ガンダムビルドダイバーズー衝撃のZakuー (陰猫(改))
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紹介
ダイバーとガンプラ紹介


フリー素材です。良かったら使ったって下さい。
場合によっては更に増えるかもです。

使う時は一言言って貰えると助かります。


ダイバーネーム:ティッシュ

 

※GBN内のデフォルトフェイスのジオン公国軍のパイロットスーツを着た青年。

ネームのティッシュは姉のテラスとのやり取りとダイバーネームが混同した為。

 

リアルでは純粋にガンプラを楽しむ美大に通う20歳のデザイナーの青年。

本名は朝宮岩戸。

 

使用ガンプラ:ザクⅡ+トールギス

ガンプラネーム:ドズル専用殺人機動型ザク

ベースガンプラ:ザクⅡ

武装:

ザクマシンガン

ザクバズーカ

大型ヒートホーク

 

概要:デザイナーであるティッシュのこだわりの詰まった一品。

トールギスの殺人的加速のブースターをザクのスラスターの左右に2基ずつ取り付け、超絶的な加速を有するガンプラ。

ティッシュがまだ初心者と云う事もあり、未だにその操縦には安定性がない。

 

「ティッシュ!行きまーー行くぜ!」

「あ、ヤバい・・・コントロールが・・・」

 

 

ダイバーネーム:プニプニ・ノ・ポー

 

※ピキリエンタポーレスのマスコットザクの姿をしたダイバー。

お節介焼きだが、戦闘になるとバーサーカ気質がある。

ティッシュのやり取りの後はアバターを変え、機動戦士ガンダムの08小隊に出てくるカレン・ジュシアに似たアバターに変更した。

進撃の覇軍の古参メンバーの一人。

 

使用ガンプラ:ザクⅢ+ガンダム試作2号

ガンプラネーム:アトミックデストロイヤー

ベースガンプラ:ザクⅢ

武装:

アトミックバズーカ+追加核弾頭×4発(初期装填分を含む計5発)

顎部ビーム砲

大型ビームサーベル

ビームマシンガン(ガーベラテトラ仕様)

メガバズーカランチャー

 

概要:核攻撃仕様のザクⅢ。ソロモンエクスプレスのアレンジガンプラ。

ザクⅢの高機動力とガンダム試作2号機の肩のブースターと追加バーニアでまさに大量破壊兵器と化している。

元はマスダイバー殲滅ガンプラだが、ポーの愛機となって未だに現役。

 

使用ガンプラ:ハイザック+ケンプファー

ガンプラネーム:ハイザック・バースト

ベースガンプラ:ハイザック(ティターンズカラー)

 

武装:

ビームサーベル×2

ツュファルム×2

V.S.B.R.×2

ジャイアントバズ×2

ショットガン

 

概要:ティッシュの言葉に触発されてポーが新規に制作したガンプラ。

ハイザックにケンプファーのバックパックと下半身を付けた愛を込めた機体。

バックパックのジャイアントバズとF91のV.S.B.R.になっているなど、細かなこだわりがあり、ポーの技術と相まって万能なガンプラに仕上がっている。

 

「私プニプニ・ノ・ポー。ポーで良いよ」

「巻き込まれたくなかったら下がりな!」

「でかい花火を上げようじゃないか!

 まあ、かなり、ヤバい花火だけどね!」

 

 

ダイバーネーム:エルピー

 

※エルピー・プルの衣装をした水色髪のポニーテールのアバターをしたダイバー。

非常に無口で喋る事が滅多にない。

その分、感情が表情に出やすい。

進撃の覇軍の古参メンバーの一人。

 

使用ガンプラ:ザクⅡ改+ザクバーダインのリアル化

ガンプラネーム:ザクⅡ改(ギミックパージ後はザクバーダインT2800)

ガンプラベース:ザクⅡ改

 

武装:

ザクマシンガン改

ヒートホーク

 

概要:一見すると素人の作った素組みに近いガンプラだが、その実体はリアル化したザクバーダインのアレンジガンプラである。

その強度はプニプニ・ノ・ポーのアトミックデストロイヤーのアトミックバズーカの連射を物とももせず、元ネタのターミネーターのそれに近い行動パターンをとる。

 

「・・・」

 

 

ダイバーネーム:皇帝

 

※黒い和装にクルーゼの仮面をつけた美女。

リアルは朝宮岩戸の姉である朝宮テラス。

進撃の覇軍と呼ばれるフォースのリーダーでもあるが、現在はGBNから離れている。

マスダイバーに親友だったELダイバーを殺された事で復讐する為に自身もマスダイバーとなった過去を持つが、弟のティッシュには現時点では話していない。

その実力は過去にGBDやGBNでもベスト10に入る実力の持ち主だったが、進撃の覇軍になってからはマスダイバー狩りをする日々を送り、個人ランキングなどから姿を消している。

 

使用ガンプラ:魔殺駆

ガンプラネーム:覇道の皇帝

ベースガンプラ:魔殺駆(覇道武者魔殺駆)

武装:

妖刀黒刃

必殺技:

闘気斬(覇王闘気斬)

概要:

オーラ斬り。相手の装甲などを無視して放たれる必殺の一撃。

覇道武者バージョンでは怒りのオーラを解放し、周囲のものを全て薙ぎ払う。

 

概要:黒と金をモチーフにした魔殺駆。

マスダイバー関連に触れたり、怒りが頂点に達すると覇道武者魔殺駆の姿になると云う仕様を有する。

特に改造らしい改造はないが、暗黒の力と呼ばれるオーラを纏う事で様々な現象を起こす。

その姿や放たれるどす黒いオーラからマスダイバーと勘違いされやすいが、これは正規の設定である。

 

「私と遭遇した不幸を呪うが良いわ」

「マスダイバーと私を一緒にした事を後悔したまま、溺死なさい!」

「我が覇道の前に敵はなし」



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第1章【ダイバー・ティッシュ】
第1話【初GPNデビュー】


やりたくてやっている作品です。悔いのないようにしっかりと突っ走ります。
( ・ω・)ゞ


 朝宮岩戸はザクが大好きである。

 機動戦士ガンダムシリーズで有名なやられ役であり、時には主役機以上の活躍を見せるその姿ーー何よりも、フォルムが好きだった。

 

 だからこそ、不慣れながらガンプラバトル・ネクサス・オンラインなる未知の領域へと足を踏み入れる。

 そして、その為に家庭用のコンシューマーの筐体とダイバーギアなるものまで用意した。

 デザイナーのたまごとは言え、少しはバイトしたりなどして収入のある岩戸にはそれを買う余裕があった。

 

 そして、彼がガンプラバトルネクサスオンラインで使うガンプラは決まっている。

 

 専用にフォルムされた神秘的な出で立ちのドズル専用ザク。

 

 素人故に素組みで作った程度だが、HGのザクを彼なりにデザインした独自性のあるザクとなっている。

 

 彼は早速、ガンプラバトルネクサスオンラインことGBNにアクセスし、アバターを作るのだが、キャラ自体に特に設定やこだわりはなく、基本的なデフォルト顔でサクッとキャラを作って行く。

 この時、彼は知らなかったが、仮登録ならば、ガンダムシリーズのマスコットであるハロの姿になれたのだが、本登録してしまった後には後の祭りである。

 

 そんな事は露知らず、彼は次の問題であるダイバーネームと言う壁にぶつかる。

 これも特にこだわりもないが、折角のダイバーネームなのでダサい名前は付けたくない。

 それにこのザクにふさわしいネームを入れたいと思ったので岩戸はしばし、悩む。

 

 ーーと不意にメッセージが現れ、彼はそちらを見て、げんなりする。

 肝心な時にメッセージが入るとはついていないと思いつつ、彼はダイブを継続しながら接続していたスマートフォンの画面のメッセージをアップする。

 送り主はデザイナーとしてまだ名の売れてない彼の世話役をしている姉のテラスからであった。

 

「・・・えっと、なになに?

『夕飯の買い出しに来ているんだけど、何か買わなきゃならないのあったっけ?』かーーああ。そう言えば、ティッシュがなかったな。ティッシュっと・・・」

 

 この時、気付いてなかったが、彼はメッセージにではなく、ダイバーネームにティッシュと設定してしまっていた。

 

 こうして、朝宮岩戸ことティッシュの冒険が幕を開けるのであった。

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

 ダイブして早々、彼はその行き交うアバターことダイバーの数に圧巻させられる。

 

「この人達、みんな、ダイバーなのか・・・」

「あら?もしかして、新人さんかしら?」

 

 独り言で呟いたつもりだったのだが、どうやら、聞こえてしまっていたらしい。

 ティッシュがその声に振り返ると紫色の髪をした褐色肌の男性が此方に微笑んでいた。

 

「デフォルト顔の新人さんなんて珍しいわね?

 私はマギー。宜しく、新人さん」

「あ、これはどうも、はじめまして、自分はーーあれ?」

 

 ここでようやく、ティッシュこと岩戸は自分がダイバーネームなんて、いつ作ったっけ?と首を捻る。

 

「あらあら。自分のダイバーネームを忘れちゃうなんて、うっかりさんね。そう言う時はこうやってプロフィール画面を開くのよ」

 

 マギーと言う男性にそう言われ、彼は見よう見まねでプロフィール画面を開く。

 

「あ、でましたね。俺の名前はティッーーって、はあっ!?」

「えっ!?ちょっーーどうしたの!?」

「・・・あ、いえ、なんでもありません。

 自分はティッ・・・ティッシュです」

「あら。なによ?顔に似合わず、可愛らしい名前じゃないの?」

 

 マギーにそう言われるが、実際のところはダイバーネームのところを姉へティッシュ・ペーパーが欲しいと送ったメッセージのやりとりとを勘違いしたなどとは口が裂けても言えないティッシュであった。

 

「まあ、いいわ。改めて、ようこそ、ティッシュちゃん。

 手始めにチュートリアルからはじめる事をお勧めするわよ」

「チュートリアル?」

「ええ。まずはカウンターに行って来なさいな」

 

 ティッシュはそう言われてカウンターへ向かい、チュートリアルミッションクエストを選択する。

 そして、それから再び、マギーの元へと戻る。

 

「無事にクエストを受けれたみたいね?

 折角だし、格納庫へ行きましょうか?」

「格納庫?どうやって?」

 

 ティッシュが尋ねるとマギーは「こうするのよ」と言ってプロフィール画面を呼び出した要領で彼と共に目まぐるしく変わる背景の中を移動する。

 そして、格納庫と呼ばれるエリアへまで転移し、等身大まで巨大化したティッシュのザクを見て、マギーは不自然な事に気付く。

 

「あらやだ。これって素組みじゃない?ーーいえ、でも、このデザインのこだわり具合が半端ないわ。

 素人のように見えて、ベテランのようなこだわりのある不思議な出来映えね?」

 

 そう言うとマギーは自分のガンプラの出来とスケールのデカさに圧倒され、感動しているティッシュに告げる。

 

「まあ、何はともあれ、行って来なさいな」

「あ、はい!」

 

 親切にレクチャーするマギーにティッシュは頷くと意気揚々とザクに乗り込む。

 

 そして、そのまま、発進準備へと向かう。

 

「・・・凄い。本物のカタパルトみたいだ」

『発進と言ったら、あれをやるのが基本でしょう』

「あれ?ーーああ。あれですか!」

 

 そう言われ、ティッシュはワクワクしながら発進前のアレをする。

 

「ドズル専用ザク!行きまあああぁぁぁーーす!」

 

 ティッシュを乗せたザクはビコン!とモノアイを輝かせ、カタパルトから発進して行く。




次回はチュートリアルやります( *・ω・)ノ


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第2話【チュートリアル】

「・・・これがGBN」

 

 ティッシュがリアルの実感のあるVR体験に興奮していると半透明なドームに気付く。

 

「マギーさん。あれはなんですか?」

『あれがチュートリアルエリアよ。中に入れば、バトルがはじまるわ』

 

 モニター越しからアドバイスするマギーの言葉にティッシュは「バトルですか?」と少し緊張する。

 

『そんなに緊張する事はないわよ。

 これは練習なんだし、そこまで身構える必要はないわ。

 要は楽しまなくっちゃ』

「・・・そう、ですね。頑張ってみます」

 

 ティッシュは励ますマギーに頷くとチュートリアルエリアへと侵入した。

 すると、すぐにレーダーに反応が表示される。

 

 視認出来る距離まで接近すると濃い青紫のエネミーが3機いる事をティッシュは確認し、ザクバズーカを構えた。

 

「いっけえぇーっ!!」

 

 ティッシュが叫びながらバズーカの砲弾を発射し、敵のエネミーに着弾ーーする事はなかった。

 

「外した!?」

『射程距離外よ!もっと引き付けて!』

 

 エネミーの前で爆発したバズーカの砲弾に驚くティッシュにマギーが警告する。

 

『もう一度よ!囲まれる前に少しでも敵を減らしなさい!』

「は、はい!」

 

 モニター越しのマギーに返事をするともう一度、バズーカで相手を狙う。

 そして、照準が定まるとバズーカを発射した。

 

 今度は命中し、着弾したエネミーが爆散する。

 

「やった!ーーうわっ!?」

 

 エネミーを1体倒したのも束の間、ティッシュは生き残った2体のエネミーの反撃に怯む。

 

『落ち着いて!相手の動きを見極めるのよ!』

「そ、そんな事を言われてもーー」

『あなたのガンプラには他にも武器があるでしょ。それを活かしなさい』

 

 その叫びにティッシュはバズーカを捨てると腰のザクマシンガンを手にして乱射する。

 ザクマシンガンは威力こそ低いが、牽制にはもってこいの武器である。

 

 ティッシュは相手の周囲を旋回しながらマシンガンを放ち続け、なんとか、もう1体を倒す。

 ティッシュはその最後の1体に照準を合わせ、再びマシンガンを乱射する。

 

 ーーと途中で弾が出なくなってしまう。

 

「あ、あれ!?」

『無闇に撃ち過ぎよ!

 急いでリロードしなさい!』

「は、はい!ーーうわっ!?」

 

 ザクマシンガンの円形のマガジンをリロードしようとした瞬間、無防備なティッシュのザクにエネミーが体当たりして来る。

 

『リロード中も気を付けなさい!』

「す、すみません!ーーあっ!マガジンが!」

 

 転倒した事でマガジンを取り落としたティッシュのザクにエネミーがフィニッシュとばかりにビームサーベルを振り上げた。

 

「こなくそおおぉぉーーっっ!」

 

 ティッシュは吠えるとバックパックのスラスターを吹かし、木々を薙ぎ倒しながら地面を擦るようにエネミーの攻撃を回避する。

 衝撃の振動を堪えながらティッシュはザクを起き上がらせるとザクの左脇に差していたヒートホークを手にする。

 

 そのヒートホークは従来の物よりも大型化されたドズル専用の特注品である。

 ティッシュのザクはそれを水平に構え、左手でヒートホークの後方を支え、右手でしっかりと掴む。

 そして、スラスターを最大限まで加速させ、エネミーの機体へと突撃する。

 それに対し、エネミーはビームサーベルを再び振り上げた。

 

 ーープシュウゥ。

 

 ティッシュのザクのスラスターの燃料が切れたのはまさにその瞬間である。

 GBN内のガンプラが忠実にモビルスーツを再現している故にティッシュのザクはスラスターのエネルギーを使い果たして失速してしまう。

 

 結果、頭部を破壊されながらも大型ヒートホークでエネミーの攻撃を弾き、そのまま胴体を両断すると言うギリギリの勝利をティッシュはもぎ取る事となる。



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第3話【ビルドアップ】

「お疲れ様。チュートリアルはどうだったかしら?」

 

 待っていたマギーにティッシュは後頭部を掻くと「まだまだですね」と呟く。

 

「チュートリアルでこれなら、これからが心配ですね。

 しばらくは慣れるまでチュートリアルで頑張ろうかと思います」

「そう。まあ、チュートリアルは何度でも受けられるし、気を落としちゃ駄目よ?」

「はい。ありがとうございます」

 

 ティッシュが頭を下げて礼を言うとマギーは「それよりも」と付け加える。

 

「まさか、スラスターのブースト消費の燃費があんなに悪いなんてね?

 もう少しガンプラを色々と試してみたら、どうかしら?」

「ガンプラを試すですか?」

「ええ。ガンプラは自由ですもの。

 それに素組みにも限界があるわ。

 アドバイスするとしたら、ガンプラにもう少し手を加えてあげたら、今より良くなるんじゃないかしら?」

「成る程。考えてみます」

「そうしなさいな。ガンプラバトルはセンスや技術もそうだけど、最終的には愛よ」

 

 マギーは微笑むと「頑張りなさいね、ティッシュちゃん」と最後に付け加えて去って行く。

 マギーと別れたティッシュこと岩戸はオフラインモードになって現実に戻り、一息吐く。

 

 初ダイブで少し疲れたが、チュートリアルは彼なりに白熱したバトルでかなり楽しめたーーとは言え、これが対人戦のバトルなら自身の敗北は確定している。

 せめて、初心者なりにガンプラを輝かせたい。

 勝つ事もそうだが、もっと自分の満足のいく結果を残したいと言う欲求が出て来る。

 それにマギーの言葉も彼の心に残っていた。

 

「ガンプラに愛を注ぐ、か・・・確かに素組みして塗装しただけだし、色々やってみるかな?」

 

 こうして、岩戸はあれこれと考える。

 出来れば、素体であるドズル専用ザクはあまり、弄りたくはない。

 この塗装をデカールタイプシール無しで製作するのにかなりの時間と情熱を注いだからと言うのもある。

 

 素組み部分は見直しが必要だが、今のザク自体に大きな変更をするつもりはない。

 

 ならば、どうするか?

 

 岩戸はあれこれ悩むが、答えが出ず、気分転換にでもとガンダムチャンネルを映像で見る。

 

(ああ。今はガンダムWが再放送されているのか・・・って待てよ?)

 

 ガンダムWの主人公のヒイロ・ユイが大破したウィングガンダムの代わりに搭乗するガンダムヘビーアームズとライバルのゼクス・マーキスの戦う姿を見たのをきっかけに岩戸は新しいアイデアを思い付く。

 その視線の先にはトールギスの背負うブースターを見ていた。

 

「これだ!」

 

 岩戸はスマートフォンから流れる映像を見て叫ぶと翌日、美術大学の帰宅にそのガンプラを購入しにガンプラショップを訪れる。

 彼が購入したのはトールギスであった。しかも二個買いである。

 

「あら。お兄さん、トールギスが好きなんですか?」

「ええ。でも、一番はやっぱり、ザクですね!」

 

 そんな他愛ない会話をした後、女性店員は最後に「素敵なガンプラを作って下さいね?」と彼にウィンクする。

 その仕草に少しドキリとしながら岩戸は「頑張ります!」と言って自宅へと戻る。

 

「ただいま!」

「お帰りなさい。ご飯出来ているわよ」

「あ、ありがとう、姉さん」

 

 帰宅した岩戸は姉のテラスに礼を言うと手短に食事を済ませ、急いでガンプラ製作に取り組む。

 そんな岩戸を見て、テラスは「あらあら」と苦笑しながら、岩戸の食べ終えた食器を片付ける。

 

 岩戸のガンプラーードズル専用ザクの問題点はスラスターことブースターの燃費の悪さである。

 これは岩戸のザク以外にも言える事であるが、初代のジムやザクはまだ世に知れ渡る以前のものなので基本設定が低い。

 アニメではその理由としてジムもザクも物量戦が主体のモビルスーツである為、量産しやすく、低コストである為となっている。

 故に専用機とは言え、多少カスタムしたから位では性能的な面では現在の量産型モビルスーツに遅れを取ってしまう。

 だが、それはあくまでもガンダムと言うアニメの世界での話である。

 

 ならば、もしも、ザクがそれ以上の性能を引き出せたのなら?

 

 例えば、他作品とオマージュした機体であれば?

