荒れたセレナと、臆病なクリス (蒼葉蒼輝)
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Ex 黒銀の平穏・・・?
セレナの誕生日


まさかの書いたの二日前だったよ・・・
十月誕生日なの分かってたけど、まさかの遅刻しそうだった・・・
まぁ、何とかかけたけど・・・本当はもっと何とか入れるつもりだった
あと、響がいるのはついでです、こっちの世界の響じゃなくて、現行世界の響です。
・・・見直してないから誤字酷いかも・・・では



 

 

 

二課本部某所―

 

セレナとクリスを受け入れることになりしばらくたったある日―

クリスからある提案が出されていた

 

「二課の皆さんに少しお願いがありまして」

 

そんなちょっとしたお願いで本部に来ていたのはクリス一人で、セレナは何故か今は居なかった

どうやら何かやっているだろうと司令は予想を立てて、兎に角話を聞いてみる事にした―ら

 

「あれ・・・そういえばそろそろセレナちゃんの誕生日じゃなかったっけ?」

 

尚何故かまだ居座っている別世界の立花響が空気を読まずにぶっちゃけてしまうと―

 

「え、クリスちゃん? な、なに―」

 

片手で響を持ち上げたかと思うと、見えない速度で何処かに投げ飛ばされていく姿が見えたとか見えなかったとか・・・

 

「えと、それで場所を提供してくれないかな・・・と、あ、すいません 邪魔でしたらこちらで何とかしますので・・・」

 

「あ・・・いや、別にそれは良いんだが、響君は―」

 

「な・に・か?」

 

何でもない、そうとしか言えなかった司令は、聞いた限りだと、まともなお祝いと言うのが殆ど出来ておらず、クリスの方には何度も祝ってもらっているが、セレナに対してお祝いと言うものが出来ていなかったから今回こそは、と意気込んでいるみたいだ

それに色々協力をしてほしいという事らしい

 

「それで、プレゼントは考えているのかい?」

 

「はい、数か月前から色々探して、手が届きそうなものを・・・本当は自分で作れれば良かったんですが、そういうのがまだやった事無くて・・・」

 

「それでしたら、今から作ってみません?」

 

と、友里が話に割って入って来た

 

「え? でも、私となんかじゃ迷惑では・・・」

 

「迷惑だなんて、大体、クリスちゃんも迷惑沢山かけられてるのにいまさらそんな事言わないの。

それより、どういうものが作りたいの?」

 

その、こういうのなのですが・・・と、持っていたスケッチブックを渡す

そこには、蝶と淡いピンクの花弁が彩られた髪留めが描かれている

 

「お姉様、最近髪が結構伸びてきて鬱陶しがっていたので、髪留めとか、ヘアゴムみたいなのが良いかなと思ったのですが・・・中々そういうのが見つからなくて」

 

「成程ね、それで相談に・・・でもこういうのは少し難しいと思うのだけれど」

 

ですよね、と落胆し、仕方ないと思い、あった物を買って渡そうかなと考えていると―

 

「弦さん、こっちに響さん来なかった・・・?

あれ、クリスさん、こんにちは どうしたの?」

 

「あぁ、凪か、響君ならさっき廊下に飛び出していったぞ・・・

そうだ、凪、君なら彼女の悩みを解決できるかもしれないな」

 

悩み? そう聞いて、再度彼女の悩みを聞いて、アレだな、と判断し、綺麗に描かれた絵をカメラで撮り、クリスをある場所に連れて行こうと話す・・・と

 

「立花 響、ただいまふっか・・・あれ? クリスちゃん、翔希さんどっか行くの?」

 

「彼女のお悩み解決の為にちょっとね?

あと、響さんは奏さんや翼さんの相手してて? それじゃ・・・

あっと、緒川さん、誕生日の準備お願いして良いですか?」

 

「はは、良いですよ、そもそも皆さんそのつもりだったようですし。

ねぇ、了子さん?」

 

「ちょっと~、そこで何で私に振るのよ!

みんなして私の事分かってるくせに・・・

 

「ん? 何か言ったかね了子君?」

 

「い~え? 何でもないわよ~?

はぁ、彼女に会ったら何をされるか分かったもんじゃないわ・・・

 

そんな内心の不安が消えない櫻井了子は別室で準備をしながら今後を考えたりしなかったりしていた

だが弦十郎はガチなやる気なのか、本部の床にレッドカーペットを敷き始め、あ、これもう戻れないなと思い始めた者たちも居たとか居ないとか

なお、この間、セレナはリセと一緒にゲームセンターなどで商品稼ぎしていたとか・・・

 

 

―――――~閑話きゅうdie~―――――

 

「さて、じゃあクリスさんは出来るだけ壊れづらいもので髪留めを作りたい、と?」

 

「はい、お姉様は良く動き回りますし・・・出来れば残るものがあった方が良いと思って・・・」

 

と、そんな事を聞き商店街を眺めながら、二人である目的地を目指していた

だが、クリスはまだ場馴れしてないのか、あっちこっち見ながら、ウロウロとついてくる・・・カワイイ

歩き回っていると、少し古風な家が見えて来た、看板には分かりづらい文字で何か書かれている・・・がクリスには分からなかった

 

「あの・・・ここ、ですか?」

 

「うん、さって、久しぶりに来るし、先生元気かな?

それじゃ、失礼しま~す」

 

そんな問う間もなく入っていく翔希の後ろを慌てながらついていくクリス

そのお店に入っていくと若そうな夫婦が二人を歓迎してくれていた

 

「お、よっくきたね~ 久しぶりじゃん翔希~

なに? またお猫ちゃん達のご入用?」

 

「はは、お久しぶりです、あ、クリスさん、紹介するよ、彼らがこの工房の店主で―」

 

「私は結弦 美樹 っていうんだ~ 翔希とはま~腐れ縁ってやつ~?

こっちはダンナの―」

 

「結弦 誠司だ。それより翔希は腐れ縁ではなくて交渉相手だからそういう言い方は無いだろう・・・」

 

なーによ~ と何やら言い合っても仲の良さそうな若夫婦・・・

 

「翔希さん・・・腐れ縁って・・・どういう仲なんですか?」

 

「ん、まぁ、こういう仕事柄色々頼まれる事とか頼み事も多くてね?

持ちつ持たれつってやつだよ、それよりクリスさん、この人達なら、多分作れると思うし、クリスさんに作り方を教えてくれると思うよ?」

 

「ん? なになに~ 翔希もそ~言うのに興味持ってくれたのかな~って冗談、じょ~だんよ。

そう本気にしないでって~ で? 仕事の依頼? それとも自分で作りたい奴かな?」

 

その事についてたどたどしくも、はっきりと伝えていくクリスさん

多分、いや、絶対彼等なら、誕生日には間に合わせてくれるはずだ・・・

 

「ふむ・・・なるほどな、俺達で作れば半日も掛からないが・・・その瞳だと、自分で作ったものをプレゼントしたいって感じだな。

分かった、ある程度作り方を教えるから、工房の方に行こうか、美樹、店の方頼むぞ」

 

あいあいさ~ と軽い返事で店番をする美樹さん・・・相変わらずですね・・・

 

「な~によ~、万年彼女付きのアンタに言われたくないわよ~

何、あんだけ大量の女の子に付き纏われてだれ一人選ばないって、どんだけ欲張りなのよ~

いや・・・実はアンタってほmっ!? あいた~!、ちょ、チョップは止めなさいって、あんたのホントに痛いんだからさ~」

 

流石にそれ以上は刺すよ?

全く、冗談が尽きないんだから・・・ま、それが美樹さんの良さでもあるのかな?

 

「そ~そ、私が彼の支えをしてやれば、話にも花が咲いて作業効率も上がるってもんだよ~・・・?

おい、いまサラッと『アンタ邪魔してるだけだろ』とか思わなかった? 思ったよね? ねぇ?」

 

何で言っても無い事を勝手に思われて怒られてるの僕・・・

確かにそうだとも思ったけどさ・・・あ、そうだ、ついでに僕も何かしら作って行こっと

 

「あ~あ、またお猫ちゃんお預けですか~ いーですよ~だ、はぁ~。

何であの人もアンタもこう・・・周りの女の子の機微に疎いんだか・・・それなのにすっごい惚れられてるの気付かないし~

あ~もう何でこう理不尽ばっかなのよ~もー!」

 

ははっ、まぁ、美樹さんも性格は・・・アレだけど人は良いからさ?

それにちゃんと結ばれてるんだから理不尽に思っちゃいけないよ?

それに・・・うちの司令あんなだから嫁が居ないし・・・

 

「それ言っちゃいけないよ~、わたしも知ってるけどさ~

さ~すがにあの筋肉を貰うお嫁さんもそうは居ないでしょ~

あ、でも側近の・・・慎二さん? だっけ?

あの人は絶対誰か凄い人と結ばれるべきよ、だってすんごい優良物件じゃない?」

 

それ言っちゃいますか・・・てか優良物件て・・・

そういえば、あの子の誕生日まで、あと二日ほどだし・・・大丈夫かな?

 

「あ~なに? ひょっとしてギリギリでやっちゃった系?

ま~ダンナならダイジョブっしょ。

あの人期限には厳しいけど、やる事となったら細部までこだわってきっちりやり切っちゃう人だし~?

それより翔希~ なんか作る気だったの?」

 

僕も一応セレナさん・・・誕生日の人には一応世話になってるし、こういう時は皆で祝ってなんぼだからね?

 

「あ~・・・それだったらアンタは別の所で違うもの作ってきなさいよ・・・

全くホンット空気読めないというか・・・あ~あんた羊毛フェルト出来るでしょ?

それで何かしら作って来たら?」

 

・・・? それってどういう意味だろ?

 

「あーあー! もうこのオタンコナスはこんなんだから嫁が困るんでしょーねーったく。

なんでわたしがアンタのそんなことまで考えてやんなきゃならないのよー!

そーれーよーりーも! ふん!」

 

えっと・・・この手は?

 

「アニマルファー、あるでしょ? 持ってきなよ。

それでプレゼント作ればいいじゃない、どうせ猫の抜け毛どっかしらに溜まってるでしょ?」

 

ま、まぁ、アレで何かしら作るのは暇なときの趣味ではやってたけど―

 

「女子か! っはぁ~なんでこんな女子力高いのに、女の子の機微が分からないのよ~こいつは~・・・

はぁ~・・・どうせ持って来るのに少し時間かかるでしょ?

その間クリスちゃん、だっけ? あの子のアクセ作り手伝ってるから、ほら早く行った行った~」

 

何かぱっぱと追い払われてしまった・・・まぁ、この工房でも猫の毛は使う事もあるらしいからアレだけど・・・

兎に角持って来るかな? ・・・作るのは・・・猫のぬいぐるみにでもしようかな?

・・・ってアレは―

 

「セレナさんに、リューシェ?」

 

「ありゃ? 翔希くん、こんな所で何やってるの?」

 

大量の袋を両手で持って、此方に手を振る白猫とその後ろで顔を少し下げて礼をする少女。

・・・それ、ある意味こっちの聞きたい事なんだけど―

 

「これについてかしら?」

 

「あーこれねー ゲーセンの景品狙って色々やってたら、セレナちゃんがクレーンで次々景品入れ込んじゃって、気付いたら―」

 

「この山、って言う事ですか・・・どうするの、これ」

 

「しらない、翼か奏にでも投げ渡すわ・・・

クリスにも好きなものがあれば渡すけど・・・残りは、駄菓子ばかりね」

 

と言うよりよく出禁になりませんでしたね・・・

 

「なんか普通は取れないものまで取っちゃったらしくて?

アームの強度が無い物の景品まで取っちゃって向こうが騒ぎ立ててたんだって~

あ、その時私は別で格ゲーやってたから詳しくは知らないよ?」

 

「で、そのチップ・・・? コインは?」

 

「向こうが何か謝りに来て、二人に特別なコインをって渡されてね~

これ使えばしばらくは遊べるって言ってて・・・それでね~」

 

唐突にリューシェが視線反らしたんだけど・・・あ、何となく把握

 

「あの筐体が脆いのが悪いんじゃない?」

 

「いや、そもそもあれはそう言うゲームじゃないから!

あ、でも殴るのは間違ってないんだよ? でもどういう力量で殴ればあんなになるの!?」

 

「あーなんか大体把握した・・・で? 壊れたのはどうしたの?」

 

「ん? あー大分古い奴だったみたいだから向こうが何も言わずに撤去するようにしてくれて・・・何か気が付いたら事なきを得てたよ・・・ホント何だったんだろうねー?」

 

・・・これ、多分、じゃなくて十中八九セレナさんの事を知ってる人が迷惑かけないように裏で操作したパターンじゃないかな・・・言わないけど・・・

 

「っと、僕はまだやることあるから、また後でね」

 

「あ、翔希くん―」

 

リューシェが何か言いかけていたけど、まぁ、後で聞けばいいかな・・・ってなんか追いつかれt

 

「行く前にコレいくつか持って行ってくれない?

どうせ猫喫茶の方に帰るでしょ?」

 

あ、はい、そーですね

誕生日プレゼント渡す前に妙なプレゼントが増えてしまった・・・大丈夫かなこれ・・・

そんな事言っていても仕方ないし、猫のファーを洗浄して纏めておいた【ファーボックス】を手にとり、向こうに渡す用のアイテムと小道具一式をバッグに入れて即座に工房に戻る・・・もらったこれは・・・リューシェの部屋においておけばいいか。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ふむ、筋は大分いいな、これなら今日一日である程度完成させて、色付けした分を乾かしてやれば、明後日になる前には完成するだろう」

 

「あ・・・ありがとう・・・ございます。

でも・・・」

 

「分かっている、時間が足りない・・・か。

明後日には渡せる・・・が、その前に出来上がればいいのだろう?」

 

「はい・・・零時きっかりに、パーティをやるそうですので・・・その時には・・・渡したい・・・です。」

 

「・・・ふむ、なるほど、それ程大切な人なのか、その人は」

 

「っ! はい! 私にとっての、一番、大切な人の誕生日・・・です、だから・・・!」

 

「そう緊張しなくても良い・・・しかし、そうか・・・

なら簡易的になるがやれないことも無い。

そうだな、明日も来てもらえるか?」

 

明日も・・・? クリスは不安そうな眼で訴えるような視線を向けるが―

 

「そう不安がらなくていい、ちゃんと【君の思い】を込めたものとして、この髪飾りは出来上がる。

だから、明日の・・・朝早くでもいいなら、その時に来てもらえるか?」

 

はい、分かりました そう返事をしたクリスは、出来上がっている髪飾りの装飾を預け、一旦伸びをする

そうして一息、すると

 

「コーヒーで良いならすぐに準備するが―」

 

「あ・・・すいません・・・あの、ホットミルクで・・・お願い、出来ますか?」

 

「ん、すまない、いつもの癖でな、すぐ準備してくるから、少し待っててくれ」

 

こくり、と首を縦に振り、工房で少し待つことにしたクリスは周りの作品をキョロキョロ見回すことにした。

色々な作品が立て掛けられており、どれも精密に作られており、そのどれもに愛情の様な深い【何か】があるのが感じられて、その暖かさに当てられて・・・仄かに香るその心地よさに胸を躍らせていた。

 

「どう? あの人の作品、中々にいい出来でしょ?」

 

「ひぅっ!? あ、み、美樹・・・さん?」

 

「あ、驚かせちゃったみたいでごめんね~

でも、この工房で大分集中してたみたいだから~ね~

でさでさ~、このアクセ、どーゆう人にプレゼントするの? 恋人とか?」

 

「あ、えと・・・そう、ですね、私には少し恐れ多いですが、でも、大切な人・・・です。

私の事を、大切な人って言ってくれて・・・私も、あの人を大好きで、大切で、憧れて・・・

ううん、それ以上に―」

 

「愛してる?」

 

「え、あ、あの、ぅ・・・そう、です」

 

「いいわね~そう言う青春ってーの~?

私も学生時代に謳歌したかったわ~いいわね~学生同士の恋愛~異性との何て―の?

こぅ、青春ラブストーリーまっしぐらーてきな?」

 

「えーっと・・・その、異性・・・じゃないんです・・・けど・・・」

 

は? と固まったような笑顔で顔が赤くなってもじもじしているクリスを見つめる

その表情は恋をする女性のようで・・・だが、同性愛だと聞こえた・・・そうな

 

「えっと~、聞き間違い・・・じゃ~ないよね?

その人って、女性・・・なの?」

 

「はい、私と同じ・・・女性・・・です」

 

「フタ〇リとかそういう異性感とかそういうんじゃなくて?」

 

「れっきとした女性ですよ、お姉様は」

 

「何をしてるんだ美樹?

あぁ、これホットミルクな・・・お前は自分で何か飲み物もってこい」

 

「うえ~ん、ダンナがいじめゆ~!! しょうきちんまだ~!?」

 

しょうきちんってどういうあだ名・・・?

あ、この気配、多分そろそろ―

 

「えっと・・・何で美樹さん泣いてるの?

あ、誠司さん、これ、納期速いですが一応、持ってきました」

 

「ん? まだ必要量出て無いから後で良かったと思うのだが―」

 

「僕も一応プレゼント作りついでの納品ですよ、一応小分けしているので内訳確認お願いします」

 

そうか、と言葉を返し、猫の色分けされているファーの数を数えている

一方、翔希さんは持ってきた毛で何か作り始めた・・・けど―

 

「クリスさんは・・・ある程度できてるみたいだね?

明後日が楽しみだ」

 

「え、あの・・・私・・・」

 

「いや、必要以上は聞かないよ、それにこれは君も決めた事、だから自信を持って渡すといいよ」

 

やっぱり、優しい・・・世界にこんな優しい人で溢れていたら、きっとお姉様も・・・

ううん、それは、やっぱり最悪の考え方だから、今はお姉様のプレゼントを完成させるのを頑張ろう!

 

「それじゃ、やりますか・・・えいえいおーっと」

 

なんか、そんな掛け声聞こえた・・・あ、美樹さんがやってる

私も誠司さんに聞きながら、髪飾りを着々と作り上げていく・・・待ってて、お姉様―

 

 

 

 

――――――――――――

 

それから少し時間経ったよ~

 

 

 

 

「クリスさん、プレゼントは出来た?」

 

「・・・零時までには、間に合うと、言ってました・・・だから、大丈夫って信じてます」

 

大丈夫、お姉様のパーティには間に合う・・・ううん、絶対間に合わせる!

 

「あ、翔希さん、クリスさん、此方に居ましたか」

 

「あれ、慎二さんどうしてこちらに・・・?」

 

「あの、驚かないで聞いてほしいんですが・・・」

 

それから私達は緒川さんから事情を聞いた。

その事情と言うのも・・・

 

「お姉様が・・・来られないかもしれない?」

 

「申し訳ないです・・・正直あれほど拒否されると思わなくて―」

 

「慎二さん・・・さすがに隠す様にって―」

 

「いえ、実際には誕生日会とは言っていないのですが、その日は用事があるって・・・」

 

「お姉様の用事・・・?」

 

お姉様の用事・・・ですか・・・?

何か・・・何か忘れてる気がする・・・

 

「あの、お姉様はそれ以外に何か言ってませんでした?」

 

「え? あ、そうですね・・・確か『用意するものが―』と、小声で言っていたような、ってクリスさん!?一体何処に―」

 

やっぱり・・・お姉様、あの準備を―

私だって・・・私だってお姉様を―

 

「翔希さん! って落ち着いてますけど、なんでですか?」

 

「ん? いや、彼女たちは大丈夫だと思うよ?

さて、じゃこっちは残りをやってしまおうかな~っと」

 

ゆっくりと翔希は自分のやる事を進めていく、それに対して緒川さんは少しだけバタバタしていたそうな

 

 

 

――――――――――

 

 

―――気が付いたら誕生日になってたよ―――

 

 

・・・私の誕生日がどうのこうのでいろいろ騒ぎ立てていたのは分かっていたけど・・・

本当は【私たちの記念日】でもある今日・・・だから、クリスにも渡すものがあるんだけど・・・

それで、パーティ会場まで用意されても正直に出る気になれない。

いつも通り、クリスと小さなお祝いをするつもりだった・・・私たちにはそれぐらいで・・・十分だから。

 

だけど・・・ううん、私も・・・きっと、あの大きな幸せを受け入れられないから、こうしてる。

だって、今まで暗いところしか知らない私たちを祝おうなんて頭がイッテるとしか思えなくて・・・

それにクリスも交じって何かしてるのが、少し気に入らなくて、嫉妬して・・・なんか馬鹿みたいに思えるけれど、ある意味で、それが今の私自身なんだろうなと、一人愚痴る・・・でも・・・

クリスには、渡すものを渡しておきたい、私の誕生日なんかよりも、ずっと大切だから。

・・・そうはいっても、今、そのパーティ会場の前に来ているのだけれど・・・正直、胸が痛い。

これは比喩じゃなくて、恐らく幸福を何処かに感じていて、体がそれを拒絶しているせいだ・・・要は単なる毛嫌いのようなものだ。

ただ、私の場合、その毛嫌いのものは、命を張るレベルで危険だということ・・・

だけど、背に腹は代えられないというか・・・決意を決めて、入ることにした、その会場に―

 

 

 

 「「「「「誕生日おめでとう!!!セレナさん(ちゃん)」」」」」

 

 

「あ・・・っと、ありがとう・・・でいいのかしら・・・?」

 

「えーっ! もう少しびっくりしてくれてもいいのに―!」

 

「十分びっくりするわよ、何あの大砲みたいなクラッカーは・・・」

 

まだ胸が少しピリピリする・・・やっぱりこの空間は苦手だ・・・

早く用事を済ませて、クリスに【コレ】を渡したい・・・んだけど―

 

「じゃあまずは、わたしから! というわけで、セレナちゃん! これを―」

 

「・・・立花さん・・・食べ物ホント好きね・・・まぁ、いいわ、ありがと」

 

それから順を追ってプレゼントを渡されていく・・・その中で―

 

「で、あんたは何をくれるつもり? 櫻井了子・・・いえ、フィ「ストップ!!!」っはぁ~、で、なに?」

 

「あんたねぇ~、本当にここまで危険だとは思わなかったわよ・・・ま、私があげるものなんてないんだけどね~っあいたっ! ちょ、ちょっと猫が何してくれて、あ、それ持ってっちゃ―」

 

「・・・これ、聖遺物のかけら・・・?」

 

あはは~、と空笑いする了子に回りが少し固まって・・・

 

「了子君、聖遺物の勝手な譲渡は禁止のはずだが?」

 

「ごめんごめん、でも、この子ならうまく使ってくれそうだと思ったから~、まぁ、ダメなのはわかってたけどね」

 

渡された欠片を返して、次のプレゼントは―・・・

 

「あの・・・お姉様・・・」

 

「クリス?」

 

「あ・・・後で・・・いい、ですか・・・」

 

「・・・うん、私も・・・あるしね・・・」

 

お互いに後で会う約束をして、パーティを続けていく・・・

正直、ここまで幸福な世界は今まででも、見たことは・・・多分、私の中にはないと思う

だから・・・この平穏は・・・守らないと・・・

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

それから数時間、ようやくお開きになった会場を後にして帰路に就く私たち・・・周りには誰もいない街灯の灯る公園・・・まるで告白ね

 

「お、お姉様! 茶化さないでください!」

 

「ごめんなさい、でも、私もクリスに渡したいものがあったから―」

 

それじゃ、二人で言いましょうか・・・

 

「クリス」 「お姉様」

 

「「私たちの誕生に祝福を―」」

 

そう、これはもう【本来のあの子たち】になれない自分たちを祝うと同時に、ある意味で呪う言葉・・・

だけど、あの場所での苦しみは、幸福による痛みはここにはない、クリスと一緒の幸せの時間だけは、痛みも何もなくなる・・・ただ一人、彼女のための時間を共有できること・・・それが私の何よりも幸せ―

 

「おめでとう、クリス・・・これ、よかったら受け取って?」

 

装飾の着飾りもあまりない不躾な茶色の箱を渡す

中に入れてあるのはシルバークロイツの首飾り・・・彼女の雪のような髪に合わせて調達したアクセ・・・

クリスなら、腕に巻いていても、多分きれいに映るはずだから―

 

「あ、ありがとうございます、お姉様・・・あの、私のも・・・受け取ってくれますか?」

 

「クリスのものなら、何でも受け取れるわ。

それで・・・何を?」

 

「髪飾りを・・・作ってみたんです・・・少し不格好かもしれないですけど・・・」

 

そういって、袋から取り出した、蝶々の柄が特徴的な髪留め・・・?

 

「えと・・・本当は二つ作るつもりだったんだけど・・・その、時間が無くて・・・」

 

「それぐらいいいわよ、それに―」

 

取り出された髪留めを受け取り、伸びた髪を後ろで纏める、簡単なポニーテール状にする

それでも、留めた場所からはセレナでも髪飾りが見えるほどだった

 

「こうすれば、一つで済むもの・・・ありがとう、クリス」

 

「あ、ありがとうなんて、そ、そんな・・・わ、私は、ただ、お姉様の役に立とうとして、て、あ、あの、えと・・・」

 

「落ち着いてクリス、私は本当に嬉しいんだから・・・だから、クリス・・・笑って?」

 

顔を近づけキスをする、いつものように、それに対してクリスも笑顔で口付けを返す

これからも、絶対一緒・・・もう、離さない・・・だって、私にはクリスが大切で何よりも大事で―

 

「私(わたし)の大切なヒカリ(陽だまり)だから・・・」

 

 

クリスを抱きしめ、少しの間静寂が世界を包んだ・・・ここには今、私たちの時間しかない・・・

でも、あんまりそうとばっかりしてもいられずに、私たちは抱き合いながら帰っていった

まるで恋人のように・・・だって、私には・・・

 

 

 

    【大切なのは、クリスしかいないから・・・】

 

 

 

――――――――――

 

 

ハッピーバースデイ、セレナ!!!

 

 

 




はい、こちらのセレナさんは、普通でいられない体質です・・・
本当は本編でいろいろ明かす予定だったんですが、誕生日が思いのほか早かったのでこちらを先に書き留めることになりました。
・・・相変わらずの不幸酔いのセレナさんです・・・ところで書いてて思ったんですが、うちのクリスさん・・・バンドリの白金燐子さんに似ちゃってますね・・・
今更気付いた、なんか似てるなと思ったらこんなだった、今更変えないけど・・・
あと、緒川さんを無能にするつもりないのに変なことしてしまった・・・どうしてこうなった・・・
というわけで、セレナさんに髪留めが付きました・・・はい、今の今まで伸ばしっぱのボサボサミドルヘアー状態だったんです、色々訳アリですけどね
クリスさんはシルバー巻き・・・ません、普通に首飾りです。
・・・いやぁ~期間にもう少し余裕もって書かないとえらいことなるな~っと思った自分でした・・・感想は自由におねします、では。


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クリスの誕生日! 2020

先に書いておきます、今回想定以上に長いです。
まさかここまで長くなるとは思ってなかった、まぁ、セレナさんの大切を積めたら・・・気が付いたらえらい文字数に成っちゃいました。
そして出来たの28日になる直前・・・二週間前ぐらいに書いてたのにどうしてこうなった。
それでは、時間があるときにどうぞ―


 

 

・・・12月某日―

 

こんにちは、セレナよ・・・いつもこんなあいさつでごめんなさい。

 本当は結構気分はいい方なのだけれど、口調が変えられないの・・・これは、もう昔からこんな喋り方していたからなのだろうけど、それでも昔は礼儀正しい可愛い子とか言われてた気がする。

 まぁ、だからと言って昔みたいな喋り方は、もう出来ない、大体あの頃の話し方は忘れちゃったら・・・

それは兎も角、そろそろクリスの誕生日ね、毎年祝ってあげてるけど、今回は前と違って倉庫とかで祝うなんて味気ない事をしなくて済みそうなのが、何より喜ばしい事だ。

 これに関してはクリスも嬉しそうに話してくれる・・・その笑顔が何より綺麗で・・・

だから、クリスに何時も助けて貰ってるお返し・・・と言うのもおかしいのだけれど。

 せめて、生まれた日、その大切な時を感謝するぐらいは、しても良いでしょ?

 

 

  ・・・だって、私達には、大切なものが、お互いしか知らないのだから・・・

 

 

 

―――陽溜まりにゃんにゃん―――

 

 

最近ではここを起点に色々やらせて貰ってる・・・とはいえ、意図的なのか家から近いのよね・・・

 クロエルもよく私の膝の上を占領して丸くなってるし、悪い気はしないけど。

主な外出以外は大体こうして猫たちの相手をしている気がする・・・生来からのものかもしれないわね?

 それに気が付くと私の周りって猫塗れになるのよね、何でこんなに集まって来るのだか・・・リューシェ曰く皆一緒に遊んで欲しいらしいのだけど、私そんなに懐かれる謂れ無いんだけれど?

 ・・・それは兎も角、今はクリスと別行動してる、一応だけど彼女のバースデイプレゼントについて考えたいから此処に来たってのがあるのだけど、いつも大したものを渡せてないから、こういう時はしっかりとした贈り物をしたいわね・・・この前の私の誕生日の時には特別なプレゼントを貰ったから、お返し、と言うのは違うわね、彼女は私と違って祝われるべき人だから、だから・・・・・・

 

 

「それで相談しに来たって事ですか、セレナさん」

 

「アンタぐらいしかまともに相談できそうな人が居なかったのよ、悪い?」

 

「いや、悪く無いけど・・・そうですね、セレナさんが蝶の髪飾り、でしたらクリスさんは雪の結晶を(かたど)ったアクセが一番かなと」

 

 

やっぱり、そう言う感じよね、まぁ、今までそう言った凝ったアクセなんかは作っても上げられなかったし、そう言うのが一番かも知れないわね・・・

それはそうと、彼も何だかんだ作るつもりなのかしら?

 

 

「いや・・・前回のセレナさんの誕生日の時に懲りたから流石にパーティみたいなバカ騒ぎはやめにするよ。

皆も反省してるみたいだし、僕は無難に猫のアクセでも作っておくよ」

 

「それでも貴方はブレないわね・・・」

 

「まぁ、ね それで、買い付けてくるのかい?」

 

 

・・・そんな都合のいいモノなんて売ってるわけないでしょ?

とは言っても、贈り物をする以上、他のヤツが作ったものなんか渡しはしないけど、ね?

でも、クリスも年頃の子な訳だし、やっぱり可愛らしいモノが良いのかしら?

 

 

「そこの所どう思う? ねぇ凪?」

 

「いきなりそんなこと問われても僕には答えようもないし・・・

第一、彼女って何が好物なのか分からないし・・・」

 

 

まぁ、それを聞いても『お姉様以外に好きな物は無い』なんて返されそうだけど。

 それはそれで、困るけれど・・・雪音・・・う~ん、安直な物は、避けたい気がするけど。

 

 

「それでも心のこもった物なら、あの子は凄い感謝すると思うよ?

何せ大切な人から貰ったプレゼント、どんなものでアレ、彼女はそれを無碍にする事は無いと思うけれど?」

 

「逆にそれが心配なのよ、下手に食べ物を渡しても『大切なものだから』って一切手を付けないから、手作りの食べ物とかは禁止、後考えられるのは手軽に持っていけるアクセサリーか、飾れるものとかが一番なのだけれど」

 

「なら、休みの時間についてきてくれるかな?」

 

 

 何をする気なのコイツ・・・まぁ、午前中も暇でどうしようか考えていたけれども、そういえば、そろそろクリスマスって言う祝祭の日が近いって言ってたっけ?

それでクロエル達、猫の子達も赤い羽織みたいなの付けてサンタの装束に揃えてる訳ね、何となく納得。

 

それに店内にやたらと大きい木が立てられていてその装飾は豪奢とも言える程・・・と言うよりこんな大木何処にあったのかしら?

とか聞いてみると『魔術の神秘』とか訳の分からない返しをされてしまった・・・それって錬金術の神秘とかと同じ理由かしらね?

クリスマスの様なイベントも年に一回だから色々やるのも分かるけど、こっちのイベントも一年に一回、何よりも欠かせないクリスの誕生日、だから、絶対に失敗とかはしたくない。

例え邪魔されたって私は――

 

 

「あ、今は別にセレナさんを邪魔する人も居ないと思うよ・・・あ~でも、響さん、まだいるんだよね・・・」

 

「いい加減帰らないの? アイツ」

 

「帰してあげたいんだけど、まだ起動状態じゃないんだよね、ギャラルホルン・・・

こうなると、年末年始のイベントも彼女がとんでもない事しそうで困るな・・・

歯止めの人が居ないし、第一この世界だと彼女の知り合いも少ないし。」

 

「ご愁傷様とだけ言っておくわ」

 

 

まぁ、あの子のお陰で今の私達がある訳だし、それだけは感謝はしておくけど、それはそれ。

 今は・・・取り敢えず、翼と奏のクリスマスライブで忙しいと思われるあのメンバー達は頼れないし、第一、頼るつもりもない。

だから彼、凪 翔希、に頼みごとをしている訳ではあるのだけど・・・

 

 

「まさかクリスさんが率先してライブの支援をするとは思わなかったな。」

 

「あの子も、平穏に生きてれば、今みたいに笑顔でいられたかもしれないのだけど・・・

私も、きっと、そうだったのかしらね?」

 

「でも、【かもしれない】をいくら並べても【現実】は変わりませんし。

ソレでしたら今出来る事を最大限成していくのが一番でしょう、そうではありません? セレナさん」

 

 

・・・ご尤もだけど、なんか癪に障るのは何故かしら・・・?

とにかく、手作りの贈り物をする事にはしたけど、道具も無ければ技術もない(?)から、その辺どうしたものか・・・何か案はある?

 

 

「でしたら、以前クリスさんも世話になった所に行きましょうか。

僕もそろそろ取りに行かないといけないモノが有りますからね」

 

「あぁ、前私の髪飾りを作ったって言っていたところかしら?」

 

「うん、こっちだと大分世話になってるからね。

それに、セレナさんをそっちに案内するつもりだったし。」

 

 

最初っからそのつもりだったのね、コイツ・・・

まぁ、それはいいや、でも、急がないとそろそろ時期的にキツイのよね・・・

 

 

「取り敢えず、休みの時間まで待っててもらえるかな?

時間になったら呼ぶから」

 

 

としたら、時間までは暇ね・・・他にも誰か居ないし・・・どうしたものか・・・

 外はクリスマスムード一色だし、私が行っても違和感しか無いと思えるけど。

まぁ、暇な時の時間潰し位はできるかしらね?

取り敢えず、外で適当に時間を過ごすことにした・・・は良いのだけれど。

 

 

 

―――――アーケード街―――――

 

 

「何この人数・・・・・・・」

 

 

確かにクリスマスで色々催し物が出てるのは知ってはいたけど、此処まで人が多いとは思わなかった・・・

 こんな狭い都市なのにどうしてここまでの人間達が群れることが出来るのだか・・・

前居た世界の広さを考えれば、この都市は遥かに狭いはず、なのにも関わらず、ここに居る人たちはソレに対して違和感も何も持っていないんだろうな・・・

 少なくとも、私はこの空間には息苦しさと違和感しか感じない・・・

もう少し閑散とした場所は無いのかしら・・・?

 

 

「・・・人の少ないカフェにでも行くしかないかな・・・?」

 

 

正直、このまま何もせずに歩くのも気分が悪くなりそう・・・

 と言うより、悪い、正直に気持ち悪い、こんな場所に留まる位なら倉庫の片隅に閉じこもっていた方が良い位だ・・・

 まぁ、前潜んでいたあの場所は、私の重要品を回収したのちに完全処理されて、もう更地にしかなってないらしいけれど。

それで、人での少ないカフェを探していたのだけど・・・

 

 

「何処も彼処も人だかり・・・日本ってこんなに集る生き物ばかりなの・・・?」

 

 

 いつもは閑散とした場所にしか居なかったから分からなかったけど、今にして思えばこの都市部にうん十うん万の人が住み着いているらしくて、それが一堂に会せばこういう事にもなるだろう、でも、これでも一部分しか此処にはいないんだろうな・・・あ、やばい・・・少し吐きそうかも・・・

 

そうこうして、適当にぶらついていたら・・・

 

 

「あ、あの、セレナ、姉さんですよね、大丈夫ですか?」

 

「うん?・・・貴女は・・・たしか」

 

 

 この間不慮の事故で助けた子だったかしら?

前、衣服の買い付けだか何だかでツヴァイウィングに振り回されたときに、色々あって助けた子が居た、まぁ、気が付けばその子も私の【ナニカ】に当てられたのか、この子の方が年上にも拘らず私の事を【姉さん】呼ばわりする始末・・・クリスのは分かるけど、他の子に関しては良く分からない。

まぁ、それは兎も角・・・

 

 

「大丈夫よ、只あんまりの人の多さに気分が悪くなってただけ―」

 

「それ大丈夫じゃありませんよ! 家にすぐ来てください!」

 

 

 そうは言うけど、ってもう手を引っ張られて連れ込まれたのだけど・・・まぁ、悪い子じゃないのは分かるけど、この子の強引さには何故か惹かれるのよね・・・いや、引かれてるのかな?

 まぁ、この子は私の過去を知らないけれど、後で何か聞いたら【かっこよくて素敵】とか応えられて、もう何が何だか良く分からないけれど、歓迎はされてるようだし、興味は無いけど別にいいかなと・・・

 ついでに凪の知り合いでもあるらしいのだけど、彼女の親が・・・・

・・・そんなこんなで彼女のカフェに連れ込まれた・・・他は結構混んでいたはずなんだけど、此処は相も変わらずそこまでの人は多くいなかった、大丈夫なの、此処?

 

 

「今はそれよりセレナ姐さんの方が心配ですよ!

兎に角、姐さんはもっと頼ってください!」

 

「そ、そうは言うけど・・・いいの? 楓子?」

 

「良いも何も、私は姐さんに助けられたんですから尽くさせて下さい!」

 

 

そう言ったのは、何だかんだ世話焼きな彼女【柴羽月 楓子(しばつき ふうこ)】ほんの少しの関りだったのに、何故か私達に良くしてくれる、ついでにツヴァイウィングの大ファンで家族みんなで良く応援に行くそうな・・・

まぁ、それは置いておいて―

 

 

「ふぅ、まぁ、助けてくれたことに感謝するわ ありがとう楓子」

 

「そ、そんな、ね、姐さんから感謝なんて―」

 

 

・・・なんでそんなに顔を赤くするのかしら? 私達普通に接してるだけよね・・・?

あ、そうだ

 

 

「ねぇ楓子、この辺りで手作りプレゼントが作れる場所とか知らないかしら?」

 

「ふぇ!? て、手作り、ですか・・・?」

 

 

そんなこんなで、色々と楓子から聞くことが出来た、彼女のご両親も私達の関係を微笑みながら見守ってるのがなんとも・・・

これも何かしらの因果があるのかしら?

まぁ、それでも私も助けられているし、彼女と一緒に居ても割と平気に感じるのは何かしらがあるのかしらね?

と、そんな感じにここで結構な時間お世話になってたら―

 

 

「っと、連絡・・・やっとね、もしもし、こちらセレナ、今は前に世話になった喫茶店に来てるけど―」

 

『えっと、柴羽月さんの所であってる?』

 

「ええ、こちらからそっちに行った方が良いかしら?」

 

『いや、そこからなら割と近いし、こっちから迎えに行くよ、えっと・・・』

 

「一分もかからないでしょ? それぐらいなら待ってるから早く来なさいよ?」

 

 

まぁ、彼なら相当な速度でここに来てくれるでしょうし、気にする必要も無いでしょうね。

・・・と、残りの紅茶を飲みながら少し待ってると・・・

 

 

「・・・・・・セレナさん、わざと急かせませんでした?」

 

「何の事かしら?」

 

 

割とほんとに何の事?

 

 

「まぁそれはいいとして、行きましょうか」

 

「はぁ、まぁいいや、ごめんね、世話掛けたみたいで」

 

「い、いえ、姐さんと過ごせて私は楽しかったので別にいいです!

あ、またのご来店、お待ち、してます!」

 

 

顔を赤面にさせて私を見送ってくれる彼女に微笑みかけ手を軽く振り店を後にする。

 

 

「さて、じゃあ急ぎましょう」

 

「相当やる気だね、まぁ、僕もあの人たちの世話になってるし、と、この話は別にいいか。

それじゃ、すぐそこだし早く行こうか」

 

 

そう言って歩いて行った先・・・工房と書かれた場所に着いた

ここって・・・

 

 

「こんにちわ、また世話になりに来たよ」

 

「お? そろそろ来るかなって思ってた所だよ~・・・お?

な~にその美人さん~、しかもまた外人~? 相っ変わらずのたらしっぷりだね~」

 

「そんなんじゃないから・・・それより美樹さん、例のヤツ取りに来たから・・・」

 

 

・・・何この間延びした人は・・・

 

 

「一応紹介しておくよ、彼女はこの工房の奥さんで―」

 

「結弦 美樹だよ~ 見てる人は二回目だね~

また会えると思ってなかったよ~ ま、これからも何回か合うかもだけどね~」

 

「・・・誰に対して言ってるの?」

 

「およ? その髪飾り付けてくれてるんだね~

うわ~すっごい似合ってる~、ん? って事は今回はお返しかな?

ん~! いいね~青春してるね~ 女の子同士だけど応援しちゃうよ! 私は」

 

「・・・何この変態 後クリスのこと知ってるの?」

 

「ちょっと、セレナさん、変態って言っちゃダメだって・・・ってあれ?

誠司さんは?」

 

「うんにゃ? せーじきゅんなら配送に行ってるよ~?

君達が来るなら急いで戻って来るように言っておこうか?

どうしなくてもお返しのクリスマスプレゼントに手作りのを~って言う奴だよね?

あ~、あっついのいいねぇ~ 青春だね~ 焼けちゃうね~・・・ 燃えちゃえ」

 

「あの、みきさん? 今何言いました?」

 

「べっつにな~んにも言ってませんよ~? 気の所為じゃない?

えっと、何ちゃんだったかな?」

 

「セレナ」

 

「っと セレナちゃんね~・・・え、マジの外人なの?

日本語めっちゃうまいんだけど」

 

「いやそこ突っ込んじゃダメだから! やるのめんどくさくて編集してないことバレるから!」

 

 

・・・・・・さっきから何言ってるのこの人達・・・?

それに、私はクリスマスプレゼントに、じゃなくて・・・

 

 

「ふぅ~ん、誕生日がクリスマスの三日後に~、ね~?

ま、頑張れば間に合うかな? で、クリプレど~すんの?」

 

「? くり、ぷれ?」

 

「クリスマスプレゼントの略よ~ だって言うのも書くのもめんどいじゃん。

え、メタい? しらな~い」

 

「・・・そっちは・・・クリスと一緒に過ごそうかと・・・」

 

「あ~ あっつい・・・取り敢えずご馳走様しときますね~

ほんじゃ、翔希くんは出来てるのあっちにあるから~

んで、ね? 何が作りたいとかあるのかな?」

 

「・・・・・・雪の結晶、みたいな・・・オーナメントって言うのかしら?

そう言うアクセに出来るものをって」

 

「う~ん、メジャーだけど、蝶の奴より難しいよ?

それでも―」

 

「やる、この日だけは逃せないから」

 

「うん、わかった~、とりま 誠司さんに連絡してからやってくね~」

 

 

いうが早いか、既にメールを送ってるように見えたのだけど、兎に角―

 

 

「そんじゃ、始めましょうか?」

 

 

何でか既に工房の方に移動してた、あれ、いつの間に・・・?

 

 

「細か~いことは気にしちゃだ~っめ、さ、時間があるうちに型を作っちゃいましょ?」

 

 

・・・気にしちゃダメなモノってそれほど多くは無い気がするのだけれど?

今はそれより大切な事があるから、兎に角そっちを優先しよう・・・けど―

 

 

「クリスも同じように来たのかしら・・・?」

 

「ん、まぁ、プレゼントって大切なものだからね~

やっぱり適当に【なんか】で済ませたくないじゃん? セレナンもそ~だよね~」

 

「・・・そうかも知れないわね」

 

「うや! まさかのツッコミ無し! これは中々手痛いね~

はぁ~、それじゃやりますか」

 

 

 やっとか、何かやけに時間が掛かった気がする、気のせいかしら?

まずは完成図を書き出していく・・・のだけど、絵はあまり得意じゃないのよね、クリスは綺麗に描いてくれるけど、私のは大分抽象的になってるってよく言われる。

 それでも良く分かるらしいのだけど、それが何でかはよく分からないらしい。

なんなんだか・・・と、思ってるうちに何とか元型にするモノができた。

 

 

「う~わー、アンタ達って揃いも揃って才人ぞろいなのかね~

これだけ器用にできるなら別にそれ程時間掛からないと思うよ~・・・っと、なになに?

 『帰って来るまで少し待ってくれ』ってコレ翔希からの連絡じゃん!

な~んでうちの旦那は連絡を遠回しに送って来るのよ~!」

 

「えっと、一先ず置いといて良いって事かしら・・・?」

 

「ん~、ま、仕方ないか~ わたしも仕事に移るからテケト~に見て回ってていいよ~?」

 

 

発言が相も変わらず適当なのが何と言うか・・・よくこんな人と一緒に居るな、と思う。

 それでもしっかりしてるのか、やる事に凄い紳士に取り入ってくれてる様子が不思議と見えた・・・なんでかは分からない、でも、クリスも彼女の言動をしっかり受け止めてコレを作ってくれたんだと考えると、まぁ、感謝はしないと、ね?

 それは兎も角として、この空いた時間をどうするべきか・・・と、一つ、不思議な作品が目に入った。

あれ、この形・・・何処かで・・・?

 

 

「おぉ? そんなところに有ったんだ~ いや~色々置いてると管理が大変で困るよね~

いや、わたしの所為でもあるか~」

 

「あの、これって・・・」

 

「北欧の妖精さんで、トントゥって言うらしいんだ~

なんでも、人に祝福を与えてくれる不思議なお守り人形さんだってさ~、ま、私もうろ覚えだからよく知らないんだけどね?」

 

 

妖精の伝承・・・昔自分の扱っていたギアの出力を引き上げる為に対象になった力で、昔の私のギアの象徴でもあった、けど、今の私には、多分その力は扱えない・・・

 

 

「まぁ、この子達もクリスマス用として喜ばれるプレゼントとして有名なんだよ? 一部ではだけど」

 

「そう・・・」

 

「あ~、信じてないパターンかなこれ~

これでも今年のトントゥは結構売れたんだよ~・・・たまたま作り過ぎちゃって少し余っちゃったけど~?

 良かったら貰ってくれない?」

 

「え? いい、の?」

 

「いいよいいよ、むしろ大歓迎だと思うよ、その子も多分喜んでくれると思うしね?」

 

 

そう言って手渡されたのは二つのトントゥ・・・いやこの場合は二人と言った方が良いのかな?

 片方の背はそれなりに高く、もう片方は寄り添うように作られている、二人ともクリスマス仕様に出来上がってる・・・でも妙に出来過ぎてるような・・・?

 

 

「いや~、翔希氏からの注文で少し量間違えちゃってね~

うや基本そんな間違えしないんだよ? でも今回は特別感があるというかね?」

 

「・・・・・・それにしても、よく喋るわね、貴女」

 

「旦那も無口だからね~ 誰か喋ってないと此処静かすぎて何か出そうだもんよ~

ほら、あそこの木の人形とか今にも動き出しそうじゃない? いや~よくこんな怖い所に居るわ~自分、マジに怖いな~」

 

「全然怖そうじゃないわね・・・」

 

「怖がって仕事が出来ますかっ、てなもので~ あ、お帰り~旦那~」

 

 

 話してる最中に誰かが歩いてるのが聞こえたと思ってたけど、此処の主人が帰って来てたのね。

成程、確かに無口そうな人ね。

 

 

「彼女がそうか?」

 

「うん、そうよ~、今回は結構難しそうだから時間結構掛かりそうなのよね~。

あ、これ下書き~」

 

 

言うが早いか、私が描いた下書きをじっくり見つめる男性・・・

 凪もそうだったけど、大概関わる男って妙に特徴あるわね、彼も手元に切り傷が絶えないぐらいにあるわ・・・

 じっくり見る事数分、やっと口を開いた

 

 

「コレを自作していつまでに完成させたい?」

 

「二十八日、あの子の誕生日までに」

 

「そうか、ならすぐに取り掛かろう」

 

 

やっぱり行動が早い、もう既に道具を取りそろえて工作準備が完了してる・・・流石仕事人とでもいう所かしら・・・?

 

 

「それでだ、アクセにするにしても色々あるのだが」

 

 

・・・説明は色々あるから少しだけ端折らせて貰いましょうか。

 大体的に言わせれば、私の付けてる髪飾りが【一本づくり】の蝶々型、それで多機能で色々使い勝手のある【可変型】とか色々あるらしい

 今回作る雪の結晶型はこの【多機能型】を作る事が多いらしいから・・・まぁ、こっちを作ってみましょうか。

 ・・・ただここからが相当大変だったのは言うまでもない事だったのだけど、それはこの際省略させて貰いましょ? 以前クリスも作ったらしいし、今日一日で出来る事はそこまで多くは無いらしいから、雪の結晶の一片一片を少しずつ丁寧に作り上げて、それから―

 

 

「・・・・・・見てる人は何をどう作ってるかって言うとね~ 木を粗削りして型を取って細かくしていってってクッソめんどくさい事してるの~、だから気にしないでね~、木だけに」

 

 

・・・どうしよう、この一片鋭くして刺そうかしら・・・

 

 

「ごめんごめん、あんまりに真面目が過ぎたからおちょくりたくなってさ~、ね?」

 

「悪い、翔希、いるならこいつをどっかに連れてってやってくれ」

 

「僕は別に便利屋じゃないんだけど・・・それで、どれぐらいかかりそう?」

 

「・・・そうだな、彼女も相当出来るとみてるから・・・二日、いや、三日四日と言った所か

後は、そうだ、翔希、後で相談に乗ってくれるか?」

 

「ん、了解、今晩でいい?」

 

「あぁ、それでいい、どうしなくてもクリスマスの奴は全て完了して暇をした所だからな」

 

「新年のはいいの?」

 

「新年明けは毎年暇を頂いてるからな、そっちと違って」

 

「あ~そうだったか・・・まぁ、忙しいこっちとは違うよね」

 

「こっちが暇みたいに言うな」

 

「ごめん、そう言う意味で言ったんじゃないんだけどね。

クリスさんの誕生日まであと一週間くらい、だっけ?」

 

「だいたいそれくらいね・・・

兎に角、これは秘密にしておいて欲しいかな・・・」

 

「分かってるよ、じゃ、僕は帰るから、後は頑張ってね」

 

 

 えぇ、また、そう言うと、彼自身はゆっくり帰って行った。

やっぱり相当無茶してきたんじゃないかと思ったけど、そうでもない、のかしら?

 

 

「それじゃ、今日は出来る所まではやって行こうか」

 

「えぇ、お願いしますね、先生、で良いのかしら?」

 

「慣れない呼び名で呼ばなくても良い、普通に名前で呼んでくれ」

 

 

分かったわ、誠司・・・そう言えば、自己紹介してない気がするけど―

 

 

「来た人の名前は大体美樹が教えてくれるからな、気にはしてないが、覚えはする。

まぁ、仕事関係をメインにするからな、こっちは」

 

「そう、ま、それが一番ね」

 

 

 不思議と彼とは気が合いそうね。

・・・・・・と、そんなこんなをやってて・・・

 

 

 

 

―――――――ごめん途中端折る!――――――

 

 

 

クリスマス前日・・・相も変わらず人出が多いわね・・・

 まぁ、ここ最近は本当に平和なモノ・・・災厄が降らないのも逆に珍しく感じてしまうほど・・・ね。

これが、本当の平和なら、どれだけ良かったのか・・・

 まぁ、そんな事言ってる場合でも無くて・・・

 

 

「セレナさん、調子は・・・もう少しかかりそうだね」

 

「やっぱり難しいわね、小物づくりなんてあんまりやって来なかったし・・・

でも、間に合わせないと・・・」

 

 

だって、何より大切な、クリスの為に―

 

 

「焦りは禁物だ、何に対しても【急いては事を仕損じる】。

それにもう直に完成間近まで来てるんだ、頑張れば今日中には全行程終わらせることが出来るはずだ」

 

「ふぅ・・・これで・・・後は・・・」

 

「しかし、本当に全部やるのか? なんなら色彩工程はこっちで―」

 

「やる! 絶対・・・誰かの手を借りてなんか・・・」

 

「・・・ふっ、その意気があるならこちらはそこまで手出しはしないさ。

只注意しろよ? これだけ細かい細工品、下手をすれば直ぐに壊れる」

 

「えぇ、だから、簡単に壊れないように気を付けなければ、ね」

 

「しっかし、セレナさんも相当やりますよね・・・一つだけかと思ったけど」

 

「私たちは二人で一つ、それを真に願ってるから・・・だから」

 

 

作るのは、常に二つ・・・これだけは、譲れないから―

 

 

「よし、これで通せたな・・・後は―」

 

「セレナさん、コレを使ってください」

 

 

これ・・・? 普通の絵筆のようだけど・・・?

 

 

「出来たんだな、翔希」

 

「当然、と言いたい所ですが、色々やってたんで結構掛かっちゃいましたよ・・・」

 

「・・・とにかく、これで隙間なく塗って行けばいいのよね?」

 

「あぁ、それでいったん乾かして、次に色彩を付けてそれからもう一度、の三度塗りをしていけば大体剥がれる事も無いだろう」

 

 

ふぅ、結構掛かっちゃったな・・・クリスに内緒で色々やってたし、クリスマスの日はクリスを沢山甘やかして上げないと、怒ってるかもしれないし・・・

 

 

「それじゃ、こっからは時間が掛かる工程だし・・・いったん区切ろうか?」

 

「そうだな・・・それじゃまた後でな」

 

「・・・さっきから何か良く分からないのだけど、なんなの・・・?」

 

 

 

―――――もう少し時間置くよ―――――

 

 

 

―――自宅―――

 

 後は完全に乾くまで時間が掛かるからと言われたので、明日、クリスマスの日には何とか出来上がって来るだろうという所・・・さて、じゃぁクリスマス当日はクリスの日にしましょ?

・・・と言うより今まで離れてた分抱きついてないと落ち着かない・・・のだけど。

 

 

「姉様・・・また何かしてたんですか・・・」

 

「クリス、まだ機嫌直してくれないの・・・?」

 

「流石に何かしてるのは判りますが、それでも危ない事を一人でしてるんじゃないかって心配にもなりますよ! 良いですか! 姉様はですね!」

 

 

・・・結構怒られてしまった、やっぱり、誰かと一緒に居るのは難しいわね・・・

 これでも、昔は、誰かと一緒に居ないと不安で仕方なかった、それは、多分今も変わらない。

今はそれがクリスに変わってるだけ、今はクリスと一緒に居ないと、心が落ち着かない、それはまるで呪いのようで、でもそれが私を落ち着かせる【安定剤】のようで・・・

 時折り、それがとても悲しくて辛くもなる、いつか、失ってしまいそうで・・・だから―

 

 

「ずっと大好きよ、クリス」

 

「―――っ!!?!? お、お姉様っ!?」

 

 

 今大好きなのはクリスしか居ない、それ以外は、もうこの世界からは、消えてしまったのだから―――

これからも、ずっと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――クリスマス当日――――

 

 

 

 

・・・気が付いたら、クリスを抱いて寝てしまっていたらしい、でも、クリスも満足そうな顔しているから良いか。

 今日は一日クリスの日、で、ツヴァイウィングの大型ライブの日・・・らしい。

まぁ、そっちは気が向いたら行くようにしよう、夜の七時かららしいから、いい記念日になればと思うけれど、ね?

 

 

( ※例のライブの一年前なのでまだ起動実験はしません、そもそもアレ多分新年一発目のライブだと思うので―

後本編に関わりそうなので一般的に成功したライブをやります! いつもライブ滅茶苦茶になってたので(GX除く) では)

 

 

 さてと、朝風呂を一緒に入って身嗜みをととのえましょうか・・・あ、クリスは相変わらずまだ寝ぼけてるのね・・・ほんと、可愛らしいんだから。

 

 

「ふぇ? お姉様?」

 

「もう、クリスったら、ほらしっかりして?」

 

 

顔に水を浴びてスッキリさせてる筈なのに目が未だにトロンとしてる・・・あぁ、もう今日一日中抱いてたい・・・いや、ダメ、今日はクリスと居られなかった分、思いっ切り遊ぶって決めたから・・・

 

 

「にゅぅ、お姉様・・・着替えさせて・・・」

 

「クリス・・・そこまで堕落しなくても・・・」

 

 

さ、流石にそこまでは―

 

 

「だめ・・・?」

 

 

あの、上目遣いで見ないで、やっちゃうから・・・あ、ごめん、我慢できない!

こんな風に誘うクリスが悪いんだから・・・ね?

 

 

「ふにゅ! ちょっ、お、お姉様、そこはっ! ふみゃん!!」

 

「く~り~す~? そんな悪いことするのはこの身体? それともこの口かしら?」

 

「あふっ、だ、だめ、そこ、敏感、だかr、あぅっ!?」

 

「ふふっ、クリスってば慌てちゃって、ほんっと可愛い」

 

 

 

 

・・・遠くで見てる姉さん、もう一人のわたし、皆悪い子に仕上がっちゃってます、ごめんなさい・・・

でも。

 

 

「クリスもすっかり大きくなったよね・・・ここが」

 

「そ、それは、お姉様が、ふみゃう!?」

 

「(あぁ、可愛すぎてヤバイ)あぁ、可愛すぎてヤバイ」

 

「お、お姉様今思った事そのまま口にしませんでした?」

 

「(何の事かしら?)可愛いんだから仕方ないじゃない」

 

「・・・お姉様・・・」

 

 

 いつも通りだと思うのだけど・・・違うかな・・・?

あ、こんな事してると時間が無いんだった。

 

 

「ほらクリス、早く着替えてご飯にしましょ?」

 

「お姉様・・・大好きだけどこういう所少し嫌いです」

 

「クリス・・・そんなに嫌いだった・・・」

 

「あ、ち、違いますよ! お姉様の事は大好きです!

・・・でも、朝はいつもうまく起きれないんです・・・布団の魔力が強くて・・・」

 

 

分かるけど、少しは抵抗して・・・

そんなこんなだけど、私達自信のこの幸福な時間は、何よりもやっぱり大切で、私が唯一傷付かずにいられる時間・・・クリス以外とは、こんな事は、あり得ないから―

 

 

 

 

――――少し送るよ――――

 

 

――――――クリスマスのアーケード街――――――

 

そんなこんなでやって来た恋人たちのクリスマス、司会は、しません、以上 凪 翔希でした。

 

 

 

・・・何今の、文字数多くなってヤバいんだけど(メタァ)

 

 

「前も見に来ましたけど、いつもよりやっぱり人多いですよね・・・」

 

「えぇ、これほどの人数が一体どこに居たのやら・・・」

 

 

・・・やっぱりクリスと居ると気持ちが落ち着く、何より変に気負わなくて良くなる、周りのクリスマスの祝福(Bless)が不思議と気分を高揚とさせてくれる。

それでも、クリスとこうやって穏やかに過ごせてるのは・・・やっぱり。

 

 

あの人達(二課)には感謝しておいた方が良いかな・・・」

 

「そう、ですね、あの人たちが私達を泥沼から救ってくれた・・・それはやはり感謝するべき、ですが・・・」

 

「何でもに感謝できるわけじゃない、けど、今はそれにも一応感謝を・・・」

 

 

そうして、私はクリスと今まで廻れなかった見知らぬ場所から色々な所を見て回ったり、カップル同然に過ごさせて貰った・・・やっぱり、あの人たちには感謝はしておきましょう、人並みの幸せを有難う、と。

そうこうして時間を共に過ごしていると、気が付いたら辺りが暗くなってきた・・・

 

 

「クリス、今時間って・・・?」

 

「えっと、六時回った所ですね・・・もう会場が開いてると思います」

 

 

・・・やっぱり、行こうか、あの場所へ。

 クリスもそれを分かってくれたみたいで、二人で現地に急ぐことにした・・・

いや、歩いて行くと普通に一時間以上かかる位置だったから、移動手段は―

 

 

『ミサイルは無しですよ、お二方』

 

「先に水差さないで」

 

『いや以前からお話しましたよね? とにかく危険物で飛んでこないで下さい』

 

「あ、じゃぁ翼のバイクある?」

 

『あれは一人乗り用で―』

 

「このままじゃこっち間に合わないから借りるよ? 大丈夫、壊さないし運転は小さいころに何度かやってるから」

 

『あ、ちょっと・・・』

 

 

直バイクに突っ込みかき鳴らして走らせる、臨時で詰め込んでいたらしく、場所が偶々近かったから良かった。

 これなら数分前に間に合うでしょう、多分。

しかし、翼のバイク、結構綺麗にしてあるのよね・・・まだ免許あるかどうか知らないけど

( ※まだ取得前なのであるのはおかしいですが気にしたら負けデス )

 

 

―――――閑話―――――

 

 

――ツヴァイウィング――

 

「緒川さん、今の連絡は?」

 

「ええっと・・・あの、セレナさんから・・・で・・・」

 

「ん? こっちに来てくれるってなら普通に来させりゃ良いんじゃ?」

 

「車は間に合うかどうか怪しいのでヘリで来させようと言おうとしたんですが・・・」

 

「何か問題でも?」

 

「バイク、使うって・・・」

 

「バイク・・・? って確か翼が来年使おうとしてたヤツ、だったか?」

 

「はい、前に気に入ったのを先に買い付けて整備してはあるのですが・・・」

 

「別に扱うのに問題ないんじゃ―」

 

「まだ免許持ってませんよ、彼女」

 

「―・・・ま、気にしたら負けだぜ・・・」

 

 

その場の三人は溜息を吐いてバイクの無事を祈るようにして、ライブに望むのだった・・・

 

 

 

 

尚、当のセレナさん達は―――

 

 

「っへ~、結構速度出るのねコレ!」

 

「姉様、大丈夫なんですかコレ!!」

 

「へーきなんじゃないかしら? 知らないけど」

 

――警察に当ったら一発アウトである――

 

 

 

 

 

―――かれこれあってライブ開始数分前―――

 

 

何とか時間前に到着したセレナ達はバイクを下りてヘルメをミラー部分に引っかけ会場に急いだ。

 とはいえ、目下特別室に案内されるのでそこまで急ぐ必要はあまりないのだが・・・

 

 

「緒川、今どこにいるの!」

 

『ソレはこっちのセリフです! 今は何処の入口に来てるんですか!?』

 

「お姉様! 東口ホールの入口あたりです!」

 

『東側・・・見つかりました! 少し待ってて下さい! 係の人を寄越しますから!』

 

 

・・・大体人は入ってるのは見えたけど・・・あれ、あの子・・・

 

 

「楓子?」

 

「え? その声・・・姐さん?」

 

「あれ、えっと、楓子さん、来てたんですか」

 

「はい! それは来ますよ! だってあのツヴァイウィングのクリスマスライブですよ! 来ない訳ないじゃないですか!

ただ、チケットが一枚しか取れなくて私一人しか来れなかったんですが、それでも! 父さんと母さんの分まで精一杯応援します!!!」

 

「え、えぇ、怪我、しないようにね?」

 

「はい! 当然です! しないように精一杯応援するんですから!

それにしても、姐さん達が着てるのが意外で・・・え?」

 

「お話し中すいません、セレナ様とクリス様でございますね?」

 

「えぇ、コレを見せればいいかしらね?」

 

 

 途中で割って来たやせ型高身長のグラサンスーツの男が私たちの前に来た、緒川が呼んだ人、だとは思うけれど、やっぱり警備がガッチリしてる、隙はあまりないかも、ま、何するでもないけどね。

 そうこう言って一応持ってきていたチケットと、常備しているギアペンダントを二人してみせる、と後ろから―

 

 

「え”っ!? ぷ、プレミアムチケット!? しかも特別仕様!!?!?

超限定版でウルトラレアのチケットをどうして!?」

 

「・・・そんな希少なものだったの?」

 

「はい、特別参加者限定エリアの為一般には出回らないものです

 お二方はツヴァイウィングの特別な客人としてこの会場の特別席からご観覧していただきますので―」

 

「・・・ねぇ、そこにこの子も連れて行っていいかしら?」

 

「ヴゥェ”!?!? な、何言ってるんですか!? わ、私みたいな一般ピーポーが立ち入ってはあの、その、アレがアレで―?!」

 

「とにかく落ち着いて下さい楓子さん・・・姉様、まずは色々確認しないと」

 

「そう、だったわね、えっと、今ツヴァイウィングの二人と話せるかしら?」

 

 

来たら私たちの部屋に来てくれって奏が言ってたし、恐らくだけど緒川もそれを知ってるはず、としたら

 

 

「残り時間が少ないので、お早めにお願いします」

 

 

 よし、やっぱり話がついてたみたいね、ついでに迷子にならない様に楓子もつれていく、のはいいけど顔真っ赤でいっぱいいっぱいみたいになってる、大丈夫かしら、この子・・・

 と、扉の名札掛けに【ツヴァイウィング様】と書かれてる部屋がある・・・ここね?

 

 

「それでは、五分内でお願いします」

 

「そこまで長い用事は無いわよ、さて、じゃ失礼するわ、奏、翼」

 

 

入って早々艶やかな香りと不思議な空気に包まれた・・・らしい、楓子の話だけど、私にはあまり違和感はなかった、だって、いつも通りの二人だもの

 

 

「お、やっと来てくれたか! 待ってたぜ! ん?その子は・・・」

 

「この前世話になった子ね? また連れ去りしてるの?」

 

「違うわよ、たまたま居合わせただけ、まぁ、まずはお礼を言っておくわ、ありがと、二人とも」

 

「お、おぉ、何か面と向かってそっちから感謝されると違和感あるな」

 

「いえ、寧ろこちらから礼を言いたいわ、来てくれてありがとう、セレナ、クリス」

 

 

・・・別に礼を言われることをしてるわけじゃない、それに単なる気まぐれだし―

 

 

「それでもだよ、それに、その子も、今回のライブ、楽しんでってくれよな?」

 

「は、ひゃいぃ! あ、あの、えと、ひゃぅぅ~、ほ、ほんとに つ、ツヴァイウィングの二人が目の前に~!?」

 

「奏、近寄りすぎよ・・・でも、私たちも全力でやるから、特別席で全力で楽しんでね?」

 

「・・・そっちも張り切りすぎて空回りしないようにね、特に奏」

 

「なんであたし!?」

 

 

そんな簡単なやり取りをしていたけど、そろそろ始まるようだ―

前座? の人がほかの部屋に戻っていくのが見えて、そろそろかなと思って

 

 

「それでは、奏さん、翼さん、また後で」

 

「おう、クリスも今回は名いっぱい楽しんでくれよな。頼んだぜ? あっと、楓子、だったか?」

 

「ひぇう!?!? え、私の名前なんで知ってるんですか!?」

 

「あの辺りだと貴方割と有名よ?」

 

 

と、談笑が思いのほか弾んでしまったみたい、もう時間だ――

 

 

「ツヴァイウィングのお二方! 準備よろしくお願いします!」

 

「おっし、緊張もいい感じにほぐれたし、全力で行くか、なぁ、翼!」

 

「えぇ、目にもの見せてあげましょう! 奏!」

 

「それでは、お三方はこちらに」

 

 

 ついでのごとく何処かの一室に移動、シアター形式、みたいだけど、色々なボタンがあり、各席には相当な額がかかりそうなヘッドフォンが備え付けられている、後で説明されたけど、このヘッドフォンと部屋の温度が程よく会場の雰囲気とを一手に感じつつ、目の前でアイドルが歌っているのを見られるのが売り出そうな・・・一体なんでこんな・・・監視しやすくするためか・・・

 適当に説明を受け、それぞれ弄り始める、なお、楓子は最初っから飛ばす気なのかサイリウム全開だ・・・ごめん、こんなところじゃなければ意味があったかもしれないのだけど―

 

 

「何言ってるんですか! 姐さんたちと一緒に楽しめるこの空間が一番大切なんですよ!

それにこの設備がものすごくいいですし、あぁ! 会場がこんなに近くで大画面で見られるなんて!!」

 

 

 ・・・事実、縦幅で考えれば三メートルは優にありそうなスクリーン、いやもっとでかいかもしれない、横幅は会場が全域見渡せるような雰囲気を醸し出し、どこを見ても会場の雰囲気そのものを感じ取れるようになっていた。

・・・なんかとんでもないクリスマスになっちゃったかも・・・?

 

 

 

 

――――閑話――――

 

 

 

 

(済まない、ライブシーンを却下させてくれ)

 

 

 

 

 

――――ライブ終了後――――――

 

 

 

 ライブ終了後、舞台袖に降りた奏たちから何かあるからって言われてクリスと楓子(ほぼ気絶状態)も連れてツヴァイウィングの一室に向かった、いやそんな時間かからないけど―

 そこで見たのは―――

 

 

  【ハッピーバースデイクリス!】

 

「・・・えっ・・・っと、まだ誕生日に早いんですが」

 

「細かいこと気にすんな! それにあたし達は二十八日は用事があっていないから今のうちに祝わさせてくれよ?」

 

「ごめん、奏の勝手なわがままで、迷惑なら日を改めるから」

 

「ふわぁ!? クリスさんの誕生日近かったんですか!?」

 

「二十八日・・・さっき奏さんが言ったとおりです、でも三日ほど早いし・・・」

 

「まぁまぁ、それに当日は姉さんと一緒にいるんだろ?

あたしたちのは前祝的な奴だから気にしないでくれ、あ、これプレゼントな?

ついでに楓子の分もな」

 

「えふぁうっ!? 私の分もですか!?!?」

 

「うん? 迷惑だったか?」

 

「迷惑なんてとんでも!!! とっっっっっッても嬉しいです!!!」

 

「お、そ、そうか、今日はありがとな、あたしたちもすっげー楽しめたし」

 

「別に、時間が空いてただけよ、それより、そろそろ混んできそうだから着替えて帰った方がいいんじゃないかしら?」

 

「いやー、でもやっぱり熱がまだ冷めねーし、そうだ、皆でこの後焼肉いくか?」

 

「いや、奏、もうそろそろ時間があれだから、早く着替えてかないと、あ、セレナ、今回は本当にありがとう、おかげで最高のパフォーマンスが出来たわ」

 

「・・・どーも、それじゃ、そろそろ私たちは行くわ

このままここにいると、この子の帰りがなくなちゃいそうだし。」

 

「うぉ、もうそんな時間経っちゃってたか、ごめんごめん、それじゃ、また後でな、セレナ、クリス」

 

「えぇ、今日はお疲れ様、なかなかの舞台だったわ」

 

 

いや舞台じゃなく― そんな言葉を聞かずにその場を去る・・・アイドルって面倒なものね・・・

 正直、歌に共感できる間隔でもあれば多少なりとも違ったんでしょうけど・・・もう、私には・・・

 

 

「姉様、楽しく、なかったですか・・・?」

 

「いえ、クリスといられる時間は、とても楽しいわ」

 

 

 そう、歪んでしまったのは、歪めてしまったのも、私自身だから・・・

だったら、この子には幸福を、私は、不幸になればいい・・・それで、ネフィリムを潰せるなら、なんだって――

 

 

「お姉様、また、ネフィリムの事を考えてました?」

 

「・・・クリスには適わないな・・・ごめん、せっかくの楽しい時間を」

 

「いえ、お姉様が良ければ、私は、それだけで嬉しいんです、それだけ、ですから」

 

 

クリス・・・無茶してないと、いいんだけど・・・

無茶してるのは、私も、か・・・ううん、今は違うことを考えよう

 

 

「そういえば、クリスはどの曲がいいと思った?」

 

「え、あ、えっと・・・やっぱり――」

 

 

 私たちはやっぱり、こういう関係じゃないと、居られない、多分、クリスがいなくなったら、私―

だから、だからこそ、彼女の誕生日は、特別じゃないと!

 

 

 

 

 

―――――クリスの誕生日、当日――――――

 

 

 

 あれから三日、クリスマスの喧騒は別の喧騒に変わり、周囲は新年に向けてか大騒ぎなのは相も変わらずだった。

 実際、奏や翼たち二課の面々はクリスマスライブ以降見ていない、喫茶店の方も新年の準備の為か臨時休業している・・・空の雲行きが怪しいかんじ・・・

 でもようやく来たんだ・・・クリスの生誕日・・・零時に渡そうと思ったけど、これだけは特別だから・・・なるほどね、恋人達の何とやらって言うのはこういうことなのかしらね?

 いつも、彼女には世話を掛けっぱなしでもあるから・・・でも、こういう時にはいつも以上に一緒にいる気がする

 ・・・バルベルデに行った時もそうだった、クリスは私から一切離れることなく私の行動に何を言うこともなくまっさらな瞳で辺りを見回して・・・壊れた人形のようだった・・・

 それはきっと、その時の自分を指して言っていたのかもしれないけれど、もうあのクリスは見たくない。

 だって、あれは、あんなものは、二度とごめんだから!

