MFリリカル・パン屋さん (mom)
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始まりは突然に

衝動に負けましたorz



パン屋の一日は早い。朝の通勤に合わせて、焼き立てのパンを提供する。通りにはこんがりとした匂いを漂わせ、朝の食欲を刺激する。朝の4時を示すアラームを素早く解除し、ベッドから降りる。

 

「おはよう、シーブック」

 

「起こしてしまったか?おはよう、セシリー」

 

 コスモ・バビロニア建国戦争においても二人『シーブック・アノー』と『セシリー・フェアチャイルド』は道を同じくして戦い、木星戦役を戦い抜いた宇宙海賊クロスボーン・バンガードのエース『キンケドゥ・ナウ』、艦長『ベラ・ロナ』であった。宇宙海賊として様々な試練を乗り越え、漸く結ばれた二人は、海賊として名乗った名前を捨て、今こうして地球でパン屋を営んでいる。

 

「キンケドゥ……あ、ごめんなさい、シーブック。まだ慣れないわね、お互い」

 

「セシリー……それはお互い様だ。今はトビア達が頑張ってくれている。それに、俺達はその名とは別れたんだ。ゆっくり直せばいい」

 

 優しく頭を撫でるシーブックに、ありがとうと返事を返す。

 

「子どもたちもまだ夢の中ね。起きる前に焼きあげましょう」

 

 コクッと頷き、店に明かりを燈す。開店して間もないが、巷での評判は上々だ。セシリーの夢を少しでも叶えてあげたい。幸せな家庭を築き、少しずつだが、軌道に乗り始めたこの生活の充実感を二人は噛みしめていた。

 

「ねぇ、シーブック、どこにもいかないでね」

 

 この言葉の裏には、木星戦役時、義手になる原因となったあの時の事を思い出しているからだろう。たしかに俺も無茶をしたとは思う。正直なところ、心配ばかりさせていた。

 

「ベラ……いや、セシリー。お前たちを置いて、どこかに行ったりはしないさ」

 

「ホントにお互い様ね……」

 

 寂しげな雰囲気は一瞬で消え、また母性に満ちた表情に戻ったことには胸を撫で下ろす。お互いが理解していたとはいえ、心配をかけたことには間違いはない。だからこうして、隙間を埋めていくことで、彼女の助けになればと。

 

「っと、セシリー。どうやら起きたみたいだ。後は任せて、様子を見に行ってやってくれ」

 

「もうこんな時間だったのね。後はお願いね」

 

 エプロンを外し、奥へと向かうセシリーを眺め、窯へとパンを入れていく。後は焼けるのを待つだけだ。今のうちに、郵便を確認しようと、ポストへと。中には、小包が1つ。

 

「これは、トビア達か!なになに、お二人のご多幸を祈願して、この宝石を送ります」

 

 手紙と一緒に入っていた、蒼く神秘的な輝きを放つひし形の宝石。手に取り、少し明るんできた空にかざせば、幻想的な色を醸し出す。

 

 

「全く……あいつ達ときたら。ありがとな」

 

 ポケットに仕舞うと、店内に戻ろうとしたとき、何かの違和感に気付いた。

 

「おかしい。まだこの時間なら空は明るくないはずだ。なのに、なんだ、この光は」

 

 空を見渡すと、太陽の明かりではないことには気付いた。だったらこの明るさはなんだと、考える間もなく次の異変に気付く。

 

「暑くなってきてるのか……?」

 

 明るさが徐々に増すと同時に体感温度も上昇していく。これはただ事ではないと。本能は伝える。これは危険だと。だが、人の手ではどうしようもないところまで来ていた。

 

「あれは、まさか!?」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーこれが神の雷だ

 

 

 

 

 

 

 光の柱に包まれたこの地域は跡形もなく蒸発することに。それはシーブック達も例外ではなかったのだが。シーブックが最後に見た光景は、蒼い宝石が光るというなんとも寂しげな瞬間だった。

 

 

 セシリー、どこにも行かないって約束したのにな。悪い、守れそうにない……。

 

 

 

 

 

 

 この日、地球は光の柱によって焼き尽くされることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 様々な想いが今、一つの特異点としてここに集結した。それは様々な世界を繋ぎ改変する。さぁ、お前たちはどうするのか。見せてもらうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 汗ばむ身体に意識が覚醒する。周囲を見渡せば、そこは家のベッドの上。隣にはセシリーの姿が。時刻を見るとちょうど4時。嫌な夢を見たもんだと、身体を起こせば、セシリーもそれに気付く。

 

 

「おはよう、シーブック」

 

「起こしてしまったか?おはよう、セシリー」

 

 

 夢と同じ会話を交わすことになるとはなと、苦笑すれば、二人して、部屋を出る。やることはただ、パンを焼くこと。

 

「セシリー、頑張ろうな」

 

「ええ、シーブック」

 

 工房へ降りた時、二人の足は止まった。異変を確認するために、外へ出た。

 

「ここは……どこだ!?」

 

 地球にいたはずの我が家は何故か町はずれへと家ごと引っ越していた。それに見たこともない風景が周囲には広がっている。

 

 

 

「シーブック、その手!」

 

 言われるままに確認すると、何故か義手が元の自分の腕に戻っていた。

 

「ああ、シーブック……」

 

 泣いて飛びついて来たセシリーを思うに、この手について負い目はあったのだろう。だけど、これはありがたいことなのかもしれないな。

 

「これで、また一段とおいしいパンが焼けるな。それより、ここがいったいどこなのか知ることが大切だ。幸い、向こうに大きい街が見える。後で行ってみよう」

 

 幸いなことに、窯などは使用できる状態だった。移動手段が歩くしかないので、食事用のパンも焼いていく事に。ベーグルとサンドイッチを準備すれば、二人の子どもを連れて、街へと向かうことに。

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ、街に着くという時だった。上空を飛翔する何かが見えた。それにどこかで聞いたことのある音。視線をその物体に合わせると思わず声が漏れる。

 

 

「あれはMS……なのか」

 

「シーブック、でも小さすぎじゃないかしら。あれは、ほとんど人と同じサイズよ」

 

 人型の形状に、あのエンジン音。ただ、俺達の知っているMSは小さくても10数メートルはある。なのに、先ほど見えたMSらしきものは人となんら変わらない大きさだった。

 

「いつの間に、そんな小型化が進んでいたんだ!?それより、早く情報を集めないとな」

 

 困惑する状況をいち早く打開するには確かな情を入手する他ない。二人は子どもを連れ、街へと向かった。

 

 

 

 

 

 街中はこれといった違和感はなかった。家電製品や食糧など。文字も英語のようだが、幸いなんとか苦労はしなさそうだ。とりあえずここがどこなのかを知る事が大切だ。

 

 

「すみません、ここはなんという街ですか」

 

 いかにも旅行で初めてきましたと繕っておけば怪しまれないだろう。通行人の女性もそのように見ているようだ。

 

「ここは惑星ミッドチルダの首都クラナガンから数キロ離れた場所にある田舎町、アークです」

 

「どうもありがとうございます」

 

 セシリーが一礼すると、戻ってくる。しかし聞き耳を立てていた俺にも、その話しは聞こえていた。

 

 

