雷の鳴る所には雨が降る (秋月 了)
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原作前
第一話 始まり


雷の柱の話で変えたいところが出たのでやり直し作品です。



飛鳥視点 

 

それは突然やって来た。

ある人口もそこそこの集落に俺は住んでいた。

親は五歳の時に両親と姉二人を殺され母親の親戚を頼ってこの村に来た。

俺の名は清水飛鳥。

生まれつき気配感知が得意なことと足が速い事だけが取り柄のどこにでもいる子供だ。

だがこの村に来て二年くらい経った時に義親夫婦は亡くなりはまた一人になってしまった。

義親夫婦には俺以外子供がおらず資産家だったため残された俺には莫大な遺産が転がり込んだ。

だがどんなに金があろうと親のいない子供は村にとって邪魔でしかない。

村長と数名の大人の判断で村を追い出される事なった。

しかしその決定を胡蝶夫婦が反対してくれた。

胡蝶家と義親夫婦は元々家族同士で仲が良かったことも有り

一時期は親同士で長女である胡蝶カナエと飛鳥で

結婚してはどうかなどと言う話も出るくらい仲が良かった。

そのことも有り胡蝶夫婦は俺を引き取ってくれた。

「いいんですか?」と夫婦に問いかけた所、

 

「子供が気にすることじゃない。子供の内はいっぱい甘えるもんだ。」

 

とおじさんはいい、おばさんも

 

「そうよ。村長の言う事なんか気にする必要なんかないわ。ずっとここにいていいのよ。」

 

と言ってくれた。

他の大人達も誰かが引き取ってくれるならと特に反対する者もいなかったので

結局胡蝶家でお世話になる事になった。

最初遠慮がちだった俺を見て夫婦は

 

「気になるなら、カナエかしのぶのどちらかと婚約して本格的に胡蝶の人間になればいい。」

 

と言われたときは三人揃って顔を赤くしたが反対意見は出なかったがその場は保留となった。

遺産に関しては代々受け継がれてきたという紺の羽織と

俺の実の両親が残した不思議な色の六本の刀を残し全てお金に換えた。

それから数年胡蝶家で過ごした。

そして俺達三人の運命を変える出来事がやって来た。

その日の夜いつも通り五人で寝ていた所、庭で物音が聞こえておじさんが確認しに行く。

扉を開けた瞬間首が飛びその近くにいたおばさんも腰を抜かしそのまま殺された。

見ればカナエとしのぶは完全に怯えている。

 

「(やばい、やばい。こいつはあの時の奴と同じやつだ。

何かするなら今しかない。あの時の奴は太陽の光を浴びた瞬間消えた。

こいつもそうかわからないけどおじさんとおばさんに夢中な今やるしかない。)」

 

傍に置いている刀を抜いて突きかかる。

化け物は完全に死体を喰うのに夢中で全く反応できずそのまま頭に刺さり壁際まで押し込む。

そのまま壁に打ち付けるように刀を化け物ごと刺す。

最初の頭から腕、身体、足の計六か所に刺す。

 

「くそーーーーー、人間のくせにーーー。はなせーーー。」

 

息を切らしながら化け物を見る。

必死に抜けだそうとしているようだが刀が深く刺さり抜け出せないようだ。

 

「(これで朝まで待てば、大丈夫なはず。)」

 

少し安心して二人の下に向かい逃げるように言う。

 

「大丈夫?」

 

「ええ。飛鳥は?」

 

「俺は大丈夫。逃げよう。ここは危ない。」

 

「ええ。行くわよ。しのぶ。」

 

「うん。」

 

俺達三人は家を出て道に出る。すると向こうから大男が走ってきて

血だらけの俺を見て声をかけてくる。

 

「済まない。この近くに化け物を見なかったか?」

 

「それなら家にいる。」

 

「!案内してもらえるか?勿論安全は保障する。」

 

「はい。カナエ、少し行ってくる。」

 

「待ってる。」

 

「分かった。すぐ戻る。行きましょう。」

 

「ああ。案内してくれ。」

 

大男を案内して家に戻り化け物のいる部屋まで向かう。

部屋に入るとまだ抜け出せず暴れている化け物がいた。

 

「お、鬼狩り!」

 

「これは君が?」

 

「ええ。食うのに夢中になってたので一気に。」

 

「そうか。」

 

すると大男は斧で化け物の頸を切った。

すると化け物は崩れるように消えた。

大男は念仏を唱えている。

念仏を唱え終わると同時に声をかける。

待つ間に刀は回収した。

 

「あの、有難うございました。」

 

「気にする必要はない。これが私の仕事だ。それより済まなかった。

私がもっと早く来ていればご両親を失わずに済んだ。」

 

「有難うございます。でもそれは外にいる二人に行ってあげてください。

俺はこの家では居候にすぎませんので。」

 

それから二人の下に向かい今後の事について話し合った。

その結果、二人は親戚の家に向かい、身寄りのない俺は先程の大男

悲鳴嶼行冥さんの案内で彼の所属する組織、鬼殺隊で働くことになった。

最初はカナエたちは一緒に来ないかと誘われたが流石に面識もない人に

お世話になる訳にはいかないと断った。

それから悲鳴嶼さんに鬼殺隊について教えてもらい

適性を調べてもらった結果雷と水の呼吸が適任だとわかり

雷の呼吸の育手である桑島様の下へ向かう。

 

「俺………私は清水飛鳥と申します。今日からよろしくお願いします。」

 

「うむ。よろしく頼む。儂の事は師範と呼ぶといい。

これから君が最終選別へ向かうまでみっちり鍛えてやる。

しっかりついてくるように。」

 

「はい。よろしくお願いします、師範。」

 

それから二年間の修行が始まった。

 

 

 



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第二話 雷の呼吸

師範による稽古が始まった。

まず基礎体力向上から基本的な稽古など雷の呼吸を使うのに適した稽古をつけてもらう。

鍛練の内容は厳しいが両親と姉二人とおじさん達の仇を取りたいので頑張ると決めた。

稽古中の師範は一言で言うと雷オヤジを絵に描いたような人物で結構頻繁に拳骨で殴られる。

でも稽古が終われば優しいところやお茶目なところもある。

厳しくも優しいおじいちゃんという感じだろうか。

そんな師範に鍛えられながらその内師範から次の段階へ向かうと言われた。

がきついのは変わらずいやむしろ今までよりきつい。

朝起きると同時に体力作りの走り込みで数時間走る。走り込みは今までもやってたのでいいのだが

今は呼吸法も加えながらなので集中力を求められるのでかなりしんどい。

しかも遅いと師範に殴られるというおまけ付き。

走り込みが終われば朝の食事を食べて少し休んだ後は木刀を持って素振り。

足の次は腕を鍛えるのだ

勿論稽古中は怠ける事は許されないし剣筋が鈍れば即拳骨や杖が飛んでくる。

疲れてきた時は最悪で剣筋がゆがみ殴られ、そのせいでまたゆがみまた殴られるの繰り返し。

適当に振ったつもりはないがふとカナエやしのぶの事を考えてしまい剣筋がゆがんでしまい

殴られることもあった。

さらには特殊な呼吸法の鍛錬。全集中の呼吸というものを会得しないと話にならないらしい。

また、雷の呼吸という剣技?呼吸法?を会得しなければならない。

これもきつい。肺痛い、心臓ドクンドクンする。耳から血とか心臓が出そう。

ここまでの鍛練を修行開始から半年続けた。

余りのしんどさに数回逃げ出したが即捕まりその度拳骨とありがたいお話を貰う。

お話の時はいつも決まって、

 

「泣いてもいい、逃げてもいい、ただ諦めるな。信じるんだ。自分を。」

 

と言ってくる。

人生経験豊富なためかその言葉がいつも重たい。

 

「(このままじゃだめだ。)」

 

半年の内最後の数日は逃げる事しか考えてなかったと思う。

だが逃げる事は不可能と考えた俺は作戦変更とばかりに別の方法を取る。

作戦内容は逃げられないなら逃げずに全集中の呼吸を持続して行う事で

基礎体力の向上を図り、走り込みや素振りを疲れることなく行うというもの。

師範曰く呼吸法が完璧に出来るようになれば今の鍛練も楽になると最初言っていた。

なら全集中の呼吸を四六時中やれば早くそうなるんじゃないかと考えたのだ。

だがそんな簡単にできるわけもなく

 

「全集中の呼吸きっつい。」

 

と叫ぶ。

肺を大きくしてより多く空気を肺に取り込むらしいのだがこれがまぁきつい。

師範のところに来てから半年。真面目に訓練してきたと思っているし実際努力してきた。

その結果、肺活量などは高まっているはずだが未だ全集中の呼吸を継続することができない。

寝てる間も全集中とかやろうとしてるけどこれもまぁキツイ。

無意識にできたらもうあとは余裕になると思うんだけどなぁ。

それと同時に雷の呼吸の型を習得に励む。

師範曰く俺は覚えが早く筋がいいらしい。

滅多にないが褒められたときはとても嬉しい。

俺にはいなかったが爺ちゃんってこんな感じなのかもしれない。

 

「これ、ぼーとするな、馬鹿者。」

 

ガツン

 

「いってええぇえ!!」

 

瞑想中に余計なことを考えていたせいでおこられ

師範の杖で殴られそうになったので躱そうとするが首から下が動かず肩に当たる。

また殴られた。俺まだ十一歳だよ。少しは手加減してくれてもいいんじゃない?

 

「ほう、やるではないか。」

 

「全集中の呼吸が途切れたらどうするのさ!今最高記録なんだから!」

 

「ん?儂、常中は教えとらんぞ。」

 

「教えてもらってないですからね。逃げるの諦めて早くできるように

なろうとしてやってた。常中っていうんだ、これ。」

 

「どれくらいやっとる?」

 

「朝からずっと。まだ寝る間は出来ないけど今はまだ途切れてない。」

 

「たった半年で、ゼロからここまで……よし!今日からお前は儂の後継者じゃ!

儂の全てを叩き込んでやるから覚悟せい!」

 

「まじか!」

 

「まじじゃ。」

 

なぜこうなった?将来楽しようと始めた事のせいでむしろよりしんどくなる。

まさかこうなるとは思わなかった。

でも教えるのは師範なので俺に逆らえるはずもなく徹底的に仕込まれた。

それと同時に少しは真面目になろうと考えた瞬間だった。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

ここでオリ主の紹介。

名前 清水飛鳥
年齢 十三歳
誕生 十二月三日
呼吸 雷の呼吸
家族 カナエ
   しのぶ
好物 胡蝶家で食べた料理
趣味 料理

主人公。生まれつき生命の気配を感知する事が出来る。
見ただけで技術をある程度使える様になる程器用な
才能の持ち主。でも本人は自覚無し。
全体的に細い体に中性的な顔立ちをしている。
女性寄りな名前を若干嫌っている。
両親と姉二人を鬼に殺されるが奇跡的に助かり
その後母方の親戚の夫婦の下に身を寄せるが二年後に鬼に殺されて身寄りをなくす。
村から追い出されそうになるが胡蝶家に拾われてそこで過ごすが
十一歳の時に鬼によって育ててくれた胡蝶夫婦を殺され、
その後悲鳴嶼に救われ鬼殺隊に入隊。
桑島のところで雷の呼吸の型を学ぶべく修行の積んでいる。
元々真面目な性格ではなかったが後継者になれと言われた時に
下手に逃げようとすると余計しんどくなると学び、
真面目に生きようと決意し
以後人が変わったように真面目に生きるようになった。
だがいまだ家族や恩人を殺された事を恨んでいる。

以後も主人公やオリキャラ独自設定を入れたキャラ
に関する情報は後書きで入れていくと思います。
またよろしくお願いします。


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第三話 最終選別

第三話です。よろしくお願いします。


修行開始からニ年が過ぎた。

この二年の間後継者としての教育を徹底的に受け条件さえ満たせば

即柱になれるだけの知識と技術など色々仕込まれた。

そしてついに師範の許可を得て今、最終選別を受けるため、藤襲山に来ている。

山の麓から中腹にかけて鬼の嫌う藤の花が一年中咲いている山で

鬼にとっては牢獄のような場所である。

そんな場所に最終選別を受けるために俺を含め約二十人位の人間が来ていた。

その中にカナエがいたので驚いて声をかける。

 

「カナエ、どうしてここに?」

 

「飛鳥!久しぶりね。二年ぶりくらい?私達も鬼殺隊に入隊するために修行してたの。」

 

「達という事はしのぶも?」

 

「ええ。今日はあの子はまだ未熟という事でいないわ。」

 

「そうか。」

 

「でも良かった。飛鳥も無事で。二人で気にしてたの。

あの後どうなったんだろうって。」

 

「連絡できなくてごめんな。」

 

「気にしないで。こうして会えたんだから。今はお互い生き残る事を目標に頑張りましょう。」

 

「そうだな。」

 

「「皆様、今宵は鬼殺隊最終選別にお集まりいただき、

有難うございます。」」

 

話していると二人の少女が出てきた。二人とも白髪で見分けがつかない。

 

「この藤襲山には鬼殺の剣士様が生け捕りにした

鬼が閉じ込められており外に出ることは出来ません。」

 

「鬼が嫌う藤の花が山の麓から中腹にかけて一年中狂い咲いているからです。」

 

「しかしここからは鬼どもがおります。」

 

「この中で七日間生き抜く。それが最終選別の合格条件です。」

 

少女たちは交代で説明を行ってゆく。

 

「「では行ってらっしゃいませ。」」

 

受験者が一斉に山に入っていく。

 

「行くか。」

 

「ええ。背中は任せて。」

 

「任せた。」

 

二人で協力することを約束し山に入って行く。

俺が前を進みカナエが後ろで後方を警戒しながら

太陽が最も早く出る東に進む。

この試験の目的は生き残る事だなら別に別れて個々に戦う必要はない。

互いに相手の事を分かってるからできる事だが勝算はあると思う。

説明を聞きながらカナエに提案して乗ってくれたのでそうすることにする。

 

「久しぶりの人間だーー。」

 

「肉よこせー。」

 

「(雷の呼吸 弐の型 稲魂)」

 

「(花の呼吸 肆ノ型 紅花衣)」

 

俺達はそれぞれの方向から来た鬼の頸を落とす。

頸を落とされた鬼は塵となって消滅した。

 

「よし、通じる。大丈夫か?カナエ。」

 

「ええ。こっちも大丈夫。行きましょう。」

 

「そうだな。」

 

心配してカナエの方を見れば笑顔で返事してくれる。

やばいこの笑顔がやばい。つい索敵忘れて見とれてしまう。

最終選別の途中だという事を思い出し即座に気持ちを切り替える俺。

それからまた進み出てきた鬼を倒しつつ日にちが経つのを待つ。

五日目の夜にそれは現れた。

いつも通り互いで死角を守りつつ、その場にとどまり襲ってくる鬼を迎え撃っていた。

そんなとき急にこれまで感じたことのない鬼の気配を感じた。

 

「なんだこの気配。今まで感じた気配とは別格だ。」

 

「どうしたの?」

 

「これまで感じた鬼とは別格の奴がいる。それに体も異様に大きい。

もしかしてこれは異形型か?」

 

「嘘!ここにいるのは人間を一人か二人位しか食べてない鬼しかいないはずよ。」

 

「分からんがうまく隠れていたのか。そもそも管理が杜撰なのか。

分かんねえけど誰かと戦いながらこっちに来てる。」

 

「どうするの?」

 

「やるしかない。奇襲をかけられたらいいが。」

 

「分かったわ。」

 

俺達はそれの下に向かう。

近づいて物陰からそれを見ると多くの手を持つ鬼が

宍色の髪の少年と戦っていた。

年齢は俺と同じくらいだろう。

果敢に戦っているが疲労が激しいようだ。

 

「カナエ、俺が突っ込むから時間差で攻撃してくれ。」

 

「わかったわ。まかせて。」

 

その時宍色の髪の彼が攻勢に出た。

無数の腕を切り首を狙いに行く。

突っ込んで頸を切ったと思った。

だが頸の硬さに負けて刀が半ば辺りで折れてしまった。

そして隙が出来た瞬間鬼は手で彼を握りつぶそうとする。

 

「まずい(雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃 神速。)」

 

俺は持てる技の中で最も早い技を繰り出し彼を襲う手と頸の周りの腕を

切り落とす。これで頸が見える。

 

「カナエ、今だ。」

 

「ええ(花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬。)」

 

前方に繰り出された九連撃で鬼の頸を切った。

 

「よし。」

 

「よかった。」

 

それぞれ安堵の声を上げ鬼が消滅するのを確認する。

完全に消滅したのを確認すると彼に話しかける。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、済まない。助かった。」

 

「気にしないで。それより怪我は大丈夫?」

 

「ああ。しかしどうするか。」

 

「刀か。それなら共に行動しよう。どうせもうすぐ夜明けだ。

少し休んだら行動しよう。」

 

「ああ。」

 

「すまん。自己紹介がまだだったな。俺は清水飛鳥だ。」

 

「私は胡蝶カナエよ。」

 

「俺は錆兎だ。」

 

「錆兎か。よろしくな。とにかく三人で生き残るぞ。」

 

それから俺達は残り一日を三人で乗り切った。

錆兎はとても強く折れた刀でも普通に鬼を倒していた。

開始位置に戻りながら錆兎と話す。

 

「十分強いじゃん。」

 

「ええ。ほんと。」

 

「そうか?二人も十分強いだろ。」

 

そんなことを話しながら最初の鳥居の場所まで向かう。

俺たちが最初だったが次々戻ってきて最終的にには全員が戻ってきた。

その中には錆兎の知り合いがおりその人の場所まで向かっていって

そいつを背負って帰ってきた。

名前は冨岡義勇というらしい。

 

「お帰りなさいませ」

 

「ご無事で何よりでございます。」

 

「まずは隊服を支給させていただきます。寸法を測り階級を刻ませていただきます。」

「階級は十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸。今現在の皆様は、

一番下の癸でございます。」

 

「さらに皆様には鎹鴉を付けさせていただきます。

鎹鴉は連絡用の鴉です。そう言って白髪の少女が手を数度たたくと鴉が現れ俺達の肩に乗った。

 

「では此方をご覧ください。」

 

そう言って黒髪の少女が後ろにあった台座にかけられた布を取る。

 

「こちらから刀を創る鋼を選んでくださいませ。

鬼を滅殺し己を守る刀の鋼はご自身で選ぶのです。」

 

俺達は台座の前まで行き鋼を直感で選んだ。

刀ができるまで十日~十五日ほどかかるらしい。

俺は錆兎やカナエとその場で別れ育手のもとへ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 




再び登場カナエさん登場です。
胡蝶カナエの入隊時期などの細かい設定がわからず
今回は錆兎や冨岡さんと同期入隊という事にさせてもらいました。
これが捏造設定その一ですね。


この話における胡蝶カナエ紹介

名前 胡蝶カナエ
性別 女性
年齢 十三歳
呼吸 花の呼吸
家族 しのぶ(妹)
   飛鳥

親を鬼に殺され、寸でのところで飛鳥の機転と悲鳴嶼のおかげで助かる。
その後親戚の家に引き取られるが妹のしのぶと共に悲鳴嶼の家に
押しかけ弟子となり家事手伝いをする。
その後悲鳴嶼の計らいで花の呼吸の育手の下で修行を開始。
一年半で最終選別に参加して飛鳥と協力して切り抜けた。
笑顔がきれいで飛鳥も見とれて索敵を忘れそうになるほど。

またお会いしましょう。





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第四話 帰還

第四話です。短めですがよろしくお願いします。


カナエや錆兎達と別れ俺は師範の下に戻る。

といってもカナエと俺がそれぞれ師事していた育手の住まいはとても近く

帰る途中意外と近くにいたことについ二人で笑ってしまった。

カナエを途中まで送り師範の住居に戻る。

疲労もあり本来の倍の時間がかかってしまった。

 

「師範只今戻りました。」

 

「おお~戻ったか。結果は見れば分かるな。しかも無傷とは、ようやった。」

 

「有難うございます、師範。」

 

「うむ。これから鬼殺の隊士として頑張れよ。そしてくれぐれも死ぬなよ。」

 

「はい。」

 

その日は直ぐに寝てしまった。

それから数日後カナエが家に来た。

カナエは悩んでいた。

理由は妹のしのぶだった。

何でも同じ花の呼吸を学んだそうだが体が小さすぎて根本的な筋力が

付ける事が出来ないらしい。

 

「どうしたらいいのかなって思って、少し話を聞いて欲しかったの。」

 

「なるほどな。頸が切る筋力がないなら俺があの時やった方法も無理だな。

後は何かあるか?………………………あ!」

 

「どうしたの?」

 

「藤の花の蜜でいいのか?それを抽出して刀身に塗って

鬼の体内に打ち込めばいいんじゃないのか?」

 

「!。なるほどそれなら何とかなるかもしれないわ。

相談してよかった有難う。」

 

「おう。」

 

それからカナエは少しゆっくりした後育手の下に帰っていった。

戻ったらしのぶと検討してみるらしい。

元々胡蝶家の夫婦は薬学に精通していた。

カナエもしのぶも夫婦からその辺の知識を学んでいた。

因みに俺もお世話になるようになってから学んでいたが怪我の治療しかできない。

後は旨く行くことを祈るだけだ。

 それからさらに二日が立ち俺にとって待ちに待った物が届いた。

 

「初めまして清水殿。私は今回貴方の刀を打たせてもらった鉄穴森と申します。」

 

「清水 飛鳥です。今回は有難うございました。」

 

「いえいえ。これが私の仕事ですから。ではこれが貴方の刀になります。どうぞ。」

 

「有難うございます。」

 

「さあさあ。抜いてみてください。日輪刀は別名色変わりの刀と呼ばれています。」

 

そう言われて俺は刀を抜く。すると刀は鮮やかな青の刀身に黄色い稲妻模様に変わった。

 

「これはまた変わった色になりましたね。」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。一般的な雷の呼吸の使い手は黄色い稲妻模様になるだけなのですが。」

 

「そう言えば悲鳴嶼殿が雷以外に水の呼吸にも適性があると言っておったな。」

 

「ならそれでですね。」

 

「そうなんですね。ま、刀身がどうであろうとやることは変わらないが。」

 

「ん、何か言いましたか。」

 

「いえ何も。」

 

「そうですか。」

 

「あ、そうだ鉄穴森さんに見てもらいたい物があるんです。」

 

「なんでしょう?」

 

「これなんですけど。」

 

飛鳥は形見である六本の刀を見せる。

 

「これは?」

 

「家にあった刀です。刀身が青や黄色や黒に変わっているので

もしかしたらこれも日輪刀なのかなと思って刀鍛冶の鉄穴森さんなら

何かわかるかと思って。」

 

「そう言う事ですか。少し拝見させてもらいますね。」

 

鉄穴森は刀を鞘から抜き一つずつ検分していく。

暫くして検分を終えた鉄穴森が顔を上げてこちらに結果を話す。

 

「この一番古い黒い刀身の刀が打たれたのは恐らくですが戦国時代のごろだと思われます。

それとそれぞれ大体持ち主が二本ずつ違うと思います。」

 

「なるほど有難うございます。」

 

「申し訳ないのですがもう少し調べたいのでこの刀を持ち帰ってもよろしいでしょうか?」

 

「俺ももう少し知りたいのでよろしくお願いします。」

 

分かりました。お預かりさせてもらいます。では私はこれで。」

 

「はい。有難うございました。」

 

(しかしなんでひょっとこなんかつけてるんだろう?)

 

 そうしてその日は過ぎていった。

 

 




四話いかがだったでしょうか?

やり直し作品だから雷の柱と同じところもございますが
よろしくお願いします。


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第五話 初任務 

 刀を貰った日の午後

 

「カァァ、清水 飛鳥指令ヲ伝エル。胡蝶カナエト共ニ南西ノ山、名霧山ニ向カエ。

ソコデハ登山客ガ消エテイル。ソノ山ハ年中、霧ガカカリ太陽ガ照ルコトハナイ。

十分ニ注意セヨ。鬼狩リトシテノ最初ノ仕事デアル。」

 

「いよいよじゃな。気負付けろよ。」

 

「はい、師範。今までありがとうございました。頑張ります。」

 

飛鳥は隊服に着替え、紺の羽織を羽織り刀を差し玄関を出て見送りに出てくれた師範に礼を言う。

 

「気にすることはない。だがこれだけは覚えておけ。かっこ悪くてもいい。逃げてもいい。

 

だが諦めるな。信じるんだ。そうすれば道はある。」

 

「はい。行ってきます。」

 

「飛鳥・・・風邪・・ひくなよ。」 

 

「しは~ん。長い間、!!!お世話になりました!!!この御恩は一生...!!!忘れません。!!!。」

 

そう言って名霧山に向かった。

 途中でカナエと合流して数日後。

 

「ここが名霧山。」

 

「そうね。名前の通り霧に包まれているわ。」

 

二人は目の前の山を見る。

飛鳥は合流してから聞きたかった事を此処で聞いた。

 

「で、ひとつ聞きたいことがあるんだが。」

 

「何?」

 

「なんでしのぶがここにいるの?」

 

「前に飛鳥ガ考えてくれた藤の花の毒の試作品が出来たから試すために付いてきたの

大丈夫。育手を通して本部の許可も下りてるわ。」

 

「そうか。はぐれるなよ。」

 

「は、はぐれるわけないじゃない。そこまで子供じゃないわ。」

 

「ハハハ、悪かった。」

 

飛鳥はわらいながらしのぶの頭をなでる。

撫でられるしのぶは顔を赤くしながらうつむく。

しのぶをからかい終えた飛鳥は気を取り直すようにして進むのを促す。

 

「よし。行くか。」

 

「ええ。今回はしのぶの毒を試す都合もあるから

生け捕りでお願いね。」

 

「出来たらな。」

 

飛鳥とカナエがしのぶをはさんで昇っていく。

先頭がカナエで後ろが飛鳥。最終選別の時の逆の並びにしのぶが入った感じだ。

三人は無言のまま道なき道を山頂をめざす。

ふとしのぶは後ろを行く飛鳥が気になって振り返る。

そこには目をつむりながら進む飛鳥の姿があった。

霧で見えにくいが見ただけで集中しているのがわかるしすごく小さい声で何か言っている。

だが何をしているのかは分からない。

 

「姉さん、飛鳥は何をしているの?」

 

考えたが答えが出ないしのぶは前を歩くカナエに聞くことにした。

 

「飛鳥は今この山にいる生命の気配を探しているの。」

 

「生命の気配?」

 

「そうよ。私も飛鳥に聞いただけだけど動物、植物には気配があるらしいの。

飛鳥はそれを読み取って鬼を探しているの。」

 

「どれくらい見れているの?」

 

「分からないわ。でもかなり広範囲のはずよ。」

 

しのぶはただ驚くだけだった。

生まれつき気配感知に長けているのは知っていたがここまでとは思わなかった。

 

「止まれ。」

 

「見つけた?」

 

「ああ。こっちに近づいてきてるけどまだ遠い。俺も前に出る。

血鬼術に警戒してくれ。」

 

「分かったわ。」

 

飛鳥とカナエを前にしのぶを守るように進む。

 一方鬼側では既に飛鳥達を見つけた鬼が飛鳥の方へ木から木へと飛んで近づいていた。

勿論鬼には飛鳥が気配感知で自分が近づいている事に気づいているとは思っていないので

気にすることなく近づいていく。

ある程度近づいたところで木の上に止まり両手を前にし血鬼術を発動する。

 

「(血鬼術 活血飛槍。)」

 

顔の周りに血の様に赤く短い槍を二本出現させる。

 

「行け!」

 

槍は物凄い速さで飛んで行った。

 

 

時間が少し戻って飛鳥は鬼が止まり血鬼術を発動したのに気づく。

 

 

「鬼が止まった。血鬼術が来るぞ。」

 

その瞬間血鬼術で出来た槍が飛んでくる。

飛鳥とカナエで槍を一本ずつ刀で撃ち落とす。

カナエはこのまましのぶを守っていてくれ。俺が行って捕まえてくる。」

 

「任せて。必ず守って見せる。」

 

「「任せた(雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃 八連。)」

 

飛鳥は八回の一閃で方向を変え、鬼の攻撃をかわし

八回目で鬼の四肢を切り落とした。

切り落とされた鬼は地面に落ちた。

飛鳥は直ぐにカナエたちを呼び回復した部分を再び切り落とす。

少ししてカナエとしのぶがやってきてしのぶが持って来た薬を撃ち込む。

すると鬼は直ぐに苦しみだそのまま死んだ。

 

「成功ね。」

 

「ええ。これで姉さんや飛鳥と肩を並べて戦える。」

 

胡蝶姉妹が喜んでいた時飛鳥はある事に気づいて近寄る。

 

「飛鳥どうしたの?」

 

いち早く気付いたカナエが飛鳥に声をかける。

 

「おい、こいつ元だが下弦の鬼だぞ。」

 

「ほんと?」

 

「ああ。この目そうだろ。」

 

「ほんとだわ。」

 

飛鳥に言われて鬼の目を見たカナエが驚く。

 

「だがこれで少なくとも下弦の鬼までは通用することが分かったわけだ。」

 

「そうね。凄いわ、しのぶ。」

 

「とり合えず下山しよう。さすがに疲れた。」

 

「そうね。しのぶもいい?」

 

「分かった。」

 

飛鳥達は山を下山した。

この後それぞれ一休みした後、

飛鳥は別の任務へ向かいカナエはしのぶを送るために一度育手の下へ帰るのだった。




第五話いかがだったでしょうか?


ここでこの話における胡蝶しのぶの紹介。

名前 胡蝶しのぶ
性別 女性
年齢 十歳
家族 カナエ(姉)
   飛鳥

親を鬼に殺され、寸でのところで飛鳥の機転と悲鳴嶼のおかげで助かる。
その後親戚の家に引き取られるが姉カナエと共に悲鳴嶼の家に
押しかけ弟子となり家事手伝いをする。
その後悲鳴嶼の計らいで花の呼吸の育手の下で修行を開始。
しかし小柄故に筋力が足りず育手からは隊士になるのを諦めて
隠として生きる事を進められる。
そんな時に飛鳥の思い付きを聞いて直ぐに実践。
姉の協力で少し改良を重ねて見事元下弦の鬼を倒した。
カナエ同様とても美人。
でも普段からしかめっ面をしていることが多い。


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第六話 上弦の壱

六話です。
今回は雷の柱とは違うストーリーです。
どうぞ。


元下弦の鬼を討伐した日から二ヶ月が経過した。

飛鳥は鬼を五十近く倒しており階級も癸から丙まで上げていた。

その日も鬼を討伐していた。

 

「ここで死ぬなんてな。」

 

「残念だがそれが運命だ。下弦の参。せめて来世がいい人生になる事を期待するさ。」

 

「ふ、来世か。どうせ俺は地獄落ちさ。だがそれも悪くないかもな。」

 

そう言いながら下弦の参は消えていった。

飛鳥は最近鬼から助けた家族からもらった時計を見る。

 

「倒したか。時間深夜十二時五十分てことは戦闘時間は三十分か。

弱いな俺は。鍛えられるはずだ。」

 

「そうだまだ鍛えられる。」

 

「!誰だ。」

 

「名乗る名はない。だがこれを見れば分かるだろう。」

 

鬼は六つある目を開く。

 

「(上弦、しかも壱かよ。死んだなこれは。なら。)行け。この事を本部得伝えるんだ。

 

俺は肩に乗る鴉に小さな声で言い送り出す。

 

鴉は飛び出す。

上弦の壱が鴉を殺そうとするが飛鳥は切りかかる事で防ぐ。

 

「見事な速さだ。その速さ鬼でもなかなかいない。」

 

つばぜり合いから一度離れそれぞれ型を繰り出す

 

「(月の呼吸壱ノ型 闇月・宵の宮。)」

 

「(雷の呼吸壱の型 霹靂一閃二連。)」

 

血鬼術交じりの呼吸に驚きながら型の速さで躱しそのまま木を蹴って二発目を上弦の壱の頸を狙いに行く。

だがそれも防がれるが鬼の刀が根元から折れた。

 

「(好機、雷の呼吸弐の型 稲魂。)」

 

飛鳥は五連撃で再び首を狙う。

しかしそれも塞がれた。

 

「は?」

 

「折れたところで意味はない。直ぐに再生するからな。」

 

「さっきの型に"ホオオオ”という呼吸音、まさかお前元鬼殺隊の隊士か?」

 

「さよう。月の呼吸という。だがそのような事意味はない。」

 

「確かにな。意味はない。」

 

それから二人は再び斬り合っていくのだった。

 

 

 

鬼殺隊本部

 

 

その日は丁度半年に一度の柱合会議が行われる日であり

鬼殺隊の頭である産屋敷 耀哉の体調が昼頃から優れなかったがその日の夕方に回復したので

急遽柱合会議が深夜から行われていた。

その日は報告ごとが多く、日が変わるので続きは明日しようかという事になりでは解散となった

その直後に鴉はだった。

 

「急報、急報上弦ノ壱出現、上弦ノ壱出現。

丙ノ清水飛鳥ガ単独デ交戦中救援ヲ救援ヲ。」

 

「そうか。よく知らせてくれた。でももうひと飛び頼まれてくれるかい?」

 

鴉は頷く。

その時その場に柱が驚いて戻ってくる。

 

「上弦の壱が出ただと。どこだ案内しろ。」

 

「コッチダ。」

 

「みんなで言ってきてくれるかい。その剣士を頼んだよ。」

 

「はっ。」

 

その場にいた柱達六人が走り出した。

柱としての責務を果たすべく願わくば単独で戦っている隊士がまだ生きている事を願って。

 

 

 

 

 

 

 

どれほどの時間戦っただろう。

飛鳥はまだ刀を構えて立っていた。

だが満身創痍で体中傷だらけ致命傷こそ避けていたがそれでもいたる所に傷があり

大量の血を流してもはや刀も振れず戦える状況ではなくいつ倒れてもおかしくない状態だった。

だが立っていた。それは執念だった。鬼には決して屈しないという執念。

それだけで上弦の壱を睨んで立っていた。

その姿に上弦の壱は数歩後ずさりする。

 

「(恐れた?この私が?こんな押しただけで倒れそうな少年を?)」

 

そこで上弦の壱は直ぐにでもとどめを刺す事を決める。

最初は勧誘するつもりでいた。血鬼術なしでも下弦の鬼を倒し、

無惨の配下の鬼の中では最強の存在である自分を相手に一歩も引かずに戦った少年を

この場で葬ってしまうのは惜しいと思ったのだ。だがそんな考えは消え失せた。

ここで生かせばこの存在がいずれ自分を、果ては無惨を追い詰めると。

例え何らかの形で血を与え、鬼にしようとしても何らかの形で呪縛を解いてしまうかもしれない。

そう考えて。

そして近づいて殺しにかかる。

 

「終わりだ。死ね。」

 

それはただ速いだけの一撃。血鬼術すら使わない一撃。

飛鳥は反応すら出来ない。ここで死ぬわけにはいかない。

だが動くことが出来ない。

飛鳥に振り下ろされる刀もはやこれまでだと考えた瞬間だった。

それを防いだものがいた。

 

「悲鳴嶼さん。」

 

攻撃を防いだのは岩柱の悲鳴嶼だった。

飛鳥が周りを見れば六人の剣士がいるのが分かった。

 

「よく耐えた。後は任せろ。」

 

「すみません、お願いします。」

 

「六人か。軽くはないか、退く。鳴女殿。」

 

その瞬間上弦の壱の後ろに障子の扉が現れ上弦の壱はそれをくぐって去っていった。

 

「去ったか。」

 

「ですね。それより今は彼の手当てが先でしょう。」

 

その場にいた柱達が飛鳥の方を振り向く。

 

「良く戦った。派手に褒めてやるぜ。」

 

「有難うございます。」

 

「とにかく今は休むと良い。既に止血も済んでいるようだ。」

 

「すみません。」

 

そこで飛鳥の意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第六話いかがだったでしょうか?
ここら辺から違うストーリーも入れていきたいと考えています。
どうぞよろしくお願いします。


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第七話 御館様

 目が覚めると知らない場所にいた。どこかの屋敷の一室だろう。

飛鳥は起き上がろうとするが痛みで直ぐには起き上がれない。

その時に悲鳴嶼が入ってきた。

 

「まだ起き上がらない方がいい。まだ一日しかたっていない。」

 

「悲鳴嶼さん。助けていただいてありがとうございました。」

 

「気にする必要はない。お前も上弦の壱を相手に良く生き残った。」

 

「いえ。自分はまだまだですよ。それよりここはどこなんですか?」

 

「ここは産屋敷邸。つまりはお館様の屋敷という訳だ。

本来ならこのようなことはしないのだがお館様直々にお話があるとの事でこの場所に運んだのだ。

動けるようになり次第お館様に会ってもらう。」

 

「分かりました。内容は上弦の壱に関することですか?」

 

「そうだ。我々はたいして交戦していない。

お前からの情報が今後の鬼殺隊の今後にかかわってくる。」

 

「はい。それまでに得た情報を説明できるようにしておきます。」

 

「頼んだ。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後怪我も少しずつ治りかけて来た頃、

その日は緊急の柱合会議が開かれ飛鳥も参加していた。

 

「やあ、飛鳥元気になって何よりだ。早速だが報告を頼めるかい?」

 

「はっ。」

 

飛鳥は報告を始める。上弦の壱の容姿の特徴や全集中の呼吸を使う事。

そして呼吸の型などを実演も合わせて説明していく。

 

「なるほどな。そこまで分かるなら対策の立てようは大いにあるな。」

 

「ああ。見事な観察眼だ。」

 

「しかもそれを再現しちまうとはすげえじゃねえか。」

 

「有難うございます。しかしあくまで再現です。本物はこの数倍は凄いと考えてください。」

 

「血鬼術も合わさっているならそうだろうな。だが知らずに挑むよりは生存率は上がるだろう。」

 

「そうだな。だが用心はするべきだ。こいつに見せたのが全てとは限らないだろ。」

 

「そうだね。上弦の壱に関してはまだわからない事も多いが皆気負付けて挑んでほしい。

それともう一つ話があるんだ。本人にも話してないんだが飛鳥を柱にしようと思うんだ。」

 

「よろしいかと。柱の空席が目立ちます。上弦の壱との戦いから生き残った彼なら適任でしょう。」

 

「俺も派手に賛成する。」

 

「彼を柱にすることには私も賛成だ。だが時期に関しては反対する。

もう少し時期をずらし経験を積ませるべきだ。」

 

「行冥の言う事もその通りだね。それに階級もまだ甲には至っていない。

ならこうしようか現段階では飛鳥を甲に昇進。柱の誰かの補佐に付けよう。

その後経験を積んだと判断したら彼を柱とする。どうかな?」

 

「ならば問題ないかと思います。」

 

「ならばそうしよう。槇寿郎頼めるかい?」

 

「お任せを。」

 

「判断も君に任せるよ。ではこれより飛鳥を炎柱補佐として働いてもらうよ。」

 

「はっ。」

 

そこで柱合会議は解散となった。飛鳥は今日中に煉獄邸へ移ることになり槇寿郎に付いて行く。

 

「これからよろしくお願いします。煉獄さん。」

 

「槇寿郎でいい。家でそう呼べば全員が反応するからな。」

 

「そうですね。分かりました。」

 

「傷は大丈夫か?」

 

「ええ。だいぶ良くなりました。治療してくれたカナエの話ではあと数日は療養しろとの事です。」

 

「分かった。なら治るまでは療養として治り次第私の補佐として働いてもらう。いいね。」

 

「分かりました。」

 

飛鳥は煉獄邸での療養生活を送るのだった。

 

 

 

 

 



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第八話 煉獄邸

最初に訂正させてもらいます。
六話の最後のセリフ変えさせてもらいました。
ご了承下さい


 飛鳥の怪我も癒えて幾つか任務をこなしていたある日煉獄家に新たな子供が生まれた。

名前は千寿郎。父親である槇寿郎や兄杏寿郎によく似た少年だ。

母親である瑠火も産後の経過は上々で当初心配されていた病も土壇場で

カナエの紹介で変えた医者のおかげで完治した。

 

「おめでとうございます。槇寿郎さん、瑠火さん。」

 

「ありがとう、飛鳥君。是非抱いてあげてくれ。」

 

「ありがとうございます。」

 

抱き上げた赤子はそれ相応の重さがあった。

 

「本当に槇寿郎さんや杏寿郎によく似てますね。」

 

「確かにそうだな。煉獄家の男子は皆そうなのだ。」

 

「そうなのですか。」

 

飛鳥は千寿郎を瑠火に返しながら頷く。

 

「仲良くしてやってくださいね。」

 

「はい。すみません、俺は一旦失礼します。」

 

飛鳥はそこで部屋を後にする。

ここにはいない杏寿郎と鍛練をするためだ。

 

「済まない待たせた。」

 

「気にする必要はない。さあやろう。」

 

「そうだな。」

 

飛鳥と杏寿郎の鍛練を二人でを行う。

朝から行い、昼頃から呼吸も合わせて行い、夕暮れ時まで休憩をはさみながら続ける。

稽古を始めた初日に槇寿郎に炎の呼吸を教えてもらいそれを模倣することに成功した飛鳥は

その翌日から杏寿郎と共に稽古を続けている。

 

「いつもありがとうな。杏寿郎。いつも稽古に付き合ってもらって。」

 

「親友の頼みだ。気にする必要はない。しかし凄いな。

飛鳥はあれだけやって型が全く乱れていない。」

 

「常中のおかげで基礎体力が跳ね上がっているからな。後は師範のおかげだろう。」

 

「そうか。炎の呼吸もかなりいい感じだと父上も言っていたぞ。」

 

「そうなのか?だが俺の身体にはあっていないようだ。」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。何となく雷の呼吸や水の呼吸ほど威力が出ない。

恐らくこの二つほど適性が高くないんだろ。」

 

「なるほど。だが受けている側からすればそこまで気にならないがな。

言われてみると確かに雷と水の方が強い気がする。」

 

「やっぱそうか。だが完全に捨てるのももったいない気がするし高められる限り高めてみるか。」

 

「それがいいだろう。そういえば飛鳥は雷と水と炎以外ではどの呼吸が使えるのだ?」

 

「風と岩だな。一度見れば大体の事は出来る。二度見れば確実だ。」

 

「羨ましい能力だな。」

 

「いい事ばかりじゃないさ。なんせ応用が難しい。それに維持するのに結局努力が必要だ。

地道な努力は必要不可欠だな。」

 

「そうだな。ない物をねだったとて仕方ない。済まなかったな。」

 

「気にしないさ。それより風の育手の所に面白い奴がいた。素質も高い。

いずれ柱にあがってくるだろう。」

 

「そうか。名前は何というのだ?」

 

「不死川 実弥という名前だ。手合わせしたがなかなか強かった。」

 

「そうか。いつか手合わせするのが楽しみだ。」

 

「そうか。」

 

二人で楽しく話していた時、槇寿郎が話に割って入ってくる。

 

「飛鳥君、二日後任務に出る。場所は八丈島だ。用意を怠るな。」

 

「分かりました。」

 

飛鳥の新たな任務がまた始まる。

 

 

 




九話いかがだったでしょうか?

初の煉獄杏寿郎とのからみ。
杏寿郎の喋り方ちゃんと書けてたかな?少し自信ないけど
頑張ったつもりです。次回もどうぞよろしくお願いします。


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第九話 蛇

飛鳥視点

 

 

二日後準備を整えて槇寿郎さんと煉獄邸を出る。

 

「行こうか、飛鳥君。」

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

俺にとって今回が初めての補佐としての仕事。

因みにだが柱補佐とは何か?気になるだろ?

単純に言ってしまえば次期柱候補という事だ。

柱になるためには二つの条件をこなす必要がある。

一つは柱の一つ下の階級である甲であること。

もう一つは十二鬼月の討伐。

もしくは鬼の討伐数が計五十を超えるか

この二つである。

基本的にはこの条件を満たす頃には十分な経験が積まれると考えられているのだが。

中には運悪く?いや運がいいのか?人によるだろうが俺の様に最初から強い鬼に当たり

速く階級を上げる奴もいる。

そう言う奴は総じて経験が足りずに柱にしてもすぐ死んでしまう。

そこで作られたのが柱補佐だ。

強い鬼と戦う事が多い柱の元で経験を積み、柱とお館様が十分経験を積んだと判断されれば

柱になれる。名実ともに柱予備軍という訳だ。

先程の条件を満たしている事も勿論だが

任命権もお館様にのみ存在する。

それも柱に推薦された者だけがなれる。

現在この地位につくのは俺と水柱の男性の下で補佐をしているカナエのみ。

だがやる事は変わらない。鬼を見つけて殺す。これだけだ。

 二人で八丈島にわたる事が出来る船がある港へ向かう。

そこで槇寿郎さんが番頭さんを見つけて話しかける。

 

「突然失礼する。八丈島に渡りたいのだが船を出してもらえないだろうか?」

 

「構わねえがそんなとこ行ってどうするんだ?」

 

「仕事でな!行かねばならないんだ。」

 

「そうなのか。だが金はあるのかい?」

 

「金ならある。」

 

そう言いながら槇寿郎さんは金の入った袋を出して揺らす。

それはジャラリと金のなる音がした。

それを聞いた番頭さんは満足した顔で

 

「金があるなら俺の行けるとこならどこでも連れてってやるよ。

だが八丈島に渡るなら夜まで待ってくれ。」

 

「どうしてですか。」

 

「住民が面倒な奴らばかりなのさ。俺は面倒だけはごめんだね。」

 

「承知した。なら夜また来る。金はその時に。」

 

「わかった。ならそれまでに準備しておく。」

 

俺達はそこで分かれた。

夜までまだ半日ぐらいあるので港町で

八丈島に関する情報を集めておく。

そして夜なり同じ港で番頭さんに金を渡し船に乗せてもらい八丈島に向かう。

 

「もうすぐ八丈島だ。しかしここまで来て言うのもなんだが

今、八丈島に向かうのは余りお勧めしないぞ。」

 

「何故だ?」

 

「あの島には化け物が潜んでるって噂だ!実際何人か行方不明にもなってるって話だ。」

 

「そんな話、港でも聞きましたね。」

 

しかし化け物・・・

鬼だろうか?

やはり行かない訳にはいかないな。

 

「なんだ知ってたのか。それでも行くのか?」

 

「ああ。それが仕事なのでな。」

 

「そうか。さあ、着いたぜ。帰りはいいんだな?」

 

「ああ、迎えが来るようになってるのでな。」

 

「そうか。気負付けてな。」

 

「有難うございました。」

 

番頭さんは船を出し去っていった。

 

「飛鳥君は気配の探知に長けていたのだったね。」

 

「はいかなりの範囲を探知することができます。」

 

「なら今回は君が前を歩くんだ。後ろは任せてくれ。」

 

「分かりました。」

 

俺を先頭に歩き出す。

少し歩くと槇寿郎さんが話しかけてきた。

 

「そのまま話せるかな?」

 

「はい。大丈夫です。」

 

「そうか。ならば飛鳥君は今回の一件どう考えている?」

 

「鬼を崇拝する一族なのではと考えています。聞いた話だとよそ者を拒絶しているようですし。」

 

「うむ。俺も一緒だ。となると

問題はどうやって接触するか。それは暫く観察しながら考えるしかないな。」

 

「分かりました。! 人の気配です。その奥に更に多くの気配がありますが

どんどん消えていってます。」

 

「急ぐぞ。」

 

「はい。」

 

全速力で走る。

すると向こうから口元に包帯を巻いた少年が此方に走ってくる。

何かから逃げているような、そんな様子だ。

 

「槇寿郎さん、あれ。」

 

「気になるな。保護するぞ。」

 

その少年の元に向かう。

近くで見てみると背丈が近いことが分かる。おそらく同年代だろうか。

事情を聞いてみる。

 

「君、何があったんだ?」

 

「誰だあなた達は。」

 

「俺は清水飛鳥。」

 

「俺は煉獄槇寿郎。君は?」

 

「俺は・・・なんて言ってる場合じゃない!早く逃げないと!」

 

「逃げる・・・?何から?」

 

「怪物だよ!いつか食われるために俺は生まれた時から閉じ込められてたんだ!」

 

怪物。食われる。

読みは当たっていたようだ。

 

「安心しろ。その怪物を倒すのが俺たちの仕事だ。」

 

「うむ。君は下がっているといい。」

 

「・・・?あなた達は一体?」

 

「問題が解決したら改めて教えるとしよう。」

 

と、その瞬間。

屋根を突き破り屋敷の中から異形が姿を現す。

下半身が蛇のようになっている巨大な女の鬼だ。

最終選別の時のあの鬼のような異形の鬼とみて間違いないだろう。

 

「待てええぇぇえええ小芭内いいいいいいい!」

 

「来た!」

 

「ふむ、でかいな。」

 

「ええ、ですが図体が大きい分鈍いですね。」

 

「貴様ら・・・鬼狩りか!!」

 

「その通りだ。お前を斬りに来た。」

 

「ほざけえええええ!」

 

鬼が半狂乱になりながらこちらに襲いかかる。

振り下ろしてきた爪を即座に抜刀し受け止める。

それなりに力はあるようだ。

重い衝撃か降り掛かってくる。

だが上弦の壱程の素早さはあるか?否

鋭さはあるか?否。重い攻撃か?否。

全てにおいて上弦の壱をはるかに下回る。

大丈夫だ。いける。

 

「槇寿郎さん、ここはおれが。」

 

「うむ。お手並み拝見といこう。」

 

槇寿郎さんが少年を連れ、更に距離をとる。

それを確認し、鬼の攻撃を振り払って間合いを確保する。

 

 

 

 

三人称視点

 

飛鳥が再び刀を納め居合の構えをとる。

そして呼吸によって血の流れを加速させる。

 

「(雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃。)」

 

確保した間合いを爆発的な加速で詰める。

雷を纏った斬撃が鬼に迫り、すれ違いざまに斬り刻む。

鮮血が飛び散る。

鬼は辛うじて頸は守ったがそれでも両腕を切り飛ばされる。

 

「があ・・・!おのれええええええ!!」

 

狂ったように叫びながら尻尾で薙ぎ払う。

大きく振りかぶっての一撃だったため相当の威力があるだろうが、

動き自体は単純なので飛鳥は簡単に読み切り躱す。

 

「(水の呼吸 捌の型 滝壺。)」

 

流れ落ちる水とともに振るわれる刃。

鬼の身体より高い位置から振り下ろされた刃は尻尾を切断するのには十分な威力を誇っていた。

 

「おのれええええ。」

 

鬼は噛みつこうとするが遅かった。

 

「(雷の呼吸 弐の型 稲魂。)」

 

雷の五連撃のすべてが鬼の頸に当たり頸が飛ぶ。

 

「ああああああ!!畜生おおおおお!!楽園がああ!!私の楽園があああああ!!!!!」

 

「お前のような屑には地獄がお似合いだ。口を開くな気分が悪い。」

 

追い討ちのように口の当たりを斬り裂いて頭部をさらに二つに分ける。

もう蛇の鬼が言葉を発することはない。

そのまま鬼は消滅した。

 

 

 

飛鳥視点

 

 

「見事な戦いっぷりだ飛鳥君。お疲れ様。」

 

「ええ、後ろありがとうございました。」

 

「・・・・・・」

 

「さて、まだお前の口から直接名前を聞いていなかったな。」

 

「・・・俺は伊黒小芭内。」

 

「そうか。よろしくな、小芭内。」

 

手を差し出すと、小芭内はキョトンとした表情でこちらを見つめる。

生まれた時から閉じ込められていた、と言っていたか。

なら握手についても知らないか。

 

「握手と言って、友好の証だ。今日から友達になろう、小芭内。」

 

「友・・・達。」

 

「そうだ。ほら。」

 

弱々しくもしっかりと手を握ってくる。

 

「ちょっと!あなた達誰よ!」

 

すると、屋敷の中か数人の人が出てくる。

女性しかいないようだ。

 

「俺は鬼殺隊の清水飛鳥。鬼を斬りにきた。」

 

「鬼・・・何よそれ?」

 

少し沈黙が流れ、その人が何かに気づいたのか焦り出す。

 

「ちょっと・・・あの方はどこよ!?」

 

あの方とはおそらくあの蛇の鬼の事だろう。

やはり鬼を崇拝していたのか。

 

「あの蛇の鬼なら、今しがた俺が殺したが?」

 

それを聞いた人々が顔面蒼白する。

本当にあの蛇の鬼を崇拝していたようだ。

 

「いやあああああああ!!」

 

「そんな、そんなあああああ!」

 

阿鼻叫喚、といった様子だ。

その様子を小芭内は槇寿郎さんの背に隠れるように見ている。

何かを後ろめたいような表情だ。

すると、小芭内に気づいた女性が詰め寄ってくる。

 

「あんたのせいよ小芭内!!あんたが逃げたせいで大勢死んだ!!

