男性Vがコラボするってよ【完結】 (TrueLight)
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【今日も一人で】マ〇クラG・I【宝くじ】①

「こんヒビキー。VSの(あかつき)ヒビキでーすよろしくー」

 

 配信画面にアニメチックな学生服を着た茶髪イケメンキャラが映し出されたことを確認して、俺はいつものように生配信を開始した。

 

コメント

    :雑で草

    :やる気あるんですかぁ?

    :早く同期コラボしろ

    :ひどいコメを見た

    :今日何するん?

 

 SNSで告知してたこともあり、待機してたファンがすぐに暖かいコメントをくれる。暖かすぎて血管が沸騰しそうになることもあるが。

 

「コラボ? 同期? 知らない言葉だなぁ……がいこくごかな?」

 

コメント

    :脳内から削除するな

    :ヴァーチャルシップでコラボしてないのお前だけやぞ

    :一期生の先輩に凸して♡

    :もう一期生って言い張っちゃえよ

 

「うるせーい! 俺だってしてーですよそんなもん!」

 

コメント

    :言ってしまいましたね

    :はい言質

    :他のライバーと繋がりたいって言いました?

    :拡散不可避

 

「はい知ってたー! すーぐ俺のこと直結野郎にしようとするよね! 良いもんね、一人でもゲームは出来るもんね!!」

 

コメント

    :泣かないで;;

    :ゲームって本来一人でやるもんだしな!

    :同類いて草

    :男性Vは直結野郎ってはっきり分かんだね

    :先輩はお引き取りください

 

 ヴァーチャルシップ、通称VS。俺が所属している複数のVtuberを擁する事務所だ。現在四期生の募集をかけていて、組織的には順調と言えると思う。俺の存在を除いて……。

 

「なんで男性V増えないの……? 楽しいよ……? 一緒にヴァーチャルの世界で遊ぼうよ……」

 

コメント

    :草

    :崖っぷちで手招きするのやめてください

    :なんでそこで勇気を出してしまったのか

    :企業が募集する野郎ライバーとか地雷もいいとこなんだよなぁ

 

 そうなのである。この界隈、どこを見渡しても女の子ばかり。いわゆる個人勢には男性も居ないことはないが、その辺とコラボというのは企業としても慎重にならざるを得ないのね。

 

 他の企業がやってないことを率先してやってこそ大成功を得られると考えたらしいVSは、上手く軌道に乗った一期生に続いてVtuberを募集したのだ。それが二期生……つまり俺です。

 

 募集枠は男性限定(・・・・)で三人だったのだが、俺以外は一件も応募が無かったらしい。選考で落としたとかじゃなく、マジで俺以外来なかった(・・・・・)のだ。ぶっちゃけ男性Vグループ作ろうとして失敗したのである。

 

 まぁ……募集がかかったのと同時期に別企業でデビュー予定だった男性Vの卵がやらかして、男性Vって存在自体にネガティブなフィルターがかかってたのは間違いない。当時の俺はそんなこと知らなかったんだけどね……VS一期生のファンだから応募したんだし。

 

 つまり現在、俺は企業Vtuber界隈唯一の男性Vであり、かつ同期が一人も存在しない孤高の存在であり、他ライバーとのコラボとはつまり男女コラボなので先方ガチ恋勢に叩かれることを意味するのである!

 

 燃えたくない!

 SNSで叩かれたくない!

 でもコラボしてみんなみたいにキャッキャしながらゲームしたい!

 でもでも俺が炎上して相手に迷惑かけらんないから誘うことすらできない!

 

 詰んどる。コラボしようと言えば、してくれる女性Vは間違いなくいる。むしろ持ち掛けられたこともある。でもね、気軽に受ける訳にはいかんのや……事務所(おかみ)にも慎重に行動してね、って言われてるし。

 

「寂しいよう……」

 

コメント

    :強く生きろ

    :俺らで我慢しろ

    :ホモォ……

    :なんでや女の子リスナーかも知れんやろ!

 

 確かにリスナーの存在はありがたい。一切コラボが発生しない(できない)状態の俺にとって、リスナーとは唯一の話相手なのだ。でも君ら、マルチで募集かけると僕のこと真っ先にボコすじゃん。つらいお?

 

「もういい、うじうじしてても始まらん。ゲームするぞー!」

 

コメント

    :始まった

    :空元気系Vtuberええぞー

    :ゲームってまたマ〇クラ?

    :MODのせいで別ゲーだけどな

    :G・Iちゅき♡

 

    :もうあきらめたほうが良いと思うよww

    :実際ヒビキのシード値きつ過ぎる

    :一人だし

    :宝くじ配信はここですか?

 

「キツいのは俺が一番知ってんのよね……って誰が空元気系じゃい!」

 

 コメントに適当に返しつつ、起動したゲームはみんな大好きマ〇クラ。多くのVtuberが愛用しているゲームでもある。そうだよね、マルチしやすいもんね……。新しいメンツとならバニラ(MODという追加要素を入れない基本仕様)でもいくらでも遊べるし……。

 

「今日こそ"一坪の海岸線"ゲットしてやるからな! 見てろよ!」

 

コメント

    :マジで応援してるw

    :というかいい加減終われ

    :あと一枚で終わるって言ってから二週間が経ちました

 

「しゃーないでしょー! ドッジボールイベント発生しないんだよぉ!!」

 

 ここまでのコメントで、初見さんやROMってる人にも分かったんでなかろうか? 俺がやってるのはマ〇クラの神MOD、その名も"マ〇クラG・I"。某有名週刊誌で休載しまくってる超有名コミックに出てくる架空のゲームソフト、「グ〇ードアイランド」をモチーフに作られたMODだ。

 

 ワールドはマ〇クラ規格の最大拡張マップ16枚分に固定され、ランダムに大陸が生成される。その中にはマンガ中のゲーム内で描かれた多数の街や村、イベントが発生するが、これもシード値(マ〇クラの世界を作る時に入力する文字・あるいは数字)によってタイミング、場所はランダムだ。

 

 ゲームの目的は"指定ポケットカード"の収集。原作では全100種ものカードを集める必要があるけど、このMODにおいては一人9種類で良い。マ〇クラにはインベントリが9×4で36枠あるんだが、その最上段一列が指定ポケット扱い。その下二列がフリーポケット。残りの一枠は普通に荷物を入れるとこだ。G・I風に言うとゲイン(カードをアイテムとして実体化すること)したブツがそのまま使える枠だね。あぁそうだ、呪文(スペル)カードを使うときも一時的にここに入れることになるけど。一定時間入れたまま使わないと消えちゃうんだよね。

 

 まとめると、インベントリの最上段一列を埋めたらクリアってことね。ちなみに、そこに指定されたナンバーのカード以外を入れると消滅しやがる。これは地味にひどい仕様だ、なにせクリックミスでレアカード入れちゃうと消えるんだからな! さらに補足すると、ワールドにプレイヤーが入った時点で指定される9種類のカードナンバーは重複なしのランダムだ。

 

コメント

    :いつの間にか金貯まっとるがな

    :じゃあすぐマサドラか

    :ソロで指定ポケットの番号にNo2が見えた瞬間ワールド削除なんじゃがなぁ

    :よう続けとるわ

 

「金は裏作業中に貯めました。お察し通りマサドラ行くよー。一坪の海岸線(No2の指定カード)はホラ、原作ファン的にはどうにかして取りたいじゃん? ってわけで……同行(アカンパニー)オン! マサドラへ!!」

 

コメント

    :同行www

    :あかんwwアカンパニーはあかんwww

    :毎回ここで草生える

    :同行の意味知ってますか?

 

「これしかないんだからしゃーねーだしょ!!」

 

 複数人を指定した街へ同時に移動させる呪文(スペル)カードを発動し、俺は目的の街マサドラへ。ここは唯一呪文カードを購入できる街で、ここを早めに見つけられないと詰むことも多い。アバターが光に包まれ、ビューンと一直線に空を飛んでいく様はなかなか爽快だ。この間は無敵で呪文攻撃も受けない。一人でも大丈夫! アバターの周りをキラキラ舞う輝きが涙でないことを願いたいね。

 

 今回の目的は魔法都市マサドラで呪文カードを購入すること。TCGプレイヤーなら馴染み深いかな、一パックランダム三枚入りで10000J(ジェニー:ゲーム内通貨)。ここで宝籤(ロトリー)という呪文を入手したいのだ。こいつは使用するとランダムで別のカードに変わる。ランダムなので、なんと指定ポケットカードに化けることもあるってワケよ! 仕様により俺の残る指定ポケットカード、"一坪の海岸線"はソロだとこの方法でしか手に入らない。泣ける。

 

「よーし到着わよー」

 

コメント

    :到着わよー

    :このMODってバニラのアイテムあんのかな

    :あるぞ。しかもカード化できるぞ。エリトラがゴミと化すぞ

    :せやろなぁスペル使ったほうが早いし

    :他のアイテムもそんなもんやろw

 

 リスナーと戯れているうちにバシュゥッと着地音。目の前に広がるはマサドラの入り口……うん?

 

コメント

    :あっw

    :まぁ湧くよね

    :飛んでるうちに夜になったか

    :ゾンビ3体はヤバいぞ

 

 視聴者がコメントしてる通り、俺がマサドラに入るのを妨げるように見慣れたマ〇クラのゾンビが三体。

 ただのゾンビと侮るなかれ、MODの恩恵をしっかり受けているこいつらはなんと……。

 

投石(ストーンスロー)使ってきたーー!!」

 

 スペルを撃ってきやがるのだ! お買い物を前に、三体のゾンビとの戦闘が始まった!!

 




別作品の息抜き程度に更新する予定。
作者は全然Vについて詳しくないです。他作家様方のVtuberモノ見て書いてみたくなりました。

言うまでもないことですが作中のG・IMODは作者の妄想です。存在しません。


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【今日も一人で】マ〇クラG・I【宝くじ】②

「しゃらくせぇっ! アッ、ちょっ! やめてぇ!!」

 

コメント

    :即 落 ち 2 コ マ

    :弾くのうめぇと思ったけどそら無理よね

    :防御系使ってないのか

 

    :聖騎士の首飾りあるけど指定だから使えない

    :防御系はレアだしソロじゃ使うだけ損

    :かわいそうww

 

 三体のゾンビから同時に放たれた呪文(スペル)投石(ストーンスロー)。これは相手のフリーポケットのカードをランダムに一枚破壊する呪文だ。指定ポケットのカードが破壊される心配は無いけど……この世界において、通貨であるJ(ジェニー)ももちろんカードだ。そしてそれはフリーポケットに入ってる。なので……これはカツアゲに遭ってるも同然! 宝籤(ロトリー)が買えなくなっちゃう!!

 

 原作では呪文攻撃は防御系呪文使ったり、その効果が付与されてるアイテムを持ってないと防げない。でも、このMODではピンポイントに剣で切り裂けば無効化が可能だ。それで一撃は防いだが、残り二発はモロに食らった!

 

「うぉおおおおおっ!!」

 

 しかしポケットのカードを確認してるヒマは無い! その間にも敵は攻撃してくるんだから……! 俺は急いで三体のゾンビに駆け寄り、円を描くようにしてちまちま剣で切りつける。マ〇クラのゾンビは中距離攻撃手段を持たないから、距離が開いてると呪文を撃ってくるけど。近づきさえすればバニラのように殴ってくるだけのザコだ。

 

 何発か攻撃を受けながらも、俺は三体のゾンビを倒すことに成功した。

 

「はぁ、はぁ、やってくれるぜ……」

 

コメント

    :必死で草

    :これってゾンビが呪文カードドロップしたりしないの?

    :しないぞ

 

    :敵MOBはスペルカードを使ってるんじゃなくて、スペルと同じ効果の攻撃をしてくるって仕様だからドロはバニラと一緒

    :何その鬼畜仕様ww

    :だから残弾切れるの待っても意味ないぞ。距離開いてる限りずっと石投げてくるぞ

 

 チラッとコメントに見えた通り、ゾンビが落としたのは腐肉だけだった。ドロンと音を立ててカード化したそれを無視して、俺はインベントリ(フリーポケット)を急いで確認する。

 

「頼むぞぉ……」

 

コメント

    :何割られた?

    :食料系ならマシ

    :金と呪文消えてたら痛いよな

 

    :ちょっとレア割れてて欲しい自分がいるw

    :最初はみんな思ってたぞ、もう見飽きたから応援してるだけだぞ

    :草ァ

 

「金は……よし、大丈夫。何が破壊された……?」

 

 カードが入っていたハズの空欄に何を入れていたのか思い出せない。マ〇クラの手持ち常に把握するのって無理くない?

 

「…………一つは焼き豚だな、オーケー。あと一つ……あっ」

 

コメント

    :飯ならまぁ

    :レアカード割られた?

    :言うてフリーにそんな痛いのあったか?

 

「"孤独なサファイヤ"だ、Bランク指定ポケットカードの……」

 

 俺に指定された9種のカードには入ってないけど、全100種の指定される候補カードの一枚だ。ランクは高くないが、基本的に指定ポケットカードは高く売れる。ちょっともったいないな……。と思っていたら

 

コメント

    :孤独なサファイヤwww

    :ええやん割れてww

    :そうなの?どんな効果?

 

    :ざっくり言うと、これ持ってるやつは富豪になれる代わりに一生一人で過ごすってアイテム。

    :草

    :だからコラボ出来なかったんだな!

    :良かったやんw

 

「そんな理由でボッチしててたまるか!! もしそうならこのMOD呪いのゲームやんけ!!」

 

 俺が嘆けば嘆くほどコメント欄には草が生え散らかしていく。ちくしょー、これで全額投げて宝くじした後、一坪の海岸線出なかったら手のひら返すんだぞこいつら。サファイヤ売った金で出たかもしれないのになぁって具合に。

 

「もういい、ちゃっちゃかショップ行こう。サファイヤが割れたってことは俺は孤独じゃなくなる。つまりゲームクリアしたお祝いにコラボのお誘いが来るってワケよ!!」

 

コメント

    :空元気いいぞ~

    :スーパーポジティブで草

    :ポジティブってか現実逃避

 

 視聴者がうるさいがどんな煽りも華麗にスルーし、俺は目的地のカードショップにたどり着いた。一直線に店員の元へ向かって、まずは1パック購入する。さぁガチャの時間だぜ……!

 

「よっしゃいくぞぉ!! お(めぇ)らの運を全部オラに分けてくれ!!」

 

コメント

    :殺す気ですか?w

    :ちょっと悪いこと起きたら全部お前のせいにするからな

    :次の枠から視聴者減ってたら察しろ

    :みんなちゃんと分けてて草

    :や さ い せ い か つ

 

「1パック目、ドロー! キタァアア宝籤(ロトリー)一枚! さっそく使うぜ、宝籤(ロトリー)オン!!」

 

コメント

    :展開が速い

    :そんなポンポンでんのかw

    :ロトリー自体はランクGの低レアだから

    :まとめて買ったほうが効率良くない?

    :良くない。カード化限度枚数の関係で1パックずつ買って1枚ずつ使ったほうが当たる確率高い

    :めんどくさそうやね

 

「……んー、ゴミ!!」

 

コメント

    :お口悪いですよ!

    :実際ゴミ

    :他の呪文は悪くないけど。移動系は重要

 

 ロトリーで当たったカードは使い道のないアイテムだった。換金するのも面倒なレベルなのでその辺に放っておく。しばらくしたら勝手にアイテム化(マ〇クラのドロップアイテムと同じオブジェクト(エンティティ)になる)して消えるだろう。

 

「まぁまぁまぁ。まだ一回目だからね、金はたんまりある! どんどんいくぞぉ!!」

 

コメント

    :サファイヤパイセン仕事してたんやな

    :がんばえー

    :今回こそ出て欲しい

    :もう爆死芸見飽きました

 

 その後、俺は金にものを言わせてパックを購入し、宝籤(ロトリー)が当たるたびに即使用するという配信を続けた。

 

「ドロー! よし来た、宝籤(ロトリー)オン!! ……ハズレ! 次! ドロー!」

 

 30分、1時間……2時間…………。大量購入して一気に使用するという時短が出来ないので、時間だけがどんどん過ぎていく。完全に爆死動画の様相を呈していた。

 

宝籤(ロトリー)オン!! くそっ、またハズレや……」

 

コメント

    :これはひどい

    :知ってたけどねww

    :最初からこうなると思ってました

    :意外でも何でもない

    :だからあれほどリスタートしろと

 

 こういう配信は何回かやってるので、リスナーも慣れたものだが……やはりここまで応援してもらった以上、クリアするところを見て欲しいのだ。諦められねぇ……!

 

「最後の金だ、ドロー……!」

 

コメント

    :ラスト1パックかぁ

    :そろそろ配信も終了ですかね

    :今日も良い空元気だった

    :誰も期待してなくて草生えますわ

 

    :お?

    :二枚あるやんw

    :ロトリー出ないまであったのにこれはラッキー

 

 最後の1パックから宝籤(ロトリー)が二枚出た! これはキてるんじゃないか……!?

 

「よ……よし行くぜ。お前ら、出がらしになるまで運を寄こせ!!」

 

コメント

    :声震えてるww

    :しょうがないにゃあ

    :持ってけ つ運

    :はい つウン

    :ウンを押し付けてやるなよw

 

宝籤(ロトリー)……オン!! …………え?」

 

 二枚のうち一枚目を発動すると、それは……。

 

コメント

    :ん?

    :来たか?

    :いやハズレだな

    :えっ、ちょっとw

    :まてまてまてww

    :これはwww

 

 チャット欄がざわめき出す。俺が宝籤(ロトリー)によって獲得したカードは、残念ながら一坪の海岸線ではなかった。だが。

 

「り、リスキーダイス……!!」

 

コメント

    :やるしかないww

    :これは持ってる間違いない

    :なにこれ?

 

    :20面ダイス。一面が大凶で他は大吉。大吉が出るとめっちゃ良いことが起こる。大凶出すと高確率で死ぬ。

    :草草の草

    :つまりどういうことだってばよ

 

    :リスキーダイスで大吉出す→ロトリー使う→一坪の海岸線が当たる

    :そういうことかww

    :厳密に言うとそうはならんけど、願掛けにはならぁねw

    :確かにアツいな

 

「いや分かるけど! 俺もワンチャンあると思ったけどさぁ!!」

 

 原作だとこのコンボじゃランクAが上限なんだが、最後の一回、ゲン担ぎに投げるのはありかも……? とは思わんでもないけど!

 

 このゲーム、原作リスペクトでハードコアだ。つまり、プレイヤーに復活要素(リスポーン)が無い。マルチではまた別なんだが、死んだら基本的に蘇生できず、強制で観戦(スペクテイター)モードにされる……! せっかく集めた8種も全部パァになるのだ……。

 

 ニ十回に十九回大当たりが出ると言えば聞こえはいいが、ニ十回に一回は死ぬ可能性がある、まさに危険なサイコロ(リスキーダイス)……!

 

 だが俺の葛藤も露知らず、コメントは大いに盛り上がっていた。

 

コメント

    :ハイハイハイハイ!

    :ヒビキくんの!ちょっといいとこ見てみたい!

    :あったなぁそんなネタ

    :もう一回!もう一回!

    :ハイハイハイハイもう一回!

 

「うわぁああああああっ!!」

 

コメント

    :ノリノリで草

    :これもう振るやんww

    :これは流行る

    :切り抜き確定

    :ついにコラボしたい切り抜き以外の切り抜きが……?

 

 ノリのいいリスナーのおかげで原作再現でき、興が乗ってしまった俺は決心した。これで決めたるでぇ……!

 

「っしゃいくぞオラァ! リスキーダイスをゲイン! てぇいっ、コロコロコロ! ……よぉし大吉ィ!!」

 

コメント

    :セルフSEは草

    :まぁここはね

    :言うて19/20で当たるから

    :さぁこっからですよ

 

 ごくりと喉を鳴らし、最後の宝籤(ロトリー)をアバターの手に持つ。頼むぞ……!!

 

宝籤(ロトリー)……オン!!」

 

コメント

    :どうだ?

    :ハズレだったら連番1ズレであって欲しい

    :分かるww

    :そこまで行ったら逆に愛されてるww

 

 思わず閉じていた目を恐る恐る開き、俺はそのカードを凝視した。変身したカードは……?

 

コメント

    :おぉ

    :マジか

    :ファー↑w

    :U C

 

「……でっ。でっででで出たァアアアアア!!」

 

コメント

    :うっさ

    :うっさ

    :鼓膜返して

    :あれ、急に音聞こえなくなった

    :イヤホンなのにリビングの家族全員に凝視されてんだが

 

 チャットがうるさいが知らん! キタ! 一坪の海岸線!! 指定ポケットカード9種類揃ったぞぉおお!!

 

「クリアだぁああああ!!」

 

 震える手でマウスを操作し、俺は手元の"一坪の海岸線"を最後の指定ポケットに収めた。その瞬間画面が暗転し、クリアムービーが流れ出す。お、終わった……!! G・IMODのソロ動画は割と動画サイトに上がってるけど、No2含めてのクリアは多分俺が初だ、これは嬉しい……!!

 

コメント

    :おめでとう

    :素直に称えよう

    :よくやったよマジでww

    :全枠見届けた俺たちも称えられるべき

    :ひびきが必死こいてドローロトリーするの眺めるだけの配信だからw

    :こんな変わり映えしない枠も終わると思えば寂しいもんだ

 

「やぁありがとう、ホントに。お付き合いいただき感謝! ライバーのみんなのおかげで何とかここまで来れました!」

 

コメント

    :思い出したようにファンネーム使うな

    :そういやそんなんでしたね

    :なんでライバー?

 

    :リスナーをライバー扱いして一人でもコラボをしていると言い張っていた時代があってだな

    :草

    :泣ける;;

 

 はっはっは、今は何と言われようが気にならない。清々しい気分だ……。まぁこのMODはマルチで呪文バトルするのが醍醐味であって、クリアしたところで特にめぼしい特典は無い。そのワールドで唯一クリエイティブ(何でもアリ)モードの権限が与えられ、全カード自由に使用できるくらいだ。MODの専門知識が無いとこのゲームでクリア以外にクリエ使う手段無いから、ファンは一回くらいクリアしたいところだけど。

 

「長かったねぇ……。やぁでもイケるもんだな!」

 

コメント

    :条件だけなら二週間前から同じだったぞ

    :褒めてやらんこともない

    :金貯めるのも楽じゃないからなぁ……

    :ゾンビスポーンぶち当たった時の絶望感ねw

    :投石のエフェクトで画面埋まるからな

 

 原作に登場するキャラをスキンで再現したキャラが登場し、ちょっと喋っては消えていくエンディングを眺めながら、俺はリスナーとこのゲームの思い出を語り合った。感慨深いような寂しいような。そして次はなんのゲームやろうかなぁという、久しぶりの切実な悩みも。

 

 ぐっと背伸びをして、いよいよムービーも終わるそんな折。

 突如としてそれは訪れた。

 

コメント

夕張ユラ:ヒビキ先輩クリアおめでとうございます! ずっと応援してました!

    :えっ

    :!?

    :ユラちゃん来とるw

    :ずっと見てたのかw

    :これは燃える(予言)

 

夕張(ゆうばり)ユラって……えぇっ!?」

 

 夕張ユラちゃん。VSの四人いる三期生のうち一人だ。彼女がコメントした通り、一応は俺の後輩ということになるけど、もちろん形だけ。事務所に入った時は共通のグループチャットで挨拶を交わしたが、その程度で特に親交は無い。なんで急に……? というか、ずっと見られてた!?

 

「えっと……あ、ありがとう。なんとかクリア出来たよ、うん」

 

コメント

    :さすがに動揺が隠せない様子

    :なんならリスナーも困惑してるからw

    :これは歴史的瞬間ですよ

 

 俺も、何故か同調して視聴者も困惑する中、ユラちゃんはこうコメントするのだ。

 

コメント

夕張ユラ:ヒビキ先輩がクリアしたら、勇気を出してお願いしようと思ってたんです!

夕張ユラ:私と、コラボしてくださいっ!!

    :コラボ依頼キターー!!

    :体育館裏で頭を下げて告白する夕張後輩見えました

    :ぐぅわかる

 

    :おい固まってないでなんか言えw

    :気持ちは分かるけどねww

    :さっきのスーパーポジティブフラグだったじゃんw

    :ユラちゃん待ちぼうけやぞ

 

夕張ユラ:どきどき……

    :意外に図太いなこの娘

    :それが良い

 

 思わぬ展開に頭が真っ白になった俺は、僅かに残った思考回路をフル活動させてなんとか一言答えた。

 

「……か、考えさせてくだしゃい」

 

 直後、大量の罵倒コメントが流れたのは言うまでもないね! 傷ついた様子もなく、ユラちゃんが「良いお返事期待してますっ」と返してくれたのが救いだった。

 



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Vの裏で:コラボしても良いですか?

『三期生の夕張さんとコラボですか、初耳ですが』

「はい……昨日の生配信を見てたらしくて、コメント欄にそんなことを」

 

『……コメントで、ということは。ある程度視聴者にも伝わってしまったと?』

「そうです。一応その場では了承せず、考えさせてほしいと返したんですが……」

 

『そうですか、助かります。……申し訳ありません、すぐにでも頷きたかったでしょうに』

「いやそんなことっ……は、あるんですけど。僕としても、出来る限り事務所に迷惑はかけたくないので……」

 

 G・IMODのソロクリア配信を成し遂げた翌日、俺は事務所のマネージャーに夕張ユラちゃんからコラボの打診があった旨の報告をしていた。使ってるのは通話用のPCフリーソフト。これならメモしながら話せて便利だ。

 

 一期生、三期生ともに専属のマネージャーがついてるVSだけど、俺にはそれが居ない。二期生の担当を予定していた人が三期生についてるんだよね。では相手がどういう立場なのかと言えば、VSプロジェクトの統括マネージャー様だ。つまりVSのボス。

 

 例えば所属のVが何らかの企画を希望した場合、まず相談を受けた担当マネージャーが吟味し、さらに上の統括マネージャーが可否を判断する。でも俺にはそのエスカレーションが無いので、こうして直接お伺いを立てにゃならんのだ。

 

 やり取りの上では向こうの腰が低い気がするけど、それは俺がセルフマネジメントせざるを得ない状況を詫びてのことであり、本来なら直接連絡を取り合えるような間柄じゃない。ぶっちゃけ緊張しますハイ。

 

『そうですね……ヒビキ君は、まだ収益化こそしていませんがその申請自体は通っています。収益化記念配信のタイミングでコラボしましょうか』

「えっ……いいんですか?」

 

『はい。貴方はこちらが求める以上に慎重な言動を心がけてくれていますから。それに報いたいという気持ちは我々にもあるのですよ』

「あ、ありがとうございます」

 

 なんかそういうことになった。燃えるのが怖かったからそうしていただけとは言え、清く正しく活動するもんだね!

 

『打ち合わせや配信日の調整はこちらで行います。さしあたって気になることはありますか?』

「えぇと、そうですね……すでにアーカイブとしてチャンネルに上がってる動画なんですが、権利関係に問題が無いかとか改めて確認をお願いすることは可能でしょうか……?」

 

『問題ありませんよ、専門のスタッフに話を通しておきます。……事務所への配慮には感謝しますが、もう少し気軽に活動しても良いんですよ?』

 

 差し出がましいとは思ったが収益化にあたっての懸念を話すと、ボスはどこか揶揄うように言ってきた。やべ、生意気言い過ぎただろうか。

 

「はは……今、事務所に所属している男性Vと言えば僕だけですし。僕の行動が、今後生まれるかもしれない他の男性Vの活動に影響すると思うと、やっぱり色々考えてしまいますね」

 

『お察しします。ですが、アレ(・・)は悪い出来事が偶然重なった結果ですので、気にし過ぎるのも良くありません。……まぁ、デビュー当時は少々大袈裟に忠言したかも知れませんが。今の私個人としましては、あなたの言動にある程度の信頼を置いていますからね。もう少し伸び伸びと活動しても良いかと思いますよ』

 

「きょっ、恐縮です!」

 

 お偉いさんに認められているのは素直に嬉しいが、それはそれで別のプレッシャーがあるぞ……。そんな思いが出てしまったか、裏返った俺の声にボスは電話の向こうでクスクス笑っていた。

 

『とりあえず、コラボの件は了解しました。諸々スケジュールを組み次第改めて連絡します。そう時間はかからないかと思いますので、その間は生配信はしないようお願いします。コメントでコラボについて言及をされると返しに困るでしょう?』

「ですね、ご連絡いただくまで大人しくしておきます。お気遣い痛み入ります」

 

 多くはないボキャブラリーから小難しい言葉を弄した俺を、やはり可笑しそうに笑ってから、ボスは通話を切る。こうして、なし崩し的にではあったけど、俺の初コラボが決定したのであった。

 

 …………燃えないといいなぁ……。

 



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Vの裏で:コラボしても良いですか? ー夕張ユラー

「……お疲れ様です、夕張ユラです」

『お疲れ様です。今、お時間構いませんか?』

「は、はいっ。大丈夫です」

 

 マネージャーさんから聞かされていた通りの時間に、私はVSプロジェクトの実質トップだという統括マネージャーさんからの電話を取った。用件は間違いなく、私が言い出したヒビキ先輩とのコラボについて。失礼のないようにしなきゃ!

 

 マネージャーさんの話だと、とっても厳しい人みたいだし……。裏では"元帥"なんて呼ばれているみたい。

 

『では早速本題に移りますが。暁さんとコラボがしたいそうですね』

「そ、そうです」

 

『理由を伺っても?』

「え、えと……ヒビキ先輩のことは、その。事務所に入る前から知っていたんです。それでその、尊敬、してます。最近ヒビキ先輩、とっても難しいゲームを配信中にクリアしてたんですけど、私、その動画全部見てて。お祝いに、そのゲームの雑談なんか出来ないかなぁって……その。思ったんですけど……先輩、よくコラボしたいって言ってましたしっ」

 

 電話の向こうから、私が話している間なにも音はしなくて。自分がきちんと喋れているか不安なまま、私は焦りつつもなんとか理由、のようなものを説明し終えた。

 

 すると、ふぅっ、と短く息を吐く音が聞こえて、元帥さんはゆっくりと口を開いた。

 

『……お気持ちは分かりました。たしか夕張さんは、応募の際にも暁さんの配信に言及されていましたね。暁さんの生配信をきっかけにVtuberに興味を持ったと』

 

「そうなんですっ! その、なんていうか、可愛いけどカッコイイと言いますか……ゲームが凄く上手いけど、負けたら子供みたいに悔しがって。最初はただのゲーム好きな人だと思ってたんですけど、視聴者のコメントに真剣に向き合ってくれる、大人っぽいところもあるんですよね! よくプロレスみたいな言い合いしてるんですけど、本当に他人を傷つけるような言葉は使いませんし。知れば知るほど素敵な人でっ」

 

『分かりました、夕張さん。落ち着いてください』

「はっ! すっ、すみません!!」

 

 勢いで語ってしまってから、相手が誰なのかを思い出して私は顔を青褪めさせた。へ、変なコだと思われてないかな……!? うぅ、やっちゃったかも……。

 

『まずはハッキリさせておきますが、コラボの件。これに関しては前向きに計画を進めるつもりです。夕張さんはゲームのクリア記念にと言いましたが、建前としては収益化記念と言うことでコラボする予定です』

「ふぇ?」

 

 思わず変な声を漏らしたけど、元帥さんは気にした様子もなく続ける。

 

『先に暁さんへの認識にズレが無いか確認しておきましょう。夕張さんは、何故暁さんが事あるごとに配信で「コラボがしたい」と言っているか分かりますか?』

「えっ? その……こ、言葉通りの意味じゃないんでしょうか……?」

 

『無いとは言いませんが。理由は主に二つです。一つは自衛のため。ずっとコラボがしたいと言いつつしないライバーが居れば、普通はその理由を考えますよね? 何かしら出来ない理由があるんだろうな、と。 敢えて自分から口にすることによって、暁さんは他のライバーに「コラボNGの相手」として印象付けているんです。それにより、炎上に繋がる火種……女性ライバーからコラボの誘いがそもそも来ないように。それでもコラボを提案してくる人は、はっきり言って想像力に欠けるので、その時点で断りますし』

 

 言外に私が「想像力に欠けてる」って言われてるみたいで心が折れそうになったけど、なんとか疑問を口にする。

 

「な、なんでそこまで……?」

『それが、理由の二つ目にもなるのですが。……夕張さんは、そもそも世間の男性Vに対する印象がどういうものか認識していますか?』

 

「それは……その。良い目で見られてないってことは知ってるんですけど……」

『詳細はご存知ないようですね。では説明しておきましょうか……直結厨、という単語に聞き覚えは? 主にネットゲームで使われたスラングです』

 

「す、すみません……」

『構いませんよ。これは主に、異性へ過剰に接近する行為の総称です。例えばゲームとは、基本的に男女の出会いの場ではありませんよね? にも関わらずチャットなどで住所を聞きだして実際に会おうと言ってきたりだとか。端的に言えば性的な繋がりが目的の迷惑行為です。あくまで極端な例になりますが』

 

「な、なるほど?」

 

 難しい言い回しでちょっと混乱してきたけど、何となくは分かった、ような気がする。うん。

 

『話を戻しますと、とある事務所でデビュー予定だった男性Vが、いわゆる直結厨だったのです。以後"男"と呼びますが……男が女性ライバーの配信で高額なスーパーチャットを投げる行為が散見され、そのコメントが総じてオフコラボを思わせるような内容でした。その件については当然、いたる所で炎上騒ぎになります。稼働を開始したばかりの当人のSNSには批判が殺到し、また当人が不用意に反論したことで加速。まさに火に油を注ぐ言動を取り続けたのです』

 

「う、うわぁ……」

『また、男に言い寄られていた女性ライバーも被害を受けました。その男がどういうコメントをして、ライバーがどう返したのか、という切り抜き動画が多数投稿サイトにアップされ、悪い意味で注目を集めたのです。生配信では常にファンではない、興味本位のユーザーが迷惑コメントを寄せるようになりました』

 

「そんなことが……」

『今では沈静化を見せていますが、未だにVtuberファンの間では男性Vに対するヘイトが燻っています。そして、それは常に暁さんの動向を窺っているのです。暁さんは自身が炎上の原因にならないよう、引いてはコラボ相手の女性ライバーに被害が及ばないよう、そもそも"コラボをしない"というスタンスを貫いてきたのです』

 

「…………」

 なんて言えばいいのか、分からなかった。いつもコラボがしたいと。一人でプレイするマルチ用ゲームは寂しいと言っていたヒビキ先輩。その気持ちは絶対に嘘じゃないし、それをよくコメントでイジられているのも見てきた。私が先輩に憧れたように……先輩もきっと、誰かに憧れて。ワイワイ集まって動画配信をするVtuberって存在を、素敵なものだと思って応募したハズなんだ。なのに……事務所と、周りのことを常に意識して。その上でリスナーを楽しませるような配信を、たった一人で続けてきた。そんなの、あんまりだよ……。

 

『……あまり気落ちしないことです。冷たく聞こえるかも知れませんが、これはヒビ……ん、んん! 暁さんが自ら決めたことですから。話をまとめますが、暁さんは自身の立場を守るため。同時に、他の女性ライバーの立場を守るために、いわゆるボッチ芸を続けているのです』

「そう、なんですね……」

 

 知らなかったことが、悲しく思えた。でも……そんなヒビキ先輩が、やっぱり素敵な人なんだとより実感できて、同時に嬉しさと……そんな先輩に憧れてこの世界に足を踏み入れたことが、心底誇らしく思えてくる。

 

 もっと言うなら、元帥さんがなんで私に、この話をしてくれたのかも。なんとなく、分かったような気がした。

 

「……それで、私は……ヒビキ先輩とコラボするために。何をすれば良いですか?」

 

 私が望んだような、ただヒビキ先輩の配信にお邪魔して。ゲーム配信の思い出を語り合いながら、クリアをお祝いする。それをそのまま通せば、ヒビキ先輩が築いてきたものを踏みにじることになる。きっと。

 

『……察しが良くて助かります。夕張さんには――』

 

 私ができるだけ真剣な声で問いかけると、電話の向こうで元帥さんは笑ったような気がした。そして――。

 

『暁さんの、ガチ恋勢になっていただきます』

「――ふぇ?」

 

 そんな、突飛なことを言ってきたのだった。

 



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【収益化記念配信】念願のマ〇クラ雑談!【~後輩を添えて~】①

「こんヒビキ! VS二期生、ヴァーチャルシップ唯一の男性Vこと暁ヒビキです! 今日は初コラボ記念生配信に来てくれてありがとうございます!!」

 

コメント

    :始まった!

    :収益化おめー ¥120

    :ちゃんと挨拶するな ¥370

 

    :動画タイトルと内容が違うんだが? ¥1000

    :コラボ記念ww

    :他のVが配信に来るだけでこのはしゃぎっぷりよ

    :泣ける;;

 

「スパチャあざます! でも早いですよー、なんせまだ主役が来てないんだからね!!」

 

コメント

    :チャンネル名改めろ ¥250

    :ここはユラちゃんねるだったのか(困惑)

    :コラボは嘘で見栄張ったって正直に言いなさい ¥2000

    :相手のライバーって俺らのことでしょ?

 

「いまだに信じてもらえてないことにある意味信頼を感じるね! しかし事実だ、君らもとっとと現実を受け入れることだなぁ!!」

 

コメント

    :草ァ ¥610

    :なぜコラボってだけでイキれるのかと

    :当たり前なことが幸せってこと、あるよね……

 

 告知通りの時間に配信を始めると、見慣れた名前の人からそうで無い人まで、配信画面で待機してくれていたらしい視聴者たちがコメントをくれる。なかには今回から俺のチャンネルでも可能になった投げ銭機能を使ってくれている人もいて、そのユーザーはよく話し相手になってくれた人たちだ。ありがたいねぇ……。

 

「それじゃあ早速お呼びしましょー。夕張ユラちゃんどうぞ!」

「みなさんこんばんは~! ヴァーチャルシップ三期生の夕張ユラと申しますっ。今日は尊敬するヒビキ先輩とのコラボと言うことで緊張していますがっ。なにとぞ、よろしくお願いします~!」

 

コメント

    :声かわいい

    :礼儀正しい娘や

    :三期生の常識枠とポンコツ枠と頑固枠を兼ね揃えたスーパーハイブリッド(?)だぞ

    :こんばんわー

 

 俺が配信画面にユラちゃんの立ち絵を表示すると同時に、通話を繋いでいる彼女が溌溂と挨拶してくれた。Live2Dで動く俺のモデル、アニメチックな学生服を着た茶髪イケメンキャラの隣には、意匠が似通った制服の美少女が並んでいる。エメラルドブルーの髪はポニーテールで、どことなく神秘的な印象を持たせるが。タレ目で柔和に微笑む表情が親近感を抱かせてくれている。控えめに言ってカワイイね!

 

 す、すげぇ……俺の配信に別のライバーがいるぜ!

 

「す、すげぇ……俺の配信に別のライバーがいるぜ!」

 

コメント

    :めっちゃ嬉しそうに悲しいこと言ってんな

    :ヒビキの配信に違う立ち絵がある時点で偽チャンネル感やべぇ

    :だってここユラちゃんねるですしおすし

 

 おっと、思わず口に出してしまったらしい。ユラちゃんとそのマネさん、さらにボスを交えた四人での事前打ち合わせでは、二人して割とはっちゃけて良いとのお言葉を賜ったが。さすがにチャンネル主の俺がテンションのまま進行を放棄するわけにゃ行かんね!

 

「ユラちゃん、今日は来てくれてホンットにありがとう! 俺、こんな風にライバーさんとコラボ配信するの、夢だったんだ……」

「そっ、そんな! 私こそ、ヒビキ先輩は憧れで! 初コラボに呼んでいただけるなんてすっごく嬉しいです……!」

 

「ユラちゃん……へへっ」

「えへへ……」

 

コメント

    :なんやこいつら

    :男女カプ厨ワイ大歓喜 ¥3000

    :このチャンネル燃やそう(名案)

    :ユラちゃんがVになったきっかけってやっぱこの人なのか

    :憧れのライバー居るって言ってたけど、女性とは言ってなかったもんね

 

 あかんあかん、さっき反省したはずなんだが。テンション任せに喋ってリスナー置いてけぼりである。……しっかし、ユラちゃんもノリがいいなぁ。ボスの話によると、ユラちゃんはゲームが大好き(・・・・・・・)らしく、俺のPS(プレイヤースキル)に憧れて配信をよく見てくれてたそうなのだ。

 

 俺はV活動とは別の仕事もあって、ユラちゃんの配信を見れたりはしてないんだけども。そこでも俺のことはちょいちょい話題にしてくれているらしく、向こうのリスナーも俺に対してそこまで悪感情は無いだろうってことで、今回のコラボと相成ったのだ。あったけぇよやっぱ、Vtuberの輪ってヤツはよぉ……俺とユラちゃんが両手繋いでる程度の小さい輪だけどね!

 

「ま今回はね! 俺も不慣れなコラボってことで、いつものノリでお届けできるよう、慣れ親しんだゲームをしながら! 雑談して行こうと思いますよー。ってことで、ユラちゃん準備は?」

「オーケーですっ。入れてますー!」

 

「そんじゃあゲーム画面出してっ、と……大丈夫そうかな?」

 

コメント

    :マ〇クラか、いいね

    :放送タイトルにあるしな

    :G・Iか?

    :スペルエフェクトの表示欄無いしバニラでしょ

    :夢がかなってよかったねぇ…… ¥2525

 

「ありがとな、ばぁちゃん……いやじーちゃんかも知れんけども。そう! 俺の夢だと散々言ってきましたマ〇クラ雑談コラボ! 運営が用意してくれたサーバーでテキトーに、ゆるーく遊びながらね、お互いのことを知れたらなーと思いますよ。先輩後輩言うても、僕ユラちゃんのことあんまり知らないからさ」

 

「うーん、私は嬉しいんですけど……収益化記念がこんな感じで大丈夫ですか? もっとリスナーさんと絡んだりとか」

「いーのいーの! ほら、お祝いってことらしいし、俺がやりたいようにさせてもらおうかなって! それに視聴者諸君とはもう嫌って程コラボしたから!! スパチャは拾うけどね!!」

 

コメント

    :ユラちゃんそこのボッチと遊んであげて? ¥2000

    :俺たちをライバー扱いする残念なパイセンで申し訳ないけど

    :保護者多くて草

    :はいコラボ代 ¥5000

    :これでダイヤピッケル作るといい ¥10000

 

「え、あっちょっと! 嬉しいけどお財布とちゃんと相談しろよ! 赤スパありがと!! ……実在するんやなぁ」

 

コメント

    :ボソッと赤スパを都市伝説扱いするな

    :お前の後輩はとっくにもらってるぞ

    :ホラひざまずけ ¥20000

 

「ハッハッハァ! 嬉しいし感謝しきりだが、赤スパでダイヤは掘れんので跪きなんぞしねぇぞ! ただまぁ、何となくの目標はダイヤを掘るまで、って感じにしようかな? ……あれ?」

 

 リスナーと戯れる自分の音声で気づかなかったけど、ちょっと口を閉じたらユラちゃんがくつくつ笑ってるのが聞こえてきた。どないしたんやろか。

 

「す、すみません……ふふっ。……やー、ヒビキ先輩とリスナーさんたちのやりとり、私とっても大好きで! いつも配信見ながら笑わせてもらってましたっ」

 

コメント

    :かわいいかよ

    :照れる///

    :媚びてんじゃねぇぞ ¥5000

    :ツンデレニキ!?

    :ツンデレニキで草

 

 思わずユラちゃんの言葉に照れたが、リスナーもやられてしまったらしい。うん……マジ可愛いね! こんな後輩欲しかったね! 事前打ち合わせの時はもうちょい口調が硬かった気がするけど、めっちゃリラックスしてるのが窺えるのも嬉しい。本人曰く、ライバーとして喋ってるって時は吹っ切れて自然に話せるらしい。俺はちょっと緊張するタチだから、珍しく感じるね。

 

「今日はね、俺と親交を深めてもらえると嬉しいけど。良かったらこっちのリスナーともね、絡むというか罵倒してやってもらえると僕の笑みが深まるのでね、どうぞよろしく」

 

コメント

    :まぁヒビキにマウント取られるよりは

    :我々の業界ではご褒美ですから

    :罵倒してください ¥514

 

「あっ、やっぱやんなくて良いやユラちゃん。意外に紳士(ヘンタイ)が多かったらしい」

「あははっ、ハーイ!」

「そんじゃあ配信も温まってきたのでね、マ〇クラ雑談! やっていきやしょー!」

「おーっ!」

 

コメント

    :雑談枠ってもっとヌルっと始まるもんでは

    :慣れてないからしゃーない

    :もっと温めてやるよ(炎上)

    :俺らとしかシたことないコラボ素人童貞に多くを期待するな

    :喋れてるだけマシw

 

「君らうるさいよー!!」

 

 チャットで俺をおちょくる連中に苦情を入れつつ、始まったマ〇クラ雑談枠の中、俺はとりあえず木を伐りに林へ突っ込んだ。

 



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【収益化記念配信】念願のマ〇クラ雑談!【~後輩を添えて~】②

「お、洞窟出たぞ。今が……Y(高さ)20か。もうちょい下れるとこ探したいねー」

「ですね~。あ、チェストの骨もらいます! これでパンが食べられますよっ」

「ありがてーってばよ!」

 

 放送から30分ほどが経ち、俺とユラちゃんは地下に(もぐ)っていた。開始10分くらいはユラちゃんがどれくらいマ〇クラに慣れてるのか分かんなかったから探り探りだったけど、思いのほか上手くてびっくり。

 

 俺が過去に配信したマ〇クラ動画も全部見てくれたというユラちゃんは的確に俺の行動アシストをしてくれて、一人で効率プレイするのとさほど変わらないサクサク具合でダイヤ探しは進んでいる。

 

 今は直下掘り(地上から地下へ真っ直ぐ掘り下ること)して地中の中層に拠点を作り、そこから横に掘り進めて辿り着いた洞窟を探検するところだ。俺が一人でこういうことすると途中で空腹問題にぶち当たるんだけど、それを見越してかユラちゃんはいつの間にやら集めた小麦の種を小さな地下農場で栽培している。

 

 そしてこのゲーム、骨を砕いて骨粉にすれば肥料になる。小麦は一瞬でパンに化けることだろうね。ユラちゃんの言葉はそういう意図だ。ちなみに骨はスケルトンっつーガイコツ弓兵を倒したら落ちる。

 

 実際のとこ30分でこの進捗はあまり速いとは言えないんだけど、ライバーとして雑談したり、リスナーに返事したりもしてるからね! それを考えるとユラちゃんのサポート能力はすさまじい。まったり雑談企画だからそこまで急ぐこともないんだけども。

 

 ところで、チャットコメントの内容はお馴染みのモノである。

 

コメント

    :後輩にパン焼いてもらえるとか絶許

    :そこ代われボッチにゃまだ早いぞ

    :リア充は匠の爆発で死ね

    :死ねはあかんぞ死ねはw

    :そうだな、悪かったよヒビキ くたばれ

 

    :大して変わってなくて草

    :ゲームなのにリア充とはこれいかにw

    :大事なのはそこじゃないぞ

    :ヒビキがライバーとイチャついてるのが腹立つ

    :ほんそれ

    :俺たちのボッチを返せ;;

 

「お? 悔しいのかなぁ? ほら、これがユラちゃんが焼いてくれたパンだぞ。食いたい人ー?」

 

コメント

    :寄越せ

    :くだちい……くだちい……

    :いくら払えば良いですか?

    :言い値で買うぞ。いや買わせてください

 

「バリむしゃバリむしゃバリむしゃァ!! う、うめぇ……! あれれ? 無くなっちゃったなぁ」

 

コメント

    :殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

    :なんでそんなひどいことができるの?