 ここが地球ではないこと。どうしてここに家ごと来てしまったのかさえ見当がつかない。けれど、現実は認めなければならない。目を背けても何も変わらないことを知っているから。

 

 

 

 

「あなたたち、早くこっちへ!シェルターへ逃げるのよ」

 

 

 突如の警報。昔もこんな経験をしたなと、記憶が蘇る。これは何かが来る。記憶はそう告げている。

 

「これは一体なんの警報なんですか」

 

 走り出す女性を追い、疑問を尋ねる。

 

「MFが襲撃してくる合図さ。早く逃げないと巻き込まれちまうよ」

 

 MF……聞いたことがないが、多分、先ほど見かけたあれのことだろうな。このさい詳しく聞くことにしよう。

 

「MFっていったい何ですか?」

 

「あなたたち、そんなことも知らないの!?仕方ないわね、教えてあげる。MF……Magical Frame 魔力をエネルギーとする戦闘用外装。サナリィやアナハイムなどがこれを開発し、魔導師達がこれを使用しているのよ」

 

 どうやら、俺達の世界とは違う技術が発展しているのか?ただ、サナリィなどの名前が出てくる辺り、なにか違和感を感じるな。

 

「色々知らないことが多くて。それよりシェルターについたら色々教えてください。どうやら知らないといけないことが多いようで」

 

 この女性はお節介焼きなのだろう。私に分かる範囲ならなんでもと、心よく了承してくれた。

 

 

 なんとかシェルターへ避難が終わり、シェルター内に設置されているモニターで外の様子を確認する。そこに4機のMFらしき機体が現れる。

 

「あれは、ジェガン!?」

 

 思わず口から洩れた言葉は案内をしてくれた女性にも届く。

 

「あら、良く知っていたわね。そう、あれは管理局が運用しているMFジェガン。少し旧型だけど、バリバリの現役よ」

 

 モニターを食い入るように見れば、確かにジェガンに酷似している。だが決定的に違うのは大きさとその機体の外観。大きさはやはり人並みで、さらにパイロットであろう人物の一部が露出している。

 

「しかし、あれでは人が危険すぎるのでは」

 

 セシリーの想いはもっともだと思う。あれだけ、露出していれば、なにかと致命傷だと思うが。しかし、それも違うようだ。

 

「大丈夫。魔導師はバリアジャケットを展開して、その上からMFを装着するからね。魔導師の人もよっぽどの事がない限り大丈夫です」

 

 

 大丈夫とはいっても、自分達が戦ってきたMS戦は死がすぐ隣いた。その経験があるからこそ、これは危険ではないのかと警鐘を鳴らし続ける。もしかしたら、ここの人たちは平和に慣れ過ぎているのではないのだろうかと。

   

 

 思い耽るなか、一機のジェガンがビーフライフルらしきものを使用した。攻撃対象が現れたということは間違いないようだ。

 

「あれはビームなのか?」

 

「名前はビームですが、あれも魔力でできた砲撃です。MFは魔導師の魔力をエネルギーとして運用します。なので、あれも魔力なんです。ただビームと名付けているだけなんです」

 

 セシリーはどうやらメモを取っているらしい。艦長だったころの癖はまだ抜けてないみたいだな。しかし、残念なことに俺達にできることは無さそうだ。MSならしも、MFという未知の技術。それに魔導師という者にしか扱えないようならば尚更だ。今はその管理局のヘビーガンに任せるしかない。

 

 

 

 しかし、期待通りにはいかない。ジェガン二機が瞬く間に撃墜される。命は大丈夫だと信じたいが、次に見えた映像に全てを持っていかれた。

 

「クロスボーン・バンガード……だと」

 

 

 まさかとは思っていたことが現実になってしまった。セシリーを見れば、口元を手で押さえている。

 

 

 よくわからないが、どうやら、俺達が17歳だったころの世界に似ているな。となると……色々と厄介なことも起きるのは間違いない。

 

 

「シーブック、あれ!!」

 

 

 もう一体のジェガンがグレネードの直撃を受けて爆散した。そこには何も残っておらず、人がいた形跡も残っていなかった。

 

 

「死んだのか……」

 

 ぽつりと呟いた声を皮切りに、シェルター内に悲鳴が木霊する。やはり、としか言いようのない事実。この人たちは戦争をしらないのだと。

 

 

 最後の一機がビームライフルを放ち、一体のデナン・ゲーに直撃を取ったかに見えた。だが、そのビームは容易く打ち消された。

 

「ビームシールドが相手じゃ……無理だ」

 

 

 馬鹿なとうろたえるジェガンをよそ眼に、ビームサーベルを構えたデナン・ゲーが迫る。ジェガンもビームサーベルで対抗するが、どうしようなく、首を撥ねられ、サッカーボールの様に蹴り飛ばされた。

 

 

「こいつはひどい……」

 

「シーブック……」

 

 袖を掴むセシリーを抱きしめ、情報をさらに集める。先ほどまで説明してくれた女性は隅でもどしている。無理もない。人が死ぬ様子を見てしまえばだれでもこうなる。

 

「しかし、この三機のデナン・ゲーはパイロットはいないのか?」

 

 ジェガンのように、魔導師の一部が露出しているようなところは見受けられない。ましてや、俺の知っているデナン・ゲーを人並みまで縮小したようにしか見えない。

 

「もしかして、AIか何かなのか?っと」

 

 三機のデナン・ゲーは無差別に街を破壊し始めた。ビームライフルやグレネードが無数に降り注ぎ、街を焼き払う。

 

 

 シーブックとセシリーは歯がゆかった。自分たちには今、どうすることもできないことに。MSがあれば、すぐにでも撃退できるだろうが、この世界にはどうやらMSなどはなさそうだ。だから現状では、あの三機をどうすることもできないのだ。

 

 

「どうすることもできないのか」

 

 

 壁を殴ったところで、何も変わりはしない。それに合わせるかのように、シェルターも震えはじめる。あの小ささで、これほどの兵器としての威力をもつことには正直怖さを感じた。けど、どうすることもできない自分にも腹正しい。このままでは、同じように犠牲者を増やすだけだ。

 

 

 

 

 

 

「生体反応確認できません。無人機だと確認しました」

 

「了解。射線クリア、いきます!」

 

 

 トリガーの合図と共に、放たれる高密度の魔力。そしてもう一度トリガーは引かれ、同じく魔力が放たれた。それは相手に回避行動も許さず、機体を微塵に破壊した。

 

「二機の撃墜を確認。もう一機が離脱を始めています。大尉!!」

 

 

「了解。逃がさないよ」

 

 

 左肩の複合センサーから、バイザーへとデータが送られる。そこには数キロ先の敵の動きや狙撃に必要なデータが細やかに記載されている。これだけ明細ならば、狙撃も容易いであろう。

 

 

「ターゲット・ロックオン。いっけえーーー」

 

 

 三度目の砲撃が放たれる。それは先ほどまでの二射とは違い、弾速、威力と大きく向上されたものだった。逃げる一機はビームシールドを展開するも、容易く貫通し、爆散した。

 

 

「全機撃墜確認しました。帰還してください」

 

「了解、それと、このロングレンジライフルの修理お願い。今のでショートしちゃった」

 