そしてあの方もいなくなった!!!あの方のおかげで私たちは生活出来ていたのに!」

 

「え・・・」

 

「あんたのせいで皆死んだのよ!!どうしてくれるのよ!!!」

 

「そうよ!!あんたのせいだ!!」

 

「黙れ!!!」

 

あまりの勝手な物言いに耐えられず殺気を向けながら怒鳴りつける。

 

「お前達は自分が助かる為そしていい思いをする為に小芭内を犠牲にしようとしていた。

さらにはこうなったのも全て小芭内のせいだと?ふざけるな!!!

自分たちの保身の為に他者を盾にしようとしていた奴らに人を責める権利などない!!」

 

「ひっ・・・」

 

「恥を知れ!!!」

 

「飛鳥君。」

 

「行きましょう。」

 

「そうだな。」

 

「・・・俺は。」

 

「私達と一緒に来るといい、小芭内君。こんなところにいてはダメだ。」

 

「・・・分かった。」

 

小芭内を連れ、海岸へ向かう。

すると、そこには数人乗った舟が。

 

「お疲れ様でした。」

 

隠の人達だ。

槇寿郎さんが鴉で呼んでいてくれたのだろう。

 

「ありがとうございます。あちらまでお願いします。」

 

「はい。」

 

八丈島を後にする。

出会った少年を連れて。

 

「飛鳥。」

 

「どうした?小芭内。」

 

「ありがとう。」

 

「気にすんな!」

 

お礼をいう小芭内に笑いながら答える。

その後安心したのか眠ってしまった。

俺は小芭内おぶって帰った。

 

 




第九話いかがだったでしょうか?

今回から大正コソコソ噂話を入れていきたいと思います。
第一回は主人公飛鳥の水の呼吸について
飛鳥に水の呼吸を教えたのは錆兎なんだ。
最終選別の時に日が出ている時に全ての型を教わったんだよ。
その後錆兎の紹介で鱗滝左近次に会ってみてもらったんだけど
実に見事だと褒められたんだ。因みに真菰にもこの時合ってるよ。
以上です。
後数回のうちに胡蝶姉妹とのからみを入れたいですね。
ではまた次回もよろしくお願いします。


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第十話 浅草の鬼 壱

 八丈島での任務を終えて数日。

その日カナエの呼ばれてある場所に来ていた。

数日前にカナエに煉獄邸に来てもらい小芭内の健康診断をしてもらった時に呼ばれたのだ。

 

「来てくれてうれしいわ飛鳥。」

 

にっこり笑いながらお礼を言ってくるカナエ。

その笑顔を見て心臓がはねあがる。

この笑顔が見れるならどこへでも行く。

姉妹二人とも自然な笑顔がまぶし過ぎる。

前に隠の男性数人がカナエの事を天使と言っていたが正にその通りだと思う。

そう思う俺自身もこの笑顔の虜なのだろう。

 

「次の任務まで暇だしな。でどうしたんだ?」

 

一様平静を装いながら返事を返す。

 

「ええ。少し頼みたいことがあってね。」

 

「なんだ?まさか後ろの修理作業を手伝えとかじゃないよな?」

 

言いながら後ろの大きな屋敷を指さす。

その屋敷は長年使われていないのか現在修理工事の真っ最中だった。

 

「違うわ。えっとね。お館様の指示で怪我した隊士を治療所を開設されることが決まったの。」

 

「ふむ。」

 

まず今までそういう場所がなかったのかと言いたいがここは黙っておくことにした。

 

「それでね。医療器具類はどうにかなったんだけれど薬品類が全く足りてないの。」

 

おおよそ理解した。ようは荷物持ちである。

俺は医療の勉強もしたが知識としても怪我の治療くらいしか出来ない。

知識も技術もカナエやしのぶには遠く及ばない。

そんな俺がその方面で役に立つとは思えない。

 

「なるほど。俺で役に立てることがあるかわからないが任務があるまでの間好きに使ってくれ。」

 

「ありがとう、助かるわ。じゃあ行きましょう。」

 

夜の浅草

 

カナエの知り合いの薬師兼医者がここにいるという事で訪ねてきたのだ。

何でもカナエの親、つまりはおじさんとおばさんが医者として修行中に世話になった人物で

先日の瑠火さんの病気を治したのもその人らしい。

 

「もう爺さんなんだよな?その人。」

 

「ええ。凄腕のお爺さんなの。」

 

「ふーん。」

 

その人物に一切興味ない俺は適当に返事しながら周りを見ていた。

滅多に都会に来たことのない俺からすれば目新しい物ばかりだ。

 

「飛鳥ここよ。少し待っててね。」

 

カナエはまだ開いていた店の中に入って行く。

一緒に入っても暇なので外で待っている事にする。

その時鬼の気配を感知する。

 

「(こんなところにも鬼が。しかも二つ。一緒にいるな。場所はあっちか。)」

 

追いたいがカナエを放置していく訳に行かず、気配感知に集中して見失わないようにする。

その時、店からカナエが出てきた。

 

「飛鳥ごめん。少し荷物が多いから手伝ってくれない。?・・・どうしたの?」

 

「鬼がいる。それも二人。」

 

「本当?」

 

「ああ。俺はそいつらを追うから待っててくれ。」

 

「私も行くわ。ちょっと待ってて。」

 

カナエは再び店の中に入って行く。

ついでに持っていた地図を店主に見せながら鬼がいるであろう場所に何があるか店主に聞く。

 

「ああ、そこなら医者の珠世さんが弟子の愈史郎君と住んでるよ。

見た目若そうだがいい腕をしておる。それがどうかしたのか?」

 

「いえ、来るとき気になったので聞いてみたんですよ。」

 

「そうか?カナエちゃん丁度いいから彼女にもあっていきなさい。

儂の紹介だと言えば話を聞いてくれるじゃろ。」

 

「有難うございます、では。」

 

「おお、行ってらっしゃい。」

 

カナエと共に走ってその場所に向かう。

数分もしないうちに目的の場所の裏通りにつく。

 

「あの中だ。今も気配は鬼しかしないな。」

 

「じゃあ珠世さんや愈史郎君という方は。」

 

「分からない。最初からここには人の気配はなかった。殺されているかもしれないし、

本人かもしれない。もしくは入ったはいいがいなかったくらいか。待った出てくるな。

この感じなら向こうも俺達に気付いているだろう。いつでも戦闘出来る様にしててくれ。」

 

「分かったわ。」

 

言いながら戦闘態勢を整える。

すると目の前の家から綺麗な女性が出てくる。

 

「私たちに先頭の意志はありません。どうか話を聞いてもらえませんか?」

 

「鬼舞辻に加担する鬼と話す気はない。」

 

「違います。私達は鬼舞辻に加担するものではありません。むしろ敵対者です。」

 

「本当かも呪いが発動しないし信用してもいいと思う。」

 

「分かった。だが警戒はさせてもらう。」

 

「それで構いません。ここではなんです。中にどうぞ。」

 

俺達は女性に付いて行く。

屋敷の一室に案内された俺達は女性の正面にカナエが座り俺がその後ろに座る。

女性の方もカナエの正面に座りその後ろに少年が立つ。

少年の方はあまり俺達を歓迎していないようだ。当然だが。

 

「先ず私は珠世と言います。此方は愈史郎です。」

 

「私は胡蝶カナエ。彼は清水飛鳥と言います。」

 

「どうも。」

 

「単刀直入に話させてもらいます。私達に協力していただけませんか?」

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
面白かったなら次回もよろしくお願いします。
ではまたお会いできるその日を楽しみにしております。


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第十一話 浅草の鬼 弐

「単刀直入に話させてもらいます。私達に協力していただけませんか?」

 

「「はっ?」」

 

カナエと二人で困惑した。

まさかこんな事を言われるとは思っていなかった。

 

「驚かれるのも無理はないと思います。ですが私たちは二百年前から鬼を人間に戻す薬の研究を

続けています。ですがそれを完成させるためにはどうしても足りないものがあります。」

 

「それは何ですか?」

 

「十二鬼月の血です。どうかそれを集めるのを協力していただけませんか?」

 

「少し考えさせてください。いきなりそう言われてもすぐには答えは出ません。

彼とも相談したいですし。」

 

「それは当然だと思います。ですが出来れば早い方がいいので私たちは少し席を外すので

相談してみてください。」

 

そう言って珠世と愈史郎は部屋の外へ出ていく。

 

「さてどうするんだ、カナエ?因みに俺は反対だ。

ああは言ってたがそれが事実だという保証はない。」

 

「私は信じて見てもいいと思うわ。というより信じたい。」

 

「そうか。俺には薬学の事はあんま分からないしカナエに任せていいか?」

 

「うん。任せて。じゃあ呼んできてくれる。」

 

「分かった。」

 

隣の部屋にいるのは分かっていたので連れてくる。

 

「お待ちいただき申し訳ありません。」

 

「いえ、今回の件はとても急な話無理もありません。それでいかがでしょうか?」

 

「はい。我々は受けても構わないと考えております。

ですがこの件はまずお館様に報告はさせてもらいます。

勿論この場所に関しては話すつもりはありません。

それと研究資料と現段階の状況を説明していただけませんか?

我々は貴方の言葉を信じますが他はそうもいきません。その説得材料に仕えるかもしれませんから。

以上が此方から出すこの話を受ける条件です。いかがでしょう?」

 

「分かりました。それで構いません。」

 

「珠世様よろしいのですか?下手をすればこの場所が。」

 

「そちらの言う事も分かっているつもりです。

ですが我々は組織です。そして組織である以上報告するのは義務。

私の勝手な判断でその組織そのものが崩れる事もあります。

そうなっては元も子もありません。どうかこの事をご理解ください。

決して悪いようには致しません。」

 

カナエは誠心誠意頭を下げる。

俺もつられるように頭を下げた。

 

「わかっています。愈史郎ここでそれは言わないで。」

 

「はい。珠世様。」

 

「では此方へどうぞ。」

 

珠世は自ら研究室に案内する。

俺達は付いて行き説明を受けるが何を言っているのかさっぱりわからない。

仕方がないので理解しているふりをしてやり過ごす。

その後採取の為の器具の説明を受け受け渡しの説明を受けて分かれる事になった。

 

「胡蝶さん。後これをお持ちください。」

 

分かれ際に珠世は何らかの薬を渡してくる。

 

「これは?」

 

「そちらは血鬼止めの薬と、鬼用の回復薬です。切り札とは言えませんが、

うまく使えば役に立ってくれると思います。」

 

「有難うございます。」

 

「それと清水さんに一つお聞きしたいことが。」

 

「なんでしょう?」

 

「あなたのご先祖に清水蒼月という方はいらっしゃいませんか?」

 

「清水蒼月は俺のの先祖の名ですが、」

 

「そうですか。では此方もお持ちください。」

 

渡してきたのは数冊の古い本だった。

表紙には特に題名はなく下の方に小さく清水蒼月と名が書かれているだけだ。

 

「それは唯一鬼舞辻を追い詰めた剣士の方と共におられた方が書き残された物です。

いつか自分の子孫が現れたら渡してほしいと言われて預かっていました。」

 

「そうだったんですね。分かりました。ではいただきます。」

 

「ではお世話になりました。」

 

そこで珠世とは別れた。帰り道にカナエから

 

「飛鳥、さっきの説明分かった?」

 

と聞かれて

 

「悪いが半分も分からなかった。」

 

と答えて

 

「もう少し医学の事も勉強しないといけないわね。」

 

と呆れられた。

その後本来の目的を果たし屋敷に戻りその足でお館様に謁見の許可を

貰いあった事を説明する。お館様は

 

「報告有難う。飛鳥、カナエ。この事については飛鳥とカナエに任せるよ。」

 

と言われた。

俺としては鬼に家族を殺されている事で恨みがある。

だからお館様が反対してくれることを期待してたのだが物事上手くいかないものだ。

こうして俺達は鬼討伐とは別にもう一つ任務が増えたのだった。



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第十二話 雨の呼吸

飛鳥視点

 

浅草での一件から数日、カナエの用を終わらせ

次の指令が来るまで休息を取っていた。

八丈島で助けた小芭内も煉獄邸に滞在している。

 

「小芭内!さあ来い」

 

「分かった、杏寿郎」

 

年が近いこともあり最初こそ委縮していたがすぐに打ち解けて今では二人で稽古をする仲だ。

杏寿郎と小芭内が稽古をしているのを見守りながら珠世からもらった本を読み進める。

内容は分かりやすく手書きの挿絵まで書かれている。

それを元に動きの型を想像しながら読み進めていく。

型は六つが存在する。

最後の型を読み終えた時特に強い筆圧で

 

[この六つをもって雨の呼吸とする。

されど雨の呼吸はこれにて完成にあらず変化する型なり。

継承者は型の完成後更に一つ以上型を完成させよ。それをもって真の継承者なり]

 

と書かれていた。

 

(一つずつ完成させるか。まずは呼吸法から)

 

庭に出て刀を構えて指南書通りに雨の呼吸を試す。

雨の呼吸はかなり特殊な呼吸で五つの呼吸法を操るが

雨の呼吸の呼吸法はその何倍も難しい。

 

「これは骨が折れるな」

 

それからも呼吸法を試す。

その日は全くできず一旦終わりにして訓練をやめる。

途端集中力が切れて疲れが出て倒れてしまう。

 

「飛鳥、母上が晩御飯だと呼んでいるぞ」

 

「杏寿郎悪い、すぐ行く。あれ」

 

「どうした?」

 

「すまん、立ち上がれない。肩を貸してくれ」

 

「分かった」

 

杏寿郎の肩を借りて立ち上がる。

 

「悪いな、助かる」

 

「気にするな。随分集中していたようだな。それでだろ」

 

「それしかないだろうな。しかし立ち上がれなくなるまで体力を消耗するなんてな」

 

「見ていた感じ新しい呼吸を習得していたのだろう。どんな型だ」

 

「雨の呼吸だ。俺の先祖が考案した呼吸でな先日偶然発見されて

それを試していた」

 

「飛鳥ですらここまで苦戦するとはよほど難しいのか?」

 

「ああ。かなり特殊な呼吸でな。どこか無駄があるのか?」

 

「考えていても仕方あるまい。まずはしっかり食べて休むことだ」

 

「そうだな」

 

俺達は居間に向かう。

俺が杏寿郎の肩を借りて入って来たので皆に驚かれたが事情を説明すると納得してくれた。

瑠火さんの作ったご飯を食べ、自分の部屋で眠る。

 

 

 

 

 

 

夢を見る。長い夢だ。知らない光景だった。

そこでは花札のような耳飾りをした剣士が多くの剣士に指導しているところだった。

その中で苦戦している剣士に耳飾りをした剣士が近づく。

 

「蒼月、お前はどうだ?」

 

「うーん。朝利先生が伝授してくれた時雨蒼燕流を生かすにはどうしたらいいんだろ?」

 

「ならこういうのはどうだ」

 

耳飾りの剣士が新たに考案してくれた。

 

「なるほど。そうすればいいのか。ありがとう、縁壱」

 

「気にするな。しかし蒼月はよく笑うな」

 

「言うだろ。笑う門には福来るって。笑ってないと幸せが逃げちまう。

だから俺はどんな時でも笑うのさ。勿論空気は読むけどな」

 

「そうか」

 

「だからさ。お前も笑え。縁壱。でないと幸せは来ないぞ」

 

「そうだな。その通りだ」

 

そこで縁壱さんは笑う。

とても自然な笑顔だ。綺麗な笑顔。

 

「お、いい笑顔じゃねえか。元から顔が出来てる奴は笑ってもかっこいいんだな」

 

また蒼月さんは笑う。

それからまた型を呼吸と合わせて作り上げていく。

一通り型が完成した瞬間辺りが真っ暗になる。

次に見えたのはどこかの屋敷に一部屋で先程の蒼月さんが怒鳴る所だった。

 

「縁壱が、鬼狩りを追放されたと聞いた」

 

「当然だろう。鬼舞辻を逃し、身内から鬼を出したのだ」

 

「わかっている。だから、鬼狩りを追われたのは仕方ない。だが―――」

 

そこで言葉を切り、深く呼吸をする。俺の中に蒼月さんの考えが流れてくる。

それはいい。縁壱とて覚悟していただろう。問題は、その後のことだと。

 

「―――誰だ、縁壱に自刃を求めたのは。俺が腹に据えかねるのは、その一点。

呼吸を教え、広め、人のために尽力してきた縁壱に、自身を殺せと詰め寄る。

そんな恥知らずで愚かな言葉を発したのは、どこの誰だ」

 

「――――――っ」

 

蒼月さんが睨むとその場にいた柱達が息をを飲んだ。

 

「お前たちか、風柱、岩柱、鳴柱」

 

「なっ―――」

 

「っ、どうして、」

 

「・・・・・・」

 

図星をつかれ、狼狽する三人。

蒼月さんは畳み掛ける様に怒鳴る。

 

「縁壱の功績を忘れたのか。皆に呼吸を教えたのは誰だ?最も多くの鬼を斬ったのは誰だ?

全て縁壱だろう。にも関わらず、よりによって自刃を迫るだと?―――恥を知れ!愚か者が!!」

 

「貴様ぁっ!!」

 

「やめろ。同じ鬼殺隊の同志どうしで。」

 

拳を振り上げようとする風柱を、すぐに炎柱が静止する。

始めからこうなった時のために備えてくれていたのだろう。

風柱の気性なら、刀を抜いていてもおかしくはなかった。

 

「ただで置くものか!私を愚か者と言ったのだぞ。柱にすらなれない弱者が。」

 

「それがお前の本音か?風柱。」

 

「当たり前だ!縁壱と同じ世界を見て、自身を高尚なものとでも勘違いしたか?

我ら程鬼も狩れぬくせにいつもへらへらと笑ってばかりの腰抜けが。」

 

「黙れ貴様。」

 

怒ったのは蒼月さんではなく炎柱だった。恐らく槇寿郎さんの先祖だろう。

罵詈雑言を吐く風柱の頬を、叫びながら思い切り殴り飛ばす。

風柱は意識を失ったらしくそのまま起き上がらなかった。

蒼月さんは何かを決心したようにお館様の方を向く。

 

「お館様。―――私は、鬼狩りを辞めます。

せっかく雨柱に誘っていただいたのに申し訳ありません」

 

そう言って蒼月さんは部屋を出ていった。

 

 

 

 

それからしばらくして荷物をまとめた蒼月さんと炎柱が話している。

 

「本気で出ていくのか?」

 

「ああ。お前にも世話になった」

 

「これからどう生活するつもりだ?その若さだ。今ある金だけでは生きていけないだろう」

 

「母方の親戚の伝手を頼るつもりだ。こう言う言い方はよくないが

今は乱世だ。剣で生きる事も不可能じゃないさ。勿論呼吸は教えないが」

 

「そうか。母君の兄が武田家に仕えているのだったな」

 

「ああ。文を送ったらぜひ紹介してくれると言ってくれた。

二君に仕えるのにはどうかと思うところもあるが仕方あるまい」

 

「そうか。頑張れよ」

 

「そっちもな。俺より過酷なにはそっちだろ」

 

「はは、そうかもな」

 

「それと一つ頼まれてくれ」

 

「なんだ?」

 

「縁壱にこれを渡してほしい。どうせ連絡を取っているのだろ?」

 

「手紙か。分かった」

 

「頼んだぞ。じゃあな」

 

蒼月さんはそのまま走り去っていった。

またあたりが暗くなる。次に見えたのは布団に眠る蒼月さんとその傍らにいる縁壱さんと

知らない女性と子供だった。

縁壱さんの見た目は耳飾りがなくなっていること以外あまり変わらないが

蒼月さんの方はやせこけている。恐らく病だろう。

聞けば耳飾りはずいぶん前に炭焼きの家の夫婦に日の呼吸の型と共に預けたらしい。

 

「本当に申し訳ない」

 

「何を謝罪しているんだ?」

 

「合わせる顔がなかった」

 

「何故だ?」

 

「私は取り返しのつかない事をしてしまった。無惨の事や兄上の事も。

何を言えばいいのか、どんな顔をすればいいのか、わからなかった」

 

また蒼月さんの考えが流れてくる。

全くこいつは生真面目でそしてくだらないと。

 

「じゃあ、なにか。ここへ来た理由は、謝罪のためか?」

 

「はい」

 

「そうか。わかった、許す」

 

「………え?」

 

「許す。何を許せばいいのか見当もつかんがな。」 

 

「………」

 

完全に予想外の返答だったのだろう。縁壱さんは呆けた顔をしている。

 

「鬼舞辻のことも、巌勝のことも、お前に何の責任があるんだ?」

 

「無惨に逃げられたせいで、これからも多くの人の命が奪われる」

 

「お前じゃなかったら逃がすどころか、逆にやられていただろうよ。

それに、敵の親玉に手痛い傷を負わせたんだろう?大金星じゃないか」

 

「身内から鬼を、出した」

 

「身内の罪はお前の罪か?そんなわけがない。悪いのは当人だ」

 

「…鬼を一人、逃した」

 

「鬼が皆一様に悪いものとは思わない。鬼舞辻の支配から逃れた鬼だったんだろう?

ならば、問題などないだろう。それにな。その鬼は先日までここにいた。

俺の病は直せないらしいのだが、痛みだけは和らげてくれた。

もしお前が逃がしていなければ俺は今病の痛みで苦しんで話す事もままならなかったさ。

だから俺はお前に感謝しなければならないな。全くどこでどう転ぶかわかったもんではないな、ハハハ」

 

「―――」

 

「縁壱、お前は強い。それこそ俺やあの時の柱達よりな。

この先お前のような人間はそうは現れないだろう。

だがなお前には手足が四本しかないんだ。当然その四本の手足で

背負えるものは限られている。なのに全部背負おうとしてどうするよ。」

 

「謝らなければならないのはこっちの方さ。

皆、お前の強さに彼は自分たちとは違う特別な存在なのだと、皆が思い込んでしまった。

お前とて、傷を負えば血を流し、悲しいことがあれば涙を流す、ただの人だというのに」

 

「それは俺自身もそうさ。俺も無意識のうちにお前に

強くあることを強いてしまった。済まなかった。友と言いながら

俺はお前にかかる期待を少しも助けてやる事が出来なかった。

お前も出来る事と出来ないことがある人間なのにな。」

 

「だから俺が許す事など一つもないさ。」

 

「――――」

 

縁壱さんは黙ったまま泣いていた。

重すぎる責任がを抱え、張り詰め続けてきた緊張が解けた涙だった。

 

 

―――ようやく友になれた気がした。辛かっただろうに。苦しかっただろうに。

ようやく縁壱を人に戻してやれた。もう悔いはない。――――

 

そんな想いが頭の中に流れてくる。

 

 

 

 

 

「縁壱。最後にもう一度日の呼吸を見せてくれないか?」

 

「構わないさ。友であるお前なら。」

 

蒼月さんにせがまれて縁壱さんは庭で日の呼吸を披露する。

女性に支えられながら起き上がる蒼月さん。

縁壱さんの日の呼吸の型はとても美しい技だった。

 

円舞

碧羅の天

烈日紅鏡

 

縁壱さんは技を繋ぐ。その全てがとても美しい。

その夫婦が見せて欲しいとせがんだのも頷ける。

そう思った。

 

幻日虹

火車

灼骨炎陽

 

目に焼き付ける。目が覚めた時再現するために。

 

陽華突

飛輪陽炎

斜陽転身

 

蒼月さんも縁壱さんもやるべきことをなした。

次は俺達今世の隊士たちがなす番だ。

 

輝輝恩光

日暈の龍・頭舞い

炎舞

 

「やはり縁壱の技は美しいな。ありがとう。最後にいい物を見れたよ。」

 

「そう言ってくれると私も嬉しい。」

 

「済まないがそろそろ時間のようだ。先に逝く。

最後に会えて本当に良かった。あり・が・とう」

 

そこで蒼月さんはこと切れた。

最後まで笑ったまま亡くなった。

縁壱さん、蒼月さんありがとう。そしてお疲れ様でした。

後は任せてください。俺達が必ず無惨を滅して見せます。

その思いと共に俺は目が覚めた。

 

 

 

三人称視点

 

 

まだ暗い時間だったが飛鳥は庭に出て夢で見たことを何度も繰り返す。

 

壱の型 車軸の雨

 刀を両手で持ち突進し相手を突く技。

弐の型 五風十雨

 相手の呼吸に合わせることによって攻撃をかわす技。

参の型 五月雨

 中斬りを放ちつつ刀を素早く持ち替えることで、相手の守りのタイミングを狂わせる

 変幻自在の斬撃を放つ技。

肆ノ型 斬雨

 刀を高速で連続で振る攻防一体の技

伍ノ型 鉄砲雨

 居合から飛ぶ斬撃を放つ技

陸ノ型 雨龍の牙

 相手に思い切り刀の峰もしくは刃をぶつける事で衝撃を起こし硬直させる

 敵を確実に殺すための技。飛鳥が考えた技。

漆ノ型 奥義 天翔ける龍の如く

  霞の構えから空を飛ぶ龍の様に高速で接近し正確に放たれる十五連撃。

 

これをもって雨の呼吸の完成だ。

それからされに数時間後日の呼吸も完成させた。

ここに雨の呼吸と日の呼吸が鬼殺隊に帰ってきた。



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第十三話 婚姻

 雨の呼吸が完成して数日後俺はお館様の許可をもらい刀鍛冶の里に来ていた。

理由は里長があって話がしたいと言うので来ていた。

今はその里長と話している。

 

「どうもコンニチハ。ワシこの里の長の鉄地河原鉄珍。よろぴく」

 

「里で一番小さくて一番偉いのワシ。まあ畳におでこつけるくらい頭下げたってや」

 

「初めまして清水飛鳥です。よろしくお願いします」

 

言われた通り畳に頭をつけるくらい頭を下げて挨拶する。

 

「まあ、ええ子や。おいでかりんとうやろ」

 

かごに山盛り乗せられたかりんとうを受け取り一つ食べる。あ、このかりんとう美味しい。

 

「おいしそうに食べるな。ワシ嬉しいわ。それで本題や。

結論から言うとあれらは三百年前に二本そして百年前に四本打たれた刀や。

古い資料から制作方法も使用者も分かった。

まず最初の二本の使用者の名前は清水蒼月。片方は使い込まれていたけど

片方はほとんど使われてないな。

そしてもう片方の四本は二本が清水紅葉そしてもう片方の二本が秋雨杠葉という人や。

わかったのはこれくらいやな」

 

「そうですか。調べていただき有難うございました」

 

「ええよ。この刀はどうしよか?」

 

「これは先祖の形見として俺が持って帰ります」

 

「そうか。一様使える状態にしておいたからもしもの時は使ったってや。」

 

「分かりました。失礼します。」

 

お礼を言って刀鍛冶の里を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称視点

 

 

帰ってきた流れで飛鳥は傷薬の補充の為に蝶屋敷に向かう。

向かってみるとしのぶがどこかに向かう用意をしていた。

 

「どこかに行くのか?」

 

「最終選別に。」

 

「そうか、頑張れよ。」

 

「止めないのね。」

 

「本当は止めたいさ。だが覚悟を決めた奴を周りが無理矢理止めても絶対に止まらない。

なら周りの奴はその助けをすることしかできないさ。しのぶの目は覚悟を決めた奴の目だ。

だから俺はただ無事を祈って待つだけさ。」

 

「ありがとう。飛鳥。行ってくる。」

 

「ああ。頑張れよ。」

 

カナエの時から一年遅れてしのぶは最終選別に向かっていった。

二週間ほどして帰ってきたしのぶをカナエと飛鳥の二人で出迎える。

だがしのぶはかなり怒って帰ってきた。

何となく察しがついたが聞いてみると隊服を受け取り建物に入り試着の為に

着替えたのだが寸法が合わず丁度胸の部分のボタンが留められず

縫製係の前田に聞いたがドンピシャだという。

おかしいと思いながら帰ってきたのだが

帰る途中に女性隊士に出会い聞いてみたところ

それはわざとだとわかった。それで怒っているのだ。

 

「カナエの時もあったな、それ」

 

「そうね。あったわ。あの時は錆兎君と飛鳥が猛抗議してくれて

結局普通の隊服になったのよね」

 

「まだ改善されてなかったんだな」

 

「のんきなこと言ってる場合じゃないわよ。あれじゃ変態じゃない」

 

「そんなにひどいのか?」

 

「とりあえず来てみてくれる?どこがどう悪いのか確かめるから」

 

「分かった」

 

しのぶは別室に行き着替えて戻ってくる。

戻ってきたしのぶの隊服は確かにひどく飛鳥は顔をそらす。

胸元はほぼ開いておりしのぶの胸が見えそうになっている

というかサラシを巻いているので見えはしないが

巻いてなければほぼ丸見えである。

下も普通の隊士の物とは違いスカートになっており

ちょっと激しく動くだけで下着が見えてしまいそうに

なるくらいには短い

 

「カナエの時よりひどくないか?」

 

「そうね。確かにひどいわ。私の時はここまで開いて無かったし

スカートもここまで短くなかった」

 

「ね、ひどいでしょ。こんなので外を歩いてたら痴女に思われるわ」

 

「鴉に頼んで縫製係を呼ぶか」

 

鴉を飛ばして数時間後縫製係の責任者が蝶屋敷に来る。

事情を説明すると直ぐに対応してくれた。

結局寸法がおかしかったのは前田のせいであり

彼は測った寸法を記録し資料にして保存と受け渡し係として働いており

そこで改ざんされたのだろうとの事。

結果前田は謹慎処分と給料の大幅減額を言い渡されこの事件は起きなくくなった。

だがほとぼりが冷めたころにまた起きるとはそしてそれが

またも身内から起こる事になるとは胡蝶姉妹もそして飛鳥自身もまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥視点

 

 

隊服事件の日の午後窮地に立たされていた。

別に死ぬような事件ではない。

だが窮地だった。それは今胡蝶姉妹から

結婚を前提としたお付き合いを迫られているのだ。

最初にカナエが言ってきてそれにしのぶが負けられないという感じで言ってきた。

カナエもしのぶもとてもかわいい。

だが昔ならともかく今は複婚が法律で禁じられている。

そこで口喧嘩が勃発しているのだ。

 

「私は母さんから飛鳥との婚約話が出ていたわ」

 

「それは私もよ。大きくなってからって言われてたけど

私も母さんにそう言われたじゃない」

 

これの繰り返しである。

カナエはニコニコしながら訴え、しのぶはしかめっ面で抗議する。

男として美少女二人にお付き合いを迫られているこの状況は喜ぶべきなんだが

どうしていいかわからずに黙って二人が落ち着くのを待っていた。

その時音柱の宇随天元さんが入ってきた。

傷薬の補充らしい。

そこで喧嘩している二人を見て何事かと聞いてきたのだ。

二人の言い分を聞いた天元さんの結論は

 

「二人とも飛鳥と結婚したいんだろ。なら派手にすればいいじゃねえか。

どうせ鬼殺隊は非合法組織だ。それに世間を見ても複婚が禁止される前に

結婚してた夫婦が未だにいる。気にする必要ねえだろ。

俺も嫁が三人いるしな」

 

だった。かなり無理矢理だったが二人は納得。

俺も特に反対する理由はないし正直選べと言われても選べる気がしない。

更に天元さんが

 

「どうせなら付き合いもせずに結婚しちまえ。今までが交際期間だと思えばいいだろ、」

 

などと言った為二人と結婚することになった。

しかし任務の都合もあるので同居は飛鳥が柱になったらという事になった。

それにしのぶはまだ十一歳だ。流石にまずすぎる。

なのでしのぶとは十四歳になってからという事になった。

それでもまずいのではと天元さんに言うと

 

「馬鹿野郎。それでも長い方だ。男ならしっかり甲斐性見せろ。」

 

と怒られた。後半はその通りだと思うので納得した。

 



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第十四話 故郷

どうも秋月です。
最初に変更点。第一話の六本の刀の扱いですが
読み返してみると母方の義親夫婦の形見の様に
読めますがあれは間違いです。
正しくは性格は実の父親の形見です。
書き間違えを訂正しお詫びします。


 十四歳になった日、お館様から呼び出しを受けて産屋敷邸に向かい御館様に面会した。

内容は年明けの柱合会議の後から柱として活動してほしいとの事だ。

それにともないある場所へ向かうように言われた。

それは清水家本家、つまりは俺の父の実家だった。

それを聞いて驚いた。元々父からは本家がある事は聞いていなかった。

だから俺自身その存在を今の今まで知らなかった。

両親の死も報告していないしもしあるなら蒼月さんのお墓に行きたいと考えていた。

槇寿郎さんにそのことを話した。顔くらい出してこいと言われた。

カナエにも伝えると「なら結婚の報告しましょう。」いう事になった。

診療所を開けるわけにはいかず色々考えた結果、

くじで当たりを引いた方が共に向かう事になった。

そして同時にくじを引いた結果カナエが同行することになった。

両親と姉二人の遺骨と家宝の刀を持って向かう。

数日後山梨県の田舎にある大きな屋敷に来ていた。

その屋敷は門から大きい。

 

「でかいな」

 

「本当ね。飛鳥って実はお金持ちだったの?」

 

「父さんは普通より上ぐらいだと思う。でもこれはすごいな」

 

俺は門番のお爺さんに話しかける。

 

「すみません」

 

「はい。何ですじゃ?」

 

「俺は清水飛鳥といいます。御当主殿とお会いできないでしょうか?」

 

「ハイですじゃ。御当主様はおりますよ。少々お待ちください」

 

門番のお爺さんはゆっくり屋敷の方へ向かってゆく。

あの爺さんが門番で大丈夫なのだろうか?

暫くすると先程のお爺さんが戻ってきた。

 

「御当主様がお会いなされるようですじゃ。此方にどうぞ」

 

「お願いします」

 

爺さんに就いて行く。

案内されたのは大きな部屋だった。

まるで戦国時代の謁見の間のような部屋だ。

上座には七十歳くらいの厳格そうなお爺さんが座っている。

その傍らには父さんと同年代の男性が座っている。

反対側には若い人から老婆まで数人の女性が座っている。

俺は上座からその少し離れた場所に座る。

 

「突然の来訪お許しください。俺は清水飛鳥。

父清水方正が此方の御当主殿と血縁と聞きご挨拶に上がりました」

 

その場の空気に充てられて俺もお館様に謁見するような話し方をしてしまう。

その時上座から小さく笑い声が聞こえてくる。

 

「くっは~はっはっはっはっ。いやあすまんすまん。

この空気をただよわせるとどういう反応をするかとおもい試してみたが

君は礼儀をわきまえているな。実に結構」

 

「父さん、人が悪いよ」

 

「お前も乗っていたではないか。儂だけが悪いようにいうのはひどいぞ。」

 

如何やらお茶目だったらしい。

 

「儂は清水法泉という。こっちはお前の父の弟で清水秀斉だ。

先ほどは驚かせて済まなかったな」

 

「いえ、俺の方こそ突然すみません。

改めて俺は清水飛鳥です。此方は胡蝶カナエといいます。

今回こちらに参ったのはこれをお返しするためです」

 

六本の刀を前に出す。

 

「懐かしいな。あいつが家を飛び出した時に勝手に持ち出した刀だ」

 

「すみません。父に代わってお詫びします」

 

「気にすることは無い。あれは儂も考えが古かったのだ」

 

「はい」

 

「してその後ろの箱はもしかして」

 

「はい。俺が五歳の時ですから九年ほど前になります。

俺達は夕飯は食べていました。その時急に化け物が押し入ってきたのです。

そして化け物は父と母、そして姉二人を一瞬で殺しました。偶々攻撃範囲から

外れていた俺が不意を突いてその化け物をこの刀で突きさし床にはりつけにしました。

その化け物は朝日を浴びて灰になりました。

その後おれは四人の遺体を焼いて壺にいれて墓を作りました。

それがこれにです。どうか清水家の墓に入れてもらえませんでしょうか?」

 

「構わない。しかし方正、まさか九年も前に死んでおったとは。

全く儂を見返してやるんだと言って飛び出してどこに行ったのかと

思って居ったがこんな姿になって帰ってくるとわ。この親不孝者め」

 

そう言いながら法泉さんは泣いていた。見れば秀斉さんも泣いていた。

 

「すまん。見苦しい所を見せた。しかし飛鳥。良く生き残って方正の事を

知らせてくれた。そして今は鬼殺隊に所属しているのか?」

 

「鬼殺隊を知っているのですか?」

 

「知っておる。儂が子供のころに儂の叔父夫婦が鬼殺隊に所属していた」

 

「そうだったんですね」

 

「飛鳥、少し待っていてくれ」

 

そう言って法泉さんはどこかに行ってしまった。

その間秀斉さんが父の事を教えてくれた。

子供のころの話。

昔は破天荒なところあった事。

この家を出ていった理由など。

俺が知らない事を全部教えてくれた。

それと秀斉さんの向かいに座る女性たちは全て法泉さんの妻で

若い人は三十五歳らしい。孫だと思っていた。

話が付きかけたころ法泉さんが箱を持って戻ってきた。

 

「これを持っていけ。叔父が着けていた物だ。それで少しでも己を守ってくれ」

 

渡されて開けると中には青い篭手が入っていた。

全体的に鉄で出来ていて手の先の方は握りやすいように切られている。

鉄は恐らく日輪刀と同じ素材だろう。

 

「ありがとうございます」

 

つけてみると恐ろしいほど大きさが合う。

まるで俺の為に作られたようだった。

 

「さて今回の来訪はそれだけではないのだろう?」

 

「ええ、もう一つは俺と彼女は来年結婚します。その紹介の為に来ました。」

 

「それはめでたい。確か胡蝶カナエさんと言いましたな。

孫の事よろしくお願いします」

 

十四歳で結婚は早いと言われるかと思ったが

「ちゃんと働いて養えるなら構わない。

それに命懸けの仕事だ。早いうちから結婚しておいて

大丈夫だろう」と言われた。

 

「はい。しかしすぐ許可されるとは思いませんでした」

 

「儂もそこら辺は好き勝手に生きてきましたからな。

それにふがいない事に孫の事を今日この時まで存在すら知らなかった。

そんな儂がとやかく言えるわけがない。

儂に出来るのは孫とその孫が人生を捧げられると決めた人物を信じるのみ。

だからこそカナエ殿孫をよろしくお願いします」

 

「はい」

 

「今日は来てないけどほんとはもう一人いるんだ」

 

「なんじゃ、もう一人いるのか。そんなところは儂に似たか」

 

法泉さんの一言に大笑いが起こる。

 

「飛鳥、どれだけ妻を持とうと構わないが絶対幸せにしろよ」

 

「はい」

 

「父さんは少し自重した方がいいな。俺より若い妻はないだろ」

 

「そうかもしれませんね」

 

また大笑いが起こる。

それから清水家の本家の墓に向かい父と母と姉の遺骨を入れてもらい

法泉さんが代表でお経を唱え俺達は合掌する。

お経を唱え終わると皆が引き上げていく中墓に刻まれた

名前を見つけて一つずつ確認してゆく。

その中の一番右端に清水蒼月の名前を見つける。

俺はもう一度手を合わせる。

俺を待っていてくれたカナエは一緒に合掌してくれた。

 

「行くか」

 

「ええ」

 

「父さん、母さん、姉さん。鬼舞辻を滅したら今度は三人でまた来る。

それまで待っててくれ」

 

「お義父さま、お義母さま、お義姉さま方。飛鳥は必ず私たちで

守って見せます。どうか天で見守っていてください」

 

二人で本家に戻った。

その日の夜は豪華だった。

最初はいなかったが叔父夫婦やそれ以外の家族も参加しての豪華な食事会

という名の宴会だった。

その家族というのがまた多い。

法泉さんには総勢八人の妻がいる。

それに子供だけで二十人はいる。

それがまた結婚してその妻や旦那やその子供がいるから

もはや数える気失せるほどいる。

一番驚いたのは法泉さんがその全ての家族の名前を憶えていた事だった。

 

「すごい数だな」

 

「ええ。もう誰とあいさつしたかわからなくなったわ」

 

俺もカナエもただただ呆れるだけだった。

その後宴会は日が変わるまで行われた。

翌日朝には清水本家を出る。もう一日いればいいと言われたが

余り長くいると帰りにくくなるので朝には出る事にした。

 

「達者に暮らせ、飛鳥。お前は決してわしより先に死ぬなよ。」

 

「ええ。俺はカナエやしのぶを幸せにするまでは死なないよ。」

 

「その意気だ。ではな。」

 

「行ってきます。」

 

「いろいろお世話になりました。」

 

「カナエさんもまたいつでもいらしてください。」

 

「はいその時は是非。」

 

俺達は蝶屋敷に帰る。

そして翌年の柱合会議で俺とカナエは新たに柱になった。

俺が鳴柱でカナエが花柱だ。

最初は俺が雨の呼吸が使える事から雨柱にしてはどうかという

提案をお館様から頂いたが結局おれは鳴柱でお願いしそうなった。

これからも頑張っていこう。より良き未来のために。

 

 

 

 

 

 




第十四話いかがだったでしょうか。
今回は飛鳥の身内会でした。
これはありえないだろと思うかもしれませんが
そこは温かい目で見てくれると嬉しいです。
では次回よろしくお願いします。


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第十五話 武人の世界壱

 柱合会議の数日後柱として最初の任務は異能の鬼の討伐。

血鬼術は血を他の人間以外の生物に吸わせて狂暴化させて操るというものだった。

普通の生物はそこまで苦戦しなかったが蜂などの毒を持つ虫に苦戦させられたが

本人はそこまで強い訳ではなく虫たちを吹き飛ばし難なく討伐した。

 

「今回の鬼も討伐完了だな。帰るか。」

 

「(だめだ。まだまだ弱い。強くなれるいい方法はないか。戻ったら相談してみるか。)」

 

そんなことを考えている時、先ほどまでいた森から何もない空間に転移した。

そこは一面整地された地面が広がる世界。

そしてそこには腹巻をした刀を三本もった男や左手に剣を付けた銀髪ロン毛の男など

たくさんの人間が戦っている。

 

「なんだここ。俺は一体どうなったんだ。」

 

困惑していると一番近くにいた銀髪ロン毛が話しかけてきた。

 

「ゔおぉぉい!新入りかぁぁぁ。」

 

ロン毛は叫ながら聞いてくる。

 

「あんまり状況わかってないんだけど。」

 

「よおぉぉし新入りだなぁ。ここの事はあそこのタコ野郎にきけぇぇ。」

 

そういうとロン毛はまた戦いに戻った。

俺は言われた通りそのタコのところに行く。

 

「あの~すみません。」

 

「ニュ、新入生ですね。初めましてここの管理を任されています。

殺せんせーと読んでください。」

 

「はぁ~。」

 

「いきなり来て戸惑っていますね。まずは説明から始めましょう。」

 

「お願いします。」

 

殺せんせーというこのタコの説明はこうだった。

そもそもこの世にはいろいろな世界が存在しいる。

本来生きたままほかの世界の住人と接する事は不可能らしい。

ここは武神が作り上げた世界でこの殺せんせーは広い視野と

教育の上手さを買われて管理人をしているらしい。

そしてここは強さを求める者の中でほんの一部が来れる場所で

簡単に言えば無限に修行ができる空間である。

ここと元の時間軸は全く違い、何年いや何千、何万、何億年いようと年を取らず

元の世界に戻ればこの場所来た時間から一秒も進んでいない時間帯に戻れるらしい。

更にこの世界でいくら死のうが三秒ほどで復活するらしい。

勿論ここで得た知識は元の世界に持ち帰る事ができるし鍛えた体も

そのままで帰ることが出来る。

正確には見た目には変わらないが例えば筋肉ならその密度が変わるといった感じだ。

まさに修行にはもってこいの場所という訳だ。

俺は喜びで飛び上がりそうになった。俺が求めていたものがここにはあるのだから。

舞い上がっていた俺には目の前のタコの容姿などどうでもよくなっていた。

 

「早速やってみましょう。お相手は彼がいいですね。山本さん。」

 

「うん?読んだか?」

 

呼ばれた男が近づいてくる。

 

「ええ。少し彼と相手してくれませんか?実力を見たいので。」

 

「ははっ了解。あっ俺は山本 武な。よろしく。」

 

常に笑っている印象を受ける山本 武。

 

「よろしくお願いします。清水 飛鳥です。」

 

「じゃっ、行くぜ。」

 

そういうと刀を構えるといきなり雰囲気が変わった。

さっきまでと違い真剣だ。薄っすら殺気すら感じる。

周りで戦っていた人たちが見学のため近づいてくる。

 

「よろしくお願いします。」

 

返事をしながら俺も刀を構えて応戦の構えを取る。

 

「では始め。」

 

合図とともに切りあう。

数合打ち合った後俺から型を出す。

 

「(雷の呼吸 弐ノ型 稲魂)」

 

「(時雨蒼燕流 守式四の型 五風十雨)」

 

山本は俺の五連撃の型を躱す。

 

「(まじか。)」

 

「ははっなんとか躱せたぜ。」

 

「ちっ。」

 

俺は距離を取り居合の構えで待つ。

すると今度は山本から動いた。

 

(時雨蒼燕流 攻式 三の型 遣らずの雨)

 

それは刀を手以外で操る奇襲技で刀は俺目掛けて飛んでいく。はずだった。

しかし俺はそこにいない。

 

「(雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃)」

 

山本の頸が飛んだ。

 

「はいそこまで。大体わかりました。」

 

復活した山本が笑いながらやって来る。

 

「負けちまったな。飛鳥はつえーのな。」

 

「そうですか?俺なんかまだまだですよ。この程度じゃ何も守れない。」

 

「そうか?十分強いと思うけどな。」

 

「いいや。まだまだだぁぁ。今回勝ったのは単に経験値の差だ。」

 

叫び声を聞いてふたりでそちらを向く。

そこには最初に話しかけてきたロン毛がいた。

相当怒っている事が分かる。

 

「スクアーロ‼」

 

山本はやばっという顔をする。

 

「うおぉぉぉい。山本 武ぃぃ。なに負けてんだあぁぁ。」

 

「悪かったって。」

 

「うるせー。こぉぉぉい。てめーもだ。ついでに見てやる。」

 

「えっ。」

 

「ヌルフフフフフ。行ってきなさい。そして強くなりなさい。」

 

「はい」

 

「おせぇぇぞぉぉ。早くこぉぉい。」

 

「すみません。すぐ行きます。」

 

こうして俺の修行が始まった。

その後スクアーロさんに散々殺された。

考えては殺されてまた考える。この繰り返しだ。

 

(それでもスクアーロさんの強さを俺のものにしする。そのために何度でも挑む。)

 

殺されては復活してを繰り返しそれでも挑み続ける。

そうやって俺の武人の世界での何千年にも及ぶ修行の日々が始まったのだった。」




武人の世界編突入です。
初回はスクアーロと山本武だけでしたがこれからも
それ以外のキャラも出していきたいです。
では次回もよろしくお願いします。


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第十六話 武人の世界弐

ストーリー開始前に連絡一時、十二話と十三話を消して
変更を加えました。詳細は十二話十三話を呼んでみてください。
細かい事なので読み直さなくてもそこまで支障はないと
思いますがよろしくお願いします。


 何年いや何千年たったかもわからなくなった。

その間にいろんな人間と戦い、幾度となく死に幾度となく殺してきた。

ここでの戦闘の勝利条件は頸を切る事。

それ以外はどこを切ろうと一瞬で回復する。鬼との戦闘と同じだ。

その中で最初は全く勝てなかったスクアーロさんやロロノア ゾロさんにも勝てるように

勝てるようになってきた。

今も沖田 総司さんと戦っている。

 

「最初に来た頃に比べて随分強くなりましたね」

 

沖田さんは笑いながら言ってくる。

 

「沖田さんこそまだまだ余裕じゃないですか」

 

言葉を交わしながらまた切りあう。

切り上げ、突き、、切り払い、それをバラバラに繰り出す。

時々型を使う。そのどれかが通ればそこで殺しきる。

 

「やりますね。ならこれならどうですか」

 

沖田さんが平正眼の構えを取る。

 

「(来た。躱せるか。見ようとするな、感じろ、そしてつかみ取れ、数秒後の生存を)」

 

同時に放たれているように感じる平突き。

当然そんなことはない。三回の突きを放った瞬間退くために刀を下げる。

その時に殺す。ただそれだけ。

当たり前だが言葉で言い表すのと行動に移すのでは訳が違う。

 

「(だから刀で払いつつ全力で躱す。攻撃はその後。来た)」

 

「一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀!無明三段突き」

 

繰り出される突きを躱す。

沖田さんは渾身の突きを躱されて驚いて固まっている。

 

「(今だ。勝つなら今しかない。いくぞ。雷の呼吸 肆ノ型 遠雷)」

 

沖田さんの頸が落ちる。

 

「(最初は全く太刀打ち出来なかった沖田さんの三段突きもなんとか躱すことができた)」

 

すると沖田さんが復活してこちらに歩いてきた。

 

「いやーまさか躱されるとは思いませんでした。強くなりましたね」

 

笑いながら沖田さんはほめながら頭を撫でようとしてくれる。

しかし背丈の差で撫でる事は出来なかった。

 

「う、届かない。背丈があるひとは羨ましいです」

 

「あっはっはっまあ、これは仕方ないですね」

 

「くすっそうですね」

 

二人して笑った。

 

「おう。終わったみたいだな、飛鳥。次俺とだ」

 

「はい。ゾロさん。よろしくお願いします」

 

おれはゾロさんの方に走っていく。

 

「うっし。やるか。本気で行くぞ」

 

「勿論。そのためのこの世界でしょう」

 

「ふっ、そうだな」ニヤ

 

互いに刀を構えて走り出す。

 

「「はあーー」」

 

それからゾロさんとは十一試合行い、五勝五敗一分の結果に終わった。

特にゾロさんの飛ぶ斬撃百十八煩悩鳳が厄介すぎる。

此方も雨の呼吸 伍の型 鉄砲雨で対抗するが射程も威力も桁違いだ。

今後はそこら辺を今度は鍛えていくとしよう。

こうして自分の欠点をも見つけてそれを長い時間をかけて確実に潰していく。

何とも楽しい時間だった。

 

「やっぱ強いなーゾロさん。中々勝ち越せない。」

 

「よく言うぜ。お前も十分強い」

 

「ありがとうございます」

 

「おう、またやろうや」

 

「はい、その時はよろしくお願いします」

 

また別の人と戦う。

その繰り返しだが経験はやはりなにものにも代えがたい。

相手が鬼でない事が残念だがそれでも十分な経験が得られる。

周りには俺より何倍も強い人が多くいる。

新しく来た人でも既に俺より強い人がいた。

例えば元新選組の斎藤一さん。今は藤田五郎さんと名乗っているらしい。

彼と初めて戦った後になぜおれが戦うのかと聞かれた。

俺は素直に答えた。

すると藤田さんは俺に悪・即・斬の心構えと彼の剣術の一つである牙突を教えてくれた。

雷の呼吸と合わせればかなり強い型になるかもしれない。

それから居合についても教えてくれた。全て実戦形式だが。

もう一人はアカメさん。暗殺者の女性だ。

元々の技量が高い上に

彼女の刀、村雨はかすっただけでも死に至る呪いの刀だ。

頸を切る事が勝利条件のこの世界では即死という事はないが

それでもその影響で動きが極端に制限される。これも厄介すぎる。

逆に教えることもあった。

例えばキリトと名乗る全身黒い服の少年だ。なんでも俺の世界から百年近く先の世界で

ゲーム?と呼ばれる娯楽の中に作られた世界の中に閉じ込められたらしい。

未来の技術も凄いものだなあ。というのが俺の感想だった。

 

「戦闘して分かった。お前、そのソードスキル?で合ってるか?それに頼りすぎ」

 

「どういうことだよ?」

 

「簡単だ。ソードスキルの発動に必要なモーションは時として相手にその技の軌道すら見せてしまい

そして放った直後に硬直時間が存在する。これは戦闘において致命的すぎる弱点になる。

俺ならその硬直時間でお前を殺しきれる。

それに殺せなくても攻撃できない様にする方法はいくらでもある。

例えば腕を切るとかな。いろいろ言ったがそのソードスキルは使うところを

選ばないと相手に隙を与えるだけだってことだ。ここまでいいか?」

 

「ああ」

 

「仲間がいるならその隙もなくしてくれるんだろうけどお前戦闘は一人なんだろ?」

 

「ああ」

 

「なら猶更スキルに頼りすぎるのは危ないな。

恐らくこの構成を考えた奴はわざとかどうかは分からないが

単独戦闘をあまり視野に入れてない。

それにスキルはモーションを発動を鍵にこう動くべきだと

脳に無理矢理に体を動かさせている感じか。

一見便利だがつまり完全に動きにぶれがないという事だ。

動きを知っている奴、えーっと名前は確か茅場明彦だったか?

そいつには通用しないという事だ。猶更使えないぞ」

 

「そう言う事になるな。(凄いな。この人大正の生まれなんだろ?

ゲームすら知らないのにもうスキルの事やシステムの事とか

理解し始めてる。

少し違うところがあるけどそれでもここまでわかる物なのか?)