だから、だからこそ―――

 

 

 

 「誕生日、おめでとう、クリス」

 

 雪が降りゆく世界の中、私は一切の余分な言葉は使わず、それだけを伝える。

そうして送る手作りの【ソレ】にクリスは―――

 

 「ねえ・・・さま・・・どうして、私なんかのために・・・」

 

 「なんか、じゃない、私たちはもう一人じゃ生きていけない、私もあなたが必要なの。

 これからも、一緒にいてくれる? クリス―」

 

 言い終わるが早いか、確かな彼女の重みが体に掛かる。

思い切り全身で抱きかかってきたけれど、その程度で倒れるほど私も軟じゃない。

そうして――

 

 「ねぇさま、姉様! ねぇ、さま! あぁ、 うわあぁぁぁぁぁ」

 

 「私ばかり泣いてたから、今まで負担掛けてごめんね、クリス」

 

 「負担、なんて、そん、なの、無いです! 姉様、これからも、ずっと、ずっと一緒ですから、何があっても!」

 

 

 ええ、ずっと一緒よ、中々泣き止まない彼女だけど、それでも、私の一番大切な、【家族】だから。

だから・・・

 

 

「何があっても、一緒だから、ね、クリス」

 

「はい! セレナ、お姉様!」

 

 

 

 彼女の髪にキレイに輝く雪結晶の髪飾り、もう一人にはキレイな蝶のような髪飾りが夜闇に降りしきる雪の世界を微かに彩る、周りには誰もいない、だからもうこの世界を、誰にも邪魔させるものかと、そう決めた、だから、だからこそ―

 

 

「お姉様、必ず、復讐を!」

 

「えぇ、絶対に、やり遂げて見せる・・・例え何を殺そうとも―」

 

 

 だから傍にいて、クリス―

 

そんな言葉が闇夜に掻き消えた、でも、クリスはきっと分かってくれる・・・

 だって・・・私たちは・・・

 

 

 

 「大好きよ、クリス、これからも、ずっと、ね」

 

 「はい! 大好きです! お姉様!」

 

 

 この関係でいい、だって・・・私達は、もう―――

壊れてしまっているから、なら、新しく関係を築けるのなら・・・

いえ、その言葉は要らないわね、私たちは、私達らしく、ただ、前を向いて―

 例え、再び絶望に染まろうとも、この歩は、もう―

 

 

 「止まる道を、見失ってしまった、だから―」

 

 

微かな幸せを、享受させていただきましょう・・・

それじゃあ、安らかな、夢を・・・

 

 




前回の誕生日に出てきた夫妻の再登場、とちょっとした新キャラの子がいます。
このオリキャラについてですが、名無しで出す予定でしたが、色々あってこんな感じになりました。
あとこの子、劇中でも言ってる通りセレナより年上です、背は低いのでセレナの事を大人の姐さんと思ってしまってます。
彼女については本編でも登場予定なので片隅にでも置いておいてください、じき出ます。

・・・ふぅ、今年はこれで終わりですね~
あ~クリスの誕生日にクッソ手間取った~ 楽しかったけど
それでは皆様、よいお年を!


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調の誕生日(祈り)

 調ちゃんの誕生日を忘れていた投稿主だよ~ 怒ってくれて構わない、がセレナさん周りの重要人物の誕生日は忘れちゃいけないと思ってるよ、はい。
 ・・・次は切ちゃんになりますね、はい、本編も頑張るんで、えっと、では・・・?
 ・・・・・・マリアさんは確実に亡くなってるように書いてるけど切歌と調に関しては不明なんよねコレ。


・・・早く本編書かないとな・・・
バレンタインは見事にスルーしました! 時間的に遅刻しました!
では!


 

 

 

 ――2月某日――

 

 

―――二課がセレナ達を擬似的に配属するようになって暫く―――

 

 

 

 

「藤尭、このまとめた資料はF列上段においておけばいいのかしら?」

 

「あ、あぁ頼むよ・・・いやぁ、ホントに助かるよ、書類仕事が多いから結構手も欲しかったからね」

 

 

現在、二課本部では故合ってセレナとクリスが共に働いている状況である。

 本来であれば学園生活をして貰おうと話が出たが、時期が悪かった為今年度からの編入と言う話が度々、防衛相とかどっかの管理委員会やらから執拗に言及されてきていたが、風鳴を盾に全て無かったことにされて居た。

 

 とはいえ、二課に所属してからはや四か月余り、正直に言えば情報だけ集めて足早に去ろうとすら思っていたが、まぁ、それは敵わないだろうと結論が出た。

 理由は色々あるが、一番の理由が、フィーネの言からだった。

 彼女が言うにはネフィリムをある場所に留めておくことが出来るかもしれないという事、ただそのための下準備にまだ時間が掛かるという事らしい。

 また、その間何もせずに自分勝手に行動されるのは問題があるという話が出たことで、一旦は二課所属のエージェント(仮)という仮名を与えられている、その上である程度の情報を教えてくれるそうだ。

 ・・・まぁ、安易に長居できて目標を殺す為に行動できる墓標が立っただけでも良しとしましょう?

それは兎も角として・・・二月・・・か、そろそろあの時ね。

 

 

「? セレナさん、何か用事があるんですか?」

 

「・・・どうしてそう思ったの?」

 

「いや、二月に入って妙にソワソワしてるって言うか・・・あっ、誰かの誕生日が近かったりするんですか? ん? あ、二月っていえばバレンタインデー・・・って柄じゃないか、ごめん忘れて」

 

「・・・・・・そう言う憶測言うの嫌いよ、間違っては無いけど」

 

「そうなんだ、じゃあ祝いの席を―」

 

「・・・ごめんだけど、もう居ないの、あの子は」

 

「え、あ、ごめん、考え無しだったな、悪い」

 

「別にいい・・・慣れて・・・ううん、慣れる事なんてできないわね、この感覚は・・・」

 

 

 いつも、あの子達の誕生日と姉さんの誕生日が近いと感じる不思議な虚無感、もう居ないにも関わらずに祝ってあげないと、って思って何時も何かしらプレゼントを用意してしまう・・・大体はクリスが何とかしてくれてしまうけど、今回は・・・

 

 

「そう言う事なら、後はこっちでやっておくから良いよ。

それにこっちがセレナさんに勝手に協力してるのにその手を煩わせちゃいけないしな」

 

「そう、まぁ、感謝はしておくわ、あなた達に。」

 

「いや、俺達の出来る事なんてこういう事ばっかだしな~、あはは、なんて・・・無力感だけがいつもあるんだよな、多分、司令も思ってるんだろうな、俺達は何て無力なんだって。

 多分だけど、あの二人もそう思ってると思う」

 

「ツヴァイウィングの二人・・・?

でも―」

 

「あぁ、分かってる、結局のところ、人が助けられるのは自分たちの手の届くところでしかない、だから自分達の出来る事を全力でやって、支援して、助けられる最大の善処をするしかない・・・

 それで、セレナさん達みたいな人達を減らせればだけど・・・」

 

「・・・平和過ぎるこの国では無理な話ね」

 

 

 

 あぁ・・・そう言って沈黙が生まれる。

 今この指令室には私と藤尭、あと数名の職員があっちこっちに色々やってるぐらいなもの。

 だけどその最中―

 

 

「だが、平和だからこそ君達にも知ってもらいたいんだ、幸せと言うモノをな」

 

 

 不意に背に掛かる言葉に思わず身構える。

 本当はそんな事しなくてもいいのに、何故かコイツの近くだと不思議と力が入っちゃうのよね・・・

それはともかく。

 

 

「聞いてたの?」

 

「いや、大したことは聞いてないさ、ただこうやって仲良くやれて、共に過ごせる仲間がいるというのは、悪く無いモノだぞ?」

 

「・・・大切なものぐらいは、私にだって・・・」

 

「確かにそれ自体はあって然るべきだろう。

 だが、君自身は? 自分を大切に出来てるのか?」

 

「説教なら聞く気はないわ・・・それじゃ、私はこれで」

 

 

 

そう言って資料をまとめ、静かにその場を後にした。

この場所の暖かさは、私には熱すぎるから―

 

 

 

「・・・儘成らないな、やはり、難しいものだ」

 

「それでも、少しずつでも近寄ってくれてはいますから、多少なり変化は出ているかと、ですね、藤尭さん?」

 

「いや~、どうなんっすかね? やっぱり気難しい年ごろ・・・いや、それに輪をかけて気難しすぎるってみんな思ってるんじゃないですか、あ、俺は別に仕方ないのかなって思ってるけど―」

 

「けどやはり、少しは気を抜いていただかないと・・・」

 

「それは押し付けるものじゃないんじゃないですかね、っと、緒川さん、これ」

 

「あ、ありがとうございます、お預かりしますね・・・

しかし、彼女たちの来歴上、心配しないわけにもいきませんから」

 

「ああ、だが―」

 

「心配しすぎは体に毒よ、少しは気を抜きなさいな、ね? 藤尭」

 

「あ~それ了子さんが言うんですか・・・」

 

「な~によ~良いじゃない! だれがどう言おうと勝手でしょ?

・・・それに、アレは私にも責任がある・・・とはいえ、今更どうこうできる言い訳何てないけれど」

 

 

 

 セレナが去った後にゾロゾロと指令室に集まってきた、弦十郎に始まり、緒川、了子の順である。

皆それぞれ思う事はあるが、一人の少女にいつまでも引っ張られてはいられないのが現状で・・・

 

 

「藤尭もお疲れ様、今日は上がっていいぞ」

 

「あ、いいんですか? っと、此処を纏めたら上がらせて貰います」

 

「あんまり根を詰めすぎても悪いからな、それにここ最近やる事が多かったのもあったしな・・・」

 

 

 大体の用事は彼女に対する要件が主だが、それ自体は彼女には全く持って関係は無い。

 だが各国が彼女をどう思っているかは別の問題だ、だがそれと同時に彼女はたった一人の小さな少女でもあるのだ・・・ただ世界がそれを許すかどうかは別の問題―

 

 

「それを解決するのが俺達の仕事だが・・・そう言えばやけに早くに出て行ったが、何か用事があったのか?」

 

「あ~、何か、亡くなった人の命日か何かかな? ぐらいしか聞いてないです、はい」

 

「そうか、まぁ、あまり深追いすることも無い、彼女には、自由に幸せに成ってもらいたいから、な」

 

「非常に難しいものですが・・・」

 

「まぁまぁ、それはそれ、と言う事で私たちは私たちの出来る事、しましょ?」

 

 

そうだな、と静かにその場で出来る事を進めていくことにした―――

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・まだ冷えるわね・・・あっちが暑すぎたくらいの温度差ね・・・そんな事言っていてもしかたないか・・・時間も無いし、急ぎましょ」

 

 

 

 時間を確認し寄る場所を確認していく、最近になって携帯端末をまともに扱えるようになったとはいえ、今回やるべきことは本当に多くて・・・

 

 

「あ、お姉様、お疲れ様です」

 

「えぇ、クリスもお疲れ様、どうだった?」

 

「良い感じのモノは揃えられましたが・・・肝心の花をどうしましょうか?」

 

「それは、こちらで選ばせて貰っても良い?」

 

「はい、お姉様の御心のままに」

 

 

今日は、本当に忙しくなる・・・だって、あの日は―――

 

 

 

――――――

 

 

――猫喫茶 陽溜まりにゃんにゃん――

 

 

 

「・・・最近変化無くて暇だよ翔希く~ん」

 

「それを僕に言われても困るよリューシェさん・・・」

 

「だってさ~ 最近の数か月ノイズの発生件数五回も無いってどういうことよ~!

いっくら対ノイズ用の対策してたって相手がいないんじゃ只のおもちゃも良い所だよ!

なんの為にあんな木偶の坊叩くための兵装揃えたのさ~ 全く」

 

 

今は開店前の準備中、の割にはそんな事よりも今現状の自堕落さに辟易して居たり・・・

だがそれよりも―

 

 

「あ~、いつになったら帰れるんだろ、わたし・・・」

 

「響さん、あまり変な事言わない方が良いと思うんだけど・・・まぁ、巻き込んだのはこっちの所為だし・・・とは言っても、そろそろ扱えないのかな、ギャラルホルン・・・?」

 

「まだ無理だよ~、何度か調整してるけど、人っ子一人通れる隙間も中々出来てくれないもん・・・あ”~何かド派手なこと起きないかな~、世界解剖少女事変とか俺こそが神になる~とかいって自壊するおっさんとか―」

 

「そんな事言っても起きないと思うけど、と言うより僕達、響さんも含めてその人のこと知ってるよね」

 

「えっと、キャロルちゃんと・・・だれ?」

 

「ホモの人?」

 

「いや、アダムさんの事でしょ! 何ですかホモの人って!」

 

「いや~ 私も何度か見た事あるけど、アレ絶対ホモの人だって―」

 

『あんまり言うと落とすよ、アレを』

 

 

唐突にテーブルの上に置かれた黒電話から声が発されて居る、まだ誰も受話器を取ってはいないが、声は周りに響いている・・・これをするのは後にも先にもあの人だけだな―

 

 

「あはは~、当てれるものなら当ててみてよ~・・・っていきなり通話してこないでよホモ・ヴァイスハウプト」

 

『ホモじゃないよ、僕は、健全だよ、至ってね』

 

「・・・裸になる人がそれを言うんだ・・・」

 

「響さん、あまり突っ込んじゃいけないと・・・あ、何か用事があったのかな? アダムさん」

 

『そろそろすると思うんだよね、お参りを、渡しておきたいんだよ、セレナ君に』

 

「あ、はい、何となく言いたい事は分かりましたが・・・家に配送してきたんですか?」

 

『もう届いている筈だよ、そこに、渡しておいてくれよ、絶対にね』

 

 

黒電話の下に茶色の封筒が挟まっていた、多分コレの事だろう・・・けど、こんな時期に渡すものって?

 

 

『気にしなくても良いよ、何も、毒では無いからね、コレは』

 

「いや、一応でも貴方を知っているし、これでも少しは信用してる、けど―」

 

『大丈夫だよ、してあるからね、検査を、いつもの三幹部がね』

 

「あ、それなら大安心だね~・・・ん? でもこの時期に渡すなんて何?」

 

『粗品だよ、ただの、ね 感謝してるんだよ、これでもね、彼女に』

 

「クリスさんには相当毛嫌いされてますけどね」

 

『仕方ないよ、アレぐらいは、むしろ好都合だよ、それぐらい』

 

「でもさ~なんでクリスちゃんにあんなに毛嫌いされてんの?

いや、普通に感覚が誰とも会わないのは分かるけどさ~」

 

「そう言えば・・・なんで?」

 

『ソレを言えば、キチンと渡して貰えるのかい?』

 

「いや言わなくてもちゃんと渡すよ、僕達のする事は中継であり、世界平和でもあるからね。

彼女を怒らせる事はやりたくはない・・・でもセレナさんはあまり気にしてないけど、クリスさんがあそこまで毛嫌いする理由が読めないんだよね」

 

『いずれ分かるさ、僕が言わなくてもね、それでは頼んだよ』

 

「あ”切れた!」

 

 

それと同時に黒電話が塵になって消えた、それと同時に何かが書き足された封筒がもう一枚現れていた。

 

 

「・・・月読、調の生誕日・・・?」

 

「え? 調ちゃんの誕生日・・・って、あっ! 今日何日ですか!」

 

「えっと、12日だけど」

 

「後四日間だけか~、だけど良かった・・・こっちのセレナちゃんはそれを知ってたんだ」

 

「あ~、誕生日に墓参りね~・・・あれ、セレナちゃんって墓作ってあったっけ?」

 

「いや、まだだったはず、多分買い出しどうので何かすると思うけど―」

 

「だったら!」

 

 

 そこから響さんの動きは速かった。

今の時間セレナさんの家には誰も居ない、が、いやだからこそ彼女は色々やろうとしてるんだろうな。

 と、いきなりで弦十郎司令まで呼び出されたらしい・・・なんだろう、なんか嫌な予感・・・?

 

 

「封筒も響ちゃんがもってっちゃったし、私たちはこっちで色々やろっか?」

 

「だね、まぁ、封筒を渡すという目的は響さんがやってくれるだろうし、気にしなくても、良いよね?」

 

「渡しそびれてたら後で渡しに行けばいいから良いんじゃないの~」

 

 

 後知らな~い、そう言って猫たちと遊びだした白ネコミミメイド少女、それを溜息ながら見守る店主は、【バレンタインどうしよ】などと考えながら今後を見守る事にした―

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

―――時が経ち―――

 

 

―――――――

 

 

―2月16日―

 

 

・・・とうとうこの日が来た・・・か・・・

 いつもこんな時に思う事は、大切な日を一緒に過ごせなくてごめんって思う事ばかり、あの子達ならそんな事気にしなくてもって言うんでしょうけど、それでも、私が私を許せない・・・

 ごめん、守れなくて、ごめん

 

 

「・・・調ちゃん、ようやく、落ち着けるところが出来たよ・・・」

 

 

 ・・・気が付いたら家に墓が作られていたのだけど、あの司令に聞いたら、これをしようって言ったのがあの立花って言う事らしい、なんでもあっちのクリスは仏壇を司令に運ばせたことがあるだとか。

 まぁ、一応感謝はしておくことにしよう・・・

 

 

「お姉様、これを・・・」

 

「えぇ、ありがとう、クリス」

 

 

墓前に備えるものとして誕生花はおかしいと思われるでしょうけど、わたしにとってこれは彼女を、皆を思い出す為の楔・・・大切な、思い出の花、だから・・・

 

 

「【セントポーリア】・・・小さな、愛ですか・・・」

 

「・・・誕生日にこんな花ぐらいしか渡せないのは、本当はもっと違う形のモノを送りたかったのだけど・・・」

 

「この花の様な方だったんですね・・・」

 

「ええ・・・小さくて、ピンクを基調としたワンピースが良く似合ってた・・・

ギアも纏えて、適性があって・・・だから・・・」

 

「・・・お姉様、その封筒の中身って・・・」

 

「・・・・・・【聖遺物、シュルシャガナの欠片】・・・皮肉が過ぎるでしょ」

 

「供えるには、少し・・・」

 

「ううん、彼女が纏えたシンフォギアが、このシュルシャガナだったの・・・それを最後に―」

 

「亡くなってしまったんですね・・・」

 

「えぇ、だから、これも供えて・・・」

 

 

 

 家の庭に備えられた骨も入っていない墓前に静かに祈りを捧げる・・・

あの頃、小さい私の時に、私よりもまだ幼い二人の両手と両足を見つけて絶望に染まっていたけれど、それがあって今のわたしが出来て・・・だから、どうか―

 

 

「待っていて、調、切歌、マリア姉さん・・・絶対、仇は討つから・・・

だから、見守っていて・・・こんな私は、セレナじゃないって、貴女は言うかもしれないけど・・・

でも、でもね、調ちゃん、わたし・・・わたしね・・・」

 

 

 静かに、だけどすすり泣くような声と共に言葉は途切れ、風が舞う中に呟きは消えていく・・・

涙は確かに有って・・・だから―

 

 

「・・・ぅん、そろそろ、行くね・・・また参りに来るから、待っててね、皆

それと、誕生日、おめでとう、調ちゃん、健気な姿には私も背中を押されたから、だから前に進むよ」

 

 

必ず、アイツを、ネフィリムを殺すから・・・だから―

その時に、また話しあいましょう・・・

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

調の誕生日(墓参り)End 

 

 

 



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暁 切歌の誕生日(祈り)

 非常に大遅刻である、ごめんなさい、本当はもう一個投稿してからこっちも投稿するつもりだったんです。
 い、一応その日のうちに書けてるから良い・・・良いよね?


・・・本編早く進めないとな~・・・いつまでかかるのやr(グキッ


・・・では~


切歌ちゃんの誕生日が近いよ~ てので書いてく、需要は無い! ただ本編には少し関わっていく

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 ―――四月某日―――

 

 

 皆さん、こんにちわ、セレナよ

二課に関わってはや半年ぐらい経つかしら?

 まぁ、新学期が始まって心機一転、と言う所かしらね・・・?

クリス、そっちはサイズあってる?

 

 

「大丈夫です、お姉様、胸も丁度よく収まってますし・・・少し恥ずかしいですけど・・・」

 

 

うん、恥ずかしがるクリスも可愛いわね、写真撮っておこうかしら?

 

 

「思いながらもう撮ってますよね?

いえ、お姉様だから問題無いですけど・・・お姉様の、リディアンの制服ですよね?」

 

「えぇ、一応教師の方に挨拶に行くように言われてね。

 一応、転入ってことになるのかしらね」

 

「と言うと、翼さんと同じ学年になるという事ですか?」

 

「そうらしいわね、監視の意味も込めて、らしいわ」

 

 

 まぁ、この時期は色々バタバタしているらしいから、彼女たちに会う事はしばらく無いでしょうけど。

さて、ある程度荷物を纏めて・・・

 

 

「そろそろ行きましょうか、クリス」

 

「はい! お姉様ぁ」

 

 

 甘えたような声で抱きついて来るから抱きしめ返してキスをする。

私もクリスも普通だったらこうじゃなかったかもしれない、だけど、私達は、互いに依存し合って生きてる、むしろ、依存しすぎている程。

 でも、それで構わないと思っている、だって、人の生き方なんてそういうものでしょ?

翼が奏に依存しているように、私たちもその在り方は簡単には変えられない・・・そう、あの施設にいたころから・・・

 

 

「・・・お姉様? また考え事ですか?」

 

「あ、ごめんなさい、クリス・・・今日終わってからなんだけど・・・」

 

「もうすぐ誕生日の方が、居たんですよね・・・確か、明るい方、でしたよね。」

 

 

えぇ、今でも忘れはしない、あの暖かさを・・・温もりを・・・

 

 

「そう、だからまた後でね」

 

「はい、また後程」

 

 

 そう言い終えるが早いか、互いに学園へと歩を進めていた。

とはいえ、私もクリスも編入という形がとられている、私が本登校するのは来週かららしい

 クリスも色々手間があるらしいけど、私に比べたら大分ましらしい・・・っと、もう学園前か・・・やっぱり近いなぁ・・・

古き良き音楽院、それだけ聞けば名門校のような古風な雰囲気を感じ取れるが、その実最新鋭の設備がそろっているとかなんとか。

 まぁ、そんなことは今はどうでもいいかもっと、教職員室は・・・あっちだったわね・・・あら?

 

 

「翼、来てたのね」

 

「一応、な、心配で来てみたが・・・問題はなさそうか?」

 

「一応は地図で確認してるから問題はないと思うけれど・・・

それより、私は別の方を心配しているというか・・・まぁあなたには関係ないことだけど」

 

 

 ならなんで口に出したんだ、と思われたかもしれないけれど、こちらの事を察して口を噤んでくれる辺り、彼女たちのやさしさが見て取れるわね。

 さて、それじゃいろいろ終わらせておきましょうか。

 

 

「それじゃあね、翼」

 

「あぁ、一応だが気を付けてといっておこう」

 

「こんな学園に気を付けるところなんてないでしょ・・・危険なのは私だけで十分よ」

 

 

そんなことを一人愚痴て、目的の場所に向かってたはず・・・はずなのだけど・・・

 

 

 

「・・・・・・翼、ナニコレ」

 

「・・・注意不足だったか、すまない」

 

 

 前方どころか左右を埋め尽くすような生徒の数・・・いや、玄関口ならそれだけで済むのだろうけど、なんでみんなしてこっちを見ているのかしら?

 理由がよくわからずホトホト呆れていると、ある少女の声が聞こえてきた・・・この声、柴羽月さん・・・?

 

 

「お姉さん! こっち、こっちです!」

 

 

・・・そうは言うけど、この人並みを搔き分けるの、無理じゃない・・・?

 

 

「セレナなら行けるんじゃないか? 幸い、所々には隙間があるわけだし・・・」

 

「簡単に言ってくれる・・・というより、彼女たち私を見て何か言ってるよね・・・」

 

「少なくとも、私のファンだけではないと言っておく」

 

 

 何よそれ・・・あぁ、今後の生活の不安が増えた・・・

仕方無い、あの子のもとに行かないとだし・・・少し無茶するかな

 

 

「翼、カバン任せたから」

 

「了解した、職員室で集まろう」

 

 

 ・・・翼はそっちに用事あるの・・・?

 というかなんで始業もまだなのにこんなに人がいるの? 普通にまだ春休みのはずだと聞いたのだけど・・・まぁいい、天井と下駄箱を使えば容易く越えられるし・・・っと!

 

 

「フッ! っと、皆、ケガはない? 大丈夫?」

 

 

 手を扱わずに三角跳び・・・これももうだいぶ慣れたものね・・・

通り過ぎた後にすごい歓声が響いたんだけど・・・そんなに?

 ・・・これクリスが見たら【またですか】とか言われそうね・・・まぁ、ここ抜けないと目的の所に行けないからやっただけ、それじゃあ、案内お願いできるかしら? 柴羽月さん

 早く抜けてしまいましょ、これ以上騒がれるのは勘弁よ。

 

 

 

 ・・・それで、ついたはいいんだけど・・・

 

 

「・・・翼、奏・・・これどういうこと?」

 

「あ~、話さなきゃダメか?」

 

「いや、奏がここにいるのはなんとなく分かってたからいいけど、あんな人数が押し寄せる理由が・・・それにあの人たち、私しか見ていなかったと思うのだけど、どういうこと?」

 

「あ・・・セレナの事は暗に話したぐらいだったんだけど・・・

 どこで話に尾ひれがついたかさっぱりなんだよ、先生たちは分かるか?」

 

「流石にそこまでは、でも会ってみてよくわかったわ、確かに生徒たちが噂するだけはあるみたいね」

 

 

 ・・・教師がそんなこと言うほどって・・・

 

 

「私臭うのかしら?」

 

「ばっ!? ちげーよ!!! そういう事じゃなくてだな!」

 

「奏、多分言っても分かってもらえないと思うわ・・・」

 

 

 翼に呆れられたんだけど、私本当にこんなとこに来ていていいの?

 

 

「いいんだよ、じゃなきゃわざわざ推薦入学なんてさせないよ」

 

「・・・お人好し・・・」

 

「そうでなくても、あんたには幸せに成って欲しいだけだ・・・それじゃダメか?」

 

「・・・好きにして」

 

「ははっ、あんがとな」

 

「お礼を言われる筋合いは無いけど?」

 

「それでも、だよ アンタには感謝してる、ホントに、な」

 

 

 ・・・まぁ、それ自体はもういいわ・・・

とはいえ・・・

 

「まだ時間かかりそうなのかしら?」

 

「いや、もう書類諸々は終わったから・・・後はもう無いはずだが・・・」

 

「そう、じゃあクリスを迎えに行ってくるわね」

 

「あ、まってセレナさん、一応校則は読んでおいてね。

何かあったらこちらとしても困るので・・・」

 

「なにもされなければ何もしないわよ、私は、今までもそうだったから・・・多分これからも変わらないでしょうね・・・翼、二課の場所から裏口で地上に出れる?」

 

「あぁ、案内する、では失礼する」

 

 

 翼と奏に案内してもらいながら裏口から学園を抜け出た・・・いったいあの人数は何だったのかしら、ただのツヴァイウィングのファンの集まりにしてはおかしかったし・・・?

 奏、何か知ってる?

 

 

「あ~、まぁ、アンタのファンみたいなものだ、気にするな」

 

 

・・・それはそれで凄い気になるけど、まぁ、良いわ

 

 

「それでこの後どうするんだ、セレナは」

 

「そうね、クリスと合流して・・・もうすぐ誕生日・・・だった子が居たから、その用意を、ね・・・」

 

「そうか・・・上手くは言えないが・・・その」

 

「分かってる、私は大丈夫だから・・・ね?」

 

 

 それじゃ、またね、そういって互いに別れた・・・しかし、学校・・・か・・・

 

 

「姉さん達も、生きてたら、通えてたのかな・・・

皆と一緒に登校したり、帰りに遊んだり・・・平凡を感じられたのかな・・・」

 

 

 制服姿の成長した姉さんを想像したり、まだブカブカながら制服を着ている二人を想像して微笑んだりして・・・あぁ、やっぱり私って・・・

 

 

「どれだけ平凡を求めてるんだか・・・もう、叶わない夢なのに・・・」

 

 

 そう、もう姉さん達と一緒に学校に通ったり、話す事さえも出来ないというのに・・・私は、本当に未練がましい・・・でも、求めてしまう・・・クリスのあの姿を見てから、そんな事があったらなって、求めてしまう・・・

 だって、目の前にあったんだよ、助けたかった人達が・・・でも、いくら手を伸ばしても、もう届かない、いない・・・だから、大切な人を・・・

 

 あぁ、そうか・・・だから私は・・・

 

 

「クリスに、依存しちゃったんだ・・・一人が寂しいから・・・クリスに沢山背負わせちゃったんだ」

 

 

 ・・・ごめんね、クリス、いつまでも、弱い私を背負わせて・・・本当に、ごめん・・・

 

 

 

 

   「そんな事無いですよ、お姉様」

 

 

 

「えっ・・・クリス・・・?」

 

「はい、私は常にお姉様と共にいます」

 

 

 

 なん、で? クリスの方がまだ時間が掛かると思っていたのだけど・・・?

 

 

「弦十郎さんがある程度話を通してくれていたみたいで、少しの話で終わらせてくれたんです。

 本当に助かりました」

 

「そう、だったの、ごめん 変な事言ってたかな・・・」

 

「変な事なんてありませんよ、お姉様はもっと自信を持ってください、お姉様のお陰で助かった人はたくさんいるんです、だからお姉様・・・行きましょう?」

 

 

 あ、えぇ、そう言えば、そうだったわね・・・もうすぐ、あの子の誕生日だから、特別な物、作って祝ってあげましょう・・・

 あの世界に届くほどに、楽しい音を響かせるから・・・待ってて、【切歌ちゃん】

 

 

 

 

 

 

 それから色々買い付けたり、備えるものを準備したり・・・色々あったけど、翼たちに【その少女ってどういう人だったんだ?】

 と言われて・・・あの時の話をしましょうか?

 

 あれは私がまだ幼いころ、暁 切歌と呼ばれるであろう少女にであったときの話ーーー

 その頃私も大分育ってきていて、モノの分別が付くぐらいには成長していたと思う、姉さんと一緒に新しく入って来たレセプターチルドレンの子を癒やして上げたり、心にトラウマが残らない用に優しく接してあげたりしてたわね。

 今でこそこんな性格だけど、当時は分け隔てなく皆に優しく接していたの・・・ただ、それでみんなに信じて貰えるかと言ったら、そうじゃなかったけれど。

 そんな中、金髪で妙に癖っ気が強い前髪が特徴的な子・・・来た時は名前なかったけれど、月読 調さんと共に行動することが多くて、太陽みたいと言われてたみたいで、名前が【暁 切歌】と呼ばれるようになったのは、来てから割とすぐの事だった。

 でもそんな分け隔ての無い態度に私も感動して、彼女と一緒ならきっとこの施設の状況も変えられるんじゃないかと思っていた・・・そう、甘いけれど、そんな事を想っていたの。

 けれど、所詮は幻想のようなモノだった、職員の人達は来た子に例外なくリンカーを打ち込み、適合テストを繰り返していた。

 ・・・・私がリンカーも無しにギアを纏えたから、だから周りの子達に酷いことをされて・・・それが耐えられなくて、姉さんと直談判しに行ったのだけれど・・・了承なんてしてはくれなかった、それどころか私達を異物を見る目で蔑んで・・・

 せめて、マムだけには分かって貰おうと・・・マムも子供達を助けようと奮起していた、だからきっと・・・って思ってたのに・・・

 

 

「・・・辛い思い出を話させてすまなかったな・・・」

 

「ううん、いつか聞いてほしかった話だから気にしないで良いよ。

 それに、切歌ちゃんも、調ちゃんも幼いながらギアを纏える適正値を満たしていたみたい・・・だから、逃げてくれなくて・・・失って・・・」

 

「なぁ、わたし達も参りに行っていいか?」

 

「えぇ、それがあの子の為になってくれるなら・・・」

 

 

 あなたの元気は、ちゃんと引き継いでるよ・・・暗くなってしまった世界だけど、あなたの元気くらいは背負って見せる、勿論、調ちゃんの思いも・・・そして、姉さんの気持ちも・・・

 皆で墓の前で手を合わせて、切歌ちゃんの好きだったものを最後に備え、「ありがとう、ごめんね、守れなくて」と、最後に告げて、その場を後にしていく皆・・・

 ? ・・・今、だれか・・・

 

 

「お姉様、どうかいたしましたか?」

 

「ううん、今誰か居た気がして・・・? これは、髪の毛・・・?」

 

 

 何で上から・・・? あの影は・・・だれ?

クリスに翼たちの事を頼んで、不自然な影を追ってみる、気のせいかもしれない、でも、それでも、あの感じは・・・!

 

 

 

「ねぇ、姿を見せて、貴女なの? 【切歌ちゃん】!」

 

 

 

 煤けた茶色いローブの向こう、微妙に輝く金色の髪が見て取れる・・・ただ、雰囲気が大分と違うし、人違いかも知れない、でも、でもっ!!!

 

 

「答えて!!! お願い! 貴女は・・・っ!?」

 

 

 唐突に吹き荒れる突風に瞳を閉じて正面を見直す・・・が、先程まで居たローブの人間は何処にもいなくなっていた。

 

 

「・・・気の、せい・・・? でも、あの感じ・・・」

 

 

 先程の突風がまるでなかったかのように、凪の様に辺りが静まり返る、が、上空から何かが降って来ていた

カーンッ! と甲高い音を立てて落ちてきたそれは・・・

 

 

「・・・これ、まさか・・・」

 

 

 掌に握りしめる壊れたピンク色のペンダント、見まがう事の無いアイテム・・・そう、ギアペンダントが袂に落ちて来たのだ。

 ただ、そのペンダントが意味するところは分からない、けどそのペンダントが何のギアであるかは、セレナは直感で理解した・・・

 

 

「・・・・・・ガング・・・ニール・・・? まさか・・・いや、でも、姉さんも他の皆も居なくなっている筈・・・なのになんで?」

 

 

 一人言葉を口にしても、応えてくれる者はおらず、ただただ、独り、自分の独奏に酔いしれる様に言霊を反芻していく・・・

 もしあの子が切歌ちゃんであったなら、と、調ちゃんも生きているのか、と・・・大切な人にまた出会える希望が・・・こんな絶望の世界に残っている・・・?

 だとしたら、私は・・・

 

 

 

 

 

「それでも・・・それでも、私は、もう、戻れない、戻らない・・・あの頃の、幼き私は・・・

だから、切歌ちゃん、調ちゃん、マリア姉さん・・・」

 

 

 さようなら、私の平穏、こんにちわ、私の闘争・・・

 

 

 

 私はあの子達の為にも、この復讐を終わらせると決めた・・・だから―――――

 

 

 

 

 

 

 

  いってきます、暁さん、月読さん、マリア姉さん!

 

 

 

 

 

 過去を受け入れ、自分の力として、未来に生きる糧として、だから、どうかどこかで見て居て。

 絶望しても、私は、私だから・・・あと・・・

 

 

 

 

 

   「切歌ちゃん、誕生日、おめでとう」

 

 

 

 最後は、彼女から教えてもらった、最上の笑顔を届けましょう・・・また、誰かと笑い合えるために・・・

 これからも、私は血塗れた世界を行く・・・誰もが平穏を手にするために・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――エクストラ・コード―――――

 

 

 

 

 

 

   ピー

 

 

 どうして彼女に出会った、アレがどれほど危険か知っているだろう

 

 

 ピーー

 

 だとしても、あの人はわたしたちも知ってる人、無碍には出来ない!

 

 

 ピー

 

 それは今でこそ関係ない事だ! あまり余計なことが目立つようなら―――

 

 

 ピーー

 

 

 余り子供たちの前で声を荒げないでいただきたい、彼女たちとて人間です、誕生日ぐらい祝ってあげるのが妥当でしょう?

 

 

 ピー

 

 

 っち、計画に支障は無いんだろうな?

 

 

 ピーー

 

 

 こんな程度で出してたらそもそも効果も何もないじゃないですか、大丈夫ですよ、ご安心を。

 ただ始動にはまだ時期尚早なので、今しばらくお待ちを・・・

 

 

 ピー

 

 

 間に合わせろよ

 

 

 ピーー

 

 

 当然でございます

 

 

 

  ピブッ

 

 

 ・・・切れましたか、まぁ、割とどうでもいいので気にしなくても良いでしょう、私達は私たちのやる事をするようにしましょう? F.I.S.の技術、無駄では無いとフィーネに行っておきましょうか、では、各々、準備だけは怠らないようにしてください、もし何かあれば私が直しておきますので。

 ・・・はい、大丈夫ですか・・・それは良かった、あなた達には無事に生きていて欲しいんです、ですから無碍になんか絶対にしませんよ。

 さて・・・では、僕は別の仕事があるのでこれで、あぁ、ご飯は・・・あ、作れるから良いですか? それは失礼しました。 では私はこれで。   あぁ、ちゃんと帰ってきますよ、これでも此処は我が家なんですから

 

 

 

 

・・・全く、今度彼女と出会う時寒気が凄い事になりそうで本当に怖いですよ・・・

 ん? もう何もないですよ?   そろそろ閉めますね、では、あ、切歌さん、誕生日おめでとうございます、後でプレゼント買って・・・え?もういい?

そんな事言わないで下さいよ~ あ、時間が無い、じゃ、じゃあまた後で~

 

 

 

 

 

 

・・・・・・コード・エンド・・・・・・・



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マリアの誕生日(灯火の光)

 やっぱり本編より前にこっちが出来るこれ、そしてもう誕生日当日なんですが遅刻仕掛けてる自分(ナニコレ)
 いつもどおり本編に掛かりそうであんまりかからない、そして祝福感の無い本編です、はいすいません、マリアさん重要かと思われると思うんだけど、なんか扱いづらいです、あの人・・・

 ・・・本編は何とか突っ切ります・・・こっち書いてて本編進んでないや、ごめん



 では


 姉さん、何度目かの、夏が来たよ・・・

誰にともなく一人愚痴を吐く、気がつけばあれから沢山の事が起きていた。でもそれと一緒に大切なものが出来ていて・・・でも、それはきっと、私がわたしである意味なんだよね、きっと―――

 

 こんな風に、気を張らずに話し合えるのは、こうして姉さんと向き合える時だけ・・・忘れきれなかったあの頃の優しいわたしで居られる瞬間。

 あのときには、切歌ちゃんが居て、調ちゃんが居て、優しいウェル博士が居て、マムも居て・・・姉さんも居て、辛かったけど、一緒に笑いあえる時が何よりも愛しくて、守りたくて・・・けど・・・

 

 

 

 

 「お姉さま、隣、よろしいですか?」

 

「クリス、えぇ、きっと姉さんも喜んでくれるから」

 

 

 

 姉さん、わたしの一番大切で、私の恋人・・・雪音 クリスよ

 ふふ、姉さん、今おかしいって思ったかしらね、でもね、コレはホント、私は、もう男を愛すことは出来ない、呪いだの何かは関係ない。 これは、私のトラウマ・・・わたしが、私であるようになってしまった結果だから、だからね、姉さん、悲しまないで、静かに見守ってて。 大丈夫、私は、セレナは元気に生きていけるから。

 

 

 今日は8月の7日・・・生来であれば、私の姉さん、マリア姉さんの誕生日で・・・でも、もうあの頃の騒がしい誕生日は・・・もう、来ないんだよね・・・

 

 切歌ちゃんと調ちゃん、マムやウェル博士・・・他にも優しい人達と囲って祝う誕生日会・・・施設に居たときでも、絶望することがなかったのは、マム達のお陰・・・だけど、私のせいで・・・少しだけでも優しかった世界は、一瞬で、崩れて、いや、壊してしまった、私が、アガートラームを纏ってしまったから。

 ウェルもマムも私のせいじゃないと言うけれど、わかる、嫌でも分かってしまう、だって、纒う前と後で雰囲気も、やっている試験実験も何もかも変わってしまった・・・でもその中での幸いといえば、姉さんを含めた数人に適合がある聖遺物が有った、という所だったかな・・・

 もう大分と古い記憶、嬉しかったときも、辛いときも残っている悲しい記憶・・・

 

 でも、今思えば、私は、あのときの悲しみをずっと引きずっているのか・・・やっぱり弱いな、私・・・

クリスはそんな私も私の強さだと言ってくれた、それは私の優しさであり強さだと。 でも、それは私の捨てたがっていた弱さ、でもクリスはその弱さも強さに変えているのは私らしさだからと言っていた、未だにその理由は良くわからないけれど、でも、クリスが居てくれるから、私は、私で居られるんだと思う。

 

 さて、今日は墓参りだけじゃないから、また話すことがあるからもう少ししたらまた来るよ それじゃ少し行ってきます。

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

「行き、ましたか」

 

「ウェルさん・・・何もそこまで警戒して行かなくても良かったのでは?」

 

 

 草木に紛れて姿を隠していたウェルと翔季が墓の前で一礼、そして気にすることなく墓を掃除し始める二人

 

 

「ウェルさん、本当に何も言わずにやっていてよかったのですか?

今の彼女なら訳さえ言えば許してくれそうだと思うのですが」

 

「それではダメなんです、僕も人一倍言えないことが多い質ですから、せめてもの償い、というわけではないですが、唯一残った彼女たちの遺物・・・せめて安らかに眠ってくれることを願っての・・・祈り、と言うやつですかね・・・すいません、うまく言えなくて」

 

「いえ、ウェルさんのやりたいことは分かっているつもりです。

ですけど、それは後で痛手になることは―――」

 

「当然分かっています、ですが、彼女たちを助けられなかった僕にとっての償いみたいなものです。

これだけでは償いにはならないことぐらいよく分かっていますが・・・やらなければ」

 

「自分を否定しているみたい、ですか?」

 

「ははっ、まぁ、そうですね・・・彼女たちを絶対助けると言っておきながら何も出来なかったんですからね・・・本当、無力な自分が嫌になりますよ」

 

「・・・貴方は、無力なんかじゃ・・・」

 

「そんな無理にフォローしなくても結構ですよ、僕のことは僕が一番わかっていますから。

といっても、やっぱり心苦しさは、変わりませんね・・・時々思うんですよ、僕も貴方達のような力があったらなと・・・なんて、妄言が過ぎますよね」

 

 

 それは・・・、そこまで言って一旦会話が途切れた、ウェルの顔がそれ以上の言及を拒んだようだったから、それ以上の言い回しは鼬ごっこになると判断したから。

 ・・・でもこんな事しててセレナさんたちに気づかれないはずが無いと思うけど・・・

 

 

「気づかれたって構いませんよ、それに彼女の事です、誰が置いていったかなんてすぐに分かりますよ」

 

「ウェルさん・・・」

 

「ふぅ、僕が言うのもアレですが少々情が入り過ぎでは有りませんか? 翔希さん

第一、あなた方は―――」

 

 

 

 この世界の民ではないから、関係は、あまりないのでしょう?

 

・・・確かにそうだ、それは事実、現に此方の世界に来て早五年、その間僕はこの世界で動きやすいように様々な事を成してきた、まずは周りの人たちにとりいって自分というものをアピールしたり、まぁその最たるものがあの猫喫茶なわけだが。

 

 

「それでも、僕たちにはこの世界で生きた義理がある、活かすために生きる、それじゃ理由にならないかな?」

 

「いえ、此方も口が悪かったみたいですみません。

確かに、あなた方が居てくれたからこそセレナさんは本当の意味での残虐を体現しないでくれているのが分かります、それは分かっていますが・・・」

 

「彼女たちの心の闇を払いたかった・・・かな?」

 

「ふふっ、無力なのに傲慢ですよね。 僕には科学でしか彼女たちの役に立てないというのに」

 

「いえ、無力でも、傲慢でいいんじゃないですか? むしろその貪欲さに救われている人は少なくとも居るはずです・・・彼女たちもきっと」

 

「本人に確認してもきっと答えてくれはしないでしょうがね・・・さて」

 

 

 掃除を終わらせ、ロウソクに火を付けて一礼して参って行く、せめて安らかに、その思いはきっと誰より・・・そうだ、一つウェルさんには聞いておきたいことが有った。

 

 

「聞きたいことは分かりますよ、彼女の、マリアの遺品についてですよね」

 

「その言い方だと、何かしらあるように聞こえますけど・・・」

 

 

 道具をひとまとめにして帰ろうとしている背中で彼は首を横に振り、悲しげな表情をこちらに向けて申し訳無さそうに一言

 

 

「何も、なかったのですよ・・・そう、なにも・・・今供えたカケラ、それだけが、彼女の残した最後の遺物・・・だけれど、恐らくセレナさんなら、聖遺物にでも変えてくれるかもしれません」

 

 

 本来線香を入れる穴に布がグルグル巻きにされた妙なモノが入っている・・・その大きさから小さい子供の指ぐらいの大きさだと判断できるが、実際は違うかもしれない、だけど彼の言葉からそれがセレナさんの姉君であるマリア・カデンツァヴナ・イヴのものである事を偽りなく表していて、僕にはその言葉を信じるしか無い・・・いや、本来であれば部外者である僕に彼はココまでの事を話してくれているのだから、僕は彼の言葉を信じよう、僕は、事の成り行きを見守るかちょっかいを出すぐらいなもの、それだけしか、出来はしないのだから。

 

 

「さ、行きますよ。 あんまり遅いと彼女たちに気づかれてしまいますから」

 

「あ、はい・・・後で行きますので先行っていてください」

 

「そうですか、ではまた後で」

 

 

 ・・・やっぱり、彼は掴みどころのないと言うか、自分を卑下しすぎているというのか・・・英雄志望だったと聞いていたけど、そんな気配はカケラもない、それどころかセレナさんに過剰なまでに肩入れして、いや、彼もF.I.Sの研究者だと言っていたから当然といえば当然、か?

 それでも、子供たちに優しくしすぎて彼自身立場がなくなってしまって今ではフリーの科学者らしい、まぁ今は二課で雇っている状態だから待遇は良いらしい・・・?

 

 それはともかく、入っているこれをサーチ掛けてデータだけは持っておいておかないと、ね・・・っとそろそろ帰ってきそうだからそろそろ店に戻ろうか、マリアさん、どうか、彼女たちを見守っていてくださいね。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「・・・ウェル・・・きていたのね・・・ゆっくりしていけば良かったのに」

 

「あの人も忙しいそうなのでそこまで時間はなかったのかと・・・? これは?」

 

「・・・全く、私が気付いていなかったとでも? ウェルも甘いわね・・・

姉さん・・・」

 

「姉さま、コレは・・・?」

 

 

 備えてあった【ソレ】を中身を確認することなく自分のストールの中に入れ込み保管する。 まるで誰に持っ見せたくないかのように、自分だけはそれが分かっているかのように。

 だがウェルは言っていた、セレナであればそれは力に変わる素養を持っていると・・・

 

 

「気にしなくていいわ、きっと、私が落ち着いてから渡すつもりのものだったのでしょうし・・・それに」

 

「・・・」

 

「いえ、なんでも無いわ・・・さて、そろそろ家に入りましょう、クリスのキレイな肌が焼けてしまわない内に―」

 

「それは姉様も一緒ですよ・・・お姉様のお姉さん、どうか、ゆっくりと休んでいてください、姉様は、私が護りますから・・・」

 

 

 小さい言の葉、聞こえてはいるけどあえて何も言わない、それは互いに守ると誓った私達の揺るがない本当の【約束】、私はクリスを護り、クリスは私を守る、そのために力を、何者をもに負けはしない力を、大悪を得た・・・その結果が【呪い】だっただけ

 

 ま、こういう小さな場所であるなら、少しくらい、幸せを感じても、いいよね・・・?

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

「色々なお花で彩ってありますね・・・コレは、誕生花、でしょうか?」

 

「多分そうですね・・・だいぶ前に注文していたみたいで・・・確か、【カルミア】だったかな、花言葉は・・・」

 

 

 

 ―――神秘的思い出―――

 

 

「ですがそれだけではないような・・・この赤い花は・・・」

 

「柘榴(ざくろ)・・・自分に対する皮肉を込めているんでしょうか」

 

「どういうことですか?」

 

「身が多くついているものを意図して買ってきていることを考えると、意味は【愚かしい】・・・自分を世界の愚者と言っているようなものです」

 

「それは・・・いえ、それを言うなら僕が最も愚かしい者ですよ、彼女はそうじゃ・・・」

 

「いや、ここに居るもの皆愚か者だよ、僕だってそうだ・・・守れると分かっていてそれをしなかった、弦十郎さんだってやれるのに自分の立場で人を守ることが出来なかった・・・結局皆、この柘榴が示すように愚かだったんだ」

 

「セレナさん達は、どうしてそれを・・・?」

 

「恐らくですが、それを一番知っているのは・・・クリスさん、だと思ったんですが・・・その前にウェルさんに一つ聞いていいですか?」

 

「何でしょう?」

 

「セレナさんの初期のアガートラームの状態を聞いても?」

 

「今更な話ですね」

 

「ははっ、ほんとに今更でごめん」

 

「でも良いですよ、昔ばなしほど良いものも有りませんからね・・・でも初期起動したときは、銀色じゃなかったんです・・・あれは、虹彩色に彩られた百合の花・・・だったかと、その後の起動ではその時の色はなかったんです・・・あの虹色は、未だに何だったのか謎のまま、私は研究部から切られてしまったのでそれ以上は知らないんです・・・その後再開したのは例の研究施設がネフィリムに食われて二年後位した後だったと思います、それまで生きているとすら思っていませんでしたが・・・あんなになっていても、無事で本当に良かったと最初は思っていた・・・のですが」

 

「その色が黒く染まり、有り得ない程の復讐鬼になってしまった、かな?」

 

「はい、ですが原因は分かってます・・・それでも、人を殺すほどだとは思えなくて、彼女がわたしの目の前で人を殺す瞬間を見たときは正直自分を疑ったぐらいですよ、あんな誰からも愛されるほどの聖女が今や残虐な殺人鬼にまで変化してしまったんですから・・・」

 

「でも、それはウェルさんのせいじゃないです。 そこだけは―」

 

「いえ、そういうフォローはもう十分です。 結局は彼女を深淵から救ってあげられなかった僕の失態ですから、それに、彼女を助けたパヴァリアの方たちには感謝しませんと、大量の犠牲を出しながらも彼女を普通に話せる【人】としてくれたのですから」

 

「ウェルさん・・・」

 

「っと、余計なことを話しすぎましたね、せっかくのマリアの誕生日にする話じゃなかったです、すいません」

 

「いえ、僕も色々聞けてよかったです。 そうですね、もうお昼なので家に来てください、F.I.Sでのことを色々聞きたいですし」

 

「いいですよ、今日は話し明かして行きましょうか」

 

「・・・酒は出ませんよ?」

 

「下戸なので要りませんよ」

 

「ははっ、それじゃ、行きますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、時刻は夜、もうまもなく日が変わろうとしていた時刻―――

 

 一人タバコを咥えベランダから夜空を見上げ、布にくるまれている【それ】をじっと見つめ、何かを決したようにため息を吐き少しずつ開いていく。

 大きさ的に指が入ってそうな大きさだが、持った感じは硬い、プラスチック・・・のような感じ、詳しくは分からない、けど、もう居ない姉さんの為の、ううん、姉さんの、遺品・・・だと思う。

 ・・・中から出てきたのは黒い円筒状の小道具、見た目的には口紅のように感じるが、よく見ると幾何学な模様が散りばめられていて、何かを成すための道具だと思うが、メインにしている戦闘用では無いと思い、少し魔力、及び呪いを込めて見る。

 姉さんは魔力とかは知らないけど、フォニックゲインについては色々知ることが出来ていたみたいだから、コレにも、何かしら力があるのか・・・?

 

 

「なに、これ・・・?」

 

 

 違和感のあまり口から無意識に言葉が漏れた、何せ姉が亡くなってから早五年以上経っているのに、その姉からの贈り物と思えるこの道具は、少しの力で何かを感じ取ったのか、可変して何かを映し出すカメラのように変化して正面の何もない空間にある映像を映し出した。

 

 

「え・・・姉・・・さん?」

 

 

 場所はどこだろう、緑が栄えて、大好きだった花畑の景色が見える、でも、わたしはそんな景色を・・・ううん、多分、知っている、だけど・・・

 ・・・あれは、いつ撮ったものだろう、姉さんの小ささから考えて多分10歳ぐらい・・・?

 

 

『これで、いい・・・のかな? 見えてる? ん~ いい、みたいだね?

よし、聞こえてるかな? セレナ あたしよ、マリアよ』

 

 

 小さな姉さんがカメラを調整しながら周りの景色を楽しそうに映し出している・・・姉さん、本当に楽しそう・・・

 

 

『―――いつか、こんな景色をセレナと一緒に気兼ねなく見られることを神に祈りましょ―――』

 

 

 姉さん・・・私は、わたしは・・・

 

 

『|だから、いつか目覚めたときは、みんなで一緒に遊びましょ?《・・・・・・・・・・・・・》』

 

 

 えっ!? 姉さん、何を言って・・・!??

 

 

『マリア~そろそろ良いデスか?』

 

『そろそろ帰らないと怒られちゃう』

 

『あ、ごめんなさい、切歌、調 ・・・それじゃ、もし目が覚めたら、また皆で―――』

 

 

 映像がここで途切れた・・・? まだなにか入ってる・・・?

 映像の場所的には研究施設みたい・・・だけど、火の気が立ち上ってる感じだと・・・ネフィリムが目覚めたときの・・・?

 

 

『セレナ・・・もしこれを貴女が見ているのなら、私はもうこの世界には居ないという証なのでしょうね・・・でもこれだけは言わせて、どうか、生きることを諦めないで・・・そして、どうか

 どうか、幸せを―――』

 

 

 ここで映像にノイズが走りしばらくノイズが鳴ったあと、最後の記録映像が流れた―

完全に倒壊したあとのF.I.Sが見えている、だけど、この記録は・・・?

 

 

『さい・・・ご・・・に・・・これ・・・を・・・わた・・・さい・・・あいの・・・妹・・・に・・・おね、g・・・』

 

 

 最後に白いズボンと白衣が映っていたがそれが誰か分からなかったが、研究者の誰かだというのは分かった、そしてこれを持っていたのがウェル・・・じゃあ最後に写ったのは、彼?

 でも、それじゃあ辻褄が・・・あれ、だとすると私の記憶のほうがおかしい・・・の?

 

 

「? 割れた・・・? いや、何か入り込んでたの・・・? これ・・・シンフォギアのペンダント・・・? まさか、ガングニール・・・?」

 

 

 筒の上部が開きそこから赤色のペンダントが露出している、見た感じは間違いなく私達が扱っているギアペンダントで間違いはない、だけど、問題はこれに入っているものが何なのか・・・ガングニールであったならばあの時に割れて扱えなくなっているはず、シュルシャガナもイガリマだって、唯一私を救ったアガートラームだけが、未だ可動し続けている、私の歌で・・・ううん、私の呪いで動かしている。

 ・・・波乱の誕生日になったわね・・・ウェルが、しってるのか・・・何か・・・

 

 

「姉様・・・それは・・・」

 

「何かわからないけれど、でも、きっと・・・」

 

 

 姉さんが、私を幸せにしたくて残した最後の贈り物・・・姉さんに贈る物以上に、大切な気持ちを貰った気がする・・・私は・・・

 

 

「進む道は確かに違えたのかもしれない・・・けど・・・」

 

「わたし達は歩み続けます、たとえそれが真っ黒に染まった世界だとしても・・・わたしは姉様と一緒にどこまででも・・・」

 

 

 もう振り返らない、過去は、もう見れないから・・・だから、行くね、姉さん・・・

 

 

 

 だから、これから先を全速力でいくよ、私は、もうわたしじゃなくなってしまっているから・・・だから――――

 

 

 

 この終わらない戦いを・・・今度こそ終わらせるから・・・それまで待っててね、マリア姉さん――



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第一章 始まりの黒銀
第一話


グレビッキー見てて何か思って作った、
後悔しても反省しない


 

 

 

 

 

 

 

あるとき、ある並行世界のお話

 

ある山奥、とある廃屋に一人の女性と、小さな女の子がひっそりと佇んでいた

二人は特に言葉を交わすことも無く、ボロボロの布を羽織り、何処かで奪ったのかグシャグシャな衣類を乱雑に着込んでいる

廃屋といっても、一応雨風は防げる、そのうえ

 

「今日はこれだけしか来ない・・・か、ったくだるいな・・・」

 

そんなぶっきらぼうな口調で語る女性、亜麻色の髪を肩の長さで揃えて乱雑に切られており、毛先もぼさぼさでもはや、元あった清楚な雰囲気は微塵もなく葉巻を口に咥える

衣服こそだらしないが、体付きは素晴らしく、世の女性も憧れる程のスタイルをしている

そんな、何が有ってこんなことになったのか全く分からない女性、こと、セレナ・カデンツァヴナ・イヴは一人愚痴を言っていた

まだもう一人は来ていないようだけど、この良く分からないシステム(シンフォギア)を扱って位置や状態を把握できる

今は、野草を取りに行った帰り、といったところだろう

 

「・・・まだ来ない・・・」

 

まるで待ちきれないと言わんばかりに、もう一人を待っていた

何かあったとしても、彼女の近接能力は自分を上回ってたのを間近で見ていたからこその判断だったが

それでも小さな少女一人にやらせるにはきつかったか、と思っていたところ

 

「ご、ごめん! 足を引っかけちゃって遅れて―」

 

「バカ! どんだけ待たせてるのよ!」

 

待ちに待っていた銀髪の小柄な少女がやっと来た

少女の衣服はセレナ程乱雑では無い物の、有り合わせで作ったチグハグな衣類をワンピース状にしたものを纏っていて、髪は腰先まで伸びており、此方は綺麗に整った髪型をしていた。

理由は兎も角、無事に戻って来たことに安堵しながら、鍋に火をつける

飲み物はその辺に群がっていた野郎から賃金を奪い取り、麓の店舗で適当に買い付けている

とはいえ、冷たいものは早々に温度を上げていってしまうため、大体は常温か熱いかのどちらかだ

それに対しても、セレナが怒った理由はただ遅れたからではない

 

「ちゃんと追手は撒いてるでしょうね?」

 

「問題ないよ、来てたとしても、罠に引っかかるよ。セレナお姉様」

 

それを聞いて少し安心と、それなりの警戒心を働かせる

何せここにきてまともな料理、及びまともな生活をしてこなかった二人は互い以外をすべて敵視している

その上、大人を豪く嫌い、また自分達を嵌めた歌も同時に嫌いになっていた

だから、自然に流れる川の音や虫などの音を好む

人が作った音ではなく、自然に流れるソレを互いに好んでいる為にこんな何処ともつかない、何処かもわからない所で二人は生活していた

 

初めはただの同情から始まった関係・・・だけど少女たちは互いに信頼できる親友から家族に変わって行っていた。

それでも、セレナは記憶の齟齬があり、自分が自分を認められず、横暴に、唯々自分を壊していった

優しさですべてを守れると信じていた過去の自分を決別するために・・・

そんな過去を知ってか知らずか、彼女の行いに異を唱えず、彼女の為に動く事を良しとしている小さき少女、雪音クリスも、セレナと同じ境遇にあっていた、同じ家族を失った者同士、そして、歌で救えると信じて疑わなかった過去を塗りつぶすかのように、今を生きていた

 

彼女たちが出会ったのは約5年ほど前、F.I.S.がネフィリムの起動実験で暴走を起こし、絶唱の効果でネフィリムを抑え込めたと思っていたところ、ネフィリムはその絶唱を喰らい、F.I.S.そのものを破壊し始め、挙句、暴れ終わったら休眠し、後に残ったのは、セレナと、他数名の研究員だけだった

何人かでの同時絶唱という事もあってか、元よりそんな想定がされていなかった施設はほぼ崩壊し、研究者たちは、明日も知れない状態で路頭に迷った

そんな中、唯一レセプターチルドレンの中で生き残った自分は、皆を守ろうと立ち上がった・・・が

周りの状況は思った以上に芳しく無く、同じ研究者同士でもだまし討ちや奪い合いなど、非道な世界がセレナを待っていた

家族を失い、大切な友も失い、唯一残っていた自分を研究するための者たちであり、知り合いの者たちも、最後には、自分を生かしてくれていた人の残り火を受け取り、全てこの世を去っていた

だから思った、こんな記憶が自分を苦しめるなら、全て空っぽになるまで歌ってやろうと。

 

そんな中、気が付けば相当南下していたのか、ある施設が見えた、F.I.S.関係であったと思われるが今は分からない

ただ、レセプターチルドレンの所と同様、フィーネの関係ある施設だと思い、これを機に潰そうと動き出していた。

気が付けば、白かったはずのギアは黒に染まり、黄色かった部分も、もはや元の色が分からない程汚れたギアになっていた

そこで救い出せた唯一の少女、【雪音クリス】は、此方を見るなり、ビクビクしながら話しかけてきた

 

「お姉さん・・・助けて・・・くれたの・・・?」

 

たどたどしいが、はっきりと、そんな言葉を言っていた。

昔のセレナなら、辛かったよね、よく頑張ったね、と言っていたと思う

だけど今は違う、潰すと決めた、フィーネも、ネフィリムも、この世を汚す愚かしい大人たちを・・・

だから私は言った・・・わたしじゃない、【私】で言ってあげた

 

「助けたんじゃない、潰したんだ・・・あなたは偶々助かっただけ。

後は自分の好きにするといい・・・私はもう、この世界の救済なんて、興味ないから」

 

そう、実際は建物を外部から切断し、一気に崩れる様に解体しただけ

昔は難しかった複数の刃の遠隔操作も、頭がすっきりしてからは数も考えずに一気に操作できるようになっていた。

昔は優しさゆえに考え過ぎていた、故に、あの時のような事故が起きた

だから、私は優しさを捨てる事にした・・・もう失うモノのない私は、生きるには恨みを糧にするしかないと思っていたから・・・

そうして考えていたところ、助けた少女からこんな提案をされた

 

「潰す・・・なら、日本にあるフィーネって人の研究を潰しに行こうよ」

 

日本・・・に、フィーネ・・・?

フィーネは基本米国で研究を行っているから、そちらにしかいないとばかり考えていた

だが少女は、フィーネが日本にいるといった。

何でそんなことを知っているのか聞いたところ、私達をこんな目に合わせているのを聞いてみた所、その名前が挙がり、今は日本で研究しているという事を小耳にはさんだかららしい

そして、その時の少女は顔を伏せ、口角を歪ませて笑っていたと思う

ワタシタチを殺した罪を・・・償わせるために・・・

 

そうして、彼女、雪音クリスと共に日本へ違法入国することに

 

入国こそ問題は多々あったが、変にお人好しな人が私たちの願いを聞き届けてくれた

白いタキシードを着たテンガロンハットを被ったオジさんだったが、疑う必要は特に無かった。

何せ私たちをこうして無事に日本に上陸出来たのだから。

その後、そのおじさんの家に行くことに成ったのだが、ここで問題が起きた。

そう、この時のセレナとクリスはまだ幼い少女、そんな二人の手を引いていこうとすれば、当然警察沙汰にもなる。

何処の誰か分からないが、私達が嫌がっているように見えたのか、警察達がそれなりの人数来ていた。

だから、これを機にその人と離れ、二人でこっそり生きていこうと決めた。

その時は・・・確かこうなる4年程前になると思う

とはいえ、もはや現在の暦もわからない少女たちは、ただ襲い来るモノたちを払い除け、自分たちの生きる糧に変えていくしか生きる方法を知らなかった

元より住んでいる場所も、国籍も違う少女たちは、そんな世界で生きていける程優しい世界ではない事も知っていた。

だからこそ、大人たちをだまし、奪い取り、時には奪われ、殺しながらでも生きてきた。

もう少女たちは普通の生活は送れないかもしれない、でもそれでも構わないと考えていた。

何せ、フィーネを殺すこと=自分たちの終着点だと考えており、それ以外はそうするための過程でしかない。

そうでなければ、きっと心が今以上に壊れていたかもしれないから・・・もう、何人も殺してしまっていたから・・・

だからこそ、互いに利になる少女を仲間とし、自分達で生きていくことを選んだ。

ただ―

 

「お姉様、食事が出来ましたよ」

 

今に至るまでに、この少女を異常なまでに保護しすぎた所為か、今では彼女は礼儀正しすぎる程の聖女になり、その反面であるセレナは、ある意味では悪魔に等しいかもしれない。

それでも、フィーネを殺すまで精一杯生き、己の技を磨いて生きてきた少女たちは、気が付けば身体が成長し、男達を虜にするほどの変容を遂げていた

セレナは自分の胸が邪魔だと最初は感じていたが、ソレを扱い男たちを騙し討ち、大金を稼ぐ荒業を何度も行ってきていた

それゆえか、いつの間にか指名手配されているようになったのはつい最近かも知れない

そう教えてくれたのは、彼女をお姉様と呼び慕う少女、雪音クリスだ

だから捕まらないよう、ギアの使用を制限し、その辺で取れる金具類を加工し、武器にしたり

米国で奪い取った使い切れないほどの弾丸や銃をあのオジさんに運んでもらった時は心底助かったが、今では連絡すら取りあう事も無い

私達は私達、あのオジさんはもはや関係ない、だからこそ―

 

「・・・特異災害対策本部二課、デュランダル、天ノ羽斬、ガングニール・・・そして」

 

「カ・ディンギル、バラルの呪詛・・・ですね、お姉様」

 

これだけの情報を個人で搔き集められた。

とはいえ、部分的にはかなり協力して貰ったモノも多いけど・・・

 

「大人たちに組織された部隊なんて頼りにならない・・・クリス、イチイバルはあるわよね?」

 

「はい、此方に」

 

そう言って胸元から赤いペンダントを取り出す

彼女がこのペンダントを持っていたのは、何故か出会ってすぐの頃だった

クリスが脱出時に持ち出したバッグには、食料や生活に必要な物が入っている中、このペンダントだけ異質を放っていた

また、そのペンダントがシンフォギアシステムに重要なアイテムであることを知っていたセレナは、ここにもフィーネの手が届いているのかと判断し、彼女に敵討ちと称しフィーネ討伐に協力してもらっている

そうでなくても、ひょっとしたら彼女は自分でフィーネを討ちに行っていたかもしれないが・・・

ただ、今警戒することは

 

「それが無いと、私もクリスも困る事になる・・・何せ、唯一のフィーネの手掛かりだ。

そのうえ、唯一の対抗策でもあるかもしれない、だから」

 

「はい、その上で、フィーネを打倒するための力を身に着けてきたのです。

セレナお姉様と一緒なら、どんな相手でも、負けるつもりは無いです!」

 

彼女の綺麗な銀髪が風に揺れ動き、熱い視線をセレナに向ける

セレナもその視線に応える様に視線をぶつける、互いを鼓舞するかのように・・・そして

 

「決戦の時は近いかもしれない・・・今日は速めに休んで、明日街に出ましょ」

 

「はい、お姉様」

 

そう笑顔で言って、作り上げた粥を二人で啜り食べる・・・味気は無いが、二人一緒ならどんなものでも美味しく食べられた

そう、それはまるでいつかの双翼の姿を見るかのように・・・

 

「・・・!? そこ! 動くな!」

 

不意に気配を察知し、入口のトラップをナイフを投げて起動する。

重量のある【ナニか】が入口にいた人物に当たろうとしていた・・・が

 

「ふんっ!」

 

その掛け声一つで押し止められた兵器を平然と片手で持ち、足元に置く頑丈そうな男・・・いや漢がそこにいた

 

「こちらの隙を伺っていたって感じ・・・っクソ、これだから大人ってやつは!

クリス!」

 

返事をする前にどこから出したか分からないスナイパーライフルを対象に構え、容赦なく打とうとしたが・・・

 

「申し訳ありません!」

 

その真横で、手を横首に打ち据え・・・ようとした所

 

「緒川!、攻撃はするな!」

 

そこにいた長身細身の優男そうな男がクリスを組み伏せようとした所を、前方入口シャッタ―の所で仁王立ちしている漢に押し止められ、両手を上げた

 

「・・・政府の犬が・・・何の用?」

 

ナイフを構える手を止めず、背後のクリスを心配するように後ろに下がりつつ警戒して問う

 

「君たちは、俺たちが何者か分かっているのか・・・」

 

「当然、特異災害対策機動部二課司令、風鳴弦十郎、と、その補佐、緒川慎次・・・だろ」

 

ぶっきらぼうな口調で、男の様に話す少女、セレナが問いを返した

男たちは驚いたように目を見開き、少女たちの姿を改めてみた

 

「あんま見ないでくれる? この身体は安物じゃないの・・・それにクリスは売り物じゃない」

 

「あ、いや・・・すまない・・・俺たちがしっかりしていれば、君たちの様な難民を助けられたかもしれないのに」

 

「っ!? 本当に・・・本当にアンタら大人って言うのは!!」

 

その言葉が勘にさわったのか、まるで狂ったように怒鳴り上げる

また、弦十郎も忌避していたが、結局は互いに分からないからこその決裂である

 

「私は・・・私はねぇ! 金の為、生き残る為に好きでもない相手と抱き合わされたり! 嫌な相手にはじめて(処女)を貫かれたりして、辛かったのに・・・悲しかったのに・・・泣きたかったのに!

それでもやめてくれないロクでも無い大人どもも!私の姿を見る度発情して追っかけてくる青臭いガキどもも! それも、これも!全部・・・全部、あのフィーネってやつの所為で失った! 何もかも!大切な家族も! 家も!何もかも!

そんな絶望が・・・あんたみたいな大人に分かってたまるか! 分かられて・・・堪るか!!!」

 

彼女の怒鳴り声が辺りに響く、まるでやまびこの様に木霊する

彼女の言い分も大概だが・・・

 

「それでも、俺達を・・・いや、俺だけでも、信じては」

 

「信じられるか! 何が大人だ! 何が夢だ! そんなものに呆けて散ったあの子の両親を、その憎しみを誰が分かる!

家族も失ってない! 大切な人も居るようなアンタらに! 私たちの本当に【大切】なものを分かられて堪るか!!!」

 

そこまで言って、彼女はペンダントを取り出し、聖詠を口にした

ここから逃げるために、こんな偽善な大人どもを飛ばすために・・・

 

-----Seilien coffin airget-lamh tron------

    望まぬ力と寂しい笑顔

 

「クリス!」

 

-----killter ichaival tron-----

  銃爪にかけた指で夢をなぞる

 

「行きます! お姉様!」

 

両肩から二発のミサイルを展開し間髪入れずに発射

そして二人はそれに乗るようにその場を脱出した

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・やはり、俺達では無理なのか・・・彼女たちの傷を拭うのは・・・」

 

飛んで行った先を特定するのは無理そうだなと、判断し、彼女たちの消えた後を捜索している緒川が何かを見つけて弦十郎に報告していた

それは今まで被害報告に上がっていた者たちのリストの様になっていた

 

「売春相手から盗品類、衣服の奪取、他にも罪状を上げればきりがありませんが・・・これを。」

 

その中に二枚の名刺のような物があった、一つはあの銀髪の少女の物だろうと判断できたが・・・

 

「アダム・ヴァイスハウプト・・・? パヴァリア光明結社と書かれているな」

 

顔写真からしてあの少女の物ではないという事はすぐに判断できた

また、あの亜麻髪の少女は相当警戒していたのか、身分証明になる物は一切出てこなかった

 

「それに、先程逃げた銀髪の少女、雪音クリスさん・・・

かの有名な雪音夫妻のご息女である可能性があります」

 

「とすると、あの亜麻髪の少女はその関係者といったところか・・・むぅ・・・」

 

粗方探ったが、残り出てくるのは履き潰した靴やバラバラになった衣類などだったが・・・

 

「司令! これ・・・」

 

「どうした! 緒川!・・・っ!? これは」

 

ある一か所、そこにはまるで血溜まりになっているような場所を確認できた・・・がそこから先を見ると・・・

 

「・・・内臓の一部分が欠損しているのが確認できます・・・そのうえ、血まで抜かれてますね。

死体なのに臭わなかったのはそのせいでしょうか」

 

「まさか、あの少女が・・・うん?

まて、緒川、この人達は、先程の顔写真の中に似た人物が居なかったか?」

 

確認してみます、と先程の資料をまとめ直し、遺体たちに重ねて身分証明してみる

すると出てくる事、ほぼ資料通りの人材ばかりが山のようになっていた

その中でも、殺せなかったと思われる人を調べ上げ、後日接触することにした

 

「(助けられなくて済まなかった・・・

こんな事で許してくれはしないだろうが、せめて安らかに眠ってくれ)」

 

最後に、遺体の山に手を合わせ一礼し、後の処理を遺体処理班に任せ、弦十郎たちはその現場を後にした

 

なお、ツヴァイウィングはいまだ健在であり、まだネフシュタンの事件が起きる前ではあるが、一時に発生するアウフヴァッヘン波形により出てくる波長を頼りに探って、彼女たちを探し出し保護するのが目的だった・・・が

 

「中々難しいものだな・・・緒川」

 

「そう・・・ですね・・・

それでも、彼女たちの恨むもの・・・この日本にいると踏んで良いんでしょうか?」

 

「フィーネといったか」

 

終わりを意味する音楽用語、それがフィーネだ

ただ、彼女たちが言うには、フィーネはとっくに顕現しており悪事を働いているという事なのだろう

だが、日本で起きているのは各地に点々と現れるノイズ被害のみ・・・果たして彼女は何を知って、何を思ってこんな凶行に及んだのか・・・

 

「俺たちが、彼女の家族にでもなれればいいんだがな・・・」

 

あはは・・・と呆れ声で緒川が乾いた笑いをこぼす

でも、問題は彼女たちだけではないということが分かった以上、他にも手を掛けないといけない事が増えた

それを良しとするかどうするかは此方にかかっていると言っていいだろう

彼女たちも此方が過剰に動かなければまず何もしてこない筈なのだから・・・

 

「だが・・・それでは彼女たちを見捨てる事になる・・・クソっ!