    :バリムシャてww

 

    :てめぇの血は何色だーー!!

    :お前は俺たちを怒らせた誰か住所特定しろ

    :憎悪にまみれた切り抜き作ってやるからな震えて眠れ

 

「ちょっと待って! 冗談じゃん!! ごめんて!!」

「うふっ。あはははははははっ!」

 

 そらもう民度もクソもないコメントの嵐だが、ユラちゃんのウケが良いのでだーれも自重しない。いや俺もめっちゃ煽ってるけど、こう笑ってくれるとやめられない止まらない。そもそもユラちゃんもリスナーだったんだからお察しか……。

 

「ったく、ユラちゃんが笑ってくれるから許されてんだぞ! 他のライバーに死ねだの殺すだの言ってみろ、モデレーター大活躍やぞ!」

 

コメント

    :どの口が言ってんだ?

    :安心しろ、お前にしか言ってないから

    :ヒビキにだけだよ♡

    :気休めになってないw

    :他のライバーにそんな酷いこと言うわけないやろがい!

 

「君ら外面(そとヅラ)は良いタイプなの? ほんとぉ? どう思うよユラちゃん」

「ヒビキ先輩のリスナーの皆さん、とっても楽しい方たちですからっ。問題になるようなコメントはしないと思います! きっとここが一番リラックスできるんですね!!」

 

コメント

    :これがピュアか ¥490

    :ヤメテ……ヤメテ……

    :おい浄化されちゃうだろw

 

    :違うそうじゃないww

    :ここは俺らを罵倒する流れだろ舐めてんのか ¥10000

    :ツンデレドMニキ!?

 

 うん……そりゃ暴言の応酬はプロレスなんだけどさ! そんな屈託ない声で言われるとムズムズするだろ!! まぁユラちゃんの純粋さにやられてか、ちょっとコメントが落ち着いてきたので。そこからはユラちゃんと本格的に雑談しつつダイヤを探し続ける。

 

 くっちゃべりながらも洞窟内に松明(たいまつ)を設置していき、敵を片付けては下へ下へ。

 

「悪いねユラちゃん、何度も拠点と往復させて」

 つい癖で見かけたレア鉱石を掘ってると、定期的にユラちゃんが回収して拠点に持って行ってくれる。なんとも献身的な彼女にお礼を言おうとしたら。

 

「いえいえっ。配信はヒビキ先輩視点ですし、気にせず探してください! それに私、大好きな(・・・・)先輩のお力になれるのがとっても嬉しいんです!!」

 

 お、おぉ……。ここまでストレートに先手を打たれるとさすがに照れるぜ! 腐らずに配信やってきてよかったで、ホンマ……!

 

「ありがとな、ユラちゃん。俺、ユラちゃんの先輩って立場に恥じないライバーになるよ! 良かったらこれからも仲良くしてくれよな!!」

「そんな……! わ、私だって、後輩としてヒビキ先輩に恥をかかせないよう頑張りますのでっ。何卒よろしくお願いしますっ」

 

コメント

    :なに聞かされてんだ俺らは

    :はぁ~ヒビユラてぇてぇ

    :男女カプ厨ニキちっすちっすw

 

    :ネキだ二度と間違えるな殺すぞ

    :ヒェッ

    :これは厄介カプ厨

 

    :飢えてるのは分かるけどカプの話題はマナーを弁えてな

    :興奮しすぎた。正直すまんかった

    :ネキ素直だなww

 

 おっと……初絡みなのに飛ばし過ぎたせいで、視聴者間でもちょっと揉めてるな。いや他のコメントで収まるレベルだから大人しいもんだけどね。ま、この反応は概ね打ち合わせ通り(・・・・・・・)だから良しとしよう。

 

「うっし! 気を取り直して探索探索ゥ! ユラちゃんは、マ〇クラで最初に見つけたダイヤは何に使うタイプ?」

「ヒビキ先輩はいつもツルハシですよねっ? 私は……クワです!!」

「マジかよ!?」

 

 そんなこんな無駄話に興じつつ、どんどん未踏破ゾーンを開拓していく。あぁ、これが雑談マ〇クラコラボ……! 同じライバー同士、同じゲームを楽しんで、同じ思い出話(俺の配信の内容)に花を咲かせる。それのなんと心地よいことか!

 

 しかし……どんな楽しい時間にも終わりは訪れるもので。

 

「おっ、発見! ダイヤありましたー! 拍手!!」

「わーっ」

 

 地下のマグマ溜まり、その縁に燦然と輝いている(ように見える)水色のドットが散りばめられたブロック。間違いなくダイヤ鉱石である。

 

 俺の声にユラちゃんも応じ、ペチペチペチとあまり音が響かないタイプの拍手を聞かせてくれる。手を合わせて指の先だけで音出してるんだろうなぁ、可愛い後輩やで……。

 

コメント

    :サクサクだったなぁ

    :ヒビキはともかくユラちゃんお上手ね

    :そら同期コラボでは苦労人枠だからな

    :マ〇クラコラボで苦労人とは

 

    :木こる。家建てる。物資集める。同期に配る。同期が死ぬ

    :草

    :もう十分わかったww

    :いくら仲間が全ロスしても笑顔で鉄装備わたすぐう聖やぞ

 

    :体感5分配信やったな

    :もう1時間も経ってたんやなぁ

    :二人とも初コラボとは思えんほど話合ってたし、暇はせんかったね

    :とりあえずユラちゃんがヒビキのファンガチ勢なのは理解した

 

    :ボッチにも可愛くて健気な後輩が出来ると分かって勇気が出ました

    :ひどくて草

    :ユラちゃんのおかげで楽しかったよ!

    :次回のユラちゃんねるも期待してます

 

「いやー最高だった! コラボっていいもんだね……! ほらユラちゃん、視聴者のみんなも楽しかったって……ねぇ、君らは素直に俺の配信を褒められんのかね?」

 

コメント

    :は?

    :は?

    :は?

    :自惚れんなカス

    :ちょっと静かにしててください ¥20000

    :黙らせるために赤スパで草

 

「…………」

 

コメント

    :黙るんかいw

    :所詮ヒビキも札で殴られればこんなもんよ ¥200

    :2コインじゃないすかww

 

「あははっ、えひっ。ふ、ふふふふふ……!」

 

コメント

    :ユラちゃんが楽しそうで何より

    :ほっこり

    :だらしない笑い方いいゾー

    :ほんと誰の枠か分からんコメント欄よ

 

「はい終わるから! みんな来場、及びスパチャ感謝! ユラちゃん、感想告知なんかあればどうぞ!」

 

「あ、はいっ。ヒビキちゃんねるの皆さん、今日はありがとうございました! えと、しつこいようですが、大好きなヒビキ先輩とコラボできて、とっても幸せでしたっ! また機会があればお邪魔したいと思うので、その時はよろしくお願いします! あとあと、明後日(あさって)にヴァーチャルシップ三期生全員でのコラボ配信があるのでっ。よろしければ、配信にお越しくださいー! …………その、い、以上れすっ」

 

コメント

    :ふぁー

    :かわー

    :マナーを弁えた結果ボキャ貧になるネキw

    :三期生四人でか、覗いてみるかね

 

「俺もこの機会にね、後輩たちのことをもっと知れたらと思いますよ。お前らも絶対見に行けよな!! それでは! 初コラボ記念生配信、マ〇クラ雑談でしたー!! ばいばーい!!」

 

「ば、ばいばーいっ!!」

 

コメント

    :おつヒビキって言えや

    :まともなの最初だけだったな

    :タイトル間違えてんだってw

    :絶対またやれ ¥10000

 

 マイクをミュートにしつつ、打ち合わせで決めていた通り、ユラちゃんへ個人チャットで通話から抜けるようメッセージを飛ばし。憎まれ口を叩く視聴者に頬を緩めながら、俺は配信を切り、椅子に深く背中を預けた。

 

 

 はー…………コラボって最高だな!!

 

 



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Vの裏で:コラボはどうでしたか?

 

『昨日のコラボ配信お疲れさまでした。本日はどのようなご用件でしょうか』

 

 ユラちゃんとの配信を終えた翌日、俺は例のごとくボスへ連絡していた。PCのフリーソフトで通話を繋ぎつつ、先に相談内容をまとめておいたメモ帳をチラ見。中身はだいたい、俺とユラちゃんのコラボに対するファンその他の反応である。

 

「その配信の件なんですけど……やっぱり、反感を買いましたよね? 自分のアンチから、というのとはまた違うと思うんですが」

 

『そうですね。おっしゃる通り、コラボの件はVtuberファンの間でそれなりに話題になっています。よくも悪くも。ヒビキ君と夕張さんのファンには好印象でしたので、企画としては特に問題ありませんが』

 

「そうなんですか?」

 

 炎上騒ぎとはいかないまでも、俺個人としてはSNSなんかで「ついにヤツも直結か!?」とかコラボを叩くような内容を目にしてるんで気が気じゃないんだが。ファンの間では、"自分の推しとはコラボしないで欲しい"というようなコメントもよく見かける。

 

『まず、コラボ企画において何を成功とし、何を失敗とするか、の話をしましょうか。成功とは、お互いの視聴者がコラボ先のVtuberを気に入り、相互ファンが増えることです。既存ファンに配信内容そのものを楽しんでもらうことは大前提ですが』

 

 ボスが言うには、今回のコラボでユラちゃんとこのファンはその多くが俺のチャンネルも登録してくれたらしい。理由としては配信を面白がってくれたこともあるが、彼女が今までの配信で仄めかしていた"憧れのVtuber"ということが判明したからだそうで。俺の配信アーカイブを見てからユラちゃんの動画を見直せば、新しい楽しみ方も出来るんだろう。配信でのユラちゃんのあの発言は、俺の配信のこの部分を言ってたのか! みたいな。

 

 また、ヒビキちゃんねるのリスナーも同様にユラちゃんのチャンネルを登録してる。今までコラボNGだった企業勢男性V(暁ヒビキ)初のコラボ相手であり、同時に彼女自身も俺のチャンネルのリスナーだったのだ。シンパシーを感じた人もいれば、単純に彼女に魅力を感じた人もいたんだろう。

 

『失敗とは当然、双方の視聴者が配信内容に不快感を覚えることです。コラボ相手のみならず、もともとファンだった視聴者が離れるような事態になるのが最悪ですね。そしてコラボの失敗は、長期的に見てそれ以降のコラボ企画に必ず支障をきたします。今説明したような状況はほとんど見られませんので、昨日の配信は概ね成功したと言えるでしょう』

 

 つまるところ、目的は達しているのだから外野がいくら騒いでも気にすんな、ということらしい。

 

『コラボ配信の切り抜き動画の中には悪意ある編集がされているものも確認しましたが、炎上を煽る目的が透けて見えますし、ヒビキ君の発言を穿って捉えすぎて滑稽なほどです。むしろその動画をきっかけに興味を持った人がアーカイブを視聴し、結果的にはファンが増えるのではないかと』

 

 そもそも俺とユラちゃんのコラボ配信って終始和気あいあいとしてたし、どう頑張っても初見の人に悪感情を持たせるのは無理だと思うんだが。……いや、ユラちゃんが俺のこと"大好き"発言してたから、その辺に絞れば他所のガチ恋勢や男性Vアンチ勢は釣れるのかも。まぁそれも俺の発言じゃないから限度があるだろうけど。

 

「そうですか、問題ないようなら良かったです。せっかくコラボできたのに、関係ないところで炎上したら台無しですし」

『夕張さんとのコラボは楽しめましたか?』

 

「もちろんです! 機会があればまたお願いしたいですね!」

 ちょっとした要望を口にすれば、ボスは電話の奥で笑ったようだった。

 

『昨日の配信は良いきっかけになったでしょうから、今後はコラボについてもう少し積極的に動けると思います。実は、すでに何件かコラボの打診は来ているのですよ。とはいえ先方の状況次第では難しいライバーも居らっしゃいますので、都度打ち合わせを重ねていくことになるでしょうが。おおよそ期待通りです』

 

 マジか、もうコラボの誘い来てるのか……事前打ち合わせ(・・・・・・・)で説明された、ボスの狙い通りになったわけだ。

 

 実は今回のコラボには、つい今しがたボスが説明してくれた成否とは関係なく、いくつかの目的があった。

 

 一つは事務所に所属する男性Vのコラボという前例を作ること。一回やっちゃえば二回も三回も変わらんだろ理論ね。なんで少なくとも、ユラちゃんとのコラボは今後容易に回数を重ねていけるだろう。

 

 一つは俺が掲げてきた"コラボNGの男性V"という看板を取り下げることだ。これは俺が事務所に迷惑をかけないよう自主的に視聴者や他所のライバーに印象付けてきたことだが、事務所OKが出たことで撤回する必要があった。すでに他のライバーから誘いが来ていることから、これも狙い通りに事が運んだのが分かる。

 

 一つは、新規客層の開拓。ボスの話では今現在、Vtuberファンが唯一信用できる男性Vとは俺だけらしい。いや今までのやりとりが全部ひっくり返るじゃないすか! と思わなくもないけど、ここは現代日本人の価値基準の話になる。

 

 前提として、個人勢と言われるVtuberより、企業勢の方が信頼できる。当たり前っちゃ当たり前だよね、言うなればアマチュアかプロかの違いみたいなもんだもの。例の事件のせいで男性Vに対する信頼は地に落ちたが、その炎上も企業という存在への信頼の裏返しなのだ。

 

 つまり、バッシングを恐れて新たな男性Vが現れない中、俺だけがその立場で印象を回復し続けたってことで。これがどういうことかと言えば、女性ライバーにつく男性ファンのように、男性Vを応援したい女性ファンは俺の動画しか選択肢がないってこと。

 

 今のとこ配信のコメントやSNSの反応を拾う限り、俺にガチ恋してるという女性ファンは皆無と言っていい。悲しいことにね……。しかし、これは逆にチャンスとも言えるのだ。俺が女性ライバーとコラボすると、カップリングと認識して推してくれる可能性が出てくる。ボスがターゲットにしている潜在的女性ファンには"男性Vにガチ恋したいタイプ"と、"カップリングを楽しみたいタイプ"がおり。後者のファンを増やそうって狙いだったのね。

 

 ぶっちゃけユラちゃんは、他の三期生と違って登録者数が比較的少ない。これは性別不明の憧れのVtuberを匂わせていた事実が関係していて、鼻の利く男性ファンはそもそもユラちゃんを仮想恋愛の対象にしていないことが分かる。だが他より少ないとは言っても、比べてみれば程度の差であり、それはユラちゃんが女性層から絶大な支持を受けていることの表れでもあった。

 

 俺のファンにもユラちゃんのファンにも、俺たちがコラボすることで叩くガチ恋勢はおらず。どころかカップリングとして推したいファンのニーズに応えられるだろうってこったね。もちろんこれは"ファンが自主的にカップリングとして受け取る"ことが大事なので、こちらからそういう関係にあるとは口が裂けても言わないけど。そういう事実もないしね! もともと俺に憧れてくれていたというユラちゃんの好意を利用した形になるんだろうな。

 

 そして最後は、もうちょい規模が大きな話になる。それは、"企業勢男性Vの増加"だ。女性ファン云々のくだり通り、推せる男性Vが俺しかいない以上は必ず不満が出てくる。俺ではなく、もっと自分好みの男性Vを推したい、という不満が。この需要が大きくなれば、それは尻込みしてる男性V志望の背中を押すことになるハズなのだ。求められているという事実が、足を踏み出すきっかけになることもあるだろう。

 

 打ち合わせで聞かされた時はピンとこない部分もあったけど、コラボ後の反応を見ていると頷ける部分が多かった。すべてはボスの掌の上ってワケだ。

 

「企画として上手くいったのなら良かったです、他に用件はありません。忙しいところすみませんでした。……色々、ありがとうございます。これからもご迷惑かけると思いますが、配信頑張りますので! 改めて、今後ともよろしくお願いします」

 

 俺なんかじゃ考えが至らない先のことまで、考えてくれてることに。こうしてVtuber界隈の俺に対する視線が緩和するまで、見限らず待ってくれたことに。コラボを実現させてくれたことに。万感の思いを込めてPCに頭を下げると、しかし呆れた声が聞こえてきた。

 

『ヒビキ君、私たちの関係というのは決して一方的なものではありません。貴方が事務所(こちら)に恩を感じてくれているように、私たちも貴方に対しそうあるのです。私たちは同じ船に乗っているということをお忘れなく』

 

「はっ、ハイ! 肝に銘じておきます……!」

 

 PCに向かってぺこぺこ頭を下げながら、それならなおさら頑張らないとなと思った。心から尊敬できる人が先頭で舵とってくれてるのに、乗組員が下手こいて船を沈めるなんて。そんなこと、絶対許されないもんな!

 



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Vの裏で:戦おう ―大島キリ―

 アタシは動画サイトでとある配信のアーカイブを見返しながら、マネージャーからの連絡をそわそわして待っていた。

 

『しゃらくせぇっ! アッ、ちょっ! やめてぇ!!』

「あははっ」

 

 PCに映し出されているのは、アタシもお世話になってるLive2Dで動かされるキャラクター。そしてその中の人が遊んでいるゲーム画面。一斉に敵から攻撃されてるのに凄い速度で反応してて驚く反面、あたふたしたリアクションがちぐはぐで。心が浮ついていても、何度だって笑ってしまう。

 

 マ〇クラG・I。アタシがいっちばん好きなMOD。原作コミックだって全巻持ってるし、このゲームをどのVtuberや配信者よりもやり込んできた自信がある。……あったの。

 

 二週間くらい前に、このゲームをソロでクリアしたっていうVtuberの配信アーカイブが動画サイトにあがった。別にそれだけなら珍しくもなかったけど、アタシがその動画を開いたのは同期の何気ない一言が理由だった。

 

『キリちゃんが好きなゲームの、ジーアイ、だっけ? あれの、なんか凄く難しい難易度クリアした人がいるらしいよ。Vの人なんだってー』

 

 このMODに難易度なんて存在しない。ハードコア一択だもん。だったら縛りプレイでもしてたのかな? と思いつつ、G・Iにカケラも興味が無い同期の女の子が知ってたくらいだし、話題になってるのかなとその動画を探した。それにVと言えば基本的に女性ライバーのことを言うんだし。コラボ出来たりしないかなーなんて考えもあった。

 

 だけどその動画は、アタシのG・Iに対する愛情を。このMODを誰より遊んできたという誇りをへし折るものだった。

 

『っしゃいくぞオラァ! リスキーダイスをゲイン! てぇいっ、コロコロコロ! ……よぉし大吉ィ!!』

 

 その人は何かとVtuber界隈で話題になりがちな、男性のライバーだった。そこには特別興味はなかったけど、指定ポケットカードNo2、"一坪の海岸線"をクリア条件に抱えたままゲームを進めていることに仰天した。

 

 このゲームにはいくつか入手難度が飛びぬけているカードがあって、筆頭がSSランクカード五種類。No2はその中の一つになる。MODには有志が攻略情報をまとめたサイトがあるんだけど、そこのテンプレで最も有力とされる文句は『SSランクカードが指定されたらワールド削除』。

 

 つまり、それくらい手に入れるのが難しいのだ。

 

『……でっ。でっででで出たァアアアアア!!』

 嘘つけぇぇぇぇぇええええええええええっ!?

 

 初めてアーカイブ動画を視聴した時は思わず奇声を上げた。指定ポケットカードにNo2がある時点で、そしてリスキーダイスなんて博打に手を出した時点で釣り動画だと決めつけていたから。クリアってつまり死んだってことでしょ? おつww

 

 と、思いながら見ていたのに……!

 

『一坪の海岸線はホラ、原作ファン的にはどうにかして取りたいじゃん?』

 

 この動画の中で、このVが言いやがった言葉。アタシはそれを聞いてしまったからこそ、暁ヒビキというらしいそのVが死ぬのを見届けようと思っていたんだ。

 

 ファン的にはどうにかして取りたい? うん、気持ちはわかる。アタシだって取れるなら取りたい! でも、普通に考えて無理だもん。それを諦めた時点でファンじゃないってこと? アタシがどれだけこのゲームやったと思ってんの?

 

 その発言を後悔する瞬間を見届けてやる……! そう、思っていたのに。

 

『クリアだぁああああ!!』

 

 ゆ"る"さ"な"い"ぃぃ……!! 絶対いつか思い知らせてやる! 何をどうするとか具体的なことはまったく考えてないけど、いつかコイツにアタシが一番G・Iを愛してるって分からせてやるんだぁああ!!

 

 でも、現実は非情だった。マネージャーにコラボしたいって相談して、相手が暁ヒビキだって言った瞬間、問答無用で却下された。ほんの一秒考える素振りすらなかった! 理由は単純で、暁ヒビキが男だから。

 

 自分で言うのもなんだけど、アタシは結構男の人に人気がある。チャンネル登録者は男性ファンがほとんどで、いわゆるガチ恋勢も多い。俗にいうアイドル路線のVtuberなのだ。

 

 相手はそういう層からのバッシングを回避するために、一切コラボをしないということで業界では有名なのだそう。その辺はマネージャーとかの管理側での話だけどね。アタシたちVtuberにはその暁ヒビキについての話なんて回ってこないし。

 

 アタシはコラボの提案を蹴られた日の夜、枕を濡らした。勝ち逃げされた気分だった。アタシは暁ヒビキに挑戦すらさせてもらえないことがムカついた。

 

 けれどそのモヤモヤした気持ちが晴れたのは、皮肉にも暁ヒビキの配信アーカイブのおかげだった。

 

 途切れることが無いトーク、一見仲悪そうだけどすぐに分かるリスナーとの楽しいコメント芸。何気ないゲーム操作が凄いテクニックであることも少なくなくて、見ているだけで自分のプレイヤースキルが上がるような錯覚さえ覚えた。

 

 知らず知らず、アタシはその人がアーカイブに残したG・IMOD配信動画の虜になっていた。コラボが実現した時ボコボコに出来るよう予習しているつもりだったけど。何度も何度も繰り返し再生して、そのたびにPCの前でアタシは笑っていたんだ。

 

 ……一緒に遊びたい。初めて動画を見たときは分からなかった、暁ヒビキのことが今ではほんの少し分かる。この人も、G・Iが大好きなんだ。そんな人と、本気で遊びたい。アタシのその想いは日を重ねれば重ねるほど強くなっていった。

 

 そして――ついに、暁ヒビキはコラボした。コラボNGという看板を掲げ続けた彼が、同じ事務所のライバーとは言えついに女性ライバーとコラボした……!

 

 このチャンスを逃すわけにはいかない! すぐにアタシは、勝手に向こうの事務所、公式サイトのお問い合わせからコラボの依頼を出した。マネージャーには悪いと思ったけど、どうしても衝動を抑えきれなかった。しょうがないよね?

 

 向こうのマネージャーさんからアタシのマネージャーに確認の連絡がきたらしくて、すぐにアタシは説教されたけど。一度しっかりコラボが可能か打ち合わせをして、OKかどうかの連絡はこれから入る予定。

 

 何時ごろまでにはーとかハッキリとしたことは言われてないけど、それだけ慎重にコラボの企画をするってことだと思う。ってことは、割と可能性あるよね! 無理だったら打ち合わせも一瞬で、とっくに連絡来てるはずだもん。

 

 どんどん時間が過ぎていくけど、ドキドキはしても不安にはならなかった。アタシはずっと、暁ヒビキの動画を見ながらコラボの内容に思いを馳せた。

 

 どうやって話そうか? G・IでPVP(対人戦)がしたいと言ったら受けてくれるかな? ……本気で、アタシと戦ってくれるかな?

 

 勝つのはきっと難しいと思う。初めて動画を見た時に考えたような、怒りのまま一方的な勝利を収めるのは無理だ。それをここ数日の動画視聴で思い知った。

 

 でも、負ける気だってサラサラない。一番上手いプレイヤーではないかも知れないけど、大好きだって気持ちでは絶対に勝ってる自信がある!

 

 何度も何度も、同じことを考えて。いつもなら同じ事務所のライバーとコラボ配信なんかして、それが終わるような夜遅い時間になって。ようやく、アタシは待ち望んだ着信音を耳にした。

 

「いつになったのっ!?」

『うるさい……なんでコラボ出来るって確信してんの……』

 

 長時間の打ち合わせお疲れ様って気持ちはあるんだけど。それを口にするより先に感情が唇を動かした。

 

『まぁOKだったんだけどさ……こっちにも悪い話にはならなそうだったし。明後日だよ、明日は一日かけてじっくり打ち合わせ。私とあんたでね。じゃ、私、もう寝るから……。とんだサビ残だよこのとんま』

「ありがとっ! おやすみっ!!」

『だからうるさいっての……じゃね』

 

 通話の切れたスマホを見下ろしながら、アタシはニマニマするのを抑えきれなかった。あの暁ヒビキと! コラボ出来る……!! 最初はなんて言おうか? 第一印象は大事だもんね。今は最初ほど怒ってもないし、仲良くなれるよう優しい言葉が良いかも。

 

 ……うん、そうだね。マネージャーにも相談するけど、こんな感じなら問題ないんじゃないかな?

 

「――戦おう」

 

 彼ならきっと分かってくれると信じて。アタシの、この燃えるような気持ちを……!!

 



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【絶対勝つ!】マ〇クラG・I【争奪戦!】①

『……戦おう。暁ヒビキ……!』

 

コメント

    :おはきりー

    :あれ、始まった?

    :始まってるっぽい

 

    :急にどうしたのw

    :コラボ相手男ってマジだったのか

    :やる気キリちゃんもかわいい!

 

 お呼ばれした他企業Vtuberさんのコラボ枠。チャットを繋いで向こうが配信を開始したと同時に、そんなことを言われてしまった。俺も向こうの配信画面見てるからコメント欄の困惑具合が伝わってくるんだけど、俺が一番困惑してると思うよ?

 

 ボスから告げられた、マ〇クラG・Iのコラボ配信。先方の強い要望でPVP企画となったらしい。俺もこのゲーム大好きだし否やは無いんだけど……このコラボには、不可解な点があった。

 

 それは、向こうの人と俺は一切打ち合わせをしていないということ。コラボ相手の大島キリさんとだってこれが初会話になるくらいだ。どころかボスともまともにミーティングはしておらず、たった一言『相手に合わせて楽しむように』とだけ言われてるのだ。異常だってばよ……。

 

 俺なりの推論になるけど、今回のコラボはいわば試金石と言ったところじゃないかな? ボスも忙しいだろうし、他事務所のVと問題なくコラボ配信を終えることが出来れば、今後は俺が能動的にコラボしてもいいよ、みたいな。一言くらい報告する必要はあるだろうけど。

 

 念のため下調べさせてもらったが、どうやら大島さんはアイドル路線のライバーっぽいし。ここを切り抜ければボスを安心させられるんじゃないだろうか? 俺一人に(かかずら)ってられるほど、統括マネージャーさんが暇な訳ないしな!

 

 ってことでワケ分からんままだが乗らせてもらうぜ! それにアーカイブを覗いた限り、大島さんも相当のG・Iファンらしいからな……!

 

「ふ……見せてやる大島キリ。ボッチライバーの戦い方をな……!」

 

 原作コミックにこのようなやり取りは無いが、どちらもとあるキャラクターがG・I内で用いたセリフだ。大島さんのキャラクターがにんまりと笑みを浮かべ、どうやら期待に添えたらしいことに安心した。

 

 ところで大島キリさんの動かすキャラクターは、一言でいえばツンデレ系だ。ちょっと吊り上がり気味の大きな瞳、薄桃色のツインテール。声もアニメを連想させるかわいらしい声……というか、ぶっちゃけ某ツンデレの女王みたいだ。

 

 小柄な身体には華々しい袴をしっかりと纏っていて、良いとこのお嬢さん的な設定がありそう。これはガチ恋勢がたくさん居るのも頷けるね!

 

コメント

    :この人も何言ってんのw

    :原作コミックのネタだなどっちも

    :MODの元ネタのやつね

    :そこ繋がりのコラボなのかな?

    :所属違うしそらそうでしょ

 

『はいっ! ということでおはキリー! 今回はマ〇クラG・Iコラボってことで、この方を呼んだよ! どうぞ!!』

「えー、おはキリ! ヴァーチャルシップ所属、二期生の暁ヒビキですー! あ、二期生って言っても僕しかいませーん。よろしく!!」

 

コメント

    :コラボ解禁したんだっけ

    :正直来ないでほしかった

    :なんで今更コラボやねん結局直結か?

    :野郎は一人でゲーム配信しててどうぞ

 

『あ、えっと……』

 

 おや、あからさまに煙たがられてるな。俺的には予想通りというか、ちょっと反応が柔らかいまであるんでホッとしたんだけど。大島さんは、ここまでブーイングが起こるとは思ってなかったらしいな、ちょっとアワアワしてる。……ちっちゃいツンデレ風ツインテ娘が困ってるの、なんか良いですね!

 

 というアホな考えは置いといて、この辺は俺がフォローしたほうが良さそうだ。何せ散々想定してきたシチュエーションだしな! むしろイメトレがやっとこ実践できそうでオラわくわくすっぞ! ……なんか思考がドM染みてる気がするね。

 

「はーっはっはっはぁ!! 大島キリよ、ホームグラウンドでいくら味方を得ようが、本人の力量は変わらないぞ? 俺はその程度のチンケな煽りコメントで動揺したりはしない……こっちのホームで散々叩かれてるからなぁ!!」

 

コメント

    :なんやコイツ

    :草

    :キリちゃんやっちまえー ¥370

    :男は消毒よー! ¥1000

    :負けたら泣いて謝れよおめー ¥4949

 

 お、これはナイスアシスト! 煽りに見せかけて流れをネタに変えていってるコメントは、その多くが見慣れた名前だ。俺のチャンネルのリスナーもこれを予想してくれてたんだろうな、感謝やで……そのスパチャはぜーんぶ大島さんに行くけどね! 今回俺は完全にゲストで、配信してるのは向こうだけだ。

 

「どうした、戦うんだろう? 俺も! お前も!!。まだ一度たりとも呪文(スペル)を使っていないぞ? まさか怖じ気付いたかぁ……?」

『……! ふっ、言うじゃない暁ヒビキ……! 今日アタシは! アンタに勝って証明するっ! アタシがいっちばん、このゲームを愛してるんだって!!』

 

「よくぞ(のたま)ったァ!! では聞かせてもらおうか! お前が俺に叩きつける挑戦状っ! どうやって勝敗を決するのか! 俺はその一切を知らずにコラボを受けた……なぜならっ! どのようなルールであろうとも、勝つのはこの俺! 暁ヒビキ様だからだぁっ!!」

 

『いいわっ、聞きなさい! 戦いの場はマ〇クラG・I! アタシとアンタ、一対一のPVP! とは言っても、直接攻撃は禁止! 呪文(スペル)でのみ交戦すること! 勝敗は、それぞれクリア条件の指定ポケットカードを三種類先に集めること! どちらも未達成なら、配信終了の一時間半時点でより多くの指定ポケットカードを所持していた方の勝ち! どう!?』

 

コメント

    :そういう趣旨ね

    :暑苦しいww

    :豹変しすぎじゃない?

 

    :マ〇クラコラボっても完全に対戦形式なのか

    :男性Vってこんなんだったんか

    :きりちゃん頑張って!!!!

 

    :スペル合戦期待

    :ヒビキの告知から来ました。ヒビキを消し炭にしてやってください ¥10000

    :野郎がMOBにやられてショボ死するの期待してる ¥7676

 

 思惑通り、完全に正義VS悪役の図が出来上がり。チャットからただ企画を叩くだけの迷惑コメントが鳴りを潜めたのを確認して、俺は意気揚々と告げるのだった。

 

「よかろう!! コメントで俺様に呪詛がかけられているが、お前こそ雑魚に殺されたりするなよ? いかに慈悲深い俺様といえど、敵に"大天使の息吹(蘇生アイテム)"は使ってやらんからなぁ?」

 

 原作では不可能だが、このMODにおいての唯一の蘇生手段が"大天使の息吹"である。マルチで他のプレイヤーに死亡地点で使ってもらう必要があるので、ソロだと死んだらそれまで。まぁSSランクカードだから手に入るはずもないけどな!

 

『ふんっ! まぁアタシは? 情けなーくやられちゃったアンタが居たら使ってあげるけどね? そんなの痛くないくらい、大差をつけて勝ってやるんだから!』

「フゥーハハハァ!! どうやら手加減は不要なようだ……では!! いざ尋常にぃっ!!」

 

「『勝負!!』」

 

 こうして俺と大島キリさん、一対一の勝負が始まった!

 



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【絶対勝つ!】マ〇クラG・I【争奪戦!】②

「さぁてやりますか! あぁそうだ、チャットに反応できるようコメント欄は見させてもらってるけど、ゲーム画面は見てないんでそこんとこよろしくでーす。こっちは配信してないけどゲーム画面含めモニターの映像自体は録画しててアーカイブに残すんで! 不正が心配な人は後から僕のチャンネル見てみてねー」

 

 大島さんから通話ソフトのチャットで送られてきたアドレスを入力してマ〇クラのマルチワールドに入る傍ら、念のため不正が無いことをリスナーに言っておく。コメント無視して配信画面閉じればええやん、って思う視聴者も居るかもだけど。お互い燃えないようフォローはさせてもらいたいしね。難しいとこだ。

 

コメント

    :急に素に戻るな

    :キャラブレブレですが大丈夫ですか?

    :露骨な宣伝乙

    :ちゃんとRPしろ

    :最後まで俺様ムーブ貫け。そして負けろ

 

「よかろう! コラボで片方がコレだと視聴者も面倒だろうかと気遣ってやったつもりだったが……俺様(このノリ)について来れると言うなら貫いてやろうではないか! 無論負けてなぞやらんがなぁ!!」

 

『こっちこそ、今日はせっかく実現した対決なんだからっ! 手加減なし、最後まで全力で勝負よ!!』

 

 言ってる間に二人ともログインが成功し、草原の上でにらみ合う。大島さんの言葉に合わせてキャラクターがブンブン腕を振っている様子を見るに、配信コメントとの遅延もほぼ無さそうだ。

 

「では早速始めるとするか? 段取りがあるなら付き合ってやるが」

 

『まずは指定ポケットの確認よ! カード名は言わなくていいけど、指定されたランクは開示するわ! 指定ポケットのランクに偏りがあると不利になる場合もあるしねっ! 内容によってはリセットするからちゃんと教えなさいよ?』

 

「よかろう、ではしばしインベントリ(バインダー)と相談と行こうか」

 

 その言葉を皮切りに、俺も大島さんもキャラクターの動きを停止する。こちらもそうだがインベントリを確認してるんだろう。さて、俺の方はっと……。

 

 98(S)、94(S)、66(S)、64(B)、46(A)、40(B)、31(S)、22(A)、8(S)の9種類だな。ちょいとSランクが多いけど、運よくSSランクは指定されていない。このMODだとS~Bはそこまで入手難度に差はなかったりするんだが、SSだけはマジで地獄を見るからな……。

 

「こちらは確認し終えたぞ。そちらはどうだ?」

『OKよ。内訳を聞いてもいい?』

 

「Sが5、Aが2、Bが2だ。まぁ悪くはない」

『アタシは……Sが2、Aが4、Bが3だった。どうする? ランクだけ見ればアタシが有利っぽいけど……』

 

「なぁに構うまい。モノによってはBの方が面倒なこともある。そちらに問題なければ俺様はいつでも始められるぞ?」

『ふんっ。ソレ、負けた時に後悔しないでよねっ? それじゃ、ここからは正真正銘の一騎打ちよ。よーい……スタートッ!』

 

 大島さんが宣言すると、俺と彼女は同時に駆けだした。向こうがどういう動きをするのかは不明だが、マ〇クラにおいて最初にやることなんてどのMODも大差ない。木こり……! 圧倒的木こり……!

 

コメント

    :勢いのわりに地味ね

    :このMOD最初にすべきことが全然分かんない

    :テンプレは村探しだな。街なんてそうないし

 

 ポコポコ素手で樹を殴り、原木を獲得していく。ちなみに全部カードになってるよ! しかも一枚ずつな! バニラのアイテムもMODの影響でカード化しての入手になるが、一応クラフト画面でスタックすることが可能。原木カード2枚をクラフトした場合、原木(2)ってカード一枚になる訳だ。逆にバラすこともできる。

 

 ちなみに(ジェニー)以外のMOD由来のアイテムはクラフト不可だ。一枚ごとに必ずインベントリ(カードポケット)を一枠使いスタックできない。マジつらい。

 

 手早く作業台、木のツルハシを作り。丸石を獲得。それを使って石斧を作ってちょっと余分に原木を集めてから本格的に始動だ。ちらりと大島さんが駆けて行った林を見ると、彼女は南に走り去っていくところだった。

 

「そっちは南か。なら俺様は北に向かわせてもらおうか……マサドラを先に見つけるのはどちらかなぁ?」

『もちろん全力を尽くしたほうよ! べらべら喋ってたら勝利の女神さまは微笑んでなんてくれないもの!』

 

「ちょっとー? これ配信ですよー? 大島さんも喋ってくださいねー?」

『わっ、分かってるわよ!』

 

コメント

    :これは素に戻っても仕方ないw

    :全力過ぎて配信ってこと忘れちゃうキリちゃん

    :なれなれしくすんなや

    :これ馴れ馴れしいかな?w

 

 俺の言葉に大島さんが返すと同時にコメント欄をチラ見。うーん……ロールプレイとヒビキちゃんねる民のアシストもあり、大島さんとこの視聴者もそこそここのコラボを受け入れてくれてるように見える。

 

 まだ刺々しい人もいるけど、逆にそれを諫める人も居るようだ。うん、いい流れだぞ! コメント欄を荒らす人というのは、必ずしもそれが目的な訳じゃない。むしろ逆で、自分の場所が変わってしまう(荒らされる)のが嫌だから、ある種自衛のために強い言葉を使ってしまう人も多いんだそうだ。ただ荒らしたいだけの人も居るけどね……。

 

 コラボという点において、まず男性V()は先方のチャンネルを、その視聴者の心を乱しに行っているという点は常に意識しなきゃならない。まぁこっちのチャンネルまで来られて荒らすようなら対応は変わってくるが、基本的に相手のチャンネルに。そこの視聴者に寄り添う姿勢が大事なのだ、きっと。

 

 閑話休題。それも大事だが今はコラボだ。視聴者より誰より、その主である大島さんのご期待に添えなきゃ話にならん。全力で勝ちにいかせてもらいますぜぇ……!

 

 今俺が居るのは草原地帯(バイオーム)だ。近場に指定ポケットカードに繋がりそうな要素はないから、言った通り北へ向かう。ここで重要なのは出来るだけ跳んだり走ったりしないことだ。食料が確保できてない状況でスタミナ使うとすーぐ死に繋がるからね! 大島さんが走ってったのは樹からリンゴでも出たと見るべきだろう。初動を重視するのはこの対戦形式じゃ悪くなさそうだ。

 

「さてさて、まずは村を見つけたいところだが……。そちらは方針なぞ決まっているのかな?」

『当然ね! アタシの指定されたカードの中には、見つけさえすればOKなものがいくつかある! それさえ見つかればこの勝負、すぐに決着がつくんだからっ!』

 

 おっとマジか……意外にマズイかも? 指定ポケットカードには、大島さんが言った通り"そのアイテムが手に入りさえすれば"カードとして入手出来るものと、"ある条件を満たすことで"初めて出現するカードがある。俺が指定されているのは後者がほとんどだから、ブラフじゃないなら結構厳しい戦いだぞ。

 

「なななるほど? ぁぁ相手にとって不足はないらしし」

『声震えてますけど?』

 

コメント

    :わかりやすくて草

    :キリちゃん頑張って―!

    :早く終わらせちゃえ!!

 

    :キリちゃんの方が有利ってこと?

    :ランクだけ見てもそうだし、内容を見ても多分そう。向こうの指定分かんないけど

    :チャット見られてるんだから指定の内容コメントするなよ

 

 ふむ、向こうの視聴者さんもこのMOD詳しい人多そうだな……そりゃそうか、大島さんも配信してたんだろうし。

 

「まぁいいさ。俺様も状況的にはそう悪くないからなぁ。なかなか楽しめそうだ!」

『それは何より。……あっ! あー、あー、……っ! ……あーいい天気ねー』

「誤魔化すの下手すぎだろ貴様ァッ!! 先を越されたか……やるじゃあないかッ!!」

『ちっ、鋭いわね。えぇその通り! 早速一種類手に入れたわ! ふふ、何を手に入れたか分かるかしらー?』

 

 ほっほっほと高らかに笑う大島さん。楽しそうで何より! だがその程度で俺にマウント取ろうなんざお笑い(ぐさ)なんだよなぁ。

 

「舐めてもらっては困るな……No54、ランクA指定ポケットカードの"千年アゲハ"だ。違うか?」

 

コメント

    :えっ

    :マジ?

    :チートか?

    :ゴースティングしてんだろコレ

    :遡ったけど誰もコメントしてないぞ

 

『なっ、なんでっ!?』

 

「オイオイ、お前も同じ状況なら簡単に予想できるハズだぞ? スタート地点、お前が向かった方向には森林が見えていた。(さき)の"見つけてしまえば"発言、さらに発見したであろう瞬間のリアクション……。あのスピードで獲得できるのは状況的に"千年アゲハ"くらいなものだ」

 

『ぐっ、ぐぅぅ……その通りよ』

 

コメント

    :さすがに詳しいな

    :これはG・Iオタク

    :SSランクガチャ成功しただけのことはある

    :運じゃんw

    :言うてソロはコイツだけだからなぁ

 

 ふっふっふ、状況的には負けてるが精神的優位に立ってやったぜ! こんなこと言ってる場合じゃないんだけどね!! ……お? おぉ、これは俺も一枚目のチャンス到来だぞ? これどっちもマサドラ発見する前に終わるかもなー。とりあえず石シャベルで土を集めつつ前へ前へ進んでいくぜ!

 

「では俺もしばし集中させてもらおうか。それなりに危険な賭けになりそうなのでな」

『っ! アンタも一枚目の目処が付いたわけね……!』

 

「その通りッ! 内容までは教えてやらんがなぁ! お前もそう離れたところまでは行っていないんだろう? 予想してみるがいいさ!」

『くぅぅっ! なんなの……? 草原……危険な賭け? 多分戦闘が絡むわよね……』

 

コメント

    :キリちゃん勝負の趣旨ズレてるよ!

    :ほっといて指定探したほうがよくない?

    :割と向こうもガチだから出来れば動いたほうが良い

 

『そっ、そうよね、うん。……うぅ、悔しいけど勝負を優先しなくっちゃ……!』

「ちっ、そこで小一時間考えていれば良いものを」

『馬鹿にし過ぎじゃない!? 言っておくけど、リードしてるのアタシなんだからねっ!!』

 

 はっはっは、だからこそこっちも焦ってるんだけどね! とにかく、駄弁りながらも準備は整ったぞ。土ブロックを3スタック(64個で1スタック)ほど集め、木材を梯子にクラフトする。

 

 余談だけど、バニラのアイテムをスタック化するのは死ぬほど面倒です。何せちょっと集まるたびにクラフト画面でカードを重ねる必要があるから。アイテム化(ゲイン)したときは普通にお馴染みのスタックアイテムになるんだが。

 

 じゃあなんでわざわざカードとして持っておくんだと言われりゃ、ゾンビの投石対策である! インベントリがブロックカードで埋まるのは邪魔だが、かといって全部アイテムとして持つとレアカードを割られかねない。なかなか立ち回りが難しいゲームなのだ。

 

 とにかく準備が整った俺は、草原の向こうに見える建築物……略奪者の前線基地に忍び寄った。バニラにもある要素だが、ちょっと変わってる部分もあり。

 

 まず、旗持ちのボスが必ず最上階で待ち構えてる。子分共も一定距離ごとに地上に配置されていて、まぁ攻めづらいのだ。その代わり、ボスはほぼ確定でとある指定ポケットカードを落とす。No94、ランクS指定ポケットカード"盗賊の剣"! 俺のクリア条件に指定されている1枚! これは幸先いいですよー。

 

 正直ゲインしてそのまま武器として使ったほうが強いアイテムなんだが、贅沢は言うまい。あくまで目的は先に三種類集めることだし。

 

「よぉし行くぜぇ……オラオラオラオラオラオラオラオラっ!」

『えっ、なっ、なに? なにしてるの?』

「さぁてなんだろうなぁ……? 気になった人は後日アーカイブに上がる動画をよろー」

 

コメント

    :姑息な宣伝しやがって

    :マジで何してんだよw

    :動画見てても何してるか分からん事あるのに声だけで分かる訳がない

    :どうせ変態プレイしてる

 

 コメント欄でも全く予想は立っていなかった。俺の配信では見せたことあるんだけど、まぁリスナーのみんな黙ってくれてるね。言ったら指定バレるし。

 

 基地に近づいた俺は、子分の略奪者(ピリジャー)共の索敵に引っかかった瞬間にゲインした土ブロックを直上積み(ジャンプしつつ足元にブロックを設置し続けること)し、雑魚を引きつけつつ上昇していく。奴らはクロスボウを持っているので呪文(スペル)攻撃はしてこない。足元から矢が飛んでくるのは中々スリルがあるが、F5キーによって三人称視点で操作してるから避けるのなんて楽勝だ。視聴者には変態操作だと言われたけど。

 

 そこそこの高さに至り、眼下の略奪者が俺を見失ったことを確認すると、今度は横にブロックを伸ばして基地の反対側に向かう。連中は初期位置がイヤらしいだけで一度釣っちまえばそこからあまり動かんのである。落下したら即死な状況だが難なく足場を伸ばし終え、マウススクロールでアイテムを梯子に持ち替える。

 

「よぉし、襲撃だ……!」

『ねぇなんか遠くに土の塔が見えるんだけど! ホントに何してんのっ!? ……あっ! 基地ねっ!?』

 

「ご明察!!」

 

 その言葉と共に、俺は塔から飛び降りた!

 

コメント

    :死んだじゃんw

    :キリちゃん大勝利!

    :勝てないからって自殺とかマ?

    :これで死ぬわけないんだよなぁ……

 

 俺んとこのリスナー以外の視聴者は分かんない様子だったが、アーカイブを漁ったらしい大島さんは俺のやってることに思い至ったみたいだ。そう、これは俺が前線基地を見つけたら毎度やってるお馴染みの手法なのだ!

 

 マ〇クラの梯子ってのはそれは優秀なアイテムで、落下の途中に足元のブロックに設置、その横に掴まれば落下ダメージゼロで生還できる! 梯子の真上に降りちゃうと死ぬがな! これにより雑魚と戦わず最上階のボスをとっちめるのである。帰りも直上積みで釣った場所とは逆に遁走すれば楽勝!

 

「よっ、っと。よぉ、元気か大将!」

『ホントに成功させたのっ!? 見たかったのに!!』

 

コメント

    :何が起こってるの?

    :説明しづらいから素直に動画見に行ったほうが良い

    :キリちゃん大興奮じゃん

    :とりあえず頭悪いことしてるのは間違いない

 

 思惑通り最上階にお邪魔した俺は、下の階に繋がる昇降口を土ブロックで封鎖。二、三発ボスを殴って壁際に追い込み、またも土ブロックを使って隅に封じ込める。これで足元だけ開ければ一方的に攻撃可能! そこ行くまでに多少ダメージ受けたけど。

 

斬撃(ほい)っ、斬撃(ほい)っ、斬撃(ほい)っ……よーしゲットォ。俺が何を手に入れたか、さすがに分かったかな?」

『……No94。ランクS指定ポケットカードの"盗賊の剣"ね。やるじゃない……!』

 

「その通りだッ! 博識じゃあないか?」

『当然っ! 面白くなってきたわ……!』

 

コメント

    :キリちゃん楽しそうね

    :分からん

    :こういうMODって攻略サイト見ながらやるもんちゃうの?