でもどうすればいいんだよ?」

 

「簡単だ。スキルなしの動きに慣れるんだ。

つまりはひたすら戦闘とスキルに頼らない剣技を身に付けるしかない」

 

「スキルなしの動き?」

 

「そうだ。スキルなしならお前動きが単純すぎる。

これはそのスキルに頼り切っている証拠だ。

だが茅場はスキルの動きを理解している可能性がある。

つまりそれ以外の動きで独自の型を身に付けるんだ。

そうすれば茅場の隙を生みやすく隙が出来ればそこで殺しきれる。」

 

「なるほどな。分かったよ。」

 

「なら早速やるぞ。構えろ。」

 

「ああ。」

 

また戦いが始まる。

こうして時に教えて時に教わりながら武人の世界での修業はまだまだ続く。

 

だからこそそのソードスキルというものなしでの戦闘に慣れさせた。




今回も出ました。他作品キャラ。
今回はFGOから沖田総司とるろうに剣心から藤田五郎、
ソードアートオンラインからキリトを出させてもらいました。
最後の方とか偉そうにSAOを根本から否定する
感じの描写が出てきますが決してSAOが嫌いとか
存在を否定したいとかそういう訳ではありません。
あくまで大正の人が詳しい事を知らずに見た時に
こう思うだろうという事を書いただけです。
私自身SAOは大好きですし。本もアニメもね。
作者様及びSAOファンの皆様にここで
お詫びします。


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第十七話 武人の世界参

 更に数千年がたった。

既に各呼吸を鍛えた。だが日の呼吸だけがまだ不安定なままだった。

指南書があった雨の呼吸と違い日の呼吸は夢の中で見ただけ。

しかも一度だけだ。完璧に使いこなすためには最低でも後一回は見なければならない。

だが現状俺以外に日の呼吸を使いこなす人間はいない。

今の状態でも使えないわけでない。だが実戦で鬼に使うとなるとどうしても不安が残る。

 

「ない物ねだりしても仕方がない。ないならないなりにやるしかない」

 

「ヌルフフフフ。どうやら悩んでいるようですね。清水君」

 

「これは殺先生。どうしたんですか?」

 

「いえ、君は今伸び悩んでいる様に見えたので先生として何か助言できればと思いまして」

 

「ありがとうございます。では少し見ていただけませんか?

もしかしたら動きに無駄があるかもしれません」

 

「ええ。構いませんよ」

 

「お願いします」

 

俺は日の呼吸の円舞から炎舞までを順番に繰り出す。

一つ一つの型がつながってい流れる様に繰り出すことができる。

一通り出し終わると殺先生に意見を聞く。

彼は元々余り剣術には明るい方ではない。だがその高い観察力と的確な助言が

ここにいる剣士たちから高い評価を得ている。

 

「なるほど、大体わかりました。では一つずつ指導していきましょう」

 

「お願いします」

 

一つずつ無駄な動きにいなっているところや刀をのブレを調整していく。

それでも雷の呼吸を使うより体力を使う。その割に威力が低い。

 

「これ以上は流石に専門知識がないときついかもしれません」

 

「いえ、ここまで指導していただきありがとうございました」

 

「いえ、妥協はいけません。ここは武人の世界。武に関する事を鍛える場所です。

ここは先生に任せてください」

 

そう言うと先生はどこかに消えてしまった。

それから数日後帰ってきた先生はとんでもない人を連れ帰ってきた。

 

「清水君。お待たせしました。彼なら力になるでしょう。継国縁壱さんです」

 

開いた口がふさがらないとはこの事だろう。

任せてくれとは言っていたがまさか彼を連れてくるとは思わなかった。

 

「いやー大変でしたよ。武神に頭をさげて天照大御神に頭を下げて閻魔大王に頭を下げて

やっと許してもらえました」

 

「何から何まですみません」

 

「気にする必要はありませんよ生徒の為に出来る事をするのは当たり前です。

では継国さん後はお願いします」

 

「任せてくれ。話は彼から聞いた。日の呼吸を習いたいとの事だな」

 

「はい。お願いできないでしょうか?」

 

「構わない。私に出来る事を全てを飛鳥に教えよう」

 

「ありがとうございます。お願いします」

 

あえて笑いながら感謝の言葉を口にする。

 

「笑った顔が蒼月そっくりだな」

 

「そうですか?いうじゃないですか笑う門には福来るって。笑っていないと

幸せがにげてしまいますよ」

 

「言葉まで蒼月そっくりか。では始めるぞ」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

それから縁壱さんから型と正確な呼吸方を教えてもらう。

そのおかげで威力が出なかった理由が分かった。

呼吸が少しおかしかったのだ。

少しの違いだがそれだけでとても大きな違いが出た。

他の呼吸とは比べ物にならない威力。

体力の持続時間も格段に変わっていく。

呼吸と型を教えてもらった後は日の呼吸のみを使った戦闘。

それを行う事で実際の鬼との戦いの中で使い物になる様にしていく。

ひたすら戦い技の練度を上げていく。

最初は全く太刀打ちできなかった縁壱さんの動きに次第に就いて行く。

そしてついに互角に戦えるようになった。

その頃には額に縁壱さんと同じ痣と腕に雫模様の痣が出来る。

そこで縁壱さんから痣の制御方法を教えてもらう。

縁壱さん曰く痣を出る時は体温と心拍数が跳ねあがっている。

そしてその心拍数が跳ねあがったせいで普通の人は

二十五歳までに死んでしまうそうだ。

そこで心拍数を抑える訓練と赫刀都のやり方の訓練も行う。

この訓練は直ぐにできた。

 

「ここまでだ。後は実際に鬼と戦う事で高めていけ」

 

「はい。ありがとうございました」

 

「ヌルフフフフ。如何やら行けるところまで行けたようですね」

 

「はい。色々ありがとうございました」

 

「気にする必要はありません。それが私の教師としての務めです。

さて清水君。君は今日で卒業です。元の世界ではこの世界での事は

他言しないでください。」

 

「分かりました」

 

「わたしからもいいか。私の兄上が鬼となり鬼舞辻の傍にいるはずだ。

見つけたら必ず滅してほしい。六つの目があるはずだ。見れば分かる」

 

「六つの目?まさか上弦の壱か?」

 

「知っているのか?」

 

「恐らくですが、確かにそいつは六つの目を持っていて

月の呼吸を使う鬼です。」

 

「そいつが兄だ。名を継国 巌勝。

絶対に滅してくれ。私の心残りなのだ。」

 

「分かりました。お任せください。」

 

「話は済んだようですね。では時間なのでもう会えることは無いでしょうが

お疲れ様でした」

 

そこで光に包まれ目をつむる。光が収まり目を開けると元の場所に戻っていた。

 

「戻ったか。どれだけ成長したか試したいがそれは無理だな。

とりあえず帰るか」

 

独り言をいいつつ俺は帰路についた。



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第十八話 再会

 飛鳥はある任務に出ていた。そこで俺は驚いた。

当初想定していたより呼吸の型の威力が上がっていた。

雷、炎、水、風、岩は勿論、雨の呼吸や日の呼吸も格段に成長していた。

特に日の呼吸は異能の鬼や下弦の鬼でも軽々頸を落とすことができるし

異形の鬼やまだそこまで人を喰っていない鬼なら頸ではなくても

人間の致死に至る部分を切れば消滅するし

そうでなくても傷の治りが極端に遅くなる事が分かった。

元々他の呼吸と違い日の呼吸は鬼に対して別格に威力を誇る。

だがここまで凄いとは思わなかった。

俺は積極的に日の呼吸を使う事に決めた。

そうすれば無惨は俺を脅威に感じてより強い鬼を差し向けるかもしれない。

日の呼吸に関して飛鳥はまだ誰にも話していない。勿論御館様にもだ。

理由は習得方法を話す事が出来ないからだ。

夢で見たと言って信じてもらえるとは到底思えないし、

頭がおかしいとか病んでいると思われて鬼殺隊から遠ざけられては本末転倒だ。

一番手っ取り早いのは雨の呼吸の指南書に一緒にかかれていたという事にするのが

納得してもらいやすいと考えて今制作中だ。

その日の任務を終えて血を抜き取り猫に預けて津次の場所に向かう。

そこは静岡の大きな街だ。そこで別の隊士二人と待ち合わせして鬼を討伐する。

待ち合わせ時間が昼時という事もあり定食屋で待ち合わせする。

鴉にここまでの案内を頼み飛鳥事前に調査をして店の前で待つ。

暫くすると遠くから見覚えがある人影が歩いてくる。

錆兎だ。隣にはもう一人いる。

 

 

 

 

 

 

飛鳥視点

 

「久しぶりだな、飛鳥。そうだ。柱昇進おめでとう」

 

「ありがとう、錆兎」

 

「そうだ、紹介するぞ。こいつは冨岡義勇。俺の同門だ」

 

「よろしく」

 

「よろしく。俺は清水飛鳥だ。飛鳥と呼んでくれ。俺も義勇と呼ぶから。

とりあえず飯でも食わないか?お前達もまだだろ?」

 

「まだだ」

 

店に入り注文を済ませる。

因みに義勇は鮭大根、錆兎と俺は天ぷらの定食を頼んだ。

食べながらこれまでの事を話す。

 

「お前達はどうしていたんだ?」

 

「俺は近畿を中心に任務だった。義勇もだ」

 

「それでなかなか会えなかったんだな。俺は東京周りから東北まで回っていたから」

 

「カナエも柱に昇進したと聞いた。俺達も焦らないとな」

 

「ああ。」

 

錆兎は気合を入れ直すように言うが義勇はどこか冷めていた。

よく言えば冷静悪く言えば何かに悩んでいて心ここにあらずといった感じだろうか?

 

「御馳走様。さて任務の話をするぞ」

 

「そうだな。たのんだ」

 

「頼む。」

 

「合流するまでにいくつか回って目撃情報を集めてみた。

それと関係者に確認して死亡した人の死亡場所と日時を確かめてきた。

鬼は複数存在するかその手の血鬼術の可能性が高い。

理由は一日に起きている事件の件数が異常だという事が主だ。

この街でこの手の事件が起き始めたのが一週間前。

それから二日から三日に一度に十件以上

旅人や捜査に来た警官後はこの街の人間の中でも男性限定で狙い

首から上を残してすべて消えるという事件が多発しているという事だ。

この街はかなり広い。たとえ飛行能力の血鬼術をもってしても

それは不可能だと判断した。二人はどう思う?」

 

「飛鳥の推測で合っていると思う。義勇は?」

 

「(俺も錆兎同様に飛鳥の意見に同意だ。だから)そう思う。」

 

「なら手分けするか?たとえ現れても協力は出来ないだろうが」

 

「鴉も含めればそれなりの捜索範囲になるだろう。鬼を見つけ次第

鴉は近場の俺達の誰かに連絡する。俺達はそれに合わせてその場に急行する感じでいいだろ」

 

「飛鳥の策でいいだろ。この人数じゃそれしかないしな」

 

「・・・」コクッ

 

「なら日没まで待とうぜ」

 

そこで義勇が立ち上がった。

 

「飛鳥一つ頼みがある」

 

「なんだ義勇?」

 

「俺と手合わせしてほしい」

 

「急にどうした?」

 

「(俺は最終選別で鬼を倒さずに合格した。殆ど気を失っていただけだ。

そんな今の俺が錆兎やお前と肩を並べていいはずがない。

だから真に鬼殺隊士として俺は二人と肩を並べたい。

だからこそ既に柱であるお前と戦えば前に進める気がする。)頼む。」

 

「なんかかなり省かれた気がするが、分かった。近くの山に昇ろう」

 

それから俺達は近くの山に向かいそこの中で開けた場所を見つけて

互いに丈夫でちょうどいい長さの木の棒を構えて向かい合う。

 

「俺が見届けさせてもらうぞ。

一本の判定は面、胴、篭手、と頸への寸止めのみとする。では始め。」

 

始めの合図と共に互いに近づき刀を振るう。

 

「(雨の呼吸 弐の型 五風十雨)」

 

義勇の突きを回避技である五風十雨で躱す。

そこからすぐに返すように呼吸なしの払い斬りが来るがそれも流れで躱す。

それでもあまり距離を話さない様に攻撃してくる。

義勇は俺が雷の呼吸を使う事を知っておそらくだが霹靂一閃を警戒しているのだろう。

距離を話してしまえば詰める速さでは霹靂一閃が一番早い。

だからこそ義勇は距離を詰めてきている。

 

「(水の呼吸 壱の型 水面斬り)」

 

「(雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷)」

 

棒を真一文字に払う攻撃を斬り上げて態勢を崩そうとする。

それでも義勇は跳ね上げられた棒をそのまま振り下ろす。

それを躱してまた攻撃を仕掛けようとしたときに

 

「(水の呼吸 拾壱ノ型 凪)」

 

「(あの技はまずい)」

 

攻撃を躱す為に下がる。

だがそこからさらに追撃をかけてきた。

 

「(水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き)」

 

水の呼吸最速の突き、これで決めるつもりだろう。

見事だ。だがそうはいかない。

霞の構えを取りその技を繰り出す。

 

「(雨の呼吸 漆ノ型 奥義 天翔ける龍の如く)」

 

高速で接近しての十五連撃。

その全てが義勇の面、頸、胴、篭手に当たる。

攻撃を受けた義勇はそこで倒れた。

 

「勝負あり。勝者、飛鳥。」

 

倒れた義勇も立ち上がる。

 

「すごかったよ。途中から完全に読まれていた。」

 

「(お前も(最後の正確に放たれたあの五連撃には全く反応出来なかった。

あれほどの攻撃はそうそう出来るものではないと思う)凄かった。」

 

「そうか。痛みはないか?」

 

「(お前が手加減してくれたから)ない。」

 

「それならよかった。」

 

義勇の顔は手合わせを始めたころと違いどこか晴れやかな雰囲気だった。

見た目は仏頂面のままだがそんな感じがした。

 

「よし。なら夜まで休め。本題はこれからなんだ。」

 

「そうだな、錆兎。これからだ。」

 

「ああ。」

 

 

俺達は休息を取りつつ夜を待った。

 

 

 

 



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第十九話 複数の鬼

夜、三羽の鴉を放ち、ほとんど人気のないその町を見回る。

最近までは夜もにぎわって日が変わる頃まで騒がしい街だったそうだが

今は事件のせいですっかり人気のない街に変わってしまった。

飛鳥達三人はそれぞれ屋根の上を歩きながら見回る。

飛鳥は広範囲の気配感知で探る。

だが見つからない。

 

「(複数いて気配感知の血鬼術を使っているのか?それともそれ以外に何かあるのか)」

 

それからも一晩探りを入れつつ探す。

すると一人のかなり泥酔した男が家から出てくる。

男はそのまま路地裏に向かって歩き始める。

気になった飛鳥は彼を追い始めた。

すると建物の影から鬼が出てきて食べようと手にかける。

 

「(雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃)」

 

雷の呼吸で鬼を切り殺しすぐに男から見えないところ隠れる。

その時周りから複数の鬼が出てきた。

 

「へっへっへ、待ってたぜ鬼狩りしかもその刀、柱だな」

 

「だからどうした?」

 

「柱を殺せばあの方から多くの血が貰えるんだ」ザシュッ

 

聞いているのも馬鹿らしくなったので飛鳥はその鬼の頸を切る。

すると数体の鬼が出てきた。

その鬼が影を操る鬼だったのだろう。

その数は計三十体。

これだけの鬼がいるとはさすがの飛鳥も驚く。

 

「これだけいたとは正直驚いたよ。だがやる事は変わらない」

 

呟いて走り鬼を切り殺していった。

 

 

 

 

 

 

 

一方他二人の所でも影を操る鬼が殺されたことで複数の鬼が

影の中から出てきた。

その一つ義勇の所では二十体鬼が群れを成して襲ってくる。

 

「(一体ずつはそこまで強くない。そして鬼同士は連携は出来ているようで

全く出来てない。)行ける(水の呼吸 拾壱ノ型 凪)」

 

義勇も数体の鬼を切り刻む。

だがまだまだ多い。

 

「負けられない。」

 

義勇に鬼に負けるという事は頭になかった。

それ以上にこの任務に同行している飛鳥に負けたくないという気持ちから

いつもより早くより多くの鬼を狩り実力をつけて飛鳥に並びたいという

欲が出てきていた。

 

「(まだだ、まだいける。)来い」

 

この時の義勇の顔は鬼狩りの最中ではあるが

少し生き生きとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃もう一方の錆兎の方は

より強い敵に遭遇していた。

 

「まさか十二鬼月に遭遇するとはな。しかも下弦の弐」

 

目の前の塀の上と周りには数人の鬼と片目に下、弐と書かれた鬼と

蟷螂の鎌の部分を思わせる腕を持つ異形の鬼と他下級の鬼が三十匹ほど立っている。

 

「どうした?俺が十二鬼月で驚いたか?それともビビったか?」

 

「いや、俺は運がいい。これで飛鳥に一歩近づけるんだからな」

 

「なんだと!」

 

下弦の弐は苛立つ。

無惨を除けば最強の十二の鬼であるはずの自分が踏み台扱いを受けているのだ。

誰だって怒るだろう。

 

「俺が強くなる為の踏み台だとふざけやがって。

いいだろう。お前も俺が操って下僕にしてやる。」

 

「やっぱ馬鹿だろ。これで俺はお前が洗脳か体を操る系の血鬼術の

使い手だとわかってしまったぞ。」

 

「き、貴様―。」

 

激昂する下弦の弐を錆兎は隙無くうかがう。

 

「もはや操るなんて優しい事は言わない。行け。奴を殺せ。」

 

下級の鬼たちは錆兎に向けて一斉に襲い掛かる

だがただ突っ込んでくるだけで何の連携もない。

それを落ち着いて一匹ずつ頸を落としていく。

ものの数分片が付いた。

 

「なんでだよ。三十だぞ。その数を何で対処できるんだ。」

 

「突っ込ませすぎなんだ。数で押すしか戦術がないのかよ?

もう少し戦術を使うべきだったな。」

 

「くそ、行けあいつを殺せ。(その間に逃げよう。

他の箇所にはなった鬼も全滅してる。急がないと。何、鬼はまた集めればいい。)」

 

だが異形の鬼はそこにはいなかった。

そして自分の頸も落ちかけている事に今されながら気づく。

 

「何でいつの間に」

 

「戦場でべらべら喋る奴がいるか」

 

「隙だらけだ」

 

飛鳥と義勇が後ろから塀の上にいた異形の鬼と下弦の弐の頸を落としたのだ。

 

「くそう」

 

それだけ言って鬼は消えた。

 

「はいこれで終わり」

 

「ああ」

 

「たく、飛鳥、義勇、いいとこ取るなよな」

 

「べらべら喋ってる錆兎が悪い」

 

「まったくだ」

 

「はあー、仕方ないか。帰えろうぜ」

 

「そうだな」

 

三人は宿に帰り眠った。



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第二十話 番外編 カナエの願い

数日前飛鳥が義勇君と錆兎君と協力して大量の鬼を討伐したと聞いた。

下弦の弐は義勇君が討伐したらしい。

もうすぐ次の柱合会議がある。

場所を考えれば弐日もすれば帰ってくるだろう。

今年の初めごろに結婚式も上げ共に暮らしている。

一様鳴屋敷という飛鳥専用の屋敷もあるのだがそこはほぼ飛鳥の専用道場となっている。

結婚して半年たつが私はある思いをいえ願いかな?を飛鳥に隠している。

本来夫婦でこんなことはいけない事なんだけど飛鳥の事情を考えると言えなかった。

飛鳥は実の両親と姉と義親の六人を鬼に殺されている。

鬼を恨んでいるのは確実のはず。

そんな彼に私の願いを打ち明けたら余計な負担になるかもしれない。

それで拒絶されるのが怖った。その後に関係が崩れると考えただけで

全身が震えるほどの恐怖がある。

だが深く考えてみると関係が崩れるという事はないだろうと思うようになったわ。

昔からどこか適当なところはあったが責任感は高かった。

両親の件で離れてから再会した時適当なところはすっかり抜けて

真面目な人間になっていた時は驚いたけどそれでも責任感が強い所は変わっていなかった。

だからこの願いが拒絶されるかもしれないがこの関係が崩れるようなことは決してない。

やっとそう思えるようになった。

だから帰ってきたら言うわ。飛鳥に全てを。

 

 

 

 

二日後の夜

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい」

 

帰ってきた。決心したんだもの。まだ少し怖いけどそれでも隠すのは飛鳥の想いを

裏切ることになる。それだけは絶対してはだめ。

 

「飛鳥少しいい?」

 

「どうした?」

 

「少しだけ聞いて欲しい話があるの」

 

「構わないが」

 

「ありがとう。」

 

縁側に移動して二人で座る。

 

「で、どうした?話って」

 

「うん、鬼に関してなんだけど、私は鬼との融和を目指しているの」

 

「!」

 

飛鳥が私を見てきた。その顔は驚きの顔をしている。

 

「鬼だって最初からなりたくて鬼になったわけじゃない。

鬼も鬼舞辻の被害者なんだと思うの。珠世さんを見ていてより強く思ったわ。

勿論飛鳥の事情は分かってるわ。別に共に目指してほしいという訳じゃないの。

ただ夫として妻が目指している目標を知っててほしいというだけなの。」

 

長い沈黙の後飛鳥は聞いてきた。

 

「君の意志は固いんだね?」

 

「ええ。」

 

「これから先もしかしたらそんな鬼は現れないかもしれない。それこそ一生。

厳しいこと言うようだが君の意志を継ごうと考える人間はいないかもしれない。

それでもカナエはそれを目指すことを諦めないんだね?」

 

「ええ。」

 

「分かったよ。それが君の目指すものだというなら俺は応援するよ。

ただ俺は鬼への恨みを忘れる事が出来ないんだ。だから協力は出来ない。

それは許してほしい。」

 

「ありがとう。私頑張るわ。」

 

「でも絶対生き残ってくれ。それは約束してほしい。」

 

「勿論よ。飛鳥との子供も欲しいし。」

 

そこで飛鳥は赤くなった。

こういうところがかわいいのよね。

でもよかった。飛鳥が認めてくれて。

もしかしたらかなわないかもしれない。

でも目指すことに意味があると思うから

 

 



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第二十一話 新たな柱

また一つ、年が明けた。

カナエから自分が目指す目標を聞いた日から半年。

それからも鍛練を繰り返しまた鬼を討伐する。

かれこれ数十程倒したと思う。

今年は杏寿郎が最終選別に行くらしい。

手紙で実弥や真菰も最終選別に向かうと聞いた。

そんな時にお館様から手紙を貰い産屋敷邸に向かう。

入り口であまね様に取り次ぎお館様の部屋に入り座る。

 

「来てくれてうれしいよ。元気そうだね。飛鳥」

 

「はい、お館様もご壮健でなによりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」

 

「ありがとう。今日呼んだのは新たな柱を決めようと思っているんだけどね。

候補としては冨岡義勇、鱗滝錆兎を考えているん。」

 

現在の柱は炎柱の煉獄槇寿郎さん、水柱の戸倉芭蕉さん、音柱の宇随天元さん

風柱の佐島象山さん。岩柱の悲鳴嶋行冥さん、花柱の清水カナエに鳴柱の俺の七人。

お館様が言うには次の柱合会議をもって水柱である芭蕉さんが引退する。

彼は年齢が六十三歳で長年の戦いでの怪我のせいで体の節々にガタが来ていて

最近では体を動かすのがつらいらしい。

そこで新たな柱として彼の代替わりの候補として考えたのが義勇と錆兎だった。

俺を呼んだのは俺が二人と同期で顔見知りで共に戦った経験があるから

意見が欲しいという事だそうだ。

 

「二人とも技量としては文句の付け所がありません。一言に水の呼吸といえど

二人は性質が違います。錆兎は荒々しい流れの川のような型ですが義勇はまさに凪です。

どちらを柱にしても問題なく職務を全うしてくれると思います。

ですが俺の率直な意見は錆兎です。技量は義勇の方がわずかに上ですが

柱は鬼殺隊で精神的支柱であり下の階級の隊士を率いる事も多いです。

その面で言うと錆兎の方が他者を率いる事に長けているかと」

 

率直の意見を言う。正直かなり難しい二択だ。

技量の義勇か、統率の錆兎かどちらをとってもはずれにはならない。

 

「ならこうしようか。義勇は柱として錆兎には柱補佐として義勇の補佐にする。

義勇にはその動きで周りを率いてもらい、錆兎には統率者として率いてもらおう」

 

「それがよろしいかと」

 

「ならそれで行こうか。相談に乗ってくれてありがとう」

 

「いえこのようなことでよろしければいつでもお呼びください。

出来る限りお力になって見せます」

 

「期待しているよ」

 

それから数週間後柱合会議が開かれ現水柱芭蕉さんの引退が報告された。

 

「鬼との戦いはまだ終わっていないのに私だけ先に引退してしまい申し訳ない」

 

「体が動かしにくいなら仕方ないですよ。今まで長い間お疲れ様でした。」

 

「うむ。後は我々に任せてほしい。必ず無惨を討伐しよう。」

 

「長い期間を鬼狩りに費やされたのだ。尊敬に値する。

だがそろそろ自分の体を休ませてあげるべきだ」

 

「芭蕉様には補佐をしていた期間色々お世話になりました。有難うございました」

 

「今まで派手に戦ってきたんだ。誰も反対しねえよ。」

 

「ありがとう。この体では出来る事も少ないだろうが何かあれば頼ってほしい。」

 

「その時は頼りにさせてもらうよ芭蕉」

 

「はい。お館様もお体にはお気お付けください」

 

「ありがとう。そして芭蕉の後を継ぐのはこの二人だ。」

 

言われて奥の部屋から錆兎と義勇が出てくる。

 

「みんなに紹介しよう。新たに水柱に就任した冨岡義勇と

その補佐に就任した鱗滝錆兎だ」

 

「よろしく。」

 

「鱗滝錆兎ですよろしくお願いします。」

 

「義勇に錆兎か。柱の仕事は多い。後は頼んだよ」

 

「「はい」」

 

「二人にはこれまで芭蕉が担当していた区域を担当してもらうよ。頼むね。

分からない事があればカナエや飛鳥に頼るいい。四人同期だ。気心も知れているだろう」

 

「「はい」」

 

「ではこれにて柱合会議を終了とする。今日はご苦労だったね」

 

『はっ』

 

お館様はそのまま部屋を辞した

俺達もまたそれぞれの任務に戻る。

 

 



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第二十二話 獪岳

柱合会議から数日

俺はつかの間の休息をカナエとしのぶの三人と楽しんでいる。

今日は蝶屋敷の近くの町に繰り出して買い出しに来てその後三人で店を回っている。

蝶屋敷は去年の暮れに屋敷に住み込みで働くようになった神崎アオイという少女が

留守番している。アオイは家族を鬼に殺されて鬼殺隊の隊士になる事を目指し去年の最終選別で

杏寿郎や実弥たちと共に合格したのだが初任務で大怪我をして柱屋敷に運び込まれたのだが

その時に遭遇した鬼に恐怖で負けてしまいもはや隊士として働けなくなってしまった。

そこで今はしのぶやカナエの下で医療を学び、助手兼看護婦として働いている。

因みに提案したのは俺だ。今隊士の治療はしのぶがほぼ一人で見ている。

俺は医療に関してはほぼからっきしだしカナエは自分の担当地域を見回る必要があり

どうしても蝶屋敷を開ける事が多い。そのせいでしのぶにほとんどの負担が

行ってしまっているという事だ。その負担を減らすためにアオイや数日前に保護した

きよ、なほ、すみという少女たちと共に看護婦として育てつつしのぶやカナエの補佐を

してもらおうと提案した結果、全員から賛成を貰った。

その結果アオイや三人娘には柱屋敷から食と住の提供と給金を支払う代わりに

蝶屋敷で働くことに決まった。

四人とも手先が器用なので戦力になるだろうとしのぶは言っていた。

そんなことを思い出しながら三人である場所に向かう。

そこはとても綺麗な池を中心に綺麗な林が広がる場所。

俺達三人はそこで一際大きな木がある場所の根元に座り持って来た弁当を開ける。

この弁当は俺が作ったものだ。それぞれの好物が入っている。

 

「とてもおいしいわ。流石飛鳥ね」

 

「ええ。とてもおいしいわ」

 

「二人にそう言ってもらえるのはとてもうれしいよ」

 

それから三人の時間を楽しんだ。

特に何かしたという事はないが景色を楽しみこれからの事を話し合うなどした。

そうやっているうちに時間が来る。

 

「楽しい時間はあっという間だ」

 

「そうね」

 

「飛鳥、姉さんまた来ましょう」

 

「そうだな」

 

「ええ」

 

三人は蝶屋敷に戻った。

 

 

 

 

 

 

三人で出かけてかっら数日後。

鳴屋敷で鍛練に励む飛鳥の下に客人がやって来た。

彼の名前は獪岳。

飛鳥と同じ師匠の下で雷の呼吸を学んだ弟弟子で杏寿郎や実弥の同期だ、面識はないが。

 

「で、わざわざ俺の元までどうしたんだ?」

 

「俺は霹靂一閃が出来ないんです。で、鳴柱であるあなたなら何かわかると思い

お邪魔した次第です」

 

「なるほど分かった。見てやろう。だがその前に条件がある」

 

「条件ですか?」

 

「そうだ。過去を清算しろ」

 

「過去を?」

 

「そうだ。済まないとは思ったがお前の事は調べさせてもらった。

昔は悲鳴嶋さんの下にいた事は知っている。

そこでお前がやらかしてしまったこともな」

 

「はい。」

 

「過ぎてしまった事は本当はよくないが今はいい。

だが過去に対して何のけじめもつけずうやむやにすることは俺は絶対に許さない。

過去に対して何もけじめをつけず逃げ続ける者に教えることは無いと思う。

お前はどっちだ?逃げるか?それとも立ち向かうか?」

 

獪岳は暫く考えた後、何かを覚悟したように飛鳥を見た。

 

「飛鳥さん。お願いします。悲鳴嶋さんに会わせてください」

 

「分かった。俺も行く。少し待ってろ」

 

その後すぐに二人で悲鳴嶋の下に向かい

出会いがしらに獪岳は土下座をしてこれまでの過去全てに謝った。

悲鳴嶋は暫く獪岳にお小言を言った後彼を許した。

その後飛鳥の方を向き、

 

「飛鳥殿、獪岳を説得してくれたようだ。大変世話になった。」

 

「気にする必要はないですよ悲鳴嶋さん。貴方の為でもあるが

獪岳が前に進むためには必要なことだと思うから

おせっかいだとは思ったがそうさせてもらっただけだし」

 

「いやこれで私も前に進めるだろう」

 

「ならよかった。獪岳と話したいことも有るだろう。俺は失礼する」

 

飛鳥はそのまま出ていった。

その数時間後獪岳は少し晴れやかな顔をして帰ってきた。

 

「どうだ?」

 

「つきものが取れたような感覚がします」

 

「そうか。なら修行を始めようか」

 

「はい」

 

「まずお前が今どれぐらいできるのか見せてほしい」

 

「はい」

 

獪岳は今できる最高の霹靂一閃を見せる。

だがそれは到底霹靂一閃といえる代物ではなかった。

 

「分かった。ならまずその場でいいから座禅を組め」

 

「?はい」

 

獪岳は分からないというような顔をしながら座禅を組む。

 

「俺が言う事をしっかり聞いてくれ

まず深呼吸だ。そうだ。

次にお前には我妻善逸という弟弟子がいるな?」

 

「はい」

 

「まずは認めるんだ善逸を」

 

「認めるですか?」

 

「そうだ。正確に言えば他者の努力、才能を認めろ!」

 

「認める?」

 

「そうだ。その意味を真に理解したら次の段階に進む。」

 

「はい。」

 

この時から獪岳の中で何かが目覚めるような感覚を覚えた



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第二十三話 成長

 数日がたった。

あれから獪岳は暇さえあれば座禅を組んで瞑想している。

俺が見て居た限り弐の型から陸の型までは悪くない。

むしろそれだけ見れば即柱に出来るほどの実力がある。

事実俺の所に来る前には数人で組んでだが下弦の陸を圧倒し

獪岳自身がとどめを刺している。

だが壱の型だけは素人と言わざるを得ない。

雷の呼吸において壱の型は基本の型だ。

基本が出来てこそ他が出来る様になる。

だが獪岳はそれが出来ていない。

だが何となく俺の中では理由が分かってきていた。

だからこそ座禅を組ませ俺が言ったことを理解させることにした。

 

「どうだ。少しは認めることは出来たか?」

 

ひと段落着いた頃に声をかけてみた。

 

「はい。何となくですが」

 

「ならもう一度やってみろ」

 

「はい」

 

獪岳が構えを取る。

 

「今は細かい事は考えなくていい。ただ俺の指示に従え」

 

「はい」

 

獪岳はゆっくり呼吸を始める。

 

「まだだ。しっかり吸い込んでそれを目的の場所に送りこめ」

 

まだ吸い込むのを辞めない。そして

 

「今だ」

 

「(雷の呼吸壱の型霹靂一閃)」

 

雷のような音とともに繰り出された霹靂一閃は見事な一閃だった。

 

「出来た」

 

「出来たな。見事な霹靂一閃だった」

 

「有難うございます。でも何で今まで」

 

「答えは簡単だ。お前は自分より弱い者や劣る者を侮る癖がある。

善逸をカスと言っていたのが証拠だ。

だが善逸は同じ時期に型を学び始めて霹靂一閃だけは先に出来た。

だからこそお前は無意識のうちに早く出来る様になろうと焦りその焦りが逆に

正確な呼吸が出来なくさせていた。落ち着いてやれば出来るのにだ。

だからこそ俺はまず過去を清算させて善逸を認めさせた。

そうするば自然と侮りもそれから来る焦りもなくなるからな」

 

「そう言う事だったんですね」

 

「そうだ。忘れるな。世の中にはいろんな奴がいる。

善逸のような一つの事に秀でた奴。何でもすぐできる奴。

どれだけ努力しても上達が遅い奴。それぞれ違う。

そして世の中にはお前以上の人間は山の様にいる。

その逆もしかりだ。お前は強くなる。

だからこそ弱き(人々)を助け強き()をくじけ。

それが俺たちの使命だ」

 

「はい」

 

獪岳は力強く返事を返す。

おれは満足げに頷き

 

「俺からの教授は終わりだ。後は俺が教えたことを忘れずに

日々の任務と修行に励め」

 

「ありがとうございました」

 

獪岳は帰っていった。

その数日後師範から手紙が来て獪岳が善逸にこれまでの事を

謝ってきたという内容の手紙を送ってきた。

俺はその内容に満足するのだった

それと同時に獪岳を柱補佐に推薦。

それが通り悲鳴嶋さんが面倒みる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも二十三わいかがだったでしょうか?
何故か主人公の喋り方がおかしくなる。
でも直していこうと思います。
次回もよろしくお願いします


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第二十四話 上弦の壱再び

 全力で走っていた。

普通の人とは比べようがないほど早く。

 

「(急げ、もっとだ。もっと早く。でないと)」

 

それは三十分前に遡る。

その日も数体の鬼を退治し終え次の任務を待っていた。

その時に鴉から風柱と炎柱、音柱が上弦の壱と戦闘しているという知らせを持って来た。

急いで目的地に向かう。走れば三十分でつける位置にいる。

何とか間に合ってくれと祈りながら走り続ける

目的の場所についた俺は唖然とした。

そこには上半身と下半身が腰の所で二つに切られて息絶えている佐山さんと

利き腕を失い膝を付いている槇寿郎さんがいた。

現在は音柱である天元さんが一人で戦っているが体に欠損こそないが

傷だらけで既に満身創痍という状態だ。

 

「天元さん!」

 

「清水か」

 

「変わります。槇寿郎さんを連れて下がってください」

 

「すまん」

 

「飛鳥君、死ぬなよ」

 

「はい」

 

天元さんが槇寿郎さんを抱えて離れる。

 

 

 

 

 

 

「また貴様と相まみえるとはな」

 

「そうだな。だが今はそんなことはどうでもいいだろ。

俺が柱でお前は鬼。ならすることは一つだ」

 

「そうだな」

 

互いに自分の刀を手に取り睨み合うが動かない。

 

「(最初が肝心だ。最初の動きで流れを掴めるかで勝負が決まる。集中しろ。)」

 

その時体温が跳ねあがった。それと同時に額と腕に依然と同じ痣が浮かび上がる

体温の上昇に気づいた飛鳥は心拍数を抑える。

それと同時に目の前にいる上弦の壱の本来見えない筋肉の動きなどが見える。

 

「(これが縁壱さんが言っていた透き通る世界。

これなら奴の動きが見える。追いつけるかもしれない)」

 

「(あれは痣か。それに心拍数が下がった?何の意味が?

いやそれよりこの気配にこの感じは、まるで縁壱そのもの!)」

 

上弦の壱と飛鳥はそれぞれ思考巡らせる。

だが動かない。お互いがお互いの動きの読み合いそれぞれの思考の中で

影の戦いを繰り広げている。

最初に決着が付き動いたのは飛鳥の方だった。

 

「(雨の呼吸 壱の型 車軸の雨)」

 

「(!これは蒼月の型。こいつの型は雷の呼吸の型ではなかったのか?

まさかそれ以外にも使えるというのか?)」

 

とっさに躱した上弦の壱だが飛鳥の技はまだ終わらない。

渾身の突きからそのまま円を描くようにして振りかぶり追撃をかける。

 

「(まだだ。雨の呼吸 陸ノ型 雨龍の牙)」

 

「これは、躱せない)」

 

上弦の壱は飛鳥の攻撃を己の刀で受けてしまった。

ガァキイインという刀がぶつかる音が周囲に響いた。

 

「(動けない。そうか先程の攻撃でしびれた)」

 

「(これで終わりだ。漆ノ型 奥義 天翔ける龍の如く)」

 

最後の決め手の攻撃をかける。

それもただの刀ではなく刀身を赫く染めた赫刀を使った奥義による十五連撃。

上弦の壱は辛うじて頸を守ることは出来たが上半身をを残してそれ以外は

切られてしまった。

 

「(再生が出来ない。また私は負けるのか?才能に。どれだけ努力しても

圧倒的な才能にはかなわないのか)」

 

「終わりだ。上弦の壱」

 

その時上弦の壱の真下に障子の扉が現れ扉が開きその中に上弦の壱が落ちていった。

飛鳥はそれを見送る事しかできなかった。

 

「逃げられたか。場合によればあの転移の血鬼術の方が厄介だな。

後は隠に任せるか」

 

そこで上弦の壱戦は終わった。飛鳥は遺体となった佐山の開いた目を閉じて

隠が作業を終わるまで合掌していた。

 




第二十四話いかがだったでしょうか?
少し上弦の壱とオリ主の戦いがあっさりしすぎたかもしれません。
でもこういうのもいいと思って書きました。
今年はこれ以上の更新は出来ないでしょう。
読んでいただいた皆様ありがとうございました。
お気に入りに入れていただいた皆様ありがとうございました。
おかしなところなど色々あり読みにくいと感じたところも
多々あったと思います。では来年も良い年をお過ごしください。


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第二十五話 痣と赫刀

 撤収も済み佐島さんの葬儀も終わった翌日、緊急で柱合会議が行われた。

上弦の壱が動いたとなれば当然のことだ。

因みにこの会議に槇寿郎さんは参加していない。

大事を取って休むらしい。

 

「先ずは上弦の壱を逃がしたこと。申し訳ありません。」

 

「気にすることは無いよ、飛鳥。それより良く生き残り尚且つ

あと一歩まで追い詰めてくれた」

 

「それゆえに悔やまれます。後少しで討てたのですから」

 

「飛鳥には感謝しかない。後少し遅ければ俺も死んでただろう。

それほどの強さだった」

 

「そうだね。だがこれは大きな前進だ。無惨は上弦の壱をここまで追い詰めた

飛鳥を殺すためにさらなる刺客を送り込んでくるだろう。

柱達は常に連絡があり次第駆けつけられるように準備しておいてくれ。」

 

『はっ』

 

「それと飛鳥、君の額の痣について報告してほしい。

それの出現以降急に強くなったと聞いたよ。過去の記録にも

飛鳥と同じような痣が出て急に強くなったという記録が残っていた。

飛鳥の痣もそれだろう。どういう状態で痣が出たのか報告してくれるかな」

 

「はい」

 

俺は知っている事を全て報告した。痣と赫刀を出す方法。

その中でお館様は痣の代償についても触れられた。

おれはその際にその対処法についても報告した。

全ての報告を聞き終えたお館様は頷いて声を上げた。

 

「報告有難う、飛鳥。皆ももし痣が出たり出た者を見たのなら報告してほしい。

そして飛鳥の下へ行くようにしてほしい。頼んだよ。」

 

『はっ』

 

その後正式に槇寿郎さんの戦線離脱が報告されて柱合会議は終了。

正直柱を二人失ったのは痛い。

特に槇寿郎さんは炎柱だ。

炎柱は代々煉獄家の人間が高確率で担ってきた。

もはや世襲ではないのかと疑われているほどだ。(もちろん世襲制では無い)

それほど煉獄家の人間は炎の呼吸に対して適性が高くそれだけ周りへの影響が大きい。

次の候補となると杏寿郎だろうがまだ彼はその実績も腕も足りない。

怠けているわけではないし弱い訳ではないのだがまだ未成熟と言ったところだ。

彼には無理だろう。

柱合会議が終わりそんまま煉獄邸に向かった。

玄関前では次男の千寿郎が座っているが明らかに落ち込んでいる。

声を掛けずらかったが前に進まないので声をかける事にした。

 

「千寿郎、久しぶりだな」

 

「飛鳥さん。お久しぶりです」

 

「杏寿郎はどうした?」

 

「先程任務に」

 

「そうか。槇寿郎さんの事、間に合わず済まなかった」

 

「いえ、驚きましたけど、生きているんです。生きていれば何とかなりますよ」

 

「ありがとう」

 

「丁度さっき目を覚ましたところです。案内しますね」

 

「頼む」

 

千寿郎に案内されて槇寿郎さんの下に向かう。

その途中瑠火さんに会った。見た目は変わりなさそうだ。

 

「お久しぶりです」

 

「ええ、久しぶりね、飛鳥君。カナエちゃんとはうまくいってる?」

 

「はい。俺にはもったいないくらい出来た妻です」

 

「そう。良かったわ」

 

瑠火さんは微笑んでくれる。

その微笑みが俺にはつらかった。

 

「あの槇寿郎さんの件、遅くなってしまい申し訳ありませんでした」

 

誠心誠意頭を下げて謝罪する。

 

「気にする必要はないとは言えないわ。でもあなたが悪い訳じゃない。そうでしょ?」

 

「しかし」

 

「どうしても気になるなら、無惨を討って。この悲しみの連鎖を終わらして」

 

「はい。必ず」

 

「あの人が待ってます。此方へどうぞ」

 

二人に付いて行き案内された部屋に入る。

そこには一台のベットが置かれただけの部屋だった。

 

「飛鳥君か。見舞に来てくれたんだな」

 

「はい。今日緊急で行われた会議の報告に来ました」

 

「済まないな。報告してくれるか」

 

「はい。今日をもって槇寿郎さんを柱からの外す事が決まりました。

これがお館様からの文です」

 

あまね様経由で渡されたお館様手紙を槇寿郎さんに渡す。

手紙を見た槇寿郎さんは泣き始めた。

こっそり内容を見ると柱から外す事への謝罪とこれまで鬼殺隊を引っ張ってくれたことと

活躍に対する感謝の言葉が書かれていた。

 

「飛鳥君。私はここまでだ。後は君に全てを託す。杏寿郎と共に

何としても鬼舞辻を倒してほしい。頼んだぞ」

 

「任せてください」

 

俺は返答と共に新たな覚悟を決めるのだった

 

 

 

 




あけましておめでとうございます。
今年も投稿していこうと思います。
よろしくお願いします


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第二十六話 継子 高梨 早紀

 

 

 突然だが俺は今とてもやばい状況にある。

目の前でカナエが怒っていて俺は正座させられている。

何故こうなったのか?

事の始まりは数日前に遡る。

その日も鬼の討伐に出向いていた。

そんな時に救援要請を受けたので出向いたところ今にも殺されそうになっていた

女隊士を助けた。周りを見れば数人が死んでいた。

彼女は唯一の生き残りだったのだ。

へたり込んでいる彼女に手を差し伸べるて

 

「大丈夫か?」

 

と問いかけて初めて顔を上げた。

 

「私はどう生きていけばいいのでしょう?」

 

「どうした?」

 

「私は生きる上で目的がもうありません。

家族を恋人を友人をいっぺんに無くしその敵である鬼の討伐を

することで生きていく目的にしていましたがそれももうかないません。」

 

聞けば鬼の頸に刀が通らないらしい。

しのぶの様に筋力が足りないのかと考えて透き通る世界に入り確かめるが

そう言う訳ではない。そこでおられている刀を見る。

しっかりと色が変わっている。適性が全くない訳ではない。

 

「お前、何の呼吸を使うんだ?」

 

「水ですが?」

 

そこで俺はピンときた。呼吸が合って無さ過ぎるのだ

彼女の刀の色は赤。炎の呼吸にて適性があり

恐らく水の呼吸に適性が全くないのだろう。

そこで気になった事を聞いてみた。

 

「育手からは何も言われなかったのか?」

 

「育手の人は最終選別から帰って一週間後に急死しました」

 

運が悪すぎる。知らないまま任務に出て来てしまったという事だった。

そこで頸が切れない事に気付いてしまい絶望していたのだろう。

 

「とりあえず俺と来い。そのままではどうにもならないだろう」

 

それでも動かないので引きずるように連れて帰ってきた。

軽症だが蝶屋敷で治療をする必要がある為連れて帰ってきたのだが俺も配慮が足りなかった。

彼女は鬼との戦闘で隊服が切られて上は胸が辛うじて隠れるほどしかなく

下はパンツが見えるすれすれの所までなくなっていた事に気付けなかった。

そんな状態で俺が無理やり女の子を連れてきたらどう思うか?

犯罪の匂いしかしないだろう。

それを見た三人娘が俺が強姦したと勘違いし騒ぎ出し

それがカナエに聞かれてしまった。

そして話は冒頭に戻る。

 

「飛鳥。これはどういう事?

