かるのよ!!」

 

「わかったーーーー!!アクアーーーー覚悟ぉーーーー!!」

 

「いやああああああああ!!ちょっと待って!!蹴りに来ないでぇ!!私を1人取り残そうとしないでぇ!!!」

 

「いや待て!!俺たちはこいつらを引き付けるぞ!!一気に片付けられる方法を思いついた!!」

 

アカメの指示で腹黒ティアが出てきたところでカズマが作戦を思いついたのかティアの蹴り行動を止める。双子はカズマに従い、現状維持を続ける。

 

「めぐみん!!魔法を唱えて待機してろ!!」

 

「え?了解です」

 

「双子!!アクア!!ついて来い!!」

 

「「わかった!!」」

 

「え⁉え⁉何がぁ!!?」

 

カズマはめぐみんに魔法詠唱をしながらの待機を命じ、双子とアクアを連れてそのままベルディアの方まで直行する。

 

「なっ!!?」

 

「全員、散開!!めぐみん、今だあああああ!!!」

 

カズマと双子とアクアはベルディアに直撃する直前で散開する。これによって、アンデッドナイトはこのままいけばベルディアへと突っ込むであろう。これが狙いなのだ。

 

「何という絶好のシュチュエーション・・・!感謝します!!深く感謝しますよカズマ!!」

 

めぐみんはカズマに感謝しながら狙いをアンデッドナイトとベルディアに定める。

 

「我が名はめぐみん!!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者!!我が力、見るがいい!!」

 

アンデッドナイトがベルディアのところまでやってきたところで、めぐみんは魔力を解き放つ。

 

「エクスプロージョン!!!!!!!!」

 

ドガアアアアアアアアアアン!!!!!!!!

 

「うぎゃああああああああああああ!!!???」

 

めぐみんの爆裂魔法の大爆発はベルディアとアンデッドナイトを巻き込む。爆発が晴れると、その場にはクレーターが出来上がっていた。そう、カズマの狙いとは、ベルディアの元にアンデッドナイトを集めさせて、めぐみんの爆裂魔法で一気に片付けることだったのだ。

 

「くっくっく・・・我が爆裂魔法を目の当たりにして、誰1人として声を出せないようですね・・・。・・・はふ・・・すごく・・・気持ちよかった・・・です・・・」

 

魔力を使い切っためぐみんはぐったりとしてその場に倒れこむ。

 

「おーい、おんぶはいるー?」

 

「お願いしまーす」

 

ティアはめぐみんの元まで駆け寄り、動けなくなっためぐみんをおんぶする。

 

「やったぁ!!頭のおかしい紅魔の娘がやりやがったぞ!!!」

 

「名前と頭がおかしいだけで、やる時はちゃんとやるじゃないか!!!」

 

「見直したぜぇ、頭のおかしい子!!!」

 

『おおおおおおおお!!頭のおかしい子、バンザーーーイ!!!!』

 

全冒険者たちはめぐみんの活躍を見て大いに騒いでいる。ただ、さっきから出てる頭のおかしい発言はめぐみんをイラつかせている。

 

「・・・すいません、ちょっとあの人たちの顔を覚えておいてください。今度絶対爆裂魔法をぶっぱなします」

 

「まぁまぁ、今はいいじゃん。こうしてアンデッドナイトとデュラハンを倒したんだし」

 

怒りを燃やしているめぐみんをおんぶしているティアがそう言い放つと・・・

 

「くっくっくっくっく・・・はっはっはっはっは・・・面白い・・・はっははははははは!!!」

 

クレーターの中より、爆裂魔法をまともにくらったはずのベルディアが現れた。さすがは魔王軍の幹部といったところか。アンデッドナイトは倒せても、ベルディアだけは倒しきることはできなかったようだ。

 

「面白い・・・面白いぞ!!まさか本当に配下を全滅させられるとは思わなかった!その功績を称え・・・」

 

「どうやら・・・ここからが本番みたいね」

 

「カズマ、私の後ろに下がっていろ」

 

「この俺自ら、貴様らの相手をしてやろう!さあ!どこからでもかかってくるがよい!」

 

ベルディアが背中に担いでいる大剣を取り出した瞬間、アカメとダクネスが身構える。

 

「ビビる必要はねぇ!すぐにこの街の切り札がやってくる!」

 

「ああ!魔王軍の幹部だろうがなんだろうが関係ねぇ!!」

 

「一度に掛かれば死角ができる!全員であのデュラハンをやっちまうぞぉ!!!」

 

この街の冒険者の中でも前衛職のメンバーはベルディアに突っ込んでいき、周りを囲んでいく。

 

「ほぅ・・・貴様ら、よほど先に死にたいらしいな」

 

そう言ってベルディアは自分の頭を上空に投げ放つ。その瞬間に、カズマたちを含めた後ろに控えた冒険者全員がぞわりと嫌な予感がした。

 

「やめろぉ!!!行くなぁーーーーーー!!!!」

 

カズマが制止の声を上げるがもう遅い。前衛職の冒険者全員の攻撃を余裕があるように躱し、大剣で回りの大気ごと薙ぎ払った。

 

『ご・・・はぁ・・・』

 

ベルディアの前に出た前衛職の冒険者は全員、大剣に斬られて、成す術ものなく倒れてしまう。

 

「たわいもない・・・。さて、次は誰だ?」

 

目の前の圧倒的な力の前に、カズマたちパーティ以外の冒険者たちは全員、ベルディアに恐れ戦いた。

 

「あ・・・あんたなんか・・・今にミツルギさんが来たら、一撃で斬られちゃうんだから!!」

 

「ほう・・・あの魔剣の勇者、ミツルギのことか・・・」

 

この街の切り札的存在であるミツルギの名前を聞いて、カズマは本気で焦った。なぜならそのミツルギはアカメが魔剣を売り払ってしまったゆえに、どこかにある鍛冶屋で魔剣を取り返そうとしている最中だからだ。だからいくら待ったところでミツルギは来ないかもしれないのだ。

 

「お姉ちゃん・・・もしかして・・・噂の魔剣の勇者って、あのムカつくナルシスト・・・?」

 

冒険者全員の反応からして、ティアはミツルギが噂になっている魔剣の勇者だと気が付いた。

 

「ああ・・・なら残念だけど、そいつなら来ないわよ」

 

『え?』

 

ミツルギが来ない発言をしたアカメに冒険者全員はアカメに注目する。

 

「そいつ、よほどの武器管理がなってないのか、その魔剣をなくしてしまって、それを求めてこの街から出ていったわよ」

 

『なにいいいいいいいいいい!!!???』

 

「お姉ちゃん!!?今それを言う!!?」

 

(こ、こいつぅ!!?爆弾発言しやがったうえに自分のやらかしたことをなかったことにしやがったぁ!!?)

 

アカメの嘘が混じった真実に冒険者全員は驚愕の声を上げた。自分のやらかしたことを消そうとしているアカメの嘘にカズマは心の中でツッコまずにはいられなかった。そして、最悪なことに・・・

 

「・・・ではやはり、この街に残っているのは、雑魚のみというわけか」

 

この会話はベルディアにバッチリ聞かれてしまっているからだ。

 

「も、もうダメだ・・・おしまいだぁ・・・」

 

「終わった・・・俺の人生、ここで終わっちまった・・・」

 

「ちくしょう!!殺すなら殺せぇ!!」

 

「いやぁ!!まだ死にたくない!!弟だっているのにぃ!!」

 

頼みの綱であるミツルギが来なくなった状況下に、冒険者全員は絶望したり、取り乱したりしている。

 

「諦めないで!!!」

 

『!!!』

 

そんな中、ティアが背負っためぐみんを岩の近くにおろし、冒険者全員に一喝した。

 

「ここで諦めたら、誰がこの街を守れるの?この街を守れるのは・・・私たちだけなんだよ!私たちが力を合わせて立ち向かえば・・・きっと・・・!」

 

「そもそもな話、自分たちの街を他人に守らせようって考えが間違っているのよ。私たちは弱くても、力ある冒険者よ。全員の力を結集させさえすれば・・・」

 

「「魔王軍幹部だって、必ず勝てる!だから諦めないで!」」

 

双子たちの一喝により、目を覚ましたかのように、冒険者たちの目が変わる。

 

「そうだ・・・俺たちがやらなければ、この街は終わりだ・・・」

 

「そうとも・・・俺たちは冒険者だ!俺たちだって・・・やる時はやるんだ!」

 

「みんなで協力し合えば、きっと・・・そうだよね!私たちがやらなきゃ!」

 

『おおおおおおおおおお!!!!』

 

全員が目の色を変え、ベルディアを倒そうという意気込みが強くなる。それを見ていたカズマは非常に申し訳なさそうな表情をしている。

 

(すいません・・・ミツルギさんが来ないの・・・俺の仲間のせいなんです・・・本当にすいません・・・)

 

冒険者全員にたいして、カズマは心から全員に謝罪を心の中で述べた。

 

「ほぅ・・・その意気やよし・・・では望み通り・・・全員まとめて消し去ってやろう!!!」

 

ベルディアは冒険者全員に向かって、自分の大剣を振るった。

 

「はああ!!」

 

そのベルディアの一撃を、ダクネスが剣を抜き、受け止める。

 

「よくも・・・よくもみんなを!!!」

 

倒れている冒険者の中にはダクネスの知り合いがいたようで、ベルディアに向けてダクネスは怒りをぶつけている。

 

「ダクネス!いったん体制を立て直す!戻れ!」

 

「守ることを生業とする者として!譲れないものがある!!」

 

カズマはダクネスに戻るよう説得するが、ダクネスは一歩も引くつもりはない。

 

「その大剣で、見せしめとして、淫らな責め苦を受けるさまを・・・みんなの前で晒すつもりだろうが・・・やれるものならやってみろ!!いや!!むしろやってみせろぉ!!!!」

 

「変な妄想はよせぇ!!!!俺が誤解されるわ!!!!」

 

ダクネスとベルディアはいったん距離を取り、そしてダクネスはベルディアへと突っ込んでいく。

 

「勝負だ!ベルディアぁ!!!」

 

「首なし騎士として、相手が聖騎士とは是非もなし!!」

 

「はああああああ!!!」

 

ダクネスはベルディアに向かって両手剣を3連撃放ち、攻撃を仕掛ける。だが・・・

 

ベコンッ!!バコンッ!!

 

「・・・ふぁ?」

 

攻撃は全て近くにあった岩に当たり、ベルディア本人は無傷で済んでいる。大口をたたいておきながら一撃も当てられず、ダクネスは恥ずかしさで顔を赤くする。

 

(やだもぉ~!動かない相手にすら外すなんて、恥ずかしい!!この人俺の仲間なんですけど!!?)

 

もちろん仲間のそれを見ていたカズマも恥ずかしさでいっぱいになっている。

 

「何たる期待外れだ・・・もう貴様に用はない!!!」

 

ベルディアは興が冷めたのか、その大剣で容赦なくダクネスを斬りつけた。

 

「ああっ!!わ、私の鎧がぁ!!?」

 

だがダクネスはただ鎧に傷がついただけで本人はたいした怪我を負っていない。

 

「・・・な、なんだ貴様は?俺の剣を受けてなぜ斬れない?その鎧ってまさか相当な防御力を?いや、それにしても・・・?なぜだ?」

 

大したダメージを負っていない事態にベルディアは困惑を隠せないでいた。

 

「ダクネス邪魔よ!どきなさい!!」

 

「お、おいアカメ⁉行くな!!」

 

「やめろ!!来るんじゃない!!せっかくの楽しみが・・・!」

 

アカメがベルディアに向かって突撃している姿を見て、カズマとダクネスが制止の声をあげる(ダクネスは変な意味で)。

 

「今度は鬼畜生のシーフか!!血も涙もない貴様は・・・俺が始末してやりたいと、思っていたぁ!!!」

 

ベルディアは自分の頭を上空に投げ、前衛職の冒険者と同じように大剣を振るい、連撃を放つ。だがアカメはその大剣を一撃一撃を躱し、最後の一撃はマジックダガーを振るって軌道を逸らさせる。

 

「ば、バカな・・・この俺の攻撃を全て見切った・・・だと・・・?このシーフ、何者だ・・・?」

 

ベルディアが困惑していると・・・

 

ペキッ!

 

ベルディアの持っていた大剣に微かながらのヒビが入り始めた。

 

「んなぁ!!?魔王様のご加護を受けた剣に微かなヒビが!!?さっきの一撃か!!?シーフは攻撃力が低いはずだろう!!?それなのに・・・このさっきのプリーストといい、頭のおかしい爆裂娘といい、このクルセイダーといい、なんなのだこの街は!!?」

 

明らかに普通でない能力にベルディアはもう困惑気味だ。

 

「よそ見してる、場合かしら!!」

 

「おわっ!!」

 

アカメはマジックダガーをベルディアに向かって振るったが、大剣を壊されることを危惧したベルディアはアカメの攻撃は避けている。

 

「そらそらそら!!避けてないで反撃したらどうかしらぁ!!」

 

「くそぅ!!この鬼畜生め!!いつまでも調子に・・・」

 

「バインド!!!」

 

「うおっ!!誘導か!!」

 

避け続けているベルディアにティアがバインドを放った。どうやらアカメはベルディアをティアの近くまで誘導していたようだ。それに気づいたベルディアはそのバインドを躱した。

 

「何外してるのよこの下手くそ!!あれが決まれば身動き取れなくなるのに!!」

 

「はあ!!?相手は動いてるんだから外したって仕方ないじゃん!!それに、バインドを使って動きを封じたって、一時的なものでしょうが!!」

 

「そんなもん何度でもバインドをかければいいだけの話でしょ!!あんたには知恵ってものがないのかしらこの、腹黒!!」

 

「むっか!!なんだったら標的をお姉ちゃんに変えてあげてもいいんだけど!!?」

 

戦闘中にもかかわらず、口喧嘩を始める双子。これによって大きな隙が生まれる。

 

「・・・なんなんだこいつら?急に仲間割れを?というか、こいつら本当に姉妹なのか?・・・まぁいいい・・・その背中を見せたのが命とりだと知れ!!!」

 

ベルディアは困惑しながらも隙が生まれた双子に向かって大剣を振るった。

 

「やらせん!!!」

 

「邪魔をするなクルセイダー!!!」

 

口喧嘩する双子の危機をダクネスが前に出てそれを救った。ベルディアは容赦なくダクネスに大剣を一撃、二撃、三撃、四撃をダクネスに放った。

 

「ぐわあああああ!!!」

 

「「!ダクネス!!」」

 

ベルディアの攻撃によって、ダクネスの鎧はさらに砕けていった。ダクネスが自分たちを庇ってくれたことに気付いた双子。そして双子はベルディアの攻撃によって傷ができてしまったことにも気づいた。

 

「ダクネス・・・あんたその怪我・・・」

 

「私たちのせいで・・・」

 

「仲間を守るためだ。この程度の傷など、どうということなどない。それに・・・」

 

ダクネスははぁはぁと興奮した様子を見せ、言葉をさらに続ける。

 

「このデュラハンは、やはりやり手だぞ!!!」

 

「「・・・うん?」」

 

「奴の一撃は私の鎧を少しずつ削り取るのだ!全裸に剥くのではなく、中途半端に一部だけ鎧を残し、私を・・・この公衆の面前で裸より煽情的な姿にして辱めようと!!」

 

「えっ?」

 

ダクネスの発言にベルディアは攻撃をやめて戸惑っている。そんなベルディアにダクネスはお構いなしだ。

 

「さあ来い!!魔王軍の辱めとやらはそんなものか!!もっと打って来い!!さあ!!!」

 

「時と場合を考えろ!!!この筋金入りのド変態がぁ!!!!」

 

「ド・・・変・・・態・・・!!」

 

こんな時でも自重しないドMのダクネスにカズマがツッコミを入れる。ダクネスは変態という単語に反応する。

 

「か、カズマこそ時と場所を考えろ!!公衆の面前で魔物に痛めつけられているだけでも精いっぱいなのに・・・お・・・お前とこのデュラハンはいったい2人がかりで、この私をどうするつもりだぁ!!?」

 

「「どうもしねぇよ!!!」」

 

やっぱりかなり興奮しきってるダクネスにカズマとベルディアはきっぱりとそう言い切る。

 

「でもまぁ、時間は稼げたぜ!双子!こっちに戻って来い!!」

 

「「わかった!」」

 

双子はカズマの指示に従い、カズマの元まで戻っていく。

 

「よし!いくぞぉ!!クリエイト・ウォーター!!!」

 

カズマはクリエイト・ウォーターをベルディアに向けて放った。ベルディアは水を躱すが、その水がダクネスにかかってしまう。

 

「・・・突然こんな水責めの仕打ちとは・・・嫌いではないが・・・時と場所を考えてくれ」

 

「うわぁ・・・カズマ・・・」

 

「スケベ野郎」

 

「ち、違う!!そういうプレイじゃない!!」

 

水浸しになるダクネスは頬を赤らめており、その様子にティアとアカメはカズマに非難の目を向ける。カズマは必死になって否定する。

 

「これはな!こうするんだよ!フリーズ!!」

 

カズマはベルディアが立っている水たまりに向かって初級魔法、フリーズで小さな冷たい風を放った。そのフリーズによって、水たまりが凍った。それによってベルディアの足元も凍り付く。

 

「!ぬぅ!!ぬかった!!だが・・・俺の強みが回避だけだと・・・」

 

「回避しずらくなりゃそれで十分だ!アカメ!ティア!お前らもスティールは覚えてるな!あいつの武器を奪うぞ!!」

 

「!なるほど・・・そういうことなんだね!」

 

「試す価値はありね・・・」

 

カズマの意図を察した双子はカズマの作戦を了承し、スティールを発動させる。

 

「「「スティ―――ル!!!」」」

 

3人はベルディアに向かってスティールを発動させたが・・・ベルディアの武器は未だに手元に持ったままで何も奪われていない。

 

「・・・なるほど・・・悪くはない手だったな・・・」

 

「くっ・・・スティール失敗・・・!」

 

「やっぱり相手は仮にも魔王軍幹部・・・!」

 

「いくらアヌビス出身の貴様らといえど、俺とのレベルの差がありすぎたな。もう少しレベルがあれば、俺も危ないところであったな・・・」

 

「くっ・・・盗賊職のみんなも、あいつの武器を奪うんだぁ!!」

 

『スティ――ル!!』

 

他の盗賊職の冒険者もベルディアにスティールを放つが、武器は一向に取れる気配はない。

 

「さて・・・このくだらない茶番を終わりにしよう」

 

ベルディアの足に凍り付いた氷はベルディアがほんの少し歩いただけで簡単に砕かれていった。ベルディアはカズマの元まで近づいていく。

 

「こうなったら・・・私があの武器を破壊してやるわ!ティア!援護を!」

 

「わかった!あの剣にはヒビが入ってる!あと1発さえ当てれば!」

 

ティアはバインドでベルディアの動きを封じようとするが、ベルディアはそれを難なく躱す。それに続いてアカメもベルディアの剣に向かってマジックダガーを振るうが、ベルディアはそれさえも躱す。

 

「もう貴様らの攻撃など二度と当たらんよ!!!」

 

ベルディアはアカメに向かってマジックダガーに触れないようにしながら大剣を振るう。アカメは何とかベルディアの攻撃を避け続ける。

 

「どこを見ている!お前の相手は私だ!!」

 

「ぬるいわ!!勇敢で愚かなクルセイダー!!」

 

ダクネスがベルディアに向かって剣を振るうが、剣を当てられないと理解しているベルディアは臆することなくダクネスに大剣を振るう。3人がかりで戦っているというのに、ベルディアに傷どころか武器さえも破壊することが叶わず、悪戦苦闘である。

 

(思い出せ・・・相手はデュラハンだ・・・!ロールプレイングゲームでは・・・何が弱点だった?あいつをよく観察しろ・・・。アカメはともかく、なんであいつは俺の出した水を大袈裟に避けたんだ?デュラハンの弱点は・・・アンデッドモンスターの弱点は・・・)

 

「ぬううううん!!!」

 

「ぐわあああああ!!!」

 

「「ダクネス!!」」

 

カズマがベルディアの弱点を探っている間にも、ベルディアは大剣を振るい、3人まとめて薙ぎ払おうとした。ダクネスが庇ったおかげでなんとか双子には当たらずに済んだが、状況はかなりやばい。

 

(!そうか!!デュラハンの弱点は!!)

 

「さて・・・ではそろそろ・・・クルセイダーもろとも、貴様らを地獄へと連れていってやろう。さらば・・・アヌビスの双子のシーフ!!そして、勇敢なるクルセイダー!!」

 

「クリエイト・ウォーター!!」

 

ベルディアは大剣でダクネスもろとも双子を貫こうとした瞬間、ベルディアの弱点に気が付いたカズマがベルディアに向かってクリエイト・ウォーターを放った。ベルディアはその水を避ける。

 

「だから何のつもりだ小僧!!」

 

「水だあああああああ!!魔法使いの皆さーーん!!あいつに水の魔法をーーーー!!」

 

『クリエイト・ウォーター!!』

 

カズマの指示によって、ベルディアの弱点に気付いた魔法使い職の冒険者は全員、クリエイト・ウォーターを発動させる。

 

「よせ!そんな攻撃・・・」

 

『クリエイト・ウォーター!!!』

 

「うおおぉぉ!!?き、貴様らぁ!!いい加減・・・おわぁ!!?」

 

魔法使い職の冒険者とカズマはクリエイト・ウォーターを放ち続けるが、一向にベルディアに当たらない。

 

「当たれ!当たれぇ!くそ・・・このままじゃ魔力が尽きちまう!!」

 

「ねぇねぇ、いったい何の騒ぎなの?なんで魔王の幹部と水遊びをやってるの?バカなの?」

 

(こいつぅ・・・!!)

 

状況に全く気付いてないアクアにカズマはいい加減アクアを殴ろうかと考えたが、今はそれどころではない。

 

「見てわかんないのか!!?あいつは水が弱点なんだよ!!お前、一応かろうじてでも水の女神なんだろ!!?水の1つくらい出せるだろこの駄女神!!!」

 

「あんた、そろそろバチの1つでも当てるわよ無礼者!!洪水クラスの水だって、私に掛かれば出せるんですからね!!」

 

「出せるのかよ!!?」

 

「ねえ、謝ってよ!!水の女神様を駄女神とか言ったことをちゃんと謝ってよ!!」

 

カズマの失礼発言に謝罪を要求するアクアだが、何度も言うが今はそれどころではない。

 

「後でいくらでも謝ってやるから!!さっさとやれよこのなんちゃって女神がぁ!!」

 

「あああ!!今なんちゃって女神って言ったぁ!!あんた見ていなさいよ・・・女神の本気を見せてやるんだから!」

 

アクアが手を天にかざすと、アクアの周辺に小さな水の玉がふよふよと漂う。

 

「!!こ、これは・・・!」

 

アクアから放つ神々しいオーラにベルディアは自らの危険を察知する。

 

「この世にある我が眷属たちよ・・・水の女神、アクアが命ず・・・我が求め、我が願いに応え、その力を世界に示せ!」

 

「い、いかん!!」

 

ベルディアはすぐにその場から離れようとするが、ダクネスががっちりとベルディアの足を固定させる。

 

「は、離せこのド変態騎士がぁ!!!」

 

「なんという罵倒・・・♡」

 

思うように動けなくなったベルディアに、アクアは、自らの力を一気に解放する。

 

「セイクリッド・クリエイト・ウォーターーー!!!!!」

 

アクアが上級の水の魔法、セイクリッド・クリエイト・ウォーターを放つと、空から大量の水が滝のように発生する。

 

「おわあああああ!!!水があああああああ!!!」

 

大量の水はダクネスも巻き込んではいるが、ベルディアに命中。だが・・・

 

「お姉ちゃん・・・これ・・・多すぎない・・・?」

 

「これ・・・明らかに・・・」

 

「もういい!!!もういいって言ってるだろアクア!!今すぐ止め・・・」

 

バシャアアアアアアアン!!!!

 

明らかに水を出す量を間違えているせいで双子とカズマも巻き込み、そして全ての冒険者も水に巻き込まれてしまう。

 

「あぶ・・・ちょ・・・おぼ・・・おぼれ・・・がぼぼ・・・」

 

「めぐみーん!!しっかり掴まってー!流されないようにー!」

 

「殺す!!あのアマ絶対ぶち殺す!!」

 

「覚えてろあの駄女神ぃ!!!」

 

当然めぐみんもこの洪水に巻き込まれ、ティアが何とか流されないようにしている。アカメはこの事態を引き起こしたアクアに激しい殺意を覚える。そして、やがて洪水が引いていくと、辺り一面は水だらけ、街の城壁もところどころ壊れている。そんな状況下でベルディアはよろよろと立ち上がる。

 

「くぅ・・・何を考えているのだ・・・バカなのか・・・大馬鹿なのか貴様ぁ・・・!!」

 

予定外の事態ではあったが、ベルディアは弱体化している。

 

「私の活躍であいつが弱まってるわ!!チャンスよカズマ!!」

 

「お前本当に覚えてろよ駄女神!!行くぞ、双子!!」

 

「汚名返上させてもらうよ!!」

 

「今度こそ、そのひび割れ武器を盗ませてもらうわよ!!」

 

カズマと双子たちはベルディアの武器を奪おうとスティールを放とうとする。

 

「そうはさせるかぁ!!!その前に、貴様らを始末してくれる!!!」

 

ベルディアは自分の頭を上空に放り投げ、カズマたちに向かって切りかかる。が、行動はカズマたちの方が早かった。

 

「「「スティ―――ル!!!!」」」

 

ベルディアより早い行動によって、先にカズマたちがスティールを発動させる。3人の光が晴れると、カズマにはベルディアが持っていた大剣、ティアには隠れていた短剣が取れた。

 

「よし!スティール成功!これであいつは無防備だ!」

 

「こっちも取れた!あいつ、万が一を考えてこんなものまで隠してたんだ!」

 

「マジか!やっぱ3人同時にやって正解だった・・・」

 

「お姉ちゃんは何取れたの?」

 

「・・・・・・」

 

ティアはアカメに何が取れたかと聞いているが、アカメは返答がない。

 

「・・・あ、あのぅ・・・」

 

そこでベルディアの申し訳なさそうな声が聞こえてきた。その発声場所は、アカメの方からだ。

 

「剣もそうですけど・・・その前に・・・首、返してもらえます?」

 

アカメの手にはなんと、ベルディアが放ったであろう自分の頭があった。そう、アカメがスティールで取れたのは、ベルディアの頭だったのだ。

 

「・・・・・・うふっ♪」にたぁ・・・

 

ベルディアの頭を見てアカメは非常に悪党らしいゲスの笑みを浮かべている。

 

「ねぇあんた・・・?お腹すかない?今ちょうどいいものを持ってるんだけど・・・食べるかしら?」

 

「へ?いや・・・あの・・・首・・・」

 

ベルディアが戸惑っている間にアカメは自分のポケットから唐辛子を取り出した。

 

「これ、うちでよく取れる唐辛子なんだけど・・・疲れには抜群なのよ?食べるでしょ?食べるわよね?」

 

「い、いや・・・結構・・・」

 

「遠慮しなくてもいいのよ・・・そのまま・・・食べさせてあげる・・・おらぁ!!!」

 

アカメは持っていた唐辛子をベルディアの口ではなく、目に突っ込ませた。しかもご丁寧に両目に。

 

「ぎぃぃぃやああああああああああ!!!!!!???目があ!!!目があああああああああああああ!!!!!!」

 

それには当然、ベルディアの本体はごろごろと地面を転がっていく。

 

「あー、スッキリした。カズマ、後の対処はあんたに任せるわ」

 

アクアの仕打ちをベルディアで果たしてスッキリしたのか後はカズマに丸投げする。

 

「・・・ぐぇっへへへへへへ・・・」にたぁ・・・

 

今度はベルディアの頭がカズマに渡ったことにより、カズマはアカメ以上のゲスい笑みを浮かべている。

 

「おーいお前らー!サッカーしようぜーー!サッカーっていうのはなぁ!!」

 

ゲシィッ!

 

「どわぁ!!?」

 

カズマはベルディアの頭をサッカー感覚で蹴り上げてそれを他の冒険者たちに手渡す。

 

「手を使わず、足だけでボールを扱う遊びだよー!」

 

他の冒険者たちの手にベルディアの頭が渡った瞬間、冒険者たちはベルディアの頭をサッカー感覚で遊んでいる。

 

「わははは!これおもしれー!これがサッカーか!」

 

「おーい!こっちにもパスしてくれー!」

 

「やめっ!!?ちょ・・・いててて!!頭痛いし目も痛い!!もうやめてええええええ!!!」

 

あまりにも哀れなその光景は何というか、魔王軍幹部とだいぶかけ離れてるような気がする。

 

「バインド!!」

 

「うおっ!!?」

 

ティアはじたばたするベルディア本体にバインドを使い、身動きを取れなくさせる。

 

「おいダクネス、一太刀食らわせたいんだろ?仲間の仇、うって来いよ」

 

カズマの言葉にダクネスは首を縦に頷き、立ち上がった。

 

「これは!お前に殺された、私が世話になったあいつらの分だぁ!!この一撃を・・・まとめて受け取れぇ!!!」

 

「ぐはぁ!!!」

 

ダクネスは動けなくなったベルディア本体に剣による斬撃を与えた。元々の攻撃力が高いおかげで、ベルディア本体は鎧と共に大きなダメージを与えた。

 

「ベルディアの鎧が壊れたよ!今なら・・・」

 

「アクアー!!今だあ!!やっちまえ!!」

 

「任されたわ!!」

 

アクアは自身の杖を構え、ベルディアに向かって浄化魔法の態勢を整える。

 

「セイクリッド・ターンアンデッド!!!」

 

「ちょっ・・・ま・・・ほあああああああああああああああ!!!!!」

 

ベルディアの鎧が壊れたことによってアクアのセイクリッド・ターンアンデッドが確実に効き、ベルディアは離れていった頭ごと浄化され、天へと召されていった。戦いが終わった後、曇っていた空が晴れていった。ダクネスは膝を地につけ、祈りをささげている。

 

「ダクネス、何をやってるのです?」

 

「祈りをささげている。デュラハンは不条理な処刑で首を落とされた騎士が恨みでアンデッド化するモンスターだ。奴とて、モンスターになりたくてなったわけではないのだ。ならばせめて、同じ騎士として、瞑目を捧げてやらねばな」

 

「・・・きっと、ダクネスの思いは、あのデュラハンに伝わると思うよ」

 

「ありがとうティア・・・そう言ってもらえると、あいつも少しは浮かばれるだろう」

 

ダクネスは空を見つめ、この戦いで失った仲間との思い出を振り返っている。

 

「私のことを、鎧の中はガチムチなんだぜと大嘘を流してくれたセドル・・・うちわ代わりにその大剣で扇いでくれ。何なら当ててもいいぜ。当たるんならなと私をからかったヘインズ・・・そして・・・1日だけパーティに入れてもらった時、なんであんたはモンスターの群れに突っ込んでいくんだと先叫んでいたガリル・・・。皆・・・あのデュラハンに斬られた連中だ」

 

ダクネスは仲間たちを思い、そして静かに涙を流した。

 

「・・・叶うことなら・・・もう1度会って・・・一緒に酒でも飲みたかったな・・・」

 

なんとも感動的なシーンが流れていた時・・・

 

「「「お・・・おう・・・」」」

 

死んだことによりもう会うことが叶わなくなったと思われていた3人・・・セドル、ヘインズ、ガリルの3人が申し訳なさそうに立っていた。

 

「剣が当たらないこと・・・実は気にしてたんだな・・・。あの・・・その・・・悪かったな。今度奢るからよ・・・」

 

「お、俺も・・・悪かったな・・・。本当、すまなかったな・・・」

 

「俺も・・・変な噂を立てちまって・・・本当、ごめん・・・」

 

「・・・生き・・・てる・・・」

 

死んだと思っていた3人が実は生きていたことにダクネスは恥ずかしさで顔が真っ赤になる。

 

「この私くらいになると、死にたてほやほやの死者なんてリザレクションでちょちょいと蘇生できるわよ。よかったじゃない!これでみんなでお酒が飲めるわよ!」

 

どうやらみんなが戦っている間、ベルディアに斬られた冒険者たちの蘇生を行っていたようだったのだ。

 

「よかったわね、ダクネス。あんたお望みの羞恥プレイよ。しばらくはこのネタで、いじり倒してやるわ。感謝しなさい」

 

「・・・こ・・・こういう攻めは・・・私の望む羞恥プレイとは違うからぁ!!うえええええええええん!!」

 

ダクネスはあまりの恥ずかしさにその場で泣き出してしまうのだった。

 

『緊急クエスト!!

魔王軍の幹部、ベルディアを討伐せよ!!

クエストクリア!!』




次回予告的なもの

我が名はめぐみん。アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者。

後生に我が偉業を伝えるために、ここに書き記す。
希代の魔法使いめぐみんの強大な魔力は魔王軍を震え上がらせていた。
救われた人々は心から崇め奉り、子供たちはめぐみんに夢中だった。
ギルドには出待ちファンが殺到し、整理券が配られるほどであった。

偉大なる魔法使いの書 序章

これを読んだとある女性アークウィザードの反応

???「・・・確かに紅魔族は魔力が高くて、魔王軍を怯えさせられるのは認めるけど・・・これどっちかっていうと、ただの願望なんじゃないか?頭のおかしい紅魔族らしい発想だけどよ・・・」

めぐみん「おい、私の書いた伝説に文句があるのなら聞こうじゃないか」

次回、この残念パーティに1億の借金を!


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この残念パーティに1億の借金を!

魔王軍の幹部、ベルディアを討伐した翌日、今日の冒険者ギルドはワイワイと騒いでいた。それもそうだ。魔王軍幹部にはそれぞれに高い賞金がかけられており、その1人を倒したのだ。冒険者全員にその賞金の一部をもらったのだ。騒がずにはいられない。そして、ベルディア討伐のMVPであるカズマたちパーティはまだ来ていないカズマを置いて、わいわいと飲んだり食べたりしている。

 

「アクアー!ティアー!まだまだ・・・こんなもんじゃあないわよねぇ!」

 

「もっちのろんよー!せっかくの祝杯だものー!飲んで飲んで飲みまくるわよー!」

 

「これで10杯目・・・記録更新するぞーーー!!」

 

双子とティアはシュワシュワで飲み比べをしており、もう10杯というところまできている。3人の顔はほんのりと赤くなっている。その様子を羨ましそうに見つめているめぐみんが問いかける。

 

「あ、あの・・・一口だけでも・・・一口だけでもいいので・・・シュワシュワを飲んでもいいでしょうか?」

 

「お子様には早い!!!ジュースで我慢なさい!!!」

 

めぐみんは13歳ゆえに、めぐみんがシュワシュワを飲むことを許さないアカメ。ちなみに、この世界でお酒を飲める年齢は15歳以上、お互いに16歳である双子はこうしてシュワシュワを飲むことができるのだ。

 

「けちけちしないでくださいよー!私とアカメは3歳程度しか歳が離れてないじゃないですかー!」

 

「ダメよ。シュワシュワは大人になってからよ」

 

「私もめぐみんにシュワシュワはまだ早いと思うわー」

 

「そうだよ。めぐみんには、まだシュワシュワは早いよ」

 

「そんなー!アクアやティアまで、そんな意地悪を言わないでくださいよー!」

 

めぐみんがシュワシュワを飲むことを反対しているのはアクアもティアも同じである。

 

「そうだぞ。それに、めぐみんはまだ13歳だ。飲めるような歳ではない」

 

「ダクネスまで・・・みんなしてなんなのですか!私だってシュワシュワ飲みたいですよ!」

 

セドル、ヘインズ、ガリルと共にシュワシュワを飲んでいるダクネスにも反対され、めぐみんはふて腐れ、やけ食いをする。わいわい楽しんでいると、遅れてカズマがやってきた。

 

「なんだ、もう始めてたのか」

 

「カズマ!!聞いてください!!みんなが私にはシュワシュワは早いとドケチなことを・・・」

 

「いや、待て・・・そうではない」

 

「そうよ、これはめぐみんのためを思って言ってるのよ」

 

「私たちなりの気遣いだよー」

 

いまいち状況を理解できていないカズマにもうすっかり出来上がってるアクアが近づいてきた。

 

「あーー!遅かったじゃないのよー!こっちに来て一緒に飲みましょーよー!」

 

もうすっかり酔っ払いのアクアにカズマは引きつった顔をしている。

 

「ああ、カズマさん、お待ちしておりました」

 

そんな中、ルナがカズマたちに話しかけてきた。

 

「魔王軍の幹部を討伐できたので、皆様に報酬を支払ってるのはご存知かと思いますが・・・実は、カズマさんたちのパーティには特別報酬が出ています」

 

「え?マジですか⁉」

 

カズマたちのパーティにベルディア討伐報酬だけでなく、自分たちにはそれとは別に特別報酬が支払われると聞いて、カズマは驚愕する。

 

「でも・・・なんで俺たちだけが?」

 

カズマが疑問を抱いていると、荒くれ者がカズマに声をかける。

 

「魔王軍の幹部を倒すだなんてなぁ。俺は初めから、お前の中の輝きを信じていたぜ」

 

「俺の中の輝き・・・(イケボ)」

 

「地獄の入り口に光が差す・・・古い言い伝えだったかもしれん」

 

「そうそう!カズマがいなきゃ、デュラハンなんて倒せなかったんだからよ!」

 

『カ・ズ・マ!カ・ズ・マ!カ・ズ・マ!』

 

冒険者たち全員はカズマの功績を称え、カズマコールをしている。簡単に言えば、デュラハンを討伐できたのは他ならない、カズマたちの活躍あってこそ。だからこそMVPであるカズマたちパーティに特別報酬が支払われるのだ。

 

「サトウカズマさんたちパーティには、功績を称え、3億エリスを与えます!!」

 

「「「「「「さ、3億!!!???」」」」」」

 

まさかの億単位の報酬がもらえるとは思わなかったカズマたちは驚愕で満ちている。

 

「おいおい、なんだよ3億ってー。奢れよカズマー」

 

「カズマ様、奢って奢ってー♪」

 

3億の単位を聞いて周りの冒険者たちは今度は奢れの連呼である。

 

「・・・集合ー」

 

カズマの一声で、パーティ一同は全員集まった。

 

「お前らに1つ言っておくことがある」

 

「私の力で9:1でいいわよね?もちろん、9割は私で」

 

「何言ってるの?こっちの被害枠を考えてアクアには1割で十分だよ」

 

「お前らうるさい。話聞け」

 

アクアとティアが話を逸らし始めたのでカズマが話を戻す。

 

「大金が手に入った以上、俺はのんびりと、安全に暮らしていくからな。今後は冒険の回数は減ると思え」

 

「⁉ちょっと待ってよカズマ⁉」

 

「待ちません」

 

「あんた何言ってんの?ふざけてんの?」

 

「ふざけてません」

 

「そうだ!強敵と戦えなくなるのは困るぞ!」

 

「困りません」

 

「私も困りますよ!私はカズマについていき、魔王を倒して最強の魔法使いの称号を得るのです!」

 

「得ません」

 

「またヒキニートに戻るつもり?」

 

「戻りません・・・って、ニートじゃねぇから!!!」

 

「私が天界に帰れないじゃない!」

 

「いいや、もう決めたことなんだ!何度ごねたって無駄だからな!!」

 

カズマが安全に暮らす発言にカズマ以外のパーティ全員は不満をカズマにぶつけている。

 

「あのぅ~・・・カズマさん?」

 

そしてそこへルナが申し訳なさそうにカズマに声をかけながら1枚の紙を渡した。その紙を見たカズマは顔を青くしている。

 

「実は・・・アクアさんが召喚した大量の水により、外壁などに、大きな被害が出ておりまして・・・。さすがに魔王軍幹部を倒した功績もありますので・・・全額弁償とは言わないから、一部だけ払ってくれ・・・と・・・」

 

つまり、カズマに渡されたのは小切手なのではなく、損害賠償の請求書なのである。それを見たアクアは逃げようとする。当然アカメはそれを逃がすつもりはなく、髪を掴んで逃がさないようにする。

 

「えっと・・・報酬が3億で・・・弁償額が3億4000万エリス・・・てことは・・・」

 

「とどのつまり・・・4000万の借金ができてしまった・・・ということよ」

 

「血を血で洗う魔道の旅は、始まったばかりですね」

 

「明日からは金になる強敵相手のクエストに行こう」

 

「しゃ、借金は・・・等分で、いいわよ?」

 

討伐報酬をもらうはずが、まさかの借金をもらってしまうという理不尽な状況にカズマは落胆する。

 

「・・・ちくしょう!!どうしてこんなことになるんだよおおおおおおおお!!!!」

 

こうして、カズマたちの借金返済生活が幕を開けたのである。

 

 

ーこのすばぁ~(泣き)ー

 

 

それからというものの、アクアが原因で作り上げてしまった借金の返済のために、カズマたちパーティは高難易度のクエストに赴いた。報酬のほとんどが借金返済のために天引きされていき、もらえる報酬は数万程度しかもらえないでいた。そんな生活3日目の夜、双子はウィズ魔道具店のリビングでぐったりしている。

 

「あぁ~・・・疲れた・・・」

 

「こんな低額の報酬生活・・・いったいいつまで続くのよ・・・」

 

「盗賊稼業も、これでもかーっていうくらいに来ないし・・・」

 

「ていうか、ここに来てから1回も盗賊稼業をやってないわよね?盗賊として、それはどうなのよ?」

 

「言えてる・・・これ、もうお頭に厄介払いされたって認識で間違いないんじゃない?」

 

「ここまで来れば、そう思いたくなるわね・・・」

 

3日という短い期間ながら、少ない報酬生活に双子は嫌気をさして、お互いに愚痴り合いをしている。

 

「あ・・・あのぅ・・・大丈夫でしょうか・・・?」

 

心労が絶えない双子にウィズはおどおどとしながら心配している様子でいる。

 

「大丈夫じゃないわよ・・・。こっちは借金返済の毎日・・・嫌気がさすわ・・・」

 

「もういっそのこと、アクアに借金を全部押し付けちゃおうかなぁ・・・」

 

「うぅ・・・本当に・・・本当に、申し訳ございません・・・」

 

「ウィズが悪いわけじゃないんだから気にしないでよ・・・」

 

双子が借金返済生活を送るはめになった事態にウィズは双子に謝罪している。

 

「あ、あのぅ・・・気休め程度ですが・・・今月分のお給料・・・」

 

「どうせ数千エリス程度でしょ。いらないわよ・・・」

 

「今月も、売り上げは赤字だからお金ないでしょ?だったら残しときなよ・・・」

 

「で、でも・・・やはりご不憫で・・・気休め程度でも・・・」

 

「「いらないから」」

 

ウィズは2人が働いた分の給料を払うと言っているが、2人は受け取る気分にはなれない。というか双子は最初から給料を受け取るつもりがないのだ。

 

「そんな気休め程度を渡すくらいなら、金になる情報をよこしなさいよ・・・」

 

「お姉ちゃん、無茶言わないの・・・。そんな都合のいい話、あるわけないでしょ・・・」

 

「うーん・・・あ、そういえば・・・街の冒険者の皆さんの噂なのですが・・・」

 

ウィズは何か思い出したかのように、最近噂になっている情報を双子に与える。

 

「お2人はモンスターショップってご存知ですか?」

 

「何それ?」

 

「聞かないわね」

 

聞いたことがない店の名前を聞いて、双子は首を傾げている。

 

「何でもこの街に開店したお店らしくて・・・販売はまだやってないらしいのですが・・・店主さんがモンスターの素材を欲しがっているようでして・・・それの買取りを行っているお店らしいのです」

 

「へぇー」

 

「それで?」

 

「その素材の買取り金額なのですが・・・普段売られていく素材の5倍ほどの値段で買い取るみたいなんです」

 

「「ごっ・・・!!?」」

 

モンスターの素材を通常価格より5倍で買い取ってくれる店と聞いて、双子は驚愕する。

 

「あ、あくまでも噂なので、本当かどうかはまだ・・・」

 

曖昧とはいえ、モンスターショップの存在を知った双子はお互いに顔を見合わせる。

 

「お姉ちゃん、これ、カズマに教えた方がいいんじゃない?」

 

「そうね。少なくとも、小遣い稼ぎには持ってこいかもしれないし」

 

「あのー・・・お役にたてたでしょうか・・・?」

 

「たったたった!めっちゃ役立ったよ!ありがとう、ウィズ!」

 

「まぁ、一応は、ね」

 

双子の役に立てた情報を教えれて、ウィズは思わずにっこりと微笑んでいる。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

翌日、冒険者ギルドにやってきた双子はモンスターショップの存在をカズマたちに教える。

 

「モンスターショップか・・・ゲームではありそうな店だな」

 

「だが、私は聞かないな、そのような店は」

 

日本から来たカズマはともかく、この世界では信憑がないのか、ダクネスは店の存在は今初めて知ったようだ。

 

「私、知っていますよ。私が今泊まってる宿の近くありますから」

 

「マジでか!!」

 

「大マジです」

 

店の場所がめぐみんが泊まってる宿の近くにあると聞いて噂は真実であるとわかったカズマは希望が沸いてきた。クエスト報酬が天引きされているなかで、ちょっとモンスターの素材を渡すだけで5倍お金がもらえるというのは、カズマにとっては救済措置であるからだ。

 

「何々ー?何の話ー?」

 

そこへ他の冒険者たちに花鳥風月を披露していたアクアが話題に入ってきた。

 

「今ちょうどモンスターショップの話をしてたんだよー」

 

「もん・・・?何それ?おいしいの?」

 

「食いもんじゃねぇよ!店だよ店!店の名前!」

 

「そこでモンスターの素材を売り払えば、通常の5倍の金がもらえるらしいのよ」

 

「ご、5倍!!?」

 

5倍のお金がもらえると聞いて、アクアの目の色が変わる。いや、目の色をすでに変えてるのは双子だ。

 

「だ、だとすれば・・・1つ10万の素材を売れば、50万もらえるって、ことよね・・・?」

 

「噂を信じるならそうなるね。それくらいのお金、欲しいよね?」

 

「借金があるし、試してみたいのは当然よね。と、いうわけで・・・」

 

双子はすぐさまにカズマの方を見る。10万などという素材を手に入れるには高難易度クエストは必然なのでカズマはそれだけでこの2人が高難易度クエストを受ける気満々であるのがわかる。そのため、若干カズマは関わりたくない気持ちが現れる。

 

「高難易度討伐クエストに行きましょう。嫌とは言わせないわよ」

 

「そうだよ!私たち、今すぐにでもお金が欲しい!!低報酬生活はもう嫌なの!!」

 

借金がある以上、あまり強く断ることができないカズマは双子の懇願にたいしてため息をこぼす。

 

「わかったわかった。俺も魅力的な話だと思うし、どのみち借金返済を目指さないといけないからな・・・。お前ら、俺らでも討伐がいけそうなクエスト、取って来いよ。無理そうなやつはすぐに却下するからな」

 

「わかった!」

 

「じゃあ、取ってくるわ」

 

双子は手ごろそうなクエストを取りにクエストボードの前まで向かっていく。

 

「でも、どっちにしてもあのお店は今はやってませんよ」

 

「え!!?なんで!!?」

 

モンスターショップは開いていない発言をするめぐみんにアクアはひどくショックを受ける。

 

「店主さんが長期間の魔物調査に出かけてるんです。いつ頃に帰ってくるかわからないので、しばらくは店じまいすると、張り紙がありましたので」

 

「なんでこんな時に店じまいなのよー!!」

 

「店の従業員に頼めばよかったのではないのか?」

 

「いえ、あのお店は店主さん1人で経営してるらしいです」

 

「マジかー・・・借金返済の足しにできると思ったんだが・・・」

 

カズマもアクアほどではないが、せっかく知った店が今は機能してないことにショックを受けている。

 

「まぁでも、開いてないなら仕方ないか。何も閉店したわけじゃないんだし、素材を取っておいて損はないだろ」

 

「そうだな。素材は、店主が帰って来た時に売り払うとしよう」

 

「そうですね。では私たちは、2人がクエストを取ってくるのを待ちましょう」

 

「うー・・・今すぐお金が欲しいのにぃ・・・」

 

今すぐお金が欲しいアクア以外はモンスターショップが営業再開するのを待つことに決めたカズマたち。すると・・・

 

「バカ!だからこっちがいいって言ってるじゃん!何でそのクエストにするの!」

 

「あんたみたいな地味すぎるクエストじゃ話にならないって言ってるのよ。そんなんだから・・・」

 

「報酬額が高いこっちの方が稼ぎやすいって言ってるの!!」

 

「いーや、追加報酬が出るこっちのが1番効率がいいわ」

 

例のごとく、双子はどのクエストを受けるかでもめ合っている。それを見たカズマは若干顔を引きずっている。

 

「あいつら・・・またかよ・・・たく・・・」

 

「カズマ、喧嘩の仲裁なら私も手伝おう」

 

誰かが止めないとクエストは受けられないと判断したカズマはダクネスと共に双子の喧嘩を止めにいく。

 

「おいお前ら・・・いったい何を・・・」

 

ガシッ!

 

「ふぁ?」

 

喧嘩を止めに来たカズマは急にティアに掴まれる。その瞬間、ティアはカズマを持ち上げる。

 

「こぉんの・・・!!」

 

「いや、ちょ!ティア!待て!それはま・・・」

 

「バカァ!!!」

 

「甘いわ!!」

 

ドゴォ!!

 

「ごっはあ!!?」

 

ティアはカズマを武器として扱い、アカメはダクネスを盾として扱い始めた。

 

「ああ・・・こうして盾としてこき使われ、ぼろ雑巾のように捨てるつもりなのだな?これは・・・なんというご褒美なのだ・・・!」

 

(人を巻き込むのは・・・マジでやめてくれ・・・俺が死ぬ・・・)

 

喧嘩に巻き込まれたカズマは今後双子の仲裁に行くのはやめようと誓ったのだった。

 

 

ーこ、このすば・・・ー

 

 

『討伐クエスト!!

ストーンゴーレムを討伐せよ!!』

 

「うぅ・・・私が悪いんじゃないのにぃ・・・」

 

「なぜ私まで・・・」

 

結局クエストはめぐみんが選んだものに決まり、喧嘩をしていた双子は選んだクエストを却下され、『私は悪い子です』というプレートをつけられている。

 

「ここにそのゴーレムがいるのか?それらしいのが見当たらないが・・・」

 

「そのはずなのだが・・・」

 

「困りましたね・・・ゴーレムがいないとクエスト達成できませんし、爆裂魔法を撃ち込むこともできません」

 

今回の標的であるストーンゴーレムが出現する岩場までやってきたカズマたちパーティだったが、ストーンゴーレムらしい姿はどこにもなかった。

 

「ティア、敵感知スキルに反応あるか?」

 

「・・・え?あ、ちょっと待って。今スキルを発動・・・」

 

ゴゴゴゴ・・・

 

ティアが敵感知スキルでストーンゴーレムを探そうとした時、突然地響きのような音が聞こえてきた。

 

「な、なんだ⁉」

 

「地響きの音・・・?近いわね・・・」

 

「ちょ、ちょっと後ろ!!みんな後ろ見て!!!」

 

地響きの音の正体を探ろうとした時、アクアが何やら焦ったような声を上げている。アクアの言うとおり、全員が後ろを振り向くと・・・

 

「「「・・・・・・」」」ゴゴゴ・・・

 

「で・・・でけえええええええええ!!!??」

 

今回の討伐対象であるストーンゴーレムがカズマたちを見下ろしている。ストーンゴーレムのあまりの巨大さにカズマたちは驚愕する。

 

「こ、これがストーンゴーレムか!やはりでかいな!」

 

「いやそれにしたってでかすぎだろ!!完全に予想外だぞこれ!!」

 

「しかもこいつら・・・3体いるよ!!!どうすんの!!??」

 

「み、みんなー!!何とかしてーーー!!!」

 

「無理言うんじゃないわよ!!こんな巨体どうやって・・・」

 

予想外の大きさ、そしてこの巨体3体を前にして、カズマたちは動揺している。そんな中で、めぐみんだけが高らかに笑う。

 

「わっはっはっは!笑止!あのような岩の塊など、我が爆裂魔法でまとめて吹き飛ばしてみせましょう!」

 

「ちょっと待てめぐみん!!」

 

めぐみんはさっそく爆裂魔法を放とうとした時、カズマがストップをかける。

 

「な、なんですかカズマ!」

 

「よく考えてから行動しろ!相手はあの巨体だぞ!それも3体!こいつらを確実に仕留められる状況にしないとまずいだろ!お前の魔法は1発しか撃てないんだから!」

 

「でも具体的にどうするの?」

 

「それを今考えて・・・なんだこれ?」

 

ストーンゴーレムを確実に仕留められる方法を考えようとしたカズマは、足元に何やらへんてこりんな顔が付いた岩を見つける。中には愛らしい顔の岩もあるが。

 

「よくわかんねぇが、お前から先にやってやるぁ!!!」

 

「あ!ちょっとカズマ!それは・・・」

 

カズマがヘンテコ岩に攻撃した時、アカメがストップをかけたがすでに遅い。攻撃を加えられた岩は怪しく光りだし、そして・・・

 

ドカアアアアン!!

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

カズマを巻き込ませて爆発を引き起こした。

 

「それ、爆裂岩よ。本で見たことがあるわ。それに攻撃を加えると爆発するって・・・」

 

「早く言ってくれ!!」

 

爆裂岩の爆発巻き込まれたカズマは憤慨する。言うのが遅れたアカメは対して気にした素振りはない。

 

「ちょっとヒキニート!私まで巻き込んでんじゃないわよ!!」

 

「お前もくらってたのかよ!!?」

 

ついでというか、アクアも近くにいたため、爆発に巻き込まれたようだ。

 

「ん?待てよ・・・この爆裂岩、使えるかもしれん!アカメ!こいつを持ち運ぶことってできるか?」

 

「ええ、爆発する条件は攻撃された時だから持ち運んでも問題ないはずよ」

 

「よし!それで十分だ!」

 

ストーンゴーレムをまとめて討伐できる方法を思い付いたのかカズマは仲間たちに指示を出す。

 

「めぐみん!お前はここから離れたら魔法を撃つ準備をするんだ!」

 

「え?わ、わかりました!」

 

「ダクネス!ゴーレムを3体まとめて引き付けることはできるか?」

 

「囮だな?任せておけ!私のデコイを使えば、こいつらを引き付ける事など造作もない!」

 

「でも、さすがに3体のゴーレムの攻撃を防ぐのはダクネスでも・・・」

 

「心配するなティア。伊達に防御力を振り続けていない。こいつらの攻撃、凌ぎきってやろう」

 

それにと、ダクネスははぁはぁと興奮したような表情を見せている。

 

「3体のゴーレムに鎧を壊され、全裸になった私をもみくちゃにされると想像するだけで・・・むしろ望むところだ!!では・・・行ってくりゅ!!」

 

「うん、相手がゴーレムでよかったな。心を持ってたら絶対寄り付かないだろうから」

 

ドM心むき出しのダクネスはクルセイダーのスキル、デコイを使って3体のゴーレムを引き付けて攻撃を喜んで受けようとする。そして、残ったカズマたちも行動する。

 

「ティア!アカメ!俺たちは潜伏スキルで気づかれないようにしながら爆裂岩を・・・ぬぐおおおお!重!くぅぅ・・・運ぶぞ!」

 

「うぅぅ・・・重いよぅ・・・」

 

「だらしないわね。私はすいすいと運べるわよ」

 

「くぅ・・・お姉ちゃんなんかに・・・負けるかぁ・・・!」

 

「よ、よぉし・・・その調子・・・だ!!」

 

カズマたちは自分たちの潜伏スキルでストーンゴーレムたちに気付かれないようにしながら爆裂岩を近くまで運び込む。その中で何もしてないのがアクアだ。

 

「みんなー、がんばれー」

 

「お前!!何サボってやがんだ!!ちょっとはなんか役に立てよ!!」

 

「わ・・・私はそんな重労働なんかできないし・・・私のできることは・・・そう!傷ついた仲間を癒したり・・・応援したり!」

 

(あ、ダメこいつ、使えねぇ)

 

アクアは重労働したくないのかそんなことを言いだし、カズマたちに任せる。カズマはアクアを戦力外として認識し始めた。そうしてる間にも、爆裂岩をそれなりの数をストーンゴーレムの近くまで置くことに成功した。

 

「よし、こんなもんでいいだろ。ダクネス!もういいぞ!ここから離れるぞ!」

 

「な、何⁉もう終わりなのか!!?も、もう少しだけ待ってくれ!後一撃だけでも・・・」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないわよ!!」

 

「もういいでしょ!行くよダクネス!」

 

「ああ!!後一撃~!!」

 

爆裂岩を運び終えたカズマたちはまだ突っ込もうとするダクネスを無理やり引きずってストーンゴーレムたちから離れさせる。

 

「念のために・・・ティア!」

 

「うん!バインド!!」

 

念には念を入れてティアはバインドでストーンゴーレムたちの動きを止める。

 

「今だめぐみん!!撃てぇ!!!」

 

カズマたちがストーンゴーレムから離れたところでカズマはめぐみんに爆裂魔法の指示を出す。

 

「こ・・・これなら我が爆裂魔法の威力が上昇・・・!感謝しますカズマ!深く感謝します!!」

 

詠唱を唱え終えためぐみんはカズマに礼を言いながら狙いをストーンゴーレム3体と爆裂岩に向ける。

 

「我が最高にして究極の奥義、食らうがいい!!エクスプロージョン!!!!!!!!」

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!

 

めぐみんの爆裂魔法はストーンゴーレムと爆裂岩にヒットした。さらに爆裂岩の爆発も加わり、今までより強力な大爆発を引き起こした。爆発が晴れると、巨大なクレーターが出来上がっている。

 

「お・・・おい・・・無事か・・・?」

 

「「「「「な、何とか・・・」」」」」

 

大爆発の爆風に巻き込まれて吹っ飛ばされたカズマたちは死屍累々の状態だが、何とか生きている。

 

「か、カズマさん・・・もっと穏便に事を運べなかったの・・・?」

 

「仕方ねぇだろああでもしないとゴーレム3体はきついって」

 

カズマたちがよろよろとしながら起き上がろうとすると、カズマの近くに何やら宝石のように赤くキラキラしたものが落ちている。

 

「ん?なんだ、これ?宝石か?」

 

「ああ、それはゴーレムの目だな」

 

「ストーンゴーレムの目は魔力を帯びた宝石だから、売ったらそれなりの値段になるはずだよ」

 

「へぇー・・・」

 

「入手がなかなか難しい素材のはずですが・・・」

 

「さすが、私たちより幸運値が高いカズマね」

 

どうやらこのキラキラしたものはゴーレムの目だったようだ。すると、アクアはにこにこした様子でカズマに声をかける。

 

「ねぇ、カズマさん?そのゴーレムの目なんだけど・・・」

 

「お前、今回役に立たなかったからこれはやらねぇぞ」

 

アクアの考えを見抜いているカズマはきっぱりとゴーレムの目を渡すのを拒む。それを聞いてアクアは目をうるうるとさせる。

 

「お、お願いよぉーー!!私にちょうだい!!私、ギルドの酒場でお金使いきっちゃったんですけど!!ていうか、ツケまであるんですけど!!」

 

「おま・・・!!借金があるっていうのに何をやってんだ!!」

 

カズマとアクアのいつもの戯れをしていると・・・

 

「!!カズマ!後ろだ!!」

 

「え?」

 

カズマが後ろを振り向くと、ボロボロの状態のストーンゴーレムの1体がカズマに向けて攻撃を仕掛けようとしている。

 

「なっ!!?嘘だろ!!?あれでも仕留めきれなかったのか!!?」

 

カズマが驚愕している間にもゴーレムの拳はカズマに振り下ろされる。

 

(あ、これ俺、終わった・・・)

 

カズマはもう抵抗しても無駄だと思い、自身の死を悟った瞬間・・・

 

「トルネード!!!!!」

 

ゴオオオオオオオ!!

 

「おおおおおおお!!??」

 

突如としてストーンゴーレムがいる個所に竜巻が起こった。ストーンゴーレムは竜巻の風の刃に切り裂かれ、粉々に砕け散った。

 

「な、なんだこりゃぁ!!?」

 

「な、何!!?なになになに!!?」

 

「これは・・・風の上級魔法だ!」

 

そう、今の竜巻は風の上級魔法なのだ。竜巻が晴れると粉々になったゴーレムの存在はもはや素材になるものだけだ。

 

「風の上級魔法って・・・」

 

「めぐみんはやってない、よね?」

 

「当然です。私は爆裂魔法しか使えません・・・というか、他の魔法は使いたくありません」

 

「てことは別の誰かが・・・」

 

「あ!あいつじゃないかしら?」

 

魔法を放った者の正体を探っていると、アクアがクレーターの外から誰かがいることに気づいた。クレーターの外にいたのは長ズボンを履き、白い服に黒いマントをなびかせた茶髪を後ろに短く結んだ女性だった。

 

「よっと・・・おーい、お前らー、大丈夫かー?」

 

黒マントの女性はクレーターの中に入り、カズマたちの元まで駆けつける。

 

「あ、ああ。今の魔法はお前が放ったものだよな?助かったよ、ありがとう」

 

「お前、オレがたまたま近くにいてよかったな。オレが爆発音に気付いてなかったらここに来なかったし、間違いなく死んでたぞ」

 

「は・・・はは・・・ありがとう・・・」

 

カズマはさっきのゴーレムの振り下ろされる拳を思い出し、顔を青ざめた状態で引きつった笑みを浮かべる。

 

「つーか・・・お前、見たところ最弱職の冒険者だろ?連れてるメンツは・・・アークプリーストにシーフ2人、アークウィザードにクルセイダー・・・いいメンツは揃っちゃいるが、それでもお前みたいなのが来るべき場所じゃねぇよ。こんなところで何してやがる?」

 

「クエストだよクエスト。今はとにかく金が必要でさ・・・」

 

「そういうあんたこそ、ここで何してんのよ?てかあんた誰よ?」

 

アカメの訝しげな表情でそう尋ねると、マントの女性は忘れてたみたいな表情をする。

 

「おっと、わりぃ・・・そういやぁ、まだ自己紹介がまだだったな」

 

マントの女性はコホンと咳ばらいをし、自身の名と経歴を話す。

 

「オレの名前は櫻井真穂。アクセルの街でモンスターショップの店主をやってる。よろしくな」

 

マントの女性、櫻井真穂ことマホが放った言葉にカズマたち全員が驚愕している。モンスターショップの店主、という単語に。

 

「モンスターショップだと?」

 

「それって今朝の・・・」

 

「てことは・・・お前がモンスターの素材を欲しがってるっていう・・・?」

 

モンスターショップの店主がまさか目の前にいる女性だったということに、カズマたちは衝撃が走った。

 

 

ーこのすば!-

 

 

アクセルの街まで戻ってきたカズマたちはクエスト達成報告をした後で、マホの案内によってモンスターショップへの道のりを歩いている。

 

「ぎゃははは!なんだそりゃ!お前そうやって倒したのか⁉そんなの被害が及ぶからいくらオレでもやらねぇ手段だぞ!ははははは!腹痛ぇ!」

 

道のりを歩いていく最中、カズマたちはどうやってゴーレムを倒したのかというのを話すとマホはこれでもかというほどに大爆笑している。

 

「こいつ・・・笑いすぎだろ・・・!」

 

「それにしても・・・本当の意外すぎるんだよねぇ・・・。モンスターショップの店主が、まさか女の人だったなんて・・・」

 

「私の想像だと、モンスターショップっていうか、グロテスクな奴がやってると思ってたわ」

 

「私も、紅魔族の琴線に触れるような、ダイナミックかつ、かっこいい男の人がやってるかと・・・」

 

「私も・・・もっと、モンスターを痛めつけ、徐々にあれやこれやと引きはがし、お前みたいな家畜には餌はヌルヌルの粘液で十分だ、といってモンスターの辱めを楽しむような卑劣漢だと・・・」

 

「お前ら、モンスターショップの店主を何だと思ってるんだよ・・・」

 

モンスターショップの店主の印象をめぐみんたちが述べるとカズマは若干呆れたような表情をしている。それでも意外というのはカズマも同じだ。自分たちとほとんど歳が変わらない女性がモンスターショップをやってるなんてこの中の誰もが想像がつかなかっただろう。

 

(それに・・・こいつの櫻井真穂っていう名前・・・もしかして・・・)

 

自分と同じ共通点を見出しているカズマはまじまじとマホを見つめる。マホは未だに大爆笑している。

 

「ねぇ、そんなことはいいから早く私の宝石を買い取ってよ!あれだけ苦労して手に入れたのよ!相当な額になるに違いないわ!」

 

(こいつぅ・・・!!なんもやってねぇくせに何さりげなく自分のものにしようとしてんだ!)

 

どさくさに紛れてゴーレムの目を自分のものと評しているアクアにカズマはイラつきが高まる。

 

「ははは・・・ああ、わかったわかった。店についたら買い取ってやるって何度も言ってるだろ・・・ひひひ・・・金は全部店に置いてきたんだからよ・・・くふふ・・・」

 

「お前はいつまで笑ってんだよ・・・」

 

まだ笑っているマホにカズマは若干顔が引きつっている。

 

「ひー・・・ひー・・・あー、やっと収まった・・・と、着いたぞ。ようこそ、我がモンスターショップへ」

 

笑いが収まった頃にはもう店にたどり着いた。店の看板にはこの世界で出会ってきたモンスター・・・例えば、ブルータルアリゲーターやアンデッドナイトなどの装飾が飾られている。

 

「はぁ・・・近くで見てもすごい看板ですね・・・」

 

「・・・ねぇ、この看板・・・クソアンデッドが付いててすごいムカつくんですけど」

 

アクアは作り物とはいえ、アンデッドを看板につけていることに怒っている。

 

「ああ?なんだお前?オレのチョイスにケチをつけんのか?」

 

「当たり前でしょう!!作り物とはいえ、こんなクソアンデッドを街中にさらすなんて、女神である私の目が黒いうちは許すわけにはいかないわ!!」

 

「ああ、そうかい!勝手に言ってろや!モンスターをバカにするやつには店に入れてやらねぇ!買取りだって禁止だ!!」

 

「わあああああ!!ごめんなさい!!謝るからそれだけは許してぇ!!もう二度とバカにしないからぁ!!私!!お金が欲しいの!!」

 

買取りをしてもらわないと困るアクアはマホの発言ですぐに泣いて謝罪をした。

 

「たく・・・ああ、お前らも変ないちゃもん言うなよ?迷惑な客は追い出すことにしてんだからよ」

 

「ああ、変に騒ぐのはこいつだけだから心配するな」

 

「頼むぜ、本当に・・・」

 

マホで魔法でかけた鍵を解除して店の扉を開ける。

 

「さ、どうぞ中へ、お客様」

 

マホから入店許可を得て、カズマたちは店の中へと入る。そして、店で待ちかまえていたのは、アクアたちのトラウマの1つ、ジャイアント・トードだった。

 

「「「「「ほわああああああああ!!!???」」」」」

 

「こ、これは!ジャイアント・トード!!」

 

店の中にいたジャイアント・トードを見てカズマとトラウマを持つ4人は絶叫する。ダクネスは粘液塗れになる想像をしたのか顔を赤らめている。もちろん、ドM的な意味で。

 

「ああ、そいつは人形だ。襲ったりしないから安心しろ」

 

「へ・・・?人・・・形・・・?」

 

目の前にあるジャイアント・トードは作り物だと聞いて、カズマたちは唖然となっていつつ、内心ドキドキしている。人形かどうかを確かめるためにダクネスがジャイアント・トードのお腹を触ったり、叩いたりしている。

 

「ふむ・・・この感触は・・・ジャイアント・トードそのもののようだな・・・」

 

「ほ、本当に人形なんですか・・・?実は動いたり・・・なんて・・・」

 

「て、ティア・・・どうなのよ・・・?」

 

「・・・あ、本当だ。敵感知スキルに全く反応がない。これただの人形だよ」

 

「な、なんだ・・・よかった・・・」

 

「・・・人形なのか・・・残念だ・・・」

 

「今残念って言ったか?」

 

「言ってない」

 

ティアが敵感知スキルに反応がないということと、触られても全く動かないことから、本当に人形であるとわかったトラウマ4人は安堵する。ダクネスはちょっと残念そうにしている。

 

「もう!何なのよ!紛らわしすぎるわよ!何よこのカエル!!」

 

「おい、変に殴ったりすんな!壊れたらどうすんだ!!」

 

柔らかい材質をいいことにアクアはジャイアント・トードに打撃を与えている。壊れたら大変と思い、カズマが止める。

 

「おい!素材持ってきてんだろ!売るのか売らないのかどっちなんだ!」

 

「ああ!売ります売ります!!」

 

カウンター席に座ったマホに急かされてカズマは手に入れたゴーレムの目をマホに引き渡す。

 

「おお・・・こいつは・・・ちょっと査定するから店を見て待っててくれ」

 

「ああ、わかったよ」

 

ゴーレムの目を見てマホは感心する声を上げ、ゴーグルを取り出してゴーレムの目をじっくり観察する。

 

「それにしても・・・見れば見るほど壮観な景色ね」

 

「えっ?・・・おわはぁ!!?」

 

アカメの言葉でカズマは周りを見て驚愕する。それもそのはずだ、店のところどころにはジャイアント・トードだけに飽き足らず、まだ出会ったことのないモンスターや見たことのあるモンスター、そしてさらには天井には空飛ぶ野菜やキャベツの人形まで飾られているのだから。

 

「嘘だろ・・・これ、全部この世界のモンスターの人形か・・・?」

 

「みたいだよ。私たちが動いてるにも関わらず、ちっとも襲ってこないんだもん」

 

「な、なんか私・・・怖くなってきたんですけど・・・」

 

「しかもこれ、妙にリアルに再現されているので、初見で見たら逃げ出したくなりますよ・・・」

 

「ほ、本当に襲ってこないのか?襲ってくるのならば、私が受けてたとう」

 

あまりにリアルに再現できている人形を見てカズマたちはある意味で恐怖を覚える。

 

「査定が終わったぞー」

 

「お、おお」

 

人形を見ている間、査定が終わったようでカズマたちはカウンターに集まる。

 

「で?で?私の宝石、おいくら万円?」

 

「いや万って決まったわけじゃ・・・」

 

「おう。普通の店で売れば、ざっと100万エリスだな」

 

「「「「「「ひゃ、100万!!!???」」」」」」

 

まさかの100万エリスの額にカズマたちは驚愕せずにはいられなかった。

 

「こいつの帯びている魔力が半端じゃねぇからな。正直、オレでさえ見たことがないくらいだ。それが値上げの要因になっているんだよ。それだけじゃねぇ、爆裂魔法をくらったとは思えないほどのつやつや感・・・さらに、オレのルールでここの買取りが5倍になるから・・・」

 

マホはこの世界では見ないそろばんでゴーレムの目の値段を計算して、それをカズマに見せる。

 

「これ単体で500万エリスで買い取らせてもらうぜ」

 

「「「「「「500万!!!!!」」」」」」

 

まさか素材1つで高難易度クエスト以上の額になるとは思わなかったカズマたちは目が$の形になる。

 

「ど、どうしよう・・・すごい予想外なんですけど・・・」

 

「これだけの額の素材を売り続けたら・・・」

 

「借金返済も・・・」

 

借金返済できる希望を持ち始めたアカメたちをよそに、すぐに正気に戻ったカズマはすぐにマホを連れ出す。

 

「ちょっとあんた!話がある!こっちに来い!!」

 

「は?おいちょ・・・ま・・・放せって!」

 

「ちょ、ちょっとカズマさん!!?まだ500万もらってないんですけどー!!」

 

「すぐ戻るから待ってろー!!」

 

カズマはマホを連れ出して店の外へと出ていった。残ったアクアは500万と騒いでいる。

 

 

ーこのすば!-

 

 

マホを連れて店の外に出たカズマは先ほどの興奮を落ち着かせるためにぜぇぜぇと息を整える。

 

「・・・で?話ってなんだよ?つまんねぇ話しやがったら許さねぇぞ」

 

「い、いや・・・さっきの額でちょっと気になることがあるんだけど・・・その前に確認させてくれ!」

 

「なんだよ?」

 

カズマは本題に入る前にずっと気になっていたことをマホにぶつける。

 

「その櫻井真穂って名前からして、お前異世界転生者なんだろ?ミツルギと同じ!」

 

「・・・カズマっつったな。ミツルギって奴は知らんが、それを誰から聞きやがった?」

 

否定はしないということは、カズマの思っていたことは正しかった。マホは日本で1度死に、この世界へとやってきた転生者だったのだ。

 

「俺の本名は佐藤和真っていうんだ!俺もお前と同じで日本から転生してきたんだよ!」

 

「佐藤・・・和真・・・。はぁ・・・そういうことかよ」

 

カズマが自分と同じ転生者だとわかったマホはいろいろと納得した表情をしている。

 

「あ?待てよ?だとするとお前と一緒にいたあのアクアって奴は・・・」

 

「お察しの通り、本物の水の女神だよ。俺が特典として連れてきた」

 

「マジかぁ・・・さっきからあいつを見ててむかむかすると思ったら・・・オレを小ばかにしやがったあのクソ女神本人かよ・・・」

 

アクアが本物の女神だと気づいたマホは嘘だろといった様子で手を顔に当てている。それを見てカズマはマホが死んだ際になんかあったのだろうと察する。

 

「で、お前も転生者ってことは、なんか特典をもらったんだろ?お前専門の武器みたいな奴」

 

「特典?ああ・・・これのことか?」

 

カズマの質問に答えるようにマホは1冊の魔導書をカズマに見せる。

 

「こいつは魔導書ネクロノミコンっつーらしく、これがあればこの世界の魔法を全て使うことができるらしい。アークプリーストの魔法とかアンデッドの魔法とか何でもな」

 

「へぇー・・・じゃあそれさえあれば、リッチーの魔法も使えるってことか」

 

「それだけじゃねぇ。こいつはどうも、普段の消費魔力を大幅に抑えてくれるみたいなんだよ」

 

マホの転生特典である魔導書ネクロノミコンの性能を知ったカズマはなぜ自分はあの役に立たない駄女神を選んだんだろうと激しく後悔した。

 

「そ・・・そんなすげぇ特典を持ってて、500万なんてバカみたいに稼げてるのに、なんでこんな初心者の街でこんなモンスターショップを開いてるんだ?正直、もったいない気がするが・・・?」

 

カズマの本題といえる内容にマホは目をぱちくりさせている。

 

「・・・まさか、そんなことを聞くためにわざわざ外に連れ出したのか!!?」

 

「いやだって、あの時弱ってたとはいえ、魔法でゴーレムを一撃で倒せてたし・・・それに、同郷のよしみとして気になって・・・」

 

カズマの本音にマホは何言ってんだかといった表情で頭をかいている。

 

「・・・オレもな、前まではクソ女神を見返してやろうと思って、魔王討伐、なーんてガラでもないことをやってた時期はあったさ」

 

「もう諦めたってことか?でもそれが・・・」

 

「・・・お前はさ、この世界のモンスターについて、どう思ってる?」

 

マホの質問にカズマは意図はわからないが正直に答える。

 

「ろくでもないと思ってる」

 

「はいそれだ!!オレがモンスターショップを開いている最大の理由がそれ!!」

 

「おおっ!!?」

 

カズマの回答にマホはものすごい剣幕でカズマに顔を近づけて睨みつける。

 

「オレはこの世界のモンスターと初めて出会った時・・・オレはある感情が芽生えたんだよ・・・。こいつは・・・なんと愛おしいんだってな」

 

「・・・はあ?」

 

マホがこの世界のモンスターが愛らしいという発言にカズマは変に訝し気な表情になった。

 

「今まで愛らしいと感じたことのなかったこのオレが唯一愛しさを芽生えさせた存在であるこの世界のモンスター!オレは歓喜で震えたね・・・あまりの喜ばしさに、ジャイアント・トードに食われたこともあるくらいだ!だがその捕食もまた、愛おしい!!」

 

「えー・・・」

 

「・・・なのに、この世界の連中ときたら、この世界のモンスターの素晴らしさが、何にもわかっちゃいねぇ!!モンスターを捕獲する奴もいるがせいぜい研究の足しにして、用が済んだら捨てるって奴ばかりだ・・・嘆かわしい!!あれほどの愛らしい存在を否定するとは言語道断だ!!」

 

「ちょっと何言ってるかわからないです」

 

マホの熱い熱弁にカズマは頭の理解が追い付いてこない・・・いや、理解したくなかった。

 

「ゆえに決めた。オレは・・・この世界のありとあらゆるモンスターの素晴らしさ、そして愛おしさを、この世界の連中に知らしめてやるのさ!!モンスターショップはその大いなる目的の第一歩にすぎねぇ。ゆくゆくはモンスターの愛らしさが詰まったテーマパークを作り・・・その中で本物のモンスターとの触れ合いを前提とさせた施設を創り上げる!!それが、オレの目的であり、この世界で初めてできた、大きな夢なのさ!!」

 

マホの大いなる夢の内容を聞いて、カズマはマホからアクアたちと同類のものを感じ取った。

 

(あー・・・何となくわかった・・・。こいつ、この世界の頭のおかしさに浸食されちまってる)

 

せっかく出会えた日本の同郷者がこの世界に慣れてしまっているどころか、悪い意味で浸食されていることにカズマは心の中で涙を流す。この世界にはまともな奴はいないのか、と。

 

「えーと、じゃあ、何か?その大きな目的のためにこのアクセルの街に店を?」

 

「駆け出しの街の連中からモンスターの素晴らしさを説いていけば、そいつらがモンスターの良さを広めてくれるから都合がいいんだよ。ま、実際うまくいったことはないがな!」

 

そりゃそうだろとカズマは心の中でツッコんだ。

 

「まぁ、お前の事情はよくわかったよ。ま、大変な道のりだろうけど、がんば・・・」

 

ドッシャアアアアン!

 

これ以上頭のおかしい内容を聞きたくなかったカズマは適当に話を切り上げようとした時、店の中から何か崩れるような音が聞こえてきた。

 

「あ?うるせぇなぁ・・・店の中からか?」

 

(なーんか・・・嫌な予感・・・)

 

店の中に残っていたアクアたちが真っ先に頭に思い浮かべ、、カズマは嫌な予感がひしひしと高まる。マホは何事かと思って店の中に戻る。

 

「・・・な!!な、な、な、な・・・なあああああああああああああああ!!!!????」

 

店の中に入ってみると、真っ先に視線に映ったのは、ジャイアント・トードの人形が粉々に砕け散っており、こちらを申し訳なさそうに見つめているアカメたちだった。

 

「お・・・オレが・・・何日もかけて作り上げた・・・血と涙の結晶が・・・」

 

自分が作り上げた最高傑作の1つが無様に壊されてる様を見て、マホはひどく落ち込んでいる。そんな中で、こっそりと逃げようとしているアクアがカズマの視線に映った。

 

「待て駄女神。お前・・・いったい何をした?」

 

「えっと・・・それが・・・ですね・・・」

 

全ての一部始終を見ていためぐみんたちがいったい何が起こったのかを全て話す。

 

 

ーこのすば!-

 

 

回想

 

「カズマたちはいったい何の話をしてるんだろう?」

 

「意外にも、2人揃っていかがわしいことだったりしてね」

 

「詳しく!!!」

 

「ものの例えよ。本気にしないでちょうだい」

 

「それにしても・・・本当に本物そっくりですね・・・」

 

「なんか、このジャイアント・トードを見ているとムカムカしてくるんですけど・・・。そうだわ!てぇい!!」

 

ポヨンッ

 

「アクア⁉どうしてジャイアント・トードの人形を殴りつけているの⁉」

 

「決まってるじゃない!私たち、散々カエルに食べられ続けてきたのよ!その恨みがないと思うかしら?いいや、ないわけがない!!だからこそ、今!!ここで!!晴らすべきなのよ!!」

 

「それって単なる八つ当たりじゃない。やめておきなさい」

 

「そうだぞアクア。壊れでもしたらどうする。そんなに鬱憤が溜まってるなら・・・ぜひ私が受けよう」

 

「平気よ平気!本物を再現してて打撃を吸収するんだもの!壊れるわけがないわ!」

 

「やめた方がいいと思いますよ。なんだか・・・嫌な予感がこみ上げて・・・」

 

「そろそろとどめの一撃をお見舞いしてあげるわ!」

 

「ばっ!!あんたやめ・・・」

 

「ゴッドブロー!!!!ゴッドブローとは!!女神の愛と悲しみの一撃!相手は死ぬ!!!」

 

ポヨォン!

 

・・・ベキッ!!

 

「・・・ベキ?」

 

ベキベキベキ・・・

 

「人形にヒビが・・・」

 

「まさか・・・」

 

ドッシャアアアアン!!!!!

 

 

回想終了

 

 

「・・・つまり、カエルに食われた腹いせを、人形にぶつけてたら壊れた・・・と?」

 

「・・・はい、そうです」

 

全ての回想を聞いたカズマはそう問いかけ、めぐみんは首を縦に頷く。

 

「お前ええええ!!!人のものに手を出すところか、壊すってどういうことだぁ!!!」

 

「いひゃいいひゃいいひゃい!!しょうがないじゃない!!ゴッドブローで壊れるなんて予想してなかったんだもん!!」

 

「あれは作り物だから限界は来るんだってんだよこのバカがぁ!!!」

 

人形を壊した張本人であるアクアにカズマは頬を引っ張ってお仕置きをしている。そしてその背後から、どす黒いオーラを感じ取った。

 

「はっ!!殺気!!?」

 

「てーめーらぁ・・・!!!!!」

 

どす黒いオーラの出所はマホからであった。その表情は明らかに怒りで染め上がっている。その様子にはカズマたちパーティは怯えている。ダクネスは興奮しているが。

 

「なんてことをしやがった!!!これはオレが初めて作り上げた努力の結晶の塊なんだぞ!!!こいつを作り上げるのにどれだけの時間をかけたと思ってやがる!!!!」

 

「す、すいまっせん!!!このバカが本当にすみませんんんんん!!!!!」

 

怒れるマホにカズマはアクアを無理やり地面につけさせながら自分も土下座をしながら許しをこいているが、この程度ではマホの怒りは収まらない。

 

「謝って済むなら警察なんざいらねぇんだよ!!!オレの命の次に大事な大事な人形の1つをぶち壊しやがって!!!土下座なんざで許されると思うな!!!!弁償だ弁償!!!損害賠償を払いやがれ!!!!」

 

「「「「「「いっ!!!??損害賠償!!!!???」」」」」」

 

ただでさえ借金がある身だというのに、そこに損害賠償を突き付けられ、カズマたちは顔を酷く青ざめている。

 

「お前らが持ってきたゴーレムの目は、その損害賠償の足しにしておくからな!!」

 

「そ、そんな!!?私の500万が!!?」

 

「そ・・・それで・・・500万を引くと・・・おいくらほどの損害賠償を・・・?」

 

「オレがこいつを作るのにかかった費用、経済費、創作日数込み、その他もろもろを合わせて・・・」

 

人形にかかったお金の計算をしていき、カズマたちが払うべき金額を突き付けるマホ。

 

「しめて6000万エリス!!!それがお前らがはらうべき金額だ!!!」

 

「「「「「「ろ、6000万!!!????」」」」」」

 

アクアが作った借金が4000万、さらにそこに損害賠償である6000万を合わせると・・・カズマたちにできた借金は、なんと1億まで跳ね上がったのだ。

 

「これまでの借金を合わせると・・・1億の借金・・・」

 

「む・・・無理だ!!!そんな金額どうやって返せば・・・」

 

「無理とかじゃねぇんだよ!!冒険者だろ!!クエストをバンバンこなして、うちの店を利用してきっちりと返しやがれ!!受付嬢にはお前らの報酬は天引きするよう伝えといてやるからよぉ!!」

 

なんとも理不尽ともいえることの連続に、カズマは本気でこの世界にいる魔王の討伐を強く決意するのだった。この・・・ろくでもない世界から脱出するためにも。




次回予告的なもの

アカメです。遅れながらも、お頭に定時報告です。

私とティアはアクセルの街で変わりなく平和に過ごしています。トラブルなんてこれっぽっちもありませんし、問題も引き起こしておりません。
これほどまでに平和に過ごせているのは、アクセル支部の盗賊団の活躍あってのことです。なので心配などせず、どうかアヌビスでぬくぬくとのんびりお過ごしください。決して問題など引き起こしていませんのであしからず。

報告書作成者、アカメ

頭の一言:アクセルの街に魔王軍幹部が来たのと、お前らに1億の借金ができたって報告を受けてるんだが?

次回、この凍えそうな季節に二度目の死を!


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中二病でも魔女がしたい!
この凍えそうな季節に二度目の死を!


アクアが出した水によって壊れた街の外壁の修理費4000万、アクアが壊したモンスターショップのジャイアント・トードの人形の賠償金6000万を合わせて1億の借金ができてしまったカズマパーティ。その借金の返済のためにカズマパーティは今日も冒険者ギルドで仕事を受ける予定である。そのため、双子はカズマたちと合流するために冒険者ギルドへと向かっていっている。

 

「・・・寒・・・やる気でないわね・・・」

 

「だね・・・借金さえなければ、お店でぬくぬくできるのになぁ・・・」

 

双子は砂漠の環境で育ったために暑さはものともしないが、寒さだけは苦手で先ほどから白い息を吐きっぱなしで、ブルブルと震えている。しかも、やる気もいまいち起きないでいた。

 

「だいたい、借金はアクアが勝手に作ったものなのだから、あいつ1人でなんとかすればいいのに、なんで私まで巻き込まれないといけないのよ・・・」

 

「そう言わないであげてよ。人形の方はともかく、あの時はアクアがいなかったら、今頃デュラハンに街を壊されてたかもしれないよ?」

 

「はっ、超ド正論を言ってくれちゃって。本人は悪びれないのだから庇ったって意味ないって自覚したらどうかしらこの愚妹」

 

「何その言い方?じゃああの時アクアがいなかったら私たちどうなってたと思う?きっとデュラハンに殺されてたんじゃないのこのバカ姉」

 

「は?」

 

「あ?」

 

またいつものお決まりの喧嘩でお互いに火花がバチバチしていく。

 

びゅぅ~・・・

 

「さ、寒い~~!!!ねぇ、こんな不毛な争いやめようよ・・・」

 

「そ、そうね・・・こんなの、労力の無駄遣いになるわね・・・」

 

だがあまりに寒さで双子は喧嘩を即中断させる。この凍える季節の前では、2人は喧嘩をする余裕がなくなっているようだ。話し込んでいる間にも双子はギルドへとたどり着いた。

 

「おや、アカメとティア。外で会うのは珍しいですね」

 

「確かに。いつもはギルドで会うから、新鮮だな」

 

「あ、めぐみん、ダクネス」

 

そこへ、同じくギルドへと向かっていためぐみんとダクネスと偶然鉢合わせた。

 

「カズマとアクアは一緒じゃないのね」

 

「あの2人ならもう先に着いてるんじゃないでしょうか」

 

「どうだろうか。まずは確認のために中に入ろうじゃないか」

 

「だね。いつまでもこんな凍える場所にいたくないし・・・」

 

4人がギルドの扉を開けた瞬間、周りの冒険者たちがワイワイと酒を飲みながら騒いでいる声が響いてくる。それにはアカメは若干不愉快な表情になる。

 

「いい気なものね。私たちはこんなに苦労しているというのに」

 

「まぁ、そりゃそうですよ。あのデュラハンの報酬は戦いの参加者全員に支払われましたから。多少懐が潤っていれば、わざわざこんな寒い季節にクエストを受ける人はいませんよ。私は、むしろ望むところですが」

 

「わ、私も・・・むしろ望むところで・・・」

 

「私は望んでないわよ。寒いのは苦手だし」

 

「言ったって仕方ないでしょー。さて、と・・・カズマとアクアはいったいどこに・・・」

 

ギルドの中に入った4人はあたりを見回し、カズマとアクアを探している。すると・・・

 

「このかまってちゃんが!!調子に乗るのもいい加減にしろよ!!確かにお前の活躍でなんとかなったのは認めてやるよ!ならあの時の手柄も報酬も1億の借金も全部お前1人の物な!せいぜい1人で借金返済を頑張るこったな!」

 

「わあああああああ!!待って!!ごめんなさい!!調子に乗ったの謝るから見捨てないでよおおおおおお!!」

 

「うわー・・・すっごいわかりやすい・・・」

 

アクアを見捨てようとするカズマの声とカズマにすがるアクアの声で何の苦労することもなく2人を発見する4人。4人はすぐにカズマとアクアに合流する。

 

「朝から何を騒いでいるのだ?」

 

「何かいい仕事はありましたか?」

 

「いや、仕事はまだ探してないよ。これからってとこだ」

 

「ならさっさと探して仕事に行きましょう」

 

「そうだな。早いとこ借金地獄から解放したいし」

 

6人揃ったカズマたちは今日の仕事をやるために、クエストボードに向かって依頼書を選んでいく。今の時期であると、報酬はいいが、高難易度ばかりではあるが。

 

「うーん・・・報酬はいいが、どれもろくなものがないなぁ・・・」

 

「カズマ、カズマ!」

 

「カズマです」

 

「これはどうだろうか?白狼の群れの討伐!報酬100万エリス!ケダモノ共の群れに滅茶苦茶にされる想像をするだけで・・・んん・・・!」

 

「はい却下」

 

ダクネスは白狼の群れの討伐を勧めたが、カズマはこれを却下。却下されたダクネスはショックを受けつつも、興奮している。

 

「カズマ、カズマ!」

 

「カズマだよ」

 

「これはどうですか?一撃熊の討伐!我が爆裂魔法とどちらが強力な一撃か、今こそ、思い知らせてやろう!!」

 

「そんな物騒な名前のモンスターと関わりたくない。首を撫でられただけで即死しそうだ。却下」

 

めぐみんは一撃熊の討伐を勧めたが、名前だけでも関わりたくないカズマは当然ながら却下する。めぐみんはがっかりして落胆する。

 

「ねぇ、カズマ」

 

「はい、カズマです」

 

「これならどうかしら?ポイズンコブラの討伐。じわじわ苦しめさせるクソ蛇にじわじわと苦痛を与えるとどうなるのかしらねぇ?」

 

「噛まれただけで死ぬ思いをするのはごめんだ。却下」

 

「・・・ちっ」

 

アカメはポイズンコブラの討伐を勧めるが、毒で苦しめられるのが嫌なカズマはこれも却下。アカメは舌打ちを打つ。

 

「カズマ、カズマ!」

 

「はいはい、カズマだよ」

 

「これなんてどう?機動要塞デストロイヤーの軌道進路調査!これならモンスターを倒さなくていいし、私の真骨頂を発揮できるよ!」

 

ティアは機動要塞デストロイヤーの軌道進路調査のクエストを強く勧めている。どうにも、その機動要塞デストロイヤーがどこかの街に近づいてきているらしい。

 

「そのデストロイヤーって何なんだよ?」

 

ただカズマはそのデストロイヤーを知らないために、首を傾げている。

 

「何言ってんのよ?デストロイヤーはデストロイヤーでしょ?」

 

「そうだよ。大きくて高速移動する要塞で足がわしゃわしゃと動いて全てを蹂躙し、子供たちに妙に人気のある要塞だよ」

 

「なるほど、全くわからん」

 

双子の説明だけではデストロイヤーがどういうものかいまいち理解できないカズマ。

 

「どっちにしても、要塞になんて関わりたくねぇ。却下だ」

 

「あぅ・・・」

 

デストロイヤーにも関わりたくないカズマはこれを拒否。ティアはほんの少ししゅんと肩をすくめる。ここまでクエストを却下してきたカズマだが、ここで気になるクエストを発見する。

 

「えーっと・・・これは・・・雪精の討伐?なぁ、この雪精ってなんだ?名前からして、そんなに強そうにも思えないんだけど・・・1匹報酬10万エリスだってよ」

 

「雪精は雪深い雪原に多くいるそうだよ」

 

「ええ。私たちの故郷じゃ絶対現れない奴よ」

 

「その雪精を1匹討伐するごとに春が半日早く訪れると言われています」

 

「へぇー」

 

名前からして雪関連であるというのは今の説明だけで十分に理解できたカズマ。

 

「とても弱いモンスターなので、簡単に倒すことができるのですが・・・」

 

「その雪精討伐を受けるなら、私、準備してくるわね!」

 

「おい待て・・・行っちまいやがった・・・」

 

まだ受けるとは言っていないのにアクアが先走って雪原へ行く準備をしにギルドの外へと出ていったアクア。

 

「え~・・・ただでさえ寒いのに、さらに寒いとこ行くの~?」

 

「・・・仕方ないわね。防寒着でも買っていきましょうか」

 

寒いのが苦手な双子は渋ってはいるが、アクアが準備しているので、防寒具を買いに一旦ギルドの外へと出る。

 

「・・・ふふ、雪精か・・・」

 

ダクネスはなぜだか妙に笑っている。弱いモンスターであるはずの雪精で、ダクネスが笑っている姿を見て、カズマは何かしら嫌な予感を感じ取ったが、それよりもお金を優先するカズマはこの雪精の討伐クエストを受けるのだった。

 

 

ーこのすば!-

 

 

雪精の討伐のクエストを受けたカズマたちは防寒具を着て雪精が現れる雪原までやってきた。雪原の周りには小さく、丸いかわいらしい生物がふよふよと漂っている。この小さく、かわいらしいのが、討伐対象である雪精である。

 

「これが雪精かぁ・・・。てか、その恰好、どうにかならんのか?冬場セミ取りに行くバカな子供みたいだぞ?」

 

アクアの今の恰好は防寒具姿で、なぜか虫取りでよく使う網を持っている。

 

「これで雪精を捕まえて小瓶の中に入れておくの!で、そのまま飲み物と一緒に入れておけば、いつでもキンキンなシュワシュワが飲めるってわけよ!どう?頭いいでしょ?」

 

アクアのいかにも幼稚な考えにカズマは何となくオチが読めてきたようだ。

 

「にしてもお前ら、そんな厚着で動けるのか?動きとか鈍くならないのか?」

 

カズマの視線には、他のメンバーより厚着で、雪山を上ろうと試みるアイスクライマーたちが着こみそうな格好をしている双子だった。

 

「大丈夫だって。これ、意外にも動きやすいんだ」

 

「むしろ、あんたたちはよくそれで雪原まで来れるわね」

 

一応は機動性も重視しているようで、双子は問題なく動けているようだ。

 

「ダクネスは鎧はどうしたんだよ?そんな装備で大丈夫か?」

 

ダクネスは他のメンバーと同じく防寒具だけを着込んでおり、いつもの堅そうな鎧はどこにもない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・大丈夫だ、問題ない。ちょっと寒いが・・・それもまた・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

雪原の寒さだけでも興奮している様子のダクネス。どうやら平常運転らしい。

 

「んなことより、さっさと討伐して帰りましょう」

 

「だね。こんな寒いとこ、いつまでもいたくないよ」

 

「だな。んじゃ、とっとと始めるか」

 

カズマたちはさっそく雪精の討伐を開始するのだった。

 

『討伐クエスト!!

雪精たちを討伐せよ!!』

 

「ワイヤートラップ!」

 

ティアはシーフのスキルの1つ、ワイヤートラップを発動し、雪精を捕えようとする。雪精は突如出てきた網によって、数匹ほど捕まってしまう。

 

「・・・?」

 

しかも雪精はどうも自分に置かれた状況を理解できていないようだ。

 

「よし!確保!」

 

「よくやったわ。後は私が・・・」

 

「・・・?」

 

ティアが捕まえた雪精をアカメが切り裂こうとした時、雪精がじっとつぶらな目でこちらを見ている。

 

「・・・よく見たら、結構かわいいじゃない」

 

「でも、これを討伐するのが仕事だし・・・」

 

「・・・?」

 

「「・・・・・・」」

 

近くで見て、雪精の愛らしさによって討伐するのを躊躇ってしまう双子。

 

「ティア、とどめはあんたに譲ってあげる。経験値、欲しいでしょう?」

 

「ううん、やっぱりこういうのはお姉ちゃんがやるべきだよ。血も涙もないお姉ちゃんなら、できるでしょ?」

 

「いや、いくら私でも優しさくらいはあるわよ?姉の優しさを噛みしめながら、経験値をありがたく受け取りなさい」

 

「いやいや、そんな優しさいらないから。お姉ちゃんがやってよ」

 

「いやいやいや」

 

「いやいやいやいや」

 

「どっちでもいいからさっさと討伐しろよ!!!て、待てこのちっこいの!!ちょろちょろ動くな!!」

 

自分が雪精を討伐するのに心が痛んでるのか、双子はお互いに討伐の役目を押し付け合っている。カズマは逃げ回る雪精を追いかけながらツッコミを入れる。

 

「4匹目取った!!カズマー、見て見てー!雪精の大量よ!」

 

(もし、今回の討伐ノルマ数が足りなかったら、あいつの捕まえた雪精を退治してしまおう・・・)

 

アクアは討伐という趣旨を忘れて雪精を捕まえていく。カズマはノルマを越せなかったらアクアの雪精を潰そうと静かに考える。

 

「お、今だ!!」

 

カズマは動きが鈍っている雪精を見逃さず、剣で斬り裂いていく。斬られた雪精は真っ二つに斬れ、雪の粉となって消滅した。

 

「カズマ」

 

「なんだ!」

 

「雪精がすばしっこくて捕まえられません。辺り一面、爆裂魔法で吹っ飛ばしていいですか?」

 

「よーし!まとめて一掃してくれ!」

 

「了解です!」

 

これだけ数が多いのだから爆裂魔法で一掃した方が早いと判断したカズマはめぐみんの提案をすぐに了承する。

 

「我が真紅の流出を以て、白き世界を覆さん!エクスプロージョン!!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!!!

 

めぐみんの爆裂魔法によって、雪精の何体かは大爆発の炎によって溶けて消滅し、残り数十体の雪精は爆風によって吹き飛んでいく。爆発が晴れると、爆裂魔法が放たれた一面は雪が解け、クレーターが出来上がった。めぐみんは当然ながら、爆裂魔法によって魔力が尽き、倒れる。

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

「ふふふ・・・10匹やりましたよ・・・倒した雪精は10匹です。レベルも1つ、上がりました」

 

「おお!やるなぁ!!雪に埋もれてなきゃ、もう少しかっこよかったが」

 

逃げはするが、何の苦労もなく高い報酬がもらえる雪精討伐はカズマにとっておいしい話であるために、にやけ顔が止まらなかった。それと同時に、こんなにいい待遇なのになぜ誰も受けようとしないのかも疑問を持った。

 

「ん・・・出たな!!」

 

「え?」

 

ダクネスが身構えている視線を見てみると、突如として凍てついた霧が一面を覆い尽くしている。

 

「な、なんだぁ!!?」

 

「「ひぃ!!」」

 

「わくわく・・・」

 

「・・・・・・」

 

突然の事態にカズマは困惑し、双子は恐怖でお互いに抱き合い、ダクネスは興奮で身震いし、めぐみんは死んだふりをしている。

 

「カズマ、なぜ冒険者が雪精討伐を受けないのか、理由を教えてあげるわ」

 

「え?」

 

「あなたも日本に住んでいたんだし、天気予報やニュースくらいで名前くらいは聞いた事あるでしょう?雪精たちの主にして、冬の風物詩と言われる・・・冬将軍の到来よ!!」

 

「はあ!!??」

 

霧がカズマたちさえも覆い尽くし、霧の中から、1つの人影が見えてきたが、その存在が異常だった。全身が雪のように真っ白く、その存在から漂う凍てついたオーラを放っている戦国武将の将軍の姿をしたモンスター・・・その名も、冬将軍。

 

「こ、こここここ、こいつが・・・冬将軍・・・?こ、怖いよぅ・・・」

 

「こ、怖いのは当たり前よ・・・何せこいつは、国から高額賞金をかけられている特別指定モンスターの1体なのだから!!」

 

「ええええええ!!!???」

 

まさかここで国からの特別指定されている超強力モンスターの出現にカズマは驚愕する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・こいつはきっと、将軍の地位を利用して、私を手籠めにするつもりだろう・・・。私も抵抗はするが、恐らく力及ばず、辱められ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「バカーーーー!!!このクソったれな世界の連中は、人も食い物もモンスターも、みんな揃って大馬鹿だああああああああ!!!!」

 

カズマが絶叫している間にも、冬将軍は凄まじい殺気を放ちながら、腰に付けていた鞘から刀を取り出し、カズマたちを殺そうと構える。

 

「「「ひいいぃぃぃ!!!」」」

 

冬将軍から放つ殺気にカズマと双子は情けない悲鳴を上げる。冬将軍は凄まじい殺気を隠さず、素早い動きでダクネスに近づき、彼女の剣を刀で真っ二つにへし折る。

 

「あああ!!わ、私の剣が!!」

 

ダクネスは自分の武器を折られて、驚愕している。

 

「精霊は人が無意識に思い描いた思念を受けて、その姿に実体化するわ!けど、冬に街の外を出歩くのは、日本から移住してきたチート持ちの連中くらいだから・・・」

 

「つまりあいつは、日本から来たどっかの大馬鹿野郎が、冬といえば冬将軍みたいなノリから連想して生まれたのか!!?なんて迷惑な話だ!!!」

 

冬将軍が生まれた経緯が自分たちと同じ日本出身者だと聞いてカズマは同郷として頭を抱えずにはいられなかった。

 

「・・・・・・」

 

冬将軍の目の前でさっきから死んだふりをしているめぐみん。それを見てカズマは後でめぐみんを踏んでやろうと考える。

 

「ど、どどどど、どうしようお姉ちゃん!」

 

「お、落ち着きなさい!確か冬将軍は寛大よ!きちんと礼を尽くして謝れば、見逃してくれるわ!!」

 

「な、ならこの雪精を・・・ほら冬将軍様、雪精をお返ししますーーーー!!!」

 

双子は自分たちが捕まえた雪精を見逃して、土下座をして謝罪する。

 

「カズマ何やってんの!DOGEZAよ!DOGEZAをするの!ほら!みんなも双子を見習って武器を捨てて早くして!」

 

「は!!?」

 

「謝って!カズマも早く謝って!!」

 

アクアも瓶の雪精を解き放って冬将軍に向けて土下座をしている。プライドをそこらに捨ててきた元なんとかさんはそれはそれは見事な土下座を行った。だがダクネスは未だに冬将軍と構えている。

 

「おいダクネス!お前も早く頭を下げろ!!」

 

「誰も見ていないとはいえ、騎士たる私がモンスターに頭を下げるなど・・・」

 

「バカーーーー!!!何やってんのダクネス!!早くしないと殺されちゃうよ!!!」

 

「いつもホイホイモンスターに向かっていくくせに、こんな時だけ安っぽくてくだらないプライドを見せてんじゃないわよ!!ぶっ殺すわよ!!!」

 

状況をまるで理解していないダクネスを守るために双子はダクネスを無理やり頭を地に付けさせ、無理やり土下座をさせる。

 

「や・・・やめろぉ!!下げたくもない頭を無理やり下げさせられ、地に顔をつけさせられる・・・はぁ・・・はぁ・・・どんなご褒美だ・・・。はぁ・・・雪がちべたい・・・」

 

「いいからあんたは黙れ!!!」

 

「いいから頭下げて!私、まだ死にたくない!!!」

 

ダクネスはいつも通り平常運転だが、雪将軍を前にして、双子は余裕をなくしており、ダクネスに付き合ってる気力はない。

 

「カズマ!早く武器を捨てて!そのままじゃ雪将軍に襲われるわ!!」

 

「え?お、おう・・・」

 

ザンッ!!

 

土下座をしていたカズマだったが、未だに武器を持っていたことが仇となった。カズマは冬将軍が振るった刀をもろにくらってしまうのだった。

 

 

ー・・・このすば・・・-

 

 

「佐藤和真さん。ようこそ、死後の世界へ」

 

目を覚ましたカズマがいた場所は神殿らしき場所だ。そして、カズマの目の前にいるのは、白い羽衣を身に纏い、白い肌を持ち、長い銀髪をなびかせていた女性だった。

 

「私は、あなたに新たな道を案内する女神、エリスと申します」

 

そう、今まさにカズマの目の前にいるのは、あの世界でエリス教徒たちから深く崇拝されている存在、幸運を司る女神、エリスその人なのだ。

 

「この世界でのあなたの人生は、終わったのです」

 

エリスの言葉を聞いて、カズマはハッキリと思い出した。自分は冬将軍に殺されたのだと。つまりここは、異世界で死んだ人たちが来る転生の間なのだ。

 

「あなたがこっちの世界の女神様ですか?」

 

「はい、佐藤和真さん。せっかく平和な日本からこの世界に来てくれたのに・・・こんなことになってしまい・・・」

 

カズマの境遇を知ってか、エリスは本気で悲しんでくれている。これだけであの駄女神アクアとは違うと本気で考えるカズマ。

 

「まー、この世界に期待を抱いて来た奴らの中で、1番酷い末路だな、お前」

 

「え?」

 

急に真後ろからエリスとは別の声が聞こえてきたカズマはすぐに後ろを向く。後ろにいたのは、自分と同じジャージを着込んだ男だった。

 

「あの・・・勝広さん?お仕事中ですので、今は黙ってくれませんか?」

 

「なんですかー、俺だってこの世界の住人なんですよ?ここでゆったりして何が悪いんですか?」

 

「あなたが勝手に決めただけで、この世界の住人じゃありません!!」

 

ぼけーとしている男の登場でエリスはひどく頭を抱えている。

 

「えっと・・・あなたは?」

 

「俺?あー、俺、伊藤勝広。すぐ別れっけど、よろしくー」

 

カズマの問いに、寝転がっている男、伊藤勝広ことマサヒロは軽く自己紹介する。この態度を見て、カズマはあまり関わっちゃいけない男だと判断し、すぐにエリスに顔を向ける。エリスは咳ばらいをして、本題に入る。

 

「佐藤和真さん」

 

「は、はい!」

 

「せめて私の力で、次は平和な日本で裕福な家庭に生まれ、何不自由なく暮らせるように、転生させてあげましょう」

 

「え!!?マジで!!?そんなことできるんですか!!?」

 

「あなたが望むなら」

 

裕福家庭で何の不自由もない暮らしができる日本に転生できると聞いて、カズマは心躍った。

 

「で、できれば、魅力と知力と体力のパラメーターが平均以上で美少女の幼馴染みがいる人生だとなお嬉しいですーーー!!」

 

「お前、そんな欲望を抱くと、転生しても早死にするぞ」

 

「うるさいよお前!!!で、どうなんですか、エリス様?」

 

「え、えーっと、そこまでは難しいかと・・・」

 

カズマの欲望はちょっと難しいらしいが、転生ができることにカズマは嬉しさが大きく上回っているようだ。

 

「いやー、なんにしても、よかったーー!!もう終わりかと思ったけど、首の皮1枚繋がった感じですわー!これって俺が、がんばってきたご褒美ですよね?今まで本当、ひどい人生でしたからね!!」

 

「わかる。お前の気持ち、すごいわかる。あの世界は本当に、ろくでもないからな!!俺もお前と同じ経験をしてきたからすっっっっごく理解できる!!!」

 

「え?」

 

「勝広さん!!」

 

今、この男は何と言った?自分と同じ経験?この死後の世界の住人のくせに?カズマはそう思わずにはいられなかった。

 

「俺もお前みたいにゲームみたいに冒険できると思って、この世界に転生したのに・・・俺の周りにいる奴は本当に変な連中だった。水の女神とやらを崇拝するクソ迷惑宗教のアークプリーストだったり、中二病全開の紅魔族だったり、ほいほい敵に突っ込みたがるドMの変態ご令嬢だったり・・・俺も冒険者だってのに、普通のバイトをやらさせられるわ、空飛ぶキャベツ狩りをやらされるわ・・・馬小屋で寝泊まりしたら、凍え死にそうになるわ・・・。毎朝、まつ毛が凍る俺の気持ち、わかるか?」

 

「わかる・・・もうそりゃもう!!俺の仲間も女神を自称する奴は態度がでかいだけで何の役にも立たないし、目を離す隙にすぐに喧嘩を引き起こして、人様まで巻き込む双子と、魔法を打つたびにぶっ倒れる頭のおかしい爆裂娘と、ドMで変態で、攻撃が全く当たらないクルセイダーが集まって・・・もう・・・」

 

自分の気持ちを理解してくれるどころか、同じ境遇をしたマサヒロにカズマはひどく共感した。

 

「挙句の果てに、ボスキャラを封じ込めたと思ったら、俺は死んじまうわで、本当、ろくでもない世界だよ。ゲームバランス悪すぎだろ」

 

自分たちは借金を背負わされた身ではあるのに、マサヒロの場合は死んでしまうという不遇な待遇に、カズマは同情する。

 

「て、あれ?てことは・・・お前、日本からの転生者か?」

 

「え?ああ、そうだけど」

 

マサヒロが肯定したところで、カズマはさっき思い出した。エリスは言っていた。マサヒロはこの死後の世界の住人ではないと。

 

「勝広さんは、もう16年もこの死後の世界に滞在していらっしゃるのです・・・。私もほとほとまいっておりまして・・・」

 

「じゅ、16年!!?日本で裕福な家庭に転生できるのに、なんでここに住んでんだ!!?」

 

カズマの最もな疑問にマサヒロは腕を組ませる。

 

「ま、あんなろくでもない世界でも、俺は気に入ってたしな。俺、あそこに親友もいるし、結婚もしてるしな。あいつらがいる世界を見守りながらここで暮らすのも、悪くないかなーって思ってな」

 

「なんて身勝手な・・・」

 

「・・・それにな。俺にはあの世界に未練があるんだよ。妻や娘たちが気になって、中々日本に転生できないでいる。だからって、アンデッドになる気はない。あいつらの様子を確かめるまでは、是が非でも転生しない。ここに来る時から、そう決めてんだ」

 

真剣みを帯びたマサヒロの顔を見て、並々ならぬ決意を見て、カズマは何も言えなくなる。エリスも思うところがあるのか、マサヒロを日本に転生すべきかもうしばらく保留すべきか非常に困った様子でいる。

 

「・・・お前も、あのろくでもない世界が、割と気に入ってるんじゃないか?だから・・・涙を流してる」

 

「・・・え・・・?」

 

マサヒロに指摘され、カズマはようやく、自分が涙を流しているのに気が付いた。その様子を見ていたエリスは心が痛んだような表情をしている。

 

「・・・生まれ変わった、佐藤和真さんに、またよき出会いがあらんことを」

 

そういいながら、エリスを日本に転生させようとカズマに向かって、暖かい光を放とうとしている。

 

(・・・そうか・・・。この人の言うとおり、俺は・・・大嫌いだと思っていたあのろくでもない世界のことが、案外気に入ってたらしい・・・)

 

カズマの脳裏に思い浮かんだのは、自分が連れてきたアクアと、異世界で出会った仲間たちともに冒険をする、自分の姿だった。

 

(・・・もう少し・・・あいつらと・・・冒険したかったな・・・)

 

カズマがほんの少し寂しい気持ちを抱きながら、転生されようとしたその時・・・

 

『さあ、帰ってきなさいカズマ!!』

 

「え?」

 

どこからともなく、この場にはいないアクアの声が響いてきた。

 

『何あっさり殺されてんの!!死ぬのはまだ早いわよ!!』

 

「な、なんだ!!?」

 

「え、何々?何が起こってんの?」

 

突然響くアクアの声にカズマもマサヒロも驚愕している。だがそれ以上に驚愕しているのが、エリスであった。

 

「こ、この声、アクア先輩!!?まさか、本物!!?」

 

どうやらエリスとアクアは先輩後輩の間柄で、アクアが先輩で、エリスが後輩のようである。

 

『ちょっとカズマ!聞こえるー?あんたの体に復活魔法をかけたから、もう帰ってこられるわよー!』

 

「おお!!マジか!!?」

 

「あー、それ、無理だから。俺らって、1度日本からこの世界で生き返ってるから、なんか天界規定とかどうとかでもう復活できないんだってよ」

 

「え?そうなの?」

 

天界規定によって復活魔法をかけてももう異世界で復活は出来ないと聞いて、カズマはエリスに顔を向ける。それに同意するようにエリスは首を縦に頷く。

 

「アクアー!俺って日本から異世界で1度生き返ってるから、天界規定とやらでもう生き返ることができないんだってよ!!」

 

カズマはアクアに聞こえるように大きな声でそう伝えると、アクアはありえないといった声をあげる。

 

『はああああ!!?誰よそんなバカなことを言っている女神は!!ちょっとあんた、名乗りなさいよ!!日本担当のエリートである私にこんな辺境担当の女神がどんな口きいてんのよ!!』

 

アクアの声にエリスはかなり引きつった顔をしている。

 

「えっと、エリスっていう女神様なんだけど・・・」

 

『エリス?この世界でちょっと国教として崇拝されてるからって調子こいてお金の単位にまでなった上げ底エリス!!?』

 

「なぁ!!?」

 

『ちょっとカズマー!!』

 

「はい」

 

『それ以上エリスがなんかごたごた言ってるようなら、その胸パッドを・・・』

 

「「えっ!!?パッド!!?」」

 

アクアの発言の胸パッドと聞いたカズマとマサヒロはすぐにエリスに視線を向ける。

 

「わ、わかりましたから!!特例で、特例で認めますから!!今門を開けますからーーー!!」

 

「「パッドなんですか?」」

 

「全く・・・アクア先輩は相変わらず理不尽な・・・」

 

「「パッドなんですね!!?」」

 

エリスは涙目で特例で復活を認め、すぐにカズマの復活の準備を始めるのだった。

 

 

ーこのすばぁ!!!

 パッドでも構いませんよ?-

 

復活の準備が終わったエリスはカズマの足元に魔法で現世と繋がる魔方陣を描いた。

 

「これで現世と繋がりました。こんなこと、普通ないんですよ?」

 

カズマが復活できると聞いたマサヒロはエリスに突っかかる。

 

「いいなー。エリス様、俺も復活させてくださいよー。それで妻と娘たちに会いに行くんです」

 

「ダメです。あなたは天界規定以前に、16年前に身体がなくなってるので復活できません」

 

「くそう!こんなことならもっと遅くに死ねばよかった!そうすれば復活できたのに!!」

 

「軽々しく死ぬなんて言わないでください!!」

 

マサヒロはどう足掻いても復活できないとわかり、悔し涙を流している。

 

「・・・和真さん」

 

「は、はい」

 

「このことは・・・内緒ですよ?」

 

エリスの茶目っ気たっぷりの笑みを見て、カズマはほんの少し、頬を赤らめる。するとカズマは現世へ向かって宙を浮いていく。

 

「く・・・くそう・・・お、おい和真とやら!」

 

「あ、はい」

 

カズマが現世へ向かおうとした時、マサヒロはカズマに向かって、何かを伝えた。カズマは伝わった言葉によってマサヒロを見ようとしたがその瞬間、カズマは現世へと戻っていったのだ。

 

「・・・復活できない、かぁ・・・。世知辛いなぁ・・・。ところでエリス様」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「あなたって、胸パッドしてたんですね」

 

「い・・・いい加減、日本に転生されてください!!!いつまで居座るつもりなんですかぁ!!!」

 

「転生、しません」

 

 

ーこのすば!-

 

 

「・・・ズマ・・・カズマ起きてください!!カズマぁ!!」

 

「はっ!!」

 

カズマが目を覚ますと、自分は雪原にいた。そして視界の先には自分を心配してくれている仲間たちと、復活させてくれたアクア本人がいた。

 

「やっと起きたわね。たく・・・あの子は頭固いんだから・・・」

 

「「「カズマー!!」」」

 

「おわっ!!?」

 

ちゃんと復活したことを確認しためぐみんとティアとダクネスはカズマに抱き着いた。抱き着かれたカズマは顔を赤くする。

 

「ねぇ、ちょっとカズマー、何照れてんのよー?なんとか言いなさいよー。この私があなたを復活させてあげたのよ?何か言うことあるでしょー?」

 

相変わらずでかい態度のアクアにカズマはアクアとエリスとチェンジしたいと考え始める。

 

「何とか言いなさいよー。感謝の言葉とかー、今まで高貴な女神さまに舐めた態度をとって申し訳ございませんとかー・・・」

 

「女神、チェーンジ!!」

 

カズマの言葉にアクアは当然ながら憤慨する。

 

「上等よこのクソニート!!だったら今すぐエリスに会わせて・・・」

 

ガッ

 

「ふぎゃっ⁉」

 

アクアがカズマにゴッドブローをくらわせようとした時、ずっと黙っていたアカメがアクアの足を引っかけてそれを阻止する。

 

「アクア、うるさい。今機嫌が悪いんだからごちゃごちゃ言うな」

 

「ご・・・ごめんなさい・・・」

 

「それから、カズマ。あんたも簡単にくたばってんじゃないわよ。残される側の気持ちとか考えなさいよ」

 

「ご、ごめん・・・」

 

明らかに不機嫌そうにしているアカメにアクアもカズマも申し訳なくなっている。不機嫌の理由は自分たちを残して死んだ父親と連想しているからだ。ティアはそれをわかってるゆえに、複雑そうな顔をしている。

 

「カズマ、後でアカメにもう1回謝っておけ。言動はきついが、あれでもカズマを心配してたんだ」

 

「ああ・・・わかったよ」

 

迷惑をかけた自覚をしているのか、カズマはダクネスの言葉を了承する。

 

「具合はどうですか?どこか調子が悪いところは・・・」

 

「一応大丈夫そうだ」

 

カズマが問題なく生き返っているとわかり、めぐみんは安堵する。

 

「はぁ・・・よかったです・・・ひどい殺され方をしてたもので・・・」

 

「え!!?ひ、ひどい殺され方って・・・」

 

「カズマ、冬将軍に首チョンパされたんだよ。思い出すだけで吐き気を催すくらいそりゃあもう・・・」

 

「く、首チョンパぁ!!!???」

 

首チョンパされて殺されたと聞いてカズマはひどく顔を青ざめる。遠くを見て見ると、確かに、カズマが首チョンパされた後がもうくっきりと残っていた。この世界の冬は食料も乏しい環境の中それでもなお、生存競争を生き残れる者のみ活動が許される。カズマたちのような駆け出しにこなせるクエストはないのだ。

 

「・・・はい、撤収」

 

それが理解したカズマたちはクエストをリタイアして、この雪原から離れるのであった。

 

『討伐クエスト!!

雪精たちを討伐せよ!!

リタイア!!』

 

 

ーこ・の・す・ばぁ!!!-

 

 

雪原からギルドに戻ってきたカズマたちは受付で今回のクエストの報酬をもらいに来た。リタイアしたとはいえ、討伐してくれた報酬は応じるようだ。

 

「しかし、小1時間で15匹・・・150万か・・・。稼ぎはでかいが、死んだのが割に合わないな・・・」

 

150万というお金を得ることは出来たが、1億の借金の前では、空しい報酬である。しかも今回、カズマが復活したとはいえ、死んでしまったのだからなおさらだ。

 

「なぁ、冬将軍って特別指定だったよな?あいつにはどんだけの報酬がかかってるんだ?ハッキリ言って、3億の報酬があるベルディアよりも強かったぞ?」

 

そこでカズマは今回遭遇した冬将軍にどれだけの報酬があるのか尋ねてみた。

 

「ベルディアの場合はただ魔王軍の幹部で完全に人類の敵であるからね。その危険度が高いから3億になってるんだよ。でも冬将軍は別。あれは雪精に手を出さなければ無害なモンスターだからね」

 

「それでも冬将軍を討伐した際に与えられる報酬は2億よ。それだけ、冬将軍1体の戦闘能力が化け物じみているってことよ」

 

2億・・・それだけのお金があれば1億の借金なんて屁のようなものだし、それでも1億のお釣りがくる。カズマは目先の欲にかられそうになっている。

 

「・・・めぐみん、爆裂魔法は・・・」

 

「爆裂魔法では冬将軍は倒せませんよ。あれは人ではなく精霊ですからね。精霊は本来実態を持たない魔力の固まりのような存在です。その精霊たちの王ともなれば、魔法防御もそりゃすごいものです。爆裂魔法ならばダメージを与えられますが、一撃で葬るのは難しいでしょう。というか、あんな恐ろしい存在に爆裂魔法を打ちたくないです。絶対殺されてしまいます」

 

めぐみんの爆裂魔法でも倒しきれないと聞いて、カズマは落胆する。倒せる人物といえば、魔法のエキスパートであるモンスターショップの主、マホなら可能性はあるだろうが、そのマホからの借金を背負っている身だ。意地でも動くことはないだろう。というか、マホなら冬将軍が日本人が原因で生まれたと知ってるだろうから、乗り気でないだろう。

 

「ふふん、カズマ、なんか落ち込んでいるようだけど、この私はただ土下座してたわけじゃないわよ?これを見なさい!」

 

得意げに笑うアクアが取り出した瓶の中には、あの雪原から持ってきたのか雪精が1匹だけ残っていた。

 

「それ・・・まさか雪精!!?」

 

「ふふん、全部逃がしたフリをして、1匹だけ残しておいたのよ!冬将軍も私の迫真の演技は見抜けなかったようね!」

 

「でかしたアクア!よし、そいつをよこせ、討伐してやる」

 

カズマは追加報酬として10万を得ようと考えるが、アクアがそれを抵抗する。

 

「ダメよ!この子は家に持ち帰って家の冷蔵庫にするの!!」

 

「そいつの討伐報酬は1匹10万だぞ!!冷蔵庫なんかよりもよっぽど・・・」

 

「嫌よ!!この子は嫌ぁ!!もう名前だって付けてるのに、殺させるもんですか!!やめてやめてーーーー!!!」

 

「予想外の抵抗・・・」

 

予想してなかったアクアの激しい抵抗にカズマは渋い顔をしている。

 

「やめてやれ、カズマ。アクアに生き返らせてもらっただろう?そのお礼だと思え」

 

「・・・はぁ・・・仕方ないなぁ・・・」

 

確かにアクアに生き返らせてもらった恩があるゆえに、深い手出しは出来ないカズマは渋々ながら討伐を諦める。

 

「はぁ・・・それにしても雪精、愛らしいわね・・・。生かしてもらえてよかったわね、お前」

 

アカメはアクアが抱えている雪精をうっとりとした表情で見つめている。

 

「珍しいね。お姉ちゃんが小さい生物に気を許すなんて」

 

「そいつは動物じゃなくて精霊だしね」

 

「どういうことだ?」

 

「実はお姉ちゃん、小動・・・」

 

「余計なことは言わなくていいわよ」

 

ゴチンッ!

 

「いったぁ~・・・ぶたなくたって・・・」

 

ティアが何か言いかけたところで、アカメがげんこつをしてそれを止める。

 

「この子は大事に育てて、夏になったら氷をいっぱい作ってもらうのよ。そしてかき氷屋を出すの」

 

「自分の利益のためじゃない。そんな使い方をするくらいなら私に譲りなさいよ」

 

「い、嫌よ!!大事にするのは変わりないもの!!」

 

明らかに自分のために使おうとしているアクアにアカメは譲ってくれというがアクアは断固として譲る気はなかった。

 

「ねぇ、この子って何食べるの?」

 

「そもそも雪精って何かを食べるのでしょうか?」

 

「ふわふわしていて、柔らかそうで、むしろこいつに砂糖をかけて口に入れた方がおいしそうだな」

 

「た、食べさせないわよ!」

 

「マホなら何か知ってそうだろうけど・・・正直、今は関わりたくないね・・・」

 

「そうだな・・・あの一件以来、俺たちまで目の敵にされているからな・・・」

 

「わ、私のせいじゃないわよ!!?」

 

ジャイアント・トードの人形を壊されてからというもの、マホはカズマたちを目の敵にしており、借金を返済するまではぎすぎすした関係は改善できないようだ。

 

「というか、お腹すきましたね」

 

「何か頼みましょう。何にしよっかなー」

 

アクアたちが料理を注文している間にカズマは死後の世界で出会ったエリスのことを考えていた。カズマが死んだ時は悲しんでくれて、生き返らせる時は優しく微笑んでくれた、色物枠でない本物の美少女なのだ。何も思わないわけがない。

 

(この世界にやってきて、ようやくメインヒロインが登場した――!!)

 

「ちょっとカズマー、あんた食べないのー?」

 

「え?」

 

カズマが考え事をしている間に、料理はカズマたちの前に並べられている。それも1つや2つでない。大量にだ。

 

「て、お前らどんだけ注文してんだぁ!!?」

 

「私ほどの大魔法使いともなると、活動するための贄が必要となるのだ」

 

「今日は私がカズマを生き返らせてあげたのよー?これくらいのご褒美いいじゃない!クエストの報酬も少しは入ったし」

 

「冬を越すための金なんだよ!!」

 

「何。金がなくなったなら、またクエストを受ければいい。次はどんなモンスターがいいか・・・」

 

料理を大量にバクバク食べていくメンバーを見て、カズマは選択肢を間違えたと激しく後悔した。

 

「・・・はぁ・・・まぁいいか。それより・・・」

 

カズマはアクアたちと同じくバクバクと食べ続けるアカメとティアを見つめる。

 

「・・・ん?どうしたのカズマ?私の顔に何かついてる?」

 

「気持ち悪いわね。じろじろ見てんじゃないわよ」

 

「わ、悪い・・・」

 

カズマは慌てて自分の料理を装い、何でもないと主張する。が、脳裏に浮かび上がったのは死後の世界で会ったマサヒロの最後に放った言葉だ。聞き取りにくかったが、マサヒロはこう言っていた。

 

『これからも、俺の娘たちを、よろしく頼む』

 

(・・・まさか、な)

 

娘たちと言っていたところから、双子を見たが、きっとマサヒロは自分をからかったに違いない、絶対にありえないと思い、カズマは自分の料理を頬張るのだった。




希代の天才魔法使いめぐみん。

その愛くるしさとは裏腹に、彼女の爆裂魔法は絶大で、芸術的なまで壮麗だった。
子どもからお年寄りまで、そして、邪悪な魔物までもが涙するのであった。
その魔法を一目見ようと世界中から見物客が押し寄せ、社会問題になるほどであった。

偉大なる魔法使いの書、第126章

これを読んだカズマとアカメの反応

カズマ「・・・残りの章はいったいどこに行ってしまったんだ?」

アカメ「でも、爆裂魔法は本当に凄まじいし、言ってることは間違ってないし、今回も素晴らしい爆裂だったわ」

カズマ、アカメ「ナイス、爆裂!」

めぐみん「ナイス、爆裂」

次回、この愚か者に脚光を!


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この愚か者に脚光を!

冒険者ギルドで今日も今日とて、借金返済のために集まっているカズマたちのパーティ。カズマたちは仕事の前に食事をとっており、わいわいと騒いでいる。カズマはちょっと乗り気でなさそうだが。そんなカズマたちの姿を見て、苛立ちを隠せないでいる男がいた。くすんだ金髪で左目下にほくろが付いていおり、ガラが悪そうな・・・一言で言えばチンピラである。

 

「・・・酒がまずい」

 

その男の名はダスト。このアクセルの街では名が知れている戦士の職業を生業としているチンピラだ。ただし、名が通ってると言っても、いい方ではなく悪い方である。

 

「何しかめっ面してんのよ?ただでさえ冴えない顔が、より一層チンピラっぽくなってるわよ?」

 

そう言いながらサラダを食べているこの赤髪を後ろに束ねたポニーテール、そして青いマントを羽織った幼さを残した少女の名はリーン。ダストのパーティの紅一点で、ウィザードを生業としている。

 

「誰がチンピラだってーの。けっ、あの男が来てから、この街も居心地が悪くなったよなーって思ってただけだってーの」

 

「あの男、というと、あそこにいるあの新入り冒険者のことか?」

 

カズマたちを背後から親指を立ててさしているのは、酒場だというのに装甲鎧を身に纏った男の名はテイラー。ダストたちのパーティのリーダーを務めている男で、ダクネスと同じクルセイダーを生業としている。

 

「あいつらって、確か魔王軍幹部のベルディアとの戦いで活躍したパーティだよな?」

 

そう言っているのは弓を背負い、軽薄そうな黒髪の男、キース。ダストのパーティの一員でダストと1番気が合う男だ。職業はアーチャーを生業としている。

 

「らしいな。俺は現場に遅れて後から到着したから、詳しくは知らねぇけどな」

 

ダストたちパーティもベルディア戦には一応は参加していたが、その中でダストだけが遅れてしまい、アクアの出した水の洪水に巻き込まれて流されてしまったのでベルディアの戦いに参加できないでいたのだ。

 

「魔王軍幹部の攻撃をその身で受け止め、苦痛に表情を歪むことなく、仲間に笑顔を見せるのは、まさにクルセイダーの鑑だった」

 

テイラーは同じクルセイダーとして、ダクネスを尊敬の眼差しで見ている。

 

「紅魔族の子も、あの魔法の威力は凄まじかったよ。ウィザードとしての格の違いを認識させられたわ」

 

リーンも同じ魔法使いとして、めぐみんを褒めている。

 

「あの青髪のアークプリーストが出した水は圧巻だったぜ」

 

鼻の下を伸ばしているキースの視線はアクアのお尻に向けている。

 

「すごいって言えばアヌビス出身の双子もそうだよね。お互いに息の合ったあの連携の攻防は見たことないもの」

 

「ああ。さすがは熟練のシーフと言ったところか。魔王軍幹部の攻撃を全て躱しきってみせたのだからな」

 

「しかもあの赤髪の嬢ちゃん、ベルディアの武器にひびを入れさせてたよな?いやマジすげぇよ」

 

ダストを除いたメンバーたちは双子の実力を尊敬している。キースは視線をアクアのお尻から、ティアの胸と、アカメのお尻に視線を変えていたが。

 

「けっ、マジで気に入らねぇ。イケてる女5人に囲まれてるあの冴えない冒険者がよぉ」

 

ダストは本気でカズマを気に入らなく思っており、カズマにたいして悪態をこぼしている。

 

「そもそもの話だ!このアクセルの街を仕切っているこのダスト様に挨拶1つもなしってのも気に入らねぇ!」

 

「誰が仕切ってんだ誰が。仕切るどころか、お前は迷惑しかかけていない存在だろう」

 

的外れな発言をしているダストにテイラーがツッコミを入れる。キースもリーンも何か言いたげのようだ。そんな時、カズマたちパーティの声が聞こえてきた。

 

「今日はカズマのことを考えて、荷物持ちにしようと思っているんですよ」

 

「そうね。無理しない方がいいわ。あんた、昨日死んだし」

 

「そうだな。強敵がいないのは残念だが、優先すべきはカズマだ」

 

「賢明な判断ね。一応、血液は良好だけど、激しい運動をすれば、貧血を起こすもの」

 

「あんまり無茶しないでね?具合が悪くなったら言ってね?」

 

「お前ら・・・今日はどうした?なんか変なもんでも食ったか?」

 

「失礼な!私たちは正常ですよ!」

 

どうやらアクアたちは冬将軍に殺されたカズマのことを考えて、討伐クエストより楽な荷物持ちという仕事を受けるようだ。一部物騒な会話が聞こえたが、ダストはそれを無視して、カズマたちパーティ・・・というより、カズマに聞こえるようにわざとらしく声を上げる。

 

「全員が上級職でいい女、そんなハーレムにいるのが最弱職の冒険者ってか!さぞかし楽ちんな人生を謳歌してんだろうよ!羨ましい限りだねぇ!」

 

ダストの声を聞いたカズマたちはダストに視線を向ける。カズマは明らかにこめかみをひくひくさせながら、怒りを抑えてダストと対面する。

 

「・・・おいお前、もう1度言ってみろよ」

 

「ああ、何度だって言ってやんよ。荷物持ちの仕事だと?上級職が揃ったパーティなのに、なーんでそんな簡単な仕事を引き受けんのかねぇ?もっとマシな仕事受けたらどうよ?大方、お前が足引っ張ってそいつらに負担をかけてんだろう?なぁ?最弱職の冒険者さんよぉ?」

 

自分を見下している発言をしているダストにカズマは苛立つが、チンピラのただの言いがかりだと判断し、我慢して何も言い返さなかった。

 

「おいおい、なんで言い返さないんだ?ほれ、言い返してみろよ?どうせ図星なんだろう?たくっ、なっさけないねぇ、上級職のいい女が5人揃っておきながらよぉ。俺が同じ冒険者だったら恥ずかしくておちおち街も歩けねぇぜ。なぁ!お前らもそう思うだろー?」

 

『ぎゃはははははは!!!』

 

ダストの発言にギルド全体が大爆笑で響き渡った。唯一ダストの発言に笑わなかったのは、先日のベルディア戦に参加してカズマの活躍を知っている冒険者全員と普段からカズマの苦労を知っている受付嬢全員である。この中には笑っている冒険者を注意する者もいる。

 

「ちょっとやめなさいよダスト。人のパーティにとやかく言う権利はあんたにはないでしょ」

 

「なんで止めんだよリーン!俺は冒険者としての心得をだな・・・」

 

「ただの焼きもちでしょ。あんたは人様に迷惑をかけないと生きていけないの?」

 

ダストのパーティメンバーであるリーンもダストの言い分を咎めている。

 

「うちのバカがすまないな。きつく言っておくから、こちらのことは気にしないでくれ」

 

「ああ、大丈夫だから気にすんなって」

 

自分のパーティメンバーの問題としてリーダーであるテイラーがカズマに謝罪をする。カズマはダストの発言に気にしていながらも、何でもない風に装う。

 

「ねぇカズマ、そろそろクエスト受けようよ。あんな奴は気にしないでさ」

 

「そうよ。あんなチンピラクズは無視するに限るわ」

 

「そうですね。ああいうのは相手にしない方がいいですよ」

 

「奴の言うことなど気にするな。ただの酔っ払いの戯言だ」

 

「そうよそうよ。あの男、私たちを連れてるカズマに妬いてるのよ。あんなの放っておいてさっさと仕事に行きましょう」

 

双子たちはダストの相手をしない方がいいと発言する。カズマもその案には賛成なので、クエストを受けるために荷物持ちの依頼書を手にしようとする。

 

「けっ!いい女におんぶにだっこされやがってよぉ。苦労知らずでいいご身分だなぁ、おい!変われるもんなら変わってやりたいねぇ!何なら今すぐ変われよ!」

 

このダストの発言だけに引っかかったカズマはぎろりとダストを睨みつけて大声をあげた。

 

「大喜びで変わってやるよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

『・・・えっ?』

 

カズマのこの一声に先ほどまでの大爆笑が静寂に変わっていった。変わってほしい発言をしたダストも目を点にして唖然としている。

 

「「「「「え・・・」」」」」

 

カズマの変わってやる発言にはアクアたちは動揺を隠せない姿勢を見せている。

 

「え・・・今・・・なんて・・・?」

 

「聞こえなかったのか、ああ!!?大喜びで変わってやるっつってんだよ!!おいお前!!さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃ好き放題なことを言いやがって!!ああ、俺は確かにパーティの中じゃ1番の最低ステータスで最弱職の冒険者だ!!それは否定しないし、言い訳もしない!!認めてやるよ!!だがなぁ・・・お前その後なんつった!!?ああ!!?俺の耳に聞こえるように言ってみろよ!!」

 

「え・・・え・・・そ、その後・・・?」

 

明らかにキレまくっているカズマの姿勢にさっきまで強気だったダストはたじたじである。

 

「えーっと・・・いい女5人も連れてハーレム気取り・・・」

 

「ハーレム!!!ハーレムっつったか今!!?お前の目は節穴か!!!お前今いい女って言ってたがお前の言ういい女って誰のことだよ!!!俺の目には美少女と呼べるいい女がどこにもいないんだが!!!!まさかあれ5つのことを言ってんのか!!?お前はバカか!!!あれのどこがいい女なんだ!!!お前の目は腐りに腐りきってんのか!!!!」

 

「「「「「あ、あれ・・・っ!!?」」」」」

 

カズマにあれ呼ばわりされ、物同然に扱われたアクアたちは目を見開いてショックを受けている。

 

「なぁ、もっと現実を見ろよ!!俺のパーティには女なんてどこにもいねぇんだよ!!目を覚ませよ!!!」

 

「ご、ごめん・・・俺も酔った勢いで言いすぎた・・・」

 

「あ、あのぅ・・・カズマさん・・・?」

 

アクアが何か弱弱し気に何かを申そうとしているがカズマはそれを無視して発言を続ける。

 

「てか重要なのはそこじゃねぇよ。お前、俺のことを苦労知らずだとかどうとか言いやがったな?苦労知らず!!?苦労知らずって確かに言ったよなぁお前!!!だったら1日変わってやるから身をもって味わって来いよ!!俺がどれだけ苦労をしてないかっていうのが1発でわかるからよぉ!!!」

 

カズマの二度目の変わってやる発言にダストは驚きつつも内心ではハーレム気分を味わえるチャンスと思い、ちょっと嬉しい気持ちになっている。

 

「おいおい、本当にいいのかよ冒険者の兄ちゃんよ。俺、案外ねちっこいから居心地が良すぎて1日と言わずにって駄々をこねるかもよ?それでもいいのかよ?」

 

「いいっつってんだろ。そして俺は断言してやる。今日のクエストが終わるころには、お前は俺に泣いて土下座で仲間を返してくれと俺に謝罪することをな」

 

「言ったな?もしお前の宣言通りになったらお前の言うことを何でも聞いてやるよ。お前らもそれでいいか?」

 

ダストは自分の仲間たちにパーティ入れ替えについて尋ねる。

 

「俺は別に構わねぇけどよ・・・」

 

「あたしも別にいいよ。てかダスト、居心地がいいからって本当に駄々とかこねないでよ?子どもじゃないんだから」

 

「俺も一向に構わんぞ」

 

(おっしゃああ!!)

 

仲間たちの了承ももらってダストは内心では非常に嬉しそうにしている。これがダストの運の尽きだとも知らずに。

 

「決まりだな」

 

「ね、ねぇカズマさん?勝手に話を進めてるけど私たちの意見は・・・」

 

「通るわけねぇだろ。寝言は寝て言えこの駄女神」

 

アクアは何か言いたげだったが、カズマは聞く耳持たず、パーティ1日交換が決まったのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

『討伐クエスト!!

ゴブリンの群れを一掃せよ!!』

 

「っしゃああああああ!!あいつ、本当にトレードに応じやがったぜ!!あいつバッカじゃねぇの!!」

 

荷物持ちの仕事からゴブリン討伐クエストに変更になったアクアたちはダストと共にゴブリンの出現情報の近くの平原にやって来ていた。ダストはアクアたちとはちょっと離れた場所で嬉しい気持ちを爆発していた。

 

「何を叫んでんの?あのチンピラ」

 

「チンピラクズの考えることはよくわからないわね」

 

ダストの叫びを聞いていた双子はお互いに首を傾げている。

 

「ねぇねぇ、ゴブリン退治に行くって話だけど、やっぱり強い敵を倒しに行かない?ドラゴンとか!私たちの手にかかればお茶の子さいさいよ!」

 

「いやいや・・・ギルドの時もそうだが、あんた何言ってんだ?いや、そりゃ、あんたらならいけるかもだが・・・」

 

明らかに無茶難題なことを言いだしているアクア。そして、それを同意しているのはダスト以外の全員であった。

 

「確かにドラゴン退治は実力を知らしめるいい機会だわ。なんなら、今からでもクエストを変えようかしら?」

 

「それはいいアイディアだね!カズマってば、私たちが熟練者であるってことをもうすっかり忘れてるみたいだし」

 

「確かに名案だ!一度ドラゴンのブレスを浴びてみたかったのだ!灼熱の息を全身に浴び、こんがりと・・・いいっ!!」

 

「ドラゴン退治ですか。いいですね!その身を守りし堅牢な鱗を、我が爆裂魔法で剥ぎ取ってみせましょう!!」

 

「いや、無理無理無理!絶対無理だって!」

 

今からでもクエストを変える気でいるメンバーたちにダストは却下している。

 

「いや、確かにあんたらなら倒せる・・・倒せるんだが、ほら、俺はただの戦士だ。俺じゃ本当に役不足でな。物足りないのは百も承知だが、どうかここは、ゴブリン退治で手を打ってくれねぇか?」

 

ダストの必死さが伝わったのかどうかは知らないが、アクアたちは一応は納得してくれた。

 

「仕方ないわねー。特別にそっちの実力に合わせてあげるわ。感謝しなさい」

 

「確かに、あんたごときチンピラクズにドラゴンを相手できるとは思えないし」

 

「本当はドラゴン討伐して、カズマの認識を改めようと思ったんだけど、まぁいいか」

 

「そうだな。ここは1つ、この男に従うとしよう」

 

「まぁ、いいでしょう。ドラゴンスレイヤーはまた別の機会に」

 

納得してくれた様子を見てダストは一安心した。

 

「なぁ、あんたら、なんであんな最弱職とパーティ組んでんだ?上級職のあんたらならどんな奴でも選び放題だろ?」

 

「「「「「ギクッ!」」」」」

 

ダストの純粋な疑問に5人はビクついた。ダストは知らないようだが、アクアはともかくとして、他のメンバーは全員パーティに入れたくないと言われているのだから当然の反応だ。

 

「そ、それは・・・あれよ!カズマを放っておけなかったからよ!」

 

「そ、そうね。第一、あんな最弱職を放っておいたら、間違いなくカエルに食われるわ」

 

「そ、そうそう!決して、もう面倒見きれませんと言われて捨てられたわけじゃないんだから!」

 

「そ、そうですよ。決して他の冒険者に断られて拾ってくれる人がいなかったからというのではないですよ!」

 

「う、うむ。一度組んだ相手からもう勘弁してくれと拒絶されたわけではないぞ?人づてに極悪非道な冒険者にか弱い女性4人が虐げられていると聞いてぜひ参加・・・ではなく、クズな行動をしないように見張っているのだ!」

 

明らかに必死さがにじみ出ているのが見え見えだが、ダストにはそうは見えなかったようで納得した。

 

「ふーん、見張りねぇ。ま、そりゃそうだよな。そうじゃなきゃ、誰があんな最弱職と組むかっての」

 

「そうよそうよ!私たちの方がすごいのに、最近調子に乗っちゃってね。もっと私を敬って、甘やかすべきだと思うのよ!」

 

「そうですよ。カズマはもっと大事に扱われるべきだと思います」

 

「ま、せめて扱いだけはどうにかしてほしいものだわ」

 

「そうそう、私たちより10年遅くに冒険者になったくせにさ」

 

「カズマは我々を甘く見ているからな。今回の一件で私たちがいかに重要かを知らしめよう」

 

アクアたちは今回、ぞんざいな扱いをしたカズマを見返すためにいつも以上に張り切っている。

 

「そうだ、そういや自己紹介してなかったな。俺はダスト、一応戦士をやってる。攻撃スキルはそれなりに振ってる。よろしくな」

 

ダストの軽めな自己紹介とスキル紹介に則ってアクアたちも自己紹介する。

 

「私はアクアよ。あのアクシズ教団が崇拝する水を司る女神、アクア様とは・・・」

 

「という、残念な設定をやってるのがアクア。単なる妄想だから気にしないであげて」

 

「ちょっと!!私の華麗な自己紹介を・・・」

 

「いいから、さっさとこいつにスキルを教えなさいよ。そんなウザい前座なんていらないのよバカ」

 

「うぅ・・・ウザいって・・・。・・・宴会芸スキルとアークプリーストのスキルは全部使える・・・得意なのは花鳥風月・・・うぐぅ・・・」

 

アカメの辛辣な態度にアクアは泣きながらスキル紹介を行った。

 

「宴会芸スキルって・・・でもアークプリーストのスキルは全部使えるって、すげぇじゃねぇか!」

 

アークプリーストのスキルを全部使えると聞いて、ダストは本当に純粋にすごいと思った。

 

「私はティア。職業はシーフだよ。使えるスキルは盗賊の引継ぎスキルはもちろん、状態異常付与とか、ダンジョンとかで使えるサポートスキルを山ほど持ってるよ」

 

「お!状態異常付与まで持ってるのか!そりゃいい!ぜひ俺の武器にも使ってくれよ!」

 

「私はアカメ。見て通り、私とティアは双子よ。職業はシーフ、短剣スキルを全振りしているから、この中で攻撃力が1番高いわ」

 

「おお!そりゃすげぇな!シーフは攻撃力が低いって話だけど、そうでもないみたいだな!」

 

双子のスキルを聞いてダストはシーフは攻撃力が低いという認識を改めた。

 

「私はダクネス。クルセイダーを生業としている。アカメと違って攻撃は苦手だが、盾になることは大得意だ!防御スキルをフル活用するので、遠慮なしに囮として使ってくれ!!」

 

「お、おう・・・よくわからんが、クルセイダーのことはよく理解してる。頼りにさせてもらうぜ!」

 

盾役になりたがっている理由は知らないが、クルセイダーという事でダクネスを頼りにしているダスト。

 

「我が名はめぐみん!!アークウィザードを生業とし、爆裂魔法を操る者!!」

 

「お、おう・・・紅魔族ってのは名前と見た目でわかったが、お前最強魔法の爆裂魔法が使えるのか!そいつはすげぇぜ!あの爆裂魔法を使える魔法使いと組めるなんて最高じゃねぇか!後で仲間たちに自慢しねぇとな!」

 

「ほほう、爆裂魔法の魅力を理解できるとは、あなたもなかなかやりますね!」

 

ダストが爆裂魔法を誉めていると、調子が上がってきためぐみんは敵もいない平原に向かって杖を突きつけた。

 

「ここは街から離れていますし、ここからなら守衛さんに怒られないのでちょうどいいです!」

 

「え?ちょうどいいって・・・何が?」

 

「我が爆裂魔法を、ご覧に入れましょう!」

 

「は?まさか・・・今ここで撃つのか!!?」

 

さすがに何もないところで撃つのはやめてほしいと思ったダストはすぐに止めようとしたが、すでに遅し。

 

「おいバカ、やめ・・・」

 

「我が爆裂魔法、その目に刻め!!エクスプロージョン!!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!!!!

 

めぐみんは何もない平原に爆裂魔法を撃ち放った。ダストは爆裂魔法による強い爆風に耐えるため伏せた。ダクネスは平然と立っており、アクアはあくびをかいて座っており、ティアは背伸びをして立っており、アカメは今回の爆裂魔法を見定めながら立っている。爆発が晴れると、お約束のクレーターが出来上がっていた。

 

「マジか・・・こんな威力・・・見たことねぇぞ・・・」

 

「どうですか・・・我が爆裂魔法の威力は・・・」

 

「今回の爆裂は威力はあったけど、芸術性に欠けるわね。美しさのかけらもない。期待に応えようと力みすぎよ。35点」

 

「くうぅ・・・やっぱりですか・・・私もちょっと力みすぎたと思ってましたし・・・」

 

ダストが驚いている間にも、アカメが今回の爆裂に低評価をつける。めぐみんも自覚があったのか悔しそうにしながらも納得している・・・倒れている状態で。

 

「・・・で?なんでこの紅魔の娘は寝てんだ?」

 

「なんでって、爆裂魔法で今日使う魔力を使い切ったんだよ」

 

「え?じゃあこいつは1発撃っただけで魔力を尽きたのか?冗談だろ?」

 

「こんなことで冗談なんか言わないよ。ついでに言うと、めぐみんは爆裂魔法しか使えないよ」

 

嘘偽りのないティアが放った真実にダストは信じられないといった気持ちでいっぱいになった。

 

「はあああああん!!?じゃあ何か?そいつはもう一歩も動くことができないってのか!!?」

 

「何を驚いてんのよ?こんなの、世間の常識でしょう」

 

「ちょ、待て待て待て!!おい!紅魔族!何でそんな魔法だけ使ってんだよ!!1発撃って動けなくなる魔法使いなんて無価値じゃねぇか!!ギルドで噂になっていた頭のおかしい爆裂娘ってお前のことだったのかよ!!?」

 

「おい、さっきの無価値発言、訂正していただこう。後、誰ですかその噂を流した奴は?そいつには後でいかに私が頭がおかしいのかということを、身をもって味わってもらうとしよう」

 

「落ち着け、いつものことだ」

 

「いつものことってなんだよ!!?攻撃の要が1人減ったんだぞ!!?少しは慌てろや!!」

 

「うるさいわねー。いつまでも過ぎたことを言ってると、いつか頭はげるわよ?」

 

めぐみんが魔力切れで倒れたというのに、普段通りの対応をしているアクアたちにダストは頭痛がしたかのように頭を抱える。

 

「・・・あ、今なんか敵感知スキルに引っかかった。ゴブリンの巣の奥からものすごいスピードでこっちに来てるよ」

 

「て、おいおい・・・それってまさかとは思うが・・・」

 

「まぁ、ゴブリンなんて雑魚の周りをウロチョロしてる奴っていったら、ねぇ」

 

こちらに近づいてきている敵反応について話していると、近づいてきた存在がダストたちの前に現れた。その姿は、猫科のような姿でライオン以上の大きさに、口に大きな牙2本、全身黒い毛で覆われている獣だ。

 

「おお・・・なんと野性味溢れる見事な獣なんだ・・・」

 

「感心してる場合か!!やっぱり初心者殺しじゃねぇか!!!」

 

初心者殺し・・・それはゴブリンやコボルトなどといった比較的弱いモンスターの周りをうろつき、弱い冒険者を狩ろうとする狡猾で危険度の高いモンスターだ。

 

「なるほど!あれが初心者殺しか!一度手合わせしたいと思っていた!剣を借りるぞ!」

 

「あ!おい待て!それは俺の大事な・・・」

 

ダクネスはダストの剣を奪い取り、初心者殺しに向かって一直線に向かっていく。初心者殺しは殺気立って威嚇している。

 

「受けてみろ!!はああ!!」

 

ダクネスは初心者殺しに向けて剣を振るったが、ダクネスの剣は初心者殺しには当たらず、空ばかりを斬るだけであった。

 

「・・・何これ?」

 

「見てわからないかしら?ダクネスは攻撃が全く当たらないクソ役立たずなのよ。盾としては役立つし、私のお気に入りのおもちゃだけど」

 

アカメのその真実を聞いて、ダストは絶望しそうになった。だがアクアと双子の実力をまだ知らないため、何とか持ち直した。その間にもダクネスは初心者殺しの攻撃をもろにくらってしまった。

 

「なかなか鋭い攻撃ではないか!」

 

やはりというべきか、ダクネスは防御力がよいことが活かし、初心者殺しの攻撃をもろともしていない。それどころか初心者殺しと素手で格闘している。そして初心者殺しはダクネスを噛みついてきた。

 

「そのまま押し倒し、その獣欲を私にぶつけるというのか!人のみならず、獣にこの柔肌を蹂躙・・・くぅぅ!!」

 

「が、がぅ・・・?」

 

ダクネスの欲望丸出しの性癖に初心者殺しはかじりつつも戸惑っている。

 

「なぁ、なんであのクルセイダーはあんなに興奮してんだ?やられまくってんのに」

 

「それはダクネスがモンスターにいじめられるのが大好きでたまらない女の子だからだよ」

 

「言うなれば、ドMよ。救いがたい変態だこと」

 

「それは知りたくもなかった真実だよちくしょう!!!」

 

ダクネスがドMだということを双子の説明でわかったダストはそう大声をあげた。

 

「はぁはぁと欲情を垂らしながら、涎を垂れ流し、もっと私を激しく噛んでこい!!そして、鎧を粉々に打ち砕かれ、抵抗する私を・・・たまらん!!はあああああああん!!!」

 

ダクネスは妄想で悶えながら白目をむいて気絶した。初心者殺しはダクネスの堅さと頭のおかしい性癖に怖気づいて噛みつくのをやめて後ずさる。

 

「よ、よし、今がチャンスだ!逃げるぞ!」

 

ダストが逃げるように言い出すが、アクアは一歩も引かなかった。

 

「アホなこと言うんじゃないわよ!!ちょうどゴブリンなんかじゃ役不足なんじゃないかって思ってたところよ!ここで初心者殺しを倒せば、カズマが私を見直してシュワシュワを何杯も奢ってくれるに違いないわ!!行くわよ!!ゴッドブロー―!!!」

 

「やめろーーー!!行くなーーー!!!」

 

アクアは初心者殺しに向かってゴッドブローを放った。

 

「あーあ、拳で行っちゃうんだ・・・」

 

「あいつやっぱバカナンバー1だわ」

 

「どういうことだ?」

 

「あんたは知らないみたいだし教えてあげる。初心者殺しは全身毛むくじゃらだから毛が打撃を吸収するのよ。この意味、わかるわよね?」

 

「まさか・・・」

 

「そう、そのまさかだよ・・・」

 

ドォン!・・・しゅう~~・・・

 

「グルルルル・・・!」

 

「初心者殺しは打撃が利かないんだよ」

 

アクアのゴッドブローは見事初心者殺しにヒットした。が、双子の宣言通り、毛が打撃を吸収したため、初心者殺しはノーダメージ。初心者殺しは攻撃を加えたアクアに激しく怒っている。

 

「・・・よく見ると、あなたの牙って、かっこいいと思うの」

 

アクアは目を点にしながら初心者殺しの牙を褒めた。だが相手は獣・・・そんなのが通用するはずもなく・・・

 

ガブッ!

 

「いやあああああああ!!!噛まれてる噛まれてるーーー!!!私、もぐもぐされちゃってるーーーー!!!」

 

アクアは初心者殺しの餌食・・・頭からがぶりといき、もぐもぐとかじりつかれる。

 

「ちょ・・・は、離して!!女神をおいしく食べるだなんて罰当たり、許されるとでも・・・ちょ・・・ね、ねぇ、それ以上は本当にやばいと思うの。だから・・・離して?ね?ねぇ・・・ねぇって・・・助けてーーーー!!!カズマさん!!!カジュマしゃーーーーーん!!!!!」

 

アクアも全くの役立たずとわかり、ダストは地に手と膝をつけてショックを受けている。

 

「やれやれ、やっと私たちの出番だね!」

 

「真打は最後に登場するものよ」

 

そこへ前へ出たのはずっと諦観の姿勢を取っていた双子だ。いよいよこの2人が動き出す。

 

「お、おい!この状況を打破できるのか!!?」

 

「当然!これを突破するなんて朝飯前!」

 

「何せ私たちこいつをどうにかする作戦をいくつも持ってるもの」

 

「ほ、本当か!!だったら頼む!!この場をどうにかしてくれーーー!!!」

 

ダストは最後の望みと思い、全ての期待を双子に賭けた。今度こそまともであってくれ、と。

 

「相手は初心者殺しだからね、慎重に行こう!」

 

「ええ・・・選択のミスが命とりだもの。油断できないわ」

 

「よし!ならここはパターン9で行こう!」

 

「何言ってんのよ?ここはパターン15しかないわ」

 

「は?」

 

「あ?」

 

初心者殺しを倒す算段を立てようとすると、そのパターン決めによって双子はお互いに突っかかってきた。

 

「ちょっとちょっと、何言っちゃってんの?パターン15?お姉ちゃん、死にたいの?」

 

「あんたこそパターン9なんて自殺行為以外の何物でもないわよ。バカなの?死ぬの?」

 

「わかったわかったって!なら百歩譲って、パターン1!これでどう!」

 

「はぁ?その作戦も死ぬっての。ならあんたに合わせてパターン30でどうよ?」

 

「はあ?」

 

「ああ?」

 

あらゆるパターンを提案しているが、双子はお互いに首を縦には振らなかった。そしてついに・・・

 

「このアホ!!!」

 

「おたんこなす!!!」

 

初心者殺しが目の前にいるにもかかわらず、双子はいつもの如く取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。この光景を目にしたダストは目が点になる。

 

「ど、どうなってんだ・・・?」

 

「どうもこうも、あの双子は意見が合わないとすぐに喧嘩を始めてしまうんですよ」

 

「・・・まさかとは思うが、これを毎日・・・」

 

「してますね」

 

めぐみんの説明を聞いて、ダストは本気で絶望した。このパーティにはまともな奴はいないのかと。

 

「て、こんなことしてる場合じゃねぇ!おいあんたら!仲間が食われかけてんだぞ⁉こんなとこで喧嘩やってる場合じゃ・・・」

 

「「邪魔すんな!!!!!」」

 

バキィッ!!×2

 

「へぶぅ!!?」

 

非常事態のため喧嘩を止めようとするダストだったが、そんなダストに双子は腹パンチをくらわされた。

 

「な・・・なぜぇ・・・」

 

「あの2人の喧嘩はヒートアップする度に今みたいに周りを巻き込んでしまうんですよ。おかげでほとんどの人が止めようとしません」

 

「なんじゃそりゃ!!?じゃあ誰があいつらを止めるんだよ!!?」

 

「普段はカズマとダクネスが止めます。あの2人もたまに巻き込まれてしまいますが、大抵は止まります。でも今はダクネスが気絶してますし、カズマもいませんから、今止めるのは難しいかもしれません」

 

めぐみんのその説明を聞いて、ダストは日頃カズマがどんな苦労をしてきたか理解し、今朝カズマに突っかかったことを激しく後悔した。

 

「そこまで言うならそのパターンでやってみれば!!?私は好きにやらせてもらうから!!」

 

「言われるまでもなく、好きにさせてもらうわ。そっちの方法がいかに生ぬるいか教えてあげる」

 

「何でもいいから早く助けてーーー!!!」

 

双子はここで仲違いをし、別々の行動をとり始め、お互いにアクアに噛みついている初心者殺しに狙いを定める。

 

「私が1番優秀なんだから!バインド!!」

 

「この私こそがパーティで1番のMVPよ。このナイフを食らいなさい」

 

ティアは初心者殺しに向かってバインド放った。そしてアカメは初心者殺しだけに向かって投げナイフを放った。しかし、バインドのロープもアカメの投げナイフも的が外れて、空を通るだけだ。

 

「あ、当たってないいいいいいいいいわあああああうえあああああああ!!!死ぬ!!このままじゃ死んじゃううううううう!!カジュマしゃん!!!カジュマしゃーーーーーん!!!!」

 

全く助かってないアクアは初心者殺しに噛まれながらウロチョロウロチョロと走り回る。思い通りに行ってない双子は互いに睨みつけ合っている。

 

「何やってんの?まったく当たってないじゃん。やっぱり私の案が1番よかったんだよ」

 

「当たってないのはそっちも同じでしょうが。それで偉そうに言っても説得力ないわ」

 

「それはお姉ちゃんが私の言うことを聞かないのがいけないんでしょ?バカじゃないの?」

 

「バカなのはあんたの方でしょ。あんたは黙って私の言うことを従ってればいいのよビッチ」

 

「はああああん!!?」

 

「あああああん!!?」

 

双子の喧嘩はこれによってさらに悪化していく。ダストはこの喧嘩に嫌気をさしているが、その前に、1つ気になっていることがある。

 

「な、なぁ・・・あいつらって本当にアヌビスの冒険者か?攻撃、思いっきり外してたが・・・」

 

「あの2人は2人で1人前の冒険者らしくて、息が合わなくなってしまうと、使用するスキルが全て中途半端になってしまうんです」

 

「じゃあ・・・今みたいに喧嘩した状態だと・・・」

 

「戦力0になってしまいます」

 

追い打ちをかけるようなめぐみんの説明にダストは目に涙を潤ませる。どうしてこんなことに?なぜ自分がこんな苦労せねばならんのだと。

 

「わあああああ!!助けて!!本当に助けて!!助けてくれたら女神の加護をあげるからあああああああ!!!」

 

「わあ!!バカ!!初心者殺しを連れてくんなぁ!!」

 

未だに初心者殺しに噛まれているアクアはその初心者殺しをダストたちのところまで連れてきた。そしてアクアが走ってきた先は未だに喧嘩している双子だ。

 

「アカメ!!ティア!!助けて!!助けて!!わああああああああ!!!」

 

「「うるっさいわあ!!!!!」」

 

バキャァ!!!!×2

 

「がうあああああ!!??」

 

アクアの泣きわめきをいい加減鬱陶しくなった双子はアクアに噛みついていた初心者殺しの顔面に強烈なパンチを浴びせる。毛で打撃を吸収してるとはいえ、顔面はさすがに初心者殺しに大ダメージを与えた。これによって初心者殺しはあまりの痛みでアクアから離れた。

 

「マジかよ!!?あいつら、あの初心者殺しに顔面パンチしやがったぁ!!?」

 

「「・・・あ・・・」」

 

「いや、待て・・・この展開はまさか・・・」

 

双子が何にパンチをしたのかというのに気が付き、顔を青ざめる。ダストは双子が初心者殺しに顔面パンチを決めたのに驚いたのもつかの間、すぐに顔を青ざめながら初心者殺しを見る。

 

「ぐおあああああああああ!!!!!!」

 

当然というべきか、初心者殺しは怒りむき出しの状態でダストたちに向かって咆哮をあげている。

 

「やっぱり怒ってんじゃねぇか!!おい、お前ら逃げ・・・」

 

怒っている初心者殺しを見たダストはすぐさまアクアたちに逃げることを提案するが、この場にはダストとアクアしか残っておらず、双子は倒れこんでいるめぐみんとダクネスを背負って真っ先に逃げている。

 

「あ!お前ら汚ねぇ!!真っ先に逃げんじゃねえ!!なんでそういうのだけ息が合うんだよ!!!」

 

「ぐおおおおおおおおお!!!」

 

「ひいいぃぃぃ!!!クエストなんてやってられるか!!こんな場所とっととおさらばしてやる!!!」

 

「わああああああ!!!待ってぇ!!!私を置いていこうとしないでえええええええ!!!」

 

ダストとアクアは怒れる初心者殺しから逃れるためにその場から離れようとする。初心者殺しは怒りに任せてダストやアクアたちを追いかけまわす。ダストとアクア、初心者殺しによる追いかけっこは1時間も続いたそうだ。

 

『討伐クエスト!!

ゴブリンの群れを一掃せよ!!

リタイア!!!!』

 

 

ーこ、このすばぁーーーー!!!!ー

 

 

何とか初心者殺しから撒き、双子たちと合流を果たしたダストはギルドまで戻ってきていた。ダストは心身共に疲弊しきっており、あまりの疲れでテーブルに突っ伏す。今日1日リーンたちと一緒にいるカズマはまだ戻ってきていない。

 

「・・・はぁ・・・」

 

ダストはため息をこぼしながら、アクアたちを見つめる。

 

「うぐ・・・えぐぅ・・・」

 

「死ねこら」

 

「あんたが死ね」

 

「「・・・・・・」」

 

アクアは未だに泣きじゃくっており、双子はまだ喧嘩の最中、ダクネスも気絶したまま、めぐみんも倒れたままだった。こんな苦労をさせられたダストはカズマが帰ってきたら今朝の非礼を詫び、仲間を返してもらおうと考える。そのためなら土下座でもすると考えるほどである。

 

「いやー、今日は大冒険したって気分で清々しいぜ!」

 

そう思っているうちにカズマたちが帰ってくる声が聞こえてきた。ギルドの扉が開かれ、案の定カズマたちが帰って来た。

 

「ただい・・・」

 

「調子に乗ったこと言ってすみませんでしたーーーーーー!!!!!」

 

「うおあっ!!?」

 

カズマたちが戻ってきたのを見計らってダストは誠心誠意の土下座をカズマに行った。驚いたカズマはアクアたちの方を見る。案の定予想通りの結果だというのが、カズマは何も聞かなくてもわかる。

 

「あんたの苦労はもうじゅーーーーーーーーーぶんに理解できた!!!あれはハーレムなんて生易しものではなかった!!!!今朝のことは心から反省してる!!!だから頼む!!!俺の仲間を返してくれ!!!!」

 

もう必死の謝罪と仲間返却の懇願をするダストにカズマはダストの肩をポンとのせ、にっこりと微笑む。

 

「なぁ、ダストっていったな?お前、今朝俺に言ったこと、覚えてるか?」

 

「へ?」

 

「俺の宣言通りになったら、何でも1つ言うことを聞くって話だよ」

 

「ま、まさか・・・」

 

カズマの思惑を察したダストは心の底から絶望が込みあがってきた。

 

「ま、これから大変な道のりになるだろうけど、今日から新しいパーティで、がんばってくれ」

 

予想的中であった。カズマの願い・・・それは、カズマがいたパーティをそのままダストに、ダストがいたパーティにそのまま自分が入れ替えることである。ダストは必死になってそれを止める。

 

「待ってくれぇ!!そんなの横暴だ!!それ以外のこと!!それ以外ならなんでもする!!靴を舐めたっていい!!だから頼む!!仲間を返してくれぇ!!」

 

「おーい、皆ー、腹も減ったし、とりあえず飯でも食おうぜ。新しいパーティ結成に、乾杯しようぜ」

 

「「「おおおおおっ!」」」

 

カズマのこの一声でリーンたちは喜びの声を上げている。どうやら同じゴブリン討伐でも、充実したクエストだったらしく、リーンたちもカズマのパーティ入りには大賛成らしい。まさかの仲間たちも乗り気でダストは必死にカズマを説得する。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれぇ!!!いや、待ってください!!!今朝のことは本当に謝りますから!!!それ以外の言うことは何でも聞きますから!!!俺の仲間を返してください!!!!」

 

もはやなりふり構わないダストは必死の敬語でカズマを説得するのであった。

 

その甲斐あってか、ダストはリーンたちのパーティに戻ってきて、カズマはアクアたちのパーティに戻っていった。それにはダストは泣きながら喜んでおり、カズマはまた苦労させられるのかと深い悲しみを抱いたのであった。

 

 

ーこのすばぁ!!!(泣)ー

 

 

「あ、あのぅー・・・カズマさん?私たちのこれからの評価は・・・」

 

「変わるわけねぇだろ。寝言は寝て言えやポンコツども」

 

パーティに戻ってきたカズマからのこの言葉を聞いたアクアたちは全員ショックで手と膝を地に付けたのであった。




ティアです。今日は報告代わりに、シーフの心構えを1つ。

シーフは盗賊より迅速に、そして華麗に得物を盗む。
その姿は影の如く、まるで闇に紛れるアサシンの如く。
その華麗なる姿により、老若男女問わず大人気。
あまりの人気ぶりにより、大行列の嵐となり、一時は社会的問題を引き起こすであろう。

報告書作成者、ティア

頭の一言:これ、心構えじゃなくて、ただの願望だろ。後、報告書にこんなのを書くんじゃない。

次回、この幽霊屋敷に愛の手を!


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この幽霊屋敷に愛の手を!

今日はカズマの口から珍しく仕事は休みということで、双子はウィズ魔道具店のリビングでその名の通り、つかの間の休息を取っていた。アカメはソファに寝転がり、お気に入りの本を読んでおり、ティアはキッチンで暖かい紅茶とクッキーを作っている。

 

「お姉ちゃん、クッキーにジャム入れようと思うんだけど・・・何がいい?」

 

「何でもいいわよ別に」

 

「出たよその発言。それ1番困るワードだからやめてよ」

 

「ジャムなんてどれをつけたって甘ったるいんだから同じよ。あんたの好みに任せるわ」

 

「めっちゃムカつく・・・。本当に私の好みにするよ?後で文句は受け付けないよ?それでもいいの?」

 

「だからいいって言ってるでしょ。そんなことで読書の邪魔をしないでちょうだい」

 

いかにも口喧嘩が発展しかねているが、せっかくの休日に無駄な時間を費やしたくない双子は口の刃は引っ込め、ティアはクッキー作り、アカメは読書の続きを再開する。

 

「それにしても、今日は休みでいいだなんて・・・カズマもたまにはいいこと言うよね」

 

「まぁここ連日、借金返済のために働きっぱなしだったし・・・たまの休日でももらわないと、やってられないって思ったんでしょ」

 

「確かに・・・特にこの前なんて、初心者殺し騒ぎで大変だったし」

 

「あれは主にチンピラクズの采配が原因でそうなったんでしょうが」

 

以前のクエストの失敗をダストに押し付けている辺り、全く悪びれた様子がない双子。悪びれていないといえば、他のメンバーも同じだが。

 

「まぁね。はい、お姉ちゃんの紅茶。それから、クッキー」

 

「ん、ご苦労様」

 

テーブルにティア特製の紅茶とクッキーが並べられた。双子は紅茶を一口すすり、そしてクッキーに手を伸ばそうとすると・・・

 

「あああああああああああ!!!」

 

「・・・うるさ・・・」

 

「今の声・・・アクア?」

 

店の方からアクアの怒号のような声が響いてきた。休日にアクアの声が聞こえたことで機嫌が悪くなったアカメはすぐに本を閉じて店の方へ向かっていく。ティアはそんなアカメについていく。アカメが店の方の扉を開けると・・・

 

「出たわねこのクソアンデッド!!こんなところで店を出してたの!!?私が馬小屋で寝泊まりしてるってのに、あんたは店の経営者ってわけ!!?」

 

案の定というべきか、アクアがウィズに難癖をつけて絡んできている。その光景を見たティアは何とも言えない表情をしており、アカメはより一層不機嫌になり、アクアに近づいていく。

 

「リッチーのくせに生意気よ!!!こんな店、神の名の元に燃やし・・・」

 

「人ん家まで来てまで迷惑をかけに来たのかしらあんたは」

 

げんこつっ!!!!