 

 その自問自答の末に彼はザクにトールギスの一対のバーニアを追加した。

 これでかなりピーキーなザクとなるだろう。

 

 しかし、それだけでは彼の目指す殺人的な加速を越えるトランザムシステムなどには及ばない。

 そこで考えたのが更にトールギスのブースターを追加する事で馬力を増やそうと言う試みである。

 

 岩戸は元からあるザクのブースターに追加されたトールギス2体分のブースターを見て、これはきっと自分には勿体無いくらいのガンプラになってくれるだろうと一人で頷く。

 

 素組みもスマートフォンの動画で基本的な事を学習しながら見よう見まねで加工した。

 

 岩戸は徹夜までしてしまい、机に突っ伏して寝てしまうが、なんとか形にはなった。

 そんな岩戸にそっと掛け布団を被せ、姉のテラスがそのガンプラを見て微笑む。

 

「楽しめたようだね、岩戸。素敵なガンプラだよ」

 

 テラスは熟睡している岩戸に優しく囁くとそのまま、彼を起こさぬように足音を立てぬようにしながら、そのまま、彼の部屋から出て行く。



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第4話【リトライ】

 岩戸は久々にGBNにログインしてティッシュと云うダイバーになると早速、カウンターに行き、チュートリアルをリトライする。

 

「ティッシュ!行きま・・・ああぁぁーーっっ!!」

 

 ティッシュは出撃と同時に前回とは比較的にならないGを体感し、そのスピードについて行けず、掛け声が中途半端になってしまう。

 それほど、今回、心血を注いだガンプラの出来を誉めたかったが、いざ操作してみるとそれどころではない。

 トランザム以上の速さを持つ機体速度となると操作も前回と違い、極端に難しくなる。

 

 これでまだフルスロットルどころか通常速度なのだから、尚更、ティッシュは自分の作ったガンプラの凄さを改めて痛感する。

 そして、そのピーキーさに。

 

「あ、やばっ・・・コントロールが・・・」

 

 不規則な軌道を描きながらティッシュは目的地であるチュートリアルエリアへ行くどころか、自分から地面に激突し、そのままブースターのなすがままにされて、木々を何本も吹き飛ばしながら前進して行く。

 

「と、止まれええぇぇーーっっ!!」

 

 そんなティッシュの願いも空しく、ティッシュはチュートリアルエリアとは別の方角にある山に頭から突っ込み、そのまま、何も出来ずにリタイアとなる。

 

「・・・い、生きた心地がしない」

「おいおい、大丈夫か、坊主?」

 

 戻って来たティッシュがぼやくとその声を拾った人物がいた。

 ダイバーの人はみんな、優しいんだなと思いつつ、ティッシュは声の主に振り返る。

 その人物はどう見ても中年の男性だったが、ティッシュはこんなアバターを使う人もいるのか程度に考える。

 

「大丈夫・・・ではないですね」

「だろうな。少し見物させて貰ったが技術云々の問題だ。

 お前さんのガンプラは初心者向けの機体じゃねえよ。

 まあ、それだけ、ビルダーとして見込みがあるって事だがな」

「あの、貴方は?」

「あー。やめろやめろ。

 まずはそのスタイルから改めて置け」

「ーーと云うと?」

 

 その人物は「本当に何も知らないんだな?」と洩らし、ティッシュから周囲に目を配る。

 

「ここにいる奴の大半はバトル目当てのダイバーだ。

 そんな奴等の中には初心者からポイントを稼ごうってダイバーもいる。

 そう言った奴等に目を付けられたら、坊主みたいな奴は格好の餌食だ。せめて、もっと強気でいな」

「そうなんですか?」

「そこは『そうなのか?』って言うところだ。

 悪目立ちせず、そこそこ強き程度なら餌になりにくいから、言葉は選んでおけ」

「成る程。わかりましーーわかったぜ」

 

 ティッシュが言葉を選びながら頷くとその男性は「その調子だ」と頷き返す。

 

「俺については・・・まあ、おっさんとでも呼んでくれ。

 どうせ、坊主はランキングとかに興味ない口だろ?」

「え?なんで解るんでーー解るんだ?」

「俺も色んな奴を見て来たからな。

 坊主のアバターを見りゃあ、情熱が違うベクトル向いているのが、一目で解るさ。

 有名になろうって奴はアバターにも、こだわりを持つもんだ」

 

 ティッシュは自称・おっさんを名乗る男性の言葉に納得すると男性は「まあ、習うより慣れだな」と呟く。

 

「初心者同士でバトルをしてコツを掴むってのも一つの手だ。

 マギーとかにも頼んで対戦相手を探してやるから、今の内にキャラ作りでもしておけ。

 この世界じゃ、自分を偽る事も必要だからな」

「ありがとうござーーありがとな、おっさん!」

「まあ、及第点だな。

 精々頑張れよ、坊主」

 

 男性はそう告げると手を振りながら去って行った。

 素直なティッシュは「よし!」と独り呟くとログアウトして早速、キャラ作りを開始する。

 

「姉さんーーあ、いや、姉ちゃん!こんな感じでどうだ!」

「粗野な感じがして岩戸を知っている私からすると新鮮よ。

 ワイルド感があって良いんじゃないかしら?」

「そ、そうかな?ーーじゃなくて、そうか!?そう言われると照れるぜ!!」

「ふふっ。頑張りなさいな、岩戸」

「そう言えば、姉ちゃんはまたGBNで遊ばないの?」

 

 そう問うと今までのほほんと見守っていたテラスの顔が曇る。

 そして、そんな表情を見せたくないかのようにそっぽを向いてしまう。

 

「私はいいの。またあんな思いしたくないし・・・」

 

 姉のそんな姿を見て、岩戸は無言で俯く。

 姉はかつて、マスダイバーに酷い仕打ちをされ、自身もそのマスダイバーの復讐の為に自らマスダイバーとなったと聞く。

 マスダイバーが何かも知らないし、自慢の姉が復讐する目的でマスダイバーと云うものになるなど岩戸には解らない事だらけである。

 それについて、姉のテラスは語ろうとしないし、目的を果たしたのか、それ以降は自身もGBNを引退していた。

 

 そんな姉を岩戸が放って置ける事はなく、ある事を思い付く。

 

「姉さんーーじゃなくて、姉ちゃん、今度のバトル見てくれよ!」

「え?」

「約束する!姉ちゃんの為にも今度のバトルは良い物にするからさ!」

 

 姉の返事を聞かず、岩戸は「それじゃあ、俺は準備があるから!」と言って自室に引きこもる。

 テラスはそんな岩戸の思いと復讐の為にマスダイバーとなった自身への葛藤に悩まされる。

 こんなに悩んだのは溺愛する弟がGBNをやりたいと言って来た時以来であろうか。

 

 そう思いながら、テラスは弟に答えるか、自身のケジメを守るかを悩み続け、しばらくの間、寝る事も出来なかった。



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第5話【初陣】

今回はプリン製造工場さんのパトリシアとゼロストロングを借りさせて頂きました。
プリン製造工場さん、ありがとうございます!(  ̄人 ̄)


 ティッシュは後日、この間の男性ダイバーと落ち合う。

 

「よお、おっさん!」

「噂をすれば丁度来たな、坊主」

 

 男性は振り返りながら、そう告げると半歩下がり、今しがた会話をしていた女性ダイバーを紹介する。

 

「こいつはお前の補佐係だ。

 まあ、マギーの事だから新人を連れて来るとは思うが、新人を装ったダイバーや出戻りのダイバーなんかもいるからな。

 一応、注意するに越した事はねえ」

「そんな奴がいるのかよ?」

「まあ、GBNもだいぶ浸透したし、マスダイバーも見なくなったからな。

 出戻りする奴もちらほらいるからよ」

 

 その言葉にティッシュは反応すると改めて質問する。

 

「・・・おっさん。マスダイバーって、なんなんだ?」

「新人のお前さんが知らなくても良い事だ。

 それに聞いても気持ち良いもんじゃねえ。

 話すら聞きたくねえって奴もいるくらいだからな」

 

 男性もその話をするのが嫌なのか、ティッシュの質問に答えず終いだった。

 それだけ、マスダイバーと云う言葉に良い印象がないのだなとティッシュは再認識する。

 

「そんな事よりも、ほれ」

 

 男性はそう言うと軽く自分の後方を親指で差す。

 その先にはマギーと二人の女性が話し込んでいた。

 

「マギーさん、その二人が俺達の対戦相手っすか?」

「あら。今、丁度呼ぼうと思ったのに早いわね」

 

 マギーが此方に振り返ると女性ダイバーの二人組も此方を見る。

 

 お互いに自己紹介をした訳だが、お嬢様口調のパトリシアと初心者だと言うゼロストロングことゼロストのインパクトにほとんど何を喋っているのか覚えていないティッシュであった。

 

 パトリシアの「ティッシュとゼロストのタイマン勝負ですわ」の言葉に女性ダイバーが反対してコントのように転けると云った場面もあった気がするが、ティッシュはそれよりも素が出ないかを心配していた。

 バトル前でテンパっていたのも手伝って、そのまま、ノリと勢いで喋るティッシュを案じたのか、男性がヒソヒソと耳打ちする。

 

「良い感じにキャラ作って来ているようだが、緊張し過ぎだ。

 とりあえず、格納庫でお互いのガンプラでも見て、クールダウンしろや。

 それに自分にない知識を取り入れるのも勉強だぞ、坊主」

 

 男性のアドバイスにティッシュは素直に応じると早速、パトリシア達と交渉する。

 ゼロストの方はともかく、パトリシアの方は此方を警戒していたが、最終的に「まあ、構いませんわ」と応じてくれた。

 

 格納庫エリアへと転移するとティッシュは内心で落ち着きを取り戻し、パトリシア達と男性ダイバーのそのガンプラを改めて、見せて貰う。

 

「おおっ!これがみんなのガンプラか!どれも個性があってカッケェな!」

 

 パトリシア達のガンプラもそうだが、男性達のガンプラも負けず劣らず、個性溢れる物であった。

 実際、他のダイバーのガンプラを見るのは初めてだったティッシュには良い刺激となった。

 

(こう言うガンプラもありなのか・・・本当にみんな、凄いな。

 それにパトリシアさんって人のは出戻りって言ってただけあって、デザイナーの俺でも解る位、ベテラン独特の風格のあるHi-νガンダムだな。

 きっと、この人はもっと凄いガンプラを持っているに違いない)

 

 惚れ惚れするフォルムとカラーリングにティッシュは心を奪われながら、そんな事を考えていると男性の咳払いに我に返り、慌てて「すまんすまん」と言ってパトリシア達に謝る。

 男性のフォローもあったが、パトリシアも純粋にガンプラを見る事を楽しんでいたティッシュに対して、警戒を解いたのか、まんざらでもなさそうであった。

 それよりも同じ初心者のゼロストの方が気掛かりだった様子でどこか心配するような言葉を紡いでいる。

 

(パトリシアさんも出戻りって事は姉さんみたいに深い事情があるのかな?)

 

 そんな事を思いながら、パトリシアとゼロストを観察していると二人の雰囲気が明らかに恋人同士のそれになり、ティッシュも内心ドキドキしながら何か言おうとした男性ダイバーに「空気読めよ、おっさん」と言って場を和ませる。

 

 正直なところ、女性同士のイチャイチャした空気に耐えられなかったのもあり、内心ではあの後、どうなるのかも見てみたかったりもしていたが、ともかく、念願のバトルに意識を集中する。

 その後、男性のアドバイス途中で補佐してくれる筈の女性ダイバーが先走って出撃した事もあり、ティッシュも彼女を追うように慌てて叫ぶ。

 

「ティッシュ!ドズル専用殺人機動型ザク!行くぜ!」



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第6話【諦めぬ心】

プリン製造工場さんのガンダムビルドダイバーズのゼロストロング対ティッシュの戦いの話をティッシュ目線で再現しました。
プリン製造工場さんには改めて感謝(  ̄人 ̄)


「うわっ!ーーととと・・・」

『操縦も出来ない初心者だって話しは本当だったのね?』

 

 ティッシュがフラフラしながら操縦に苦戦していると女性の可変機能を捨てたような戦闘機擬きのガンプラが近付く。

 

『私のガンプラに掴まりなさい。

 目的エリアまでエスコートして上げるから』

「す、すみません」

 

 ティッシュは自分を補佐してくれる女性ダイバーの戦闘機風のガンプラに掴まるとモニター越しの彼女に申し訳なさそうにして謝る。

 

『ビルダーとしてガンプラの出来は褒めて上げるけれど、操縦技術はナンセンスね。

 これが終わったら、改めてチュートリアルをやりなさい』

「はい。ありがとうございます」

『あと、素が出てるわよ?』

 

 そう言われてティッシュは慌てて自分を演出する。

 

「わ、悪い悪い!」

『私は貴方に興味ないから気にしないけれど、自分で決めたロールならキチンと演じなさい』

 

 そんなやり取りをしながら、ティッシュ達は目的のエリアへと到着する。

 先に出撃したのもそうだが、男性ダイバーとパトリシアがゼロストにアドバイスと基本的な事を操作について改めてレクチャーしているらしく、少し余裕があり、ティッシュは改めて自分の武器を点検した。

 

「マシンガンの予備も持ったし、準備万端!

 絶対勝ってみせるぜ!」

『何言ってるの?そのガンプラで勝てる訳ないでしょ?』

 

 張り切るティッシュに女性ダイバーはツッコミを入れると溜め息を吐く。

 

『貴方、ガンダムSEEDは見てないの?』

「え?あ、いや、見てたけれど・・・」

『なら、トランスフェイズ装甲についても知っているわよね?』

「あ、はい。一応は・・・」

『なら、実弾兵器が効かないトランスフェイズ装甲を持つレイダーガンダムにマシンガンやバズーカが効果あると思っているの?』

 

「あっ!」

 

 女性ダイバーにそう言われて、ティッシュは自分が最初から劣勢である事に気付かされる。

 

『理解したみたいね。GBNはガンプラの出来次第で原作通りの特徴を発揮出来る。

 あのレイダーガンダムは恐らく、あのパトリシアって子が手伝っているでしょうから、トランスフェイズ装甲も機能していると考えるべきだわ。

 つまり、今回の勝負は最初から決着が見えているのよ』

 

 バッサリと女性ダイバーに事実を言われてティッシュはあまりのショックに眩暈がしそうになった。

 

(この勝負は最初から詰んでいる?姉さんとも約束したのに?)

 

 姉のテラスに良いバトルをすると言った事を思い出しながら、ティッシュは俯いていた顔を上げる。

 

(いきなり、初戦で完敗するなどはしたくなんてない!

 これは俺だけの戦いじゃないんだ!)

 

 自分の心にそう言い聞かせるとティッシュは操縦用のスティックを握り締め直す。

 

「・・・俺が勝てる方法はありますか?」

『一か八か、その大型のヒートホークとブースターによる重量とスピードによる一撃必殺しかないんじゃない?

 まあ、私だったら最初から苦渋を味わう前にバトルを降りるって手もあるわよ?』

「・・・そうですか」

 

 ティッシュは女性ダイバーの言葉に意を決するとザクマシンガンやバズーカを捨て、大型ヒートホークを取り出す。

 

『僅かな可能性に希望を見出だす、か・・・嫌いじゃないわよ、そう云うの』

 

 女性ダイバーがそう告げると同時にパトリシア達のガンプラが此方にやって来る。

 

「さて、と・・・ようやく、戦えるな!」

 

 ティッシュは自分を鼓舞するように叫ぶとゼロストのレイダーガンダムを見据える。

 ゼロストの黄色と黒のカラーリングのレイダーガンダムが着地するとモニターにパトリシアとゼロストの顔が映る。

 

 ゼロストはパトリシアにアドバイスされながら「まあ・・・やってみるけど」と口にするのを見て、ティッシュはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「やる気満々だな!ーーて事は開始の合図とかいらねえよな!」

 

 多少、卑怯な気もするが、ティッシュは「行くぜ!」と叫び、先手必勝を狙う。

 フルスロットルでいきなり、突っ込むかに迷いが生じたのか、ゼロストの機転が良かったのかは定かではないが、ティッシュの乗るザクのヒートホークはスラスターで後方に下がった彼女のレイダーガンダムにかわされる。

 

(このまま、体当たりすれば!)

 

 そうイメージして更に前進しようとした瞬間、ティッシュのコントロールが僅かに乱れる。

 未だに慣れない自身のガンプラの操作に焦りを感じながら、ティッシュはレイダーのミョルニルと呼ばれる左腕のハンマーを喰らい、二連装52ミリ超高初速防盾砲と呼ばれるビームと実弾の雨を浴びる。

 

(大丈夫だ!これ位なら耐えられる!・・・そうだろ!?相棒!!)

 

 致命的になりそうな一撃一撃を大型ヒートホークを盾にする事で耐えながら、ティッシュは自分のザクを信じるようにひたすら祈る。

 

 ゼロストの「やった!」と油断した声が聞こえ、弾幕が晴れた時ーー頭部がミョルニルで潰され、弾幕で左腕を破壊されながらも耐え続けたティッシュはその絶好の好機を見逃さなかった。

 

「いいや!まだだね!」

 

 ティッシュは吼えるとこれが最後の好機だと確信し、再びブースターを起動させた。

 ゼロストのレイダーガンダムがミョルニルをワイヤーで引き戻しながら、そのまま突っ込んで来る。

 

 再び射出するには時間がないと悟ったのか、ゼロストのレイダーガンダムがミョルニルを左腕に装着したまま殴り掛かる。

 それはコックピットを狙った一撃であり、誰が見てもゼロストの勝利は確定したも同然であった。

 

 勝った!ーーと誰かが叫んだが、ティッシュは気にしない。

 

「いいぃぃっっけええぇぇーーっっ!!」

 

 ティッシュはコックピットを砕かれ、被弾しながらも最後まで諦めなかった。

 それに応じるかのようにティッシュのザクのモノアイが光を放ち、大型ヒートホークを振り下ろす。

 

 自ら突撃して来たレイダーガンダムとフルスロットルでブースターを起動させたティッシュのザクの相乗効果により、大型ヒートホークの一撃はトランスフェイズ装甲を持つレイダーガンダムの頭から爪先まで一直線に斬り裂くには十分な一撃を与える事が出来た。

 

 結果的にティッシュは自分の敗北が確定する未来に一矢報い、双方引き分けまで持って行くのであった。

 

「・・・やった」

 

 最後まで諦めなかったティッシュは引き分けとは云え、敗北の未来を覆し、ポツリと洩らすとプルプルと震えて歓喜するのであった。

 ゼロストの方にも勝負に負けた悔しさはないだろうが、最初から不利なガンプラで挑んだティッシュはその倍はあるだろう喜びを感じていた。

 

 こうして、ティッシュの初めてのガンプラバトルは幕を閉じる。



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第7話【フォースへの誘い】

ここからはプリン製造工場さんから離れた完全なスピンオフ作品になる予定です。
もしかするとまたダイバーズ系統の何らかの企画に参加して、帳尻合わせでティッシュを使うかも知れませんが、その時が来たら考えます。

因みに今回は短め。


「本当に良いバトルだったぜ、坊主。

 あの不利なバトルでよく相討ちまで持ってったもんだ」

 

 パトリシアとゼロストと別れた後、男性ダイバーがそう言って、ティッシュの肩を叩く。

 

「ありがとうございました。

 操作も少しは慣れたと思います」

「それに関してはまだまだよ。あの馬鹿みたいな速度ならヒット&ウェイも可能だった筈。

 それにあの機体なら相手に手傷を負わせてから物理射撃に切り替えても十分、お釣りが来る」

 

 相変わらず、女性ダイバーにはバッサリと切り捨てられるが、ティッシュは悪い気はしなかった。

 

「俺達はこれからディメンションをやるつもりだが、坊主はどうする?」

「またチュートリアルで練習してます。

 早く、このガンプラに慣れないと行けませんから」

「・・・そうか。なら、ここでお前さんとは別れるようだな」

 

 男性ダイバーは寂しそうにそう言うと「フレンド登録するか?」とティッシュを誘うが、ティッシュは「気持ちだけ受け取って置きます」と返す。

 

「まだ初心者とも呼べませんし、多分、足を引っ張ってしまうでしょうから・・・また、お会いする時にでも、お願いします」

「そうか。そいつは残念だ」

 

 男性ダイバーは心底残念そうにそう呟くと「じゃあな」と言って女性ダイバーと共にティッシュと別れる。

 

 1人になったティッシュはログアウトした。

 

 ティッシュこと岩戸がログアウトし、自室を出ると姉のテラスがスマートフォンを見ながら泣いていた。

 

「ど、どうしたの、姉さん!?」

「・・・ああ。ごめんね、岩戸。

 岩戸のバトル見て、感動しちゃって」

「あのバトル見ててくれたの?」

「ええ。実弾の効かないレイダーガンダムに勇敢に立ち向かって行った岩戸のバトルは凄かったわよ」

 

 姉にそう言われて岩戸はくすぐったい感覚を感じつつ、テラスに尋ねる。

 

「姉さんもまたやらない?」

「・・・気を利かせて貰ったのにゴメンね、岩戸。

 お姉ちゃん、まだ踏ん切りがつかなくて」

「そこは姉さんのタイミングに俺が合わせるよ」

 

 岩戸はそう言って姉に自分のガンプラを見せながら笑った。

 

「姉さんの踏ん切りがついた時には色々と教えてね。

 俺、それまで待っているからさ」

「ふふっ。ありがとうね、岩戸」

 

 テラスは岩戸に微笑むと、ふと何かを思い出したように天井を見上げる。

 

「良かったら、お姉ちゃんが作ったフォースに入らない?」

「フォース?」

「平たく云えば、チームの事よ。

 まだ在籍してくれているか解らないけれど、みんな、良い人達ばかりだから、きっと岩戸の力になってくれると思うわ」

 

 そう言うとテラスは岩戸に一通のメールを送る。

 送られたメール内容を開くと何らかのパスワードと『覇道の皇帝』と記された内容が岩戸のスマートフォンに届く。

 

「カウンターのフォース画面でそのパスワードを入力すれば、ロックが解除されて現存するメンバーが会いに来てくれると思うわ。

 まあ、騙されたと思って一度、会ってご覧なさい」



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第8話【進撃の覇軍】

 次の日、岩戸ことティッシュはテラスに教えられたパスワードをカウンターで入力し、フォース名『進撃の覇軍』なる表示を目にする。

 

 すると、ピキリエンタポーレスよろしくのマスコットのようなザクが現れ、カウンターに近付いて来る。

 

「あんたかい?うちのフォースの認証パスワード通ったのは?」

「あ、はい。そうですが・・・」

「私の名はプニプニ・ノ・ポー。ポーでいいよ」

「プ、プニプニ・ノ・ポー?」

「まあ、その様子だとガチ勢って訳じゃなさそうだね?