なほたちは飛鳥が強姦したと騒いでたけど」

 

「それは誤解なんです本当に。負傷してた女の子を連れてきただけで。

そう言う事は全くしておりません。全ては俺の配慮が足りなかったせいです。

大変申し訳ありませんでした」

 

自分でもここまで綺麗な土下座はしたことないだろうという

土下座をして誤った。いや土下座したのは初めてだが。

 

「そう言う事だったの。驚いたわ。飛鳥がそんな事するはずないと

思ってはいたけど事が事だし。」

 

「はい。申し訳ありませんでした。」

 

「もういいわ。なほたちには私から話をしておくわ」

 

「頼んだ。」

 

 

 

 

 

 

それから数日後傷が癒えた彼女を連れて蝶屋敷の鍛練場で向かい合っていた

 

「先ず自己紹介からだ。俺は鳴柱の清水飛鳥だ。」

 

「階級癸、高梨 早紀です。」

 

「先ず君が鬼の頸が切れなかった理由を説明しよう。

理由は単純で呼吸が君の適正に合ってなかったんだ」

 

「どういうことですか?」

 

「君の本来の適正は炎の呼吸、おそらくだが水の適正は無かったんだろう

そのせいで鬼の頸が切れなかったんだ。」

 

「じゃあ」

 

「ああ。君の努力次第だがまだ可能性はあるだろう。

炎の呼吸は俺も使えるからもしよければ教えようか?」

 

「お願いします。」

 

「なら早速始めようか」

 

「はい」

 

早紀の炎の呼吸の才能はすさまじく高くあっという間に会得してしまった。

その才能は杏寿郎のそれに近いかもしれない。

槇寿郎さんにも見てもらったが槇寿郎さんも同意見だった。

任務に出してみてもすぐに鬼を討伐させてしまった

そこで俺はある提案をしてみた。

 

「早紀、俺の継子にならないか?」

 

「継子ですか?」

 

「継子とは柱の直属の弟子の事だ。

勿論柱と共に行動することになるからより強い敵と戦う事になるが。

その分成長も早いはずだ。どうだろう。」

 

「はい。お願いします。」

 

「なら決まりだ。これからよろしく頼むよ。」

 

「はい。」

 

 




オリキャラ紹介

名前 高梨 早紀
年齢 十三歳
家族 なし
階級 癸(飛鳥の継子)
好物 きな粉餅
趣味 写生

元は良家のお嬢様。家でホームパーティー中に鬼に襲撃され
家族、恋人、友人を一気になくす。(本人は偶々お手洗いで離れた為逃れた)
その後鬼殺隊に入隊。最終選別では偶々鬼に出会う事もなく通過。
しかし最終選別の帰って一週間後に育手が急死し
刀の色が変わっても特に気にすることなく任務に参加。
飛鳥に出会うまで数回の任務に参加しているが全て出会う前に
他の隊士が討伐するなどして鬼と出くわすことがなかった。
そして飛鳥と出会う任務で初めて自分が鬼を殺せる状態ではない事を知る。
その後飛鳥に指導されて本当は炎の呼吸が適正であると知り習得。
その後飛鳥の継子になった。
その頃から豪運の早紀と周りから言われるようになる。


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第二十七話 不死川 実弥

その日蝶屋敷に一人の隊士が運ばれてきた。

名前は不死川 実弥。全身傷跡だらけの男だ。

彼とはそこそこ知り合いだった。

数年前に風の呼吸の育てを尋ねた時に出会い鍛練の一環で呼吸有りの試合を行い

結果的に勝利したがかなり危ない所まで追い込まれた。

それから実弥にとって俺より強くなる事が目標になったと聞いた。

そんな彼だが今回兄弟子の粂野匡近と共に下弦の壱と遭遇。

二人で対決した。下弦の壱は退治したが実弥は片腕骨折、裂傷が数か所以上という怪我をおい、

匡近という人は即死。

実弥は全治一か月で済んだ。

完治次第実弥を風柱として新たな柱に任命されることになった。

全ての話を聞いた俺はそ実弥の元を訪れた。

 

「実弥」

 

「おう、飛鳥か。悪いな。こんなざまで」

 

「気にするな。それより兄弟子の事は残念だった。」

 

「・・・・・・俺はよォ、匡近と出会って鬼殺隊を志すようになったんだ。」

 

語り始める実弥。

 

「あいつには沢山良くしてもらった・・・沢山の物を貰った

なのにまだ、なんにも返せてねェのによォ・・・」

 

実弥はうつろな目で外をを見つめる。

深い哀しみと僅かな怒りを滲ませて。

 

「・・・なんで、なんでアイツが死ななきゃならなかったんだ・・・教えてくれよォ・・・畜生ォ・・・!!」

 

涙を流し、震えながら声を絞り出す。

一瞬、どう声を掛けるべきか迷う。

 

「実弥少し残酷な事を言うがな。力がない者は失いながら生きていくしかないんだ。

大切なものを失いたくないなら強くなるしかないんだ。」

 

「………………俺が弱いっていいてえのか?」

 

「そうだ。お前はまだまだ弱い。守りたいものを守れないほどにな。」

 

顔に悔しさを滲ませ、拳を握りしめる実弥。

本当は怒りで反論したいだろう、こっちに掴みかかりたいだろう。

だが、それをしない。

それは傷がまだ塞がっていないからといった理由ではない。

実弥もまた、自分自身で力不足を痛感しているのだ。

 

「強くなれ、【風柱】不死川実弥。今よりもっとだ」

 

「・・・俺には、もう・・・」

 

顔をうつむかせたまま意気消沈した実弥の胸倉を掴み引き寄せて叫ぶ。

 

「顔を上げろ不死川 実弥。確かにお前にとって粂野匡近という人物は道しるべだったんだろう。

失った者は大きい。だがそれでも失った者ばかり数えるな。ない者はない。

思い出せ。そして確認しろ。お前にはまだあるはずだ。お前の中でその意思を完全に

くじけさせていない者がいるはずだ。それを思い出せ。

お前に残っている者はなんだ?」

 

ハッ、とした表情をうかべる。

 

「玄弥。弟の玄弥がいる」

 

実弥の口から度々聞いていた弟の名前だ。

離れ離れになった弟を実弥は想い続けているのだ。

 

「そうだ。今のままではそれすら失うぞ。お前はそれでいいのか?」

 

「言い訳ねえ。弟の幸せは最後の希望なんだ。」

 

希望を折れない意志を見つけた実弥を見て少し微笑む。

 

「なら、やる事は決まっただろ。」

 

「おう・・・俺はもっと強くなる。守りてェもんを守るためになァ。」

 

実弥の瞳に光が宿る。

もう、大丈夫だろう。

 

「飛鳥。もう一つ聞いていいか?」

 

「ん?なんだ?」

 

「御館様についてだ。」

 

「それがどうした?」

 

「あァ。御館様はよォ・・・命を賭して闘う俺らの頭領に相応しい人間なのかァ?」

 

「そういうことか・・・」

 

実弥の疑問は最もなものだろう。

御館様をよく知っている人物で無ければ尚更だ。

 

「あの方は、俺達とは別の場所で戦っていらっしゃる」

 

「別の場所ォ・・・?」

 

「そうだ。確かに御館様は前線に立ち、刀を振るわれることは無い。かといって隊士を引き連れて

前線で指揮を執る事もない。だがな、それは鬼舞辻の呪いによって

お身体を蝕まれているからだ」

 

「そうか。」

 

「だがな、御館様はそれで何もしていないという訳ではないんだ。

あの方は当主になられてから亡くなった隊員の名前、

生い立ちを全て記憶してらっしゃるんだ」

 

「・・・!」

 

「それだけじゃない。亡くなった隊員の墓参りは毎日欠かさず、

存命の隊員の心に寄り添ってくれる。俺もそうしてもらった身の人間だ。

俺の悲しみをあの方は自分の事のように共有して下さった。

御館様は俺達にとって親の代わりなんだ。だからこそ俺達はあの方の為に命を懸けられる」

 

「・・・信じて、いいんだなァ?」

 

「ああ。」

 

「お前が言うなら間違いねェだろ。信じるぜ、俺はァ。」

 

「そうか。納得したならいい。」

 

話を終え、実弥が横になる。

 

「悪ィ。なんか眠くなってきちまった。」

 

「構わない。しっかり休んで傷を治せ。また次の柱合会議でな。」

 

「おォ。」

 

実弥の病室を後にする。

外でカナエが待っていた。

 

「悪いな。うるさくしちまった」

 

「気にしないで。ああしなければ実弥君は立ち直れなかったわ」

 

「そうかもな。それでもさ。前に進まなければならないんだと俺は思う。

それが生きてるものの務めであり、今の自分を作る過程で死んだ、いや

守れなかった人たちへの手向けになる俺は思ってる。」

 

「そうね。その通りだわ」

 

 

 

一週間後

 

 

実弥が歩けるまでに回復したタイミングまで待ち柱合会議が模様された。

いつも通りの定例会のようなものだが、今回は実弥との顔合わせも兼ねたものだろう。

 

「最後に・・・実弥、これを」

 

「・・・?これは?」

 

「匡近の遺書だよ。これは君に渡すべきだと思ってね」

 

「匡近の・・・!?」

 

実弥が御館様からそれを受け取り、その場で封を切る。

それを読み終えると同時に涙を流す実弥。

 

「匡近ァ・・・!」

 

「実弥、辛かっただろう?けどね、君に想いを託していった人がいることは忘れないでね。

道を共にする仲間がいることも。当然、私もそのうちの一人だからね」

 

「お心遣い、痛み入りまする・・・!」

 

震える声で礼を述べる実弥。

柱合会議を終え、それぞれがそれぞれの持ち場に戻る。

去り際、実弥が話しかけてくる。

 

「俺は必ず強くなるからなァ」

 

「そうか、いいんじゃあねえか?」

 

「・・・いつの日か、お前と肩を並べてみせるからよォ。

そんときまで首洗って待っとけやァ」

 

「・・・楽しみにしている。その時はまた戦うぞ」

 

「おォ。」

 

 

 




不死川 実弥登場です。
名前のみだったのでようやく出せた。正直嬉しい。
次回もよろしくお願いします。


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第二十八話 時透無一郎

お館様から呼び出しを受けてあまね様の護衛を頼まれた。

お館様によると始まりの呼吸の一族の子孫が長年の調査により発見されたらしい。

その為にあまね様が保護するためにその場所に向かうのだがそれに付いて行ってほしいそうだ。

 

「頼めるかい?」

 

「お館様の願いとあれば」

 

「頼んだよ」

 

それからあまね様とあと二人の娘と

もう一人立花 啓という隠と共に目的地に向かう。

 

「この山の中ですか?」

 

「はい。参りましょう。護衛を頼みます」

 

「承知しました」

 

俺が先頭に山を登る。

昇っている最中に弱りかけた人の気配がする。

 

「まずい。死にかけた人の気配する。あまね様」

 

「急ぎましょう」

 

五人で全力で走る。

勿論呼吸が使える俺とあまね様達とでは速さが違う。

俺はその場に先に向かい現場を確認する。

そこには血まみれの惨状が広がっていた。

一面血まみれの床。切られた死体。

その中に唯一血まみれながら気を失っているがまだ息をしている者がいる。

 

「くそ、遅かったか。だがまだ息はある。

今治療すれば間に合うか。カナエに薬と包帯を貰っといてよかった」

 

持って来た鞄から道具を出し治療を始める。

その時にあまね様達が扉から入ってきた。

 

「あまね様。この子はまだ間に合います。手伝ってください」

 

「分かりました。貴方たちは直ぐに水を汲んできなさい」

 

「「はい」」

 

五人で治療を開始する。

全ての治療が終わったころには昼頃になっていた。

 

「遺体を埋葬してきます。少し待っていてください」

 

「お願いします」

 

治療で疲れ果てたあまね様を休ませて三人の遺体を啓と

二人で外に運び出す。

三人分の穴を掘り遺体を布でくるみ穴に埋めて常備している蝋燭と

啓が持っていた線香をその前に立て手を合わせる。

そして少年を連れ帰りお館様の屋敷で様子を見る事になった。

 

 

 

一週間後

 

 

 

再びお館様の屋敷に向かう。

少年が目覚めたらしい。

部屋に向かうとお館様と少年が向かい合う形で座っていた。

 

「やあ、よく来てくれたね。」

 

「気になっておりましたので。」

 

「紹介するよ。彼の名前は時透無一郎。

始まりの呼吸の一族の末裔だ。

無一郎。彼が話していた清水飛鳥だよ」

 

「どうも」

 

無一郎は軽く会釈を返してくれる。

その瞳は霞がかかっているようだった。

 

「無一郎はね、記憶を無くしているんだ。飛鳥なら彼の刺激になってくれると思って呼んだんだ。」

 

「どれだけ力になれるかは分かりませんが、出来る限りのことは。」

 

とは言うが俺は記憶喪失を治すような腕を持つ医者ではない。

できるとすれば話し相手になることくらいだろうか。

 

・・・無一郎は、記憶を取り戻したいとは思うのか?」

 

「記憶を・・・?」

 

「そうだ。今までお前が生きてきたことの記憶だ。」

 

「・・・正直どうでもいい。僕には才能があるらしいから。この才能で鬼を斬ることが出来れば。」

「・・・それに僕、すぐ忘れちゃうんだ。思い出そうと思っても、

すぐ頭に霞がかかったようになって思い出せないんだ。」

 

無一郎が語る。

霞がかってると表した瞳が一瞬、儚げに、そして朧げに揺らいだように見えた。

 

「だからどうでもいいんだ」

 

「そうか」

 

正直どう声を掛けたらいいのかわからない。

俺は医者ではないから話を聞いてやる事しかできない。

それでも彼の力になれればと思い口を開いた。

 

無一郎、記憶というものはな、お前が思っている以上に大切なものなんだ」

 

「・・・?」

 

「人には必ず大切なものがある。お前が忘れてしまっていても、必ずお前にもあるはずなんだ」

 

「大切なもの・・・」

 

「そして人は、時にその大切なものを失ってしまうかもしれない。とても辛いし悲しいことだ。

だがな、人はその大切なものを守るために無限に強くなれるんだ」

 

「・・・無限に?」

 

「そうだ、お前は才能があるんだろう。だがどんな奴でも壁にぶつかる事はある。

大切なものがあるとその壁を乗り越えられるんだ」

 

「大切なものか。・・・僕にもあったかな?」

 

「あるさ。無意識かもしれないが絶対にあったはずさ。それになかったとしても

今から作ればいいんだ」

 

「そっか。飛鳥さん」

 

「なんだ?」

 

「僕の記憶戻るかな?」

 

無一郎が初めて疑問を投げかけてくる。

どこか期待しているような、そんな感じで。

 

「戻るさ。君が拒絶しなければ」

 

無一郎が唐突に驚きの表情を浮かべる。

 

表情が変わるのを初めて見た。

 

「・・・今の言葉、御館様と一緒だ」

 

「御館様と?」

 

「うん。でも、そこじゃない。今御館様が前に僕に言ってくれた事を、思い出せたんだ」

 

「なら、そのうち記憶も取り戻せるさ」

 

「うん、そうだね」

 

無一郎の口がほころぶのが分かる。

 

「飛鳥さん・・・これからもさ、僕と仲良くしてくれる?」

 

「ああ、勿論だ。記憶が戻るまでも、戻ってからもずっとな」

 

「そっか。ならこれが僕の大切なものだね」

 

「はは、そうだな」

 

無一郎ははっきりと笑った。

これで少しでも力になれただろう。

その時鴉が部屋に入ってきた。

 

「カァー!蝶屋敷襲撃。花柱 胡蝶カナエ!上弦ノ弐ト単身交戦!!救援要請!救援要請ィィ!!」

 

御館様と俺に大きな衝撃が走る。

無一郎は何が何だか分からないという表情だ。

 

「お館様」

 

「お願いね」

 

「御意」

 

俺は蝶屋敷へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも第二十八話です。いかがだったでしょうか?
時透無一郎初登場です。
次回もよろしくお願いします。


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第二十九話 栗花落カナヲ

時間は少しさか昇り無一郎を救い出す一月前。

しのぶとカナエが女の子を連れてきた。

体中汚れて髪も蚤がわいているのではないかと言う程汚い。

 

「どうしたんだ?その子。」

 

「買ったの。」

 

「は?」

 

とんでもない発言がカナエから飛び出して驚く俺。

この時代まだ人買いは完全になくなっていない。

貧しい家が娘を売るなどまだある。

そこから遊郭に売られていくのだ。

だがそれをカナエがするとは思ってもいなかった。

見損なったという目で見ているとカナエが慌てる様に口を開いた。

 

「あ、勘違いしないでね。人助けをしたのよ。

決して奴隷にしようと考えた訳じゃないの。」

 

「そう言う事ならいいけど正直驚いたよ。」

 

「ごめんなさい。」

 

「もういいよ。」

 

その時女の子を風呂に入れていたしのぶが女の子を連れて入ってきた。

 

「姉さん、飛鳥この子全然だめだわ」

 

「どうした?」

 

「言われないと何もできないの。食事もよそうよ。

食べなさいと言わなきゃずっと食べようとしないの。

すっとお腹鳴らして」

 

「まあまあそんなこと言わずに。

姉さんはしのぶの笑った顔が好きだなあ。飛鳥もそうよね?」

 

「そうだな。心配なのは分かるが少し落ち着け。」

 

「だって」

「自分の頭で考えて行動できない子はだめよ。危ない。

一人じゃ何も出来ないのよ。」

 

「じゃあこの銅貨を投げて決めたらいいわよ。」

 

そう言いながらカナエはどこからか銅貨を出してきてカナヲに渡す。

 

「姉さん!!」

 

「そんなに重く考えなくていいんじゃない。カナヲは可愛いもの!可愛いは正義よ!!」

 

「理屈になってない!!」

 

「確かに。」

 

曖昧な理論で大丈夫というカナエにしのぶが怒る。

大体この姉妹は喧嘩?になるとこの構図になる。

 

「きっかけさえあれば人の心は花開くから大丈夫」

 

喧嘩の最中でも特に何も動くことなくずっと二人を見ているカナヲ。

これはどこに売っても厄介払いされただろう。

この屋敷に来てよかったかもしれない。

 

「いつか好きな男の子でも出来たらカナヲだって変わるわよ」

 

「それまでうちで面倒見ればいいだろ。柱が二人もいるんだ。金は問題ない。

少しずつ自分で考える様にさせていけばいい。てか何でカナヲ?」

 

「今思いついたわ。かわいいでしょ?カナヲにピッタリだわ。」

 

「そんな適当でいいのか?」

 

「それより苗字を考えないと何がいいかしら?」

 

それからアオイやすみ、なほ、きよも加わって幾つか候補をみんなで考えた。

まずみんなの苗字として胡蝶、清水、神崎が上がり

それから栗花落や山本、田中なども出た。

その中から現状どこまで自分の意志を出せるか知る為にカナヲに選ばせた。

するとカナヲは栗花落の名前に決めた。

途中アオイが妹が欲しかったのか神崎の名前をごり押ししていたが

それをほぼ無視して栗花落の名前にすると決めた。

 

「それでいいんだな?」

 

「うん。」

 

「なら今日から君は栗花落 カナヲだ。いいね?」

 

「うん。」

 

今日から新しい家族が蝶屋敷に出来た。

 

 

 

 

 



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第三十話 蝶屋敷襲撃

カナエ視点

 

今日はしのぶも飛鳥もいない。

私だけがお休み。

しのぶは任務だし飛鳥はお館様の所へ行ってしまった。退屈だわ。

今屋敷にいるのは私だけ。患者すらいない。

患者がいないのはいい事なんだけど。

もうすぐ夜になるし飛鳥も帰って来るでしょう。

その時だった。私は鬼の気配を感じ取った。

 

「(何でこんなところに鬼の気配が?)」

 

部屋を飛び出し気配のする方へ向かう。

そこは何もない部屋。だがそこには鬼がいた。

血を被ったような色の髪。扇を二つ持っている。

見ただけで分かる。この鬼は話だけ無駄だと。

 

「やあ、こんばんわ。」

 

「どうしてここが?」

 

「それは秘密さ。さあ君も救ってあげる。」

 

意味が分からないがとにかく切りかかった。

ここで死ぬわけにはいかないから。

 

 

 

 

 

 

飛鳥視点

 

 

 

急いで蝶屋敷に向かう。

いつもより速く走っているはずなのに焦りからか遅く感じる。

屋敷に着くと急いで中に入る。

気配をたどって目的の場所に着くと

そこには倒れているカナエとそれを今まさに食べようとしている

鬼がいた。

 

「(させねえ。雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃)」

 

「おっと危ない。」

俺は技を出して片腕を赫刀で切り飛ばし傷ついたカナエをもぎ取った。

相手は十二鬼月のしかも上弦の弐のようだ。

 

 

「カナエしっかりしろ」

 

鬼から目を離さずカナエの脈を確認する。傷は多いがどうやら生きているようだ。

だが明らかに呼吸がおかしい。まるで息がしにくいようだ。

 

「折角その子を救ってあげようとしてたのに邪魔しないで。」

 

「は?お前頭いかれてんのか。殺すことが救うって狂ってるだろ。」

 

「ひどいな~君。俺じゃなかったら既に死んでるよ。そっかそっか君も

 

救われたいんだね。今の言葉は気持ちの裏返しという訳か。なら。」

言いながら扇を構える。

 

「(血鬼術 散り蓮華。)」

 

俺はすぐさまカナエを背負って下がる。

一旦物陰にカナエを寝かせて元の場所に戻る。

 

「(冷気を操る血鬼術か。カナエの状態を見るに多分あの冷気で肺を凍らせて

呼吸を封じられてしまう。近づきにくいし厄介だな。だが苦戦するほどではない。)」

 

「君速いね。どこに行ったか分からなかったよ。」

 

「余裕だな。時間があったにもかかわらず切った腕が元に戻っていないようだが?」

 

言われて上弦の弐は切られた腕を見る

本来なら再生しているはずの腕がない。

驚いて此方を見る。

 

「今更気付いたのか?危機管理意識が足りなさ過ぎやしないか?」

 

「何故だ?まさか黒死牟殿と同じ・・・」

 

「わざわざ答えてやるわけないだろ。さっさと死ね(雨の呼吸参の型五月雨)」

 

一気に近づき型で攻撃をする。首を狙った攻撃は完全に防がれるので

これはフェイク。本当は赫刀による腰辺りに向けた攻撃。

不意を突かれて対応が遅れた上弦の弐は真っ二つに切られてたおれた。

勿論下半身は消滅している。

 

「この傷も再生しない。鳴女殿!」

 

ベベン

 

琵琶の音と共にまた襖が表れて上弦の弐は消えていった。

 

「くそ、またか。本当に厄介だな。あの血鬼術は。」

 

これまで空間操作を行う鬼は幾度となく倒してきたが

この敵は別格だ。本当に厄介だな。

カナエの元に戻ると既に目覚めていた。

 

「動くな。大丈夫。鬼は逃げた。」

 

直せる傷から治療していく。

 

「すごいわね。私の旦那様は上弦を二人も撃退しちゃうなんて。」

 

「そうか?だがお前が生きててくれたのが一番うれしいよ」

 

「ありがとう。飛鳥。」

 

その後援軍として最近柱になった杏寿郎と実弥としのぶが来てくれた。

しのぶにカナエを任せて報告を行う。

 

「援軍ありがとうございます。」

 

「気にする必要はない。親友の家族の危機だ。

何を置いても駆けつけよう。それで鬼は?」

 

「悪い逃がした。上弦の弐だったが例の血鬼術でだ。」

 

「まじか。飛鳥お前上弦相手に無傷かよ。」

 

「うむ、実に見事だ。友として誇らしい。」

 

「ありがとう。詳しい事は柱合会議で話すさ。」

 

「分かった。」

 

 

 



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第三十一話 その先へ

カナエの治療は難航した。

近くにいる鬼殺隊とつながりのある医者に身分を偽って

珠世まで来てもらい治療を行った。

勿論それを知っている人間は飛鳥だけだ。お館様にすら知らない。

直接飛鳥が浅草に赴き頼み込むと快く引き受けてくれた。

珠世のおかげで一命をとりとめたがもはや柱どころか

鬼殺隊として働く事すら出来ないと言われた。

その事をお館様に報告するとお館様は彼女の下に赴いて

 

「これからは出来る範囲でいいから医者として私達を助けてくれるかい?」

 

といい、カナエもそれに同意した。

そして今日緊急の柱合会議が開かれた。

内容は三つ。

一つ目は上弦の弐の特徴と血鬼術。

二つ目はカナエの引退

三つ目はこれからの事

この三つが議題だ。

当然ながら柱と柱補佐が全て参加という事になった。

 

【岩柱】悲鳴嶋行冥とその補佐桑島獪岳

【音柱】宇随天元

【花柱】清水カナエ

【水柱】冨岡義勇とその補佐鱗滝錆兎

【風柱】不死川実弥

【炎柱】煉獄杏寿郎

【鳴柱】清水飛鳥

 

全員が参加した。

先ず行われたのは俺からの報告。

上弦の弐の特徴だ。

 

「先ずは容姿から。見た目は人と変わらないが

髪が頭から血をかぶったような白橡色の髪をしている。

後は二本の扇を持っている」

 

「見た目だけでも分かりやすいという訳か」

 

「そうだ。そして肝心の血鬼術は氷を生み出し操る血鬼術。

しかも剣士の肺を凍らすこともできる。完全な剣士殺しだ」

 

「その氷も見た目は分からないわ。かなり厄介よ。

そして何より知識が豊富で動きも素早い」

 

「剣士殺しなうえに遠距離か。飛鳥はよく撃退したものだ」

 

「短期決戦を挑んだんだ。まずカナエに夢中になっているところを霹靂一閃で

腕を切ってカナエを助けてから腕が再生しない事に驚いているうちに片を付けた。

まあ対処のしようはある。用は呼吸を展開された氷の外で使ってから攻撃すればいい」

 

「攻撃範囲が広い私や飛鳥がぶつかれば対処は可能だろう」

 

「悔しいが炎の呼吸とは相性が悪すぎる」

 

「あとは不死川の呼吸か義勇の凪が可能性があるだろうな」

 

「だが今回の事で赫刀が上弦の鬼に対してもかなり有効だとわかった。

この収穫は大きい。」

 

柱やその補佐達が口々に対処法を述べていく。

 

「そうだね。対処はこれからも考えていこう。

次にカナエが今回で引退する。肺がやられてしまい激しく動くことも出来ない。

これからは医師として鬼殺隊を支えてくれることとなった」

 

「このようなところで前線を引かざるを得ない状態になってしまい申し訳ないわ」

 

「気にすることは無い。カナエはよく頑張ってくれた」

 

「そうだぜ。派手に頑張ってくれていたのは俺達は誰もが知っている。

これからも医者として派手に活躍してくれ。」

 

「分かったわ。」

 

「私からも頼んだよ。それから最後にこれからの事だ。

これまで柱の定員を九人と定めてきたけどここ数年で上弦もかなり大きく動いてきている。

そこでこれまでの柱の定員人数を増やす事とした。

具体的には十二人として設定するけどそれ以上に増える事もありうると考えてほしい。」

 

『はっ』

 

 

柱合会議はその後も続き結果として柱とその補佐は赫刀の習得を急ぐことが決定された。

一年後には柱全員が習得できるようになり討伐速度が格段と上がった。




第三十話いかがだったでしょうか?
ここでお礼です。
いつも誤字訂正ありがとうございます。
これからもこの雷の鳴る所には雨が降るをよろしくお願いします。


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第三十二話 鬼殺隊士討伐

 一年が過ぎた。

蝶屋敷は場所が割れているという事で場所を移動させることが決まった。

場所は全く違う場所で初代花の呼吸の柱の屋敷にすることとなった。

上弦の弐が蝶屋敷の場所をどうして突き止めた原因は直ぐに分かった。

上弦の弐が出現した場所のすぐ横の部屋には血まみれの隊服が置かれていた。

それは翌日に縫製係に回して使いまわす予定だったものだったらしい。

まだ推測の段階だがそこに鬼舞辻の血が混じっていたのではないかという事だ。

そこら辺も色々対処していくことが決まった。

今日もいつも通り早紀を育てつつ担当区域を巡回している。

早紀は入隊当時と違い格段に強くなった。

既に階級も乙に上げている。

炎の呼吸も全集中・常中もかなりの練度の者として

期待できる。

最近では階級の低い隊士を率いて鬼の討伐を行えるまでには成長している。

そう考えていた時にある任務が舞い込んできた。

それは赤城山と言う場所。そこに鬼が潜んでいるという報告を受けた。

そこで俺としのぶが向かう様に指令が来たのだ。

赤城山を直ぐに登り始める。

するとすぐに鬼を見つけた。

明らかに何かを我慢するようにうめいている。

服装を見れば鬼殺隊の隊服を着ている。

恐らく鬼にされた隊士なのだろう。

刀を抜き近ずく。その時鬼が此方を見た。

 

「啓。」

 

「飛鳥さん。」

 

その隊士は隠の啓だった。

啓は親を鬼にされて俺がその親を殺して行く場所がないという事で

俺が鬼殺隊に連れてきて暫く面倒を見ていたが才能がなくどの呼吸とも合わず

結局隠として働いていて無一郎を助けた時も同行していた隊士だ。

隠になってからも良く不在がちな俺の鳴屋敷を掃除してくれたりしてくれたり

時々お裾分けと言って自分で作った料理を持ってきてくれるとてもいい奴だった。

ここ数日見ないと思っていたがまさか鬼になっているとは思っていなかった

 

「飛鳥。彼はまさか」

 

しのぶも気づいたのだろう。此方に問いかけてくる。

 

「ああ。俺が連れてきた奴だ。名前は立花啓。啓、なぜ鬼になった」

 

「なりたかったわけじゃないんです。でも家に帰る途中に

男と出くわしてそれから酷い痛みを受けたと思ったら

鬼になってて、それで、飛鳥さん、恩をあだで返すようですが

お願いです。俺を・・・殺してください。誰かを殺す前に。

もう限界なんです。しのぶ様を見てから頭の中に喰え喰えと響くんです。

お願いします。」

 

「………………………………分かった。今楽にしてやる」

 

俺は近づき構える。

 

「(水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨)安らかに眠れ、啓」

 

「飛鳥さん。ありがとうございます」

 

啓は塵となり消えた。

今まで数々の鬼を切り殺してきた。中には元鬼殺隊士もいたしその中には

顔見知りもいた。だがこれほどつらかったことは無い。

気が付くと刀を落とし膝を付いて泣いていた。

 

「啓、すまん。俺がお前を鬼殺隊に入れたばかりにお前を苦しませてしまった」

 

勿論その言葉は近くにいるしのぶにしか聞こえていない。

だが謝らずにはいられなかった。

 

「飛鳥、今は」

 

「分かってる。俺は前に進まなくちゃいけない。お前の為に泣くことが出来ない。すまない。」

 

立ち上がりお館様の屋敷へ向かう。

鬼になった隊士を滅した時はお館様に直接報告する事になっている。

 

「お館様、失礼します」

 

「飛鳥、どうしたんだい?」

 

「ご報告に参りました。本日深夜赤城山にて隠を一名発見。

鬼化しておりましたので討伐いたしました。名前は立花啓でございます。」

 

「分かったよ。報告ありがとう。つらかったね」

 

「いえ。お館様お願いがございます。」

 

「なんだい?」

 

「あいつの墓を建てさせてください。お願いします」

 

「任せるよ。それと飛鳥、数日休むといい。今回は飛鳥も精神的に参ってしまっているだろう?」

 

「ありがとうございます。ですがそれは不要でございます。

他の隊士が休まず働いているというのに俺だけ休むわけにはいきません。」

 

「そうか。なら墓の件は頼んだよ」

 

「お気使い感謝いたします。では失礼いたします」

 

お館様の部屋を後にし屋敷に帰りその日はたらふく飲んだ。

翌日には墓を手配しまた仕事に向かう。

数日後墓が完成したと聞いて丁度休みだったことも有り

墓参りに向かった。

戦死した鬼殺隊士専用の墓が一つずつ並んでいる。

まずは象山さんの墓に手を合わせてそれから啓の墓に向かう。

綺麗な墓には南無阿弥陀仏と書かれている。

 

「啓、こんな事しか出来なくて済まない。だが約束する。

お前の仇はきっちりとるから。だからさ。今だけお前の為に泣かせてくれ」

 

盛大に泣いた。親や姉の時と同じように。誰もいない事をいい事に泣いた。

それだけ啓とは絆があったという事なんだと思う。

暫く泣いてから泣き止んだ俺はまた来ると言って墓を出た。

それからまた鬼を狩る為に刀を振るう。

今まで以上に早く一人でも多くの鬼を殺すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第三十二話いかがだったでしょうか?
ここで人物紹介です。


名前 立花 啓
年齢 十三歳
誕生日八月十四日
呼吸 なし
家族 なし
所属 隠

三年前に親を鬼にされて飛鳥に助けられて暫く飛鳥の下で
世話を受けた後鬼殺隊になるために入隊しようとするが
才能がなく隠として働く。
真面目で責任感が強く受けた恩を決して忘れない。
隠部隊になってからも暇を見ては飛鳥の所有する
鳴屋敷を自分から掃除しに行ったりわざと料理を多めに作って
お裾分けと言って持って行ったりとかなり飛鳥になついている。
しかし任務帰りに鬼舞辻に出くわし鬼にされるが
精神力で食人衝動を耐える。
そして飛鳥が来ない事を祈りながら赤城山の山中で必死に耐えていたが
結局飛鳥が来てしまい嫌だったが飛鳥に介錯を頼み
飛鳥がこれに答えて首を切られて死亡。
その時の顔はひどく穏やかだった。

以上です。
次回一気に年月が飛びます。
そこはご了承ください。
次回もお願いします。


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第三十三話 長期任務壱

前回後書きに書きましたが今回からいっきにじかんがとびます。
よろしくお願いします。


三年が過ぎた。

その間に色々な事が起きた。

まず何と言っても柱が増えた事だろう。

まず俺が鳴柱を辞し代わりに獪岳が鳴柱に就任した。

代わりに俺は雨柱に就任した。

そして新しく蛇柱として小芭内が霞柱として無一郎がそして蟲柱としてしのぶが就任した。

更に新たに恋柱として甘露寺蜜璃が就任。

何でも元杏寿郎の継子らしい。

恥ずかしい話、啓が死んでからただただ鬼を狩る事しか見ていなかった。

そのせいもあり杏寿郎や他の柱とも交流を避けていた。

それほど恨みに囚われていた。

天元さんに顔面をひっぱたかれるまで自分の体調に気付かない程に。

気付いてからは心配かけたとみんなに謝り周りも仕方ないと許してくれた。

それにしのぶと結婚した。

これには蝶屋敷の皆も大喜びだった。

だがやはりというべきか二人とも柱なので

なかなか結婚生活を謳歌出来ずにいる。

今日、真菰と共に長期任務に向かう。

長期任務とは普段の任務とは別に長期で遠くの地方に鬼の討伐に向かうというものだ。

柱は基本自分が担当する区域を巡回しその中で鬼を討伐していく。

その範囲は広大だ。そしてそれとは別に長期任務に向かうのだ。

だが今は柱が増えたことにより俺は担当区域を外し長期任務を専門に受ける柱となった。

幾つか理由はあるのだが主にこの長期任務では普段どうしても見逃しがちな

場所にいる鬼を狩ることが主な目的だ。そうじゃない場合もあるが。

そして今日任地に着いた俺と真菰は目的の街に来ていた。比較的に大きな街だ。

そこでは多数の人間が行方不明になっていた。

この事から鬼の可能性ありとして二人でこの場所に来ていた。

 

「まずは手分けして住民から話を聞いてみるか」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

「いくつか情報は手に入ったよ」

 

「なら情報のすり合わせをするか」

 

すり合わせの結果わかったことは

1誘拐されているのは男性。

2被害は一度起こると次に起こるまで少し猶予がある。

3被害男性は十代半ばから六十近くの老人まで様々。

4被害男性は行方不明になる少し前まで

女性と付き合っていた。

 

「こんなところか。聞いた限り一番怪しいのは」

 

「その付き合っていた女性だね」

 

「だな。大体てぐちも想像できる。

まず一般女性を装って対象に近き恋仲になる。

そこから関係を進展させる。

そうしておいて頃合いを見て人気の無い場所に

連れて行き食らう。こんなとこだろう」

 

「なるほどね。でも何回も続けてたら気づくんじゃ無い?」

 

「この土地だから出来る方法だな。商売目的にしろ単なる旅行にしろ何人も人が行き交う。

当然その中には女性も多い。だから特定も難しい。

更に交易で成り立っているからその流れが止まる事は無い。嫌な任務だ」

 

「だから飛鳥君が選ばれたんだね。気配で鬼かどうか分かるし。」

 

「多分な。じゃあ、今後の行動な。俺は隣町まで行ってくる。

他にも被害が出てるか確かめたい。

真菰は此処で鬼の特定を頼む」

 

「わかったよ。気をつけて」

 

「ああ」

 

俺は他の被害調査の為隣町まで出かけた。

それから数日して俺は最初の街に帰って来た。

 

「お帰り。どうだった?」

 

「思った通りだ。この街周辺の街や村で同様の手口の事件が

数件あった。そして一番最近の事件は隣街だった。」

 

「じゃあ」

 

「ああ。恐らくだけど鬼はこの街にいる。そっちは?」

 

「街のあちこちできいて条件に合う女性を探したら

何とか四人まで絞り込んだよ」

 

「流石だな。じゃあ案内してくれるか?」

 

「うん」

 

真菰の案内の元その女性たちの下に向かう。

まず一人目の女性。大きめの商家で働く女性だ。

 

「最初の人があれ。名前は明智 都子。

最近この街にやってきてここで働きだしたみたい。

この家の若旦那と恋仲らしいよ」

 

「なるほど。条件にはあうな」

 

そう言いながら観察する。

 

「違うな。人間の気配だし何よりかなりの時間、日の光に当たっている。」

 

「うん、そうだね。なら次行こう」

 

そして次の女性もその次の女性も白であることが判明する。

そして俺は最後の女性の下に来ていた。

 

「あいつだな」

 

「うん。あからさまに日の光を避けてる。私でも分かるよ」

 

「それに気配も鬼のものだ。よし、夜を待って動くぞ」

 

「分かったよ」

 

一旦宿でやすみ他の候補に上がっていた女性についても調べなおす。

 

 

 

 

 

そして夜

 

 

 

 

 

俺は真菰と例の鬼の女のいる屋敷に来ていた。

着いてみると丁度屋敷を抜け出して彼氏と思われる男性と夜の街に出かけようとしているところだった。

俺たちは怪しまれないようにすぐ戦える私服に着替えて刀を隠し後をつける。

 

「なんか鬼とはいえ後をつけるのは罪悪感があるな」

 

「そうだね。でも任務だし」

 

「分かってる。見失わないように後を付けるぞ」

 

「うん」

 

結局その日は特に騒動になる事はなく終わった。

俺もだが真菰もかなり落ち込んでいるようだ。

 

「何にもなかったね」

 

「ああ。濃厚な愛を見せられただけだった」

 

今回尾行の結果見られたのは鬼の女性と男性による数時間にも及ぶ

濃厚すぎる男女のいとなみ。

見ているこっちが恥ずかしくなってくる。

何が嬉しくてこんなもの見なくてはならないのか

 

「つらいけど明日、いや今晩か、もやるぞ」

 

「うん。これ以上ひがいは出したくないしね」

 

二人で気合を入れなおす。が、

 

「でもその前に」

 

「ああ。その前に」

 

「おやすみなさい」

 

「ああ。おやすみ」

 

俺たちはそのまま眠りにつくのだった。



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第三十四話 長期任務弐

 五日が過ぎた。その間街中の女性を調べた。

更に毎晩最有力候補の女性の見張りと尾行を行ったが何も成果が得られていなかった。

しかも尾行のたび人気のないところで濃厚な男女のいとなみを見せつけられるので、

俺も真菰もかなり疲労が溜まっていた。

 

「はあ~、なんか無駄に思えてきたね」

 

真菰が溜息をつきながら呟く。

俺自身そう思う事はある。だが現状証拠がない。

証拠なしに殺して違った場合それはただの殺人だ。

それをしてしまえば鬼以外の敵を作ってしまう。

鬼殺隊はそこに細心の注意を払っている。

だからこそその確信がない限り滅することが出来ないのだ。

 

「言うな。俺も薄々そんな気がしながらやってんだ。

でも今のところあいつ以外それにつながりそうなものがない。

他も調べながらだがあいつを調べていくしかない」

 

無理やり気合いを入れる。

 

 

その日の夜

 

 

「(今日、明日位で終わるといいけど)」

 

そう思いながら尾行を続ける。

しかし今日はこれまでと違った。

 

「(いつもと違うな。いつもなら露店や店舗を回るのに今日は妙に焦ってる。)真菰」

 

「うん。いつもと違うね」

 

「かなり焦ってる。飢餓状態が近いのかもしれない。気を付けて行くぞ」

 

「うん」

 

俺達は再び尾行を開始する。

しばらくしていつもの場所に着く。

様子を見れば女性の方は明らかにおかしい。

息が荒くなり汗も凄く出ている。

 

「確定だな。行くぞ」

 

「うん」

 

俺と真菰は茂みから出る。

 

「なんだお前たち」

 

俺達に気づいた男が声を上げ後ろの女性の顔が青くなる。

 

「あんたには用はないんだ。用があるのはそっちの女性の方なんだよ」

 

俺の指摘に男は少し黙ると急に指をさし。

 

「そうか!お前、この子の言ってた、浮気ばかりするくせにしつこく

取り戻そうとしてくる元彼だな」

 

「「「は?」」」

 

急な展開に俺達二人だけでなく鬼の女性までも驚いてしまう。

 

「だが。今は俺の彼女だ。悪いが諦めて帰りたまえ」

 

「・・・・・」

 

独自の解釈を自信満々に語る男に呆れて何も言えない俺。

勿論女性の事は注意しているが。

だがそんな茶番も長くは続かない。

限界を迎えた鬼が急に一番近くにいた例の男を食べるために動いた。

 

「危ない」

 

俺は男を自分の後ろに投げ飛ばし鬼の持つ小太刀とつばぜりあう。

 

「へ~。早いね」

 

「鍛えてるからな。真菰そいつ任せる」

 

「任せて。必ず守るから」

 

「おい。やめろ彼女に怪我させたら承知しないぞ」

 

後ろで男が何か騒いでいるが真菰に任せて戦い続ける。

 

「(血鬼術 五里霧中)」

 

赤い霧が発生して鬼の姿が霧の中に消える。

 

周りからうっすら血の匂いが漂う。

 

「ふふ。私の姿見えるかしら?見えないわね。さあ、何処にいるか探してみなさい」

 

「なるほど、確かに見えないな。だが。」

 

俺は目を閉じて気配を探りそして

 

「(雷の呼吸 弐の型 稲魂)」

 

「くっ」

 

気配のしたところを切りつけたら鬼が出てきた。

 

「何故分かった?」

 

「わざわざ答え合わせしてやるほど俺は優しくない」

 

そう言いながら居合の構えを取る。

 

「(使ってみるか。雨の呼吸 伍ノ型 鉄砲雨)」

 

居合の状態から刀を抜き、飛ぶ斬撃を放つ。

あまりの事に対応出来なかった鬼の頸が飛んだ。

 

「くそ。まさか斬撃が飛ぶなんて油断した」

 

そんな言葉を残して鬼は消えていった。

俺は合掌をする。

振り向けば男が信じられないような顔をして此方を見ていた。

 

「何だったんだ今のは」

 

「今のは鬼だ。人を食う。俺たちは鬼を退治する為にこの地に来た」

 

「鬼?人を食う?じゃあ彼女は俺を食う為に近いたのか?」

 

「そうだな」

 

「そんな」

 

俺は絶望し膝をついている男の型に片手を置き

 

「君の幸せを奪ってしまって済まなかった。俺に言えた事じゃないが

これからもしっかり生きてくれ」

 

そう言いながら俺達は男の前を去った。

 

 

数分後

 

 

「やっと終わった。とても疲れた」

 

「真菰に激しく同意する。本当に疲れた」

 

俺と真菰は宿に戻り寝るのだった。

 

 



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第三十五話 長期任務参

最初の事件が終わってから数ヶ月が過ぎその間鬼を討伐の為近畿を駆け回っていた。

その数も既に五十を超えていた。

 

「飛鳥。討伐より移動の方が時間かかってる気がしない?」

 

「確かに。最初の女の鬼を殺してから異形はともかく異能の鬼が全くいない」

 

俺達はそんなことを話しながら次の任地に向かっていた。

 

 

数日後

 

 

俺と真菰はとある山麓に立っていた。

今回の任務はこうだ。

今全国に広まっている新興宗教に「万世極楽教」がある。

その宗教の信者の女性が消えていると報告があった。

お館様はこの件を鬼の仕業と判断。

大分前から密かに調査を進めていた。

その結果教祖が鬼の可能性ありということで

偶々長期任務で近くにいた俺達と後本部から来る柱の三人で任務に当たる事になった。

そして現在その柱を待っていた。

すると向こうの方から一際大きな体の男性が歩いて来た。

 

「お久しぶりです。悲鳴嶼さん。」

 

「飛鳥も長期の任務ご苦労だったな。でそちらは?」

 

「初めまして、鱗滝 真菰です。よろしくお願いします。」

 

「よろしく頼む。私は岩柱 悲鳴嶼 行冥だ。」

 

「はい。」

 

「では行くとしようか。」

 

悲鳴嶼さんの言葉を受けて俺たちは山を登り始める。

 そこまで高くない山の山頂付近にその建物はあった。

 

「・・・・・・ここか?」

 

「・・・ここ・・だよね?」

 

俺と真菰は困惑した。

何故ならその建物は屋敷というより御殿に近かったからだ。

宗教の寺院と言えば誰でも知っている質素な寺を想像していた。

だが目の前の寺院は豪華で少々成金感がある建物だった。

 

「新興宗教の団体って金あるんだな。」

 

「だね。」

 

「急ぐぞ。」

 

悲鳴嶼さんはそう言いながら扉を開けて入っていく。

中を見れば外観に負けない位豪華だ。

 

「ようこそ万世極楽教へ。今日はどのような用件でしょうか?」

 

そう言いながら坊主頭の男が俺たちの方へ来る。

 

「鬼殺隊だ。教祖に会わせてもらおう。」

 

悲鳴嶼さんがそう言うと男が急に顔色を変え襲い掛かってきた。

 

「(雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃)」

 

俺は悲鳴嶼さんの後ろから飛び出して男の頸を落とす。

男は人間なので死んでも消えずその場で絶命した。

 

「よくやった飛鳥。」

 

「いえ。」

 

そう言いながら俺と悲鳴嶼さんは合掌し念仏を唱える。

 

「「南無阿弥陀仏。」」

 

俺達が念仏を唱え終えると真菰は信じられないという顔で

 

「鬼じゃ無いのにどうして殺したんですか?」

 

と聞いてきたので俺は少し暗い顔しながら、

 

「この男は悲鳴嶼さんの話を聞いて急に襲い掛かってきた。

つまり教祖が鬼だとそして俺達がどういう組織か分かっていて何をしに来たか

理解しているから襲ってきた。つまりそういう事なんだろ」

 

「(覚悟していたがやはりつらいな。)うん。そうだね」

 

真菰は無理やり納得したように頷く。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

俺達は奥へと進む。

奥に進むにつれて鬼が出てくる。

俺達は鬼を殺しつつ奥へと進む。

 

「悲鳴嶼さんやはり」

 

「ああ。如何やら当たりのようだ。気を引き締めろ。十二鬼月かもしれん」

 

「ですね」

 

「はい」

 

俺達は一番奥の一際豪華な襖を開けて入る。

中には刀を持った初老の男性が立っていた。

 

「騒がしいと思っていたがネズミがここまで来たようだ」

 

そう言いながら刀を居合の構えを取り高速の一閃を放った。

俺はそれを刀で受け止める。

 

「(この爺さん、まさか)」

 

「ほう。受け止めるとはやるな。桑島も中々の使い手を育てる」

 

「(この爺さん、これだけのやり取りだけで師範の事まで)」

 

俺は素直に疑問をぶつけてみることにした。

 

「爺さん、なんで師範の事を知っている」

 

「当然だ。桑島は儂の弟弟子だからな」

 

「なるほど師範の言っていた鬼側に着いた馬鹿兄ってのはあんたか」

 

後ろを見れば悲鳴嶼さんと真菰は驚いてその爺を見ていた。

 

「どうかの~。そんなことよりはよ来い」

 

「二人で行くぞ、清水。鱗滝は他の鬼の討伐にいけ」

 

そう言いながら悲鳴嶼さんは俺の横に立つ。

 

「いや。ここは俺が残ります。まだ鬼の残数が分からない以上この爺さんに

数を割くのはまずい。それに真菰一人じゃ下弦はともかく上弦はきついでしょ。

上弦相手なら貴方がいないと」

 

少し考えて悲鳴嶼さんは、

 

「分かった。任せるぞ」

 

「任せてください」

 

悲鳴嶼さんは踵を返して部屋から出ていく。

 

「ふむ。話は終わったようじゃの。では護衛 長船 長政」

 

「えっ」

 

「馬鹿者。試合前は名乗るのが礼儀じゃ」

 

「すみません。(調子狂うな~)」

 

俺達は再び構える。

 

「では改めて護衛 長船 長政」

 

「鬼殺隊 雨柱 清水 飛鳥」

 

「いざ」

 

「尋常に」

 

「「勝負」」

 

 

その頃真菰視点

 

 

私は寺院のの廊下を走っていた。

私が前で悲鳴嶼さんが後ろから助けてくれるという形で前に進んでいく。

周囲に鬼がいなくなり一息つく。

悲鳴嶼さんにある疑問をぶつけてみた

 

「あの、何で飛鳥一人に任せたんですか?

実力を疑っている訳じゃありませんけど少し疑問で」

 

「飛鳥がやらねばならないと思ったからだ。

会話からあの二人には直接では無いが何かがあるんだろう。

二人で倒すことを提案してみたが最初から飛鳥に任すつもりだった」

 

「勝てますかね」

 

「勝つ。だてに鬼殺隊最強と噂されている奴ではない」

 

本人は余り知らないが鬼殺隊最強は誰か?と言うのが隊士内で話題が持ちきりだ。

その候補に飛鳥と悲鳴嶋さんが筆頭候補に入っていると周りから聞いた。

話が終わる頃鬼がまた出てきたのでまた動き出す。

 

「(勝ってね。飛鳥)」

 

 

三人称視点

 

 

飛鳥と長政は切りあっていた。

単純な剣技から呼吸を加えた型を出す。

息は上がっているが互いに無傷。

だが顔に疲労はなく二人とも笑っていた。

「ふ~~。中々やるではないか、小僧。久々にたぎるわ」

 

「そうかよ。確かにいつもより身体が熱い。こんなことは初めてだ」

 

「それがたぎるという事よ。目の前の相手に勝ちたい。我こそが最強なのだと示す。

ただそれだけの為に己の全てを賭ける。それが剣士の生き様。

小僧、お主に問う。何の為に刀を取った?」

 

「最初は恨みを晴らすためだった」

 

途端に長政は落胆する。こいつもかと。

 

「小さいのう「だが」うん?」

 

「俺は強くなりたかったんだ。全てを守るために強くなりたい。その為にあんたに勝つ」

 

飛鳥の返答を聞き長政は落胆した顔が晴れた。

 

「そうじゃ。それこそが剣士の在り方じゃ。

ようやっと会えたわい。真の剣士に」

 

「感謝する、爺さん」

 

「何の。気にすることはない。では続きと行こうかの~」

 

「ああ」

 

そして再び高速の戦いが始まる。

 

「これじゃ。これこそが儂が長年待っていたもの。数十年待った甲斐があった」

 

「そうか。確かにこのまま終わらせるのは惜しい気がするがそろそろ終わりにしよう」

 

「同感じゃな」

 

そう言って二人は居合の構えを取る。

 

「「((雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃))」」

 

同時に動き出し交差する瞬間、相手を切り互いに背を向けた状態で止まる。

そして倒れたのは・・・・・・・長政だった。

飛鳥は長政が動かないことを確認しながら近ずく。

 

「見事」

 

「最後に何か言い残すことはあるか」

 

「これを」

 

そう言って渡してきたのは先程まで使っていた物とは別の刀だった。

 

「これは?」

 

「代々鬼殺をしていた長船家の当主が使ってきた刀じゃ。

当主は血筋は関係なくこの刀を持つに相応しいと判断した者に

この刀をを渡す。そして渡されたものはその日より長船家の当主となるのが習わし。

だが別に当主になってくれという訳ではない」

 

「じゃあ、何の為に?」

 

「剣士のあるべき心意気、在り方を次代に繋いでほしいからじゃ。

恨みで刀を振るっても長くは続かん。いずれは折れる。

今の鬼殺隊がまさにそうじゃ。

忘れるな。剣士とは人の身で最強を追い求めるもの。

その二文字の為に命を懸けることを許されるものの事じゃ」

 

「確かに理解した。恨みはある、でもここで爺さんに誓う。

決して恨みで刀は降らない。そして忘れない。この戦いと爺さんの言葉」

 

「そうか。なら・・もう思い残す事もない・・・な。」

 

そう言いながら長政は息を引き取った。

その後すぐ悲鳴嶼と真菰が戻ってきた。

 

「終わったか、飛鳥」

 

「はい。我儘言って済みませんでした」

 

「気にするな。それでは戻ろうか」

 

三人は寺院を出てそのまま焼き払った。

その時飛鳥は長政の遺体も持って出た。

 

「私はお館様に今回の事をすべて報告しに戻る。お前達はどうする?」

 

「またすぐに任務があると思うので暫く休んで行きます」

 

「そうか頑張れよ。では」

 

「有難うございます。悲鳴嶼さんもお気を付けて」

 

悲鳴嶼はそのまま帰っていった。

 

「真菰大丈夫か?」

 

「うん。怪我とかはないよ。でも今回は疲れたな」

 

「無理もないさ。初めて人を殺したんだから」

 

「うん。ありがとう、飛鳥」

 

「戻ろう。俺もこの人の墓を作りたいし」

 

「うん」

 

数日後二人は町を出て次の任務へと向かっていった。

その際二人は長政の墓を街道沿いの木の下に作った。

その墓石には

長船 長政 此の者、真の剣士成り。

と書かれていた。

 

 

ところ変わり桑島の家

長政が飛鳥によって討たれたことが桑島の耳にも届いた。

 

「そうか。とうとうやったか。ようやってくれた、飛鳥。兄者ゆっくり休んでくれ。」

 

その言葉と小さく泣く声が聞こえたとか

 




どうも今回も読んでいただきありがとうございます。
では今回のキャラ紹介です。


名前 長船 長政
誕生 十一月二日
呼吸 雷の呼吸
家族 なし

長船家当主で鬼殺隊として多くの鬼を狩ってきた。
だが周りの人間が剣士としての誇りではなく
鬼憎しで動いている事に失望し鬼殺隊を辞めて行方をくらました。
それから鬼側に立ちより強い、自分すら超えられる隊士があらわれるのを
待ち続けた。飛鳥との出会いが彼を満足させるに至りその後渾身の
霹靂一閃を飛鳥の霹靂一閃で破られ致命傷を受け死亡。
余談だが彼の強さは全盛期から殆ど衰えを見せていなかった。


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原作突入 那田蜘蛛山編
第三十六話 那田蜘蛛山


教団での任務から一週間。飛鳥は真菰と共に任務完了報告の為に本部に向かっていた。

そこに鴉が飛んでくる。かなり疲れているようだ。

 

「那田蜘蛛山ニテ隊士達数名ガ襲ワレタ!! 至急救援!救援!!」

 

「那田蜘蛛山か。ここからすぐだな。了解、すぐ向かう」

 

飛鳥と真菰は走り出すが飛鳥に比べて真菰は遅い。

飛鳥が早すぎるだけで決して真菰が遅いという訳ではないがやはりおいて行かれてしまう。

 

「飛鳥。先に行って私は飛鳥より足遅いから」

 

「悪い先に行く」

 

返事を聞くことなく飛鳥は走る速度を上げていく。

願わくば一人でも多く、生き残っている事を祈りながら。

 

 

 

飛鳥視点

 

 

 

目の前に那田蜘蛛山が見えてくる。

前を飛んでいる鴉を見て、

 

「他に救援に向かっている隊士は?」

 

「癸ノ隊士ガ三人先程山二入ッタ!後ハ水柱ト蟲柱ガ向カッテイル。ダガ飛鳥ノ方ガ早イ!」

 

「鬼の数は?」

 

「マダ分カッテナイ。」

 

山を登りつつ気配を探って鬼と生き残りを探す。

木々を飛びながら探していると大きな鬼の気配がする。

それと同じところに小さくなりつつある人間の気配も同時にして来た。

 

「(急がないと。)」

 

大きな気配に向かってい走ると

二メートルはある鬼に首を掴まれている猪頭の鬼殺隊士を発見する。

 

「(雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃 。)」

 

まず腕を切り落とし猪頭を助ける。

 

「グアアアアアァァァ。俺の家族に手を出すなああああ。」

 

もう一方の腕での薙ぎ払いを体を躱して

 

「(水の呼吸 水面切り)」

 

刀を真一文字に払って攻撃し首を落とした。

鬼が消滅するのを確認していると起き上がった猪頭の鬼殺隊士が、俺に刀を突き付け呟く。

 

「俺と戦え、青羽織」

 

「は?」

 

俺は首をかしげてしまった。

 

「(こいつは隊律違反だというのを分かっていないのか?)」

 

その間にも猪頭の鬼殺隊士は話し始める。

 

「お前は十二鬼月を倒した!だからお前を倒せば俺の方が強い」

 

医療に関して素人の俺でもわかるほど猪頭の鬼殺隊士は重傷だ。

 

「(あいつが十二鬼月?どうやったらそういう結論になる?

目に数字も刻まれてなかったじゃないか。

まあ、いいか。とりあえず)」

 

俺は加速し、猪頭の後方に回り首筋を柔らかく叩き意識を落とす。

そのまま猪頭は意識を失った。

 

「後は隠しに任せるか」

 

そう呟いてから納刀し、この場を走りで後にした。

気配を探りながら山を登っていく中で俺は強烈な気配を感じ取った。

 

「(かなり強い気配。それと弱りかけた人間の気配。まずいな急ぐか。)」

 

考えながら速度を早める。

気配のする場所にたどり着けば蜘蛛の糸を操る鬼と動けない隊士がいた。

鬼の方もかなり消耗している事が見るだけでわかる。

俺は鬼と隊士の間に入る。

 

「何お前、僕の邪魔をしないで。」

 

俺は鬼の言を無視して

 

「よくここまで耐えた。後は任せろ。」

 

無視され鬼は

 

「(血鬼術 刻糸輪転)」

 

血鬼術を放ってきた。

俺は冷静に

 

「(雨の呼吸 肆ノ型 斬雨)」

 

飛んでくる赤い蜘蛛の糸を切る。

 

「今何が。糸が飛んできたと思ったのに散らばった」

 

後ろの隊士がそんな事を言っていた。

 

「(普通の奴には見えないんだな。義勇も真菰も見えたからまだまだだと思っていたが。

まそれはいいか。今はとりあえず。)」

 

俺は高速で近づき、鬼の腰に向けて型を繰り出す。

 

「(雨の呼吸 参の型 五月雨)」

 

「うっ。」

 

鬼は咄嗟に防御の体制を取るがそこに刀は来ることはなかった。

鬼が困惑していると頸に刀が通り鬼の頭が落ち消滅した。

俺は鬼が完全に消滅したのを確認し隊士の方を向く。

最初は鬼の影響と気配が小さすぎて気付かなかったが隊士の近くに鬼の少女がいた。

 

 

「(雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃。)」ガキィィンッ「なっ。」

 

型を繰り出すが義勇さんがそれを防ぐ。

 

「どういうつもりだ、義勇。そこにいるのは鬼だぞ。」

 

「・・・・・・。」

 

無口にもほどがあるだろ。イラつきながらも義勇を問いただすのを諦めて後ろの隊士に聞く。

 

「君も何のつもりかは知らんがその女の子は鬼だ。分かってるだろ?どうしてその鬼を庇う?」

 

その時、義勇の後ろからしのぶが鬼の女の子に切りかかる。

だがそれも今度は別方向から現れた真菰によって防がれる。

しのぶは若干驚きながら俺の隣に立つ。

 

「真菰さん邪魔しないでください。冨岡さんも何故飛鳥と対峙しているんですか?

