僕の考えたその後のワースト数年後 (madamu)
しおりを挟む
僕の考えたその後のワースト数年後
「チワース」
「おう」
屋上は机や椅子、ドラム缶やソファ、そして壁一面の落書き。
この鈴蘭男子校の王者の指定席であるソファにはロン毛の三年生が寝転びながら小説を呼んでいる。
「長キチ、どうした冴えない顔して」
「どうしたじゃないですよ、一年戦争にうちの中学の奴が顔出したんですが速攻負けたんですよ」
「いくらすった?」
「500円、ちくしょ~」
ジョーさんは器用に文庫本を読みながら俺の話を聞いてくれた。
俺、長野高吉(ナガノタカヨシ)は通称長吉(ちょうきち)で二年生ながら屋上への出入りに何ら文句を言われることがない。
というのも、この地獄の鈴蘭の王者で切り札(ジョーカー)の渾名をもつ、近藤丈一の舎弟分だからだ。
まあ舎弟分といっても近所ブックオフによっては欲しがっている小説を見つけて持ってくることで舎弟扱いされているので義兄弟的な感じではない。
手近な椅子に座りながら話をつづけた。この怒りは誰かに聞いてもらわないと収まらない!
「うちの近所に住んでるヒロキって奴なんですけどね、同じ中学の一個下で学年で一番強かったんですよ。上級生との喧嘩でも負け知らずで」
久々にあったヒロキは身長も俺以上でどっちか先輩か後輩かわからないくらいだった。
そのヒロキが早々に敗退するとはやっぱり鈴蘭の一年戦争は侮れない。
「そりゃそうだろ。ここは鈴蘭だぜ」
その言葉を言ったのはジョーさんではなく、屋上に上がってきたモンさんだった。
鈴蘭でも一二を争う巨漢。高校三年生で190cm110kg近くある。
筋肉質なマッチョマンというよりは、相撲取りをイメージさせる。
これでいて、かくし芸で側転とバク転が出来るのだから鈴蘭三人衆は伊達じゃない。
「ちょっと自分のところで喧嘩が強い程度の奴ならごまんといる。井の中の蛙程度じゃ勝負にならねぇよ」
鈴蘭でも勢力を三分割する一角を担うモンさんが言うと含蓄がある。
一年の頃から勢力を作り、上級生に食い込んだものの転校生のジョーさんに負けてからは、なんというか丸くなった印象もある。
血を流して作った立場なんだろう。
「で、いくら儲けた」
ジョーさんが興味なく聞く。
「1,000円」
ジョーさんに向かって、Vサインを送るモンさん。
「えーもしかしてD組の岩田にかけたんですか」
「あいつは百鬼の特攻隊だ。喧嘩ツエーぞ」
「インサイダー!インサイダー!」
「馬鹿!インサイダーだか、インドのソーダだか知らないが情報収集しとかなかったお前が悪い!」
俺のわめきたてるがモンさんは逆ギレしてくる。
一年戦争の開幕。
今年も鈴蘭には鴉たちがやってきた。
◆
この街のバカで熱い不良たちにも世代交代は起きている。
数年前まではこの街の不良勢力図は「鈴蘭対その他」だったが今は、一昔前にあった「四天王」時代に戻っていた。
以前バイトしていた古川鉄工の社員さん達が元々はこの辺りでも名うての不良だったらしく、黒焚連合結成や四天王の話を聞かせてくれた。
短期バイトで入ったのでこき使われたが非常に気のいいおじさんたちで、昭和の不良が大人になった短気でちょっと口が悪いが真剣に仕事をする人たちだった。
さて今この街の四天王は下記だ。
・阿知川君雄(アチカワキミオ)
鈴蘭の三勢力の一つ。その中でも最小勢力だが結束が高く、本人も三勢力の頭の中では一番喧嘩が強い。本人は「仲間と高校生活が送りたいだけだ」とか言って放課後はサッカーなり野球なりで遊んでいる普通のにーちゃんだが、武装戦線や後述する黒焚との過去の喧嘩で、鈴蘭のトラブルメーカーでもある。
・志村只(シムラタダシ)
慙愧の虎総長。今や50人を超えるこの街最大の族。武装戦線との一種スポーツめいた抗争は有名で、どちらかのチームの代が変わるたびに一揉めしている。志村さんも相当喧嘩が強く、現在の武装戦線の頭である山城さんとタイマンで勝っているらしい。ちなみに山城さんは阿知川君の友達で阿知川君曰く「実力は五分」なので、志村さんが相当強いことはよくわかる。この山城さん絡みで阿知川君とタイマンやって引き分けたので、この三人の実力は伯仲しているのだろう。
・徳田兵(トクダヘイ):通称トクヘイ。
黒焚連合の総長。評判はあまり良くない。が、だがそのあたりに魅力が有ったりする。喧嘩も強ければ抗争も上手い。あの「赤鬼」柴田が率いた竜胆高校もあっという間に傘下に収めている。今は「坊主頭を攻める」といって散発的に鳳仙を攻撃しているらしい。一度だけ話したことがあるけど「誰も出来なかったこの街の制覇をする!それには鈴蘭と鳳仙を取らなきゃな!」
と殴られた。おっかない。あと18歳には見えない。どんなに若く見ても25歳だ。阿知川君とは犬猿の仲で出会うとまずは殴り合う。
・仲條トオル(ナカジョウトオル)
百合南高の2年生。一匹狼を気取っているけど百合南高の頭としてまとめている。どちらかと言うと喧嘩小僧なタイプでトクヘイと仲は良くない。俺が貸したレトロゲームをまだ返してくれない。俺の従兄弟だ。
この四天王を中心に街の不良たちは縄張りだ面子だで喧嘩している。
武装戦線は今は7人のチームで喧嘩もやるがどちらかと言うとバイクチームっぽい。
鳳仙は変わらずスキンヘッドどもがいて、尾双と壁谷というクソ強い、通称「双璧」が頭である鬼頭泰司(キトウタイジ)を盛り立てている。
それ以外にも名門喧嘩チーム「E.M.O.D」やいくつもの高校や族がひしめいているが、我が鈴蘭には勢力を持たないジョーカーがいる。
このジョーカーがいるからこそ、四天王時代でも鈴蘭が不良の中では別格と言えるのだ。
以前にも「強すぎて街の不良から別格扱いされていた」鈴蘭生徒がいた。
古川鉄工の人に聞いたら「リンダマン」と答えてくれたし、ダーツバーで知り合った鈴蘭卒業生の銀次さんは「グリコ」という人が別格扱いだったらしい。
そして今の年代には二人、ジョーカーがいる。
1人は我らが近藤丈一。トクヘイに読んでた文庫本を取られて川に投げ捨てられたことで激怒、その場にいた7人を瞬殺にした。飲み屋街に行きつけのスナックがあって金曜の夜はそこで飲みながら本を読んでいる。
そしてもう1人。ジョーさんよりも一匹狼、屋上ではなく部室の一角を自分用の勉強部屋にして勉強に勤しむ男。
鈴蘭初の「受験をして浪人せずに大学入学をする」を目標に勉強を続ける男。川井卓也。
俺が憧れる知的な男である。
鴉の学校。今年の一年間も荒れそうだ。
何となく、その後のワースト数年後を書きたくてね。
設定説明をチョーキチ君の語りで書いてみました。
目次 感想へのリンク しおりを挟む