こんなのが・・・大人なんて・・・嗤えるな、緒川」

 

「司令・・・」

 

緒川は司令を見ないようにしながら、二人とも車に戻り二課へと戻っていく

だが司令の目は、まだ彼女たちの救済を諦めていなかった

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「ねぇクリス、遺体の処理はどうしたの?」

 

「あ、ご、ごめん! お姉様・・・急いでたからできなかった・・・」

 

「く~り~す~・・・分かってるわよね?」

 

「え、み、見捨てないで! 私はもう誰にも―」

 

彼女に近づき問答無用のキスをする

脚を股の間に這わせ、当たるように膝をアソコに当て込む

キスをして数分が経っていたと思う、それでも離れる気配はない

そして唇を離し、ひとこと

 

「私がクリスを見捨てる時は、どっちかが死ぬときよ・・・だから、身体を頂戴」

 

そうしてクリスは安心したかのようにされるがままになる

この人の家族に、モノ(家族)に成れて良かったと安堵するように

 

「私はクリスの唯一の家族、そして私も貴女の事を唯一の家族だと思っているわ

当然大好きだし、傷付いてほしくない・・・だから・・・」

 

そこでもう一度キスをし、次の言葉を紡いだ

 

「貴女の初めては・・・私に頂戴」

 

そうして、その夜二人は何も纏わずに抱き締めあい、絶対に離さないように眠りにつくのだった

 

 

 



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第二話

R18付けた方が良いのか分からないけど付けなくても言い様にとりあえず頑張って雰囲気変えて書いてみる

・・・セレナちゃんがぶっきらぼうって普通あり得ないな・・・乙女メイドなクリスちゃんもだけど

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

あの二課の人達から逃げ出した私たちは、一度遺体の処理と、必要品の回収のために住処にしていた廃屋に来ていた

まだ人が来ている感じではないが、トラップが結構な数無くなっていたのを見るに、恐らく業者を呼んでの処理が行われている

 

過ごしやすかったはいいけど、どっかで肌を傷付けかねなかったから、次の廃屋を見つけるまでは何とかしないと・・・と

 

「・・・あんた、何日ここを見張ってたの・・・」

 

目の前には先日一戦交えた赤い髪、赤いシャツに紺のネクタイ、白いズボンをベルトで止め、礼節正しそうな偉丈夫が入口に立っていた。

セレナの後ろではクリスが隠れるようにして震えていた・・・怖いよね、大丈夫、ぶっ飛ばすから

 

「そう警戒しないでくれ、以前怒らせてしまったのは詫びよう、これはその謝礼だ」

 

そう言ってコンビニ袋を渡して来た・・・人の計画邪魔しておいてなんなんだと思っていると

 

「実はある店主から君たち宛に届けて欲しいと頼まれてな。

こちらとしても、君たちに言ったあの言葉は大人げなかったと反省しているし、後悔しているんだ

君たちはまだ子供だと判断した俺の行動を許してほしいとは言わない・・・君たちを怒らせてしまった以上、償いはさせて貰う・・・勿論、何でもとは言いきれないが・・・」

 

この人・・・そう、じゃあ

 

「フィーネって人の身元を特定して、あと、私が起こす戦闘にクリス以外の邪魔立てはしないで

それと、彼女の保有する・・・いえ、二課の保有する聖遺物をすべて教えて」

 

此処まで言って、この人は情報を開示するとは思ってない

だから敢えて言い辛いであろう聖遺物の情報開示を提示した・・・が

 

「わかった・・・だが、君たちがフィーネという人物には心当たりはないんだ、すまない

あの後、緒川も必死になって情報を集めているが・・・如何せん情報が少なくて探れていないんだ・・・

こちらの聖遺物に関してなら、一度二課に来てもらえればいいのだが・・・無理、なんだな?」

 

「えぇ、私は大人が大嫌いだし、そんな自分から囚われるような間抜けな真似しないから

・・・それより、見たんでしょ、死体の山を。

だから私たちが来るのを待って出張ってた、違う?」

 

ぬぅ、と怯んだ声を出していた・・・ほら、やっぱり大人は汚いものね

まぁそれは兎も角、此方も情報を出しましょうか

 

「死体の山を見たのは別にいいの、あいつら人を人として見て無かった屑ばかりだもの・・・

でもまだ殺せていない大切な奴がいるの・・・クリスを犯し潰そうとした許せない相手

クリスの初めては私だけのモノなのに・・・あいつは絶対殺す」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・まさか彼らは・・・」

 

「? 気付かなかったの? 私が身体を売って身を落とした奴らよ。

まぁ、善意でやる人なんて未だ一桁を超えない程だったし・・・生きていてもしょうもない奴らだったから、内臓を売買して後は消し炭にでもするつもりだったわ」

 

そう、それは本当、血抜きして乾燥させて密閉して焼く・・・人は食えるものじゃないからそうでもしておかないと、ちょっとの恨みも晴らせないから

 

「なら、この男を殺すつもりだったのか・・・お前は」

 

「・・・弦十郎、自己紹介がまだだったのは謝るけど、そんな相手に【お前】呼ばわりは・・・

!?なんでその資料をアンタが持ってるの!」

 

私は憤慨していた、だって一番殺したい相手の資料をこの男は持っていたから

頭には記憶しているし、やろうと思えばギア無しでも余裕ではあるが・・・それでも痕を残すことは許されない

あと数日だったのに・・・こいつを殺すまであと少しだったのに!

 

「やはり、殺す気だったのか・・・

大丈夫だ、もうその男は務所に世話になっている

君たちが手を下さずとも、法で裁かれるべきだった男だ・・・それでも、彼を殺そうとするのか」

 

「当然でしょ! だって、私の大切なクリス(家族)を壊そうとしたクズ生かしておく必要もない!

そんな事して生き永らえさせて、それで反省してもうやらないなんて保証はどこにもない!

だったら生きているのを後悔する程に痛めつけて、縛り上げて・・・殺してくれと懇願するまで嬲りつける!

そこまでしても足りない・・・全然足りない!

私の怒りを・・・私の嘆きを、どうしてわかってくれない! どうして大人たちは辞めてって言ってもやめようとしない!

そんなの・・・そんなの!!!」

 

叫んで、叫んで、声が枯れそうになるまで、彼に対して思い切り叫んだ

どうせ通らないだろう、私の思いなんか、大人には絶対伝わらない・・・そう思っても、私の嘆きは止まなかった

 

「クリスだって、心を閉じて誰とも関わらないようになって、でも私はクリスを見捨てたくない! 大好きな家族を・・・また失いたくない!

それでやっとクリスとも和解できた、あのクズどもを嘆き殺して、この手はもう血塗れで・・・でも、誰も私達を救おうともしなかった!

そりゃそうでしょうね! 街に出れば麗しい姿で街を徘徊する美女でしかない二人、襲われない方がどうかしているぐらいだった。

街中に買い物に行くにも身の危険ばかり、世の男どもは私達を見て性の捌け口にしか思ってなかった・・・

男だけならまだよかった、けれど、女も・・・男と変わらない・・・いえ

男以上に野蛮でとんでもない人しか居なかった、結局信頼できるのはクリスだけだった!

そんな世界で、誰かと誰かを理解しあいながら大人と一緒に生きる?

ふざけないで!!! 私は、私をこんな目に合わせたあいつ(ネフィリム)も許さない! またあんな施設を作ったフィーネも同じだ!

そしてバラルの呪詛なんて訳の分からない装置を作った神様も同じだ・・・もしそこで見ているのなら、私は・・・ワタシハァ!!!!」

 

そこまで叫んで気付いた、後ろからクリスがギュッと抱き着いてくれている

・・・まだ、甘えん坊で幼いと思っていたけど・・・体はしっかり成長しているし、何より女の子らしい感じになっている

そんなクリスに・・・私は・・・

 

「そこまで世界を恨むなら、もはや俺ではどうしようもないな・・・

ははっ、笑ってくれて構わない、所詮、大人が出来る事なんてたかが知れているさ。

・・・だから、せめてその復讐劇をやめて・・・

いや違うな、協力させて貰えないだろうか?」

 

「ハァ・・・ハァ協力・・・だと・・・?」

 

この男・・・何を考えている?

前のめりになって今にも引っ掴みそうな体制をほどいてクリスに向き合い抱きしめる

うん、落ち着いた・・・それにしても、協力だと?

 

「お姉様、寝床でゆっくり話した方が良いかと・・・」

 

「そちらのお嬢様は話が分かるようで助かるが・・・良いのか?

こんな奴が入って」

 

「・・・そもそも、私達は家賃も払わず自分勝手に使ってるだけだから勝手に入ればいい

・・・ただ、あんまりに身勝手なのは容赦しないよ」

 

ふぅ、やれやれ、まだ話すことが増えそうだ。

クリスのお陰で何とか落ち着いたけど・・・どうしたモノか・・・

 

一先ず床に布を敷いて適当に座る、私は胡坐を掻いて、クリスは女の子座りと言えばいいのだろうか

弦十郎は正座でこちらに向き合っていた。

まぁ、此方は出せるお茶なんて貴重な物無いけどね

すると、弦十郎がバッグからポットを取り出した

 

「まぁ、此方が世話を掛けるんだ、大丈夫毒など入っちゃいない」

 

そういって、人数分コップを用意して律儀に注いでいる・・・

毒どうこうじゃなくて、私は話の続きがしたいんだけど

 

「落ち着いて話す為にも、茶請けに飲み物は重要なんだが・・・

いや、教養のなかった君たちに話すのは野暮だな、すまない、聞き流してくれ」

 

なかった・・・か、そもそも、こんな世界じゃなきゃ私もクリスも学校とかに通えていたんだろうな・・・

まぁ、そんな絵空事、もう叶いやしないが

 

「それで、協力と言ったな?

じゃあ出せるのか、扱っている聖遺物、これからの行動、そちらにいる装者の情報・・・

他なんでも良い、兎に角フィーネに繋がりそうなものを開示してほしい。

そうすればこっちも、米国だとかで集めた情報を開示できる」

 

完全に口調を変えて問う、だが完全に信頼したわけでは無い

これはもう相手の出方次第だが、恐らく向こうは私達を手元に置きたいはずだ。

だけどそんなことこっちから願い下げだ、私達は政府の犬になるつもりも、誰かに縛られる番犬になるつもりもない

だが、この男から出てきたのはとんでもない啓示だった

 

「まず、二人にはこちらが提供する家に【家族】として住んでもらう

そこである程度の教養を学んでほしいと思っている。

当然、衣食住は保証しよう

あと、聖遺物に関してだったな、英文で良いのか?」

 

「私達二人とも日本語が読めませんから、英文でお願いします」

 

そうクリスが言って、懐にあるA4サイズの束を受け取り、読み始めた

・・・やっぱりこっちが調査したのと似た回答が出てきている・・・けど

先程無いと思っていた聖遺物の詳細情報を何故この男は持っていた?

それに先程のバッグもだ、最初見たときは持っていなかったはず・・・誰が?

そこまで半端に考えたが、分からない事は考えないようにした・・・今はそれより

 

「ねぇ、カ・ディンギルの情報が入って居ないのだけど・・・」

 

「カ・ディンギル・・・? なんだそれは?」

 

「天を仰ぐほどの塔・・・別言語の和訳で高みの存在って言われている塔・・・

でも、【バラルの呪詛】って言う放っておけない呪いがある・・・しかもそれが」

 

「衛星上の【月】に存在しているらしい・・・のだけど

もしかしたら、私達のこの成りもその神様が放った呪いなんでしょうね・・・

ックソくだらない!」

 

そこまで言ってコップの中身を飲み干し、コップを叩きつけた

私は・・・私は悪くない・・・世界が・・・この腐った世界がスベテヲコワシタ!

 

「ふむ・・・君たちの知っている情報は予想以上だな

それに見た感じ、二課の装者も全員分かってるみたいじゃないか

やはり、君たちとは一度手を取り合いたいな・・・いや、夢見がちな返答だったな、すまない」

 

「気にしないで下さい弦十郎さん

少なくとも、私達が出会ってきた中で一番優しい人だと判断できましたので・・・

ですが、どうするかはお姉様次第ですので、私は、ともにフィーネを殺すために動きます」

 

「そういえば、そちらからこちらの名前は言ってきていたが、はっきりとした自己紹介がまだだったな。

俺は風鳴弦十郎、まぁ、知っての通り特異災害対策本部二課の司令をしている。

君たちの名前を聞いていいか?」

 

微笑みながら此方に聞いてきた・・・名前なんて・・・いえ、クリスの為に名乗るべきね

 

「セレナ・・・セレナ・カデンツァ―「お姉様!」ん!?」

 

「家名まで名乗らなくていいと思います・・・あ、私はクリスと言います」

 

「そうか・・・いや、信頼できないのは分かっている・・・時にクリス君。

君の両親は、あの有名な雪音ご夫妻で合っているかな?」

 

それを聞かれたクリスが一瞬固まる

・・・そういえば戦時中の火災で両親を・・・

 

「・・・はい・・・ヒッグ・・・そう・・・です」

 

「弦十郎! クリスを・・・泣かせたな!!!」

 

「ま、待て、落ち着いてくれ、互いに探りを入れあうのは仕方ない事だが・・・そうか・・・一人娘は生きていたのか、良かった。」

 

こちらを止める様に立ち上がったが、私も全力でやりあう気もなく、クリスに左腕を掴まれて動けなかった・・・仕方ないから今回は許す

 

そこから互いに探り入れる様に色々話し合った

そんな中、誰か一人が弦十郎の後ろに立っていた・・・あれは?

 

「弦さん、来ないから此方から迎えに来たけど、彼女たちがそう?」

 

「おぉ、すまない、実はキャンセルになるところだったんだ。

彼女たちなんだが・・・」

 

そう言われた先日来た優男とはまた違う優男が私達の顔を見る・・・顔だけ見てる・・・

そんなので何が分かるってんだかって

 

「素晴らしい方達ですね、弦さん、いつの間にナンパスキル身につけたんですか?」

 

「いや、俺は何も隠さずに彼女たちと話し合っていただけなんだが・・・そういう凪こそそのナンパ癖どうにかした方が良いんじゃないか?」

 

「なんかイラつくこの優男・・・」

 

「お、落ち着いて姉様」

 

なんか良く分からないなこの男。

男の髪は茶髪でやけにトゲトゲした感じなのに、紺のジーパンに猫柄の入ったYシャツ、そして前掛けになんか文字が書いてある・・・えっと・・・

 

「・・・? 猫喫茶・・・陽溜まり・・・にゃんにゃん?」

 

「あっと、まずは自己紹介、だね

特異災害対策本部二課、一応民間協力者という形で協力しているよ、そして、猫喫茶の店長をやらせて貰っている

凪 翔希、僕の他に猫の店長にリューシェが居るんだけど・・・まぁ、後は来てもらってからの方が良いね」

 

 

「・・・どうも・・・」

 

「お、お姉様・・・あ、宜しく・・・お願いします?」

 

こいつも、何か隠しているタイプか・・・

やはり大人は―

 

「あ、一応年齢言っておくと多分セレナさんが思ってるほど年上じゃないよ、それにまだ20ぐらいだしね。」

 

「アンタまだ20だっていうの・・・信じられない」

 

コイツ絶対30代かと思ってたのに・・・姉さんが生きてたら年が近かった訳か・・・

姉さん・・・

 

「・・・!? お姉様、涙が・・・」

 

「っ、何でもない! ・・・ごめんね、クリス」

 

「大丈夫だよ、お姉様」

 

そんな私を抱きしめてくれるクリス

やっぱりクリスは優しい・・・こんなに荒れた【優しさ】しか持ってない私をこんなに優しく抱いてくれる・・・だから安らげる、私のヒカリ・・・

 

「ゴホン・・・あ~、すまない、兎に角、君達の衣食住は彼に言ってくれればなんでも取り揃えてくれるが、他はリセ君に任せるか」

 

「・・・ただ住んで居るだけでもいいの?」

 

「ああ、俺は構わないと思っている

それだけ辛い人生を歩んできたんだ、だったら羽休めをしても―」

 

「だから!これ以上の苦しみを――しない為に!あいつを・・・! フィーネを!!」

 

「落ち着いてセレナさん!

・・・弦さん、精神安定剤を使ったほうがいいのでは?」

 

「いや、彼女たちの意思を尊重する以上、俺も必要以上のことはできん」

 

そこで頑なに止まり黙り込む二人・・・チッ、これだからこういうやつらは

 

「甘ちゃんすぎんな・・・だから助けるのがいつも遅いんだよ! てめぇらは!」

 

「っ!? 痛いところを突いてくるな・・・」

 

私はもう話を聞く気もなくなったから荷物をそろえて外に出ることにした

敢えてクリスを呼ばなかったのは、情報収集のためでもあるけど・・・

声がギリギリ聞こえる外で煙草を咥える、でも火はつけない、ただ口さみしかったから咥えるだけである。

すると中から話し声が聞こえてきた。 ギリギリ聞こえるとはいえ、外でもだいぶ聞けるぐらい

 

「あの・・・お姉様を見捨てないでください」

 

「クリス君、それはわかっている、勿論その中に君も含まれているさ

しかし、義理の家族にしても、君と彼女では全く正反対に思えるのだが何故共に?」

 

「それは・・・話すと長くなりますから、わたしがお姉様をお姉様と慕う理由を言ったほうが良いでしょうか?」

 

あ、あぁ、頼む、と一言お願いすると、彼女の口から今まで少女が口走った最悪をどれだけその身に受けて、そして呪ってきたのか、言葉だけでなく、彼女たちの記録を残したデータでも残酷さが確認できた。

そうして弦十郎は思った、彼女は・・・彼女たちは間違いなく黒だと・・・

そしてそんな彼女たちを作り出してしまった【フィーネ】という存在も、また真っ黒であると。

 

「ただの人の最悪であればいい、わたしはそう思ってました、ただ、わたしがどんな目にあって居たとしても、最後には必ずお姉様の背中を見るんです、それで、わたしはこの方の為に生涯をささげられると思ったんです。

出会いこそ施設の爆破によるものでしたけど・・・でも、そんな出会いでも、わたしは・・・お姉様を・・・

グフッ、ガハッ!??」

 

「なっ!? 大丈夫か!?」

 

唐突に咽てナニかを吐き出した・・・あれは、血か・・・!?

 

「凪! 至急救急を・・・!?」

 

「弦さんそれは無理です!

そもそも、どことも分からない、身分の証明ができない彼女たちを入院させるどころか治療してもらえるか・・・」

 

「ックソ! また俺たちは無辜な命も助けられないのか!」

 

「何があった!? ・・・ッハ! クリス!!!」

 

外に出ていたセレナが猛スピードでクリスに抱き着き容体を見ていた・・・が

 

「だ、大丈夫だよ・・・お姉様・・・わたしは・・・平気だから」

 

「平気なものか!、なんでクリスはいつもいつもそうやって隠し事するんだよ!

辛いなら辛いって言ってくれよ! 私じゃ頼りないのか!」

 

「ううん、そうじゃないよ・・・わたしは・・・お姉様の夢を叶えるための道具になりたかっただけ。

だからお姉様、道具に対して泣かないで」

 

「違う! クリスは道具じゃない! 私の大切な家族だ!

お願いだから! そんな悲しい事言わないで! ねぇ、私の大切なクリス!」

 

そういって抱きしめられて微笑む彼女・・・そこで弦十郎たちは気付く

彼女の異常さに、彼女たちの在り方に・・・だがそのうえで

 

「・・・はい、はい、要救護者二名これから乗せていきますので準備をお願いします。

はい、またあとで」

 

「クリス・・・公的機関に突き出すのか・・・!?

それに二人だと!? 私もか!」

 

「君もだよ、セレナさん

二人とも病気を患っている可能性がある、だから僕は・・・弦さん、彼女達を送ってもらえますか?」

 

「当然だ! 場所はどこだ!」

 

そんなことをいってる間に、クリスはまた咽ていた・・・クソっ! 私は、また守れないのか!

・・・? あれ、頭が・・ぼぅっとして・・・それどころじゃないのに・・・何で。

 

「やっぱり、セレナさん!少し身体を触らせてもらいます!」

 

「ふれ・・・るな! 私は・・・っ!」

 

衣服の間に仕舞っていたナイフを取り出し迎撃しようとしたけど力が入らない

ヤバイ、身体が・・・重い、これは・・・毒か・・・?

そうこうして倒れる私を凪という男が仰向けにしてきて、衣服を脱がし、腹部を探っていた

 

「・・・これは・・・弦さん!僕は彼女を運ぶ、弦さんはクリスさんを!」

 

「ああ!任せろ! 一直線に向かう! 場所は―」

 

そこまで聞いて私は意識を失ってしまった・・・

敵を目の前に意識を失うなんて・・・私も終わったか・・・な・・・

次目覚めたときは、また地獄なんだな・・・

そう思い、目覚められない瞼を恨みながら意識は深淵へと向かって行った

 

 

-------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話

こっちの方がストーリー書きやすいとか思ってしまった。
因みに、弦十郎さんと会っているときの年齢はクリスが14、セレナが16ぐらいです。
あ、誕生日前なので13と15ですね、はい。
体の成長は聖遺物により明くる方向に向かいました
・・・そう考えるとセレナ十歳でそこらへん渡り歩いてたのか・・・
そりゃ精神コワレ・・・うん何でもない
では、


深淵―いえば確かに簡単に周りを表現できる言葉だ

私は・・・確かあの二人の男の前で気を失ったんだ・・・

だけど、ここは・・・今まで見たことのない深淵・・・

 

「一体・・・何が・・・?」

 

深淵の向こう側に小さな光が見える

それを追いかけて見ながら、この場所を見渡してみる

ある場所は真っ暗で、簡素な作りの部屋、またある場所は誰かが何かに繋がれている部屋

ここは―

 

「覚えてる? わたし」

 

光が徐々に集まってきて辺りを照らしたかと思うと、小さな少女の姿が見て取れた

今の自分よりそれなりに背が小さく、まだ成長途上な姿

背中まで伸ばした亜麻髪に赤い長そでの上着に、黄色いワンピースを着つけた少女が目の前にいた。

・・・そう、あれは―

 

「私・・・、いえ、貴女は、【純潔】と言った方が良いかしら?

ねぇ、わたし?」

 

目の前の少女・・・そう、現行世界であれば、彼女の亡くなった歳での姿がそこに顕現していた

 

「ここがどういう場所か、分かる?」

 

わたしの問いに私は素直に答える

 

「自分の精神世界とは・・・私も本当に壊れたものね」

 

しかしその言葉に少女は悲しそうな表情をし目を伏せ、首を横に振ってから告げてきた

 

「違う、違うよ! 【あなた】は壊れてない!

だって、大切なものを守ろうとした【あなた】は! 紛れもないわたしだったから!

 

自分に対して【あなた】か・・・どんだけ甘ちゃんなんだ、昔の私は。

 

「そう、じゃあ紛れも無い【貴女】なら、人を殺す術も、人を物としか見ない奴らを潰す事にも厭わない【私】も【貴女】なのかしらね?」

 

それに―

 

「この場所は、本来あるべき【わたし】と出会う場所だって言うなら、もう出会うべきじゃないわ【純潔】

貴女は貴女の要られる世界にいるべきよ」

 

成長している私と未成長のわたし、その隔壁は確かにとてつもない差があるかもしれない

ただ、それは身体の差も有るかもしれないが、心は―

 

「ネフィリムを封じて、姉さん達に後の世界を託す【わたし】が存在していないこの世界で

【わたし】が本当に【わたし】でいられなかった・・・それは分かってる。

だけど、ううん、だからこそ! 今度こそ信じて欲しいの! 誰かを、大人を!」

 

「っ!? 貴女・・・今、大人を信じろと、言ったのか・・・あのクズどもを・・・信じろって言うのか! 私も、クリスも殺そうとしたあの大人どもを!」

 

「あの人たちは違う! マムだって優しかった! どんな大人だって皆が皆そうじゃないって貴女だって分かって―」

 

「黙れ幻想! 所詮貴女はこの世界じゃ何の力にもならない幻でしかない!

だったら、何で辛かった時に出てきてくれなかったの! 貴女がいてくれたら、違う答えがあったかもしれないのに! 何で今更出てきて母親面するのよ!」

 

私は何もかも捨てる様に吐き捨てる、周りは私達がかつていた施設の広間が映し出されていた

・・・でも、それでも私は―

 

「恨む理由も、憎む理由もわかる、だけど、相手にだって理由が―」

 

「そんな甘ったれたモノで分かりあえると思うな!

私だって、最初はそんな幻想を見たよ・・・けど、大人どころか、まだ学生の奴らですらも私を、私達を玩具を見るような目で見ていた・・・そうだよ! あいつらにとって私達は所詮【道具】でしかなかった

ある奴は性欲の捌け口に! またあるやつは便利な道具に! 違う奴は殴りつけるだけのサンドバッグみたいにされたこともあった!

そんな奴らに何が聞ける! 何も言えやしない! 何も聞けやしない! ましてや聞いたところで【道具がしゃべるな】だ!

そんな奴らが、そんなものが所詮人間だ! それだったら・・・そんなんだったら・・・私は・・・最初から!」

 

ウマレテコナケレバ・・・そう言おうとした所、また違う場所飛ばされた

今度は色がはっきりついていた、でも、この記憶は・・・

 

「ねぇ、覚えてる? あの時マリア姉さんが言った言葉」

 

あの時? 一体いつの話?

ソレを思い起こそうとして、その場所に私たちの知る人達が集まって来た

皆で思い思いの話を語っている、その中で、ある詩が聞こえてきた・・・これは

 

「Apple・・・?」

 

「マリア姉さんはいつも大切にこの歌を歌っていたよね。

その声は優しくて、包み込んでくれるようなそんな歌・・・

もう、忘れちゃったのかな・・・って思って」

 

その後に、何か言葉を紡いでるマリア姉さん・・・

もう会えないのに、もうこんな歌を聞けないのに・・・なんで、なんで

 

「幸せそうな顔してるの・・・姉さん・・・」

 

「マリア姉さん、歌った後に決まってこう言うの」

 

貴女だけは、幸せに生きて・・・だって、セレナっていう名前は・・・

 

「穏やかな・・・夜・・・そして私のギアイメージが・・・」

 

「百合の花、夜の世界に凛と咲く、世界を明るく照らす白い花」

 

もう一人の【わたし】が、慈愛に満ちた表情でこっちを見てる

・・・ねぇ、わたし、本当に・・・私として生きていて・・・いいの?

 

「それをわたしは否定しないよ、だって、【あなた】は【貴女】であり、【私(わたし)】だから。

そ、それにね、なんか妹が出来たみたいで、嬉しいんだ・・・不謹慎、だよね、ごめん」

 

「・・・私が妹なんだ・・・そっちの方がちっこいのに」

 

ちっこいって言わないで! と、頬を膨らませて怒るもう一人のわたし

でも、そっか、と一息つくと、怒りでぎゅうぎゅうだった頭が不思議と晴れ渡っていた

そうしていると、周りの景色が白んできて、もう一人のわたしも薄くなり始めていた・・・

 

「えっ、待ってまだ話したいのに!」

 

「・・・今は、ここまでみたいだね・・・」

 

すっと、私の横を通り過ぎて歩いていく・・・何処かに向かうように

一瞬私は俯いた、けど、すぐ後ろを振り返り彼女に触れようと手を伸ばす

 待って!私はまだ―

 

「大丈夫、また会えるよ・・・だからその時まで―」

 

笑顔のサヨナラだよ―

 

 あなたに感謝を言えてないのに―ッ!?

 

そこで意識が再び途絶えた

こんな景色、クリスを助けてからも見たことなかったのに・・・まだもう少し居たかったのに・・・

そう考えているうちに私は、今(現実)の世界に振り落とされていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

scene to by クリス

 

凄い吐き気がして、痛くて、辛くて・・・けど、お姉様に心配かけたくなくて。

一生懸命頑張って来たんだよ? でも、結果が見えなくて・・・

だけど、お姉様は【大丈夫、私が居るから】って抱き締めて、安心させてくれる

もし、フィーネが居なかったら、出会えてなかったかもしれない・・・けど

もしも、その人が居なくて、平和にお姉様と会えていたら・・・どうだったのかな?

分からない・・・分からないけど・・・?

あれ、わたし・・・何処・・・ここ?

 

「やっと来たか、来るのがおせーよ」

 

そこにいたのは、髪をツインテール状にリボンで結って、赤い長そでの柄物ワンピースを着ているもう一人の【私】がそこにいた。

来るのが・・・遅い? まるで待っていたかのような言い方に、私は首を傾げ返答せずに待っていたら

 

「おいおい、もう一人のあたし様は悠長だな、それとも、本当に頭が空っぽなのか?」

 

む、失礼な、私はお姉様の為なら何だって覚えてきたし、何でもやって来た。

だから頭が悪いなんて言われたくない

 

「あ~、お前、アレだな、一途過ぎるってーのか?

まるでアイツと同じみてーな感じだな、ま、あっちの方がマシか・・・ましか?」

 

なんか自問自答してる、それより、何であなたはここに?

 

「何でって、あ~・・・まぁ、あれだ、ちょっとした優しさってやつかな?

それにな、私もなんで呼ばれたか分かんねーんだ」

 

そう言って右手で頭を掻き、どうすっか、と悩ましげにこっちを見ていた

そんなのこっちが聞きたいよ、私だって、お姉様の願いを叶える事に一杯一杯なのに―

 

「あ、言いてー事はその事だったわ」

 

その・・・事? もしかして、お姉様の事?

 

「いや、その言い方だよ、いつまで知りもしないアイツの事を【お姉様】なんて枠に嵌めて話してんだよ。

アイツはセレナだろ? 確かにアイツには義理の姉妹みたいな関係のヤツも居たかもしれねーけど・・・けどさ」

 

一息溜息を吐いて次の言葉を継いで来た・・・でも、その先の言葉は、出来れば聞きたくない、私は・・・わたしの・・・せかいが・・・

 

「お前も、あいつも、この世界で一人しか居ない【他人】だ、いつまでも一緒に居れる訳じゃない。

ましてや、そんな主従関係がいつまでも続く訳がない、分かってんだろ? なぁわたs―」

 

「ふざけないで・・・ふざけないでよ! 【あたし】!

確かに、お姉様との関係は歪で可笑しいかも知れない! だけど、それでも私にはもうお姉様しか居ないの! 何かある貴女とは違っ―」

 

「違うだと! 何を言ってやがる! あたしだって、あたしだってなぁ!

アイツらと出会うまで何もなかった! フィーネに出会うまで私は空っぽだったんだよ!

でもそんなのに依存した挙句また空っぽになっちまって、それを【アイツら】は手を握って助けてくれた。

互いの事情も知らないあたしをだ! だけど、お前とアイツの関係は―」

 

だから・・・やめて、それ以上は言わないで・・・ワタシガ・・・コワレルカラ―

両耳を塞ぎ蹲ろうとした【私】、だけど身体は動かずに彼女の言葉を、【あたし】の言葉を聞き入れてしまう・・・嫌なのに、もう聞きたくないのに―

 

「道具と破壊者の関係は、すぐに破綻する、覚えとけよ私・・・

お前はすぐにでも選択を迫られる、それは明日かも知れないし、フィーネを殺した瞬間かもしれねぇ。

もしそこまでやっても、お前が崩れずに【ソレ】を保ってられるってんなら―」

 

そこまで言って、一呼吸、だけど、私は流されるままに聞き届けた―

 

「お前はもう・・・【雪音クリス】じゃない―」

 

否定、その一言に尽きた

私は・・・わたしは、雪音クリスとしてここに居る筈なのに、もう一人の私は、私として見てくれていない・・・それはもう、ゴミを見るような眼だった・・・だけど

 

「けど、それでも良いかも知れねーな、勿論アンタにとっては、だけどな・・・

いつか、その反動はあんたに返って来る、家族じゃない方が良かったという日が来るかもしれねー。

けど、それでもあいつを、セレナを見つめ続けるってなら、あたし様から言えるのは一つだ」

 

残酷、だったけれど、彼女はそれだけじゃなかった

確かにモノによっては酷い言い様だけれど、それは心配故にだ、決して見放す為じゃないと今の自分には理解が出来た、その上で、彼女は・・・もう一人の私はある一言を継いで、消えかける世界を歩いて行った

ただ、その一言は、私をまたお姉様と進ませる為の一言だった・・・ただ―

 

この世界での記憶は・・・おそらく覚えきれてないから・・・だから一言こういった

 

「有難う、本当の【わたし】、貴女の言った道は、絶対に間違えない!だから―」

 

 

静かに見守っていて・・・それだけを残して、私は、【あたし】に別れを告げた

心苦しかった、だけど、不思議と悪い気分には成れなかった。

だって、【彼女】は先を見ていた、そして私に忠告してくれた。

このまま進めば身を滅ぼすことになると、そう言ってくれたから・・・だから―

 

 

 

「私は絶対に見捨てない、お姉様も、私達を助けてくれた人たちも・・・父様も、母様も・・・」

 

もう昔のようには呼べないかもしれない、だけど彼女はそれでもいいと言ってくれていた

だったら進もう、私は私らしく・・・そうある為に歌がある。

歌は嫌いだった、でも彼女の歌った【言葉】には暖かさがあった

だから、もう一度歌を信じてみようと思った、父様が、母様が恋した【歌】を――

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

一方、彼女たちがそんな夢を見ているとは知らず、弦十郎たちは彼女たちの治療を出来る医者の居る場所に来ていた

彼女たちは今集中治療を受けている最中だが、弦十郎はここでじっとしている訳にもいかず、一度二課に戻り、彼女たちの回復を待つことにした

その間、彼女の状況は逐一猫が報告してくれていた・・・そう、猫がである。

 

「そうか、まだ目覚めてないんだね、有難うクロエル、ゆっくりしていていいよ」

 

そう言われた黒斑の雌猫がにゃ~と長く鳴いてソファーで寝転がる

あれから数時間は経っていたと思う、そう考えると、彼女たちの状態は芳しくないと思える

尚、医者の所には定期的に猫が向かっている、その猫に当の医者が定期的に報告書を書き渡している

その報告には、「まだ目覚めてはいないが、容体は安定している、暇になったら見に来な」と強めの口調で書かれていた。

 

「・・・公的機関は使えない、そして弦さん達が信頼する櫻井了子主任は・・・駄目だ

恐らく彼女たちが暴動を起こしかねない、色んな意味で。

とすると、やっぱり闇医者の存在が重要になってきてしまう・・・

つくづく嫌になるね、全く」

 

そんな愚痴を吐きながら、料理を運搬していた、明らかに聞かれてはまずい内容だが、今はこの店舗は二課の臨時事業所と化している

 

「すみません、わざわざ迷惑をおかけします」

 

物腰柔らかに緒川がそんな事をはなし、次に

 

「あたし達以外の装者がどんな子か気になるし、勉強もこっちの方が捗るからな~

な~、翼?」

 

現在活動中の人気アイドルユニット、ツヴァイウィングの紅い片翼が猫撫で声で話しかけるは

 

「奏はただ気が抜きたいだけじゃない、それにこんな所じゃ猫たちに構ってばっかで勉強も進まない・・・あ、まって、ロー次郎」

 

同じく、ツヴァイウィングの蒼い片翼、此方は虎柄模様の猫を追っかけていた

 

「弦さん、いつも思うけど、ここを仮設本部にする意味ある?」

 

「了子君が猫嫌いなのが幸いしてな、君と話し合うのには此処が一番丁度いいんだよ。

それで、二人は無事なのか?」

 

はぁ、と溜息を吐き、検査結果の付けられた手紙を差し出す

その結果は少し意外なものになっていた

 

「む? クリス君の方は問題解決しているのか・・・妙だな、あれだけ血を吐いていたはず・・・」

 

「ま、そこは闇医者のやり方なんでしょうが、あの医者の様子で少し聞いてみたんですが・・・」

 

そこで、弦十郎に耳打ちをする、どうやら、あの闇医者と彼女たちは取引したことが何度かあり、お得意様だったというのが明らかになった、その上

 

「態々隠れずに堂々とそんな事を打ち明けたのか、彼女は」

 

「内臓提供は彼女の提案だったみたいです。

それだけでも、一般サラリーマンの年収は軽く超える程だったとか」

 

そう、しかもその上で死体の処理方法も教えていた・・・

あの小さな少女たちが生き残るには、やはり死体は重要だったのか・・・

いや、そうでなくても生き残れたはず・・・とすると・・・

 

「フィーネの情報を探っていた、と考えるべきか・・・」

 

「ええ、その線は濃厚でしょう。

それに僕も死体調査してみた所、土に埋まってたのも居ましたし

そちらの方は、特異災害対策機動部一課の人員も居たこともあってか、それなりの情報を抜き取られてやられたようです。

リセがその情報を猫たちから聞き出せたみたいなので」

 

「うにゃ? 翔希君呼んだ?」

 

天井の梁から、逆さまになってこちらに声を掛けてくる白髪短髪で、毛先は微妙にウェーブが掛かっている、特徴的なピョコピョコしてるネコミミと、毛がふさふさしている尻尾をふらふら揺らして、こっちに聞いて来たメイド服の少女

・・・店の仕事しなよ、リセ・・・

 

「だって、今一般客誰も来ないもん。それにもうすぐ閉店時間で夜間準備するにも、大体終わってるし。

猫たちも大体遊び疲れてダレてるし・・・勉強終わってるし、あ、そーだ。

奏の勉強見てあげようか?」

 

梁から、そのまま飛び降り、綺麗に着地する、猫たちも退避していて被害は無いけど、やめてくれないかなこれ・・・

それは兎も角、今奏さんは高校生だし、中学のリセに問題が解けるの?

 

「時間だけはあるからね~

ん、これ、奏の勉強道具?・・・って白紙じゃん!

今って確かそろそろ試験勉強の時期だよね・・・大丈夫なの?」

 

「え、奏!ちょっと見せて・・・え、ちょっと本当に大丈夫なのこれ」

 

「あ、え、ちょ、翼! リセ!そんな事言われても・・・」

 

わたわたする二人に遠い目をしだす奏さん・・・

よし、じゃあ勉強会始めようか、翼さんも良いよね

 

「ああ、奏の為に、心を鬼にして勉強に打ち込んで行こう!」

 

「そだね~、赤点だと休みの期間に入ってるライブが補習でそれどころじゃないもんね~

そんじゃやりますか~、確かテスト範囲は~」

 

そう言って、リセが奏の教科書の本を開いて範囲を指定している

・・・いや、何で君がその範囲知ってるの!?

 

「ん? リディアンの教科範囲は全部頭に入ってるよ?

いま中等部だけど、順位はわざとトップ取らないようにしてるだけだしね~

翼はどうなの?」

 

いや、まずその時点で君の頭は猫相当じゃないのは明らかだよ・・・

因みに翼さんは赤点を取らないようにそれなり頑張ってるようだ

 

「・・・すまない、リセ君、奏の勉強を頼む」

 

弦十郎さんまで頼み込んじゃったよ・・・本当に大丈夫なのかな、このアイドルユニット・・・

 

「うがー! なんだこれー!」

 

「奏、話を聞いてたら分かる問題だよ、これ・・・」

 

何か翼さんが涙流してる、あ、こっち見た

僕は微笑んで、ケーキセットの準備を始めた・・・ま、二課支払いだから別に気にしなくても良いかな

・・・さて、残る問題は、彼女たちが起きてから・・・だね

 

「すまないな、凪、君には苦労を掛ける」

 

「いいですよ、弦さん、それに苦労は買って出てなんぼですからね。

それに、助けたい気持ちは、皆同様にあるみたいですからね・・・」

 

そんな話を聞いてたのか、奏さんは勉強しながらも頷いていた

周りの皆も同様に頷き、次の一報を待っていた

 

 

 

少女たちの絶望を、終わりへと向かわせるために・・・

 

 

 




今回二課の一部の人と、オリキャラの場所【陽溜まりにゃんにゃん】を出させていただきました。
ええ、ただの溜まり場です、陽溜まりですからね

因みにお猫様は20匹以上いるらしいです・・・名前は全部考えるの面倒だからしないけど、取り敢えず結構な数は出てくる予定?

次回 弦十郎、動きます―


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第3,5話(幕間)

ちょっとシンフォギアXDの方にちょっかい掛けて掛けられていきます
主にクリスちゃんとセレナちゃんがー


本編(荒れセレ、臆クリ)に少し影響を与える妙なアレ出します




 

―並行世界で、セレナが目覚める少し前―

 

 

 

 

現行世界―XV終了後から~

 

こちらはいつもの提示報告として、各並行世界へ装者達を何人か飛ばして、向こうからも何人か来て報告しては色々雑談したりしていた。

 

「今の所異変も何もなくて平和ですね、こういう時が長く続けばいいんですけど」

 

と、事も無しに言うのは藤尭 朔夜の談である、が

 

「ちょっとやめてよ、こういう時にそういう事言う場合絶対何かあるんだから」

 

そう言うのは藤尭の隣でオペレーションしている友里 あおい、しかしそんな事が杞憂に終わるはずも無く・・・

ビーーーーーーー、ビーーーーーー

 

「何事だ!」

 

「-地区にてアルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「ここから近いです、装者達、出撃準備を!」

 

と聞いてる最中に、雪音クリスが率先して現地へと駆けていた。

 

「こちら雪音クリス、目標地点近くだと思うが・・・ノイズが見当たらねーぞ!?

場所を間違えたか?」

 

『いえ、そんな事は・・・!? クリスちゃん! 気を付けて!

巨大な反応が二体接近中よ!」

 

「デカい反応って・・・付近にゃ・・・!?

なんだあのバカでかいのは!?」

 

クリスのはるか上空、そこに巨大なアルカ・ノイズが二体浮遊し、くるくると回っていた

そこに、偶々S.O.N.G.に来ていたセレナが合流する

 

「クリスさん、状況はどうなって・・・うわぁ、大きい・・・」

 

同じように空を見上げそんな事を呟いていると、アルカ・ノイズから多量のノイズを吐き出しているのを見て取れた、それに反応して、クリスは弾丸の雨あられを打ち付けるが・・・

 

「ックソ、数が多すぎてマトモに迎撃出来やしねぇ!」

 

「クリスさん! 地上はわたしに任せて、空に居る母艦の迎撃お願いできますか?」

 

「・・・しゃーねーか、無茶だけはすんなよ!」

 

はい、と返事を受け、クリスは迎撃のためにチャージに入った

一方セレナは住民の避難を優先するため、経路上のノイズ達を次々に迎撃していっていたが。

 

「(なんだろう・・・ノイズ達がすごく・・・脆い?

それに身体が不思議と重い・・・なんで・・・?)」

 

そんな不思議な感覚を得ていたのはセレナだけでは無く

 

「(セレナが来てから感覚が妙だな・・・

いつもならもう少し準備に掛かる筈が・・・もう打てる状態になってやがる・・・何だ?)」

 

互いの疑問を不思議に思いながらも、今はアルカ・ノイズ達を討つ事を優先した二人

クリスの早いチャージのお陰で相手の母艦ノイズを迎撃し、撃破に成功したのを確認し、セレナへと合流、残りのアルカ・ノイズ達を殲滅し、事なきを得た・・・筈だった

 

「ふぅ、これで全部か・・・お疲れさん、セレナ・・・?

お前、顔が真っ赤だぞ!? 熱でもあるのか!?」

 

「ふぇ? く、クリスさん!?

だ、大丈夫です、ただ、戦っている間、不思議と体が重くて・・・ノイズは簡単に倒せたんですけど・・・何か・・・不思議な・・・かん・・・じ・・・に」

 

おい!?セレナ! と叫ぶクリスを見る事もなく、その場で崩れ落ちるセレナ、その表情は無事なそれとは程遠い状態であった

 

「こちらクリス! 救急を急いでくれ!」

 

『クリス君! 何があった!?」

 

「セレナが高熱を出して倒れちまった、急いでくれ! 早く!」

 

『あ、ああ分かった、だがまず君も落ち着いたらどうだ?』

 

「落ち着けるか! 人の妹を守る筈がこの様だぞ!

私だって守りたいもの位・・・ア・・・レ・・・なんで・・・重・・・く・・・?」

 

『クリス君!? クリス君! 返事をしてくれ! クリス君!」

 

セレナの時と同様に地に倒れ伏してしまったクリスは、若干の後悔とやるせなさを思いながら、夢の中へと落ちていった

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「装者両名回収完了しました」

 

その緒川の報告にS.O.N.G.は一同安心はしていたが、それでも二人とも昏睡状態から目覚めた訳では無い

一応海外で任務行動中のマリア達にも連絡を回し、現状は不明だが命に別状はないらしい、と言う事だけを伝えておいた・・・が

 

「二人とも、やけにうなされて居るな・・・この症状・・・前にもどこかで・・・」

 

そう、二人がうなされている状態は、以前にも見た覚えがあった。

とはいえ、現状でも様々な現象が起きているため、それが何だったかまでは、はっきりと思い出せないでいた・・・が

 

「師匠! クリスちゃんとセレナちゃんは無事なんですか!?」

 

「おお、響君、無事帰って来てくれたか、それに未来君も」

 

はい、と未来の簡単な挨拶も早々に、響たちはクリスたちの様子を見に行っていた。

それぞれのベッドで横たわり、いまだに起きる様子のなく、うなされる様に苦しむ二人

だが、未来はその姿を見て何か思い当たる節があったようだ

 

「・・・これって、あの時の響と同じ・・・?

でも、たしかもう一人のクリスは以前会ったって話してましたよね?」

 

未来の言葉にハッと気付き、ギャラルホルンにまた何かあったのかと思いはしたが

アラートが無い以上、それ以上の詮索は出来ないでいた

 

「ふむ、二人の容態が以前の響君と重なるならば、その並行世界に赴き異変を解決したい所だが・・・」

 

「その並行世界か分からない以上動けない・・・ですか?」

 

ああ、と返事を返し、二人の様子を交互に見ては、何度か手を握り落ち着かせようとワタワタする響を見やって次の一手を考えていると

 

『司令! ギャラルホルンから正体不明の装者の反応を確認!』

 

いきなりのアナウンス、すぐに指令室に向かおうとした瞬間―

 

「やーっぱりこうなっちゃってたか・・・成程、表に出やすい訳だね~」

 

眠っている二人の間にいつの間にか白髪の少女が入り込んでいた。

 

「っ!? 何者だ! 君は―」

 

「あー、一応説明はするよ、向こうのセレナちゃんがド派手なことを仕出かそうとしてたから、報告と確認を・・・ね?

あ、でも、ちょっと休憩して良いかな? 時間渡航してるからちょっと覚束ないんだ~」

 

そう言ってふらふらと椅子に腰を掛ける少女、しかし割としっかり立っているように感じるが・・・

そうは思ったが、重要参考人の彼女に無理強いをして機嫌を損なわれても叶わないと判断した弦十郎は、カフェスペースでの雑談を提案し、その少女も乗っかってくれた。

本来、指令室で行うべきであるが、彼女の情報は現状でも最も欲しいものだと判断できたので、一応の譲歩として監視カメラや会話の録音は許可してもらった

そうして、彼女はコップに口を付け一飲みし、一言

 

「まずは・・・自己紹介からだね~

私の名はリューシェ=リセ、どっちで呼んでも構わないよ、どっちも本名だしファミリーネームは無いしね~、一応あちら側だと二課所属の装者って事にはなってるよ、ま、だから来たんだけどね」

 

「だから来た・・・? とすると、そちらはギャラルホルンの存在を分かっているという事か?」

 

因みに、響と未来はクリスたちの様子を見ているので、今ここに居るのは弦十郎とエルフナイン、そしてこの少女、リセの三人だ。

 

「いや、ギャラルホルンを知ってるのは二課の人達じゃないんだ~

これにはちょっと訳ありでね? ま、話しても本題から脱線するから、そろそろ話したい事に行くかな?」

 

「あの二人の状態を調べた結果、以前響さんの身に起きた現象と似たことが起きていました。

厳密には多少の違いはありましたが、それでもあそこまでうなされるというのは、一体何が―」

 

少女の話を先に聞き出そうとエルフナインが真直ぐに聞きに行く、しかし少女は

 

「真直ぐに誰かを救いたい、と思うのは悪い事じゃない、けど、行き過ぎると火傷するよ?

ま、君はもう火傷した後みたいだし、無駄な忠告かも知れないけどね~

・・・さて、じゃあ向こうでのセレナさんとクリスの様子を・・・一応データに入れてあるからこれを見て欲しい 後、部分的に戦闘データも入れてある。

正直言うと、私達が束になっても勝てるかどうか怪しい二人よ・・・それだけ実力があるの」

 

彼女がデータチップを取り出し、映像出力デバイスに接続、すると、その時の状況や彼女の戦い方などが立体で出力されていた。

 

「これが・・・セレナ君なのか?」

 

高身長で細身、そしてその体を外套で覆い隠し、繰り出されるナイフの嵐はまるでマジシャンのソレだった

 

「一つ一つのナイフにはギアを貫通して直接身体に作用する神経毒や、徐々に体を汚染する遅延型麻痺毒など、例えギアを纏っていなくとも、彼女の身体能力は異常そのものと言えるわ・・・そして極めつけにコレ」

 

そうして、映像を早巻きにし、次はクリスらしき人物と一緒に戦っている映像が出されている

 

「今から流すのは、二人ともギア抜きの状態での戦闘よ、幸い近場の不良集団相手だったから此方も慌てることなく情報を集めることが出来た・・・まぁ、誰か助けられたわけでは無いけどね・・・」

 

彼女はその場の映像を見て、下唇を噛んで震えていた

 

「・・・強いが故に、助けることが出来なかった・・・か

だが、この銀髪の少女・・・クリス君か?

彼女はいったい何を撃っているんだ? 銃が見えないように思えるが・・・?」

 

「それに関しては書類があるわ、これを見てくれれば分かると思う」

 

急に性格が変わったように話を進めていく彼女

手渡された資料にはとてもじゃないが携帯できないものまで書かれていた

 

「これだけの銃火器を・・・一人で持ち運んでいたのか?

それにしては無理があるだろう、俺でも流石に二本の腕で持ち運ぶには無理がある」

 

ただ、纏めれるものがあれば持っては行けるが、と付け足しておく

 

「それが出来るのよ、何処で習ったか分からないけど・・・ねぇ、こちらの弦十郎さん、このキューブについて見覚えある?」

 

「!? アルカ・ノイズの納まっているキューブだとぉ!?」

 

机の上に置かれた真ん中に赤い玉が入れ込んである四角いキューブは、弦十郎たちも見覚えのあるものだった

 

「アルカ・ノイズに関しては今は知る気は無いけど、今このキューブの中身は空っぽよ

最も、再収納が可能か?と問われると多分不可能ね、恐らく使い切りのつもりであれだけの兵器を扱ったんだと思うわ」

 

「はい、あれらは使い切りの物を扱っていますから、結晶を割った瞬間に出た液体が化学反応を起こしその現象を発生させるものです。

キャロルも良く使ってましたから覚えています・・・しかし、それを別の物を入れ込むことに転用するなんて思いもしませんでしたが・・・」

 

「それが出来るという事は、高位な錬金術師と知り合いになっていたと考えるべきか・・・?」

 

「ええ、それについては現場にある名刺が落ちていたから、これがその資料ね」

 

更にもう数枚の紙を手渡してきた少女、その紙の中に弦十郎たちもよく知る人物の名前が書いてあった

 

「なっ!? アダム・ヴァイスハウプトだとぉ!?」

 

「な、なんでパヴァリア光明結社の統制局長がそちらに!?」

 

「あ、あいつ局長なんだ、後で報告しとこう~」

 

と、お互いに色々情報交換兼現状確認をしていた、しかし最も気になるのは・・・

 

「なぜ君は俺達の所に来たんだ、いや、違うな、来れたんだ?

ギャラルホルンとて、好きな場所に好きなように飛べるわけでは無いはず、それに君達とは面識がない―」

 

「けど私はこちらの弦十郎さんや響さん達を知っている・・・

ま、知っているのは【異世界渡航者】の私達だけなんだけど、今回は異変解決が目的。

場合によっては、いるかもしれないしね、カルマノイズ」

 

「なっ! カルマノイズの情報も知っているのか!

驚いたな・・・これでは君に渡せる情報が・・・」

 

そこで悩んでいると、彼女、リセから提案が出された

 

「じゃあ、深淵の竜宮に有ったとされる聖遺物の一覧とかある?

幸い、此方の方はまだ現存しているから、何か解決策に繋がると思うんだよね~

とはいえ、こっちじゃ私達の権限では中身を見る事も許されないし、こんな無茶なお願い聞いては―」

 

「いいぞ? こちらとしても、君の協力が欲しい所だったからな。

クリス君たちが動けない以上、此方も何人かを防衛に立てないといけない上、動ける人数に制限が出てしまうからな・・・」

 

「ふ~ん・・・じゃあ、こっちが問題が起きそうな時にこちらから連絡して協力してもらう代わりに、此方には私が協力者として、ノイズ退治に尽力させて貰おうかな。

とはいえ、ウチのリーダーに聞いてからだけどね~」

 

「そうなるか、だが、助かる。

とはいえ、セレナ君の世界に現状起こった事を話してこなければな・・・

誰か向かえればいいが・・・」

 

「私は今フリーだけど、こっちの装者というわけじゃないし、警戒されちゃうから無理だよね~

・・・ふむ、じゃあ響ちゃんか未来ちゃんのどっちかに行ってもらわないとかな?」

 

その間なら、私もこっちで迎撃の手伝いするし、と付け加えてくれた

装者が増えるのは嬉しいのだが、異変の解決を先送りにされている感覚は否めなかった

正直に言えば、少女たちを一刻も早くに助け出したい、だが―

 

「今あの子達の緊線に触れるのはやめておいた方が良い・・・

だからあなた達の力が必要になったらこちらから呼びに来るよ~

その間、クリスとセレナを宜しくしないとね・・・」

 

ハァ~、と深めの溜息を吐き、映像が一転していた

二人ともシンフォギアを纏った状態で何かに相対していたが、相手が分からない

そして一番の疑問が―

 

「セレナ君のコレは・・・イグナイトか?」

 

「いえ、彼女はギアを纏った時点で真っ黒だったわ。

恐らく精神的な問題でギアが変容した物だと思われるわ」

 

現に、彼女のギアペンダントは可動部が無く以前翼たちが纏っていた時のペンダントと形は同じだった

故にこうなった原因は何かと思うのだが・・・

 

「ただの心象変化にしては元となるモノが・・・呪物・・・しかしダインスレイフではない・・・?

一体何を元にあれほどの力を?」

 

そこまで言って考え込んでしまっているエルフナインを余所に、情報の書類云々を弦十郎に渡し、一旦帰還をすると言って、ギャラルホルンの所に向かって行く最中―

 

 

 

セレナァーーーーーーーーーーーー!!!

 

 

ナニかとんでもなく大きな声で来たピンク髪の女性、マリア・カデンツァヴナ・イヴが転がり込むように来ていた

その後ろでは、翼が眉間に手を当て、痛々しそうにしていたが、状況が状況な為に、一時帰還したらしい。

 

「司令! セレナは! セレナは無事なの!?」

 

「落ち着けマリア、大事は無いと言っていただろう?」

 

だけど、でも、と今にも泣きそうな彼女を見て、リセは・・・

 

「あっと、貴女がマリア・カデンツァヴナ・イヴさん?」

 

「え、えぇ、そうだけど、貴女は?」

 

「お初にお目に掛かります、私の名はリューシェ=リセ、どちらの名でも私と言う事をご理解いただけますようお願いします

それで、セレナの容態なんだけど・・・多分こっちのセレナとリンクしちゃったのが原因だと思うの」

 

「なっ!? それは、立花の時と同じか?」

 

「それに関しては私には分からない・・・けど、マリアさん」

 

一呼吸、未だに慌てているマリアをじっと見つめながら一言

 

「貴女は私達の世界に来るべきではないわ・・・

それは、あの子の心を壊すことになる、ただでさえ壊れた心を、無にしてしまうかもしれないから―」

 

未だに涙目のマリアが反論する

 

「私は・・・セレナを助けれないの? 私じゃダメなの? なんで!?」

 

「それは・・・弦十郎さん、あのデータを見せてあげられますか?」

 

ああ分かった、の返事の後に指令室で、先ほど見たセレナ、及びクリスのデータが流された

 

「・・・これが・・・セレナ? うそ・・・ウソよ・・・そんな・・・そんなはずは・・・」

 

「ごめんだけど、これが私達の世界の現実、恐らく今のこちらの時間軸とあなた達の世界の時間軸がずれてるから多少変遷したモノもあるかもしれないけれど

それでも、これを起こしたのは紛れもなくセレナ、そして纏うギア、アガートラームによるものよ」

 

そして、ともう一つ付け加える

 

「この世界の約3年前がいま私たちが活動している時間、つまり、此方の世界で起きたツヴァイウィングのライブの約一年前に該当するわ。

とはいえ、年始のライブも間近だから、セットとか色々忙しいみたいだけど・・・」

 

「待ってくれ、どうして君はそこまで知っている?

それにこれから起こる事を予知している様な―」

 

「言ったでしょ? 私達は【異世界探訪者】世界と世界を渡り歩く者。

私はその先兵に過ぎない、リーダーは元の世界、こことは全く関係のない世界に鎮座して私達の行動を監視しているよ

そして私がこっちに来た理由は―」

 

そう言って、まだ残っていたのか、一枚の紙をエルフナインに差し出してきた

 

「あなたの言った【ダインスレイフ】、多分これがセレナの力の抑制につながると思う・・・

だから、欠片でもあれば欲しいのだけど・・・」

 

「あ・・・すいません、ダインスレイフは、響さん達のギアをコンバートする時に大部分の力を使ってしまって、一応は物は有りますけど。

効果は、あまり見込めないかもしれません・・・すいません、あまり役に立てなくて」

 

そういって、出してきますので待ってください、と走って行ったエルフナインに礼を言って、少しばかり待つことに・・・

と、流れている映像は、夜の廃墟が映し出されていた

 

「・・・? ノイズも人の気配もないような場所だな? この映像はいったい・・・?」

 

「あ、ヤバ、ちょっと誰か映像止め―」

 

しかし時すでに遅く、ある時の映像が出力されてしまっていた

それを注視してしまった男性陣に友里は

 

「ちょっと! 男共は目を閉じろ!」

 

「お、俺は何も見てはいない、少なくとも映像部分は―」

 

弦十郎が頑なに映像とは反対方向を見て目をつぶっている

出力された映像は、廃墟の小屋の中で仲睦まじく裸で寄り添いあっているセレナとクリスの映像だった

幸い、音声は取られていないので何も聞こえてはいないが、もし音声まで入ってたらと思うと―

 

「ちょっと・・・え? ナニコレ? え? セレナ? え?あれ?」

 

「マリア、頼むから落ち着いてくれ、私も私が分からなくなりそうだ・・・」

 

と、映像が廃墟から離れた所で停止、そして映像をダウンさせ、これ以上は見る必要も無いと判断し、いつもの背景に戻っていた

 

「リセさん・・・なんて映像送って来てるの?」

 

「あ、あははー、はい、猫たちに撮って来てもらってたから・・・必然的にああなっちゃって・・・はい、後で編集するつもりが無編集でしたすいません」

 

そんな乾いた笑いをして、項垂れるネコミミ少女

 

「え? 猫が撮影・・・? 首輪にカメラとか仕込んでいたの?」

 

「あ、うん、ウチの猫たちは皆やる事はやってくれるんだよ~

猫喫茶をやっててね、ま、時間が合えば来てもらおっかな~今は無理だけど」

 

そういっていると、エルフナインがやって来た、正直あの映像をこの少女に見せなくてよかったと心底思っていた弦十郎たちであった

 

「すいません、少し時間が掛かってしまって、これが【ダインスレイフの欠片】です。

直に触るのは危険なので、一応箱に入れておきましたので、どうぞ」

 

「うん、ありがとー、ごめんね、バタバタしてるのにこんなことして貰っちゃって」

 

「いや、クリス君とセレナ君の為だ・・・しかし、大分と寝込んでいるな・・・やはり心配―」

 

と、いきなりに指令室の扉が開き誰かとみると―

 

「おっさん、心配かけたな・・・あたしは大丈夫だ」

 

「ちょっとクリス! さっきまでうなされてたんだから今はゆっくりしてた方が―」

 

「話は聞いてた、そっちのあたしとセレナがやばいんだろ?

それにな・・・夢の中で泣いてるもう一人のあたしに出会ったんだ」

 

「それって・・・あの髪が凄い長いクリスちゃん?」

 

「うん? なぁこいつは―」

 

ああ、と少女の事について簡潔に話、話しを進めた―

 

「はぁ~、フィーネに捕まらなかった上に、アイツが【お姉様】っていうセレナの事を・・・ねぇ

やっぱ、あたしがアンタらの世界に行った方が―」

 

「あ、それはダメ、まだ時空間が安定してないからやばい事になる。

まだ・・・そうだね、一月くらいかな、待ってもらっていい?

そのぐらいには、多分時間軸がどうにかなると思う」

 

一月、と時間提示されてしまった・・・と言う事はこちらは戦力を多少欠いた状態がそれだけ続くという事になる

 

「あたしは大丈夫だ、それよりもセレナの世界の方がやばいんじゃないか?

あっちの方は何人かを交代で見まわるようにした方が良いと思うぜ」

 

「そっかー、やっぱ他世界を守るS.O.N.G.は違うね~

ま、だから私達もあなた達を頼る事にしたんだけどね・・・っと、そろそろ戻らないとやばいかな!

じゃ、また今度お土産持って来るよ、それじゃ!」

 

そういって、こちらのギャラルホルンまで一直線に走って行ってしまったネコミミ少女・・・

しかしこちらはー

 

「あちらがアラートを鳴らしてくれるまで待機・・・か

どうにもならない・・・か・・・きついな・・・」

 

「司令、私達も外国で活動している訳にもいかなくなってきましたね・・・これでは」

 

「ああ? まだあたしの身体を心配してんのか?

だったら心配いらねーよ、それにこういうのは先輩も経験しただろ?」

 

だから大丈夫だ、と彼女は強気にそう言って此方の心配を止めた

 

「だが何かあれば言ってくれ、此方も最大限の支援をする」

 

「ああ、頼りにしてるぜ、おっさん・・・それに先輩たちもな?」

 

ああ、と返事を返しそれ以上は言及しないようにした・・・

しかしこの時この場に居る全員は気づいていなかった、たった一人、装者が居なくなっていたことに―

それは・・・未来だけが知っていた―

 

 

 

 

・・・現行世界編、一部完・・・

 

 

 

 




本編は進みませんが、彼女たちがあんな夢を見ている間、本来の彼女たちがどうなっていたかとか、グレビッキーの時がアレだったので、やっぱりセレナは一番反動大きそうだったので、こうしました、嫌いな訳じゃなく、セレナちゃんは大好きだよ?
XDの☆5カード一枚しか無いけどね!(セレナちゃんのは)
と言う訳で、白猫のちょっかいでした。


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第四話

回想・・・というかもう一人の自分との邂逅でしたが―
本編進みます、とは言え、ツヴァイウィングのライブの結構前ですが。
では・・・




・・・目が覚めた・・・最悪の目覚め・・・とは言えないかもしれない

夢の世界で何があったかうまく思い出せないながら、決して悪い夢じゃなかったと自負する

自分の姿を見てみると、患者衣を着せられていた、そして、少し横によぎる亜麻色の髪・・・?

私、こんなに髪長かったかな?

 

「おや、アンタの方が先に目が覚めたかい・・・意外に丈夫なんだね~いや、意外意外」

 

入口の方に、煙草を口に咥えた黒髪ミドルヘアーの天然パーマ状態で丸眼鏡を掛けた白衣姿の女性が立っていた。

あの男の仲間かと思い構えようとしたが

 

「落ち着きな、私だよ、悝嶺だ、それに誰もあんたら攻撃しようなんて馬鹿はここにはいないさ」

 

「クリスは・・・何処!」

 

はぁ~、と諦めたように隣のベッドの方を指さす

そこには枕を抱きしめて眠る銀髪の少女の姿があった

 

「一応完治させといたけど、しばらくは激しい行動禁止ね、あと、過剰なスキンシップも、っていきなり抱き着こうとしない!

というより本当に人の話聞かないわね貴女は」

 

少女との間にいきなり割って入り引き離そうとする、が

 

「別に抱き締めるぐらいいいでしょ? 私はクリスを感じてないとダメなの・・・

クリスが居ないと私は―」

 

「あーもう何でアンタはそういうコワレタ感情を・・・いや、アンタらの過去を考えたら当然か・・・

ま、良いよ、但しゆすらないようにね」

 

そう言って、彼女は道を開けた

? 過去を、知っている? 彼女とは取引上の間柄だから昔話は

 

「そこのお嬢さん、雪音クリスさんだったね?

彼女が私に色々話してくれたからね・・・それより、聖遺物、だったか?」

 

クリスを静かに抱き、クリスの温度を確かめる

うん、落ち着く・・・やっぱりクリスは私の陽溜まりだ・・・

そういえば、聖遺物・・・アガートラームとイチイバルは・・・?

 

「これ、大事なペンダントなんだろ、返すよ。」

 

そうして差し出された左手には二つの紅いペンダントが握られていた。

私はその二つを受け取り、一つはクリスの首に掛けてあげた

やっぱり、クリスには良く似合ってるな・・・

 

「一応言っておくが、あの大人たちには何もやらせちゃいないよ。

綺麗な美女が二人いきなり来るんだもん、流石に驚いたよ」

 

そう言って、端の方の机に置いてあったコップを取り一口

そうしてこちらの反応を待っているようだった

 

「・・・礼は言っておく、有難う・・・だけど、私は・・・」

 

「復讐、続けるんだろ?

だがそれで怪我をしないとも限らない

そこでだ、私と・・・いや、私達と契約しないか?」

 

ん? 契約・・・?

私はゆっくりクリスの身体から離れ、彼女の話を聞くように体を向けた

 

「うん、彼女を起こすと悪いから、ロビーに行こうか」

 

「クリス、待ってて、すぐ戻って来るから」

 

彼女の頬にキスをして、その場を後にした

 

 

 

―――――――――――――

 

 

闇医者の店・ロビー

 

 

闇医者、とは言え店の雰囲気は決して暗いものではない

それに表向きにそういう雰囲気にすればまず真っ先に疑われて終わりだ

だけど、この人【痣嶺(あざみね) 幽華】はそんなヘマをするような人間ではない

それはセレナもクリスも知っていたし、いい取引相手だと、そういう関係でいようとしていた

 

しかし、現状セレナはそんな取引相手と、新たな契約を交わそうとしていた

今度こそ地獄に堕ちるだろう、そんな予感を感じながら、彼女の行動を待った

 

「えっと、セレナさんは日本語は読めるかしら?」」

 

その問いは、弦十郎がしてきたものと同じだったが、実際言うと少し読める、クリスに至っては英文を日本語に、その逆も簡単に置き換えれるぐらいには頭がいい、というより何処で習ったのかというぐらい

だから私は前話したようにいった

 

「出来れば英文のものをお願いします。

確かに日本語は喋れてますが、それでも文字を習ってきたわけでは無いので」

 

あいよ、と言って、すぐ後ろのコピー機とノーパソで色々弄りだした

するとすぐに別の用紙が出てきた、早くない?

 

「今の技術の事を考えれば遅い方だよ、けど私はこのチープさが好きなんだよね~

ほれ、これで読めるだろ?」

 

英文訳された契約書類のような物を渡された・・・やるしかないか・・・

その横文字をジーっと見つめ妙な分が無いか探していると・・・

 

「ねぇ、衣食住は保証するものとする・・・って本気?」

 

「ああ、本気も本気だ、っつっても、保証するのはわたしじゃないんだがな」

 

? そういえば、私達と言っていたのを思い出す・・・という事は後ろに誰かいる?

 

「もしかして、二課の連中か?」

 

「はははー、鋭いな~、うんお姉さんそういうの嫌いじゃないよ~。

それに、ほら、お嬢さんたちノイズとも戦えるじゃない?」

 

そういって私の首元にぶら下がっているペンダントを指さす

ああ、そうだ、これって対ノイズ用の兵器だっけ、すっかり忘れていたよ

 

「今まで人に対してしか使ったことないような顔してるね、あんた」

 

「別に・・・こんな力炭素に使ったって無駄だって思ってるだけ。」

 

「ブッ、アハハハっ、ノイズを炭素呼ばわりかっ!

アンタいいセンスしてるねぇ~。

うん、やっぱアンタは野良で居させるには惜しい人材だ。」

 

そう言って笑顔で読み進ませる彼女

何か、これから何処かに飼われに行くようで嫌になる

 

「まぁ、そんなブスッとしなさんなって、絶対悪いようにはしない。

それにこちらで医療費は二課受け持ちになるんだ、アンタらは気にせず殺しなりなんなりしてくれりゃいいさ、そうすればこちらも提供臓器が増えて、アンタらも生活が豊かになってウィンウィンの関係になれるし良いんじゃないか?」

 

その言い方はまるでこれからも誰彼構わず殺しまわってくれって言ってるようなものだけど、二課がソレを許すとも思えない。

だから私は言ってやった

 

「アンタの行いが国家違反なのは分かってるはず、なのに国守の一つである特異災害対策二課が人殺しを容認するとも思えない・・・あんた、何を考えている?」

 

「う~ん、それに対して答えても良いとは思うけど、ね、一応はビジネスパートナーとしてアンタらを買いたいし、悪いようにはしたくはない、これは本音さ

でも、そのアクセサリ、【シンフォギア】を持っている以上、どの国からも付け狙われる事にもなる。

それにこの国じゃアンタは一級のお尋ね者だ、誰彼みられりゃ捕まえに来るわさ、なんせアンタの捕縛したりすりゃ億万長者も夢じゃないなんて言わてるぐらいなんだ、分かってるかい?」

 

それに関してはクリスに聞いた、外人の装いの人殺しの少女、捕まえれば国から破格の金額が貰えるとなっている現状、彼女が表舞台で平穏に暮らせる場所など、もはやこの日本(ひのもと)においては、いや、それなら他国に逃げれば何とかなるだろう。

だが、もう彼女はどの国も抱えたくないレベルの爆弾になってしまっている。

その事は彼女も分かっている、いや、分かったうえで殺戮者となってしまっている。

 

「だからこその私達の提案なのさ、幸い、アンタは顔は良いからね、あんたみたいなのが殺人鬼なんて普通は誰も思わないだろうさ、だから、これからは学園生活も視野に行動をして貰う事にもなるだろうね」

 

「はっ? それ本気で言ってるの?

こんな殺人鬼が学園生活送って良いとか思ってんの? 頭沸いてんの?」

 

私は考える中でそんな罵倒を口走っていた・・・すると

 

「いやいや、沸いてるのはお互い様だ・・・っと、大分話し込んじまってたな、来たぜ、迎え」

 

そうすると、近くから車のような音が聞こえる・・・

私は警戒するように裏に逃げようとしたけど・・・

 

「逃げなくていいんじゃないかな、セレナさん」

 

すると、逃げようとした先に、私に触れた変態男が正面に居た。

なに、この男忍者かなんか?

 

「ほー、やっぱ早いなあんさんは、車より先走りしてきたんじゃないか?」

 

「まさか、僕が早いのは短距離だけですよ、痣嶺さん」

 

「またまた~、そんな事言っちゃっていいの? 緒川君泣いちゃうよ~?」

 

「ははっ、緒川さんに泣かれたら流石に僕も困りますよ、あの人ほど強い【速さ】を持ってる人なんて早々居ませんよ」

 

何か肩で笑ってるこの変態男を無視し、取り敢えず、クリスの様子を見に行くことにした

あんな奴がいるんじゃ、逃げた所で追っつかれるのが落ちだろうし、クリスと一緒に居た方がいい

そうして私はクリスの居る寝室に向かって行った・・・後どうなるか分からないし、クリス次第、かな

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「セレナ君が目覚めたのか、それで、クリス君は?」

 

それから数分、弦十郎さんと翼さんも混じって会話を始めた

尚、翼さんがいる理由は猫に好かれないかららしい・・・臭うのかな?

 

「雪音クリスの方はまだ絶対安静が必要、短くても一週間は動かしちゃダメよ。

ま、でも一応吐血は完治できるレベルまでしといたから問題無いだろうけど・・・

ホンっとあの子達さまさまよ、いままで持ってこられた内臓見ながら治療したなんて普通におかしいことしたもんよ、ま、あの子達は移植なんて絶対しないだろうしね~

でもま、そろそろクリスの方も起きるんじゃない? セレナちゃんが見に行ったみたいだし・・・

それはそうと、風鳴、本当にあの二人を受け入れるつもり?」

 

「ああ、本気だとも、元より雪音クリス君を受け入れるつもりではあったしな。

だが、彼女たちがあそこまで捻くれているとは思わなかったが・・・

出来るなら、少しづつでも親子のような間柄を保てればいいのだが・・・」

 

「弦さん、流石に体格的ににきついと・・・いや、義理兄弟や義理親子でも体格差は考えなくても良いかな。

それはそうと、翼さんは彼女を見たとき、どう思いましたか?」

 

こちらの問いに翼さんは深くうなって答えた

 

「まるで、昔の奏をみている様な感じがした・・・ただ違うのは、守る物があるかどうかという所か・・・

しかし、いつまでもあの関係、というのは、やはり無理があるのでは?」

 

ソレを君が言うんだ・・・ふむ、なるほどね・・・

 

「翼さんも奏さんに大分依存してるけど、自覚なしか・・・成程ね。

ふむ、ところで、契約書類のサイン、serenaって書いてあるだけみたいだけど・・・

ファミリーネームは・・・?」

 

「どうやら本気で隠し通そうとしてるみたいだね~

しかし、弦くんたちの聞いた【カデンツァ】・・・はて?米国の何処かの名前かな?