状況だけの判断はしたくは無いですが鬼を庇うその子を守っているかの様な立ち位置ですよ?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

しのぶの問いに対してもだんまりを決め込む。

今度は後ろに倒れている少年を説得する

 

「坊や。坊やが庇っているのは鬼ですよ。早く離れて下さい。」

 

鬼だと区別が出来てない可能性を洗うための問いを受けて隊士は慌てて

首を振りながらしのぶへハッキリと答えた。

 

「違うんです。禰豆子は鬼ですが妹なんです。」

 

「そうですか、それは大変ですね。なら苦しまない様、優しい毒で殺してあげますね」

 

冷たい殺気と共にしのぶの細く尖った日輪刀が煌めく。

それを合図に俺は一瞬で隊士の後ろに回り切りかかる。

だがそれを真菰が受け止める。

 

「炭治郎動ける。動けなくても頑張って。そして妹を連れて逃げて。

飛鳥は強いから長くは持たない。」

 

「足止めするつもりか、真菰。いくら義勇や錆兎の同門でも俺は容赦しないぞ。」

 

炭治郎と呼ばれた少年禰豆子を連れて逃げていく。

俺は炭治郎の追跡を諦め真菰と対峙する。

 

 

 

 

炭治郎視点

 

 

 

 

 

真菰さんと冨岡さんのお陰で何とか逃げ出せた俺はとにかく禰豆子を連れて逃げる。

 

「(痛い、つらい、でも冨岡さんと真菰さんが稼いでくれている時間を無駄には出来ない。)」

 

その時俺の目の前に何かが落ちた。

 

「炭治郎だったか?逃げるのはそこまでだ。」

 

そこにいたのは無傷で立つ強いあの人と地面に押し付けられ気を失う真菰だった。

 

「いくら何でも早すぎる。」

 

俺には絶望しかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥視点

 

 

 

 

 

 

 

早々に真菰を無力化した俺は炭治郎に向き合う。

 

「炭治郎だったか?逃げるのはそこまでだ。」

 

炭治郎も一様刀を向けてくるが絶望した目をしている。

その目の中に少しだが諦めてない光がある。

 

「(周りを見回している。妹だけでも逃がそうと必死なんだな。)」

 

俺は一つ溜息をつく。

すると炭治郎は妹と箱を下ろし切りかかってきた。

俺は炭治郎とつばぜりあう。

 

「禰豆子、逃げろ。」

 

炭治郎は振り向き禰豆子に逃げるように言う。

 

「君の気持ちが分からない訳じゃないがこちらも任務だ。」

 

俺は炭治郎を引き寄せ首筋を叩き意識を落とす。

そのまま禰豆子を押さえつけ切りつけたその時、

 

「伝令‼伝令‼カァァァ伝令アリ、炭治郎及び禰豆子両名を拘束。本部ヘ連レ帰ルベシ。」

 

鴉からの伝令に俺は禰豆子を離し箱を持って来る。

 

「もう傷つけないからとりあえずここに入ってくれ。本部に連れていく。」

 

最初は威嚇してきていたが素直に入ってくれる。

待っているとカナヲと隠が来てくれた。

 

「悪い。縄かなんか持ってるか?持ってるならこの箱に巻き付けてくれ。

あとそこの隊士2人も傍ってくれ。」

 

「はい。」

 

「箱を本部まで運んでくれ。カナヲはそれを見張れ。何かあれば中の鬼は殺していい。」

 

隠は少しビビりながら箱を持ち、

カナヲは頷いて隠の後を付いて行く。

 

「さて真菰と炭治郎君の二人か。」

 

「(あそこまで派手にやっといて正直気まずい。)」

 

俺が悩んでいると義勇としのぶが歩いてきた。

義勇さんは黙ってそのまま真菰を担ぐ。

炭治郎をおんぶしながら一つ溜息をつき落ちかけた炭治郎をおんぶしなおす。

すると炭治郎が目を覚ました。

 

「うっ、ここは?」

 

「目覚めたか?炭治郎。」

 

俺が話しかけたことで炭治郎は自分の状況を悟ったようだ。

 

「うっ、禰豆子は?」

 

「大丈夫だ。妹はあそこにいる。」

 

俺はカナヲの近くの隠の背負う箱を指差す。

 

「とりあえず今は妹は殺さない。君も怪我もすごい様だし今は休むといい。」

 

「すみません。」

 

炭治郎はかなり疲れていたのかそのまま眠ってしまう。

 

「また眠ってしまいましたか。よほど信頼されているのですね。」

 

「疲労が勝っただけだろ。それより本部に戻ろうぜ。」

 

「そうですね。冨岡さん逃げずについてきてください。」

 

「分かっている。」

 

俺達はそのまま本部へ向かうのだった。



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第三十七話 柱合裁判

しのぶと義勇と共に裁判が行われる産屋敷邸に向かう。

ついてみれば既にほぼ全員が到着している。

いないのは実弥だけだ。

獪岳は緊急の任務が入り今回は不参加という事だ

炭治郎を地面に降ろして柱達に挨拶を交わす。

 

「久しぶりだな。杏寿郎」

 

「うむ。久しぶりだ。飛鳥。長期任務に出ていたと聞いた。無事で何より」

 

「おかげさまでな」

 

「母上が久しぶりに顔を出せと言っていたぞ。

久しぶりに夕飯でも食べに来いともな」

 

「分かった。数日中に顔を出すと伝えておいてくれ」

 

「承知した」

 

「甘露寺さんも小芭内も久しぶり」

 

「うん飛鳥君も久しぶりだね」

 

甘露寺さんは笑顔で返してくれたが小芭内は「うん」くらいしか返してはくれない。

と言うより彼の目から甘露寺にあまり話しかけるなと言う意志が伝わってくる。

如何やら甘露寺に惚れているようだ。

三人との挨拶をした後無一郎に話しかけようとするが、

雲を見ていたので邪魔をしては悪いと考えて声はかけず悲鳴嶼さんと天元さんに話しかける。

 

「悲鳴嶼さんこの間はありがとうございました」

 

「気にする必要はない。飛鳥も息災で何よりだ。今回も任務ご苦労だった」

 

数珠をジャリジャリと擦りながら話す。

 

「天元さんの祝言の時はありがとうございました」

 

「派手にめでたい日だ。嫁たちも喜んでいたしな。二人とは順調か?」

 

「ええ、まあ、それなりに」

 

「なんだ、だらしないぞー。男なら尻に敷かれずしっかり導いてやれ」

 

「はい、がんばります。(すでに敷かれてる感があるな、俺)」

 

「それより屋敷に来る途中に義勇から事情は聞きました?悲鳴嶼さんと天元さんは

今現在はどう考えているんですか?」

 

「派手に処刑だな。小僧の方はそこまでする必要はないかもしれんが鬼はそうする。例外はない」

 

「ある程度は私も聞いている。嘘だと考えているが飛鳥はどう思う?分かるのだろう?」

 

「気配を感じる限り鬼のものと変わりないですね。

でも何といえばいいのかな。人を喰った鬼より気配が人間に近い感じですね」

 

「そうか。だが鬼である事には変わりない」

 

「ですね」

 

そんな時、炭治郎が目を覚ます。

 

「お、どうやら目を覚ましたみたいですね」

 

「飛鳥、これを飲ませてください。鎮痛薬入りの水です」

 

「大丈夫かい。今君の置かれてる状況を説明しよう。

まずここは鬼殺隊の本部だ。君は鬼を匿ったとしてこれから裁判にかけられる。

ここにいるのは俺も含めて全員が柱と言って鬼殺隊の隊士の中でも頂点に位置する存在だ。

ここまではいいかい?」

 

うなずく炭治郎。だが心配そうな顔で周りを見回す。

 

「鬼の妹が心配かい?まず安心してほしい。まだ殺していない。

こちらで預からせてもらっている。これからあの子の処遇も決める。

君は聞かれたことを素直に答えるんだ。いいね。間違ってもうそをついちゃ駄目だよ」

 

「はい。分かりました」

 

炭治郎君は弱々しく返事をする。

 

「なら少し待っていてね」

 

そう言うと俺は立ち上がる。

 

「飛鳥、見事な説明感謝だ。だが裁判の必要などないだろう。

鬼を庇うなど明らかに隊律違反!我らだけで対処可能!鬼もろとも斬首する」

 

「ならば俺が派手に頸を切ってやろう。だれよりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」

 

「あぁ・・・なんというみすぼらしい子供だ可哀想に、

生まれて来たこと自体可哀想だ。殺してやろう。」

 

「うむ。」

 

「そうだな。派手にな。」

 

そんな感じで話が進んでいく。炭治郎の顔色もあおい。

 

「そんなことより冨岡はどうするのかね。拘束もしていない様に俺は頭痛がしてくるんだが。」

 

小芭内が義勇さんを指さしながら俺としのぶを責める。

 

「まぁ、いいんじゃないですか。ちゃんとついてきてくれましたし。

それより私は坊やの話が聞きたいですよ。」

 

「だな。俺もしのぶに同意する。で、実際にどうなんだ?炭治郎。

君の妹は人を食ったのか?」

 

「俺の妹は鬼になりました。でも人は喰っていません。これまでもこれからも人を傷つけません。」

 

「ならそれを証明できるかい?炭治郎。」

 

「!!」

 

「できないよね。仮にこれまでは出来たとしてもこれからもできるという証明は出来ない。

君の思いが分からないわけではないけど事は鬼だ。

判断を間違えたら起きなくてもいい被害が起きてしまう。」

 

「聞いてください。俺は禰豆子を治すために剣士になったんです。

妹は俺と一緒に戦えます。 人を守るために今まで戦ってきたんです。」

 

「だからそれの照明を「鬼を連れてた馬鹿隊員ってのはそいつか?

一体全体どういうつもりだ。」!!。」

 

振り向けば実弥がしのぶと俺によって預からせていた禰豆子が中にいる箱を

片手に持ってやって来る。

 

「不死川さん。勝手な事をしないでください。それは私と飛鳥の預かりとなっている筈ですよ」

 

苛立つしのぶのその言葉を無視し、不死川は腰の刀に手を掛けた。

 

「鬼が人を守るために戦うだぁ? そんな事はなぁありえねぇんだよ!!」

 

勢い良く刀を抜き、箱へ突き刺すとボタボタと箱の底から血が垂れていく。

それを見て、炭治郎は怒りに任せて立ち上がる。

 

「俺の妹を傷つける奴は! 柱だろうが何だろうが許さない!! 」

 

「ハッ! そうかい良かったなぁ!」

 

炭治郎は後ろに縛られているのにも関わらず突っ込んでいく。

がそのまま行けば切られるので俺はまず炭治郎君の羽織の襟をつかみ、

更に実弥の持つ箱を奪い取り元の位置に戻る。

 

「どういうつもりだ。飛鳥!!」

 

実弥は怒りをあらわにして怒鳴ってくる。

 

「どういう事情にせよ、お館様の命令は拘束であって、殺害ではない。

全てを決めるのはお館様だ。それともお前はお館様に殺してしまいましたと報告したいのか?」

 

「ちっ。」

 

舌打ちをしながらそっぽを向く実弥の様子を見ながら炭治郎を座らせて箱を渡す。

 

「ほら返すよ。君も少し落ち着いて」

 

「すみません。ありがとうございます」

 

その時襖が開いて、お館様が娘に手を引っ張って貰いながら柱達の前に姿を現す。

 

「お早う皆。今日はとてもいい天気だね。空は青いのかな?」

 

お館様が来た事に気づいた柱達は一列に並び、片膝を付いて頭を下げる。

俺は一番端で片膝を付きながら炭治郎に正座するように促す。

 

「炭治郎。お館様が来たから正座して平伏するんだ」

 

「はい。すみません」

 

炭治郎は俺の言葉を聞いて素直に隣で正座をして平伏する。

実弥が挨拶をして直ぐに炭治郎の事を尋ねるとお館様は謝りながら言った。

 

「驚かせて済まない。炭治郎と禰豆子の事は容認していた。皆にも認めて欲しい」

 

「嗚呼・・・たとえお館様の願いであっても私は承知しかねる」

 

「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊士など認められない」

 

悲鳴嶼さんを筆頭に反対の声が多い。

このままでは話が進まないと考えて疑問をぶつけてみた。

 

「お館様、質問をよろしいでしょうか?」

 

「なんだい、飛鳥」

 

「禰豆子を容認していた理由は何だったのでしょうか?

鴉からある程度情報が来ていたとしてもお館様自身は禰豆子に会うのは初めてのはず。

如何なる理由をもって禰豆子を容認していたのでしょうか?」

 

俺の言葉を聞いて全員がお館様の方を向く。

 

「そうだね。その説明をしようか。まず手紙を」

 

「はい。」

 

するとお付きの子供が手紙を取り出し、読み上げる。

 

「こちらの手紙は、元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます。」

 

その内容は、二年間の歳月が経過しても禰豆子は人を喰ってないと言う内容だ。

そして、次の内容に柱たちに驚愕が走る。

 

「もし禰豆子が人に襲いかかった場合は、竈門炭治郎、鱗滝左近次、水柱・冨岡義勇、

水柱補佐・鱗滝 錆兎、同門鱗滝 真菰が腹を切ってお詫びいたします。」

 

それでも実弥は反対の声を上げる。

 

「切腹するから何だと言うのか。死にたいなら勝手に死に腐れよ。何の保証にもなりはしません」

 

「不死川の言う通りです。人を喰い殺せば取り返しがつかない!殺された人は戻らない!」

 

杏寿郎が同意する。

それに対して、お館様が口を開く。

 

「確かにそうだね。でも、人を襲わないと言う保証ができない、証明ができない」

 

お館様は手紙を持ち、言葉を続ける。

 

「それに、禰豆子が二年以上もの間人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子の為に五人の命が懸けられている。これを否定する為には、否定する側もそれ以上のものを差し出さねばならない」

 

実弥と杏寿郎は押し黙ってしまう。

流石に同じものをかけるわけにはいかないからだ。

更に、炭治郎が無惨と遭遇した事実も告げ、炭治郎が無惨へ繋がる手掛かりに

なるかも知れないという考えを見せた。

 

「これが禰豆子を容認していた理由だよ。理解してくれたかな、飛鳥。」

 

「はっ、十分でございます。お手数をおかけしました。」

 

「構わないよ。」

 

「……わかりません、お館様。人間ならば生かしておいてもいいが、鬼は駄目です!承知できない!」

 

実弥は日輪刀を抜き放ち、自身の左腕の皮膚を切る。

 

「お館様……!証明しますよ、オレが。鬼という者の醜さを!」

 

実弥は炭治郎の隣に置いてあった箱を奪取し、

 

「お館様、失礼仕る。」

 

というと屋敷内の日陰に行き、箱を落とし何回か箱ごと禰豆子を突き刺す。

強引に扉を開けると、中からは額に汗を吹かせ涎を流しながら禰豆子が現れ、

実弥の腕から流れる血を見ている。

炭治郎は動こうとするが、

 

「炭治郎、柱達に認めてもらうには禰豆子が安全であると証明するしかない。

納得できないだろうけどこの場は禰豆子を信じて抑えるんだ。」

 

「分かりました。」

 

炭治郎は、俺の言葉を聞きその場で踏み止まる。小さな声で「禰豆子!耐えてくれ!」

と言いながら。その炭治郎の想いが届いたように、禰豆子は実弥の血を拒否。

こうして禰豆子は、人を襲わないことの証明が成されたのだ。

だが、他の柱たちや隊士の中には鬼の存在を良しとしない者も居るだろう。

なので、お館様は炭治郎君に「十二鬼月を倒しておいで、

そうすれば炭治郎の言葉の意味も変わる」と言って、

それを聞いた炭治郎君は「禰豆子と共に鬼舞辻無惨を倒し、悲しみの連鎖を断ち切る!」と豪語したが、お館様に「今は無理だから、まずは十二鬼月を倒してからだね」

と言われて恥ずかしさで顔を赤く染めてしまっていた。

 

「これで炭治郎の話はおしまい。下がっていいよ。」

 

「でしたら竃門君は私たちの屋敷で預かりましょう。いいですよね飛鳥。」

 

「勿論。聞きたいことも有るし。」

 

「では連れて行ってください。」

 

手を叩くと隠が来て炭治郎君と禰豆子を連れていく。

だが直ぐに戻ってきて不死川さんに頭突きをしたいとお館様に言うが時透さんから

手痛い一発を受けて再び連れていかれ炭治郎君の姿が見えなくなった所で柱合会議が開始した。

 

 

 

 

 



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第三十八話 柱合会議

柱合裁判が終わってすぐ俺達は部屋に移動して今後の事について話し合っていた。

 

「皆の報告にあるように鬼の被害がこれまで以上に増えている。

人々の暮らしかつてないほどに脅かされているという事だね。

鬼殺隊員も増やさなければならないが、皆の意見は?」

 

お館様の言葉にまず反応したのは不死川さんだ。

 

「今回の那田蜘蛛山の件ではっきりした。

隊士の質が信じられないほど落ちている。ほとんど使えない。

まず育手の目が節穴だ。使える奴か使えない奴か位分かりそうなもんだろう」

 

実弥に続く形で天元さんが続く。

 

「そういう意味ではさっきのガキは中々使えそうだがな。清水、どうなんだ?」

 

「使える部類に入るんじゃないですか?下弦の伍をかなり追い詰めてましたし。

もう少し鍛えれば問題ないかと思いますよ」

 

「人が増えれば増えるほど制御統一は難しくなっていくものです。

今はずいぶん時代も様変わりしていますし」

 

「愛するものを惨殺され入隊したもの、代々鬼狩りをしている優れた血統のもの以外に、

それらの者たちと並ぶ、もしくはそれ以上の覚悟と気迫で結果を出す事を、求めるのは残酷だ」

 

「それにしてもあの少年は入隊後まもなく十二鬼月と遭遇しているとわ。

引く力が強いに感じる。中々相まみえる機会のない我らからしても羨ましいことだ」

 

柱達が意見していく。それを聞いてお館様は、

 

「そうだね。しかし・・・これだけ下弦の伍が大きく動いたということは

那田蜘蛛山近辺に無惨はいないのだろうね。浅草もそうだが、隠したいものがあると無惨は、

騒ぎを起こして巧妙に私たちの目をそらすから。

なんとももどかしいね。しかし鬼どもはのうのうとと人を喰い、力をつけ、

生きながらえている。死んでいった者達の為にも我々がやることは多い。

そして一つ私なりの考えがある」

 

「何なりと。お館様の御意志には従う所存です」

 

悲鳴嶼さんのその答えに実弥や小芭内も頷く。それを見て、お館様は柱の皆を見回してから

最後に俺の方へ顔を向けた。

 

「飛鳥。先の裁判の時に私も言ったが無惨は炭治郎と禰豆子を必要に追ってくるだろう。

そこで竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助。この三名に手解きをして欲しい。

そして彼らと共に行動しより多くの鬼を狩って行ってほしいと思っている。どうかな?」

 

「お館様の決定に否というつもりは御座いませんが私でよろしいのですか?」

 

「君はこの中でほぼ全ての呼吸が使えると聞いている。

更に雨の呼吸と日の呼吸を復活させたこともね。

丁度炭治郎と善逸は君と同じ育手から教わっている。

そう言う意味でもいいとおもったん思ったんだ。無理強いはしないけどどうかな?」

 

静まり返る柱達の視線が俺に注がれる。

 

「お館様、ご配慮くださりありがとうございます。先の件しかと承りました。

三人はお任せください。」

 

俺は平伏して承知したと伝える。

 

「それはよかった。では頼んだよ。」

 

お館様はここで一度話を区切り、そして

 

「此処にいる柱達は戦国の時代以来の精鋭が集まったと私は思っている。

皆の活躍に期待する。」

 

『はっ。』

 

こうして半年に一度の柱合会議は終わった。



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第三十九話 再開

柱合裁判のすぐ後。

炭次郎視点

 

 柱合裁判をとりあえず切り抜けた俺は隠の人におぶられている。

此れから那田蜘蛛山にも来ていた女の人の家に向かうらしい。

今、隠の人たちに走りながら怒られてる。

禰豆子を傷つけた傷だらけの人に頭突きをさせてほしいと言って、

お館様のお話をさえぎったことで隠の二人まで一緒に怒られてしまった。

更にお館様が珠世さんの名前を出したことで止まってもらおうとして怒らるているわけだ

後ろで禰豆子を背負ってくれている隠の女の人からは

顔を殴られて頬を引っ張られている。顔がすごい。

俺を運んでくれている隠も泣きながら叫んでいる。

よほど怖いのだろう。

 

「柱、凄く怖いんだよ。」「空気読めよ。察しろ。」

 

「絶対許さないからね。」「絶対許さねー。」

 

「謝れ。」「謝れよ、謝れー。」

 

「す、すいません。」

 

そうこうしているうち大きな屋敷に着く。

隠の人たちは玄関の前で屋敷の人を呼ぶ。

 

「ごめんくださいませー、ごめんくださいませー、ごめ・・・・ふう。」

 

「全然誰も出てこなねえわー。」

 

「庭の方回ってみましょ。」

 

そう言うと二人は一旦玄関を出て庭の方へ向かう。

 

「はあ~、お前自分で歩けよな。」

 

「すみません。ほんともう体中痛くて。」

 

ほんとうに痛い、体中痛い、辛い。

痛みを我慢しながら屋敷の方を見る。

 

「本部も広かったけど、ここも立派なお屋敷だなあ~。」

 

「当たり前だろ。ここには柱と元柱の三人も住んでるんだから。」

 

「そうなんですか?」

 

「そうよ。因みに胡蝶しのぶ様、私たちに貴方をここに連れていくよう

指示してた方ね。その方とその姉の清水カナエ様、そしてその旦那の清水飛鳥様が住んでるの。」

 

「清水飛鳥って誰ですか?」

 

「はあ、お前の隣で度々助けてくれてた人だよ。何で知らねえんだよ。」

 

「そうなんですか。あの人が。

(確かあの強かった。でも初めて会った時からあの人からは優しいにおいがした。

でもその中に恨みのにおいも混じってた気がしたな~。)」

 

庭に着くとそこには女の子がいた。

どこかで会った子だな~。

 

「あっ、いる。人いる。」

 

「あれは~えっとそうだ継子の方だ。お名前は~。」

 

「継子?」

 

「栗花落カナヲ様だ。」

 

「あっ、思い出した。最終選別での時の子だ。」

 

「継子ってのは柱が育てる隊士だよ。そうとう才能があって優秀じゃないと選ばれない。

女の子なのにすげーよな。」

 

女性の隠の人が話しかける。

 

「胡蝶様の申しつけで参りました。お屋敷に上がってもよろしいでしょうか?」

 

でもカナヲはニコニコしたまま喋らない。

 

「よろし・・・い?」

 

カナヲはニコニコ笑ってる。

その時後ろから、

 

「カナヲ。人に質問されたらちゃんと返さなきゃだめじゃな~い。」

 

俺と隠の二人は驚いて振り向くと隊服に白衣を着て蝶の髪飾りを付けた女性がいた。

 

「カナエ様、あの、えっと胡蝶様に。」

 

「あら、隠の方ね。どうぞこちらへ。」

 

「はい。」俺達はカナエさんという人についていく。

 

しばらくついていくと扉があり何を言ってるかわからないが

女性の怒鳴り声と善逸の悲鳴に近い叫び声が聞こてくる。

 

「ここよ。」

 

部屋に入ってすぐ善逸の姿を見て

「善逸!!」と声をかけると

「ギャーー」と叫ぶ。どこか声が汚い。

 

「大丈夫か!?怪我したのか!?山に入って来てくれたんだな……!?」

 

「た、炭治郎……」

 

そう言って善逸は、ベットの横に歩み寄った俺を背負っている隠の人に抱きつく。

 

「炭治郎、聞いてくれよ――っ。臭い蜘蛛に刺されるし、毒で凄い痛かったんだよ――っ。

さっきから、女の子にガミガミ怒られるし最悪だよ――っ」

 

自分がうるさいのが悪いのではという言葉を飲み込み、

「静かにしような。」とだけいう。

 

「伊之助は?村田さんや真菰さんは見なかったか?」

 

「村田に真菰?そんな名前は知らないけど伊之助なら隣にいるよ。」

 

「あっホントだ!普通にいた!気付かなかった」

 

善逸の隣のベットで寝ている伊之助を見て呟き、隠の人の背から乱雑に下り、

猪之助が寝ているベットの横で両膝を落としベットの上に手を置く。

 

「伊之助無事で良かった・・・!ごめんな。助けに行けなくて。」

 

「・・・・・イイヨ、気ニシナイデ。」

 

「えっ?」

 

伊之助の声がおかしい。かなり落ち込んでもいるようだ。

善逸に訳を聞くと鬼に喉をつぶされた挙句、青の羽織を着た隊士に大声で叫び、

それがとどめになり喉がえらいことになったらしい。

落ち込んでるのは鬼に対して何もできなかった事と例の青の羽織を着た隊士に

一瞬で後ろに回り込まれて気絶させられたからだそうだ。

それはともかくと善逸は俺を見て、

 

「それより炭治郎は見たっ!?」

 

善逸には、蝶屋敷に運ばれて喜ばしいことがある。

 

「蝶屋敷の美人姉妹っ!」

 

「姉妹?あっ、しのぶさんとさっきのえっと、そうだカナエさん。」

 

「そう!オレが一番推してるのは、胡蝶カナエさんっ!診察してもらったんだけど、

あの柔らかい笑顔に、絹のような肌っ!綺麗な指っ!マジであの人女神だわ!

オレ、ここに入院できて幸せっ!結婚したいねっ!うん!」

 

善逸は体をくねくねさせながら熱く語る。

 

「いやね!しのぶさんも、もちろん可愛いよ!毒で死にかけて助けたくれた時、

ホント天使かと錯覚したもん!でもさぁ、最後は自分の好みってやつが勝っちゃってさ!

ホントに天使と女神って居るんだな!」

 

 善逸に振り向いていた俺も「そうなのかもなぁ」と頷いた。

思い出してみれば善逸の言う通りだと思う。

カナエさんもしのぶさんも笑顔はとても綺麗だった。

善逸がそう言うのもうなずける。でも俺は知っている。善逸の願いは叶わない事を。

 

「でも善逸、胡蝶カナエさんを推すのはいいけど、あの方は既婚者だと思うぞ。

そもそも、女性を邪の気持ちで見たらダメだ。」

 

「は?」

 

善逸はあんぐりと口を開けている。

思い返せば彼は対女性において運がなさすぎる。

初対面では結婚してくれと迫った女性は婚約者ありだし

その時聞いた話では一緒に任務をこなした時、入れ込んだ女性に貢いで挙句全財産を失い、

借金までしたと言っていた。つい最近も禰豆子に何度もお近づきになろうとして逃げられている。

そして今回だ。憐れにさえ思えてくる。

 

「え!?炭治郎、どこでその情報を聞いたんだッ!?」

 

「さっき、其処の隠の人から聞いたんだ。」

 

言いながらすぐそこで「紙、紙どこ~?」と叫びながら走り回っている

隠を見る。

どうやら善逸に抱き着かれた時に鼻水がついてしまったようだ、

 

「事実ですよ。カナエ様もしのぶ様もご結婚されてます。」

 

さっき善逸の事を叱っていた女の子、神崎アオイさんというらしいが

紙を持って来て隠の人に渡しながら言う。

 

「誰だよ!その相手。羨ましすぎるよ。誰だよ教えろよ。炭治郎!」

 

善逸がまた叫び短くなった手で俺にしがみついてくる。

 

「善逸、静かにしろ。アオイさんがにらんでる。

わかったから教えるから。ちょっと、落ち着け。」

 

引きはがしながら善逸を落ち着かせる。

というか後ろで睨んでるアオイさんが怖い。

ひと悶着ありようやく善逸が落ち着く。ただでさえ全身痛いのにこれはきついな。

 

「で、誰なんだよ。胡蝶姉妹の旦那って?」

 

「それは「炭治郎、怪我大丈夫か?」あの人。」

 

まさに最悪と言っていい時に現れた飛鳥さんに驚きながら全てを任せることにするしかなかった。

 



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第四十話 機能回復訓練壱

「飛鳥話があるの。」

 

約二ヶ月ぶりに屋敷に帰ってきた俺に待っていたのはカナエのこの言葉。

 

「(俺何かしたか?)」

 

考えているが特に思い当たる節がない。

考えても分からないので聞いてみる事にした。

 

「どうしたんだ?改まって?」

 

「ええ。言おうかどうか迷たんだけど実は妊娠したの。」

 

「まじか。」

 

「うん、本当。もうすぐか月になるらしいわ。」

 

「しのぶや他のみんなは?」

 

「もう知ってるわ。みんな祝福してくれたわ。」

 

「そうか。それは良かった。なんか安心した。

あまり無理だけはしないでな。俺も出来る限り協力する。」

 

「うん。よろしくね。」

 

まじかー遂に俺も父親かよ。

本家の爺さんから孫はまだかーとかいう手紙がひっきりなしに来るからとてつもなく

面倒臭かったんでよなー。

そうしてしのぶを加えた三人で今後の事も考えながら決めていく。

暫くカナエは仕事を休むこととなりその間しのぶとアオイで蝶屋敷に来る患者を観る事となった。

それ以外の事も簡単にだが決めていきすべてが決まった後炭治郎の下に向かった。

 

「炭治郎、怪我大丈夫か?「あの人。」はっ?」

 

炭治郎俺を指さしてくる。

その前にいるタンポポ髪の子が睨んでくる。

如何やら最悪と言っていい時に俺は会いに来てしまったようだ

 

「なんだ。俺がどうかしたのか?」

 

何となく予想はつくが聞いてみる。

 

「善逸がカナエさんがかわいいとか言ってたんですけど、

すでに既婚者だって教えたら相手は誰だって叫んで教えようとしてました。」

 

「なるほどさっきから睨んできてるのはそれでか。」

 

自分で言うのもなんだが、カナエ程綺麗な女性に惚れて

それが既に誰かと結婚してたらなんとも言えない怒りが湧いてくるわな。

 

「とりあえず改めて自己紹介させてくれ。

俺は雨柱の清水飛鳥。飛鳥と呼んでくれ。君が我妻善逸だろ?師範から聞いてるよ。よろしくな。」

 

「我妻善逸です。よろしくお願いします。」

 

「あっ俺も改めて竈門炭治郎です。よろしくお願いします。

あっちで寝てるのは嘴平伊之助です。」

 

「ゴメンネ、ヨワクテ。」

 

「どうした、あいつ。なんかすっげーしょぼくれてるな。」

 

「負けた事がないらしくて初めて負けたことがかなりショックで落ち込んでいるらしいです。」

 

「なるほどな。これはそこら辺から鍛え直すか。」

 

「え?どういうことですか?」

 

「ああ。炭治郎と善逸と伊之助だったか?は機能回復訓練の後、しばらく俺と訓練だ。

基本の立ち回りから全部見直していく。きついと思うけど頑張ってくれ。」

 

「はい。頑張ろうな、善逸。ん?どうした善逸。」

 

目の前まで行き顔の前で手を振る。

 

「どんな想像したのか知らんが訓練がきついと聞いて気絶したようだな。」

 

「えーーー!」

 

「仕方ないこのまま寝かせてやるか。炭治郎も今は傷を癒すことに専念するんだ。」

 

「わかりました。」

 

「とりあえず君も治療を受けろ。」

 

「はい。」

 

 

それから数日後

 

 

炭治郎君と伊之助は少し早く機能回復訓練に参加していた。

見ていれば分かるが二人とも全集中・常中を習得できてない。

それでも伊之助はアオイやなほたちには勝ててるが

炭治郎君は誰にも勝てていない。

 

「(常中を教えるのは善逸君も参加してからでいいか)」

 

その日は任務だったので俺自身は参加せず任務へ向かった。

 

 

その更に十五日後

 

 

再び稽古場に向かってみればそこにいたのは炭治郎君だけで他の二人がいない。

アオイ曰く最初の内は他の二人も来ていたらしいが二日前から来なくなったらしい。

 

「放置していた俺も悪いとは思うが二人ははどこ行ったのかな?」

 

「すみません。」

 

「君が謝る必要はないよ。ただ二人の居場所を教えてほしい。」

 

「すみません、わかりません。」

 

「そうか。ならいいよ。本当は二人も含めて教えるはずだったんだけど

君にだけ教えよう。なぜ君がカナヲやアオイに勝てないか。

それは全集中・常中を習得してないから。」

 

「全集中・常中ですか?」

 

「全集中・常中というのは全集中の呼吸を四六時中続ける技術の事。」

 

「えっ?」

 

「それが出来るのと出来ないのでは天と地程の差が出来るんだ。

例えば基礎体力に大きな差が出来る。体力が上がればできることも当然増える。」

 

「そんなのがあるんですか?全集中の呼吸は少し使うだけでもかなり辛いんだが・・・

それを四六時中ですか?」

 

「最初はかなりきついと思うけど庭も好きに使うといいから頑張って。

炭治郎は芯の部分が他の二人より随分強いと思うから期待しているよ。」

 

「はい。やってみます。有難うございました。」

 

炭治郎は笑顔でお礼を言ってくれる。

正直この笑顔を見ているとほっこりする。

歳はそんなに変わらないけどこの少年だけは何としても守らないと。

そんな気持ちにさせてくれて少し心が穏やかな気持ちになった。

 

 

炭治郎視点

 

 

出来ない。全っ然出来ない。

飛鳥さんが教えてくれた全集中・常中はかなりきついのは分かっていた。

だけど全く続かない。長くやろうとすると死にそうになる。

苦しい、肺と耳が痛い。

 

「はぁはぁ・・・・あっ。」

 

耳を抑えその後両手を確認する。

 

「(びっくりしたー。今一瞬耳から心臓が飛び出たかと思った。)」

 

全然だめだ。こんな調子じゃ困った時は基本に立ち返れ。

 

呼吸は肺だちゃんと出来ないのは肺が貧弱なんだ。もっと肺を鍛えないと。

それから走り込みも並行して行っていく。

 

「ふがいなし」バチンッ

 

一度頬を叩き気合を入れてまた全集中・常中の習得へ向けて励む。

お昼時になって飛鳥さんがおにぎりを持ってきてくれた。

 

「疲れたろ、さあ食べるといい。お腹減っただろ。」

 

「ありがとうございます。頂きます。」

 

飛鳥さんのご飯はとても美味しい。

これを食べるだけで午後からも頑張ろうと思えてくる。

おにぎりはおいしかったがさっきから隣に置かれている瓢箪が気になった。

最初はお酒かと思ったがそんな匂いはしない。

分からないので聞いてみることにした。

 

「その瓢箪なんですか?」

 

「これ?これはただの瓢箪じゃなくて普通のより硬くてね、

これを吹いて破裂させて訓練をするんだ。

カナヲもやってたから君もやってみるといい」

 

「へぇー・・・・・・(破裂・・・?)」

 

「えっこれ?これを?あんな華奢な女の子が?」

 

「そう。そして割れたら段々大きくしていく。

因みに今カナヲが破裂させてるのはあれな。」

 

そう言いながら飛鳥さんは居間の端に置いてあるとても大きな瓢箪を指さす。

 

「(でっか!!・・・・・頑張ろ。)」

 

「まあ、最初からあれを破壊しろなんて無茶は言わないよ。

一つずつ確実にやっていくといい。」

 

「はい。おにぎり有難うございました。美味しかったです。」

 

「それは良かった。じゃ、頑張って。」

 

飛鳥さんは立ち上がり皿を持って去ってしまった。

 

「(飛鳥さん。いつも優しい匂いがしていい人だなあ。

でもやっぱりその匂いの中に微かに恨みの匂いがする。

何かあったのかな。)」

 

俺はその時はあまり気にせず鍛練に戻った。

 

 

数日後

 

 

鍛練を終えて風呂に入るため風呂場向かっていた俺は禰豆子の部屋の前で

カナエさんと飛鳥さんを見かけた。

 

「分かってるんだあの子が悪い鬼じゃない事は。でもやっぱりだめだ。

済まないけどしばらく一人にさせてくれ。」

 

飛鳥さんはそのまま奥へ向かっていった。少し泣いていた。

禰豆子の事を言ってるのはすぐわかったけど今話しかけられる雰囲気じゃ無かった。

 

「(今度カナエさんに聞いてみよう。)」

 

その時はそのままその場を後にした。

その日飛鳥さんからはいつもの優しい匂いは消えて悲しみと恨みの匂いがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四十一話 飛鳥の過去

今回若干エロ要素を入れました。
女性の方やエロ要素不要派の方
申し訳ありません。
それでもOKな方はどうぞ



炭治郎視点

 

次の日の夕方、その日はカナエさんと夕食当番だった。

朝から気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「あの カナエさん」

 

「なに?竈門君。」

 

「飛鳥さん何かあったんですか?」

 

「?どうして?」

 

「すみません。昨日禰豆子の部屋の前でお二人が話しているの聞きました。

最後の方だけですけど。その時の言葉が気になって。

あまり人の過去を聞くのはいい事じゃないと思うんですけど」

 

「構わないわ。私も本人から聞いただけだけれど。

本人も竈門君なら許してくれるとおもうから。でも夕食を食べたからね」

 

「はい」

 

その後夕食を食べたあとカナエさんの部屋へ話を聞きに行った。

そこには飛鳥さんもいた。

 

「カナエから事情は聞いたよ。すまなかったな。迷惑をかけた」

 

「いえ。俺の方こそすみません。勝手に知らないところで飛鳥さんの事を聞こうとして」

 

「気にすることないよ。君からしたら気になってしまう事も仕方ないさ」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあ始めましょう。飛鳥に何があったか。飛鳥が三歳の時の話から。」

 

「間抜けな鬼とそれに人生を壊された一人の人間ってだけなんだけどな。」

 

飛鳥さんは静かに話し始めた。

 

 

 

 

飛鳥視点過去。

 

 

その日はとても暑い夏の日だった。

俺の家族は両親と十歳ほど年の離れた姉二人に俺の五人家族だった。、

いつも通りの日常、そうなるはずだった。

その日の夜、いつも通り食事をしている時、それは来た。

 

「はっは~女の肉だ。よこせ~」

 

部屋に急に入ってきた鬼はそう言ってから手を前に突き出した。

赤い煙が掌から出て家族全員の周りに漂いだし全員が床に押さえつけられるように動けなくなった

 

「おい、喜美()真矢(長女)沙也(次女)、飛鳥大丈夫か?」

 

「無駄、無駄既にお前達は俺っちの血鬼術の支配下だからどれだけ動こうといても動けないよ

それよりお前は目障りだな。死ね」

 

そう言って父の頸が飛び俺の前に転がる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

恐怖で叫んでしまう。当時三歳にもなってない子供だった。

 

「うるせえガキだな。ま、いいやそこで見とけ。

お前には絶望を与えながら殺してやる」

 

鬼は父の体を食べながら言う。

すると押さえつけている母や姉が来ている服を無理矢理剥ぎ取り犯し始めた。

抵抗しようにも動くことが出来ないまま犯されていく姉達。

結局一晩犯された後一人ずつ殺された。

その鬼がバカで時間を忘れていたのか、それだけ姉の身体が魅力的だったのか。

それは分からないが俺を殺そうとして朝の光をあびた。

 

「しまったー。遊びすぎたー。き、消えるー。嫌だ消えたく無い。俺はま」

 

そのまま鬼は消滅してしまった。

後に残ったのは両親と姉達の死体と未だ床にうつ伏せになった俺。

昨日まで幸福だった日常が一夜にして絶望に変わっただった。

俺も死にたくなった。あるいは最後でなければ死ねたかもしれない。

それでも俺には勇気がなかった。

その代わり俺は恨んだ。父を殺し姉達や母を陵辱したうえで殺したあいつを。

幸い母方の親戚に拾われて育ててもらって愛を注いでもらって恨みに囚われることは無かった。

だがそこでも鬼により幸せを壊された。

家に帰るとそこには義親を喰う鬼が一人いた。

再び壊された俺は無我夢中でそいつを斬りまくった。でも直ぐに再生する。

仕方なく刀を突きつけ動きを封じ陽の光を浴びさせて殺した。

その後縁を頼って胡蝶家に転がり込んだがそこでもカナエの両親が殺されて

同様の方法で鬼を殺そうとしたがその途中で悲鳴嶼さんに救われて

師匠の所で修行して鬼殺隊士になり今に至る。

 

 

 

 

現在

 

 

「これが俺の過去、鬼を恨む理由さ。」

 

「そんなことがあったんですね。すみません。俺、我儘ばかり言って。」

 

炭治郎は泣いていた。優しい子だな。他人の過去にここまで泣いてくれるなんて。

 

「気にすることはないよ。君は君の信念を禰豆子さんを必ず人間に戻すという思いを

決して捨てずに頑張ってほしい。俺はこの恨みを捨てることは出来ないだろう。

今にも壊れそうなこの心が壊れてないのもカナエやしのぶが愛してくれるおかげだ。

今の俺は自分の事で精一杯だ。だから禰豆子さんの事を認めることがどうしても出来ない。

こんな俺を許してほしい。本当にすまない。」

 

謝罪の言葉を口にしながら頭を下げる。

本当に情けない奴だと思う。後輩の志を手助けするどころか応援することもできない。

精々珠世の依頼を少し協力しているだけだ。

 

「頭をあげて下さい。俺は絶対にあきらめません。禰豆子を人間に戻して見せます。」

 

「そうか。頑張ってくれ。」

 

「はい。後気になったんですけど鬼って女性を犯すんですか?」

 

「一時期ね。十二鬼月並みの強さを持つ鬼はそうやって

鬼の子を作ってたらしいわ。鬼の子は

生まれた瞬間からかなり強いからそれなりの数いたらしいけど

弱点が増えたのと相変わらず太陽には弱かった事、体が一年ほどで消滅してしまう事、

そして何より子を作るための鬼がその快感に負けてしまって太陽が登っても

身を隠す事なく続けてそのまま消滅してしまう事が多かったから

無惨がやめさせたんじゃ無いかって。お館様の推測だけど。」

 

「そんな事が有ったんですね。でもどうしてわかったんですか?」

 

「先代の柱達の何人かが捕まえて調べたらしい。」

 

「なるほど。今日は有難うございました。おやすみなさい。」

 

「ああ、お休み。」

 

そう言って炭治郎君は部屋を出ていった。

 

 

炭治郎視点

 

 

飛鳥さんの話を聞いて驚いた。

聞いてるだけでつらくなる過去。もし俺がその立場だったらどうだっただろう。

生きて行けただろうか?分からないけど俺にできるのは頑張る事だけだ。

明日から頑張ろう。少しでも早く常中を習得して飛鳥さんにむくいるんだ。

俺は志を新たにその日は眠った。

 

 

 



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第四十二話 機能回復訓練弐

炭治郎視点

 

翌日からまた全集中・常中の習得の為に修行を庭で行う。

 

「(よし、少しずつだけど体力が戻ってきた。以前より走れるし肺も強くなってきた。

昼間は走り回って肺を酷使した。だから今はゆっくり呼吸して指先まで空気を巡らせる。

集中だ。集中しろ。鱗滝さんや飛鳥さんの言ってた事を思い出せ。)」

 

全集中・常中も大体出来てきてる。でもどうしても寝てるときは全集中の呼吸を

やめてしまっているかもしれない。どうすればいい?

 

一人では無理だ。かと言って飛鳥さんや他の隊士の皆さんは任務があるから無理だ。

そうだあの子たちならいけるかもしれない明日の朝聞いてみよう。

 

 

翌朝

 

 

「なほちゃん、きよちゃん、すみちゃん。俺の修行手伝ってほしい。

俺が寝てる間全集中の呼吸を辞めたらこの布団たたきでぶん殴ってくれないか。」

 

彼女たちは修行中時々おにぎりを作って持ってきてくれた。

更に蝶屋敷では上弦の弐の襲撃以降隊士一人と屋敷の人間が二人

見回りの為夜交代で起きていることがある事を知っていた。

そこで見回りついでに頼んだという訳だ。

 

「「「いいですよ。」」」

 

「カナエさんや飛鳥さんにも頼んで見てもらうように

言っておきますね。」

 

「アリガトウ。」

 

これで大丈夫だろう。皆には悪いけど。

 

 

夜カナエ視点

 

 

 

「炭治郎さん、どうかな?」

 

「出来てるかな。」

 

「どうかな?」

 

「出来てるといいわね。でもたぶん。」

 

「ああ。だが案外できてるかもしれないぞ。あいつは真面目だからな。」

 

飛鳥がここまで言うなら期待してもいいかもしれないわね。

そんなことを考えながら竈門君の部屋をのぞくと今は出来てるようだが

暫くするとやめてしまった

 

「むしろ二時間持っただけでも凄いと思うわ。じゃ、お願いね。」

 

「「「はい。」」」

 

なほ、きよ、すみは布団たたきで竈門君を叩く。

 

「(痛そうね)」

 

見ててそう思うわ。

 

もう一度お願いします。

 

「「「どうぞ!!」」」

 

そう言って出ていく。

 

 

それから十日後飛鳥視点

 

 

「んじゃ、この十日間の成果を見せてくれ。これが今カナヲが破裂させている瓢箪だ。

なほたちからこれに近いものを破裂させれていることは聞いたからこれで試してみようか。」

 

「はい。」

 

瓢箪を吹き始める。いい感じだ。

 

「「「がんばれ、がんばれ、がんばれ。」」」

 

なほ、きよ、すみも一緒にいて必死に

応援している。

 

そしてついに破裂した。

 

「「「割れたー。」」」

 

「やったー。」

 

「よし。いいな。アオイ達を待たせているから

そこでこの前みたいに勝負してくるといい。

今度は勝てるだろう。」

 

「はい。」

 

走って鍛錬場にかけていく。

少しじじ臭いかもしれないがとても真っ直ぐな子だと思う。

それから山で動物たちと戯れていた伊之助と菓子を盗み食いしていた善逸を捕まえて訓練場に

向かってみると丁度反射訓練をしていて炭治郎君とカナヲがいい勝負をしていた。

 

「見ているといい。伊之助、善逸。」

 

「「はい。」」

 

見ていると遂に炭治郎君がカナヲの防御より速く湯呑を掴みカナヲの顔にかける。

と思いきや湯呑をそのまま頭の上に置いた。

 

「勝ったー!!」

 

「勝ったのかな?」

 

「かけるのも置くのも同じだよ。」

 

三人と炭治郎君は勝てたことに大いに喜びカナヲはきょとんとしている。

それを見てから

 

「どうだい。これが君たちが遊んでいた間に炭治郎が頑張った成果だ。

はっきり言えば差だな。さぼっていた者と頑張った者、当然差はどんどん開く。

炭治郎はさぼるという事を知らないしどこまでも実直だ。

当然どんどん上に昇っていく。位、実力共にね。

そうなった時、横で共に戦うのか後ろで守られるかどちらがいい?