「試作機なんですから、無茶しないでくださいよ。壊したら怒られるのは私なんですから」

 

「分かってるよ、シャーリー」

 

「分かってるなら、優しく使ってください、大尉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェルターから出た街の人々はすぐに消火活動にあたる。二人もそれを手伝い、なんとか火の手は止まった。けが人はいないが、戦死者はでたのだ。

 

 

「セシリー、とりあえず、家に戻ろう。明日またここに来て情報を集めよう」

 

 それには同感と頷くセシリーと共に、街を後にする。

 

 

 

 

 

 二人が離れた30分後、ジープが2台アークへとやってきた。住民の全員が何の用件なのかは察しが付いていた。

 

「みんな、出来る限りの情報は集めるよ。特に機体についてのパーツは可能な限り回収するんやで」

 

「了解しました」

 

 

 

 古代遺物管理部 機動六課 またの名を管理局独立MF部隊が調査に乗り出した。



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骨の尖兵

「以上で報告を終わります」

 

「よろしい、下がってええで」

 

「はっ。失礼します」

 

 お互いが敬礼を返すと、部下と思われる男は踵を返し退室する。部屋に残る女性の手には、先日の『アーク襲撃』についての報告書が数十枚のレポートが。報告と合わせ、パラパラとめくりながら目を通してはいるが、この量には辟易しているようだ。

 

 

「失礼します」

 

 機械音と共にドアが開く。部屋主に訪問者の姿が映る。茶色のサイドポニーが特徴なその女性は、管理局独立MF部隊きってのエース。

 

「高町大尉、御苦労さまです」

 

「ありがとうございます、八神大佐」

 

 そこに流れる不思議な間。次は頬笑み。

 

「他に人がおらん時は、いつも通りでええよ。なのはちゃん」

 

「分かってはいるんだけど、つい癖でね。はやてちゃん」

 

 お互いのいたずらも終われば、そこにあるのは、戦場など似つかわしくない可憐な二人。だが現実、二人は軍属なのだ。

 

「それより、なのはちゃん。例の新型MFの調子はどうや?」

 

「フレーム自体は今まで以上にいい感じ。機動性も、魔力効率もかなり。ただ、試作のライフルはショートしちゃったけど」

 

 「てへっ」と答えるなのはに、やれやれといったはやて。それもそのはず。このエースにはよく壊す癖があるからだ。

 

「なのはちゃん、ほんまフレームは壊さんといてな。サナリィからの新型なんやから」

 

「分かってる。Fシリーズ90。それにミッションパックの設置で多様な状況に対応できるからね。まだパックは開発中だけどね」

 

 分かってるなら、壊すなと言いたそうなはやてだが、正直なところ諦めているところはある。機体を限界までイジメルことでスペックを越えることを得意とするなのはだからこそ、止めることはしづらい。

 

「程々に頼むで。……さて、これからは真剣な話にしよか」

 

 緊張が走る。これから告げられる内容はおそらく、なのはも理解はしている。だが、今までにない忌々しき事態に直面していることは間違いない。

 

「昨日の交戦記録……当然見てるとは思うけど、まずはあのMF。魔導師がいない完全な無人機やった。二つ目、うちの魔導師が4人亡くなった。つまり、殺傷。そして最後は、あの機体のマーク……骨が交差するあれや」

 

 魔導師が必要としないMF……魔力が必要なMFを無人で運用できるということは、何かこちらの持っていない技術を持っているということ。それに殺傷能力がある……つまり非殺傷など設定されてはいないということ。

 

 

「それにあのマーク。地球の昔に出てきた海賊みたい……海賊たちの尖兵……クロスボーン・バンガード」

 

「あの無人MFの技術を解析出来る範囲でしてみたけど、サナリィやアナハイムとは違う技術体系なのは間違いない。それに今度からそいつらの呼称はそれにしよか」

 

 

 軽く情報をまとめ、スタッフと情報の共有に入る。少数精鋭だからこそ、個人間での情報共有は必須でもある。

 

「はやてちゃん……戦争……だよ」

 

 分かってると頷くはやてにも緊張や不安の色は隠せない。いままで、ミッドチルダを攻めようとした者達は存在しないといってもよかった。だが今回は、こちらにない技術と、明確な殺意を持って戦争を仕掛けてきた。そのことに危機感は十分感じる。命が一瞬で散って行く世界を知らない者が多すぎることに。いや、本当は知らないことが幸せなのだから。

 

「私にも前線で戦える力があればよかったんやけどな……。こっちはこっちで準備を始めるから、なのはちゃん、MF部隊、頼むで」

 

「はやてちゃん……分かった。任せて!」

 

 部屋を後にするなのはを見つめ、一つ溜め息を落とす。今回の襲撃の裏にある大きな組織……クロスボーン・バンガードと名付けたあの謎の無人機を要する組織がどうして攻めてきたのか。今はそれすらも分からない。ただ、このまま待っていても何も始まらない。だから打つ手は打つ。けど……無人機は圧倒的に不利や。

 

 

「もしもし、あっ、私や。八神です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じく、アークから離れた、我が家でパンを焼く二人。早朝にもう一度アークを訪れていた。幸いなことに通貨についての心配はなかった。なんでも、様々な世界の物資が取引されるので、その世界に合わせて瞬時に決算できるシステムが開発されているらしく、地球の通貨も使用可能だ。なので、小麦や水などを買い込み、パンを焼いているところだ。昨日、色々と教えてくれていた女性がちょうど雑貨屋を経営していて、なんでも俺達の焼いたパンを店頭に置いてくれるそうだ。

 

 

「セシリー、行ってくるよ」

 

 

「気を付けてね、シーブック」

 

 

 分かってるよと、手を上げ、バイクにまたがる。これも雑貨屋の女性が「不便だろうから」と貸してくれた物だ。旅行で来たのは実は嘘で少し変なことに巻き込まれた程度に素情を明かしていない俺達にこうまで協力してくれることに、本当に感謝している。そんな彼女にも借りを返していかないとな。

 

 

 

 街まではバイクで10分程度。その間、セシリーが今朝色々と調べてくれた事を改めて思い返すことにした。ここは惑星ミッドチルダと呼ばれる星で、首都クラナガンから数km離れた場所に位置するアークという田舎町。さらにそこから数km離れた場所に俺達の家がある。ミッドチルダという星は聞いたこともない。ただ地球が存在することは、確からしい。だからこそよく分からない部分も多い。その地球は俺たちがいた地球なのか……。それにMSではなくMFとよばれる機体。そして約10年前に俺が体験した世界に似通っていること。

 

「今は考えていても仕方ない。それに、MFは魔導師でないと動かせないからな」

 

 俺とセシリーには魔力がなかった。雑貨屋の女性から、リンカーコアが感じられないと告げられた。別段驚くことではなかったが、言い換えれば、この世界で俺達は戦う術を持たない。別に義賊のように思いあがるわけでもないが、この似通った世界で何も出来ないのは悔しいと、正直に思う。思い返したくもない友との別れ、両親との……それに、セシリーとだって。

 

「……考えすぎだ。とにかくパンが冷めないうちに届けないとな」

 