 

「ひぎゃ!!?ああぁぁ・・・」

 

あまりにやかましいアクアにアカメはきつめのゲンコツをお見舞いさせて黙らせる。アクアが痛みで蹲ってる間にティアがウィズに駆け寄る。

 

「ウィズー、大丈夫ー?」

 

「は、はいぃ・・・大丈夫、ですぅ・・・」

 

「はぁ・・・で、バカがここにいるってことは・・・」

 

「ああ・・・せっかくの休みに悪いな、このバカが突っ走って」

 

アクアがここにいるということは高確率でカズマがいるという双子の予想は大正解で案の定、店の出入り口にはカズマも来ていた。

 

「ああ・・・カズマさん!」

 

「よう、ウィズ。久しぶり。約束通りに来たぞ」

 

カズマはフレンドリーな接し方でウィズに挨拶を交わした。

 

 

ーこのすば!-

 

 

ウィズ魔道具店にやってきたカズマとアクアはウィズがわざわざ用意してくれたテーブルの椅子に腰をかけた。

 

「・・・ふん、お茶も出ないのかしら、このお店は」

 

「あ、す、すみません!すぐに持ってきます!」

 

「ああ!いい!いいって!ウィズはそのままで!ちょうど紅茶入れてたとこだったし、すぐに持ってくるから!お姉ちゃん、アクアがバカやらかさないように見張っててよ」

 

文句を垂れてお茶を要求しようとするアクアにウィズが応答しようとしたが、その役目はティアが引き受け、アカメがアクアの見張りを行う。

 

「茶飲んだらさっさと帰りなさいよバカ」

 

「ちょっと!今バカって言った⁉お客様に、女神に向かってバカって!!」

 

「あんたのこと、客とも女神とも思ってないわよ。むしろ害虫でしょ?」

 

「なんですって!!!!」

 

「お前はいちいち突っかかるな。お前もアクアを煽るな」

 

言い争いに発展しかけているアクアとアカメをカズマが止める。その後カズマは魔道具店の商品をじっくり眺め、商品に手を取る。

 

「あ、それは強い衝撃を与えると爆発しますから気を付けてくださいね」

 

「げっ、マジか・・・じゃあこれは?」

 

「あ、それは蓋を開けると爆発するので・・・」

 

「・・・これは?」

 

「水に触れると爆発します」

 

「こ、これは・・・?」

 

「温めると爆発します」

 

「この店は爆薬しか置いてねーのか!!?」

 

「ああ、そこは爆発物シリーズが置いてあるって話よ」

 

爆発物のポーションしか置いてないのに対し、カズマがツッコミを入れたが、アカメが淡々に事実を述べる。爆発シリーズってなんだよとカズマは心の中で思った。

 

「お待たせー。これで少しは黙ってよね。カズマもウィズもどうぞ」

 

「むー・・・」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「お、サンキュー」

 

そこへ紅茶を持ってきたティアがここにいる全員に紅茶を手渡す。未だに不服そうにしているアクアは出された紅茶をすする。

 

「!おいしい・・・」

 

「お、確かにうまいな」

 

「わぁ・・・おいしいです」

 

ティアの入れた紅茶は普段ウィズがいれるお茶よりも絶品でそれはアクアやカズマ、ウィズの顔に表れている。

 

「・・・ふん、リッチーのくせに店を構えて、アンデッドのくせにティアの紅茶を毎日堪能して・・・」

 

「すいません!!すいません!!私なんかがこんな贅沢しちゃって・・・」

 

「ていうか、毎日作ってはいないんだけどね」

 

「小姑みたいな嫌味はやめろ」

 

嫌味を言いまくっているアクアにたいして、アカメはイライラしながらも、カズマたちがここに来た目的を問いだす。

 

「・・・で?人の休日を潰してまで、いったい何しに来たのよあんたは」

 

「ああ、ほら、前にウィズがリッチーのスキルを教えてくれるって言ったじゃん?」

 

「ああ、そういえばそう言ってたね。それで、ウィズに会いに来たと」

 

「そういうことだ。だからウィズ、スキルポイントに余裕ができたから、リッチーのスキル、何か教えてくれよ」

 

「ぶーーーー!!?」

 

カズマがリッチーのスキルをウィズに教えてほしいと言うとアクアは口に含んでいた紅茶を吹き出した。

 

「ちょっと!!何考えてんのよカズマ!!リッチーのスキル?リッチーのスキルって言った今!!女神の従者がリッチーのスキルを覚えるだなんて到底見過ごすなんてできないんですけど!!」

 

「誰が従者だ誰が!!」

 

やはり女神としての職業柄なのかカズマがリッチーのスキルを覚えることに断固として反対していた。

 

「いい?リッチーってのはね、薄暗くてじめじめしたところが大好きな、言ってみればナメクジの親戚みたいな連中なの!!」

 

「ひ、ひどい!!」

 

あんまりなアクアの言い分にウィズは涙目である。

 

「ふーん・・・じゃあ、馬小屋で生活しているあんたたちは、そのナメクジの親戚以下の存在よね。いうなれば、馬の糞ね」

 

「おっと、辛辣な言い方ですね。てか俺も含まれてんのかよ」

 

アカメの度を越えた辛辣な言い方にカズマはこめかみをひくひくさせ、アクアは涙目になってアカメに突っかかろうとする。

 

「なんですってーーー!!!この・・・」

 

「ふん!!!」

 

ガシッ!!ぎゅうううううううう!!!!

 

「ぎゃあああああああああ!!!!痛い痛い痛い痛い!!!!手がああああああああ!!!!」

 

「アークプリーストのクソ雑魚如きが私と力比べなんて百年早いのよ」

 

「お姉ちゃんやめたげて!!!それ以上はアクアの手が折れちゃうよ!!!!」

 

だがつかみかかろうとした手は逆にアカメに掴まれ、力強く握られ、アクアは泣きながら喚いている。元々のアカメの腕力が強いため、さすがにティアが止めに入る。

 

「いいかアクア、俺たちのパーティはバランスが悪い。だったらせめて俺が1つでもスキルを覚えて強くした方がいいだろ。それに、リッチーのスキルなんて、普通は覚えられないだろう」

 

「あ、それは確かに!リッチーのスキルを覚えられる冒険者ってカズマが初じゃない?私もお姉ちゃんも大賛成だよ」

 

「ふっ・・・初・・・か・・・。なんかいいな、それ!てことで、多数決の結果なんだ、悪く思うなよ」

 

「ううぅぅ・・・私女神なのに・・・どうして・・・私の意見は通らないの・・・」

 

リッチーのスキルを覚えられる初の冒険者と聞いて、カズマは少し浮かれている。一方のアクアは強めに握られて手を痛めたのと意見が通らないことに涙目である。

 

「あのぅ・・・さっき、女神って・・・」

 

アクアの発言を聞き取ったウィズは純粋に疑問を抱いていると、アクアは急に元気になり、調子に乗り始めた。

 

「そうよ!私はアクア・・・そう!!アクシズ教団に崇められている女神、アクアよ!!控えなさいリッチー!!!」

 

「ひいいいいい!!?」

 

アクアがアクシズ教団が崇めている女神と聞いたウィズは悲鳴をあげながら恐れ戦いている。

 

「おいウィズ、そんなに怯えなくても・・・」

 

「い、いえ・・・その・・・アクシズ教団の方は頭のおかしい人が多く、関わり合いにならない方がいいというのが世間の常識なので・・・」

 

「「間違ってはない!あいつら頭おかしいし!」」

 

アクシズ教団の世間一般の常識を聞いて双子はウィズの言葉を最後まで聞かず、激しく同意した。

 

「ちょっと!!どうして2人とも私をフォローしないの!!?私、本物の女神なのよ!!?」

 

「うるさい偽女神!!私は調子に乗りまくってるあんたが気に入らなくてしょうがないのよ!!そもそも、アクシズ教徒嫌いの私たちが、アクシズ教徒を味方してるあんたに、どうしてわざわざフォローしなくちゃいけないのよ!!!」

 

「アクアが本物の女神ならあの頭のおかしい連中をどうにかできるでしょ?ほら、さっさと行って来てよ!!愚かな行為をしないでくださいって言って来てよ!!それができないから見栄を張ってるだけでしょこの疫病神!!!」

 

「わ、わああああああ!!!2人が言っちゃいけないことを言ったぁ!!どうして私の信者の子をそんなに嫌うの!!?あの子たちは本当にいい子たちなの!!自慢の子なの!!お願い、信じて!!!」

 

「「信じられるかアホ!!!!」」

 

「わあああああああああん!!!!」

 

双子にボロクソに言われてアクアはその場で泣き出してしまう。あの双子がここまでひどいことを言い、アクシズ教徒を嫌っていることから、よっぽどの目にあったんだなとカズマはそう思った。

 

 

ーこのすば!!!!-

 

 

カズマが相当頭にきている双子を落ち着かせ、アクアも励ますことでようやく場は落ち着いた。機嫌が戻ったアクアは魔道具店の魔道具をウキウキしてる様子で眺めている。その様子に双子はしょうがないといった様子で眺めている。

 

「そういえば、お2人から聞いたのですが、カズマさんはあのベルディアさんを倒されたそうで・・・」

 

「ベルディアさん?」

 

「あの方は魔王軍幹部の中でも剣の腕は相当なもののはずだったのですが・・・すごいですね」

 

魔王軍幹部の1人であるベルディアをやたらと知っているようなウィズの口ぶりにカズマは疑問符を浮かべる。

 

「なんかベルディアを知っているような口ぶりだな」

 

「ああ・・・私、魔王軍の10人の幹部の1人ですから」

 

「確保ーーーーー!!!!」

 

「きゃあああああああああ!!?」

 

ウィズのさりげないカミングアウトにアクアはウィズを捕える。まぁ、さりげなくとはいえ、魔王軍幹部の1人だと聞けば、当然の行動だが。

 

「待って!待ってくださいアクア様!お願いします!話を聞いてください!!」

 

「やったわねカズマ!!これで借金なんてチャラよ、チャラ!!それどころかお釣りが来るわ!!」

 

「いや、ウィズを浄化したところで金は入ってこないわよ」

 

「へ?」

 

アクアはウィズを浄化させようとしているが、アカメが討伐したところでお金は入ってこないと伝えると目が点になる。

 

「なぁ、どういうことだ?さすがに魔王軍幹部となると、冒険者としては見逃せないんだが・・・。お前らはウィズからそういう話は聞いてるのか?」

 

「うん。ウィズの言ってることは本当のことだよ。でもそれは魔王城を守る結界の維持を頼まれてるだけの、いわばなんちゃって幹部なんだって」

 

「なんだそりゃ」

 

「だから当然、人を殺してるなんてことはないんだよ。だから討伐報酬もなし。というかそもそも、賞金だってかけられてない。だよね、ウィズ」

 

カズマの疑問にティアが丁寧に答える。ウィズは同意するように強く首を縦に頷いている。

 

「わかったらさっさと離れなさい。さもないと手首を本当に折るわよ」

 

「ひい!!降りる!降りますから!」

 

アカメに手首を折られることを恐れたアクアはすぐにウィズから離れる。ちなみに双子がウィズが魔王軍幹部だと知ったのはベルディアを倒した後で、双子もアクアと同じようなことをやっていたことがあった。

 

 

ーこ・の・す・ば!!ー

 

 

アクアがウィズから離れたところで本題に戻る。

 

「じゃあつまり、なんだ。幹部を全部倒すと魔王の城への道が開けるとか、そんな感じか?」

 

「そういうことです!魔王さんに頼まれたんです!人里でお店を経営しながらのんびり暮らすのは止めないから、幹部として結界の維持だけ頼めないかって・・・」

 

「つまり、あんたがいる限り人類は魔王城に攻め込めないってわけね。カズマ、退治しておきましょう」

 

話を聞いてもなお、ウィズを退治したがるアクア。ウィズは慌てて何とかアクアを説得しようとする。

 

「待って!待ってください!せめてもう少しだけ、活かしておいてください!!私には・・・まだやることがあるんです・・・」

 

「私なら結界くらい破れるけどね。リッチーだし退治・・・」

 

「したら本当に手首・・・」

 

「なんて言いませんよねー?ねぇ、カズマさん?」

 

「俺かよ!!?て、おい!お前も視線を俺に向けんじゃねぇ!!」

 

本当に退治しようとしたアクアだがアカメに痛い目に合わされたくないためそれをカズマに振った。アカメのその視線はカズマに変更された。

 

「私からもお願いだよカズマ。結界破れるって言っても、魔王軍幹部は10人いるんだよ?さすがのベルディアとウィズを倒しても残りは8人、アクアでもそんな状況じゃ結界は破れにくいでしょ?」

 

「むむむ・・・それは、確かに・・・ここに来て力も一部弱まってるから、それだけ多かったら、破れるのはせいぜい2、3人じゃないと限界かも・・・」

 

「それに・・・ウィズにはお世話になってるし、ウィズを倒されると、こっちが非常に困るの。砂漠にいるギルドマスターとも仲いいから、こんなことが知られたらその人に叱られちゃう」

 

ティアも説得をしたおかげでアクアの考えも思いとどまる。最終的な判断をするのはカズマだが、カズマの考えはウィズの話を聞いた時から決まっている。

 

「どっちにしろ今結界を解いたところで、俺たちのレベルじゃ魔王は倒せないんだ。・・・首チョンパされるのがオチだ。それに、2、3人でいいなら倒す必要もないだろ。だったら、見逃してやろうぜ」

 

「・・・わかったわよ・・・」

 

「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

カズマの最終判断もあるということで、あまり無下にできないアクアは納得できないながらも渋々了承した。見逃してもらえてウィズはカズマに深く感謝している。

 

「でもいいのか?ベルディアを倒した俺たちに恨みとか・・・」

 

「ベルディアさんとは、特に仲が良かったとかそんなことはなかったですからね。私が魔王さんのお城を歩いてるとよく足元に自分の首を転がしてきて、スカートの中を覗こうとする人でした・・・」

 

「完全なる変態ね、あの首なし【ピーー―ッ】野郎・・・」

 

「私、ベルディアはまともなアンデッドだと思ってたのに・・・」

 

ベルディアが実はセクハラ行為を行っていたことを聞いて、双子は冷めた顔をしている。それはカズマとアクアも同じだし、ウィズも頬を赤らめている。

 

「幹部で仲が良かったのは1人だけしかいません。その方は簡単に死ぬような人でもないですから。それに・・・今でも心だけは、人間のつもりですしね」

 

ウィズはにっこりと微笑みながらそう口にした。一緒に過ごしてウィズのことをよく知っているティアはそれには連れて笑みを浮かべ、アカメは呆れたように頭をかいている。

 

「そっか。なら話は終わりだ。それでウィズ、早いところスキルを教えてくれるか?」

 

「はい。それでは、私のリッチーのスキルを教えますね。以前私を見逃してくれたせめてもの恩返しを・・・」

 

ウィズがリッチーのスキルを教えようとしたところで少々困ったような表情になる。

 

「どうした?」

 

「あの・・・リッチーのスキルは相手がいないと使えないものばかりでして・・・その・・・誰か1人でも手助けてしてもらえないかと・・・」

 

どうやらリッチーは対人専用のスキルが多いらしく、誰かがそのスキルを受けないと教えられないらしい。

 

「アカメ、悪いがウィズのスキルを受けてくれないか?」

 

「は?何で私なのよ?ティアがいるじゃない」

 

「ねぇ2人とも、今さりげなく私を選択肢から除外したわよね?」

 

ウィズのスキルを受ける相手がアカメに指名された。それにはアカメは当然しかめっ面になる。最初から選択肢から外されたアクアは不服そうだ。まぁ、選ばれたとしてもアクアは嫌そうな顔はしそうだが。2人はそんなアクアを無視して話を進める。

 

「ティアはそんなに丈夫ってわけでもないからだよ。戦いだってサポート専念タイプだし。それに引き換えお前は戦闘に参加してる分、ステータスはティアより高いから多少は頑丈にできてるだろ?だからだよ」

 

「あのね、シーフはクルセイダーと違って固くないんだから耐久力がそんなにあるわけないでしょ。お断りよお断り」

 

「そこをなんとか頼むよ。ウィズに免じてさ・・・それに、アクアなんかに任せたら、何やらかすかわかったもんじゃない」

 

「・・・・・・・・・・・・はぁ・・・仕方ないわね。確かに、アクアに任せたら浄化しそうだわ」

 

「ねぇ、2人とも、私のことをなんだと・・・」

 

「ウジ虫」

 

「ウジ・・・!!?」

 

カズマはアクアを例に出して、何とか説得する。長い沈黙はあったが、渋々ながら了承した。例に出されたアクアは突っかかってきたがアカメの直球の返答に涙目である。

 

「で?どんなスキルを使うのよ?」

 

「え、えーっと・・・ドレインタッチなんてどうでしょう?相手の体力や魔力を吸い取ったり、逆に相手に分け与えたりするスキルです」

 

「なるほど・・・それを使えればめぐみんの魔力切れを補えるかもな・・・」

 

リッチーのスキルの1つ、ドレインタッチの有用性を理解するカズマ。

 

「も、もちろん、ほんのちょっぴりしか吸わないので・・・」

 

「何でもいいわよ。吸うならさっさと吸いなさい」

 

さっさと終わらせたいのかアカメが急かすように手を差し出し、ドレインタッチを使うように促す。

 

「ではアカメさん、失礼しますよ。具合が悪くなったらすぐに言ってくださいね」

 

ウィズはアカメの手を取り、ドレインタッチを行う。傍から見れば普通に手を取り合っているようにしか見えないが、変化はすぐに訪れた。

 

「・・・うあっ・・・」ふらぁ・・・

 

「お姉ちゃん⁉」

 

「あ、アカメさん⁉大丈夫ですか⁉」

 

突然としてアカメがほんの少しふらついた。その様子にはティアが駆け寄り、ウィズもドレインタッチを中断する。

 

「だ、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫よ。これが魔力を吸われる感覚って奴なのね」

 

「すみません、すみません!すぐに魔力を戻します!」

 

ウィズはスキルを教えるためとはいえ、アカメに負担をかけさせて申し訳ないと思い、すぐにドレインタッチでアカメの魔力を戻す。

 

「・・・ほぁ・・・なんか気持ちいいわ・・・」

 

「わっ、今度はすごい気持ちよさそう・・・ドレインタッチっていいのか悪いのかよくわからないね・・・」

 

魔力を戻される感覚は気持ちいいらしく、アカメの顔に表れている。何はともあれ、これでカズマの冒険者カードにドレインタッチの項目が追加され、カズマはドレインタッチを覚える。

 

「これでドレインタッチ習得完了っと・・・ありがとな、ウィズ」

 

「い、いえいえ、お役に立てて何よりです」

 

ドレインタッチを習得し、カズマがウィズにお礼を述べた時、店の扉が開かれた。

 

「ごめんください、ウィズさんはいらっしゃいますか?」

 

店に入ってきたのはこの街の不動産屋の男性だった。

 

 

ーこのすばー

 

 

不動産屋の男性がやってきた理由はとある屋敷に住まう悪霊退治をウィズに依頼するためらしい。何でも最近その屋敷に悪霊が何体も住み着き、悪霊を祓っても祓っても新しい悪霊が住み着いてしまうのだとか。冒険者ギルドでも依頼を出しているようだが、初めての事態らしく、キリがないようでウィズに依頼してきたのだ。ウィズは何でも元はかつて名が轟いた魔道の勇者と並ぶほどの高名の魔法使いらしく、アンデッド関連の案件はよく持ち込まれるらしい。この案件に女神としての性分なのかウィズに頼むのが納得いっていないアクアが無理を言って引き受けてしまったのだ。そして現在カズマたちは、休みにも関わらずギルドにいためぐみんとダクネスを連れてその例の屋敷の前にやってきていた。

 

「ここがその例の屋敷か・・・」

 

「悪くない・・・悪くないわ。この私が住むのに相応しいんじゃないかしら!」

 

「しかし・・・除霊の報酬としてここに住んでいいとは、太っ腹な大家さんだな」

 

「災い転じて福をなす、とはよく言ったものね。特に馬の糞2人は」

 

「あああああ!!また私のこと馬の糞って言った――!!」

 

「俺はこいつの毒には、すっかり慣れたよ」

 

今回の除霊の仕事は報酬としてこの屋敷に住んでいいため、カズマたちは全員ここに住む気満々で各々が荷物を持っている。

 

「というかお前ら、ウィズのとこ離れてってもよかったのか?住みやすかったんじゃ・・・」

 

「いいのよ。元々私たちの住まいが決まるまでっていう約束だもの」

 

「お店の方はこれまで通り手伝うし・・・。そして何より、いつまでもウィズに甘えてばかりもいかないから、むしろちょうどいいんだよ」

 

「ならいいんだが」

 

カズマは居候であった双子がウィズの店から離れてもよかったのかと思ったが、2人もこう言ってるのなら気にしないようにする。

 

「それにしてもここ、元々はとある貴族が住んでた屋敷なんですよね」

 

「アクア、本当に大丈夫?大家さんが言うには、祓っても祓ってもキリがないって話だけど・・・」

 

「ふふん、任せなさい!私は女神にしてアークプリースト・・・言うなれば対アンデッドのエキスパートよ!」

 

「また女神って言ってるし・・・懲りないなぁ・・・」

 

アクアはさっそく自身の能力をフル活用し、この屋敷に潜んでいる悪霊たちの存在を確認する。

 

「見える・・・見えるわ・・・この屋敷には、貴族が遊び半分で手を出したメイドとの間にできた子ども、その隠し子が幽閉されていたようね。元々身体の弱かった貴族の男は病死、隠し子の母親のメイドも行方知れず・・・この屋敷に1人隠された少女はやがて若くして父親と同じ病に伏して・・・」

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

細かすぎる設定を語りだしたアクアにカズマたちは冷めた目でアクアを見つめ、そしてキリがないと判断し、語っているアクアを置いて屋敷の中へと入っていく。

 

「なんでそんな余計な設定までわかるんだってツッコミたいんだが・・・」

 

屋敷に入りながらカズマはそんなことを呟いた。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

この屋敷に入ってまずカズマたちがやったのは掃除である。長く使われていないため、汚いところが多かったが、カズマたち5人が協力することで夕方までかかったが、一通りはきれいになった。

 

「これで一通り掃除が終わりましたね」

 

「部屋割りも決めたし、荷物も運びこんだ。後は夜を待つだけだ」

 

「もう夕方になったね。私、晩ご飯の準備をするよ」

 

「楽しみにしてます!」

 

掃除を終えたティアは晩ご飯の準備をするため屋敷にある厨房へと向かっていった。

 

「さすがに埃っぽいわね・・・。空気の換気でも・・・あ・・・」

 

「ん?どうし・・・」

 

アカメが空気の換気のために窓を開けた時、何かを見て冷めた顔になっている。それに気づいたカズマも覗き込んで、冷めた顔に。

 

「アンナ・フィランテ・エステロイド・・・好きなものはぬいぐるみ人形・・・そして冒険者たちの冒険話!でも安心して、この霊は悪い子じゃないわ。おっと、でも子供ながらちょっと大人ぶったことが好きのようね!」

 

「「・・・・・・」」

 

窓の外には未だにアクアが屋敷の幽霊の細かい設定を語っている。冷めた顔をしたアカメはそっと窓を閉じた。

 

「・・・んじゃ、各自自由行動ということで!悪霊が出たら、すぐに連絡すること!解散!!」

 

カズマはあれを見なかったことにして自由行動を宣言する。アクアを見てなかっためぐみんとダクネスはきょとんとした顔になっていた。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

夕食を食べ終えた頃には全員各各々の部屋へと向かっていっていた。ちなみに双子は盗賊団アジトの時も、ウィズの店の時も2人で1部屋でいたため、この屋敷でも部屋は同じ部屋になっている。ただし、今回はいつもの部屋とは1つだけ違っていた。

 

「1部屋にベッドが2つあってよかったね、お姉ちゃん。これで快適に寝られるよ」

 

「・・・ええ・・・そうね・・・!おかげさまで・・・ちゃーーーんと寝られそうだわ・・・!」

 

いつもは1つのベッドで2人一緒に寝ていたが、今回はベッドが2つある。ゆえに1つのベッドで個人1人だけで寝られるのは双子にとってはありがたい話である。特に貧乳のアカメは寝ている時にティアの大きな胸を背中に当てられて嫌でも意識してしまうため、非常にありがたかった。

 

「はー、それにしても私たちが屋敷に住むことになるなんて夢にも思わなかったよ」

 

「・・・そうね。私たちには縁がない話だと思ってたし」

 

「無理に話を引き受けたアクアには感謝だね」

 

「あいつもたまには役に立つことがあるわね」

 

盗賊である自分たちがまさか貴族の屋敷に住めるとは思っていなかったが、屋敷暮らしはちょっとは夢見てたため、それが叶ってティアはちょっとにやけ顔になっている。アカメも口元に笑みを浮かべている。

 

「あ、でも・・・今はここ、幽霊屋敷になってるんだよね・・・?大丈夫かな・・・?呪われたりして・・・」

 

「アクアがいるんだし大丈夫でしょ。あいつが悪霊を野放しにすると思う?」

 

「思わ・・・ないけど・・・でも・・・」

 

「それに・・・手は打ってあるわ」

 

「ああああああああああああああああ!!!???」

 

「!!?今の・・・アクアの声!!?」

 

双子が悪霊のことについて話していると突如としてアクアの悲鳴が聞こえてきた。アクアが心配になったティアがアクアの部屋まで駆け付ける。アカメもそれについていく。

 

「アクア、大丈夫!!?何があったの!!?呪われてないよね!!?」

 

「アクア、入るわよ」

 

「ふ・・・二人とも~・・・」

 

アクアの部屋に入るとそこにはアクアがめそめそと泣いていた。・・・空の酒瓶を持って。

 

「・・・おい」

 

「こ、これは大事にとっておいたすごく高いお酒なのよ・・・。お風呂から上がったらゆっくりとちびちびと大事に飲もうと楽しみにしてたのに・・・。それが私が部屋に帰ってきたら、見ての通り空だったのよーーーー!!!うわああああああああ!!!!」

 

自分たちにとっては非常にどうでもいいことで悲鳴を上げていたアクアにたいしてティアは本当に冷めた顔をしている。

 

「そう、それは残念ね。いったいどんな悪霊の仕業なのかしらね」

 

「え・・・」

 

「悪霊!そうよきっと悪霊の仕業に違いないわ!!ちょっと私、屋敷の中を探索して、目につく霊をしばき倒してくるわ!!うおりゃああああああああああ!!!出てこいやああああああああ!!!」

 

アクアは霊にたいして怒り狂い、部屋を出ていった霊を見つけてはターンアンデッドをかけまくった。ついでに花鳥風月も披露した。

 

「はっ、やっぱバカね。霊がどうやって酒を飲むのよ」

 

「ねぇお姉ちゃん、アクアのお酒、なんか心当たりあるの?」

 

「・・・ティア、今晩飲んだお酒、おいしかったかしら?」

 

「え?ああ・・・そういえば・・・いつも飲むシュワシュワより結構おいしかったような・・・て、まさか・・・」

 

アカメの突然の質問にティアは勘づいたような顔をし、信じられないといった顔になっている。

 

「そうよ。私がこの酒瓶を取ってめぐみん以外の全員に提供したわ」

 

「うわぁ・・・お姉ちゃんが珍しく手伝ってくれるって言ってたのって・・・引くわー・・・」

 

アクアが騒ぐ元々の原因を作ったのはアカメで、それらをめぐみんを除いたメンバーたちに提供したようだ。ティアはその事実を結構引いている。

 

「ま、これで怒り狂って悪霊退治に専念してくれてる・・・計画通りだわ」

 

「でもアクア、さっきお風呂上がりの楽しみにって言ってたよ。かわいそうじゃない?」

 

「高級酒の味を見抜けなかったあいつがマヌケなだけよ。それにね・・・」

 

アカメはにっこりと微笑んだ後・・・ゆっくりと悪党が浮かべるようなゲスい笑みを浮かべていく。

 

「アクアの思惑を潰すのが、何より楽しいんじゃない・・・」にこぉ・・・

 

「ゲスだ!!!ここに本物のゲス女がいる!!!」

 

アカメのあまりにゲスい発想にティアはそう言わずにいられなかった。

 

「どっちにしても、高級酒を飲めたのだからよかったじゃない。ふわぁ・・・眠・・・さっさと寝ましょう」

 

「え・・・う、うん・・・」

 

眠そうにしているアカメはせっせと自分たちの部屋に戻っていく。一方のティアは何やら不安そうにしながら部屋に戻っていった。

 

 

ーこのすばー

 

 

部屋に戻った後、双子はと就寝に入る。アカメはベッドでぐっすりと寝息をたて、とても気持ちよさそうに眠っている。

 

「・・・お姉ちゃん。お姉ちゃん」

 

するともう1つのベッドで寝ていたティアがアカメをゆすって起こそうとしている。ゆすられて起きたアカメは明らかに不機嫌そうに、眠そうにしながらティアを見る。

 

「・・・何よ。睡眠の邪魔をしないでちょうだい・・・」

 

「あ・・・あのさ・・・今日は・・・一緒に寝ない?」

 

「はあ?」

 

ティアの提案にアカメはわけわからないといった声を上げる。

 

「あんた、何言ってんのよ?それやったらいつもとなんも変わらないじゃない」

 

「そうなんだけど・・・そうなんだけどさ・・・」

 

「わかってるなら自分のベッドに戻りなさい」

 

アカメは門前払いするかのようにそう言って寝がえりをうつ。そんなアカメの意図を無視するかのようにティアはアカメのベッドに入り込む。

 

「ちょっと、勝手に入らないで」

 

「お願いだよ。今日だけ、今日だけだから・・・」

 

「あんたまさか、幽霊が怖いとか言わないでしょうね?」

 

「ち、ちちち、違うよ!!幽霊なんか・・・幽霊なんか怖くなんかない!!」

 

明らかに声が強張っているが、アカメはいちいちそれに付き合ってる暇はない。

 

「だったら自分のベッドに早く戻りなさい。てか狭いのよ、私のベッドから出ていけって」

 

「嫌だ。今日は意地でもお姉ちゃんのベッドから出る・・・わけ・・・には・・・」

 

ティアが自分のベッドに視線を向けた時・・・そこには・・・いた・・・。さっきまでは存在するはずがなかった・・・1つの女の子の人形が。

 

「わ・・・わああああああああああああああ!!!!!????」

 

それを見たティアはすぐにアカメのベッドから出ていって、さらには逃げるように部屋からも出ていった。

 

「・・・たく・・・ふわぁ・・・」

 

ベッドから出たのを確認したアカメはすぐに再び就寝する。アカメが目を閉じて眠りにつこうとしたのを見計らったかのように、アカメにずしんとした重みが乗った。

 

「・・・・・・」ムカッ

 

アカメが再びを目を開けると・・・それは・・・あった・・・。絶対になかったはずの女の子の人形が・・・それはもう・・・大量に・・・

 

ガシィ!!!メキメキメキ!

 

怖がるのかと思いきやアカメは人形の1個の頭を鷲掴みにする。かなり強い力がこもってるのか人形にメキメキと音をなっている。

 

「いい加減にしなさいよ・・・こっちは寝たいって言ってんの。幽霊だかなんだか知らないけど・・・私の睡眠を妨害して・・・このまま寝かさないつもりじゃないでしょうね、ああ?殺すわよ」

 

「・・・・・・」じわ・・・

 

不機嫌が限界に達したのかアカメの顔はまるで般若のように恐ろしかった。メキメキと音とたてている人形は出るはずもない涙を流している。幽霊人形が恐れをなしてか人形全員は双子の部屋から出ていった。掴まれた人形も他の人形についていった。

 

「・・・たく・・・幽霊ごときに何ビビってんだか・・・ふわぁ・・・」

 

アカメは何事もなかったかのように3度目の就寝に入る。人形にとり憑いた幽霊を潰そうとする辺り、メンバーの中で1番図太いのかもしれない。

 

 

ーこのすばー

 

 

幽霊人形から逃げたティアは廊下で息を整え、先程目にした光景を振り返る。

 

「はぁ・・・はぁ・・・え?何あれ何あれ?あんな人形部屋に置いてあったっけ?やばい、怖いんですけど・・・」

 

さっきは否定していたが、ティアは実は実態がない幽霊の類いがかなり苦手なのである。アンデッドはともかく、あのように急に現れた人形や幽霊などを見ると冷静さを失うのだ。

 

「・・・ああ、きっとあれは普通に私が置いた人形だうん、そうに違いない。だって動くなんてありえるわけないし・・・追いかけたりなんて・・・」

 

急に現実逃避をし始めたティアは回れ右するように体を振り返った。振り返った先で、アカメから逃げていった幽霊人形が大量にこっちに近づいて来ている。

 

「わ・・・わああああああああああ!!!夢じゃないいいいいいいいいいいいああああああああああああああ!!!!!」

 

幽霊人形が動いているのを見たティアはアクア並みに泣きわめきながら幽霊人形から逃げていく。

 

「なにこれなにこれなにこれええええええああああああああ!!!!怖い怖い怖い怖い!!!!助けて!!!!誰か助けてお姉ちゃん助けて!!!!」

 

ティアは必死に幽霊人形から逃げていき、アクアの部屋まで辿り着いた。

 

「アクア!!!!アクアさん!!!!アクア様!!!!お願い本当に助けて!!!!」

 

ティアはあまりの必死さでアクアの部屋に勝手に入り、ドアを閉める。部屋に入って安堵していると・・・ティアは見た。短い黒髪に・・・紅く怪しく輝く瞳の少女を・・・。

 

「ふわああああああああああああああ!!!???」

 

「ひゃああああああああああああああ!!!???」

 

ティアと少女はお互いに見て悲鳴を上げた。

 

「・・・て、めぐみんじゃん。こんなところで何やってんの?」

 

そう、この紅い瞳をした少女は仲間であるめぐみんであった。

 

「そ、それはこちらのセリフです。ティアこそなぜアクアの部屋に?」

 

「う・・・それは・・・人形が私たちの部屋に現れたから・・・身の安全のために・・・守ってもらおうと思ったんだよ」

 

「なんですか・・・そちらも同じでしたか・・・」

 

どうやらめぐみんの口ぶりから察するに、めぐみんのところにも幽霊人形が現れたようで、考えていることはティアと全く同じであったようだ。

 

「ところで、アクアはどこ?部屋にいないみたいだけど・・・」

 

「恐らくはまだ屋敷の除霊をやっているのではないでしょうか。ちなみに、ダクネスも一緒です」

 

「そっか・・・。なら・・・安心・・・かな・・・?」

 

「そういえば、同じ部屋、といえば・・・アカメはそのまま・・・置いて・・・?」

 

「お姉ちゃん、かなり図太いから多分逆に幽霊を脅してるかも・・・」

 

「ああ・・・なんだか容易に想像できますね・・・」

 

ティアとめぐみんはアカメが幽霊を脅している姿を想像して若干引いたような顔になっている。

 

「まぁ・・・しばらくはここにいよっか。多分アクアが戻ってくる頃には、除霊が終わってるはずでしょ」

 

「あ・・・あのぅ・・・」

 

アクアが戻るまでここに居座るつもりのティアにめぐみんがもじもじと話しかけてきた。

 

「そ・・・そのぅ・・・トイレに・・・行きたいので・・・一緒に・・・行きませんか・・・?」

 

「・・・ええ・・・」

 

どうやらめぐみんはトイレに行きたいようだが幽霊に出くわしたくないティアはかなり渋ったような顔をしている。

 

「ああ・・・めぐみん、申し訳ないけどそれは私には分不相応な頼みだよ。だからそれはカズマ辺りに頼みなよ。じゃ、私はここで待って・・・」

 

ティアはやんわりとめぐみんの誘いを断ろうとしたが、そのめぐみんがティアの袖を掴んで引き留めた。

 

「・・・何してんの?放してよ。私はここでゆーったりと待ってるからめぐみんはトイレにでも・・・」

 

「・・・させませんよ。何1人だけ助かろうとしてるんですか。私たちは・・・仲間じゃないですか。トイレだろうとどこだろうと・・・行くときは一緒です」にこ♪

 

めぐみんは爽やか笑顔でそう言ったが・・・ティアは力づくでもめぐみんを引き離そうとする。

 

「ええい!!放してぇ!!こんな時だけ仲間の絆を主張するとかクズでしょ!!だいたい、紅魔族はトイレに行かないんじゃなかったの!!?なんだったらそこに空の酒瓶が転がってるからぁ!!!」

 

「今とんでもない事を口走りましたね!!?その空いた酒瓶で私に何をしろと!!?させませんよ!!自分は用を足す用がないからと言って調子・・・に・・・」

 

ティアとめぐみんが互いに構えようとした時、めぐみんは途端に青ざめた顔になり始めた。それに気づいたティアは思わず後ろをふりむく。そこには・・・いたのだ・・・。大量の幽霊人形たちが・・・もうびっしりと・・・窓全体に覆い尽くすように・・・。

 

「「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」

 

恐怖を感じたティアとめぐみんはすぐさま泣きさけびながらアクアの部屋から逃げるように出ていった。

 

 

ーこのしゅばああああああああ!!!!ー

 

 

幽霊人形から逃げきったティアとめぐみんがいるのはトイレの前だった。めぐみんはすぐにトイレに入り、ティアはそこで息を整えながら待機している。

 

「・・・ティア、ちゃんといますか?」

 

「・・・いるよ」

 

「本当に、そこにいますか?」

 

「・・・いるって!」

 

「本当に・・・本当に・・・ちゃんといてくれますか?」

 

「いるってば!!ちゃんとここにいるし、置いてったりしないから早くして!!私は1秒でもこんな廊下にいたくないんだってば!!」

 

めぐみんはかなり心細いようでティアがいるかどうか何度も確認を行っている。ティアもかなり心細いようでめぐみんをかなり急かしている。

 

「・・・あのぅ・・・さすがにちょっと恥ずかしいので、大きな声で歌でも歌ってくれません?」

 

「何が悲しくてこんなトイレの前で歌わなきゃいけないのさぁ・・・!」

 

ティアがめぐみんのトイレを早く済ませてほしいと思っていると・・・

 

「あああああああああ!!!ああああああああああああああ!!!!」

 

「!!?か、カズマぁ!!?・・・て・・・」

 

曲がり角からカズマが何かから逃げている様子で現れた。その後ろを見て見ると・・・いた・・・幽霊人形が・・・。

 

「わああああああああ!!!バインドおおおおおおおおおお!!!」

 

絶叫をあげたティアはこの場から取り残されるのを恐れて通りかかろうとしたカズマにバインドをかけて逃げなくさせるようにした。

 

「うおおおおお!!?ティアああああああ!!?放せええええええええ!!!こんなところで何してんだぁ!!?」

 

「そんなことは今どうだっていいからあああああああああ!!!めぐみんんんんんん!!!急いでえええええええ!!!!」

 

ティアはカズマを逃げさせないようにさせてめぐみんに早くトイレから出るように急かす。

 

「そんなに急がせないでくださいよ!!というか、そこにカズマもいるんですか!!?」

 

「早くしないと私もカズマも逃げられないからあああああああ!!!」

 

「逃げられないのはお前が俺にバインドを使ったからだろおお!!?てかアカメがいないのになんでスキルが正常に使えるんだよ・・・て、あああああああやばい!!!やばいのが近づいてくるうううううううううう!!!」

 

「そ、そんなに急かされたら出るものも出ませんよぉ!!!」

 

何度もめぐみんに呼び掛けている間にも、幽霊人形はじりじりと近づいてきている。

 

「ひいいいいいいいいい!!!!もう限界いいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

近づいてきた幽霊人形から逃げるためにティアはトイレの鍵を施錠スキルで開けて扉を開いた。

 

「!!??ふわあああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「急いでえええええええ!!!!」

 

ティアはめぐみんを無理やり連れだしてカズマを引きずりながらこの場を離れていく。

 

「あなたがこんな非常識な人だとは思いませんでしたよ!!!」

 

「そんなことを言って、置いていったら後でぐちぐちぐちぐち文句言うでしょうが!!」

 

「つーかこの縄をほどけぇ!!!走りづらいんだよ!!!後俺の膀胱が限界なんだが!!?」

 

「あんたもかい!!!」

 

カズマとめぐみんが文句を言っている間にもティアは倉庫に入り、身を隠す。その間にもティアはカズマにかけたバインドを解く。

 

「こ・・・ここまでは・・・来ない・・・よね・・・?」

 

「うぅ・・・俺の膀胱が・・・!いっそここに置いてあった花瓶で用を・・・」

 

「ちょっとやめてよ!!こんな時に非常識な!!」

 

トイレに行くことができなかったカズマは花瓶で用を済ませようとするがティアがそれを止める。

 

「・・・黒より黒く・・・闇より暗き漆黒に・・・我が真紅の混交を望みたもう・・・」

 

「何やってんの!!?この屋敷ごと吹き飛ばす気!!?」

 

めぐみんがどさくさに紛れて爆裂魔法を放とうとしたところをティアが必死になって止める。

 

ドォン!!

 

「「「ひっ・・・!」」」

 

ドォン!ドォン!

 

バカをやっている間にも扉がどんどんと音が鳴り響いている。

 

「・・・くそ!しょうがねぇなぁ!!」

 

怖がっているめぐみんとティアを見てカズマがここで男としての意地を見せる。

 

「めぐみん、ティア、ドアを開けたらお前らは走れ!俺は覚えたてのドレインタッチで人形の魔力を吸い取ってやる!!」

 

めぐみんとティアはカズマの提案にこくこくと頷き、カズマはすぐに行動に出る。

 

「おらああああ!!かかってこいやああああ!!この悪霊が!!後でうちの狂犬女神けしかけてやんぞこらああああああ!!!」

 

ガチャッ!ガン!!!

 

「「「・・・?」」」

 

扉を開けた瞬間にガツンと音がしてカズマたちは怪訝な表情になる。ドアの先を覗いてみると、扉にでこをぶつけたであろうアクアが気絶している。周りには動かなくなった人形が大量に転がっていた。これを見る限り、もう除霊は終わったようだ。

 

「お、おいアクア⁉大丈夫か⁉」

 

「さっきからピーピーうるさいわよ・・・。おかげで目が覚めたじゃない・・・ふわあぁぁ・・・」

 

「「「・・・・・・すみません」」」

 

一緒にいたダクネスはアクアを心配し、アカメはあくびをしながら文句を垂れている。いたたまれなくなった3人は謝罪した。

 

 

ーこのしゅば・・・。

 わー。

 わーい、わーいー

 

 

悪霊を退治し終えたカズマたちパーティは翌日、冒険者ギルドに顔を出している。

 

「悪霊を退治したということで、臨時報酬が出てますよ」

 

訪れた理由はギルドから呼び出され、臨時報酬を受け取るためである。

 

「ギルドでも討伐クエストを設定したんですが・・・いくら退治してもすぐに新しい悪霊が住み着いて、困っていたんです」

 

「らしいですね。なんでそんなに悪霊が集まってきてたんだろう?」

 

「それなんですが・・・あの屋敷の近くに共同墓地があるじゃないですか」

 

ルナが言う共同墓地というのは、カズマたちがウィズと初めて会った場所である。

 

「誰かがイタズラか何かで巨大な結界を貼ったみたいなんですよ。それで行き場をなくした霊があの空き家に住み着いたみたいで・・・」

 

「・・・!」

 

ルナの説明にアクアは明らかに心当たりありまくりで顔を青ざめている。それに気づいたカズマたち全員がアクアをじっと見つめる。

 

「・・・ちょっと失礼しますよー」

 

「・・・おい、ちょっと来なさい」

 

カズマたちはいったん受付から離れてアクアを問い詰める。

 

「・・・おい、心当たりがあるな。言え」

 

「はい・・・。以前・・・ウィズの代わりに墓地の除霊を引き受けたじゃないですか・・・」

 

「ああ」

 

「でも初地から墓地まで行くのって面倒くさいじゃないですか・・・」

 

「ああ」

 

「それでいっそ墓地に霊の住み場をなくしてやれば・・・そのうちどっかに散っていなくなるかなと思って・・・やり・・・まし・・・た・・・」

 

どうやら共同墓地に結界を貼った犯人はアクアであり、今回の幽霊屋敷騒動を起こし、それらを解決したのも全部アクアである。完全なるマッチポンプである。

 

「・・・ギルドからの臨時報酬は受け取らない。いいな?」

 

「・・・はい」

 

今回の件はアクアはさすがに反省しているようで、臨時報酬を受け取らないという決定に従った。その後は全員で不動産屋の男に直接に謝りに行ったのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

カズマたちは臨時報酬を受け取らず、今回の幽霊騒ぎについてを不動産屋の男に謝罪をした。アクアが起こした件を不動産屋の男は心優しく、快く許してくれた。しかも、屋敷の庭にある墓をきれいにしてくれるだけで屋敷に住み続けていいとも言われた。屋敷に戻ったらカズマはさっそくその墓をきれいに掃除していく。ちなみに、先日言っていた幽霊の細かい設定は本当のことだったようだ。

 

「カズマさん、こんにちは。お墓の掃除ですか?」

 

「おお、ウィズ」

 

カズマが墓を掃除しているとウィズがやってきた。

 

「よかったですね、ここに住んでいいことになって」

 

「本当、大家さんがいい人で助かったよ。ウィズも迷惑をかけちまったな」

 

「いえいえ、私としてはむしろこれでよかったと思ってますから。これならきっと、寂しくないでしょうし」

 

ウィズはにっこりと微笑んでそう告げた。

 

「それより、ウィズはいいのか?あいつら、ここに住むことを決めたみたいだけど・・・」

 

「寂しくはなりますが、アカメさんとティアさんが決めたことなので、私からは言うことはありません。それに、お2人はカズマさんをとても気に入っているご様子なので、むしろこれでいいのだと思います」

 

「そう・・・なの・・・か?」

 

双子がカズマを気に入ってると言っても、本人はあまり実感がない。

 

「それでは、私はお店番があるので帰りますね。カズマさん、皆さんのこと、アカメさんとティアさんのことを、よろしくお願いしますね」

 

「ああ。来てくれてありがとうな」

 

ウィズはカズマにぺこりとお辞儀をし、魔道具店へと戻っていく。

 

「ふぅ・・・頼むから、もうイタズラしないでくれよ?」

 

ウィズが去った後、カズマは貴族の娘の墓に手を合わせて、冥福を祈る。

 

「カズマー、お昼ご飯できたよー!早く帰ってこないと、ご飯が冷めちゃうよー?」

 

「わかったー!今行くー!」

 

「ちょっとアクアー、暖炉の薪がないんだけど?」

 

「ああ、じゃあそこにあるカズマのジャージをくべておいてー」

 

「!!!やめろおおおおおおお!!!アクアの奴ふざけんな!!!俺の唯一の日本の思い出の品を、燃やそうとすんなああああああああ!!!」

 

カズマはお昼ご飯食べに、自分の思い出のジャージを燃やされるのを阻止するため、屋敷に戻っていくのであった。




ダクネスの騎士の心得覚書・第15条

騎士たるもの、些細なことで心を乱してはならない。
魔物の妖術にかかるなどもってのほかでましてや淫らかな精神攻撃に踊らされ、味方に痴態を晒すなど恥ずべき行為である。
また、万が一にもそのような事態に性的興奮を感じてしまうような真似はあってはならない。騎士以前に人間としてどうかと思う。
全く持って愚かな行為である。

アカメ、ティアの反応

アカメ「へぇ・・・言うじゃない。なら・・・私の拷問を前に同じことが言えるかしら?」

ダクネス「何!!?その拷問について・・・詳しく!!」

ティア「立派なものを書いてる側からこれだよ・・・。絶対書いていることと全く真逆な反応するよ・・・。全然信憑性がない・・・」

次回、この素晴らしい店に祝福を!



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この素晴らしい店に祝福を!

夜中のアクセルの街の近郊・・・そこのとある屋敷に近づいている2つの影あり。その2つの影は屋敷がよく見える建物の上で屋敷を見上げる。

 

「着いたね、お姉ちゃん」

 

「ええ。あれが、今回のターゲットの屋敷よ」

 

2つの影の正体はアカメとティアの双子の姉妹である。双子がここに来たのは、このアクセルの街での初めての盗賊団の仕事である。

 

「アレクセイ・バーネス・アルダープ・・・アクセル街の領主らしいね」

 

「こいつのあくどい噂は私たちが来る前から有名らしいわね。全く、いったいどんな不正で領主になったんだか」

 

今回のターゲットであるアレクセイ・バーネス・アルダープは悪徳領主として非常に有名で、前々から盗賊団のターゲット候補に選ばれていた。だがアルダープは人を食い物のように扱うような要注意人物らしく、中々盗みを決行できずにいた。だがそのアルダープが現在、街の屋敷から離れているという朗報があり、今夜初めて盗みを決行するのだ。それを受けたのが、この双子である。

 

「離れてるとはいえ、やっぱり警備はいるわね・・・」

 

「ここは私の潜伏スキルを使ってから窓から入ろう」

 

「ええ、頼むわ」

 

ティアは自分とアカメに潜伏スキルを使い、姿を消してアルダープの屋敷に近づき、窓の鍵をティアの施錠スキルで開けて中に潜入する。自分たちが入った痕跡を消しながら屋敷の奥へと向かっていく。

 

「さーってっと、何かやましくて、見られたらまずいものって、ないかなー?」

 

「今は余計なことを考えず、私たちは依頼通り、この屋敷にある不正で得た汚い金をいただけるだけいただきましょう。深追いは自分を自滅させるだけだもの」

 

「わーかってるって。要注意人物ほど、少しずーつ追いつめて、最後に一気にズドンと落とすのがベストだもんね」

 

潜伏スキルで誰にも見つからずに奥へと進み、不正の金が詰まった金庫へとたどり着く。

 

「ふん、こんな金庫が何よ。ティア」

 

「はいはーい。罠感知は・・・特になし。こんな鍵くらい、私にかかれば楽勝」

 

ティアは施錠スキルで難なく金庫の鍵を開け、持ってきていた袋の中に依頼料ほど入れる。

 

「金は私が持つわ。ティア、鍵閉めよろしく」

 

「はいはーい」

 

アカメがお金を入れた袋を持った後、ティアはバレないように金庫の鍵を閉める。

 

「今回の目標は達成したわ。支部に戻ってさっさと帰るわよ」

 

「うん。後はみんなが被害者の元にお金を返しておくだろうしね」

 

アカメとティアは不正のお金をもって、潜伏スキルを使いながら潜入した痕跡を消してアルダープの屋敷から去っていく。

 

「次はいつ辺りに攻めるのかな?」

 

「さあね。でも悪徳領主はさっさとどうにかしたいから次で終わらせたいものだわ」

 

アカメとティアはそんな話をしながら支部へと戻っていく。支部に戻った後は依頼品を納品し、他の盗賊がお金をもって被害者にお金の返却をしに行ったのを見届けてからカズマたちが住む屋敷へと戻っていった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

翌日、双子は今日は気分転換がてらアクセルの街を散歩しに回っている。街の商店街は相変わらず賑わっている。

 

「私たちもだいぶこの街に馴染んできたね」

 

「そう思えてくるのはこの街の構造をよく理解できた証拠だわ。正直、ここまでとは予想してなかったわ」

 

アクセルの街を気にいった双子はリザードの串焼きを食べながらそんな会話をしている。

 

「・・・あ、お姉ちゃん、あれ・・・」

 

「ん?」

 

街を歩いていると、奥地にスーツを着こんだ男たちが顔を青ざめている様子で街中を探索している。このスーツの男たちは双子には見覚えがあった。

 

「あれは・・・クソ領主のとこの使用人じゃない。もう嗅ぎ付けたのかしら」

 

「顔を青くしてる状態だから間違いないんじゃない?」

 

その男たちは先日侵入したアルダープの屋敷の使用人である。男たちはアルダープが不正で得たお金が盗まれたことに気が付き、犯人探しに勤しんでいるのだ。

 

「はっ、あいつらもバカね。見つけられるはずもない相手に必死になってさ」

 

「さすがにかわいそうだと思うけど、悪いのはアルダープの方なんだから悪く思わないでね。私たちは法で裁けない奴を裁いてるだけなんだから」

 

「ま・・・いずれはそのクソ領主を地のどん底まで落としてやるわ。それまでせいぜい必死になってなさい」

 

双子はそう話ながら男たちとは正反対の道のりを歩いていく。

 

「・・・あ、お姉ちゃん」

 

「何?今度は何を見つけたのよ?」

 

別の方向でティアが見たのは冬場なのにピンクの半袖で金髪で眼帯をした男だ。そしてこの男は双子にとってものすごい見覚えのある男だ。

 

「あれスティーヴじゃない?ほら、アジト防衛担当の・・・」

 

「見ればわかるわよ。あの【ピーーーーッ】野郎、何しに来たのよ」

 

その男はウェーブ盗賊団の仲間であり、双子を街まで送り届けた本人、スティーヴであった。スティーヴは何やらにやついた笑みを浮かべている。

 

「なーんかすごい浮かれてるね」

 

「あいつのにやけた面、腹立つわね。ちょっと問いただしてみましょう」

 

双子は何をしにアクセルまで来たのかを問いただすためにスティーヴに近づいていった。

 

 

ーこのすばー

 

 

時は本日の朝ごろに遡って、スティーヴはこの街の入り口に馬車を止めて、街の中へと入っていく。

 

「へへへ・・・この街で使えるサキュバスの店の無料券・・・こいつを使わない奴はいないだろうよ・・・」

 

スティーヴの目的はこの街にある店の無料券を使うためだけにこの街の宿に泊まりに来たのだ。

 

スティーヴが目的とするのはサキュバスが経営しているお店、サキュバスの店である。ちなみにサキュバスの店はアヌビスとアクセルの街に二軒しかないのだ。

 

サキュバスというモンスターは淫魔と呼ばれる悪魔で人間の性的な精気を吸いとるのだが、アクセルとアヌビスのサキュバスは男性冒険者と共存関係にある。

 

冒険者は馬小屋生活を強いられたり、女性冒険者と一緒で付き合ってない関係であると、男としていろいろ溜まるものはあるだろう。しかし、かと言って女性に手を出したり、イタズラしようものなら、他の女性に袋叩きにされるのがオチである。

 

そんな男性冒険者の欲求不満を解消してくれるのがサキュバスの店でサキュバスである。男性冒険者の望む素敵な夢を精気を少し吸う代わりにそれを見せてくれるのだ。精気を吸うと言っても、仕事や体調に支障をきたさぬから問題はない。男たちは欲求不満を解消でき、サキュバスたちは精気にありつく事ができる。お互いに利害が一致しているのだ。そしてこのスティーヴもそのサキュバスの店の常連客である。

 

「さーて、今日はどんな夢を見ようかね・・・ぐへへへ・・・」

 

スティーヴはいかにも変態が浮かべるような笑いをしながらアクセルの街のサキュバスの店へと向かっていく。

 

「・・・そーいやあいつら・・・ここでちゃんとやれてんのかね?」

 

スティーヴが少しだけ双子のことを考えている間にもサキュバスの店にたどり着いた。スティーヴが他の人物・・・特に女性がいないか確認をした後に店の中へと入っていく。

 

「いらっしゃいませ!」

 

お客であるスティーヴを出迎えたのはそれはもう美人で魅力的な体つきしたサキュバスであった。店の回りにはこのサキュバスと同じ格好をしたサキュバスがたくさんいた。これだけでも男の下心は鷲掴みでスティーヴは鼻の下を伸ばしている。

 

「さぁさ、お客様、どうぞこちらへ」

 

「は、はい」

 

スティーヴはサキュバスに案内され、1つの座席に座り込む。スティーヴが着席するとサキュバスは1枚の用紙をスティーヴに差し出す。

 

「では、こちらのアンケートにご希望する夢をご記入ください。外見も立場も思うがまま、お書きいただければ結構です。だって・・・夢ですもの」

 

今渡されたアンケートに自分が望む夢を書き込めば、自身が眠りに入ればその夢をサキュバスが見せてくれるというのだ。王様や英雄、女性側になってみたいなどなど、何でもありである。それを何回も経験して理解しているスティーヴは夢の内容をどうするかを悩んでいる。

 

「んー・・・今日はどうすっかなぁ・・・。いっそのことハーレム系いってみっかなぁ・・・?」

 

どんな夢を見ようか悩んでいるスティーヴはうんうんと首を捻っている。そうしていると、隣の席にいる巨漢で髭を生やしたモヒカンヘアの荒くれ者の存在に気がつく。

 

「うおっ!!?」

 

「へっ!地獄の扉へようこそ!」

 

荒くれ者はスティーヴに向かってにかっと笑みを浮かべている。どうやら荒くれ者もこのサキュバスの店の常連客のようだ。

 

「せいぜい、がんばんな、命知らず!へへへ・・・腕がなるぜ!」

 

意味不明なことを言いながら荒くれ者はアンケートを書き終えて、店から出ていく。

 

(そうだ、この街の連中の好みに合わせてみるか!どれどれ・・・)

 

スティーヴはアクセルの街の好みを真似ようと考え、荒くれ者が書いたアンケートを覗きこむ。そのアンケートの職業欄を見て、驚愕する。

 

(機織り職人!!?え、あのおっさん冒険者じゃなかったのかよ!!?)

 

荒くれ者はいかにもな見た目なので絶対冒険者稼業をやってるかと思えばまさかの機織り職人なので、ある意味最大の驚きである。

 

「あのう、お客様?」

 

「え?あ、はい」

 

スティーヴが驚いている間にサキュバスが声をかけてきた。その視線はまだ書かれていないアンケート用紙に向けられている。

 

「まだアンケートをご記入されていないようですが・・・」

 

「あ、ああ、すんません。まだちょっと何するか決めてなくて・・・」

 

「あまり深く考えず、自分の思うがままに書いてもよろしいんですよ?だって・・・夢なんですもの。夢の中なら、何をしたって、問題ありません」

 

「自分の・・・へへへ・・・思うがまま・・・」

 

サキュバスは自分の胸などを触ったりしてスティーヴの男心を煽っている。もうこれだけでも満足しそうになるスティーヴ。だがこれで満足してはと思ったスティーヴは自分の思い描いた夢をスティーヴはアンケート用紙に書く。

 

「あ、そうだ。この店で使える無料券があるんですが・・・」

 

スティーヴはサキュバスの店の無料券を取り出し、書き終えたアンケートと一緒にサキュバスに渡す。

 

「はーい、いつもご利用、ありがとうございまーす。それでは、ご就寝時にお伺いさせていただきます。あ、ご存知かと思いますが、今晩のお酒ご利用は控えてくださいね。熟睡されると、夢を見せることができませんので」

 

「はい!!ありがとーごぜーます!!!」

 

スティーヴは非常にウキウキした様子で店から出ていく。その際にかなりそわそわしながら入ろうとしているダストやキース、そしてカズマとすれ違ったがお互いに関わってないのでこれはスルーだ。

 

「やっぱ最高だな!サキュバスの淫夢サービスは!1度経験したらドはまりだぜ・・・ぐへへ・・・」

 

スティーヴはかなり浮かれた様子で妄想しながら自分が泊まる予定の宿へと向かっていく。

 

「スティーヴ、ちょっと止まってー」

 

「ちょっと止まりなさいよこの【ピーー――ッ】野郎」

 

「うおああっ!!??」

 

すると目の前にアカメとティアの双子が立ちふさがった。急に現れた双子にスティーヴは現実に引き戻されていく。

 

「お、お前ら・・・急に現れんなって・・・驚くだろ・・・」

 

「久しぶりに会ったのに第一声がそれ?なんか嫌な感じー」

 

「てゆーか、ここに来たのに私たちに挨拶もなしとはどういった了見なのよ」

 

「遊びに来るのになんでお前らの挨拶が必要なんですかねえ」

 

久しぶりに会っても何も変わってない双子の態度を見てスティーヴは内心ちょっと安心したりもした。

 

「まぁ、挨拶は別にいいよ。それよりこの街に何しに来たの?今日は休みだったっけ?」

 

「ギクッ!あ、ああ・・・そうだ。休みなんで・・・この街に遊びに来たんだよ・・・」

 

「ふーん。ずいぶんエンジョイしてるみたいね?変ににやけた面して・・・気持ち悪い」

 

「ドキィ!!!」

 

安心したのもつかの間、スティーヴは最大のピンチに瀕している。わかっているとは思うが、女性はサキュバスの店の存在自体知らない、男だけの秘密である。もしも店の存在が女性がバレでもしたら、女性冒険者はサキュバスを退治するだろうし、男たちもただで済むわけがない。それだけに飽き足らず、店まで潰れてしまうやもしれないのだ。そうなってしまっては男たちの生きる活力がなくなってしまう。

 

(やばい・・・!もしサキュバスの店のことが女に・・・特にこの双子に知られでもしたらこの街の店どころかアヌビスのサキュバスの店まで潰しかねない!なんとしてでも・・・なんとしてでも軌道修正させねぇと・・・!!全ての男の夢を守る・・・責任重大な役目だ!!!)

 

サキュバスの店の存在を知られないためにも、スティーヴは何とか誤魔化そうとする。

 

「そ・・・そんな大したあれじゃねぇよ・・・。ほ、ほらあれだ、高い酒を買っ・・・」

 

「大嘘ね。目が泳いでるわよ」

 

「ギクゥ!!!」

 

「スティーヴ、忘れたの?お姉ちゃんは嘘には結構敏感なんだよ」

 

(そ、そうだったぁ・・・!こいつの前では変な嘘は通用しないんだった・・・!!)

 

相手の嘘を見抜くアカメの特技をすっかり忘れてたスティーヴはさらに動揺している。

 

「で?本当は?何をやってたのよ?」

 

「そ・・・それは・・・言えん・・・」

 

「なんで?ますます怪しい・・・」

 

「・・・な、なぁ、お前ら?もうこれ以上俺のことを詮索すんの、やめにしないか?ほら、問答をやめてくれたらこの街で1番高い酒を買ってやるからよ・・・」

 

もう嘘ではどうこうできないと判断したのか正攻法な交渉でこの場をどうにかしようとするステイーヴ。

 

「・・・高いお酒だって。どうする、お姉ちゃん」

 

「どうするって・・・ここで放っておくのは腹立つ・・・でも高い酒は欲しい・・・うーん・・・」

 

「究極の選択だね」

 

(いや究極の選択じゃねーんだよ。頼むから納得してくれよ・・・!)

 

高いお酒を買ってくれると聞いて、双子はすごく真剣に悩んでる。これは下手をしたら本気でサキュバスの店の存在がバレるかもしれないと判断したスティーヴはここで思い切る。

 

「ええい!!もうわかった!!なら1番高い酒を俺の全財産分買ってやるからよお!!!」

 

「「よし乗った!」」

 

1番高い酒を全財産分買ってくれることで双子は納得してくれた。これでスティーヴは所持金0になってしまうことになるが、サキュバスの店の存在を守るためなら安いものだとスティーヴはプラスに考えることにした。

 

(とほほ・・・せっかくの休みなのに・・・クエストに行って一泊分稼ぐか・・・)

 

双子のせいでこれから一文無しとなるスティーヴはアクセルの冒険者ギルドでお金を稼ぐことに決めたのであった。

 

 

ーこ・の・す・ばぁ!!ー

 

 

スティーヴに高い酒をスティーヴの持ち金全部で買ってもらった双子はその酒瓶が入った籠を持って屋敷へと戻っていく。

 

「いやー、今日はなんか得しちゃったね、お姉ちゃん!最高級品だよ!最高級品!アクアが持ってたお酒よりもさらに上玉の!!」

 

「しかも、ケチくさい【ピーー―ッ】野郎のスティーヴからの奢りの品よ。人から払ってもらったお酒に加えて最高級品なんて、まずくないわけがないわ」

 

「それにしても、よくあんなにお金を持ってたものだね」

 

「スティーヴのくせに生意気ね」

 

最高級品の酒が手に入って双子はにやけ顔が止まらなかった。

 

「お姉ちゃん、今日はお姉ちゃんのリクエストを作ってあげるよ」

 

「ありがとうティア。じゃあ私も何か1品を作るし、ティアには多めに作ってあげるわ」

 

「本当に?ありがとうお姉ちゃん!!大好きだよ!!」

 

「私もよ、ティア!!」

 

いつも喧嘩を始めてしまう双子だが、よほど機嫌がいいのかお互いに抱き合い、いつもなら使わない愛の言葉を述べながら心からのいい笑顔を浮かべている。いつもとは真逆の光景はハッキリ言って、気持ち悪いと言われても仕方がないような展開である。

 

「今晩が楽しみだね、お姉ちゃん!」

 

「ええ本当、すごく楽しみで仕方ないわ」

 

ウキウキと話をしている間にも双子は屋敷の前まで戻ってきた。

 

「ただいまー」

 

「今戻ったわよ」

 

双子が戻って来ても誰も出迎える様子はない。それには双子は少しむっとなる。奥にいるアクアたちにもの申そうと奥へと入っていく双子。

 

「みんなー?」

 

「ちょっと、何で誰も出迎えないのよ」

 

「ん?ああ、すまない。帰って来ていたのか」

 

「2人ともおかえりなさい」

 

双子の目に入ったのは厨房に向かって何かを運んでいるダクネスとめぐみんだった。どことなくめぐみんは運んでいる何かを目を輝かせていた。そしてさらにひょっこりと顔を出したアクアが出てきた。

 

「帰って来たわね、2人とも!喜びなさい!今日の晩御飯は、カニよ!カニ!!」

 

「「か、カニ!!??」」

 

今日の晩御飯がカニと聞いて、双子は目の色を嬉々としたものへと変わっていった。ダクネスとめぐみんが運んでいるものを見ると確かにカニである。しかもこれはただのカニではない。

 

「!!!???お、お、おおおおおお、お姉ちゃん!!こ、こここ、これ、霜降り赤ガニだよ!!霜降り赤ガニ!!」

 

「あ、あああああ、あんたたち!!こ、っこここ、これ・・・どうしたのよ!!??」

 

そう、これはカニの中でも高級の品物である霜降り赤ガニである。あまりの高級品に双子は声が上ずっている。

 

「ああ、それは私の実家の者が引っ越し祝いにもらったものなんだ」

 

「しかもすごいのよ!!見てよこれ!!超高いお酒!!これまでつけてきたのよ!!普段世話になってるパーティメンバーである私たちのお礼ですって!!」

 

「はぅ・・・貧乏暮らしである私が・・・まさか・・・こうして霜降り赤ガニにお目にかかれるとは・・・!」

 

どうやらダクネスの実家の人間がやってきて引っ越し祝いにもらったものらしい。しかもご丁寧にも、双子が今日手に入れた最高級のお酒までついている。

 

「お姉ちゃん・・・今日はツイてる・・・運が私たちに回ってきているよ!」

 

「ええ!ええ!普段から幸運値が高いことに深く、深ーく感謝ね!」

 

ステータス的にも幸運値がカズマ並みに高い双子はその幸運値を高いことを感謝しながら霜降り赤ガニを嬉々として見つめている。

 

「・・・て、ああああああああ!!!よく見たら双子が持ってるそのお酒!!今まさしく私が持ってるそれじゃない!!」

 

「何!!?おい、それをどこで手に入れたのだ!!?うちにはそんな余裕はなかったはずだろ!!?」

 

ようやく双子が持っている酒瓶に気付いたアクアは驚愕し、ダクネスも驚きながらもどこで手に入れたかを双子に問いただしてきた。

 

「久しぶりにアヌビスの仲間と会ったんだよ。ね、お姉ちゃん」

 

「そうそう。それでうまくやってる祝いとしてお酒をこんなにもらったってわけ」

 

「そうだったのか・・・それはよかったな」

 

ちゃっかり嘘が混じってあるが、正しく言えばただ単にスティーヴがサキュバスの店を悟られないためなのだ。が、しかし、そんなことは双子どころか3人が知るはずもない。

 

「ああ・・・もう本当に・・・幸せ・・・霜降り赤ガニを食べれるだけじゃなく、高級のお酒がこんなにも・・・」

 

「わかります・・・わかりますよアクア・・・晩御飯が待ち遠しいです・・・」

 

霜降り赤ガニと最高級の酒が揃い、贅沢三昧の晩御飯を想像したアクアとめぐみんはもう明らかに満面な笑みである。

 

「これはもう・・・本気の本気を、出すしかないんじゃないかしら、ティア」

 

「わかってるよお姉ちゃん。カニを全部厨房に持ってきて!私の本気を、披露してあげるから!」

 

「ほ、本気中の本気!!?」

 

「まさか、今のご飯よりも遥かにおいしくなるのですか!!?」

 

基本的においしい料理しか出さないティアだが、それよりもはるかに上を行く本気の本気と聞いて、アクアとめぐみんの期待はさらに高まる。

 

「やけに気合が入っているな。私も手伝おうか?」

 

「いや!お手伝いはお姉ちゃん1人で十分!というか、他が手伝われると味が落ちる!!手伝おうとしないで!!」

 

「ま、そういうわけだから、あんたらはただカニを運ぶだけでいいのよ」

 

「そ・・・そうか。では、楽しみにするとしよう」

 

ダクネスたちはもらったカニを厨房に入れるのを再開し、双子は厨房に入って今晩の晩ご飯の準備を始める。

 

「さて・・・私も1品は作ることにしますか。ティア、やるわよ」

 

「任せてお姉ちゃん・・・私、今猛烈に料理がしたくして腕が鳴ってるの!」

 

双子はすでに運ばれてきたカニを取り出して、すぐさまカニの調理を始める。

 

 

ーこの・すば!ー

 

 

双子がカニを調理してから時間が経ち、晩ご飯の時がやってきた。食卓にはティアが作り上げたカニ料理の数々が並べられている。

 

「待たせたわね・・・いよいよ晩ご飯の時間よ」

 

「さあ、とくとご覧あれ!ティア特製の・・・カニのフルコースディナー!!」

 

「「「おおおおおお!!」」」

 

食卓にはメインであるカニ鍋・・・それ以外にもカニの活け造り、カニ寿司、茶わん蒸し、カニの炊き込みご飯、天ぷらにから揚げ・・・エトセトラエトセトラ・・・。とにかくもう贅沢でしかない料理がもうびっしりと埋め尽くされていた。

 

「すごいな・・・これ、全部ティアが作ったのか?」

 

「揚げ物だけは私が作ったわよ。ティアのと比べたら、味は負けるけど」

 

「それでも、お姉ちゃんの作る揚げ物はおいしいから!」

 

「そうか・・・それは早く食べてみたいものだな」

 

どうやら揚げ物シリーズはアカメが作ったものでティアの保証付きもあり、3人はより一層味に期待が膨らむ。

 

「ふふん・・・いいわよ・・・いいわよ!まさに女神である私が食するにふさわしい料理の数々だわ!」

 

「はわわ・・・私がこんな贅沢をしていいのでしょうか・・・いえ、日ごろから頑張ってますからいいですよね!」

 

「おーい、帰ったぞー」

 

アクアとめぐみんが感激している間にも、外に出ていたカズマが帰って来た。

 

「・・・て、おわ!!?なんだこりゃ!!?すげぇ豪勢な晩飯だな!」

 

このカニレパートリーの豪華な晩ご飯にカズマは大驚愕。

 

「カズマ喜びなさい!今日の晩御飯は超豪華よ!!なんてったってカニよカニ!!最高級食品の霜降り赤ガニ!!」

 

「ダクネスの実家の奴が来たらしくて、日ごろ世話になっているお礼だってさ。ダクネスに感謝なさい」

 

「い、いや・・・私は別に・・・」

 

「品物が品物だからね!今日は本気を出したよ!ささ、座って座って!」

 

「おう。いやぁ、しかし本当にうまそうだな」

 

カズマも椅子に座ったところで、これで全員が揃った。後はいただきますを言って晩御飯を食べるだけ。

 

「まさか、霜降り赤ガニにお目にかかれる日が来ようとは・・・今日ほどこのパーティに加入してよかったと思った日はないです」

 

「へえ・・・ティアも本気出したみたいだし、よほどの高級品だろうな」

 

「当たり前です!このカニを食べる代わりに今日は爆裂魔法は我慢しろと言われれば、大喜びで我慢して、食べた後に爆裂魔法をぶっ放します!それくらい高級品なのですよ!!」

 

「おお!!そりゃすご・・・て、あれ?お前最後なんて言った?」

 

明らかに爆裂魔法を我慢できていない発言をしているが、それは些細なこと。全員はいただきますを言って、カニのフルコースを食べていく。

 

「!!う、うまい!!これほどの料理・・・3つ星レストランでも通用するほどのレベルだぞ、これは!!」

 

「「はわあ~・・・幸せ~・・・まるで天国のよう・・・」」

 

「当然よ、私の自慢の妹だもの」

 

「ほぅ~・・・霜降り赤ガニ、おいしぃ~・・・」

 

ティアの料理は前に出したカレーとは比べ物にならないほどの抜群のおいしさのようで、ダクネスを含めた女性陣は全員幸せそうな顔をしている。

 

「・・・ごくり・・・」

 

おいしそうに食べているアクアたちを見て、カズマもカニ料理を口に運んでいき、味を確かめる。

 

(!!!ぬああ!!!アカン!!!!これは食う手が止まらん!!!!)

 

カズマも大絶賛。カズマはカニの殻をすい!すい!と剥きながら中身を頬張っていく。

 

「もー、ダメ。私、もうこの味しか食べたくなーい。ティアー、明日からこれと同じ奴作ってー」

 

「絶対言うと思ったよ。ダメ。確実にダメ人間になるから」

 

アクアはこの絶品の味を毎日食べたいみたいなことを言いだし、ダメ人間になることを阻止しようとティアが拒絶する。

 

「えー、いいじゃなーい。こんなにおいしいんだからー」

 

「ダメなものはダメ!明日から普通のご飯出すから!」

 

「ティアは頑固だもの。諦めなさい」

 

「ぶー・・・」

 

「その代わりとして、これのいい飲み方を教えてあげるわ」

 

「え?何々?いい飲み方?」

 

アカメは代わりとして高級酒のいい飲み方をアクアに伝授することになった。

 

「カズマ、ティンダーをちょうだい」

 

「ほい、ティンダー」

 

カズマは小さな網焼きにティンダーで火をともす。そこにすかさずアカメはカニ味噌が入った甲羅を網焼きに設置する。

 

「こうやってカニ味噌が入った甲羅に高級酒を温めて・・・じっくりと待つ」

 

「何よー、私が持ってる飲み方の1つじゃないー」

 

「ふっ・・・甘いわね」

 

ちょっと時間が経ち、甲羅に焦げが付いたところにアカメはアヌビス産のスパイスを取り出す。

 

「ここにアヌビス産のスパイスを加えて・・・カニ味噌ごと混ぜる」

 

「なん・・・ですって・・・⁉」

 

「色が馴染んできたところを・・・一気にぐいっと」

 

スパイスを甲羅の酒の中に入れ、色が馴染んだところでアカメはぐいっと酒を飲み干す。飲んだ後のアカメの顔はほっこりとしていた。

 

「ふぅ・・・どうよ?こんなの、あんたの知識にあったかしら?」

 

「くぅ・・・悔しい・・・!でも、負けてもいい!だって・・・あんなおいしそうに飲んだら、私も飲みたいもの!」

 

アクアはさっそくアカメのさっきのやり方を試す。さっきと同じ要領で出来上がったカニ酒をくいっと飲む。

 

「・・・ほぉ~・・・」

 

よほどおいしいのかアクアは超ご満悦だ。この光景を見て、カズマもやりたそうにしているが、ぐっとこらえている。それもそのはず、何故ならカズマはあのサキュバスの店を初めて利用したからだ。サキュバスが言っていた酒を飲むのは控えるようにと・・・それを必死に守っているのだ。

 

「はあ~・・・おいしい・・・カニ味噌の味が染みわたる~・・・」

 

「おお!確かにスパイスが酒とカニ味噌がマッチしていてうまいな!」

 

カズマが耐えている間にも、ティアとダクネスもさっきと同じやり方でカニ酒を飲んでいる。

 

「私にもください!いいでしょう?今日ぐらい」

 

「ダメだよめぐみん。お酒は15歳になってから!めぐみんにはまだ早い!」

 

めぐみんもカニ酒を飲もうとするが、ティアがそれを阻止する。何度も言うが、この世界では日本とは違い、お酒を飲めるのは15歳になってからである。

 

「?どうしたカズマ?うちから贈られてきたもの、口に合わなかったか?」

 

するとここでカズマが食が進んでおらず、酒も飲まずにもんもんと悩んでいるのをダクネスが気が付く。

 

「い、いや、カニはすごくうまい!ただ、今日は昼間に知り合いと飲んでもう飲めそうにないんだ。明日!明日もらうよ」

 

「・・・そうか。ならせめて、たくさん食べてくれ。日頃の礼だ」

 

ダクネスの純粋そうな笑顔を見て、カズマは後ろめたさを感じる。まぁ、日頃からろくでもないことを言ってカズマをドン引きさせてはいるが。

 

(そうだ・・・みんなと一緒に飲んで、夢のことは忘れちまえばいい。目の前の仲間の顔を見ろ。いったいどちらが大切か考えろ!そう・・・最初から悩む必要なんてなかったんだ・・・)

 

そこまでのことを考え、カズマは決断した。

 

「それじゃあ、ちょっと早いけど、俺はもう寝るとするよ!お前ら、おやすみ」

 

カズマは仲間を選ばず、自分の望む夢を見ることを選んだ。カズマは、自分の欲望を叶えるため、早めに部屋に戻って寝ることにしたのだった。

 

 

ーこのすば~ー

 

 

食事を済ませた後、ダクネスはお風呂へ入るために浴室に、アクアはまだ飲み足りないのか残りの高級酒を取りに厨房へと向かっていく。リビングに残ったアカメは暖炉の前で読書を、ティアとめぐみんはチェスで遊んでいる。

 

「ふっふっふ・・・これでどうです?」

 

「ああ、この盤面なら、こうだね」

 

「あああ!!それはずるいですティア!!・・・いや、ここは・・・これでどうです!」

 

「ならここはこうっと」

 

「はうぅ!!」

 

局面的にはめぐみんが負けている状況らしい。

 

「さー、ここからどうするー?めぐみんの勝ち目は薄いよー」

 

「ぬ・・・ぬ・・・ぬ・・・!!」

 

絶体絶命のピンチにめぐみんはどう切り抜けようと悩み・・・

 

「ぬあああああ!!エクスプロージョン!!!」

 

「あああああああ!!」

 

最終的に盤面を自らの手でひっくり返した。エクスプロージョンはこの世界のチェスのルール的にはありである。その際に飛んできた駒がアカメの頭にコツンと落ちてきた。

 

「・・・ちょっとあんたたち、チェスをやるのはいいけど、私がいる時にエクスプロージョンはやめなさい。読書に集中できないじゃない」

 

「あ、ごめん・・・気が散ったよね」

 

「すみません・・・」

 

騒々しくしてしまって読書の邪魔をしたことに謝罪をするティアとめぐみん。

 

「ところで、何を読んでたのですか?」

 

「小説よ小説。これがなかなか面白くてね」

 

「ああ、確かにそれ、面白いよね。私もついつい読んじゃうんだよね」

 

「そんなに面白い小説なのですか?」

 

「ええ。面白いわ。よければ貸してあげてもいいわよ」

 

「本当ですか?楽しみです」

 

3人がアカメが読んでいた小説の話で盛り上がっていると・・・

 

「この曲者!!であえであえ!!!みんな!!!この屋敷に曲者よ!!!」

 

突如としてアクアの声が屋敷内から響いてきた。内容からして、何やら穏やかではない様子だ。

 

「曲者?」

 

「何よ?なんか変な奴でも引っかかったのかしら?」

 

「とにかく、行ってみましょう」

 

3人はひとまず状況を確かめるために部屋から出て、アクアの元まで行く。廊下を歩いていると、アクアが見えてきて、他にも誰かがいた。

 

「3人とも!見て見て!私の結界に引っかかって身動きをとれなくなったサキュバスを捕まえたわ!!」

 

「はあ?サキュバス?」

 

「わ!本当にサキュバスだ!」

 

「きっと男であるカズマの精気を狙って来たのでしょうね」

 

そう、アクアが捕まえた曲者というのは、見た目がかなり幼いサキュバス・・・いうなれば、ロリサキュバスのことなのだ。しかもこのサキュバス、ただのサキュバスではない。

 

「おい!!!アクアーーーー!!!」

 

と、そこへ何故かタオルを腰に巻いた状態のカズマが何故か怒った様子でやってきた。

 

「あ、カズマ。今こっちにさ・・・て、ああああああああ!!??」

 

「はぅ・・・///」

 

「こっちにも曲者が!!」

 

「寄るな変質者!!」

 

「だ、誰が曲者だ!!?誰が変質者だ!!?」

 

今のカズマの状態を見てめぐみんとティアは顔を赤くし、アクアとアカメはカズマに敵意を向ける。カズマの状態を見ればしょうがないことだが。

 

(・・・て、あれ?この子・・・サキュバスの店の・・・)

 

そう、このロリサキュバスはサキュバスの店の店員の子で、精気を吸うのは事実だが、真の目的はカズマの望む夢を見せるためにやってきたのだ。

 

「さくっと悪魔洗いしてあげるわ!」

 

「大人しく滅されるがいい!」

 

「ただ何もなしはつまらないわ。苦痛に歪みに歪んでから、果てなさい」

 

「恨むなら、悪魔として生まれた自分を恨むんだね!」

 

今にもロリサキュバスを滅そうとしている女性陣4人はいかにも悪魔のような顔である。一方のロリサキュバスは怯え切っている。どっちが神様でどっちが悪魔だかわからない光景である。

 

「観念するのね!今飛び切りの対悪魔用の・・・」

 

アクアが浄化魔法を放とうとした時、ロリサキュバスを庇うようにカズマが前に出る。

 

「・・・え?」

 

「・・・逃げろ(イケボ)」

 

「で、ですが・・・」

 

カズマはロリサキュバスを庇い、逃げるように指示をロリサキュバスに出す。

 

「何をやってるのカズマ⁉その子はあんたの精気を狙って襲いに来た悪魔なのよ⁉」

 

「正気ですかカズマ⁉」

 

これには当然ながらアクアたちは戸惑いを隠せないでいた。そして、まさか守られるとは思わなかったロリサキュバスも戸惑っている。

 

「ですが、この状況になったのは、侵入できなかった未熟な私が悪いんです・・・。お客様に恥をかかせるわけにはいきません・・・。私は退治されますから、お客様は何も知らないふりを・・・」

 

ロリサキュバスはカズマに知らないふりをしろと言っているが、カズマは断固として譲ることはなかった。

 

「・・・あんた、どういうつもりよ?この偽女神じゃないけど、この屋敷に入ってきた不届き者を見逃すわけにはいかないわよ?あんた・・・ボロボロにぶち壊されたくなかったら、さっさとどきなさいよ」

 

アカメは拳の骨をぼきぼきと鳴らしながら、脅してきた。いや、アカメの場合だと脅しではなく本気なのだが、それでもカズマは一歩も引かなかった。

 

「今のカズマはそのサキュバスに魅了され、操られている!!」

 

そこへ遅れながらダクネスがやってきた。その顔は何やら恥ずかしさで赤く染まっている。

 

「先ほどからカズマの様子がおかしかったのだ!!夢がどうとか設定がこうとか口走っていたから間違いない!!!おのれサキュバスめ・・・あんな辱めを・・・!!!ぶっ殺してやるぅ!!!!!」

 

よほどキレているのかダクネスは物騒なことを言いだしている。ちなみ、さっきまでカズマはダクネスと風呂場で混浴をしたという男としてちょっぴり嬉しい体験をしていたのだ。

 

「カズマ、いくらかわいくてもそいつは悪魔、モンスターだよ?何をトチ狂っちゃってんの?」

 

「・・・いけ(イケボ)」

 

「ですが・・・」

 

「どうやら・・・引く気はないってわけね。いいわ・・・あんたをけちょんけちょんに【ピーーッ】って捻り潰した後、そこのサキュバスを拷問にかけて消してやるわ」

 

「・・・いくぜ(イケボ)」

 

ロリサキュバスを消そうとする女性陣とロリサキュバスを守ろうとするカズマ・・・圧倒的にもカズマが不利的状況だが・・・それでも、男として、譲れないものがある。絶対に・・・守りたいものがあるのだ。

 

「・・・かかってこいやあああああああ!!!しゃううううううううううう!!!!!」

 

バキッ!!ドゴ、バチンバチン!!ゲシ!ゲシ!グシャ!!

 

が、あっという間に女性陣に袋叩きにされ、顔の原型がとどめれてないほどに痛めつけられたカズマ。だがこの騒ぎに乗じてロリサキュバスは屋敷から逃げていった。

 

「サキュバスには逃げられましたね・・・」

 

「この距離じゃ捕まえられそうにないや」

 

「塩撒いとくわ」

 

この件を機にカズマは、サキュバスの店を利用する時は屋敷で寝るのはやめようと、心の奥底からそう決めたのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

サキュバス騒動から翌日、双子は朝から散歩しに出掛けている。気分転換も1の理由なのだが、もう1つはアルダープの使用人がいなくなったかどうかの確認だ。

 

「・・・なんか、妙ね」

 

「お姉ちゃんもそう思う?確かに変だよね」

 

「お、お前ら、また会ったな」

 

双子が疑問を抱いているとスティーヴが声をかけてきた。

 

「スティーヴ、まだこの街にいたの?」

 

「いや、これから帰るとこだ。お前らはまた散歩か?」

 

「そうよ。昨日サキュバスがうちに来たから退治してやろうかと思ったら、うちのパーティの男が邪魔してきてね、その気晴らしにね」

 

「ん?お前らパーティ組んだのか?マジで?」

 

「大マジだよ。今度紹介してあげる」

 

「そ、そうか・・・」

 

双子がパーティを組んだ事態にスティーヴは少なからず驚いており、そしてパーティを組んだ相手を哀れに思った。ちなみに、サキュバスの騒動はカズマがサキュバスに操られていたという事でカズマの記憶もあいまい・・・ということになっている。

 

「それから、ちょっとした確認をしに来たんだけど・・・おかしいんだよね」

 

「おかしいって何がだよ」

 

「昨日あんなにクソ領主の使用人がいたにも関わらず、今日は誰もいないことに関してよ」

 

双子が疑問に抱いていたのはアルダープの使用人がこの街に誰1人としていないことである。

 

「この街のクソ領主って、アルダープのことか?そりゃ見つけるのが不可能と判断したからだろ?」

 

「だとしても、切り上げるタイミングが予想以上に早いんだよ。アヌビスでは最低でも1ヶ月はかかってるのに」

 

「それに情報部によるとそのクソ領主、昨日戻る予定だった。なのにあいつはまだ戻って来ていない。疑問を抱かない理由を教えてほしいくらいだわ」

 

「そう言われてみりゃ・・・確かにな。何でだ?」

 

双子とスティーヴが抱いたこの疑問は1つの緊急町内放送によって、解答された。

 

『デストロイヤー警報!!デストロイヤー警報!!現在、機動要塞デストロイヤーがこの街に接近中です!!全冒険者は戦闘準備を整えて、冒険者ギルドに集合してください!!街の住民の方々は直ちに避難してください!!』

 

この世界で厄災とされている存在、機動要塞デストロイヤーが近づいて来ていると聞いて、双子もスティーヴも驚愕している。

 

「マジかよ!!?デストロイヤーが近づいて来てんのか!!?」

 

「そうか・・・それで全員逃げたってわけか・・・この街を捨てて・・・!」

 

「職務放棄してる奴は放っておきなさい!今はとにかく、屋敷にもどるわよ!!」

 

「う、うん!」

 

「お、俺はこの街の支部の連中をかき集めてくる!!」

 

このような非常事態にスティーヴは支部の盗賊団を集めに、双子はカズマたちと合流しに向かった。この非常事態に立ち向かうために。




ダクネスの騎士の心得覚書・第20条

騎士たるもの、味方を置いて逃げるようなことがあってはならない。
それが例えどれほど強大な敵であってもである。
兼ねて注意したいのだが、肉体的苦痛を望んで性的満足を得ようなどと思ってはならないことである。
そのような考えは極めて異質で騎士以前に人間としてどうかという最低の行為である。

カズマの反応

カズマ「お前が言うなこのドMのド変態がぁ!!!」

ダクネス「ド・・・変・・・!!?ど・・・どんな時でも容赦のないその罵倒・・・やはりお前は、容赦がないな・・・はぁ・・・はぁ・・・」

カズマ「ほらそういうとこぉ!!!」

次回、この理不尽な要塞に終焔を!


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この理不尽な要塞に終焔を!

アクセルの街にデストロイヤー警報が鳴り響いている中、街の住人は避難の準備を整えている。双子はそんな中、カズマと合流するために急いで屋敷に戻る。屋敷に戻ってみると、阿鼻叫喚と化している。

 

「逃げるの!!どこか遠くへ逃げるのよ!!」

 

アクアは逃げ出すために多めの荷造りの準備を整えている。めぐみんもめぐみんで小さな荷物を抱えて、逃げる準備ができている。

 

「・・・何やってんのよあのアホは」

 

「いや、それが、デストロイヤー警報とかを聞いた途端、荷造りの準備を始めてな・・・」

 

「いや、まぁ・・・相手がデストロイヤーだから気持ちはわからなくもないけど・・・」

 

「だからデストロイヤーって何なんだよ!!?」

 

未だにデストロイヤーの存在がわかっていないカズマはそう言い放ち、ティアが説明する。

 

「機動要塞デストロイヤー・・・それが通ったらアクシズ教徒以外、草も残さないと言われている大物賞金首の動く要塞だよ」

 

「ねぇ、私のかわいい信者がなぜそんな風に言われてるの?ウィズもそうだけど、なぜ双子だけじゃなく周りはみんなうちの子を嫌うの?みんな普通のいい子なのよ!!?」

 

さりげなくアクシズ教徒を異常者扱いをするティアにアクアは突っかかってきたが、全員は無視をする。

 

「なあめぐみん、爆裂魔法でどうにかならないか?名前からしてでかいんだろう?遠くからでも見えるし、撃てるだろう?」

 

「無理ですね。デストロイヤーには強力な魔力結界が張られています。爆裂魔法の1発や2発、防いでしまうでしょう。というか、デストロイヤーに挑むなど、無謀もいいところです」

 

どうやらデストロイヤーは魔法の結界が張られているようで、爆裂魔法でさえも弾いてしまうようだ。

 

「ねえ、うちの信者はいい子たちよ!!?巷で悪い噂が流れてるのは心無いエリス教徒の仕業なの!!みんなエリスを美化してるけど、あの子あれで結構自由奔放だし、やんちゃなのよ!!?悪魔相手だと私以上に容赦ないし、暇なときに街に遊びに行ってるに違いないわ!!」

 

「バカアクア、無宗教の私が言うのもなんだけど、女神を自称だけでなく、女神エリスの悪口を言うと重い天罰が下るわよ?」

 

「自称じゃないってー!!信じてよーー!!」

 

アクアとアカメが無意味な言い合いをしている間にも、鎧を身に纏ったダクネスが到着する。

 

「遅くなってすまない。・・・ん?どうしたカズマ?早く支度をしてこい。お前ならギルドに行くんだろう?」

 

「当たり前だ。お前ら、急いで準備をしろ!」

 

本来面倒事には関わりたくないカズマであったが、今日はなぜか妙にやる気に満ちていた。

 

「どうして!!?」

 

「苦労してやっと手に入れた家を簡単に壊されてたまるかあ!!ほら、お前ら、ギルドに行くぞ!!」

 

カズマたちはデストロイヤーと立ち向かうために、冒険者ギルドへと向かうのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

カズマたちが冒険者ギルドまで辿り着くと、そこには大勢の冒険者が集まっていた。

 

「お!やっぱ来たかカズマ!!お前なら来るって信じてたぜ!!」

 

そこにはダストたちのパーティ、スティーヴとアクセル支部の盗賊団、他にもクリスもそこにいた。まだカズマに気づいてはいないが、中にはミツルギもいた。が、関わり合いになりたくないカズマは人ごみに混ざって見つからないようにする。

 

「・・・あいつら本当にパーティ組んでたんだな・・・」

 

双子が本当にパーティを組んでいたことに、ステイーヴは驚いていた。その間にも、デストロイヤー対策会議が開かれた。

 

「お集りのみなさん!本日は緊急の呼び出しに応えてくださり、大変ありがとうございます!!ただいまより対機動要塞デストロイヤー討伐の緊急クエストを行います。このクエストはレベルも職業も関係なく、全員参加でお願いします!!無理だと判断した場合は、街を捨て全員で逃げることになります。皆さんがこの街の最後の砦です。どうか、よろしくお願いします!!」

 

ルナのこの言葉に冒険者全員は固唾を飲んでいる。

 

「それでは、ただいまより、緊急作戦会議を行います!まず、機動要塞デストロイヤーも説明が必要な方はいますか?」

 

その問いかけにカズマを含めた数名の冒険者が手をあげた。

 

「機動要塞デストロイヤーは元々は対魔王軍用の兵器として魔道技術大国ノイズで造られた超大型ゴーレムです。国家の予算から巨額を投じられて造られたデストロイヤーは外見はクモのような形状をしております。小さな城ぐらいの大きさを誇っており、魔法金属がふんだんに使われ、外見に似合わない軽めの重量で八本の巨大な脚で馬を超える速度が出せます。特筆するのはその巨体と進行速度です。凄まじい速度で動くその八本の脚で踏まれれば、大型モンスターとて挽肉にされます。そしてその体にはノイズ国の魔道技術の粋により常時、強力な魔力結界を貼られています。これにより、まず魔法攻撃は意味を成しません」

 

「魔法が効かないため、物理攻撃しかないわけですが・・・接近すると轢き潰れます。なので弓や投石などの遠距離攻撃になりますが・・・元が魔法金属製のゴーレムなため、弓はまず弾かれ、攻城用の投石器も機動要塞の速度からして運用が難しいと思われます。それにこのゴーレムの胴体部分には、空からのモンスターの攻撃に備えるため自立型のゴーレムが飛来する物体を備え付けのバリスタで打ち落とし、なおかつ戦闘用のゴーレムが胴体部分の上に配備されています」

 

「そして、その機動要塞デストロイヤーがなぜ暴れているかですが・・・研究開発を担った責任者がこの機動要塞を乗っ取ったといわれています。そして現在も機動要塞の中枢部にその責任者がおり、指示を出しているとか・・・。速度が速度ですのでこの大陸においてすでに荒らされてない地はほとんどなく、そのクモのような脚でどれほどの悪路でも踏破してしまいます。現在のところ、人類、モンスター合わせ、平等に蹂躙していく機動要塞・・・それがデストロイヤーです。これが接近してきた場合は街を捨て、通り過ぎるのを待ち、そして再び街を建て直すしか方法がないとされています。まさに天災として扱われています」

 

受付嬢たちの説明にざわついていた冒険者全員は一気にシンと静まり返った。正直無理ゲーに近い。

 

「現在機動要塞デストロイヤーは街の北西方面からこちらへ向けてまっすぐ進行中です。到着まで、後1時間!時間がありません。すぐにでもご意見をどうぞ!」

 

1時間という短い猶予の中で、様々な冒険者が意見を出す。

 

「あの・・・その魔道技術大国ってどうなったのですか?それを造った国なら、何か対抗策を用意してなかったんですか?」

 

「デストロイヤーの暴走で真っ先に滅ぼされました」

 

「なら落とし穴を作るとか・・・」

 

「やりましたが・・・巨大な大穴を掘り、デストロイヤーを穴に落としたまではよかったのですが・・・なんと八本の脚を使い、ジャンプしました。上に岩を落として蓋をする暇もなかったくらい・・・」

 

しかし、どれもこれも試されたものらしく、デストロイヤーには全く通じなかったようで難航している。

 

「やっぱり、ダメなんじゃないかな?早くみんなで逃げた方がいいよ」

 

「いやダメだ。街の人々が帰る場所を失ってしまう」

 

クリスが逃げた方がいいと提案するが、ダクネスが真っ先に反対する。

 

「相変わらず頑固だなー、ダクネスは」

 

「ねぇ、カズマ、何とかならない?持ち前のずる賢さで機転に回るようなさ」

 

「ずる賢い言うな。そんなこと言ったってねぇもんはねぇよ。そもそも魔法を弾く結界を貼ってる時点で・・・結界?」

 

何か案はないかとティアがカズマに問いかけた。カズマは対抗策がないと言葉を紡いだ途端、何かを閃いた。

 

「アクア、前にウィズが言ってたろ?確か、2、3人程度の幹部が残ってたら魔王の城の結界を破れるとかどうとか。それって、機動要塞にも通用するのか?」

 

「え?うーん・・・あんたにこの地に落とされてから力が弱まってるから、やってみないと破れるかどうかわからないわよ?」

 

破れるかどうかはわからないが、結界を破れる可能性は0ではなくなったようだ。

 

「破れるんですか!!?デストロイヤーの結界を!!」

 

この話を聞いていたルナが非常に驚いた反応を示している。

 

「いや、話を聞く限りだと絶対とは言い切れないみたいよ?」

 

「それでも、やれるだけやってみてくれませんか?結界さえ破れれば、魔法攻撃は利くはずです!!」

 

「わ、わかったわ。やってみる」

 

0の可能性でないのなら、やってみてほしいと言われ、アクアは自信なさげに承諾した。

 

「後は・・・ダメージを与えられる魔法さえいれば・・・」

 

「いるだろ」

 

「え?」

 

「火力持ちならいるじゃないか・・・頭のおかしいのが」

 

火力の高い魔法使いがいないか不安を抱いていたルナだが、セドルがそう言った瞬間、周りの冒険者の顔色が明るくなった。

 

「そうか!頭のおかしいのが!」

 

「いたな・・・おかしい子が!!」

 

続けて、ヘインズ、ガリルもそう言い放ち、一部の冒険者は除いて、全員の視線はめぐみんに注がれた。

 

『じぃー・・・』

 

「おい待て!!それが私のことを言ってるなら、その略し方はやめてもらおう!さもなくば、いかに私の頭がおかしいか、今ここで証明することになる!」

 

全員の視線にめぐみんは文句を言う。その瞬間ほとんどの冒険者がめぐみんから視線を逸らす。

 

「確かにこの街では爆裂魔法は最大火力だね。どう?めぐみん、いけそう?」

 

「あう・・・我が爆裂魔法でも・・・さすがに一撃では仕留めきれないと思われ・・・」

 

どうやらめぐみんの爆裂魔法でも一撃で葬るのは難しいようだ。それには周りが落胆しかけている。

 

「ならせめて・・・1人、2人くらいの魔法使いが必要となりますが・・・そんな魔法使いは・・・」

 

「心配しなくていいわ。いるじゃない。この街に強力な魔法使いが」

 

「おうよ。ついでにいや、もう1人、強力な魔法使いがいるぜ」

 

アカメとダストがこの街に強力な魔法使いがいるといったその時・・・

 

「悪い!!遅くなっちまった!!モンスターショップの店主のマホだ!!デストロイヤー討伐に参加しに来たぜ!!」

 

「すみません、遅れました。ウィズ魔道具店の店主です。一応冒険者の資格を持っているので、私もお手伝いに・・・」

 

タイミングよくマホとウィズがやってきた。全冒険者はこれによって、希望を見出した。

 

「店主さんだ!!」

 

「貧乏店主さんが来た!!」

 

「魔道の勇者様も来たぞ!!」

 

「勝てる!!これで勝てるぞ!!」

 

「え?え?」

 

「おい誰だ今魔道の勇者って言ったの!!オレはもう引退したんだ!!その名はやめろ!!」

 

ウィズとマホになぜこんなに妙に人気者なのかを疑問を抱くカズマはテイラーとリーンに尋ねる。

 

「なあ、なんであの2人はこんなに有名なんだ?ていうか、ウィズの場合貧乏店主はかわいそうだからやめてやれよ」

 

「知らないのか?ウィズさんは元は高名な魔法使いで凄腕アークウィザードとして名を馳せていたんだ」

 

(その正体はアンデッドのリッチーだけどな・・・)

 

「一方のマホは前は魔道の勇者って呼ばれていたほどのアークウィザードなの。冒険者を引退しても、その腕は劣ってないから全魔法使いの憧れの的なのよ」

 

(し、知らなかった・・・あいつそんなに強い魔法使いだったのか・・・)

 

とにもかくにも、ウィズとマホが人気の理由は理解できたカズマだった。

 

「ウィズ魔道具店の店主さん、マホさん、これはどうもお久しぶりです!ギルド職員一同、歓迎いたします!さあ、こちらにどうぞ!」

 

受付嬢に促されるまま、ウィズとマホは中央テーブルに座らさせられる。

 

「では、店主さんとマホさんをお越しいただいたところで作戦をまとめます。まずアークプリーストのアクアさんがデストロイヤーの結界を解除。そして、おかし・・・ではなく、めぐみんさんが爆裂魔法を撃ち込む、という話になっていました」

 

「なら、爆裂魔法で脚を潰した方がいいな。デストロイヤーの脚は左右で4本ずつあるから、オレが右側の脚4本を全部、左側の2本をめぐみんとウィズさんで爆裂魔法を撃ち込んじまえば、後はどうとでもなる」

 

マホの出した案にウィズはコクコクと頷いて肯定する。その後は気休め程度ながらもバリケードを張るという案も採用された。これでデストロイヤー討伐の作戦が決まった。

 

「それでは皆さん!!緊急クエスト、開始です!!」

 

『うおおおおおおおおおお!!!!』

 

後はデストロイヤーに備えて準備するだけ。冒険者全員は、高らかに声を張り上げた。

 

 

ーこのすば!!ー

 

 

『緊急クエスト!!

機動要塞デストロイヤーから街を守れ!!

レベル制限なし!!全員参加!!』

 

街の前には、デストロイヤー討伐に参加する冒険者だけでなく、突貫作業でバリケードを作っている街の人や大工さんたちが来ている。皆、考えていることは同じなのだ。そんな中で、デストロイヤーを待ち構えようと、ダクネスが誰よりも前に最前線で立っている。ここから動こうとしないダクネスを無理にでも説得しようと、アカメが前に出る。

 

「ダクネス、悪いことは言わないからさっさとそこをどきなさいよ。あんたの堅さは知ってるけど、デストロイヤーはどうしようもないわよ。今ここをどいてくれたら、とびっきりのご褒美でいじめてあげるから」

 

「いや、私はここを動かん」

 

いつものダクネスならいじめることにたいして食いついてくるのに、今日に限っては全くそんなことはなかった。それにはアカメも目を見開いて驚いている。

 

「・・・アカメ、私の普段の行いのせいでそう思うのも仕方がない。が、私が自分の欲望にそこまで忠実な女だと・・・」

 

「思うわよ。当たり前じゃない」

 

「なっ・・・!即答⁉」

 

最後まで言っていないにも関わらず即答したアカメにダクネスは若干興奮したが、咳ばらいをして、話を戻す。

 

「・・・私には、この街の住民たちを守らなければならない。街の人たちは気にしないだろうが・・・少なくとも私はそう思っている」

 

「・・・ずいぶんお優しいことで。まるでお人好しの貴族様みたいな考え方ね」

 

「貴族・・・か。間違いではない」

 

「はい?」

 

貴族であるという部分を否定しなかったダクネスにアカメは豆鉄砲をくらったかのような顔になる。

 

「私の本名は、ダスティネス・フォード・ララティーナという」

 

「ララ・・・何?」

 

「この近隣を治めるダスティネス家の娘だ」

 

「はあ!!?あんた・・・金持ちのお嬢様ってこと!!?て、待ちなさい!ダスティネスって言えば・・・国の懐刀って言われてる大貴族じゃない!!」

 

ダクネスが国の懐刀と言われているダスティネス家のご令嬢と聞いて、アカメは今まで以上の驚きを示している。

 

「皆には言うな」

 

「え・・・あ・・・」

 

「私は騎士だ。領民の暮らしを守ることは私の義務であり、誇りだ」

 

ダクネスのカミングアウトには驚かされたが、ダクネスの思いにアカメは小さくため息をつく。

 

「・・・ウェーブ盗賊団。名前くらいは聞いた事あるでしょ?」

 

「?なぜそこでその盗賊団の名前を?」

 

「私とティアは、その盗賊団の一員よ」

 

「何!!?」

 

アカメがウェーブ盗賊団員だと知ったこと、アカメがそのカミングアウトしたことにダクネスはアカメと負けないくらいに驚いている。

 

「世界には法では裁けない人間の悪が存在する。その悪の自由で誰かの自由を奪うのはあってはならない。それで死んだらそれこそ、ベルディアなんてアンデッドを生み出す一方よ」

 

「それは・・・」

 

「そういう奴を生み出さないために私たちウェーブ盗賊団が悪の自由を盗み、人の自由を守る。そのために、いろんなところに盗賊団がいる。このアクセルも例外じゃないわ」

 

「!まさか、アルダープの屋敷に入った盗人というのは・・・」

 

「そこは別に重要じゃない。そうでしょ?」

 

「あ、ああ」

 

ダクネスは一応貴族であるため、アルダープの盗み騒ぎに関しては耳にしている。そしてその盗人の正体が双子だと気づいたが、今はそれは置いておく。

 

「仲間は決して見放してはならない。それが盗賊団の掟の1つよ。あんたが領民を守るように、私たちにも盗賊団の仲間を守る義務がある」

 

「待て、お前がアクセルの街を守る理由はわかった。だが、なぜそれを私に?」

 

「あんた、自分が貴族だってことを隠してたみたいだったし、そこでカミングアウトされたら、話さざるを得ない。それだけの話よ。それとも嫌気がさしたかしら?仲間だと思ってた奴が、本物の盗人だと知ってさ」

 

アカメの皮肉ともとれる発言にダクネスは内容に驚きはしたが、ふっと笑ってみせた。

 

「私は、お前たちが悪者だとは思ってはいない。それは、これまでのお前たちを見ればわかる。だから私は、お前たちを嫌ったりするものか」

 

「・・・ふん、お人好しも大概になさいよ」

 

嘘偽りないダクネスの発言にアカメは悪態をつきながらも、口元には笑みを浮かべていた。変わらなく接してくれているのが、嬉しい証拠だ。

 

「一応は秘匿しなければいけないのだから誰にもしゃべるんじゃないわよ。特にティア、しゃべったって知ったらうるさそうだわ」

 

「ああ、わかっている。お互い様だ」

 

「なら、もう何も言わないわ。後は好きになさい。私は戻るわ」

 

「ああ、最後に1つ聞かせてくれ。お前は、我がままで頑固な仲間は嫌いか?」

 

ダクネスの問いかけにアカメは頭をかく。

 

「盗賊団の仲間は頑固者もいるし、どっかのアークプリーストもわがままよ。そいつらの頑固は嫌いだけど・・・それに比べたらあんたのはかわいいくらいよ。嫌いじゃないわ」

 

「・・・そうか」

 

アカメの答えにダクネスは笑みを浮かべ、デストロイヤーが来るのを待ちかまえる。

 

「・・・ララティーナw」

 

「そっちの名前で呼ぶなあ!!!」

 

アカメが笑いそうな顔でさりげなく本名で呼ぶと、ダクネスは怒りだしたのだった。

 

 

ーこのすばぁ!!ー

 

 

ダクネスの説得に失敗したアカメはめぐみんたちが待機している街の外壁の上に上る。

 

「あ、お姉ちゃん、どうだった?」

 

「説得に失敗したわ。あれはもうどうしようもない頑固さだわ」

 

「そっかぁ・・・。ならダクネスの無事のために、何としてでも成功させないとね」

 

「そ・・・そそ・・・そうですか・・・私がやらなきゃ・・・ダメですね・・・わ、私が・・・私が・・・」

 

「ああ!!こっちはこっちで緊張してガチガチだ!!」

 

作戦の成功の要は自分にかかっているため、かなり緊張してガチガチ状態になっているめぐみん。だが、緊張をほぐす暇もなく、それは訪れた。

 

「冒険者の皆さん!!そろそろデストロイヤーが見えてきます!!戦闘の準備をお願いします!!」

 

街の外の先で、遠くからガシャンガシャンと街に近づいてくる音が聞こえてきた。そして、その姿はすぐに現した。城ほどの大きさを誇り、全てを蹂躙させる巨大な金属のクモ型要塞・・・機動要塞デストロイヤー。遠くからでも、その巨大さがわかる。

 

「ちょっとウィズー!大丈夫なんでしょうねこれ!!?」

 

「任せてくださいアクア様・・・これでも私は最上位のアンデッドなのですから・・・」

 

「本当に大丈夫なんでしょうね!!?」

 

「もし失敗したら、みんな仲良く土に還りましょう・・・」

 

「冗談じゃないわよ!!冗談じゃないわよ!!!」

 

アクアが心配そうにしている。ウィズの縁起でもない発言に余計に不安を覚えるアクア。

 

「ちょっとカズマー!!そっちは大丈夫なんでしょうねー!!?」

 

「おいマホ、そっちは大丈夫か?お前は4本まとめてだぞ?いけるか?」

 

「はっ!任せろよ!ネクロノミコンの力の見せ所だ!!足くらいなら吹き飛ばせる!!」

 

「おお!!そいつは頼もし・・・」

 

「オレ、この戦いが終わったら、お前らの借金を1割減らしてやるんだ・・・」

 

「それ死亡フラグだぞ!!?てか終わりのやることショボいな!!!いや、ありがたいけども!!!」

 

マホは気合は入っているが、緊張しているのかショボい死亡フラグを言い放った。

 

「おい双子!そっちは大丈夫かー?」

 

「だ・・・ダイジョウビ・・・ワタシハツヨイ・・・ワタシハツヨイ・・・」

 

「無理そうだわ・・・」

 

「めぐみん落ち着いて!あんまり深く考えちゃダメ!」

 

「わ、わ、我が爆裂魔法で・・・け、け、消し飛ばしてくれるわー」

 

「早い早い!タイミングまだ早いよ!」

 

未だに緊張しているめぐみんをティアは落ち着かせることで精いっぱいだ。

 

「普通のやり方じゃダメよ。いい?こういう時は・・・」

 

「来るぞぉ!!!」

 

アカメがティアにめぐみんのやる気を引き出させ方を教えてる間にもデストロイヤーがどんどんと近づいてきている。それに合わせて、イチかバチかで、アクアも行動に出る。

 

「セイクリッド・ブレイクスペル!!!!」

 

アクアは解除魔法であるセイクリッド・ブレイクスペルの光をデストロイヤーに向けて放った。デストロイヤーが当たる瞬間、デストロイヤーは魔力結界を張った。結界とブレイク・スペルは互いに均衡している。

 

「ぐ・・・ぐぅ・・・ああああああああああ!!!!」

 

だが負けじとアクアはブレイク・スペルを最大出力まで引き出し、威力を高めた。均衡を保っていた結界は耐え切れず、破れ去った。これで魔法攻撃が通用するようになった。

 

「今だぁ!!!」

 

「マホさん、めぐみんさん!!同時発射です!!」

 

「あの・・・ウィズさん・・・あいつらまだ・・・」

 

「おおい!!?まだ緊張してんのかあいつ!!!」

 

今が好機だというのに、未だにめぐみんは責任の重大さに押し潰れそうになっている。そこでティアがアカメに教えてもらった方法でめぐみんのやる気を引き出させる。

 

「めぐみん!!めぐみんの爆裂魔法の愛はその程度のものなの!!?ここでウィズやマホに負けたりしたら紅魔族(笑)の称号を得ることになるよ!!?」

 

「!!!」

 

「それともめぐみんの爆裂魔法はあんな要塞も壊すこともできないポンコツネタ魔法なの!!?」

 

「何をぅ!!?我が名をこけにするよりも、1番私に言ってはならないことを口にしましたね!!!見せてあげますよ・・・本物の爆裂魔法を!!!」

 

「それでこそめぐみんだよ!!」

 

「ティア、ナイスだ!!!ウィズ、マホ!!今だ!!」

 

「はい!!」

 

「おう!!」

 

めぐみんがやる気になったところでめぐみんは爆裂魔法の詠唱を始める。それと同時に、ウィズもマホも爆裂魔法の詠唱を唱える。

 

「「「黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が真紅の混交を望みたもう・・・覚醒の時来たれり・・・無謬の境界に落ちし理・・・無響の理となりて現出せよ!!!」」」

 

3人の詠唱を唱え終え、狙いをデストロイヤーの八本の脚に定める。

 

「「「エクスプロージョン!!!!!!」」」

 

3人のエクスプロージョンの熱はこれまでの爆裂魔法より熱く、凄まじい魔力を帯びている。3つの爆炎はデストロイヤーの脚へと向かっていき・・・

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!

 

デストロイヤーの脚を見事に霧散させてみせた。機動力を失ったデストロイヤーは地面に転げ落ち、凄まじい速度に合わさって地面を滑っていく。その勢いはダクネスに当たる直前で止まり、完全に動き1つとらなくなった。

 

「・・・終わったようね」

 

「ふぅー・・・やったよ、めぐみん!」

 

爆裂魔法を放った瞬間、めぐみんは魔力をつき、お約束として倒れてしまう。ウィズはもともとから魔力が高いため普通に立っている。マホもネクロノミコンの恩恵のおかげで立つことができている。が、2人の魔力も底をつきかけているのは事実だ。それだけ強力な魔法なのだ、爆裂魔法は。

 

「くぅ・・・さすがはリッチー・・・片や魔道の勇者・・・私を簡単に上回るレベル・・・上には上がいると思い知りました・・・悔しいです・・・」

 

「はは、よく頑張ったね、めぐみん」

 

威力的にも同じように見えたが、めぐみんにはウィズとマホとのレベルの違いがわかるようで、自身が劣っていたことにたいして悔しそうにしている。

 

「やったか!!」

 

「俺、これが終わったら結婚するんだ・・・」

 

(は⁉おいおい、こんな時にフラグになるような発言は・・・!)

 

冒険者の誰かがフラグを言い放った瞬間、カズマは嫌な予感を感じた。そしてそれを察していないのかアクアが続けてフラグを言い放つ。

 

「さあ!帰って乾杯よ!!報酬はおいくらかしらね?」

 

「このバカーーーー!!!なんでお前はそうお約束が好きなんだーーーー!!!」

 

「え?」

 

アクアがフラグを言った瞬間、デストロイヤーの複数ある目が赤く点滅しだした。まだ終わりではないことを示している。見事にフラグを回収した瞬間である。

 

「ほら見たことか!!!」

 

「えええええ!!??」

 

「なに!!?なになになに!!?」

 

冒険者全員がざわついていると、デストロイヤーから緊急放送が流れる。

 

≪被害甚大につき、自爆機能を作動します。乗組員は直ちに避難してください。乗組員は直ちに避難してください≫

 

『・・・マジかよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!???』

 

デストロイヤーが自爆すると聞き、この場の全員が絶叫した。

 

『超緊急クエスト!!!

機動要塞デストロイヤーの自爆を阻止せよ!!!』

 

「無理だああああああああああ!!!」

 

「逃げろおおおおおおおおおお!!!」

 

もうダメだと判断したこの場の大勢の冒険者は街の中へと逃げ出していく。カズマたちパーティはダクネスを迎えに行った。

 

「ダクネス!!避難するぞ!!」

 

「・・・私は最後まで引くわけにはいかない」

 

「あんた・・・」

 

「領民より騎士が先に逃げるなど、あってはならない・・・」

 

「ダクネス・・・」

 

ダクネスの立派な騎士道にカズマたちは少しじーんと感動している。

 

「それに、街を吹き飛ばすほどの爆弾に、身を晒しているのだとするとどうだ?」

 

「「「はい?」」」

 

「なんだ・・・このかつてないほどに沸き上がる興奮は・・・!果たして私は耐えられるのだろうか・・・!いや、いくら頑丈とはいえ・・・無事では済まないだろう・・・!もう・・・辛抱溜まらん!!!」

 

前言撤回。ダクネスのこの発言で全てが台無しに変わってしまっている。

 

「カズマ!!」

 

「はいはい、カズマだよ」

 

「私は突撃するぞ!!!」

 

「え?お、おい・・・」

 

「では・・・行ってくりゅ!!!どっひいいいいいいいいい♡!!!」

 

ダクネスは興奮を隠さずにデストロイヤーへと突進していっている。その姿は他の冒険者たちも見えていた。

 

「おい!!ダクネスさんが突撃してるぞ!!」

 

「そうか!!爆発する前に破壊するつもりなんだ!!」

 

「街を守るために!!」

 

半分正解半分間違いの解釈に冒険者一同の考え方は変わった。特に・・・男の連中は。

 

「やるぞ俺はぁ!!!この街には世話になってるからな!!!」

 

「俺も・・・もうレベル30を超えているのに、なぜ未だにこの駆け出しの街にいるのかを思い出した!!」

 

男の冒険者たちが真っ先に思い浮かべたのは・・・サキュバスの店である。街・・・というよりかはサキュバスの店を守りたいのが正しいのだろう。

 

「どこだろうと関係ねぇ!!!世話になってるんだったら、ここでやらなきゃおかしいだろぉ!!!」

 

『おおおおおおおおおお!!!!』

 

スティーヴと男の盗賊団全員もサキュバスの店を守ろうと躍起になっている。女性の盗賊団は事情は知らないが、若干男に引いている。

 

「むしろ、今まで安くお世話になってきた分、ここで恩返しできなきゃ終わってるだろぉ!!!」

 

「「おおおお!!」」

 

ダストたちのパーティの男たちも気合十分である。リーンはちょっとこのテンションについていけてないようだが。

 

「ビビってんじゃねぇ!!!俺らも続くぞぉ!!!!」

 

『おおおおおおおお!!!!乗り込めえ!!!!』

 

しかも大工の親方率いる街の男たちも続いてフックのついたロープを使って、冒険者たちに続いてデストロイヤーへと乗り込んでいく。みんなサキュバスの店のために必死すぎである。

 

「カズマさん、もしかしたら、制御装置を見つけることができれば、自爆を止められるかもしれません」

 

「ダクネスの奴、絶対そんなこと考えずに突っ込んだよな」

 

「ていうか、入れてないわよ、ダクネス。見てみなさいよあれ」

 

「え?」

 

デストロイヤーの方を見てみると、デストロイヤーへと登ろうとしているダクネスが重い鎧が災いして、むしろロープをぶちきってしまうという役立たずっぷりを見せている。

 

「・・・ダクネスの奴、何してんだ・・・?」

 

「あー・・・ありゃあれだな。鎧が重すぎてロープの負担が耐えきれないってところだろ。見たところ、地面からじゃ入れなさそうだし」

 

「役立たずじゃん!!!」

 

「かっこいいことを言った手前かっこ悪いぞ!!いや、それも台無しになったんだが」

 

全くデストロイヤーに入れてない時点でもう役に立たないただのお荷物になっているダクネス。

 

「ていうか!!あいつのせいでロープ全部切れたぞ!!?どうすんだ!!?」

 

「心配いらないわ。ティア!!」

 

「わかってる!!ダブルバインド!!」

 

ティアがダブルバインドを使い、片方を岩の方に縛り、もう片方をデストロイヤーの入り口へと続く柱に括りつけた。

 

「こうやって2本のロープを括れば・・・これで私たちも登れるよ!!」

 

「ナイスだ!!よし、行くぞお前ら!!」

 

「わかってるわ。責任者をぐちゃぐちゃに潰さないと気が済まないわ」

 

「いやいや、この分だと他の人に任せて大丈夫よ。帰ろう?帰ってまた明日がんば・・・」

 

「アクアも行くんだよ!!!」

 

「いやああああああああ!!」

 

カズマたちはめぐみんをここに置いていき、デストロイヤーの中へと侵入していく。嫌がっているアクアはティアがバインドで自身の体に巻き付けて抵抗させないようにする。

 

「マホさん!私たちも行きましょう!」

 

「わかってるよ、ウィズさん!!」

 

カズマたちに続いてウィズとマホもデストロイヤーの中へと入っていく。

 

「ま、待て!!私も・・・!!」

 

ブチッ!

 

カズマたちが侵入したのを見て、ダクネスも中に入ろうとティアのバインドロープを手にもって渡ろうとした瞬間、ロープが切れてしまった。もうダクネスはデストロイヤーの中には侵入できないのだ。

 

「くそう!!なぜだ・・・みんなばっかりずるいぞ!!私にも中に入らせろぉ!!!」

 

入れないダクネスは放っておいて、デストロイヤーでは現在、冒険者たちが戦闘用のゴーレムと戦闘を繰り広げている。そのゴーレムはカズマたちにも襲い掛かってくる。

 

「ん、おいでなすったわね!」

 

「わああああああ!!だから嫌って言ったのにいいいいい!!」

 

「アクアうるさい!!ここまで来たら腹くくって!!」

 

襲い掛かってくるゴーレムをアカメは短剣スキルで1体ずつながらも一撃で薙ぎ払っていく。

 

「おお!どのゴーレムも一撃で!」

 

「お前やるじゃねぇか!シーフは攻撃力低いはずだろ?どうなってんだ?」

 

「簡単よ。私は攻撃スキルにしかポイントを振ってないからよ」

 

「んだそりゃ⁉けど今はそれが結構役立ってるぜ!」

 

「そっちに行ったぞーーー!!」

 

戦闘用ゴーレムを対処していると、奥の方から他のより大きいゴーレムが現れる。

 

「こいつは戦闘用でも結構でかいぞ!」

 

「関係ないわ。切り刻んであげる」

 

大型戦闘用ゴーレムの登場に、なぜかカズマは得意げな顔をしている。

 

「おいお前ら、いいものを見せてやる。スキルの有用な使い方ってやつをな」

 

「え?ちょっ・・・カズマ待っ・・・」

 

「スティーーール!!!」

 

カズマは戦闘用ゴーレムに向かってスティールを放った。そうしたらゴーレムの頭はカズマの手元に収まっている。これによってゴーレムは頭がなくなり、ピクリとも動かなくなった。そして・・・

 

ズシンッ!

 

「ぎゃああああああああ!!俺の手がーーーーーー!!!」

 

「何やってんの!!?」

 

「あんたバカでしょ」

 

ゴーレムの頭の重さが重力に従い、カズマの手を巻き込ませて地に落ちる。これには当然カズマは悶絶している。

 

「大丈夫ですかカズマさん!!?重いものを持ってるモンスターにはスティールを使ってはいけませんよ!!」

 

「ほら、今どけてやるから・・・しっかりしてくれよな?」

 

「一応ヒールかけてあげるけど・・・あんまり調子に乗ってバカなことしないでね?」

 

「アクアに言われるとか屈辱すぎる!!」

 

ウィズとマホが力を合わせてゴーレムの頭をどけて、カズマの手を助ける。そしてアクアがヒールをかけて手を治してもらうが、アクアの言われたことが屈辱でいっぱいになるカズマ。

 

「開いたぞーーー!!!」

 

そうしている間にもデストロイヤーの数々のフロアが冒険者たちの手によって開かれ、戦闘用ゴーレムも蹂躙されていく。普段はまとまりがないのに、一致団結すると頼もしいものはない。カズマたちは冒険者たちの後に続いて先を進んでいく。

 

「お、カズマ、いいところに来たな。見てみろ、あれを・・・」

 

とある部屋にたどり着いたカズマたち。そこには多くの冒険者たちが集まっていた。テイラーに言われた先を見てみると、そこには白骨化した人の骨が椅子に腰を掛けている。

 

「搭乗員・・・でしょうか・・・?」

 

「だろうな・・・この骨の着ている服が物語ってるぜ・・・」

 

この白骨化した骨はどうやら元はこのデストロイヤーの搭乗員らしい。

 

「すでに成仏してるわね・・・アンデッド化どころか、未練のかけらもないくらいそれはもうスッキリと・・・」

 

「いや未練ぐらいあるだろ!!?これ、どう考えても1人寂しく死んでいったみたいな・・・」

 

「あれ?なんかあるよ?」

 

骨を探っているとティアが何かを見つけたようだ。何やら手記のようだ。ティアはすぐにその手記の埃を払ってから手記を開いてみる。

 

「あ、これ日記だね」

 

「日記?なんて書いてあるのよ?」

 

ティアが取り出した日記にはこのような内容が書かれていた。

 

『○月○日。

国のお偉いさんが無茶なことを言いだした。こんな低予算で機動兵器を造れという内容だった。無茶にもほどがある。ていうか、設計図まで渡されたんですけど。無理だと思うんだけどなー、どうしよう・・・。そう思ってた時、設計図の上に俺の大嫌いなクモが出てきた。俺は悲鳴を上げてそのクモを潰してやった。そしてやばいと思った。だって潰したクモの下は設計図だからな。これで弁償しろと言われても知るか。だいたい金ねーんだよ。もう面倒だ。このまま提出しちゃえ』

 

『○月△日。

あの設計図が予想に反して大好評だった。え?お偉いさん、それでいいの?だってそれ、クモを潰した後ですよ?なんかどんどんと話が進んでるし、その実物までもうすでに設計まで始めてるんですけど。これ、俺いらなかったんじゃね?クモを潰すなんて誰でもできるし。あ、でもなんか動力源がどうこう言われたっけな。でもそんなこと知るか。そんなもん、伝説のレア鉱石のコロナタイトでも持って来いと言ってやった』

 

『○月×日。

本当に持ってきちゃったよ・・・。どうしよう・・・他の研究員がもうコロナタイトを設置しちゃったんですけど!これで動かなかったら俺極刑とかじゃないの?やだ。俺まだ死にたくない。動いてください、お願いします!!』

 

『○月□日。

終わった・・・。起動実験前の翌日、なんか動いていると思ったら、現状把握。現在、ただいま、暴走中。まさかコロナタイトに煙草の灰を入れただけでこんなことになるなんて・・・これ絶対俺指名手配犯になってるよ・・・。ちくしょう・・・俺の人生ここでおしまいかぁ・・・。デストロイヤーで開発者潰されねぇかなぁ・・・』

 

『○月※日。

あ、国滅んだやべぇ!!滅んじゃったよ、やべぇ!!!国のお偉いさんや国民は逃げたみたいだけど・・・どうでもいいか!だって今俺、めちゃくちゃ気分いいし!スカッとしたし、満足!よし、決めた!もうここで余生を暮らすとしよう!だって降りられないしなwもう止められないしなwこれ造った奴、絶対バカだろ!!・・・おっと、これ造った責任者、俺でしたwww』

 

『・・・・・・』

 

全く反省の色が見えない責任者の日記内容にこの場の全員が冷めた顔つきになっている。

 

「・・・お、終わり・・・」

 

『なめんなぁ!!!!』

 

そしてこの場の全員がそうハモったのであった。

 

 

ーこ・の・す・ばぁ!!!ー

 

 

その後はカズマたちは先に進んで、動力源のある部屋を見つけた。動力源にはデストロイヤーが動く源となっている鉱石、コロナタイトが赤く輝いている。

 

「こいつがコロナタイトってやつか・・・」

 

「ダストたちは先に逃がしたけど・・・どうすんだこれ?」

 

「暴走してますね・・・」

 

「とりあえずこの鉄格子をどうにかすべきじゃない?」

 

「なら、とっとと鉄格子を切り刻んでやるわ」

 

暴走しているコロナタイトをどうにかしようと、アカメが鉄格子をマジックダガーで裂こうとした時、カズマが制止する。

 

「まぁ待てよ。こうすれば取ることはできるだろ?スティ―――ル!!」

 

カズマがスティールを発動すると、鉄格子の奥にはコロナタイトはなく、カズマの手元には、コロナタイトがあった。・・・燃え続けている状態の。

 

じゅうううううう・・・

 

「ぎゃーーーーーー!!!熱いーーーーー!!!手がーーーーーーー!!!」

 

「またかお前!!!」

 

「燃えてるコロナタイトをスティールしたらそうなるよ!」

 

「あんたやっぱバカでしょ」

 

「フリーズ!フリーズ!」

 

「ヒール!ヒール!」

 

やけどを負ったカズマの手をウィズがフリーズを、アクアがヒールをかけて治す。カズマの足元にはその燃え続けているコロナタイトがある。

 

「やべぇな・・・そろそろ爆発しちまうな・・・。早くどうにかしねぇと・・・」

 

「アクア、これどうにかならないか?よくあるだろ?女神が悪しき力を封印するとかどうとか・・・」

 

「何その身勝手な妄想?それはゲームの話でしょ?どうにもならないわよ」

 

カズマはアクアにどうにかならないかと尋ねても、アクアではどうにもならないようだ。

 

「ねぇウィズ、マホ・・・どうにかならないの?」

 

「・・・1つだけ方法があるな。テレポートさえ使えればこいつをどうにかできる。ただ・・・オレもウィズさんも爆裂魔法で魔力切れだ。今じゃ初級魔法しか使えねぇよ」

 

2人とも魔力切れで転移魔法、テレポートを使うことができないらしい。

 

「・・・あの、カズマさん・・・お願いが・・・」

 

「な、なんでしょう・・・」

 

そこでウィズはカズマの頬に触れる。その親指はカズマの唇まで迫っている。

 

「・・・吸わせて・・・もらえませんか・・・?」

 

「喜んで」

 

何をとは言わない。カズマはここで動揺したり、すっとぼけるような鈍感系ではない。

 

「ありがとうございます!!」

 

「こちらこそ」

 

「では・・・まいります・・・」

 

ウィズは自身の顔を徐々にカズマの顔まで近づいていく。

 

「お父さん・・・お母さん・・・俺・・・異世界で大人にあああああああああああああ!!??」

 

「すいません!ドレインタッチ!!」

 

カズマは鈍感系ではないが勘違い系ではある。ウィズのドレインタッチによってカズマは魔力と体力を吸われていく。

 

「ちょ、ちょちょ・・・ウィズさん!!もうそれ以上はやめとけ!!それ以上やったらカズマが干物になって死んじまう!!」

 

「はっ!す、すみません!!」

 

「何という期待外れ・・・」

 

「こんな時に何を期待してたの?」

 

「この変態」

 

干物になりかけているところをマホが止めに入る。勘違いをしたカズマにたいして双子は軽蔑な視線を向ける。

 

「これでテレポートの魔法が使えます!でも問題が・・・転移先を選ぶのに、制限がありまして・・・」

 

「確かに・・・オレもウィズさんも転移先が複数の街と王都しかねぇんだよなぁ・・・」

 

「ダメじゃんそれ!!」

 

何のためにカズマがドレインタッチをされたのかわからないくらいに場所が制限されているため、使えなくなる。するとコロナタイトは白く輝きだした。

 

「やばいわよ・・・。赤を通り越して白く輝きだしたわよ。何とかならないのかしら?」

 

「・・・ランダムテレポートなら・・・すぐに飛ばせるのですが・・・」

 

「じゃあそれで!!」

 

「いや待て!ランダムテレポートは本当にどこに飛ばされるかわからんぞ!!?下手をしたら、人が集まってる場所に送られるかもしれんぞ!」

 

「構わないわ、やっちゃいなさい!」

 

どこに飛ばされるかわからんというランダムテレポートの使用にアカメはすぐに使うように指示する。

 

「世の中は本当に砂漠以上に広いわ。それは私が保証する。そんな簡単に人が集まるとこに飛ばされたりしないわ。安心なさい、私はカズマ並みに運がいいのよ。全責任は、私が取るわ」

 

「お姉ちゃん・・・かっこつけすぎだよ。どうせ責任を取るなら、私も一緒だよ」

 

「ティア?」

 

ランダムテレポートの使用責任をアカメが取ろうとした時、ティアもその責任を受け持つと言い出した。

 

「私たちは双子だよ?どんな時だって、いつも一緒じゃん。今までも、そして、これからも。行くときは、一緒だよ。大丈夫・・・私とお姉ちゃんの運が合わされば、カズマ以上の運だし・・・2人合わされば・・・幸運だって生まれるよ」

 

「・・・全く・・・あんたって子は・・・」

 

ティアの言葉に負けたと言わんばかりにアカメはティアに笑みを浮かべ、ティアもまた、微笑を見せている。

 

「・・・そういうわけよ。全責任は私たち双子が取るわ」

 

「だから・・・やっちゃって、ウィズ」

 

2人の迷いのない笑みを見て、ウィズは少し呆気にとられたが、すぐにその顔は微笑みに変わった。

 

「・・・わかりました。お2人とも、お願いします」

 

ウィズは2人の意志をくみ取り、ランダムテレポートの発動を決めた。

 

「行きます!!ランダムテレポート!!」

 

ウィズのランダムテレポートが発動し、コロナタイトはこの場から姿を消し、どこかへと飛ばされていった。

 

 

ーこのすばー

 

 

コロナタイトがテレポートしたのを確認したカズマたちはデストロイヤーから出てきた。外ではダクネスが仁王立ちで待っていた。

 

「おーい、ダクネスー、無事に終わったぞ。はぁー・・・人生最大で1番疲れたぜ。早く屋敷に帰ってご飯でも・・・」

 

「いや、まだだ。私の強敵をかぎつける嗅覚がまだ香ばしい危険な香りを嗅ぎ取っている。まだ終わっていないぞ」

 

「はあ?」

 

ダクネスがまだ終わっていないと発言したその時、デストロイヤーは急に振動音と共に震えだした。危険を感じ取ったのか他の冒険者もデストロイヤーから距離を取る。

 

「おいおいどうなってんだ!!?コロナタイトは取り除いたはずだろうが!!」

 

「こいつは・・・内部に溜まった熱を吹き出してやがる!!このままじゃデストロイヤーが爆発して、街が火の海になるぞ!!」

 

「コロナタイト飛ばした意味ないじゃん!!!」

 

「私たちの責任返しなさいよこの!!!」

 

どうやらダクネスが言った危険な香りとはこのことを指していたようだ。このままでは街は危険なままだ。

 

「もう1度エクスプロージョンを使ってその爆発でデストロイヤーの爆発を相殺させるんだ!!」

 

「すみません・・・私もマホさんも魔力が足りません・・・」

 

「魔力か・・・」

 

もう1度エクスプロージョンを使えればどうにかなるだろうが、肝心の2人は魔力が足りていない。そこでカズマはまたここで閃いた。

 

「よく考えたら借金はこの街のギルドが立て替えてるんだし、ここでぽんってなっちゃえば・・・」

 

「おいクソ女神、そんなことをしたらてめぇの借金を何億倍に増やしてやるからな」

 

「あああああああああああ!!!マホがいるからどうやっても借金地獄から逃げられないいいいいいいいいいいい!!!!」

 

アクアがバカなことを言っている間にカズマはアクアに近づく。

 

「おい自称なんとか」

 

「カズマ助けて!!このままじゃ私の人生はぱああああああああ!!?」

 

カズマはアクアの手を繋ぎ、そのままドレインタッチを使いアクアの魔力を吸い取る。

 

「ヒキニートこの非常事態に何すんのよ!!?」

 

「非常事態だからだよ!!今からお前の魔力をウィズかマホに分けて爆裂魔法を使う!」

 

「待って!私の神聖な魔力を大量注入したらこの子絶対消えちゃうわよ!!?」

 

「ならマホにでも・・・」

 

「冗談じゃねぇ!!この非常事態でもオレはごめんだ!!このクソ女神の魔力をもらうくらいならいっそここで死んじまった方がマシだ!!言っとくが本気だからな!!!」

 

「なぁんでよおおおおおおおおお!!?」

 

「おう・・・なんてこった・・・そこまで嫌うか・・・」

 

ウィズだと消滅の可能性あり、マホがアクアの魔力を分けたら本気で死ぬ発言でもう消去法として残されたのは・・・

 

「真打ち登場」

 

カズマたちの前に現れたのは、荒くれ者に背負われているめぐみんであった。

 

「先ほどは後れを取りましたが・・・あれはそう・・・ほんの少し調子が悪かっただけです!私が真の爆裂魔法を見せてあげましょう!!」

 

全ての希望は、めぐみんに託されたのであった。

 

 

ーふっはっは!

 このすば!ー

 

カズマはもう危険が迫っているデストロイヤーの前に立ち、めぐみんが爆裂魔法が撃てる準備を行う。

 

「よし、やるぞ!」

 

「いつでもいいですよ」

 

「チャンスは1度きり・・・お前の輝きに賭けるぜ!」

 

ダクネスたちは爆裂魔法に離れないように荒くれ者と一緒に離れる。

 

「ねぇ、わかってる?吸いすぎないでね?吸いすぎないでね?」

 

「わかってるわかってる。宴会芸の神様の前振りなんだろ?」

 

「ちっがうわよ!!芸人みたいなノリで言ってんじゃないわよ!!」

 

「はいはい」

 

「おい何でもいいから早くしろ!!このままじゃやべぇぞ!!」

 

「ドレインタッチは皮膚が薄く心臓に近い部分から吸うのが効率がいいですよ」

 

ウィズからドレインタッチのアドバイスを受け、すぐに行動を開始するカズマ。

 

「ふっふっふ・・・日に2回も爆裂魔法が撃てるなんてうはあああああああああ!!??」

 

カズマはめぐみんの背中に触れ、ドレインタッチをしようとするがその前にめぐみんが飛び跳ねてこれを失敗。

 

「いきなり何をするのですか!!?心臓止まるかと思いましたよ!!なんですか!!?セクハラですか!!?この非常事態にセクハラですか!!?」

 

「待ったそうじゃない!!効率を考えてのドレインタッチだ・・・あ、ちょ、お前まで逃げようとすんな!!」

 

「いやあああああああ!!」

 

「前に手を突っ込まないだけありがたいと思え!!」

 

「いいから早くしろ!!ぶっ殺すぞてめぇら!!」

 

じゃれ合っているカズマとアクアにマホがキレて2人を早くドレインタッチをするように急かす。

 

 

ーこのすばぁ!!(ゲス声)ー

 

 

ドレインタッチはとりあえずは妥協案として首元にすることになった。カズマはアクアから魔力を吸い取り、めぐみんの首元に魔力を送り届ける。

 

「おお・・・来てます来てます・・・これは・・・過去最大級の爆裂魔法が放てそうです・・・」

 

「ねぇ、めぐみん・・・まだかしら?もう結構な量を吸われてると思うんですけど・・・」

 

「もうちょい・・・もうちょいいけます・・・あ・・・やばいかも・・・やばいです・・・」

 

随分と気持ちよさそうにしているめぐみんの魔力が満タンになり、めぐみんは再度爆裂魔法を今度はデストロイヤー本体に狙いを定める。

 

「光に覆われし漆黒よ・・・夜より纏いし爆炎よ・・・他はともかく、爆裂魔法のことに関しては私は誰にも負けたくないのです!!」

 

今までにかつてないほどの魔力量がデストロイヤーの周りを覆い囲んでいる。

 

「行きます!!我が究極の破壊魔法・・・エクスプロージョン!!!!!!!

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!

 

かつてないほどの爆裂魔法の大爆発はデストロイヤーを覆いかぶさった。この大爆破によって・・・長きにわたる災厄とされるデストロイヤーは・・・その終焉を迎えたのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

デストロイヤーが討伐された翌日の夜・・・場所は変わり、砂漠の砂に覆われているウェーブ盗賊団のアジト。その建物にある会議室・・・そこでは、団長であるネクサスと秘書である女性2人、そして、幹部である各街にある支部の支部長が集まって盗賊団会議が行われている。

 

「では、これにて、盗賊団会議を終了する。長引かせてすまなかったな。全員街に戻ったらゆっくり休んでくれ。それでは、解散!」

 

ネクサスの解散宣言に支部長たちはネクサスに一礼をして、会議室を退室していく。3日間かけて行われた会議も終わり、ネクサスは一段落する。

 

「ふぅ・・・」

 

ネクサスが椅子にもたれかかっていると・・・

 

「大変だぁ!!リーダー!!大変なんだよ!!」

 

アクセルの街から戻ってきたスティーヴが会議室に駆けこんできた。その様子は何やら慌てているようだ。

 

「騒がしいですよ、スティーヴ!ネクサス様の前ですよ!」

 

「まぁ、待て、カテジナ。ただ事じゃなさそうだな。どうした、スティーヴ」

 

スティーヴの様子からネクサスはデストロイヤー関連なのではと想像する。

 

「アカメとティアが・・・検察官に捕まっちまったぁ!!!」

 

「はあ!!??」

 

だがその予想とは違い、それよりももっと大事・・・双子が・・・盗賊団の仲間が捕まってしまった。その報告にネクサスは心の奥底から驚いたのであった。




次回、この噓つき娘に嘘発見器を!


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呼んでますよ、ダクネスさん
この噓つき娘に嘘発見器を!


この微笑ましい双子に幸運をの今年の分は今話で最後です。

よいお年を!


砂漠のウェーブ盗賊団のアジトの会議室・・・そこでスティーヴから双子が検察官に捕まったという報告を聞いて、ネクサスはあまりに渋い顔をしている。

 

「・・・すまん。俺の聞き間違いか?もう1度言ってみてくれ」

 

「だからさぁ・・・双子が検察官に捕まったんだって!嘘じゃねぇよ!」

 

「よりにもよって検察官にとは・・・」

 

聞き間違いでないことがわかってネクサスは非常に頭が痛そうな表情になっている。

 

「嘘・・・アーちゃんとティーちゃんが・・・捕まった・・・?」

 

「捕まった・・・とは、穏やかではないですね・・・」

 

双子が捕まって驚いているのは何もネクサスだけではない。ネクサスの秘書である橙色の髪の少女、バーバラも、同じく金髪のスーツ姿の女性、カテジナも同じ気持ちだ。

 

「ふぅー・・・スティーヴ、どういうことか詳しい説明を頼めるか?」

 

「お、おう・・・。あれは俺とアクセル支部の連中と一緒にデストロイヤー討伐の報酬を受け取ろうとギルドへ行った時のことだ・・・」

 

スティーヴはなぜ双子が捕まってしまったのかを、その経緯をネクサスに報告した。

 

 

ー・・・このすば・・・ー

 

 

機動要塞デストロイヤーが討伐されてから数日、カズマたちパーティはデストロイヤー討伐の報酬を受け取りに冒険者ギルドまでやってきた。

 

「みんな・・・改めて礼を言う。よくこの街を守ってくれた・・・。どうも・・・ありがとう・・・。いつかお前たちには・・・私の隠してることを話そうと思う。なぜ私が、この街を守りたいのかというのを・・・」

 

そんな中でダクネスはカズマたちに改まって頭を下げ、街を守ってくれた感謝を述べている。ダクネスの秘密はアカメだけは知っているせいか、妙にくすくす笑っている。

 

「・・・あんた、あの時は妙にかっこよかったわね。1番誇らしいともいえる姿だったわ」

 

「そ・・・そうか・・・。なんだ・・・お前らしくないな・・・」

 

「どうしたのお姉ちゃん?本当にらしくない・・・」

 

アカメに褒められたダクネスはアカメらしくないと思ったが、少し嬉しそうだ。その証拠に少し照れ臭そうに顔をそっぽを向いている。らしくないと思ったのはティアも同じだった。

 

「・・・まぁ、あんた1番何もしてなかったけど」

 

「!!??」

 

そしてここで1番の爆弾発言をアカメは言い放つ。ダクネスはビクリと肩を震わせた。

 

「そういえばダクネスは今回街の前に立ってただけねー。私はがんばったわよ?結界破ったし、カズマの傷も治したし!あと、めぐみんに魔力を分け与えたし!」

 

「ティアはあんたが潰してくれた侵入経路を見事に作ってくれたわ」

 

「お姉ちゃんだって道中に現れた戦闘用ゴーレムをこれでもかっていうくらいの数を蹴散らしてたしね」

 

「それだけじゃなくて、コロナタイトを飛ばした時、率先して責任を負ってくれたしな、お前らは」

 

「私はもちろん、日に2回も爆裂魔法を撃って大活躍でしたしね。しかも、二発目はデストロイヤーを粉砕してやりましたよ!」

 

続けてそれなりに活躍したメンバーたちがそう口にし、またダクネスの肩が跳ね上がった。

 

「カズマさんこそ大活躍だったじゃないですか。見事な指揮を執ってそれでいて、ちょっと失敗はしましたが、結果として大物ゴーレムを倒し、コロナタイトを鉄格子を取り出し、そして私に魔力を供給してくれて・・・」

 

「いやいや、今回のMVPはウィズさんだろ?爆裂魔法をはじめ、やけどしたカズマの手を冷やしたり、爆発しそうになったコロナタイトをテレポートしたんだぜ?文句なしだろ」

 

「マホだって、爆裂魔法で脚4本まとめて潰したし、魔法の知識を率先して俺たちに教えてくれたしな。おかげで助かったよ」

 

いつの間にかカズマたちと一緒にいるウィズとマホの活躍にダクネスはもうプルプルと涙ぐんでおり、顔を両手で覆っている。

 

「・・・で?街を守ると駄々こねただけでなく、侵入経路を潰してくれたあんたの活躍は何?」

 

「こ・・・こんな・・・!こんな新感覚は・・・!うわああああああああ!!」

 

「やっぱお姉ちゃんはお姉ちゃんだったよ・・・」

 

アカメがダクネスをからかっていると、ギルドのどんちゃん騒ぎは急にぴたりと止まった。何事かと思い、双子がその原因を見る。

 

「ん?なんか静か・・・げっ!」

 

「どうしたの・・・げっ・・・」

 

双子がその原因を見た瞬間、顔を青ざめている。そしてすぐさま、人ごみの中に隠れていく。

 

「ん?おい、お前らどうし・・・なんだ?」

 

カズマたちも静まった原因を見た。静まった原因となっているのは、騎士2人を従えている黒髪でメガネをかけたいかにも凛々しい女性だった。女性はカズマたちの前までやってくる。

 

「冒険者、サトウカズマさんですね?」

 

「あ、はい、そうですが・・・」

 

女性はカズマに向かって、私情は挟まず、本題を持ちかけてきた。

 

「あなた方のパーティに、アカメとティアという双子のシーフがいるはずです。彼女らはどこですか?」

 

「え?あいつらなら・・・」

 

『ここにいますけど』

 

「「おいこらぁ!!!」」

 

アカメとティアの居所を尋ねられ、全冒険者はアカメとティアの居場所を丁寧に教えた。それには双子はなぜか怒りだした。それもそのはずだ。この女性は、双子にとって・・・いや、盗賊団にとって天敵ともいえる存在なのだから見つかるとまずいからである。女性は双子を目の仇のようにして睨みつけた。

 

「アカメとティアだな!貴様ら2人には現在、国家転覆罪の容疑がかけられている!自分と共に来てもらおうか!!」

 

「「こっ・・・!!?」」

 

女性から国家転覆罪の容疑をかけられていると言われた双子は本当にぎょっと驚愕している。

 

「あ、あのー・・・あんたは誰なんだ?国家転覆罪って?なんで俺の仲間を?」

 

話についていけてないカズマは女性にそう尋ねた。

 

「申し遅れた。自分は王国検察官のセナ。国家転覆罪とはその名の通り、国家を揺るがす犯罪をしでかした者が問われる罪だ。そこの2人には、現在、テロリストもしくは魔王軍の手先の者ではないかと疑いがかけられている」

 

王国検察官の女性、セナが淡々とカズマの問いに答える。カズマはその問いかけにぎょっとなり、双子に視線を向ける。双子は冷や汗がだらだらと流れている。

 

「ちょっと2人とも!あなたたちいったい何をやらかしたの!!?私が見てないところでどんな犯罪をやらかしたの!!?ほら、謝って!!私も一緒にごめんなさいしてあげるから謝って!!」

 

アクアは双子の無理やり頭を下げさせながらセナに謝罪するように言っている。

 

「おいおい待て待て!確かにこいつらは問題を起こすかもしれないけども!!それでも双子は犯罪を犯すような真似をするわけないのはお前も知ってるだろ!!」

 

「そうですよ。何かの間違いなのではないですか?この2人は先日よなよなどこかへ出かけていたのは知っていますが、国家転覆罪に問われるほどの罪はしてないはずです!」

 

「ちょっとめぐみん、それ犯罪してる前提で話をしてない?」

 

「あんた、私たちを庇うのか庇わないのかどっちなのよ」

 

カズマとめぐみんは双子は何もやっていないと主張する。めぐみんの場合、庇っているとは言えないような発言をしているが。

 

「ダクネスからも言ってやれ!あいつらは何もやってないって!!」

 

「あ・・・ああ・・・。そうだな・・・」

 

ダクネスはアカメの口からウェーブ盗賊団の1人だと聞かされているため、若干戸惑い気味だ。義賊として世のための盗みを行っているが、政府側はそうは思ってはいない。下手をすれば、本当に国家転覆罪になりかねないとわかっているため当然の反応だ。それでも仲間のために、ダクネスは双子を弁護する。

 

「その2人は無罪だ。いかにティアが自身の身の保身のために仲間を犠牲にしたり、アカメが誰かを陥れようとしたりするが、そんな大それた犯罪ができるとは思えん」

 

「ちょっ・・・誤解を招くような言い方はやめてよ!!」

 

「あんたの場合事実でしょうが!このドクズ犯罪者の妹!!」

 

「何をぅ!!?お姉ちゃんだって事実を言われてんじゃん!!この鬼畜の犯罪者の姉!!」

 

「なんですってこの・・・!!」

 

「ええい!!お前ら!!こんな時に限って喧嘩すんな!!どっちも事実だから否定できねぇだろ!!」

 

ダクネスの弁護に関してですぐに喧嘩を始める双子。こんな非常時でも喧嘩をする双子を止めるカズマ。

 

「それで・・・セナさん?なんでこいつらが国家転覆罪に?」

 

本題をカズマが振ったところ、セナは双子が国家転覆罪になった理由を話す。

 

「そこの2人の指示で転送された機動要塞デストロイヤーの核であるコロナタイト。それがこの地を治める領主様、アレクセイ・バーネス・アルダープ様の王都にある別荘の屋敷に爆破したのだ」

 

「「んなぁ!!?」」

 

まさかの盗賊団の標的となっていたアルダープ。その男の別荘の屋敷を爆破させたと聞いて双子は驚愕している。例え標的であっても殺してはならない。それが盗賊団の鉄より硬い鋼の掟であるのだから双子には焦りが生じる。

 

「ま・・・まさか・・・私たちが領主をこ、こ、殺・・・?」

 

「そうか・・・そうなのね・・・じゃあそうなっても仕方な・・・」

 

「死んでいないし、勝手に殺すな!!幸いにも使用人もアルダープ様も外に外出していたために怪我をしていない。別荘は吹っ飛んでしまったがな」

 

幸いにもアルダープは死んでいないため、双子は鋼の掟を破らずに済んだようだ。

 

「ほっ・・・殺してないなら安心・・・かな」

 

「何が安心よ!!?あんた状況わかってんの!!?別荘とはいえ、屋敷を吹っ飛ばしただけでも十分に罪に問われるわよ普通!!」

 

ティアは安心しているが、アカメは状況が理解できているため、かなり焦ったままだ。

 

「とにかく、だ。貴様ら2人にはテロリスト、魔王軍の手先の者かと疑いがかけられている。詳しい話は署で聞こう。自分と共に来てもらおう」

 

双子がセナたち検察官側に連れていかれそうになった時、めぐみんを含めた冒険者全員が双子を庇う。

 

「ふっ・・・何を言い出すのかと思えば・・・。確かにデストロイヤーの石を飛ばした指示を出したのはその2人ですが、緊急の措置で仕方なくやったことです。あの機転がなければコロナタイトの爆発で死者だって出てたかもしれません。感謝こそされど、非難される謂れはありません」

 

「そうだ!双子は冒険者であっても犯罪者なんかじゃねぇ!!」

 

「国家権力の横暴だ!!」

 

「冒険者は自由なんだよ!!」

 

全冒険者たちはセナに異議を申し立てているが、セナは動じることなく、淡々と述べる。

 

「国家転覆罪は主犯以外の者たちにも適用される場合がある。この2人と共に牢獄に入るのなら、止めはしない」

 

そう言われた瞬間、全冒険者たちは静まり返った。長い沈黙を破ったのはアクアの言葉だった。

 

「そういえば、2人は全責任は自分たちがとるって。2人揃えばカズマ以上の幸運だって!」

 

「はっ!!?まさか!!私たちを売るつもりなの!!?」

 

「おいクソアクアふざけんじゃんないわよ!!あんたぶっ殺されたいの!!?」

 

さっきまで庇っていたのにあっさりと仲間を引き渡そうとするアクアに双子は忌々し気にそう叫んだ。

 

「も・・・もし!!私がその場にいればきっと2人を止められたはずなのに!!しかし、その場にいなかったものは仕方ありません!ええ・・・仕方ありませんねえ・・・」

 

「めぐみーーーん!!?」

 

「あんたもふざけんな!!!クソ!!クソ!!あんたらマジでただで済むとは思わないでちょうだい!!!」

 

めぐみんも自分たちを売るような発言にティアは頭を抱え、アカメは2人を呪うような発言をしている。他の冒険者たちは知らんぷりする素振りをする。これだけで双子はここの冒険者たちは使えないと判断する。

 

「待て・・・そうだ!主犯は私だ!!私が指示した!!だからその牢獄プレイを・・・ではない!!激しい攻めを負わせるがいい!!」

 

明らかに自分の欲を優先はさせてはいるが、ダクネスだけは双子を庇ってくれている。が・・・

 

「はい?あなたはデストロイヤー戦では何の役にも立たなかったそうじゃないですか」

 

「!!??」

 

「ああ!!ダクネスがショックを受けてる!!」

 

「やめたげなさいよ!!この子は自分の欲には正直なだけよ!!それはあまりにもかわいそうだわ!!」

 

セナの発言で再びダクネスはショックを受ける。

 

「そ、そうだ・・・カズマ・・・カズマは・・・?」

 

「・・・いない・・・あいつ逃げたわね!!!あの鬼畜のクソ野郎のゲスマ!!!!」

 

辺りを見回してみるとカズマはどこにもいなく、潜伏スキルで逃げ出したのだというのは容易に想像ができる。

 

(おい!!誰が鬼畜のクソ野郎のゲスマだ!!)

 

だがカズマは潜伏スキルで隠れてるだけであってこの場から去ったわけではない。

 

「あ、あの・・・テレポートを使ったのは私であって・・・2人が捕まるのなら私も・・・」

 

「ダメだウィズさん!あんたまで牢屋に入っちまったらあんたがリッチーであることがバレちまうぞ!」

 

「で、ですが・・・あまりにあんまりでは・・・」

 

「それに、あいつらはあんたに世話になったって聞かされたぞ!あんたまで牢屋に入ることは、2人は望まないだろ!」

 

「ですが・・・」

 

「わかってる!耐えろ・・・今は耐えてくれウィズさん!」

 

ウィズはテレポートを使ったのは自分だと名乗ろうとした時、マホが止めに入る。マホは悔しそうに今の状況を耐えている。

 

「「・・・・・・」」

 

もう味方が誰にもいない状況に双子は冷や汗をかき始め、そして・・・

 

「・・・せい!!」

 

ドゴッ!

 

「ぐは!!?」

 

ティアは実の姉であるアカメを蹴り上げ、騎士の前まで転ばせる。そしてそのまま検察官から逃げるようにギルドから出ようとする。

 

「!!ティアの逃亡を確認!!直ちに捕まえよ!!」

 

1人の騎士はティアを追いかけていき、もう1人の騎士はティアによって転んだアカメに手錠をかける。

 

「くっそあの腹黒クソ妹!!!!覚えてなさいよコラぁ!!!!」

 

「大人しくしろ!!!」

 

暴れるアカメに騎士は取り押さえる。アカメが下を見た時、ある文字が書かれているのが気づいた。

 

『必ず助けてやる』

 

この文字を書いたのは潜伏スキルで隠れているカズマであった。それを見た瞬間、アカメはカズマを信じることに決めた。

 

「たく・・・わーったわよ。連れていくなら連れていきなさい」

 

「確保ぉーーー!!!」

 

「いやあああああああ!!!離してえええええええええ!!!」

 

アカメが観念している間にも、ティアは騎士に捕まった。双子は国家転覆罪の容疑によって、ドナドナと連行されていくのであった。

 

「・・・や、やべぇ・・・急いでリーダーに知らせねぇと・・・!」

 

一部始終を見ていたスティーヴはデストロイヤーの討伐の報酬を受け取ってからウェーブ盗賊団のアジトへと戻っていくのであった。

 

 

ー・・・このすば・・・ー

 

 

「・・・て、わけなんだよ・・・」

 

スティーヴの報告を聞き終えたネクサスと秘書の2人は苦い表情を浮かべている。

 

「盗賊団がバレたわけでなく、国家転覆罪の容疑かぁ・・・」

 

「しかし、取り調べであの2人が盗賊団員であるとバレるのは明らかです」

 

「・・・スティーヴ、お前は途中から来たと言っていたな?告訴した貴族の名前はわかるか?」

 

貴族の名前を尋ねられたスティーヴは迷いもなくその名を口にする。

 

「デブ領主だデブ領主!アレクセイ・バーネス・アルダープ!!あいつが告訴しやがったんだ!!」

 

「よりにもよってアルダープ・・・ですか・・・」

 

「確かにな・・・あのおっさんなら絶対言いそうだ・・・」

 

アルダープと関わりがあるのかカテジナとネクサスがさらに渋い顔つきになる。

 

「やべぇぞこれ!!このままじゃあいつら、殺されちまう!!冤罪で裁判にかけられて有罪になった連中みたいに!!」

 

「殺されるって・・・いくら何でも死刑になるほどじゃあ・・・」

 

「いや、それが通るんだよ。バーバラ、これを見てみろ」

 

いくら何でも死刑はありえないと言うバーバラにネクサスはある資料をバーバラに見せる。それを見た瞬間、バーバラはありえないといった顔つきになる。

 

「な、何これ!!?本当にありえないっしょ!!?」

 

「残念ですが全て事実です。アルダープが罪を犯した裁判では証拠があるにも関わらず無罪、一方で自分で仕掛けた裁判においては無罪になってもおかしくないにも関わらず有罪。全ての裁判において、勝利で納めているのです」

 

「裁判内容もひどいっちゃあひどいが・・・もっとひどいのはなぜあいつが勝利で収まるのかいまだにわかっちゃいないんだよ。ゆえに要注意人物・・・S級ランクに値するターゲットになってんだよ」

 

全ての裁判において勝利を納め続けるアルダープがどれだけ危険な存在かはこの説明だけでわかった。

 

「というよりバーバラ、あなたネクサス様の幼馴染ということは、アクセル出身でしょう?なぜこのことを知らないのですか」

 

「だって政治興味ないしー」

 

「言うと思ったわ。盗賊団になったからにはそれくらい知れよ」

 

「えー・・・なんでー?」

 

「なんでって・・・なんでだよ!!?」

 

バーバラの自由奔放な性格にはその場の全員が頭を抱える。

 

「・・・話を戻しますが、アカメとティアをこのまま見捨てるなんてことは・・・」

 

「もちろん、見捨てるわけがねぇ。俺たちは決して仲間を見捨てたりしねぇ。それがウェーブ盗賊団だ。あいつらは必ず助け出す。それにあの双子はあいつの・・・」

 

「リーダー?」

 

「・・・いや、何でもねぇ。前団長が仲間を見捨てないように、俺も仲間は絶対に見捨てねぇし、諦めねぇ。それが俺っていう男だろ」

 

アクセルの冒険者たちと違い、ウェーブ盗賊団は双子を助ける方針を固めるのだった。

 

「スティーヴ、よく報告してくれたな。後のことは任せろ。お前は帰って来たばかりで疲れただろう。ゆっくり休め」

 

「お・・・おう・・・」

 

いろいろ不安は抱えるが、スティーヴはネクサスを信じて、後を託して自分の部屋へと戻っていく。

 

「ネッ君、本当にやるの?だって死刑って言われたら死刑確定なんしょ?無理じゃね?」

 

「だとしてもやらなきゃいけねぇだろ・・・あいつらになんかあったら、俺はあいつに顔向けできねーだろうが・・・!!」

 

「しかし、いかがなさいましょう」

 

「双子の身分がバレたら検察官の連中もここを嗅ぎつけてくるかもしれねぇ・・・遺憾ながらこの拠点を放棄するか・・・」

 

ネクサスたちは双子を助けるためだけでなく、どう盗賊団を検察官から守るべきなのかも考える。

 

「・・・カテジナ、お前はアクセルの街へと行け。お前ならこの状況をどうにかできる。そしてお前に謝罪する。表舞台に出たくないお前が・・・」

 

「何を今さら。私はネクサス様に救われ、今ここにいます。今度は私がネクサス様につくす番です。ネクサス様の命令を、この私が背くはずがありません。いかなる命令も従います。それが今ここで服を脱げと言うならば、私は喜んでこの衣服をネクサス様に捧げましょう。さあ!!ネクサス様、この忠実なるメス豚めにご命令を!!」

 

「お、おう・・・そこまで望んじゃいないが・・・頼りにしてる・・・」

 

ネクサスに対する忠誠心で気が狂っている状態の秘書であるカテジナにネクサスは頼りにしながらもこの性癖にたいしては引いている。

 

「バーバラ、お前は新しい拠点となる土地を探してくれ。なんだったらお前の属してる宗教の手も借りてもいい。お前ならできるだろう?」

 

「成功の暁にはエリス教からアクシズ教に入信してくれる?」

 

「アホ、それとこれとは話が別だ。いいからやれ、団長命令だ」

 

「ちぇ、せっかくネッ君を邪神エリスから解き放てると思ったのにな」

 

「はあ・・・仕事はできるのになぁ・・・これでアクシズ教徒じゃなければ・・・まぁいいが・・・」

 

ネクサスは秘書であり、幼馴染であるバーバラにたいしてなぜアクシズ教徒に入ったんだと頭が痛くなりつつも放送機種を使い、本部の全盗賊団員に通達をする。

 

「全盗賊団員に告げる。この地が検察官に割り出される可能性がある。明日にでも荷物をまとめ、アヌビスにある冒険者ギルド、すなわち仮拠点へと移動せよ。遺憾ながらこのアジトを・・・放棄する」

 

 

ーこのすば!ー

 

 

ガシャンッ!!

 

場所は変わり、アクセルの街の夜、街の中央にそびえ立つ警察署。双子がここの牢屋に連れてこられ、牢屋に入れられてしまった。

 

「こんのクソ妹!!!!!よくも私を蹴飛ばしてくれたわね!!!!!おかげで真っ先に捕まったじゃない!!!!!」

 

「何さ!!!!結局のところ私まで捕まったんだから文句言わないでよ!!!!」

 

「文句言うに決まってるでしょうが!!!!実の姉を売ってまで逃げ延びようとか最低かあんたは!!!!!」

 

「姉妹とか関係ないし!!!!あんな状況になったら自分だけ助かろうと考えるのが普通だし!!!!」

 

「あんた行くときは2人一緒とか言ってたでしょうが!!!!思いっきり言ってることとやってることが違うじゃない!!!!」

 

「そんなこと言ってないよ!!!!お姉ちゃんの幻聴でしょ!!!!」

 

牢屋に入った双子は真っ先に取っ組み合いの喧嘩をしており、何とも醜い光景が広がっている。

 

「おい!!うるさいぞ!!静かにしろ!!」

 

これには騎士がやってきて双子を叱る。叱られた双子はそれで一応は落ち着きを取り戻す。

 

「はぁ・・・まさかこんなことになるなんて・・・」

 

「嘆いたってしょうがないわ。確か、明日には取り調べをするって言っていたわよね。何とか乗り切って、裁判の開催を防ぐしかないわ」

 

「でも何とかするって言ったって・・・お姉ちゃん、ちゃんと・・・」

 

双子が話をしていると、遠くから複数の足音が聞こえてきた。

 

「いてててて!おうコラ、抵抗しねぇつってんだろ!もうちょっと丁寧に扱えや!」

 

「黙れチンピラ!とっとと歩け!」

 

どうやら別の犯罪者がこの警察署に連行されてきたようだ。

 

「え?ちょっと待って・・・牢屋って・・・ここ1個しかないんだけど・・・」

 

「はあ?冗談じゃないわよ。どこの馬の骨とも知らない奴と過ごせっていうの?」

 

双子が文句を言っている間にも、騎士がその犯罪者を双子がいる牢屋に入れる。しかもその犯罪者は双子には見覚えがあった。

 

「とっとと入れ!まったく、貴様は何度ここに来る気だ。牢屋はお前の部屋ではないのだぞ?今日は先客がいるが、喧嘩するなよ」

 

「へいへい、わかってるわかってる。それじゃお邪魔するぜ・・・て、お前ら、カズマんとこの双子の姉妹じゃねーか」

 

その正体はこの街でチンピラ冒険者として悪評が強いダストであった。

 

「あなたは確か、最近カズマと仲良くやってる・・・」

 

「そうそう、俺だよ俺」

 

「名前は確か・・・【ピーッ】カスだったかしら?」

 

「ダストだよ!!前に一時的にパーティ一緒だったろうが!!名前覚えろや!!」

 

あんまりな扱いにダストは思わず憤慨する。

 

「こんなとこで奇遇じゃねーか!なんだよ、お前ら何やらかしたんだ?」

 

「見ての通り、テロリスト扱いされて・・・こっちは散々な目にあってるわ」

 

「デストロイヤーの核のコロナタイトを転送指示を出したんだよ。で、送られた先が領主の別荘の屋敷でチリ1つ残さず吹っ飛んだんだってさ」

 

双子の説明を聞いて、ダストは清々しそうに笑っている。

 

「ぷっ!うひゃひゃひゃひゃひゃ!やるじゃねーか!そーかそーか、あのクソ領主はマジでクソみたいな奴だからな!よくやった!クソ領主ざまーみろ!」

 

「何笑ってんのよ。こっちは狙ってやったわけじゃないっつーの。それを笑い飛ばして・・・ぶっ殺すわよ」

 

「ていうかダストは何をしてここに入れられたのさ?聞いた感じ、なんか常連みたいな感じだったけど」

 

「俺か?いやさ、デストロイヤー撃破の賞金が配られるって聞いたから散々ツケで飲み食いしてたんだけどよ。さぞかし大金が入ってくるだろうと借金でギャンブルもやったさ。そしたら思ったより賞金が少なくて返済に足りなくてよ。金もないから馬小屋で寝るしかねーんだがこの寒い季節に馬小屋とか凍え死ぬだろ?だったら飯も出るし、凍え死ぬこともないここに泊めてもらおうと思ってな。ちょっと無銭飲食してきたんだよ。ここにいれば借金の取り立ても来ないだろ?」

 

「「カズマよりカスね(じゃん)」」

 

どうやらダストは借金をこさえた上に無銭飲食を行ったらしい。捕まっても仕方がないような行為をしたダストに双子は軽蔑の目でダストを見るのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

牢屋の深夜、アカメは支給された薄い布団にかぶってぐっすり眠っている。ダストも別の薄い布団でぐーすか寝ている。

 

「・・・お姉ちゃん、お姉ちゃん」

 

すると起きていたティアがアカメを起こしてきた。それには少しアカメは不機嫌気味だ。

 

「・・・何よ?また睡眠妨害する気?」

 

「こんなところで寝てないで逃げよう?ここから脱出するの」

 

「はあ?」

 

ティアがここから脱獄すると言い出してアカメはわけわからないといった顔つきになる。

 

「何言ってんのよ?立場を危うくさせる気?」

 

「もう十分危ういでしょ?情報部が教えてくれたでしょ?アルダープは陰湿で執念深い奴だから権力の力で事実を捻じ曲げられちゃうよ」

 

「さすが領主様・・・相手を蹴落とすために自分勝手に権力を振りかざす・・・悪党らしくて反吐が出るわね」

 

「でしょ?だから今はここから逃げて遠くへ逃げるの」

 

ティアが脱獄計画を説得しようとしている姿勢を見てアカメは少しため息をつく。

 

「逃げるって言ったって・・・どうやって逃げるのよ?」

 

「忘れたの?私たちはシーフだよ?お姉ちゃんが無理でも、私には施錠スキルがある。鍵の解除なんてお茶の子さいさいだよ。で、その後は潜伏スキルでここを脱出するの」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、見てなって。鍵くらい楽勝だって」

 

ティアは脱獄のために鍵がかかっている錠に施錠スキルで開けようとするが、その錠を見てぴたりと止まった。アカメもその錠を見てみると、錠にはバラバラの数字が並べられている。

 

「・・・ダイヤル式じゃない・・・」

 

そう、この錠はダイヤル式でパスワードでないと開くことができないのだ。それは施錠スキルがあっても捻じ曲げることができないのだ。

 

「・・・寝ましょうか」

 

「・・・そうだね・・・」

 

あっさりと脱獄計画を潰されたティアはアカメの言うことに従い、自分も寝ることにした。

 

 

ーこのすば!ー

 

一方その頃、屋敷では・・・

 

 

「待て駄女神。お前どこに行く気だ?」

 

「決まってるでしょ?2人を助けに行くのよ。朝に2人を庇ったって捕まっちゃ意味ないでしょ?」

 

「バカかお前。国家転覆罪の奴が脱獄なんてしたらそれこそ見つかったら1発で死刑だろうが。裁判で勝つしかねぇだろ」

 

「カズマこそバカなの?国家転覆罪は最悪死刑なのよ?どっちも同じよ同じ!だったら脱獄させるのがいいでしょ?」

 

「いいから大人しくしてろ。お前が行ったってどうにもならんだろ」

 

「いやよ!!だってこのまま放置したら帰って来た時、絶対に恐ろしいほどに仕返しされるもの!!」

 

「お前ついに本音を言ったな・・・」

 

カズマとアクアが不毛な言い争いを繰り広げていた。

 

ーこのすばー

 

 

翌日の朝の牢屋、双子は昼ごろまでぐっすりと眠っていた。

 

「貴様ら起きろ!取り調べの時間だ!一緒に来てもらう!」

 

そこへセナが双子の取り調べのために起こしに来た。

 

「ふわあ・・・何よ、もう朝なの・・・?」

 

「朝ならまだ寝かせてよ・・・気分最悪なんだから・・・」

 

「もう昼前だ!貴様らは日頃どんな生活をしている!」

 

双子は基本的には生活態度は普通だ。ただ捕まったことのショックで出不精が出てきただけだ。セナに言われるがまま、双子はとある部屋にたどり着いた。そこにはセナの部下の男と真ん中には取り調べの机、何かのベルがあった。

 

「まずは貴様らの言い分を聞いてやる。そのうえで裁判にするかどうかが決まる。よく考えて発言しろ」

 

セナと双子は対面するようにベルが置いてある机の椅子に座る。双子は机に置いてあるベルに視線を向ける。

 

「これが何か知ってるか?」

 

「いいえ、知らないわね」

 

チリーン。

 

「「・・・・・・」」

 

アカメが発言した瞬間、突然ベルが鳴り響いた。何かに反応したかのような鳴り方だった。

 

「これは取り調べや裁判に使われる魔道具で、部屋の中にかけられてる魔法と連動し、今のように嘘に反応して音が鳴る仕組みだ。重々、肝に銘じるがいい。では、始めるぞ」

 

どうやらこのベルは嘘発見器の役割を持っているそうで、さっきの音はアカメの嘘に反応したらしい。つまり双子はこの魔道具を知っていることを意味している。

 

(どうすんの!!?完全にお姉ちゃん殺しの魔道具だよ!!?)