もっとよく考えるんだね。」

 

少しきつめに言う。

二人を見ていると

 

「いいわけねー。あいつにだけは負けたくねー。俺は誰にも負けねー。」

 

伊之助はそう言うと炭治郎君の元まで行くと

 

「俺はお前に負けたくねー。でも今お前に向かって言っても俺は勝てねー。

だからお前がこの一月で身に付けたことを俺に教えろ。」

 

と頼んでいるのかと聞きたくなる頼み方で頼んでくる。

 

「うん。やろう、伊之助。」

 

それを聞いていた善逸に

 

「善逸は前線に出るのが怖いか?」

 

「はい。」

 

「そうか。それが当り前さ。怖くて当たり前。その場その場の選択が命に係わるんだから当然だ。

だから鍛練するんだ。その選択肢を増やすために。」

 

「でも俺なんかどれだけ頑張っても。」

 

「いいか。善逸。自分を信じるんだ。俺や師範、炭治郎たちが信じるお前を信じるんだ。

でないとどれだけ努力しても無駄だ。自分を信じない奴に努力する価値も意味はない。」

 

「!!」

 

「前を向き自分を信じて初めて今まで努力が実るんだ。分かるな。

泣いていい、逃げていい、ただ諦めるな、信じるんだ。」

 

「はい。」

 

そう答える善逸君の目はさっきまでと違い澄んでいた。

 

「そうか。理解したなら後は進むだけだ。」

 

「はい。」

 

 

善逸も炭治郎の下に向かいその中に加わる。

 

「いいこと言うじゃない。ちょっとカッコよかったわ。」

 

「そうか?ってきいてたのか?しのぶ。なんか恥ずかしいな。」

 

「これであの二人も前に進めるといいわね。」

 

「だな。」

 

三人の方を見る。

如何やら炭治郎君は爆裂に教えるのが下手なようで二人とも全く理解出来てない。

 

「仕方ないか。あっしのぶちょっと協力してくれ。」

 

「いいけどなにをすればいいの?」

 

「善逸を励ましてほしい。

そうすれば奮起もして一石二鳥だ。」

 

「分かったわ。任せて」

 

二人で炭治郎君達の元へ行き炭治郎君と同じ説明をする。

その時に俺が伊之助に

 

「これは基本的技術だから出来て当然なんだけどな。

でも会得するには相当な努力が必要なんだけど出来て当然の事なんだ。

まぁ出来ないなら仕方ないさ。気にするな。」

 

と煽り伊之助はぶちぎれて奮起し

善逸はしのぶが

 

「頑張ってください。善逸君一番応援してますよ。」

 

と満面の笑みを作り励まして奮起させた。

その甲斐あってか二人とも九日程で習得した。気持ちって大事だね。

 

その後、型と呼吸の矯正を行った後、

しのぶや早紀も参戦しての呼吸有りの実戦形式の稽古を一月行った。

最初は追いつけなかったがが最後は三人でなら何とか追いつけるにまで成長した。

 

 

更に数日後

 

 

炭治郎君と伊之助の刀が届いた。その時に一波乱あったらしく

炭治郎君はすごく疲れてえいた。

 

二人が刀鍛冶とあってる最中俺はお館様に会いに産屋敷邸を訪れていた。

 

「お呼びと伺い参上いたしました。お館様。」

 

「よくきてくれたね、飛鳥。今日呼んだのは例の三人の事なんだ。

その後成長ぐあいはどうかな?」

 

「はい。三人とも高い水準で鍛えられたと思っております。

今なら下弦の鬼とも互角以上に戦えるでしょう。」

 

「そうか。ならちょうどいいかもしれないね。

飛鳥に頼みたいことがあってね。

杏寿郎と共に無限列車を調べてほしい。

そしてその任務に三人を連れて行ってほしいんだ。」

 

「承知いたしました。では数日以内に向かいます。」

 

「頼んだよ。」

 

「はっ。」

 

俺はその足で煉獄さんの家に向かい予定を詰めて蝶屋敷に帰った。

 

 



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無限列車編
第四十三話 無限列車 壱


三人称視点

 

 

清水飛鳥、煉獄杏寿郎、竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の五人は馬車に乗り

ある場所に向かっていた。ある場所とは駅である。

無限列車と呼ばれる列車の中に鬼が現れるという情報が入った。

被害の数から十二鬼月の可能性ありと判断され

柱を二人と飛鳥の元で修行している三人を派遣した。

今は飛鳥が馬車を操り隣の煉獄と話していて

炭治郎達はそれを静かに聞いているだけと言う状況だった。

 

「杏寿郎はどう思ってる?十二鬼月だと思うか?」

 

「被害を考えたらその可能性は高いだろう。

十二鬼月ではなくともそれに近い鬼である事は間違いない。

何にせよ俺たちは任務をこなすのみだ。」

 

「だな。被害が出ている列車も一つだけだし単体の可能性が高いだろう。」

 

「うむ。だが油断せずに行くぞ。」

 

「はい。」

 

暫くして一行は駅に到着した。

 

杏寿郎は少し離れると言ってどこかへ行き、

今は飛鳥、炭治郎、善逸、伊之助の刀を隠して四人で煉獄を待っている状態だった。

何やら伊之助が震えているようだ。

 

「オイオイオイなんだ。この生き物は?」

 

「「は?」」

 

「こいつはアレだぜこの土地の主。この土地を統べるもの。

この長さ威圧感間違いねぇ今は眠っているようだが油断するな!!」

 

警戒心を剥き出しにする伊之助に、善逸は呆れた様子でため息をつき、

「いや、汽車だよ。知らねぇのかよ?」と答えた。

 

「シッ落ち着け!!」

 

そんな善逸を伊之助は乱暴に制止させると、刀に手をかけ攻め込もうと構えた。

が、それを炭治郎が静かに制止させる。

流石は炭治郎と言いたげに善逸が顔を向けると、炭治郎は真剣な面持ちで口を開いた。

 

「この土地の守り神かもしれないだろう。それから、急に攻撃するのはよくない」

 

真面目におかしなことを言う炭治郎に、善逸はこの上ない程の呆れ切った視線を向けた。

 

「いや、汽車だって言ってるじゃんか。列車。わかる?乗り物なの、人を乗せる・・・この田舎者が」

 

とツッコミをいれ、この一連の会話を聞いていた飛鳥は笑うのを必死に堪えている。

当然と言えば当然でこれまで山で育ち都会へ行ったこともない伊之助や炭治郎が

都会の建物や汽車を知るはずがないのだ。

 

「列車?じゃあ飛鳥さんが言ってたのはこれか?」

 

「そう

。今杏寿郎が切符を買いに行ってくれてるから少し待っててくれ。」

 

「はい、てか伊之助は何やってるんだ?」

 

飛鳥と炭治郎が話していると伊之助が徐に列車から距離をとった。

不思議に思いながら見ていると伊之助は突如声高らかに「猪突猛進!」と叫び、

あろうことか頭から列車に突進した。

 

やめろ、恥ずかしい。

 

この大馬鹿、ただでさえ伊之助は目立つんだから変なことするな。

 

善逸と飛鳥が慌てて伊之助を羽交い絞めにして引きはがすと、

騒ぎを聞きつけたのか駅員が警笛を鳴らしながら走ってきた。

 

「何をしているんだ、君たち?」

 

「すみません。田舎から出てきたばかりの従兄弟が汽車が珍しいらしくて

興奮してしまい頭をぶつけてしまいました。」

 

「全く子供のしつけ位しっかりやってくれよ。」

 

「すみません。以後気負付けます。」

 

「ほんと頼むからね。」

 

そう言って駅員は戻っていった。

 

駅員がいなくなるのを確認すると善逸は伊之助のせいで散々な目に遭ったことを責めた。

それに対して伊之助は、何故警官から逃げ出さなければならないと詰め寄る。

 

「政府公認の組織じゃないからね、俺たち鬼殺隊は。

堂々と刀持って歩けないんだよ、ホントは。鬼がどうのこうの言っても、

なかなか信じてもらえないし、混乱するしね。中々難しいんだ。」

 

「一生懸命頑張っているのに」

 

落ち込む炭治郎に飛鳥は

 

「そう言うもんさ。お偉いさんは。国を動かすことしか考えていないんだ。

ま、さすがに全くの無視という訳ではないよ。少しだけど支援してくれている。

流石に公認組織じゃないから表立って支援はしてくれないけど。

かなり融通を聞かせてくれてる。例えば警察とかね。

実際警察逮捕された隊士はいないよ。されてもすぐ釈放される。

それに金に関しても支援してくれてる。

でないといくら産屋敷家が平安の世から続く名家と言えど

これだけの隊士を養う事は出来なかっただろうね。」

 

と言って鬼殺隊の裏を説明する。

そうこうしているうちに杏寿郎が戻って来た。何故か大量の弁当を持って。

 

「待たせてしまって済まない。では乗り込もうか。」

 

そのまま杏寿郎は汽車に乗り込んで行く。

弁当の多さに呆れていた飛鳥達は慌てて後を追うのだった。

 

 



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第四十四話 無限列車弐

「うおおおおお!!腹の中だ!!」

 

車内に入るなり伊之助は興奮が最高潮に達したのか、声を上げて騒ぎ出した。

 

「主の腹の中だ!!うぉおお!!戦いの始まりだ!!」

「うるせーよ!」

 

そんな伊之助に善逸が声を荒げながら制止する。

車内には数人の客が降り、眠っている者、会話をしている者、色々いる。

飛鳥達は空いている席に座る。

 

「うまい!うまい!うまい!」

 

煉獄がものすごい速度で大量の弁当を平らげて一口食べるごとに

うまい」と大声で叫んでいた。

それを炭治郎と善逸は呆れてみていた。

 

「あの煉獄さん?」

 

「無駄だよ。杏寿郎は食べる時絶対うまいって叫びながら食べるから

会話にならないんだ。食べ終わるのを待った方がいい。」

 

「そうした方がいいよ炭治郎。これじゃ話にならない。」

 

「そうする。」

 

話しかけようとした炭治郎を飛鳥と善逸が止める。

炭治郎を止めると飛鳥は目を閉じて辺りの気配を探る。

 

「(なんだ。この列車中から鬼の気配が?前の方か?調べてみるか。)」

 

飛鳥は立ち上がり炭治郎に声を掛ける。

 

「炭治郎、悪いが少しここを離れる。後頼んだ。」

 

「はい。」

 

飛鳥はそのまま一両目まで歩いて行く。

 

「(やはりそうだ。前に行くほど気配が増していく。

この感じだと前の機関車の部分か?)」

 

一両目まで来て炭水車の方まで向かおうとすると

 

「すみませんお客様。そこから先は関係者以外立ち入り禁止です。」

 

と男が声をかけてきた。

 

「そうですか。それはすみませんでした。」

 

飛鳥は踵を返して歩き出す。丁度列車も走り出したようだ。

 

「(まだ場所に関しては確信できた訳じゃないが間違いなくいる。、

怪しいのは機関車部分か。)」

 

飛鳥はこれまでの調べで分かったことを確認しながら席に戻った。

 

 

 

 

席に戻ると煉獄と炭治郎が話していた。

その隣で伊之助が窓から乗り出して「うおおおお!すげえすげえ速えええ」と叫んで

善逸はそれを必死になって止めていた。

飛鳥は呆れながら煉獄の隣に座る

 

「戻ったか。でどうだった?」

 

「いる。確実に。」

 

「やはりそうか。では気を付けるとしよう。」

 

「ああ。で何話してたんだ?」

 

「ああ竈門少年達がこの一月清水に鍛えてもらったと聞いたのでな。

それについて聞いていたのだ。」

 

「そうだったな。三人とも筋はいいと思う。」

 

「そうかそれは何よりだ。」

 

「でも俺達誰も飛鳥さんに追いつけなかったし。」

 

「そんな事はないよ。君たち三人は十分強くなってるさ。」

 

飛鳥は少し微笑みながら炭治郎を褒めた。

 

「気にすることはないさ。竈門少年。清水の速さは鬼殺隊でも最強だ。

俺も勝てない。」

 

「そうなんですか!」

 

「ああ。ふがいないことだがな。でも安心してはいけない。

絶対追いつくことを心に決めて更に修練を積むんだ。」

 

「はい。」

 

炭治郎がさらに頑張る事を心に決めている時、

ふらりと車掌の男が現れ、杏寿郎、飛鳥は己の切符を差し出した。

 

「切符……拝見……致します」

 

 炭治郎は見慣れない光景に首を傾げた。

 

「何ですか?」

 

「車掌さんが、切符を確認して切り込みを入れてくれるんだよ」

 

 丁寧な飛鳥の説明に、炭治郎は飛鳥たちに習うように切符を差し出した所で、

匂いで何かを察する。 切符からは、何だか嫌な匂いがしたのだ。

だが、切符は切り込みが入れられる。

善逸と伊之助も同じように入れられた所で、この車両での切符の確認作業は終了した。

 

「……拝見しました」

 

車掌のその言葉を聞く者は居ない。

車両に居た全ての人間が眠りに就いてしまったのだから。

車掌はそれを確認してから、次の車両へ移動して行った。

 



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第四十五話 無限列車 参

 気が付くと飛鳥は家の前立っていた。

 

「俺の家」

 

飛鳥が目にしたのは鬼のせいで十年以上前に亡くなったはずの家。

そして次の瞬間、飛鳥は目を丸くする。

 

「ほら飛鳥、早くお家に入りなさい。風邪を引いてしまうよ」

 

 そう言ったのは、飛鳥が幼い時に鬼の襲撃のせいで亡くなった母だ。

母が家の玄関の扉の前に立って、こちらを向き手を振っていたのだ。

母の隣に居る父も姉もいる

 

「飛鳥。今日は、お前の好物らしいぞ」

 

飛鳥の父は、笑みを浮かべてそう言った。

飛鳥は「そうか」と納得した。彼の両親は既に他界している筈だし、

飛鳥本人は、この後母方の親戚の家族に拾われて育ててもらったのだ。

だからこれは、夢だと。でも、脱出方法は?

血鬼術ならば、日の光を浴びるのが手っ取り早いのだが、

ここは夢の中である為、その方法を取ることが出来ない。

それにこの夢から覚めたくなかった。たとえこれが血鬼術だとしても。

最初はそう思った。でも夢はいつか覚めるもの。いつまでもここにいるわけにはいかない。

 

「(もどろう)」

 

そう思った瞬間ボウッ、と飛鳥の体が燃え、鬼殺隊の隊服に腰に下げている日輪刀が映る。

 同時に、飛鳥は意識が浮上するのを感じた。――現実世界への帰還だ。

 

 

少し時間を戻る。

魘夢から手渡された縄を介し飛鳥の心に浸入した青年は、

右手に携える杭で夢の空間の切り裂き、外側にある核の世界に浸入する。

その瞬間、彼は目を見開いた。

青年が見たのまさに阿鼻叫喚という表現が相応しい地獄ような空間だった。

それを見た瞬間夢の世界へと戻った。

 

「な、な、な、なんなんだよあれ・・・地獄なんてもんじゃない・・・。

い、いや。人間の世界じゃない・・・あんなところに精神の核があるのか・・・?

あんなところに、行かなきゃならないのか・・・?」

 

青年が見たのは飛鳥が無意識のうちに抱いてきた恨みと殺意。

本来ならとても抑えられるものではない。

飛鳥自身無意識のうちに抑えているが鬼には生まれてきたことを後悔するぐらいの苦痛を与えながら

嬲り殺しにしてやりたいとすら思っている。だが飛鳥はこれを必死に抑えてきた。

カナエやしのぶと出会わなければもしかしたら抑えきれずに恨みに身を

任せていたかもしれない。それくらいのものだった。

 

「無理だ。あんなの超えられるはずがない」

 

ここで青年の心は折れてしまった。

と同時にどうしてこれほどの恨みを抱えながら俺の様に逃げなかったのだろうと思った。

自分は逃げたのにと。

実はこの青年と飛鳥は似たような境遇にあった。

違ったのは青年から全てを奪ったのが鬼ではなく人だったこと。

手を差し伸べてくれる人もいた。でも青年は耐えられなかった。

そんな時にこの話が来た。青年の故郷では鬼の事は誰でも知っている話なので

魘夢がこの話を持って来た時目的も利用されている事も分かっていた。

それでも青年はこの話を受けた。少しでもいいから幸せな時間を味わいたかったから。

青年は後悔した。何故この人の様にしっかりと生きることを選ばなかったを。

と同時に憧れた。これほどの恨みを抱えながら自分の様に

逃げることもなく耐えている彼を。

そこで夢が覚めた。

 

 

飛鳥が目覚めると近くに禰豆子がいた。

手を見れば縄がかけられており縄が焦げて切れている。

 

「お前が戻してくれたのか?」

 

「う~」

 

禰豆子は頷く。

 

「そうか。ありがとう」

 

周りを見れば伊之助と善逸はぐっすり眠っていて杏寿郎は眠ったまま女の子の

頸を締め上げている。それぞれ腕に縄が巻かれている。

一方炭治郎は叫びながら目を覚ました。

 

「大丈夫か?炭治郎」

 

「はい」

 

「全く情けない限りだよ。柱のくせに敵の攻撃に気づかないなんて。

ほんと穴があったら入りたい気分だ。」

 

飛鳥が立ち上がりながらそう言う。

飛鳥は、ピクリ。と片眉を動かして、鬼の気配を察知する。

 

「鬼は先頭車両だね」

 

「分かるんですか?」

 

「ああ。生まれつき気配感知に長けていてね。おおよその方角は分かるんだ。

それより今は他の三人を助けようか」

 

「はい。禰豆子。三人の縄を燃やすんだ!」

 

炭治郎の言葉に禰豆子は小さくうなずくと、爪で自分の手のひらを傷つけその血を縄に付着させた。

瞬く間に縄が燃え上がり、炭化して崩れていく。

しかも燃えているのは縄だけで、人や服は一切燃えていなかった。

 

「これでしばらくすればおきるだろう」

 

「はいそうでs「危ない」!!」

 

咄嗟に飛鳥によって引き寄せられた炭治郎は後ろを見た。

そこにいたのはさっきまで煉獄によって締め上げられていた女の子だった。

 

「(なんだ!?鬼に操られているのか!?)」

 

「邪魔しないでよ!あんたたちが来たせいで、夢を見せてもらえないじゃない!」

 

「自分の意志で?」

 

「おおよそ幸せな夢を見せてもらえるとか言われて話に乗ったんだろう。

弱みに漬け込んだ汚いやり方だな」

 

「なんて奴だ。」

 

飛鳥が推測を述べて炭治郎がそれに憤る。

その間もほかに二人、錐を取り出し構えながら近づいてくる。

 

「何してんのよ!あんたらも起きたら加勢しなさいよ!

結核だか殺人鬼に家族を殺されただか知らないけど、

ちゃんと働かないなら“あの人”に言って夢見せてもらえないようにするからね!」

 

少女の声に、ゆっくりと起き上がったのは涙を流す二人の青年。

 

「(まだいたのか。俺と飛鳥さんと繋がっていた人たちだろうか)」

 

炭治郎は二人から、悲しみと後悔の匂いを感じた。二人が夢の中で何を見たのかはわからないが、

二人からはもう敵意の匂いは一切なかった。

 

するとその二人は急に錐を構えている三人の内の二人を組み伏せにかかった。

 

「何してるのよ。そん事したらほんとに夢を見せてもらえなくするわよ」

 

「構わない。例えこの後殺されることになるとしてももう逃げない。

夢はいつか覚めるものだ。夢に浸って居ても現実は変わらない。

なら俺は彼の様に少しでも前を向いて歩むんだ」

 

そう言いながら再び組み伏せる。

だが力がないのか次第に押しのけられてゆく。

その時に飛鳥は三人に充て身をくらわし気絶させた。

 

「大丈夫か?」

 

「立てますか?」

 

飛鳥は片方の青年に手を差し伸べる。

炭治郎も同様にもう片方の青年に手を差し伸べた。

 

「「有難う」」

 

青年たちは引っ張り上げられながら立ち上がりお礼を言う。

 

「では俺たちは行きます」

 

「まだ戦いがあるので。大丈夫ですか?」

 

「本当に世話になった。ありがとうそしてすまなかった」

 

「・・・・・ありがとう、気を付けて」

 

「「はい。」」

 

二人の感謝の言葉に少し嬉しくなりながら二人は屋根に上がり先頭車両に向かった。

そんな二人を見送りながら、青年達は心から精神の核を壊さなくてよかったと思うのであった。

 

 

 

 

先頭車両に到着すると、先頭の車両の上に佇んでいた魘夢は気安く声を掛ける。

 

「あれぇ、起きたの。おはよう、まだ寝てて良かったのに」

 

ひらひらと手を振る魘夢の姿に、炭治郎は魘夢に話し掛ける。

 

「なぜお前は、関係の無い人たちを巻き込んだ?」

 

「聞いてないの?あの子たちはもう先がない。だから、オレが夢を見せる約束をしたんだ」

 

「それから、精神を破壊してから喰う、ということか」

 

魘夢は「そうそう、夢心地だろう」と笑う。

それを聞いた炭治郎は、青筋を浮かべ日輪刀を抜く。

 

「お前!人の想いに漬け込むな!(水の呼吸 拾ノ型 生々流転)」

 

炭治郎の周りに青き龍の姿が漂うようになり、炭治郎は走り出す。

それは勢いを付けると大きくなり、魘夢に牙を向ける。

 

「気が早いなぁ」

 

 魘夢は、炭治郎に向けて左手の甲を差し出す。

 

「(血気術 強制昏倒催眠の囁き。)」

 

飛鳥は魘夢の左手の甲についてた口が開く前に

 

「(雷の呼吸壱の型霹靂一閃。)」

 

居合の構えからの一閃で魘夢に左腕を斬り飛ばしたのだ。

頸を取れたら一番良かったが、死角になっていた為左腕を斬り飛ばすのが限界だった。

だが攻撃はまだ残っている。

 

「オレたちの想いを、利用するなアァアアァッ!」

 

炭治郎の刀が魘夢の頸を飛ばすが、斬った手応えが無い。

頸だけになった魘夢は口を開く。

 

「あの方が、“柱”に加えて“耳飾りの君”を殺せって言った気持ち、凄くわかったよ。

存在自体が何かこう、とにかく癪に障って来る感じ。」

 

炭治郎は「死なない」と呟きながら目を丸くする。

 

「素敵だねその顔、そういう顔を見たかったんだよ。

気になるよね。なぜ頸を斬ったのに死なないのか。

それはね、それがもう本体では無くなっていたからだよ。今喋っているこれもそうさ、

頭の形をしているだけで頭じゃない。

君たちがすやすやと眠っている間に、オレはこの汽車と融合した!」

 

魘夢は、飛鳥と炭治郎を見ながらニタニタと笑う。

 

「この汽車全てが、オレの血肉であり骨となった。

つまり、この汽車の乗客二百人余りがオレの体を更に強化する餌。

そして人質。ねぇ、守りきれる?君たちだけで。

この汽車から端から端までうじゃうじゃとしている人間全てを

オレに“おあずけ”させられるかなぁ?」

 

魘夢は「うふふ」と言って、列車の屋根に溶け込んで消える。

魘夢の言葉に弾かれるように、飛鳥と炭治郎は列車内へ戻った。

そこで目にしたのは、天井や椅子の端から肉塊なようなものが盛り上がり、

乗客を包み込もうと蠢いているのだ。

 

「まずい。(雷の呼吸肆ノ型 遠雷)」

 

雷を身にまとった飛鳥の広範囲攻撃が肉塊だけを破壊してゆく。

 

「(水の呼吸 参ノ型 流流舞い)」

 

炭治郎は水流に身を任せて流れるように、狭い通路や座席の間を移動しながら肉塊を斬り灰に還す。

だが直ぐに再生を開始する。

そこへ、後方車両から誰かがやって来る気配を捉える。この気配は杏寿郎のものだ。

煉獄の到着と同時に車両が揺れ、目の前には煉獄の姿。

 

「ここまで来るまでに斬撃を入れて来たので鬼の再生にも時間がかかると思うが、

余裕はない、手短に話す。この汽車は八両編成だ!なので、飛鳥とオレで四両づつ守る。

竈門少年たちは、三人で鬼の頸を探せ!」

 

杏寿郎の言葉は簡潔だった。

それから、飛鳥は刀を握り直し口を開く。

 

「炭治郎。車両の乗客は、杏寿郎と俺に任せろ。

炭治郎は、善逸たちと協力して鬼の頸を落とせ」

 

「わかりました。まずは、善逸たちと合流します」

 

「うむ!急所を探りながら戦おう、君たちも気合いを入れろ!」

 

 そう強く言うと、煉獄は凄まじい勢いで後方車両に向かい、

炭治郎は善逸たちと合流する為走り出し、

飛鳥は納刀し、居合の構えを取る。

 

「(雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃。)」

 

 凄まじい勢いで前方に加速し、姿が見えなくなる。

 そう、一人では出来ないことは仲間がいれば出来る。

そう信じて各自は行動を起こしたのだ。

 



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第四十六話 上弦の参

鳥は後方車両で暴れていた。

 

「(雷の呼吸壱の型 霹靂一閃、

  雷の呼吸弐の型 稲魂、

  雷の呼吸肆ノ型 遠雷」

 

技を放ち、ボタボタと肉塊を斬るが、すぐに車両に吸収されてしまう。

その時、凄まじい断末魔が車両全体を揺らした。

現在の魘夢の体は列車そのものだ。彼がのた打ち回ればその分、列車全体も跳ねるのだ。

このままでは、列車が脱線して乗客の命が失われてしまう。なので、

飛鳥は車両の窓から外へ飛び出し、刀を振るう。

 

「(雨の呼吸肆ノ型 斬雨)」

 

飛鳥から放たれる無数の斬撃は後方車両の頭上に降り注ぎ、

斬撃の重力で動きを停止させる。だが無数の斬撃の雨で、列車頭上のへこみ具合が凄まじい。

前方四両も杏寿郎のおかげで人的被害は軽微なようだ。

 

飛鳥が乗客の状況を確認しながら前方へ向かうと鼻水を垂らしながら

「炭治郎ぉぉおおっ!」と叫ぶ善逸と何故か汽車に体当たりをかます伊之助、

そして明るく笑う杏寿郎がいた。

 

「杏寿郎、お疲れ様。何かあったのか?」

 

善逸と杏寿郎で状況が余りに違いすぎるので飛鳥は杏寿郎に尋ねる。

話を聞けば汽車が脱線した際に炭治郎が善逸をかばって頭をぶつけたらしい。

少し出血しているが特に問題はないとの事。

伊之助は炭治郎に頼まれて一足先に乗客の救助に向かって体当たりしているのは

汽車に足を挟んだ運転手を救助している最中との事。

 

「そうだったのんか。まあとにかくこれで任務完了だ」

 

「うむ。少々情けない場面はあったがそれは次に生かそう。

とにかく怪我人は多いが命に別条は無い!竈門少年も無理せずに休むといい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

その時飛鳥が強い気配を感じたり森の方をみる。

 

「如何やらそうはいかないみたいだ。物凄い速さで近づいてきている奴がいる。

もう数秒で来る。臨戦態勢を取るんだ」

 

飛鳥が言い終わるのとほぼ同時にドオンという地面を抉る凄まじい衝撃音が響く。

煉獄の数メートル前に着地したのは、右瞳に“上弦”、左瞳に“参”と刻んでいる鬼。

十二鬼月、上弦の参だ。

上弦がどうしてここに?という疑問が上がるが、それ以上に、この場の圧迫感が凄まじい。

そして上弦の参は、炭治郎たち目掛けて加速する。

 

「(まずい。雷の呼吸伍ノ型 熱界雷)」

 

「(炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天)」

 

飛鳥と杏寿郎は瞬時に抜剣し、型を繰り出す。

杏寿郎は円を描くように炎の斬撃を、飛鳥は下から上に描く雷の斬撃を放ち、

炭治郎たちに迫っていた上弦の参の両腕を切断し吹き飛ばした。

少し離れた上弦の参は瞬く間に腕を再生する。

 

「なぜ手負いの者から狙うのか、理解できない」

 

「話の邪魔になると思った。オレとお前たちの」

 

煉獄の問いにそう言い返しながら上弦の参は飛鳥と煉獄を値踏みするような目で見ている。

飛鳥は刀を構え直しながら、

 

「善逸、炭治郎を頼む。こいつは俺と杏寿郎で相手する」

 

言われて善逸は炭治郎を守れる位置に着く。

炭治郎も刀を取りいつでも戦える態勢を取る。

上弦の参は再び炭治郎に向かおうとするが飛鳥が立ちはだかりそれを阻止する。

 

「……なぜお前たちは、弱者を庇う。オレからしたら、弱者は見たら虫唾が走る」

 

だから嫌いだと、上弦の参はそう呟く。

 

「やはり、オレたちと君は物事の価値基準が違うようだ」

 

「そうか。なら素晴らしい提案をしよう。お前達も鬼にならないか?」

 

「ならない」

 

「同感」

 

煉獄と飛鳥は上弦の参の提案に即座に断った。だがそれでも上弦の参は諦めない。

 

「見れば分かるお前たちの強さ。柱だな。その闘気、練り上げられている。

見事だ。ここまで至高の領域に近い人間はそうはいない。

名を聞いておこう。俺は猗窩座」

 

「俺は炎柱 煉獄杏寿郎。」

 

「雨柱 清水飛鳥。」

 

「覚えておこう。それで杏寿郎に飛鳥。なぜお前達が至高の領域に踏み込めないのか

教えてやろう。それは人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ。

鬼になれ。杏寿郎、飛鳥。鬼になれば百年でも二百年でも永遠に鍛錬ができる。強くなれる。

お前達の目は強さを求める者の目だ。鬼になればそれも叶う」

 

漆黒にに染まった手で飛鳥達を指さしながら人という種に対する侮蔑の言葉を並べる。

 

「永遠?」

 

永遠という言葉に飛鳥が反応する。

飛鳥は武人の世界で数千年の修行をした人物だ。それ故に猗窩座の言う事が理解できる。

殆どの人間は猗窩座の言うところの至高の領域にたどり着く前に老いが始まり

そこからは低下していく。どれだけ強者でも人である以上、その定めから逃れる事は

出来ない。だが、それを経験したからこそ分かる。修行期間何度も考えた。

己がこの世で最も愛する姉妹の事を。だからこそ言う。

 

「確かに人は老いるしいつかは死ぬ。

殆どの人間がお前の言うところの至高の領域にたどり着く者はいない。

精々全体の一握りいるかいないかだろう。いやもっと少ないかもしれない。

だからお前が言う事も理解できないわけじゃない。」

 

飛鳥の言に杏寿郎は少し驚いた様に飛鳥を見る。

 

「だが死ぬことも老いることも人間という生き物の美しさだ。

咲いて直ぐに散る花が美しいようにな。

老いるからこそ、そして死ぬからこそ誰かを愛し守り何かを残そうとする。

だからこそ尊く美しい。

それと勘違いしているようだから教えてやる。

強さは肉体だけじゃ意味がない。その強さに見合う心がなければ意味がない。

心と肉体を強くして初めて真の強者となる。

だからこそ俺は貴様に何を言われようと鬼にはならない。」

 

「うむ。よく言ったぞ飛鳥。おれも同意見だ。」

 

驚いた顔をしていた煉獄は飛鳥の言を聞いて少し喜ぶと

また真剣な顔に戻り猗窩座を見る。

逆に猗窩座はあからさまに残念そうな顔をして「そうか。」といい、

 

「なら殺す。(術式展開 破壊殺・羅針。)」

 

そして互いに突っ込むその動きは炭治郎達には見えない動き。

猗窩座は縦横無尽に飛び回りながら攻撃してくる。

飛鳥は透き通る世界に入る。

 

「(!闘気が消えた?あり得ない。生まれたばかりの赤ん坊ですらわずかだが闘気を

出しているのだぞ。まさか)一つ質問に答えろ。飛鳥」

 

「なんだ?」

 

「お前、至っているのか?頂点に?」

 

「この世界がそう言う事ならそうなのだろうよ」

 

「そうか。なら手加減は不要だな。(破壊殺・乱式)」

 

「(雷の呼吸弐の型 稲魂 三連。)」

 

本来弐の型 稲魂は一瞬のうちに五連撃を見舞う技だ。

だが飛鳥はこれを三回続けることが出来る。

つまり計十五連撃にまで技を昇華していた。

 

「見事だ。飛鳥。これまで雷の呼吸を使う柱は数人だが殺してきた。

だからその技も知っている。だがここまで技を昇華していた者はお前が初めてだ。

これが頂点に至った者の力か」

 

「よそ見していていいのか。(炎の呼吸壱ノ型 不知火)」

 

煉獄の攻撃を猗窩座はかわし再び距離を取る。

 

「今まで殺してきた柱たちの中に、炎はいなかったな。

そして、オレの誘いに頷く者もいなかった。なぜだろうな?

同じく武の道を極める者として理解しかねる。選ばれた者しか鬼にはなれないというのに。

素晴らしき才能を持つ者が醜く衰えてゆく。オレはつらい、耐えられない、

死んでくれ、若いままに。(破壊殺・空式。)」

 

「(炎の呼吸肆ノ型 盛炎のうねり。)」

 

猗窩座の拳から放たれる衝撃波が煉獄を襲う。

煉獄も技を繰り出しそれを防ぐ。

飛鳥がその隙を狙って後ろから攻める。

 

「(雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷。)」

 

完全に隙を付かれたが何とか反応し躱し致命傷になる斬撃は拳ではじく。

それでも回転しながらの波状攻撃の攻撃で傷付いた。

今の飛鳥に猗窩座の血鬼術は反応しない。元々この血鬼術は個人が持つ闘気に反応するのだが

飛鳥は一切闘気を出していない。だから血鬼術が全く反応しないのだ。

躱せたのは猗窩座のこれまでの経験から来る勘だった。

 

「鬼になれば、この斬撃の致命傷以外は掠り傷みたいなものだ」

 

猗窩座は「その証拠にほらな」と言って、瞬く間に傷が治る部位を指差す。

そう。飛鳥の斬撃で傷付いた部位が、鬼の回復力で塞がっていたのだ。

こうなっては、距離を取って攻防をしていたらジリ貧だ。近距離で戦うしかない。

飛鳥は杏寿郎に目を合わせると、杏寿郎も「承知」と視線で頷いていた。

飛鳥と杏寿郎は猗窩座と間合いを詰め鋭い剣技を繰り出すが、

猗窩座は喜々とした表情でそれを拳で往なすか、弾き落としている。

そして、猗窩座と一瞬一瞬の攻防は、少しでも反応が遅れれば致命傷になる。

 

「素晴らしい剣技だ!だが、鬼にならなければこの剣技も失われていくのだ!

お前たちは悲しくないのか!」

 

「悲しい感情などない!オレの心の炎は、きっと誰かが受け継いでくれる!」

 

「全くだ。」

 

そう言った杏寿郎の顔は、剣技の速度に慣れた猗窩座の拳が徐々に掠り、額、頬が打たれ

赤い鮮血を流している。だが飛鳥は今だに無傷だ。

猗窩座には全くと言っていいほどにこの勝負の決着が見えていなかった。

理由は四つまず単純に飛鳥と杏寿郎の位置取りが上手いこと。

猗窩座が一方を相手にすればもう片方がその隙をつく。

これがうまい具合にはまっていた。

二つ目は炭治郎達の存在だった。

常に視界の隅に炭治郎達が居るような位置取りを偶々伊之助と炭治郎と善逸が

行っておりそのせいで相手と本気で打ち合う事が出来なかった。

排除しようにも飛鳥と杏寿郎が波状攻撃を仕掛けてくるので排除することが出来ない。

そして最後にもうすぐ日の出だという焦り。

最後にそして飛鳥に攻撃が全くと言っていいほど当たらない。

それが焦りを更に増大させていた。

以上の理由から決着どころか猗窩座は追い詰められてすらいた。

だがいくら日の出が近いといってもまだ三十分ほどある。

ここで決着を付けなければ今度は杏寿郎たちがやられてしまうだろう。

それを考えた飛鳥は一瞬杏寿郎に目配せをする。

その意図を読み取った煉獄は刀を肩に担いだ構えをとる。

 

「俺は俺の責務を全うする!!この場にいる者は誰も死なせない。(炎の呼吸 奥義。)」

 

「素晴らしい闘気だ。それほどの傷を負いながら、その気迫に精神力。

そして一部の隙も無いその構え。」

 

猗窩座は満面の笑みを浮かべ、

 

「やはりお前は鬼になるべきだ、杏寿郎!俺と永遠に戦い続けよう。(術式展開。)」

 

「(玖ノ型 煉獄。)」

「破壊殺 滅式.)」

 

互いの技がぶつかる。炭治郎は息をのんだ。

煙が晴れ炭治郎が見たのは引き分け。

煉獄は刃を折られ、猗窩座は両腕があらぬ方向に向いていた。

だがその瞬間誰も気づけなかった。

猗窩座は杏寿郎の闘気に当てられ、炭治郎達は杏寿郎の迫力に見入ってしまい、

もう一人清水飛鳥がいる事を忘れてしまっていた。

煙が晴れ二人が見えた瞬間飛鳥は

 

「(雷の呼吸 漆ノ型 武雷貫。)」

 

飛鳥が生み出した剣技で猗窩座を突きにかかる。

炭治郎達は一瞬飛鳥の後ろに雷を帯びた龍を幻視した。

杏寿郎が生み出した隙を完璧に掴み突きを繰り出す。

それは飛鳥の霹靂一閃よりも速く炭治郎はおろか杏寿郎さえも見る事が出来なかった。

誰もが決まったと思った。

だが猗窩座はここでも勘が働き何とか反応し首を横にずらして躱した。

 

「惜しかったな、飛鳥。貴様の速さには驚かされたがこれでおしまいだ。」

 

誰もが飛鳥の死を確信した。だが飛鳥の突きはこれで終わりじゃない。

飛鳥は突き出した刀をそのまま横なぎしたのだ。

これにはさしもの猗窩座も対応出来ず頸が飛んだ。

飛鳥が最後に出した技は武人の世界であった斎藤一に伝授された技。

その名も『牙突』だ。そこに飛鳥成りに呼吸を掛け合わせ漆ノ型とした。

杏寿郎にはこの事を任務の打ち合わせの時に話しており連携が可能になったという訳だ。

 

「見事だ。杏寿郎、飛鳥。これほどの闘いは初めてだった。」

 

「そうか。出来ればお前とは人間として技を競い合いたかった。」

 

「そうか。」

 

そのまま猗窩座は消滅していった。

完全な消滅を確認すると二人はその場に倒れこみ仰向けになる。

 

「終わったな。杏寿郎。鬼殺隊初の快挙だ」

 

「うむ。これほどやり切った感覚は初めてだ。いいものだな」

 

「だな。隠が来たみたいだし後は彼らに任せまるか」

 

「そうだな。俺も限界だ」

 

二人はどの場で気を失った。

余談だがこの戦いを見ていた炭治郎達三人は

何もできなかった事を悔やみ、更に鍛錬に力を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

煉獄杏寿郎と清水飛鳥によって上弦の参が討伐されたことはすぐさまほかの柱や

産屋敷輝哉にもたらされた。

 

 

産屋敷邸の一室

 

「そうか。倒したか上弦を。よくやった飛鳥、杏寿郎。

百年もの間変わらなかった状況が今変わった。

これは兆しだ。この波紋はは広がっていくだろう。

周囲を巻き込んで大きく揺らしやがてあの男へとたどり着く。

鬼舞辻無惨お前は私たちの代で必ず倒す」

 

と産屋敷輝哉もかなり喜んだとか。

また鬼殺隊内にもこの話が広まり士気が一気に高まった。

 

 

 

ところ変わって煉獄家

 

 

最近目覚めた趣味を楽しんでいる最中に

知らせを聞いた煉獄 槇寿朗は表には出さないが大変喜んだ。

自分が託した者は間違っていなかった。

そしてこの時槇寿朗の中で何かが灯ったような気がしたのだった。

 

 



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吉原遊郭編
第四十七話 新たな任務


遊郭編突入です。



上弦の参討伐から四か月が過ぎた。

杏寿郎は大怪我の為、一か月の療養期間と機能回復期間を経て

三か月前に復帰した。

怪我に関しては頭などからの出血と両腕の骨折の怪我を負っていた。

それでも驚異的な速さで回復し機能回復訓練もあっという間にこなした。

一方飛鳥は直ぐに東北地方に長期で任務に向かい、

杏寿郎は柱としての仕事を行った上でいくつかの任務をこなした。

飛鳥は他の柱と違い、特定の見回り地域というものを持たない。

その代わり長期で遠方にいる鬼を狩るなどの任務に就くことが主だ。

そして今日ようやく長期任務から帰ってきた。

 

 

飛鳥視点

 

「はあ本当に疲れた。早く帰って寝よ。」

 

独り言をこぼしながら蝶屋敷にむかって歩く。

屋敷に着き扉を開けて中に入り廊下を歩いて奥に入って行く。

すると一つの部屋からしのぶの怒り声が聞こえてくる。

行ってみるとそこでは涙目で正座させられる伊之助と

立ちながら怒っているしのぶ

そして伊之助と共に怒られる炭治郎君がいた。

話の内容を聞いている限りまた窓ガラスを割ってしまったようだ。

懲りない奴だなー。あと炭治郎君南無三。

俺は炭治郎君を哀れみながら自分の部屋に戻る。

彼は元々多くの姉弟の長男だったせいかとても面倒見がいい。

そのせいか問題児である伊之助や善逸の面倒を見ていることが多く、

必然的にともに怒られることが多い。なんか可哀そうになってきた。

上弦の参の件の後から

正式に炭治郎君達三人は蝶屋敷に住むことが決まった。

元々三人とも家がない。そのあたりを考慮したらしい。

らしいというのはそのことが決まった時、

任務に出ていたため詳しい話はあまり知らない。

反対する理由はないのだが。

部屋に戻るとカナエが座って少しずつ大きくなってきたお腹を撫でていた。

 

「ただいま。カナエ。」

 

「お帰りなさい。飛鳥。」

 

座ってるカナエの前に座る。

 

「しのぶが凄い剣幕で怒ってたがまた窓ガラス割ったのか?」

 

「ええ。そうみたいね。」

 

「何度目だか。ま、いいが。悪いが寝る。」

 

「ええ、おやすみなさい。」

 

少し世間話をした後俺は布団を敷き寝る。

それから数日後、その日は休みという事もあり朝から

道場で鍛錬をしていた。すると玄関の方が騒がしくなる。

何事かと行ってみるとそこではアオイと泣く三人娘、

門の屋根に立つ音柱の宇随天元、それを三方から囲む炭治郎君たちがいた。

俺は心底うんざりしながら声をかける。

 

「人の家の前で何やってるんですか、天元さん。」

 

「おお、お前もいたか。丁度良かった。お前も来い。」

 

「?何処へ?」

 

「日本一色と欲に塗れたド派手な場所。」

 

「!まさか。」

 

「お察しの通り、鬼の住む遊郭だ。」

 

「はぁー分かりました。用意とカナエを説得するんで待っててください。」

 

「おう。嫁を大事にするのは当然だ。だが急げよ。」

 

直ぐに部屋に戻りカナエを説得する。

カナエは任務なら仕方ないと了承したが炭治郎君に

何か言っていたが気にしないで行こう。

 

「すみません遅れました。行きましょう。」

 

俺達は遊郭に向かう



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第四十八話 吉原遊郭

吉原遊郭

日本に幾つかある花街の中でも最も有名な花街で、

その歴史は江戸に幕府があったころからの歴史を持つ。

遊郭は男と女の見栄と欲、愛想渦巻く夜の街。

その名の通りその手の店で一つの街が形成されており

そこに住む遊女の大半は貧しさや借金で売られた者が殆どでたくさんの苦労を背負っている。

その代わり衣食住は保証されており遊女として出世すれば裕福な家に身請けされることもある。

中でも遊女の中でも最高位である花魁は別格であり美貌、教養、芸事、

全てを身につけている特別な女性であり位の高い花魁には中々会えず、

客は逢瀬を果たすために莫大な金を使い足しげく通う。

噂だが 原の花魁に入れ込んだせいで夫婦関係が壊れたり

大きな商家が傾いたりすることも有るらしい。

 

「それが遊郭だ。分かったか?炭治郎。」

 

「はい。」

 

遊郭が何かわかっておらず無知かつ天然で色々質問してくる炭治郎。

その中には答えにくい質問もあり飛鳥は少し顔を赤くしながら答える。

藤の花の家紋のある家に着いてからこのやり取りが続いている。

その内家主への指図を終えた天元が戻ってきて五人がそろう。

 

「遊郭に潜入したら、まずオレの嫁を探せ。オレも、鬼の情報を探るから。」

 

 お茶やお菓子を食べていた善逸が「とんでもねぇ話だ!」と声を上げる。

 

「ふざけないでいただきたい!自分の個人的な嫁探しに部下を使うとか!?」

 

「はあ!?何を勘違いしてやがる!」

 

「いいや言わせてもらおう!アンタ見たいに奇妙奇天烈な奴はモテないでしょうとも!

だがしかし!鬼殺隊員であるオレたちがアンタの嫁探しなんて!」

 

「馬ァ鹿かテメェ!オレの嫁が遊郭に潜入して、鬼の情報収集に励んでんだよ!

定期連絡が途絶えたから、オレも行くんだっての!」

 

天元の言葉を聞いた善逸は、体を硬直させた。

そして、それから口を開く。

 

「そういう妄想してらっしゃるんでしょ?」

 

「クソガキが!――これが鴉経由で届いた手紙だ!」

 

天元が、届いていた手紙を善逸に投げる。

束で縛られている手紙の数は、かなりの分厚い。

 

「ギャアアァァアァ――!」

 

手紙を当てられた善逸は、叫び声を上げた。

 

「随分多いですね。かなり長い期間潜入されているんですか?」

 

炭治郎がそう聞く。

 

「違う違う。天元さんには三人いるんだよ、嫁。」

 

飛鳥の発言に再び善逸がさけぶ.

 

「三人!?嫁……三人!?テメッ……テメェ!何で嫁三人もいんだよ!ざっけんなよ!」

 

善逸の腹部を殴る宇随。

善逸は「おごぇっ。」という声を上げながら吹っ飛んだ。

 

「つーか、清水も嫁が二人いるだろ。しかも姉妹で!」

 

「………知ってるけどなぜか飛鳥さんを責める気になれないんだ。」

 

蝶屋敷に住む人たちは皆優しい。

善逸が菓子を盗んでも伊之助が窓ガラスを割ろうがその時は怒りはするが

それ以降はそれを長く引きずることは無い。

それにこれだけ迷惑をかけているのに少し前から屋敷に

住まわせてくれて三人に分け隔てなく接してくれる。

帰る場所のない炭治郎や善逸にとって蝶屋敷は

いつの間にか安らぎの場所だった。だからこそなのか

善逸は飛鳥は胡蝶姉妹を妻にしている事をとやかく言う事が出来なかった。

一方善逸が宇随と喧嘩?をしている間、真面目に手紙を呼んでいた炭治郎は話を進める。

 

「あの……手紙で、来る時は極力目立たぬようにと何度も念押ししてあるんですが、

具体的にはどうするんですか?」

 

「そりゃまあ、変装よ。不本意だが地味にな。お前らにはあることをして潜入してもらう。

あ、清水は女装で決まりな。お前、客として入れないだろ。」

 

飛鳥は肩を落とした。飛鳥は過去に何度かこのような遊郭や女性の方が潜入しやすい場所に

派遣されたことが何度かあった。

理由としては単に柱の中で一番器用で女装が形になった事が理由だった。

宇随や悲鳴嶼は体格的に無理だし、煉獄や義勇や時透や伊黒や獪岳も性格的に無理があった。

不死川は体中傷だらけだし女性であるしのぶは他にも多くの仕事を抱えていた。

もう一人の女性である甘露時や継子の早紀は潜入が出来るほど器用ではない。

そこで白羽の矢が立ったのが飛鳥だった。

元々中性的な顔立ちであり、身体の線も細くそれでいて単独で下弦や上弦とも戦えるし

演技もそこそこ出来る。

まさに当時の鬼殺隊にとって最も欲しい人材だった。

それにより鬼殺隊柱と産屋敷家関係者によって

飛鳥は女装の為の指導が行われた。

ちなみにその時担当したのがこうだ。

 

化粧担当及び指導  産屋敷あまね・胡蝶カナエ

必要道具の用意   胡蝶しのぶ(本人と姉の私物)

着付け指導     甘露寺蜜璃・産屋敷あまね

演技指導      宇随夫妻

飛鳥監視役     柱の男性陣

最終確認      全員

 

こんな感じになった。

逃げようとする飛鳥に最初は心配した女性陣だったが

いざ指導を始めると呑み込みの早い飛鳥につい舞い上がって熱を入り

演技指導の時に声を変えるコツを指導した為、

当初ばれない程度でよかったのが完璧な女性に仕上がってしまった。

しかも声に至っては声帯模写と言っても過言ではないレベルだ。

それを見た男性陣は当初飛鳥だとは分からず、

天元は後に「くのいちとしてもやっていけるな。」と言っていた。

だが飛鳥本人は余り女装が好きではなかった。

 

「既に怪しい店は三つに絞ってあるから、お前らはオレの嫁を探して情報を得る。

ときと屋の「須磨」。荻本屋の「まきを」。京極屋の「雛鶴」だ」

 

「嫁、もう死んでんじゃねぇの?」

 

伊之助がそう呟くと、天元の右手拳が腹部に突き刺さる。

それから家の主人が「ご入用の物をお持ち致しました」と言って、襖が開けられる。

どうやら天元が、女装用の品を見繕うように頼んでいたらしい。

ともあれ、各自が着物に着替え、再び集まる。

 

 

暫くして四人が集まる。

飛鳥は勿論、他の三人も飛鳥によって綺麗に化粧がされて綺麗に着付けられている。

 

「前見た時も思ったが清水お前本当に男か?」

 

「ていうか、本当に飛鳥さんですよね?」

 

「そうだよ。一緒にここまで来たよね?炭治郎?」 

 

「いやあ。分かってはいるんですけど本当に疑いたくなるというか。声も少し違うし。」

 

目を丸くする炭治郎たち。

その声は、どことなくカナエに似ていた。

ちなみに、潜入する時の名前は、炭子、猪子、善子、由衣だ。

普段通り偽名を使う事にし

また宇随の提案でそれぞれ潜入した遊郭で聞き込みするときは

行方不明になった三人の事は姉という事で聞く事にした。

そして潜入捜査がはじまる。



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第四十九話 潜入捜査

 ときと屋

 

「どうかな、女将さん。誰かひとり貰ってくれないかい。」

 

「悩むね~。どの子もいい感じの子ばかりだからねー。」

 

現在飛鳥達四人は天元に連れられて目標の遊郭の店内に入り、

暖簾下に座る女将さんの前で話しかける。

女将は四人を吟味しながら唸る。

飛鳥は勿論他三人も飛鳥によって綺麗に着付けと化粧もされている為美しく女装がされており

その為女将は悩んでいた。

 

「ならその一番きれいな子とその隣の子を貰おうかしら。」

 

指名されたのは飛鳥と炭治郎だった。

二人は少々複雑な気分だった。

飛鳥は女装しているとはいえこうもあっさり指名されて

男として少々つらい物があった。

一方炭治郎は目の前の女将に対して申し訳ない気持ちになっていた。

飛鳥はそこらへんは慣れていることもあって気にしてない。

 

「女将さん目がいいね。こいつはオレの一押しだ」

 

天元がそう言うと、女将さんは袖口で口許を抑え「うふふ」と笑う。

 

「そりゃそうよ。きっとその子は、鯉夏に次いでうちの看板になってくれて

京極屋の蕨姫花魁と差をつけるきっかけになってくれる。それくらいの綺麗さを持ってる。

もう一人の子は素直そうだし」

 

「(そんなこと言われても全く嬉しくない)」

 

女将の評価に心で泣く飛鳥。

先程女将さんとの会話に出てきた鯉夏とはときと屋の看板花魁で

ときと屋の女将としては飛鳥と鯉夏花魁との魅力で客を誘い他店を引き離そうと考えていた。

ちなみに蕨姫とは京極屋の看板花魁で今ときと屋が利益の為に敵視している花魁である。。

 

「お嬢さんの名前は?」

 

「由衣と申します。」

 

飛鳥はカナエの声に似せた声で答える。話し方は全然違うが。

そんなことも知らない女将は「声も合格。」と気分は高揚している。飛鳥はげんなりしていたが。

その後お金を支払い二人は奥に連れていかれそのまま飛鳥は将来性に期待という事で

下積みもほとんどすっ飛ばして花魁としての教育がなされていく。

本来はない事だがときと屋の女将がそれを通した。

飛鳥はそれまでの潜入で琴や三味線は出来るので教養と礼儀作法の指導だけ受けて見習いとして

働きその二日後の晩には何と鯉夏花魁の傍付き。

女将曰く最初の方は鯉夏花魁の下で働いて場慣れしてほしいとの事。

一般的な遊女なら飛び上がるほどうれしい話だが飛鳥は複雑だった。

 

「(何故だ?炭治郎は雑用なのに?)」

 

その通りで炭治郎は最初の日からずっと雑用として

床拭きや荷物運びなどをやっている。

元々知識ゼロだったため結局雑用係から始める事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 鯉夏花魁の部屋

 

 

「花魁、ご使命です。」

 

「わかりました。すぐに向かいます。」

 

遊女の声に飛鳥の隣に座る鯉夏が答えた。

その声は凛々しく、男性を虜にする美声だ。

鯉夏が、飛鳥を見てから口を開く。

 

「由衣、行きますよ。」

 

「はい、わかりました。」

 

飛鳥はカナエ似の声で返事を返す。

飛鳥がカナエの声をまねして使うのは一番自信があることから潜入の時によく使う。

ともあれ飛鳥と鯉夏は立ち上がってから障子を開け、客間に移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 客間

 

客間に到着し襖を開けると、複数の男性客が盃を啜りながら鯉夏を見る。

今回は宴会形式で既に複数の遊女がお酒を注いでいる。

 

「鯉夏花魁っ!今日も別嬪さんだねぇっ!」

 

それから鯉夏の接待が始まったが、鯉夏の隣に座る飛鳥にとっては最早拷問だ。

……男性が男性を接待するなんて、拷問以外に無いだろう。

 

「鯉夏花魁の傍付きかい?」

 

飛鳥に興味を持った一人の男性客が声をかけてきた。

その視線は明らかに飛鳥の身体を嘗め回すように見ていた。

 

「はい。由衣と申します。」

 

笑顔で答える飛鳥。だが内心では「……もう無理、早く終わって。」となげいていた。

飛鳥の声を聞いて男性客は「今度指名しちゃおうかなー。」などと言ってくる。

それを聞いた飛鳥は鳥肌が隠せない。

 

「まだ指名はダメですよ。由衣は私の傍付きとして、まだまだ学ぶことがあるんですから。」

 

鯉夏が飛鳥の立場では断りにくいと察してさりげなく客に断りを入れてくれたのだ。

そして客は「ちぇ~」と残念そうな声を上げるのだった。

ともあれ、接待が終わった所で、飛鳥と鯉夏は客間を後にするのだった。

 

 

 

 

 鯉夏花魁の部屋

 

飛鳥が鯉夏花魁の部屋に戻ると部屋のかたずけに来ていた幼い遊女が噂をしていた。

飛鳥はそれを盗み聞いていた。

ときと屋のなかでは急出世した飛鳥だが周りは敵が多い。

理由は嫉妬。既に飛鳥は数日後には花魁として接客に出るのが決まっている。

それは若い遊女からすれば羨ましい事だ。

別に客の前に出れる事が羨ましいのではない。

遊女たちの目的は身請け。若いころから花魁として客の前に出れば

それだけ身請けしてもらえる可能性が増える。

だからこそいきなり来て女将に気に入られて一週間もしないうちから

高い地位につき客を取ることになっている飛鳥の事が気に入らないのだ。

既に遊女の中では他の遊郭からの密偵ではないか、

実は足抜けした遊女ではないかなど色々なうわさが流れている。

それでも表立ってのいじめがないのは飛鳥に隙がないのと

女将がその辺を察して目を光らせているのもあるが

鯉夏花魁の存在が大きかったりする。

鯉夏花魁はと誰にでもやさしくそれ故にときと屋の遊女達からはとても好かれている。

だからこそ飛鳥をいじめて鯉夏花魁に迷惑かけたくないからこそ彼女の傍付きとして

いつも近くにいる飛鳥にいじめる事が出来ないのだ。

それでも朝食の味噌汁に山葵をたらふくしこまれていたこともあった。

しかし飛鳥はその下手人を直ぐにつきとめて味噌汁を入れ替えて

元に戻し仕掛けた側がその山葵入り味噌汁を飲んで思いっきり味噌汁を吹くという事もあった。

そう言った感じで飛鳥は他の遊女たちからは嫌われていた。

そこで遊女たちからの聞き込みは炭治郎に任せ、飛鳥自身は客の噂や鯉夏花魁から

それとなく聞いたりしていた。

そんな時に出くわしたのである。

遊女たちの話によると京極屋の女将が窓から落ちて死んでしまったこと。

最近では足抜けして居なくなる姐が多い、ということだった。

それを聞いた飛鳥はその場は離れ炭治郎と合流、少し打ち合わせをして

鯉夏花魁の部屋に戻り本人に話を聞く。

 

「花魁、少しいいですか?」

 

「由衣、どうしたの。」

 

「須磨っていう花魁が足抜けしたってホントですか?」

 

少し悲し気に聞く飛鳥。

鯉夏花魁は少しビクッと震えて聞き返してきた。

 

「どうしてそんなことを聞くんの?」

 

「実は一緒にここに入った炭ちゃんと私は須磨花魁の妹なんです。

でも少し前から手紙が来なくなって

それで一緒に身売りされたときに聞いてみようって言ってたんです。

でも炭ちゃんが聞いた話によると須磨花魁は足抜けしたって聞いて

でも信じられなくて鯉夏花魁なら何か知ってるんじゃないかと思って聞いてたんです。」

 

「そうだったの。姉に続いて妹まで、それはつらかったね。」

 

本気で心配してくれているのが表情で分かる。

 

「(この人優しすぎる。この人を偽るのつらすぎる。)」

 

飛鳥の良心に響く。

 

「いいよ、教えてあげる。二人が来る数日前にね、

ときと屋には須磨花魁が居たんだけど、忽然と姿を消してしまったの。

その後、須磨花魁の部屋から日記が見つかって……そこには足抜けするって書いてあったそうなの。

……でも、須磨ちゃんは足抜けする子には見えなかったわ、しっかりしてた子だったもの。」

 

飛鳥は「有難うございます。」と言って頷いた。

鬼は対象の人の足抜けを利用し、対象を逃亡させたと思い込ませ、

露見すること無く喰うことが出来るのだ。おそらく、日記は偽装だろう。

でも、ここまで用意周到な鬼と考えれば、遊郭に棲み付く鬼は上弦の鬼が濃厚だろう。

となれば、遊郭で派手な殺し合いになるのかも知れない。

 