 流石にピキリエンタポーレスを知らないかい?」

 

 ゆるふわ系のザクはそう言って笑う(?)と「それで?」と問う。

 

「皇帝はどこだい?来ているんだろ?」

「皇帝?もしかして、姉さんの言ってた『覇道の皇帝』ですか?」

「姉さん?ーーああ、あんたは皇帝の弟さんか?ーーまた、随分と手抜きのアバターだね」

 

 ポーはそうティッシュにそう返すとフレンド登録選択画面へと移行する。

 

「まあ、長い付き合いになるんだ、宜しくな!」

「は、はあ、宜しくお願いします」

 

 ポーの言葉に困惑しながらもティッシュは頷くとポーとフレンド登録を結ぶ。

 

「皇帝の弟さんならキチンと世話をしないとね。

 さて、どんなガンプラか見せて貰おうか?」

 

 ポーはそう告げると格納庫エリアへと転移し、ティッシュの作ったドズル専用殺人機動ザクを眺める。

 

「機動力重視のガンプラだね?

 なかなか、良いセンスだけど、それなりに腕は必要そうだけどさ?」

 

 そんな風に笑うポーのガンプラは魔改造されたグレーと紺のツートンカラーのザクⅢであった。

 改造された点としては大型化されたアトミックバズーカと追加弾倉で四発の核弾頭を背中のバックパックに装着し、ガンダム試作2号機の肩に初期ブースター以外に追加で内蔵されている。

 更に百式のメガバズーカランチャーまで装備するなどの様々な趣向が施されている。

 その姿はソロモンの悪夢以上の凶悪さがあった。

 

 まさに核弾頭のバーゲンセールである。

 

「私のアトミックデストロイヤーが気になるかい?」

「え?ええ。凄いガンプラですけれど、こんなの使って平気なんですか?」

「まあ、大丈夫じゃないだろうね。

 普通にこんなイカれたモビルスーツがあったら地獄絵図は間違いないだろうさ。味方も巻き込むだろうしね。

 だから、私のガンプラのあだ名は皆殺しのザクⅢなんて名前をしているんだよ」

「み、皆殺しのザクⅢ?」

「進撃の覇軍ってのは、そう云うぶっ飛んだ連中の集まりさ。

 皇帝から何も聞いてないのかい?」

 

 ポーの言葉にティッシュは首を左右に振るとポーは「そうかい」と呟きつつ、言葉を続けた。

 

「まあ、入っちまったもんは仕方がないさ。

 それよりも早速だけど、あんたと共同戦線と行こう。

 安心しな。フォローはしてやるからさ」

 

 不吉なものを感じつつ、ティッシュはポーと一緒にミッションへと出撃するのだった。



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第9話【ティッシュの意地】

現在、再就職で悩んでたり、日が落ちて、すぐ寝たりしているので更新がし難くなってます。
仕事のやる気と趣味のやる気がちょっと噛み合わない状態。


『フォースに入るにはランクを上げる必要があるんだよ。

 それまではまだ未加入状態さ』

「え?それなら俺はまだランクが低いから、まだフォースに入れないんじゃないですか?」

『まあ、そうなんだが、皇帝のお墨付きなんだから確定しているもんだろうから大丈夫な筈さ』

 

 どうにも姉を盾にフォースに入れられそうだなと思いつつ、ティッシュはポーと共にミッションを開始した。

 

「ーーって、これ、なんですか!?

 大量の敵に囲まれてますけど!?」

『何ってスコア上げる為の乱戦ミッションに決まっているだろ?』

「聞いてませんよ!?」

『まあ、気にするな。あんたは回避を優先してりゃあ良いんだ』

 

 そう告げるとポーのアトミックデストロイヤーはいきなり、戦線から離脱する。

 

「え!?ちょっーーポーさん!?」

『ちょっと準備するから待ってな』

「ま、待って!準備って何ですか!?」

『安心しなよ。地上戦でアトミックバズーカは使ったりしないから』

 

 ポーは豪快に笑いながら、そう告げるとそのまま、太陽へと向かって飛翔して行く。

 そんなポーを見送った直後にバトルがスタートし、NPDのジムⅡ達がティッシュに襲い掛かって来る。

 

「うわあっ!?」

 

 ティッシュは襲い来るビームスプレーガンの嵐をなんとか掻い潜ると後方へと逃げ出す。

 

「無理無理無理!!

 いきなり、こんな大規模な相手に一人でどう戦えって言うんですか!?」

『言ったろ?あんたは回避に専念すれば良いってな?』

 

 逃げ惑いながら叫ぶティッシュにポーはモニター越しで笑いながら遥か空から極太のビームを発射し、ティッシュのザクに迫っていたジムⅡの群れを薙ぎ払う。

 

『ガッツリとポイントの稼がせて貰うよ。

 私は逃げ回るあんたをこっから援護してやるから、好きにやんな。

 まあ、ある程度の数を減らしゃあ、あんたでも倒せるだろ?』

「簡単に言わないで下さいよ!?

 俺、まだ自分のガンプラにも慣れてないのに!?」

『なら、これも経験って事で♪』

 

 そう告げるとポーのアトミックデストロイヤーはメガバズーカランチャーの次弾を発射する。

 

「くそっ!やってやる!やってやるぞおおぉぉーーっっ!!」

 

 自棄になったティッシュは三下のような台詞を吐きつつ、後方を振り返りながらザクマシンガンを乱射した。

 撃墜までには至らなかったが、牽制するティッシュのザクを援護するようにポーのメガバズーカランチャーが火を吹く。

 出鱈目な戦法ではあるが、ポーは「これはこれで連携になっているから良いか」と独り呟く。

 

 ーーとは云え、本命はティッシュのランクを上げる事なのでティッシュ自身の撃墜数も必要になる。

 

『粗方削ったし、今度は私が前に出るからあんたが援護しなよ、ティッシュ』

 

 ポーはそう告げるとメガバズーカランチャーと核武装をパージして大型ビームサーベルを手に急降下しながらジムを一直線に両断する。

 

『このアトミックデストロイヤーは核やランチャー無しでも無敵だって事を教えてやるよ』

 

 ポーはそう言ってはにわザクの姿で笑うと悪鬼羅刹の如く、ジムⅡを薙ぎ払って行く。

 

「・・・す、凄い」

 

 その鬼のような戦いぶりにティッシュが呆然と見ていると両手足を切り裂かれ、動けなくなったジムⅡの頭部を掴みながらポーのアトミックデストロイヤーが此方に振り返る。

 

『ほれ。さっさと仕留めな』

「え?あ?」

『流石にこの状態なら外しようがないだろ?

 早いところ、楽にしてやりな』

 

 その言葉にティッシュは迷うとザクバズーカを構え、ポーのアトミックデストロイヤーの背後から奇襲を狙うジムを撃墜する。

 

『なんのつもりだい?

 的はこっちだろ?』

「俺はガンプラバトルがしたくてGBNをやっているんです!

 ポイント稼ぎが目的じゃありません!」

『ぺーぺーのくせに吼えるねえ』

 

 ポーは蔑むでもなく、軽い口調でそう呟くと頭部を掴んでいたジムⅡを胴体から切り裂いて撃墜する。

 

『背中は預けるから、あんたなりに頑張んなよ』

「は、はい!」

『それじゃあ、ここからが本番だ。遅れるんじゃないよ、ティッシュ』

 

 ポーのその言葉を合図にティッシュはザクを駆り、彼女のアトミックデストロイヤーに続く。

 そして、ポーの助力もあったのもあって、ティッシュはなんとか撃墜数を5機も増やして行くのであった。



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第10話【愛故に愛を失ったフォース】

気付いたらプリン製造工場さんの話しが非公開になってましたが、私はやりたい事を続けます。
元々、それがやりたいがきっかけですし。

今回はちと、しんみりした話し。


「なんのかんの言いつつ、5機も撃墜するとはやるじゃないか!」

 

 ロビーに戻るとポーはティッシュを褒めるが、ほとんどがポーのアトミックデストロイヤーのおこぼれなのでティッシュは素直に喜ぶ事が出来なかった。

 

「ほとんどポーさんのお蔭ですよ。

 俺は援護射撃して、たまたま5機も撃墜出来ただけです」

「そう謙遜するなや。それでも撃墜したのはあんたなんだから」

「それでもポーさんには敵いませんよ。

 それにガンプラの完成度の違いを見せられた感じです。

 それだけ、愛がーー」

「愛なんてモノはないよ」

 

 ティッシュの言葉を遮るようにポーがそう告げる。

 はにわザクの顔の為にその表情まではティッシュには解らないが、発言には先程にはない冷たいモノがあった。

 

「進撃の覇軍はそんな甘いフォースじゃないんだよ。

 皇帝は何も言わなかったんだろうけれど、私達のガンプラに愛なんてものはないさ」

「でも、こんなに思いが詰められているのに?」

「確かに籠められているだろう。憎悪に復讐とかマイナスの思いがね。

 私だって奴等がいなければ、もっと・・・」

 

 表情は解らないが、何かしらの負の感情をティッシュは感じ、「すみません」と謝る。

 ポーはそれに対して我に返ると先程までの態度に戻る。

 

「まあ、気にするな。こう言う奴もいるってだけさ。はっはっは!」

「でも、俺からも良いですか?」

「ん?なんだい?」

「確かに憎しみとかから作ったガンプラかも知れませんが、それでもポーさんは今のガンプラを愛しているんじゃないですか?

 でなきゃ、今でも使おうとなんてしませんよね?」

 

 その言葉にポーが再び無言になるが、ティッシュはそれでも続けた。

 

「俺はGBNに来たばかりでまだ解りませんが、何人かのガンプラを見せて貰いました。

 その人達のガンプラにはそれぞれの思いが籠められていましたが、みんな、愛を感じました。

 それはポーさんのガンプラからも感じられました」

「・・・」

「だから、思うんです。はじめは違う目的かも知れませんが、ポーさんのガンプラへの愛は本物だって」

 

 ティッシュがそう言い終えた後、ポーはしばらく沈黙した後にログアウトしてしまう。

 言い過ぎてしまっただろうかと思ったが、本当の事を言ったつもりなのでティッシュはログアウトしたポーを見送る事しか出来なかった。

 

(・・・きっと、大丈夫だよな?)

 

 ティッシュはそう思いつつ、自身もログアウトして一息吐く。

 

 そして、ベッドに横になりながら、ここまでポーや姉の引きずるマスダイバーについて考える。

 

(奴等って、きっとマスダイバーって人達の事だよな?

 ポーさんも姉さんも多くは語らないけれど、それだけマスダイバーって言うのに酷い事をされたのか・・・マスダイバーって一体、なんなんだろう?)

 

 ティッシュこと岩戸はベッドに仰向けになりながら、自分に何か出来ないか考えつつ、眠りに落ちる。

 

ーーー

 

ーー

 

 

『皇帝。あんたの弟さんは優しすぎる。

 私達のフォースに入れるべき人間じゃないよ』

 

 岩戸が寝ている間、姉のテラスにポーがスマートフォンに電話して来る。

 

「・・・そうかも知れないですね。でも、岩戸なら・・・弟なら何か変えてくれるかもと期待してしまうんです」

『期待って、なんだい?

 私ら、マスダイバーの被害で報復する為に作ったフォースに今更、何を期待するんだい?』

「時代は変わったんですよ、ポーさん。

 マスダイバーの脅威はもう、ありません。

 なら、そろそろ、その呪縛から解放されても良いんじゃないですか?」

 

 テラスの言葉にポーはしばし、沈黙した後、どこか悲しむように呟く。

 

『・・・無理だよ。あの娘がマスダイバーに殺されて、テラスが皇帝を名乗るようになってから私達は変わったんだ。今更、戻れないよ』

 

 最後の方はスマートフォンの向こうで泣いているのか、掠れて聞こえなかったが、テラスにはその気持ちが痛い程、解っている。

 そして、そんな気持ちを一番重く受け止めているのは他でもないテラス本人だと言う事も。

 

『・・・なんで、こんなになっちまったんだろうね、私達は。

 ただ、あの娘とガンプラで楽しんでいたかったのに・・・』

「ポー」

 

 そんなポーにテラスは厳しいーーというよりも威厳に満ちた声で答える。

 

「皇帝として、あなたに命じます。弟を補佐しなさい」

『・・・皇帝直々の御命令とあらば』

 

 そこで通話が切れ、テラスはGBNで撮影された一枚の写真をスマートフォンの画面に写す。

 

「・・・貴女を失った私達はマスダイバーのいない新しい時代について行けるんでしょうか、マリア?」



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第11話【無理ゲーミッション】

 次の日、ティッシュがGBNにダイブするとそこにははにわザクのポーとエルピー・プルの格好をした水色のポニーテールの少女が待っていた。

 

「待っていたよ、ティッシュ」

「お待たせして、すみません、ポーさん」

 

 ティッシュはポーに頭を下げてから此方を無言で見詰めて来るポニーテールの少女を見る。

 

「あの、此方の方は?」

「ああ。私達の仲間さ。名前はエルピー。

 無口な奴だが、腕は確かだよ。まあ、アレを腕っぷしって言うのか解らないけれどね」

「アレ?」

「まあ、見てからのお楽しみさ。

 そんな事よりも今日は練習がてら、あんたの姉さんが作ったクリエイトミッションをやるとしよう」

「クリエイトミッション?」

 

 ティッシュが尋ねるとポーは「そうだよ」と頷き、彼をカウンターに案内する。

 そして、クリエイトミッションの一つである【新型ガンダムを破壊せよ!】と云うタイトルのミッションをティッシュに選択させる。

 

「本来はクリエイトミッションってのはランク限定にするのが基本なんだが、こいつはフリーランクになっている。

 内容自体は至ってシンプルなんだけど、出来た奴は少ないね。

 まあ、これに成功出来たら、上位ランクにも入れるーーなんてジンクスもあった位さ。

 未だに現役のチャンピオンもランキングTOP10に入ってるよ」

「へえ、俺にも出来ますかね?」

「それはあんたの頭次第さ。もっとも、現役のチャンピオンであるクジョウ・キョウヤですら、トップに至らなかった問題なんだけどね?」

 

 ポーはそう言ってカラカラと笑うとエルピーとティッシュと共に格納庫に入る。

 入って、すぐにティッシュは違和感に気付いた。

 そこにあるのはティッシュの制作したザクではなく、古いフォルムのザクであった。

 それこそ、接着剤を使う頃の旧キットクラスの物である。

 

「これ、ザクですよね?」

「そうだよ。旧キットのガンプラの素組みのザクさ。

 あんたにはこれに乗ってガンダムを倒して貰う」

「はあ」

 

 あまり、ピンと来ないティッシュは取り敢えず、出撃する。

 舞台はどうやら、宇宙世紀らしい。

 

(新型ってガンダムの事かな?ーーあれ?それなら、新型ガンダムじゃなくて新型モビルスーツって書く筈じゃないか?)

 

 首を捻りながらもコロニー内部へと入るとティッシュは周囲を観察する。

 そこには初代機動戦士ガンダムの第1話のような1シーンが再現されていた。

 

 警戒しながら前進するが何かが出てくる気配はない。

 

(? どう言う事だろう?)

 

 警戒するが、一向に何かが出てくる気配のない疑問を抱き掛けた瞬間、ティッシュのザクは突如、爆発し、そのまま、ゲームオーバーになってしまう。

 何が起きたのかなど解らない。

 

 本当に一瞬の事であった。

 

 バトルとも言えないバトルにティッシュは納得が行かず、もう一度、リトライする。

 今度はレーダーやセンサーにも注意したが、気付いた頃にはミッションに失敗していた。

 

 原理も何も解らない。

 間違いなく、これは頭を使う問題なのだろう。

 

 ティッシュはもう一度、リトライし、周囲を警戒する。

 

『そのままじゃ、結果は同じだよ。もっと知恵を振り絞りな』

 

 そう言われてもティッシュにはよく解らない。

 気付いたら、ミッションに失敗していた。

 

 相手がどんなモビルスーツなのかさえも解らない。

 そこでティッシュは、ふと、ある事に気付く。

 

 相手はガンダムなのは間違いないなのだろう。

 だが、自分はいつから、ただのガンダムだと思っていたのかと。

 

 そもそも、新型のガンダムとあった以上、ただのガンダムではないのは間違いない。

 ならば、もっと動いていなければ、やられてしまうのではないか?

 

 そう思い、スラスターを吹かした瞬間、眼前の何かが一瞬、ブレた。

 

「ステルス迷彩!?」

 

 そう叫んだ瞬間、ティッシュは何かに射撃されて再び撃墜する。

 

 そこでようやく、ティッシュはこれがかなりのハードなミッションであると気付く。

 

ーーー

 

ーー

 

 

「なんですか、このミッション?」

 

 結局、攻略しきれなかったティッシュは格納庫でポーに尋ねると彼女は「そう言うミッションさ」とだけ返す。

 

「これ、本当に姉さんが考えたミッションなんですか?」

「そうだよ。種明かしすると旧キットクラスのザクでSEEDに出てくるブリッツガンダムを相手しろってミッションさ」

「それ、ほぼ無理ゲーじゃないですか?」

「だから、突破した奴らは上位ランクに入れる猛者なのさ。

 これはGPD経験者がGBNに慣れる為に行った試験ミッションさ。これで五感を高めるんだよ。

 だから、現役のチャンピオンよりもGPD経験者の方が好成績を残せるって訳さ。

 まあ、それでもトップ10入りしたクジョウ・キョウヤは十二分に凄いけれどね」

「そんな物をいきなりやらされる身にもなって下さいよ」

「ははっ。悪い事したね」

 

 ポーはそう言って笑うと「まあ」と言葉を付け足す。

 

「お蔭であんたの根性が見えたからさ」

「根性ですか?」

 

 ティッシュが問うとポーとエルピーが同時に頷く。

 

「ああ。GPDだろうとGBNだろうと困難な道は何処にでもある。

 それを乗り切るからこそ、ゲームってのは面白く感じるってもんさーーまあ、これは受け売りの言葉だけどね?」

 

 ポーはそう言うとエルピーの肩を叩く。

 

「それじゃあ、あとは任せたよ、エルピー」

 

 ポーの言葉にエルピーが驚きの表情をするが、ポーがそれを気にする様子もない。

 ティッシュもまだ会話すらした事のないエルピーといきなり、一緒にさせられるとあって困惑する。

 

「あの、ポーさん、どう言う事ですか?」

「久々に私も原点に帰りたくなってねーーおっと、安心しな。皇帝の命もあるし、すぐ戻って来るから」

 

 それだけ言うとポーは手を振ってログアウトしてしまう。

 

(ポーさんって悪い人じゃないけれど、掴みどころがないなぁ)

 

 そう思いながらチラリとエルピーを見る。

 無口なエルピーと一緒にされ、ティッシュはただただ困惑するしかなかった。

 

(本当にどうしたら良いんだろう?)