 思ったより、物思いに耽っていたらしく、アークに到着していた。すぐに雑貨屋へと脚を運び、パンを店頭に並べてもらった。

 

「今回は食パンとあんパンです。牛乳とセットだと美味しいですよ」

 

「おいしそうね、シーブックさん。ねぇ、一つもらってもいいかしら」

 

 もちろん、準備はしてますよと笑いながら、シーブックはあんパンを女性に渡す。それを嬉しそうに頬張る女性を見て、嬉しく思うは焼いた本人だからだろう。

 

 

「これなら売り切れ間違いなしね。シーブックさん、いつでも並べますから、持ってきてくださいね」

 

 満面の笑みとサムズアップが眩しい女性に、「もちろん」と返すシーブック。

 

「お世話になりますよ。そういえば、名前を聞いてなかったですね。よろしければ」

 

「あっ、すっかり忘れてましたね。私はレアリー。レアリー・エドベリです。よろしくね、シーブックさん」

 

 

 ドクンっと胸の音が聞こえるなんて思いもしなかった。まさか、レアリー艦長代行と同じ名前の女性だなんて。それに顔はあまり似ていない気がする。流石に10年も前のことを鮮明に思い出すことはできない。だが……もし思いちがいでないならば、この先起こる事は……。

 

 

「レアリーさん、この街に博物館や学校はありますか?」

 

「ええ、工業系の高校と古いMFや戦車とかいった古典的な展示物を置いてある博物館が。急にどうしたの?」

 

 やっぱりか……けれど、俺にはどうすることもできない。ただ、そうならないように願うだけだ。

 

「いえ、ありがとうございます。少し、散策をしてから帰ります。また明日、パンを持ってきますから」

 

 そういうと、店を後にするシーブックの後ろでは、「またね~」と手を振ってくれている。「俺の知っている彼女とは違うな」と呟きながら、その足は博物館へと。

 

 

「これは、あのときのタンクじゃないか」

 

 入口の正面に展示されるのはMFなのではなく大型の戦車。しかしそれは、シーブックの知るあの機体。

 

「ガンタンクR‐44……まさかこいつをもう一度見るなんてな……」

 

 フロンティアⅣでの一件は忘れはしない。こいつでMSとやりあって、友を亡くした。初めて人が亡くなるところをこいつで見たんだから。ここには長くいるつもり無い。すぐに表のバイクに乗り、家への帰路につく。その後セシリーに心配されるくらい俺は疲れ切った表情をしていたようだ。心配かけてすまないと謝れば少し休むとベッドで子どもたちと昼寝を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ宙域から少し離れた暗礁地帯に存在するコロニーが一つ。だがこの暗礁地帯さえもステルスの一部として生み出されたに過ぎない。このコロニーを拠点とするは複合企業集団『ブッホ・コンツェルン』。創設者シャルンホルスト・ブッホは民主主義社会の退嬰を嫌い、貴族による社会運営を理想として考え始めた。そしてその息子マイッツァー・ロナにより『コスモ貴族主義』として貴族精神を昇華し、父の理想国家『コスモ・バビロニア』の建国に向けて行動を開始した。

 

「諸君、この多元世界において、中核をなす時空管理局の退嬰な姿勢をどう思うか。力を振りかざし管理するといった横暴な態度。自分たちの考える正義のためには犠牲もやむなしといった考え。甚だ遺憾である。私はこの腐敗した管理局に変わり、この次元世界に革命を起こす日が来たのだと宣言する。高貴な者がその力を持って、民衆を世界を、正しく導かねばならない。そのために我々は立ち上がったのだ。今より、我らクロスボーン・バンガードは管理局を打倒する」

 

 

 現当主マイッツァー・ロナによって一方的な宣戦布告がなされた。ただ一方的に、だがそれは無謀などではない。それはブッホ・コンツェルンが持つMFの生産ラインと運用方法。魔導師でないと動かせないMFを無人で運用する技術を手に入れたこと。そして……

 

「魔導師でなくても、MFは運用できるところまで来ているのですよ」

 

 紫の髪でくせ毛が特徴的な男、ドレル・ロナ。直接的な血の繋がりは無いものの、マイッツァー・ロナの孫にあたる。ドレルもまた魔力を持ち合わせてはいなかった。だが、魔力がなくてもMFを運用できるクロスボーン・バンガードでは指揮官を担う1人だ。

 

「管理局のMFの数などたかが知れている。ドレルよ、すぐに片付けてこい」

 

 その後ろから無機質な声と鉄仮面の男カロッゾ・ロナ。マイッツァーの息子であり、ドレルの父でもある。

 

「はっ、すぐに片付けて参ります。ザムス・ジェスとドレル大隊、出撃します」

 

 敬礼一つ、直ぐに戦艦へ。それはすぐにミッドチルダへと発進する。

 

「ベラを連れてこい……ただし、殺しても構わんがな」

 

 不敵に笑う後ろに、もう一人。それは同じく鉄仮面をつけた男。

 

「貴様のおかげやもしれんな」

 

「いえ、貴方様のおかげですよ」

 

 表情の無い仮面越しの会話だが底知れる闇を感じさせるに十分だった。この二人が何を考えているのかは、今は誰もしることはない。

 

 

 

 出港してから20分後、ステルス機能を搭載したザムス・ジェスはミットチルダへと降下する。当然、管理局の技術では到底感知することもままならず。

 

 

「腐敗した正義など駆逐するのみ。ドレル・ロナ、UMFベルガ・ダラス、出るぞ。ドレル大隊、全機発進」

 

 有人のUMF3機、そして無人MF12機が母艦より発進した。それはすでにクラナガン上空であった……。

 

 



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管理局襲撃

「艦長、このままステルスを維持。高度を維持したまま、南方へ移動後待機。合図があり次第、回収を頼む」

 

 初老の艦長に後を任せれば通信を終え、カタパルトの合図を待つ。一呼吸置いて、グリーンシグナルが点灯された。

 

「これがクロスボーン・バンガードの力だ。いくぞ」

 

 ドレルからの命令により、有人機がそれぞれ三機の無人MFデナン・ゾンを引き連れ行動を開始する。小隊の一つはアークへ。もう一つはクラナガン周辺に。最後に、ドレルはクラナガン中心へと。

 

 

 

 

 

早く、MF部隊を出撃させろ!……構わん、ここが落とされてはどうにもならん、急げ!

 

「やられた……」

 

 口を噛み染み震える、八神大佐。本局から独立した体系を持って運用されているため、独自にクロスボーン・バンガードに対する調査を行っていた。人材不足と呼ばれる管理局の中でもとりわけ、異質なこの部隊は人材難からは逃れることは出来ていた。

 

「人材がおっても、機体がな……」

 

 優秀な魔導師は私の限り得る力で揃えることができた。けど、MFジェガンなんかじゃ対抗なんてできない。エース級の魔導師が力一杯扱える機体の開発が間に合ってないんや。それにあの無人MFの機体性能の高さに装備の違い。ビームを防がれたあのシールドもこっちは標準装備なんてしとらへん。

 

「実質……1対15。厳しすぎる」

 

 机をドンっと叩き、悔しさを滲ませるはやて。だがそこに悪い知らせは続く。

 

「八神大佐、こちら整備班。高町大尉のロングレンジライフルは修理中で使用できません。機体は出撃可能ですが、オプションパック無しの基本フレームのみになります」

 

 最悪や……。あのシールドを難なく貫通できる切り札が使用不可。つまり、接近戦で何とかせえっていうことやないか!