 

「カデンツァ・・・か、前調べてみたけど、音楽用語でしか出てこなかったし、外国の有名な著名人って感じでも無かったから、やっぱり考えられるとしたら―」

 

「戦災孤児・・・ですか?」

 

翼さんの鋭い指摘、僕もそれを考えた、だけど

 

「そうなると、なぜシンフォギアシステムを扱っているかの辻褄が合わない・・・

それに、イチイバルは一度紛失しているから、恐らく何処かに持ち去られていたと考えられていたが、ちゃんとした装者に届けられていて安心はした・・・が」

 

「問題は、もう一つのギア、【アガートラーム】、これは了子さんも知らないの一点張りでしたから―」

 

「気になるとすれば、米国政府が極秘裏に研究されていた聖遺物だと考えれば、つじつまが合うが・・・しかしそうだとしたら、彼女は何故あそこまで怒りを?」

 

そう、彼女の怒りは、まだ話した段階ではこの国に来てからがほとんどだった。

だがそうなる前の状態はどうだったか・・・というのがまるで分らない

そうとなれば、やはり、櫻井了子が作ったのかもしれない、いや厳密には櫻井了子しかあのシンフォギアシステムを作り上げることが出来ない、そうである以上、彼女しか、あのギア【アガートラーム】を作る事も、その適正を調べる事も出来ないであろう

その上、アレが伝承におけるアガートラームと同じであるならば、ギア特性はもっと違うもののはずであるはず、だけど彼女は・・・

 

「ヌァザの銀の腕を指す【アガートラーム】、しかし彼が武器として扱ったものは【四至宝の剣=クラウ・ソラス】をギアとして転用されるはず・・・やはり、あのギア自体がアガートラームではない・・・?」

 

そこまで考えたが、答えが出る訳ではない上、現状の会話とは全く別の事なので今は考えなくていいだろう

 

「しかし、彼女が聖詠で【アガートラーム】と詠っている以上、間違ってはいないのだろう。

それに、櫻井女史が作ったうえでその存在を忘れたとすれば、辻褄が合わなくもないのではないだろうか?」

 

翼さん・・・流石の了子さんもそこまで頭悪く無いと思うんだけど・・・

ふとしたことで忘れてしまった、なら、ちょっとした用事程度で済むと思うけど、相手は聖遺物、そんな大それた事を仕出かしているのに、忘れる、というのは―

 

「ふむ、疑いたくはないが、了子君を怪しむしかないのか・・・これは」

 

「正直、僕もその説は避けたいところです。

もしそれが事実なら、僕たち全員了子さんに踊らされていたことになりますし、その上、彼女たちとの和解も遥か遠のいてしまいますから・・・」

 

一番現実的に考えたくない可能性、だが彼女たちの掲示した内容と、了子さんがひた隠しにする情報・・・

これらを合わせると―

 

「下手をすれば、櫻井了子は米国と手を組んでナニかを企んでいたことになります。

それだけは・・・それだけは決してないと思う・・・思いたいです!」

 

翼さんが思い切った発言で場が少しどよめく

うん、多分これは弦さんも思いついたことだろう

翼さんの気持ちも汲みたいし、でも、疑問は放っておけない

 

「そして最後に、俺達も知らない施設の名前・・・か?」

 

カ・ディンギル、と書かれた一枚の資料、緒川さんがそれなりの時間で集めたにしてはやけに少ないソレは、ほぼほぼ不透明で雲を掴む様なそんな話しか書かれていない。

 

「彼女たちの言っていた通りの意味しか分からない、か・・・やれやれ、嫌になるな・・・こんなのが大人だ、と見せ付けられているようだ」

 

弦十郎がため息をつく、それは僕も同じだ

それに昨日今日手に入れた情報をかき集めるなんて無茶普通は出来はしない

周りからなら【緒川なら】と、一言で片づけられる事もあるだろう

しかし彼も一人の人間だ、出来る事、出来ない事の取捨選択も多々あるだろう

だが、そんな彼が持ってきた情報の中には、二課へ向かうエレベーターの外に描かれた奇妙な絵が一つずつ印字されていた

 

「ここは、二課のエレベーターシャフトの・・・」

 

「ああ、外壁に描かれている模様だな・・・そういえば何も気にしてなかったが、あれらにも意味が有ったりするのだろうか?」

 

「確かに気になりますね・・・通常のエレベーターであれば、あそこまで細かな絵を描く必要も無いですから・・・

とはいえ、今日はこの辺にしておきましょう、お姫様達を迎えに行ってきます」

 

 

そう言うなり一瞬で姿を消した彼、凪 翔希の後を見ながら一言

 

「緒川さんが増えた気がして未だ違和感を感じます・・・」

 

「ああ、俺もそう思っている」

 

そう言ってる間にドタドタ音を鳴らして誰か来ていた

 

「弦さん! 翼さん! クリスさんとセレナさんが!」

 

「なっ! クリス君は絶対安静じゃなかったのか!?」

 

「それが、置手紙、しかも日本語で、【さようなら、もうあわないわ】って書いてあって」

 

「翼!至急彼女たちの捜索を、此方からもエージェントを出す!」

 

「僕も処理し終えたら彼女たちの探索に行きます」

 

「頼む! すまないな、凪、こんな事しか頼めなくて」

 

「いえ、偶には店に来てゆっくりしてくれれば僕はそれでいいので・・・

それじゃ、先行して行きます!」

 

扉の開く音と同時に消える、バンッ!と言う凄まじい音を出しながら

その後を追うように翼も街中を駆け出して行った

 

「っく! やはり、大人はみな、無力なのか・・・俺のやってる事は無駄なのか・・・?」

 

「そうじゃないでしょ、弦君、たとえ振り払われても手を握る事が大人の役目じゃないかしら?」

 

彼の握りこんだ手を両手で取って、手を開かせて片腕を置き握り返す、そうして微笑んで明日を見る様に忠告していた

 

「もし夢に挫けた少女が居たとしても、大人がその道をカバーしてあげないと、あの子達はまだ子供、危ない道ばかり通っていて、普通でいられなかった少女たち、でもそんな子たちに夢を与えるのがあなたの役目であり、導くのも大人の役目・・・でしょ?」

 

「ふっ、君にそんなことを言われるなんてな・・・俺も自棄が回っていたかもしれん。

おっし! ここはいっちょ派手にやるか!」

 

「こんな事とは言うけどね、この言葉、私は貴方から聞いたのだけど?」

 

「むっ? そうだったか? すまん。」

 

「いえいえいいのよ、まだであって間もない時の話だから気にしなくていいのよ。

それよりも、そろそろ彼女たち務所入りした男を殺すかもしれないわ」

 

「なっ! だがアイツは刑務所の中だ、どうあがいても殺すことなど・・・」

 

そうはいったが、彼女たちはシンフォギア装者、やり方は幾らでもあると考えられた

 

「用心に越した事はないわ、弦君、早くその犯人の保護に行きなさい!」

 

「ああ、すまない、世話を掛けた!」

 

そう言って勢いよく出ていく弦十郎を片手を振って見送る女性

そして煙草に火をつけて煙を撒く、そして一息・・・

 

「フィーネ・・・案外早く決着が付きそうね・・・」

 

そんな事も無い言葉が煙草の煙に消され、治療室の片づけを始める女性

その頬は何故か笑みに包まれていた―

 

 

 

 

 

 




色々書いてたらオリキャラ増える増える・・・
とはいえ、取捨選択は必要ですね。
次回、戦います、色々


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第五話

やっとの戦闘回です。
取り敢えずセレナちゃんの壊れ具合を表現できればな、と思いつつ。
では。


某所・刑務所―

 

 

悝嶺の発言から、あの少女たちの狙いが、あの時話した人物だった事を知った弦十郎は至急エージェント達を寄せ集め、刑務所の警備を行っていた

少女たちがあの場から離れて早3時間、もし来るのであれば、白昼堂々は無いだろうと思っていた。

そう・・・思いたかった・・・

しかし少女はきた、まるでそこに居るのが当然かの様に、悠然と現れた、しかも正面門を真直ぐに見据え、以前着ていたボロ布をまとい、カチャカチャと音を鳴らしながら・・・

そうして口を開く少女、弦十郎は何を聞いたとしても、動かないつもりでいた、彼女を止めるために、これ以上罪を重ねさせない為に―

 

 

 

「・・・やっぱり来たんですね、弦十郎・・・

全く、貴方がこんな所にあいつを匿わなければ、私は今日という日を満足に過ごせたかもしれなかったというのに・・・けど丁度良かった」

 

「丁度よかった、だと?」

 

一呼吸、そうして彼女は身を屈め、突っ込んでくる姿勢を見せた―

 

「偽善に塗れたアンタら大人を、こうやって殴り飛ばせるんだから!」

 

それからの行動は速かった、弦十郎はみるなり防御の構え、だが彼女は弦十郎の横を通り過ぎ、銃を構え撃ち込んできそうな瞬間、ナイフが見えない速度で舞っていた。

次に見えたのは、足の腱を斬られたものや、無抵抗に組み伏せられていくエージェントたちの姿・・・

 

「おい! 相手なら俺がやる! 彼らに手を―」

 

「だったらあんた一人で来なさいよ! こんな手を使うから、被害が増えるんでしょ!

そんなことも分からないの!? あんたらいったい何を守ってきていたの?

大人が・・・聞いて呆れる!」

 

ズダンッ! と大きな銃声が鳴り響き、最後までたっていた彼らも、皆倒れ伏していた。

ここまでで二分足らずである、しかし少女は

 

「遅い・・・明らかに倒すのに遅れた・・・

ギア無しがここまで鈍いなんて、私も廃れてるわね」

 

そう言い残し、持っていた銃を分解する・・・その上で、ナイフで掻っ捌いていた。

 

「君は・・・そこまでして彼を殺したいのか・・・

その上で、俺たちとも敵対するつもりか!」

 

弦十郎は激怒した、それは彼女に対しての怒りではなく、無謀にもこんな惨状を作ってしまった自分に対して、だがそれと同時に、彼女を何としても止めなければと切に願った

 

「もう彼を殺すのはついでで構わないわ

それより、弦十郎」

 

彼女は笑う、嗤う、哂う、嘲る様に笑った後、提案した。

 

「こんなとんでもない殺人鬼を仲間に入れたいなら・・・力で屈服させてみなさいよ!

大人お得意のその力でさぁ!」

 

彼女は怒りに震えながらも嗤っていた、いや、狂ったのかもしれない

だが、弦十郎はそれで力を振るうほどできていない大人じゃない

 

「セレナ君、君とは話し合えるはずだ。

互いに理解しあえる、俺はそう信じているし、ほかのやつらだってそのはずだ。

現に、腕を動かせるにもかかわらず、君を撃とうとしている人間はこの場にはいない。

それではダメか? 俺たちを信用してはくれないか?」

 

「話し合い? アハッ、そんなもの力にもならない!

結局は【力】が全て、力ない人は全て呑まれて消えるのよ!

昔の私だってそう! 力がないばっかりに大切な人を死なせてしまった! 悲しかった! 辛かった!

だけど誰も私のことを見なかった!結局はそうよね! シンフォギアなんて纏っている怪物なんか人として見るはずないものね!

だって、ノイズと戦える怪物なんか人として見るはずないもの!

貴方だってそうだ! 結局は装者だから私を誘ったんでしょ!

そんな目に見えた餌に釣られて、挙句私やクリスがどうなったか知ってる?

知るわけないわよね! 知れるはずがないでしょ! だって人っ子一人の全部を皆が皆知れるわけがないものねぇ!

だったら・・・だったら・・・」

 

そこまで言って一呼吸、その瞬間、少女の瞳から光という光は消え失せていた。

そうして、纏っていたソレを空高くに投げ飛ばし、一糸まとわぬ姿で言った

 

「コノセカイノスベテヲ、ケシテシマエバイイ・・・

イクヨ、アガートラーム」

 

 

-----Seilien coffin airget-lamh tron------

 

    望まぬ笑顔と寂しい力

 

 

瞬間、光の突風が吹き荒れる、あるものは壁につかまり、またある者は互いに握り合い踏ん張っていた

弦十郎とて、その突風に吹き飛ばされそうになっていた、それでも持ち前の力で踏ん張っていた

次に見えたのは先ほどの黄色い光ではなく、黒の奔流、全てが闇に包まれそうなほどの真っ黒な壁が出来上がっていた。

 

「これは・・・これほどなのか、君の中にある絶望は・・・」

 

周囲に吹き荒れる闇の螺旋、それはまるで呪いが渦を巻くかのようだった

そうして渦が球体へと変化し、彼女、セレナがアガートラームを纏い降誕する

先程纏っていたボロ布の衣服も、風に逆らうかのように、吹き飛ぶ事無く彼女の元に降りてきた

 

「・・・戦うしか・・・ないのか、俺は」

 

彼女の荒れ果てた素肌、そして栄養が足りていないのか、そこらは筋肉部分で無理やり見せているかのような、何処かでポッキリ折れてしまいそうな身体

だが、彼女の気迫は、それを超えて余りある実力を語っていた

 

「拳を構えなさい、弦十郎・・・そうじゃないと」

 

一歩踏み込み、両手には数えきれないナイフの束が一瞬見て取れた

しかし、そのナイフも動き出す瞬間には消えていた・・・そう、放たれたのだ

 

「一瞬で! 引き裂いてしまうから!」

 

縦横無尽に動き回るナイフの動きを捕えずに、弦十郎は一呼吸する

そうして、息を吐き出す瞬間に一手、出そうとしたが―

 

「叔父様!」 「ダンナァー!」

 

「なっ! お前たち、どうしてここに!」

 

寸前で拳を引っ込め、一歩引き、彼女たちを見た

二人ともシンフォギアを身に纏い、先程掛かって来ていたナイフを打ち落としていた

幸いだったのがまだナイフが見えるレベルだった事だろう、と弦十郎は思っていた。

 

「何でって、そりゃダンナが勝手に飛び出してくからだろ?

それよりダンナはエージェント達の救出を―」

 

「へぇー、成程・・・あなた達がツヴァイウィングの両翼か・・・

人に希望を与える【アイドル】なんて夢見ちゃって・・・

吐き気がする!」

 

「なっ! 貴様! 何を弄するか!」

 

セレナは右腕を下げ左手を真上にあげ、踊るようなポーズでさらに煽る

 

「弄する・・・? つまり悪口だと聞こえたってことよね?

ならそう捉えてもらっていいわよ? 実際その通りだしね!

あなたたちがそんなことしてたってねぇ・・・

あの子たちを・・・クリスの両親も・・・何も救えないことに変わりないじゃない!

結局は武力行使が全てだ! 大人はいつだってそうだ!

ありもしないものばかりを追い求め夢想するものを乏しめ吐き捨て愚弄する。

アイドルだって変わりないじゃない! すべてに受け入れられる存在なんてありはしない!

・・・そう、そういえばこんなものも見たわ」

 

セレナは一回転して、箱を取り出していた、その箱には【急募、募金」と廃れた字で書かれていた。

それ以外読むことはできないが―

 

「結局これも偽善の肥やしにしかならない、こんなモノで何になる?

もしこれでお金がたまったらその土地の人たちは本当に裕福になるの?

アリエナイ、そんなことをするのが人間だとはとても思えないわ」

 

言い終える途端に箱を高くに投げ飛ばし、浮いていたナイフが串刺しにする

 

「お前・・・人間を何だと思ってやがる!」

 

「そうだ、どんな人間でも慈愛の心や平和を願うものが多くいる。

そんな人たちの心まで踏みにじr―」

 

「ダカラナニ? ソンナノデ世界ハ変エラレルノ?」

 

少女の唐突な発言に背筋が凍る

この少女、いったいどれだけの恨みを、憎しみを抱いてきたんだ。

困惑する三人に少女はさらに吐き捨てる、壊れたように、壊れていくように。

 

「ネェ、もうお話はイラナイkaら、そろソロやろうよ、話すより、ずっと早く・・・」

 

そうして再び一呼吸、少女の波動がより濃くなり普通に近くにいるだけでも気が飛びそうになるほどのオーラをまとう少女は、その気配に呼応するかのようにアームドギアを打ち上げ、最後に一言

 

理解できる(コワセル)から!」

 

少女の突進は鋭く早く、翼と奏の間に入り込み、まるでナイフだらけとでも言えるような腕や足を駆使して殴り切りつける

一瞬のことに戸惑いつつもギリギリガードできた翼だが、奏は寸での所で防げず建物へと吹き飛ばされる

しかし少女は翼を見ずに奏へと一直線に向かっていく、それを先回りしようとするも、少女のほうが早くにたどり着いてしまう

 

「まだ、まだ!私は負けない! 行くぜ!」

 

近づこうとしていた少女を前にガングニールの穂先を高速回転させる

 

「喰らえ! LAST ∞ METEOR!!!」

 

少女ごと巻き込み天高くに昇る渦の螺旋、これで何とかなったかと思われた・・・が

 

「・・・下がお留守すぎやしない? ツヴァイウィングのあかいの?」

 

「なっ!てめぇ!なんで・・・っ!?」

 

瞬間、アームドギアではないナイフに腕部を斬られたことに気付いた、この少女動いてないと思っていたのに、気が付けば、翼も彼女のアームドギアに翻弄されていてとても奏の所に向かえるような状態ではなかった。

 

「おい! いったい何を―」

 

「黙っていたほうがいいですよ、今は即効性の麻痺毒ですが、下手に動けば心肺停止するかもしれませんので。

では、青いほうの相手もしましょ? 同じ刃物使い同士、語り合えるでしょうし」

 

事実、奏は金縛りにあったかのように体がマヒしていた。

それは彼女の言ったように、確かに毒かもしれない・・・だが

 

「装者を・・・なめんじゃねぇ!」

 

体に鞭を撃ち、無理やりにでも体を動かし翼のもとに向かおうとする奏、しかし

 

「グハッ! っくそ、こけちまうなんて・・・それより、翼!」

 

そうして見上げた視線の先で、少女は斬り飛ばされた翼の姿を見た・・・いや見てしまった

 

「あら、よく動き回れるわね、ま、こっちももう終わっちゃったわ。

本当、ただのアイドルが武器を持ってるレベルでくそ弱いったらないわ・・・

こんなのでノイズの掃討・・・? ッハ、片付けるなら自分の部屋ぐらいにしなさいよ!」

 

唐突な彼女の発言に三人そろって呆然とする

それは特に翼を知る二人にとってはある意味死活問題とも言えるほどの事だったが、今はそれどころでは―

 

「片付けの事は・・・いうなあああぁぁぁぁ!!」

 

「は? いやなに! なんでいきなりこんなに斬りかかってくるの! さっきまで勝てないとか絶望してた奴の覇気じゃ無い!

何! 片付けるのは当然の事でしょ!? なんであなたはそんな事で怒るの!?」

 

「あー、うん、翼個人の問題だからあたし達にはなんも言えないな、それにあんたの毒であたしはもう動けないし」

 

「翼、奏、一応エージェントたちの救助は終わったが、何を怒ってるんだ翼は?」

 

ぬっ、と戻ってきた弦十郎に奏が事の発端を話す、するとそれで納得したのか、奏を担いで戦闘範囲外に移動させて一言

 

「セレナ君、人には向き不向きというものがある、故に自分の部屋の片付けが出来ない翼を知らない君にとって彼女の行動が不思議に見えるのは別段おかしいことじゃない。

むしろそれが普通の反応かもしれないな・・・だが、翼、そろそろ退け、毒が回ってくる頃だろう」

 

「毒など! 気合と根性で何とかします! それに剣と誓ったこの刃で彼女を・・・

取り戻して見せま―っ!?」

 

「うん、やる気になったのはいいけど、会話と戦闘は区別しないと・・・落ちるよ?」

 

優しい狂った笑みで、翼の刃を砕き足払いから掌底で吹き飛ばす

明らかにギアに頼った動きではあるはず、だが彼女の動きの一つ一つに何処か見覚えがあるのを弦十郎は感じていた

 

「翼、奏、緒川がもうじきこちらに到着する、二人はそのまま逃げろ」

 

「ですが叔父様!」 「ダンナ!」

 

「これは命令だ! いや、そうでなくても失いたくないんだ! 頼む分かってくれ」

 

そんな光景を見ながら、少女は外套のポケットから箱を取り出し、タバコを口に咥え、アガートラームで火を灯す

そうして一服、煙を吐き出し一言

 

「別に戦えないやつを叩く真似はしないよ、私は

それよりも、早くそいつら回収してくんない? いい加減邪魔、相手するならノイズだけにしな

・・・ったく、無駄に吸わせやがって」

 

「・・・君に言っても無駄だと思うが、一応言っておこう、未成年の煙草は規則違反だぞ」

 

「ははっ、警告してくれるだけありがたいね・・・まぁ、本気で吸うのは嫌なんだけど・・・ね

これはあくまで威圧用のアイテム・・・ほんとに吸いたいとか思って持ってるわけじゃない。

吸っても苦いし、煙くて適わない、最悪のアイテム・・・だけど」

 

再度煙を巻き、今度は煙草を握りつぶし鎮火した

 

「ギア特性のおかげで纏っている間だけはどうにもならないのよね・・・

やっぱり不思議ね、シンフォギアって、まぁ、作ったやつがどんなのか知らないけど、もしフィーネだっていうんだったら、叫び殺した挙句に少しずつ圧し折って口を割らせてあげるから・・・首を洗って待ってなさい、フィーネ!」

 

明後日の方向を向き叫ぶ少女、その姿はどこか美しく、だけど寂しい咆哮だった

そして弦十郎はついさっきまで気にしなかったことを聞いてみることにした

 

「所でセレナ君、クリス君は何処に・・・っ!?」

 

聞いた瞬間に何処からか銃弾が飛んできた、しかし当てるためではないと察することはできた

何せこれほど大きな的を外すなどよほどでない限り難しいだろう

 

「クリスなら遠方で監視してもらっているよ、ま、さっきツヴァイウィングが来ると知っていたから準備運動がてら相手してもらったけど・・・

ここいらの装者ってこんなものなの?

だとしたら、残念ね・・・こんなのじゃ・・・」

 

再び一息、今度はギアのナイフを取り出し、浮いていたナイフを全て背部にある花の形をした格納部に収納され、綺麗な、だけど残酷な黒い花が咲き彼女の心情を彩るかのように鱗粉を撒き散らす。

そうして、再び開戦の一言を告げる

 

あいつ(ネフィリム)を倒すには至らない! 私の心も、アンタらの言う無辜の民も!誰も救えやしないのよ!

アンタらの様な生易しい力なんかじゃ戦争も何も終わらせられやしない! この道具(シンフォギア)だってそうだ!

こんなものがあるから新しい闘争が生まれる! ノイズに抵抗する力の為? そんな事の為でも、人を・・・どれだけのモノを不幸にしてきたと思っている!

私はもうウンザリだ! こんな余計なものばかりの世の中に生まれ落ちた自分の不幸も、クリスの様な親なき子も! 全てを不幸に彩らなきゃ自分を表せないようなそんな世の中には・・・

もうウンザリなんだよ! 分かってよ! 誰だってこんなこと望んじゃ居ないのに! それでも人は闘争を求める! その最たるものを知っているでしょ!

貴方だって、その筋肉が闘争を表すように! 世界は誰かを傷つけてないと自分を表せない! そんなモノばかりが蔓延って、一体何になる!?

結局・・・世界は闘争意外求めない・・・そんなだから・・・そんなのだから!」

 

更に一呼吸、そうして彼女の憎悪を更にギアから溢れ出るエネルギーの様にして周りに吐き出し続ける

まるで彼女に呼応するように、ギアはその【呪い】を吐き出し続けた

 

「私のセカイはコワされタノ! あのクソなカガくしゃ共のせいで!

ワたしの本当のカゾクも! 大切なアノ子たちモ! ナニモかもをこわシタフィーネの研究全てを・・・ユルさなイ、モウ、ナニモユルセナイ!

ダカラ、ゲンジュウロウ・・・ここで、オワッテ!!!

ワタシノ、復讐のジャマをシなイで!!!」

 

壊れたような発言に弦十郎は依然微動だにしない、いや、すれば呑まれるから、彼女の闇に、呪いに―

故に弦十郎は彼女だけを見た、彼女の瞳が、涙を流しているのを、彼は決して見逃さなかった

 

「ああ、君の復讐を邪魔する気などないさ・・・結局のところ、俺も君の言う【最悪の大人】なのだろうからな。

だが、それでも! 君たちの道を、正しいものに変える事も出来る! それもまた大人だ!

そして、泣いている君に手を差し伸べる勇気も! 希望を持ち合わせるのは君と同じ人だ!

だから・・・信じてくれ! 俺を! 君の信頼を置ける家族(クリス)を! 俺達二課は君を決して裏切らない!」

 

「そンなキ望テキ観ソクになんノ意味ガあル! わタしはモウ信じない!

大切なあの子(クリス)以外しンじラレない! だから・・・弦十郎」

 

持っていたナイフを天高くに投げ、首に注射器を当て込み、中身を全て体内へと入れ込んだ

緑色のソレは弦十郎もよく知っているソレに酷似していた、そうして彼女は、セレナは最後の希望を紡いだ

 

「止めたいノなら! 全力で掛かってキナサい! 手加減無用ノタタカイよ!

モシ手を抜くようナラ! アナタノ首を掻っ切って、スベテヲ放りステテあげる!

だから―」

 

 

 

 

 

     ワタシヲトメテ!!!!!

 

 

 

 

彼女の咆哮が鳴り響き、辺りの建物が弾け飛ぶ、まだ建物という形は保っているが、崩れて飛びそうにもなる

辺りは粉塵や瓦礫が所構わず吹き飛び荒れ果て、もはや元がどういう形だったのか分からない通りになってしまっている

それ程にまでこの少女の【呪い】は叫びへと、力へと変わり果て、とても形容できるものではなくなっていた

故に、弦十郎は思った、この少女は、全力で止めてくれる人を待っていたんじゃないかと

自分を許してくれる人を、助けてくれる人を待ち望んでいたんじゃないかと

そうして、それは恐らくクリスでもありまた、弦十郎であると判断した、が故に

 

「(あれは、恐らくLINKERか、とすると適合係数がとてつもない事になっていそうだ・・・だが)

こんな事で弱音を吐いていたら、あいつらの司令が務まる訳も無いだろう!

分かった、全力で止めてやる! 覚悟は良いな! セレナ君!」

 

そうしていよいよ、弦十郎対暴走セレナの戦いが今始まろうとしていた。

この戦いで、命運を分かつ事に成ろうとはこの時は誰も思っていなかっただろう

いま、最強の人類と、人類の災厄がぶつかり合う・・・

 

 

 

次回へ続く―

 

 

 

 

 

 




ちなみに、聖詠の力と笑顔のところは、わざと逆にしてます、何となくそれっぽいかなと思いながらやってみた。


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第六話

戦闘二話目・・・書いてたらクッソ長くなったのは秘密
では・・・


開戦の合図はナイフが落ちてきた瞬間に始まった。

それは見る人によっては一瞬であり、衝撃波だけで見る人も、そこに建つ物も吹き飛びかねない【ソレ】を放ったのは紛れもない何も特殊な物を纏っていない一人の人間と、人類の災厄に立ち向かう為に作られたとされる【ソレ】を纏った少女の激突によるものだった

 

右腕同士のぶつかり合い、そうして交互に殴りあう漢と少女は互いに隙を見せることなく舞う、合わせ、そして舞う、まるでそれは演武のように、だけどそこにもはや言葉はいらず、殴り、蹴り、時には距離を取り、ナイフや瓦礫のぶつけ合いにもなったりしていた

 

弦十郎も余裕がないのか、周りの建物や地面のアスファルトを利用して、殴りつけ地形を変容させて装者と渡り合っていた

その行動が最善では無いかもしれない、だが、弦十郎は少女を救う事に尽力すると決めた

故に少女を傷付けてでも助けると誓った拳は、迷うことなく正面に振り抜かれる

その途端に激しい衝撃波が少女を襲うが、少女はその衝撃波に乗り、壁に立ち、反動で急速に弦十郎へと立ち向かう、だがそれに反応できない弦十郎ではない、即座に足を振り抜き鉄山靠の構え、少女は起動を逸らすことが出来ずに衝突をするが、タダではぶつからない、当たる寸前大量の刃が少女を覆い、衝撃を和らげると共に霧散した刃が軌道を変え弦十郎に四方八方から襲い来るが―

 

「フンっ!」

 

一声の発勁と共に周囲のナイフが力を無くしたかのように崩れ落ち消える

その気功術と思しき技巧に少女は苦虫を噛み潰すような表情を浮かべ、十字にナイフを展開し飛ばす、と同時に周囲の瓦礫を蛇腹剣でいくつも投げ飛ばす

しかしこれに屈することなく一つ一つを拳と風圧でどんどんと飛ばしていく

そうして一しきり付けた所で互いに呼吸を入れ、次の一手を攻めあぐねていた

すると弦十郎から―

 

「ここまで出来るとはな・・・翼や奏以上だ。

やはり、惜しいな、君のその才能、他の事に活かせただろう」

 

「何? こんナ時ニいのチ乞いデモ?

こんな才能、ワタシはイラなかった! 戦えるダケなラ、ヘイ機だけデ十分デショ!」

 

少女のその一声に散っていた小剣が動き出し一か所に集まり、大きなナニかに変容した

それは人型の様な、獣のようなソレは少女と向き合い確認しあったあと、一直線に弦十郎に向かって行った

 

「なんだ! これは・・・ギアによる遠隔操作か!

だとしても! 俺は負ける気はない!」

 

一直線に拳を振るう弦十郎、当たらない事は分かっていた、だからこそ、意図して隙を晒す行為をした。

その隙を貰ったとでも思ったのか、獣は低姿勢で突っ込み、切り払おうとした、瞬間に

 

「ハァッ!」

 

震脚により、姿勢が崩れ刃に力が入らず弦十郎に届くことは無かった、そうして一連の動作で掌底を打ち込み獣をバラバラに破砕した

しかし、それだけでは終わらないこの獣は、砕けていない手足を乱雑に動かし、竜巻を作るかの如く渦巻き、そして

 

「フキ飛びチレ! LAST ∞ METEOR!!!」

 

狂った少女の狂った竜巻が間近で弦十郎に撃ち迫ろうとしていた、奏の技を扱う事に驚きを隠せないでいたが、これは少女の力ではないだろうと取り決め、更に大地を穿ち、地を高くに上げ、瓦礫で初撃を防ぎ、次手に右、左、右と交互に闘気を纏わせた拳を振り抜き、渦を散らす瞬間

その背後にいる少女に気付きながら、次の動作を繰り出していた

 

「引き裂カレろ! ゲンジュウロウ!!!」

 

「悪いが、俺も大人なんでな、容易くやられたりは、しない!」

 

言葉と共に再び震脚、地面が割れ、土が露呈する程の深い踏み込みが周囲を砕き割る

飛び込んできていた少女に瓦礫の破片が飛び散るが、気にすることなく複数のナイフを思い切り振るいぶつけようと飛ばす

しかし距離が近くなっていたことに気が付けず、振り飛ばした右手を掴まれそのまま真下にぶん投げられる

 

「クハッ! この・・・げほっ、ガハッ!!?」

 

起き上がろうとした少女は、うつ伏せになり咳を吐き出す、その中には血も混じっていた

それもそうだろう、ロクに物を食べれておらず、細身の少女を弦十郎の筋肉で投げ飛ばしたのだ

例えギアを纏っていたにしてもその衝撃は計り知れないものだ、これで決着がついただろう・・・

そう思えた・・・いや、思いたかっただろう。

 

「もうやめるんだ、これ以上は君の身体を壊してしまう。

そんな事に成れば、君の言う復讐も何も叶わない―」

 

「アンタに・・・カテないようジャ・・・目的ナンて・・・果たせやしないのよ・・・

だから・・・まだ動けるうちには・・・たたか・・・って」

 

「セレナ君!」

 

カッ!という音と共に、再び溢れ出す黒い光の奔流、弦十郎は溜まらず大きくバックステップして距離を離す、実際は近接で彼女を抑え込む必要があるが、先程から地面に落ちて散っているナイフが消えずに残っていることを危惧して、回避を取った

そうしていると、落ちて散っていたナイフが生きているかのように彼女に吸い寄せられて行く

 

「何を・・・する気だ! そんな状態でやれば君の身体が―っ!?」

 

辺りの建物を徐々に破壊し、顕現するのは刃の機神、その身体には所々に刃で作られた花の様な装飾が目立つように張り巡らされ、その姿はまるで龍の様な存在であり、約5m級のその胸部にはセレナは磔上に繋がれていた、その少女の瞳にはもはや光は灯らず、真っ黒な眼で弦十郎を見下ろしていた

 

「あ、アAaaaaaaaaaaaaaaーー!!!!!」

 

甲高い方向と共に、機神の顔の部分に黒い光が収束する、途端に―

カッ!と、収束した光が光線状に延び、弦十郎の居た部分から一直線に破壊する

それはまるで呪いを振りまく怪物の様に、だが少女は止まらない、止まる事を知らないかのように―

 

「俺には・・・俺達には・・・もう、彼女を止められないのか・・・?」

 

彼女の攻撃を回避した弦十郎だが、被害を見て騒然とする

もはや彼女をどうこうする前に、止めなければならない、それが今の弦十郎のやるべきことだと判断できた

だが、それを行うにも、自分ではやはり無力だと、そう思えてしまう自分自身に不甲斐無さを感じていた。

 

「頼む・・・セレナ君、やるなら俺だけでいいだろう、他を攻撃するんじゃ―」

 

しかしそんな言葉は咆哮によって掻き消された

もはや彼女には声など届かないかのようだった、だがそれと同時にどうにかしなければならないという使命に弦十郎は迷っていた・・・

するとそこに、ミサイルと共に【何か】が降って来た

 

「弦さん! こっちはあの装者に任せて僕たちは住民の避難を!」

 

「司令さん! あそこまでなると流石に司令にはきついと思う、だからここはわたし達に任せて!

行っくよ~、わたしの氷たち!」

 

そうして避難を優先される弦十郎、そして相対する相手が変わっても依然として、振るう刃を止めない機神

その刃たちに合わせる様につららを展開していくネコミミ少女

そんな中、弦十郎の端末に通信が入って来た

 

『弦十郎さん、私もお姉様を止めるために尽力させていただきます』

 

「なっ、クリス君!? 良いのか、協力してもらって」

 

『構いません、それにあんなお姉様、見ていられないですから』

 

その一言の後に、弾丸が機神の頭部に着弾する、反動で仰け反るが、それでも破壊には至っていない

そして怒ったかのように刃を乱雑に振り回し目に映るものをどんどん引き裂いていく

 

「ふ~ん、そんな鋭いんだ~っとあぶなっ!

ってあれ、ナニアレ! 斬れた所が溶けちゃってるじゃん!?」

 

機神が切り裂いた部分はまるで溶けたチーズの様にドロドロに溶けて落ちていた

ある程度まで溶けると固まり浸食が終わるが、それでも当たれば一溜まりも無く亡くなってしまうだろう。

しかし、機神は何も気にすることも無く、周囲の建物を遠隔操作のナイフで次々と溶解していく

 

「う~わ・・・ギアが彼女の扱っていた毒を体現しちゃってるって事なのかな~

だとしたら長時間の相手は絶対しない方が良いね・・・ま、空に浮遊していないだけマシと考えるべきか・・・なっ!」

 

飛んでいるナイフにいくつかの目星をつけて、つららを当てて行く、起動が微妙に逸れたのを確認しつつ、氷の礫を作り、アラレも無い方向に投げつけ、反射する。

すると、軌道を変えられたナイフにどんどん反射し、その数を増やしていた

 

「さ~て、少し遊びましょうか?

ジャックナイフはど~こかな・・・?」

 

そう言うと、懐に仕込んだナイフを一本、礫が反射している中に投擲する

すると、ナイフが一瞬で凍り付き、霧氷を作り出し、辺りが霧に包まれ出した

 

「流石に普通の人は凍えて動けなくなりそうだけど・・・鋼鉄に身を包んでるあなたなら問題無さそうだね~、ねぇセレナちゃん?」

 

まるで嘲笑うかのようにくるくる回りながらナイフの中に居る機神を見つめる

しかし機神はソレを意に介さず、両腕を縦に思い切り振るい、すべてを飛ばそうとしたが地面に着弾する瞬間に両腕が凍り付き動かなくなる

それに慌てた機神は急いで両腕をパージしようと藻掻くが、藻掻いた先に自分で飛ばしたナイフが次々に刺さっていく。

 

「さーて、そろそろ暴れるのは辞めて、その分厚い殻を脱いでもらいましょうか・・・

これが私の氷戟!」

 

―――――――Blizard Coffine Astfugel―――――――

 

複数のナイフが柄の長い槍の様に変容し、少女の機体にぶつかり、一部は少女を傷付けないように機神の身体を貫いていく

リセは正直なことを言うなら弦十郎に一度吹き飛ばして貰ってから戦いたかったと思っていたが、後の祭りだと思い、機神の胸部に居る少女を助け出すために手を取ろうとした・・・が

 

『Gulaaaaaaaaaaa!!!?!!」

 

少女の人らしからぬ咆哮を受けてリセは仰け反ってしまい、動かないと思っていた左腕に吹き飛ばされる

 

「なっ!? クァッ!? な、んで・・・あれだけ強固に固めたはずなのに・・・」

 

ギリギリ刃の部分から逸れたものの、巨腕ともいえる腕で殴り飛ばされたのだ、装者であっても、多量のダメージは免れない程だ

 

「Kulaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

叫びと共に、両腕を再生、そうして今度は両腕に黒いエネルギーが溜められて行く

 

「やばっ! まさかあれをまた撃つつもり!?

倒れている場合じゃないけど・・・流石に装甲が脆すぎてきっつ・・・

言ってる場合じゃないか・・・とにかく!」

 

そんな希望的観測を残しながら、少女は爪を立てる、ネコ科の動物の特徴であるソレを巨大な氷の爪に変容させて、その一つ一つがまるで鎌の様に変化、そうしてー

 

「せめて少しぐらい動き止めてよ! 守りたいものがあるんでしょ! セレナー!!」

 

―――――――ColdEdge Cross Absolute――――――――

 

自信を侵食する程の氷塊を纏いながら機神に突撃する

ただ、爪と言う爪に刃を乗っけ、複数飛ばしながら機神を撹乱し、的確に相手に届くように近付いていく

しかし機神は意にも介さない、まるで壊す対象を最初から目を付けているように・・・

 

「コイツ・・・何処を見て・・・え?

まさか! 務所狙い!? させないから!」

 

機神を中心にX字の氷痕を描きながらさらに氷塊を大きくしていく、機神を覆いこむほどの大きさに肥大化していく、そしてそれは辺り一帯のの温度までも下げていく程に強く冷えていく―

 

「絶対零度・・・その氷度は万象を凍てつかせるぐらい・・・らしいけど、ま、辺り一帯を氷海にするには丁度いいわよね・・・それじゃあ! 少し眠ってもらいましょうか! 機神!」

 

彼女の叫びと共に円形に作られていた氷の陣が機神を包み込み、一瞬にして氷塊の機神が出来上がった

大きなクリスタル状になったそれを確認し、一息

 

「・・・ふぅ、これで止まってくれたかな・・・はぁ~、全く、私でも弦十郎さんには勝てないってのに・・・この子はホントに・・・」

 

辺り一帯は静まり返り、生物達の音も聞こえない程の冷たい温度の中、少女はゆっくり動いている

まるで寒さを感じていないかのように―

 

「ひっさしぶりにこんな冷たい温度を放ったけど・・・うん、体調は問題ないね

・・・まぁ、周りが一番問題だけど―」

 

時期的にはそろそろ雪が降りそうな程ではあるが、それを超える天変地異の様な氷度を引き起こしてしまっているので、そもそも平気かどうか以前に大丈夫ではないのは言うまでもないだろう

だが、それでも、戦闘が終わったと言えるほどの状況でも無かった

 

「―――――――k――――ua―――――――a」

 

「え・・・今、何か聞こえて―」

 

「kiguluaaaaaaaaaaaa―――――!!!!!」

 

氷塊の中から超高温の刃と共に機神の叫び声が溢れ出る。

一度砕けた氷塊は、機神が少し動くだけであっという間に粉々に砕け散り彼の者を封じていた氷はもはや跡形もなくなり、周囲の温度も徐々に平温に戻っていく

それだけに、いや、それ以上にこの機神は―

 

「この高温・・・そしてこの瘴気は・・・呪い!?

まさか呪いを熱に転換しているって言うの!?

出鱈目が過ぎるわよ! 流石に・・・これじゃあ誰が相手でも勝てる訳が―」

 

『こんなところで諦めないで下さい! 私のお姉様を取り戻すまで、私は、あなた達を手助けします!

もしこんな所で諦める様なら、幻滅してあなた達をお姉様と共に叩き潰します!

良いですか! 私はあなたの力を信用します! だから―」

 

その言葉を継いだのは、この場に居る筈のない存在からだった―

 

「生きるのも! 助けるその手を止めないで! わたし達がついているから!」

 

リセのすぐ隣、機神に対して真正面から顔面を殴り飛ばす金色のガングニールがそこに居た

 

「んなっ!? 立花 響!? 何であなたがここに居るの!?」

 

「え? 何でって、助けるためだよ?」

 

「そうじゃなくて! 分かってるの貴女!? こっちに来たらある特定の周期でしか帰れないんだよ!?」

 

「えぇ!? そうだったの!?」

 

そんな事を知らずにこの少女、立花響はこの状況に介入して来ていたのだ

 

「まぁいっか、未来には少し行ってくるって言ってあるし」

 

「未来さん・・・よく許可したね・・・いや、むしろ分かってなくて言ったのかな・・・

まぁいいや、ようやっと平温に戻って来たところだと思うし、動けるよね? 立花 響?」

 

勿論です! とはっきり言葉を返す少女を眩しく見ながら、時間はもうすぐ夜中に移りそうなほど暗くなってきていた

 

「gうlua・・・arグruaAa-----!!!」

 

気が付けば先程両腕に溜め込んだエネルギーは氷を解かすために使ってしまったためか、今は黒くきらめいているだけになっている

そしてこちらが何かしているのに対して怒ったように刃を飛ばしてくる

 

「響! この子の刃には触れないで! 周りの建物みたいに溶けちゃうから!」

 

「うえぇ!? ナニソレ! ギアってそんな事も出来るの!?」

 

驚きつつも、的確に避けては落ちていた瓦礫で迎撃していく響

対してリセは、つららを複数自分の横に待機させながら避ける度に氷を打ち付けていく

もう間もなく夜に代わる時刻・・・そうなれば街灯も無くなったこのエリアは真っ暗になる

その前には何とかしないと、そう考えていたら

 

『・・・伏せてください! GO・・・FIRE!!」

 

言われてからの数秒、響とリセの動きが止まる、それに対して刃は対象を失ったかのようにウロウロとしていたが、次の瞬間一斉射撃の音と共に刃が砕ける音が響き渡った

そしてそれを皮切りに、二人ともに機神に迫っていた

 

「響に合わせる! やっちゃって!」

 

「はい! お願いします! すぅー、行きます!」

 

震脚、そこから放たれる拳は弦十郎のそれと酷似していたが、響はギアの力と誰かを助ける為の拳を併せ持ち、片方は機神の外郭を砕くために、もう片方は磔られた少女を助けるために全力で手を伸ばしていた

それを援護するようにつららを周囲に展開し、響を守るように氷が集まっていた

対して機神はその行動が気に入らないかの様に急速に後ろに下がり、その道をアガートラームの刃が無尽に数を作り妨害する、その後に、再び機神の口がエネルギーを溜め始める。

 

「響! アイツの顔面の軌道逸らせる?」

 

「はい、全力で! やってみます!」

 

『援護する、気を付けて・・・』

 

一直線に駆け抜ける響を援護するように二人が遠近両方から道を作るように、そして彼女を守るように弾丸で道を作ったり、氷のレールを作りその上を駆け、走り、飛び殴り込む

まるで彼女だけは近付けさせないように、離れようとする機神だがそれは別の何かに押し止められる

そう、それは壁のような、だが真っ白に彩られたソレは刃を持っていた

 

「あれは、翼さん!?」

 

「むっ? 誰かは知らないが、コイツを縛る手伝いぐらいはさせて貰う!」

 

「ああ、わたし達もコイツに借りがあるからな! それぐらいはさせて貰うぜ!」

 

「しかも奏さんも! わぁー! ツヴァイウィング勢揃いだぁ~!」

 

『前を向いて! 舌を噛むよ!』

 

言った瞬間、響の近くにあった刃たちが砕け散り消し飛ぶ、そしてその後には氷で彩られた道が出来る

 

「さぁ、あと少し、行って! 響!」

 

奏が周りに飛ぶ小剣をアームドギアで弾き飛ばし、翼もそれに呼応するかのように飛び回り、響の道を作る

彼女の心には暖かいモノが紡がれていた、恐らくソレは、この世界のセレナが知らない、だけど皆が知って欲しいと願う想いの形

その気持ちをアームドギアに込めて、響は叫び伝う

 

「この想い、響き、届けえぇーーーーーーー!!!」

 

機神の間近、上空から一気に機神を殴りつけようとしたときに―

 

≪純粋が!!! 邪魔を!! するなあぁぁぁーーー!!!!!≫

 

響の拳は確かに機神に届き、頭部を砕いた、が、それと同時に胸部に磔られた少女が響を掴み、殴りつけていた

 

「えっ、あ、ぐあっ!!」

 

≪はぁ・・・はぁ・・・貴様の様な・・・太陽が・・・

ワタシノセカイni入りコんで・・・来るな・・・いや、こないで・・・いやぁ!!!!!」

 

響は殴り飛ばされ地面にうつ伏せで受け身も取れずに倒れる、だが少女の纏っていた機神は分解され、少女は黒塗りになりながらも、両手で頭を抑え込み苦しむように地面に倒れ伏した

それに反応して奏が支えようとしたが、機神の破片がソレを許さないかのように立ち塞がり、彼女の邪魔をする

 

「セレナちゃん! もう終わったの! 戦いはもう」

 

「おwaって・・・ない、まだ・・・ワタシは・・・まd・・・ぐぁ!

痛い・・・イタイ、いたい!! ナンデ! 何でこんなニくるし・・・イ・・・の・・・タス・・・けて」

 

しかし少女の苦しみとは別に機神は少女を守るように立ち振る舞う、まるで誰も近付けさせないかのように、その体躯は先程少女が入っていた時よりも小さいものだが、それでも、立っている足先からは蒸気が噴き上がっていた

 

「おい! お前の主人がピンチなんだ! そこをどけよ!」

 

「奏! 近付いちゃダメ!」

 

奏が近づこうとした瞬間、刃の切っ先が奏のアームドギアに当たり、部分的にはじけ飛ぶ

まるで近付く者を許さないかのように、機神・・・いや、もはや機兵と言った方が良いかも知れない

彼の者は少女の状態を確認するでもなく、目の前にいる相手を威圧していた

 

「ダメだよ・・・そんなことしちゃ・・・手を繋げなくなっちゃ―」

 

『立花さん・・・でしたか?』

 

唐突に、弱い声色ながら、聞き覚えのある声が響だけに届いてきた

 

「え・・・っと、クリスちゃん? だよね?」

 

『え、私の事を・・・知ってるの?

ううん、それより、手を繋ぎたいって・・・本気ですか?」

 

「うん! 本気だよ

だって、一人なんて、寂しいから・・・その寂しさを知ってるから、だから、たとえ違うセレナちゃんでも、私は、この手で助けることを諦めたくない! 伸ばしたこの手を! 絶対に誰かに繋げる為に!」

 

『そう・・・ですか・・・まぶしい・・・ですね・・・」

 

え、眩しい? と、反芻した言葉に返事は無く、瞬間、響の視界は気付いた瞬間には地面に落とされていた

―――――――

 

 

 

 

 

 

次回に、闇は続く―

 

 

 

 

 

 




まだ戦闘が続くんじゃ(なんでや!)
因みに、セレナちゃんがLAST∞METEOR撃ってるのは、自分の心の技が無いからと言っておく
そろそろ作り置ききつくなってきたかも・・・もうちょい頑張る!
ツヴァイウィングのライブまでどれくらい掛かる事やら・・・では!


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第七話

色々あって投稿少し遅れました・・・まぁ、定期投稿じゃないんですけどね。
書き足しと修正で色々時間かかったし、気付いたら予定より書く量増えるしで、まぁ書き足しは楽しくやってるから良いんですけどね?
・・・決してセレナちゃんが嫌いだからこんな事してる訳じゃないと言っておく、うん
・・・・・・もう少し強い設定に出来たと思うんだけどな・・・これな~

それでは、幻想の後で・・・


 

銃声と共に地に倒れる響に気付いたのは一瞬、それと同時に動き出したのは漆黒の刃だった

その鋭い刃にいち早く気付いたのは防人だった

 

「なぜだ! なぜ彼女を撃った! 答えろ!雪音!」

 

その言葉に虚ろになりながら、ふらふら立ち上がりながら答えるクリスの瞳には、セレナ以外映っていない

 

「え・・・お姉様の太陽は私だけ、私以外イラナイと言ってくれたのはお姉様ダヨ・・・?

例え助けてくれたとしても、太陽も、陽溜まりも、私は譲らない、お姉様の隣は、誰にも・・・譲らない!!!」

 

翼が機兵の攻撃を防ぎながら、彼女の激情に翼は気付くのが遅れた自分に悔いた。

彼女だけは普通であると思った、いや思いたかったのかもしれないが、しかしそんなことは絶対になかった、そう、彼女もまた精神に異常をきたしていた。

 

「そんな戯言を言っていたら彼女は、セレナは、助けられない! 分からないのか! 今彼女は助けを求めている、だが、この守護者が邪魔をして彼女を助けられないんだ!

そうこうしている間にも・・・彼女は・・・」

 

そう言っている翼に対して、クリスは更に言を弄する、まるで自分が正しいかのように、そして、それがあたかも真実かのように―

 

「何を言っているんですか翼さん?

今あなたが目の前で相手にしているのがお姉様ですよ?

お姉様の恐怖の体現にして、お姉様自身のギア、アガートラームの秘められた力、私を地獄から救ってくれた女神・・・それがこのお方・・・名前はお姉様が付けてくれたもので【ラルム】と呼ぶようにしています。」

 

そうして、と続けるようにさらに口に出すクリスはまるでそれが然も当然かのようにさらに口にした

 

「あのラルムこそがお姉様の力の体現! あれこそが世界の大罪を裁く断罪者!

そして、私とお姉様の愛の結晶・・・お姉様が恐怖や畏怖を覚えるほどに、彼のモノはより強くなり、絶望を得るほどに強靭になっていきます・・・そう、お姉様の受けた絶望、悪意、憎しみ恨み辛み、この世の悪意の体現者! それこそがあのアバター【ラルム】それ自身!

そしてそれはお姉様の心の体現でもあります」

 

そこまでいって、クリスは大きく呼吸する、それに対して口を割ったのは、響を離れに移動させて戻ってきた奏だった

 

「つまり、アイツを傷つければ、セレナ自身も傷がつく・・・そうじゃないのか?」

 

「あら、意外と聡いですね、その通りです。

ですが表層を斬ったところでお姉様は傷つきません。

あれは確かにお姉様自身ですが、お姉様が先ほど打った液体・・・こちらではLINKERと言いましたか?

あれは、お姉様様に調整された特別性、一応は私たちでも作れるようにできたもので・・・

そうですね、人によっては激薬でしかないですね」

 

「おい、お前! そんなものを大切な姉に使わせてるのか!

そんなので! 絆があるとか言えるのかよ!」

 

すると、クリスの瞳は先ほどから濡れていたのか、涙があふれていた

 

「私だって・・・私だってあんな力使って貰いたくなんかないですよ!

どうしてあんなものが出ているのか理解もできないですし! それに・・・それに!

あんなものがあるなら! 私がお姉様の悲しみの分まで肩代わりしてあげたいですよ!

でも、でも! そんな風にできないから! どうあっても【アレ】はお姉様にしか扱えないから!

でも、そのたびにお姉様は苦しんで、泣いて、吐いて! でもその度に私に言うんです!

「大丈夫? クリス?」って!

私なんかよりお姉様が心配なんですよ! 自分の体を心配してよ!

お姉様の心配ぐらいさせてよ! 例え本当の家族じゃなくても、陽溜まりになれなくても!

お姉様の傍にいることぐらいしか私にはできない!

そんなの・・・そんなのって・・・こんな理不尽・・・ないですよ!」

 

そこまで言って、あふれ出す涙が抑えきれずに嗚咽を漏らして泣き出してしまうクリス

それを見た奏は、リセは、翼は、響は覚悟を決めた

この二人を救おうと、何があっても離さないように! と

 

「そこまで言われちゃ・・・助けなきゃ、ですね!」

 

「あんた・・・大丈夫なのか?」

 

「あれぐらい! へいき、へっちゃらです!

それに、すごい威力が弱かったですから・・・それより」

 

響と奏は、リセも参戦して二人で攻撃を捌いている機兵【ラルム】を見る

 

「あれを止めなきゃ、セレナちゃんは助けられない・・・

だったらやる事は一つ!」

 

「殴ってでも! 手を繋ぐ! それで十分だろう!」

 

と、そこでもこの場から退いたはずの声が聞こえて来たが、奏は、翼も驚くことは無かった

何せ来るだろうと確信していたからだ

 

「彼女が俺を名指しで決闘相手に選んでくれたのだ・・・その約束を反故にするのは大人じゃない。

だから、決着は俺に付けさせてくれ、別世界のガングニールの装者」

 

それに驚いた反応をしたのは響ではなく、奏の方だった

しかしその言葉に反応を示したのはクリスの方だった

 

「本当に・・・真っ直ぐなんですね・・・

私には、お姉様を傷付けられません、ですが、あなた達が手を繋ぐというなら―」

 

そこまで言って更に一呼吸、そして、腰部の射出口を展開し、両手にはボウガン状の武器が握られていた

そして意を決する、彼女もまた、一人の少女を救うために動くと

 

「お姉様の絶望を! 希望に変えて見せて! 出来るんでしょ! 大人なら! あなた達なら!」

 

彼女の叫びを聞いた弦十郎を含めた装者計五名は、その言葉に全力で頷き返事を返した

そう、たとえ最悪の殺戮者であっても、少女を助けるのに理由は要らない

だから、響は自分のギアの出力を上げ、奏は自分の槍を大きく変容させ、何かを撃ち出そうという体制になる

その気配を察知した翼とリセは、対象の足を凍り漬けにし、一旦引き、ギアの出力を上げ始める

それと同時に弦十郎もアップを始める、構えから一呼吸、片足を浮かせ半歩進み更に一呼吸

 

「お前たち・・・準備は出来ているな?」

 

「ああ、あたしと翼が奴の行動を抑えて―」

 

「わたしとリセさんがセレナちゃんへの道を繋げて―」

 

「俺が届かせる! この手は―」

 

 

 

 

 

 

「「「「「未来(あす)へ届けるための! 希望の光だぁ!!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

その言葉と共に、装者達は前へ、前へと足を進める、だが機兵【ラルム】も待っていたわけでは無い

アガートラームの小剣を複数作りだし、来たる者を弾き飛ばす弾幕を作り出していた

だがそれで屈する翼や奏ではなかった、多少なり危険は有っても、その部分を後衛で見ているリセが援護している、してくれている

響は、弦十郎は突っ込むタイミングを見計らい、クラウチングの状態で、走りこむタイミングを見計らっていた。

それを横目に、正面の【ラルム】をじっと見つめるリセはある思考をしていた

クリスの証言と彼の者の在り方が異質だと

クリスが言うには、ラルムのダメージは直接、いや正確に言うならば間接的にでもセレナのダメージになる。

しかし、シンフォギアはダメージ軽減機能は有っても、痛み分けの様な機能は無いはず

つまり、これはアガートラームの機能ではなく、彼女の持っていた呪物によるものだろうか

そこまで考え、彼女が一番大切にしているものは何かを次に考えた

彼女はクリスを第一に大切に考えていた、故に戦場から遠ざけ、自分だけ闘うように振舞っていた

それは先程戦闘中の状況を二課が記録していたから見て知っている

だが、今目の前にいる怪物は、装者を、彼女を守るように立ち、そうして迫りくる攻撃全てをいなし。

彼女の害にならないように、被弾させないように立ち回っている

そして、響が殴った時、彼女自身へのダメージは無かった・・・ここも重要かもしれない

もし、何も知らないものが【ラルム】に穴を開ければ、恐らく装者であるセレナ自身へのダメージは計り知れないだろう。

だがそうならなかった、それもその攻撃は響のモノだけではない

リセの攻撃もまた、彼女にはダメージらしきものが出ていなかった・・・

それだけならまだいい、だが弦十郎の攻撃はどうだ?

装者でもなく、ましてやただの人間だ、ただ普通の人よりも力が強い事を除けば・・・だが

そして、そこから導いた答えは―

 

「・・・光から・・・逃げてる・・・?」

 

そう言う考えに至った、と言うのも彼女が誰を太陽として見ているか分からないが、少なくともリセの方ではそうだと思った

だから響の攻撃は普通に【ラルム】を越してセレナにダメージは通らなかった

これについては、恐らく響の【繋ぐ力】がダメージ元である【呪い】に作用しているからだろう

また、同じように光へと連れ出そうとしている弦十郎にも同じような力が働いている。

どういう訳かは分からないが、恐らく彼女が畏怖するのは、立花 響と風鳴 弦十郎だというのがこれで分かったと言える

だがそれと同時に、クリスもまたその呪いの範疇外だと言える

何故そう言えたか、と言うのもクリスの放った弾丸を受けるだけ受けて、セレナ自身へのダメージが無かったのを見て取れていた

つまり、彼女を傷付けずに救出する手段は―

 

①対象を響or弦十郎orクリスの誰かに引き付けて貰い、隙を見て彼女を奪取する

 

②奪取完了後これら三人で対象の動きを封じる

 

ぐらいだろうか・・・そう考えると、翼や奏はセレナを連れ出すために必要な手札になる

その考えに至ったリナは一度ギアを解除し、別のギアペンダントを取り出していた

今が夜の時間帯であり、月夜で回りが明るく照らされているからこそ、このギアを扱う・・・

それは時に闇を意味し、時には番える獣と成す番獣の牙

聖遺物としては至ってはいないものであるはずが、私としてなら扱える

だから私はコレを伝承における獣【フェンリル】とは呼ばず自分に潜む悪夢【マリス】という人格を扱うと決めた

だからこれを扱うには(聖詠)は要らず、またそのために必要なフォニックゲインもない

ただ扱うための(身体)が要るだけ、そしてその器は私自身・・・あいつを縛るには呪いと同じ闇だけ・・・

 

「だから・・・行くよ? 【マリス(わたし)】!」

 

その一声でギアが展開される、しかしその行為に誰も疑問を抱いていなかった

何せここにいるものはそれを気にしている場合ではないからだ。

あるものは【ラルム】の攻撃をはじき、またある者は、飛ばされる小剣を弾き、撃ち落とし

そうして二人のための道を次々に創り出していく、道を、希望と紡ぐために

だからこそ、二人の太陽を導く影になるため、少女(マリス)は走る

先ほどのギアが光を指すなら、今のギアは闇そのもの、またそれに伴い性格まで変容した

 

「立花! 弦! 私が道を闇と紡ぐ! だから乗って! そして彼女の闇を祓って!」

 

「行ってくれ! ダンナァ! ガングニール!」

 

「お願い! 叔父様! ガングニール!」

 

「お姉様を、私たちのミライを! おねがい! わたしたちの新しいあした(太陽)!」

 

「これが、俺の!「わたしの!太陽(あした)に繋ぐ」」

 

 

 

    光だーーーーーーーーーーーー!!!!!!

 

 

 

 

 

《いや・・・光は・・・いや、やめて、来ないで! 逃げて! ラルムーーーー!

 

 

弦十郎の(想い)が、響の(想い)が彼のモノに当たり、鳴き、残響する

それは明らかな悲しみからくるものかもしれない、だけど少女はなぜか泣き叫びながら自分を苦しめたであろう躯体に叫び声を上げ、悲しみのままに泣き叫んだ

しかし、響は、弦十郎は最初(ハナ)からコレ(ラルム)を倒す目的で殴りに行っていたわけではない

これは両者の救出のための拳、誰かと誰かを繋ぎ、紡ぐための陽の光

少女たちがいくら求めても届かなかったあの陽の光が、今は少女に手を伸ばしている

また裏切られるかもしれない、けどそんな事を考えられるほど目の前の太陽たちは、眩しく輝いて見えた

もし私にそんな力があれば、と嘆き苦しんだ、だがいくら悔やんだところで現実は変わらない

二人とも、ラルムを殴り飛ばしはしたが、あくまでその巨体を動かしたに過ぎなかったのだ

現に、ラルムはセレナの後ろで膝をつき俯いていた・・・動く気配もなく佇む様に・・・

そうして少女は現実を見る、先ほどまで痛かったはずの頭はすっきりになり、ぼやけていた視界はどこか鮮明になっていて・・・そして―

 

〈くぅ~〉

 

どこかやる気の抜けたそんな音があたりに響いた

誰の音か探してみると、今目の前に手を差し伸べてくれている少女のものだとすぐに分かった

そんな音に回りは微笑む、ある者は大声で笑い、ある者は顔を伏せ失笑していた。

また、そんな音を出した少女は顔を赤くして「今日お昼食べ忘れたの忘れてたー!」などと叫んで頭を抱え込み唸っていた

そんな様子に少女は毒気を抜かれ、先ほどまで苦しみながら怒っていたのが嘘かのように微笑んでいた

その少女の笑みを見た弦十郎は少女に言うことを告げた

 

「君も、そんな風に笑えるのだな・・・」

 

「え、あ・・・あの、これは・・・」

 

「いや、笑えるのならそれ越したことは無い

それに笑顔はいいものだ、いつでも元気になれる証なのだからな!」

 

そういって、倒れていた少女の手を取り、無理やりにでも立ち上がらせて来た

そうして立ち上がった少女は何処か罰が悪そうな表情をしてあたりを見回し、クリスに視線を向けた

気付いたクリスは直ぐにセレナの元に赴こうとしたが、セレナの後ろを指さし、未だに動かない躯体を気にしていた

それに気づいたセレナは、ギアを解除するように、その躯体に触れ、さよならの言葉と共に躯体がバラバラになっていくのが見て取れた

それを確認したクリスは一直線にセレナに抱き着いた、離れた分を埋めるかのように・・・

後の事を話そうとして、弦十郎に近づこうとしたとき、静かだった周囲が一気に警報音に溢れ出す

その瞬間、明かりという明かりが一斉に付き、その中にいた黒くてよく見えない人物がメガホン片手にこちらに何か言ってきていた

 

『二課所属風鳴司令、ただ今の時刻をもって彼女たちの身柄は我々、警官隊の方で預からせてもらう』

 

そんなことを言ったのはどこの誰かもわからない奴だった

第一辺りは夜に変わりもう真っ暗だというのに、車やそれ以外のライトで眩しすぎてまともに目が開けないレベルだった

警官隊といった彼らは、セレナ、及びクリスの身柄を寄越す様に言ってきていたのだ

恐らくでなくても、ここまでの事件を警察の方で一任にされ、功績は二課には入らず、警察の手柄ということで始末をつけるつもりなのだろう

だが、そんなことで黙っているほどの大人ではない弦十郎は、これに対して意見しようとしたが、先ほど口出しした人が何かの書類を取り出し弦十郎に見せていた

その逮捕状は弦十郎たちを動けなくさせるには事足りるほどの罪状の数々が書かれており、未だに国連の秘密組織である二課は手が出せなくなってしまった

しかし、この場で一人・・・いや、一匹だけは異様な雰囲気を放っていた・・・そう、リセである

 

「ネェ、おじさん・・・そんな邪魔なことをするために、こんなところに来たの?」

 

「ん? なんだ君は? 二課の装者ならこちらに関われない様にされているだろう?

君が問題を起こせば、二課は存続が危ういはずd-」

 

そこから先の言葉は紡がれなかった・・・何せリセはー

 

「残念だね~、生憎私はトッキブツ所属じゃないんでね~

それにおじさん、私たちのような女の子を皆が皆装者と考えるのは早計過ぎるよ?」

 

そう言ったリセは既にギアを解いていたのか、持っていた二つのペンダントを弦十郎に投げ渡し、何も持っていないことをアピール、した上で

 

「じゃ、私は無手だし、貴方達は武器を持っている・・・じゃ、抵抗はしていいよね?」

 

銃を構えている警官たちを一瞥し、少女は駆ける・・・いや、駆けていたのは猫だった

警官一人一人に猫パンチを決めるかの様に一人ずつダウンしていく

そうしてある程度倒れた後、猫は少女の姿に戻り、先ほどのおじさんに指先を額に当てこみ一言

 

「バァーン、なんちゃってね?」

 

小さな氷の粒が軽く当たり、足が崩れるおじさん

結局は訳が分からずに震えるしかなかったみたいで、他の警官隊も混乱していた

なお、元に戻ったリセは服は戻っておらず、その辺に落ちていた布切れを巻き付けているだけだった

周りを探して元の衣装に戻るのにはそうは時間は掛からなかったが、 その時間が命取りになっていた・・・お互いに。

 

「ねぇ・・・コレもあなた達がツれてキタの・・・?」

 

そう言う後ろの少女はいつの間に持ってきたのか、警官の一人を動けない状態にし刃物を突き付け更に黒いオーラを花弁から溢れ出させ、その【呪い】は捕まっている警官を苦しめ藻掻かせ、息苦しそうに暴れていた。

その光景を見た弦十郎は今すぐにやめさせようと声を掛けるが―

 

「だったラ・・・だったら! あなた達の事を信じさせてよ! 最悪の大人じゃない!

本当の人の優しさと言うものを見させてよ! 出来るんでしょ! あなた達なら!」

 

再び叫ぶ少女を見る・・・気が付けば持っているナイフが震えていて、眼もどこか焦点が合っていないような感じだった。

恐らく、体力的にも限界が近いのだろう、ギアを未だに纏っているが、恐らくギアの補助なしではもう武器も振るえない程かもしれない

それをわかっているのか、クリスはセレナの代わりに相手に銃口を突き付け、トリガーに指をかけ、待っていた、相手の出方を・・・どうするのかを・・・そうして弦十郎は口にした、もはや国の機関ではなく、一人の人間として、子供達を守る大人として―

 

「やれやれ、こんな子達に俺がやりたかった事を悟られるなんてな・・・自分を守り過ぎればやりたい事も出来なくなる、それで何が大人だ・・・子供の方がよっぽど立派じゃないか。

翼、奏・・・これからやるのは二課司令の弦十郎ではなく、俺個人としての戦いだ。

まぁ、それで二課がやばい事になる事は目に見えているが・・・それでも―」

 

「助けたいんだろ? ダンナ、あたし達も同じ意見だぜ!」

 

「叔父様・・・いいのですか?」

 

『良い訳ないですよ! 司令! 本気でやる気ですか!?』

 

通信機からの声にリセは耳を塞いでた

相当な大声だった為か、その声が周囲にも聞こえていたらしい・・・だが

 

「全部は俺が背負ってやる、だから、やらせて貰う」

 

『弦十郎君・・・そんなに熱血少年的な人だったかしら?」

 

そんな女性の声を尻目に弦十郎は前に出る、少女の信頼を得る為に国の為に、少女たちを守る為に・・・

しかしそんな中、オペレーターたちは唐突に来た伝令に驚きを隠せないでいた

 

『司令! 鎌倉の風鳴機関から緊急伝令です!』

 

「なぁ!? 鎌倉から、だとぉ!?」

 

『は、はい、詳細は伝書にて送るそうで・・・え、これは』

 

「どうかしたのかな? 二課の諸君?」

 

何かの通話があったという事を分かってか、だが未だに余裕を見せる団体は、その後ろから別の警官隊の合流、そしてそのおじさんに何かの書類を渡すと、驚いたように撤退の指揮をしていた

だが、それがユルセナイのも、また人間であるのだろう・・・彼女はその行動を赦さなかった

 

「ニゲるの? ねぇ、地獄はそっちじゃないでしょ?

ねぇ、ワタしを絶望させておいて、自分達だけ無事に生きようなんて・・・何て、甘っちょろい事考えるのか! このクズどもガァ!!!」

 

「や、やめろ! わたし達はもう君達を追わない! 捕まえもしない!

【あの機関】に睨まれたらわたし達も無事では無いのだ!

頼む、ここは・・・ここは見逃して―」

 

「ふぅ~ん、それが、あなたの最後の言葉かしら・・・

興冷めよ! アンタなんか殺した所で何にもならない! だったら豚にでも食われてなさいよ!」

 

そう言っては彼を蹴り飛ばす少女

ギアの補助を受けてのものだが、それでもそこまでは飛ばずに僅かに跳んだ程度だった

そうして少女は息を切らしながら言葉を出す

 

「ハァ・・・ハァ・・・こんな・・・だから・・・

だから・・・私は・・・私たちは、ひとを・・・信じられない、信じなく・・・なってしまった」

 

気を失いそうになる彼女に弦十郎は腕を回し、抱きしめる様に彼女の身体を抱いた

その体は細く、軽く、今にも砕けてしまいそうに成程で― 

 

「セレナ君! それ以上喋らないでくれ! 今すぐ治療を―」

 

「お姉様! っクハ・・・えっ・・・ゴホッ!」

 

そうして近くに寄ってきたクリスも、まだ完治していない身体を酷使した所為か、咳と共に血を噴き出していた。

 

「えっ? な、何でクリスちゃんが血を吐いて!?」

 

ワケの分かっていない響は去っていく警官隊を見ることなく、クリスを抱え横に寝かせる様に倒れさせる

セレナも同様に横に寝かし、急ぎ急患を送ってもらえるように手配を進めていた・・・が

 

『司令! どのルートも先程の怪物【ラルム】によって通路が破壊されているためたどり着くためには少なくても一時間近くかかります!』

 

「なん・・・だとぉ! それでは彼女たちが―」

 

そこまで言った瞬間、二人の影が弦十郎の横に現れた

そう、緒川 慎二と凪 翔希の二人である

 

「話しはある程度聞いてました、公的機関で治療してもらう事でいいんですよね?」

 

と翔希はクリスをお姫様抱っこして、また、緒川も手にガントレットを嵌めてセレナを抱きかかえていた

二人とも気が付けばギアが外れ、クリスは患者衣に、セレナは外套がそのまま衣装になっていた

だが、車と言う公的機関を利用しない、となると、装者ではなく彼らの方が遥かに速い、と言うのも弦十郎は分かっていた、だから向かう病院に連絡を入れて、急患を入れて貰えるように話、また一応自分達も見て貰えるように伝え、それを奏たちに伝えた。

えぇーあたしたちもかよぉー、と不満そうな声で言っていたが、リセは特にひどく、相手の刃に何度か接触しているため、下手をすれば致命傷レベルの毒を貰っている可能性があったための判断だ。

そうして、駆けて行こうとした二人の姿が消える前に、セレナは一言言葉を紡いだ

 

「私は・・・殺すのをやめないと思う・・・それでも、良いと言うの?」

 

弦十郎は頭を少し搔き、提案するように言い放った

 

「もし、君が人を殺そうというならそこには必ず理由がある、先程まで君たちと戦っていてそれがはっきりとわかったからな・・・

だから、もしそんな事に成ったら、まずは君達と相手方、双方の意見をはっきり見定めて止める様に務めさせて貰おう、ま、それぐらいしかできないのが痛いが・・・な」

 

その提案に対してセレナは―

 

「ふふっ、本当に甘いですね・・・人なんてそんなに良く出来たものじゃないですよ?

意見は言い合えます、対立だってあるでしょうね・・・でも互いが正義を握る以上、どっちも譲れない事も多いでしょう・・・

だけど、私たちが受けてきたものは、そんな譲り合いのある世界じゃなかった・・・

だから・・・ころ・・・げほっけほっ」

 

「無茶をするな、ゆっくり休んでから後で話を聞く・・・

それに、先程、君達を保護するように指令が出た・・・まぁ、お偉方の方からなんだがな・・・

あぁ、話すのは後で良い、今は、ゆっくりと体を休めておいてくれ」

 

ありがと、少女のそんな言葉を皮切りに緒川と凪は駆けだした

 

「さて、俺達も病院を目指していくか、下手すると彼女の盛った毒でしばらく動けなくなるかもしれないからな」

「ダンナァ・・・それ冗談じゃないからやめてくれよ・・・」

 

そんな弦十郎の言葉を冷めた目で見ている奏、翼も心配するように声を出してはいたが、今は―

 

「そういえば、あなた、名前を聞いてなかったけど―」

 

「あ、自己紹介遅れました! 立花 響って言います

えと、ツヴァイウィングの風鳴翼さんと、天羽奏さんですよね!