    :この二人がおかしいだけだと思うよw

    :キリちゃん負けないで!!応援してる!!

 

「これでまずは一対一! まだまだこれからだッ!!」

『望むところよ!! ぜーったい負けないんだから!!』

 

 

 俺たちの戦いはまだまだこれからだ――!!

 

 

 

 打ちきりじゃないよ?

 



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【絶対勝つ!】マ〇クラG・I【争奪戦!】③

「……大島キリよ、調子はどうだね……?」

『進捗ダメです』

 

コメント

    :二人とも疲れ切ってて草

    :そらそうなるw

    :このMODミニゲームに向いてないよ絶対

 

    :三種類っても厳しいのねぇ

    :最初順調だっただけにキツイな

    :キリちゃんファイト!!

 

 配信開始からすでに一時間、勝負がどうなってるかはご覧のあり様である。無ぇ……! 村も! 街も!! クリア条件の指定ポケットカードに繋がりそうなイベントマップも!! なーんもありゃしねぇ!!

 

 まぁね、見通しが甘かったことは認めよう。そもそもマ〇クラってのは何もかもがランダムで生成されるゲームなのだ。しかもハードコア。死なないよう慎重に動いてればどうしたってこうな(ぐだ)る。

 

 その上お互いバトルモノみたいなテンションでぶっ続け一時間だ。さすがに疲労も溜まろうもん。見つかった指定カードもどうやらそれぞれ一枚ずつっぽいし。

 

 食料やらカード獲得に使えそうなアイテムはそこそこ集まったが、成果と言えばそんだけである。

 

「これはクリア条件外の指定ポケットカード収集に切り替えるべきか……?」

『とっくにアタシはそうしてるわよ……ん?』

 

 俺が三種類クリアに(こだわ)らず方針転換しようとすると、大島さんは既にそうしていたらしい。(したた)かやな……と思っていたら、何やら発見したご様子だ。

 

『っ! ……ふ、ふふ……! どうやら勝利の女神さまはアタシにウインクしてるみたいね……!』

「んだとォ……? なんだ、何見つけやがった……!?」

 

『ふふん、さすがにアタシの反応だけじゃもう予想できないでしょ! さーて、どう攻めようかしらー♪』

「戦闘系か……」

 

『ハッ!?』

「いやわざとじゃないんかーい!!」

 

 あんまりにもコテコテなボケだと思ったら素で情報を漏らしたらしい。大島さん、テンション上がると前後不覚になるタイプか。こらリスナー人気も出ますわなぁ。

 

コメント

    :ww

    :誘導尋問とはさすがヒビキ汚い ¥2525

    :急に漫才始めるじゃん

    :ポンコツ助かる

 

「どう考えても俺のせいじゃない……ん? おやおや、どうやら勝負の行方はまだ分からんようだなぁ?」

『なんですってっ?』

 

 視聴者が俺に冤罪かぶせようとしやがるので回避しようとしていたら、目の前には湿地帯が広がっていた。これはナイス!! ここには俺のクリア条件に指定されている、No64とNo66、魔女シリーズ獲得のチャンスが転がっているのだ!!

 

 湿地帯にはバニラ同様に"魔女の家"が生成されることがあるんだが、そこには当然魔女(ウィッチ)が湧く。ソイツを倒せばワンチャンどっちか落としてくれるだろ! 確率ドロップだけど!!

 

 ……と、思っていたら。

 

『えっ!?』

「なにぃっ!?」

 

 俺が駆けてきた草原から少し外れた森の中。大島さんのキャラが飛び出してきたのだ! っつーことは、つまり……!

 

「貴様、魔女シリーズが指定されたか……!」

『どうやらそっちもみたいね……!』

 

 まさかの事態である。そら指定カードは完全にランダムだから他のプレイヤーと狙いが被ることはあるだろうけど、別々の方角に向かった二人が同じとこで衝突するかね?

 

 個人的には好都合だけどな! 主に動画の取れ高的に!!

 

「ふむ……どうだ、大島キリよ。一つ、ここは共同戦線と行かないか?」

『……話を聞こうじゃない』

 

 俺の提案には、どうやら向こうも意図を察したらしい。というのも、指定ポケットカードの魔女シリーズには三種類あるのだ。ここが重なっていれば敵対関係だが、そうでなければ共に戦い、ドロップアイテムが自分の指定じゃなきゃ相手に譲ろうぜ、ということである。ちなみに魔女の家自体は遠くに確認できたので、それを探す必要はない。

 

「まずはこちらの指定カードを開示しよう。64と66なんだが……そちらは?」

『65。共闘成立かしら?』

 

「うむ! 魔女の家には宝箱(ボーナスチェスト)もある。もし64か66が出たら俺がいただき。65と宝箱はそちらが持っていくというのはどうだ?」

『オーケーよ! あっ、戦闘前にどっちか分かっても協力するのは前提だからね?』

 

「無論だとも!!」

 

 大島さんの言い分的には、魔女がどんな姿でもとりあえず一緒に討伐しましょうね、ってことだね。実は指定カードのどれを落とすのか、ぶっちゃけ魔女の外見で分かるのだ。

 

 ハート形の杖を持っていたらNo64、"魔女の媚薬"。バニラには存在しない、子供サイズの魔女ならNo65、"魔女の若返り薬"。そして、魔女の帽子をかぶったノッポ野郎(エンダーマン)ならNo66、"魔女の痩せ薬"である。子供以外なら俺の大勝利って訳だね! 確率は三分の二! 勝ったなガハハ!!

 

「では行こう! 魔女の家へ!!」

『ええ!!』

 

 そして魔女の家到着。

 

「なんでだぁあああああっ!!」

『やったぁああああああっ!!』

 

コメント

    :うるさいww

    :キリちゃんだけなら助かった

    :天 国 と 地 獄

 

    :なんでこんなに絶望してるのこの人w

    :そらキリちゃんの指定ドロで宝箱も持ってかれるからよ

    :ざまぁ

 

 索敵範囲のギリギリ外、入口からチラリと見えた魔女はちっちゃい……どうやら俺は天に見放されたようだ。ちきしょー、しかし約束は約束だ。素直に共闘しようか……。

 

「ちっ、嘆いていても始まらん。どうだ、魔女相手は得意か?」

『……正直、ちょっと苦手。だから話に乗ったトコあるし……』

 

「よかろう、まずは俺が凸ってヤツを水中に落とす。標的(タゲ)は移らんハズだ、俺が釣ってる間に後ろから倒せ。魔女の攻撃(ポーション)が不安なら弓を渡すぞ?」

『そこまで甘える気はないわよっ! 引き付けてさえくれればどうとでもなる!』

 

「よし、では行くぞ!!」

 

 そう言い残して俺は魔女の家に泳いで近づき、建物の柱になっている原木に足場を設置。そこに上がるとバックステップしつつブロックで階段を作る。

 

『あれって上手くいったとこだけアーカイブに残したんじゃないんだ……』

 

コメント

    :動ききっも

    :なんでシフト押さずに階段作れるのw

    :こいつアスレ勢か?

    :キリちゃん絶句しとるやん

 

「魔女さんこんにちはァ! ……っ!?」

 

 跳躍して中に侵入すると、見えていた通り小さな魔女と、奥には宝箱が。そしてもう一つ、見逃せない存在がいた。ヤマネコ(・・・・)……!!

 

 この要素を大島さんが知っているかは不明だが、個人的にあのネコに死なれると困る。共闘とか関係なく、とりあえず魔女をやっちまわないと!

 

 敵が俺をタゲったことを確認し、すぐさま床の高さに合わせた階段の上へ戻る(ジャンプ)。そこでわざと家の床と足場を繋げてやり、魔女を誘導する。一歩でも進んできたらこっちのモンだ、右前方に跳びつつ左を向いて斬りつける! 俺と、俺の攻撃が直撃した魔女は当然ノックバックで揃って池ポチャし。向こうは後退するこちらを追跡し始めた。

 

「出番だぞッ!!」

『言われなくても!!』

 

 俺の侵入と同時にスタンバっていたらしい大島さんが即座に駆け付け、後ろからバシバシ剣でシバきだす。……アレ? それダイヤ剣じゃない? なんでそんな良い装備持ってんだ!!

 

 と、己の弱小装備と比較して妬みつつも作戦は功を奏し、後頭部をザシュザシュ斬りつけられた魔女は煙となって消えた。

 

『っ! 落ちた、"魔女の若返り薬"! これで二種類ゲットよ!!』

「ちっ、確率にも勝ったか。称えてやろうじゃないか……くぅっ!」

 

コメント

    :めちゃくちゃ悔しそうで草 ¥610

    :ナイスドロップ!!

    :キリちゃんナイスー!! ¥120

    :残り時間的にも勝ったかな?

    :キリちゃんしか勝たん ¥10000

 

『赤スパありがとうっ! ふふんっ、どうやらアタシの勝ちかしらね?』

「ハッ、勝負は最後まで分からんさ……とりあえず、宝箱を確認したらどうだ?」

 

『魔女戦はほとんど任せちゃったし、カードも貰っちゃったし? それくらいは譲ってあげるわよっ♪ まっ、宝箱(アレ)からはバニラのアイテムしか出ないけどー!』

「ぐぬぅ……後悔しても知らんぞ貴様ァ……!!」

 

『むしろさせて欲しいわね! ほーっほっほっほ♪』

 

コメント

    :高飛車ムーブカワイイ ¥500

    :これに懲りたらコラボとかすんなよ

    :そーだそーだ!リベンジしたいなら土下寝しろよ! ¥5000

    :そして三回まわってリスキーダイス振れ。大凶出したら許してやる ¥8932

    :ひどいww

    :スパチャが爆殺で草

 

 チャットの不穏な気配にヒヤリとするも、お馴染みのイジりに胸をなでおろし。悠々と泳ぎ去る大島さんの背中を見送った。

 

『さーて、残り時間も少ないし! 間違っても死なないようにしないとね! また地下に潜ろうかなー♪』

「今まで動きを悟られないよう喋ってたのに、とうとう開き直りやがったな……」

 

 言いつつ、俺は譲ってもらった宝箱(チェスト)を確認するため再び魔女の家へ。……まぁ、本命は別にあるんだけど。

 

 中に入ると、相変わらずヤマネコが鎮座している。さて、マ〇クラに詳しい人ならもう分かるかな? この状況がおかしいってことに……!

 

 バニラにおいて、魔女の家には確かに猫がスポーンすることがある。しかし、それは黒猫(・・)であるはずなのだ。ではなぜヤマネコが居るのか? もちろんG・IMODの影響である!!

 

 本来ジャングルにしか生息しないヤマネコだが、このMODではとある指定ポケットカードを入手するためのトリガーになっている。しかし、ジャングルはバニラでもレアな地域(バイオーム)で、ワールドによっては生成されない可能性もある。なので、救済措置として一定確率で魔女の家に湧く黒猫はヤマネコになる場合があるのだ!

 

 G・IMODは常にアプデを繰り返しているが、製作者は海外の原作ファンだ。なもんで、最新情報は基本的に海外の攻略サイトか掲示板。黒猫がヤマネコになるってのは二つくらい前の新しめのアプデであり、日本版の攻略サイトだけじゃ多分載ってない。おそらく大島さんは知らなかったのだ、ここには指定ポケットカードチャンスがまだ転がっていることを……!

 

「さーて、中身は何かな……?」

『まーバニラのアイテムとは言ってもレア多めだし? ダイヤとか強化済み(エンチャント)装備くらいはあるんじゃなーい? うらやましーなーっ』

 

コメント

    :キリちゃんニッコニコやん!

    :そらあんな変態プレイヤーに勝てたらなぁ

    :めっちゃ煽るww

 

 ふっ、調子こいてられるもの今のうちだぜ……。宝箱を開くと、中にはガラクタに混じって確かにレア装備なんかが入ってる。だがそんなモンはどうでもいい! いや装備するけど。目的のブツがあったぜぇ……!

 

「そーらチッチッチッチ……」

『え、急になに……?』

 

コメント

    :悔しすぎて壊れちゃったか

    :諦めてニワトリに種でもやってんじゃないの?

    :繁殖させるのww

    :キリちゃん、左下にコウノトリの贈り物って出るでww

    :進捗達成ww

 

 おやおや、リスナー諸君も甘いのぉ……。鋭いっちゃ鋭いがな、俺は実際ヤマネコに餌付けしている。宝箱に入っていたバニラの宝石(ラピスラズリ)でな……!

 

 一つ、二つ、三つ……どんどん消えていくが、手持ちが尽きる前にソレは起こってくれた。ブルブル震えたヤマネコは、徐々にその体積を増して……某有名ネコ型ロボットのような風体になった! あとはコイツを左クリックして(撫でて)やれば……ドロンとォ!! カード化しましたよ奥さん!!

 

 こいつの正体はNo22、指定ポケットカードの"トラエモン"! ジャングルにスポーンしたヤマネコの中に一定確率で潜んでいるモブである!! 製作者の恩情により、魔女の家の黒猫がヤマネコ化した場合は確定!! こいつは固有のインベントリを持っており、レア鉱石や宝石でその中身を満たしてやればカード化するのだ! やったぜ!!

 

「ふふふ……まぁ塩を送ってもらったワケだしなぁ。教えてやるか……」

『? な、なによ……?』

 

「クリア条件の指定ポケットカード、俺様も二種類目をゲットだァ!!」

『…………な。なんですってェーーーーっ!?』

 

コメント

    :ハァ!?

    :はいチート

    :いやブラフでしょ

    :後で動画みりゃ分かる……けどさすがに信じがたいww

    :どういうことなのww

 

 はっはっはァ! コメントも大盛り上がりだな!! まだまだ勝負は続くぜ!!

 



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【絶対勝つ!】マ〇クラG・I【争奪戦!】④

「どこだぁあああ犬ッコロォオオオオオ! 出てこいやァアアアア!!」

『お願い……! 何か出て……!! 出して……!!』

 

コメント

    :えっちだ……

    :野郎がうるさ過ぎて使えないw

    :使 う な

    :借金取り893VS祈る聖女VSダークライ

 

 タイムアップが迫る中、勝負が拮抗してる俺と大島さんはなりふり構わず指定ポケットカードを探していた。ダイヤ剣なんて持ってたから予想していたが、大島さんのクリア条件には宝石系のカードが含まれているんだろう。配信開始直後の、見つけたらOK発言にも当てはまるしな! なもんで絶賛地下採掘(ブランチマイニング)中ってワケだ。

 

 俺はと言えば、叫んでいる通り犬ッコロ(オオカミ)を探して草原を駆けている。狙いはNo98、ランクSの"シルバードッグ"! こいつも入手方法は"トラエモン"とほぼ一緒だ。草原に湧いたオオカミの群れに金インゴットを放って、それに反応したら確定。銀じゃないの? と思われがちだが、コイツは「少量の金を食って大量の銀糞を出す」って生態(テキスト)なのね。だから与えるのは金インゴット。そもそも銀自体MOD固有のアイテムだからハードル高いしな。

 

「ちぃっ、牛羊豚は居やがるのにオオカミだけ見つかんねぇ……!」

『っ、やったエメラルド! お願い……あぁ出ないよぉ~~っ!!』

 

 ヤベェ、大島さんがそれっぽい反応するたびにドキッとするぜ……! 今のは"美を呼ぶエメラルド"チャンスだったのかな? バニラのエメラルド鉱石から確率で出る指定ポケットカードだ。運悪く外したらしいね。

 

コメント

    :五分切ったぞ

    :キリちゃんがんばって!!

    :めっちゃ熱いなぁw

 

    :なんやかんやギリギリまで競ってるのいいわ

    :どっちが勝つにせよ決着は付いてほしいねぇ

    :宝石系出やすいイメージあるけど、普段は時間かけてるからそう感じるだけなんだろうな

 

 と、俺と大島さんの接戦に盛り上がるチャット欄。よーしよし、このコラボ自体は大成功だったなぁ! あとはどうオチをつけるかだな……思考が芸人のソレですねぇ!

 

 そうして間もなく迫る終了時間にハラハラしていると、どうやら運は俺に味方したらしかった。この状況にピッタリの要素が二つ! 地上を走り回って新しく読み込んだ領域(チャンク)にオオカミの群れを発見した! あと一個は放っておこう。動画として残すときに、俺が気づいた素振りを見せると面倒なことになるだろうし。 

 

「くっくっく、さぁ運命の時だ! 大島キリよ、この群れに犬ッコロが居ないことを祈るんだなぁ……!!」

『なっ、オオカミの群れ!? 出ないでお願いお願いお願いお願い……!!』

 

コメント

    :本気で祈ってるww

    :決まるか?

    :やだーキリちゃん勝ってー!!

    :キリちゃんにどうせぇとww

 

 大島さんが早口に唱え、コメントが決着の気配に加速する中。俺は手元の金インゴットをオオカミの群れの中心に放り投げた。すると……?

 

「おやおや、めんこいねぇ。ほらもっとお食べぇ? そうさな……名前は"シルバー"なんて付けちゃおっかなぁ!?」

『きぃゃああああああっっ!?』

 

コメント

    :やべぇ声出てるぞww

    :キリちゃん負けちゃったかー……

    :これで終わりなの?

 

    :まだちょっと時間あるけど、向こうのテンション的にクリア条件の三種だろうから終わりやね

    :ブラフワンチャンあるから!

    :確かに、一応お互いのカード確認するまではなんとも

 

「ふっはっは!! まぁリスナー諸兄の言う通り? 俺が嘘をついているかも知れんしなぁ? どうだ、落ち合って確認するか? ん?」

『ぐぅぅ……っ! そうねぇ……! 配信的にもその方がみんなに伝わりやすいでしょうしねぇ……!!』

 

コメント

    :おいたわしや……

    :死ぬほど悔しそう

    :キリちゃんこのゲームガチ勢自称してるからなぁ

    :向こうが変態過ぎたんや

 

 うーむ……OK! 俺が勝つとなっても、コメント欄は荒れてないな。……しかし、それだけじゃあダメなのである。今までそういうコメしてた人たちは黙ってるだけなのかも知れないからね。そういうリスナーにも、少なくともこのコラボは『悪くなかった』と思ってもらいたい。これからの流れ自体は、それはそれで言い争いの種になるかもだけど……男女コラボの燻りに比べりゃあなんてことないだろ!

 

「ではスタート地点で合流だ! 共闘前に掘ってたくらいだ、そちらは近場だろう? 俺が到着するまでは採掘してて構わんぞぉ? ぬぁーっはっはっはぁ!!」

『ギリギリギリギリ……!!』

 

 大島さんが歯ぎしりするのを聞きながら、俺はゲーム内で空を仰ぎつつスキップする。

 

「ふんふんふーん♪ 見てくれ画面の前のリスナーたちよ! 空はこんなにも美しい!! まるで俺様の勝利を讃えているかのような……あっ。あっ、アッ! あぁああっ!!」

『……? え、なに?』

 

コメント

    :腹立つなぁw

    :ふんふんちゃうぞフン野郎

    :糞野郎で草

 

    :ん?

    :なんだ?

    :うっさw

 

 ばしっ、ばしっ、ばしっ。特有の弾けるような音が一定間隔で鳴り響き、それに合わせて俺は声を上げる。演技臭くはなってないと思うぜ、なんてったって数えきれないほど同じ目に遭ってきたからなぁっ!!

 

 そして数秒後、俺のゲーム画面左下。大島さんの画面にも同じメッセージが届くのであった。

 

"vshibiki は溶岩遊泳を試みた"

 

『はっ?』

 

コメント

    :えっ

    :はぁ?

    :wwwwwww

    :何しとん

    :全ロス?

    :こ れ は ひ ど い

 

 俺のキャラは上を向いて走っていたので、足元の溶岩溜まりに気づかなかった(・・・・・・・)のである。

 

「……はい。というわけでね、皆さん今回のPVPコラボいかがでしたか? いやぁ熱戦でしたが、勝者はこの暁ヒビキということでね!」

『いや、ちょ……はぁっ!? 何してんの!? 何してんのアンタ!? えっ……マグマダイブしたってことっ? アイテムは!?』

 

コメント

    :はいやったー

    :さすがヒビキ!マヌケ野郎だぜ! ¥2828

    :どうせ調子こいて地上のマグマ落ちたんやぞ

    :アーカイブ残しますよね?w

 

「あ~……あれ、これちゃんと録画出来てない系? あぁいやアイテム? うん無事っすよ? 何となくチェスト作って入れてたんで? 無事っすよ? うん」

『嘘つきなさいよ! 合流するのにアイテム置く意味無いじゃない!!』

 

コメント

    :最初にアーカイブ残すって言ってましたよね!

    :はいこれ録画代 ¥10000

    :ヒビキの活躍見に行くね♡ ¥20000

 

「ちくしょぉおおおっ!! なんでマグマ池あんだよっ!? 周りの木とか燃えてなかったんだがっ!?」

 

コメント

    :化けの皮はがれて草 ¥250

    :オオカミ湧かせるためにチャンク読んだばっかだからでしょw

    :空がどうの言ってるからやぞマヌケ

    :ヒビキの勝利を讃えた空はどんな色なんやろなぁ? ¥8888

    :そりゃ真っ赤でしょうよww ¥763

 

『えっ、これどうするの? 勝負はっ?』

「……まー、判定的には俺様の勝利なのでは? 先に三種集めた方の勝利ぞ?」

 

コメント

    :結果無くしてんだから負けに決まってんだろw ¥490

    :コンプチェックのための合流段階で死んだしなぁ

    :アーカイブの確認は今出来ないし、ヒビキの負けっしょ

 

    :やぁ良い勝負だった ¥888

    :キリちゃんおめでとー!!

    :大方の予想通り炎上しましたね! ¥2000

 

「はい僕の負けでーす! やぁ大島さんさすがだなぁ! リスナーさんも言ってますよ! 燃えるようなアツいバトルだったって!!」

『ざけんじゃないわよーっ!! んぁあ~~もぅ……! なに? なんなのっ? なに大事なとこで死んでんのっ?』

「いや、その……ハイ! すんませんっ!!」

 

コメント

    :ガチ謝りで草 ¥370

    :キリちゃん的にはなぁ

    :試合に勝って勝負に負けた感

 

    :まぁキリちゃんの勝ちでしょ!向こうも言ってるし!!

    :せやな!キリちゃんおめ!ヒビキはなんで負けたか明日までに考えといてください ¥10000

    :じゃんけんパイセン!?

 

『くぅ……アイテムは、無いのよね?』

「ウッス。全ロスしましたッス。ウッス」

 

『……はぁ~~……。はいじゃあ決着! マ〇クラG・I対決、アタシが勝ちました! やったー!』

 

コメント

    :全然嬉しそうじゃないww

    :ヤケクソ感w

    :ぜーんぶヒビキが悪い ¥5353

    :間違いないww ¥250

 

『でもっ!! アタシはぜんっぜん納得してないからっ!! いい!? 絶対また勝負しなさいよっ!? 勝負の途中ならともかく、終わってから死ぬなんて冗談じゃないんだからねっ!?』

「ウッス! 自分、また挑戦させてもらいたいッス! ウッス!!」

 

『みんな、今日は応援ありがとう! 今回はこんな感じで勝ちを拾ったけど、アタシは不本意だからねっ? もっと腕を磨いて、今度は実力で勝って見せるから! また、応援してね?』

 

コメント

    :もちろん!

    :キリちゃんは気高いねぇ ¥5000

    :それに比べてヒビキとかいう輩はよぉ

 

    :おいヒビキ逃げんなよテメー ¥10000

    :普段見れないキリちゃん見れて楽しかったよ!

    :それはあるw

 

    :コラボの時は大体キャリーしてるからなぁ

    :ガチキリちゃんまた見たい

    :はい再戦代 ¥20000

 

「そのスパチャ一切俺に入らないんだけど……あっ、嘘ッス。謹んでまたお相手致すッス。ウッス!!」

 

『はいっ! ということで、今回お呼びしたのはヴァーチャルシップより! 暁ヒビキさんでしたーっ!!』

「改めて、お招きありがとうございました!! リスナーの皆さんね、申し上げました通りアーカイブ残しますんで! 良かったら見ないでくださいねっ!!」

 

コメント

    :良かったら見ないでは草

    :良くないから見ます^^ ¥2525

    :コメント欄で煽り散らかすからな ¥1000

 

「君らに人の心はないんかね?」

『ではでは時間も押してるのでっ。おつキリーっ!』

「あっ、お、おつキリー!」

 

コメント

    :おつキリー

    :おつキリー

    :早くアーカイブ上げてね♡ ¥2000

    :ヒビキ視点楽しみだなぁ ¥5000

    :おつキリー

 

「ふぅーっ……」

 

 無事に大島さんの配信枠が終わったことを確認して、俺はいつもの癖で伸びをした。すると。

 

『ねぇ、ちょっといい?』

「あっ、はい。なんですか?」

 

 通話がつながったままの大島さんから声がかかった。そらそうや、こっちはこっちで解散せんとね。

 

『……その。最後なんだけど……』

 

 最後? 配信の終わり際、何かあったっけな……再戦のことかな?

「またPVPってことなら是非! 今日は凄い楽しかったです!」

 

『そうじゃなくて……まぁ、良いか。そうね、次また戦えばいいだけよねっ!』

 

 ? 何やら分からんが、大島さんの中ではケリがついたらしい。それもマジでまた呼んでもらえるのか。嬉しいねぇ……。

 

「はい! 楽しみに待ってますね! 俺も腕落ちないよう練習しとくんで!」

『……ねぇ、その口調なんなの? 配信中はもっと、なんていうか……フランク? だったのに』

 

「いや、そりゃあ大島さんがすぐに"戦おう"なんて言うから、そのノリで……。事務所が違うって言っても、俺からすりゃあ大先輩ですし」

『いやそういうの良いから! アタシとアンタはライバルなのっ! アタシがそう決めたの! いいっ!? 今度は変な遠慮(・・・・)なんてしないでよねっ!?』

 

「そういうつもりは無かったんですけ……だけど。分かった、俺もコラボでずっと敬語とか緊張するし。これでいいんだよな?」

『ええ! いい? ぜっっっっったいまた誘うからねっ。首洗って待っててよね?』

 

 その言葉に、思わず俺は笑みを浮かべた。あぁ、いいなぁ……。こんな風にガチバトルできる相手なんて、そうそう居ないよなぁ。それも同じV、3D化もしてる大先輩だ。最終的なリスナーの反応も悪くなかったし……SNSとか配信後のエゴサも必要になるだろうけど。

 

 俺もようやく、Vtuberの輪ってのに本格的に加われたような。そんな感覚に包まれていた。

 

「もちろん! 次は正真正銘、俺も大島さんも視聴者も! 全員が納得する勝者を決めよう! 約束だ!!」

『ええっ、約束よ!! ……ところで、大島じゃなくて、キリでもいいのよ?』

 

「それは……ほら、まだいろいろ怖いから」

『怖い? 何が?』

「いや分かるでしょ? ボク男、アナタ女。オーケー?」

『ふーん……ヘタレ』

 

 そこまで言うと大島さんは、一方的に通話を切りやがった。……なんやこの女ァ!! ……ま、いいさね。大先輩とはいえ、大島さんは例の事件の被害者じゃないからな。直接コラボ依頼してきたこともあって、この辺のリスクは実感できないのかも。

 

 これからも、その辺は俺が考えればいいことだろう。そうやってフォローするのが全く苦にならないくらい、楽しいコラボに誘ってもらえたんだから。

 

 今から待ちきれないくらい、大島さんとの再戦が楽しみだ。

 




以下二人の指定カード。9D100でそれぞれ決めました。

98(S)シルバードッグ
94(S)盗賊の剣
66(S)魔女の痩せ薬
64(B)魔女の媚薬
46(A)金粉少女
40(B)超一流ミュージシャンの卵
31(S)死者への往復葉書
22(A)トラエモン
8(S)不思議ケ池

89(A)税務長の籠手
79(A)レインボーダイヤ
78(B)孤独なサファイヤ
73(A)闇のヒスイ
65(S)魔女の若返り薬
54(A)千年アゲハ
43(B)大ギャンブラーの卵
25(B)リスキーダイス
8(S)不思議ケ池

被ってる不思議ケ池も触れたかった……


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【Vtuber】企業男性Vを語るスレ【というか暁ヒビキ】①

お試し掲示板回。需要があったら増やすかも?


205:名無しのコラボ相手

そういうのは無視するに限る

 

206:名無しのコラボ相手

荒らしに反応するヤツも荒らし定期

 

207:名無しのコラボ相手

にしても、ヒビキもコラボ解禁で嬉しいねぇ

 

208:名無しのコラボ相手

全然安心はできないけどな。いつ燃えても、というか燃やされてもおかしくないし

 

209:名無しのコラボ相手

それな

 

210:名無しのコラボ相手

どのリスナーより事務所より本人が警戒しまくってるし大丈夫な気もするけど

 

211:名無しのコラボ相手

ヒビキのリスクヘッジが的確過ぎて俺たちが心配してもそれこそ杞憂だろ

 

212:名無しのコラボ相手

そうか? ヒビキだって人間だぞ、気が緩むこともある。そんな時アンチコメを受け流せてこそのライバー(リスナー)よ

 

213:名無しのコラボ相手

意識高いなぁ

 

214:名無しのコラボ相手

前の大島キリちゃんとコラボした時とかそうだったしね。ヒビキ枠の調教の賜物なんだろうけどw

 

215:名無しのコラボ相手

キリちゃんのコラボでヒビキの動画見始めた勢なんだけど、過去配信でそういう話あったの? コラボの時は助けてーみたいな

 

216:名無しのコラボ相手

そんなんないよ

 

217:名無しのコラボ相手

雑談枠でヒビキが『こういうコメントされたらどうする?』に対して答えたことをリスナーが勝手に実践してるだけやぞ

 

218:名無しのコラボ相手

信者じゃんww

 

219:名無しのコラボ相手

そういうのとはまた違うんだよなぁ……。いや信者なのか? どうなんだ?w

 

220:名無しのコラボ相手

調子乗るから本人には絶対言えんけど、尊敬してる人間の言動は真似たくなるやん? そういう対象の在り方に倣うって意味なら確かに信者かもしれんね

 

221:名無しのコラボ相手

俺たちはヒビキの信者だったのか(困惑)

 

222:名無しのコラボ相手

本来の意味で八方美人だし、立ち回りは理想的だよな。誰の反感も買わないよう意識してる

 

223:名無しのコラボ相手

傍目から見たらまだアンチ多いように見えるけど、声でかいのが多少蔓延ってるだけで実際はそうでもないからな

 

224:名無しのコラボ相手

そもそもヒビキが叩かれる謂れはないんだから、本人がちゃんとしてりゃ収まるわな

 

225:名無しのコラボ相手

思った以上に信者が多くて困惑してるwww

 

226:名無しのコラボ相手

ヒビキ敵を味方に変えるラノベ主人公属性あるからなw

 

227:名無しのコラボ相手

チャンネル登録者の8割以上が最初はアンチだったろうからなww俺もそうだしww

 

228:名無しのコラボ相手

僕も初配信の時とかすごい勢いでアンチコメしました(懺悔)

 

229:名無しのコラボ相手

みんなそうよ……それを当たり前みたいな顔で受け止め続けた漢が俺らのヒビキよ……

 

230:名無しのコラボ相手

自分がやった訳じゃないから関係ない、的なこと一度も言ってないからなぁ。俺ならキレるわ

 

231:名無しのコラボ相手

それで罪悪感でファンになったとか?

 

232:名無しのコラボ相手

いやネタにされた挙句バチバチに煽ってきやがるからヒートアップしたよねww

 

233:名無しのコラボ相手

マジで被害受けた女性ライバーのファンとかのお気持ち表明には真面目に答えてたけど、俺らみたいなただ燃やしたかっただけの連中は死ぬほどネタにされたからなw

 

234:名無しのコラボ相手

俺ら「はやくやめろや」

ヒビキ「まだ費用回収できてないんだもん」

俺ら「金のためにやってんのかよクズが」

ヒビキ「君wwお仕事wwしたことある?ww」

 

235:名無しのコラボ相手

返しがイチイチ腹立って、言ってる人間はムキになるけど、他の視聴者はだいたい笑っちゃうというか。一回他のアンチがおちょくられてんの見ると、客観的に、あー俺もあんな感じでピエロになってんのかー……ってなる

 

236:名無しのコラボ相手

むしろ面白い方向に持って行きたくなって、結構なアンチが自主的にピエロ化したからww

 

237:名無しのコラボ相手

一時期はこのスレで『今日の敗者(おちょくられたアンチ)』と『今日の勝者(ヒビキと漫才したやつ)』でIDまとめ流行ったくらいだし

 

238:名無しのコラボ相手

ここのスレ民おかしない?ww

 

239:名無しのコラボ相手

他スレに比べりゃおかしいのかも知れんが誉め言葉だゾ

 

240:名無しのコラボ相手

むしろ匿名で他人叩くことの不毛さとか、無様さをヒビキに矯正されたからな。おかしいどころかまともになってるんだぞ

 

241:名無しのコラボ相手

男性Vってだけで敬遠しちゃってたんですけど、コラボも面白かったし、なんか勿体ないですね

 

242:名無しのコラボ相手

見るべきはレッテルじゃなくて本質だからな。君もヒビキのアンチになろうな!!

 

243:名無しのコラボ相手

台無しで草

 

244:名無しのコラボ相手

本人がネタにしてたからなw

 

245:名無しのコラボ相手

アンチの情熱ってのは凄く……凄い。君らがアンチで居る限り俺の同接人数は減らないのだ! みたいなことほざいてたな

 

246:名無しのコラボ相手

凄く凄いで笑ったわw

 

247:名無しのコラボ相手

勿体ないと思ってくれる視聴者が大島キリちゃんの枠から出たってのは大きいな。少なくとも向こうにとって不快になる配信内容じゃなかったってことだし

 

248:名無しのコラボ相手

受け取り方は人によるだろうけど、俺はめっちゃ楽しかったよw

 

249:名無しのコラボ相手

アンチコメが若干うざかったけど

 

250:名無しのコラボ相手

おいアンチ呼ばわりすんなや! コラボ相手の枠にいる限りは熱心なファン様やぞ! ヒビキ枠に来て初めてアンチ名乗れるんやぞ!

 

251:名無しのコラボ相手

(アンチって資格制だったんやな……)

 

252:名無しのコラボ相手

ヒビキに煽られてネタにされてコントやって初めてアンチよ

 

253:名無しのコラボ相手

ナニソレイミワカンナイ

 

254:名無しのコラボ相手

アンチの 法則が 乱れる!

 

 



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Vの裏で:狙いは何だったんですか?

『お疲れ様です。どうかなさいましたか?』

「あ、お疲れ様です……あの。大島さんとのコラボについてなんですけど」

 

 例のごとく、俺はPVPコラボの翌日にボスへ連絡していた。配信の反応を調べたりもしてたんで、時計はおやつの時間を少し回ったくらい。この辺りの時間帯は、割とボスの都合がつきやすいってのが経験則だ。

 

『ああ、私も視聴していましたよ。楽しそうで何よりでした』

「えっ、配信中に見てたんですか?」

『もちろんです』

 

 マジかよ……いや、考えてみりゃ不思議でもないか? ボスが今回のコラボを受けたのが俺の想像通りの理由なら、俺がヘマしないようチェックするのはある意味当然ですらあるしな。

 

「……色々聞きたいことはあるんですが、どうして大島さんとのコラボを受けたんですか? それも、事前打ち合わせもなしに」

 

『ヒビキくんもある程度は予想していると思いますが……あれは一種のテストでした。相手の情報を運営側から伝えず、当日の段取りについてもすべてアドリブ。この条件下で問題なくコラボ出来るのかどうか』

 

 今のところ、ボスの言う通り俺の予想の範疇だな。その意図も想像通りなら一安心なんだけど……。

 

「それで、テストの結果は……?」

『……満点、と言っていいでしょう。配信中の運びから、ヒビキくんが大島さんのことを個人的に下調べしていたことは窺えました。先方の熱心なファン(・・・・・・)を刺激することもなく。お互いのチャンネル登録者も目に見えて増えていますし、大成功と言える結果でした』

 

「……そ、そうですか……安心しました」

 

 予想していようが、あくまで予想だ。思いのほか合否判定に緊張していた俺は、ボスからのお言葉に胸をなでおろした。

 

『すみません、こちらの都合で振り回してしまって。本来であれば、タレントを雇っている側としてこんな暴挙は許されません。お詫びと言ってはなんですが、もし事務所側に要望等あれば出来る限り対応しますので。何か考えておいてください』

 

「いえ、とんでもないです。ただ……どういう狙いがあって今回のテストを?」

 

『そうですね……一つは、ヒビキくんの今後の活動について、どこまで干渉すべきかを判断するためでした。これにつきましては私共(わたくしども)で話し合い、基本的に不干渉で問題ないという結論に至りました。つまり、ヒビキ君は今後の配信・動画投稿・コラボを行うにあたって、私に都度連絡を入れる必要はないということです。他事務所と関わる場合も簡単に事前連絡・事後報告さえいただければ構いませんよ』

 

 これにもホッとした。いや信頼が重すぎるんだが? って気もするけど、俺が責任を負える範囲内で自由が利くというのは魅力的だ。企業としてあまりにもリスキーな判断に思えるが、俺の積み重ねてきた活動をもとに相談した結果だと言われれば誇らしくもなろうもん。……ボスの言う、私共(・・)ってのがどの範囲の人間を指すのかとかは考えたくないけど。

 

「ありがとうございます! 信頼を裏切らないよう頑張ります!」

『はい、今後の活躍も楽しみにしています。……それで、もう一つの狙いなのですが……ヒビキ君には、四期生のサポートを兼任して欲しいのです』

 

「……はい? サポート?」

 

 理解が及ばずに聞き返すと、ボスは声色を変えずに答えてくる。

 

『その通りです。ただいまヴァーチャルシップでは、四期生を募集しているというのはご存じですよね?』

「それはもちろんですけど……」

『実は、その四期生に……男性の応募があったのです』

「えっ!? ホントですか!?」

 

 マジかよ……いや、早くね? 確かに以前から、ボスが……というか事務所側が、男性Vを推していく方針なのは知ってる。でなきゃデビュー当時、まともに収益が望める状況じゃなかった俺を置いとく訳が無い。ユラちゃんとのコラボに始まり男性Vの需要を高めることで、男性V志望が大手を振って応募が出来るようにしたい、ってのも聞かされてる。

 

 しかし、ユラちゃんとコラボしたのなんて二週間チョイ前の話で、それ以来まだ絡みはない。他のコラボと言えば先日の大島さんとPVPしたくらいだ。まだまだ男性V志望を釣るには積み重ねが足らんと思うんだが……。

 

「ユラちゃんか、大島さんとのコラボがきっかけなんですかね……? 正直、それはないと思うんですけど……」

 

『こちらとしても、男性Vのニーズを刺激するという狙いに対してであれば反応が早すぎると思ったのですが。募集要項には性別の指定がありませんでしたから、通常通り選考を行いました。……その結果、当事務所二人目の男性Vとしてデビューが決まりました』

 

「…………お、おぉ……えぇ……?」

 

 驚きでなんて言ったらいいのか分かんねぇよ……。え、俺に男の後輩が出来るの? っつーか俺がそのサポートするの? いやいやいや!

 

「あの、一応自分、別で仕事もあるんですけど……」

『はい、それが先ほどのテストの件にも繋がるのですが。つまり……本格的に、社員として私共の事務所で雇いたい、という話なのです』

 

「…………えーと」

 

『困惑するのも無理はありませんが、今後はオフコラボ等も見据えて活動して欲しいと考えています。そうなりますと、ヒビキくんの現状では少々スケジュール管理が厳しくなると予想されます。収益化したばかりなので明細をお見せするのは先になりますが、既にヒビキくんのお給金にはスーパーチャットの金額も含まれています。これだけでは今のお仕事を辞めても赤字と思われますが、正社員となればもちろん待遇は変わります。二足の草鞋を履くよりも、時間・賃金共に悪くない話だと考えますが。いかがですか?』

 

 …………確かに、単純計算してもおいしい話だった。今の俺はバイトを掛け持ちしてるような状況で、日中はVと関係ない仕事をしている。なもんで配信は夜だけだし、俺がVを目指すきっかけとなった人以外のVはほとんど見れていない。後輩のユラちゃん、コラボのために調べる必要があった大島さんくらいなもんだ、多少追えているのは。あと推しとコラボした人をちょっとだけ。

 

 なんでそんな生活してんだと言われれば、デビュー当初はそれこそいつ切られてもおかしくないと思っていたから。Vとして活動しつつ、クビになった時生活に困らないようにするために、他のバイトは必須だった。それでも、Vを目指すと決めて辞めた前職に比べれば苦じゃなかったけど。

 

 それが、ほぼすべての時間をVtuber活動に費やせるようになるのだ。まだまだ界隈ファンの厳しい目はあるけど、リスナーと騒ぎながらの活動は楽しい時間だった。そこにリソースを全振り出来るのなら願ったり叶ったりだ。

 

「……すぐに今の仕事を辞める、って訳には行かないと思うんですけど。出来れば僕も、そうさせてもらえると嬉しいです」

『ありがとうございます。退職までにどれくらい時間がかかるか分かりますか? 大まかにで構いませんので』

 

「最長でふた月……相談次第では今月末にも」

『そうですか。四期生はまだ募集期間中ですし、急ぎではありませんので安心してください。ただ、予定より早く退職の運びとなるのであればいつでも受け入れる準備は出来ていますので。気軽に連絡してくださいね』

 

「助かります」

 

 バイトつーてもすぐ辞めるとはいかんからね……。そこを配慮してくれたボスに礼を言うと、いつかのようにくすりと笑う気配が。

 

『助かったのはこちらですよ。Vtuber活動のサポートを任せられる人材はそう居ませんし、ましてや業界でも難しい立場の男性V担当ですから。ヒビキくんほどの適任はそう居ませんよ』

「はは……頑張ります」

 

『文字通り、簡単な補助になりますので。男性Vにのみ、ヒビキくんが活動するにあたって気を付けてきたことを指導する程度で構わないのです。四期生全体のマネージャーはまた別に用意しますからご心配なく』

 

 間違っても俺がマネージャーも兼任する、みたいなことにはならんってことね。

 

「分かりました! とりあえず、退職の日取りが決まったらまた連絡しますね」

『はい、お待ちしています』

 

 ……なんかそういうことになった。やったねヒビキ! 男性V(なかま)が増えるよ!! ……マジで、どうなるんだろうか……。

 

『……ところでヒビキくん。あなたは生配信後によく視聴者の反応をSNSなどで確認するそうですね?』

「えっ? そうですけど……」

 

 まだ見ぬ後輩に思いを馳せていると、ボスがそんなことを聞いてきた。

 

『ネットの掲示板等も確認されていますか?』

「いえ、そこまでは見てないですね……。デビュー直後は覗いたりもしたんですが、精神衛生上あまりよくないかなと思いまして。SNSはリアルタイムで視聴した人の、ほとんど生の感想が見えますから、主にそっちを確認してます」

 

 今でこそ中傷コメントにも慣れているが、当時はさすがに落ち込んだりもしたしなぁ。掲示板めっちゃ荒れてたし。事故らないよう反射的に面白おかしくコメント返ししてた生配信と違い、掲示板とかだと下手に考える時間がある分ネガティブになりがちだった。嫌なら見ない。インターネットにおける最も重要な自衛手段の一つだろう。

 

『そうですか……。少々もったいない気もしますが』

「えと……すみません、最後のほう、ちょっと聞き取れませんでした。もう一度お願いできますか?」

 

『あぁいえ、ただの独り言です。……そうですね。そういった、自身がどのように視聴者から見られているか、というのを探る方法も、新人の方に助言いただけるとありがたいですね』

「覚えておきます」

 

 こうして俺は、ある程度自由に活動して良いことになり。本格的にヴァーチャルシップの下で働かせてもらうことに。そして……男性Vの、後輩が出来ることになったでござる!

 



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【ヒビキとユラの】後輩が来るっぽい【VS放送局】①

「こんヒビキー。ヴァーチャルシップ二期生、今んとこただ一人のVS男性Vこと暁ヒビキでぇーす。そして!」

「みなさんこんばんは~! ヴァーチャルシップ三期生の夕張ユラと申しますっ。よろしくお願いします~」

 

コメント

    :こーん

    :きちゃー!

    :定期コラボ枠おめ ¥10000

    :こんヒビキ―

 

    :そんな告知あったんか

    :なかったと思うけどw

    :赤スパによる圧力

    :こんユラちゃーん

 

「えぇ……いやこれから告知予定だったんだけど……。はいっ、じゃあ赤スパのお礼ってことにしようかな! ユラちゃんとの定期コラボ枠、『VS放送局』! 今回が第一回になりますーどんどんパフー」

「いえーいっ!」

 

コメント

    :マジかよ

    :いいですねぇ! ¥2000

    :タイトルの後輩って文字必要か?

    :ユラちゃん言っちゃってますがな

 

 うむ、コメント欄からは困惑具合が窺えますな! でも男女コラボの定期枠が出来ることについては尖った発言も見当たらない。お互いのファンしかいないってこともあるだろうけど、好感触で何よりだ。

 

 ボスの要請からすでにひと月と少し経っており、俺は本格的にヴァーチャルシップの一員となった。このコラボ枠は俺に与えられた、最初の大きな仕事になる。

 

「まぁ基本的には雑談枠になるんだけど、VSからのイベント告知とか、僕ら二人のチャンネルの宣伝とか。諸々発信してく予定なのでよろすく!」

「ヴァーチャルシップ所属の、他のライバーをゲストに呼ぶこともあると思いますのでっ。楽しみにお待ちくださいね~!」

 

コメント

    :二人がメインってだけでVS全体の番組ってことかね

    :他の後輩はどうした

    :三期生の他三人は?

 

「いやぶっちゃけユラちゃんとしか絡み無いし……あんま後輩って感覚が……」

「あ、あはは……」

 

 

コメント

    :内部事情をぶっちゃけるなw

    :これだからボッチはよぉ

    :お前だけ別の組織に居ない?大丈夫?

    :ヒビキVSに存在しない説

 

「居るから! ちゃんと公式ページに載ってるから! 一人で二期生専用ページ丸々使うくらい大々的に取り上げられてるから! 俺が一番ビッグまであるだろ!?」

 

コメント

    :ねぇよww

    :草。いやくっさ。小物臭漂ってる

    :一番ビッグは盛ったなw

    :一期生にチクるからな震えて眠れ

    :せめて後輩のチャンネル登録者数抜いてからほざけ

 

「ねぇやめて? 絡みのない後輩って意味じゃ一期生から見た俺もそうなんだよ? んなやつが調子こいてたってチクっても反応に困るだけやろ? あとあんまり現実を突きつけるなよ、俺はメンタルが豆腐なんだ」

 

コメント

    :お前みたいな豆腐が居てたまるかボケ

    :心臓に剣山生えてんだろお前

    :ライバーで一番図太いって自覚して?

    :心臓にww剣山はヤバイww

 

「生えてねぇよ! 他の臓器ズタズタじゃねぇか!! あとユラちゃん? 爆笑してないで喋って? こいつらずっと俺のことイジる気だぞ」

「ふ……ふっ! ンふっ、……す、すみません……ふ、ふふっ……!」

 

コメント

    :ユラちゃんが楽しそうで私もニッコリ ¥5000

    :ヒビキに憧れてるとか言ってユラちゃん庇ったりせぇへんからな

    :元からリスナーなんだからそらそうよ

    :むしろユラちゃんもイジりコメントしてたまである

 

「え……ユラちゃんホント……? ユラちゃんも俺のこといじめるの……?」

「えっ!? いやそんなコメントしたこと……な、ない、なかっ、なかったんじゃないかなーって」

 

コメント

    :すごい葛藤しているように見えるが自白も同然である

    :嘘はつけないが誤魔化しはしたいという必死さ

    :ヒビキは媚びた声出すな

 

    :女性ファン的にはなかなか耳によろしくってよ ¥5000

    :ボイス販売ワンチャンあるってよww

    :俺からすると腹立つが、おにゃのこ的にはイケボなのかも知れない。俺からすると腹立つけど

 

    :大切なことなので()

    :キリちゃんコラボのRPとか声は悪くなかった

 

 アカン、第一回のお試し配信ってことで30分くらいに収めるつもりだったのに、どんどん時間が溶けてくんじゃが! ……まぁいいか、ユラちゃんも楽しそうだし、コメント欄も賑わっとる。ユラちゃんほとんど笑ってるだけだがな! それもボスの狙い通りかね……。

 

「ハイ! んじゃあそろそろ告知! 君たちもちついて! じゃねぇや落ち着いて!!」

 

コメント

    :餅ついて?