 

(安心なさい。私にだってそれなりのわきまえはあるわ。そう簡単には鳴るわけがないわ)

 

「おい!聞いているのか!!」

 

「「あ、すみません」」

 

こそこそと耳打ちをしている双子をセナが一喝する。そして気を取り直して取り調べを始める。

 

「アカメとティア・・・年齢は2人とも16歳で職業は冒険者・・・就いているクラスはシーフか。ではまず、出身地と冒険者になる前はいったい何をしていたか聞こうか」

 

「出身地はアヌビス。冒険者になる前はアヌビスでぬくぬくまったりと生活して・・・」

 

チリーン。

 

「「・・・・・・」」

 

アカメの発言で魔道具はさっそく音を鳴らした。さっそく嘘をはいた証拠である。

 

「・・・出身地、経歴詐称」

 

「ちょ・・・待ちなさいよ!私は嘘なんて・・・」

 

チリーン。

 

「「・・・・・・」」

 

またも鳴り響いた魔道具に双子は押し黙り、今度はティアが口を開く。

 

「・・・出身地はアヌビスで2人で冒険者ギルド熱風の波の冒険者のばか騒ぎを見ながら騒がしい毎日を送っていました」

 

・・・・・・。

 

「・・・反応なし・・・」

 

魔道具が反応しないということは少なからずティアは嘘を言っていないことになる。

 

「・・・なぜぬくぬく暮らしたと嘘をはいた」

 

「ちょっと待ちなさい!一応は同じ意味・・・」

 

チリーン。

 

「おいクソ魔道具!!」

 

アカメの発言だけ反応している魔道具に対してアカメはキレている。

 

「それは姉が嘘をはくのが大好きな人だからです」

 

「あんたもあんたで何言ってんのよ!言っとくけど私は嘘をはくのが好きなんて・・・」

 

チリーン。

 

「ぶっ壊すわよこの!!!」

 

「そ、そうか・・・では取り調べを続ける。正直に答えろ」

 

「クソ!このクソ魔道具嫌いだわ!!」

 

・・・・・・。

 

嫌いという部分だけ反応しなかった。とはいえ、序盤からこんなに躓くようでは先が思いやられるのは事実だ。

 

「では次の質問に移る。お前たちが冒険者になろうと思ったきっかけはなんだ?」

 

「そりゃもちろん魔王軍みたいな奴らを野放しにする気がなかっ・・・」

 

チリーン。

 

「・・・・・・」イラッ

 

「ハッキリ言って覚えてないです。なんか、冒険者見てたらいつの間にかなってたー、みたいなそんな感じです。姉も同様です」

 

・・・・・・。

 

「は、反応なし・・・。そ、そうか・・・では次だ。お前たちは領主様に恨みはあるか?いろんなところで愚痴をこぼしていたと聞いたぞ」

 

「そりゃ愚痴を言うでしょうよ。デュラハンの時に何の指示も出してなかった奴が偉そうにってね。でも外壁を壊したこと自体は悪かったとは・・・」

 

チリーン。

 

「・・・・・・」ムカッ

 

「なんて綺麗事なんて考えてるわけもなく、街を救った英雄様にこの仕打ちかよ、絶対ぶっ殺してやるって思ったことはあります」

 

・・・・・・。

 

「そ、そうか・・・では次だ・・・」

 

アカメの発言に魔道具が反応し、ティアが訂正を施すという今の光景にセナは若干ながら引いている。

 

「あのね、いい加減にしてもらえないかしら?まどろっこしいのよ、やり方が」

 

ついに我慢の限界に達したのかアカメはストレートな言葉を言い放った。

 

「ちょ・・・お姉ちゃん!ステイ!ステイ!」

 

「うるさい愚妹!ステイって私は犬か!だいたい・・・」

 

チリーン。

 

「まだ何も言ってないでしょうが!!」

 

(あれ?これってお姉ちゃんの言葉に反応する魔道具だっけ?)

 

まだ先の発言をしていないにも関わらず魔道具が鳴り、アカメはキレかけ寸前である。

 

「・・・もうハッキリと聞きなさいよ。例えばお前たちは魔王軍の手先かとかコロナタイトは狙ってテレポートをしたのかとか。私たちは魔王軍の手先でも何でもないし、何度も言ってるけどコロナタイトは狙ってやったわけじゃないっつーの。コロナタイトを飛ばさないと街は存続できなかったかもしれないのは知ってるでしょ?というかそもそも、王都に領主様の別荘があるなんてギルドで初めて知ったわ」

 

・・・・・・。

 

魔道具には反応を示さない。この時点で双子は魔王軍関係者でもなく、コロナタイトも狙って別荘に送ったというのも、双子がアルダープの別荘を知らなかったのも嘘ではないとセナは理解した。

 

「・・・どうやら、そのようですね。自分が間違っていたようです。あなたたち双子には悪い噂しか聞かなかったもので・・・申し訳ございません」

 

セナは途端に先ほどの厳つそうな言動はせず、丁寧な口調を使い、双子に深々と頭を下げる。恐らく先ほどの厳しい言動は犯罪者用でこちらの丁寧な口調がセナの本当の姿なのだろう。

 

「い、いえいえそんな・・・お気を・・・」

 

「まーーったく!噂ぐらいで人を疑うなんて、検察官にあるまじき姿だわ!恥を知りなさい!検察官失格よ失格!」

 

「うぐっ・・・す、すいません・・・申し訳ございません・・・」

 

(うわっ!!今までやられてきたから調子に乗り出したよこの姉!!)

 

ティアは相変わらずセナには頭が上がらない様子だったが、アカメは魔道具にいいようにやられてきた鬱憤が溜まっていたのか途端に調子に乗り始めた。

 

「だいたい、検察官様なら私たちのパーティの貢献度がどんなものか知ってるでしょ?魔王軍幹部のベルディアの討伐の際には私たち、リーダーの指示の下で最前線に出たし、機動要塞デストロイヤーでは妹は道を造ったし、私はゴーレムはこれでもかとなぎたおしたのよ?にもかかわらず感謝の言葉もなく、こんな署の牢屋に入れるとは・・・」

 

「もういい加減にしてよバカ姉!!」

 

バシンッ!

 

ぐちぐちと文句を言っているアカメの言葉を遮るようにティアがアカメの頭をはたいて、すぐにアカメの顔を机に突っ伏させる。そして自身も頭を下げてセナに深く謝罪する。

 

「すいまっせん!!それが検察官のお仕事にも関わらず、うちの姉が本当にすいまっせん!!」

 

「い、いえ・・・もちろん、サトウカズマさんのパーティに属しているあなた方のご活躍は知っていますので・・・。あ、今お茶を入れてきますので・・・」

 

セナは一旦お茶を入れようと部屋から退室する。残ったのはセナの部下である男と、双子・・・そして机にある魔道具だけ。

 

(ちょっと!せっかく容疑が晴れかかってるのに余計なことを言って台無しにさせないでよ!)

 

(なんでよ!このクソ魔道具のせいでどれだけイラついてると思ってるのよ!仕返しくらいさせなさいよ仕返しくらい!)

 

(普段の行いのせいでしょ!これに懲りたら嘘は控えてよね!!)

 

(このクソ魔道具が意味がほぼ同じにもかかわらず、何も言ってないにもかかわらず鳴ったのが悪いんでしょ!絶対不良品よこれ!!)

 

(魔道具がお姉ちゃんの本質を見抜いたからでしょ!)

 

双子が耳打ちで喧嘩している間にセナが帰って来た。帰って来た瞬間双子は大人しくなる。セナは双子にお茶を差し出す。

 

「どうぞ」

 

「こ、これはどうも・・・」

 

「はんっ・・・」

 

双子は出されたお茶をすすってようやく落ち着きを取り戻す。

 

「あの・・・先ほどはすみません・・・この迷惑極まりない姉が・・・」

 

「い、いえ・・・アカメさんのおっしゃってることもごもっともなので・・・」

 

「・・・あ、あのー・・・セナさん?先ほど私たちの悪い噂で疑ってたみたいですけど・・・具体的にはどんな噂なのでしょうか・・・?」

 

「そ、それが・・・ジャイアント・トードから逃げている最中に仲間を犠牲にしてまで逃げ延びたりとか・・・偽物の剣を渡して試し切りさせた後に売り払ったと相手を絶望させたり・・・他にも仲間であるにもかかわらず、嫌がるアークプリーストとアークウィザードを縛ってジャイアント・アースワームの口の中に放り込ませるなどといった、人間性を疑うような噂ばかりでして・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

セナの口にした噂にたいして、双子は冷や汗をかきはじめた。それもそのはずだ、その噂は全て事実なのだから。

 

「・・・あの・・・そういえば先日、あなた方を捕まえる時、ティアさんはアカメさんを蹴飛ばしましたが・・・噂は噂ですよね・・・?」

 

「「ウ、ウワサデスヨ・・・?」」

 

チリンチリーン。

 

明らかに片言になった双子の発言に魔道具は2回鳴らし、2人分の反応を示した。魔道具が反応したことに合わせ、セナの顔つきは初めて出会った時と同じ厳しい顔つきになって、双子を睨みつける。

 

「「・・・すいません・・・」」

 

「・・・パーティ内の話ですから、自分からは何も言いませんが・・・あなた方、サトウカズマさんに感化されてませんよね?サトウさんが巷でなんて呼ばれているかご存知ですか?カスマだとかクズマだとかゲスマだとか・・・」

 

「わぁ・・・まさに鬼畜のクズマに相応しいあだ名じゃん・・・」

 

「特にアカメさん、あなたも人のことは言えませんよ?あなたは巷ではアクメとかエスメとか呼ばれていますよ」

 

「何それ?」

 

「あ、悪魔のアクだからアクメで、ドSのエスでエスメか」

 

「はあ!!?誰よそんなあだ名付けやがった奴!見つけたらズタズタにしてやる!!」

 

カズマの不名誉なあだ名はともかく、アカメのあだ名にたいして本人は怒っている。まぁ、カズマもアカメも事実だから否定はできないのだが。

 

「そう言うこともあって、アカメさんとサトウさんは血も涙もない鬼畜コンビとも・・・」

 

「ちょっと!あのクズ男と同列にしないでちょうだい!」

 

「いやどっちもどっちだから!」

 

カズマと同列に扱われ、アカメはさらに憤慨するが、ティアはどっちも同じだと思っている。

 

「はぁ・・・念のためもう1度聞きますが・・・本当に魔王軍の関係者ではないのですね?魔王の幹部と交流があるとかはそんな・・・」

 

「え?あるわけないじゃないですかそんなの。ましてや魔王軍とだなんて・・・」

 

チリーン。

 

「えっ!!??」

 

ティアの発言に魔道具は反応した。手先ではないという点では反応しなかったはずなのにだ。この反応によって、セナの顔つきはさらに厳つくなる。

 

「ましてや・・・何です?」

 

「いや、待ってください!え?なんで?私嘘なんて1つも・・・」

 

チリーン。

 

またも魔道具が反応を示した。ティアがなぜ魔道具がなりだしたのか非常に困惑している。そこでアカメがティアに耳打ちする。

 

(あんた、ウィズの存在のこと、忘れてるでしょ)

 

(・・・あ・・・)

 

そう・・・ウィズはなんちゃってとはいえ、魔王軍の幹部の1人であるのだ。そんな重要なことを忘れていたティアは自分の失態をやらかしてしまい、顔を青ざめる。

 

「・・・・・・ではついでに、もう1つだけ、質問をさせてください」

 

厳つい表情のままでセナはある質問を双子に突きつける。

 

「先日、領主様の屋敷に盗人が入り込んだという噂はすでにご存じかと思います」

 

「「・・・!!」」

 

「私は、これらの犯行を、ウェーブ盗賊団の仕業だと考えています」

 

「「そ・・・それで・・・?」」

 

「単刀直入に聞きます。あなたたち2人は・・・そのウェーブ盗賊団の団員ですか?」

 

セナのこの問いかけに双子は冷や汗が尋常にないほどにまでかいている。ここで発言すれば、絶対にウェーブ盗賊団であるとバレるからだ。

 

「・・・その沈黙は、肯定とみなしますが・・・」

 

「「いいえ、違います」」

 

チリンチリーン!!!チリンチリーン!!!

 

セナの誘導尋問に引っかかった双子は違うと答えた。それには当然ながら魔道具は鳴り出した。しかも・・・魔道具が今までにないくらい高い音を出すくらいにまで反応している。これによって双子は再び牢屋に入れられ、裁判が開催されることが決定したのであった。




アカメです・・・定時報告です・・・。

私とティアは現在、やばい状況下にあります・・・。
1人の冒険者として、1人の人間としての価値観を問われている最中です・・・。
ですが、私は至極全うな人間です。人に頼られている存在です。それはティア同様です。
人に頼られまくって、周りを引っ叩きたくなることは自ら手を下すことは全くありません。
・・・だからお願いです・・・私だけを助けてください・・・。

読む人間・・・なし

次回、この不当な裁判に救援を!


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この不当な裁判に救援を!

明けましておめでとうございます。

今年も小説をいっぱい投稿できるように頑張りたいです。それでは、微笑ましい双子に幸運を、今年1発目、どうぞ。


盛大なミスを犯して、裁判が開かれることになってしまい、双子は再び牢屋の中に入れられ、喧嘩して責任のなすりつけ合いをしていた。

 

「うああああああああ!!!あんたが余計なことを言ったおかげで裁判が開かれることになったじゃない!!!!」

 

「はあ!!?私のせいにしないでよ!!!お姉ちゃんなんか魔道具鳴りっぱなしでもっとひどいでしょ!!!!」

 

「私のはそこまで重要じゃないでしょうが!!!ウィズの存在を忘れるあんたが1番ひどいわ!!!!」

 

「うるさい!!!おまけに盗賊団だっていうことまでバレちゃってさ!!!もう裁判不可避だよ!!!!」

 

「それはあんたのせいよ!!!!」

 

「お姉ちゃんのせいだよ!!!!」

 

ガシャンッ!!

 

「おい、いい加減にしろ!上にまで響いてるんだよ!!」

 

双子の喧嘩は騎士が鉄格子を警棒みたいなので鳴らして黙らせる。ちなみにダストは双子の喧嘩に関わらないよう牢屋の隅っこにいた。

 

「あー・・・まぁ・・・あんま気にすんなよ。俺なんざ裁判なんて両手の指じゃ足りないくらいだぜ?冒険者なんて荒くれ稼業は1度くらい警察の世話になってこそ1人前だ。それこそ、盗賊団だったんならなおさらだ。前向きに行こうぜ」

 

「「・・・・・・」」

 

ダストの言葉を聞いて双子はお互いに顔を見つめて、そしてその視線をダストに切り替えて・・・

 

「「・・・ふん!!」」

 

ドゴッ!

 

「おぐぅ!!?」

 

そのままダストに腹パンチをきめる。

 

「お・・・お前ら・・・いきなり何しやがる!!?」

 

「ダストのくせに生意気だよ」

 

「つーか、チンピラクズに1人前とかどーとかなんて言われたくないわ」

 

「お・・・お前ら・・・人がせっかく気にかけたのに・・・!」

 

双子のあまりに理不尽さにダストはさっきの励ましを返してくれと考えた。

 

「まあいいわ。裁判は明日・・・カズマの采配に期待するしかないわ」

 

「そうだね・・・もう私たちに残された選択肢はそれしかないし・・・」

 

「うじうじ言ってても仕方ないし、そろそろご飯にしましょうか」

 

「はぁ・・・外のご飯が恋しいよぅ・・・」

 

「くそ・・・励まさなきゃよかった・・・て、飯少ねぇし、貧相じゃねーかよ!!揚げ物持ってこいやこらー!!」

 

明日の裁判に備えて双子は早いところ晩ご飯にありつく。ダストも食事にしようとした時、出された品数のショボさに文句を言い放っていくのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

深夜の牢屋、特にやることがない双子とダストは薄い布団にかぶって就寝につく。ぐっすりと就寝しているところに・・・

 

ドカーン!

 

「・・・ん?何・・・?」

 

遠くから爆発音が響いてきて、牢屋が微かに振動した。それに気づいたティアは目をこすって起きた。

 

「・・・とも・・・2人とも!ねぇ、2人とも起きて!」

 

そこへ格子の窓から聞きなれた声が聞こえてきた。ティアは気のせいであってほしいと思ってもう1度寝ようとした。

 

「ねぇ、2人とも、聞こえてる?ねぇってば!」

 

どうも聞き間違えでないと気づいたティアは面倒くさそうな顔をして頭をかいた。そして寝ているアカメをゆすって起こす。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん起きて」

 

「・・・あ?何よ・・・また脱獄しようっての・・・?」

 

ゆすったおかげでアカメはすぐに目を覚ました。

 

「やっと起きたわね2人とも!こっちよ!」

 

双子は格子の窓に視線を向ける。そこには格子の窓越しで双子を見ているアクアであった。アクアを見た瞬間、双子はアクアにたいして激しい殺意を向ける。

 

「あ・・・アークーアー・・・!!!」

 

「あんた・・・よくもまぁ堂々と私たちの前に姿を現したわね・・・」

 

「待って待って!そんな怒らないでよ!!こうして助けに来たんだから!!」

 

「「はあ?」」

 

昨日の朝に自分たちを売ったくせに何言ってんだこいつ、みたいな顔をしている双子。

 

「本当は昨日のうちに助けに行こうと思ってたんだけどね、カズマが無理やり私たちを縛り付けるから助けに行けなかったけど、もう大丈夫よ!そのカズマはゴッドブローをくらわして気絶させたから!」

 

「うわぁ・・・カズマ・・・哀れ・・・」

 

昨日アクアたちを止めたカズマを気絶させたという知らせにティアはカズマをかわいそうに思った。しかし、アクアは自分たちを助けようとしているのは嘘ではないようだ。

 

「つーか助けるんなら昨日のうちにもっと弁護しなさいよ」

 

「だって仕方ないじゃない!それで全員捕まったら意味ないもの!」

 

アクアの言うことは最もだ。弁護して自分たちまで国家転覆罪になってしまったら本当の意味で助けがなくなってしまうのだから。

 

「今めぐみんが街の近くで爆裂魔法を放ったから、おかげで署員たちは驚いて飛び出していったわ。今頃はダクネスが魔力を使い果たしためぐみんを抱えてその場を後にしている頃ね」

 

どうやらさっきの爆発音はめぐみんの爆裂魔法によるもので、揺れはその影響による地響きなのだろう。

 

「でもここからどうやって逃げ出すの?」

 

「先に言っておくけど、ピッキングは無駄よ。だってダイヤル式だもの。施錠スキルも通用しないわ」

 

「・・・やるわね・・・ここまで脱獄対策がされてるなんて予想外だわ・・・」

 

ピッキングがダメという事実にアクアは渋い顔になる。それを見た双子はやっぱりアクアはバカだと思った。

 

「ただダイヤル式ってだけじゃん」

 

「はい、終了、さっさと帰りなさい」

 

「待って待って!まだ作戦はあるの!これは絶対完璧だから!」

 

そう言ってアクアは1つの糸鋸を取り出し、それを双子の牢屋の中に入れる。

 

「・・・糸鋸をどうすんの?」

 

「まさかこれで窓の鉄格子を切れってんじゃないでしょうね?」

 

「よくわかったわね!明日は裁判らしいし、タイムリミットは朝までよ!時間がないから2人がかりでやりましょう!」

 

「「はあ・・・」」

 

アクアの出した提案に双子はため息をこぼす。

 

「仕方ないわね・・・。ティア、私が肩車するから、鉄格子を切っちゃってちょうだい。どうせ無理だと思うけど」

 

「しょうがないなぁ・・・どうせ無理だと思うけど・・・アクアに付き合っちゃいますか。うまくいけば儲けものだし」

 

とりあえずはアクアのバカに一応付き合う形でアカメはティアを肩車で上まで上げ、ティアはアクアと一緒に糸鋸で鉄格子を切る行動に入る。

 

「それじゃ、いくわよ!」

 

アクアとティアは糸鋸でぎこぎこと鉄格子を切ろうとするがびくりともしない。

 

「こ・・・この・・・早く切れなさいよ・・・!」

 

「あ、アクア、そんな考えなしに切ると・・・」

 

ポキッ!

 

アクアが切れないことのイライラで強めに切ろうとした瞬間、アクアの糸鋸の刃がぽっきり折れた。

 

「・・・折れちゃった」

 

「折れちゃったね。使い物にならなくなっちゃったね」

 

「はあ?折れたの?1本じゃ朝までかかるわよ?」

 

アクアの糸鋸が使えなくなり、ティアのものだけでは朝までかかる・・・そうなってしまえばタイムアップ、裁判の時間になってしまう。

 

「・・・ちょっと待ってて。追加の分の持ってくるから」

 

そう言ってアクアは糸鋸を取りに行こうと乗っていた台から降りる。アクアの姿が見えなくなってしばらくすると・・・

 

「すいまっせん!!!うちのバカでアホな仲間が本当にすいまっせん!!!」

 

謝罪しているカズマの声が聞こえてきた。どうやらアクアは気絶から復活したカズマに捕まってしまい、署の人間に謝罪しているのだろう。

 

「・・・怒られちゃってるね」

 

「・・・アクアのああいう前向きさは、見習うべきなのかもしれないわね」

 

作戦は失敗したが、前向きなアクアを見て双子はアクアに見習うべきところはあると思った。・・・ああなろうとは絶対に思わないが。

 

「・・・寝ようか」

 

「そうね。今降ろすわ」

 

ティアは糸鋸を窓から放り投げ、アカメはティアを肩車から降ろす。そして双子は布団にかぶって、再び就寝につくのであった。

 

 

ーこのすばー

 

翌日の朝、双子は手錠をかけられ、セナと騎士に無理やり連れてこられ、裁判場の被告人側に席に立たされた。ご丁寧にもこの裁判場には、首つり処刑の場まであった。会場には他の冒険者たちがこの裁判の様子を見守っている。

 

「これより被告人、アカメとティアの裁判を執り行う!!告発人はアレクセイ・バーネス・アルダープ!!」

 

双子は処刑場を見ていやに息を吸ったり吐いたりの行動を繰り返している。そして・・・

 

「・・・お・・・おえええぇぇ・・・」

 

「ティア!!?気持ちはわかるけど吐いちゃダメよ!!」

 

ティアが本気で吐きそうになっており、アカメが背中をさすっている。緊張がピークに差し掛かっている双子に弁護人であるめぐみんたちが緊張を和らげようと声をかける。

 

「緊張しているのですね。大丈夫、私たちがついていますよ。紅魔族はとても知能が高いのです。あの検察官が涙目になるぐらい論破してやりますよ」

 

「安心しろ、本当にどうしようもない事態になったら私が何とかしてやる。今回の件に関しては、お前たちは何も悪くない」

 

「めぐみん・・・ダクネス・・・」

 

「昨日爆発の犯人として特定されたお前らに説得力なんて皆無だけどな。ダメって言ったのに勝手なことしやがって。・・・まあ俺も、ああ書いた手前だしな。やれるだけはやってみるよ」

 

「・・・まあ・・・頼りにはしてるわ」

 

本気で双子を弁護しようと息巻いているカズマたちに双子はここ1番で頼りになると感じた。

 

「・・・だが、問題はあいつなんだよなぁ・・・」

 

最大の不安要素として、カズマはアクアをじっと見つめる。

 

「まあ、私に任せなさいな!聖職者である私の言葉にはものすごい説得力があるわよ!」

 

「お前に説得力なんかねーよ!!アクア、頼むから今回裁判終わるまでお前は口を開くな、黙ってろ。霜降り赤ガニ買ってやるから」

 

「何言ってるのカズマ?私たちの経済にそんな余裕あるわけないでしょ?バカなの?大丈夫、この中で1番弁護士に詳しいのは私よ?何せ私は日本で人気の裁判ゲームをこれでもかってくらい遊んだんだから!」

 

「よしお前は本当に黙ってろ。さもないとそのゲームのお楽しみのお仕置きくらわすぞ」

 

カズマとアクアのこのやり取りを聞いて、双子は本当にアクアは使えないと判断する。そんな中で、今回の裁判の告発人である大柄で毛深くて太った中年男、アレクセイ・バーネス・アルダープはめぐみんたちに視線を向けている。その後はダクネスに視線を向けている。それはもうねっとりと、念入りに。

 

「ねぇねえ、なんか大きいおじさんが超こっちを見てるんですけど。なんだか邪なものを感じるの」

 

「まあ、あんな見るからに変態で豚みたいな奴なら、そう感じても仕方ないわ」

 

「なんか腹立ってきた。ちょっと目潰ししようかな」

 

「立場悪いのに手を出そうとするな!てかあのおっさん、ずっとダクネスを見てないか?」

 

「見てますね。屋敷内で薄着でうろつくダクネスを見る時のカズマと同じ目つきですよ、あれは」

 

「お、おいやめろよ・・・俺をあんな変態おっさんと一緒にするなよ・・・て、どうしたダクネス?あのおっさんの視線が気になるのか?」

 

「ん・・・いや、そうではない。それについては後で話そう」

 

アクアたちがアルダープを気味悪がっている中、ダクネスの視線はアルダープに向けている。カズマがそれに気づいたところで、裁判長が小槌を叩く。

 

「静粛に!裁判中は私語を慎むように!では、検察官は前へ!ここで嘘を吐いてもこの魔道具ですぐにわかる。それを肝に銘じ、発言するように」

 

裁判が始まろうとしている中、この裁判の様子をクリスと全身をフードで被った女性が見つめている。

 

「今動かなくてもいいの?裁判始まっちゃったよ?あの2人を助けるんじゃなかったの?」

 

「・・・今回の裁判はあの領主の不正を暴くためにも必要な裁判です。そのためにも、あの2人にはもうしばらく我慢してもらいます。辛いところではありますが・・・」

 

全身フードを被っているのは、ネクサスの命によってこの街にやってきた秘書、カテジナだった。

 

「それに、私が裁判自体を中止にしてしまえば、それこそ自身の立場を危うくする一方です。今は、判決を待つしかないのです」

 

「そっちもいろいろ大変だねー。とにかく、カズマ君の力量を、お手並み拝見させてもらおうかな」

 

「・・・あれが、あの2人のパーティ・・・」

 

クリスとカテジナが裁判を見守る中、裁判長に呼ばれ、セナが前に出て、告訴状を読み上げる。

 

「被告人アカメ、被告人ティアは機動要塞デストロイヤー襲来時、これを他の冒険者たちと共に討伐。その際に爆発寸前であったコロナタイトをテレポートで転送するように指示。転送されたコロナタイトは王都にある被害者の別荘に送られ爆破。別荘は爆破によって消滅。モンスターや毒物、劇物、爆発物などを転送する場合は、ランダムテレポートの使用は法により禁じられております。被告人の指示した行為はそれらの法に抵触し、そしてまた、領主という地位の人間の命を脅かしたことは、国家を揺るがしかねない事件です。よって自分は、被告人に国家転覆罪の適用を求めます」

 

「異議あり!!」

 

セナが告訴状を読み上げたと同時に、アクアが手をあげて発言した。それには双子だけでなく、カズマたちがあんぐりとした表情をしている。

 

「弁護人の陳述の時間はまだです。発言がある場合は許可を求めて発言するように。・・・裁判は初めてでしょうから今回だけは大目に見ましょう。弁護人、発言をどうぞ」

 

「異議ありって言いたかっただけなのでもういいです」

 

「このバカぁ!!黙ってろって俺言ったよなぁ!!」

 

バシンッ!!

 

アクアのバカ発言にカズマは容赦なくアクアの頭を引っ叩く。

 

「痛い!!何で叩くのよ!!?」

 

「弁護人は弁護の時だけ口を開くように!!」

 

「すいまっせん!!本当にすいまっせん!!!」

 

「痛い!!痛い!!ちょ・・・頭をガンガン机に叩きつけないで・・・カズマさん!!?やめてーーー!!」

 

裁判長に怒られたカズマは頭を何度も下げ、アクアを頭を下げると共に机に叩きつけ、もう何度目かわからない謝罪を行った。これを見た双子はアクアを絶対にぶち殺すという思いが浮かび上がった。

 

「え、ええっと・・・自分からは以上です。つまりその、被告人に国家転覆罪の適用を求めるということで・・・」

 

「続いては、被告人と弁護人に発言を許可する。では陳述を!」

 

発言の許可を得たため、アカメはすぐさま発言する。

 

「あのですね、私は・・・」

 

チリーン。

 

「えっ!!?まだ何も言ってないのに鳴った!!?」

 

「おおおおい!!!またか!!またそれなのかこらぁ!!!」

 

「え、えぇっと・・・姉の代わりに私が説明を・・・」

 

まだ発言してすらいないのに嘘発見器の魔道具は反応したことにカズマは驚愕し、アカメはブチギレる。もはやアカメの発言の許可すら許さない魔道具。そんな哀れなアカメの代わりにティアがこれまでのベルディア戦、デストロイヤー戦においての活躍を述べる。

 

「・・・と、いうわけでですね、デュラハン戦においてもデストロイヤー戦においてもカズマの作戦のもとでこの街に大きな貢献をしたというのです。私からは以上です」

 

「そもそもな話ですよ?そのコロナタイトを飛ばさなかったらアクセルの街はどうなってると思います?街中火の海ですよ、火の海。そうならないように責任を負ってくれた双子にその扱いは甚だおかしい話と思うのですよ。というか、もっと俺たちを敬うべきだと思うのですよ俺たちは!」

 

・・・・・・。

 

ティアの発言とカズマの弁護は魔道具には何の反応も示さなかった。

 

「・・・なんでよ・・・なんで私だけ・・・」

 

自分にだけ魔道具に反応していることに根に持っているアカメは怒るどころか、逆に落ち込みを見せている。

 

「被告人の言い分はよくわかりました。では検察官、被告人に国家転覆罪に適用されるべきだとの、証拠を」

 

裁判長がセナに証拠を促した時、セナが騎士に合図をした。騎士は待合場へと向かっていった。

 

「ではこれより、証拠の提出を行い、被告人が国家転覆を企むテロリスト、もしくは魔王軍の関係者であることを証明してみせます」

 

そう言ってセナが取り出したのは1枚の紙。セナはそれを読み上げる。

 

「これは被告人の取り調べを記録したものですが、その中に、仲間のアークプリーストとアークウィザードを縛り上げ、ジャイアント・アースワームの口の中に放り込ませるという内容に、彼女らは噂だと答えました。すると魔道具が反応しました。さらには、魔王軍の幹部と交流があるのかという問いにはいいえと答え、魔道具が反応しました。これは、魔王軍と関わっていたという証拠ではないでしょうか」

 

取り調べ記録の内容を聞いたカズマは冷や汗をかきだす。自分も両方ともかかわっていたから反論が難しいからだ。ちなみにアクアとめぐみんはジャイアント・アースワームのことを思い出し、顔を青ざめ、頭を抱え、ぷるぷると震えている。

 

「証拠はそれだけではありません。ウェーブ盗賊団という名を、皆さんはご存知かと思います」

 

「「ウェーブ盗賊団?」」

 

セナの口にしたウェーブ盗賊団の名を聞いてカズマとアクアは首を傾げる。セナは構わず話を進める。

 

「自分は彼女ら2人にウェーブ盗賊団であるかという問いには、いいえと答えました。すると魔道具が今までにないほどの反応を示した。このような事態は初めて・・・したがって、アカメとティアは、悪名高いウェーブ盗賊団の一員であるということが判明いたしました!!」

 

セナのこの発言によって、双子は苦虫を嚙み潰したような表情になっている。周りにいた冒険者たちはざわめきを見せていた。

 

「ウェーブ盗賊団だって?」

 

「あの2人が?マジで?」

 

「あの2人、ただ者じゃねぇとは思ってはいたが・・・まさか盗賊団員ご本人様だったとはなぁ・・・」

 

荒くれ者だけはいたって冷静だが、冒険者たちは驚きでいっぱいの気持ちであった。めぐみんも驚きでいっぱいの顔になっている。カズマとアクアは何が何だかわかっていない様子。ダクネスだけは真剣みな顔で耳を澄ませている。

 

「ウエーブ盗賊団の悪行の数々はここにいる全員が証人です。しかし、証拠はそれだけではありません。証人をここへ!」

 

セナの合図によって騎士は待合室から証人を連れてきた。その証人とは、魔剣の勇者のミツルギであった。

 

「ミツルギさん、あなたは被告人に魔剣を奪われた上、牛乳パックの魔剣を渡され、試し切りを促されて危険な目にあった。それだけに飽き足らず、魔剣を売り払ったという事実を突きつけられた・・・間違いありませんか?」

 

「は、はい。ですけど、あれは僕が挑んだのが原因で・・・」

 

「そうなんです!!その女がキョウヤを地面に叩きつけて魔剣を奪ったんです!!」

 

「そうです!!その女が割り込んでこなかったら・・・!!」

 

ミツルギが発言した時、率先してクレメアとフィオが証言を言い放った。2人が双子を睨みつけた時、アカメはそれとは上回った凄まじい殺意を溢れさせている。

 

「・・・あんたら、これが終わったら無事で済むとは思わないことね・・・」

 

「「ひいぃ!!キョウヤーー!!」」

 

「お姉ちゃん!証人を脅そうとしないで!!」

 

「・・・本当に大丈夫なんですか?あのパーティは・・・」

 

「あ、あははは・・・」

 

これまで出された証拠のいくつかにたいして、カテジナは頭を抱えずにはいられなかった。クリスは苦笑いを浮かべている。退廷していくミツルギたちの次に出てきたのは、証人としては相応しくない存在であるダストであった。

 

「この男は次に控える裁判の被告人です。裁判長もご存知かと思いますが、しょっちゅう問題を起こして裁判沙汰になっているチンピラです」

 

「おうこら!いきなり呼ばれて来てみればずいぶんな挨拶だなぁ、おい!そのでけぇ乳を揉んでやろうかおい!!」

 

ダストはセナの発言にセクハラ発言を言いながら突っかかっている。

 

「ダストさん、あなたはあそこにいる被告人たちと仲がいいと聞きました。間違いはありませんか?」

 

「おうよ。そこにカズマと俺は親友だぜ?その親友の仲間なら、そいつらも俺のダチだからな!」

 

「「「いえ、知り合いです」」」

 

ダストの親友、ダチ発言に双子とカズマはセナが言葉を発する前に知り合いだと答えた。

 

・・・・・・。

 

魔道具には何の反応も示していない。3人は嘘を吐いてないということがわかる。

 

「おおおい!!?」

 

「し、失礼しました。付き合ってる人間は素行の悪い人間ばかりだと主張したかったのですが・・・」

 

「気にしないでください。知り合いなのは事実ですから」

 

「おおい!!お前ら!俺たちの友情はそんな浅はかなものだったのかよー!!」

 

ダストはカズマたちに言いがかりをつけているが、その間にもダストは騎士たちに連れられ、退廷されていく。

 

「最後の1人は証人として不十分でしたが、今お見せした証拠は被告人たちの人間性を証明したと思われます。そして、現在騒がれている領主様の屋敷に現れた盗人騒ぎがあることから、被告人は事故を装い、ランダムテレポートではなく、通常のテレポートによる転送で被害者の別荘にコロナタイトを送り付けたのでは、と・・・」

 

「それは違うわ!!!」

 

セナの発言に論破しようとしたのは、意外にもアクアであった。

 

「おお、アクア!アクアだってコロナタイトを飛ばしてたとこを見てたよね!」

 

「この頭の堅そうな検察官に言ってやんなさい!」

 

「はあ?そんなものあるわけないじゃない。単にこのセリフを言ってみたかっただけ」

 

やっぱりアクアはどの場面においても全く役に立たない。それによって双子はより一層アクアに殺意が芽生える。

 

「その弁護人を退廷させるように!!」

 

「すいません!!!このバカが本当にすいまっせん!!!」

 

「痛い痛い!!ちょ・・・カズマ!私をどこへ連れていくの!!?私も最後まで・・・」

 

「このバカをお願いします」

 

「は、はあ・・・」

 

「ちょ・・・なんで騎士さんに引き渡すの?ちょ・・・ま・・・」

 

カズマはアクアにものを言わさずに騎士に引き渡し、アクアをこの裁判場から退廷させた。

 

「もういいだろう!そいつらは・・・いや、ウェーブ盗賊団は間違いなく魔王の関係者だ!手先だ!殺せ!死刑にしろ!!」

 

「い、異議あり!!」

 

もう付き合いきれないといわんばかりにアルダープが双子を処刑しろと言い張ってるが、ここでカズマが異議を申し立てる。

 

「ジャイアント・アースワームに関しては否定はしませんが・・・」

 

「「おい」」

 

「ミツルギの証言は前提が間違ってるんですよ」

 

「と、言いますと?」

 

カズマの異議に裁判長は耳を傾ける。

 

「この双子・・・厳密にいえばアカメに奪われたってことだけど・・・ミツルギが標的としていたのはそもそも俺だし、勝負で勝ったからもらってアカメにあげただけだ。それをどう扱おうとアカメの自由だと思うんだけど」

 

「しかし、証言によると割り込んできたと・・・」

 

「あれは俺が指示したものだ。確かにこれは卑怯な手だが、低レベルの奴が高レベルの奴に勝てるわけないから俺のやり方でやらせてもらうっていう案にあいつは了承したんだ。つまり、俺はルールに則ったうえで勝って、戦利品をもらったってわけ。それに、剣を返してほしい件だって、最初は本物の剣を返せとは言ってなかったんだ。しょうがないだろ?」

 

意外にも弁護できているカズマにたいして、双子はこいつ誰だ?みたいな顔をカズマに向けている。

 

「そんな屁理屈が通るわけ・・・」

 

「他にも弁護はあるぞ。魔王軍の幹部と交流したってことだけど、それはどういう場面のことを言ってるんだ?」

 

「どういうことですか?」

 

「交流したってことが話したってことになるなら、俺たちだってベルディアと会話をした。話したうえであいつと戦った。これってさ、交流したっていうことに当てはまらないか?」

 

「それは・・・」

 

「だいたい、この双子は一応はベルディアの被害者でもあるんだ。ベルディアはアカメに向かって死の呪いを放ったんだ。当たったのはティアの方だけど・・・魔王軍の関係者なら、なんでわざわざその関係者を殺そうとしたんだ?そんな目にあえば、縁を切ろうとか普通考えるだろ」

 

至極当然の意見にセナは悔しそうにしている。あまりのカズマの活躍ぶりに双子は嬉し涙を流しながら手を繋ぎ合っている。

 

「やるねー、カズマ君」

 

「本当に裁判初めてなのですか?あの男、意外にも粘れてるんですが・・・」

 

カズマの意外な弁護っぷりに遠くでクリスは感心し、カテジナは少なからず驚いている。

 

「で、ではウェーブ盗賊団に関してはどうです?あなた方は、この2人が盗賊団だとは知らなかったはずです」

 

「そ、それは・・・その・・・」

 

ウェーブ盗賊団の話題を出されたらカズマは言いよどんだ。それもそうだ。ウェーブ盗賊団の名前自体、今回の裁判で初めて知ったのだ。何も知らない状態で反論など、できるはずもない。

 

「ウェーブ盗賊団は善の行いをしています!!!」

 

言いよどんでいるカズマの代わりに応えたのはめぐみんであった。

 

「紅魔の里に現れたあくどい商人に1人のぼっちが被害にあいました!ぼっちの人生が破綻されそうになった時、ウェーブ盗賊団は現れ、商人の騙し取った物を取り返してくれたのです!そのおかげでぼっちは人生を奪われずに済んだのです!それは、他に被害にあった紅魔族も同じです!それは、紅魔の里全員が証人です!」

 

めぐみんがそこまで称賛するとは思わなかったカズマは驚いていた。どうもウェーブ盗賊団のかっこよさだけで弁護しているわけではないようだ。

 

「私も同意見だ。ウェーブ盗賊団は悪ではない。あなた方も知っているだろう。ある貴族の因縁によって、家を潰されそうになった貴族の話を。ウェーブ盗賊団は加害者側の歪んだ性根と被害者から巻き上げたものを盗み取り、被害者の私物を返却したのだ。行いこそ褒められたものではないが、あの盗みがなければ、被害者は死に絶え、国の問題になっていったはずだ」

 

「しかし、その盗み取られた者は・・・」

 

「なんてことはない。何人かがそのものに手を差し伸べ、今では改心している。私は、その手を差し伸べた存在が、ウェーブ盗賊団だと思っている」

 

「本当にウェーブ盗賊団が魔王軍関係者ならば、そのような行為を取るはずがありませんよ」

 

「それが演技だという可能性も・・・」

 

「では、実際に聞いてみることにしよう。ちょうど嘘を見抜く魔道具もあるわけだからな」

 

ウェーブ盗賊団が演技を行っている可能性があるというセナの指摘に、ダクネスは双子に聞いてみる。

 

「アカメ、ティア・・・お前たちは私たち全員を騙していたのか?これまで私たちを助けてくれた盗賊団の行為は、全て演技だったのか?」

 

ダクネスのその問いかけに双子は嘘偽りなく答える。

 

「そんなわけないよ!!私たち盗賊団は騙してなんかない!そもそも演技なんて、たいそれたことをできる奴なんて1人もいないよ!」

 

「行いこそ褒められたものではないのも認めるわ。でも、それでしか救われない命もある。だから私たちはウェーブ盗賊団に誇りを持ってる」

 

「私たちは自分たちの利益のために行動はしない!優先とすべきなのは、この世界にいる全員の自由を守ること!それは検察官だって、裁判長だって同じ!」

 

「それを奪う奴らはこの私たちがその性根を盗み出してやる!だから・・・この場で断言してやる!ウェーブ盗賊団は、テロリストでも魔王軍の手先でもない!!」

 

・・・・・・。

 

「・・・魔道具に反応なし」

 

「そ、そんなバカな⁉」

 

双子の力強い力説に魔道具は何の反応も示さなかった。それにはセナは強く衝撃を受けたように驚いている。

 

「魔道具による判別はこのように曖昧のものです。ウェーブ盗賊団であるというのは事実ではありますが、国家を揺るがすほどの事件を起こしたわけでもありません。被告人アカメ、被告人ティア、これらを国家転覆罪としてではなく、盗人騒ぎの主犯として・・・」

 

「ふざけるな。今行われているのは国家転覆罪の裁判だ。ウェーブ盗賊団は魔王軍の関係者であり、手先だ。さあ、その2人を処刑するのだ」

 

裁判長が判決を言い渡す前にアルダープが言いがかりをつけてきて、双子を処刑するよう促した。

 

「しかし、今回の事例も、今までのウェーブ盗賊団の騒ぎも死者はありません。ウェーブ盗賊団の事件は丸く収まっている以上、死刑にするほどでは・・・」

 

アルダープの出した決断にセナが反論しようとしたが、アルダープがじっとセナを見つめると・・・

 

「・・・いえ、そうですね。確かに死刑が妥当だと思われます・・・ね?」

 

「「は?」」

 

急に掌返しをして、妥当だと言い始めた。それには双子は納得いかない顔をしている。それはこの場にいる冒険者全員がそうだった。

 

「おいおいおい!おかしいだろ!!今のは明らかにおかしいだろ!!」

 

「そうですよ!なんですか今のは!検察官が言うことをころころ変えてどうするんですか!!」

 

それには当然カズマとめぐみんはセナに食って掛かるが、セナはなぜそう言ったのか・・・そもそも言った事がないといわんばかりに困惑している。

 

「今何か邪な力が感じたわ!!どうやらこの中に悪しき力を使って事実を捻じ曲げようとした人がいるわね!」

 

いつの間に戻ってきたのかアクアが突拍子もないことを言いだした。

 

・・・・・・。

 

しかし、魔道具自体は反応を示していないことで、この場の全員がアクアに視線を向ける。

 

「悪しき力・・・神聖な裁判で何か不正をしたものがいる、と?」

 

「ええ、そうよ。この私の目はそこの魔道具より信憑性があるわ!何を隠そうこの私はこの世界に一千万の信者を有する水の女神!水の女神アクアなのだから!」

 

チリーン。

 

だがアクアの言葉に魔道具が反応したことによって、全員は白けたような顔つきになる。

 

「なぁんでよー!!ちょっと待って、嘘じゃないってばー!!」

 

「被告人、弁護人の選定はちゃんとするように」

 

「「すいません。超反省してます」」

 

喚いているアクアにアルダープはなぜか顔を青ざめ、唇をかみしめて見つめていた。アルダープの顔色、そして先ほどのセナの発言の撤回はクリスとカテジナは見逃さなかった。

 

「見た?あの領主の顔色を」

 

「ええ。アルダープが裁判で勝ち続けていた理由・・・ようやく見つけることができました」

 

カテジナはアルダープが裁判で勝ち続けていた理由を確信を持ったように理解できた。とはいえ、今その根源を潰したところで処刑されるのは免れないだろう。それを理解しているカテジナは行動を示す。

 

「これで不正の正体が判明したってわけだ。後は・・・」

 

「ええ。私の出番です」

 

カテジナはそろそろ頃合いだと思い、裁判上の奥へと近づいていく。そうしている間にも双子の判決が言い渡される。

 

「被告人アカメとティア。あなたの行ってきた度重なる非人道的な問題行動、及び街の治安を著しく乱してきた反社会的行為を鑑みるに、検察官の訴えは妥当と判断。被告人は有罪。よって・・・判決は、死刑とする」

 

裁判長が出された判決にティアは顔を青くして取り乱し、アカメは裁判長に異議を申し立てる。

 

「やだ・・・いやだぁ!!死にたくない!!死にたくなんかない!!」

 

「ちょっとおかしいでしょその判決は!!!確かな証拠を持ってきなさいよコラぁ!!!盗賊団としてならともかく、こんな適当な裁判で死刑なんてたまったもんじゃないわよ!!!頭【ピーッ】してんじゃないのあんたぁ!!!」

 

「被告人!もっと言葉を慎むように!」

 

この裁判の判決に納得がいっていないのはカズマたちも同じだ。

 

「絶対おかしいわよおかしいわよ!!私の曇りなき眼には邪悪な空気が漂ってるんですけど!」

 

「よろしい、それほどまで2人をテロリストとして扱うのなら・・・て、何をするんですかカズマ!」

 

「ここで爆裂魔法を撃とうとするなぁ!!けどどうすりゃいいんだこの状況!」

 

カズマは必死に考えるが、どう考えても死刑を覆す方法が思いつかない。もはやこれまでかと思われた時・・・

 

「裁判長、お待ちを」

 

「!!こ、この声は・・・」

 

裁判場までやってきたカテジナが裁判長にストップを言い渡した。そして、身に纏っていたフードを思い切って外した。

 

「な・・・っ!!!???」

 

「あ、あなた・・・いえ、あなた様は・・・!!!」

 

フードを外したカテジナの衣装は、今まで見て来た鎧の中でもダントツで強固で、ダントツの輝きを放っている白銀の鎧であった。カテジナの鎧と顔を見たアルダープとセナ、そして検察官は驚愕に満ちた顔をしている。

 

「か、カテジナ・・・?」

 

「え!嘘⁉」

 

カテジナが現れたことにたいして双子は驚愕している。

 

「そ、その鎧は・・・!カルヴァン家の者にしか着用できないとしている賢者の鎧!!そしてあなた様は・・・カルヴァン家の第一後継者、カルヴァン・メレーデ・クラリッサ様!!!!」

 

「カルヴァン家・・・!!?」

 

「うっそ・・・!!?」

 

カテジナが大貴族一家の1つである、カルヴァン家の貴族であると知った双子は驚愕を隠せないでいた。

 

「判決が出たところ申し訳ありませんが、その判決を・・・私に預からせていただけないでしょうか?裁判をなかったことにしろというわけでなく、時間を頂きたいのです。そうすればこの2人が・・・いえ、ウェーブ盗賊団が魔王軍とは関係ないと証明しましょう。そちらの別荘も全て弁償いたしましょう」

 

カテジナが出した案に裁判長もセナも何も言葉を発せられないでいた。アルダープだけは除いて。

 

「それは・・・!し、しかし!いくらあなた様の頼みでも・・・!」

 

「納得がいきませんか?困りましたね・・・あなたは被害者なのですから私の財産を一部、そちらに提供しようと思いましたのに・・・」

 

「な、なんと・・・?」

 

カルヴァン家は巨大な貴族一家。娘であるカテジナの財産も一軒家は軽く買える程のものである。それを十分に理解しているアルダープはどうするべきか悩んでいる。ウェーブ盗賊団は何としてでも始末したい一方、超がつくほどの強欲であるため、カルヴァン家の一部の財産も捨てがたい。どちらを取るかアルダープは悩んでいる。すると・・・

 

「ならばその裁判の判決を、私も預からせてほしい」

 

ダクネスもその判決を預からせてほしいと言い出した。ダクネスは自身の懐から高価そうなペンダントを取り出した。それを見た裁判長と検察官はさらに驚愕する。

 

「そ、それは・・・!ダスティネス家の紋章!!」

 

「だ、ダスティネス家!!?ダクネスが!!?」

 

「うええええ!!?」

 

「え?え?何何何?」

 

「なんだなんだ!!?何が起こってるんだ!!?」

 

「あのお嬢さん、最初っからなんかあると思ったが・・・まさかな・・・」

 

ダクネスがダスティネス家の者だと知った冒険者全員は驚愕で満ちていた。その中で驚いてなかったアカメは呆れたような顔になる。

 

「あんた・・・せっかく黙ってやってあげたのに・・・」

 

「え?お姉ちゃん・・・まさか、知ってたの!!?」

 

「黙っていてすまない。だが、奴は狡猾だ。いくらクラリッサ様の威厳でも、もう一押しがなければ、覆すのは難しいだろう」

 

「「クラリッサ様?」」

 

ダクネスがカテジナの本名でしかも様と呼んでいることから、立場上ではカルヴァン家が上の立場であるというのがわかる。

 

「ララティーナ、あなた・・・」

 

「申し訳ございません、クラリッサ様。ですがこれは私たちパーティの問題・・・クラリッサ様1人に責任を負わせるのは間違っています」

 

「・・・・・・」

 

「アルダープ」

 

「は、はい!!」

 

ダクネスはカテジナに一礼した後、その視線をアルダープに向ける。

 

「クラリッサ様が言うように、これは被害者であるあなたへの借りとなる。だから待ってくれれば私にできることがあるならば、何でも1つ言うことを聞こう」

 

「な、なんでも・・・?」

 

「そうだ。何でも、だ」

 

なんでも言うことを聞く、というダクネスの案には、アルダープにとってはカテジナの財産よりもかなり魅力的だった。

 

「ダクネスさん・・・」

 

「ダクネス・・・」

 

「そうだ!双子は何も悪くない!!」

 

「ああ!ウェーブ盗賊団には、ダチを助けてもらったしな!!」

 

「こんな裁判なんてくそくらえだ!!」

 

『ウェーブ!!ウェーブ!!ウェーブ!!ウェーブ!!』

 

「静粛に!!静粛に!!」

 

ダクネスが双子を庇ってくれているのを見て、全冒険者たちは先日の件から掌返しするようにウェーブコールを行っている。裁判長が静まるように静粛にと呼び掛けているが、ウェーブコールは止まらない。

 

「静粛に!!・・・静粛にって言ってんだろボケェ!!!!」

 

最終的には裁判長がキレて小槌を投げつけてようやくそれで静まった。余談だが、その小槌はダストに直撃した。

 

「お、おほん・・・他ならぬカルヴァン家、そしてダスティネス家のご令嬢の頼み・・・あなた方の言葉を信じましょう」

 

そして、裁判長は予備の小槌を取り出して、双子にこう告げた。

 

「被告人アカメと被告人ティアの判決を保留とする!!」

 

判決を保留・・・それはつまり、双子には猶予が与えられ、ひとまずの死刑は免れた。それには全冒険者は歓喜の声を上げ、双子も安堵する。

 

『裁判の結果。

アカメ、ティア、処分保留

容疑者として観察継続』

 

 

ーこのすば!ー

 

 

裁判が終わった後、双子はカテジナに話があると言って先に裁判場から出て、待ち合わせ場所に移動する。

 

「おーい、こっちこっちー」

 

「クリス」

 

待ち合わせ場所にはクリスとカテジナが待っていた。2人を確認するとティアはカテジナに抱き着いてきた。

 

「カテジナー!!ありがとう!!本ッ当にありがとう!!!」

 

「・・・礼ならばララティーナに言ってください。1番あなたたちの身を案じていたのは、彼女です」

 

「それでも・・・カテジナも私を助けてくれた!!ありがとう!!ありがとう!!」

 

「さりげなく私を抜いてんじゃないわよ、バカ妹」

 

アカメは少しため息をこぼし、視線をカテジナに向ける。

 

「・・・あんたがカルヴァン家の令嬢なんて、聞いてないわよ」

 

「アタシもつい最近初めて知ったよ。いや、驚きだね」

 

「それは・・・」

 

「そいつは当然だ。盗賊団でその事実を知ってんのは、俺とバーバラ、支部長クラスの幹部だけだからな」

 

アカメの問いかけに答えたのは、建物の上にいたネクサスだった。ネクサスはそこから飛び降りて、双子たちの前で着地する。

 

「ネクサス様、いらっしゃったのですか?」

 

「まぁ・・・なんだかんだ言って気になってな・・・。おお、クリスもいたのか」

 

「やぁ、ネクサスさん、久しぶりー」

 

「・・・やっぱり普通の知り合いだったみたいだね・・・」

 

「隠し子じゃないのも本当みたいね・・・ちっ・・・」

 

「あれ?また舌打ち?」

 

「お前らは俺をなんだと思ってんだよ・・・。このやり取りも久々だな」

 

双子がこそこそと話してる内容を聞き取ったネクサスは呆れ半分、懐かしさ半分の気持ちでいっぱいになった。

 

「それで?裁判の結果はどうなった?まぁ、こうして歩いてるってことは、うまくいったんだろうが・・・」

 

「その点についてですが・・・ネクサス様にご報告が・・・」

 

カテジナはネクサスに裁判での経緯、アルダープの不正の正体、そして判決の結果を包み隠さずに話した。

 

「・・・そういうことかよ。あのおっさん・・・ふざけた真似しやがって・・・」

 

「迂闊だったよ・・・普通に考えれば、あの領主が好き放題できている理由は明らかだったのに・・・」

 

アルダープの不正の正体を知ったネクサスは普段は業務以外でしか見せない怒りの表情をしている。

 

「私たちはあの領主にいいようにやられた!あいつのせいで私たちは死にかけた!」

 

「お頭、団長として、あいつを野放しに・・・」

 

「するわけねぇだろ。あのおっさんを少しでも改心しようって考えが甘かった。俺の大事な子分を手を汚さずに殺そうとしやがったんだ。野郎にはこの借りを何千・・・いや、何億倍にして返さないと気が済まねぇ。生きてることが辛いって思えるくらいにな」

 

盗賊団としての方針は、アルダープへの仕返しを強く決意している。

 

「仕返しの時が来たら真っ先に連絡する。だがそのためにも、お前らは自分の身の潔白を示せ。盗賊活動もしばらく禁止だ。いいな」

 

「うん」

 

「わかってるわよ」

 

状況を理解できている双子はネクサスの言葉に首を縦に頷いた。ネクサスは次にカテジナとクリスに視線を向ける。

 

「奴には大掛かりな手で領主の地位から叩き落すつもりだ。そのためにもカテジナ、それから・・・クリス。お前らの手が必要だ。手を貸してくれるか?」

 

「盗賊団じゃないけど、アタシは問題ないよ。アタシもあの領主大嫌いだし」

 

「全ては・・・ネクサス様のために・・・」

 

「ありがとうな。感謝してる」

 

自分の意見に賛同してくれたカテジナとクリスには、ネクサスは感謝しかなかった。

 

「しかし、まさかダスティネス家のご令嬢がお前らのパーティにいたとはな・・・」

 

「裁判が始まる前、私はどんな手を使ってでも判決を覆すつもりでしたが・・・まさかララティーナがいたとは・・・」

 

「おかげで事がスムーズに進んだのは事実だ。俺たちにとっちゃ、嬉しい誤算だったぜ」

 

「でも、アタシは心配だな。大丈夫かな、ダクネスは・・・」

 

「ああ、そこだけは俺も懸念している。あのおっさんのことだ・・・。何を要求するかわかったもんじゃねぇ」

 

先にアルダープの元へと向かったダクネスの身をこの場の全員が心配している。特にダクネスと友人であるクリスはこのメンバーの中で心配が尽きない。

 

「ダクネスなら大丈夫だよ。きっと・・・そう信じるしかないよ」

 

「うん・・・そうだね・・・」

 

「ま、何かあったらすぐに連絡を入れるわ。大切な友人・・・なんでしょ?」

 

「うん・・・ありがとうね、2人とも」

 

心配しているクリスに気休め程度ながらも双子は気にかける。そんな双子を見たネクサスとカテジナは、いい笑みを浮かべている。

 

「では、ネクサス様。私もアルダープと話をしてきますので、失礼します」

 

「おう。気をつけてな」

 

カテジナはネクサス、ついでにクリスと双子に一礼をして、アルダープの屋敷へと向かっていく。

 

「「・・・クラリッサ様」」

 

「・・・はい?」ギロッ

 

「「・・・いえ、何でもないです・・・」」

 

本名で呼ばれたカテジナは双子に向かってギロリと睨みつけた。双子はその視線からそらした。どうやら本名で呼ばれることはあまり好きではないようだ。

 

「さて、と。いつまでも留守にするわけにもいかんから、俺もアヌビスに戻るぜ。双子、新しい拠点ができたら一度こっちに戻ってこい。宴でもしようぜ。そん時には、お前らのパーティを紹介してくれ」

 

「わかったよ」

 

「そっちも気をつけなさいよ」

 

「おうよ」

 

ネクサスも双子に手を振ってアヌビスに戻ろうと街の外へと出る。

 

「アタシもそろそろ行くけど・・・2人とも、まだまだ油断できない状況だけど、がんばってね。アタシもできることなら協力するからさ」

 

「うん。クリスもありがとうね」

 

「事が落ち着いたら、シュワシュワでも飲みましょう。もちろん、あんたの奢りでね」

 

「はいはい、楽しみにしてるよ」

 

クリスも双子と別れて、この場を後にした。この場に残ったのは双子だけであった。

 

「さて、と。私たちも帰りましょう」

 

「うん。きっとカズマも待ってるよ」

 

双子たちはカズマたちと合流するために自分たちの屋敷へと戻っていく。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

少しだけ間が空いた期間であったが、屋敷に戻ってこれて、双子はほっとしている。

 

「あ!帰って来たわね!おーい!」

 

そんな双子たちを出迎えてくれたのはカズマたちであった。その中に、ダクネスの姿はなかった。もうアルダープの屋敷へと向かったのだろう。

 

「ダクネスは?」

 

「あの領主の元へと行ってしまいました」

 

「そう・・・まぁ、あの子なら大丈夫でしょ・・・きっと」

 

アルダープの元へといったダクネスを全員は心配しているが、きっと大丈夫だと信じるしかなかった。

 

「さて、お前らには聞きたいことがある。何かはわかるだろ?」

 

「「・・・・・・」」

 

「・・・けどまぁ、裁判で疲れただろ?聞くのは明日にするよ。それよりティア、飯作ってくれよ。あの味が恋しくてさ」

 

「あら、ティアのご飯にすっかり虜になったようね」

 

「う、うん。すぐに用意するよ」

 

細かい説明は明日にし、カズマたちは双子を出迎えて、屋敷へと戻っていく。

 

双子が死刑から免れるために課せられた使命は主に2つだ。1つは、当たり前のことながら、ウェーブ盗賊団が魔王の手の者ではないと証明すること。そして2つ目は、アルダープの別荘の弁償だ。理不尽な要求ながらも、自分たちを庇ってくれたダクネスのためにもやるしかない。そう思いながら、カズマたちが屋敷に入ろうとした時・・・

 

「裁判所の命により、被告人たちの借金を資材より差し押さえとすることとなった!!」

 

突然騎士たちがカズマたちの屋敷に駆け込み、屋敷にあった家具、私物、アクアの高級酒全て、ありとあらゆるものを持っていかれてしまった。これによって・・・屋敷の中は・・・暖炉以外は空っぽになってしまった。こんな理不尽さによって、カズマたち全員は心から涙を流す。こんな理不尽な状況ながらも・・・双子の死刑を免れるための行動が、ここから始まろうとしていた。

 

カズマパーティの借金総額

 

12億4000万エリス




拝啓、お父さん、お母さん、ご無沙汰してます。カズマです。

僕の仲間は今、とても難しい立場にいます。冒険者として、1人の人間としての生き方を問われている最中だと思います。
でも、これまで世話になった仲間たちを思えば、僕も一生懸命、仲間のために頑張れます。
そう、僕は仲間のためならやる時にはやる男です。日頃からいつかはやると奴だといわれ続けた者です。
・・・犯罪的な意味じゃなくて!!

双子の反応

ティア「いや・・・あの・・・こうハッキリと書かれていると・・・なんか・・・照れるんだけど・・・」

カズマ「おわあ!!?お前ら、見るんじゃねぇよ!!」

アカメ「そう思うのなら私との立場を変わりなさいよ」

カズマ「おっま・・・!!せっかくお前らのことを思って言ってやったのに・・・!もう知らん!!勝手にしろ!!」

ティア「ちょ・・・!!カズマ!!ごめんって!!お姉ちゃんも謝って!!」

アカメ「いやよ。そんなもの・・・」

ティア「謝れつってんでしょうが!!」

次回、この善の盗賊団にうさ耳を!



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この善の盗賊団にうさ耳を!

国家転覆罪の裁判が終わって翌日、判決が保留となったことによって何とか生きながらえることができた双子。そんな双子は現在住まいの屋敷で・・・

 

「・・・さて、今日はいろいろと話してもらうぞ」

 

カズマ、アクア、めぐみんの前に座って、事情を問われている。

 

「わかってるわよ。そういう話だからね」

 

「私たちに話せる範囲ならいくらでも話すよ」

 

「「で、何が聞きたいの?」」

 

双子は質問に答えられる体制は万全であった。いろいろ質問したいことはあるがカズマがまず質問するのはやはりこれだ。

 

「まず俺が聞きたいのは、そのウェーブ盗賊団ってなんだ?裁判に集まった冒険者の反応を見るからに、結構人望があったようだが・・・」

 

カズマのその問いかけを聞いて、双子とめぐみんはマジかみたいな顔をしている。

 

「カズマ、それ本気で言ってますか?紅魔の里でもその名を聞いた事のある名ですよ?」

 

「カズマが遠くから来たっていうのは知っているけど・・・」

 

「まさか名前すら知らないとは驚きだわ・・・」

 

「アクア、そんなにすごいのか?」

 

「え?知らないわよそんなの。盗賊団の存在は知ってたけど、興味なかったから詳しくないわよ。名前も知らなかったし」

 

アクアに尋ねてもカズマ同様、そこまで知ってるというわけでもなかった。むしろ興味ないと言うほどでもあった。

 

「・・・25年前、ある男がこの世界の人間の闇を嘆き、そしてその闇を取り払い、全員平等の自由を与える組織を創り上げた」

 

「その組織の名前がウェーブ盗賊団・・・私たちが属している善の盗賊団だよ」

 

「私たちウェーブ盗賊団の活動目的は、人の理不尽によって破滅に追い込まれている人間の救済、そして、理不尽を振り回す人間の闇を、根こそぎ奪い取ること」

 

「昨日の裁判の時にも言ったけど、私たちは自分たちの利益のために活動はしないの。ターゲットとするのはあくまで、悪徳貴族と、悪意のある詐欺商人・・・人間の闇を抱えた連中だけ。善良な人間からは盗り上げたりはしないよ」

 

「つまりそのウェーブ盗賊団は悪い盗賊団じゃなくて、いい盗賊団だってことか?」

 

「そういうこと」

 

「で、お前らはその盗賊団の一員だと」

 

「理解が早くて助かるわ」

 

双子の説明を聞いて、カズマはウェーブ盗賊団は義賊であるということをしっかりと理解した。

 

「あ、じゃあ・・・昨日の裁判で来た、あの・・・クラリッサ・・・だっけ?あの人も?」

 

「そうよ。今はカテジナって名乗ってるけど、あいつも盗賊団の1人よ」

 

「マジですか!!?」

 

「まあ、私たちもカテジナがカルヴァン家の貴族だっていうのは初めて知ったんだけどね」

 

昨日の裁判で現れて双子を助けた存在の1人であるカテジナも盗賊団の1人だと聞いて、めぐみんは驚きでいっぱいだ。

 

「でもまぁ、何となくわかったよ。ウェーブ盗賊団はいい盗賊団だっていうことも。その・・・カテジナ?がお前らを助けた理由も」

 

「でもおかしいじゃない。ウェーブ盗賊団はいい行いをしているのに、なんで国からあんなに疎まれてるの?納得できないんですけどー」

 

「理由は簡単よ。国はウェーブ盗賊団を単なる賊だと考えているからよ」

 

「だからなんで!!?」

 

「どんなお題目をつけようと、私たちは裏の人間・・・そして私たちのやっている盗み行為・・・後述だけで国の法に反してるからね。むしろ国に疎まれない理由を教えてもらいたものだよ」

 

「確かに・・・ゲームでもよくあるパターンだな」

 

ウェーブ盗賊団が疎まれることに納得がいっていないアクアに双子は淡々とその理由を答えた。カズマはゲームをやってきた経験から物分かりが早かった。

 

「しかし、人の命を救っているのは事実です。それだけではありません。標的になった人たちだって、これまでも自首して、今では改心しているではないですか」

 

「法って言うのはね、そんな単純なものじゃないの」

 

「そう・・・国のお偉いさんが黒って言ったら例えそれが白でも黒になるのよ」

 

(ああ・・・よくある理不尽さだ・・・)

 

めぐみんが異議を申し立てたが、双子は国の理不尽さを何の迷いもなくそう突きつけた。

 

「でも、1つだけ・・・その法を覆す方法があるの。それは、魔王の討伐すること。魔王さえ討伐できれば、私たちが白だということが認められる・・・はずなんだよ」

 

「私たちは魔王をぐちゃぐちゃにするという個人的な目的だけじゃない。むず痒い言い方になるけど、ウェーブ盗賊団は正義である、ということを証明するために魔王をぶちのめすのよ」

 

(そうか・・・妙に魔王の討伐にたいして燃え上がってたのは、そういうことだったのか・・・)

 

双子が魔王退治に積極的な理由を理解し、納得を示しているカズマ。

 

「よくわかりました・・・。でもなぜ、自分たちはウェーブ盗賊団なのかというのを、私たちに話さなかったのですか?」

 

「単純よ。あなたたちが信用できてないからよ」

 

「え・・・」

 

「だってそうでしょ?アクアはバカで女神を自称する偽物だし、めぐみんは爆裂魔だし、ダクネスはドM、カズマだってクズのヒキニートらしいじゃない」

 

「自称でも偽物でもないってばー!!」

 

「おい、それは、爆裂魔法をバカにしている、という認識でいいのですか?」

 

「ひ、ヒキニートじゃないから!!!」

 

めぐみんの問いかけにアカメは毒舌交じりの事実を突きつける。毒舌を聞いたカズマたちは文句を言っているが、双子は無視する。

 

「まあそれ抜きでも信用した相手に自分たちの存在をバラされる、なんていう事例もあるからね。それで正体がバレて捕まったりしたらたまったものじゃないしね」

 

「あ・・・そうですね・・・ありえない話でもありませんね」

 

「私たちが優先すべきなのは人の自由を守ること。それを実行に移すのは私たち。その執行人が捕まったりしたら誰がその人間の悪を盗むの?だからこそ、私たちが盗賊団っていう事実は秘匿しなければいけなかったんだ」

 

「・・・まぁ、昨日の裁判で街の連中にはバレたけど」

 

なぜ仲間たちの自分たちにも秘密なのか、そのわけは双子の説明によって理解できたカズマたち。

 

「でも今は違うよ。私たちはみんなのことを信用してる。みんなは私たちのことを必死になって助けてくれた。しかも、ウェーブ盗賊団だと知ったうえで。信用するのは、それで十分だよ」

 

「けど、信用してないって簡単に言った手前、こんなこと信じないでしょうね。でもそれでいいわ。これ以上、私たちの事情であんたらに迷惑をかけるわけにはいかないわ」

 

双子は意を決したうえでカズマたちに向けてこういった。

 

「借金や魔王軍の手先でない証明は私たちでなんとかするよ」

 

「まぁ・・・あんたたちとの付き合いは、これで最後ってことよ」

 

最後・・・ということは誰が聞いても、双子はカズマのパーティから抜けると言っているのがわかる。それにはアクアは慌てふためく。

 

「な、何言ってるの?何言っちゃってんの?バカなの?バカなのよね?」

 

「今すぐにでも荷物をまとめてここから出ていくよ」

 

「だからあんたたちは気にせず今まで通り・・・」

 

「まぁ待てよ。12億4000万の借金をお前らでどうにかできると思ってるのか?」

 

双子がアクアに気を止めず、自分部屋に行って荷物をまとめようと思った時、カズマがストップをかけた。

 

「もうここまで来たらお前らだけの問題じゃないだろ。最後まで手伝ってやるよ。つーかお前らがパーティを抜けたら、もうティアのご飯が食べれなくなるだろ」

 

「そうよそうよ!!あの味を知ってしまったら、是が非でも止めたくなるじゃない!!」

 

「お前はもう少し欲をなくせよ・・・」

 

アクアの引き留める理由はあれだが、カズマも双子を引き留めている。

 

「で、でも・・・私たちのことで迷惑を・・・」

 

「迷惑なんて、それこそ今さらだろ?アクアはバカやらかすし、めぐみんは1発しか魔法を撃てないし、ダクネスも敵に突っ込みたがるし、お前らなんて喧嘩はしょっちゅうだ。もう十分迷惑してる」

 

「は、ハッキリ言うわね・・・あんた・・・」

 

「けど、もっと迷惑なのは中途半端な形で俺たちの前から去ろうとしていることだ。借金返す当てもないくせによ。見栄を張るなよな」

 

「カズマの言うとおりですよ。私たちは、仲間じゃないですか。2人が盗賊団であろうと関係ありません。私たちは火の海だろうと雷の谷だろうと・・・行くときは一緒です」

 

カズマたちは双子にパーティに残ってほしいと思っている。その思いに双子は思いとどまる。

 

「私たちは魔王軍の手先と思われてるような連中だよ?迷惑だってこれまで以上にかけると思う」

 

「それでも・・・あんたたちはこんなどうしようもない私たちを、まだ仲間と言い張るのかしら?」

 

双子の問いかけにカズマたちは何を今さらみたいな顔をしている。

 

「何を言っているの?当たり前じゃない。バカなの?」

 

「そうですよ。それに・・・己が信じた正義のために、あまねく冒涜さえも顧みぬ・・・まさに紅魔族の琴線に触れるではないですか!」

 

「ここで放っておいて何もできず、処刑なんて後味悪すぎだしな。それに、ウィズからもお前らをよろしくって言われてるから、今更除名なんて無理だろ」

 

自分たちが盗賊団であると知ってもなお、それでも自分たちを仲間だと思ってくれている。その姿勢にティアはうれし涙を流し、アカメは呆れたような顔つきになる。

 

「呆れた。あんたたちって本当にバカね」

 

「でも・・・すっごく嬉しいよ。ありがとうね、みんな」

 

カズマたちの気持ちを知って、双子はパーティを抜けることをやめ、これからもカズマたちのパーティでいることを誓ったのであった。

 

 

ーこ・の・す・ば!ー

 

双子の問題は解決し、カズマたちは今回の問題について話す。アクアだけは飽きてどこかへ出かけているが。

 

「私たちに課せられた課題は、魔王軍の関係者でないと証明すること・・・そして領主の別荘の弁償をすることですが・・・」

 

「正直、どっちも理不尽だけど、ダクネスのためにもやるしかないね」

 

「そうね。前述の奴は方は無理だけど、今は後述の方に専念しましょう」

 

「そうだな。幸い、マホの店も領主の別荘の弁償を優先してくれてるし、ウィズの方でも商品を置かせてもらえるようにしてもらった。これらを利用して少しでも借金返済を目指すぞ」

 

カズマたちはひとまず、アルダープの別荘の弁償の資金を集めること前提で話がまとまった。するとそこへ、戻ってきたアクアが手紙を持って双子に近づいてきた。

 

「ねぇ2人とも、玄関行ってみたらあなたたち宛の手紙が入ってたんだけど」

 

「はあ?私たち宛?」

 

「誰だろう・・・」

 

アカメはアクアから手紙を受け取り、その中身を確認する。

 

「あら、これ支部の救援要請じゃない」

 

「支部?」

 

支部という単語にカズマたちは首を傾げて、それをティアが教える。

 

「えっと、盗賊団はどこでも活動できるように、それぞれの街に盗賊団の支部が存在してるんだ。私たちがいるアクセルも同じ。これはそのアクセル支部からの救援要請書なんだよ」

 

「で、でかい組織なんだな・・・ウェーブ盗賊団って・・・」

 

カズマはウェーブ盗賊団のあまりのでかさに逆にドン引きしている。

 

「それよりなんて書いてあるの?」

 

「えーっと、何々?」

 

アカメは受け取った救援要請書を読み上げる。救援要請書にはこう書かれていた。

 

『街の外れにある我がアクセル支部の仮拠点がジャイアント・アースワームの群れが溢れかえっている。溢れかえった理由は、仮拠点にある魔除けの結界。それが誰かの爆裂魔法によって破壊され、アースワームが住処を取り戻そうとしている。あまりにも数が多い。至急救援を』

 

「ねぇ、その仮拠点って?」

 

「私たち盗賊団の拠点は1つだけじゃないの。万が一を備えて難を逃れるために存在してるのが仮拠点だよ。だいたいはダンジョンや洞窟を改築して作り上げてたりしてるんだ」

 

「へぇー」

 

ティアの仮拠点の説明を聞いたアクアはせんべいを頬張りながら軽そうな態度をとっている。自分から聞いておいて興味ないのはあんまりだと思うが、双子は気にしないことにする。

 

「でも、ジャイアント・アースワームかぁ・・・なんでこのタイミング・・・お姉ちゃん?」

 

「・・・爆裂魔法?」

 

仮拠点にジャイアント・アースワームが現れた原因を作った犯人に心当たりがあるのかアカメはめぐみんを見る。そのめぐみんはカズマと共にこっそりとどこかへ逃げようとしていた。

 

「おい、ちょっと待ちなさいよ」

 

「「!!」」ビクッ!

 

アカメに呼び止められ、めぐみんとカズマはピンと背筋を伸ばした。

 

「あんたらなんか心当たりあるわね?私たちが牢屋に入ってる間、何があった?言え」

 

「「はい・・・」」

 

アカメの鋭い目つきにたじたじになりながらも、カズマは双子が牢屋に入っている間のことを話す。

 

「えっと・・・あなたたちが署に連れてかれた日、アクアたちがあなたたちを脱獄させようって喚いてたんです」

 

「ほぉ、それで?」

 

「俺はダメだって言ってやったんですけど、アクアたちは聞かなくて・・・それで・・・アクアとダクネスは縛って黙らせたんですけど・・・めぐみんには説得させてから、いい爆裂スポットがあると言って、最近見つけた洞窟に行ったんですよ」

 

「んで?」

 

「その洞窟の近くで・・・めぐみんが爆裂魔法を放ったんです・・・。まさか・・・そこが仮拠点だったとも知らずに。で・・・撃った感触が心地よかったらしくて・・・今朝も・・・そこで爆裂魔法を・・・放ち・・・まし・・・た・・・」

 

どうやら仮拠点であった洞窟の近くでめぐみんが爆裂魔法を放ち、近くにあった魔除けの結界を破壊してしまったようだ。その事実を聞いた双子は何とも苦い顔をしている。とはいえ、そこが仮拠点だと黙っていた自分たちにも否があるが。

 

「・・・今すぐに仮拠点に行って尻ぬぐいするわよ。いいわね」

 

「「はい・・・」」

 

自分たちのパーティがやらかしてしまった責任をとるために双子はカズマたちと一緒に仮拠点へと向かっていった。

 

 

ーこのすばー

 

 

街外れにあるアクセル支部の仮拠点、カズマたちは双子の案内でそこまで辿り着いたが、そこはもう阿鼻叫喚と化していた。

 

「おらぁ!!死ねミミズ!!」

 

「くそ!体力がたけぇ!!なかなか倒れねぇ!!」

 

「おわぁ!!来るな!!来る・・・」

 

「ああ!!仲間が食われ・・・」

 

「ああああ!!みんなーー!!」

 

「やばい、このままじゃ全員食われるー!」

 

アクセル支部の盗賊団がジャイアント・アースワームに立ち向かっているが、数が多いのと、アースワームがタフなため、かなり苦戦していた。そして・・・

 

「いやあああああああ!!!やめてええええええ!!!来ないでえええええええ!!!」

 

ただいま絶賛アクアがジャイアント・アースワームに追われていた。

 

「なんだかいつもの光景ですね」

 

「うん・・・それがカエルだろうとミミズだろうと、これだけは変わらないんだね・・・」

 

「全く・・・誰かさんが余計なことをしなければこんなことには・・・」

 

「すいません、超反省しています」

 

アクアのあの光景をカズマたちは遠くから見つめるのだった。そして誰もアクアを助けようと動く気配はなかった。

 

「と、とにかく、早く終わらせて早く帰ろうぜ」

 

「自分たちが引き起こしたのに偉そうに・・・」

 

「ここは双子が協力して、1匹ずつ一撃で・・・」

 

「一撃?多分お姉ちゃんでも無理だよ?」

 

「そうね、ワーム系のモンスターは雑魚だけど、体力が異常に高くて私でも一撃は無理ね」

 

「マジかー」

 

双子でもアースワームを倒すのにかなり手間がかかる、それによってだいぶ時間をくうとカズマは考える。

 

「ねぇ!!遠くで見てないで早く助けて!!このままじゃ私食べられちゃう!!!」

 

「あー・・・待ってろー。ちゃんとそいつ倒してやるからー」

 

「何そのやる気のない返事は!!?いやあ!!!もうカエルにもミミズにも食べられるのは嫌ぁ!!!誰か・・・」

 

バクッ、ちゅるちゅる・・・

 

アクアが喚いている間にもアクアはアースワームに食べられ、咀嚼されている。

 

「・・・さて、俺たちも行動に移すか」

 

「くぅ・・・あれほどの数・・・爆裂魔法を撃ちたいです・・・!カズマ、爆裂魔法で一網打尽にしますのでもうちょっと魔力補給を・・・」

 

ボコッ!バクッ、ちゅるちゅる・・・

 

「「「め、めぐみーーーーん!!?」」」

 

めぐみんが爆裂魔法を放つためにカズマに魔力補給を頼もうとするが、その前に新しいアースワームが地面から現れ、めぐみんをぱくりと食らった。

 

ボコッ!ボコォ!

 

そして、カズマたちの背後からも新しいアースワームが地面から現れた。

 

「・・・これ、まずくない?」

 

「まずいわね・・・」

 

「・・・まさか・・・」

 

カズマと双子がアースワームを見た時、3人はかなり冷や汗をかき、そして・・・

 

「「に、逃げろぉ!!」」

 

「結局こうなるのかあああああ!!!」

 

カズマたちはアースワームに食われないように必死に逃げるのであった。まだ何も行動してもいないのに不便であるアースワームは逃がさないと言わんばかりに追いかけている。

 

「カズマぁ!!君の犠牲は・・・」

 

「そうはさせるかぁ!!ドレインタッチーーーー!!!」

 

「ほわあああああああ!!!??」

 

ここで腹黒ティアが出てきて、カズマを犠牲にしようとした時、それを察知したカズマが突き飛ばそうとしたティアの手を逆につかみ、ドレインタッチを行う。それによってティアは気が緩み、転げ落ちてしまう。そして、ティアにアースワームが迫る。

 

「ああ!!置いてかないで!!お姉ちゃん!!助けて!!妹がピンチだよ!!」

 

「・・・・・・」

 

ティアはアカメに助けを求めたが、アカメはティアを一目見た後、目を逸らし、ティアを見捨てた。

 

「こ・・・このバカあ・・・」

 

バクッ、ちゅるちゅる・・・

 

そしてティアは空しくアースワームに食われ、咀嚼される。

 

「カズマ、あんたティアのパターンに慣れてきたわね」

 

「言ってる場合かぁ!!アカメ!この状況何とかしろって!おい!!」

 

「無理言わないでちょうだい。ティアが食われたんだから、私じゃどうすることも・・・」

 

バクッ、ちゅるちゅる・・・

 

アカメとカズマが話している間にもアースワームが追い付き、そのままアカメを食らい、咀嚼する。

 

「お・・・お前らあああああああ!!!」

 

アースワームに食われた仲間に絶叫するカズマであったが、すぐ目の前には別のアースワームがいた。

 

「お、おわぁ!!?」

 

前にもアースワーム、後ろにもアースワーム・・・そして、横からもアースワームが近づいてきて、カズマに逃げ道がなくなってきた。

 

「も、もうダメだぁ!!」

 

カズマは食われる覚悟をし、目を閉じた。・・・が、いくら待てども、カズマが食われた様子はなかった。

 

「・・・ん、んん?あれ?俺、まだ食われてない?」

 

いつまでも襲ってこないアースワームに疑惑を感じたカズマは恐る恐る目を開けてみると、アースワームの動きが止まっていた。アースワームの頭には、矢が突き刺さっていた。そして・・・

 

ドオオオン!

 

「おおお!!?」

 

矢は突如として爆発し、アースワームを爆散させた。しかし、この爆散はカズマのところのアースワームだけではなかった。

 

ドオオン!ドオオン!ドオオン!

 

アクア、めぐみん、双子、盗賊団員を食らっていたアースワームにも矢が突き刺さっていて、その矢が爆発したのだ。しかも、器用にも爆風でアクアたちを救出していった。

 

「---!!」

 

アースワームが矢が放たれた場所に突進した時、人影が飛び出したのが見えた。人影は空中で弓矢を構え、狙いを残りのアースワームにめがけて矢を放った。

 

トストストス!ドオオン!ドオオン!ドオオン!

 

人影が放った矢は全て命中、1匹残さず、爆散させて、アースワームを全滅させた。

 

「す・・・すげぇ・・・」

 

アースワームをたった1人で全滅させた人影をカズマは見る。その姿は水色の短パンをはき、白い長そでの服を着込んだ銀髪の女性だった。ただ・・・その女性が普通でないのは、人間にはあるはずがないウサギの耳に、お尻にウサギの白い尻尾があることであった。

 

ーこのすば!ー

 

アースワームが全滅したことによって、辺りは落ち着きを取り戻し、盗賊団員は再度魔除けの結界の設置作業を行っていた。

 

「うぐぅ・・・もう・・・食べられるのは嫌ぁ・・・」

 

「お姉ちゃん・・・よくも見捨てたね・・・」

 

「それはお互い様でしょ、このクズ」

 

「は?」

 

「あ?」

 

アースワームに食われ、粘液塗れになったアクアは泣き崩れ、双子は互いに喧嘩になりかけていた。

 

「は・・・はぅ・・・」

 

「うえぇ・・・くせぇ・・・」

 

カズマとめぐみんは粘液の匂いで顔を歪ませている。今この場に残っているのはカズマたちパーティとうさ耳の女性だけであった。

 

「えっと、誰だか知らないけど、助かったよ!ありがとうな!」

 

「!い、いえいえいえ!!そんな!!とんでもない!!こんなゴミカス以下の私にお礼だなんてとんでもない!」

 

「え?ゴミカス?」

 

カズマの感謝にうさ耳女性は顔を真っ赤にしながらネガティヴ発言交じりで謙虚なことを言う。自分を卑下する発言にカズマはきょとんとする。

 

「そ、それに・・・そのぅ・・・私はアカメちゃんとティアちゃんを助けたかったから・・・」

 

「ん?双子の関係者ってことは・・・」

 

カズマが双子に視線を向けると、双子はうさ耳女性の前まで近づく。

 

「あ、あの・・・その・・・ひ、久しぶり、だね・・・。私のこと、覚えてる、かな?アヌビスにいた時に同じ訓練生だった・・・」

 

双子を知っているような口ぶりに双子の反応は・・・

 

「・・・誰?」

 

「誰よあんた」

 

「おい!!知り合いじゃないのかよ!!?」

 

まさかの知らない発言をした。すると同時に、うさ耳女性ズーンと落ち込みを見せている。

 

「・・・そうだよね・・・私のこと、覚えてるわけないよね・・・。こんな醜い不細工なゴミカスみたいな存在、すぐに忘れられてても仕方ないよね・・・」

 

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ!!そんな落ち込まなくても・・・」

 

「いいんです・・・私という存在は道端に落ちている缶に入っているアリ以下なんですから・・・」

 

(な、なんというネガティヴ思考・・・!!)

 

目の前にいるうさ耳女性のあまりのネガティヴっぷりにカズマは少し引いた。

 

「そんなに落ち込むことないと思いますよ。爆裂魔法ほどではありませんが、あの矢の爆発は見事なもとでしたから」

 

(励ますとこそこか!!?)

 

「でも・・・私は誰にも食べられないパセリみたいなもので・・・」

 

「そ、そんな風に思い込むなって!ほら・・・あれだ!ゴミとかパセリとかは人を助けられないだろ?だからお前はゴミじゃないし、いいことをしたんだ!誇ったっていいんだ!」

 

「・・・ありがとう・・・ございます・・・こんな虫けらごときに・・・。少し・・・気がよくなりました・・・」

 

自分を卑下するのは変わってないが、カズマとめぐみんの慰めで少しは気が晴れて、微笑を見せた。

 

「あ・・・自己紹介がまだでしたね・・・。私・・・ミミィ・・・と、申します・・・。そこの2人の・・・その・・・同期でして・・・一応・・・アクセル支部の・・・支部長・・・です・・・」

 

「「支部・・・!!?」」

 

目の前にいるうさ耳女性、ミミィが盗賊団の支部を担う支部長と聞いて、カズマとめぐみんは目を見開いた。

 

「あ、誤解しないでください!支部長といっても私、そんな偉くありませんから!むしろ人様に迷惑をかけてばかりで・・・支部長だって・・・運悪くなっただけでして・・・本当・・・なんで支部長に選ばれたんだろう・・・」

 

(この子面倒くせー!)

 

ミミィが支部長に関して弁明している途中でまたネガティヴ思考になり、カズマはだんだん面倒くさくなってきた。

 

「「ミミィ・・・?」」

 

双子がミミィの名前を聞いた時、少し考える素振りをして、ようやく思い出した。

 

「あ、ああ!ミミィね!うん!訓練生だった時に一緒だった・・・も、もちろん、覚えてたよ?」

 

「そう?私はすっかり忘れてたけど」

 

「ティア、絶対忘れてたろ。アカメはもっとオブラートに包め」

 

覚えてたフリをしているティアと正直な答えを言い放つアカメにカズマは冷めた顔つきになる。

 

「とにかく、こいつらの仲間っていうのはよくわかったよ。よろしくな、ミミィ」

 

「い・・・いえ!こちらこそ!2人の仲間なら、私たちの仲間も同然ですから!あ、あの・・・親交の証に握手しましょう!」

 

「あの・・・ものすごい距離感があるのですが・・・」

 

ミミィはカズマたちに握手をしようとしているが、カズマたちとの距離がものすごく遠くて、しかも近づこうとすると、ミミィが離れるから握手なんてできるわけがない。

 

「ところでアクアはどこ?」

 

「アクアならもう先に帰りましたよ」

 

「あいつはもう少し我慢できんのか!」

 

どうやらアクアは粘液塗れの体を洗うために先に帰ったらしい。

 

「それにしても・・・珍しい姿だな。そのウサギの耳といい、その尻尾といい・・・本物か?それ」

 

「あ、はい。私・・・人間ではなく、獣人ですから」

 

「ほほぅ、獣人ですか。実物を見るのは初めてです」

 

獣人・・・それは人間に獣の因子が宿り、半分が人間、半分が獣となった文字通りの獣人間である。ゆえに獣人であるミミィの耳と尻尾は飾りではなく本物なのである。

 

「んなことはいいから。あんた、本題があるんじゃなかったのかしら?」

 

「あ・・・そうだったね・・・。やっぱり私はハエだからこんな・・・」

 

「そーいうネガティヴはいいから本題!!」

 

双子に本題を切り出され、ミミィはまたもネガティヴになりながらもその本題に入る。

 

「え、えっと・・・その・・・皆さんのことはアクセル支部のみんなが教えてくれて・・・知ってはいたんです。いろいろご活躍されているそうで・・・すごいです」

 

「いやぁ・・・それほどでも」

 

「ほほう、中々に見る目がありますね」

 

「それで、その中でも2人を裁判で助けていただいて・・・感謝の気持ちでいっぱいです・・・。このままお世話になりっぱなしというわけにも・・・せめて、何かお礼でも・・・と・・・」

 

お礼・・・と言われてカズマは冷や汗を浮かばせる。今回のアースワームが現れる事態を作ったのは自分たちだからお礼を受け取るようなことなど、今までのことを踏まえても、カズマにはできそうもない。だからカズマは必死にそのお礼を拒否する。

 

「いやいいってお礼なんて!俺も好きでやってたわけだし!な!」

 

「え・・・でも・・・お礼・・・」

 

「ふっ・・・冒険者にとって、仲間がピンチな時に、駆け付けるのは、当然だろう?」

 

「それでも!!それでもぜひともお願いします!!こんなカスでも譲れないものはあるんです!!何でもしますのでなんでも言ってください!!どんなことでも叶えます!!」

 

「ん?今なんでもするって言った?」

 

「は、はい・・・」

 

「んふふ・・・それじゃあ・・・」

 

ゴチンッ!!

 

「真面目にやってください」

 

「すいません・・・」

 

頑なにお礼をしたがるミミィに何でもする発言に下心丸出しになったカズマはめぐみんの杖で制裁を受け、大人しくなった。とはいえ、おかげで自制心が保たれたから助かったが。

 

「諦めなさい。この子、意外にも律儀だからしつこいわよ」

 

「うん。多分地の果てまで追ってくると思うよ、お礼を返しに」

 

「何それ怖い」

 

オーバーな例えにカズマは若干恐怖し、仕方ないと言わんばかりにため息をこぼす。

 

「わかったよ。でも、さすがに今すぐには思いつかないから・・・明日、明日にでもどうだ?」

 

「・・・そういうことでしたら・・・まぁ・・・。では・・・待ち合わせ場所は・・・その・・・モンスターショップでどうでしょう?」

 

(よりにもよってあそこか!)

 

ひとまずは明日の約束に取り付けることになり、ミミィは結界作業に、カズマたちは屋敷に戻ることにした。

 

 

ーこのすばー

 

 

仮拠点の尻拭いを終えたカズマたちは盗賊団からお礼としてもらったアースワームの皮を何枚も持ちながら屋敷へと戻っていく。

 

「お前ら、今日はギルドの大浴場で洗えよ。屋敷に臭いが染み付いたらたまらん」

 

「わかってるわよ。おえ・・・吐きそうだわ・・・」

 

「やっぱワーム系のモンスターは臭い~・・・」

 

ワーム系のモンスターの粘液はジャイアント・トードよりもかなり臭いため、粘液まみれのアカメたちは全員顔がかなり歪んでいる。

 

「それにしても、かなり濃い人でしたね、あのミミィなる人は」

 

「だな。獣人で恥ずかしがり屋でさらにネガティヴって・・・。あの子っていつもああなのか?」

 

「そうね、私たちが盗賊団の訓練生だった時もあんな感じよ」

 

「聞いた話だと、生まれつきらしいよ、あの性格」

 

ミミィのあの性格は生まれた時からずっとだと聞いてカズマとめぐみんはミミィを不便に感じた。

 

「・・・で?どうすんのよ。面倒なことになったじゃない」

 

「そうだよなぁ・・・今さら俺たちのせいなんて言えないしなぁ・・・」

 

「一応、アースワームの皮をいくつかもらいましたが・・・」

 

「これ、他の盗賊団員が無理やり渡しただけでお礼ってわけじゃないしね・・・」

 

「うーん・・・」

 

お礼と言われてもピンとこないカズマ。元々もらうつもりがなかったため、大きい要求もできないためかなり悩む。悩みに悩んでふと頭によぎったのは、ミミィの弓スキルだった。

 

「なぁ、あの子弓使ってたけど、あの子ってやっぱアーチャーなのか?」

 

「正しく言えばレンジャーね。シーフと同じく多彩なスキルを持っているのが特徴よ。でも装備できる武器は違うわ。例えば今あげた弓とかね」

 

「ミミィはああ見えても凄腕の弓の名手でさ。多分私たちが知ってる中じゃ弓に関してでミミィに勝ってる人はいないと思うな」

 

「へえー・・・そっか」

 

双子のその説明を聞いてカズマはお礼内容を決めた。

 

「何?弓スキルでも教えてもらうの?」

 

「ああ。そうなんだ。俺たちのパーティには物理遠距離攻撃できる奴がいない。いや、アカメは一応できるんだけど、それでも技が投擲しかないだろ?だったら俺が覚えて、少しでも今後に活かそうって思ってな」

 

「ふーん。ま、いいんじゃないかしら?そこまで要求も大きくないし」

 

「そうですね。カズマはただでさえレベルが低いですからね。強くなることはいいことです。私も賛成です」

 

「ほっとけ」

 

カズマが弓スキルを覚えることにたいして、めぐみんたちは賛成している。

 

「とにかくそういうことだから、俺は先に屋敷に戻って準備するから・・・お前ら、さっさと大浴場行って洗って来い」

 

めぐみんたちは身体を洗うためにギルドの大浴場へと向かい、カズマは明日の準備のために1度屋敷に戻る。十数分たってカズマが屋敷に戻って扉を開けた時だった。

 

「ただい・・・う!くさ!粘液くさ!」

 

アースワームの粘液の臭さが屋敷に充満している。あまりの臭さでカズマが顔を歪んでいると、困り果てているアクアがやってきた。

 

「カズマー!おかしいの!洗っても洗ってもミミズの匂いが落ちないの!というか屋敷全体に匂いがするんだけど!どうなってるのこれー!!?」

 

どうやらアクアはこの屋敷の風呂場を使ったようだ。その風呂場へ行くために屋敷の廊下を歩いた・・・ということは当然アクアのついた粘液がぼたぼたと廊下に落ちるわけで・・・

 

「・・・お前何してくれてんだあああああああ!!!」

 

結局カズマは明日の準備でなく、屋敷内を消臭するだけで1日が終わったのであった。

 

 

ーこのすばああああ!!!ー

 

 

翌日が経ち、カズマたちは屋敷から出て、鍛冶屋で弓を購入してから約束の場であるモンスターショップまでやってきた。

 

「おーい、マホ、いるかー?」

 

「ん?おう・・・カズマか・・・いらっしゃい・・・」

 

モンスターショップにマホはいたが、その姿は少しやつれてるように見える。

 

「どうした?体調悪いのか?」

 

「いや・・・あれだよあれ」

 

「あれ?」

 

マホが指さした店の隅っこを見て見ると・・・

 

「うおっ!!?」

 

「あ・・・カズマさん・・・こんにちは・・・来てくれたんですね・・・本当・・・ゴミでごめんなさい・・・」

 

隅っこには偉くどんよりとしたミミィが体育座りをしてひどく落ち込んでいる。

 

「ど、どうしたんだよ?お前、きつめなこと言ったのか?」

 

「いや・・・店入る前からあんな感じだったぞ」

 

「はい・・・マホさんは何も悪くありません・・・。ただ・・・朝起きて・・・ふと思っただけです・・・私は単なるナメクジだって・・・」

 

(いや、ネガティヴにもほどがあるだろ⁉)

 

どうやら朝起きてからずっとネガティヴになっていたようで、何かあったというわけではないらしい。

 

「そんなわけでな・・・待ち合わせは別にいいんだが・・・このままじゃ営業妨害だ。何とかしてくれ」

 

「はぁ・・・わかったよ。俺たちもミミィに用があるからな。マホ、相手してる間に査定、頼むよ」

 

「アースワームの皮か?いいけどよ・・・値段はあんま期待すんなよ」

 

マホでは手におえないらしく、ミミィをカズマ任せた。その間マホはカズマから渡されたアースワームの皮の値段を査定する。

 

「ねぇ、その子が昨日言ってた獣人の子?」

 

「そうだよ。名前はミミィ。性格は見ての通りだよ」

 

「見たとおりのネガティヴってこと?実力はあるのになんか頼りなさそうね。もったいないわ」

 

「もったいなくてごめんなさい・・・」

 

「あんたにだけは言われたくないと思うわ。つーかこいつのネガティヴに触れてたらキリないからさっさと本題に入りましょう」

 

「そうだな。話がこじれる前に本題に入るか」

 

話がこじれる前にカズマは切り替えて本題に入る。

 

「ミミィ、昨日のお礼の件なんだけど・・・」

 

「は、はい!何でも言ってください!私にできることなら・・・恥ずかしいことでも・・・」

 

「いやいや違う違う。昨日使ってた弓スキル、俺でも手ごろで使えそうなものがあったら教えてくれよ。お礼はそれでいいよ」

 

弓スキルを教えてほしいというカズマの願いにミミィは意外そうに目をぱちくりさせている。

 

「そ、それでいいんですか?あの・・・昨日みんなから聞いた話だと、カズマさんはカスマとかクズマとか・・・そんなあだ名で呼ばれていましたから・・・てっきりきわどいものを要求するかと・・・」

 

「あ、セナさんが言ってたの、マジだったんだ・・・」

 

「ひ、ひどい!!誰だそんなあだ名を広めやがった奴!まさかまたお前か!何の嫌がらせだ!」

 

「私じゃないわよ!つーかそのせいで私まであんたと同列扱いされてるのよ!どうしてくれんのよ!!」

 

「知るか!!それは俺のせいじゃねーだろ!!」

 

「カズマとアカメが同列扱いされるのは仕方ないことだと思いますよ」

 

「カズマとアカメが外道なのは今に始まったことじゃないじゃない」

 

「「はあ!!??んだとこの駄(偽)女神!!」」

 

「おい!うっせーぞ!!騒ぐんだったら店から出ていけ!!!」

 

不名誉なあだ名のせいでカズマとアカメがいい争いし、アクアの言動のせいで悪化しそうになった時、マホが怒鳴ってそれを鎮めた。

 

「すみません・・・私が言い出したことのせいで・・・。やっぱり本当のカスは私なんだ・・・」

 

「そんなことないですよ?本当のカスはカズマみたいな人間のことを言います」

 

「おい!」

 

「そうよ?以前だってこの女神である私を檻に入れて汚い水の中に沈めたんだから」

 

「おいやめろ・・・違うからな?間違ってないけど違うからな?だから引いた顔をして俺から遠ざかろうとするんじゃない」

 

ネガティヴになっていたミミィだが、カズマの非道さをアクアが暴露した途端顔を青ざめ、カズマから距離を取る。カズマは必死になって弁明する。

 

「話がもう拗れてるわね・・・」

 

「カズマが1番のクズでいいから本題!」

 

「よくねーよ!!」

 

「あ・・・そうだったね・・・。私というゴミのせいですみません。えっと、弓スキルでしたよね?もちろん、お教えしますよ。こんな大役を私なんかが務まるとは思えませんが、助けていただいたお礼として、精いっぱい頑張ります。それでですね・・・あのぅ・・・」

 

ようやく本題に入ったが、ミミィが若干言いにくそうに縮こまっている。

 

「どうした?」

 

「私の弓スキルは・・・その・・・的がないと教えることができないものばかりでして・・・何か的になりそうなものって近くにないですか?」

 

「的・・・的かぁ・・・」

 

確かに的は重要だ。的がなければ、弓をスキルを教えようにも教えられないから当然の懸念材料だ。

 

「あら、的ならここにいっぱいあるじゃない。これとかにしちゃいなさいよ」

 

「おいこらクソ女神!!」

 

「バカぁ!!借金を増やすつもりかお前はぁ!!」

 

アクアは周りにあるモンスターの人形を的にしようと提案するが、当然ながら却下になる。

 

「でもどうするんですか?的になりそうなものなんてないですよ?」

 

「だよなぁ・・・カエルとかも今は冬眠中だし・・・」

 

「なんだお前ら。なんか弓の的探してんのか?ならいいのがあるぜ」

 

的をどうするか悩んでいると、話を聞いてたマホは引出しからクエストの紙を取り出す。

 

「なんだそれ?討伐クエストか?」

 

「違うんだが・・・まぁ、モンスターと相手するのは変わんねぇよ。内容は採取クエスト。取ってくるものはカモネギのネギだ」

 

「カモネギ?」

 

「!」ビクッ

 

カモネギというモンスターの名を聞いてカズマはゲームに出てくるモンスターを連想し、ミミィは一瞬ビクついた。

 

「カモネギっつーのはな・・・」

 

「カモネギは戦闘能力こそ低いけど、倒した時にもらえる経験値が豊富なおいしい鴨のモンスターだよ!」

 

「さらに!!カモネギのお肉はとてもおいしいし、取れるネギも栄養価がとても高いため、二重の意味でおいしいのです!!」

 

「お、おう・・・なんだ、やけに詳しいじゃねぇか・・・。・・・オレが語りたかった・・・」

 

マホが説明に入る前にめぐみんとティアが饒舌的にカモネギの詳細を語った。

 

「えーっと・・・そのカモネギってモンスターからネギを取るクエストか?ならスティールで取れると思うんだが・・・」

 

「それもできるっちゃできるが、野良だと個体によってはすぐに逃げるからなかなか分捕れないんだよ。しかもスティールは幸運値が要求されるだろ?だからこそ遠くで気づかれないようにして、弓で動きさえ止めさえすれば、効率が高いんじゃねぇか。それにお前ら、的が欲しいんだろ?この方法が練習にもうってつけじゃないか?」

 

「でもカモネギは珍しいレアモンスターよ?会うことってできるの?」

 

「オレを誰だと思ってやがる?モンスターショップの店主だぞ?カモネギの出現地点を割り出すなんて、朝飯前よ!」

 

「おお!それなら問題解決だな!ミミィもそれで・・・」

 

カモネギの出現地を割り出せるとわかって、カズマはミミィの了承を得ようと視線を彼女に向けた・・・が、当のミミィは顔を手とうさ耳で覆い隠していた。

 

「ま・・・またあの悲劇を味わえと・・・?また私に・・・あの苦しみを味わえと・・・?」

 

「ど、どうしたんだよ急に?」

 

「ああ、その子、カモネギ系のモンスターにいい思い出がなかったのよ。主にティアのせいで」

 

「・・・おい」

 

「仕方ないじゃん。当時の私の職業レベル二桁もいってなかったから必死なんだよ」

 

妙にミミィが苦しんでいる状況を作った原因であるティアをカズマたちは冷めた目でティアを見る。ティアはたいして気にも留めてもいない。

 

「ちなみにカモネギの容姿はこんなんだ。罪悪感は湧くだろうが・・・まぁ、急所なんてそうそう当たらねぇから死なないだろ。だから大丈夫だ・・・多分・・・」

 

「いやこれ大丈夫の問題じゃないから!こんな姿のモンスターなら誰だって手を上げにくいって!!」

 

マホに見せてもらった資料のカモネギは実にかわいらしい容姿をしていた。その姿を見たカズマは今から弓の的にしようとしている罪悪感がこみ上げてくる。

 

「あのな、ミミィ、無理に引き受けなくてもいいぞ?もっと別の奴でも・・・」

 

「い、いえ・・・また同じことは起きないと思いますし・・・それに・・・わざわざ私のためにお仕事を変えるのは恐れ多いです・・・それでいきましょう・・・」

 

(・・・不安だ・・・)

 

ミミィに気を利かせて別のクエストでもとカズマは提案したが、ミミィは顔を覆い尽くしながらもカモネギ関連のクエストを了承した。が、不安はかなり残っているカズマであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

『採取クエスト!!

カモネギのネギを入手せよ!!』

 

ひとまずマホからのクエストを受けたカズマたちはマホから教えてもらったカモネギ出現地点である林まで来ている。

 

「ここがカモネギの出現地点ね」

 

「言っておくけどあんたら、カモネギに手を出すんじゃないわよ」

 

「わかっていますよ。今回の目的はカズマが弓スキルを習得することですから」

 

「そこら辺のことはちゃんとわきまえてるって」

 

「信用ならないわね・・・」

 

アカメはめぐみんとティアがカモネギを狩らないように注意深く言っているが、当の2人は目を背けているため、信用性皆無だ。

 

「おい、本当に大丈夫か?なんか、小刻みに体震えてるけど・・・やっぱやめても・・・」

 

「だ、大丈夫・・・です・・・。これもカズマさんのためだと思えば・・・そうだ・・・カズマさんのため、カズマさんのため、カズマさんのため・・・」

 

「自己暗示かけてるし・・・本当に大丈夫か・・・」

 

カズマはミミィの精神的に心配をしているが、ミミィが自己暗示をかけていることから、不安はいっぱいだ。ようやく落ち着いたところで、本題に入る。

 

「すぅー・・・はぁー・・・。で、では、これから弓スキルをお教えますので、よく見ていてください・・・ね・・・?」

 

「ああ。よろしく頼むよ」

 

「えっと・・・ステータスを見た限りだと、カズマさんが1番扱いやすいスキルは千里眼スキルと狙撃スキル・・・です・・・。千里眼スキルは、遠くの標的、または隠れている標的を見つけ出すのに便利なスキルとなっています・・・。例えば・・・この林の奥・・・とか、草辺りに隠れてる標的を千里眼スキルなら簡単に見つけ出せ・・・ます・・・」

 

「おお!それは便利だ!」

 

「では・・・実際にやってみますね・・・。・・・千里眼!!」

 

ミミィは遠くなどを見渡すことができるスキル、千里眼を発動させて、林にいるカモネギを探し出す。カズマたちから見れば、ただ近くを探してる程度にしか見えないが、ミミィの視界には千里眼によって林の奥の光景が広がっていた。すると途端に顔を青ざめる。

 

「・・・はぁ!!いました!!カモネギです!!カモネギがいました!!」

 

「え?本当?私にはただ林にしか見えないけど・・・」

 

「あの・・・見間違い・・・とかではないですよね?」

 

「いるんでしょうね・・・顔の青ざめ方が尋常じゃないもの」

 

「お前・・・ミミィの前で何をしたんだ?」

 

「カモネギを見たら・・・そりゃ経験値をもらうに決まってるでしょ。後はそうだな・・・みんなでお鍋を振舞ったりとか・・・」

 

「お前・・・むごいことするよな・・・」

 

かわいらしい容姿をしているカモネギを人の目の前で討伐、しかも鍋にして食べるということをしたティアにカズマは本気で引く。

 

「なぁ、やっぱりやめてもいいんだぞ?千里眼は見せてもらったし、クエストもやめるし、狙撃はキース辺りに教えて・・・」

 

「だ・・・大丈夫・・・です・・・。カモネギはかわいいですけど・・・一応、モンスターですし・・・や、やれます・・・」

 

「お、おい!無理すんなって!!」

 

カズマは必死になってミミィの精神の安全性を考慮しているが、ミミィは頑なに考えを曲げず、そのまま弓を構え、狙撃体制に入る。

 

「そ、そそそ、狙撃スキルは・・・こここ、こうやって・・・標的にねねね、狙いを定めて敵を討つだけでなく・・・こここ、幸運値が高ければ高いほど・・・め、め、命中率が・・・あ、あ、上が・・・」

 

「もういい!!もういいよ!!よくやった!!もう帰ろう!!な?狙撃スキルはキースに見せてもらうから!」

 

明らかに声も体も震えているため、カズマは必死になってミミィを止めようとするが、もう遅い。狙いはすでに遠くのカモネギに向けている。

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさーーーーい!!!」

 

「いったーーーーー!!?」

 

ミミィはカモネギに謝罪しながらカモネギに向けて狙撃スキルで矢を放った。矢は林の中へと消えていき、そして・・・

 

「きゅっ!」

 

遠くからカモネギらしきかわいい声が聞こえてきた。

 

「え?今の・・・カモネギの声?」

 

「間違いありませんよ。今の声はカモネギですね」

 

「やったぁ!やるじゃないミミィ!これで報酬はいただきよ!私、カモネギを取ってくるわね!」

 

カモネギの声を聞いた事のあるめぐみんからのお墨付きをもらい、本物であると判明した。アクアはさっそくカモネギを捕えようと林の中へと入っていく。

 

「ミミィ・・・よく・・・頑張ったな・・・」

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・カモネギさん、ごめんなさい・・・」

 

カズマは精神的にもそろそろ限界に近くなっているミミィを強く励ます。が、ここで空気が読めない双子が追い打ちをかける。

 

「ネガウサ・・・あんた、容赦ないわね・・・あの容姿のカモネギを躊躇なく・・・」

 

「う、ううううぅぅぅ・・・違うんだよぉ・・・私・・・そんなつもりじゃ・・・」

 

「おめでとう、これでミミィもカモネギスレイヤーだね!」

 

「いやああああああああ!!いらないいらない!!そんな称号いらないいいいい!!」

 

「お前ら空気読めよ!!!」

 

容赦ない追い打ちにミミィは泣きそうになりながら頭を抱える。ちなみにアカメが言ったネガウサというあだ名はミミィのことを指している。

 

「いや、本当によく頑張った!!もうスキルも見たからネギ取ったらそのまま帰ろう!!これ以上無理すんな!!な?」

 

「え?ネギ1個だけでいいのですか?せっかくのカモネギですよ?滅多に会えないのですよ?」

 

「ミミィの様子を見てみろ!もう限界だって!これ以上やったら本当に心に深い傷をおうことになるだろうが!」

 

ミミィの精神面を考えてカズマはアクアがカモネギのネギを取ってきたらそのまま街に帰ろうと提案する。まぁ、マホの話だとここにはカモネギ1匹しかいないので、撃たれたカモネギ以外はいくら探しても出てこないのだが。

 

「みんな!見てみて!本当にカモネギよ!ほら!矢が刺さってるし、間違いないわ!」

 

「ちょっ!!?」

 

そう話している間にも、アクアが矢が突き刺さったネギを背負った鴨、カモネギを持ってきた。それを見たカズマは驚愕し、ミミィはさらに顔を青ざめる。

 

「あ・・・ああ・・・あああ・・・カモネギさんごめんなさい・・・こんなクズに討たれて悔しい思いを・・・私が・・・私が・・・」

 

「お前ミミィにとどめさしてんじゃねーよ!!!」

 

「な、なんで怒るのよ!!?私、カモネギを連れてきただけなんですけど!!?今晩のお夕飯を取ってきただけなんですけど!!?」

 

「ネギだけを持ってこいって言ってんの!!本体連れてきてどうすんだ!!」

 

ぐったりしているカモネギを見て、自身が矢を撃った行為に激しい罪悪感に襲われるミミィ。ちゃっかりお夕飯の肉にしようとカモネギを持ってきたアクアにカズマが怒鳴る。

 

「きゅ・・・きゅう・・・」

 

すると、アクアが持っていたカモネギが苦しげながらも小さな声をあげた。どうやらまだ生きていたようだ。

 

「あら?このカモネギ、まだ生きてたのね」

 

「おお、マジか!ほら、ミミィ、カモネギ生きてたぞ!まだ倒されてないぞ!よかったな!」

 

「あ・・・ああ・・・よかった・・・本当に・・・よかった・・・」

 

カモネギが生きていたということにミミィは大変喜ばしく思っており、精神面も回復された。

 

「あ、まだ生きてたんだ。てことはまだ経験値取られてないってことだよね?じゃあ・・・」

 

「やめときなさい。今日だけはネガウサに譲りなさい」

 

「うえ・・・ちょ・・・何で!!?あいつモンスターだよ!!?」

 

「アクア、お前もだ。絶対にやらかすなよ」

 

「ちょ・・・どうして私の首根っこを掴むの?どうしてカモネギから遠ざけるの?」

 

ティアとアクアが何かやらかさないようにアカメとカズマに2人を遠ざける。

 

「きゅう・・・」

 

「ごめんなさい・・・私のせいで・・・痛かったでしょう?さあ、カモネギさん、今手当てを・・・」

 

きゅっ!

 

「きゅ・・・」

 

「・・・え?」

 

「ちょっ!!?」

 

ミミィがカモネギを手当てしようとした時、めぐみんがカモネギの首を締め上げ、完全に息の根を止めた。これにはミミィは目が点になり、カズマも唖然となる。

 

「・・・めぐみんはレベルが上がった」

 

「わああああああああん!!!」

 

「バッカやろおおおおおおおお!!!!」

 

めぐみんによってカモネギが倒されて、ミミィは地面に突っ伏して大泣きした。カズマはそんなめぐみんを大きく怒鳴り、ドレインタッチで魔力を奪うのであった。こうしてカズマは弓スキルを習得できたが、なんとも罪悪感が残るクエストとなった。

 

『採取クエスト!!

カモネギのネギを入手せよ!!

ネギ獲得成功!!

ミミィは心に深い傷を負った・・・』




私、ティアがカモネギのおいしい料理を紹介するよ。

カモネギで何がおいしいっていえばやっぱりお鍋だね。特にそのお鍋の中でも水炊きが1番だと私は思うの。
作り方は簡単。まず昆布で出汁をとって、出汁がいい感じになってきたら生きのいい野菜をドバーッて入れて蓋をして動けなくさせるの。その後火を止めて、カモネギのお肉とネギを投入して、もう1度煮込む。そうしてぐつぐつと煮えてきたらカモネギの水炊きの出来上がり!是非ご賞味あれ!

頭のお言葉:いや、確かにうまいかもだが・・・だからと言ってカモネギを人の目の前で討伐するな。てかまた報告書に関係ないことを書いてんのかよ。・・・でも腹減ってきたな・・・。

次回、この紅魔の娘に友人を!


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この紅魔の娘に友人を!

ミミィから弓スキルを教わってから翌日、何もかもが空っぽの状態の屋敷、双子はもうカズマたちに隠すことなく、盗賊団本部への報告書を書いている。アクアはもう火が弱まっている暖房で暖まろうとしているが、効果はない。そんな中で、カズマは深く頭をかかえている。

 

「・・・ああああああああああああ!!!!」

 

「「「!!??」」」

 

そして限界を達したのかカズマは頭をかけながら喚いている。

 

「い、いきなりどうしたの!!?」

 

「ついに頭でも狂ったの?」

 

「違うわ!!わからないのか!!?あの領主の元へ行ったダクネスが・・・数日たっても帰ってこなかったんだぞ!!?今頃は・・・!!」

 

「「「・・・!!??」」」

 

カズマが頭を抱える理由が分かった双子とアクアは途端に顔を青ざめていき・・・

 

「「「「ああああああああああああ!!!!」」」」

 

カズマと共に気が狂ったかのように喚く。ただカズマの心配は尤もだ。アルダープはあの時、ダクネスのことを舐め回すような目で見ていたのだ。何も思わないわけがない。

 

「んにゃーお」

 

すると子猫の声が部屋の中に響いてきた。扉の方を見てみると、めぐみんがそれはもう小さな子猫を抱えていた。その姿は黒い毛並みに額に十字架、小さな悪魔の羽のようなものが生えている子猫であった。

 

「?めぐみん?なんだその猫は?拾ってきたのか?」

 

「いえ・・・宿屋にずっと住まわせていた私の使い魔です。この子は迷惑はかけないと思うのですが・・・ダメですか?」

 

「飼いたいってことか?・・・おお、人懐っこいな」

 

カズマはめぐみんの抱えている子猫を撫でると、子猫は気持ちよさそうに身をゆだねている。

 

「私は別にいいんだけどさ・・・お姉ちゃんが・・・」

 

「ん?アカメがどうし・・・」

 

カズマたちがアカメに視線を向けてみると、アカメは顔を青ざめてめぐみん・・・というより子猫から距離を離れて顔をそっぽに向いている。

 

「おい、どうしたんだ?まさか猫アレルギーなのか?」

 

「違うわよ・・・何でもないから・・・その猫を私に近づけないでちょうだい・・・」

 

「?なぜです?この子は大人しいか・・・」

 

「ひぃ!!!来るなぁ!!!」

 

めぐみんが子猫を抱えてアカメに近づこうとした時、アカメは怯えた様子でめぐみん・・・もとい子猫からさらに距離を置く。身体も心なしか震えている。

 

「お前まさか・・・猫が嫌いなのかぁ!!?」

 

「ち、違・・・ひぃ!!来ないで!!!」

 

「お姉ちゃんは猫は嫌いじゃないよ。ただ・・・その子のサイズが問題なんだよね」

 

「サイズ?」

 

子猫に過剰に怯えているアカメのこの状態にティアが説明する。

 

「お姉ちゃんね、昔小さい蛇と触れ合ってたことがあったんだけど・・・その蛇が毒蛇でさ・・・その子に噛まれて生死を彷徨う経験をしたんだよね。それ以来、それがトラウマになっちゃって・・・小動物が大の苦手になっちゃったんだよね・・・」

 

「ってことは何か!!?リスとかネズミとかの動物もダメってことなのか!!?」

 

「大きかったら別に何ともないんだけど・・・小さい動物だとそうなるね・・・」

 

まさかアカメが大がつくほどの小動物嫌いだとは思わなかったカズマたちは非常に驚いた顔になっている。

 

「マジかよ・・・あの強気なアカメがこんなに小さい動物が苦手なんて・・・」

 

「しかし、認めざるを得ませんよ。こんな姿を見てしまえば・・・」

 

「いや・・・いやぁ・・・勘弁してよ・・・」ガクガクガク・・・

 

「・・・めっちゃ縮こまってる・・・」

 

今までに見たことがないアカメの縮こまった姿にカズマとめぐみんは戸惑いを隠せないでいた。だがしかし、そんな中でアクアだけが笑っていた。

 

「アカメってばこーんなに弱っちそうな動物がダメなのね!めっちゃ情けない!!ウケる!!ちょーウケるんですけど!!プークスクス!!」

 

アクアが縮こまっているアカメを見て笑っているのが癪なのか、アカメが凄まじい殺意を持った目でアクアを睨みつける。

 

「あんた・・・調子に乗らないでちょうだい・・・!!あんたが何をやろうが数秒で細切れに・・・」

 

「あらぁ?そんなこと言っていいのかしらぁ?この子猫を近づけちゃうわよ?」

 

「うぐっ・・・」

 

調子に乗り出したアクアは子猫を引き合いに出してアカメを大人しくさせた。

 

「そうねぇ・・・せっかく弱みを握ったのだから・・・今のうちに・・・」

 

「シャー――!!」

 

アクアがアカメにやられた分の仕返しをしようと思って子猫を持ち上げようとしたら子猫はアクアに触られるのが嫌なのか手を引っ掻いた。

 

「いった!!?ちょっと!!どうして私にだけ爪をたてるの!!?せっかく私がアカメに優位に立てると思ったのに!!」

 

「小動物に嫌われてるんじゃないの?ほらこの子、フーって言ってるし」

 

「フー―ッ!!」

 

どうやらアクアは小動物にあまり好かれていないようだ。それにはアカメはほっと安心したような顔になっている。それがあったとしても、子猫の嫌い方はまるで仇敵を見るかのようだ。

 

「なんてことかしら・・・!この漆黒の毛皮といい、ふてぶてしい態度といい、何か邪悪なオーラを感じるわね・・・!ねぇ、この魔獣の名前はなんていうの?」

 

「ちょむすけです」

 

「・・・今なんて・・・」

 

「ちょむすけです」

 

この子猫の名前はちょむすけらしく、それを聞いたティア以外のメンバーは本当に冷めた顔つきになっている。ちなみにこのちょむすけは、オスではなくメスである。

 

「・・・ですが、アカメがあの様子では、飼うのはダメ・・・ですよね?」

 

「うーん・・・ちょっとお姉ちゃんを説得してみる」

 

ちょむすけを飼うことが許されないと思っているめぐみんは少し悲しそうだ。そんなめぐみんのためにティアはアカメを説得してみる。

 

「お姉ちゃん、めぐみんはちょむすけを飼いたがってるんだけど、いい?」

 

「ダメよ」

 

「そんなこと言わずにお願いだよ。お姉ちゃんだって、毎度毎度小動物に襲い掛かるなんてしたくないでしょ?少しでも小動物に慣れようよ」

 

「今なんか物騒なことが聞こえたんだが・・・」

 

「え?まさか・・・小動物触ったら殺すの?嘘よね?さすがにそれはないわよね?」

 

「た、例えそうであったとしても、ティアがいるので絶対未遂ですよ・・・そうに違いありません・・・」

 

説得する際にかなり物騒なワードが聞こえてしまったカズマたちは顔を青ざめている。ちなみに、襲い掛かるのは事実だが、全部未遂に終わっている。

 

「それにアクアに弱み握られたままじゃ嫌でしょ?舐められっぱなしだよ?」

 

「それは当然嫌よ。腹が立つもの」

 

「でしょ?ちょっとでも克服って意味でもさ・・・ね?いいでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

小動物を飼うことはアカメは嫌だが、それ以上にアクアに屈辱を受けさせられるのはもっと嫌なので、飼う際に条件を付けた。それは克服には程遠いものだが、ティアは一応は承諾する。

 

「ちょむすけをお姉ちゃんに近づけないならオッケーだって」

 

「わ、わかりました!アカメに近づけませんので、ちょむすけを殺そうとしないでください!」

 

「え?殺すなんてワード一言も出してないけど・・・」

 

飼うのは嬉しいことだが、物騒なワードを出されてしまっては嫌でもアカメに近づけてはいけないと思うめぐみんたちであった。

 

「ふぅ・・・よかったな、ちょむすけー」

 

「なーう」

 

「・・・ところでカズマ、さっきは何を騒いでいたのですか?」

 

ちょむすけを飼う問題が解決したところで、めぐみんはさっきまでカズマが喚いていた件を聞きだした。

 

「めぐみん、結構冷静だね。ダクネスはきっとアルダープのところで今頃・・・!!」

 

「あの領主のよくない噂はよく聞きます。盗賊団のターゲットにするのも納得です。ですが、ダクネスがそうやすやすと・・・」

 

「こーれだからガキんちょは!!!あんた、まだあの変態豚領主のことがわかってないのかしら?いい?ダクネスは今頃・・・くっ、この体を自由にできても、心までは自由にできると思うなよ!!・・・とか言うに違いないわよ?」

 

アカメの指摘によって、めぐみんはようやく、事の問題が理解でき、ひどく取り乱す。

 

「ど、どどど、どうしましょうカズマ!!ダクネスがひどいことに!!どうしましょうカズマ!!」

 

「もう手遅れだ・・・。いいか?ダクネスが帰ってきたら、普段と変わらず優しく接してやるんだぞ」

 

「わかったわ!大人の階段を上ったダクネスに何があったか聞いちゃいけないってことね!」

 

ひとまずはダクネスが帰って来た時に、何が起こったのかは聞かない方針で固めていく時・・・

 

「アカメとティア!!アカメとティアはいるかーーー!!!」

 

「・・・えー・・・こんな時に面倒な・・・」

 

突如としてセナが屋敷に入ってきた。

 

「はぁ・・・いったい何の用よ?私たち、ひとまずは大人しくしてたわよ?」

 

「大人しくしてただと?何を言うか白々しい!!やはりウェーブ盗賊団は魔王軍の手先だろう!!またやらかしてくれたな!!」

 

またやらかしてくれた・・・という発言にカズマは何やら嫌な予感がひしひしと感じ取った。

 

「あ、あの・・・やらかしてくれたって・・・何をですか?」

 

「・・・失礼しました。ギルドの職員の話によりますと、実は、街の周辺に冬眠中だったジャイアント・トードが這い出してきたのです。報告によりますと、何かに怯えるように這い出てきたとのことです。怯えると言えば、立て続けに起こっている爆裂魔法が頭によぎりまして、もしかしたらと・・・」

 

セナの説明を聞いて、カズマは嫌な予感が的中したかのような表情になり、すぐさまめぐみんとアクアに視線を向ける。めぐみんとアクアは屋敷の奥へ逃げようとしていたが、すぐに双子に捕まった。

 

「めぐみーん?どこへ行くのかなー?」

 

「あんたら・・・またやらかしてくれたわね・・・!」

 

「ち、違います違います!確かに爆裂魔法を撃った実行犯は私ですが、主犯はアクアです!」

 

「ちょ・・・ずるいわよめぐみん!めぐみんだってノリノリで承諾したじゃない!私のせいじゃないわよ!」

 

「言ってる場合か!!お前らがやらかした後始末をしに行くぞ!」

 

こうしてカズマたちはめぐみんの爆裂魔法でやらかした後始末として、ジャイアント・トードの討伐へと向かうのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

ジャイアント・トードが出現する草原はもうすっかり雪で白く覆われて雪原に変わっており、今もなお雪が降り続けている。

 

「いやあああああ!!もういやああああああ!!ミミズに続いてカエルに食べられるのは、もういやあああああああああ!!!」

 

そんな雪原でアクアは寒い中でも元気に動いているジャイアント・トードに追われていた。

 

「えーっと・・・資料によるとカエルって寒さで動きが鈍くなるってあったんだけど・・・元気に動いてるね・・・」

 

「カエルがこの寒さの中でも動きが鈍くならないとか・・・たくましすぎやしないか?」

 

「過酷な世界だからこそ、生き物は皆、その時その時は精いっぱいに生きていくのです」

 

「私たちだって負けてられないわよ。もっと高みを登って、この過酷な世界を生き抜くのよ」

 

めぐみんとアカメはカズマのつぶやきに真顔でそう返した・・・顔から下らへんをバクりと食われている状態で。

 

「えと・・・あの・・・サトウさん・・・?」

 

「言いたいことはわかりますよ・・・爆裂魔法と、喧嘩の後の結果がこうなってるわけですから・・・」

 

めぐみんはすでに爆裂魔法を放ち、カエルに食われ、アカメもティアと喧嘩の際でコンビネーションがぐだぐだになり、成す術もなく食べられたのだ。監視のためについてきたセナが驚かないわけがない。

 

「今助けて・・・」

 

「いや、先にアクアからでもいいわよ。外はめちゃくちゃ寒いし、ミミズよりかは臭くないし、カエルの中はものすごく暖かいのよ。ぶっちゃけ言えば、寒いから外に出たくないわ」

 

「・・・お姉ちゃんはそれでいいの・・・?」

 

「私も同様で構いませんよ。私とて、爆裂魔法を放った後ですから、今の私にできることは、こいつを足止めしておくことくらいです」

 

2人ともどうやらジャイアント・トードを暖房代わりにしているようで、外から出ようという気配はどこにもなかった。ある意味大物ともいえるだろう。

 

「・・・お、おう・・・じゃあ・・・任せる」

 

「ええ!!?いいんですか!!?」

 

「本人たちがいいならいいんじゃない?ぶっちゃけこれ、いつもの光景だから」

 

「ええええ!!?」

 

カズマのめぐみんたちの放置、そしてこれがいつものことと聞いて、セナは混乱しっぱなしである。

 

「カジュマしゃーーーん!!!もう無理!!!もう無理だから早くしてええええええええ!!!」

 

「アクア!そのまま引き付けてろ!俺が弓で仕留めてやるから!」

 

「お、さっそくミミィから教わったスキルを使っちゃう?」

 

カズマは弓矢をアクアを追っているジャイアント・トードに狙いを定めた。アクアがジャイアント・トードに食われそうなタイミングを狙って・・・

 

「狙撃!(イケボ)」

 

ミミィから教わった狙撃スキルを発動し、矢を放った。矢はアクアの髪をかすりながらも、ジャイアント・トードに見事にヒットする。ジャイアント・トードはピクリとも動かない・・・

 

「ちょっと!!今私の頭のチャームポイントを矢がかす・・・」

 

バクっ

 

「「あ・・・」」

 

と思われていたが、ジャイアント・トードはそのままばっくりとアクアを捕食した。

 

「あ、アクアーーーーーー!!!」

 

カズマはすぐさまアクアを捕食したジャイアント・トードを剣で倒した。結局いつも通りの光景であった。

 

 

ーこのすばあああああ!!!ー

 

 

なんとかジャイアント・トードを討伐し、アクアを救出に成功した。

 

「うぐぅ・・・ひぐぅ・・・」

 

「スキルが・・・俺のスキルが・・・!」

 

アクアはカエルの粘液塗れになって泣いており、カズマはスキルが通用しなかったことに激しく動揺している。

 

「あ、あなた方はいつもこんな危ない戦いを・・・?」

 

「今日の方はだいぶマシな方だけどね・・・」

 

「ほ、本当にこんな人たちが魔王軍の関係者・・・?」

 

いつも通りの光景とはいえ、普通ならあり得ない光景を目の当たりにセナはぶつぶつと頭を抱えている。すると・・・

 

「ぼーっとしない!さらに新しいのが来たわよ!」

 

「その数、ざっと4体です!」

 

「「「はあ!!??」」」

 

さらに奥地から新しいジャイアント・トードがカズマたちのところまで迫ってきている。数的にも、4対4・・・その状況にカズマたちは焦りを生じる。

 

(まずい・・・!!これでは餌・・・ではなく、囮の人数が足りない・・・!!)

 

アクアたちを餌と考えているカズマの考えはともかく、絶対的不利と感じたカズマたちは速攻で逃げ出す。

 

「うおおおおおお!!アクア!引き続き囮を頼む!!」

 

「嫌よ!!今度はティアが囮になりなさいよ!!」

 

「アクアにカエルを倒せるわけないでしょ!!ていうか、カズマが囮になってよ!!」

 

「バッカ!!お前戦闘能力とか0だろ!!1匹でも倒せれば、残りは3匹だ!!そうすりゃお前らとセナさんの3人で仕留められるからぁ!!」

 

「ええ!!?私はあなたたちの監視をしているだけなので、巻き込まれるいわれは・・・というか、一般人の私を囮に使う気ですか!!?」

 

ジャイアント・トードに逃げながら囮になれと醜い争いをするカズマたち。特に一般人であるセナまでも囮に使おうとする考えはひどい。

 

「つべこべ言わずに・・・行って来てくださーーい!!」

 

ドンッ!

 

「えっ!!?」

 

「「はあ!!?」」

 

ティアは囮としてセナをジャイアント・トードにいる方へと突き飛ばす。検察官相手でも容赦なしの腹黒さである。

 

バクッ

 

突き飛ばされたセナは成す術もなく、ジャイアント・トードの舌に絡めとられ、そのまま口の中へと放り込まれてしまう。

 

「さあカズマ、チャンスだよ!!セナさんが足止めしてる間にカエルを・・・」

 

ティアがそう言っている間にもティアはジャイアント・トードの舌に捕まり・・・そのまま・・・

 

バクリッ

 

見事に食われてしまう。自業自得とはまさにこのことを言うのかもしれない。

 

「カズマ!2人の犠牲を無駄にしないために、一気にカエルを・・・」

 

アクアも最後まで言葉を紡ぐことなく、ジャイアント・トードの舌に捕まってしまい・・・

 

「いやああああああああ!!」

 

バクッ

 

「お前らあああああああああ!!」

 

本日2度目の捕食の餌食になってしまう。生き残っているカズマは必死になってジャイアント・トードから逃げる。

 

「カズマ、なんか徐々に飲み込まれ始めてるんだけど、そろそろ助けてくれないかしら?」

 

「すいません、こっちも少しずつ飲み込まれ始めたので、そろそろ救出してもらえないでしょうか・・・ぷく・・・」

 

最初からジャイアント・トードに飲まれているアカメとティアも少しずつ胃袋の中へと運ばれつつある。めぐみんにいたってはもう顔まで飲まれ始めている。

 

「ああ、もう!!こんな時にダクネスがいれば!!いったいいつになったら帰ってくるんだよ!!」

 

「あ・・・やばいわ・・・これ本当にやばいわ・・・カズマ、早く助け・・・むぐ・・・」

 

「ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、ぷ・・・」

 

カズマが逃げてる間にもアカメも顔のあたりまで飲み込まれ、めぐみんはもう全部食われつつある。

 

「も、もうダメだーーーーーー!!!」

 

カズマが転んで、ジャイアント・トードが目の前まで迫ったその時・・・

 

「ライト・オブ・セイバー!!!」

 

突如として発生した光の刃がジャイアント・トードを貫いた。さらに他の光の刃もジャイアント・トードを貫き、アクアたち全員を救出した。この光の刃は光の上級魔法だ。この上級魔法を発動させたのは、黒いローブを羽織った少女であった。よく発育した体に、黒い髪に紅い瞳といったいかにも目立つ特徴をしていた。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

ジャイアント・トードを討伐し終えた雪原にいるアクアたちはカエル、ミミズの時特有の粘液塗れになっている。唯一無事なカズマは触りたくないながらもめぐみんにドレインタッチで魔力を分け与える。

 

「これで歩けるだろ?誰だか知らないけど、助かったよ。ありがとうな」

 

カズマは助けてくれた黒ローブの少女に視線を向ける。少女は恥ずかしそうに顔を赤らめている。

 

「た・・・助けたわけじゃないですから・・・。ライバルがカエルなんかにやられたりしたら、私の立場がないから・・・」

 

「ライバル?うちらの中にライバルがいるの?」

 

「そういえば、めぐみんと同じ特徴をしてるわね・・・ということはこの子、紅魔族か」

 

言われて見てみれば、黒い髪に紅い瞳・・・めぐみんと特徴が一致している。それだけでこの少女が紅魔族であるとわかる。めぐみんは粘液で転びつつも、立ち上がり、少女と向き合う。

 

「ひ、久しぶりねめぐみん!約束通り、修行を終えて上級魔法を覚えてきたわ!さあ、今日こそは長きにわたった決着をつけるわよ!」

 

そう言って少女はめぐみんに指を差して勝負を挑んできた。するとめぐみんは・・・

 

「どちら様でしょう?」

 

「ええ!!?」

 

すっとぼけた様子で返した。それには少女は驚愕している。

 

「だいたい、名前も名乗らないなんておかしいじゃないですか。これは、きっとカズマが言ってたオレオレ詐欺とかいう奴ですよ」

 

「わ、わかったわよ!知らない人の前で恥ずかしいけど・・・こほん!」

 

少女は咳ばらいをして、頬を赤くして恥ずかしがりながら、紅魔族の例の挨拶を始める。

 

「我が名はゆんゆん!!アークウィザードにして、上級魔法を操りし者!!やがては紅魔族の長となる者!!」

 

少女・・・ゆんゆんは紅魔族でも珍しく、この名乗りを恥ずかしがっている。

 

「とまぁ、彼女はゆんゆん。紅魔族の長の娘で、自称私のライバルです」

 

「ちゃ、ちゃんと覚えてるじゃない!!ていうか自称じゃないから!!」

 

めぐみんはさも当たり前のようにゆんゆんの紹介をしている。ちゃんと覚えているにも関わらず、忘れたふりをしていためぐみんにゆんゆんは涙目である。

 

「なるほど・・・俺はこいつの冒険仲間のカズマ。よろしく、ゆんゆん」

 

ゆんゆんの名乗りにたいして特に気にしていないカズマを見て、ゆんゆんは目をぱちくりさせている。

 

「あ、あれ?私の名前を聞いても笑わないんですか?」

 

「世の中はな、変わった名前を持ったにも関わらず、頭のおかしい爆裂娘なんて不名誉な通り名で呼ばれてる奴もいるんだよ」

 

「私ですか!!?それは私のことですか!!?私の知らない間でその通り名で定着しているのですか!!?」

 

不名誉な通り名で呼ばれていためぐみんはもちろんそのことに怒ってカズマに突っかかってきた。

 

「さ、さすがねめぐみん!いい仲間を見つけたわね!それでこそ私のライバル!」

 

ゆんゆんはなぜかめぐみんの評価を爆上げさせている。

 

「私はあなたに勝って、紅魔族一の座を手に入れる!さあめぐみん!!この私と勝負しなさい!!」

 

「嫌ですよ、寒いですし」

 

ゆんゆんの勝負の申し込みにたいして、めぐみんは普通に拒否った。

 

「えええ!!?なんでぇ!!?お願いよぉ~、勝負してよぉ~・・・」

 

「嫌です」

 

拒否られたゆんゆんはめぐみんに泣きながら勝負勝負と必死に頼み込んでいる。めんどくさいと思ったカズマは双子に視線を向けるが、双子はセナと話をしていた。

 

「今日は何とかなりましたが・・・これが私の目を欺く演技だということを捨てていませんよ。私はあなたたちを信用していませんから」

 

「あー、そう。信用しないならそれで結構」

 

「まぁ・・・そう・・・ですよね・・・」

 

「・・・では、失礼します」

 

「じゃあ、私はギルドにカエル肉を運んでもらう手続きをしてくるわね・・・」

 

話を終えたセナはアクセルの街に戻り、アクアもギルドへと向かうためにアクセルの街へと向かっていく。

 

「つーかティア、見てたけど、あんた何検察官相手でも餌に使おうとしてんのよ。バカじゃないの?」

 

「お姉ちゃんが私の意見に合わせなかったからでしょ。そのせいでお姉ちゃんが食べられて、何もできなかたんだからこのバカ」

 

「バカはあんたでしょ!」

 

「お姉ちゃんだよ!」

 

そしてそのまま取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。この状況の中で取りのこされるのは勘弁してほしいカズマである。

 

「・・・はぁ・・・しょうがないですね・・・私は今日はもう魔法は使えません。なので勝負はあなたが得意だった体術でどうですか?」

 

ゆんゆんにせがまれためぐみんは根気に負け、体術で勝負してやると言った。それにたいしてゆんゆんは嬉しそうだ。

 

「いいの?その・・・学園では碌に体術の授業に出なかっためぐみんが昼休みの時間になるとこれ見よがしに私の前をちょろちょろして、勝負に誘って私からお弁当を巻き上げていったあなたが・・・」

 

「・・・お前・・・」

 

「私だって腹を空かせて死活問題だったのです。彼女の弁当が私の生命線だったのですよ」

 

めぐみんの故郷でゆんゆんの弁当をさりげなく巻き上げていた事実にカズマは冷めた目でめぐみんを見つめる。

 

「わかった!体術勝負でいいわ!」

 

「え?いいの?」

 

「よろしい・・・では、どこからでもかかってきなさい!」

 

互いの了承も得て、体術勝負が始まった。ゆんゆんとめぐみんは互いに身を構える。その姿勢には双子も一旦喧嘩を止める。

 

「・・・なんか勝負ってことになってるけど・・・これ体術勝負?どっちが勝つと思う?お姉ちゃん」

 

「私が見るに、あのゆんゆんって奴はそれなりに腕っぷしがいいわね。私には遠く及ばないけど。で、世辞にもめぐみんは体術が得意ってわけではないわね。けど、これはめぐみんの勝ちね」

 

「それはなんで・・・あ・・・」

 

アカメはこれはめぐみんの勝ちと言い張っている。ティアは怪訝に思ったが、その理由はすぐに理解できた。

 

「・・・ねぇ・・・めぐみん・・・その・・・あなたの体がてらてらしたままなんだけども・・・」

 

「そうですよ・・・この全身ねっちょりは全てカエルのお腹の中の分泌物です。さあ・・・近づいた瞬間に、思いっきり抱き着いて、そのまま寝技に持ち込んであげます・・・!」

 

抱き着くという行為・・・それすなわち、抱き着いた相手に自身についた粘液がつくということだ。それをよく理解しているゆんゆんは顔を引きつらせている。

 

「う・・・嘘でしょ・・・?私の戦意を挫いて降参させようという作戦なのよね?でしょう・・・?」

 

ゆんゆんの恐怖交じりの問いかけにめぐみんはにっこりと微笑む。

 

「私たち、友達ですよね?友人というものは、苦難を分かち合うものだと思います」

 

めぐみんのこの言葉に長い沈黙が続き、そして・・・

 

「いやあああああああ!!降参!!降参するから!!こっちに来ないでえええええええ!!」

 

ゆんゆんはすぐにめぐみんから逃げ出す。そしてめぐみんは逃がすまいとゆんゆんを追いかけ、思いっきり抱き着いた。それによってゆんゆんはカエルの粘液が体についてしまう。

 

「降参・・・降参したのにぃ・・・!」

 

「今日も勝ち!!」

 

汚いやり方で勝利を納めためぐみんはドヤ顔である。

 

 

ーこのすば~(泣)ー

 

 

一段落したカズマたちは屋敷へと向かっている。

 

「あのゆんゆんって子、泣いて逃げちゃったね」

 

「あのくらいで泣くなんて軟弱ね」

 

それはただ双子たちがカエルの粘液に慣れてしまったからでゆんゆんの反応が1番普通なのである。

 

「2人とも、ゆんゆんの勝負の戦利品のマナタイトです。借金返済の足しにしてください」

 

めぐみんはゆんゆんの勝負で戦利品としてもらった鉱石、マナタイトを双子に渡した。

 

「それは嬉しいけど・・・いいの?それ、魔法を使う際の魔力消費を肩代わりできる代物だよ?」

 

「ふっ・・・私くらいの規格外の大魔導士には、不要なものなのです」

 

「要するに、爆裂魔法じゃそれは何の役にも立たないってことでしょ」

 

「そういうことです」

 

普通の魔法使いなら重宝するものだが、爆裂魔法では魔力消費の肩代わりできないから、いらないということである。

 

「なぁ、爆裂魔法以外のスキルを取る気は・・・」

 

「ないです」

 

「ですよねー・・・はぁ・・・」

 

カズマの問いかけに即答するめぐみん。カズマは思わずため息をこぼす。

 

「何ですか?」

 

「さっきの子より、めぐみんの方が美人だなって」

 

カズマの皮肉な言葉にめぐみんは目を赤く輝かせて、怪しげな動きをし始める。

 

「それはどうもありがとう!お礼にぎゅっとハグしてあげましょう!」

 

「こ、こっち来んな!!」

 

「もっと喜んでもよいですよ?ヌルヌルの女の子に抱き着かれるなんて、場合によってはお金を払う人だっていますよ?」

 

めぐみんはカズマに有無を言わさず、抱き着いて自分のカエルの粘液を引っ付けた。

 

「ぬあああああ!!カエル臭い!!」

 

「・・・なんかお楽しみみたいだし、お邪魔虫は退散しようか」

 

「そうね。カズマ、今日はウィズんとこに泊まるから、明日迎えよろしく」

 

「おい、ふざけんな!!こいつどうにか・・・おえ、カエルくせぇ!!」

 

じゃれ合っているカズマとめぐみんを察し、双子は屋敷への道のりからウィズの店へと向かうのであった。

 

 

ーおえ、カエルくさ・・・ー

 

 

「ウィズー、今日そっちに泊めてー」

 

「え、ええええええ!!?お2人とも、どうしてまた粘液塗れになってるんですか!!?」

 

「ああ、まずシャワーを使わせてちょうだい」

 

 

ーこのすばー

 

 

シャワーを浴び終え、晩ご飯を食べ終え、ウィズ魔道具店の双子が住んでいた部屋に双子は数日ぶりだというのだが、懐かしさがこみあげてきている。

 

「なんだか久しぶりだなー、ここ。不思議な気分だよー」

 

「そうね。数日だけ間が空いただけなのにね」

 

そう思うのも無理はない。数カ月と短い期間だが、ここでウィズと過ごしてきた時間は決して無駄ではなく、双子にとって大切な思い出なのだから。

 

「今思い返してみれば、ここに至るまでいろいろあったね」

 

「確かに、デュラハン襲来にデストロイヤー襲来・・・検察官に捕まって裁判・・・それでもなお生きているなんて・・・波乱万丈な日々だったわね。砂漠では味わえなかった体験ね」

 

「ふわぁ・・・驚いたといえば・・・ミミィが支部長になっていたりとかね・・・」

 

「前支部長が引退して後釜ができたなんて話は聞いたことはあったけど、まさか同期のネガウサが・・・」

 

ここまでの思い出を振り返っていると、ティアは非常に眠たそうにこっくりこっくりとしているのに気が付いたアカメ。

 

「・・・ふぅ・・・仕方ないわね。疲れたでしょう。ゆっくりと寝るといいわ」

 

「うん・・・そうするね・・・おやすみ・・・zzz」

 

ティアはアカメに身をゆだねるかのようにアカメの膝の上で眠り始めた。

 

「まったく・・・こうしてれば、普通にかわいい妹なのだけれどね・・・」

 

アカメは膝の上で気持ちよさそうに寝ているティアの頭を起こさないように優しく撫でる。こうしているアカメの姿はしっかりした優しい姉そのものである。するとウィズが双子の部屋にリンゴを持って入室してきた。

 

「アカメさん、ティアさん・・・」

 

「しー。ティアが眠ってるでしょ」

 

「あ、ごめんなさい」

 

アカメが静かに注意し、ウィズもティアを起こさないようにテーブルにリンゴを置き、ティアの寝顔を見る。

 

「ティアさん、気持ちよさそうに眠っていますね。よほど疲れていたんでしょうか」

 

「無理ないわ。牢屋生活に裁判、仮拠点騒ぎにカモネギの説教・・・さらに屋敷の物の差し押さえ・・・いろいろあったから、疲れもなかなか取れなかっただろうしね」

 

カモネギに関しては自業自得だが、それらの苦難続きで疲れが溜まるのは当然だろう。現にアカメも多少の疲れは残ったままだ。それでもなお、ティアの疲れ解消を優先させている辺りは、姉らしいともいえる。そんなアカメの姿にウィズは微笑んでいる。

 

「ふふ・・・」

 

「・・・何よ?」

 

「あ、すみません。ただ、アカメさんはいいお姉さんだなっと思いまして・・・」

 

「何を今さら。私は・・・今でもいいお姉ちゃんでしょ」

 

「え?あ・・・はい・・・そう・・・です・・・ね・・・?」

 

アカメの的外れな発言にウィズは困惑気味である。

 

「ま、冗談はいいとして、私は一応、この子の姉だしね。姉が妹を守り通していくのは、姉としての義務だし、当然のことでしょ」

 

「・・・ふふ、そうですね」

 

(・・・ま、普段はそれ、できてないけど)

 

できてるできてないはともかく、一応は姉としての自覚はあるアカメにウィズはにっこりと微笑む。アカメはらしくないと思い、頭をかく。

 

「・・・やっぱあんたの前だと、調子狂うわね。らしくないことを言ってしまう」

 

「す、すいません。ご迷惑でしたか?」

 

「いや、別に。そこは気にしてないし。それより、あんたって、酒はいける口?」

 

「え?あ、はい。一応は飲むことはできますが・・・」

 

ウィズの答えを聞いたアカメはティアを起こさないようにベッドまで運ぶ。運び終えたら屋敷からこっそりと持ってきた酒瓶を取り出す。実はこの酒瓶、アカメが誰にも見つからないようにしながら隠していたもので、唯一無事だった酒瓶なのだ。

 

「ちょっと晩酌に付き合いなさいよ。飲んだらすぐに寝るしさ」

 

「え?でも・・・いいんでしょうか?」

 

「リビングで飲めば問題ないでしょ。それに、あんたと2人で飲んでみたかったのよね」

 

「えっと・・・じゃあ・・・一杯だけなら・・・」

 

「よし」

 

ウィズの了承も得て、アカメは酒瓶とテーブルのリンゴを持って、ウィズと共にリビングへ向かった。リビングへ到着したら酒を注ぐためのグラスを用意する。

 

「なんだか悪いことをしてるような気分ですね」

 

「内緒で晩酌なんて悪いうちには入らないわよ。あっちが勝手に寝たんですもの」

 

「は、はぁ・・・」

 

アカメはウィズにグラスを渡し、そこに酒瓶に入ってある赤ワインを注ぐ。そして自分の分の赤ワインもグラスに注いだ。

 

「それじゃ、あんたの商売繁盛を願って・・・乾杯」

 

「あ、はい・・・いただきます」

 

この夜、アカメとウィズはワインを飲み、他愛ない話をしながら一晩を過ごした。その夜は静かながらも、とても充実した時間となった。

 

 

ーこのすばー

 

 

ウィズの店で寝泊まりした双子は今日はウィズの店を手伝うことにしている。現在双子は商品である魔道具を商品棚に並べる。

 

「すみません、わざわざ手伝ってもらって・・・」

 

「一宿一飯の恩を考えれば当然よ。ティア、これをあっちに並べてちょうだい」

 

「はーい。えっと・・・これはここ・・・これは・・・あれ?」

 

ティアが魔道具を並べながら窓を見ると、何かを発見する。

 

「・・・ちょっと、手が止まって・・・」

 

「お姉ちゃん、あれ・・・」

 

窓を見てみると、そこには店の外でやたらとそわそわしながらうろついているゆんゆんがいた。

 

「あれってゆんゆんって子じゃない?何してるんだろう?」

 

「・・・店の前をうろちょろと・・・鬱陶しいね」

 

店の前でうろうろしている姿を見てイライラしたアカメはすぐに扉を開けてゆんゆんに声をかける。

 

「店の前で何してんのよあんた」

 

「ひゃああ!!?」

 

声をかけられたゆんゆんは過剰に反応してビックリする。

 

「やあ、昨日ぶり、ゆんゆん」

 

「あ、あれ?あなたは確か・・・めぐみんの仲間の・・・」

 

「そうそう、覚えててくれて嬉しいな」

 

「で?あんた何してたのよ?店の前をうろうろと・・・営業妨害よ」

 

「そ、それは・・・そのぅ・・・」

 

何をしていたか問われると、ゆんゆんは急に恥ずかしそうにもじもじし始めた。

 

「煮え切らないわね・・・言いたいことがあるならハッキリいいなさいよ」

 

「で、ですから・・・あの・・・ここに来るかもしれないめぐみんを・・・その・・・」

 

「ずっと待ってたの?」

 

「は、はい・・・」

 

どうやらゆんゆんはめぐみんはここに来るだろうと踏んで朝からずっと待っていたようだ。

 

「それならなんでここなのよ?めぐみんとは関係・・・」

 

「もしかして、あれじゃない?昨日のマナタイトを売るためにって思ったんじゃ・・・」

 

「・・・はぁ・・・そういうこと・・・」

 

だいたいの事情を想像できたアカメはゆんゆんは面倒くさいと心の奥底から思った。

 

「なら、お店の中で待ってる?めぐみんなら今日ここに来るだろうし」

 

「ちょっと勝手に・・・」

 

「い、いいんですか⁉その・・・ご迷惑とか・・・」

 

「いいのいいの。むしろお客さんが来ないから、中に入ってくれたら嬉しいから」

 

「はあ・・・仕方ないわね・・・。ただし、中に入るからには1つくらい魔道具買っていきなさいよ」

 

「は、はい。では・・・お、お邪魔します」

 

双子・・・というより、ティアのご厚意に甘えてゆんゆんは店の中に入って、ウィズと双子と話をしながらめぐみんが来るのを待っていた。ちなみにゆんゆんはカズマたちがウィズの店によく出入りするという噂を聞きつけて、朝から待っていたようで、ティアの考えは外れていた。そして、十数分後・・・

 

「ウィズー、うちの双子たちを回収しに・・・」

 

ちょうど双子を迎えに来たカズマたちはウィズと話をしていたゆんゆんと目が合った。

 

「やっと来たわね。この・・・」

 

「わ・・・我が名はゆんゆん!!なんという偶然!なんという運命のいたずら!こんなところで鉢合わせになるなんて、やはり終生のライバル!!」

 

アカメがゆんゆんが来た理由を話そうとした時、ゆんゆんが言葉をかぶせてきた。

 

「ウィズの店にめぐみんたちがよく来るって噂を聞いたみたいで朝からずっと待ってたみたいだよ」

 

「なななな、何を言っているのですか店員さん!!私はただマジックアイテムを買いに来ただけで・・・あ、あの、これください!!」

 

ティアが真実を話した途端ゆんゆんは慌てふためき、自分に負担しか返ってこない魔道具を購入する。見栄を張っているのがバレバレである。

 

「あの子が言ってることは大嘘よ。ティアが言ってることが本当のこと」

 

「あ、あう~・・・」

 

とどめと言わんばかりにアカメが本当のことを言い放ち、真実を言われてしまったゆんゆんは顔が真っ赤になる。

 

 

ーこのすばぁ~ー

 

 

事情を把握したカズマたちはゆんゆんと話をする。ちなみに、アクアとアカメはウィズが用意したお菓子を食べており、ウィズはカウンター席でちょむすけと戯れている。

 

「なるほど、そんな回りくどいことせず、うちに訪ねてくれればよかったのに」

 

「そ、そんな・・・いきなり人様の家に伺うなんて・・・」

 

「てな感じで、店の前でも煮え切らない様子で、店の中まで入ろうとしなかったのよ、こいつ」

 

「本当に煮え切らないですね。これだからぼっちは」

 

「え?そうなの?」

 

ゆんゆんがぼっちだと聞いて、カズマたちは驚きを隠せないでいた。

 

「ゆんゆんは自分の名前を恥ずかしがるような変わり者でして・・・学園ではだいたい1人でご飯を食べていました。その前をこれ見よがしにうろうろしてやると、それはもう嬉しそうに何度も挑戦してきて・・・」

 

「そ、そこまではひどくないわよ!友達だっていたもの!!」

 

ゆんゆんに友達がいる発言にめぐみんはありえないと言わんばかりの顔つきになっている。

 

「今、聞き捨てならないことを言いましたね。ゆんゆんに友達?」

 

「いるわよ!!私にだって友達くらい!!ふにふらさんとどどんこさんが私たち友達よねって言って私の奢りでご飯を食べに行ったり・・・」

 

「ゆんゆんそれ、友達じゃないよ・・・ただたかられてるだけだよ・・・」

 

「何よこいつ・・・ネガウサよりひどいじゃない・・・」

 

ゆんゆんはふにふらとどどんこといった紅魔族にたかられていることに気づいてないようで、双子はゆんゆんのあんまりな境遇に哀れに思う。それはカズマもアクアも同様である。

 

「で、爆裂魔法しか使えない私としては魔法勝負は避けたいところなのですが・・・」

 

「他の魔法も覚えなさいよね。スキルポイントだって溜まったはずでしょ?」

 

「溜まりましたよ。もれなく全て、爆裂魔法威力上昇や高速詠唱につぎ込もうと・・・」

 

「バカ!!どうしてそんなに爆裂魔法に拘るのよ!!」

 

(いいぞー、もっと言ってやれー)

 

爆裂魔法に拘るめぐみんにゆんゆんは怒り、ゆんゆんの指摘はカズマは大いに賛同している。

 

「勝負勝負って、同級生なのに殺伐としてるわねー」

 

「紅魔族同士なのにそれはよくないと私は思うんだけどね。私たちとミミィみたいにフレンドにならないと」

 

「ティアまでそんなことを・・・」

 

「お前、ミミィのこと忘れてたくせによく言うよな」

 

アクアとティアの発言にめぐみんは面倒そうな顔つきになっている。ミミィのことを忘れてたにもかかわらず発言するティアにカズマはジト目でティアを見つめる。

 

「そんなあんたたちに、いい魔道具があるわよ。仲良くなる水晶。オススメよ」

 

仲がいいのか悪いのかよくわからないめぐみんとゆんゆんにアカメは魔道具の1つである仲良くなる水晶をお勧めしている。

 

「ああそれ、熟練した魔法使いじゃないと、うまく使えないんですよ」

 

「うまく使えれば、仲良しになれるんですか!!?」

 

ウィズの発言にゆんゆんはめぐみんと仲良くなりたいのか、嬉々とした顔つきになっている。

 

「ええ、まぁ・・・」

 

「もちろんよ。絶対に仲良くなれるから、試してみなさいな」

 

アカメがにこやかな笑顔で勧めている辺りから、カズマは妙に怪しさがぷんぷんと感じている。それはめぐみんも同じだった。

 

「アカメがああいう顔する時は、大抵嫌な予感がするのですが・・・それに、仲良くなる必要なんて微塵もないのですが・・・」

 

「怖気づいたの?めぐみん」

 

「ああ?」

 

だがゆんゆんに挑発され、すぐに触発するめぐみん。

 

「つまりこれは、よりうまく扱えた方が格上の魔法使いだという証明!!」

 

 

ー勝負よ、めぐみん!!ー

 

 

ゆんゆんの挑発に乗っためぐみんは仲良しの水晶を使った勝負を受けることになった。使用方法は簡単、水晶に己の魔力を与えるだけ。

 

「そこまで言うのであれば、見せてあげますよ!真なる魔法使いの力を!!」

 

「今日こそ決着をつけるわよ!!」

 

めぐみんとゆんゆんは水晶に向かって己の魔力を与える。その魔力の膨大さは、カズマたちにも感じ取れる。

 

「すごい魔力値だ・・・めぐみんもゆんゆんもすごい!」

 

「さすがは、紅魔族と言ったところね」

 

「さあ水晶よ!!その力を示して!!」

 

「水晶の力が、発動しますよ」

 

めぐみんとゆんゆんの高い魔力によって、水晶は辺りに投影映像が現れ始めた。その数は尋常でない数でウィズでさえも見たことないほどである。

 

「こんなにも投影されたのは初めてです。2人ともすごい魔力です」

 

ウィズが感心していると、その投影映像を見たカズマたちは信じられない表情になった。

 

「なんだ・・・これ・・・?」

 

映し出された投影映像には学校の教室が写っていて・・・そこで学生時代のめぐみんが、こそこそとしながらパンの耳をこれでもかと袋に詰め込んでいる。

 

「あれ・・・パンの耳集めてるのか・・・?」

 

「ねぇ・・・ちょっと待って・・・」

 

アクアの見ていた映像には・・・学生時代のゆんゆんが誕生日パーティーでお祝いしている姿だった。・・・他は誰1人おらず、たった1人で・・・。

 

「1人・・・なの・・・?」

 

ひどい映像はこれだけではなかった。めぐみんの場合は畑の野菜をかっさらったり、川でザリガニを捕まえたり、セミを捕まえたりして、それらを妹と一緒に食べたりしていたのだ。

ゆんゆんの場合はたった1人でチェスを行ったり、犬と友達になろうとしたところ逃げられたり、あまつさえ花でさえ足で逃げ出したり・・・最終的には悪魔と友達になろうと悪魔召喚を行ったりと、それはもうひどい映像ばかりであった。

 

「架空の友達に奢るために・・・アルバイトしてるの・・・?」

 

「嘘でしょ・・・芋虫を・・・虫を食べてるってあんた・・・」

 

「「わああああああああああああ!!!!!」」

 

自身の黒歴史をカズマたちに見られてめぐみんとゆんゆんはあまりの恥ずかしさで絶叫する。

 

「いったい何ですかこれは!!??」

 

「店主さん!!仲良くなる水晶だって言いましたよね!!??」

 

2人の尤もな疑問にウィズはそれはもう気まずそうにしながら答える。

 

「これはお互いの恥ずかしい過去を晒しあうことでより友情や愛情が深くなるという大変徳の高いものなん・・・で・・・す・・・」

 

やっぱり問題のある商品だったようだ。説明したウィズでさえ後ろめたさを感じているし、推奨したアカメでさえ罪悪感で目を逸らすほどである。

 

「めぐみん!!ねぇめぐみん!!これで私たち仲良くなるの!!??」

 

めぐみんに泣きながらそう問いかけるゆんゆん。めぐみんは問いかけには答えず、水晶を手に持つ。

 

「ぬりゃああああああああああああああああ!!!!!!」

 

ガッシャ―――ン!!!!

 

『あああああああああ!!!』

 

黒歴史をこれ以上見られないようにするためめぐみんはその水晶を地面に叩きつけて壊したのであった。

 

 

ーこのすばぁ!!ー

 

 

壊れてしまった仲良くなる水晶をウィズは風呂敷に包み込ませる。

 

「これはカズマさんにつけておきますね」

 

今すぐ払うのではなく、ツケでもいいというのは、ウィズの優しさだろうが、カズマは納得いっていないようだ。

 

「待て、壊したのはめぐみんだろ。めぐみんにつけろよ」

 

「その水晶を使いたがっていたのはゆんゆんです。ゆんゆんが払います」

 

支払いをゆんゆんに押し付けようとしているめぐみん。そして、当のゆんゆんはというと・・・

 

「勝負が・・・せっかくの勝負が・・・」

 

黒歴史を見られたどころか、あまりにあんまりな結果にゆんゆんはひどく落ち込んでいる。

 

「いったいいつまでめそめそしているのですか?」

 

「だってこれじゃあどっちが勝ったかわからないじゃない!ねぇ、引き分けでいい?」

 

勝負は引き分けでいいかとゆんゆんがめぐみんに尋ねると、めぐみんはふっと小さく微笑む。

 

「別に構いませんよ。もう勝負ごとに拘るほど、子供でもないですから」

 

めぐみんの発言にゆんゆんはちょっと驚いていたが、すぐに強気になる。

 

「そういえば昔、発育勝負をしたことがあったわよね!子供じゃないっていうなら、またあの勝負をしていいわよ!!」

 

「子供じゃないというのは、別の意味での子供じゃないってことですよ」

 

「?」

 

ゆんゆんが首を傾げていると、めぐみんはここでの爆弾発言をする。

 

「だって、私はもう・・・ここにいるカズマと一緒にお風呂に入る仲ですから」

 

「ちょっ!!??」

 

「まあ!!」

 

「わお!カズマ、めぐみんとそこまでの関係に!」

 

「へぇ、中々にやるじゃない。見直したわ」

 

どうやら双子がウィズの店で寝泊まりしている間にもカズマとめぐみんは共に風呂に入っていたようだ。その事実にウィズは感心し、双子もカズマを称賛した。そして、ゆんゆんはきょとんとした後に・・・

 

「・・・ええええええええええええ!!!???」

 

顔を赤くして、今までにないくらいに驚愕の声を上げている。

 

「お前ふざけんな!!この口か!!この口がまた俺の悪評を広めるのか!!」

 

カズマは顔を赤くして爆弾発言をしためぐみんの頬を引っ張ってお仕置きをする。

 

「きょ・・・今日のところは私の負けにしといてあげるからぁ!!!うえーーーーーーーん!!!!」

 

ゆんゆんは顔を赤くしながら泣きだして、そんなことを言って店から飛び出していった。

 

「あ、せっかくの金づるが・・・」

 

「ゆんゆんまたねー」

 

「またどうぞー」

 

「賑やかな子ねー」

 

「お前もな・・・」

 

ゆんゆんを見送った後、めぐみんはゆんゆんとの勝負履歴のメモを取り出し、今回の勝負を記録した。勝負履歴には全部めぐみんの勝利で納めてある。

 

「・・・今日も勝ち!!」

 

めぐみんは顔を真っ赤にしながらも、勝利宣言をしたのであった。




女神アクアです。滞っていました経過報告です。

ヒキニートとして問題視されたカズマ氏ですが、清廉で屈強な冒険者となりました。セクハラや借金なんてもってのほかです。
私の目に狂いはありませんでした。そう、私はできる女神なのです。
大工の親方にも認められ、日給も上がりました。今では造花と牛乳パックの内職と合わせて暮らしていけるようになりました。
・・・いやパートタイマーとかじゃなくって!!

双子の反応

ティア「いや完全にパートタイマーでしょ・・・なんだよ、内職で暮らしていけるって・・・」

アカメ「あ、そうか。普段から言ってる女神はバイトの女神様ってことね」

アクア「ちっがうわよ!!水よ水!!水の神様よ!!そんな口を叩いてるとゴッドブローを・・・」

アカメ「百年早いわ」

アクア「ぎゃあああああああ!!!」

ティア「アクア、いい加減学習して・・・アクアじゃお姉ちゃんには勝てないって・・・」

次回、この迷宮の主に安らぎを!


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この迷宮の主に安らぎを!

今日も今日とて、賑やかな雰囲気の冒険者ギルド。そんな賑やかとは似つかわしくない雰囲気をカズマたちから漂わせていた。借金のせいでお金もない、まともな食事もありつけないため、カズマたちはお腹を空かせている。そんな状況で、カズマが口を開く。

 

「・・・明日はダンジョンに行きます」

 

「嫌です」

 

「行きます」

 

カズマの提案にめぐみんは真っ先に拒否ったがカズマの意志は固い。

 

「嫌です嫌です!!」

 

「行きます、行きます!!」

 

「だって、ダンジョンなんて私の存在価値皆無じゃないですか!!爆裂魔法なんて使えないし、私もうただの一般人!!」

 

「お前を仲間にするとき、荷物持ちでも何でもするって言ったのを覚えてるか?」

 

「あう・・・」

 

カズマに痛いところを突かれて、駄々をこねてためぐみんは押し黙ってしまう。

 

「私はダンジョン探索は望むところではあるけど・・・」

 

「つーかなんで今なのよ?ダクネスが帰ってきてからじゃダメなのかしら?」

 

「ああ、あいつがいても戦力には数えないから外す」

 

ダクネスがいようがいまいが彼女をダンジョン探索には連れていかないように決めているカズマ。

 

「いいか!!俺たちの借金は今や国家予算並みだ!!このままだと飢えて死ぬんだよ!!」

 

「ええ!!?私、牛乳パックの仕事の単価を上げてるのに!!?野菜のたたき売りもあまり休まずに行ってるのに!!?」

 

「そんな内職やバイトで小銭を稼いでも追い付かないって言ってるんだよ!!」

 

ひもじい状況下を打破するためにカズマはあるクエストの用紙をアクアたちに見せる。そこに書いてあるのはダンジョン探索の依頼だ。

 

「初心者用クエスト・・・キールのダンジョン?」

 

「さんざん探索されたところじゃないですか」

 

「そんなところに今さら行ったって意味ないと思うけど?」

 

依頼書に書かれてるダンジョン、キールのダンジョンの調査にどうして今更といったような顔つきになるアクアたち。そんな疑問にルナが説明に入る。

 

「実はですね・・・偶然新しい通路が発見されまして・・・これから大々的に調査クエストの案内を出すところだったのですが・・・」

 

「俺から頼んで特別に斡旋してもらった」

 

「なので、まだ他の冒険者には伝わっていませんので」

 

「なるほど・・・未調査のエリアならまだお宝が残ってる可能性があるわけだね。これは私の能力フル活用できそうな予感!」

 

「お宝!!?」

 

未調査のエリアの依頼はカズマが斡旋したことにより他の冒険者には伝わっておらず、それを利用してお宝があるかもという可能性を考えて受けたものらしい。ティアは自分の能力を発揮できることに嬉々しており、アクアはお宝に過剰に反応している。もちろん、いい意味で。

 

「なんだ!!?おいおい儲け話かよ!!俺にも混ぜろよ!!」

 

そこへ偶然近くを通りかかったダストが話に乗っかろうとしている。報酬金を山分けしたくないカズマは、あるものを使って黙らせる。

 

「きわめて深刻な話なんだ。お前を、巻き込みたくはない」

 

カズマが取り出したものは、例のサキュバスの店の割引券である。

 

「これ・・・割引が今夜までのやつじゃないか・・・!」

 

「大事に使ってくれ・・・」

 

「任せろ・・・」

 

割引券を受け取ったダストはかなり浮かれた様子でギルドから立ち去り、さっそくサキュバスの店へと向かう。それを見送ったカズマは敬礼し、アクアたちはジト目で見つめるのであった。

 

「そ・・・それでは、危険度がわからないので気を付けてくださいね」

 

一部邪魔が入ったものの、ルナの一通りの説明が終わり、カズマたちは明日に備えて準備を始めるのであった。

 

 

ーこ!!!のすばー

 

 

『探索クエスト!!

キールダンジョンの新しく発見されたルートを調査せよ!!