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第12話【チュートリアルで再訓練】

久々に書きたい気分になったので更新です。
放置して三年くらいか、だいぶ時間が経っているな。


「えっと・・・エルピーさん?」

 

 ティッシュが恐る恐る声を掛けるとエルピーは顔だけを動かし、彼の顔を黙って見据える。

 返事を期待したが、エルピーは何も言わないので会話が終わってしまう。ある意味でポーよりもやりにくいかも知れないと思いつつ、ティッシュはポーが戻って来るまで待つ事にする。

 しかし、ポーが帰って来る気配は一向にない。

 

「・・・ポーさん、遅いですね?」

「・・・」

「原点に帰るって言ってましたけれど、もしかしてガンプラを作っていたり?」

「・・・」

 

 エルピーからの返事はないのでティッシュは手持ち無沙汰になり、次第に落ち着かなくなって来る。

 

「・・・あの、まだ時間掛かるようでしたらチュートリアルに行っても構いませんか?・・・もう少しガンプラに慣れておきたいので」

 

 そこでようやく、エルピーから反応があった。

 相変わらず、返事はなかったが首を縦に振り、肯定の素振りを見せる。

 その反応にホッとしつつ、ティッシュはカウンターへと向かう。

 その後ろからエルピーが無言でついて来る。

 

「・・・あの、何か?」

 

 立ち止まって無言でついて来るエルピーに尋ねるが相変わらず、彼女からの返事はない。

 流石に焦れて来たが、ふと、ある考えが頭をよぎり、ティッシュは質問を変えてみる事にしてみる。

 

「もしかして、喋ったりするのが苦手だったりとかですか?」

 

 その言葉にエルピーは再度頷く。それを見て、ティッシュは彼女がわざと無言で自分に返事しないのではないと理解してホッと胸を撫で下ろす。

 どうやら、喋らないのは初対面だからなのもあって上手く喋らないのもあるかも知れないと自分の中で納得し、悪意がある訳ではなさそうである。

 

「良かったら一緒にチュートリアルに行きませんか?」

 

 その言葉にエルピーが初めて表情を崩し、ティッシュはその笑顔を見て、ドキリとして自分の顔が火照るのを感じた。

 エルピーの笑顔はそれだけ破壊力のあるあどけなさと可愛さのマッチした素敵なものであった。

 

(・・・可愛いなあ)

 

 ティッシュはそんな事を考えながらエルピーが喋らない事への不満が落ち着くのを感じた。

 

「そ、それじゃあ、よろしくお願いしますね、エルピーさん!」

 

 ドギマギするティッシュにエルピーは頷くと二人してチュートリアルを受注し、格納庫へと移動する。

 

(──って、あれ?)

 

 そんなティッシュが格納庫へと入ると自分のガンプラの隣に佇むガンプラに首を捻る。

 自分の隣にあるガンプラは無改造なザクⅡ改であった。

 しかもどう見ても素組みであり、技術面で言えばティッシュより下に思えた。

 

「えっと、これがエルピーさんのガンプラですか?」

 

 念の為に本人に確認するとエルピーはコクンと頷く。

 

「えっと、エルピーさんも出戻りか何かなんですか?」

 

 ティッシュが再度、質問するがエルピーは首を横に振ってから初めて口を開く。

 

「・・・これが私のガンプラ」

「──っ!? そ、そうなんですね!?」

 

 改めて、エルピーから響いた声を聞いて、ティッシュは再び顔が熱くなるのを感じた。

 抑揚はなかったが、エルピーの容姿を表すかのような中性的な女性の声で何処かあどけなさの残る声であったのでティッシュは彼女が喋らない理由が破壊力があり過ぎるからだと理解する。

 

(なるほどな。容姿だけでなく、中身も可愛いから喋らないのか・・・納得)

 

 ティッシュは勝手に納得しつつ、エルピーと一緒に各々のガンプラに乗り込む。

 

(・・・あれ?)

 

 自分のガンプラのコックピットに乗り込む際にほんの一瞬、ガンプラに乗り込むエルピーに目をやった時、ティッシュは再び頭の中にハテナが浮かび上がる。

 

(エルピーさんのガンプラの中を一瞬、見えたけれども随分、作り込まれていた気がするなあ。素組みな理由って内部へこだわっているからかな?)

 

 そんな事を思いつつ、ティッシュはエルピーと一緒に出撃するのであった。

 

「・・・エルピー、出る」

「本当に可愛いなあ・・・おっと、ティッシュ!ドズル専用殺人機動型ザク!行きます!」

 

 ティッシュはスラスター加減を調整しつつ、なんとか無事に出撃する。

 

(よし。もう少しで出撃時のバーニア調節のコツは把握出来そうだな。

 あとは練習あるのみって感じかな?)

 

 そんな事を考えつつ、ティッシュはザクマシンガンを構え、チュートリアルでバトルする専用機体との交戦準備に入る。

 そんなティッシュのザクの後方からエルピーのザクが追い掛ける。

 エルピーのザクはバーニアを吹かすでなく、ゆっくりとした足取りで大地を踏み締めて歩き、とてもティッシュの機動力には追い付きそうになかった。

 

「エルピーさん、エリアポイントまで歩く感じですか?」

「・・・この子、飛べないから」

「・・・えっと良かったらエリアまで運びましょうか?」

「・・・重いよ?」

「ガンプラの一体くらいなら大丈夫ですよ。多分ですけれど」

 

 ティッシュはそう返すとエルピーのザクの手を取り、引っ張り上げようとする。

 

 しかし──

 

「えっ?」

 

 引っ張り上げようとした瞬間、機体がガクンと揺れ、ティッシュは困惑する。

 エルピーの言う通り、彼女のザクはティッシュが思うよりも遥かに重かったのだ。

 

「──え?え?どうして?」

「・・・ギミックを詰め込み過ぎて通常のガンプラより重いの、この子」

「いや、だからって、この重量はなんだかおかしくないですか?

 なんだか鉛でも入っているような重みを感じましたよ?」

「・・・今度、教える」

 

 ティッシュは仕方なく、エルピーの機体から手を放すと1人で先にチュートリアルポイントに入る事にする。

 元々、自分の練習に彼女を誘ったのでエルピーが悪い訳ではない。

 それにただの素組みにしては重量がおかしかった。

 彼女の言うように何らかのギミックがされているのだろう。

 そう思いながらティッシュは機動型ザクに慣れる訓練を開始するのであった。

 

 ティッシュの操作技術は確実に少しずつ上がっていた。

 しかし、戦闘技術と絡めるとやはり、まだ爪が甘かった。

 

 射撃の回避でスラスターを使用する際に想定より踏み込み過ぎて機体が振り回されるし、その後の姿勢制御での硬直を踏まえると回避後の次の回避に手間取ると言った感じである。

 

(もう少し機動力を低下させるべきかな?・・・やっぱり、ピーキー過ぎてしまったかも)

 

 そんな事を考えながらティッシュはCPU相手になんとか勝利するのであった──とは言ってもまだまだ本当に実戦で使用するにはいまの機動力維持しつつ、ヒット&アウェイをものにする。

 これがティッシュの次の課題であった。

 

「うむむ・・・困ったぞ」

「・・・リミッターをセットしたら?」

 

 悩むティッシュにそう告げたのはエルピーである。彼女は続けた。

 

「ガンプラの出来は確かに初心者とは思えない出来だと思う。

 でも、機体のスピードに振り回されて本来のポテンシャルを発揮出来ていない。

 なら、ヅダとかみたいにリミッターを付けるとティッシュさんも安心出来ると思う」

「・・・成る程。ずっと、このスピードに慣れる事だけを考えてましたから、リミッターを設定するのは盲点でしたね」

「少しずつ慣れて来てから、本来のスピードに慣れれば良い。そうすれば、ガンプラも答えてくれるから」

 

 ティッシュはエルピーの言葉に頷くとしばし考えた後にエルピーに照れたように笑う。

 

「・・・えっと、エルピーさんが色々と話してくれるようになって良かったです」

「──っ!?」

 

 そう告げた途端、エルピーが耳まで真っ赤にして照れているのを隠すように脱兎の如く逃げ出してしまう。

 

(・・・くそっ。本当に可愛いな。本当に俺よりも歳上なのか?)

 

 そんな事を考えながらティッシュはメッセージを開く。

 相手は自分の姉であるテラスからであった。

 

「姉さんからですね。ご飯の準備が整ったから早く戻って・・・って、もうそんなに経っていたのか」

 

 ティッシュはウィンドウメッセージを閉じ、恥ずかしがるエルピーに軽く手を振る。

 

「エルピーさん、また今度」

「・・・うん。またね?」

 

 こうして、有意義な時間を過ごし、ティッシュはGBNからログアウトするのであった。



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第13話【覇軍の過去】

 ──それから数日間、ティッシュはチュートリアルで納得のゆくまで訓練を続けた。

 

(リミッターを設けるだけで、こんなに違うものなのか・・・これなら俺でも上手く扱える筈)

 

 ティッシュの安定し始めた操作に機動型ザクが呼応するように正確にエネミーを撃破する。

 あれだけ操作などで苦戦していたのが嘘だったかのようにティッシュの技量は上がっていた。

 

(よし。これなら足を引っ張ったりしないで済むだろう。

 そろそろ、フォースに入る為にポイントとか貯めたいところだなあ)

 

「お~い、坊主」

 

 次のステップを悩んでいると以前、彼を誘ってくれたジオンのスーツを身にまとった男性に会う。

 

「あ、あの時のおじ──おっさん!」

「相変わらず、チュートリアルで訓練しているのか?

 だいぶ、動きが洗練されて来たじゃねえか?」

「まだまだですよ──じゃなかった。まだまだ、こんなもんじゃねえぜ!」

「ロールについてはまあ、及第点だな。まあ、坊主は根っからの真面目タイプみたいだし、ロールってのが、なかなか難しいのかも知れんがな」

 

 ティッシュが困ったように頭を掻いて笑うと彼にロールを教えてくれた年輩のジオンスーツの男性が改めて自己紹介をしてくれる。

 

「覚えているかは解らんが、俺の名はアタリメって言うんだ。

 まあ、周りの連中からはおっさんって呼ばれているがな」

「ティッシュです。改めて、宜しくお願いします、アタリメさん」

「そんな改まって呼ぶのはやめてくれ。こそばゆくなっちまう。

 前のロールみたく、おっさんで構わんさ」

「わかりました。アタリメのおじ──おっさん」

 

 アタリメと名乗る男性アバターは「本当に真面目な奴だな」と呟くとティッシュをバトルに誘う。

 

「そろそろ、チュートリアルで訓練するのにも慣れた頃だろう?

 今回はあの時、組んでいた嬢ちゃんはいないが、また別の奴を誘ってある。チームバトルってのも初めてだろうたからな。

 まあ、何事も経験ってもんだ」

 

 アタリメはそう言って豪快に笑うとティッシュに改めてフレンド登録を申請する。

 ティッシュも笑って頷くと改めて、アタリメとフレンド登録をするのであった。

 

「よし、これでまた一緒に組もうじゃねえか。

 坊主の腕もだいぶ上がって来たようだし、これから面白くなるぜ。

 そう言えば、坊主はもうフォースは決まっているのか?」

「え?ええ。知り合いの紹介で良ければって事で」

「ふむ。そうなのか。まあ、無理にフォースに誘うのも気が進まんしな。

 因みになんてフォース名だ?」

「確か・・・進撃の覇軍でしたか」

 

 フォース名を口にした途端、アタリメの笑みが凍りつく。

 

「・・・坊主。悪い事は言わん。考え直せ」

「え?」

「進撃の覇軍ってのはブレイクデカールを違法と知っていながら使っていたフォースの一つなんだ。

 坊主みたいに楽しくガンプラバトルを楽しんでやっている奴が入る場所じゃねえ」

「・・・アタリメさん。以前にお会いした時にブレイクデカールの件を渋ってましたよね?

 改めて、教えてくれませんか?・・・ここだけの話ですが、身内に関係のある話ですので」

 

 アタリメはティッシュの真剣な眼差しにしばし考え込むと解ったと頷く。

 

「原理については俺も詳しい訳じゃねえ。

 だが、GBNのデータ干渉に深刻なバグを植え付けて飛躍的に能力を上げる──所謂、チートの類いだ」

「・・・」

「しかもこのデカールは使用しても違法した痕跡をGBNのデータに残さねえ──となりゃあ、バトルで負け続きの奴や勝ち負けに拘る奴なんかが必然的に欲しがっちまう。

 それによってGBNはバグが大量発生してシステムが崩壊寸前にまでなっちまった。

 ビルドダイバーズの加入した有志連合が結束されるまではな。

 こいつもどういう原理かまでは詳しい事は知らねえが、ビルドダイバーズのリクって奴の活躍でシステムは何故か回復した。

 いま思えば、あれがELダイバーの影響だったのかもな」

「エルダイバー?」

「GBN内の思いの塊みたいなもんだ。当初はGBN内に生息するバグの類いとして公にされた。

 その時に有志連合をまとめていたチーム・アヴァロンとビルドダイバーズが決別してな。

 結果は有志連合の勝利になる筈だった──が、今回はビルドダイバーズの思いが勝った。

 そんでもって、それから数年して、また色々とあってな。

 いまのGBNってのはそのELダイバーと言う電子生命体とGBNアバターの溜まり場になった訳だ。

 まあ、この辺りは坊主に関係あるか解らんが、進撃の覇軍ってのは、そのブレイクデカール絡みでひと悶着あったフォースの一つって訳だ。

 毒を以て、毒を制すなんて、ことわざがあったが、それをしちまった事で姿を消したのが、進撃の覇軍ってフォースさ。

 ブレイクデカールを潰す為に自分らもマスダイバーになってブレイクデカールで報復する負の連鎖に囚われた悲しい業を背負った連中さ」

「・・・それが、覇軍・・・姉さん達はそんなフォースを立ち上げていたのか」

「信じられんのも解る。だが、こいつはニュースでも話題にもなったくらいだ。

 過去のニュースを遡れば、その時の事がいまでも閲覧出来るだろう」

 

 浮かない顔をするティッシュにアタリメは「話はおしまいだ」と告げる。

 

「まあ、どうするかは坊主次第だ。流石の俺にも坊主に正しい道ってのを示してはやれそうもねえからな。こいつについては一人でじっくり悩む事だ」

「はい。教えて頂いて、ありがとうございます。

 確かに身内が──あんなに優しい姉さんやポーさん達がそんな事をしていたなんて言われて、未だに信じられません。でも、だからこそ、きっと何か理由があると思うんです」

「・・・そうか。まあ、坊主にも何か理由があるみたいからな。それなら尚更、なんかあった時の為にバトルの経験は必要だろう?・・・話が逸れちまったが、今回はバトルに誘うのが目的だからな」

 

 そう言ってアタリメはティッシュをバトルに誘うのであった。




次回より募集したアバターさんとガンプラが出ますので宜しくお願い致します。
次回もガンプラファイト!レディ・ゴー!


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第14話【マルチバトル・1】

今回は顔合わせ。募集されたガンプラについては次回に触れます。


「改めて、紹介する。こいつがチュートリアルで訓練ばかりしていたティッシュって坊主だ」

「ティッシュです。宜しくお願いします」

「おい、坊主!ロールロール!」

「あ、すいませ──げふんげふん!

 よぅ!俺がティッシュだ!宜しくな!」

 

 アタリメさんに指摘されないとついつい、ロールを忘れてしまう。アタリメさんも俺を思ってロールするように注意してくれているのであんまり、素を出すのはいけないな。

 

「まあまあ、アタリメさん。ティッシュって子もまだまだ初心者みたいだし、ロールについては慣れてからでも良いんじゃないかしら?」

「そうもいかんだろ、サクラの嬢ちゃん。

 こういう素が真面目な奴ほど騙されやすいのがGBNみたいなもんだしよ。

 何よりティッシュの坊主はどうみても初心者狩りの格好の的だろ?」

 

 アタリメの言葉にサクラと呼ばれた女性アバターも「確かにそうね」と肯定する。

 

「はじめまして、ティッシュさん。私はサクラ。宜しくね?」

「はい。宜しくお願いします」

「ふふっ。アタリメさんの心配するようにティッシュさんは真面目そうだし、騙されやすそうな気がするわね?」

 

 微笑むサクラに対し、ティッシュは「そうですか?」と照れたように笑う。

 そんなティッシュにアタリメがこっそりと囁く。

 

「あんまり、気を許すなよ、坊主。こいつ、ネカマだからよ」

「? ネカマ?」

「あら、アタリメさん? ティッシュさんに何かおっしゃいましたか?」

「・・・いや、なんでもねえ。思っていたよりも坊主が何も知らなすぎて困っちまったくらいだよ」

「?」

 

 アタリメは「今度、キチンと説明してやっからよ」とだけ言って他のメンバーを紹介する。

 

「んで、サクラの隣から順にナーナとスパーダだ。

 こいつらもベテランだから色々と参考になるだろうよ」

「ナーナ・C・エイスだ」

「スパーダだ。宜しく頼む」

 

 サクラとは違い、口数少なく、フルフェイスマスクの連邦兵士であるナーナとオーブのデフォルトフェイスのスパーダが答える。

 

「あの、ティッシュです。まだまだ初心者ですが宜しくお願いします」

「・・・本当に初心者なのか? 出戻りとかではなく?」

「スパーダが疑うのも解るが、まあ、その辺りは俺が保証する。実際、ネカマって単語すら解ってなかったろ、こいつ?」

 

 その言葉にナーナとスパーダは顔を見合せ、お互いに頷く。

 

「まあ、おっさんがそこまで言うのなら信じるよ。

 改めて、宜しくな、ティッシュ」

 

 そう言うとスパーダが代表で手を差し出し、ティッシュと握手を交わす。

 

「さて、そうと決まれば、バトルしようか・・・数的にゃあ、もう一人は欲しいが、まあ、ティッシュの坊主が初心者なのを考えりゃあ、これ位のハンデが──」

「なにやら、楽しそうな事をしているじゃないか、アタリメのおっさん」

 

 そう言って現れたのはトテトテと二足歩行で歩いて来る猫であった。

 その猫の姿にはインターネットに少なからず疎いティッシュでも知っている程の有名な物であった。

 

(あれって現場ネコって言うんじゃなかったっけ?

 こんなアバターを使う人もいるのか?)