良かった、こっちでも生きていてくれて」

 

「ちょ! 響!! それは言っちゃいけないヤツ!」

 

そう言って響の口を塞ぐ白猫、今はみんな安心してギアを解除し、歩きながら雑談していた

弦十郎は今後の事を考えながら、少し悩んでいたが・・・

彼女たちも居れば何とかなるだろう、と楽観的にも思っていた・・・そう、希望に成れればいい、そんなことを思いながら―

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「そう、それでいいんだ、弦十郎、そうして、彼女を引き上げてくれ・・・

力を、恨みを、憎しみとともに呪いは出来ていく。

彼らも知らぬ間に、呪いの少女は原罪を超えて昇華する・・・天に、神に・・・」

 

どことも分からぬビルの上、現場を見ていたであろう灰色のローブを顔まで隠れるように被り、まるで不審者丸出しの人物は、さらに言出していく

 

「我々転移者、および転生者を諸々砕けるのは原罪をすべて背負いし姫君のみ。

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ、君こそ我らの先導主に相応しい

さぁ、彼女を早く王座に・・・? 痣嶺? 何をしている?」

 

その男(?)の後ろで当の闇医者はカチャカチャと探りを入れていた

そうして、ピッと音が鳴り、その場から逃げるように駆け出していた

 

「いやー同じ転移者としてはやっぱり君はいただけないねぇ~、それにね、君は現存するにも弱すぎんの。

んじゃ、現世でもっかい人生やり直してきてね~」

 

「なっ! 痣嶺!! 我々を裏切るのか!」

 

そんな言葉に悝嶺は事外に告げる、右手の人差し指を唇に添えて、悪事を働くかのように彼女は口を開いた

 

「裏切る? そもそも私たちは組織ですらない、故に裏切りでも何でもない訳だ。

こんな世界でも、結局は争いが好きな人種の闘争ばかり、さすがに疲れちゃうよね~

だから私は翔季くんたちの所につくことにするよ、そっちのほうがおもしろいしね~

それじゃ、どっかで生きてたら会いましょうか、名前もない転移者?

クフフっ、あははははぁ~・・・あ~あ、つまんな」

 

屋上の部分は丸々消し飛ばし、痣嶺は吹き抜けた天井を見てそんなことを詰まらなさげに見て、胸ポケットに入っている煙草を取り出し―

 

「うん? あ、そーいやライターのガス切れてたか・・・

あーあ、こんなんだったらセレナちゃんにあんな着火装置渡すんじゃなかった~

あれすごい便利なのにな~・・・また作ればいっか」

 

事も無げに吹き飛んだ天井の端に座り込む、そうしてタバコから煙を飛ばす、先ほど火も付けられていなかったタバコから・・・だ

 

 

「ま、でも、貴女には期待しているわよ? セレナちゃん・・・

だって、貴女は―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――フィーネを潰す駒だから―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういった闇医者は何を狂ったのかそのまま前に飛び出し落下

普通であれば、そんなことをすれば常人であれば無事では済まないだろう・・・

だが、彼女は転移者、力がない筈がなく、空中を蹴って帰路へついた

次に彼女が目覚め、新たな絶望を呼び起こしてくれる事を願いながら・・・

 

 

 




・・・そろそろ感想欲しい次第です、はい、関係ない事言ってすんません。
でも、自分で書いてて思ったのは、これ感想書きづらいなって率直に思っているから・・・まぁ、少しづつでもやっていきますかね?

それじゃ、また次回で―


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第七,五話

セレナちゃんが何で弦十郎さん達と戦ったかとかいろいろな補足回
悝嶺さん達の方も話したいけど、彼女たちはロクに出ることありませんからね~
今回は短めです、すいません
では―


 

私達があの医者から逃げ出したのは決して信頼が無かったからではない・・・とだけは言っておく

だけど・・・それでもし、もし私達がアイツらに捕まって本来の事も成せずに生涯を終えることになるとしたら・・・そうなる可能性の方が高いに決まっていた

大体だ、こんな殺人者を手懐けようなんて政府も可笑しな事をするもんだ。

ただ、私がアイツ・・・ここでは【対象X】と呼称しよう

私が一番殺したいのは確かにフィーネだ、だがそれと同時に自分達を絶望を増やした相手には相応の罰(殺戮)を与えねば気が済まないのは事実だ。

故に彼女、悝嶺の掲示した事に敢えて乗っかる事にした

 

書かれていた事を要約するとこうだ。

 

・対象の殺害、及び身柄の引き渡しに成功した際の給金を予定の倍額以上を引き渡す

 

・身の安全、及び、生活の保護を受けられるように、身元の詐称、並びに一定の管理下に置かれるものとする

 

・また、上記行動以外のモノは制限をしないものとする(ただし、勝手な振る舞いでの武器の使用は禁ずる)

 

・・・簡単に書いたものでこんな所、詰まる所危ないものには蓋をしようとかそんな話だ

ただ、それとは別の用紙には、【対象X】に連なる事が書かれていて、場所や牢屋の位置までも事細かに描かれていた、そしてその文の終わりには

 

「もし大人を信用できないのなら、弦十郎と戦ってみるといい

あの大人程実直な奴もいないからな」

 

確かそんな風に書かれていたはずだ―

だから私は行動に移すことにした・・・夢に見た和解の光景は、私にとっては毒の様なものだ

だが・・・それを信じたい、信じて・・・裏切られたくはない・・・だから私は刃を振るう、握るこの手は、何処かへ続く道を、その壁を打ち砕くための拳だから

だから・・・だからこそ、私は弦十郎と相対することにした、信じる者の為に、信じさせて貰う為に。

もし・・・もしこんな程度で負ける大人ならば、私はもう大人を信じないだろう

 

だから、戦う前に邪魔なエージェント? と呼ばれる人たちを準備運動がてら圧倒しておいた

だってあれだけ邪魔そうな人たちが居たら、いつ何をされるか分かったものじゃないし、それにシンフォギアだって完璧に銃弾とかを防げる代物じゃない、それだって日本に来る前に学んでいた。

アイツら(F.I.S.)の研究も案外無駄では無かったかも知れない、なんせ痛かった耐衝実験もこうやって役に立ってくれているのだから・・・まぁ、痛かったから本当は嫌だったんだけど、今となっては無駄では無い思い出になっている。

・・・そんな思いでは本当は吐き捨てたいのだけどね

そうしてやって来た・・・弦十郎との決戦・・・の筈なのだけど、ここで邪魔が入った

事前連絡で誰が来るかは知ってはいたけど、戦う前に来るのは想定外だった・・・だって、彼女たちは私の様に穢れていなかったから

だから、私なんかの相手をしていていいのかと思った、だって彼女たちの相手は、痣嶺の所で言ったように、【ノイズ】が相手なのだから・・・

それが私なんかの大罪者の相手なんか、同じ子供である彼女たちの相手は少し痛かった・・・が

結局は大人の思惑でやらされているとか思っていた・・・けど、彼女たちは民を守る為に行動していた・・・自分たちの意思で、行動していた

それがどうしようもなく羨ましくて・・・だけど、何処か可笑しくて・・・笑えて、狂えて。

 だってそうでしょ? 私の様な罪人相手に歌姫がやって来るなんて、可笑しくて本当に笑えるもの。

 だけど、彼女達は歌って戦った・・・そんな隙だらけの戦い方が無駄だと知らないまま・・・

 だから私は教えてあげた、人の神経をすり減らすように、毒と言う毒を浴びせてあげた、嘲笑ってあげた・・・無駄だと、意味は無いと・・・

 でもそれは同時に自分に対して言った言葉でもあった・・・私の行動に意味はあるのか・・・と

 詭弁だなと、私は私に思った・・・その通りだなと、コワレタ思考はソレを了承し、コワした。

 二人はもっと戦える人かと思ったのだけど、私の状態を見て怖気付いたのか、武器を振るう手を緩めて話し合おうとでもしていたのか、攻撃は遅かった

 だから私は特に傷を負うことなく、弦十郎に相対することが出来る・・・それは良いのだけれど、彼女たちに与えた毒は痣嶺特製の麻痺毒だ

 実際、私も毒などの調合などを行う事はよくある、大体は人間用だが、動物用のきつめの奴もあったりはする

 今回持ってきたのも、その【動物用】だ、かなり強い奴だから、下手をすれば心肺停止するレベルのものだが、彼女たちは意にも介さなかった

 恐らくはこの【ギアシステム】による治癒効果だろう・・・私もそれを実感していたから、なるほどなと感じた

 

 ただ一つ意外なのを上げるとすればやはり片翼の青い方が怒ったのは意外だった

 私達も倉庫や廃屋住まいの事は多かったから、片付けて住みやすくするのは当然の事だったから、それほど気にも留めなかったが、それが彼女にとっては死活問題らしい?

 まぁ、そんな彼女の怒りに任せた刃なんて当たってあげる程私も弱くはない、実際問題、二体一でもなければギア無しでも十二分に倒せる・・・と言うより一分も持たないと思う相手だった

 でもギアの準備運動が必要だったから、ある意味では、彼女たちの相手は正解だったかもしれない・・・まぁ、時間が経てば毒も抜けて動けるでしょうけどね。

 だから私は、悝嶺の言う、本当のOTONAと言う存在を相手取る事にした・・・そう、もし、もし私達より強いというのならば・・・今までの大人なんか餓鬼も同然だったという事にもなる

 だから私達にその信念を教えて欲しい・・・自分も、こんな罪人を信じられる大人であるその(信念)を。

だから・・・だから・・・

 どうか、信じさせて、ただ一縷の望みを・・・人と言う希望を・・・絶望で彩られた私たちに見せて―

 

 

 

 

・・・そうしてその希望を、決して手放さないでいて・・・誰かの為に・・・私達を・・・信じさせて欲しい、大人の夢を・・・子供に見せるあなたたちの夢を・・・

 

 

 

 

だからこそ・・・私は・・・わたし達(・・・・)は、あなたの夢に私は信念でぶつかる

絶望と希望、その采配を・・・天秤に掛けながら・・・私は駆ける、自分の信念の為に―

いつかフィーネをこの手で砕くために!

 

 そうして彼は私に思い切りぶつかってくれた、ナイフに斬られないように立ち振る舞いながら時には発頸で辺りを吹き飛ばし震脚で地面を穿ち、地面を隆起させ盾にしたりして私に抵抗してきた。

 当然、そんな簡単に落ちる様じゃつまらない、だからこそ、私は彼の力を引き出せるように、災厄であり最悪の私の力、すべてを見せる様に・・・

 ただ、食事をそれ程摂れている訳では無いから、本当の全力なんていつやったか覚えがないほど昔だった気がする。

 そんな思いを巡らせつつも、全力で弦十郎に相対する

 時には彼の力を受け流し、風に乗り、勢いを使い、時折アガートラームの力を変容させてぶつける

 だが、そこで私が隙を作ってしまった、いつもならしないミス、そこで弦十郎に捕まり投げられた

 正直とんでもなく痛かった、血も吐いたし、どんだけ遠慮要らずなんだとも思ったが、そもそも私も遠慮せずにエージェント達諸共ぶっ飛ばしてるから何も言えないけれどね

 

そこからはあやふやな記憶だった・・・とはいえ、戦っていた記憶はある

 アガートラームが私を取り込み、別の形態を取り、主を守るように、そして願いを助ける為にギアが勝手に力を行使した、と言えばそうなのだろうけど・・・ただ、こうなるには理由があった。

 そもそもの話、ギアを装着、及び強化するのは装者自身の気持ちの問題とフォニックゲインの増減によって力量が大幅に変化する。

 ただ、私があの時行使したのは、そのどちらでもなく、まるで他の意思が誰かを守るように自分勝手に力を行使した感じだ。

 以前にも【コレ】を行使したことが有った、ただ、その時もクリスがどうなっていたのかを教えてくれていたから分かったけど、今回は私の意識は残っていたけど、それでも戦う意思を無くしたわけでは無かったから、【ラルム】自身に戦わせることを優先にした

 ただ、いきなり山まで焼き払うかのようなレーザーを放った時やばいなと思ったけど、それ自体はもう私の意思では制御できないから、見ているしか無かった・・・本当に弱いのは、私自身ね・・・いやになる。

 

 そうして、戦う相手が変わった、それでも私のやる事は変わらなかった・・・いや、変えられなかった。

 そもそも、この戦闘機能自体が不完全なのか、私自身の欠陥のせいか・・・おそらく後者だと思うが、私で私を制御できないムシャクシャした感情と、やってしまおうと言う、破壊衝動に似た感情のごちゃ混ぜたような感じに内心吐き気を覚え、ただ表層は苦虫を噛み潰したような表情をするだけ・・・もはや感覚も感情もバラバラな体の状態を、人は果たして正常であると言えるだろうか?

 そんななか、私の行動に危険を感じたのか、今度は凍り漬けにしてきていた相手は、こっちが動きを止めている間に力を練り上げ氷塊をぶつけ凍て付かされた。

だけど、そんな氷度も私達には寒くも何も感じなかった・・・気温を感じられなくなっていたのかもしれない、それともギアの所為?

 

 よくは分からない状態であったが、それでも動こうとする表面上の私は、腕に溜めていたエネルギーを扱い、氷を溶かし掻っ捌いていく、それでも相手は驚きつつも戦闘を続行して来ていた

 しかし、その時見ていなかったところから、弾丸の様な拳が飛んできて、一瞬意識が蘇る、懐かしいヒカリに照らされて、昔の自分を見るかのような、そんなヒカリ。

だけど、いや、だからこそ拒絶した、信じたくなかった、この世界にはヒカリが存在しない、それらは全て影の闇に落ちて消えるものだと思っていたから。

 だから、彼女の登場に、私は・・・セレナは希望を抱こうともした、だがそれと同時に叩き潰そうとも判断した、だがその相反する心が余計に苦しめる結果になった

連携により外装を破壊され、だけど太陽は眩しくて・・・妬ましくて・・・

 だからぶん殴ってやった、眩しすぎるから、イタすぎるから・・・

 そうして【ラルム】から離れた私は、この相反する思考に揺らいだ影響で、【呪い】による浸食を受け痛みに反して、守護者【ラルム】が強くなっていくという悪循環を作り出していた。

 

 だけど、そんな中でも助けだそうと必死に、だけど暖かい太陽がその拳を広げ、舞い戻って来ていた、その光景が妬ましくて、羨ましくて、悲しくて、だけどどこか嬉しくて・・・

 だからこそ思った、今度こそ私を助け出してほしいと・・・裏切らないで欲しいと・・・そう強く願った。

 そんな中でも、【ラルム】は冷静に相手に対処していった、私はもう、何も出来ない・・・いや、ちがう・・・何も、する気を失っていた

 弦十郎まで現れて、皆で【ラルム】に対処していた、善戦は、していたとは思う、だけど視界も朧気で状況がつかめなかった

 最後には力押しに負けて吹き飛ばされていた・・・と思う、ただ、すぐ後ろに【ラルム】が居たのになぜか安心している自分がいた

彼なら、彼等なら、多分信じられる・・・わたし達を壊した世界を塗り替えてくれる、と信じた・・・信じようと・・・した、けど

 

 そんな意思をあざ笑うように【ヤツラ】は来た、わたし達を追って・・・自分達の贄にするために【ヤツラ】は来た

国としては当然のやり方なのだろうけど、最悪だった、私の最高の気分を害されたの    だから・・・

 だけど、そんな中でも私達を自由にしようと動いてくれる人たちは居た・・・馬鹿なことをする人達・・・でも、そんな人達の事を【希望】と呼んだ自分は、やはり、【絶望】しか受け入れてはくれないのだろう。

 そう思っていた、だからこいつらの内誰かでも殺そう、身体はもう限界ギリギリだったし、正直ギアのナイフでもかなり重かった・・・けど、【あの人たち】は私を止めようともした、けれど決して諦めてはいなかった、私達の世界を変える事を、こんな罪人でも受け入れてくれる世界を作り出そうと・・・頑張っていた。

 その最中、弦十郎とアチラ側にそれぞれ一報入って来たみたいで、その様子に愕然として逃げていくヤツら

 だけど、逃がしたくない、私達に絶望を与えていくヤツラを・・・だから振り絞ってヤツを斬る為に飛び出し、掴んだ・・・ただ、もうこれ以上に力が出ない・・・そしてこいつの最後の言い訳を聞いたが、結局利益しか考えて無い奴らなんてこんなものかと吐き捨て蹴り飛ばした・・・ただ、いつも以上に力が弱まってしまったから、そんな飛ばなかったけど・・・まぁ、それは良い・・・

 今は、ゆっくりと休もう、弦十郎たちとも今後色々話す必要がある・・・

 

そう、今だけは・・・そう、思いたかった・・・

 

 

―――――――――――――――

 

side by クリス

 

 お姉様と一緒に入院する事に成ったけど、問題は山積みなのは分かり切っていた

事実孤児同然の私達を受け入れてくれる病院なんて早々ある訳がない・・・いや、有ったとして普通でいられるのかな?

 でも、それ以上に心配だったのは―

 

「緒川さん・・・お姉様のペンダントは・・・持っていかないで下さい・・・お願い・・・ですから」

 

 私が病院に向かう前に二課の重要そうな彼に念を押して話だけはしておいた・・・詳しい事は言えないけれど、【アレ】だけはお姉様の・・・命に関わるから・・・

 

 それから、気が付けば、私たちは同じ病室で・・・いえ、何か譲歩されたのか、ベッドを横付けされている状態でお姉様の隣で眠っていたらしい。

 隣で安らかに眠っているお姉様の横顔は昔に比べれば大分と良くなっているのを見て私は焦っていた感情を抑えて、今は落ち着いてお姉様の寝顔をじっくり見つめることにした―

 

・・・まさか、【あの悪夢】を見ているとは思わなかったから―

 

――――――――――――――

 

深淵なる悪夢は続く――――




すいませんが、次回、少し愉悦(で良いのか?)します
苦手な方は飛ばしても構いません・・・残酷な描写有って書いてあるし、良いよね?

2021/9月14日 段落とかあざみねさんの名字変更色々やったよ・・・


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第八話

残酷回で、セレナの回想会です。
えっと・・・後半注意? で良いのかな?
わりかし平気な感じに書いたけど、多分、愉悦?入ってるのかな?
少しわからんからこんな感じに書いて注意はしておく。
尚、これでもまだ【一部分】ですので、まだ何かあれば次々書くと思います
今回の過去回想はこれぐらいと言う事で―
では


 

 

私は・・・夢を見ていた・・・

いつかどこか・・・懐かしい夢・・・優しかった・・・わたしの夢・・・

優しいお父さんとお母さん・・・そして姉さん・・・

貧しくても微笑ましくて、どんな時でも一緒にいられるのが嬉しくて・・・嬉しくて・・・だけど。

 

「奪われた・・・一瞬で・・・」

 

見えた瞬間には、辺りは戦火に包まれた

泣き喚く子供たち、誰かを助けようと奮闘する大人たち

それでも銃撃はやまず、絶えず、絶えていく人々の影・・・

 

「・・・・・・そうだ・・・・・・忘れていた・・・この景色・・・

私は・・・滅ぼされたんだ・・・何も知らないモノ達に・・・」

 

そういって黒い霧が辺りを照らしていく、しかし景色はそれだけでは終わってはくれなかった

周りを探索するような景色、崩れた家々、潰れた人影、もはや動かぬ者の手を取り泣く子供の影

それら一つ一つを見定めるように向き合うかのように見ていく・・・いや、見させられているような・・・

 

「この後は・・・見たくない・・・いや、分かりたくないから、自分で自分を否定していた・・・

だから・・・この後は、姉さんは・・・知ってる」

 

だからこそ、顔を向けて、親が亡くなる時を待った・・・まるで試練にかけられているかのような感じで、だけどいつかは向き合うべきだと思っていた・・・けど

空を飛ぶ【ソレ】から落とされた【モノ】が近くに落ちる、私たちを庇う様に両親が私たちを抱きとめてくれた・・・けど、それまでだった・・・私たちは、この日、親を失った・・・それと同時に生きる術もなくしてしまった。

親無き子は、奴隷にされて売り飛ばされるか、何処かの施設で利用されるかの二択しかなかった。

そんな中、私たちを引き取ったのは【F.I.S.】という施設で、その時話しかけてくれたのは【ナスターシャ教授】という人だった

私は、その時の記憶を探りながら、当時を思い出す様に、見ている景色を振り返っていた

 

「あの時は・・・姉さんに付いていくので精一杯で、両親はまだ生きてるんだって、何処かで信じちゃってたんだよね・・・もう、居るはずがないのに・・・

姉さんも、それを誤魔化そうとして、色々してくれたっけ・・・」

 

涙を少し零しながら、昔を懐かしんでいた・・・今は、あの時に【もう一人のわたし】が見せてくれた景色を思い出しつつ、過去の【優しい世界】をゆっくり手繰る様に歩き見ていく

もう泣かない様に・・・あの時の思いを込めて・・・

施設に入って直ぐの頃、何かに向かって色々な歌を歌った、と言っても、あまり外の音楽について知らなかった私たちは、親から聞いた童歌を口ずさみながら、その時を待っていた―

 

「そうして来てから数日・・・いえ、一月が経つ頃・・・かしらね?

あの聖遺物・・・【アガートラーム】と出会ったのは」

 

その時は夜中で、大半の人は寝入っている時に、何かに呼ばれるかのように目覚めた私は、その声を頼りに歩きだしていた、まるで初めから何があるか分かっているかのように・・・

 

「あの時の声は不思議だった・・・私が感じたことないような、そんな愛情を受け取った気がした・・・

だから、感謝を込めて、姉さんがよく歌っていた詩、【apple】を歌った・・・静かに、ゆっくり・・・

そして・・・答えてくれたんだよね・・・あの影は誰か未だによく分からないけど、それでも、纏えた・・・纏えて、しまった」

 

その時の私は、好奇心で動いていたと思う・・・この後、姉さんたちが酷い目に合うなんて知らずに・・・

そうして、あの人紛い共は、姉さんたちを本格的に動物みたく扱って実験しだした

特に姉さんは、私が聖遺物を纏えたからか、姉妹なら適合できるものがあるという判断だったからか、どんどんと歌わせていっていた・・・容赦なく、言葉も聞かず・・・

止めてって言った、虐めないでとも言った・・・だけどやはり人紛いだった、言うことなんて何一つ聞かず、自分たちの為だけの研究を次々に行っていた

ある程度時間は掛かっていたけれど、一応姉さんも【ガングニール】という聖遺物を纏えるようにはなった・・・それでも奴らは、姉さんを【欠陥品】呼ばわりして蔑んだ目で見ていた。

ソレが堪らなく嫌で、私は自分を盾に皆を守ろうとしたけど・・・纏えた私はもう眼中にないのか、痛い注射や苦い薬など、沢山の道具を扱って私たちを【モノ】扱いしていた

そんな時、新しい子が入ってきた、一人は元気な金髪の子、【暁 切歌】さん

そしてもう一人は内気で臆病そうな子【月読 調】さん

他にも何人か居たと思うけど、暁さんの印象が大きくて、少し驚きが大きかったのを覚えてる

暁さんは誰彼構わずに話しかけ、失敗してもへこたれない、まるで太陽のような子。

対して、月読さんは内気で誰とも輪を作れずに一人で固まっていた

可哀相だなって思っていたけど・・・下手に私が手を出すと、きっと酷い事をされる、それだけは避けたかった、何としてもあの子たちを守るんだ、ってそんな気ばかりを自分に言い聞かせて・・・だけど

私も・・・寂しかった、姉さんに存在否定されそうで、姉さん以外の友達なんて殆ど出来なかった、ううん、私が適合してしまったから、友達は出来なかったんだ・・・もし、姉さんと同じぐらいなら皆の痛みを分け合う事ぐらい出来たかも知れないのに。

今更そんな事を言っても仕方ないことは分かってはいた、でも・・・それでも。

 

「それでも、暁さんだけは、分け隔てなく接してくれたよね・・・」

 

そう、皆を不幸にしたと思って空笑いしか出来ていなかった私に本当の笑顔を思い出させてくれた暁さんの笑顔は、今でもはっきりと思い出せる、その笑顔に私は、ううん、姉さんも、月読さんも助けられてきた。

 

「まだ、皆幼かったのに・・・本当に・・・本当に・・・っ!」

 

悲しみに暮れながらも、辺りは少しずつ時を刻んでいく・・・思い出させたくないものを、見せる様に。

そうして、それは次第に色付き始め、【私】の始まりを告げてくる・・・

暫くは、平穏だった、わたしとしては・・・だけど

そうこうして居る時に、気が付けば、暁さんは【イガリマ】に適合し、月読さんは【シュルシャガナ】に適合していた・・・二人とも10にも満たない歳で困難を打ち破ったようだった

ただ・・・やっぱりと言うべきか、二人とも薬を利用しての適合だった為か、纏えてもあまり芳しくなかったようだ、後遺症は【痛み】として残ったようだった

それでも、健気に「大丈夫」とか「まだ頑張れるデース」って元気を振り撒くかのように接してくれる二人には、本当に感謝してるし・・・これ以上頑張らなくても良いとも・・・言いたかった、言って・・・休んでいてほしかった。

それが私の只の我儘なのは分かっている、けど、それでも・・・自分が纏えた【呪い】を彼女達にも背負わせたくはない・・・だから・・・だけど・・・

次には、繭の様な聖遺物を出されて・・・何人かで歌うように指示された、それにはわたしも入っていたけど、結局誰も励起させる事は出来なかった、でも、それで良かったと思っているわたしが居た・・・

けど、そこでも少し・・・ううん、大分と違和感を感じていた

この時、わたしは十歳ぐらいだったはず・・・だけど映像で見ているのは、それより年が幾つか上に見える・・・これって・・・いったい、何?

 

「・・・まさか・・・・・・【純粋】・・・あなた・・・なの?」

 

そこに居たのは私の記憶とは違う【わたし】、時が時ならば、もっと違う形で平穏に過ごせていたであろう、もう一人の【わたし】を見ていた

違う! 私は・・・この時よりもっと小さい時に皆を失った! 怖かった! 寂しかった! 悲しかった!

でも、否定すればするほど、映像の【わたし】はあの時の私より成長した姿で姉さんと一緒に歌っていた

そこから先は、映像がぼやけてきて、何かが映し出されていたんだと思うけど・・・後に見えたのは絶唱をしている誰かの姿・・・だけど、そこに見えているのは―

 

「え・・・わた・・・し・・・?

絶唱してるのは・・・わたし?」

 

暴れている何かに私は一人で歌っていた

まるで周りの不幸を包み込むような、荒立った気持ちを落ち着かせるような絶唱・・・

でも、私は詠った覚えはない・・・あの時詠ったのは・・・

 

「暁さんは・・・月読さんは・・・マリア姉さんは・・・何処?

なんで・・・何で私は一人で・・・歌ってるの? ・・・どうして?」

 

分からない、判らない、ワカラナイ、なんで・・・どうして?

だって十歳の時に【アレ】が突如暴走して、わたしは私を犠牲にして皆を助けようと【アレ】に立ち向かって・・・だけど、暁さんも、月読さんも、そして・・・マリア姉さんもそれをさせてくれなかった。

でも、一緒には歌った・・・歌っていた・・・筈なのに・・・

何かが潰れる音が聞こえた、グシャって、ブシャっと瓦礫に潰される音と、何かを引きちぎる音・・・そうして私の足元に見たくない【ナニカ】が飛んできた・・・そうして、正面には一番見たくない、消えて欲しい【アイツ】がその口に咥えていた【ナニカ】は・・・

 

「いや・・・違う・・・ちがう・・・チガウ!!!

そうじゃ・・・そんなんじゃ・・・いや・・・イヤアァァァ!!!!!」

 

翠を基調としたギアの破片が周囲に飛び散り、赤い、紅い見てはいけない【ソレ】が飛び散って・・・

でも、眼を閉じれなくて・・・見たくないのに腕が・・・ギアを纏っていた腕が吹き飛んで足元に散らばって来て・・・今度はピンク色の破片が突き刺さって飛んできた・・・片足と共に―

 

「な・・・んで・・・月読さん・・・?

さっきのは・・・あか・・・つき・・・さん? 待って・・・止めて・・・これ以上・・・見せないで―」

 

だけど、残酷に時は流れていく、未だに絶唱の響きは続いているのも関わらず、【アイツ】は暴れ喰らってくる、ツギハオマエダと言わんばかりに、大口を開けて、見たくもない【ソレ】を喰らう瞬間を瞳孔を開けてみてしまった―

グシャっと残酷な音を上げ、卑劣な音色と残響する叫び・・・タスケテと泣き叫ぶ小さな声・・・

もう・・・響かせないで・・・お願い・・・このままじゃ―

だけど、【ソレ】は起こってしまった、わたしの大切な家族を圧し潰すかのように瓦礫が、【アイツ】が圧し掛かっていた・・・見たくない、見せて欲しくなんか・・・無いのに、声は響いて・・・

 

『逃げて・・・セレナ・・・お願い・・・ニゲッ!?!?』

 

そこまで響いた声は絶叫と共に掻き消え、ギリギリ見えていた姉さんの顔も伸ばされていた右腕も炎と共に掻き消え、グシャリ、ブチャっと握り潰されて、咀嚼される音と共に一番聞きたくない声と叫びで辺りを埋め尽くされる

一番生きていて欲しかった大切な人は・・・もう居ない・・お父さんも・・・お母さんも・・・暁さんも・・・月読さんも・・・瓦礫に呑まれたマムも・・・みんな・・・みんな・・・

最後に潰えた綺麗なピンク色の人房の髪が、目の前に落ちて・・・何もかもが消えて行って・・・

気が付いたら外に居た、まるであの事件が夢だったかのように、だけど消えた人達は数知れず・・・

ホントウニ、消えて欲シク無かったモノまで、キえテしまッた・・・

 

「ねえ・・さん・・・マリア・・・姉さん・・・?

もう、二度と思い出したくなかった・・・こんな景色・・・消えて・・・ほしかった!!!!!

でも・・・でもぉ・・・ッ!!!」

 

膝をつき、泣き出してしまう、信じたくなかった、生きていて欲しかった・・・そんな思いばかりが先立ち、後悔を後押しするかのように辺りを変えてしまう・・・

そこから先の景色も見たくはなかった・・・唯一残ったレセプターチルドレン、だけど、それと同時に唯一残った【女】という存在を、只で見逃すほど人類は優しくは無かった

最初こそは、まだ守れるものがあると、信じられる人が居ると信じて止まなかった・・・けど

 

「・・・・・・一人・・・また一人と・・・消えていく・・・しんで・・・・・・亡くなっていく。

わたしの・・・信じた場所はこんなのじゃ・・・ない・・・

分かっていた・・・分かって居たけど・・・でも!」

 

何か一つくらいは信じさせて欲しかった・・・けど、そんな思いも一年もせずに消えてしまった・・・

道行く中で、次々消えて行った・・・目の前で亡くなったのは最後に残った私を生かすために唯一頑張ってくれた人だった・・・

でも、その人が何をしていたか分かって居た、私に無茶をさせない為に、やらされない為に・・・他の人たちを欺き殺していた・・・分かって居た、けれど見て見ぬふりをしていた

その最後に渡された【灯火】は今でも持っている・・・持ち続けて・・・そして・・・

 

「私の人生は・・・呪われた・・・呪い・・・・・・殺された・・・優しかったわたし・・・

そうして出会ってしまった・・・残酷な世界に生きる・・・今の、私・・・」

 

そこから先も・・・見て居たくはなかった・・・残酷が続く・・・空腹でも、誰も助けてはくれなかった、助けて貰おうとすれば、犯された・・・まだ十ぐらいの歳の少女だった私でも・・・そう、そして―

 

 

 

 

「殺すことを覚えたのは・・・この時だった・・・ね・・・」

 

 

 

 

そこまで言った後は、気が付いたら真っ白で、意識が遠のいていた―

苦しい狂った世界、だけど・・・タダで許してくれるほど、この夢は、優しく無かった―

 

 

「・・・ここは・・・どこ・・・?」

 

再び歩き出そうとして、脚が止まる・・・見知らぬ場所に出た、と言っても真っ暗で何かは分からなかった

何回か足音を鳴らす、が、何も反応は無い

 

「・・・いい加減にして! とっとと出てきなさい!」

 

痺れを切らして怒鳴る、まるであたかも其処に何かいることが分かって居るような物言いで食って掛かる

・・・だが返事はない、しかし、チャリンという小さな音が響いた

 

「!? そこ!」

 

イメージした【ソレ】を投げつける

ナイフではなく、ボールのイメージ、すると初めからそこにあったかのようなものが出来上がっていて、投げつけると同時に、対象にぶつかり消える

だが、それに反さずそのまま倒れる【ナニカ】が、動きださないまま、辺りに新しい【異臭】が立ち込み始めた

 

「!!? っく、この・・・臭いはっ!?」

 

セレナは一瞬で理解した、ここは・・・この場所は―

 

「処刑・・・場・・・じゃあさっきのは・・・」

 

そこに居たのは、過去に私が殺した遺体が三人程折り重なっていた

まさか、と思い遺体を調べる・・・しかし、無かった

 

「内臓が・・・抜けてる・・・やっぱり幻覚じゃない・・・?」

 

腐肉の様にダラダラになった肉塊を転がして腹を見てみる、だがセレナが掻っ捌いたのと同じ切り方で開かれており、中身は無いままだった

周囲の雰囲気が徐々に赤らんできた・・・まるで何かを殺すかのように

 

「・・・さんざん人を殺しておいて・・・自分だけ生きたいなんて・・・都合が良すぎるわよね。

・・・でも、どうせなら、姉さん達と一緒に死にたかった・・・こんな風には・・・生きて居たくはなかった!!!」

 

腹立たしい! それだけに・・・・ううん、だからこそ、この風景こそが、多分私なんだろう。

そうしていると、扉が開いた、こっちにおいでと言わんばかりに、口を開けていた

誘われるように、だけど、気はしっかり持つように一度顔をはたいて、気を落ち着ける

そうして潜り抜けた先・・・場所はF.I.S.の研究施設だった

ネフィリムの暴れた・・・あの場所、私が思い出したくない、最悪の場所―

なんでまた、とも思ったが、周囲を見回そうとした、が、首が動かない、それだけじゃない

脚も、手も、身体を動かそうとしても、まるで金縛りに遭ったかのような感覚に陥る

だけど、それ以上に目の前に居る人物に驚いていた

 

「えっ・・・ウソ、だよね・・・マリア・・・姉さん・・・?」

 

顔を伏せて髪で顔が見えていないが、最後に死に別れした時の容姿で私の前に歩いてくる

ただ、明らかに様子がおかしい・・・先程逃げてと優しく言ってくれていたのとはまるで別―

すると、口から洩れた言葉に耳を疑った

 

『ねェ、セれナ・・・いたイよ、クるシイよ・・・ネェ、ナんでセれなダけブ事ナノ・・・?

不公ヘイよネ、ネェシッテル? セreな?」

 

ようやく目の前までゆっくりと歩き終えた姉さん、だけど、言葉一つ一つが明らかにおかしい

やっぱり―ここは―

 

『オ腹ヲ引キ裂カレタ痛ミガドレダケ苦痛カ知ってル!?」

 

「ね、姉さん!? 止めて! その顔を見せないで!!!」

 

自分のお腹に手を突っ込み内臓を無理やり取り出して、見せ付ける様に弄ぶその様はまさに狂気で、マリア姉さんの顔をどこかしら欠けていてもはや普通じゃなくて―

 

『ネェ、わたしタチをこんなにシタのは『ドコのダレだったデスか・・・?』』

 

「暁・・・さん・・・月読・・・さん・・・っ!!??!?」

 

二人の容姿は・・・血塗れだった、暁さんは両腕を肩から先を無くし、血が止まることは無く流れ続け、月読さんは足と言う脚を無くし、暁さんに捕まっている状態で私に話しかけていた・・・でも!

違う! そう言いたかった、あれは【あの化け物】の所為だから! 私の・・・私の所為じゃ・・・!?

 

『イイエ、あナたの所為ヨ・・・アナタがウたワナいカラ、ワタしたtiはkoうナッてシマったノ!!!

アナたが・・・seれナがウたッテいreバ、ワたsiタチはぶziダったカモsiれなイのni!!!』

 

『ソうデす『これモmiンなseれなノ所為』アレもゼンブせreナがwaルイのでス!」

 

違う・・・違う・・・チガウ・・・ちがう・・・そうじゃ・・・わたしの・・・わたしの・・・所為?

 

『ソウだ『ソノ通りダ『ゼンぶ『ぜンブ―

 

 

 

 

 

      オマエガワルイ!!!!!』』』』

 

 

 

 

 

いや・・・いや・・・動けない・・・もう・・・こんな所に・・・いたくなんて・・・

不意の背後に雪の跡が見えた、クリ・・・ス・・・?

 

『ワタしのセかイも・・・オネえサまにコわサれた・・・だから』

 

そう言った血塗れの顔で私を見上げて―

 

『コロすね? ミンナアナたの死をノゾンでいルノ』

 

「え・・・いや・・・クリス・・・何で・・・いや・・・裏切らないで・・・いや・・・」

 

未だに泣き出しそうで、だけど動けない私に対して、このクリスは

 

『ウらギッタのは、おねエさマdeスヨ・・・ワたしタチのキもちモ知らズ・・・ノん気デスね・・・オネエサマ?」

 

満面の笑みで、手に持ったナイフを突き刺してくる、それに便乗するかのようにマリア姉さんが、暁さんが、月読さんが次々に刺して、斬って引き裂いて―

痛い・・・いたい・・・イタイヨ、だけど・・・今まで殺した人たちを考えると・・・当然かなって・・・頭はなぜか冷静で―

でもそんな痛みで許してくれなくて―

 

『イくよ? しゅルしャガな『イクでsuヨ いガリま』』

 

ウソ・・・こんな世界で・・・あれは・・・あれは! 止めて!これ以上私の世界を―!!?

 

『ダまりナサイ 大罪人セreな・・・コころのオクそコmaでコワしてアゲru』

 

聞きたくない、でももう身体は動かない

私の知っている優しい声で、そんなコワレタ言葉を・・・このまま・・・ワタシモコワレレバ―

シュルシャガナの刃がもう身体に当たり少しずつ細切れにするかのように、歪な鋸が身体を切り裂いていく

もはや意識は伽耶の外、それでも摩り減らされていく体の痛みは徐々に大きくなっていって、我慢できずに吐き出す、血もある物も、ナニモカモ・・・

もう・・・助け期待しない・・・アルノハ・・・自分を呪う戒め・・・ダケ・・・

でも、見て居る意識は手放すことが出来ずに、悪夢は続く、銃撃の的にされたり、ガングニールに貫かれたり、それでも身体は再生を繰り返し、再び削られる、精神も生命も・・・この呪いは・・・終わる事をシラナイ

それは、恐らく私の先を暗示しているみたいで・・・怖くなって、でももう逃げれなくて

現実の私は・・・優しさに呑まれ過ぎた・・・もうそんなものは要らない・・・

 

 

 

「コレかraは・・・恨むコト以外じゃ・・・イキて行けないkara!!!」

 

 

 

ワタシはこの呪いを受け入れる・・・多分、そうでなくても私はもう・・・

 

「人には・・・戻れない・・・私は・・・バケモノだから」

 

そこまで言って、再び身体を真っ二つにされ、また蘇る

動けない身体に幾重も凶器が、狂気に突き刺さる、まるで鬱憤を晴らすかのように

しかし、少女は次第に恐怖の表情から、笑みに変わっていく・・・

それは、少女がバケモノへの道に手を掛けた瞬間・・・世界に否定される事を認めた瞬間だった―

 

 

 

 

 

 




セレナちゃんが普通に生きれる気がしない(やっておいて何だそれは
過去的にキツイものが無いと性格の変容ってそこまで行かないとか思ったりして色々練ったりするけど、過去の時系列変更が一番楽で・・・ごめん何でもない
・・・精神面結構動くけど時間動かないなと思いながら・・・ツヴァイウィングのライブいつになるんだろ・・・まぁいいや
では~


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第九話

 

side by クリス

 

 

お姉様が隣で眠っているのを見て結構経ったと思う、だけど中々目覚めないお姉様に抱き着いたりキスしてみたり、なんか色々やってみたけど、起きる気配がまるで見えない

 

「お姉様・・・」

 

不思議と静かになっている場所・・・目覚めたときは良く分からなかったけど、病室だっていう事は何となく分かった

けど、私より軽傷だったはずのお姉様がまだ目覚めていない理由が良く分からない

 

「ペンダントは・・・ある、私のイチイバルも・・・?

なんでイチイバルもそのままに?」

 

あの人に頼んだのはお姉様のギアペンダントを取らないでとだけだったはず・・・じゃあ何で私のギアペンダントもそのままにしてあるの?

目覚めない理由も持っていた物が籠に入っている理由も良く分からないまま、お姉様の横で一緒に寝転がって考える

一応コールでも押そうかなとも思ったけど、お姉様はそういうのが苦手だし・・・私も嫌いだからやっぱり押すのは無し

 

「もう少し・・・待って・・・みようかな・・・?」

 

お姉様の寝顔を見たまま、後の事を考えたりしてみる・・・けど良く分からないからまた、お姉様の状態を見て居た

狭いベッドでうごうごしていると、何か呻きにも似た声が近くから響いてきた

 

「え? お姉様? お目覚め・・・で・・・っ!?」

 

だけど、その表情は決して良いものじゃなかった、正直に言えば最悪

 

「お姉様! 大丈夫ですよ! 私が・・・クリスはここに居ますから!」

 

お姉様を元気付けようとして抱き着いて言ったけど・・・届いてないみたい・・・

お姉様は依然として呻いて叫んで、暴れ出しそうになっていた

そんな・・・だって、【ラルム】の脅威はもう無いはず・・・じゃあ何で?

 

「・・・・・・わたしは・・・もう・・・苦しんでるだけのお姉様を見て居たくない!

助けたい・・・助けたいよ! でも、何で・・・どうして、何も出来ないの!」

 

身体に触れて、落ち着かせようと再び抱き締める、だけどそれすら効果が無い、それどころか振り払われてしまいそうな程力が強く、次第に涙も流れ出していた

 

「・・・あ・・・ぁ・・・もぅ・・・・・・一人は・・・・・・いや・・・・・・

姉さん・・・暁さん・・・月読さん・・・・・・お願い・・・・・・私を―

 

          コロシテ

 

「え・・・お・・・ねえ・・・さま?

なんで・・・なんでお姉様が死なないといけないんですか!!!

お姉様は・・・お姉様は悪く無い、悪いのは私の方です! 良いですか!お姉様は―」

 

そこまで言ったけれど、相変わらず身体はガタガタ震え、未だに目覚めない

だけど、私はそこで何をすればいいか分からず、おどおどしていた・・・けど、何か外から声が聞こえて来た

・・・? 窓を開けろ?

言われた通りに窓を開けて離れると、金髪の小柄な少女がローブを羽織って目の前に飛んできた

あ、この人は・・・

 

「相も変わらず放っておけんな、お前たちは・・・まぁ、だからあんな提案をしてきたんだろ?」

 

「あ・・・あなたは・・・キャロル様!?」

 

予想外にして想定外、私が思う中での最高の救世主・・・キャロル・マールス・ディーンハイム様がこちらに来てくれた

予期しない来訪者にドキドキが収まらず、茫然としてしまっていた

だけど、今はそれどころじゃ―

 

「落ち着けクリス、大丈夫だ・・・セレナは(オレ)が救ってやる・・・絶対に勝手に死を纏わせたりはしない!

(オレ)の世界を変えてくれた(オレ)達の救世主がこんな所でくたばる等許すものか!」

 

キャロル様がお姉様のギアペンダントを弄り出した・・・あの中には呪いを溜め込む【揺り籠】と言うものが存在するらしい

それを定期的に放出することで、状態の安定化を図っていた・・・と言うのを以前聞いた事がある

だけど、前日に【ラルム】まで起動して、呪いと言う力の波動はかなり治まって見えた・・・けど

 

「・・・恐らくだが、彼女の許容量以下の呪いが残存する場合、悪夢を見るのだろう・・・

だが、(オレ)はそのような面倒な機能は取り付けた覚えはない・・・だとしたら、以前から取り付けられていた?

一体何のために?」

 

「あの、それって、許容量を超えて居なければお姉様は普通でいられないって事・・・ですか?」

 

「ああ、(オレ)の勘が正しければ、いや、正直しばらくお前たちを監視していた感じだとそうだ

とはいえ、セレナ自身にどれだけの【呪い】を許容できるのか分からない以上、下手なことはできない・・・

良し・・・これでギアの調整は出来た・・・後は」

 

お姉様の呼吸が落ち着いてきた・・・どうやら一難去ってくれたみたい。

ほっと呼吸をし返すとキャロル様がある資料を渡してきた

 

「クリス、時間をかけても良いが、一応覚えて置け

もしもの時は、お前がセレナを助けてやってくれ」

 

「え、これは・・・ギアの構築式?

でも、お姉様のギアは複数の聖遺物が混在していますから、これだけでは―」

 

「いや基礎通りに戻してやれば、ある程度の【呪い】は振り落とせる。

言っただろう?【揺り籠】だと」

 

「つまり、溜まった水を揺らして落とす・・・と言う事ですか?」

 

ああ、と言って持ってきていたのかカップに入った紅茶を一口すする

と、会話して居たら外から走って来る音が轟いてきた・・・これ、あの人かな?

 

「大丈夫か! クリス君! セレナ君!―」

 

「弦十郎さん・・・静かにお願いします」

 

「ふん・・・こいつが例の奴か」

 

「あ、ああ、すまない・・・急に叫び声が聞こえたものでもしかしてと思ってきたのだが・・・

幸い、ここの病棟はなぜか俺達しか居ないのでな・・・すまない、迷惑を掛けた。

所で・・・そこのお方だが・・・」

 

? 普通に小さい女の子にしか見えない筈ですが・・・?

・・・あっ

 

「キャロル様・・・認識阻害使ってますよね?」

 

「話し合うのにこの姿じゃ不便だからな・・・それより少しは話を合わせろ」

 

分かってますよ、キャロル様

取り敢えず、お姉様の容態が安定したので、弦十郎さんと一緒に部屋を出ることにした私達

とはいえ、職員の方々も居るので、少し寒いですが、屋上で話し合う事に・・・

あれ・・・案外寒くない?

 

「流石に外で話すのに防寒無しと言う訳にはいかないだろう?

外気は(オレ)が操っておいた、それに・・・やつとの会話は長くなりそうだしな」

 

そうだったんですね・・・錬金術ってやっぱりすごい

ほうっと、一息ついて、近くのベンチに腰を掛けて、話し合いを始めようかとして―

キャロル様が紅茶を人数分用意してくれた・・・利便性高すぎない? ソレ

 

(オレ)も錬金術師の一派だからな、出来ない事はあまりない・・・それより―」

 

前方に立つ一人の男、弦十郎さんに話を振った

 

「まずは自己紹介だな、俺は風鳴 弦十郎

政府公認の機関で働かせて貰って―」

 

「別に隠さなくていい、特異災害対策機動部二課司令 だろう?

次は(オレ)か、(オレ)の名はキャロル。

キャロル・マールス・ディーンハイム、察しの通り、錬金術師だ」

 

「っ!? これは驚いたな・・・やはり、クリス君やセレナ君の関係者なだけあるか?」

 

「確かに(オレ)は彼女たちの関係者であり、彼女たちの錬金術を教えてやった師でもある・・・

だが、それと同時に(オレ)が成そうとした事を止めてくれた善き親友でもあるんだ」

 

そう、お姉様とキャロル様は確かに関わった期間こそ数年ぐらいだけど、それでもお二人は仲睦まじい姉妹の様な間柄で・・・

私もお二人に錬金術の扱い方を伝授してもらって、ある程度なら簡易的にモノを作る事も出来る様にはなった

そんな中、お姉様は【あの装置】に対して、多くの欠点と、目的の相違に様々な言い合いがあった・・・

だけど、お姉様はキャロル様の言う事をすべて否定はせずに、ある程度許容した上で、行う事の違いを述べて。

そうして、手にした【アノ】力・・・ドヴェルグ・ダインの遺産にして完全聖遺物・・・【ダインスレイフ】を・・・

お姉様はあの剣を全く出しませんが、それでも、あの剣の力を強く受けているのは目に見えてわかった

そうして、近くに居た私にも、同じような現象が起きていた・・・呪いを受け継ぎ、力に変える呪縛

乗り越えることが困難だと言っていた、けれど、私もお姉様も、一発で完全起動まで成し遂げた・・・それ以降、お姉様のギアは黒いままなのが、一番気がかりだった。

だけど、私はその事は、今聞くべきでは無いと思った、だってお姉様とキャロル様は―

 

「善き親友・・・か、だから今回姿を現してくれたのか。

いや、まずは君に感謝する、彼女を救ってくれてありがとう」

 

「その礼は彼女が起きてからにしてくれ、それに今回お前たちに合流したのは他でもない。

そっちの装者の力の底上げが急務だと聞いてな・・・こうやって出張ってきたわけだ」

 

「・・・奏も翼も精一杯頑張っている、それに訓練だって前に比べれば相当ハードなものをこなしている。

それでも、君は足りないというか?」

 

「ああ、全く持って足りていない、ノイズ相手ならその程度で済むだろうが、相手がノイズばかりだと思わない方が良い

時には、ノイズよりも残酷な存在によって消される事だってある」

 

「なん・・・だと?

そのような事・・・いや、一概に無いとは言い切れないか」

 

「そう、それは事実だと思います、弦十郎さん

だって、今の彼女達では、ギアを纏わないお姉様どころか、私にすら劣りますから」

 

「そうだ、クリス、体調が治ったらでいい、あの装者二人にお前の実力を見せてやれ。

そうすればアイツらも目が覚めるだろう」

 

はい、了解しました、キャロル様、それでは、後日そのようにいたしましょう

詳しい事は、色々と話すようなので、今は病室に戻る事にします・・・キャロル様、後でお話・・・よろしいですか?

 

「・・・分かった、また後でな」

 

弦十郎さんにも軽く挨拶して、一人で病室に戻る

お姉様・・・大丈夫かな・・・?

 

「ただいま、お姉様」

 

少し出ていただけだけど、同室だから、戻ってきた時でもちゃんと声は掛ける。

まぁ、まだ起きて無かったらアレだったんだけど・・・?

 

「お姉様・・・? 起きてますか?」

 

仕切りカーテンが揺らめいていて、上半身を起こしている誰かの姿が見える、私の声に反応してか、身体がこっちを向いたように動いたのを確認できた・・・瞬間―

 

「えっ・・・お姉様?」

 

ナイフを私の首元に突き立てようとしていた、けど何かが邪魔をしてそれ以上先に進まない

私とお姉様の間に黄色を基調にしたタキシード姿の女性の姿が割り込んでナイフを受け止めていた

このお方は―

 

「地味にピンチだったな」

 

「レ、レイアさん!? どうしてここに!?」

 

「主からの命令だ、どちらかが危なかったら助けてやれとのお達しだ」

 

キャロル様の・・・それより、お姉様!どうして―

 

「邪魔・・・殺せな・・・・・・チガウ、私はクリスをやりたいわけじゃ―」

 

片方の瞳は光を灯してない、けれどもう片方の瞳にはしっかりとした意志を感じれた

だけど、お姉様はどうしてこんな―

 

「お姉様! 落ち着いて! 私は、雪音クリスはここに居ますから!」

 

「私の・・・ヒカリ、ハァ・・・ハァ・・・く・・・りす・・・?

本当に・・・本当に、クリスで・・・あっているの・・・?」

 

「はい! 私はあなたのクリスで、あなたは私の大切なセレナお姉様です!」

 

ナイフを握る手を緩めて前のめりに倒れ込みそうなところをレイアさんに助けて貰って、ベッドに戻るお姉様・・・いったい何が・・・?

 

「お姉様・・・また、酷い悪夢を見て居たのですか?」

 

「ごめん・・・クリス、頼りない私で・・・本当にごめんなさい」

 

やっぱり・・・力強いだけのお姉様じゃない・・・だから私はお姉様と一緒についてきたのだけど・・・

でも、私が今のままじゃ・・・駄目だ、私はまだ弱い・・・お姉様の孤独を癒せない私じゃ―

 

「いや、クリス様は十分にセレナ様の傷を癒す役目を担えていると思えます・・・

ですが、呪いが癒えた傷をどんどん浸食して行っているのも事実・・・

しかし、これはセレナ様が決めた事、私達ではどうにも・・・恐らく主でも・・・」

 

そう・・・でも、私はお姉様が一番大切で・・・だから・・・だから―

 

「ねえ、お姉様の呪いの肩代わりって、出来ないんですか?」

 

「ダインスレイフの呪いの肩代わり・・・か?

それは、主でも難しいかと、ですが何もかもをセレナ様に背負わせるのはやはり筋違いが過ぎると・・・

しかし、地味に何も出来ないのは派手に辛いのは事実、しかし、セレナ様は全ての呪いを背負うつもりで行ったのも事実、私達部外者が何も言えない・・・が、クリス様なら何か言えるかもしれないと言える」

 

私なら・・・私なら何かできる?

もしそれが本当なら・・・私は何だって―

 

「あのー二人で言い合ってるのは良いけど、ちょっと窓開けて貰えるかな・・・?」

 

あれ、言い合ってて気が付かなかったけど、猫耳の子が窓の外に・・・あれ、確か此処って三階・・・

じゃない、早く窓を開けないと、あれレイヤさん早い

 

「地味に行動、そして派手な来客、して、何をしに来た? 災厄の白描?」

 

「うーわ、そう言われるとかなりきついんだけど?

まぁ、いいや、セレナちゃんとクリスちゃんのギアペンダント少し借りるよ~」

 

え、ギアペンダントを・・・ってもう手に持ってるし。

あれ・・・もう片方の手に持ってるのって・・・何かの欠片?

 

「ダインスレイフの欠片・・・地味にとんでもない物を・・・」

 

「え、ダインスレイフって完全聖遺物では?

欠片って事は、お姉様の持っていたダインスレイフを割ったのですか!」

 

「あ、違う違う、って言っても信じられないと思うけど・・・あの、立花響って子居たよね?

彼女の居た世界から持ってきたやつだから、とは言え、以前ほどの力はこれには無いの・・・ただ

私がやっておきたかったのはコレ」

 

って言っている間に、お姉様のギアペンダントにその欠片を引っ付けた、と瞬間黒い何かが欠片の方に吸い取られていく、ある程度吸った所で、今度は私のギアの方に付けた・・・すると、黒い何かは私の方にもあって、同様に吸い取られていく・・・これって

 

「ダインスレイフの呪いを吸収っと・・・これでまぁ悪夢は見ずに済むんじゃないかな?

まぁ、また呪いを溜め込む事に成りそうだけど・・・ね?

それは兎も角、私はこの後色々あって逃げさせてもらうよ・・・想定通りなら、この後アイツが出てくると思うからね、あ、セレナちゃん、ギアは返しておくよ、クリスちゃんも、じゃ、そろそろ出てくると思うし、私を追ってくるだろうから、またね~って出てきたし!」

 

言っている間に黒いモヤが部屋の中心辺りに現れて、ダインスレイフの欠片を取ろうと触手を伸ばしているのが直ぐに分かった、けど、欠片を箱に入れた後、速攻で窓から飛び降りて地上に着地、黒いモヤもそれを追うように外に飛び出て、黒い刃を飛ばし、白猫、【リセ】に攻撃を開始していた。

・・・ここ、三階なんだけど、飛び降りて無事って、それにギアを纏っていないのにあれほど動けるって・・・もはや人間じゃない・・・

お姉様はゆったり寝てるし、あ、モヤが攻撃受けてるけど、お姉様に変化無い辺り、【ラルム】じゃないのかも?

 

「あれから地味に【ラルム】の気配を感じ取れる・・・

恐らく呪いの収集をし始めたのかと?」

 

「え? じゃあお姉様が苦しまない理由が分からないよ?

・・・あのダインスレイフの所為?」

 

かも知れない、と返事を言ったレイアさんを余所に、どこか遠くに行ってしまった二人(?)を遠くに見届けた、あ、向こうにファラさんが追っていくのが見えた、やっぱり複数人で監視してたんだ

 

「主側の会話も終わった様なので、此方も地味に失礼する」

 

「あ、また・・・会えますよね?」

 

「派手に肯定、地味に退場させて貰う」

 

不思議なポーズをとって肯定した後にジェムを割って退場していくレイアさん

・・・まだまだやる事が増えそう・・・だけど、これもお姉様の人脈のお陰

お姉様・・・絶望ばかりでは無いですよ、この世界は・・・

ゆっくり寝息をたてるお姉様の横に座り、不思議と伸びて来た髪を梳いてお姉さんの寝顔に対して微笑む

やっぱりお姉様は・・・綺麗で素敵だ・・・私なんかより、ずっと・・・

私はバッグの中に入っていた(何故か?)ドローンを動かして、あの白猫とラルムを見てくることにした

・・・あの白猫、私達よりずっと強いんじゃないかなって思えて、だとしたら今の私達よりもずっと危険だ

だから、ううん、だからこそ―

 

「貴女の力・・・見させてもらいます」

 

近くに付属していたノートパソコンを起動してドローンに連動、二人の行動を監視し出した・・・

この闘争は・・・見ておかないと、今後に関わると思う・・・だから、ううん、だけど

 

「ラルム・・・無事でいて・・・」

 

なぜかあの【兵器】のような存在を不思議と心配してしまう自分がいて・・・

でもそんな自分を嫌いになれない私がいた。

 

 

この後は・・・恐らく私達の選択に大きくかかわると思う、だからこそ・・・

私達を、導いて見せて・・・

 

 

 

次回の闘争へ―――

 




え~っと、キャロルさんの登場です、はい、このキャロル、ワールドデストロイしないです、普通に良い子です。
でもセレナを黒く染めたのは大体この子です、セレナが自分で決めたんですけどね。
・・・進まないな~、でも時系列一気に動かすとおかしくなる所がggg
と、とにかく頑張って行こ~、あ、タグに書いてある通り原作準拠って書いてないからほぼオリジナルストーリーです、とはいえ歩くところは大体原作通りですがね・・・
戦闘増えるな~描写ど~しよ・・・出来てるかすっごい不安・・・
感想待ってます~(モチベ的に


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第十話

セレナさん、あまり出番ないかも今回・・・
あと大人セレナさんの実装間近になりましたね~割と早くて泣きを見た自分~
後・・・デカい(何がとは言いたいが言わない)
それとマリアさん小さい・・・カワイイ・・・
だけどこっちの作品でマリアさんが出るかと言うと・・・う~んこの―

あ、こっから結構長めの戦闘になりますので・・・次回投稿少し遅くなりそう・・・?
早めに投稿出来たらするヨ あと今回少し遅くなってすまない

では―


・・・あぁ、こっちのセレナちゃんは不健康に育ってますが胸はデカいです
年齢はまだこちらが下なのでアチラほど大きく無いしウェスト結構ガリガリだったりします・・・不健康だからね、仕方ないね・・・
それにしても装者中一番大きいセレナちゃんって・・・ヤバイね、可愛い・・・
・・・ヤバイ脱線しすぎた、で、ではでは~

追記:お気に入り登録三十人突破ありがとうございます。
感想などもどしどし募集中なので、気になる事や気に入った事があれば受け付けます、その上、返答もしますのでいつでもどうぞです~。


 

 

scene by リセ(リューシェ)

 

いやーまさか本当に出てくるとは思わなかったな~って軽く言ってても仕方ないんだけどね

今回はリベンジしにって訳じゃなかったんだけど、翔希くん念押しで注意するように言われてたから気にだけはしていたんだけど、まさかここまであっさり出てくるとは思わなかったよ~・・・あ、ファラさんが監視してる~、お~いファラさ~ん、見えてる~? ってうわっ! いきなり剣投げてこないで欲しいな~全く、まだ国道の途中だってのに・・・戦う場所が遠いのが一番問題かも・・・これで扱える道路が大幅に減ったらまずいかも?

って、考えてたら両手の剣に何か溜め始めたし! もう最悪! 私だってギア無しの力相当あるけど、それでもアンタほどじゃないんだから少しぐらい手加減して―っ!

・・・の、上り坂で助かった~幸い被害は減らせた・・・道路は無事じゃないけど

周囲を警戒しながら連れ出すのがこんなに難しいとは思わなかったよ~って連絡? 誰・・・あぁなんだツヴァイウィングか~、邪魔だから下がってて~、え、リベンジしたい? 無理無理、というかむdってうわぁ!

連絡している最中に凄い間近に迫って来てたよ! もうどんだけ早いのよこの子~

あ、丁度いい広間・・・目的地見えて来たし、そろそろ臨戦態勢取らないとな~、ま、その為に猫喫茶臨時休業してきたんだけどね~・・・翔希くん来てるよね、あ、いたいた! お~い、翔希く~ん、つれてきtっ!?

だから何でそんな間近に迫って来れるの! 時速何キロ出てんのコイツ! いや私も車追い越す速さで走ってたけどさ・・・やっぱ怪物には怪物レベルじゃないとダメかな~ダメなんだろうな~

 

前の時より姿は小さくなってるし、まぁ場所も木々が並ぶ未整地の場所だから、私にとっては闘いやすいんだけど・・・翼や奏だったら確実に足取られるだろうな~・・・めんどいな~あの二人の強化合宿・・・どうしようかな~

なんて考えてたら形態変化したよコイツ、逃げるのを止めたからかな?

だとしたら以前みたいに滅茶苦茶に動いて来るかも、あ、アレ二課のカメラかな~やっほ~見えてる~?

あ、連絡きた、何々? 真面目にやってください? やだよめんどい、真面目にやるのは私のマジな人格の方だけにしてほしいな~

それに今昼間だから【マリス】は扱えないし・・・あ、でも木々の影を利用すれば行けるかも?

とは言ったけど、別に私主人公じゃないし、適当なやられ役を演じるのも楽しいかも? え、本気でやって欲しい? ・・・仕方ないな~じゃあ翼や奏の為に少しはやりますか~

とは言え、二人とわたしじゃ戦い方全く違うから参考にならないし・・・猫化すれば攻撃避けるのも楽だし、うん、体格的に有利過ぎてやっぱり話が変わって来るから、もう少し真面目にやってみよ~お~

 

『リセちゃん! 本当に真面目にやりなさい! 周囲の被害割と出てるんですからね!』

 

あ~友里さんにガチで怒られた~、ま、怒られて当然の事してるから仕方ないけどね~

じゃ、今日も結構冷えてるし、いつも通りノースリーブのワンピースで頑張りますか~うん、丁度いい寒さ! さて頑張りますか~

 

『リセさん、ラルムとエンゲージ! 避難状態は大体完了してます! やっちゃってください!』

 

「そっか、じゃ、まずはギア無しでやらせて貰うかな?

前の時は不意打ちにギア有でやっちゃってたし、【わたしの本来の力】見せて無かったもんね~

じゃ、全力で凍らせるから、抵抗してみてね?」

 

今は丁度曇ってくれている、雪を降らせるには丁度いい気候・・・

翔希くん近くに居て大丈夫?

 

「何回君の無茶を共に過ごしてきたと思ってるんだい?

氷点下でも僕は問題ない、やっちゃっていいよ、リューシェさん」

 

はは、そっちで呼ぶのは翔希くんだけだよ~ よし、じゃ、あの時の再戦と行きますか~

あ~奏、翼、キチンと戦闘見ててね~、後でそっちの訓練の時にやるから~

さて、と、氷爪展開・・・んじゃ行きますか!

 

 

先手はラルムの刃を多数展開した突撃、左右に避けても幅が広すぎて避けられないレベル・・・だが今のラルムは以前のように毒液を纏っていない、弾いても特に問題ないレベルだ。

だが、ラルムから発生する斬撃の方に問題があった、見れば斬撃放った場所の上下左右に知覚出来る程の衝撃波が発生していた

それを戦う前から分かって居たのか、横薙ぎの時に一旦猫化して潜り込み、立ち上がりに一発当てる、と言う事を繰り返していたが―

 

「硬すぎて全然通らないよ~ ・・・あ~どうしよ・・・」

 

攻撃を避け、防ぎながら適格に攻撃していくが、どれも効果的では無い

顔や目も狙ってみているが、眼に攻撃が通っている感じがしない・・・と言うより火力が低い?

 

「リューシェさん・・・もう少し火力上げて良いから、周りの環境変化ぐらいなら僕が何とかする。

もっと火力上げて追い詰めてみて」

 

「お、いいの? うっし、じゃあやるか!

トリシューラ! 部分展開! ついでに・・・エルド(武装開放)

さて・・・・・・凍て付きたい奴は前に出てきなさい・・・なんてね?

思いっ切りやっちゃうよ~」

 

ギアシステム(トリシューラ)から武器だけを取り出し、爪に装着、その上で武装の力を開放

そうすることでシンフォギアを纏うより遥かに強い火力を得る・・・そしてその上で

 

「魔力上乗せっとっ!?

接近速度が普通に見えない程ってどうなのよコイツ~!」

 

「リューシェさん! 7時方向対象の刃を確認、迎撃!」

 

「分かってる! と言うか利用させて貰う!」

 

幾つか散らばってるラルムの刃を凍らせて自由を奪い、此方の物にする

その上で以前より多量の氷柱を空間固定して、順に発射していく、尚大きさは成人男性が入り込めそうなほどの大きさだ

その氷柱に隠れるようにラルムの放った刃が右往左往して飛んでいくが、それを気にもしない様子で突っ込み打ち砕いていく、その中で―

 

「いっけぇ~! GraySyaceラッシュ!」

 

氷柱が大量に連なり、氷河を体現する程にまで変化、増長してラルムを押し流そうとする、がその程度で止まる程ラルムも軽くも弱くもなく、刃を一直線に立てる事でそれらすべてを裂いていく

 

「効きゃしないよね~分かってたけど・・・けど、動きを封じるのには、十・分!」

 

氷柱の波の中に入り込み、対象手前で相手の股を抜ける様に滑り込み、影に手を掛け叫ぶ、初めからソレを扱うつもりだったかのように、辺りは氷の影響で多量の影を残していた

 

「じゃ、マリスちゃん! 行使お願いね~・・・『あなたって・・・本当に遠慮ないのね、ま、それがリューシェらしいけど!』

 

性格が変わったかのように今度は影が揺れ動き始め、対象を縛り始める

 

『私は別にあなたに用は無いけれど・・・でも、強いというなら容赦はしない!

縛り上げなさい! 【バインドシェイド】』

 

影が様々な形を取りラルムを拘束、動きを封じる様に動き回る、だがラルムもタダでは動きを止めてはくれないようだった

自信の周りに真っ黒な刃を複数生成し、氷諸共次々と引き裂いていく、まるで自分自身が刃であるかのように、動き回り引き裂いていく

そうしてターゲットを再確認、一直線に薙ぎ払う―

 

『私じゃコイツの【闇】の部分に勝てそうにないわね・・・

リューシェ! 合わせるよ!』 「了解! 行っくよ~」

 

先程まで蒼を基調とした目の色が片方黒に染まる、そうしてそれを合図とするかのように、ラルムは容赦なく引き裂きに来る、刃が当たる数瞬、無数の影の手と意思を持ったかのような氷の束がラルムの斬撃を止めていた、だがそれだけで止まる程ラルムも弱くない、両の刃に黒の闘気がまじりあい、闇を弾き氷を吹き飛ばさんと更に力を高め続ける

対してリューシェはその行動に真正面から相対する、ただ、力押しの対決・・・と言う訳では無いような・・・

 

「氷と解いて闇を攫う聖杖よ、新たなる【時】の刻み手よ、万象に寄り添い選定されし担い手よ・・・

其の刃、闇と斯いて呪いを遍く断章よ、此度不純な契りを是と捧げ、真なる契り、個が世界の導き手を支えうる呪閃の煌きよ・・・今一度汝に問わん・・・」

 

詠唱、いつの間にか杖をラルムに向け、それに対して怒涛の勢いで斬りかかろうとするも、動くことが出来ず、固まっている・・・いや、固められている

先程から無尽蔵なほどの影や氷が彼の者を縛り上げ、こうしてゆっくり彼女の詠唱を成すことが出来ている

そうして、その言葉は彼の者をこの地に繋ぎとめる言霊でもある。

 

『「汝、個が世界よりも愛しきものを護らんとすることを望むか?」』

 

それはまさに契約儀礼そのもの、但し、今彼女が行っているのは前儀礼であって、本儀礼は契約者が居なければ効果は無い、只今この場において彼の者の意思確認と存在証明・・・異端であるが故、幽霊のように以前は消えてしまっていたが、今回は訳が違う

今目の前に居るのは、【アガートラーム】の機能で作られた【機兵】ではなく、セレナ自身が溜め込んだ【呪い(負の感情)】によって動いている自立兵器のような存在だ。

ただ、それはラルムを【兵器】としてみた場合はそうなるだろう

もしもこれが【守護騎士】としての存在だった場合は、恐らく違った結果に変わる

だからこその【契約序詞】である

ただこの問いに、ラルムが応えられるかどうかは、やはり別問題で―

 

≪グルルァァァァアッ!!!!!≫

 

「・・・もう少し、頑張ってみないと『結果は分かりそうにないわね』あと、契約者が居ないと『どうにもならない』んだよね~」

 

一人二役で話し合う二人、その光景は見る人が見れば明らかにおかしいモノだが、翔希はこの状態をよく知っているし、特に注意することも無い

その上ではあるが、ラルムの動きが多少なりとも遅くなっているのを確認出来ている

先程と違い、リューシェが回避する速度を抑えているにも拘らず、出る攻撃全てを避けきっている

ただ、今彼女がしているのは、本当に時間稼ぎと言うだけ・・・今に待っているのは―

 

「手紙は渡しておいたけど・・・来てくれるよね~・・・セレナちゃん、クリスちゃん?」

 

そう言いつつサマーソルトで回避した瞬間、低姿勢で足を横に払い、一帯を凍らせ地面から氷柱を弾き出し、砕けラルムに複数刺さっていく

ただ、まるで効果は無いが、リューシェの攻撃が複数当たりつつあるのは見て取れて、だけどコレと言った強い攻撃は何一つ扱ってはいない、そうして、けど、彼女は待ち続けた、彼女たちが来ることを―

 

 

 

―――――――――――

 

 

side by セレナ

 

 

目が覚めてからの状態と言えば最悪に他ならない・・・だって・・・

私は・・・大切なクリスに・・・クリスを、刺しかけて・・・

だけどギリギリの所を黄のオートスコアラー・レイアに助けられた。

今は、クリスの胸元で未だ涙が止まないまま抱き付いてる・・・

クリス・・・ねぇ、離れないで・・・私の、傍に居て・・・

 

「大丈夫、大丈夫ですよ・・・セレナお姉様。

私は、雪音クリスは、いつでもお姉様の隣に居ます、離れても、ずっと、一緒ですから」

 

私の頭を優しく撫でてくれるクリス・・・いつもは私が抱き着いて離さないようにしているけど・・・でも今はクリスの優しさに縋っている、こんなんじゃダメだけど、でも今は―

 

「ごめん、ごめんね、クリス・・・こんな弱い私で・・・ごめんね」

 

「謝らないで下さい、警戒しなかった私も悪いんです

それに、お姉様は弱く無いです、だってこんな私を、育てて・・・強くしてくれたんですから」

 

クリスが頷いて答えてくれる・・・柔らかくて、優しい笑み・・・

もう、泣くか怒るかしか出来てない私の・・・唯一の無い感情・・・

狂気に笑う事は、ある・・・だけど、優しい、本当の笑顔は・・・何処かに行ってしまった

ううん、あれは・・・イラナイモノ、私は、もう人に戻れない・・・そして、その道をクリスにも歩ませてしまった、私だけが歩めばいいモノにクリスを巻き込んでしまった・・・挙句、そんな彼女の事が大好きで大切だなんて、壊れていると言われてもおかしくないんでしょうね。

でも、そうしていった世界は、いつも残酷で、私は・・・私達は世界に置いてけぼりにされて行ってしまっていた・・・んだと思う。

いつか何処か、古い時代の仕来たりの上を進んでいるかのように、人を殺し、ココロを壊して、自分の道はこんなものしか無いと決めつけるかのように、殺める事を止めなかった、ううん、もうやめられなくなってしまっていた。

始まりは、クリスに出会う前、そこで私は人生を狂わされ、そうして、狂人となって人を殺した。

多分、その頃くらいから、私は自分を保つ手段が無くなってしまっていたんだと思う・・・そうして出会ったクリスは、気が付いたら私の歯止、ストッパーになっていた。

何が起きたか・・・それを今は語らうのは辞めておきましょう? 恐らく、語るだけで相当に長くなってしまうから。

・・・頭が大分落ち着いてきた・・・ラルムが出て行ってから、多分大分経つと思う

あの夢の出来事は未だ忘れられてないけれど・・・それでもクリスが隣に居てくれるだけで安心できる

それは、ある意味では麻薬のようなものだけど、今更後戻りも何も出来はしない、だって、これが私の選んだ【現実】だから・・・もう後悔出来ない所に居るんだから・・・

(現実)が怖くて逃げだした過去(幻影)はもう居ない・・・だけど(残虐)は何処までも私を追ってくる。

だけど、ううん、だからこそ、私は呪いを受け入れる、この【負の感情】と言う呪い、その全てを、受け入れる、だからキャロルさんに施して貰った・・・私のギアに入れ込まれた【呪い】

それは、私の過去を忘れない為に自分自身に施した【罪過】、それは自分自身だけの罪を力に変えるだけじゃない。

私が今まで集めて来た【呪われた聖遺物】を、人々が抱く負の執念をひたすらに、唯々集め続けた、自分を維持するために、これ以上、不幸を見ないように・・・

そうして集めてきた呪いを【ダインスレイフ】と言う形で背負い、力に変えて来た・・・自分のこれまでを呪うように、これからの自分に罪を詠う為に―

だから私は歌うのを止めなかった、いや、やめられなかった、だってこれは私が私足らしめる力・・・ある意味で私自身だったから・・・

だから・・・だからこそ、呪いの抜けている今は―

 

「弱くて、傲慢で緩慢・・・こんなので・・・世界を呪うなんて、馬鹿げてる・・・よね」

 

「お姉様・・・そんなに弱気にならないで下さい。

私は知ってます、お姉様の弱さも、それを強さに変える力を持っていることも」

 

そんな力、私には無い・・・だってそれでさえもクリスに会ってから力に変わったもの・・・?