難易度不明』

 

翌日、ギルドから少し距離が離れたキールのダンジョンの入り口にまで辿り着いたカズマは中に入るための準備をしている。

 

「初心者用ダンジョンのくせに変に遠いなんて生意気ね!」

 

「これだけ人里離れていれば、撃ち放題ですね」

 

「地下に入るんだ。撃つなよ」

 

カズマがめぐみんに注意をしているが、めぐみんはもう撃つ姿勢に入っている。何とかギリギリ間にあったようだ。

 

「・・・昔の国最高と言われたアークウィザードが作ったダンジョンかぁ・・・。そいつはこんな迷宮に立てこもっていったい何をしてるんだろうね?」

 

「さあね。昔の奴の考えてることなんて、わかったもんじゃないわ」

 

「準備できたぞー。いくぞお前ら」

 

「あ、はーい」

 

「わかったわ」

 

このキールのダンジョンの考察をしている双子にカズマが呼び出す。

 

「こっから先は俺たち3人で行くから、お前らはここで待っててくれ」

 

アクアたちにそう言って、カズマは双子を連れてキールのダンジョンの中へと入っていく。ダンジョンの中はちょっと入っただけでも暗く、ほとんどのものが見えない場所だ。

 

「・・・なぁお前ら、俺はミミィから教えてもらった千里眼のおかげでバッチリ見えてるが・・・こんなくらい中でも見えてるのか?」

 

「シーフはね、普通の奴よりも目がいいのよ。この程度の暗さなんて、何の障害にもならないわ」

 

「ほら見てよあそこ、あそこに空の宝箱があるでしょ?」

 

「本当だ・・・バッチリ見えてるみたいだな・・・」

 

カズマはミミィに教えてもらった千里眼のおかげでちゃんと見えてるし、双子はシーフという職業柄、目もかなりいいようで、暗い中でもちゃんと見えているようだ。

 

「・・・で?あんたは何しに来たのよ?」

 

「あれ?見えてる?私のことちゃんと見えてる?」

 

「はぁ・・・アクア・・・」

 

どういうわけか待ってろと言っているにも関わらずついてきているアクアにカズマたちは本当にうんざりしたような顔になっている。

 

「見えてんだよ。お前俺の話をちゃんと聞いてたか?お前一緒にいても何も見えてないだろ?」

 

「ふふん、カズマ、私が誰だか忘れてない?アークプリーストとは仮の姿・・・双子とめぐみんとダクネスは頑なに信じようとしないけど・・・カズマなら知ってるでしょ?ほら、私の職業を言ってみて?」

 

「「「借金の神様」」」

 

「ちっがうわよ!!水よ水!!水の神様でしょ!!なんで双子は信じようとしないの!!?」

 

「「はいはい、女神様女神様」」

 

3人の扱いにアクアは怒っているが、双子は軽く流している。

 

「腹立つ~!いい?私は仮にも女神なのよ?地上に降りて力は弱まってはいても、神様らしい力の1つ2つ、ちゃんと残ってるのよ!!全てを見通すことはできなくても、こんな暗闇くらいちょろいわよ!!」

 

「・・・確かに見えてはいるみたいだけど・・・」

 

「正直、邪魔以外の何ものでもないわね」

 

この暗闇でもアクアはちゃんと見えてはいるみたいだが、カズマたちは不安しかない。

 

「それに、ダンジョンにはね、アンデッドがいるものなのよ。そしてアンデッドは生者の生命力を目印にやってくる・・・つまり、アンデッドモンスターには潜伏スキルは通用しないのよ。なら!この私がついてってあげるしかないじゃないの!!」

 

「ああ、いらないわよ。だって私、対アンデッド用の短剣で倒せるから」

 

「戦闘能力的にはお姉ちゃん1人でも十分だから、ほら、アクアは帰って帰って」

 

アクアは意地でも残ろうとそう言ってるが、アカメは対アンデッド用の短剣を持ってるため、アクアは不要だという双子。それにはアクアはかっこよく決めたのにと言わんばかりにぷるぷると涙を溢れさせている。

 

「お、お願いよおおおおおおおお!!!私も連れていってよぉ!!!私、頑張るから!!!今回一生懸命頑張るからあああああああああ!!!」

 

「だああ!!もうくっつくな鬱陶しい!!!ぶっ刺すわよ!!!」

 

「わかったわかった!!連れていってやるから大人しくしてくれ!!」

 

最終的にはアクアが泣きついてきたから、仕方なくカズマはアクアを連れていくことにする。それにはアクアはさっきまで泣いてたのに嘘のように元気になる。

 

「・・・ねぇ、この先不安しかないんだけど・・・」

 

「奇遇だなティア。俺もだ」

 

やはりアクアが一緒にいるのは不安でしかないようで、カズマたちは渋い顔をしている。

 

「はぁ・・・不安だけど行くしかないわね」

 

「敵感知スキルは常につけておくね」

 

「ああ、頼むよ」

 

「おったからおったから~♪」

 

カズマたちはとにかく地図を頼りにして未知のルートが発見されたルートを歩いていく。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

ティアの敵感知スキルのおかげでモンスターと遭遇することなく、目的である未知のルートの石造りの隠し扉まで辿り着いた。少しだけ出張っている石を押すことによって、未知のルートの扉が開く。

 

「この先のようね、未知の領域は」

 

「うーん・・・ここまでと比べてやっぱり敵の数が多いなぁ・・・」

 

「でもその分、お宝ざっくざくじゃない?」

 

「そうあってもらわないと困る。よし、行くぞ」

 

若干の怖さは感じられるが、それでもカズマたちはお宝のために奥へと進んでいくのであった。地下に降りるたびに、モンスターのうめき声が聞こえてきており、カズマとアクアは少しビビっている。

 

「・・・ねぇ、私の曇りなき眼にはカズマがおどおどしながら降りていく姿がばっちり見えてるんですけど」

 

「こっちだってお前が物音するたびにいちいちビクついてるお前の情けない姿がちゃんと見えてるよ」

 

「て、ティア、私は走って逃げられるから、モンスター感知したら言ってね?」

 

「アクア、絶対1人で逃げるつもりでしょ?そうはいかないんだからね」

 

「そうよ。だからこそ、私が今何を考えてるか教えてあげましょうか?どうしたらあんたをこのダンジョンに1人置いていけるのかというのを真剣に考えてるわ」

 

アカメが言い放った言葉にアクアが固まり、短い沈黙になった。

 

「・・・や、やだ~、アカメさんってば冗談ばっかりー、クスクスー」

 

「バカねー、アクアー。私が今割とガチで本気で言ってるってことが、もう長い付き合いになるんだしわかるでしょー?」

 

「いや、こいつの場合、嘘かどうかもわからないんだが・・・どうなんだ?」

 

「これ結構本気で言ってるね。お姉ちゃんなら絶対にやりかねないよこれ」

 

「そういうあんただって、万が一になったらこの場の全員を置いていくでしょ?それぐらいわかるわよ」

 

「あ、バレた?いやー、まいったねー」

 

「・・・さすがは双子、お互いのことをよく理解してらっしゃる・・・」

 

そんな話をしている間に、ティアの敵感知反応に変化が起きる。

 

「!今敵モンスターがこっちに向かってきているよ」

 

「ああ・・・俺の敵感知スキルにもたった今反応してる」

 

ティアとカズマの言葉によってアカメは2人の前に出て出てくるであろう敵を迎え撃とうとする。カズマはアクアに逃げるように手でジェスチャーする。

 

「何々?この私に指芸披露?ちょっと明かりつけなさいよ!影でキツネやウサギなんてぬるい奴じゃなく、機動要塞デストロイヤーを見せてあげるわ!!」

 

「違うわーーー!!敵が来てるから逃げようってジェスチャーしたんだよ!!」

 

しかしアクアには全く伝わっておらず、的外れな発言をする。そうしている間にもモンスターはカズマたちに近づいてきた。

 

「キシャ―――――!!!!」

 

「「ぎゃあああああああああ!!??」」

 

近づいてきた悪魔のようなモンスターに襲われそうになり、カズマとアクアは悲鳴を上げる。

 

「バインド!」

 

「キシャ⁉」

 

「死ね」

 

ザシュ!

 

「キシャ――――――!!??」

 

そんな中で双子は臆することなく、互いのコンビネーションを活かし、悪魔モンスターを瞬殺する。

 

「た、助かったぁ・・・」

 

「う、うぅ・・・2人とも・・・ありがとぅ・・・ありがとうねぇ~・・・うわああああ!」

 

ビビっていたカズマはもう心臓バクバクで、アクアはもう泣きじゃくっていた。

 

「たく、情けないわね。こんなザコごときに」

 

「そうは言われたって・・・結局なんなんだこいつ?俺の千里眼で形はわかっても、姿まではわからないぞ?」

 

「ああ、そいつ、グレムリンっていう下級の悪魔だよ。ダンジョンに入るとね、こういう下級悪魔が湧くものなの。経験上から断言できるね」

 

「ぐす・・・この姿形、間違いなくグレムリンね・・・」

 

下級の悪魔、グレムリンについて話していると、カズマは少しあることに気づく。

 

「なぁアクア、お前って、この暗闇の中でもバッチリ見えちゃう?」

 

「?昼間と変わらないくらいには」

 

どうもアクアはこの暗闇でも昼と同じくらいに見えてるらしく、それを知ったカズマは双子に聞こえないようにこそこそとアクアに話しかけてきた。

 

「な、なぁ・・・それって・・・馬小屋生活で夜中俺が毎晩こそこそしてたってことは・・・」

 

「?何も見てないわよ。ごそごそ音がしだしたら反対向いて寝るようにしてたから」

 

「・・・ありがとうございます、アクア様・・・」

 

馬小屋生活の中で何かをやっていたカズマは、アクアのその一言で顔をほんのり赤らめながらそう言い放った。

 

「いったい何の話をしてるのよ?」

 

「そんなことより早く行こうよ。お宝探すんでしょ?」

 

「あ、ああ・・・」

 

双子に急かされ、カズマたちはダンジョンの奥をさらに進んでいく。奥に進むたびに、モンスターのうめき声がよく聞こえてきたり、禍々しいエリアを通り抜けたりとしたが、調査は滞りなく順調に進んでいる。

 

「ふう・・・だいぶいい感じにマッピングできたね」

 

「これだけ調査すれば、きっと報酬だけでもいい値になるはずよ」

 

「でもまだお宝は見つけれてないんだよなー・・・て、ん?何か踏んで・・・」

 

カズマは何かを踏み、何かと思って足元を見る。そこにあったのは、白骨化した冒険者の亡骸だった。

 

「ふわーーーーー!!??」

 

「落ち着きなさい。冒険者の亡骸よ」

 

「あ、な、なんだ・・・ビックリした・・・」

 

「ここまで辿り着いた人もいたんだ・・・この先に何が・・・」

 

「3人とも、ちょっと待っててね」

 

冒険者の亡骸を見てこの先に何があるのか考察していると、アクアが亡骸に近づき、そっと手をかざす。

 

「志半ばで息絶えた迷える魂よ・・・さあ、安らかに眠りなさい」

 

アクアは浄化魔法を使って、冒険者の亡骸の魂を浄化させていった。その姿はまさに、女神そのものであった。普段のアクアでは見たことがないその姿に双子は目をぱちくりさせる。それはカズマも同じである。

 

「これでもう大丈夫」

 

「アクア、今日のお前・・・」

 

3人がアクアの認識を改めようと思った時・・・

 

「カズマってば、ふわーっはないわよ、強がっていた人がふわーって超ウケるんですけどー!プークスクス!」

 

「あ、やっぱ普通のアクアだ」

 

「うん、やっぱ女神はありえないわね」

 

(こいつ本当に置き去りにしてやろうか・・・!!)

 

カズマの悲鳴を聞いてクスクスと笑ってる姿を見て、やっぱり女神だと信じることができない双子。カズマは笑われて、心の奥底から怒りが湧いてくる。まぁ、それは置いておいて、カズマたちはダンジョン探索を再開し、何かお宝がないか探し回っている。が、目新しいものはなかった。

 

「ちぇ、ろくなものがないな」

 

「ねえカズマ・・・」

 

「はい、カズマだが?」

 

「そのセリフ、私、コソ泥の気分になってきたんだけど・・・」

 

「おい言うなよ、俺もそんな気分で後ろめたいんだ・・・」

 

「そう言ってる時点であんた盗賊に向いてないわよ」

 

「盗賊としての能力はあっても、そんな気分じゃやっていけないしね」

 

「さすが盗賊団・・・お前らが言うと重みがあるな・・・いや、別に盗賊になる気はないが・・・」

 

ダンジョンの中には普通の部屋らしきエリアもあるので、コソ泥気分になっているカズマとアクア。そう話していると、アクアは部屋の隅っこに目立った宝箱がある。

 

「ちょっと!宝よ宝!宝箱よ!やったわね!!」

 

「おい待て!!こんないかにもな宝箱、絶対何かあるだろ!!」

 

「カズマ、それ当たってる。私の敵感知スキルが、この宝箱に反応してる」

 

「こういう宝箱に反応してるのはたいていね・・・いるものなのよ・・・奴が」

 

アカメは宝箱に向かってその辺の石ころを投げつけた。そして・・・その瞬間・・・

 

バクンッ!!!!ゴリゴリゴリゴリ!!!

 

「「ひいいいいいいいいい!!!???」」

 

宝箱の背後から牙が現れ、放たれた石ころをゴリゴリとかみ砕いた。牙は嚙み終えたら宝箱を吐き出し、再び姿を消した。

 

「き、気持ち悪!!!」

 

「今のはね、ダンジョンもどきって言ってね、ああやって宝箱なんかに擬態して、冒険者を捕食しようとする狡猾なモンスターなの」

 

「だから言ってたでしょ?ダンジョンもどきには注意しろって。場合によっては人間に擬態をしてモンスターを捕食するのよ」

 

「も、モンスターまで!!?たち悪いな!!」

 

宝箱に擬態してるモンスター、ダンジョンもどきの解説を聞いて、カズマはダンジョン内でも生存競争が成り立っており、この世界の世知辛さを改めて認識した。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

奥に進むにつれて、ダンジョン内のアンデッドモンスターが現れ、カズマたちを襲っていった。

 

「この暗くて冷たいダンジョンに彷徨い続ける魂たちよ・・・安らかに眠りなさい。ターンアンデッド!!」

 

そんなアンデッドモンスターたちをアクアの浄化魔法で大量に浄化していった。そんなアクアの姿は、まさしくどこに出しても恥ずかしくない立派な女神である。ターンアンデッドの連発、たまに花鳥風月、そしてとどめにゴッドブローで辺り一帯のアンデッドモンスターは全て浄化しきった。

 

「いや助かったよ。あれだけの数、いくら双子でもさばききれないはずだからな」

 

「あら?私の評価がようやく真っ当になってきた?もっと敬ってもいいのよー?」

 

「それがなかったら素直に褒めてやったのにね・・・」

 

「仕方ないよ、アクアだもん」

 

カズマが褒めたことによって、アクアはすぐに調子に乗る。双子は素直に褒めることができないでいた。

 

「ほらほら2人とも~・・・もっと敬ってもいいのよ~?」

 

「「つーん」」

 

「・・・むぅ~・・・なんでよ~・・・」

 

意地でも褒めようとしない双子にアクアはほんのりと涙目である。

 

「・・・だいたいおかしいのよこのダンジョン。いくら何でもこのアンデッドの数は多すぎよ」

 

「そうだね・・・。これまでもダンジョン探索してきたけど、こんな事例は初めてだよ」

 

「やっぱお前らもおかしいと思ったか。こんなの、アークプリーストじゃなかったら攻略なんて・・・」

 

「待って!まだその辺にアンデッド臭がするわね・・・」

 

アンデッドの多さに違和感を感じていると、アクアがまだアンデッドの気配を感じ取ったのか、すんすんと匂いを嗅ぎまわってアンデッドを探す。だが目新しいアンデッドはいなかった。

 

「何もないじゃないか」

 

「おかしいわね・・・確かに匂うんだけど・・・」

 

アクアがアンデッドを探していると、突如として壁が扉のように一部消えて、1つの部屋が見えてきた。その際に背もたれしてたアクアが転んで頭を打ったが。

 

「そこにアークプリーストがいるのか?」

 

部屋が現れると同時に、奥から男の声が聞こえてきた。奥には、ローブを身に纏った、肉が腐敗したアンデッドがいた。

 

「私の名はキール・・・このダンジョンを造り、貴族の令嬢をさらっていった悪い魔法使いさ・・・」

 

キールはカズマたちを見るやいなや、自分がこのダンジョンを造った経緯を語った。

 

 

ーKONOSUBAー

 

 

国最高と言われたアークウィザード、大魔術師キール・・・そうなる前のキールはたまたま散歩をしていた貴族の令嬢に一目惚れをしたのだ。だが、そんな恋が実らないことを知っていたキールは魔法の修行に没頭し、持てる魔術を惜しまなく使い、国のために貢献したのだ。その実績の積み重ねが、多くの人間に称えられ、宴が催された。そこで王が言う・・・その功績を報いるため、どんなものでも1つだけ叶えようと言ったのだ。そしてキールはこう言った・・・

 

『この世にたった1つ、どうしても叶わなかった望みがあります。それは・・・虐げられる愛する人が、幸せになってくれることです』

 

その虐げられている愛する人というのが、キールが一目惚れした貴族の令嬢なのだ。貴族の令嬢は親のご機嫌取りのために王の妾として差し出された身で、王には可愛がられず、正室や他の妾ともうまくいかない。そんなところに、キールの望みが出てきたというわけだ。いらないのだったら私にくれ、というように・・・

 

「・・・そう言って私は貴族の令嬢を攫ったのだよーん!」

 

キールはかなり自慢げで陽気な表情をしている。

 

「えっと、つまり、キールさんは悪い魔法使いじゃなくて、いい魔法使いだってことですか?」

 

経緯を聞いたティアはキールが悪い魔法使いでないことを理解し、一応の確認を取る。後ろではカズマが腕を組んで話を聞いており、アクアは今にも浄化しようとしているが、アカメにヘッドロックかけられて、苦しそうにしている。

 

「だったってことだなー!で、その攫ったお嬢様にプロポーズしたら、2つ返事でオッケーをもらってな、お嬢様と愛の逃避行をしながらドンパーティをやったわけだ!いやー、あれは楽しかったなぁ・・・」

 

嬉々と語るキールの顔には懐かしさがこみ上げている。

 

「おっと、ちなみその攫ったお嬢様というのが、そこにいるお方だよ」

 

部屋のベッドに横たわっているのは、もうボロボロになってはいるが、いかにも高価そうな貴族の服を着込んだ白骨化した亡骸だ。この亡骸が、キールが攫った貴族の令嬢であり、キールの妻でもある。

 

「どうだ?鎖骨のラインが美しいだろう?」

 

「・・・どうしたもんだこれ?」

 

「で、アクア、その死体からなんか反応ある?」

 

アカメのヘッドロックから解放され、アクアは令嬢の亡骸を確認する。

 

「お嬢様は安らかに成仏してるわよ」

 

「つまりは何の未練もないってこと?」

 

「でしょうね」

 

「・・・で、だ。ちょっと頼みがあってね」

 

「頼み?」

 

カズマたちはキールからの頼みに耳を傾ける。

 

「私を浄化してくれないか?彼女はそれができるほどの力を持ったプリーストなのだろう?」

 

キールのこの頼みをカズマたちは了承をする。キールを浄化するために、アクアはそのための準備を行う。

 

「しっかし、お嬢様を守るために、人であることをやめるとはね・・・」

 

「深手を負ったにも関わらず、愛する人のためにリッチーになった、かぁ・・・かっこいいな」

 

貴族の令嬢に深い愛を捧げ、人をやめ、リッチーになったキールを、双子は尊敬に値している。それはカズマも同じである。

 

「さ、準備オッケーよ」

 

「いやはや助かるよ。アンデッドが自殺するなんてシュールなことできないのでね、じっと朽ち果てるのを待っていたらとてつもない神聖の力を感じ、思わず私も永い眠りから覚めたってものさ、カカカ・・・」

 

準備が整え、キールは目を閉じ、アクアは慈愛に満ちた表情をして、キールの浄化を開始する。

 

「神の理を捨て、自らリッチーとなったアークウィザードキール・・・水の女神アクアの名において、あなたの罪を許します」

 

「・・・ねえ、こいつ本当にアクア?別人とかじゃないの?」

 

「気持ち悪い・・・本当に気持ち悪いよ・・・」

 

「言うな・・・俺も同じ気持ちだ・・・」

 

普段から見ないアクアの姿の連発に双子は本気で寒気を感じている。カズマも若干ながら引いたような顔になっている。

 

「目が覚めると、エリスという不自然に胸が膨らんだ女神がいるでしょう。例え年が離れていても、それが男女の仲でなく、どんな形でもいいというなら、彼女に言いなさい・・・お嬢様に会いたいと。彼女は、その望みを叶えてくれるわ」

 

「感謝します・・・」

 

「セイクリッド・ターンアンデッド」

 

アクアがセイクリッド・ターンアンデッドを唱えると、アクアが描いた魔法陣が輝き、キールは光に包まれる。

 

(妻よ・・・今行く・・・)

 

キールは光に包まれ、天へと召されていった。お嬢様の亡骸も、キールの浄化と共に、天へと召されていった。その場には、カズマたちと、キールがお礼として残していった宝だけが残された。

 

「・・・さて、帰るか」

 

カズマたちは清々しい気持ちになりながら、部屋から出るのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

お宝をたくさん手に入れることができたカズマたちはのんびりとダンジョンの出口へと向かっていく。そんな中で、アカメが首をうんうんと捻っている。

 

「うーん・・・」

 

「どうしたの?お姉ちゃん」

 

「いや・・・あのリッチー、気になることを言ってたわよね?とてつもない神聖な力を感じて目覚めたって」

 

「それがどうしたの?」

 

「まさかとは思うけど、この異常にアンデッドがわんさか出てきたりしたのって、こいつがいるせいじゃないわよね?」

 

「!!!!」

 

アカメの口から出てきた疑問にアクアは固まってしまった。

 

「・・・そ、そそそそ、そんなー・・・ことは・・・ない・・・と・・・思うわ・・・」

 

「「「・・・・・・」」」

 

どうやら図星らしい。やたらとアンデッドが出会うのはやっぱりアクアのせいらしく、それを知った3人はアクアから素早く距離を取る。

 

「・・・そういえば、前にデュラハンが攻めてきた時もアクア、手下のアンデッドにたかられてたよね」

 

「ね、ねぇ・・・3人とも・・・なんでそんなに距離を取るの?いつモンスターが襲ってきてもいいように、私たち、もうちょっと近くにいるべきじゃないかしら?」

 

「「「・・・・・・」」」

 

アクアは一緒にいるように何とか説得しようとしているが、3人は聞く耳持たず、その場を去ろうとする。だがアクアは逃すまいとカズマを止めている。

 

「私だけこんなところに置いていこうとしたって、そうはいかないわよ!!アンデッドを倒せる私がいなかったらカズマじゃ倒せないじゃない!!」

 

「おい離せ!!お前がいなくたってなぁ、双子が・・・て、ああ!!!おいお前ら!!俺を置いていこうとするなぁ!!」

 

「「・・・・・・さらば!!」」

 

「いやーーーーー!!行かないでーーーー!!!」

 

足止めを食らわされたカズマを置いて、双子はそそくさとカズマとアクアを置いてダンジョンの出口へ向かって走っていく。それにはカズマは悲痛な叫びをあげる。

 

「お、お願いよ~~!!置いていこうとしないで~~!!」

 

「ああ、もう!!だからお前がそのアンデッドを呼び寄せてんだろ!!だったら離れた方がいいに決まってる!!」

 

「ダメよ!!他のモンスターだっているんだから1人にしないでぇ!!!」

 

『ふしゃあああああああ!!!!』

 

揉めている間にも大量のモンスターの声が聞こえてきた。カズマが千里眼で先を見てみると、グレムリンだけでなく、アンデッドモンスターがわんさかと迫ってきている。

 

「・・・潜伏」

 

アクアがモンスターの声に注意が逸れたのを狙ってカズマは潜伏スキルで姿を消した。

 

「!!?待って!!ちょっとカズマ!!ねぇ、何1人で潜伏してるの!!?ねぇ・・・嘘でしょ?悪い冗談はやめてよね?ねぇ・・・ごめん!ごめんなさい!!私が悪かったわ!!悪かったから私にも潜伏スキル使ってよ・・・ごめんなさいカズマ!!ねえ、カズマ様!!」

 

必死になって出てくるよう懇願しているアクアだが、カズマは全く姿を現さなかった。その間にもモンスターはアクアに迫ってきた。

 

「あああああああああ!!!あああああああああああ!!!!」

 

モンスターに迫られ、アクアは必死になってモンスターから逃げながらダンジョンの出口へと向かって走っていく。カズマもモンスターが出ない道を通りながら出口へと向かうのであった。

 

 

ーこのすばーーーーー!!!!ー

 

 

出口に到着し、ようやく双子とアクアに合流できたカズマ。出口にはめぐみんが待っていたが、めぐみんは疲れ切ってる3人と泣きわめいているアクアを見てあきれ顔だ。

 

「・・・何があったか聞いてもいいですか?」

 

「うえええええん!!カズマが・・・カズマがぁ・・・!!」

 

「俺のせいにするなよ!!お前がアンデッドを集められる体質が悪いんだろうがぁ!!!」

 

「だってだって!!私が神々しくて生命力に溢れてるのは生まれつきなんだからしょうがないじゃない!!」

 

「そのせいで私たちが大大大大迷惑してるっていってるの!!!だいたい、アクアが神々しい!!?何言ってるの!!?アクシズ教徒を味方する邪神め!!!アクアなんかカズマみたいなヒキニートみたいに品格が下がればいいんだ!!」

 

「おい、さりげなく俺をディスるな。後、ヒキニートじゃないから」

 

アンデッドを呼び寄せる体質のせいで大変お怒りのティアはアクアを罵る。その際にカズマもディスられているが。

 

「うあああああああ!!!ティアが言っちゃいけないことを言ったぁ!!そんなことしたら、世界中に散らばる敬虔なアクシズ教徒たちがどれだけ嘆き悲しむか!!」

 

「こいつ、ちっとも反省してないわね!!あんたなんて堕ちるところまで堕ちればいいわ!!そうしたらあんたもあのリッチーのような純粋さが手に入るかもよ!!!」

 

「何ですって!!私がアンデッドなんかになんで・・・」

 

「見習えっつってんのよこの!!」

 

「ぐえええええええ!!謝る!!謝りますから・・・ヘッドロックはもう・・・やめて・・・」

 

双子の言い分にアクアは突っかかろうとしたが、アカメのヘッドロックによって再び黙らせたのであった。なんやかんやあったが、とりあえずはクエスト達成である。

 

『探索クエスト!!

キールダンジョンの新しく発見されたルートを調査せよ!!

成果:キールダンジョン、調査完了!!

スペシャルボーナス:キールの宝!!』

 

 

ーこのすば!!ー

 

 

カズマたちはクエスト達成の報告を行い、手に入った一部の報酬で1日の豪勢な食事にありつくのであった。残った報酬金とキールの宝もある。

 

「いやー、騙されたと思っても行ってみるものですねー!」

 

「今回は私のおかげで大成功だったわね!!取り分は9分の1でいいわよね!!」

 

「ヴァーカ!!あんたのせいで散々だったんだから0に決まってんでしょうが!!」

 

「そうだそうだ!!これは全部借金に当てるんだろうが!!」

 

「その通り!!私たちの死刑免除がかかってるんだから!」

 

めぐみん以外はシュワシュワを飲んでわいわいと騒いでいる。

 

「でも、今日はおかわりしてもいいわよね?すみませーん!!おかわりじゃんじゃん持ってきてーー!!」

 

「私は、入り口で待っていただけなので、いささか気が引けるのですが、いただきま・・・」

 

「お子様にははやーーーい!!」

 

「めぐみんの分は私がいただきまーーす!!!」

 

「ああああああ!!ティア、ずるいですよーーー!!」

 

ティアがめぐみんの分のシュワシュワを取り上げて、自分の分と合わせて一気に飲み干した。

 

「もうバイトとかやってらんないわよ!やっぱクエストだわ!!花鳥風月~♪」

 

「おおお!!出たーーー!!」

 

アクアたちの盛り上がりに合わせて、他の冒険者たちもわいわいと騒いでいる。調子に乗ったアクアを見て、ルナは苦笑いだ。

 

「お姉さん、今回はお姉さんのおかげで助かりました。これ、僕からの奢りです。ぜひとも、飲んでください(イケボ)」

 

「は、はい・・・」

 

カズマはルナにお礼としてかっこつけながら1杯をルナに渡す。ルナは苦笑いながらも受け取る。

 

「何!!?奢り!!?おーい、みんなーーー!!今日はカズマが奢ってくれるってよーーー!!」

 

「おおおお!!さすがカズマ!!いざって時気前がいいぜ!!」

 

「マジ、カズマさんだぜ!!」

 

『カズマ!!カズマ!!カズマ!!』

 

そこへダストが便乗して、全冒険者に奢るという話になってきた。その様子にカズマはふっと笑い、思い切る。

 

「よーーし!!お前らーーーー!!飲め飲めーーー!!」

 

これによって冒険者ギルド内では一種の宴になったのである。

 

「カズマ!!あれやってくれよーー!!」

 

「あー?しょうがねーなあああああ!!んぅふふふふう・・・んふふふふふぅ・・・」

 

冒険者の悪ノリでカズマは例のスティールの態勢に入り、手をいやらしくくねらせる。

 

『ス・ティ―ル!!ス・ティ―ル!!ス・ティ―ル!!』

 

「スティ――――ル!!」

 

カズマは相手をランダムに選んでスティールを発動させる。

 

「カズマ君の奢りだって・・・!!?」

 

そこで間が悪く、クリスがギルドに入ってきた。入ってきたタイミングでスティールの光が発し、光が収まると、カズマの手元には例の如く、白くて小さなリボンがついた布切れ・・・すなわちパンツが握られていた。しかもこのパンツ・・・クリスのものである。

 

『おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』

 

「いやあああああああああああああ!!!!!パンツ返してえええええええええ!!!!!」

 

『ヒャッハーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』

 

それによってカズマを含めた男たちは激しく興奮しており、クリスは涙目である。

 

「スティール!!スティール!!俺もスティールできるんだぜぇ~!」

 

これに乗じてダストは他のウェイトレスからパンツを脱がそうとスカートに触れている。それによって当然ながら他のウェイトレスにボコボコにされるダスト。

 

「はぁ~、何やってるんだろうね・・・」

 

「ティア~・・・手が止まってるわよ!!このまま私だけ、記録更新するわよ!!」

 

「あ、ずるい!!負けてたまるかーー!!」

 

ティアがこの光景に呆れている間にアカメは数多くのシュワシュワを飲んでいる。ティアも負けじとシュワシュワを飲んでいく。

 

「あ、あのぅ・・・」

 

「ん?ミミィ、来てたんだ」

 

そんな双子の元に申し訳なさそうにやってきたミミィ。

 

「アカメちゃんに呼ばれて来たんだけど・・・いったいこれは・・・」

 

「ちょうどいいところに来たわねぇ~、ネガウサ~!!」

 

「アカメちゃ・・・う・・・お酒くさい・・・!!」

 

アカメはミミィに絡んできて、ミミィはアカメの酒臭さに顔を歪めている。

 

「今日は~・・・私の奢りよ~。遠慮せずにぐぐいっと飲みなさいな~」

 

「ええ!!??い、いや、こんな私みたいなゴミ虫に悪いよ!!それに私はお酒は苦手・・・」

 

「いいから飲め!!」

 

「んんんんーーー!!!??」

 

ミミィはお酒を遠慮しようとしたが、アカメが無理やり酒瓶を口に突っ込ませてシュワシュワを飲ませる。

 

「あららら・・・大丈夫?変になったりは・・・」

 

「・・・ふえぇ・・・」

 

シュワシュワを飲んだミミィは頬を赤らめて、目元に涙をにじませる。

 

「み、ミミィさん?」

 

「どうせ・・・私なんて・・・そこら辺に生えてる雑草でしかないの・・・でもね・・・そんな雑草でも・・・必死に生きてるの・・・なのに・・・どうして私はそれに報われないのおおおおおおうわああああああああん!!!」

 

「ミミィ!!?もしかして、もうお酒に酔ったの!!?早!!!」

 

どうやらミミィは少量のお酒でもすぐに酔っぱらうようで、持ち前のネガティヴ思考と合わせてなおたちが悪くなっており、泣きながらティアに絡んできた。

 

「慰めてぇ~・・・エイミー・・・慰めてよぉ~・・・」

 

「エイミーって誰!!?誰かと勘違いしてない!!?」

 

「エイミぃ~・・・うわああああああん!!」

 

「ひゃはははははー!!気分最高よーーー!!はははははは!!!」

 

ティアをエイミーなる獣人と勘違いして絡んでくるミミィをよそに、アカメは最高にハイな状態になって騒いでいる。

 

「全く・・・」

 

カズマと双子の状態を見て少しあきれているめぐみん。そこへ・・・

 

「め、めぐみん!!」

 

ゆんゆんが大量のシュワシュワを持ってやってきた。今日もめぐみんと絡む気らしい。

 

「こ、こんなところで奇遇ね!!ちょうどよかったわ!!今日はこれで勝負よ!!」

 

「は、はわ~~~!!」

 

ゆんゆんの持ってきたシュワシュワを見て、めぐみんはきらきらと目を輝かせている。

 

「いいでしょう!!受けてたちま・・・」

 

「ダメ――――!!!ミーアにはまだ早いよおおおおおおお!!!」

 

「だからぁ!!ミーアって誰さ!!?あ、めぐみんとゆんゆんはダメ!!」

 

「ガキンチョはガキンチョらしく、ジュースでも飲んでなさ―――い!!」

 

「ガーターベルトおおおおおおお!!!」

 

「「ああああああ!!」」

 

酔っ払いミミィ、ミミィに参っているティア、酔っ払いアカメ、そして吹っ飛ばされたダストによってシュワシュワ早飲み勝負はお預けになっためぐみんとゆんゆん。

 

「今日は朝まで飲むわよーーーー!!」

 

『おおおおおおお!!』

 

この冒険者ギルドの大騒ぎぶりは文字通り、朝まで続くのであった。借金も全く減らないし、双子の容疑も全く晴れていない状況でも、これぞまさしく、冒険者らしいといえよう。・・・しかし、その大騒ぎの最中・・・

 

「おえええ~・・・」

 

アクアが気分が悪くなり、ギルドの外でアクアはリバースする。

 

(・・・何やってんだ俺・・・このままじゃダメだぁ!!)

 

ダメダメなアクアをさすっているカズマは、このままではダメだと深い後悔に陥ったのである。




唸れ嵐!響け雷!世界を震わせ、全てを薙ぎ払う!
その一撃に敵はなく、花は咲き、蝶は舞い踊り、祖父のりうまちは治り、死者は目を覚まし、あなたは感動の涙を流す。
さあ!一家に一発、爆裂魔法をあなたに!!

注意:用途を守りましょう・。なるべく人や家に向けないようにしましょう。
安全は場所で、保護者のいるところで撃ちましょう。
1日1発が限度です。

爆裂魔法の効能より

今日の爆裂魔法

カズマ、めぐみん、アカメ「ばっくれっつばっくれっつらんらんらーん♪」

容疑者の身ではあるが、この3人の日課は今もなお続いていた。それは雨の日も・・・雪の日も・・・穏やかな昼のひと時にも・・・それは続いていた。

めぐみん「エクスプロージョン!!!!」

アカメ「ほぉ・・・これは・・・」

めぐみん「はぅ・・・どうですか?この綺麗な虹・・・120点」

アカメ「いや、もはやそれさえも超えるほどの爆裂だわ・・・150点は・・・て、カズマ、どうしたのよ?」

カズマ(・・・何やってんだ俺・・・このままじゃダメだ・・・!!)

次回、この貴族の令嬢に良縁を!


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この貴族令嬢に良縁を!

空っぽの状態の屋敷にて、早いところ借金を返済しようと、カズマはウィズの店で出す商品開発を進めている。めぐみんとティアはちょむすけと戯れている。そんな3人から離れた場所で・・・

 

「へぇっくしょい!!」

 

「あらあら風邪ひいたの?気をつけなさいよ?」

 

「アカメさんこそ鼻声じゃない。早くこのマフラーを直してあげるわね」

 

「それ暖炉に入れて燃やしたの、お前だけどね」

 

アカメのマフラーを勝手に奪い取り、暖炉にくんだアクアはアカメのきついゲンコツを食らって、マフラーの修復作業を行っていた。アカメの顔は笑顔だが、心なしか目の奥は笑ってなかった。

 

ぐううぅぅ・・・

 

「あらあら、お腹すいたの?」

 

「そういえば、まだ朝ごはん食べてなかったわね」

 

「調子に乗って有り金全部を酒代に使ったの、お前だけどね」

 

アクアがやらかしたことに痛いことを言われてしまったアクアはぷるぷると肩を震わせて、泣きそうな顔で顔を振り返った。

 

「だって!!みんな楽しそうにしてたもの!!」

 

「・・・痛い目を合わせてもわからないような奴は・・・何度絶望させたって問題ないわよね・・・!」

 

せっかく手に入れたお金が全部パーになり、なおかつネクサスからもらった先代の団長のマフラーを燃やされてご立腹なアカメは右手にアクアが持っていたシュワシュワの酒瓶を持ってそう言った。

 

「それ・・・私がベッドの下に隠していた高級シュワシュワに見えるんだけど・・・」

 

「・・・いったいいつこれを仕入れたのかしらねぇ?そんな金があるなら、今すぐにでも借金に当てなさいな。それがないなら、こいつを質屋にでも売っ払ってきてやるわ・・・!」

 

いかにも本気な顔でそう言い放つアカメにアクアは絶望し、必死で泣きながら取り返そうとする。めぐみんとティアは関わらないようにちょむすけと戯れ、カズマも一旦は無視する。

 

「返して!!その子が最後の1本なの!!最後の希望なの!!」

 

「なーにが希望よ!!今の私たちには絶望しかないのよ!!こんな安っぽい希望なんて、今すぐに金に換えて来てやるわ!!それが嫌なら、今この場で飲んでやるわよ!!そうすれば少しはその冷えた体も温まるでしょうよ!!」

 

「やめて~!!私、その子を抱いてないと眠れないの~~!!!」

 

「知るかそんなもん!!だいたい、非常に徳が高い私のマフラーを燃やしておいてよく言えたわね!!ならあんたのその身に纏ってる羽衣をよこしなさい!!私の見立てだときっと百万はいくくらいの高級品だわ!!」

 

「何言ってるの⁉この羽衣は私の女神としてのアイデンティティなんだから売れるわけないじゃない!!バカなの?何バカ言っちゃってんの!!?」

 

酒瓶を取り返せないどころか、羽衣を奪われそうになり、必死に抵抗するアクアを見てアカメはすぐにスティールの構えを取る。

 

「スティ―――ル!!!」

 

アカメがスティールを発動し、アカメの手元には先ほどまでアクアが首に巻いていた羽衣があった。

 

「ああああああ!!!アカメ様~~!!調子に乗った私が悪かったから、やめてやめて~~~!!」

 

「うるさいバカ!!!私、前に言ったわよね?私はあんたの幸せそうにしてるのが気に入らないって!!あんたはそうやってただそこらでめそめそ泣いてるのがお似合いだわ!!!」

 

「うわああああああああ!!!」

 

いよいよ収拾がつかなくなりそうになった揉め事にカズマはそろそろ止めに入る。

 

「おいお前ら、もうその辺にしとけって。借金は減らないし、ダクネスももう1週間も帰ってこないんだぞ?アカメの言い分もわかるが、少しは緊張感を持ってくれ」

 

揉め事を仲裁しようとカズマがアカメを説得しようとした時・・・

 

「大変だカズマ!!!大変なんだ!!!」

 

部屋の扉が開き、誰かが入ってきた。その人物を見てみると、いかにも高級そうなハット帽子、高級そうなドレスを着込んでいる金髪の美しい女性だった。

 

「・・・どちら様?」

 

「!!くううううん!!!///」

 

「あれ?この反応・・・」

 

カズマが一言誰か尋ねると、女性はなぜか頬を赤らめ、若干興奮している。こんな反応をする人物はカズマたちが知る限り、たった1人しかいない。

 

「か、カズマ!!そういったプレイは後にしてくれ!!」

 

「お前、ダクネスか!!?帰って来たんだな!!心配させやがって!!」

 

そう、この女性はカズマたちの仲間である、ダクネスこと、ダスティネス・フォード・ララティーナである。ダクネスが帰ってきたことで、カズマたちは安堵する。するとアクアはダクネスに泣きついてきた。

 

「ダクネス~~~!!アカメが・・・アカメが~~!!私を無理やり脱がして、私の1番大事なものを売り飛ばそうと・・・」

 

「んな!!?」

 

「人聞きの悪いことを言わないでくれる?ただ身の程を教えてあげただけよ」

 

「そんなことより、アクアの言い方を訂正しようよ、お姉ちゃん・・・」

 

アクアのかなり問題ある言い方にダクネスは妙に反応し、アカメは悪びれた様子はない。ティアはそんな姉に呆れる。

 

「ダクネス、おかえりなさい」

 

「おお、めぐみん、ただいま。その猫は・・・」

 

「何があったのかは聞きません。まずはゆっくりとお風呂に入って・・・ゆっくり心と身体を癒してきてくださいね・・・うぅ・・・」

 

めぐみんはダクネスにそう言って、思いやりの涙を流す。ダクネスは何のことかわからないでいる。

 

「何を言っている?というか、アクアの言った特殊プレイの方が気に・・・」

 

いろいろ困惑しているダクネスをよそに、めぐみんだけでなく、アクアたちもダクネスを見て涙を流す。

 

「・・・間違いないわ・・・高級品よ・・・うぅ・・・」

 

「ダクネス・・・私たちを庇ったばっかりに・・・あいつに・・・うぅ・・・」

 

「苦労を掛けたな・・・うぅ・・・」

 

「何を勘違いしている!!?領主に弄ばれているとでも思ったのか!!?」

 

「無理しなくていいのよ、ダクネス・・・帰ってきてくれてよかったわ・・・。ほら、暖かい風呂にでも入って、泣いてきなさいな」

 

「違う!!領主も私相手にそこまで要求する度胸はない!!もしそうなってもクラリッサ様がそれを許すはずもないだろう!!」

 

完全にシリアスモードに入っているカズマたちにダクネスは勘違いであると伝えた。

 

「あ・・・そっか、カテジナも領主のとこに行ったんだっけ・・・」

 

「忘れてたわね・・・あ?じゃあ何で1週間も戻ってこなかったのよ?」

 

「そうだ!そこが問題だ!!カズマ、まずはこれを見てくれ!!」

 

「何だこれ?」

 

1週間も帰ってこなかった理由を話すため、ダクネスはまずは1枚の似顔絵をカズマに渡した。似顔絵に描かれているのは、絵を通していても清楚で爽やかそうなイケメンの男だ。

 

「おお、なんだこのイケメンは。死ねばいいのに」

 

ビリッ!!

 

カズマは似顔絵を見てムカついたのかすぐに真っ二つに引き裂いた。

 

「ああ!!?見合い写真に何をするんだ!!?見合いを断ることができなくなるだろうが!!」

 

「おお、手が無意識に・・・」

 

「・・・て、今すごい聞き捨てならないことを言ったよね?お見合いだって?」

 

ダクネスが放った見合いという言葉にティアが反応する。その後にカズマたちもそれに反応する。

 

「そうなのだ!!アルダープめ、小賢しい手を使ってきたのだ!言うことを聞くとは言ったものの、無体な要求をしてきた場合には我が父に蹴られ・・・というか、クラリッサ様に斬られるだろう。それがわかっていたからこそああ言ったのだが・・・」

 

「ちょ、待て待て!ちゃんと説明してくれ!このイケメンは誰なんだ?ていうか、望んでない相手と結婚なんて十分に無体な要求じゃないか。ていうか、立場上ではダスティネス家とカルヴァン家の方が上だろ?だったらカテジナさんやダクネスの父ちゃんに断ってもらえばいいだろ?見合い写真なら直してやるから。アクア、直してやってくれ」

 

「はいはーい」

 

アクアがのりやら米粒やらで見合い写真を直している間にダクネスはちゃんとした説明をする。

 

「見合い写真に写っているのはアルダープの息子だ」

 

「えっ!!?あの写真、あの領主の子供!!?」

 

「はあ?あのいかにも優良物件そうな奴があの豚の?噓でしょ?」

 

「信じられないのはわかるが真実だ。アルダープめ・・・お前たちの猶予への代償として、息子の見合いを申し出てきた。ここのところ帰ってこなかったのは、この見合いをどうにか阻止しようと頑張っていたのだ。クラリッサ様も私の父もアルダープはともかく、息子の方は高く評価していてな・・・というか、クラリッサ様も父もこのお見合いには乗り気でな・・・」

 

だいたいの事情を理解できたカズマたちは腕を組み、難しそうな顔になっている。

 

「あいつが誰かに高い評価を出すってのは相当なものよ?断るのは難しいわ」

 

「ていうか、カテジナもその場にいたんだよね?今どこにいるのさ?」

 

「クラリッサ様はアルダープに財産の提供の契約を果たした後、ご帰還なされた。だから、後の問題は父の説得なのだ。だが私1人では、どうにも・・・。頼む!私と一緒に来て、父を説得してくれないか!!?」

 

カテジナがアクセルから去った今、見合いを断る最大の障害はダクネスの父だけとなった。なのでダクネスは何とか説得するためにカズマたちを連れていくために帰って来たようだ。

 

「はい、直ったわよ。どう?完璧でしょ?」

 

「お前こういったことには本当に多芸だな・・・」

 

アクアは見合い写真を完璧に直したようで、それをカズマに渡す。その出来栄えは本当に新品と変わらないくらいだ。

 

「ありがとうアクア。危うく見合いを断ることができなくなるところだった」

 

「こういった才能はあるのに・・・どうしてこうも中身は残念なんだろうね」

 

「ちょっとー!どうしてそう残念そうな顔を見つめるの!!?神業なんだからもっと敬ってよ!!」

 

「女神と言い放つペテン師にいったい何を敬え・・・て、カズマ、どうしたのよ?」

 

アクアたちで会話をしている間、カズマが見合い写真を持って妙に黙っていることに気づいた一同はカズマを見つめる。

 

「・・・これだああああああああああああああ!!!!!」

 

ビリイイイイイイイ!!!!

 

「「「「「ああああああああああああ!!!??」」」」」

 

カズマは変に叫びをあげてお見合い写真を全力の力を以て引き裂いた。

 

 

ーカズマでぇーすー

 

 

屋敷の外に出て、カズマはダクネスに見合いを受けろと言い放った。それには当然ながらダクネスたちは異を唱えている。アクアは力作を破られてめそめそ泣いているが。

 

「見合いを受けろとはどういうことだ!!?」

 

「カズマ、わかってるの!!?このままじゃダクネスは寿退社だよ!!?」

 

「せっかくの玩具・・・じゃなく、仲間を見捨てる気?」

 

「そうですよ!!このままダクネスが冒険者をやめちゃっていいんですか!!?」

 

ぶっちゃけて言えば、そのダクネスの寿退社がカズマの狙いなのだが、そういえるわけもなく、嘘偽りもなく、それらしいことを言って誤魔化す。

 

「見合いを断ったところであの領主はより一層無理難題を吹っ掛けてくるに決まってる」

 

「あ、確かに・・・」

 

「それに、見合いが猶予の代償なのだろ?断ったら双子、死刑待ったなしかもしれないぞ?」

 

「うっ・・・それは・・・」

 

「困るわね・・・」

 

「だろ?だったら見合いは受けたうえで、それをぶち壊す。ダクネスの名が傷つかない程度にさ」

 

カズマの出した名案に、めぐみんたちは納得し、ダクネスはいい案だと思って笑みを浮かべている。

 

「それだ!それでいこう!うまくいけば見合いの話が持ち上がる度にいちいち父を張り倒さなくて済む!!」

 

「ダクネス・・・自分の父親を殴っちゃってるの・・・?」

 

(親父さん、かわいそうに・・・)

 

お見合いの話が上がる度に自分の父親を殴るということを暴露したダクネスにティアは若干引いており、カズマもダクネスの父親を哀れに思った。

 

「アカメとティア!!アカメとティアはいるかーーー!!!」

 

「え~・・・なんでまたこんな時に・・・」

 

なんとタイミングが悪いことか。方針を固めた直後にセナが騎士を引き連れてやってきた。

 

「はぁ・・・今度は何用で来たのよ?何回も私たちのとこまで来て・・・暇人なのかしら?」

 

「街の周囲に謎のモンスターが溢れている。お前たち、心当たりがあるのでは?」

 

「はあ?それこそ本当に知らないわよ。アホじゃないのあんた?」

 

「お姉ちゃん!言葉に気を付けて!検察官だよ!!?」

 

謎のモンスターが街の周囲に現れている原因が双子にあると睨んでるセナにアカメはわけがわからないと言わんばかりの態度をとる。アホ呼ばわりされたセナはこめかみをひくひくさせている。

 

「あのー、セナさん。私たち、本当に何も心当たりがないんですが・・・」

 

「・・・とにかく、すぐに出頭してもらおう」

 

原因を取り除くために自分たちと来いと言っているセナに、めぐみんがそれを拒む。

 

「お断りします。今、私たちの大切な仲間が危機にさらされているのです。それを放っておくわけにはいきません!」

 

「ちょ・・・手を出すのはやめて!私たちも危機にさらされちゃうから!」

 

めぐみんは杖を構えて抵抗する意思を示している。

 

(待てよ?アクアはアホだからどうとでもなる。双子は勘は鋭いが今の立場を利用すればどうにかなる。けどめぐみんは何にも縛られてないし、妙なところで頭が切れる。このお見合いには正直、いない方がいい・・・)

 

ダクネスのお見合いにめぐみんに自分の思惑に勘づかれたくないカズマはモンスターの一件をめぐみんに託すことに決めた。

 

「めぐみん、お前が行ってくれ」

 

「え?」

 

「大量のモンスターが相手なら、爆裂魔法の出番じゃないか。大丈夫・・・ダクネスのことは、俺たちに任せてくれ・・・」

 

「ですが・・・」

 

「お前にしか・・・できないことなんだ・・・(イケボ)」

 

「!!!私に・・・しか・・・!!」

 

カズマの放った言葉に、めぐみんはいい意味で衝撃が走る。バッチリとカズマの思惑にはまったようだ。

 

「頼んだぞ、最強のアークウィザード!!」

 

「ふっ・・・我が力、見せてあげましょう!!」

 

モンスターの一件を承諾しためぐみんはかなりご機嫌な様子でセナたちと共にモンスターの発生源へと向かっていった。めぐみんを見送った後は、ダクネスの実家であるダスティネス邸へと向かうのであった。

 

 

ーこのすば!!ー

 

 

アクセルの街の中央通りにダスティネス邸は存在している。この屋敷の客室で、ダクネスとカズマたちはダクネスの父親である、ダスティネス・フォード・イグニスと対面している。

 

「ほ、本当に・・・?本当にいいのかララティーナ?本当に、見合いを前向きに考えてくれるのか⁉」

 

「本当です、お父様。ララティーナは此度のお見合いを、受けようかと思いますわ」

 

「「「「ぷっ・・・ぷぷぷ・・・www」」」」

 

普段の振る舞いでなく、いかにもなお嬢様の振る舞いを行っているダクネスにカズマたちは本当におかしくて笑いをこらえるので必死である。

 

「ところでララティーナ、そちらの者たちは?」

 

「私の冒険仲間です。今回のお見合いの臨時の執事とメイドとして同伴させようかと・・・」

 

「・・・むぅ・・・だがそれは・・・」

 

カズマたちを執事とメイドとして同伴させることを何かと渋っている。そこへカズマが前に出る。

 

「初めまして。自分は日頃ララティーナお嬢様にお世話になっている冒険者サトウカズマと申します。この度、このお見合いが成功した暁には、身分の違い等から、ララティーナお嬢様にはもうお会いできなくなるでしょう。ならば最後に、無理を承知で傍に控えさせ、大切な仲間を任せられる相手かを拝見したく存じます」

 

カズマのこの態度にイグニスは結構評価され、同伴が許可された。が、カズマの豹変ぶりにアクアたちはぽかんとした様子である。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

臨時の執事、メイドとして任されることになったカズマたちは応接室に連れられ、ここでメイド服を着替えることになった。さすがにカズマは隣の部屋で着替えることになったが。

 

「わあ・・・私、メイド服を着る機会ないと思ってたから、かなり新鮮!」

 

メイド服を着て、子供っぽくはしゃいでいるティアを見て、アカメはやれやれと肩をすくめる。

 

「サイズはいかがですか」

 

「うぅーん・・・強いてあげるなら、胸がちょっときついと・・・」

 

「!!??」

 

胸が少し成長したティアに何の成長もないアカメは鋭い目つきでティアを睨みつける。

 

「やっぱ胸辺りが成長してたのね。女神の曇りなき眼には誤魔化せないわよ」

 

「ああ、やっぱり?なんか下着もきつくなってきちゃって・・・」

 

「ぐぎぎぎ・・・!」

 

メイド服に着替えたアクアはティアの成長に気付いてたようでそんなことを言った。アカメの怒りゲージはただいま上昇中。

 

「それより、アクア、似合ってるよ」

 

「そういうティアも似合ってるわよ。アカメも背伸びしてるメイド見習いって感じでいいと思うわ」

 

「おっと面白いことを言ってくれるじゃない。ここが貴族の屋敷じゃなかったらあんた、今頃ぐちゃぐちゃの挽肉のミンチになってたところだわ。ねぇ、ララティーナお嬢様」

 

「ら、ララティーナお嬢様はやめろぉ!!!」

 

本名で呼ばれること、及び、お嬢様扱いされることを嫌がるダクネスはからかわれて若干涙目である。

 

「おい、着替え終わったのなら出て来てくれ。もうすぐ時間だぞ」

 

「もうちょっと待って。ダクネス、早く着替えて着替えて」

 

「わ、わかっている!もう少し待ってくれ!」

 

外で待っていたカズマに声をかけられ、ダクネスは今回のお見合いのためのドレスを着込み、化粧まで行って準備万端。全てが準備できたアクアたちは応接室から出る。外で待っていたカズマの恰好も執事の服装をしている。

 

「ほぉ、お前ら、中々似合ってるじゃないか。一流の使いっパシリみたいだ」

 

「それ褒めてないよね?それよりカズマ、大丈夫?どっかでドジやらかしそうな執事で怖いんだけど」

 

「今回に限っては大丈夫だって。俺に任せとけ。なあ、ララティーナお嬢様」

 

「だ、だから!!ララティーナお嬢様はやめろお!!」

 

カズマも揃ったところで、全員はお見合い相手を出迎えるために玄関へと向かっていく。

 

「手筈はわかっているな?頼んだぞ?」

 

ダクネスはお見合いを壊すつもりでいるようだが、カズマはそうでもない。それというのも、つい先ほどカズマはイグニスにこう頼まれていたのだ。娘が粗相をしないように助けてやってくれないかと。ダクネスを寿退社させるのが目的のカズマだが、見合いがうまくいけば報酬も支払われるのだから、否応にもやる気が出る。カズマがにやけているうちに玄関まで辿り着いた。そこにはイグニス、執事やメイドも勢ぞろいで見合い相手を待っていた。主役であるダクネスは前に出て、カズマたちは使用人たちに紛れて後ろに控える。

 

「お前が見合いを受けてくれて本当にうれしいよ。アルダープから話を持ちかけられた時には何事かと思ったが・・・。アルダープはともかく、息子のバルター殿は本当にいい男だ。幸せになるんだぞ、ララティーナ」

 

「嫌ですわお父様。ララティーナはお見合いを前向きに考えると言っただけです」

 

「何っ⁉」

 

「そして考えた結果、やはり嫁入りなどまだ早いとの結論に達しました」

 

にこやかに笑うイグニスたいして、ダクネスはきっぱりと言い切った。

 

「もう今更遅い!!見合いを受けはしたが、結婚するなどとは言ってはいない!!ぶち壊してやる・・・見合いなんて、ぶち壊してやるぞ!!!」

 

「ら、ララティーナ・・・!ま、まさかそこの4人も最初からそれが目的で・・・!!?」

 

いかにも悪党らしい笑いをしているダクネスにイグニスはまさかと思い、怯えた様子でカズマたちを見つめる。

 

「お嬢様、そのようなはしたない言葉遣いはおやめください。先方に嫌われてしまいますよ」

 

そんな時、カズマがそう口にして、場を鎮めた。その言葉にダクネスは顔をみるみるしかめ、イグニスは救いの神を見るかのような涙をこみ上げている。

 

「貴様裏切る気か!?」

 

「裏切るも何もありませんよ。今の自分はダスティネス家の臨時執事・・・お嬢様の幸せが、自分の幸せです」

 

「カズマ貴様ぁ・・・!!」

 

「おお・・・か、カズマ君と言ったね!この見合いが成功しなくてもいい!せめて・・・せめてララティーナが粗相をしないようにフォローをしてくれるだけでいい!報酬もたっぷり弾む!頼む!」

 

「お任せください、旦那様。全身全霊をもってこのカズマ、お嬢様を・・・」

 

ガチャリッ

 

カズマたちが話してるその時、玄関扉が開かれた。扉からお見合い写真に写っていた例の見合い相手の男が自分の使用人を引き連れてやってきた。

 

「おお、バルター殿・・・」

 

そう、この男こそが、あの憎きアルダープの息子であり、今回ダクネスの見合い相手であるアレクセイ・バーネス・バルターである。バルターを見るや否や、ダクネスが前に出てきた。

 

「よく来たな!貴様が私の見合い相手か!我が名はダスティネス・フォード・ララティーナ!貴様・・・」

 

ぐいっ!ずてーん!!

 

「お嬢様!!足元にお気をつけて!!!」

 

何かをやらかす前にカズマは地まで届いているダクネスのドレスを踏んづけて転ばし、何かを阻止した。

 

 

ーこのすば!!ー

 

 

転んだダクネスが怪我をしてないかという確認のためにカズマたちが一旦玄関から離れている間、イグニスがその時間を稼いでいる。その間場を離れたダクネスはカズマに詰問している。

 

「カズマ!!どういうつもりだ!!私の手助けをしてくれるのではなかったのか!!?」

 

「ダクネス落ち着いて落ち着いて・・・」

 

「家の名前に傷つけないっていう前提をすっかり忘れてるだろ?」

 

「悪評が立って嫁の行き先がなくなれば心置きなく冒険者稼業が続けられる!!勘当されるのは覚悟の上だ!!それでも必死に生きようと、無茶なクエストを受け続けた私は、力及ばず魔王軍の手先に捕えられて・・・私はそんな人生を送りたい!!!」

 

「このドM変態とうとう言い切ったわね・・・」

 

変な意味で前向きに開き直っているダクネスにカズマたちはかなり引き気味である。

 

「だいたい、あのような男は私の好みのタイプではないのだ」

 

「そんなダメな感じなのか?親父さんの話だと、結構いい人そうじゃないか」

 

「そういえば・・・街の連中が言ってたわね。あの豚の息子は本当に息子とは思えないほどの出来がいいって・・・。名前も確か・・・バルターで一致してたわね」

 

「アレクセイ・バーネス・バルターといえば、この街でも評判いいって話だよ?父と違ってウェーブ盗賊団にたいしても結構寛容的っていう噂も聞いたんだけど・・・」

 

「そうよね。どこが悪いのかしら?恵まれない人にも配給なんかもやってるみたいだし。私も何度か配給のお世話になったわよ」

 

「アクア、死刑」

 

「なぁんでよーー!!?」

 

皆に内緒で配給してもらったアクアに怒ったアカメはともかく、街の人のバルターの評価は見た目通りの好印象らしい。だがダクネスはかなり不満らしい。

 

「ダメだ!ダメだ!そんなものは我が父がやればいいだろ!私を嫁にしようという貴族がやることではない!!」

 

「はあ?どこが悪いのよ?あれ、裏で何か悪事を働くって感じではないわよ?噓つきの目は誤魔化せないからわかるわ」

 

「そうだな・・・まず人柄がものすごくいいらしい。誰にたいしても怒らず、努力家で、最年少で騎士に叙勲されたほどの剣の腕前を持つ」

 

「本当にどこが悪いの?全然いい相手じゃん。何が不満なの?」

 

「全部だ!!!貴族なら貴族らしく、常に下卑た顔を浮かべていろ!!あの曇りもない真っすぐな視線は何だ?もっとこう・・・よくカズマが私に向けてくる舐め回すような視線で見られないのか!!!」

 

「そそそそ、そんな視線で見てないしぃ!!??」

 

ダクネスが出した変態的な例を出して、カズマは激しく動揺している。

 

「誰にたいしても怒らない?バカが!!失敗したメイドにおしおきと評してあれこれやるのは、貴族のたしなみだろうが!!!」

 

「それカテジナが聞いたら多分ダクネス、絶対斬られると思うよ・・・」

 

いろいろと問題のある例を出すダクネス。とにもかくにも、バルターはダクネスの好みのタイプでないようだ。

 

「そもそも私の好みのタイプは、あのようなできる男とは正反対なのだ!!外見はぱっとせずに、体型はひょろくても太っていてもいい。私が一途に思っているのに、他の女に言い寄られれば、鼻の下を伸ばす意志の弱い奴がいいな。年中発情して、スケベそうなのも必須条件だ。できるだけ楽に人生を送りたいと人生なめてるダメな奴がいい。借金があれば申し分ないな。そして働きもせずに酒ばかり飲んで、俺がダメなのは世間が悪いと文句を言い、空の瓶を私に投げてこう言うのだ・・・『おいダクネス、そのいやらしい体を使って、ちょっと金を稼いで来い』・・・んにゃあああああ!!」

 

「・・・要するに、クズでダメ人間が好みってことじゃない・・・」

 

「それ人生で1番聞きたくなかったよ!!」

 

「ちくしょう!!この女はダメだ!!」

 

ダクネスの問題のある好みを聞いてカズマたちは度を越して引いている。このままじゃダメだと言わんばかりに。

 

「なんかこのお見合い、壊しちゃいけないような気がしてきたわ・・・。あの好みを聞けばなおさらよ・・・」

 

「私も・・・このままじゃダクネスはもっとダメな方向に行っちゃうかも・・・というか、あんな夢お父さんに話せるわけないじゃん・・・」

 

「確かに・・・私はダクネスには好きな人と結婚して幸せな道を選んでほしいけど・・・このままじゃまずい気がするわ」

 

「俺が言わずともわかってくれて嬉しいよ。いいかお前ら、ダクネスが相手に好かれるように、いろいろフォローするんだぞ?」

 

ダクネスがトリップしている間にカズマたちはひそひそと話し、お見合いを成功させようと決意した。アクアたちは最初はお見合いを壊すことが目的だったのだが、ダクネスの好みを聞いて、それはダメだと考えを改めてくれたようだ。ひそひそと話しているのを見たダクネスは全員に耳打ちをする。

 

「悪いことは言わない。やめておけ。さもなくばお前が死ぬほど後悔する事態になるぞ」

 

「何それ怖い」

 

警告のつもりだろうが、カズマには味方としてアカメがついているから別に怖くは感じなかった。というのも、パーティ内で力が1番強いのはアカメで、ダクネスは2番目で強いのだ。だからいざとなればアカメを引き合いに出すつもりだからだ。一通りの話が終わった後、カズマたちはバルターが待っているであろう客間に向かうのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

客間ではもうすでにバルターとイグニスが待っていた。ダクネスはバルターと向かい側の席に座り、カズマたちはダクネス側に控える。主役2名が揃ったところで、お見合いが始まる。

 

「では、自己紹介させていただきます。アレクセイ・バーネス・バルターです。アレクセイ家の長男で父の領地経営を手伝っております」

 

「私はダスティネス・フォード・ララティーナ。当家の細かい詳細は省きますわね。成り上がり者の息子でも、知っていてとうぜああああああああああ!!??」

 

自己紹介している最中にダクネスが突然奇声をあげた。その原因は両隣にいる双子が両足を痛みが感じるように強めに踏んでいるからだ。

 

「ど、どうされました!!?」

 

「い、いえ・・・バルター様のお顔を見ていたら気分が悪くううううううう!!?」

 

またいらないことを言いそうになったダクネスに双子は踏んでいた足に力を籠め、ぐりぐりと踏んづける。

 

「お嬢様はバルター様とお会いできて少々舞い上がっておられるのです」

 

「・・・そういえば、顔が赤いですね。いやぁ・・・お恥ずかしい・・・」

 

カズマがいいように誤魔化してくれたおかげか、何とか軌道修正できた。これ以上何か言わないようにアカメがダクネスの耳元で呟いた。

 

「おいお嬢様・・・それ以上余計なことを口走ったら、帰った時に後悔するような目に合わせるわよ・・・」

 

「ご・・・ご褒美だ・・・」

 

「ダクネス・・・お願いだから自重して・・・」

 

ダクネスはどこに行っても、ぶれないのである。

 

「はははは・・・私がいてはお邪魔かな?どうだね?庭の散歩をしてきては」

 

イグニスの案によって、ひとまずダスティネス邸の庭を散歩することになった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

ダスティネス邸の庭はやはり広かった。そんなダスティネス邸の庭でお見合いを続ける中、アクアは池の前に立ち、口笛を吹く。その瞬間、池にいた鯉がアクアの元まで集まってきた。

 

(何あれすごい!!後で教えてもらおう)

 

その様子を見ていたカズマは普通にアクアのこの芸当に感心していた。

 

「ご趣味は?」

 

「ゴブリン狩りを少々」

 

ゲシッ!バシッ!

 

またいらないことを言いだしたダクネスにアカメは容赦なく頭を叩き、ティアも膝を蹴り上げる。

 

「・・・メイドさんとは、ずいぶん仲がよろしいんですね」

 

「ええ。仲良しですよ。それはもう・・・バルター様以外の殿方など、一緒にいるなど御法度、言語道断。あそこの執事がいること自体も汚らわしい。何から何まで、このお見合いのためにお嬢様をサポートしてきた敏腕メイドですから」

 

「んなっ!!?アカメ!!貴様!!」

 

(なんかむかつく発言もあるがナイスだアカメ!!)

 

(お姉ちゃん、よくもまぁ、そんな堂々とした嘘を・・・でも今はそれが助かってるかも!)

 

ダクネスの将来を思って、アカメはカズマを遠ざけるような嘘を平気で述べた。それにはムカつきはしたがアカメを称賛するカズマ。

 

「・・・ぬあああああ!!いつまでもこんなことやっていられるか!!」

 

とうとう我慢の限界が来たのかダクネスはその場でドレスをビリビリと引き裂いて、動きやすくした。

 

「おい!バルターと言ったな!今から修練場に付き合ってもらおう!!そこでお前の素質を見定めてやる!!」

 

「おい!ダクネ・・・す・・・」

 

まずいと思ったカズマはダクネスを止めようとしたが、ダクネスの下着が見えそうで見えないような格好に鼻の下を伸ばし始めている。

 

「おい!貴族たるもの、常日頃からここにいるカズマのいやらしい目つきを見習うがいい!!」

 

「は?」

 

「いや、貴族全員がそうとは限らないでしょ⁉」

 

もう論点からずれているダクネスにカズマはわけわからん顔をし、ティアはツッコミを入れる。

 

「・・・ララティーナ様。僕は騎士です。女性に剣を向けるなど・・・」

 

バルターは特に驚いた様子はなく、淡々と、そしてなおかつ騎士らしい振る舞いを行った。が、やはりそれはダクネスのお気に召さなかったようだ。

 

「何という腑抜けな!!そこのカズマはなぁ!!」

 

「へ?」

 

「自称男女平等主義者で、女相手でもドロップキックを食らわせられると豪語してる男だぞ!!」

 

ダクネスのいらぬ発言によって、カズマはいたたまれなくなり、バルターから目を逸らす。バルターはカズマを見る。そして視線をダクネスに戻して告げた。

 

「・・・実は、ここにはあの父に押し付けられた見合いを、断るためにやってきたのです」

 

「「へ?」」

 

見合いを断るためにやってきたという点で双子は目が点になる。それは他のメンバーも同様だ。つまり、ダクネスたちが手をこまねく必要がなくても、すんなりとお見合いを見送ることができたのだ。少なくとも、今のダクネスを見なければ。

 

「でも・・・あなたを見て気が変わった。豪放にして、それでいて可愛い一面もある。それでいて、物事をハッキリ言える清々しさに・・・執事にたいしても接するその態度・・・僕はあなたに興味が湧いた」

 

問題点はともかく、ダクネスの性格に惹かれたバルターはダクネスの案を了承し、修練に付き合うことになった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

修練場にやってきて、修練が始まって30分後・・・

 

「もういいでしょう⁉なぜ諦めないのですかあなたは⁉」

 

結果は一目瞭然、バルターは無傷でダクネスはもうボロボロ。原因はやはりダクネスのノーコンにある。それでも立とうとする辺りはさすがではあるが。

 

「どうした!!遠慮などせずもっとどんどん来い!!徹底できる強さを見せろ!!」

 

どう見たってバルターが優勢なのではあるが、突然バルターは剣を構えるのをやめた。

 

「・・・参りました。技量では勝っていても、心の強さで負けました。これ以上あなたを打つことはできません。あなたは・・・とても強い人だ」

 

固い意志を示したダクネスに折れた、みたいな雰囲気だが、ダクネス自身は全くそんなこと考えていない。むしろ自分の欲望を優先させている。その内情を知っているカズマたちは全然感動できない。

 

「この腑抜けが!!ならば次はお前が来いカズマ!!お前の容赦のなさと外道さをバルターに教えてやれ!!」

 

「僕も見たいな。ララティーナ様が信頼を寄せる君がどんな戦いをするのか」

 

自分に振ってきたダクネスとバルターにカズマは何言ってんだこいつらはとは思ったが、ため息をこぼして、仕方なく了承する。

 

「どうせ見合いは失敗だしな。それに、あんたはお嬢様の悪い噂なんぞ流さないだろうし」

 

「よしいいぞカズマ!!実は1度お前とはやり合いたかったのだ!!さあ全力で・・・」

 

「クリエイト・ウォーター!!!」

 

「ええ!!?」

 

ダクネスが話をしている最中にカズマは容赦なしにクリエイト・ウォーターを放ち、ダクネスを水浸しにする。それには当然バルターは驚愕する。

 

「どうかしたか?」

 

「木刀の試合で魔法は使わないだろうと・・・」

 

「そういうものなのか?」

 

変にまじめなところがあるバルター。

 

「引くわー。さすがはセクハラにかけては並ぶものがないカズマさん・・・本当に引くわー・・・」

 

「そ、そんなつもりじゃあ・・・」

 

アクアたちにかなり引かれて、必死に弁明しようとするカズマだが、ダクネスに遮られる。

 

「見ろバルター!!この男のこういうところをちゃんと見ておけ!!」

 

「あああ!!もう!!全力で来いって言ったんだから全力で行かせてもらうぜ!!フリーズ!!!」

 

「にゃあああああああああ!!!」

 

カズマは顔を赤くしながらも容赦なくダクネスにフリーズを唱える。

 

「鬼だ!!真冬に水をかけるだけでなく、まさかの氷結魔法!!」

 

「まあ、伊達に世間でカスマだのクズマだのゲスマだのと言われてないわよ、こいつは」

 

「言っておくけど、お姉ちゃんもカズマと同類だってのを忘れないでね」

 

「あ?」

 

「は?」

 

カズマと同類というティアの発言にアカメは突っかかる。そしていつもの如く、互いに睨みあっている。その間にもダクネスの気分は向上している。

 

「ふ・・・ふははははは!!この容赦のなさが・・・実に・・・いいいいいいいいいい!!」

 

「おわあああああ!!?」

 

ダクネスは剣を捨て、そのまま取っ組み合いになる。もはや剣とは関係なしである。

 

「いいわーダクネス―!組み合えば貧弱なカズマとあなたじゃ勝負にならないわー!」

 

「こらカズマ!!今回あえてあんたに賭けてんだから持ち前のずる賢さでなんとか切り抜けなさい!!」

 

「お姉ちゃんのお金とアクアの羽衣を賭けたこの勝負、勝つのはどっちだー!!」

 

「人を使って勝手に賭け事やってんじゃねーよお前ら!!!」

 

カズマとダクネスで勝手に賭け事をやっているアカメとアクアにカズマは絶対後で痛い目を合わすと心に思っている。

 

「私に力で勝てる気か?舐められたものだ!!力比べではアカメには負けたが、クルセイダーの私と冒険者のお前では、力の差がにゃああああああ!!?」

 

取っ組み合いをしていると、急にダクネスの力が抜けている。これはカズマがドレインタッチを使用したからだ。

 

「げははははは!!俺が真正面からやりあうわけねえだろ!長い付き合いなんだから理解しろよいたあああああああああ!!?」

 

カズマがゲス顔をしている間にダクネスはドレインタッチで生命力を吸われながらもカズマの手首を捻る。

 

「ふ・・・ふふふ・・・ドレインタッチか・・・だが、私の体力を吸い尽くす前に、お前の腕をへし折ってやる!」

 

「ぬ・・・ぬぐぐぐ・・・やれるものならやっていててててて!!!」

 

ドレインタッチを行っていても、優勢なのはダクネスのままだ。そこでカズマはここで言葉巧みの策に出る。

 

「お、おい!今あいつらがやってるように、俺たちも1つ賭けをしないか?勝った方が相手に1つなんでも言うことを聞かせられるって条件で!」

 

「いいだろう・・・私が勝ったら貴様に土下座させてやる!」

 

賭け事に乗ったダクネスにカズマは勝機を見出した。

 

「本当だな?約束したぞ?俺が勝っても泣いてやめないからな!!」

 

「な、何を・・・する気だ・・・」

 

「お前が恥ずかしがって泣いて嫌がることだよははははは!!お前が必死に許しを請う姿が目に浮かぶぜ・・・。勘弁してください、許してくださいって言って謝らせてやる。おっと、気が早いぞこの欲しがりめ。お前が想像していることより、すごいことを命令してやるからなぁ!!」

 

カズマの言い出したことにダクネスは変な想像をして、顔を赤らめる。

 

「や、やめろぉ・・・て、抵抗しようにも、ドレインタッチで力を吸われてー・・・」

 

やっぱり欲しがりなダクネスは急にカズマに込めていた力をわざとどんどんと緩めていっている。

 

「こ、このままでは負けてしまうー・・・」

 

「気を失うまで体力を吸わせてもらう!!目が覚めた時、どんなすごい目に合うのか楽しみにしておくんだなぁ!!!」

 

「くっ・・・どんなすごい辱めを受けようとも、私の心までは屈しは・・・すごいこと!!?」

 

ここでダクネスはカズマの言うすごいことにひどく食いつき、変な妄想を膨らませて、頬がトマトのように真っ赤になる。

 

「かかかかか、カズマぁ!!!私が風呂に入った後の残り湯をどうする気だぁ!!!???」

 

「は?」

 

唐突に変なことを言いだすダクネスにカズマはきょとんとする。

 

「しゅ・・・しゅ・・・しゅごいことおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

気分が最高潮にまで達したダクネスは気を失い、倒れた。どういうことかわからないでいたが、とにかくカズマの勝利で収まった。

 

「よっしゃ勝ったーーーーー!!羽衣ゲットおおおおおおおお!!!」

 

「うわあああああああ!!!許してください!!羽衣だけは!!羽衣だけはあああああああ!!!」

 

カズマが勝ったことでアカメはアクアの羽衣を無理やりゲットし、アクアは泣きながら羽衣はやめてと訴える。

 

「え、えっと・・・とりあえず勝ったー・・・」

 

「うわぁ・・・本当にクズ過ぎる勝ち方・・・」

 

「クズマとはよく言ったものだ・・・!」

 

「失礼な!!!」

 

クズ過ぎる勝ち方にティアは本当に引いており、バルターもカズマのクズさに驚愕しっぱなしだ。

 

ガシャンッ!!

 

唐突に修練場から何か瓶が割れるような音が聞こえてきた。入り口の方を見てみると、そこには笑顔のままで固まったイグニスがいた。足元には彼が落としたであろう酒瓶の破片が。

 

「「・・・あ・・・」」

 

固まった原因は一目瞭然。自分の娘のダクネスがもうあられもない姿で倒れているのを目撃したからだ。

 

「「「あいつらがやりました」」」

 

「よし、処刑しろ」

 

「「違うんです!!誤解なんです!!」」

 

カズマとバルターはこうなった経緯を話して、一生懸命誤解を解こうとする。

 

 

ーこのすばー。ー

 

 

なんとか誤解を解くことができた後はダクネスを応接室のソファで寝かせ、カズマたちはイグニスと話をする。

 

「娘はもともと人付き合いが苦手で、クルセイダーになっても1人きりでな・・・毎日エリス様の教会に通い詰め、冒険仲間ができますようにと祈っていたら、ある日初めて仲間ができた、盗賊の女の子と友達になったと喜んで帰って来たものだよ」

 

話に出てきたその盗賊の女の子というのが、クリスであるというのは、双子の中では何となく想像がつく。

 

「うちは家内を早くになくして、男手で甘やかしながらもとにかく自由に育ててきた。それが、悪かったんだろうなぁ・・・」

 

イグニスが言っているのは恐らくはダクネスの性癖なのだろう。イグニスは自由に育てすぎたから束縛されたがってると思ってるだろうが、あれは真性である。

 

「ララティーナ様は素晴らしい女性だと思いますよ。カズマ君がいなければ、僕は本気で妻にもらいたいと思っています」

 

「すいません、ちょっと何言ってるかわかんないです」

 

「いいんだ。君の方がララティーナ様を幸せにできるだろう」

 

「お前ちょっと表に出ろ。領主の息子だろうと関係あるか!!」

 

「ちょ・・・こらこのクズ!!やめなさい!!」

 

「そうだよ!!私たちの死刑が早まっちゃう!!」

 

「そうよ!!私まで死刑にあうのは嫌よ!!」

 

バルターの発言にムカついたのかカズマは喧嘩を吹っ掛けたがアクアたちに止められる。賑やかそうなカズマたちの様子を見て、イグニスは面白く笑う。

 

「ははははは。カズマ君、これからも娘をよろしく頼むよ。これがバカなことをやらかさないよう、見張ってくれ。頼む」

 

「え?あ・・・は、はあ・・・」

 

イグニスはカズマに軽く頭を下げ、そう頼んだ。カズマは曖昧ながらもそれには承諾した。

 

「う、うう・・・ん・・・」

 

「おお・・・目が覚めたか・・・」

 

話し込んでいる間にもダクネスは目が覚めた。

 

「・・・今のこの状況は事後なのか・・・?は!!?意識を失ってる間にいかがわしいことを・・・!!」

 

「してねぇよ!!まだ何もしてねえよ!!!お前が寝てた間に今微妙な空気になってんだよ!!」

 

意識がはっきりしてきて、今の状況を確認したダクネス。するとダクネスはふひっと笑う。

 

「お父様・・・バルター様・・・どうか今回の見合いはなかったことにしてください。今まで、隠してきましたが、私のお腹には、カズマの子が・・・」

 

「おおおおおおおい!!!???童貞の俺に何言ってんだこらあああああああああ!!!」

 

ダクネスのこの場で問題のある発言にカズマは激しく動揺している。当然ながらこれはダクネスの嘘である。嘘だとわかっているバルターは動揺せず、笑っている。

 

「ははははは!そうか・・・。お腹にカズマ君の子が。父には僕がお断りしたと言っておきます。その方が、彼女らにとっては都合がいいでしょうから」

 

「「え・・・」」

 

バルターの発言に双子は目を丸くしている。バルターは双子に視線を向けて、ウィンクしてみせた後、応接室から退室し、ダスティネス邸から去っていった。

 

「あの人・・・もしかして、私たちの身分を気づいてた?」

 

「あの発言だもの。間違いないでしょう。多分・・・私たちが盗賊団であることも・・・」

 

「それを知ったうえでも見逃して・・・?」

 

「あのお人好しさ加減からして、間違いないでしょうね」

 

「本当にいい人だ・・・領主とは大違いだよ・・・」

 

盗賊団員だと知っていても、見逃せるほどの人の好さにティアは本当に感動している。

 

「それよりこれ、どうにかならないかしら?」

 

「え?」

 

視点をダクネスたちに戻してみると・・・

 

「孫・・・初孫・・・こ、このワシに・・・初孫が・・・!!!」

 

「あわわ・・・2人がそんな関係になっていたなんて・・・!!」

 

「なんでお前まで信じてんだよ!!!???」

 

「うわぁ・・・カオスだ・・・」

 

イグニスは自分に初孫ができたとうれし涙を流しており、アクアは慌てふためておろおろしている。とにもかくにもカズマたちは何とか説明し、20分かけてようやく嘘だとわかってもらえた。その際にイグニスは結構残念そうにしていたが。ちょうど説得を終えた時に・・・

 

「アカメとティア!!アカメとティアはいるかーーー!!!」

 

「えー・・・またぁ・・・?」

 

セナがこの応接室に駆け込んできた。セナの隣にはめぐみんもいた。

 

「今度は何よ?モンスター駆除が終わったの?」

 

アカメのうんざりした問いかけにめぐみんは少し言いづらそうにしながらも答える。

 

「それがですね・・・モンスターの発生元は昨日探索したキールダンジョンでして・・・」

 

「はあ?」

 

「キールダンジョンから?」

 

「そして、ギルドの職員から話を聞いたところ、あそこを最後に入ったのはお前たちだと聞いたぞ。やはり心当たりがあるのでは?」

 

キールダンジョンからモンスターが溢れかえってることから、最後にダンジョンに入ったカズマたちが怪しいとセナは睨んでいるようだ。

 

「あのですね、セナさん。さすがに言わせてもらいますけど、それはギルドでの話でしょ?ギルドの人以外の奴が入ったって可能性は考えなかったのでしょうか?」

 

「うっ・・・それは・・・」

 

ティアに痛いところを突かれてしまったセナは何も言い返せず、口ごもっている。

 

「・・・でも念のために聞いておきますけども・・・カズマ、何もしてないよね?」

 

「俺がやったと言えば宝を持ち帰っただけだ!それはお前らも知ってるだろ⁉」

 

「私も同じよ。というか、私もあんたもカズマと一緒にいたでしょうが」

 

「めぐみんは?」

 

「私も爆裂魔法関連でなければ、心当たりはありませんよ」

 

「私も同様だ。日頃から問題は起こしていないはずだ」

 

「で、アクアは?」

 

「もちろんないわよ!いくら何でも私を疑いすぎでしょ!あのダンジョンに関しては、私のおかげでモンスターは寄り付かないはずよ?」

 

「・・・私の・・・おかげ・・・?」

 

ティアが1人1人心当たりがないか聞いていると、アクアの言葉だけ何かと引っかかる。

 

「アクア、ちょっと来て」

 

「?」

 

ティアはセナに聞こえないように少しだけ場所を離れる。

 

「はい、続けて」

 

「でねでね!リッチーがいた部屋に作った魔方陣は本気も本気!!今もしっかり残ってて、邪悪な存在は入り込めないはずよ!!」

 

「・・・今なんて言った?」

 

「な、何よ急に?言った通りよ。あそこには私が作った本気の魔法陣が残ってて、今もモンスターを寄せ付けないように・・・」

 

「こーーーのーーー・・・アホがああああああああああああ!!!!」

 

原因が自分たちでないにしろ、魔方陣自体が残ってるというのは問題だ。それを重々理解しているからこそ、アクアの行動には頭を抱えるしかないティアであった。




前略、敬愛するお父様。

私はもう、大切な肉親を殴りたくないのです。
ご存知ですか?愛の鞭とは叩かれるより叩く方が痛いのです。主に心が。
だからどうか、今しばらく、騎士として生きることをお許しくださいませ。

あなたの娘、ララティーナより。

これをこっそり見たカズマの心情

(そう思うなら殴るなよ・・・本当、かわいそうな親父さん・・・)

次回、この仮面の騎士に隷属を!


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この仮面の騎士に隷属を!

登場人物欄にキャラクター追加いたしました。


アクアがやらかしてしまった問題を解決するために、カズマたちは例のモンスターが現れたというキールのダンジョンへとセナと共に向かっている。

 

「う・・・うう・・・私のせいじゃないはずなのに・・・」

 

「あんたのせいじゃないにしろ、余計なことするからよ」

 

「そうだよ。私たちの屋敷の幽霊騒ぎだって、アクアのせいなんだからね」

 

「お前はあれか?活躍の差し引きをマイナスにしないとどうにかなる病気なのか?」

 

モンスター騒ぎは自分たちではないにしろ、キールのダンジョンに魔法陣を張った張本人であるアクアの頭にはこれでもかっていうほどのたんこぶができている。全ての原因を知ったアカメがキレて何度も何度もげんこつしたからできたものである。

 

「はあ・・・何とか誤魔化せたが、魔法陣をなんとか消さないと・・・」

 

魔法陣が残っているのをセナたちに見られでもしたら何かと理由をつけてまた双子が逮捕される可能性がある。そんなことになれば、双子に気を使っているウィズに申し訳が立たない。だからこそカズマは何とかしたいと思ってる。ため息を吐いている間にもキールのダンジョンにたどり着いた。キールのダンジョンにはやたらと小さく、直立して歩いている人形サイズの人型の仮面のモンスターが何体も歩き回っている。

 

「おぉ・・・確かに・・・謎のモンスターだ・・・」

 

「こんなモンスター、今まで見たことないなぁ・・・」

 

「というかこいつら、本当にモンスターかしら?」

 

そのモンスターの存在は誰も見たことがない種類らしく、メンバーの中でも冒険者歴が長い双子もその存在を珍しがっている。

 

「サトウさん」

 

「サトウです」

 

「協力感謝します。どうやら何者かがモンスターを召喚しているようなのです。ですから術者を倒し、召喚の魔法陣にこれを張ってください」

 

「何よこれ?」

 

「あ、おい!勝手に取るな!」

 

カズマがセナに何かを渡そうとした時、アカメがそれを勝手に取り上げる。取り上げたそれは何やら札のようなものだった。

 

「それは強力な封印の札です。それを張り付ければどんなに強力な魔法陣でも即座に使えなくなるでしょう。術者を倒してもモンスターを呼び続ける物がありますので、どうぞそれを持って行ってください」

 

どうやら取り上げた札は強力な封印の魔法を施した札らしい。

 

「あの、そんなことせずとも、めぐみんの爆裂魔法でダンジョンの入り口を爆破して、入り口を封鎖させた方がよいのではないでしょうか?」

 

「む?出番ですか?任されました!!」

 

ティアの言葉にめぐみんはダンジョンの入り口で爆裂魔法を放とうとするが、セナに止められる。

 

「そ、それはいけません!!原因の究明をお願いします!!ダンジョンを封鎖したところで、テレポートを使える相手ならば逃げられてしまいます!!これだけのことをした相手なのですから、どうか、お願いします」

 

「確かにな・・・うーん・・・面倒な・・・」

 

カズマが悩んでいる間にも、アクアは小さな人形に向かって石を投げつけようとしている。

 

「私、あの人形の仮面が生理的に受け付けられないわ・・・。なぜかしら・・・。どうにもむかむかしてくるんですけど・・・」

 

そんなアクアを見つけた人形はとてとてとアクアに近づき、アクアの足に引っ付いてきた。

 

「え・・・ちょ・・・何・・・?何かしら・・・?甘えてるのかしら・・・?見てるとムカムカしてくる仮面だけど・・・なんだかかわいく見えて・・・」

 

アクアがだんだんと人形に心を許し始めたその時・・・

 

ドガアアアアアン!!!

 

突如として人形は怪しく輝きだして、そしてその場で自爆してアクアを巻き込んで爆発してしまった。

 

「ご覧の通り、このモンスターは相手に取り付き自爆するという習性を持っていまして・・・」

 

「なるほど、厄介なモンスターですね」

 

「なんでそんなに冷静そうなのよー!!」

 

「「ざまあ」」

 

爆発に巻き込まれたアクアを放置し、話を進めるカズマたち。するとダクネスは人形に近づいていく。当然気づいた人形はダクネスに引っ付き・・・

 

ドカアアアン!

 

「・・・ふむ。こんなものか」

 

自爆したのだがさすがはクルセイダー・・・傷1つついていなかった。

 

「私が露払いのために前に出よう。カズマは私の後ろについてこい」

 

「お、おう」

 

「まぁ・・・容疑者の私たちも、行かないわけにはいかないわね」

 

「うん。ダクネスはこのダンジョンは初めてだし、サポートしなきゃ!」

 

このキールのダンジョンに入るのは現段階ではダクネス、カズマ、双子の4人、そしてセナが連れてきた冒険者一同になる。

 

「カズマカズマ、私は足手まといになりますし、ここで待機してますね」

 

「それじゃあ私もここで・・・」

 

「おい!お前も来るんだよ!!サボってんじゃねぇ!!」

 

さりげなくサボろうとするアクアにカズマも行くように指示すると、途端にアクアは震えだす。

 

「い・・・いやあ!!もうダンジョンは嫌なの!!ダンジョンに入るときっとまた置いてかれるわ!!ダンジョンは嫌・・・嫌ぁ・・・」

 

「うわぁ・・・わっかりやすい拒絶反応・・・」

 

「はぁ・・・何トラウマになってるのやら・・・」

 

どうやらアクアはダンジョンに取り残されたことがトラウマになってしまい、わかりやすく恐怖で震えている。

 

「と、なるとダンジョンに入るのは俺と双子、ダクネスの4人か・・・」

 

「む・・・2人きりじゃないのか・・・そっちの方が身の危険を感じるのでそっちがよかったのだが・・・」

 

「・・・お前もダンジョンに置いていって、アクアと同じトラウマを植え付けてやってもいいんだからな?」

 

明らかに性欲を優先しており、非常に残念がっているダクネスにカズマは冷めた顔でそんなことを言いだした。とにもかくにも、ダンジョンに入るメンバーが決まり、人形の発生源の調査を行うのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

『調査クエスト!!

キールダンジョンの異変を調査せよ!!』

 

ダンジョンの中は以前とは違い、主がいるかのように明かりがともっている。これで暗闇で迷うことなく進むことができる。中には当然、外にいた同じ人形たちが待ちかまえていた。

 

「ふふ・・・ははははは!!!当たる!!当たるぞ!!カズマ見ろ!!こいつらは私の剣でもちゃんと当たる!!もうノーコンとは言わせないぞ!!」

 

「すごくうれしそうだな・・・」

 

人形たちは自分たちから当たりに行こうとするため、当然ながらダクネスの剣はヒットする。そしてダクネスは非常に嬉しそうにしながら人形たちに剣を振るう。

 

「それ!バインド!こいつらすごいね・・・バインドの縄だけでも爆破・・・あ!お姉ちゃん見てみて!私、レベル上がった!!こいつら経験値ちゃんとあるよ!!」

 

「何よ・・・カスみたいな経験値量じゃない・・・それで喜ばれても・・・ね!!」

 

ティアは多少ながらも経験値が上がり、レベルアップしたことに嬉しそうにしており、アカメは呆れながらも人形たちを投げナイフで潰していく。

 

(しかし、こいつらも一緒だと、アクアの魔法陣もすぐには消せないな・・・)

 

カズマだけでなく、他の冒険者もいるため、見られずに魔法陣を消すことは不可能と考え、どうしたもんかと悩むカズマ。

 

「おい、ちょっと待ってくれ。もっとゆっくり・・・うわあ!!?張り付かれたあ!!!誰かこいつを剥がしてくれぇ!!!」

 

「来るなぁ!!こっち来るなぁ!!おわあああ!!!」

 

だがそんな悩みを吹っ飛ばすかのように、冒険者たちは人形たちにとり囲まれ、悪戦苦闘している。この場で自由に動けそうなのはカズマたち4人だけだ。

 

「よしダクネス!!そのまま進めぇ!!」

 

「任せろ!!ああ・・・なんだこの高揚感は!!初めてクルセイダーとして、まともに活躍してる気がする!!」

 

実は結構活躍できてないことを気にしていたダクネスは激しい高揚感を抑えられず、嬉々とした表情をしながら人形たちを薙ぎ払い、前に進む。3人はそんなダクネスの後ろについていくのだった。

 

 

ーこのすばーーーーーーー!!!!ー

 

 

冒険者たちを置いていき、人形たちを薙ぎ払いながら奥へ進み、とうとうキールがいた部屋の前までやってきたのだが・・・やはり魔方陣を消すのは一筋縄ではいかぬようだ。

 

「・・・どう見たって、人形を作った【ピーッ】野郎はあいつよね・・・」

 

「しかもやばいよ・・・あいつの反応・・・魔王軍幹部クラス並みなんだけど・・・」

 

「げっ⁉マジか⁉どうしたもんかなぁ・・・」

 

キールの部屋の前には、このダンジョンの土で人形を作っている人物がいた。どう見てもこの騒動の原因は、タキシードを着込んでいて、顔に仮面をつけた男の仕業だ。この男がいる限り、キールの部屋には入れそうにない。どうするか考えていると、ダクネスが前に出た。

 

「おい貴様、ここで何をしている?その人形を作っているということは、この元凶はお前で間違いないな?」

 

仮面の男はダクネスの問いかけにようやくカズマたちの存在に気が付き、仮面の目を光らせ、口元が笑みでゆがめる。

 

「ほぅ・・・よもやここまで辿り着くとは・・・我がダンジョンへようこそ冒険者よ!吾輩こそが、諸悪の根源にして元凶、魔王軍の幹部にして、悪魔を率いる地獄の公爵・・・この世の全てを見通す大悪魔・・・バニルである」

 

「・・・本物の魔王軍来ちゃったーーー!!??」

 

どうやらこのタキシードの男・・・いや、悪魔、バニルは本当に魔王軍の幹部らしく、思わぬ大物に驚愕するティア。

 

『緊急クエスト発生!!

大悪魔バニルを討伐せよ!!』

 

「おい!!マジもんでやばいぞ!逃げるぞ!!」

 

「女神エリスに仕える者が、悪魔を前にして引き下がれるか!!」

 

「これだから堅物エリス教徒は!!だから宗教は嫌いなのよ!!」

 

カズマは逃げようと提案するが、堅物のダクネスに拒まれる。そんなダクネスの堅物にアカメはイラつきを見せる。

 

「ほう・・・魔王より強いかもしれないバニルさんと評判の吾輩を倒すと?しかし何をカッカしているのだ?そこの小僧に風呂場で裸を見られ、己の割れた腹筋を見られてないか心配する娘よ」

 

「ダクネス・・・筋トレは大概にしろってあれほど言ったのに・・・」

 

「やっぱあんたは筋肉女だったのね」

 

「ち、違う!!奴の言った事は嘘っぱちだ!!くそ!!ふざけるな、魔王の手先の悪魔め!!!」

 

バニルが放った言葉にダクネスを哀れそうに見る双子。バニルの言葉に激しく動揺するダクネス。

 

「まぁ落ち着くがよい。魔王軍の幹部とは言っても、城の結界を維持してるだけの、いわばなんちゃって幹部でな。魔王の奴にベルディアの件で調査を頼まれたのだ」

 

(あー・・・)

 

バニルの放った言葉にカズマは青ざめた。ベルディアを倒したのは自分たちなのだから無関係なわけがない。

 

「ついでにアクセルの街に住むという、働けば働くほど貧乏になるという不思議な特技を持つポンコツ店主に用があって来たのだ」

 

「ポンコツ店主?それってウィズのことかしら?」

 

「言わずもがなだ。ポンコツ店主に深い好意を持ち、常に母親であってもらいたいと願う双子の姉よ」

 

「は、はあ!!!???あんた急に何を言い出すのよ!!!???そんなこと考えてるわけないでしょ!!!???」

 

バニルに自分の願望を言い当てられ、激しく動揺を示している。

 

「お、お姉ちゃん・・・まさかそんなことを考えていたなんて・・・」

 

「あんたらも真に受けるのはやめなさい!!この悪魔ふざけんな!!今すぐぶっ殺してやる!!」

 

まさかの願望を聞いて、意外そうな顔をしているカズマたちに怒鳴りながらも怒りをバニルに向ける。しかしバニルはどこ吹く風のような態度だ。

 

「そして、吾輩は世間でいうところの悪魔族・・・悪魔の最高のご飯は汝ら人間から発する嫌だなと思う悪感情だ。汝ら人間はおいしいご飯製造機であり、それを壊そうなぞナンセンスだ。むしろ汝ら人間が1人生まれるたび、我は喜び庭駆けまわるだろう!!」

 

「でも悪感情を欲するってことは、人に危害を加えるってことじゃないの?悪魔って血も涙もない存在だってお頭から聞いたんだけど・・・」

 

「人聞き・・・いや悪魔聞きの悪いことを言うでない。家族に飢え、家族の匂いを堪能したいがため、よなよな姉のマフラーをクンカクンカしていた双子の妹よ」

 

「やややや、やってないやってない!!!そんなこと全然やってない!!!」

 

バニルに自分の性癖を暴露され、ティアは顔を真っ赤にして否定している。

 

「あんた・・・まさかそんな性癖があったなんて・・・」

 

「誤解だよ!!私はそんなカズマみたいな変態なんかじゃない!!!」

 

「おい!!!!」

 

ティアのまさかの性癖にアカメには本気で引かれてしまい、否定しながらももうこんなことはやめようと心から誓うティア。

 

「悪感情と言ってもピンキリであるからな。そこは悪魔によって好みは変わる。人の恐怖や絶望を好む奴もいれば、絶世の美女に化けて男に近づき、散々惚れさせた後で、『残念!!実は吾輩でした!!』と言って相手に血の涙を流させるのが好きな吾輩のような悪魔もいる」

 

「こいつ退治された方がいいんじゃないか?」

 

悪感情を得るために非常にあくどいことをやろうとする悪魔の例えにカズマは倒された方がよいのではと思った。

 

「でもそれだったらその人形は何なんだよ?このダンジョンからその人形がぽこぽこ出てきて、その人間が難儀してるんだが?言ってることとやってることが違うじゃないか」

 

「何と。このバニル人形を使い、ただダンジョン内のモンスターを駆除していただけなのだが・・・ふむ・・・外にあふれ出してるということは、ダンジョン内にもうモンスターはおらんのだな。ならば、次の計画に移行するとしよう」

 

カズマの言葉によって、ダンジョン内にモンスターはいないとわかったバニルは用済みだと言わんばかりにバニル人形を土に戻す。それよりもカズマはバニルの計画というのが気になる。

 

「何を企んでるんだ?」

 

「企むとは失敬な。そこの双子共と鎧娘が数日帰ってこなかっただけで自室をくまなくうろうろして内心心配していた小僧よ」

 

「おいやめろよ!!何で見て来たみたいに言うんだよ!!?」

 

バニルが発した言葉にカズマはかなり動揺している。カズマの本音にアカメは頬を赤らめて困ったような顔をして頭をかき、ティアとダクネスは同じく頬を赤らめてもじもじしている。

 

「お前らももじもじするのはやめろ!!」

 

カズマの心情は放っておいて、バニルは自身が考えた計画についてを話した。

 

「限りなく永く存在した吾輩にはな、とびきりの破滅願望があるのだ。まずダンジョンを手に入れる。各部屋には悪魔たちを待機させ、罠を仕掛ける。挑むのは、歴戦の凄腕冒険者たち。やがて、苛烈な試練を潜り抜け、勇敢なる冒険者たちが最奥の部屋にたどり着く!待ち受けるのはもちろん吾輩!そして吾輩はこういうのだ!『よく来たな冒険者よ!さあ我を倒し、莫大な富をその手にせよ!』とな!ついに始まる最後の戦い!激戦の末、打ち倒された吾輩の背後には、封印されし宝箱が現れる!苦難を乗り越えた冒険者がそれを開くと、中には・・・『スカ』と書かれた紙切れが。それを見て呆然とする冒険者を見ながら・・・吾輩は滅びたい・・・」

 

「やっぱこいつぶち殺した方がいいんじゃない?」

 

「ひどすぎる・・・悪感情を得るのにそこまでするの・・・?」

 

あまりに冒険者たちが悲惨すぎる目に合う膨大な計画にバニルは危険なんじゃないかと抱く双子。それはカズマたちも同じだ。

 

「その計画を実行するために、友人の店で金を溜め、巨大ダンジョンを作ってもらうつもりだったのだが・・・偶然ここを通りかかり、主がいないようだったのでもうこのダンジョンでいいかなーっと」

 

「はぁ・・・そう言うことなら何も言わないよ。ウィズの友人みたいだし、その後ろにある部屋の魔法陣を私たちに消させてくれたら見逃してあげるよ」

 

「なっ!!?おいティア!!目の前に魔王軍の手先がいるのだぞ!!?それを見逃すというのか!!?」

 

「そうだよ。私たちでこんな相手をどうしろっていうのさ?」

 

「いいから黙ってなさいこの堅物色ボケドMド変態女」

 

「ド・・・変・・・!!!あふぅ・・・!!」

 

ティアはバニルを見逃すと言い張ってるがダクネスはそれを反対している。が、アカメの毒舌でダクネスを興奮させて、黙らせた。

 

「魔法陣?吾輩の後ろにある部屋に張ってある魔法陣の事か?それはそれはどうもご親切なことで。あの忌々しい魔法陣のせいで中に入れないのだ。それを消してくれるとはありがたい。礼と言っては何だが、吾輩手製の夜中に笑うバニル人形を進呈しよう」

 

「いらないわよそんなクソ人形。というか、さっさとそこをどきなさいよ。その後ろにある魔法陣があるだけで、こっちにとってはかなり不都合なのよ」

 

「バカ!!お前余計なことを・・・!!」

 

アカメの発した言葉にバニルは首を傾げ、不思議そうにしている。

 

「おかしなことを言う人間だ。後ろにある魔法陣があるだけで、なぜ汝らにとって不都合なのだ?どれどれ・・・ちょっと拝見・・・」

 

バニルは自身の能力を使い、アカメたちの過去を覗き込んだ。

 

「・・・フハハッ・・・」

 

その過去を見たバニルは乾いた笑い声を高らかに上げる。

 

「フハハハハハハハハハハ!!!なんということだ!!貴様らの仲間のアークプリーストがこのはた迷惑な魔法陣を作ってくれおったのか!!この大悪魔である吾輩すら入れぬ魔方陣を作り上げるとは!!そのプリーストはよもや・・・」

 

バニルは笑ってはいるが、明らかに怒っている様子だ。

 

「見える・・・見えるぞ・・・!プリーストが茶を飲んでくつろいでいる姿が見えるわ!!」

 

「はあ!!??何やってんのアクア!!!!」

 

「あいつ帰ったら死刑!!千本ノックの刑よ!!」

 

バニルの発した言葉に双子はアクアをただでは済まさないと言った怒りを示している。

 

「その男との賭けに負け、すんごい要求とやらが気になり、先ほどからいろいろと持て余し、期待し、ずっともじもじしている娘よ!」

 

「持て余してもいないしもじもじもしていない!!適当なことを言うな!!い、い、い、言うなあああ!!!」

 

「この件が終わったらその鎧娘にどんな要求をしようかそわそわしている小僧よ!」

 

「そ、そわそわしてねぇし!!?してねぇし!!!」

 

「そして!どうせクズな要求をするくらいなら、自分たちにその役目を変わってほしいとずっとモヤモヤしている双子共よ!」

 

「「も、モヤモヤしてないし!!適当なことを言うなクソ悪魔!!!」」

 

バニルに自分の内心を言い当てられ、激しく動揺しているカズマたち。バニルは構わず話を進める。

 

「そこを通してもらおうか!!なぁーに、人間は殺さぬのが鉄則の吾輩だ・・・ああ人間は殺さんとも・・・人間(・・)はな・・・。こんな迷惑な魔法陣を作りおってからに!!地上に出て一発きついのを食らわしてくれるわ!!!」

 

人間を激しく強調しているところから察するに、バニルはアクアが女神であるということに気が付いている。標的がアクアであると気が付いたダクネスたちは前に出る。

 

「アクアに何かしようって言うのなら話は別!許さないよ!」

 

「ああ。アクアに危害を加えるつもりなら、なおさら引くわけにはいかない!!」

 

「アクアにお仕置きするのは私の役目よ。あんたはさっさとそこをどけばいいのよ」

 

ダクネスたちは戦闘態勢に入り、バニルと対峙する。

 

「腹筋だけでなく脳まで堅そうな娘よ!そいつらを連れて今すぐ帰れば2人とも邪魔されず、すんごい要求は期待通りになること間違いなしだ!!」

 

「「んなっ!!?」」

 

バニルの甘美なる?囁きにダクネスとカズマは揺れ動かされそうになっている。

 

「ちょっとダクネス!!?耳を貸しちゃダメ!!悪魔の囁きだよ!!惑わされないで!!」

 

「だ、だだだ、誰が惑わされるか!!!」

 

「そんな声を荒げても説得力ないわよ。後カズマ、あんたも時と場を考えなさいよ」

 

(あ、あれ~?俺はこんなに心揺り動かされているのに・・・)

 

双子は何とか持ちこたえさせようとするが、カズマは滅茶苦茶葛藤したままだ。

 

「フハハハハ!!何ならそこの魔法陣が張られた部屋でご休憩して帰るがよい」

 

「~~~~~!!!!」

 

さらなるバニルの囁きでカズマはさらに葛藤を増していく。

 

「おいカズマ葛藤するな!!同じ屋敷に住んでいるのにそんなおかしな関係になってどうする!!しっかりしろ!!!」

 

「はっ!!!見てくれがよくて体がよくても中身があれなダクネスだ・・・しっかりしろ、俺!」

 

「お、お前帰ったら覚えていろよ・・・!!」

 

ダクネスの一喝でカズマはダクネスの中身の問題を思い出し、甘美を打ち破った。それにはダクネスは涙目である。

 

「ほほう・・・吾輩の甘美に惑わされぬか。しかしどうしたものか・・・吾輩の持つ技の数々はチート級な物が多い。例えば、我がバニル式殺人光線。これは殺人光線なので人間である貴様らが当たれば死ぬ。当たらなくても死ぬ。人間の悪感情を好む吾輩たち悪魔にとって、それは死活問題に繋がるわけで・・・」

 

「もういい!!貴様と話していると、頭がおかしくなりそうだ!!」

 

これ以上バニルが余計なことを言わないようにダクネスが剣で攻撃を開始する。素早い連続攻撃を繰り出すが、やはり元がノーコンなのでバニルには全く当たらず、避けるような素振りをしてダクネスをからかうバニル。

 

「フハハハハ!!威勢の割には攻撃がスカばかりではないか!!・・・ん?あの狡猾そうな3人はどこ行ったのだ?あの手の者が厄介なのだが・・・」

 

カズマたちは潜伏スキルでバニルにバレないように隠れて隙を窺っている。バニルはカズマたちがどこにいるかあたりを探っている。

 

「どこを見ている!お前の相手は私だ!!」

 

そのすきを見逃さず、ダクネスはバニルに剣を振るうが、これも当たらないでいた。

 

「フハハ!!残念!!」

 

「今だ!!バインド!!」

 

攻撃を避ける素振りをしたバニルに隠れてたティアはすかさずバインドを放つ。それによってバニルは縄に縛られる。

 

「ぬう!!しまった!!」

 

「今だよ!お姉ちゃん!カズマ!」

 

「今すぐぶち殺してやる!!」

 

「行くぞおらああああ!!」

 

バニルが縛られたのを見計らって攻撃を仕掛けようとするアカメとカズマ。

 

ぐにっ!!

 

「そおおおい!!?」

 

「ちょおおおお!!?」

 

「まああああ!!?」

 

「のええええ!!?」

 

ところがカズマが石造の玉を踏んで転んでしまい、アカメとティアを巻き込ませ、最終的に3人がかりでバニルに体当たりをした。

 

「はあああああ!!」

 

ザンッ!!

 

「ぐあああああああああ!!!」

 

バランスを崩したバニルにダクネスは剣による斬撃を放ち、ようやく一撃を浴びせられた。

 

「まさか・・・ここで滅ぶのか・・・」

 

剣の一撃を食らったバニルの体は土となって粉々に砕け散った。残ったのはバニルの仮面だけ。

 

「し・・・仕留めたのか・・・?」

 

「ちょっとお姉ちゃん。何してんの?せっかくのチャンスをあんな・・・」

 

「私のせいにしないでちょうだい。あれをやったのはカズマのせいよ」

 

ダクネスはバニルを倒せたのが嬉しいのか顔が浮かれている。双子は転んでしまったことにたいしてで胸倉を掴みあい、揉め合っている。

 

「くそう・・・まさかあんなところに玉が転がってるなんて・・・しかしこれは・・・本当にやったんじゃないか?」

 

「と、期待させたところで、スカ!!」

 

カズマが頬を緩んでいると、突如としてバニルの声が聞こえてきて、バニルの仮面がダクネスの顔に張り付いた。

 

「ぐあああああああ!!」

 

「「ダクネス!!?」」

 

「もしや討ち取ったとでも思ったか?残念!何のダメージもありませんでした!吾輩の本体は仮面であるが故、いくら土塊の肉体を破壊したところで吾輩は無傷なのだ!!おっと、汝らの放つ悪感情・・・大変に美味である」

 

苦しそうにしているダクネス。急に動きが止まると、ダクネスは口を開く。しかし、その口から聞こえる声は、ダクネスではなく、バニルのものであった。

 

「フハハハハ・・・フハハハハハハハハ!!小僧共、聞くがいい!吾輩の力により(どうしよう3人とも!!身体を乗っ取られてしまった!!)」

 

ダクネスの体がバニルの声でしゃべっていると、突然ダクネス本人の声がバニルの声を遮るように放たれた。だが何となくだが、ダクネスはバニルに身体を乗っ取られてしまったようだ。

 

「どうだ小僧共!!攻撃できるものなら(一向に構わん!!遠慮なく攻撃してくれ!!さあ早く!!これは絶好のシュチュエーションだ!!)やかましいわあ!!!!なんなんだお前は!!!???」

 

「「「・・・・・・」」」

 

変なタイミングでダクネスと切り替わってしまい、バニルは思わずツッコミを入れる。その様子にはカズマたちは変なものを見るかのような顔つきになる。

 

「バカな・・・なんだこの(麗しい)娘は・・・。いったいどんな頑強な精神を・・・(まるでクルセイダーの鑑のような奴だな!)ええい!!やかましいわあ!!!」

 

変なところでダクネスの声がかぶさってしまうのでなかなか思うようにしゃべれないバニル。

 

「・・・我が支配力に耐えるとは・・・なかなかどうして大した娘よ。(い、いやぁー・・・///)だが、耐えれば耐えるほどやがてその身に抗えがたい激痛が(な、なんだと!!??)フハハハハ!!さあ、どこまで耐えられるか・・・?なんだこれは・・・?喜びの感情?」

 

バニルの声にダクネスの声、まるでダクネスが一人芝居を行っているような光景だ。そんな2人?に構わずカズマたち3人はキールのいた部屋へと入る。

 

 

ーはい、ちょっと通りますよー

 

 

カズマと双子がアクアの魔法陣を掃除している間にもダクネスの体で漫才のような一人芝居は続いていた。

 

「(私はこんな痛みなんかに負けたりしない!!)その心意気やよし!だが、これ以上の我慢は汝の精神の崩壊を招き・・・貴様、この状況を楽しんではいないか?」

 

一人芝居をしている間にもカズマたちはとりあえず魔法陣の掃除が終わり、部屋には後が1つも残っていない。

 

「よしダクネス、アクアと合流してとっとと逃げるぞ」

 

「それ以上近づくな小僧共」

 

カズマたちが部屋から出ると、ダクネスを乗っ取ったバニルが剣を3人に突きつける。

 

「(3人とも、私を置いて先に行け)そうそう貴様らの思い通りには(ああ!このセリフを1度言ってみたかったのだ!)貴様が憎からず想っているこの娘を傷つけたくはあるまい。(!!?)このまま娘が我が力に耐え続ければ(か、カズマ!この自称見通す悪魔が気になることを言ったのだが)やかましいわあああああ!!!!」

 

バニルが何か重要そうなことを言おうとしてはいるのだが、ところどころダクネスが重なってくるので話が全く読めない。

 

「くっ・・・!この身体は失敗だった・・・!(おい!人の身体に失敗だとか失礼ではないのか!!?)ええい!!やかましい!!吾輩はこの身体から出ていく・・・」

 

「それは困るわね」

 

「ちょっ!!?お姉ちゃんそれ!!?」

 

ダクネスの体から出ようとしたバニルだが、その前にアカメがセナからもらった札をバニルの仮面に張り付ける。

 

「む?なんだこの札は?(おいちょっと待てアカメ!これはまさか・・・)」

 

「そう、セナからもらった封印の札よ。このまま地上に出てアクアに浄化してもらう」

 

「(ちょっ!!?)」

 

まさかの展開にダクネスもバニルも驚かずにはいられなかった。

 

 

ー(このすば!!)ー

 

 

カズマたちは乗っ取られたダクネスと共にダンジョン出口へと向かって走っている。バニル人形たちは全部いなくなっており、邪魔する者はいない。

 

「小僧共!吾輩の力に抵抗しているこの身体には常に激痛が走っているのだ!このままでは、この娘の心が壊れてしまうぞ!(というわけだ3人とも!こんな強烈なものは初めてだ!さすがは魔王軍の幹部!堕ちてしまいそうだ!)」

 

「頑張ってダクネス!地上に出たら、アクアが何とかしてくれるから!」

 

「(お構いなく)」

 

「「「「・・・今なんて言った?」」」」

 

バニルに乗っ取られて激痛が走っているが、やはり平常運転のダクネスであった。

 

 

ー(お構いなく)ー

 

 

キールの部屋から遠かったが、ようやくダンジョンの出口まで近づいてきたカズマたち。

 

「ダクネス!よく耐えたな!」

 

「・・・フハハ・・・フハハハハ!!小僧、貴様はいったい誰に話しかけている?」

 

「!!まさか・・・」

 

ダクネスの口から発せられるのはバニルの声だけ。どうやらここまで走ってる間にもダクネスはバニルに完全に乗っ取られてしまったようだ!

 

「フハハ!支配完了!無警戒に出迎えてくる貴様らのプリーストにきついのを一発食らわしてくれるわ!!」

 

「そんな・・・ダクネス!目を覚まして!!」

 

「そんな悪魔に負けて・・・あんたはもっと頑張れるはずよ!!」

 

双子は何とかダクネスの精神を引っ張り上げようと声を上げるが、聞こえるのはバニルの声だけ。

 

「無駄だ双子共よ!さあ、ダンジョンから無事に生還した仲間との感動の対面だ!忌々しい我が宿敵が乗っ取られた体の前にいったいどう出るのかとくと・・・」

 

「セイクリッド・エクソシズム!!!!」

 

「(ぬああああああああああああああ!!!!????)」

 

ダクネスを乗っ取ったバニルがダンジョンから出た瞬間、アクアが対悪魔浄化魔法、セイクリッド・エクソシズムを放った。それにはバニルは大ダメージ。

 

「ダクネスー!!?大丈夫!!?」

 

「おいクソアクア!!いきなり魔法をぶっ放すんじゃないわよ!!」

 

「なんか、邪悪な気配が感じたから撃ち込んでみたんだけど・・・」

 

「お前なぁ・・・。ダクネスは今魔王軍の幹部に身体を乗っ取られているんだ!」

 

「魔王軍の幹部!!?」

 

魔王軍の幹部という単語に真っ先に反応したのはセナだった。するとアクアは何か匂ったのか顔をしかめながら鼻を抑える。

 

「臭っ!なにこれ臭っ!間違いないわ!悪魔から漂う匂いよ!ダクネスってばエンガチョね!!」

 

セイクリッド・エクソシズムを食らったダクネスを乗っ取ったバニルはよろめきながら立ち上がった。

 

「ふ・・・フハハハハ・・・まずは初めましてだ!忌々しくも悪名高い、水の女神と同じ名のプリーストよ!我が名は(あ、アクア!私自身は匂わないと思うのだが!!?)我が名はバニ(お前たちも嗅いで見てくれ!!臭くはないはずだ!!)やかましいわ!!」

 

が、アクアの魔法のおかげで激痛が弱まったのか、再びダクネスの声がバニルの声と重なる。

 

「我が名はバニル。出会い頭に退魔魔法とは・・・これだから悪名高いアクシズ教の者は忌み嫌われるのだ!礼儀というものを知らぬのか?」

 

バニルが礼儀と言った瞬間、アクアはバニルを小ばかにするように笑う。

 

「やっだー、悪魔が礼儀とか何言っちゃってるんですかー?人の悪感情がないと生きていけない寄生虫じゃないですかー、プークスクス!」

 

「いや、寄生虫はアクアの方でしょ。飲んだくれの分際が」

 

「うん。普段は何のとりえもないアクシズ教徒の悪魔だし」

 

「えっ・・・」

 

アクアがバニルに寄生虫と言った瞬間、双子が逆にアクアが悪魔と言った瞬間、嘘でしょ?みたいな顔をするアクア。

 

「フハハハハ!!仲間のシーフにすら嫌われるとは!哀れだな!中身が残念のアークプリーストよ!」

 

バニルがアクアを笑い飛ばした瞬間、短い沈黙が続き・・・

 

「セイクリッド・エクソシズム!!」

 

「甘いわ!!」

 

アクアはバニルに向かってセイクリッド・エクソシズムを放ったが、ダクネスの瞬発力を利用して難なく躱す。

 

「ちょっとダクネス!なんで避けるの⁉じっとしててちょうだい!!」

 

「(そ、そんなこと言われても・・・)」

 

「ずるいですよ!私もあの仮面が欲しいです!紅魔族の琴線に激しく響きます!」

 

「バカか!!あの仮面が悪魔の本体なんだよ!!」

 

「なんですと!!??」

 

「確かにあれは手配書に示されてる見通す悪魔!!皆さん!!確保!!」

 

『おう!!!』

 

セナの合図によって他の冒険者たちもバニルを捕えようと動き出した。

 

「フハハハハ!!フハハハハハ!!フハハハハハハハ!!」

 

だがダクネスの身体能力を利用したバニルの前には、冒険者たちの攻撃は全てはじき返され、全く歯が立たなかった。

 

「ねぇ、ダクネス!じっとして!助かりたいの⁉助かりたくないの⁉」

 

「あのダクネスがこんなに手強いなんて・・・!」

 

「当たらねえ!簡単に剣ではじき返されちまう!」

 

「ああ!俺たちが死なないのは、相手が手加減しているだけだ!」

 

「ふむ・・・この身体は具合がいいな。筋力もあるし耐久力もある。おまけに忌々しい神々の魔法にも耐久があるときた。(うぅ・・・すまん・・・みんな・・・)」

 

凄く苦戦しているセドル、ヘインズ、ガリルを含めた冒険者たちは苦虫を嚙み潰したような顔つきになる。そうとは構わずバニルは冒険者たちを煽る。

 

「フハハハハ!!キリキリとかかってこいこのへなちょこ冒険者共めが!」

 

「ダクネス!お前ちょっと剣が当たるようになったからって調子に乗りやがって!!」

 

「俺、あんたはカズマのパーティで1番まともだと思っていたのに!!」

 

「囲め囲め!!このへっぽこクルセイダーを取り囲め!!」

 

それには当然ながら憤慨する冒険者たち。

 

「(ああ・・・普段気さくに話しかけてくれる冒険者たちがこんな蔑んだ目で・・・!)・・・なぜか感じる喜びの感情・・・これはどういうことなのか・・・?」

 

冒険者たちの蔑んだ目にこんな時でも興奮してしまうダクネス。

 

「この状況、何とかなりませんか?」

 

「こうなったら、私たちが出張るしかないわね!ティア!援護を!」

 

「うん!ダクネスのために!」

 

バニルが冒険者たちを薙ぎ払ったと同時に、アカメがバニルに短剣を振るおうとする。バニルが行動に移す前にティアがバインドで動きを止めようとしても、ダクネスの眠らせていた反射神経のせいで全く動きを止められないでいる。

 

「バインド!バインド!もう!ダクネスじっとしててよ!当たらないじゃんか!」

 

「(そ、そんなことを言われても体が勝手に・・・)」

 

「はあああああ!!」

 

「甘いわ!!」

 

アカメがバニルに向かって短剣を振るうも、剣で簡単に受け止められしまう。

 

「ほお・・・へなちょこ筋力のシーフの割には、なかなかどうして、この娘を超える力ではないか!」

 

「お褒めの言葉、どうもありがとう、ね!!」

 

アカメが剣を跳ねのけ、短剣をバニルの仮面めがけて振るうが、それは簡単に躱されてしまう。

 

「が、詰めが甘すぎるわ!!」

 

そしてバニルはダクネスの持ち前の力を利用してアカメに蹴りを放った。耐久力がないアカメは簡単に吹っ飛ばされ、カズマたちがいた木に激突してしまう。

 

「がっ・・・!!」

 

「お姉ちゃん!!?」

 

「おい、嘘だろ!!?アカメがダクネスに負けた!!?」

 

「う・・・うぅ・・・くそ・・・ダクネスの分際で・・・!」

 

アカメがダクネスに負けるのを見てカズマたちは驚きを隠せないでいた。

 

「お姉ちゃん、大丈夫⁉」

 

「か、カズマ!何とかならないんですか⁉」

 

「サトウさん、参戦しないのですか!!?」

 

「か、カズマ――!!アカメまでやられちゃったんですけど!!これって今までで1番ピンチなんですけど!!?カズマさん!!カズマさーーん!!」

 

カズマがどうするべきか思考を悩ませていると、バニルがアクアに迫ってきている。文字通りきつい一撃を食らわせるために。

 

(くっ・・・今こそセナに説教でもしてやりたい!毎回毎回俺たちが騒動を起こしてるんじゃない!俺はただ巻き込まれてるだけなんだ!そんな俺が強運だとか・・・)

 

「カーズーマーさーーーーーん!!!!」

 

「・・・しょうがねぇなあああ!!!」

 

カズマは腹をくくってダクネスの前まで立つ。

 

「ダクネス!何簡単に悪魔にしつけられてんだ?お前ってばそんなにちょろいお手頃女だったのか?」

 

「無駄だ!この娘には貴様の声は通(誰がお手頃女だ!!しつけられているわけではないぞ!!)・・・うぅーむ・・・何たる鋼の精神・・・」

 

「今から俺が仮面に張られた封印を解く!そしたら一瞬でいい!バニルから支配権を取り戻し、仮面を捨てて投げ捨てろ!!」

 

「貧弱な貴様がこの娘の力を完璧に引き出した吾輩を相手にどうやってこの封印を解くのだ?(うむ、今の私は、誰にも負ける気はしない)フハハハハ!!この吾輩をねじ伏せて(この封印の札を)剝がすと(言うのなら)やれるものなら(やってみるがいい!!)やかましいわ!!!吾輩の決め台詞を持って行くな!!!」

 

バニルの味方になってしまっているダクネスの発言にカズマはどっちの味方なんだと言わんばかりの顔をしている。

 

「(スティールだ!きっとカズマお得意のスティールを使う気なのだろう!)」

 

「おい!お前手の内を教えてどうする!!?」

 

「カズマ!!私の後ろには私がついてるわ!!やっちゃいなさい!!」

 

アクアがついてるってだけで何かと不安が拭えないカズマ。

 

「おいダクネス!今回も賭けをしようぜ!もし俺が勝ったら、約束してたすんごい要求にさらにとてつもないことを出させてもらう!!」

 

「(ああ!!こ、この場面でそんな・・・!)こ、こら!甘言に惑わされるな!魔力を高め、スティールに耐える用意を!」

 

「ダクネス!バニルが動けないように抵抗しとけよ!」

 

「冒険者のスティールが通用すると思うか!」

 

「行くぞぉ!!」

 

「(来い!!)」

 

めぐみんたち全員がカズマのスティールが勝つか、バニルが耐えきるか、緊張した雰囲気でカズマたちを見守る。

 

「はああああ!!ティンダー―!!!」

 

「(んなっ!!?)」

 

『はっ?』

 

が、そんな期待を裏切るかのようにカズマはティンダーの火でバニルの仮面の札を燃やし尽くした。それには当然全員は目をきょとんとさせている。

 

「ふ・・・フハハハハ!(ああ!!ずるいぞカズマ!!卑怯者!!)まさかこの見通す悪魔をだまくらかすとはやるではないか」

 

「おいダクネス根性を見せろ!!今こそ仮面を外せ!!」

 

封印の札を解いた今がバニルとダクネスを引きはがすチャンス。ダクネスがバニルの仮面を引きはがそうとするが、全くビクともしない。

 

「は、外れない・・・!!」

 

「何っ!!?」

 

「カズマどうするの!!?もう撃ってもいいのかしら!!?」

 

「いや、アクアの魔法を撃っても、ダクネスの耐性で・・・」

 

どうすればいいのかと悩んでいると、ダクネスが口を開いた。

 

「(構わん、撃て。アクアの魔法が効かないのなら、このまま私もろとも、爆裂魔法食らわせてやれ)」

 

「た、確かにそれならバニルを葬れるかもしれないけど・・・でもそれは・・・」

 

「そうですよ!!無理です!!私の爆裂魔法は経験を重ね、以前よりも更なる高みに上りつつあります!いくらダクネスでも・・・」

 

強力になっためぐみんの爆裂魔法ではバニルどころか、ダクネスまで葬りかねないと言い張っている。

 

「(・・・バニル、わずかなひと時だが、共にいた時間は悪くなかった。だからせめて、選べ。私から離れて浄化されるか、共に爆裂魔法を食らうか)」

 

ダクネスは取り付いているバニルに問いかけている。そんなダクネスの問いかけにバニルは愉快そうに笑う。

 

「フハハ・・・破滅主義者にとってはまさに至高な選択である。吾輩の破滅願望がこのような形で実を結ぶとは・・・。吾輩とて汝への憑依は、中々に楽しかったぞ」

 

ダクネスより出された選択肢に、破滅願望者のバニルの答えは決まっていた。

 

「吾輩は悪魔である!敵対者である神に浄化されるなど、まっぴらだ!!」

 

バニルはアクアの浄化を選ばず、めぐみんの爆裂魔法による消滅を選んだ。

 

「(さあ!!めぐみん!やれ!!)」

 

「で・・・できません・・・」

 

「めぐみん・・・ダクネスの思いを無下にしないでちょうだい・・・」

 

「アカメ・・・」

 

めぐみんはやはり戸惑っているが、弱っているアカメがティアに支えられながらそう告げられた。ダクネスを信じて、双子は覚悟を決めたような顔だ。

 

「セナさん、もし万が一があれば、私たちが指示したってことで、あなたが証人になってください。牢屋に入るのも、甘んじて受けます」

 

「アカメさん・・・ティアさん・・・あなた方は・・・」

 

「・・・今回も、全責任は私たち双子がとります」

 

双子が決死の覚悟を決めたことで、カズマたちも覚悟を決める。それによって、めぐみんも苦肉ながら、爆裂魔法の詠唱を唱える。

 

「空蝉に忍び寄る叛逆の摩天楼・・・我が前に訪れた静寂なる神雷・・・時は来た!今、眠りから目覚め、我が狂気を以て現界せよ!!!」

 

ダクネスの足元に魔法陣が展開され、発動する前でも強力になっているのが見ていてわかる。そして、詠唱を唱え終え、めぐみんは爆裂魔法を放つ。

 

穿て!!!エクスプロージョン!!!!!!!!!

 

ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!

 

爆裂魔法はこれまで以上の火力で爆発し、ダクネスとバニルは大爆発の炎に、包まれるのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

あの後というもの、ダクネスはめぐみんの爆裂魔法により、瀕死の重傷を負い、大事にしていた鎧もなくなった。バニル自身も仮面が割れ、完全に消滅している。アクアの介抱によって、一命をとりとめ、今では普段通り、元気に歩き回れている。そして、ダクネスが元気になったところで、冒険者ギルドでは、カズマたちパーティによる、バニル討伐の際の感謝の授与式が行われていた。

 

「冒険者、サトウカズマ殿!これまでの貴殿の活躍を称え、感謝状を進呈します!」

 

騎士を2人引き連れたセナがパーティの代表者であるカズマに感謝状を贈呈した。感謝状を受け取ったカズマに全冒険者たちは純粋にカズマの功績を称え、拍手を送っている。

 

「続いて、ダスティネス・フォード・ララティーナ卿!今回の貴公の献身素晴らしく、ダスティネス家の名に恥じぬ活躍に対し、王室から感謝状並びに、先の戦闘において失った鎧に代わり、第一級技工士たちによる、鎧を送ります」

 

感謝状、並びに鎧を受け取ったダクネスはあまり落ち着かない様子でかなりそわそわとしていた。と、いうのも・・・

 

「おめでとうララティーナ!!」

 

「ララティーナ、よくやった!!」

 

「さすがララティーナだ!!」

 

「ララティーナー!!可愛いよララティーナー!!」

 

冒険者全員がダクネスのことを本名であるララティーナと呼び始めたのである。賭けでダクネスが泣いて嫌がるすごいこととは・・・本名であるララティーナという名を街の人間全員に広めたことである。

 

「・・・こんな・・・こんな辱めは私の望むすごいことではない・・・!!」

 

ダクネスは顔を真っ赤にしながら、泣きそうな顔を手で覆う。それにはめぐみんたちは笑いをこらえるのに必死である。

 

「ねぇダクネス、私はララティーナって名前はとってもかわいいと思うの。ララティーナの名前を面白半分に広めたカズマは後で叱っておいてあげるから、ララティーナって名前に自信を持って!」

 

「うええええええええええん!!」

 

無意識にダクネスを追いつめるアクアによってダクネスはついに泣き出してしまう。

 

「・・・続いて、ウェーブ盗賊団員、アカメ殿、ティア殿!貴殿らを魔王軍の関係者と疑った事を、ここに謝罪すると同時に、感謝状を進呈します!」

 

セナは最初に双子に向けていた敵対心のある顔ではなく、心からの柔らかな微笑で感謝状を双子に贈呈した。魔王軍の関係者があれほど身を犠牲にしてまで幹部を倒すはずがないという理由から、魔王軍のスパイ疑惑は完全に晴れることができた。

 

(やったね、お姉ちゃん!これで死刑に怯えずにすんだよ!)

 

(でも、私たち個人の疑いは晴れても、私たちの組織の方はまだ疑ってるでしょうね)

 

(それでも、私たちを認めてくれたってことは、多分だけど、政府の組織の見方も変わるはずだよ!カズマと一緒なら、きっと!)

 

(・・・ふふ、そうね。でもしばらくは、大人しくしてましょう)

 

感謝状を受け取って、2人でひそひそと話している間にも、パーティ全員に対する賞金授与が行われる。

 

「冒険者、サトウカズマ一行。機動要塞デストロイヤーの討伐における多大な貢献に続き、今回の魔王軍幹部バニル討伐はあなたたちの活躍なくばなしえませんでした。よってここに、あなたの背負っていた借金、及び、領主殿の弁償金を報奨金から差し引き、借金を完済した残りの分、金四千万エリスを進呈し、ここにその功績を称えます!!」

 

『おおおおおおおおおおおお!!!』

 

カズマたちの功績が認められ、カズマたちを含めた冒険者一同は大歓声を上げ、場が祝賀会へと空気が変わっていった。

 

「ふっ・・・浮かれていやがる・・・だが・・・そんな日があってもいい」

 

バーのテーブルで酒を飲みながら見ていた荒くれ者がふっと笑い、そう呟いた。これまでの全ての借金を返済することができ、自由という名の翼を手に入れたカズマたち。そんな中でも、双子とダクネスは、心から笑えないでいた。その理由は、やはりバニルである。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

祝賀会から離れ、双子とダクネスはウィズの店までやってきた。ウィズもまた、バニルと同じく魔王軍幹部の1人、その仲間に手をかけたという残酷な真実を伝えるために3人はやってきたのだ。

 

「バニルのことは私が報告しよう。ほんのひと時だったが、身体を共有し、暴れ回った仲だ」

 

「「ダクネス・・・」」

 

「エリス様に仕えるクルセイダーがこんなことを言ってはいけないだろうが・・・まぁ・・・嫌いな奴ではなかったよ」

 

哀愁が漂う雰囲気の中、ダクネスは意を決し、店の中へと入ろうとする。

 

「ウィズ、話したい事がある!」

 

ダクネスが店を開け、彼女を出迎えたのは・・・

 

「へいらっしゃい!!店の前で何やら恥ずかしいセリフを吐いて遠い目をしていた娘よ、汝に1つ言いたいことがある。まぁ・・・嫌いな奴ではなかったよ・・・とのことだが、我々悪魔には性別がないため、そんな恥ずかしい告白を受けてもどうにもできず」

 

「あれーーーー!!???普通に生きてる!!??」

 

あの時消滅したはずのバニルであった。普通にバニルが生きていたことにティアは思わずツッコミ、ダクネスは恥ずかしさで顔を赤らめて膝を抱えて蹲る。

 

「おおっと!!これは大変な羞恥な悪感情!!んー、美味である!お、どうした!膝を抱えて蹲って!よもや、吾輩が滅んだとでも思ったかハハハハハハ!!フハハハハハハ!!」

 

バニルはダクネスの羞恥を見て悪感情を食らいながら高笑いしている。そこへウィズが何食わぬ笑顔で出迎えてくれた。

 

「アカメさん、ティアさん、聞きましたよ!バニルさんを倒してスパイ疑惑が晴れたとか!おめでとうございます!」

 

「・・・ウィズ、なんでこいつ生きてんの?爆裂魔法を食らってぴんぴんしてるとか、どうなってんの?なんでこいつ無傷なのよ?」

 

「何を言う、そこの鎧娘に負けてすんごい腹立たしい気持ちになった双子の姉よ。あんなものを食らえば、さすがの吾輩も無傷でおられるはずがなかろう。この仮面をよく見るがよい」

 

アカメの尤もな疑問にバニルが自身の仮面の額に指をさす。そこには、『Ⅱ』という文字が刻まれていた。

 

「「・・・Ⅱ?」」

 

「残機が1人減ったので、二代目バニルということだ!!」

 

どうやらこのバニルは残機が減ったことによって二代目になったおり、初代とは違う存在とのこと。それには双子は声を揃えてこう言った。

 

 

ーなめんな!!!ー

 

 

バニルについてはウィズから話を聞くことにした双子。ダクネスは未だに顔をうなだれており、バニルは商品を並べている。

 

「バニルさんは魔王軍を辞めたがっていたのですよ。なので今のバニルさんは魔王城の結界の管理をしていません。なので無害なはずですよ」

 

「む、無害かなぁ・・・?」

 

「怪しさ満点なんだけど・・・」

 

ウィズがにこにこ笑っているので、信じたいところだが、バニルの胡散臭さを考えると、信じきれない双子。

 

「汝ら、砂漠の地よりやってきた義賊共よ。この見通す悪魔である吾輩が1つ忠告をしてやろう」

 

「「忠告?」」

 

「そう遠くない未来にて、汝ら双子はある選択を迫られるであろう。その選択を一歩でも間違えれば、汝らの関係は崩れ落ち、歪なものとなるであろう。気を付けることだ」

 

バニルの忠告に双子はわけわからんと言った顔になる。

 

「何言ってんのよ?もう十分に歪な関係でしょうよ」

 

「そうだよ。誰が悲しくてこんな姉と一緒に・・・」

 

「はあ?」

 

「ああ?」

 

お互いに発した言葉に双子は睨みあい、今にも殴り掛かろうとする雰囲気が出ている。

 

「そう捉えるのであればそれもよいだろう。とにかく吾輩は忠告したぞ。ゆめゆめ、忘れぬようにな。・・・それはそうと、同じ場、同じ商売を担う者として、仲良くやろうではないか。いい話が1つあるのだが・・・そのためには、貴様らの仲間の遠い彼方よりやってきた冒険者の小僧の協力が吉と出た。どうだ?乗っかってみる気は、ないか?」

 

バニルは胡散臭そうなことを言いながら、楽しそうに口元を笑みで歪めた。




お父さん、お母さん、お元気ですか?
私は元気です。
日々冒険者として頑張っています。
え?ぱ、パーティーメンバー?も、もちろんいるよ?
みんな仲のいいお友達だよ?
嘘じゃないよ?
だから心配いらないってば、本当に!

ゆんゆん

実際のところ・・・

ゆんゆん「・・・はぁ・・・友達欲しいな・・・」

そこへたまたますれ違ったミミィ。

ミミィ(・・・なんだろう、あの子・・・なんでか知らないけど、すごく親近感が湧いてくる・・・。・・・お近づきに・・・なりたいな・・・。あ、いや、でも・・・どうせこんなゴミが声をかけても、何あんた?みたいな反応になるに決まってる!!わかってるもん、そんなこと!私は嫌われ者だから・・・)

ゆんゆん・ミミィ「・・・はぁ・・・」

次回、この煩わしい外界にさよならを!


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鈍ら四重奏~ナマクラカルテット~
この煩わしい下界にさよならを!


季節は春になってきており、積もっていた雪も解けて、花も咲き誇っており、外は清々しい空気で覆っている。そんな中でカズマたちが住む屋敷の中で・・・

 

「いや~~~~!!!」

 

「こら!暴れんな!!ダクネス、足をしっかり持ちなさい!」

 

「ほら、アクア!そろそろ仕事に行くぞ!」

 

仕事に行きたがらず、駄々をこねているアクア。強硬手段としてアカメとダクネスがアクアの両手、両足を掴んで無理やり行こうとするが、アクアは必死の抵抗をしている。

 

「嫌よ!!外はまだ寒いんだもの!!どうしてそんなに外に出たがるの!!?」

 

「定期的に身体を動かさないと鈍るでしょうが。そんなこともわからないのこのバカは?」

 

「春先になるとモンスターが活発化するからこそ、冒険者の出番だ!」

 

双子のスパイ疑惑が晴れてからというもの、冬の時期はバニル討伐、及びデストロイヤー討伐報酬で借金をすべて返済し、お釣りとして四千万エリスを手に入れたがため、中々にクエストに出ることがなかったカズマたち一行。春になると同時に、煮えを切らしたダクネスたちがクエストに出ようと言い出したのが、全ての発端である。

 

「子供なの!!?あんたたち、外で遊びたがる子供と同レベルなの!!?そんなにお外に行きたいのなら、あんたたちだけで行ってきて!!」

 

「ああん!!?誰が頭の悪いクソガキですって!!?あんた、今すぐにでもここから落としてあげましょうか!!?」

 

「ひい!!?そこまでは言ってないでしょ!!?ちょ・・・やめて!!今落としたら頭をぶつけちゃう!!!」

 

アクアの放った言葉にオーバーに捉えて憤怒するアカメ。

 

「今のアクアの方が子供みたいだぞ!!このままでは・・・」

 

「「・・・あれみたいになるぞ(わよ)」」

 

アクアを抑えながら、アカメとダクネスはカズマの方をダメ人間を見るかのような顔で視線を向ける。

 

「ほらカズマ、クエストに行きますよ。外に出ないと爆裂魔法が撃てないじゃないですか」

 

「もう一カ月も外に出てないよ?このままだと、本当にデブになっちゃうよ?いいの?」

 

「・・・・・・」

 

めぐみんとティアもカズマを何とか説得しようとカズマに声をかけている。カズマは聞く耳を持たず、その場でじっとしている・・・"こたつ"に入った状態で。

 

「さ・・・さすがに私だってあれみたいになりたくないけど・・・でも!私を説得する前にまずあっちのダメな方をなんとかしてよ!!」

 

「だからそれはめぐみんとティアがだな・・・」

 

「おいお前ら・・・いくら温厚な俺でも怒る時は怒るぞ。さっきからなんだ、人の事をあれだとかデブだとかダメな方だとか・・・失礼だろ」

 

アクアたちの放った言葉に怒ったのかカズマは眉を顰めて文句を言っている・・・こたつに入ったままで。

 

「・・・文句があるのならまずそこから出てから言ってください」

 

「・・・・・・」

 

めぐみんに正論を言われたカズマはこたつから出ることはなく・・・むしろ顔までこたつに入ってその場をやり過ごそうとしている。

 

「はぁ・・・まさかこのこたつとかいう暖房ができた瞬間に、こんなことになるなんて・・・」

 

先日、バニルが双子に話していた儲け話とは、カズマのいた世界、日本の商品をこの世界で造り、世界中に大々的に売ることである。そのためにも、カズマの協力が必要だとバニルが言ったのだ。カズマが日本の商品を開発するだけで量産体制と販売ルートはバニルが確保してくれるのだという。その計画の手始めというのが、このこたつである。全ての事情を知ったカズマは迷わずにこれを承諾し、こたつを造り上げて、現在に至るのだ。

 

「カズマの国の暖房器具が優秀なのは理解できました。でも、そろそろ活動を再開しましょう?」

 

「そうだよカズマ。このまま引きこもってたらカズマのためにならないよ?ほら、いい加減出て・・・」

 

「フリーズ」

 

カズマをなんとか引っ張り上げようとティアがこたつの布団をめくりあげた瞬間、カズマは手を動かし、ティアの首に巻いてるマフラーの隙間を狙ってフリーズをかけた。しかも、後ろ側なので隙間など見えないはずなのに、器用なものである。

 

「にゃあああああああ!!!???」

 

フリーズの冷たさを首に感じたティアはそれによって足のバランスを崩してしまい、すっころんでしまう。

 

「はあああ~・・・」

 

「なっ!!?この男反撃してきましたよ!!?」

 

「ちっ・・・何やってんのよ。ダクネス、アクア抑えておきなさい」

 

「あ、ああ・・・なんだかティアが羨ましいぞ・・・」

 

ゴチンッ!

 

「いった!!?今手を放した!頭を打つってわかっておいて放したんですけど!!」

 

自分の妹の不甲斐なさを見てアカメは舌打ちをしてアクアの手を放してカズマの元まで近づく。その際、手を放されたアクアはそのまま床に頭をごちんとぶつけて痛そうにしている。

 

「ちょっとヒキニート、いつまでそうしているつもりよ?痛い目にあいたくなかったらさっさとそのこたつから・・・」

 

「クリエイト・アース&ウィンドブレス」

 

アカメがこたつをめくった瞬間、カズマはクリエイト・アースで砂を作り、すぐさまウィンドブレスでアカメの顔に砂を当てる。

 

「ぎゃああああああああ!!!???目が!!目がああああああああ!!!」

 

砂がアカメの目にも直撃し、床に倒れこんでのたうち回る。

 

「ちょ・・・カズマいい加減にしてください!これ以上抵抗しないで、大人しく・・・」

 

「ドレインタッチ」

 

今度はめぐみんがカズマを引っ張り出そうとした時、めぐみんの手首を即座に掴み上げ、ドレインタッチで魔力を吸いあげるカズマ。

 

「うああああああああああ!!??」

 

ゴチンッ!

 

「いったい頭が・・・あぁ・・・」

 

魔力を取られためぐみんは床に倒れこみ、その際に頭をぶつけて痛がってのたうち回る。抵抗したカズマは頭だけひょこっと出し、にやりと笑った。

 

「この俺を甘く見るなよ・・・魔王軍の幹部や数多の大物と渡り合った、カズマさんだぞ。もっとレベルを上げて出直してこい!」

 

「うわぁ・・・カズマさんがどんどん小技を使いこなして厄介になってるんですけど・・・」

 

「3人とも・・・楽しそうだな・・・」

 

そんな調子に乗っているカズマのこずるい抵抗にアクアはドン引きしており、被害にあっている3人を見てダクネスは頬を赤らめながら若干交ざりたそうに興奮している。

 

「くぅ・・・いくら戦闘能力がなくても、そんな威力弱々な魔法で私をどうにかできるとでも・・・」

 

「フリーズ」

 

「にぃいいいいいいいいい!!?」

 

「この・・・クズ野郎が・・・小賢しい手を使って・・・絶対ぶちのめして・・・」

 

「クリエイト・アース&ウィンドブレス」

 

「ああああああ!!!目がああああああ!!!」

 

「我が魔力を勝手に奪うなど・・・万死に値して・・・」

 

「ドレインタッチ」

 

「あああああああああ!!!」

 

被害にあった3人は諦めずに何度もカズマに向かっていこうとしても、こずるいカズマは先ほどと同じ方法で3人を撃退している。

 

「ぐっふっふっふっふ・・・今の俺は誰が相手でも負ける気がしない・・・大人しく負けを認めてさっさと・・・」

 

カズマがゲスな笑みを浮かべながらいやらしく手をくねくねしていると、途端に表情が変わった。心なしか冷や汗もかいている。

 

「「「?」」」

 

「おい・・・緊急事態だ・・・虫がいい話だというのはわかってるが、ここは1つ一時休戦しよう。悪いんだが、このままこたつのマットを持ってトイレの前まで運んでくれないか?」

 

「「「・・・・・・」」」

 

どうやらカズマは尿が近くなっているのだが、こたつから出たくないがためにそんなことを言いだした。それを聞いた被害者3人はジト目でカズマを見る。するとめぐみんはすっと立ち上がってこたつまで近づき、テーブルの上で寝転がっているちょむすけを持ち上げる。

 

「ちょむすけ、こっちへ」

 

「なーう」

 

ちょむすけを持ち上げた後、めぐみんはそのままこたつから離れ、めぐみんとちょむすけが離れた次は双子が近づき、カズマまで近づき、こたつのマットを持ち上げる。

 

「あれ?意外と素直だな・・・」

 

意外に聞きわけがいいとカズマが思った矢先・・・

 

「この男はこのままこたつごと外に捨ててしまおっか」

 

「そうしましょう。アクア、ダクネス、窓を開けなさい」

 

「!!!??や、やめろおおおおお!!!助けてやった恩を仇で返すとか、お前らには人の心がないのかよ!!??」

 

双子はカズマをこたつごと捨ててしまおうと会話をしている。焦ったカズマはこたつにこもったまま抗議しようとするが双子は聞く耳を持たない。その間にダクネスとアクアは窓を開け、カズマを捨てる準備をしてる。

 

「お姉ちゃん、せーので投げるよ?」

 

「お、おい、ちょっと待て!や、やめ、やめろ・・・」

 

「「せーの!!」」

 

ぽーい

 

「いやははーーーーーーーー!!!!!!」

 

息の合った双子は力いっぱいこたつごとカズマを窓に放り投げ、カズマはこたつと一緒に遥か彼方へと飛ばされてしまった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

いい加減観念したのかカズマとアクアはクエストを受けに外を出ることになった。春先になったとはいえ、やはり冬の名残が残っているのか、外はまだ冷たい風が吹いている。

 

「うぅ・・・やっぱりまだ寒い・・・」

 

「あぁ・・・暖炉・・・ソファ・・・」

 

「私だって寒いの嫌なんだから言わないでよ・・・」

 

「寒いのはみんな一緒よ。うだうだ言ってんじゃないわよ」

 

寒くてぶつぶつと文句を言っているカズマとアクアに双子は若干イラつきを見せる。まるで寒いのを我慢してるから文句言うなという雰囲気である。

 

「なぁカズマ、なぜこの通りへ?」

 

「そうですよ。ギルドはこっちじゃないですよ」

 

すると、自分たちが歩いている道のりがギルドの道のりじゃないのに疑問を抱いていたダクネスがカズマに尋ねてきた。そう、カズマたちが歩いている道のりの先には武器屋があって、ギルドとは違う道のりである。

 

「ふっ・・・俺がただこたつでぬくぬくしていただけと思うなよ?俺もそれなりの準備はしていたんだよ」

 

そう、カズマはただこたつで引きこもっていたわけではなかった。実はカズマは事前に鍛冶屋の店主に新しい武器、鎧を作るように依頼をしていたのだ。本当に物は言いようだが、カズマは武器が出来上がるまでの間、英気を養っていたのだ。そう話している間にもカズマたちは鍛冶屋にたどり着き、中に入る。

 

「ちーっす!」

 

「らっしゃい!!」

 

武器屋の中に入り、カズマたちを出迎えたのはこの鍛冶屋の店主だった。

 

「おっちゃん、できた?俺の刀できた?」

 

「おう、そのかたな?とかいう剣は一応できてるぞ。お前さんの言われた通りの形にしたんだが・・・ほらよ」

 

「おおおおおお!!」

 

鍛冶屋の店主が取り出した剣はカズマのいた日本でいうところの日本刀だった。さすがに本物とは異なるが、見た目も刀だし、何よりこの世界にはない刀を手に入れられてカズマは十分満足である。

 

「へぇ・・・面白い形の剣じゃない。切れ味もよさそうね」

 

「いいだろう?俺の生まれ故郷では、刀って言うんだぜ」

 

「か、かたな?また難しいものを・・・」

 

「焼き入れだのなんだのと技術のことはさーっぱりわからなかったが、まぁ、それなりにおもしろい仕事だったよ」

 

みんなはカズマの手に入れた刀を興味津々な眼差しで見つめている。鍛冶屋の店主も苦戦はしたが、楽しい仕事だったようでいい笑みを浮かべている。

 

「ほう・・・それがお前さんの、新しい相棒か・・・」

 

「新しい相棒・・・(イケボ)」

 

たまたま鍛冶屋に居合わせた荒くれ者の言葉にカズマは無駄にかっこつけて反応する。

 

「カズマ、いつの間にそのかたな?という剣を?」

 

「前にこのおっちゃんに鍛冶スキルを習得させてもらったことがあってさ・・・」

 

「ああ、例の儲け話に必要だって言ってたあれかしら?」

 

「そうそう。そのついでに俺の装備も一式新しくしようと思って、依頼しておいたんだよ」

 

「へぇー・・・ただぐうたらしてたわけじゃなかったんだ」

 

一応は冒険者としての稼業を忘れていないカズマはちゃんと用意くらいはしてるみたいなことを言っている。さっきまでこたつでのんびりしてた人間が言っても、あまり信憑性はないが。

 

「後はこの札に銘を付けて貼れば完成だ。精々立派な名前を付けてやんな。それと・・・例のあれも完成してるぜ」

 

鍛冶屋の店主は武器に名前を付けるための札をカズマに渡した後、メインとなるものの置き場所に案内する。メインなるものには布が被せられてある。店主が布を外すと、そこには緑色が結構目立っている立派な鎧があった。

 

「おおおおおおおおおお!!!!」

 

「こっちがフルブレートメイルの装備だ。この街の冒険者にしては、かなり上等の部類の装備になる。大事に着ろよ?」

 

「おおお、これだよこれ!!俺が本当に欲しかったのは!!」

 

フルブレートメイルの鎧を目の当たりにして、カズマは本当に心躍るようにテンションが上がっている。

 

「ふっ・・・俺は今、新たな勇者の誕生に、立ち会ってるのかもしれないな・・・」

 

荒くれ者はカズマを見てふっと笑みを浮かべて鍛冶屋を後にしたのであった。

 

 

ーこのすば・・・(イケボ)ー

 

 

カズマはさっそく手に入れたフルブレートメイルの鎧を着込んで、それをアクアたちにお披露目をした。

 

「「「「「おおおお!」」」」」

 

鎧姿のカズマは意外にも似合っており、まるで本物の騎士なのではないかと見間違うくらいにかっこよさが纏っていた。このカズマの姿にアクアたちは感心の声を上げる。

 

「ふむ・・・馬子にも衣裳って奴ですね」

 

「これほどの鎧は我々クルセイダーでもなかなか装備できないぞ」

 

「カズマ、ちょっと剣を構えてみてよ」

 

アクアがそんな注文をすると、カズマはそれに応えるべく、動こうとするが・・・

 

「・・・ふん!!!!」

 

ガシャガシャガシャガシャ!!!

 

「・・・カズマ?何やってるの?早く剣を構えてよ」

 

「ふんぬ!!!!」

 

ガシャガシャガシャガシャ!!!

 

さっきからガシャガシャ音がするだけで、カズマ自身は全く動けていなかった。

 

「・・・ふっ・・・一流の戦士は、無理に技を見せたりしないもんさ・・・」

 

「何格好つけてんのよ。ただ重くて動けないだけでしょ?」

 

「・・・はい、そうです・・・」

 

どうやら重さ的には鎧の方が何倍も勝っており、非力なカズマでは動くことはおろか、持ち上げることすら叶わないようなのである。

 

 

ー誰か背中の金具を外して・・・ー

 

 

みんなの協力もあって、ようやく鎧を外すことに成功したカズマ。持ち運ぶことができない鎧はここに置いていって、持って行けるのは手に入れた刀だけ。

 

「ま、まぁ・・・無理に高望みせず、身体に馴染んだ装備が1番だよ・・・」

 

「・・・まぁ・・・武器を新調できただけでもよしとするか・・・」

 

思っていたのと違う展開だったが、武器を手に入れただけでもプラスと考えたカズマは気を取り直して刀を腰に装備して、緑のマントをなびかせる。

 

「よろしく頼むぜ、相棒!」

 

カズマはどことなくかっこいい雰囲気を纏わせて、意気揚々と鍛冶屋の外を出ようとする・・・

 

カツーン・・・

 

ガッシャ――――ン!!!!

 

刀の鞘が大剣に当たってしまい、数多くの大剣が雪崩のように崩れてきた。

 

「!!?あああ!!?すみませんすみませんすみません!!!」

 

カズマは慌てて謝罪しながら、剣を元あった位置に戻していく。時間をかけて、ようやく初期の状態に戻した。

 

「じゃ・・・じゃあ・・・ありがとなー・・・」

 

気を取り直して、カズマにかっこいい雰囲気を纏わせて、意気揚々と鍛冶屋の出口の扉を開ける。そして、かっこよく外に出ようとする・・・

 

ガコンッ!

 

「あ・・・」

 

ガコンッ、ガコンッ、ガコンッ・・・

 

刀が長すぎて、鞘が扉に何度も何度も当たってしまい、外に出ることができなかった。みんなの力を合わせて、ようやく外に出ることができて、カズマが一言・・・

 

「・・・思ってたのとちがーーーーう!!!!!」

 

思い通りの展開にならなくて、カズマは思わず刀を地面に叩きつけてしまう。

 

 

ーこのすばーーーー!!!!(怒)ー

 

 

カズマの武器を手に入れ、ようやくギルドにたどり着いた。ここでクエストを受ける前に昼食をとろうとしたが、カズマは不貞腐れた状態で、食にはありつけていない。

 

「・・・ずいぶん小さくなりましたね、相棒・・・」

 

「うるさいなぁ!!!」

 

そう、武器を手に入れたはいいが、刀が長いため、急遽カズマでも扱えるくらいのサイズにまで調整したのだ。そのため、現在刀は忍者刀みたいに小さくなったのだ。

 

「うぅ・・・せめて名前くらいかっこいいものをつけてやりたいとこだが・・・」

 

カズマは刀に付ける名前を首を捻りながら真剣に考える。その様子をアスパラを素早く噛んで食べながら見つめるめぐみん。

 

「おーい、カズマー!めぐみーん!」

 

「いいクエストが見つかったわよ。早く来なさい」

 

そこへ手ごろなクエストを見つけた双子たちがクエストボートの前で2人を待っていた。一旦食事を中断させ、カズマたちはアクアたちと合流し、今回受けるクエストの内容を聞きに受付まで足を運ぶ。今回双子たちが選んだクエストは討伐クエスト。討伐対象はリザードランナー。

 

「リザードランナーと呼ばれるモンスターなのですが、繁殖期に入り、姫様ランナーにオスたちが集まり、多大な群れを形成し、姫様ランナーを賭けて勝負を始めているのです」

 

「勝負って?」

 

「走るんです。大群で進路上の何もかもを巻き込んで走り回り、1番早いオスが王様ランナーとして姫様ランナーとつがいになるのです」

 

「それはまた・・・はた迷惑な・・・」

 

姫様ランナーとつがいになるためにオスのリザードランナーが何もかもを巻き込んでまで走りで勝負を繰り広げようとする習性にモンスターについて何も知らないカズマは若干引いている。

 

「今回のクエストはこのリザードランナーの討伐です。何せ数が多いので、大変かと思いますが・・・」

 

ルナが言葉を紡ごうとした時、カズマがかっこつけて人差し指でルナの唇を触れる形でそれを止める。顔もそれとなくかっこつけている。

 

「大丈夫。どんな敵であろうと、俺とこいつの敵じゃありませんよ。そうだろう?えーっと・・・菊一文字にしようか・・・小烏丸・・・」

 

「ちゅんちゅん丸」

 

カズマが刀の名前を何にしようかと悩んでいると、突然めぐみんが意味不明な単語を出した。意味不明な単語にティア以外のメンバーは冷めた顔つきになっている。

 

「・・・今なんて?」

 

「ちゅんちゅん丸と言いました。その剣の名前はちゅんちゅん丸です」

 

どうやら刀の名前を言っていたようだが、当然ながらカズマはそれには断固反対である。

 

「そんな奇妙奇天烈な名前つけられるか!俺の相棒として、ここはぜひとかっこよく、俺の納得のいく名前を・・・」

 

反対していたカズマが刀を見てみると、すでに刀の房には例の札が張られており、札にはこの世界の文字でちゅんちゅん丸と書かれている。そして、札は房の一部となり、ちゅんちゅん丸の文字が房に刻まれた。

 

「ああああああああああああああ!!!????」

 

「今日からその剣の名前はちゅんちゅん丸です」

 

「お前何してくれてんだああああああああああああ!!!!!!!」

 

刀に不名誉な名前を勝手につけられてしまったカズマはその張本人であるめぐみんの両頬をつねっておしおきをした。

 

 

ーこのすばぁ!!!!(怒)ー

 

 

準備を終えたカズマたちはリザードランナーが現れるという草原までやってきた。双子たちはリザードランナー出現に備えて、事前に準備運動をしている。そんな中で、ちゅんちゅん丸と名付けられた刀を持ったカズマはわかりやすいくらいに落ち込んでいる。

 

「あのなぁ・・・万一この刀で魔王を倒そうもんなら、伝説の勇者の聖剣、ちゅんちゅん丸とかプレートに書かれて博物館に展示されちゃうんだぞ・・・勘弁してくれ・・・」

 

「せっかくかっこいい名前を付けてあげたのに何が不満なのですか?」

 

「はいはい、そういうのは後々。カズマも急いで準備してよ」

 

「うーい・・・はぁ・・・テンション下がるわー・・・」

 

ティアに急かされてカズマも準備を行うが、いまいち覇気がなかった。よほどにショックだったのだろう。

 

『討伐クエスト!!

リザードランナーの群れを討伐せよ!!』

 

木の上に待機しているカズマはいつまでも落ち込んでいてはと思い、気を引き締め直す。

 

「みんな!用意はいいな?」

 

「こっちはいつでも大丈夫よ!」

 

「こっちもトラップはオッケーだよ!いつでも発動できる!」

 

「アクアに支援魔法をかけてもらったし、これなら何匹だろうが耐えられる!」

 

「撃ち漏らした時は私に任せてください。皆まとめて吹き飛ばしてあげますよ」

 

「それでも逃したのなら私に任せなさい。1匹ずつ、根絶やしにしてやるわ」

 

アクアたちも準備万端のようで、気合が入っている。

 

「よし!作戦のおさらいをするぞ!まず、俺が王様ランナーと姫様ランナーを狙撃(イケボ)する。その2匹さえいなくなれば、リザードランナーの群れは解散するそうだから残された雑魚は放っておく。狙撃(イケボ)に失敗してこっちに襲ってきたらダクネスが耐えてる間にアカメが姫様ランナーを大技で仕留め、俺が王様ランナーを狙撃(イケボ)する。それさえ失敗したなら囲まれる前にティアが事前に仕掛けたトラップを発動させて、動けなくなったところをめぐみんの爆裂魔法でまとめてぶっ飛ばし、撃ち漏らした奴をアカメと俺がまとめてそれを撃破。アクアは全体の援護を頼む」

 

今回の作戦を十分に理解したメンバーは首を縦にうなづいた。

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

カズマが弓を構えて待機していると、草原の奥地で何かが走っているのが見えてきた。その何かとは、エリマキトカゲが直立して走っている姿であった。このモンスターこそが、今回の討伐対象のリザードランナーだ。そのリザードランナーの中で1匹だけ色が違うのもいるため、これを見ただけで色違いが姫様ランナーであることがすぐにわかる。

 

「あいつが姫様ランナーなのはわかったが・・・どれが王様なんだ?」

 

一番の難題はやはり王様ランナーである。リザードランナーは姫様ランナー以外はみんな同じなのでどれが王様なのかが見分けにくいのだ。

 

「なあベテランの双子、どれが本物の王様なんだ?」

 

「そうだなぁ・・・王様ランナーって言ってもどれも同じだし・・・」

 

「やっぱり見分けられる方法って言ったらメストカゲのすぐ後ろにいる1番早い奴じゃないかしら?」

 

「さすが双子、長くやってきた経験は裏切らないな!そうなると・・・」

 

双子の王様の見分け方を聞いたカズマは姫様ランナーの後ろにいる王様はどれかと見分けようとした時、アクアが余計なことを言いだした。

 

「あ!いいこと思いついた!群れで1番早いのが王様なら、モンスター寄せの魔法であいつらを呼んで1番に着いたのが王様よ!!」

 

「は?おい、アクア!!お前いったい何を言って・・・」

 

「フォルスファイアー!!」

 

アクアは余計なことを思いつき、モンスター寄せの魔法、フォルスファイアで小さくてよく光る火の玉を上空に放った。別の方向を走っていたリザードランナーは立ち止まってじっとその火の玉を見つめる。すると・・・

 

『キシャーーーーーーーー!!!!!』

 

急に怒りだしてすぐさまカズマたちの方へと走ってきた。そのスピードはさっきまでとは比べ物にならないくらいに速くなっている。

 

「「「「速っ!!!!????」」」」

 

リザードランナーの急なスピードアップにめぐみんたちは驚き、この原因を作ったアクアにカズマは怒鳴る。

 

「このクソバカ!!!!毎度毎度問題を起こさないと気が済まないのかお前は!!!王様と姫様さえこっそり討ち取れれば、無力化できるのに、なんでわざわざ呼び寄せるんだぁ!!?」

 

「!!!な、何よいきなり!!私だって役に立とうと思ってやってることなんだから怒んないでよ!!どうせこの後の展開なんていつものことでしょ!!?きっとあのランナーたちにひどい目に合わされて泣かされるんでしょ!!?わかってるわよ!!!いっつものことよ!!!さあ!!殺すなら殺しぇえええええええ!!!!!」

 

自分の失態に言われて気づいたアクアは逆ギレをして寝転がって地団太を踏んで泣きわめいている。この姿もいつものことである。

 

「そんなところで寝るな!!本当に踏まれて死ぬぞ!!」

 

カズマはリザードランナーの中にいる1番早い王様ランナーを見つけ出して狙撃で狙い撃った。矢は1番早いリザードランナーにヒットした。

 

「やったか!」

 

・・・が、リザードランナーたちの勢いは止まらない。というか、より凶暴化している。

 

「!!?お、おい!どうなってんだ!!?王様っぽいの倒したのに、より凶暴になってるんだけど!!?」

 

「言い忘れてたけど、王様を先に倒したって他のオストカゲ共が次の王様になろうと躍起になるから、潰すなら先に姫様を潰さないと意味ないわよ」

 

「先に言えよ!!!」

 

どうやらいくら王様ランナーを倒したところで姫様ランナーを倒さない限り、また新しい王様ランナーが誕生するらしい。

 

「大丈夫!あいつらはもうすぐで私が仕掛けたアーストラップの領域に入るよ!それであいつらの動きを封じられる!」

 

「よ、よし!それならまとめて爆裂魔法で吹っ飛ばせそうだし、アクアの失敗だって取り戻せ・・・」

 

そう話している間にもリザードランナーたちはティアが仕掛けた設置型スキル、アーストラップがある個所を踏んだ。それと同時にリザードランナーたちの両サイドに巨大な網が出現する。網がリザードランナーたちを覆いかぶそうとした。

 

『キシャ―――――!!!!』

 

が、アクアのフォルスファイアーでそうとう気が立って速くなってるのか、リザードランナーたちは覆いかぶさる前に通り抜けていき、罠にかかったのは真後ろにいた一部のリザードランナーたちだ。残ったリザードランナーたちは予想よりもかなり多く残っていた。

 

「も、漏れてるじゃねーか!!!!」

 

「ちょっとあんた何やってんのよ!!あんだけの数が残ってたら私が攻撃できる余地なんてないじゃない!!」

 

「な、何さ!!仕方ないじゃん!!アクアが余計なことしたせいであいつら速くなってるんだもん!残ってたってしょうがないじゃん!!!」

 

「開き直るなこのバカ妹!!!」

 

「後ろ見たってしょうがないじゃんこのダメ姉!!!」

 

「ああ、もう!!!お前らこんな時にまで喧嘩するなぁ!!!!」

 

リザードランナーを何十匹も取り逃がしてしまい、それが原因でいつもの双子の喧嘩が始まってしまう。こんな時まで喧嘩をする双子に頭を抱えるカズマ。

 

「ふっふっふ、あれだけの数が何です!私の前では無力と化す!!」

 

「おお、めぐみん!!」

 

かなりの数が残っていてもめぐみんは堂々としている。それには頼もしさを感じるカズマ。

 

「わっはっはっはっは!!我が爆裂魔法を食らうがいい!!エクスプロージョン!!!」

 

めぐみんは向かってくるリザードランナーたちに向けてエクスプロージョンを放とうとする。

 

・・・しーーん・・・

 

が、いくら待てどもめぐみんから爆裂魔法が放たれることはなかった。

 

「!!??魔力があ!!!???カズマ、爆裂魔法を発動するための魔力が足りません!!!」

 

「はあ!!??なんでこんな時に・・・」

 

「・・・あ、そういえばカズマがこたつに引きこもってた時・・・」

 

「・・・あ、あんた確かめぐみんにドレインタッチしてたわよね?」

 

「!!!!俺のせいかあああああああああああ!!!!!」

 

めぐみんの魔力切れの原因は今朝の引きこもり騒動でカズマがドレインタッチで魔力を吸収し、それを返却してなかったことにあった。爆裂魔法が撃てない無力なめぐみんはすぐさま近づいてくるリザードランナーから逃げていく。

 

「はははははは!!!来い!!!!」

 

「おお、ダクネス!!」

 

そんなリザードランナーたちに立ちふさがるようにダクネスが前に出る。近づいてきたリザードランナーたちを受け止めようとするが・・・

 

ドドドドドドド!!!!

 

「ぎゃあああああああああ!!!!」

 

リザードランナーの数が多すぎて受け止めるどころか逆に群れたちにもみくちゃにされている。

 

「わあああああ!!??カズマさん!!?カズマさ・・・」

 

ドドドドドドド!!!!

 

ついでといわんばかりに未だに寝転がっていたアクアも巻き込まれ、走るリザードランナーたちに何度も何度も踏まれた。

 

「だ、ダクネス!もうちょい耐えてくれ!今こいつらの親玉を仕留めるから!」

 

「お、お構いなく!!ゆ、ゆっくりでいいぞ・・・あふん♡」

 

正常運転なダクネスは置いておいて、カズマは周りを走っているリザードランナーたちの群れの先頭にいる姫様ランナーに狙いを定めて弓を構える。

 

バッ!!

 

だがカズマが自分を狙っているのに気が付いたのか姫様ランナーは持ち前の脚力で空高くジャンプし、カズマに向けて跳び蹴りを放とうとする。それを確認したカズマはすぐに姫様ランナーに狙いを再び定めて狙撃を放った。

 

「狙撃!!」

 

放たれた矢は見事に姫様ランナーの額に直撃。これによって討ち取られた姫様ランナーは体制を崩し、重力に従って落ちてゆく。

 

「・・・ふっ、紙一重だったな・・・ん?」

 

だが姫様ランナーが落ちていく先は、カズマがいる木の上だ。

 

ドシー――ンッ!!

 

姫様ランナーは木の上に落ちていき、直撃したその振動によって木は強い揺れを起こした。

 

「おわぁああああ!!?」

 

ズリッ!!

 

「あ・・・」

 

この揺れによってカズマは足のバランスを崩して地へと落ちていく。そして・・・

 

ズシャッ!!グキリッ!!!!

 

頭から着地してしまったカズマは案の定、首が変な方向に曲がり、嫌な音がカズマの首から出てきてしまった。

 

「か、カズマ!!?大丈夫ですか!!?」

 

「ちょ・・・しっかりしなさい!!傷はきっと浅いわよ!!」

 

「あ、アクア!!カズマが変な体勢で落ちちゃった!!回復魔法を!!」

 

めぐみんたちはすぐさまカズマの安否を確認しようとするが、カズマの視界はもう真っ暗になっていた。

 

 

ーこのすば・・・(泣)ー

 

 

カズマが目を開けてみると、そこに広がる光景は以前見たことがある神殿らしき場所だ。そして、カズマの目の前には、以前カズマを現世への扉を開かせ、蘇生させた女神エリスと自称死者の世界の住人、マサヒロこと伊藤勝広がいた。これを表す意味は、カズマは首の骨が折れて、再び死んでしまったのだ。

 

「・・・あそこで死んだ日本人がまたここに来るのも驚きだけど、今回の死に方は本当にマヌケだったな・・・」

 

「・・・あの、カズマさん、気を付けて生きてくださいね?以前規約を曲げて生き返らせたとき、すごく苦労したのに・・・」

 

「・・・すいません、今回に関しては両方とも、何も言えません」

 

マサヒロはカズマに同情的な視線を向けており、エリスは困ったような表情をしている。2人の言っていることは両方事実なので何も言えないカズマ。

 

「はぁ・・・冒険者というお仕事をしてらっしゃるのですから、危険が付きまとうのはわかりますが、今回は油断しすぎですよ」

 

「えっと・・・俺が死んだ後、みんな大丈夫でしたか?」

 

「ああ、お前ら確かリザードランナーたちの討伐してたんだっけか」

 

カズマは死んでもなお仲間たちが心配なのか気になってエリスに仲間たちの安否を確認する。

 

「ええ。あんなところに寝ころんでいた先輩はトカゲたちに踏まれたり蹴られたりして途中で泣いていましたが、ダクネスが耐えている間に姫様ランナーを倒された群れは解散してしまいました。めぐみんさんもダクネスが守っていたおかげで無事です。アカメさんもティアさんも、持ち前の速さで逃げ切れていたので同じく無事です。今は先輩があなたの体を修復してくれています」

 

「そうですか・・・よかったぁ・・・」

 

アクアたちの安否を確認できたカズマはほっと安心する。

 

「まぁ、そういうことならこのまましばらく待たせてもらっていいですかね?」

 

「構いませんけど・・・ずいぶん落ち着いていますね」

 

「まぁ・・・この展開もいい加減何度か経験してますし・・・」

 

「わかる・・・すごくわかる・・・」

 

これまで何度も理不尽な展開やお約束の展開に相まみえて慣れてきたカズマは苦笑を浮かべている。マサヒロはあの世界の苦労人としてか、深く同意している。するとカズマは何もないこの場所に逆にそわそわしている。

 

「そ、それにしても、こんな何もない部屋でずっといて退屈なんじゃ・・・」

 

「前までの冒険者稼業が、いろいろトラブルの連発だったからな。むしろ、何もなくて逆に落ち着くんだよ・・・」

 

「さいですか・・・」

 

生きていた際に、マサヒロはやたらと苦労していたのか、彼の目はどことなく遠くを見るような目をしていた。よほど大変な目にあったのだろう。

 

「え、エリス様は?」

 

「私が退屈しているということは、それだけ皆さんが元気でいるということ・・・暇に越したことはありませんからね」

 

エリスの微笑を見て、カズマは胸がきゅんときた。ここ最近、カズマは異世界生活に何かが足りないと思っていたのだ。正直な話、アクアや双子、めぐみんもダクネスも見てくれは悪くない。それこそ、美人とか、かわいい子とかいえるほどに。ただ、中身が残念すぎて、それをぶち壊してしまっているのだ。カズマが求めているのは、色物ではなく、優しくて常識のある女子、それだけなのだ。

 

「実はですね、私はずっとここにいるわけではないのですよ。たまに地上にこっそりと遊びに行ったりもしているんです。このことは・・・内緒ですよ?」

 

以前エリスが見せてくれた茶目っ気たっぷりの笑みにカズマは本当に心の奥底からエリスにたいしてきゅんきゅんしている。

 

(おお・・・かなりそそられる・・・!俺が求めているのはこれだよ・・・。・・・それゆえに・・・)

 

カズマは自分とエリスの間にいるマサヒロに視線を向ける。

 

「どした?」

 

(羨ましすぎる!!!!まぁ、こいつは奥さんがいたらしいから?エリス様をヒロインとして見てないかもしれない。けど・・・けど・・・あのろくでもない世界でいい女と結婚できてなお!!!!16年間もエリス様と同じ空間を共有しているこいつが羨ましすぎる!!!!ちくしょう!!!なんでダメ人間のこいつばっかりいい思いをしてるんだ!!!俺と変われよそこ!!!!)