    :ぺったんぺったん

    :サッ。サッ

    :ぺったんぺったん!

    :こねこねこねこねこ猫

 

「いやもういいからそういう揚げ足取り。配信にも段取りってもんがあるんですわ。君ら自由人には無縁かも知れませんけど」

 

コメント

    :傷ついた;;

    :訴訟

    :ネタ振ったから乗ってやってんのになんだァ? てめェ……

    :はいキレた。一万人の視聴者がお前ん家向かったからな

 

「勝手に俺ん家を月見パーティ会場にしないでくれる? あい! ユラちゃん告知! ……ユラちゃん?」

「もち……ぶふっ! くっくっく……一万人で、つっ! 月見……んふっ、ふふ……っ!!」

 

コメント

    :ダメみたいですね

    :ユラちゃん……他ではまともなのに……

    :ヒビキが全部悪い

    :確かにそれですべてが片付く

 

「はーい体調がすぐれないユラちゃんに代わってお知らせ! えー僕らが所属するヴァーチャルシップですね! 四期生のデビューが決まりましたー!」

 

コメント

    :募集期間長かったね

    :三人だっけ?

    :またヒビキに虚無後輩が増えるのか

    :めでたい……めでたい? うん、ヒビキおめでとう! ¥5000

    :後輩おめー ¥2000

 

「スパチャどうもー。でも自分の中で消化しきってから投げて? とりあえず祝っとけ精神で投げられても受け取りづらいんだわ」

 

コメント

    :じゃあどうしろってんだよ!? ¥10000

    :スパチャに直接文句言うやつ初めて見たわw

    :キレながら赤スパ投げないでww

    :まぁまぁみんな餅つけよ

    :まだ月見画策してるヤツいて草

 

「せめて最後まで聞いてから投げろっつってんだよ!! 話は最後まで聞きなさいって習ったろ! アンダスタンッ!?」

「ぶふぅっ!! んぐっ……くふっ。ひ、ひーっ……!」

 

コメント

    :はぁい…… ¥4949

    :意地を感じるww

    :赤スパとケンカするライバーが居るらしいな

    :ユラたそはもうダメみたいですね

    :惜しい人を亡くした ¥2525

 

「んで! ご存知の通り三人の募集でしたが! 一人はなんと……男性です! 二人目の男性Vがヴァーチャルシップに加入しますー! これがタイトルの真相さァ! ヤッター!! オラ今だぞ。祝えや」

 

コメント

    :マジ!?

    :ワースゴーイ ¥10000

    :ヒビキについに実体のある後輩が……? ¥2000

    :めでたい……めでたい? うん、ヒビキおめでとう! ¥5000

    :勇気のあるやつが居たもんだ ¥8888

 

 んー……ヨシ! 少なくとも種まき(・・・)は問題なさげ!! あとは俺がまだ見ぬ後輩君と密に相談できれば大丈夫そうかな……。ちょいちょい心配そうなコメントも見えるが、スパチャで怒涛の肯定的イジりが発生してるからあまり目立っていない。

 

「ハイ皆さん、聞いてくれてありがとう。スパチャも……ねぇ、なんでこの期に及んで消化できてないヤツいんの? いいんだよ? もっと手放しに祝ってくれても」

 

コメント

    :多分お前のこと祝うってことに身体が拒否反応示してるんだわ ¥1000

    :G・Iクリアした時で何とかって感じだったよね ¥1000

    :ヒビキくんのチャンネルリスナーさん暖かいっすね()

 

「っつーワケでね! 今回の『VS放送局』はここまでにします! お相手は暁ヒビキとォ!!」

「ひーっ、ひっひっひ……。す、すみまっ! んふっふっふ……」

「ひっひっひすみまんふっふっふさんでしたぁ! ではまた次回! ばーいばーーいっ!!」

 

コメント

    :リスナーにキレて配信閉じるとか許されざるぞ ¥5000

    :ユラちゃんwww

    :ヤケクソ挨拶やめろや!

 

    :ひっひっひすみまんふっふっふとかいうライバーが居るらしい

    :マ? チャンネル登録しなきゃ ¥10000

    :これはwwひどいwww

 

 こうして笑いに包まれたまま、第一回定期コラボ枠は終了した。これは動画編集がはかどるなぁ……。とりあえずこの配信の録画を字幕やらSEで面白おかしくし、チャンネルに投稿すればOKだ。

 

 おそらく事務所所属の男性Vが増えるという情報だけが独り歩きするだろうが、ソースが欲しい人はこの動画を見に来るはずだ。そこで俺とユラちゃんが情報を小出しにしつつ面白いトークをお届けできれば、界隈の目も柔らかくなっていくだろう、と、思われる。

 

 今回の放送をトークと言っていいのかは、甚だ疑問ではあるが。

 

「……ユラちゃん、配信終わったけど。大丈夫?」

「……………………しゅみましぇん……」

 

 うん、まぁカワイイし面白いからヨシ!

 



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【ヒビキとユラの】また戦うっぽい【VS放送局】②

「はいこんヒビキー、ということでね。二回目となりましたVS放送局、お送りするのは暁ヒビキとー?」

「……みなさんこんばんは。ヴァーチャルシップ所属のひっひっひすみまんふっふっふと申します……」

 

コメント

    :こんひっひっひ!

    :こんひっひっひー

    :マジでこれでやるのかw

 

    :事務所に説教されたんだっけ?

    :ユラちゃん全然喋ってなかったからねw

    :ひっひっひすみまんふっふっふさんだ間違えるな

 

「えーご存知の方もいらっしゃるみたいですけども。まぁ前回放送でお呼びしたユラちゃんの体調が引き続きよろしくないっつーことで、代打でひっひっひすみまんふっふっふさんに来ていただきました」

「こ、今回はしっかりお送りできるよう……」

 

「ひっひっひさん?」

「ぴぃっ!? い、いえしょの、ゆ、ユラさんの代わりを務められるよう頑張ります……!」

 

コメント

    :謎RP

    :ヒビひっひっひてぇてぇ ¥20000

    :どういうことなのw

    :マネージャーさんから説教食らって、反省のためにこの枠はひっひっひすみまんふっふっふとして活動するんだぞ

 

    :SNSの名前変わってたのそういうことかw

    :一瞬知らないアカかと思ってリムりそうになった

    :わかるマン

 

「前回も言ったと思いますが、この放送は基本雑談枠なんでね。今回は僕が好きなゲームについて話しつつね、ひっひっひさんと絡んでいこうと思いますよー」

 

コメント

    :なんでヒビキはよそ行きの話し方なの?

    :常識人RPですか? 破綻してますよ?

    :好きなゲームってどうせG・IMODだろ

 

「ロールプレイじゃねんだよ。常識人だっつの。それに、よそ行きも何もねぇ? 僕もひっひっひさんとは初コラボですから、探り探りな部分もありまして。あ、ところで皆さん知ってます? ひっひっひさんは、実は二期生なんですよ。僕の同期! いやー知らなかったなー、公式の紹介ページ見て初めて知りましたよー」

「あぃ……VS二期生のひっひっひすみまんふっふっふです……」

 

コメント

    :ヒビキに同期がいた!?

    :イマジナリ同期じゃなくついにホンモノが

    :つまり今まで避けられてたってことか……

 

    :公式見に行ったらマジで枠あったww

    :ユラたそのビジュアルまんまやんけ!!

    :よく見ろ、ちゃんと名札に名前書いてあるぞ

    :雑コラァ……

 

「はい、まぁそんな訳でして。今日は僕の大好きなG・IMODについてお話していきますよー! どうですかひっひっひさん、知ってます? G・IMOD」

「はいっ! ヒビキ先輩と言えばG・IMODみたいなとこありますから!」

 

「え? なんですか? 先輩?」

「あ……いぇ、えっと…………ひ、ヒビキくん……」

 

コメント

    :これはロールプレイ初心者

    :一瞬で化けの皮剥がれてリスナーに成り下がるww

    :後輩にくん付けを強要する男

    :ひっひっひすみまんふっふっふさんは同期のひっひっひすみまんふっふっふさんだからくん呼びは合法

    :他のライバーは違法みたいなww

 

「ひっひっひさんもゲーム自体は知ってるようですね! 実はあのMOD、ついにリスポーンが出来るようになるらしいんですよー。結構大規模にアプデするらしくて、僕みたいなファンは待ち遠しいんですよねー」

「わ、私もちらっと見ました! 最初に指定されるカードも、ワールドごと消さなくてもシャッフル出来るようになるんですよね?」

 

コメント

    :マジかよ

    :結構敷居さがるなぁ

    :ひっひっひさん呼びで腹筋鍛えられてるの僕だけ?ww

    :良い塩梅の指定が来るまでリセマラする必要がなくなるんですか!?

 

    :SSランクから逃げるな ¥10000

    :大天使の息吹とか扱いどうなるんだろね

    :話題にするってことはまた実況するんですよね!?

    :配信のタイトルでお察しよw

 

「そうなんですよ! まぁどっちもマルチ限定らしいんですけどね。今の仕様じゃPVPのハードルが高くて誰もやってくんないし、改善の要望も多かったからってことでして。作者さんもせっかく作ったのにソロ動画しか上がんないんじゃ寂しいでしょうからねー」

 

「ヒビキせ……ヒビキくんの配信見てると、死なないように行動するのが凄く大変そうに感じましたよ。時間もかかっちゃいますし……カードを集めるのに、ちょっと無茶できるようになったのは嬉しいですよねっ」

 

コメント

    :さすがよう見とる

    :ハードコアでも十分無茶なプレイしてませんか? 大丈夫ですか?

    :死ぬのが怖くて基地上空から飛び降りませんわな

 

「ハードコアはそもそもマルチ誘いづらかったからね、これから後輩が来るって時にこのアプデはマジで嬉しいんすよ……! ぜひとも一緒に遊んで欲しい」

「デビューまでもうすぐですからねっ。視聴者の皆さんも、良ければ四期生のみんなを応援してくださいね~」

 

コメント

    :どんな人なんやろね

    :ヒビキの言ってる後輩って一人だけだよなw

    :そらそうよ

    :後輩しかマルチ誘える相手がいないライバー

 

「とまぁこの辺で、告知させてもらいましょい! えー、僕が以前PVPコラボしましたサクラフィ所属の大島キリさんから、また勝負を挑まれまして! 再戦することになりましたー」

「楽しみですねっ!!」

 

コメント

    :ひっひっひさん完全にリスナー代表ですねw

    :おめー ¥10000

    :これはマジで楽しみだわ ¥5000

 

    :楽しみですね!!(迫真)

    :大胆に動けるようになるキリちゃんが有利なのか、変態プレイに拍車がかかる変態が有利になるのか

 

    :キリちゃんと変態のPVPコラボですかw?

    :ひらめいた

    :通報した

 

「てことで、ぶっちゃけもう告知はありません! 残りの時間は大島さんとバトるにあたってどう動くかとかをね、ひっひっひさんを交えて考えていこうかなと。ひっひっひさんはどう立ち回るのが良いと思いますか?」

 

「次のPVPがどういうルールになるのかによると思うんですけど……。やっぱり、最初に魔法都市マサドラに行けるかどうかで大きく変わりますよね? 相手のカードを呪文で奪ったりだとか……」

 

 そんな感じでひっひっひさんと喋りつつ、ちょこちょこ四期生の男性Vに触れ。んでもって、大島さんとのPVPコラボを企画として紹介していく。

 

 無事に配信を終えると、SNSでもコラボ楽しみーみたいなコメントが多くて一安心だ。今度も全力で勝ちに行きたいね!

 

 ちなみにこの配信後、VS公式ページの二期生からひっひっひさんの項目が消えました。んでもって、結局イマジナリ同期やんけと俺がイジられました。ユラちゃんの罰ゲームじゃなかったっけ……?

 



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Vの裏で:ちゃんと予習しましたか?

『待ってたわよこの時を……!』

「え、なんスか開口一番」

 

 G・IMODのPVPコラボが決まり、その打ち合わせってことで大島さんと通話を繋げると、急にそんなことを言われた。やる気満々っすね先輩……。

 

『分かってるわよねぇ!? 今度こそ! 間違いなく呪文(スペル)カードを使った勝負になるわ!! テンション上がりまくりよ!!』

「耳が早いなぁ」

 

 いろいろと追加要素やら既存のイベントが改変される大規模アプデ予定のG・IMODなのだが、作者さんがSNSで先行公開した情報によれば、呪文カードを唯一購入できる場所、魔法都市マサドラが必ずプレイヤーの初期スポーン(誕生)地点から最大拡張マップ一枚以内の土地に生成されるようになるらしいのだ。

 

 前のPVPじゃ時間との勝負かつ、もろもろの要素が完全にランダム生成だったこともあり、ただの先に取ったモン勝ちの対戦になったが。次こそ原作漫画のように、互いに熱いカードバトルが出来るようになるハズ! ってこってすね。

 

『フフン、この前のアーカイブ見させてもらったわ! まさか魔女の家にトラエモン獲得フラグがあるなんてね……。でも、その情報は攻略サイトなんかには無かったからどういうことなのか調べたの。そしたら海外サイトの情報らしいじゃない? アンタはそれを知ってて、アタシは知らなかった……その差を埋めないわけないでしょ!?』

「つまり、今んとこ日本では出回ってない情報もしっかり拾ってると」

 

『そういうことっ! 翻訳サイトって神よね!!』

「たまに変なこと言い出すとこ除けばそうね」

 

 なるへそ、前回の勝負の反省として、より鮮度の高い情報も拾いに行ってたと。意識高いなぁ……。MODの作者さんは海外にお住まいの外国人なので、当然SNSの言語やらブログも外国語だ。そこもしっかり網羅してると。

 

『ちょっと何よ、テンション低くない? やる気あんの?』

「いや、こっちからしたら、なんでそんなに元気なの? って感じなんだけど。こちとら徹夜で予習してるのに」

『へっ? どういうことよ』

「どういうも何も、昨日先行パッチが公開されたばっかじゃないすか。通話繋げる前までずっとプレイしてたんで、正直眠いんすけど……」

 

 もしや、大島さんは長時間ゲームするとハイになってくるタイプか? 俺も多人数プレイとかだとそうだけど、一人だと普通に眠気がヤバイタイプだ。

 

と、思ったが。どうやら事情が違うらしい。

 

『はぁ!? えっ、ちょ……知らない! そんなのどこに書いてたのよ!?』

「え、いや。MOD配布ページの最新情報リンク先にあったけど……。あーそっか、ページの文章丸ごと翻訳にかけたのか。だったらリンクかどうかなんて分かんないよな……」

 

 サイトに入る前にリンク先ごと訳せば分かったんだろうが、翻訳サイト云々言ってるしページの文章全部コピーして、わざわざ翻訳サイトで和訳したんだろう。リンク文も"先行公開中"みたいに、URLまんまじゃなくてわざわざ文章に置き換えられてたし。分かりやすいページ作りをした作者さんとユーザーの切ないすれ違いである。

 

『じゃあなに、アンタもうアプデ版でプレイしてるの!?』

「全部の要素があるわけじゃないけど、まぁそっすね。だから、テンションは滅茶苦茶高いよ、その結果眠いだけで」

『はぁーーっ!? ずるいずるいずるい!!』

「子供か」

 

 マジで普段の配信とG・IMOD絡みの時とじゃ全然人が違うな大島さん……。アイドル路線ってのはブランディングでこっちが素なんだろうけどね、そう考えりゃあ嬉しい。向こうのファンもこういう姿が見たくて楽しみにしてくれてる人も居るっぽいし。

 

『くぅううう……。ね、ねぇ……パッチってどうやって使うの? アタシ、あんまりそういうの分からないのよ……。MOD入れる時だって、解説動画何回も見ながらやっと出来たくらいで……』

「えぇ? アプデ完了するのが明日の朝で、コラボは夜よ? 今からじゃ入れるのにも、それをプレイするのにも時間かかるし、あんま意味ないよ」

 

 今までMODの作者さんが告知した時間を超過したことは無いから、アプデ自体は間違いなく明日の朝に完了する。それまでにパッチ入れてソロプレイするってのはあまり現実的じゃない。そういう行為に慣れてないならなおさらだ。

 

『そんなぁ……。ど、どうすれば……』

 

 弱々しく漏らす大島さん。……まぁ、心情としては俺が卑怯だと言いたいが、情報戦と言ってしまえばそれまでだから強く出れんのだろう。ワカル。が、こうなってくると罪悪感が芽生えるのはこっちだ。ここは譲歩しようか……。

 

「んじゃあ、俺がパッチ触って得た情報は共有するよ。んで、コラボまで先行プレイはしないようにするってことで」

『えっ? いや悪いわよそんな……。それに、なんかハンデっぽいし』

「ずるいずるい言ってたのになんやねん? ま、その方が正々堂々のバトル感あるし、視聴者も盛り上がるでしょ」

『うー……分かった、じゃあ、それで。……ねぇ、何かお礼できることあったら言いなさいよ? こういうの、引きずりたくないのよ』

 

「好い人かよ。そうだなぁ……あっ。うちの事務所から男性Vがデビュー予定なの、知ってる?」

『ん? そうなの?』

 

「そうなの。それでさ、コラボ配信中にちょこっとそういう話振ったりするから、良さげな反応が欲しいんだよね。俺の立場的に、楽しみだねーとか。応援してるーとか、その程度で良いからさ」

『それくらい、別に言われなくてもするけど……。立場的にって、前言ってた男性がどうとかってこと?』

 

「そうそう。前のコラボもあって俺は割と受け入れてもらえて来てるからさ、後輩も無事にデビューできれば、きっといい流れになると思うんだよね、男性Vtuberって立ち位置がさ」

『ふーん……。アタシには、そういうのよく分からないけど。マネージャーも最初はアンタとのコラボは警戒してたし、そういうモンなのね……。分かった、できるだけ良い印象になるように頑張ってみる』

 

「ありがとう! 助かるよ……でも、あんま意識しなくても良いからね? その時だけ気をつけてくれれば」

『そうする。立ち絵はどうする? 前みたいにギャグっぽくするの?』

「一応、そうしてくれると有り難い」

『おっけ、マネージャーに相談しとく』

 

 ちなみに立ち絵だのギャグっぽいってのは、前のコラボでのサムネ画像、及び配信画面での俺と大島さんの絵面だ。ガチ恋勢の心情を察するに、そもそも大島さんと俺の2Dキャラが並んでるって絵面が嫌だろうからな。なもんで、以前の配信では画面左上に小さな丸枠を取り、学校の卒業写真で休んじゃった子、みたいな感じでポツンとヒビキの顔を載せてもらっていたのだ。

 

 PVP配信ということもあったが、大島さんのファンからの反応が良かったのはそういう配慮が実を結んでのことだと信じている。謙虚に行かんとね、謙虚に。

 

 っつーことで配信の段取りやらを話し合ったあと、先行パッチの体感を大島さんに共有。SNSで互いに告知してから通話を切り、念の為ボスにコラボの件をメールで報告した。

 

 そんで次にやることは一つ! もぅマジ無理……おやすみ!!

 



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【再戦!】マ〇クラG・I【スペルバトル!】①

『わかってんでしょうね?』

「ウッス! 自分心得てるんで。しっかりやらせていただきやすウッス!」

 

コメント

    :おはキリー

    :待ってた! ¥250

    :またよくわかんないこと言ってる

    :ツンツンキリちゃん助かる ¥30000

    :マグマダイブニキちっすちっすw

 

『みんなおはキリー! サクラフィ所属の大島キリですっ。あ、赤スパありがとねっ! 告知してた通り、マ〇クラG・Iコラボ第二弾ということでっ。今回もコイツ呼んだよー!』

「コイツて。雑じゃないスか?」

 

『え? なに、文句あんの? マグマダイブニキさん』

「アッ、いや無いッス。サーセンした! ってことでね、またお邪魔しますー。ヴァーチャルシップ二期生、男性Vマグマダイブニキこと暁ヒビキです!」

 

 ついに配信が始まり、コメント欄が賑わいだす。配信方法は前回とほぼ一緒で、向こうの枠に俺がゲスト参加する形だ。画面にはちょっと吊り上がり気味の大きな瞳、薄桃色のツインテール。小柄な身体に華々しい袴をしっかりと纏った2Dキャラクター、Vtuber大島キリが映し出されている。ちなみに背景は火山っぽいイラストになってて、周囲の溶岩溜まりからサムズアップした腕が突き出ているのが分かる。ハイ、僕ですね。

 

コメント

    :それでいいのかww

    :あんだけ変態プレイ魅せてオチがあれじゃしゃーなし

    :溶岩遊泳野郎はどうしたら燃やせますか?

    :追い打ちかけようとしてるリスナー居て草

    :キリちゃん辛辣ゥ

 

 毎度のごとくコメントの反応を窺うと、予想以上に好意的なチャットが多かった。よしよし、これは狙い通りと言っていいだろう。大島さんとのコラボで常に警戒すべきは向こうのガチファンな訳だが、そういう人にも受け入れてもらえるような関係性と建前。要するにブランディングを、SNSを通じて今日まで密にしてきたのだ。

 

 前回コラボや俺と大島さんのSNSを見ていた人に、たぶん俺たちは"マ〇クラG・I専用ケンカ友達"と映っているはずだ。そもそもG・IMODは、視聴者側の需要が非常に高いコンテンツである。原作が大人気だからね。しかも配信やら投稿の総数がめちゃくちゃ少ないからさらにそれを助長してる。なら何故動画が増えないのか? ムズ過ぎるからである!

 

 それでも俺と大島さんは互いにガチ勢を自称するほどやり込んでおり、配信頻度もG・Iに限れば上位に入る。Vtuberの中ではこの二人だけ、と言っても過言じゃない。

 

 つまり、ライバーとG・Iコラボしたきゃこの二人でするしかない、という大義名分が成り立つのだ。だから、大島さんのガチ恋勢も声高にコラボを批判したりしない。『暁ヒビキ以外のライバーとコラボすればいいのに』が使えないのだ。その上こっち側に大島さんと不必要に接近する意図が無いし、向こうもこちらの要望に応じてツンツンしてくれる。叩かれる要素は出来るだけ潰しているのだ。

 

 コラボ相手に尖った態度をとるってのはアイドル路線のライバーにとっちゃ諸刃の剣みたいなものなのに、大島さんは快諾してノってくれていた。ありがてぇね……ありがてぇけど迫真過ぎません? もうちょっと柔らかくていいんスよパイセン!

 

 まぁそういう入念な下準備が功を奏したってことだ。G・IMODコラボに限定すれば、今後あまり肩肘張る必要もないだろう。リスナーも忖度抜きに、きっちり決着つけるとこが見たいってコメントも多いしな。いや前回の結末を忖度だと思ってる人間は居ないだろうけど。

 

『さて! スペルバトルよスペルバトル! タイトルにもしてるんだから、ホンットに頼むわよ?』

「もちろんッス! 自分も全力で呪文合戦したいんで! 精一杯頑張るッス!!」

 

コメント

    :今回はこういうノリなの?w

    :前のショボ死引きずってるだけでしょ

    :キリちゃんの舎弟……アリですね!

    :ヒビキそこ代われ ¥2000

 

『しずくのみんなは知ってるかな? このゲーム、今朝大型アップデートしたばかりなのっ。配信を見てくれてたらMODの仕様とか分かってくると思うんだけど、結構色んなところが変わってるんだよ! だから、対戦を始める前にその辺をコイツに解説してもらうねっ』

 

コメント

    :この流れでコイツは笑うww

    :コラボ相手に顎で使われるライバーが居るらしい

    :羨ましい……

 

    :ドMニキ!?

    :可愛い声で辛口なのがなんかイイのは分かるw

    :ワイトもそう思います

 

 そういや大島さんのファンネームは"しずく"だったな。うちの"ライバー"と違って分かりやすくていいですね! 事務所のサクラフィは文字通り桜の木をモチーフにしてるらく、所属ライバーの名前も桜の種類から来てる。大島さんの場合、大島桜に朝霧桜って話だ。朝霧が立つと自然と水の雫が現れるからっつーことで、ファンネームは"しずく"だそうな。

 

 まぁそれはともかく、アプデ内容の説明だ。

 

「では不肖ながら、このヒビキめが。まずはリスポーン(蘇生)について! 死んでも最後にリスポーン地点に登録した場所から蘇生できるようになったよ! デスペナあるけどね!!」

『これでグッと楽にプレイできるわっ!』

 

コメント

    :ヒビユラ放送で言ってたね

    :これは配信とか動画投稿の敷居下がったよな

    :デスペナってなに?

 

 VS放送局って、もうファンの間では"ヒビユラ放送"なんて呼ばれてんのか……。この辺はボスの期待通りなんだろうか?

 

「言葉の意味は分かるよね? デスペナルティ、死んだときの罰則ね。まず、バニラだと持ち物全部死亡地点にばら撒くじゃん? G・IMODの場合、基本的にそれが無いっす。所持品は持ったまま蘇生できる。ただ……手持ちの呪文(スペル)カードをランダムに半分、死んだ場所に落としちゃいます」

 

『そもそもこのMOD、ドロップアイテムはしばらく経つとゲイン(アイテム化)してカード収集的な意味が無くなっちゃうから、ばら撒いた時点でほぼ終わりなのよね』

 

コメント

    :結構重いね

    :今までのハードコアに比べればまぁ

    :ゲインまでの時間がバニラでアイテム消えるまでのリミットより短いけど、ワンチャン回収は出来るかな?

 

「んで、デスペナについてはこっちが本題なんだけど……バインダー、つまりインベントリのカードがランダムで一枚破壊されます! しかも対象は確率的に指定ポケットが80%、フリーポケットが20%! 死んだら8割の確率でクリアから一歩遠のく訳ですな……」

『このペナルティを避けられないように、クリア条件のカードは入手した瞬間、自動的に指定ポケットに入るらしいのよねー。しかも取り出せない……!』

 

コメント

    :きっつw

    :良くできてるなぁ

    :どういうこと?

 

    :最初は割られるカードが無いから死んでも大丈夫。後半になってカードが充実してくほどペナが重くなる

    :ゲーム進めるにつれて命の価値が高くなってくのねw

    :それ考えると入手難度低いカードから順に取るのが安定しそうね。確かによくできとる

 

「しずくさんたちも詳しそうっすね! しかもこれ、手持ちの指定ポケットカードが死亡によって割れた場合、他のプレイヤーにアナウンス行くんですよ! さらにそのカードを手に入れた座標も公開、んでもってイベントフラグもリセット! どういうことか、分かるね……?」

 

コメント

    :イベントやり直せるってこと?

    :それもあるだろうけど、死んだら他のプレイヤーに指定ポケットカード取られる可能性があるってことでしょw

    :イベントフラグ復活は詰み防止に良いかもだけど、座標公開はヤバいな

    :死ななきゃok

    :それはそう

 

 大島さんが相槌を打ってくれたり、リスナーが反応してくれるのにリアクションを取りつつ追加要素をどんどん紹介していく。マサドラが探しやすくなったとか、指定ポケットの引き直し(マリガン)が出来るとか。

 

 さすがに全部を細々と解説してると時間ないなるので、要所だけべらべら喋りながら俺と大島さんはマ〇クラの世界へ降り立った。

 



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【再戦!】マ〇クラG・I【スペルバトル!】②

「では貴様から今回のルールを説明してもらおうか! 大島キリよ!!」

 

 二人とも無事ログインに成功すると、俺は大島さんのキャラクターに向かってブンブン腕を振った。ちなみに前回同様、配信画面はチャット欄しか見えないようにゲーム画面で隠している。

 

コメント

    :あれ、舎弟クン?

    :口の利き方に気をつけろ

    :さんをつけろよデコ助野郎!!

 

「おいおいリスナー諸君、俺が敵に対して(へりくだ)る理由があるかァ? ゲームが始まればコラボ相手以上に打破すべき好敵手よ!!」

『ふんっ、それでいいのよ! むしろさっきまでのヘコヘコした態度が気持ち悪かったくらいだしね!!』

 

コメント

    :キリちゃん割と少年漫画ノリ好きよね

    :G・Iやり込むくらいだしw

    :ヒビキくんのヒールムーブすこ ¥5000

 

「……気持ち悪くないもん……」

 

コメント

    :気持ち悪くて草

    :傷ついてんじゃんww

    :野郎のもん口調はさすがにキツイ ¥5000

    :なんでスパチャ投げたのw

 

『じゃあ今回のルールを説明するわ! 制限時間4時間! 前よりもがっつり勝負するつもりよ! 勝敗は得点制で決めるんだけど、先にクリア条件カードを5枚集めても勝ち!!』

 

「フム。得点とやらの詳細を聞こうか」

 

『250点先取したプレイヤーの勝利よ! SSが100、S・A・Bは順に30・20・10点扱い。ただ、クリア条件カードはランクに関わらず50点ね! これはSSランクであっても同じ、50とすること。 あ、一応呪文(スペル)カードも1点扱いにするから。もし時間切れになったとき、同点だとちょっと面倒だもの』

 

「なるほど! 基本的にはクリア条件カードの収集を目指すが、その過程で250点貯めても良いということか。把握したぞ! SSランクについては、むしろ指定外のほうが有用か……?」

 

『他のルールは前回と一緒よ。直接攻撃禁止! いいわねっ?』

 

コメント

    :これは楽しみ ¥3000

    :前も一時間半で3種集めてたし余裕じゃない?

    :その辺は運要素でかいからな

    :途中スペル勝負するならお互い余裕ないでしょ

 

 大島さんの説明に俺も、多分リスナーも概ねルールを把握したので、早速クリア条件の指定ポケットカード確認へ。今回から引き直せるから、フェアになるようにと互いに内容を伝え合う理由はない。それぞれがクリア条件を受け入れたら勝負開始だ……!

 

『……よし、アタシは大丈夫よ。そっちは?』

「問題ないぞ。さぁ、始めるとするか……!」

『えぇ! 正々堂々!』

 

「『勝負!!』」

 

 前回のPVPと同じく、俺と大島さんは同時に駆け出した。さぁやることは一つ! 魔法都市マサドラ探しだ!! おそらく大島さんも同じ考えだろうが、スペルによる強奪がまかり通る以上、最初に指定ポケットカードを探すのは得策じゃない。食料を確保し、道中サトウキビがあればバッサバッサ回収していく。

 

 マ○クラにおいてサトウキビの用途はいくつかあるが、俺の目的は地図を作成すること。マサドラが初期位置からマップ一枚以内に生成されると言っても、闇雲に探してたら見つからない。どころかそのマップを知らず知らず出てしまう可能性もある。何度も出入りすることを考えてもマップ作成は重要だ。サトウキビは地図の材料である紙の素材になる。

 

コメント

    :20分経つけどキリちゃん大丈夫?

    :前回はすぐ指定探してたから不安になるよねw

    :見つけたら煽ってくるだろうからヒビキも見つけてないだろうし問題ないっしょ

 

 第一回と違って入念に準備する俺と大島さんに、コメント欄の反応は千差万別だ。大島さんがカード獲得に動かないことを不安がるしずくさん達、普段の俺の言動からムーブを看破してくるライバー、単純にRTA配信感覚で無駄のない動きを楽しんでるマ○クラ勢。

 

 しかし派手な動きがないことを退屈がるチャットは見当たらなかったので、安心して準備を進められた。今のとこ、俺と大島さんの間で会話は少ない。ほとんど独り言のドッジボールである。

 

 だが配信そっちのけで作業した甲斐はあり、マサドラ探しの目処は立った。サトウキビは割とレアな植物なんだが最大拡張マップ一枚分を運良く確保でき、地下に潜って鉱石を採掘。マップ作るのって結構大変なのよね……鉄、赤石(レッドストーン)でコンパスをクラフトし、それを紙で囲って地図。それをさらに紙で囲えば一番大きな地図になった。

 

「フーム……なるほど」

『っ、まさかもうマサドラに……!?』

「いや、残念ながらまだだな。しかし、そう遠くないうちに見つけるだろうなぁ。焦ることだぞ? 大島キリよ……!」

『ぐぬぬ……』

 

コメント

    :そろそろ動くか?

    :マサドラついてからが本番だから

    :二人共指定持ってないだろうし、マサドラ行ってようやくカード収集か

 

    :スペル合戦はまだまだ先っぽい

    :キリちゃんも無駄な動きないはずなのにな

    :ヒビキのアーカイブちょっと楽しみよねw

 

 こちらの視点も楽しみだというコメントにほっこりしつつ、俺は……。

 

「それでは一旦おさらばだ!」

 

 薄暗がりの中、シュー……という音から逃げはせずに言った。そして……ドカン!! わざとだとしてもちょっと身構える音である。

 

 "vshibiki は クリーパー に吹き飛ばされた"

 

『は?』

 

コメント

    :えっ?

    :何しとんw

    :吹き飛ばされて草

    :あーなるほど?

 

「さーて、リスタートと行こう。おや、どうした間抜けな声を出して。こちらの意図が分からんのかな? くっくっく……!」

『くっ、覚えてなさいよ』

 

 まぁ単純な話だ。初期位置に帰るのが面倒だから自殺しただけである。クリーパーとは"匠"の愛称で知られる敵MOB(モンスター)で、プレイヤーに近づいて爆発する。装備なしだとほぼ一発で殺しに来る凶悪な緑の化け物だ。

 

 サトウキビを手にして地下採掘、地図を作って現在地を確認した俺は、マサドラの位置がどの辺りなのか予想した。初期値はマップ中心。俺は地図の北北西辺りにいて、そこに至るまでに真西を経由してる。一方、地図では確認できないが大島さんは真逆の東へ向かっていた。マサドラは大きな街、かつ高い外壁もあるので、少し近づけばすぐわかる。なのに俺は見つけられず、大島さんにもその様子はない。つまり……マサドラはマップの真南か、南南西、南南東のどちらかなんじゃないか、と考えたのだ。

 

 北北西から真南へ徒歩はキツイんで、お手軽リスポーンしたということである。手持ちアイテムはすべてカードからゲイン(アイテム化)済みなんで割られる心配もなし! ……一応、他にもデスペナはあるんだが。

 

「さーて、ゆっくり探しますか」

 

 ところで、このゲームにはSSランク指定ポケットカードに"大天使の息吹"というものがある。アプデ前は、マルチにおける唯一の蘇生手段でもあったカード。ではアプデ後にどういう扱いになったのか? それは即時体力回復、状態異常回復、というものだ。え、一回死ねばいいじゃん。とは真っ先に考えるが、そうは問屋(MOD作者)(ゆる)さない。

 

 アプデ後、プレイヤーはリスポーンが可能な代わりにいくつかのデメリットも追加されたのだ。飯は一度食ったらしばらく食えないし、減った体力もすぐに回復したりしない。空腹だと走れないどころか歩く速度すら徐々に落ち、毒やら弱体化は治療しない限り永続的に効果を発揮する。溺れ死ぬ速度もめちゃくちゃ上がったしな!

 

 そしてリスポーンすると、空腹状態かつ体力が半分ほどに。んで蘇生酔いとしてしばらく視界が歪むおまけ付きである。大天使の息吹は、こういうプレイヤーの危機的状況を町の外で唯一回復してくれる万能薬(エリクサー)的な治療手段なのだ。

 

 とはいえ、ハードコアと違ってそこまで死を恐れることもないからな。ゆっくりと回復してく体力ゲージを待たず、ムシャムシャ焼豚を食いながらマップを南下していく。……やっぱデカイなぁ。こんなに近かったなら、俺と大島さんがキレイに南をさけたのは結構運悪しだぞ。ちょっと歩いたら多少距離はあれど、すぐに街を囲んでいるだろう塀が見えてきた。

 

「フッ……一応教えておいてやるか。大島キリよ、魔法都市へは先に行かせてもらうぞ!」

 

コメント

    :マジか

    :だから一旦死んだのか?

    :死んだからマサドラ見つかるが繋がらんわww

    :自殺っぽかったしそういう意図があったのは間違いない

    :キリちゃんナイス!

 

 俺の発言にコメントは盛り上がりを見せてきた。うんうん、こっから熱いバトルが始まるだろうからな! いわばここまでは前哨戦よ……うん? 大島さんを褒めるコメントがチラホラあるな。どういうこっちゃ?

 

『……ふ。ふふふ……意趣返しにはちょうど良さそうね……!』

「何っ!? どういうことだ!!」

 

 不穏な気配を漂わせる大島さんにワクワクしつつ問いかけると、すぐに答えは返ってきた。

 

『こういうことよっ! 磁力(マグネティックフォース)オン! ヒビキへ!!』

 




以下ヒビキの指定カード

91(A):プラキング
87(S):信念の楯
58(A):レンタル秘密ビデオ店
49(B):手乗り人魚
24(A):もしもテレビ
23(B):アドリブブック
12(S):黄金辞典
11(B):黄金天秤
5(S):神隠しの洞


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【再戦!】マ〇クラG・I【スペルバトル!】③

 

『こういうことよっ! 磁力(マグネティックフォース)オン! ヒビキへ!!』

「なっ! なんだとォーーーーッ!?」

 

 呪文(スペル)カード"磁力(マグネティックフォース)"。ゲーム内で出会ったことのあるプレイヤーの場所へ飛べるカードだ。もちろん初期地点で接触済み(判定は20マス以内)なので使えば俺の元へひとっ飛びだろうが、問題はなぜすでにそれを入手しているのかだ。呪文カードはマサドラでしか入手できないハズ……!

 

 俺が困惑している間にもスペルは効果を発揮し、遠い空の彼方から飛来する光が見えてきた。考えるまでもなく大島さん……! バシュゥっと独特の着地音を鳴らし、俺の目の前に降り立つ。そして。

 

『さっきぶりね! ついでに……追跡(トレース)オン! ヒビキを攻撃!!』

「っ!? ちっ、なんの!」

 

 間髪入れずにスペル攻撃かましてきた大島さんに対し、俺は石剣を振ってその効果を打ち消した。

 

『読めてるわ! さらに追跡(トレース)オン! ヒビキを攻撃!!』

「何枚持ってんだ!?」

 

 だが俺の行動を予想していたかのように、初撃から少しズラす形で二発目の追跡(トレース)。剣を振り切った瞬間をピタリと当てられ、俺はその攻撃を受け入れてしまった。これで"追跡(トレース)"の効果によって、大島さんは常に俺の現在位置を知ることが出来るようになったってことだ。

 

「やってくれたな……どこから調達した?」

『ほっほっほ♪ アップデートの全貌はお互いに知らないってことよ。アタシも驚いたわ、まさか行商人が呪文(スペル)カードも取り扱ってるなんてねっ!』

 

「なっ、そんな追加要素が!?」

『すっごく高い買い物だったけどね……見つけた瞬間画面にテキスト出して、みんなにコメントしないようお願いしたのよ!』

 

 なるほど、チャットで大島さんにナイスっつってたのはそういうことか。俺が先にマサドラを発見した時、出遅れないように隠し持っていたんだろう。もし大島さんが移動系スペルを入手したと知ってたら、マサドラ見つけたって嘘ついて無駄撃ちさせてたろうし。確かにナイス判断と言える。

 

『トラエモンの時にしてやられた借りは返したわ! ここからが本当の勝負よ!!』

「ふっ、望むところだ。次はこちらもスペルで応じさせてもらうとしよう!!」

 

 まずは俺がしてやられた形になったが、PVP企画的にはやっとスタートだ。次に呪文を使うときは互いに指定ポケットカードを持っていて、その奪い合いになると考えていい。滾るぜ……!

 

 突き合わせたマ〇クラのスキン、キャラクターの顔に互いのニヤリとした笑みを幻視して、俺と大島さんはマサドラの入り口で別れた。クリア条件でそれぞれの動きは変わるから、こっちも向こうも立ち回りは予想できない。

 

 俺の場合はまず手持ちアイテムを換金して、No23、ランクB指定ポケットカードの"アドリブブック"を探す。こいつは村や町に生成される建物、その内部の本棚にランダムで紛れ込むはずだ。それら一つ一つに話しかけて(右クリックし)、ビンゴなら専用メッセージが出る。そこの家主に交渉して買い取るのが一連のイベント。金額は紛れ込んだ建物の持ち主によって変わってくるのが難点だ。

 

 ま、手持ちのアイテムって全部カードからゲインしたものだから、換金レートがかなり落ちるんだけど。レアアイテムがある訳でもなし、リスポーンのために全部アイテム化することもなかったか……と思っちゃうがそこは割り切ります。俺もアプデされたばかりの仕様には不慣れなのだ。しゃーなしだな!

 

 そして、それから三時間ほどは前回と同じような様相だったので割愛。お互いの反応に一喜一憂しつつのカード収集。しかし手に入れたカードは絶対にばれないよう立ち回る。指定被ってたらマジでやばいですね☆ 最終的に奪ったもん勝ちになっちゃうからね!

 

 どんどん時間が過ぎていき、それぞれのインベントリ(バインダ―)が埋まっていくにつれ緊張感が増していった。コメント欄で見えるリスナーのテンションも比例するように上昇していく。みんなが戦いの終わり、すなわちスペルバトルの気配を感じ取っているのだ。

 

「ふむ、ふむ、ふむ……」

 

 呟きつつ自らの点数を計算する。残念なことに、俺が入手できたクリア条件の指定ポケットカードは"アドリブブック"に加えて、No49、ランクB指定ポケットカードの"手乗り人魚"の二種類のみ。こいつは水辺の土地で専用MOBをガラス瓶に汲めば入手できる比較的難度の低いカードなんだが、いかんせん他の指定カードがよろしくない。どれも特定の街や土地で発生するイベントをこなさないと手に入らない類のものだ。

 

 なもんで、前回は大島さんの指定にいくつか含まれていた宝石系のカード取得に集中。副産物で手に入るバニラの宝石も売れば呪文(スペル)カードに出来るからね、悪くない手のハズだ。

 

入手できた"レインボーダイヤ"や"孤独なサファイヤ"もろもろ合わせて210点。ここに呪文カード分が加わるが、これは換算に入れなくていいだろう。250点に届かなかったのはちょいと無念だが、そこは重視してないので問題ない。みんなスペル合戦見たいだろうしね!

 

 ちなみに"念視(サイトビジョン)"という相手のカードデータを見ることが出来るスペルにより、大島さんが俺から指定ポケットカードを奪うか破壊しないと勝ち目が無いことが既に分かっている。スペルバトルはもう始まっているのだ……!

 

 と言うわけで俺の戦法は勝ち逃げ。時間制限まで自分の手持ちカードを守り抜ければ勝利である! アイテムスロットをすべて呪文(スペル)カードで埋め尽くし、臨機応変に応戦できるよう備える。以前は手持ちにスペルを入れておくと、一定時間使わない場合消滅してしまったが。アプデ後は他インベントリと同じ扱いになり消滅はせず、よりPVPが楽しみやすくなっている。MOD作者さんの努力が窺えるねぇ……。

 

『……頃合いかしらね。どう? 調子は』

 

 残り時間ももうわずかになり、とうとう大島さんが切り出してきた。せやろな、こっちが向こうのカードを把握してるのと同様に、大島さんも俺が優位なことは承知の上。だから俺はこう返すのだ。

 

「もちろん上々だ……そちらは奮わない様子ではないか? 悠長におしゃべりしていて良いのかね? うん?」

 

コメント

    :煽りよるわ

    :ねぇどんな気持ち? ねぇどんな気持ち?

    :殴りたい、この男w

 

『ふん、どうやら手加減は必要なさそうね! いいわ、こっちから会いに行ってあげる! 同行(アカンパニー)オン! ヒビキへ!』

 

 "同行(アカンパニー)"、移動系スペルの代名詞みたいなカードだ。ソロじゃ街へ移動するだけの効果だが、マルチならこうして他プレイヤーの元へ飛ぶことも出来る。しかも複数人まとめて移動できる優れものだ。しかし、敵対プレイヤーの近くで使用するとソイツも連れてっちゃう扱いづらい部分もある。"同行"から使ってきたところを見るに、大島さんも既存要素はしっかり練習しているようだ。

 

「フッ。デートの誘いとは心弾むが、燃えるのが怖いので遠慮させてもらおうか! 漂流(ドリフト)オン!」

 

コメント

    :燃えるのが怖いは草

    :残当

    :スペル合戦キターー!!

 

    :キリちゃんのお誘い断るとか正気かテメー

    :こっからが熱い

    :三時間待った甲斐があったw

 

『っ、さすがやるわね! あとデートなんかじゃないんだからっ! 同行(アカンパニー)オン! ヒビキへ!』

 

 大島さんの着地が完了する寸前にスペルを発動し、俺と大島さんの鬼ごっこが始まった。漂流(ドリフト)は行ったことのない街へランダムに移動する呪文(スペル)カード。新しい指定ポケットカードを入手するために使っても良かったが、確実性が無いうえにマサドラが存在するマップから遠い土地に飛ばされると面倒なので、ただの逃走手段に使わせてもらった。

 

 大島さんがさすが、と言ってくれたが。これは俺が使って向こうが追うほど彼女の所持する漂流(ドリフト)の価値を下げるからだ。全ての街を巡ってしまえば、このスペルはただの紙くずと化す。まぁそんなに枚数無いけどね! 大島さんがどれだけ街を見つけたかによる。

 

 そんなこんな漂流(ドリフト)を使い終えれば、次の移動系スペルへと移行し、それを大島さんが追い続ける展開が続く。

 

 再来(リターン)でマサドラに戻ったり、左遷(レルゲイト)でランダムな土地へ転がり込んだり、初心(デパーチャー)で初期地点に飛んだり。あらゆる移動系スペルで大島さんを撒こうとするが、向こうも負けじと追いすがる。

 

 空を移動中にも俺はアイテムスロットのスペルを手早く補充してるし、それは大島さんも同じはずだ。コメント欄を確認する余裕はあまりないけど、流れが速いので盛り上がってるのは間違いない。

 

 そして、先に移動手段がなくなったのは俺だった。早い段階で"念視(サイトビジョン)"を使用し、方針を固めたつもりだったが。ここまで追跡手段を充実させているとは驚いたな、もっと終盤に使うべきだったぜ……!

 

『あら、鬼ごっこは終わりかしら? ならカードを渡してもらうわよ……! 投石(ストーンスロー)オン! ヒビキを攻撃!」

 



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【再戦!】マ〇クラG・I【スペルバトル!】④

 

『あら、鬼ごっこは終わりかしら? ならカードを渡してもらうわよ……! 投石(ストーンスロー)オン! ヒビキを攻撃! さらに投石(ストーンスロー)オン! ヒビキを攻撃!』

 

「なんの! 掏摸(ピックポケット)オン! 大島を攻撃!!」

 

 こっちのスペル斬りを読んでの連続投石(ストーンスロー)だろうが、無視するわけにもいかないので一発は剣で弾きつつ、俺もスペル攻撃を仕掛ける。掏摸(ピックポケット)は相手のフリーポケットからランダムにカードを奪う呪文だ。こっちは別にこれ以上カードは要らんのだが、向こうはフリーポケットの指定カードを奪われたらたまったもんじゃない。防がざるを得ないだろうな!

 

『くっ……お願い!』

「なっ、なにぃ!?」

 

 俺からスペル攻撃の追尾(ホーミング)エフェクトが襲い掛かると、大島さんは……剣で無効化した!? 俺は慣れてる方だが、これはエフェクトの中心をクリティカル攻撃しないと実現できない難易度高めのテクニックだぞ!