 

 ティッシュがそんな事を考えているとアタリメが溜め息を吐きながら質問する。

 

「何か用か、ムメイ?」

「連れない事を言うじゃないか、アタリメのおっさん。

 聞こえていたよ、一人足りないとね。

 なんなら、加わっても良いんだよ?」

「悪いが、『厄災の獣』なんて、お呼びじゃねえんだよ」

「本当にそうかな? そのティッシュって彼は覇軍ってフォースに入りたいって聞いているけれど」

「・・・お前、立ち聞きしてやがったのか?」

「傭兵にとって情報は貴重な収入源だからねえ。

 彼が本当に進撃の覇軍に加わるのなら、此方もある程度のデータは欲しい訳さ」

 

 なにやら、不穏な空気が漂う中、ムメイと呼ばれた現場ネコがティッシュを見据える。

 

「決まるのは君だよ、ティッシュくんとやら」

「えっと、よく解りませんが、一緒にバトルしたいのなら構いませんよ」

「おい、坊主!?」

 

 その言葉にアタリメが制そうとし、ムメイが思わず、笑ってしまう。

 

「ふふっ。よく解らない、か・・・考えてないだけなのか、それとも・・・まあ、良い。

 君に敬意を評して最高の戦いをしよう」

「・・・ったく、少しは考えろ、坊主。相手は傭兵なんだぞ?──って、まさか、傭兵がなんなのか解らないなんて言わないよな?」

 

 アタリメの言葉にティッシュは素直に頷いて答える。

 

「傭兵って単語くらいは聞いた事がありますが、GBN内で傭兵のロールしているってだけですよね?」

「まあ、間違っちゃいないが、その考えだと後が怖いぞ?」

「それって、どう言う──」

「GBNの傭兵ってのは確かにロールだ。だが、実際に金を貰って何でもするとんでもねえ奴ってのもいる。

 ムメイはそのとんでもねえ奴の方なんだよ」

 

「バトル中には気を付けろよ?」とアタリメはティッシュにアドバイスすると改めて、格納庫に全員で転移する。



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第15話【マルチバトル・2】

「これがみんなのガンプラか・・・凄いなあ」

「おっさん。ティッシュがまた・・・」

「それだけ、ガンプラが好きなんだ。

 いまはそっとしておいてやれ」

 

 アタリメはそう言うとサクラ達に顔を向ける。

 だが、その顔は今一つ浮かない。

 

「本当にティッシュさんはマスダイバーのいたフォースに入ろうとしているの?・・・全然、違法デカール使う人には見えないけれど」

「そうだな、サクラ。俺もこの道は長い方だが、坊主みたいな奴は本当にガンプラを愛している奴だ。これは間違っちゃいねえだろう」

「だが、ブレイクデカール使っていたマスダイバーのいたフォースに入ろうとしているんだろ?・・・本当に信じて良いのか?」

 

 アタリメとサクラの会話にスパーダが割って入ると険しい顔でティッシュの後ろ姿を観察する。

 

「悪いけれど、さっきの話が本当にそうならバトルを辞退させて貰いたいんだが」

「・・・スパーダ」

「バグがどれだけ深刻だったかはおっさん達だって知っているだろう?・・・そんな事をして来た奴に背中なんて任せられない」

「スパーダくん。ティッシュくんがマスダイバーって訳じゃないんだよ」

「でも、今更、違法したフォースに加わる気でいるんだろ?

 また何か企んでいるんじゃないのか?」

「ちょっとスパーダくん、言い過ぎだよ」

「みんなが危惧している事を言っているだけだよ。

 それに俺はティッシュって奴の事は解らないけれど、マスダイバーだった奴の事は何人も見てきたからな」

「・・・そう、だったな。お前は有志連合でマスダイバーと戦った事のあるダイバーだったものな」

 

 アタリメは思い出したように呟くとしばし、考え込んでから頷く。

 

「お前の気持ちはわかった」

「ちょっ──アタリメさん!?」

「だからよ。本当にこいつがどんな奴が実際にバトってみろよ」

 

 その言葉にスパーダはしばし考え込む。

 

「成る程。語るのなら拳で語れって事か・・・悪くないな」

「まあ、そう言う事だ。ナーナもそれで良いだろう?」

「勿論」

 

 スパーダに共感されたのか、ナーナも頷くとサクラは疲れたように肩を落とし、「男って本当にバカなんだから」と呟いてアタリメを見据える。

 

「わかったわよ。けれども、私はティッシュさんを信じるからね」

「随分と肩を持つじゃねえか、サクラ?」

「まあ、真っ直ぐ過ぎて、ほっとけないからね。

 昔の自分を思い出しちゃうわよ」

「・・・坊主もいつか、ネカマになるのか。想像したくもねえな」

「もう!私はこれでも真剣なのよ!」

 

 ──周りの会話や笑い声を聞きながら、ティッシュはアタリメ達が作ったガンプラを真剣に見詰めた。

 

(本当にみんな、凄い技術だな。アタリメさんのZプラスの改造とか改めて見るとただ凄いだけじゃなくてロマンも感じる。

 サクラさんのザクキャノンは──見た事ないキットだな。

 多分、かなり昔の模型キットを使っているんだろうな。

 こんな昔のキットを使う辺り、サクラさんもなかなかのベテランなんだろうな、きっと・・・これがどんな動きするのか、早く見てみたいな。

 スパーダさんのソードストライクの改造とかも凄い完成度に感じる。

 多分、見た感じ、近接特化なんだろうな。これの間合いに入ったらと思うとゾッとする。

 ナーナさんのガンプラも凄い。

 追加装甲が多すぎて原型をほとんど留めてないけれど、なんだろう?・・・凄い気になるな。

 凄いと言えば、ムメイさんのガンプラもよく解らないけれど、多分、サザビーを使っているのかな?

 あとのベースはなんだろう?・・・気になる)

 

「そんなに見詰められると照れるね」

 

 そう言ってティッシュに話し掛けたのは現場ネコのムメイであった。

 

「皆さん、時間と手間暇掛けているのが解ります。ガンプラの愛がここまで伝わる位です」

「ガンプラへの愛か・・・そう言われると悪い気はしないな」

 

 現場ネコのムメイはそう言うと顔を上げ、ティッシュのガンプラを眺める。

 

「ティッシュくんのガンプラも愛を感じるよ。

 初めて作ったガンプラを動かしたい。戦ってみたい。

 勝ち負けを経験して、もっと成長したい──そんな気持ちが籠められているのだろう?」

 

 ムメイはそう言うと被っていたヘルメットを目深く被る。

 

「だからこそ、知りたいんだ。ティッシュくんがどんな気持ちで覇軍に入るのか・・・我々の脅威をまた持ち出すサイドの人間なのかを・・・」

「ムメイさん?」

「・・・すまない。忘れてくれ」

「・・・いきなり心理戦とはやる事がえげつないな、ムメイよ?」

 

 二人の会話に割って入ったのはアタリメであった。

 アタリメは続ける。

 

「坊主の弱みに漬け込んで躊躇わせるのが目的か?

 既にバトルは始まっているってか?」

「おっと、厄介な相手が来てしまった。では、また会おう、ティッシュくん」

 

 アタリメの登場でムメイが退散するとアタリメはティッシュを見据える。

 

「次の対戦だが、坊主と俺、サクラがチームだ。宜しくな」

「はい。こちらこそ」

「こいつが終わったら、またゆっくり話そうじゃねえか・・・今度はそうだな。また、最初にあった頃の組み合わせで楽しむのもありかもな。

 まあ、あの時の嬢ちゃんはあれから色々と飛び回っているみたいで音信不通だから何時になるかわからないけれどよ」

「・・・アタリメさん」

「おっさんで良いつったろう?──まあ、いまは楽しめや、坊主!」

「はい!」

 

 アタリメの激励にティッシュは頷くと楽しむ事だけを考え、出撃準備を開始するのであった。




バトルチームはティッシュ・アタリメ・サクラVSムメイ・スパーダ・ナーナの組合わせです。
どうなるかお楽しみに。


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第16話【マルチバトル・3】

「ティッシュ!ドズル専用殺人機動型ザク!出ます!」

「アタリメ。Zプラス・ハードライダー・・・出る!」

「スペリオルザクキャノン!出ます!」

 

 ティッシュ、アタリメ、サクラの三人はまとまって出撃すると周囲を警戒する。

 

「アタリメさん、そんなガンプラでいけそうですか?

 その、土星エンジンを二つもつけて分解とかしませんよね?」

「解ってねえなあ。それがロマンってモンよ、サクラの嬢ちゃん」

 

 そんな会話をしている最中、接近警報が表示される。

 

「アタリメさん!」

「解っている!各自、散開しろ!

 まとまっていたら、やられるかも知れん!

 特にムメイのガンプラには気を付けろ!

 何を使って来るか予想せにゃならんからな!」

 

 そんな事をアタリメが叫んだ瞬間、黒い何かが通過する。

 

「うわっ!」

「坊主!?」

「アタリメさん、ダメ!」

 

 スレスレで避けたティッシュのザクにアタリメが叫んで近付こうとしたが、何かに気付いたサクラがアタリメのZプラスを掴んで引き寄せ、そのまま地面に落下して突然の爆発を回避する。

 

 幸い、ティッシュのガンプラは表面が焦げる程度の損傷で済んだが、それを見計らったかのように爆発の煙に紛れてアンカーがティッシュのザクに巻き付く。

 

 アンカーに引き寄せられた先にはスパーダのガンダムSDSが存在し、エクスカリバーレーザー対艦刀を構えたまま、待ち構えていた。

 

「坊主!?」

 

 アタリメが叫んだ瞬間、スパーダのガンプラがティッシュのザクを一閃する──かに思えたが、ティッシュはアンカーの巻き付いた右脚部をヒートホークで自ら切断する事で直撃を辛うじて回避する。

 

 しかし、空振りしたスパーダのガンダムSDSは止まらない。

 半回転した体制がてらエクスカリバーを捨て、ビームブーメランを投げつけて来る。

 ティッシュは上昇する事で直撃を避けるが、戦い方に迷ってしまう。

 

(また実弾の効かない相手か・・・どうする?

 今回は近接戦特化のスパーダさんのガンプラだ。同じ戦法が通用するとは思えないけれど、試すか?)

 

 お互いに対峙して動かない状態が続く中、周囲は周囲で変化があった。

 

「サクラ・・・さっきの爆発はなんだったと思う?」

「おそらく、なんらかのオプションパーツですね。

 多分、スパーダくんのガンプラとは別の機体が存在するかと」

「──だな。一瞬の出来事だったからあくまでも推測だが、ありゃあ、ナーナのスターブ・ジェガンだったと思うぜ」

「なら、ティッシュくんは二体同時に相手しているって事ですか?」

「いや、あいつらはベテランだ。初心者狩りをする奴らとはまた違う。

 二人して積極的に初心者を狙うなんて野暮な事をしないだろう」

「──と言う事は」

「ああ。狙いは俺達だ」

 

 そう告げた瞬間、射撃攻撃がされる。

 

「・・・狙いが単調だ。自走砲の類いか?」

「アタリメさん、来ます!」

 

 サクラがそう叫んだ途端、ナーナ・C・エイスのスターブ・ジェガンが突撃して来る。

 

「あれって機動戦艦ナデシコのブラック・サレナみたいですね──となるとやはり、あれが来るんでしょうか?」

「そう言ったコンセプトを意識して作られているのなら再現して来る奴だって、いるだろうな」

 

 アタリメは警戒するサクラにそう告げるとデュアルビームライフルを構え、射撃で牽制する。

 

「やっこさんの相手は任せろ。サクラの嬢ちゃんは──」

「ムメイさんに警戒しつつ、ティッシュさんの援護ですね?」

「そういう事だ。すまねえが、宜しく頼む」

 

 サクラが飛び去るとアタリメはデュアルビームライフルを捨て、土星エンジンの2基を点火させ、ティッシュの機動力をも上回るスピードでナーナのガンプラに肉薄する。

 

───

 

──

 

 

「ふむ。アタリメのおっさんが動いたか・・・まあ、概ね想定通りと言ったところか」

 

 前線から離れたところでムメイは観察しつつ、手頃な武器が落ちてないかを探す

 このような乱戦時、不要な武器が捨てられるのを計算し、それを有効活用するのも一つの手段である。

 傭兵として武器には選り好みする事はせず、極力現地で調達するのが、傭兵稼業を続ける秘訣である。最低限の情報漏洩はしない。

 

「もうそろそろ、現地調達と行きますかね」

 

 ムメイはそう言うとモノアイを輝かせ、自分のガンプラを起動させる。



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第17話【マルチバトル・4】

(・・・成る程・・・確かにコイツは)

 

 ティッシュの切断したザクの脚部が絡まったアンカーをパージしながらスパーダはザクマシンガンを回避しつつ、頭部のイーゲルシュテインを放ちながら彼を観察する。

 

(装甲の相性的にも戦い方的にも劣勢・・・普通の奴ならこれで挫折する。それなのに諦めずに模索する)

 

「認めるよ。間違いなく、あんたはガンプラと真剣に向き合っている奴だ」

 

 スパーダはそう呟くとロケットアンカーを射出する。

 だが、狙いはティッシュのザクではない。

 

「アンカーにはこういう使い方もあるんだよ!」

 

 そう言ってスパーダはティッシュのザクに向かって回転し、アンカーが絡まった対艦刀を振るう。

 予想していなかった使い方にティッシュは一瞬、迷った。

 それが彼の運命を決める。

 

「うわっ!」

 

 突然の予想外の中距離攻撃に左腕と2基のブースターを持って行かれながらスパーダのガンダムSDSがティッシュの予測落下地点を目指し、突撃する。

 

 その目と鼻の先でスパーダのガンダムSDSは動きを止める。

 

「・・・俺も焼きが回ったか。少々、ティッシュさん──あんたに固執し過ぎてしまったようだ。

 お蔭であんたがどんな奴でどんな気持ちでガンプラバトルやっているか知れたと思う。

 今度は私怨抜きであんたと一緒にチームを組んでみたいな」

 

 スパーダはそう告げると後方のモニターに映ったスペリオルザクキャノンに視線を見据えた。

 

「実弾兵装のザクキャノンがビーム兵器を使う、か・・・旧キットだからって少し舐めていたな。ビームキャノンによる遠距離射撃・・・それも的確にコックピットを狙った一撃とは」

 

 スパーダはひとり呟くと最後にこう言った。

 

「あんな兵装・・・俺もやってみたいけれど、今月足りるかな?」

 

 それを最後にガンダムSDSは沈黙する。

 

「ティッシュさん、だいじょ──」

 

 そこまで言いかけて、サクラは此方に迫って来る敵に振り返る。

 次の瞬間、衝撃が走った。

 

「奥の手は最後まで取っておくのは戦術の基本だ」

 

 そう言ってムメイのガンプラ──ソロモンガンダムはガンダムSDSが残した対艦刀を手にする。

 

「まあ、この程度なら此方の手をさらけ出す必要はなさそうか・・・」

「くっ!このっ!」

「確かに旧キットのザクキャノンが一撃でスパーダくんのガンダムSDSを仕留めるとは思わなかったが、逆に言えば、サクラさんはそれだけの実力があるダイバーって事──能ある鷹は爪を隠すとはよく言ったものだ」

 

 スペリオルザクキャノンは撃破は無理と判断するや否や一斉砲撃を試みる。

 そんなビームの嵐をソロモンガンダムは容易く回避し、旧キット特有の固定されて動かせない胴体を対艦刀で貫く。

 そんなソロモンガンダムに対し、サクラはスモークディスチャージャーを散布する。

 

「・・・今更、スモークを散布した?」

「奥の手は最後まで取っておくって言ってたわよね?・・・それは此方も同じよ」

「ちぃっ!」

 

 次の瞬間、巨大なビームによる砲撃がスペリオルザクキャノンとソロモンガンダムを襲う。

 砲撃したのは半壊したサクラが用意したビッグガンであった。

 そして、それを乗るのは半壊したティッシュのザクであった。

 

「初めて、ビッグガンによる狙撃をしたにしては悪くなかったよ。

 ただ、今回は相手が悪かった、か・・・」

 

 そう呟いてサクラのスペリオルザクキャノンは撃破される。

 そんなソロモンガンダムはと言うと多少の損害はあったもののほとんど無傷であった。

 しかし、ただ無傷と言う訳ではない。

 

「・・・危なかった。ホロスコープシステムでユニットを盾にしていなかったら、流石に俺のソロモンガンダムでも致命傷になっていたかも知れなかった。

 急増コンビとは思えない連携だった──いや、サクラさんのそう言ったエスコートの仕方が上手かった」

 

 そう告げるとソロモンガンダムはユニットに手を伸ばし、ロングライフルを手にする。

 

「故にこれはティッシュくん達の連携に対する最大限の敬意であり、手向けだ。

 また手合わせを願う時、更に強くなっている事を願うよ」

 

 それが最後の言葉となり、ティッシュのザクを乗せたビッグガンをムメイのソロモンガンダムがロングライフルで貫くのであった。



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第18話【マルチバトル・5】

今回の作品のこの話を気分は形而上さんに捧げます。改めて、アタリメというダイバーをお借りさせて頂きまして感謝ですぬ。
( *・ω・)ゞ


「すみません、アタリメさん。負けちゃいました」

「気にするな、坊主。相手が悪かっただけだ」

「確かに相手に負けて悔しいです。でも、まだ終わりじゃないですよね?」

「ああ。坊主の言う通りだ・・・そうだよ。まだ終わりじゃねえ」

「アタリメさん、俺達の思いを託させて下さい」

 

 それを最後にティッシュとの通信が途切れる。

 

「勝負はついたも同然、俺を倒してもムメイさんが残っている。ここまで不利なら降参するのを勧めますけれど?」

「・・・俺もそうするつもりだったんだが、気が変わったよ」

 

 アタリメは静かに呟くとコントローラーを強く握った。

 

「今まで色んな奴から俺のガンプラはやれ欠陥機だの、まともに戦えないだの言われ続けて来た。けれどな、そんな事を言われても男ってのは夢を見ちまうもんだ」

「・・・」

「そんな俺によぉ。あの坊主は託してくれたんだぜ?・・・欠陥機だとか、そんな事を言うでもなく、俺がバトルで勝つ事を託して来やがった」

 

 その言葉に応じるようにアタリメのZプラスの顔がナーナのスターブ・ジェガンを見据える。

 

「降参なんて出来るかよ。最後まで足掻いて戦った坊主やサクラの嬢ちゃんが俺の勝ちを信じているのによ。

 いや、サクラの嬢ちゃんは分からねえ。だが、こんな俺に坊主は託してくれたんだぜ?」

 

 そう告げるとZプラスの2基の土星エンジンが火を吹く。

 

「結果が問題じゃねえ。普段なら呆れられる俺のガンプラに託してくれる奴がいる。

 そんな奴がいるのに不利だからって降参する奴がいるかよ」

「・・・やっぱり、アタリメのおっさんも漢だな」

 

 そう言ってアタリメとナーナは高速機動でのバトルを繰り広げるのであった。

 

───

 

──

 

 

(やっぱり、アタリメさんは凄いな・・・必ず勝って下さいよ。信じてます)

 

「嘘・・・アタリメさんのガンプラがまともに戦っている?」

 

 信じて待つティッシュとは違い、普段のアタリメのガンプラ戦を知る者はそのガンプラバトルに驚き、魅了された。

 まともに戦えないと笑う者もいた。欠陥機だと言う者もいた。

 そんなアタリメのガンプラがたった一人の初心者に思いを託され、いま羽ばたいている。

 ある意味、それは奇跡のような光景であった。

 

 そんなアタリメのZプラス・ハードライダーに対し、ナーナも底力を見せる。

 備えていたアーマーオプションをパージし、アーマーオプションを機雷代わりに爆発させるが、アタリメのZプラス・ハードライダーはそれが爆発するよりも早く通過する。

 その他、用いれるオプションパーツを使い、迫り来るZプラスから距離を取ろうとするが、差は寧ろ、縮まる一方であった。

 

 そんなハイスピードバトルも終わりを迎えようとしていた。

 追加オプションパーツをパージした事でナーナのスターブ・ジェガンは明らかに減速していた。

 そんなナーナのジェガンにアタリメのZプラスのビームライフルが照準を合わせる。

 

(勝った!)

 

 ティッシュはアタリメの勝利を確信し、ソロモンガンダムの事を忘れてそう叫びそうになった。

 次の瞬間、土星エンジンが分解し、アタリメのZプラスは火の玉となって墜落して爆散する。

 

【-battle end-】

 

 そんな電子表示が無情にも表示され、ティッシュはショックを受ける。

 だが、それも一瞬の事で自分達が敗北した事よりも予想外のアクシデントでアタリメがショックを受けていないかの方が気掛かりになり、アタリメに会いに向かう。

 

「・・・アタリメさん」

「わりぃな、坊主。折角、託してくれたのにこんな終わり方になっちまってよぉ」

 

 アタリメは後ろを向いたまま天を仰ぎ、そんなアタリメに対し、ティッシュは告げた。

 

「アタリメさん。ありがとうございます。

 マギーさんの次に声を掛けてくれたのが貴方で良かったです」

「まあ、出来れば、坊主の為に勝ち星上げてやりたがったがな」

 

 アタリメは「ガハハハ」と笑うとティッシュに「すまねえ」と謝る。

 

「ちょっとガンプラで次のアイディア浮かびそうなんだわ。

 少し独りにしてくれねえか?」

 

 その言葉にティッシュは何か言葉を返そうとしたが、結局は何も言えずにその場を後にするのであった。

 そんなアタリメは泣いていた。

 年甲斐もなく、負けた事が心底悔しかった。

 そして、最後まで自分の勝利を信じてくれたティッシュの気持ちが嬉しかった。ティッシュの為にも勝ち星を上げたかった。

 それと同時に自分の気持ちに答えてくれたガンプラと心が通ったような気がして嬉しかった。

 そして、あのような結末で終わった事が悔しかった。

 

 アタリメはそんなぐしゃぐしゃになった感情を胸に独り、男泣きした。

 

 ──こうして、ティッシュの初めてのチームバトルは幕を閉じたのであった。



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第2章【空を目指して】
第1話【人探し】


ここから新章としますので宜しくお願い致します。


「今回は色んな体験が出来ました。誘って頂き、ありがとうございます、アタリメさん」

「なに、良いって事よ」

 

 チームバトル戦後、ティッシュは改めてアタリメに礼を言う。

 皆、それぞれ、自分のガンプラに閃きが浮かんだと言う事で先の一戦でお開きと言う形となったのだ。

 

「アタリメさんのガンプラ凄かったです。結果的に今回は負けちゃいましたが、次は勝てますよね?」

「あたぼうよ!こいつには俺のロマンが詰まっているからな!