 

 

 




遊郭情報に少し間違いがあるかもしれませんがそこはお許しください。
では今回も大正こそこそ噂話
今回はときと屋の鯉夏花魁から
鯉夏もときと屋に入ってきた時は飛鳥と同じ待遇だったんだ。
そして鯉夏もいじめを受けた経験があるんだ。
だからこそ飛鳥を常に傍に置いていじめを受けさせない様に
守ってるんだよ。とてもやさしいね。
以上です。またよろしくお願いします。


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第五十話 護衛

 とある遊郭の屋根の上

 

そこでは定期連絡の為伊之助と炭治郎が集まっていた。

 

「だーかーら。俺が入った所に鬼がいるんだよ。」

 

「いや……うんそれは、あの……ちょっと待ってくれ」

 

「こうか!?これならわかるか!?」

 

「そろそろ、宇髄さんと善逸、飛鳥さんが来ると思うから……」

 

伊之助の対面に座る炭治郎。だが身振り手振りのみの説明にいまいち理解できない

炭治郎は他三人を待とうと提案する。

 

「清水は来るだろうが善逸は来ない。」

 

「どうしてですか?」

 

「連絡が取れてないんだろ。それに善逸の気配が京極屋から消えた。」

 

「飛鳥さん。」

 

炭治郎が天元に聞くと天元の隣に飛鳥が舞うように姿を現す。

その姿は薄く化粧を施し綺麗に着付けられた着物を着ていつもの

紺の羽織を羽織っている。いつものときと屋の花魁としての姿だ。

天元は飛鳥を見て「来たか。」と手を上げた。

 

「何か掴めたか。」

 

「ええ。善逸の気配を探した結果、善逸は地下にいます。

須磨さんもまきをさんも同様です。それとそれ以外にも気配がします。

鬼は京極屋の蕨姫花魁で間違いないかと。

それとこれは確定情報です。雛鶴さんは切見世というところににいます。」

 

飛鳥は上弦の参との戦いの後より早く詳細に気配をつかむ修行をしてきた。

長期任務に出た時も屋敷にいた時も気配をつかむ訓練を行い、

元々広範囲に気配をつかむことができたが今では集中せれば小さな街なら

全て感知でき、更に人数も完璧に掴むことが出来た。

そしてときと屋を中心に索敵しその範囲内にいる善逸と伊之助を

見守っていた。だが仕事の為移動している間に気配感知が薄れ、

その間に善逸がさらわれてしまったのである。

そこから客の相手をしながら気配を探り地下まで気配を探した。

その結果遊郭の地下に広範囲に地下空洞がある事が分かった。

 

「なるほど地下か。鬼が食料()を隠すならうってつけの場所だ。」

 

「気配から十二鬼月であるのは確定です。勝手とは思ったんですがお館様に文は送りました。

さっき返事が来て上弦の可能性も考えて柱を数人送ってくれるそうです。

先発として義勇と早紀が夕刻には来るそうです。

その後にしのぶと小芭内が駆けつけてくれる手筈をお館様が整えてくれました。

ただ二人は任務帰りになるのでかなり遅れるそうです。」

 

「上出来だ。だがこれ以上待つわけにいかねえ。冨岡が付き次第動く。

炭治郎、伊之助手伝え。飛鳥はどうする?」

 

「義勇が来るならそちらは任せます。俺はこのまま鯉夏花魁を守ります。

調べてすぐ分かったんですけど被害は主に花魁の地位にいる女性、

しかも蕨姫花魁より上の人気を誇る花魁か

その勢いがある花魁が狙われる傾向にある。

そしてそれに当てはまるのは。」

 

「ときと屋の鯉夏花魁とお前か。」

 

「ええ。男としては複雑ですけど。」

 

「そうかならお前は鯉夏花魁を守りつつ囮として鬼を倒せ。俺達もすぐ行く。」

 

「了解。」

 

 




祝、第五十話達成。
本当に嬉しい。そして忙しすぎて鬼滅の刃の映画行けなかった。
本当に悲しい。早くDVD出ないかな!
そんな精神で頑張っていきます。
今後とも何卒よろしくお願いします


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第五十一話 上弦の陸

 ときと屋の廊下

 

鬼である蕨姫花魁が動き出したのを感じ取り飛鳥は隊服の上から着物を着こみ刀を隠し持ち

運よく女将から鯉夏を呼んできてほしいと頼まれたのでそれを伝えて逃がすために

鯉夏の部屋へ向かう。

 

「鯉夏さん、少しよろしいでしょうか。」

 

「はい。」

 

鯉夏の返事を聞いて飛鳥は部屋に入る。

 

「鯉夏さん女将さんが呼んでます。少し手が離せないとのことですぐ来てほしいとのことです。」

 

「そうですか。ならすぐ行きます。」

 

「お願いします。」

 

鯉夏花魁は傍付きを伴い直ぐに出ていく。

飛鳥はそれを座りながら見送る。

そしてあらかじめ用意しておいた動物の血が入った袋を隣に置いてその時を待つ。

すると窓を開けてそこから蕨姫花魁が入ってくる。

 

「あら、あなたはときと屋の由衣じゃない。鯉夏はどうしたの?」

 

「鯉夏さんならここにはいませんわ。私が逃がしましたもの。」

 

飛鳥は時間を稼ぎつつ鯉夏の気配を探る。今はまだ女将と話しているようだが

いつ戻るかわからない以上あまり長く話す事が出来ない。

 

「ふ~ん、そう。でもそんなことしても意味ないわ。むしろ被害が増えるだけ。

なのになんでそんなことしたのかしら?」

 

「さあ。それは蕨姫花魁のご想像にお任せしますわ。」

 

「あんた私を前にしてその余裕。ただ物じゃないね。」

 

「ふふ。私はただの人間ですわ。」

 

飛鳥は右手で口許を抑えながら少し笑う。

 

「あんたの態度、腹立つわね。今まで美しい女は喰ってきたけど、

あんたは嬲り殺したくなるよ。」

 

蕨姫は自身の帯を飛鳥を囲むように展開する。

 

「最後よ。殺されたくなければ教えなさい。鯉夏はどこ?」

 

「せっかく逃がしたのに教えるわけないでしょ。それと私を殺せるかしら?」

 

「もういい、目障りだわ。死んで。」

 

蕨姫は今まで隠していた目の数字を見せる。そこには上弦の陸と刻まれている。

そして展開していた帯で一斉に動かして飛鳥を襲う。

 

「(雨の呼吸 肆ノ型 斬雨。)」

 

飛鳥は隠し持っていた刀と型で襲い来る帯を細切れに切り裂いた。

切り裂かれた帯は床に落ちる。

だが着物が邪魔で思うように刀を振れず胸元の着物が切り裂かれて

着物がはだけて中に来ていた鬼殺隊の隊服があらわになる。

 

「あ、あんた男だったのね。しかも鬼狩りの柱。」

 

「ああ、そうさ。悪いな男で。さてそろそろやらせてもらうか。」

 

「な、何を?」

 

「こうするのさ。」

 

落ちた着物に動物の血をかけながら

飛鳥は息を吸い

 

「きゃああああああああああ」

 

と先程と同じ声で叫んだ。近くにいた蕨姫は耳を塞ぐ。

そして飛鳥は声を変えて襲われている雰囲気を出しながら再度叫ぶ。

 

「逃げてください。蕨姫が化け物になって襲ってきました。由衣さんが由衣さんが。きゃっ。」

 

すると叫び声を聞いて店内が騒がしくなり遊女たちや客が逃げ出す。

 

「あんた。」

 

「これで被害は少なくなる。鯉夏さんもどこにいるかわからない。

そしてお前は花魁としても終わりだ。」

 

「殺す。」

 

上弦の陸こと堕姫が更に帯で襲い掛かってくるが

その全てを切り落とし突っ込み腹部に蹴りを入れる。

堕姫はそのまま壁を突き破って外へ飛んでいく。

飛鳥もそれに合わせて外へ出る。外は既に騒ぎを聞きつけた

店の者達や客が騒いで逃げ出していた。

それを守る形で逃げる人を背に立つ。

堕姫が立ち上がるのを見て疑問だったことを告げる。

 

「お前本当に上弦か?下弦の壱の方が手強かったぞ。」

 

「うるさい。」

 

また戦いが始まる。

帯で攻撃しつつ逃げる堕姫、

襲い来る帯を切り裂きつつ追いかける飛鳥。

戦いは一方的だった。

その内追いついた飛鳥が鞘で堕姫の顔面を打ち払い

堕姫はそのままとある店に飛ばされながら入り

壁に背中を強く打ちよろけて隙が出来る。

飛鳥がそれを見逃すはずなくとどめを刺しに行く。

 

「(雷の呼吸 漆ノ型 武雷貫。)」

 

突きからの薙ぎ払いの弐段階攻撃に対応できず

堕姫が頸がとんだ。

その時飛鳥の隣に天元が降り立つ。

 

「終わったか、清水。」

 

「ええ。でもおかしいですね。上弦にしては弱すぎる。」

 

「俺も派手に同意だ。本命が他にいるな。」

 

「でもこいつの目にはしっかりと上弦の陸の字があるんですよね。」

 

「ほんとか?」

 

「ええ。確かに確認しました。あるいは本物か鬼舞辻に踊らされてるだけのただの馬鹿かですが。」

 

そう言いながら二人は地に座り込み、斬られた頸を両手で持っている堕姫を見る。

 

「よ、よくもアタシの頸を斬ったわね!ただじゃおかないんだから!」

 

堕姫が涙ながらに叫ぶ。

 

「それが俺らの仕事だからな。それが運命だと思ってあきらめろ。」

 

全くの慈悲のない飛鳥の言葉に堕姫は本気で泣き出す。

 

「っ、わ――ん!」

 

突然子供の様に泣き出した堕姫に天元と飛鳥はギョッと驚く。

そしてある事に気づく。

 

「おい清水、お前確かに首切ったんだよな。」

 

「ええ。」

 

「ならなぜこいつの身体は崩れない。」

 

そう堕姫の頸が飛んでそこそこの時間が経っている。

いくら再生力が高い上弦とはいえ頸を日輪刀で切られれば体が崩れるはずだ。

だが堕姫の身体はいっこうに崩れない。

 

「まだ何かあるのか?これは!(なんだこの鬼の身体、他の鬼とはの物とは作りが違う。まさか。)」

 

飛鳥は透き通る世界で堕姫を見て気づいたことを天元に告げる。

 

「天元さん、気負付けて。こいつの中にもう一人いる。」

 

「どういうことだ、清水。」

 

「わああぁああ!頸斬られた!頸斬られちゃったあぁあ!お兄ちゃんあぁあん!」

 

堕姫がお兄ちゃんと叫んだ瞬間、周囲の重圧が増した。

それは殺気。そしてもう一人の鬼が堕姫の背後に立つ。

 

「こいつを見た時体の作りが若干違いました。つまりこいつらは二体一対の鬼という事です。」

 

そう言う間に堕姫の頸を持ち切り口部分に押し付ける。

 

「泣いたってしょうがねぇからなああ。頸くらい、自分でくっつけろよなぁ。

おめぇは本当に頭が足りねぇなぁ」

 

その隙を見つけた飛鳥と天元が切りつける。

だが男鬼は鎌を取り出しそれをすべて弾く。

 

「お前らいいなぁあ、その顔いいなぁあ。肌もいいなあ、シミも痣も傷もねぇんだなぁ。

……肉付きもいいなぁあ、オレ太れないんだよなぁあ」

 

鬼は「妬ましいなぁあ」「死んでくれねぇかなあ」と呟く。

そして堕姫が、今までの経緯を鬼に話、鬼は怒りを露にする。

 

「そうだなあ、そうだなあ、そりゃ許せねぇな。オレの可愛い妹が、

足りねぇ頭で一生懸命やってるのを虐めるような奴らは皆殺しだあ」

 

鬼は両手でそれぞれ鎌を持ち構えた。

 

「取り立てるぜ、オレはなあ……やられた分は必ず取り立てる。死ぬ時グルグル巡らせろ。

オレの名は、妓夫太郎だからなああ!」       

 

ここから柱二人と鬼の本当の戦いが始まる。



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第五十二話 妓夫太郎

妓夫太郎は鎌の斬撃を放つが、

 

「(雨の呼吸 弐の型 五風十雨)」

 

飛鳥はそれをかわしつつ近づく。

先ほど義勇と炭治郎が女のほうを外に追い出し戦っている。

 

「鎌に気をつけろ。何かわからんがまずいぞ」

 

「はい。」

 

「俺が攻撃を引き付ける。お前がそのかわす技で近づいてとどめを刺せ」

 

「わかりました」

 

飛鳥は攻撃をかわしつつ敵との距離を詰める。

二体同時に殺さなければならないのは厄介だ。

だがこちらには柱が三人もいる。

そして対して強くない方には義勇が向かっている。

あの程度な義勇なら楽勝だろうと考え

透けて見える筋肉の動きを読みかわす。

さすがにここまでかわされて怒りが頂点に至った妓夫太郎は

周囲に向けて鎌から出される大型の衝撃波を織り交ぜながら攻撃する。

それでも飛鳥や天元に攻撃が当たることはなかった。

 

 

 

一方義勇と炭治郎はかなり優位に戦いを進めていた。

帯による攻撃を義勇が凪でつぶし、その隙に炭治郎や伊之助、善逸が攻撃を繰り出す。

その攻撃に堕姫は反応できず首を落とされるが妓夫太郎のほうがまだ落とされていないので

すぐに首を拾い付け直す。

その繰り返しだった。

ここで炭治郎たちは自分たちの成長を実感していた。

上弦の参との戦い以降あの場で何もできずただ見ていただけという状態だったことを悔い、

暇さえあれば飛鳥に稽古を頼んでいた。

地獄の特訓だったし善逸は何度も弱音を吐いていた。

だがなんやかんやでついてきていた。

その特訓の成果が今この場で出ている。

三人はそう実感していた。

事実堕姫は炭治郎たちの攻撃、特に善逸の霹靂一閃が見えていない。

そうなれば後は時間の問題だった。

 

 

 

 

 

ところ戻って飛鳥と天元の方の戦いも佳境に迫っていた。

すでに飛鳥の赫刀によって片腕を落とされて

再生が不可能な状態になっている妓夫太郎は焦りがあった。

 

「(今までの柱とも違うなぁ。強えぇなぁぁ。)」

 

その焦りが動きを単調にする。

上弦とはいえ単調な動きをする敵は飛鳥にとってもはや敵ではない。

 

「(日の呼吸 壱ノ型 円舞 )」

 

型を繰り出し妓夫太郎の首を切り落とした。

ほぼ同じ時間に堕姫の首も落ちた。

妓夫太郎の体が崩れ始める。

 

「おわったか」

 

「ええ」

 

遠くから雛鶴や炭治郎たちの声が聞こえてくる。

 

「(これでまた一歩進んだ。炭治郎たちはほぼ無傷。いや刀は折れてるな。

これは鋼鐵塚さんがまた切れるな。)」

 

そこで妓夫太郎のほうを見た。今だ完全には体が崩れていない。

そして妙な動きがみられた。

 

「(こいつまさか最後の力で)」

 

「(しまった。手負いのやつは何するかわからねえ。常識だろう。)」

 

「「逃げろ━━ッ!!!」」

 

天元と飛鳥が叫ぶと同時に、鬼の身体から血が吹き出し、渦を形作る。

その渦は周囲一帯をつもりだ。

 

「(させねえ、借りるぞ。義勇。水の呼吸 拾壱の型 凪)」

 

義勇の作り出した型を使い渦を切り裂き渦をかき消した。

天元をはじめ飛鳥以外は全員が無傷。

だが飛鳥のみ正面から渦に当たり傷だらけだ。

妓夫太郎の体がすでにないことを確認した飛鳥はそこで気を失った。

そこから三ヶ月飛鳥は目を覚さなかった。

 




第五十二話いかがだったでしょうか?
飛鳥を完全に最強にするつもりで書いていたら
どうしても戦闘シーンが短くなってしまいますがそこは許してください。
では次回目覚めです。
今の予想では刀鍛冶の里編はかかわらない予定です。
ここら辺は原作と少し時期をずらす予定です。
あ、これネタばれかな?
ごめんなさいね。


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柱稽古編
五十三話 目覚め


どうも秋月です。
今回から柱稽古編です。
予告通り刀鍛冶の里編は飛ばしました。
どう介入させようか悩んだ末そうすることといたしました。
ではどうぞ。


飛鳥視点

 

 

夢を見る。そこは前に三人で出かけた場所だ。

そこでは俺とカナエとしのぶが数人の子供達と共に笑いながら話している。

これが俺の願望なんだと理解した。

俺の夢は愛する二人やその子供たちと楽しく過ごすこと。

ただそれだけだ。だが鬼がいる限りそれはそんな願いさえもかなわない。

 

「ならこんなとこで夢見てる暇はないな」

 

夢を見るのをやめて反対に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。起き上がればそこは超屋敷の超屋敷の病室の一室。そのベットの上だ。

周りにはいくつかの薬品と包帯が置かれていた。

 

「あ、飛鳥さん目が覚めたんですね」

 

「よかった」

 

「すぐ皆さんを呼んできます」

 

なほ、きよ、すみが走りながらほかのみんなを呼びに行った。

数分もすればカナエやしのぶ、アオイにカナヲ、他にも炭治郎たち三人も来てくれた。

 

「よかったわ、目覚めてくれて」

 

「そんなに眠ってたのか?俺」

 

「三か月近く目覚めなければ心配もします」

 

「悪かった。カナエ、しのぶ」

 

二人の頭をなでながら謝る。

 

「ほかのみんなも心配かけた」

 

皆を見回した時、飛鳥はあることに気づいた。

 

「炭治郎、その痣」

 

「はい。遊郭での戦いの時に出たんです。」

 

「直ぐに意識を全身に回すんだ。よく自分の心拍を聞け。

呼吸で止血するように身体の中に意識を巡らせ、その心拍を落ちつけろ。」

 

「わかりました」

 

炭治郎が困惑した様子でこっちを見つめるが、息を整え言われた通りにし始める。

炭治郎の胸の辺りに手を添え、透き通る世界で様子を見る。

 

「・・・うん、そうだ。大きく息を吸って吐いて、安定させるんだ。」

 

「こう・・・ですか?」

 

「その調子だ、いいぞ・・・」

 

完全な状態で現れてしまえば痣は消えないが

跳ね上がっていた心拍が落ち着く。

一つ安心してこの三か月の間のことを聞いた。

なんでも刀鍛冶の里に上上弦の鬼が二体現れた。

苦戦したが甘露寺、無一郎と玄弥さらに悲鳴嶋まで参加して勝ったらしい。

特に悲鳴嶼参戦後は圧勝だったらしい。

 

「ちょうど今日は柱合会議よ。既にお館様には烏で手紙を送っておいたわ

それと一つ話さなければならないことがあるの?」

 

「どうした?そういえば早紀はどうした?任務か?」

 

「それが、早紀さんは行方不明なの」

 

「は?」

 

一週間前、早紀は獪岳と共に他の隊士を率いて鬼を討伐に向かった。

だがそこで上弦の壱と遭遇。他の隊士を逃がすために二人で戦いを挑んだという。

後から人を派遣したが血の跡すら見つからなかったという。

 

「ならちょうどいい。参加する」

 

起き上がり立とうとするとやはり三か月寝たきりの体は思うようには動かない。

 

「くそ、たった三ヵ月寝てたくらいでこの体たらくか」

 

「仕方がないわね」

 

カナエが肩を支える。

反対側はしのぶが支えてくれた。

それから着替えてお館様の屋敷に向かった。

屋敷につくと部屋に通された。

既に全員そろっている。だがやはり獪岳はいなかった。

 

「すまん。遅れた」

 

「よい。まだお館様は来られていない。それとよく生き残ってくれた」

 

「あの時はありがとな。派手に助かった」

 

「起きたか。ずいぶんねぼすけだなぁ。飛鳥」

 

「悪いな、実弥。それと眠っている間のことは聞いた。

悪かったな。甘露寺、無一郎。大変な時に。」

 

「気にしないで。飛鳥さんは仕方ないわ」

 

「そうだよ。それだけの傷を受けていたんだ。仕方がないよ」

 

「悪いな。それとすまないがまだ本調子じゃなくてな。カナエの同席を許してほしい」

 

「理解している」

 

悲鳴嶼さんの隣の席が空いていたのでそこに座る。

カナエはその横に座る。

しのぶは一番後ろに座った。

しばらくすればお館様ではなくあまね様が入ってくる。

すかさず全員が平伏した。

 

「本日の柱合会議、産屋敷輝哉の代理を産屋敷あまねが務めさせていただきます。

そして当主輝哉が病状の悪化により今後皆様の前に出ることが不可能になった旨お詫びします。

さて現在鬼の出現が止んでおります。先日から多方面に烏を放ちさらに隊士にも探らせおりますが

現在に至るまで発見したという報告を受けておりません。

そこでかねてから悲鳴嶼様から相談を受けておりました隊士に対する一斉稽古を

行おうと考えております。」

 

「俺は派手に賛成だ。一般隊士の質の低下は前々から懸念材料だったんだ。

ここらでまとめて鍛えなおすべきだ」

 

「俺も天元さんに賛成だ。鬼が一斉にいなくなったのなら無残は戦力を集めてるってことだ。

ならそう遠くない時期に大きな戦いあると考えるべきだ。

その時になって一般隊士が弱いと話にならん」

 

天元さんと俺はこの時点で同意の声を上げた。

 

「ほかの皆様も異論はないという事でよろしいでしょうか?」

 

全員が賛成の声を上げた。

 

「ではここからは私が説明する。」

 

話はこうだ。

それぞれの柱が一つずつ稽古を一般隊士に与えていくというものだ。

順番は一番目が天元さんの基礎体力向上訓練から始まり

無一郎の高速移動訓練。

甘露寺の柔軟訓練。

小芭内の太刀筋矯正訓練。

杏寿郎の体幹強化訓練。

実弥の打ち込み訓練。

義勇、錆兎の対多訓練。

悲鳴嶼さんの筋肉強化訓練。

そして最後に俺が実戦形式の稽古をして総仕上げとなる。

それとは別に柱達には痣の発言を目指しての稽古を別途行うというものだ。

そしてしのぶは別件の指示をお館様から受けているので稽古には不参加。

柱達の稽古のみに参加することとなった。

 

「では皆様よろしくお願いします」

 

そこで会議は終了となった。

 



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第五十四話 柱稽古壱

柱稽古が始まった。

 

「遅い遅い遅い遅い。何してんのお前ら。意味わかんねぇんだけど」

 

竹刀片手に木の上から怒鳴る天元。

木の下では息絶え絶えに座り込む一般隊士たち。

 

「まず基礎体力がなさすぎるわ。走るとかいう単純なことがさぁ。

こんなに遅かったら上弦倒すとか夢のまた夢よ」

 

あまりに行動が遅い隊士がいると竹刀で殴ったりしている。

 

「ハイハイハイ。地面舐めなくていいから。

まだ休憩じゃねぇんだよ。もう一本走れ。」

 

言われて隊士たちはまた走り出す。

かなりきついがやはり違うものも少なくない。

さすがというべきか真菰をはじめとする甲の地位に就く隊士たちは

しっかりと基礎体力ができているので特に苦も無く天元の稽古を約十日ほどで突破していく。

炭治郎や善逸、伊之助、カナヲ、玄弥も同様の期間で突破した。

それらを突破すれば次は無一郎の稽古。

より早く無一郎に対して竹刀を打ち込んでいく。

ここでも炭治郎たちは他より早く突破した。

そんな感じで炭治郎たちは甘露寺の柔軟訓練、小芭内の太刀筋矯正訓練、杏寿郎の体幹強化訓練、

実弥の打ち込み訓練、義勇、錆兎の対多訓練を突破していく。

途中実弥のところで兄弟の関係のことでいさかいを起こして

炭治郎はお叱りを受けたが気を取り直して次に進む。

次の稽古は行冥の筋肉強化訓練。

これは三つの訓練が用意されている。

まず滝に二時間打たれる修行から始まり丸太三本を担ぐ修行。

そして最後に岩を一町(約百九メートル)押す。

最後から二番目という事もありやることは単純だが一番きつい。

基本前向きで負けず嫌いな伊之助は何の躊躇もなく滝に打たれに行く。

炭治郎もそれに続いた。善逸は戸惑いながらも滝修行に向かっていった。

カナヲは女性という事もあり特別な服に着替えたのち滝修行に入る。

滝修行の合間の飯休憩中にこんな話が出た。

 

「最強はあの飛鳥とかいうやつだ。確かにあの玉ジャリジャリ親父も強い。

だが二番目だ。飛鳥の野郎は常に自然体で強さのほどが全くと言ってわからねえ」

 

「それって洗練されてるってこと?」

 

「そうだ。なんて言っていいのかわかんねえけどとにかく強え」

 

「わかるよ。悲鳴嶼さんは何というか覇気出しっぱなしって感じだけど

飛鳥はそうじゃない。まるで植物を相手にしてるって感じだろ?」

 

伊之助の言葉に一緒に魚を食べていた村田が話に入ってくる。

彼と飛鳥は同期なので付き合いは長い。

だからこそ飛鳥のそれに関して伊之助が言いたいことはよくわかった。

ちなみに伊之助が飛鳥の名前をちゃんと覚えている理由は自分の超えるべき

目標として覚えているからだ。

まだまだ修行は続く。

 



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第五十五話 柱稽古弐

炭治郎は滝修行と丸太修行を突破した。

それを追うように善逸達も同様の訓練を突破していく。

だが岩押しの修行での岩が動かせない。

そこで悩んでいるときに玄弥から反復動作を教わる。

そこから遂に炭治郎は岩を動かすことができるようになり一町動かし終えた。

悲鳴嶼に禰豆子認めてもらうというおまけ付きで

それから炭治郎からコツを得た伊之助、善逸、カナヲも突破した。同時に玄弥も突破した。

そして最後に総仕上げの飛鳥の修行。

飛鳥の修行はいつもの蝶屋敷ではなく雨屋敷で行われる。

屋敷に入れば修行開始。

 

「待っていたよ。炭治郎、伊之助、善逸、カナヲ、玄弥。君たちが最初だ。

さて始めようか。まずは己の型をその場で舞って無駄がないか見ていこう。

玄弥はまた別の修行をこなしてもらうよ。

それを突破した人から総仕上げの試合を行う。これが俺の修行だ。

それが終わればこれまで行った柱のところで再修行をこなすもよし。

ここで稽古するもよしだ。とにかく型を舞っていこう」

 

それぞれが型を舞い飛鳥が問題点を指摘していく。

やはり一番早いのは善逸だった。元々壱の型しか使えないというのもあるが

それを重点的に桑島に鍛えられていることもありほぼ完ぺきだったのだ。

炭治郎はこの中で唯一水とヒノカミ神楽を舞うので一番時間がかかった。

次に実戦形式での試合。目的は俺と戦い限界まで続ける事。

 

「準備ができたら誰でも来てくれ」

 

「まずは俺だ。俺から行くぜ」

 

「待て待て、俺の説明が悪かった。全員で来てくれ。この訓練は上弦との対峙も想定に入ってるんだ。

基本上弦の鬼に対しては複数人で対峙することになる。

それに今回は俺の訓練も兼ねたい。どうか頼む。」

 

こちらが丁寧に頼むと伊之助も納得して全員で挑んでくる。

やはりまだ動きが悪いがさすがというべきか

上弦と対峙した経験を持つ四人は経験からしっかり複数と戦う形ができている。

カナヲも最初は戸惑っていたが瞬時に理解して形に加わっていく。

十二鬼月と対峙した時、複数が攻撃を受け止めて隙を取れたやつが攻撃する。

この攻撃方法は意外と効果が大きい。

上弦の弐のような例外はあるが十分効果を発揮する。

それだけに頼れないが実際上弦の陸戦ではこの戦い方がはまったいい例だ。

だからこそ戦いが始まればすぐに隊士同士で合流する。

そういう作戦もある。

さて今は目の前のことに集中しよう。

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥と炭治郎達が打ち合いを始め、三十分程が経った。

普通に戦っても当てる事すら出来ない考えた炭治郎たちは

時間差をつけ多角的に戦うことを決め攻撃を開始する。

まず玄弥が突っ込み飛鳥がそれをかわした瞬間 玄弥の大柄な体の陰に隠れていた炭治郎が切り込む

だがそれも飛鳥はかわしす。そこに後ろから善逸が霹靂一閃をお見舞いする。

だがそれも飛鳥は受け流すことでかわした。

さらにその後ろからカナヲが切り込んだが今度は受け止めた。

つばぜり合いをしている間に伊之助が低い体勢から切り込み

最初に切り込んだ玄弥と炭治郎も同時に切り込んだ。

結果として飛鳥はすべてさばききったが焦らされたのも事実だ。

 

「今の動きはよかった。時間差をつけた多角的な波状攻撃。さすがに危なかったな」

 

「それでも危なかっただけか」

 

「差を感じるぜ」

 

「さすが鬼殺隊最強」

 

「さあ、立ってまだやるだろ?」

 

へたり込んでいた五人は立ち上がりまた飛鳥に挑んでいった。

 

 

 

 



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第五十六話 お館様の策

炭治郎たち五人は飛鳥の稽古を突破した。

今彼らは他の柱の稽古を再度受けなおしを希望しその場所に向かっている。

そして夜になれば柱達は全員で集まり痣を出すために稽古に励んでいる。

その成果もあって何人かは痣を出すことに成功した。

そこから心拍数を抑える稽古。赫刀の稽古を行う。

結果、痣が出ずともより洗練された動きが可能になり戦力増強になった。

翌日悲鳴嶼と飛鳥はお館様に呼ばれて産屋敷邸に向かう。

いつも通りのあいさつをして入室する。

そこにいたのは全身を包帯を巻いたお館様だった。

 

「来てくれてうれしいよ。行冥、飛鳥。

早速だが本題に入ろう。」

 

二人は黙ってお館様の枕元に座る。

 

「今日から五日以内に鬼舞辻がここにやってくる・・・確実にね。」

 

「・・・鬼舞辻が。」

 

「そこで、だ。私はもう長くない。だから、私を囮にして鬼舞辻を滅殺して欲しいんだ。」

 

「・・・!?」

 

「ですが、それでは・・・」

 

「心配することないよ。私の代わりにすでに輝利哉が継いでくれている。だから心配いらない。

鬼舞辻が来たら、私が鬼舞辻の注意を引きつける。その隙に屋敷ごと爆破させるんだ。

鬼舞辻は、傷の修復で手一杯となるはず。そこに珠世さんが薬を打ち込む予定だよ。」

 

「さらにそこを、啓と行冥の二人で仕留めて欲しいんだ・・・どうか、頼まれてくれ。」

 

「御館様の意思とあらば・・・私は「お断り致します。」」

 

「飛鳥」

 

悲鳴嶼が飛鳥をとがめる。

だが飛鳥は譲らなかった。

 

「我々が鬼舞辻を滅すれば、御館様の呪いも解けるはず・・・どうか、どうか生きてください。

貴方はここで死ぬべきではない。鬼の居ない平和な世で天寿を全うして頂きたいのです。」

 

「しかし」

 

「悲鳴嶋はいいんですか?今鬼舞辻はこちらに自身も併せて大攻勢をかけようとしている。

これが下手すれば最大で最後の後期かもしれない。

ここで鬼舞辻を滅することができればすべてが終わる。

そして呪いで苦しんできたのにやっとその苦しみから解放されて平和な世が訪れる。

その開放をお館様には享受していただきたいと俺は考えます。

だからあきらめないでください。己の生を。そして見届けてください。

誰でもない現当主であるあなたが次期当主である輝利哉と共に」

 

飛鳥は土下座をして願い出た。

 

「飛鳥」

 

「私からもお願いいたします。。他の隊士達も、皆同じ事を思う筈です。

貴方はもう十分過ぎるほど苦しんだ。ならばこそ、平和を享受して頂きたい。

苦しみしかない一生など辛すぎる」

 

「行冥」

 

悲鳴嶼も飛鳥と共に土下座する。

 

「父上。一度は父上の決断を受け入れましたがやはり私も父上にも見届けてほしい。

生きてください。生きてこの先の時代を見てください」

 

少し離れていた場所で黙って話を聞いていた輝利哉も同様に願い出た。

こうなればお館様いや輝哉もうなずかないわけにはいかなかった。

 

「わかった。三人がそこまで言うなら計画を見直そう。

だが私が囮になるという事は外せない。その後のことを一緒に考えてくれ」

 

「「御意」」

 

計画は見直され修正を加えられる。

そして四人で考えた計画が完成した。

 

「では当日頼むね」

 

「お任せを」

 

「お館様のため、そして全ての生きとし生ける者のために」

 

「頼んだ」

 

飛鳥と悲鳴嶼は部屋を去った。

準備のために一度自分の屋敷に戻る道中二人は話す。

 

「感謝する。飛鳥。私もどこかでお館様のことを諦めていたのかもしれない。

飛鳥のおかげでより良い結果を目指すことができる」

 

「はい。ですが俺達が死んでは意味がありません。絶対生き残りましょう。

そしてより良い朝日を迎えましょう」

 

「そうだな」

 

二人は自分の屋敷に向かった。

決戦は近い。



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無限城最終決戦編
第五十七話 火蓋は切られた


飛鳥視点

 

 

お館様いや、輝哉様が予想した日から五日目。

遂に鬼舞辻がやってきた。

既に山のふもとには柱達が気配を殺して待機している。

俺はお館様の寝ている部屋の押し入れで待機し悲鳴嶼さんは近くの木の陰で待機している。

仕掛けの近くでは実弥が待機している。

今鬼舞辻と輝哉様が話している。

合図は「ありがとう無残」の一言。それを合図に輝哉様とあまね様を俺が、

外で遊んでいるひなき様とにちか様を悲鳴嶼さんが救出する。

そしてその時が来た。

 

「ありがとう無残」

 

隠れていた押し入れの戸を蹴飛ばし輝哉様とアマネ様を抱きかかえ救出。

庭の方を見れば悲鳴嶼さんがひなき様とにちか様を救出している。

今しかない。

 

「「実弥ーーー」」

 

悲鳴嶼さんと二人で叫んだ。

その瞬間屋敷が大爆発を起こした。

俺たちは四人を同じように近くで待機していた槇寿郎さんと隠に任せる。

 

「槇寿郎さん、輝哉様をお願いします」

 

「任せてくれ。飛鳥君も必ず鬼舞辻を」

 

「はい」

 

「飛鳥、行冥」

 

「なんでしょう?お館様」

 

あえて輝哉様をお館様と呼んだ。

 

「後は頼んだ」

 

「お任せを」

 

「お館様に、必ず吉報をお持ちいたします」

 

「待っているよ」

 

御館様の見送りを背に、悲鳴嶼さんと再び鬼舞辻の元へと戻る。

今日で全てを終わらせる、必ず。啓、父さん、母さん、姉さん、おじさん、おばさん

天国で見ててくれ。

 

 

 

 

三人称視点

 

 

 

 

 

輝哉を槇寿郎に預けた飛鳥と悲鳴嶋は急いで鬼舞辻の元へと戻る。

そこでは鬼舞辻が血の太い針の血鬼術で固定され動けない。

そこに珠世が鬼を人間に戻す薬を投与する。

正確には、薬を潜めた拳を無惨に突き刺した。

それを吸収した無惨、当然、薬ごと吸収してしまう。

 

「悲鳴嶼さん!!清水さん!!お願いします!!」

 

「南無阿弥陀仏」

 

「鬼舞辻無残、覚悟」

 

悲鳴嶼の赫い鉄球が、飛鳥の赫刀が。無惨へと襲いかかる。

飛鳥は再生しかけていた無惨の身体を再び切り刻み、悲鳴嶼の鉄球は無惨の首を粉砕する。

赫刀で喫られたためか修復が遅い。

その間に飛鳥が珠世の腕を切る。

 

「珠世さん、下がって」

 

「飛鳥さん、あとはお願いします」

 

その間に鬼舞辻は体を再生させる。

 

「(首を斬っても死なない・・・か。)」

 

これも耀哉の予言通りだった。

つまり、無惨を倒すためには陽光の元に固定し、焼き殺さなければならないということ。

それより早く無惨が仕掛ける。

 

「(黒血枳棘)」

 

有刺鉄線のような触手が行冥と啓に襲いかかる。

が、二人はそれを素早く防ぐ。

 

「(岩の呼吸 参ノ型 岩軀の膚)」

 

「(雨の呼吸 肆ノ型 斬雨)」

 

触手は二人に届くことなく落とされる。

そこに、柱達と炭治郎が到着する。

 

 

「鬼舞辻無惨だ!!頸を切っても死なない!!」

 

「日の出までここに固定して焼き殺すぞ!!」

 

(あいつが!!)

 

(鬼舞辻・・・無惨!!)

 

無一郎、しのぶ、小芭内、蜜璃、義勇、錆兎、実弥、杏寿郎、炭治郎、悲鳴嶼、天元、飛鳥。

鬼殺隊最高戦力がここに集結、鬼の始祖を討たんとそれぞれの技を放とうとする、が・・・

 

 

ベベンッ

 

 

琵琶の音と共に地面が開く。

この光景に飛鳥は見覚えがあった。

 

 

 

「(転移の血鬼術・・・!ということは!!)」

 

「全員落下に備えろ!!この先は鬼の本拠地!!極力誰かと合流して行動しろ!!」

 

「ははは!!貴様らがこれから行くのは地獄!!今宵皆殺しにしてやろう!!」

 

「地獄に行くのはお前だ無惨!!絶対逃がさない、必ず倒す!!」

 

「やってみろ・・・竈門炭治郎!!」

 

その場にいた全員が鬼の根城、無限城へと落とされる。

ここにいない隊士達も、ほとんどが血鬼術により転送される。

無惨もまた、今日で決着をつけるつもりだったのだ。

戦いの火蓋は切られた。

最終決戦の始まりである。

 

 

 

 

 

 



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第五十八話 それぞれの戦い 胡蝶しのぶ

 しのぶは無限城の廊下を歩く。

複雑でまさに迷宮と言える。

その時血の匂いと鬼の気配に気づいてそれを頼りにドアを開ける。

そこにいたのは大量の女性の死体とそれを食べる鬼だった。

 

「ん?あれぇ、もう来たの?あぁ女の子だね。若くておいしそうだ。

あとで鳴女殿にありがとうって言っとかなくちゃ。

初めまして俺は童磨。いい夜だねぇ」

 

童磨は立ち上がる。だがその姿は異様だった。

下半身は膝のあたりまでしかなく残りは氷でできている。

左腕は肩から氷で出来ていた。

 

「これ?四年前に切られてから再生しないんだよ。何でだろ?君はわかるかい?」

 

しのぶは気づいた。姉を殺しかけた鬼と特徴が似ている事と

飛鳥に切られた場所と同じだとに。

 

「(この鬼が姉さんを。でもなんで再生していないの?)」

 

飛鳥は赫刀で童磨を切った。

そこで切られた場所は四年経った今でも傷口を燃やし続けていたのだ。

 

「(傷が再生していないとはいえ相手は上弦の鬼。多分私では倒しきれない。

既に私が上弦と対峙している事はお館様にも伝わっているはず。

ならだれか応援が駆けつけるまで待つしかないわね)」

 

この時のしのぶは冷静だった。

それは姉であるカナエに陣痛が始まり今夜中には新たな命が生まれるだろうと任務前に

寄り添っている産婆や瑠火に言われている。

なら自分は何としても生き残ろうという使命感や

飛鳥と共にこれからも生きていきたいという欲がそうさせていた。

しのぶが刀を構える。

童磨もまだ無事な片腕で扇を構える。

長い沈黙がその場を支配する。

先に動いたのは童磨の方だった。

 

「(血鬼術 蔓蓮華)」

 

氷の蔓がしのぶに襲い掛かる。

しのぶはそれをかわし一気に近づいて型を繰り出す。

 

「(蟲の呼吸 蝶の舞 戯れ)」

 

数か所に突きを見舞う。

 

「すごい速さだよ。対応できなかった 。

でも突きじゃ鬼は倒せないよ」

 

余裕の童磨だったが傷口から変色が始まる。

童磨は体の異変で血を吐き膝をつく。

 

「これは、累君の使った毒より強力だね」

 

「(やっぱり情報は共有されている)」

 

「調合を・・・鬼ごとに変えてるとあの方も仰っていたなぁ。

ゲホッ、グッ。・・・・・あれぇ、毒、分解出来ちゃったみたいだなぁ。

ごめんね。せっかく使ってくれたのに」

 

「(くっやはり、ならば)」

 

童磨はまた立ち上がる。

余裕をひけらかせながらしのぶを煽る。

だがしのぶは冷静に確実に童磨の作る数少ないすきを見つけてどんどん違う毒を調合し

撃ち込むがその全てを童磨は分解していく。

さらに氷を散布する。確実にしのぶはその氷を吸っている位置にいるだが一向に肺に凍らず

その影響が出ない。

 

「(おかしい。なぜだ?なぜまだそこまで動ける?)」

 

勿論それらはすべてしのぶがこの最終決戦に備えて準備してきたもののおかげだ。

今しのぶの口の中には珠世が作った塗り薬による粘膜が喉に張られている。

喋ることは出来なくなり効果も三十分間ほどだがその間呼吸を邪魔せず氷の侵入を防いでくれる。

それを扉を開ける前に仕込んでおいたのだ。

そのおかげで肺を壊死させる氷は入ってこず呼吸を使える。

勿論そんなことを知らない童磨は自分の血鬼術が効果を発揮していないのではと考える。

この戦いの中童磨は余裕をひけらかし続けている。

だが実際は早く終わらせたいくて仕方がなかった。

最大に理由は今だ再生しない手足だ。

本来童磨は動きの早さと的確な血鬼術操作で敵を殺す。

だが今その速さは出せずにいた。

理由は先ほど述べた手足の欠損。

一応氷で補っているが当然本来の速さは出せない。

というか氷が割れてしまうので不可能だ。

手の氷も血鬼術の邪魔していた。

しのぶが首を斬れないとはいえ

その毒を全て受ける訳にはいかない。

今は問題なく分解出来ているがいずれ不可能になるかもしれない。

その考えが今の童磨にはあった。

四年前死にかけなければそんな考えも起きなかっただろう。

上弦の弐になって約百年。

死を知らなかった、敗北すらほとんど知らない童磨に

叩きつけられた死の恐怖と黒死牟の与えられた以上の圧倒的な敗北感。

その全てが本来なんてことない相手であるしのぶとの戦いで本来の悪癖とも

重なって無駄な警戒心を生み消極的で本来の強さが発揮できず苦戦を強いられていた。

だがもたもたしてはいられない。

いつあの時の隊士が来るかわからないから。

 

「(血気術 結晶ノ御子)」

 

ここで形勢は互角よりやや童磨有利から一気に童磨に傾いた。

氷の人形を出ししのぶを追い詰める。

自律戦闘が可能な人形が六体で一斉に本体と同じ血鬼術を本体と同等の威力で使用し

しのぶを追い詰める。

 

「さぁ、この子達に勝てるかな?」

 

「(駄目、追いつけない)」

 

傷つき壁際まで追い詰められてしのぶは眼をつぶる。

だが氷の人形は一向に攻撃をしてこない。

目を開けると一人の隊士が立っていた。

その隊士は一瞬で氷人形を破壊していた。

 

「遅くなった。すまない」

 

「君はあの時の」

 

「(飛鳥!)」

 

しのぶにとって救世主の登場だった。

それと同時に形勢が一気にしのぶの方に傾いた瞬間だった。

 

 

 

 



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第五十九話 因縁決着

 飛鳥は走る。

烏からの報告でしのぶが上弦の弐と一人で対峙していると聞いたからである。

運が悪いことにしのぶが送られた場所は飛鳥や他の柱が送られえた場所とは

かなり離れた場所だった。

その報告受けた輝利哉はここで柱を失うわけにはいかないと柱の中で一番近くの位置にいて

一番早く現場に着き確実に上弦の弐を滅することができる飛鳥を救援に向かわせた。

後続として念のためカナヲと伊之助も向かわせた。

そして今飛鳥が間に合った。

 

「遅くなった。すまない」

 

「君はあの時の」

 

「休んでろ。すぐ終わらせる」

 

安心したからかしのぶは座り込んだ

飛鳥は構える。刀身が赫い。赫刀状態で突っ込んだ。

 

「(雨の呼吸 壱ノ型 車軸の雨)」

 

刀を両手で持ち高速の一点集中の突き。

しのぶの倍は早い突きだ。

童磨はそれをかわす。

その時足の氷が壊れるがそれを瞬時に再形成。

その間に一気に近づいた飛鳥が怒涛の攻撃を加える。

 

「(水の呼吸 壱ノ型 水面切り)」

 

「(風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風)」

 

「(雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷)」

 

「(炎の呼吸 伍ノ型 炎虎)」

 

呼吸をフル活用して童磨を追い詰める。

その差は圧倒的で童磨もかわしてはいるが毎回無視できない傷を負う。

そして動くたびに足の氷を再形成を行う為その集中力も削がれていく。

その時童磨の体が崩れだした。

 

「(なぜ体が崩れているんだ。あの男の攻撃のせい?いや)」

 

童磨は壁際にもたれかかり座っているしのぶを見た。

しのぶはくすっと笑った。

そう童磨の体が崩れ始めたのはしのぶの毒が回ったからだ。

童磨はしのぶの毒を分解した。

そう分解しただけだ。解毒したわけでも無毒化したわけではない。

分解された毒が童磨の血管を通り集まり体中に周り今その影響が出始めたのだ。

その全てがしのぶの策通り。一撃目で毒が分化される事を知ったしのぶは

そこから分解されても短い時間で毒がまとまる位置を的確に突き

そう仕向け氷人形の血鬼術が発動される前に完成していたのだ。

後は待つだけだった。では飛鳥が駆けつけたのは何の意味もないかと問われればそうではない。

しのぶの計算ではまだ時間がかかるはずだった。

だが飛鳥の攻撃をかわす為に激しく動いた。

そのおかげで毒の周りが早くなったのだ。

 

「終わりだ」

 

「終わりか。まだだよ(血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩)」

 

ここで童磨は大技を出した。

巨大な氷の仏像を飛鳥との間に出現させる。

 

「それがどうした!借りるぞ、杏寿郎(炎の呼吸 玖ノ型 煉獄)」

 

飛鳥は童磨を仏像事炎の呼吸の奥義で切り伏せた。

首が飛んだ童磨。勢いで首がしのぶの足元に落ちる。

 

「やっと死にますか?これで私も安心です」

 

「やあ、しのぶちゃんだったかな?カナエちゃんだったかな?」

 

「覚える必要ないですよ私のことも姉さんのことも。気色悪いので呼ばないでください」

 

しのぶは足元の童磨の顔を蹴って自分から離す。

 

「あぁこれが本当にあったんだなぁ。この感覚が」

 

「?」

 

「今はない心臓が脈打つような気さえする。

これが恋というやつかなぁ可愛いなぁしのぶちゃん」

 

この童磨の言葉にしのぶは寒気を覚えた。

当然である。童磨にその気はないが

状況だけ見ればしのぶに顔を蹴られて喜んでいるようにしか見えないのだ。

 

「ねぇ、しのぶちゃん、ねぇ。一緒に地獄へ行か・・・」

 

童磨が言い終わる前に飛鳥が首を縦から切り裂いた。

 

「もうしゃべるな。聞くに堪えない」

 

「残念ですが私は一緒にはいきません。私は愛する人と共に生きていきます。

だからあなたと地獄へは行きません。それと一つだけ言っておきます。

とっととくたばれ糞野郎」

 

聞くだけ聞いて童磨は消滅した。

しのぶは立ち上がる。

 

「行きましょう。飛鳥」

 

「そうだな」

 

二人はまた走り出す。

次の敵を殺すために。

 

 

 

 



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第六十話 それぞれの戦い 善逸、輝利哉

 「カァァ、カァァシノブ、アスカニヨリ上弦ノ弐、撃破、撃破」

 

烏たちが上弦の弐が討伐されたことを知らせる。

それを聞いた善逸はさらに速度を上げた。

音を頼りにある人物を探していた。

途中悲鳴嶼、無一郎、炭治郎、義勇、錆兎と合流する。

自分が対象より強いことを理解している善逸は素直に五人に協力を求めた。

 

「この先にあいつが獪岳がいるんです。お願いします。協力してください。」

 

「もちろんだ、善逸。お前の兄弟を助けよう」

 

炭治郎の快い返事と共に残りの四人もうなずく。

六人は駆け出し扉を開ける。

そこにいるのは鬼となった獪岳だった。

 

「おう、善逸。やっと来たか?」

 

「何やってんだよ、くそ兄貴」

 

「獪岳」

 

「悲鳴嶼さんもいるのか。これはちょうどいい」

 

「今助けてやる」

 

「助ける?何を。最高だぜ。お前らも鬼になれよ。これだけあれば飛鳥の糞野郎も

殺せるぜ。あの野郎だけは許さねぇ」

 

善逸はそこで切れた。

 

「適当な穴埋めで上弦下っ端になれたのが随分うれしいようだな」

 

「へぇ。ハハッ言うようになったじゃねえか。いつもピーピー泣いてたやつがよう」

 

「鬼なんぞになってはしゃぐようになったな。獪岳。

あまつさえ先に進めるようにしてくれた飛鳥を侮辱するとは。お前はここで滅する」

 

悲鳴嶼も切れながら斧と鉄球を構える。

 

「やってみろよ」

 

獪岳も構えて瞬間攻撃に移る。

 

「(雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃)」

 

血鬼術の黒雷が重なった俊足の一閃を繰り出す。

それを悲鳴嶼は受けその他はかわす。

 

「(なぜ当たらない?)」

 

「おせぇよ」

 

「(飛鳥の一閃は)もっと早い」

 

「こんなもん飛鳥のに比べれば遅いな」

 

炭治郎、義勇、錆兎、無一郎が切り込む。

獪岳はそれを刀で防ぐ。

瞬間四人が飛びのいた。

その瞬間悲鳴嶼が鉄球と斧が飛んできて獪岳の両腕を切り裂いた。

 

「善逸!」

 

「はい。(本当はアンタと肩を並べるために作った技だけどこの技でアンタを救う。

雷の呼吸 漆の型 火雷神)」

 

居合切りの天才である善逸が編み出した一撃。

その一撃が獪岳の足を切断した。

 

「今だ、獪岳を抑えろ」

 

5人がかりでのしかかり暴れる獪岳を抑える。

その間に手足が再生する。

 

「手足が再生した。善逸、薬を」

 

手足が再生したのを確認した炭治郎が善逸に薬を打つよう促す。

善逸は懐から箱を取り出して注射器を取り出しそれを首筋に打った。

しばらくして獪岳は暴れなくなった。

 

「どうだ?」

 

「獪岳?」

 

「すまん。俺」

 

「良かった。獪岳さん元に戻ってる」

 

「良かった。元に戻ってるよ」

 

5人が獪岳から下りて座り込んだ。

 

「わりぃ。俺ひでぇ事言っちまった」

 

「ならこの後返せ」

 

「悲鳴嶼さん?」

 

「この後は無惨だ。全員で勝つ。その時貢献しろ。それで許す」

 

「はい」

 

「行くぞ」

 

全員が立ち上がり次に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃無限城の外、いくつかある産屋敷邸の一つでは指揮をとっていた。

先ほど父親と母親と姉二人が槇寿郎と隠によって連れてこられた。

今外では槇寿郎と天元の嫁3人と桑島慈悟郎と先代水柱戸倉芭蕉が警護についている。

今、輝利哉のもとには次々報告が舞い込んできていた。

 

「胡蝶しのぶと清水飛鳥が上弦の弐を討伐しました」

 

「よし、二人の怪我の具合は?」

 

「飛鳥は無傷、しのぶは軽傷ですが数は多いです。既に治療は完了しています」

 

「なら飛鳥としのぶには上弦の壱を目指すように指示を出して」

 

「はい」

 

「愈史郎さんに借りた目はどれくらい行き届いた?」

 

「まだ半分にも達していません」

 

淡々と報告を聞き指示を飛ばす。

今、隊士たちが集まりいくつかの集団を形成して無惨を目指している。

平隊士では下弦程度に強化された鬼を滅するのに時間がかかりすぎてしまう。

そこで輝利哉がとった指示はいくつかの集団で鬼に当たる事。

リスクはあったが輝利哉はあえてそれを無視した。

 

「無惨の位置は変わっていない。全部隊を北に誘導して」

 

「報告、我妻隊士、竈門隊士、霞柱、岩柱、水柱、水柱補佐によって

上弦の陸、桑島獪岳を拘束。薬を使用し救出に成功しました」

 

「わかった。岩柱には上弦の壱へ向かわせて。

他の五人は無惨の元へ

他の柱はどうなっている?」

 

「音柱がもうすぐ上弦の伍と会敵しそうです。

蛇柱と恋柱は城の血鬼術を形成していると思われる鬼と今、会敵しました。

上弦の肆です。」

 

「風柱と炎柱が上弦の壱に近づきつつあります。いかがしますか?」

 

「そのまま向かわせて。杏寿郎と実弥で足止めして行冥と飛鳥達が付き次第上弦の壱を倒す」

 

「はい」

 

戦いは続く。

 



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第六十一話 柱対上弦の壱、伍

「よう高梨、地味ななりになったじゃねぇか。しかも上弦の伍かよ。飛鳥が見たら悲しむぜ」

 

「飛鳥?誰ですか?それよりあなたも鬼になりませんか?」

 

見た目の違いと言えば角が生えているくらいだ。

だがいつもの物静かな先と違い明るく元気な姿でいる。

 

「記憶もねぇのか」

 

「なりませんか?なら死んでください。」

 

刀を抜き天元に切りかかる。

天元は簡単に受け止めた。

刀から血が滴り落ち天元の顔に付着した。

不審に思った天元は刀を振るい早紀を吹き飛ばす。

 

「そんなもんか?上弦の伍ってのは。陸の方が強かったぞ」

 

天元は一気に距離を詰めた。

 

「まだ血鬼術も使ってないんですー。その程度ですよ。

じゃあ使わせてもらいまーす。えい」

 

早紀は自分の腕に刀を突きさした。

途端天元の同じ場所に強烈な痛みが走る。

 

「ぐっ」

 

「あはは。痛いですか?痛いでしょ。

私の血鬼術は感覚共有私の体液がかかった人と感覚を共有するんです。

最も私から対象への一方通行ですけど」

 

今度は反対の腕に突き刺す。

その痛みも天元にふりかかかり遂に天元は日輪刀を落としてしまう。

 

「(いてぇ。だがここで俺がおちるわけにはいかねぇ)」

 

痛みに耐えながら日輪刀を持つ。

 

「なんで、痛みで刀なんて持てないはず」

 

「なめんな。これでも鬼殺隊の柱の一角をはってんだよー」

 

「なら」

 

刀の足を刺す。その痛みも天元に向かうが天元は一切ひるまない。

間合いに近づいて首にみねうちを狙う。

それは綺麗にはまり早紀は気絶した。

 

「ふー。鬼でも気絶すんだな。初めて知った」

 

かなり行き当たりばったりな作戦ではあったが無力化に成功。

天元は首元に注射器を打ち薬を流し込む。

その瞬間から角が縮んでなくなった。

 

「あれ天元様?私どうして?」

 

「大丈夫か?」

 

「はい天元様も傷が」

 

「どうってことねえよ。それより少し休んだら無惨のところに向かうぞ」

 

「え?あ、はい」

 

訳が分からないまま天元の勢いに負けて返事をする早紀であった。

 

 

 

 

杏寿郎は一人で走る。

輝利哉から烏を通して指示を受けた。

指示の内容は上弦の足止め。

 

「その指示確実にこなして見せよう。」

 

そう返したのちその場所に向かう。

部屋に入った瞬間斬撃が飛んでくる。

杏寿郎は飛んでかわした。

 

「見事だ。それにその体鍛えられている」

 

「そうか。ほめの言葉館感謝だ。だが鬼は討つ」

 

「来い。煉獄の子孫よ」

 

刀を抜き戦いが始まる。

 

「(月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮)」

 

「(炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天)」

 

横薙ぎの一閃を下からの切り上げで軌道をずらしてかわす。

 

「(月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍)」

 

「(炎の呼吸 伍ノ型 炎虎)」

 

無数の月型の斬撃を炎虎で迎え撃つ。

その様は月を食らう虎のようだった。

ここまで互角の戦いを繰り広げる。

その様子を陰から見ているものがいた。

 

「(相手は煉獄さんに集中しているいけるか?)」

 

そこにいたのは不死川 玄弥。

手に持っていた銃を構える。

いざ撃とうとしたその時・・・・・腕が落ちた。

 

「不死川」

 

杏寿郎は玄弥の存在に今気づき声を上げる。

そこから胴を両断された。

 

「ほう。まだ絶命しない。胴を両断されても尚・・・

三百年以上前貴様と同じく鬼喰いをする剣士がいた。

その剣士は胴を切断すると絶命したがお前の場合は首か・・・?

