反転フランドール (松雨)
しおりを挟む

反転フランドール

 今日で幽閉されてから確か、500年近くだったかな。重厚な金属扉と結界に閉じられた、吸血鬼にとっては忌むべき強さの日光に酷似した光に照らされて明るい地下室の中で、私は何をするでもなくそう考えていた。

 

 何故かは分からないけれど、私は吸血鬼の癖に強い日光で照らされている昼間や、どしゃ降りの雨の中出歩いても全く平気などころか、そこに長く居れば居るほど力が湧き出てくる。銀製の武器もあまり効かないため、もはや吸血鬼ではない()()としか思えないのだけど、人間を食べなければ生きていけないのを見るに、しっかりと吸血鬼である事だけは確実だと思う。

 

 逆に、普通であれば活動的になるはずの真夜中や、日光も雨も両方不足している曇りの日の昼間とかだと、力が抜けていく感覚を常に味わうようになり、大幅に弱体化する。この、普通の吸血鬼と属性や特定要素以外の基礎的な性質がほぼ完全に反転していると言う、異端としか言い様のない性質のせいで、私は生まれてから10年経った頃に今の生活に追いやられた。

 

 ただ、この幽閉生活にはもう慣れたし、案外快適だから今更勝手に脱出しようとは思わない。お姉様も含めた、何人居るかも分からない住人たちとの会話も殆んどないに等しいけど、これにももう慣れた。むしろ面倒事が舞い込んで来ない分、この方が良いのかも知れないが。

 

「霊夢、魔理沙。一応言っておくけど、属性相性的にフランに暴れられると私1人じゃ厳しい。顔合わせをしておきたいのは分かるけど、責任は取れないわ」

「心配しなくても、あんたの妹が色々な意味で危険人物だってのは、ある程度は予想済みよ。だから、最初からやる気で居る訳」

「同じく、私もだ。にしても、暗闇が苦手な吸血鬼か……そんな奴が居るんだな。この地下室も、まるで昼間みたいな明るさだし……」

 

 そんな事を考えながら本を読んでいると、どのくらいぶりだったか忘れたけど、とにかく久しぶりにお姉様がこの地下室に、日光遮断の魔法か何かで万全の備えをした状態で訪れてきた。それだけであれば別にどうでも良いのだけど、昔から数える程しか見た覚えはない上に触れた事は1度もない、生きて動いている人間を2人連れてきていたから、少し興味を抱いた。

 

 見ただけで何となく分かったけれど、黒髪の方の『レイム』、金髪の方の『マリサ』とお姉様が呼んでいたこの2人は相当の猛者だ。お姉様に勝てるかどうかは知らないけど、少なくとも戦闘にならずにあっさりと()()()()なんて事はないだろう。まあ、今まで閉じ込められてた私の予想なんて、殆んど宛にならないだろう。

 

「よう! お前がフランドールか?」

「うん。それにしても、生きて動いてる人間さんなんて久しぶりだなぁ。こんなところまで、何しに来たの? もしかして、私と()()()()()って遊びをするために来たの?」

「……いや、今日はただ単にお前がどんな奴なのか、どんな力を持っているのか知りたくて、渋るレミリアに頼み込んで霊夢と一緒に来ただけだぜ」

 

 すると、金髪の方のマリサと言う人間から、私がフランドールであるかと元気良く問いかけられた。答えない理由もなかったのでそうだと答え、どうしてこんな所にまで来たのかと、こちらも質問を投げ掛けてみる。

 

 マリサ曰く、今日ここに来た理由は『弾幕ごっこ』とか言う遊びを私としに来た訳ではなく、単に私の事を知りたくて来ただけのようだ。渋っていたお姉様を説得した程なのだから、相当会いたかったらしい。

 

「ふーん、そう。じゃあ……マリサと、レイムだったっけ? 私の力が見たいのなら、お望みの物を見せてあげる……『光神 フラガラッハ』」

「「ちょっ!?」」

 