 今度はもっと格好良いところを坊主に見せてやるさ!」

「俺ももう少しリミッターに頼りきりにならず、機体性能の限界に挑んでみます」

「その時を楽しみにしているぜ、坊主!」

 

 ティッシュとアタリメが握手を交わすのを遠目に見ながらサクラは考える。

 

(ティッシュさんがあのガンプラの機動力をマスターして、もっと前からスペリオルザクキャノンとコンビを組んでいたら、もっと違う結果もあったかも知れないな。

 今回の敗北で新しいガンプラの案が浮かんだけれども、とりあえず、いまは保留にしておこう)

 

「サクラさん」

「あら、何かしらスパーダくん?」

「今度、ガンプラを見て貰いたいんですが、構いませんか?」

「あらあら、私に惚れちゃった?」

「いえ、そう言うのじゃないんです。あのザクキャノン──旧キットなのにビーム仕様であれだけ撃ってもバッテリー切れとか起こさなかったじゃないですか?

 それにスモークやビッグガンの発想とか、アイディア刺激されちゃいましてね?」

「ああ。そう言う事ね・・・わかったわ。今度、機会があったらガンプラを見てあげる」

「ありがとうございます。それと・・・」

 

 そう言い掛けてスパーダはチラリと握手して健闘を讃え合うティッシュとアタリメのやり取りに視線を移す。

 

「俺もあんな風に信頼し合える関係って言うのを作ってみたくて」

「その気持ちは解らなくもないわねえ。あの二人は違う道を歩いているけれど、目指しているものが似ているもの」

「きっと、これからもお互いを高め合って行く・・・そんな関係なんでしょうねえ?」

「ティッシュさんは真っ直ぐだし、アタリメさんはなんのかんの面倒を見るのが好きだもの。

 相性が良いんじゃないかしら?・・・ちょっと妬けちゃうわね」

 

 サクラはスパーダとそんな会話をしつつ、既にバトルが終了して退席したムメイの存在が気掛かりであった。

 ナーナの方も全力を出し尽くしたのか、満足そうにログアウトしたが、ムメイの方はこの程度のバトルで満足するとは思えない。

 

 恐らく、何らかの形で再度、顔を出してくる可能性もあるだろう。

 それこそ、ムメイが危惧したマスダイバーの再来となるかも知れない進撃の覇軍が再び日の目を見る時にでも・・・。

 

(まあ、いまから心配するような事でもないか・・・少なくともティッシュさんなら大丈夫だろうって言うのはムメイさんも戦った事で理解しただろうし)

 

「ああ。そうだ。坊主に一つ頼み事をしても良いか?」

 

 アタリメのそんな声を聞いて、サクラはそれ以上を考えるのを止めるのであった。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

「・・・えっと確か、この辺りで良かったかな?」

 

 ティッシュはアタリメのメッセージを確認しながら目的の人物を探す。

 

(アタリメさんが俺に会わせたがっていたダイバーって、どんな人だろう?)

 

 ティッシュはメニュー画面を開いて目的の人物がログインしてないかを確認してからカウンターへと向かう。

 

「すみません。大空アカリさんと言うダイバーの方を探しているのですが・・・」

「──GBNアバターを検索──プライバシーポリシーに低触する可能性があります──個人の特定を確認する際、閲覧記録などのデータは録音されますが問題ありませんか?

 尚、仮登録などの方はこの機能をお使い出来ません──以上を踏まえた上で同意確認をお願い致します」

「はい。問題ありません」

「同意を確認。現在、検索中──お待たせ致しました。大空アカリさんは恐らく、空を飛んでいると思います」

 

 

 

「──そら?」



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第2話【レイドボス遭遇】

(──こんにちは。大空アカリです。

 現在、私は厄介事に巻き込まれています)

 

「いい加減、鬼ごっこをやめて、私と遊ぼう?」

 

(ガンダム・ナインボール・ルシファー。

 GBN公式の野生のレイドボス──都市伝説紛いのものだと思ったら、まさか、本当に実在したとは・・・対して、此方は非武装である。

 ガンプラなのに非武装と疑われるかも知れないが、私はただ空を自由に飛びたい思いでガンプラを──アナザースカイを作った訳なので戦闘が目的ではない。

 今日だって、いつものように空を飛んでいただけ・・・だと言うのになんで、こんなマジ物のレイドボスと遭遇するかな?

 いや、探索とかでレイドボスに遭遇するくらい、レアなんだけれども、これは喜ぶべき自体ではない。

 おまけにこのままだと、次のエリアまでこのレイドボスはついて来る模様)

 

「・・・ああ。こんな事なら今日のガンプラ占い、聞いておくんだったなあ」

 

(そんな事をぼやきながら私は戦闘エリアに突入してしまうのでした。マル)

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

 レーダーを確認しつつ、ティッシュはホームで出会ったゲンと共にフィールドを探索していた。

 

「すみません、ゲンさん。初対面なのに人探しとかに付き合わせたりしてしまって・・・」

「気にする必要はないよ、ティッシュさん。

 まあ、アタリメのおっさんにアカリさんの事を頼んだのも俺みたいなもんだしね?」

 

 ティッシュの機動型ザクと並んで飛行するストライクノワールのベースであるペイルライダー・シュルテインの操縦者であるゲンがそう言って笑うとティッシュは彼に質問する。

 

「・・・えっと、ゲンさんはアカリさんのお知り合いか何かなんですか?」

「いや、知り合いって訳ではないんだが、この宙域を拠点にあちこち飛び回っているようだから前から気にはなっていてね。

 ここら辺で見掛けるようになったのは最近だけれど、戦闘エリアでも我関せずって感じで逃げ回ってばかりで戦闘意思が見えないからさ。

 あれはきっと、何かしらの理由があって攻撃出来ないんだろうけれど、その理由ってのが前々から気になっていてね。

 風の噂じゃあ、どっかのフォースが嫌がらせにレイド関連を押し付け役として使っているなんてのも噂も聞くよ」

「故意かどうかはともかく、放っておけないって事ですね?」

「そう言う事。まあ、だからこれはその調査って訳さ」

 

 そう言ってゲンのペイルライダーが静止する。

 

「・・・妙だな。普段なら、この宙域で慣らし運転がてら飛んでいる筈なんだけれども」

「この隣のエリアはバトルフィールドですね」

「本当にレイドボスを引き連れてバトルエリアに向かったのか?」

「確認する必要はあると思います」

「OK。これからバトルエリアに入るけれども、くれぐれも気を付けて。あくまでも人探しが目的だから他の連中を刺激しないように注意してね」

「了解です。急ぎましょう」

 

 機動型ザクとシュルテインは飛行モードのまま、バトルエリアに突入する。

 まさか、この先でとんでもない事が起こっていたなど、この時の二人は知る由もなかった事であった。



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第2話【撤退戦・1】

今回の話は第1章から1日くらいしか経っていない設定なので星龜少将さんからお借りしているサクラのガンプラは第1章に登場したスペリオルザクキャノンになっています。
送って頂いた新しいガンプラの出番はおいおい。


「・・・おいおい。こりゃあ、なんの冗談だ」

 

 通常エリアからバトルエリアに突入したゲンは思わず、そう口にしてしまった。

 現在、バトルエリアは突如、現れたレイドボスによる戦闘が繰り広げられていた。

 

「なんだよ、あれ!?」

「知らねえよ!兎も角、逃げるぞ!」

 

 圧倒的な力を前に撤退するフォースもあったが、レイドボスは止まらない。

 

「さあ!私を満足させてよ!」

 

 レイドボスはストライクフリーダムの改造機らしかった──問題はその圧倒的武装の数々である。

 何をどう、そこまでしたら、あんな魔改造が出来るのかと思える程、大量のギミックが搭載されていた。

 

「・・・あれはまさか、ガンダム・ナインボール・ルシファーか?」

「知っているんですか、ゲンさん?」

「噂程度にね。GBN公式の野生のレイドボスっての噂を聞いている。近年、うちのフィールド辺りで目撃情報があったんだが、こんなところにまでいるなんてな」

 

 ゲンの説明を聞きながらティッシュは固唾を飲む。

 あれはいまの自分にはどうする事も出来ない相手だと言うのは解った。

 しかし、このままと言う訳にもいかない。

 そんな事を考えていると一機のザクキャノンが近付いて来る。

 そのザクキャノンには見覚えがあった。

 

「ティッシュさん?なんで、こんなところにティッシュさんが?」

「サクラさんこそ、どうして、こんなところに?」

「私の方は野良相手にバトルしていたところよ」

「そうなんですね。こちらは人探ししていたらバトルフィールドまで来ちゃいまして」

「そうなのね。でも、いまはこのバトルフィールドもこんな状態だし、悪いけれども撤退するのを手伝って貰えるかしら?」

「わかりました。ゲンさんも構いませんか?」

「乗り掛かった船だ。問題ない」

「二人共、ありがとう。早速だけれど援護をお願いね」

 

 スペリオルザクキャノンに搭乗するサクラがそう告げるとティッシュ達は散開し、撤退しようとする他のダイバーの救援へと向かう。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

 ささらは圧倒的な力を前にして戦慄していた。

 自分のガンプラであるジムベースのガンプラには自信があったが、そんなものを嘲笑うかのように目の前のガンダム・ナインボール・ルシファーは周囲を蹂躙している。

 自分のファンネルのようでファンネルでない剣のようなビットのお蔭で相手が無限に繰り出す複数のGNビットの類いからの被害は最小限に食い止められているが、それもいつまで保つか解らない。

 最早、じり貧の状態にあった。

 

(GNファングにGNファンネルその他諸々・・・どんな神経していたら、これを複数同時に操るなんて芸当出来るのよ!?)

 

 ささらはそんな事を思いつつ、反撃の機会を窺う。

 周囲はガンダム・ナインボール・ルシファーの異常な戦闘力に撤退戦を考えているらしく、弾幕を張って徐々に後退している。

 

(撃破よりも生き残る事が優先、か・・・まあ、相手が相手だし、仕方ないと言えば、仕方ないけれども)

 

「援護する!いまのうちにあんたも撤退するんだ!」

 

 そう言って現れたのはストライクノワールベースのペイルライダーであった。

 レイドボス前の先のバトル中にはいなかった筈なので恐らく、異変に気付いて支援に来たガンプラなのだろう。

 

「・・・他のダイバーの人達の撤退状況は?」

「さっき来たばかりで解らない。いま、連れと一緒に逃げ遅れた奴を探しているところさ」

「なら、私は大丈夫だから他のダイバーを手伝って上げて」

「だが・・・」

「大丈夫。私のガンプラ──じむかばりーもそんなにヤワじゃないから」

 

 ペイルライダーはしばし迷うと後方を向き、ささらのじむかばりーとは別の方角へと飛んで行く。

 

「無茶だと思ったら、救難信号をくれ!必ず、助けに向かうからな!」

「ええ。ありがとう。その時は宜しくね」

 

 ささらは礼を言うとじむかばりーの改造で搭載したサラミス艦の砲台でガンダム・ナインボール・ルシファーに狙いを定める。



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第3話【撤退戦・2】

 ティッシュも上昇して周囲を観察する。

 

「・・・酷いな」

 

 ガンプラは自分の思い描く最強の機体などであるが故にその思いが反映される。

 しかし、一方的過ぎる蹂躙を前にティッシュは言葉を失った。

 

 確かに自分の好きを表現したガンプラなのかも知れない。しかし、その圧倒的な力の前に想いを籠めたガンプラが無慈悲に破壊されるのは憤りを感じた。

 圧倒的な力の暴力・・・それに対して、ティッシュは怒りの感情を覚えていた。

 

 ──そんなティッシュのレーダーに何かが表示される。

 モニターを拡大するとTRー6をベースにしたガンプラが漂っていた。

 

「・・・新手の敵?──此方に交戦の意図はありませんわ」

「安心して下さい。危害を加えるつもりはありません」

 

 ティッシュはそう言ってTRー6を観察する。

 ハイゼンスレイⅡの頭部に背中のブースターも無事そうだが、武装らしい武装はない。

 

「レイドボスとバトルして武装を使い切ってしまったんですか?」

「いえ・・・その、このアナザースカイは元々、非武装でして」

「え?元から武装がないんですか?」

「ええ。私はただ、この空を飛びたかっただけですから」

 

 相手がそう言うとティッシュは目の前のTRー6の改造ガンプラの持ち主が目当ての人間だと確信する。

 

「ひょっとして貴女が大空アカリさんですか?」

「ひぇっ!何故、私の名前を!?」

「えっと、人探しを頼まれていまして──ああっと警戒はしないで下さい。

 先程も言いましたが、此方が危害を加えるつもりはありませんので」

 

 ティッシュはなるべく、相手を刺激しないように言葉を選びながら質問する。

 

「あの、どうして非武装なのにバトルフィールドへ?」

「来たくて来た訳ではありませんわ。あのレイドボスがこの隣のフィールドで現れて、それからずっと狙われてしまいまして。

 振り切る為に逃げていたのですが、こうなってしまったのです。本当にいつも、こうなんですから」

「なるほど。では、噂になっているフォースの嫌がらせとか、そんな理由ではなく、単に逃げていたら、こうなってしまったと?」

「ちょっ──なんですか、その噂!?

 嫌がらせとか、そんな理由では断じて、ありません!?」

 

 その言葉をティッシュは信じる事にした。

 直感だが、相手が嘘を言っているようには思えなかったし、何よりもこんな圧倒的な力を誇示するバトルよりも空を飛びたいと言うだけの想いで籠められたガンプラの方がティッシュにはよっぽど、ロマンを感じさせるのであった。

 

「わかりました。信じます、その話」

「・・・信じてくださるのですか?」

「空を飛びたいから想いを籠めたガンプラ・・・良いと思います。

 ガンプラが自由ならGBNの中でどんな事をしたって自由だと思うんです。

 何よりもこんな風に力を誇示するだけの戦いよりもよっぽど夢が詰まっていると思います」

「・・・そんな事を言われたの初めてかも知れませんね」

「ただ、そうですね──空を飛んでいるだけだとやっぱり、色んな人から狙われると思います。

 今度から何かあったら助けを呼んで下さい。出来る限り、助けに向かいますから」

「戦え──とは言わないんですね?」

「だって、純粋に空を飛びたいから作ったんですよね?──なら、それで良いじゃないですか?・・・アカリさんの夢はアカリさんの夢なんですから」

 

 ティッシュはそう告げるとアナザースカイから離れる。

 

「俺が時間を稼ぎます。その間にアカリさんはこのバトルエリアから離脱して下さい」

「・・・あなた、名前は?」

「ティッシュです。まだまだガンプラ初心者ですが、やれるだけの事はやって見ます」

 

 ティッシュは覚悟を決めるとガンダム・ナインボール・ルシファーに向かって飛んで行く。

 

「あんな風に思いを受け止めてくれる人もいるなんて・・・GBNも捨てたものではないわね」

 

 大空アカリは独り、そう呟くとバトルエリアから離脱を開始する。



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第4話【撤退戦・3】

「なにしているの、ティッシュさん!戻って!?」

「時間を稼ぎます!多分、少しは逃げる時間を維持出来る筈です!その間にサクラさん達も離脱を!」

「人柱になるつもり!?──馬鹿!本当に馬鹿!!」

 

 サクラは頭をガシガシ掻いてから一息吐くと周囲に呼び掛ける。

 

「・・・スモークやジャミングの類いを持っているダイバーは他に誰かいるか?」

「あ、はい。俺が持ってます」

「他には──いないか。もしくは既に戦線を離脱したか、撃破されたか」

 

 サクラはそう呟くとキッとガンダム・ナインボール・ルシファーを睨む。

 

「ティッシュさんのザクを支援する。可能な限り、全員が離脱する事で今回のレイドボスバトルは初めて我々の勝利となる。

 無論、実際のポイントなどにはカウントされないが、これは元々、イレギュラーな事態だ。

 早期対策の為にも我々は情報を持ち帰る義務がある。

 その後、今回のレイドボスバトルは情報伝達後、各フォースが集結し、改めてレイドボスバトルを開始する──以上。質問等がなければ、今作戦を実行する」

 

 サクラはあっという間に場を仕切ると残存するダイバーの撤退作戦を開始する。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

 ファングとビットの中を掻い潜りながら突っ込むなど、ティッシュに出来る芸当ではなかった。

 そもそも、ティッシュにとってビットを相手にした事がなかった。つまり、完全な初見である。

 そんなティッシュにガンダム・ナインボール・ルシファーは容赦する事はなかった。

 

 ファングによる串刺し、背面のブースターの破壊──全てはほぼ、一瞬の出来事であった。

 自分のガンプラなら機動性を生かせば、撹乱くらいは出来ると思っていた。

 しかし、ティッシュの読みは完全に外れた。

 

 それでもティッシュは諦めない。

 レッドアラームが鳴り響き、警告サインが次々と表示される中、ティッシュはなんとかザクを動かし、バズーカの照準を合わせ、発射する。

 

 しかし、そのバズーカの弾丸すらもファングで相殺され、ガンダム・ナインボール・ルシファーには傷一つ付けられなかった。

 

「その程度の攻撃で私を倒せるとでも?」

 

 相手が挑発するような言動を聞きながらティッシュのザクは真っ逆さまに落ちて行く。

 

「通用しないのは解っている・・・けれども、そんな皆の好きを否定するようなガンプラに負けられない!」

 

 ティッシュは地面に激突しながらも続けた。

 最早、ザクに動くだけのエネルギーは残っていない。

 幸い、爆発こそ、しなかったが相手の神経を逆撫でするには十分であった。

 

「ガンプラは自由だ。でも、他の人の自由まで奪うのは間違っている。

 あなたのガンプラはただ強いだけで自分を誇示したいだけのガンプラだ」

「知った口を!ガンプラが自由なのなら私がどんなガンプラを作ろうが勝手でしょ!」

「ええ。確かにそうです。でも、それはガンプラが凄いだけで貴方が凄い訳じゃない。

 貴方は自分のガンプラの強さに酔っているだけの悲しい人だ」

「・・・気が変わったわ。ただの雑魚だから見逃すつもりでいたけれども、貴方はここで始末する」

「・・・」

「《NTーD》起動」

 

 そう言ってガンダム・ナインボール・ルシファーが輝きだし、禍々しいオーラを放ち出す。

 そんな中、ガンダム・ナインボール・ルシファーのダイバーであるルシフが見たのはティッシュのガンプラへの思いであった。

 喜び、悔しさ、怒り──そして、夢。

 

 その中の一つにルシフのガンプラを否定する事への躊躇いも感じ、感情を共有していたルシフにも迷いが生まれる。

 

 刹那、二方向からビームが放たれる。

 それは直撃こそしなかったが、ティッシュを狙うルシフを困惑させるには十分であった。

 それと同時にガンダム・ナインボール・ルシファーの周囲を煙が覆う。

 

「スモーク散布!総員撤退!急げ!」

 

 音声を拾い、ファングを飛ばすもそこにはビッグガンがあるだけで周囲には誰もいなかった。

 気が付けば、自分を迷わせるあのザクの姿もなかった。

 

「・・・あのザクのパイロット・・・面白いわね」

 

 誰に呟くでもなく、セラフは独り、ポツンと呟く。

 逃げる相手を追う気にはなれなかった。これもザクの影響なのかは定かでないが、興味を持つには十分過ぎる理由であった。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

「ゲンさん、ありがとうございます。お蔭で助かりました」

「良いって事よ。だが、そのザクはボロボロだな」

「ええ。俺がもっと上手く乗りこなしていたら・・・」

 

 そんな風に前向きな考えのティッシュにサクラはため息を吐く。

 

「あのね。初見のビット相手に無策で突っ込んだら、普通に撃墜されるから。寧ろ、そのダメージで稼働出来るだけ、まだマシですよ。それよりも、あの言いくるめで相手がよくキレないかの方が冷や冷やしたわ」

「ははは・・・すみません」

 

 ティッシュはサクラに謝ると苦笑した。

 かくて、ガンダム・ナインボール・ルシファーからの撤退戦は作戦通りに上手くいったのであった。



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第5話【運命の歯車】

 撤退戦後、サクラは改めて今回の一件をアタリメに報告する。

 

「──と言う訳です、アタリメさん」

『そうか。相変わらず、坊主は無茶しやがるな』

「そうですね。あの真っ直ぐさは武器であると同時に弱点であるとも言えますね」

『悪いが、今後も坊主を支えてやってくれ』

「それはご自身でされた方が良いのでは?」

『自分の可能性って奴を確かめてみたくなっちまったんだよ。あの時の感触を忘れたくなくてな』

「だから、トレーニングモードで特訓中だと?