 

「こちら、ハンガー。八神大佐、高町大尉が発進許可を求め「割り込み失礼、八神大佐、迷ってる場合じゃありません。ここが落ちたらそれで終わり。味方の援護にいかないと、全滅だよ」

 

「分かってる。でも、接近戦しか勝ち目ないんよ。いくら新型MFいうたって「分かってるよ。はやてちゃん……優しいからね」

 

「高町大尉、今は「分かってる。はやてちゃんの立場は、もの凄く辛くて大変な決断を強いられるんだってこと。だからね、私はそれに応えたい。だからここにいるんだよ、はやてちゃん」

 

 

 零れ落ちそうな思いをぐっと堪え、命令を下す。これは、戦争なのだと。今回は負けは許されないと。

 

「ありがとう、なのはちゃん」

 

 聞こえるか分からないほどの呟き。だがそれは、なのはには確実に届いていた。

 

「みんなが帰る場所を消されるわけにはいかんで。高町大尉、発進を許可する」

 

「了解、カタパルトお願い!」

 

「了解でさぁ、高町大尉、御無事で」

 

「ヴァイス曹長も御武運を」

 

 ハンガーからカタパルトへ移動するなのは。そのわずかな時間に準備は進む。

 

「レイジングハート、同期確認、魔力回路接続、フレームの機動を確認。お願いね、レイジングハート」

 

 バイザーにはもちろんとの文字が流れ出る。新フレームにはAIとしてレイジングハートが移植された。前まで私のデバイスとして共に闘ってきただけのことはあり、MFの運用に大きな貢献をしてくれている。もちろん、音声による会話も可能だ。

 

 そうこうしているうちに、カタパルトへと到達。前には開けた空が眩しい。

 

「シグナルグリーン、発進どうぞ」

 

 ぐっと、膝を曲げ、これから来るGに備え、いつも通りの台詞。

 

「高町なのは、F90RH、行きます」

 

 後ろに引かれるような感覚と共に、Gが身体を襲う。魔力で緩和しているとはいえ、やはりきついものはきつい。だがそれも一瞬。次にはいつもの大空に機体は飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「機体数は互角。でも性能は……これじゃあ、いつまで持つか分からないよ」

 

 

 次元世界を管理する程の力と人員を持つ、管理局がここまで苦戦を強いられるのはいくつか理由があった。まずはMFを扱い切れる魔導師が多くないこと。魔力量に関しては多いことにこしたことはないが、如何せん扱いが難しいのだ。生身の方が動きやすいと答える者が圧倒的なのだ。情報処理能力がモノをいうべきか、AIがいくらかは処理してくれるとはいえ、それを扱うのは生身の人間。魔力が尽きれば落ちるMFを効率よく運用できなければ、ただの外部装甲にしかならない。

 

「それにMFにはMFを……これは相手にも言えることだけどね。どういう技術かはわからないけど、魔力を流したMFは普通の魔導師では傷一つ付けれなかった。つまり、MFが相手なら、MFでなんとかしろってこと」

 

 

 嘆いたところで何かが変わることはない。けれど愚痴の一つくらいこぼすくらい、いいでしょとばかりに、深いため息を吐く。でも、やるしかないのは事実。

 

「例え、苦手な接近戦でも、やるしかないんだから。みんなが帰ってくる場所を守らなくちゃ」

 

 

 

 無人MFに圧されるジェガンを援護すべく、ビームライフルが放たれる。トリガーは軽く2度引かれ、桃色の閃光がデナン・ゲーに降り注ぐ。だが、展開されたビームシールドによって防がれてしまう。

 

「高町大尉、ありがとうございます」

 

「感謝はあとで。やっぱりビームは効かないね」

 

「いえ、大尉の機体のならば、相手をよろめかせる事は可能です。残念ながら、我々の機体では接近戦しか……」

 

「それは私も同じ。シールドさえなければ、多分簡単に落ちるんだろうけど」

 

 会話をそこそこに、F90RHとジェガンは左右に散った。ドレルが引き連れた無人機の2機がこうしてビームマシンガンを連射し、二人の間を割った。

 

「はやく、なんとかしないとこっちが危ない。えっと、名前は……」

 

「ケーラ少尉です、大尉」

 

「ケーラ少尉、まずは一機落とします。私が動きを止めますから、接近戦でなんとか」

 

「了解です、大尉」

 

 なのはがMFを使用するまでの戦闘スタイルは鉄壁の防御と超高火力による殲滅。しかしMFの開発が進んでいるとはいえ、なのはのポテンシャルに見合う機体は中々見つからなかった。だがF90はそれに見合った性能を持っている。だが、超高火力と鉄壁と言えるほどの防御は今だに手に入らない。

 

「空戦魔導師の力……見くびらないでね」

 

 だが、彼女には武器があった。高機動戦闘。ただでさえ多い彼女の魔力に新フレームは高機動という形では応えた。ジェガンなど追随を許すことのない機動力はデナン・ゲーを上回る。

 

 

「いい加速。それに、そっちだけのモノだと思わないでね」

 

 

 ビームライフルでの牽制と、あわよくば撃墜を狙って、細かく機動を変えながら、攻撃を開始する。バイザーに送られてくる情報をマルチタスクで処理し、的確に回避、攻撃に移る。機体性能で唯一勝っているのは私の機体だけ。だから私が引きつけて、止めを刺してもらえばいい。止めは危険だけど、少尉の動きならいける。

 

『マスター、相手のAIに負荷をかけてはいかがでしょうか』

 

「レイジングハート、でも、どうやって?」

 

 ビームマシンガンを回避しながら、少尉の方に注意が向かないように2機を誘導しながら交戦を続ける。だが1対2で接近戦は危険すぎる為、なかなか踏み切れないでいた。

 

『未知との遭遇というやつです、マスター』

 

 

「……つまり、新しいものを見せるってこと?」

 

 肯定とばかりにバイザー内に情報が流れ込む。

 

「なるほど。ただ、相手の武装の性能が不明な以上、一か八かだよ。けど、そういうの嫌いじゃないよ、レイジングハート」

 

 減速と同時に、ビームバルカンもビームシールドの前に無力化された。けど、本命はこれじゃない。

 

「少尉、合わせて」

 

「大尉……了解です」

 

 ただの突撃……ケーラにはそう見えた。だが速度を殺し気味なことに少し違和感を感じる。接近戦なら高速で飛びこんでいく方がまだいいはず。

 

 迎撃するように、ビームマシンガンを放つ2機を前に悠々と距離を詰めるなのは。

 

「大尉、危険です!あれにあたれば、いくら大尉といえども」

 

「その賭けに勝たないと落とせないでしょ。それに……」

 

 無人機に意思があるのならば、ぎょっとしただろう。動きが一瞬止まった。

 

「こっちにだってビームシールドがあるんだから。まさか、想定外だったりした?」

 