 

16年もこの場所におり、エリスと同じ空間にいるマサヒロを非常に妬ましく思っているカズマ。心なしか歯ぎしりがぎりぎりとしている。そこまで考えるとカズマはイライラが溜まってきた。

 

『カズマー。カズマ聞こえるー?リザレクションかけたから、もうこっちに帰ってこられるわよー?エリスに門を開けてもらいなさーい』

 

「・・・ちっ!」

 

マサヒロのせいでイライラが溜まったからエリスと話してストレス解消しようと思った矢先にアクアの声が聞こえてきて、カズマは舌打ちをする。

 

「もうちょっと後でいいよー。エリス様といろいろ話とかしたいし、俺の体を大事にとっといてくれー」

 

どうせすぐ別れるならせめてエリスともうちょっと話がしたいと考えているカズマはアクアにそう言った瞬間、アクアはすぐに反論した。

 

『はああああ!!?ちょっとバカなこと言ってないで早くこっちに帰ってきなさいよ!!さっさとレベル上げして私を天界に返すために魔王をしばいてきてちょうだい!!!』

 

「うるさ・・・女神とは思えないやかましさ・・・さすがクズのアクシズ教徒の女神様だ・・・」

 

『ちょ・・・今誰か私の宗教をクズって言ったの感じたんですけど!!?まさかそこに他に誰かいるの!!?ねぇちょっと、カズマ!!!エリス!!!そこに他の奴がいるの!!?ちょっとそいつ出しなさいよ!!!今私がしばいてやるわよ!!!」

 

「なんつー直感だ・・・俺の声は聞こえてないはずでしょ?」

 

「そのはずなんですが・・・」

 

マサヒロの言葉は聞こえてないが、直感で悪口を感じ取ったのかアクアはかなり怒っている。そんなアクアにマサヒロはかなり引き気味だ。

 

「・・・魔王、か・・・」

 

アクアがマサヒロの存在に注目している間にもカズマはアクアが言った魔王という単語に急に目のハイライトが消えた。生き返ってもアクアたちと苦労しながら魔王退治と無茶な課題をさせられるのだろうかと考える。このまま外に出たってカズマが不思議な力に目覚め、都合よく魔王を倒せるかなんてそんな都合のいいことは世知辛い世界には甘くない。生き返ってもこれからも何度も何度も死ぬのだろう。それと同じように得られる物は何がある?いや、ないだろうとカズマは考える。もう魔王討伐は無理だろうという考えさえ出てきているカズマ。

 

「なぁカズマ、あれなんとかしてくれ。さっきから俺を出せ出せってお前んとこのアホがうるさいんだ。まぁ、生き返られるんならそれでもいいけど」

 

「ですから、マサヒロさんは復活は不可能だって何度も・・・」

 

『アホ!!??今あんたアホって言った!!??』

 

「だからなんで俺の悪口がわかるんだよ・・・」

 

さっきから喚いているアクアに向かって、意を決したのかカズマはこんなとんでもない事を言い出した。

 

「おいアクアー!俺もう人生疲れたし、生まれ変わって赤子からやり直すことにするわー。皆によろしく言っといてくれー」

 

「えええ!!??」

 

「うわー・・・お前それさすがに引くわー・・・」

 

生まれ変わることを選んだカズマの発言にエリスは驚き、マサヒロはせっかく復活魔法をかけてくれたのにといわんばかりにカズマに引いている。

 

『あ、あんた何バカ言ってんの!!??ちょ、ちょっと、待ってなさいよ!!!』

 

当然これにはアクアは焦りだす声が聞こえてきた。おそらくはめぐみんたちにも知らせに行ったのだろう。

 

「それじゃ、1つお願いします。あまりわがままは言いませんが、次も男の子として生まれたいです。後、きれいな義理の姉とかわいい義理の妹がいる家庭に生まれたいです」

 

「だからカズマさ、そういう高望みは早死にするって・・・」

 

「うるさい勝ち組!!!いい奥様までもらって、エリス様と一緒にいられて・・・俺にだってそういう権利くらいもらってもいいだろうが!!!!」

 

「なんで逆ギレするんだよ・・・」

 

自分より好待遇だと思っているカズマはマサヒロに理不尽といわんばかりの逆ギレをする。

 

『カズマ!早く戻ってこないとアカメがあんたの顔や体に落書きするって言ってるんですけど!それはもう人目には見せられないくらいの落書きしそうで危ないんですけどー!というか、もうペンを構えてじりじり寄ってきてるんですけどー!』

 

「・・・っ!」

 

アクアの言葉にカズマは若干ながら動揺している。が、どうせ死んでるんだと思って何とか持ち直した。

 

『・・・え?めぐみん、何してるの?カズマの服をどうするの?・・・え!!?めぐみん!!?ちょっとめぐみん!!?』

 

「おいやめろよ!!!俺の体に何してんだ!!仏さんにイタズラすんな!!!バチ当たるぞ!!!」

 

アクアの声からして、何やら外でめぐみんがカズマの体に何かしているようで、得体のしれないものだったらさすがに耐えられないカズマは声を荒げる。

 

『めぐみん!!めぐみん!!?ちょっとカズマさん!!早く来て!!早く来てーーー!!!』

 

「おいやめろ!!!アクア!!!めぐみんを止めろ!!!エリス様、お願いします!!門を開けてください!!!!」

 

ハチャメチャな展開が起こっているようでそれの想像がつくエリスとマサヒロは本当に面白そうに笑っている。エリスはすぐに指を鳴らして、現世に繋がる扉を開いた。

 

「それではカズマさん、もうここには来ないことを、陰ながら祈っています」

 

「エリス様!俺は・・・」

 

「では、いってらっしゃい」

 

カズマは現世へと向かって、以前と同じように宙へと浮いた。エリスはにっこりと微笑んでカズマを見送る。

 

「パッドも好きですよーー!!!」

 

カズマは最後エリスにとって余計なことを言いながら現世へと戻っていった。

 

「・・・あいつ、最後なんて言ったんすかね?」

 

「さあ?なんでしょう?」

 

幸いにも、カズマの最後の一言はエリスには届かなかったようだ。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

カズマが目を覚まし、視界に真っ先に映ったのはめぐみんの顔だった。めぐみんの目には涙が溢れており、現在カズマの服を着せ直している最中であった。戻ってきたはいいが、めぐみんが何をやらかしたのか気になるので、あまり喜べないカズマ。

 

「・・・おい、何やってんだ?お前は爆裂狂なところと名前を除けば唯一常識のある奴だと思ってたのに。俺が死んでた間にいったい何をしてくれたんだ?」

 

「おい、私の名前に文句があるなら聞こうじゃないか。帰らないとか・・・バカな冗談を言ってるからですよ。次にそんなバカな駄々をこねたら、もっとすごいことをしますからね」

 

めぐみんはずっとカズマのことを心配したがゆえに、帰らないと聞いて怒っているのだ。だからなのだろう。カズマの体に何かをしたのは。めぐみんの様子も気になるが・・・それよりも自分の身に何が起こったのか気になるカズマは他のメンバーに事情を聞こうとするが・・・

 

「//////」

 

「あんた・・・神聖な女神様の口から何言わせる気?」

 

「変態・・・」

 

「聞いたら殺すわよ」

 

「・・・俺、本当に何されたの・・・?」

 

ダクネスは顔を蹲っていて話すら聞けず、アクアと双子は軽蔑な視線を送るだけで何も話そうとしない。軽蔑な顔をされただけで、とんでもない目に合わされたのは間違いない。聞きたいような聞きたくないような・・・そんな感情を抱いたカズマ。

 

 

ー本当に、何されたの・・・?ー

 

 

クエストを終えて、ギルドに報告を済ませたカズマたちは屋敷に戻ってきた。若干気になったのは、めぐみんだけはゆんゆんの宿に泊まると言っていたことだ。夕飯を食べ終えてソファの前にある暖房でアクア、アカメ、ダクネスの3人はそこで温まっており、ティアは厨房でデザートを作っている最中だ。

 

「・・・狭い。アクア、もうちょっと詰めなさい」

 

ゴチンッ!

 

「痛い!!ちょっと⁉なんで殴るの⁉」

 

アカメはアクアに向かってげんこつをした。アカメが殴った理由はクエストで余計なことをした罰なのだろう。アクアは文句を言っているが、アカメは聞く耳持たない。むしろ、それで済ませてやってるんだから文句言うなと言いたげだ。すると・・・

 

「めぐみーーーーーーん!!!!!!めぐみんはどこだああああああああああ!!!!!!」

 

風呂に入ろうとしていたカズマがバスタオル一丁の姿で怒り狂い、めぐみんを探しにリビングにやってきた。

 

「めぐみんなら、何日かゆんゆんの宿に泊まると言っていたがあああああああああ!!???」

 

「うるさああああああああい!!!!!!」

 

ダクネスはそんなカズマの姿を見て、赤面して再び顔を両手で覆い隠す。

 

「どうしたの?何があったきゃああああああああああ!!!!???」

 

「黙らんかあああああああああい!!!!!!」

 

デザートを作っていた最中のティアが叫びに駆け付け、リビングに入ってきた。が、カズマの姿を見て顔を真っ赤にしてすぐにリビングから出ていった。

 

「カズマ」

 

「なんだぁ!!!???」

 

「自分に自信があるのはいいけど、そういう自己主張は嫌われる元だからやめた方がいいわよ」

 

「ば、バカ!!!!!お前ら、めぐみんがこれを書いてる時、一緒にいたんだろうが!!!!!ち・・・チクショーーーーーーー!!!!!!」

 

カズマは自分の体に書かれている落書きを見て怒り狂っているのだった。その場所がどこかとは絶対に言わないが。

 

「何が・・・聖剣エクスカリバーだああああああああああああ!!!!!」




紅魔の里のふにふらさん、どどんこさん、お元気ですか?私は元気です。
私は今、アクセルの街で仲間と一緒に冒険者をしています。
メンバーは駆け出し冒険者の男の子、アークプリーストの女の子、クルセイダーの女の子、シーフの双子の女の子2人です。
本当ですよ?後、めぐみんがぼっちしていました。
ああはなりたくないです。

ゆんゆん

実際のところ・・・

ティア「みんな、今日は何が食べたい?」

アクア「私、お鍋がいいわ!」

めぐみん「いいですね、冬には持ってこいです」

アカメ「ならキムチ鍋にする?トウガラシならいくらでもあるわよ」

カズマ「じゃあさっさと食材でも買っておくか」

ダクネス「荷物持ちなら私に任せろ」

めぐみんはカズマたちとわいわいとご飯の話をしている。

ゆんゆん「・・・・・・」

ゆんゆんは相も変わらずぼっちをしていた。

ミミィ(ああ・・・あの子が困ってる・・・。でも私みたいなウジ虫にできることなんてたかが知れてる!どうせ・・・あんた、超ウザいんですけどみたいなノリで返される!)

ミミィはゆんゆんが気になって隠れて様子を見ていた。

ゆんゆん「・・・お手紙、どうしよう・・・」

ミミィ「やっぱり私はダメな子・・・」

この2人は未だ、真の意味での顔合わせはできていないのだった。

次回、このふてぶてしい鈍らに招待を!


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このふてぶてしい鈍らに招待を!

リザードランナー討伐クエストから数日後、今日も今日とて、外は快晴の青空が広がっているアクセルの街。そんな青空の下、カズマの屋敷では、いつもとは・・・かなりというか・・・気持ち悪い光景が広がっていた。

 

「最高級の紅茶が入りましたわよ、カズマさん」

 

「うむ・・・」

 

カズマはアクアが入れてきたという紅茶を一口すする。そして、一口飲んで笑顔で一言。

 

「・・・お湯なんだけど」

 

「私としたことがうっかりしていたわ♪」

 

どうやらアクアが紅茶を浄化してしまったようでカップに入っているのは紅茶ではなくお湯である。

 

「もしかして、紅茶を浄化しちゃったのかな?」

 

「ごめんなさいね、カズマさん♪」

 

「入れなおせばいいだけさ♪ありがとう、アクア、これはこれでいただくよ♪」

 

さっきからカズマとアクアは満面な笑顔で気持ち悪いプチセレブごっこをやっていた。カズマはお湯となった紅茶をもう一口すする。

 

「・・・うん、お湯!」

 

「気持ち悪いですうううううううう!!!!」

 

数日間ゆんゆんの宿に泊まっていためぐみんが戻ってきてこの光景を見たことで顔を青ざめた様子で率直にそう言い放った。確かに気持ち悪いの一言である。

 

「おや、めぐみん、帰って来たのかい?おかえり♪」

 

めぐみんはすぐさま気持ち悪いカズマの前に立ち、頭を下げて懇願をする。

 

「先日のことは謝ります!!だからどうか元のカズマに戻ってください!!」

 

「先日のこと?」

 

先日のことと言うのは、どことは絶対に言わないが、めぐみんが書いた落書きの事だろう。それを思い出したカズマはにっこり微笑む。

 

「ああ、もしかして、あの落書きのことかい?金持ち喧嘩せずってね。それより、めぐみんもお茶を飲むかい?よい茶葉が入ったんだ♪」

 

気にしてないどころか気持ち悪い笑みを浮かべてお茶を勧めようとするカズマ。あまりに気持ち悪い光景にめぐみんは涙目である。

 

「私が悪かったのでどうか元のカズマに戻ってください!!今のカズマはすごく気持ち悪いです!!!」

 

「さっきから何を言っているんだ?俺はいつもこんなじゃないか」

 

どう見てもいつものカズマでないのは明らかだ。いや・・・いつものといえばカズマだけではない。

 

「最高級の紅茶がまた入りましたわよ、カズマさん」

 

そう、ご覧のようにアクアももうすっかりカズマの従者気分になっており、こっちもこっちでセレブを意識していてとても気持ち悪い。アクアが入れなおした紅茶をカズマは一口すする。

 

「・・・お湯なんだけど。ははは、また浄化しちゃったね♪」

 

「あらあら、私としたことがうっかりしていたわ♪うふふふふ♪」

 

「いや、また入れなおせばいいさ♪ありがとう、アクア、これはこれでいただくよ♪」

 

もうどうしていいかわからないでめぐみんに遠くでいつも通りにしている双子とダクネスがめぐみんを手招きしている。どういうことか説明してもらおうとめぐみんは3人の元へと近づく。

 

「あれ、めぐみんのせいとかじゃなくてね・・・実はね・・・」

 

「先日、あのクソ悪魔が来てね・・・」

 

双子はカズマとアクアがなぜああなったのかという経緯を包み隠さず話すのであった。

 

 

ーうん、お湯!ー

 

 

事は遡ってリザードランナー討伐クエストの次の日の朝、ソファでティア特製の朝のデザートを食べながらまったりとくつろいでいるダクネスとティアとアクア。アカメは同じくソファでこれまで集めた短剣を1つ1つ丁寧に手入れをしている。

 

「あんのロリガキがあああああああああ!!!!!!屋敷に帰ってきたら剝いてやる!!!!!絶対に・・・絶対にだあああああああああああ!!!!!!」

 

そんな中で、落書きの一件で未だに怒り狂っているカズマはめぐみんへの仕返しのことで頭がいっぱいになってきている。

 

「いつも勝気なあいつでさえ、もう、許してくださいって泣き叫ぶ目に合わせてやる!!!!」

 

「そ、その、めぐみんですら泣き叫ぶ目とやらに詳しく!!」

 

カズマの言っためぐみんが泣き叫ぶ目とやらを想像して興奮するダクネス。

 

「朝っぱらからうっさいわね。武器の手入れでもしたらどうかしら?ほら、ここで風呂以外はずっとそこに動かないでいるダメ人間で試し切りするといいわ」

 

「!!!???ね、ねぇ・・・アカメさん?なんで私の方を見てそんな物騒なこと言うの?冗談でしょ?そういう冗談はよくないと思うの。まさか、本気?」

 

アカメはアクアを見ながら砥石などで短剣の切れ味を磨いている。最近アカメの嘘もキレッキレで本気でやりかねない雰囲気をアカメから纏わせている。そのため、アカメの嘘にさっきまで動かなかったアクアが素早くソファから離れる。

 

「ねぇカズマ、そんな事態になったのはカズマが駄々をこねたからでしょ?自業自得、カズマに怒る権利はないよ」

 

ティアは全くの正論を言ってカズマを落ち着かせようとする。

 

「バカお前!!!!お前らは女だから俺たち男のあの苦しみはわかんねぇんだよ!!!!!チクショーーーー!!!!あいつ絶対に許さねぇ!!!今から泣きわめく姿が目に浮かぶようだぜ!!!!」

 

「その泣きわめくようなことについて詳しく!!!!」

 

だがそんな正論もカズマの耳には届かない。ダクネスもダクネスで泣きわめくことについてで興奮している。

 

バタンッ

 

屋敷の入り口の扉が閉じたような小さな音が聞こえてきて、めぐみんが帰って来たのだろうと思ったカズマはぎょろりと扉の方へと向ける。

 

「帰ってきやがったのかああああああああああ!!!!!めぐみんてめええええええええええええ!!!!!!」

 

めぐみんに一発きついものを食らわせようとカズマは素早く移動し、扉を勢いよく開いた。

 

「フハハハハハ!!頭のおかしい紅魔の娘かと思ったか?残念!吾輩でした!」

 

が、扉の先にいたのはめぐみんではなくバニルであった。それにはカズマは怒りの表情ながらも拍子抜けである。

 

「ポンコツ店主に代わり、目利きに定評のある吾輩が商談に来た!さあ、吾輩の登場に喜びひれ伏し、当店に卸す商品を見せるがいい」

 

図々しくもずかずかと屋敷に入り込むバニル。そんなバニルを毛嫌いし、屋敷に入ってほしくなかったアクアはバニルの声を聞いて、ふらりふらりと立ち上がり、嫌悪感出しまくりの顔をバニルに向ける。

 

「・・・ねぇちょっと・・・どうやってこの屋敷に入ったの・・・?この屋敷にはあんたみたいな害虫が侵入できないように神々しくも神聖な結界が張ってあったんですけど・・・」

 

「ああ、あの半端な奴か。なんと、あれは結界であったか。あまりに弱弱しいものだったので、どこかの駆け出しプリーストが張った失敗作だと思っておった。いやぁ、失敬。超強い吾輩が通っただけで崩壊してしまったようだなぁ、フハハハハハ!!」

 

あからさまにアクアを挑発する発言にバニルに近づき、一触即発の雰囲気を漂わせている。

 

「・・・あらあら~、身体のあちこちが崩れかかっててますわよ?超強い悪魔さん?あ、どうしましょう、確か地獄の公爵だとか聞いていましたのに、あんな程度の結界でそんな風になるなんて~」

 

アクアはわかりやすい挑発をしてバニルに突っかかる。アクアの言うとおり、バニルの身体はところどころがボロボロになっており、ちょっと突いただけでも土塊の土が少しずつ崩れていく。

 

「フハハハハ!!この身体はただの土塊。身体などいくらでも作れる。屋敷の外を覆っていたあの薄っぺらい紙切れに興味が湧いてなぁ。いやぁ、駆け出しプリーストが張ったにしてはなかなかのものではないかぁ?人間の、それも駆け出しプリーストが張ったにしてはな!フハハハハハ!!」

 

バニルのさらなる挑発にアクアはもうバニルを浄化しそうな雰囲気たっぷりである。

 

「バカとクソ悪魔のいがみ合いはいつ見ても滑稽ね。潰しあいになってどっちか潰れればなおいいんだけど」

 

「吞気に見てないでこいつらを止めろよ!!お前らが持ってきた商談の話が台無しになるだろ!!」

 

アクアとバニルのいがみ合いを諦観しているアカメ。それにツッコミを入れながら喧嘩の仲裁をするカズマ。

 

「・・・ねぇアカメ、ティア。カズマがこたつだのなんだの作ってたのって、ひょっとしてこれと商談するためなの?」

 

「そうだよ。どこぞのバカのせいでもう借金なんて背負いたくないからね」

 

バカというのは当然ながらアクアのことを指しているのだが、自分が借金を作っているという自覚がないのか残念ながら自分を当てはめてないようだ。

 

「えー、本当にー?人々の悪い感情をすすってかろうじて存在しているこの害虫とー?」

 

「あ、自分の事当てはめてないな、これ」

 

「ティア、あんたも人の事全く言えないけどね」

 

「お前もな」

 

「笑えない冗談なんですけどー、プークスクス!」

 

「笑ってるじゃねぇか・・・」

 

笑えないと言っているのに人を小ばかにするように笑うアクアにカズマは呆れている。

 

「我々悪魔は契約にはうるさい。双子共と交わした契約はきちんと果たすので、信頼してもらって結構である。信じるだけで幸せになれるだの、純粋の者の足元を見るだの、胡散臭い甘言で人を集め、寄付と称する金集めをしている詐欺集団とは違うのだ」

 

「確かに・・・アクシズ教徒のあれは本当に詐欺だよね・・・」

 

「ちょっとティアさん!!?」

 

アクシズ教徒を詐欺集団と称するバニルの例えにやられた経験からかティアは激しく同意している。いや、同意しているのはアカメも一緒である。それにはアクアは涙目である。

 

「うむ・・・奴らの殺し文句は何であったか・・・」

 

「神はいつもあなたを見守っていますよ、でしょ?バカバカしいったらありゃしないわ」

 

「おお、そうであった・・・ん?おお、なんということだ!吾輩、それに該当する神とやらを目撃したぞ!先日覗きで捕まった風呂やトイレを生暖かな目で見守っていたあの男は神であったか!!フハハハハハハハ!!」

 

バニルはアクアをこれでもかっていうくらいに挑発をしながら高笑いをしている。ちなみにバニルの言う神もどきというのは、チンピラ冒険者のダストだったりする。怒りの限界にまで達したアクアは口元をにやりと笑い・・・

 

「セイクリッド・エクソシズム!!!!」

 

「華麗に脱皮!!」

 

バニルに向かってセイクリッド・エクソシズムを放った。バニルは浄化魔法を発動される前に本体の仮面を投げ捨て、見事直撃を回避する。バニルの仮面は地に着いたと同時に新たな身体を生成しようとする。が、それをアクアが見逃すはずもなく、生成する途中で仮面を掴み上げる。

 

「あははははは!!これね!!これが本体ね!!捕まえたわ!!捕まえたわよ!!どうしてくれようかしら!!これどうしてくれようかしら!!」

 

「フハハハハハ!!この仮面を破壊したとしても・・・て、こ、こら!しゃべってる途中で仮面を剥がそうとするな!体が崩れる!せめてセリフを言い終わってからに・・・」

 

傍から見ればただじゃれ合っているようにしか見えないが、このままでは商談がいつまでたっても始まらないので、そろそろ止めに入るカズマと双子であった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

カズマの説得、ティアのバインドによる身動き封じ、さらにはアカメの何とも言えないドスの利いた圧でなんとかアクアを黙らせることに成功したカズマたちはバニルとの商談を開始する。

 

「一応カズマにこれらを作らせてもらったけど、どうかな?」

 

「つーか、こんな使用用途がわからないもんが本当に売れるのかしら?」

 

「ご心配には及ばぬ。吾輩の小僧の見立ては間違っておらぬ。これは確実に売れるぞ。このこたつとかやらの暖房器具はそれはもうダントツの売り上げになるだろう」

 

この世界の住人からすれば使用用途がわからない代物が売れるのかいささか不安な双子だが、見通す悪魔バニルは確実に売れると判断している。

 

「では双子共、商談といこうか。取り決めでは、売れた利益の一割が支払われることになっているが・・・どうだ、これらの知的財産権を作り上げた小僧よ。この知的財産権自体を売る気はないか?これら全てをひっくるめ、3億エリスで買ってやろう」

 

「「「「「3億!!!???」」」」」

 

まさかの3億という大金で買うと聞き、カズマ、双子だけでなくアクアやダクネスも驚愕の顔つきになる。

 

「そ、それって・・・贅沢さえしなければ、働かなくても生きていける額じゃあ・・・」

 

「我々としては月々の利益還元の方でも構わんぞ?販売ルートさえ確保できれば、毎月100万エリスはくだらない」

 

「「「「「月100万!!!???」」」」」

 

まさかの売り上げ予想額にカズマたちはさらに驚く。驚きの連発だが、それだけの大金が入るとなると、ウェーブ盗賊団として、1つだけ懸念材料がある。実は双子はバニルと契約をする際、ちゃんとしたルートで販売することと言うのも追加で頼んでいる。悪魔が契約を破るとは思えないが、一応念のために確認をする。

 

「あのさ・・・それって不正のルートで売ったりとかはしないの?」

 

「そういえば貴様らは義賊であったな。ならば安心するがよい。これも契約の一部だ。ちゃんと正規のルートで販売する」

 

「そう・・・悪魔はそういうのはうるさいし、信じてあげるわ」

 

バニルの言葉によって、とりあえずは不安材料は消えた。で、残るはこのまま知的財産権を買い取るか、それとも月々の利益にするかの2択の問題である。

 

「カズマ、先に言っておくけど、この商談を持ってきたのは私たちよ。余計な口出しはしないでちょうだい」

 

「はいはい、わかったわかった。その代わり、分け前はちゃんともらう約束、忘れんなよ」

 

「わかってるって。カズマは疑り深いなぁ、もう」

 

それでも双子は商談自体が初めてだし、わからないことがあるならゲームで培ってきた商談技術でアドバイスくらいはしてやろうとカズマが思った矢先・・・

 

「私としては今後売り続けられるとも限らないと思うんで、3億もらう方がいいわね、ええそうすべきだわ」

 

「お姉ちゃん何言ってるの?ここは貯金の目減りを気にしないためにも月々100万の方がいいって」

 

「はあ?売れる保証がどこにあんのよ?こんな使用用途がわからないもんで。今貰えるなら貰った方がいいに決まっているでしょ」

 

「バニルが確実に売れるって言ってなかったっけ?こいつは性格は腐りきってるけど、一応は見通す悪魔。絶対の保証付きだよ」

 

「いや3億よ」

 

「いや月々100万」

 

「ああ、もう!!なんでお前らはそうやって意見が合わないとすぐ喧嘩するんだよ!!」

 

意見が食い違ってしまい、いつもの喧嘩が始まってしまう。気持ちはわからなくもないと思いながらも喧嘩を止めようとするカズマだが、ふと疑問に思ったことを口にする。

 

「なあバニル、街中をその姿でウロウロして大丈夫なのか?一応は魔王軍の幹部だったわけだし、襲われたりは・・・」

 

カズマの疑問は尤もだ。仮面にはⅡという文字がついているが、今のバニルの肉体は初めて会った時と同じだ。今では二代目だが、なんちゃって幹部だが一応は元魔王軍。その見た目で襲われたりなんてこともありうるかもしれない。カズマの疑問にバニルは首を傾げる。

 

「何を言っておるのだ?我が仮面は以前と違うのは説明したろう。この額に輝くⅡの字が見えぬか?」

 

「それがどうしたよ」

 

意味がわからんといった様子のカズマにダクネスがバニルの現状について説明する。

 

「カズマ、あの悪魔は性格は破綻しているが、人を殺害したりということは本当にしないようなのだ。魔王城の結界の維持もしていないみたいだし、冒険者ギルドの上の方で要観察ということになったらしい。いざとなればウィズが止めてくれるだろうと」

 

「なるほど。それになら安心か」

 

ひとまずは要観察として冒険者に襲われることはまずないだろうと安心するカズマ。

 

「3億」

 

「月々100万」

 

「お前らはいつまで喧嘩してるんだ!!もういい加減やめろ!!」

 

「「うるさい!!」」

 

ドゴォ!!

 

「ぐほぉ!!?これもずいぶん久しぶりだ・・・」

 

「ああ!カズマばかりずるいぞ!私にも殴れ!!」

 

未だに喧嘩をする双子を止めようとしたが、逆に腹パンをされて仲裁に失敗したカズマ。ダクネスは殴られたカズマを見て、ドMとして羨ましがってる。

 

「商品販売までにはまだ時間がかかる。支払方法はその時に決めるもよいぞ。まあいがみ合いながらゆっくりと考えるがよい」

 

「いや、いがみ合っちゃダメだろ」

 

「では、吾輩は店が心配なので帰るとしよう」

 

「それがいいと思うわ。私の神聖な家に悪臭が染みついちゃうもの。出てって!!ほら早く出てって!!!」

 

アクアの態度に歯ぎしりをしながらバニルは忌々し気に屋敷から出ていき、ウィズの店へと戻っていく。大金が入り込んでくると考えると、カズマのめぐみんへの怒りはもうどこへやらといった感じになって、ニコニコと笑っている。

 

 

ー3億か月々100万、かぁ・・・ー

 

 

「・・・それからずっと、こんな調子でな・・・」

 

「お湯だね、お湯」

 

「あらー、私ったらー・・・おほほほほ」

 

未だに似非セレブごっこをやっているカズマとアクアを見て、すっかり呆れているダクネスと双子。3人の説明によって事の状況が理解できためぐみん。

 

「似非セレブな理由がわかりました・・・。まぁでも、お金があるのは素晴らしいです。さて、そろそろ討伐にでも行きますか」

 

めぐみんが討伐クエストに出かけようと提案した時、カズマはにこにこしながら反対をしている。

 

「え?嫌だよ。何言ってんの?大金が入ってくるっていうのに、なんでわざわざ働かなくちゃいけないんだよ?」

 

「は?」

 

「だいたい、装備整えて作戦だって立てたっていうのに、俺また死んだんだぞ?決めた。俺はこれから商売で食っていく。冒険者稼業なんて危険なことはしないで、ぬるい人生を送って行くよー」

 

カズマの冒険者をやめるみたいな発言にさすがのアクアもにこやかながらも異を唱える。

 

「ねぇカズマさん。それはさすがに困るんですけどー。魔王を倒してくれないと、いろいろ困るんですけどー」

 

「なら、もっと大金を得て凄腕の冒険者をたくさん雇おう!!そして、そいつらに魔王討伐を手伝ってもらえばいい!!冒険者の大群を率いて魔王の城を攻略するんだ!!どうだ?現実味が出てきたんじゃないか?」

 

「それだわ!さっすがカズマさん!冒険者たちのほっぺをお札で叩いてこき使い、魔王を弱らせたところで最後のとどめは持って行くわけね!」

 

「そういうことだ。伊達に長い付き合いじゃないなー」

 

「「あはははははは!」」

 

ところがカズマの出した案に大いに賛同し、カズマと共に笑いあうアクアであった。だがカズマの案が気に入らないめぐみんはカズマに異を唱える。

 

「お金の力で魔王を倒すとか、そんなものは認めません・・・認めませんよ!!魔王を何だと思っているのですか!!魔王っていう存在は、秘められた力に目覚めたりなんかして、最終決戦の末に倒すのです!!それが何ですか!!?凄腕冒険者を雇って倒すだとか!!」

 

「そうだよカズマ、そんなお金なんか頼らなくても、私たちがいるじゃん。私たちがいれば、魔王の結界を破った後に、すぐさま魔王の寝込みを襲って暗殺できるんだよ」

 

「いやいや、それじゃあ瞬殺して苦しむ姿を見ることができないじゃない。まずは寝てる所を逃げられないように手や足をめった刺しにして、その後に何度も何度も切り刻み、苦痛に歪んだ後にとどめを・・・」

 

「あー、それいいね。苦しめられたみんなのお返しってやつでしょ?」

 

「そういうことよ」

 

「なんですかそのむごすぎる戦法は!!?ダメですダメです!!認めませんよ!!だいたいその戦法は魔王軍よりじゃないですか!!そんなんで盗賊団が認められるわけないじゃないですか!!」

 

双子も異を唱えたことでめぐみんは頬を一瞬緩めたが、あまりにも残虐かつ卑劣な案を出されて一瞬でも期待した自分が馬鹿だったと言わんばかりに頭を抱える。

 

「あー、もう!!この2人は全く使えません!!ダクネスから何か言ってやってください!!この2人は日に日にダメ人間に・・・て、あれ?ダクネス?」

 

ダクネスにも何か言ってもらおうと視線を向けるが、当のダクネスはこたつに入って何か思案している。

 

「あ、い、いや・・・日に日にダメ人間になっていくカズマを見ていくうちに・・・将来、どんなクズ人間になるのだろうかと・・・」

 

もうダクネスもダメな方向に思考が回っており、全く使いものにならない。

 

「あーもう!!どうしたら・・・」

 

「おい、あの残虐姉妹とそこの変態と一緒にするな。というか、俺は首がぽっきりいって死んだばかりなんだぞ?せめてこの古傷が癒えるまでは安静にさせてくれ」

 

カズマの放った癒しという言葉に反応して、何かを閃いた。

 

「わかりました。カズマの傷を癒しに行きましょう」

 

「いや、別にごろごろ昼寝でもしていれば自然と治るから・・」

 

「湯治に行きましょう!水と温泉の都、アルカンレティアに!」

 

「俺のことは気にせず・・・今温泉といったか?」

 

「ねぇ、アルカンレティアって言った⁉水と温泉の都アルカンレティアに行くって言った⁉」

 

温泉という単語に嫌というほどの興味反応を示しているカズマ。だがそれ以上にアルカンレティアという街に反応したのはアクアであった。

 

「お、温泉かー。俺たちも強敵との連戦で、疲れてることだし、たまには贅沢して温泉に行くのも悪くないなー(棒読み)」

 

「カズマさんったら、どうしてそんなに棒読みなのかしら?」

 

アクアに茶化されて、恥ずかし気に顔を赤くするカズマだったが、とりあえずは行くことには賛成のようだ。アクアは当然ながら賛成。

 

「温泉か・・・。いいね、行こうよ!温泉には美容効果が期待できるってあったもの!」

 

「美容効果・・・また私のこの美しい美貌が高まるのね」

 

「美貌って・・・お姉ちゃん、自意識過剰w」

 

「あ?何笑ってんのよクソ妹」

 

双子も温泉の美容効果の方に目を付けて、アルカンレティアに行くことは賛成のようだ。

 

「・・・あ、でもアルカンレティアってお頭がヤバイ街だって言ってなかったっけ?」

 

「そういえばそんなこと言ったような言ってなかったような・・・」

 

「みんな名前以外の情報も極力避けてたのも気になるし・・・」

 

「・・・まぁ、行ってみればわかることよ。案外大したことないかもしれないわ」

 

「まぁ、それもそうか」

 

前にネクサスが話してたアルカンレティアはヤバイという話を思い出し、ひそひそと話す双子だったが、行けばわかると判断していくことを決めた。これがアルカンレティアに着いた時、後悔することになるとは知らずに。

 

「ではダクネスは・・・」

 

「そしてとうとう堕ちるところまで堕ちた私はこう言うのだ!お願いですから見捨てないでくださいご主人様あああああああ!!」

 

ダクネスは未だに妄想で喜び悶えている。

 

「・・・こいつは留守番でもいいんじゃないかしら?」

 

「いやいや・・・ダクネスがいないと道中不安になるし・・・連れてった方がいいんじゃないかな?」

 

「道中?」

 

道中が不安という単語に若干気になったカズマだったが、ひとまずはダクネスも連れていくということで、全員がアルカンレティアに行くと決定したのであった。

 

 

ーこ!のすば!!ー

 

 

翌日のアルカンレティア旅行の出発日、双子はすでに楽しみに外で待っていたカズマとアクアに寄りたいところに行ってくると言ってウィズの店までやってきた。

 

「ウィズー、いるかな?」

 

「もしくはクソ悪魔、いるかしら?」

 

店に入る双子を出迎えたのはやはりバニルであった。

 

「へいらっしゃい!・・・おや、こんな朝早くからどうした?」

 

「これからちょっと温泉旅行に行くんだよ。それで、例の商売なんだけど、帰ってくるまで待っててくれないかな?」

 

「なんだそんなことか。未だ生産ラインは調っておらぬのでな。何ら問題はない。ゆっくりと羽を伸ばしてくるがよい」

 

「ええ、そうさせてもらうわ。・・・それより、さっきから気になっているのだけど、あんたのその後ろにあるガラクタの箱は何よ?それになんでウィズはそこで焦げてるのよ?」

 

アカメの言うとおり、バニルの後ろには何かしらの魔道具が大量にあり、その傍では店主であるウィズが焼かれたように焦げ焦げの状態になっていた。

 

「・・・はぁ・・・」

 

ウィズの状態を問われたバニルはため息をこぼした。

 

 

ー回想ー

 

 

『なん・・・だと・・・』

 

『これはとても素晴らしいものですよ。売れます!これは絶対に売れるんです!』

 

『・・・・・・』

 

『だから、バニルさん?殺人光線の構えでじりじりとにじり寄って来ないでください!』

 

『バニル式殺人光線!!!!』

 

『あああああああああああああ!!!!!』

 

 

ー回想終了ー

 

 

「・・・というわけなので、こんなガラクタは返品しようと箱詰めをしているのだが・・・買うか?」

 

事の経緯を説明しながらバニルは1つの魔道具を双子に見せた。

 

「何それ?なんの魔道具なの?」

 

「旅のトイレ事情が解決することができる簡易トイレである。用を足す際にプライバシーを守るため音まで出る水洗式仕様だ」

 

「ふーん。で、欠点は?」

 

「欠点は消音用の音がでかすぎてモンスターを呼び寄せることと水を生成する機構が強力すぎて周囲が大惨事になることだ」

 

「だと思ったわ。それでよく売れると思ったわね、このポンコツは」

 

「このお店にはちゃんとした魔道具は存在しないの?」

 

魔道具の説明を聞いて、カズマたちの中で1番付き合いが長い双子でもウィズが仕入れる魔道具のバリエーションにはほとほとまいっている様子だ。

 

「汝らも知っての通り、当店のポンコツ店主は使えないものを仕入れてくることに関しては類まれなる才能を持っておってな、吾輩がちょっと目を離すとよくわからぬものを勝手に仕入れて・・・」

 

「居候中でもそんなことあったわね」

 

「処分するための作業が大変だったね」

 

居候していた時のことを思い出し、双子はかなり苦い顔つきになっている。

 

「・・・そういえば双子共、貴様ら温泉に行くと言ったな?」

 

「そうだけど・・・どうしたの?」

 

「このポンコツ店主を持って行ってはくれまいか?あの小僧が作った商品を量産するために近々まとまった金がいるのだが、これが店にいるとまたガラクタを仕入れて散財してしまうのだ。この店主はリッチーの力だけは強くてな。吾輩と拮抗する相手は未来が見ることができぬのだ」

 

「要はお守りをしてくれってことかしら?」

 

「うむ」

 

バニルから金が散財しないようにウィズも温泉に連れていってほしいと頼まれた双子はお互いに顔を見合わせる。

 

「ま、別にいいわよ。1人増えようがそんな変わらないし」

 

「私もいいよ。その代わり、商談がまとまったら支払いに追加料金も足して・・・とか・・・」

 

「ふむ・・・まぁよいだろう。しばらくそのポンコツ店主さえ店から遠ざければ、金の用意はいくらでもできる。せいぜいどれほどの追加料金が出るか期待しているがよい」

 

「これは否応にもやる気が出るね、お姉ちゃん」

 

「ええそうね。これでまた金が増えるわね」

 

商談の際に追加料金を掛け合ってみると、意外にもバニルはそれを承諾してくれた。それによって双子は若干ににやけており、ウィズのお守りにやる気が出てきたのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

馬車の待合上では、旅行に行こうとしたり、クエストに行くために馬車に乗ろうとしている人々が集まっており、その予約のために並んでいる者が多かった。カズマたちは弁当を買いながら双子が来るのを待っている。どれにしようかと悩んでると、ようやく双子が待合上に到着した。

 

「2人とも遅い!!寄り道っていったいいつまでかかってるのよ!!」

 

「ん?アカメが背負ってるのってウィズじゃないか?」

 

カズマはアカメがウィズを背負っているのに気づいた。双子はバニルとの話をカズマたちに伝える。

 

「ウィズのお守りか・・・俺は別にいいけど・・・アンデッド嫌いのアクアはなんて言うか・・・」

 

「・・・まぁ、私も別にいいけど」

 

アルカンレティアに行くためよほど機嫌がいいのかウィズも連れていくことに意外に寛容的である。

 

「でもその子、なんだか薄くなってるんですけど」

 

「うわっ!!?本当だ!!だんだんと薄くなっていってる!!」

 

「うおおおおお!!??お、おいこれ大丈夫なのかよ!!?回復魔法は・・・」

 

「回復魔法はアンデッドには逆効果でしょ」

 

「はっ!!そうだった!!それならドレインタッチで・・・でも誰に・・・」

 

徐々に体が薄れていき、今にも浄化しそうな勢いのウィズに慌ててるカズマは誰にドレインタッチで体力を分け与えるか悩んでいると、馬車を見てうっとりしているダクネスに目を付ける。

 

「旅か・・・子供の頃お父様に王都へとずあああああああああああああ!!!???」

 

カズマはすぐさまダクネスの首根っこを掴み、ドレインたちで魔力を吸収し、ウィズに分け与える。それによって、ウィズはだんだん元通りになり、すぐに目が覚ました。

 

「・・・あ、あら?カズマさんじゃないですか」

 

ウィズがカズマに気付いた時には、カズマはダクネスに首を絞められてる最中であった。

 

「お、お前という奴は!!せっかく昔の記憶に想い馳せていたのに・・・!!」

 

「ぐえええええ!!き、緊急事態だ!!この中で1番生命力に溢れてるのはお前なんだからしょうがないだろ!!」

 

ダクネスとカズマが揉め合っている間にアクアたちはどの馬車に乗るかを悩んでいる。馬車を選んでいると、よさそうなものを発見する。

 

「ねぇ、カズマー!この馬車にしましょうよ!私の目利きによれば、1番乗り心地がよさそうよ!ちなみに私は窓際ね!景色が1番いい席を予約するわ!ほらカズマ、切符買ってきて!他のお客に馬車取られないように切符買ってきて!」

 

「席なんてどれでもいいでしょ。どうせどれも一緒よ。決まったならさっさと乗・・・げっ・・・」

 

アクアがカズマに切符を買うように急かすと、アカメが真っ先に選んだ馬車の御者台に乗ろうとする・・・が、そこで止まった。席の方を見てみると、そこには籠に入った小さな赤い竜と同じく籠に入った小さな青い竜がいた。小動物嫌いのアカメからすれば、まさに地獄のような馬車である。

 

「あのー、おじさん。これどう見てもレッドドラゴンとブルードラゴンの赤ちゃんですよね?うちのお姉ちゃん、小動物嫌いなんでこれどけてもらっていいですか?」

 

「お客さん、それは困りますよ。飼い主さんは別の馬車にいますが、その2体のドラゴン分の値段はちゃんといただいてますから。お客さんはどなたかお2人、座り心地は悪いですが、後ろに荷台に移っていただかないと・・・」

 

「だって。どうするの?」

 

「ぐぐぐ・・・」

 

レッドドラゴンとブルードラゴンの赤ちゃんをどけてもらうように運転手に頼んだが、すでにお代をもらっているので今さら変更はできないとのことだ。アカメは荷台に乗るのもベビードラゴンズと一緒なのも嫌なアカメはどうするか悩んでいると、馬車の御者台の屋根に目を付ける。

 

「ねえ、この御者台の屋根でもオッケーかしら?私、そこでいいわ」

 

「えっ!!?いや・・・まぁ・・・お客さんがそれでいいのならいいですけど・・・」

 

「決まりね」

 

まさか御者台の屋根の上に乗るとは思わなかった運転手が驚いている間にもアカメは御者台の屋根にすぐに乗り込む。

 

「どういうことだ?」

 

「アカメは小動物が大の苦手なのですよ。ティアの話だと、近づけたら小動物がとんでもない目に合わされるらしいのですよ」

 

「ティア!そのとんでもないことについて詳しく!!!」

 

「嫌だよおぞましい。ていうか、お姉ちゃんがちょむすけ避けてるのを見て何となく察しがつくでしょ?なんで気づいてないの?」

 

アカメが小動物嫌いだと初めて知ったダクネスはとんでもない目について興味津々でティアに尋ねたが、当然ながら却下される。

 

「なんにしても、アカメはあれでいいとして、問題は誰が荷台に移るかだ」

 

アカメの問題は解決したとして、後1人誰が荷台に移るかという本題に戻るカズマ。

 

「じゃんけんで!こういう時は公平でじゃんけんで決めた方がいいと思うの!!」

 

アクアは公平にじゃんけんで決めるべきだと主張している。

 

「あの・・・それでしたら私が荷台に・・・」

 

「いやウィズ、アクアの言うとおり、ここは公平にいこう。いいぞ、アクア。じゃんけんだな」

 

ティアの説明を受けて事情を理解できたウィズが荷台に行こうと言い出すが、なぜか自信たっぷりのカズマが公平にということでアクアのじゃんけんの案を採用した。

 

「それじゃあ行くわよ!!じゃーんけーんぽん!!」

 

6人でじゃんけんした結果、カズマの出したグーによって、残り全員がチョキなのでカズマの1人勝ちとなった。

 

「一抜けだな」

 

「待って!!誰が勝ち抜き戦だなんて言ったのよ?6人でじゃんけんして1人の敗者を決めるまで続けるルールよ!」

 

「舐めてんの?」

 

結果に不服があるのかアクアが後付けのルールを言い出した。それによってティアは明らかに嫌悪感丸出しの顔つきになるが、カズマはいたって冷静だ。

 

「そういうなら俺と勝負するか?5回じゃんけんしてお前が1度でも俺に勝ったら、俺が荷台に座ってやるよ」

 

カズマの出した案にこの場の全員唖然となる。それはアクアも同じだが、後に余裕そうな顔つきになる。

 

「マジですか。ねぇ、確率の計算って知ってる?カズマが5回連続で勝つなんて無茶ぶりなんですけどー!」

 

アクアがカズマを小ばかにするような発言でもカズマはいたって冷静な様子でじゃんけんの用意をする。

 

「・・・俺、じゃんけんで負けたことねーから」

 

・・・じゃんけん5回勝負の結果はというと・・・

 

「おかしいわおかしいわよ!!ズルしたわね!!お願いもう1回!!もう1回だけ!!これで負けたら荷台に座るから!!」

 

カズマの5回連続の勝利によってアクアは敗北。納得がいってないのか半泣き状態で再戦を申し込んでいる。

 

「本当だな?これが正真正銘、最後のチャンスだからな?」

 

カズマはうんざりしたような顔つきでアクアの再戦を受けた。それによってアクアは途端に元気になる。

 

「受けたわね!受けたわねカズマ!あんたがどんなズルをしたのか知らないけれど、そっちがその気ならこっちにだって考えがあるわよ!!ブレッシング!」

 

アクアは運向上の魔法、ブレッシングを自分自身にかけて自分の運をあげた。

 

「あっ!!こいつ汚ねぇ!!魔法で運をあげやがった!!」

 

「運も実力のうちっていうんだし、魔法の実力も運のうちよね!さあ行くわよ!!じゃーんけーんぽん!!」

 

再戦でアクアが出したのはパー、カズマが出したのはチョキでまたもカズマの勝利で終わった。敗北したアクアはまたも泣き喚く。

 

「なぁんでよーーーーーーー!!!???」

 

「俺、ガキの頃からじゃんけんで負けたことないんだよなー」

 

「卑怯者!!何それずるい!!そんなのチートよ!!チート能力じゃない!!あんた生まれながらの特殊能力持ちだったの!!?なら私という素晴らしい恩恵を授かったことは無効よ無効!!帰してよ!!私を天界に帰してよこのクソチート!!」

 

アクアの放った言葉にいい加減我慢の限界が来たのかカズマがキレる。

 

「てめぇこのクソビッチが!!!!俺の特殊能力がじゃーんけんで勝てる能力だってか!!?お前はバカか!!?こんなもんでどうやってモンスターと渡り合えってんだ!!!」

 

「だってだって!!!」

 

「俺が1番腹が立ったところはお前が自分のことを授かった恩恵だとか言い張ってることだよ!!!お前ふざけんなよ!!!何が恩恵だ!!!お前を返品して特殊能力をもらえるもんなら、とっとと返品してやるところだあ!!!!!」

 

「わああああああああああ!!!カズマが言っちゃいけないこと言った!!ひゃめて!!頬をひっはらないれ!!!」

 

いがみ合いはあったものの、結局はアクアが荷台に乗ることに決まった。

 

 

ーこのすばぁ(泣き)ー

 

 

「アルカンレティア行き、発車します」

 

カズマたち及び他の冒険者たちを乗せた複数の馬車はアルカンレティアへ向かって出発する。馬車は待合上を離れ、街の出口に向かって馬車はゆったりと進む。中には旅の者たちを見送る者が何人かいる。カズマたち側にも見送る人間はいた。ミミィたちウェーブ盗賊団アクセル支部の団員、モンスターショップの店主マホ、そしてカズマをやけに評価している荒くれ者がそうだ。街の人間に見守られながら、馬車は街を出て、そのままアルカンレティアへと向かっていく。

 

街の外はどこに行っても綺麗な景色ばかりであった。特にダクネスのような貴族のお嬢様にとっては目新しいものばかりで、目を輝かせていた。馬車が揺れ動く中、ウィズはちょむすけを撫でてかわいがったり、めぐみんとティアはレッドドラゴンとブルードラゴンの赤ちゃんにやたら強い興味を持っていて、籠越しでじゃれ合っている。アカメは御者台の屋根の上で本当に気持ちよさそうに昼寝をしている。外の景色、仲間たちの普段見られない光景を見て、カズマはこういうのも悪くないと思った。

 

「ちょっとカズマさーん。お尻超痛いんですけどー。そろそろ誰か変わってほしいんですけどー」

 

「休憩になったら場所変わってやるから、それまでは我慢しろよー」

 

「そんな~~・・・」

 

アクアは不服そうに文句を言っている。次の休憩にはカズマが変わると言ってもすぐに変われないから落胆するアクア。揺れ動く馬車は荒野へと突入し、進路は順調のように思えた。

 

「・・・ん?なんだあれ?」

 

カズマが荒野の景色を見ていると、荒野の景色にふと違和感に気付いた。気になったカズマは千里眼スキルで遠くを見つめる。ずっと奥には何やら土煙が立っており、それが馬車に近づいてきている。

 

「すんません、なんかこっちに土煙が向かってきてるんですが・・・あれ何かわかりません?」

 

「ん?さてね、あっしにはわかりませんが、ここらで土煙立てるっつったら、リザードランナーの群れですかね?ですがこの前、姫様ランナーが倒されたって話ですから、きっと砂クジラが砂を吹き荒れてるんじゃないですかね?後は走り鷹鳶くらいですかね?」

 

「走り高飛び?」

 

「おっとお客さん、ダジャレじゃないですよ?鷹と鳶の異種間交配の末に生まれた鳥類種のモンスターです。こいつが危険なモンスターでしてね、繁殖期にメスの気を引くため、オス同士で勇敢さを競うチキンレースっつう求愛行動をとるんですよ。固い獲物にかっ飛んでいき、ギリギリで回避躱すって奴でね。まぁでも、その辺の岩にでも突っ込んでくんで大丈夫ですよ」

 

「なら安心だ!」

 

運転手の説明でカズマは大丈夫だと思い、笑う・・・が、進むたびに土煙が馬車に近づいてきているのに気が付いて、若干不安になる。

 

「やっぱり、すごい勢いで向かってきているんですけど・・・」

 

「ん?・・・あー、ありゃ走り鷹鳶ですね。でも、向かってくるにしてもおかしな話ですよ。もしかしたらキャラバンの中に、アダマンタイトみたいな凄まじく固い鉱石を積んでる馬車があるかもしれませんなぁ。ははは」

 

「・・・アダマンタイトみたいな凄まじい硬度・・・?」

 

アダマンタイトのような固い鉱石というものに嫌に反応して、カズマは冷や汗をかいている。それもそのはず、心当たりがものすごくあったからだ。

 

「・・・ん?なんかこっちに・・・というかこの馬車に・・・」

 

「カズマカズマ!なんかものすごく速い生き物が真っすぐこちらに向かってきている!!というか連中がこちらを凝視しているように見えるぞ!!なんという熱視線!!」

 

「ん?・・・ああ、あれ走り鷹鳶だね。アヌビスじゃ珍しくもなんともないモンスターだよ。この時期って確か繁殖期だったから、ダクネスみたいな固いものに突撃して・・・」

 

「やっぱりお前かーーーーーーー!!!!!」

 

嫌な予感的中。走り鷹鳶が馬車に向かってきている原因はダクネスの固さだったようだ。

 

「お客さん、馬車留めますよ!!荒野の冒険者たちが馬車とお客様を守ってくれますから!!」

 

この走り鷹鳶が向かってきている原因が自分の仲間のせいであると気づいたカズマは心の中でダクネスが固くてすみませんと謝罪する。

 

「おいダクネス!!あいつらの狙いはお前だ!!ティアが言ったように、あいつら固いものを好んで突撃するんだぞ!連中の狙いはお前の固い筋肉だ!!」

 

「おいカズマ、私だってこれでも乙女の端くれ、固い筋肉などと言ってくれるな。あれだ、私の鎧はアダマンタイトも含んだ特注品だ。きっとそれでこちらに来ているのだろう」

 

「・・・走り鷹鳶は、少量くらいじゃ突撃しないんだけど・・・」

 

「!!!???」

 

「・・・・・・」じー

 

カズマの発言にダクネスは冷静に返すが、ティアが突きつけた現実に激しくショックを受ける。ティアの訂正でカズマはダクネスをじーっと見る。

 

「な、なんだその目は!!?私の言った事が真実だ!!真に受けるな!!私の体はそこまで固くない!!!」

 

ダクネスの涙目の必死な訴えを無視し、カズマはダクネスを無理に引っ張り上げて馬車から降りる。

 

「みんな、出番だぞ!!本来俺たちは戦わなくていいが、今回は俺たちが招いた敵みたいだ!自分たちの尻拭いは自分でやるぞ!」

 

カズマの呼びかけでめぐみんたちも馬車から降り、アカメも昼寝から目を覚ます。

 

「私もお手伝います!」

 

「ウィズは馬車の中で御者台のおっちゃんを守ってやってくれ!」

 

「はい!」

 

「お客さん!!お客さんは金払ってるんですから、安全なところに!!」

 

(すいません、原因はうちの仲間なんです・・・)

 

運転手に呼び止められるも、カズマは原因を作ったことに心から謝罪しながら戦線に出る。

 

「冒険者の先生方、お願いします!!」

 

荒野を拠点としている冒険者たちは戦線に出て、鷹と鳶が合わさったダチョウのような姿をしたモンスター、走り鷹鳶の群れを迎え撃つ。

 

「俺とアカメ、ダクネスが前に出る!ティアは全体の援護、めぐみんは爆裂魔法の準備を!」

 

「わかった!」

 

「承知しました!」

 

カズマがメンバーに指示を出している間に、ダクネスが真っ先に前線に立ち、走り鷹鳶を迎え撃つ。

 

「!そこのクルセイダー!あんた護衛とは関係ないんだから下がってろよ!」

 

「おい!あのクルセイダーめがけてモンスターが真っすぐ向かっているぞ!」

 

「あれはデコイだ!クルセイダーはデコイという囮になるスキルを使う!」

 

「あのクルセイダー!護衛でもないのに敵を引き付けてるんだ!!」

 

(すいません、そんなスキル使ってません)

 

ダクネスがデコイを使っていると勘違いしている冒険者をよそに、カズマは冒険者たちに心の中で謝罪する。

 

「あれだけの数の敵を前にして、一歩も引かない気よ!!なんて勇敢なの!!?」

 

(すいません、多分全然違う理由だと思います)

 

「ただの客で護衛料ももらっていない冒険者を危険な目に合わせられるか!!援護は任せろ!!バインド!!」

 

ダクネスに危険な目を合わせられないようにするためか、盗賊系の冒険者は走り鷹鳶にバインドを放った。

 

「はああ!!!」

 

が、何を思ったのかダクネスはそのバインドを自分から向かって、そのバインドを自分で食らって拘束される。

 

「まさか・・・俺のバインドを食らわせることにより、モンスターの群れが俺をターゲットにするのを案じて、身代わりになったのか!!?すまねぇ!!援護のつもりが、却って邪魔しちまった!!許してくれ!!許してくれええええええ!!!」

 

「・・・すいまっせん!!!!!うちの仲間がすいません!!!!!!本当に、うちの変態がすいまっせんんんんん!!!!!!!」

 

ダクネスの奇行ぶりにさすがの我慢の限界が来たカズマは涙目で冒険者たちに土下座で謝罪をした。当のダクネスは縛られて、向かってくる走り鷹鳶を見て興奮するのであった。




親愛なるふにふらさん、どどんこさん、お返事ありがとうございます。私は元気です。
先の手紙に書いた仲間たちですが、実在します。本当です。
なので、コミュ障に友達作りは無理、本当のことを言え、等の言いがかりはやめてほしいです。心に深く刺さります。

ゆんゆん

ゆんゆんの現状・・・

今日も今日とてぼっちのゆんゆん。常に1人でおり、めぐみんにも例外の時以外ではあまり構ってもらえないがために・・・

ゆんゆん「た、たのもー!!さあ、今日こそ決着をつけるわよめぐみん!覚悟なさい!!」

・・・しーん・・・

ゆんゆん「??も、もしもーし?」

わざわざ屋敷に来たのに、カズマたちが旅行に行っているということにも全く気付いていない・・・というか、ゆんゆんにだけ旅行に行くという知らせが届いていなかったのだった。

次回、この痛々しい街で観光を!


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この痛々しい街で観光を!

アニメを見て、アクシズ教徒の中で1番印象に残ったのはおばちゃんですw


チキンレース・・・それは、猛スピードで障害物に突撃し、死ぬ寸前で身を躱すことで度胸を試すレースゲームのことだ。今その危険なレースの障害物に彼女が選ばれていた。

 

「来た来た来た来た来たぁーーー!!!!か、カズマ!!今度こそ、今度こそはもうダメだ!!ああ!!ぶつかるーーーー!!!!」

 

アルカンレティアへ行く道中の中、ダクネスの固さに惹かれて、絶賛繫殖期のモンスター、走り鷹鳶が馬車に向かってきており、それらを討伐するために護衛の冒険者と、尻拭いするために出たカズマたち。その過程で盗賊系の冒険者のバインドをダクネスが自分から食らいに行き、今に至る。足以外身動きの取れなくなったダクネスは今か今かとぶつかるのを待ち望んでおり、走り鷹鳶がダクネスにぶつかってしまうと思ったその時・・・

 

ぴょいんっ、ぴょいんっ、ぴょいんっ

 

走り鷹鳶はダクネスにぶつかるギリギリのタイミングでジャンプして躱して、そのまま通り過ぎていき、そのまま止まっている馬車を通過していく。

 

「カズマ!これは焦らしプレイの一環なのだろうか!!?このギリギリでのお預け感がまた・・・なんてことだ・・・私の体の上を発情したオスたちが次々と飛んでいく・・・!!」

 

「ギリギリで焦らす・・・その手があったのね・・・」

 

「お姉ちゃん?」

 

「よしお前ら!!人の目もあるんだ!!もう黙ってろ!!」

 

もういろいろとアウトな発言をするダクネスと、ドSな意味で納得するアカメにカズマは声を上げて黙らせる。

 

「アクア!ダクネスに運向上魔法を!」

 

「任されたわ!ブレッシング!」

 

「ああ!!お構いなく!!」

 

万が一当たったらと思い、カズマはアクアに指示を出して、そのままアクアはダクネスにブレッシングをかけて運を向上させる。本人はあまり望んでなかったが。これでひとまずはダクネスが走り鷹鳶にぶつかる確率は低くなった。

 

「ふぅ・・・ダクネスもこれなら大丈夫だろ」

 

「私のブレッシングのおかげね!」

 

「はいはい、これが終わったら座席変わってやるから」

 

カズマが座席を変わってくれると聞いて、アクアは思わずガッツポーズをとる。その間にも護衛の冒険者たちは走り鷹鳶に次々と遠距離攻撃を仕掛けていく。遠距離攻撃をくらった走り鷹鳶は倒れる際に冒険者たちにぶつかり、冒険者側に被害が出る。

 

「ちょ・・・待ちな・・・おぶ!!」

 

「お姉ちゃん!!!???」

 

「アカメーーー!!!」

 

「ああ、ずるい!!私にも当たってほしかったのに!!」

 

その倒れていった走り鷹鳶がアカメにも直撃した。

 

「ぐぬぬ・・・この・・・大人しく・・・こいつ力強・・・!」

 

「お姉ちゃんがぶつかった走り鷹鳶と格闘してる!」

 

しかも倒れた走り鷹鳶はまだ生きており、ぶつかった際に怒った走り鷹鳶がアカメに顔を近づけて襲い掛かっている。アカメは自慢の力で何とか掴んで持ちこたえているが、苦戦している。

 

「くそ!ティアはアカメを助けてやれ!俺たちは残りの奴を迎え撃つ!」

 

「わ、わかった!」

 

アカメを助けるようティアに指示を出して、ティアはアカメを助けに向かった。そうしてる間にダクネスと馬車を通過した走り鷹鳶は進路を変えて再び馬車・・・というかダクネスに向かってきている。

 

「まだ来るつもりか!!」

 

「よし!!」

 

ダクネスのドM思考は置いておいて、カズマは何かしらの策を思いついた。

 

「おっちゃん!この辺りに崖とかないか⁉」

 

「んなもんないよ!あるのは雨よけの洞窟くらいだ!」

 

「洞窟・・・それでいい!みんな!馬車に乗れ!」

 

名案を思い付いたカズマは全員に馬車に乗るようにアクアたちに指示を出し、自分はダクネスに近づいて持ち上げようとする。

 

「行くぞダクネス!ぐ・・・ぬおおおおお・・・重すぎて持ち上がらない・・・!!」

 

「お、おい!重すぎてとか言うな!!ちょっと私の鎧が重いと言い直せ!!」

 

だがダクネスはカズマの力ではなかなか持ち上げられないでいた。カズマのデリカシーのない発言にダクネスは少なからず傷ついている。

 

「んなこと言っても・・・ば、馬車に乗せられねぇ・・・!!」

 

「なら私たちに任せなさい」

 

「何言って・・・て、うおおお!!?」

 

カズマが双子たちを見てみると、双子たちは先ほど格闘していた走り鷹鳶を馬のように乗っている。

 

「私たちアヌビスの民は走り鷹鳶を手懐けられるんだよ!初めての試みだったけど、うまくいったよ!」

 

「そ、そいつはすげぇ・・・て、んなこと言ってる場合じゃねぇよ!早くしないと群れがこっちに・・・」

 

「だから私の出番よ。私がダクネスのロープを持って引きずる。馬車はこの子をその洞窟のとこまで案内なさい。カズマは馬車に乗ってこの子の援護を」

 

「え?マジで?」

 

ダクネスを引きずるということ・・・それはダクネスが走り鷹鳶の走りに引っ張られて地面に引きずられ、痛い目に合うということ。その案にはカズマはかなり引いている。

 

「それだ!それでいこう!!緊急事態だ仕方ない!!遠慮するな!仕方がないんだ!!」

 

「ダクネスはそれでいいの?かなり引くんだけど・・・」

 

ティアもアカメの案にはかなり引いており、それに興奮状態で同意しているダクネスにたいしてもかなり引き気味である。

 

「お客さん急いでくれ!!もう限界ですよ!!」

 

「・・・ええい!!仕方ねぇ!!アカメ、ダクネスを頼む!!」

 

「任されたわ。ティア、運転よろしく」

 

「えぇ・・・一応全体にバインドで落ちないようにはしてるけど、振り落とされないようにね」

 

迷っている時間も縛っている時間もないのでここは双子に任せ、カズマは言われた通りに馬車に乗る。

 

「おっちゃん!出してくれ!!」

 

「よし来た!!はいよお!!!」

 

準備が整い、馬車は雨よけの洞窟に向かって走り出す。

 

「ああ・・・縛られたまま、手懐けられた走り鷹鳶に引きずられるんだ・・・そして!そんな状態で私を追いかけてくるうえ!!!???」

 

馬車が走り出したと同時に双子が手懐けた走り鷹鳶もティアの指示でついていくように走り出す。アカメはダクネスのロープを持って、手懐けた走り鷹鳶に身を任せながらダクネスを引きずる。

 

「ああ!!いい!!いいぞアカメ!!やはりお前は最高だ!!!新発見だ!!この物扱いされてる感じがまたいい!!!」

 

「お褒めいただき光栄だわ、ド【ピーーッ】の変態」

 

「ああ!!さらに容赦のない罵倒!!癖になってしまいそうだ!!」

 

「とんでもない会話が後ろで繰り広げてるんだけど・・・」

 

アカメとダクネスはしちゃいけないような会話をしていて、ティアはもう頭を抱えそうなくらい引いている。

 

「アカメさんは鬼畜だとは思っていたけど、これはあんまりじゃないかしら・・・」

 

「そしてそれに同意するカズマ・・・さすがは鬼畜コンビ・・・」

 

「ひ、ひどすぎる・・・」

 

「し、仕方ないだろ!!縛る余裕も持ち上げる余裕もなかったんだよ!!」

 

引いているのはアクアたちも同じでこの作戦を考えたアカメとそれに同意したカズマを引いた視線で見つめる。

 

「お客さん!!このままじゃ追い付かれますよ!!」

 

「ちょっとティア!もうちょっとスピード上がらないの⁉」

 

「無理言わないでよ!ダクネスが重いからこの子のスピードが落ちてるんだよ!」

 

「お、おい!重いって言うな!せめて鎧が重いってぐっはああああああ!!」

 

「おっちゃん!洞窟は⁉」

 

「まだだ!!」

 

走り鷹鳶が迫ってきており、このままでダクネスも双子の走り鷹鳶も、馬車もぶつかりかねない。もうダメだと思った時・・・

 

「ボトムレス・スワンプ!!」

 

ウィズが水の上級魔法、ボトムレス・スワンプで汚れ切った沼を出現させた。追いかけてきた走り鷹鳶の群れの一部は魔法の沼にはまり、身動きが取れなくなった。残りの走り鷹鳶は散開してダクネスを追いかける。いい時間稼ぎにはなった。

 

「サンキュー、ウィズ!」

 

「ぬああああああああ!!こんな・・・こんな貴族にあるまじきボロボロの恰好に・・・!アカメ、見るなぁ!!こんなボロボロにされていくみすぼらしい私を見るなぁ!!」

 

「こいつどうしようもない変態ね」

 

「アクアー!そろそろダクネスにヒールかけてあげて!」

 

「ヒール!ヒール!ヒール!ダクネス、がんばって!」

 

引きずられてボロボロになったダクネスは凄まじく興奮して喜びながら叫んでいる。さすがにあれ以上やると持たないと思い、アクアがダクネスにヒールをかけて回復させる。

 

「カズマ!洞窟が見えてきました!私の方はいつでも魔法が撃てますよ!」

 

「おっちゃん!洞窟の脇に馬車を止めてくれ!ティアもその走り鷹鳶を脇に止めろ!」

 

「よし!」

 

「わかった!」

 

「アクア!俺にも筋力増加の魔法をかけてくれ!」

 

「わかったわ!パワード!!」

 

カズマの指示でアクアは筋力増加の魔法、パワードをカズマにかけて、自分は馬車の御者台の屋根の上に乗り、狙撃体制に入る。

 

「狙撃!狙撃!狙撃!狙撃!」

 

カズマは狙撃を連発で発動し、追いかけてくる走り鷹鳶を何匹か討伐する。輪が乱れた走り鷹鳶の群れは体勢を立て直し、一列に並び直す。

 

「ピィーヒョロロロロローッ!!」

 

鳴く際に走り鷹鳶の声はトンビの鳴き声であった。トンビの要素はどこにあったのだろうと疑問であったが、その要素は声にあったようだ。

 

「お客さん!しっかり掴まっててくださいよ!」

 

馬車は勢いよく洞窟の脇に急停止する。カズマたちはその際の揺れに何とか耐える。

 

「あ、アカメ!そいつから降りてダクネスを洞窟の入り口に運べ!」

 

「わかったわ。ティア!」

 

「オッケー!バインド解除!」

 

カズマの指示でティアはアカメに巻いたバインドを解除させる。ロープが解かれたアカメはすぐに乗ってた走り鷹鳶から降りてダクネスを持ち上げる。

 

「ダクネス!!歯を食いしばりなさい!!!!」

 

「わああああああああああ!!!!」

 

ティアが乗ってる走り鷹鳶を脇に止めたのを見計らってアカメはダクネスを洞窟の入り口まで力いっぱいぶん投げた。

 

「悪くない!!悪くないぞこの仕打ち!!さすがはアカメだ!引きずりまわした挙句にモンスターの餌に・・・」

 

「だから!この子たちはダクネスを食べたりしないって!!」

 

ぶん投げられたダクネスはちょうどよく洞窟の入り口まで落ち、地面に激突する。そして、群れの走り鷹鳶はダクネスをギリギリのところでジャンプして躱し、洞窟へと入っていく。

 

「めぐみん!!今だ!!」

 

「エクスプロージョン!!!!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!

 

カズマの指示でめぐみんは洞窟にエクスプロージョンを放った。この大爆発によって洞窟に穴が開いた代わりに群れの走り鷹鳶を全て退治することに成功したのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

走り鷹鳶を討伐をし終えて、他の馬車に戻ってきた頃にはもうすっかり日が暮れてしまい、荒野の休憩所で商隊の人たちと共に宴を始めた。

 

「さあ!どうぞどうぞ!いい具合に焼けたのでどうぞ!」

 

おいしそうに焼けた大きな肉を持ってきたのは商隊のリーダーの髭の男であった。

 

「しかしお見事でした!まさか爆裂魔法を使えるほどの大魔法使いがおられたとは!しかもこれだけの負傷者を簡単に治療してしまったアークプリースト様!危険なはずの走り鷹鳶を従順に飼いならしてみせたシーフのご姉妹様!走り鷹鳶の群れに一歩も引かず、それを一心に引き受けた勇敢なクルセイダー様に上級魔法であられ、泥沼の魔法での咄嗟の足止め!そして何より見事な判断で敵を討伐へと導き、一網打尽にしたあなた様のその機転!いやー、お見事です!」

 

(マジ勘弁してください。本当にそんなんじゃないんです。俺たちのせいなんです)

 

走り鷹鳶の群れを討伐したカズマたちに商隊のリーダーはべた褒めをする。アクアたちは褒められてご満悦だが、走り鷹鳶を呼び出した原因は自分たちにあるため、カズマだけは後ろめたさでいっぱいである。

 

「これは心ばかりのお礼です!どうぞどうぞ、受け取ってください!」

 

商隊のリーダーはお金が入った袋をカズマに渡そうとするが、カズマは必死にそれを拒否する。

 

「いやいやいや!!本当に!!本当に結構ですから!!!」

 

「何を言われるのですか?走り鷹鳶を倒したのはあなた方ではないですか」

 

「冒険者であれば戦いに参加するのは当たり前ですよ」

 

「何という方だ・・・この世知辛いのに、まだあなたたちのような本物の冒険者がいたとは!!ううぅぅぅ・・・」

 

カズマの言葉で商隊のリーダーは感動して感激の涙を流す。

 

(こんなマッチポンプで報酬は受け取れません!!!)

 

カズマは別の意味で静かに涙流すのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

宴会は滞りなく続いており、アクアは一同に自身の宴会芸スキルを披露する。ウィズはアクアに付き合わされ、巻き込まれている。そことは離れた場所でカズマはダクネスのボロボロになった鎧を鍛冶スキルで直していく。その様子をダクネスとめぐみんは興味深そうに見つめている。

 

「・・・すごくやりづらいんですが」

 

「いや、器用に修理するものだなと思いまして」

 

「なんだか自分の鎧が目の前で綺麗になっていくのを見ているとわくわくするな」

 

「商品開発のために習得した鍛冶スキルが役立ってよかったよ」

 

カズマが鎧を修理している間にアクアたちのところには観客が大勢集まっている。

 

「あいつ、あれで食っていけばいいのに・・・」

 

遠巻きで呆れたように視線を向けてそう呟くカズマ。修理作業を終えるとふとカズマは双子が自分たちが飼いならした走り鷹鳶の世話をしている光景が目に映る。

 

「あんなに苦労した倒したモンスターの1体が、俺たちと一緒に過ごしてるのって驚きだよな」

 

「そうですね。滅多にみられる光景ではないですよ」

 

「そうだな」

 

感心しているカズマたちは双子たちに近づき、声をかける。

 

「お前たち、何をやっているのだ?」

 

「見てわからないかしら?この子の毛を私たち色に染めてるのよ」

 

アカメがやっている作業は飼った走り鷹鳶を毛染めスプレーで双子のメインの色を混ぜた色、紫色に染めている最中だ。

 

「私はこの子が何を食べるか検診していたんだよ。飼うのは初めてだから、わからないことが多いんだ」

 

ティアは商隊からもらった食べ物を1個ずつ飼った走り鷹鳶に与えていたようだ。ティアの書いていたメモにはこの走り鷹鳶の食べるものと食べないものが別れている。

 

「なぁ、お前ら本当にそいつ飼うつもりなのか?」

 

「何当たり前のこと聞いてるのよ。飼うに決まってるでしょ」

 

「うちの故郷じゃ走り鷹鳶を手懐けたら責任持って面倒を見ろっていう教えがあるからね。その教えには逆らえないよ」

 

「何その面倒くさい教え」

 

どうやら双子は本気でこの走り鷹鳶を飼うつもりで意思を曲げる様子はこれっぽっちも見当たらない。

 

「まぁよいではないか。見たところこいつは私たちに危害を加える様子はない。それに・・・こいつは先ほどから私に熱い視線を向けているのだが・・・」

 

「まだ交尾道具として見てるのかこいつは・・・」

 

走り鷹鳶は繁殖期の名残があるのか、ダクネスのことをさっきからじっと凝視している。それには昼間のこともあり、興奮するダクネス。

 

「ところで2人は、この走り鷹鳶に名前はもう付けましたか?まだなら、私がいい名前を付けてあげましょう」

 

「おい、お前人様のペットに余計なことするな!」

 

「この走り鷹鳶の名は、きつつきまる!!これで決まりです!」

 

めぐみんが勝手に走り鷹鳶の名を決めたようだが、当の走り鷹鳶はというと・・・

 

「・・・・・・」プイッ

 

「なっ!!???」

 

「めぐみんもダメみたいだね・・・ちゃちゃまるって名前にもこうだし・・・」

 

「そりゃそうだろ・・・」

 

紅魔族的の名は走り鷹鳶にも不評のようで首をそっぽに向く走り鷹鳶。名を却下されためぐみんはショックを受ける。

 

「勝手に名前を付けんじゃないわよ。こいつの名前はもうとっくに決めてあるわ」

 

「ほお。どんな名前なのだ?」

 

「アレクサンダーよ」

 

「・・・今なんて?」

 

「アレクサンダーよ」

 

紅魔族の名よりはマシとはいえ、なんとも捻りもない名前にカズマは若干渋い顔つきになっている。走り鷹鳶は少なくとも嫌がってる様子はないので名前はアレクサンダーに決定した。そして、そろそろ眠くなってきたようでカズマたちは全員寝ることに決めたのだった。

 

 

ーアレクサンダーよー

 

 

真夜中の荒野の休憩場で冒険者たちは毛布をかぶってぐっすりと眠っている。ここまで見れば本当に安全地帯のようにも見えた。

 

「ピィーヒョロロロロロ!ピィーヒョロロロロロ!」

 

すると、アレクサンダーが途端に遠くの方で鳴き始めて、その声でカズマは起きる。

 

「ん?どうしたんだ、アレクサンダー」

 

カズマはアレクサンダーが鳴いている方向に視線を向ける。何があるのかと思って千里眼で遠くを見る。千里眼で見てみると、何かが近づいてきているのがわかる。

 

「おい、起きろお前ら。なんか近づいてきてる」

 

カズマはめぐみんたちを起こそうとするが、みんな疲れが溜まってるのか、起きる様子はない。

 

「おい、お前ら起きてくれよ。でないと、俺の顔を見れないようなことするぞ。いいのか?いいんだな?」

 

「言い訳あるか!何をする気だお前は!」

 

「うわあああああ!!?」

 

なかなか起きないめぐみんたちにいたずらをしようとしたカズマだったが、いつの間に起きたのかダクネスが背後から止めに入る。それにはカズマはビックリする。

 

「お、驚かすな!あと少しでお前の目の前ですごいことするつもりだったぞ!」

 

「本当に何をするつもりだったのだ・・・それより、何か変だぞ」

 

「ああ・・・アレクサンダーがそれに気づいたみたいでさ・・・」

 

「おい!全員起きろ!!」

 

他の冒険者の呼びかけで何人かは目を覚ました。近づいてきているものは動きが鈍く、依然としてゆっくりと近づいてきている。その正体を確かめるべく、冒険者の1人は火で明かりを照らす。明かりがともり、見えてきたのは・・・

 

『おぉぉぉぉぉ・・・』

 

『うわあああああああああああ!!!???』

 

大量のアンデッド集団であった。大量のアンデッドに起きた全員は大きな叫びをあげる。

 

「ここは頼む!俺はアクアを呼んでくる!」

 

今こそ走り鷹鳶の群れのご迷惑をかけたお詫びをするチャンスだと思い、カズマはアクアを呼びに向かった。すると・・・

 

「わああああああああ!!?何事!!?なんで私、目が覚めたらアンデッドにたかられてるの!!?カズマさん!!カズマさ―――ん!!」

 

(・・・あれ?これってもしかして・・・)

 

アクアがアンデッドにたかられていた。それを目撃して、カズマはこの事態の原因に気付く。そう、アクアはアンデッドを呼び寄せる体質でそれにつられてアンデッドたちはアクアに寄ってきたのだ。

 

「寝込みの襲撃なんて、やってくれるじゃないアンデッド!!迷える魂よ、眠りなさい!!ターンアンデッド!!」

 

アクアは休憩場周辺にターンアンデッドを放つ。

 

『ぼええぇぇぇぇ・・・』

 

このターンアンデッドによってアンデッドたちは浄化されていき、天へと召されていく。しかし忘れてはいけない。これはアンデッドに利く魔法である。これを休憩場周辺に放った。それすなわち・・・

 

「ほええええええええええ!!!???」

 

「ああ!!?しっかりしろウィズ!!誰か!!ウィズが!!」

 

リッチーであるウィズにも瀕死のダメージが入るのだ。瀕死のダメージを負ったウィズは死んだように気絶してしまい、ダクネスが慌てふためく。

 

「すごい!ゾンビを一瞬で!」

 

(・・・すいません)

 

それとはよそに次々と浄化されていくゾンビを見て、起きた冒険者はアクアに惚れ惚れするような表情になっている。またも自分たちに原因で起きた事態にカズマは心の中で何度目かわからない謝罪をする。

 

「あははははは!この私がいる時に出くわしたのが運の尽きね!さあ!片っ端から浄化してあげるわ!!」

 

(・・・すいません)

 

「なんて美しいプリースト様!まるで女神みたい!」

 

「あのクルセイダー様の連れの人だよ、あの方は!」

 

(すいません、すいません、うちの仲間が次から次へと、すいません)

 

「ゾンビの襲撃なんて珍しいこともあるもんだが、ちょうどあのプリースト様が居合わせてよかったな!」

 

(すいません・・・うちの女神がこの場にいなかったら多分このゾンビたちはわざわざ呼んできませんでした・・・)

 

楽観的なアクアと冒険者たちとはよそにカズマは心の中でもう何度も何度も繰り返して謝罪を心の中でしている。

 

「どうカズマ?この私の女神っぷりは?この旅の間ずっと活躍しっぱなしじゃないかしら?そろそろ私にお供え物の1つくらい捧げてくれてもバチが当たらないわよ?」

 

自分が呼んできたくせに図々しいことを平気で述べているアクア。そこへ商隊のリーダーがお金が入った袋を持って近づいてきた。

 

「いやー、また助けられてしまいました!今度こそは礼金を受け取っていただきますから!」

 

「すいません!!!!!絶対にいただけません!!!!!」

 

カズマは涙を流しながら必死になって礼金はいらないと言い放った。

 

 

ーすいまっせんんん!!!!!!!ー

 

 

翌日になり、馬車はアルカンレティアへ向かって再び走り出した。アクアと席を交代し、荷台でカズマはぼんやりと荒野を抜けた草原と後ろからついてくるアレクサンダーを眺めるのだった。アカメは御者台の屋根の上からアレクサンダーの一口サイズのご飯を軽く投げて与えてる。アレクサンダーは器用にそのご飯を口でキャッチして食べている。

 

「あ!見てみてあれ!」

 

アクアの一声で前方を見てみると、そこには綺麗なトンネルがあり、そのトンネルを通過し、抜けた先には、一目惚れしてしまうほどの美しい街が見えてきた。

 

「来たわ!水と温泉の都、アルカンレティア!!」

 

そう、この街こそが今回の湯治旅行の目的地であるアルカンレティアなのだ。アルカンレティアにたどり着いた馬車はアルカンレティアの馬車の待合上まで移動する。そこまでに至る道のりには、エルフやドワーフたちも何人かいた。

 

「すげぇ!エルフとドワーフだ!これぞまさにファンタジー!」

 

「わあ・・・すごい!景色もアクセルやアヌビスとは違う!空気もおいしいし、最高だよ!」

 

今までに見たことのない景色にカズマやティア、ダクネスも非常にわくわくした気持ちでいっぱいになっている。

 

「あれは、饅頭かしら?何ともおいしそうな饅頭ね」

 

「あれはこの街の名物のアルカン饅頭ですね。中々の美味と評判です」

 

「へぇ・・・よく知ってるね、めぐみん。もしかして、1度ここに来たことあるの?」

 

「ええ。アクセルの街に行く道中の中でここに滞在していましたから。そうでなくてもアルカンレティアは冒険者の間では有名な湯治場ですよ。ここの温泉の効能はたいしたものですから」

 

「昔、父に連れられていくつかの街に行った事はあるが、この街はそのどこよりも美しい。いい湯治になりそうだな」

 

「こんなことなら、もっと他の街に行ってみればよかったな」

 

アルカンレティアの美しさに見惚れている間にも馬車は待合上まで到着した。カズマたちは馬車から降りて、アルカンレティアの地に足を踏み入れた。

 

「じゃあお客さん、よい休日を」

 

馬車はアルカンレティアに降りたお客が全員降りたのを見計らって次の目的地に向かって移動を始めた。ゆえに、違う目的地へ向かうレッドドラゴンとブルードラゴンの赤ちゃんとはここでお別れである。

 

「ああ・・・じゃりっぱ・・・じゃりっぱが行ってしまいました・・・」

 

「どんちゃんも行っちゃった・・・元気でね、どんちゃん・・・」

 

「じゃりっぱとどんちゃんって何よ・・・」

 

「え?あのレッドドラゴンとブルードラゴンの名前だよ。赤いのがじゃりっぱで青いのがどんちゃん。飼い主さん宛に名前を書いた手紙を添えたから大丈夫。きっと可愛がってくれるよ」

 

めぐみんとティアはあのベビードラゴンズに勝手に名前を付けてしまったようだ。

 

「ドラゴンは1度名前を付けると二度と他の名で呼んでも反応しなくなると聞いたのだが・・・」

 

ダクネスがここでとっても重大なことを言い放った。

 

「おっま!!?人様のペットになんてことをしてくれたんだ!!?特にめぐみん!俺、昨日人様のペットに余計なことするなって言ったよな!!?この先あの可愛そうな名前で呼ばれるドラゴンが不便でしょうがないわ!!!」

 

「かわいそう!!?アレクサンダー、私のつける名前ってそんなにかわいそう?」

 

「ピィーヒョロロ」コクコクッ

 

「肯定してるわね」

 

「んなっ!!?なぜですか!!?」ガーン!

 

カズマの発言にショックを受けたティアは涙目でアレクサンダーに問いかける。アレクサンダーはカズマの意見に同意して首を縦に振る。それにはめぐみんもショックを受ける。

 

「全く・・・みんな本当に嘆かわしいですよ・・・ネーミングセンスがなくて・・・。特に、カズマなんてかっこいい名前を持っているというのに、何が不満なのですか・・・」

 

「全部だよ全部!!俺たちからすればお前ら紅魔族のネーミングセンスはおかしいんだよ!!ていうか待って。カズマって名前、紅魔族的にいかした名前なの?すごいへこむんだけど・・・」

 

「なんでですか!!?」

 

紅魔族的にカズマという名はかなりイケてる名前らしく、その事実を知ったカズマは落ち込みを見せている。

 

「さあみんな!どこに行く?この街の事なら何でも聞いて!なんせここは私の加護を受けたアクシズ教団の総本山なんだからね!」

 

「「「!!!???」」」

 

このアルカンレティアが双子が忌み嫌うアクシズ教団の総本山と聞いてカズマと双子は目を見開かせ、3人でひそひそと話し合う。

 

「今アクアはなんて言ったの?私の耳には変わり者で有名なアクシズ教団の総本山って聞こえたんだけど・・・気のせい?」

 

「いいや、俺の耳にもそう聞こえた。通りでアクアがここに来たがってたわけだ・・・」

 

「お頭がヤバイ街だって言ってた理由がこれだけでわかったわ・・・。そうだと知ってたら、絶っっっっっ対に来なかったわよ・・・」

 

この街に来た時の双子の印象は最高のものから一気に最悪なものに急降下した瞬間であった。ひそひそと話している間にも、この街の人間がカズマたちに話しかけてきた。

 

「ようこそいらっしゃいましたアルカンレティアへ!!」

 

「観光ですか?入信ですか?冒険ですか?洗礼ですか?」

 

「お仕事をお捜しに来たならぜひアクシズ教団へ!!」

 

「今なら他の街でアクシズ教の素晴らしさを説くだけでお金がもらえる仕事がありまーす!!」

 

「この仕事に就きましてはもれなくアクシズ教徒を名乗れる特典が付いてくる!!」

 

「「「「「どうぞ!!!さあどうぞ!!!!!」」」」」

 

「うわ・・・出たよこの変な勧誘・・・」

 

「だからこいつら嫌いなのよ・・・」

 

もてなしながらアクシズ教に勧誘しようとしているアクシズ教徒たちの勢いにカズマたちは苦い顔をしており、双子は嫌悪感丸出しの顔つきになっている。

 

「なんと美しく輝かしい水色の髪!!地毛ですか?羨ましい!!羨ましいです!!」

 

「そのアクア様みたいな羽衣もよくお似合いで!!」

 

アクアはというと街の住民にべた褒めされている。アクアはちやほやされて非常にご満悦な様子だ。

 

「こいつらといると頭がおかしくなりそうだわ・・・」

 

「もうこんなとこいたくないよ・・・早く宿屋に行こうよ・・・」

 

「そうだな・・・そこなら安全だろうし・・・」

 

「ああ・・・それに、ウィズの方も心配だ・・・早く休ませてやろう」

 

アクア以外は満場一致でこの場から離れるというティアの意見に賛同したカズマたち。

 

「うちにはもうアクシズ教のプリーストがいるもので・・・それじゃあ!!失礼します!!!」

 

カズマたちはアクアを無理やり引っ張ってその場を後にし、急いで宿へと向かう。

 

『さようなら同志!!!あなた方が良き1日であらんことを!!!』

 

そんなカズマたちを見送るアクシズ教徒たち。アクアはそんな信者たちに向かって手を振ってみせたのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

宿に向かう時でもアクシズ教徒の胡散臭い勧誘に何度もあい、ここに来るだけでも非常に疲れ切っているカズマたち。

 

「・・・お前らがアクシズ教を嫌う理由がよくわかったぜ・・・・」

 

「あんなのただの序の口だよ。アクシズ教はもっと恐ろしいのだから・・・」

 

「そうね・・・あんな胡散臭い勧誘だけならまだかわいい方だわ・・・」

 

「やばい、この街歩くのが恐ろしくなってきたんだけど・・・」

 

これまでの勧誘が序の口と聞いて、カズマはもう底知れない恐怖に襲われそうになっている。

 

「と、とりあえず、チェックインでもしとくか。マッチポンプで申し訳ないんだけど、あのおっちゃんからこの宿の宿泊券もらったわけだし、使わせてもらおうぜ」

 

「それならみんなはチェックインを済ませててちょうだい!私は、アクシズ教徒のアークプリーストとしてちやほやされてくるわ!」

 

「おいちょっと待て。その前にお前に言いたいことがある」

 

アクアがもうどこかへ行こうとしたところにカズマがちょっとだけアクアを呼び止める。

 

「わかってると思うが、ここで水の女神だとか言うなよ?絶対に大変なことになるからな。極力名前も使うな、偽名を使え」

 

「わかってるわよカズマ。私だってバカじゃないわ。大騒ぎになったら、慰安旅行どころじゃなくなるもの」

 

恐らくアクアは皆に崇められ、さらにちやほやされて大変になると考えているのだろう。が、カズマの場合はその逆、信者たちが怒り狂うことを危惧しているのだ。お互いに食い違いがあるが、一応は女神は名乗らないという点が一致しているのでカズマは安心する。

 

「じゃあ私、もう行ってくるわねー!」

 

「カズマ、なんだかアクアが心配なので一緒についていきます。私とアクアの荷物、部屋まで運んでおいてください」

 

「ああ、頼むよ」

 

アクアは待ちきれないと言わんばかりにどこかへと行ってしまった。めぐみんは一応アクアの監視という名目でアクアについていくのだった。

 

「俺たちは宿に入るか」

 

「早く入りましょう。あいつらが来る前に」

 

「そ、そうだな・・・ウィズを早く休ませてやりたい」

 

「あ、アレクサンダーはここで待ってて。後で街を回ろうね」

 

「ピィーヒョロロ」

 

当然ながらアレクサンダーは宿には入れないため、外で待機させ、自分たちはこの宿のチェックインを済ませに行くのだった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

宿のチェックインを済ませたカズマたちは部屋まで行き、ウィズをベッドに運び、寝かせてあげた。そして、カズマはダクネスにドレインタッチで体力を吸収し、それをウィズに分け与える。そして、しばらくたつと・・・

 

「・・・はっ!!!???」

 

「あ、ウィズ!よかったー、目が覚めたよー」

 

「たく、あのバカはウィズがいるってことを考えなさいよ」

 

ウィズが目を覚ました。これにはカズマたちは安堵する。

 

「・・・ここは・・・?」

 

「安心しろ、もうアルカンレティアについてるから」

 

「・・・なんだか、きれいな川の向こうで、ベルディアさんが楽し気に手を振っていました・・・」

 

「「「「えっ?」」」」

 

どうやらウィズは幽体離脱をしてしまっていたようで、魂が三途の川でデュラハンのベルディアと再会したようだ。

 

「ありがとうございます、カズマさん」

 

「お礼ならダクネスに言ってやってくれ」

 

「無事に帰ってこられて何よりだ」

 

何はともあれ、ウィズの魂が本体に戻ってきたことは素直に喜ばしい気持ちのカズマたちである。

 

「それよりもあのバカ・・・変なことやってないでしょうね?」

 

「うん・・・アクシズ教徒たちにちやほやしてくるって言ってたけど・・・」

 

「・・・不安だ・・・」

 

「ま、まぁ大丈夫だろう・・・めぐみんもついていってくれたし」

 

「そう?・・・そうかなぁ・・・不安しかないんだが・・・」

 

カズマたちはアクアが変なことをやらかさないか変に不安になってきている。

 

「私はもう大丈夫ですから、皆さんは街を見て来てはどうですか?」

 

「みんな、行ってみよう。私もこの街を見てみたい」

 

「・・・正直、外に出たくないんだけど・・・まぁ、せっかくだし、行こうかしら」

 

「うん、そうしよっか。アレクサンダーと一緒に回るって約束したし」

 

「そうするか」

 

カズマたちはウィズの言葉に甘えて、この街を観光することに決めたのだった。

 

 

ーこのすばー

 

 

ダクネスは町民のような平々凡々な服装に、双子は私服であるアラビアンの服に着替え、カズマと共にアレクサンダーを連れてアルカンレティアの街を観光する。

 

「みんな見てくれ!噴水があるぞ!」

 

「本当だな」

 

「なんであいつあんなにはしゃいでるのよ」

 

「やっぱり貴族だから珍しいって思ってるんだよ」

 

ダクネスは貴族として世間知らずなところもあるゆえに、噴水が珍しくはしゃいでいる。噴水を眺めていると、噴水に建てられている女神像に目が留まる。おそらくこれは女神アクアをイメージした女神像なのだろう。

 

「なんて美しい女神像だ・・・」

 

「あれが女神アクアなんでしょうね・・・忌々しい」

 

「こいつさえいなければ、アクシズ教徒はなかったのに・・・」

 

「そこまで言うか・・・。にしても、詐欺だな」

 

アクシズ教徒が崇める女神アクアも嫌っている双子は忌々し気な顔つきになっている。実際に本人は自分たちのパーティにいるのだが。それを知っているカズマは目の前にある女神像と実物を比べて、これは詐欺であると口にする。

 

「あっ・・・!りんごが・・・」

 

すると、たまたま通りかかった女性が転んでしまい、バスケットに入れていたりんごを落としてしまう。

 

「大丈夫ですか?今りんご拾います」

 

「助けなくていいわよ。そいつ絶対・・・」

 

「そうとも限らないだろう?助けるぞ」

 

「・・・私たちは助けないし、どうなっても知らないよ」

 

カズマたちとダクネスは女性のりんごを拾って助けるが、双子は助けようとはしなかった。理由は双子の本能が嫌な予感を察知しているからだ。全てのりんごを拾い終えたカズマたちは女性のバスケットにりんごを入れる。

 

「ありがとうございます!おかげで助かりました!」

 

「いや、これくらいはどうってことは・・・」

 

「あのぅ・・・何か、お礼をさせてはもらえないかしら?」

 

女性のしぐさにカズマは少なからずときめきを感じた。

 

「この先に、アクシズ教団が運営するカフェがあるんです。そこで私とお話しませんか?」

 

「結構です」

 

が、アクシズ教団の名が出た途端にそれも崩れ去った。そう、この女性はアクシズ教徒であり、双子の嫌な予感が的中したのだ。カズマはすぐさま断りを入れてアクシズ教の女性から逃げようとする。

 

「まぁまぁまぁ!!お待ちになってください!!私、実は占いが得意なんです!!お礼に占わせていただけませんか!!?」

 

「け、け、結構です!!ちょ・・・本当に結構なんで!!は、はな・・・離せえええええええ!!!!!」

 

だが、アクシズ教の女性は逃がさないと言わんばかりに力強く構ってきた。カズマは振りほどこうとするも、アクシズ教の女性の勢いが凄まじくて振り払えないでいた。

 

「今占いの結果が出ました!!!このままではあなたに不幸が!!!でもアクシズ教に入信できればその不幸が回避できます!!!入りましょう!!!さあ、入っておきましょう!!!」

 

「不幸なら今遭遇してる!!!ちょ・・・離せえええええ!!!!!」

 

悪質な宗教勧誘に双子は予想通りといった表情で遠くでその光景を眺めている。

 

「あーあ、だから助けない方がいいって言ったのに・・・」

 

「アクシズ教の悪質な手口の1つなのよね、これ・・・」

 

「呑気に見てないでお前ら助けろよ!!!ちょ・・・離せ・・・や、やめ、やめろおおおおお!!!」

 

「い、嫌だよ絶対!!!そんなこと言いだしたらそいつ・・・」

 

「おや!!??あなた方にも何やら不幸の相が!!!でもご安心を!!!この方と共にアクシズ教に入信すれば不幸が回避するだけでなく、あなた方に幸せが訪れます!!!なんでしたらそこのペットの走り鷹鳶もご一緒に!!!さあ!!!ぜひに!!!入信を!!!入信を!!!!!」

 

「ピィーヒョロロ!!??」

 

「こらクズマ!!!私たちを巻き込ませるんじゃないわよ!!!こいつら、見境がないのよ!!!」

 

「クズマ言うなあ!!!!」

 

カズマの助けの一声でアクシズ教の女性は狙いを双子とアレクサンダーにも定め、悪質な勧誘が双子にも迫る。

 

「ひいいぃぃ!!!か、カズマを連れてこっちに来るなああああああ!!!!」

 

「ダクネス!!!ダクネーース!!!早く助けなさいよコラああああああああ!!!!!」

 

「い、いい加減離せってお前・・・!!ダ、ダクネス、助けてくれ!」

 

あまりの悪質な勧誘にダクネスに助けを求める3人。ダクネスはエリス教の証のペンダントを出して、すぐに悪質なアクシズ教の女性に話しかけ、それを止める。

 

「すまない、私はエリス教の信徒でな。その者たちを勧誘するつもりならまず一言断ってから・・・」

 

「ぺっ!!」

 

「「「「「!!??」」」」」

 

アクシズ教の女性はエリス教のペンダントを見た瞬間、道端に唾を吐いた。アクシズ教の女性はカズマから手を放し、荷物を持ってすたすたと離れていく。そして、再びカズマたちに視線を向け・・・

 

「ぺっ!!」

 

またも道端に唾を吐いてそのまま去っていった。手ひどい扱いを受けて、カズマたちはポカーンとなる。

 

「・・・そういえば、アクシズ教とエリス教は仲が悪いって聞いた事あったわね・・・」

 

「お、おかげで助かったけど・・・これはさすがにひどすぎるでしょ・・・」

 

「ま、まぁ・・・あんまり気にする必要はないからな、ダクネス・・・」

 

ぞんざいな扱いをされたダクネスにカズマは気にかけようとしたが・・・

 

「ん・・・んん・・・///!!」

 

「・・・え・・・ダクネス、もしかして、ちょっと興奮したの?」

 

「し、してない・・・」

 

「だって・・・ん・・・って・・・」

 

「してない・・・」

 

「正直に言いなさい。帰ったらご褒美をあげるから」

 

「・・・・・・・・・し、してない・・・」

 

当のダクネスはアクシズ教の態度に興奮してしまっていた。アカメのご褒美に反応しても、それでもしてないと言い張った。まぁ、興奮してるのは見ればわかるが。

 

 

ーご褒美はお預けね。

 何!!?そんな!!?ー

 

 

さっきの悪質な勧誘に合わないようにカズマたちは人通りの少ない道のりをあえて選び、その道のりを歩いていく。

 

「さすがはアクシズ教の総本山だな・・・」

 

「ううぅ・・・もう帰りたい・・・」

 

「この街にいる限り、あんなのがこれからも続くわよ・・・」

 

「それはさすがにないだろ・・・ちゃんと人通りの少ない道を選んだし、大丈夫だって」

 

人通りが少ないから悪質な勧誘はないと楽観的な考えをするカズマ。すると・・・

 

「きゃあああああ!!助けてえ!!!」

 

カズマたちの前に助けを求める女性と、何やら女性を追いかけている巨漢の男性が現れる。

 

「そこの方!!助けてください!!あのエリス教徒と思しき男が私を無理やり蔵へ引きずり込もうと!!」

 

「へへへ、おいそこの兄ちゃんと顔がそっくりの嬢ちゃん2人!!お前らはアクシズ教徒じゃねぇな?へっ!!強くてかっこいいアクシズ教徒だったなら逃げ出したところだが、そうじゃねぇなら遠慮はいらねぇ!!暗黒神エリスの加護を受けた俺様の邪魔をするってんなら、容赦はしねぇ!!!」

 

男がさっきからアクシズ教をかっこいいだの強いだの、女神エリスを暗黒神と言っている時点で男はアクシズ教徒であるのがわかる。

 

「あああ!!なんてこと!!今私の手元にあるのはアクシズ教団への入信書!!これに誰かが名前を書いてくれさえすればこの邪悪なエリス教徒は逃げていくのに!!」

 

とどのつまり、この襲われた女性役を引き受けてるこの女性もアクシズ教徒である。わかりやすい芝居に付き合ってやるほどお人好しでない・・・というか、関わったらいけないのはさっきの悪質な勧誘で身に染みているので、カズマたちは無視して通り抜ける。

 

「あああ!!?ちょっと見捨てないでそこの方!!大丈夫!この紙に名前を書くだけでアクア様から授けられる超すごいあれなパワーで強くてかっこよくなれます!その力で恐れをなしてこのエリス教徒も逃げ出すことでしょう!」

 

「そうだぜ!!しかも入信すると芸達者になったり、アンデッドモンスターに好かれやすくなったりと、様々な不思議特典もあるんだぜ?」

 

いらない効果でアクシズ教の素晴らしさを説いているアクシズ教徒2人にいい加減我慢の限界が来たのかダクネスがエリス教のペンダントを取り出す。

 

「私はエリス教徒だ!私の前でエリス様を暗黒神呼ばわりすると・・・」

 

「「ぺっ!!」」

 

エリス教のペンダントを見た瞬間、アクシズ教徒2人はさっきのアクシズ教徒の女性と同じ反応をしている。興味をなくした2人はそそくさと立ち去り・・・

 

「「ぺっ!!」」

 

またも道端に唾を吐いて、今度こそその場からいなくなった。あまりの奇人っぷりにカズマたちは一気にどっと疲れが出始める。

 

「・・・アクシズ教徒はこんなのしかいないのか・・・」

 

カズマの言い分は尤もである。

 

「・・・んんん・・・///!!」

 

「・・・エリス教徒もこんなんばっかじゃないだろうな?」

 

「この変態をうちのお頭と一緒にしないでちょうだい」

 

「そうだよ。エリス教徒のお頭に失礼だよ」

 

「あ、はい、すいません」

 

双子の言い分で、ウェーブ盗賊団の団長はまともな人であるとわかるカズマは少なからず安心したのであった。

 

 

ー興奮したろ。

 してないー

 

 

その後もアクシズ教徒の怒涛の勧誘は続いた。

 

「おめでとうございます!!あなた方はこの大通りを通られた100万人目の方です!!記念品を贈呈したいのですが、この記念品、実はアクシズ教団がスポンサーとなっておりまして!なので、記念品受け取りのために、ちょっとお名前だけ、よろしいでしょうか?」

 

「絶対詐欺よね、これ・・・」

 

「いりません、お帰り下さい」

 

時には記念品の贈呈のために入信書を書かされそうになったり・・・

 

「あれ?あれあれぇ?ひっさしぶりぃ!!!私私!!元気してた?ほら、学校の同級生の!!同じクラスだったけど、覚えてる?アクシズ教に入信して、私だいぶ変わったから、わかんないよねー?」

 

「・・・こいつ誰よ」

 

「人違いです、お帰り下さい」

 

時には学校の同級生と偽って接近して来たり・・・

 

「あーら、ちょっとぉ!!かわいらしいお嬢ちゃんたちねぇ!!もしかして、2人は姉妹かしら?んまぁ、なんてそっくりなのかしら!!そちらの方はお友達?素敵なお友達でおばちゃん羨ましいわぁ!!あ、そうだ!!可愛いお嬢ちゃんたちに洗剤をプレゼント!!持ってってちょうだいねぇ!!あ、いいのよお礼なんて!!おばちゃんのご厚意だと思って受け取ってちょうだい!!この洗剤すごいのよぉ?なんせアクア様のご加護を受けてるからどんな汚れだってすぐ落ちるし、身体にも全く害がないの!!本当よぉ!!それにこの洗剤・・・飲めるの!!!」

 

「・・・飲める・・・」

 

「飲めるかああああああああ!!!!!」

 

時にはアクシズ教のおばちゃんに絡まれて洗剤を大量にもらったりともう散々な目にあってばかりである。疲れきったカズマたちは近くにあったカフェで昼食を取ることになった。もちろん、アレクサンダーは入れないので、外で留守番である。

 

「・・・どうなってんだこの街は・・・」

 

「これ・・・今までの勧誘とは度を越えてるんだけど・・・」

 

「もういや・・・何なのよこのくそったれな街は・・・」

 

勧誘の嵐にあったカズマと双子は死んだような目をして、机に突っ伏している。

 

「これも異郷の地の試練・・・ああ・・・堪能した・・・」

 

「お前は本当ぶれないな・・・」

 

「今だけはその笑顔が腹立たしいわ・・・私たちがこんな苦労してるってのに自分だけ・・・」

 

「そうだね・・・その楽しそうな顔見てるとぶん殴りたくなるよ・・・」

 

「やめとけ、喜ばすだけだぞ」

 

ドMのダクネスだけはぞんざいな扱いを受けて興奮しており、この街に好印象を抱いている。カズマはあきれ果て、双子は楽しそうなダクネスに八つ当たりしそうな視線を向けている。

 

「お待たせしました、お客様」

 

少し話をしている間に注文していた料理が届いた。料理がカズマたちのテーブルに並べられていく。

 

「あ、エリス教徒のお客様、こちらは当店からのサービスです。ごゆっくりどうぞー」

 

そう言ってウェイトレスがダクネスの足元に置いたのは犬用の皿に乗った骨だった。ダクネス・・・というかエリス教徒を犬扱いしているウェイトレスもアクシズ教徒なのだろう。これにはカズマも双子もマジかよ、みたいな顔つきになる。

 

「・・・なぁ3人とも・・・みんなでこの街に暮らさないか?」

 

「絶対嫌だ!!」

 

「寝言は寝て言えクソ女」

 

「地獄に落ちろドM【ピーーーッ】が」

 

「ああ!!ティアが普段私には言わない罵声を・・・!!これは新感覚だ!癖になりそうだ・・・!」

 

ダクネスはとことんこの街が気に入ったようでこの街に住まないか提案したが当然却下されるどころか、逆に罵られることになった。もちろんダクネスはこれで興奮しているが。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

昼食を食べ終えたカズマたちは人通りが少ない道を通りながら自分たちの泊まっている宿に向かっている。

 

「よかったね、アレクサンダー。ただでご飯がもらえたよ」

 

「ダクネスに感謝して味わって食べなさい」

 

「・・・・・・」

 

「食わないって・・・いいからそれ捨てろよ・・・」

 

双子はアレクサンダーにエリス教へのサービスとして渡された骨を渡しているが、アレクサンダーは食べようとしない。食べないとわかった双子はすぐに骨をそこらにポイ捨てする。

 

「はあ・・・早く宿に戻ろうぜ・・・」

 

疲れた表情を見せながら、宿への道のりを歩いていると、カズマたちの目の前で10歳くらいの女の子が足をつまずいて転んだ。

 

「あ!大丈夫?」

 

「怪我してないか?見せてみろよ」

 

カズマたちはすぐに女の子に駆け寄り、怪我をしてないか足を確認する。

 

「ただのかすり傷みたいね。絆創膏でも貼れば治るわよ」

 

「ありがとう!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

 

「・・・っ!!ああ!!こんな頭のおかしい集団がはびこる街にも、一凛の花のような少女が・・・!!う・・・うぅ・・・」

 

女の子の子供らしい純粋さを目の当たりにし、変人ばかりのアクシズ教徒しか目にしてこなかったティアは感激して涙が溢れそうになっている。

 

「ほら、立てる?どうかな?足、まだ痛む?」

 

「ううん、もう大丈夫!ねぇ、親切なお姉ちゃん、お名前教えて!」

 

「私はティアだよ。こっちのお兄ちゃんが、サトウカズマ。隣のお姉ちゃんがダクネス。そしてこっちの怖そうなお姉ちゃんが私の姉のアカメだよ」

 

「ちょっと、何自分を正当化しようとしてるのよ。何よその紹介のし方?私が怖いならあんただって怖いわよ」

 

ティアがさりげなくアカメを怖い人扱いしようとしており、それにはアカメはティアに突っかかる。

 

「ティアってどんな文字で書くの?書いてみて、お姉ちゃん!」

 

女の子は1枚の紙とペンを差し出して、ティアの名前を書いてほしいと頼んでいる。

 

「これくらいならいいよ。私の名前はね・・・はっ!!!!!」

 

ティアがその名前を書こうとして、その用紙を見て目を見開いて冷や汗を大量にかき始める。差し出された用紙には・・・アクシズ教団入信書と書かれていた。その用紙を見てカズマとアカメは嘘だろといったような驚愕な顔で唖然としていた。そう・・・この女の子も、アクシズ教徒の1人だったのだ・・・。

 

「・・・ふん!!!!!!

 

ビリリリリリリィ!!!!!!

 

ティアは手元にあるアクシズ教団の入信書を女の子の目の前で力いっぱい引き裂いた。

 

くそったりゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!

 

「お姉ちゃーーーーーーーーーん!!!!!!」

 

ティアは変えがたいアクシズ教徒の奇行ぶりに心の奥底からの悲痛な叫びをあげるのだった。




大切な友達のふにふらさん、どどんこさん。
遊びに来るとのことですが、どうか来ないでください。
お忙しいでしょうから、無理をなさらないでください。
こちらも何かといろいろあるので、お呼びできるまでお時間を頂けないでしょうか。
なにとぞ、なにとぞよろしくよろしくお願いいたします。

ゆんゆん

ゆんゆんの現状・・・

カズマたちが旅行に行っているので、屋敷は今日も留守である。にもかかわらず・・・というか、旅行に行ってること自体気づいてないゆんゆんは今日も屋敷になってきた。律儀に、豚の丸焼きの差し入れを持ってきて。

ゆんゆん「た、たのもー!!きょ、今日こそは勝負してもらうわよめぐみん!こ、これはほんの気持ち!皆さんで食べて!」

・・・しーん・・・

ゆんゆん「??も、もしもーし?」

当然、返事が返ってくるわけがないのである。

マホ「・・・お前、昨日からカズマの屋敷の前にいるけど、何してんだ?」

ゆんゆん「ひゃっ!!?あ、えっと・・・その・・・」

マホ「カズマか他の奴らに用があるなら今はいないぞ。あいつら、今旅行に行ってるからな」

ゆんゆん「・・・えええええええええええええええ!!!!????」

ようやく旅行に行ってるという知らせを受けて、ゆんゆんは大声をあげたのであった。その後は宿に戻って、静かに涙を流したのだとか。

次回、この不浄な温泉街に女神を!


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この不浄な温泉街に女神を!

設定にアレクサンダーの追加、それと双子のイメージCVを変更しました。こっちの方が何かと納得がいったので。ちなみに、今回変更したティアのイメージCVは、わかる人にはわかりますよね。


変人ばかりが集まると有名なアクシズ教団の総本山、アルカンレティア。そこに住むアクシズ教徒の奇行ぶりは噂以上のもので嫌われても当然だ。そんなアルカンレティアにあるアクシズ教団の教会で・・・

 

バァン!!!!

 

「おらああああああああ!!!!責任者出て来おおおおおおい!!!!説教してやるああああああああああああ!!!!」

 

アクシズ教徒の奇行にやられた挙句、小さな少女までもがアクシズ教徒の毒牙に染まったことにたいして怒り狂ってるティアがここの司祭に抗議しにやってきた。アカメもカズマも付き添いでやってきた。そんなクレーマーティアの対応をしに、アクシズ教徒のシスターがやってきた。

 

「あらー、どうなさいましたか?入信ですか?洗礼ですか?それとも・・・わ・た・し?」

 

「え・・・あ・・・いや・・・俺はこいつらの・・・」

 

「何鼻の下伸ばしてんのよバカ」

 

「いや・・・あの・・・」

 

シスターの対応に一瞬ドキッとしてしまったカズマは頬を赤らめている。

 

「冗談ですよー、何本気にしてるんですかー?頭大丈夫ですかー?ふふふふふ」

 

「どうしよう、グーで殴りたい!!」

 

「奇遇だねカズマ・・・私も1発ぶん殴りたい!!」

 

シスターの小ばかにした態度はやはり女神アクアを崇拝してるだけあって、腹立たしい。そんな気持ちになったカズマと双子である。

 

「ムカつくのはわかるけど・・・んな遊びに付き合ってる暇はないでしょうが。んなことより、ここにだって司教とか司祭とかいるでしょ?そいつ出しなさいよ。ぶん殴ってやる」

 

「ゼスタ様にご用ですか?残念ですが、最高司祭のゼスタ様は布教活動という名の遊び・・・いえ、アクア様の名を広めるため出かけて留守にしております。すみませんが、またのお越しを・・・」

 

「あんた今とんでもない事を口走ったわね」

 

「あんな迷惑行為を遊び半分でやらないで!!こっちが滅入っちゃう!!」

 

あの執拗な勧誘を遊びで済ませようとしている最高司祭ゼスタという人物に対し、凄まじい怒りを覚える双子。

 

「まぁ・・・いないんならいいんだよ。それより、ここに眼帯を付けた魔法使いの女の子と水色の髪のアークプリーストが来なかったか?俺たちの仲間なんだが・・・」

 

最高司祭がいないとわかったカズマは別の本題、めぐみんとアクアがここに来ていないかを尋ねている。

 

「ああ、あのアークプリースト様はあの懺悔室の方を任せました。当教会のアークプリーストたちは出払っていますので。それで、魔法使いの方は・・・」

 

シスターの視線の先には大量のアクシズ教団の入信書を持ち、隅っこでガタガタと恐怖で震えているめぐみんがいた。どうやらめぐみんも執拗な勧誘にあい、心が折れてしまったようだ。それにはカズマと双子はめぐみんに同情する。

 

「ところで、あちらのお連れさん、子供たちに石を投げられてますけど・・・」

 

玄関先の方を見てみると、ダクネスが子供たちに石を投げつけられ、いじめられてる光景が広がっていた。

 

「あ!こらー!!何やってんだーーー!!」

 

それを見たカズマが子供たちを慌てて追い払った。当のダクネスは興奮している。

 

「か、カズマ・・・この街は女子供に至るまで、いろいろとレベルが高いな・・・!」

 

「そのエリス教徒のお守りしまっとけ!わざとか!」

 

「断る!」

 

カズマはエリス教徒のペンダントをしまえとダクネスに言うが、ダクネスは力強く断った。

 

 

ー断ああある!!ー

 

 

カズマがダクネスの相手をしている間に双子は懺悔室に向かい、アクアを呼びに来ている。

 

「アクア。いるんでしょ?出て来てよ」

 

ティアが声をかけているが、当のアクアは出てこようとはしない。それにイラついたアカメは強めにノックして出てくるように強めに言った。

 

「おいアクア!出てきなさいよ!いつまで引きこもってる気よ!」

 

それでもアクアは懺悔室の応接側から出てこようとしない。それにはアカメはさらにイラつきを増す。

 

「お姉ちゃん、もうこっち側に入った方が早いと思うの」

 

「・・・ちっ、クソアクアめ・・・面倒なことを・・・」

 

懺悔側に回った方がアクアは出るだろうと考えたティアは先に懺悔室の懺悔側に入る。アカメはイラつきを隠さないまま、それに続くように入った。懺悔室には机が1つ置かれているだけ。向こう側にはカーテンで隠されている。イラつきが収まらないアカメはちょっとの休息と思ってその椅子に座る。すると・・・

 

「ようこそ迷える子羊よ。さあ、罪を打ち明けなさい。神はそれを聞き、許しを与えてくれるでしょう」

 

応接側からアクアの声が聞こえてきた。どうやらこうやって懺悔にやってきた人の悩みを解決しているようだ。が、途端に聞こえてきたアクアの声にアカメはさらにイラつきを増した。

 

「あんた・・・よくものうのうとしてられるわね?この街いったいどうなってんのよ?おちおち観光もできないじゃない。つーか、あんたなんでそう平然といられるのよ?頭湧いてんじゃないの?あ、元から頭湧いてたか」

 

「お姉ちゃん・・・イライラのせいで毒舌がさらにきつくなってる・・・」

 

アカメの文句にアクアはシンと黙り込み、しばらくして口を開く。

 

「なるほど、自分の頭が悪いせいで人にきつく当たったと。深く、深く反省しなさい。さすれば、慈悲深い女神アクア様はお赦しを与えてくれるでしょう」

 

「ああ!!?誰が頭が悪いですって!!?ふざけんな!!頭悪いのはそっちでしょうが!!アークプリーストっぽいことができて、何調子乗ってんのよ!!いい加減出てきなさいよコラ!!お楽しみタイムは終わりよ終わり!!」

 

アクアの言葉にさらに怒りが増すアカメ。それにたいしてアクアはまた黙り込み、また口を開く。

 

「他に懺悔はありませんか?なければこの部屋から出て、再び前を向いて生きなさい」

 

「おい、何無視してんのよ?いい加減出てこいっつってんのが聞こえないの?というか、この街の連中をどうにかしなさいよ。あんたアクシズ教徒に褒めちぎられてたでしょ?あんたさえなんか言えば、あいつら大人しくなるかもしれないでしょうが」

 

「アクア、もういい加減出て来てよ。もう十分楽しんだでしょ?早く宿に戻ろうよ」

 

アカメは怒り交じりに、ティアは落ち着いてアクアを外に出させようと説得しようとしても、アクアはまた、黙るばかり。

 

「・・・もう何もないようですね。では、私は次の迷える子羊を待つとしてます。さあ、お行きなさい」

 

「部屋から出ろつってんでしょうが!!!!このくそったれ【ピーーーーーーーッ】女ぁ!!!!」

 

「出ていって!!!懺悔が終わった人は出ていって!!!」

 

「こいつ・・・!!!もう我慢の限界だわ!!!無理やり引きずり降ろして・・・」

 

「待ってお姉ちゃん!自分から開けようとしたらアクアの思うつぼだよ!」

 

アクアの態度に我慢の限界が来たのかアカメが無理やりカーテンを開けてアクアを引きずり降ろそうとしたところでティアが慌てて止める。

 

「じゃあどうすんのよ?このままだとこいつ調子に乗りまくって・・・」

 

「大丈夫。私にいい考えがあるよ。私も今のアクアには腹が立つし、手伝うよ」

 

アクアには聞こえないように耳打ちをする双子。ティアの出した案にアカメは納得して、再度座り直す。そしてティアはアクアに語り掛ける。

 

「・・・申し訳ございません。実は・・・アークプリースト様に打ち明けたいことがあります」

 

「!聞きましょう聞きましょう!さあ、あなたの罪を告白し、懺悔なさい」

 

ティアの言葉にアクアは上機嫌になる。

 

「実は・・・仲間のプリーストが大事にしていた宴会芸に使うコップを割ってしまって捨ててしまいました」

 

「!!!!????」

 

が、その上機嫌は一気に崩れ去り、アクアは黙ってしまった。

 

「後、滅多に手に入らない最高級のお酒を手に入れたと自慢していたので、腹が立って仲間のプリーストがお風呂に入ってる間に姉と一緒にめちゃくちゃおいしいそのお酒を全部飲んでしまいました」

 

「あ、そういえばそんなことあったわね・・・」

 

「!!!!!?????」

 

「だけど、最初は一口のつもりだったので・・・このままではまずいと思って、どうせ味なんてわかんないだろうという姉の助言に従い、1番安物のお酒を瓶に入れなおしました」

 

「何言ってるの?ねぇ、ティア何を言っちゃってるの!!?」

 

ティアの次々と出てくる懺悔の告白にアクアは焦りまくっていた。それに構わずティアは告白を続ける。

 

「そのプリーストがあまりに問題ばかり起こすと仲間の冒険者が嘆いていたので、私はその手助けとして、この街に来る前に、エリス教のプリースト募集の紙を冒険者ギルドのメンバー募集掲示板に張り付けて・・・」

 

「わああああああ!!!!背教者め!!!今天罰を・・・」

 

ガシッ!!!

 

ぎゅううううううううう!!!!

 

ティアの告白に我慢の限界が来たアクアが天誅を食らわそうとカーテンを開けて突っかかろうとした時、出てきたのを見計らったアカメがその両手を掴み、きつく、それはもうきつく力を入れて握った。

 

「やっと出てきたわねコラ・・・!誰が頭が悪いですって?あまり調子に乗るんじゃないわよこのクソプリースト・・・!」

 

「ぎゃああああああああああ!!!!痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいい!!!!ごめんなさい!!!!調子に乗ったこと謝るから!!!!罪を全て許しますから手を放してえええええええええ!!!!」

 

「いいよお姉ちゃん!そのまま手を折る勢いでやっちゃって!!」

 

もはやこれはアクシズ教の奇行ぶりをアクアで八つ当たりをしてるようにしか見えないのであった。

 

 

ー作戦勝ち!ー

 

 

ようやくアクアが出てきたので、双子は懺悔側から退室し、アクアに応接側の扉を開けてもらった。応接側では、さっき双子にやられたおかげでアクアが泣いていた。

 

「うぐ・・・ひっぐ・・・うええぇぇ・・・」

 

「はぁ・・・ねぇアクア、さっきのはやりすぎたって。謝るから泣き止んでよ」

 

「・・・本当にアークプリースト募集の件は嘘なんでしょうね・・・?」

 

「最初の2つはともかく、最後のだけは嘘だから安心なさい」

 

「ちょっと待って。今最初の2つはって言った?」

 

アカメが放った最初の2つはと言っている時点で宴会芸のコップとお酒に関しては真実であるというのがわかる。

 

ガチャッ

 

すると、懺悔側の扉が開く音が聞こえてきた。どうやら懺悔にやってきた人が現れたようだ。そこで双子は自分たちが応接側にいるのはまずくないか?という考えがではじめる。

 

「ようこそ迷える子羊よ。さあ、罪を打ち明けなさい。神はそれを聞き、許しを与えてくれるでしょう」

 

アクアはそれに構わず、懺悔人の懺悔に耳を傾ける。

 

「ああ・・・どうか聞いてください・・・。自分は長くアクア様を崇めてきたアクシズ教徒です。しかし!!エリス神の肖像画のあの豊かな胸!!あれが自分を惑わせるのです!!あの胸は悪魔の胸だ!!どうか・・・どうか他の女神に心を傾けてしまった罪深き自分をお許しください・・・!」

 

非常にどうでもいい懺悔に双子はそんなことで懺悔室に来るなよと懺悔人を引っ叩きたくなった。だがアクアは懺悔人に耳を傾け、優しい顔で優しく語りかける。

 

「安心なさい。神は全てを許します。汝、巨乳を愛しなさい。汝、貧乳を愛しなさい。アクシズ教は全てが赦される教えです。それはたとえ、ロリコンでも、ニートでも、人外ケモ耳少女愛好者でも、アンデッドや悪魔部類以外であれば、そこに愛があり犯罪でない限り、全てが赦されるのです」

 

「おお・・・おおおおおおおお・・・!!」

 

アクアの言葉に懺悔人は感涙の涙を流しながら感動した声をあげた。これのどこに感動の要素があるのかわからないでいる双子である。いや、それはアクシズ教以外の全人類もそうだが。

 

「汝、敬虔なる信徒よ。悪魔に惑わされないよう聖なる呪文を授けます。・・・エリスの胸はパッド入り」

 

「「は?」」

 

明らかに女神エリスに対する悪口でしかない呪文に双子は何言ってんだこいつと言った顔をアクアに向ける。

 

「今後惑わされそうになったなら、これを唱えなさい。他に惑わされている者がいれば、これを教えてあげるのもいいことですよ」

 

「エリスの胸はパッド入り・・・な、なんだか一気に目が覚めました!!」

 

懺悔人はなぜか感激している。

 

「さあ、もう1度一緒に」

 

「「エリスの胸はパッド入り!」」

 

「「・・・・・・」」

 

謎の復唱に双子は頭が抱えそうなくらい頭が痛くなりそうになる。

 

「素晴らしい呪文をありがとうございます!!」

 

そう言って懺悔人は懺悔室から退室していった。悪口でしかない呪文を教えたアクアに双子は呆れた顔になっている。

 

「あんた仮にも女神を自称するんだったら他の女神を陥れるようなことやめなさいよ」

 

「そうだよ。ただでさえ信用性がないのに一気に信用が落ちるよ?」

 

「何言ってるの?神にとって信者数と信仰心はとても大事なことなの。それがそのまま神の力になるんだから」

 

「あんなのが力ねぇ・・・嘘くさ」

 

「信じられないね」

 

ただでさえアクアが女神であると信じていない双子は、アクアの言うことは聞く価値なしといったような態度をしている。

 

「まぁ聞きなさいな。私の信者たちは数こそ少ないけれど、それはもう強い信仰を抱いてくれてるわ。そんなかわいい信者たちを守るためなら、私は何だってしてやるわよ!」

 

胸を張って堂々と今までそんなこと言わなかったアクアに双子は感心するところはあれど・・・

 

「あんたの思いはわかったわ。・・・でもそれとこれとは話が別よ。あんたがどうにもできないなら・・・」

 

「火を持ってこようよ。この街全部を焼き払ってアクシズ教を滅ぼしてやる」

 

「待ってえ!!!ねぇ、なんで!!??なんで2人はそこまでうちの信者を嫌うの!!??みんないい子たちなのよ!!??みんなの居場所を奪わないであげてよぉ!!!」

 

「「うっさい疫病神!!死ね!!」」

 

「うわああああああああ!!2人がついに死ねとか言ったああああああああ!!!女神なのに!!私女神なのにいいいいいいい!!」

 

アクシズ教徒をどうにかしてもらおうと思ったのに、当のアクアがあんな様子ゆえ、双子は自分たちでアクシズ教を滅ぼそうと強硬手段に出ようと懺悔室から出る。アクアは泣きながら必死に止め、懺悔室から出てその様子を確認したダクネスがそれを止めた。ちなみに双子の行為にカズマとめぐみんは止めなかった。理由はやはりアクシズ教徒が関連していた。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

双子をなんとか大人しくさせることに成功し、疲労しきったカズマたちは自分たちが泊まる宿屋に戻ってきた。ちなみにアクアはまだ教会に残って懺悔人の悩みを解決するようだ。

 

「ただいまぁ~・・・」

 

「あ、おかえりなさい!」

 

唯一宿に残っていたウィズは部屋でゆっくりしていた。顔色ももうすっかりよくなったようだ。

 

「もう体は大丈夫なのか?」

 

「お風呂をいただいて、すっかり回復しました」

 

「それはよかった」

 

ウィズの体調が回復して、カズマたちは安心した。

 

「混浴のお風呂、誰もいなくて貸し切りみたいでした」

 

「え!!!???そ・・・それって・・・」

 

混浴の風呂と聞いて、カズマは混浴の光景を妄想をする。実に男らしい煩悩たっぷりの顔にもなっている。

 

「それで皆さん、観光の方はどうでした?」

 

観光はどうかと聞かれて、ダクネスを除いたメンバーたちの顔色が一気に悪くなった。

 

「アクシズ教徒・・・怖いです・・・」

 

「クソったれな街だったわ」

 

「もう行きたくない街ナンバー1になった」

 

たとえどんなことがあってもこの街には行きたくないという考えを示している双子とめぐみん。この中にカズマも含まれてるが、未だに混浴のことを考えている。

 

「わ、私は・・・明日も観光しようかな・・・」

 

「ダクネスぅ・・・」

 

「1人で行ってろ」

 

ダクネスは相変わらずぶれないのであった。

 

「まぁ、明日はとりあえず自由行動ってことで。俺は今から風呂に入ってくるから」

 

「ああ、ちょっと待ちなさい」

 

カズマはアカメに呼び止められ、混浴来たかと期待を大きく膨らませた。

 

「風呂に入るんだったらアレクサンダーを連れていきなさい。この宿の温泉、走り鷹鳶は別入り口から入れるはずよね?」

 

「うん、別入り口なら問題なく入れるよ。てことでカズマ、アレクサンダーは昨日お風呂に入ってなかったから汚いでしょ?きれいにしてあげてよ」

 

が、その期待は一気に崩れ去り、カズマは嫌そうな顔になっている。何が悲しくて人様のペット・・・それもオスと入らなきゃいけないんだといったように。

 

「・・・なんで?」

 

「なんでって、アレクサンダーはオスだよ?走り鷹鳶と言っても、さすがに女湯に入れるのはまずいでしょ」

 

「お前らが混浴に入ってアレクサンダーを洗えばいいだろ」

 

「いやよ。あんたの考えはお見通しよ」

 

「どうせあわよくば混浴に入れさせようとか考えてるんでしょ?」

 

「そそそそそ、そんなこと考えてねーしぐえふ!!??」

 

考えを言い当てられて、カズマは激しく動揺している。もう正解だと言っているようなものだ。そんなことは構わず双子はカズマにラリアットを決めさせ、倒れたところでカズマの両手両足を掴んで出口まで運ぶ。

 

「お、おい!!?何すんだ!!や、やめ・・・」

 

「「つべこべ言わずさっさと行け!!」」

 

「へぶっ!!?」

 

双子はカズマを宿の外に放り投げ、カズマはべちゃりと顔から地面に着いた。

 

「いい?ちゃんとアレクサンダーをきれいにしてね!」

 

「もし洗わなかったら、殺すわよ」

 

それだけ言い残して双子は宿屋の扉を閉めていった。外に放り出されたカズマは外で待機していたアレクサンダーを見る。

 

「・・・アレクサンダー・・・お前も大変だな。あんな凶暴なご主人様を持ってしまって」

 

「ピィーヒョロロ」

 

カズマは仕方なくアレクサンダーを連れて、遠回りでこの宿の温泉へと向かうのであった。入るのはもちろん、混浴だ。

 

 

ーこのすばー

 

 

カズマを外に放り出した後双子は部屋を出たついでに盗賊団員に送るためのお土産を買いに店の中にあるお土産コーナーに足を運んだ。

 

「無難に饅頭でいいわよね。ただでさえ人数が多いんだし、いちいち選ぶのも面倒だわ」

 

「それがいいと思うよ。それに・・・ここに置いてあるお土産もどれもガラクタやトラウマの品物ばかりだし・・・」

 

双子はお土産をアルカン饅頭だけに絞ったようだ。理由は盗賊団員の人数が多いのと、置いてある代物がガラクタや双子のトラウマの品物、アクシズ教徒が提供する洗剤と石鹸だからだ。しかも・・・

 

「・・・これ見よがしに入信書があるの、何とかならないかしら?」

 

「こんなのだれも見向きもしないし、入信もしないって・・・」

 

何故か商品の中にアクシズ教団入信書が混じっている。こんな所にもアクシズ教徒の勧誘の手が回っていて、双子は深くあきれるばかりである。

 

「ねぇそこの青い髪のあなた」

 

「はい?」

 

ティアがアルカン饅頭の箱を手にしようとした時、誰かに声をかけられた。その人物は赤い髪で猫科のような黄色い瞳をした大きな胸を持った女性だ。女性はじーっとティアを見つめている。

 

「なんでしょうか?」

 

・・・違うか・・・

 

「ちょっと、あんたうちの妹になんか用?」

 

ティアをまじまじと見つめている女性はアカメの声にはっと驚く。

 

「ご、ごめんなさいね。その髪色に顔がうちの知り合いによく似ていたから、つい・・・」

 

「私と同じ顔に同じ髪色?そんな人がいるんですか?」

 

「ええ。その子はちょっと変わった子でね・・・いつもどこかに放浪してるから、あなたを見てもしかしたらって思ってね・・・」

 

「それで勘違いされるなら迷惑な話ね」

 

「本当にごめんなさいね」

 

毒のある言い方をするアカメに女性は謝罪する。

 

「ところで、あなたはこの子と顔がよく似てるけど・・・」

 

「私とこの子は双子よ。そして私がこの子の姉」

 

「あら、やっぱり?」

 

「残念ながらそうなんですよね・・・今は仲間が少し前に怪我をしまして、その人と一緒に湯治旅行をしてる最中なんです」

 

「ちょっと、何が残念よこの愚妹」

 

「事実を包み隠さず言ってるだけじゃん、残姉ちゃん」

 

女性の疑問に答えた双子は小さいことでも突っかかり、睨みあいをしている。

 

「奇遇ね。私も湯治の最中なのよ。自分の半身と戦った際に力を完全に奪いきれなくてね。それで本来の力を取り戻すために湯治してるの」

 

「それうちの魔法使いが聞いたら思いっきり食いつきそうね」

 

「ふふ、あなたの仲間って、ひょっとして紅魔族?私が魔法を教えた紅魔族の女の子、元気にしてるかしら・・・」

 

「魔法を教えた身としては、やっぱり気になるものなんですか?」

 

「そりゃそうよ。あの子、元気でやってるといいのだけれど・・・」

 

女性が浮かべるその顔は何やら懐かしがこみ上げたような笑みを浮かべている。

 

「急に引き留めちゃってごめんなさいね。私はもう行くわね。・・・それと、明日からこの街の温泉はあまり入らない方がいいかもしれないわよ」

 

「え?それってどういう・・・」

 

女性は双子に手を振って、意味深な言葉を残して去っていった。

 

「行っちゃった・・・最後の言葉、なんだったんだろう?」

 

「どうせアクシズ教徒関連でしょ。気にすることはないわ。それよりさっさと饅頭買いましょう」

 

女性の言った事は気にはなるが、それは置いておいて自分たちは盗賊団員のお土産を買った双子。

 

「さて、と・・・お土産も買ったし、部屋に戻ってめぐみんたちを誘って・・・ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんか変なおっさんが突っ立ってるわ」

 

お土産屋から出ようとした時、アカメはリビングに突っ立っていた顎髭を生やした男を見つけた。その男の顔はまるで死んだような目をしていた。

 

「・・・はぁ・・・まったく人が下手に出ていれば・・・やれ入信だ、やれ勧誘だなんだかんだなんだかんだ言いやがって・・・くそ!!!ああああああああああああ!!!!」

 

「「!!!???」」

 

男は急に狂ったように怒りだし、持っていた石鹸を地面に叩きつけた。これだけでアクシズ教徒にだいぶやられたというのがわかる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ん?」

 

「「あ・・・」」

 

男が息を整えると、双子がいるのに気が付いた。そこで双子もバッチリと目があってしまった。

 

・・・違うか・・・あいつはあれほど若くは・・・」ブツブツ・・・

 

男は何かぶつぶつ言いながら宿から出ていった。

 

「あ、あの人もだいぶやられたみたいだね・・・」

 

「そ、そうね・・・ご愁傷様」

 

双子は男を気の毒に思いながら部屋に戻ってめぐみんたちを温泉に誘うのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

部屋に戻った頃にはめぐみんは少しは元気を取り戻し、温泉に入れる状態になった。それに安心した双子はめぐみんとダクネスを温泉に誘った。ダクネスたちは道中で疲れていた(めぐみんはそれ+アクシズ教徒の勧誘で疲労)のでそれに了承した。そして現在4人は女湯の脱衣所で服を脱いで、温泉の中に入る。

 

「お、おいめぐみん!泳ぐのはマナー違反だ!」

 

「はは!まぁまぁそう言わずに!」

 

「そうそう、むしろ今日は滅茶苦茶疲れたんだから大目に見てよ」

 

「だからといってティアまで湯舟に頭まで浸かろうと・・・ひゃっ!!?あ、アカメ!何をする!!」

 

「女に胸触わられたくらいで何驚いてんのよ?私たちは冒険者稼業をしてんのよ?そんな女々しくてどうすんのよ?」

 

「いやその理屈はおかし・・・ああ!!タオルが!!?」

 

「何よ?何よこの胸は!自慢してるの?自慢でもしてるのかしら?」

 

「アカメ、気持ちはわかりますよ。なんですかその胸は?私たちにも分けてもらいたいものです」

 

「何を言って・・・お、おい2人とも、やめろ!」

 

「2人とも、自分が育たないからってダクネスに当たらないでよ」

 

「「あんた(あなた)が言うな(言わないでください)!!」」

 

温泉に入った4人は疲れを癒しながらも普通の女子らしく、大いに盛り上がっている。4人の遠くでは、めぐみんが連れてきたちょむすけがゆったりと湯舟に浸かって気持ちよさそうにしてる。どうやらちょむすけはお風呂が好きなようだ。

 

「はぁ・・・それにしても・・・気持ちいぃ~・・・」

 

「ええ。たまには長湯するのも悪くないわね」

 

「ですね。本来はものぐさなカズマたちを外に連れ出し、アクアに引き寄せられたアンデッドを狩ろうと思ってカズマを焚きつけたのですが・・・これも悪くありません」

 

「ここに来ようと思ったのはそんな理由だったのか・・・」

 

どうやら昨日のアンデッド騒ぎはめぐみんの意図的な策略によるものだったようだ。まぁ、本人は未だ寝ていたので、その計画は計画の一部であるアクアによって崩れてしまったが。

 

「しかし、あいつはどういう男なのだ?保守的で臆病かと思えば、身分の差など気にせず、貴族相手ですらひどく強気なところもあるし・・・変わった奴というか・・・不思議な奴というか・・・」

 

「しっ!ちょっと黙ってて」

 

ダクネスがカズマのことを話題にすると、ティアがストップをかけた。

 

「隣側は混浴だよ。目の前に男湯と混浴があれば、カズマはどちらを選ぶと思う?」

 

「小心者で肝心な時にヘタレてしまうあいつだが・・・大義名分さえあれば、堂々と混浴に入るに違いない!」

 

壁の向こうでカズマが混浴に入っていると予想をした4人はお互いに顔を合わせ、首を縦に頷く。

 

「カズマ!そこにいるのでしょう?壁に耳をくっつけて、ダクネスとティアがどこから洗うのか想像したりして、はぁはぁ言ってるのでしょう?」

 

「ちょ、ちょっとめぐみん!!?恥ずかしいからやめて!!」

 

「そうだ!!なぜそこで私たちを引き合いに出す!!?」

 

「ちょっとアレクサンダー!カズマといるんでしょう?いたら返事をなさい!」

 

めぐみんとアカメが混浴の方に向かってカズマがいないか確認をしている。そして、混浴の方はというと・・・

 

(バカ!おま・・・静かにしろ!)

 

「~~~~~!!!」

 

案の定カズマは混浴で壁に耳を澄ませ、めぐみんたちの会話を盗み聞きしている。アレクサンダーは声をあげようとしてるが、カズマが無理やり口を閉じさせてそれを阻止されている。

 

「・・・返事がない。いないようね」

 

「疑いすぎたかな。アレクサンダーを洗ってくれてるし、お礼と謝罪を合わせてジュースでも奢ってあげよっと」

 

返事がないため、4人は混浴にカズマはいないと判断する。

 

「確かに、ちょっと失礼だったな」

 

「なんだかんだ言って、あれで頼りになりますからね」

 

「あいつはああ見えて、仲間が本当に困っていたら、必ず助けてくれる男だ」

 

「うん。そうだね。カズマは私たちが盗賊団だって知った今でも、私たちを助けてくれたし、今もパーティに残してくれてるしね」

 

「そうね。クズさ加減はあれど、素直じゃないだけで、根はいい奴よ。お頭ほどじゃないけど、尊敬に値するわ」

 

4人はカズマのダメさ加減に呆れはすれど、本当に高く評価しており、頼りにしているのがわかる。

 

(・・・な、なんか・・・盗み聞きしてる自分が、恥ずかしくなってきた)

 

混浴で盗み聞きしていたカズマは照れ臭そうにしていた。同じく会話を聞いていたアレクサンダーはカズマに入浴に戻るようなしぐさをした。カズマはそれに従い、入浴に戻ろうとした・・・

 

「ところでめぐみん、さっきから気になってたんだけど、そのお尻の・・・」

 

「!!」

 

「~~~~!!!」

 

時に女湯の会話を聞いて、アレクサンダーの口を再び閉じさせ、またも盗み聞きをする。

 

「おっと、いくらティアといえど、それ以上言うならただじゃ済みませんよ」

 

「ひゃっ!!?ちょ・・・めぐみんやめて・・・胸を触らな・・・んん・・・///」

 

「お、おい、何をやって・・・ひゃん!!?あ、アカメ!お前はまたそこを・・・」

 

「全くいつ見ても忌々しい胸ね。私なんて・・・明らかに人種差別よ」

 

女湯の向こうで何が起こってるのか気になるカズマは、ついに壁の隙間から女湯を覗こうとする。

 

「今です!!!」

 

「はああ!!!」

 

「うらあ!!!!」

 

ドオンッ!!!!!

 

「ぶはあ!!!???」

 

めぐみんの合図でダクネスとアカメは力いっぱい拳を壁に叩きつけた。壁に伝わった反動でカズマは殴られたかのように吹っ飛び、温泉に着水した。

 

「ほら見たことか!!!!やっぱりいたよあの変態!!!!」

 

「やはりな!日頃カズマから感じるあのエロい視線!あんな欲望に塗れた男が混浴にいないはずがない!!」

 

混浴から聞こえる水飛沫によってカズマが混浴にいたということが4人にバレてしまった。

 

「・・・クリエイト・ウォーター!!!」

 

「「「「ひゃあああああ!!?冷たっ!!!」」」」

 

カズマは反撃としてクリエイト・ウォーターを壁の上に放ち、水を女湯に入れた。それに怒った4人は石鹸や桶を混浴に向かって大量に投げていった。そしてめぐみんはちょむすけまで混浴に投げた。

 

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃーーーー!!?」

 

「ピィーヒョロロ」

 

落ちてきためぐみんをアレクサンダーが首でキャッチした。ちょむすけに怪我がなくて安心するカズマ。

 

「おい!!猫を投げんな!!!」

 

「盗み聞きした代償として、洗ってあげてください!!全く・・・私も身体を洗ってきます」

 

ちょっとは落ち着きを取り戻しためぐみんは身体を洗おうと湯舟から出て、他3人はゆっくりと湯舟に入る。

 

「あ、お前らに1つ注意な」

 

「何よ?今更話なんか・・・」

 

「もしアクシズ教徒がいたら、気を付けろよ」

 

「「は?」」

 

カズマの忠告を聞いて、双子は嫌な予感がして恐る恐る後ろを振り返る。そして、その先には・・・

 

「この石鹸ね、よく泡立つし、どんなステータス異常だって直るし、しかもこれね・・・食べても大丈夫なの!!天然素材で新鮮だから!!入信したらもらえるから!!タダだから!!」

 

「ひいぃ!!!いりません!!!やめてください!!!もううんざりです!!!!!」

 

従業員であるアクシズ教徒の女性にめぐみんが絡まれていた。そして、アクシズ教徒の魔の手は3人にも・・・

 

「さあ!!そちらのお嬢さん方もぜひともこちらへ!!洗ってあげますよ!!」

 

「ひぃ!!!や、やめろ!!じりじりとこっちにくんな!!」

 

「今ならポイント2倍だから!!タダだから!!」

 

「ポイントとか耳障りのいい言葉で誤魔化すのはやめてぇ!!!!」

 

「どうですか?エリス教徒のお客様?天に上るような気持ちよさでしょう?」

 

「ガボガボガボボボ・・・!」

 

「・・・遅かったか」

 

双子はめぐみんと同じように絡まれ、ダクネスは顔を無理やり温水に突っ込ませている。もうやりたい放題である。

 

「もういい!!付き合ってられるか!!とっとと上がるわよ!!」

 

「出ましょう!!ええ、そうすべきです!!」

 

「ぷはっ・・・もう上がるのか?できればもうちょっと・・・はぁ・・・はぁ・・・///」

 

「いいから行くよダクネス!」

 

「あ!ちょっとお客さん!!?」

 

これ以上アクシズ教徒の相手をしていられないと3人はダクネスを連れて上がるのであった。ダクネスは平常運転だが。しかし、勧誘はこれだけで終わることはなかった。脱衣所で着替えようと思った時、ダクネス以外の3人の服の上にアクシズ教徒の入信書と石鹸が置いてあった。

 

「「「・・・ああああああああああああ!!!!」」」

 

「!!??」

 

3人は狂ったかのような顔をし、石鹸を地面に叩きつけた。アクシズ教徒のせいでゆったり気分が台無しである。

 

 

ーこのすばー

 

 

温泉から上がって部屋に戻ってみると、部屋にはカズマだけでなく、アクアも戻ってきていたのだが・・・

 

「あああんまりよおおおおおおお!!!!私、ただ温泉に入ってただけなのにいいいいいい!!!!」

 

「あ、アクア様、アクア様の涙が当たると、すごくピリピリするんです・・・」

 

「・・・何よこれ?どういう状況よ?」

 

「知らん。戻ってきたらこんなんになってた」

 

何故かアクアは泣いていて、ウィズに慰めてもらっていた。ただウィズはアクアの涙に当たって、ダメージが入ってるが。

 

「はぁ・・・今日は何人の人に迷惑をかけてきたのさ?」

 

「迷惑って何よ!!?どうして私が悪いことをしたって決めつけるのよぉ!!!」

 

「ほ、本当にどうしたというのだ?」

 

「それが、本部の秘湯に入ったら、温泉がただのお湯になったらしく・・・」

 

「それで追い出されたのよ!!?私を崇めていた教会からどうして追い出されなきゃいけないの!!?ねぇ、どうしてよおおおおおおお!!!」

 

「そういえば、カズマたちが似非セレブをやってた時も、アクア、紅茶をお湯に浄化してましたね」

 

「やっぱお前が原因じゃねーか!!!」

 

どうやらアクアが温泉に入ってた際に例の浄化体質が災いしたようで、温泉をお湯に変えてしまったようだ。追い出されても当然だと思うが。

 

「1番腹が立ったのは、そこの温泉の管理人に私が女神であると教えてあげたの!そうしたら、管理人の人が・・・うぅ・・・ふっwて鼻で笑って・・・!女神なのに!!私女神なのに!!!」

 

どうやらアクアは自身が女神であると話したようなのだが、その管理人に信じてもらえず、鼻で笑われたようだ。まぁ、一般的に当然の反応だ。

 

「「「・・・ふっw」」」

 

「うわああああああああああああ!!!!!」

 

アクアを見てカズマと双子も鼻で笑った。アクアはそれにはさらに泣いてしまったとさ。

 

 

ーこのすばー

 

 

翌日、泊まってる宿の1階でカズマたちは朝食を食べている。そんな時・・・

 

「みんな!この街の危険が危ないみたいなの!!」

 

突然アクアが意味不明なことを言いだした。

 

「危険が危ないって何よ?一晩中ピーピーピーピー泣いてたと思ったら・・・」

 

「1番危ないのはアクアのその体質だよ。お願いだから露天風呂以外ではそれやめてよね」

 

意味不明なことを言っているアクアに双子は呆れたような顔になっている。

 

「昨日管理人のおじさんが言ってたんだけど、どうもこの街では温泉の質が突然悪くなってるみたいなの。私は普通は汚れだろうが入浴剤だろうがコーヒーだろうが一瞬で浄化できるのに、あの時は時間がかかったの。それはそれだけその温泉が汚染されてるって証拠なのよ!これはつまり、我がアクシズ教団を危惧した魔王軍が真っ向から勝てないと踏んで、温泉というアクシズ教団の大切な財源を奪いに来たのよ!」

 

「「「ソウナンダ、スゴイネ」」」

 

「信じてよーーー!!」

 

アクアの話にカズマたちは全く信じていなかった。だが双子はその話に思い当たる節があった。それが昨日の女性が言っていたことだ。温泉に入らない方がいいとはこのことを言っていたようだ。

 

「まぁ、アクシズ教団がドン引きされて疎まれてるのは確かですが、そこまで回りくどいことをしますかね?」

 

めぐみんの言い分は尤もなので、アクア以外は魔王軍の線は薄いと考えている。

 

「私はこの街を守るために立ち上がるわ!!というわけで、みんなも協力してくれるわよね?」

 

アクアはアルカンレティアを守ろうと意気込み、カズマたちに協力を仰ごうとするが・・・

 

「俺は街の散歩だとか、いろいろ忙しいからパス」

 

「アクシズ教徒嫌いの私が、この街を守るとかありえないわ」

 

「右に同じく。助ける価値全くなし」

 

「私もアクシズ教徒の恐ろしさは嫌というほど知ったので、もう関わりたくありません」

 

カズマはどうでもいいことを言ってパス、双子とめぐみんはアクシズ教徒に関わりたくないゆえに却下した。

 

「なぁんでよーーーー!!!!散歩なんてどうだっていいじゃないの!!!双子もめぐみんもうちの信者たちを嫌わないでよぉ!!!!じゃ、じゃあダクネスは・・・」

 

「わ、私はその・・・あれだ・・・」

 

「お願いよーーーーーー!!!!」

 

「わ、わかった!!付き合う!!付き合うから私のグレープジュースを浄化しないでくれぇ!!!」

 

ダクネスも若干渋っていたが、アクアがダクネスのグレープジュースを水に浄化されそうになり、仕方なくアクアに協力をする。だがすでに遅し、グレープジュースはすでに水となってしまった。

 

「ウィズはなんだかんだあんたにクッソ甘いからウィズを誘いなさいよ」

 

「あれ?そういえばまだウィズの姿がないけど・・・まだ寝てるのかな?」

 

ティアはウィズの名前が出た途端、朝食を食べ終えたにも関わらず、未だにウィズが来ていないことに気付いた。

 

「私が一晩中泣きついてたら、朝には消えかけちゃって・・・今は寝かせてあげてるわ」

 

「街より先にウィズを救えよぉ!!!!」

 

悲報、どうやらまたアクアのせいでまた臨死体験を行っていたようだ。またベルディアに、『来いよぉ・・・こっち来いよぉ・・・』と囁かれていたりするかも・・・。

 

 

ーほら!こっち来いよ!ー

 

 

全員の朝食が終わると、アクアはダクネスを引っ張って街を守る活動を、カズマとめぐみん、そして気怠そうにしておりながらも起きたウィズは1日1爆裂をやりに街の外へと出ていった。特に今日はやる気が起きなかった双子は街の観光スポットでのんびりと過ごそうと宿の外に出ていた。街はアクシズ教徒がいなければ普通にいい街だった。

 

「・・・こうしてたら普通の街なのにね」

 

「うん・・・景色もきれいだし、食べ物もおいしいんだけど・・・人間だけが致命的にダメだね・・・」

 

双子が遠い目をしながらそんなことを話していると・・・

 

「あぁーーらかわいいお嬢ちゃんたち!また会ったわねぇ!!!これもアクア様の思し召しかしら?」

 

((うわ来たぁ!!!))

 

アクシズ教徒のおばちゃんが鍋をもって双子に声をかけてきた。それには双子はうんざりしたように絶望的な顔になる。

 

「それはそれとしてこの鍋ね・・・焦げないのぉ!!!今入信すれば必ずもらえるから!!!」

 

「「・・・・・・」」

 

「あ!ねぇちょっと!!遠慮しなくてもいいのよ!!」

 

アクシズ教徒に関わりたくない双子は無言でおばちゃんから離れていった。だが運が悪いことに、他のアクシズ教徒2人とばったりすれ違った。当然アクシズ教は双子を逃すはずもない。

 

「まぁお散歩ですか!!?お姉様にはこの石鹸を!!!」

 

「妹様にはこのタオルをプレゼント!!!」

 

「今ならなんともう1個ついてくる!!!」

 

「「・・・・・・」」

 

このアクシズ教徒も執拗な勧誘をしているが、双子は相手にせず、無視を貫こうとする。が・・・

 

ガシィッ!!!!

 

「ちょっとぉ!!!!!なぜ私の目を見て話さないのですぅ!!!!!あなたのため!!!!!あなたのためなのです!!!!!!!」

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!!!???」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!???」

 

アクシズ教徒の男は滅茶苦茶怖い顔でアカメの肩を掴み、顔をずずずいと近づけていく。これには双子はものすごい恐怖で逃げることしかできなかった。

 

 

ーこのすばあああああああああ!!!!!!ー

 

 

この後も何度も何度もしつこい勧誘に合い、大量の入信書をもらってしまった双子はもうすっかり疲労困惑である。

 

「・・・石鹸って・・・飲めるのかな・・・」

 

ティアにいたってはもう死んだ目をして、とんでもない事を口にしている。

 

「ああぁ・・・くそ・・・ねぇんだよ・・・洗うもんが俺には溜まりねえんだよ・・・」

 

「・・・ん?あのおっさん・・・昨日の・・・」

 

湖を眺めていると、遠くで1人の男が大量の入信書を持って突っ立っているのを見つけたアカメ。その男は昨日リビングで見かけた男で、相変わらず死んだ目をしている。

 

「石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤・・・」

 

「飲める・・・」

 

「え?」

 

「石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤・・・」

 

「飲める・・・」

 

「石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹼洗剤石鹼洗剤石鹼洗剤石鹼洗剤石鹼洗剤石鹼洗剤!!!!石鹸洗剤石鹼洗剤石鹼洗剤!!!!!飲めるかああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

呪いのように石鹸洗剤と嘆いている男とティアの飲める発言が変なハーモニーを生み出していたが、男は逆ギレして、大量の入信書を湖に投げ捨てた。

 

「きれいになっちまうわぁ・・・!!・・・ん?」

 

「あ・・・」

 

息を整えている男が双子を発見し、アカメとばっちり目が合った。

 

「や、やあ・・・あんたも大変ね・・・ははは・・・」

 

「・・・・・・」

 

男とアカメとの間で何とも微妙な空気が漂っている。

 

「アカメさーん!ティアさーん!」

 

そんな空気を破ったのは、ウィズであった。後ろにはカズマとめぐみんがついてきていた。

 

「あらあんたたち。1日1爆裂、お疲れ様」

 

「あの後大変だったけどなぁ・・・」

 

「いつまで初心者殺しのことを引きずってるのですか?過ぎたことを言ってるとハゲますよ?」

 

どうやらカズマたちはカズマたちで大変な事態にあったようだ。

 

「ところで、そっちは楽し・・・めてないみたいだな・・・」

 

「ええ。ティアのあの目を見れば一目瞭然です・・・」

 

「そういえば、お2人はここで何をしていたのですか?」

 

「私は・・・あれ?あのおっさんは・・・?」

 

何をしていたのかと問われてアカメは男の方に視線を向けたが、男の姿はなかった。

 

「あそこに洗剤が・・・石鹸が・・・おじさんがいたよ・・・」

 

「まあ!」

 

「ティア・・・もうこれ以上しゃべるな・・・」

 

「ティア・・・なんてかわいそうに・・・」

 

一応ティアが男があそこにいたと伝わったのだが、洗剤や石鹸が先に出てきたので、カズマとめぐみんは涙を流しながらティアを哀れんでいた。

 

「悪魔倒すべし!!魔王しばくべし!!」

 

すると、街の噴水広場からアクアの声が聞こえてきた。

 

 

ー嫌な予感しかしないー

 

 

アクアが気になって噴水広場に行ってみると、そこにはアクシズ教徒たちの人だかりができており、その中心でアクアが何やら演説を行っていた。

 

「我が親愛なるアクシズ教徒たちよ!!この街では現在、魔王軍による破壊活動が行われています!!」

 

「・・・ます・・・」

 

「何が行われてるのかというと、この街の温泉に毒が混ぜられています!!すでに多くの温泉で破壊工作が行われていることを確認しました!!」

 

「・・・しました・・・」

 

付き添われてしまったダクネスは顔を赤く染めており、恥ずかしそうにしながらアクアに合わせている。

 

「さっきそこの温泉に入ってきたけど、何もなかったですよ?」

 

「それはこの私が温泉の毒を次々と浄化して回っていたからです!!」

 

「あいつ、朝から温泉巡りしてたのか・・・」

 

「でもまだ安心はできません!!そこで皆さんにお願いがあります!!この事件が解決するまでは、温泉に入らないでほしいのです!!」

 

街を守るためとはいえ、温泉に入るなと言われたら、さすがのアクシズ教徒たちも快く首を縦に振ろうとはしなかった。

 

「ここは温泉街だよプリーストの姉ちゃん。1番の目玉である温泉に入るなだなんて言われたら、この街が干上がっちまうよ!」

 

「大体何の目的で魔王軍が?」

 

「それはアクシズ教団の収入源を潰すためです!!そう、魔王軍はあなた方アクシズ教徒を恐れているのです!!これは私が温泉に入れず悔しい思いをしてるのにみんなだけずるいと嫌がらせで言ってるわけじゃありません。さあ、敬虔なるアクシズ教徒の皆さん・・・」

 

「こんな所にいやがった!!!」

 

アクアは必死の思いでアクシズ教徒たちに説得をしようとすると、突如として怒りの声をあげたものがいた。それはこの街の温泉を管理していた数名のアクシズ教徒たちだった。

 

「そいつは街中の温泉をお湯に変えるっていう質の悪い嫌がらせをする女だ!!」

 

「ちょっ!!?」

 

集まったアクシズ教徒たちは管理者たちの言葉にざわつき始める。体質で災いを起こすとはまさにこのことを言うのだろう。

 

「みんな!!捕まえてくれ!!」

 

「簀巻きだおい!!簀巻きにしろ!!」

 

「おかしいと思ってたんだ!!俺たちを騙すつもりだったんだろ!!」

 

「新手の詐欺ね!!何を企んでるの!!?私たち、こんなに世の中よくしようとしてるのに!!」

 

「ち、違うの!!これにはちゃんとしたわけがあるの!!」

 

「何という超展開・・・」

 

「「ざまあみろ」」

 

集めたアクシズ教団たちによるまさかの暴動にアクアは涙目になる。超展開にカズマは呆れ、双子は逆にすかっとしている。

 

「あ、あの、アクア様が泣きそうですよ?」

 

「ほっとけばいいわよ。あいつの自業自得だし」

 

「ウィズも本気で構わなくていいって。時間の無駄だよ」

 

「ですが・・・それではあまりにかわいそうで・・・」

 

とことんにまでアクアに甘いウィズはこの展開におろおろとしており、双子は助けなくていいと諦観の姿勢を貫いている。

 

「みんな落ち着いて!!私の話を聞いて!!ねぇダクネス、さっきから固まってないで何とか言ってよ!!打ち合わせ通りちゃんと言って!!アクシズ教を、アクシズ教をお願いしますって!!言って!!照れてないでさあ!!早く!!!」

 

・・・あ・・・アクシズ教を・・・お願い・・・します・・・

 

「パツキンの姉ちゃん聞こえねぇよ!!!!!」

 

「気の毒に・・・」

 

「「ぷ・・・ぷぷぷ・・・w」」

 

アクアは一同を落ち着かせようとしているが、ダクネスの協力があっても逆に怒りを買うだけだった。カズマは付き合わされているダクネスを気の毒に思い始め、双子は笑いをこらえるので必死である。

 

「ああ、もう!!なら私の正体を明かします!!お集りの敬虔なるアクシズ教徒よ、私の名はアクア!そう・・・あなたたちが崇める水の女神、アクアよ!!あなたたちを助けるために、私自らこうしてやってきたの!!」

 

どうにもならないと思ったアクアは何を思ったのかついに自分の正体をアクシズ教徒たちに打ち明けた。アクアの正体を聞いたアクシズ教徒たちは全員黙り込み・・・そして・・・

 

「ふざけんなぁ!!!!!!」

 

「!!!???」

 

まさかの怒声が上がってきた。それにはアクアは目が点になる。

 

「青い髪と瞳だからってアクア様を騙るとバチが当たるよ!!!」

 

「やっぱ簀巻きだ!!!簀巻きにして湖に放り込んじまえよおい!!!」

 

「水の女神であるアクア様なら湖に放り込んでも問題ないだろうよ!!!」

 

「噓つきいいいいいいいいいいい!!!!!」

 

「さてはお前!!!本当はこの温泉街を破綻させるためにやってきた魔王軍の手先だろう!!!!」

 

女神だと信じてもらえてないどころか逆に魔王軍の手先だと思われてしまい、もう滅茶苦茶な状況になってしまっている。

 

 

ー本当だから!!私本当に神様ですからあああああ!!ー

 

 

もうすっかり日が暮れた頃、カズマたちはアクアを連れて宿に戻ってきたはいいが・・・

 

「うわあああああああああん!!!!私がここの女神なのに!!あぁんまりよおおおおおおお!!!私、どうして信者の子たちに石を投げられなくちゃいけないの!!??うわあああああああああん!!!!」

 

自分の信者たちから手ひどい目にあったアクアは戻ってきてからずっと泣きっぱなしである。

 

「あ、アクア様、これを飲んで落ち着いてください。でないと私、興奮したアクア様の神気に当てられて・・・」

 

神気というよりはアクアの涙に当たって消えかかっているウィズだが、アクアを慰めるためにホットミルクを差し出した。

 

「・・・お酒がいい・・・」

 

「アクア、実はそんなに気にしてないでしょ?」

 

こんな時にまで欲求は正直なアクアにティアは冷ややかな目で見つめている。

 

「一生懸命なのはわかりますが、自分を神様だというのはさすがに・・・」

 

「でも・・・あんな汚染された温泉に入ったら、みんな病気になっちゃう・・・」

 

「あんな目に合わされてまで、助ける必要もないだろうに・・・」

 

「うぅぅ・・・でもこのままじゃ私の可愛い信者たちが・・・」

 

アクアがアクシズ教徒たちに一生懸命さは嫌というほどわかるが、あれはどうにもならんだろうと考えるカズマたち。すると・・・

 

「ピィヒョーーーーー!!!!」

 

外で待機していたはずのアレクサンダーが突然カズマたちの部屋に駆け付けてきた。

 

「あ、アレクサンダー!!?どうしたの!!?」

 

突然入ってきたアレクサンダーにカズマたちは何事かと心配になる。よく見るとアレクサンダーが怯えてるようにも見えた。

 

「何?どうしたのよ?外になんかあるの?」

 

慌てて宿に入ってきたのだから外で何かあったのではと思ってアカメは窓のカーテンを開けてみる。そこに映っていたのは・・・

 

『悪魔倒すべし!!!!魔王しばくべし!!!!悪魔倒すべし!!!!魔王しばくべし!!!!』

 

この街のアクシズ教徒たちがこの宿に集まってきていた。アクシズ教徒嫌いからすればこれは地獄絵図であり、卒倒ものだ。

 

「な、何よこれ・・・あふぅ・・・」

 

「あああ!!お姉ちゃんしっかり!!」

 

「こ、これは・・・」

 

「何々?うちの子たちが私の話を信じて来てくれたのかしら?」

 

呑気なことを言っているアクアだが、実際はその逆で・・・

 

「いたぞぉ!!!!」

 

「女神の名を騙る魔女めぇ!!!!」

 

アクアを魔女だと思い込み、アクアを倒そうと息巻いていたのだ。それにはカズマもアクアも唖然となる。

 

『魔女狩りじゃあああああああああああ!!!!!』

 

もはやこの光景は、カオスとしか言いようがないほどに混沌に満ちていたのだった。




親友のふにふらさん、どどんこさん。
絶対に来ないでください。
アクセルの街まであと二日とのことですが、今すぐ引き返してください。決してフリではありません。
街は今、かつてない嵐と地震と魔王軍の幹部たちに襲われていてとても危険です。
というか、そんなに人を追いつめて楽しいですか!!?ねぇ、ねぇ!!?

ゆんゆん

ゆんゆんの現状・・・

ゆんゆん「あああぁ・・・どうしよう・・・どうしよう・・・」

手紙で今更ながら1人で慌てふためいているゆんゆん。泣きそうになった時・・・

ミミィ「はぁ・・・どうせ私なんか・・・私なんかぁ~・・・」

いつものネガティヴ思考で街の真ん中で膝を抱えているミミィ。ここに・・・

ゆんゆん「・・・あ、あなたはあの時酔ってた獣人さん・・・」

ミミィ「え・・・あ・・・あ・・・あなたは・・・」

これが本当の意味での初めてのアイコンタクト・・・なのか・・・?

次回、素晴らしい仲間たちに祝福を!


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この素晴らしき仲間たちに祝福を!