 

「まさかそう来るとはな……!」

『アンタに出来てアタシに出来ない道理はないわ! ……まだ練習中だけど』

 

コメント

    :キリちゃんかっこいー! ¥10000

    :スペル斬りなんてここ二人以外見たことないんだけどw

    :変態のせいでキリちゃんも変態に……

    :とりあえずヒビキは燃やそう(名案)

 

「楽しくなってきたじゃあないかッ! ここからが本番だ! 掏摸(ピックポケット)オン! さらに凶弾(ショット)オン! 大島を攻撃!」

凶弾(ショット)!? くっ、城門(キャッスルゲート)オン……!』

 

 掏摸(ピックポケット)に続いて、指定ポケットのカードをランダムに破壊する凶弾(ショット)を使用して大島さんを攻撃する! 苦しそうな声で向こうが使ったのは攻撃呪文に対する防御呪文だ。しかし忙しい操作にスペル斬りは失敗し、掏摸が直撃。凶弾は城壁によって防がれる。当たるなら凶弾の方が良かったなー。

 

『随分躊躇なく割りに来るじゃない……!』

「別にこちらはカードに困っていないのだ、そちらの指定カードが割れようが構わんよ」

 

 カードを奪うことで逆転を狙う大島さんは、俺のカードを破壊するより奪う方が賢明だ。破壊するだけじゃ俺の点数が減るだけで向こうが増える訳じゃないからね。逆に俺は奪うよりも破壊したい。指定ポケットカードを互いのバインダーで行き来させるより、総数を減らして守り続けたほうが仕事が早いと思われる。PVPってのは一度作った有利を維持し続けるのが肝要だ。

 

『時間もないし、一気に行くわよ! 投石(ストーンスロー)オン! さらに掏摸(ピックポケット)オン! ヒビキを攻撃!』

「望むところだ! 来い!! 防壁(ディフェンシブウォール)オン! さらに凶弾(ショット)オン! 大島を攻撃!!」

 

 ところでスペルカードにはランクやカード化限度枚数、それに応じた入手難度が設定されているわけだが、攻撃呪文は防御呪文に比べるとレアである。なもんで、攻撃系より防御系が手持ちに多くなりがち。だからスペル斬りと数の多い防御系で身を固められる俺が一見有利だ。しかし、大島さんの所持していた移動系呪文の枚数は俺のそれを遥かに上回る。マサドラで購入したパックに偏りがあったのでなければ同等に攻撃呪文も手に入れているだろうし、勝負は拮抗していると言えるだろう。

 

 大島さんが俺の指定ポケットカードを狙い撃つのが先か、攻撃呪文の枚数が尽きるのが先か。あるいは俺がスペル攻撃を受けてカードを奪取されるか、はたまた時間切れか。勝負はいずれかによって決着する……!

 

コメント

    :画面のスペルエフェクト凄いww

    :どっちも立ち回りヤベーな

    :なんか走り回ってるけど意味あるの?

 

    :もちろんある

    :ヒビキは簡単にスペル斬ってるように見えるけど、マ〇クラの剣振るタイミングがズレないようにポジション調整してるし

    :はえー

 

    :キリちゃんもヒビキが攻撃範囲外に行かないように追いながらスペル当てる隙探ってるっぽい

    :近距離攻撃の範囲って20マスだったなそういや

 

 剣でスペルを弾き、本命を当てられまいとこちらも攻撃呪文で牽制する。指定ポケットに干渉してくるスペルは防御呪文を使って確実に守り、あわよくば空撃ちさせようと範囲ギリギリを走り回る。

 

 対して大島さんもスペル斬り対策のフリーポケット攻撃呪文を織り交ぜつつ、レアリティの高い窃盗(シーフ)を始めとした呪文で逆転を狙ってきた。一発くらいならまだ敗北には至らないが、クリア条件カードをぶん()れる窃盗が直撃するとマズイ。

 

 20マスという距離を維持しつつバンバン呪文を飛ばしまくる俺と大島さんに、リスナーの盛り上がりもピークを見せていた。大島さんを応援するチャット、動画投稿サイト全体でもほぼ見ない高度なスペルバトルの内容を寸評する原作ファン、難しいインベントリ操作に興奮するマ〇クラ勢。

 

 アイテムスロット9枠はキーボードの数字キー1~9にそれぞれ対応しており、例えば8を押せば即座にスロット右から二番目が選択される。俺も大島さんもそれを利用してスペルカードを使いまくってるので、そりゃあ見応えがあるだろう。枠の呪文使い切ったら隙を見計らって補充もせにゃならんしな!

 

凶弾(ショット)! 投石(ストーンスロー)! っ、ここ! 強奪(ロブ)オン!! "アドリブブック"を貰うわ!!』

(ディフェンシブ)……っ! 強奪(ロブ)だと!?」

 

 度重なる呪文の応酬、こちらはスペル斬りもありと忙しい戦況の中、呪文カードの中では比較的レアリティの高い強奪(ロブ)を大島さんが使ってきた! こいつはなんと、指定した相手から欲しいカードをデメリット無しで奪えるというトンデモ呪文。遊〇王よりタチ悪くない?

 

 思わず動揺してしまい、追撃に対する防御が間に合わず俺はその攻撃を受け入れた。戦闘中ゆえにインベントリをちゃんと確認はしてないが、俺の指定ポケットから"アドリブブック"が大島さんのフリーポケットに渡ったはずだ。まずいな……。

 

 まずいんだが……ちらりとPC画面右下の時計に目を向ければ、数字はそろそろ規定時間の四時間に差し掛かる。この一枚が渡っただけなら多分まだ俺が点数で勝ってるので、むしろ油断せず大島さんに視線を向ける。追い付いてない、なんてのは向こうが一番分かってるはずだ。何かしてくるに決まってる。

 

「やってくれるなァ……! だがまだだッ! そうだろ……? 見せてみろ大島キリ! お前の本気を!!」

 

『ふふ、ここで挑発するのがアンタよね……。残り時間はあとほんの少し、ちょっとは油断してくれてもいいんじゃない?』

 

「前回はそれで痛い目を見たからなァ……燃えたし」

 

コメント

    :ボソッと情けないこと言うなし

    :確かにマ〇クラのアバターは燃えたな

    :まだなんかしてくれるのか

    :操作早すぎてキリちゃんの手持ちスペルすら分かんない問題

    :分からん方がおもろいやろw

 

『いいわ、見せてあげるッ! これがアタシの切り札よ!』

 

 高らかに言って大島さんは、何らかのアイテムを俺の方向に放り投げた。放物線を描いて地面に落ちたそれは、俺の足元へコロコロ転がって目を変え続ける。

 

 そう――目だ。それには、いくつかの目があった。

 

「リスキーダイス……!」

『そして出目は当然大吉よ!』

 

「チッ、防壁(ディフェンシブウォール)オン! さらに城門(キャッスルゲート)オン!」

 

 不穏な気配を感じた俺は、二種類の防御呪文で身を守る。同種のスペルは効果が重複しないので同じ防御呪文を同時に二回使うのは無意味だが、この二つは重ね掛け出来るので二発は耐える。スペル斬り含め三回だ、さぁ来い……!

 

『さぁ喰らいなさい! 徴収(レヴィ)オン! さらに! 同行(アカンパニー)オン! マサドラへ!!』

「んな! そんなバカなッ!?」

 

 大島さんが呪文を発動すると、彼女からスペルエフェクトは飛んでこず。逆に俺の身体からエフェクトが彼女に向かっていった。そして、大島さんが次いで使った同行(アカンパニー)により、強制的に空に連れていかれる。この間は互いに干渉できないので、マサドラに着地するまではインベントリの整理くらいしかやることが無い。

 

「まさかここでリスキーダイスからの徴収(レヴィ)とはな……!」

『ふふん♪ アツいでしょっ?』

 

コメント

    :原作再現キターーーー!!

    :あれ、防御は?

    :レヴィは攻撃スペルじゃないから防御スペルじゃ防げない

 

 コメントでも解説してくれてるリスナーがいるが、その通り。徴収(レヴィ)は使用したプレイヤーから半径20メートル内の他プレイヤー全員から、ランダムにカードを一枚奪う呪文だ。その対象範囲の異質さゆえに攻撃扱いにはならず、特殊呪文という扱いになっている。つまり、俺が使った防壁(ディフェンシブウォール)城門(キャッスルゲート)では防げないのだ。

 

 さらに直前のリスキーダイス併用により、その効果が適用されていればほぼ間違いなく指定ポケットカードが奪われただろう。"手乗り人魚"が向こうに渡っていればゲームセットだ。

 

「ランクBのスペルを二種類も持っているとはさすがに思わなかったな……フッ。やるじゃないか……」

『アンタも予想以上に手強かったわ! でもま、今回はアタシが一歩先を行ったわねっ』

 

 互いの健闘を称えながらも眼下にマサドラが見えると、俺は身体の緊張を解いた。うん、大島さんが同行(アカンパニー)を使った理由がこれだ。時間切れ(・・・・)である。彼女の点数が俺の点数を上回った瞬間に発動し、こちらを巻き込むことで動きを止め、反撃の目を潰そうという魂胆だ。してやられたなぁ……。

 

 バシュゥっとマサドラの入り口に降り立ち、示し合わせたように街の入り口をくぐった。外でリザルト確認してるとどこから投石されるか分からんからね。

 

『さぁ! 結果は決まってるけど点数の確認よ!! ここで持ち点の多い方が文句なしの勝者!! いいわねっ!!』

「心得ているとも! ではしばしお待ちいただこう」

 

コメント

    :キリちゃんおめー! ¥2000

    :おめ! ¥250

    :めっちゃ盛り上がったなぁ

 

    :G・I動画増えるといいね

    :この配信アーカイブ布教すんだよ!

    :まさかヒビキに勝つとは ¥10000

 

 悔しさを感じつつも原作再現で逆転さ(まくら)れたことに、そしてコメント欄で楽しさを共有してくれている視聴者に頬を緩めつつ、俺は持ち点を数えた。

 

 ……うん? あれ、"手乗り人魚"あるな……。宝石系もちょっとだけ残ってるし……。呪文の端数含めて88点だ。大幅に減ってるように見えるが、ちまちま当てられた投石(ストーンスロー)の総数を考えれば当然っちゃ当然。呪文を使えばその分フリーポケットの空欄が出来てくし、そうなればフリーのレアカードが割られるのも道理だ。向こうも多分同じはず。

 

「俺様は88だったぞ。貴様はどうだ? 大島キリよ」

『…………ょ』

 

「……? なに? おい、よく聞こえない! 繰り返せ! ……くそっ! 通信妨害か……!」

 

コメント

    :本部の罠やめろww

    :唐突な防〇軍で草

    :キリちゃんどしたの?

 

『なんでよーーーーっ!?』

「うっっっっっさ!!」

 

コメント

    :鼓膜ないなった

    :あれ、音消えた?

    :だから替えを用意しろとあれほど

    :ヒビキはおまいう案件なんだがw

 

『奪ったカードが"アドリブブック"と"レインボーダイヤ"しかない! えっ? 合計……84点!? アタシの負け!?』

「……あー、うん? あぁ、なるほど。そういうことかぁ」

 

 大島さんの手持ちカードと点数を聞いて、俺は納得してしまった。俺も彼女も、リスキーダイスと徴収のコンボがどういう結果になるか間違った予想をしていたのだ。

 

『なによなるほどって! どういうこと!?』

「まぁ、順に説明しよう。まずお互いの手持ちの少なさ。これはしかたないな、あれだけ攻撃呪文撃ちまくってれば、防御しようがスペル斬りしようが指定ポケットカードは割れてく」

 

『それは良いのよ! なんでそっちのクリア条件の"手乗り人魚"じゃなくて、フリーに入ってた"レインボーダイヤ"がこっち来てんの!?』

「その二種類のカード、それぞれランク言ってみ?」

 

『へっ!? ………………ぁ』

 

コメント

    :どういうことだってばよ

    :なるほどね、リスキーダイスはちゃんと仕事してんのね

    :分かりやすく説明してw

 

「このMODのゴールって指定ポケット9種の収集だからさ、そこに関係しないカードは極論必要ないんだよ。だから、リスキーダイスからの徴収コンボで獲得できるカードの中にクリア条件カードが無い場合、相手のクリア条件かとかを無視して、とりあえずランクの高いカードを奪う判定になるんだ。多分だけど」

 

『……そもそも、ランクとかクリア条件のカードごとの点数ってアタシが決めたルールだし……。換金なんかを考えても、相手の指定ポケットから入手しやすい低ランクカード奪うより、高ランクカード奪ったほうが幸運(・・)よね、普通は……』

 

コメント

    :ダイスの幸不幸はMOD側が判断するって話かw

    :人魚はBでダイヤがAだから高い方取ったのね

    :キリちゃん;;

 

「まぁそういうことなんで……俺のッ! 勝ちだぁああああ!!」

『きぃーーーーーーーーっ!!』

 

コメント

    :鼓膜破壊再来

    :うっさいw

    :ダイヤじゃなくて人魚だったらギリ勝ってたね

    :キリちゃん負けちゃったかー……

 

 ということで、ラッキーなことに俺の勝利! その後は発狂する大島さんを宥めつつ、コメントの反応を見ながら例によってロールプレイ。前回同様に大島さんを煽りながらも次回配信を匂わせておくと、それなりに好感触のチャットが流れた。

 

 SNSの反応次第ではコラボしない可能性もあるので明言は避けたが、大島さんのテンション的には再戦不可避である。問題ありそうなら都度打ち合わせやな……。

 

「おっと……」

 

 配信を終え、通話ソフトを切り。PCの前を離れた俺は少しふらついてしまった。イカンな、コラボで四時間なんて初めてだったもんだから、思ったよりも疲れてしまったようだ。

 

「ちょっと横になるか……」

 

 飯もこれからなんだが気怠さに抗えず、スマホ片手にベッドに横になる。リスナーの反応をSNSで確認しないと……。と考えながら枕に頭を乗せ。

 

 気が付けば……いや、どちらかと言えば気が付くことが出来ずに。俺はSNSアプリを開くことすら叶わず、そのまま夢の世界へ旅立った。

 



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Vの裏で:続けていいんでせうか?

『うつ病、ですか……』

「はい。すみません……」

 

 本格的にヴァーチャルシップの社員となってしばらく、俺は些細ではあるがいくつか体調不良の自覚症状があった。社員といってもVtuberとしての活動に専念するようになったくらいで、むしろ以前のバイト掛け持ち状態に比べれば時間に余裕が出来ていたほどだ。忙しさが理由ではない。

 

 だったら生活リズムのズレからくるもんかとも思って食生活ともに改善を試みたが、食欲不振に睡眠不足、軽い頭痛……突然腹痛に悩まされることも増えていった。どれも軽度のモノだったが流石におかしいと思って内科を受診。すると身体異常は見られんとのことで、担当してくれた人が精神科を紹介してくれたのだ。

 

 んでそこで、うつ病です、と端的に診断されたのである。

 

『謝るのはこちらの方です。申し訳ありません、そこまで負担をかけてしまっていたとは……』

「いやとんでもないです! ……自分も意外でしたし、そもそも予想のつくもんでもないですし……」

 

 こういう個々人の心の持ちようでしかなるならんが分かれる病状を予防しようってのが無理な話だ。だからそうなってしまったこちらに非があると思うんだが、ボスも責任を感じてしまったようでしばらく互いに謝り続けた。

 

「一応お薬いただいたのでしばらく服用するのと、定期的に精神科は受診するつもりです。……けど、その……このままお仕事続けて良いものかなと」

『もちろんです! ヒビキくんが続けたいと思ってくれているのであれば、ではありますが……』

 

「そ、それこそもちろんですよ! 動画投稿や配信活動はとっても楽しくさせてもらってます! ……ただ、問診では周りの意見を窺いすぎじゃないか、と言われてしまって。あっ、Vtuberのことはもちろん濁したんですけどっ。……この界隈のファンの発言を無視するわけにもいかないですし、どうすれば良いのか分からなくなってしまって」

 

 真面目な人や責任感の強い人がなりやすいんです、なんて病院の先生には言われたが、そうあるように意識したからこそここまでやってこれたんだ。やり方を変えて良いものなのか、俺には判断がつかない。そんなことを相談すると、ボスは柔らかい口調で言ってくれる。

 

『そうですね……ファンの意見を取り入れる、参考にするというのは大切なことです。……ただ、あまり言いたくはありませんが、本当にヒビキくんの配信を楽しみにしている、応援しているファンは、わざわざ不満をコメントしたりしないものですよ。"自分の思い通りにならないと気がすまない人間"が、声高にSNSなどで発信することで炎上といった騒動に繋がるのです』

 

 つまりですね、と少し区切って。ボスは俺に言い聞かせるように続けた。

 

『あなたの場合、"炎上を起こしても問題がない"Vtuberなのです。暁ヒビキが炎上騒ぎになったとき、その非は絶対にあなたには無いと自信を持って言えます。そのように事務所としても対応を行います。……ヒビキくん、楽しいと言ってくれるファンの声に耳を傾けてください。そして、あなたを否定する声は無視しても構わないのです。それだけの実績が、信頼があなたにはあるんですよ』

 

 ……ボス、僕うつ病だって言ったじゃないッスか。

 

「……っ。ずみません……ありがとう、ございます……!」

 

 泣いちゃうよこんなの。今ハートが弱くなってるんですよ、そんな優しい言葉かけられたらどうしようもないよ……。

 

 野郎が鼻をすする汚い音も黙って受け入れてくれ、やっとこ落ち着いてからボスは再び口を開いた。

 

『とりあえず、一週間ほどは療養に当ててください。お薬との付き合い方もあるでしょうし。来週、ちょうど新人との打ち合わせがあるので、追って連絡させてもらいます。すみませんが、配信活動をお休みする旨はSNSで告知をお願いします。ただ、SNSでファンと触れ合うのは構わないので。ファンアートを巡ったり、応援コメントに返信するのも良いかと思いますよ。ただ、くれぐれも悪評についての反省や改善を試みようとは考えないでくださいね』

 

「わかりました……。その、本当に面倒かけますが、これからもよろしくお願いします」

 

 スマホ片手に頭を下げると、"しかたないやつだ"と言わんばかりにため息をつく音が聞こえた。うぅ、すんません……。多分、謝らなくて良い、面倒かけるのは事務所(こちら)も同じって何度も言ってるのになぁ、みたいな意味を含んでいる。前も似たようなやり取りしてるしな!

 

 しかし、やっぱりこっちが面倒かけてるとしか思えんのです。こういう考えが悪いんだろうけどね、直そうと思って直せたら苦労しない。それを分かった上での、ボスのため息でもあるだろう。これ以上言うのは無粋だな、的なね!

 

『はい、こちらこそよろしくお願いします。しっかり体調を整えて、また楽しい配信を"ライバー"に届けてあげてください。それでは、失礼します』

「はっ、ハイ! ありがとうございましたっ!!」

 

 やっぱこの人に一生ついてこう、って何度目か分かんないけど改めて思いました。

 



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【Vtuber】企業男性Vを語るスレ【というか暁ヒビキ】②

630:名無しのコラボ相手

マジかよ今日俺は誰を罵倒しながら飯を食えばいいんだ

 

631:名無しのコラボ相手

ほんそれ

 

632:名無しのコラボ相手

ヒビキに暴言吐きながら食う晩飯は最高だからな……

 

633:名無しのコラボ相手

ロクなファンいなくて草

 

634:名無しのコラボ相手

でも体調不良ってどうなんだろうな。一週間程度って告知だったし、そこまで重くないとは思いたいけど

 

635:名無しのコラボ相手

この頃配信頻度増えてたし、実生活に無理でも出たんかね

 

636:名無しのコラボ相手

Vtuberに実生活などない。いいね?

 

637:名無しのコラボ相手

アッ、ハイ

 

638:名無しのコラボ相手

いやまぁ、普通に心配なんだが。今までこんなこと無かったし

 

639:名無しのコラボ相手

言うて活動期間はそんな長くないぞ。一年くらいか?

 

640:名無しのコラボ相手

もうそろ一年やな

 

641:名無しのコラボ相手

他のライバーは普通に「今日は配信ありません!」とか言って気軽に休むけどな。ヒビキは決まった時間に毎日やってたし、ちょっとでも休む可能性あったら前日には告知してたし。もちろん出来そうなら再告知もしてた。そんな奴が一週間休むとか言い出したらそら心配よ

 

642:名無しのコラボ相手

体調管理とかしっかりしてそうだけどなぁ。ヒビキも人の子だったってことか

 

643:名無しのコラボ相手

G・Iコラボのヒビキ視点でも見ながら飯食うか……

 

644:名無しのコラボ相手

序盤に指定カード取ったら地下で採掘してるだけじゃなかったか? あの動画

 

645:名無しのコラボ相手

一応最低限コラボ配信になるような掛け合いはしてるからw あと個人的にポコポコ丸石掘ってる音は嫌いじゃないw

 

646:名無しのコラボ相手

わかるマン

 

647:名無しのコラボ相手

コラボと言えば、大島キリのヒビキくんに対する物言いムカつかない? めっちゃ気遣ってるのにそんなん関係ないみたいな

 

648:名無しのコラボ相手

スレチだぞ。このスレで切り刻んだり叩いていいのはヒビキだけだぞ。まずはミンチにするじゃろ?

 

649:名無しのコラボ相手

そんでパテにするんですね?

 

650:名無しのコラボ相手

最後はもちろん燃やします

 

651:名無しのコラボ相手

お好みでデミグラスソースもどうぞ

 

652:名無しのコラボ相手

人肉ハンバーグやめろやw

 

653:名無しのコラボ相手

封〇演義のあのシーンマジトラウマ

 

654:名無しのコラボ相手

伯〇考……

 

655:名無しのコラボ相手

みんなはヒビキくんがあんな扱いでムカつかないん?

 

656:名無しのコラボ相手

ヒビキアンチ()の巣窟で何言ってんやろか

 

657:名無しのコラボ相手

テンプレ読んでどうぞ。以下荒らしに反応定期

 

658:名無しのコラボ相手

後輩君も初配信近いんでそ? それまでには再生してて欲しいね

 

659:名無しのコラボ相手

再生……?

 

660:名無しのコラボ相手

燃えてからの再生と言うとフェニックス的なあれか

 

661:名無しのコラボ相手

ヒビキ不死鳥説きたな

 

662:名無しのコラボ相手

まぁ実際そうよ、一週間程度ってヤツが言ったんならそれで帰って来るやろ。とりあえずコラボ配信アーカイブのコメント欄荒らしながら飯食うわ

 

663:名無しのコラボ相手

お前やっていいことと悪いことがあるぞ! 独り占めとか許されざるぞ!

 

664:名無しのコラボ相手

止めなくて草

 

665:名無しのコラボ相手

俺もG・IMODの仕様解説コメとかしておこうかなぁ。これで興味持ってくれるライバー増えたら色んな意味でおいしい

 

666:名無しのコラボ相手

どっちのライバーの話?

 

667:名無しのコラボ相手

どっちもやろw リスナーの間で盛り上がってもいいし、ワンチャンVtuber界隈で流行れば動画増えるだろうしな

 

668:名無しのコラボ相手

流行ることあるんかねぇ……少なくともおにゃのこライバーにはまだまだ敷居が高い

 

669:名無しのコラボ相手

個人勢の間では割と流行ってきてるぞ。導線はほぼ全部ヒビキの配信からなのがちょっと嬉しい

 

670:名無しのコラボ相手

コラボ先が個人勢でもいいならヒビキの活動の幅広がりそうだけどねぇ

 

671:名無しのコラボ相手

男女どころか他事務所とすぐにコラボできたし、可能性は少なくなさそう

 

672:名無しのコラボ相手

ユラちゃんコラボから結構流れ早かったよな

 

673:名無しのコラボ相手

俺たちと言うライバーに加え、その代表たるユラたそ。サクラフィ大島キリ、そしてレア同期ひっひっひすみまんふっふっふ。コラボ先が俺らだけだった頃に比べれば大躍進よ

 

674:名無しのコラボ相手

一人だけ名前尖ってますね

 

675:名無しのコラボ相手

その人のチャンネルどこにあんの? ずっと探してるんだけど

 

676:名無しのコラボ相手

ひっひっひさんはユラたそが体調不良にならないと出てこないから

 

677:名無しのコラボ相手

水でもかければええんか?

 

678:名無しのコラボ相手

ら〇まかよ。風邪はひくかも知れんが

 

679:名無しのコラボ相手

なっつwww

 

 

・・・・・・・

 

 

・・・・・

 

 

・・・

 

943:名無しのコラボ相手

ヒビキがゲリラ配信してるんだが?w

 

 



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【今日も一人で】ゲリラ【麻雀】

「こんヒビキー……うわ、みんな早くない? 暇なの?」

 

コメント

    :は?

    :こんヒビキ―

    :キレそう

    :急に煽るやんw

 

 告知もなしに配信を開始したにも関わらず、いつもの視聴者数とあまり変わらない数のリスナーが訪れ、コメントをくれるではないか。いや、退屈してるんだなって思っちゃうでしょ。

 

「え、休養するんじゃなかったのかって? うーん、まぁそうなんだけどねー……。正直、精神的にダウン入ってたから念の為って感じでね、身体はピンピンしてるのよね。だから大人しくしてても、なんか落ち着かなくてさぁ。せっかくだしあんまやんないゲーム配信しよっ! ってなったんスよ」

 

コメント

    :怪我とかじゃないのね

    :メンタル的なものってのも逆に不安なんだが

    :無理すんな

 

「いつになく優しーねぇ。サンクス! でもマジで大丈夫。むしろこうして配信してる方が落ち着くわ……」

 

 本当に思いつきで開始したので、直前に連絡を入れたボスもあまり乗り気ではなかったけど。俺がこうしてるほうが回復に繋がるといえば、渋々ながらも許可を下すったのである。

 

「やーね、最近はほら、ほかのライバーさんとの絡みも出てきたじゃん? それで気ぃ張ってたとこもあってねぇ。コラボ先のファンの皆さんのこと考えたりね、色々あるんすわ。君らも相手の枠に入ってくれたおかげでね、割といつも通りやれてたんだけどねー」

 

コメント

    :殊勝なヒビキとかキモイなぁ

    :それね

    :コラボ配信じゃなきゃ疲れずやれるってことでおk?

 

「キモイとか言うなよ泣いちゃうだろ。そんでそう! 疲れずやれるってか、むしろテンション上がるね! 配信自体は好きだし! キミらと脳死でボコスカ殴り合うのが楽しいんじゃねーかと思ってね、枠取ったワケよ!」

 

コメント

    :ほーん?

    :ということは!

    :え、リスナーと麻雀すんの?w

 

「そゆことー! 久々に殴り合おうぜぇ!!」

 

コメント

    :マジか!

    :やりたいヒビキ飛ばしたい

    :ヒビキ対リスナー三人打ちってマ?

 

 唐突なリスナー参加型企画に、予想以上に視聴者は盛り上がってくれた。めっちゃ久々だからな……今までにも何度かリスナーを招いてマルチ企画したことはあるが、そのたびに俺がボコボコにされるからレアイベントなのだ! ユラちゃんとの配信も増えてくると、よりこういう機会は無くなってたんでね。俺も久々にみんなでわちゃわちゃしたくなったのだ。こやつらに気を使う必要なんざないからね!

 

「いや三人に狙われて勝てるわけねーだろ! でも、配信は閉じなくて良いよ! 俺の手牌(てふだ)見て振り込む(忖度する)もよし、逆に勝ちに来るもよし! とりあえず楽しもうぜ!!」

 

 今どきはオンラインで簡単に麻雀出来るからね! 俺も強いほうじゃないが、ブラウザやアプリだと色々アシスト機能もあるから、初心者でも最低限ルールを知ってれば上級者に勝てたりもする。運ゲーって言われる原因でもあるけど!

 

「んじゃ準備するねー……と、その間に麻雀分からんの人にも簡単に説明するよ。麻雀とは! ポーカーである!!」

 

コメント

    :草

    :雑にもほどがあるんじゃが

    :ポーカーから知らん人はどうすればいいですか!!

 

「ポーカーから知らん人は知らん! トランプって1から13の数字、んで4つの模様(スート)がありますね? 52種類のカードを使って、5枚の手札に役を作って得点を競うゲーム。麻雀はこれの超絶面倒くさいバージョンね!」

 

コメント

    :言いたいことはわかるが

    :種類はともかくポーカーってもっと数多かったような

    :ルールによりますわな

 

「麻雀はカード、牌の種類こそ34種類と少ないんだけど。手札、手牌に14集めて役を作る必要があるます!」

 

コメント

    :あるます(ドン☆)

    :勢いでテキトーに喋ってるのがよう分かる

    :14の中に役を作れば余っても良いの?

 

「うるせぇ! 揚げ足取るんじゃねぇ!! 基本的に14全部使う必要があるよ! ポーカーは同じカード2枚でワンペアになるけど、麻雀は牌3つでひと単位。これを4つと、同じ牌2つでアガリ、ゴールになるよ! ポーカーはゲームから降りなければ同時に手札をオープンするけど、麻雀は先にアガった者勝ち! シビアよね……と、オーケー準備完了!」

 

 説明してる間にゲーム画面、友人と対局するための部屋を建て終える。

 

「んじゃ部屋のID晒すから、入ってきてねー、ほいっ。……って早ぁ!?」

 

コメント

    :一瞬やんけw

    :これはガチ勢の予感

    :久々に良い空元気が見れそうだ

 

 対局部屋の定員は俺を除いて3人なんだが、部屋番号晒した瞬間に埋まった。マジで1秒経ってないと思う。やべぇ、こえぇよ……。い、いやでもしかし、勝つために配信してるんじゃないからね! 楽しく遊びたいだけだからね!

 

「よ、よし。それじゃあ始めるぞー! "ライバー"諸君! 久々に遊ぼうぜぇ!!」

 

コメント

    :がんばえー

    :どうせ叫ぶんだから音量注意って出しとけ

    :手牌晒してるんだから別に勝つ気ないんでそ?

    :振り込み期待かも知れんからなんともw

 

 こうして俺VSリスナーの麻雀対局が始まった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後、俺は地獄を味わっていた。

 

「ちょっ……ハァ!? リーのみで数え役満!? なんでそこで待ってんだよ!! 残り一枚だぞ!?」

 

コメント

    :wwwwww

    :これは草。いや草

    :何が起こってんの?

    :リーチっていう初心者向けの点数が低い手札でドラっていうおまけ点が乗りまくった

    :しかもヒビキが捨てた牌からアガったからヒビキだけ点数毟られたw

 

「クソがぁ……返せよ俺の大三元……!」

 

コメント

    :高い役狙おうとするからやぞw

    :手牌見えてんだから捨てるわけないでしょ

    :誰も振り込まなくて草生えますねぇ

 

    :振り込みってなんぞ?

    :麻雀は相手の捨てた牌を奪えるから、わざと相手が欲しそうな牌を捨ててあげる

    :忖度ねw誰もやってくれなかったとww

 

 めちゃくちゃ運が良くて揃いそうだったキレイな役を、安いはずなのにラッキーで高くなったアガリで邪魔され飛ばされたり。あ、持ち点がマイナスになることを飛ぶっていうよ! 他にも色々言い方あるけど! G・Iの元ネタ漫画のキャラ的には"ハコ割れ"とかね!

 

「ねぇ! なんで誰も振り込んでくんないの!? 一回くらい良いじゃん! 字一色(ツーイーソー)だぞ!? お前ら誰か持ってんだろ!! オイ!!」

 

コメント

    :うるせぇww

    :ホントに誰も渡さなくて笑うんだがw

    :麻雀知らんけど強そうなのはわかる

 

    :実際強いし振り込みありなら揃わん訳ないんだけど、他三人がもう降りてるねw

    :降りるってのは自分がアガること考えずに逃げることだぞ!

 

    :解説ニキ感謝

    :ちなみにさっきのダイサンゲンもツーイーソーも役満っていう高得点だよ! 役満は総称であってそういう役がある訳じゃないよ!

 

 マジで! ほんっとうに誰も忖度してくんないんだけど! 役満チャンスがこんなに来ることなんて滅多に無いんだぞ!? タイミング的に野良なら絶対アガれてるのに!!

 

 そうして何度も夢を見せられては、ことごとくライバー共に潰されていく俺の手牌たち。それどころか、必ず俺の捨てた牌からアガろうとするもんだから、絶対こっちが最下位になる。対局の流れ自体は速いから相手もどんどん変わってってるはずなのに、だーれもアガらせてくれねぇ!!

 

「こんのゴミカス共がぁ……!」

 

コメント

    :過去イチ口悪いけど愉悦でしか無いw

    :ヒビキカワイソーww

    :草生えてますよ

夕張ユラ:初心者ですが、頑張ってみます!

 

「えっ」

 

コメント

    :えっ

    :ww

    :ユラたそ?

    :マジで!?

 

 プレイヤーが立ち代わる間に俺が憎悪に身を焦がしていると、ちらりと見慣れた名前がコメント欄に流れ。そして、新たにリスナー枠が埋まると、そこには……!

 

「ひ、ひっひっひさん!!」

 

 なんと、同期のひっひっひすみまんふっふっふさんが現れたじゃないか! こいつは同期のよしみで振り込んでくれるに違いねぇ!! まだ二回目のコラボだけど! っつーかよくその名前で登録出来たね! プレイヤーシンボル的にもつい今登録したばっかっぽいし!

 

コメント

    :これはアツい

    :コメント欄にはユラちゃん、参加したのはひっひっひ。妙だな……?

    :お前のようなカンの良いガキは嫌いだよ

    :コメント打った瞬間体調わるなったんやろなw

 

 しかし、麻雀ってのは非情である。配牌(最初に配られる手札)でおおよそ結果が決まってしまうことも多い。ひっひっひさんの忖度チャンスが来る以前に、俺はどんどん点数を失ってしまう。っつーか俺からばっかりアガんじゃねぇって言ったろコラァ!! そんな早いと安牌(捨ててもアガられない牌)分かんねえんだよ!!

 

「ぐぅ、ラス親で残り100点……。頼むぞ……!!」

 

コメント

    :よく生きてんなコイツ

    :100点とか初めて見たわww

    :ひっひっひさんここまで空気

 

 これは瀕死のピンチだが、親というのはアガり続ける限り継続できる、ずっと俺のターン状態! 文字通りラストの親が俺なので、ここで逆転できればその時点で俺の勝ちだ……!

 

「見てろてめぇら、ここで逆転して全員飛ばしてやっからよぉ……って九蓮宝燈(チュウレンポウトウ)一向聴(イーシャンテン)!?」

 

コメント

    :やばすぎw

    :チートですか?

    :ちゅうなんて?

 

    :九蓮宝燈、上がったら死ぬとすら言われる役満

    :イーシャンテンってのは、あと2牌でアガれるよってことね

    :ヒビキお前、死ぬのか……?

 

「すごいすごい! えっ、ちょっとマジで頼む! あと一個は頑張って引くから! ここだけ!! ここだけ振り込んでくれお願い!!」

 

 俺の懇願に対し、参加リスナーは明らかに俺が欲しくないところを捨てていく。これは俺が聴牌(テンパイ)(あと1牌でアガれる状態)したときに、最後の牌をくれてやろうということだろう。そのために持っておこう、と。きっとそうだ、そう思わせてくれ……!

 

 俺は山から引いた牌を捨てていき、そして……!

 

「て、テンパった……!」

 

コメント

    :他が持っているのかどうかですよ

    :慌てる方のテンパったじゃないよ! テンパイしてるってことだよ! 慌てる方の元ネタではあるよ!

    :解説ニキ頑張ってんなww

 

    :なかなか出ないな

    :みんな持ってないんじゃね?

    :全部自引きはさらにアツいぞw

 

 時間的にも最後の状況に、視聴者も固唾を飲んで見守っている。参加リスナーが捨てた牌はどう見ても自分がアガることを放棄しているので、間違いなく全員仲間だと思っていい。

 

 どんどん手番が進んでいき、そしてついに状況が動いた……!

 

「えっ……?」

 

コメント

    :え

    :え

    :あれ?

    :ひっひっひさん……?

夕張ユラ:あれ?

 

 立直(リーチ)。プレイヤーの一人であるひっひっひさんが、立直……!

 

コメント

    :さっきリーのみとか言ってたやつ? これマズイの?

    :多分マズイ

    :いや別に大丈夫でしょ。アガらなければいい

 

    :ひっひっひさんが引いた牌全部捨てれば一緒だよな?

    :いや駄目だw ひっひっひさんビギナーシンボルだw

    :あっww

 

「……一応、俺から説明しよう。リーチってのはもう一手でアガれる状態なワケだが、相手に振り込みたいなら捨てることも一応出来る。俺が待ってる牌は一種類だから、状況的にはあまり変わってない。けど……このブラウザゲーだと、ビギナーシンボルってその時点で設定を弄ってないんだよ。んで、初期設定から完全に触ってない場合……手牌が揃ったプレイヤーは自動的にリーチして、他の人がアガり牌を捨てたり、自分で引いたら勝手にアガる。つまり……俺はひっひっひさんがアガる前にアガらなくちゃいけない……!!」

 

コメント

    :ww

    :ひっひっひさんェ……

    :???初心者ですが、頑張ってみます!

夕張ユラ:ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!

 

 説明してる間にも時間は過ぎるので引いたいらない牌をとっとと捨てる。が……。

 

「OH……」

 

コメント

    :終わったww

    :キレイな手だなぁ

    :しっかり両面待ちで草草の草

    :捨て牌からは考えられんほどしっかりした手ですねw

夕張ユラ:すみません違うんですなんか勝手に

 

「うるせぇもう寝る!! ふんだ見てろよ、明日こそボコボコにしてやっからなぁ!!」

 

コメント

    :明日もやるんかいww

    :ちゃんと養生しろよ ¥10000

    :体調整えてからボコられに来いよな!

 

夕張ユラ:もっと勉強してきます……

    :結局フテ寝かい

    :次は手牌隠せよww

 

 こうして終始騒がしいまま配信を閉じ、俺はベッドに身を投げだした。

 

「はぁ~……めっちゃ良い配牌だったのになぁ……」

 

 手牌さらしても、二~三回リスナー入れ替えれば一人くらい気遣いのできる視聴者が来てくれると思っていたのに。あそこまでボコボコにしてくれるとは……! いや前からそうだったけど!!

 

「……ふっ。ふふ……」

 

 でもまぁ……楽しかったなぁ。久々にコメントの反応を警戒せず、純粋に思ったままの言葉で配信ができた気がする。その内容が結局罵詈雑言の嵐だったのが一見さんお断り過ぎるが、俺がリスナーと楽しむためにゲリラって形を取ったんだ、これくらいは許してもらおう。

 

 Vtuberは……楽しい。動画を面白く編集して投稿するのも、コラボ配信するのも楽しいんだ。でも……そればかりじゃない。辛いこと、落ち込むことだってたくさんある。それに俺は、蓋をしてきた。自分は楽しいことをしてるんだ、弱音なんて吐けない。

 

 これから後輩も出来るし、より一層反応を警戒して、俺みたいな負担をかけないようにサポートしないと……そんなことを考えて、俺はやっと自覚したんだ。

 

 俺みたいな負担(・・・・・・・)。俺には、負担がかかっていたのだと。ある種の自己暗示をしていたんだ。そんなことは無い、俺は俺のやるべきことを楽しんでやってるんだ、ってな。

 

 そんで結局、事務所に……ボスに心配をかけた。面倒をかけた。リスナーを不安にさせてしまった。だから、開き直ることにした。

 

 うるせぇ! 俺は俺の楽しいようにやる! 俺と、俺をここまで見てくれた人たちだけに恥じない活動をする! そう、開き直ろうと。

 

 もちろんすぐには行かないだろう。結局はよその反応を警戒したりだとか、望まれてもいないフォローをしてしまいそうになることはあるだろう。でも、それはそれで良い。俺には支えてくれる人がいる、その度にそれを忘れなければ、きっと俺はやっていけるはずだ。

 

「……よし、明日はボコボコにしてやろう!」

 

 その言葉とともに俺はベッドから跳ね起きて、しっかり食事を取り。最近はあまり追えていなかった、VSの推しである先輩の配信を見て笑った。

 



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Vの裏で:志望動機はなんですか?

 ついにこの時がやってきた……。今日は近日中にデビュー配信を控えた、後輩男性Vとの打ち合わせをする日である。配信方針やら規約やら企業として注意すべきところはボスや担当マネージャーさんがしっかりやってらっしゃるので、俺がするのはぶっちゃけただの雑談だ。

 

 同期や上司もみーんな女性で心細かろうってとこもあるし、単純に初配信前に不安なことがあれば取り除いてやりたいって老婆心でもある。ボスにも仰せつかってますし。

 

 俺はと言えば、ここ数日視聴者と戯れてたおかげで気分上々、やる気満々である! ちなみに二回目以降の麻雀配信では手元を隠したが、役満なんかを狙えるようなチャンスは一切訪れませんでした。あるよね、そういう運気の流れみたいなの……。それでも一方的にカモられることは無くなったのでヨシ!

 

 一足先にPCの通話用ソフトを起動してヴァーチャルシップの会議部屋に入っていると、準備が整ったらしい新人君が一言。

 

『たのもう!!』

「うるせぇ!」

 

 開口一番元気よく声を発してくれる後輩君に、俺は温かな言葉を贈った。

 

「君、配信開始したら話す前にまずマイクテストして。いいね?」

『承った……』

 

「あー……順番が前後したけども。二期生の暁ヒビキです。よろしくね」

『ハッ! 存じ上げてござる。(それがし)大和(やまと)ムサシ! 以後お見知りおき願い申す』

 

 ……濃いなぁ。なんというか、別の意味で不安になる。ボスはどんな気分でこの男と面接したんやろか……。

 

「とりあえずこの通話の趣旨は、君から聞きたいことがあったり、悩みがあれば俺が相談に乗らせてもらうって感じなんだけど……。その前に、君のソレ(・・)はロールプレイってことで良いの?」

 

『然り! 少々複雑な話になるが、聞いていただきたく』

「ウン。ヨロシク」

 

『そうさな……前提として、某は貴殿の信者でござる。大ファンで(そうろう)

「えっ? あぁ、ありがと……」

 

『覚えておられるか? いつかの配信にて貴殿は仰ったのだ、"一緒にヴァーチャルの世界で遊ぼう"とな。その言葉こそ、某がこの道を歩みだすきっかけとなり申した』

 

 そんなこと言っただろうか? いやコラボでもなきゃ配信中は考えずに喋ってることが多いから、全部の発言覚えてる訳ないんだけどさ。彼が言ったと言えば言ったんだろう、たぶん。

 

『その時の配信からしばらく、貴殿はついにコラボを成し遂げた。同胞(はらから)の夕張女史に始まり、所属の異なる大島女史とまで。特に対人戦企画、その様を拝見してVtuberを志す想いを強くしたでござる』

 

「えーと……つまりムサシ君は、いずれ他のライバーとPVP企画がしたい?」

 

『否! 先に申し上げたが、某は貴殿のファン! ゆえに、ヒビキ殿の活動の一助となりたく四期生に応募致した。大島女史との配信にて、ヒビキ殿は酷く神経をすり減らしているように感じたが故に。このロールプレイも、すべてはそこに集約されるでござるよ、"こんなヘンテコキャラ、女性ライバーとの間にカップリング疑惑なんて成立すると思います?"』

 

 ポカーン、である。え、Vtuberになりたいとかじゃなくて、暁ヒビキの手助けがしたいからってだけで応募したの? え、バカなの?

 

「……(ボス)から男性の応募があったって聞いて、反応が早いと思ったらそういう……。じゃあ君は、Vtuberとしての具体的な目標とか、やりたいことって無いの?」

 

『強いて言えば、貴殿と同じ景色が見たい、これに尽きるでござるよ。この戦火渦巻く界隈で、ただ一人武蔵坊のごとく立ち続ける漢の中の漢! 暁ヒビキが築き上げんとする、男女問わず思うままに配信が出来る城。その頂上に貴殿が立った時、傍に仕えている者の一人でありたい。それが某の志望動機にござる!』

 

 ……やっぱり、この後輩は頭のネジをどこかに落っことしてきたらしい。だって意味わかんないじゃん? ファンだってんなら、俺とG・Iコラボがしたいから、とか。そういう方が分かりやすい。

 

 でもこの男は。Vtuberとしての名前を大和ムサシと言うらしい後輩は、俺の手助けをするためだけにこの業界に足を踏み入れたという。どう考えても普通じゃない。

 

 普通じゃないんだけど……嬉しいもんだ、自分をきっかけにVtuberを目指してくれたって事実は。それに俺が気を揉んできた、男性Vtuberという立場の現状をしっかりと把握してくれている。さっきわざと漏らした口調こそ、彼の素顔なのだろう。分厚い仮面を被り、そのうえで俺の助けになりたいと言ってくれているのだ。嬉しくない訳がない。

 

「そっか……ま、全然共感は出来ないんだけども。動機なんて人それぞれだしな。……この通話の趣旨としてどうなんだ、と思わないでもないんだけどさ。ムサシ君、良かったら俺のこと、手伝ってくれ」

『無論にござる! 暁ヒビキの忠実なる懐刀として、この大和ムサシ! 邁進していくでござるよ!!』

 

 こうして、第二の企業勢男性Vである後輩、という名の家来を手に入れたでござる。ちょっと思ってた感じじゃないけど、予想以上に有難い存在が加入してくれたようだ。

 

 俺の立場に深い理解があり、スタンスに共感し支えてくれる。キャラが濃いんで上手くやっていけるかはこれから次第だが、Vtuberとしては強い武器になるだろう……と、思いたい。

 

「……ところでさ、その口調って侍なの? 忍者なの?」

『テキトーで(そうろう)! あまり肩肘張ってしっかり演じると、視聴者も置いてけぼりでござろう? それらしい口調で話しつつも、感情が高ぶると素が出てしまうというキャラクターでやってゆく所存にて。"というかふと素が出ちゃうのは不可抗力なんです"』

 

 思いのほか強かだった。あと今更だけど中性的な声してるのよねこの侍忍者モドキダマシ。配信ではどういうキャラクターが動くのかまだ知らないけど、これは当日が楽しみですね! 色んな意味で!

 

 とにかく、お互いに初配信に対する不安みたいなのは無いようだったので、雑談に興じて親交を深めたで候。

 



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【此れより】大和ムサシ【参る!】

『あ、あー……マイクテース。聞こえているでござるかぁ?』

 

コメント

    :きた!

    :ござる口調で草

    :良い声してるなぁ

    :立ち絵まだ?

 

 ムサシ君が配信を開始すると、待機していた視聴者が賑わいだした。同時接続数……二万人!? やべぇな……。内訳を考えるに、少なくとも一万人ほどは俺やユラちゃんの枠のリスナーだろうと思われる。放送局やらそれぞれの配信でも応援してもらえるよう呼びかけてはいたしな。ちなみに俺の配信の同時接続はゴールデンタイムですらだいたい三千~六千と言ったところで、まちまちだ。万人受けするゲーム配信をしないのが悪いのかもだけど。

 

 それはともかく、では他の一万人はどこからかと言えば。Vtuber界隈、その中でも男性Vというコンテンツそのものに興味を引かれている人たちだろう。好意的なものであれば、企業勢二人目となる男性Vがどんなキャラクターなのか覗きに来てくれたパターン。あまり歓迎したくないのが、これまでは無難にやってきた俺とは違い、今度こそまた野郎がボロを出すだろうって炎上を期待している人間。前者が多いことを祈るしかないね……。

 

『うむ、うむ……良し。音声まわりは問題なさそうでござるな。ではいざ尋常に……たのもう! ヴァーチャルシップ四期生、第二の男性Vこと大和ムサシでござる! 立ち絵ドーーン!!』

 

コメント

    :!?