 左手付近から展開されるのは桃色のビームシールド。サナリィが急ピッチで開発したF90の装備の一つだ。データが不足しているため、有効なのかは分かってはいなかったが、ぶっつけ本番で、性能の高さを証明することになった。

 

「そこ、もらった」

 

 たじろぎからの復帰よりも早く、ビームが機体を貫通していた。なのはに合わせて詰めていたケーラの一撃は機体を捉えていた。

 

「大尉、流石ですね」

 

「まだ、もう一機。いける!!」

 

 一気に距離を詰め、右手にビームサーベルを構える。シールドで防ぎながら、間合いに飛び込み、上段から袈裟切りに振り下ろす。対応に遅れたデナン・ゲーはシールドで押さえるも、じわじわと押されはじめ、

 

「少尉!!」

 

「分かっています。ええい」

 

 機体を押しやり、後ろへ下がると、背後に回り込んでいたケーラのビームサーベルがエンジン部分を貫いていた。機体からは音が消る。ケーラも爆発から回避すべく、サーベルを消し、退避に移ろうとする。

 

 

『マスター、新手です』

 

 

「大……尉……。あ……あ……サラダを……」

 

 

 声の方を見ると、ジェガンの腹部に槍のようなモノがまるで生えていたかのように突き刺さっていた。そして無人機の爆発に巻き込まれ、ケーラは戦死した。

 

 

「少尉ーーーーーー。くっ、誰が少尉を!!」

 

 

 槍が飛んできたであろう方角をみれば、そこには無人ではなく有人のMF。紫と手にもつ槍のような、ショットランサーが特徴的な、UMFベルガダラスとドレル・ロナだった。

 

「管理局の白いやつか。だがエースとはいえ、私を含めた3機に勝てると思うか」

 

 悲しみと怒りをかき消すように、冷静な思考が私を駆け巡る。正直なところ、勝ち目は薄い。それに、あの真ん中の機体。有人機もクロスボーン・バンガードにはある。それにあの機体は私たちのものとは感じが違う。

 

「ほう、目の前で、仲間が死んだ割には冷静なようだな。管理局にも平和ボケしていないのもいるじゃないか」

 

 

 ビームマシンガンが降り注ぐ。相手に情報を与えたくはないが、そんな余裕などなかった。ビームシールドは常時展開。隙を見つけては反撃に出るも、全て防がれてしまう。

 

 

「高町大尉、残存魔力量、30%を切りました」

 

 

「なのはちゃん……他の部隊は何やっとるんや!?」

 

 

「八神大佐!アークにむかった部隊は全滅。それに首都近辺の部隊も40%まで消耗」

 

「どないせいっちゅうねん!!」

 

 

 ほぼ負けが確定したような状況に思わずキレてしまいそうになる心をなんとか我慢するが、絶望的なことに変わりはない。まだ、なのはが頑張っているが、それも時間の問題。この状況を打破するには、大きな力が必要……だがそれは今この手にはない。悲壮感漂う指令室に一つの報告が飛んだ。

 

 

「八神大佐、アークの……アークの機体が消滅しました!!」

 

 その報告を同じく、それはドレルの耳に届く。これ以上は無意味と判断したドレルはすぐさま後退を開始した。だが追ってくるものなど誰もいない。

 

 

「助かった……の……」

 

 

 全身から汗を噴き出し、魔力を絞りだして戦ったエースはハンガー近辺の敷地へと辛うじて着陸。そして意識を手放した。

 

「はっ、救護班、大尉を!!整備班、急いで整備や!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドレル、報告は以上か」

 

「はっ、以上です」

 

 

「そうか、やつは死んだか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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出撃その名はF91

「まさか、すぐに攻めてくるなんて」

 

 朝のパンをレアリーの店に届けに行った後、昼に焼けたパンを店に家族4人で届けに行くことを決め、アークに足を運んだ時を同じく、クロスボーン・バンガードの襲撃に出くわした。記憶にある機体がこうして人並みのサイズで飛びまわるとはこの世界にくるまでは予想にすることなんてなかった。

 

「あっ、シーブックさん、セシリーさん。早く逃げないと!」

 

 扉を閉めて、避難しようとするレアリーが声をかける。それに気付いたように二人もまたバイクを止めて、レアリーに事情を聴く。

 

「レアリーさん、これはまたあの時と同じということですか?」

 

「はい、この警報はそういうことになります。すぐにシェルターに避難しましょう」

 

 戦う術のない者達にとって、身を守ることは、逃げることと言っても過言ではない。それに、子どもたちも連れて来ているなら尚更だ。だから、すぐに避難したいのだが、どこか心に靄がかかったかのように、美術館の方に気を取られてしまう。

 

 

「レアリーさん、すみません。どうしても気になることがあるので、先に避難しておいてください。セシリー、美術館に気になる物が有ったんだ。確かめたい」

 

「どうせ、言っても聞かないんでしょう。それより気になるって何が?」

 

 行けば分かると、走り出したシーブックを追いかけるセシリー。二人の背には子どもがおぶられているが、なかなか気を使って揺れないように走っている。

 

「ちょっと、二人とも!」

 

 流石にほっておくわけにもいかず、二人を追いかけるレアリー。幸い、美術館までは近いので、すぐに避難すればいい。そう思って追いかけることにした。

 

 

 

 どこからか聞こえる、キャタピラの音。だが、その正体が何なのか、見当はついていた。思い出したくはないあの光景が今にでも蘇ってくる。

 

 

 

「タンクなんかじゃ、相手になるわけない」

 

 悲痛な思いが口から漏れ出す。駄目だ、絶対に勝ち目なんかアリなどしない。相手が人並みでさらに高機動かつ空を飛べるのなら尚更だ。それにあんなにでかけりゃ、ただの的だ。

 

「シーブック、あれ!」

 

 セシリーの視線の先には、無人MFの1機の姿が。どうやら、気が付いたようで、タンクの死角から降下してきている。

 

「駄目だ、逃げろーーーー!」

 

 叫びは空しく木霊すれば、タンクの象徴でもある砲身が綺麗に切り裂かれる姿が目に映る。そしてこの後の事は知っている。砲弾が爆ぜることを。

 

 

 爆発音と共に、何かがこちらへと飛んでくる。それは先ほどまで生きていたであろう少年だった。

 

「っ、シーブック」

 

 袖を掴む、セシリーの声が震えているのが分かる。俺達は10年で、死線を彷徨い、沢山の別れを経験してきた。だが、戦争に巻き込まれる前からの付き合いのある友人の死を2度も味わうことになるとは思ってもいなかった。だから……俺の目にも涙があった。

 

 

『セシリー……だって、アーサーなんだぜ。いくらここが違う世界だからって、またこんな思いはしたくなかった」

 

 

 震えるセシリーを抱きしめ、ふと、タンクに目をやれば、そこから人が2人放り降ろされる。ああ、多分あれが誰なのかは想像はつく。そしてあのタンクの中に誰がいるのかも。

 

 

 

 

 

 

 だが、ここは似ているだけで違う世界。知っていることが同じように起こるわけでもない。

 

 

 

 

「ぐっ、けど上手く逃げろよ……なっ!?」

 

 

 無人機がいるならば、有人機だっていてもおかしくはない。そんなこと気にもしていなかった。だが、それは最大の懸念として現れ、すぐに答えを出した。

 