次回はオリジナル章に突入します。後書きに予告もありますよん。


「女神の名を騙る魔女めええぇ!!!!」

 

「簀巻きだぁ!!!簀巻きにしろぉ!!!」

 

「誰の許可で髪を青くしてるのよぉ!!!」

 

アクシズ教徒を救おうとアルカンレティアの噴水広場でアクアはダクネスと共に演説を行ったが、温泉をお湯に浄化させたこと、アクアが自分を女神だと言い放って逆に怒りを買ってしまい、夜中にこうしてアクシズ教徒たちによる暴動が起きてしまったのだ。このままでは炙り出され、アクシズ教徒たちにボコボコにされると危惧したカズマたちは窓の外からアクシズ教徒たちから逃げ出した。

 

「偽アクアが逃げたぞぉ!!!!」

 

「偽アクアを探せぇ!!!!」

 

カズマたち・・・というかアクアが逃げ出したのに気づいたアクシズ教徒たちはすぐさまアクアをボコボコにするために街中を捜索することになった。勧誘とは違う理由で追いかけ回されるはめになったカズマたちは路地裏で隠れながらこれからどうするべきか話し合っていた。

 

「源泉が怪しいと思うの!」

 

アルカンレティアを救うを事を諦めてないアクアが温泉で1番大事な源泉に汚染の根元があると言い出した。

 

「まぁ、それは確かに」

 

「そこを浄化すれば温泉が元に戻ると思うの。臭いにおいを根元から断つのよ!」

 

「ちょ・・・待ちなさい!私は協力するなんて一言も・・・」

 

「いたぞお!!パチモンだぁ!!!」

 

アクシズ教徒嫌いのアカメが反対の意を示そうとした時、アクシズ教徒たちに見つかってしまった。カズマたちはすぐさまアクシズ教徒たちから逃げ出す。

 

「あんなこと言ってる連中なんて、助けなくていいんじゃないの?」

 

「ううぅぅ・・・でも、私のかわいい信者たちがぁ・・・」

 

こんな目にあってまでもアクシズ教徒たちを救いたいアクアは泣いてはいるものの、決して折れようとはしなかった。

 

「まぁ・・・このまま街にいても、アクアのせいで安息はないからな。一旦源泉まで行くぞ」

 

「・・・はぁ・・・」

 

「・・・クソ・・・」

 

アクシズ教徒に捕まればボコボコにされると踏んだカズマは避難という意味で源泉に行くことを伝えた。源泉の汚染を断つのはあくまでついでだが。納得のいっていない双子は渋々了承した。そういうわけで、カズマたちはアクシズ教徒たちをかいくぐりながら、源泉へと向かっていった。

 

 

ーこのすばー

 

 

何とかアクシズ教徒たちに捕まらず、源泉に行くことができる門の前まで辿り着いた。しかしながら、この門は閉ざされている。門番である騎士も立っており、警備は厳重である。それでもアクアは通してもらおうと説得しようとする。

 

「ねぇ、私アクシズ教のアークプリーストなんですけど!ほら!私の冒険者カードをちゃんと見て!」

 

「いくらアークプリーストでも無理なんです」

 

「先ほど入られた管理の方からも、誰も入れるなと言われてまして・・・」

 

「管理の人?」

 

「まぁ、それが普通の反応なんでしょうけど・・・」

 

「でも、このタイミングで?」

 

この奥に入っていった管理人が誰も入れるなという単語に引っかかるカズマと双子。考えられる可能性としては、管理人が温泉の汚染状況が深刻だと思ったからなのか、あるいはその管理人が汚染の元凶か、あるいは・・・。そんな可能性を考えていると、アクアが女神としての口調で騎士たちを諭そうとする。

 

「・・・汝、敬虔なるアクシズ教徒たちよ。これは必要なことなのです。正しい行いなのです。私たちを通すことでこの街が・・・」

 

「「あ、自分らエリス教徒なんで」」

 

だが騎士は異常なアクシズ教徒ではなく、正常なエリス教徒なので、軽く流されてしまった。

 

「なぁんでよー!!!何でこの街で生活してるくせにエリス教徒やってるのよー!!ねぇ、お願い通して!!この先の源泉が危ないの!!私、この街を救いたいだけなんです!!」

 

「・・・このまま成り行きを見てみよう」

 

「結果は予想つくけどね・・・」

 

「あんたもいい性格してるわ、くく・・・」

 

カズマはこの成り行きを面白がって様子見をしようとしている。

 

「ダメなものはダメなんです」

 

「ほら、帰った帰った」

 

「あ!ちょっと待って!あなたってなんだか・・・その・・・そこはかとなくイケメンよね!」

 

門前払いされようとした時、アクアが騎士の1人を褒めてきた。褒めてるのかどうかは疑問だが、恐らく褒めて機嫌よくさせて立ち入り許可をもらおうという浅はかな考えなのだろう。

 

「横顔のところがレッドドラゴンに似ていてかっこいいと思うの」

 

「それは俺がトカゲ顔だと言ってんのか!!ふざけんなぁ!!!」

 

が、褒めるチョイスがかなり間違ってるため、逆に騎士を怒らせてしまう。当然である。

 

「・・・わかったわ。どうしてもここを通さないっていうなら・・・あんたたちエリス教徒にひどいこと言われたってアクシズ教会に駆け込んでやるから」

 

アクアの脅迫にアクシズ教会の異常さを十分に理解している騎士たちはそれには顔を青ざめている。が、それでもここを通す気配は一切ない。

 

「な、何バカ言ってんだあんた!!クソ!これだからアクシズ教徒は質が悪いんだ!!」

 

「だいたいその青い髪!!あんた先日温泉をお湯に変えるいたずらをした人じゃないのか!!?」

 

「ギクッ!!ち、違うの・・・あれは温泉を浄化しただけで・・・」

 

「やっぱりあんたか!!!そんな奴入れられるか!!!ほら、帰ってくれ!!」

 

「やっぱこうなったか・・・」

 

それどころか痛いところを突かれて逆に体よく追い返されそうになっている。こうなると予想したカズマは仕方ないといった表情でダクネスに近づく。

 

「ほらダクネス、数少ないお前の出番だ」

 

「数少ない!!?お、おい!!私だってたまには役にたっているぞ!!おい押すな!!いったい何のつもりだ!!?」

 

ダクネスはカズマの言っている意味がわからないでいたが、勘のいい双子と知力が高い紅魔族であるめぐみんはこの状況を覆す方法に気が付いた。

 

「控えおろう!!!この方をどなたと心得るのです!!ダスティネス家のご令嬢、ダスティネス・フォード・ララティーナであらせられます!!!これは緊急事態なのです!!!」

 

「「「えっ!!!???」」」

 

まさかのダスティネス家のご令嬢の登場に騎士たちは驚き、まさか自分の家の名家を出されるとは思っておらず、驚くダクネス。

 

「ほらお嬢様!その胸元に隠してあるペンダントを・・・ちょ、お嬢様、抵抗なさらず・・・ほらとっととよこせお嬢様!!!」

 

カズマはダスティネス家の証拠のペンダントをダクネスから取り上げようとするが、名家に頼りたくないダクネスは必死の抵抗をする。

 

「スティール」

 

必死の抵抗をしているダクネスだが、ティアがダクネスに向かってスティールを放った。非常に運が高いティアは難なくスティールを成功させ、ダスティネス家の証拠のペンダントを盗み取った。

 

「あああ!!お、おいティア!!それを返せ!!」

 

「おっと力比べで勝とうなんて100年早いわよ」

 

「あ、アカメ・・・貴様いったい何のつもりだぁ!!!」

 

ダクネスは簡単にカズマを払いのけて、ティアからペンダントを取り返そうとするがアカメに立ちふさがれた。力で押し返そうとするが、元から筋力が高く、レベルアップによってステータス面で物理攻撃力、腕力が高くなったアカメの前では無力に近かった。

 

「よしいいぞアカメ!そのままお嬢様を抑えとけ!」

 

「ほらダクネス大人しく・・・ちょ・・・痛い痛い!!ほら、ウィズもダクネスを抑えて抑えて!!」

 

「ウィズ!!早く来てください!!ダクネス、ちょっと辛抱するだけですから!!」

 

「あ・・・え・・・えっと・・・ご、ごめんなさい!!ダクネスさんごめんなさい!!」

 

「お、お前たち離せ!!!ダスティネス家は不当な権力の行使は・・・ぬあああああ!!!」

 

「いいから大人しくしてろドMお嬢様!!」

 

復活したカズマを含め、ウィズやパーティメンバーがダクネスを抑える。そうしてる間にもティアはダスティネス家の証拠のペンダントを騎士たちに見せつける。

 

「本物だ・・・これはとんだご無礼を・・・失礼しました!」

 

「この先の山にはモンスターも生息しています。行かれるのであれば、どうかお気をつけください」

 

ダクネスがダスティネス家の人間だとわかった途端騎士の態度は豹変し、あっさりとカズマたちを通すことを許可したのであった。

 

 

ーこのしゅばぁ!!!ー

 

 

ひと悶着があったが、何とか源泉へ続く山に入ることに成功したカズマたち。が、先ほどの一件でダクネスは非常に不服そうに涙目で双子たちを睨みつける。

 

「まだ拗ねてるの?しょうがないじゃん、ああでもしないと通してもらえないって」

 

「そういう問題ではないバカ者!!!!お前たちと言う奴らは!!お前たちと言う奴らは!!!」

 

「貴族として扱われたいのか仲間たちと扱われたいのかハッキリしなさいよ、面倒くさい奴ね」

 

「面倒くさいとか言うな!!アカメもティアも私より年下だろう!!」

 

かなり拗ねていていて苛立ちが止まらないダクネスにカズマが優しく声をかける。

 

「あいつらがああいう態度でいられるのは、ダクネスが仲間だと認めているからだよ。もちろん、俺たちも認めてる。そう、年上のお嬢様、ララティーナ様としてではなく、頼れるクルセイダー、ダクネスとしてな」

 

「そ・・・そうか・・・それなら・・・まぁ・・・別に・・・」

 

仲間として認められて、素直なダクネスはまんざらでもない笑みを浮かべている。

 

「チョロいな」

 

「チョロいですね」

 

「チョロいね」

 

「チョロいわね」

 

「チョロ甘ね」

 

かなりチョロいダクネスにカズマたちはそう思わずにはいられなかった。

 

 

ーみ、皆さん!ー

 

 

源泉がある山に入ったカズマたちはずんずんと奥へと入っていく。長い距離を歩いてきたが、今のところモンスターが出る気配はない。

 

「それにしても、管理人の人は大丈夫かなぁ?」

 

「何がよ?」

 

「ここ、モンスターも出るんでしょ?遭遇したら太刀打ちできないんじゃ・・・」

 

「案外、もうぽっくりと惨たらしくやられちゃったりしてね」

 

「おい、そういうフラグみたいなこと言うなよ」

 

ティアの疑問は最もだ。騎士の話だと管理人は冒険者じゃないただの老人だという話だ。そんな老人がモンスターと渡り合えるとは思えないのだから。

 

「・・・ピョー・・・」

 

「どうしたのよアレクサンダー。餌でも見つけたの?」

 

するとアレクサンダーが何かに威嚇してるような体勢をとっている。そちらの方を見てみると、何やら黒い物体を見つけた。

 

「な、何でしょうか・・・これは・・・」

 

「これは・・・黒い毛皮・・・ね」

 

「ねぇ・・・この毛皮、犬牙がついてるんだけど・・・」

 

その黒い物体は何かの生物の毛皮で、この毛皮には犬牙がついていた。まるでこれは生物である言わんばかりである。しかもこの毛皮と犬牙にはどこか見覚えがあった。

 

「なぁ・・・これはもしかして、初心者殺し・・・ではないのか・・・?」

 

ダクネスに言われて見てみれば、初心者殺しの姿に瓜二つであった。しかし、どう見てもその姿は異常であるのがわかる。なぜならこの初心者殺し、自分の肉が毛皮で見えないくらいまでに衰弱してしまっているのだ。まるで、酸のような液体で溶かされたような・・・。

 

「初心者殺しって中堅冒険者がやっと倒せるぐらいの相手だったよな?だとしたらこれは・・・」

 

カズマの言葉を理解しためぐみんたちはいつもより緊張感を高まらせる。

 

「温泉管理のおじいちゃんはものすごく強いってことね!早く合流して私たちを守ってもらいましょう!」

 

が、アクアだけカズマの言っていることを理解してない様子である。

 

「ただの管理人のじいさんが初心者殺しを倒せるわけねーだろ!!この初心者殺しの溶けた死体とかおかしいだろ!!どう考えたって人外の何かの仕業だろーが!!」

 

「な、何よ!!」

 

「・・・もうアクアのバカはほっといて早く行こうよ」

 

「なんにしても、警戒した方がいいけどね。どうもただの管理のジジイじゃなさそうだし」

 

ぶつくさ文句を言っているアクアを無視してカズマたちは先へと進むのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

ずんずんと先を進んでいき、ようやく温泉が見えてきた。

 

「見えてきましたよ」

 

「!ちょっと待って、なんか温泉がおかしいんだけど・・・」

 

温泉の異常に気付いたティアたちは急いでその温泉まで駆け付けていった。温泉を覗いてみると、温泉の一部が禍々しく、黒く濁っていた。

 

「お、おい!このお湯黒いぞ!!?」

 

「毒なんですけど!!?これ思いっきり毒なんですけど!!?」

 

どうやらこの黒く濁っているお湯には毒が含まれているようだ。温泉の質が悪くなっていたのは、これが原因のようだ。

 

「この様子だと、既に源泉も汚染されてしまっているかもしれませんね」

 

「急ぎましょう!」

 

思っていた以上の緊急事態にカズマたちは急いで源泉の元まで向かっていく。その途中にある温泉はいくつもあったが進むにつれて、毒による濁り具合がひどかった。そんな惨状を目の当たりにしながら、ようやく源泉の元まで辿り着いた。

 

「!待て!誰かいる」

 

湯気で見えづらいが源泉の元に誰かがいるのに気づいたカズマたちは岩陰に隠れて様子を見る。よく目を凝らして見てみると、双子にとって見覚えのある男が立っていた。

 

「あれ?あの人、湖にいた石鹸洗剤のおじさんだ・・・」

 

そう、あの肌が浅黒く、茶色い短髪の男は双子がリビングで、湖で見かけた男である。

 

「・・・あれ?俺もあいつ見たぞ。あいつ昨日の混浴にいたんだ」

 

どうやらカズマも先日、混浴であの男を見たらしい。

 

「・・・なんか、今にも身投げしそうな雰囲気ね」

 

「まぁ、あのおっさんもだいぶアクシズ教徒共にやられてたしね」

 

「いや・・・待て!」

 

男を見てみると、本当に身を投げるような行動に出た。

 

「危ない!!!早まっちゃダメだああああああああ!!!!」

 

カズマは身を投げようとする男をすぐに止めようと岩陰から出てきて、男の方に駆け寄った。

 

「・・・ふぇ?」

 

が、男は身を投げるようなことはしておらず、カズマに声をかけられてマヌケな声をあげた。ただ異常な光景があるとすれば・・・男が源泉のお湯に触れた個所が黒く濁りだし、ぐつぐつと煮えたぎっている。どう見ても毒であるのが見え見えである。そして男は毒に触れても平気な様子だ。

 

「・・・ふぇ」

 

これを見てカズマも男と負け劣らずのマヌケな声を出した。

 

 

ーこのすば!!!ー

 

 

毒に触れても平気という異常な光景を目の当たりにしたカズマたちはそのことを男に問い詰めようとするが、この男は誤魔化そうとする。

 

「これはこれは観光ですか!!実はこの温泉、腰痛、肩こり、疲労回復、美容効果その他、憂鬱、邪念、各種呪いなど諸々効果がありまして!!各国の聡明な方々からも大変高評しておりまして、ですからですね・・・」

 

男は必死に誤魔化そうとしているが、なぜかウィズには視線を合わせようとはしなかった。

 

「・・・この方・・・見覚えが・・・」

 

「み、見覚えなんてそんな・・・初対面ですよ」

 

「・・・ああ!!ハンスさん!!ハンスさんですよね!!」

 

「・・・・・・!!!!」

 

「えっ?」

 

ウィズはこの男と知り合いのようで男のことを思いだしたウィズは嬉しそうな声をあげている。ハンスと呼ばれた男は非常に焦っている。

 

「だ・・・誰の事ですか?私はここの管理人の・・・」

 

「ハンスさん!お久しぶりです!私ですよ!ウィズです!リッチーのウィズですよー!」

 

「ちょ・・・ちょっと何を言っているのか・・・」

 

「確かハンスさんはデッドリーポイズンスライムの変異種でしたね!もしかして、ハンスさんが源泉に毒を入れていたんですか?」

 

「スライム・・・!」

 

「デッドリー・・・スライム?」

 

ウィズの口からぽんぽんぽんぽんと情報を漏らされ、男はかなり焦っており、ウィズを無視している。

 

「ねぇ、ハンスさん!さっきからどうして私を無視するんですか?ウィズですよ!」

 

「なんですか?私はあなたのことなんて・・・ちょ・・・揺さぶるのはやめてください」

 

「ひょっとして、私のこと忘れちゃったんですか?ほら、昔魔王さんのお城に・・・」

 

「ああああああああっと!!!!急ぎの用が・・・今すぐに街に戻ります・・・」

 

ウィズが今結構重要なことを口走りそうになり、男はそれを大声で遮り、その場から立ち去ろうとするが、カズマたちがそれを許そうとしない。

 

「どこへ行こうというのだハンス!」

 

「ここは通さないわよハンス!」

 

「そんな言い訳が通用すると思っているのですかハンス!」

 

「往生際が悪いわよハンス!」

 

「もう証拠は揃ってるんだよハンス!」

 

「悪あがきはやめて、いい加減正体を現せよ、ハンス!」

 

カズマたちはハンスハンスと連呼されて男はかなり鬱陶しそうな顔つきになっている。

 

 

ーハンス!!!!!!ー

 

 

「チキショーーーー!!!!ハンスハンスと気安く呼ぶなクソ共がぁ!!!」

 

男・・・いや、デッドリーポイズンスライムのハンスは本性を現し、気安く名を呼ばれて逆ギレする。

 

「ウィズ・・・お前店出すとか言ってたじゃねぇか!!温泉街をうろついてないで働きやがれ!!!」

 

「ひ、ひどい!!私だって頑張ってるんです!!ですが働けば働くほど貧乏になっていくのですが・・・」

 

先ほどまでハンスはしらを切っていたが、やはりウィズとハンスは魔王軍の関係者だったようだ。

 

「はぁ・・・年月をかけ隠密にやってきたっていうのに・・・。ウィズ、確かお前、結界の維持以外では魔王軍に協力しない、その代わり俺たちに敵対しないっていう互いに不干渉っていう関係だったはずだ。それがどうして俺の邪魔を・・・」

 

「ええ!!?私ハンスさんの邪魔をしてしまいましたか!!?久しぶりに会ったから声をかけただけじゃないですかぁ!!」

 

「それが邪魔になってんだぁ!!!」

 

どうやらウィズは無自覚で声をかけただけのようだが、隠密作戦を実行するにあたって、知り合いに声をかけられては確かに邪魔になっているのだ。

 

「あんたのせいでどれだけ苦渋を舐めたか・・・覚悟しなさい・・・」

 

アクシズ教徒に追いかけ回されるきっかけを作ったのはアクア本人のせいだが・・・元を正せば温泉の源泉を汚染しようとしたハンスに原因があるため、アクアの言い分は結果的には間違って・・・いないのだろうか・・・?

 

「・・・どうするんだウィズ?俺とやり合う気か?」

 

「この人は私の友人なんです!話し合いとかできませんか?」

 

ウィズの言い分にハンスは小ばかにするように鼻で笑った。

 

「相変わらずリッチーになってからは腑抜けてるんだなウィズ。お前がアークウィザードとして俺たちを狩りまくっていたあの頃には、話し合いなんて言葉出てこなかっただろうに!」

 

「あ、あの頃は、周りが見えていなかったというか・・・」

 

「ウィズ、こいつとは顔見知りなんだろ?戦いづらい相手だろうから、下がっていてくれ」

 

ハンスの言い分にしどろもどろになっているウィズを下げさせ、カズマがちゅんちゅん丸を抜き、ハンスと対峙する。

 

「俺の名はサトウカズマ!数多の強敵を屠りし者!」

 

「か、カズマさん!確かに私として、戦うことは避けたいのですが・・・」

 

ウィズはカズマを止めようとしているが、カズマの意志は揺るがない。

 

「行くぜ・・・相棒・・・(イケボ)」

 

「ちゅんちゅん丸」

 

「違う」

 

かっこよく決めているようだが、めぐみんがそれを台無しにさせる。

 

「いいだろう・・・誰もが俺の本性を見ると恐れひれ伏し、許しを請うてきた・・・お前は骨がありそうだ・・・」

 

(最弱モンスターのくせに何言ってんだ?デッドリーポイズンの名からして、毒攻撃してきそうだが、こっちには毒を浄化できるアクアがいる。負ける様子が見当たらない)

 

カズマはスライムというモンスターはゲームでいうところのザコモンスターとして認識しているため、スライムであるハンスにかなり強気である。だが、ここはファンタジーの常識をぶち壊す世界。カズマの強きがハンスの言葉で一気に崩れ去る。

 

「俺の名はハンス・・・魔王軍幹部の1人・・・デッドリーポイズンスライム(ねっとり)のハンスだ」

 

「!!?今なんて?魔王軍幹部!!?」

 

ハンスが魔王軍幹部だと聞いて、カズマは目が点となる。

 

「ハンスさんは幹部の中でも高い賞金を懸けられてる方です!とても強いので注意を!」

 

この世界ではスライムが強いという常識を知らないカズマすがる思いで仲間たちに現実を否定してもらおうと質問する。

 

「な・・・なぁ・・・スライムってのはザコだろ?ザコだよな?」

 

「そんな大嘘塗れの話誰から聞いたのさ!!?スライムは滅茶苦茶強敵だよ!!?」

 

「スライムってのはね、言ってみれば私の天敵よ。まず私の得意とする物理攻撃が効かない。1度貼りつかれたらそれこそ死だと思いなさい」

 

「死・・・!!?ぐ、具体的には・・・」

 

「スライムの消化液で内臓を溶かされるか、窒息させられるか・・・スライムに張り付かれたらその2つが待ってると思え!」

 

「何それ怖い!!!」

 

「しかもそいつは、街中の温泉を汚染できる猛毒の持ち主です!触れたら即死だと思ってください!!」

 

「そ、即死!!!???」

 

仲間たちからスライムの恐ろしさを聞かされたカズマはここはゲームの常識を壊すような世界だったと改めて思い知ったと同時に、目の前のハンスの存在に恐怖で心臓がバクバクしっぱなしである。

 

「大丈夫よカズマ・・・死んでも私がついてるわ!でも捕食だけはダメよ?骨まで消化されたら蘇生できないからね」

 

しかも骨まで消化されたらいくらアクアでも蘇生できないと聞き、カズマは血の気が引いて、完全に身を縮こまった。

 

『緊急クエスト発生!!!

魔王軍幹部、デッドリーポイズンスライムのハンスを討伐せよ!!!』

 

「フハハハハ!!!さあかかってくるがいい勇敢なる冒険者よ!!!この俺を倒し・・・」

 

「すいません!!!!本当にすいませーーーーーーーん!!!!!」

 

恐れをなしたカズマは誰よりも早く、一目散に逃げだしたのだった。

 

 

ーこのしゅばーーーーー!!!ー

 

 

恐ろしい存在ハンスを前に逃げ出したカズマ。めぐみんたちもハンスには太刀打ちできないと判断し、カズマと共に逃げている。

 

「ちょ・・・何で逃げるの!!??」

 

「バカ野郎!!早く来い!!あいつは今までの中で1番やばい!!」

 

「ああ・・・スライム・・・スライムが・・・」

 

「ダクネス!!さすがにあれは死にます!!」

 

最もアクアは納得していない様子、ダクネスはせっかくのスライムに弄ばれるのを期待していたため、すごくがっかりしているが。

 

「!!ちょ・・・ちょっと待ちなさい!!あれ・・・あれを見なさい!!」

 

「ひぇっ・・・」

 

前方に何かを発見したアカメはカズマたちにストップをかけた。前方の何かを見たティアは顔を青くさせる。前方でカズマたちを待っていたのは・・・

 

『悪魔倒すべし!!魔王しばくべし!!悪魔倒すべし!!魔王しばくべし!!』

 

アクアを追っていたアクシズ教徒の集団であった。偽アクア打倒を元に、アクシズ教徒たちは警備さえも退けさせ、こんなところまでやってきたのだ。

 

「嘘でしょ嘘でしょ・・・こんな場所まで・・・はぅ・・・」

 

「ちょ!!ティア!!しっかりしなさい!!」

 

アクシズ教徒嫌いのティアは軽くめまいを起こし、倒れそうになった。それをアカメがしっかりと支える。

 

「・・・うん。もう源泉は諦めようぜ。どうせアクシズ教徒なんていらない子たちだし」

 

カズマの放った言葉は世間にとってはごもっともな事なのだが、アクシズ教の女神であるアクアはやはり聞き捨てならなかった。

 

「何言っているのねぇ!!!??この星のアクシズ教団が崩壊しちゃううううう!!!」

 

「「「「いいことじゃない(か)(ですか)」」」」

 

「うわあああああああああああん!!!!!」

 

アクシズ教団は滅んでも構わないというカズマたちの答えにアクアは泣き喚く。

 

「あ、アクア様をからかうのはやめてください!」

 

「ウィズだって心の奥底ではなくなってしまえって思ってるんじゃないの?」

 

「そ、そんなこと・・・ない・・・はず・・・です・・・」

 

「なんでそんな弱気なのよねぇ!!!??」

 

アクアを庇っているウィズだが、ティアの発言に心ではなくなった方が幸せなのではと若干思っていたので何とも言えない。

 

「もういいわよ!!!」

 

「あ、おい!!」

 

「あのクソザコバカ・・・1人で何ができるってのよ・・・」

 

もう頼りにならないと判断したカズマはたった1人でハンスを倒そうと戻っていった。それを見届けためぐみんたちはカズマとアクシズ教徒嫌いの双子をじっと見る。

 

「・・・いいのか?このままでは、もっとひどいことになるぞ」

 

「もちろん、双子のアクシズ教徒嫌いはわかっています。ですが、盗賊団ならこう言った状況、どうしますか?」

 

ダクネスやめぐみんの問いかけに、双子とカズマはお互いに顔を見合わせる。少しの沈黙の後、3人はため息をつく。

 

「・・・これは貸しだってあのザコに言っておきなさい」

 

「本当は助けたくないけど・・・いいよね、カズマ」

 

「・・・しょーがねーなー」

 

あれほどいやいやと言っておきながら、なんだかんだでアクアに協力しようという姿勢にめぐみんたちはその姿を頼もしく思い、笑みを浮かべた。

 

 

ーこのすばー

 

 

源泉の元ではハンスがお湯に手を突っ込み自身の毒を混ぜ込んでいる。そんな破壊工作の最中、ハンスを倒そうとアクアが戻ってきた。

 

「ちょっとあんた!!毒属性なんてそんなの流行んないのよ!!暗いのよ!!どうせそんなだからモテなくて魔王軍なんかに身をやつしたんでしょ!!悔い改めなさい!!」

 

「なんだと・・・」

 

アクアの言葉に癪に障ったのかハンスはアクアを睨みつける。

 

「アクアー!!」

 

「!カズマ!」

 

カズマもこちらにやってきて、アクアは笑みを浮かべる。やはりアクアはカズマを信用しているのがよくわかる。

 

「・・・どの面下げて戻ってきた、ザコ共」

 

やはりハンスに怯えているカズマだが、双子はかなり強気だ。

 

「はっ、ザコかどうか、試してみる?おっさん」

 

「舐めてかかってると、痛い目に合うよ」

 

「減らず口を・・・。まぁいい・・・何にしても、この街の温泉を汚染さえ完了しちまえば、この街にもう用はない。ようやくだ!!ようやくこの忌々しい街からおさらばできる!!!」

 

「ま、まぁ・・・気持ちはわからなくもないんだけどね・・・」

 

アルカンレティアでハンスと同じ苦しみを体験してきた双子たちは少なからず気持ちだけは理解できる。そんな話をしていると、アカメは先にここに来ているはずの管理人のことを思い出す。

 

「そういえば、あんた管理人じゃないわよね。だったら、本物の管理人のジジイはどうしたのよ?」

 

「喰った」

 

アカメの問いかけにハンスは率直に答えた。喰った・・・ということは文字通り、ハンスは管理人を喰らったということなのだろう。それに驚愕したカズマは思わず聞き返した。

 

「え・・・?今、なんて・・・」

 

「だから喰ったと言っている。俺はスライムだ。食べることが本能だぞ?そもそも喰った相手じゃないと擬態が・・・」

 

「カースド・クリスタルプリズン」

 

ハンスが淡々と答えたその時、ウィズが氷の魔法、カースド・クリスタルプリズンをハンスに放った。この魔法の冷気によって、冷気が通った場所が一瞬で凍り付き、ハンスの左手も巻き込み、凍らせた。

 

「!!!!???があああああああああ!!!!!」

 

「う・・・ウィズ・・・?」

 

「あんた・・・」

 

魔法を放ったウィズを見ていると、その顔は明らかに怒りで染め上がっていた。今まで見たことがないウィズの顔にカズマたちはもちろん、付き合いが長い双子も驚いていた。

 

「・・・確か、私が中立でいる条件は、戦闘に携わる人間以外の人間を、殺さないことに限る・・・でしたよね・・・?」

 

「ウィズ!!!やめろ!!!魔法を解け!!!」

 

「冒険者が戦闘で命を落とすことはしかたのないことです。彼らだってモンスターの命を奪い、それで生計を立てていますから。自らも、狩られる覚悟は持つべきです。そして騎士もそうです。彼らは税をとり、その代価として住民を守っている。対価を得ているのですから、命のやり取りはしかたありません」

 

「ウィズ!!!俺と本気でやり合う気か!!??ここでまともにやり合えば、この辺り一帯は完全に汚染され・・・」

 

「ですが・・・ですが管理人のおじいさんは、何の罪もないじゃないですか!!!!」

 

「ウィズが怖いんですけど・・・」

 

普段見せないウィズの姿にアクアとめぐみんはビビってカズマの後ろに隠れている。とはいえ、ウィズがあそこまでやる気を出しているのだから、カズマ自身も腹をくくった。

 

「氷の魔女と恐れられたお前を相手にするには・・・やむを得ん!!!!」

 

そう言ってハンスは凍らされた左手を自らの手で切断した。すると、切断した個所から、禍々しく、ぶよぶよとした液体が切口から出てきた。

 

「本能のままに喰らいつくす・・・」

 

そこまで言い放つとぶよぶよとした液体はハンスの肉体を全て覆い尽くし、どんどんと膨れ上がっていき、1つの屋敷を丸のみにできるほどに巨大化した。そう・・・このぶよぶよした液体こそが、デッドリーポイズンスライムハンスの本当の姿なのだ。

 

「おお・・・何と見事なスライムだ!惜しい!毒がなければ持って帰り、我が家のペットにするところだ!」

 

「脳みそ溶かされてんのかああああああああ!!!!」

 

ダクネスがバカなことを言っている間にも、ハンスは行動に出た。ハンスは自身の身体の一部を辺り一面を無差別に放った。当然、毒が入っているため、一部が温泉に入るとその箇所が黒く汚染される。

 

「あああ!!!温泉が!!!」

 

「アクア!!?何やってるの!!?危ないから下がって!!!」

 

アクアは毒が入った温泉を浄化しようと危険を顧みず温泉に近づき、ピュリヒケーションを一心不乱に放った。

 

「なんだあれは!!!???」

 

「あいつが温泉を汚していたのか!!!」

 

そうしている間にもアクシズ教徒の集団がここに集まってきて、今現在起こっている事態に戸惑いを見せている。

 

「ピュリヒケーション!!ピュリヒケーション!!ピュリヒケーション!!ピュリヒケーション!!ああああ!!熱い熱い!!!」

 

「もうそんなんいいから!!とっとと逃げろぉ!!!」

 

「だってだって!!ここを守らないとうちの子たちがぁ!!」

 

アクアが熱いのに耐えながらも必死に温泉を浄化しようとしているのを見て、アクシズ教徒たちはアクアが本当に温泉を守ろうとしていたというのに気が付く。

 

「見ろ!!」

 

「青い髪の子が言っていたことは本当だったんだ!!」

 

「やっつけろーーーー!!!!」

 

『ヒール!!ヒール!!ヒール!!』

 

アクシズ教徒たちはハンスをやっつけようといろいろなものをハンスに向けて投げていく。アークプリーストたちはアクアにヒールをかけて回復させる。

 

「お姉ちゃん!!頑張ってぇ!!!」

 

アクシズ教徒の少女がアクアを応援していた時、ハンスの毒が少女に迫ろうとしていた。

 

「危ない!!」

 

「ダメだ!!間に合わない!!」

 

ダクネスが少女を助けようとするが、素早い速さでなければ間に合わない。もうダメだと思った時、なんとアカメが少女を素早く抱きかかえて毒を避けた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「ほっ・・・」

 

アカメと少女が無事でティアもカズマも一安心。

 

「赤髪のお姉ちゃん・・・」

 

「前に出すぎんな!!!死にたいの!!?」

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

またも迫ってきた毒にアカメは少女を守りながら毒を1つ1つ避けていく。

 

「みんな!!ここは危険だ!!下がれ!!」

 

ダクネスがアクシズ教徒たちを避難させようと声をかけるが・・・

 

「何言ってんだこのエリス教徒があ!!!!」

 

「この邪教徒!!!」

 

「にゃあああああああ!!!」

 

アクシズ教徒たちはダクネスに向かっていろいろな投げたり、ほうきで払われたりして、ダクネスはぞんざいな扱いを受けた。

 

「私の爆裂魔法で木端微塵にしてあげます!!」

 

「やめて!!この山自体が汚染されちゃう!!」

 

確かに爆裂魔法なんて放ったらハンスの身体が四散し、毒が辺り一面を汚染してしまうだろう。

 

「あんな毒を持った相手、バインドじゃ縄を溶かされちゃうしどうしたら・・・」

 

「くそ!ウィズ!何とかならないのか!!?」

 

「今の私の魔力ではあの大きさを凍り付かせることはできません!なんとか、あれを小さくさせることができれば・・・」

 

小さくさせると言われてもあれほどの大きさでしかも毒を持った相手だ。触れれば逆に自分が捕食されてしまうため、最大困難だと思われるのでカズマも対処が困る。

 

「俺たちの大事な温泉を毒で汚しやがって!!許さねぇ!!!」

 

「この罰当たりのすっとこどっこい!!!!」

 

アクシズ教徒たちは怒りでどんどんと物を投げていくが、無傷どころかほとんどのものがハンスに吸収されていく。ハンスはアクシズ教徒たちが投げた饅頭に目を付けて、触手を伸ばして饅頭を吸収していく。その途中で石鹸と洗剤があったが、ハンスはそれを吸収せず、すぐ近くにあった饅頭だけを吸収する。

 

「せ、石鹸と洗剤だけ避けてるよ・・・」

 

「す、スライムでも選り好みするのか・・・」

 

「ちょっとカズマ!!」

 

「なんだ?」

 

「あんたお得意のこずるい打開策を考えて何とかしなさいよ!!正直こっちは限界なんだけど!!」

 

「こずるいとか言うなよ」

 

少女を守り続けて避けてるため、アカメには疲労の顔が見える。一言余計だと言わんばかりの顔をしたカズマはハンスの体内に人間の骨があるのを見つけた。

 

「あああ!!温泉の管理人さん!!」

 

「あの野郎!!喰っちまったのか!!!絶対許さねぇ!!!」

 

どうやらあの骨は本物の温泉の管理人でまだ完全に消化しきれてないようだ。それを見たカズマは苦渋な表情をしながらも、イチかバチかの打開策を閃いた。

 

「アクア!!完全に消化されてなければ、蘇生できるか!!?」

 

「え!!?できるわよ!!」

 

「ウィズ!あいつが小さければ、氷漬けにできるんだな!!?」

 

「え、ええ。今の半分くらいになれば・・・」

 

一通りの確認をしたカズマはこれならばなんとかできると確信を持った。

 

「めぐみん!爆裂魔法を撃たせてやるぞ!!あっちで待機してるんだ!!」

 

「!!う、撃っていいんですか!!?撃ちますからね!!!」

 

爆裂魔法を撃っていいと確認すると、めぐみんはうきうきした様子で待機地点に移動する。

 

「ティア!お前はこれでもかってくらいにアカメの武器に電気属性の付与を頼む!!」

 

「わ、わかった!!限界を超えるほどの威力を出させるよ!!」

 

「アカメ!!とどめはお前にくれてやる!!再起不能ってくらいにやっちまえ!!」

 

「・・・はっ!上等よ!やってやろうじゃない!アレクサンダー!!」

 

「ピィーヒョロロローーー!!!」

 

作戦を理解したアカメは少女と共にアレクサンダーの背中に乗り込む。

 

「私は飛び散るハンスの破片から皆を守ればいいんだな?」

 

「そういうことだ!頼りにしてるぞ!」

 

「ダクネス!こいつ頼んだわよ!」

 

「わー!やめろ邪教徒!!!」

 

「行こうお姉ちゃん!」

 

自分の役割を理解したダクネスはアカメから嫌がっている少女を預かる。ティアがアレクサンダーに乗り込み、双子は指定ポイントに移動する。

 

(温泉街に幹部クラス登場なんて・・・たく!ゲームバランスどうなってんだこの世界は!!)

 

カズマ自身も内心のこの世界の理不尽さを愚痴りながらも作戦を決行するために行動を始める。ハンスは未だに温泉を浄化しているアクアを喰らおうと近づいてきている。そのハンスを止めるため、カズマは饅頭をハンスに向かって投げつける。それによってハンスはカズマに気付いた。

 

「お前の餌は・・・この俺だ!!!」

 

カズマは自らを囮にし、ハンスを引き付けようとした。カズマの狙い通り、ハンスはスライムの本能のまま、カズマを喰らおうとして追いかける。

 

「サンダーズエンチャント!エンチャント!エンチャント!エンチャント!!エンチャント!!!」

 

「爆走、爆走、爆走・・・最高最強にして最大の魔法、爆裂魔法の使い手・・・我が名はめぐみん。我に許されし一撃は同胞の愛にも似た盲目を奏で、塑性を脆性へと葬り去る・・・強き鼓動を享受する!!!!」

 

指定ポイントに移動しているめぐみんは爆裂魔法を放てられるように詠唱を唱えており、ティアはアカメの武器に電気属性を自分の魔力が尽ききるまで付与させ、威力を限界以上まで底上げさせる。ウィズもハンスを氷漬けにできるように魔力を限界まで練る。

 

「お前の運の尽きは、この街に来たことじゃない・・・俺たちを相手にしたことだあああああああ!!!」

 

ハンスを源泉から崖まで離させたカズマはそのまま崖を飛び降りる。ハンス自身もカズマに狙いを定めて、崖から飛び降りた。

 

「後は任せたぞ!!みんなああああああああああうぎゃあああああああああああああ!!!!!!」

 

カズマは仲間たちに後を託し、ハンスに飲み込まれて骨だけになってしまった。

 

「哀れな獣よ、紅き黒炎と同調し、血潮となりて償いたまえ!!!

穿て!!!!!エクスプロージョン!!!!!!

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!

 

ハンスが着地したと同時にめぐみんが爆裂魔法を放ち、大爆発を起こす。この爆発によってハンスは自身の毒が飛び散っていく。

 

「危ないぞ!!!下がれ!!!」

 

ダクネスは飛び散った毒からアクシズ教徒たちを守っていく。毒に当たりはしたがさすがは防御に極振りしたクルセイダー。飛び散った破片くらいでは少ししかダメージを喰らわない。今の爆裂魔法でハンスはもう骨しか残っていない。

 

カースド・クリスタルプリズン!!!!!」

 

さらに追撃としてウィズが最大威力のカースド・クリスタルプリズンをハンスに放った。放たれた強大な冷気によって、ハンスは一瞬で氷漬けになる。そこへ、轟雷をともいえる電気を纏った短剣を握りしめ、アカメがハンスに突進する。

 

これで終わりよ!!!轟雷・三連斬!!!!!

 

ゴオオオオオン!!!!!!ゴオオオオオン!!!!!!ゴオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!

 

短剣の斬撃はまるで本当に雷が落ちてきたかのような威力を放ち、ハンスの骨を粉々にまで砕け散らせた。轟雷が落ち着いた頃には、辺りには粉々になった骨しか残っておらず、アカメの短剣は限界まで来たのかパキンと粉々になった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・さすがに・・・疲れたわね・・・」

 

「お疲れ様、お姉ちゃん。めぐみんもウィズも、お疲れ」

 

自分の限界の力を使ったアカメは息を整える。そこへめぐみんを背負ったティアとダクネスが駆け付ける。

 

「はぁ・・・はぁ・・・魔力を尽きる前に、ハンスさんを止めることができて・・・よかった・・・」

 

「やったのか!!?」

 

ハンスを倒すことができただろうと思っていたその時・・・

 

「・・・ここまで俺を追いつめるとは・・・」

 

「何!!?」

 

「ちょっと・・・嘘でしょ・・・」

 

「まだ・・・生きてるの・・・?」

 

ハンスの骨の残骸から、先ほどよりかなり小さくなり、有名ゲームの回復スライムのような姿をしたハンスが出てきた。疲労しきっている双子たちはそれには驚愕する。

 

「だがまだだ・・・すぐにお前たちを喰らって食らい尽くしてくれる!!!」

 

いくら小さくなったとはいえ、全てを出し尽くした状態で戦ったら負けるのは目に見えている。そしてダクネスの斬撃はいつだって空振り・・・絶体絶命になったその時・・・

 

『悪魔倒すべし。魔王しばくべし。悪魔倒すべし。魔王しばくべし』

 

「悪魔倒すべし・・・魔王しばくべし」

 

アクシズ教徒の集団を引き連れたアクアがやってきて、拳を構えてハンスを睨みつける。

 

ゴッドブローーーーー!!!!!

 

アクアはいつも失敗ばかりの神技の1つ、ゴッドブローを力いっぱいに放った。

 

「ぐっ・・・何かと思えば・・・素手ぐらいでは俺は倒せんぞ、このへなちょこプリーストがあああああ!!!!」

 

「お姉ちゃーーーーーーん!!!!!!」

 

ハンスに触れてしまったため、ハンスの毒がアクアの拳を包み込み、アクアを飲み込まんとする。アクアは自身の浄化体質でそれに対抗する。

 

「アクシズ教、教義!!!!」

 

アクシズ教徒たちはアクアが勝つと信じて、アクシズ教の教義を唱え始めた。

 

『アクシズ教徒はやればできる!!できる子たちなのだから上手くいかなくてもそれはあなたのせいじゃない!!うまくいかないのは世間が悪い!!』

 

「自分を抑えて真面目に生きても頑張らないまま生きても明日は何が起こるか分からない・・・なら分からない明日の事よりも、確かな今を楽に行きなさい!!」

 

「汝、何かの事で悩むなら、今を楽しく生きなさい・・・楽な方へ流されなさい・・・水のように流されなさい・・・自分を抑えず、本能のおもむくままに進みなさい!!」

 

「嫌なことからは逃げればいい!!逃げるのは負けじゃない!!逃げるが勝ちという言葉があるのだから!!」

 

「「迷った末に出した答えはどちらを選んでも後悔するもの!!どうせ後悔するのなら今が楽な方を選びなさい!!」」

 

アクシズ教徒たちが教義を唱えていると、アクアのもう片方の拳がこれまでとは比べ物にならないほどの神々しさが纏っている。

 

「!なんだ・・・その光は!!?」

 

この現象にハンスは戸惑いが生まれ、困惑する。

 

「悪人に人権があるのならニートにだって人権はある!!汝、ニートである事を恥じるなかれ!!働かなくても生きていけるならそれに越した事はないのだから!!」

 

「汝、我慢をする事なかれ!!飲みたい気分の時に飲み、食べたい気分の時に食べるがよい!!明日もそれが食べられるとは限らないのだから!!」

 

「汝、老後を恐れるなかれ・・・未来のあなたが笑っているかそれは神ですらも分からない・・・なら今だけでも笑いなさい!!!!」

 

『悪魔倒すべし!!!魔王しばくべし!!!』

 

以前アクアが言っていた。信者の数と信仰心がそのまま神の力になると。今起こっている現状は全て、アクシズ教徒たちの女神アクアの強い信仰心によって生まれたものなのだ。

 

「かわいい信者たちの大切な温泉を汚したその罪・・・万死に値するわ!!神の救いを求め、懺悔なさい!!!」

 

「・・・!!!まさか・・・」

 

エリスの胸はパッド入りいいいいいいいいい!!!!!!!

 

ゴッドォ・・・レイクエムうううううううううう!!!!!!!

 

アクアは神々しい光を纏った拳に力を込めて、ハンスにアッパーを放ち、ゴッドレクイエムを放った。

 

「ぐああああああああああああああ!!!!!あいつらが崇拝している、忌々しい女神とは・・・まさか・・・お前があああああああああああああああああ!!!!!!」

 

アクアのゴッドレクイエムによって、ハンスは浄化され、消滅した。そして、神々しい光は、この山全体を包んでいき・・・。

 

 

ーこのすばー

 

 

こうして、ハンスとの戦いは終わった。アクアたちは汚染騒ぎの功労者として感謝され・・・ることはなかった。

 

「私頑張って浄化しただけなのに!!なんでみんなに怒られるのよ!!?」

 

なぜアクシズ教徒たちに怒られることになったのかは・・・やはり原因はアクアにあった。アクアの放ったゴッドレクイエムにより、アルカンレティアの全ての温泉はお湯になってしまったのだ。アクシズ教団の財源の元を断つという魔王軍の目的を結果的には手助けしてしまったのだ。まぁ、毒に汚染されるよりかはマシだが。ということなので、カズマと管理人の蘇生を果たした後は、そのまま馬車で帰ることになったのだ。

 

「「二度と来るかこんな街!!!!」」

 

双子たちはアルカンレティアには二度と来ないと心から誓った。本当ならウィズのテレポートでアクセルに帰るのだが、浄化の力に当てられてまたも消えかかってしまっているので、これは断念。馬車に揺られながら、カズマたちはアクセルに帰還。アクセルに戻った後はバニルにウィズを返却し、自分たちは住まいの屋敷に戻っていく。

 

「お、温泉行ってたんだって?いいご身分じゃねぇか~」

 

「おかえりー!」

 

「カズマ、今晩ギルドで飲もうぜ~」

 

「ぶえええええ!!無事で・・・無事でよがっだああああああ!!」

 

「おかえりなさい!大変でしたね!」

 

「生きて帰ったか・・・やはりお前は・・・いや、気のせいか・・・」

 

帰ってきたカズマたちにダストたちが飲みに誘ったり、ミミィ、ルナが労いの言葉をかけてもらったりしていた。荒くれ者も、カズマたちが帰ってきてふっと笑っていた。やっと戻ってきたカズマたちの屋敷で・・・

 

「皆さんおかえりなさい!さあめぐみん!今日こそ勝負よ!!」

 

「・・・毎日、待ち伏せていたようですね」

 

「ち、ちちちち、違うわよ!!今日たまたまここに来たのよ!!」

 

めぐみんと勝負してもらおうと毎日ここに来ていたゆんゆんが待ち伏せていた。それにはカズマたちは少しあきれていた。

 

「ふぅ・・・しかたありませんね。久しぶりにかまってあげましょうか」

 

「え?いいの?」

 

めぐみんはふっと笑いながらゆんゆんに付き合ってあげることにした。その間にカズマたちは自分たちの荷物を屋敷へと運んでいく。

 

「ただまー!」

 

「おかえりー」

 

「やっぱり我が家が1番ね!!」

 

帰ってきたカズマたちは旅の疲れをゆっくりと癒すのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

一方、自分の部屋に戻った双子はポストに届いていた封筒の中身を見て、お互いに顔を合わせながら、困ったような顔になっている。

 

「・・・ねぇ、これ、どうすんのよ?」

 

「どうって・・・そりゃ、1回アヌビスに戻る他ないんじゃない?」

 

「はぁ・・・なんだってこれに私たちが選ばれんのよ・・・」

 

「本当だよ・・・お姉ちゃんだけ無様な姿をさらせばよかったのに」

 

「あ?」

 

「は?」

 

お互いに口喧嘩に発展しそうになったが、封筒に入っていた用紙を見て、それはとどまった。

 

「・・・言ってても仕方ないし、カズマに明日相談しよ」

 

「そうね。でも今は休んでもいいわよね。期間はまだあるんだし」

 

旅で疲れているため双子たちはリビングで身体を休めに向かった。双子が置いていった用紙には、このようなことが書かれていた。

 

『灼熱都市アヌビス誕生50周年記念祭、開催のお知らせ』

 

アヌビスで開かれる街の催し物がカズマたちの、新たなる災難の始まりになろうとは、この時のカズマたちはまだ、知らないのであった。




新章突入!

10年に1度のアヌビス誕生記念祭の巫女役として選ばれたアカメとティアの双子たち。双子はカズマに手伝いを申請。

アカメ「あんたたち、記念祭の準備を手伝ってちょうだい」

ティア「報酬は前払い、アヌビスにあるプール施設の招待を・・・」

カズマ「今プールと仰いましたか?」

プールにホイホイとつられ、手伝いを承諾したカズマ。アヌビスへ行く道中、様々なモンスターと対面!

???「・・・コロス・・・ノ・・・?」

カズマ「殺せるわけねぇだろおおおおお!!!」

ダクネス「んにゃあああああ!!!砂マグロがぬめぬめすりゅううううううう!!!!」

めぐみん「もう我慢できません!!!撃ちます!!!」

???「ウホ♡いい男♡やらないか?」

カズマ「いやあああああああああああ!!!!助けてええええええええええええ!!!!」

ウェーブ盗賊団本部の人間との初めての出会い・・・

ネクサス「カズマさんや・・・あんたうちのバカ共とどういった関係だ?」

バーバラ「君って本当に罪作りな男だねー」

カテジナ「あの2人をここまで育てあげたのは、ネクサス様なのですから」

記念祭の準備が進められる中流れる噂とうごめく暗躍・・・

マホ「最近夜になるとドラゴンが飛び回るって噂になってるぜ」

???「この砂漠地帯もなくなることでしょう・・・」

そして始まる記念祭・・・だがそこでトラブルが。

???「アヌビスも、この砂漠も壊し、崩壊記念日を作ってやるぜええええええええ!!!」

果たして、アヌビス記念祭を無事成功で収めることができるのか・・・?

新章、『そりゃないぜ、双子ちゃん』

カズマ「冷えてきたし、宿に戻るかー」

アカメ「・・・冷えてる・・・かしら・・・///」

カズマ「お前のこと、少しは見直したぜ」

ティア「そ、そう・・・?あ、ありがとう・・・///」

次回、この砂漠地帯で漁業を!


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そりゃないぜ、双子ちゃん
この砂漠地帯で漁業を!


待ってくださっていた方、遅れて申し訳ございません。ワクチン接種2回目を打ってきたので少し達筆をお休みさせていただきました。2回目打って本当にだるかったですが、今ではもう元気なので達筆を再開させていただきます。

さて、今回からオリジナル章です。


今日も平和なアクセルの街。そんなアクセルの街の外にて・・・

 

「「ばっくれっつばっくれっつらんらんらーん♪」」

 

めぐみんとカズマは日課である1日1爆裂の散歩に出かけていた。なんだかんだ言いながらも、この日課も長く続いていた。それは穏やかな昼の時でも・・・土砂降りの雨の中でも・・・雪で平原が積もっていても、長く、長ーく続いた。

 

「エクスプロージョン!!!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!!!!

 

今日爆裂魔法を放ったのは、散歩の際にたまたま見つけた岩場にあった巨大な岩だ。岩は爆裂魔法によって粉々になった。今日の爆裂魔法をカズマは見定めている。

 

「はぅ・・・どうでしたかカズマ・・・今日の爆裂は、何点でしたか・・・?」

 

「うーん、今日のはずんと衝撃が響いてよかったが、空気の振動がちょっと微妙だったなぁ・・・。アルカンレティアから帰ってきて、ちょっと気でも緩んだか?55点だな」

 

「むぅ・・・確かにあそこから解放できて、ちょっと肩の力が抜きすぎてしまったのかもしれません・・・リラックスしすぎなのも考え物ですね・・・あ、カズマ、おぶってください」

 

1爆裂を終えためぐみんをカズマが背負い、アクセルの街の帰路を歩いていく。

 

「今日はアカメがいなくてよかったです・・・カズマより辛口コメントしてきそうだったので・・・」

 

「そういえば双子、今日は急ぎの用があるとか言ってたけど・・・何なんだろうな?」

 

「気にするほどのことではないと思いますよ。最近では本業も休みですし、大抵がろくでもない用事なので」

 

「それもそうだな。よし、気にせず帰ろう」

 

どうせ大した用事ではないと思いながら、カズマとめぐみんは気にせず自分たちの屋敷へと戻っていくのであった。その用事が、カズマたちを巻き込むものであると知らずに。

 

 

ーこのすばー

 

 

少しの時間を経て、自分たちの屋敷に戻ってきたカズマとめぐみん。ちなみに、めぐみんは街に戻ってからカズマからドレインタッチで魔力を供給してもらい、歩けている。

 

「ただいまー」

 

「ただいま戻りました」

 

「おかー」

 

「ああ、戻ったか・・・んん///おかえり・・・くぁ・・・///」

 

リビングにいるのはソファでパジャマ姿で寝そべっているアクアとダクネス。双子は未だ帰ってきている様子はない。

 

「あれ?あの2人はまだ帰ってきていなかったのですか?」

 

「ああ。いつもならどんな用事でも・・・くぅ・・・///すぐに戻って・・・ああ///」

 

ダクネスは何やらさっきから嬉々とした表情を浮かべながら悶えている。腰にも何やらベルトを着けているようだが。

 

「・・・お前さっきから何を悶えてるんだ?それに、その変なベルトは何だ?」

 

「ふぅ・・・これか?実はこれは先日、散歩をしていた時にマホの店でだな・・・」

 

ダクネスはベルトの何かの機能を止めて先日の出来事を話した。

 

 

ー回想ー

 

 

『!おーい、ダクネス!ちょっと寄ってかないか?お前用のいい商品があるぜ』

 

『ああ、マホ。いい商品とは・・・何だ?』

 

『こいつさ。こいつはオレが開発したゴーレムベルトなんだが・・・ゴーレムの手に握りしめられる時の感覚が味わえるベルトだ』

 

『詳しく!!!』

 

『ボタン1つで力加減を小、中、高、絶まで調節できるんだ。・・・本当はこれ、マッサージ機としての機能だったんだが、調節をミスっちまって、高ければ高いほど想像を絶する痛みが・・・』

 

『買ったぁ!!!』

 

『毎度ありぃ!!さすがはお得意様!いい払いっぷりだぜ!今後ともうちをご贔屓にな!』

 

『ああ!次の商品も期待しているぞ!』

 

『おうよ、任せとけって』

 

 

ー回想終了ー

 

 

「・・・と、いうわけで衝動買いしたというわけだ」

 

「と、いうわけで、じゃねぇよ!!!お前何変なガラクタを買ってきてんだ!!お前はアクアか!!?ていうか待て。今お得意様って言ったよな?まさか今までもそれみたいなガラクタを買ってきたわけじゃないだろうな?」

 

「が、ガラクタとは何だ!!?私にとってはどれも素晴らしい商品ばかりだぞ!!」

 

「全部捨てて来い!!それが嫌なら俺が捨ててきてやる!!」

 

「んなっ!!?それはあんまりではないか!!?」

 

自分をとことんまでいじめぬく商品をマホの店で買っていたことを知ったカズマはダクネスに向かって捨ててくるように指示する。ダクネスはそれには反対の意を示している。

 

「あんたたちうるさいわねー。ハンスの討伐報酬が入ってくるからってちょっと浮かれすぎじゃない?みんな私みたいに優雅に落ち着くべきだと思うの」

 

「アカメがいないからってソファを独占してぐーたら寝てるお前にだけは言われたくねーぞ!!」

 

「屋敷に引きこもって舐めた人生を送ろうとするカズマにも言われたくないことですよ」

 

「少しは忙しそうにしてる双子を・・・」

 

「「私たちがなんだって?」」

 

「ふああああああああ!!??」

 

見習えとカズマが言い放とうとしたその時、急用で外に出ていた双子がカズマの背後に立っていた。急に背後から声をかけられて驚くカズマ。

 

「な、なんだお前らか・・・脅かすなよ・・・」

 

「んなこたぁ、どうだっていいのよ」

 

「それより、みんな揃ってるよね?」

 

「?いったいどうしたのですか?」

 

全員揃っているかという問いかけにカズマたちは首を傾げており、めぐみんが問いかける。

 

「実は、みんなにお願いがあるんだよ」

 

「お願い?」

 

「あのぅ・・・それについては・・・その・・・僭越ながら私が・・・」

 

何のお願いだと思っていると、扉の方から声が聞こえてきた。扉の方を見てみると、ひょっこりと顔を出し、びくびくと隠れたように様子を窺っているミミィがいた。

 

 

ーミミィ?ー

 

 

突然の来客ミミィにカズマたちはこたつを出し、こたつをどういうものなのかを理解しておらず、戸惑っているミミィをそこに入らせる。

 

「よい茶葉が入った紅茶です」

 

「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・?」

 

アクアはミミィに粗茶を出したが、よく見てみるとカップに入っていたのは紅茶ではなくお湯だった。またも紅茶を浄化してしまったようだ。

 

「それで、ミミィがここにいるってことは、お願いって、盗賊団関連だったりするのか?」

 

「半分は正解で半分は不正解よ」

 

「半分?」

 

「えっと、まずはこれを見てもらえるかな?」

 

「なんだ?」

 

ティアに差し出された用紙をカズマたちは受け取り、それを確認し、すぐに首を傾げた。

 

「アヌビス誕生50周年記念祭?」

 

その用紙というのは双子宛に届いた記念祭開催のお知らせだった。

 

「あの・・・アヌビスはご存知・・・ですよね・・・?あの・・・灼熱都市の・・・」

 

「ええ。確か2人の生まれ故郷でしたよね」

 

「実は・・・ですね、そのアヌビスでは・・・10年に1度にこの記念祭を開くことが生業・・・なんです・・・。その・・・街が誕生してくれてありがとう、これからも賑わっていこう・・・という・・・意味合いを・・・込めて・・・お祭りを・・・開くんです・・・」

 

「お祭り!!?なんだか楽しそうね!!」

 

アヌビスの記念祭に興味を持ったアクアは目を輝かせている。それを見たミミィは懐かしむ様な笑みを浮かべた。

 

「えへへ・・・はい・・・本当に・・・楽しい・・・ですよ・・・。私も・・・10年前・・・盗賊団にスカウトされて・・・アヌビスに来た頃に・・・記念祭がちょうど開かれたん・・・です・・・。屋台も・・・模擬店もあって・・・いろいろ新鮮で・・・本当に、本当に、楽しかった・・・です・・・」

 

「そうか。私もその記念祭に興味が湧いてきたぞ」

 

いつもネガティヴであまり笑わないミミィが笑っている姿と、他の街のことをよく知らないダクネスも、記念祭について興味が湧いてきている。

 

「・・・話を戻していいかなぁ?」

 

「あ・・・ご、ごめんね・・・勝手にベラベラと・・・。やっぱり私はカスだから・・・」

 

「だからぁ、それが話の腰を折ってるっつってんのよ」

 

「ご・・・ごめん・・・なさい・・・」

 

「ああ、そう落ち込むなって!ほら!続き!話の続きだ!」

 

本題がずれてしまっていることを指摘すると、さっきの笑顔は消え、ずーんとネガティヴになるミミィ。これ以上拗れさせまいとカズマが話の続きを催促する。

 

「それで、その記念祭の最後に、灼熱都市炎の舞っていう演舞で締めくくるんだ」

 

「この演舞ではね、踊り手として巫女役が何名かが指名されるのよ」

 

「巫女って何ですか?」

 

「・・・さあ?」

 

「実を言うと、私たちもよくわかってないんだよね」

 

巫女の存在を全く知らないめぐみんたちに、日本のことをよく知っているカズマが答える。

 

「巫女ってのは俺の生まれ故郷では神に仕える女性のことを指してるんだ。まぁシスターみたいなものだな」

 

「なるほど、アークプリーストと似たような職業ということか」

 

「うん、まぁ・・・だいたいあってる・・・のか・・・?」

 

「まぁ、本物の清く正しく、美しい女神様はここにいるけどね!」

 

「まぁあれはほっといて」

 

「ちょっとぉ!!!」

 

「カズマはたまに物知りなところがありますね」

 

カズマの説明である程度巫女という存在を理解したダクネスたち。さりげなく自分は神様であるとアピールするアクアだが、軽く流されてしまう。

 

「てかもしかして、その巫女役に・・・」

 

「はい・・・街の人たちの賛成派が多くて・・・この2人が・・・選ばれたん・・・です・・・」

 

「マジか!!?」

 

自分たちのパーティメンバーがそんな重要な役目を背負おうとしていたことに少なからず驚くカズマたち。約一名を除いては。

 

「神様の信仰心もなくて、踊りも下手そうな2人が巫女役って・・・全然似合わないんですけど!ウケるんですけど!超ウケるんですけどー!プークスクスクスw」

 

「何笑ってんよ・・・しばくわよ・・・」

 

「アクア、後で覚えておきなよ・・・」

 

笑い転げているアクアに怒りを覚える双子。

 

「笑ってる場合ではありませんよ。お祭りの最後を締めくくるって・・・」

 

「ああ。失敗は許されない、非常に重要な役目だ」

 

「そう、そうなのよ。全くなんだって私たちがこの役目を・・・」

 

「ただでさえ私たち2人は踊りとか不得意なのに・・・」

 

責任重大な役目を担わなければならない双子は踊りが苦手なので非常に憂鬱そうな顔をしている。

 

「断ることはできないのか?」

 

「それができたら苦労しないってのよ」

 

「ネクサスさん・・・あ、盗賊団団長さんは・・・その・・・現在記念祭の執行委員もやっておりまして・・・その人からの指示で・・・やってほしいって・・・言われてるらしいん・・・です・・・」

 

「団長直々に・・・ですか・・・。団長の期待は盗賊団の期待・・・そんな人から頼まれれば・・・」

 

「なおさら断れないのだな・・・」

 

どうもこの記念祭は盗賊団も大きく関わっているようで、団長のネクサスから言われてしまって、断るに断れない状況らしい。

 

「で、こっから頼みってのは・・・カズマ、あんたって確か土木作業のバイトしてたんだっけ?」

 

「おいちょっと待て。それ誰から聞いたんだ。俺もアクアも話してないはずだぞ」

 

「そういえば話してないわねー。何で知ってるの?」

 

「あ・・・この街の盗賊団の情報部の人から今日聞き・・・ました・・・。情報を集めるのも・・・お仕事・・・ですから・・・」

 

「「「「えっ・・・」」」」

 

「言っておくけど、私たちは住所は教えてないからね」

 

情報部が自分たちの住所や個人情報を特定したんだとすれば、下手な行動をすれば自分たちが標的になるかもしれないとカズマたちは若干ながらの恐怖を抱いた。

 

「話を戻すけど、今回は演舞を披露するための舞台も作らなくちゃなんだけどさ、みんな模擬店の準備でそっちまで手が回らなくて人手不足なんだよ。私たちも演舞の練習で手が回らないくて・・・」

 

「まぁそういうことだから・・・あんたたち、記念祭の準備を手伝ってちょうだい。主に舞台設立をね」

 

「カズマたちにとっても悪い話じゃないと思うよ?記念祭は基本誰でも参加自由だし、当日に祭りを楽しめるし、引きこもり生活脱出できるかもよ?」

 

「お前は一言余計だよ」

 

一通り説明し、双子は記念祭の準備の手伝いを申請してきた。ティアの放った一言にカズマは若干眉をひそめる。

 

「ね、お願いだよ~。10年に1回の大事なお祭りなんだ。失敗なんかできないんだよ~」

 

「そんなこと言われましても・・・」

 

「手伝い・・・と言っても、いいのか?私たちはアヌビスの民から見れば、記念祭とは一切関係ないよそ者だぞ?」

 

「それこそ関係ないわよ。アヌビスは他にも自由都市って呼ばれてるんだから、誰が手伝いに来たってあの浮かれ者共は歓迎するわよ」

 

アヌビスは砂漠にある街。そんな熱いところに行きたくないのと、部屋に引きこもってぬくぬくと過ごしたいカズマは却下と言いたいが言ったら双子に殺されそうな雰囲気があって言えそうにない。ゆえにどうやって断ろうかと懸命に考えている。

 

「私の方からも・・・その・・・お願いします・・・。確かに・・・その・・・カズマさんにお願いするのは・・・ちょっと不安・・・ですけど・・・」

 

「いやそれ本人に言っちゃダメだろ・・・」

 

「それでも・・・その・・・適材適所に対応して・・・普段から楽しそうにしているカズマさんたちなら・・・多分・・・適任・・・だと・・・思うんです・・・。なので・・・お願いします!」

 

「「お願いします!!」」

 

「えっ⁉ちょ・・・!や、やめてくれ!とりあえず顔をあげてくれ!」

 

ミミィやティアなどはともかくとして、プライドが高いアカメがこうして頭を下げてまでお願いされて、余計に断れにくくなったカズマ。

 

「ねぇカズマ。せっかくだから手伝ってあげたらどうかしら?なんだったら前座で私の宴会芸を披露してあげるわ!いよっ、花鳥風月ー♪」

 

「お前は記念祭で目立ちたいだけだろ」

 

「3人がこうして頭を下げてるんです。手伝ってもいいのではないでしょうか?」

 

「私も同感だ。困っているのならお互い様だ。それに、前にも言ったが、私はアクセル以外の街はあまり知らないのだ。この機会にアヌビスを知るのもいいだろう」

 

「そんなこと言ったって・・・アヌビスがあるのって、砂漠だろ?」

 

記念祭にて宴会芸を披露しようとするアクアはともかく、めぐみんとダクネスは双子の頭を下げた姿を見て、協力的である。しかし今もカズマは渋っている。

 

「もちろん、タダとは言わない。ちゃんと報酬は用意するわ」

 

「いや報酬って言われてもどうせ・・・」

 

「報酬は前払い、アヌビスにあるプール施設の招待を・・・」

 

「俺たちの家の金で・・・今プールと仰いましたか?」

 

「ねぇ!今プールがあるって言った⁉」

 

報酬がプールにご案内と聞いて、いやに食いつくカズマとアクア。

 

「砂漠は冬だろうが年中無休で暑いから、少しでもそれを癒してあげようと思って、プール施設もたくさんあるんだ」

 

「あんたたちも暑い中やる気とか起きないでしょ?手伝う代わりにプールで涼ませてもらえるように、私たちがお頭に掛け合ってあげるわ。どう?悪い話じゃないでしょ?特にカズマは」

 

確かに砂漠の気温で暑い中、やる気も削がれるゆえ、いい報酬だと思う。特にカズマは、プールに入れば、合法的に女性の水着をタダで拝めるのだからなおさら悪くない報酬である。

 

「ぷ、プールか・・・まぁ、それはどうでもいいが、大事な大事な祭りだからなー。しょうがないから、手伝ってやるかー(棒読み)」

 

「カズマさんってば、どうしてそんなに棒読みなの?本当はプールが楽しみなんでしょー?」

 

「そそそそ、そんなことねーし!!?」

 

明らかに下心が出まくっているが、プールと聞いて黙ってないカズマはついでとして祭りを手伝うことに決めた。

 

「決まりね」

 

「はー、よかったー・・・」

 

「あ、ありがとうございます!!私の代わりに・・・」

 

「ん?ミミィは手伝わないのか?」

 

代わりと聞いて、手伝わないのかとダクネスがミミィに尋ねる。

 

「本当は手伝いたいん・・・ですけど・・・紛いなりにも・・・支部長として片付けないといけないお仕事が山積みでして・・・とてもじゃありませんが・・・手伝いに回れないんです・・・」

 

「支部長の仕事も大変なのですか?」

 

「はい・・・。それに・・・ほら・・・どうせ私みたいなカスの練り物なんて・・・誰も相手にしないでしょうから・・・」

 

(なんというどうしようもないネガティヴ思考・・・)

 

ミミィのネガティヴ思考が面倒くさいと思ったカズマたち御一行であった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

翌日、カズマたちは自分たちの荷物を持って双子たちについていく。ミミィの話ではすでに馬車の予約はしてくれてるのだが、その前に双子たちは寄りたい場所へと向かっているのだ。

 

「お前たちの寄りたい場所というのは・・・こ、ここか・・・」

 

双子たちが立ち寄った場所というのは、ウィズの店であった。双子はバニルとの商談の話の続きをするためにやってきたようだ。

 

「何よ?嫌なの?」

 

「わ、私は一応エリス様に仕えるクルセイダーなのだから、あまりここに来たくないのだが・・・」

 

「私たちだって通うのが憂鬱なんだから文句言わないでよ。さ、入るよ」

 

渋っているダクネスをよそに双子たちは店の扉を開けて中に入った。カズマたちもそれに続く。

 

「フハハハハ!!へいらっしゃい!上がりやすい職業のくせにちっともレベルが上がらない男と、最近実家の威光以外ではあまり役に立たない娘!鬱陶しい光溢れるチンピラプリーストに、ネタ魔法しか使えないネタ種族、そして互いに姉妹愛を表に出せないツンデレ姉妹よ!ちょうどよいところに来たな!!」

 

「ネタ種族・・・」

 

双子たちを出迎えたバニルは早々に全員の軽い悪口とコンプレックスを突いた挨拶をした。痛いところを突かれたカズマ、めぐみん、ダクネスは悔しそうに唸る。アクアはバニルにジャブを放っている。双子は鬱陶しく思いながらもバニルと話す。

 

「・・・で?ちょうどいいって何がよ?またウィズが変なもんを仕入れたの?」

 

「言っておくけど、ここのガラクタ商品は買う気はないから」

 

「まあそう言わずに!吾輩とて毎度毎度ガラクタを売るつもりなど毛頭ないのだ。これなんかきっと汝らのお気に召されるはずだ!」

 

そう言いながらバニルは机に置いてあった蓋の開いた小さな箱を取り出し、双子に見せる。

 

「何この箱?なんで蓋が空いてるの?」

 

「アンデッド除けの魔道具だ。蓋を開けるだけでアンデッドを寄せ付けない神気が半日ほど漏れ続けるアイテムだ。ほれ、貴様らのところにはアンデッドに好かれるおかしなのがいるであろう?これを持っていればアンデッドに襲われることなくぐっすり眠れること請け合いである!」

 

「欠点は?どうせしょうもないデメリットがあるでしょ?」

 

「そんなものはない。強いて言うならば、値段が高いうえに使い捨て商品だということくらいだ。効果は絶大である!箱を開けたうっかり店主が店の奥から出てこられなくなり、先ほどからずっと泣いている程度には高性能だ」

 

「ふーん。確かに、珍しくデメリットがないようね」

 

「いやさっきから奥の方で聞こえる泣き声ってウィズだったの⁉なんで2人ともそんな諦観な姿勢なのさ⁉早く蓋を閉めて換気しなよ⁉」

 

アンデッド除けの魔道具のせいで奥の部屋でずっとめそめそ泣いているウィズを放置するバニルとアカメにティアは思わずツッコミを入れる。

 

「まぁでも、アンデッド除けは便利そうだし、買っておいて損はないんじゃないか?実際、アルカンレティアの道中の夜、あいつのせいで苦労したし」

 

「そうなの?あの時は寝てたからよくわからないけど」

 

「ふん、せっかくだし買ってあげるわよ。で、値段はいくらほどよ?」

 

「毎度あり!お1つたったの100万エリスである!」

 

「高いよ!!その値段なら集まってきたゾンビと戦った方がマシじゃん!!」

 

「よいではないかお客様!何せお客様はこれから大金持ちになるのだからな!」

 

アンデッド除け1つで100万エリスは買うべきではないのだが、ここぞとばかりにバニルが商談の話を持ちかけて買わせようとする。

 

「それよりも凸凹姉妹よ、以前交わした契約、そろそろ答えを聞こうではないか。小僧が作った知的財産権を3億で買うか、月々100万で見積もるか」

 

「最近わかったことなんだけど、どうもこのパーティは厄介ごとに巻き込まれやすいのよ」

 

「その厄介ごとにお前らも含まれてるって忘れてないか?」

 

「だから、いざって時になったら困るから金だけもらうことにしたわ。それでいいわよね?愚妹」

 

「未だに納得なんてしてないけど・・・もうそれでいいよ・・・」

 

忌々し気に歯ぎしりをするティアだが、3億をもらうことを決定したアカメにとってこの態度はどこ吹く風だ。

 

「てなわけでこれまでカズマが作ったやつ、一括で渡して3億で頼むわ。後、無事にウィズのお守りを達成した追加報酬も忘れずにね」

 

「あれを無事と呼んでよいのかはいささか疑問ではあるが・・・あいわかった!後に契約書を制作するのでしばし待たれよ」

 

「これで俺たちも大金持ちか・・・ふふふ・・・」

 

「ま、待て!分け前とはいえ、この男に億などという大金を渡したら、いよいよ働かないダメ人間になるではないか!いや、でも・・・それも悪くは・・・」

 

大金が手に入るとわかってカズマはにやけ顔が止まらないでいる。ダクネスは1人でブツブツと悩みに葛藤するのであった。すると大金につられたアクアとめぐみんがニコニコと双子たちに迫ってきた。

 

「ねぇねぇ、私、屋敷にプールが欲しいんですけど」

 

「私は魔力回復効果が上がると言われる、魔力清浄機が欲しいです」

 

「おっと金の匂いに嗅ぎつけた亡者共め。双子にたかるとは現金だ」

 

「ま、まぁ、今は無理でも・・・もっとお金が入ったら買ってもいいよ」

 

「「やったーー!!」」

 

ティアの口から要求したものをさらにお金を入手したら買ってもよいといえば、喜んでいるアクアとめぐみん。

 

「このアンデッド除け、買わせてもらうわ。金は追加報酬か3億から差っ引いておきなさい。どうせまだ用意できてないんでしょ?」

 

「うむ。すまぬが、店の奥でめそめそしているガッカリ店主が余計なものを仕入れて出費を増やしおったからな。まだ金が集まらんのだ。なに、この街の出資者を集めておるのでな、すぐにでもまとまった金が手に入るであろう」

 

「あ、そうそう、もうすぐ私らの故郷で記念祭をやるんだけど・・・あんたは興味とかなさそうだけど、一応渡しとくわ」

 

アカメはそう言って記念祭開催のチラシをバニルに渡す。チラシを受け取ったバニルは顎に手を当てる。

 

「ふむ、そういえばもうじきそのような時期であったか。・・・なるほど、それで故郷へ帰還するというわけか。帰る前に宣伝とは、何とも殊勝な心掛けであるな、大変大儀な役目を担えた幸福な双子共よ」

 

「うっさい。あんた知ってて言ってるでしょ」

 

「・・・一応は宣伝したからね。来るか来ないかは自由だけど、ウィズにもちゃんと伝えておいてよね」

 

双子の事情を見通したバニルはニヤニヤと笑いながら嫌味を言い放った。その嫌味には若干の怒りでこめかみをひくひくさせる双子。

 

「てか話してたらもうそろそろ出発の時間じゃない。あんたたち、そんなガラクタ見てないでそろそろ待合所に行くわよ」

 

「じゃあね、バニル。ウィズにもよろしく言っておいて・・・てかいい加減換気してウィズを出してあげて」

 

双子は店の商品を見ているアクアたちを呼んで馬車の待合所へと向かった。結局ティアの願いは店から出るまで叶わず、ウィズは店の奥でしくしくと泣き続けるのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

街の待合所では相も変わらず旅行客やクエストに行く冒険者が集まっていた。今回カズマたちが乗るのは、馬の馬車ではなく、走り鷹鳶が動力の馬車である。この走り鷹鳶の馬車こそがアヌビス行きの馬車である。砂漠の環境下で水分補給できるようにアカメが売店で水を買いに行ってる間カズマたちは自分たちが乗る走り鷹鳶の馬車をまじまじと見つめる。

 

「走り鷹鳶を馬車の動力源にするとは・・・てかなんで走り鷹鳶を?」

 

「馬じゃ砂漠をうまく走れないからだよ。そりゃ砂の上でも走れる馬もいると思うけど、だいたいの馬がバランスを崩して転ぶって何回も聞いたし。ラクダもラクダで足遅いし。その分走り鷹鳶は砂漠の環境に適してるし、走りも早いし、力も強い。まさに馬車には最適なんだよ」

 

「そうなんですか。危険なはずのモンスターを飼いならすってよく思いついたものですね」

 

「そのおかげで、アヌビスには走り鷹鳶の調教師が多いんだよねー。もしかしたら、いずれは各国に調教師が増えるかもね」

 

走り鷹鳶を食用ではなく、馬車の動力にするのは普通ではぶっ飛んだ考え方なので、めぐみんは驚きつつも感心する。ゆくゆくは全国に走り鷹鳶の調教師が増えるだろうとティアは考える。

 

「か、カズマカズマ!!」

 

「はいはいカズマですよ」

 

「あの馬車の走り鷹鳶たちを見てくれ!!先ほどから、こちらに突進してきそうな目で見つめてくるのだ!!ああ、あの時の高揚感を思い出す!!あれにぶつかればどんな目に合うのか・・・ああ!!」

 

「今度のは馬車がついてるからぶつかったら死ぬぞ、間違いなく」

 

走り鷹鳶たちは今にチキンレースを始めたそうな顔でダクネスをじっと見つめている。その視線だけでも興奮しているダクネスはアルカンレティアでの道中を思い出し、さらに興奮する。そんなダクネスに呆れるカズマ。

 

「うんうん、さすがミミィね!!私の目利きによれば1番の品質の馬車よ!!ほら、そんなとこ突っ立ってないでさっそく乗りましょう!!」

 

アクアはカズマたちが乗る1番手前の走り鷹鳶馬車の席を取ろうとせっせと中に入っていった。せっかちな奴と思っていると、ティアが辺りを見回す。

 

「あれ?そういえばアレクサンダーがいないんだけど」

 

「アレクサンダー?走り鷹鳶たちと紛れたのか?」

 

「アレクサンダーはアカメが体毛を紫に染めたので、間違えませんよ」

 

「どこかではぐれたのか?」

 

「えー、そんなー・・・」

 

どうやらアレクサンダーがどこかに行ってしまったようで、どこにも姿が見え・・・

 

「ねぇアカメさんティアさん、ちょっとこっちに来てー。アレクサンダーが馬車の席を陣取ってるんですけどー。どかすの手伝ってほしいんですけどー」

 

「あ、なんだもう馬車の中に入ってたのか。急にいなくなるから焦ったよー・・・」

 

「ていうか走り鷹鳶の馬車に走り鷹鳶が中に入るって・・・」

 

いや、アレクサンダーはすでに馬車の中に入っており、アクアが座ろうとしている席で丸まって寝ていた。場所を取られてアレクサンダーに抗議するアクア。

 

「ねぇアレクサンダー。その席、高貴なる私に譲りなさいよ。だいたいなんで走り鷹鳶が馬車に乗ってるのよ?外に仲間がいるんだから仲間と一緒に走ってきて!!早く馬車から出ていって!!」

 

アクアの抗議にアレクサンダーは鬱陶しそうな表情で・・・

 

「・・・ヴェッ!!」

 

「きゃああああああ!!?くっさあ!!!唾!!唾はいた!!この子私の顔に唾はいたんですけど!!」

 

アクアの顔に思いっきり唾をはいた。唾を付けられたアクアは泣きわめく。

 

「アレクサンダーも羽休めしたいんだね。よしよし」

 

「アルカンレティアでは気も休まらなかっただろうしな。思いっきり休めよ」

 

「おかしいわ!!おかしいわよ!!私唾かけられた被害者なのよ!!?どうして私じゃなくてアレクサンダーに気にかけるのよぉ!!?普通逆でしょ!!?」

 

被害者であるアクアではなく、アレクサンダーに気にかけるティアとカズマの姿にアクアはさらに泣きわめく。すると馬車の運転手が声をかけてきた。

 

「あー、ちょっとお客さん。私の馬車の定員は7名なんで、ペットたちの分を合わせると、定員オーバーなんですよ。一応はその子猫と走り鷹鳶の分の代金もいただいちゃってますんで・・・申し訳ないんですが、どなたか1名、座り心地は悪いですが、後ろの荷台に乗っていただけませんかね?」

 

「ちょっとぉ!!またこのパターンなのぉ!!?」

 

アルカンレティア行きの時と同じパターンにアクアはまたも嘆く。そこへ水を大量に買い込んだアカメが戻ってきた。

 

「何よ?あんたらまだ乗ってなかったの?」

 

「いやぁ、それがさぁ・・・」

 

戻ってきたアカメにカズマが運転手が話してたことを話した。それにはアカメは面倒くさそうな顔になる。

 

「めんどいわね。・・・で?誰が荷台に乗るのよ?またじゃんけんで決めようっての?」

 

「じゃんけんはもう嫌よ!!!どうせ全員でじゃんけんして私が全員に負けて荷台に載せられるんでしょ!!?わかってるわよ!!!!もう懲りたわよぉ!!!!」

 

じゃんけんの案を出したが、アクアは速攻で却下する。余談なのだが、カズマがじゃんけんで6連勝した後、アクアは他のメンバーにもじゃんけんしたが、全員に負けてしまい、さすがにじゃんけんは懲りたようだ。

 

「じゃあどうするの?」

 

「ふっふっふ、安心なさい。実はこんなこともあろうかとくじを用意してたのよね!!これなら完全に運任せだし、全員公平でしょ?さあみんな!それぞれ1本、割り箸を持ってちょうだい!!」

 

誰が荷台に乗るか決めるため、アクアがいつの間にか用意した割りばしのくじを全員が1本ずつ、手に取る。

 

「いい?赤い印の人が荷台行きよ。いっせーので引いてちょうだい。それじゃ、いくわよ!いっせーのーで!!」

 

アクアの合図で全員がくじを引いていく。赤い印のハズレくじを引いたのは・・・

 

「なぁんでよーーーーー!!!???」

 

言い出しっぺであるアクアであった。まさか6分の1の完全運任せの勝負で自分がハズレを引くとは思わなかったアクアは涙目である。

 

「じゃあそういうわけだ。荷台に・・・」

 

「待ってぇ!!誰か私のくじに細工をしたわねぇ!!?じゃないと私がハズレを引くなんておかしいわよ!!名乗り出なさいよ卑怯者!!」

 

「またこのパターンですか・・・」

 

「いや、アクアがくじを用意したの今日初めて知ったんだから細工できるわけないでしょ?」

 

「つーか単純にあんたの運がゴミだからでしょ?ちょっとあんたの冒険者カード見せなさいよ」

 

納得しておらず、言いがかりをつけてくるアクアにティアが正論をいい、アカメがアクアの冒険者カードを見せろと言ってきた。涙目のアクアは渋々ながら自分の冒険者カードを取り出し、全員に見せる。

 

「全体的のステータスは悪くないようだが・・・」

 

「賢さと運がゴミを通り越して【ピーッ】じゃない。こんなのハズレ引いても当たり前だわ」

 

「こんなのでよく運の勝負を持ち込もうとしたよね?バカすぎて涙が出るよ」

 

「ひどい!!」

 

「ですがこの運では当たるものも・・・おや?」

 

アクアの冒険者カードに何か違和感を感じためぐみんは首を傾げている。

 

「めぐみん、どうしたの?」

 

「いや・・・気のせいでしょうか。アクアの冒険者カード・・・以前初めて見たステータスと全く変わっていないような・・・」

 

アクアのステータスが初めて見たのと比べて全く変わっていないという発言に双子とダクネスは怪訝な顔つきになる。

 

「はあ?そんなわけないでしょ。アンデッドも大量に狩って、ついこの間もハンスを倒したじゃない。レベルアップしてステータス上がってるはずでしょ?」

 

「いや・・・そうなのですが・・・私の記憶では間違いなく以前と変わらない数値ですよこれは」

 

「・・・あれ?本当だ・・・言われてみれば、確かに・・・変わってないような・・・」

 

「ではなぜ上がって・・・て、カズマ?どうした?なぜ泣いているのだ?」

 

「いや・・・ちょっとな・・・」

 

以前見たアクアのステータスを何となく思い出して、なぜ上がらないのかと首を傾げる仲間たち。そんな中カズマだけが何故かさめざめと泣いていた。疑問を抱く仲間たちにアクアはふふんと笑い、さも当然のように答えた。

 

「みんなバカね。私を誰だと思ってるの?ステータスなんて最初からカンストしてるに決まってるじゃない!!初期スキルポイントも宴会芸スキルとアークプリーストの魔法を全部取得できるほど持ってるのよ?そこらの一般の冒険者と一緒にするのが間違いだわ!!」

 

「「「「!!!!」」」」

 

アクアの答えを聞いて、双子とめぐみんとダクネスは衝撃を受けて・・・ショックで顔をうなだれてしまう。当然であろう。カンストしてしまっているということはつまりアクアは、どれだけレベルを上げても、ステータスをあげることができないのだ。それは当然・・・知能も、運も上がらないのだ。以前それを知ったカズマもショックを受けたものであるが、改めて聞かされると、やはり涙が止まらない。

 

「・・・アクア、私が荷台に乗るわ・・・あんたは馬車に乗りな・・・」

 

「え?そ、それはありがたいんだけど・・・どうしてそんな哀れんだような顔をしているの?」

 

「・・・そろそろ乗ろうか・・・」

 

「ですね・・・」

 

「ああ・・・」

 

「ねぇ・・・みんなまで・・・どうしてそんな悲しそうにしてるの?ねぇ・・・ねぇってば・・・」

 

「行くぞ・・・うぅ・・・」

 

「カズマさんまで!もう何なのよ~~~!!?」

 

アクアのカンストを知った仲間たちはアクアを哀れみながら馬車の中へ、アカメは後ろの荷台に乗っていく。なぜ哀れみを向けられたのかわからないアクアはモヤモヤした気持ちを抱えながら馬車の中に入っていった。

 

 

ーこのすば・・・ー

 

 

カズマたちを乗せた馬車はアヌビスへと向かって出発した。数時間の間、カズマたちはアクアを哀れんだ悲しい顔をしており、アクアは席に座れたはいいが、納得できず不貞腐れている。その後はみんな元通りになり、めぐみんとダクネスは外の景色を楽しんでいる。アクアはちょむすけと戯れようとしているのだが、ちょむすけはアクアを毛嫌いしているため、逆に顔を引っ掻かれたりしている。カズマとティアはアレクサンダーの体毛が結構気持ちいいよくて、思わず一緒に昼寝をしている。アカメは荷台で意外にもゆったりしており、寝転がっている。馬車旅を楽しんでいると、アカメがすんすんとにおいをかいでいる。

 

「・・・この僅かに漂う砂の香り・・・半年ぶりね・・・」

 

「ねぇ!みんな見て!」

 

アカメがにおいを懐かしがっていると、アクアの一声が聞こえてきた。カズマたちが外の景色を見てみると、草原の向こう側で、砂漠の景色が見えてきた。

 

「おお・・・あれが砂漠か・・・なんと広大なのだろう・・・」

 

「私たち・・・本当にここに帰ってきたんだね・・・」

 

遠くに広がる砂漠の景色を見て、ダクネスは高揚しており、ティアは懐かしそうな顔で砂漠を見つめている。馬車は草原を駆け抜け、砂漠地帯へと入っていった。

 

「すげぇ・・・俺、本当に砂漠に来たのか・・・」

 

カズマが砂漠の世界に来て、これぞファンタジーだと関心を抱いていると・・・

 

じりじりじりじり・・・  びょおおおお・・・

 

「・・・て、あちーーーー!!!なんだこの暑さと熱風は!!??」

 

砂漠に入った瞬間にこれまで体験したことのない地獄のような暑さと熱風が馬車を通してでも感じ取り、カズマは思わず叫び出す。そしてこの暑さにまいっているのはカズマだけではない。アクアとめぐみんもそうだ。

 

「あ・・・あづい~・・・溶けちゃいそう~・・・」

 

「さ・・・砂漠に行くので、覚悟はしてはいましたが・・・聞きしに勝る灼熱地獄ですね・・・。もう汗が出てきちゃいましたよ・・・」

 

「さすがにこれだけ暑いとな・・・特に、鎧を着ているダクネスは相当な負担がかかるだろうな。ダクネス、大丈夫かー?」

 

砂漠の熱さの中で1番危なそうなのは鎧を着込んでいるダクネスだろうと思い、カズマは彼女に気にかける。

 

「よ・・・鎧が、焼けてしまうではないか・・・熱した鉄板でじりじりと焦がされ・・・ううっ・・・この肌をじりじりと灼きつかせるような感覚・・・痛みとは違った苦しみが・・・私を・・・燃え上がらせる・・・///」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ご満悦みたいだけど・・・」

 

「・・・そうみたいだな」

 

当のダクネスはいつものドM心でこの暑さの苦しみでさえも興奮してしまっている。それを見たカズマたちは引いている。

 

「みんなだらしないなー。そんなんじゃ砂漠で生き残れないよ?」

 

「だって~・・・」

 

「アカメとティアは暑くないのですか・・・?」

 

「?全然暑くないよ?むしろ心地がいいくらい」

 

「あんたらとは育ちが違うのよ。一緒にしないでくれる?」

 

「さすがは地元民・・・クソ暑い中でも平気とは・・・俺たちにはとても真似できん・・・てかもうダメだ・・・水飲も・・・」

 

水を飲んでるカズマたちとは逆に、地元民である双子は平気そうにしており、暑さとは無縁そうに見える。

 

「とにかく、休憩場に入るまではみんな水飲んで我慢なさい。話はそれからよ」

 

「「賛成~・・・」」

 

「ふぅ・・・休憩が取れるのは助かる・・・早く日陰に入りたいぞ・・・」

 

「んん・・・///」

 

カズマたちは砂漠の暑さに翻弄されながらも、馬車に揺られて砂漠の休憩場へと向かっていくのだった。

 

 

ーこのすばー

 

 

十数分で砂漠の休憩場にたどり着いたカズマたちは張ってあるテントの中で昼食をとる。中は冷房が効いていて、中々に快適だった。

 

「ぷっはー!!生き返るー!!やっぱ涼しい部屋で飲むシュワシュワは最高ね!!」

 

先ほどまで生気がなくしたような顔をしていたアクアは涼しい部屋と冷たいシュワシュワで一気に生気を取り戻した。そんなアクアに呆れながらも、カズマたちは双子が注文してくれた数多くの魚料理を食べる。

 

「お、この焼き魚、中々にうまいな」

 

「もぐもぐ・・・このお寿司やお刺身も、かなり新鮮でおいしいです!」

 

「おお!本当だな!どれもこれも、すげぇうまい!」

 

カズマたちも魚料理に絶賛しており、どんどんと平らげていく。

 

「でしょ?私たちも子供の頃、よくここで魚料理を食べたものだよ」

 

「ええ。この味、11年たった今でも変わらないわね」

 

双子は魚料理を食べて、幼かった頃を思い出して、思い出に浸っていた。

 

「2人はここによく通っていたのですか?」

 

「まぁ、ね」

 

「初めて食べたのは・・・5歳くらいだったかな?お姉ちゃんと大喧嘩してお互いに口利かなくなったことがあってね。その時にお頭・・・私たちの団長がここに連れて来てくれてさ。その時に食べたのが魚料理。初めて食べたこれが、本当においしくてね、気がついたら私たち、仲直りしてたんだ。それ以来、遊んだ時も、仕事終わりの時も、よくここで魚を食べに行くようになったんだよね」

 

「そうか。2人にとってこれは思い出の味なのだな」

 

あまり聞くことがなかった双子の思い出を聞けて、ダクネスたちは少し嬉しそうだ。まるで本当の仲間として認めてくれているような気がして。

 

「しっかし、こんなうまい魚どうやって手に入れられるんだ?ここって砂漠だろ?魚の入手も困難なんじゃ・・・」

 

カズマの疑問に双子は何を言っているんだ?という顔をしている。

 

「はあ?何言ってんのよあんた?無茶苦茶簡単に取れるわよ?」

 

「うん。むしろ砂漠で魚を取れない日が珍しいよ?」

 

「それはどういう・・・」

 

砂漠で魚がたくさん取れるとどうしても結びつかないカズマが問いかけようとすると・・・

 

『緊急!!緊急!!この場にいらっしゃる全漁師の皆さんと冒険者の皆さんは、至急広場に集合してください!!繰り返します!!この場にいらっしゃる全漁師の皆さんと冒険者の皆さんは、至急広場に集合してください!!』

 

突如として休憩所全体に緊急放送が広がった。この放送を聞いた冒険者たちは食事を止めて、広場へと向かっていく。

 

「なんだ⁉敵襲か⁉」

 

「違う違う。これから漁が始まるんだよ」

 

「は?漁?」

 

緊急の放送で漁が始まるという意味不明なことにカズマは何を言ってるんだという顔になる。

 

「ちょうどいいわ。あんたの疑問の答え、教えてあげるわ。全員広場に集まりなさい」

 

アカメに言われ、カズマたちは言われた通りに広場に集まる。広場には冒険者たちや漁師たちが集まっていた。

 

「今月も荒れるぞぉ・・・」

 

全員の視線は砂漠のずっと奥に集中している。カズマが千里眼で遠くを見てみると、何やら遠くで砂埃が立っており、こちらに近づいてきているのがわかる。

 

「・・・何だあれ?」

 

千里眼でじーっと目を凝らしていると、砂の中で何かがうごめいているのを発見する。そして、うごめいていた何かは砂の中から何匹も飛び出してきた。その正体を見てカズマは絶叫する。

 

「なんじゃありゃあああああああああああ!!!!???」

 

砂埃を立てていたものの正体は、大量の魚たちであった。しかも、アジやトビウオなどなど自分たちが知っている様々な種類の魚が砂の中を泳いでやってきたのだ。カズマからすれば驚くのも無理はない。

 

『緊急クエスト!!

砂漠を泳ぐ砂魚たちを捕獲せよ!!』

 

「皆さん!今月もご協力、誠にありがとうございます!!今月の魚たちも活きがよく、味が凝縮されているでしょう!!報酬金はサイズが大きいほど高くなります!!数多く捕獲するもよし!一攫千金を狙って大物を狙うもよし!できるだけ大量に捕獲をお願いします!!」

 

『ヒャッハーーーーーーー!!!!!』

 

「いけぇえええええ!!!!」

 

『うおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

金に目がくらんでいる漁師たちは網や釣り竿などで捕まえ、冒険者たちは魚たちに突っ込んで剣で切ったり、魔法で焼いたり、縄で捕まえたりしている。

 

「そういえばカズマはまだ知らなかったわよね。この世界の魚は二種類存在しているの。1つは私たちが知っている水で生活する種類、もう1つはこの砂漠のみたいに砂の中を泳ぐ砂魚。特に成長しきった砂魚は餌の狩場を求めて、人里を襲い、里を滅ぼしたとも言うわ。そうならないためにどうすればいいのか!それは、襲ってくる砂魚を狩って狩って狩りまくって、おいしく食べようってわけよ!!」

 

「・・・もうヤダこの異世界!!」

 

自分の世界ではありえない光景とアクアの砂魚の説明でカズマはもう泣きたくなるくらいにこの世界のろくでもなさに嫌気がさす。

 

「ちなみに、私たちがさっき食べた魚の正体はあれよ。おいしかったでしょ?」

 

「それは1番聞きたくなかったわ!!どうしてくれんだ!!?一気に魚を食う気が失せたじゃねーか!!」

 

「何を言ってるの?畑でサンマが取れるという当たり前のことと同じじゃん」

 

「俺の故郷じゃ魚は畑や砂を泳いだりしないんだよ!!!」

 

さっきまで食べていた魚料理の正体を知ったカズマは何とも言えない憤りを感じた。するとめぐみんが爆裂魔法を放とうと詠唱を始めようとした。

 

「光に覆われし漆黒よ・・・夜を纏いし・・・」

 

「おまっ!!何やってんだ!!?こんな所で爆裂魔法なんて撃つな!!!」

 

「だって!あれほどの大群を前にしているのですよ!!?あの数を前にして爆裂魔法を撃たないという選択肢はありますか!!?いいえ!!!ありませんとも!!!!」

 

「あるわぁ!!!アクセルの連中はともかく、ここ連中は爆裂慣れとかしてないかもしれねぇだろ!!そうでなくても周りにでかい被害が出るわ!!!いいか絶っっっっ対に撃つなよ!!!!絶対だからな!!!!」

 

「それは、フリというやつですか?」

 

「違うわぁ!!!!」

 

カズマは必死でめぐみんを止めているが、さっきからめぐみんがうずうずしているので、今にも撃ちそうな雰囲気である。

 

「もののついでよ。砂魚、大量にゲットしておきましょう」

 

「記念祭のためにも、たくさんゲットするぞぁ!そしてお金も大漁にいただきだぁ!!」

 

「おい待てお前ら!!なんでキャベツ収穫みたいなことをここでもやらなくちゃいけないんだよ!!?て、聞いてねぇし!!」

 

双子は記念祭の準備、及びお金のために、カズマの制止も聞かず、他の冒険者たちと同じく漁に参加しに行った。

 

「しかし、あれを放っておけば少なからずここに被害が出るのは間違いない。ならば、我々も加勢する他あるまい。それに・・・砂魚たちもぬるぬるすると聞く!あれほどの大群に飲まれればどうなることか・・・!きっと、全身がぬるぬるに侵され、欲情しきった男たちの、舐め回すような視線で・・・」

 

「よし!!人の目もある!!お前は1回黙ろうか!!」

 

「とにかく!!ここを守るためだ!!私は行くぞ!!どっひいいいいいい♡」

 

ドM心丸出しのダクネスは砂魚たちにもみくちゃにされるために剣を構えて群れの中へと突進していった。一応クルセイダーの本分は忘れてはいないが、やはり平常運転である。自分勝手に行動する仲間にカズマは肩を落とす。

 

「もう本当・・・どうすりゃいいんだよ・・・」

 

「カズマ何やってるのよ!カズマも早く魚を取ってきてよ!ここの砂魚、小さい奴でも1匹2万エリスの価値があるのよ!じゃんじゃん釣ってじゃんじゃん儲けるのよ!」

 

基本面倒くさがりのアクアでさえお金のために釣り竿を借りてきて砂魚を釣ろうとする始末である。もうカズマでは手におえない状況になってきた。

 

「ああ、もう!!!こうなりゃヤケだ!!!スティーーール!!!」

 

もうやけくそ気味になり、カズマもスティールで漁に参加する。スティールによって砂魚1匹はカズマの手元に来てピチピチする。その瞬間、カズマは魚特有の生臭さで顔をしかめる。

 

「な、生臭ぇ~・・・!」

 

「カズマ、もう爆裂・・・」

 

「撃つなよ?」

 

今もなお撃ちたそうにしているめぐみんはうずうずしており、カズマは両方とも気が抜けない状態である。

 

「第2波が来たぞぉ!!!」

 

「こっからが大本命だぁ!!!」

 

「うおおぉ!!捕まえろ捕まえろぉ!!!」

 

その間にも砂魚の襲来は第2波を迎えた。第2波の砂魚たちは1波よりもかなり大きくなっている。

 

「ちょっ・・・なんかでかい奴が来てないか!!?」

 

「そりゃそうでしょ。でかい魚の主食は砂魚・・・つまり共食いするんだから。まぁもっとでかいやつは最悪人も食べるけど」

 

「ちょっ!!?」

 

大きな砂魚が共食いするのはまだ理解できるが、あれよりでかい魚は人間までもを食すと聞いてカズマは恐怖を覚える。

 

「心配しなくていいよ。人を食べる砂魚は滅多なことでは現れな・・・」

 

「んにゃあああああ!!!砂マグロがぬめぬめすりゅううううううう!!!!」

 

「「「・・・・・・」」」

 

ティアがそんな魚は現れることは少ないと言った直後、全員より前に突進していたダクネスはすごくでかいマグロに上半身を食われていた。マグロはダクネスを咀嚼してる。食われているダクネスは嬉々とした声をあげている。ダクネスは固いから無事とはいえ、言っている傍から人食い砂魚の出現を前に、カズマは双子をじっと見る。

 

「・・・おい」

 

「さ、早く大物を捕まえましょう」

 

「第1波の小魚も捕まえとこうよ」

 

ジト目で見られた双子は知らんぷりした様子で漁を再開する。

 

「たく、あいつらときたら・・・」

 

「ねぇ、そんなこといいからカズマ!ちょっと網持ってきて!今魚が食いついてるの!」

 

アクアの方を見てみると竿がぐぐいっと引いており、今にも魚が竿を持って行きそうな勢いである。

 

「これはきっと大物よ!!こいつを釣り上げて、今日のおかずも賞金もいただきよ!!女神の底力、見せてあげるわぁ!!」

 

晩ご飯とお金の執念とは恐ろしいものである。めんどくさがりのアクアが力いっぱい竿をあげて、砂魚を釣り上げようとしている。そして・・・

 

ザッパーーーン!!!

 

「来たぁ!!!釣りあげたわぁ!!」

 

功を奏したのかアクアは大きくもなければ小さくもない、中くらいの大きさの砂魚を釣り上げた。・・・が、その直後・・・

 

ドバアアアアアアアア!!!!

 

バクリッ!!

 

「ひいいいいいいいい!!??」

 

「さ、サメーーーーーー!!!???」

 

砂の中から巨大なサメが出てきてアクアが釣り上げた砂魚をバクリと喰らった。砂魚を喰らった砂サメは勢いに任せ、砂の中に着水する。そして、砂サメは背びれを出し、アクアに近づく。

 

「待って・・・ねぇちょっと待って・・・私は食べてもおいしくな・・・」

 

砂サメがこちらに近づき、アクアは恐怖で涙ぐんでいる。お構いなしに砂サメは顔を出し、アクアを喰らおうと口を開けて強靭な牙を見せる。そして・・・

 

「いいいいいいやああああああああああああああ!!!!!カズマしゃん!!!!カズマしゃああああああん!!!!」

 

「結局こうなるのか・・・」

 

アクアと砂サメによる追いかけっこが始まるのであった。割と見慣れた光景にカズマはもううんざりとしている。

 

『ぐわあああ!!!』

 

その間にも砂魚たちはだんだんと凶暴になってきており、倒れていく冒険者たちが続出してきた。

 

「お、おい!なんか凶暴になってないか!!?」

 

「大物だって言ってんでしょうがぁ!!!」

 

「小物を捕まえるべきだって何度言えば理解するのさぁ!!!」

 

「なんでお前らは目を離した隙に喧嘩するんだよぉ!!!今喧嘩してる場合じゃねぇだろぉ!!!」

 

いつの間にか双子は大喧嘩の最中で、カズマは頭を抱え始めた。アクアは砂サメと追いかけっこ、ダクネスは未だに砂マグロに食われており、双子はいつもの大喧嘩。このままでは本当に砂魚たちに食われると思ったその時・・・

 

「もう我慢できません!!!撃ちます!!!」

 

とうとう我慢の限界が来ためぐみんが詠唱を唱え、爆裂魔法を撃とうとする。

 

「ちょっと待てこらああああああ!!!!向こうにはまだ人が・・・」

 

カズマが慌てて止めに入るが時すでに遅し・・・

 

「エクスプロージョン!!!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!!!!

 

『うわああああああああああ!!!!????』

 

めぐみんが本当に爆裂魔法をぶっ放し、大爆発に冒険者たちと漁師たちは何人か爆風で、吹っ飛び、砂魚たちも何匹か爆風で打ち上げられ、何匹かは大爆発によって焼かれるのであった。・・・一応人間は全員無事で済んだが、この後カズマたちには冒険者たちからの苦情はもちろん、とんでもない事態が訪れるのだった。




次回、この弱小冒険者に救いの手を!


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この弱小冒険者に救いの手を!

砂漠都市アヌビスの記念祭の手伝いのためにアヌビスを目指すカズマたち。そんな彼らは現在・・・

 

「うううぅぅぅ・・・暑いよぅ・・・暑いよぅ・・・」

 

「言うな・・・余計暑くなる・・・」

 

「はあ・・・はあ・・・暑さで熱した鎧が体にじりじりと・・・///これは・・・これでいいな・・・///」

 

砂漠の炎天下にさらされながら・・・歩きでアヌビスに向かっていくのであった。ただでさえ暑さで体力も気力も限界なのにさらに歩かされてカズマたちには余裕がひとかけらも感じられない。それとは対照的に双子はまだまだ元気である。アカメにいたってはめぐみんを背負った状態でも余裕そうだ。余裕そうだがかなりイラついた様子である。

 

「たく・・・あんたが爆裂魔法さえ撃たなければこんなことにはならなかったのに・・・クソが・・・」

 

「何を言うのです。あの場で爆裂魔法を放たずしてどこで放てと言うのですか?」

 

「うっさい黙ってて。さもないとその口を空気が吸えないくらいにまでロープで巻き付けてやる」

 

「うっ・・・そこまで怒りますか・・・あ、降ろそうとしないでください。ごめんなさい、謝りますから置いていこうとしないでください」

 

双子の怒りの矛先はめぐみんに向けられている。腹黒ではあるが、普段温厚のティアでさえこの有様である。そもそもなぜカズマたちが歩いてアヌビスに向かっているのかは、やはり砂魚に向けての爆裂魔法が原因である。

 

 

ーこのすば・・・ー

 

 

時はほんの数十分前、砂漠の休憩所に現れた砂魚の襲撃で漁師と冒険者たちが漁を勤しんでいた時、めぐみんが唐突に爆裂魔法発動後。爆発が収まった頃には、休憩所の前に巨大なクレーターが出来上がっており、砂魚たちは爆裂魔法によってバラバラに打ち上げられ、焦げ焦げの状態になったり、砂に潜れず、びちびちとはねている。その状況下の中、カズマたちは爆裂魔法の反動で少しだけ吹っ飛ばされ、地面に倒れている。その中でダクネスは未だに砂マグロに食われており、アクアは上半身が砂に埋もれている。

 

「・・・カズマ・・・今日の爆裂は何点ですか・・・?あ・・・地面熱いです・・・」

 

呑気に倒れているめぐみんはカズマに今日の爆裂は何点か尋ねてる。

 

「・・・0点」

 

「はあ!!?どこから見積もっても100点ですよ!!」

 

「どこから見積もっても0点なんだよ!!俺、あれほどダメだっつったよな!!?見てみろ周りを!!大惨事だよ!!」

 

周りを見回してみると、集まっている冒険者たちは丸焼けになった砂魚やこれから来るであろう砂魚たちが逃げて行ったのを見て涙を流しているのが多数いた。

 

『お、おおおお・・・俺の・・・俺たちの金儲けがぁ~・・・』

 

「/(^o^)\ナンテコッタイ」

 

「ううううう・・・おい!!!そこのお前!!!!」

 

「は、はいいいいい!!!」

 

すると冒険者の1人がカズマに怒鳴りながら近づいてきた。見た目的にも屈強そうな大男、それも強そうな装備をした大男の怒鳴り声にビクッとなった。大男の怒鳴り声で周りの冒険者もカズマに詰め寄ってきた。

 

「今の爆裂魔法だったよなぁ?まさかそいつがやったのか?何てことしやがる!!!」

 

「第3波まであったのに、今の爆裂魔法で逃げちまったじゃねぇかよ!!!」

 

「第2波と第3波の砂魚を捕まえられる罠ができたのに・・・台無しじゃない!!!」

 

「そうだ!!それがあればなんとかなるのに・・・おかげで大赤字だ!!!ふざけんな!!!」

 

「すいませんすいませんすいません!!!うちのバカがほんっとーーーーにすいません!!!!」

 

怒り爆発の冒険者たちに囲まれてカズマは必死の土下座で謝罪する。熱いのどうのとはお構いなしに。めぐみんは巻き込まれんようにずっと気絶してるふりをしている。

 

「謝って済むかバカ!!それだけじゃねぇんだよ!!見ろあれを!!!」

 

「さっきの爆裂魔法で吹っ飛んだでかい砂魚が馬車にぶつかって壊れちまったじゃねーか!!!」

 

「えっ!!!???」

 

冒険者たちの指摘に焦ったカズマは馬車の駐車場を見る。そこには確かに砂マグロよりも巨大な砂魚が何匹も壊れた馬車の残骸の上でびちびちと動いている。馬車の残骸の近くには運転手が何人も泣いていた。しかも、カズマたちが乗っていた馬車まで壊れてしまっていた。

 

「ああああああああああああ!!!???」

 

「これでわかったか!!そいつがやったことの重大さが!!」

 

「俺大事な荷物を馬車に預けたままなんだぞ!!ああ・・・上司に怒られる・・・」

 

「俺なんてこの砂漠で野宿するしかなくなったんだぞ!!」

 

(や、やばい!!予想以上の被害で言い逃れができない!!)

 

めぐみんがやってしまった事態が思っていた以上に被害が大きく、どうすればよいかと思い、仲間たちに視線を向ける。アクアは砂に深く埋もれていたのかじたばたしてるし、ダクネスはようやく砂マグロから脱出できたが、未だに悶えている。双子は・・・どこを探しても見当たらなかった。おそらくは潜伏スキルで逃げているのだろう。そしてめぐみんは今もなお気絶したふりを続けている。役立たず、そして責任逃れをしようとしている仲間たちにカズマは心の中で憤る。

 

(こ、こいつらぁ!!!)

 

「おい!!聞いてんのか!!」

 

「はい!!すいません!!!!」

 

「とにかくだ!!この一帯の修繕費、俺たちの詫び、そして馬車の修理代をお前らが払いやがれぇ!!!」

 

「う・・・うっそだろおおおおおおおおおおおおおお!!!????」

 

アヌビスへ行く道中でまさかの借金を背負わされる羽目になったカズマの絶望の叫びが砂漠に響き渡ったのであった。

 

 

ーこのすばあああああ!!(泣)ー

 

 

というわけで、思わぬ借金を背負ってしまったカズマは被害者たちから1人1人から弁償費用の書類を受け取り、後日配達で弁償金を払うことになったのだ。そして、カズマたちが乗る馬車が壊れてしまい、おかけに馬車移動の停止令が出されてしまい、アヌビスへの道のりは徒歩で行くしかなくなったのだ。そして現在、ある程度まで歩いて・・・というかアクアが熱さで駄々をこねてしまい、仕方なく現在地と近くにあるオアシスに寄り、休憩を行っている。

 

「はぁ・・・まさかハンスの討伐報酬が全部借金に充てる羽目になるなんて夢にも思わなかった・・・。しかも、それでも足りないと来た・・・」

 

「ねぇ!!また借金ができちゃったんですけど!!どうすんのよ!!私、もうバイトは嫌なの!!うえええええ!!」

 

またできてしまった借金にカズマは頭を抱え、アクアはもうバイトは嫌だからとカズマにえんえんと泣きついてきた。

 

「金を稼ぐどころか全てがパーとか笑えなさすぎ。それもこれも、全部爆裂クズのせいで」

 

「爆裂クズ!!?それは私のことですか!!?私をバカに・・・」

 

「ああ?」

 

「いえ、何でもないです、ごめんなさい」

 

アカメの言い分にめぐみんは物申そうとしたが怒りが頂点に達しかけているアカメのひと睨みですぐに静まった。

 

「ま、まぁまぁ・・・めぐみんにも悪気があったわけではないのだ。そろそろ機嫌を・・・」

 

「あんた、生臭いのよ。とっととオアシスで匂い落とせ、この【ピーーーーーーッ】の生ゴミメス豚」

 

「んなっ・・・あふぅ・・・///」

 

機嫌が悪いアカメをなだめようとしたダクネスだが、容赦のないアカメの罵声で興奮して、悶えながら静まった。

 

「お姉ちゃんが怒るのは無理ないよ。私でも怒ってるもの。あそこに被害が出ただけでなく、私たちの残りの借金を盗賊団で肩代わりにするんだもの。まったくこのへっぽこ紅魔族」

 

「何をぅ!!確かにやらかしたのは私ですが双子はあの場から逃げ出したじゃないですか!!」

 

「てかそうだ!!お前らここの地元民だろ⁉多少の顔は利いてるはずなのになんでなだめようとすらしなかったんだよ!!」

 

「無理無理。あいつらただの飲み仲間。名前も顔も知らないよ。それは相手も同じ。そいつらを説得してどうにかなると思う?」

 

「・・・・・・ま、まぁ、あの場は不可抗力です。私たちではどうにもならなかったんです」

 

(だからと言って責任逃れはおかしいだろ・・・)

 

あの場は結局どうにもならなかったとはいえ、責任を逃れようとしている仲間たちにカズマは頭を抱える。

 

「まぁ借金は記念祭終了後に何とかするとして・・・馬車移動が停止された今、歩きで行くしかないよ。ここからアヌビスだと、何回もの休憩をはさんで徒歩3日でつくよ。この砂漠地帯のモンスターは結構凶暴だから私たちについてくるようにしてね。敵感知でモンスターを回避するから」

 

「ま、でも遭遇しても大丈夫だ。あの走り鷹鳶の群れを何体か倒したおかげでレベルが1つ上がってスキルポイントが上がったんだ。それで逃走っていうスキルを手に入れたからいつでも逃げられるぞ」

 

「ねぇ、それってカズマにしか効果がないスキルなんじゃないの?そのスキルでいつでも1人で逃げられるって言ってるわけじゃないわよね?」

 

カズマの考えに妙に鋭いアクアは置いておいて、レベルが1しか上がらなかったことに対し、めぐみんが口を開く。

 

「先日あれだけの激戦を繰り広げたというのに、上がったのはたったの1ですか。私は先ほどのマグロも合わせて一気に33になりましたよ!」

 

「おい、カードを見せびらかして自慢すんな。破って投げ捨てるぞ」

 

「カズマの方がまだマシじゃん。私なんてレベル1個も上がらないんだから」

 

「攻撃手段がないからだろ」

 

上がったレベルの差で自慢をするめぐみんにカズマとティアはムッとなっている。

 

「何くだらない話してんのよ。もう休憩は終わり。さっさとアヌビスに行くわよ」

 

「え~~~・・・」

 

「え~、じゃないわよ。このオアシスでずーっと1人いるってのなら、止めないけどね」

 

「わー!!わかったわよ!!行くから!!こんな砂漠で1人にしないでよ!!」

 

休憩終わりと聞いて、アクアは嫌そうな顔をしたが、置いていかれることを危惧し、やけくそ気味に立ち上がった。

 

「むっ?待て。あの木の陰に誰かいるぞ」

 

オアシスから離れようとすると、数少ない木の陰に誰かを発見したダクネス。木の方に近づいて見てみると、そこには足首、腕、額に血の滲んだ包帯を巻いている少女がいた。

 

「女の子・・・ですね・・・」

 

「へぇ・・・こいつは珍しいわね・・・」

 

「ねぇ、この子怪我してるじゃない。ねぇあなた、大丈夫?」

 

「アクア、そいつは人の姿をしてるけど、モンスターの一種だよ」

 

「「「え?」」」

 

「本当だ。俺の敵感知スキルにも反応してる」

 

アクアが少女に駆け寄ろうとしたが、ティアが少女がモンスターだと聞いて、アクア、めぐみん、ダクネスは驚く。

 

「なんなんだこいつ?双子、こいつ知ってるか?」

 

「ええ、知ってるわよ。こいつは安楽少女っていって、植物が少ない砂漠ではかなり珍しい希少モンスターよ」

 

「ねぇ、この子もの凄く悲しそうな目でカズマを見てるわよ。私、この子にヒールをかけてあげたい気分なんですけど」

 

今にも目の前の人型モンスター、安楽少女にヒールをかけに向かいに行きそうなアクアをカズマが肩を掴んで止める。

 

「この子はね、物理的に危害を加えるわけじゃないんだけど・・・めちゃくちゃ狡猾でね。今みたいに泣きそうな顔したりしてるでしょ?これ、庇護欲を抱かせる行動でこれ以外にも近くにいたらひどく安心した笑顔を見せるし、離れると泣き顔になるから、一度情が移っちゃうと死ぬまで庇護欲に囚われちゃうんだよね。そうなった場合、跳ね除けるのはすごく難しいの」

 

「か、カズマ、あの子が泣きそうなのを必死に堪えるような笑顔で手を振っているのですが・・・ちょっと抱きしめてきていいでしょうか?」

 

「待て。危険な奴だって言ってるだろ」

 

今度はめぐみんまで庇護欲にやられかけており、安楽少女に駆け寄ろうとしている。それをカズマはもう片方の手で止める。

 

「そして、この子が1番危険なところは空腹に飢えてる人に自分の生えてる実をあげちゃうところなんだ。実自体はすごくおいしくて満腹感が得られるらしいんだけど、盗賊団の研究者の話によると実には栄養素がないからどれだけ多く食べても痩せ細くなっちゃって、最後には栄養不足で死んじゃうんだ」

 

「そ、それって・・・食うのをやめるって選択肢はないのか・・・?」

 

「極悪人か噓つき、良心がない奴でないと難しいわね。自分の実を分け与えてるって時点で良心の呵責から食事する気も失せてくるらしいのよ。研究者の話だと実には神経を壊す成分があるのか食べ続けると空腹や眠気、痛みとかの感覚がなくなるみたいよ。寄り添う少女と共に夢見心地で衰弱死する、ジジィ共ババァ共が安楽死を求めてこいつのいるところに向かうところから安楽少女と呼ばれてるみたいね。で、惨いのが死んだ奴の上に乗って根を張ってその養分を・・・」

 

「もうやめて!!それ以上聞きたくない!!俺のライフはとっくにゼロよ!!」

 

見た目に反して恐ろしい習性を持つ安楽少女にカズマは恐怖する。

 

「くっ・・・たとえモンスターといえど、怪我をしてる相手を放っておくわけには・・・だがしかし・・・」

 

「どうやら物理的な危害は加えてこないらしいぞ。保護欲で足止めして餓死させてそこに根を張るって言ってたけど」

 

カズマの言葉に安心した3人は安心して安楽少女の元へ駆けつけた。

 

「こいつら、餓死ってところ聞いてなかったのかしら?」

 

「あんまり深入りしないようにねー」

 

「今傷を治してあげるから・・・て、あれ?これって怪我じゃないわね。これ包帯じゃなくてそんな感じに見えるよう擬態してるんだわ」

 

傷を見ようとしたアクアが安楽少女の怪我は擬態してるというのに気が付いた。カズマがじっと安楽少女を見てみると、木の根が安楽少女に引っ付いているのに気が付いた。どうやらこの木も安楽少女の体の一部なのだろう。そして、木になってる小さな実こそが例の安楽少女の実なのだろう。

 

「・・・こいつ、違う意味で凶暴なモンスターじゃないのか?怪我で動けない少女を装うとかタチが悪いんだが」

 

「こいつが狡猾なのはこれでわかったでしょ?単なる演技・・・つまり嘘つきなのよこいつ」

 

「でもアクアたちはそれに気づいてないみたいだけど・・・」

 

カズマと双子たちが話している間にもアクア、めぐみん、ダクネスの3人は安楽少女をちやほやしている。しかも、安楽少女が手をさし伸ばした手をめぐみんが握ると安楽少女は嬉しそうな顔になり、3人には庇護欲が芽生えてしまう。

 

「・・・お前らは大丈夫なのか?」

 

「あー・・・うん、まぁ・・・お姉ちゃんがいるし・・・」

 

「嘘つきの私があんなのに騙されると思う?」

 

「・・・ちっとも思わん。それよりこいつ、一応人の命を奪う系のモンスターだろ?放っておいたらまずいような・・・」

 

安楽少女があれでも人の命を奪うモンスターであると覚えていたカズマは駆除しようかと思い、ちゅんちゅん丸を抜こうとする。

 

「ちょっと何する気よカズマ!まさか、この子を経験値の足しにするんじゃないでしょうね!」

 

「安楽少女は紅魔の里の近くにもいますし、名前も知っています。でもこんな女の子の姿をしたモンスターを傷つけるわけないですよね・・・?そんなこと、しません・・・よね・・・?」

 

安楽少女の庇護欲にやられたアクアとめぐみんは庇うような行動を出し始めた。かくいう、カズマも良心のせいで非常に葛藤している。

 

「何葛藤してるの?まさか、安楽少女に情が移ったとかじゃないよね?」

 

「うっ・・・けど・・・けどよぉ・・・!!」

 

「ま、別に放っておいてもいいけどね。さっきも言ったけど、こいつはこの地帯じゃ滅多に姿を現さないからアヌビスでは価値が非常に高いのよ。しかも、アヌビスの専門家にこいつの根を売れば高く買い取ってくれるわ。だからこいつを縛り付けて動けなくすれば根が取り放題でがっぽり金儲けし放題じゃない」

 

「それってこの子を永遠に苦しめる行為じゃねーか!!お前の考え方が1番ひどいわ!!」

 

アカメの非道といえる考えにカズマはツッコミを入れる。安楽少女を金儲けの道具にしか考えていないアカメにティアとアクアとめぐみん、安楽少女でさえも顔を青ざめている。

 

「はっ・・・!あ、アカメの考えはともかく、カズマが駆除すべきと判断したならそうすべきだ。怪我をしてると思って寄ってみれば、怪我なんてなかった。このような狡猾なモンスターを放置すれば、余計な被害が出かねない」

 

安楽少女が一応危険なモンスターだと思い出したのかダクネスは大剣を抜いて身構えた。

 

「・・・コロス・・・ノ・・・?」

 

安楽少女はめぐみんの手を両手でか細く握り、涙目にフルフルと震えて喋りだした。その行為にダクネスは安楽少女と同じような顔をしだし、これが演技だと知っているティアでさえも、葛藤し始めている。

 

「う・・・うぅ・・・やっぱり演技だとわかっていてもこれは・・・きつすぎるぅ・・・!か、カズマ・・・代わりにやっちゃって・・・」

 

「おいやめろよ。俺でさえこれは悪い行為なんじゃないかって思ってるのに変なプレッシャーを与えないでくれ」

 

「・・・コロス・・・ノ・・・?」

 

「うっ・・・」

 

葛藤し続けるカズマに追い打ちをかけるように安楽少女がさらに不安そうにしゃべりだした。安楽少女が人の命を奪うのはわかっているのに、安楽少女の習性がカズマの決意を鈍らせる。深い、深い葛藤を続けるカズマにアカメはそっと肩に手を置く。

 

「生かしたいなら迷う必要なんてないわ。さあ、嘘つき化け物を縛り付けて荒稼ぎしましょう」

 

「誰がやるかそんなゲス行為!!お前は悪魔か何かか!!?て、おい待てお前ら。なぜ俺たちから距離をとる」

 

アカメは金稼ぎがしたい欲求が強くてカズマをゲスの道へ引きずり込もうとしている。ゲスな発想にアクアたちは安楽少女と共に距離を置こうとする。

 

「・・・ね、ねぇ・・・本当にどうするの?これ・・・?」

 

「う・・・うぅ・・・こ、こいつを・・・こいつを倒さないと他に被害が・・・」

 

「金稼ぎ」

 

「しないって」

 

「ちょっとお姉ちゃんは黙ってて」

 

カズマが安楽少女を駆除すべきかしないべきかと葛藤を続けると、安楽少女がつぶやいた。

 

「クルシソウ・・・ゴメンネ・・・ワタシガ、イキテル、カラダネ・・・」

 

「うっ・・・」

 

「ワタシハ、モンスター、ダカラ・・・。イキテイルト・・・メイワク、カケルカラ・・・」

 

安楽少女は涙を浮かべて、そして・・・

 

「ウマレテハジメテ・・・コウシテニンゲント、ハナスコトガデキタケド・・・サイショデサイゴニアエタノガ、アナタデヨカッタ。・・・モシ、ウマレカワレルナラ・・・ツギハ、モンスタージャナイト・・・イイナァ・・・」

 

祈るように両手を胸の前に組み、観念するかのように目を閉じた。

 

「・・・殺せるわけねぇだろおおおおお!!!」

 

安楽少女に対する罪悪感が勝ってしまい、カズマは手をかけることができなかった。

 

 

ーこのしゅばぁ!!ー

 

 

結局安楽少女はそのまま放置をして、カズマたちはそのままアヌビスへと向かっていく。みんなこれでよかったのだと思っているのだが、アカメだけは納得していない。

 

「ちょっとなんであいつをそのまま放置なのよ。どうせなら・・・」

 

「うるさいわ!!もうそのくだりはいいんだよ!!」

 

「お姉ちゃんは血も涙もないからあんなことができるんだよ。その点私は清廉潔白。黒い部分なんて何1つとしてない」

 

「あ?何自分を棚に上げてんのよ。経験値のために弱ってるモンスターを容赦なしにつぶす癖に」

 

「は~?そんなことやってないです~」

 

「もうお前ら喧嘩やめろって!なんでいっつもいっつも・・・」

 

いつものように双子を喧嘩を始めていると、ふとダクネスが口を開く。

 

「あれ?アレクサンダーがいないようなのだが・・・」

 

「え?・・・あ、本当ですね。いませんね」

 

「え?まさか置いてきちゃった?」

 

「まぁ、あそこに置いてきたなら心配ないでしょ。魚でも食ったらすぐ追いつくわよ。目印はあるし」

 

「おい、なぜ私を見るのだ」

 

アレクサンダーがいないことに対し、双子はオアシスに置いてきたと考えた。そこでカズマはふと疑問に思った。

 

「なぁ、あの安楽少女ってさ・・・動物にもよってきたりするものなのか?」

 

「え?うーん・・・どうだろう?そんな事例聞いたことないんだけど・・・」

 

「まさか動物さえも養分すると言い出すわけ?ありえないわ」

 

ありえない。それはカズマも考えていることだ。だが万が一、動物にさえもそれが適応されているのならば、アレクサンダーはどうなると考えている。アレクサンダーは双子がかわいがっているペットとなっている。もし何かあったとすれば双子に何されるかわかったものではない。そう考えるとカズマは冷や汗が止まらなかった。

 

「どうしたの?お腹でも痛くなったの?ちょうどあそこに岩があるわよ。離れててあげるから行ってきなさい」

 

「違うわ!!おい、お前らちょっと待っててくれ。今アレクサンダーを迎えに行ってくる!ついでに安楽少女と話をしてくる!」

 

「ちょ、ちょっとカズマ⁉」

 

カズマは急いでオアシスに戻り、安楽少女と話をし、アレクサンダーを迎えに行くのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

オアシスの場所はそんなに距離が遠くなかったため、歩いて数分で戻ることができたカズマ。まずはアレクサンダーはどこだと思ってカズマは辺りを見回す。そのおかげでアレクサンダーを見つけることができた。アレクサンダーはオアシスの魚をくわえて木がなっている場所へと向かっていっている。それを見てカズマはすぐにまずいと思った。なぜならそこはさっきの安楽少女がいた場所だからである。

 

「アレクサンダー!!そっちに行っちゃ、ダメだあああああああ!!」

 

カズマは急いでアレクサンダーを止めようと足を進めた。カズマが安楽少女のいる木まで近づくと・・・

 

「あああああ!!くっそ!!なんなんだあの赤髪の女!!あたしのこと金儲けの道具としか見てねぇし、泣き寝入りも全然通用しねぇじゃねぇかよぉ!!」

 

何やら怒っている声が聞こえてきた。しかもこの声は聞き覚えがある。この声はさっきの安楽少女から発せられている。つまりはさっきの片言のような言葉は嘘で、こっちの方が安楽少女の本性であったのだ。むしゃくしゃしている安楽少女にアレクサンダーはくわえていた魚を差し出した。

 

「ピィーヒョロロロ」

 

「ああ、あたしにくれるのか?ありがとな・・・でもごめんな。あたし、魚は食えねぇんだ・・・。てかお前も大変だな。あんな奴のペットになっちまうなんて・・・」

 

「ピィーヒョロ」

 

「はっ、楽しそうで何よりだな・・・。それに比べてあたしは・・・全然餌も来ねぇし、来ても逃げられるし、くそあちぃし、光合成しても下手をすれば枯れちまいそうでいいことなんか1個もねぇ。はぁ・・・ついてねぇ・・・なんでこんな砂漠で生まれちまったんだろう・・・」

 

安楽少女が落ち込んでいると、ふとカズマの存在に気が付いた。カズマが安楽少女に向けている眼はまるで無機質なものであった。この後の展開が予想したアレクサンダーはそそくさとその場から去り、アクアたちの元へと向かって走っていった。そして、この場にいるのは安楽少女とカズマのみ。

 

「・・・イマノハ、ナカッタコトニ、デキマセンカ・・・?」

 

 

ーお前流暢に喋ってただろうがボケがああああああああ!!!!ー

 

 

やるべきことを終えたカズマはアクアたちの元へと戻ってきた。アクアたちは言われた通りにきちんと待っていてくれたらしい。アクアたちのそばにはちゃんとアレクサンダーもいた。

 

「遅かったわね。アレクサンダーならもう帰ってきてるわよ」

 

「ねぇ、安楽少女と何を話してたの?実とかもらってないよね?」

 

ティアの問いかけにカズマは自分の冒険者カードを取り出した。

 

「見ろよこれを!一気にレベルが3つも上がった!これで俺も少しは役に立てるぞ!」

 

カズマの言葉に5人は凍り付いた。モンスターを倒すことで得られる経験値。それでレベルアップするのは当たり前。ということは・・・カズマは・・・安楽少女を・・・。

 

「わ・・・わあああああああー!!カズマの外道!鬼畜外道!あんたはバニルがかわいく見えるぐらいの悪魔だわ!!」

 

「あんた何してくれてんのよ!!?貴重な存在つったわよね!!?せっかくの金づるをあんたはああああああ!!!」

 

「ああ・・・あああ・・・ああああ・・・私がたくさん上がったレベルをカズマが自慢をしたから・・・私が調子に乗ってあんなことしたから・・・」

 

安楽少女に手をかけたカズマに対し、安楽少女に保護欲を抱いていたアクアとめぐみんは泣きわめき、金としか見ていないアカメは憤慨している。

 

「いいんだよ・・・カズマ・・・私はあなたを責めない・・・。あのまま放置してたら他に被害が出てたかもだし・・・でも・・・うぅ・・・」

 

「辛かっただろう?お前は冒険者としての義務を果たしたんだ・・・。すまない・・・お前にだけ嫌な役割を押し付けて・・・」

 

「いやちょっと待って⁉まず俺の話を聞いて⁉」

 

真面目ながらも辛そうな顔をしているダクネスとティア。そうしてカズマは1時間も使ってちゃんと説明をして、安楽少女がどれほど危険な存在かをアクアたちに理解させたのであった。

 

 

ー・・・このすば・・・ー

 

 

無駄な1時間を浪費し、カズマたちは双子の案内によって、アヌビスへと目指して歩いていく。しかし・・・何度も言うが砂漠は炎天下、その中を徒歩で歩く。砂漠の環境に慣れている双子はともかく、カズマたちはちょっと歩いただけでも体力が消耗してしまう。しかも先ほどの無駄な1時間で余計に体力が削ってしまっている。

 

「熱い~・・・熱い~・・・」

 

「熱い熱いうっさいのよ。それ以上言うならあんたを砂に埋めて置いていくわよ」

 

「いや~~!!それだけは嫌~~!!」

 

「でもアクアの言い分は尤もです。こんなに熱いと体がもちませんよ・・・」

 

「わ、私は別に、このままでも・・・」

 

「お前は相変わらずだな・・・」

 

アクアが熱い熱いとぶつぶつ文句を言っているが、めぐみんたちもさすがにこればかりはアクアに同意している。ダクネスは相変わらずだが。

 

「仕方ないでしょ。本来は1日で着く予定だったのに、めぐみんがやらかしてくれたから・・・」

 

「・・・些末なことなど忘れました」

 

「お前、実は反省してないだろ」

 

めぐみんの放った一言にカズマはジト目で彼女を見つめる。

 

「・・・なぁ。移動は夜にしないか?こうも熱すぎると体力が・・・」

 

「何言ってるのよ。夜は寒くなるから逆に私たちが体力消耗するわ」

 

「それに夜にはミイラっていうアンデッドがわくし、移動時間も限られるから3日じゃつかないよ。それこそ、記念祭に間に合わない」

 

「マジか・・・」

 

カズマは夜だけの移動を提案したが、双子は寒さで体力消耗、ミイラの出現、移動時間の大幅ロストで記念祭に間に合わない。ミイラの件はウィズの店で買ったアンデッド除けで何とかなるが、寒さ、移動時間ロストはさすがにどうしようもないので提案は却下された。

 

「何とかなりませんか?」

 

「だから方法は休憩をとる以外は・・・」

 

「ねぇ!あそこに洞窟を見つけたわ!あそこなら砂漠の日に当たらずに済むんじゃない?」

 

これ以上の砂漠の中を歩くのを避けたいめぐみんたちが何とかならないかと尋ねていると、アクアが地下洞窟のようなものを発見した。

 

「え?あそこは私たちもよく使う近道だけど・・・」

 

「でも今回は洞窟には入らな・・・」

 

「近道⁉何よ近道あるじゃない!行きましょ行きましょ!」

 

「お、おいアクア!」

 

あの洞窟が近道と聞いて、アクアは嬉々とした表情で洞窟へと向かっていった。カズマは止めようとしたが、全てを聞く前にアクアは洞窟に入っていった。

 

「たく・・・何があるかわからないってのに!」

 

「ちょ・・・カズマは入っちゃ・・・」

 

「なんにせよ、これで熱さは凌げそうです・・・」

 

「お、おい待ってくれ!」

 

カズマはアクアを止めるために、めぐみんは熱さを凌ぐために洞窟に入っていく。ダクネスは3人を追いかけていく。

 

「ああ、もう!!今回は入っちゃまずいんだって!!」

 

「たく・・・人の話を聞かずに・・・!」

 

双子たちは中に入っていったアクアたちを連れ戻すために洞窟へと入っていった。この選択が、カズマにとって地獄になるとも知らずに。

 

 

ーこのすばー

 

 

洞窟の中に入ってみると、中は砂漠の熱さは届かず、かなり快適な空間となっている。辺りには珍しそうな鉱石がいくつもあった。

 

「はぁ~・・・涼しい~・・・生き返る~・・・」

 

「アカメもティアも人が悪いですね。こんないい近道を黙ってたなんて・・・」

 

洞窟の快適さにアクアとめぐみんはかなりご満悦である。

 

「2人とも、油断するな。ここでは何が起こるかわからんからな」

 

「ダクネスの言うとおりだ。それに・・・なんか千里眼で見てみると、地面の下になんか変なのがちらほらと見えるんだが・・・」

 

それとは対照的にダクネスとカズマはかなり慎重だ。ただし、ダクネスは出てくるかもしれない存在に若干ながら興奮しているのだが。カズマは千里眼を使って地面の下を見てみると何かが何体かいるのに気が付いた。

 

「悪いことは言わないから早くここから出ようよ。それ以上進むとまずいんだって、カズマが」

 

「え?俺?」

 

「大丈夫大丈夫ー。今のところ何も起こってないし、何か出てくれば逃げればいいじゃない」

 

ティアは早いところ戻ろうと提案しているが、熱いところに戻りたくないアクアは聞く耳を持たない。カズマは自分がまずいことになるというのが聞き捨てならなかった。

 

「バッカ、そういう問題じゃないのよ!!」

 

「な、なぁ・・・さっき俺がいたらまずいみたいなこと言ってたけど、それってどういう・・・」

 

「いい?この洞窟はね・・・」

 

ティアがこの洞窟について説明を入れようとしたとき・・・

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

「おわっ・・・地震⁉」

 

「な、何⁉なになになになに⁉」

 

「じ、地面が揺れてますぅ!!」

 

「みんな、私の後ろに下がっていろ」

 

突如として地面が揺れ始めた。

 

「これは・・・まずいわ!奴が来る!!」

 

「や、奴って何⁉」

 

「そんなことはいいから早く逃げ・・・」

 

「ウホホホホ、もう遅いでござんす」

 

「「「「!!」」」」

 

双子たちが逃げるように言い放とうとしたとき、地面から第3者の声が聞こえてきた。それと同時に地面にヒビが入り始めて、何かが出てこようとしている。そして・・・

 

「ドウイイイイイイン!!」

 

「おわあ!!?」

 

「ひいいいいいいい!!?」

 

第3者の声の者が地面から飛び出してきた。何かが出現し、カズマはびっくりし、アクアはしりもちをついてびっくりする。出てきたそれはゆっくりと回転し、見事に着地した。出てきたそれの姿は・・・

 

「皆様、お待たせしました。皆様の大好き、そう!!マッチョモグラ!!!デス!!!!」

 

「「「「う、うわぁ・・・」」」」

 

いかにも筋肉ムキムキでボディビルダーの肉体を持ったスポーツパンツを履いているモグラであった。突如出てきた筋肉モグラのその姿にカズマたちはドン引きしている。

 

「ん~~、すんすん、すんすん・・・臭う、臭いますなぁ・・・あっしの大好物の豊潤な香しい匂いが・・・いったいどこに・・・」

 

筋肉モグラは匂いをすんすんと嗅ぎながら辺りを見回すと、カズマの姿を確認した。すると途端に目がハートマークになりだす筋肉モグラ。そして一言。

 

「ウホ♡いい男♡やらないか?」

 

「お断りします」

 

筋肉モグラの妙な誘いにカズマは意味が理解しているのかきっぱりと断った。

 

「ほいほいとついてきたっていいんだぜ?極上の快楽で楽しませてやるから」

 

「本当にいりません。ていうかそこをどいてくれるか?俺たちはその先にある街に用があるんだよ」

 

この筋肉モグラはモンスターのようだが一応は会話できるということで、カズマは説得を試みようとする。カズマの説得に筋肉モグラは愉快そうに笑う。

 

「ウホホホ。どうやら状況を理解できてないとみた。ここはあっしらマッチョモグラの縄張りでござんす。ここに入ってきた男たちは全員あっしらの獲物でござんす。最近は女ばっかり通るからなかなか土の中から出る気が失せてたが・・・ウホホ、そろそろ多種族の男が恋しいと思っていたところでござんす」

 

筋肉モグラ・・・正式名称マッチョモグラはじゅるりとよだれを垂らしている。そんなマッチョモグラにカズマは寒気を感じた。カズマはアクアたちに視線を向ける。アクアたちは必死で思いでカズマにジェスチャーを送っている。早く逃げろと。ダクネスはマッチョモグラが何を言っているのかよくわかっていないようだが。

 

「ん~?そこにいる5人は・・・ちっ、女かよ。あっしは女なんぞに興味はないわい。そ・れ・よ・り・も・・・さあ・・・こっちに来るんだ・・・今なら貴重な思いを・・・」

 

「クリエイト・アース!!&ウィンドブレス!!」

 

「!!!???」

 

カズマは防衛本能からクリエイト・アースで砂を出し、その砂をウィンドブレスの風でマッチョモグラの目まで運ぶ。それによって悶えているマッチョモグラにカズマはドレインタッチで体力を吸った。

 

「こ・・・これは・・・この感覚は・・・んぎもぢいいいいいいいいいい!!!!」

 

変な声を上げながらマッチョモグラは白目をむいて気絶してしまう。それを見た双子たちは顔をものすごく青ざめている。

 

「か、カズマ!あんた何やってんのよ!!マッチョモグラを倒すってことは、このマッチョモグラの洞窟を抜けるまであんたはマッチョモグラに狙われることを意味してんのよ!!?」

 

「はあ!!?」

 

このマッチョモグラに狙われ続けると聞いてカズマはひどく顔を青ざめている。

 

「いい?よく聞いて。ここの洞窟の名前はマッチョモグラ洞窟。この洞窟の地面の下にはマッチョモグラがたくさんいて、男がここを通るたびにマッチョモグラは姿を現すの」

 

「マッチョモグラが出てくる条件は1人でも男が洞窟に入ること。逆に女だけの構成だったらマッチョモグラは一切その姿を現さないのよ。つまり・・・マッチョモグラは・・・」

 

「「ボーイズラブ・・・つまり、ホモなのよ(なんだよ)!!!!」」

 

「きゃあああああああああ!!!!」

 

マッチョモグラの衝撃的な事実にノーマルなカズマは悲鳴を上げた。

 

「マッチョモグラに捕まったら、地面の下に引きずり込まれて、それはもうあられもないことをされてホモになってしまったりするという・・・男性冒険者にとって天敵なのよ!!」

 

「実際にうちの盗賊団の仲間たちの中にマッチョモグラに捕まって・・・それは人には言えないことをされて・・・そして・・・モグラと同類になれなくて・・・嫌悪感で・・・その命を・・・うぅ・・・」ガクガク・・・

 

「「「ひいいいいいいいい!!!!」」」

 

双子たちは自分たちの仲間がマッチョモグラに捕まった末路を思い出し、顔をひどく青ざめている。マッチョモグラの説明を聞いたカズマたちは恐怖する。

 

「その人には言えないことについて詳しく!」

 

ダクネスはドM心で何をされるかというのに興味津々だが・・・

 

「い、言えるわけないでしょ!!バカじゃないのあんた!!?」

 

「てゆーかマッチョモグラは女には興味がないからダクネスの望むようなことは一切しないって!!」

 

「!!!」ガーン!!

 

が、女には危害を加えないことに対して、ダクネスは相当なショックを受け、ひどく落ち込んでいる。

 

「そ、そうか!それでここには入るなって・・・」

 

「な、何よ!私のせいだっていうの⁉だってしょうがないじゃない!ここがそんな危険な場所だったなんて知らなかったんだもの!!」

 

「ま、待ってください!こんなところで話していたら・・・」

 

『ビーーーーーッグマグナーム!!!!』

 

「「「「「ひいいいいいいいい!!!!」」」」」

 

頑なに双子が入るなと言っていた理由に気が付いたカズマたちの前にもう複数体のマッチョモグラが地面から出てきた。マッチョモグラたちはカズマを見た瞬間・・・

 

『ウホ♡いい男♡やらないか?』

 

「お断りしまああああああああああす!!!!!!」

 

マッチョモグラの危険な誘いにカズマは一目散に出口に向かって逃げ出した。それを見たマッチョモグラは目を光らせる。しかも・・・

 

「ウホホ・・・今のはとっても気持ちよかったぜ・・・けどそれ以上の快楽を・・・お前に捧げよう!!!」

 

気絶していたマッチョモグラが復活。そしてマッチョモグラの集団はそれを筆頭にして逃げているカズマをものすごいスピードで追いかける。

 

「いやあああああああああああ!!!!助けてええええええええええええ!!!!」

 

「カズマ、早く逃げて!!捕まったら掘られちゃうよ!!!」

 

「掘る!!?掘るって、何をおおおおお!!??」

 

カズマは必死な思いでマッチョモグラの集団から逃げる。しかし・・・

 

「ビッグダイビーーング!!!!」

 

ガシイィ!!!!

 

「あっ・・・」

 

「「「「カズマーーーーーーーーー!!!!!」」」」

 

あっさりとマッチョモグラの1体に捕まってしまう。それを見たアクアたちは悲痛な叫びをあげる。

 

「ふふふ、捕まえたぜ、あっしのかわいい子猫ちゃん。じたばた暴れたってどうにもならないぜ?」

 

「た、助けてめぐみん!!!今こそ、今こそ爆裂魔法をおおおおおお!!!!」

 

「こんな場所で撃ったら私たちまで巻き添えを食らっちゃいますよ!!それに今日はもう撃ったので爆裂魔法は使えません!!」

 

「ごめんカズマ・・・数が多すぎて助けられない・・・無力でごめん・・・ごめんなさい・・・」

 

「せめて・・・せめてやすらかに眠りなさい・・・なむー・・・」

 

「あ、諦めないでえええええええ!!!」

 

カズマは仲間に助けを求めているが、爆裂魔法は無理、1体ずつでは間に合わないのであっさりとカズマを諦めるめぐみんたち。

 

「ああ・・・ああ・・・よく見ると、なんて逞しい筋肉なんだ・・・。もうね・・・あっしはむらむらしてたまらんですよ・・・はぁはぁ・・・」

 

「待って!!話をしよう!!話をしよう!!!」

 

「話?いいぜ・・・いくらでも話そう・・・ただし、体と体でな!!」

 

「や、やーめーてええええええええ!!!!」

 

カズマは必死で話をしようとしたり、抵抗したりしているが、マッチョモグラは見た目通り力が強くてピクリとも動けないし、話も聞く耳持たない。

 

「ああ、ああ!!もう我慢できん!!今すぐ帰ろう!!そしてあっしらとで、素敵なエデンへと目指そう!!」

 

「ああ!!ちょ、ちょっと!!潜ろうとしないで!!た、助けてええ!!!地面に引きずり込まれちゃう!!!嫌だああああああ!!俺はノーマルなんです!!普通の女の子と恋愛したいんです!!!ホモになんかなりたくねえええええええ!!!」

 

マッチョモグラはカズマを連れて地面に入り、集落へ連れ込もうとする。カズマはよりいっそうの抵抗をするが、やはりびくともしない。マッチョモグラが地面に入ったその時・・・

 

「ロックタワー!!!!」

 

ボコォ!!!ボコォ!!!

 

『うおおおおおおおおお!!?』

 

「ウホっ⁉何事ぞ⁉」

 

突如として地面から岩が出てきて、その岩がマッチョモグラを持ち上げて洞窟の天井にたたきつけた。しかも、潜れないように両手両足を防いだ状態で。岩の上級魔法、ロックタワーの出現にマッチョモグラは驚きを隠せなかった。アヌビスへ続く道を見てみると・・・

 

「おい、クソモグラども。そいつはオレのダチだ。そのダチに手を出したらどうなるか・・・思い知らせてやろうか?」

 

「ま、マホ!!マホじゃないか!!!うええええええええん!!!」

 

アクセルの街のモンスターショップの店主、マホがいたのだ。まさかの救世主にカズマは涙を流して喜んでいる。

 

「ぬ・・・ぬ・・・こいつは強そうだ・・・!束になっても勝てん・・・!ビッグ退却ーーーー!!!」

 

『退却ーーーー!!!』

 

マホの強さを肌で感じ取ったのかマッチョモグラはカズマを放し、そのまま地面へと戻っていく。他のマッチョモグラも何とかロックタワーから脱出して地面へ戻っていく。

 

「ふぅ・・・でもちともったいないことしちまったかなぁ・・・」

 

「ま、マホーーーー!!!モグラが、モグラが俺の・・・うわああああああん!!!」

 

「うお・・・ちょ・・・おま・・・やめ・・・」

 

カズマは涙と鼻水を出しながらマホへと迫ってきている。その様子に引いたマホはカズマから距離を取ろうとする。そして、近くまで寄ると・・・

 

 

ー離れろぉ!!!!

ぎゃあああああああああ!!!ー

 

 

「・・・いや、本当に助かったよ。あと少し遅かったら今頃俺は・・・俺は・・・」

 

汚い顔でマホに迫ったカズマはマホに顔面をぼこぼこに殴られて顔が腫れている。後でアクアにヒールで治してもらえるのと、マッチョモグラに襲われるよりかはまだマシなので殴られたことは気にせずお礼を言う。

 

「はぁ・・・お前ら、こんなところで何してやがる?ここはモグラどもの縄張り、男どもは近づかねぇの。まぁ、知らないで入ったんだろうが・・・」

 

「うぅ・・・私のせいじゃないはずなのにぃ~・・・」

 

あきれているマホをよそにアクアはマホにげんこつを食らわされ、涙を流している。

 

「わ、私たちは止めたんだよ?」

 

「それを人の話を聞かないで・・・」

 

「どっちにしてもモグラどもに襲われたらどうなるか、身をもって味わっただろ?これに懲りたら、もう二度男を連れてこの洞窟に入るんじゃねぇぞ」

 

「はい、気を付けます・・・」

 

マホから注意を受けて、もう二度とこの洞窟には入らないと心の奥底から誓うカズマであった。

 

「わかったならもういい。ところで、お前らはモンスター調査・・・に、来たわけじゃねぇよな。こんな何もねぇ砂漠、ましてや危険な洞窟に何しに来た?」

 

「俺たちはアヌビスの記念祭の準備をしに来たんだよ。ここを通れば近道だって言ってたから・・・」

 

「記念祭だぁ?」

 

マホは記念祭と聞いて首を傾げ、すぐに納得した表情になる。

 

「あー、どおりで街の連中が浮かれてるわけだ。・・・たく、しょうがねぇなぁ・・・。オレがテレポートでアヌビスまで送ってやるよ」

 

マホがアヌビスに送ると言い出し、カズマたちは目を見開く。

 

「い、いいのか?」

 

「どうせアヌビスに戻る予定だったしな。ついでだついで」

 

予定外の連続であったが、テレポートならたった1日でつく。もうあんな広い砂漠を歩かずに済んだことにカズマたちは内心ほっとしている。

 

「んじゃ、とっととこんなとこおさらばするか。いくぜ・・・テレポート!」

 

マホは転移魔法、テレポートを発動した。カズマたちは魔法の力によってこの洞窟からその姿を消した。

 

 

ーこのすばー

 

 

テレポートによってカズマたちは洞窟から抜け出し、広い場所に出現した。辺りを見回してみると、ところどころにレンガの建物がたっており、人々が賑わいを見せている。そう、カズマたちが今立っているこの場所こそが、灼熱都市アヌビスなのだ。

 

「ここがそのアヌビスか・・・」

 

「おお・・・なんて美しい街なんだ」

 

「あ、紅魔族もいますよ」

 

「うぅ・・・熱いの変わってない・・・」

 

カズマたちは初めて来たアヌビスに深く冒険者として探検したい気持ちがくすぐられていた。アクアだけは砂漠の熱さに参っているようだ。

 

「本当に帰ってきたんだ・・・」

 

「ここも変わってないわね・・・」

 

生まれ故郷に帰還した双子は半年ぶりの街の光景に懐かしさをこみあげてきた。

 

「ふわ・・・んじゃ、オレはもう宿に戻るわ。しばらくはここに滞在する予定だから、お前ら、また後でな」

 

そう言ってマホはあくびをかみしめながらカズマたちに別れを告げ、宿へと向かっていく。

 

「とりあえずこの街の冒険者ギルドに向かうわよ。あそこは私たち盗賊団の仮拠点なのよ」

 

「拠点が改装中の今、多分みんなそこにいると思うからね」

 

カズマたちは双子に案内されながらアヌビスの冒険者ギルドへと向かっていく。向かっていく最中に周りを見回してみると、紅魔族やドワーフ、様々な種族が目に映る。

 

「ここにはいろんな種族がいますね。あそこにはエルフもいますよ」

 

「当然でしょ。ここは自由都市でもあるんだから」

 

「ここの活気良さが気に入ってここに移住してくる人が後を絶たなくてね、気が付けばこんな風になっちゃったんだ」

 

「へぇ~・・・」

 

双子たちの説明を聞いていると、大広間についた。大広間では大勢の人がいて、祭りの屋台を作ったり、飲食店で記念祭で出す料理の試食を作ったりして大忙しの様子である。

 

「これらは全て記念祭の準備をしているのか?」

 

「すっげぇ・・・本格的すぎだろ・・・」

 

「10年に1回の祭りだからね。みんな思うところがあるんだよ」

 

祭りがあまりにも大規模であるため、カズマたちは驚きを隠せないでいた。

 

「他人事と思わないでよ。あんたらも手伝ってもらうんだから」

 

「えぇ~~~!!」

 

「え~じゃねぇだろ。1度引き受けておいて。まぁ、やるのはやるよ。その代わり、報酬の件・・・」

 

「うっさいわね。わかってるっての」

 

この本格的なものを手伝うことにアクアは今更嫌そうにしており、カズマは報酬の件で逆にやる気を引き出させようとする。

 

「と、着いたよ。ここ私たち盗賊団の仮拠点、冒険者ギルドだよ」

 

そうこう言っていると、カズマたちは目的地であるアヌビスの冒険者ギルドにたどり着いた。建物はアクセルのものと比べるとかなり大きい。双子たちは冒険者ギルドの門を開けて中に入る。中に入ると、アヌビスの冒険者たちが記念祭の準備があるにも関わらず飲んだくれている。

 

「アクセルとあまり変わらない光景ですね」

 

「ここにいる全員が、盗賊団のメンバーなのか?」

 

「しっ、ここにはメンバー以外の冒険者もいるから、大きな声で名前を出さないで」

 

「す、すまない・・・」

 

めぐみんたちが話をしていると、飲んだくれている冒険者たちはカズマたちの存在に気が付いた。そして、双子たちがここにいることに対し、冒険者たちは目を見開かせる。

 

「なっ・・・お前ら・・・マジ・・・か・・・?」

 

「お前ら・・・アカメとティア・・・なのか・・・?」

 

「か・・・帰って・・・来たのか・・・?」

 

「相変わらず不細工な面ね、【ピーーッ】共」

 

「みんな、ただいま」

 

双子を見て驚いている冒険者たちにアカメは暴言を吐き、ティアはきちんとあいさつで返す。そして・・・

 

『おおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

「うおっ⁉」

 

「な、何⁉」

 

冒険者たちの大歓声が上がってきた。それにはカズマたちは驚きを隠せない。

 

「帰ってきた!双子が帰って来たぞーーー!!」

 

「隣にいるのってもしかして・・・?」

 

「おお、こりゃめでたい!!」

 

「こうしてはいられないわ!!急いで知らせないと!!」

 

双子が帰ってきた途端にこの浮かれ具合。これを見てカズマたちはよほど仲間たちに愛されて育ってきたんだなって思う。双子たちは冒険者たちが自分たちの帰還を祝ってくれてお互いに顔を合わせて笑っている。が・・・

 

「ちょっとマスターーー!!マスター!!大変よ大変!!!」

 

「双子が、双子が・・・彼氏連れて帰って来たぞおおおおお!!!」

 

「「はああ!!?」」

 

「おいちょっと待て!!誰がこいつらの彼氏だって!!?」

 

カズマを双子のどっちかの彼氏だと勘違いして、ネクサスの元へと向かっていく。それには双子はありえないといわんばかりの顔をし、カズマは誤解を解きたい気持ちでいっぱいになった。

 

 

ーこのすばーーー!!!ー

 

 

双子が帰ってきたのと双子がカズマたちを連れてきたとの知らせの後、カズマたちはすぐにギルドマスターの部屋へと案内される。双子たちは広間に残って冒険者たちと飲んだくれている。そして、部屋に案内されたアクアたちは・・・

 

「おお!これおいしいですね!」

 

「でしょー?まだまだあるから、どんどん食べちゃって」

 

「ふふん、あなたわかってるじゃない。それじゃ、お言葉に甘えて・・・」

 

「い、いや・・・私はだな・・・」

 

「いいから食べちゃって?エリス教の人もサービスサービス♡」

 

「ふごっ⁉」

 

部屋にいたバーバラからおいしいお茶菓子をもらっていた。ダクネスの場合はバーバラにモンスターの骨を口に押し込まれているが。もちろんそれで興奮しているダクネス。

 

(・・・どうしよう・・・)

 

一方のカズマは1人だけ、応接側の椅子に座り込み、ネクサスとカテジナと対面し、話をする・・・のだが・・・。

 

「ネクサス様、気持ちがお顔に出ておられます」

 

「・・・・・・」ゴゴゴゴゴ・・・ッ

 

(こ、怖い!!怖すぎる!!)

 

どうにもネクサスの雰囲気がものを言わせないようなどす黒いオーラを放っている。顔もカズマを警戒しているような顔つきで、心なしか背後に般若の面が出ているような気がした。カズマにとって盗賊団団長との初めての対面は、恐怖でしかなかったという。今日は踏んだり蹴ったりなカズマであった。




次回、この暑苦しい都市で癒しを!


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この暑苦しい都市で癒しを!

一応は次話も書きますが、もしかしたら今話が今年最後の投稿になるかもしれません。

来年は双子の過去、10歳の頃の話を乗せてみようかなとは思っていますが、どうでしょうか?


双子の生まれ故郷である灼熱都市、アヌビス。偶然出会ったマホの力でやっとこの都市にたどり着いたカズマたち一行はウェーブ盗賊団の仮拠点である冒険者ギルドまでやってきて、現在はギルドマスターの部屋で盗賊団の団長、ネクサスと対面していた。とはいっても、対面しているのはカズマだけであって、アクアたちは離れた席でバーバラが出したお茶菓子を食べている。双子は広間で冒険者たちと飲んだくれているが。

 

「・・・・・・こほん。あー・・・まずは初めまして、だな。うちの子分から名前は聞いてるだろうとは思うが、一応挨拶だ。俺の名はネクサス。この盗賊団の団長を務めてる者だ。で、あんたの仲間と茶をすすってるのが2人いる最高幹部の1人のバーバラ」

 

「よろー」

 

「で、俺の隣にいるのが、もう1人の最高幹部の・・・」

 

「カテジナと申します。あなたたちとは、あの2人の裁判で顔を合わせましたが、直接会うのは初めてですね。以後、お見知りおきを」

 

「は、はい・・・」

 

ネクサスたちはカズマたちに自己紹介をしたが、カズマの顔は全くすぐれなかった。というのも、先ほどからネクサスはカズマに対して誰でもわかるような強い警戒を示しているからだ。まるで鬼に睨まれているような感覚で、カズマは身が縮こまりそうな思いである。

 

「さて、あんたのことはあのバカ共の報告書で存じているさ。何でも裁判にかけられた2人を助けようとしたとか。アクセルの仮拠点のモンスターの相手もしたとか。何度も何度もあんたに助けられて世話になっているとか。その点については、団長として感謝している。ありがとう」

 

ネクサスはカズマに頭を下げて、感謝の意を示している。これはネクサスの本音であることがカテジナにはすぐわかった。が、すぐにネクサスは頭を上げて気を引き締め直した。

 

「・・・でだ。カズマさんや・・・あんたうちのバカ共とどういった関係だ?」

 

ぶっちゃけて言うが、ネクサスにとってこれが1番の本題となっている。一応は父親代わりとして大切に育ててきた娘たちが突然どこの馬の骨とも知らない男を連れてきたのが、ネクサスにとって気が気でないであろう。

 

「いや・・・あのですね・・・あの2人とはただの友人で・・・」

 

シュッ!!ザクッ!!!

 

「ひぃいいいいい!!?ナイフ!ナイフが飛んできた!!」

 

「あ・・・あ・・・あ・・・」

 

カズマの言葉を聞いて、ネクサスは有無を言わさずにナイフを投げつけた。そのナイフはアクアのチャームポイントの髪をかすらせて、壁に突き刺さった。突然ナイフが飛んできてアクアは騒ぎ出し、そのナイフに頬がかすったカズマはネクサスに対してさらに恐怖を募らせる。

 

「・・・・・・すまん。俺の聞き間違いか?もう1度言ってみてくれ。場合によっては・・・お前を殺す

 

「お、落ち着いてくださいネクサス様!!どうかここはお戯れを!!お戯れを!!」

 

他のナイフも取り出して明らかに怒りを示しているネクサスにカテジナは必死な思いで彼を落ち着かせる。カテジナはネクサスの怒りを必死になだめ、最後にはリラックスティーを出して、落ち着かせた。

 

「・・・すまん。少し冷静さを欠いてしまった。いやなに、あのバカ共にちょっかいを出しておきながら友人とかって白々しいことを抜かすもんでな」

 

(あいつら報告書にいったい何書きやがったぁ!!)

 

「申し訳ございません、カズマさん。リラックスティーです」

 

「あ、ありがとうございます・・・あ、そうだ・・・」

 

リラックスティーをもらったカズマは自分たちの荷物からアルカンレティアからのお土産、アルカン饅頭をネクサスたちに差し出す。

 

「これ・・・つまらないものですが・・・」

 

「・・・・・・気に使わなくてもよかったんだがな・・・まぁ、いただくとしよう。カテジナ、これに合う茶を出してくれ」

 

「畏まりました、ネクサス様」

 

「く、クラリッサ様・・・その役目は私が・・・」

 

「あなたはお客人なので手伝い無用です。それに・・・これはネクサス様よりいただいた指令。譲るわけにはいきません」

 

ダクネスがカテジナを手伝おうとしたが、カテジナはそれを許可しなかった。剣を教えてもらった師であるカテジナがこうしてネクサスに尽くしている姿を見て、ダクネスはネクサスがただものではないと感じ取った。

 

「でだ。話の続きだ。どうやらあんたらはバカ共と同じ屋敷に住んでるそうだな。同じ屋根の下で暮らすことは別に構わん。うちらとて、男女屋根の下で暮らしているわけだからな。ただ俺が言いたいのはな、あのバカ共と接するなら、もっと仲間として、紳士的で節度ある付き合いをしろってわけで・・・」

 

「いやすいません、何の話をしているのですか?あいつらとはただの友人であると何度も・・・」

 

「・・・・・・まだ言うか。あんなことをしておいて・・・」

 

本当に何を言っているのか理解していないカズマの言葉にネクサスはまたも怒りが込み上げてきた。

 

「ネクサス様、落ち着いてください。お饅頭と粗茶をどうぞ。カズマさんも」

 

「むっ・・・すまん」

 

「あ、ありがとうございます・・・。ち、ちなみに、さっきからあんなことと言ってますけど・・・あいつらの報告書になんて書いてあるか伺ってもいいですかね・・・?」

 

「「・・・・・・」」

 

双子の報告書に何と書いてあるのか尋ねたカズマにネクサスとカテジナは黙ってバーバラを見る。2人の視線に気づいたバーバラは懐から畳んであった双子の報告書を取り出し、ネクサスがカズマを警戒する理由を述べる。

 

「えー、これに書いてあったのは・・・カエルとミミズの口の中に放り込ませて、粘液まみれにさせたりとかー・・・アーちゃんのパンツを何の許可もなくスティールしたりとか・・・ティーちゃんがそこらに放り投げた古いブラジャーを持っておっぱいの成長を確認したりとか・・・2人がお風呂に入浴中の時に千里眼を使ってのぞこうとしたりとか・・・ペットのアレクサンダーにわざわざ高級大トロの刺身を使って、2人の新しい下着を盗ませてこようとしたりとか・・・いやー、君って本当に罪作りな男だねー」

 

「申し訳ございませえええええええええええええん!!!!!!!」

 

上げれば上げるほど、カズマのクズ行動が出てくる。改めて聞かされて、カテジナはクズを見るような目でカズマを睨み、ネクサスはどす黒いオーラを部屋中に充満する。いたたまれなくなったカズマは椅子から立ち上がり、机を割るような勢いで頭を下げ、必死な思いで土下座をする。

 

「・・・・・・そんなわけでな。俺としてはあんたみたいなクズでクソ変態野郎で態度が悪い非常識野蛮人を信用することが全くできない」

 

「・・・あの・・・そこまで言いますか・・・」

 

「ただ、人は見た目で判断しちゃいけねぇ。アクセルで活躍した偉業はもちろんのこと、あのバカ共は心の奥底からあんたを信用しているみたいだからな。だから、この記念祭の準備で、あんたのことを見極めさせてもらう。本当にあいつらにとって、相応しい人物かどうか、そして、俺たち盗賊団にとって信頼に値する人物かどうかをな」

 

「・・・はい、わかりました・・・」

 

完全に縮こまっているカズマはネクサスの言葉に賛同するしかできなかった。

 

「・・・まぁ、とはいえ、ここまで疲れただろう。宿の方はこちらの方で手配しておいた。今日はそこで休んで、明日この街を観光するといい。期限はまだある。1日くらい観光したって罰は当たらんさ」

 

「はい・・・そうさせていただきます・・・」

 

「話は以上だ。カテジナ、彼らを宿まで案内してやれ」

 

「承りました、ネクサス様。さあ、皆さん、どうぞ、こちらへ」

 

話が終わって、カズマたちはカテジナの案内に従い、ギルドから出て宿屋まで案内してもらう。とにかく話が終わって、般若のオーラに解放されて、カズマは若干ながら感涙を流しそうになっている。余談だが、双子はその間にかなり飲んで、もうべろべろの状態になっているのだとか。

 

 

ーあー、怖かった・・・ー

 

 

話が終わって、カズマたちは宿屋まで案内してもらっているのだが・・・カテジナがあまりにも無口で無表情、話しかけづらい雰囲気が漂っており、正直気まずさでいっぱいである。

 

(ね、ねぇカズマカズマ!あのカテジナって人、話しかけづらいんですけど!なんと言うか・・・話しかけてはいけないみたいな!そんなのを感じるんですけど!)

 

(わかる。ていうか・・・さっきの会話のこともあって、話しかけたら殺されそうだ・・・)

 

(ほとんどカズマに原因があるような気がしますが・・・2人の言いたいことはわかります。私のかっこいい自己紹介をとてつもない殺気で返したのはあの人が初めてですから・・・)

 

(お、おい!仮にも相手はカルヴァン家のご令嬢だぞ!失礼な発言は控えてくれ!)

 

貴族としての立場上でダクネスはカズマたちが失礼のないように注意を促す。

 

(しかし・・・やはりわからないな・・・クラリッサ様は王国の懐刀と呼ばれてもおかしくないほどの力量を持っているし、王国の人間もこの方を信頼している。それなのになぜ、王国には仕えず、盗賊団に仕えるのか・・・)

 

(直接聞けばいいだろ)

 

(いや・・・そうは言うがな・・・仮にもクラリッサ様は私の師だ。このようなことをプライベートで聞いてよいものか・・・)

 

「あの、先ほどから聞こえているのですが」

 

「「「ひぃ!!」」」

 

「も、申し訳ございません、クラリッサ様!!」

 

「そのクラリッサ様はやめてください。一応は身分は隠していますので」

 

カズマたちのこそこそ話を聞いていたカテジナはカズマたちに話しかけてきた。カズマたちは過剰に反応し、ダクネスは姿勢を正し、謝罪した。

 

「・・・なんてことはありません。ただ己の騎士道に従ったまで。だからこそネクサス様に仕えている、それだけです」

 

「き、騎士道に・・・?」

 

「ララティーナ、あなたもいつか理解できますよ。私の求める、騎士道というものを」

 

カテジナは自分が盗賊団に入った理由を語ったが、どういうことか全く理解できなかった。ただ、あとは自分たちで気づけと言われてるみたいで、カズマたちは深く聞くことはできなかった。

 

「さて、こちらが、アクアさんたちが泊まる宿になっております」

 

「やっと着いたー・・・」

 

「もうくたくたです。早く中に入って休みましょう」

 

「そうだな。ふー、暑かったぜー」

 

ようやくたどり着いたカズマたちは早く休もうと宿の中に入ろうとするが、カテジナはカズマだけを止める。

 

「あの・・・カテジナさん?どいていただけます?」

 

「申し訳ありませんが、カズマさんが泊まる宿はここではありません」

 

「え?」

 

「なので、あなただけはこの宿には入れません」

 

「な、納得できません!カズマは私たちの仲間ですよ⁉なぜカズマだけ中に入れないのですか⁉」

 

なぜカズマだけこの宿に泊まれないのかとめぐみんは異議を唱える。

 

「・・・宿の手配は全てネクサス様がいたしました。理由につきましてはネクサス様に直接お伺いしてもらえますか?」

 

「あー・・・あの人ですか・・・」

 

「もっとも、理由はご自身も大体察したようですが」

 

「・・・すいません」

 

宿の手配をしたのはネクサス本人だと知り、カズマだけハブられる理由を察しためぐみん。それによってカズマ自身も何も言えなくなる。

 

 

ーこのすば・・・ー

 

 

結局カズマはアクアたちといったん別れ、ネクサスが手配したという別の宿にカテジナに案内されることとなった。そしてちょうどその宿にたどり着いた。

 

「こちらがカズマさんが泊まる宿になっております。私は業務が残っておりますので、これにて失礼させていただきます。ご不明な点がございましたら、ここに泊まっている男衆にお聞きください。では」

 

カテジナはカズマに丁寧にお辞儀で挨拶をし、冒険者ギルドへと戻っていった。1人取り残されたカズマは1人寂しく、チェックインを済ませ、1人寂しく、用意された部屋のベッドに座り込む。

 

「・・・いや、おかしくね?俺、一応アヌビスに来たお客様だよ?なのにこの仕打ち・・・ひどくね?しかも、俺今日モグラに襲われたんだよ?そのトラウマを植え付けられた上に女っ気1つもない部屋。・・・俺の求めていた展開と違ああああああう!!!」

 

カズマはあまりの理不尽さに1人ぶつぶつと呟き、次にキレだして腰のちゅんちゅん丸を地面に叩きつけた。すぐに落ち着きを取り戻したが、その後涙を流すカズマ。

 

「ううぅ・・・アニメやゲームのような主人公なら・・・今頃女の子にモテモテになってもいいはずなのに・・・それが今1人って・・・辛い・・・辛すぎる・・・」

 

コンコンッ

 

これがゲームやアニメの甘い世界ではなく、厳しい現実なのであると目の当たりにし、カズマが涙を流していると、ノックの音が聞こえてきて、カズマが返事をする前に扉が開き、複数人の男が入ってきた。

 

「よっ!お勤めご苦労さん!」

 

『へへへへ』

 

入ってきた男のうちの1人、盗賊団員であるスティーヴとその他の男たちは気軽そうににこにこと笑顔を見せている。突然入ってきた知らない男たちを前にカズマは目をぱちくりさせる。

 

「あの・・・どなたですか?」

 

「おう!俺は盗賊団員のスティーヴってんだ。双子共の・・・まぁ、腐れ縁って奴だ。あんただろ?あの双子共に振り回されてるって男はさ」

 

「あ、はい。まぁ、あいつらだけに振り回されてるわけじゃないんですがね・・・」

 

「まぁでも、あいつらと付き合うと苦労するよな。わかるぜ、お前の気持ち。苦労人同士、仲良くやろうぜ?なぁ、お前ら」

 

『うんうん』

 

双子だけでなく、仲間たち全員に振り回されてるのを思い返し、カズマはさらに落ち込みを見せる。双子に振り回されたスティーヴを含む苦労人たちはそんなカズマの傷を癒そうと馴れ馴れしく接している。

 

「それにしてもリーダーも大人げねぇよなぁ。この場所に1人だけ泊まらせるってのは」

 

「従業員も泊ってる客も野郎ばっかだしなぁ」

 

「女なんて誰1人として来ない不人気の宿だしなぁ」

 

「う、ううううぅぅぅ・・・」

 

いらない情報ばかり聞かされて、カズマは本当に心がくじけそうになってくる。

 

「まぁそう気に病むなって。むしろ好都合と考えた方がいい」

 

「ぐすっ・・・好都合って・・・?」

 

男しか来ない宿で好都合という意味がよくわかってない様子のカズマ。首をかしげているカズマをよそに男たちは誰も聞こえないように扉を閉め、カズマの元へ近づく。

 

「・・・お前ってさ・・・アクセルの冒険者だよな?」

 

「それが?」

 

「・・・お前・・・サキュバスの店に興味ある?」

 

「詳しく」

 

サキュバスの店の名前が出た途端に急に決め顔になり、詳細を求めだしたカズマ。カズマのノリの良さに機嫌がよくなったスティーヴはカズマにこの街のサキュバスの店の詳しい説明をした。散々な目にあって心が病みかけていたカズマは躊躇うことなくサキュバスの店を利用したのだった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

その翌日、めぐみんたちはとりあえず双子とカズマと合流するために冒険者ギルドへと足を赴く。その道中、アクアは熱い熱いと嘆いているが、プールのためにひとまずは我慢している。

 

「おーい!こっちこっちー!」

 

たどり着いた冒険者ギルドの前では双子が待っていた。

 

「はよー・・」

 

「2人はここで寝てたんですよね」

 

「まぁね。久しぶりの部屋は快適だったよー」

 

「それはよかった。ところでアカメ、どうしたんだ?その・・・私の琴線がくすぐるような視線でティアを睨んでるが・・・」

 

「関係ないでしょこの【ピーーーッ】が」

 

「く・・・くうぅぅぅん!!///」

 

ティアは調子よさげの様子だが、アカメは何やら不機嫌そうな顔になっている。と、いうのも、久方ぶりに双子は1つのベッドで一緒に眠ったのだ。その際にティアの胸がアカメの背中に当たってしまい、自分との格差でイラつきなかなか眠れなかったのだ。

 

「それはそうと、今日は私たちがこの街を案内するよ。みんな、この街をよく知らないでしょ?」

 

「お、おお・・・それはありがたい。この街には以前から興味はあったんだ」

 

「しかし、カズマをよく思ってないあの人がよく許可を出ましたね」

 

「お頭の許可なんていらないわよ。私たちが勝手に決めたことだし」

 

「まぁ、話を聞いてたのかお頭は終始嫌そうな顔してたけどね」

 

「まぁあの人カズマさんのこと信用してなかったみたいだし」

 

観光案内を自ら名乗り出た双子の判断に嫌そうな顔をするネクサスの顔が容易に浮かび上がっためぐみんとダクネスは苦笑いを浮かべる。

 

「つか、その肝心のカズマはまだのようだけど?」

 

「一応はここで待ち合わせしようとは言ったのですけど・・・」

 

「カズマのことだから昨日のことでいじけてんじゃ・・・」

 

「おーい!!待たせたなー!!」

 

まだここにいないカズマの話が出た途端、その本人がタイミングよくやってきた。それ自体はまぁいいのだが・・・アクアたちが気になったのはカズマがやたらと上機嫌で肌が潤っているように見えたことだ。

 

「お、おはようございます、カズマ・・・」

 

「な、なんかやけにご機嫌ね。何かあったのかしら?」

 

「なんてことないさ♪ただ宿が快適だったってだけ♪」

 

「そ、それならいいんだが・・・」

 

予想とは裏腹にやたら機嫌がいいカズマにアクアたちは戸惑い気味だ。それもそのはずだ。昨日カズマはスティーヴ達と一緒にサキュバスの店を利用し、いい夢を見たのだから。しかも、この街にいる間は毎日利用するつもりだからなおさらだ。

 

「お、男だけの宿で、やたらとご機嫌?モグラにやられた影響かな?」

 

「違うと思うわ・・・。滅茶苦茶怪しいわね・・・」

 

あそこが男だけしか泊まらない宿だというのを知っている双子はカズマの機嫌のよさには怪しんでいる。

 

「それより、アカメとティアがこの街を案内してくれるのかい?」

 

「え、ええ・・・」

 

「じゃあ、よろしく頼むよ♪」

 

にこやかに微笑んでいるカズマに女性陣はいつものカズマじゃないように見えて気持ち悪いと感じたのであった。

 

 

ー素晴らしき朝に、乾杯(イケボ)ー

 

 

双子の案内によって、カズマたちのアヌビスの観光が始まった。まず最初に双子が案内するのは絶景スポットである。こんな砂しかない砂漠で絶景なんてあるのかと怪しむカズマだが、その考えはすぐに変わった。

 

「さ、着いたわよ。あれが世にも珍しい盗賊王の墓とも言われてるピラミッドよ」

 

双子に案内された高台からは砂漠の中に黄金に輝いているピラミッドが見えた。

 

「おおお!!すげぇ!!本物のピラミッドだ!!これぞまさにファンタジー!!」

 

「カズマさんカズマさん!あのピラミッド、全部金でできてるわよ、金!!」

 

「すごいな・・・なんという神々しいピラミッドだ」

 

ピラミッドの作りが見事という感想もあれば、見事に金でできてることに興奮してる感想もあるが、ピラミッドの存在が見事すぎて興奮するカズマたち。

 

「大昔、世界の全てにその存在を轟かせたという盗賊王。その剣筋は邪を払い、魔族を恐れひれ伏させ、手に入れられぬ財宝はなしといわれているらしいよ」

 

「な、なんですかその明言は⁉紅魔族の琴線にものすごく刺激されますよそれ!」

 

大昔に存在したといわれている盗賊王のキャッチフレーズに紅魔族の琴線が刺激されためぐみんが目をきらめかせている。

 

「しかし、本当に見事なつくりだなぁ。もしかして、このピラミッドの中に盗賊王の財宝があるーとか噂しそうだな・・・」

 

「あるわよ。あの中に財宝が実際に」

 

「マジで!!?」

 

ほんの冗談のつもりで言ったカズマだが、まさか本当に中に財宝があるとは思わなかったカズマは驚愕する。それによってアクアの目も変わってきた。

 

「でも中に入るのはお勧めはしないわ」

 

「う・・・そりゃそうだよな・・・大事な観光スポットだし・・・」

 

「違う違う、中に入らないのはあのピラミッド自体が最高難易度のダンジョンだからだよ。中に入る奴といえば、財宝目当ての奴か腕によっぽど自信のある奴くらいだよ」

 

「・・・なんでそんなとこを観光名所にするんだよ・・・」

 

別段大事にしてるというわけでなく、ただ見栄えの良さだけで危険なダンジョンを観光名所としているアヌビスの街の住人たちにカズマは頭おかしいのではないかと考える。

 

「それにね、あのピラミッドには・・・いるんだよ・・・モンスターと化した、本物の、盗賊王が」

 

「は?本物?」

 

あのピラミッドに本物の盗賊王がいると聞いて、カズマたちは首をかしげる。

 

「盗賊王はとんでもなく財宝にがめついらしくてね。死んだ後も財宝の未練ですぐにモンスターとなって復活したらしいわよ。で、復活してすぐに財宝を守るためにあのピラミッドが作られたってさ。その証拠に、あのピラミッド、金でできてるでしょ?あれ全部盗賊王の好みなんだと」

 

「前にあそこに挑んだ歴戦の冒険者もあそこだけは攻略できなかったみたいなんだよね。住み着いてるアンデッドもやたらと強いし、盗賊王自身も人間だった頃よりもずっと強いらしいし」

 

「しかも、大昔にあった不死と災いを司る邪神を奉るクソマイナー宗教の信者らしくて、その力で毎度毎度復活するらしいのよね。その度に手に入れてきた財宝が少しずつなくなってるらしいから、怒り狂って冒険者を全員殺してきたそうよ」

 

盗賊王の財宝に対する執念、残虐性、恐ろしいほどの強さ、そして何度でも復活する能力を聞いたカズマたちはその説明で顔を青ざめている。いや、ダクネスだけは悶々と葛藤しているようだが。

 

「と・・・ということは・・・盗賊王は財宝がある限り死なないってことですか・・・?」

 

「財宝に限らず、思い出の品なら復活するらしいけど・・・」

 

「ま、盗賊王にとって1番思い出のあるものっていったら財宝よね、やっぱ」

 

「そんなのを放置しておいてよくこの街は無事だったな・・・」

 

「話によると盗賊王が殺すのは自分の命を狙う奴と財宝目的の奴だけだって。それ以外に眼中にないからあそこから出ないんだって」

 

「まぁ、あいつの性格に救われてるって感じね」

 

双子は盗賊王の性格に少し苦笑いしている。余談ではあるのだが、盗賊王の崇拝している邪神の宗教は異世界で今も存在しており、はた迷惑な司教がその力を振りまいてるとかどうとか。

 

「・・・て、ダクネスどうした?」

 

「い、いや・・・伝説の盗賊王の剣の一撃・・・それを食らったら、どれほど気持ちいだろうなって・・・」

 

「今気持ちいいだろうって言ったか?」

 

「言ってない」

 

どこまでも平常運転なダクネスさんであった。

 

 

ーさ、次行くわよー

 

 

双子たちが次に案内したのは娯楽スポット。アヌビスには娯楽施設が多数あるので、全部を案内することはできない。ゆえに、1番人気のスポットをカズマたちに紹介する。

 

「このアヌビスで1番の娯楽スポットっていえば、やっぱりこの闘技場よね」

 

『わああああああああああ!!!!!』

 

『おおおいけええええええ!!!!!』

 

「わー、今日も賑わってるね。さすがアヌビスの闘技場だね、うんうん」

 

まだ中に入っていないが、外からでも大歓声が案内された闘技場の会場から聞こえてきた。

 

「すごい歓声だな・・・。何をやってるんだ?」

 

「この闘技場ではいろいろやってるわよ。大食い大会にマジックショー、スポーツ大会にさらに走り鷹鳶ダービー」

 

「それでも1番頻繁に行われてるのは誰が1番強いかを決める闘技大会だね。今は記念祭が近いから別の大会を開いているけど、あの白熱っぷりは誰が見ても大興奮間違いなしだよ」

 

「そうか、それはぜひとも見てみたかったものだな」

 

闘技場内を案内しながら嬉々として語る双子の話を聞いて、ダクネスは1度は見物してみたいと言い出した。尤も、カズマやアクアは闘技場での戦いにはあまり興味なさそうだが。

 

「中でも現チャンピオングレート・ゴンザレスの戦いっぷりはだけどすごいんだから!」

 

「グレート・ゴンザレスとは何ですか?」

 

「闘技大会でチャンピオンに君臨してる配管工よ。冒険者じゃないみたいだけど、やたら強くて誰も勝てた試しがないみたいよ」

 

「配管工が冒険者たちに勝つ⁉何かの間違いなのではないか⁉」

 

「いや、本当に勝っちゃうんだよ。地獄の処刑人グレート・ゴンザレスの試合を見れば嘘を言ってないのはわかるって!」

 

冒険者に勝ってしまうほどの実力を持つ配管工の男、グレート・ゴンザレスにめぐみんとダクネスは驚愕しつつ、事実を疑っている。

 

「なんか・・・グレート・ゴンザレスって聞いたことあるんだが・・・」

 

「あら奇遇ね。私もなんか聞いたことがあるのよ。どうしてかしら?」

 

カズマとアクアはグレート・ゴンザレスの名に聞き覚えがあるようで、それがなぜなのかというのを疑問を抱いていた。

 

「ちなみにグレート・ゴンザレスはほら、あそこのポスターの男がそうだよ」

 

「「!!???」」

 

グレート・ゴンザレスが載ってあるポスターを見て、カズマとアクアはぎょっとし、驚愕した。グレート・ゴンザレスの見た目は赤い服に青いオーバーオール、Mと書かれた赤い帽子に特徴のある丸い鼻や髭を持ち合わせた某ゲームに登場する男とそっくりであったのだ。

 

「これがグレート・ゴンザレスか?」

 

「なんだか、全然印象に残らない髭男ですね」

 

「でも愛嬌はあるわよ、髭男のくせに」

 

「それになぜか最初っから人気者なんだよねー」

 

それさえも知らないめぐみんたちはグレート・ゴンザレス印象や、カリスマ性の有無を話し合っている。

 

(なあ・・・あれってどう見てもマ○オだよな?なんでこの世界にいんの?おかしいだろ。世界観とち狂ってんのか)

 

(い、いや・・・そんなはずはないはずよ?だってこれ、ゲームでしか登場しないはずなのに・・・)

 

グレート・ゴンザレスの見た目を知っているカズマとアクアはどういうことなのかと首を捻らせて考えている。するとアクアはあっ・・・と思い出した表情になる。

 

「そ・・・そういえば・・・前に他の転生者をここに送る時、転生特典として、見た目をマ○オにしてくれって・・・言われたような・・・」

 

「・・・お前が原因じゃねぇかあああああああああ!!!!!」

 

グレート・ゴンザレスという存在が現れた原因はアクアにあったということを知り、カズマは叫ばずにはいられなかった。

 

 

ーさあさあ、次どんどん行くよー。ー

 

 

闘技場の走り鷹鳶ダービーをちょこっと覗いてから次なるスポットへと向かっていく。次なるスポットは記念祭の準備をしている広間であった。

 

「この広間はね、毎日行商人が来るから毎日がバザーデイよ」

 

「今は記念祭の準備のおかげで別の場所でやってるけど、本番になったらきっと今以上に賑わうだろうね」

 

双子の言うとおり、今は記念祭の準備をしている人間は多いが、少なからず行商人は準備の邪魔にならない場所で行っていた。カズマたちがこんな熱い中でも切磋琢磨に働いている街の人間たちを見て感心していると、広間の中央に剣を天に掲げた男の像が建っている

 

「おお、なんと猛々しい像なんだ・・・」

 

「ああ、それ、なんか神様の像らしいよ、それ。確か・・・炎を司る男神だったっけ?」

 

「炎を司る男神・・・?ひょっとするとそれは、男神ホムラのことか?」

 

「ホムラ・・・?そんな名前の神様、初めて聞きました」

 

「なんだその男神ホムラってのは?」

 

男の像が炎を司る男神であると聞いた途端、ダクネスは思い当たる神の名を口にした。当然他の神のことについて知らないカズマは男神ホムラについて尋ねてきた。

 

「私も詳しいことは知らないのだが、どうやらエリス様、女神アクアと同等の力を持つ神様らしいのだ。お父様の話によれば、エリス様と女神アクアの先輩らしいぞ」

 

「えっ⁉マジで⁉」

 

「あー・・・確かそんなこと言ってたような、言ってなかったような・・・言ってたかしら?」

 

男神ホムラが女神エリスとアクアの先輩だと聞いて、カズマは少なからず驚いていた。

 

「神様っていう割には、かなり知名度は低いようなのですが・・・」

 

「それは多分、男神ホムラ?は宗教が存在しないからじゃないかな?ほら、女神エリスにはエリス教、女神アクアにはアクシズ教があるけど、男神ホムラ?を崇拝する宗教は今まで1個も聞いたことないし」

 

「男神ホムラはそれを必要としないと聞いたことがある。男神ホムラは我々冒険者の闘争心がそのまま力になるとかどうとか・・・。まだわかっていないことが多すぎるが・・・」

 

男神ホムラはこの世界ではあまり浸透しておらず、詳しい詳細も全く分かっていないようなのだ。その証拠に、周りは神の像を前にしても、崇め奉る人間は誰1人としていない。ただ綺麗な状態を保っていることから手入れだけは行き届いているようだ。

 

「ま、こんな意味不明な神様なんざどうだっていいわ。興味もないし」

 

「おい、仮にも神の像の前なんだ。そんな罰当たりな発言は慎んでほしい」

 

双子たちは全く気にした素振りを見せないが、アクアと女神のエリスの先輩というのがどんな人物像なのか気になり始めるカズマ。

 

「なあアクア、この男神像なんだけど・・・アクア?」

 

「・・・・・・」サァー・・・

 

男神ホムラについて尋ねようと思ったら、アクアの顔がやたらと顔が血の気が引いていくように青くなっている。

 

「アクア?どうした?」

 

「アクア、どうかしましたか?」

 

「おーい、アクアー?アクアさーん?聞こえてるー?」

 

「・・・・・・」ガクガクガクッ・・・

 

「お、おい・・・何か様子が変じゃねぇか?」

 

アクアは先ほどから目の前にある男神ホムラの像を見て、ガクガクと震えている。よく見てみると、冷や汗もだらだらと流れていた。その姿にはカズマたちは戸惑っている。

 

「ちょっと・・・いい加減反応しないとその腕・・・」

 

「!!ひ、ひいぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

「「「「!!??」」」」

 

「あ、アクア?」

 

何にも反応を示さないアカメが腕の単語が出た瞬間、これまでにない尋常でないくらいの悲鳴を上げている。

 

「ちょ、ちょっとアクア⁉落ち着いてください!!」

 

「いや・・・いやぁ!!!もう腕立て1億回は嫌なの!!もう、あのスパルタ教育は嫌なのよぉ!!!」

 

「一体何の話だ⁉いいから落ち着け!!」

 

「すみません、すみません、ホムラ先輩・・・もう許してください・・・。あのスパルタ教育は耐えられませんからぁ・・・」ガクガクガクガク・・・

 

この世界で様々なトラウマを植え付けられてきたアクアであったが、それ以前に天界で男神ホムラにスパルタ教育という名のトラウマをひどく植え付けられていたようだ。

 

(男神ホムラ・・・マジで何者なんだよ!!?)