    :怖いよww

    :仮面じゃねぇか!!

    :男、性……?

 

 意気揚々とムサシ君が立ち絵……多分立ち絵だ。それを表示すると、配信画面いっぱいに真っ赤な般若の面のようなものが映し出された。うん、怖い。彼曰く、音域的にはテノールとアルトの中間くらいらしい中性的な声が仮面の黒い空洞からこぼれるのだ。いや怖いよ。違和感も相まってさらに怖い。

 

『はっはっは、掴みは悪くない感触で候。こちらがバストアップとなり申す』

 

 エンタメ路線ということで(しょ)(ぱな)からかましてくれたムサシ君がキャラクターのサイズを縮小すると……なんと言えばいいのか、雰囲気イケメンだった。ソーシャルゲームに出てきそうな、忍装束(しのびしょうぞく)を無理やり現代スタイルに改良したような装い。般若の面から後ろに流れる長髪は紫がかって艶があり、仮面の下を期待させるような全体像だ。

 

コメント

    :なんか戦国BA〇ARAに居そう

    :ちょっとわかるw

    :なんで忍者なの?

 

『む、たくさんのコメント感謝するでござる。しかし、まずは段取り通りいかせてもらいたく。我らVS四期生三人衆! 知・徳・体を司りし三位一体の存在! 某が体現するは知力! IQ高いとこ見せてくでござ候~』

 

コメント

    :こいつの知力が低いのはよくわかった

    :ござそうろうってなんやねんww

    :つまりどういうことだってばよ

 

「ふふっ」

 

 いかんいかん、つい吹き出してしまった。トラブったら助け舟出せるようにコメントも通話の準備もしてるんだが……いらん世話じゃない? めっちゃ面白いんだけど僕の後輩!

 

『分かりやすく申せばそれぞれの活動方針でござるよ! 某はシミュレーションゲームやクイズ、パズル系のコンテンツの配信を予定しているゆえに。徳と体がどういう配信をしていくかは、某の配信後の枠にてしかと御覧(ごろう)じろ!』

 

コメント

    :なるほどな

    :ちゃんとバトン繋いでんねぇ

    :ガッツリ長時間配信してくれるなら嬉しいw

 

    :長時間ゲーム配信してくれるVって一部の個人勢くらいだもんね

    :コメント過疎ってるしな

    :企業勢は女の子ばっかだからしゃーない

 

『うむ! 初見のゲームでは難しかろうが、既プレイのコンテンツであればRTA、縛り、耐久などもろもろ挑戦していくでござる。某の魅力が外見だけでないことをお見せ致す所存!!』

 

コメント

    :外見……?

    :声はともかくガワはちょっとw

    :いつか剥がれる日が来るんやろか

 

 今のとこ視聴者数の割にはコメントの流れが大人しいが、様子見の人が多い感じだろうか。と思っていたら、センシティブな質問がチャット欄にちらり。

 

コメント

    :コラボしたい女性ライバーって誰?

 

 コラボしたいと思う? どんな内容のコラボがしたい? コラボするならどんな人が良い? パターンは数あれど、もっと無難な聞き方はいくらでも考えられる。でもこれを皮切りに連投される問いかけは同じものばかりだ。ムサシ君が"女性ライバーと繋がりたい"と思ってるって前提で質問してる。大丈夫か……?

 

 固唾をのんで見守っていると、彼はこう答えた。

 

『コラボしたい女性ライバーでござるか? もちろん夕張ユラ女史で候!』

 

 即答して見せたムサシ君に目を見開いたのは、果たして俺だけだったろうか。ともすれば、不用心にも程があるその回答に、それを期待していた一定層の人たちすら硬直したかも知れない。しかし、ムサシ君の言葉はそこで終わらなかったのだ。リスナーが追い打ちをかけるには遅すぎた。

 

『なぜなら! ヒビキ殿の一の子分は某であるがゆえにッ! 某も暁ヒビキ殿の配信をきっかけにこの道を歩む者! 出遅れはすれど、夕張女史もコラボは最近叶ったばかり! まだまだ追いつけるでござるよォ……さらに言えば某は(おのこ)! ヒビキ殿と唯一境遇を同じくする者と言っても過言ではあるまい!!』

 

 先日に引き続きポカーン再び。いや、えーと……うん。これはIQ高いな! 一瞬思考を持ってかれたが、考えてみれば無難な回答だ! お近づきになりたいからじゃなく、白黒つけるためにコラボしたいって話ね! なるほど考えてるなぁ! なんてファインプレイ! そうだと言ってくれ……!

 

『今は先を行かれているでござるが、コラボで一発互いのヒビキ殿愛を()すればどちらが優秀な(しもべ)かなど一目瞭然!! というわけで、コラボを考えるのであれば夕張ユラ女史一択で候!! 他はどうでもいいでござる』

 

 あぁやべぇ……。最後にスンッて素に戻る感じがすげぇガチっぽい……。なんなんその害悪信者ムーブ、直結厨だと思われるよりマシだけどさ……いやマシか? 本当にそうですか?

 

コメント

    :こいつぁヤベェ

    :デビューしたその日に先輩に喧嘩売るライバーがいるらしい

    :これには腐女子もニッコリ

夕張ユラ:先輩の一番は渡しませんよっ!

 

    :ヒビキと般若のカプでてぇてぇ出来るってマ?

    :あれw

    :ユラたそ!?

    :本人見てるやんけw

 

 予想外の展開が続き、俺の頭が追い付けずに……というか追い付くのを拒否し始めていると。コメント欄にまさかのユラちゃん出現! これには視聴者も大盛り上がりである。俺としては胃がキリキリする思いだが。

 

『むッ。これはこれは夕張女史! まみえるのはまだ先かと思っていたが、これは僥倖なりッ! 其方(そちら)が先達とは言え、譲れぬものがあるのでござる!! どちらがヒビキ殿へ(はべ)るに相応しいか、いずれ雌雄を決するで候ッ!!』

 

コメント

夕張ユラ:負けませんよ! ヒビキ先輩を大好きな気持ちは、誰にも負けません!!

    :ヒビひっひっひてぇてぇ

    :ユラちゃん大胆!

    :こちらはユラたそだ間違えるな

    :ひっひっひってなに?w

 

 まじぃ、デビュー配信なのにユラちゃんとムサシ君のプロレスが始まっちまった……! 台本なんてある訳なし、どうすりゃ収拾つくんだコレ! 俺か? 俺が何かコメントするか!? えーと、えーと……!

 

コメント

    :これなんの配信だっけ

    :少なくとも四期生の初配信ではないw

暁ヒビキ:やめて! あたしのために争わないで!!

 

    :!?

    :草

    :あーもうめちゃくちゃだよ

 

 俺が間に入ることにより、事態は収拾するどころかより混沌としてきた。し、仕方ないんや! こんなとこで心の奥底にしまっていた俺の芸人魂が!!

 

『離すでござる! 離すでござるーッ! ヒビキ殿の身体が裂けてしまうでござるー!!』

 

コメント

夕張ユラ:後輩なんですから大和君が離してください!

夕張ユラ:ヒビキ先輩のお世話は私がします!!

    :なんで即興でエア大岡裁き出来るの?

 

    :台本あるだろw

暁ヒビキ:らめぇえええ分裂しちゃうぅぅぅぅ!!

    :ヒビキ単細胞生物説出たな

 

『ほらヒビキ殿が哀れとは思わんでござるか!? いい加減解放するでござるよ!!』

 

コメント

夕張ユラ:大和君が諦めればいいと思いますっ

    :どっちも離さないの草なんだ

    :これは母親いませんわw

 

 結局最後まで茶番は続き、視聴者も悪ノリしまくって配信時間を使い潰してしまった。定番となりつつあったファンネームやSNSのタグも決まらず、後日配信にて再度リスナーと相談するそうだ。まぁ結果だけ見れば、不穏な質問をやり過ごして無事に終わったから良いのかな……。

 

 ところで他の四期生もこの枠を見ていたらしいんだが、あまりに自由過ぎて緊張せずに初配信を終えることが出来たそうな。一発目ほどのインパクトが生まれようはずもないと愚痴をこぼしていたのには申し訳なさを覚えたが。

 

 ……いや、俺が悪びれる必要もないのか。全部大和ムサシってヤツがわりーんだ! あと急にスポーンした夕張ユラってヤツな! 俺は悪くねぇ!! 閉廷!!

 



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【ヒビキとユラの】後輩が参ったっぽい【VS放送局】③

 

「はい始まりましたーお馴染みVS放送局、ヴァーチャルシップ二期生の暁ヒビキでっすー」

「みなさんこんばんはっ! 同じく三期生の夕張ユラと申します~っ」

 

コメント

    :こんヒビキー

    :きちゃー!

    :こんゆらたそ

 

    :いつにも増して雑だな

    :こんヒビキって言えや鳥頭 ¥2000

    :般若! ¥500

 

「いやちゃうねん。雑になったんちゃうねん。あれよね、(こな)れてきたっつーか、そういうことっすよ、うん」

 

 もはや何回目の放送かもわからんほど回数を重ねてきたVS放送局だが、挨拶の時点でリスナー諸君に突っ込まれてしまう。配信の開始終了の挨拶が適当なのはまぁデフォルトなんだが、俺は正直ローテンションなうなのだ。それが声に乗ってしまったのかも知れん。

 

「ま今日はね、初めてゲストをお迎えする日ですからね。俺もちょっと緊張とかそういうサムシングしてるんだよねメイビー」

 

コメント

    :嘘つけや

    :テンション低くなるのは仕方ないw

    :一回引きちぎられたしな

    :般若が横にいたら緊張するかも知れないけどお前はダウト

    :日本語でどうぞ

 

 既に配信画面の左端に般若の面で顔を隠した美丈夫が見え隠れしてるので、俺の気持ちを察してくれている視聴者もちらほら居るようだ。顔隠して美丈夫もクソもないと思うけど。紫ががった光沢のある長髪を後ろに流し、装いはNINJA衣装現代版。まぁイケメンだろ。

 

 ちなみにいつもの放送だと配信画面の左右に俺とユラちゃんが分かれており、真ん中にコメント欄とお便りやお知らせを表示しているんだが。今回は初のゲストお迎えってことで、右側の司会者席に俺とユラちゃん。左側の雛壇にお招きしたライバーさんのバストアップを配置している。

 

 そんでなぜ俺のテンションが低いかと言えば……。

 

「ではご紹介しましょー。ヴァーチャルシップ四期生、ゲストの大和ムサシ君でーす」

 

「たのもう!! 紹介に(あずか)った四期生忍三人衆が知を司りし一人! 大和ムサシと申す!! 本日はお招きいただき感謝の念に堪えないで候! 男性Vの頂点たるヒビキ殿と念願のコラボと相成りスーパーハイテンションでござるよ!!」

 

 これである。デビューしてすぐにコラボでは一人配信で売り出していくのが難しいだろうと、四期生はしばらく個人でやりたいように配信していた訳なんだが。この大和ムサシという新人、配信でことあるごとに俺をヨイショし、SNSでも散々信者ムーブかましてくれたのである。

 

 慕ってくれるのは嬉しいんだが、ハイ。こっからこやつのスーパーハイテンションとやらに付き合うと考えただけで疲れるのはしゃーなくない? ……だいたい男性Vの頂点ってなんやねん! 企業勢二人しかいないからって言いたい放題抜かしやがって!

 

 それに加えて。

 

「いらっしゃいませ大和君! 私とヒビキ先輩の放送にようこそっ! 今日は楽しんでいってくださいね!!」

 

「おんやぁ? 夕張女史いたでござるか? 今日は某がヒビキ殿をお支えする故、お帰りいただいて構わんでござるよぉ?」

 

「か、帰りませんー! ヒビキ先輩のサポートは私の仕事ですぅー!」

 

「はっはっは、これはしたり! 仕事であれば致し方ないでござるなぁ? まぁ某は配信の場でなくとも常に殿に(はべ)るが故に? この場は譲ることもやぶさかではござらんなぁ」

 

「私だってお仕事でなくてもサポートしますぅ! それにそれに、もともと私と先輩の番組なんですからね! 大和君に譲ってもらう(いわ)れなんてありませんーっ!!」

 

 この二人、通話しながら配信するのは初のハズだが。SNSやら俺の配信コメントでもバチバチにケンカしやがるのだ。打ち合わせ中は一応にこやかに会話してたんだが、副音声でマウント取り合ってるのが確かに聞こえてきた。何でマウント取るのかと言われれば俺の配信内容のことばかりってのがマジでやりづらい。怒るに怒れんのよ……。

 

コメント

    :始まったww ¥10000

    :正妻VS家来VSダークライ

    :恋人すっ飛ばしてて草

 

    :そうだよ恋人飛ばして家来なんて ¥801

    :般若の方かよwww

    :まーた殴り合ってる

 

    :いいぞーヒビキの体引きちぎれー!

    :またヒビキが分裂しちまうよ……

    :ユラたそが唯一ブチ切れる瞬間である

 

 本来ならSNSやらコメントやら配信者が直接関わってない場所でそのファンが言い争ってるのは褒められたことじゃないんだけど、やってるのがVtuberってことでプロレスとして受け入れられているらしい。というかリスナー側が煽ってるからもうそういうコンテンツとして認識するしかない。きちぃ。

 

「私がいっちばんヒビキ先輩のこと好きなんですぅー!!」

「真にヒビキ殿の御心に寄り添えるのは某だけでござるーっ!!」

「…………」

 

コメント

    :もう司会者の片割れ死んでるんだがw

    :Live2Dでもハイライト消えてるの伝わるんだな

    :羨ましいのに羨ましくない

 

    :そら体真ん中から裂かれるならお断りですわな

    :ユラたそに好き好き言われてる時点でギルティ

    :ほんそれ

 

    :つまり悪いのはヒビキってことだな!

    :間違いないな世の真理だわ

    :誰か同情してやれよww

 

 しばらくすりゃ収まるだろうと無心でギャンギャン吠え合う二人をスルーしつつコメントを眺めていれば、なぜか俺が悪いことになりだした。腹が立ってきました。心を落ち着けるため一度深呼吸し、次いでスゥーっと細く息を吸い込みます。

 

「――――うるせぇええええええ!!!!」

 

コメント

    :うっっっっさ

    :今日のおまいう

    :鼓膜ないなった取り換えよ;;

 

    :急にブーメラン投げないでください

    :もうリビングの家族に反応されないけどイヤホンは震えてる

    :慣れ切ってて草

 

 リスナー諸君には悪いが、後輩二人のキャラがびくりと震えて静かになったのでヨシ!

 

「……はい、君たちが静かになるまで頭真っ白だったので秒数かぞえてませーん――ユラちゃん」

「は、はひっ」

 

コメント

    :数えてないんかい!

    :こんな雑な校長なら話聞くわw

    :ゆらたそ声がw

    :めっちゃ裏返っとるがな

 

「この番組って誰と誰の放送でしたっけ?」

「え、えと、しょの……わ、私とヒビキ先輩の、です……」

 

「ユラちゃんってどういう立場でしたっけ?」

「し、司会、進行です……」

 

「そうですよねぇ? ゲストと喧嘩するのが仕事じゃないですよねぇ?」

「は、ははぃい……」

 

コメント

    :説教始まったぞw

    :放送事故では?

    :ユラちゃんおいたわしや……

 

    :ここ空気悪くない?

    :悪い

    :左端の般若黙ってるけどうるせぇな

 

    :めっちゃ上半身暴れてるww

    :反省してなくて草なんだ

    :口開かなくてもざまぁしてるのが分かる

 

「反省してますか?」

「してましゅ……」

 

「本当ですか?」

「あぃ……」

 

コメント

    :ユラちゃん責められると滑舌幼児になるよねw

    :かわゆぃいいいい ¥10000

    :もっと虐めろ ¥20000

 

「まぁ反省すりゃ許されるのは義務教育までですからねぇ? 僕も気は進みませんが罰として――」

「ご、ごくり……」

 

コメント

    :口に出してごくり出来る時点で余裕あるなw

    :所詮ゆらたそもヒビキリスナーよ ¥300

    :罰ってえっちなことですか!?

    :あっ……(察し)

 

「次回放送はユラちゃんにはお休みいただきます!」

「っっっ!!!??? そ、それじゃあつまり……!!」

 

「某の出番でござるかぁあ!?」

「お前は黙ってろ」

 

コメント

    :般若のけぞったまま動かんなったぞ

    :辛辣ゥ

    :ゆらたそが降板だと……!?

 

    :いやあくまで休みでしょ

    :つまりあの方が!?

    :イマジナリ同期の例のあの人かww

 

「はーい次回放送はひっひっひすみまんふっふっふさんとお送りしますのでよろしくでーす。これは決定事項でーす僕が最高権力者でーす」

「あわわわわわ」

 

コメント

    :ひっひっひさんきちゃー!! ¥10000

    :前回公式見逃したからありがてぇ

    :ユラちゃんの雑コラそんな見たいか?w

    :二期生ページに二人並ぶ稀有な機会やぞ!

 

「はい次、大和ムサシ君……いやムサシ。お前なんぞ呼び捨てで十分だろ。なぁムサシ」

「はっ!! ここにっ!!」

 

コメント

    :嬉しそうで草

    :別に罰でも何でもないでしょ

    :こっからヒビユラ放送での扱いが決まるぞw

 

「打ち合わせしたよなぁ? デビュー前からお前のこと触れてきたし、初配信で集まってくれたこの枠のリスナーに深く知ってもらおうっつーことでゲストに呼ぶって言ったよなぁ?」

「おかげでデビュー配信としては異例の同接数だったとのこと! まこと有難く!!」

 

「そのありがてーぇ視聴者様と進行役放ってなーにしてんだおめぇ? ホントは俺のファンでも何でもないんじゃないの? ねぇねぇ」

「なっ!!?? 心外でござる! 殿! どうか某にも罰を!! それで某の忠誠心の証明とならば如何なる苦難にも立ち向かう所存でござるよ!! なにとぞ! なにとぞ某にも更生の機会を!!」

 

コメント

    :配信見てるからもうキャラは知ってるけどな

    :ヒビユラムサシの視聴者層って大体一緒じゃない?

    :般若必死すぎやろww

    :更生する必要あるって自分で認めたよ

 

「んじゃームサシよ。俺が今なんでおこか分かるか?」

「むぅ……やはり進行役として、打ち合わせ通りに放送が進まないからでござるな? ヒビキ殿は心配性ゆえ、事前にあらゆる状況を想定し、某らに共有してくれたでござる。つまりそこから脱線したからおこなのでござる!!」

 

「そこまで頭まわるなら自重しろやァ!!」

 

コメント

    :おこって死語じゃないですか気のせいですか?

    :草

    :この忍者たぶん反省してないw

    :IQ高いのはやっぱ自称に過ぎないんやなって

    :頭のいいバカも居るという証明だぞ

 

「まぁ大体あってるけど、僕はアレなんすよ。アドリブがあんま好きじゃないんだよ。だから入念に打ち合わせしたい方だし」

 

「む? しかしコメント欄への鋭い切り込みには忍たる某をもってしても戦々恐々でござるよ? ヒビキ殿ほどアドリブに優れたライバーも居ないと思うで候」

 

「わ、私もそう思いますっ。ヒビキ先輩がアドリブに弱かったら、強い人なんていないんじゃないかって……」

 

「あ、夕張さんは静かにしててください」

「!? ……ぁ、ぁ"ぃ……っ」

 

コメント

    :辛辣すぎるww

    :夕張さん呼びはキッツイ

    :ゆらたそプルプルしてるww

    :おいたわしや……(いいぞもっとやれ) ¥10000

    :泣かないで;;

 

「褒めてくれるのは嬉しいんだけどね、得意かどうかと好き嫌いは別じゃん? 必死こいてなんとかアドリブ対応してるからこそ、ぶっちゃけ頭真っ白にしてすべてを忘れたくなることもあんのよね。さっきみたいにね!!」

 

「す、すみません……で、では某はどう(みそぎ)をすれば良いでござるか?」

「オイ素が出てるぞ忍者。そうだなぁ……なぁムサシ。忍者って乱破(らっぱ)とも言うよな?」

 

「さすがはヒビキ殿! 既に知っているかもでござるが、実は某の配信枠にてリスナーのことは乱破と呼ぶことに決まったで候!!」

 

「いやお前の放送なんぞ見てないから知らんが」

「でござるか……」

 

コメント

    :はいダウト

    :配信で散々ムサシの宣伝してたやんけww

    :野郎のツンデレとか誰得

    :我得 ¥30000

 

    :絶対この流れ台本だろw

    :説教に見せかけてムサシ枠の情報を出していくだとぉ!?

    :俺じゃなきゃ見つけちゃうね

    :見逃してて草

 

「とにかくお前は忍者、つまり乱破だ。っつーことでね、今日は俺の振りに全部ラップで答えてもらいます」

「ラップでござるか……!!」

 

コメント

    :wwwww

    :ひどい無茶ぶりを見た

    :ラッパーで草

    :らっぱ違いなんだよなぁ

 

「んじゃあ今からスタートね。とりあえず今の気持ち言ってみ?」

 

「YO! YO! 今の心情ハッキリ緊張! 俺らのヒビキのマジアツ人情! 後輩纏める姿は委員長! ッイェーどうやらノッてきたぜ今回のパーリナイ! この波にノれなきゃ和解は勘違い! まず騙してみな己に暗示Time! まだまだイけるぜこr」

 

「なんでやねん!? そこは出来なくてゴメンナサイするところだろ!! 打ち合わせにねーことで時間取ってすみませんって反省するところだろうが! なに普通にラップかましてんだ!!」

 

「いやーIQ高いとこみせちゃったでござるかー」

 

コメント

    :やばすぎww

    :これは司会泣かせ

    :対ヒビキ用決戦兵器きたな

    :アドリブお化けやんけ

 

 この後も会話全部とはいかないが、ことあるごとにラップを要求するもしっかり返してきやがるムサシ後輩。何度か話題が脇に逸れることもあったが、なんとかゲストの新人紹介をベースにしたヒビユラ放送局は成功したのであった。なんでや!!

 



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【ヒビキとユラの】たまには箱のことでも【VS放送局】④

「だからまぁ、特に告知も無いから今日はVS全体のことでもしょ」

「あっ、あっ、す、すみませんヒビキ先輩! 配信始まりました……」

 

「んぁいっとるるわってねぇーあーじゃぁりやしたVS放送局二期生暁ヒビキですー」

「え、あっ、おお同じく二期生のひっひっひすみまんふっふっふ……だヨ?」

 

コメント

    :はじまった?

    :待ってた

    :なんて?ww

    :こんひびゆらー

    :ゆらたそどうしたw

 

 いつもは俺の方で配信する放送局だが、今回は配信中に表示する諸々の画像をユラちゃんが持っているので彼女の枠でお送りすることになった。しかしちょっとしたトラブルで開始が遅れていた……のだが、思わぬタイミングで問題が解決し、放送開始となったために舌がこんがらがってしまった。決して俺が雑な挨拶をした訳ではない。

 

「あーい今回は久々に同期のひっひっひすみまんふっふっふさん、略してひーふさんとお送りしますよー」

「は、はい! み、みんな久しぶり……だネ! えと……ま、前の放送ぶりだからちょっと慣れてないかもだけど……よ、よろしく……ネ!」

 

コメント

    :ひーふさんw

    :いつ決まったねんそれ

    :呼びやすくなったのはいいけどそれはともかく

    :そのひーふさん様子がおかしくないですか?ww

 

「ん? ああ俺とひーふさんは打ち合わせの時に仲良くなったんでね、タメでいいっしょってなったんだけど。リスナーさん相手にタメ口はちょっと慣れてないみたいね。ね、ひーふさん?」

 

「そ、そうなんで……だヨ! ヒビキせ……くんにも敬語だったから、ちょっと慣れてないだけ……だヨ!!」

 

コメント

    :ちょっと間ができるのなんなんww

    :圧倒的に司会に向いてないひーふさん

    :もっと気楽にひっひっひすみまんふっふっふって笑っていいんですよ^^ ¥10000

 

「いやユラちゃんはともかくひーふさんもゲラったら収拾つかなくなるからね。リスナー諸君も自重してね」

「きっ、気をつける……ヨッ?」

 

コメント

    :付き合ってやっとんのになんやコラァ

    :ひーふさんも体調不良で代打呼んだらまた二期生が増える……?

    :俺らから悪ふざけ取ったら何が残るんや

 

    :性欲くらいは残るぞバカにすんなよ

    :自己評価低すぎてワロタ

    :リスナーは枠主に似るって言うからw

 

「…………っ…………っ」

「いや悪ふざけと性欲しか無いって君ら猿なの? っつーか誰だ俺に似るっつったヤツ。心外なんだが」

 

コメント

    :実際共通点は多いから諦メロン

    :せやな目が二つとか鼻口あるとかな

    :雑すぎんか?ww

    :人類みな猿よ ¥5000

 

「学術的なようで脳死コメントしてるだけだよね君ら。あとひーふさん、進行あなたなんだけど大丈夫? 生きてる?」

「…………、な、なんとか……」

 

コメント

    :ダメそう

    :ヒビキテンション低ない?今日忍者いないぞ

    :ヒビキもノったらひーふさんが帰ってこなくなるからw

    :なるほどねww

 

「スゥーー……フゥーー……。……さて!! 今日は改めて、ヴァーチャルシップ所属のライバーについて、大まかに紹介していこうと思いま……思うヨ!!」

「そうだね。この番組VS放送局と銘打っておきながら、基本的に俺とユラちゃん周りの話しかしてないからね。俺とユラちゃんとひーふさん、あとムサシしか知らんって人にもね、軽く紹介だけでもしとこうかなと」

 

コメント

    :これは台本読んでますわ

    :すげぇ無理やり本筋いったなww

    :今更感ヤバいけど妥当な内容やね

    :これが第一回まである

 

「まずは一期生のお三方! 如月サツキ先輩、叢雲フブキ先輩、有明ワカバ先輩で……だヨ!」

 

「はい、立ち絵が出てきた訳だけども。如月先輩はFPS配信がメインで、視聴者とバトロワやってたりするね。叢雲先輩が歌枠とか、まぁ雑談が多いかな? んで有明先輩は流行ってるゲームなんでもやってみる勢。Vtuber誕生の発端にもなってるゲーム配信者ってカテゴリに一番近いのが有明先輩じゃないかな」

 

コメント

    :サツキの暴言と一位取ったときの絶叫すこ

    :0時回ったらふわふわし始めるのいいよねw

    :一番成長の様子が見れるのはフブキだな

    :最初の音痴ソングと今の動画比べるとやべぇ

    :あのオールカテゴリ初心者マジでなんでもやるよなw

    :全ジャンルワカバマークは看板通りやぞ

 

「お、みんなしっかり追ってくれてるねぇ! 知らない人も気になったジャンルあったら覗いてみてねー概要欄にURL貼ってるんでね」

 

「よろしくネ! そして続いては何を隠そう二期生のこの方! 暁ヒビキ……くん!!」

「いやあなたもね、一応ね。知ってくれてるとは思うけどマ○クラMOD系が多いねー。あとはルーム作って視聴者とマルチできるゲームも全般的に。最近やってないけど」

 

コメント

    :いややれや

    :俺らもライバーだぞコラボしろ

    :通し覚えたから麻雀しよ?♡

 

「いやキミら俺のことボコすやん……ほら! ほらいるぞ通し(麻雀でサイン等を送るイカサマ行為)する気満々のヤツ! 俺が知らないってことはリスナーで肩組んで俺飛ばそうとしてんだろ!!」

 

「わ、私がついてますよ!!」

「あえて関係のないユラちゃんの話をするけど。ユラちゃんが俺のリスナーって時点でもうお察しなんだよね。面白いタイミングで裏切るの目に見えてんだよね。関係のないひーふさんそこんとこどう思う?」

 

「……次行こうネ! その夕張ユラのいる三期生! 夕張ユラ、名取スズちゃん、龍田ソラちゃん、川内カヨちゃんの四人! だいたいマ○クラの三期生サーバーで生活配信してる……みたいだネ! 一期生の先輩を招くこともあって、いつかみんな入ってもらってVSサーバーにしたい……って思ってるらしいヨ!!」

 

「逃げやがって……まぁいい。三期生は結構毛色が変わってるよね。一人配信はほとんどなくて、四人みんなでとか、二人三人で雑談とかゲームしてるイメージ。三期生はそれでひとチャンネルって言っても違和感無いくらい」

 

コメント

    :正直一番あたま空っぽにして眺めてられるw

    :三期生百合ップルてぇてぇ

    :四姉妹タグもっと流行れ ¥5000

 

    :イチャつく上三人に離れたとこで眺めてるゆらたそねw

    :末の妹ポジだから一番可愛がられてるけどな

    :ヒビキ匂わせてたからしゃーなしw

 

    :下の妹のユラちゃんがいっちゃん働いてんの草なんだよなぁ

    :姉がダメだと妹はしっかりするからw

    :姉三人まとめて全ロス常習犯なの笑うわ

 

「愛されてんねぇ……ファンアートみーんな四人並んでるイラストだもんな」

「ありがたいことで……だと三期生も思ってるはずだヨ! 最後はデビューしたばかりの四期生! 大和ムサシ君、霧島ダイヤちゃん、長門ムツミちゃん! 今までデビューしたライバーは学生服がメインだったん……だけど、三人は忍者衣装だネ!」

 

「知・徳・体を司るとか仰々しいこと言ってたよな? 霧島さんが徳で、お悩み相談マロとか食ってるらしくて好評だそうな。んで体の長門さんがレトロから最新までの格ゲーで色々条件つけてプレイしてるとか。……リアルでも格闘術が使えるって聞いたけど、どうなんだろう」

 

「ス○リートファ○ターのボス? に憧れてムエタイの練習してたみたい……だネ! 配信で言ってたヨ!」

「リ○ウじゃなくてサ○ットに憧れたんか……。ま、それは置いといて。んでもう大分馴染みました知の大和ムサシ。こいつが知を司るってのが意味不明だけど……それらしくパズルとか戦国シミュレーションとかやってるっぽいな」

 

「私のほうがたぶん頭いいですよきっと!」

「いや聞いてないし敬語だし張り合うなし」

 

コメント

    :ほんまムサシに対してだけ圧が凄いなw

    :ゆらたそじゃなくてひーふさんにも嫌われる新人

    :三期生と二期生の2人に目つけられるとか哀れよの

 ムサシ:ええー? ほんとにござるかぁ?

 

    :!?

    :おるやんけww

    :家来もよう見とる

 

「Oh……」

「あーっ!! 何しに来た……のカナ!? いま大和君配信中だと思うん……だけど!!」

 

コメント

    :マジかよ

 ムサシ:配信しながらヒビキ殿の放送を視聴して何が悪いと言うのか

    :ホンマや普通にゲーム配信してるww

 

    :いや悪いだろ

    :凄いぞこの忍者、向こうの枠だけ見てたらここ来てること全然わからんww

    :ゲームしながら自枠のコメントに返しながらここの放送視聴してコメントに参加するとかバケモンか?wwww

 

    :やっぱ頭の良いバカなんだなって

    :神はなぜこんな高スペックポンコツを創り給うたのか

    :これが神の戯れよな

 

 その後の配信? 俺の枠じゃないから流れに任せたゾ☆ ムサシのコメントに応酬するひーふさん、当のムサシが裏でどんだけ平然と配信してるのか見に行くリスナー、そしてそのチャット。今回は台本含めひーふさんメインだったから俺が仲裁することもなく、その点だけで言えば楽だったな!!

 

 

 

 ……いやまぁ、傍から見たら俺の目は死んでたと思うけどね。

 



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Vの裏で:恐れていたことが起きてしまいました

作中描写でコラボ回数に言及するシーンがありますが、端折ってるだけで投稿ミスではございません


『最近は体調のほうはどうですか?』

「おかげさまで好調です! 正直ムサシ君を含めて四期生のデビューは不安だったんですけど……個人的にはベストタイミングでした。本当にありがたいです」

 

 某日、定時連絡ということで俺はボスと通話を繋いでいた。体調……まぁ主にメンタル面のことだけど。そのことを報告してからは経過観察ということで以前にも増して連絡を取ってくれている。今では俺も社員としてVSの事務所で作業することも増えたけど、多忙なボスとはコンタクトが取りづらい。なもんでこっちに配慮してプライベートでやり取りしてくれるのだ。

 

『そう言ってもらえるとこちらも気が楽です。男性Vtuberの追加は時期尚早でしたし、ヒビキ君の負担が増えるのは目に見えていましたから』

「いやぁそれくらいは全然……。僕としては同じ目線で話せる同僚が居るってのは何よりも助けになりました。最近自覚したことですけど……」

 

 もうマジでムサシの加入は俺に計り知れない影響を与えた。お医者さんにもらった薬が役に立たなかったとは決して言わないが、この頃沈みがちだった調子が心身ともに好転しているのは間違いなくあの後輩のおかげだ。

 

 ボスも俺にめちゃくちゃ配慮してくれるがやっぱり目上の人間だし、Vtuberではなくマネジメントする立場だ。気安く話しかけやすいとは言えない。比べてムサシは同じ男性Vでしかも後輩、かつヘビーなファンだ。愚痴を言えるし、逆に愚痴を聞いたり新人としての相談に助言することで、俺も気持ちや状況を整理することが出来ている。本人には面と向かって言うことは無いが、ムサシが居たから俺は持ち直せたのだ。

 

『それは何より。ですが今後も調子を崩されることがあればすぐにご連絡ください。私でなく、夕張さんや大和さんにでも構いませんので。私が言うのはお門違いかも知れませんが、あまり抱え込まないようお願いします』

「分かりました。何かあればすぐ相談させてもらいます」

 

 問題を一人で抱え込んで処理しようと奮闘するのは一見美談だが、社会に出ればその行為は時限爆弾の秒数を懐で進め続けるのと同義だ。いざ爆発した時、木っ端微塵になるのが本人だけならマシだがそうはならない。俺も正式に迎えてもらったのだから、ボスを始めとしたマネージャーさん方やVtuberの仲間たちともっと歩み寄っていかないとな……。

 

『お願いします。……それで本題なのですが』

 

 そうでした。実のところ今日の定時連絡は俺の話がメインではなく、ある一つの……炎上騒ぎ(・・・・)に対する打ち合わせなのだ。

 

『サクラフィ所属の大島キリさんの炎上……。そのきっかけになりました前回のPVPコラボについて、改めて現状の把握から始めましょう』

 

「了解です。……まず、大島さんとマ〇クラ G・I MODをメインにコラボ配信をした回数が三回。一回目の"争奪戦"、二回目の"スペルバトル"。そして……三回目の"SSランクハンター"。争奪戦配信では相互ファンと男女コラボの集客力で新規リスナーが増えました。そしてスペルバトル……ここで多分、大島さんのスタンスに対して一定のリスナーから不満が出ていたように思います」

 

 認識に齟齬が無いか確認するために一旦言葉を止めると、『続けてください』と促してきたのでそのまま口を開く。

 

「僕は配信で大島さんのファンを不快にさせないよう、一定の距離を保ってコラボしているつもりでした。それを……僕のファンは察してくれていたようです。対して大島さんはライバルとして距離を詰めてきていて……何と言いますか。僕の気遣いを大島さんが無下にしている、という構図が出来てしまっていたように思います」

 

 そこで一拍置き、先日の第三回配信を脳裏に思い浮かべながら話しかけた。

 

「そして三回目のコラボ……。この時、大島さんは"いい加減RP以外の時も仲良く話してほしい"と配信中に言いました。"暁ヒビキが男性Vとして色々注意してるのは分かるけど、元凶じゃないんだから堂々とすればいい"と」

 

『……悩ましいものですね』

 

 思わずと言ったように漏らすボスに苦笑して、一件の騒ぎの概要、その締めに入る。

 

「その時点でコメント欄は荒れ始めました。"何もわかってない"、"色々注意って発言がもうお察し"、"少なくともキリが口出すことじゃない"……主だったのはこんなところでした。大島さんもチャットがそんな流れになるのは当然初めてで、コラボそっちのけでチャットへの対応を開始。企画を続けられる状況だとは思えなかったので僕から配信中止を打診して、大島さんが応じた形になります。……終了までにまたいくつか失言があって、この動画の切り抜きをベースに燃え広がっているみたいです」

 

『私も同様に把握しています。しっかりと現状を理解してくださっているようで助かりました』

「他人事じゃないですからね……」

 

 個人的には大島さんの発言は嬉しいことなんだが、男性Vでやってきた身としては易々と受け入れられる言葉じゃなかったのも事実。しかし大島さんがコメントをガン無視してればここまで燃えることは無かっただろうな、というのが正直な感想だ。だって少なくとも俺がその場で受け入れることは無い提案で、大島さんの発言を不快に思うことも無いんだから。

 

 当てにするのもどうかと思うが"ライバー"諸君がチャットを誘導しようとしてくれていただろうしな。でもそれを大島さんに察しろというのは酷な話だ。だって男性V炎上騒動なんてそれこそ大島さんからしたら他人事なんだから。今までアイドル路線でしっかりポジションを築いて、炎上なんて起こさなかった彼女に荒れたコメ欄に対する満点対応なんて出来る訳ない。

 

『さて、この件に対してヒビキ君が。そしてVSがどういう姿勢で向き合うかと言うお話をしましょう。一番容易なのはノータッチを貫くことです。ヒビキ君の特定ファンと大島さんのファンが、大島さんの言動を巡って言い争っているのが焦点な訳ですが。大島さんのファンは彼女を擁護しているだけでヒビキ君に対して攻撃的な態度ではありません。つまり、向こうも大島さんの非を無意識に認めているんですね』

 

「自分にDMが飛んできたりもしてないので間違いないかと思います」

 

『ですので最低限SNSで一言フォローを入れておけば、こちらが何かしらの損害を被ることは無いと考えます。いかがですか?』

 

 確かに、炎上してる本人とその場にいただけの人間。後者にまで騒ぎの火消しを無理強いするリスナーは居なさそうだ。企業としてこの一件には深入りせずフェードアウトするのが無難ではある。

 

 けれど。

 

「……自分としては、完全に鎮火するまでフォローしたいと考えています。時間がある程度は解決してくれると思いますが、それだとどちらも火種が燻ったまま、ファン同士水面下で対立し続ける気がするんです。今後のコラボにも影響してくるでしょうし、今僕に攻撃的でないからと言って放置していれば、いずれ大島さんのファンがこちらのリスナーとのやり取りに耐えかねて矛先を向けてくる可能性は十分にあると思います。……どうでしょうか?」

 

『ふふっ、はい。ヒビキ君はそのように考えるんじゃないか、とは予想していました。そして仰る通りの流れになる確率は極めて高いでしょう。VSという箱で考えれば大島キリさん、サクラフィとの関りは必須ではありませんが、対立構図が出来るのは百害あって一利なしです』

 

「なので、僕と大島さんの間で直接的に諍いがあるのでは無いにせよ、それぞれのファンの代理という形で和解する必要があると思っています」

『……なるほど。そこまで考えているのであれは、具体的に大島さんとヒビキ君のファン。どちらもある程度納得する流れに騒動を誘導できる、そのような企画を練っていると期待して構いませんか?』

 

 試すような口調に変わったことを察して、俺はPCの前で姿勢を正した。今までは大島さんの配信枠で炎上騒動に居合わせた間接的被害者みたいな立ち位置だったが、俺が自分の意志で介入するなら間違いなく当事者になる。

 

 VSとしてはハイリスクローリターンな決断と言わざるを得ないだろう。これで得られるのはお互いのファン同士の和解であって、暁ヒビキと大島キリの話ですらないんだから。

 

 でも俺は……忘れられないんだ。あの時の大島さんの声が。

 

『放送事故……ど、どうしよう……!? ま、マネ―ジャーに連絡しないと……! あ、ご、ごめっ。ごめんね? ヒビキ……あ、アタシすぐに』

 

『大島さん、俺は大丈夫だから。通話切ったらお茶でも飲んで、落ち着いてから連絡したらいい。今のままじゃマネージャーさんとちゃんと話せないぞ』

 

『う、うん。あ、あり、ありがと。じゃぁ通話、切るから……ホント、本当に、ごめんなさい……ひっく、ぐず……』

 

 事務所と言う枠を超えて、異性であるということを気にもせずにコラボを申し出てくれた。そんな恩人のような彼女の、嗚咽が今も耳を離れない。

 

 界隈の事情的に、Vtuberとしてそこは意識すべきだという人は多いだろうけど、普通に考えて現状の方がおかしいのだ。男だから、女だから。同じコンテンツが好きなもの同士が、ただ楽しく遊ぶことが許されない状況が。

 

 大島さんに悪いところが無かったとは言えないかもしれない。でも間違いなく、大島さんが悪いということは無いのだ。

 そしてきっと、俺にも悪いところはあった。でも俺が悪いことなどないと、今では胸を張って言える。

 

「任せてください。他のスタッフの力も借りることになると思いますが、しっかり大島さんと。そのファンと僕のファン、誰もが納得できる企画配信をします」

 



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【男女Vコラボ裁判】暁ヒビキVS大島キリ【忍者を添えて~】

 

「……始まったでござるなー? ではこれより暁ヒビキ原告と、大島キリ被告による裁判を執り行うでござるー。あ、裁判と言っても、大和ムサシこと某を含めた三人しか居らぬのでぶっちゃけ言い争いするだけで候! よしなにー」

 

コメント

    :はじまったな

    :大丈夫かこれ

    :始まるまでハラハラしてたのに忍者のせいで気抜けたわw

 

    :テキトーで草

    :テキトーな草

    :だれうまww

 

 先日のPVPコラボの際に大島さんの発言によって起こった炎上。その火消として企画した裁判モドキが俺の枠で配信を開始した。

 

 配信の待機所ではしばらくコラボは控えたほうが良かったのでは、とか。裁判という字面はインパクトが強くて大島さんが可哀そうだとか。おそらく大島さんのファンだろうそのチャットに対して攻撃的な返しをする俺の視聴者とか。なかなかにキツイ内容が飛び交っていた。

 

 それがすべての理由じゃないけど、正直コメント欄のフォローをする余裕はないと思われるので今日は意識から外すことにする。この配信はいつもと毛色が違い過ぎるからな……色んな意味で。

 

「では被告人、大島キリ殿! 一言よろ」

「よろって……。ん、んん! えーと、サクラフィ所属、大島キリ、です。今日はよろしくお願いします……」

 

 いつもの「おはキリー」という挨拶が無いのは意図してか、あるいは無意識か。声色から後者だと思うんだが、彼女の内心を考えると胸が締め付けられる感覚に陥る。この企画配信は俺が考えたもので、その狙いを過不足なく大島さんに伝えたつもりだけども。言うなれば敵地(アウェー)悪役(ヒール)として放り込まれたんだからさもありなん、ってとこだ。

 

「では原告、企業勢史上最強男性Vtuberこと我が主! 暁ヒビキ殿! お言葉を頂戴したく」

「そんな原告にズッブズブにすり寄る裁判官います? ハイこんヒビキー。ヴァーチャルシップ二期生の暁ヒビキでーす。史上最強もなにも企業勢男性Vは俺とこの忍者だけでーす。真に受けないでくださーい」

 

 配信画面には左右に俺と大島さんの立ち絵が分かれており、中央上の裁判官席にバストアップのムサシが設置されている。俺の言葉を受けてくねくねと左右に揺れる忍者からは裁判長って役職から匂う威厳が一切感じられない。

 

「うぅむ、この裁判における意気込みなんぞ聞きたかったでござるが、挨拶だけとは消極的でござるな。まぁこの後ボコボコに殴り合うわけでござるからなぁ! 闘志を高めているでござるな……?」

「煽るんじゃねーよ! ちょっとお話しするだけだよ!」

 

コメント

    :イケボやめろやw

    :この忍者声作ると男か女かわからんなるわ

    :高めているでござるな(キリッ)じゃないんだよなぁ

    :実は女説、あると思います

 

    :オハナシ(意味深)

    :あ、詳しい内容は事務所でお話ししますねー

    :ヒェッ

 

「良し良し。場もいい感じに温まって来たゆえ、早速始めていくでござるよ。題して! 『女ってすぐ甘いこと言って誘ってくるくせにセクハラ冤罪かけるじゃんByヒビキVS(ヴァーサス)! 男だ女だ言ってないでもっとイチャコラしながらゲームコラボしようぜByキリ!』」

 

「ちげーよ! 曲解しすぎだろ!!」

「そんな言い方してないでしょ!!」

 

 台本にないことを言い出すムサシに思わず口を出すと、同じタイミングで大島さんも声を上げた。沈みがちだったようだが流石にこの内容は無視できなかったらしい。……もしや、ムサシは大島さんが本調子でないまま企画に入るとまずいと感じて、わざとああいう言い回しをしたんだろうか? しかし配信主である俺にも断らずやりやがるとは、汚いなさすが忍者きたない(褒め言葉)。

 

「えぇー? もとのタイトルではパンチに欠けると思うでござるが……致し方なし。では改めて! 『直結扱いで燃えたくねぇヒビキVSライバルゲーマーが欲しいキリ!』 ファイ!!」

 

「よし! 先行はもらうぜ! 俺のターン、ドロー! 俺は【直結扱いで燃えたくねぇヒビキ】を守備表示で召喚! さらにリバースカードを二枚セット! ターンエンドだ!!」

 

コメント

    :!?!?!?!?!?!?!?!?!?

    :なにこれwwww

    :え、すご

    :決闘モンスターズじゃねーか!!

 

    :守備表示で通常召喚だとぉ!?(一般モブ感)

    :裁判と書いてデュエルと読む。なるほどなぁ(?)

    :無駄に凝ってて草

    :ちゃんとカード表示されてるww

 

 思わず反応が気になってコメントをチラ見すると、ものすごい勢いで困惑と熱狂のチャットが流れていた。せやろな、デフォルメとは言えわざわざイラスト発注して、デッキ構成とかの流れもしっかり準備してるからな……。ほんとはもっと簡単な出来レース討論っぽくする予定だったのに、最初が肝心だからやれること全部やろうってボスが話を広げたのだ。

 

 ちなみにそれぞれの手札、つまり使えるカードはムサシがチャットツールで俺と大島さんに配っている。面白くなりそうな流れをヤツが読んで、カードで誘導するのだ。そう、つまりこれはムサシがゲームマスターを務める、裁判に見せかけた口論カードゲームなのだ! 意味が分からん? 俺だって分からん。

 

 モチーフがあるとは言えカードのテキストや独自ルールも組み上げた上で、事前に大島さんに説明してお試しプレイまでしてるのだ。絶対力の入れどころ間違えてるんだよなぁ……。

 

「え、えーっと……あ、アタシのターンドロー! アタシは【ライバルゲーマーが欲しいキリ】を攻撃表示で召喚! さらに装備魔法カード【そろそろ名前で呼びなさいよ!】を発動!! 攻撃力が上昇して、ヒビキの守備力を上回ったわ。バトルよ! キリでヒビキを攻撃!!」

 

「甘いぜ! 俺は罠カード【ガチ恋ファンが怖いから勘弁】を発動! その攻撃を無効にするぜ!」

「甘いのはそっちよ! 手札から速攻魔法カード【後輩のユラは名前で呼んでるじゃない!】を発動! 攻撃力を倍にしてもう一度攻撃するわ!!」

 

「まだまだぁ!! 罠カード【ユラちゃんは後輩だしファンだし!】を発動! ユラ・または後輩を含むカードの発動を無効にするぜ!!」

 

コメント

    :唐突に巻き込まれるユラたそ

    :これなんてZE○AL?