どちらにしろ貴様のような半端者を生かしておく理由はない」

 

黒死牟の剣が迫る。

玄弥は切られた腕をくっつけようと這いずる。

杏寿郎も助けようと走るが間に合わない。

絶体絶命だった。

 

「(風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐)」

 

危機一髪実弥の助けが間に合った。

 

「風の柱か」

 

「そうだぜ。テメェの首をォねじ切る風だァ」

 

「兄貴」

「テメェはよォ本当にどうしようもない弟だぜぇ。

何のために俺がぁ母親を殺してまでお前を守ったと思ってやがる」

 

そこで玄弥は思い出した。

それは柱稽古の時炭治郎が言っていたことを。

 

 

 

 

 

 

過去

 

 

 

 

 

 

「風柱のお兄さん事なんだけど、あの人はさ、玄弥。

鬼殺隊に入った事すごく怒ってはいた。けど憎しみの匂いは少しもしなかったんだ。

だからおびえなくていいんだよ。

伝えたいことがあるなら言ったって実弥さんは玄弥のことがずっと変わらず大好きだから」

 

 

 

 

 

 

現在

 

 

 

 

 

そのことを思い出した。

そしてそれが事実だという事を今理解した。

 

「テメェはどっかで所帯持って家族増やして爺になるまで生きてりゃよかったんだよ。

お袋にしてやれなかった分も弟や妹にしてやれなかった分もお前が、

お前の女房や子供を幸せにすりゃあよかっただろうが。

そこには絶対俺が鬼なんか来させねぇから」

 

それは実弥の本音だった。

実弥にとっての最後の希望。

それは弟である玄弥の幸せだ。

だからこそ自ら呼吸の才能もないのに鬼殺隊に入った玄弥につらく当たってきた。

鬼殺隊を辞めさせる為に。玄弥はその事理解して、兄のやさしさを理解して泣いた。

 

「ごめん、兄ちゃん。ごめん…」

 

「ほう、兄弟で鬼狩りとは…懐かしや・・・・・」

 

「よくも弟を刻みやがったなァ。糞目玉野郎許さねエ、許さねエ許さねエエ

 

今風と月の戦いが始まる。

 

 

 



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第六十二話 黒死牟対実弥、杏寿郎

実弥は突っ込んだ。黒死牟は迎撃のために刀を振る。

それを滑り込むことでかわし足元で上に向かって刀を振るった。

黒死牟は跳んでかわす。

 

「(風の呼吸 壱の型 塵旋風・削ぎ)」

 

竜巻状の旋風を起こしながら突進する斬撃くりだし

黒死牟はそれを受けた。

 

「はァア、こりゃあまた気色悪イ刀だぜエ。なアオイ!!」

 

黒死牟の刀は刀身に目玉が等間隔に並べられた刀だった。

 

「(月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦)」

 

振り無しで前方に渦を巻く斬撃を実弥は後ろに飛んでかわす。

 

「はっはアッ振り無し斬撃を繰り出しやがる(だが)」

 

「(炎の呼吸 伍ノ型 炎虎)」

 

「(月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月)」

 

後ろからの攻撃をかわし反撃を加える。

杏寿郎もそれをかわすが不規則な斬撃に惑わされ攻撃を受けてしまう。

 

「不規則な斬撃。それに斬撃に細かな斬撃がついていてこれはかわすのは難しいな」

 

「(風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹)」

 

黒死牟が杏寿郎に対応している間に実弥が近づき技を繰り出すが黒死牟はこれにも対応した。

 

「(月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮)」

 

「しまっ」

 

実弥は対応できず後ろにのけぞるように転んでしまう。

 

「終わりだ。(月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り)」

 

実弥は急いで立ち上がり回避行動をとるが間に合わない。

 

「(鬼の呼吸 壱の爪 酒呑)」

 

黒死牟の攻撃の間に再生して胴がつながった玄弥が横から切り払いで間に入る。

呼吸剣術を使って。

いきなりのことに全員が驚く。

あたりはしなかったが実弥を守るという玄弥の目的は達せられた。

 

「お前」

 

「飛鳥さんが教えてくれたんだ。生き残るために」

 

飛鳥が柱稽古の途中に教えた呼吸法それが鬼の呼吸という呼吸方だ。

型は全五個と他の呼吸より少ないがこれなら玄弥にもできたのだ。

 

「そうかぁ。後で礼を言うぞ。二人で。助かった。今は下がれ」

 

「わかった」

 

「さて仕切り直しだァ(風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風)」

 

前方に縦4連同時斬撃の攻撃で切りつけるが刀で受けはじき返す。

そこで出来たすきに杏寿郎が叩き込んだ。

それすら対応する。

その内実弥が攻撃して黒死牟が受けはじきそこで出来たすきを杏寿郎が突き

また対応され二人が軽くない傷を受ける。

ほぼこの繰り返し。玄弥はこの攻防に入れず見ている事しかできない。

何度目かの攻防の時遂に戦いが動いた

 

「実弥、左だ(雨の呼吸 伍ノ型 鉄砲雨)」

 

実弥が左によける。

そのすぐ横を斬撃が駆け抜けていく。

その斬撃は黒死牟の肩を切り裂いた。

 

「実弥、杏寿郎、大丈夫・・・ではなさそうだな。まずは傷を治療しろ。

しのぶ頼んだ。玄弥は実弥達を守れ」

 

「その間は私たちが引き受ける」

 

「おせぇぞ、飛鳥」

 

「悪いな」

 

飛鳥と悲鳴嶼の到着である。




どうも連続五個投稿は初めてかも。
その分誤字報告も増えてますが。
さて作中で出させてもらった鬼の呼吸の技を解説させてもらいます。

壱の爪 酒呑 横からの切り払い
弐の爪 茨木 突きの攻撃
参の爪 羅刹 上からの切りつけ
肆の爪 百鬼 薙ぎ払い
伍の爪 夜叉 下からの切り上げ

基本パワー寄りの型のつもりです。
柱稽古の時に飛鳥が玄弥に別の修行と言って教えた。
飛鳥は鬼の呼吸任務の途中で鬼が使っていたのを習得。
それを玄弥に教えた。
こんな感じです。
賛否結構あると思いますがよろしくお願いします。


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第六十三話 黒死牟対飛鳥、行冥

 黒死牟は切られた腕を再生させながらつぶやいた。

 

「驚きだ。血鬼術を使わずに斬撃を飛ばす者がいるとは」

 

「それだけ鍛えたからな」

 

「六年前よりずいぶん強くなったと見える。蒼月の末裔よ」

 

「よく気づいたな」

 

飛鳥は笑った。

 

「簡単な事。お前の気配はあいつに似ている。その笑みもな」

 

「組んでかかるぞ。油断するな」

 

「わかってます。それに油断して勝てる相手じゃない。他の上弦とは格が違う」

 

二人とも刀を赫くして最初に飛鳥が切りかかる。

 

「(日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞)」

 

「(この型は、それにこの動き)」

 

黒死牟は飛鳥の攻撃を刀で受けた。

そこに悲鳴嶼の鉄球による追撃が襲い掛かる。

 

「(この二人さっきの二人とは連携の練度がまるで違う。さらに赫刀も習得しているか。

甘くはないな。だが月の・・・)」

 

黒死牟が反撃を加えようとするが悲鳴嶼はさらに斧まで投げてそれを阻止する。

 

「(武器を離した。月の・・・)」

 

「(岩の呼吸 弐ノ型 天面砕き)」

 

悲鳴嶼が鎖を踏み、投擲していた鉄球を黒死牟にたたきつける。

それをかわした黒死牟に飛鳥が追撃を加える。

 

「(日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身)」

 

「(月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月 )」

 

「(日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹)」

 

今の攻防の間に悲鳴嶼も攻撃態勢に入り攻撃に加わる。

 

「(岩の呼吸 肆ノ型 流紋岩・速征)」

 

「(月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月)」

 

悲鳴嶼は顔に斜めに傷を受け黒死牟は無傷。

 

「哀れだな、人間。そんな傷鬼であれば無傷と変わらない。

そこまで鍛えられた肉体。なくすのには惜しいな」

 

「何が言いたい?」

 

「無駄とわかっているが貴様も鬼になるがいい」

 

「本当に無駄だな。そのようなものにはならない」

 

「そうか。わかっていたとはいえ残念だ」

 

少し落胆したのち再び刀を構える。

 

「これは無惨の時まで温存しておきたかったのだが・・・フー」

 

「!」

 

「ここで負ければ元の木阿弥。今使うもやむなし」

 

悲鳴嶼の両腕に岩に出来た亀裂のような痣が浮き上がった。

 

「悲鳴嶼さん、できたんですか!」

 

「リスクは聞いていたからな。わざと出さないままにしていた」

 

「心拍数は・・・・・大丈夫ですね。なら行きますよ」

 

飛鳥の痣の色もさらに濃くなる。

 

「そうか。そちらの日の呼吸をつける剣士だけでなくお前も痣の者・・・残念だ」

 

「残念とは?」

 

「見た所・・・お前の・・・年の頃合いは・・・二十七と・・・いったあたりか・・・」

 

「それがどうした?」

 

「喪失を・・・嘆いている・・・。

痣の者は例外なく・・・二十五の歳を迎える前に死ぬのだ。

痣を出現させ・・・力を向上できたとしても・・・所詮寿命の前借りに過ぎない。

お前は二十五を超えて・・・痣を発言させた・・・。

今宵のうちに死ぬだろう・・・。」

 

「・・・」

 

「日の呼吸や雨の呼吸を習得している蒼月の末裔にも言えた事だが・・・

これほどまでに・・・研鑽し極められた肉体と技が・・・この世から消えるのだ。

嘆かわしいと思わぬのか・・・」

 

「思わない。その話も痣の者たちは既に承知済み。その対策もしている」

 

「知って・・・いたか・・・。それに対策?」

 

「例え痣が出なかったとしても鬼殺隊である限り明日の命の保証はない。

何を今更己の命など惜しもうか。

そのような生半な覚悟で柱になる者などおらぬ。

甚だしき侮辱だ。腸が煮えくり返る」

 

悲鳴嶼はまっすぐな怒りを黒死牟に向けた。

 

「命云々のつまらぬ話をしているのではない・・・・・・。

鬼になることで肉体の保存・・・技の保存ができるのだ・・・。

なぜそれが分からぬ・・・愚かな・・・」

 

「わかるはずもなし我らは人として生き人として死ぬことを矜持としている。

貴様の下らぬ観念を至上のものとして他人に強要するな」

 

「ほう」

 

今まで話していた二人だが互いには動いた。

同時に飛鳥も動く。

 

「(日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞)」

 

「くっ」

 

飛鳥の攻撃を受けて左腕を切られながら黒死牟は初めて体制を崩した。

そこに悲鳴嶼と治療を終えた実弥と杏寿郎も痣を出して加わって追撃する。

四人は畳みかけた。黒死牟の攻撃は変幻自在で見切ることは難しい。

だからこそここで決着をつけるつもりで動いた。

その時悲鳴嶼に変化が起こる。

 

「これは」

 

盲目で敵の気配を頼りに戦っていた悲鳴嶼の目に透き通った黒死牟の筋肉が見えていた。

訳も分からずだが悲鳴嶼はそれを利用して動きを予想し追撃する。

 

「(悲鳴嶼さんもしかして透き通る世界が見えてるのか?)」

 

飛鳥もそれに気づいた。

悲鳴嶼の動きが明らかに変わっている。

 

「(なら好都合だ。日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽)」

 

痣を発現させた四人、うち二人は透き通る世界でかくじつに動きを見切った動きに

さしもの黒死牟と言えど対応出来なくなっていた。

 

「(とどめだ。岩の呼吸 壱ノ型 蛇紋岩・双極)」

 

「(こちらも炎の呼吸 伍ノ型 炎虎)」

 

「(風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹)」

 

「(日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞)」

 

完全なすきを突いた四人の技が合わさり黒死牟の首を落とした。

 

 



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第六十四話 復活

頸を落とされて崩れていく。赫刀ゆえに再生できずない。

だがいったんは再生した。しかしその姿はとても元の姿とは言えない。

化け物のような姿だった。

それを飛鳥の刀に反射した自分を見た黒死牟は驚く

 

「(なんだこの醜い姿はこれが望んだ侍の姿か?)」

 

放心状態で動かない飛鳥が再び頸を切り落とした。

体がまた崩れ始めた。今度は止められない。

 

「(これが私が望んだ姿なのか?これが私の望んだ侍の姿なのか?)」

 

崩れていく中そんな思い出したのは幼き日の縁壱との日々だった。

 

 

巌勝視点

 

 

自分より多くの才を持ち父親から不遇な扱いを受けながらも自分より上をいく弟。

私にとってそれは嫉妬に燃える日々だった。

頼むから死んでくれ。そう願っていたほどに。

母親が亡くなり縁壱が寺に向かってそのまま行方が分からなくなった。

くしくも私の願いはかなってしまった。

それから十年余りは平穏な日々を送った。

妻を娶り子にも恵まれた。何の不満もなくだが少々退屈な日々だった。

そんな中私は縁壱と再会し縁壱の現在を聞いて今自分が持っているものを全て捨てて

同じ道を歩むことに決めた。

どうしても縁壱の強さと剣技を我が力としたかったのだ。

だがそこで私は絶望を再び味わった。

縁壱の剣技は誰も真似事すら出来なかった。

さらに追い打ちをかけるように現れたのが蒼月という優男だった。

いつも笑っている男だった。

風柱はヘラヘラ笑った軟弱者と言っていたがその笑顔には誰もが救われていたと思う。

今でいうムードメーカーという奴だろうか?

だが私にはあの笑顔がイラつきの元だった。

なぜそんなに笑っていられる?そう考えただけでイラついた。

そしてその理由をすぐに知ることになる。

それは初めて共に任務に赴いた時。

蒼月は一瞬にして今の下弦程の強さを持った複数の鬼を瞬時に滅してしまったのだ。

その時私は何もできなかった。ただ見ていただけだ。

蒼月は私よりも年下だった。

まただ。また私はその才能に後れを取った。

再び嫉妬で体が燃えそうになるのを感じた。

そうして悩んでいた時にあの方と出会い鬼となった。

それでも年老いた縁壱に負けた。

それからは休むことなく修行を続け鬼ではあの方をのぞいて

最強と言われるようになった。

だがそれも六年前目の前にいる男に負けるまでだった。

また才能に負けた。しかも蒼月の末裔にだ。

そして今日四人がかりとはいえ負けた。

気づいていた。私は技の保存がしたかったわけでも生き延びたかったわけでもない。

私は縁壱や蒼月になりたかったのだ。

だがそれの何が悪い。憧れからた人物のようになろうとして何が悪い?

煌めく太陽に手を伸ばすことは・・・悪いことなのか?

そんな時四人の最後の技を見て思った。

美しいと。極められた柱達の渾身の技。

どこまでも硬い岩、より荒々しい風、力強い炎、そしてそれらを包み込むような太陽。

何という美しい技。四人から繰り出される技に見とれた。

蒼月の末裔は言わずもがな。

他の三人も少し劣るが決して悪くない。

才能でいえば蒼月の末裔には遠く及ばないだろう事は見ればわかる。

だが三人は決して劣ることのない技を出していた。

私が望んだ才無き者の技だった。

だからこそ満足だった。

私一人であがく必要はないのだと。

私の願いをこの者たちが体現してくれた。

縁壱の思いはしっかりとこの者たちが継いでいる。

後はただ託せばいい。そう思わされた。

 

 

三人称視点

 

 

 

頸の近くに飛鳥は立った。

 

「私を倒した以上後はあの方だけだ」

 

「黒死牟」

 

「継国 巌勝。それが私の人間だった頃の名前だ。できるならそちらで覚えておいてくれ」

 

「安心しろ。お前の名も剣技も呼吸も強さも俺の中にある」

 

「そうか。私も縁壱同様何かを残せたのだな。安心したせいか久方ぶりに眠いと感じる」

 

「今度は道を踏み外すなよ。」

 

「・・・私のような愚か者には、次はないだろう。だが・・・心に刻んでおく。」

 

「また戦おう。今度は敵として殺し合うのではなく友として競い合うために」

 

「ああ、もしその時が来るのなら・・・その時を楽しみにしている」

 

黒死牟、いや継国巌勝は消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

真菰はいくつかできた組に加わり無惨を目指す。

そこに炭治郎、義勇、錆兎、獪岳、無一郎が合流する。

善逸は途中で急に床に穴が開き穴が開きそこに落ちてしまい

現在は同行していない

そして第一陣が遂に無惨の元にたどり着いた。

だが遅かった。他の鬼に時間をかけてしまい無惨が復活してしまったのだ。

 

「皆一旦退キナサイ・・・・カァァ」

 

輝利哉は道案内をしていた鴉を通じて隊士たちを退かせようとするが

時すでに遅くその場にいた隊士はすべて殺されてしまった。

 

「すべて死んだぞ」

 

そう言って鴉も殺す。

輝利哉は第二陣以降をさがらせようとするが間に合わず次々殺されていく。

しかも運が悪いことに義勇たち柱は無惨が今向かっている方向からは反対側にいる。

輝利哉は焦って指示を出せない。

それを見ていた輝哉が静かにだが力強く声をかけた。

 

「焦ってはいけないよ、輝利哉。常に冷静にしっかりことを見据えるんだ。

今ので多くの剣士たち(子供達)が死んでしまった。でもまだやれる事はあるはずだよ」

 

「父上」

 

父親の言葉を聞いて一つ深呼吸をして頭をすっきりさせて次の指示を出していく。

そんな時炭治郎たちが到着し無惨を囲んだ。

戦いはまだまだ続く。

 



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第六十五話 最終決戦

飛鳥は悲鳴嶼、実弥、杏寿郎、しのぶ、玄弥と共に走る。

既に鴉からの報告で炭治郎たちが無惨と交戦を始めた事は聞いていた。

その時城が揺れる。凄まじい轟音が響いたと思ったら、上の方に僅かに夜空が見える。

何らかの手段でこの鬼の根城を地上に引きずり出したのだろう。

 

「無惨は?」

 

「探せ、逃げられたらことだ」

 

飛鳥は気配を探る。すると離れたところで戦っているのが分かった。

 

「見つけました。こっちです」

 

「急ぐぞ」

 

六人は走る。

鴉から夜明けまで後一時間半だと聞いている。

今も既に何人かの柱は戦っている。

 

「しのぶは残れ。傷を受けたやつを治療する奴が必要だ」

 

飛鳥はあえてしのぶを遠ざけることにした。

戦闘力より珠世と共に治療に専念してほしいと考えた。

それで継戦能力が上がるだろうと考えたからだ。

 

「わかったわ」

 

「頼んだ」

 

「玄弥お前も手伝ってやれ。下敷きになってるやつを助けろ」

 

「わかった。兄ちゃん」

 

しのぶと玄弥は四人から分かれて倒れている隊士を治療に向かう。

 

「お前はよかったのかぁ」

 

「あれでいいんだ」

 

「愛する妻や弟には生きてほしい。男として当然の思いだ」

 

「それに飛鳥の言は理にかなっている」

 

「急ぎましょう」

 

よにん

 

四人は走った。

そして劣勢になって攻撃をかわすので精一杯の義勇たちを助ける。

 

「柱がそろった」

 

「反撃しろ」

 

「(日の呼吸 壱ノ型 円舞)」

 

「(炎の呼吸 一の型 不知火)」

 

飛鳥と杏寿郎の技が無惨の背中の管を切り飛ばした。

 

「(日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天)」

 

今度は腕の鞭を切り飛ばした。

 

「赫刀だ。赫刀で切れば無惨とて効果がある」

 

柱は全員赫刀を発動させ切りかかる。

飛鳥と杏寿郎が無惨の正面と後ろに立ち切りかかる

飛鳥が腕を切り杏寿郎が背中の管を切る。

無惨の管は広範囲直ぐるがゆえに密着されればそこまで怖くなかった。

最も集中的に狙われやすくなる分脅威度はそこまで変わらないが。

さらに中距離から悲鳴嶼が鉄球や斧で殻を破壊しに来る。

さらに柱達が切りかかる。

一人脱落すれば形勢が逆転しかねない綱渡りのような戦いだった。

 

「(透き通る世界で弱点は分かった。後はそこに攻撃するだけ

十三の型は一の型から十二の型をつなげる。行けるか?

いや違う。行けるかどうかじゃないやるんだ。

日の呼吸 壱ノ型 円舞 碧羅の天 烈日紅鏡)」

 

三つ続けるだけで手足を切り落とした。

だがやはり飛鳥では縁壱のような速さは出せない。

元々飛鳥の適正は雨と水と雷だ。

日の呼吸の適正はあるにはあるがそこまで高くない。

本当は炭治郎を使いこなせるように教育して自分が援護して

炭治郎を守り彼に攻めさせるつもりでいた。

だがこの場に炭治郎はいない。

なら自分がやるしかない。

飛鳥は覚悟を決めて無惨に立ち向かっていた。

それは他の柱も変わらない。

どれだけ傷つこうが無惨に向かっていく。

毒に犯され始めればしのぶや珠世の元に行き解毒してもらいまた戦線に戻る。

あらゆるものを使い無惨を足止めする。

だが飛鳥と杏寿郎はどれだけ傷つこうと一切無惨の近くを離れない。

そのせいで無惨は近くにいる二人に意識を向けざるを得ない。

だが大量の鬼化の毒は二人を特に飛鳥を蝕んだ。

最も攻撃を受けていたのは飛鳥だ。

既に体中から血を流しまくっている。

そこから無惨の血の毒が入り込んでいる。

 

「(なぜだ。あれ程毒を撃ち込まれながらなぜしなない。

既に竈門炭治郎の三十倍の量は撃ち込んだぞ。まさか)」

 

無惨の嫌な予感が脳裏に走った。

無惨が攻撃に混ぜ込んでいるのは無惨自身の血だ。

それは鬼にすらならずに細胞を破壊する。

だがそれでも稀に受け付けてしまう者はいる。

無惨はそんなものはこの場にいるはずはないと高を括っていた。

だがその受け付けるものが目の前にいたのだ。

 

「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」

 

「飛鳥!鬼に負けるな!」

 

杏寿郎は叫ぶ。ここで飛鳥まで鬼になれば確実に鬼殺隊は負ける。

無惨は笑った。怪我の功名だと思った。

猗窩座や童磨を圧倒し黒死牟とすら対等に戦ったものが下部になった思ったのだ。

だがその喜びは絶望に変わる。

飛鳥は再び切り込んできたのだ。

 

「なぜだ。なぜこの私に攻撃できる?」

 

「安心しろ。杏寿郎!俺はこの程度で自分を失うほどやわじゃない。

残念だったな。無惨貴様は最悪の敵を自分で作ってしまった」

 

飛鳥は自我失うことなく無惨に切りかかった。

無惨は呪いを発動するが効果が表れない。

頸を落とすが落とした先から生えてくる。

無惨にとって絶望の始まりだった。

 

 

 



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第六十六話 鬼殺隊最強の鬼

 何度も殺す為に首を切る。だが切られた淵から回復して切りかかってくる。

この状況は無惨が鬼を増やし始めた当初から懸念していたことだ。

その為の呪いだったというのにそれさえ外された。

しかも無惨は飛鳥に大量の血を与えてしまっている。

その量は炭治郎に撃ち込まれた量の三十倍。

血の濃度も計算に入れれば黒死牟と比べても二十倍に相当する。

どれほど鬼とした強化されているか計り知れない。

そんな飛鳥が敵に回ったのだ。

無惨にとって絶望でしかない。

さらに先ほどから得体のしれない斬撃が無惨の体を傷つけている。

それに対処したいが飛鳥がダメージ無視の攻撃を加えてくる。

しかも日の呼吸と赫刀を使い一撃、一撃が必殺で自分の脳と心臓を切り裂いていく。

先ほどまではそこまで脅威には感じていなかった。

だが今は違う。鬼化して身体能力が上がった上に呼吸による身体強化。

さらに必殺の一撃。もはや無惨にとって縁壱以上の脅威となっていた。

 

「無惨を攻撃しろ。飛鳥は敵ではない。味方だ」

 

さらに追い打ちをかけるように先ほどまで飛鳥の鬼化で呆けていた柱達が

悲鳴嶼の叫びを聞いて我に返り攻撃に参加する。

このままではどうしようもないと考えた無惨は全周囲攻撃を敢行した。

吹き飛ばされる柱。誰もが怪我をして気絶する。

それは飛鳥も同様だった。

目の前には偶々攻撃の隙間にいたカナヲがおり座り込んでしまう。

無惨はカナヲに攻撃しようとする。

 

「(ヒノカミ神楽 輝輝恩光)」

 

「(日の呼吸 拾ノ型 火車)」

 

攻撃しようとした腕と背中の管が切り落とされる。

 

「まだ来るか!」

 

「お前を滅するまでなんでも立ちはだかる」

 

「終わりにしよう無惨」

 

炭治郎と飛鳥がカナヲを守った。

 

「(日の呼吸 円舞、碧羅の天、烈日紅鏡、灼骨炎陽、陽華突)」

 

飛鳥は再び超近距離状態で攻撃する。

炭治郎も反対から攻撃する。

 

「常に無惨を挟むように立ちまわるんだ」

 

「わかりました」

 

勢いを増す炭治郎と飛鳥だが無惨の攻撃はどんどん遅くなっていた。

無惨は人戻しの薬を完全に分解した。

だがその裏に隠れていた老化の薬やその他の薬に気づかなかった。

今無惨は急速に老化している。それを食い止めるために力を使い

飛鳥からの圧力もあり本来取るに足らないはずだった

炭治郎をいまだに殺せずにいる。

そして無惨は今一分間に五十年老化している。

そして薬が効果を発揮しだして三時間以上。

つまりは無惨はこれまでで九千年、歳を取っていた。

その兆候はあった。現に今の無惨は白髪だ。

そこに飛鳥と炭治郎が攻撃する。

 

「(日暈の龍・頭舞い、斜陽転身、飛輪陽炎、輝輝恩光、火車)」

 

「(日の呼吸 飛輪陽炎、輝輝恩光、碧羅の天、火車)」

 

「ちょこかまと跳ね回るな」

 

無惨は炭治郎を切り裂いた。だがそれは残像。

かわした炭治郎に気を取れられるうちにまた一つ、また一つと飛鳥により心臓や脳をつぶされる。

 

「くそ、貴様もいい加減に」

 

無惨に切り裂かれるがそれを無視して切り込む。

さらに無惨にとって不幸は続く。

しのぶと珠世と愈史郎の三人によって治療され意識を取り戻した柱達が戦線に復帰する。

最初に復帰した小芭内と甘露寺は炭治郎たちとは対角の位置から切り込む。

 

「(飛鳥にばかり負担をかけさせない)」

 

「(飛鳥さんすごいわ。私も役に立たないと)」

 

さらに義勇、錆兎、実弥、無一郎、獪岳も戦線復帰した。

攻める柱に遂に無惨は追い詰められた。

 

「(仕方がない)」

 

無惨の左腕が膨れ上がった。

 

「分裂する。無惨が逃げようとしている」

 

炭治郎は叫んだ。

飛鳥を先頭に柱が切り込む。さらに隠れて攻撃していた真菰、伊之助と善逸も攻撃に加わる。

だが膨れ上がる腕を切り落とせない。

誰もが万事休すかと思ったが膨れ上がるのが突然止まった。

 

「(分裂できない?先ほどからの動きの鈍化と言い珠世は何の薬を撃ち込んだ?

くそっ、珠世を取り込んだが手だけではわからん)」

 

実際はこれに細胞破壊の薬も加わる

産屋敷邸襲撃の際、珠世を吸収しようとしたが、すんでのところで飛鳥に邪魔され、失敗した。

それに成功していれば、取り込んだ珠世の細胞から記憶を読み取り、

薬の正体を知ることも出来ただろうが、それはないものねだりに過ぎない。

分裂がないとわかった柱達とは一気に畳みかけた。

伊之助と獪岳と善逸と無一郎が背中の管を切り落とし

実弥と小芭内で右の腕を切り落とし真菰と錆兎が両足を切り落とし

甘露寺がその膂力で衰えと細胞破壊の薬で弱まった腕を引きちぎった。

そして飛鳥と義勇、炭治郎が突きで無惨を建物の壁に貼り付けにした。

無惨は体を縦に割り炭治郎を食おうとするが小芭内がその間に入り阻止する。

その時東の空から太陽が昇り始めた。

徐々に無惨と飛鳥の体に焦げたようなあとができ始める。

 

「(瓦礫の下へ。いや体を縮めれば一瞬で灼き尽くされる。肉体の守れ。肉の鎧を)」

 

無惨の体は膨れ上がりまるで巨大な赤ん坊のような姿になった。

さらにその時に炭治郎を取り込んでしまった。

無惨は日陰を目指して進む。

 

『日陰に入らせるな!!落とせ!!』

 

遠方からの輝利哉の指示を受けて、一般隊士達が建物の中から本棚を無惨に向かって落とす。

そして次から次へと無惨の動きを止めるべく手を尽くす。隠が自動車を無惨にぶつけ、

路面列車を押し付ける。

 

「退がるなぁぁ!抑え続けろぉぉぉ!」

 

隠に混ざって列車を押す玄弥が叫ぶ。

 

「怖くない!!みんな一緒だ!!」

 

『死ぬな一旦退がれ!!次の一手は僕が考えるから!!』

 

輝利哉の想い虚しく無惨の拳が隠達に叩きつけられる。が、その寸前で実弥が割って入る。

 

「(風の呼吸 玖ノ型 韋駄天台風)」

 

「しぶてェんだよ糞がァァ!!さっさと塵になりやがれェ」

 

腕を斬られた無惨は、叩くのではなく列車に乗っかり、押し潰そうとする。

 

「うわぁぁ!乗っかってきた!!」

 

さらにそれを阻む者が。片脚を失いつつも、獪岳に、隠に支えられながら悲鳴嶼と甘露寺と天元が

鎖を無惨の首に巻き付け、必死に引っ張る。

無惨は後ろに転がる。無防備に日光に晒され、表面から塵になっていく。

 

「━━土に!!攻撃して無惨の体力を削れ!!」

 

「(水の呼吸 拾ノ型 生々流転)」

 

「(水の呼吸 肆ノ型 打ち潮)」

 

「(水の呼吸 参ノ型 流流舞い)」

 

義勇が、錆兎が、真菰が。流れるように無惨に攻撃を仕掛ける。

 

「(風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪)」

 

「(霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り)」

 

実弥が上から降らせるように浴びせ、無一郎が潜り込むように斬る。

 

(もう全員が限界だ、頼む死んでくれ早く。)

 

悲鳴嶼の想い虚しく、無惨を締め付ける鎖が音を立てて千切れる。無惨はすぐさま地面を掘り、

光からその身を隠そうとする。

 

「終わりだ無惨(雨の呼吸 漆ノ型 奥義 天翔ける龍の如く)」

 

全身の半分が焦げている飛鳥によって押し戻され

再び全身に光を浴びさらに唐突に顔面から血が吹き出し醜く泣き叫ぶ。

 

「ギャァァァァァア!!!」

 

その場にいた全員の耳を劈くような悲鳴が辺りを襲う。降り注ぐ光は容赦なく

無惨の身体を灼き、そして無惨の身体が完全に消失する。歓喜の声が辺りに満ちる。

喜び、泣きながら宿敵の死を、自分たちの勝利を噛み締める。

 

「勝った」

 

「終わった、か。」

 

悲鳴嶼が安堵と共に、その場に崩れ落ちる。

 

「悲鳴嶼さぁぁん!獪岳くぅぅん!私たちとうとうやったよおおお!」

 

「甘露寺、痛え。」

 

悲鳴嶼と獪岳の首に手を回し泣きながら喜ぶ甘露寺。

 

「まだ終わりじゃない!!怪我人の救護だ!!これ以上誰も死なせるな」

 

即座に怪我人の手当に回る隊士達。

 

「兄ちゃん!時透さん!」

 

「やっと終わりだ・・・!」

 

「あァ、俺達の勝ちだァ。」

 

手当を受けながら勝利を分かち合う不死川兄弟と無一郎。

 

「杏寿郎、無事か?」

 

「うむ!何とかな!」

 

「派手にやってやってぜ」

 

と言いつつよろける杏寿郎。それを肩で支え手当を受けるべく隊士達の元へと向かう伊黒と天元。

 

「鱗滝さん、俺達やりましたよ・・・!」

 

「もう動けないよ・・・」

 

遠方の師に想いを馳せる錆兎と真菰。

それは遠方の産屋敷邸でも同様だった。

 

「父上!私は、私は・・・・・・!」

 

「よくやったね、輝利哉。君と子ども達が頑張ってくれたお陰だ。」

 

顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、泣きついてくる息子達を優しく受け止める耀哉。

無惨が死んだと同時に、己を蝕む病魔が消えたのを確信している。

誰もがこの勝利に喜んでいた。

だが一人だけしのぶはその中に加わらずに飛鳥を探していた。

しのぶも飛鳥が鬼になったのは知っている。

珠世からあらかじめ鬼を人に戻す薬をもらい

それを飛鳥に撃つために探していた。

そして太陽に当たりながら壁際に座っている飛鳥を見つけた。

そこには先ほどまであった焦げ跡はなくなっていた。

何と飛鳥はこの短い時間で太陽すら克服してしまったのだ。

 

「しのぶか?」

 

「相変わらず、無茶したわね」

 

「悪い」

 

「直ぐに人に戻すわ腕を出して」

 

「すまんが頼む・・・・・・・・いやちょっと待ってくれ」

 

「どうしたの?」

 

「まだ脅威は過ぎていないようだ」

 

「え?」

 

「炭治郎が鬼にされた」

 

「そんな」

 

まだ厄災は終わらない。



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第六十七話 鬼の王

完全に消滅する前に無惨は思いを巡らす。

 

「(私にはいつも死の影がぴたりと張り付いていた。私の心臓は母親の中で何度も止まった。

殺した人間など誰一人覚えていない。肉体は死ねば終わり。だがどうだ。想いは決して滅びず、

この私すらも打ち負かした。私は、その事実を目の当たりにし、感動して震えた。

私の肉体は日光を前にし、まもなく滅びるだろう。

だが、私の想いもまた不滅、永遠なのだ。私はこの男に想いの全てを託すことにする。)」

 

無惨が手を伸ばした先にあったのは、姿を変える際に取り込んだ炭治郎の姿。

 

「(呼吸も心臓も停止しているが、細胞の全ては死滅しておらず生きている。まだ間に合う。

私の血も力も全て注ぎ込もう。もしも即死を免れたら、竈門炭治郎。お前は陽の光をも克服し、

最強の鬼の王となるだろう。あの最後に鬼となった者ほどではないが

お前もあの化け物共と同じ技を扱い、最もそれに近づいた男。お前は死なない。

私は信じる。私の夢を叶えてくれ炭治郎、お前が滅ぼせ、私の代わりに鬼狩りを)」

 

炭治郎は目覚め、鬼となった。

即座に周りにいるものを殺そうとするが義勇のおかげで殺されずに済みすぐに離れさせる。

義勇は叫び炭治郎が鬼となった事を周りに知らせるが

柱はもはやほとんどが満身創痍で動けず伊之助や善逸も同様に動けない。

だが今は。太陽が昇っている。

直ぐに太陽が炭治郎を灼く。

炭治郎は陰に隠れようとするがそれを義勇が刀を突き立てて抑える。

 

「(頼む。このまま死んでくれ)」

 

だが義勇の願いもむなしく炭治郎の陽光灼けが収まってしまった。

そのまま義勇を吹き飛ばし義勇にかみつこうとした時に

それを人間に戻った禰豆子が自分を盾にしてかばう。

禰豆子の肩にかみついて離れない炭治郎。

それを伊之助と善逸が殴って止めようとするが

次の瞬間二人は吹き飛ばされた。

それと同時に炭治郎の背中に無惨と同じような管ができる。

そして炭治郎は口からエネルギー弾が形成されそれを放つ。

それで再び周りの人間は吹き飛んだ。

唯一禰豆子だけが炭治郎にしがみつき腕を血まみれにして

炭治郎に話しかける。

だが炭治郎は再びエネルギー弾を形成し始めた。

 

「ダメだろう。炭治郎。妹は大切にしなきゃ」

 

その声と共にエネルギー弾は四散した。

そして禰豆子はいつの間にか善逸の腕の中におり炭治郎にのしかかり

飛鳥が炭治郎を抑えていた。

 

「炭治郎。負けるな。」

 

「があああああああああああああ」

 

「ちょっとおとなしくしてろ。カナヲ、持ってただろ。頼んだ」

 

カナヲは胸ポケットにしまっていた薬を取り出し走る。

抑えられた炭治郎は暴れるがほとんど身動きできずにいる。

カナヲは炭治郎の首筋に注射器を撃ち込んだ。

それと同時に飛鳥の心臓を貫いて。

 

 

 

 

精神世界

 

 

 

 

眠っている炭治郎。

 

「起きろ。炭治郎」

 

「起きて炭治郎、禰豆子が待ってるわ」

 

「父さん、母さん」

 

「兄ちゃん、まだこっちに来ちゃだめだよ」

 

「そうだよ」

 

「竹雄、花子、茂、六太」

 

炭治郎の家族が現れる。

 

「炭治郎、お前が向かうべきはあっちだ」

 

「うん。わかった」

 

炭治郎はそちらに向かう。

 

「行くな。炭治郎」

 

最後に残った無惨の欠片が炭治郎が前を向いて進むことを阻止しようとする。

 

「やれやれ。もういいだろ。無惨」

 

それを切って止める者がいた。

 

「なぜ邪魔をする。蒼月」

 

「なに、大した理由は無い。子孫の友を助けたいだけだ。

それにお前は死んだんだ。」

 

「まだだ。まだ死んでいない。お前が私の意志を継げばまだ」

 

「意志ってのは無理矢理継がせるものじゃない。お前の意志を継ぎたいと思うものは

もういない。あきらめろ」

 

「黙れ蒼月。離せ」

 

「炭治郎。よく頑張った。こいつは俺に任せろ。行け」

 

「行くな。炭治郎ーーーーーー」

 

無惨の叫びを無視して無開くべき場所に向かっていった。

 

 

 

 

 

現実

 

 

 

 

 

 

炭治郎は目を覚ます。

それを見てみんなが喜びの声を上げた。

 

「飛鳥さんは」

 

「大丈夫だよ。炭治郎。ゆっくりだけど心臓も再生してるから

全快すれば薬を売って人に戻すらしいよ」

 

善逸の説明を聞いて炭治郎は安心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れて三か月後

 

 

 

 

 

 




第六十七話いかがだったでしょうか。
何で最後炭治郎とは関係ない蒼月が出たのと思われる子も知れないけど
そこはまあ都合がよかったんです。
恐らく本編は次回で最後です。
お楽しみに。


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第六十八話 最後の柱合会議

誰もが傷ついたあの夜から三か月が過ぎた。

 

「早いもんだ」

 

「そうね」

 

俺は今蝶屋敷の縁側で座ってカナエとしのぶと満開の桜を見ている。

生後三か月になる子供を抱いて。

あの最終決戦の朝。カナエが遂に出産を終えた。

俺はそれを一週間後に知った。

いきなり女の子の双子だった。

長女にはカナエと俺の母親から名前を取って香奈美となずけ

次女には俺の姉の名前から真矢となずけた。

何でも前からカナエとしのぶで考えていたらしい。

聞いた時は恥ずかしくなった。俺は全く考えていなかったからだ。

そして今日しのぶと二人で産屋敷邸に向かう。

最後の柱合会議を行うためだ。

産屋敷邸に赴くと、あまね様がいつも通り迎えてくださる。

通された先にはすっかり回復した御館様と輝利哉様が並んで座っている。

 

「やあ、飛鳥、しのぶ、一番乗りだね。皆が来るまでもう少し待ってておくれ。」

 

「「はい、御館様」」

 

しばらくすると柱達がやってくる。腕や脚を失ったものが多いが、体調は回復したらしい。

 

「では、最後の柱合会議を始めよう。」

 

全員が揃ったタイミングで御館様が口を開く。

 

「私たちは今に至るまで、多くの犠牲を払ってきた。しかし、とうとう私たちは鬼舞辻を倒し、

鬼を滅ぼすことが出来た。」

 

優しい笑みを浮かびながら御館様が言葉を紡ぐ。

 

「杏寿郎、義勇、錆兎、実弥、獪岳、行冥、天元、小芭内、蜜璃、無一郎、しのぶ、飛鳥。

これは君達柱の尽力があっての事だ。ありがとう。」

 

そしてとうとう、御館様がその宣言を口にする。

 

「鬼殺隊は、今日で解散する。」

 

「御意。」

 

「長きにわたり、身命を賭して世の為人の為、戦って戴き、尽くして戴いたこと。

産屋敷一族を代表して、心より感謝申し上げます。」

 

御館様と輝利哉が揃って頭を下げる、すぐさま俺たちは口を開く。

 

「頭を上げてくださいませ!!」

 

「礼など必要ございません!」

 

「鬼殺隊であれたのは、産屋敷家の尽力が第一。感謝を申し上げるべきは私達の方です。」

 

「その通りです。お館様が道を示さなければ我らは決戦に挑むことすらなかったでしょう」 

 

「御館様、ありがとうございました。」

 

俺が頭を下げると、それに続いて他の面々も頭を下げる。

 

「・・・・・・ありがとう、みんな。」

 

御館様を涙を流しながら口を開く。

 

「以上で柱合会議を終わりとする。と、その前に。最後に皆に提案があるんだ。」

 

『皆で宴会でもどうかな?私としては、この先も皆で時たま顔を合わせたい。

けれど、毎度毎度皆で集まれるとは限らない。だから確実に一度、

皆で楽しい時間を過ごしたいんだ。勿論、他の子供達も呼んでね。』

 

という御館様の提案を柱合会議で受けて、産屋敷家主催で宴会をすることになった。

隊士及びその関係者なら全員参加可能ということで、かなりの大規模になりそうだ。

ちなみにその宴会は今日だ。産屋敷家が食事、酒などは用意してくださるようだが、

持ち寄りは自由とのことなので、お気に入りの店の唐揚げを持って

蝶屋敷の面々と産屋敷邸に向かう。

ちなみに香奈美と真矢もつれてきた。

遠慮しようかとも思ったがお館様が

 

「どうせなら連れてくるといいよ。一緒にお披露目しよう」

 

と言ってくださったのだ。

 

「飛鳥!」

 

「飛鳥さんお久しぶりです」

 

「杏寿郎、千寿郎、槙寿郎さん瑠火さん」

 

「飛鳥君、久しぶりだな」

 

「お久しぶりです。瑠火さんも子育て指導いつもすみません」

 

子供を育てたこともなく全く分からない俺達を瑠火さんが一緒になって教えてくれた。

そのおかげで何とかやれている。

 

「いいのです。立派な女の子に育ててあげなさい」

 

「「「はい」」」

 

「杏寿郎は何を持ってきたんだ?」

 

「大学芋と芋けんぴだ」

 

「お前、本当にさつまいもが好きだな」

 

「ああ、大好きだ」

 

中身を見せてもらえば短い棒状に切られた大学芋と芋けんぴがぎっしり入っていた。

 

「うまそうだな。杏寿郎が好物になるのもわかる」

 

「そうだろ」

 

杏寿郎は大声で笑うが赤ん坊が起きると瑠火に叱られていた。

そうこうしているうちに産屋敷邸に着く。

俺達はアマネ様に持ってきたものを渡して中庭に集まる。

既にみんなが集まっていた。

鬼殺隊の隊士は決戦の前と比べて四分の一にまで減っていた。

知らなかったのだが俺達が参戦する前に多くの一般隊士が時間を稼ぐために特攻したらしい。

そのおかげで俺達が間に合った。それも勝利の要因と言えただろう。

今はその話は無はいいか。とにかくこの宴会を楽しもう。

お館様が乾杯の音頭を取り宴会が始まった。

皆それぞれで話し始める。

やはりというか女性陣は香奈美や真矢のところに集まる。

 

「飛鳥!お前も母上の大学芋を食ってみろ。うまいぞ」

 

「ありがとう。いただくよ」

 

本当にうまい。

話題は今後の身の振り方の話になる。

 

「飛鳥はこれからどうするのだ?」

 

「俺は警察官になろうと思ってる。せっかく平和になったんだ。

この平和の維持に少しでも貢献したい」

 

「そうか。ではこれからも同僚だな」

 

「お前もか?」

 

「ああ。実弥と錆兎も警察官を志望するらしい」

 

「そうか。ならこれからもよろしく頼む」

 

「うむ、よろしくだ」

 

宴会は続く。

途中小芭内と蜜璃(本人がそう呼んでほしいとごり押し)が結婚すると宣言し拍手がおこった。

そうして最後にみんなで集合写真を撮った。

一部の人間が魂を取られるなど言って大笑いになったが結局全員で撮った。

ていうかその迷信。まだ信じてるやつがいたんだな。

そうして時は過ぎる。

 

 

 

 

 



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最終話 平和な日常

ピーーーピーーー

 

「まてぇこの糞野郎!」

 

「そのまま追いかけろ実弥」

 

強盗犯を追う。調べに調べてようやく見つけた犯人。

 

「捕まえたぞ。観念しろ」

 

「くそーー、離せ」

 

「騒ぐな」ボカッ

 

犯人は気絶した。

 

「おい!実弥!!気絶させてどうする!」

 

「うるせぇ、手間かけさせやがって」

 

気絶した犯人を二人で担いで署まで連行する。

あれから十年の月日が経った。

珠世さんが痣の効果を打ち消す薬を開発したおかげで

痣が消えて今も健康に毎日を過ごしている。

あれから俺は実弥や杏寿郎、錆兎と共に警察官になった。

何の因果か配属先はみんな一緒だった。

そして今日も事件が起きれば現場に向かいわずかな証拠を探して犯人を捕まえる。

犯罪捜査は地道に一歩ずつだ。大変だがやりがいはある。

仕事が終わり家に帰れば家族が待っている。

妻のカナエやしのぶ。子供の佳奈美や真矢。

一年前にはしのぶとの間に三人目の男の子が生まれた。

名前は啓。鬼殺隊時代の仲間から名前をもらった。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい」

 

「お帰りなさい父上」

 

真矢は明るく活発な女の子に育った。

佳奈美は瑠火さんの教育のせいかおしとやかな女の子に育っている。

今も家の手伝いをしていたのだろう事が分かる。

 

「ただいま二人とも」

 

「お帰り、飛鳥」

 

「ただいましのぶ、カナエは?」

 

「姉さんは奥にいるわちょっと手が離せないの」

 

「そうか」

 

「自室に行き楽な恰好に着替えて居間に行く。

 

「お帰りなさい、飛鳥。さぁお父さんも帰ってきたしご飯にしましょ」

 

カナエの号令を合図にみんなが集まる。

 

「そういえばきよたちはどうした?」

 

「昼前から炭治郎君の家に遊びに行ったわ。今日は止まってくるんだって」

 

「そうか。カナヲやアオイもあっちで幸せそうだしよかったよ」

 

料理がテーブルに並べられてご飯が始まる。

 

「聞いてよ、飛鳥。真矢ったらまた近所の子達と喧嘩したんだって」

 

「またか!そろそろお姉ちゃんを見習て少しはおとなしくしろ」

 

「えーーーー」

 

「で、勝ったのか?」

 

「圧勝」

 

「そうか。ならそれで許してやる。だが少しはおとなしくする事を覚えなさい」

 

「はーーーい」

 

こうして日々は過ぎていく。

俺はただこの平和が死ぬまで続くことを祈りながら毎日を過ごす。

 

 

 

 

 

 

 

 

年末になれば産屋敷邸に集まり全員で年越しを祝う。

そして俺と炭治郎でヒノカミ神楽を舞い

それを集まったみんなで一晩見物する。

それからみんなで持ち寄った酒や餅、料理を飲み食いしながら新年を祝う。

それが年末の恒例行事となった。

女同士で集まれば話は恋の話になる。最近実弥と早紀がいい感じらしい。

それと同時に真菰と錆兎も付き合い始めたとか。

そういう恋の話でにぎわう。

男の方は仕事の愚痴がほとんどだ。

 

「実弥の始末書が減らない」

 

「わかる」

 

「派手に想像つくな」

 

「うむ、確かに減っていないな。むしろ増える一方だ」

 

「不死川さんそれはだめだと思います」

 

「お前らぁ。本人の前でよくいえたなぁ」

 

少し怒った後全員で笑う。

楽しい日々はまだまだ続く。

どんな困難が待ち受けていても俺達なら大丈夫だ。

絶対に乗り越えていける。

そしてまた明日を生きていく。皆で・・・・・・・・・・一緒に

 

 

 

 

 

 

 

                     終了

 

 

 

 

 

 




雷の鳴る所には雨が降るこれにて終了です。
至らない点誤字脱字たくさんありました。
そのたびに誤字報告を送ってくれた皆様ありがとうございます。
本編はこれで終了ですが後日談を少し挟みたいと考えております。
そちらもどうぞよろしくお願いします。


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