 何故そこまでして私に会いたかったのか理解に苦しむけど、そこまで期待してくれているのならば、気も向いたしそれに答えてあげようか。そう思った私は何時だか忘れたけど、胡散臭いスキマ妖怪に作れと言われて作った『スペルカード』の内の1つにもした魔法を、2人に向けて放ってあげた。

 勿論、弾幕ごっこ仕様であるため、滅多な事では壊れないようにはなっているけど……まあ、その時はその時かな。

 

 ただ、私のその考えは2人の人間にあるまじき強さによって、外れて終わる事になる。剣形の通常弾幕の雨は殆んど避けられ、放り投げたケルト神話の光の神の持つ『フラガラッハ』とか言う剣を象った弾幕は、2人のスペルカードによって全て相殺されてしまったためだ。

 

「へぇ……やっぱり私の見立ては間違ってないみたいだね。殆んど当たらずに避けるか相殺するんだから」

「いきなり攻撃してくれるとは、やはりね。嫌な勘がして回避行動の備えをしてたのは正解だったわ。魔理沙は大丈夫?」

「ああ。ちょっとかすっちまったが、この程度なら問題ないぜ」

 

 すると、若干怒り気味のレイムとマリサの会話の中で、マリサが当たった弾幕によってそこそこの切り傷を負ってしまい、腕から出血している事が判明した。道理でさっきから食欲をそそる美味しそうな匂いがする訳だと思いながら、力を見せて欲しいと言う2人の目的を達成させるため、ありとあらゆる物を治す(直す)能力を使ってマリサの腕の傷の位置を感知して治した。

 

「おぉ!? 傷がひとりでに治ったぞ……? フランドール、お前がやったのか?」

「そう。ありとあらゆる物を()()()能力でね。私、種族の吸血鬼としての再生能力は最低なんだけど、この能力のお陰で超常的な回復力を得れてるの。壊れた物も直せる力なんだけど、限度はあるよ」

「物も直せるのか。限度があるとは言え、フランドールの能力は何でもありだな」

 

 結果、3秒程でそこそこ深かった切り傷は完全に塞がって完治したらしく、マリサはとても驚いていた。で、私がやったのかと詰め寄るようにして聞いてきたから、能力について今現在分かっている事だけを説明すると、また驚く。そして、レイムの方はあれから相変わらず私の方をじっと見据え、何か不満を抱いていそうなのが見て取れた。

 力の見せ方が良くなかったのか、あの程度じゃ全然足りないと思っているのか、はたまた別の理由があるのかは分からない。

 

「レイム。何だか不満げな表情だけれど、私の力だとお気に召さなかったかしら?」

「備えていたとは言え、予告もなしに攻撃食らって、不満や怒りを抱かない奴が居たら教えて欲しい位ね」

「そう。まあ、善処するわ」

 

 だから、何が不満だったのかを聞いてみたところ、予告なしにいきなりスペルカードを発動させた事が気に召さなかったとの事。一応見せてあげると言ってから発動させたのだけど、彼女にとってはないに等しいものだったらしい。と言う訳で、次に機会があるかは分からないけど、気を付ける事にするかな。

 

「さてと、もう良いかしら? 霊夢、魔理沙」

「ええ。あんたの妹がどう言う奴かは良く分かったからね」

「私も、それで構わないぜ」

 

 なんて事を考えていると、お姉様の日光遮断の魔法か何かの効果が切れそうだからなのか、2人に対してこの地下室からの退出を促し始めた。目的を達成したからなのか、レイムとマリサもそれに同意して部屋を出て行こうとした。

 

「じゃあな! また来るぜ!」

「……」

 

 その際、マリサが何故かこっちに笑顔を向けながら手を降り、また来るぜと言いながら去っていくのを見送った後、私は読書を再開した。

 




ここまで読んで頂き、感謝です


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。