    :ちゃんとデュエルしてて草

    :いやちゃんとカードゲームすんなやww

 

「むぅ、アタシはこれでターンエンドよ。でもヒビキは守備は高いけど攻撃はゼロ。罠なんて必要ないわ!」

「俺のターン、ドロー! くっ、罠をバカにするヤツは罠に泣くんだぜ……俺はカードを二枚伏せてターンエンド!!」

 

「何も出来ないようね! アタシのターン、ドロー! さぁこのターンで決めるわよ! 魔法カード【アタシは仲良く遊びたいだけなのに!】を発動! ヒビキを強制的に攻撃表示に変更するわ!! バトルよ!」

 

「なにぃ!? ちぃっ、俺は【ネタにしてファンが不快にならないよう気をつけてんだぞ】を発動! その攻撃を無効にしてカードを一枚引くぜ!!」

「読めてたわ! 再び速攻魔法【こっちのファンにまで気を遣えなんて頼んでない!】を発動!! キリの攻撃力が半分になる代わりに、可能であれば相手に三回攻撃する! さぁ後二回、これで終わりよ!」

 

「かかったな!! 罠カード【そこはお互い気をつけようよ!】を発動! このターンヒビキとキリは戦闘によって破壊されることはないぜ!!」

「ふふっ、それだけだとバトルのダメージは通るわ! 言っておくけど、一回でも通ればアンタのライフはゼロになる! 罠で一回止めたとしてもこれでゲームオーバーよ!!」

 

「舐めるな!! さらに手札から【俺だってホントは仲良く遊びてぇよ!!】を墓地に送り、効果発動!! ヒビキの攻撃力はキリの攻撃力を加えた数値になるぜ! カードの処理手順を説明すると、ヒビキの攻撃力アップ! お互い破壊されない! キリの攻撃力が半減して二回の追加攻撃、となるぜ!!」

 

コメント

    :そんなとこまで再現すなww

    :ルールは一見複雑そうだけど複雑だぜ!!

    :どっかで聞いたような効果ばっかで草

 

    :一応オリジナル効果もあるとは言え、多少はね?

    :つーかどっちも攻撃と防御の数値が頭悪い

    :割れる=負けの設定なんでしょw

 

「そ、そのまま通れば負け……? こ、攻撃を中止するわ!!」

「無駄だ! 【こっちのファンにまで気を遣えなんて頼んでない!】の効果により、可能であれば攻撃を続けなければならない! 俺は攻撃そのものを無効にするカードは発動していないぜ! よってバトルは続行だ! 来い! キリぃぃいいいい!!」

「いっ、イヤァアアアアアア!!」

 

 てけてけてけてけっ、てりん♪ と耳触りの良いSEとともに、無駄に凝った装飾で表示されていた大島さんのライフポイントが溶けた。っつーか始まったときは気の毒になるくらいテンション低かったのに、ゲームとなったらいつも通り元気だったな大島さん。ムサシがコントロールしてるとは言え、一応勝てる可能性もあったし、やっぱゲームそのものが大好きなんだなぁ……。

 

「決着! 勝者は暁ヒビキ!! いやぁ流石でござったなぁ。どうでござるかヒビキ殿。勝敗の決め手になったのはなんでござろうか」

「視野を広く持って戦いに臨むことですかねぇ。【こっちのファンにまで気を遣えなんて頼んでない!】、特にこれは迂闊だったでしょう」

「ぐぬぬ……」

 

「なるほどでござるなぁ。さて悔しそうな大島殿はさておき、皆様お忘れかも知れんでござるがこれは裁判! 順にそれぞれの主張を振り返るでござるよ~」

 

コメント

    :あぁ裁判ね、覚えてたよ(デュエル)

    :裁判ってなんだっけ

    :発動したカードの名前を主張扱いされたらデュエリストもたまったもんじゃないよなw

 

「まずは【直結扱いで燃えたくねぇヒビキ】と【ライバルゲーマーが欲しいキリ】が出揃い、大島殿が【そろそろ名前で呼びなさいよ!】を発動。以下順に、

 【ガチ恋ファンが怖いから勘弁】

 【後輩のユラは名前で呼んでるじゃない!】

 【ユラちゃんは後輩だしファンだし!】

 【アタシは仲良く遊びたいだけなのに!】

 【ネタにしてファンが不快にならないよう気をつけてんだぞ】

 【こっちのファンにまで気を遣えなんて頼んでない!】

 【そこはお互い気をつけようよ!】、

 最後は【俺だってホントは仲良く遊びてぇよ!!】でフィニッシュでござる。熱い攻防でござったなぁ!!」

 

コメント

    :なるほどね

    :順番に並べられると分かりやすいな

    :もしやこの忍者優秀か?

 

「さてヒビキ殿の勝利、裁判的に言うと勝訴となったわけでござるが。大島殿に言いたいことはあるでござるか?」

 

「そうだな……大島さんの前のめりな攻撃に、俺も心打たれたよ。ちょっと考えなしというか、猪突猛進なとこはあったけど、仲良く遊びたいって思ってもらえてメチャクチャ嬉しかったんだ」

 

「……アタシも、こうして自分の気持ちをちゃんとカタチにしてみて。カードゲームっていう関係なさそうな視点から見直してみてね。ホント……考えが足りてなかったなって。それで、ヒビキはいつも考えてくれてたんだなぁって……うん。なんていうか……ありがとうって、思ったわ」

 

「いやぁ俺の考えすぎというか、チキンなとこばっか出てただけだと思うんだけどね! でもまぁ、偶然かもだけど決め手になった、【俺だってホントは仲良く遊びてぇよ!!】。これに尽きるんだよな。……実はカード名のパンチが弱いってこれもムサシが勝手に改変してるんだけど、口に出してしっくり来たよ。パズルのピースがハマったみたいにさ」

 

コメント

    :いい話だなぁ

    :泣ける;;

    :あれ、これってなんの配信だっけ?

    :そんなもん遊○王よ

    :だよな? よかった合ってたぁ

 

「だからまぁ……これで燃えたら甘んじて受け入れるわ。俺だって気軽に、仲良く殴り合いたいもん。コメ欄とか置いてけぼりでさ、好きなものを好き同士で、全力で戦いたいんだ。だから……もしかしたらまたトラブったりすることもあると思うけど。これからもよろしくな、キリ(・・)

 

「っ!! ……うん。うん……!! いろいろゴメン……これからも、よろしく。ヒビキ……!!」

 

コメント

    :キリちゃん泣かないで;;;;

    :さすがにがめんがみえn

    :男女Vでもてぇてぇってあるんやなって

    :ふたりとも本当にありがとう……ありがとう……

 

 これで終わりだ。企画立案からムサシとボスに何度も相談して、色んな人に協力してもらって、この企画を完成させた。この後は俺と大島さん……キリはミュートにして、今回の件に関する締めをムサシがするらしい。そのへんは当事者である俺とキリが口出ししないほうが円滑に収まるだろうって考えとのこと。今回も助けられたし、配信閉じたら改めてムサシにお礼を言わないとな……。ん? あれ……?

 

 通話ソフトをミュートにしただけのつもりだったのに、ボイスチャットルームから退出してる……いや。ルームから追放(キック)されてる……!? 思わず配信画面を見ると、目をパチクリさせて、口をパクパクさせているキリの姿が。同じく表示されている俺の立ち絵も似たような表情だ。どうやら二人してムサシに弾かれたらしい。な、なんなんだ!?

 

「さーて、裁判の締めに入るでござるよー。ちなみにヒビキ殿と大島殿にはボイスチャットから退出いただいたでござる。驚いたでござるかぁ? 某は裁判官、つまりこの場では最も権力が高いのでござる! ここからは某の独壇場でござるよ~w」

 

コメント

    :てぇてぇを返せーー!!

    :なにわろてんねん

    :殴りたい、この忍者

 

「やぁ男性Vと女性Vのコラボによる炎上。その和解。なんとも尊いワンシーンでござったなぁ。これで一件落着……とはならんでござるよなぁ?」

 

 ヒヤリ、と。ムサシの声色に肝を冷やした。言わんとすることは分かるし、それはこの配信で少しずつ小出しにしてきたつもりだ。つまり……俺と大島さんではない、炎上騒ぎの当事者へのメッセージ。リスナーも他人事ではないのだ、ということを。それをムサシはハッキリと口にしようとしている。

 

 止めるべきか? この配信の主は俺だ。俺が配信を切っちまえばムサシの行動を阻止できる。だが……これは俺に内緒で、多分ムサシとボスが企てた計画だ。止めることでマズイことになる可能性もある。どうしたらいい……?

 

「嫌でござるなぁヒビキ殿。そう不安そうな顔しないで欲しいでござるよ。これは拙者という口を利用した、ヴァーチャルシップの(・・・・・・・・・・)独り言でござるゆえ」

 

 ……してやられたな。すぐに言葉を続けなかったのは、立ち絵だけとは言え俺のリアクションを引き出して、自分にヘイトを集めるための作戦だったんだ。これはもう、止めることが出来ない。ムサシは俺が不安そうにしている、と明言してしまった。そのうえで俺が配信を切ってしまえば、ムサシが俺に不都合なことを言おうとしている、という疑惑が浮いてしまう。

 

 その内容というのはリスナー個々人の想像力に委ねられてしまう以上、ここで止めると逆に不都合が生まれる。この配信は俺とキリの問題をキレイに精算するのが目的なので、少しでもわだかまりが残ると困るのだ。今回の件に直接関係のない、ムサシの言葉であっても、だ。

 

「……はぁ~……頼むぞムサシ……」

「拙者にお任せあれ」

 

 聞こえていないはずの独白に返事をし、ムサシは再び口を開いた。

 

「さてさて、ヒビキ殿と大島殿。裁判と銘打った此度の一件、実は登場人物がまだ居るのはおわかりか? 拙者では無いでござるよー……そう! 画面の前のキミだァ!!」

 

 道化のようにわざとらしく、流れるようにムサシの舌は回る。

 

「そもそもヒビキ殿が女性ライバーとのコラボに気を遣っている理由。これは皆々様おわかりでござるな? 知らぬのであればそれで良いでござる。男性Vを色眼鏡で見ていないということは、大島殿とのコラボに目くじら立てているワケがないでござるゆえ」

 

 そこで一息間を作った。意図はこれからの話し相手に対してだろう。つまりV界隈において、暁ヒビキにとあるフィルターがかかっていることを知っているリスナーに。

 

「そんなヒビキ殿にPVP目的に近づいた女性ライバー、大島殿。ヒビキ殿は大島殿のファンを不快にさせないように注意していた。ワカル。大島殿は、それで自分を爆弾のように、丁寧に慎重に扱うヒビキ殿に不満があった。まぁワカル。勝負に集中して欲しいでござろうからな」

 

 実際は、キリの方には単に仲良くゲームしたいという意図があったろうが、これは除外してるんだろう。ちょっとした隙も見せたくないという考えが読める。

 

「しかし分からないヤツが居るでござるなぁ? 何故かここで、大島殿に攻撃する輩が現れる。ヒビキ殿が気を遣ってるのだから、遣われてる側の大島殿ももっとリスナーに配慮しろ、そんな斜め下のコメントをするリスナーが居たのでござる。誤解無いように申すが、ファンではなくリスナー(・・・・・・・・・・・)、でござるよ?」

 

 胃が痛い……さすがに今はコメントを追いたくない。少なくとも、ムサシの言い分が終わり、配信を閉じてヤツの申し開きを聞くまでは。

 

「これはヒビキ殿と大島殿のお話でござるよ。仲良くなるも、合わなくてコラボしなくなるも。お二人の間で培われるべき関係性でござる。配信内容も然り。しかしなぁ、ここで不満を上げる連中が出るのでござるよ。配信者を思い通りに動かそうとし、自分の思い通りにならなければ駄々をこねるリスナーが。これは由々しきことでござるよ」

 

 俺と同じく成り行きを見守るしか無いキリの表情も、心なしか青ざめて見えるような気がする。今この時、俺と彼女は過去最大級のシンクロを見せているだろう。つまり、はよ終われ、である。

 

「それはもうファンじゃなくて荒らしでござろう? 無視すればいいじゃん、なーんて開き直る輩も同様でござる。配信者というのは、ファンを大事にしているでござる。コメントが励みになり、至らないところを注意されれば生真面目に改善するのでござるよ。荒らしだろうが大切なファンの一意見として、真摯に受け止めるのでござる。拙者は成り立てであるがゆえに、こうして客観的に言えるでござるが。お二人の苦悩と言ったら某に想像できるものではないでござるよ」

 

 …………これは、怒るに怒れない、よなぁ……。キリもきっと、救われたような思いじゃないだろうか。

 

「大島殿がヒビキ殿関連で炎上した。裁判配信で和解した。めでたしめでたし! で終わらないで欲しいのでござる。火種を作るのは配信者であるのかも知れぬが、燃やしているのは必ずしも当人では無いということを覚えていてほしいのでござる。あぁ、何を言われても燃やす卍嵐卍には言ってないでござるよ? 自分はこの人のファン! と自信を持って言えるライバーが居るのなら、心に止めておいて欲しいでござるよ」

 

 穏やかな声音で、ムサシはそう締めくくった。ヒヤヒヤしたが、最終的には穏便に済ませてくれたように思う。俺では絶対に言えないようなことをハッキリと言ってくれた。それでも漏らしたい不満はあるが、それ以上に感謝を伝えようと、そう思うんだ。

 

「あ、最後に一つ! 実はここが最重要項目なのでござるが、よーく聞いて欲しいでござるよ!」

 

 ん? なんだ?

 

「これは今回の件を憂いてくれたお二方のファンに対してでも、成り行きを見守っていた視聴者に対してでもなく、いわゆるアンチに対してでござる! ヴァーチャルシップはこのたび法務部の設置に動いているでござる!」

 

 なんだそれ初耳だぞ!?

 

「例えば現在、切り抜き動画、という文化があるでござるが。これはいわゆる二次創作と解釈できるでござる。どういうことかと言えば、ライバーの配信を複製し、アレンジして投稿している、ということでござる」

 

 いかん、穏便に終わりそうだと思っていたのに雲行きが怪しくなってきた……。しかもVSのってことは、サクラフィ所属のキリには一切関係無いじゃねぇか! いやライバーの事務所として大々的に法務部設置に乗り出したってのは、一人のライバーとして無関係ではないだろうけども!

 

「こんな話聞いたことないでござるか? "二次創作は著作権侵害だけど、親告罪だから黙認されている"というアレでござる。詳細はともかく、切り抜き動画も訴えられれば著作権侵害になるのでござるよ。あぁ勘違いしないでほしいのは、切り抜き動画は運営側としては推奨しているでござるよ? 宣伝にもなるし、忙しい人にも知ってもらいやすくなるでござるからな!」

 

 段々と読めてきたぞ、ボスが……というかVSが。今回の件を利用して持っていきたい着地点が。

 

「つまり、運営やライバーの益になる二次創作は大歓迎ということである。ん? あれれぇ? そう考えると、運営にもライバーにも不利益、というか実害が出ている切り抜きとかござらんかぁ?」

 

 そう。俺とキリの、今回の発端となったPVP配信。もちろんと言ってしまうのは悲しいが、アーカイブが残っていないにも関わらず切り抜き動画が存在し、悪質な編集や改竄でもって炎上を煽っているのだ。

 

「ヴァーチャルシップ運営は今回の件、決して軽くは見ていないでござる。この一件で本格的にライバーの活動を支援すべく、色々と動いてるで候。法務部のこともその一環でござるな! ちなみに言っておくと、訴える気もないのに"訴えるぞ!"というのは脅迫罪となる可能性があり、それはVS側もしっかり把握しているでござる。つまりぃ? こちら側は悪質なアンチに対してぇ? いい加減出るとこ出るぞ、と言うことでござる! あ、ここ切り抜き大歓迎でござるよ~厄介リスナーに少しでも伝わると有り難いゆえ!! ではお二人に戻っていただき、お別れの言葉を賜るでござるよ~」

 

 通話ソフトにチャットルームへの招待が来ていたが、そこで再入室してテンプレみたいな終わりの挨拶をし、配信を閉じた。俺もキリも明らかに疲れた声だったが。最後まで元気いっぱいなムサシに大した文句は言えないのであった。

 

「これでもっと、あとに続くライバーがやりやすい環境になると良いでござるなぁ」

 

 自分のチャンネルにこれから湧くだろうアンチを歯牙にもかけず、そんな言葉を聞いちゃったらなぁ。

 



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SADS(サッズ)ストリーマーパーティ:1

 時間が経つのは早いもので、ムサシを交えたキリとの裁判もどきカードゲーム配信から一ヶ月が経過した。VSが新設した法務部の活躍により炎上を煽るような悪質な切り抜き、SNSでの誹謗中傷は劇的に減ったと言える。これはなにも法的措置を匂わせたことによる牽制の結果ではなく、実際に訴訟を起こしてこれに勝利したという判例によるものだ。

 

 ちなみに内容としては悪意ある切り抜き動画に対する著作権侵害、及びSNSによる名誉毀損。法務部が名実ともに動き出す以前から訴訟の準備とSNSユーザーの開示請求は行っていたってことで迅速にリアル裁判が行われ、その結果が大々的に公表されることになった。

 

 結果的に今までは過激なアンチや炎上を煽りたいだけの愉快犯に対して泣き寝入りするしかなかったVtuberを初めとした配信者が比較的活動しやすくなった訳である。もちろん男性Vである俺も含めて。

 

 そんな俺は今まで輪に加われなかったヴァーチャルシップという箱の先輩方、そして後輩たちと今更ながら親交を深めるべく活動しようと思っていたんだが……。

 

 なぜかほとんどプレイ経験の無いFPSというゲームジャンルの、その戦場に放り込まれていた。

 

『ッしゃあヒビキん! しっかりついてこいやァ!!』

『遅れないでくださいよー』

「う、うっす! ついていきます……!」

 

 慣れない一人称視点キャラでなんとか先を行く二人を追う。先頭を突っ走るのは如月サツキ先輩で、VS一期生の一人だ。黒セーラーに黒髪パッツンのロングヘアー美少女。自他共に認める黙ってれば清楚系Vtuberであり、普段からFPS配信をやっていてこのゲームのハイランカーらしい。

 

 そしてもう一人は外部の配信者(ストリーマー)で、同じくハイランカーのEWCE(エウス)さん。こちらは普通に顔出し配信している方であり、FPSつよつよ女性配信者二名にド素人俺というのがチーム構成であった。余談だが赤い長髪をカチューシャで後ろに流したEWCE(エウス)さんはそのプレイからは想像し難い整った容姿をしており、外見に惹かれたファンも少なくないとかなんとか。

 

 そして本題のこのゲーム……バトルロワイヤルFPS(シューティング)で現在最も流行っているらしく、名前をSpecialADS。通称SADS(サッズ)と言った。ハイランカー二人に囲まれ、数日前に歩き方から覚えたばかりの初心者俺が不思議なことにチームを組んでいるのだ。なんでこうなったし……。

 

『うっしラスト一部隊! 優勝(チャンポン)出来(食え)るでェ!! オラ出て来いや雑魚がぁ! ヒャッハァー!!』

 

『サツキ速すぎッスよ。ヒビキさん索敵(スキャン)入れて』

「前に入れます……!」

 

 このゲームは3人組の20チーム、計60人が広大なMAPに降り立って最後の1チームになるまで銃をバカスカ撃ち合うモノだ。必ずアタッカー・ディフェンダー・サポーターを各1名選出し、それぞれ多数あるスキルから必要なものを装備して出撃する。

 

 如月先輩がアタッカー、EWCE(エウス)さんがディフェンダー、そして俺がサポーター。チームにおける俺の役割は文字通り戦闘支援で、EWCE(エウス)さんに指示された通り索敵能力を使ったり、被弾した味方の回復を補助したり。瓦解したチームを立て直す役割を担ったりするポジション。

 

「っ! 索敵(スキャン)引っかかりました! 3人(フルパ)! 正面ドアにトラップ! 窓から手榴弾(グレ)入れますか!?」

 

『おうッ! あるだけ放っちめェ!!』

『ドア横に遮蔽物(シールド)張るんでヤバくなったら引いて。ヒビキさん後ろ回れます?』

 

「はいっ、フォーカス貰い(囮になり)ます!!」

 

『ないすー』

『骨は拾ったるでなァがっはっは!!』

 

 二人に遅れないよう、そして足を引っ張らないようになんとか立ち回る。やり取り通り如月先輩が突入する前にグレネードをいくつも放り込み、建物に引きこもっていたチームが窓から引いたところを背後から強襲した。

 

「死にました!!」

『ナイス死にました報告ー!?』

 

 銃を取り出しもせずにグレネードを抱えて建物に飛び込めば、俺は敵にほんの少しダメージを与えただけで脱落してしまう。しかしその瞬間、装備していたスキルの一つが発動。俺の死体から煙が立ち上り、敵の視界を奪った。当然この手の能力は味方には影響しないご都合主義なモノで、正面から如月先輩が意気揚々と突入する。

 

 ちなみに死体にならないと発動しないクソスキル故か、有り難くも周囲の敵トラップも軒並み解除してくれるオマケ付きなので安心だ。このチームは俺が最初にくたばる前提の構成なのである。

 

『ハイお疲れェ! EWCE(エウス)来い一人コロシ(持ってっ)た! ディフェンダー(D)から沈める!!』

ガンシールド(ガンシ)で前出ます。サツキ後ろからよろッス』

 

 侵入とほぼ同時にショットガンにより敵のアタッカーをあっと言う間に銃殺。同数かつ優位な状況に足並みをそろえ、如月先輩とEWCE(エウス)さんは同じ敵に集中砲火を始める。

 

 このゲーム、役割ごとに所持できる銃に制限があるんだが、アタッカーとディフェンダーのこちらと、ディフェンダーとサポーターが残っている敵チームの2対2では火力に分があるのはこちらだ。単純にその差で決まるほど甘くはないけど、如月先輩もEWCE(エウス)さんもハイランカー。キャラクターコントロール(キャラコン)は文字通り化け物だった。

 

『オラオラオラァッ! ラスワンッ……っしゃぁああああああナイファイッ!! フゥーーっ↑!!』

『さっすが全部当てますねー。ナイス優勝(チャンポン)ー』

「お疲れ様っしたー……ふぅ」

 

 当然のように数秒で敵の体力(ヘルス)を削りきった二人のおかげで、無事にその戦闘(マッチ)でチャンピオンになることが出来た。最後のチームとの接敵まで生存出来たし、俺もなんとか足は引っ張らずに済んだんじゃなかろうか?

 

『いやぁナイス索敵(スキャン)っ。ナイス(デコイ)! こんなら本番も総合一位取れんでェ!!』

 

『……まぁ、悪くはないッスね。思ったより動けてるし用語も通じるし。でももうちょいダメージ出して欲しいッスねぇ』

 

「す、すんません。練習しときます……!」

『ふっ、冗談っすよ。バトロワ……ってかFPS初心者にしては出来すぎなくらいッスから。明日も頼りにしますんでよろです』

 

『オウあんまうちの後輩イジメんなよ~EWCE(エウス)ぅ。ヒビキんもマジで本気にすんなぁ? 典型的なツンデレでっせ、ツ・ン・デ・レ』

 

「えっ、あ、う、うっす。あざます……!」

『ざけんな下さいよサツキ。ってかなんスかさっきの脳筋特攻。索敵(スキャン)遮蔽物(シールド)もマジギリだったんスけど?』

 

『信頼の証ってヤツだって! 現に全部ガッチリハマってチャンポン食えたし? いやぁ仕上がってんなぁ!!』

 

 Vtuber二人に顔出し配信者と言う組み合わせなので立ち絵やらの映像は画面に出してないけど、つり上がった眉で強気に満面の笑みを浮かべる如月先輩の表情が勝手に脳内再生された。初見で黒セーラー黒髪パッツン美少女が、きゃぴきゃぴした高めの可愛い声で暴言吐きながら敵屠ってるFPS配信見た時は驚いたけど、今では慣れたものだ。

 

 さて如月先輩の口から出た本番という言葉。その意味はゲーム配信者を対象にしたSADS(サッズ)カジュアル大会が開催されることを指しており、その開催日が翌日になるのだ。

 

『んじゃあ今日はこの辺にしときますかぁ。明日もホンマよろしゅうお二人さんっ! おやすぅ~ん』

『あぃ、自分も落ちます。お疲れッスー』

「あっ、色々教えてもらってありがとうございました! お疲れ様でしたー!!」

 

 実は最後の一戦の前に練習配信は閉じており、俺がもう一戦だけとお願いして練習に付き合ってもらった。ここ数日個人で出来る限り練習をしたり配信動画を見たりしたけど、チーム戦となるこのゲームではどれだけ仲間と連携できるかが肝だ。ダメ押しにと頼んだ最後の戦闘(マッチ)で優勝できたことは確かに俺の中で自信に繋がった……と、思いたい。

 

『気にすんなて! 参加自体こっちから頼んだことやしなっ。こっから無理に練習せんと、ゆっくり休むんやでヒビキん~? んじゃっ! 今度こそホンマにおつ~』

 

『自分も最後に良い調整出来たんでだいじょぶッス。そんじゃ』

 

 俺の言葉にそれぞれ返して通話を切った二人に、俺は長く息を吐きだした。明日行われるSADS(サッズ)ストリーマーパーティ。これに参加する初心者は俺一人だけであり、また男性Vtuberというのも俺のみだ。

 

「どうなるんやろか……考えてもしゃーないし、寝るか」

 

 ここ数日で如月先輩から移った適当にも程がある関西弁もどきを呟き、冴える目を無理やり閉じてベッドに横になる。

 

 しかし……なんだろう。俺が初心者で相手がハイランカーということもあり、プレッシャーというか緊張が抜けないままここまで来てしまった気がする。如月先輩に話しかけられた時とかメチャクチャどもったしな。

 

 思い出して顔が熱くなってきたので無理やり目を閉じ、ゲームで求められる動きのイメトレなんぞしながら寝ようと試みる。それなりに長い時間悶々としつつ、俺は大会の朝を待った。

 



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SADS(サッズ)ストリーマーパーティ:2

SADS(サッズ)というFPSの大会に出場していただけませんか?』

「えっ、FPSですか?」

 

 事の発端はボスからのそんな連絡だった。バトロワFPSとしては初の試みとなるカジュアル大会らしく、配信サイトにチャンネルを持っているストリーマーであること以外には参加資格が要らない気軽なモノだとか。

 

 もちろんこの大会のためにチャンネルを作ったりと言った参加者で溢れても困るので、もともとチャンネルを開設していて一定以上の登録者が居り、ある程度の実力を持っている配信者をリーダーとして各々チームメンバーを募るという形式が取られたらしい。

 

『現在各チームがメンバーを募集している段階ですが、その中の1チームがヒビキくんを指名しているのです』

「えぇ……? 僕FPSほとんど触ったこと無いんですけど……」

 

 カジュアル大会とは言え初心者が参加するなんてハードルが高すぎる。なんで俺なんかを指名したんだろうか? そう質問すればボス曰く、チームは3人編成になるが実力のある人間が1チームに固まって無双しても白けるだけなので、編成メンバーには参加コストが振られており、その上限コストを超えてはならないらしい。チーム全体の実力をある程度均等にするために。

 

 編成コストは15。うち俺以外の二人がそれぞれコスト7になっており、残っているコストは1。コスト1に収まる人間がどういう実力なのかと言われれば、それこそ俺のような初心者に限られると言うことだそうな。

 

 普通に考えて、やったことのないゲームの大会に参加したい人間は居ない。FPSともなれば尚更だろう。そしてこの大会に置ける一人あたりの平均コストは5で、参加を表明しているプレイヤー中最低コストのストリーマーはコスト3。

 

 比較する数値が小さいから直感的に分かりづらいけど、コスト1・3・5・7の人間をRPGのレベルに例えると1・50・70・100にざっくり当てはめられる。

 

 コスト5(レベル70)のプレイヤーはコスト7(レベル100)のプレイヤーに2on1でなら勝てるという塩梅だ。コスト3(レベル50)がコスト5(レベル70)に対してもしかり。だがコスト1がどう頑張ろうと上に勝てっこない。

 

 SADS(サッズ)というゲームのランクを基準としたコストとはそういうものだ。つまり俺を指名したチームは完全に実力を度外視し、ようは数合わせ要員を探しているんだろうと予想した。そこまでは理解できたけど、なんで俺を名指ししたのかは全く想像出来なかった。

 

「初心者でも構わない……というか初心者を探しているのは分かりました。でもなんで僕なんでしょうか?」

 

『実は、一期生の如月サツキさんがメンバーの一人なのです』

「如月サツキって……えぇっ!?」

 

 寝耳に水とはこのことだ。確かに如月先輩がFPS配信をしてることは前から知ってる。でもまさか、参加する大会に俺を指名してくるなんて……! 悲しいことに当然ながら、同じ箱にも関わらず俺と如月先輩には一切の接点が無い。本当にVS加入時の挨拶くらいなもんだ。

 

『如月さんの人柄はご存知でしょう? 彼女は事務所のライバー全員と仲良くしたいと考えています。しかし今までは状況がヒビキくんとの接触を許してくれませんでした。なので先月の一件と今回の大会はベストタイミングだったのでしょう。私共としても、ヒビキくんには是非参加していただきたいと考えています』

 

「如月先輩の考えはなんとなく分かりますけど……事務所としても、というのはどういうことですか?」

 

 そこでコホンと一つ咳をして、ボスは神妙な様子で口を開いた。

 

『良いですかヒビキくん、配信活動というのは率直に言って、視聴者という名のパイの奪い合いなのです。ですがその中でもVtuberはまだまだ狭い市場であり、共存しなければ市場そのものが危うい状況にあります。VSが男性Vtuberグループを作るためにヒビキくんを採用したのも、界隈にほとんど存在しない女性ファンを取り込むことで市場を広げるという目的があったからです』

 

「それは、理解しています」

 

 結果を出せているかは不安なところだが、正直最近に限って言えば女性ファンは増加傾向にある。……いやもっと具体的に言えばムサシがデビューしてからになるが。特定層のお姉様方は俺とムサシの間になんらかのてぇてぇを見出しているらしい。

 

『このSADS(サッズ)大会は最も新規視聴者層獲得に向いているイベントと言えるでしょう。参加者は配信をしているという共通点こそありますが、その活動内容は多岐にわたります。中には普段、ストリートピアノの演奏動画を投稿しているような、ゲーム配信者とはイメージのかけ離れた参加者も存在するほどですから』

 

「……なるほど」

 

 つまりSADS(サッズ)が人気すぎてゲーム配信なんてしないような人たちもたくさん集まる大会ということだ。それは視聴者層があるコンテンツのファンに偏らないことを意味する。極端に言えば、ネット配信ではなく地上波でTV放映するくらいの注目を集めるということだ。……いや流石に言いすぎかも知れないけど、ニュアンスとしては似たようなものだろう。

 

 そこに男性Vtuberという希少種がほぼ未プレイという珍獣も同然の状態で出場し、もし良い戦績を残せたりなんかしたらVS的にはこれ以上無い宣伝になるだろう。

 

「了解しました。期待に応えられるようがんばります……!」

 

『ふふ、そう言っていただけると思っていました。ですが、あまり気負わないで下さい。私も少し触ったことがありますが、FPSは慣れるまでに相当時間とセンスが必要なゲームです。今回のお願いが無茶なことだとは承知しているんですよ。ヒビキくんは如月さんと、可能な限り大会を楽しんでいただければ結構ですので』

 

 というのが一連の会話だったんだが、それを真に受けて本当に右も左も分からないまま参加するなんてアホの所業だ。ボスが心にもないことを言ったとは思わないけど、最低限すべき努力ってものがあるだろうしな。この話をもらってからメンバーの二人と初めて顔合わせをする前に、俺は二人の配信アーカイブやら初心者指南動画を漁って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まぁ……居ないよりはマシっすね』

「ありがとうございます……!」

 

『なー!? サツキさんの後輩はすごいねんぞ!!』

 

 初の顔合わせ&練習配信をそれぞれ閉じてからは、チームメンバーのEWCE(エウス)さんからそんな感想をもらえた。

 

 ちなみに配信前に繋いだ通話、初めて言われた言葉は『とりあえず邪魔だけはしないで下さい。自分とサツキが片付けるんで、銃とかも拾わないでいいッス。つか距離開けてついて来て適当に隠れてるだけで良いッス』だった。

 

 如月先輩のフォローによればEWCE(エウス)さんはこの大会でどうしても優勝したいらしく、そのために出来るだけ実力の高いメンバーと組みたかったようだ。でも残り8コストを埋められるメンバーに恵まれず、唯一関わりがあったVtuberの如月先輩に声をかけたらしい。

 

 アタッカー・ディフェンダー・サポーターそれぞれに求められる役割が明確なゲームなので、本当はコスト4の人を二人用意したかったらしく、如月先輩を頼ったのは最後の手段だったらしい。それはイコール、残りの一人を最初から戦力に数えない構成になってしまうからだ。

 

 なもんでEWCE(エウス)さんはもとよりコスト1の俺に何も求めてなかったのである。むしろマップ内にランダムで落ちている限られた物資を俺に拾われると迷惑だから走る・隠れる以外のことはするなとまで言われていた。

 

 そんな中でEWCE(エウス)さんの配信で勉強した、彼女のプレイスタイルやチームメイトに求める動き。予め予習していたそれらの知識や個人練習の成果を駆使して食らいつき、辛うじて評価してもらえたという経緯だ。二人が絶対拾わないことが分かってる武器とかは持ってても問題ないし、戦闘が始まったら二人の足元に回復アイテムをバラ撒くだけでも最低限邪魔にはならないだろ、って考えたのだ。アイテムの所持枠は決まってるので荷物運びでも居るのと居ないのでは雲泥の差だろう。

 

『ヒビキんはぜーったいメチャクチャ予習してくるタイプだって分かってたんでねェ! どや、これ以上のコスト1なんておらんかったやろ?』

 

『……認めるにやぶさかじゃないッスけど。下手に撃ち合おうとかしないで良いんで、せめてFPS用語覚えてきて下さい。指示(オーダー)通じないんじゃお話にならないッスよ』

 

「分かりました! 次の練習までに覚えてきます!!」

 

『ハッハーやったやんヒビキん? 最初なんもすなー()うてたのにさせる気マンマンやで! 明日からコキ使われっから覚悟しときー?』

 

「えっ、あっその……光栄ッス!!」

 

『……んー、もうちょい肩の力抜いて欲しい感あるけどなぁ。まぁ初心者っつープレッシャーあると思うけど、マージで気楽にやれやー? なんせサツキさんが付いとるからなァ!!』

 

『そこは同意ッスね。ヒビキさんは分かんないでしょうけど、コスト7とコスト6のプレイヤー間に撃ち合い上の違いはほぼありません。でもコスト7の人間は全部のチーム構成とスキル内容を実現レベルで把握してるって前提があるんで。対面した敵の編成で弱点割り出して詰めるってことが出来るんスよ、しかも他チームにはほとんど居ない。なんでまぁ、その時その時の指示にさえ従ってくれれば何の問題も無いッス。難しいこと頼むつもりもサラサラ無いんで』

 

『随分お喋りやん、上機嫌みたいやなァEWCE(エウス)ゥ。ヒビキん、コイツがべらべら喋りだしたらウキウキな証拠やで覚えとき?』

 

『うっさいド(タマ)ぶち抜きますよ』

『おぅやってみろやァ。訓練場行くかアーン?』

 

『上等ッス二本先取(BO3)ッスからね』

「あっ、じゃあ俺も(物資)漁る練習だけしときます」

 

 そんなこんな顔合わせ配信とその後の練習も悪くない雰囲気で終わり。日を重ねるにつれてチームにとって最適な動きを割り出し、その精度を高めてきたのである。

 

 最初はボスの期待に応えるため、そしてメンバーの二人に迷惑にならないようにというモチベーションで練習に励んでいたけど、大会前日には違う思いが芽生えていた。

 

 勝ちたい。

 

 ただただそれに尽きた。理由は色々ある。

 

 初心者が大会に出るらしいと興味本位で練習配信を覗きに来た視聴者が殊の外多かったこと。判官贔屓って言葉があるけど、FPS初心者が少なからずガチ勢も入り交ざる大会で好成績を残すことを期待してくれているらしい。応援してくれる人たちにイイとこ見せたいってのが一つ。

 

 他にも、数いる後輩から俺をメンバーに推薦してくれた如月先輩への恩に報いたいとか。せっかく練習を重ねてきたんだから、その努力を結果に残したいとか。探してみればいくつも出てくるけど、大きな理由は練習最終日。

 

 それなりに心を許してくれたのか、練習配信を終えてからEWCE(エウス)さんが語ってくれた優勝したい理由に深く感じ入ってしまったからだ。

 

『ヒビキさん、女のプロゲーマーってどう思います?』

「えっ? いや……単純に凄いなって思いますけど。絶対俺には出来ないんで」

 

『……ま、聞き方が悪かったッスかね。プロゲーマーって、女性ってだけでメッチャ下に見られるんス。数居ないんスけど、少なくとも自分や友達はそうだったんで。勝ったら油断してたとか言われて、負けたら女性に負ける訳にはいかないとかナメたこと言われて。これはマシな方で、そもそも女がゲームばっかやってんじゃねーとか生意気だとか』

 

「それは……なんというか、支離滅裂ですね」

『そッスね。でも言ってる側は自分が正しいと思い込んでるんでね、女のプロゲーマーが出しゃばってるのが腹立つらしいんス。……それが実力のない連中だけならともかく、そんな輩がプロゲーマーの中にも居る。ぶっちゃけ別のチームにも居るんス』

 

「……だから優勝したいんですか? その人達に勝ちたいから」

 

『無いとは言わないッス。でもソレ以上にこの大会は最高の機会なんスよ。女性プレイヤーはこのチームにしか居ないし、混じってる男はド素人。しかもバトロワゲーは運に左右される前提のゲームなんで、運が悪かったはマジで大前提の言い訳なんスよ。逆に言えば明らかにツイてた(・・・・)チームが撃ち負けたら絶対に言い訳が利かない。相手の方が強かった以外の理由がない』

 

「なるほどッス」

 

『……あれ、バカにしてます?』

「いや違いますよ! ちょっと移っちゃっただけですって!!」

 

『……まぁいいけど。それに女性プロプレイヤーってのは数がメッチャ少ないんでみんなSNSなんかで繋がってるし、応援しあってるんッス。ゲームジャンルが違っても。自分が結果を残すことで、彼女たちに噛み付くバカどもも減るかも知れないッスから。だから……絶対、優勝したい。いや、するッス。負けた奴らに見せつけてやりたいんスよ。勝負で勝った負けたに性別なんて関係ない。ただ強いヤツが弱いヤツに勝つんだって、そんな当たり前のことを』

 

 素直にカッコいいと思った。それにEWCE(エウス)さんは加えて言った。負けたことを運が悪かったと言い訳するのはまだ許せる。けれど、勝った理由を相手が女性だったからだと言われるのが何より屈辱だったと。EWCE(エウス)というプレイヤー本人ではなく、女性プレイヤーというフィルターを通して見られていたということが堪らなく悔しかったのだと。

 

 ただ自分が弱かったから負けたのだと、勝者を相手に言えなかったことが心底腹立たしかったと。敗者が何を言おうが負け犬の遠吠え以下。なら勝って勝って勝ちまくって、EWCE(エウス)というプレイヤーがただ強いと証明するのだと、彼女はそう誓ったのだ。志を同じくする友人たちに。

 

 そんな話を聞いて黙っていられる訳もない。俺自身に芽生えたどうしようもない、勝ちたいという衝動。それを発散すべく、配信外だと言うのに二人に頼み込んでもう一戦付き合ってもらったのだ。

 

『明日も頼りにしますんでよろです』

 

 景気よくチャンピオンとなれたそのマッチのあと、EWCE(エウス)さんは言ってくれた。頼りにしていると、数合わせ同然に考えていたであろう俺に対して。

 

 シンパシーを感じてしまったのだ。男性Vだからと周囲に配慮し、あるいは警戒して活動してきた今までの自分に、EWCE(エウス)さんが重なってしまった。俺は先月の一件で良い方向へ追い風が吹いてるけど、EWCE(エウス)さんはそのきっかけを掴むために奮闘している最中。そして今回の大会は大きなチャンスなのだ。

 

 勝ちたい。今後畑が違うEWCE(エウス)さんと関わる機会はほとんどないだろう。だからこそ、今回限りのチャンスを活かす助けになりたい……!

 

 

「…………もう朝か」

 

 大会当日、いつもどおりの時間に目を覚ます。普段に比べれば睡眠時間は足りていないと言っていい。

 

 でも、調子は悪くない。いや、最高と言っても良いかも知れない。夢の中で大会に参加するまでの流れが頭を過り、二人と練習して理想の立ち回りを追求する過程を追想して、勝利をつかみ取りたいという衝動の発端を想起した。

 

「……うし! 練習すっかぁ!!」

 

 大会開始まで11時間。点呼も含めれば10時間だ。風呂に入って手早く朝食を取り、もともと準備していた軽食や飲み物をPCの周辺に揃える。ここから大会が終わるまで、トイレに行く以外の理由で俺が動くことは無いだろう。

 

 この瞬間、俺のVtuber人生で過去最長の練習配信が始まったのだ。

 



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SADS(サッズ)ストリーマーパーティ:3

 20チーム中20位。SADS(サッズ)ストリーマーパーティが始まり全5試合のうち3試合を終えて、それが俺たちの順位だった。配信事故にならないよう気をつけて今まで保たせて来たけど現在は30分のインターバル中で、他のチームは分からないが俺と如月先輩、そしてEWCE(エウス)さんは一旦配信を切っていた。

 

 チーム名は如月先輩が知らぬ間に提出していた【EWCE(エウス)と愉快な仲間たち】。しかし現状、通話の雰囲気は愉快とはかけ離れている。

 

『ん~まぁ……しゃーなしかなぁ』

 

 黒セーラーに黒髪パッツンの長髪美少女、サツキ先輩のイラストが言葉通り諦念を滲ませて天を仰いでいた。

 

『しゃーなし? あれだけ無謀な特攻(脳死凸)仕掛けといてよく言えますね……やる気あるんスか?』

 

「ちょっ、EWCE(エウス)さん落ち着いて……元はと言えば俺が撃ち合いに参加してないせいでこんなことに……本当にすみません」

 

『……別に良いんスよそれは。最初っからアテにしないっつー方向ですし。1試合目で速攻全滅したのも運のせいとしか言えないからそこも良い。けど……2、3試合目はどう考えたってサツキのワンマンが原因だと思うんスけど? そこんとこどうなんスか?』

 

『んん? あぁまぁ、そうかもなぁ。真っ先に落ちてるのいっちゃん狙われやすいヒビキんやのうてサツキさんやし?』

 

『……やる気あるんですか?』

『二人よりはあると思うんやけどなぁ』

 

 如月先輩の気が抜けるような返しにEWCE(エウス)さんの怒気が強まっていくのを感じる。しかし、俺は口を挟めなかった。俺に非がないと言われてしまえばソレをきっかけに仲裁なんて出来ないし、そもそも二人は圧倒的に実力が上なのだ。それでいて実際のところ如月先輩とEWCE(エウス)さんの関係値が俺にはよく分からない。情けないけど成り行きを見守るしか無い。

 

『っ……! マジで聞きたいんスけど、勝つ気あります? やる気ねぇんならハッキリ言って欲しいんスよね、アタッカー欠け前提なら相応のやり方に切り替える必要あるんで。自分は絶対優勝したいし、ヒビキさんも共感してくれました。なのにサツキがそんなんじゃ勝てるモンも勝てないんスけど?』

 

『……ほーん』

 

 そこで悪寒が走った。凍てつくような声にギョッとして画面を見ると、如月先輩の立ち絵は天を仰いだまま……瞳を見開いて見下すようにこちらを睨めつけていたのだ。配信なんかで感情を露わにし、それが立ち絵でしっかり表現されるVtuberはとても魅力的なモノだけど、俺はこの時初めて、立ち絵の表情を"怖い"と感じてしまった。

 

『…………っ、なんスか』

 

 同じ心境に陥ったのか、EWCE(エウス)さんもどこか声を震わせながら如月先輩の言葉を待つ。

 

『……んじゃ、そもそもサツキさんがなんでEWCE(エウス)の誘いに乗ったかって話からしたりますかぁ』

 

 俺とEWCE(エウス)さんが静かに耳を傾けていることを確認すると、如月先輩は瞑目して口を開いた。

 

『元はと言えば、サツキさんがVtuberなんぞやってんのは楽しいからなんすわ。FPSだってそう。楽しいからやってんねん。……EWCE(エウス)ゥ、サツキさんなんっかいも自分の居るプロチームの誘い断ってんの知ってるよなぁ?』

 

「えっ!?」

『……そりゃ、もちろんッス。っつーか自分がオーナーに推薦したんで』

 

 知らなかった、そんなことがあったのか。……よく考えたら個人でプロゲーマー名乗ってる訳もなく、EWCE(エウス)さんはチームに所属している。そこはきっと女性プレイヤーの参入も歓迎しているんだろう、少なくともこのSADSにおいてEWCE(エウス)さんと同レベルの実力を持つ如月先輩をスカウトしててもおかしくはない。

 

『それを蹴ったのは単純に、楽しくなさそうだから。サツキさんは遊びたい時に遊べるだけゲームを楽しむってスタンスなんでねェ。とてもプロチームなんて続かないし入りたくもない』

 

 少しだけ瞳を開いて画面越しにこちらへ問いかけてくる。『分かるやろ?』という言葉が声はなくとも聞こえてきた。

 

『そう、楽しむってのがいっちゃん大事やねん。サツキさんの好きな曲の歌詞になァ、"このまま死んだって良いってくらいバカに生きてる"ってのがあるねん。人生楽しんだモン勝ちってな。事故で明日くたばるかも分からん世の中で、その瞬間に『最高の人生やった!!』って笑えるかどうか。……EWCE(エウス)ゥ、自分大会の練習始まってから一回でも笑ったか? このゲーム楽しめたんか? このゲーム抜きにしてもや。プロゲーマーやってて人生満足か? 自分』

 

『それは……、でも自分には……!!』

『あ~いらんいらんそういう大義名分っつか、悲壮感たっぷりのヤツ。……サツキさんが誘い乗ったのはなァ、自分のこと好きやけど、最近のウジウジしたトコ大っ嫌いやからや。……そんで、チームメンバー募集どこも断られまくって当たり散らしてた自分が見てられんかったからやねん』

 

 ……たしかに、違和感を感じたことはあった。大会の参加メンバーとしてボスに声をかけられてからEWCE(エウス)さんの配信アーカイブを覗いたときと、初対面の挨拶ではまるで印象が違っていたからだ。俺が見た動画では数少ない女性プレイヤーを初めとして、初心者にも分かりやすいような指南動画やテクニック紹介を丁寧にしてくれてた人なのだ。

 

『とりあえず邪魔だけはしないで下さい。自分とサツキが片付けるんで、銃とかも拾わないでいいッス。つか距離開けてついて来て適当に隠れてるだけで良いッス』

 

 そんな人が、初心者を切り捨てるような発言をしてきた。何か理由があるんじゃないかとはなんとなく考えていたけど、どうやらチームメンバーの募集には相当難航したらしい。おそらくだけど、その過程でも女性プレイヤーであることを揶揄されるような出来事があったんじゃないだろうか。

 

『サツキさんは自分とゲームすんの好きやった。毎度やったこと無い、出来るわけもない、誰も真似しようとも思わんアホな作戦試して。それで勝って馬鹿笑いすんのが大好きだったんや。でも今の自分はなんや? 組んでくれた初心者に八つ当たり。女だからっつって相手にされなかったー()うて被害者ヅラした挙げ句、ヒビキんは戦力外通告てやってること大して変わらへんやんか!』

 

『っ、でも自分は、どうしてもこの大会優勝したくて……!』

 

『でももクソもあるかボケェ! さっきまでサツキさんのことやる気あんのかってボロカス言ってくれたけどなァ、あんなん練習んときと変わっとらんわ! 変わってんのは自分の方やで!! なんや傷の舐め合いして絆されたんか知らんけどチラチラ何回もヒビキ付いてきとるか確認してなァ!? 練習で一回でもそんなことしたか!? 動き遅れてんねん! ド素人のヒビキんが練習通りに付いて来てんの自分が台無しにしてんねん! ちっとは自覚しろや!!』

 

『ぐっ……!』

 

 そこでフンスと鼻で息を吐く如月先輩に、EWCE(エウス)さんは黙り込んでしまった。この空気の中俺はどうするのが正解なんだろうかと考えていたところ。

 

『んでヒビキん。自分にも言いたいことあるでェ』

 

 その矛先が俺に向いてきた!