 ランキングも2000番台から更に上位にランクインしそうなのも勢いでしたね?」

『鉄は熱い内に打てって奴だ。いまの熱いもんを忘れる前にもっと上を目指したくてよぉ』

「それもティッシュさんの影響ですか?」

『かも知れねえな。だからよ、俺が不在の間、坊主を頼めねえか?』

「仕方ありませんねえ。今回の件は貸しですよ」

『ああ。いつか、オフ会でもあった時に一本付けてやるからな』

「そのいつかがいつになるか解りませんけれどね?──アタリメさんくらいですよ。カマ掛けてネカマだってバレたの」

『俺もネット界隈が長いからな。まあ、オフで会うと色々と困るのはお互い様だろ?』

「まあ、確かにそれは否定出来ませんけれどね」

 

 サクラはアタリメとお互いに笑い合うとメッセージ通知を確信する。

 

「──っと宅配が来るらしいので今回はこれで」

『おう。またな──坊主の事、頼んだぞ』

 

 サクラはそこで通話を切ると一息吐く。

 

(ティッシュさんを頼む、か・・・彼の性格と戦術に合わせるのなら、必然的にいまのガンプラではやや呼吸を合わせ難いな。それにまたレイドボス戦になった時、指揮をする人間が不在の時は私が今回みたく、指揮系統を組み込む必要がありそうだ──となるとやはり、支援系統を強化する必要はあるな)

 

 サクラは独り、ティッシュの数少ないバトルの動画を確認しながら戦術と最適なガンプラを考え込む。

 

(よし。ティッシュさんの成長過程を踏まえ、いまのイメージしたガンプラを試すか・・・)

 

 サクラは納得したように頷くとログアウトし、イメージを模したガンプラ作りに取り掛かる。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

「それじゃあ、フォースの嫌がらせ関連はガセだったんだな?」

「ええ。そうなります。アカリさんはただ、ひたすら空を夢見る人でした」

 

 同じ頃、ティッシュは格納庫でゲンと大空アカリについての会話をしていた。

 ゲンはシン・アスカに似たその顔で考え込むとティッシュに口を開く。

 

「──とは言え、バトル中のフライト関連は知らない連中からしたら問題になるだろう。護衛の一人くらいは必要だな」

「アカリさんと約束した以上、俺が護衛役を引き受けます」

「その時は俺にも一声くれ、ティッシュさん。いつでもって訳じゃないが、元は俺が依頼した事に巻き込んだようなものだしな。少なくともティッシュさんよりはガンプラバトルの経験回数は多いからバトル関連の緊急事態になったら助けに向かうよ」

「ありがとうございます。その時は力を借りると思いますが、宜しくお願いします」

 

 ティッシュはゲンに頭を下げるとゲンは照れ臭そうに頭を掻く。

 

「まあ、色々あったが、結果オーライって感じか・・・問題は俺達が良いけれども、当の本人がなあ」

「そうですね。バトルフィールドでのやり取りですからフレンド登録どころではなかったですから」

 

 そんな事を話しているとティッシュのメッセージ通話に大空アカリから通知が届く。

 

「あれ?アカリさんから通知が・・・でも、どうやって?」

 

 そこでふと、ティッシュは自分が大空アカリを探す為にカウンターを利用した事を思い出す。

 

「もしかして、個人アバターを検索した履歴で此方に気付いたのかな?」

「ああ。成る程──なら、アカリさんとさっきの話を相談するのは可能そうだな。とりあえず、あとは任せたから。

 俺はさっきのレイドボスについて、所属フォースに掛け合って見るよ」

「わかりました。とりあえず、お互いにフレンド登録をしておきましょう」

「オッケー。改めて宜しくな、ティッシュさん」

「こちらこそ、宜しくお願いします、ゲンさん」

 

 二人は握手してから、お互いのすべき事をする為にロビーへと移動する。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

「まさか、あんなレイドボスが現れると思っても見なかったわ」

 

 同時刻、金髪のポニーテールを揺らめかせながらささらは別の格納庫で自分のガンプラを見据えながら独り呟く。圧倒的な力の誇示したガンプラ──名前も知らぬあのザクの乗り手であるダイバーはその存在に否定的であったが、彼女はあの圧倒的な力を持つガンプラに魅了されていた。

 

「・・・次は私が勝つ。どちらの技量が上かを思い知らせてから今度こそ、完膚なきまでに叩く。

 その為にもガンプラをもっと改造しなきゃな。

 私があんなザクごときの技量の持ち主に魅力で負けるとか許さない。

 それをあのレイドボスに思い知らせてやるわ」

 

 誰に言う訳でもなく、ささらは誓いを立てるとアイスブルーとヘテロクロミアのオッドアイを輝かせながら不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

「・・・あのレイドボスは私の獲物よ」

 

 

 

 

 

 ──斯くて運命の歯車は回り出すのであった。



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第6話【平穏の崩壊】

 ──数日後、ティッシュは大空アカリとフライトする為に格納庫で出撃態勢にあった。

 

「準備は良いですか、ティッシュさん?」

「大丈夫です。問題ありません」

 

 大空アカリに訊ねられ、ティッシュは頷きながら答えると二人して格納庫から出撃する。

 今回は大空アカリのアナザースカイに付き合い、飛行すると言った内容であった。

 ゲンの方は所属フォースでレイドボスバトルに向けて準備をしている最中である。

 

 故に今回はティッシュとアカリの二人によるフライトとなった。

 

「こうして、ただ空を飛行するって言うのも良いですね。

 フィールドを改めて観察する機会とか滅多にありませんから。こういうのフィールドワークって言うんですっけ?」

「そうですね。特に空を飛んでいると色々な発見がありますからオススメですよ」

 

 ティッシュと大空アカリはそんな当たり障りのない会話をしながら、空を漂うように飛行する。

 

「アカリさんは空が好きって事はいつかはリアルの空を飛ぶ事とかも考えていたりするんですか?」

「そうですね。いつかはそんな時が機会があれば、実際の空を目指すのも悪くなさそうですわ」

「夢が叶うと良いですね」

「そう言うティッシュさんはどんな夢を持っているんですか?」

「そうですね。俺はリアルだとデザイナーのたまごですので自分のデザインした作品が広まってくれれば・・・このザクもそんな思いを込めて、デザインしました」

「ああ。だから、市販で売られていた本物のドズル専用ザクとデッサンが若干、異なっているんですね?

 そうなるとティッシュのザクの仕様って本当に普通のザクからデザインしたんですか?」

「ええ。通常のザクⅡF型に墨を入れて、過去のゲームで使用されていたドズル・ザビ専用ザクのデザインを見よう見真似でペイントしました。

 だから、このザク自体も性能面では普通のザクとそんなに違いはありませんよ」

「そんなザクでいままで戦って来たんですね?」

「やっぱり、ザクが好きなのもありますが、初めて自分で作ったガンプラであり、作品ですから思い入れも強くて・・・いまのところ、このガンプラでバトルしてのは勝ち星はありませんが、俺は勝ち負けよりも全力出し切れるかどうかの方が重要かも知れません。

 そりゃあ、このガンプラで勝てた方が嬉しさも違うかも知れませんし、負ければ、やっぱり悔しいです。

 けれども、だからこそ、俺はこのガンプラで一緒に成長して行きたいって思うんですよ」

 

 そんな風に自身のガンプラに対する思いを打ち明けるティッシュに対して、大空アカリは羨ましく思う。

 

「本当にティッシュさんは真っ直ぐな人なんですね。

 そんなティッシュさんだからこそ、色々な人が支えてくれるんでしょうね」

「たまたま、巡り合ったGBNの人達が皆さん、良い人だったってだけですよ。

 もしも、アカリさんがそう思うのなら、そんなGBNのダイバーの人達のお蔭で俺も成長出来ているのかも知れません」

 

 二人はそんな会話を楽しみつつ、フライトを心行くまで楽しんだ。

 

 エネルギー残量が残り僅かになり、格納庫に戻ると大空アカリはティッシュに頭を下げる。

 

「今日はフライトに付き合わせてしまって、すみません。

 お蔭で普段とは違う体験が出来ました。

 また機会があれば、一緒に空を飛びながら、お話しましょう」

「はい。その時は是非。今度はゲンさんとも一緒に飛びましょうね」

 

 ティッシュはそう応じるとログアウトする。

 

「・・・ふぅ」

 

 ティッシュこと岩戸は一呼吸置いてから専用ゴーグルを置いて背伸びをする。

 

「岩戸。ご飯が出来たわよ」

「わかったよ、姉さん。いま向かうね」

 

 岩戸はドアを開き、居間へと向かうと姉の作った料理を見て喜ぶ。

 

「今日はハンバーグなんだね?」

「ええ。今日は粗挽き肉が特売セールで安かったの」

「そうなんだね。それにしても姉さんの手作りハンバーグなんて久し振りだなあ」

 

 そう言いながら岩戸は食事の準備をはじめる。

 ご飯をよそり、お互いに席に座ると「いただきます」と言って、二人きりのささやかな食事の時間を楽しむ。

 

「──ねえ、岩戸。こんな時に言うのもなんだけれど、姉さんもGBNを再開しようと思うの」

「え?じゃあ、姉さんと一緒にGBNで楽しめるの?」

「そう言うのとは少し違うの・・・もしかすると私は岩戸に嫌われてしまうかも知れない」

「それって、どう言う──」

「岩戸にだけは伝えておくわね」

 

 次の姉であるテラスが口にした言葉に岩戸は言葉を失い、手にしていた箸を落とす。

 

 

 

 ──次の日、GBNで大々的に進撃の覇軍による宣戦布告が公にされる。

 

「我々はブレイクデカール以上の改造ツールを手に入れる事に成功した。

 GBN内で虐げられ、敗北で苦しんで来たダイバー達よ。

 我が軍門へと下るならば、今一度、かの栄光を約束しよう」

 

 このニュースにより、運営側に批判が殺到する。

 そんな中、GBNのトップであるクジョウ・キョウヤもまた公に進撃の覇軍へ宣戦布告する。

 

「これは過去からの挑戦状であり、我々が一致団結して乗り越えなくてはならない試練だ。

 ブレイクデカール以上の脅威がどれ程のものかは皆も知っての通りだろう。

 これは運営側だけの問題ではない。我々は今一度、有志連合を結成する次第だ。故に皆の力を貸して欲しい。

 全てはGBNに生きる全ての為に・・・」




種も仕掛けも用意しておりますが、人によっては次回から不快に感じるかも知れません。ご注意下さい。


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第3章【衝撃のZaku】
第1話【結成】


 皇帝は黒と金のカラーリングの魔殺駆を背にニュースやネットの批判などを見据える。

 

「これで後には退けないね」

「このフォースは私達のフォース。最後まで付き合う」

「・・・ありがとう、二人共」

 

「「全ては皇帝の為に」」

 

 三人はそんな会話をしつつ、軍門へと下るダイバー達を見やる。

 

「我が軍への参加者には元マスダイバーだった人間もいる」

「構いません。寧ろ、これからを考えるのならば、そう言った人間が我が軍門に下る事を喜ぶべきでしょう。ピックアップを忘れないように」

「はっ!」

「──エルピー。あなたには苦労を掛けます。戦闘時は手筈通りに」

「御意」

 

 皇帝は黒い和装の裾を翻しながら真っ直ぐにこれから先の事を覚悟する。

 

「我が向かうは覇道なり。我が前に立ち塞がる武士達よ。

 その目に我が生き様をしかと焼き付けよ」

 

 皇帝が断言した瞬間、魔殺駆から黒いオーラが溢れ出す。

 知る者がいたら、その輝きを恐れただろう。

 そのオーラはブレイクデカールの輝きに酷似した現象だったのだから。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

「今回のフォースバトルは2フェイズによって成り立つ。

 フェイズ1は宇宙からコロニーに侵入するもの、フェイズ2はコロニー内部から今回の首謀者である皇帝を撃破すると言うものだ。

 これに関して質問等あれば、今のうちに聞かせてくれ」

 

 説明するクジョウ・キョウヤの言葉に一人のダイバーが手を上げる。

 

「今回のフォースバトルは無理に行う必要があるのですか?

 火元が解っているのなら、フォース関係者をアカウント凍結などすれば、問題ないのでは?」

「君の言う事は確かだが、これは過去の事例を踏まえたフォースバトルである事を念頭に入れて貰いたい。

 過去のマスダイバーの類いは裏で暗躍し、発見と処置に我々が追い付けなかった。

 しかし、今回の場合は大元となる提供ダイバーとフォースが解っていると言う状況だ。

 運営側はブレイクデカール以上のバグによる処置に対応する為にの準備が必要となる。我々は運営が対応にいち早く対応する為に時間を稼ぐと同時に首謀者を逮捕する──以上だ」

 

 「他に質問があるものは?」とクジョウ・キョウヤが周囲を見渡すと「では、次にこれを見て欲しい」と告げ、フォースサイドの撮影された魔殺駆のスクリーンショットを公開する。

 それを目撃して周囲がどよめく。

 

「そうだ。皆も知っての通り、このガンプラから発せられる黒いオーラはブレイクデカールを使用したものに類似している。

 幸い、未だにバグなどに関する情報はもたらされていないが、似た現象を引き起こし兼ねないとも言い難い。

 つまり、我々が思うよりも事は切迫していると見て良い」

 

 周囲が未だにブレイクデカールの再来にどよめく中、クジョウ・キョウヤは真剣な目でその場にいる全員を見渡す。

 

「いま出来る説明は以上だ。今回も皆の協力を仰ぐ事になるが、また力を貸して貰いたい」

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

「ティッシュくんと言うのは君かな?」

 

 ティッシュは声を掛けられ、目の前の有名人に振り返る。

 

「君の心中は察する。故にそれでも我々に協力してくれた事には感謝している」

「・・・事情は姉さんから聞いています。正直、迷いました。

 でも、だからこそ、俺はティッシュとして姉さんを止めたいんです」

 

 ティッシュの言葉にクジョウ・キョウヤは笑う。

 

「真っ直ぐだな、君は・・・リクくん達と初めて出会った頃を思い出すよ」

 

 懐かしむようにクジョウ・キョウヤはそう言ってから真剣な表情に戻り、彼に一礼する。

 

「故に君にはすまないと思っている。此方の事情に付き合わさる形になってしまった事に。

 今回の一件、互いに全力を尽くそう」

 

 ティッシュにそう告げ、クジョウ・キョウヤは背を向けて去って行く。

 ティッシュも踵を返して外へ出ると待っていたサクラ達を見詰めた。

 

「・・・ティッシュさん、覚悟は出来ているんですね?」

「はい。例え、どんな理由であれ、俺は姉さん達を止めなきゃなりません。

 俺にとって、姉さんはいつも支えてくれる家族です。

 そんな姉さんが間違った道を進むのなら、俺が止めなきゃならないんです」

 

 ティッシュはそう言うとこれまで彼に付き合って来たダイバー達に頭を下げる。

 

 

「お願いします!俺に力を貸して下さい!」



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第2話【再来】

 ──フォースバトル当日。

 

 その日、クジョウ・キョウヤのガンプラの姿はなかった。

 

「どう言う事!?なんで、チャンプの姿がないの!?」

 

 他のフォースが困惑する中、サクラがオープンチャンネルで叫ぶ。

 

「狼狽えるな!チャンプにも考えがある筈だ!

 我々は前日に聞いた作戦通り、実行するのみ!──今回の作戦指揮が出来る者が存在しない、または自信がないのであれば、私が指揮を取らせて貰う!」

「他のフォースに指揮なんて冗談じゃない!」

「それならそれで構わない!ただし、我々の敵はあくまでも同じである事を忘れるな!」

 

 サクラはそう締めるとオープンチャンネルの回線をオフにする。

 

「サクラさんの統率力凄いですね?

 お仕事か何かでやっていたんですか?」

「ネットには色んな人がいるのよ、ティッシュさん」

 

 サクラはモニターに映るティッシュにウィンクしながら、そう濁して返すと敵の数をレーダーで確認する。

 

「敵の数は想定よりも少ないわね」

「問題は数よりも情報が本当なのか、ですか?」

 

 サクラの言葉にゲンが質問し、スパーダが次のように述べる。

 

「もしも、本当にマスダイバーの再来なら狙うのならばコックピットだ。それが難しいなら高威力な火力で粉砕するしかない」

 

 そう述べた途端、緊急警報が発生する。

 そして──太陽が二つに増える。

 

「いまの輝きはまさか、アトミックバズーカ!?

 先行していたフォースは!?」

「・・・ほぼ壊滅です!」

 

 更に緊急警報が発生し、流石のサクラも焦る。

 

「敵味方の入り交じった状態でアトミックバズーカを連続で使用するつもりか!?

 どう言う神経してやがるんだ、このダイバー!?」

「・・・いえ、ただの考えなしと言う訳でもなさそうですわね?」

 

 焦るサクラに対して静かに怒りを込め、パトリシアがモニターを拡大し、損壊しながらも起動する覇軍に参加したガンプラの映像を送る。

 黒いオーラこそ、発してないが、アトミックバズーカの火力に耐えたのだ。

 それは明らかなチート行為であった。

 

「・・・確信しましたわ。覇軍は私の敵ですわ。全力でぶっ潰しますわよ」

「で、でも、アトミックバズーカにも耐える防御力のガンプラにどう立ち向かえば、良いのか・・・」

 

 戸惑う他のフォースのダイバーにパトリシアは「んなもん!知った事じゃねえですわ!」と檄を飛ばす。

 

「マスダイバーは徹底的にぶっ潰しますわよ!

 違法な改造をしたガンプラに私達のガンプラが負けるものですか!

 そもそも、気持ちで負けていたら勝てるものも勝てねえでしょうが!」

 

 そう叫ぶや否や、パトリシアは対マスダイバー用のガンプラであるウォーターシップ・ダウンで先行する。

 そんな中、ティッシュはアトミックバズーカを放ったダイバーに心当たりがあった。

 

「敵味方関係ない・・・まさか、ポーさん?」

「そうだよ、私さ」

 

 ティッシュの言葉にポーが応じるとオープンチャンネルでポーが叫ぶ。

 

「皇帝と戦いたくば、この皆殺しのポーの屍を越えてみせな!

 最もアンタらがこのアトミックデストロイヤーの核攻撃を恐れないのだがだけれどね!」

「核攻撃の連発にチート行為・・・貴様らはGBNを壊す気か!」

 

 それがダイバー達の逆鱗に触れたのか、指揮系統に乱れが産まれる。

 それに気付き、サクラが叫ぶ。

 

「──っ!?相手の挑発に乗って陣形を乱すな!さっきのアトミックバズーカの惨状を見てなかったのか!!」

 

 その言葉に制止する者も入れば、パトリシアのように無視する者もいた。

 

「撃たれる前にぶっ潰せば問題ありませんわ!」

「敵は一体じゃないんだぞ!」

「なら、このまま放置するんですの!?」

 

 互いに食い違う意見の中、ティッシュが動く。

 

「パトリシアさん!」

「あなたはゼロストの時の・・・ペーペーは下がりなさい!」

「いえ!俺も連れて行って下さい!ポーさんを説得します!」

「はあっ!?あなたは何を言っているの!?」

「知り合いなんです!だから、俺が説得します!」

「正気ですの!?相手は敵味方関係なしに核を撃ち込むお馬鹿さんなのよ!?」

 

 そんな事を言っている間に再び緊急警報が発生する。

 そのもどかしさにパトリシアは「どうなっても知りませんわよ!」と叫ぶとティッシュと共にアトミックデストロイヤーへ向かって飛んで行く。

 

「・・・止まりな、ティッシュ。あんたを撃ちたくない」

「ポーさん。こんな事はやめましょう」

「皇帝から聞いているんだろ?──私等はもう止まれないんだよ。それが皇帝の命令なのだから尚更ね?」

「それでも俺はポーさん達を──」

 

 そんな話をしている間にもウォーターシップ・ダウンがアトミックデストロイヤーに急接近し、ジュリアンブレードを振るう。

 そんなウォーターシップ・ダウンに対応する為にポーのアトミックデストロイヤーはバズーカを捨て、ビームサーベルで応戦する。

 

「ティッシュとのお話に夢中で私をお忘れだったかしら?」

「忘れちゃいないさ!ウォーターシップ・ダウンだろ!