 

 

 

 死という形で。

 

 

 

 

 タンクに放たれたビームは易々とコクピットを貫き、爆散させた。生存者などいないと、遠目から見ていても分かるほどに。

 

 それにこの感覚。多分あそこに俺達も乗っていたのは間違いないだろうな。

 

 

「シーブック……」

 

「何も言うなセシリー。俺達だってこうなってたかもしれない。それに、俺達は生きている。だから逃げるんだ。ここで死んでどうする!」

 

 

 迷いは捨てた。死と隣合わせで生きてきた中で迷いは自分を殺すことを知っている。だから迷うわけにはいかない。すぐに逃げなければ。

 

 

 

 その後ろに息を切らしながら走ってくる人物……レアリーの姿があった。けれど、彼女は誰かと会話しているようで、耳にはインカムのような物が。そして彼女が空を見上げると、1機のMFがデナン・ゲーを撃墜した。

 

 

「ビルギット少尉、無断出撃はあれほど駄目だと言っておいたはずですが」

 

 ということは、あれを落としたのは、ヘビーガンで間違いない。それにビルギットさん……けど、このままじゃ、押されるのは時間の問題だ。

 

 

「レアリーさん、いや、レアリー艦長。スペースアークはどこにありますか」

 

 

 何故それを知っているのかと驚きを隠せないようだが、今はこうしている場合じゃない。ヘビーガンも小型になっているなら、あの機体があるに違いない。だからすぐに行かなければ。

 

「詳しいことは、後で話します。それより、急がないとビルギットさんが持ちませんよ。艦長、早く!」

 

「ええ、後で聞かせてくださいよ。こっちです。急いで」

 

 

 街の端にある小さな小屋。だが小屋にしては十分な警備。だが中に入っても特にこれといったものはないが、

 

「簡単に侵入されては困りますから。待っててください」

 

 カードリーダーを通すと、床が下がって行く。5m程下がるとそこにはトラベレーターが。どうやら奥にあるらしい。その先に駆け足で急ぐと、広い空間に出た。

 

「ようこそ、レジスタンスに。私がスペースアーク艦長(仮)のレアリーエドペリです。そして、これがスペースアーク」

 

「艦長、(仮)とはどういうことですか?」

 

「まだ、この船が動かないからよ、シーブックさん」

 

 どういうことか、分からず、次の言葉を発することができずに、困っていた。動かないならエンジンを何とかすればいい話ではないのか。専門ではないのでなんとも言えないがそんなところだろうか。

 

「シーブック、多分だけど、ここの技術体系からすると、別技術なんじゃない?」

 

 まだ、自分たちの事を全て伝えた訳ではない。セシリーも分かっているので、こうして小声で話している。

 

「それより、なにかMFはないんですか?ビルギットさんが動かせるなら、魔導師じゃなくても動かす方法があるんでしょう?」

 

 なんとかして、力になりたい。この似た世界でこれ以上の犠牲を増やしたくはない。だから藁にすがる思いで尋ねた。しかし……

 

「シーブックさん、少尉も多少なりとも魔力を保持しています。だからMFを使用することができています」

 

 

 外で経験したばかりじゃないか。ここは似ているが違う世界ということを。知っていることが全て起きるわけじゃない、だからビルギットさんだって魔力を持っているんだ。

 

 

「ないわけじゃないんです。あるにはあるんですよ……魔力のない、魔導師でなくても、扱えるMFが」

 

「艦長、ならそれを使わせてください。いきなり言うのもあれですが、絶対に使いこなしてみせる」

 

「けれど、それにも問題が2つ。アテンザ技師長、説明お願い」

 

 白衣と碧髪、それに眼鏡が特徴的なアテンザ技師はシーブックに御辞儀をすると、すぐに説明に入った。

 

「まず、これをご覧ください」

 

 

 映し出されるのはハンガーの映像。そこにあるのは紛れもない愛機だった機体。

 

「F91……魔力の無い者でも扱えることをコンセプトに作られた機体なんですが、この機体が運用できない理由が2つあります。まず1つめは、この機体の使用者を補助するために搭載してあるバイオコンピュータを本体のMCAとリンクさせる為に配線を繋ぐんですが、映像を見てもこれがどう繋いでいいのかわからないんです。2つめ、MFは本来使用者の魔力を用いて稼働します。ただF91は外付けの魔力コンデンサーを用いて、そこから魔力を供給する形を取っています。ですが、高密度の魔力を大量に補充できる環境が無く実用に至っていません」

 

 

 2つめについては、今のところ思い当たる節が俺にはない。ただ配線となると、多分あれだろうな。それに、母さんがいるんだろうな……。

 

 

「アテンザ技師長、その映像を見せてもらえませんか、何か分かるかもしれません」

 

 

 それなら早速と見せてもらったが、やはり、リィズが気付いたあやとりだ。幸い、どうすればいいかは、セシリーが知っていたので、すぐに説明すると、驚いていたようだ。これで、1つめは問題ない。ただ、2つ目に関しては専門外もいいところだ。

 

「何か、高密度の魔力を供給する方法はないんですか?それなら魔導師の人がコンデンサーに溜めるとかはできないんですか?」

 

「それも考えたんだけど、魔力を混ぜるのはよくないの。それこそ、MFからしたら水と油のようなもの。それにそこまで高密度の魔力を提供できる人材もいない。だからこればっかりは。せめてロストロギア級の魔力物質があれば」

 

 

 

 聞いたことの無い名前まで出てきたが、お手上げなのは確からしい。だが、何とかしなければ、F91は動かない。焦っても仕方ないのだが、ズボンに手を突っ込むと何かが手に当たる。それを取りだしてみると、それはトビアからもらった蒼い宝石だった。トビア達は今頃どうしているだろうか……。

 

 

「シーブックさん、それ!!ジュエルシードじゃないですか!!」

 

 アテンザ技師長に宝石を奪われると、返してくれと言うが、聞いているようには見えない。それに周囲の雰囲気からするに、あれはどうやら凄いものであることは確からしい。

 

「これ、どこで手に入れたんですか!?……それにこれ、ロストナンバーの22じゃないですか!!」

 

「詳しくはわからないが、友人から貰ったんだ。プレゼントにな」

 

「その友達のかたに色々問い詰めたいですが、今はそれどころじゃないです。艦長!、船もF91もいけますよ」

 

 その言葉を聞いて、すぐにハンガーへと駆けだした。理由はともあれ、動くならば俺のやる事は、1つしかない。

 

「レアリー艦長、今は船の起動を。F91をシーブックに任せてはくれませんか」

 

 アテンザはエンジンルームにジュエルシードを組み込み、エンジンを起動させる。それを同じくして、回路から、F91のコンデンサーコンデンサーに魔力が供給された。あとはパイロットさえいればいつでも使用可能だ。

 

「ですが、彼の素情をしらない以上、最新鋭の機体を預けるなんて無理です」

 

「ご意見はもっともです。ですが、あの機体に彼の母が関わっているのは間違いありません。あの配線が何よりの証拠です。そして……彼はあの機体のベストパートナーですから」

 