 

ここまで怯え切っているアクアを見て、カズマは男神ホムラを知りたいような知りたくないような、そんな複雑な思いを抱えるであった。

 

 

ーこのしゅばぁ~・・・ー

 

 

いったん広間を後にし、この街の飲食店でアクアを休ませるついでに昼食をとった。食事を済ませ、アクアも落ち着きを取り戻したところで観光再開・・・の前に双子が記念祭で使う服の採寸をするためにちょうど開店時間になった服屋に寄ることになった。

 

「あ?なんだ、お前らもここに来てたのか」

 

目的の服屋の中に入ると、そこにはマホがいた。

 

「あれ?マホ、こんなところで何してんだ?」

 

「マントが古くなってきたんで新しいのを買おうと思ってたんだけどよ・・・肝心の店主がいないんだよな」

 

辺りを見回してみると、マホの言うとおり、店主と呼べる人物がいなかった。だが、双子はこの店の店主の性格をよく知っている。

 

「ねぇちょっと、いるのはわかってるんだから出てきなよ」

 

ティアが呼びかけるとそれに応じるように奥の部屋のカーテンが開かれた。そして、部屋からいくつもの花びらが舞い散る。

 

「な、なんだ⁉」

 

「・・・第一印象に気を遣う・・・」

 

「それが美しい男のたしなみ・・・」

 

まるで自分たちを魅せるように出てきたのは、少し小太りしている男と、やたらとイケメンで高身長な男であった。

 

「相変わらずね、あんたたち」

 

「あら、いらっしゃい双子ちゃん。帰ってきてたのね」

 

(!!?その、喋り方・・・この人オネェかよ!!?)

 

小太りな男の似合わないオネェ口調に嫌に寒気が出る。すると、イケメンの男はカズマに気づいた。

 

「あーら、見るからに冴えなくてパッとしない見た目だけど・・・なかなかいい男じゃない」

 

(この人もかよ!!?)

 

このイケメンの男も小太りの男と同じ喋り方をしている。

 

「紹介するよ。ここは鍛冶屋と服屋を合わせてる店で、鍛冶担当のイッテツと仕立て屋担当のルーク」

 

「性格は見てのとおりよ」

 

「初めまして。鍛冶を担当してる、ドワーフのイッテツよ。武具のことなら、あたしにお任せ♡仲良くしてね♡特にそこのお兄さん♡」

 

「あたしは服屋を担当してる、エルフのルークよ。ファッションでお困りなら、あたしが磨いてあげる。よろしくね、そこのお兄さん♡」

 

(なんか初対面で気に入られてるんですが・・・)

 

初対面でありながらいきなりカズマを気に入っているエルフルークとドワーフイッテツのオネエコンビにカズマは先とは比べ物にならない寒気を生じる。少しフリーズしかけているカズマに代わり、ダクネスが対応する。

 

「よ、よろしく・・・。ところで、2人はエルフとドワーフと言っていたな。なんというか・・・仲がいいのだな。てっきりエルフとドワーフは仲が悪いというのが印象的なのだが・・・」

 

「あらやだ!あなたまでそういう口?」

 

「いやーねー、そんな古い臭い風習」

 

「ふ、古い・・・?」

 

エルフとドワーフは仲が悪い。それはRPGではよくあることだが、この2人はそうではない。というか2人とも、エルフとドワーフらしくないのだ。

 

「先に言っておくけど、あたしは耳は丸っこいけど、本物のエルフよ。嘘だと思うなら触ってもいいわよ、耳」

 

ルークに耳を差し出され、言われた通りにルークのエルフらしくない耳を触ってみるカズマ。触った感触からして、本物であるのがわかった。

 

「森で暮らすエルフはそりゃ人と交わらないから耳は長いけどね、ここみたいに人と交わって暮らすとどうやったって血が混ざっちゃうのよ。それでこの耳になるわけ。それを知らない人が多いんだけど、それでがっかりされちゃうの。失礼な話でしょ?」

 

「あたしも衛生面の話なんだけど、知り合いの中に土産物屋を扱ってる子がいるんだけど、その子、食事を作ったりしちゃうのよ。で、その食事に髭が入ってたら嫌でしょ?だからドワーフのみんなは髭を剃ったりしてるの。世間ではエルフとドワーフは仲が悪いって話だけど、そんな話はナンセンスだわ!だからその噂を覆そうって思って、あたしとルークはこうやって一緒に働いてるってわけ」

 

「・・・なんか夢が一気にぶち壊された気分です・・・」

 

エルフとドワーフは仲が悪いという噂を信じていたカズマたちは非常にがっかりした顔になっている。この中でまともそうなのは双子とそもそも話に興味がないアクアだけである。

 

「あら?もしかして今までそんな話信じてたの?嫌な偏見ね!」

 

「思い込みはダメよー?不器用なドワーフもいれば、弓も下手くそなエルフもいるんだから」

 

「・・・本当、この世界嫌い」

 

元からこの世界に嫌気がさしているカズマであるが、この事実によってさらに嫌気が増すのであった。

 

「まぁ・・・そんな夢のない話は置いといて・・・話は聞いてるよね。記念祭で使う巫女服の採寸をしてほしいんだ。私たち2人だけなんだよね?まだ完成できてないの」

 

「あー、はいはい、わかってるわよ。記念祭の服の採寸、及び服の制作、それが頼まれたことよね。うっふふふふ、デザイナーの血が騒ぐわぁ」

 

ティアが本題に切り替えた瞬間、ルークの目がデザイナーとしての目に変わった。

 

「こうしちゃいられないわ!!早速始めましょう!!すぐに始めましょう!!もう・・・もうね・・・昨日から服が作りたくて作りたくて作りたくて・・・体の奥底が・・・むらむらしてしょうがないのよぉ!!!」

 

『ひぃっ!!?』

 

そして、途端にルークが興奮状態になり始め、その光景を見たカズマたち、オネェコンビを知っている双子もすごい寒気を感じた。そして・・・寒気を感じた瞬間、双子はすぐさま逃げ出した。

 

「あっ!逃げた!!」

 

「逃がさないわよぉ♡」

 

ポチッ

 

バシュッ!

 

「「わあああああ!!?」」

 

ルークが手元にあったボタンを押した瞬間、出口の真上に縄が出現し、双子はあっさりと捕まってしまった。

 

「さあさあ、時間は有限♡ちゃちゃっと採寸しちゃいましょ。あなたたちってどれだけ大きくなったのかしら?服の作り甲斐があるわぁ~♡」

 

「ねぇちょっと!!本当にサイズ図るだけで済むのよね!!変なとこ触ったら、ぶっ殺すわよ!!おい!!聞いてんの!!?」

 

「ちょ、ちょっと、みんな助けて!!このままじゃ私、おかしくなっちゃう!!せめて私だけでも助けて!!」

 

「ダメよ~、あなたたちってスリーサイズは違うもの♡服を完璧にするためには・・・そこも・・・調べて、あ・げ・る♡」

 

「「いやあああああああああ!!!!」」

 

双子は縄から脱出しようとするが、それも虚しく、ルークによって奥の部屋に連れていかれてしまうのだった。この場に残ったのは、イッテツとカズマたちのみとなった。

 

「い・・・行っちゃったわね・・・」

 

「うふふ、ルークってば、本当、しょうがないわねぇ」

 

「なんか・・・濃すぎる人ですね、あの人・・・」

 

「濃いなんてレベルじゃねぇと思うがな・・・」

 

「・・・いいなぁ・・・」

 

「今いいなぁって言ったか?」

 

「言ってない」

 

取り残されたカズマたちはただ唖然としつつ、標的が自分たちに向けられなくて内心ほっとしている。ダクネスだけは心の本音は違うようだが、それにはカズマはジト目でそんな彼女を見つめた。

 

「「あーーーーれーーーーーーーーー!!!!」」

 

『!!?』

 

「ふふふ、ルークったら、張り切っちゃって・・・本当、漢臭いわぁ♡」

 

(一体中で何が起こってやがんだぁ!!?)

 

部屋の奥から双子の悲痛な叫び声が聞こえて、何が起こってるよりも先に、カズマたちは恐怖で震えるほかなかった。マホは中で何が起こっているのか、気になってしょうがなかったが、やはり恐れがあって聞くことができなかった。

 

 

ーうっふん♡ー

 

 

服の採寸の間、カズマたちはマホのマント購入に付き合い、ついでに服や防具を見て回って時間を潰して双子の戻りを待った。戻ってきた頃には双子は何やら生気を失った状態で戻ってきたのだ。何があったのか聞きたかったが、恐ろしくて聞けなかったそうな。そんな抜け殻状態になりかけの双子はふらふらの状態ながらも、カズマたちを飲食店に連れて行き、名物の灼熱スープを飲み、落ち着きを取り戻す。

 

「・・・ふぅ・・・やっと落ち着いたわ・・・」

 

「もうあんなのはこりごりだよ・・・」

 

「おお、正気に戻ったか・・・懺悔を言い始めた時はどうしようかと思ったぞ」

 

双子が生気を取り戻したことで一同は安堵する。

 

「迷惑をかけたわね。詫びと言っては何だけど、ここで好きなものを好きなだけ注文していいわよ。奢ってやるわ」

 

「本当⁉何よー、2人にしては気が利くじゃないー。すいませーん!!こっちにシュワシュワ1杯ちょうだーい!!」

 

「お前はちょっと遠慮しろよ」

 

アカメの口から奢りと聞いて、アクアは遠慮なしに自分の分を注文し始める。

 

「まぁ、せっかくだ。ここはお言葉に甘えてもいいじゃねぇか?」

 

「んー・・・そうだな。こいつの口から奢りなんて滅多にないしな」

 

「ところでどうしてマホまで来ているのですか?」

 

「あのままこいつら放っておいたら後味が悪すぎだろ」

 

マホはあまりにも死んだような雰囲気を出していた双子を放っておくことができずについてきたらしい。

 

「なら、私はここの名産品をいただこうか」

 

「オレもそれでいいか」

 

「では私も。ここの名物とは何ですか?」

 

「ここの名産品といえる郷土料理はやっぱり灼熱スープだね。程よいあったかさと、ペッパーとスパイスの味がスープとマッチしていて、これがおいしいんだよね」

 

「へぇ・・・」

 

「ただ・・・」

 

「そんなにおいしいの?ちょっと一口ちょうだい」

 

灼熱スープの説明をし終える前にアクアがアカメの灼熱スープを飲んだ。そして、その瞬間、アクアは顔が真っ赤になり・・・

 

からあああああああああああああああああ!!!????

 

口から実際に火を吐いて見せて、悶え始めて地面をじたばたする。

 

「灼熱の名の通り、すごい辛いから普通の人が食べたらあんな感じになるよ」

 

「ちなみに、私が注文したのはその灼熱スープの中で地獄の激辛よ。辛さに慣れてない奴が食べるとすぐ死ぬわよ」

 

ふぁふぁふふいふぁふぁふぃふぉ(はやくいいなさいよ)!!!!」

 

「何言ってるかわからないわよ」

 

「話を最後まで聞かないからだろ駄女神」

 

説明を最後まで聞かずにスープを飲んだアクアの口は腫れ上がっている。

 

「さ、さすがにあれを飲むのはちょっと・・・」

 

「オレも遠慮するわ・・・」

 

「ああ・・・私も胃は丈夫だが・・・私の求める痛みとは違うな・・・」

 

「おいしいのにな・・・」

 

アクアの惨状を見た後でめぐみんとダクネスは少しためらってしまい、灼熱スープを注文するのをやめた。ティアはもったいないといわんばかりの顔で灼熱スープのキャベツをぶっ刺し、それを口に運んだ。

 

「あれ?先輩?」

 

カズマたちが注文を悩み、双子の食事が進んでいると、誰かに声をかけられた。振り返ってみると、そこには3人組の美少女がいた。

 

「アルカ、イム、ツバサ」

 

「やあ、久しぶりだね、3人とも」

 

案の定双子の知り合いのようで双子は気軽に美少女コンビに挨拶をした。

 

「やっぱ先輩らやーん!久しぶりやなー!」

 

「お変わりなくて、なによりどすわぁ」

 

「先輩、おかえりなさい!」

 

美少女コンビは久しぶりに双子に会うことができてうれしそうな顔つきになっている。

 

「この3人は2人の知り合いか?」

 

「ええ。こいつらは訓練生時代の後輩たちよ」

 

「3人とも、こっちが今私たちのチームメイトだよ」

 

「オレは違うけどな」

 

「初めましてー!うち、イムいうねん!先輩らがお世話になったようで!」

 

「ようおこしやすー。うち、アルカ言います。以後よろしゅうに」

 

「は、初めまして。ボク、ツバサといいます。ようこそ、アヌビスへ」

 

双子の紹介で自己紹介を始める美少女コンビ。黒髪のお団子ヘアスタイルがアルカ、茶髪のツインテールがイム、茶髪のショートカットがツバサである。

 

「なんか変わった喋り方ですね」

 

「あんたらもそう思う?絶対変よね、こいつらの喋り方」

 

「せやろか?うちはそうでもないと思うんやけど」

 

「こういうのは慣れが大切なんやでぇ」

 

「そういうもの?」

 

めぐみんたちが気になっているのはイムとアルカの喋り方である。訓練時代一緒にいた双子でさえ、2人の喋り方には変だと思い込んでいる。

 

(なぁあれって、どう聞いても関西弁だよな?しかも片方は京都弁。あの子たちも転生者か?)

 

(う~ん・・・この世界に送った人間は何人もいるから覚えてないけど・・・少なくともあの2人はリストには載ってなかったわねぇ・・・)

 

(てことは父親か母親がそうだってことか?つーか・・・てめぇこの世界に何人送りやがったんだよこのクソ女神)

 

アルカとイムの喋り方が関西弁だとわかっている日本転生組はアクアの話を聞いて、父親か母親の影響なのであろうと想像がついた。

 

「あ、あの!あなたって・・・先輩の報告書にあったサトウカズマさんですよね!」

 

「はい、カズマですが、何か?」

 

ひそひそと話していると、ツバサがカズマに声をかけてきた。声をかけたツバサは何やらもじもじした様子だ。

 

「えと・・・あの・・・ボク・・・ボク・・・」

 

「どしたんや、ツバサ?」

 

「お腹でも崩しはりましたか?」

 

もじもじしたツバサは意を決してカズマにある衝撃発言をする。

 

「ボク!!先輩の報告書を読んでから、カズマさんの大ファンです!!!握手してください!!!」

 

「「「「はああ!!!???」」」」

 

「「ぶーーー!!!???」」

 

ツバサのカズマファン発言にアクアたちは驚愕し、双子も飲んでいたスープを噴出した。そしてファンと告げられたカズマは・・・

 

「・・・モテ期、入りました」

 

ものすごくまんざらでもない顔になっている。

 

「待ちなさいツバサ!あんた、本気で言ってる!!?こんな奴のファンになったってあんた正気!!?」

 

「そうだよ!!だいたい・・・こんなクズで変態でヘタレ小僧のカズマにどこにファンになる要素があるの!!?」

 

「そうよそうよ!!世間ではクズマやカスマなんてあだ名で呼ばれてる人よ!!?」

 

「だ、だいたい、あなたと私たちは初対面じゃないですか!!?それがどうしてカズマのファンになるのですか!!?」

 

「そうだ!大体お前は、これがどういう人間かわかっているのか!!?」

 

「嬢ちゃん・・・悪いことは言わないからこいつはやめとけ」

 

「おうお前ら好き放題言いやがって。後で覚えてろ」

 

当然ながら納得のいかない双子たちは好き放題言い放っている。

 

「まぁまぁまぁ、先輩ら、落ちつきぃや」

 

「それで、ツバサ、どうしてこの人にファンになったんや?」

 

取り乱している双子たちをイムが何とかなだめながらアルカがどうしてファンになったのかと理由を問う。

 

「えっと・・・カズマさんは・・・いろんなスキルを器用に使いこなしてみせて・・・とても・・・男らしくて・・・いけないことでも堂々と行動してて・・・ボクにはできないことをやって見せてるんです・・・。報告書で見ただけですが・・・そんなボクにはできないことをやり遂げるカズマさんを・・・すごく尊敬してるんです!!」

 

「おいお前・・・何嬢ちゃんに悪影響を与えてんだよ・・・嫌な部分に憧れちまってるじゃねぇか」

 

「いやあの・・・すいません・・・まさかそんな部分を憧れるなんて思いもよらないし、こいつらの報告書を読んでたなんて思わなくて・・・というか・・・そんな部分を憧れてもちっともうれしくないんですが・・・」

 

報告書というのはバーバラがカズマたちの目の前で読んだものでそれのアウトな部分を読んで尊敬してしまっているツバサを思い、マホはカズマの胸倉を掴み、殴りかかろうとしている。カズマ自身も若干アウトな部分を尊敬されて、申し訳なさそうにしている。

 

「はぁ・・・でも納得したよ。ツバサって誰よりも男らしさを求めてるからね」

 

「それが例え、クズの変態行為だったとしてもね。本当、こいつが変態にならないか心配だわ」

 

一応はファンになる要素を納得した双子は本気でツバサを心配している。が、アクアたちは未だに納得していない。

 

「ちょっと!!何2人で納得しちゃってるの!!?」

 

「そうですよ!!一大事ですよ一大事!!」

 

「だいたい、男らしさとは言うが、なぜ女性のこの子が・・・」

 

ダクネスの女性という単語を聞いて、双子、イム、アルカは首をかしげる。

 

「女性?あんた何言うてますの?」

 

「いややわぁ・・・おもんない冗談ですわ」

 

「いや冗談ではなくてだな・・・」

 

「そっか、みんなは知らないんだったね。じゃあしょうがないか」

 

ダクネスたちの反応を見て、双子はなるほどみたいな顔になった。そして・・・アカメが口を開く。

 

「あのね・・・こいつはね・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女じゃなくて、男なのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカメの発言で、アクアたちは石のように固まった。カズマを殴ろうとしたマホも、そしてカズマ自身も。

 

「・・・え・・・今・・・なんと・・・?」

 

「私の耳には・・・その子が男って聞こえたんですけど・・・」

 

「そうだよ、ツバサは女の子じゃなくて、男の娘だよ」

 

きっと聞き間違いだと思って聞き直しためぐみんたちだが、現実は一切変わらなかった。

 

「し、信じられるか!いつものお前たちの質の悪い冗談に決まって・・・」

 

「私は嘘つきでも、こんなアホくさいことで嘘なんかつかないわよ。証拠を見せましょうか?証拠を」

 

「け、結構だ!!どうせろくでもないことになるに決まってる!!」

 

アカメはツバサが男だという証拠を見せようとしたが、ダクネスが顔を赤くして拒否した。

 

「あ・・・あのぅ・・・ボクは・・・男です」

 

「体つきを見ればわかるやんな」

 

「いや、うちは最初はわからなかったどすが?」

 

本人自身も恥ずかしそうにそう言っていることと、イムとアルカの発言で、嘘ではなく本当に男であるというのは事実のようだ。

 

「・・・負けた!!!」

 

「ええ・・・女としていろいろ負けました・・・」

 

「いるのだな・・・女らしい男というのは・・・。女としては複雑だ・・・」

 

ツバサは男だとは思えないほどの女性らしい顔立ちゆえに、女であるめぐみんたちは、女として敗北感を味合わずにはいられなかった。

 

「・・・はっ!待てよ・・・こいつが男ってことは・・・カズマは・・・男のファンを・・・」

 

「・・・・・・」ぷるぷるぷる・・・

 

女だと思っていた相手が男だとわかったカズマは本当にぷるぷると震えている。しかも、涙も浮かべている。それもそうだ。この世界に、この街にやってきてエリスと同等の第2のヒロイン、本当の癒しになるだろうと思っていたのに、ふたを開けてみれば、実は男であって、ヒロインの可能性は一気になくなってしまったのだ。顔立ちがかわいいため、ショックもかなり大きいだろう。

 

「・・・その・・・悪かったな、変な言いがかりつけちまって。で、でもよかったじゃねぇか!ファンになってくれる奴はちゃんといたんだぞ?それはあいつの眼差しを見ればわかるだろ?」

 

マホは謝罪しながらカズマにフォローを入れるが、男だと知った今となってはもうすべて手遅れ。ツバサに尊敬の眼差しを送られても、心には全く響かなかった。

 

「・・・ああああああああああ!!!!!ちくしょうめええええええええええええええええええ!!!!!!!

 

カズマはあまりの無情な現実に血涙を流したのであった。




カズマ「はぁ・・・まさかツバサが男だったなんて・・・モテ期がやっと来たと思ったのに・・・」

ティア「いや、カズマがモテるのはありえないと思うけど」

アカメ「寝言は寝て言え、【ピーーッ】の同性愛者」

カズマ「やめろぉ!!!俺はノーマルなんだぁ!!!普通に女の子と恋がしたいのぉ!!!」

次回、このよからぬ噂に解明を!


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このよからぬ噂に解明を!

遅くなってしまい申し訳ございません。もう1つ謝罪、本当は残り2話くらいでオリジナル章は終わりの予定だったのですが、あまりにも長すぎたので、もう1話追加します。サブタイトルも次話に引き延ばすことにしました。申し訳ございません。


アヌビスの観光を終えた翌日、記念祭の準備をしている広間では住民たちが本格的に舞台ステージの製作に取り掛かっていた。その中で記念祭の手伝いを準備すると約束したカズマたちも手伝いとして、土木作業を行っていた。

 

「お、やるねぇ、兄ちゃん!経験ありか?」

 

「はい!!バイトで!!経験!!してますから!!」

 

作業員の問いをカズマはつるはしを振るいながら答えている。アクアたちも自分たちに与えられた役割を全うしている。双子は少し離れた場所で記念祭で踊る舞の振り付けの練習をしている。

 

「ふぅ・・・まさかこんな重労働だったなんて思いもよりませんでした・・・」

 

「そうだな。それだけ記念祭に力を入れているのかもしれん。ふふ、やりがいがあるな」

 

めぐみんは重たいもの、そして熱い環境の中でもうバテ気味だが、ダクネスはそれとはうって逆にかなり生き生きとしている。

 

「すげぇな嬢ちゃん!塗る作業がうまいな!」

 

「ああ。俺たちも見習わなければいかんな、こりゃ」

 

(ふふん、やっぱり私って有能なのよね~)

 

(あいつ、アークプリーストよりこっちの仕事の方が向いてないか?)

 

アクアの塗り作業を見て、作業員は感心している。その感心の声にアクアは鼻を長くして優越感に浸っており、カズマは心の中で細かい作業が向いていると考える。

 

「おい!!手が止まってるぞ!!もっと腰を入れろぉ!!」

 

「はいすいません!!」

 

作業の手が進んでないカズマたちに作業員が喝を飛ばした。それを受けカズマたちは作業に戻る。そうして働くこと2時間、ようやく昼食タイムだ。カズマたちは休憩所に集まって受け取った賄い弁当を食べる。

 

「あ~~~・・・やっと休憩~・・・」

 

「もう・・・くたくたです・・・」

 

「この炎天下だ。普通の重労働の倍の体力は持っていかれるからな。無理もない。・・・私は、まだまだいけるが」

 

アクセルで重労働していた時よりも、砂漠の熱さのせいで普段よりも体力を持っていかれているカズマたちは疲れが出ている。

 

「・・・なぁ・・・ていうかさ、俺たちって・・・あいつらからまだ前報酬もらってなくないか?」

 

カズマの何気ないこの言葉にダクネスとめぐみんはあまりピンとこなかったみたいだが、アクアは目を見開かせて気づいた。

 

「はっ!!そうよ、そうじゃない!!私たち、昨日2人からプールに連れてってもらってないじゃない!!」

 

「・・・ああ、そういえば、そんな話をしていたな」

 

「あいつら・・・肝心な約束忘れてんじゃないだろうな・・・?」

 

「ありえそうですね・・・一昨日あんなに飲んでましたから」

 

前報酬であるプールに招待するという内容を思い出したアクアたちは双子は報酬の件を忘れてるのではと考えている。

 

「ちょっと聞いてみるわ!!双子ー!!双子ー!!ちょっとこっちに来なさいよ!!」

 

アクアは直接聞こうと双子を呼んだ。呼ばれた双子はむっとした表情で近づいてきた。振り付けの運動で汗をかいている状態だ。

 

「何よ?こっちはまだ振り付けの練習だったんだけど?」

 

「何、じゃないわよ!!報酬!!報酬の件はどうなってるのよ!!私たち、前報酬をもらわずに働いてるんですけど!!?」

 

「ああ、すっかり忘れてたよ」

 

「やっぱりな」

 

「なぁんでそんな大事なこと忘れんのよぉ!!!」

 

どうやら本当に忘れていたようでカズマは予想通りという顔になる。

 

「いやでもさぁ・・・昨日アクアたちプールがどうとかって言ってこなかったじゃん。それで今日懸命に働いてるわけでしょ?だったらもう後払いでもよくない?」

 

「よくないわよ!!なんで私が無償で働かなくちゃいけないのよぉ!!」

 

「無償とは言ってないのだが・・・」

 

あまりに駄々をこねるアクアにアカメはすごいうっとうしそうな顔になっている。

 

「わかったわよ。ちょうど今お頭があそこにいるから掛け合ってやるわよ・・・ちっ」

 

「本当になんなんだろうね・・・ちっ」

 

「ちょっとぉ!!なんで舌打ちするのよぉ!!!」

 

あまりのうっとうしさに双子はアクアに舌打ちしながら町長と話をしているネクサスに近づく。双子は報酬の件をネクサスに話すと、彼は双子を舞の練習に戻らせ、深いため息をついてカズマたちに近づく。

 

「今さっきバカ共から話を聞いた。何でも報酬が欲しいとかどうとか」

 

「は、はい・・・」

 

ネクサスに苦手意識を持っているカズマは思わず縮こまっている。

 

「・・・カズマさん」

 

「は、はい・・・」

 

「あんたはあいつらと一緒に魔王軍幹部を3人も倒し、デストロイヤーも沈めてみせたっていう偉業を果たした。仲間と手を組んでも簡単に成し遂げられることじゃない。依頼者としての立場ならあんたのその願いをぜひとも叶えてやりたいところだ」

 

「じゃあ・・・」

 

「だが・・・」

 

ネクサスの口ぶりにアクアは報酬は期待できると思った矢先、ネクサスが口をはさんだ。

 

「個人としては眉を顰めざるをえない。この手伝いはあいつらが勝手に言ったことで、俺は依頼を出してないし、あんたのことも信用してない。信用もしてない相手に前報酬を渡すと思うか?」

 

「・・・デスヨネー・・・」

 

ネクサスが言うには、自分は依頼は出してない、なおかつ信用もしてない相手に前報酬を渡すわけにはいかないということだ。

 

「まぁ、安心しろ。俺もそこまで鬼じゃねぇ。一応あんたは優秀だからな。今回の件とは別に俺からの仕事を成功できるなら、特別に報酬を渡してやってもいい」

 

「本当⁉やるやる!引き受けるわ!」

 

「おいちょっと待て!まだ仕事の内容も聞いてないだろ!」

 

ネクサスから別の仕事を受ければ報酬を支払うと聞いて、アクアはプールの欲求が強く仕事を引き受けた。カズマは当然ながらそんなアクアにストップをかける。

 

「大丈夫よカズマ。この私がついてるんだもの。ちょちょいっと解決できるわよ!」

 

「どの口が言ってんだよ・・・」

 

大口をたたくアクアに対し、これまでのアクアの失態を覚えているカズマは安心できなかった。

 

「嫌ならやらなくていい。その場合、報酬はないと考えてくれ」

 

「えぇ~・・・マジですか・・・」

 

本来プールという報酬のためにやってきたカズマからすればネクサスの発言はとんでもなく横暴である。だが、一昨日のネクサスの敵意、殺意に当てられてからというもの、下手に発言したら殺されると考えている。

 

「ならせめて仕事内容だけでも教えてくださいよ・・・」

 

「仕事内容はシンプル、噂の真相の解明だ」

 

「「「「噂?」」」」

 

ネクサスから与えられた噂の解明という内容にカズマたちは首をかしげる。

 

「ああ。その噂っていうのはな・・・」

 

「最近夜になるとドラゴンが飛び回るって噂になってるぜ」

 

噂の詳細を答えたのは第3者、マホであった。

 

「マホ?」

 

「知合いか。なら話は早い。今回はこの手の専門家も協力してもらっている」

 

どうやらネクサスはカズマ以外に、モンスターの専門家のマホにも協力を要請していたらしい。

 

「お前らもこの仕事を受けるのか?」

 

「いや話を聞いてただけで・・・」

 

「それよりも今ドラゴンと言ったな!!!」

 

「その話について詳しくお願いします!!!」

 

ドラゴン。RPGにおいて王道の存在。それを聞いたダクネスとめぐみんはかなり興奮した様子で詳細を求めている。

 

「どうしたお前ら急に?」

 

「だってカズマ!ドラゴンですよドラゴン!!強靭な爪に鋭い牙を持つあのドラゴン!!我が爆裂魔法で消し炭にし、ドラゴンスレイヤーの称号を我が手に!!」

 

「灼熱の砂漠にすむドラゴンか・・・。一度ドラゴンのブレスに焼かれてみたかったのだ。ドラゴンの猛攻に対抗するも、無念に敗れ・・・その灼熱の炎で・・・いい!!!」

 

「おうお前ら落ち着け!!依頼人の前だぞ!!」

 

「・・・・・・」

 

「相変わらずぶっ飛んだ奴らだ・・・」

 

ドラゴンに対してそれぞれの思惑を持っているダクネスとめぐみんにストップをかけるカズマ。この光景を目の当たりにしたネクサスは微妙そうな顔をし、マホは呆れた表情になっている。

 

「まぁ、オレも詳しいことは知らねぇよ。何せ最近流れた噂だからな。そうだろ?」

 

「あ、ああ。この噂が流れ始めたのは記念祭の準備がちょうど始まった頃合いだ。この砂漠ではドラゴンは現れない。だから最初はただのいたずらだと思っていた。中には目撃者がいるらしいが、見てない奴が多いし、目撃者も返答が少し曖昧でな。うちのもんにも調べさせてるが、未だ進展がない。そういった経緯が積み重なって、早くもこんな噂が流れるようになったんだ」

 

「この噂が今街で悪影響を及ぼしてるらしいんだよな」

 

「10年に1度開かれる記念祭。本来ならもっと賑わいを見せるはずだったんだ。それがこんな噂のせいで皆怖がって来客数も一気に減り、街の住民たちも怯えている奴もいる。街の住民の代表の1人としては、もはや無視できない事態だ。だからこそ改めて聞く。この重要な仕事、引き受ける気はあるか?」

 

(うわぁ・・・やだなぁ・・・引き受けたくねぇなぁ・・・)

 

噂の解明の仕事が思っていたよりも重い内容だった。どこまでも他力本願であるカズマは正直に言って受けたくない思いでいっぱいだった。

 

「何度も言うが、この仕事は引き受けなくてもいい。他の人間に迷惑はかけ・・・」

 

「迷惑だなんてとんでもない!!受けましょうカズマ!!受けるべきです!!」

 

「現に街の人は怯えているんだ!!こういう時こそ冒険者の出番だ!!」

 

「お前らは欲を隠せぇ!!」

 

ネクサスが補足を入れようとした時、めぐみんとダクネスが間に入った。ドラゴンという欲望に忠実な2人にカズマは声を荒げ、ネクサスは任せるのが不安になっている。

 

「ねぇ、カズマカズマ。なんか思ってたよりもやばそうなんですけど。もう自腹でチケット買っちゃわない?」

 

「お前は逆にやる気出せよ」

 

逆にアクアは急に怖くなって自腹でと言い出す始末である。

 

「決めるのはあんただ。どうする?」

 

「・・・俺は・・・」

 

「受けるわ」

 

「受けま・・・ておい!!?」

 

カズマは仕事を思いっきり断ってやろうと思っていたところに双子が間に入ってきた。

 

「お前ら・・・練習に戻れって言っただろ」

 

「てかお前ら!今の話、聞いてたのか!!?」

 

「その噂さえなくせば、10年前の記念祭になるんだよね?」

 

どうやら双子は先ほどまでの話をバッチリ聞いていたようで、そのうえで仕事を受けようとしてる。

 

「・・・どの程度まで戻るかはわからんが・・・まぁ、勢いは取り戻すだろうな」

 

「なら受けるよ。やってやろうじゃん」

 

「おい待て待て待て!!」

 

カズマをよそに勝手に仕事を受けようとする双子にカズマはストップをかける。

 

「お前ら何考えてんだ?こんな重い仕事を勝手に・・・」

 

「カズマにとってはただの仕事でも、私たちはそうじゃないんだよ。私たちの生まれ故郷の危機になるかもしれないんだよ?それを放っておけって?できるわけないでしょ」

 

「別にあんたは受けなくてもいいわよ。あんたが受けないんだったら、私たちがやるから」

 

カズマにとってはただの仕事でも、双子はそうでもない。確証はないが、故郷の危機が迫っているのかもしれない。可能性は小さくても、それを無視するなんてことは、アヌビス育ちの双子にはできそうもないのだ。

 

「私は付き合いますよ」

 

「ああ、私もだ」

 

「・・・はぁ・・・」

 

欲を優先しているとはいえ、めぐみんとダクネスは双子に付き合うと言い出して、カズマは本当にしょうがないといわんばかりの顔をしている。

 

「ネクサスさん、その仕事俺たちで受けますよ」

 

「別に受けなくたっていいんだぞ。本当は嫌なんだろ?」

 

「ええ、嫌ですね。でも・・・こいつらを放っておいたら、もっと状況が悪化すると思うんで」

 

「・・・ありえなくもないか・・・」

 

情が移ったというのもあるが、仕事を受けようとした大体の理由は噂より厄介な事態にならないようにするためである。カズマの発言に双子の性格を考えて、ネクサスは苦い顔になる。

 

「・・・はぁ・・・まぁいい。この件に関しては捜査隊に話を通しておく。詳しくはそいつに聞いてくれ。・・・カズマさん・・・あんたの実力、見させてもらうぞ」

 

「えぇ・・・」

 

「あんたも大変ね、お頭に目をつけられて」

 

「まぁ、頑張れ」

 

「半分はお前らのせいだけどな・・・はぁ・・・」

 

重い役目を引き受け、ネクサスに目をつけられてしまったことにカズマはまたため息をこぼす。

 

「お前らはいつまでそこにいるつもりだ。練習の途中だっただろ。ほら、とっとと戻れ。コーチが怒るだろ」

 

「ああ、わかってるから押さないでって」

 

「はいはい、戻りゃいいんでしょ、戻りゃ」

 

双子はネクサスに急かされてせっせと練習場に戻っていく。それを見届けたネクサスはほんの少しため息をこぼし、カズマを一目見た後、自分の業務に戻っていった。これによって、カズマの緊張は解れた。

 

「・・・はぁ~・・・」

 

「お前、ずいぶんあの人に警戒されてんな・・・」

 

「俺あの人苦手すぎ・・・」

 

気が休まらないカズマにマホは深くながら同情している。

 

「疑問に思うのだが・・・なぜあの人はカズマにあそこまで警戒するのだ?仮にカズマが原因があったにしても、いささかやりすぎではないかと思う」

 

「それを言えば初めて会う時もそうですよ。まるで、双子をカズマから遠ざけているように見えます」

 

「確かに否定できないもんはあるが、それでも終始あんな露骨な態度をとられる意味がわからん!俺が何をしたって言うんだよ!」

 

「ネクサス様があのような態度をとるのは仕方のないことです」

 

ネクサスのカズマに対する態度に疑問を浮かべる3人にそう答えたのは、カテジナだった。

 

「クラリッサ様・・・」

 

「ネクサス様は、他の誰よりも、あの2人を大事に思っているのですよ。あの2人をここまで育てあげたのは、ネクサス様なのですから」

 

「「「「???」」」」

 

ネクサスが双子を育てたという意味を少し理解できてない4人は首をかしげる。

 

「育てたって・・・どういう意味でしょうか?」

 

「言葉通りの意味です。あの2人が赤ん坊の時からネクサス様はずっと面倒を見ていらっしゃいました」

 

「あー、なるほど、子育てって意味ですか。それなら納得ってえええええええ!!!??」

 

育てたという意味が子育てだということに気づいたカズマは驚愕の声を上げる。驚いているのは3人も同じだった。

 

「ど、どういうことですかそれ⁉」

 

「私が加入した時にはすでに双子はいましたので詳しい事情は私も知りません。気になるのであれば団の創設メンバーに聞いてください。私よりも詳しいはずなので」

 

「おーい!カテジナさーん!」

 

「・・・では、私は業務が残っているので、これにて」

 

「あ、クラリッサ様・・・行ってしまった・・・」

 

カテジナは街の住民に呼ばれ、カズマたちにお辞儀をしてその場を去っていった。

 

「まさかあいつらが団長さんに育てられていたなんてな・・・驚いたぜ」

 

「私たちもそうだ。こんな話、今まで一度も聞いたことがない」

 

「・・・何か深い事情でもあるのでしょうか・・・例えば、両親とか・・・」

 

今まで表に一度もでなかった双子の家庭事情に驚いた3人は双子の過去が気になりだす。

 

「・・・やめだやめだこの話。とにかく、あの人が俺を目の敵にしてるのは、要するに親バカだってことだろ?もうそれでいいだろ」

 

「カズマは気にならないのですか?」

 

「そりゃ気になるっちゃ気になるけど、もしあいつらに聞かれたくない内容だったらどうする?気まずくなる一方だぞ」

 

「あぅ・・・」

 

「・・・そうだな。さすがにこれ以上は本人たちの問題だ」

 

「だな。今はとりあえず、仕事の方に集中しようぜ」

 

重い話の可能性もあるのかカズマはこの話は本人たちが話すまでやめることにする。カズマの言葉にダクネスたちは同意する。・・・本音を言うと、面倒ごとには関わらないためなのだが。だがしかし、カズマたちは失念している。その会話を、耳のいいティアが聞き取ってしまっていることを。

 

「何つったってんのよ。さっさと戻るわよ」

 

「う、うん・・・」

 

ぶつぶつ文句を言って何も聞いていなかったアカメはティアの手を取り、練習場に戻っていく。ティアはさっきの話が気になって少し思案顔になっている。

 

「・・・そういやアクアは?」

 

「クソ女神ならカテジナさんが話す前におっさん共と飲みに行ったぞ」

 

「あいつちょっと眼を離したすきに・・・」

 

どこまでも自由奔放なアクアにカズマは仕事が成功できるかどうか不安になってくるのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

『捜索クエスト!!

ドラゴン出現の噂を解明せよ!!』

 

本日の昼の作業を終え、与えられた休みの時間でしっかりと英気を養い、夜の噂調査に挑むカズマたち。夜の砂漠には盗賊団の捜索隊も集まっている。しかし・・・

 

びゅうぅぅぅ・・・

 

「うううぅぅ・・・さ、寒い~・・・昼はあんなに暑かったのにぃ・・・」

 

「そりゃ砂漠だからね」

 

「夜は寒風の風が吹くに決まってるでしょうが」

 

砂漠の気温は昼の砂漠との熱い風とは違って、夜の砂漠は雪山ほどではないにしろ、寒い風が吹いている。多少緩和するだろうとなめてかかったアクアは案の定、寒さで震えている。

 

「では皆さん、詳細は伝えたとおりです。情報は少ないですが、噂の解明、頑張っていきましょう」

 

「お任せくださいフォステスさん!!必ずやその竜を根絶やしにしてみせます!!行くぜお前ら!!情報集めだ!!」

 

捜索隊に指示を出した丁寧な口調をし、口元を服で隠し情報部の男、フォステスの期待に応えようとする髪が角のように尖った熱血男、捜索隊のガワラは捜索隊を連れてドラゴンの調査に向かった。

 

「あなたたちも、ぜひとも頑張ってください。もし竜を逃してしまえば・・・この砂漠地帯もなくなることでしょう・・・。それを回避するために、何卒宜しくお願い致します」

 

「なく・・・!やっぱ受けなきゃよかった・・・」

 

フォステスはカズマたちに一礼すると、持って来ていた書類に目を通していく。そんなフォステスにアカメは渋い顔になっている。

 

「私、あいつ苦手だわ」

 

「あん?何でだよ?」

 

「あいつ、口元隠してるでしょ。唇の動きが見えないから、嘘をついてんのかわかんないのよ」

 

「お姉ちゃん、いつも唇を見て嘘かどうかってわかるからね。天敵みたいなものだよ」

 

「私からすればそれで嘘を見抜くアカメさんが怖いんですけど・・・」

 

唇を見て嘘を見抜くアカメの特技にアクアは若干ながらの恐怖を感じている。

 

「とにかく、私たちも行動に移すとしよう」

 

「ちょっと待ってくれ。その前にちっと準備しないといけねぇ」

 

「準備?」

 

行動を開始しようとした時、マホに止められる。マホは持ってきた鞄からあるものを取り出す。

 

「翻訳マシーン!!」てっててー♪

 

マホが取り出したのは、モニターが付いた何かのリモコンだった。

 

「なんだ?その翻訳マシンとは?」

 

「翻訳マシーンだっつーの!これはオレが開発した道具で、これさえあれば言葉を喋れねぇモンスターが何を喋っているかわかる代物だ」

 

「またそんなことに金を使ってんのかお前・・・」

 

「でも、何故モンスターの言葉がわかる装置を?」

 

「人間の記憶や直観っつーのは今回のように割と曖昧な時があるんだ。けど、モンスターの直観は、例えば走り鷹鳶が固いものを判別できるくらいにたけぇ。それさえあれば何か隠れてたってバッチリ目に映るし、一度見たものはそう簡単にゃ忘れねぇよ。だからオレたちはこいつを使って、モンスターから情報を聞き出そうって寸法よ」

 

モンスターから情報を聞き出そうというぶっ飛んだ方法を聞いて、めぐみんたちは少し不安になる。

 

「そ、そんなことできるのですか?そんな方法聞いたこともないのですが・・・」

 

「オレはモンスターショップの店長だぜ?それくらい朝飯前だ。ただなぁ・・・」

 

自信満々にそう言った後、若干困ったような顔になる。

 

「まだ実験できてねぇんでうまく機能するかわかんねぇ。だからな、ちょっとテストさせてほしいんだよ」

 

「テスト?」

 

「ほら、お前ら走り鷹鳶連れてきてるだろ?こいつを使おうと思う」

 

「ピィヒョロ?」

 

「アレクサンダーって呼びなさいよ」

 

「ていうか、アレクサンダーに変なことしないでよ。ぶっ飛ばすよ?」

 

翻訳マシーンのテストにアレクサンダーを指名した瞬間、双子は軽めのジョブを放つしぐさをする。そんな双子を無視してマホはアレクサンダーに近づく。

 

「安心しろって。危害はねぇからよ。使い方はボタンを押したら、こいつが鳴き声を放つのを待つだけだ。声を拾えたら、このモニターに思ってることが表示されるんだ。試しに・・・おい、あのクソ女神について思ってることを教えてくれ」

 

「ねぇ、この高貴な女神様に向かって指ささないでくれる?」

 

「ピィーヒョロロ」

 

アレクサンダーは翻訳マシーンに向かって鳴いた。鳴き声はマシーンに見事にキャッチし、アレクサンダーの思ってることが出てきた。

 

「お、出たな」

 

「マジか。どれどれ・・・」

 

「ねぇねぇ、なんて言ってるの?やっぱりこんなに美しく気高い女神様は見たことない、とか?アレクサンダーもわかってるじゃなーい」

 

カズマたちは翻訳マシーンのモニターに注目をする。そこに映し出されたアレクサンダーの思いはこう書いてあった。

 

『こんなにアホで間抜けでどうしようもない自称女神の泣き虫ペテン師は見たことない』

 

「うん、事実だね」

 

「上等よこのダチョウもどき!!!そんなにあの世に行きたいのならこの・・・」

 

「動物虐待をするつもりかしらこのペテン師」

 

「ぎゃあああああ!!!痛い痛い痛い!!!」

 

アレクサンダーの本音にアクアはゴッドブローを放とうとしたが、アカメがアクアの頭に本気に近いぐりぐりを放った。

 

「これマジでこいつの本音?」

 

「この悪口だけじゃわかんねぇなぁ・・・じゃあ、ご主人様についてはどうだ?」

 

「ピィヒョロ」

 

アレクサンダーの鳴き声にまたマシーンは反応した。次に映し出されたのは双子にたいして・・・

 

『逆らっちゃいけない怖い人たち』

 

「・・・逆らっちゃいけないってさ、怖い人」

 

「あれ?怖い人はお姉ちゃんのことじゃないのかなー?」

 

「あ?」

 

「は?」

 

「どっちもどっちだろ・・・」

 

このモニターの文字に双子はお互いに突っかかりあい、睨みあいに発展する。

 

「あ、ついでもお前らのことに対しても反応があるぞ」

 

「「「え?」」」

 

カズマたちに対して思ってることも出ていたようで、3人はそこに注目する。浮き出た文字には・・・

 

『ブサイクな名のイカれた爆裂狂の変態。メスの交尾道具の変態。そして、バカでヘタレな臆病者の変態クズマ』

 

「こう・・・⁉へん・・・⁉ああ!!」

 

「おい、それは私のことを言っているのですか?よろしい!そんなに見たいなら今すぐにでもそのイカレっぷりをみせてあげ・・・」

 

「おい!!こんなとこで撃つな!!それよりお前ふざけんな!!?俺のことそんな風に見てやがったのか!!今すぐにでもフライドチキンにしてやろうか!!?」

 

本音という名の悪口にダクネスは悶えているが、めぐみんとカズマは怒りを示している。当のアレクサンダーはあくびをしている。

 

「バカやってんなよな。クズマって出てる時点でもう成功も同然だ。ほらさっさと情報収集に行こうぜ。早くしねぇと寝れねぇだろ」

 

ちゃんとマシーンが機能してるとわかったマホは早く情報収集するように急かす。バカにされたカズマたちは怒りで少しプルプルとしている。

 

 

ー納得いかねぇ!!!ー

 

 

捜査隊とは別行動をとるカズマたちが情報収集のためにやってきた場所は走り鷹鳶の牧場であった。

 

「モンスターと戦うのは最終手段として・・・まずは、牧場にいる走り鷹鳶で情報収集だ」

 

「走り鷹鳶の牧場まであるんですか・・・」

 

「本当どうなってんだよ砂漠の住民の常識は・・・」

 

「あら、あれくらい私たちにとっては普通よ」

 

「みんな慣れとかないとこの先やってけないよ?」

 

「み、見られている・・・走り鷹鳶たちの、今にも突っ込みそうな熱い視線が・・・私に・・・くぅ///」

 

走り鷹鳶慣れが激しい砂漠の民にカズマはもちろん、めぐみんたちも常識を覆しているので未だに困惑している。ダクネスはアレクサンダーを含む走り鷹鳶全員に見られてアルカンレティアの道中を思い出し、興奮している。

 

「牧場主には許可は取れた。・・・なんか頭悪いなこいつ、みたいな顔をされたがな」

 

「でしょうね。内容自体が頭がおかしいものだし」

 

「お前にだけは言われたくねぇよクソ女神」

 

内容が内容なので仕方ないが、牧場主にバカにされたような顔をされたマホは納得いかなさそうな顔をしているが、さっそく翻訳マシーンを取り出す。

 

「よし、じゃあ、お前ら。この辺りで何か見たことねぇ魔物って見たことねぇか?どんな奴だっていい。知ってることがあったら教えてくれ」

 

『ピィーヒョロロー!!』

 

マホの問いかけに走り鷹鳶は一斉に鳴き始めた。すると翻訳マシーンのモニターに走り鷹鳶の思っていることが丁寧に1匹ずつ表示されていく。

 

「おー、さすがオレ。ちゃんと表示されてるぜ。どれどれ・・・」

 

マホは表示されている文字を1つずつ読んでいく。表示されている文字は・・・

 

『あれを使ってメスを手に入れたい。

 あれを使ってメスを手に入れたい。

 あれを使ってメスを手に入れたい。

 メスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメスメス

メ・ス・よ・こ・せ

 

「全員メスのことしか考えてねぇじゃねぇか!!!焼き鳥にするぞてめぇら!!!」

 

「怖い!!後半怪奇文章になってるんだけど!!」

 

「あわわわわわ・・・」ガクブル・・・

 

「あれとは私のことか⁉私のことなのだな!!?いいぞ!!思いっきりぶつかって来い!!」

 

「ダクネス!!あの数はさすがに死ぬよ!!」

 

全員がメスのことしか考えておらず、ろくな情報が集まらなかった。ダクネスは走り鷹鳶のチキンレースの障害物としてノリノリだが、さすがにティアに止められる。

 

「それならメスに聞いたら?多少はマシかもよ?もっとも、できれば、の話だけど」

 

「・・・はっ!そうじゃねぇか!何もオスにこだわる必要はねぇ!設定変更だ!オスの声は一旦受付拒否にして・・・」

 

「うまくいくとは思えないんですけど?」

 

「てめぇは黙ってろクソ女神」

 

「何よ!親切心で言ってあげてるのに!」

 

アカメの言葉にそれだと言わんばかりに翻訳マシーンの設定を変更し、メスの走り鷹鳶に狙いを変える。

 

「いらんお世話だ!さあメス、なんか見たことねぇ魔物は見てねぇか?」

 

『ピィーヒョロロ』

 

メスの走り鷹鳶が鳴き、翻訳マシーンのモニターが文字が一斉に出る。で、出てきた文字は・・・

 

『はぁ、私の欲求を満たすオスはいないかしら?』

 

『はぁ、オスが欲しい』

 

『度胸のあるオスってこの世にいるのかしら?』

 

オスのものと全く同じだった。

 

「こ・い・つ・ら・も・か(怒)」

 

「やっぱりそうなるんだ・・・」

 

「所詮オスもメスも同じよ」

 

思考がオスと同じでマホはストレスが溜まり、双子はやれやれといった様子で呆れている。

 

「なぁ、もう普通に情報収集しようぜ?どう考えたって無理あるだろ」

 

「諦めるかよ。諦めてたまっかよ・・・クソが・・・」

 

「いやそんなムキにならなくても・・・」

 

「変に頑固ですね・・・」

 

「ある意味アクアと似ているな・・・」

 

「そんなこと言われても嬉しくないんですけど」

 

断固として自分の意志を曲げようとしないマホにカズマは困り果てる。

 

「あ~~・・・どれも同じだ・・・他にないのか・・・」

 

「もう無理だって。こいつらじゃ話にならな・・・あれ?」

 

モニターを確認していると、カズマは一部だけ違うものを発見する。

 

「なんかこれだけ違うのが出てるぞ?」

 

「え⁉マジか!!うぉっしゃああ!!さっそく見てみるぞ!」

 

違う文字が出てきたことにマホは思わず歓喜する。マホはさっそく違う文字を確認する。カズマたちもそれを確認する。

 

『直接は見てないけど、ここにはいない魔物を見たって子なら知ってる』

 

「「「「「「おお!」」」」」」

 

「よし!な?言っただろ?こういうことくらい朝飯前だって」

 

「さっきまで手こずってた奴の言うセリフじゃないわね」

 

やっと有益な情報を手に入れ、得意げになるマホにアカメは冷たいことを言う。

 

「いいんだよ別に。で、その見たって子は何なんだ?」

 

「ピィーヒョロ。(確か・・・オアシスにいた安楽少女だったわね)」

 

「「「「「「!!!」」」」」」

 

安楽少女という名前が出てきて、マホ以外は全員固まった。

 

「ああ、あの安楽少女か。あんな場所にいたのが珍しいからよーっく覚えてるぜ」

 

「・・・ねぇカズマ・・・その安楽少女って・・・」

 

そう、メスの走り鷹鳶が言っている安楽少女とは、キレたカズマが処分した個体なのだ。まさか有益な情報源が殺めた安楽少女だと知り、カズマは汗がだらだら流す。

 

「・・・は?もういない?そんなはずねぇだろ。あの安楽少女が熱い場所に移動するはずが・・・」

 

焦っている間にも走り鷹鳶に安楽少女はもういないと知らされたマホはありえないという顔になるが、途端にカズマたちに視線を向ける。

 

「・・・おい」

 

「お、オレタチハナニモシリマセンデス」

 

白を切るカズマだが、周りの視線はかなり冷たかった。

 

「そうか。なら、素の喋り方をしてたのにキレてぶっ殺したってのはオレの見間違いなんだな?」

 

「み、見てたのか!!?」

 

「・・・おいこら」

 

「・・・あ」

 

かまをかけてボロを出してしまったカズマをマホは鋭い視線で睨みつける。

 

 

ーてめぇじゃねぇかぁ!!!

すんませんでしたーーーー!!ー

 

 

その後翻訳マシーンを使って情報収集を一からやり直す。どこの牧場の走り鷹鳶はオスやメスのことばかりしか考えていないため、少しずつ、ほんの少しずつ手がかりをかき集めていった。そういった苦労もあって、ようやくドラゴンが岩山に潜んでいるという情報を掴んだ。だがその頃にはもうすでに時間は朝になりかけていた。当然、カズマたちに睡魔が襲ってきている。

 

「ね・・・眠い・・・」

 

「うっさいわね。何回目よそれ」

 

「だって~・・・」

 

「どっかの誰かが安楽少女を倒さなきゃ、もう少し楽だったんだがな・・・」

 

「すいません・・・マジですいません・・・」

 

皮肉を含んだマホの言葉に言い返せず、気まずそうにしているカズマ。

 

「もう少しの辛抱だよ。頑張って」

 

「・・・というか!カズマやティアが敵感知を使えばすぐじゃないの!」

 

「あんた情報部の話聞いてなかったでしょ。そのドラゴンはなぜか敵感知には反応しなかったって言ったじゃない」

 

「うん。現にこの洞窟の先にいると思われるドラゴンの反応もないし」

 

「考えられるとしたら、ここにはいないか、情報部の話が正しいのどっちかだけど・・・」

 

情報によればそのドラゴンは人目を避けて行動しており、目撃者が目撃したのは誰かがドラゴンを見て、ドラゴンが飛んで人間から逃げている姿らしい。そんな行動を繰り返し、最終的にはこの洞窟の奥深くで潜み、それ以降はここから動いていないようだ。

 

「それを調べるためにここにいんだろうがよ。とにかく、早く済ませてさっさと宿で寝ようぜ」

 

そう言ってマホはドラゴンを呼び出すための道具を取り出す。用意したのは肉焼き機と、骨付き肉であった。取り出した道具を見てカズマは怪訝な顔する。

 

「おい、なんだそれ」

 

「見ればわかんだろ。肉焼き機だよ」

 

「うん、それはわかってる。そうじゃなくてなんでここで肉を焼くのかって聞いてんの」

 

カズマの問いにマホは何言ってんだこいつみたいな顔になる。

 

「生物はみんな空腹には抗えないだろ?こいつの匂いで空腹を煽ってやりゃ、自ずと出てくんだろ」

 

特殊な方法の呼び出し方を想像していたカズマは、あまりに普通な呼び出し方にかなり渋い顔になっている。

 

「じゃ、始めるぞ」

 

「あ、私も手伝うよ」

 

マホはドラゴンを呼び出すために肉を焼いていき、料理上手なティアはマホの手助けに入る。

 

「いよいよドラゴンとお目にかかれるのだな・・・!ああ、いったいどんな奴なのだろうな・・・。強靭な爪や牙で引き裂かれるのを想像すると・・・よだれが・・・」

 

「ふふ、一度は切り刻んでみたかったのよね。鱗が剝がれ、生身を切りつけた時のドラゴンの苦痛の顔・・・今から楽しみだわ」

 

「竜のブレスなど、我が爆裂魔法で存在ごと消し去ってくれよう。そして、ドラゴンスレイヤーの称号を我が手に・・・!」

 

「お前ら本当にブレないなぁ・・・」

 

いつも我が道を突き進むメンバーにカズマは今更ながら呆れ果てる。で、アクアはというと・・・

 

「zzz・・・」

 

眠気に耐え切れず、この場で眠ってしまっている。

 

(こいつらどうしようもねぇ~・・・)

 

もはや制御することすらできないのではとカズマが思ったその時・・・

 

ドオオオン!!

 

「うおおお!!?」

 

「はっ!!?何⁉なになになに⁉」

 

洞窟から凄まじい轟音が響きわたり、何かが岩を突き破って洞窟から出てきた。

 

「お、おお・・・なんと見事な巨体だ・・・!」

 

洞窟の天井を突き破ったのは、巨大な尻尾を持ち、凶刃な爪を持ち、小さきものを覆いつくす翼、長い鬣に鋭い牙を兼ね備わった巨大な肉体に立派に生えた2つの角。その姿は・・・まさしく竜。

 

「「で、でかああああああ!!?」」

 

「噂は本当のことだったんだね!」

 

想像以上の巨体を持つドラゴンの出現にカズマとアクアは一気に恐怖に染まっていたが、他のメンバーは歓喜で震えていた。

 

「む、無理無理無理!!こんな奴、俺たちじゃ相手にならねぇよ!すぐ逃げるぞ!!」

 

「何を言っているのですか⁉せっかくの大物なんですよ!!?」

 

「街を脅かす存在を、見過ごすわけにはいかない!!」

 

「ああ、もうこいつらあ!!」

 

一歩も引く気がないダクネスたちにカズマは憤りを感じる。

 

「・・・ん?こいつ・・・もしかして・・・」

 

ドラゴンを見て、何か気づいたのかマホは焼いた肉を持って前に出る。

 

「ちょ、ちょっと危ないわよ!!早く逃げないと食べられちゃう!!」

 

「大丈夫だ!手を出すんじゃないぞ!」

 

アクアはマホに逃げるように言うが、彼女は臆することなくドラゴンに近づく。

 

「お前に危害を加える気はない!!こいつらがなんかしても全力で止めてやる!!安心して降りてきてくれ!!」

 

危害を加えないと聞いて双子は反発する。

 

「ちょ、ちょっと何言ってんのよ!あんた正気⁉」

 

「そうだよ!危ないよ!」

 

「大丈夫だ。こいつはオレたちを襲わない。そう確信してる」

 

「そんな保証なんてどこにも・・・」

 

言い合いを繰り広げている間にドラゴンはマホをじっと見る。そして・・・なんとドラゴンはマホの言うとおりにして、彼女の元まで下りてきた。

 

「ひぃ!降りてきたぁ!!」

 

ドラゴンが降りてきたことにより、カズマたちはダクネスの後ろに隠れ、ダクネスは皆を守ろうと剣を構える。当のドラゴンはマホに近づくと、マホの持っていた肉の匂いを嗅ぎ、大人しくちょこんと座った。

 

「あ・・・あれ・・・」

 

「襲って・・・こないな・・・」

 

「ど、どういうことだ?ドラゴンとは凶暴な生き物なのだろう?襲ってこないならば・・・期待外れではないか・・・」

 

「今期待外れって言ったか?」

 

襲ってこないドラゴンに対して、露骨にがっかりしているダクネスは置いといて、カズマたちはどういうことか疑問を抱く。

 

「その答えは、こいつの首輪の呪いを解けばすぐわかる」

 

「「「「呪い?」」」」

 

呪いと聞いて首をかしげるカズマたち。ドラゴンの首には確かに首輪らしきものがついていた。

 

「確かに・・・その首輪から呪いのくっさい匂いが漂ってるわね・・・あんなものをつけてるなんてエンガチョね!」

 

「こいつが襲ってこないのはオレが保証してやる。つーわけでクソ女神。最高級の酒をくれてやるからこいつの呪いを解け」

 

「え・・・そ、それは魅力的だけど・・・の、呪いを解いた瞬間、襲ってこないわよね・・・?」

 

呪いを解けと言われて、アクアは急に弱腰になる。

 

「やったら敬いでも何でもしてやるから頼むわ」

 

「!!今何でもって言ったわよね!やっていいのよね?言質取ったわよ?」

 

「わかったからさっさとやれしばくぞ」

 

「・・・んもう~!しょうがないわねぇ~!今言ったこと忘れないでよ?」

 

アクアを嫌うマホが何でもやると聞いて、上機嫌になったアクアはうきうきした様子で肉を食べているドラゴンに近づく。

 

「まさかアクアを嫌ってるあいつがあんなこと言うなんて・・・」

 

「よっぽどのことなのかしら」

 

「何かあるのかな?」

 

「そんな面倒な事せずとも、爆裂魔法で倒せば全て解決だと思うんですけど」

 

「頼むからやめてくれ」

 

マホが珍しいことを言うから何事かと思うようになったカズマたち。めぐみんは今もなおドラゴンを倒そうとうずうずしているが。その間にもアクアはドラゴンの首輪に触れる。

 

「・・・これは高度な呪いね。普通じゃ解くこともできないわ」

 

「できねぇのか?」

 

「ふふん、こんな呪い、女神の私なら朝飯前よ。見てなさい」

 

アクアの顔はいつもの駄女神のような顔ではなく、女神らしい顔になる。

 

「・・・セイクリッド・ブレイクスペル」

 

パアアアアア・・・

 

「うおっ⁉急に光りだした⁉」

 

アクアが首輪に向けてセイクリッド・ブレイクスペルを唱えたその時、首輪が光だし、その光はドラゴンを包んでいく。

 

「ま、前が見えないです!」

 

「なんだ!何が起きたんだ⁉いや、どんなものでも受けて立とう!!」

 

カズマたちは放たれた光の眩しさで目を閉じている。光がやむと、アクアの足元にはドラゴンがつけていた首輪がチョーカーとなって外れていた。

 

「んだこりゃ・・・チョーカー?」

 

「これがさっきの首輪のようね。安心して、それにはもう邪気はないわ」

 

「それよりドラゴンはどうなったのよ!」

 

「そ、そうだ!いったいどうなったのだ!」

 

全員がドラゴンがいた場所に視線を向けてみると、そこにはドラゴンの姿はなく、代わりに1人の少女が立っていた。髪色はさきのドラゴンのように青く、澄んだ瞳が輝いている。ただ、人間と違うところはいくつもある。両腕や頬にはドラゴンの鱗のようなものがあり、爪も人間のものではなく、歯も牙である。そして決定的なのが、人間にはないドラゴンのような尻尾に頭には角が生えていた。

 

「・・・呪いの除去を確認。リュドミラ、再起動完了」

 

 

ー・・・誰?ー

 

 

呪いの首輪を外した瞬間に現れた謎の少女の出現に、カズマたちは戸惑っている。この子は何者?さっきまでのドラゴンはどこに行った?そんな疑問が出たのをよそに、少女はカズマたちの前に出て、お辞儀をする。

 

「呪いを解いていただき、感謝します。メッセージ、ありがとうを入力。私の名はリュドミラ。竜人の里より遥々やってまいりました」

 

異形の少女、リュドミラが名を名乗った瞬間、めぐみんは驚愕の顔になる。

 

「竜人って、あの竜人ですか!!?火山の秘境に住んでいるあの少数民族の!!」

 

「はい。その通りです」

 

竜人とは、獣人と同じように、半分が人間、半分が竜の因子を持った種族である。だがこの竜人は少数民族でその姿を目撃する者はいないほどに少ない。

 

「竜人・・・まさかお目にかかれる日がこようとは夢にも思わなかったよ・・・」

 

「世界はやっぱり広いわね・・・」

 

「そ、それよりもリュドミラはなぜここにいるんだ!!?それにドラゴンは!!?先ほどまでいたあのドラゴンはいったいどこに!!?」

 

「ダクネス落ち着け!!」

 

竜人に会えて双子は感動しているが、それとは打って変わってダクネスは焦ったように質問をぶつけ、カズマが落ち着ける。

 

「質問の内容を受理しました。私は今まで、ステータス、呪いにかかっていました。私はアヌビスへ来る道中、何者かに呪いの首輪を着けられてしまい、その呪いによって、本物の竜となっていました。とどのつまり、あなたたちが見たドラゴンとは、私のことです」

 

「何だって!!?」

 

「その呪いの首輪がこれだろ?」

 

マホが取り出したのは、先ほどドラゴンがつけていたと思われていたチョーカーであった。

 

「何それ?」

 

「こいつは魔障の首輪っつって、装備した奴に瘴気を流し込み、そいつを魔物に変えちまう恐ろしい代物だ」

 

「ひ、人を魔物に変えるだと!!?」

 

このチョーカーがそんな恐ろしい代物だとわかって、カズマ以外は驚愕した。

 

「と、ということは、それを着ければ、醜い魔物に変身し、冒険者たちに討伐の対象と見なされ・・・あんなことや・・・こんなことも・・・///」

 

「ダクネス、妄想も混じってるよ」

 

「つか絶対にやめなさいよそれつけるの」

 

ダクネスは呪いのチョーカーを使ってドM的な意味でよからぬことを妄想したが、双子は全力で阻止しようとする。

 

「じゃあ、ドラゴンになってたのって・・・」

 

「竜人の血が強かったんだろうな。それが影響して姿形がオレたちの知る竜になったんだろうぜ。よかったなめぐみん、爆裂魔法をぶっ放してたら、お前今頃罪を着せられて牢にぶち込まれてたぞ」

 

「・・・私は初めからあれが本物ではないとわかっていましたよ。そうでなければ、今頃は爆裂魔法をぶっ放してましたから」

 

「はい嘘ね。唇の動きでわかるって言ったでしょ」

 

「だろうな」

 

「まぁ、めぐみんにしては我慢してた方だよ」

 

罪が着せられると聞いてめぐみんは平然とした顔で嘘をはいたがあっさりとアカメに見抜かれてしまう。

 

「・・・ていうか、カズマは驚かないんですね」

 

「いや?一応は驚いたよ。ただ大声で出すほどではなかったってだけだ」

 

「カズマって肝が据わってるのかどうかわからないところあるよね・・・」

 

まぁ、実際にはゲームでそういうシーンを見たことがあるってだけなのだが、絶対メンバーには理解できないのであえて黙ってるカズマ。

 

「まぁでも、いろいろ納得がいったよ。ドラゴンなのに逃げた理由も、敵感知スキルになんで反応してなかったのかってのも。それって全部お前が一応人間だったってことなんだろ?」

 

「はい。危ないところをありがとうございました」

 

「そして!そんなあなたの命を救ったのが、この私、アクシズ教団が崇拝する女神、アクア様よ!もっと私に感謝してもいいのよ?」

 

リュドミラにアクアはここぞとばかりに女神アピールする。そして結果は当然・・・

 

「なるほど。これがバッドステータス、中二病というものですか」

 

「ちっがうわよ!!本物!!私本物よ!!」

 

「適当に流していいわよ」

 

「うん。信じるに値しないものだし」

 

「オーダー、承りました」

 

「ちょっとぉ!!!」

 

やっぱり信じてもらえず、軽く流されてしまうのであった。

 

「しかし、こいつはきな臭くなってきたな」

 

「と言いますと?」

 

「誰かにこれを着けられたってことは・・・そいつは、ドラゴンになったリュドミラを倒すことで、盗賊団を嵌めるつもりだったって考えられねぇか?」

 

「「盗賊団を嵌める!!??」」

 

ドラゴン姿のリュドミラを討伐することが盗賊団を嵌める行為だと言われた双子は誰よりも驚いた。カズマたちはいまいちピンとこなかった。

 

「なぁ、何でそれが盗賊団を嵌めることに繋がるんだ?真実は知らないわけだから、事故ってことにならないか?」

 

「・・・この首輪の質の悪いところはな、装備した奴の命が絶たれた瞬間に呪いが解除される点にある。つまり、ドラゴンとして倒されたら、元の姿に戻っちまうんだよ。しかも、絶った命も元に戻らねぇ。普通なら真実も知らねぇから事故ってことになるんだが、盗賊団となると話は別だ」

 

「誰かが盗賊団は人を魔物に変えて討伐していた・・・そんな事実が流れるってことですか?」

 

「「は?」」

 

「何!!?」

 

「「ええ!!?」」

 

マホの説明を聞いて、めぐみんはすぐに盗賊団にとって都合の悪い情報を推察する。それには全員が驚愕する。

 

「さすがは紅魔族だ。頭の回転がいい。そんな事実が政府に知られてみろ。盗賊団は間違いなく壊滅する」

 

「そして、今まで培ってきた人々の信頼も全て無駄になる・・・ということですね」

 

「ででで、でも!魔物に変えたっていうのは嘘なんでしょ⁉」

 

「たとえそれが嘘でも、竜人、人間を討伐しちまったっていうのは事実になる。政府は盗賊団を黒って思ってるからな。こっちが白でも・・・」

 

「なるほど・・・それは、確かに盗賊団には都合の悪い情報だな・・・」

 

(・・・あいつら呼ばなくて正解だった・・・)

 

都合が悪い情報があれば間違いなく盗賊団は終わる。それを理解したカズマは捜索隊に知らせなくてよかったと心から思う。そして討伐せずによかったと思う。討伐していたら、間違いなく捕まっていただろうから。

 

「でも問題は、誰が私たちを嵌めようとしたか、だよね・・・」

 

「少なくとも、一般人にはできないわよ?街の連中でさえ、砂漠地帯に盗賊団の本拠地があるって知らないもの」

 

「それなら、街の外から来た連中も外していいんだよな。盗賊団の事情どころか、団員が誰かなんてのも知らねぇはずだし」

 

「アクセルから来た者もそうだ。知っているのは、双子が盗賊団員だということだけだからな」

 

盗賊団の事情を知る者はいない。知っているとすればそれはカズマたちを含む盗賊団にとって有益になる人物だけ。

 

「それに、竜人は武に長けた種族だ。普通の冒険者たちじゃ首輪を着けるどころか、返り討ちに遭うのがオチだ」

 

ドオオン!!

 

「ほわああああああ!!?」

 

「ちょうど、このように、ですね」

 

「そ、そうですね・・・」

 

マホが説明した瞬間、リュドミラはカズマのすぐ近くにあった巨大な岩を拳1つで砕いた。ものすごく強いのはわかったが、何の前触れもなく手を出すのと、せめて一声くらいかけてほしいと、拳が頬にかすったカズマは恐怖ながらに思った。

 

「うちの事情を知っていて、なおかつ竜人と戦える冒険者っていえば・・・うちらのところの各部隊長くらいね」

 

「・・・それって、裏切り者がうちらの中にいるってこと?」

 

盗賊団の仲間の中に団を嵌めようとしていた裏切り者がいるという可能性に、双子は穏やかにはなれなかった。

 

「・・・お前ら、いったん戻るぞ。それから、リュドミラ、お前も来い。お前は重要な証言者だからな」

 

「オーダー、承りました。ミッション、あなたたち同行を受理いたしました」

 

「こいつは、真実を明らかにする必要がある」

 

マホはこの場にいる全員を引き連れて街に戻るとカズマたちに指示を出した。そして、カズマはこう思ったのであった。

 

(・・・あれ・・・今回俺何もしてなくね・・・?)




次回、この記念祭に思い入れを!


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この記念祭に思い入れを!

この作品の更新を未だに楽しみにしている方がいらっしゃれば・・・1年半以上もお待たせしてしまい、誠に申し訳ございません!!なかなか思いつくネタがなくて・・・挙句にはモチベーションが下がって他の作品を書いたりして・・・大変申し訳ございません!!
しかしようやく完成ができたので今日ここで更新を再開させていただきます。ちなみに、オリジナルエピソードはこの回だけでなく、他の章も載せる予定です。現時点ではこんな感じになっております。

達筆予定のオリエピ

・ウェーブ盗賊団VS暗闇盗賊団VS銀髪盗賊団

・盗賊団団長認定試験

・番外編:この双子盗賊見習いに連携を!

まぁ、いつ書くのかは検討もつきませんし、もしかしたら変更したり、そのエピソードをやめたりするかもしれませんのでご了承ください。まぁ、一度載せた章は最後まで書く気でいますが。


アヌビスの街に流れていた噂のドラゴンの正体が竜人の少女、リュドミラだと判明したカズマたちは事の真実を明らかにするために街に戻り、今回判明した事実を全てネクサスに伝えた。

 

「つまり、あの噂は俺たちを嵌めるためのもので、裏切り者が俺たちの中に潜んでる。そういうことか?」

 

「ああ、そうだ」

 

その事実を聞いた途端、盗賊団員全員は当然ながら憤慨する・・・

 

「あー、バーバラの奴ついにやりやがったか・・・」

 

「いつかやるだろうなーって思ってたけど・・・ついに・・・」

 

「でも今回はいくら何でもやりすぎじゃね?」

 

「はああああん!!?」

 

・・・かと思いきやネクサス以外の全員がバーバラが事をやらかしたと思ってたいして気にもとめていなかった。

 

「どうせこいつの魂胆はぐえええええええええ!!?」

 

「教義に悪魔殺すべし魔王しばくべしがあるアクシズ教徒であるあたしがモンスターに擬態!!?そんなアホなことを言うのはこの口か!ディープキスで窒息させてやろうか!!」

 

「や、やめろー!!お前なんかにファーストキス奪われるとか嫌だわ!!」

 

逆にバーバラは自分が疑われたことに対し激しく怒りを燃やし、1人の団員に突っかかってきた。

 

「ぜ・・・全員がバーバラを疑ってきたぞ・・・」

 

「誰も信用されてないってそんなことあります?」

 

「疑われても仕方のないことをやってんのよあいつは」

 

「そうだね。当然の報いとも言ってもいいね」

 

「いったい何をやらかしやがったんだ・・・」

 

疑われたことで大暴れするバーバラにめぐみんとダクネスは困惑したような顔になる。アクシズ教徒らしい暴れっぷりに双子は呆れ、マホはジト目で暴れるバーバラを見る。

 

「チューしてやる!チューしてやるーーーー!!!」

 

「気持ちわりぃ、やめろ!!てか疑ってるやつは俺以外にもいるだろ!!なんで俺を狙うんだよ!!」

 

お前イケメンやろがい!!!!!!!!

 

絡まれてる団員の疑問にバーバラはガチギレで返答した。

 

「お前バカか!!!そんなん俺以外にもいるだろうが!!!つーかそれは理由じゃなくてお前の好みだろうが!!!」

 

「ああん!!!??」

 

「お前の好みだろうが!!!」

 

「ああああん!!!??」

 

「ぶっ飛ばすぞてめぇ!!!!」

 

「ああああああん!!??」

 

「・・・・・・」

 

「な、何よその顔!なんでそんな顔するの⁉」

 

大暴れするバーバラの姿を見てカズマは彼女の信仰対象であるアクアに腫れ物を見るような視線で見つめる。

 

「そいつの性格や質の悪さは俺が1番知ってる。だからそいつは絶対に違う」

 

「え、えぇ・・・マジっすか・・・」

 

「さっすがネッ君!あたしの親友。お礼にキスしたげる。んー♡」

 

「気持ち悪いからやめろ」

 

ネクサスの証言で疑惑が晴れたことでバーバラはネクサスにキスしようと迫るが、拒まれている。

 

「・・・ネクサス様、いかがなさいましょう?」

 

ネクサスは裏切り者の可能性に顎に手を添えて考え、視線をマホが連れてきたリュドミラに視線を向ける。

 

「・・・竜人の嬢ちゃん。誰かにこの首輪を着けられたと言ったな。その当時のことを覚えてるか?」

 

「すみません・・・思い出そうとすると・・・靄がかかって、中々・・・」

 

「そうか・・・さてどうするか・・・」

 

あまり仲間を疑いたくないネクサスはどうするべきか悩んでいると、バーバラが食い気味に近づいてきた。

 

「だったらあたしに任せてよネッ君!他はともかく、この私を陥れようとした落とし前はキッッッッッッチリつけないと気が済まない!!!必ず見つけ出してそれ相応の罰を与えてやるんだ!!!だから・・・ね?ね⁉ね!!!?」

 

だんだんと迫ってくるバーバラの勢いは凄まじく、顔もめちゃくちゃ怖くなってくる。

 

「お・・・おう・・・じゃあ任せた・・・」

 

「うおっしゃああ!!!!見てろやすっとこどっこい!!!!ぜっっっっっっったいに許さん!!!!裏切り者しばくべし!!!!!」

 

勢いに負けたネクサスは全てバーバラに丸投げした。許可をもらったバーバラは報復のためにめちゃくちゃはりきっている。出ていったバーバラをこの場の全員がジト目で見ていた。

 

「・・・よろしいんですかネクサス様?」

 

「ああなったあいつはもう誰にも止められねぇよ・・・言ったところで聞くもんか」

 

「・・・心中お察しいたします」

 

もういろいろと諦めたネクサスは大きなため息をこぼし、視界をカズマたちに移す。

 

「はあ~~~~~・・・。・・・とりあえずだ・・・あんたたち、ご苦労だったな。後のことは俺たちの問題だ。一応は仕事はこれで終わり、無事に依頼達成だ。話を聞く限りだと・・・あんたは何もやってないと思うが・・・」

 

「ドキィ!!」

 

仕事を達成できたのはマホのおかげで自分は何もやってないと指摘され、ドキッとなるカズマ。

 

「まぁいいさ。成功は成功だからな。約束通り、報酬のプールチケットをくれてやる」

 

ネクサスは自分の机からプールの無料チケットを取り出し、カズマたちにそれを人数分渡していく。

 

「やったわね!無料チケットゲットよ!」

 

「ずいぶん遠回りな気がするが・・・まぁいいや・・・本来の目的は達成したし・・・」

 

確かに遠回りではあるが、下手をすればチケットをもらえないかもと焦っていたカズマは変に追及するのはやめることにした。

 

「マホさんもありがとな。あんたにも・・・」

 

「あいにくオレはそんなもんに興味ねぇからいらねぇ。そんなもんよりモンスター図鑑くれよ」

 

「ブレないわね、あんた・・・さすが変態だわ・・・」

 

「心外だな。変態はうちの店の常連だろ?」

 

チケットを受け取るのを拒んだマホと相変わらずブレない彼女に呆れるアカメはちらっとダクネスに視線を向ける。

 

「はぁ・・・!なんだ、今2人から一瞬蔑まれた目で見られた気が・・・!はぁ・・・はぁ・・・この飛び出そうで飛び出ないもどかしさはいったいなんだ・・・?だが、悪くない・・・悪くないぞ・・・!」

 

「ダクネスー、その感情は気のせいだから飛び出さないようにねー」

 

今日も平常運転なダクネスにティアが冷静ながらに制する。

 

「わかったわかった。マホさんの報酬は後で用意しておく。それと、竜人のお嬢ちゃんも悪かったな。後で宿の手配をしておくからゆっくりしていってくれ」

 

「お気遣いいただきどうも。メッセージ、ありがとうを入力」

 

「さ、カズマさんたちの仕事は終わりだ。他に用がないなら出てってくれ。しっしっ!」

 

そう言ってネクサスはカズマたちを邪魔者扱いするように部屋から追い出したのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

噂解明から数日後、記念祭の開催がいよいよ明日となり、準備は最終段階に入っていた。そんな中街の状況はドラゴンの噂が解明されたことで賑わいがより一層に増していた。そんな中でアクアたちは・・・

 

バシャッ!バシャッ!

 

「ほーら!水の女神の水さばき、受けて見なさい!」

 

「なんの!倍返しです!はあああ!相克の激流波!」

 

「わっ!やったなぁ~、ならこれでどうだ!」

 

「わぷっ!ティア!道具を使うなんてひきょ・・・うぶ⁉」

 

「ふっ・・・戦争に、卑怯もクソもないわ。ほらほら、避けてごらんなさいよ!」

 

「ちょ、ちょっと!いくら何でもそのバズーカみたいなのは・・・わああああああ!!?」

 

「ふ・・・ふふ、それは、私に対する挑戦状と捉えてもいいのですね?よろしい、我が紅魔族流で返り討ちにしてさしあげましょう!」

 

ネクサスからの報酬のチケットを使ってプールで遊んでいた。そんな女子たちでワイワイと遊ぶ姿をカズマはにっこりと微笑んでいた。

 

(最初ネクサスさんに無理難題を突き付けられた時はどうしようかと思ったけど・・・万事うまくいって何より何より。うん、うん)

 

カズマがアヌビスに来た目的はこのプールで女子の水着を拝むためだったので、目的を達成できて苦労が報われたことで首をうんうんと頷いている。その後、カズマはアクアたちから目を逸らし、他の観光客の・・・主に女性の水着に視線を向ける。カズマは端から彼女たちの水着には何の興味も示してないのだ。

 

(うんうん、あちらのお姉さんは実に健康的ないい身体だなぁ。あっちのお姉さんは・・・うおおぉ⁉こ、これはぁ・・・!予想以上の破壊力だ・・・!だ、ダメだぁ・・・非リア充の俺には刺激が強すぎる・・・!)

 

水着姿の女性たちの魅力的な身体や大きな胸を凝視してカズマは鼻の下を伸ばしてデレデレしたり葛藤したりして内心興奮状態になっている。

 

「ごめん!結構人が並んでて・・・」

 

「んもう、遅いじゃない!もう待ちくたびれたんですけどー」

 

「お待たせ。ほら、アイスゼリーだよ。一緒に食べよう」

 

「わぁ・・・ありがとう!だーい好き!」

 

「・・・・・・・」イラッ

 

だが水着の女性たちの前に彼氏の男たちが現れたことによってカズマは一気に冷めた気持ちになった。これはダメだと思い、周りを見回してみると、どこもかしこも、彼氏連れの女性がたくさんで、自分たちのところ以外いちゃついた雰囲気が出ていた。

 

(どいつもこいつも見せつけやがって・・・!非リア充の俺への当てつけか・・・!こっちは問題児ばかりに囲まれて尻ぬぐいさせられたり、男にいらん愛を寄せつけられて・・・チクショウ!現実なんてクソくらえだ!!リア充爆発しろ!)

 

カズマがこれまでも、この街に来た時も散々な目にあったことを思い返し、先ほどまで浮かれていた気持ちから嘘のように不満の感情が爆発しそうになった。

 

「カズマー、いつまでもそんなところで何やってるのですか?」

 

「プールにも入らず、いい御身分ね?」

 

「せっかくの私たちの報酬を無駄にする気ですかー?」

 

そこへ一旦休憩のためにプールから上がっためぐみんたちが近づいてきた。近づいてきた彼女たちをカズマはジト目で見つめる。

 

「あ、わかったわ!さては私たちの水着に見惚れてたんでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

「図星ね?図星なんでしょ?まーぁ?この水の女神である私の水着姿なんて、滅多にお目にかかれるものでもないしね?無理もないわ」

 

確かに、外見だけを見れば5人とも美人で文句のうちようもない。むしろ水着姿でさらにその魅力を増していることだろう。だがしかし、これまで散々やらかしてきた奇行によって全てが台無しになっているのだ。今更水着になったところで、その考えが変わることはないだろう。(ただし、ダクネスやティアの胸は凝視するだろうが)

 

「・・・チェンジで!」

 

「なぁんでよ~~~~!!!」

 

相変わらずのぞんざいな扱いにアクアは悲しみの叫びをあげながらカズマの肩を掴み揺さぶる。

 

「まぁまぁ。しかし・・・本当にこんなことをしてていいのか?裏切り者の件はまだ解決したわけじゃないのだろう?」

 

「あー、そうだ。その件で一応報告ね」

 

「とりあえずは、裏切り者は見つかったわ」

 

「「「「え?」」」」

 

ずいぶんとあっさりした裏切り者発見の報告にカズマたちはきょとんとした顔になる。

話を纏めるとこうだ。あの後バーバラが本格的に動き出し、各部隊長の事情聴取や家宅捜索してみたところ、情報部の部隊長であるフォステスの家にリュドミラを竜に変化させたものと同じ魔道具がいくつも見つかったとのことだ。帰りが遅れたフォステスに突きつけてみたところで詰み。バーバラが相手では勝ち目がないためあっさり裏切りを認めたとのことだ。裏切った理由はネクサスの方針が気に入らなかったとのことだそうだ。

 

「てなわけで、判決は当然ながらの有罪で団の脱退は確定。今は牢屋にいるらしいわ」

 

「でもバーバラの奴、これだけじゃ足りないのか記念祭が終わったらフォステスをアルカンレティアに連行、簀巻きで逆さに吊るしてアクシズ教の教義を24時間も唱えて、強制的にアクシズ教に入信させて勧誘活動をさせるんだってさ・・・」

 

「うえ・・・想像しただけで寒気と吐き気がするわ・・・」

 

「簀巻きで逆さま・・・!」

 

「「うわあ・・・」」

 

「そ・・・そりゃ信者が増えるのは嬉しいけど・・・それは女神の私でも引くわぁ・・・」

 

盗賊団としては罰は軽く済ませたらしいが、バーバラは疑われた腹いせでそれで許すつもりはないらしく常識人ではとても耐えがたく、アクアでも引くレベルの罰を与えるつもりらしい。その内容にダクネスは若干頬を赤らめて興奮し、カズマとめぐみんは顔を青くして引いている。

 

「ま、まぁ・・・無事解決してよかったけど・・・仲間の件は残念だったな」

 

「いや別に残念でもないよ?ほら、フォステスって真面目だけど見た目が怪しいから、『あ、こいつ絶対なんかやらかすなぁ・・・』とかみんな内心では思ってたんだよ?」

 

「まぁ・・・女湯に私たちにはバレない覗き穴を作って男共から多大な信頼を寄せてたみたいだけどね」

 

「他にもバレないように女にいたずらしてきたから、正直妥当なところなんだよね」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

カズマたちから見て、フォステスは怪しいが、言葉遣いが堅物そうな印象を見受けられたが故、印象が一気に180度変わって何とも言えないような顔になるのであった。

 

 

ーこ・の・す・ばぁ~ー

 

 

充分にプールを楽しみ、満足した頃にはもうすでに夕暮れになっていた。

 

「ではカズマ、アカメ、ティア、明日の記念祭で会いましょう」

 

「いい?絶対に遅れないでよ?遅れたりしたら承知しないんだから!」

 

「3人とも、また明日な」

 

アクア、めぐみん、ダクネスの3人はカズマたちと別れてから自分たちの宿に向かう。双子たちは自分たちの部屋があるギルドへと向かう。カズマも自分の宿へと向かっていく。

 

(・・・しかし、あいつらが巫女役なぁ・・・ミミィとかこいつらの後輩3人組とか他に適任がいるだろうに・・・)

 

と言いつつもカズマは巫女服を着込んだ双子の姿を想像する。白い着物とそれぞれ色が違う袴を穿き、お互い手を繋ぐ双子の姿を想像したカズマは鼻を伸ばし、口元がにやける。

 

(・・・はっ!何考えてんだ俺!相手は人を巻き込む喧嘩をして魅力を台無しにする双子だぞ!しっかりしろー、俺ー・・・)

 

妄想してたカズマは双子の問題点を思い出し、平常心を取り戻す。そこへスティーヴがたまたまやってきた。

 

「おー、いたいた。おーいカズマー!」

 

「スティーヴ?なんか用か?」

 

「実は折り入って頼みがあってよぉ・・・」

 

「頼み?」

 

「実はリーダーに仕事を頼まれてさぁ・・・や、もちろん他の奴らもいるんだけど・・・1人でも多くいた方が早く済むだろ?だからお前にも手伝って・・・」

 

「断る」

 

「え・・・」

 

頼みごとを速攻で拒否されたのが予想外なのか面を喰らう顔になるスティーヴ。

 

「俺は宿に戻ってゴロゴロするって忙しい仕事があるんだ。手伝えるわけないだろ?」

 

「あ、ああ・・・そうか・・・そりゃいそが・・・て、それ暇ってことだろ!なぁそう言わず頼むよ。お前だって、1日を終える時は、気持ちよく終えたいだろ?」

 

カズマの発言にツッコミを入れつつ彼と肩を組み、あるものを露骨に見せる。

 

「!こ、これは・・・!サキュバスの無料チケット・・・!」

 

スティーヴが取り出したものとはサキュバスの店の無料チケットだ。しかも2枚。つまり、これが欲しかったら仕事を手伝えと言っているのだろう。

 

「短い期間とはいえ・・・俺たち、仲間だろう?」

 

そう言ってスティーヴはアクセルでも使える無料券を2枚見せた。それぞれのチケットを合わせると4枚となる。それを見たカズマは彼のチケットを受け取り・・・

 

「もちろんだ(イケボ)」

 

無駄にかっこいい声でそう返した。

 

 

ーこのすば(イケボ)ー

 

 

スティーヴがカズマに頼んだ仕事というのは、記念祭に使う花火玉を闘技場まで運んでほしいというものだ。チケットを受け取った手前というのもあるが、それくらいならと思い、仕事を引き受けた。双子とわかれたカズマはスティーヴと共に街の倉庫にやってきた。倉庫には花火玉が入った箱がいくつもあった。

 

「こんなにあるのか⁉」

 

「これを明日までにって言うんだから面倒だよな。早く終わらせて、きれいな姉ちゃんの夢でも見ようぜ」

 

スティーヴは花火玉の箱を軽々と持って闘技場に運んでいく。カズマも花火玉を運ぼうと箱を抱える。

 

「あー、扱いには気を付けてくれよ。落としてボンしても知らねぇぞー」

 

「・・・何もしてない奴が他人事みたいに言いやがって・・・ふん!重・・・!」

 

仕事をサボって遊んでいた他の団員の注意には癪に触るが、仕事に集中するカズマ。ただ結構重いせいで持ち上げるだけが精一杯だ。

 

「大丈夫かい?よければ一緒に運ぶよ」

 

そう言ってカズマの持つ箱の片側を持ってくれたのは捜索隊のガワラであった。

 

「あ、ありがとうございます。えーっと・・・」

 

「ガワラだよ。捜索隊の隊長をやってるんだ。よろしくね」

 

ガワラはにっこりと微笑み挨拶をする。そんな彼にカズマは若干違和感を感じる。というのも、最初に会った時は熱い熱血漢の印象が強かったからだ。

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「あ、ああ、いや・・・なんか最初のキャラとは違うなーって・・・」

 

「ああ、あれかい?あれは仕事だけそう見せてるだけさ。捜索隊は血の気が多いのが多いからね。舐められないようにするためだよ」

 

「な、なるほど・・・」

 

どうやらあの熱血漢は隊員に舐められないためにやっていることで、こっちが素の姿らしい。

 

「君のことはあの2人の報告書で知ってるよ。何でも魔王軍の幹部を3人も倒したんだって?すごいじゃないか」

 

「え?そんなこと・・・ありますけどねぇ」

 

「はは、そんな猛者とこうして話ができるなんて俺は嬉しいよ」

 

あの暑苦しさはどこへやら、ガワラは本当に爽やかな笑みを浮かべ、おかしな点など1ミリもない。だがカズマはだんだん学んでいる・・・この世界の人間はたいていロクでもない奴しかいないことを。絶対何か裏があるはずであろうと睨んでいる。

 

「それで、どうだい?あの2人、制御するのはなかなか大変だろう?」

 

「え、ええ・・・まぁ・・・でもそれと同等・・・それ以上の奴らを抱えてますんで」

 

「ははは、それは大変だね。まぁ俺も、あの2人にはやられたからねぇ」

 

(よぉーっく見極めろ俺・・・!絶対に・・・絶対に何かあるはずだぁ・・・!)

 

警戒しているカズマはいつ逃げ出してもいいように、ガワラの言動を注意深く観察する。そうして観察している間にも、花火は全て運び終えた。結論、最初から最後まで何もなかった。

 

「今日はありがとう。おかげで有意義な時間になったよ」

 

「お・・・おかしい・・・!何もない・・・だと・・・!いや、そんなはずは・・・!」

 

ガワラの常識人っぷりにカズマは自分の中にあるセンサーを疑い始め、ぶつぶつ独り言を呟く。そんなカズマの様子がおかしかったのかガワラはクスリと笑う。

 

「確かに変な人は多いし、君の気持ちは理解できるつもりだけど、疑ってばかりじゃ疲れるだけだよ。裏切り者はもういないんだし、気楽に行こうよ気楽に。ほら、スマイルスマイル」

 

「え・・・あ、はい・・・。

(・・・なんか変人かと思って疑ってた自分がバカみたいだ・・・)」

 

あまりのいい人ぶりに逆に激しく疑ってた自分が恥ずかしくなってくるカズマ。

 

「君たちはこの後は・・・ああ、お・た・の・し・み、だったね。いいね」

 

「べ、べべべ、別に、そんなことないですけど?」

 

「お楽しみもいいけど・・・ほどほどにね?女の子にバレてあれをちょん切られても責任は取れないから」

 

「ちょ・・・ちょん切・・・っ⁉き、気をつけます・・・」

 

笑顔から急に真顔で物騒なことを言うものだからカズマは思わず顔が真っ青になって、サキュバスの店をご利用の際はより一層気をつけようと心がけるようになる。

 

「じゃ、俺はまだ仕事が残ってるから。明日の記念祭、"運がよければ"また会おうね」

 

「は、はい、失礼しました」

 

最後までいい人間を貫き通しているガワラに若干拍子抜けだったが、稀に見る常識人にカズマは安堵する。だがカズマの直観は・・・別の意味で当たっていることに、今はまだ気づく由もなかった。

 

 

ーこのすばー

 

 

いよいよ迎えた記念祭本番の翌日、街の雰囲気は朝から祭り一色で準備中とは比べ物にならない賑わいを見せていた。

 

「皆様、大変長らくお待たせいたしました!10年に一度、今日しかないアヌビス誕生記念祭、心ゆくまで、お楽しみください!」

 

『イーーヤッホーーーーー!!!!!』

 

ステージで開催宣言をした後に、出店の営業は開始し、記念祭に来た人たちは散開し、記念祭の出し物を見に回りに行く。当然、その中にはカズマたちもいる。

 

「ついに始まったわね!記念祭!遊びつくすわよー!!」

 

「朝なのに張り切ってんなぁ・・・ふわぁ・・・ねみ・・・」

 

記念祭の話を聞いてから遊ぶ気満々なアクアは張り切っており、逆に一緒に来ているマホは眠そうにしている。

 

「しかしすごい賑わいだな。この賑わいはエリス祭り以上ではないか?」

 

「エリス祭り?」

 

エリス祭りという聞いたことない祭にカズマは首を傾げる。カズマの疑問にめぐみんが答える。

 

「知らないのですか?正式な名前は女神エリス感謝祭と言って、1年を無事に過ごせた事を喜び感謝し、女神エリスを称えるお祭りです」

 

「へぇ~・・・」

 

「紅魔の里でもやりましたが、盛り上がりの方で言えばこちらの方が圧倒的に上ですね」

 

「これは10年に1回だからな。信仰云々関係なく、羽目を外したいんだろうぜ」

 

「そう考えれば、手伝った甲斐があったというものだ」

 

伝統的でいえばエリス祭りの方が上だが、10年に1回というだけあって、記念祭の方が盛り上がりを見せている。それを手伝ったダクネスたちは感慨深いものを感じている。

 

「そのエリス祭りについていろいろ物申したいところだけど・・・そんなの後回し!今は記念祭よ!記念祭!バーバラに聞いた話によると、この街の敬虔なアクシズ教徒たちも面白そうな出し物をやってるそうなの!私、そっちに行ってみんなからちやほやされてくるわ!」

 

「あ、おい待て!だー、クソ!口約束なんてするんじゃなかった!待てって!」

 

ウキウキの様子のアクアはアクシズ教徒(エリス教徒監視の元)がやっている出し物がやっているペースに向かっていき、リュドミラの呪いの際に出した約束をここで行使され付き添うはめになったマホは愚痴をこぼしながら彼女を追いかけた。

 

「・・・あいつ、余計なことやらないだろうな・・・」

 

「まぁ、マホが一緒なのだから大丈夫だろう?」

 

「そう?そうかなぁ・・・」

 

またアクアが何かやらかさないか不安になっているカズマは顔を項垂れている。

 

「ではカズマ、祭りを回る前に景気に1発、撃ちに行きましょう!」

 

「待て、なんでそうなる?大人しくしてたんじゃなかったのか?」

 

「何を言うのです?10年に1度なんですよ?インパクトはより大きい方がいいに決まってるではないですか。ならば!!今日まで溜まりに溜まった撃ちたい衝動を一気に解き放った方が爆裂魔法のキレが増すし、記念祭にも派手に貢献できるのではないでしょうか!!」

 

「お前、まさかそのために今まで我慢してきたのか?」

 

「そうでなければ、なぜ日課の1日1爆裂を我慢しなければいけないのですか?」

 

「・・・・・・」

 

どこに行っても爆裂魔法のことしか考えていないめぐみんに対し、カズマは何とも言えない表情になる。

 

「ではさっそく・・・」

 

「待ってくれ。撃つにしてもどこで撃つつもりだ?私もカズマも砂漠の地形には詳しくない。遠くへ行けば迷う可能性だってある」

 

「ダクネスの言うとおりだ。案内係の双子は今最後の練習で今はいないんだぞ?」

 

「むむ・・・確かに・・・困りましたね・・・どうしましょうか・・・」

 

「我慢すればいいだろ」

 

「それでは私の我慢が無駄になるじゃないですか!!」

 

「無駄でいいんだよ!!」

 

「何をぅ!!!」

 

回りを気にせず不毛な言い争いをするカズマとめぐみん。そこへ・・・

 

「お困りのようですね?」

 

「「うわぁ!!?」」

 

2人の間にいつの間にかリュドミラが割って入ってきた。

 

「おお、リュドミラか。お前も祭りを見て回ってたんだな」

 

「はい。元々そのためにこの街までやってきたのですから」

 

「お、驚かすなよ!危うくちびるところだった」

 

「汚らしいのでやめてください。それより、何やらお困りのようですが?」

 

「聞いてくださいよ!せっかく今日まで爆裂魔法を我慢してきたのに、カズマが撃つなと無慈悲なことを言うんです!!」

 

「あのなぁ!近所だと怒られるし、遠くだと帰れなくなるんだぞ!こんなことで貴重な1日の時間を無駄にしたくない!」

 

「・・・要約。あなたは爆裂魔法を撃ちたいけど、この砂漠では帰り道がわからなくなるので案内役がほしいと、そういうことですね?了解しました。ならばそのオーダー、私が引き受けましょう」

 

また揉めあいになりそうなところをリュドミラが揉めあいの原因を理解し、名乗りを上げた。

 

「はあ!!??」

 

「あ、ありがとうございます!!あなたこそ私のメシアです!!さあカズマ、これで問題は解決しました。いざ行きましょう!レッツ、爆裂!!」

 

リュドミラの名乗りでめぐみんは一気に上機嫌になり、杖を掲げて宣言した。

 

 

ーえ?マジで行くの?ー

 

 

結局めぐみんに付き合わされることになったカズマはめぐみんとリュドミラと共に街を出て砂漠を歩いている。その表情はうんざり君である。

 

「あちぃ・・・何やってんだ俺・・・」

 

「う~ん・・・この日に相応しい標的もなかなか出ませんね」

 

カズマが嘆いているのをよそに、2人は記念祭に相応しいような標的を探しているが、中々見つからないでいる。

 

「なぁ、もうその辺のオアシスでいいだろ。適当に撃って帰ろうぜ」

 

「それではいつもと同じではないですか。もっとこう・・・大きいものでなくては・・・」

 

「もじもじしながら言うな!!!だいたいこんな砂漠にそんな都合のいいものなんてあるわけ・・・あったわ」

 

もじもじと恥ずかしそうに言うめぐみんにツッコミを入れた後にカズマが見たものとは、砂に埋もれた大きいものであった。あの大きさならちょうどめぐみんの条件にあっている。

 

「分析。あれはおそらく、砂に埋もれた砦といったところでしょうか。まさに、条件ピッタリと推測」

 

「ふむ。そうですね。欲を言えば頑丈さも確かめたいですが・・・あれにするとしましょう」

 

標的を定めためぐみんは砂の砦に杖を向け、詠唱を唱える。

 

「吹き荒べ熱風、纏え爆熱。灼熱の荒野を真紅の爆焔にて覆い尽くさん。万象の摂理は、我が基に降臨せり!!!」

 

詠唱を称え終え、待ちに待った爆裂魔法が放たれる。

 

「エクスプロージョン!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!!

 

爆裂魔法の大爆発は砂の砦を覆いつくし、纏っていた砂は散り散りに舞っていく。だが例の如く、砦は粉々、クレーターも出来上がっていた。

 

「これが爆裂魔法・・・予測以上のものと推定」

 

「はぅ・・・久々の爆裂魔法・・・最高に気持ちよかったです・・・」

 

「ふーむ、確かに久々ということもあって、凄まじい威力・・・なおかつ衝撃波の振動が空気にも伝わる滑らかさ・・・ナイス、爆裂!」

 

「ナイス、爆裂」

 

リュドミラは爆裂魔法を称賛し、カズマもなんだかんだ言って評価してめぐみんにグッドサインを送った。

 

「嫌々言ってたわりに、カズマもノリノリですね」

 

「もう吹っ切ることにしたよ」

 

「満足したようでなによりです。では、モンスターが集まる前に、ここを離れましょう。さあ、私に掴まってください」

 

「はい?・・・うおぉ⁉」

 

リュドミラは案の定倒れてるめぐみんと、隣にいるカズマを担いだ。そして・・・

 

「リュドミラ、驀進します」

 

「おい、お前何言って・・・」

 

ビュンッ!!ゴオオオオオオオ!!!

 

「「ああああああああああああ!!??」」

 

まるでスーパーカー並みのスピードで走り出した。あまりのスピードにカズマとめぐみんは恐怖を覚える。

 

「速い速い速いいいいいい!!止まってぇ!!怖い怖い怖いいいいいい!!!」

 

「驀進、驀進、驀進・・・」

 

「いいいいやああああああああああ!!!!!」

 

このスピード地獄はアヌビスの街に戻るまで続いたという。

 

 

ーこのすばああああああああ!!!ー

 

 

カズマたちが1日1爆裂をしている間、ダクネスは祭りの出し物を見て回っていた。彼女は貴族ということもあって、見るもの全てがやはり新鮮でとても楽しそうにしている。そんなうきうきしている様子のダクネスの元にカズマたちが帰ってきた。

 

「ああ、カズマ、めぐみん、おかえ・・・り・・・?」

 

「おおう・・・ダクネス・・・」

 

カズマとめぐみんは疲労困憊でふらふらした状態だ。

 

「な、何かあったのか?」

 

「困惑。街についた時にはすでにこの状態に・・・」

 

「お前のせいだろうが!!!」

 

「??理解不能。私は最善で安全な方法を取ったのですが、なぜ私のせいになるのでしょう?」

 

リュドミラの反応を見る限り、本当にカズマたちが疲れた原因がわかっていないようで、きょとんとした顔をしている。しかも全て善意ある行動で悪意が全くないので余計に質が悪い。

 

「・・・・・・」

 

「・・・そんなに見つめられると照れてしまいます」

 

「これ軽蔑の視線だからな?」

 

カズマのジト目にリュドミラはなぜか頬を赤らめる。そんな彼女にカズマは冷静にツッコミを入れる。

 

「きゃああああああ!!ひったくりよーーー!!」

 

こんなやり取りをしていると、遠くでひったくりの事件が起きた。ひったくり犯は女性から財布を奪ってどこかへ逃げようとしている。

 

「なっ!こんな祭りの時期でも悪事を働く輩がいるとは・・・!すぐに捕まえなくては!」

 

「待てダクネス!こういう時は俺のスティールで・・・」

 

「あれ?リュドミラはどこです?」

 

「「え?」」

 

ひったくり犯から物を取り返そうと動こうとした時、いつの間にかリュドミラがいなくなっていた。逃げるひったくり犯を見て見ると、リュドミラがすでに追いついて並走し・・・

 

ガシッ、ドゴオオオオオン!!!

 

「ぐべら!!?」

 

ひったくり犯の頭を掴み、地面に叩きつけた。

 

「す・・・すげぇはえぇ・・・」

 

カズマはリュドミラの行動の速さに驚く。しかし、真に驚く光景はここからだ。

 

ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!

 

「がはっ!ぐへっ!ぼべぇ!」

 

もう捕まえたにも関わらず、リュドミラは何度も何度も何度もひったくり犯の頭を叩きつけた。やりすぎである。

 

「もういい!!もういいって!!もういいって言ってんだろおおお!!」

 

さすがにひったくり犯がかわいそうになってきたカズマは急いで駆けつけてリュドミラを止めるのであった。

 

 

ー悪・即・滅・ですー

 

 

ようやく解放されたひったくり犯はリュドミラを恐れ、盗んだ財布を捨てて逃げた。リュドミラは被害者の女性に財布を返すのだが・・・

 

「いやあああああああああ!!」

 

あの撲殺行為を見たせいで悲鳴を上げ、財布を受け取って案の定逃げていった。

 

「財布の返却を確認。これでまた一歩、正義の味方に近づきました」

 

「いや女の人怖がって逃げていったよ?明らかに正義とは真逆なことをしていたよ?」

 

リュドミラはなぜか喜んでいたが、カズマは冷静に逆効果であるとツッコミを入れる。隣にいるダクネスは先ほどの光景を見て頬を赤らめてもじもじしている。

 

「あ・・・あの容赦のない連続攻撃・・・私もあいつと同じことをやればやってもらえるのか・・いや、私は騎士だ!あんな卑劣な行為などできるはずがない!ああでも・・・ああ!!」

 

「ダクネス、絶対にやらないでくださいね」

 

変に葛藤するダクネスにめぐみんが冷静に注意する。

 

「ところで、リュドミラは正義の味方になりたいのですか?」

 

「はい。我が里に伝わる童話の英雄。あの者の言葉1つ1つ、そして善意が私に勇気を与えてくれました。私も、童話の英雄のような正義の味方になりたい。そのためにも、1日1善は欠かせないのです」

 

言っていることは立派かもしれないが、それで人を困らせたり怖がらせたりしたら却って逆効果になっていることをリュドミラは全く気付いていない。

 

「人助けするならもうちょっと加減してやってくれよ」

 

「拒否。童話の英雄は言いました。手を抜く善に意味なし、全身全霊を以て悪を挫き、弱きを救う。善を貫くならば何事も全力を以て行うべきです。それが正義の味方になるための第一歩・・・その歩みは何人たりとも止められません」

 

この言葉でリュドミラに対しカズマは思った。結局はこの女もアクアたちと同類なのであると。

 

「受信。近くで困った人の反応を検知。すみませんが、失礼します」

 

「は?あ、おい!!・・・行っちゃった・・・」

 

リュドミラは困っている人を求めてどこかへと行ってしまった。

 

「やっと見つけたぜ・・・おぉ~い、カズマ~・・・」

 

「うぅ・・・ひっぐ・・・えっぐ・・・」

 

そこへすれ違うかのようにマホがアクアの手を取りながらカズマたちを呼んでいる。アクアはなぜか泣いている。

 

「おい!いつまで泣いてんだ!」

 

「ぐす・・・だって・・・だってぇ・・・」

 

「・・・一応聞くが、その駄女神はいったい何をやらかしたんだ?」

 

「あー・・・こいつ、アクシズ教徒が経営してる銭湯の祭り限定の湯を普通のお湯に浄化しちまって・・・いや、それだけならいいんだけどよ・・・はぁ・・・」

 

心なしか疲れている様子のマホはうんざりしたようにため息をこぼした。

 

 

ー回想ー

 

「お湯に浄化しちゃったのは謝るわ。でも仕方がないことなの。なぜなら私は、あなたたちが崇拝する水の女神・・・アクアなのだから!」

 

長い沈黙。そして・・・

 

「ざけんじゃないよ!!!!!」

 

「!!??」

 

「限定湯をお湯にした挙句、アクア様の名を勝手に名乗りやがって!!!」

 

「私たちに恨みでもあるの!!?私たち、こんなに人様のために尽くしてるのに!!」

 

「ち、違うの!!だましてるんじゃなくて私は本当に・・・」

 

「あああ!!さてはあんた!!!アルカンレティアの温泉を全部お湯に変えたってていうとんでもないいたずらをしたパチモンだね!!!!しらばっくれても無駄だよ!!孫から全部聞いてんだからね!!!」

 

「は!!?おいクソ女神!お前アルカンレティアでいったい何をしやがった!!?」

 

「違うの!!私はただかわいい信者たちのために・・・」

 

「パチモンとその仲間をとっ捕まえろおおおおおお!!!」

 

『おおおおおおおおおおおおお!!!』

 

「だああああああ!!オレ完全な巻き込まれじゃねぇかああああああああ!!」

 

「なぁんでこうなるのよおおおおおおお!!!」

 

 

ー回想終了ー

 

 

「それで追い掛け回されてるのよ!!?私何も悪いことしてないのに、どうしてかわいい信者たちに目の敵にされなくちゃいけないの!!?ねぇどうしてよぉ~~~!」

 

えんえんと泣き続けるアクアはダクネスに近づいて抱き着いてきた。アクアがまた厄介ごとを持って帰ってきたことにカズマは頭痛で頭を抱えそうになる。

 

「ま、そんなわけでこれ以上面倒ごとに巻き込まれんのは御免なんでな。このろくでなし、返しとくわ。後は自由に祭りを楽しんでくれ。オレはかえ・・・」

 

アクアをカズマに押し付けたマホはテレポートを使おうとするが、カズマとめぐみんが彼女のマントを掴んでいる。

 

「おい、何やってんだ?これじゃテレポートを使えねぇだろ?」

 

「行かせませんよ?何自分だけ助かろうとしてるんですか?」

 

「俺たち、仲間だろう?例え同じパーティじゃなくても・・・堕ちる時は一緒だ♪」

 

爽やかな笑顔でマホを引き留めようとするカズマとめぐみん・・・だがマホは腕づくで2人を引きはがそうとする。

 

「ええい!!放せ!!!お前らと違ってオレはノーマルなんだ!!堕ちるなら勝手に堕ちてろ!!オレをそっちに引きずりこむんじゃねぇ!!」

 

「何自分はまともみたいに言ってんだ!!言っておくけどな、モンスターの店を始めてる時点で、お前もこいつらと同類だからな!!」

 

「なんだとてめぇ!!」

 

「おい、どさくさに紛れて私を変人扱いするのはやめていただこう」

 

「おい!!いたぞ!!パチモン女神だ!!」

 

「ひぃ!!!」

 

不毛な争いをしていると、回想に出てきたアクシズ教徒たちがアクアに気付き、こちらに接近してきている。

 

『簀巻きだ!!!偽物とその仲間を簀巻きにしろぉ!!!』

 

「いやあああああああああ!!」

 

「うおおおおお!!お前らのせいで逃げ遅れたじゃねぇかあ!!!」

 

「知るか!!!もう・・・なんで毎回こんな目に合うんだよおおおおおお!!!」

 

自分たちを捕まえようと躍起になるアクシズ教徒たちから必死になって逃げるカズマたちなのであった。

 

 

ーこのすばぁ!!!!ー

 

 

カズマはなんとかアクシズ教徒の群れから逃げ切ることができたが、逃げる最中でアクアたちとはぐれてしまった。

 

「ぜーはー、ぜーはー・・・な、何とか撒けたか・・・?」

 

カズマが息を吐いて疲れを整えようとすると・・・

 

「カーズーマー」

 

彼の背後から手が・・・

 

「ふわああああああああああ!!!???」

 

「きゃああああああああああ!!!???」

 

不意に肩に触れられたカズマと、急な大声でティアは同時に悲鳴を上げた。ティアの隣にいたアカメは呆れ気味だ。

 

「あんたら何驚いてんのよ?」

 

「ふ、双子かよ!!驚かせんなよ!!アクシズ教徒かと思ったじゃないか」

 

「そ、それはこっちのセリフだよ!練習も終わって本番まで暇になったから探してたのに・・・て、アクシズ教徒って言わなかった?近くにいないよね?」

 

「やめなさい。あんたが言うと現実なものになるじゃない」

 

ティアはアクシズ教徒に反応して怯えたように辺りを見回し、アカメはそんな彼女の行動を咎める。

 

「まぁそれはいいとして・・・あんたどうせ暇でしょ?私たちの買い物に付き合いなさい」

 

「ちょうど祭り限定の品で欲しいものがあったんだよね。あ、お金のことはご心配なく。どうせ3億の大金が入るわけだしね」

 

双子からの誘いを聞いてカズマは思った。これは自分が荷物持ちをやらされるんだと。そう思ったカズマはその誘いを断ろうと口を開く。

 

「俺はこの後宿に戻って部屋でゴロゴロするのに忙しいからパス」

 

「さすがヒキニートね。そうやって人生の半分を無駄にするのだから」

 

「ひ、ヒキニートじゃないから!」

 

「だったら私たちに付きあえるよね?というか、カズマに拒否権なんてないから」

 

(選択する権利もねぇのかよ・・・)

 

選択権も譲ってくれない理不尽双子に渋い顔つきになるカズマ。が、カズマはここで思案する。

 

(待てよ?これってもしやデートなのでは?いやいや待て待て・・・俺がこの2人とデートをしてあの親バカ親分が黙ってると思うか?いやまったく思わない。だけど冷静に考えろ?これはこいつらが誘ってきたわけであって、俺の意思じゃない・・・つまり合法なんだ。なら一緒にいたって問題はないはずだ。いやちょっと待て。デート自体はいい。俺も悪い気はしないからな。けど問題はその相手がどこ彼構わず喧嘩して人様を巻き込む凸凹姉妹だぞ?そんなのと一緒にいて無事で済むのか?いや、何とかフォローを入れれば問題ないか?いやそうではない。そもそも俺とこいつらとはそんな関係じゃないし、万一そうなったとしてもどっちかを選択するはめになる。あれ?でももしこいつらと結婚することになったら・・・どっちかが義理の姉か妹になるということになるのでは?ううむ、甲乙つけがたい・・・。いやいや待て待て・・・)

 

カズマは心の中で葛藤し、どうするべきかと悩みに悩んで辺りをうろうろしている。その様子に双子は次第にイライラし始めた。

 

「ああ、もう!何に悩んでんだよイライラする!!」

 

「あんたに拒否権なんてないっつったでしょ!いいからさっさと来いっつってんのよ!」

 

いい加減時間の無駄だと思った双子は無理やりカズマの手を取って祭りの屋台に向かおうとする。

 

「あっ!おい!!少しは考えさせ・・・て、それも拒否権ないのか・・・」

 

無理やり付き合わされることになったカズマだが、女の子とデートということで心の中では意外とまんざらでもなかったりする。

 

 

ーこのすばー

 

 

その後カズマは双子と共に屋台を見て回ったり、バザーで買い物をしたり・・・時にはいつも通りの双子の喧嘩を仲裁したり・・・時には街の住民と揉めあったり・・・時にはアクシズ教徒たちに追いかけまわされたりと・・・ずいぶんはちゃめちゃなことがあったが、なんだかんだで記念祭を楽しんでいた。そんなこんなで時間はあっという間に経ち、気づけば夜になっていた。3人は宿屋の屋上で祭りの景色を眺めていた。

 

「ん~~!結構はしゃいだな~!」

 

「はぁ・・・俺はもう疲れたよ・・・」

 

「何よ?こんな美少女と一緒に祭りを回ったのよ?もう少し喜んだらどう?」

 

「自分で言うな自分で」

 

自分を自画自賛するようなアカメの発言にカズマは呆れている。

 

(・・・まぁ正直?楽しくなかったって言えば噓になるけど・・・)

 

とはいえ、なんだかんだ楽しんだ自覚があるカズマ。

 

「てか、そろそろ戻った方がよくないか?演舞に主役が遅れちゃ意味ないだろ?」

 

「ざ~んねん、演舞は最後の締めくくり。時間にはまだまだ余裕があるよ」

 

「ふん、それ以前に、あんた如きがちゃんと締めを飾ることができるのかしらね?」

 

「は~~?それはお姉ちゃんの方なんじゃないの?」

 

「あ?何が言いたいのよ?」

 

「お姉ちゃんみたいな単細胞が締めを飾るなんて、不安でしかないってこと」

 

「ああ?」

 

「はあ?」

 

お互いの罵り合いに双子はまたいつもの喧嘩腰になって睨みあっている。

 

「ああ、もう!お前らはいつもいつも・・・」

 

今にも殴り合いになりそうな雰囲気にカズマが止めようとすると・・・

 

ピュ~~~・・・パァン!!パァン!!

 

花火の音が鳴り響き、3人はそちらに視線を向ける。次々と花火が夜空に弾け、祭りをさらに賑わせている。

 

「あ・・・花火・・・。きれい・・・今回も打ち上げたんだ」

 

「・・・はあ。なんか、あんたに喧嘩を売るのがバカらしくなってきたわ・・・」

 

「それはこっちのセリフだっつーの」

 

(ほっ・・・)

 

双子の喧嘩が花火で止まってほっとするカズマ。

 

「あー、ていうか喉乾いた。お姉ちゃん、なんか買ってきてよ」

 

「はあ?なんで私が?あんたが行けばいいでしょうが」

 

「ごはんから何まで私が出して当たり前とか考えてない?何でもかんでも思い通りになると思ったら大間違いだよ」

 

「あ?」

 

「は?」

 

せっかく収まったと思っていた喧嘩が些細なことでまた始まろうとした時・・・

 

パァン!パァン!パァン!

 

「・・・よしわかった。ならここは公平にジャンケンといきましょう」

 

花火の音で収まり、平和的にジャンケンで解決を提案するアカメ。

 

「はんっ、いいよ。ジャンケンでも私の方が上手だってことを教えてあげるよ」

 

「寝言は寝て言いなさい。ジャンケンで軽くひねってあげる」

 

双子は互いに睨みあい、数秒の時間が経った後、無言でジャンケンを行う。しかし、お互いに出すものが同じなためあいこが何回も何回も続く。

 

(・・・俺は何を見せられてるんだ・・・?)

 

突然のジャンケン、何回も続くあいこを見せられて、カズマは少しうんざり気味だ。そんな2人の攻防もちょうど今終わった。アカメがチョキでティアがグーを出した。よって勝者はティアとなった。

 

「よっしゃ私の勝ち!!」

 

「ちいぃぃぃ!!」

 

「はいというわけで飲み物買ってきてね。私コークでいいから」

 

「あ、ついでに俺の分も頼むな」

 

勝者のティアはドヤ顔をしながらアカメにパシリを頼んだ。ついでにカズマも恩着せがましくも頼んだ。

 

「この私をパシらせて・・・!覚えてなさい・・・!」

 

アカメは忌々しそうな顔をティアとカズマに向けた後、渋々ながら飲み物を買いに向かった。

 

「・・・なぁ、今さらながらだけど、喧嘩の原因はお前らの煽り合いが大半なんだから姉の挑発行為はやめてくれないか?」

 

「無理。そもそも先に挑発してくるのはあっちなんだから私は悪くないよ」

 

「そうですか・・・」

 

なんとか説得して喧嘩の回数を減少しようとしたカズマだが、予想通りの解答がきてがっくりする。

 

「それよりさ、どう?記念祭?楽しかった?」

 

「どうって・・・まぁ、楽しかったけど・・・」

 

「はは、だよね。・・・今日は大事な日だもの・・・楽しいものであってもらわないと困る」

 

「その発言、なんか意味ありげだな」

 

「うん。だって記念祭はお父さんとお母さんの結婚記念日だもん」

 

「そっか・・・て、え?」

 

さらっと重要なことを口にしたカズマは軽く流しそうになったが面を喰らった表情になる。

 

「私たちの両親はこの記念祭で結婚したらしいの。だからお頭にとっても私たちにとっても、この記念祭は特別なものなの」

 

「えっと・・・ご両親は?」

 

「カテジナから聞いてるよね?私たちがお頭に育てられたって。つまりはそういうこと。名前も知らない。お母さんはどこかにいるってことはわかってるけどね」

 

ネクサスに育てられた・・・それ即ち、双子の両親はいないことを指している。いきなり重い話を出されてカズマはどう反応すればいいか困っている。

 

「どうしてお母さんが私たちを置いて行っちゃったのかはわからない。けど・・・お頭は言ってたんだ。お母さんはこの記念祭を楽しみにしていたって。それってお父さんとの思い出を覚えてるってことだと思うの。なら、この記念祭を盛り上げていけば、噂を聞きつけてお母さんは戻ってくる。私はそう考えてる」

 

ティアはカズマの隣に立って柵を掴んで打ちあがる花火を見つめる。

 

「私はお母さんに会いたい。そのためにできることはなんだってする。だって・・・血の繋がった家族だもん。会いたいって気持ちに嘘なんてつけないでしょ?」

 

ティアの気持ちにカズマに考えさせられるものがあった。家族に会いたいという気持ち・・・それが自分にはもう叶えられないものであるがゆえ。何せカズマは日本で一度死んでこの世界に転生したのだから。もう会うことは叶わないだろう。

 

(母親に会いたい・・・か。そうだよな・・・。どんな形でも、自分を生んでくれたわけだしな。・・・今にして思えば俺、全然親孝行できなかったな・・・)

 

こんな事なら、引きこもってばかりいないで親孝行すればよかったなと、若干ながら後悔する。だからこそ、ティアの考え方に尊敬できるのかもしれない。

 

「と、ごめん。こんな話、つまんなかったでしょ?」

 

「何言ってんだよ?いい話じゃないか。むしろ、今の話で自分がどんだけ親不孝なのかって思い知らされたんだ。お前のこと、少しは見直したぜ」

 

「え・・・そ、そう・・・?あ、ありがとう・・・///」

 

まさか褒められるとは思ってなかったのか、ティアはカズマの言葉に少し照れている。

 

「なんだよ、全然らしくないじゃん。どうしたの?」

 

「なんてことないさ。ただかわいいなって思っただけだよ」

 

「か・・・!!?」

 

まさかカズマの口から自分に向けてそんな言葉が出てくるとは思わずティアは朱に染まった顔はさらに赤くなる。

 

「ま、またまたそんな・・・どうせからかってるだけでしょ?」

 

「お前な・・・俺が本心で言ってることがそんなにおかしいか?」

 

「だ、だから質が悪いんだよ!だいたいカズマはさぁ・・・」

 

カズマから褒め慣れていないティアは頬を赤くしたままカズマに詰め寄ろうとする。

 

ガッ!

 

「きゃっ!」

 

「うおっ⁉」

 

だがそこで自分のつま先で躓いてしまい、カズマを押し倒してしまう形でティアは転んでしまう。その結果、倒れたカズマにティアが跨がっている状態となる。しかも2人の顔の距離は近い。そして、心なしかティアの顔は赤い。

 

「・・・カズマってほんっっっとうにずるいよね。普段はカッコつけで平然とゲス行為をしたりするパンツ脱がせ魔のクズマのくせに。・・・でも、なんだかんだ言っても私たちを見捨てないでくれるし、ここぞって時に頼りになる。なんだかんだ言っても我がまま聞いてくれるカズマの優しさに、仲間として惹かれたし、尊敬もしてる。だからこそカズマには、この大事な記念祭で、日々の疲れを労いたかったんだ」

 

「・・・・・・」

 

「いつもありがとうね・・・カズマ」

 

ティアはカズマに跨った状態で笑みを浮かべ、感謝の言葉を紡いだ。そんな状況の中、急展開の連続にカズマは困惑する。

 

「・・・なあ、これはいったいどういう状況なんだ?いきなり突っかかってきて転んだかと思ったら・・・大事なことを打ち明けたり、俺に感謝してきたり・・・俺に跨ってきたり・・・お前こそどうしたというんだ?」

 

「その言葉・・・そっくりそのまま返すよ。私がカズマたちを労うことがそんなにおかしい?」

 

「いや・・・この態勢でそんなこと言われると・・・逆に反応に困るというか、なんと言うか・・・」

 

「くす・・・こういった展開になると男は襲いたがるものだけど・・・やっぱりカズマはそう言った度胸がないヘタレだね」

 

ティアは跨った状態のままおかしそうにクスクスと笑っている。というより、意外にもまんざらでもない様子。この様子を見てカズマは考える。

 

(えっと・・・この状況・・・もしかして・・・ついに俺にもモテ期が来たのか・・・⁉)

 

先ほどまでのティアへの尊敬、親孝行できなかった恥はどこへやら、カズマは変な期待を抱き始めた。そう思って、ティアの顔をじっと見つめ続けていると・・・

 

ヴゥー!!!ヴゥー!!!ヴゥー!!!

 

『緊急事態発生!!緊急事態発生!!街に大量の虫型モンスターが発生!!混乱に乗じ、人型の虫モンスターも侵入!!非戦闘員、また住民の方は直ちに避難を!!冒険者の方は至急、モンスターの討伐を!!そして冒険者サトウカズマさん一行はすぐにギルドへ向かってください!!』

 

淡い期待をぶち壊すがごとく、緊急の放送が街全体に響き渡った。

 

「・・・ほらこんなもん!!!!!」

 

期待と雰囲気をぶち壊されたカズマは怒りの表情でブチギレて心からの叫びを発したのであった。




次回、このお邪魔虫に天誅を!


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このお邪魔虫に天誅を!

ついに・・・ようやっとここまで来た・・・。最初のオリジナル章の完結が!これでようやく、次の章に進められる・・・!来年の4月には3期が始まるし、できるならそれまでに次章を書きあげたいな。

さて、今回の話で今年のことすばの投稿は最後となります。

よいお年を!

あ、後、次章の予告があります。


アヌビスの記念祭の最中に侵入してきた虫型モンスターの大群によって、街中は大混乱に陥っている。冒険者ギルドの広間には何人かの冒険者とアカメたちも集まっていた。

 

「おんどりゃあああああああ!!!どこの誰じゃ楽しみを奪いやがった奴はあああああああああ!!!」

 

さらにティアとのお楽しみ展開を邪魔をされて完全にブチギレているカズマとティアもやってきた。どうやら2人は潜伏スキルでどうにかモンスターに見つからずに辿り着いたようだ。

 

「やっと来たわねあんたたち。街中が今大変な状況よ」

 

「お待ちしておりましたカズマさん。さっそくですが、状況を説明させていただきます」

 

カズマが来たことによって、カテジナはさっそく現在街の状況を説明する。

 

「あなたも見た通り、街に大量の虫型モンスターが発生し、街を蹂躙していらっしゃいます。ネクサス様を含め、多くの冒険者たちがモンスターの駆除にあたっておりますが、未だに増幅しており、手に負えない状況にあります。そこであなたたちに折り入ってお願いがあります。私たちがモンスターの相手をしている間、あなたたちにはモンスターの発生源を絶ち、事の発端である犯人を倒してもらいたいのです」

 

「犯人って・・・もう裏切り者は捕まえたはずじゃ・・・」

 

「違う!!私じゃありませぇん!!」

 

カズマの言葉を否定したのは簀巻きの状態で逆さに吊るされているフォステスであった。

 

「あ!!お前!!」

 

「というか、私今日大変だったんですからな!旧アジトが崩れたと思ったら周辺にモンスターが集まって・・・そいつらから逃げてたらバーバラに捕まってこんな姿にされたんですから!!」

 

「どうやら、どこかのバカが旧アジトに爆裂魔法を放ったことで地下の牢屋が壊れ、この不埒者が脱走したようなのです」

 

(あー・・・)

 

カテジナの説明した旧アジトにカズマは心当たりがありまくった。そう、めぐみんの爆裂魔法で壊れたあの砂の砦こそが、ウェーブ盗賊団の旧アジトなのだから。アカメたちは爆裂魔法を放っためぐみんをじーっと見つめているが、めぐみんは知らんぷりするかのようにそっぽを向いている。

 

「話を信じるならば、どうやら裏切り者はフォステスだけではないようなのです。そうですね?」

 

「私が奴に持ちかけられたのはネクサス殿を嵌める計画だけ!こんなことは知らされていません!!本当です!!信じてください!!」

 

「まともな情報がない今、彼を信じるしかありません。モンスターの発生源はどうやら闘技場のようです。これは私からの正式な依頼とさせていただきます。闘技場へ赴き、真犯人の野望を打ち砕き、このアヌビスの街を救ってください!」

 

カテジナは真剣さを込めた表情でカズマに頭を下げて、街の救済を依頼した。

 

「カズマカズマ、今回私はお役に立ちそうにないので、ここで待機してますね。というか、魔力切れです」

 

「じゃあ私も今回役に立ちそうにないから・・・」

 

本日爆裂魔法を撃っためぐみんはともかく、どさくさに紛れてギルドで待機を宣言するアクアであるが・・・

 

「お前は一緒に来るんだよぉ!!!」

 

「いやああああああああ!!!」

 

楽をすることを許さないカズマはアクアの手を掴み、無理やり外に連れ出した。こうして、モンスターの発生源である闘技場に向かうのは、カズマ、ダクネス、双子、マホ、リュドミラ・・・そして嫌がるアクアとなったのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

『緊急クエスト!!

虫型モンスターの発生を阻止せよ!!』

 

「ぬあああああああああああ!!!おっおっおっおおおおおおおお!!」

 

ギルドの外へ出て、虫型モンスターの発生元である闘技場へと向かうカズマたちは現在走り鷹鳶の馬車に乗り込み、追いかけてくる虫型モンスター・・・クワガタ型モンスター、陸上クワガタ、カブト型モンスター、どすこいカブトの大群から逃げている。・・・縄に縛られているダクネスを引きずった状態で。

 

「アレクサンダー!前方にまた虫よ!避けなさい!」

 

「ピィーヒョロロロー!!」

 

「ぬああああ!!いいぞ・・・いいぞカズマ!!この引きずられて行くこの感覚・・・!また味わってみたいと思っていたところだ!そして虫共に追いつかれ・・・恥辱にあああああああ!!」

 

「・・・おい」

 

「カズマ・・・?」

 

アレクサンダーの馬車を運転するアカメが別ルートを使って前方の虫モンスターを躱す。そんな中引きずられている最中のダクネスは喜び、さらにはあらぬ妄想をして、さらなる興奮を覚えている。馬車に乗り込んでいる女性陣は全員カズマを軽蔑するかのように見つめている。

 

「しょ、しょうがねぇだろ!!虫の群れに突っ込んでいったあいつを引っ張るにはこうするしかないんだって!!」

 

「物は言いようだな」

 

「理解不能」

 

必死に弁明するカズマだが、女性陣の視線は冷たいままだ。そもそもなぜこうなっているのかというと、虫型モンスターがついにギルドにまで来たところ、ひとまず近くにあった馬車で虫型モンスターを引き離すという作戦をカズマが立てた。ところが、無策なダクネスが虫型モンスターの群れに突っ込んでいったために、それを引き留めるためカズマがティアにバインドを指示。これで縄に縛られた状態になったダクネスを馬車に括り付けて馬車を発車。そして今に至るというわけだ。

 

「ティア!!虫共は引き離せた!!?」

 

「ダメ!!クワガタに追いつかれる!!」

 

さすがにアレクサンダーだけでは限界があるのか、追いかけてくる陸上クワガタは馬車に追いつかれようとしている。

 

「ボトムレス・スワンプ!!」

 

ここでマホがボトムレス・スワンプで汚れ切った沼を出現させ、陸上クワガタの進行を妨げる。追いかけてくる陸上クワガタの一部は沼に嵌まり、残りの陸上クワガタは進路を妨げられ、動きを止めた。

 

「ナイスだマホ!」

 

「気を抜くなよ!まだ上にどすこいカブトが追いかけてきてる!」

 

マホの言うとおり、空にはどすこいカブトが飛んで追いかけている。ただ陸上クワガタと比べて動きが鈍いため、未だに馬車に追いつけていない。とはいえ、追いつかれるのも時間の問題だ。

 

「カズマ、私が一掃を提案します」

 

「で、できるのか⁉」

 

「・・・目標、どすこいカブト」

 

リュドミラは両手で気を凝縮し、狙いをどすこいカブトの群れに向ける。

 

『どすこーーーーーい!!!!』

 

どすこいカブトは奇妙な掛け声を出して馬車に突っ込んできて。そして、リュドミラは気を凝縮させた両手を前方に突きつけ・・・

 

「発射」

 

ドオオオオオオオオン!!!!

 

「おおおおおおおおお!!?」

 

強大な気功波を放った。あまりの強大さにカズマたちは驚愕。この気功波によってどすこいカブトは全て討伐された。

 

「全滅を確認」

 

「す・・・すげぇ・・・かめ○め波みたいだ・・・」

 

「さすがは竜人・・・お見事としか言いようがねぇ・・・建物を吹っ飛ばしたこと以外はな」

 

凄まじい威力の気功波は称賛すべきものだが、これによって街の建物が一部吹っ飛んだため素直に喜べない気持ちでいっぱいだ。

 

(・・・あれも・・・俺らの責任になるんだろうなぁ・・・)

 

建物を壊したのは自分たちの責任になるのではという考えにカズマは気分が沈んでいく。

 

「もうすぐで闘技場に着くわよ!」

 

「ダクネス!もうちょっと頑張って!後でアクアがヒールをかけてくれるからー!」

 

「お、お構いなくー!」

 

カズマたちが奮闘している間にも、闘技場が見えてきて、もうすぐで辿り着こうとしている。

 

「ちょおおっと待ったあああああああ!!!」

 

すると、前方に何者かが降り立ち、衝突によって土煙を発する。土煙が晴れると、そこには人型の虫モンスターが立ちふさがっている。先ほどの虫の大群とは格が違うのは見てわかる。

 

「ここから先には一歩も通さねぇ!!あのお方のためにも、貴様ら人間共は皆殺しだ!!アヌビスも、この砂漠も壊し、崩壊記念日を作ってやるぜええええええええ!!!」

 

人型虫モンスターはここは絶対に通すまいと意気揚々に叫び、羽を動かし、嫌な羽音を発する。

 

「邪魔よ!!!」

 

ドゴーーーン!!

 

「あーーーーれーーーーーー!!!!」

 

だがそんなことはアカメはお構いなしにアレクサンダーに指示を出し、そのまま突っ込んで人型虫モンスターを轢き飛ばす。吹っ飛ばされた人型虫モンスターは星となった。

 

「あれ?今何か轢いた?」

 

「気のせいよ」

 

「いや、さっき邪魔よって・・・」

 

「気のせいよ」

 

『・・・・・・』

 

さっき轢き飛ばしたことを追求しようとするも、アカメは気のせいの一点張りで詳しいことを知ることはできなかったカズマたちであった。

 

 

ー気のせいよー

 

 

闘技場に着いたはいいものの、闘技場内にはまぁいるわいるわ虫モンスターの大群が。とはいえ、狭い通路で大群と戦うなど自殺行為もいいところだし、建物にも被害が及びかねない。なのでカズマたちは潜伏スキルで身を隠し、虫の大群を避けながら発生場所を探し出す。奥へと進んでいくと、1匹、また1匹の虫モンスターが倉庫から出てきた。

 

「どうやら、あそこから出てきてるみたいだな」

 

発生元がわかるや否や、カズマたちは虫モンスターが1匹出たタイミングで倉庫を覗き見る。倉庫の中心にはいくつかの荷物に隠れるように魔法陣が張られていた。

 

「なんだあの魔法陣は?」

 

ガタガタガタ!

 

じっくりと魔法陣を観察して見ると、荷物の1つがガタガタと揺れ出し、そして何かが箱を突き破るように現れる。現れたのはどすこいカブトだった。どすこいカブトが破った穴を通じて、他の虫型モンスターが現れ、外へと出ていった。破った箱には他にも虫の卵の殻と虫の抜け殻がいくつもあった。

 

「なるほどな。この魔法陣が虫型モンスターの成長と卵の孵化を速めてたってわけか」

 

「となると、ここがモンスターの発生場所で間違いないな」

 

「俺たちが運んでた花火玉と一緒に紛れてたってことか!」

 

「荷物の中に一緒に卵を入れるなんてこと、団員じゃなければ無理よ」

 

「てことはやっぱりフォステスの他にも裏切り者が・・・」

 

あの魔法陣が卵の孵化、幼虫の成長を速めていたということを理解し、ここがモンスター発生場であると断言できると同時に、団の中にまだ裏切り者が潜んでいたことの証明となった。

 

「とはいえ、どうすんだこれ?」

 

「魔法陣を潰せばいいじゃねぇか。日に日に人間が成長するように、モンスターだって成長にはかなりの時間が必要だからな。これさえ潰せば後はどうとでもなる」

 

「そうと決まれば話は早いわ!ちゃちゃっと荷物どかして、魔法陣を潰しちゃいましょ!」

 

「あ、おい!余計なことは・・・」

 

問題解決の光明を見出したアクアは考えなしに魔法陣の上にある箱を1つ持ち上げようとした時・・・

 

ビュンッ!

 

「ひゃあああああああ!!!」

 

何もないのに荷物が浮いたと思い、不審に思ったどすこいカブトが突っ込んできた。アクアは躱すことはできたが、箱は貫かれ、手放されたことで地面に衝突。箱から衝撃を受けた花火玉が転がってそして・・・白く輝きだす。

 

『あ・・・』

 

 

ーパーーーーン!!!ー

 

 

あの衝撃によって花火玉の火薬が着火し、凄まじい爆発を引き起こした。これによって他の花火玉も連動するように爆発した。花火玉の爆発でカズマたちはすぐ先にある闘技場の中心まで吹っ飛ばされた。これで魔法陣は潰れたが・・・やりすぎだ。

 

「こ・・・このバカーー!!!お前は何で毎回後先考えずに行動するんだ!!これが地下だったら生き埋めになってたところなんだぞ!!?」

 

「だ・・・だってしょうがないじゃない!!花火玉がまだ残ってるなんて思わなかったし、まさか突っ込んでくるなんて思わなかったのよ!!」

 

「あ・・・あのなぁ・・・潜伏スキルでオレら見えねぇからいきなり荷物が浮かんだなんて考えがモンスターでも浮かぶだろうが!」

 

憤慨するカズマに言い訳を述べるアクアにマホは怒りを浮かべて説教をかまそうとする。すると・・・

 

パチッ、パチッ、パチッ・・・

 

観客席の方から1人分の小さな拍手が聞こえてきた。カズマたちがそちらに視線を向けると、そこには1人の男が立っていた。その姿をカズマたちは見たことがある。

 

「ずいぶんと・・・派手な解決だねぇ。想像以上だ。いや・・・人間()だからこそかな?」

 

その男とはウェーブ盗賊団の捜索隊の部隊長、ガワラだった。この状況においても彼は涼しい顔をしている。口ぶりから察するに、彼こそが街の混乱を陥れた本人であるのがわかる。

 

「ガワラ・・・あんただったのね!盗賊団の真の裏切り者は!」

 

「ということはフォステスを利用してたのもガワラ・・・!」

 

「それはこの猿の名前だろう?俺にはスタークっていう名前があるんだ。今後はそっちで呼んでくれよ。尤も・・・猿如きに呼ばせる名なんてないけどね」

 

穏やかそうな笑顔から、醜悪な笑みを浮かべるガワラ改めスターク。スタークを前にして、ダクネス、アカメ、リュドミラの3人は前に出て戦闘の構えを取る。

 

「街をあのような状態にしたのは貴様だな。何が目的だ?」

 

「決まってるだろう?猿共の皆殺しだ。俺はウィズやバニルと違って、君たち猿共が大嫌いでね。こうやって話をするのも苦痛なくらいだ。手始めに厄介者が集まるこのアヌビスの猿共を根絶やしにすれば、今後魔王軍も勢いがつく。だからこうして猿の皮を被って計画を練ったというのに・・・お前らのせいで全部パーだよ、まったく・・・」

 

スタークは顔に右手を覆って、心底嘆かわしそうな顔でカズマたちを睨みつける。スタークがウィズやバニルを知っていることから、彼もやはり魔王軍の関係者であるのは明らかだ。

 

「リュドミラの件に関してもお前の仕業だな?なんでこいつを巻き込みやがった⁉」

 

「ふん、別に誰でもよかったんだけど、あのネクサスって奴は猿共の中でも特に厄介なんでね。早めにご退場しようと思って利用しただけさ。本当・・・フォステスとかいう猿は大馬鹿で助かるよ」

 

つまり、リュドミラを竜に変えたことに関してはネクサスを街から退場するためなら誰でもよかったようで、完全に彼女は巻き込まれただけのようだ。スタークはフォステスをバカにするように鼻で笑った。

 

「そっちの心情とかどうだっていいよ・・・!よくも記念祭を台無しにしてくれたね・・・!この怒り・・・どうしてくれようか・・・!」

 

「ただでぶっ壊されるなんて思わないことね。あんたは【ピーーーッ】して【ピーーーーーッ】で【ピーッ】してあげる・・・!」

 

10年に1回の大事な祭りをめちゃくちゃにしたことによって、双子の怒りゲージは有頂天にまで登り切っている。そんな双子の怒りにスタークは鼻で笑っている。

 

「はっ。俺とやり合う気かい?やめた方がいいと思うよ?いくら君たちがハンスを倒したからって、俺はそいつとは天と地ほどの実力差がある。惨たらしい死が望みじゃないなら逃げた方がいい得策さ」

 

「そんなことで俺たちが怯むとでも思ったのか?俺は数多の魔王軍の幹部たちを屠ってきた、カズマさんだぞ?お前こそ逃げるなら今のうちだぜ?」

 

挑発するスタークにカズマは腰のちゅんちゅん丸を引き抜き、構えてカッコつけている。

 

「マホやリュドミラの後ろで威張ってる辺り、カズマのヘタレっぷりが見え見えなんですけどね」

 

ただアクアの指摘通り、マホやリュドミラの後ろで威張ってるため、ヘタレ部分が堂々と出ている。

 

「ま、そうなるだろうと思ったよ。いいよ・・・冥途の土産だ。この俺が直々に君たちを始末してやるよ」

 

スタークは不敵な笑みを浮かべて、改めて名乗りを上げる。

 

「改めて・・・俺の名はスターク。魔王軍の幹部ナンバー3・・・ヘラクレスデスマンティスのスタークだ」

 

「!!!???魔王軍の幹部・・・ナンバー3!!!???」

 

スタークが魔王軍幹部の1人・・・さらにはナンバー3だと聞いて、カズマは自身の耳を疑った。

 

「警告。相手から並々ならぬ殺気を検知。注意を」

 

「そうだな。なんせヘラクレスデスマンティスは凶暴なモンスターだ。奴らが持つ刃はアダマンタイトを紙切れ同然に切り刻めるほどの鋭さだ。あのスライムだって一瞬で細切れにできるほどだ」

 

「しかも相手は魔王軍の幹部を名乗るほどの相手!今までの魔王軍と比べ物にならないほどの賞金だってかけられてるはずだよ!」

 

スタークの本当の種族、ヘラクレスデスマンティスの詳細を聞いたカズマは血の気が引いて顔を青ざめてる。

 

「あの・・・すいません。逃げてもいいですか?」

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

すっかり弱腰になり、カズマは逃げることを提案したが、アカメにあっさりと却下された。

 

『超緊急クエスト!!!

魔王軍の幹部、ヘラクレスデスマンティスのスタークを討伐せよ!!』

 

「まずは軽く小手調べだ。どっからでもかかっておいで?最初は攻撃しないであげるから」

 

「余裕でいられるのも今の内だ!覚悟!!」

 

軽く挑発してみせるスタークにまず先制するのはダクネスだ。ダクネスは動きを見せないスタークに接近し、両手剣を振るって斬撃を放ってみせた。普通ならこの攻撃はスタークに直撃するのだが、ダクネスは超がつくほどのノーコン。つまり・・・

 

ドゴォ!!ドゴォ!!

 

止まっているスタークにはもちろん攻撃が当たっていない。代わりに攻撃がヒットしたのは観客席の椅子である。攻撃が当たらなかったことに、ダクネスは恥ずかしそうに顔を赤らめている。

 

(んもう~!!相変わらずのノーコンなんだから・・・恥ずかしい!!)

 

ダクネスの失態ぶりにカズマは恥ずかしい気持ちでいっぱいになっている。

 

「なんだい?それが攻撃かい?ダメだなぁ・・・攻撃ってのは・・・こうするんだよ!!」

 

スタークがそう言うと、ガワラの皮を破って本当の姿を現した。緑の身体にサソリのような尻尾、両腕はカマキリの鎌を持ち、ヘラクレスオオカブトのような角を持った赤い目をした人型虫モンスターだ。本当の姿を現したと同時に、スタークは両腕の鎌をダクネスに振るった。

 

「ぐわああああああああ!!!!」

 

「ダクネス!!!」

 

攻撃をまともに喰らったダクネスは鎧が粉々に切り裂かれ、防御力が取り柄の彼女が大ダメージを受けて悲鳴を上げる。

 

「か、か、か、カズマ!こ、こいつはすごい責めだぞ!!今までにないくらいのずっしりとした重さ!!こんな重い一撃は初めてだ!!あの一撃をもう一度喰らったら私はどうなってしまうのだろうか!!?想像するだけでもたまらん・・・!!もう一度だ!!もう一度打ってこい!!さあ早く!!私はもう十分に暖まっているぞ!!さあ!!!」

 

「え、ええぇ・・・?」

 

「よし一旦落ち着こうか⁉敵も引くぐらいにドン引きしてるから!!」

 

が、すぐに平常に戻り、大ダメージを受けたというのに興奮しながらまた攻撃を懇願してくるダクネスにスタークはドン引きしている。

 

「カズマ!炎だ!大半の虫モンスターは炎を嫌う!ヘラクレスデスマンティスも炎が弱点なんだ!炎を中心とした攻撃を!」

 

「ほ、本当か!」

 

「それがわかっただけでも、光明よ!ティア!」

 

「わかってる!この場の全員に・・・フレイムエンチャント!」

 

「炎属性の付与を確認。攻撃開始」

 

モンスター専門家のマホの知識のおかげでスタークの弱点がすぐに判明し、ティアは全員の武器に炎属性を付与させた。自身のガントレットに炎の力が宿ったことを認識したリュドミラはスタークに攻撃を仕掛ける。余裕を見せているスタークはリュドミラが放つ拳や蹴りを難なく躱していく。そして躱したタイミングでスタークは右手の鎌を振り下ろす。リュドミラはその鎌を転がって躱し、足払いをするがそれも跳躍で簡単に躱される。

 

「これならどう!フレイムエッジ!」

 

「遅い、遅すぎるね」

 

「バインド!」

 

「おっと危ない」

 

アカメが攻撃し、ティアがバインドを仕掛けてきたが、それもあっけなく躱されていく。

 

「こいつなら簡単に避けられねぇぞ!インフェルノ!!」

 

マホは炎の上級魔法、インフォエルのによる巨大な炎を放った。この炎ならばちょっとやそっと動いただけでは避けることはできない。

 

「ふっ、甘いね」

 

迫りくる炎に対し、スタークは鼻で笑い、背中に羽を出現させて空高く飛び上がることで炎を直撃寸前で見事に回避した。しかもそれだけではない。空高く飛ばれてしまっては遠距離攻撃以外では届かない。

 

「空って・・・反則だろ⁉」

 

「これで君たちは近距離攻撃ができない!そして俺はこの距離からでも・・・問題なく攻撃できる!!」

 

スタークは空を飛びながら両手の鎌を振るって斬撃波を連発で放っていく。迫ってきた斬撃波をカズマとアクアは出入口に隠れてやり過ごし、アカメたちは迫ってくる斬撃波を連続で躱していく。

 

「猛攻撃の嵐。反撃不可能」

 

「これじゃ防戦一方だ!」

 

「あ、アカメ!これは焦らしプレイの一環なのだろうか⁉攻撃がギリギリのタイミングで・・・!」

 

「あんた当たったらさすがに死ぬわよ!!」

 

アカメに抱えられているダクネスはともかく、攻撃の嵐にマホたちは反撃ができない。

 

「くそ!この状況どうしたら・・・!考えろ・・・考えろ・・・!」

 

この状況を打破する方法を必死になって考えるカズマ。

 

「カズマ!カズマ!これピンチなんですけど!今までの中で1番のピンチなんですけど!何とかならないのカズマ⁉」

 

自分の隣で慌てふためているアクアを見て、カズマはある1つの作戦を思いついた。

 

「(そうだこれなら!)

アクア!リザードランナーの時に出した魔法があっただろ!あの魔法をあいつ目掛けてぶっ放せ!」

 

「何バカなことを言ってるのカズマ⁉あれは誘導用の魔法だから仮に当たったとしてもダメージなんて入んないわよ!それにそんなことしたら私が狙われちゃうわよ!!」

 

「後のことは何とかしてやるからやってくれ!その誘導用の魔法がこの状況で必要なものなんだよ!」

 

「う・・・うぅ・・・ぜ、絶対よ⁉絶対に絶対に、何とかしてね⁉」

 

「わかったわかった、フリなんだろ?」

 

「ちっがうわよ!!!」

 

バカなやり取りはあったものの、アクアは渋々ながらカズマの案を了承し、攻撃を続けるスタークの真下に立った。幸いなことに、アクアには全く気がついていない。

 

「行くわよ!フォルスファイアー!!」

 

アクアは言われた通りにフォルスファイアをスターク目掛けて放った。その掛け声にアクアに気がついたスタークは迫ってきた小さな光る火の玉を見つめ、容赦なく光の弾を鎌で切り裂いた。

 

「今のは攻撃のつもりかい?まったく舐められたものだよ。そんな猿には・・・躾が必要だね!!」

 

中途半端な攻撃に苛立ったのかスタークはアカメたちへの攻撃をやめ、狙いをアクアに絞って急下降を始める。

 

「わあああああああ!!来たあああああああ!!カズマしゃん!!!カズマしゃあああああああああん!!!」

 

こちらに向かって降りてくるスタークにアクアは危機を感じて喚き始めた。だがこの状況は、カズマが考えた計画通りだ。

 

「アクア!!そのまま動くなよぉ!!」

 

「う、動くなって言ったってぇ!!」

 

カズマはティアの炎属性付与を残したままの弓矢を構え、狙いを降りてくるスタークに定める。

 

「シェア!!!」

 

「カ~ジュ~マ~しゃ~~~~ん!!!!」

 

「狙撃(イケボ)!!」

 

スタークが鎌を振り下ろさんとしたタイミングでカズマは狙撃を発動し、矢を放つ。矢はスタークの羽を貫通し、矢の炎が羽に燃え移る。

 

「何ぃ!!?羽が!!?」

 

自身の羽が射抜かれたこと、そして苦手な炎が羽についたことで動揺するスターク。

 

「今だぁ!!」

 

「バインド!」

 

「ぐっ!」

 

「はああ!!」

 

「フレイムエッジ!」

 

「ぐっ!!がっ!!」

 

「鉄拳必中」

 

「があああ!!」

 

カズマの指示でティアがバインド、スタークが動きを封じたことでダクネスとアカメによる斬撃(ダクネスは外した)、そしてリュドミラの拳の一撃。連続攻撃にスタークは大ダメージ、吹っ飛ばされ、壁に激突する。

 

「今度は外さねぇ!!インフェルノ!!」

 

「うわあああああああああああ!!!!」

 

とどめにマホがインフェルノを放ち、スタークは炎に包まれる。

 

「・・・や・・・やったのか・・・?」

 

「おい!ここでフラグになるようなことを言うな!!」

 

ポツリとダクネスがフラグになりかねない発言し、カズマが声を上げるが、もうすでに遅し。炎の中より、ボロボロの状態のスタークが出てきた。見事にフラグを回収した瞬間である。

 

「ほら見たことか!!!」

 

「・・・猿如きが俺をコケにしやがって・・・!!決めた・・・お前らはただじゃ殺さない・・・細切れにして殺してやる・・・!!」

 

大ダメージを負ったスタークは完全にキレており、カズマたちに対する殺意がより一層に濃くなった。

 

「細切れ・・・!そ、それは、いったいどのようなプレイなのだ!ぜひ参考までに聞きたい・・・!」

 

「脳みそ腐ってんのかお前はぁ!!!」

 

こんな時でも嬉々として妙な質問をするダクネスにカズマは頭を抱える。

 

「か、カズマぁ!!虫!外にいた虫がこっちに来てるんですけど!!」

 

「はあ!!?」

 

アクアの言うとおり、外にいた虫モンスターの大群が出入り口から現れ始めた。そう、さっきのフォルスファイアで残った虫モンスターが集まってきたのだ。スタークを追い詰めるまではよかったが、詰めが甘かった。これによって形勢が一気に不利になった。

 

(あ・・・これ詰んだわ・・・)

 

前方にスターク、後方に虫モンスターの群れ。いくら考えても好転が見出せないため、詰みと判断した。考えている間にも虫モンスターはカズマたちに襲い掛かる。

 

「も・・・もうダメだあああああああ!!!」

 

カズマが諦めたその時・・・

 

スパスパスパッ!!

 

第三者が現れ、多くの虫モンスターが次々と斬り裂かれていく。介入者の正体は・・・

 

「よく頑張ったな!お前ら!」

 

「ネクサスさーーん!!」

 

「「お頭!!」」

 

双剣を持ったネクサスであった。いや、駆けつけたのはネクサスだけではない。

 

「総員、一掃開始!!」

 

『おおおおおおおおお!!』

 

カテジナたちウェーブ盗賊団員たち、そして多くの冒険者が駆け付け、集まった虫モンスターの相手をする。

 

「猿共がうじゃうじゃと・・・」

 

ネクサスはスタークに視線を向け、彼が最も気になる質問をぶつける。

 

「お前が・・・ガワラだった奴か・・・。お前がガワラじゃないなら、本物のガワラはどうした?」

 

「殺した」

 

ネクサスの問いかけにスタークは冷たい声質で淡々と答えた。

 

「驚くほどでもないだろ?一組織に潜入する際に同じ顔の奴や本性を知ってる奴がいたら邪魔になる。だから全員皆殺しにした。後は俺たちが猿の皮を被れば潜入完了さ」

 

つまりスタークは盗賊団に潜入するためにガワラ率いる捜索隊全員を殺し、部下と共に捜索隊の皮を被ったということだ。真相を知ったネクサスは双剣を力強く握りしめる。

 

「・・・やっぱり・・・そうだったのか・・・!もっと早くに気付くべきだった・・・!」

 

ネクサスはガワラをスカウトした瞬間から今日まで共に過ごしてきた日々を思い出す。それらの思い出を振り返り、彼は右手の剣の切っ先をスタークに向ける、

 

「魔王の手先!!お前の命・・・俺がもらい受ける!!部下たちの仇だ!!」

 

「ちっ・・・!これだけの猿にかつて剣豪と呼ばれた猿が相手じゃ今のままじゃ分が悪い・・・!お前ら猿に披露するのは癪ではあるが・・・致し方ない!!」

 

切っ先を向けられたスタークは自身の力を解放する。すると、スタークの身体に変化が訪れる。

 

「恐れ戦き、跪け、愚かな猿共が!!!!」

 

スタークの身体は巨大化し、足も4本生え、両手の鎌もさらに禍々しく鋭利なものとなり、胴体も屈強な肉体へと変貌する。この姿こそが、ヘラクレスデスマンティスの突然変異体、スタークの凶暴化した姿である。

 

『で・・・でかああああああああああ!!!』

 

「なんてこった!こいつは突然変異体だったのか!!」

 

あまりの巨大さにカズマたちは思わず大声を驚愕し、マホも予想外だったのか驚きの声を上げる。

 

「しかし弱点自体は変わっていないはず!炎の攻撃を!」

 

『インフェルノ!!』

 

『ファイアボール!!』

 

いくら巨体でも弱点は変わっていない見て、カテジナは魔法使いの団員と冒険者たちに指示を出す。魔法使いたちは炎の魔法を放って攻撃をする。だがいくら直撃してもスタークにダメージが入っている様子はない。

 

「頭が高いぞ、猿共!!身の程を知れ!!」

 

スタークは禍々しい右手の鎌を振り下ろした。同時に最初とは比べ物にならない威力の斬撃波を放った。

 

『うわあああああああああ!!』

 

大地は鎌が引き裂いたと言わんばかりに真っ二つに割れ、冒険者たちも斬撃波と地面の衝撃で虫モンスター諸共吹っ飛ばされる。

 

「みんな!!」

 

「どうなってんだ!!?炎が弱点じゃないのかよ!!?」

 

「効いてねぇわけじゃねぇ!身体の変化が伴って炎が通りにくくなったんだよ!!」

 

「つまり、大したダメージは入らなくなったってことね」

 

考察している間にも、スタークの刃は今度はカズマたちに目掛けて放たれようとしていた。

 

「う、うわああああああああ!!」

 

迫りくる巨大な刃にカズマたちは慌てふためく。

 

「カースド・クリスタルプリズン!!」

 

するとそこにカースド・クリスタルプリズンの冷気がスタークの鎌を襲い、その腕を凍らせた。この魔法を放ったのはマホではない。

 

「くっ!この魔法は・・・!」

 

「カズマさん!ネクサスさん!」

 

観客席の方から声が聞こえたのでそちらに視線を向けて見ると、そこには自分たちの元に駆けよろうとするウィズの姿があった。その後ろにはバニルがついてきている。先ほどのカースド・クリスタルプリズンはウィズが放ったものである。

 

「ウィズさんか!」

 

「え、バニルもいるのか⁉」

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ、俺たちは大丈夫だ」

 

駆けつけたウィズは本気でカズマたちを心配しているが、隣のバニルはカズマを見てにやにや笑っている。

 

「おや、誰かと思えば、あの虫の変装にまんまと騙され計画に加担した小僧ではないか」

 

「おいやめろよ!そうじゃないかもって思ってたのに、なんでさっき見てきたみたいに言うんだ!!」

 

「フハハハ!!見通す悪魔は全てお見通しである」

 

悪意あるバニルの言い方にカズマはツッコミを入れ、荷物を運んだ団員たちもドキッとした気持ちになる。その間にもスタークは凍ってしまった腕を力強く上げて、氷ごと持ち上げ、地面に叩きつけて氷を割る。氷の破片はウィズたちに向かってくるが、それは難なく躱す。

 

「ウィズ!バニル!やっぱりお前らは猿に加担する気か!!」

 

「その声・・・まさかスタークさん!!?その姿は・・・⁉そ、それよりもこんなことはやめてください!」

 

「それでわかりましたと・・・なると思うなぁ!!」

 

スタークはウィズに向けて尻尾を使って攻撃を仕掛ける。ウィズは尻尾の攻撃を躱し、氷の魔法で尻尾を凍らせる。そのうえでバニルはバニル人形を召喚し、スタークの尻尾に触れさせて人形を爆破させる。だがこれでもスタークにダメージは入っていない。

 

「ふむ・・・魔王の奴に吾輩の存在を知られるのはまずいが・・・それ以上に奴がいるだけで人間が減りやすいのでな。これを機に奴を仕留めたいところではあるな。しかしどうしたものか・・・今の奴にはどんな攻撃も通用せんだろう。あの爆裂魔法でさえ、奴の装甲を剥がすだけであろうし・・・」

 

『ぐわあああああああ!!』

 

考察している間にもスタークが多くの冒険者を強靭な鎌で薙ぎ払った。だんだん冒険者の数が減っていく中、スタークは街へ向けて歩みだす。

 

「!!あいつ街で暴れる気だ!!」

 

「死守です!!何としてでもここから出してはいけません!!」

 

『お、おう!!』

 

冒険者たちはスタークを街に出さないように強力な技を放ち続けるが、効いている様子はなく、逆にスタークが口から吐く光線によって吹っ飛ばされる。苦しい状況が続く中、応戦を続けるネクサスがウィズに声をかける。

 

「ウィズさん!!カズマさんたちを連れて早く逃げろ!!」

 

「で、でも、それだとネクサスさんたちが・・・!」

 

「こっから先は俺たちの問題だ!!これ以上、客人を巻き込ませるわけにはいかねぇ!!俺たちが抑え込んでるうちに早く!!」

 

ネクサスは必死でカズマたちに逃げるように急かす。そんな時にスタークの尻尾攻撃が直撃し、ネクサスは吹っ飛ばされて壁に激突する。

 

「ネクサスさん!!」

 

「こ、これ以上はどうにもならないわ!!あの人の言うとおり逃げましょう!!ここで逃げたって誰も責めたりなんかしないわ!!」

 

「そんなことしたら私がお前を一生呪ってやる!!」

 

スタークの実力にすっかり逃げ腰のアクアは逃げることに乗るが、アカメがそれを阻む。

 

「お願いだよカズマ!みんなを助けて!この状況をどうにかできるのはカズマの頭だけだよ!!」

 

(くそ・・・!俺にどうしろって言うんだよ!そもそも俺はただの最弱職の冒険者だぞ⁉それなのに俺ならなんとかって・・・過大評価しすぎじゃないのか⁉)

 

「カズマ・・・このまま逃げても街の被害が大きくなる一方だぞ。それをお前は見捨てられるのか?」

 

「・・・・・・・・・くそぉ!!しょうがねぇなああ!!!!」

 

ティアの懇願と目の前の状況、ダクネスの言葉にカズマは腹をくくった。そして、スタークを一撃で倒す方法も思いつく。

 

「アカメ!ティア!すぐに馬車を用意してくれ!猛ダッシュでだ!」

 

「何か思いつたんだね!」

 

「なら、今回も当てにさせてもらうわよ!」

 

「アクア!マホ!ウィズ!お前らは俺と一緒に来い!」

 

「わ、わかりました!」

 

「おう!」

 

「え、何?なになになに?」

 

一同はカズマの作戦を頼りに何も聞かずに了承する。アクアだけは要領を得ていないが。

 

「私は盗賊団のみんなを守ればいいのだな?」

 

「そういうことだ!」

 

「私も協力を提案」

 

「それは心強い!頼んだぞ!!」

 

カズマはさっそく作戦を実行するために双子、ウィズ、マホ、アクアを連れて一旦闘技場から離れる。スタークを相手にしている冒険者たちはもうボロボロで立つのがやっとの状況下だ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ネクサス様・・・このままでは・・・」

 

「けど・・・ここを通すわけには・・・!」

 

「死ね!!脆弱な猿共!!」

 

スタークがとどめとして鎌を振るおうとした時・・・

 

ドォン!!