あれ・・・私って・・・一人の力は・・・無いんじゃ―

 

「お姉様は一人でも強いです・・・だけど、やっぱり優しさを捨てきれてない事を忘れてるんです。

でも、思い出せますよね、お姉様は、一人じゃない、孤独じゃない、私が、キャロル様が、お姉様が助けた見知らぬ誰かも、絶対お姉様の力になってくれる・・・だから、お姉様―」

 

 

       自分を見捨てないで、受け入れて、呪いを、歌を・・・そして

               自分自身を―

 

「クリス・・・・・・」

 

簡易テーブルに置いてあるノートパソコンからラルムの戦闘状態が確認できる、そちらを確認し、決意を固める、私はまだこれからを歩いて行かないといけないから

殺した奴らを・・・護りたかったのに死んでいった人たちの為にも―

 

「行きますか? お姉様?」

 

「クリス、一緒に・・・来てくれる?」

 

「はい! 私は、お姉様と共にいます! ずっと、ずっと・・・」

 

ありがとう、クリス・・・本当に、本当に・・・ごめんね、こんな私についてきてくれて、ありがとう

だから、私はいこう、ラルムを、罪の呪いを受け入れに

籠の中には私の纏っていた装備はあまり入ってなかったけど、それでも無いよりマシな道具は幾らかあった

掛けてあったフードを着込み、ポケットなどに色々入れ込み、準備し終われば―

 

「クリス、場所は分かってる?」

 

「お任せくださいお姉様、しっかりご案内いたします」

 

宜しく! 返事と同時にギアを纏い戦闘準備を完了させ、目的地に一直線に向かう

障害物も何もない、空をミサイルで一気に突っ切る・・・さぁ、ラルム、いつかの戦いの再来を始めましょう?

 

何にも囚われず、私達の戦いを、始めましょう・・・さぁ、私自身の戦いを行うために・・・

 

私とわたし(ラルム)の戦いを、そしてこれからを始めましょう、私は・・・これからの為に動きに行く

だから、あなたも・・・

 

 

 

闇と闇の争いが始まる―

次回へ続く―

 



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第十一話

十話超えたよ・・・ツヴァイウィングのライブまだだよ・・・
戦闘より会話回しの方が楽だけど、今回も戦闘回だよ~
今回は大体リセさんの実力ってどんなもの?な話
まぁ、魔術師って大体おかしい人多いからこれぐらい実力あっても今のセレナちゃんの半分も強くないとからしい・・・らしい?
もう少し戦闘続きます・・・ひとまとめにした方が良かったかな・・・?
まぁいいや、では、幻想へ~

あと、コメント待ってます、割とモチベの問題的に―


Side scene X リセ、翔希&セレナ、クリス

 

広めの山に似た地形の麓が凍り付いていて、一か所だけまるで気候が変わっているかのような異変を感じる場所がある、そう、リセが戦っている地点である。

彼女の容赦のない氷撃、そうしてそれを容赦なく引き裂いていくラルムの剣戟、どちらも一歩も譲ることなく、その攻撃は激化の一歩を辿り、未だ止む事の無い突撃の嵐は、その山の気候すらも変化させようとしていた。

数分前に持っていた杖は何処かに行ってしまっているが、彼の者の刃を直接受け止め、力押しにも程があると言うほどの一直線な攻撃のラッシュを叩き込んでいく、だがそれに対抗する程ラルムのラッシュも相応以上に速く、リセも若干ながら押されていた・・・ただ、彼女は未だにギアを纏っていない、攻撃を一発でも喰らえばアウトな状態を続けていた―

 

「ったく、少しはっ! 止まって! くれ・・・ないかっ! な!?」

 

そんな愚痴を言いながらも、迫り来る刺突や斬撃を跳ね回り距離を少しとる事で回避したりと、避けられないものだけを氷爪で反らすようにして回避する。

ただ、リセの攻撃はまるで効果が無いように呆然と防がれる、いや、当たったとしてもまるで効果が無いかのようで、攻撃は全て無視されるように、全て動き回るだけで氷漬けが解除され、凍り付いた地面も滑ることなく走り抜けリセを離さないように攻撃を繰り返していく。

一発一発の威力は容赦なく木々を薙ぎ倒し、倒れた樹も横になる前に凍り付き、色が白く変わっていく

地形が徐々に変わり行き、樹氷まで生え始めていた。

そんな中でも、足を取られる事無く、戦い続ける一人と一機・・・いや、この場合は騎と言った方が良いかも知れない、そんな力を持った怪物紛いをリセは一人でいなし続けていた・・・正面からの攻撃を避ける様に・・・

 

「うわー・・・火力が少しずつ上がってるってどういう事よ・・・

正直、攻撃逸らすのもやっとになって来た・・・あー、どーしよ・・・」

 

刃に黒い闘気を混ぜつつ連続で斬撃を繰り出すも、リセは見てからの回避で一撃も当たることなくやり過ごす。

しかしやりあってからもう半刻ほどが過ぎようとしていた・・・普通であってもそれ程の長い緊張感を持って戦っていれば体力的にも持つはずも無い・・・はずだが。

 

『もう少し木々を切らせて影を増やして』

 

「う~ん・・・ま、何とかしてみよっ! かなっ!!!」

 

急激な突撃突きにも瞬時に対応、相手の剣先に手で触れ、片手倒立し、サマーソルトで打ち上げる

着地と同時に足払い、だが足が動く事無く、上げられた刃をそのまま叩き下ろす

怯むことなく右足先を相手の足に引っかけて身体を飛ばす、少しよろけたものの、背後にあった木が真っ二つになるのが直ぐに見えた。

うわ~、と呆れ驚きながら爪を構える、もはや相手に攻撃を通すのも大概無理そうなのでやっているのはもはやただの時間稼ぎである。

何に対しての時間稼ぎかは考えておらず、一先ず動きが遅くなればいいかな的な考えしか持っていない・・・この猫、考える事を放棄している・・・

そんな事を繰り返し、周りの木々で自分の退路ごと塞ぎ、だけど縦横無尽に動き回れる場が出来つつある状態で、徐々に温度が上がりつつある、周りの凍り付いていた木々が少しづつ元の姿を取り戻しつつある。

溶けだした氷の雫が垂れていく、その先で樹氷が出来つつある、だがラルムには関係は無い、当然だがこの機兵には場所も状況もお構いなどないのである。

 

「さってと、良い感じの決闘場が出来たし、思いっ切りやっちゃおうかな? ね、マリスちゃん?」

 

『雲も大分出て来たわね・・・それじゃ、一緒にやりましょうか! リセ、リューシェ!』

 

「表層意識転換、リセちゃん・・・準備は良い?」

 

〈いいわ・・・あなた達の力、一気に使わせて貰う!〉

 

ラルムがさらに突進を仕掛けようとするが、樹木によって進行方向を阻害、更に影の手によって進行を妨げられ、氷塊によって進行を迎撃される。

その間にリセは二つのギアペンダントに似た宝石を二つ取り出す、片方は青白い氷に似た色彩のペンダント、もう片方は黒色ではあるが、夜の景色に似た色彩を放つペンダント

そうして首に掛けてあるシンフォギア用のペンダント、三つを合わせて呼応させ、纏う聖詠を詠う・・・歌う。

 

「私の氷よ、闇よ・・・ギアと共に力を貸して!」

 

シンフォギアから溢れ出る光にラルムが焦ったかのように動きを速める、だが周りが彼女たちに近付けさせないかのように木々が、影が邪魔をする。

その間に身体に張り付くような青紫と蒼白の色彩を各部にあしらったギアスーツを纏い、猫耳を護るかのようにヘッドギアが展開、そうして、尻尾には先端を鋭い刃状に変容させ、最後には夜色のマントを羽織るかのように展開された。

ただ、彼女自身、これを扱うのは前回のセレナ戦を含めても、五回も無いらしく、未だ慣れた様子では無い

 

「・・・この衣服もっとマシにならないのかな・・・?」

 

変化後に左手に灯る紫色の氷塊を握り潰し、トリシューラを展開、長物は狩られる心配が有った為、刃のみの運用である。

 

『出来るだけ距離には気を付けて、私達の援護が有っても一撃もらえば間違いなく骨がやられるから』

 

「了解してます、マリスさん・・・リューシェ、周りの環境、全力で扱わせてもらいます!」

 

〈オッケー! そんじゃ、思いっ切りいっちゃえー!〉

 

言い終わるやラルムが拘束を振り解き一直線に刃を突き立て黒色の刃の波動を撃ち出す、それを正面から受け立つ、多少押されながらも、背後の氷樹を背もたれに力を溜め込み氷塊に換える。

それを見た瞬間、ラルムは飛び上がり強襲する、が砕けた氷の先に少女はおらず、自分の影が大きくなっていく。

 

『まずは影から』 「全力で飛ばします!」

 

      [SHAde BAraGE]

 

影から飛び出す巨大な爪を縦横無尽に振るい、対象を捕まえ迎撃する

一見すれば効果が有りそうではあるが、しかし元のアガートラームよりも高硬度を保つこの機兵は全く意に介さずに刃を振るい爪を砕く、だがそれだけで終わらず―

 

「氷撃、行きます!」 〈氷閃 行っちゃえ!〉

 

      [BliZarD CoFfiN AsTiL]

 

砕けた影の爪が氷を纏い塵粒がごとく舞い、対象の周囲に吹雪く、そうして一定時間舞った後、リセが四方から極大剣状の氷塊をラルムに降り注がせる

だが、これでケリがつくほどラルムも弱くはない・・・いや、寧ろまだ戦えるほど強いのである

氷の剣を一本真正面から叩き割り、回避行動したのち叩き割るかの如く三方向に刃の剣気を解き放ちそれらを砕くと同時にリセの居る位置に向かって更に黒い波動を飛ばす

それに対して更に黒い影の壁を作り受け立つ、だがやはり反動は強く仰け反る、それでもしっかり受け止めし返したばかりに増大した闇の力を圧し付ける。

もはや力と力のぶつかり合いであるが、周りの木々は未だに破損することなく逃げられない戦場と化したままである。

ただ、互いに火器を扱わないため爆風が起こったとしても、それで舞い散る冷気をリセが扱い更にラルムを捕えようと回し飛ばすが、効果が薄く、一瞬で振り払われ薙ぎ飛ばさんと連続した回転切りを見舞う。

それに対して、片足に飛びつき、氷塊を展開し片足を持っていこうとするが、刃が入らず失敗し、勢いで弾き飛ばされかけるが、何とか体勢を保ち遠隔に離れることに成功、だがその隙を逃すことなく口からのブレスを乱射して更にリセを追い詰めようとする。

 

[あ~もう! あれじゃ完全にドラゴンじゃん! 何? ティアマトとか竜人とかそれ系なのがあのギアに詰まってんの?]

 

「リューシェ、五月蠅い! ったく! 防ぐのもきついっての・・・

触れたらアウトね、あれ」

 

『そうみたいね、当たった部分が腐食し始めてる・・・呪いによるものにしても、おかしな力ね』

 

二人とも暗~い! とリューシェが叫ぶが当の二人は気にも留めていない、今はコイツの対処が最優先である以上、ここに縛り付けられれば上等と言うあたりである

だが今のブレスで、コイツが抜けられる場所が増え、三角飛びできるほどの場所が減ったという明確に避ける場所が減らされつつあった。

だが、それを気にせず咆哮を上げるラルム、だがある一点を見据え咆哮が止み、何かを追うかのように眼を向けていた。

 

[お、これは~] 「はぁ、遅いっての」 『やっと来たかしら?』

 

上空からばら撒かれる弾丸の音に反応して氷を撒き散らす、当たった瞬間弾道が変化し、縦横無尽に弾幕が張られ、その中に黒いナイフが入り込み一発一発がラルムに向けられて行く。

その中にトリシューラのアームドギアの三叉槍の刃を複数入れ込み、反射鏡紛いの弾幕を周囲一帯に作り出す。

そんな飛び交う中をサーカス宜しく悠々と歩いて飛び回り自由自在に動き回るリセ、それに対して再び咆哮するラルム、そうして、方向の終わり際、刃を一つに纏め一直線に裂き切る動作に対し、槍の棒のみを利用して高飛びする。

その後降ってくる【何か】と一緒にラルムを攻撃する、と、ここで戦闘中初めてラルムをよろけさせることに成功した。

よろけた所に先程の弾幕がラルムや辺り一帯に直撃し、更に後退するラルムは体勢を立て直すように距離を取る、が

 

「逃すと・・・「思っているの?」 ですか?」

 

      【RED HOT BRAZE】

 

弾幕の後の煙が止む前に黒い蛇剣がラルムに絡まり、その上空からの一閃がラルムに直撃する。

それの後にミサイルが二発着陸するようにぶち当たる

 

「二人とも、ちょっと派手に動き過ぎじゃない?」

 

「これだけやっても、ラルムにはダメージにはなりませんよ?」

 

「ちっ・・・力が弱くなってる・・・

白猫! ダインスレイフを寄越しなさい!」

 

「名前で呼んで欲しい所だけど、ま、あなた達は今の私が分からないでしょうし・・・どうする?」

 

『渡す訳にも・・・だけど。』

 

[出した瞬間アイツに奪われそう~・・・どうしよっか?]

 

一人であーだこーだやっている白猫を横目にクリスはラルムを見据える

未だ機能はほぼ万全の状態で、刃をセレナ以外に向けている。

それに対して痺れを切らしたセレナは―

 

「ラルム! アンタの相手は私だ・・・いいな?」

 

その言葉を理解しているのかいないのか、ラルムは小さく呼吸する音を出すだけで目線をセレナに向けようともしない、まるでそこに居ないかのようで―

 

「コイっツ!!! 来なさい! ダインスレイフ!」

 

完全にキレた物言いで伸ばした左手に不思議な紋様を浮かべ、枝分かれしたような二つの刃を一つに纏めた様な黒い刃の鍔には紅い瞳が強い輝きを放っている。

黒い刃の部分には多数のルーン文字が描かれており、明滅するように脈を打っている。

だが、その刃でも何処か力無さげに携えらえれている

まるで満足できていないかのような―

 

「白猫! ・・・もう一度言う、その欠片を寄越しなさい!」

 

「リューシェさん・・・交代お願いします―

・・・仕方ないなぁ~、じゃあさ」

 

ラルムを指さし、次の句を継ぐ、瞬間に左右の瞳の色が変化するのを確認できた

 

「アイツと殺り合いながらわたしから奪って見せてよ・・・ねぇ?

殺戮の黒銀?」

 

ニタァ、と口角を上げ歪な笑みを浮かべ、ラルムに瞬間的に接近、同時にカケラが入っていた箱を空に投げ出し、両者共に爪と剣のラッシュを見舞いあう、だがラルムは箱へと一直線に飛び出そうとするも、先程より質量を増したリセの氷撃に押され、未だに拮抗状態を維持させられる。

その間、ナイフを一つ箱へと投げ飛ばし、樹々を三角飛びし箱へと手を伸ばすセレナ、だがそれを許さないかのように一直線にブレスを飛ばすラルム。

だが、そんなブレスもクリスのリフレクターによって防がれ、開け放たれた箱の中から求めていた【カケラ】を取り出し、本体のダインスレイフに近付け、励起させる。

 

「私は・・・こんな呪いに負けるつもりも・・・否定するつもりもない!

だから・・・ラルム! あなたの【呪い】を、私と共に歩ませて!」

 

左手で持っていたダインスレイフが何かに呼応するようにセレナのギアにさらに変化を与え、ダインスレイフ自身もその姿を変容させていた、その姿はナイフのようで彼女の意思に呼応するように、まるで生きているかのように中空に複数のダインスレイフの刃が舞っている。

その光景を確認したリセは塵雪に身を隠し、ラルムの攻撃を回避、後に後ろから雪の津波をぶつけ、撤退。

それを確認したクリスとセレナは、共にラルムに向き―

 

「行きましょう、セレナお姉様・・・あの子を止めに」

 

「ええ、一緒に行きましょう? あの子の世界はこんなに小さい訳じゃないという事を、伝えに・・・ね」

 

二人して同じ格闘術の構えを取る、だがラルムはそれでもセレナを見る事は無い・・・だが

 

「あなたも呪いを求めるなら、私を打倒して見せなさい!

それだけに、力の証明は他に必要ないわ! さぁ、始めましょう?」

 

リセは戦場から抜け出し、周囲の温度は徐々に収まりつつある、それでも相当に寒い訳だが、二人ともギアを纏っているおかげで冷たさは感じていない。

持っていた欠片のダインスレイフを腰部の花弁に収納し、複数のナイフを指の間に挟み、迎撃を開始しようとしていた。

クリスも同様にワンハンドライフルを二つ取り出し、ラルムに向け構える。

此処から―此れから・・・私達自信が・・・始まると信じて―

 

冷たい山の麓は、11月にもならないのにもかかわらず、真冬の気温を超える程の冷たさを放ち、その中で争い合う二人の闘士は、その熱を遥かに超え、情愛と共に、自分の我儘を貫く絆を持って、自分の、自分たちの大切な【ソレ】に相対した。

 

必ず連れ戻す、そうして―

 

 

「ラルム・・・あなたを理解できていなかった・・・けれど!

私はあなたと共に歩みたい! だから―」

 

 

 

セレナの叫びはどこか遠く、だけど間近に響き、虚空を微かな暖かさが吹き抜けて―

 

 

戦場に、少女たちの輝き(呪い)が咲き誇っていた―

 

 

―――――――――――

 

幻想に咲く・・・次回へ―

 

 

 



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第十二話

やっと書けたしだい・・・前から二週間ぐらい掛かってるし・・・
PC修理で色々手間取って遅れてしまい申し訳ないです、本当に済まない。
今回も戦闘ですが、短い気しかしない・・・
やっぱり雑談のほうが書きやすいってはっきりわかるんだね・・・
それでは、今回は遅れて申し訳ない・・・では


対決、セレナ&クリスVSラルム!

 

 

戦火を切ったのはラルムからだった。

剣閃から放たれる衝撃波はクリスを確実に捉えていて、その速度は行動よりも早くに当たる速度、だが放っただけで止まらず、その波の後ろを走り更にクリスに追撃を入れようとする、がそのどちらも当たらない。

寧ろそこに居たはずのクリスは跡形もなく消えており、また雪には足跡が一つだけしか残って居なかった

何処に居るかを探そうと周囲を探そうとするも、背後に刺さる刃の群れを回避するために飛び退いた、矢先に。

 

「もう一度・・・今度は派手に生きますよ!」

 

           [MEGA DEATH PARTY]!!!

 

 飛んでいる最中にアンカーを打ち込まれ、その瞬間に数十発のミサイルを撃ち込まれていく、それもアンカーの部分に引き寄せられるかのように一発一発が的確に打ち込まれていく、その中でも幾発かは周囲を取り囲むかのようにラルムの周囲を囲み、当たらずに爆発し周囲を煙に包み込む。

 瞬間、複数のナイフが蛇腹剣の様に対象に絡みつき、四肢を縛り上げ中空で拘束、そして一つの蛇腹剣の上に立つ黒衣の少女が刃を向ける。

 まだ抗う気力があるのか、ラルムは唸り声をあげ拘束を解こうと力を籠めそれらを引っ張り上げる、が、弾け飛んだ瞬間、別の鎖がさらに拘束していく・・・勝負はほぼ一瞬で付いていた。

そうして一呼吸、少女は次の句を継いだ

 

「ラルム、いい加減にして。

私が未熟だからあなたが暴れるのかもしれない、だけど、あなたに誰かを傷付けて欲しい訳じゃない。

それに、あの時クリスを護ってくれたのに、そのクリスを傷付けようとするのは・・・どういうつもり?」

 

 首にギアの物とは違う鎖を取り付け引っ張りこみ、ラルムと真正面に顔を向けさせる。

硬質的な鱗の様な肌質はまるで龍・・・いや、容姿からしてみれば一種のリザードマンのようなソレだが、硬さはその比ではない程の頑丈さを誇っている。

 現にクリスの[RED HOT SHOT]をその身で耐え抜くほどの頑丈さ、更に手を抜いていたとはいえ、弦十郎と響の拳をその身に耐えうるほどの強度を誇る装甲、容易に撃ち抜けるほどではない。

だからこその拘束、とは言えこれで止まる程ラルムも素直では無い

先程からもセレナが話しかけているにも関わらずまるで意に介さず、セレナ以外を先程から狙っていたり、セレナに目もくれず、クリスばかりを追いかけて居たり・・・まるで彼女だけ居ないかのような扱いである。

だがそれは本質的には違って・・・

 

「ラルム・・・なんで私を見てくれないの・・・?

ねぇ、初めて会った時はあんなに優しかったハズ・・・なんで・・・

私が悪いの? ねぇ、ラルム」

 

 ラルムは応えられる術を持っていないが、もしあったとしても答えただろうか?

ラルムは抵抗を無くし、縛られたままセレナの声を聞き続けている。

まるで自分を落ち着けさせるかのように。

 

「・・・首を振って答えてもくれないんだ・・・

昔は、あんなに素直に答えて、手伝ってくれたのに・・・クリスを助けてもくれたのに・・・

あなたは・・・本当に・・・ホントに・・・」

 

 涙を流しそうになる、その表情に下で見ているクリスが駆け寄りそうになるが、押しとどまる。

今は、ラルムとセレナの様子を見届ける事しか出来ない、そう、じっと見つめる・・・

ただ、見つめているのはクリスだけでなく―

 

「?・・・ラルム?」

 

抵抗感をなくしたラルムがじっとセレナを見つめている。

先程の暴れていた赤い瞳ではなく、セレナの瞳と似た蒼く澄んだ瞳、その瞳はまるで宝石のように輝いていて―

 

「え? ちょっと! ラルム!?」

 

絡みついていた蛇腹剣を自分のギアの様に体に回収していくラルム、だが暴れる気配を無くし、セレナを抱え着地、セレナの頬を伝う涙を舐め取り、ギア部分に宿った黒い靄を吸い出していく

その中には、ダインスレイフの呪いも混じっていた・・・が

 

「ラルムさん・・・正気、なんですか?」

 

クリスの問いに首を縦に動かし、自信の気を確かなものだと伝え、クリスに近づき跪く。

その様はまさに騎士の様な出で立ち、まるで姫を護る騎士のソレである・・・が

 

 

「っ!? クリス! 今の音!」

 

「お姉様! 大分近いです! 恐らくこちらを狙って!」

 

 唐突な爆撃音に驚きを隠せず叫ぶ、それに対してラルムは二人を背にするように前に立つ

そう、この疑似生命体は、以前クリスが言ったように、絆の形で生まれたようなものだが、その生い立ちはかなり特殊であり、それを理解できている二人でも無かったが、状況が危険であれば護るように動くのがこの機兵、ラルムである。

 そうして爆発が止んだ数瞬、ラルムが数発の弾丸を防ぎ斬る、遅れるように何発かのミサイルも確認できたが、これをクリスとセレナが迎撃して打ち落とす。

 一体何が、と考えたが、二人とも狙われる理由は多大にある為、考えるよりも逃走を選ぶ事にして、それをラルムに伝えると、盾になる様な構えを取り、逃走するための道を切り開き、[ガァァ]と短く呻き、道を指し二人を導くかのように道を照らした。

だが、二人もタダで逃げるわけにはいかず―

 

「逃げるなら、ラルムも一緒よ! クリス!」

 

「はい! 迎撃センサー起動・・・大分離れで攻撃してきている・・・?

あれは、機械!?

相手は人じゃありません! 恐らく自立駆動の兵器です!」

 

「それさえわかれば十分、距離の案内お願い! 行くよ、ラルム!」

 

 先程まで戦っていた者同士とは思えない程に信頼の厚い言葉の数々、だがラルムはそれに応える様に動き出す、それに対して複数の銃弾が広範囲にばら撒かれるが、ラルムとセレナの刃に全てが防ぎ切られる。

だが、お構いなしに放射される弾丸に進行を妨げられていては目標に届かない、と思っていたところ、ラルムが先陣を切り、その背後にセレナが前進する形を取り、木々を利用して相手の弾丸の射線外に移動するクリスは、先程から中空を浮いているドローンを、ギアで操れるように制御盤を取り付けて思考操作、相手の位置、距離を判断し、セレナに指示を出しながら、迫撃砲を一発ずつ打ち出していく、だが予測されているのか、兵器は移動して回避していく、が、その間攻撃が止んでいるうちにセレナとラルムが一気に距離を詰め、雪に隠れていた兵器まで残り50M程まで近づいたところで、セレナがラルムの前に躍り出た所、兵器たちが再び一斉掃射、が、着弾と同時に粉塵が散りだし、対象を見失っている所で―

 

「クリス! ラルム! 一瞬で―」

    「終わらせます!」 「ガァッ!」

 

 そこからは一瞬の蹂躙劇に変わっていた。

先ず対象を発見した瞬間、何処から飛んできたかもわからない剣戟が兵器たちを無尽に引き裂いていく、また弾を飛ばした瞬間には、弾丸が跳弾して帰ってくる始末。

近接に特化した兵器もあったのか、刃を振り回して接近するも、ラルムの硬さを超える事が出来ずに粉々に砕かれ粉砕される。

また、一か所に纏まり弾丸を打ち付けていた兵器たちは、上空に影が落ちた瞬間には大爆発と共に灰燼に帰していた・・・

その間、一分にも満ちて居ない程である。

 

「これで終わり・・・?

呆気ないわね、クリス、そっちから他のは確認できる?」

 

『・・・一機確認出来ました・・・が、ラルムさんが迎撃した事により沈黙。

終了しました、お姉様、ラルムさん、お疲れ様です』

 

「ええ、お疲れ様、クリス。

・・・にしても、あの指向性、まるで誰かが意図して狙ったものとしか思えない・・・ん?

ラルム、何を持ってきたの?」

 

ラルムが腕を刃の状態から鋭い爪の生えた五指のある手に換えてセレナに何か渡そうと持ってきていた。

どうやら先程壊した機体の中に何かが入っていたようで・・・

 

「これは・・・?

聖遺物の欠片・・・? でも自立兵器にこんなものを扱うなんてどういう?」

 

「お姉様、ラルムさん・・・? どうかしたんですか?」

 

「クリス、これなんだけど」

 

先程渡された欠片をクリスに渡す、琥珀色をした不思議な欠片だけど、何かの聖遺物の欠片だとはあまり思えず、組み込まれていた理由も不明

クリスも何かは理解できないようで、二課に渡すことが決まった。

所で―

 

「リセは何処に行った?」

 

「あの白猫さん・・・途中で何処か行っちゃったけど・・・何処に行ったんでしょうか?」

 

そう言ってると、ラルムが高速で何処かに走り回り、片腕に何かを抱えて戻って来た

そこにはピンと張った猫耳が特徴的な少女が抱えられていた。

 

「え、ナニコレ、なんでラルムが・・・あれ? クリスちゃん、セレナちゃん?

な、何か顔が怖いんだけど・・・えっと~? そ、それにラルムがやけに素直じゃ・・・ない?」

 

「あなたには色々聞きたい事がある、だけど、その前に―」

 

「あの・・・空腹なので・・・なにか、ありませんか・・・?」

 

「あっと・・・そう、だね~。

じゃ、一先ずは家に案内するよ~、病院にはわたしから話し通しておくからさ?」

 

取り敢えずは、これでいいのかな? そんな考えではあるが、それでも、セレナの復讐心が止む事は無いのだろう。 とリセは考えつつも、翔希に連絡を取り猫喫茶へと歩を進める事にした―

 

「ところであの自立兵器についてアンタら何か知ってるんじゃないの?」

 

「わたしは何にも知らないよ~

ただ扱いそうなヒトを知ってるだけ~、っていっても多分であって本当にそうなのか分からないしね~

まぁ、話すのは後にしよ~」

 

そう、と短く返事を返して、ギアを解かずに移動を開始した。

・・・なお解かなかった理由は雪山状態になっている場所で薄着一枚だけだったからであるのはもはや言うまでもないだろう・・・

他の人達に連絡を回して猫喫茶へと向かって行った・・・色々と残して・・・

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――移動中――――――――――

 

 

 

 

 

 

「で、やっぱり了子さん来ないんだね」

 

「まぁ、分かり切っていることを言ってても仕方ないよ、絶対彼女たちの前には出てきそうにないしね、了子さん」

 

店を開けて猫たちを適当に放して自由に動き回らせている、現在時刻はもうすぐお昼の時間帯だ

最初こそ二人ともそれなりの抵抗感は有りはしたが、今は席について落ち着いているように見える

リセさんもメイド服に着替えて猫餌の料理中である・・・?

 

「・・・リューシェさん、自分の食べたいもの詰め合わせの猫料理作ってないよね?」

 

「え、な、何の事~ そ、そんな高カロリーな物作ってないよ~っ?」

 

乾いた笑いが聞こえてくる・・・はぁ、全く君って人は・・・

セレナさんとクリスさんは今お風呂場で身体を流してると思うのだけど、一応臨時で休んでる奏さんに彼女たちの事を任せてる、着る服も奏さんのが丁度よさそうだったからね。

・・・決して翼さんのが合わないからではない・・・と思う。

まぁ、セレナさんと戦った二人も一応臨時で休んで貰ってるから、二人の事を少しは分かりあえると良いんだけど、流石に難しい・・・かな?

さて・・・そろそろ―

 

「翔希さん、話す事があるからなのは良いんですが、態々自分の店に呼ぶのはどうかと思いますよ?」

 

「緒川さんすみません、此方も色々ありますからね・・・猫さん達の相手もしないといけませんから」

 

「それは分かりますが、そちらの端末からこちらに通信してくれればいいのでは?」

 

「これから話すのは、一応通信じゃ話したくはない事ですからね・・・

そろそろ弦さん来る・・・かな?」

 

「失礼する、緒川、もう来ていたのか」

 

「司令、お疲れ様です」

 

「あぁ、いや、事後処理を任せてしまってすまない、本当なら俺が上に掛け合って話を付けるのだが―」

 

「そちらの方は、八紘さんからの言伝で『彼女たちの事を任せるから外交の方は任せておけ』だそうです。

上の方も、八紘さんの話で一応は納得してくれてるそうです。」

 

「はは、全く、兄貴には頭が上がらないな、何から何まで全部やってもらってしまっては、俺達も形無しだ・・・ふぅ、これからが本当に忙しくなりそうだ」

 

そんなため息交じりな台詞で後の事を考えているだろうけど、多分彼女たちの事は歓迎しているとは思う。

だって、彼は誰よりも優しい【巨人】の異名を持つ二課の司令なんだから・・・

それにしても、セレナさん達遅いな・・・何やってるんだろ、そろそろ料理が全部出来上がるんだけど・・・?

あ、リューシェさんが・・・あれ、リセさんかな、出て来た・・・?

え、何か問題が? ん?翼さんがどうかしたの?

 

「翔希さん、翼さん引き摺り出すの手伝って・・・あの二人の容姿を見てたら何か自信を無くしちゃったみたいで・・・」

 

「つばさ~そんな落ち込むなよー、それにそんなスタイルでも良いとあたしは思うけど―」

 

「うるさい・・・奏には分からないよ・・・私の事なんか・・・」

 

あーこれ男が関わっちゃいけない奴だ・・・

それでリセさんが表に出てる訳か・・・成程、納得・・・所で二人が出てこないけど?

 

「あ~、今友里さんに着替えを買いに行ってもらってるから、もう少ししたら多分店に来るんじゃ、ってもう来た! 早いな」

 

「奏ちゃん! 早くこれを彼女たちにお願い! 私も手伝うから!」

 

あいよ! と奏さんが袋を受け取って風呂場に向かってく・・・あ~、これから本当にバタバタしそうだなぁ~、と他人事のように食事の準備と、色々纏めて猫たちの食事を出してく。

猫たちは自分達に出された場所に整列していく・・・しっかし本当に頭良いよね、この子達、本当にリューシェさんが連れてきた子達なのかな・・・殆ど野良ネコだって聞いたけど・・・

 

「ん? この子達が綺麗で律儀だから他の所から引き取って来た猫じゃないかとか考えてるの?

だとしたら間違いだよ。

この子猫たちも、あっち(上り木)で仰向けに寝転んでるロー次郎や、さっきから何かソワソワして落ち着いてないクロエルも皆私達が連れて来た野良ネコたち・・・それも親なき子達を連れて来たから間違ってないよ?

それにね、翔希、アンタは親としてもっと自覚ある行動した方が良いと思うのだけれど?

ねぇ、一夫多妻の領主さま?」

 

「マリス・・・それは言わない約束だよ・・・」

 

「だとしても、いつかはバレるでしょ?

それに来週頃じゃなかったかしら? こちらに謁見しに来るの」

 

ほぼ僕たちの身内話だけど、弦さん達は一応気にしないようには振舞ってくれてる・・・本当に助かるよ、その気遣い、少し視線が痛いけどね・・・

 

それから猫たちの調子を見たりして少しばかし待ってて、何か友里さんが色々言ってたけど、何が有ったのかな? と思ってそっちを見てみたら―

 

「お姉様、此方へ」

 

「ええ、ありがとう、クリス」

 

メイド服の雪色髪の少女が亜麻色髪の綺麗な衣服を纏った少女を席へ誘導するように・・・ってメイド行為してる事に違和感を感じていない自分に諦めを感じてしまっていたよ・・・

 

「あの、友里さん?」

 

「私はちゃんとした服を買ってあげたのよ?

でも、ここってメイド服とかバトラー服があるじゃない?

それを見たクリスちゃんが―」

 

「あ、はい、分かりました・・・そう言う事なら仕方ないですね。」

 

これは説得を素直に諦めた方が良いかも知れない。

席に着いた二人に作り終えた料理を少しずつお出しする。

元々そこまで食事を行っていなかったらしい事を聞いていたから、彼女たちの口に合うように色々工夫して作っておいた、因みにリューシェは猫の状態でぶら下げてる。

でも友里さんまで居るとなると、藤尭さんも呼ばないと・・・流石にお昼時だし来るかな?

 

「藤尭 朔夜、今到着しました・・・はぁ、疲れた~」

 

「はは、お疲れ様、藤尭さん あったかいものどうぞ」

 

「あったかいものどうも、何か翔希くんとはいつもウマが合う気がするんだけど、何でかな」

 

それを言われても困るというか、気が付いたら二課の人達の食事処が此処になってしまってるという・・・魔窟? みたいな状態だな~ここ

下手すると、ここに居るメンバーで戦争でも出来そう、いや只の妄言だけどさ。

 

「でも、今日は臨時休業って言ってなかったかしら?」

 

「あれはそもそもセレナさん達の状態確認と、僕たち側の問題解決に先行する必要が有ったので、猫たちを預けてあっちこっち行く理由があったんです。

まぁ、完全に裏方のお仕事なんで、もし話すことになれば話しますよ、ま、了子さんが隠れ遂せるなら話さないことになりますけどね。」

 

「翔希く~ん、それってわたしにかんけーある事かな~」

 

「少なくとも【僕たち】に関係あるけど、下手をすると【この世界】に関わる事でもあるから、もしその異変が表層に出た場合は、その限りじゃないよ・・・っと、別の来客かな?」

 

玄関の呼び鈴が鳴って、誰かが外に・・・二人いるのは分かるけど、なんか言い争っているのが聞こえる?

取り敢えず、関係者か分からないから、話を付けに―

 

「いい加減離せ!!! (オレ)はお前のことなど何一つ知らんわ!」

 

「え~、そうだとしてもキャロルちゃんはキャロルちゃんだよー!

折角会えたんだし友達になろうよ~」

 

「・・・何やってるの、響さん、キャロルさん」

 

「あ、翔希さん聞いてよ~、こっちのキャロルちゃん優しくて私としてはすっごい嬉しいんだ~」

 

「・・・頼む、コイツの言ってる事が何一つ理解できない上、がっしり巻き付いてきて離れん・・・助けてくれ」

 

「ははは、ま、君が優しくなったのは事実だし、さて、響さん まずその手を退けようか?」

 

響さんの手が退く気がしないので、【ある力】を行使、少しの突風が巻き起こったが、何も吹き飛ぶ事も無く、響さんの手からキャロルさんを救出する。

所で、キャロルさん、一度シャトーに帰ったんじゃ?

 

「あんな状態のセレナを放っておけるか!

・・・まぁ、無事みたいで安心したが、あまり無茶をしてくれるなよ」

 

「お陰様で、本当にありがとうございます、キャロルさん」

 

「いや、礼ならクリスに言ってやれ、お前から離れずにずっと一緒にいたんだ。

せめてお前が安らかに眠れるように頑張っていたんだぞ?」

 

そう言うキャロルさんの言葉を背に顔を赤くしていくクリスさん・・・

あの、今着ている服も結構恥ずかしいと思うんだけど、まぁ、後で良いや

僕は取り敢えず二人分の昼食を追加で作る事にした。

 

「ふぅ~ん・・・クロエルはセレナに大分懐いているみたいね?」

 

「クロエル? ・・・この黒猫の事かしら」

 

セレナさんの太腿辺りの上で寝転がって落ち着いている黒猫、ことクロエルがにゃ~と返事を返してセレナさんのお腹辺りで蹲る様にゴロンとしていた。

それを見たクリスさんが何か嫉妬に似た視線を感じて、取り敢えず落ち着いてくれないかな~と、遠目に視線を逸らして他に作業を移す。

因みに相も変わらずまだ元の世界に帰れていない響さんは、現在二課預かりで住んで居る。

まぁ、こっちの世界の響さんはまだ中学生だし、ツヴァイウィングのファンかどうかも分からないからね・・・後でちらっと見に行こうかな?

あ、翼さん達がこっちに戻って来た、お疲れ様三人とも、暖かい物どうぞ。

 

「あぁ、あたたかいものどうも・・・」

 

「翼~そろそろ元気出せよ・・・翼がそんなんだとこっちも気が狂うぜ」

 

「・・・でも、中学生であのスタイルは相当だと思うわよ?

翼さんが気落ちする気持ちも、分からないでもないわ・・・」

 

・・・僕たちって、確か今後について話し合うからこうやって集まってるはずなんだけど・・・?

何か、場違いな気もしてきた・・・あ、ランチ出来たのでどうぞ

 

「ふむ、いつもすまないな、翔希くん」

 

「いえ、こっちも二課の調理室勝手に扱ってますし―」

 

「いや、毎回こちらの体調を考えて作ってある料理を提供してくれるのは本当に感謝しますよ。

それにいつも持ってきてくれる夜食は本当に美味しいですし、珈琲もいつも美味しく飲ませて貰ってるし・・・あれ、俺達って翔希さんに胃袋掌握されてね?」

 

藤尭さん・・・そんなつもりは―

 

「翔希くんいつもド天然にとんでもないことするからね~

特に女性陣は気を付けた方が良いよ~? さらっと惚れさせられるからね~この天然ジゴロ」

 

「リューシェさん・・・僕ってそんななのかな・・・」

 

「何言ってんの翔希くん、いままでどれだけ求婚されたと思ってんの?

数えただけで同学年の綺麗な女性うん十人から告白されたり、助けた見ず知らずの女性からも求婚されたりと、その数纏めたら千は軽く越してるんじゃないの?

全く、それだけ他世界の女性たちを落とせば気が済むんだか・・・」

 

「え”っ!? リューシェさん! それマジですか!?」

 

「マジもマジ~、わたしが初めて翔希くんに会った時なんか、数人ばかし女性の人を侍らせてたレベルだもん、これは一種の【チャーム】の呪いでも持ってるんじゃないかってレベル~

ま、そんなの持ってないんだけどね?」

 

藤尭さん・・・自分がモテないからって、僕を使って合コンしようとか言わないでよ?

まぁ、セレナさんやクリスさんからは煙たがられてるみたいだから、別にそれ程話さなくても良いと思うんだけど―

 

「ふぅ~ん、やっぱり変態だったんだ、アンタ」

 

「お姉様の・・・敵・・・」

 

「ちょっと! 二人から有らぬ疑い掛けられたんだけど―!」

 

「え? 事実言っただけだけど?

それにここに猫喫茶たてる前にどれだけ女性に告られたと思ってんのこのド天然」

 

・・・あーこのままだと泥沼に突っ込みそう・・・と言うかもう嵌ってるね、ボク・・・

弦さん、そろそろ本題に言って貰っても良いかな?

 

「ん? もういいのか? 翔希くんの話はもう少し聞いておきたかったのだが―」

 

「その事はもういいです! それよりも今はこの二人の今後をどうにかしないとですよ!」

 

「ええっと、そう、ですね・・・」

 

え、緒川さん? 今の間は何ですか? 貴方も僕の事を気にしてたりしたんですか?

・・・それだったら終わった後に話しますよ、まぁ、公の事は言えないけど―

 

「それでも奥さん方のことは話した方が良いと思うよ~翔希く~ん?」

 

「勘弁して、リューシェさん・・・」

 

取り敢えず、セレナさん達の事を話す前に、こっちの方をどうにかしないといけなくなったみたい・・・

はあ、三人寄れば何とやらと言うけど、女の子が集うと姦しいって言うのは・・・こういう事なのかな。

まぁ、喋ってしまった事にはきちんと説明しないとね、それに来週には僕の婚約している内の一人の奥さんが来られる訳だし・・・そう言えば、そろそろ十代になる子供もいたね・・・

はあ、ま、悪い事じゃないんだけど・・・

 

「なぁ、翔希の兄貴~ その婚約している奥さん方の事~詳しく話してくんね~?」

 

「奏・・・行儀悪いよ、けど、私も気になる・・・」

 

「奏さん、翼さんまで・・・はぁ、仕方ない・・・

じゃぁ、来週こっちに来る僕の奥さんの話でもしますか」

 

そっからはセレナさん達そっちのけで結構な時間話したと思うけど・・・まぁ、そこは別の機会にはなすことにしようかね

・・・そろそろセレナさん達の事を決めないとだから・・・ね?

 

「ヤッホー、翔希氏~飯食いに来たぞ~」

 

「何であなたまで来たんですか悝嶺さん・・・」

 

「え? 厄介になりに来たに決まってんじゃん、第一此処喫茶店でしょ?」

 

「えぇ、まぁ、はい・・・」

 

・・・そっちの方を話すのは少し長くなりそうだ・・・

それじゃ、会話どうこうは次に回しますかね?

 

 

 

―――安寧を求めて・・・?―――

 

 




・・・遅れてあれでしたが、感想でもあれば言って下しあ・・・
なんか割と駄文になってきた気しかしなくなってきた・・・ヤバイ一話みたいなぶっ壊れたセレナちゃんが出せてない・・・出るタイミング、作れるかな・・・
今回はここまで、ではー


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第十三話

最近一月に二話更新できればいい方な感じになって来た・・・遅い・・・
そして遅れてしまって申し訳ないです、書置き増やそうとして全く増えてる感じがしないコレ・・・
えと・・・では、また後程・・・


―――翔希店長説明中―――

 

喫茶店に集まった二課メンバーとセレナ、クリス両名の今後について話し合い中―

 

「で、やっぱり二人きりにするのは中々に危なかったりすると思うのよ、わたしは」

 

口火を切ったのはリューシェが始まりだった、と言うのも、衣食住をどうするのかと言う話し合いで、お二人は[クリス(お姉様)と一緒なら]という一辺倒だった上、弦十郎さん達もそれを否定するつもりは無いらしく、そのように住居と学園生活が出来る様に色々手配して回るつもりだったが―

 

「お姉様と数時間も離れるのはイヤです!」

 

「私もクリスとそこまで離れるのはイヤね」

 

と言う事・・・なお、今持ってきている問題用紙(国、数、英)の回答は(リディアン3年生の物)は互いの答案を見て居ないにも関わらず全問正解と言う、現学生である奏さんよりもはるかに学力があるというとんでもない実力を示していた。

あと、歴史や文学系統のプリントも後で渡したけど、何故か日本史も世界史も全問正解レベル・・・何故か聞いてみたら―

 

「聖遺物に関する歴史や世界史、地理などは全て知っておくべきものだったし、知らなければ私が纏う【呪い】の起源や性質を知る事も出来なかったから、あと語学勉強はキャロルさんに殆ど教えてもらいました」

 

との事・・・殆ど教えることなくて、これは学校に行く必要は無いのでは・・・と思い始める始末―

なお、歳について聞いてみたら、偽装身分証でも年齢は偽ってないらしく、クリスさんは翼さんの一つ下、セレナさんは奏さんと同い年だった。

その事を鑑みて、クリスさんを飛び級させればいいのかと思ったが―

 

「現行世界の事を鑑みるとソレをするのは流石に変動が大きくなりすぎるからやめた方が良いと思うよ、翔希くんもそれが分かってるからあまりやらせたくないんだよね?」

 

と、リューシェさんが小声で耳打ちしてきたので、この案はやっぱり却下になった。

そうとなると、やはりクリスさんがリディアンに入学できる歳になってから入った方が良いかと判断したけど―

 

「そうなると、セレナが三年で雪音が一年になるという事だが・・・実質的に一緒に居られる期間は一年無いんじゃないか?」

 

と翼さんに釘刺されたので、やっぱり案があまりないのが現状・・・だからと言って、学生身分でもある彼女たちを平日の真昼間の時間帯などで自由に行動させれば警察沙汰にもなりかねないから、やはり学生生活をして貰わなければ・・・と考えたら―

 

「セレナが私より下の学年になれば少しは問題解決するんじゃねーか?」

 

と奏さんが、そんな案を出してくれた。

確かにそうすればセレナさんは翼さんと同い年として扱えて、監視も楽になると思える。

現にリューシェもクリスさんと同い年な訳だから、双方の監視が楽になるという意味でも、その案は大いに有りだと言えた。

 

「ま、それでも問題は凄いあると思うけどね~

ねね、セレナちゃんは今どんな感じかな~?」

 

「?それってどういう意味で聞いてるのかしら?」

 

「あ~、モーレツに誰か殺したいとか、何かしてないと落ち着かないとかそーいう感覚は無いのかな~ってはなし~」

 

「・・・今は特に問題は無いわね、ね? クリス」

 

「はい、お姉様から感じられる愛情は先程より純粋なものを感じます」

 

言ってはまたクリスさんの頭を撫でるセレナさん・・・これは離した方がより危険では?

弦さんに聞いてみようか、と思ったけど―

 

「俺達からも彼女たちを離すべきでは無いと結論が出た」

 

「ですね、それに彼女たちなら、翼さんや奏さんの強化実習も行えそうですし」

 

「しかし凄かったですよね! 片手間に翼さんを圧倒、奏さんもその武術で一瞬にして戦闘不能にする技量! いや~・・・二課の現状で大丈夫なのか今後不安になってきました・・・」

 

「藤尭さん・・・どっちの味方なんですか・・・」

 

「そーいえばさー、クリスちゃん一人でツヴァイウィングを圧倒できる的な話をキャロルちゃんとしてたけど、どーせならこの後やっちゃう?」

 

リューシェ、彼女達まだ怪我が治り切ってないから後にした方が―

 

「構いませんよ? ラルムさんのお陰か、傷も大分癒えてきましたし」

 

「マジで言ってるのか? アタシ達もあまり手加減できないぞ?」

 

「いえ、むしろお姉様相手にアレぐらいしかできない相手なら特に問題ございませんし・・・

どうせならこの衣装のまま挑んでも問題は無いかと・・・」

 

「クリス、衣装を傷付けたりあなた自身傷付かないように気を付けなさいね?」

 

「当然でございます、お姉様。」

 

・・・これ、ホントに主従関係を結んでるように見えるし、まるで姉妹と言っても何の遜色も無いんだけど・・・この二人、ホントに生まれも育ちも違う上に二人とも親なき子と・・・

あれ・・・なんか重要な事忘れてない・・・かな・・・?

 

「翔希のアニキ、地下闘技場借りるぜ」

 

「ちょっと奏! 本気なの?」

 

「本気だぜ? 翼も負けっぱなしはイヤだろ?」

 

「それは・・・うん」

 

なんか、もっと重要な話あったはずなんだけど・・・まぁ、二人の強化にはなるから良い・・・のかな?

取り敢えず、片付けとかやっておくから、リューシェさん、案内お願い

 

「おっけ~、ついでにレフェリー役やっとくね~。

あ、そうそう、そっちで見れるように動画取っとくね~

そんじゃ、いこっか~ ほら、セレナちゃんも!」

 

・・・どうしてこうなった・・・今後についての話し合いだけの筈だったのに・・・

まぁ、クリスさんの実力を見るのには丁度いい・・・のかな?

どちらにしても、二人と訓練する羽目には成ってただろうし、後で見に行こう。

あ、友里さん、片付けの手伝いありがとうございます。

 

「これだけの量を一人で片づけるのは流石にきついでしょ?

それに、あの子達を任せられるのって、あなたぐらいだもの」

 

それについては感謝して良いのかな、まぁ、心労が増えるだろうけど・・・

 

「とりあえず、今は彼女たちの事を気に掛けましょう?

それに、私としてもあの子達が心配だし」

 

「いや・・・僕が気にしてるのは確かに彼女たちの事でもあるけど。

それ以上に、ラルム・・・あのアガートラームの存在が気に掛かってる、かな?」

 

「あの黒刃竜の事か・・・」

 

「そう呼ぶようにしたんですね」

 

「呼称が呼びづらかったからな、所謂二つ名の様なものだ。

竜の頭を持った刃の鱗を持つ人型の龍、だからそう呼ぶ事にした・・・

とはいえ、アイツの情報は本当に無いのが実情だ、キャロル君は何か知っているのか?」

 

そう、と後ろの席で食事をとってる此方から見ると小さい少女、だけど多分弦十郎さんから見ると大人の女性なんだろうな・・・とか考えるけど、今はそれどころじゃない

 

「ラルムについて、だな。

生憎だが(オレ)もアイツについての情報は対して持っていない。

それにセレナ自身もあの存在についてさして知らないだろうな・・・だが、分かる事は多少なりある」

 

「本当か! それで、あれはいったい何なんだ!」

 

「少しと言っただろう・・・全く急かさなくても話す。

だが、この話はあくまで仮定の話だ、本当にそうだと言う事ではない、と付け足しておこう」

 

食事を終わらせて水を一飲み、この場に居る人は彼女の話に聞き入るかのように耳を傾けていた

 

「まず最初にだが・・・そうだな、お前たち、アガートラームについてどこまで知ってる?」

 

「う~ん、ヌァザの右腕の義手、こと銀腕の事を指して言うならその歴史については皆調べたと思うし、弦さんもしってるよね」

 

「ああ、凪には色々調べて貰ったからな、それについては恐らく全会一致で同じ答えが出るだろう」

 

「ふむ、そこは(オレ)も同じ結論に至っているな、なら、彼女がどっちの腕を優先して扱っていたか覚えているか?」

 

そう言われ少し考える、先程の戦闘でセレナさんは左手でモノを投げて変化させて戦っていた、だけど。ヌァザの銀腕は確か右腕・・・でもセレナさんが扱ってる銀腕は・・・

 

「つまり、キャロル君が言いたいのは、彼女の扱ってる聖遺物がアガートラームではない、と言う事か?」

 

「厳密には違うというだけで、アガートラームでは無いという訳では無いと思うが・・・元型があれば分かると思うが、恐らく同じ銀腕の左腕だったんだろうな・・・

その上で、(オレ)もセレナのギアについて色々調べてたら、奇妙な物を見つけたんだ・・・モノではなく、性質としてな」

 

「奇妙なモノ?」

 

「なぁ、神と言うものを信じる気はあるか?」

 

いきなり飛躍した話・・・と言う訳でも無いか、ヌァザは元来神の座を持っていたとされるし、その話を聞くにも、神と言うのは存在していると僕も信じている・・・いや違うな。

知っている(・・・・・)と言った方が正しいかも

 

「キャロルさん、その言い方だと、セレナさんの纏うアガートラームは聖遺物由来ではなく、神遺物と言う事ですか?」

 

「妙な言い方だが、そうだな、神性は確かにある。

現に詳しく調べようとしたときには、その性質に邪魔されたからな」

 

まるで知られたくないかのようにな、と一言付け加え、一息

 他の聖遺物でも神様由来の物なら数多ある、ガングニールもその一つだ。

でも彼女の言っている聖遺物、と言うのは神性が欠落した玩具のような物とゆう言われ方で、元々の力の半分も引き出せないというのが現状・・・

 と言うのも、現装者の翼さんや奏さんの纏うシンフォギアでも、元来、生前に活躍していた遺物程の力を発揮できていないのは目で見るよりも威力が劣っているのは明らか。

 まぁ、そうである前に、リセさんの扱う聖遺物は元々それほど強いモノではなく、彼女本来の力が強いから、ギアなんか無くても神に対抗できるほどの力を有してるんだよね・・・僕もだけど―

 でも、そう言う実力で言うなら弦さんも相当な・・・いや、そうじゃないや。

そもそも、何でセレナさんはあれだけの呪いを負っても平然としてられるのかと、その負荷についての話・・・恐らく、ラルムについてもそれで分かる・・・はず

 

「次に、何でセレナが呪物を集めているかだが・・・世界を壊そうとした(オレ)と似たようなものだな・・・

だが、(オレ)はあくまで【世界を識る】事を前提にワールドデストラクタを起動しようとしていたが、それは単なる逆恨みだと諭されてしまってな・・・

それで、この恨みにも似た感情をどうすればいいかと言ったらアイツは―」

 

  『だったらその気持ちを、感情を私に下さい、世界を呪う歌を、ナニモカモを呪い、憎しみ、恨む力

  貴方のこれまでに培って来た【知恵】と【叡智】で、私に復讐する力を下さい。』

 

「まだ小さかったアイツはそんな事を(オレ)言ってきていたんだ・・・ったく、(オレ)なんかよりずっと若いくせに・・・(オレ)より不幸を背負いこみやがって・・・クソっ!」

 

そんな言葉を吐き出し悪態をつくキャロルさん・・・やっぱり、彼女自身が願ってしまったんだね・・・世界を呪う事を・・・

多分、だけど、彼女たちは知ってるんだろうね、バラルの呪詛と言う人類の相互理解を阻む装置の事を―

 

「翔希、お前の考えていることは何となくだが分かる、月遺跡に存在する装置についてだろう?

あれは・・・確かに依然見つけたときには破壊しようとしたが・・・やらなかった、いや、違うなやってはいけない(・・・・・・・・)んだ。」

 

「やっぱり、キャロルさんは知ってるんだね、あの装置について―」

 

「装置? あれが装置だと・・・? フフッ あははははっ! そうか、装置か! あんなものが装置と言う簡単な機械のソレだというか!」

 

「? さっきから何を話している? まるで分らないが・・・」

 

「あぁ、弦さん、確かセレナさん達から情報共有である単語を受け取ってましたよね【バラルの呪詛】って言う言葉」

 

「あの良く分からない機構? のことか、調べても何もわからなかったからアレだが・・・重要・・・なのか?」

 

「ああ、重要だとも、特にフィーネを追う上ではな。

なんせ、フィーネは先代の巫女とも呼ばれる無限転生者、目的の為なら手段を問わず己をやるべき事を成し遂げる頭の悪い奴だ。

だが、近代それもようやく叶うだろうという所で(オレ)達と言う障害が出てきているんだ、ま、やりはしないだろうな」

 

「それで、月遺跡がどう関係あるんだ?」

 

「バラルの呪詛は所謂アーティファクトを媒介にした世界因子のような物です。

これがある事で人は相互理解を失い、話し合う事での理解しか出来なくなってしまった、と言われています。

最初の理解手段が歌だったとも・・・」

 

「そうして、相互理解する手段が困難だったからか、理解したくない奴らが生み出したのがノイズだと言われている・・・

そこまでは、セレナの起動させた【過去視の魔眼】を扱って理解できたし、(オレ)も同じ時期に生きていたとしたら同じ事をしていたかもな」

 

「つまり、フィーネは相互理解の邪魔をするその呪詛を破壊しようと躍起になっていたのか・・・・だが何のために?」

 

「「愛の為・・・じゃないか(ですか)?」」

 

「なぜそこで愛!?」

 

いや、そう突っ込んでくれると僕としても助かるよ、ホントなんで愛の為に無限転生してまで追っ駆けやってるのあの人・・・人?

まぁ、後はリインカーネーションシステムの話をして・・・と、あれ、コールが鳴ってる、はい、もしもしこちら凪―

 

『翔希くんちょっと助けて!』

 

「え? な、何があったの?」

 

『えっと、詳しい事は後! とりあえず急いできて!』

 

う、うん。分かった 返事を返して直ぐに地下に向かおうとしたが―

 

「あぁ、翔希、装置について笑った事は謝る、だがバラルの呪詛はもはや装置ではなくなっているんだ」

 

「え、じゃあ一体―」

 

「それについてはセレナが来たら話してやる・・・どうしなくても当分はこっちに居るからな」

 

ん、分かった 返事を短く残しその場から去る、多分周りの人からは消えたようにしか見えてないんだろうな・・・

緒川さんも大概だけど、僕もまぁ、大概ヤバいというか、忍者掛っているというか・・・まぁ、考えないようにしよう

 

それで、リューシェさんの方は何が起きて―

 

 

 

 

「・・・・・・了子さん何処に居たの・・・・・・・?」

 

「あは・・・ははは~挨拶に来ようとしたらこの始末なの~ たすけて~」

 

トレーニングルームには何故か逆さまで磔にされて居る櫻井女史とその犯人だと思われるセレナさんが動きを抑えられているという不思議な光景が広がっていた・・・

いや、事故になるの早いな~、もう少し逃げてるとばかり踏んでたのに・・・

 

「ちょっと! わたしだって用事で居なくなることだってしょっちゅうあるわよ~

ただ、ただ今回はちょ~っと用事が長びいちゃったというか~、そ、それより助け―」

 

・・・これ、多分セレナさんを先に落ち着かせた方が良いね、何か知ってそうだし

 

「リューシェ、退いていいよ、僕が抑える」

 

「え、今かなりヤバいんだけど! わたしでも抑えるの手一杯だし―」

 

「いいから、じゃないとロクに話せないでしょ?」

 

「う~ん、分かった、ま、翔希くんなら良いよね」

 

そう言った瞬間天井に張り付くように逃げる白猫、途端に一直線に駆け抜けようとする黒腕を脇に挟み込み背合わせになる様に腕を後ろに回し、その勢いのまま右足を振るい足払い。

うつ伏せに倒し、念のために目隠しを、と言う所で複数のナイフが間近に迫っていたのをギリギリの所で回避し距離を取る、がその間も与えられないまま、巨大な黒い剣に襲い掛かられる・・・が、これすらも変わり身で回避する、バラバラになった布はそのまま消えていた

 

「お、落ち着いてセレナさ―」「黙れ偽善者!!!」

 

「!? 偽善者って・・・まさか―」

 

「隙だらけです、死んでください・・・フィーネ!」

 

「だーかーらー! 待ちなさいっての!」

 

一瞬で辺りを氷漬けにして、全ての動きを停止させる・・・いや、すっごい冷たいんだけどリューシェさん・・・

 

「抑えられなかった時点で私達の負けだったんだから仕方ないじゃん!

大体、わたし達も事前調査でフィーネが誰か検討ついてたじゃん!

後は本人の言質取るだけだったのにー!

な~んでこうも出てきちゃったのよ~了子、あ、今はフィーネって呼んだ方が良い?」

 

「もうどっちでもいいわよ・・・彼女が此処までジェノサイダー思考になるなんて思わなかったし・・・

全く観測した中で一番無害そうだったはずなのに・・・どうしてこうなったんだか」

 

「二人とも寒いのは得意そうだから良いけどさ、唯一の普通の人である僕は結構きついんだけど、後話し合いならカフェのエリアに戻ろうよ、所で翼さんと奏さんは?」

 

「そっちで伸びてるよ、三分保たなかったってさ」

 

流石に弱すぎない・・・? 僕もある程度武術教えてたはずなんだけど・・・

 

「跳弾する弾丸の中で拘束されて全弾叩き込まれて終わったみたい・・・いや~早いよね・・・」

 

「いや、ギアの力使ったの?」

 

「? いや錬金術だってさ?」

 

はぁ、まぁいいや、二人を拘束して弦さんに報告行って来よ・・・

皆、早く戻るよ、流石にこんな所で長居はしたくないしね・・・

 

「・・・結局メイド服汚れちゃった・・・」

 

クリスさん、さっきの言動からの温度差で僕は風邪をひきそうだよ・・・

翼さんと奏さんも何かゲンナリしてて・・・これ本当に何とかなるかな・・・?

あ~、ま、何とかしますか。

 

「さ、シャワー浴びて着替えてきなよ、こっちもこっちで色々準備するからさ」

 

あの人達にも色々話しておかないといけない事結構できちゃったみたいだし・・・

セレナさん達の今後が不安ばかりだなぁ・・・まぁ、幸せになってくれればいいんだけど―

 

「それだけで、事は終わらないよね・・・」

 

「現状、ネフィリムが大陸間を移動して聖遺物を狙いまわっている以上、平穏な場所ほど少ないと思うがな、異世界探訪者」

 

「まぁ、それっぽい話もしてたし頭のいい貴方なら僕たちの事も分かってましたよね」

 

「そりゃ、あれだけ私の作ったものを扱わずに対ノイズをやってのけるバケモノなぞ錬金術師以外では他所の力がある奴らしか考えられなかったからな・・・しかし、本当に冷えるな・・・

これが昔からある魔力と言う奴か?」

 

「フィーネさんだって似たのを扱っているじゃないですか・・・」

 

「私のは先史文明の力だ、お前たちの扱っている力とは・・・ちがっ・・・ハブシュっ・・・う~、

まさか、私がこんな状態になる程だとは・・・いったいどれほどの・・・?」

 

「はは、流石対異物用特殊武装・・・ちゃっかりフィーネさんにまで攻撃が届いてる。

うん、やっぱり僕たちのリーダーの兵装はおかしいレベルで強いね」

 

「まて、その前にお前たちの力量がおかしいのに気付かないのが可笑しいだろう!

現状、翼や奏も以前に比べればノイズに対して一切の反撃を許さずに倒せるほどにまで強くなっている。

それなのに、お前たちはアイツらの攻撃をモノともしない・・・いったい何なのだ?」

 

「そう、ですね・・・まぁ、貴方になら話しても良いかな?

「?何を―」「僕もこれでも千年以上は生きてるんですよ、ほぼ生身で」 「!?」

 

「何だ・・・お前ら、本当に何なのだ?

まさか、私の計画の邪魔を―」

 

「あ、そこまでは考えていません。 ただ、この世界にも僕達の世界の異物が入りこむ可能性を考えての防護手段として、僕達が来ているんです。

まぁ、ここ数年何もなくて平和ですが・・・」

 

そこまで言って、一息、了子さんこと、フィーネを連れてカフェに戻る。

傍ら僕達もウソを言わずに真実だけを話す、ただそれでも何でセレナさんがああなっているのかは本当に知らないため、そこだけはごまかさずに話した

・・・後の事は、フィーネさんも交えて今後の事を話すことにしよう・・・

セレナさん、暴れると誰よりも強いからね、弦さんに止めて貰うようにしよう。

そう考えを改めて、フィーネを連れて二課の全員が居るカフェに戻る事にした―

 

 

 

今後がきっと、開けると思えたから・・・

 

 

 

災厄の未来は、きっと間近かも知れなかった―

 

 

 

 

―――混沌は談笑する―――

 

次回へ―

 

 

 




フィーネさん登場速いです、はい、もう少し出さないでおこうかと思ったけど、必要以上に引っ張ってもなと思いつつ・・・結果こんなのです。
ちな、フィーネさん完全聖遺物何も持ってないのであまり強く無いです、はい
まだネフシュタン起動前だし、仕方ないね?
次から、フィーネの話・・・とか色々です、では・・・
遅れて申し訳なかった、後感想あれば、疑問でもいいので書いていただければ答えます、では!


・・・最近投稿するたびお気に入りの人減ってる気がする・・・気の所為じゃないよね・・・?

・・・平穏書きたいときあるんです、ユルシテ?


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第十四話

特に話すことは・・・あるけどいいや
今回も会話、フィーネとネフィリムに関して~
・・・後は・・・うん、また後で―


翔希とフィーネと二課の皆と~

 

 

 

 

と言う訳で、了子さんもとい、フィーネに起こっていた事、起こした事etcetcを話して貰っている

現状最も危険だと言われているネフィリムについては一先ず最後に話すことにして、現状それ以外の脅威も迫ってきているのは事実としてあるため、僕達の事も含めて話すことにした。

尚、痣嶺さんは僕が居ない間に帰ってた・・・ま・た・ツ・ケ・か・・・はぁ。

これで何回目だろ、大分と稼ぎがある筈なんだけどな、彼女・・・?

書き置き? 痣嶺さんの?

 

 

  『ゴチになりました~。』

 

払えよ! 思いっ切りぶん投げようとしたけど、何か追伸が書いてあったので読む事に・・・

 

 『P.S. 深夜帯にいつもの所に来な、色々話す事がある。

    セレナも連れて、な』

 

 

・・・お互いに用事が有る訳だし・・・まぁ、これについてはセレナさんにも話しておこう。

だけど深夜帯って・・・まぁ、0時過ぎにでも行けばいいか。

 

 

「それで、了子君・・・今言った話は全てホントなのか?」

 

「ここでウソを言っても仕方ないでしょ?

それに、私の願いはその悪魔に完全に潰されたと言っても過言じゃない・・・その上―」

 

 

了子さん、ことフィーネが端末を取り出し、ある映像を出力する、そこには海を歩き渡る灰色にも似た大きな『ソレ』がゆっくりと、だが確実に何処かに向かって歩いている映像だった。

 

 

「これは― 「っ!? ネフィ・・・リム!!!」 ちょっと!? セレナさん!」

 

 

前のめりになって突っ込みそうになるセレナさんを抑えて話を続けさせるように催促した・・・

一応手錠と、足枷を嵌めて動けないようにしているけど、セレナさんの力をもってすれば直ぐに外れそうで本当に心臓に悪い。

けど、これを観測しているって事は―

 

 

「コレが此処まで成長しているとは思わなかった、第一、私は起動指示なぞ一言も言っていない。

恐らく、独断先行したヤツが居たのだろう、幸い、この日本国には向かってきていないのが救いだな」

 

「これが、セレナ君の復讐する敵・・・なのか・・・

此処まで強大な敵だとは思わなかったな・・・勝てる算段はあるのか?」

 

「六年前・・・つまり起動時点で抑え込めればここまで厄介なことにはなって居なかったでしょうね・・・

だけど、その時点で私は別の事をやっていた・・・知ってるでしょ? 天羽夫妻の事故」

 

「あぁ、丁度その時期に被るのか・・・」

 

「・・・? あれ、待ってください!」

 

「何かしら? 響ちゃん?」

 

「確か、奏さんの両親が襲われたのはツヴァイウィングのライブの八年ぐらい前・・・だったかな? その時の奏さんの年齢は確か―」

 

「響さん、正史で物事を考えるのはダメ・・・だけど、確かにその暦上を考えると遅いよね・・・

それ程まで遅いとなると、もしかして天ノ羽斬の起動はもっと速かった・・・?」

 

「聡いわね、でもそういうのは嫌いじゃないわ。

その通り、翼がまだ言葉を覚えたての頃、実験室が開け放たれていたらしくて、そこで歌を歌ったら起動していたらしいわ、私も丁度そこに居合わせたことで―」

 

「フィーネが顕現した、ですね・・・

そこら辺の調査はある程度できています、ですが、それだとこちらの響さんの正史から大幅にズレが生じますし、そうなれば、恐らくですが、次元断裂が発生する可能性が・・・」

 

「次元・・・「だんれつ?」」

 

「それについては私が説明するわ」「お願いします、マリス」「ええ」

 

 

今度はこちら側についての話、現状ネフィリムがあのまま膨張成長した場合、下手をするとどうなるかと、現状でも危険因子が入り込んでいる事、あと―

 

 

「まず、私達の世界についてだけど、まず、マナの概念と魔力と言う概念について認識はある?」

 

 

唐突で突飛な話だけど、僕達の事を知るためにも、このあたりの学習はしておいて貰いたいから、ある程度の知識があれば十分だけれど―

 

 

「あのー、これ結構長くなるヤツ―」 「ですよ?」 「やっぱり~!」

 

響さん・・・やっぱりこういうの苦手なんだね・・・まぁ、今の会話内容も全部録音しているから問題無いと思うけど、響さんは戻ったらとりあえずこちらの状況説明が必要だろうし、そっちの方は僕達で協力することにして、まずは錬金術とは違う力、魔術、及びマナの利用についての解説を始めた。

 

「マナ・・・と言う事は自然物を利用した何かと言う事かしら?」

 

「そう捉えて貰っても問題ないわ、私やリューシェ、リセはそれぞれで、【氷】と【闇】を扱うことの出来るマルチな能力・・・ここでは魔術使いと言っておきましょうか?」

 

「魔術? 魔法使いとかとなんか違うのか?」

 

「魔法、って言うのは元来作られて居る魔素の扱いを簡素化するためのモノよ、わたし達が扱うのは周りのマナを利用して自分のイメージ通りに技を行使する思考型、魔法みたいに決めつけられた術式を扱うモノじゃないから現状だと全く違うモノね。

ついでに言うと、翔希さんの扱う術式は和式の術式だから・・・この場では【陰陽式】とでもいえばいいかしら?」

 

 

頭を抱えて奏さんが煙を噴き出しかけてる、ついでに翼さんも頭にヒヨコが舞ってるように見える。

あ、これ此処にいる装者殆どダメな奴じゃない・・・?

 

 

「私達の扱う錬金術とは違うという事かしら?」

 

「うんにゃ? 大元の【等価交換】と言う大原則は全く変わらないよ。

 ただ違うのは、モノを媒介にすることが出来るかどうか、錬金術ならモノを媒介に力を行使できるけど、魔術は全くの別、自然界に溢れる空気の素や、火の気を扱い転換、膨張させたり細くして鋭くしたり、扱う人によってそれはマチマチだよ。

ついてこれているかしら・・・?」

 

 

そこまで聞いてキャロルから質問が飛んできた・・・まぁ、彼女の言う事も言いたい事もわかるけどね。

 

 

「一つ聞いていいか? それだと【アリストテレス】の錬金術のソレと何ら変わりがないのではないか?

それであれば、(オレ)の現状扱っている錬金術と何ら大差が無いようにしか思えないが・・・」

 

「確かに、私が言っている事に対してはキャロルさんのいつもしている錬金術と何ら変わらない・・・ただ変換するものが違うの・・・オーラとか霊力とかで言えばいいのかな? わたし達の世界では魔力と言うのが精通しているから、そう呼べばいいのだけど―」

 

それに関しては、恐らく情報に流通している人達ならマジック程度の物を知っているぐらいだろう・・・

ただ、今はマリスさんが影の中に無数の氷の粒をあっちこっちに飛ばして遊びながら話している現状、錬金術とは違う、と言う証明をしながら話している。

 

「まて、それなら(オレ)やパパが研究していた錬金術が無駄と言うのか!?」

 

「待ちなさい! 人の話は最後まで聞いて・・・

魔術は万能だと言う人もいるけど、それは全ての魔術に精通して行える万能人間でも居ればの話よ。

実際そんなことが出来るのは、何千年かに一度できる人間がいればいい方よ・・・

まぁ、出来たとしても、器用貧乏で万能に強い人間になれはしない、それが人間であり、魔術よ。

錬金術師の様に、賢者の石を作り出し巨万の富を築くなんてことを目的に出来る術じゃないの、魔術は。」

 

そこで僕は一つ補足する、僕達の世界にある一つの掟について―

 

「それに、僕達の世界の魔法、魔術はそのどれもが強いものはあるけど、人の傷を癒したり、死者を蘇らせるような魔術は存在していない。

僕もいくつか試したり試行錯誤したけど、幾歳過ごせど成功することは無かった・・・

それでも、一つだけ、回復手段としては少し雑だけどあるには・・・ある」

 

「ん? 身体の治癒促進は錬金術でも可能なことだが・・・お前たちの世界のソレは何か問題があるのか?」

 

「ん~、翔希くん、少し本題からズレたから元の話に戻そうか。

その魔術・・・ううん、分かりやすく魔法と言っておこうか、それについては現状関係ないしね。

とにかく、私たちはそっちの方向に特化した能力者だと思えばいいよ。

現に、この場でそういう魔法を扱えるのは私だけだし」

 

「なるほどな・・・だがそれとお前たちの言った次元断裂と何が関係あるんだ?」

 

「う~ん、司令さん達って、並行世界については響さんから聞いたかな・・・?」

 

「ん、ああ、こちらの立花 響君とは違うと言っていたのは聞いた、もう一つの別の世界の彼女だとは先日話を聞いていたからな・・・それに、了子君もそれについては、その並行世界にまつわる聖遺物があると言っていた」

 

「・・・じゃあもう出していいかな、マリス、取り敢えず、アレを持ってくるよ」

 

ん、と返事を返した彼女を背に、ある聖遺物をケースに入れて持っていくことにした、リューシェさん曰く、元来あるソレよりは小さいからブレが大きいらしい・・・あくまで転移時の話だが。

その間、この世界と他世界の変遷とか響さんの世界の話とかいろいろして貰っていた・・・で

 

「これが響さん達の並行世界の転移装置・・・こっちは僕たちでも扱える転移装置で、こっちは―」

 

「並行世界の・・・この世界でのギャラルホルンの断片、響さん達の世界のは完全聖遺物だったけど、こっちのはその半分くらいしか見つからなかったから、まぁ国家申請してないから見つかったら完全にアウトな話~」

 

「!? いや、ちょっと待て、了子君はこれがこの場所にあることを―」

 

「知ってたらもっとしっかり管理していたわよ。

 でも、彼らはこれが起動したときの波形を完全にジャミングしていたらしくて、私にも見つけられなかった・・・まさかこんな間近にあるとは思わなかったけど・・・」

 

「とは言っても、たいして効果も現状確認はそこまで取れてないけれど、あちらの響さんがこちらに来れている以上、次元障壁、および時間差障壁も突破していると考えても問題はないかな?」

 

「いやいや、そこに問題があるから一定期間毎にしか転移出来ない問題が発生してるんだよ!