 私達が、この世界ではない世界から迷い込んできたこと。そしてこの世界によく似た世界から来た事を伝えた。そして、この状況もよく知っているのだと。

 

「あなた方、夫妻は一体何者なんですか?」

 

「ただのパン屋さんですよ、艦長。それにレアリーさんは艦長としてまだ経験が無いに等しいようですね」

 

「……レジスタンスのなかで、集団の統率ができるのは私だけだって、言われましたから」

 

 パン屋さんは納得するんだと、内心クスッと思うも、すぐに切り替える。艦長はあの時を境に引退したんだけど……でもシーブックが再び戦場に向かうというならば私も支えるだけ。

 

 

「レアリー艦長。艦長とはどうあるべきか、しっかり学びなさい。貴女の決断すべてが、命を左右するのだから」

 

 頷く姿に奢りなどは無い。彼女はそれを知っているようだった。なら話は早い。私が見せればいいのだから。

 

「全クルーに通達。F91発進、全MFの撃墜後、本艦はこの空域を離脱。宇宙へ向かいます。はい、レアリー艦長、復唱ね」

 

「はっ、はい。F91発進、全MFの撃墜後、本艦はこの空域を離脱。宇宙へ向かいます」

 

 

 

 

 

 鍛えてあげないとね……頼んだわよ、シーブック。

 

 

 

 

 

 

「アテンザ技師長、F91で出ます」

 

「シーブックさん、艦長から指示は受けてますけど、いきなりは流石に無理ですよ」

 

 確かに俺自身、やれるか分からない。けど、自分がF91に成りきる感覚でいけるはず。何度だってやってきたじゃないか、こいつと一緒に。

 

「俺も初めてこいつにのった時、ほとんど素人みたいなもんでした。でもこれが母が関係してた機体だって思うと、なんだか上手く使えたんですよ。だからこいつだってきっと上手くいくはずです」

 

 話はしながらでも、着々と装着は進む。最後に、フェイスガードを取り着け、ハンガーからカタパルトへと移動が始まる。

 

「シーブックさん、母というのは?」

 

「ああ、モニカ・アノーは俺の母親です。ですが、この世界の俺は死んでしまった。だから俺がやるんです。俺の代わりに」

 

 

 それ以上は何も言わなかった。ただ、無事であれと。そんな表情だ。

 

 

「シグナルオールグリーン、発進どうぞ」

 

 カタパルトの先に光が射した。それと同時に、ぐっと膝を曲げる。行くんだ、あの大空へ俺自身が。

 

「F91はシーブック・アノーで行きます」

 

 身体に来るGを噛みしめ、カタパルトから射出されると、浮遊感が身体を包む。だが、すぐに身体は空を駆ける。何度もMSで飛んだ空だ。ならその感覚をイメージすれば、機体は反応してくれる。

 

「思ったより違和感は無いな。それに、おれがガンダムになったみたいだ」

 

 そんな感想を思うシーブックのバイザーに通信映像が入る。アテンザ技師長とセシリーからだ。

 

「シーブックさん、MFは基本的に装甲は無いに等しいです。ただ、魔力で覆ってはいるので幾分かはマシですが、被弾は極力避けてください」

 

「シーブック、後の3機撃墜お願い。そのあとすぐに、ヘビーガンと一緒に帰還して」

 

「了解だ二人とも。どうやら、ヘビーガンが押されているみたいだ。すぐに向かう」

 

 魔力光をエンジンから噴き出しながら、ヘビーガンのもとに向かう。上手く立ちまわっているが、ビームシールドが無い分かなり部が悪い。

 

「まずは無人機を仕留める!」

 

 

 加速するイメージを機体は誤差なく実行に移す。直ぐに、左腰のビームサーベルを抜くと、一回転しながら、切り裂いていく。黄色の魔力は機体を易々と切り裂き、すぐに残った1機へと肉薄していた。後ろでは、あれはF91!?なんて声が聞こえていたが、今は無人機を落とすことが先決。ビームライフルは的確に相手を捉えるがビームシールドに阻まれる。そこに相手からのビームが放たれるが、見えているシーブックにとっては回避することなんて造作もない。

 

「なら、ビームランチャーで!」

 

 腰にマウントしていたビームランチャーを構え、1射。ビームシールドを多少なり抜けるも、機体に大きな影響は与えるには及ばない。だが、それは動きが止まるということ。

 

「戦場で止まるやつがあるかよ」

 

 俺の背後から飛び出したビルギットがビームサーベルで真っ二つに切り裂き、そのまま後退していく。残るは有人機の機体のみ。

 

 

「F91聞こえるか?俺の事は聞いてるな、あとの1機は俺がやる。お前は援護しろ」

 

「少尉、その機体では無理があります。俺に任せて下さい」

 

 お互いが譲ることなく、現れた有人機と開戦する。だが、このパイロットが中々優秀で、無人機とは比較できない程の動きだ。

 

「少尉、足は止めますが、無理なら引いてください。一撃で落とします」

 

「お前にできるのか?俺に任せとけ」

 

 ビームライフルとランチャーを使って足を止めに掛かるが、街に降りられてしまい、思うように攻められなかった。街を破壊するわけにもいかず、攻めきれない状況が続き、こちらがいいように攻撃されている状況が続く。

 

「魔力切れを狙うのもいいが、援軍がいつくるかもわからねえなら、いくしかない」

 

 シールドとビームサーベルで迫って行くビルギットを待っていたかのように、グレネードで建物を破壊するデナン・ゲー。破砕した家屋がビルギットを襲い、視界まで奪う。そして眼前にビームサーベルを振りかぶる機体が。

 

 

「怯えろ。怖さに打ちひしがれながら死んでいけ!」

 

 ビルギットは死の恐怖を感じた。人はこうも簡単に死ぬのだと。自分の過ごした22年が今頭の中に蘇る。だが、それはすぐに消えることに。

 

 マシンキャノンを放ち、牽制するシーブックの一発がビームサーベルをはじいた。それに気付きビームシールドを展開し、空中へと退避する。だがその選択は間違いだった。

 

「少尉、ライフルとランチャーを預かっててください」

 

 ぽいっとそこに投げると、直ぐに空中へと飛び立ち、マシンバルカンで牽制を続ける。そして、ジェネレーターから直接エネルギーを受けて、前方の機体へと発射する。

 

「こいつは強力すぎるが……仕方ない」

 

 V.S.B.R(ヴェスバー)の速度を速め、貫通力を持たせたビームを2発放つ。相手はビームシールドで防ぎに掛かるが、意味も成さずシールドは破られ、機体を爆散させた。

 

 

「人を殺めることに……慣れてはいけないことなのに。俺は慣れ過ぎているのだろうか……」

 

 

 嬉しさなんてあるはずもなく、ただ、あるのは無常感のようなものだけ。ただ、早くこの戦争を終わらせよう。そう誓うのだ。

 

 

「シーブック、これより帰還します。少尉も無事です」

 

「シーブック、無事なのね。すぐに戻って。スペースアークはすぐに発進するから」

 

「了解だセシリー。少尉、まずは戻りましょう」

 

「あ、ああ。帰還する」

 

 

 2機は帰還し、すぐに整備、補給に。そして、スペースアークは一度ミッドチルダを離れ、宇宙へと向かった。



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