 

『……そんな警戒すんなや。なぁヒビキん、今回自分のこと誘った理由、すいちゃんから聞いとるか?』

「すいちゃん……?」

 

『あ~……ほら、上のマネージャーさんや。専属やのうてまとめ役の』

 

 ボスのことか。というかすいちゃんって呼んでるんですか如月先輩……、一期生ということもあってか意外に距離感が近いのかも知れない。

 

「えっと、一応は。なんでもVSのメンバーみんなと仲良くしたいから、後輩でまだ絡みのない自分に声をかけてくれたと……」

 

『ソレなぁ、嘘ちゃうけどもっとでっかい理由があんねん。……サツキさんなぁ、仲間の配信全部とは言わんけど、大体は確認しとんねん。んでなぁ、ヒビキんは……なんちゅーか、心配でなぁ。周りに気ぃ使いすぎ?  いや、周りの目ェ気にしすぎ? 理由は分かんねんけど……生きづらいやろなぁ思ってん』

 

 それは……間違いではない。今まで俺はどのライバーよりも各方面の目を意識せざるを得ない立場に居たんだから。

 

『裏でなんや愚痴でも聞いたろ思ってもマネちゃんに止められるし。心配することしか出来なかってん。でもちょい前にそういうのもあんま気にせんでええようになって、んでこの大会やん? サツキさんもメッチャ良いタイミングや思ったんや』

 

「タイミングですか?」

 

『せや、EWCE(エウス)とヒビキん。サツキさんは二人が仲良うなれるって確信してたんや、良くも悪くも(・・・・・・)なァ。実際ささくれ立っとったバカタレにも1日目に受け入れられたしな。二人一緒にチーム組んでりゃあなんかしら化学反応起こると思ったんよな。それこそ、良くも悪くも』

 

『……どういうことッスか』

 

 さすがにチーム編成が自分の意図しないところで重要な意味を持っていたと言われれば黙っていられないらしくEWCE(エウス)さんが低い声で問いかけた。

 

『簡単なことや、癇癪起こしたEWCE(エウス)に気遣い屋さんのヒビキんは気に入られて。周りにビクビクしながら活動頑張ってきた自分らは良ければ(・・・・)共感して和気藹々チーム組んで、ハシャギながら敵チームブッ殺してチャンポン食える。悪けりゃ(・・・・)必死こいて勝ちだけにこだわって、悲壮感たっぷりな雰囲気に浸って。練習で身につけたことオシャカにするようなポカするやろなってなァ。……ま、これは実際そうなったから言ってるだけで、ホンマはこんなグズグズになるとは思ってへんかったけど』

 

 如月先輩は、EWCE(エウス)さんの事情も俺の事情も、十分に把握して今回の大会に臨んだってことか。ただただ俺たち二人に、楽しくゲームをプレイするっていう、初心を思い出させるために。強いほうが弱い方に勝つとかいう以前に、ゲームっていうのは楽しむことを前提に作られた遊び(・・)だって言うことを、伝えたかったんだ……。

 

『ヒビキんはなぁ、優しい子や。せやけどもっとワガママに楽しめや。それが自分のためにも、自分応援してくれるファンのためにもなる。……んでEWCE(エウス)。自分この大会で優勝したからって、ホンマに自分が他のプロやら公式戦(競技シーン)ファンに受け入れられるなんて思ってへんやろ? 女だからどうの言われるんは分かりやすく煽れる都合が良い言葉やから。切羽詰まったら周りに当たり散らす自分の言動に問題があるってホンマは分かってんねん、自分が一番なァ。自分がやろうとしてんのは気に入らん連中実力で黙らせれば良いっちゅう妄想や。殴って解決するガキの喧嘩以下やで』

 

『……じゃあどうしたら良いんスか……自分は……自分は勝つために……!』

 

『だーから言ってるやろ? ただゲーム楽しめばええねん! ただそんだけで勝てる。サツキさんとEWCE(エウス)とヒビキんと。3人でハシャギながらバカみたいに特攻し(凸っ)てたら勝手に敵死んでんねん!! それだけこのチームは強いって確信しとるっ。サツキさんがチンケな嘘付いたことあるかァ??』

 

 EWCE(エウス)さんの弱々しい声に、なんの迷いもなく如月先輩は答えた。あまりにもあっさりと、何の疑問も持たない自信を感じさせる言葉に、俺はきっとソレが真実なのだと信じさせられてしまった。それはきっと、EWCE(エウス)さんも同じで。

 

『………………ッスゥーー…………あぁァアアアアアアアAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!』

 

「っ!?」

『うっせぇこの()ァw ()ってのはすーぐヒステリー起こすからイヤやなァ?』

 

 突然のEWCE(エウス)さんの奇声に如月先輩は呆れたように言ったが、その言葉はどこか嬉しさを含んでいた。

 

『……ふぅっ。……ヒビキさん、ごめんなさい。自分が一番足引っ張ってたっぽいッス。もうなんか……死ぬほどイラつくけど、サツキが言った通りっすわ。つかそう思い込んで好き勝手やんないと、どのみち最下位まっしぐらだし。だから……その。偉そうなことぬかして情けない限りっすけど……恥の上塗りっすけど、チャンス下さい。あと2試合、全力で……楽しみましょう!!』

 

「っ! はい……はい! もちろんです!! 俺も3人でこのゲーム遊びたいです!!」

 

『……ありがとうッス。……そんで、サツキ。一応、礼は言いますし思惑にも乗りますけど。言葉通りにバカみたいに特攻し(凸っ)てたら楽しむ以前に脱落ってのは分かってるんスよね? 指示(オーダー)はあくまで自分が出しますよ、練習みたいに』

 

『いや礼言ってへんやんけ……ま、許したるわ! それに自分が指示出すのは大前提や、今更嫌や()うても誰が逃がすかいな! ……それになぁ、お二人さんのニュアンスからして優勝は諦めて楽しもうぜぇなんちゅう言葉に聞こえてるけど、まさかそのままTOP10やらTOP5なんかで妥協なんざせぇへんよなぁ?』

 

『……マジで言ってんスか?』

「それってつまり……」

 

 俺とEWCE(エウス)さんはゴクリと喉を鳴らした。全5試合の3試合を終えて最下位。誰の目にも明らかに分かる。ここから優勝する現実的な手段なんて無いと。

 

 それでも画面上の如月先輩の立ち絵が再び獰猛に笑みを浮かべる。再び肌が泡立ったけど、それは恐怖心からくるものじゃない。むしろ武者震いのような。この人に付いていきたいと思わせるような、カリスマを感じさせる笑み。

 

『言ったやろ? やったこと無い、出来るわけもない、誰も真似しようとも思わんアホな作戦試すんや。そんでまかり間違って総合一位なんて取れた日にゃあ……さいっこうに楽しいやん(・・・・・・・・・・・)?』

 



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SADS(サッズ)ストリーマーパーティ:4

『うーし次がラストや。気張れやァお二人さん!!』

『詰めますよヒビキさん。あそこ、お願いします』

「了解! 突撃します!!」

 

 全20チーム中最下位で迎えたSADS(サッズ)ストリーマーパーティ、その4試合目。俺たちのチームはEWCE(エウス)さんの指示(オーダー)によって最終2部隊に残っていた。俺たちを含めて2部隊なので、当然敵はあと1部隊のみ!

 

 3試合目までに比べて口数は少ない。しかし気を緩めるべき時は一言二言お互いを鼓舞し、戦闘を終えて相手チームを下した瞬間は健闘を称え合った。今までは配信ということも意識して出来る限り喋るようにしていた反面、一見するとテンション低めに見えるかも。でもひと試合を通して見れば戦闘中とそれ以外のメリハリがついているということで、きっと結果が振るわなかった前試合までよりも応援してくれていた視聴者は楽しんでいると思う。

 

索敵(スキャン)入れます……見えました! コンテナの裏に2人!! 1欠けハイドです!! っ、相手も動きます!!」

 

 いつかの練習と同じく俺が先行しようとするが状況は異なった。相手チームは現在の最終ラウンドに至るまでにチームメンバーが1人倒されたらしく、残りチームが少なくなるまで隠密行動(ハイド)していたようだ。

 

 しかし対するチームが俺たちのみとなったこと、そして俺の索敵能力(スキャン)で自分たちの位置がバレたことを察知したために、戦闘に移ろうとしている。

 

2vs2(ツーブイツー)や! 行くでEWCE(エウス)ゥ!!』

『OK、ヒビキさんここキープで! グレありますよね!?』

「コンテナ右奥投げまくって左に押し出します!!」

『頼みました!!』

 

 経過時間に応じて狭くなる市街地マップ。その最終収縮地点は俺が残った小さな遮蔽物だ。円形のエリア範囲外に居るとダメージを受けるために敵チームは必ずここに向かわなくてはならない。しかし俺が手榴弾(グレネード)で牽制して進行ルートを一方に抑え、コンテナ越しでこちらのチームの行動を把握出来ていない向こうは迫りくるハイランカー二人と正面からぶつかる羽目になった。

 

『お届けものDEATH(デェス)! たーんと喰らえやオラァ!! っしゃ()った残り1枚!! ミリやぞEWCE(エウス)!!』

『ハイ前代わりまーす撃ちまーす敵は、あ、あ、はーい()りましたー!』

『っしゃァどんなもんじゃコラァ!! フゥーーっ↑!! 気持てぃーっ↑!!』

「おぉおスゲーー!! ナイス優勝(チャンピオン)!! 二人とも強すぎィ!!」

 

『がっはっはァ当然やで!! ヒビキんもようやってくれたわ! なぁ? EWCE(エウス)!』

『いやマジでそれはそう。自分が指示する前にイイとこキープしてたし、グレの判断も滅茶苦茶早かったし……ヒビキさんコスパ良すぎでしょ。初心者枠でコレは美味しすぎ』

 

「いやいやそりゃもうお二人のご指導ご鞭撻のおかげっすよ」

『否定せんけどなッ!! これが……チームワークってヤツやで』

『ヤツやでキリッ、じゃないんスよ。立ち回りとかアドバイスしたのほとんど自分ッスよね?』

 

『んじゃーご指導担当EWCE(エウス)様にご鞭撻担当サツキちゃんっちゅーワケや。ヒビキん! 残り1試合もしっかりウチらの背中見て勉強するんやでェ!?』

「うっす姉御! ついて行きやす!!」

 

『誰が姉御やァ! サツキちゃんと呼ばんかい!!』

『イヤなんスか? じゃあ自分が姉ってことで。ヒビキさん……いやヒビキ、ほーらお姉ちゃんって呼ぶッスよー』

 

「……おねーちゃん」

『…………悪くないッスね……』

 

『うーわEWCE(エウス)、お前そんな趣味だったんかいな……』

『ヒビキみたいな弟なら欲しいっスねぇ、一人っ子なんで。っつーか後輩にサツキちゃん呼び強要のが痛くないッスかぁ?』

 

『だーってこんな一緒に練習してきたのにいつまで経っても如月先輩ってそんな他人行儀なん寂しいやろがい!!』

「ッスゥーー………………じ、じゃあサツキさんでお願いしまッス」

 

『……ん~~……まぁ許したるか! なんか間があったんが気になるけど!!』

『なにやら葛藤があったらしいっスねぇ……』

 

 あぁ……ヤバい。脳みそバグってる気がしてきた。俺も如月……サツキ先輩も、おそらくEWCE(エウス)さんも。まさかここまでうまく行くとは思ってなかったのだ。

 

 5試合中3試合を経て最下位。そんなチームがどうすれば総合優勝なんて取れるのか? 答えが限られた問いに、俺たち3人は諦めずに挑み始めたのだ。

 

 超簡単に作戦を言うと、【全員殺す!!】である。この大会のポイント集計に関わるのは1に順位ポイント、2にキルポイントだ。より多くの敵を倒して試合を制し、優勝チームとなれれば破格のポイントが加算される。

 

 順位ポイントについては全5試合を通じて同様に計算されており、俺達は4試合目にして大きな加点を得ることが出来た。しかし重要なのはキルポイントの方なのだ。

 

 概要をざっくり言えばクイズ番組と同じで、最終試合のポイントが一番デカイということ。実は終えたばかりの4試合目まではキルポイント上限というものが設定されていて、一定数を超えて敵を倒してもスコアが加算されなくなるのだ。これは1試合目が一番低く、試合が重なるほど上限が高く設定されている。そして最後になる5試合目には……上限が無くなるのだ。

 

 つまり全員倒せば57ポイントという、これだけで総合優勝出来るほどの加点となるのである! 実際には机上の空論と言えるワケですが。実のところ4試合目を制したとは言え、俺たち3人はそこまで派手に暴れまわっていない。進路上に居る敵は軒並み排除し、常に良いポイントを求めて立ち回ったが、他のチームや運営から見ても突出した活躍は見せていないと言えるだろう。

 

 それはキルポイントの上限を意識しての行動でもあったし、まずは一試合しっかり優勝してから流れを引き寄せたいという意図もあった。けれど……本当のところは、これから始める起死回生の一手を悟られないようにするためのフェイクだ。

 

『……ふーっ、とりあえず1勝っスねぇ……』

 

 チャンピオンの余韻もある程度落ち着いてか、EWCE(エウス)さんがホッとしたように息を吐いた。最下位チームだったとは言えキルポイント上限が高めの4試合目でそこそこ敵を倒し、文句なしの順位ポイント1位。少なくとも20チーム中10位近辺はマーク出来ていることだろう。

 

『さぁーて問題はこっからやなァ。上位2チームが頭1コ抜けてて、3位から7位くらいがダンゴ。そん次くらいにサツキさんたちのチームってな具合らしい。有志で集計してくれとるリスナーコメやから確実では無いけど、まぁ乖離はしとらんやろ』

 

「それじゃあ作戦通りに行くってことですね……? サツキさん、EWCE(エウス)さん」

『お姉ちゃんと呼びなさい』

 

「……作戦通りで良いんですよねおねーちゃん?」

『ウム』

 

『いっちゃんピリピリしとったヤツがいっちゃんフワッフワしとるやんけオイ! 大丈夫かいな?』

『…………ハァ、大丈夫なワケ無いじゃないッスか。競技シーンでもこんなに気が重いことあったかな……』

 

『なんやいっちょ前に緊張しとったんかいな! 安心しろやァ、死なば諸共やッ!! なぁヒビキん?』

 

 笑いながらコミカルにウインクするサツキさんに苦笑しつつ、モチロンと俺も頷いてみせる。正直俺としても今までのライバーとしての活動方針的には諸手を挙げてって訳には行かないんだけど、それでもやってみたいと思ってしまったのだ。どんな結果に終わろうと、この3人で全力を尽くして、最後には"楽しかった!!"って笑い合いたいと願ってしまったのだ。

 

「うっす、俺も覚悟は決まってます。やってやりましょうッ! おねーちゃん!!」

『……初心者の弟に手ェ引かれて歩くようじゃダメっすね。……よしッ!! やってやろうじゃないッスか……! ヒビキ、最後までしっかり付いてくるんッスよ?』

「了解ッ!!」

 

『……フッ、頃合いやな。さーて試合が始まるでェ、最後の勝負! こっからがサツキちゃんと愉快な仲間たちの伝説の幕開けやでェ!!』

『チーム名は【EWCE(エウス)と愉快な仲間たち】なんスけどね』

『どっちでもえぇわんなモンはァ! さぁおっ始めましょうかァ!!』

 

 そう、ここから始まるのだ。最低で最高の作戦が……!

 



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SADS(サッズ)ストリーマーパーティ本配信

「さぁまもなく始まりますSADS(サッズ)ストリーマーパーティ最終第5試合! 司会を務めますのは引き続きわたくし択捉(えとろふ)でございます。そして!」

 

「はい最後までよろしくお願いします。解説のsado(サド)です」

 

コメント

    :SPECIAL勝ったやろこれ

    :安定して上位いるしそりゃそう

    :予想通り過ぎておもんない

 

「本配信は5分遅延でお送りしておりますので、ご覧の視聴者の皆さんご了承の上お楽しみいただければと思いますー……と定型文はここまでとしまして! いやぁどうですかsadoさん! 第4試合でまた番狂わせの香りが漂ってまいりましたが!」

 

「そうですねぇ……ここまでの試合全てにおいてチャンピオンに至るチームが異なっていた訳なんですが、やはり実力のあるチームは毎回上位と言いますか、5位くらいには入っていてしっかり順位ポイントを獲得しているイメージがあったと思います」

 

「間違いないと思います! その中でもチーム【俺たちがSPECIALだ!】、そして【KnowアルTAKA】は特に実力を発揮してきたなという印象がありました」

 

コメント

    :ちょっとは実力隠せ

    :まぁどっちかよな

    :どっか別が下剋上して欲しいw

 

「3試合を終えてこの2組がおそらくポイント的に頭抜けていましたよね。しかしここに来て下位に甘んじていたチームが尻上がりに調子を整えてきました」

 

「ええ、特に第4試合を制しました【EWCEと愉快な仲間たち】! 初動で落ちている印象が強かったので正直最下位に近いポイントだったと思われますこのチームが、しっかり敵をなぎ倒しながらのフィニッシュ! 予想していた方は少ないんじゃないでしょうか!?」

 

「そうだと思います。このチームは他と比べて個の実力が高いEWCEさん、そして如月サツキさんを抱えている反面、本大会において唯一の初心者枠となります暁ヒビキさんをサポーターに据えています。どのチームよりも火力が見込めますが、対してバックアップが厳しいピーキーなチームと言えたでしょう」

 

「実は、ちょっと気になって私も練習配信を見させてもらったことがあるんですが……いわゆるコスト詐欺ということもなく、ヒビキ選手は本当にFPSそのものに触ったことが無さそうな印象でしたね~」

 

コメント

    :ブイチューバーがいるとこか

    :初心者の男性Vとかいう地雷ねw

    :はい法的措置

    :FPS初で大会とか勇者かよ

 

「はい。しかし第4試合での活躍を見ますと相当立ち回りを学んできたことが窺えました。ラストバトルではグレネードで相手チームを牽制しつつ味方の退路を確保するという、サポーターとして遜色ない活躍をされていたかと思います」

 

「こう結果だけを見ますと、第3試合までは緊張などで足並みが揃わなかっただけなのかなと言ったところでしょうか?」

 

「活躍する場面に恵まれなかっただけなのか、はたまた第4試合ではいろんな状況が噛み合っての結果だったのか。それはこの最終試合でご覧いただけるかと思います。……正直、僕もこのチームに関しては最後まで分からないなと思っていますので……」

 

「いやぁ最後まで目が離せませんね! さぁいよいよ……最終第5試合! 開幕です!! まずは先程チャンピオン獲得の【EWCEと愉快な仲間たち】の動きに注目して参りましょう!!」

 

コメント

    :うおおおおおお

    :どのチームもがんばえー

    :このままスペに取りきって欲しい

    :みんなキルムーブすんのかね

    :荒れそうよな

 

「こちらは先程まで山麓エリアに降りていましたが……。っ!? いや始まりましたね! 初動被せますEWCEチーム!!」

 

「なんと!! 今までの山麓エリアではなく【俺たちがSPECIALだ!】の降下エリア(ランドマーク)に被せました【EWCEと愉快な仲間たち】!! どういった理由か解説お願いできますでしょうかっ?」

 

コメント

    :ファーww

    :まじかよ

    :えぇ……?

    :やばすぎこいつら

 

「はい。EWCEチームだけでなく、現在獲得ポイントが振るわないチームは出来るだけ敵を多く倒してキルポイントを稼がなければ上位に食い込むことは難しいです。なので可能な限り多く戦闘するために最初から他のチームと同じ場所に降下するんですね。さらに優勝を目指すのであれば3位以下とポイントを離している上位2チームを最初に落とさないといけません。つまり……EWCEチームは総合優勝を視野に入れた作戦を立てて実行しているんですね」

 

「なるほどっ! いやしかし……ど、どうでしょうね? コレ」

 

「言いたいことは分かります……僕も正直、5分後のコメントが怖いですね~。初動被せは作戦として無くはないんですけど、実践するプレイヤーは決して多くはありません。明け透けに言えばぶっ叩かれる可能性が高いのでw」

 

コメント

    :海外の大会で実際に荒れたしなぁ

    :下位チームが組んで上位の片割れ潰したやつね

    :被せたからには優勝してくれるんやろなww

    :一回チャンピオン取ったからって調子乗ってんな

    :夢見れたんだから満足しとけやマジで不快

 

「と、言っている間に早くも開戦! EWCE選手とサツキ選手が孤立しているspace(スペース)選手に急接近! 逃げますが……あぁっと瞬殺!! あまりにも無慈悲!! チーム【俺たちがSPECIALだ!】これはマズイ!!」

 

「やはりこの二人の火力は凄まじいですね……! スキルの展開や狙いを定めてせーので接近と息はピッタリです。それに暁ヒビキさんもやはり良い動きをしますね。無理に物資を漁ったり仕掛けたりせず、降下してすぐに射線が切れる位置に隠れて索敵(スキャン)に専念しています。出来ることが少ないからこそ、出来ることは完璧にやり遂げる素晴らしい立ち回りだと思います」

 

「こうなると強い【EWCEと愉快な仲間たち】! 本大会で定めておりますコスト上の話にはなりますが、2対2でこのコンビに匹敵するチームは存在しません! 残されたEcila(エシラ)Alice(アリス)兄弟、ビルの階段を押さえ分断を図っているように見えますが!?」

 

「ここで再び暁ヒビキさん索敵(スキャン)入れました。丸見えです。これはまたせーのでゴリ押すでしょうね……おっとっ? 暁ヒビキさん動きますね、そういう指示(オーダー)でしょうか」

 

「建物内に侵入し階段に先行しますヒビキ選手! 当然階段上で構えるEcila(エシラ)の銃弾が出迎えますがっ……おぉっと体力(ヘルス)が溶け切る前に戻ります! そして……入れ替わるように特攻しますはサツキ・EWCEペア! Ecila(エシラ)選手応戦しますがリロードが間に合わない!! Alice(アリス)選手カバーに入りますが……やはり耐えられません!! 初動被せました【EWCEと愉快な仲間たち】、しっかりと【俺たちがSPECIALだ!】チームを落としきりましたぁ!!」

 

コメント

    :スペ優勝なくなった? マジ?

    :あーあやったわこれ

    :死んどけばまだ言い訳できたのに

    :このチームワンチャンあんのか?

 

「いやぁ素晴らしいチームプレイでしたね。この後も活躍を期待したいところです」

sado(サド)さんはこのチーム、どう見ますか? このまま優勝までキルムーブを続けるんでしょうか」

 

「続けるでしょうね~。でなければ初動で被せてまでトップチームを落とそうとしたところでリスクが高いだけです。しっかりとリターンを得るためにも狩れるチーム全て狩り尽くすつもりだと思いますよ。……個人的にはこのまま最終収縮(ラウンド)まで頑張ってくれると嬉しいですね」

 

「それはまたどうしてでしょう?」

 

「さきほど初動被せは作戦としてあまり評判が良くないというような話をしたと思いますが……例えばこの後すぐにEWCEチームが全滅してしまった場合、最初に狙われたspace(スペース)チームに同情する視聴者さんは多いと思います。実力も無いのにトップチームの勝負に水さすなよって話になっちゃうんですよね。それが作戦として成り立ってても、結果が伴わなかったら残念ながらそうなっちゃいます」

 

「なるほどぉ……いやしかし、マップを見る限りやはり【EWCEと愉快な仲間たち】、エリアの収縮を無視して近いチームに仕掛けに行ってますね」

 

「少なくとも最終収縮の睨み合いまで残ればそこまで非難されることもないと思いますので、ある程度キルポイントが稼げたら安全ムーブして欲しいというのが個人的な感情ですね~w」

 

コメント

    :sadoもぶっちゃけるなw

    :マジでこのあとコケるかどうかで変わるぞ

    :いやもう何しても不快だからとっとと全滅しろ

    :さすがに総合優勝とか無理やろうしな

    :何キル必要なんだって話だしなww

 

・・・・・

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

・・・・・

 

「さて、さて、さて……ついにやって参りました最終収縮(ラウンド)! 残るチームは4チームとなりました……! 3軒の家にそれぞれポジショニング、2階建てに同居している2チームは互いに動きたくても動けない状況になっております……!」

 

「1、1、2チームとなっている現状、同居しているチームは他のチームが潰し合ってくれないと動くに動けませんね。室内でやり合えば最寄りの家から漁夫が来て、その漁夫に最後の1チームが乗り込んできてフィニッシュが想定されますから」

 

コメント

    :なかなか動かんね

    :ここで優勝したら総合優勝ワンちゃんあるチームが2パ居るしな

    :他2チームはまだチャンポン取ってないから最後くらい欲しいんやろ

    :同居組どっちかが取るか?

 

「有利なポジションなだけに奪い合いが発生しましたが、痛み分けの形で1階と2階に別れて各々死守となっています。しかしこうなると、どのチームが優勝するか読めませんね……! sadoさんはどう見ますか?」

 

「そうですね……やはりここに来て実力を発揮しているEWCEチーム、もしかしたらある(・・)んじゃないかと思ってしまいますね」

 

「ほう! どのような理由ですか?」

 

「このチームは同居チームの家から一番遠い家、つまり収縮ポイントから最も遠いポジションにいます。この2軒の間にもう1チーム居ますが、彼らは2階建ての様子を窺っているところを見ると物資に余裕は無さそうです。2階建ての家はそれぞれ別の階に逃げ込めない現状グレを投げられると痛いはずですが、そうしないのは恐らくそういうことかと」

 

「そして同居している2チームは一度争って物資を消費している、と」

 

「そのとおりです。それに比べてEWCEチーム、すでに多くのチームを壊滅させてその物資を奪ってここまで来ています。消耗戦になれば有利なのは間違いないですね」

 

「しかし収縮ポイントからは最も遠い家にポジションしているということですが、少なくともどこかで仕掛けないと消耗戦というのも難しいのでは?」

 

コメント

    :もうここまで来たら取ってくれ

    :不愉快な仲間たちはよくたばれ

    :スペ民度低いなぁ

    :みんながんばぇ~

 

「はい、なのでそろそろ……やはり、動きましたね」

「おぉっと動きましたのは【EWCEと愉快な仲間たち】、エリア収縮と同時にご近所さんに詰め寄ります! ヒビキ選手手榴弾(グレ)を投げる! 投げる!! 滅茶苦茶に投げている!! おそらく今大会最も爆弾を投げているプレイヤーです!! ボマーですねこれは!!」

 

手榴弾(グレ)から逃げるために、今2階建ての家に寄りつつ退避するのは厳しいですね。外に出ると2チームから射線が通りますから。中でやり合うしかありません」

 

「ボマーヒビキ選手、銃も取り出さず室内に侵入! ずっと爆弾をばらまき続ける! あぁっと、落ちてしまった~!!」

 

コメント

    :ボマー捕まえた!w

    :やっちまえ

    :これは同居組に決まったか?

    :どっちが勝っても欠けるだろうしな

 

「……? あれ?」

 

「先に1人落としましたがやはり手榴弾(グレ)が痛かったか、続いて特攻してきた2人の一斉射に1人、2人、あぁっと壊滅ー!! 【EWCEと愉快な仲間たち】またも敵チームを轢き殺しました!!」

 

(エリア)が迫りますが……しっかり回復する時間はありますね。同居しているチームはやはり動きません。今どちらかが漁夫に出ようとすれば残ったチームに背中から撃たれるので当然ですが」

 

「サポーターが落とされると起こすために蘇生キットと短くない時間を使うので、サポーターから狙うのがセオリーとされていますが……まさか最終収縮が始まってから起こすことが出来るとは思いませんでした!」

 

「この状況だからこそですね。EWCEチームは基本的に暁ヒビキさんが回復アイテムを溜め込んでいたはずですが、今の戦闘までに時間がありましたから。暁ヒビキさんが最初に落ちることを前提にアイテムを交換していたんでしょう。手榴弾(グレ)をあんなに持っていたのもメンバー2人から代わりに貰ったためでしょうね」

 

「なるほど……しっかり回復を終えてしまいました【EWCEと愉快な仲間たち】! さぁ最終収縮地点は2つの家の中間にある遮蔽がほとんどない平地です! 2階建ての家が若干近いので同居しているチームは立地的には有利ですが……!?」

 

「2階建ての家の屋上を取れればメチャクチャ強いんですが、まぁここからは無理でしょうね~。サポーターを回復寄りにすると移動スキルを諦めざるを得ないので、壁をよじ登らないといけません。同居組が近づけさせないでしょうし、同居組のどちらかが飛び出しても2チームから蜂の巣にされます」

 

「ベランダがあるタイプの家なら変わったんでしょうが言っても仕方がない!! さぁどうなる残り3チーム! (エリア)は刻一刻と縮まって来ております!! っ、が……? 飛び出したのはヒビキ選手! この大一番になんという度胸でしょう!? 初心者とは一体なんだ~!?」

 

「EWCEさんと如月サツキさんは残ってカバー射撃していますね。そのおかげで被弾こそしますが暁ヒビキさんまだ落ちません。小さな岩に身を潜めて回復しますが……全快せず再び走ります! なるほどっ、これはもしかしますね!!」

 

コメント

    :はやくね?

    :もうちょい待ったほうが良いだろ

    :初心者だししゃーないんちゃう?w

    :プレッシャーでこんがらがったか

 

「ヒビキ選手2階建てに張り付きます! 1階に、2階に窓から手榴弾(グレ)を放り込む! 一体いくつ蓄えていやがったぁーー!?」

 

「最終収縮(ラウンド)手榴弾(グレ)刺さりますし、暁ヒビキさんは武器を持たないのでカバンいっぱいに詰めていたんでしょう。そして手榴弾(グレ)を嫌がった2チーム、この時ばかりは協力して邪魔な闖入者を集中攻撃します!」

 

「あっという間にヒビキ選手ダウン! さらに確定(かく)キルを取るために降り止まない銃弾の雨! あぁっと死体になってしまった……んんっ!?」

 

「やはりここで発動していました! 先程の1戦で使わなかった時は意外に思いましたが、ここでサポーターのスキルを発動しました!!」

 

コメント

    :はぁ?w

    :これつけてる選手いたんかww

    :え、これ今強くね?

    :わざと死にに行ったんか

 

「煙が建物を包み込むー! えぇっと……どういう能力でしたっけ?」

 

「プレイヤーが死んだ際に発動できる文字通り死にスキルで、死体から一定エリアに(スモーク)を発生させ、範囲内のトラップを解除します」

 

「あぁありましたねそんなスキル! さぁ視界が白く染まる中、再び爆発音に銃声が響きます! 状況が分からない中、もうエリアに飲まれかけている室内は危険と見ました同居2チーム、外に飛び出したぁっ!!」

 

コメント

    :何も見えんw

    :煙に壁にガスにグレに何でもありやな

    :ここで切らないともう使い所さんないし

    :何も出来んで死ぬくらいならスキル吐くやろな

    :これもしかするともしかする?w

 

「これは……! EWCEさんと如月サツキさん、どさくさに紛れて屋上を取っています!! そのための死にスキル!! そのための単独特攻!! このチームはここぞという戦闘で暁ヒビキさんを囮にしてフリーの二人が暴れるというプレイをベースにしてきましたが、やはりこのムーブが強い!!」

 

「同居組、ひとつ屋根の下で過ごした時間を忘れ撃ち合います! 煙の中、撃たれている以上見えた影は撃つしか無い!! グレもガスもばら撒こう!! しかし上だ! 敵は上に居る!! 堂々とADSし(覗い)て安全圏から撃ち下ろしているぞー!!」

 

「煙が晴れますが……立っているプレイヤーはすでに3人…! 上をとっていた2人が円に追われるように降りますが……追われるように見えただけですね」

 

「間違いなく! とどめを刺すための! 追撃するための降下! 落下硬直もなんのその! こっちには2人居るんだと言わんばかりの華麗な登場! 着地音に気づき見事な振り向き射撃を見せるもーーッ!?」

 

「倍襲いくる銃弾にダウン! 決まりましたね!!」

 

「決まってしまいましたッ!! 誰が予想出来たでしょうか!! これには文句ナシ!! ここまでされたら誰が非難できるでしょう!? 初動被せして何が悪いっ? 勝てば良いんだと言わんばかりのキル、キル、キルムーブ!! 圧倒的キルで第5試合チャンピオンを飾ったのはッ!! 【EWCEと愉快な仲間たち】だァーーーーッ!!」

 

コメント

 

    :おおおおおおおお

    :マジかいなwww

    :最初から本気出せや

    :それはそうww

 

    :3試合目までのなんだったん?w

    :いやこれはすげぇ

    :ヤバすぎ

    :エイム出来なきゃグレ投げろ(名言)

 

    :何チーム滅ぼしたのコイツらw

    :この中に初心者居るってマ?

    :コスト制度見直し決定ですね^^

    :素直におめでとう!!!!

 

・・・・・

 

・・・

 



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SADS(サッズ)大会】本配信見ながら振り返りとか【お疲れ様】

『それでは長らくお待たせしました! SADS(サッズ)ストリーマーパーティ全5試合を終えまして総合優勝に輝きましたチームをお呼びしましょう! 【EWCEと愉快な仲間たち】のお三方で~す!!』

 

『……あ、喋ってええのかな? どうも~お疲れ様です~! 【EWCEと愉快な仲間たち】? の如月サツキと申します~』

『なんで疑問形なんスか……ども、一応リーダーのEWCE(エウス)です』

『お疲れさまです! 暁ヒビキですー』

 

『いやぁお疲れさまでした! 総合優勝ですよ総合優勝! カジュアル大会とは言えなかなか猛者が集結したイベントとなったかと思いますが、その中で間違いなくトップを飾る結果となりました訳ですが! いかがですかsado(サド)さん!!』

 

『改めてお疲れさまです、とまず言わせていただきまして。一番気になるのはやっぱり暁ヒビキさんがどういう心境で参加されてたのかなーというところなんですが、どうでしたか? ヒビキさん』

 

『えっ!? あぁいや、そうですね……やっぱり、足を引っ張らないようにしないとな、っていうのが常に頭の中にありましたね。ほらメンバーの2人がメチャクチャ強いので! どうしたら2人が心置きなく暴れられるのかなっていうところで、色々動画とか参考にしつつ精一杯臨んだつもりです! ハイ』

 

『なるほど、やはりプレッシャーですよねハイランカーに囲まれちゃうと。でも僕の目から見ても終盤の立ち回りなんかはもう初心者とは言えないくらいしっかりしてましたし、本当に練習を重ねてきたんだなぁってところが窺えて1プレイヤーとしても嬉しかったですよ。感動しました!』

 

『あはは……ありがとうございます!』

『うちのヒビキんは頑張りやさんですからねぇっ! いやホンマに誘って良かった! ウン!!』

 

『おやヒビキ選手をメンバーに誘ったのはサツキ選手だったんですね。どうですか、今大会を通しての感想なんかは』

 

『そっすねぇ、まぁいっちゃんデカかったのはEWCE(エウス)とひっさしぶりに楽しくゲーム遊べたことですね! ご無沙汰やったんで。誘ってもらえた時は嬉しかったし、そんでアタシら2人組んだ時じゃああと1人どうするかって考えたらピタッとハマるのがヒビキんでしたんで。やぁ最高の3人で暴れまわれたなって感じです!!』

 

『お二人はもともと親交があったんですね! そこに初心者枠でヒビキ選手を迎え入れる形になったと』

 

『ハイ! 同じ事務所のV同士なんですけどあんま絡み無かったんで。前から隙を探ってたんですけどね、丁度良いところでEWCE(エウス)が連絡くれましたんで、ちょっと先輩に付き合ってくれやって感じで引っ張ってきました』

 

『なるほど、揃うべくして揃った3人で最後はもぎ取ってやったと、そういうところでしょうか。ではチームリーダーとしてメンバーを纏めることもあったかと思いますEWCE(エウス)選手、今大会を通しての感想、また最後に優勝チームのリーダーとして総括コメントなんかをいただければというところですが、いかがでしたでしょうかっ!?』

 

『あ~、そうッスね……まぁ一つしっかり言っておきたいのは、3試合目までは不甲斐ないところお見せしましたと、お詫び申し上げます。あそこまではホンットに自分が足引っ張っちゃってたんで』

 

『各試合のリザルトを見ますとたしかに3試合目までは振るわなかったなという印象はわたくし共にもあったんですが、やはり緊張などあったんでしょうか?』

 

『気負いすぎてたのは間違い無いッスね……それでいつも通り先陣切ってくれるサツキに付いてけなかったし、しっかり付いてきてるヒビキの足並み乱しちゃうし。やぁなんとか後半巻き返せたとはいえ、ぶっちゃけしばらくは寝る前に思い出して悶えそうッス』

 

『終わりよければ全て良し言うがな、ちっちぇーこといつまでも引きずんなよォEWCE(エウス)ゥ?』

 

『そうッスよ! 最後の2試合なんか俺、指示(オーダー)通りに動けば絶対勝てるって確信しながら行動できたんで! 最高のリーダーでしたよ!!』

 

『いやぁメチャクチャ雰囲気良いチームですね! それが結果に繋がる大きな要因だったところもあるんじゃないでしょうか!!』

 

『それは間違い無いッスね、じゃなきゃあんな無謀な作戦立てませんし思いついても実行しませんし』

 

『4試合目しっかりチャンピオンを奪取したのも注目ポイントでしたが、最終試合のムーブには僕も択捉(えとろふ)さんも度肝を抜かれましたからね。まさかトップチームに初動被せたうえ、蹂躙するように近場のチームを次々殲滅していきましたから。間違いなく今大会最多キルチームに輝いたでしょう』

 

『sadoさん終始ハラハラしてましたが、その不安を吹き飛ばすチーム合計32キルでしたからね!! 第1回大会をして破られることのない記録が打ち立てられてしまったのではないかと思います! サツキ選手とEWCE(エウス)選手の大暴れは間違いありませんでしたが、ヒビキ選手もキルこそ無いにせよ開戦の一撃が手榴弾(グレ)であることが多く、ダメージがしっかり出ていましたね!』

 

『そりゃもう、組んだのがサツキだったのは勿論、サツキが呼んでくれたのがヒビキじゃなかったらこの場には絶対来れませんでしたね。……それで後は、優勝チームリーダーとしてってことッスけど……。長々喋らせてもらったんで、言いたいことは1コだけッスね。……さいっこうに楽しい大会でした!! 運営の方、司会のお二人に戦ってくれた参加者の皆さん、マジでありがとうございました!!』

 

『2コ言っとるやんけw せやけどアタシもおんなじ気持ちですっ! メチャクチャ楽しかった! あーざましたーっ!』

『FPS初心者でしたが最高にアツく楽しめました! 参加させていただきありがとうございました!!』

 

『あぁあぁすーごいキレイに締めてくれる! 司会の存在意義なくなっちゃう! 正直もうちょっと尺あったから色々聞きたかったのにw』

『僕もあったんですがテンポ悪くなっちゃうんでこれくらいにしときましょう。よければ今度個人的に話聞かせてくださいね』

 

『sadoさんズルいなぁ……えーそれでは、第1回SADS(サッズ)ストリーマーパーティ優勝チーム、【EWCEと愉快な仲間たち】でした! 総合優勝本当に本当に、おめでとうございましたーーっ!!』

 

『『『ありがとうございましたー!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいということでね、本配信の注目ポインツ見ながら色々語ったりしましたけれども。……最後見入って黙っちゃいましたけどね、いやぁ嬉しかったね! どうよ君たち、初心者俺氏、大会で優勝した件について」

 

コメント

    :サツキパイセンとエウスおねーたまのおかげやろ

    :おめでとう!! ¥10000

    :ハァ?

    :調子乗っとんちゃうぞ

    :1キルも取れてないは笑う

 

「えぇあたりつっよ……あ、スパチャめっちゃ来てた、あざます! 最後に読ませていただきやすー。いやお二人のおかげなのは間違い無いけどね、俺だって頑張ったじゃん? ねぇ」

 

コメント

    :練習から本戦まで一発も撃ってねぇ玉無しが居るらしいな

    :ある意味伝説やな

    :玉無しヒビキん

    :室内は真っ先に凸るんだからSGくらい持とうや

 

「あ、出た出た指示厨め。俺は銃も弾も持たないでボマープレイする作戦だったから良いんですぅー! それで優勝したから結果論俺の、っつかEWCE(エウス)さんの作戦勝ちなんですぅー!! あと玉無しって表現やめろや!!」

 

コメント

    :弾拾わなくてもデフォでワンマガ入ってんだよなぁ

    :おねーちゃんって呼べや ¥20000

    :なんで優勝インタビューでおねーちゃん言わなかったねん期待してたのに

    :ヒビキはボイチェン使ってるだけで女説あるから。実物見ないとわかんないから

    :シュレーディンガーのてぃんてぃん

 

「男子サイテー。マジありえってぃー。しかも姉属性過激派おるな……おねーちゃんは流石にね、本人いねぇとこではね、恥ずいっすわ。その場その場で臨機応変に善処していく方向で……ねぇ本筋から遠ざかってんのよ。俺が初心者ながら頑張ってFPS大会に出て優勝までしたんだからチヤホヤしてねっていう配信なんだよこれはっ!!」

 

コメント

    :ぶっちゃけんなやw

    :キャーヒビキカッコイー(棒)

    :あぁうん、濡れた

    :せめてシューティングしてもろtおめでとう!

    :お前が伝説だ、玉無し ¥5000

 

「もうなんも嬉しくないのよ。tまで打ってからとってつけたようなおめでとうも伝説の玉無しも心に響かんのよ。フンッ、いいもんね、まぁ様式美ってやつなんでね、裏で散々サツキ先輩とEWCE(エウス)さんと健闘称え合ったし」

 

コメント

    :はぁーっ?

    :配信しろやカス

    :一番見たいとこ裏でやんなやボケが

    :kwskkwskkwskkwskkwskkwskkwskkwsk

 

「一番コメント早くて草。いやーあれは聞かせらんないねー、墓まで持ってくね。いやぁ2人がまさかあんな……おっとこれ以上はいけないいけないへっへっへw」

 

コメント

    :ぶち56したい

    :殴りたい、この笑顔

    :今までで一番キメェを毎回更新してくれる配信者の鑑

    :SADS中は大人しかったのに終わったらコレよ

 

「大人しい……そう! そうなんだよ!! もうなんか感覚マヒッてたから言いそびれてたんだけど聞いてくれよ!! 俺サツキ先輩とコラボしたんだよなぁっ!?」

 

コメント

    :なんやなんや

    :お、おう(引)

    :マジ今更すぎる

    :キモオタクん?

 

「キモオタて……まぁいいや。練習配信の最初らへんとか気づいてた人も居るかもしんないんだけどさぁ……俺、多分サツキ先輩と話す時様子おかしかったよな?」

 

コメント

    :そうだっけ?

    :いつもどおり過ぎて気づかんかった

    :お前普段様子おかしいじゃん ¥1000

    :あーうんわかる、あそこね

 

「あーOKOKツンデレ乙。そう! そうなんだよ! ほら俺もVtuberとしてさ? 事務所に入るまでにリスナーとして見てたVはいらっしゃるワケだよ。誰かって? その通り! Exactly(まさしく)!! 実は如月サツキ先輩こそ俺の推し!! VSのオーディションを受けるきっかけになったVtuberだったんだよ!!」

 

コメント

    :なっ……なんだってぇーー!? ¥610

    :たしかに口調がきしょかったかも知らん

    :辛辣ゥ

    :マジかよわかってんな ¥10000

    :FPS配信ばっかなのによう見とったな

 

SADS(サッズ)とは別だけどバトロワとかそうじゃなくてもFPSばっかやってたよなぁ。やぁでもね、その手のジャンル知らない俺がハマっちゃうくらい面白い配信ってこっちゃで? 配信見てたおかげで何となくムーブについて行けてたってのもあるかも。しかしねぇ、あのサツキ先輩のチャンピオン絶叫を通話越しとはいえ直で聞けたときの感動と言ったら無かったね! はぁ……Vtuberやってて良かったなマジで」

 

コメント

    :ただのファンの感想で草

    :よく今まで表に出さんかったな

    :つまり……直結ってコト?

    :男性Vは直結野郎ってはっきり分かんだね ¥2000

    :先輩はお引き取りください

 

「直結とか久々にコメントされたな……さては貴様古参か? このファンチめが!! まぁ今までは色々気にして推しとか言わないようにしてたけど、もはやそんなもん気にせんことにしたからな!! いや完全に気にしないとは流石に言えないけど。偉大なるサツキ先輩にね、もっとのびのび活動したほうが俺も視聴者も楽しめると思うって感じのアドバイスを頂いたんでね! これからは俺が楽しみたいだけのコラボもバシバシやって行こうと思います!!」

 

コメント

    :さすが姉御、含蓄あるぜ

    :もうちょい気楽にやれってのはホンマにそう

    :最近キリたそとのG・Iコラボとか疎遠だしな

 

    :よし、姉御も誘って初心者狩りしようぜ

如月 サツキ:サツキちゃんともまた遊んだってな……

    :2人でG・Iも煮詰まってる感あるしな

 

「おいおい姉御はお前、本人に聞かれたら……あ、あれ、本人居ね?」

 

コメント

    :あ

    :wwww

如月 サツキ:ユーザー名控えました

    :ヒェッ

 

「いやあのサツキさん、うちのリスナー共が失礼をば……こ、コメントの通りじゃないっすけどまたコラボさせてくださいねっ! VS入る前から実はファンでした! 大会誘ってもらえて滅茶苦茶嬉しかったし楽しかったッス!!」

 

コメント

    :いけヒビキ、お前に決めた!(生贄)

    :さすが俺たちのヒビキ、いつだって矢面に立ってくれる

    :リスナー下衆ばっかで笑うw

    :ライバーはライバーに似る

如月 サツキ:良きに計らえ

 

「ははぁっ!! 改めてご連絡差し上げまする……!!」

 

 そんなこんなあって俺の初FPS、初の大会参加は無事大団円と言える形で幕を下ろした。思えば以前はこんな感じでコメント欄に後輩のユラちゃんが現れ、コラボを打診してくれるところから本格的にVtuberの輪というものに足を踏み入れることが出来た気がする。

 

 その時は誘ってもらったにも関わらずボスに相談して慎重に決める形になったけど、今ではこうして俺から、しかも今までは隠していた推している先輩に対してコラボを持ちかけられるようにまでなったのだ。

 

 Vtuberの輪は、ライバーの輪はどんどん広がっていく。その中に俺も入れていると自身を持って言える。何度も対処が難しい局面に出くわしたけど、ボスを始めとして事務所の頼れる人たちや俺を慕ってくれる後輩のおかげで切り抜けることが出来て。あと一歩踏み出せずにいたところを先輩が背中を押してくれた。

 

 これからはもっと楽しくなる。いや、楽しくしてやろう。画面越しのリスナーが仲間に加わりたいと気軽に声を上げられるようになるまで、きっとそう遠くない。そんな未来の後輩たちに背中で語れるようになろうじゃないか。

 

 こんなに楽しくて仕方ない、一緒にヴァーチャルの世界で遊ぼうよ、ってな!!

 




キリ良いので一旦完結とします!
まだ書きたいことはあるんですがまとまってないので、続きを書く際は「本タイトル:続」のような形で新規投稿させていただきます。

約1年お付き合いいただきまして、本当にありがとうございました!!


ここまで読んでいただき楽しめたならぜひお願いします(評価)


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