 いい加減そこの所も調整しないといけないって、前言ってたよね翔季く~ん!」

 

 

そう言って、ウ~っと唸り声を上げる人型の白猫・・・の頭の上に項垂れるような体制で返事をした別の猫がいた。

 

 

「やっぱりそういう感じのほうが言いやすいのかな? リューシェさん」

 

「メインの身体をマリスちゃんが扱っている以上、わたしは他の猫の身体を使って会話するしかないんだよ~、ま、これでも話せるのは猫人としての特権かな~?」

 

 

なんか大分話が脱線しちゃったし、そろそろ次元断裂、及びこれからの話にしようか―

 

 

「あはは、まぁそれは置いておくとして、恐らくだけど、次元断裂の現象が起きてる主な原因の一つにセレナさんがこの原因の一端を担っているかもしれないし―」

 

「待て、それなら(オレ)が一番に例外的な動きをしている筈だ。

現に装者達に一番に接触した上、パヴァリアとの関係を断ちつつ、アイツらの内情を把握しながらお前たちに情報提供をしている、その上セレナやクリスに錬金術を教えて、聖遺物を分け与えたんだ。

これ以上にも異変を起こす可能性があるとすれば・・・それ自体はきっと―」

 

「キャロルさんの動きはあくまで最低限で済んでいます。

むしろアダムさん側に被害を出せているのでそっちの方でこちらは大分楽になってますよ・・・

サンジェルマンさんから色々聞かせて貰いましたし、あと数年しない内に恐らく瓦解しますよ、あの結社」

 

 

 それは多分事実であり、数年後、と言うのは正史の記録で書かれている事象が起きるであろうことの予見。

 ただ、この世界がパラレルワールドであることを知っている身からすれば、それは誰かが止めたという形ではなく、社会として崩壊するというものの想定、と考えていた。

 その実、今の結社の貯蓄量は前(セレナ達に出会う前)の半分行かないぐらいまで減り続けていた。

それを深刻に見た幹部三人がアダムの無駄浪費を削ろうと躍起になった結果、アダム派と三幹部派で別れ、それぞれが結社をなんとか保たせようと躍起に・・・成ってるらしい。

 ただ、アダム派は存続を、三幹部派は一度取り壊して再建を図ろうとしているらしい。

まぁ、それ自体はこちらには関係のない話だが、あの人たちも一応はネフィリムを警戒していると聞いている、それに何人かは犠牲になっているらしい。

 最近では人も飲み込む光景を撮られている現場が多々あるらしく、その現場をサンジェルマンさん達が取り抑え、被害の拡大を防いでいるらしい。

 まぁ、錬金術の結社なせいか、聖遺物をそれなりの量扱ってるのが災いしてネフィリムにとっては良い餌処みたいな感じになっているのが現状、という報告が来ていた。

 だから、セレナさんの逃げ出した時点から今までどれだけの聖遺物、及びそれに付随する【何か】をどれだけ喰らったかは一応に三幹部の人達が一応は確認している・・・が、欠片だけでも三桁は超える上、施設でも2、30は超える程被害が出ている。

 これらから考えると、この六年間でネフィリムが襲った施設は一年に4か5施設程襲っているのが分かる。

それはある意味では消化量が少なくて済んでいるともいえる現状、だがそれだけ聖遺物施設、及び錬金術師の施設が追いやられているのはやはり見過ごせない、だが・・・

 

 

「わたし達の所に居たネフィリムなんか比べ物にならない程強くなってますよね・・・これ。

だとしたら、宝物庫に入れ込んで自爆させるのも難しい気がしますよ・・・」

 

「? 響君、君はこの怪物と戦った事があるのか?」

 

「あ、はい、わたし達の世界で一年ほど前ですね。

その時の事件が、えっと、フロンティア事変・・・だったかな?

ウェル博士が暴走して月を落とそうとした所を、マリアさんとナスターシャ教授に助けて貰ったんです。」

 

 

それに対してセレナさんが一言出そうとした、先程と違い、少し落ち着いた感じ、それでも敵意は抜けていない。

 

 

「・・・ねぇ、いま、マリア姉さんと、マムの事を言ったの・・・?」

 

「え、う、うん、そうだけど―っ!?」

 

「生きてるの! 姉さんも! マムも!」

 

 

急に響さんの胸座を掴み叫ぶように問いかけるセレナさん、このままじゃ―

 

 

「っくぅ、お、落ち着いて・・・セレナちゃん・・・

 マリアさんは・・・わたし達の世界の方は無事・・・だけど、ナスターシャ教授は、月を元の軌道に戻すために、犠牲に・・・」

 

「・・・・・・そう・・・なのね・・・そっちの私は・・・?」

 

「マリアさんが言うには、ネフィリムを止める為の絶唱で、亡くなったって・・・」

 

 

そこまで言われて手を放す、一応でも前の方で手錠留めしたのはダメだったのかもしれないけど、僕達は一応でも彼女の意見を尊重するため、仕方ない配慮だとは思っている。

 意気消沈したかのように席に付き項垂れるセレナさん、それを励ますかのように近くに寄り添うクリスさんは、セレナさんの背中をさすって落ち着かせるように隣に居座るようにしていた。

その表情には、まるでその人以外が映って居ないかのようで・・・少し不気味なようで・・・

でも、今はこのネフィリムの事件をどうにかしないと、僕たちの未来はないといっても過言じゃないといえる。

事実、この存在の影響は地球規模だけではなく、ある意味では宇宙規模の話にまでなりえないほど・・・

故にその影響で次元断裂を引き起こし、他世界にも影響を与えかねないのは明白で―

 

 

「それでは、これからはノイズの脅威を打ち払いつつ、対ネフィリムの対策を練りながら今後を見据えていく必要があるな」

 

 

それに―と続く言葉は別の着信音で却下されてしまった

この着信音は―――

 

 

「すみません弦さん、映像出力、出します」

 

 

一先ず辺りを暗くし、シアターモードである壁面に映像出力する、これをする相手は決まって二人ほどしかいない、一人は前、キャロルさんが話した一人、それと―

 

 

「翔季君、まさかと思うが―」

 

「覚悟はしておいたほうが良いかと・・・映像出ます」

 

 

恐らくではあるがこの場にいるもの全員が会いたくないであろう相手・・・そう、相手は風鳴の総本山に居る風鳴の翁・・・そう

 

 

『やっと繋げおったか、遅い!』

 

「遅れて申し訳ありません、風鳴訃堂様・・・

ですが、ただいま彼女たちの事で尽力しているところで―」

 

『分かっておる! そんな堅苦しい報告を聞きたいわけではない!』

 

 

・・・あ~、リューシェさんに代わってほしいこれ・・・

頑固爺なんだもんな・・・流石に弦さんも緒川さんも伏せてみないようにしてる・・・

前の時は通信での伝達だけだったけど、今回は映像による通達・・・恐らくだけどセレナさんたちの事だろうけど・・・

通話前にセレナさんの枷を外して正解だったのは言うまでもなく・・・何せ、このおきな様・・・

 

 

「親父・・・いつも言いたいことがあるが、流石に言わせてくれ」

 

『なんだ弦、言いたいことがあるなら―』

 

 

被るようにリューシェさんが言走った、あれ、リューシェさんこの人のアレ知ってるはず―

 

 

「いやーここまでハラスメントを公にして本人よく堂々とできるもんだよね~、いや~天晴なもんだよ~

いや~あれだよ? ほかの人の趣味にとやかく言うつもりはこれっぽっちもないよ?

だけど、真面目な会議のたびにアレを見させられるこっちの身にもなってほしいな~とか見るたび思うんだね~ ・・・なんで親子そろって趣味キョむグググゥ」

 

「リューシェさん! それ以上はだめだ! 翼さんに余計なダメージを与えかねないから!

それに八紘さんから色々仰せつかってるからそれ以上の突込みは禁止だから!

ほら、オペレータの人たちも見ないようにしてやってるから! ね?

・・・まぁ、今回助けた二人が彼のストライクゾーンにガチで入ってるのはわかるけど・・・」

 

 

・・・あれ?周りの視線が痛い・・・なんだろう?

僕、何か言っちゃいけないこと言ったかな・・・あれ? セレナさん?何かな?

なんか痛い視線を向けてきたけど、なんでもなく会話を始めてた

 

 

「・・・あなたがあの軍隊を引かせた風鳴の者で、間違ってないのよね?」

 

『おお、そうだ、そちらが、報告にあったセレナ・カデンツァヴナ・イヴで間違いないか?

それと、そこの銀の髪の少女が、雪音クリスで間違ってないであろう?』

 

「えぇ、お初にお目にかかるわね

其の通り、私がセレナ・カデンツァヴナ・イヴよ、初めまして、でいいのかしら? 風鳴訃堂?」

 

「えと・・・雪音・・・クリス、です・・・」

 

『うむ、二人ともよく無事に生きていてくれたものd―』

 

「何だこのクソジジィ?」

 

 

キャロルさーん!!! お願いだから口出さないで! それに貴女も知ってますよねー!

 

 

「えと、日本の国守でトップの風鳴機関の首相で、御年100を超え・・・超えてる?

あ、そこはいいや、取り敢えずこの国を今も守り続けてる風鳴機関の創始者にして、わたし達の所属している機関の創設者であり管理人・・・? の、取り敢えず偉い人らしいよ?」

 

「ふん、歳で引退した腑抜けじゃないのか?

それにそれだけ生きているのなら錬金術で延命出来ることも知っていたとも思えるのだがな・・・?」

 

「多分手を出してると思うけど、やっぱり日本大好きお爺ちゃんだから他国の道具を扱いたくないんじゃ・・・あ、でも銃は外国のだから何もかも日本の物にしようとしたら時代錯誤になっちゃうかー。」

 

「だったら外交を開いてとっとと自分の未来を考えるべきだったんじゃないか?

全く、祖国のためだとか何とか言って動かなかったお爺さんはやっぱり頭が固いだけの意固地じゃないか?

いや、問題児なだけか?」

 

「あはは~キャロルちゃん自分だけ何百年生きてるからって問題児って言いすぎだよ~

むしろ問題爺だよ~」

 

 

・・・・・・あ~もう滅茶苦茶だよ・・・どうすんのこれ、え、僕に丸投げする気ですか弦さん・・・

あ、緒川さん達もういないし!

え、えっと確か報告があって連絡してきたんだよ・・・ね、え、あれ?

訃堂さ~ん、しょんぼりしないで、いつもの覇気は何処に?

え、あ、ちょっと切ろうとしないで、こっちも伝えたいことあるから!

何?後で連絡する・・・? いやこっちじゃなくて弦十郎さんに連絡を・・・え、出来ない? 嘘ですよね?

 

 ロックされた? なんで!? え、総司令の役割有ったんじゃ?

え、それも八紘さんに取られた役職? え、今の訃堂さんって何の役回り持ってるの・・・?

 アー! ちょっと待って、なんか店にいた人たち軒並み仕事に戻ったし、響さん苦笑いしながら逃げようとしないで! というか何でお昼時にかけてきたんですか!

 え、ゆっくり話せる時間って言ったらお昼時で、家には猫がたくさんいるから見たかった・・・だけ?

いやいや、あ、でも分からないでもないですけど、それとまともな仕事の話をごっちゃにしないで下さいって・・・え、翼さんにもう少しあれば・・・って何言ってるんですか、貴方が産ませた子供でしょうが!

 ・・・え~っと? 僕みたいに一夫多妻で幸せを築きたかった・・・?

いや何の話!? 今のこれと全く関係ありませんよね!

 本当に何の話がしたかったんですか! 普通でしたら世間話もしないような間柄なのに―

それでも僕とは仲良しくしておきたい・・・? 一夫多妻の間柄で・・・?

 あの~僕はそういうんじゃないので勘弁してください、というより貴方とこうやって話せるの僕ぐらいですよ? なんで自分の息子や娘に対して敬語使わせるのに僕は軽口でいい何て・・・

 ・・・一番相談に乗ってくれそうだったから・・・? あ~はい、よく分かります。

それでよく内密のメール寄越してくれるんですね。

 

あ、また後でしっかりとした話しさせてください、取り敢えず夜までは僕もフリーなので。

それまでは何とかしておく・・・いえほんとにしっかりしてくださいよ、それでも実力で僕に勝ったお人ですか・・・

あれはマグレ? いやいや、謙遜しすぎですよ・・・え、僕が謙遜しすぎ?

 これは元からですよ、僕は誰の上に立つつもりも・・・あ~このままだと、夜まで話しそうになるね・・・

え、これから酒飲みにですか・・・?

 いや、平日の昼間から何誘おうとしてるんですか!

休日なら喜んでいきますが・・・あ、はい、日取りを決めて伺いますね。

 

 

・・・・・・あれ、僕の心労が増えてってるような・・・

ネフィリムの話からどうしてこうなった?

あれ、そもそも訃堂さんも似たような話をする予定だったんだよね・・・ね?

ん?セレナさん、何かな?

 

 

「・・・・・・・変態・・・・・・」

 

 

いや、だからそれ僕じゃないって―

え、クリスさんも何―

 

 

「女の敵・・・・・・」

 

 

だから違うって! ってリューシェさん! 笑ってないで手伝ってよ!

あ~今日は完全に厄日だ・・・訃堂、許すまじ・・・いや、でも許すけどね。

それじゃ、もう少し頑張りますか~・・・はぁ、猫枕に癒されたい・・・

 

 

「猫を頭で潰しちゃだめだよ?」

 

「しないよ! っていうか僕の扱い酷くない!?」

 

「酷くない・・・寧ろ普通・・・」

 

「ま、あんな奴に守ってもらったなんて思うと反吐が出るけど、あんたはマシだからいいわ」

 

 

ありがとうって、一応言っておくよ・・・正直身体が精神的に痛くなってるけど・・・

まぁ、次の事は、後で考えることにして―

 

 

「セレナさん達の住む場所について聞いてる? リューシェ?」

 

「しらな~い、後で弦十郎にでも聞いたら?」

 

 

・・・そうしよ、まだ一時過ぎた辺りだけど、ドッと疲れた・・・夕暮れからののカフェを頑張りますか~

 

 

 

―そういえば、キャロルさんから月遺跡の装置について聞くの忘れてたな・・・

後で聞けばいいか、今は疲れた・・・

 

 

 

―――青年は考えるのをやめ、少女たちは猫と遊ぶ―――

 

 




風鳴の翁と言う者ありけりとか何とか―
はい、いつも苛めたいと考えていた風鳴の翁さんです。
出来れば女の子が、が興じて二次元趣味を発してしまったヤバイ爺さんに仕上がった。
・・・尚実力は相当あります、其処は変える気はない―
F.I.Sについては出そうと思ったけど、思った以上に長くなりそうだし、フィーネってそこまで頻繁にF.I.Sに居なかった気がするのでそんな感じで・・・
まぁ、それでもセレナちゃんは彼女を恨みますがね~
と言う訳で、フィーネはネフィリムを潰すまでの協力者関係で味方にします。

・・・完全聖遺物どうしよ・・・ツヴァイウィングのライブ前だよ・・・
感想あればどうぞ・・・モチベあげてカキコしたい・・・!?

それでは―


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第十五話

ちょっとした裏話的な悝嶺さんとの対談です。
それは兎も角として、クリスちゃんの誕生日が近いですね・・・
どないしよ、とにかく書ききれるように頑張る、それでは!


 

青年は夜間密談に至る―

―亜麻髪の少女は妹と今後の復讐を考える―

 

 

 

 結局先程の会話は何が何だか分からない内に解散になってしまい、フィーネには逃げられ、会話が纏まって居ないまま投げ出された感じだった。

まぁ、私、セレナとしてはいつでもあいつ(フィーネ)を狩れると分かって満足半分と言ったところか・・・

 とは言え、今のまま殺すには惜しい事この上ないからまだ殺しはしない。

アイツを、ネフィリムを殺すまでは生かす・・・その上で苦しませてから・・・それは後の話ね。

 それで、あの後には一応ながら学園、もとい二課本部の場所を教えてもらい、これから住む場所の提供も済ませて貰った・・・

ついでと言わんばかりに奏が衣服をいくつか寄越して来てたけど・・・あんなに使わないと思うのだけれど?

 というか、一部使わないのかアイドル衣装みたいなのも渡されたから何なの? と思ったぐらい、後で緒川に渡して返して上げたけど。

 

それはそうと、悝嶺が何か用があるらしい・・・いったい何の用だか。

隣にはいつもの様にクリスが一緒に居る、でも、少し眠そうにしてる・・・

帰って休んだら? と言ったけど、一緒に居たいって聞かないから、まぁ、私一人でも何か無いとは言えないし、これでいいのかな・・・

それよりも・・・

 

 

「やけに遠いわね・・・いつもならもう着いてる筈なのだけど?」

 

「うん、何か集まる場所がいつもの場所じゃないらしい・・・っと、セレナさん、こっち」

 

 

ある程度の建物を通り過ぎた後、広い大通りに出たと思ったら、路地裏の道を歩き始めた・・・

一体どこに向かうつもり?

 

 

「おっと? 連絡・・・悝嶺さんからか、はい、もしもし、こちら凪―」

 

『翔希氏~! まだ来ない訳~? そろそろアレなんだけど~」

 

「・・・酔ってますよね、今声が聞こえてきましたので、すぐですよ」

 

 

そう言うと、不思議と開けた場所に出た・・・?

先程まで鬱蒼としてた路地裏に居たはず、地図の見間違いか?

時刻は大体12時ごろ、もう間もなく日が変わる時間、だけどこの場所には噴水公園の様な広い場所に街灯が等間隔で点滅したりして、少し不気味ながら、違和感もなく不思議と置かれているおでん屋と、そこに居る悝嶺、それと私達だけと言う不思議な世界に迷い込んだかのようで―

 

 

「またここで飲んでたんですね、ま、良いんですけど・・・それならこっちのツケ払tt―」

 

「それはまた今度ね~、で? セレナちゃんとクリスちゃんは~、あー居るね?」

 

 

どうも、と軽いあいさつで済ませ、何でこんな所で・・・と思ったが―

 

 

「セレナさんにはお昼ごろに魔術についてお話したよね?

此処は所謂【プライベートフロア】みたいなところ、敢えて言うと【一人部屋】?」

 

「一人部屋は酷いな~ あたしこう見えてもボッチじゃないんだぞ~?」

 

「相手にしてるの大体患者さんじゃないですか・・・

友達は他に居ないんですか?」

 

「友達百人作ってるアンタなんかと一緒にされたくはないわい!

あたしだってね~、あたしだって・・・」

 

「・・・そんな事より、話があるんじゃないの?」

 

「そんな事って・・・はぁ、まぁいいわ、取り敢えず好きなモノ頼みなさいや~

酒も割安で提供してくれるぜ?」

 

「悝嶺さん、セレナさんは未成年だから― 「そうね、熱燗頂けるかしら?」 !? ちょっと!」

 

 

何をそんなに驚いてるの? 酒を飲むのに年齢なんて些末なモノじゃない・・・

煙草よりはやりやすいし、最近はかなり飲み慣れて来たし・・・

 

 

「やるね~ セレナちゃんのそーゆーとこお姐さんは好きだな~」

 

「はぁ、本当はダメなんだけど・・・ここの店主はそう言うの気にしないんだよね・・・

オススメのおでんセットでお願いできる?」

 

「飲まないのかい? 男が廃るね~」

 

「明日も早いですからね、お冷で十分ですよ」

 

「・・・根っからの真面目君ね・・・そんなのが私の近くに居たとしたら遥か昔に死んでたと思うわ」

 

「手厳しい言葉ありがと、まぁ、こんなのでも負けた数なんてロクに無いからね・・・

とはいえ、武道を極めた人には負けるけど」

 

 

ふ~ん・・・まぁ、どうでもいいわ。

因みに、席は悝嶺が真ん中、その右に翔希、左側に私、クリスの順で座ってる

他に適当に注文して、モノが来たのを確認して飲もうかな、とした所で―

 

 

「ちょっと~、乾杯ぐらいいいでしょ~?」

 

「悝嶺さん、もう先にやってるのに何言ってるんですか・・・」

 

「興味ない、やるぐらいなら他に費やすよ」

 

 

そう、クリスの頭を撫でてあげたりとか・・・ね

手渡された木製のカップを口付ける、うん、程よい暖かさ・・・

翔希はもう突っ込む気は無いのか、私の行動に何も言わなくなってる。

 

 

「ひゅ~、セレナちゃん結構いける口~?」

 

「どういう意味かしら?」

 

「いや、未成年でそこまで飲めるのは・・・酔わないの?」

 

「あぁ、そう言う意味・・・正直これで酔えるなら酔いたいものね・・・

私も、この子も酔わせてくれるなら、正直、もう酒なんかで酔えやしない」

 

 

あれは、小さいころ・・・私がまだ施設に居たときの話。

 まだ幼くって、姉さんについて回ってた時、ある飲み物を飲んで全力で吐いたのはまだ記憶に残ってる。

今思えば、あれ自体がアルコールだったんだと思えた。

 その後は、独りで放浪している時に落とされた液体を飲んだ、食料も何もなかったから、食えるもの、飲めるもの、何でも加え込んだ。

 それで一番多かったのが赤ワインと呼ばれるものだった、正直、これはクリスもよく飲んでいたから、よっぽどジュースらしい飲み物だと思っていた・・・

 酒類だというのを知ったのはその一年後ぐらい、密輸されてたらしく、相場として数百万は下らないらしかったけど、正直生きるのに必死だったせいで気にする事も一切なかった。

 なお、これはアダム調べらしい、だから信用しない事にして、飲んだ瓶は適当に錬金術師の人達に回収させた、らしい、これは後でキャロルさんに聞いた話。

 何でも相当なヴぃんてーじ?モノがこぞって無くなっていたらしい、私自身どうでもいいと思っていたが、売り出せばそれだけで何年も過ごせるほどの富が儲かるモノだった・・・

 まぁ、そんなこといまさら言われても、と返しておいた、生きるのに必死でそんなモノ知れる訳ないでしょ? まぁ、後にキャロルさんに保護される事の話は、また後にしましょ。

 

 

「やっぱり、僕は君達を全力で保護したいと考えてるよ。

ネフィリムの事変だって、国同士が連携すれば―」

 

「その国同士が歪み合ってて正直お笑い種なんですけどね~

何ですか? 自分の国の保身も出来ない連中の会合に何の意味があるんだか~

第一、アイツはノイズも潰せる兵器、人の手で操れるほど弱くなんかない。

それは、セレナちゃんがよ~っく知ってるよね?」

 

 

えぇ、アイツの特異な性質、聖遺物を喰らい成長する身体、そして―

 

 

「食らった聖遺物の一部を扱えるようになる変異性。

今アイツは、疑似太陽の力をブレスの様にして暴れまわっている筈・・・

何時になれば・・・私は・・・っ!」

 

 

【アレ】を倒せるというの!!!

私から家族を! 大切な人を! 何もかもを奪って自分はノウノウと生きて・・・!

殺す、必ず殺ス、例え言葉を介したって知るモノか! 私を殺したように、テメーを・・・ネフィリムを!!!

・・・そこまで吠えかけて隣で眠りこけて居たクリスが瞼を擦って欠伸、半目で辺りを少し見まわしたかと思うと、私の腕に抱きつき、また寝息をたて始めた。

まるで落ち着かせてくれるように、撫でながら・・・やっぱりかわいい・・・

先程までの威勢を圧し殺し、クリスの頭をまた撫でてあげる、と、落ち着いたように「うぅん・・・」と小さく鳴いて、身動ぎして再び寝息をたてた。

 

 

「・・・・・・クリスさん置いてきた方が良かったんじゃ・・・」

 

「翔希氏・・・彼女が置いてかれてゆっくり寝ている様な玉だと思える?」

 

「・・・無理そうだね、それじゃ、早い所用事終わらせて休んでもらおうか」

 

「ほいさ、んじゃ、コレ、翔希氏に、そんでもってこっちの~が!

セレナ氏とクリス氏に渡したいものっと~、いや~重たいな!」

 

 

バッグの中から明らかに入らない程の大きさの【ソレ】が取り出されたんだど。

それをどうやって私達が持っていけばいいの? と思ったけど―

 

 

「転移ジェムでも使えば楽じゃね?

アンタ達もそーゆーので持ち運びとかしてんじゃない?」

 

「まぁ、そうだけど・・・と言うよりこのデカブツは何なの?」

 

「ふっふ~ん、今は秘密~ま、持ってれば時期に分かるよ~

後、セレナ氏、これも渡しておくよ」

 

 

掌に収まる程の長方形のケースを渡してきた、けど、これは?

 

 

「・・・もう日本政府の聖遺物管理がガバガバすぎて管理も何も出来てないじゃないか・・・

まぁ、僕達も聖遺物を隠し持ってたから人の事は言えないけど」

 

「はっはっは~ 翔希氏~聖遺物なんて探せばそっこら中にあるんだぞ~?

今渡したのは海中調査で見つかったヤツだからね~・・・名称知らないけどさ」

 

「いやそれ本当に聖遺物なの!?

相変わらず怪しい事しかしないよね! 悝嶺さん・・・」

 

「それが私だからね~ ま、一応は励起状態にしてあるから扱ってみるといいよ?

一種のアーティファクトだと思うからさ?」

 

 

アーティファクト・・・古代文明におけるオーバーテクノロジーの塊の総称だったか・・・

今時代において科学技術の発展は留まる事を知らないレベルで進化し続けている、ただ、それ自体誰かの犠牲の上で成り立っているのを知らないものは数多であることは言うに固く無い。

私達も、その犠牲者だった訳だ・・・クソどもが・・・

そんな悪態を呟きつつも、渡されたソレに呪いの断片を通し、励起させる。

彼等が魔法、及びそれらを魔力で扱うというのなら、私のコレは【呪力】

一種の霊異物であると言える、あの人たちがオーラの一種だと言ったように、呪われた物を扱い続けた私にも、それと似たような力が扱えるほどになっていた・・・

媒介としては、恨み、辛み、憎しみ、怒り・・・いわゆる負の感情を媒介に黒い力、この場では【闇の力】の呼称で問題ないでしょう。

それを彼らの言う【魔力】状に変換、物質利用するだけ・・・

この世界においては、歌による励起が一般的だろうけど、私はそんなの必要ない・・・

だって、歌は、私カらタイせツなヒとをウバったヘイきだかラ!

 

 

「セレナさん・・・その励起は・・・」

 

「さっすがセレナ氏だね~ ここまで簡単に【マルチプルウェポン】の宝玉を扱えるなんて流石だよ。

誰も彼もが認める程の実力者であることは間違いないね、いや~天晴れだね~」

 

「【マルチプル・・・ウェポン】?」

 

「そ、私も科学技術での励起で、何ができるかなって色々試してみたけど、包丁とかそんなモノの形にしかならなかったんだ。

だけど、これが想像力豊かな人が扱ったらどれだけ強い兵器になるんだろうって思ってね~

あ、因みにこの間会った時に渡さなかったのは、まだキチンとした契約をしてなかったからだよ~」

 

 

因みに呼び方は適当に付けてるだけだから好きに呼んでいいよ~、そう言って酒を飲み干して水を頼んでた。

今私が持ってるコレの形状は千枚通しのような鋭く、だけど小さな針状に変化させていた。

次に鞭のような形に変化させ、意志を持たせて動かしてみる・・・あ、結構動くんだこれ。

それで・・・契約・・・確か、二課の人達も似たような事言ってたような・・・

 

 

「名前だけのサインだったし、セレナ氏以外にもクリス氏のサインも欲しい訳だし~

二人とも共同生活するっしょ? だから身分証明が欲しいって~、めんどいのがさ~、ね?」

 

「・・・・・・それじゃ、家名を統一させても?」

 

「オーケーオーケー、と言うより、他人として登録するより、ちゃんとした【姉妹】として登録してくれた方が私としては楽かな~? な? 翔希氏~」

 

「僕に振られても困るんだけど、まぁ、君がそうしたいならそうするといいよ。

 僕達は君達の意思を尊重するし、何より―」

 

 

 そこで一旦口休めの為か水を飲み、一旦落ちつけて再度話してくれた

 

 

「君たちの身の安全を翼さんも奏さんも保証するって言ってくれたし、これから勉学とかやってもらわないと、って言う話が色々出てきてね?

 それに、君達が学校とか言ってくれて無いと、保証も何も出来なくて・・・何か縛るようでごめん」

 

「別に、そんなモノ必要ない・・・私達は私達で自由にやらせて貰う・・・

それだけじゃダメ?」

 

「確かに~そーゆー自由な所も必要だけど~ コミュ障は流石に避けた方が良いと思うよ~?

風鳴 翼みたくなっちゃうからね~?」

 

「悝嶺さん・・・翼さんのアレは突っ込まないで・・・」

 

 

ん? あの青髪、何かやらかしているの?

 

 

「結構やらかしてるよ? この間もお茶の間を笑いの渦に巻き込んだとか~

普通の頭は良いはずなのに何で常識的な所抜けてんだろうね~、ま、【あの汚部屋】を見れば誰でも分かるかな~な? 翔希氏」

 

「僕に振らないでよ、あれはもはや天性の何かだよ、治らない問題だよ・・・治せない僕も緒川さんも問題なのかもしれないけど―」

 

「いやいや、翔希氏も緒川氏もな~んも問題無いよ、アイドルも多忙なんは分かるけど~

でも着替えた服をその辺にスポ~ンっと投げ捨ててあるって相当ヤバくない?

だって女性物の下着だってその辺に放っぽかれてる訳だよ~

・・・同じ女性でも奏の方が出来てるってヤバくない? ヤバいよね?」

 

 

しかもそれらを片付けてるのはあの緒川 慎二と言う彼女たちのマネージャーらしい。

あぁ、そういう所を直してほしいから学校での団体行動をしろと、そう言う事ね、把握

・・・直ってない人に関して、何か言う事無いのかな・・・?

 

 

「ふぁ~・・・ぅん・・・?

小さい防人・・・すぅー」

 

「クリスさん今どこの事言ったんですか!!」

 

「ブファッ!? クッハハハッ、面白! 何この子! 寝ながら突っ込むなんて高度な技使えるのっ!

あっ、ヤバ、ちょ、笑いが止まらなっ、ぷっ、アハハっ」

 

「笑いすぎですよ悝嶺さん! そこの所大分気にしてるみたいだったんですけど、正直諦めた方が・・・

あ~、貴女の用事を済まそうと思ったところなのに、何これ・・・翼さん弄りですか・・・」

 

「よしよし、ゆっくりしてていいよ、クリス・・・

でも、クリスより年上なのに、小さいよね、彼女」

 

 

実際、私もここまで成長できるのだから、彼女もそれなり大きくなれる筈。

なのに、クリスよりはるかに小さくて・・・いえ、背が高いのは分かるけど・・・

 そんなどうでもいい事話してたら時間が大分経ってしまっていた、そろそろ解散かしら?

 

 

「そう~ね~、あ、セレナちゃん、ナイフ入れるブツ欲しくない?」

 

「あるなら欲しいけど、そんな便利な物無いでしょ? 大体、私がどれだけの量の刃物を扱ってたか―」

 

「っ! そう言えば悝嶺さん、セレナちゃんを病院へ搬送するときにナイフが幾つか無かったらしいんだけど―」

 

 

言うが早いか、バッグの中から複数のナイフを満遍なくその辺に置きだす・・・

これ、私が扱ってたやつだ。

 

 

「ほい、あの衣服に入ってたナイフは全部回収済みさ~

そんでもって、ほい、マジックストール・・・ストールで合ってんのかねコレ?」

 

 

マフラー状の三mは超していそうな程長い布、取り出すと同時にナイフをその布に当て込むと―

 

 

「消えた・・・? いえ、収納された、と言っていいのかしら?」

 

「そ! すっごいよね~異世界の技術ってさ~

う~ん、相変わらず惚れ惚れする技術~、さいっこうだよね~

と言う訳で、はいこれ、もう一個はクリスちゃん用だよ~

これから寒くなってくし、丁度いいアイテムだと思って持っとくといいよ~

それに、夏でも扱えるように変換できるんだよコレ」

 

 

そう言うと、布を少し弄り、浮き出た綿毛を一本抜くと―

 

 

「ホイ、羽衣状に変換完了ってね、戻す時はわしゃわしゃしてやれば戻るよ~

いや~これ作った人は本当にすごいよね~、職人様様だよ」

 

「ねぇ、これ作った人に思い当たりが僕にはあるんだけど・・・」

 

「言わないが吉だよ翔希氏~

 ほらほら、寒くなって来てるし、付けて見なよ~」

 

 

誘導されてしまった・・・まぁ、クリスも少し寒そうだし、巻いてあげよう。

色は私が薄青色、クリスが薄紅色、とどちらも明るめの色が扱われているのが気になるけど・・・

これって取り出す時はどうするんだろう・・・?

 

 

「取り出す時は、対象をイメージしてみればいいと思う、それか個数を指定して取り出す感じ」

 

「ふぅ~ん、こういう感じかな」

 

 

先程複数入れ込んだナイフを卓に並べる様に取り出してみる・・・綺麗に並ぶものね、コレ。

クリスにも起きてから教えてあげよ・・・でも、本題ってコレだけ?

 

 

「翔希君がいるから本題はこの手紙に入れておく」

 

 

小声でそう言われ、ポケットに正四角形の封筒が入れられた、彼に見えないように。

そうしてー

 

 

「そんじゃ、おっちゃん御馳走さん、お代置いておくね~

ほいじゃあ皆、今後頑張りなよ~」

 

 

いうが早いか、置石に札を数枚置いて逃げる様に去っていく悝嶺・・・

どれだけ飲んだんだか、そう思いながらタコを口にして熱燗で一気に流し込み・・・

 

 

「翔希のアニキ、これ、ツケの分」

 

「ん、あぁ、君か・・・全く彼女には困ったもので―」

 

「悝嶺の姐貴は仕方ねーっすよ、そいで、まだ何か食べてくか?」

 

 

言ったのは誰か、と思ったが、この場に居るので話してないのはと言えば、此処の店主か、とすぐに判断できた・・・結構渋い声してる・・・

 

 

「それじゃ、持ち帰りして良いかしら?」

 

 

アイよ、の返事と一緒に適当にパック詰めしてくれた、それじゃ、今日はここまでで帰ろうかとしたときに一言聞いてきた

 

 

「セレナさん、一つ聞いていいかな?」

 

「良いけど、何?」

 

「今、ラルムに何か変化起きてない?」

 

「それは・・・ある、かも。

ただ何かは私には何とも」

 

「だったら、この腕輪を二つ、君とクリスさん用に渡しておくよ。

指輪でも良かったと思うけど、変な事に成りそうだからね、こっちのデカいのは僕が君たちの家に運んでおくよ」

 

「ごめんだけど、お願いするわ、私はクリスも運んでいかなくちゃだから」

 

「困った時はお互い様、だよ?

助け合いは日本人の心意気ってね?」

 

 

そんな事言って悝嶺の残した置き土産を両手で楽々持ち上げて運ぶ・・・

ねぇ、それってそんなに軽いものなの?

 

 

「少なくとも決して軽くは無いよ?

ただ僕は他の人よりは身体を鍛えているからって言う話」

 

 

人よりは・・・? それにしては一息に簡単に持ち上げていたけど?

悝嶺が出す時はバッグから異次元宜しく状態で取り出していたのだけど・・・

 

 

「これ、多分二百キロぐらいの重さじゃないかな?

とてもじゃないけど普通の人が運べる重さじゃないよ・・・

よく取り出せたよね・・・いや、寧ろそのマフラーに収納してたのかな?」

 

 

仕舞うと重量は無くなるらしい、と翔希は言った・・・

そんなに利便性の高いものなら、と思ったけど、取り出した時に置けなくなりそうだから、彼に運んでもらう事にして帰路に就いた私達。

・・・明日からまた何とか色々やって行かないと・・・か

 

 

「まさか、こんな不良宜しくの問題少女が家を持つ事に成るとはね・・・」

 

「はは、まぁ、君達には普通の私生活を送ってもらいたいっていうのが僕たちの見解だよ。」

 

 

そんなこと・・・出来る訳ないでしょ・・・

だって、私は、私達は・・・

 

 

「ねえ・・・さま・・・

大丈夫・・・です・・・から・・・すぅ」

 

「クリス・・・・・・」

 

 

先程までの思考を放棄して眠っているクリスを見て落ち着く。

・・・これから先どうなるか分からない、けど、扱えるものは全部扱ってやる・・・

ソレが例え、大切な【何か】を失うとしても・・・

 

 

「(私は、この復讐を諦めるつもりは無い・・・もし何らかで絆されてやる気を削がれても、私は絶対に、アイツを! ネフィリムを! この世界をこんなことにした、神も何も! 許す気は無い!

必ず、殺してやる・・・お前らを、生かしてやる気は・・・ない!!!)」

 

 

今は共に行動する、だけど、私は、私達は・・・もう殺すことしか、出来ない・・・

する気も―

 

 

「セレナさん、落ち着いたらでいいので、今度皆とお茶でもしません?」

 

「ん? そんなモノ、行っても・・・」

 

「まぁ、落ち着いて下さい、そんな焦ってばかりじゃ肝心な時に力を発揮できませんよ?

それに、僕達もセレナさん達の事をもっと知りたいんです」

 

 

全く、こいつは・・・

 

 

「とんだお人好しね」

 

「よく言われます、でも、自分を悪いと思った事はそうは無いですね」

 

「でしょうね、偽善やってて楽しい訳でしょうしね」

 

「そうじゃないんですけどね・・・

まぁ、家の事が終わったらこっちの店の方に来てください、歓迎しますよ?」

 

「ん、それとなく覚えておく」

 

 

しっかり覚えておいてくださいね、と言を残して、荷物を家において行ってそのまま帰って行った・・・

しかもちゃんとコーディネートされた感じに置かれてる、ホント何なのアイツ・・・

 

 

「んぁ・・・ねえさま・・・終わりました・・・?」

 

「あ、クリス、ごめん、起こしちゃった?」

 

「大丈夫です・・・お風呂入ってから寝ま・・・すぅ・・・」

 

 

完全にお眠り状態だ・・・仕方ないから私が身体を洗ってあげよう。

着替えは・・・この中暖かいから要らないね。

 

 

・・・暖かい世界・・・多分、これを望んで・・・いたのかな・・・

でも、この世界は・・・

 

 

「醜くて、汚くて・・・荒んで、消えてく・・・大切なモノ、全部・・・」

 

 

ある程度し終わった私はクリスと一緒にベッドに入り込む。

明日から、また何事かをしないと・・・そうでもしないと・・・

 

 

「姉さん・・・わたし・・・」

 

 

あの時を、思い出してしまいそうで・・・私・・・わたし・・・

そんな意識を残しつつ、私はこの一時の穏やかな時間を堪能することにした・・・

 

 

―――だって、世界はこれほどに、残酷なのだから―――

 




今回はここまででー・・・因みにセレナさん達は基本フィーネと似た裸族dげふんげふん

ネルトキダケデスヨ― とかいったり・・・
年内にはもう少しあげたい所存・・・クリスのバースデーも書かないとね? ね?
それでは!


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第二章 黒銀は平穏に何を見ゆ?
第十五,5話


皆さま、新年明けましておめでとうございます。

コロナが蔓延する中いかがお過ごしでしょうか?

・・・なんか違うな、まぁいいや、新年早々仕事してた投稿主ですよ~
休暇が遅いので今月の投稿は良く分からないです、はい。
・・・こんなこと書いててあれだけど、そろそろガチに寒くなってきましたね・・・
皆さま身体や感染に注意して、健康に過ごしていけるようお祈りしておきましょうか。

それでは、夢の世界へ・・・


―Dream in Serena―

 

 

再び夢に堕ちた私・・・セレナ・カデンツァヴナ・イヴ

いつも眠る時には何か見て居る気がする、でも・・・今日は何か・・・違う気がする。

 

私が私でいられる時間、それは多分、夢の中だけの時間・・・

でも、この【私】は・・・わたし・・・?

 

 

 眼を開いた時に見えた世界は白銀に染まっていて、いつの日か見た銀世界に変わっていく―

その中にはウサギやキツネ、鹿のような【ナニカ】が多数存在している。

 だがそれらは動き出すことなく鎮座している、まるで何かを待っているかのように・・・

夢の中、だけど、その世界の冷たさを身体全体で感じる・・・まるで私の心のよう―

 でも、私はこの世界を知らない・・・ここは、何処・・・?

 

 一つ、変化が起き始める、最初は吹雪く景色が陽炎の様に動いただけかのように見えた・・・だけどそれは見間違いではなく、小さな少女が雪景色の中一人走り回り遊んでいた。

 その少女の髪は不思議な彩色で、見方によっては金にも銀にも見える、そして同時に艶やかな紫、赤、青、様々な色を彼女が踊るたびに見せていた。

 

 しかし少女はこちらに気付かない、いや見えて居ないのかもしれない、だけれど少女は舞い続ける、一心不乱に、楽しむように、名前の無い舞いを踊り続ける。

 少女の容姿的には10歳ぐらいの少女だろうか、雪原では明らかに冷える程の薄着、ノースリーブでひざ丈まであるかどうかの白青色のワンピース、靴は履いていない、ただ半透明なピンク色のヒラヒラとした手袋をしている。

 髪は腰に届くほどの長さ、上から下まで見る間には髪の色がどんどん変わっていくのが見て取れた。

 しかし少女は気にすることも無く舞い続ける、だけどそれは時折り【踊らされている】ようにも見えて、それ自体滑稽にも思えた、が・・・

 

 

「(私は・・・この子をしってる・・・?)」

 

 

 事実、知らない人が夢に出てくる、なんてことも稀に有りはするが、それこそ妄言のようなモノだ・・・が、今目の前で踊っている少女を、セレナは何かを知っている・・・いや、何処かで覚えているだけかもしれない。

 でも、それ自体何だったかが思い出せない・・・それに―

 

 

「(私、こんな雪景色を、知らない・・・)」

 

 

 事実、クリスと渡り歩いた地では、これほどの雪景色は見たことは無かった。

 日本国で雪を始めて見たときは感動した事もあった、そしてクリスの髪と似た景色だって冗談みたく話しあった事もある・・・

 だけど、この世界は・・・

 

 

「(こんなに暗いのに、どうしてあの子の周りはあんなに明るいの?)」

 

 

 そう、辺りを見回せば雪と真っ暗な明かりも差さない世界が広がっているだけ。

ふと見つめると木々があるかと思えば何も無い闇が映し出されている―

 だというのに、少女は不安を感じることなく踊る、舞う、まるでそうすることが決めつけられているかのように・・・舞う。

 哀しくも見える、楽しそうにも、怒っているようにも・・・沢山の表情を舞いの中で見ることが出来る。

だけど、それは彼女が舞の中で表現しているだけの世界かもしれない・・・だけど。

 

 

「(私の心は・・・もっと荒んでいる・・・この吹雪の世界よりも、ずっと・・・なのに)」

 

 

どうしてこの世界は、これほど残酷なのに美しいの・・・?

そう思い、一歩、また一歩と気付かぬ内に近づいていた、少女に、少しずつ。

それは無意識からの渇望、彼女に触れ合えれば何かが分かると思えた気がした、そう―

 

 

「(あの世界が、無かったものならば・・・)」

 

 

こんな夢景色で楽しく暮らせたのかな・・・?

今の私ではなく、昔のわたしの様に、楽しい世界が、其処にはあったのかな・・・

幼い私が今に至る序曲(プレリュード)、その奏でを、彼女が踊る事で体現しているようで・・・

でも、眼は逸らせない、周りの動物たちも、もはや動く気配もない。

この場で動いているのは彼女と、私だけ・・・けど、私は・・・

 

 

「(こんな世界には・・・居られない、だって・・・

コレを求めてしまえば、私は・・・)」

 

 

復讐者では、無くなってしまう。

そんな最悪は自分自身で終わらせてしまえ・・・

そう、私は―

 

 

 

 

  「全人類の大罪者でいい・・・

  私は、世界を、拒絶し続けた少女だから―」

 

 

 

 

断罪するのならすればいい、ただ、私を地獄へ叩き落した奴らは何が有っても許しはしない!

こんな平穏な夢を見る位なら・・・私の世界は血塗られてていい・・・だから、せめて・・・

 

 

 「あの子の見る夢は、穏やかでいい、でも、私は―」

 

 

前に見た、夢の続きで良い― そう思ったわたしはこの世界に背を向けて闇へと消えようとした。

だけど・・・

 

 

『おねーちゃん、だぁれ?』

 

「!? えっ・・・? 貴女・・・?」

 

先程まで舞っていた少女が気が付いたら目の前に立ってこちらを見上げて首を傾げていた。

背は本当にそこまでない、130後半ぐらいだろうか?

でも、その時の少女の髪は何処かで見覚えのある色彩に染まっていた

 

 

「(この髪色・・・姉さんの・・・色?)

 え、えぇ、そう、ね カデンツァとでも名乗っておきましょうか」

 

『ん? カデン・・ツァ? カデン・・・ん~

じゃあ、カナちゃん!』

 

 

えっ? 待って、この子何言って―

それは兎も角、この子の名前は・・・いや、そうじゃない!

 

 

「貴女、私なんかと関わってて良いの?

私はロクデナシなの―」 『みんな~ カナちゃんが仲間になりたいって~』

 

「ちょっと! 人の話を―!」

 

 

 こちらの意図も聞かずに先程まで動きの無かった動物たちが集まって来る、小さい子からクマのような姿をした者までその種は様々だ―

 そして少女は私の手を取り跳ねる様に踊りへと誘う、まるで酔いしれる世界を彩る様に・・・まう、舞う、そうして、私は―

 

 

「(舞わされる・・・世界に・・・混沌に・・・?

 この子は、何か知ってる?)」

 

『ほら、カナちゃんも一緒に踊ろうよ! 楽しくなれば、きっと、思いも気持ちも変わって明るくなれるから!』

 

 

 そう言って私の手を離さない少女は何度か飛び跳ねて私に踊りを催促してくる。

でも、私は舞っていていいの・・・? 戦場の音しか知らない私が・・・

 そんな思考をしていても、不思議と居心地のいいこの夢に、酔わされる・・・不思議な感覚・・・

 彼女に動かされるように見様見真似で踊りを踊る、傍から見たら姉妹が踊っているように見えるのかもしれない、夢の中なのに、変なことを心配している私自身に嫌になる・・・

 

 

『だったら、嫌なことを忘れちゃえばイイよ!

そうして、アタシ達と―』

 

 

    一緒に踊っていましょ?

  嫌なことを忘れてずっと、ずっと―

 

 

 ・・・あぁ、それも良いかも知れない・・・

 この子は、不思議と私に安らぎをくれる、知りもしない子なのに、なぜか懐かしさと優しさを与えてくれる・・・正直に言えば、ずっと彼女と一緒に居たいとさえ思ってしまう・・・目覚めてしまえば、消えるのに、だ。

 だから、私は敢えて言った、この呪いのような世界で、幸せを踊る彼女に、不幸を背負う私が言う・・・

 

 

「この壊れた世界じゃ、私は止まらない・・・もう止められないの。

 貴女の誘いは確かに楽しいでしょうけど、それじゃダメなの

 私は、世界を壊し過ぎた、だから・・・」

 

 

そう言うと最後のステップを踏み、少女はこちらから手を放し、クルリと綺麗に回り、そのまま右手を前にしてお辞儀をする、それに合わせて私も鏡写しの様にお辞儀を返す。

これでいい、私は、こんな幸せに飲まれちゃいけない・・・この世界を飲み込み、前へ、進まないと―

 

 

『そっか・・・残念だなぁ、久しぶりに楽しめるかと思ったのに・・・』

 

「ごめんなさい、でも、偶に踊りに来ても良いかしら?」

 

 

 こんな知らない世界でも、こんな事を言うのは可笑しいと、自分でも思う、だけどきっと、見失ってはいけないと、そう思う・・・それは、只の私のエゴだと分かって居ても・・・

 だけど少女は気にしてないかのように笑顔で言った、悲しませないためか、そんな顔しない為なのかは分からないが、彼女は元気に言葉を返してくれた。

 

 

『うん! 来てくれるなら大歓迎だよ!

あ、そうだ! だったら誰か一緒に連れてきてよ! 寝てる時間しか来れないのは分かってるから・・・

そうだなぁ~、じゃあ、これ、あげちゃう!』

 

 

夢の少女が何かを差し出してきた、これは・・・?

 

 

『あたし達の世界の宝物! 大切なものだから、無くさないでね?』

 

 

木製の可愛らしい人形・・・確か雪国で似たような物を見た覚えが有ったけど、何だったかしら・・・?

厚さがそこまでないが、縦幅は15センチくらいの装飾の凝った作り、冬の時期を想定して作られているからか、不思議とクリスマス装束に包まれているのが可愛らしい人形だった。

 

・・・私は基本呪い人形しか使った事無いんだけど・・・?

 

 

『また来てくれるって言ってくれたから、カナちゃんにあげるんだよ?

これであたし達は友達! だよね?』

 

「貴女は・・・はぁ、ま、偶になら来てあげる。

・・・それはそうと、貴女、名前は?」

 

 

先程から気になっていた事だった

 事実、彼女からは幼少期の私や姉さんの様な空気を感じていたが、話し方ややんちゃな姿はまるで似つかない、その上、私達はあんな踊りを何も知らないにもかかわらず、彼女は楽しそうに踊っていたから・・・

それを加味しても、彼女が私達と同じ名前を名乗るとは思えないけど・・・

 だから、聞いてみた、この幸せを教えてくれた彼女の名前を―

 

 

『あ、言ってなかったか~ いけないけない~ ごめんね~ついうっかりだったよー

あたしの名前ね? アタシは―』

 

 

そこまでして、辺りが眩しくなって、消えて行く・・・前に見た夢の跡はもうこの世界には無く、只あるのは明るい銀色の雪景色が舞っていた、此方に手を振りまたねー、と声を上げる少女。

ええ、また、ね そう小さく呟き、私は明日に手を伸ばす―

 

 

  ―復讐をやり遂げ、私達だけの世界を取り戻すために―

 

 

 

 ―Serena out on Dream―

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ―クリス in どり~む―

 

 

ふにゅ・・・今日は大分夜更かしが酷い・・・

あぁ。こういう時は夢も見ずにゆっくりしてるのが一番なのだけど・・・

 

 

「みゅ・・・何であなたがいるの?」

 

「いや! みゅって何だよ! アンタどんな寝起き言葉言ってるんだ!」

 

 

辺りを見回してみると、何処かファンシーな動物たちが縦横無尽に飛び回り、跳ねたりしてる可愛いものがいっぱいな不思議な空間に来ていた。

あえ? 何で夢の中なのにこんな事に?

 

 

「こうなってるのもう一人の私にわかる?」

 

 

未だ寝ぼけ眼で目の前の少女、こともう一人の【雪音クリス】に聞いてみる

正直に言って、二人して関係無いというのも分かって居るけど、聞かずにはいられないというか、眠い。

 

 

「いや? 全然わからん、と言うかそっちの世界じゃないのか?

って、寝ながら話すなよ・・・本当にあたしかよ・・・こいつ」

 

 

だって、眠い・・・もん・・・

我儘かもしれないけど、夢心地でぬいぐるみを抱きしめながら、うつらうつらと眉を閉じて完全に眠ろうとしていた。

 

 

「お~い、大丈夫か~・・・あ、ダメっぽいな・・・

つっても、前に比べりゃこれだけ安心できる所に来れたって事か・・・

ま、あのバカには感謝しておくか、こっちのセレナも起きて、今は安定しているみたいだしな」

 

「うにゅ・・・ばか・・・?」

 

「あ、あぁ あの立花 響の事だ。

頭わりーし、突っ込んで迷惑かけるしで正直傍迷惑も良い所だけど―」

 

「人の為に、人一倍頑張れる・・・人の事を分かって動いてくれる・・・

とっても、良い・・・人・・・すぅー」

 

「はは、良い人・・・か。

確かにな、アイツは良い奴だ・・・お人好しで、誰よりも人の事を考えられる・・・

お前たちの所にも、きっと来るはずだ・・・ま、今のお前たちの世界が何年か知らねーけど。

少なくとも、平穏に過ごしてれば、きっと、楽しい世界が見れるはずだ―

私とは、違う道を・・・楽しい時間を、歩んでくれ・・・」

 

 

うみゅ? なにいってるの、この人・・・?

明るい時間、楽しい時間なんて、何年も前に消え去った。

だって、パパも、ママも、私と仲良くしてくれた人たちも、何もかもあの紛争で亡くした。

だから、あの施設に連れていかれたとき、あぁ、此処が私の死に場所か、と人生の何もかもを諦めた・・・

そう、だから、だから―

 

 

「今が、一番・・・嬉しいの・・・

お姉様が、私に【世界】を与えてくれた・・・だから。

貴女とは、違う道を行く・・・お姉様の為に、私は、歩むの」

 

「あぁ、そーか、ま、それがアンタの決めた道なら、これ以上あたしは何も言わねーよ。

けど・・・」

 

「にゅ? なに?」

 

 

ため息を吐き出し、呆れながらも真直ぐにこっちを見つめるもう一人の私。

その瞳は、綺麗に輝いていて・・・迷いの無い、真っ直ぐな瞳・・・

私には・・・そんな瞳は出来ないよ、だって、今までどれだけ捨てて来たと思って・・・

でも、そんな私を、もう一人の私が愚直に、真っ直ぐに見つめて言う。

 

 

「アンタも、自分の意思を持ってくれ・・・

ママと、パパの意思を、無駄にしないでくれよ・・・な?」

 

「もう一人の、わたし・・・? なんで、それを・・・?」

 

「あたしだって、両親を亡くしてるんだ・・・いや、それだけならアンタよりマシかもな。

なんせ・・・まだ、町として、バルベルデが有ったからな・・・」

 

「・・・・・・私の世界のバルベルデは・・・紛争で無くなったよ・・・

もう、何処を探しても、誰も居ない、何もない・・・ただの荒れ地だった・・・」

 

 

 ・・・思い出したくない記憶・・・お姉様に助けられた後、一度パパとママの居た場所に戻ろうとした・・・けど、其処には何もなかった、あったのは、誰かが居たであろう建物の残骸だけ。

 必死に探したよ、両親の残した【何か】を・・・だけど、だけどッ!!!

 

 

「何も・・・無かった、私を残して、何もかも無くなってたの・・・!

だから、私は・・・私はっ!!!」

 

「お、落ち着け! 別にアンタを責めようとなんかしてない!

仕方なかったんだ、力が無いあたし達なんかじゃ、結局、守れなかった・・・仕方、無かったんだ・・・」

 

「そんなこと・・・そんなこと! 私だって、何か出来たはずだった!

誰かを助けるぐらい出来たはずだった! なのに・・・なのに!!!」

 

辺りの空間が一声一声怒声を発するたびに暗く、血の色に少しずつ変化していく。

私の、私達の世界に、ぬいぐるみたちもそれに乗じて引き裂かれ、血を噴き出し変化していく、まるであの頃を思い出させるように―

先程までの眠気はもう無い、今は、唯々怒りたかった、理不尽なこの世界を、世界を殺す人間共を。

この人は、それを諦めて、許せって言うの・・・?

ダメ、そんなの・・・絶対ダメ・・・ユルセナイ、だれが・・・許すモノか・・・!!!

 

 

「別にあたしは【許せ】なんて言ってない!

けど、聞いた話だと、お前たちをやろうとした奴らは全員セレナがやったって聞いたけど―」

 

「えぇ、お姉様が、私を殺そうとした世界を壊してくれた。

嬉しかった、でも同時に悲しかった・・・自分の非力さに涙しか出なかったよ・・・

 ねぇ、何で私達はこんなに非力なの・・・貴女なら、何とか出来たの?

教えてよ! もう一人の私!」

 

 

それは・・・そう言って口ごもるもう一人の私・・・

 やっぱりそうだ、結局、この世界は根っから壊れてるんだ・・・

だから、お姉様の行動は正しい・・・だからお姉様の為に動く、それが私、この世界の【雪音クリス】

 私は、今に幸せな【あたし】を許せない・・・だって、ソレは私から奪った幸せでしょ・・・?

いま、私に何も言えないのは、きっと私なんかよりずっとマシな世界で生きていたからだと思う。

 私は確かに彼女の事をよく知らない、だけど、同じ自分と言う枠で言うなら、恐らくだけど・・・この人も、私と似た選択をしていたはず・・・でも、彼女から血生臭い雰囲気を感じない。

 それはつまり、誰も殺していない証、普通で言えばそれが当たり前だと思う・・・

だけど、この世界においてソレは幸福者の得る夢だ・・・私は、私達は違う・・・

 

 

「確かに、それに関しては、アタシも何も言えない。

けどな、それは本当に幸せを求める奴の言う事じゃないだろ?

 お前も、お前の言う姉さんと幸せに成りたいんじゃないのか?

一緒に幸福な夢を見たいんじゃないのか?」

 

「そう、だけど・・・だけど! もう無理だよ! 今更遅い!

そんな幸福願ったってもう叶わない! もう一人の私だって知ってるよね!

ネフィリムが、あの怪物が世界を飲み込もうと動いてるの、聞いてるはずだよね!

私は、私達は、あの不幸の権化を倒せるなら、こんな命惜しくない!

お姉様の為なら、こんな亡くした命、どうなったって―」

 

「あまりフザケたこと言うんじゃねぇっ!」

 

「っ!?」

 

「こんな命だと? その命がどれだけ大切か考えた事あるのかよ!

そりゃ世界で見たらちっぽけかもしれねーけどよ!

それは、パパや、ママが大切にしてくれた命だろ! お前の姉さんも大切に思ってる命だろ!

だったら、だったら生き抜いて見せろよ! 亡くなる為の命じゃなく、生き抜く為にある命と証明して見せろよ! 結局お前もアタシの両親の夢を叶えられねぇ程に弱いんじゃねぇか!

そんな奴が! 軽々しく命を懸けるなんて言うな!

頼むから・・・大切に生きてくれ・・・お願い、だから、さ」

 

 

涙を滲ませた瞳で手を握って懇願してくる。

え、私・・・だって、世界に必要とされて無いから、無くしても良いと思って―

でも、目の前にもう一人の私は、私にも、お姉様にも生きていて欲しいって・・・なんでそんな事言えるの? 私達、世界が恨む人殺しだよ?

 

 

「そんなの、誰が決めたよ?」

 

「え・・・?」

 

「世界が決めた? そんなの自分で書き換えりゃいいだろうが。

お前は、もう、お前の手で道を紡げるだろ? もう小さいだけのガキじゃないんだから。

だからよ、夢を見ても良いんだぜ?」

 

「・・・無理、だよ・・・だって―」

 

「自分を縛るんじゃねぇよ、それに、お前も、歌を歌うの、好きだろ?

だったら、もっと自分に素直になってみろよ・・・あの時に、大好きだった歌を―」

 

 

大好きだった・・・歌・・・

ママの歌ってくれた、大好きな・・・

 

 

「ねぇ、もう一人の私・・・素直に、なって良いの・・・?

私は、幸せになって、いいの?」

 

「良いだろ? むしろ幸せに成ってくれなきゃ、両親に顔向けできねぇよ。

それに、アンタの幸せは、二人の幸せ、だろ?」

 

「うん・・・うんっ!」

 

 

先程までの威勢はもうお互いに無く、私は彼女の答えに涙した・・・

安い涙かも知れない、だけど、私は、私として生きて良いと言った彼女の言葉を信じている。

過信かも知れない、それでも、私が前に進むには十分すぎる言葉だった。

だって、あの頃に忘れかけていたママの歌を、やっと思い出すことが出来たから―

 

 

「この世界も、アンタを祝福してくれてるみたいだな、夜空が綺麗になってやがる」

 

「ふぇ? あ、ホントだ」

 

 

気が付けば先程の血塗られた世界は無くなっており、ぬいぐるみたちは消え、雪原に眩しく光る星々の夜空が映し出されていた・・・この世界が、私?

 

 

「臆するな、とは言わない、けど、我儘は言って良いんじゃねーか?

あんたは、それだけ頑張って来たんだ、アイツもな。

だから、幸せに成れよ? 一応、応援してる」

 

「あ・・・ありがとう、御座います・・・」

 

 

そこまで言って、お互い夜空を見上げ、ゆっくり時が過ぎるのを待っていた・・・

でも不思議とこの時間が嬉しくて、楽しくて・・・

そんな事をじっと空を見上げながら思っていたら―

 

 

「あー、その、何だ、そろそろお互い名前で呼ばねーか?」

 

「んぇ? でも、同じ【雪音クリス】だよ?」

 

「ちげーだろ? アンタは今は―」

 

 

 

そうだ、今は只の【雪音クリス】じゃないんだ・・・でも、何でそっちの私がその事を知ってるの?

と疑問に思ったが、こっちに入って来るとある程度の記憶が流出するらしい、前に少し頭痛がしたのはその影響だったらしい・・・と言ったのはもう一人の私。

そう、だから、私達は互いの姓と名前で、今回は別れることにした、また会えるか分からないけど、その時を楽しみにしよう、そう、思った だから―――

 

 

 

 

―――「またね! 雪音クリス!」―――

 

  ―――「ああ、またな、クリス・カデンツァヴナ・イヴ・雪音」

 

 

 

与えられたこの姓に恥じないように、こんな世界でも幸福を得よう・・・だって、私はもう、一人じゃないんだから―――

 

 

 

 

 

  ――Dream out クリス――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

  悝嶺,sラボ

 

 

 

 

 悝嶺の住処にして色々な研究や発明をするエリア、此処には様々な小道具が置かれているが、そのどれもが曰く有り気な怪しいモノばかりと、不信感しかないような場所である。

 なお、一部の物は公に販売しているものが有ったりする。

 そんなラボの中奇妙な声が響いたとか無いとか・・・

 

 

「あんれ~、あの踊り人形(マカブルズ・ドール)どこ行った~?

 まだ調整中だったんだけど・・・」

 

 

深夜帯、バッグの中に置いてあった補修中の人形を探すが見つからず、思い当たる節を探ってみる・・・が

 

 

「う~ん・・・ま、アレの補修は出来たらって話だったし、別に誰かが持ってても悪い事にはならないでしょ~多分、うん。

・・・ただ、繁殖すると面倒なのよね~ 本体探してロック掛けないといけないし・・・はぁ。

面倒だけど、セレナちゃんに厄介になりますかね~・・・持ってたらヤバいけど」

 

 

持ってるわけないか~、などと楽観的に考え、今やる作業をカチャカチャこなしていく悝嶺であった・・・

少なくとも、彼女自身、セレナの害を深く考えて居ないのである・・・

しかし、現状、何かある訳では無いので、思う事は無くても良いのだ・・・そう、今は・・・

 

そんなこんなで、混じった異物を考えないようにして没頭する悝嶺だった。

 

 

 

「・・・あ、そ~いや、あの人形とセレナちゃんの持ってる【呪い】が合わさったらどうなんだろ?

 ヤバい事なるんかな? なりそうだな~、ま、面白そうだからいっか~。

 にゃはは~、あ~酔いが酷いや~、これ終わらせたら寝よ、うん、そ~しよ~」

 

 

 等と口を動かしながら手を適当に動かして整備をこなして行く悝嶺だった・・・

 

 

 

その人形のは、すでに動き出しているとも知らず、存ぜず、お構いなく、考えることなく、過ぎ行く時を唯々謳歌していく、悪魔の様に、時に聖者(?)の様に・・・?

 

 

 

「・・・・・・吐きそう・・・うぇ・・・」

 

 

・・・今後は控えようとも考えもしない悝嶺だった・・・。

 

 

 

 

 



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第十六話

暫く平穏が続きそうです、はい、何かうまく書き進まないな・・・

あ、何かあればコメントお願いします(割と切実




 

おはようございます、で良いのかしら?

昨晩から大分と時間が経ったと思ったけれど、時間はまだ七時を回るところ・・・

いつも早起きだったから、その癖が抜けないみたい・・・

今私達は、ある理由で扱われなくなって住んでくれる人を探していた二階建ての一軒家に住んでいる。

事実、扱われなくなったのは、何かの拍子で亡くなってしまった人が此処に住んでいたらしい。

だけどそんな人の跡もなく、すっかりリフォームされて真新しいモノしかこの家には無く―

 

 

「何この段ボールの量・・・」

 

 

特段、変な夢を見る事も無く、普通に寝られたのはいつ以来だろう、そんな事を考えてはいたが、それは兎も角として、目の前には所狭しと積み上げられた段ボールの塊が置かれている

一つ一つ見行くのは良いとしても、私たち自身こんなに道具要らないと思っているうえに・・・

 

 

「調理器具は兎も角、何で調味料まで・・・?」

 

 

未開封、その上どれもこれも新品・・・いったいどれだけ金を掛けたんだ?

私達に対して優遇し過ぎじゃない? 私達、罪人で裁かれるべき立場なのに・・・

それにしたって、段ボールの外に何が入っているか箇条書きされているから、整理は楽だけど・・・

 

 

「生理道具まで入っているのはどういう了見かしら!”」

 

 

その問題は当の昔に終わってるのよ! 私は!!

・・・クリス用のだと考えて、処理しておこう・・・

はぁ、何か起きて早々虚しくなってきた、もう一度寝ようかな・・・

いや、今日は前出来なかった収集を終わらせて・・・それで―

 

 

「おはようございます! セレナさん、クリスさん、居ますか?」

 

 

・・・だれ、こんな時に、まだクリス寝てるんだけど?

そう思いつつ、シャツを一枚着込み面倒ながらパンツを着込んで玄関に行く・・・

胸元にはアガートラームのペンダントを常備して・・・

所謂裸シャツ状t ・・・彼女は特に気にすることなく玄関に向かった。

 

 

「・・・翔希、よね? 何の用?」

 

「あ、あぁ、朝食作ったから届けに来たん・・・だけど・・・

あの、セレナさん・・・その恰好・・・」

 

「? 何か問題でも?」

 

「いや、大問題ですよ!!?!?

何でうら若き乙女が肌晒して挨拶に来てるんですか!

せめてしっかりした服着てください! お願いですから!」

 

 

何か怒られた・・・大体の奴等ならこれでオドオドして簡単にKO出来るのに・・・

流石一夫多妻の男と言ったところね、取り敢えず部屋に通しましょうか。

 

 

「えっと、まずはテーブルから備え付けて・・・これをこっちに置いて、と」

 

 

入って早々、段ボールから次々とモノを取り出して部屋を飾り付けていく。

・・・こんな量を私達二人にやらせるつもりだったの・・・?

そんな事を想いつつ、スカートだけ履いておく・・・一応まともな衣装をしなさいって言われたけど、スカートがまともな衣装に思えないんだけど?

適当に荷物を纏めながら、部屋に邪魔になりそうなものをそのまま淵に追いやって、必要そうなものだけを引き出していく。

そう言えば、備え付けでタンスが置いてあったけど、扱うべき、なのかしらね?

そうこうして居るとクリスが起きて来たみたい・・・

やっぱり私と似た格好している・・・だぼだぼなシャツ一枚来てるだけみたい

 

 

「ふぁぁ、おはよう、ございましゅ、お姉様・・・ふにゅ」

 

「えぇ、おはよう、クリス・・・相変わらず可愛いわね」

 

 

荷物をほっぽり出してクリスに抱きつく、陽の暖かい匂いがする・・・それにやっぱり気持ちいい・・・

翔希さんはこちらに何も言わずに荷物を引っ張り出しては特定の場所に次々と置いていった。

・・・そこで思った事があったから聞いてみた

 

 

「この箱なんだったっけ・・・」

 

「あれ、テレビだけど、使った事無い・・・?」

 

「お姉様、あれです、所謂モニターで扱う奴です」

 

 

あぁ、確かF.I.Sでも扱ってたわね・・・やばい、ここ最近あまり機械を扱ってないから、凄い音痴かも知れない・・・

クリスに説明されなかったら一切使う事無かったかも・・・とはいえ、扱う事も無さそうな・・・

そう言えば、小さい時の教育番組みたいなのは見てたかも・・・?

施設に居たときの話だけど、ね・・・

 

 

「・・・なんか、懐かしいな・・・」

 

「ん? セレナさん?」

 

「何でもない、それより、朝ごはん食べよっか? クリス」

 

「あ、はい、お姉様彡」

 

 

跳ねる感じで来たよ、何か良い事でもあったのかしら?

翔希は他の部屋の荷物を出しに行くと言ってガサガサと荷物を大量に持ち運んでるのが見えた。

・・・どうやって持ち運んでるのか分からないのが色々あるんだけど・・・どんな力してるの、アイツ?

そんなこんなだけど、クリスといつも通り食べさせ合いながら、ゆっくりと食事を楽しんでる。

うん、こういう平和が、多分、一番いいんだろうな・・・

そんな誰にともなくかける言葉は、何処に響くことも無く・・・だけど、平穏にばかりかまけてられない。

アイツは、未だに動き続けてるから・・・だから・・・今は―

 

 

「はい、クリス、あーん」

 

「あ~ん・・・うん、おいしいです、お姉様」

 

 

艶やかな笑顔でクリスが言って・・・抱き締めあいながら互いにやって行って暫く・・・

 

 

「・・・こんな所かなっと、もう大分時間が経っちゃったか・・・

あ、そうだ、この後翼さん達が来るから出掛ける準備はしておいてね」

 

 

何でこういう時に来るのアイツら・・・

 

 

「いつもボロ切れしか着てなかったですよね?

それを見かねた皆さんがちゃんと合う衣装を見繕いたいとか何とか・・・

奏さんは兎も角、翼さんはあれですから・・・あと、友里さんもご一緒するとか」

 

「ただのお買い物・・・? でもそれだけじゃないでしょ?」

 

「ははっ、ホントにそれだけのつもり、だと思うんですけど・・・

友里さん曰く『女子会しましょ』と言う事らしいです」

 

「・・・その言い方だと提案はフィーネね?」

 

「了子さんって言ってあげて下さい、まぁ、彼女も色々作業してるみたいだから何も出来ないらしいけど・・・?

誰か来たみたいだね、はい、今行きます」

 

 

・・・ここ、私達の家で間違ってないのよね・・・?

彼が家事を殆どしていってる気がするのだけど・・・まぁ、私達の家事力が無いのが悪いのは分かるけど・・・ん? 猫の声・・・?

 

 

「あれ? お姉様、この猫・・・」

 

「クロエル、だったわよね? なんで?」

 

「にゃはー、ごめんごめん、その子がどうしても行きたいって聞かなくてさぁ~」

 

「リューシェさん、また勝手に連れ出したんですか?」

 

「違うよ~、今回はちゃんと話を聞いて連れて来たんだよ~?」

 

 

どうやら彼女たちが来てただけらしい、後を追って翼たちが来た・・・

ひょっとして、こうなるから広い家を提供したって事なのかしら?

 

 

「半分はそうなんだけど、もう半分は・・・っと、あった はいこれ」

 

「これは、前の入居者の・・・あぁ、そう言う事」

 

 

前の入居者の証明書を渡されたけど、成程、居なくなっている訳だ・・・当たり前よね、四年ほど前からここいらの区域で殺戮活動をしていた訳だから、こういう空き家がいくつも出来る。

用は体のいい口減らし、周囲に対する対面をしっかりとする為・・・それと事件性の隠蔽・・・

そうでなくとも、私達以外でもこういう口減らしで人が減っている区域が幾つかあったのも知ってる。

大体はこちらから逃げる為と、幾許かの組織だったモノから逃げる者とか・・・

まぁ、そこいらは知らない話だからどうでもいいのだけど―

 

 

「ふぅ~ 広いなやっぱ、でっかいソファー置いても全然場所が余ってんじゃん!」

 

「ちょっと奏、人の家で勝手は―」

 

「えぇ、そうね、本当の意味で【他人の家】だから、私達も勝手は―」

 

「いえ? 表向きも裏向きもここは貴方達の家ですよ?

ほら、契約書にも書き込み終わってますから」

 

 

え? ナニコレ、在宅証明書・・・?

家族の名前と、主の名前・・・と住所、物件の間取り、あと領収書などいろいろな書類・・・

いつの間にこんな事やったの?

 

 

「ほら、この前書類にサイン書かせましたよね?

ハンコは無かったようでしたから、指の指紋認証を扱わせていただきました。」

 

「いつの間に・・・はっ、まさか寝てる時に?」

 

「すいません、急なものだったので、周囲の人たちを説得させるためにも色々必要だったモノでしたから」

 

 

そう言って来たのは、いつもの制服ではなく、私服姿の友里あおいさんである。

今回に限り、特別休暇を貰ったそうな・・・

こちらにとっては対して関係は無い話だけど・・・

と、奏が別の話を出してきた―

 

 

「ところでさ、二人はもう固形物とか摂って大丈夫なぐらい回復したのか?」

 

「奏さん、回復しての昨日の今日でソレは無理があると思うよ。

それに医者からは【消化に良い物を】って言われてるから・・・」

 

「んじゃ、うどんならいいか?」

 

 

・・・方や心配、方やなんとやら・・・まぁ、心配されるのは分からないでもないけど、自分たちの心配はしないの? この人達・・・

クリスは何処かから出したクッションに抱きついて寛いでる・・・クリスが抱き着いてると逆に抱かれてるんじゃないかな?と違和感を感じる程の大きさのクマのクッションだ。

 

 

「うみゅ~・・・」

 

「よしよし」

 

 

取り敢えず話し合いの邪魔にならないようにクリスを甘やかしてこう、うん・・・可愛いな~クリスは。

 

 

「・・・なぁ、翔希のアニキ、彼女たちがホントにあの惨劇を引き起こした本人なのか・・・?