 

「ぐぅ!!!」

 

リュドミラが単身で突っ込み、スタークの胴体に強烈な拳を叩きつけた。ダメージは負っていないが、よろめかすには十分だ。

 

「この・・・死にぞこないが!!」

 

この攻撃にスタークは癪に障り、リュドミラに向けて鎌を振るう。リュドミラは拳にさらに力を込め、鎌を拳で受け止めてみせた。その隙にダクネスがスタークの腕を辿って接近し、両手剣でスタークの胴体を斬りつける。そしてその攻撃は・・・見事にスタークに直撃。

 

(なんだ・・・こいつ・・・!動きがまるで別人・・・!まさか・・・!)

 

まさかと思い、スタークはダクネスに視線を向ける。ダクネスの顔にはバニルの仮面が着けられていた。とどのつまり、今ダクネスを動かしているのはバニルということだ。

 

「くっ・・・バニル・・・お前・・・!!」

 

「すっげ・・・」

 

「ネクサス様!これは好機です!!」

 

「・・・っ。・・・全員!!もうひと踏ん張りだ!!この好機を逃すなぁ!!」

 

『うおおおおおお!!』

 

リュドミラとダクネス、バニルの好転によって勝機を見出したネクサスは渋々ながら好機を逃すことはなく、冒険者たちに指示を出した。冒険者たちは踏ん張り、スタークに攻撃を続ける。

 

「猿共が・・・!無駄な足搔きだとまだ理解でき・・・!」

 

スタークがしゃべっている最中にリュドミラはスタークの顔に強力な蹴りを放った。蹴りをまともに喰らったスタークは思わず後退り、よろめく。

 

「こいつら・・・!・・・!!?」

 

するとスタークは強大な魔力の気配を感じ取り、闘技場の外の建物に視線を向ける。そこにはカズマがアクアに、ウィズがマホにドレインタッチで魔力を吸収し、その全てをここに連れてきためぐみんに流し込んでいる。

 

「どうだ⁉いけそうか⁉」

 

「もう少し・・・もう少しです・・・あ、そこですそこ・・・。これなら・・・これまで以上の強力な爆裂魔法をぶっ放せそうです!」

 

そう、カズマが思いついた作戦とはかのデストロイヤーに放った爆裂魔法・・・そのさらにそれを上回った威力の爆裂魔法をスタークにぶっ放すのだ。そのためにも、アクアの神聖なる魔力と、マホの桁違いな魔力がどうしても必要なのだ。

 

「あ!あいつらまさか・・・!全員退避ぃ!!」

 

ネクサスはカズマたちがやろうとしたことを察し、いち早く指示を出し、冒険者全員が闘技場から離れる。

 

「させるかぁ!!!」

 

スタークもカズマの目論見を見抜き、そうはさせまいと口から光線を吐こうとする。もちろん、邪魔が入ることも想定内。そのための双子だ。

 

「ねぇ、本当にいいの?後で文句は受け付けないよ?」

 

「これで死んでも私たちは責任取らないわよ?いいの?」

 

「迷ってる時間はねぇ!!思いっきりやれぇ!!」

 

しつこいくらいの双子の問答を押し切り、カズマは計画続行を指示する。

 

「・・・こうなったらやけくそよ!!歯ぁ食いしばりなさい!!!」

 

アクアにパワードをかけてもらっていたアカメはドレインタッチを終えたカズマを持ち上げ、スターク目掛けて投げ放った。

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!スターーーーーーク!!!これがぁ・・・人間の底力じゃああああああああああ!!!ティンダー!!!!」

 

凄まじい勢いで投げ飛ばされたカズマはスタークの顔・・・特に目に目掛けて初級魔法のティンダーの火を放った。ティンダーの火はスタークの目に見事に直撃した。

 

「ぐっ!!うあああああああああ!!!目が!!目がああああああ!!!」

 

如何に身体も顔も強化されても、目に弱点である炎をぶつけてしまえば、ひとたまりもないだろう。それを狙っての無茶だ。勢いが止まらないカズマはスタークを通り過ぎていき、目の前の建物へと迫っていく。もちろん、このままいけば・・・

 

「最後は決めろおおおおおお!!!めぐみいいいいいいいいいん!!!」

 

カズマは大きな声でめぐみんに後を託し、そのまま・・・

 

ゴシャア!!!グキリッ!!!

 

建物に激突し、鳴ってはならない音を立て、首が変な方向に曲がる。そしてカズマはそのまま地面に落っこち、またも首が変な方向に曲がる。この間にも、ウィズのドレインタッチも完了し、めぐみんの魔力はこれでもかというほどに満ち溢れている。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が真紅の混交を望みたもう・・・覚醒の時来たれり・・・無謬の境界に落ちし理・・・無響の理となりて現出せよ!!!」

 

めぐみんが詠唱を称えたと同時に、苦しんでいるスタークの頭上に爆裂魔法の魔法陣が現れる。

 

穿て!!!本日二度目の・・・究極にして最強の我が爆裂魔法!!!エクスプロージョン!!!!!!!!

 

ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!

 

うわあああああああああああああああ!!!!!

 

アクアとマホの魔力が合わさった爆裂魔法の爆発が闘技場ごとスタークを包み込む。さすが、2人の魔力が合わさっただけあって威力はデストロイヤーの時以上のもので、スタークの装甲も機能せず、そのまま爆発の炎に包まれていった。爆発が晴れ、煙が晴れると・・・そこには粉々になった闘技場があった。同時に、闘技場に埋もれた黒焦げのスタークの姿もあった。

 

「や・・・やったぞおおおおおお!!」

 

「おおおおおおお!!!」

 

カズマと闘技場という犠牲はあったものの、スタークを倒したという事実に冒険者たちは大いに喜んでいる。だが・・・

 

「・・・まさか俺がここまで追い詰められるとはね・・・」

 

喜びから絶望に変わるがごとく、スタークの声が聞こえてきた。黒焦げになったスタークの頭から、幼虫の姿となったスタークが出てきた。言うなれば、脱皮といったところだろう。

 

「けどここまでだ。この姿でも、疲弊した猿共を食うには事足りる・・・。すぐに元通りになってやる!」

 

幼虫の姿でもスタークの殺気は凄まじいもの。すでにボロボロの状態ではコンディションもズタズタ。もはやこれまでかと思われた時、双子がスタークの前に立って出た。

 

「お、おい何やってる!下がれ!!」

 

「お前らには世話になったからね。まずは・・・お前らから消してやる!!!」

 

ネクサスの制止の声が聞こえてきたが、下がらせないと言わんばかりにスタークは強力な光弾を口から吐き出した。迫ってくる光弾にティアが短剣を構える。

 

「!!よせ!!お前は攻撃スキルを持って・・・」

 

ネクサスが止めるものの、光弾は容赦なくティアに迫った。光弾が直撃するタイミングでティアは短剣を振るい、光弾を受け止める。

 

「く・・・くぅ・・・!」

 

ティアは光弾を押し返そうと踏ん張っているが、光弾の威力が強く、逆に押し返されそうになっている。そんな時、アカメがティアの肩を左手で掴み、右手の短剣で光弾を跳ね返そうと試みる。

 

「たく・・・無茶するんじゃないわよ」

 

「無茶じゃない。これは私にしかできないことだよ」

 

「ふっ・・・確かにね」

 

「でしょ?」

 

この状況というのに、双子はお互いににっと笑いあう。

 

「妹がいるからこそ、私は前線に気張れる!!」

 

「お姉ちゃんがいるからこそ、私は全力でサポートできる!」

 

「双子は映し鏡!切っても切れない関係!!」

 

「1人の力が弱くても、2人の力が重ね合わせれば・・・!!」

 

2人の力が合わさることで、光弾は少しずつ、スタークに跳ね返そうとしている。

 

最強なんだぁ!!!!

 

そして、双子がここぞとばかりに力を込めたことによって、ティアのカウンタースキル、反射が発動する。

 

「お、俺の力が跳ね返され・・・⁉」

 

跳ね返された光弾は勢いが強まり、驚愕に染まるスタークの元へ迫ってきて、成す術なくスタークは光弾に包まれる。

 

ぐあああああああああ!!!この俺が・・・猿なんかにいいいいいいいいいいいいい!!!!!

 

信じられない気持ちを絶叫するスタークは自身が放った光弾によって消滅するのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

スタークを討伐した後、アクアたちが泊まってる宿では怪我を負っているとは思えないほどに飲んで騒いでの大騒ぎだ。そんな大騒ぎの広間の壇上には巫女装束を身に纏った双子と演舞参加者が炎の舞を披露している。あの後、記念祭自体は中止にはなったが、ギルドで待機していた参加者、双子たちは元気な様子からせめてこれだけは決行することになった。そして何よりこれは・・・スタークに殺されたガワラと捜索隊の追悼の意味も込められている。普段見ることがない双子の美しい舞に冒険者たちは歓声を上げる者、見惚れているものが分かれ、アクアたちも双子の晴れ舞台を大いに楽しんでいる。そんな中、リザレクションで生き返ったカズマはネクサスと遠くで演舞を見ながら話をしていた。

 

「あんたには呆れてものも言えんな」

 

「はい・・・」

 

「スタークを倒したのはいいが、それであんたが死んでちゃ元の子もねぇだろ。アークプリーストの嬢ちゃんに感謝しねぇといけねぇぞ」

 

「はい、おっしゃる通りです・・・」

 

ネクサスの正論すぎる説教にカズマは申し訳なさそうに顔を項垂れている。

 

「・・・まぁ、その無茶のおかげで、街は救われたけどな」

 

多大な被害は出たものの、死者もカズマ1人(生き返っているが)で済んだ。結果的には街は守られたことでネクサスはカズマに感謝している。

 

「今回あんたなしじゃスタークは討伐できなかった。その功績を称えて・・・カズマさん・・・あんたを盗賊団仮団員と認める」

 

「え?」

 

盗賊団の仮団員と認められたカズマは目を点にして驚いている。

 

「仮団員は俺たちの信頼の証だ。団員じゃなくても好きに本部に出入りしてもいい。まぁ、今は本部はないがな」

 

「あ、ありがとうございます・・・?」

 

「・・・正直に言えば不本意だが・・・お前じゃないとバカ共を制御できないらしい。俺たちの信頼・・・決して裏切ってくれるなよ?」

 

正直需要があるのかどうかわからないが、ひとまずネクサスに認められたことは間違いないので、カズマはちょっぴり嬉しく思い、頭をかく。

 

「それから後1つ・・・」

 

「ビクッ!!」

 

「あいつらとお前はあくまでもパーティの仲間だ。常にそれを心掛けて、相応しい関係を維持してくれると信じてるよ・・・」ゴゴゴ・・・

 

「わわわわかってます!!ちゃんと一線!!一線は引きますからぁ!!」

 

わかりやすい親バカを発揮しているネクサスの黒いオーラにカズマは恐れながら絶対にやましいことはしまいと誓うのであった。まぁ、その誓いもいずれ忘れるだろうが。話している間にも演舞が終わり、ギルド内では拍手喝采が響いている。

 

 

ーこのすばー

 

 

演舞が終わってからも宴で大騒ぎ。アクアが壇上で宴会芸を披露してその盛り上がりもさらに上がった。そんな中静かな街の男神像の前。普段着に着替え終えたアカメは夜の月を眺めていた。

 

「なんだ。ここにいたのかよ」

 

そこへ軽い防寒具を着込んだカズマが彼女の隣に立つ。

 

「飲まなくてもいいのかよ?」

 

「そういうあんたこそ、ここに何しに来たのよ?」

 

「いや・・・さっきネクサスさんの気圧に圧されたから、心臓バクバクで・・・ちょっと落ち着こうと思ったんだよ」

 

「あの人にも困ったもんね・・・」

 

幼い頃からネクサスの事をよく知っているアカメは彼にたいして呆れの感情を抱いた。

 

「・・・・・・ティアはどうしてる?」

 

「普段通りにしてるよ。今はアクアたちと一緒に騒いでる」

 

「あっそ」

 

カズマからの質問の答えを聞いて、アカメは素っ気なく呟いた。

 

「・・・ティアのこと、気かけてあげてちょうだい。なんだかんだ言ってあの子、記念祭を楽しみにしてたのよ。それが潰されたんだもの。ショックを抱かないわけがないわ」

 

「ああ。そうするよ。つっても、また10年後に開かれるんだろ?」

 

「あんたバカ?今と10年後じゃ全然違うでしょ。私たちは二十代になるし、感じ方も変わるわよ」

 

「そりゃそうか・・・」

 

カズマとアカメは空を見上げ、砂漠の月をじーっと眺める。

 

「・・・てかお前がティアに気にかけるなんて珍しいな。なんか悪いもんでも食ったか?」

 

「あんたが私をどう思ってるのか今の一言で十分にわかったわ・・・!」

 

何気ないカズマの言葉にアカメは若干ながら怒りを覚えた。

 

「・・・私たちは双子だから同じ・・・なんていう奴はいるといえばいるだろうけど・・・私はあの子が私と同じなんて思ったことは人生で一度だってないわ」

 

「?」

 

「だってそうでしょ?顔は同じで思考はたまに同じ・・・何をするにしても一緒に行動。それでも・・・ティアはティアよ。私じゃない。趣味は全然違うし、意見が合わないことなんてしょっちゅう。些細なことで喧嘩をする毎日を過ごす私たちのどこが同じよ?」

 

「それは激しく同意する」

 

アカメとティアは同じじゃないと主張するアカメにカズマは激しく同意している。

 

「でもね・・・あの子は私の妹よ。ただ同い年で・・・生まれたのがちょっと遅いだけの・・・血の繋がった私のかわいい妹。気にかける理由なんてそれだけで十分だわ。それに・・・」

 

「それに?」

 

「知ってる?妹の笑顔が、姉にとって何よりの原動力になるのよ」

 

カズマにとってアカメという個の存在は高圧的で生意気でドS、度々嘘を吐いて人を困らせる厄介者として見ていた。実際間違っていないが。妹に対してどこか偏見に見ているとも思ったことなんて数知れず。けど違った。実際には妹想いで妹を悲しませることを許さない、妹のやりたいことを嫌々言いながらも背中を押してくれるどこにでもいるお姉ちゃんである。カズマはそんなアカメのお姉ちゃんらしさに、魅力を感じた。

 

(・・・そうだよな・・・そうじゃなきゃ・・・息の合ったコンビネーションなんて出せねぇよな・・・)

 

これまでの戦闘の息の良さを思い出したカズマは、アカメに対する見方を改めようと思った。

 

「なんだ・・・お前・・・普通にいいお姉ちゃんじゃないか」

 

カズマは陰ながらお姉ちゃんを遂行しようとするアカメに労いを込めて彼女の頭を撫でた。

 

ドゴォ!!

 

「ごはぁ!!?」

 

そんなカズマにアカメは無言のまま彼の腹部を思いっきりぶん殴った。

 

「な、なぜぇ・・・?俺なんか悪いことした・・・?」

 

「ハッキリ言ってあげる。頭を撫でると喜ぶって概念は童貞が抱く幻想にすぎないのよ。喜びもしないことをまぁ・・・。いやらしいこと。やっぱとんだ変態ね、あんた」

 

「こ、こいつぅ・・・!!せっかく人が労ってやったってのに・・・!このぺちゃパイ・・・」

 

「ぶっ殺す」

 

・・・しばらくお待ちください。

 

「がはぁ・・・何も半殺し程度に殴らなくても・・・」

 

「ふん!」

 

殴られたどころか半殺しにされたカズマはすでにボロボロだ。出てきた単語に原因があるのだが。

 

「お前って奴は本当に・・・!!やっぱりお前かわいくねぇ!!」

 

カズマの放つ文句にもアカメはそっぽを向いたままだ。すると、広間にめぐみんがやってきた。

 

「カズマ!アカメ!こんなところにいたのですね!早く来てください!ティアがシュワシュワを飲みすぎて悪酔いしてしまって宿が大騒ぎに・・・」

 

「なっ・・・!・・・はぁ~・・・たく・・・しょうがねぇなぁ・・・」

 

ティアが何かしらの騒ぎを起こしたことにカズマはめんどくさいと思いながらも頭をかき、立ち上がる。

 

「ま、ちょうどいい。冷えてきたし、宿に戻るかー。アカメも早く来いよ。こういう時こそお姉ちゃんの役目だろ?」

 

カズマは騒ぎを止めるためにめぐみんと共に宿へと向かって行くのだった。

 

「・・・バーカ。私は安い女じゃないのよ・・・」

 

1人残ったアカメはカズマに撫でられた頭に手を乗せる。慣れなかったのだ・・・女扱いされていることが。

 

「・・・冷えてる・・・かしら・・・///」

 

この時のアカメの頬は赤くなっており、身体も少し、あったかさを感じ取るのであった。




新章突入!

突然カズマたちの元にやってきたゆんゆんから、衝撃的な告白!

ゆんゆん「私・・・カズマさんの子供が欲しい!!」

双子「ブーーーーー!!!???」

カズマ「モテ期、入りました」

まんざらでないカズマ。だがこれは、新たなる物語の幕開けである。
舞台は、魔法使いの集落・・・紅魔の里・・・つまりはめぐみんの生まれ故郷である。

アクア「ここの観光案内してほしいんですけどー」

ティア「我が名はティア!!」

アカメ「業には業に従えって奴よ」

ぶっころりー「いい仲間でなによりだね」

こめっこ「姉ちゃんが男引っ掛けて帰ってきたーーー!!」

めぐみんの両親「屋敷ぃ!!!???」

めぐみん「ようこそ、我が魔法学園、レッドプリズンへ!!」

そんな紅魔の里には、隠された破滅の力があった。

????「紅魔族は自らが守ってきた力によって滅ぼされるのだ」

ダクネス「私の目が黒いうちは、ここは通さぬ!」

ミミィ「こんなゴミカス以下な私でも、やれることはあるはずです!」

カズマ「お前は・・・出会った時から・・・輝いてただろ!!!」

新章、『紅伝説!紅魔の里へレッツゴー!!』

ゆんゆん「めぐみんはもう・・・爆裂魔法を信じてないの?」

次回、この素晴らしい芸術に祝福を!


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紅伝説!紅魔の里へレッツゴー!!
この素晴らしい芸術に祝福を!


遅れながら、明けましておめでとうございます。

去年は投稿がかなり少なかったですが、今年はアニメ3期もありますし、たくさん書けたらいいなと思います。

さてさて、今回から新章突入でございます!

まずはOVAの話からでございます。その次にいよいよ本格的に紅伝説の幕開けでございます!




アヌビスでの祝杯を終え、アクセルの街に戻ってきたカズマたち。冒険者ギルドではまたカズマが魔王軍の幹部を倒したことで噂が持ちきりである。そんな中双子はアクセルからアヌビスまでの行きと帰りの道中で手に入れた魔物の素材を持ってモンスターショップへ向かっていた。

 

「スターク討伐のおかげでアヌビスでできた借金返済。そのお釣りもまだまだたんまりあって、それプラスこの素材でさらに金が増える・・・もしかしたら、札束風呂なんてこともできるかもしれないわね・・・ふふふ」

 

「うちのパーティのことを考えると、そういうの期待しない方がいいよ。何かしら問題が起きるとすぐ借金するんだから」

 

またもお金に余裕ができたことにより、アカメは夢のある話を膨らませるが、現実的な考え方をするティアが水を差した。

 

「だいたい、数日たって今さら思い出して売りに行くとかバカじゃないの?素材絶対劣化してるから値段とかガタ落ちだよ」

 

「あんたこそバカ?素材が劣化したってねぇ、支払われる額は5倍よ。しかも、スタークの一部素材なんてそれこそ高値で売れるに決まってるわ」

 

「はぁ~~・・・ああ言えばこう言う・・・もういいよ。こんなことで揉め事なんてしたくないし」

 

「だったら初めから口出ししないでくれるかしらこのリアリストの理想主義者」

 

「はあ?リアリストの理想主義って何?意味不明なんだけど?変なこと言わないでくれる?このドSの守銭奴」

 

「ああん?」

 

「はあん?」

 

揉め事にしたくないと言っておきながら結局終始睨みあいをする双子。相変わらず仲がいいのか悪いのかハッキリしない双子である。睨みあっている間にもモンスターショップに辿り着いた。

 

「はん!見てなさい、絶対いい値で買い取ってもらうわ」

 

「はいはい、期待しないで見ててあげるから」

 

今日も今日とていがみ合いながら双子はモンスターショップに入っていく。

 

「マホ、ちょっと素材を・・・」

 

店に入る双子を出迎えたのは・・・

 

「ようこそいらっしゃいませ。買い物ですか?買取ですか?それとも・・・わ・た・しですか?」

 

アヌビスでかなりお世話になったリュドミラであった。もう会うことは叶わないであろうと思っていた人物が目の前にいて、双子は目をぱちくりさせている。

 

「おお、お前らか。ちょうどいいタイミングで来たな」

 

双子が唖然としていると、カウンターの方からマホがやってきた。

 

「・・・ねぇちょっと、なんでリュドミラがここにいるの?里に帰ったはずじゃなかったの?」

 

「質問。いつ誰がそんなことを言いましたか?」

 

「は?違うの?」

 

「そのことでな・・・重要なお知らせがある」

 

双子の疑問を応えるように、マホはリュドミラの頭上にライトを照らし合わせ、重大発表をする。

 

「なんと!リュドミラが我がモンスターショップの栄誉ある店員第1号となった!はい拍手!」

 

「オーダー、拍手を実行」

 

この場合、拍手は双子が送るべきだがなぜかリュドミラが拍手を送っている。リュドミラが店員になったと言われても、双子は未だに唖然としたままである。

 

 

ーえ~・・・?ー

 

 

店員と言われてもいまいち状況が呑み込めていない双子にマホが一から説明する。

 

「ミラ・・・ああ、リュドミラな、実は就職先を探してたみたいでな。いくつかの都会でバイトをしてたみたいなんだが・・・まぁ、なんだ。アグレッシブな行動がかなり目立ったらしくて全部クビにされたらしんだよ」

 

「やっぱ問題のある奴だったのね・・・」

 

「この街にはヤバい奴しか集まらないの?」

 

リュドミラの詳細は詳しくない双子はマホの説明で彼女にも何かしらの問題があると察し、頭の中でアクセルの街がヤバい奴、変人の集まりという認識が強まっていく。実際には事実だが。

 

「で、アヌビスで途方に暮れてたところをたまたま帰る予定だったオレが拾ってきたってわけだ」

 

「拾ってきたってそんな犬みたいに・・・大丈夫なの?問題とか起きたらどうすんの?」

 

「・・・まぁ、いざってなったらオレも責任を取るけど・・・そうならないことを祈るよ」

 

「ヤバい奴ならその祈りも無駄になるかもね」

 

問題を起きることを前提に話しているティアに対し、マホは遠い目をしながら素材鑑定の仕事をこなしているリュドミラを見つめる。マホの願いを一蹴するようにアカメが一言呟いた。

 

「まぁいいや。それよりも、お前らにちょっと頼みたいことがあるんだよ」

 

「「頼み?」」

 

頼みと言われて首を傾げる2人の前にマホは魔導カメラを取り出し、机の上に置く。

 

「ある遺跡にゴーレムが出現したらしいんだが、困ったことに誰かが討伐クエストを出しやがったんだ。けど今さらクエストキャンセルさせるわけにもいかなくてよ。そこで頼みだ。誰かがゴーレムを討伐する前にこの魔導カメラでゴーレムの姿を撮ってきてくれ」

 

「え?それってモンスターの生態調査?それを私たちに?」

 

「はあ?なんでよ?あんたが行けばいいでしょ?」

 

「そうしたいのは山々だが、今日から働き始めたミラを放置するわけにもいかなくてよ。それにミラはまだ研修段階だ。ある程度業務をこなすまでしばらくは魔物調査を休むことにしたんだ。だから頼んでんだよ」

 

「私はいいんだけど、お姉ちゃんや皆が何て言うか・・・」

 

モンスター調査の依頼に対し、ティアは引き受けてもいいと言うが、アカメは受けたくない様子だ。

 

「あのね、私は今日あんたんとこで素材売って得た金で札束風呂に浸かってのんびりしたいのよ。労働なんかする気はないわ」

 

「まぁそう言うなって。受けてくれたら前払いで今日の素材の額を10倍にしてやるし、成功報酬も上乗せしてやっからよ」

 

「よしやりましょう」

 

「早!やっぱ守銭奴・・・」

 

今日の素材で得る額が10倍、さらに成功報酬も多く渡されると聞いてアカメは180度の掌返しをした。

 

「他の連中にはゴーレム退治っていや食いつくだろ。頼んだぞー」

 

とにかくマホは双子たちにゴーレム退治(調査)を頼み込み、前払いである素材額10倍を引き渡した。これだけでもかなりの額であるため、思わぬ儲けとなったのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

大金を手にした双子は屋敷に戻り、アクアたちに調査という名目を話さず、ゴーレム退治を提案した。ちなみにカズマはギルドにいるため今は不在だ。ゴーレム退治の話にアクアはかなり消極的・・・というより、働きたくないために全力で拒否った。

 

「はああああ!!?ゴーレム退治!!?バカなの?バカなんじゃないの!!?私は嫌よ。もうお金にも困ってないし、このままのんびり暮らすの!」

 

「あんたこそバカ?このままぐうたらしてたら身体なまるを通り越してデブ豚になるわよ?一冒険者としての自覚がないって思われたいの?」

 

「別にいいじゃないデブ豚で自覚がなくたって!ていうか、それは私じゃなくてクエストは嫌だ、冒険は嫌だって駄々こねてるカズマさんに言ってよ!!」

 

「あれは放っておいて・・・ダクネスとめぐみんはどう?」

 

アカメとアクアはクエストで醜い口論をしてやいやい言い合っている。2人の口論は置いておいて、ティアはダクネスとめぐみんの意見を聞く。

 

「ゴーレムといえば、あの重くて固くて大きい奴か!ガツンと強烈なのをねじ込んでくるたくましい奴だな!私はもちろん受けて立つ!」

 

「まぁダクネスは説明はいらないか。めぐみんは・・・て、あれ?なんか消極的じゃない?」

 

ダクネスは言わずもがなだが、めぐみんはちょむすけと戯れていて、ゴーレム退治に消極的だ。普段のめぐみんらしくない反応だ。

 

「今の私は、ゴーレムぐらいの太さや固さでは満足できませんね」

 

「えっ!!?あの短気で喧嘩っ早いめぐみんが!!?」

 

ゴーレムならば乗ると思っていたのに爆裂する相手はちゃんと選んでいることに対し、ティアは驚愕する。

 

「私を猛牛かバーサーカーだと思っているのですか!!?私にだって爆裂魔法を放つ相手を選ぶ・・・」

 

ティアの言い分に文句を言おうとしためぐみんだったが、ティアは左手の指で彼女の唇を止め、右手でちっちっちっのしぐさを取る。

 

「わかってないなぁめぐみんは。確かにゴーレムは手間取るし、お姉ちゃんだって相手によっては2、3撃で倒せない相手だけど、めぐみんならどんなゴーレムでも1発でしょ?これさえ倒せば、ただでさえ高い名声がさらに上がるのは間違いなし!やがて語れるめぐみん伝説の1ページが刻まれる歴史的瞬間、見てみたいなぁ~」

 

ティアはうまいことめぐみんを誘導するような発言をしながらちらちら見て様子を窺う。おだてられためぐみんはまんざらでもなさそうにうきうきした様子である。

 

「仕方ありませんねぇ!!さあ行きましょう!!すぐに行きましょう!!」

 

まんまと乗せられためぐみんは先ほどとは打って変わってやる気に満ち溢れている。

 

「チョロ」

 

「めぐみんったらどうしてそんなにチョロいの?」

 

一部始終を見ていたアカメとアクアはめぐみんのチョロさに引いていた。

 

「さて、と・・・後はカズマだけなんだけど・・・どうしたもんかなぁ~・・・」

 

「もういっそのこと無理やり引きずって連れて行きましょうそうしましょう」

 

「そして返り討ちに遭うんですねわかります」

 

「はあ?私がやられるって言いたいの?この愚妹。あれはちょっと油断しただけよ。小細工さえなければあんな雑魚・・・」

 

「いやいやいや・・・カズマの小細工舐めちゃいけませんよ姉御ぉ。このあっしの考えを先回るほどの頭脳でげすからぁ」

 

「何ふざけてんのよ?それ誰の真似よ?やめなさいようざったいわねぇ」

 

ふざけた会話を挟みつつ、カズマをどう説得するか考える双子。するとちょうどカズマが帰ってきた。

 

「おーいお前らー、クエストに行くぞー。ゴーレム退治のクエストなんだが・・・」

 

金が入った途端にだらだらとニート生活を送ってきたカズマが急にクエストに行こうという話を聞いた途端、双子は疑うように目をぱちくりしている。

 

「ん?なんだよ?なんか文句あんのか?」

 

「いや・・・今までぐうたら生活送ってた男がどういう風の吹き回しかなーって思って・・・」

 

「ベ・・・ベツニナンデモナイデスヨ?」

 

ティアの言葉に反応するように、カズマは片言になり、口笛まで吹き始めた。絶対何かあった時の反応である。理由が何であれ、ゴーレム退治のクエストに行くのならば都合がいいため何も聞かないことにした双子。

 

「・・・ま、理由は何であれ、ゴーレム退治のクエストは都合がいいわ。今ちょうどその話をしてたのよ」

 

「え?・・・あ、さてはマホからなんか頼まれたな?ま、こっちも好都合だからいいけど」

 

「よし、じゃあさっそく準備に取り掛かり・・・」

 

説得の手間が省け、クエストの準備に取り掛かるカズマたち一行。だが1人だけ、乗り気じゃない者がいる。

 

「ねぇ、私も行く流れになってるけど私は嫌よ!私は留守番してるからね!」

 

そう、アクアだ。あくまでも彼女は留守番を決め込むつもりのようだ。当然アクアの楽をアカメが許すわけがない。

 

「・・・あんたと議論するのも飽きたわ。来ないっていうのなら・・・こっちにも考えがあるわ」

 

「な、何よ・・・なんか嫌な予感がするんですけど・・・」

 

 

ーいーーーーやーーーーーーーー!!!!ー

 

 

『討伐(調査)クエスト!!

遺跡を守るゴーレムを退治せよ!!』

 

「うあああああああああ!!!返してよ!!大事なステッキを返してよ!!」

 

「・・・正直ここまでうまくいくとは思わなかったわ」

 

ゴーレムが現れるという遺跡にやってきたカズマパーティ。そして最後まで嫌々と言っていたアクアはアカメに盗まれたステッキを取り返そうと奮闘している。そう、アクアが動かす方法とは、彼女がとても大事にしているものを盗むことだ。大事なものが多いアクアならば、この方法は絶大だろう。

 

「あそこかぁ」

 

「ふむ・・・一見しただけでは古代ゴーレムとやらはいないようだが・・・」

 

「どこかに行ってしまったのでしょうか?困りますよ!我が伝説を記した1ページが減るではないですか!!」

 

「私も一応マホから頼まれたから出てきてもらわないと困るんだよなぁ・・・」

 

「少し近づいてみるか」

 

一目見ただけではゴーレムは見当たらないため、少し近づいて様子を見てみることにするカズマたち。

 

「ねぇちょっといい加減返しなさいよこの本物の泥棒!!」

 

「だああああ!!もう!!いい加減うっざいわねぇ!!!そんなにこれが大事ならもっと大事に扱いなさいよ!!あんたこれ、物干し竿にしてたじゃないこのマヌケ!!!」

 

いい加減突っかかってくるアクアが鬱陶しく感じたアカメは盗んだステッキを彼女にステッキを返却する。ステッキもどうやらぞんざいに扱っていたらしいから今回に至っては盗まれる原因を作るアクアが悪いとしか言いようがない。

 

「もうここまで来たからには逃げられないわよ!めぐみんの魔法で1撃なんだから安心しなさいよ!」

 

「・・・確かにそれもそうね。まぁいいわ。どうせめぐみんにやられるだけの雑魚なら、ちゃっちゃと片付けて帰りましょう!」

 

「・・・だからどうしてお前はそんな余計なフラグを立てるのが好きなんだ⁉」

 

盛大なフラグをぶちかまし、開き直るアクアにカズマがツッコミを入れる。

 

「よし。では私が遺跡へ先行しよう。ゴーレムが潜んでいるかもしれん。こういう時こそ、私を頼りにしてくれ」

 

「そうだな。お前いつも肝心な時役に立たないもんな」

 

「えっ!!?」

 

意気揚々と先行するダクネスだが、カズマの一言によってショックを受けた。

 

「えーっと、双子は・・・ゴーレムの写真を収めればそれでいいんだっけか?」

 

「そうだね。ゴーレムの動きを何枚か撮ればお仕事終わりって感じかな。その後のことはお好きにどうぞって言ってたし」

 

「じゃあめぐみんは、遺跡から離れたところで待機な」

 

「任せてください!見ててくださいね、ティア!あの遺跡ごとまとめて吹き飛ばしてみせましょう!」

 

「うん、そこまで頼んでないよ」

 

ドゴォンッ!!

 

「うおわっ!!?」

 

呑気に話し込んでいると、突如として強い地響きが鳴り、大地が地震のように揺れ動いた。

 

「ねぇ、なんか揺れてるんですけど・・・」

 

大地が揺れている中、遺跡の入り口の地面より、巨大な何かが姿を現そうとしていた。

 

「カズマ!これはさすがの私でも、ちょっとまずい気がするのだが!」

 

「姿を現したわよ!」

 

完全に姿を現した巨大な何かにカズマたちは驚愕で目を見開かせていた。現れたその巨体は・・・頭にアンテナのようなものが2つ備えており、全身鉄ように輝く黒光りした巨人だ。

 

「か、カズマさん・・・これってまずいんじゃないかしら・・・?」

 

「カズマこれ・・・」

 

「はい・・・」

 

「何ですか・・・?」

 

「あんなの・・・今まで見たことない・・・」

 

カズマたちの前に現れた巨人とは・・・日本のアニメなどでよく見る巨大人型ロボットであった。

 

「どー見てもゴーレムじゃなくて、巨大人型ロボットじゃねぇかぁ!!これ絶対、転生した日本人が関わってるだろぉ!!!」

 

カズマたちが驚愕している間にも巨大ロボットは動き出し、カズマたちに近づいてくる。カズマたちは巨大ロボットから逃げるように離れ、ダクネスはこれから来る攻撃に備え、構えている。巨大ロボットはダクネスに向けて拳を放った。ダクネスはその拳を両腕や身体を使ってしっかりと受け止める。

 

「大丈夫か!ダクネスー!」

 

「・・・?」

 

巨大ロボットの拳を受け止めたダクネスはこの一撃に対し、違和感を覚えた。

 

「どうした⁉」

 

「カズマダメだ!!こいつ案外中身が軽い!!これでは重い一撃が期待できない!!」

 

「え?」

 

「だが、こうも巨大な相手に成す術なく蹂躙されるというのも、それで・・・///」

 

巨大ロボットの中身が意外に軽いとわかり、わざと敗れた際に蹂躙される姿を妄想するダクネスは興奮している。このままではいろいろとまずい。

 

「おおいめぐみん!!あいつがいろいろな意味で手遅れになる前に爆裂魔法だ!!」

 

「嫌です!!!!」

 

「よぉーし!!!じゃあ・・・今なんてった?」

 

カズマはめぐみんに爆裂魔法の指示を出したが、めぐみんは全力の拒否の意思を示した。よく見るとめぐみんの表情はかなり輝いていた。

 

「あーんなかっこいいゴーレムを破壊するだなんてとんでもない!!カズマカズマ!あれをどうにか捕獲して持って帰りましょう!!」

 

「この非常時に何言ってんだ!!??」

 

「ちゃんと餌もやりますし、手入れもきちんとします!!散歩も躾も欠かしませんからぁ!!」

 

「飼うってか!!?あのでかいのを飼うってか!!?お前の頭どうなってんだーーーー!!!」

 

どうやらあのロボットはめぐみんの琴線を深く刺激されたようで、持って帰りたがっているようだ。アレクサンダーはともかく、あのような巨大ロボットを飼うという発言にカズマは頭を抱える。めぐみんの飼う発言に対し、ティアは顔を俯かせている。

 

「めぐみん・・・」

 

「ティアからも何か言ってくれ!!アレクサンダーはともかく、あんなでかいのは・・・」

 

「それ、ナイスアイディア!!!!」

 

「ええええええ!!!??」

 

否定するのかと思いきやまさかのめぐみんの考えに全肯定したティアにカズマは驚愕の声を上げる。

 

「だって見てよあれ!!あのフォルム!あの輝き!ちょーぜつかっこいいじゃん!!写真には何枚か収めたけど、実物と比べればこんな写真、への河童だよ!!カズマカズマ、どうにか悪知恵を働かせて捕獲しようそうしよう!!」

 

「ウジでも湧いてんのかお前の頭はあああああああ!!!」

 

パーティの中で腹黒以外まともなティアが中二心を拗らせたことにカズマは絶叫する。

 

「たく、何バカやってんのよ。写真ももう十分納まったんだし、とっとと壊しなさいよ。あんたができないってんなら私が・・・」

 

いつの間にか魔導カメラに写真を収め終えたアカメはもう十分だと言わんばかりにロボットを壊しに向かうが・・・

 

「ダメええええええええ!!!」

 

「させませんよおおおおおおお!!!」

 

「ぐべら!!??」

 

ティアとめぐみんがアカメの両足を掴みかかり、ロボットの破壊を阻止しようとする。両足を掴まれたアカメはそのまま転び、地面と激突する。

 

「バカなの?何バカなことを言っちゃってるのお姉ちゃん?あれは全人類にとっての芸術品だよ?至高の芸術だよ?それを壊すなんてもったいない!!」

 

「そうですよ!アカメには芸術を楽しむという感性がないんですか⁉」

 

「あんたらの美学と全人類の美学を一緒にするんじゃないわよこのすっとこどっこい共!!」

 

「どっちでもいいからさっさと片付けろよぉ!!!」

 

巨大ロボットを壊す壊さないの口論で言い合いに発展しそうになる3人に早くするように急かすカズマ。

 

「ちょっとカズマ!!ダクネスが!!」

 

バカをやってる間にも巨大ロボットはダクネスの鎧をひん剥いた。

 

「にゅううううううん!!!」

 

鎧を剥がされ、無防備となるダクネスに巨大ロボットは拳を振り下ろし・・・

 

ボインッ、ボイーン・・・

 

・・・と思いきや指を上下に動かしてダクネスの胸を揺らしている。それも何度も何度も。

 

「や・・・やめろおぉぉぉ・・・♡け、けしからぁん♡」

 

やられているというのに、興奮して喜んでいるダクネス。

 

「・・・やっぱりもうちょっと様子を見ようか」

 

「「「この男!!!!」」」

 

鼻の下を伸ばしているカズマはもっと眺めたいがゆえに様子見を決め込もうとしている。

 

「・・・とはいえ、どうしたものでしょう・・・ダクネスが非常事態なのですが・・・」

 

「うん・・・あの黒光りと造形はひっじょーーーーに魅力的だからなぁ・・・」

 

「だから私がやるって・・・」

 

「「それだけはダメ(です)!!」」

 

「なんでよ!!」

 

ダクネスがピンチなので助けたい気持ちはあるが、ロボットを手放すのは抵抗があるめぐみんとティア。アカメが壊すと提案するが、2人はそれを全力で拒否している。

 

「今度私があれよりかっこいいのを作ってあげるから、何とかしてーーー!!」

 

「えっ!!?それ、マジ!!?言質取るからね!!?」

 

「その言葉忘れないでくださいね!!?あれよりかっこいいやつですよ!!?」

 

アクアの必死の説得により、何とかロボットを破壊する方針に変更することに成功した。

 

「もっと・・・もっとだ!!」

 

「私たちが魔法の詠唱を終わる前に連れ戻すよ!」

 

「ああ、頼む!」

 

双子はまだロボットに弄ばれ続けているダクネスを連れ戻そうと動き出す。その間にもめぐみんは爆裂魔法の詠唱を唱える。

 

「我を取り巻く戒律のるつぼよ、深淵の血肉が咆哮する!!今紅き波動の一部となれ!!!」

 

めぐみんが詠唱を終えたところで双子はダクネスの両腕を掴み、引きずろうとするが、ダクネスは無駄に抵抗している。

 

「ほらダクネス!!爆裂魔法が来るよ!早く!!」

 

「ああ!!お、お構いなく!!」

 

「お構いなくじゃないわよ!!ふざけたこと言ってると殺すわよ・・・って、わああああああ!!!」

 

取っ組み合いの揉め合いをしている間にもロボットの指が迫ってきた。そしてロボットはダクネスの胸を揺らし、3人は弾かれるように吹っ飛ばされる。

 

「「あーーーーーーーー!!!」」

 

「胸の感触ーーーーーー!!!」

 

「今だ、めぐみん!!!!」

 

「穿て!!!!エクスプロージョン!!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオン!!!!!!!

 

3人が吹っ飛ばされたタイミングを見計らい、めぐみんの爆裂魔法が炸裂した。大爆発によって遺跡前の荒野はクレーターが出来上がった。慌ただしいクエストが終わり、カズマは倒れ伏し、アカメは巻き添えを喰らった原因であるダクネスに片羽絞をお見舞いしている。

 

「ああ!!あああああ!!!いい!!いいぞお!!!」

 

「このクソッタレ!!!私まで巻き込んでんじゃないわよ!!!あんたの脳は筋肉お花畑でできたんじゃないの!!?死ね!!!!」

 

「くううううん!!!こんな猛攻は久しぶりなうえに下衆な視線に晒され、とどめにこの罵声に激しい仕打ち!!!これほどまで充実したクエストは久しぶりだーーーーーー!!!!」

 

「見てねぇし!!!下衆な視線なんて向けてないからな!!?」

 

激しい罵声と締め技を喰らっているというのにやはりドMだから喜んでいるダクネス。そして下衆な視線というワードに反応したカズマは必死に否定している。一方、ティア、アクアにおんぶされているめぐみんは奇跡的に形が残ったロボットに近づき、目を輝かせている。

 

「わはぁ!!!形まだ保ってる!!今なら部品をお持ち帰りできそうだよめぐみん!!」

 

「アクア!!ゴーレムの部品を持って帰るのです!!そうすれば、完成も早まることでしょう!!」

 

「ええ!!?こんな重そうなものどうやって運ぶのよ!!?こんなのアカメでも無理よ!!?うちに帰ったら牛乳パックで変形合体デンデロメイデン作ってあげるから、我慢してよ~」

 

「「牛乳パック?」」

 

「たく・・・」

 

相変わらずのパーティにカズマが呆れていると、ロボットの目が何やらチカチカと光り出した。音もピッピッピッピッと音を鳴らす。

 

(あれ~?ひょっとしてヤバい奴じゃ・・・)

 

嫌な予感を察したカズマだが、他のメンバーは気づいていない。

 

「まぁ今回はこれだけの相手に無事だったのはすごいことだわ!さーて、今日はみんな頑張ったんだし、さっさと帰っておいしいものでも・・・」

 

「バカ!!!どうしてそうポンポンポンポンフラグ立てんだよおい!!!」

 

アクアが盛大なフラグを立てた瞬間・・・

 

ドカーーーーーーーン!!!!

 

盛大な大爆発を引き起こしたので、全員無事とはいかなかったのであった。

 

その後双子は撮ってきた写真をマホたち(一部ティアが掠め取った)に渡し、大量の報酬を手に入れ、また儲かったのであった。ちなみにリュドミラは非常に珍しがっていたが、マホは終始微妙な顔をしていたそうな。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

ゴーレム退治(調査)のクエストが終わり、カズマ以外のメンバーは屋敷でのんびりと過ごしていた。ダクネスは紅茶を飲んでリラックス、アカメは読書、アクアは変形合体デンデロメイデンを牛乳パックで製造し、めぐみんとティアはその完成を今か今かと楽しみに待っている。そんな時にカズマが帰ってきて、クエストへ向かうという話が出たのだが・・・

 

「はあああああ!!?またおかしなクエストを受けてきたですって!!?バカなの!!?カズマってば賢いふりしたバカだったの!!?見ての通り今の私は忙しいの!変な見栄張ってないで、ギルドに行ってクエストをキャンセルしてきなさいな!!」

 

「アクアの言うとおりですよ!今はそんなものにかまけてる余裕はないのです!!」

 

「そのとーーり!!さあ、そんな依頼はほっといて早く!!デンデロメイデンを!!早く変形合体デンデロメイデンを完成させて!!もう禁断症状でおかしくなる!!」

 

変なことを言っているティアはほっといて、カズマは未完成とはいえ、牛乳パックで作ったとは思えないほどのきれいな造形をしているデンデロメイデンを見て、アクアに質問する。

 

「なぁ、それって本当に牛乳パックなんだよな?」

 

「そうよ?カズマもほしいの?でもダメよ?変形合体デンデロメイデンはこの世にたった1体だけなの!欲しければ2人に交渉しなさいな」

 

(こいつ、本当に他の道に進んだ方が楽に生きていけるんじゃないか?)

 

交渉云々はともかく、アクアのこの才能にカズマは冒険者やらずに造形師やらなにやらになった方がいいのではと考える。

 

「まぁとりあえず、どんな依頼なのか話だけでも聞こうではないか。強敵が相手なら・・・私としては受けるのもやぶさかではない!!」

 

「あんたの意見は聞いてないわよカス」

 

「にゅううん!!!」

 

クエストを受ける気満々なダクネスだが、アカメの毒舌に興奮して押し黙る。

 

「で?どんな内容よ?つまんない依頼だったら受けないし、受けさせようとした奴ボコボコにするから」

 

「おいやめろ!今回の依頼はこの前の遺跡の調査。遺跡を守るゴーレムを倒した功績として、調査中に発見したお宝は全部持ってっていいっておいしい・・・」

 

「受けましょう!!!」

 

お宝と聞いた途端、ずっと渋っていたアクアがやる気を出してクエストを受けることを承諾したのだった。

 

ーこ・の・す・ば!ー

 

『調査クエスト!!

遺跡の中を調査せよ!!

難易度不明!!』

 

結局全員で遺跡にやってきたのだが、いざやってきたとなると、非常に面倒くさくなってきたアクア。

 

「ねぇ、ちょこちょこっと中を覗いてそれで済ませればいいんじゃない?具体的には潜伏スキルを持ったカズマさんが1人で探索してくるとか」

 

「俺は別にそれでもいいけど、中で見つけたお宝独り占めするからな」

 

「行きましょう!!」

 

お宝を独り占めされたくないアクアは意気揚々とやる気を出し、遺跡の中へと入るのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

遺跡の中の調査を開始したカズマたちであったが、特に目新しいものはなかった。強いてあげるとすれば・・・

 

「私でも理解が追い付かない魔道具ばかりです。何に使うものなのでしょうか・・・?」

 

「後これは何?ブルータルアリゲーターの模型?にしては全然似てないし・・・」

 

「こっちはカードゲームがあるけど・・・どこのメーカーよ?なんか人間が写ってるけど・・・」

 

「これは・・・かすかに残ってる香りからして、香水入れか」

 

(トイレの芳香剤じゃねぇか!!)

 

埃は被りまくっているが、日本人から見れば馴染みのあるおもちゃやカードゲーム、トイレの芳香剤が出てきた。カズマはこれだけでもここがなんであるか核心をついた。

 

(間違いない!!ここは転生した日本人が作った施設だ!!)

 

そう、ここは日本からこの世界に転生してきた日本人が作り上げた施設だったのだ。だからカズマにとって馴染み深いおもちゃやらなにやらが出てきたのだ。すると、ティアはこの施設内で敵の出現を感知した。

 

「みんな!敵感知スキルに反応があったよ!」

 

「どうせこの間倒したゴーレムの小さい奴が出てくるんじゃないかしら?となればダクネスがいれば大丈夫ね。ダクネスが敵を引き付けてる隙に、カズマとアカメがやっつけるの。建物内のゴーレムじゃ私とめぐみんじゃどうすることもできないし、攻撃できないティアは役立たずだから後ろで応援してるわね!」

 

「誰が役立たずじゃい!」

 

「応援してるよじゃなく、お前は支援魔法を使えよな!」

 

「冗談じゃないわよ!私の聖なる魔法は信者の子たちの祈りが力となっているのよ?ヒキニートや無宗教者のために無駄遣いするわけにはいかないの・・・わあああああああ!!???」

 

楽観的かつ、支援魔法を渋ろうとしたアクアに小型人型ゴーレムが襲い掛かってきた。それも大量にびっしりと。しかも狙いはアクア一択だ。

 

「なんで⁉なんでいつも私にばっかり!みんな私のこと好きなの⁉」

 

「ダクネス、デコイだ!囮スキルを使え!」

 

「もう使っている!だが様子がおかしい!これはもしかして!」

 

「言うまでもなく、間違いなくそうよね」

 

「うん、この群がりようは絶対にそう」

 

ダクネスのデコイに無反応ということは、このゴーレムは神聖な魔力を持つアクアに反応するあれである。

 

「アクア!それはゴーレムに憑依しているゴーストか何かです!ゴーストは人型の物に取り付きますから、アンデットですよ、アンデット!」

 

「ゴッドブローーー!!!!!」

 

目の前に群がるゴーレムの中身がアンデットだとわかった途端にアクアはゴッドブローを放った。

 

「・・・ゴッドォ~・・・レクイエムゥ~・・・」

 

そしてアクアはなぜか拳法家のような口調で迷える魂たちを天へと送り届けるのであった。

 

 

ー今日は絶好調だなぁ~・・・ー

 

 

アンデット駆除が終わり、カズマたちは遺跡調査を再開。しかし、やはりというか、これといってめぼしいお宝は見つけられないでいた。そして残ったのは誰かが住んでいたであろう部屋だけである。

 

「結局、まだ宝物らしきものはありませんねぇ・・・」

 

「ここが最後の部屋らしいが・・・」

 

「せめて1つだけでも面白いものがあればいいけど・・・」

 

部屋の中を探索する中、カズマとティアはこの部屋の奥にある金庫のようなものを調べている。

 

「これ金庫か?ティア、施錠スキルでこれ開けられそうか?」

 

「これパスワード式じゃん。さすがにこういうのは無理。せめてヒントがあればいいんだけどねぇ・・・」

 

カズマとティアが金庫をどうやって開ければいいのかと考えていると、アクアがタンスから何かを見つけた。

 

「何これ?日記かしら?」

 

日記らしいものを見つけたアクアはその中身を確認する。日記に書かれた文字はこの世界の人間からすれば読めない文字・・・日本語で書かれていた。

 

「何ですかこれは?紅魔族の私でも知らない文字ですね」

 

「これ日本語ね」

 

「何?あんたこれ読めるの?なんて書いてあるのよ?」

 

(これを書いた人は、いったい何を思っていたのだろう?他人の日記を勝手に読むことに、僅かばかりの罪悪感を覚えるが・・・)

 

罪悪感を覚えるカズマであったが、金庫を開けるヒントがあるのでないかと思い、日記の内容に耳を傾ける。日本語が読めないアカメたちのためにも、アクアが日記を読み上げる。日記の内容はこうであった。

 

『異世界生活1日目。

この日、私は女神に頼まれ、この世界に降り立った。魔王を倒し、この世界を救うために。道は困難を極めるだろうが、俺の決意に揺るぎはない』

 

カズマはこの日記に書かれた言葉を聞いて、己を恥じた。同じ目的でこの世界に送られながら、自分は何をしてたのだと。今回のクエストを頼まれなければ、恐らく今日もだらだらと過ごしていたはずであると。

 

『異世界生活7日目。

女神様からもらった力を試してみた。それはいろいろと制約はあるものの、自らが望むものを創り出すという恐るべき能力だった。これがあれば世界も征服することもできるのではないだろうか?だが私の望みはただ1つ、魔王を倒し、この世界の人々を救うこと』

 

望むものを創り出す能力・・・確かにその力があれば世界征服は容易に達成されるであろう。だが日記の持ち主は世界を救おうという選択をした。その心意気にカズマは感動した。

 

『異世界生活113日目。

魔王に対抗できるものを創り出そうとするも難航している。というのも、能力についてくる制約が問題なのだ。モノ作りの際には強い思いを必要とする。創り出す物に、どれだけ強い思いを抱けるか。私が魔王を倒したいという思いはこの程度のものなのか?苦悶が続く』

 

日記には深く苦悩する様が綴られていたのが文字を見ればわかる。さらに日記の持ち主は何度もこの世界の文字を練習して覚えてきたのか、日本語が徐々に減り、やがてこの世界の文字が主流となってきている。

 

『わかっている。自分が本当に望むものは何なのかを。だが、魔王を倒したいというのも嘘ではない。私は悩んだ。いったいどうすればいいのだと。何度も何度も自分に問いかけた。そして・・・悩みに悩んだ末に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔王討伐は、諦めることにした』

 

先ほどまで緊迫していたカズマたちの表情は一気に白けたものへと変わった。

 

『しょうがないよなぁ、だって俺元ニートだし。異世界に来たくらいで早々に中身が変わるわけないじゃん。俺はこれから好きに生きる。自分が本当に作りたいものだけ作ろう。まずは男の憧れ、美少女ロボットが欲しい。それから巨大ロボットもロマンだなぁ。よし、どっちも作っちゃおう!』

 

『巨大ロボ改め、巨大ゴーレムを作ってみたけどダメだ。搭乗できない。ちょっとだけ乗ってみたけど本当無理。気持ち悪い、軽くというか盛大に吐いたわ。でも作ったものはしょうがないしここ守らせとくことにした。おっと、自爆装置は外せないな』

 

『異世界生活289日目。

念願の美少女型ゴーレムの制作を開始。でも失敗ばかりだ。だって固いんだもん膝枕が。力加減もできないし、頭を撫でてもらった時首折れるかと思ったww。ついでに言うと致命的な欠陥があった。美少女型ゴーレムを作る際に最も重要なものが足りなかったんだよコンチクショウ!!巨大ゴーレムといいこいつといい、眼を離したすきに暴走を始めた。反抗期でも出たのかな?』

 

『異世界生活563日目。

もう1度原点に立ち返る。妥協することなく、自分の理想を追求したものを作ることにした。まず、俺が求めるのは、Mか?Sか?いや、ひとまずそれは置いとこう』

 

『異世界生活783日目。

違う!!!何が違うんだ!!??目鼻立ちか!!?髪型か!!?それとも造形そのものなのか!!?もう1度デザインから見直しだ!!ここで妥協してしまったら今までの努力が水の泡となる!!

あ、ちなみに俺Mだったわやべ、おいやべ!まぁひとまず、それは置いとこう』

 

(あれだ、わかった。こいつ絶対ダメな奴だ!!)

 

最初とは打って変わっての無駄な努力の使い方をしている日記の持ち主。もうこれだけでその人物がダメ人間であるとわかったカズマ。ただ判明したことといえば、外で守っていたあのロボットはこの日記の持ち主が作ったものであるという今となってははた迷惑なものだ。次のページを開いてみれば、日記の持ち主であろう髪の毛がびっしりと挟まっていた。

 

『異世界生活1230日目。

悟った。そうだよ、俺の力があれば美少女型ゴーレムに拘る必要ないじゃん。この力でどっかの技術大国に仕官しよう。高給もらって美人メイド雇えばいいじゃんやべぇテンション上がってきた!!!この世界に送ってくれた女神さま、あざーしたーーーー!!』

 

「お前かあああああああああああああ!!??」

 

この日記の内容から日記の持ち主がかのデストロイヤーの責任者であるのものであると悟ったカズマは思わず叫んだ。と、ここで日記に追伸があることに気付いた。内容はこうだ。

 

『追伸。もし誰かがこの日記を読んだのなら、ここに眠るゴーレムたちを大事にしてやってください。ちっとも言うこと聞かないけれど、みんなかわいい我が子です』

 

おそらく、そのゴーレムが眠っていると思われるのは・・・この金庫なのだろう。

 

 

ーこ・の・す・ば!ー

 

 

日記には金庫を開けるために必要なパスワードが乗ってあるため、カズマはこのパスワードを使って金庫を開けようと試みる。だがアクアは金庫の解放に消極的である。

 

「ねぇカズマ帰りましょう?もう調査終了でいいじゃない。この扉開けるとロクな目に合わないような気がするの」

 

「なーに言ってんだ。日記によれば、この先には美少女型ゴーレムが安置されてるんだぞ?あのでかいゴーレムみたいにいつ暴走するとも限らない。そんな危険なものを俺たちベテラン冒険者が放って帰れるか」

 

尤もなことを言うカズマにダクネスは意外そうな顔をしている。

 

「ほう?どうしたんだカズマ?いつものお前らしくもない」

 

「そうかい?」

 

「だがベテラン冒険者としての自覚に目覚めたのならいいことだな」

 

「ありがとう」

 

「ダクネス、騙されちゃダメだよ。あれ絶対嘘だから」

 

「大方、その美少女ゴーレムが欲しいんでしょこいつは」

 

「あ、バレた?」

 

「なっ!!?こ、この男は!!」

 

双子の言うとおり、カズマの狙いはその美少女型ゴーレムを手に入れることなのだ。バカな考えを起こしているカズマにアクアが説得しようとする。

 

「ねぇ、この後のオチなんて簡単に予想できるわ」

 

「言ってみ?」

 

「どうせすんごいのが出てきてダクネスが悶えて私が泣かされて、双子がまた喧嘩をして、めぐみんがカズマの制止も聞かずに全てを灰燼と化すのよ!」

 

「それはまずい」

 

「そして大事な施設を破壊したってことでなんやかんやで借金ができるの!」

 

「おいやめろよ。本当にそんな気がしてくる」

 

「失礼ですよアクア。いくら私だって、こんなところで魔法は放ちませんよ。ちゃんと外に出てから放ちます」

 

「おい、今なんてった?」

 

そうこう言っているうちにパスワードの入力を終え、金庫の鍵が開き扉が開かれた。金庫の中はとても広い。

 

「おい!カズマ見ろ!」

 

中央には何かの人影がガラスケースの中で見えている。おそらくあれが美少女型ゴーレムなのだろう。

 

「これこそが、この世界に送り込まれてきた先輩の美少女型ゴーレム!

(そう!男のロマンが詰まったガラスケースだ!!)」

 

スモークでよく見えないが、ガラスケースに入っている美少女ゴーレムにカズマは興奮を隠しきれていない。ガラスケースの隣にはおそらく美少女ゴーレムを目覚めさせるスイッチがある。めぐみんはこのスイッチをじっと見つめ、そのスイッチを・・・

 

ポンッ

 

押そうとしたところでカズマに止められる。

 

「おい、なぜ私を掴まえるのかを聞こうじゃないか」

 

「今から何をするつもりなのかを言ったら答えてやるよ」

 

2人の間に沈黙が流れ・・・めぐみんは必死にボタンを押そうと抵抗し、カズマは必死になって止める。

 

「そこにボタンがあるのなら、何が起こるのかわかっていても紅魔族としては押さないわけにはいかないじゃないですか!!」

 

「余計なことするんじゃねぇよ!!そういうのは最初に目覚めさせた奴が、『あなたがマスターですか?』とか言われんだよ!!いいか絶対に押すなよ!!?絶対だからな!!!」

 

ポチッ

 

「「あ・・・」」

 

カズマとめぐみんが戯れている間にもアクアがスイッチを押した。その瞬間、ガラスケースが開き、中からスモークが放たれる。

 

「ふわっ!!?わ、私は悪くないわよ?誰が悪いのかって言うのなら、絶対に押すなよなんて言い出したカズマのせいだからね!!」

 

「どっちにしろ押したことには変わらないんだよねぇ~」

 

「アクア、カズマ、死刑」

 

「なぁんでよ~~!!なんでいつもいつも下される刑が重いのアカメさん!!?」

 

「俺もかよ!!てか、余計なことしないとどうにかなっちまうのかお前は!!?」

 

「おいみんな!!私の後ろに下がれ・・・て、おい!!なんでアカメは私の前に立つんだやめろ!!」

 

カズマたちはダクネスの後ろに下がるがアカメだけ指示を無視してダクネスの前に立つ。スモークが放たれる中、ガラスケースから美少女型ゴーレムが現れた。長い赤髪に白いメッシュが入った美少女型と言うだけあって愛らしい美少女型ゴーレムだ。

 

「私のご主人様はどなたです?」

 

「俺です」

 

美少女ゴーレムの問いかけにカズマは前に出て間髪入れずに名乗り出た。

 

「この男!!何のためらいもなく言い切りましたよ!!」

 

「ええ。これ以上ないくらいに即答したわね」

 

「てかやっぱり思った通りだよチクショウ!」

 

「何がご主人様よ!ふざけんなこのクズ!!」

 

「おい!ご主人様とやらになるな!そういったプレイがしたいなら、後で私がしてやるから早くこっち来い!!」

 

「うるさーーい!!!美少女型ロボットのご主人様になるというのは、男のロマンなんだよ!!!」

 

女性陣の非難の声(1名は嘆願)にカズマは逆ギレして聞く耳を持たないでいる。

 

「あなたが私の・・・ご主人様・・・」

 

「はい・・・♡」

 

美少女型ゴーレムが近づいてきたことによって、顔だけでなく、身体が露になった。

 

ビシッ!!!

 

「ふあ・・・?」

 

その美少女型ゴーレムは・・・ハイヒールブーツを履き、お嬢様風の格好をしており、手には鞭が備わっていた。

 

「さあ、ご主人様・・・お仕置きのお時間です」

 

美少女型ゴーレムには鞭だけでなく、髪には数多くの拷問道具が備わっていた。

 

「シットダウン!!!」

 

「ひいいいいいい!!!」

 

「伏せ!!ハウス、ハウス!!!」

 

美少女型ゴーレムはご主人様と名乗ったカズマに数多くの拷問道具を押し付けようとしている。文字通り、お仕置きという名の調教のために。と、ここで、デストロイヤーの責任者の日記の内容を思い出す。

 

『あ、ちなみに俺Mだったわ、やべ!!俺やべ!!やべ!!!』

 

・・・どうやらMやらSやらの問答はサイズとかではなく、自身の性癖のものであったのだ。

 

「ヘイガイズ!!!おら、泣けよ!!!いい声で泣けよ!!!オラオラオラオラ!!!!」

 

「美肌立ちなんて問題じゃねええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

結局美少女型ゴーレムの気圧にダクネスは悶え、アクアは泣き、アカメは自分の方が上手と勝負をけしかけようとしてティアに止められて喧嘩、施設から逃げた後にめぐみんが遺跡に爆裂魔法を放った。結局、アクアの宣告通りになったのであった。

 

 

ーエンジョイプレイー

 

 

カズマたちが戻った頃には夜になっていた。クエストを終えて疲れたアクアたちはテーブル席で飲んでいるが、カズマだけはカウンター席で飲んでいた。というのも、その原因はカズマの隣に座っている少女である。

 

「とまぁ、そんなことがあったのさ。その後、俺の華麗な活躍により、例の遺跡のゴーレムたちは安らかな眠りにつくことになったのさ(イケボ)」

 

隣の少女にカズマはあることないことを言っている。ちなみにカズマの隣に座っている少女の名はラン。アクセルの街の新米冒険者であり、一応カズマのファンとのことであるが・・・。

 

「ねぇ、あの男、ここぞとばかりに新米冒険者にあることないこと吹き込んでるわよ?実際には私たちに襲い掛かってきたあのすんごいのにダクネスが悶えて、私が泣かされて、アカメがあれと勝負すると言ってティアが止めて喧嘩、めぐみんがカズマの制止を聞かずに全てを灰燼と化しただけなのに。そして大事な遺跡を破壊したってことで依頼失敗の違約金まで払わされたってのに」

 

「本当、そんな男だってのに、どこがいいのかねー?カズマのファンって・・・私、あの子の神経を疑うよ」

 

「しー!カズマのファンなんて言うレアキャラなんですから、そっとしておいてあげましょう。すぐにボロが出て愛想が尽かされるに決まってますから」

 

「そうだな。どうせ泣いて帰ってくるに決まってる。そうしたら、みんなで優しくしてやろう」

 

「ぷっ・・・ぷぷ・・・w」

 

「「「「?」」」」

 

ぼろくそに言っているアクアたちはアカメがなぜか笑っていることに気がついた。

 

「何お姉ちゃん?ついにおかしくなった?」

 

「違う・・・あれ・・・見てればわかるから・・・くく・・・w」

 

アカメがなぜ笑っているのかわからないアクアたちは言われた通りにカズマたちの様子を見る。

 

「そうですか・・・それはすごいですね。えっと・・・それじゃあまた・・・」

 

ランは笑顔を浮かべたままルナの元へと向かって行く。その様子に思った反応じゃないと思ったカズマは疑問符を浮かべる。

 

(あれ?俺何かしたか?いやいや、心当たりはまるでない。ちょっとばかし同じ自慢を何度かしたそれだけだ・・・)

 

カズマは気のせいだと思い込ませ、シュワシュワを飲み干す。

 

「ごちそうさーん」

 

「まいどありー!」

 

シュワシュワを飲み終えたカズマはアクアたちの元に戻ろうとした時、ランがルナと揉めている姿を見かけた。

 

「トラブルか。ファン1号のためだ。ベテラン冒険者の俺の出番だろう・・・」

 

カズマはベテラン風を吹かせ、問題解決に取り組もうとした時、2人の会話が聞こえてきた。

 

「まったくー・・・最初はニートにやる気を出させるだけの簡単なお仕事だって聞いてたのに、これじゃ割に合わないですよー。あの人毎日私を捕まえて同じ話を何度もするんですよ?他の冒険者には男の趣味が悪いってからかわれるし、追加報酬くださいよー」

 

「そうは言われましても・・・そう言ったことも含めての高額報酬だって伝えたじゃないですか。あのパーティは問題は起こしますが、実績だけはあるんです。遊ばせておくわけにも・・・」

 

「それはわかりますけどだからって・・・」

 

「・・・・・・」

 

「「あ・・・」」

 

話を全て聞かれてしまった2人はしまったといった表情を浮かべている。つまり、ランは別にカズマのファンでもなんでもなく、ただカズマたちがクエストを向かわせるという仕事を受けた1人の冒険者にすぎなかったのだ。真相を知ったカズマは涙目である。いや、涙目というよりすでに泣いていた。

 

「プーーー!クスクス!ちょっと、カズマってばちょープルプルしてるんですけどーw」

 

「なるほど・・・wこれがわかってたから笑ってたわけか・・・wウケる・・・w」

 

「ダメ・・・wやっぱ笑いがこらえきれそうにないわざまみろw」

 

「笑ってはいけませんよw愛想尽かされるどころか、こんなオチだったなんてw」

 

「ふふふwまぁ問題ないw優しくしてやろうではないか・・・プッ!w」

 

一部始終を陰でこっそり見ていたアクアたちは哀れなカズマを笑っていた。

 

「あ、あの、サトウカズマさん?違うんです!これはですね?ギルドの上の方からの命令でして・・・あ、あの!カズマさんはその・・・前から思ってたんですが・・・あの・・・」

 

「あ、あたしは依頼を受けただけですから・・・でもあの・・・カズマさんに憧れてたのは本当ですし、その・・・」

 

「「カズマさんって、そこはかとなく、いい感じですよね!!」」

 

ルナとランは必死になってカズマをフォローしているが、まったく褒めていないためにかえって逆効果だ。

 

「・・・スティーーーーーール!!!!!」

 

「「いやああああああああああああああああああ!!!!!」」

 

悲しみのあまりカズマは2人に目掛けてダブルスティールを放ち、2人のパンツを奪い取った。かわいそうだとはいえ、これによってパンツ脱がせ魔のカズマの名がさらに轟くこととなった。

 

 

ースティーーーール!!!!ー

 

 

ギルドの大騒動が落ち着き、屋敷に戻ってきたのはいいが・・・カズマはすっかり落ち込んでしまい、リビングの隅っこで体育座りをして顔を俯かせている。

 

「そ・・・それでカズマさん、あんなに落ち込んでたんだ・・・」

 

「み・・・ミミィ・・・その話させるの本当やめて・・・w笑うから・・・w」

 

「嘘ついてたのはわかってたけど・・・wオチがわかっててもやっぱ笑う・・・w」

 

ギルドであった話を遊びにやってきたミミィに話す双子は思い出し笑いでさらに笑う。それによってさらにカズマの心が傷ついた。話を聞いてミミィはカズマにドン引きしている。

 

「でもどうしよう・・・タイミングが悪かったかも・・・。カズマさんがネクサスさんに仮団員に認められたからお祝いの品を持ってきたのに・・・。やっぱり私は空気が読めないカスだ・・・」

 

ミミィの手元には最高級のシュワシュワの酒瓶があった。どうやら仮団員任命祝いのプレゼントのようだ。

 

「ほらカズマ!いつまでウジウジしてるの!シャキッとしてシャキッと!」

 

「あんたがそんなんじゃみんながどんよりするでしょ!しっかりなさい!」

 

「そうよそうよ!嫌なことはパーッと飲んでパーッと忘れましょ!」

 

「わ・・・すごい現金・・・」

 

最高級シュワシュワを見た双子とアクアはそれを飲みたいがゆえにカズマを励まそうと奮闘している。だが気休め程度ではカズマの傷ついた心は埋まらない。すると・・・

 

バアン!!!!

 

「?ゆんゆん?」

 

突然ゆんゆんが扉を勢いよく開き、リビングに入ってきた。ゆんゆんは真剣な表情をしてまっすぐに落ち込んでいるカズマの元へと向かっている。いつものゆんゆんならばめぐみんに勝負を仕掛けてくるのだが、今日はそういった様子は一切見られない。その様子に戸惑いを感じるめぐみんたち。そうこう考えてるうちにゆんゆんはカズマの元へ。

 

「カ・・・カズマさん・・・」

 

「・・・なんだよ・・・どんなこと言われたって俺の傷ついた心は・・・」

 

「私・・・私・・・」

 

すっかり不貞腐れているカズマを気にせず、ゆんゆんは話を振ろうとしているが、もじもじしていて中々切り出せないでいる。心なしか顔も赤くなっている。そして意を決し、ゆんゆんはとんでもない発言をかます。

 

「私・・・カズマさんの子供が欲しい!!!!」

 

「「ブーーーーー!!!???」」

 

ゆんゆんの特大な爆弾発言に双子は驚愕のあまり思わず噴いてしまう。そして、この発言を聞いたカズマは・・・

 

「・・・モテ期、入りました」

 

さっきの落ち込みはどこへやら、まんざらでもない笑みを浮かべるのであった。




次回、この姦しい獣耳少女達とハーレムを!


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この姦しい獣耳少女達とハーレムを!

カズマさんの子供が欲しい・・・という爆弾ワードを出してきたゆんゆんの発言にカズマはまんざらでもない様子で彼女と対面し、その様子をめぐみんたちは遠くで見つめている。ちなみにアクアはただ1人でミミィからもらった高級シュワシュワを堪能したり、ちょむすけにひっかかれたりしていた。

 

「・・・もう1回、言ってくれるかな?(イケボ)」

 

万が一聞き間違いじゃないと言質を取るために、カズマはなぜかかっこいい声を出して確認を取っている。

 

「か・・・カズマさんの子供が欲しいって言いました!」

 

ゆんゆんは顔を赤らめながら同じことを言った。どうやら本当に聞き間違いではないようだ。ゆんゆんの言葉になぜかカズマはカッコつけている。

 

「ふっ・・・俺としては、最初は女の子がいいんだけど」

 

「ダメです!!最初の子は男の子じゃないとダメなんです!!」

 

「「ちょっと待てぃ!!」」

 

自分たちを放置して話を進めるカズマたちにいい加減物申そうと双子たちが話に割って入ってきた。

 

「男とか女とか、そんな話はどうだっていいのよ!あんた自分が何を言ってるかわかってる?」

 

「そうだよ!だいたい、これがどんな男なのかちゃんとわかったうえで言ってる⁉」

 

「その通りだ!いったいどうしたというのだ?」

 

「正気に戻ってください!いったい何がどうなっているのか、ちゃんと順を追って話してください!」

 

「み、みんな落ち着いて・・・」

 

ゆんゆんに詰め寄る双子たちにミミィが全員を落ち着かせようと声をかける。

 

「わ、私とカズマさんが子供を作らなきゃ世界が・・・魔王が!!」

 

「魔王?」

 

子供と魔王にどんな関係があるのかさっぱりわからないめぐみんたちは疑問符を浮かべている。そんな中、空気が読めないカズマがノリノリで割って出てきた。

 

「そうかそうか、世界が。大丈夫だ。世界も魔王も俺に任せとけ。俺とゆんゆんが子作りすれば、魔王がどうにかなり世界が救われるっていうんだな?困ってる人の頼みを断るわけがないじゃないか(イケボ)」

 

とことんまでカッコつけているカズマに双子たちは異を唱える。

 

「バッカじゃないの!!?あんたバッカじゃない!!?脳みそお花畑かあんたは!!」

 

「なんでこういう時だけ物分かりがいいんだよ!!少しは疑問を持てよこのクズ!!」

 

「討伐クエスト受けようと頼んだ時はあれだけ嫌がったくせに!!」

 

「本当ですよ!!」

 

「うるさーーーーーい!!!!!!」

 

口を挟み続ける4人に対し、カズマは逆ギレした。

 

「関係ない奴が口を挟んでくんなよ!!せっかくのモテ期なんだよ!!邪魔すんな!!!!」

 

「知り合いが変な男に引っ掛かろうとしてたなら、口の1つも出しますよ!!」

 

「ほ、本当に落ち着いてください・・・もうこの間に挟まるの嫌なんですぅ・・・」

 

「す、すみませんミミィさん・・・私のせいで・・・」

 

4人とカズマの睨みあいに挟まれてるミミィはかなり涙目になっており、この状況を作った原因であるゆんゆんは申し訳なさそうに謝っている。

 

「素晴らしい!!素晴らしいよ!!俺初めてこの世界のこと好きになったよ!!ていうか何なの?お前ら俺のこと好きなの?ゆんゆんとお付き合い的なこと始めるから妬いてんの?だったら素直にそう言えやこのツンデレ共が!!!!!」

 

「いい加減その舐めた口を塞がないと一生婿に行けないような身体にしてやるわよ?」

 

「ていうかもうやっちゃおうよこの際。こいつをこのままにしたら世界は滅んだも同然だよ」

 

「ちょ・・・本当にやめて!手を出そうとしないで2人とも!!」

 

ムカつく動きや発言を繰り出しているカズマにいい加減我慢できないと取っ組み合いの喧嘩が始まろうとした時、ゆんゆんが口を開く。

 

「めぐみん・・・紅魔の里が・・・紅魔の里がなくなっちゃう!!!!」

 

紅魔の里がなくなる・・・その言葉を聞いて騒動は収まり、全員がゆんゆんに注目した。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

ゆんゆんの一声で一旦落ち着いたカズマたちはひとまずテーブルについた。アクアはゆんゆんとミミィにお湯が入ったティーカップを差し出した。

 

「粗茶ですけど」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

「そ・・・粗茶・・・?」

 

粗茶と言っているが、どう見てもこれはお湯である。大方またお茶を浄化してしまったのだろう。その話は置いておいて本題に戻る。

 

「どういうことなんです?里がなくなるとは穏やかじゃありませんね」

 

めぐみんが質問すると、ゆんゆんは手紙を取り出し、テーブルの上に置いた。めぐみんはその手紙を手に取る。

 

「これはゆんゆんのお父さん、族長からの手紙ですか。・・・『この手紙が届く頃には、きっと私はこの世にいないだろう』・・・!!?」

 

紅魔の里の族長からの遺言ともいえる内容にめぐみんは目の色を変え、手紙の内容を確認する。穏やかではない状況にカズマたちも緊迫した様子がうかがえる。手紙の内容はこのようになっている。

 

『この手紙が届く頃には、きっと私はこの世にいないだろう。我々の力を恐れた魔王軍がとうとう本格的な侵攻に乗り出したようだ。

すでに里の近くには巨大な軍事基地が建設された。それだけではない。

多数の配下たちと共に魔法に強い抵抗を持つ魔王軍の幹部まで送られてきた。

くくく・・・魔王め、よほど我々が恐ろしいとみた。

軍事基地の破壊もままならない現在、我らに取れる手段はたった1つだ。

 

そう、紅魔族族長として。

この身を捨ててでも、魔王軍と刺し違えること。

 

愛する娘ゆんゆんよ。お前さえ生き残っていれば、

紅魔族の血が絶えることはない。族長の座はお前に託した。

この世で最後の紅魔族として、決してその血を絶やさぬように』

 

「内容からして、紅魔の里が魔王軍に蹂躙されてるみたいですね・・・」

 

「待ってください。ここにもう1人紅魔族が生き残ってるのですが」

 

「いいから続けて!もう1枚あるから!」

 

手紙の内容に異を唱えたいめぐみんだったが、ゆんゆんに急かされて渋々もう1枚の手紙を読む。内容はこうなっている。

 

『里の占い師が魔王軍襲撃による、里の壊滅という絶望の未来を視た日。その占い師は同時に希望の光を視ることになる。

紅魔族唯一の生き残りであるゆんゆんはいつの日か魔王を討つ事を胸に秘め、修行に励んだ。そんな彼女は駆け出しの街で、ある男と出会う事になる。

頼りなく、それでいて何の力もないその男こそが、彼女の伴侶となる相手であった・・・。

ヒモ同然の動かない男。

それを甲斐甲斐しく養うゆんゆん・・・。

修行に明け暮れていたゆんゆんにとって、それは貧乏ながらも楽しく幸せな日々だった。

やがて月日は流れ。紅魔族の生き残りと、その間に生まれた子供はいつしか少年と呼べる年になっていた。その少年は冒険者だった父の跡を継ぎ、旅に出ることになる。

だが少年は知らない。彼こそが、一族の仇である魔王を倒す者であることを』

 

「・・・いろいろツッコミたい内容ばかりなんだけど・・・」

 

「とりあえず、1個ずつ整理していきましょうか」

 

今読み上げた手紙の内容を1つずつ整理しようとした時、真っ先にめぐみんが手を上げた。

 

「まず1つ!どうして唯一の生き残りがゆんゆんだけになってるんです⁉私の身に一体何が!!?」

 

「まぁまぁ・・・。それよりも・・・次の内容なんだけど・・・この伴侶となる男の人・・・頼りなくて何の力もないヒモ同然の男って・・・」

 

めぐみんの異論を落ち着かせたミミィは伴侶の男について話を持ち掛ける。頼りなく、力もない、ヒモ同然の男・・・見事にそれに合致している者がここに1人いた。ゆんゆん以外の全員はカズマに視線を向ける。

 

「おい、なんで俺を見つめるんだ?ひょっとして俺のこと言ってんの?ゆんゆんもそれだけの情報でここに来たのか?」

 

カズマの言葉にゆんゆんは目を逸らし始めた。

 

「カズマの文句は置いといて・・・ここが1番重要だよ。ヒモ男とゆんゆんの間に生まれた子供について」

 

「そのガキが魔王を倒す者ってあるけど・・・まさかこれに真に受けたってこと?」

 

アカメの問いかけにゆんゆんは恥ずかしそうに首を縦に頷き、全員がカズマに視線を集めた。

 

「お・・・俺たちの子供が魔王を・・・!!」

 

「おい待てカズマ!まさか占いなんて曖昧なものを疑り深いお前が信じたりしないだろうな!!?」

 

「ねぇ!そんなの困るんですけど!私としては困るんですけど!そんな悠長なこと言ってないで、とっとと魔王を倒してほしいんですけど!カズマの子供が大きくなるまで待てっていうの?3年くらいで負からない?負からないならその占いはなかったことにしてちょうだい!!」

 

「アクア・・・幼児に魔王退治させるつもりなの・・・?」

 

「最低ド畜生ねあんた」

 

占いの内容に真に受けているカズマは衝撃が走り、ダクネスとアクアが異を唱えている。そして幼児に魔王討伐させようとしているアクアの思考に双子は軽蔑の視線を送っている。

 

「里には腕利きの占い師がいるんです。つまり・・・」

 

「え・・・本当に・・・真実ってこと・・・?」

 

ミミィの問いかけにゆんゆんは恥ずかしそうに首を縦に頷いた。

 

「・・・わかった。そういうことなら任せとけ。世界のためだ仕方ない(イケボ)」

 

カズマはカッコつけてゆんゆんに男らしいセリフをはいた。下心のことを考えると全然カッコよくないが。

 

「お、お前という奴は!!普段は優柔不断なくせにどうして今日はそんなに男らしいのだ!!」

 

ダクネスが異を唱えている間にもめぐみんは手紙の端に折り目があるのに気づいた。それをめくって開いて見ると、そこには他にも文字が綴られていた。

 

「・・・紅魔族英雄伝第1章・・・著者:あるえ」

 

「!!!???」

 

めぐみんの一言にゆんゆんは彼女の持つ手紙に視線を向けて固まり・・・

 

「あああああああああああああああああ!!!!!」

 

突然の奇声を上げてめぐみんから手紙を奪い取り、くしゃくしゃに丸め込んで床に叩きつけた。

 

「あるえのばかあああああああああ・・・!!」

 

そして恥ずかしそうに涙を流しながら丸まって床に突っ伏した。

 

「おい!どういうことだ説明しろ!!俺の子供はどうなった⁉俺はどうしたらいい!!?ここで脱げばいいのか!!?部屋で脱げばいいのかんんんん!!?」

 

「いい加減黙れこの野郎!!!!」

 

チーーーーーーンッ

 

「あっ・・・」

 

戸惑うカズマの言動にキレたティアはカズマの大事な急所を力いっぱい蹴り上げた。急所を突然蹴られたカズマは気持ち悪い顔をして、床に突っ伏して悶えている。

 

「え、えっと・・・・それで・・・そのあるえって・・・誰のこと・・・かな?」

 

「あるえというのは作家を目指してる里の同級生です」

 

作家を目指す同級生あるえが書いたものならば、おそらく先ほどのものはあるえが書いた小説なのだろう。作り話であるとわかり、ダクネスたちは安堵する。

 

「なんだただの作り話か。・・・ん?では最初の手紙は?」

 

「こっちは本物じゃないですかね。紅魔族は昔から魔王軍の目の敵にされていましたから」

 

くしゃくしゃになった本物の手紙を拾い上げるめぐみんにカズマは大事な個所を抑えながら異を唱えようとする。

 

「おい・・・ちょっと待て・・・俺の男心はどうしたら・・・?ゆんゆんは・・・?これから俺とゆんゆんが甘酸っぱい関係になる・・・」

 

「わけないでしょ。妄想も大概になさい変質者」

 

カズマが抱いていた現実が妄想であるとアカメに突きつけられ、カズマは今度こそ力なく床に突っ伏す。そんな彼にアクアは優しく脱ぎ捨てたズボンを優しく穿き直させるのであった。

 

「めぐみんはなぜそんなに落ち着いてられるんだ⁉家族や同級生が心配ではないのか?」

 

落ち着いた様子を見せているめぐみんにダクネスは問いかけている。その言葉にゆんゆんははっと泣き止み正気に戻る。

 

「そうだわ!!ねぇめぐみん、どうしよう・・・?」

 

「我々は魔王も恐れる紅魔族ですよ?里のみんながそうやすやすとやられるとは思えません。それに・・・族長の娘であるゆんゆんがいる以上、紅魔の里に何かあっても、血が絶えることはありません。なので、こう考えればいいのです。里のみんなは、いつまでも心の中に・・・と」

 

「めぐみんの薄情者~~~~~!!!!」

 

薄情な答えを出しためぐみんにゆんゆんは彼女の服を引っ張り、ぐわんぐわんと揺らすのであった。

 

 

ーこのすば・・・ー

 

 

騒動が落ち着き、カズマたちはゆんゆんを見送りのために外に出た。

 

「す、すみませんでした!!」

 

「お、おお・・・いいってことよ」

 

迷惑をかけてしまったことにゆんゆんは恥ずかしそうに顔を赤らめてカズマたちに頭を下げた。甘酸っぱい関係になれなかったことにカズマは内心複雑そうであるが。

 

「それより、どうするんだ?」

 

「はい。今から紅魔の里に。その・・・里には・・・と・・・友達が・・・」

 

「ハッキリと友達と言えない関係ってわけね」

 

「お姉ちゃんシー!!ゆんゆんのために黙ってあげて!」

 

ゆんゆんの言葉にアカメは一言呟き、ティアがそれを咎める。幸いにもゆんゆんには聞こえなかったようだ。

 

「それじゃあ・・・皆さん・・・」

 

ゆんゆんは頭を下げ、屋敷を後にした。寂しげなゆんゆんの背中を見て、めぐみんが思い浮かんでくるのは、紅魔の里で直面した危機を彼女と共に乗り越えた思い出であった。

 

 

ーこのすばー

 

 

翌日、カズマたちはウィズの店にやってきた。今日は手伝いに来たわけではない。ウィズに用があってここに来たのだ。

 

「テレポート?アルカンレティアに送ればいいんですね?」

 

「ああ。このツンデレが里帰りしたいって言うし」

 

「だ、誰がツンデレですか!!!??」

 

「というわけで、お願いね、ウィズ」

 

「紅魔の里の近道はそこしかないから仕方なくね」

 

そう、ウィズのテレポートで近道であるアルカンレティアにテレポートしてそのまま直通で紅魔の里へ向かうためにここに来たわけだ。マホのテレポートでもよかったが、あいにく彼女はリュドミラのあいさつ回りのために外出しているために今は不在である。ちなみに、めぐみんが里帰りしたい理由は彼女が言うには年の離れた妹と会うためだとか。まぁ、少なからずゆんゆんの心配もしているだろうが。

 

「か、カズマさん・・・無理を言ってしまって・・・すみません・・・」

 

「ああ、いいっていいって。ゆんゆんが心配だったんだろう?」

 

「は、はい・・・」

 

ちなみに紅魔の里へはミミィも同行することになった。理由はあの話を聞いた後では放っておけないかららしい。

 

「まぁ、支部に残っててやること言ったらネガウサの趣味と書類仕事だけだしね」

 

グサッ

 

「ここの団員、いっつもギルドにいるから支部拠点閑古鳥状態だし」

 

グサッグサッ

 

「真面目に通ってるのっていったらネガウサとその補佐だけだしね」

 

グサッグサッグサッ

 

「あ、それだけじゃないか。あのゴミカスチンピラのダストも来てるんだったね」

 

グサッグサッグサッグサッ

 

「は・・・はは・・・カスの溜まり場にはカスしか集まらないって・・・真理なんだね・・・あれ、涙が・・・」

 

「お前らミミィをいじめてそんなに楽しいか?」

 

双子の言い放つ言葉によって精神的ダメージを負っているミミィはぽろっと涙をこぼしている。ミミィの精神を追い詰めている双子にカズマがジト目で睨んできたが、双子はそっぽを向くばかりであった。

 

「おや!誰かと思えば・・・ここ最近立て続けに女にフラれ続けている冒険者の男に、最近双子共に腹筋ネタでいじられている娘に、クソ鬱陶しい似非女神の娘に、ツンデレに磨きがかかったネタ種族、そして小僧にこっ恥ずかしい台詞を吐いて後日部屋で悶えていた双子共、へいらっしゃい!!」

 

店の奥からバニルはカズマたちにたいして嫌味を言い放って現れた。その際にミミィだけハブられている。

 

「あ、あの・・・バニルさん・・・私も・・・います・・・けど・・・」

 

「おお、目立つ外見な割に地味すぎるウサギもおったか。陰が薄すぎて気がつかなかったわ」

 

「地味で影薄くて・・・すみません・・・」

 

「おおっと、悲嘆の悪感情!ん~、大変美味である」

 

ミミィにわざと気づかないふりをしているバニルはミミィから発する悲観的な悪感情を喰らい、実にご満悦である。

 

「それはそうと双子共、例の契約書、作成しておいたぞ」

 

「それ本当に期待してもいいんでしょうね?当日ドタキャンとかなしよ?」

 

「そんなせこい真似吾輩がするものか。サトウカズマの知的財産権を汝らに譲渡し、吾輩が3億エリス買い取る。そういう契約だ。安心するがよい」

 

バニルと双子は例の3億エリスの商談の話を進めている。3億が確実なものとするためか、アカメは期待で目が輝いており、ティアは少し不安気である。

 

「しかし、まだ契約成立ではないぞ、幾度もの借金を味わった双子よ」

 

「「はあ?」」

 

「あの商品を作る職人がまだ決まっておらんのだ」

 

「ちょっと・・・それ本当に大丈夫なんだよね?」

 

ガッシャーーーン!!!

 

双子がバニルと商談を進めていると、何かが割れる音がした。そちらを見てみると、アクアの足元にはガラス瓶が割れ、中のポーションがぶち撒かれていた。どうやらアクアが商品を勝手に触り、落としたのでろう。

 

「しょ、商品に触るな!!!厄災女めぇ!!!!」

 

「む!!何よ!!お客様は神様でしょ⁉私は本物の神様だけど。神様相手に相応しい態度を示しなさいよね!!」

 

「商品をダメにしておいて、何を開き直っているのだこの貧乏神は!!!ええい、ウィズ!!とっとと送還してしまえ!!!」

 

揉めあいになっているバニルとアクアのやり取りを双子たちは呆れた表情を浮かべているのだった。

 

 

ーやっかましいわ!!!!ー

 

 

揉めあいはひとまず終わり、カズマたちは紅魔の里へ向かう準備を整えた。

 

「では、アルカンレティアの入り口までお送りしますね。素晴らしい旅と体験を。テレポート!」

 

「行ってくる!」

 

ウィズはテレポートを放ち、カズマたちをアルカンレティアの入り口まで転移させた。その場に残ったのはウィズとバニルだけである。

 

「おお、ウィズさん。今のってカズマたちか?」

 

「あ、マホさん。リュドミラさん」

 

「アヌビスではお世話になりました」

 

そこへあいさつ回りに出歩いているマホとリュドミラがやってきた。

 

「あいつらまたどっか出かけたのか?」

 

「はい。紅魔の里へ向かうそうです」

 

「紅魔の里?それヤバくないっすか?あそこの道中にはあいつらが・・・」

 

マホの言うそのあいつらと直面することを・・・この時のカズマたちはまだ知らない。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

ウィズのテレポートによってカズマたちはアルカンレティアの入り口までたどり着いた。もう来ることはないと思っていたので、入り口だけでも双子は憂鬱な気分だ。

 

「ねぇねぇカズマさん・・・」

 

「この街にはすぐに出るぞ。もうお前の教団の連中にはもう関わりたくないからな」

 

「泊まりたいなら1人で泊ってろ」

 

「死ね」

 

「なぁんでよー!!!アカメに至ってはただの暴言だし!!」

 

やっぱりというかアクアはここで一泊していきたいそうだが、カズマと双子はやはりアクシズ教に関わりたくないためすぐ出発する選択をする。

 

「え?アクアさん、ここに泊まりたいんですか?やめたほういいですよ?あんなのカス以下の生ゴミ同然の歩く公害なんですから。というかアクシズ教徒以外アクシズ教が好きな人なんて誰1人としていませんよいたとしてもそいつらと同類か変わり種か自殺志願者くらいしかいませんよマジで目障りなんですよねことあるごとに入信入信ってバカじゃないですかそれ以外の芸ってあるんですかないですよねそんなのあったら奇跡としかいいようがありませんし役に立たない恩恵とかありがたがるとか死にたいんですかあの人たち世のため人のためと言いたいのだったらまず自分が死んでくださいそうすれば大勢の方に役に立ちますから存在自体公害なアクシズ教徒なんて滅びればいいのにというか滅んでしまえそして女神アクアなんて死んでしまえそうしたらみんなハッピーみんなラッキーお届けアクシズ教徒が齎すのはアンハッピーアンラッキーなんだからやっぱり私以下のクズ集団で・・・」

 

「う・・・うわああああああああああああん!!!!!」

 

アクシズ教徒の話になった途端ミミィは死んだ魚のように目からハイライトが消え、早口でかなり聞き取りにくいがアクシズ教徒の悪口をこれでもかとぶちまけた。自分をカスだと言い張るネガティブ思考のミミィからの強烈な悪口にアクアは盛大に泣き出してしまう。

 

「か・・・カズマ以上に容赦ないですね・・・」

 

「言う時は言うからねミミィは」

 

「ネガティブなのか毒舌なのかハッキリしなさいよね」

 

「お前はハッキリしすぎだけどな」

 

ミミィの意外な一面を見たカズマたちはドン引きしている。ダクネスは興奮して悶えているが。

 

「ここからだと徒歩で2日ほどかかるからここは馬車で向かいましょう」

 

「馬車買っておいて正解だったね。アレクサンダーも嬉しいでしょ?」

 

「ピィーヒョロ」

 

時間短縮のために双子はアレクサンダーに手綱をつけ、マホからのゴーレム調査の際に手に入れた報酬で買った馬車にカズマたちが乗り込む。

 

「全員乗った?」

 

「じゃあ、出発するわよ」

 

全員が乗り込んだことを確認したところで、アクシズ教徒が来る前に馬車は紅魔の里に向けて出発した。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

カズマたちは紅魔の里までの道中を馬車の中で楽しんでいる。馬車を運転するアカメもどこか心穏やかな表情をして、景色を楽しんでいた。紅魔の里の道中にはモンスターが多いとの話だが、幸いにも今のところ空のモンスターを含めて1匹も出くわしていない。と、ここでティアは敵感知スキルで遠方からモンスターの気配を探知した。

 

「お姉ちゃん、前方にモンスターの気配があるよ」

 

「ええ。この辺りは一撃熊やグリフォン、ファイアードレイクとかヤバそうなモンスターがゴロゴロいるしね。ここは迂回していきましょう」

 

モンスターと遭遇したくないアカメはアレクサンダーに指示を出し、モンスターがいる方角とは別のルートを進もうとしたところ、カズマがストップを出した。

 

「まぁ待て待て。俺も敵感知スキルでモンスターの姿を見たけどありゃ人型だ。となるとあそこにいるモンスターは『オーク』・・・つまりザコ敵だ。狙われるのが女だけなら俺1人でもどうにかなる。だから俺が行ってくるよ」

 

オーク。それは二足歩行の豚顔の年中発情期のモンスターである。人型モンスターは多種族と交配可能で、特にオークが捕まったりすれば悲惨な目に合わせられる。オークならば弱い自分でも倒せるし、狙いが女性であるなら男である自分が行くべきであるとカズマは名乗りを上げるが、ダクネス以外の女性陣全員はなぜか青い顔をしている。

 

「な・・・何バカなこと言っちゃってんの⁉やめときなって!危ないよ!」

 

「そうですよ!マッチョモグラと同じトラウマを植え付けられたいのですか⁉」

 

「悪いことは言いません!アカメちゃんの言うとおり、ここは迂回しましょう!」

 

「大袈裟だなぁ。あんなザコすぐに片付けてやるからそこで見とけよ!」

 

「あ!こらバカ!男のあんたがむざむざと行くんじゃ・・・」

 

カズマは女性陣の制止を聞かず、むざむざと前方のモンスターへと向かって行く。カズマが近づいてきたことに気づいたモンスターはずんずんとカズマに近づいていく。それを見た女性陣は慌てふためき、必死に戻って来いとジェスチャーを送っている。

 

「クリエイト・アース」

 

カズマは不意打ちの準備を整え、モンスターにずんずんと近づき、その姿を捉えた。そのモンスターは服は着ているが二足歩行の人型で豚顔である。やはりオークで間違いないようだ。ただその緑色の肌をしたオークは顔の造形が人に近く、パッと見れば本当に人間に近い。しかしそれだけではない。このオーク・・・

 

「こんにちは!ねぇ、男前なお兄さん、あたしといいことしない?」

 

オスではなくメスなのである。オークのメスということは、発情対象は女ではなく男・・・つまり今危機的状況にあるのはカズマの方である。

 

「お断りします」

 

オークではカズマのストライクゾーンに入らないため、オークの誘いをきっぱりと断った。

 

「あらそう、残念ね。あたしは合意の上での方がよかったんだけど」

 

オークはにたりと歯をむき出しにして笑っている。一応話ができるということなので、カズマはオークに交渉を持ちかけようとする。

 

「申し訳ないけど、ここを通してほしいんだ。通してくれるなら食料を分けてもいい」

 

「そんなものどうだっていいわ。ここはあたしたちオークの縄張り。通ったオスは逃がさない。・・・不思議ね。お兄さん強そうには見えないけどあんたからはなぜか強い生存本能を感じるわ。あたしの野生の勘はよく当たるのよ。さぞかし強い子供が生まれそうな気がするわ。さあ、あたしといいこと・・・」

 

「アレクサンダー!!!オークをぶっ飛ばしなさい!!!」

 

「バインド!」

 

「うおっ!!?」

 

アレクサンダーはアカメの指示を聞いて猛スピードで突進し、オークを吹っ飛ばした。その隙にティアはカズマにバインドを放ち、彼を縛り付けた。そしてめぐみんたちの手を借り、縛り付けた縄を引き寄せ、カズマを無理やり馬車荷台に乗せる。

 

「おい何すんだ!!」

 

「カズマ何考えてんの!!?オークと交渉だなんて!!いい!!?オークの狙いはカズマただ1人!!ここの平原を抜けるまではカズマ、狙われ続けるんだよ!!?だから迂回した方がいいって言ったんだよ!!」

 

切羽詰まって危機感を訴えているティアの発言にカズマはわけわからないといった表情をしている。

 

「待て待て待て。狙われるのが俺だけならいいことじゃないか」

 

「何を言ってるんですか!!?オークは・・・」

 

「!!??み、みんな・・・オークに囲まれてる・・・」

 

「「「「!!!???」」」」

 

ミミィがこの世界のオークについて話そうとした時、顔を青ざめたティアからの発言で周りを見回す。走っている馬車の周りには仲間であろうオークが走って追いかけてきている。しかも、先ほど吹っ飛ばしたオークまで追いかけてきている。しかもこのオークの集団・・・全員メスである。

 

(あれ~・・・?これひょっとしてヤバいんじゃ・・・)

 

今になってようやく危機感を覚えたカズマは嫌な予感がして汗をだらだら流している。そして、その嫌な予感が的中した。

 

『その男を・・・置いていきなさあああああああああい!!!!!!』

 

「「「「「「「わあああああああああああああ!!???」」」」」」」

 

オークは一斉に馬車に飛び掛かってきた。引きずられながらもオークは荷台に侵入しようとし、カズマに迫ろうとしていた。身の危険を感じたカズマは馬車から飛び降り、オークから全速力で走って逃げだす。それを見たオークは全員カズマを追いかけに向かった。

 

「いいいいいいいやあああああああああああああああ!!!!!」

 

初めてオークに恐怖したカズマは捕まらないように全速力で逃げる。それこそ、走る馬車を追い抜くように。そしてオークも全速力でカズマを追いかける。

 

『緊急クエスト発生!!

サバイブ!自分の身を守れ!!』

 

「ちょっと待ちなさいよおおおおおおおおおお!!!!」

 

「ねぇ、男前なお兄さん、あたしといいことしましょうよおおおおおおお!!!!」

 

「なんで女オークばっかりなんだああああああああああああああ!!!!???」

 

カズマは逃げ回りながら当然の疑問を口にした。その疑問を馬車で追いかけている女性陣が答える。

 

「カズマ!!現在この世にオークのオスはいません!!!」

 

「ええっ!!??」

 

オークにオスがいないというめぐみんの言葉にダクネスはなぜかショックを受けている。構わずミミィとティアが説明を続ける。

 

「オークのオスはとっくの昔に絶滅しました!!たまにオークのオスが生まれても成人する前にメスたちに弄ばれて干からびて死ぬんです!!!」

 

「だからこそオークと言えば、縄張りに入り込んだオスを捉え、集落に連れ帰り、それはもうすごい目に合わせる男性にとっての天敵なんだよ!!!!!」

 

最初に道を迂回しようとしたり、カズマに逃げろと言い続けてきたのはつまりはそういうことだったのだ。

 

「2、3日うちの集落に来てハーレムよ♡この世の天国を味合わせてあげる♡」

 

「お断りしまああああああああす!!!!初めて女性の誘いを断ってしまった・・・!」

 

ノーストライクと言えど、カズマは一応追いかけてくるオークの集団を女性として見ているようだ。

 

「待て!!オークと言えば女騎士の天敵だ!性欲絶倫で女と見るや即座に襲い掛かるあのオークが・・・」

 

「いつの話をしてんのよ?そんなもの、絶滅していないに決まってるでしょ」

 

「!!!!!!」

 

オークはいないとアカメの言葉を聞いたダクネスはショックのあまり姿勢が崩れ、馬車から転げ落ちてしまう。

 

「ダクネスーーーーー!!!」

 

「そんなにショックだったの!!?」

 

転げ落ちたダクネスを回収したいところだが今は危機に直面しているカズマ優先をするために今は放置だ。

 

「あたし、あんたの子を産むわ!!!」

 

「いやあたしよ!!!」

 

「最初は男の子がいいわね!オスが20匹でメスが40匹、そして海が見える白い家で毎日あたしといちゃいちゃするの!!!」

 

「帰りたい!!!!!もうお家に帰りたい!!!!!!!」

 

追いかけながら妄想を口にするオークたちに身の毛がよだちながら全速力で逃げるカズマ。必死に逃げるカズマだったが・・・

 

「とおおおお!!!」

 

ガシッ!!

 

「あっ・・・」

 

「「「「カズマああああああああああああああ!!!!!!」」」」

 

「カズマさああああああああああああん!!!!!!」

 

1匹のオークが飛び掛かってきて捕まってしまうカズマ。

 

「よおーし!!すぐ済むからじっとして目を瞑りな・・・!」

 

「助けてめぐみん!!!いつもの奴!!!いつもの奴をおおおおおおおおお!!!!」

 

「こんな近くで使えませんよ!!!」

 

「待っててください!!今助け・・・」

 

「いや・・・ミミィ・・・この数じゃとてもじゃないけど・・・」

 

「カズマ・・・せめて安らかに・・・なむー・・・」

 

「だから諦めないでえええええええええええええええ!!!!」

 

カズマは女性陣に助けを求めているが、カズマを巻き込むため爆裂魔法は使えず、多種族との交配を続けたことでオークは強いため、強さも数も不利。なので双子はミミィを下がらせ、カズマを諦める選択をした。

 

「話をしよう!!!話をしよう!!!!」

 

「エロトークなら喜んで!!!さあ!!話してごらん?あんたの今までの恥ずかしい性癖をさあ!!!」

 

「ああああああああああああああ!!!!!!」

 

話し合いを持ち込もうとするも、エロトークに繋がり、さらにズボンを脱がされたために逆効果。

 

「や、やめてええええええええええ!!あ!名前を!!そういえばあんたの年も名前も聞けてない!!俺、これが初体験になるかもしれないんだ!!最初は自己紹介からあああああああ!!!私サトウカズマと申しますうううううううううう!!!」

 

「ピチピチの16歳、オークのスワティナーゼと申します!!さあ、あんたの下半身にも自己紹介してもらおうか!!あんたの自慢の息子を紹介しなよ!!」

 

「うちの息子はシャイなんですうううううう!!今日のところはお互いの名前を知ったってことでお開きをおおおおおおおおお!!!」

 

カズマは何とか逃れようと試みるが、話でどうにかなるオークではないため服を脱がされ、余計に状況が悪化していく。もはやこれまでかと思われた時・・・

 

ひゅんっ!!

 

「!!?」

 

突如オークのスワティナーゼの頬に矢が掠った。何事かと思い、スワティナーゼはカズマから放れ、周りを見回す。この矢はミミィが放ったものだ。そして、ミミィはオークの集団の真上に狙いを定める。

 

「アローシャワー!!!」

 

ミミィが放った矢はオークの集団の真上で輝きし、そして輝きの中で数を増やし、そのままオークの集団に矢の雨が降り注ぎ、オークの集団の身動きを取れなくさせる。

 

「カズマさん!今の内です!!」

 

「み・・・ミミィーーー!!!ありがどおおおおおおおおおおお!!!」

 

スワティナーゼから解放されたカズマはパンツ一丁の状態でオークの集団をすり抜け、何とか脱出に成功する。オークは逃げ出したカズマを捕まえようと動こうにも、降り注ぐ矢の雨で身動きが取れない。さらに・・・

 

「ボトムレス・スワンプ!!」

 

第三者がボトムレス・スワンプで汚れ切った沼を出現させ、何匹ものオークの身動きを封じた。この魔法を放ったのは・・・

 

「紅魔の里近くに住むオークたち!ご近所のよしみで今回は見逃してあげるわ!さあ!立ち去りなさい!!」

 

「ゆんゆん!!ゆんゆんじゃないか!!!うええええええええええん!!」

 

ゆんゆんの援護により、さらにカズマは大喜びのあまり泣き出してしまう。

 

「「「カズマ!」」」

 

「「カズマさん」」

 

女性陣たちがカズマに駆け寄る。ゆんゆんがボトムレス・スワンプを解除したことで、オークは敵わないと思ったのか一目散に散開して逃げ出した。ひと段落着いたゆんゆんはほっと一安心する。

 

「ゆんゆん~~~~!!!感謝します~~~~~!!!!」

 

貞操の危機が去ったことにより、駆けつけてくれたゆんゆんに抱き着いてきた。

 

「だ、大丈夫・・・大丈夫ですから・・・あの・・・大事なローブが・・・は、鼻水まみれに・・・あ~~~~~!!!!」

 

ゆんゆんに抱き着いてきたカズマは垂れた鼻水をゆんゆんのローブで拭くのであった。

 

『クエスト失敗!!

カズマは心に傷を負った!!』

 

 

ーこのすば~~~(泣)ー

 

 

危機を脱したカズマたちは気を失っていたダクネスを回収した後、再び紅魔の里に目指して馬車旅を再開させる。荷台ではオークによって心に深い傷を負ったカズマは泣いており、アクアにあやされている。

 

「う・・・う・・・うぅ・・・」

 

「よしよし、怖かったのねカズマ。もう大丈夫。大丈夫よ」

 

「私が気を失ってる間に何があったのだ・・・?」

 

「ひどかったとだけ言っとくわ」

 

「旅はまだ始まったばかりなのにもう疲れたよ・・・」

 

オーク騒動のせいで双子はもう一気に疲れがたまっている状態でそれが顔に出ている。

 

「ゆんゆん、ミミィ、感謝するよ・・・。特にミミィ。君には本当に感謝してるよ。双子が諦めた中よく助けてくれたよ・・・。どのくらい感謝してるかといえば、『これからの人生で尊敬する人は?』と聞かれたなら、ミミィですって即答するくらい感謝してる」

 

「や、やめてください!それ単なる嫌がらせでしかありませんから!」

 

カズマのオーバーな感謝の表し方はミミィには不評のようだ。

 

「でも、みんなはなぜこんなところに?めぐみんもやっぱり里のみんなが心配になったの?」

 

ゆんゆんの問いかけにめぐみんは少しぶすっとした表情を見せた。

 

「・・・ちょっと用事を思い出しただけです」

 

「素直じゃないわねー。やっぱり里のみんなが心配だったんでしょ?そうなんでしょー?」

 

ゆんゆんの発言に苛立っためぐみんは彼女の恥ずかしい秘密を暴露しようと口を開く。

 

「・・・カズマ。ゆんゆんの恥ずかしい秘密を教えてあげましょう。我々紅魔族には生まれた時から身体のどこかに刺青が入っているのです。ゆんゆんの身体に刻まれてる刺青の場所はなんと・・・」

 

「やめてちょっと!!!ていうか、なんで刺青の場所知ってるのよ!!?この馬車の上じゃ、爆裂魔法なんてネタ魔法使えないでしょ!めぐみんを取り押さえるなんて簡単なんだから!」

 

「・・・アクア、支援魔法を。この子に痛い目見せてやります」

 

「ひ、卑怯者!めぐみんはやっぱりずるい!昔からずっとずるい!」

 

めぐみんとゆんゆんが低レベルな喧嘩を始めた時・・・

 

「おい!こっちだ!人間の声が聞こえてきやがる!」

 

奥の方から耳障りな甲高い声が聞こえてきた。

 

「あんたら、敵に私たちの会話を聞きつけられたみたいよ。迂回するからそろそろ静かに・・・」

 

「短気なゆんゆんがいつまでも大声出しているからですよ!」

 

「私よりめぐみんの方が短気じゃない!」

 

「何をぅ!!」

 

迂回して前方からやってくる敵から遠ざけようとするが、荷台の方でめぐみんとゆんゆんが未だに喧嘩を続けている。騒がしくてこれでは迂回しても声でどこへ向かったかバレてしまう。

 

「2人とも、いい加減にして!そんな大声を出すと迂回する意味がないよ!」

 

「おいカズマ、お前からも何か言ってやれ」

 

喧嘩する2人をティアとダクネスが咎めようとしようとするが・・・

 

「おい!!!そんなことよりゆんゆんの刺青の場所を詳しく!!!」

 

「おいあれだ!!あの走り鷹鳶の馬車に人間がいるぞ!!」

 

「お前という奴は!!お前という奴は!!!」

 

カズマの大声によって敵に見つかってしまった。ダクネスは見つかる原因を作ってしまったカズマの肩をぐわんぐわんと揺らした。

 

 

ー紅魔のガキがいるぜぇ!ー

 

 

敵に見つかったことにより、カズマたちは馬車から降りて、その敵と対峙する。敵は鎧を着込んだ鬼モンスターたち。その見た目は筋骨隆々な者もいれば小柄な者、スリムな者もいる。アクアはポキポキと鳴らし、鬼モンスターの前に出て・・・

 

「ん?見た感じ下級の悪魔もどきじゃないですかー。やだぁー!下級悪魔にすら昇格できない鬼みたいな悪魔くずれがなんですかぁなんですかぁ~?プークスクスー!今日は見逃してあげるからあっちへ行って。ほらあっちへ行って!!」

 

アクアの挑発に対し、鬼モンスターたちはギリッと歯を食いしばってアクアを睨み付ける。そしてそこに、他の鬼モンスターたちが集まってきた。

 

バキャッ!!!

 

「「何挑発してんだボケがああああああああああ!!」」

 

「ぎゃあああああああああああ!!」

 

この事態を生み出した本人であるアクアに双子は彼女に昇竜拳をかました。

 

「おいそこのプリーストなんだって?散々煮え湯を飲まされてる紅魔族のガキが2匹だ。見逃してやるわけねぇだろーがー!」

 

どっちにしろ鬼モンスターたちはカズマたちを逃がしてやる気はないようだ。ゆんゆんが前に出ようとした時、めぐみんが止めた。

 

「先ほどはよくもネタ魔法と言ってくれましたね。ネタ魔法の破壊力を久しぶりに見せつけてあげます」

 

めぐみんはゆんゆんにバカにされた腹いせとして爆裂魔法を放とうと杖を構えた。それを見たカズマたちは焦りの顔を見せた。

 

「ちょ・・・ちょっと待ってよ・・・」

 

「え?まさか・・・本気で撃つ気?ここに私たちの馬車があるのに!!?」

 

「おいやめろバカ!!ネタ種族!!本当に撃ったらただじゃおかないわよ!!ちょっと聞いてんの!!?」

 

ゆんゆんと双子は止めようとするがもう遅い。一切聞く耳を持たないめぐみんは・・・

 

「エクスプロージョン!!!!!!!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!

 

炸裂した爆裂魔法は辺りの木々を吹き飛ばし、双子の馬車さえも粉砕してしまう。あまりの威力の魔法に鬼モンスターは目を見開かせている。近くでぶっ放されたためにカズマたちはボロボロである。

 

「見ましたか!我が爆裂魔法を!さあ、これでもネタ魔法と言いますか⁉どうですカズマ!今の爆裂魔法は何点ですか!!」

 

「マイナス90点をくれてやる!!!どうすんだ!!!お前をおぶって逃げられるわけないだろうが!!!!」

 

この状況下で愚行中の愚行を繰り出しためぐみんにカズマは文句を言い放っている。そしてアカメは倒れ伏しているめぐみんに近づき、頬をつねった。

 

「この大バカネタ種族があああああああああああ!!!よくもやってくれたわね!!!私たちの馬車を壊しやがって!!!あれ1個いくらすると思ってんのよ!!!1000万エリスよ1000万エリス!!!!」

 

「いひゃいいひゃいいひゃいいひゃいいひゃい!!!な、なんですかやめてください!!!お金はまだたんまりあるんですからまた買い直せばいいじゃないですか!!!」

 

「そういう問題じゃねぇんだよこの【ピーーーーーーッ】がああああああああああ!!!」

 

「あの・・・ティアちゃん、大丈夫・・・?」

 

「・・・私、今になってスティーヴの気持ちが痛いほどにわかったような気がする・・・」

 

無惨に散った馬車を見て膝をつくティアにミミィは何とか慰めようとしている。

 

「び・・・びっくりさせやがって・・・!今ので援軍がやって来たぜ。覚悟しろよお前ら!!」

 

鬼モンスターの言うとおり、後ろから大勢のモンスターたちがやってきた。ただその様子は・・・援軍に駆けつけたというより・・・何かに逃げているかのようにも見える。

 

「泣いて命乞いするがいい!!ぜってーに許さねぇから・・・ぐば!!??」

 

イキリ散らす鬼モンスターは仲間であろう鬼モンスターたち吹っ飛ばされ、何度も何度も踏みつけられる。そして、逃げるようにやってきた鬼モンスターの前に、追いかけてきたであろう者たちが4人テレポートによって現れた。

 

「肉片も残らず消え去るがいい・・・!我が心の深淵より生まれる闇の炎によって・・・!」

 

「もうダメだ、我慢できない・・・我が破壊衝動を清める贄となれ・・・!」

 

「永久に眠るがいい・・・我が氷の腕に抱かれて・・・!」

 

「お逝ゆきなさい・・・あなたたちのことは未来永劫に刻まれるの・・・私の記憶の中に・・・!」

 

4人はそれぞれかっこいいと思っている決め台詞をはき、魔法で演出し、さらに放つ魔法の詠唱を始める。

 

「ちょ・・・ま・・・やめ・・・」

 

「ライト・オブ・セイバー!!!!」

 

「ライト・オブ・セイバー!!!!」

 

「セイバー!!!!」

 

「バー!!!!」

 

4人の紅魔族は光の魔法ライト・オブ・セイバーを放ち、大勢のモンスターたちを蹴散らしていった。やがてその場にはズタズタにされたモンスターの残骸があるだけとなった。

 

「闇の炎だの氷の腕などはどこに行った?」

 

「そう?かっこいいと思うけど?」

 

「愚妹は置いとくとして・・・あの髪、あの目・・・間違いなく紅魔族ね」

 

いろいろと疑問はあるものの、目の前に現れた人物は全員黒い髪で赤い瞳を持っているため、この人物たちは紅魔族であるとわかる。

 

「遠く轟く爆発音に来てみれば・・・めぐみんとゆんゆんじゃないか」

 

現れた紅魔族がめぐみんとゆんゆんを知っているということは、やはり紅魔の里の紅魔族であるのは間違いないようだ。

 

「靴屋のせがれのぶっころりーじゃないですか。お久しぶりです。里のピンチだと駆けつけたのですが・・・」

 

「「「「????」」」」

 

めぐみんの言葉に紅魔族の青年、ぶっころりーを含めた紅魔族は全員首を傾げている。その様子にカズマたちも頭に?を浮かべながら首を傾げている。

 

「ところでめぐみん、こちらの方たちは君の冒険仲間かい?」

 

ぶっころりーはカズマたちに興味津々のようでめぐみんに問いかけた。めぐみんは何も言わないが、照れている様子を見せている。全てを察したぶっころりーは真剣な表情となり・・・

 

「我が名はぶっころりー!紅魔族随一の靴屋のせがれ!アークウィザードにして、上級魔法を操る者・・・!!」

 

毎度恒例の紅魔族流のかっこいい自己紹介をした。それに対しカズマは・・・

 

「これはどうも。我が名はサトウカズマと申します。アクセルの街で数多のスキルを習得し、魔王の幹部の者と渡り合った者です」

 

まったくやる気のない紅魔族流の自己紹介で返した。

 

「おおお!!素晴らしい!!実に素晴らしいよ!!まさか外の人がそんな返しをしてくれるだなんて!!」

 

里の外の人間が紅魔族の自己紹介をしたことで、紅魔族4人は好印象を抱いた。

 

「我が名はアクア!崇められし存在にして、やがて魔王を滅ぼす者!そしてその正体は水の女神!」

 

誰かに求められるわけでもなく、突然アクアが紅魔族流の自己紹介をしだした。どうやら紅魔族に便乗したらしいが・・・

 

「「「「そうなんだ、すごいですね」」」」

 

「待ってよー!!なんで?ねぇなんで私だけいつもそんな反応なのよ!!?」

 

軽く流されてしまった。やはり女神云々はうさん臭く信用してもらえないようだ。泣きわめくアクアは放っておいて、ぶっころりーたちは今度はアカメたちに期待の眼差しを向けている。

 

「ね・・・ねぇ・・・これどうしたら・・・」

 

「どうもこうもないわよ。見てみなさいよ隣の中二病妹を」

 

どう反応したらいいのか困り果てているミミィにアカメは隣のティアを見るように促した。姉に指さされたティアはというと・・・

 

「我が名はティア!盗賊稼業を生業とする完全無欠の妹!シーフにして、紅魔族の最大の理解者となる者!」

 

「おおおおお!!何という完璧なあいさつ!!一瞬紅魔族と間違うところだった!!」

 

中二心を拗らせてるからか、かなりノリノリで紅魔族流のかっこいいポーズを決めながら紅魔族の挨拶をした。紅魔族からはかなりの大絶賛である。

 

「え・・・ええ・・・あれ私たちもやらないといけないの・・・?」

 

「郷には郷に従えって奴よ。やってやりましょう」

 

抵抗を覚えるが、仕方なく紅魔族の挨拶をすることにしたアカメ、ダクネス、ミミィの3人。

 

「あー・・・。我が名はアカメ。盗賊稼業を生業とする最強無敵の姉。シーフにしてやがては盗賊団の団長となる者」

 

「我が名はダスティネス・フォード・ララ・・・ティー・・・ナ・・・。アクセルの街で・・・うううううっ・・・!///」

 

「わ・・・わ・・・我が・・・我が名・・・我が名は・・・み・・・み・・・ミミィ・・・はう~・・・///」

 

アカメはやる気が感じられない紅魔族の挨拶をしたが、ダクネスとミミィは恥ずかしがって最後まで続くことはなかった。

 

「めぐみん、いい仲間でなによりだね」

 

ぶっころりーの誉め言葉にめぐみんは少し照れくさそうにしており、ゆんゆんはその様子を見てにっこりと微笑んでいる。

 

「里まではまだ距離がある。送ってあげよう。テレポート!」

 

ぶっころりーはテレポートを発動し、自分やアレクサンダーを含め、この場にいる全員を紅魔の里へと転移させる。視界内がいきなりぐにゃっと曲がり、立ち眩みと共に辺りの景色が一変した。

 

その場所はのどかという言葉がよく似合っている小さな集落である。そう、この場所こそがめぐみんとゆんゆんの生まれ故郷、紅魔の里である。

 

「紅魔の里へようこそ、外の人たち。めぐみんとゆんゆんも、よく帰って来たね!」

 

ぶっころりーたちは笑顔を浮かべ、カズマたちを紅魔の里に迎え入れたのであった。




ティア「ついに・・・ついに紅魔族流の挨拶をやれた~。もう感無量だよ~」

めぐみん「実に様になっていた挨拶でした。もう私に教えられることは何もありません!」

ティア「師匠~~~!!」

カズマ「・・・何この茶番劇?」

アカメ「そっとしておいてやりなさいな・・・あの子疲れてるのよきっと・・・」

次回、この痛ましい里で休息を!


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この痛ましい里で休息を!

ぶっころりーたちのおかげで最短で紅魔の里に辿り着いたカズマたちは遺言ともとれる手紙を送った本人であるゆんゆんの父・・・紅魔族の族長の家にやってきたのだが・・・その死んだと思われる族長は普通に生きていた。しかも悪びれた様子は全くないと来た。

 

「え・・・?お、お父さん・・・?もう1度言ってくれない・・・?」

 

「はっはっはっは!!あれはあれはただの近況報告だよ。紅魔族の血がたぎりにたぎってな。手紙を書いている間に乗ってきてしまって・・・」

 

「わかります。すごくわかります」

 

「わかるな」

 

ゆんゆんの父、ひろぽんの言葉にティアは同意の言葉を述べているが、アカメは全く理解できないといった表情を見せている。

 

「えっと・・・お父さんが無事だったのはとても嬉しいんだけど・・・手紙が届く頃にはこの世にはいないだろうってあれは・・・?」

 

「紅魔族のいつもの挨拶じゃないか。学校でこういうこと習わなかったのか?」

 

あの遺言ともとれる手紙はカッコつけるためにわざと書いていたものだったようだ。書く側は楽しいのだろうが、受け取った側からすればたまったものでない。

 

「・・・魔王軍の軍事基地も破壊することもできないって・・・」

 

「ああ、あれか?連中もずいぶん立派な基地を作ったものだから、破壊するか観光名所として残すかで意見が割れているんだよ」

 

軍事基地が建てられたというのは事実ではあるようだが、破壊するべきか観光名所として残すかというしょうもない理由で未だ破壊できないでいるというのが現状のようだ。何ともどうでもいい事実にカズマたちはおろか、娘のゆんゆんでさえ白けたような表情を見せた。とここでアカメが一言。

 

「・・・ゆんゆん。あんたの親父、一発ぶん殴ってもいいかしら?」

 

「・・・いいですよ」

 

「ゆんゆん!!!???」

 

まったく悪びれないひろぽんに苛立ったアカメの言葉にゆんゆんが承諾した。実の娘から殴るのを許可された父は愕然とする。

 

「・・・あれ?ということは魔王軍の幹部は・・・?」

 

「ええ、来てますよ、魔法に強いのが。そろそろ来る頃かなぁ?よかったら見ていきますか?」

 

「「「「「「「?」」」」」」」

 

族長の誘いの言葉の意味が理解できないカズマたちは首を傾げている。すると、町内アナウンスが流れてきた。

 

『魔王軍警報。手の空いている者は里の入り口に集合。敵の数はおよそ1000匹程度と思われます』

 

「「「「「1000!!!???」」」」」

 

さらっと魔王軍の手先が1000もいるというアナウンスにカズマたちは驚愕の声を上げた。紅魔族の3人は平然(めぐみんは魔力切れでぐったりしてるだけ)としていた。

 

「魔王軍が1000匹、ね。とうとう女神の・・・」

 

「あんたは余計なことすんな」

 

「余計な事したらぶっ殺すわよ」

 

「なぁんでよー!!!」

 

アクアがバカなことを言いだしたところで双子が彼女の行動を阻止する。

 

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ここは強力な魔法使いの集落、紅魔の里なのですから。皆さんも見てみますか?」

 

どこまでも落ち着いているひろぽんは家を出て魔王軍が集まっているであろう入り口まで向かう。何が何だかわからないカズマたちはひろぽんについていく。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

『魔王軍襲来!!』

 

魔王軍が集まってきている入り口前・・・一言で言えばすごかった。

 

「うわあああああああああああああ!!!」

 

「シルビア様!!シルビア様ー!!撤退を!!どうかあなた様だけでも撤退を!!」

 

「チクショウ!チクショウ!!せめて連中に近づければ一矢報いられるのに・・・!!」

 

「だから紅魔の里を攻めるのは反対だったんだ!!だから俺は行きたくないって・・・!!」

 

魔王軍のモンスターたちは里に近づくことさえままならず、次々と手先を蹴散らしていった。1000を超える魔王軍に対し、紅魔族はおそらく50人程度。この50人の紅魔族の中にはぶっころりーたちもいる。その紅魔族たちが・・・

 

「ライトニング・ストライク!!」

 

「エナジー・イグニッション!!」

 

「フリーズガスト!!」

 

「カースド・ライトニング!!」

 

「トルネード!!」

 

情け無用で容赦なしに上級魔法を連発で放ち、魔王軍のモンスターを亡き者にしていく。モンスターの中には巨大なモンスターもいたが、上級魔法の連発の前に巨大モンスターは呆気なく倒されていく。

 

「すっげー・・・なんか・・・ここまですごいとちょっと引くわー・・・」

 

「か・・・かっこいい~・・・」

 

「これ戦闘じゃなくてもはや一方的な蹂躙と変わらないんじゃないの?」

 

雷に直撃、炎に包まれ、氷の彫像にされたり、暴風に吹っ飛ばされたりと・・・見れば見るほどかわいそうになってくる魔王軍のモンスターたちを葬っていく紅魔族にカズマたちは感心と同時に若干ながら引いてしまっている。ティアは純粋に感激しているが。

 

「どうです?ここの目玉にしようと思ってるんですよ!」

 

この現象を観光スポットの一部にしようとしているひろぽん・・・いや、紅魔族の感性はおかしいと思うカズマたちであった。

 

 

ーこのすば・・・ー

 

 

すごい光景を見た後、カズマたちはゆんゆんと分かれ、めぐみんが住んでいた実家へと向かっている。ちなみにミミィはゆんゆんの家に泊まるため、この場にはいない。

 

「いやー、あれが本物の紅魔族って奴かー」

 

「本物がいるってことは、偽物もいるってことよねー」

 

「お、うまいこと言うなー、アカメは」

 

「「はっはっはっはっは」」

 

本物の紅魔族、偽物の紅魔族の話でアカメとカズマは互いに笑いあっている。ただその話を面白くないと感じているのがめぐみんである。

 

「おいお前ら。その偽物の紅魔族がどこにいるのか聞こうじゃないか」

 

「まぁまぁめぐみん、落ち着いて落ち着いて・・・」

 

今にも2人につかみかかろうとするめぐみんに彼女をおぶっているティアがなだめる。他愛ない話をしている間にも、こぢんまりとした木造の平屋が見えてきた。

 

「ねぇめぐみん。もしかしてあの馬小屋?」

 

「馬小屋ではありませんよ。御母屋です」

 

「え」

 

失礼ながら一般よりもかなり貧乏なあの家こそがめぐみんの実家であるのは間違いないようだ。めぐみんの実家に辿り着いたカズマは玄関の扉をコンコンッとノックした。すると、家の奥からトタトタと駆けてくる音が聞こえきて、玄関の扉が開かれた。扉から出てきたのはめぐみんとよく似た顔を持つ小学生くらいの女の子であった。

 

「お、めぐみんの妹か?ずいぶんとかわいらしい子だな」

 

めぐみんの妹と思われる女の子の登場にカズマとダクネスは顔を綻ばせている。

 

「げっ、ガキ・・・」

 

「こーら、失礼なこと言わないの」

 

逆にアカメは露骨に嫌そうな顔をしており、それをティアに咎められている。

 

「なんかちっこいめぐみんが現れたんですけど。ねぇ、飴ちゃん食べる?」

 

アクアはめぐみんの妹に近づき、持ってきていた飴を渡そうとしている。

 

「こめっこ、ただいま帰りましたよ。いい子にしていましたか?」

 

ティアに肩を貸されたまま、めぐみんは妹、こめっこに優しい声で話しかけた。当のこめっこはカズマたちを見て目を見開き、固まっていた。そして、息を吸い込むと・・・

 

「お父さーーーーん!!姉ちゃんが男引っ掛けて帰ってきたーーー!!」

 

「ちょっとお嬢ちゃん!!お兄さんと話をしよう!!」

 

誤解を招きかねない言葉を言い放ちながら家の奥へと向かって行った。

 

 

ーこのすばああああああ!!!ー

 

 

めぐみん宅の居間にて、カズマは目の前の人物の雰囲気に呑まれて正座をしている。目の前の人物は一見すると黒髪のおじさんだが、彼はカズマを鋭い目で見つめており、威圧感もある。この人物こそがめぐみんの父、ひょいざぶろーである。そして隣にいるめぐみんの面影があるきれいな女性はめぐみんの母、ゆいゆいである。

 

「あー・・・こほん・・・ん、んん・・・」

 

ひょいざぶろーはわざとらしい咳払いをする。正座しているカズマは気まずくて縮こまっている。

 

(・・・どうしよう・・・本来なら1番この場を収めてくれなきゃいけない奴は・・・)

 

カズマは気まずい気分の中、ちらっとめぐみんに視線を移す。当のめぐみんは魔力を使い果たして疲れたのか居眠りをこいていた。

 

(くっ!!こいつーーー!!!)

 

呑気に寝ているめぐみんを見てカズマは心の中から彼女に憤りを感じた。そんな中アクアはちゃぶ台にマグカップを置き、こめっこに持ち芸を披露する。

 

「ほーら見てごらん?ひっくり返したマグカップが動き回りますよー」

 

アクアの手の動きに合わせてテーブルに置かれたマグカップは触れてもいないのにすいすいーっとちゃぶ台の上で動き回る。

 

「すごいすごい!!どうやって?ねぇどうやってるの?」

 

「磁石だ!きっと磁石で動かしてるんだ!」

 

「いいえー、磁石でも魔法でもありませんー」

 

すごい芸当に子供であるこめっこだけでなく、ダクネスも大はしゃぎだ。カズマも手品は気になったが、ひとまず置いておいて彼はちらっとだけキッチンに視線を向ける。

 

「何よー。本当になんもないじゃない。ザ・ド貧相って感じね」

 

「んー・・・明日のご飯もあるし、とりあえず材料を使いすぎないようにしないと」

 

キッチンの方では双子が今晩に出すご飯の材料をチェックして、献立を考えている。

 

「・・・うちの娘が日頃からお世話になってるそうだね。それについては心から感謝する」

 

「本当に、うちの娘が大変お世話に・・・。娘からの手紙でよくカズマさんのことが書かれていまして・・・。あなたのことはよく存じておりますよ」

 

ひょいざぶろーはカズマに軽く頭を下げ、ゆいゆいは深々と頭を下げた。その後ひょいざぶろーはキッと表情を引き締め、もう3度目となる質問をカズマに投げかける。

 

「・・・で、君はうちの娘とどのような関係なんだね?」

 

ひょいざぶろーの問いかけにカズマは同じ答えを返そうとする。

 

「・・・何度も言いますが、ただの友人です」

 

「なあああああああああああああああああ!!!!!」

 

答えを聞いたひょいざぶろーは目の前のちゃぶ台をひっくり返そうとする。その奇行にゆいゆいは必死になって止める。

 

「あなたああああああああああ!!やめて!!ちゃぶ台をひっくり返して壊すのはやめて!!もう、お金がないのよいやあああああああああああああああ!!!!」

 

ひょいざぶろーの奇行にカズマたちだけでなく、キッチンにいる双子までもが呆然としていた。取り乱したひょいざぶろーはゆいゆいが入れたお茶を啜って何とか落ち着きを取り戻した。

 

「・・・失礼。取り乱した。いや君が白々しくもただの友人だ、などと抜かすものだからね」

 

またもう1度、ただの友人ですという言葉が出そうになったところでカズマはアヌビスでのネクサスの圧を思い出し、その言葉は踏みとどまった。ひとまず場を落ち着かせるためにカズマは風呂敷からあるものを取り出した。それはアヌビス産の名物スイーツ、サボサボマカロンの包み箱であった。サボテンのような形をした色とりどりのマカロンは見ただけで食欲をそそる。

 

「あのこれ、つまらないものですが・・・」

 

カズマが差し出したサボサボマカロンの包み箱をひょいざぶろーとゆいゆいは同時に掴んだ。

 

「・・・母さん。これはワシにカズマさんがくれたものだろう?」

 

「あらあら。さっきまでは君なんてよそよそしい呼び方しておいて、急にカズマさん呼ばわり?やめてくださいな恥ずかしい。これは今日の晩御飯にするんです。お酒のつまみにはさせませんよ?」

 

「奥さん、今双子がキッチン借りて晩御飯を作っていますので・・・というかそれ、マカロンですからつまみにも晩御飯にもなりませんよ?」

 

カズマが補足を入れてもひょいざぶろーとゆいゆいの取り合いは収まらない。とここでこめっこがキラキラと輝いた目をしながら嬉々とした声を上げる。

 

「ねぇそれ!いつも食べてる薄めたシャバシャバなお粥とかじゃなくて、ちゃんとお腹に溜まるもの?」

 

こめっこの純粋な声を聞いたカズマは何も言わず風呂敷からサボサボマカロンの包み箱を全部ひょいざぶろーたちに渡した。

 

「すごく・・・つまらないものですが」

 

「よく来てくれたねカズマさん!母さん1番いいお茶を!」

 

「うちにお茶なんて1種類しかありませんよ、おほほほほ」

 

ひょいざぶろーはサボサボマカロンの包み箱を掠め取り、ゆいゆいはカズマたちにお茶を入れようと、双子のいるキッチンへと向かって行くのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

キッチンにいる双子はゆいゆいが入れてくれたお茶を啜り、サボサボマカロンをかじりながら晩御飯をづくりにとりかかった。一方居間いるカズマたちはサボサボマカロンをおいしそうに頬張り続けるこめっこの天使のようにかわいい姿を見てにっこりと微笑んでいる。ちなみにサボサボマカロンの味は名物というだけあっておいしいようだ。

 

「いくら食べ物を持ってきてもこめっこはやらんぞ!!!」

 

「違いますから!!そんなつもりじゃありませんから!!!」

 

ひょいざぶろーにいらぬ誤解をされてしまったカズマは弁明をし、こめっこに笑顔で優しく声をかける。

 

「後はこめっこが食べな」

 

「いいの⁉わーーーい!!」

 

カズマからの許可をもらい、こめっこは残りのサボサボマカロンを箱ごと持っていき、遠くで食べ続ける。

 

「そういえばカズマさんはすごい借金持ちだと聞いたのですが大丈夫ですか?いい人そうだし・・・反対はしませんが・・・せめて借金を返されてから、うちの娘と一緒になられては?」

 

「ブーーーーーーーーッ!!??」

 

ゆいゆいの言葉にカズマは口に含んでいたお茶を噴いてしまう。

 

「何の話をしてるんですか!!?ただの友人だって言ってるでしょうが!!」

 

「でも、娘からの手紙に・・・」

 

「いや、何書いてあったのか聞いてもいいですか?」

 

手紙の内容を尋ねるカズマにひょいざぶろーとゆいゆいはお互いに顔を合わせ、手紙の内容をゆいゆいが答える。

 

「例えば・・・娘を全身ヌルヌルの姿にして楽しんだり、魔力を使い果たした娘を背負いながら胸の感触を確かめたり、一緒にお風呂に入ったり、ソファで無防備に昼寝しているとスカートの中身を体育座りでじーっと観察していたり、ちょむすけに餌をやりながら『いいか?これだ、これを取ってくるんだ。そうしたらもっとおいしい餌をやろう』と下着を見せて覚えさせたり・・・」

 

「申し訳ございませええええええええええええええええん!!!!!!」

 

数々と出てくるカズマのセクハラ行為に彼は冷や汗を流し、やがていたたまれなくなりちゃぶ台をどかして畳に頭をこすりながら必死の土下座をかました。

 

「・・・それでも大切な仲間だからと・・・」

 

「へ・・・?」

 

続くひょいざぶろーの言葉にカズマは土下座したまま顔を上げた。

 

「例え借金まみれでスケベで暴言ばかりの常識ない男も、私が目を離すと簡単に死ぬから・・・と。娘がそこまで言うからには、きっと何かあるのだと」

 

引っ掛かる言い方はあるものの、めぐみんから大切な仲間だと思っててくれたのだと両親の口からきいて、カズマは少しだけ嬉しくなった。

 

「娘のパーティのことですし、助けてあげたいとこですけど・・・」

 

「ああ、大丈夫です。借金はもうすでに返済してますし・・・実はキッチンにいる双子とはビジネスパートナーでして、分け前として大金が手に入る予定なので・・・」

 

「ほう。ちなみにおいくらほどで?」

 

「分け前がどれくらいかはわかりませんが・・・双子がもらえる金額は3億エリスだとか・・・」

 

「「3億ぅ!!!???」」

 

3億エリスという大金が入るという事実を聞き、ひょいざぶろーとゆいゆいは驚愕で目を見開かせている。

 

(あれ?ちょっと余計なこと言っちゃったか?)

 

「そうだカズマさん!!!今日はうちに泊まっていきなさい!!!娘の仲間で友人ならば当然だ!!冒険者なんてやってるなら、家なんてないだろう!!!」

 

「い、いえ・・・俺アクセルの街に屋敷を持っているので・・・」

 

「「屋敷ぃ!!!???」」

 

さらに驚愕するひょいざぶろーとゆいゆいの目は嬉々として非常に目が輝いてる。2人の視線に目を逸らしていると、双子が本日の晩御飯を持ってやってきた。

 

「ご飯できたわよー。さっさとちゃぶ台を元の状態に戻しときなさい」

 

「いやー、途中でアクアが何か買ってきてくれて大助かりだったよ」

 

双子がちゃぶ台に今日の晩御飯を置いたところで未だに眠っているめぐみんを放って食事にありつくのだった。ちなみに今日の献立は鍋だった。

 

 

ーこのすばー

 

 

今日はめぐみん宅にて泊まることになったカズマたちは3億や屋敷の話をしてからすっかり好待遇な扱いを受けていた。そんな中双子は風呂から上がり、廊下を歩いていたカズマに次の風呂の催促して、居間でのんびりしようとした時、居間からダクネスがゆいゆいに異議を唱える声が聞こえてきた。何事かと思い双子は居間を覗き込んだ。

 

「何をバカなことを⁉自分の娘がかわいくないのか⁉あなたがやろうとしていることは1週間絶食させた野獣の檻に子羊を投げ込むようなものだぞ!」

 

「大丈夫ですよ。娘はもう結婚できる年ですし、カズマさんも分別できる大人。もし何かあったとしてもそれはお互いの合意の上ということではないでしょうか?ところでダクネスさんはなぜそんなに反対なさるのですか?カズマさんと娘が一緒に寝ると何か不都合でもあるのですか?」

 

「ええっ!!?そういう言い方をされるとなんだか私が妬いている思われそうで非常に不愉快なのでやめていただきたいのだが・・・」

 

「でもうちの娘をそちらの部屋に移すと大変大狭ですから、誰かがカズマさんと同じ部屋で寝ていただかないと・・・」

 

どうやらゆいゆいはめぐみんをカズマと同じ部屋で寝かせたいようなのだが、ダクネスがそれを反対して揉めているようだ。

 

「ならひょいざぶろーさんとカズマを一緒に寝かせれば解決だろう」

 

「そんな色気のない・・・げふんげふん・・・こめっこと一緒に寝かせるのは論外として、家の主人と一緒に寝かせるのも不安が・・・」

 

「なら・・・私が一緒に・・・」

 

「スリープ」

 

ダクネスが何か言おうとした時、ゆいゆいは彼女に向けてスリープの魔法を唱えて無理やり眠らせた。

 

((やりやがったぁ!!?))

 

双子が驚愕していると、倒れたダクネスの隣にひょいざぶろーが寝ていることに気がついた。もしかしたらひょいざぶろーもダクネスと同じようにされたのだろう。

 

「あらアカメさん、ティアさん、お風呂から上がったんですか?みんな寝てしまいましたので、部屋まで運ぶのを手伝っていただけませんか?」

 

「「は、はい・・・」」

 

無理やり眠らされたくない双子は冷や汗をかきながら下手に逆らわず、眠ったダクネスたちを運ぶのであった。

 

 

ーこ・の・す・ばー

 

 

なんとか無理やり眠らされることを回避した双子は寝室で皆が寝静まった頃を見計らい、キッチンでいくつか残った食材を使ってアレクサンダーのご飯を作っている。なぜわざわざ深夜に作るのか・・・それはこめっこにアレクサンダーのご飯を食べられないようにするためだ。ご飯が出来上がり、双子は外でくつろいでいるアレクサンダーの元に持っていく。

 

「遅くなってごめんね、アレクサンダー。はい、アレクサンダーのご飯。魚はたっぷり入れておいたからね」

 

「ピィヒョ」

 

アレクサンダーはお椀に入った魚たっぷりのご飯を食べ始める。その様子を見ているアカメは深くあくびをする。

 

「ふわ・・・あああああああ~・・・。眠・・・。さっさとお椀を回収して寝たいわ・・・」

 

「別に無理して付き合わなくてもいいのに。こういう時律義というか何と言うか・・・」

 

「うっさいわね。あんたにアレクサンダーを任せたらどうなるかわかったもんじゃないから仕方なくよ」

 

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらう。お姉ちゃんにお世話を任せてたらアレクサンダーは粗暴になっちゃうもの」

 

「は?」

 

「あ?」

 

ペットの教育云々にケチをつけられた双子はいつもの如く睨みあい、喧嘩に発展しそうになる。アレクサンダーはそれに構わずご飯を食べ続けている。

 

くいっくいっ

 

「あ?」

 

「え?」

 

双子が睨みあっていると、起きたこめっこがアカメのズボンを引っ張っている。

 

「こめっこちゃん、起きちゃったの?ごめんねー、騒がしくして」

 

ティアがこめっこに謝っている中、彼女はご飯を食べているアレクサンダーに視線を向け、指をさす。

 

「ねぇねぇ、あの鳥、姉ちゃんたちの?」

 

「そうだけど、それが何?」

 

「あ、走り鷹鳶が珍しいのかな?ほーらこめっこちゃん、走り鷹鳶のアレクサンダーだよ~。仲良くしてあげてね~」

 

アレクサンダーに興味を持っているこめっこにティアはにっこりと微笑み、アレクサンダーを紹介している。ただこめっこがアレクサンダーを見る目は好奇心というより、獲物を定めた狩人のようなものだ。

 

「ねぇねぇ!あの鳥いつ食べるの!!?私にもちょうだい!!」

 

「え?」

 

「は?」

 

「ピィヒョ!!?」

 

こめっこのまさかの発言に双子は固まり、アレクサンダーは思わずビクついている。

 

「・・・・・・え~っと・・・こめっこちゃん?今なんて?」

 

「私にもちょうだい!」

 

「その前だよその前」

 

「?いつ食べるの?」

 

「・・・・・・」

 

どうやらこめっこはアレクサンダーを鶏肉と思っているらしく、口元に涎を垂らしていた。この様子を見てアカメは以前仲良くなる水晶で見た恥ずかしい過去にこのこめっこがいたことを思い出した。

 

「・・・そういえばこのガキ、めぐみんと一緒にザリガニやらセミやらを食べてたわね・・・」

 

「・・・え~っと・・・こめっこちゃん?これは食用の走り鷹鳶じゃないよ?こんなの食べたらお腹壊しちゃうよ?」

 

「大丈夫。火を通せば大抵のものは食べられる」

 

「いやいやそういうことじゃなくてね?」

 

「きっと親子丼にすればおいしくなる」

 

「だから・・・うぅ・・・困ったなぁ・・・なんて言って諦めさせよう・・・」

 

ティアはいろいろと説得を試みるも、こめっこの食い気と子供特有の純粋さが相まって、どう説得しようかとたじたじになる。その様子を見ていたアカメは仕方ないと言わんばかりにため息をこぼし、こめっこの前に立ち、座り込んで彼女と話す。

 

「はぁ・・・。ガキ、こいつは私たちのものよ?食用だろうが何だろうが、あげるわけないでしょ」

 

「ケチ」

 

「誰もなんもあげないとは言ってないでしょ。これあげるから、こいつは諦めなさい」

 

「あ!マカロン!わーい!いっただっきまーす!」

 

「それ食ったらさっさと寝なさいよ?」

 

アカメは夜食用にとっておいたサボサボマカロンをこめっこに譲った。サボサボマカロンを見てこめっこは嬉々とした表情になり、マカロンを食べ始める。

 

「相変わらず子供の扱いには手慣れてるね。羨ましいよ」

 

「ガキに好かれたって鬱陶しいだけよ。ジジババ共に好かれた方がまだマシなくらいよ」

 

「お姉ちゃんは知らないだろうけど、ジジババに好かれるのも結構疲れんだよ?」

 

「よく言うわ。たくさん貢がれて後からニヤッて笑う腹黒が」

 

「なんでそれを知ってるんだよ」

 

アカメは嫌々言ってるが、彼女は幼少期から子供や年下に好かれやすく、子供の扱い方についてよく熟知している。だからこういった場面の対処に慣れているのだ。ちなみにティアはその真逆でマダムなどのお年寄りに好かれやすく、よく貢物をもらったりしたことがあるようなないような。話し込んでいると、マカロンを食べ終えたこめっこがまたアカメのズボンを引っ張っている。

 

「あ?何?」

 

「ねぇ、まだなんか食べ物ある?もっとちょうだい!」

 

「はぁ?もう食い終わったの?あれで満足したんじゃないの?」

 

「全然足りない」

 

相当食い意地が張ってるこめっこにアカメは頭をかいている。おそらく残ったお菓子をあげてもこめっこは満足しないだろう。かと言ってあげないなんて言ったら拗れるだろうから厄介だ。ゆえにアカメは考えた。こめっこがお菓子を渡し、食べた後に眠らせる手段を。

 

「・・・わかった、こうしましょう。ここに残ったマカロンがある。今から私がこれ持って逃げるから、私を捕まえることができたら、ご褒美としてこれをあげる。逃げる範囲はこの家全体。ここから外に出るのはお互い禁止。わかった?」

 

「わかった!頑張る!」

 

マカロン欲しさにこめっこはアカメの提案を了承し、元気よく返事する。遊ばせておいて、疲れたタイミングでわざと捕まり、マカロンを食べさせる。そうすれば、満腹でなくとも遊び疲れて勝手に眠るだろうとアカメは考えているのだ。

 

「よし、はいよーいどん」

 

「待てー!」

 

ゲームがスタートし、アカメがこめっこから逃げ、こめっこはアカメを追いかける。2人が庭中を走り回る2人中、ティアはアレクサンダーをなだめる。

 

「あっちはお姉ちゃんに任せて・・・食器を片付けたらもう一風呂入ろうかな」

 

「ピィ」

 

こうしてティアは食後の食器を片付けてひと風呂浴び、アカメはこめっこを寝かしつけてから部屋で就寝するのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

翌日の早朝、カズマたちは居間に集まり、今日の朝食にありついている。ちなみに献立は昨日こめっこが言っていた薄めたシャバシャバなお粥である。

 

「まっず。これ本当にお粥?クソまずいんだけど」

 

「せっかく作ってもらっておいて何て言い草なの」

 

「文句があるのなら食べなくて結構ですよ。お母さんに言いつけますので」

 

「・・・ちっ・・・」

 

あんまりおいしくないようでアカメは文句を口にしていたが、めぐみんの言葉に渋々ながら黙って食事を続けることにした。

 

「めぐみんめぐみん、そんなことより、ここの観光案内してほしいんですけどー」

 

「そうですね。今日はのんびりして、もう一晩泊っていきましょうか」

 

「やったー!」

 

アクアに観光案内を頼まれためぐみんは里は安全であると判断し、それを了承した。

 

「私はめぐみんに案内してもらうけど、『クズマ』さんはどうする?」

 

「そうだな。俺も一緒に・・・おい、今俺のことなんつった?」

 

カズマもこの里を一緒に観光しようと言い出そうとした時、アクアの呼び方に過剰に反応にした。

 

「?私おかしなこと言った?」

 

「い、いや・・・俺の気のせい・・・か・・・?まぁいいや。双子やダクネスはどうするんだ?」

 

ただの聞き間違いだと思うことにして、双子やダクネスにもどうするかを尋ねるカズマ。

 

「行きたい!1度紅魔の里を観光したいって思ってたんだー」

 

「ま、どうせ暇だしね。このアホらしい里を見て思いっきりバカにして笑ってやるわ。アクアと『クソマ』と一緒に同行ってことで」

 

「そう・・・おい、今なんてった?」

 

アカメの自分の呼び方に対し、またも反応するカズマ。

 

「私はちょっと行きたいところがある。『カスマ』たちは遠慮なく、観光してきてくれ」

 

「そっか、わか・・・おい、今なんつった?」

 

ダクネスの呼び方でやっぱり聞き間違いではないとわかったカズマは引きつった表情を見せた。

 

「では、アクアと双子、『ゲスマ』の4人ということですね。この里にはいろんな観光名所があるので退屈しない・・・」

 

「待てやゴラアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

いい加減クズマだのカスマだのクソマだのゲスマだの言いたい放題な女性陣にカズマが一言物申そうとする。

 

「どうしたの?寝ているめぐみんにいたずらしようとしたクズマさん」

 

「・・・・・・」

 

だがアクアの言い放った言葉にカズマは黙り込み、茶碗をちゃぶ台に置き、正座をした。

 

 

ーすいませんでしたー

 

 

話を聞く限り、カズマはどうやらゆいゆいの狙い通りにめぐみんと同じ部屋で寝ることになったのだが、その際カズマは最初こそ葛藤したものの、次第にめぐみんと一緒に寝て、後で起きためぐみんが騒ぎ立て、大人しくなったところで本性をさらけ出したとのこと。それによってめぐみんは怒って家を飛び出し、ゆんゆんの家に泊まったとのこと。2人っきりの状況下で何もしないのはおかしいのではないかとカズマは熱く語ったが・・・

 

「あんたはもう1回マッチョモグラかオークに襲われるといいわ」

 

女性陣全員に心底見下された。その後、カズマがめぐみんにこの里に一件しかない喫茶店でいろいろ奢り、ようやく口を開いてくれた。めぐみんの機嫌が直ったことで改めて観光開始。観光スポットに向けて歩ていく。その最中、双子はあるものを見つけた。

 

「わ、すごい。みんな見てみて、グリフォンの石像だよ」

 

それは里の入り口に前にあったグリフォンの石像である。その出来栄えは本当に見事で今にも動いてしまいそうなほどにリアルである。

 

「へぇ・・・。見事な作りね。これは相当値打ちがあるに違いないわ。これは誰が彫ったものかしら?」

 

「それは里に迷い込んだグリフォンを石化の魔法で石に変えたものですよ。かっこいいので里の観光名所として残しておこうという話になりまして。現在では主に待ち合わせ場所に使われてますね」

 

「なんて無茶な観光名所だ・・・」

 

どうやらこの石像は彫刻家が彫ったものではなく、石化した本物のグリフォンらしい。事情を知ったカズマとアカメはドン引きしている。するとアクアは石像にペタペタ触りながら何かの魔法を唱えようとしている。

 

「・・・アクア、それ何の魔法を使おうしてるの?」

 

「状態異常を治す魔法よ?私、生きて動いてるグリフォンを見たことなくて・・・」

 

「あんたもしここで石化を解除して見なさい?【ピーーーッ】百叩きの刑に処してやるわ」

 

グリフォンの状態異常を治そうとするアクアはアカメが下す刑を聞いた途端に青ざめ、すぐに魔法を中断し、涙目で戻ってきた。えげつない刑を平然と口にするカズマとめぐみんも青ざめ、ティアはドン引きしている。

 

 

ーすいませんでしたー

 

 

最初に向かった観光スポットはこの里の神社である。神社には猫耳スク水少女のフィギュアが祀られていた。

 

「・・・なにこれ?」

 

「この里のご神体です」

 

「どう見ても猫耳スク水少女のフィギュアなんですけど」

 

「その昔、モンスターに襲われていた旅人をご先祖様が助けたらしいのですが、その際にお礼にと旅人がくれたのがこのご神体です。何の神様か知られていないですが、何かのご利益があるかもと、こうして大切に祀られているのですよ。この神社という施設も、旅人が教えてくれたものらしいです」

 

このご神体と呼ばれる美少女フィギュアはおそらく日本からこの世界に転生してきた日本人であるのは、カズマの反応からしてまず間違いないだろう。

 

「ねぇカズマ、美少女フィギュアが私と同じ神様扱いされてるのを見るのは腹立たしいんですけど」

 

「こんなものを持ち込む奴をここに送ったお前はとりあえず紅魔族に謝っとけ」

 

カズマたちがひそひそと話している光景を見て、双子とめぐみんは首を傾げている。

 

 

ーこのすばー

 

 

次に向かった観光スポットは一振りの剣が突き刺さった岩である。これはまさに、これを抜いた選ばれし者がというゲームでは有名なシーンである。

 

「これが、抜いた者には強大な力が備わると言われてる聖剣です」

 

「すごい!さすが紅魔の里!私の琴線が刺激される観光スポットだよ!」

 

岩場に刺さっている剣を見て、ティアはすごく興奮している。カズマも興奮しており、かなりそわそわした感情を抱いている。

 

「な、なぁ・・・めぐみん?ちょっと抜いてみてもいいか?」

 

「別に構いませんが、それが抜けるまでまだまだ時間がかかりますよ?鍛冶屋のおじさんに挑戦料を払わなければいけませんし。」

 

めぐみんの発言にカズマは少し怪訝な顔になった。

 

「鍛冶屋のおじさんに挑戦料?選ばれし勇者のみが抜ける剣とかそういったもんじゃないのか?あ、時間が経つと封印が緩くなるとか?」

 

「その剣は観光客寄せとして鍛冶屋のおじさんが作った聖剣です。剣を抜こうとする挑戦者がちょうど1万人目を迎えた時に抜ける魔法がかけられています。挑戦者数はまだ100人程度のはずですよ。1人1回のみの挑戦ですから、やるならもっと後をおススメします。それって4年前くらいにできたものですから」

 

「おい、ずいぶん歴史の浅い聖剣だな」

 

めぐみんの解説にカズマは呆れている。そんな中アカメとアクアは聖剣をまじまじと見つめる。

 

「でも剣自体は中々の代物よ。これ1個で相当値が張りそうね。アクア、これ、あんたの魔法で解除できない?とっととこれ抜いて売っ払いましょう」

 

「ええ?一応魔法で封印は解除できそうだけど・・・」

 

「や、やめてください!里の観光資源の1つなのですから持って行かないでください!」

 

アカメは聖剣をアクアに封印を解除させて持って帰ろうとしたが、めぐみんに必死に止められるのであった。

 

 

ー・・・ちなみにおいくら万円?ー

 

 

次なる観光スポットは木陰に佇む小さな泉であった。

 

「これは『願いの泉』と呼ばれてる泉です。この泉には言い伝えがありまして。斧やコインを供物として捧げると、金銀を司る女神が召喚できるのだとか」

 

その話を聞いてカズマは日本に伝わるおとぎ話を思い出した。

 

「胡散臭いわね。それ、マジな話なわけ?」

 

「そんなわけないじゃないですか。鍛冶屋のおじさんが定期的に泉の底をさらってくれなければ、今頃は鉄の山になっています」

 

「ちなみにその鍛冶屋のおっさんがさらったコインや鉄材をどうしてるんだ?」

 

「もちろん、武器や防具の材料としてリサイクルです」

 

やはり噂はどこに行っても噂でしかなかったようだ。一方でカズマは紅魔族に伝わる噂を誰が流したのかわかったような気がした。

 

「て、あれ?そういえばアクアは?」

 

話している間にもアクアの姿がどこにもなかった。辺りを見回してみると、泉の表面にさざ波が走り、泉の中央からアクアが顔だけ覗かせた。

 

「お前ちょっと目を離した隙に何やってんだ」

 

「コインが投げ込まれてるって聞いたからちょっと底まで拾いにね」

 

「意地汚いなぁ・・・そのまま泉の女神様ーとか胡散臭いこと言わないでよ?」

 

「・・・観光シーズンなら、それも悪くないわね」

 

ティアの発言を聞いて、まんざらでもないような表情になるアクア。

 

「なら今からこの短剣を投げ込んでやるから金に変えてみせなさいよこの似非女神」

 

アカメはそんなことを言いながら短剣を泉に投げ入れようとしたところ、アクアが抵抗として水をびゅっとかけてきた。向かってきた水をアカメは軽く躱した。

 

「遊んでないで次行きますよ、次」

 

遊んでいる2人にめぐみんが注意したところで、次の観光スポットへと向かうのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

次に案内されたのは謎の巨大な施設であった。

 

「ここは我ら紅魔族の天敵が封印されている謎施設です」

 

「謎施設・・・!」

 

「謎施設って何?あれって何に使う施設なのよ?」

 

謎施設というワードにティアは目を輝かせており、アカメは呆れるように質問した。

 

「謎施設は謎施設です。用途も謎ですし誰が何の目的で作ったのか、いったいいつ頃作られたのかも謎です」

 

この施設が何のために作られているのかは、めぐみんにもわからない・・・というより、おそらく全ての紅魔族もわかっていないのだろう。

 

「ねぇめぐみん、他にすごいものが眠ってる場所はないのかしら?」

 

「以前は、邪神が封印された墓だの、名もなき女神が封印された土地などがあったのですが・・・いろいいろあって、封印が解けてしまったのですよい」

 

あまりもザルな封印にカズマは思わずこう叫んだ。

 

 

ーお前んとこの封印ザルじゃねぇかーーーい!!!ー

 

 

次なる観光スポットへ向かう前に、めぐみんが寄りたい場所があると言うので、まずはそこに向かった。めぐみんが寄りたい場所というのは服屋であった。店に入って出迎えたのはこの服屋の店主である紅魔族の男性であった。

 

「めぐみんじゃないか。帰ってたのか・・・んん?ひょっとして・・・里の外から来た人たちかね?」

 

男性の質問にめぐみんは首を縦に頷いた。男性はカズマたちを鋭い視線でじっと見つめている。その視線にアクアは思わずカズマの後ろに隠れた。

 

「な、なんでしょうか・・・?」

 

男性には余所者には偏見があるのではと思い、カズマと双子は身構える。男性はカズマたちを見て、ふぅーっと息を吐き・・・

 

「我が名はちぇけら!アークウィザードにして上級魔法を操る者!紅魔族随一の服屋の店主!!」

 

紅魔族流の挨拶をかました。服屋の店主、ちぇけらは挨拶をしてドヤ顔になっているが、カズマたちは白けたような表情をしている。

 

「我が名は・・・」

 

「やらんでいい」

 

ちぇけらに対し、ティアも紅魔族流の挨拶で返そうとしたが、アカメに阻まれてしまう。

 

「改めていらっしゃい!外の人なんて久しぶりだよ」

 

「紅魔族随一なんてすごいですね」

 

「ええ。紅魔の里の服屋はうち一件のみだからねぇ」

 

「バカにしてんのか⁉」

 

カズマはちぇけらにお世辞を言ったが服屋が一件しかないと聞き、思わずそう言い放った。

 

「実は今着ているローブの替えが欲しくてですね。これと同じものはありますか?昔ゆんゆんにもらったローブなのですが、一着だけでは何かと不便でして」

 

めぐみんは自分が羽織っているローブをちぇけらに見せびらかした。

 

「そのタイプのローブならちょうど染色が終わったばかりのやつがあるよ」

 

めぐみんのローブと同タイプのローブは物干し竿に干されて並んでいた。

 

「とりあえず、ここにあるものを全部ください」

 

「全部?ほお、あのめぐみんがずいぶんブルジョワに」

 

「そろそろ、私の名が里に聞こえてきてもおかしくない頃ですよ。ローブは勝負服ですし、たくさんあって困るものでもないですからね。というわけで、お金持ちになる予定の双子、お金貸してください」

 

「うっ・・・ここぞってばかりに・・・」

 

「はぁ・・・別にいいけど・・・絶対に返しなさいよ?返さないとロクでもない目に合わせるからね」

 

「それはわかってます。ロクな目に合いたくないですからね」

 

「まいどありー!!」

 

ひとまずはこれから大金が手に入る予定の双子に立て替えてローブを購入しためぐみん。ちぇけらが物干し竿に干してあるローブを卸していると、カズマはその物干し竿を見て驚愕した表情になる。

 

「・・・おい・・・」

 

「?なんですか?」

 

「お前これ・・・いやちょっと待ってくれ。なんてものを物干しにしてんだよ・・・」

 

「おや、お客さん。これが何か知ってるんですか?これはうちに代々伝わる由緒正しい物干し竿ですよ。サビたりしないんで重宝してるんです」

 

ちぇけらが物干し竿に使っているのは、銀色にキラキラと輝くライフル銃であった。

 

「どう見てもライフルなんですけど」

 

「だよなぁ・・・」

 

一目見てライフルであるとわかるカズマとアクアはともかく、めぐみんと双子にはあれがどういった代物であるのかわかっていない様子である。

 

 

ーこの里どうなってんの?ー

 

 

ローブを購入しためぐみんはうきうきとした様子で里を歩いていき、カズマたちは彼女の後についていく。

 

「あっ!カズマ!アクア!双子!紅魔の里の魅力がわかったところで、さらにとっておきの場所に案内してあげます!」

 

「「「「?」」」」

 

自信たっぷりに言うめぐみんに4人は首を傾げ、頭に?を浮かべるのであった。

 

 

ーこのすばー

 

 

めぐみんがいうとっておきの場所とは、めぐみんとゆんゆんがかつて通っていた学校である。その名も、レッドプリズン。

 

「ようこそ、我が魔法学園、レッドプリズンへ!!」

 

「よ・・・ようこそ・・・」

 

めぐみんはこの学校の制服を身に纏っており、隣には同じく学校の制服を身に纏っているゆんゆんがいた。

 

「なぜゆんゆんが?」

 

「昨日泊りに行ったら、ぼっちが寂しそうにしてたから、ミミィと一緒に誘っておいたのです」

 

「そういえばミミィはゆんゆんの家に泊ったんだっけ?」

 

「ああ、それでネガウサもいたのね」

 

「こんなゴミが由緒正しい学校の廊下を歩いてすみません・・・」

 

ゆんゆんの隣には学校の廊下を歩くことに罪悪感を覚えて落ち込んでいるミミィがいた。相変わらずのネガティブ思考である。

 

「べ、べべべ、別に寂しくなんて・・・」

 

「制服まで用意しておいて何を今さら」

 

ゆんゆんは反論しようとしたが、めぐみんの指摘によって顔を赤らめている。

 

「へぇ、これめぐみんたちの制服?かわいいわね!」

 

「そうでしょうそうでしょう!由緒ある魔法学園を案内するので、正装に着替えて当然なのです!」

 

アクアに学校の制服を褒められてご満悦なめぐみんにカズマが異を唱える。

 

「懐かしくなってお前が着たくなっただけだろ」

 

「カズマは学校のことになると途端に辛辣よね」

 

「私たちも訓練学校に通ってたけど、そこまで歪じゃなかったわよ?」

 

「学校で馴染めなかった古傷が痛んでるんだよきっと。かわいそうに」

 

「おいやめろ!プライバシーの侵害だぞ!」

 

アクアたちがカズマの心に傷口を抉ろうとしている時だった・・・

 

『くっくっくっく・・・』

 

『!!』

 

校内に笑い声が聞こえてきた。カズマたちは笑い声が聞こえてきた方角に視線を向ける。視線の先には、扉が開かれ、数人の紅魔族の少女たちがかっこいいポーズ(紅魔族に)をとって立っていた。数人の紅魔族の少女達はカズマたちに紅魔族流の挨拶をかます。

 

「我が名はあるえ。紅魔族随一の発育にして、やがて作家を目指す者」

 

「我が名はぷわちか!紅魔族随一の高身長にして、やがて踊り子となる者!」

 

「我が名はふにふら!紅魔族随一の弟想いにして、ブラコンと呼ばれし者!」

 

「我が名はどどんこ!紅魔族随一の・・・随一の・・・なんだっけ?」

 

1名締まりがない者がいたが、毎度恒例の紅魔族流の挨拶にカズマたちは何とも締まりがない表情を見せている。

 

「・・・あんたってブラコンなわけ?」

 

「うわぁ・・・引くわー・・・」

 

「ま、まだかっこいい通り名を思いついてないだけよ!」

 

ツインテールの紅魔族の少女、ふにふらの名乗りの際に出たブラコンという単語に双子は結構・・・いやかなり引いている。それに対してふにふらは思わず突っかかった。

 

「あるえ、ぷわちか。それに、どどんこにふにくら(  ・ )

 

「ふにふらよ!!わざとね⁉わざとやってるんでしょ⁉」

 

わざとらしく名前を間違えるというめぐみんの行為にふにふらは憤慨している。

 

「久しぶりに戻ったって聞いてね」

 

「驚くかなーって思ってサプライズをしてみたの」

 

紅魔族の少女たちのことを何も知らないアクアは彼女たちが誰なのかとめぐみんに尋ねる。

 

「誰?」

 

「魔法学園時代の同級生たちです」

 

そう、彼女たちはめぐみんとゆんゆんの同級生たちなのである。先ほどめぐみんに憤慨していたツインテールの少女がふにふら。ポニーテールの少女がどどんこ。通り名の通り、大人顔負けの高身長を持つ三つ編み少女がぷわちか。そして同じく通り名の通り、抜群のスタイルを持った眼帯を着けた少女があるえである。ひろぽんが送った手紙に混じっていた小説の1ページを書いた人物こそが、このあるえである。

 

「おかえり。無事戻れて何よりだよ」

 

「うっかり信じてしまう人が出るので、あんな手紙はやめてください」

 

「えぇ⁉」

 

名前を伏せてはいるが、うっかり信じてしまう人物こそゆんゆんである。驚くゆんゆんをよそに、どどんこたちはカズマたちに興味を持っている。

 

「あなたたちがゆんゆんのパーティメンバー?」

 

「!!!」

 

「「はあ?」」

 

ゆんゆんのパーティメンバーという聞き捨てならない単語を聞いて双子は怪訝な顔をしている。

 

「本当に実在したのね。ゆんゆんのパーティ仲間」

 

「えっと・・・何を言ってるの?」

 

「なんか勘違いしてない?私たちは・・・」

 

「しょ、紹介します!!こちらはただの駆け出し冒険者の男の子とアークプリーストの女の子!それでこちらがレンジャーの獣人のお姉さんにシーフの双子の女の子!今はいないけど、やたら頑丈なお姉さんもいるんですよ!後、めぐみんがぼっちしてたから最近パーティに誘ってあげました!」

 

ゆんゆんの必死すぎる紹介にめぐみんは強張った表情を見せ、カズマたちは少しかわいそうな目でゆんゆんを見ている。その様子を見て紅魔族の同級生たちは真相を察した。そんな中であるえだけがゆんゆんにフォローを入れる。

 

「素敵なパーティじゃないか」

 

「ゆんゆんはパーティじゃないけど、いつも助けてくれるのよね。パーティじゃないけど」

 

「ちょっ!!?」

 

「ええ。パーティじゃありませんが」

 

「私は・・・カズマさんのパーティにもゆんゆんちゃんのパーティにもいません・・・。私と同じ基本ソロプレイです・・・」

 

「まっ・・・!!」

 

ゆんゆんの主張をぶち壊すようにアクアたちが本当のことを言い放ち、ゆんゆんは慌てふためている。

 

「「「でしょうね」」」

 

自分の見栄が同級生たちにバレてゆんゆんは恥ずかしそうに顔を赤らめている。

 

「私は心の中でゆんゆんをカエルスレイヤーと呼んでいるわ」

 

「何それ?」

 

「ほら、ビカビカ光る剣みたいな魔法でジャイアント・トードをやっつけてくれたじゃない」

 

「ああ、あの時お姉ちゃんがカエルに食われてた時の?」

 

アクアの言葉で双子は自分たちがスパイ疑惑で疑われていた時に起こったあの出来事を思い出していた。それとは別に紅魔族の同級生たちは驚いた様子を見せていた。

 

「それって・・・」

 

「ライト・オブ・セイバーのことだよね?やっぱり」

 

「ほお。立派な上級魔法じゃないか」

 

「えっ!!?ゆんゆんって中級魔法使いじゃなかった!!?」

 

「「「?」」」

 

ふにふらの驚いた発言にカズマと双子はどういうことかと頭に?マークを浮かべる。めぐみんはそのことに対し、思うことがあるのか顔を俯かせている。

 

「ゆんゆんってさー、半端な時に中級魔法を習得しちゃったから、卒業までに上級魔法を覚えられなかったのよね」

 

「も、もう・・・そんなこと覚えてなくていいよ・・・」

 

カズマはこのふにふらの言葉に少し意外そうな顔をしている。

 

 

ーこのすばー

 

 

学校を出る頃にはもうすでに夕方となっていた。丘の道中を歩いている中、カズマは先ほどの話が気になって少し上の空になっている。

 

「どうしたのカズマ?やっぱり友達がいなかったこと後悔してるのー?」

 

「違うわ!!!いやゆんゆんのことなんだけどさ・・・」

 

「・・・さっきの話ですか?」

 

「あ、それは私も思ったよ」

 

「私もよ。てっきり私は紅魔族って上級魔法をアホみたいにぶっ放すぶっ壊れ集団だと思ってたわ」

 

めぐみんは魔人の丘と呼ばれているこの丘から見える夕焼けを見て、かつて起きた出来事を話す。

 

「・・・実は・・・私は学生の頃、爆裂魔法を覚えるためスキルポイントを大事に大事に貯めていました。それはもう来る日も来る日も。全ては爆裂魔法を覚えるために。しかし、ある日・・・魔物に襲われたこめっこを助けるため、ゆんゆんは自分のポイントを使って中級魔法を習得してくれたんです。私が躊躇している間に」

 

「それって・・・めぐみんが爆裂魔法を習得できるためにかばってくれたってこと?」

 

「・・・・・・頼んだわけではないのですけどね・・・」

 

めぐみんの脳裏にはかつてゆんゆんが中級魔法を覚えるきっかけとなった出来事が浮かんでいる。爆裂魔法を習得することができたのは、間違いなくゆんゆんのおかげである。憎まれ口を叩いてはいるものの、めぐみんはゆんゆんを感謝している。とはいえ、申し訳ない気持ちも入り混じっているため、複雑な心境を抱えていることをカズマと双子は感じ取った。

 

「まぁ、今じゃめぐみんよりも一級な魔法使いなわけだし、結果オーライよね!」

 

「あ、それは言えてる」

 

「そうだな」

 

「アクア、あんたもたまにはいいこと言うじゃない」

 

「なんですとおおおおおお!!!」

 

しかしアクアの放った言葉と、それに同意した4人のせいでしんみりとした気分は吹っ飛び、めぐみんは憤慨する。

 

ドオオオオン!!!

 

「「「「「!!」」」」」

 

するとその直後、めぐみんの家のすぐそばの木柵の外側辺りに爆発が鳴り響いた。これが意味するところは・・・魔王軍の侵入である。




次回、この恨めしい遺物に爆焔を!


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