 懐かしいガンプラじゃないか!」

 

 アトミックデストロイヤーのザクⅢベースの口からビームを放たれ、パトリシアは距離を取るとお互いに一歩も動かず、睨み合う。

 

「私の前世をご存知な方が敵とはやり難いですわね?」

「その化け物じみた機動力なら重武装のアトミックデストロイヤーじゃあ、分が悪いねえ──とは言え、あんたの方も攻め方に困るだろう。

 なにせ、此方は核武装なんだから。下手に攻撃したら核弾頭に誘爆しちまうかも知れないね?」

「──ったく、これだからチート行為とかするあなた方が大嫌いなんですわ!」

「そうだよ!もっと私達を嫌悪し、憎悪を滾らせな!

 その力こそが皇帝の力となる!」

 

 悪態をつくパトリシアにポーは吼えるとウォーターシップ・ダウンに近接戦闘を仕掛ける。

 

「・・・行きな、ティッシュ」

「え?」

「あんたは皇帝の真意を知っていて尚、敵として、この場に立っている──いや、あんたが敵か味方かなんて、どうでも良い。

 あんたの思いを皇帝に聞かせてやりな。

 結果は変わらないにせよ。あんたらの姉弟の関係に関わるだろうからよ」

「・・・ポーさん」

「もっと別の形で会いたかったもんだ」

 

 ポーがそう呟くとティッシュは二人に背を向けて、一足先にコロニーへと向かう。

 そんなティッシュのザクに覇軍側のダイバー達が砲撃を開始しようとするが、ポーがそれをオープンチャンネルで止める。

 

「そのザクに手を出すんじゃないよ!そのザクのダイバーは皇帝の弟なんだからね!」

 

 その一声に敵からも味方からも困惑の声が上がる。

 それはパトリシアも変わらない。

 

「ティッシュが首謀者の弟?──それは本当ですの?」

「ああ。本当さ。だが、あんたが多分、思っているようなスパイ的な理由で敵対関係の位置にあるんじゃないよ。

 まあ、その時が来たら全部話すよ──もっとも、それはいまじゃないけれどね!」

 

 そう叫んでポーとパトリシアの戦いの幕が切って落とされるのであった。



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第3話【大乱闘バトル】

 先にコロニー内部へと入ったティッシュが見たのは砂塵の舞う砂漠の世界であった。

 その遥か彼方でエルピーが作った素組みのザクⅡ改が12体ほど用意され、その後方に他のダイバーのガンプラが整列しているのをモニターで確認しながらティッシュはその頭上を飛行する。

 

 そんなティッシュにエルピーから通信が送られる。

 

「・・・エルピーさん」

「ティッシュさん。行きたいなら行くと良い。あなたの選択はあなたのもの」

「退いてはくれないんですね?」

「それが私達のフォースだから・・・それが私達が自分で選んだ道」

「・・・そうですか」

「それと一つだけ言っておく」

 

 エルピーはそう告げると恥ずかしそうにモジモジと身をよじる。

 

「その・・・私は何もしない──と言うか、役目は終わっている。あとは皇帝の判断だけ」

「それはどう言う──」

「全ては皇帝の為であり、私達自身の為・・・そして、マリアを忘れない為──その為に私達の道は私達が記す。ティッシュさん、あなたはあなたで皇帝と話し合うべき・・・過去に何があったかを全てを聞いて、ティッシュさんが自分で選択して。願わくば、私達を糧にして自分の道を歩んでいって下さい」

 

 それを最後にエルピーからの通信が途絶える。

 ティッシュはエルピーの言う全ての真相を知るべく、機動型ザクのバーニアを加速させた。

 

 砂漠を越えた次元の歪みの果てでそれは鎮座していた。

 

「・・・来たのね、岩戸──いえ、いまはティッシュだったわね?」

「姉さん。こんな事はもう、やめよう」

「それは出来ないわ」

 

 そう告げると黒衣の復讐者は立ち上がる。

 その背後には黒いオーラを放つ魔殺駆が佇んでいた。

 

「あなたには解る?──このGBNに巣食う負の連鎖のオーラが・・・この力を断つ為にも誰かが人柱にならなくてはならないの」

「・・・どうして、そこまで」

「まだ、あなた以外が来るには時間も余裕もあるし、少し昔話でもしましょうか・・・オープンチャンネルにしてね?」

 

 ───

 

 ──

 

 ─

『私達は元々、GBMからやっていた古参だった。その為、GBMとGBNのあまりの違いに元からいたメンバーは離れていった私達もGBNから早々に離れようとした。

 そんな時だった。あの子に──マリアに出会ったのは』

 

「・・・皇帝。そうか。全部話すんだね。

 あんたがそのつもりなら、私達は皇帝の意のままに」

「こちらを撹乱しようとしても無駄ですわ!

 マスダイバーは徹底的にぶっ潰しますわよ!」

「・・・ああ。そうだ。それでいい。マスダイバーなんてあったらいけないんだ」

 

 憤慨するパトリシアに対して、ポーは独り呟くと突っ込んでいく。

 

 ──核武装をパージしながら。

 

「・・・なんのつもりですの?」

「ねえ。あんた、いまはなんて名前だい?」

「・・・パトリシアですわ」

「・・・そうかい。じゃあ、パトリシア・・・あとは頼んだよ」

 

 そう言って自ら特攻したポーのアトミックデストロイヤーは撃沈する。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

『・・・マリアとの出会いがあったからこそ、私達は変わった。

 GBNという新たな世界で私達は時間を共に過ごし、私達自身もいつしか、この世界での楽しみ方を彼女から教わった。

 マリアがいたからこそ、私達自身が変わるきっかけを彼女から与えられた』

 

 スパーダはビームブーメランを飛ばし、戻ってきたブーメランを射出したアンカーで再度、投擲しながら周囲の状況を他のダイバーに伝える。

 

「こいつらはただの一撃で撃破しないだけの通常ガンプラだ!繰り返す!こいつらはただのガンプラだ!

 落ち着いて撃破すれば、倒せない敵ではない!」

 

 その背後から迫るガンプラにゲンのペイルライダー・シュテルンが割り込んで防ぎつつ、いまの会話について訊ねる。

 

「通常のガンプラって、どう言う事だ?──こいつら、マスダイバーって奴じゃないのか?」

「能力も性能も通常のガンプラだ。ただ、一撃死を回避するなんらかの細工が仕組まれているのは確かだが、マスダイバーのそれじゃあない」

 

 そんな話をしていると所属不明の何かが乱入し、敵味方関係なく、攻撃を開始する。

 

「うふふ。チャンプも面白い事を考えるのね」

「ナインボール?・・・公式のレイドボスがなんで──どわあああぁぁぁーーっっ!?」

「それはね。これが答えよ」

 

 ガンダム・ナインボール・ルシファーに乗るルシフがそう言って回線を運営のチャンネルへとセッティングする。

 

「現在、有志連合とマスダイバーとして公にしている進撃の覇軍で交戦しているバトルが公開されていると思うが、有志連合のリーダーであるクジョウ・キョウヤが訳あって不在であった為、このゲームを途中参加有りに設定し直した。

 無論、これに対しては両陣営からの同意の元、設定をこちらで変えさせて貰った次第である」

 

 そう言ってモニターにアップされたのはゲームマスターであるリガズィであった。

 

「戦闘をしながら聞いて欲しい事がある。まず、はじめに我々、運営は此度の一件について謝罪したい事がある。

 今回の一件──裏で画策したのは運営サイドである。

 正確には今回のバトルは改造ツール対策ではない。運営サイドで試験的に仕様した拡張スロットの配備とそれに伴う特殊スキルの試験だ」

 

 そんな会話でマスダイバー側の陣形が乱れ、他のダイバーのガンプラが攻撃を再開する。

 

「一撃で沈まない事を除けば、通常のガンプラか・・・それなら旨味ってもんがある訳だ」

「リオン。幾ら十倍報酬だからって先行し過ぎるなよ?」

「わかっているよ、コルメさん」

 

 逃走しかけたガンプラに追い討ちを描けるべく、途中参加したダイバー達が乱入するかに見えたが、途中参加組のガンプラはスパーダやゲンの前に立ち塞がる。

 

「これより拡張スロット組の撤退支援に入る」

「ログアウトしたいダイバーはお早めに尚、前歴なしにはログアウトしても十倍ボーナスタイムだよ!

 一機でも撃墜してから報酬貰って帰る事をオススメするってさ。まあ、運営の告知そのままだけれどもね!」

 

 その叫びに周囲のガンプラが騒然となり、このバトルは最早、どちらが敵か味方か判別出来ぬ状態となった。

 

「・・・うふふ。会いたかったわよ、あの時のレイドボス・・・さあ、あの時のザクじゃなくて、私だけを魅せてあげる」

「・・・誰?貴女?前に会った事あったかしら?」

「すぐ思い出させて上げるわ。私の新しく生まれ変わったじむかばりーでね!」

 

 ──かくて、運命の歯車は噛み合い、その旋律を奏で始める。

 



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第4話【負の力】

お待たせしました。いまの書き方にだいぶ慣れたかなと思い、1話更新です。
まだ様子見ですが、これから更なる激戦が繰り広げられる予定となっているので宜しくお願い致します。


「マリアはいまで言うエルダイバーだったと知ったのは公式が正式にエルダイバーの情報を公開した時だった。

 でも、私達はそれ以前にマリアの存在に薄々ながら感付いていた。

 そんなある日を境にマリアは私達の前から姿を消した。

 勿論、私達はマリアの痕跡を探した。

 そして、ある動画で私達は知ってしまった。

 マスダイバーの暴走でマリアがデータの海へ帰ってしまう瞬間を・・・それに呼応するようにそのフィールドには大量のバグが産まれるようになった。

 恐らくはマスダイバーの攻撃でマリアのデータを侵食してバグが広がったと今なら考えられる。私達は彼女の最期を知り、復讐を誓った。

 けれど、どんなにマスダイバーを倒してもマスダイバーはすぐに復活し、悔い改めるでもなく、より強いブレイクデカールに対応して行った・・・日々、進化するブレイクデカールの凶悪性と進化スピードに私達はこのままでは持たないと考えた。

 そこで提案されたのがブレイクデカールを知る為に私達もブレイクデカールを使用しつつ、研究すると言うものだった。

 敵を知り、己を知れば、百戦錬磨と言う諺があるように私達のフォースは研究と言う名目でブレイクデカールを独自に入手し、研究する事となった。

 それはブレイクデカールの脅威が去り、エルダイバーの存在が認知されてからも続いた。

 代償として私達はかつての仲間からの信頼などを失った」

「・・・姉さん。姉さんはやっぱり──」

「ええ。私はガンプラが好き。マリアが好きだったこの世界が好き──でもね、"ティッシュ"。それと同時にあの子を奪ったこの世界の負の力が赦せなかった。裁く事もされずにのうのうと蔓延るマスダイバー達が赦せなかった。そして、どんな理由であれ、そんな奴等と一緒に堕ちていく自分が赦せなかった──でも、だからこそ、私は背負う事にしたのよ。

 かつてのエルダイバー達がそうしたように私と言うダイバーも人柱となって、この世界の怨恨を断つ。

 それこそが私達の贖罪であり、進撃の覇軍が未だに存在していた理由よ」

「だからって、そんなの間違っている!

 みんな、ガンプラが好きなんでしょ!

 なら、昔みたいにガンプラを楽しめば良いじゃないか!」

「・・・ダメなのよ。私達にその資格なんてない」

「そんな事ない!」

 

 そう叫んで近付こうとした瞬間、ティッシュのザクは皇帝の魔殺駆から放たれる黒い衝撃波で吹き飛ばされる。

 

「うわあああぁぁぁーーっっ!!」

 

 衝撃波でコントロールを失いそうになるガンプラを安定させ、改めて自らの姉のガンプラを見据える。

 

「くっ!?姉さん!?」

「・・・あなたにも解るでしょう、ティッシュ?

 私のガンプラから溢れ出ている負のオーラにこれはこの世界の憎悪や嫉妬を吸収しているのよ。あなた達の好きとは違う。あのガンプラには負けたくない。この世界が憎い。なんで自分のガンプラがあのガンプラに勝てない・・・そんな力を吸収し、力とするのが私のガンプラ──覇道の皇帝よ」

 

 そう告げた瞬間、ティッシュはいままで感じた事のないプレッシャーを感じて身動き一つ取れなくなる。

 そんなティッシュの眼前で姉のガンプラ──覇道の皇帝が進化するのを見る事しか出来なかった。

 

「本当はね、ティッシュ。実の弟である貴方にならば、討たれてもいいと思っていた。

 けれども、貴方には私を討つ覚悟もない。きっと優しい貴方の事だから話せば、解り合えると思っているのでしょう。

 でもね、現実は汚いし、狡いのよ」

「・・・ねえ、さ・・・ん!?」

「ワガママに付き合わせて、ごめんなさいね、ティッシュ。

 ここから先の事は貴方は何も悪くない。

 ただ資格がなかった。それだけなの。

 けれど、だからこそ、貴方は貴方の信じる道を進みなさい」

 

 ティッシュに皇帝がそう告げ、手をかざした瞬間、覇道の皇帝が動く。

 

「覇軍の皇帝として命じます・・・我が写し身よ。全てを蹂躙なさい。自らが滅せられるその時まで」

 

 その言葉に覇道の皇帝が獣のように吼える。

 そして、ティッシュのガンプラを横切って戦場へと向かう。

 

「・・・う、ううっ」

 

 そんなティッシュは悔しさで泣いた。

 最早、彼女を止める事は自分には出来ない。

 何よりも、あのガンプラの放つ黒いオーラと対峙するのが怖かった。

 それらも含め、ティッシュは完全に戦意を喪失し、1人になったこの何もない空間で泣く事しか出来なかった。



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第5話【それぞれの戦い】

「新しいガンプラの調子はどうだ、クジョウ・キョウヤ?」

「良好だ、ロンメル。少し慣れるのに手間取ってしまったが、彼女のオーダー通りの機体に仕上がっただろう」

「今回のバトル条件──あるガンプラを参考にクジョウ・キョウヤ流にアレンジして参戦するのが条件だったが、まさか、実の弟君のガンプラがモチーフだったとはな・・・これも何らかの心理戦か・・・それとも或いは・・・』

「余計な詮索はそこまでだ、ロンメル。まずはこのバトルにおいて待たせてしまった分を取り返さなくては」

『ふっ。そうだったな』

 

 ロンメルはフッと笑うと自らのフォースに叫ぶ。

 

『第7機甲師団の各隊に告ぐ。これより我々は過去の怨恨を断ち、このバトルに終止符を打つ!総員抜かるなよ!』

「すまないな、ロンメル。私の準備が遅れてしまった為に君に協力を頼んでしまって」

『気にするな、キョウヤ。それに元々、我々にも関係のない話でもあるまい』

 

 ロンメルがそう言って笑うとクジョウ・キョウヤも笑う。

 

「それもそうだな──では、改めて、はじめよう」

 

 クジョウ・キョウヤはザクのモノアイを輝かせると銀色の琉生となってバトルフィールドに顔を出す。

 

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

「・・・」

 

 戦意喪失したティッシュはぼんやりと景色を眺めていた。

 

「・・・全く。こんな所で何をボサッとしているんですの?」

 

 そんな事を呟きながらウォーターシップ・ダウンに乗ったパトリシアが呟く。

 

「・・・パトリシア、さん」

「まだバトルは終わってませんわよ。貴方はケジメも付けずにここでウジウジしているつもりですの?」

「・・・俺に出来る事なんて、ありませんよ」

「んなこたぁ解ってますわよ!」

 

 そう告げたパトリシアはティッシュにも聞こえるようにオープンチャンネルに切り替え、ティッシュに外の状況を聞かせる。

 

『な、なんだよ!?あれ!?──あれじゃあ、まるでマスダイバーそのものだろ!?』

『絶望・・・嫉妬・・・怨み。それが全てが私の力となる』

 

「いま、暴れているこのお馬鹿さんは貴方のお姉様なのでしょう?

 なら、いつまでも、こんな馬鹿な事させてないで、ちゃんと落とし前を着けてきなさいな──その後は私がそのウジウジしたあなたの性根を叩き直して上げますわ!!」

「えっ?──それって何か矛盾してません?」

「細けえこたあ良いんですのよ!

 お姉様を止めたいのか、止めたくないのか、どっちらですの!?」

「は、はい!止めたいです!」

「なら、さっさとこんな場所から出て、バトルの用意をなさい!

 貴方のお姉様を止めますわよ!」

「で、でも、どうやって?」

 

 未だに困惑するティッシュにパトリシアは「んなの気合いと根性ですわ!」と叫んでフィールドを後にする。

 

 そんなパトリシアのスポ根のような言葉にティッシュは笑うと何か得られたのか、少し吹っ切れた顔をする。

 

「気合いと根性か・・・そうだよな。初めから勝負を諦めていたら大切なものも手放しちゃうよな」

 

 ティッシュは改めて、コントローラーを握り締め直すと眼前を静かに見据えた。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

「・・・成る程。少しは歯ごたえのある獲物のようね?」

 

 ルシフは一進一退の攻防を繰り広げるじむかばりーを見据える。

 此方の戦術に対応した対ビーム用防護ファンネルにSマインの形状のビーム攪乱幕、それら全てがナインボール・ルシファーの対策である事を理解した。

 であるならば、白兵戦となるが、此方にもしっかり対応策が用意されている。

 

「認めるわ。あなたは私の獲物に相応しい相手であると!」

 

 ルシフはそう叫んでNT-Dとトランザムの両方を起動する。

 それだけで広範囲のガンプラがダメージを負って爆散する。

 当然、じむかばりーも例外ではなかったが、それすらも想定内だったのか、多少損傷しながらも襲い掛かる。

 

「まだ、そんな手を隠していたなんてね!」

「私への嫉妬に執念が見えるわ。あなたと私は似ているらしいわね?・・・けれども、勝つのは私よ。誰であろうと私を超える事など不可能なのだから」

 

 そう告げるとルシフはNT-Dとトランザムを発動したまま、高機動戦へと突入する。

 

「奥の手は最後まで持つお互い様ね?・・・いそうへんかんげしゅたむうぉーる+みごふぇざーるこーてぃんぐも追加しておいて正解だったわ」

 

 荒れ狂うビームの乱舞を無効化し、じむかばりーのパイロットであるささらはそう呟くと追加武装のサラミス艦の砲撃を開始する。

 圧倒的火力の攻撃と圧倒的な絶対防御による矛と盾の攻防に周囲のダイバーも立ち入れないまでになっていた。

 

 そんな中でまた一機のガンプラが介入する。

 

「楽しそうね?・・・私も混ぜて頂けるかしら?」

「邪魔よ。私の楽しい一時を邪魔しないで頂戴」

「あら?そのガンプラはインプルース・コルニグスがベースではなくて?」

「流石はお目が高い。超ウルトラ限定生産のレアキットをゴーストガンダムなんかでアレンジしたのが、私のガンプラ──フレスベルグさ。それを踏まえて、お嬢様方、私と踊って頂けるかな?」

 

 ルシフが断る理由もなく、世にまだ出てないレアガンプラとの戦いに心を踊らせた。

 そんなナインボール・ルシファーの姿が気にいる訳もなく、レア度で魅せるジークリンデのフレスベルグの存在を許せぬささらが両者を狙う。

 最早、このフィールドは彼女らの独壇場となったのであった。



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