あたし達にはそんな危ない二人に見えないけど・・・

それに前戦った時も、かなり手加減してくれた感じがしたし・・・いや、この間の訓練の時は一瞬で飛ばされちまったけど、でも、なんていうか・・・」

 

「子供っぽい、そう言いたいんだよね、奏さんは」

 

「大人ぶってる、けどやっぱり人の子だという事ですね。」

 

「そう言われるのは慣れてるけど、大人なんて大嫌いよ、私達は」

 

 

これだけは、何が有っても曲げない、曲げてなんか、やるモノか・・・

大人が私達から何もかもを奪った、なら子供の私達は何が出来る?

なにも、出来やしない、そんな一方的な騙りは要らない!

出来ないならやってやるだけ、そう、その最たる道が・・・

 

 

「だから、人を殺して行ったんですか・・・無辜の民を、傷付けたんですか?」

 

「あれが、無辜の民ですって・・・笑わせないで!

ヤツラが何をしたか知ってるの! 知る訳ないわよね! 貴方達大人はいつだってそうだ!

人のしたことには怒り、思うようにいかなければ子供に当り散らして!

私が何をしたの! あの頃の私には姉さんしか居なかったのに! なのに・・・なのに!!!

 

汚らしい大人どもは・・・わたしから何もかもを奪い去った、許すものか・・・許しは、しない!

でも、私が復讐するべき大人たちは、本当に復讐するべき化け物が壊していった・・・私の大切な人と共に・・・何もかもヲ・・・なんで・・・なんで、其処に私が居ないの・・・!!!」

 

「・・・セレナ・・・?」

 

「お姉様、落ち着いて下さい!」

 

 

ハァ、ハァ、何で、こうも不条理なんだろう、いつも思う。

怒り、怒鳴り、恨み言を言った所で叶いもしないのに・・・そうでもしなければ、まるで自分が保てないかのようで・・・だから・・・だからこそ―

 

 

「・・・セレナちゃんの怒りは尤もだと思うわ。

だけど、今はそう言う事を忘れて、今を楽しんでも良いと思うのだけど、どうかしら?」

 

「・・・ごめん、勝手に怒ってしまって、貴方達は関係ないのにね・・・」

 

「関係無い? いや関係ない奴ほど此処にはいないだろ!

あたし達はアンタらの事を知っちまった、なら最後まで付き合わせて貰うぜ?」

 

「あぁ、奏の言う通り、私達も貴女達の復讐に協力させて貰おう。

それに―」

 

 

・・・なにかしら・・・? 私達二人を交互に見てるけど・・・

 

 

「二人にはもう少し自分を大事にしてほしいと思う。

第一に、普段着をしっかり着込む所からだろうか・・・」

 

 

それを翼が言うか~、と奏が小声で言ってたのが聞こえたけど・・・そう、ね

敢えて冷静になり、自分の現状を把握してみる。

まず今現在、仮ではあるが、居住できるエリアの確保が出来た、これはある意味尤も重要な意味合いを持っている訳だけど、それは後にして・・・

衣服類、これは今は奏から借りた(貰った?)物が何着かあるだけだ、今クリスが着てるのも奏から貰った物、これに関してはやはり何とかしなければ、と言う所か。

因みに、今まで何を着てたかと言えば・・・まぁ、さっき翔希が言ったように、色々な布を繋げ合わせて作ったワンピースみたいなのだけど・・・そう言えば、この国についてからまともな服を着た事無かった気がするわね・・・キャロルさんの世話になってた時はその辺の衣装が有ったからまだましだったとは思うけど・・・よくよく考えれば、女の子らしさと言うモノ自体、クリスには有っても、私には欠片も無いわね。

 ま、あった所で邪魔でしかないし―

 

 

「ま、そんな事だろうから! アタシと友里さんでお前たち二人をコーデしようって話だ!

っつー訳で、翔希のアニキ! 今日は店休みだったよな? ついてきて、くれるよな~?」

 

「奏さん、まさかその為に朝早くからスタンバイしてたんですか・・・」

 

「だってアニキのセンス結構いいし、お高めの衣服ばっかり着揃えてるじゃないか?」

 

「あれは公の場に出る事が多いからそう言った身なりに気を使ってるだけだよ・・・

そうでなくても不摂生はしない主義だ・・・とはいえ、君達だけだと割に合わない事もあるんだろうし・・・う~ん、そう、だね。」

 

 

こっちの頭の先から足の先までじっくり見て、何か考えついたのか、私達に同行するらしい・・・

 ま、適当な衣服と何か日用品の買い付けがあるからって・・・大体自分勝手な理由で同行するだけじゃ・・・って思ってたけど、何故か翼と奏がガッツポーズを小さく取ってるのが見えた・・・

何こいつら? こんなのに気があるの?

まぁ、今日は一日付き合う感じになりそうな・・・必要な物はキッチリ買い付けておかないと・・・か~。

面倒くさいな・・・そんな事より、次の作戦練ったり、置いてきた【アレ】を持ち出してこないといけないのに・・・

そうは思ったが、クリスも付いて行くことなので、私が意固地になって行かないと選択するわけにもいかず、彼女たちに付いて行くことに・・・その前に、衣装をどうこうさせられたんだけど・・・

 ニット着せられ、サングラス掛けられ、何か色々着込まされた・・・クリスも同様だけど、何かその様が不思議と可愛かったからまぁいいか?

 

 

「お~っし、そんじゃ行くか~ 今日は皆でデートd「ちょっと奏!違うでしょ!!!」

あ、わりーわりー、必要品の買い漁りに行くか!」

 

「ごめんなさいね、唐突にこんな事に成っちゃって・・・

でも、貴方達の為でもあるの、分かってくれる?」

 

「・・・まぁ、此方としても願ってもない事では・・・ま、それは良いとして。

コーデすると言ってはいたけど、何させる気?」

 

「まずは、下着からだな、それからこれからの冬にかけての上着とかブーツとか・・・後は―」

 

 

・・・なんだかんだで、これ、今日中に終わるのかしら?

そんな終わりそうにない雰囲気を肌に感じながら、今後の事を頭の片隅に置いて、今日一日の事を考えて遊び耽る事になるのだったとか・・・

 

 

「それはまた次に回しちゃいますかね~ 以外に結構来ちゃいましたし・・・っと

リューシェさん、変なもの拾っちゃだめですよ!」

 

「アハハ~心配性だな~翔希君は~

大丈夫だよー・・・銀杏(いちょう)のみ取って来るだけだから―」

 

「それダメな奴!! と言うか本道から逸れるからやめて!」

 

 

 

 

・・・・・・姦しいってこういう事言うのかしら・・・

まぁ、今はこの雰囲気を楽しむべきなのかしらね・・・楽しむ・・・か・・・

 

 

「お姉様・・・?」

 

「ん、何でもないわ、クリス」

 

 

今後は、きっと、こんな事をする機会も減っていくんでしょうし・・・今は、吹かれるがままにしましょうか。

昔のわたしであれば、どれだけ、楽しめたのか・・・

そんなありもしない世界に背を向けた私を、果たして誰が許すのか・・・

許されるつもりもない背に・・・背負って行きましょう・・・これからを・・・

そうして私は――――

 

 

 

 

 

 

――――――――この世を裂き絶つ罪花(はな)にならん事を――――――

 

 

 

 



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第十七話

調ちゃんの誕生日と一緒に本編少し出すよ~
・・・最近あまり筆が進まないでアレ・・・だいぶ遅いです、すまない
コメントあればお願いします(割と切実)
・・・では、あ、誕生日のほうは割と短めにして、るとおもいます、はい。
・・・あとで遅筆ってタグ入れておいた方が良いかな・・・
では


 

 

―――――セレナ達、モールに到着しました―――――

 

ただいまセレナさんのコーデをする為に店舗溢れるモールに着きました―

取り敢えずの解説は翔希が行います・・・直ぐにセレナさんに変わりますがね。

・・・まずは下着選びからだそうなので、僕は外で待ちぼうける事に、いきなりこうなる事は分かっては居たけど、翼さん、表情百面相ですか? 哀愁漂う表情が何か面白いです。

・・・決してS気質でモノを言ってるわけでは無い事を此処に記しておく。

外でじっと中を見てる訳にも行かないので、連絡はリューシェさんに任せて、僕は一旦別途用品の買い付けに向かう事にしました。

 

 

 

――――セレナサイド――――

 

あの男を連れて来たは良いらしいけど、いきなり男子禁制な場所に連れてこられた・・・

別に下着なんていらないんだけど、そう言ったら、三人揃って―

 

 

 「「「もっと女の子らしくして!!!」」」

 

 

との事。らしくって何よ、らしくって・・・

 それで、今身長とバストを測ってるんだけど・・・

その光景を見た翼が見たくないとばかりに後ろに下がって何処か彼方を見続けていた、一体何なの?

 クリスも一応の採寸をしてたけど、まだ成長途上みたいで、大きくなるかもしれないからと、二種類ほど買って行ってた。

因みにサイズが100に近かったそうで、モノが少ないとか・・・?

私の胸ってそんなに大きかったの? って周りに聞いたら―

 

 

「奏ちゃんより大きいわよ、本当、凄いわね・・・」

 

 

なんて、友里が明後日の方向を見て話してた、尚、翼は気分が悪いのか、ショップの外のベンチに座って項垂れている・・・いったい何なの? 翼は何に絶望してるの?

まぁ、そんな分からない事を気にしてても仕方ない、と言う事で、下着の買い物を何だかんだあったけど終わらせて外に出て来た、けど、例の男がどっか行ってる・・・と思ってたら

 

 

「翔希くんなら買い出しに出掛けてるよ~

ついでにペットショップにも寄ってくらしいから、相当な荷物量になると思うよ?」

 

 

余計な話が出て来た、ま、モノは悝嶺から貰ったアイテムに収納すれば問題無いからそれは気にしなくていいとして―

 

 

「次は普段着とか色々買い込むから・・・あの、着せ替え人形みたいにしちゃうかもしれないけど、許してね?」

 

「・・・無頓着なのは分かってるけど、クリスを可愛く仕立ててくれるなら別に言う事は無いよ」

 

 

 えぇ、勿論、と言われた・・・センスが無いから私にはとても選べないし・・・こればかりは頼るしかないのが実情、正直言えば、適当に買い揃えればいいと思っていたが、らしさが出るとか何とか言われて、安っぽいのの購入をキャンセルされた・・・流石にシャツやジャージだけは無しらしい。

 とは言え、スカートなんて無防備なモノ穿けれたものじゃない・・・最もマシなズボンを頼むことにした・・・はいいけど、私達の身体を見て回った三人が、さっきからゴソゴソ小声で話してるのが気になる。

 まぁ、理由は分かるけれど、少なくとも、この傷をどうのこうのする気はない。

これは、アイツを殺す為の呪いの為・・・まぁ、何でここまで傷が多いかは聞かれれば答えるけど、聞かないだろうな、この人達は・・・ホント、お人好しが過ぎる。

そう・・・本当に・・・

 

 

「・・・・・・幸せの味って・・・こんな感じなのかしら・・・・・・」

 

「セレナ・・・?」

 

 

何処か、高揚するような・・・それでいて気分がいいような・・・だけど、これは・・・

そう思った時には、私は何処かに走り出していた・・・この世界は・・・私には―――

 

 

「おい、セレナ! 何処に――」

 

「お姉様、此方に!」

 

「ごめん、クリスありがと!」

 

 

暫く席を外すわね、そう言い残して、一旦、この気持ち悪いモノを何とかしておきましょう・・・今は、少なくとも時間だけはあるようだから・・・

今は、彼女たちの事をクリスに任せて、私は自分の【ソレ】を出しに行くことにした

・・・これは、多分一生の呪いだから・・・受け入れるべき、負の・・・

 

 

 

 

―――――――sidechange クリス―――――――

 

 

お姉様がこちらから離れ、私達は現状のお姉様について私から話せる事をある程度話すことにした。

とは言え、私も、お姉様の全てを知る訳では無いのだけど、それでも、お姉様は私の全てだから―

 

 

「・・・? お手洗い・・・?」

 

「いつもの、症状です・・・

私と居る時の幸福は受けられます・・・ですが・・・」

 

「わたし達といる間に幸福感を感じた・・・?

むしろ平和を身体が感じ取ったから何かしら起きたんじゃ?」

 

「そう、ですね・・・ですが、何と言えば・・・」

 

 

お姉様は呪いを好み、平穏を嫌う、何でか聞いた所、「あの頃の弱い私を思い出して嫌になる」かららしいけれど、私はどんなお姉様でも受け入れられます。

ですから・・・と言う所で、奏さんが話を変えて来た・・・お姉様の、ギアについて―――

 

 

「そういや、アイツ、普段からギアペンダント外したところ見たこと無いけど・・・

入院中も、付けっぱなしだったよな?」

 

「・・・お姉様が呪いを纏う事については知ってますよね・・・?」

 

「え、えぇ、管制からでも観測できたし、データも収集させて貰ったけど、あの黒いオーラは?」

 

「あれは、お姉様の生きる力・・・お姉様は、ギアと一心同体になっているんです」

 

「あっと・・・つまり、どういうことだ?」

 

「簡単に言いますが、心臓がギアペンダントに有ると考えて貰えばいいかと」

 

「へぇー・・・ってちょっと待て! 何でそんな大事なことを言わないんだよ!

下手すりゃ了子さんが勝手に調べる為に持ってっちゃってたら大問題だったじゃねーか!」

 

「いえば、お姉様をどうにか出来ましたか?

出来る筈が無いです、あれは、姉様が求めた、力の在り方・・・護るべき、力、そのものなのです。」

 

「・・・くっ!」

 

「あ、奏! 何処に―」

 

「アイツに言ってくる!」

 

「・・・クリスちゃんは、止めに行かなくていいの?」

 

「直接、お姉様が奏さんに言ってあげたほうがよろしいかと。

私が何を言っても、どちらも変えようもありませんし・・・」

 

「どうしようもない、と言ったな?

それは、今の科学技術をもってしても治せないという事か?」

 

「・・・はい、それに、お姉様はソレを望まない筈です・・・

あれは、そう言う【呪いの楔】そのもの、どちらかが無くなれば、双方に傷を残す、諸刃の刃なんです。

でも、それが有っても、尚勝てはしないのです、私達の仇敵は・・・ネフィリムは!!!」

 

「その言い方だと、雪音は一度ネフィリムと戦ったのを見た事があるのか?」

 

「一度だけでは、無いですよ、強くなるたびに、あの怪物と争い合った・・・始めて見たときは、私の故郷で・・・次は、何処か、分からない施設で、何度も、何度も・・・その度に【アイツ】は嘲笑うかのように口元を歪つにゆがめて、何度もお姉様の前に立ちふさがるんです・・・まるで、楽しんでるかのように・・・っ!!!

私は、それを見る度に、許せないんです、抵抗できない自分の無力さに・・・だから、力を付けた、誰にも負けない、あんな怪物に笑われない程の脅威の力を、欲し、求めて、禁忌に触れて・・・

でも、結局は勝てないんです! なんで、なんで・・・っ!!!」

 

 

私達はこんなにヨワイの・・・っ!?

 感情を失って、希望を消されて、やっと立てた世界は残酷で、私達には何も残されなかった、お姉様にも、最後に残っていたのは、結局戦う為の力であるシンフォギアと言う兵器だけだった・・・!

 その刃を糧に戦えば勝てた? 結局倒せたのは私の家族を殺した戦争屋のクズどもだけだったっ!

だから、だから私達は互いの手以外を握らない! もう握ることは無い・・・だって・・・そんな寂しい手を握った所で、血塗れを私達を楽園になんて連れて行っては、くれない、でしょ?

 だから、私は感情を捨てた、お姉様の為に笑える冷徹な仮面だけで十分だった、お姉様の怒りは私の怒り、お姉様の悲しみは私の悲しみ、互いに信じあえた初めての関係だった。

 だから、だから―――っ!!!!!

 

 

「お、落ち着いてクリスちゃん・・・ごめんなさい、辛いことを思い出させて・・・」

 

「友里さん・・・いえ、怒りに身を任せて勝手に怒鳴ってごめん・・・

でも、あの怪物を何とか倒さないと―」

 

「今は、それより身だしなみを何とかしないと・・・ね?

奏ちゃん達が戻って来たら、とびっきりのを見つけていきましょうか?」

 

 

友里さんが私の頭を優しく撫でてくれる、お姉様以外で撫でられたのは、パパとママ以来・・・かな・・・

 少しくすぐったかったけど、お姉様の様な暖かさが無いのは、なんで・・・?

そんな良く分からない疑問が解決することは無く、時が少しずつゆっくり過ぎていくのを感じる―

 

 

「奏、遅いわね?」

 

「んにゃ?見てくる?」

 

「いえ、問題は無いと思うけれど・・・? 暴動?」

 

 

此処から少し離れたところで人だかりみたいなのが出来てる・・・

 けど、雰囲気と空気で誰が言い争っているのかはよく分かった、あれは、お姉様だ。

翼さんも争っている片方が分かったのかため息交じりに止めに入ろうとしてますが、私はそれを止めます。

 なぜ止めるかって? 私はどちらにしても止める事はしませんよ。

 

 

「だがこのままでは怪我人が―」

 

「出るでしょうね・・・そう言えば、翼さん、この後の天候がどうなるか知ってますか?」

 

「えと、確か午後から雨が降るかもしれないって出てたと思うけど?」

 

「でしたら、必ず降ります、それと―」

 

 

広間の方面の空に指をさして宣言します、特異災害(ノイズ)が来ることを――

 

 

 

 

 

―――――――sidechange セレナ―――――――

 

 

 

 

 

「それで、こんな所まで来て何の用? 奏」

 

 

私の所に頼んでも無いのに奏が心配そうな、でも怒っている様な空気を纏って私の前に立っていた。

 先程まで持っていた気持ち悪い雰囲気は全部吐き出した、正直こんな身体なのだから心配もされるでしょうけど・・・私にはそんなモノ必要ない、望んでない・・・決して、望まれてはいけない・・・。

 だから距離を取る、失っても怖くないように、後悔しないように・・・だけど彼女たちは私達と距離を積めようとしてくる、正直、弱いのに邪魔なのに・・・なんで?

 

 

「そんなの、心配だからに決まってるだろ!

そんな弱弱しそうにしてるのに、放っとけるほどあたしは人間終わっちゃいねぇ!

第一、わたしは二課の人達にこの命を助けられたんだ、それに、この力で沢山の人も助けて来た。

だから、だから―」

 

「呪われた私も救おうと? アハッ、ほんっとうにお人好しね・・・」

 

 

ああ、本当に、お人好しが過ぎるな・・・だから、だからさ―

 

 

「邪魔なのよ、あなたたちは・・・本当に!」

 

「あぁ!? 邪魔? だったらとことん邪魔してやるよ! お前たちが変なことしないようにな!」

 

「そう言う事じゃない、私は―」

 

「お前の意見なんて聞けるか! 幸せで不幸を照らせないなんてやってられるか!

いいか! あたし達は絶対にお前たちを幸せにしてやる! いいか! 絶対だ!」

 

 

・・・度が過ぎる、阿呆なのこの人・・・

そんな事頼みやしないけど、恐らくあの赤髪も同じことを言うのでしょうね。

ほんと、お人好しが過ぎる、だから、故に―

 

 

「まずは、私から一本取ってみなさいよ・・・それが出来ないなら、貴女の言う事は全て絵空事よ」

 

「んなっ! ってぇ~ なにすんだ!」

 

 

彼女から差し伸ばされていた手を絡め取り足を滑らせ一回転させる、この間瞬きするぐらいの時間で十分よ。

でも、彼女も本気で怒った口調で喋ってはいない、だから、言ってあげる―

 

 

「弱い・・・こんなのが装者なんて笑わせる・・・

そんなんじゃ、その辺の特異災害(ノイズ)に喰われて沈むわよ、貴女」

 

「なら、何度でも立ち上がって、強くなりゃいいだけだ。

少なくとも、今はアンタなんかよりずっと弱いかも知れない、現にギアを纏ってないクリスに一瞬で負けちまうほどだったしな・・・

けど、それは昨日のわたしの話、人は日々強くなれる! それさえ分かってれば、いつか―」

 

「いつかっていつよ・・・楽観的過ぎるわね、その【いつか】が来る頃には私たちはもっと強くなれる。

遅いのよ、もう、何もかも―」

 

「けどそれは今までの話だ! これからは―」

 

「変わらないわよ・・・私も、貴女も・・・

それに、もう、昔のわたしの様に貴女を諭すことも、助ける事も、もう出来ないでしょうし・・・ね・・・」

 

「助けて貰わなくっても強くなれる! 現にダンナの実力を超えられればお前にだって―」

 

「それこそ敵わない願いね、言葉になら何だって言える、問題は実践できるかの問題よ・・・

 話しにならないわね、所詮、人も殺した事の無い人間の戯言、耳を傾けるだけ無駄ね。

・・・衣服を貸してくれた事には感謝してる、けど、もう私たちに関わらないで―」

 

「そんな身勝手な事、言ってんじゃねぇよ! 一人で何でも抱え込んで、それでアイツに、クリスにどれだけ迷惑かけたか分かってもねぇ癖に自分が正しいみたいな事言ってんじゃねぇ!

お前のワガママを叶えるために、アイツがどれだけ頑張ってたか分かるのか、お前を大切な自分の姉だと信じて付いてきたアイツは―」

 

「じゃぁ、逆に聞くけど、私たちの過去をどれだけ知ってるのかしら、六年前に家族を失って暴れまわって無理やりに装者になった異端児さん?」

 

 

うぐっ、って、やっぱり言葉を詰まらせたわね・・・ホント、脆い仲間意識よね・・・だから嫌なの、アイツら(研究者)もこういう奴らも・・・

怒りをぶつける相手が違うのは、確かだと思う、でも、彼女にも知っておいて欲しい、私たちの生きる世界は、そんな生易しい心意気で生きていける程優しい世界じゃない、だから―

 

 

「今のうちに選択しておきなさい、生きたいなら、自分の道を見誤らないで・・・

私のようには、ならないで」

 

 

だから、これがせめてもの手向け、こんな程度の実力者、いくら増えた所で雑兵にしかならない。

なら、せめて戦場からは程遠い世界で、無事に生きていて欲しい、彼女たちは、選択できる世界に居るのだから――

 

 

「けど、結局それは他の誰かの犠牲の上に居るのは変わりないだろ?

だったら、わたしは誰かを護れる今の場所が何よりいいし・・・好きだしな」

 

「奏、話聞いてた? 貴女みたいな薬中が戦場に出てる事自体危険だと言ってるのよ―」

 

「だったらセレナも薬、Linkerやってるじゃねぇか?

おんなじ適合率の低い者同士―」

 

「生憎だけど、私は適合数値は100超えてるわよ?

それに前薬を使ったのはフォニックゲインのオーバードーズの為だけだし・・・本当は全力で絶唱するつもりだったけど、出来なかったしね」

 

 

これは前キャロルさんの前で計測した時の結果である、元々アガートラームは簡単に纏えていたからそれ自体心配はしていなかったし。

なにより、奏に会った時点でギアの不適合性を感じられるほど感覚過敏になってたのは確かで・・・

 

 

「なん、だよ、結局適合出来てないのはあたしだけかよ・・・」

 

「だから、戦場から手を引くなら今のうちよ。

少なくとも、恨み殺す相手がいるのなら私は止める気も無いけれど」

 

 

そこまで言って一息、ついでに自販機で適当な物を買って渡しておく。

水の値段が高いと感じるのは何故かしら・・・?

 

 

「・・・話はここまでね、ごめんなさい、自分勝手な言葉であなたの行動を束縛するような事を言って。

けど、考えておいて欲しいの、自分の本当にやりたい事は何か・・・私には、復讐しかないから・・・今夢を持てる貴女には、生きていて欲しいのよね・・・我儘かしら?」

 

「いや、あたしも考えが足りなかったから・・・ごめんな、自分勝手なこと言って。」

 

「いえ、貴女は正しいことを言ってるに過ぎない、本当におかしいのは、私の方だから・・・

さて、そろそろクリスの方に戻りましょうか、大分話し込んでしまったから、待ちぼうけてるかも」

 

「だな、何か話したら思ったよりすっきりしたよ、それに、アンタもしっかりとした人間だって事が良く分かったしな」

 

 

ナニソレ? 私が人間・・・? 巫山戯てるの? でも、彼女の瞳は、本気のようね・・・

それは兎も角―――

 

 

「奏、知り合い多くない?」

 

「い、いや、あたしの知り合いって訳じゃなくてだなー!」

 

 

言い争ってたら人がやけに増えてきていたみたい、こういうのなんて言うんだっけ?

トラウマ、じゃない、馬耳東風、あ、違うわ・・・えっと?

 

 

「あ、野次馬だっけ・・・?」

 

「今そんな事思いだしてる場合じゃない! とにかく逃げるぞ!」

 

 

手を引っ張られて人だかりを掻き分けていく奏・・・それなら―

 

 

「跳んだ方が早い! 掴まって! 奏!」

 

「はっ!? 跳ぶっておまっ! ファ!?」

 

 

奏を手繰り寄せてお姫様抱っこの状態でその場から高く飛び上がり、誰も居ない方向へ飛び移り、高速移動する、比較的簡単な錬金術だけど、見た目的にはあの人たちの言っていた【魔術】に近いのかもしれない。

まぁ、それはどうでもいいとして・・・

 

 

「奏さんは何処に行った!」

 

「あっちに飛んで行ったはずだ」

 

 

・・・まさかこうなるとは思わなかったんだけど、奏・・・貴女達はいったい・・・

 

 

「あ~、ツヴァイウィングについては調べて知ってたよな?」

 

「えぇ、結果があんな残念な実力だった事を除けば、アイドルとして活動しているという事を知ってはいるけど、まさかあそこまで集られてくるなんて思わなかったんだけど?」

 

「街に繰り出す時は変装しておけってダンナや緒川さん達からもきつく言われてたんだが・・・

あんまり効果無いんだよな、このサングラスとか、帽子とか・・・」

 

「凄く特徴的だものね、貴方達の髪型、髪色・・・

それは兎も角としても、どうやってクリスたちに合流しようかしら?」

 

「あ、それについては―」

 

『僕が先導します』

 

 

ん? 唐突な通信に少し驚いたけど、これの声って、何処かで聞いたかな・・・?

誰だっけ、あの凪って人じゃないこの声・・・?

 

 

「緒川さん! 助かります、って今そっちどうなってるんですか?」

 

『翼さんが何かやらかさないか不安だったので監視体制を高めています・・・

それは兎も角、セレナさん奏さん、二人とも僕達の言う道順で行動してください。

後、危険であれば、追々連絡します』

 

 

まずはモールの二階方面に向かってください、と言う事らしい・・・

こっから大分長い逃走劇になりそう、独り身ならともかく、二人での行動ともなると・・・

 

 

「ごめん奏、まさかこんな事に成るとは・・・」

 

「あ~、謝るのは無しだぜ、あたしだってこんな事予測して無かったからな?

それにこういうのはお互い様って言った方が良いんだろうな。

まぁ、今はこの雰囲気でも楽しむか?」

 

「・・・暗殺行動してるみたいで少しアレね・・・けど、面白そうなのは確かかも」

 

「だろ?」

 

 

まぁ、今はこの逃走劇を楽しみますか・・・後の事はその次に考えればいい、今は、多分それでいい。

だから、いつか何処かで、この刃が輝ける日が来ることを願いながら、今は、幸福でなく、只の穏やかな日々を享受させてもらいましょうか―

 

 

 

――たった一時の思いを、想いへと変えて――

 

 

 

 

   ―私は、まだ今は、前へ、この歩を止める事はしない、それが大罪だとしても―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

by翔希

 

 

あ、はい、もしもし、こちら翔希・・・え? モールで騒ぎがおきた?

 犯罪、ではない? 奏さんがバレた、ですか? あ、はい、一応こちらでも対応します。

どちらに逃がしますか? ・・・こちらの判断に任せる、ですか・・・

でしたら・・・ええ、はい、そちらの方が人数が今の所少ないので、合流に丁度いいかと。

 リューシェさんには先行して行動してもらってます、多分、独断でやってると思うんで特に何か言うことは無いかと、翼さんの方を注意しながら合流した方が良いですね。

 うん? 友里さん? そろそろノイズが来るらしい? クリスさんが言ってた・・・?

だとしたら恐らく来るでしょうね、要注意しておいた方が良いと思います。

 

僕は僕で今回の件は少しの独断でやらせてもらいます、リューシェさんも指令は聞かなさそうですしね。

 では、保護の方に回らせていただきます、また後で―――

 

 

 

 

――――――――

 

by緒川

 

奏さん、バレないように気を付けてって言ったはずなんですが・・・

まさかこうも早く騒ぎが起きるとは思ってなかったですね。

 幸い、被害は減らせそうで何とかなりそうですが、やはり僕自身が向かった方が・・・

こちらで誘導していた方がよっぽど安全にかつ無事に終わらせられそうでもありますが。

やはり心配が過ぎますか・・・まぁ、彼女たちも強くは有りますから、何とかしてくれると願いましょうか。

その為の裏方、僕達ですからね。

さて、では翔希さん達には頑張ってもらいましょうか。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

―ショートメール by悝嶺―

 

 翔希っち~そっちかセレナちゃんの所に見慣れない人形が有ったら連絡ヨロ~

あ、くれぐれも直に触らないように注意してな~。 手袋して持ってくれよ~

そんじゃー

 

 

 

―――――――

 

 

byクリス

 

 

・・・姉様、騒ぐの好きですね・・・

 まぁ、静かな所が好きとも言ってませんでしたが・・・

なんででしょうか、大体私以外の人と絡むと周りまで便乗するこの・・・呪い?

 

それは兎も角として、早くお姉様たちに合流しないと・・・少し寂しい・・・

じゃなくて・・・う~ん、他の人の近くに居て欲しく無いというか・・・

ごめん、何でも無いです。

・・・とにかく、今はやるべきことをしていきます、はい。

 

 

――――――

 

 



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第十八話

 最近月一投稿でペース鈍足で中々書き進められていない作者です、はい、本当に申し訳ない。
 思ったより書ける感覚が追い付いてこなくて、こう、筆が進みづらく、ねぇ?(誰に言ってる)
 キャロルちゃんの誕生日・・・? 忘れてた上に完全スルーです。
だって・・・ねぇ? まぁ、そこの話はいいか・・・な?

スマホシンフォギアの絶唱が止まらない~・・・あ、関係ない話は別にいいか


・・・では?


―奏とセレナ逃走中― 翼たちとの合流を目指して・・・?―

 

 

 

 

・・・えと、こんにちは、で、いいの、かな?

 雪音クリス、もとい、クリス・カデンツァヴナ・イヴ・ユキネです。

・・・長い? 気にしなくても良いと思うよ? 私自身は変わらないから。

 姉様たちと離れてそれなり時間が経ったと思った所、緒川さんから連絡を受けて、姉様たちと合流するところを探ってる、で良いのかな?

 

 それで、今は私と翼さん、リューシェさんと友里さんの二チームに別れて行動中なんだけど・・・

 

 

「ふぅ、クリスは意外に足が速いんだな」

 

「? そう、ですか?」

 

 

 翼さんは私達の事を基本的には家名、名字で呼びたいらしいんですが、同じ家名にしたから名前でしっかり呼んでくれる、ある意味でそれは嬉しい事だけど・・・私自身お姉様より体力が遥かに劣ってる筈なのに何で現役のアイドルであり、装者の二人より体力がある様に思われるんでしょうか?

 ・・・良く分かりません、彼女達も相当に鍛えられてる筈ですし、一般の人達よりはかなり身体的に強い、筈・・・思い込みが過ぎるのかな、あの藤尭さんって人も、私達は二人の身体能力強化に役立つかもとか言われてたけど、私たち自身はそこまで強い、なんて思った事は無い、現に、現役軍人の人達相手は多分、無理・・・じゃないかな? ・・・それでも、バルベルデの軍隊を全滅させた経歴は消えないけれど、残ってるか知らない、その上知る必要も無いでしょう?

 だって、悪いのは彼らなのだから・・・・・・

 懐かしいな・・・もうアレから五年ぐらい、経つのかな・・・気が付いたら、お姉様の復讐の手伝いをしてる、もはやそれに疑問を持つことも無いし、全力であの人の役に立ちたい、だからその為に自分を犠牲にしても良いとすら思ってる。

 だって、私の復讐を成してくれた最愛の人だから、だから・・・

・・・? 翼さん?

 

 

「どうか、しましたか? 翼さん」

 

「いや、周りが自棄に静かだなと思ってな・・・

目的の場所から大分遠のいてないかと思って」

 

 

 立ち止まり、辺りを一通り見まわす。

 ついさっきまで確かにアーケード街に居たはずだったけれど、今はその場所を抜けた先にだろうか?

 

 

「いったん戻った方が良くないか?

ここに居ても仕方ないだろうし・・・」

 

「・・・そう、ですが・・・」

 

 

 何か、引っ掛かる、いや、翼さんの発言も間違っては無い。

だけど、何でこっち方向に来たのか・・・誘導された? 多分違う、翼さんの通信は本部と繋がってるから向かう方向としては間違ってなかったはず・・・だとしたら―

 

 

「翼さん、今何時ですか?」

 

「え、あ、あぁ、今は11時になった所だ。

だが、時間を気にしてどうしたんだ?」

 

「あと数分・・・翼さん、この辺りで一番広い場所って何処か分かりますか?」

 

「うん・・・? アーケード前大広間が、確か案内板に書いてあったと思うが、あそこはここからは反対方向だから―」

 

「翼さん、恐らくノイズがもう少しで来ます・・・住民の避難準備をして貰っていいですか?」

 

「!? 先ほど言ってた事か、だが、直感とは言えそんなに来るとは―」

 

「何よりも怖いのは対策出来なかったときです!

今はまだ間に合います! おそらくですが、降雨と同時に来ますよ。」

 

「何故、そこまで―」

 

「これは、私とお姉様ぐらいにしか分かりませんよ、さ、急いでください!」

 

 

 お姉様の位置は・・・大広間近く、翼さんの言っていた位置に近いですね。

これならここからの狙撃で支援が出来ます、ですが、この街の構造で、屋根が邪魔ですね・・・

 壊すのは論外でしょうから、上に乗って・・・乗れますよね?

・・・考えても仕方ないですね、恐らく相手数は相当来るでしょうから、一応の対策はしておきましょうか・・・まぁ、ノイズなんか恨む相手では無いですが―

 

 

「居たら邪魔ですからね・・・消えて下さい!」

 

 

 静かに、ゆったりと、聖詠を紡ぐ・・・最早文字の通りの【聖なる詠】ではないと思うけれど、それでも、私はこの力を扱うのに躊躇わない、この力で、誰かを殺すことになったとしても―――

 

 

 

 

――――――サイドチェンジ・クリス~セレナへ――――――

 

 

 変なファンとかの奴らから逃げ出して数分・・・いえ、もう何十分と経ってるかしら?

最早私が逃げてる意味は殆ど無いと思うのだけど、見つかれば多分奏の事を何だかんだ聞かれるでしょうね・・・本当に人間って面倒な生き物ね・・・

 まぁ、それでも奏の身体能力を確認するにはある意味いい機会かもしれないわね、こうやって走って逃げてれば、どれぐらい持つかが分かると思うし、何より―

 

 

「私と似た大きいモノをぶら下げてどう動いてるのか気になるしね」

 

 

 正直、小さい時のまま成長したかった、あるだけ邪魔になって仕方ない、だけど奏はそれを意に介さずに力を振るっている、獲物が違うから、と言うだけでは無いと思うが―

 

 

「なぁ、セレナはまだ平気か?」

 

「私より自分の心配しなさいよ有名人」

 

「ははっ、そうは言うなよ、これでも心配はしてるんだぜ?」

 

「・・・少なくとも、貴方達よりは体力はあるわよ」

 

「そうかい・・・怪我は、問題ないのか?」

 

「? 一番怪我してるのは貴方達じゃ―」

 

「ちげーよ、その体中の古傷・・・どうしたんだよ」

 

「・・・あぁ、この傷、ね」

 

 

 そう言って腹部をさらけ出す、そこには何かの獣にでも引き裂かれたような大きな裂き痕が所々にあって、一番大きいのは深く抉られた左側の肋骨辺りから右側腰部に向かっての刻まれた裂き痕だと思う。

 それだけならまだしも、脚や腕、背中に至るまでそこら中に裂けた傷痕が残ってる・・・【コレ】の心配をしていたのね、多分、あのショップで買い物している時に大分と気にしていたのね。

 

 

「気にすることは無いわ、不名誉な負傷だし、多分、でなくても、一生共にする傷だろうし。

今となっては特に痛みも何もない、だから奏が気にすることは―」

 

「だからって! 何も聞かずにはいられねーよ!

兎に角、この逃走が終わったらじっくり聞かせて貰うからな!」

 

「大して話す事無いんだけれど・・・そんなに聞きたいなら聞かせてあげる、後でね」

 

 

 そこまで話し終えて辺りに人影が少なくなってるのを感じ取れた、目視でもそれを確認できた。

どうやら散っていったようね・・・

 

 

「さ、それじゃ大広間に向かいましょう。

色々手間を取られてしまったけど、今からなら多分それ程犠牲を出すことも無いはずよ」

 

「? 何でそんな広い所に行く必要が?」

 

「時間まであまりない、走りながら話しましょう」

 

 

 そこまで言って、人気の少ない通りを走り抜けてクリスたちが居る位置を連絡で確認して・・・

それから―

 

 

「そろそろ大広間、っていうか公園だけど。

一体何があるんだよ・・・ん? 雨・・・?」

 

「タイムカウント30・・・住民の避難お願いします!

・・・さて、はじめるよ! クリス!」

 

 

渡されていた端末のタイムウォッチを起動して三十秒刻ませる。

その間に二課に周辺住民の避難を呼びかけた、まぁ、行動してくれていた方が―

 

 

「奏! セレナ! そこに居たの!」

 

「翼! 丁度いいや、何か避難がどうこうって・・・」

 

「ノイズ接敵まであと15! さて、準備しましょうか!」

 

 

 

 

     -----Seilien coffin airget-lamh tron------

 

 

 

 

 聖詠の終了と同時に大きな雨音とノイズの出現音が多数発生する。

今日は、雨が酷そうね・・・これなら―

 

 

「少しは、楽しい戦いになる事を望んでるわよ、クソ雑魚音共!」

 

 

目測人型と球体型合わせて60近く、空中型及び浮遊型ノイズ30近く、ビルの隙間に超大型三体・・・大分と豪勢ね、けど悪く無い!

 

 

「相変わらずの、黒い、ギア・・・」

 

「一体、彼女のアレは、何なの・・・?」

 

「気になるならソコで見てなさい、コインが落ちる前に、終わらせてあげる」

 

 

マフラーに仕舞いこんでいたコインを一枚指で思い切り弾き上げ、浮遊していたノイズを通り抜け遥か遠くに飛んでいく、と同時に蛇腹剣が縦横無尽に張り巡らされる。

 

 

「私を本気にさせられないなら、素直に消えてなさい!

 

     【 Levia✞han・Noir 】!」

 

 

 雨水を帯びた蛇腹剣が蛇の様に蠢き出し、それぞれが頭であるかのようにノイズに食らいついていく。

その姿は、まさに悪魔、黒い蛇その物、だがこれだけでは終わらないのが彼女、崩壊したセレナだ―

 

 

「ふふっ、さぁ、もう少しは楽しませなさいよ!

  風と熱の思いは残酷、傷跡はいつも想いを殺して行く!

 吹き荒んで、何もかもを! コロシテ、壊して! 私の前に、抗い立つな! クソ炭素がぁ!!!

 

 

    【 Fluid Pazuzu Fear noi✞e 】」

 

 

もう発する言葉の意味など無くなっていた、ただ、只怒りのままに力を振るう。

 ノイズ達を取り囲む水の蛇腹剣、そして中空に数えきれない程の無数の短剣を縦横無尽に駆け飛ばす。

そこに優しさや意図などない、もはやただの一人舞台であって、悪魔を躍らせる少女は―

 

 

「何て、顔してるんだよ、アイツ・・・っ!?」

 

「凄く、恐ろしい・・・コレを、人が、人の残虐性が作ったと、言うの・・・?」

 

『翼さん! 奏さん! ノイズの発生と同時に消失を確認してますが、一体・・・っ!?』

 

「セレナだ・・・あいつが、百近いノイズを一人で、一瞬で倒して行ってる。

それはそうと、避難は?」

 

『事前報告である程度は完了してますが、まだ80%までしか出来てません』

 

「そう、か・・・なぁ、アイツの戦いって記録出来てるのか?」

 

『あ、はい、そっちは問題なく出来てます・・・

凄まじいですね・・・翼さん達と戦っていた時とは全然違う・・・』

 

「アイツは・・・護る戦いをしてなんていない。

昔の、アタシと一緒だ・・・恨みのままに、攻撃を繰り出していた時の、アタシと・・・」

 

「奏・・・」

 

そんな通信の会話など余所に、笑顔で切り裂いていく様はもう、人間らしさは其処には存在してはいない。

だが、それでも、その瞳には、何処か悲しさが見えていて―

 

 

「・・・クリス、仕上げを・・・」

 

『了解です、お姉様―』

 

 

 多数いたノイズも残りは大型を残すところ、だけどそんなモノ、と言う程度でしかない。

私はナイフを二つ中空に投げ飛ばし、コインの落ちてくるところで待機する。

 もう、終わってるから―

 

 

『さようなら・・・もう二度と出てこない事を祈ります

   【GIGA ZEPPELIN schwarz Fear】・・・』

 

 

 小さな弾丸が二発、私の投げ出したナイフに当り拡散する。

それらが器用に建物を避けてノイズに飛散する、途端に―

 

 

「Go Fine's Fear」

 

 

 終焉の呟き、と同時にノイズの居た辺り一帯を真っ黒に染め上げ、見た目ウニの様に真っ黒の針が無数に突き出ていた。

 そして収束と共にノイズの炭ごと消滅が確認される。

 

 

「・・・これだけね・・・やっとコインが落ちて来た」

 

 

 時間にして一分ちょっと・・・かしら・・・?

 相当強く弾き出していたからか、降りてくるまでに風で右往左往していたようで、落ちてくるのに時間が掛かっていたようでもあるけど・・・

 

 

「ねえ翼、奏、残存ノイズは居るのかしら?」

 

「え、あ、ちょっと待ってくれ、藤尭さん、そっちは?」

 

『解析中で・・・あ、誰か追われてます! 急いで救助を!』

 

「取り逃がした・・・直ぐに向かう! 場所は・・・いえ、あっちか!」

 

「あ、セレナ! ・・・行っちまった、藤尭さん、場所は向かってる所であってるのか?」

 

『あってる・・・けどなんで場所が?』

 

「今回ノイズが来るという事を彼女たちは事前に察知してました。

恐らくですが、彼女の持っている聖遺物か何かの影響では?」

 

『それが調べられれば苦労しないわよ翼ちゃん』

 

「了子さん・・・本当に悪いと思ってるんですか?」

 

『あっと、それは後に置いておいて貰えるかしら・・・?

・・・無理? ・・・後でちゃんと話すわよ、彼女の言うネフィリムについて。

あの時有耶無耶になってしまったし、それにあのキャロルって言う子の言った【バラルの呪詛は最早装置ではない】って言っていた事、前から気になって他の研究どころじゃないモノ』

 

「・・・反省はしっかりしてください。

行こう、奏」

 

「あ、あぁ、藤尭さん、案内宜しくお願いします」

 

 

 了解、の言葉と同時に動き出す、正直、凄く遅い対応になってしまったけれど、今の彼女なら問題は起こさないだろう、と言う安易な判断をしていた。

 だけど、それさえも問題にしてしまうのが、彼女、セレナなのだろうか・・・

翼と奏の急行した行き止まり、そこいら一帯にはノイズの消えた後であろう事が見て取れる灰の山と―

 

 

「なっ!? セレナ、何に触れてんだ!!」

 

「・・・遅かったわね、終わったわよ」

 

「そうじゃない! 何でギアも纏わずにノイズに触れてんだ! 死にたいわけじゃないんだろうが!」

 

「あぁ、そう言えば、貴方達は知らなかったか・・・どうしなくても話すわよ。

 私が、人じゃなくなった理由でも、ある訳だし、今更ノイズ、触れられた所で炭化なんてしやしない。

・・・この身体は、ただ、復讐の為の―」

 

「あ・・・あの・・・そこの二人って、もしかして」

 

 

 言葉を遮って未だ震える口調で話しかけてきたのは先程から腰が抜けているのか、立つことも覚束ずクラクラしている見た目、中学生ぐらい(?)の少女が未だに混乱しているのか、フラフラな視線で翼と奏を見つめ、驚いたように口調を荒立てていた。

 なお、会った二人はマズった様な顔をしてどう誤魔化そうかと考えていると―

 

 

「えぇ、貴女の思うようにあの有名なツヴァイウィングの二人よ」

 

「え、ええぇぇぇ!?!? ほ、本当、ですか! うそ、じゃないんですか!?

え、夢ですよね? だ、だってノイズが目の前にいて、あれ、わたし本当に無事なんですか!?」

 

「落ち着きなさい、取り敢えず深呼吸して―」

 

 

少女の背を撫でて落ち着かせるように深呼吸させる、けど―

 

 

「すーっ!? けほっげほっ!? うぇっ!? な、何か鼻に入って気持ち悪いよ」

 

「あ・・・間近でノイズを倒したから灰を吸ってしまったのかしらね、配慮が足りなかったわ、ごめんなさい」

 

「い、いえいえ、姐さんは悪くないです! 急にテンパっちゃった私が悪いんですから!」

 

 

そう、と返事を返すと、後ろから重量感がある様な着地音がした、クリス?

 

 

「お姉様・・・その子は?」

 

「ノイズに襲われていた子よ、ま、アレぐらいなら―」

 

「お姉様は離れていてください・・・また、【アレ】が出てしまうでしょうから」

 

「え? けど―」

 

「後は私がやります、ですから―!」

 

「あ、あのー 色々言いたいことありますし、お礼もしたいので、私の家の店で話しませんか・・・?

今は避難も解除されてると思いますから・・・」

 

 

 はぁ・・・まぁ、こんな所で複数人溜まってたら拉致監禁してるようにも見られかねないし、そうしましょうか・・・? 翼、奏、何してるの?

 

 

「あ、いや、一応緒川さんに頼まれている事だけはしておかないと、それに保護者同伴での証明とか色々―」

 

「この子の家に行ってからでいいでしょ、それぐらい・・・それよりさっきより冷えてきた気がするのだけど、気のせいじゃないわよね?」

 

「多分、ノイズ達の事後処理をしてるんだろう、あれはリューシェや翔希の仕事だからな」

 

「・・・灰を氷で固めてるから辺りが冷える、そう言う事?」

 

「あ、あぁ、そう言う事だな、だから早く衣服類買い出ししときたかったんだけど・・・」

 

「ごめんなさいね、余計なことばかりして、面倒ならここまでにして―」

 

「いや、面倒なんて思ってないさ、それに、これ以上、お前たちを孤独な化け物になんかしたりしない・・・絶対にな」

 

「・・・そう、お人好しが過ぎるわね、貴方達も、そっちの司令も・・・皆して」

 

「でも・・・この方達なら・・・きっと」

 

 

 私達のやるべき事を、手助けしてくれる、か・・・?

いえ、もし助けてくれたとしても、彼女たちは、無事でいられるの・・・?

 ・・・むり、絶対、堪え切れる筈が、無い・・・

 だって、あのネフィリムだよ、もう聖遺物も何も関係なしに食べちゃう、バケモノ・・・私を怪物に変えた、本物の・・・怪物。

 アイツに立ち向かって、皆、みんな消えた・・・私の中の大切なものをナニモカモ消シタアイツに・・・今度は、翼たちが・・・犠牲に・・・そんなの、そんなのは・・・?

 あれ、何で私、誰かを失うのをこんなに怖がってるの・・・?

 

 

「おい、何を泣いてるんだ? セレナ、大丈夫か?」

 

「え・・・? 泣いて、る・・・?」

 

「お姉様、これを」

 

「ありがと、クリス・・・

・・・もう、失うのは怖くないと思っていたはずなのに、何で・・・」

 

 

 周りに聞こえないように一人愚痴る。

 弱みを見せたくない訳じゃない、けど、大切なものは・・・増やしたくないと、願って生きていたはず、なのに、なんで、今になって大切なものが出てくるの・・・?

 そんなの、ただ、自分を弱くするだけの、邪魔な物の、はず、なのに・・・

 ・・・じゃぁ、何でクリスといつも一緒に居るんだろう、あんなに苦しい想いをするなら、一人で行きたいと願ったはずなのに、それでもクリスは私と一緒に居てくれて、それを求めてしまった自分が居て。

 こんな自分が嫌になる、誰にでも優しいセレナはもう、要らないのに・・・いちゃ、いけないのに!

 私が、優しさに縋ってるみたいで、今が凄く嫌になる、チガウ、こんな感情、知らない、要らない・・・私は・・・ワタシは!!!

 

 

「お前が何を考えて行動してるのかはよく分からねーし、知る気も無いけど、さ?

一人で何でも抱えてたって、碌な事になりゃしねーよ、アタシもそうだったしな。

だから、さ、少しは、頼ってくれよ、戦う事じゃなくて、普段の事で、な・・・?」

 

「そう、だな、奏の言う通り、私も少しは役に立たせてもらいたい

まぁ、身の回りのどうこうは出来ないが・・・それでも、何かしら役に立てるはずだ!」

 

「・・・・・・一言余計・・・それに、貴方達に余計な物は・・・望まない・・・」

 

 

 望んでは、いけない・・・あの時、自分自身で否定した、この世界の幸は、私にとっての【ノロイ】だから・・・だったら、要らない、必要ない、それは、もう五年以上前に、棄てたものだから。

 【じゃあ、貴女は何を求めるの?】

 

 

「っ!? だ、だれ!? 私の思考に入って来るのは・・・あなたは・・・なに!?」

 

 

 気が付けば辺りが不思議な暗さに染まりつつある。

 先程から助けた少女の家に向かって歩いていたはずなのだけど、ギアから発した呪いの波長で体調を良くしていたはずにも拘らず、私は気を失いそうになっている・・・多分、あの二人の優しさに当てられ過ぎているから、なのか・・・? 分からない、でも、彼女達が優しいのは確かで・・・

 でもその優しさすらぶち壊すこの世界の残酷さを知っている、筈、なのに・・・なんで、私は――

 

 

 

   ―求めてしまうの? この苦しく、にがくて、辛くなるだけの、優しさを―

 

 

 それは私が一番に投げ出して吐き捨てたもの、だから、一番大嫌いな感情、記憶。

故に私は優しいだけの奴も斬り捨てて来た、その字のごとく、切って、潰してきた・・・

 偽善も、善も、何もいらない、只苦しく、辛く、呪える世界があればいい。

 そう思って、毎日を過ごしていた、来たる日々も、クリスと居られる毎日を、何の苦もなく過ごしていたというのに・・・彼女たちは、私達の世界に土足で入り込もうとしているの・・・?

 ・・・許せない・・・だけど、本当に、私は、【ソレ】を否定したいの・・・?

分からない、分からないけど―

 

 

  ―貴女なら、分かるの? 教えてよ、もう一人のわたし―

 

 

 そんな無情な感情を乗せて、意識が遠のく感覚を覚えて、あぁ、また微睡んでいくのかと、どこか遠くに感じていて。

 誰かに抱きかかえられたのを感じながら、私は、意識を手放した―

  分からないその存在を意識しながら― 私は、幸福を手放したいと願いながら・・・

周りは色々叫んでいたみたいだけど、それすら今は気に掛けることも出来ない、しない。

 だって、私は―――

 

 

 

 

 たとえ誰が【一緒に居る】と言っても、私は、独りでしか無いんだから・・・

  だから、独りでも、アイツを、ネフィリムを・・・

 

 

 

「コロシテやる・・・誰に、何を言われても、関係ない! アイツを・・・ネフィリムを、この世界を・・・赦しは・・・しない・・・から・・・っ!」

 

 

私を壊した何もかもを・・・だから、今の幸せなこの時間は・・・私にとっては何より辛くて、苦しい。

だって・・・いつか壊れてしまうモノ・・・だったら・・・だから―

 

 

「そんな事言っても! 私たちはお前をぜってー幸せにしてやる!!

否定なんかさせるもんかよ! いいか! お前たちは、絶対に幸せに成るべき人間なんだ!

 だから、だからよ!!!」

 

 

 何があっても、独りになんかさせねー!!!

 

そんな叫び声が、聞こえた気がした・・・我儘、ね・・・

それは、私も・・・同じ、か・・・

だったら・・・

 

 

  死なないでよ、奏―

 

 

 

朧気な感覚でそんな約束をした・・・気がする・・・

そうして、私はこんな時にも関わらず、意識を失った、今は、微睡みの中で・・・ゆっくりと・・・沈んで、いきましょう・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――とある通信の記録―――

 

 

 

 

 

 

 

あれが彼女の実力か?

 

いや、あれでも全力では無いでしょう、あれは、あくまでシンフォギアの力を引き出したに過ぎない

 

なれば彼女の力とは?

 

それは追々話しましょう?

それで、彼女は【アレ】に近付けると思える?

 

間違いなく【器】に相応しい存在だ。

なればこそ話をしに来たのだろう?

 

【器】かぁ 【依代】にしちゃあ強すぎる気がすんだけどね?

 

【アレ】は最早、その辺の【柱】に収まるレベルでは無い

王座に至るべき存在、我らが神に至る存在である。

だが、彼女は些か危険が過ぎる。

 

? と言うと?

 

お付きの【銀雪】が邪魔でしかない。

王は独り、故に誰かと共に居た所で力など知れると言うモノだ。

お前はそう思わないのか?

 

う~ん、そこは意見が割れる所なんだよね~

確かに【銀】を割って心を砕けば、【絶対王者】に成り得るとは思えるが・・・

 

が?

 

それは最早【王】ではなく【座に至る人型】にしかならないと思うんだけどね~

他の奴らも似た意見が結構あってね~

 

なれば二人で【王】か?

過去の暦に置いて多数の王者はいずれ一つに収まる事になるのは明白。

ならばそちらの推す彼女が一人王座に居れば―

 

たっしかに【私達】の目的にはそれで良いかも知れないけどさ~

どんな王でも【独り】じゃ何もできないよ?

・・・そうだ、側近とか側室にでもすればいいんじゃない?

 

お前は、また我らに仕事を増やすのか・・・

 

じゃないと彼女も全力で戦えないと思うよ?

現に今の彼女は【銀】を欠けば間違いなく【空】になる

そんな王様は要らないでしょ?

 

そう、だな・・・

 

でっしょ~?

んで、これからどうすんの? 接触でも図るの?

 

いや、まだ時では無い、当分は彼女の動向を探っていてくれ

 

アイアイサー っと、そんじゃ次の連絡は半年後位でいいかね?

 

あぁ、時になれば頼む

 

ほ~い、そんじゃ時間になったら定連おねっしゃっす~

 

・・・物事はちゃんと言え、何言ってるか分からんぞ

 

ん? ただ定期連絡の時に鳴らしてくれって頼んでるだけだよ?

 

おまえは・・・はぁ、まぁいい。

何かあれば寄越せ、いいな?

 

ほいほ~い んじゃまたね~

 

おまっ!! 〈ガシャン!〉

 

 

「・・・やれやれ、これで何か国目だよ・・・いや、いくつの次元の存在に求められてんだっての・・・

全く、モテる女は辛いね~ ね~【セレナちゃん】?」

 

 

 先ほどまで掛けていた黒電話をそっちのけにして、煙草を燻らせる女性は明後日の方向を見て眼鏡を人差し指でクルクル回す。

 緑掛ったぼさぼさの黒髪は所々で毛が跳ねている、がそれを気にすることも無く、口から煙草の煙を思いっ切り吐き出し、女性【悝嶺 幽華】は今後を憂いながらも、楽しそうな表情で空を見上げ直す。

 

 

「ふぅ~ ふふっ あはは、あ~、楽しいな~この世界は!!!

ほんっと飽き飽きさせない、だから人間って楽しいよね~」

 

 

 そんな事を誰にともなく呟きビルの屋上から辺りを見渡しなおす。

其処には先程ノイズの跡がクッキリと残っており、今は一課の部隊が灰燼を処理して回っている所である。

 

 

「人には人の役割が、なんていう奴いるけどさぁ~

 あれって遠回しに【お前は無能だから余所に行け】って言ってるようなものだよねぇ~

いや~酷いよね~そう言う意味で言って無くても聞く人が聞けば傷付くって~、当たり前だよね~。

 そう考えれば、セレナちゃんは何でもできるのに【出来ない人】に括られちゃったヤバイ人間って言う事なんだよね~。

こうやって人のやってる作業を見てれば分かるけど、やっぱり、私達人間は脆く弱い。

 だから、やっぱり上に立つ有能者が必要なんだよ、二課に居る弦十郎の様な、ね?

そして、セレナちゃんは、やっぱり上に立つ人間、いや、【怪物】だ。

 ・・・ま、そんな彼女だから【英雄】なんてモテ囃す【阿呆】も居るんだけどさ、ね?

いや~でも私も気になるな~ 彼女が【アレ】の王様になって全ての悪魔を統べる姿、様になるだろうな~・・・高画質で保存しないと、あ~もうこれ完全に変質者だよ!

 私だってノーマルだ、と思いたい、けど最近入れ込み過ぎかな?

セレナちゃん見てると毒されてきちゃう・・・やっぱスタイルが良いのって罪だよね?

 え、違う? いや、確実に毒でしょ! だってあのバストだよ?

そしてあのお尻だよ! ボンキュッボンだよ、ってもうこれ死語だよ!

 いやそんな事関係ないっすよ! もうあんな子に詰め寄られたら女性でも男性でも一発ノックアウトだよ!

 それでもホモな人は知らな~い、と言うかそんなのどうでもいいし。

貧乳好きな人に関しても私はその要件を見ない事にする、翼や調ちゃんでも好きになっておいて?

 え、関係ない、それに関しても知らないと私は豪語しておくよ!

 それよりもセレナちゃんだよ、やばいのなんの戦ってる最中もうバインバインだよ!

こう胸のあたりにある大きなメロンがたゆたゆして、おっきくって、そのね? 私でもオッサンバリに成ってしまうというかね? こう、アレだよ? 見た瞬間に一瞬でファンになってしまうというか?

 あれで妹? 姉が羨ましいに決まってるでしょ!

あれでいて正史では清く正しく美しいを地でいく聖女様でしょ?

もうファンの心鷲摑みよ~もう興奮しちゃって何言ってるのこのオバサン状態だけど気にしないで欲しいわね? だってほぼ投稿主と同じ心情だもの、仕方ないね?

あ、因みに切歌ちゃんも好きだよ? 現状全く関係無いけど!

 

あ、やばい録画してるセレナちゃんの胸がブルンブルンしててまた鼻血がgggg

 えぇい此処に他の彼女のファンはいないのか! いっそ暴走族やその手の人間でもええわ!

え、あ、いた? 何? 彼女その手の人間に関りがあるの? 893の手でしょそれ? え、マジ?

 気が付けばソレを一手に扱える大幹部だとか? ナニソレ知らないんだけど!?

え、話してない? そりゃ知らなくて当然、ってじゃあ何であの子達貧層に暮らしてたの?

 金の取次ぎをしてない? 金は貰わない主義?ってナニソレ本当にあの子達が言ってたの?

全くあの子達は何やってるのよ! 足を付けない為に泥沼を進んでるようなモノ・・・?

 アレなんかおかしくない? まぁいいか?

え~っとそろそろ次に行きたい? セレナちゃん寝すぎじゃない? 仕方ない? そっか~

 ってそれで済むほど単略的なのも問題過ぎないちょっと~、わたしどうやってこれを論文にしろってのよ~、あ、そっちもどうでもいい話か? どうせ書かれないだろうしな?

 

あ、そろそろ閉める? おっけ~そんじゃまた今度ね~ 次いつ出るか知らないけど、皆まったね~」

 

 

 

・・・どうでもいいかも知れない事ばかり書き残して去っていくのだった・・・。

 

 




 ・・・せや、そろそろアンケートでも取ろうかな、やった事無いから色々調べてみたりするけど、いつやるかはまだ考えて無い、そして大したことしないかも・・・
今回はここまで・・・しかしセレナさんホントよく寝る(誰のせいだ)
 ・・・では


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第十九話

投稿が、早く、ならない!
・・・文章量が多いのかな・・・でも減らすの難しい・・・
アンケとってみようかな、やるの初めてだけど試してみる
・・・では!


セレナが気を失って数刻―

 

 

ノイズ残骸処理班(一課)到着~

  ~一般市民に対するどうのこうの~

 

 

 本来であれば二課にこういう事を任せるのだけれど、今回は規模が規模だし、かなりの多人数を相手取らなければいけないという話・・・あ、どうもこんにちわ、翔希です。

 ノイズが討伐されてまだあまり時間が経ってませんが、セレナさんは救助した人の家に厄介になってるようなのでそっちは気にしないようにして、問題はこっち、炭化したノイズの処理と―

 

 

「目撃者及びそれらに対する証明等の書類を纏めて・・・やる事が多いな。

まぁ、リューシェさんに比べれば少ないかな?」

 

 

 何て一人愚痴ってみるけど、本当に愚痴りたいのは多分リューシェさんだと思う。

 今彼女は一人ノイズの灰を纏めて凍らして固め、運搬車の処理がしやすいように分割したり、粉状にして入れ込んだりしてる。

 最も、ギアを纏って無くとも相当量を持ち上げられるほどの怪力は僕達諸共持っているからそれらに関しては問題無いだろう。

 じゃあ何が問題あるのか・・・? 今のところは無いんじゃないかな?

 あ、因みにこのノイズに関して一般人に了承させる書類って言うのは【戦姫絶唱シンフォギア無印の第二話】(ぐらいだったかな?)で親子に対して書面書きさせてた【アレ】を各方面に色々する必要があるんです・・・あれ、これ一人で回ってたら絶対どこかしらからセレナさん達の情報回るよね・・・?

 ・・・それとは少し関係無いけど、あの話以来あの書類出てない気がするんだけど気のせい?

まぁ、そんなメタ発言は気にしなくても良くて、第一に何が言いたいかって言えば―

 

 

「これを僕一人でやるには少し、いや、かなり手間が・・・けど一課の人達を借りだす訳にも・・・

さて、どうしたものかな、ねぇ緒川さん」

 

「居るの、気付いてたんですね」

 

「それは、まぁ、似た者同士ですからね、やること成す事片付けないと問題も起こりますから」

 

「それでも手を借りないのは優しさが過ぎると思いますが? 特異災害対策機動一課臨時隊長さん」

 

「そっちの時は全力を出すよ、けど今は現行の隊長いるし僕の出る幕じゃないでしょ。

 それよりも今はあの現場を目撃した数多の人の立証潰し・・・じゃないや、コレやってかないとね」

 

 

 先程から来てたのは気づいてたし、さり気無く仕事をこなして行く様は本当に感謝しかない、だけどそれはそれ、僕の方でもやること成して行かないと、ね?

 ・・・リューシェさんの方からちょっと泣き言が聞こえてくるけど気にしない、僕達もやる事多いから。

 

 

「無視しないでよ翔希く~ん!! 後で良いからこっちも手伝ってよ!」

 

 

 うん・・・まぁ、了承しておこうかな?

 そうでなくても雨が結構降って来ててノイズの灰処理に手間がかかってるのは確かだ、とはいえ、リューシェさんが来る前より処理速度が格段に上がってるのは確かで、雨に濡れた灰も凍らして粉砕した灰の塊の処理でかなり時間帯効率は上がっている、らしいんだけど・・・

 何でも、大型ノイズの灰処理が面倒であまりやりたくないそうな・・・確か以前固めたものを切り間違えて誰か潰しそうになった事があるとか、幸い僕も付近に居たから事なきを得たけど。

 そんな事があったりなかったりで、まぁ、同じ一課の人達でも二課のメンバーをよく思う人は多くいる物の、よく思わない人も少なからずいるのが現状だったり。

 まぁ、現状最も危険な人物を匿っている以上、危険視されているのは仕方のない事だろうからね?

 

 

「普段はこれほど人の多い場所にはあまり出てこないのですが・・・」

 

「むしろそこまでなかったことの方が個人的には驚きなんだけど、まぁ、セレナさんの事を見た人の多さ、そして彼女が対ノイズに対して絶対的な強さを持ってる事が大多数の人に視認されてしまっている上に―」

 

「彼女が件の犯罪者【殺戮者】である事を知らない人はあまりいないかと。

 身体的特徴も確か書かれていたはずですから・・・彼女を恨む人も数多いる事かと・・・」

 

「今後が不安ですね」

 

「それでも、僕達は彼女たちを拒否しませんよ、司令もああ言ってますから」

 

「それはこちらとしても同じですよ、それに彼女を狙っているのも一人二人と言う少ない規模じゃないですからね」

 

「・・・それは、恨み殺したいと思われてる側ですか? それとも―」

 

「多分緒川さんも分かると思う、彼女の軍事兵器として考えられてる事を」

 

 

 これに関しては僕達の部隊、二課を含め全体で話したことのある事だ。

 過去に何処かの国の軍隊が全滅したというニュースが日本国にも伝えられたのは今から五年ほど前だろうか、その時は互いにやりあった影響で全滅したのかと、色々憶測が飛び交っていたが、その実情は全くの別物だった。

 場所はバルベルデと言う国家・・・に属しているかは兎も角、この現代において未だに戦火が立ち込める場所があったという、その一つがバルベルデだとか。

 そのニュースでは詳細は語られなかったが、映っていた映像には真っ黒な刃物がそこら中に突き刺さっていて、木々も軒並み伐採された跡が映し出されていて、死体などは映らなかったが、所々に見えた地面や樹々からは大量の血痕らしきものがテレビからでも見て取れていた。

 恐らくだが断片的な情報を開示するにも何処を映しても血が見えてしまうほどの酷い惨状だったのだろうというのがこちら、二課、及び一課の見解、及び日本国側の意見と言った所。

 ただ、軍隊に対して喧嘩を売っただけの野次馬にしてはおかしい点が多くあった為、多くの軍人並びに数多の知能人等様々な見解からの回答を出されたが結局一月もすれば風化して消えてしまうモノだ。

 答えは出ないままその抗争は幕を閉じた・・・かにも思えたが―

 

 現在、今の日本国の中に、その犯人、こと【セレナ・カデンツァヴナ・イヴ】はその犯行に対して【家族を奪ったモノたちに制裁を加えただけ、只の断罪よ】と言葉を残しただけらしい。

 つまり、彼女がやったというのは決定的で・・・幼き少女に一国軍隊が鏖殺されてしまったということだ。

 当時の彼女たちの事を考えてみればまだ10と少しの少女二人が一軍隊の部隊を全滅させた、という普通に考えてもあり得ない事を仕出かしたのである。

 これで罰も無しと言うのは普通に考えてあり得ないのだが、そこは治安の悪い世界で罰も何も言えた事では無いと、そう言う世界で生きて来たから仕方ない、と、彼女たちは、そう言うのだろう。

 

 しかし、今彼女たちのいる国は日本、つまりどんな罪でも罰される国になる、だから彼女たちの犯した事はどうあっても拭えないモノ、何処かで必ず払わなければならない汚名・・・だろうけど、恐らく、彼女たちはその罪を背負うだけの汚名を既に負っている、それに見合うだけの罪を背負い続けて生きている、そのはず、ではあるのだけど。

 現状、それに関してとやかく言っても仕方のない話だ、とは言っても、彼女たちの殺人罪の時効は切れてはいない、が、それを無力化したのは他の誰でもない、【風鳴機関】だ。

 僕自身、そこに仮所属している形にはなるけど、彼等、いや、彼自身【風鳴訃堂】は彼女の様な兵器を恐らくでなくともご所望だろう。

 そうでなければ先日早急に連絡など入れてはこない筈だ。

 まぁ、その実僕が風鳴家の御用人(?)になってるのは色々と理由があって、まぁ、その辺は後で訃堂さんと会食でもするときに話すかな・・・

 それで、色々話を出したけど、第一として彼女、セレナさんとクリスさんはそれぞれで風鳴訃堂の我儘で守られているから警察も外国の人達も手を出せないようになっている、と言うのが現状になるかな?

 その辺も後で話しあうとしようか。

 

 さて、こんな事を言ってる最中でも、時間と言うのは刻一刻と進むもので―

 

 

「はい、確かにサインを頂きました、同意の印有難うございます」

 

 

 そんな作業的な言葉も早何回目か、大分と手馴れて・・・他にも手伝ってくれてる人が何人か居るのが気になるところ。

 明らかにパンクなと言うのか、【ヤ】の付く人達とでもいえばいいのか、そういう人達に少し絡まれたと思ったら―

 

 

(あね)さんの件で動いてるんですか? だったら俺達も手伝わせて下さい!」

 

 

そんな人たちに絡まれたと思ったら、正装した数人も付近に集まって署名運動バリの行動を彼らはしてくれた、ある一人に話を聞いてみると―

 

 

『俺達、姐さん、あ、セレナさんに色々助けて貰ったんっす!

 それだけじゃないんっすっけど、兎に角、あの人には返しても返しきれない程の恩があるんです! だから!』

 

 

 クリスさんにも同じように色々助けてもらったらしい、主に抗争やノイズ関連など、その種は様々だとか。

 彼等は本当に【ヤ】の付く人達らしいのだが、そのトップの人もセレナさんには恩があるとか、それは人を殺した関係ではなく、殺されそうになった時に助けてくれたことが幾度かあったらしく、組に所属してないにも関わらず、ある特定の人達を皆守って何処かに行ってしまうと言うモノだったらしい。

 ・・・ホント、優しさは未だに持っているんだね、キミは・・・

 そんなこんなあったけど、気が付けば時間は午後二時になるかと言うぐらい、僕達のやる事はもう終わったと言ってもいいほどだった、大体はあの人たちの手助けのお陰で終わったようなものだけど、まぁ、感謝はしておくべきだろう、無感謝な人間では無いよ、僕は。

 さて・・・で、ノイズの残骸処理は・・・っと

 

 

「翔希君おっそ~い! もう殆ど終わったよ!」

 

「ごめん、流石に人数の多いエリアだったから処理が追い付かなくてね。

 それにシェルターに逃げた人があまりいなかった所為で時間がかなり掛かってしまったよ。」

 

「ふ~ん、ま、いいや、後で何かおごってよ?」

 

「分かってるって、それにしてもセレナさんは無事だろうか?」

 

「心配し過ぎも毒だけど、まぁ、気にはなるけど・・・?

あ、猫ちゃん達来たよ~・・・えっと? さっき目が覚めた所? うん分かった、ありがとね~」

 

「クロエルさんの友達の猫?」

 

「みたい、クロちゃんの心配してたけど今は安心してるって言ってたよ」

 

「クロちゃんって・・・まぁいいや、それで、買い出しとかはどうする?」

 

「どうするのかなぁ~ 店舗もしばらくは再開しないでしょ? ノイズ出てきちゃったし」

 

「再開できる所はすぐやるみたい、大型ショッピングモールとかはもう再開の準備で色々やってるみたいだよ?

 それで、リューシェさんはどうする?」

 

「一度一課の人達になんかしらして~それで~、ま、セレナちゃん達の方は向こうに任せよっか、何か私達が入ると厄介になりそうだし」

 

「うん、僕もそう思ってた所、それにお家の猫たちの相手しなくちゃいけないしね」

 

「そんじゃ、友里ちんに連絡入れて―っと、うん、返信来たね・・・ん?

 翔希君、一回連絡入れて欲しいってさ」

 

「僕に? 何だろ・・・はい、こちら翔希、友里さん、どうしたんですか?」

 

 

 普段扱っているスマホデバイスではなく、軍事用デバイスで通話する、いや、通話料の問題じゃないよ? ただ、今は軍事作業中だからこっちで連絡してるだけ―

 

 

『翔希くん? 今ちょっといいかしら?」

 

「良いですけど、どうしたんですか?」

 

『どうした、ではないわよ! 彼女に一体何持たせたの!?』

 

「え? ちょっと待ってください、話が見えないんですが―」

 

『とにかく直ぐ来て! 場所は分かる?』

 

「えっと、はい、すぐ行きます。 では、また後で。

 ・・・なんだろ、持たせちゃいけないモノでも渡したかな・・・?」

 

「なんかあるんじゃないの? わたしは知らないけど、っと、一課の人達が集合し出したし私は行ってくるよ、それじゃまた後でね? 翔希くん」

 

「うん、また後で」

 

 

 そうして僕達は解散した、まぁ、まだ世界が揺れ動くには遠いんだろうな・・・それでも、すぐそこには脅威がある事を、彼女たちは知っているんだろうな・・・

 さて、これからも忙しくなりそうだ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 数刻戻り、セレナサイド

 

 こんにちはですね、クリスです。

今はお姉様の看病をしている所で・・・

 

 

「お姉様・・・」

 

「大丈夫よ、ただ疲れて寝ているだけだから」

 

 

 私にそんな言葉をかけてくれているのは、二課の情報担当の友里さん。

 お姉様が気を失ってから数刻、心配でお姉様の近くから離れたくない私の我儘を聞いて他に色々やってくれているのが友里さんで。

 他の二人は取り敢えず此処の店の人に色々話を付けて貰ってる所・・・ですね。

 幸い、ノイズは全滅した後だったから良かったですが、最近の姉様は気を失う事と鈍痛を担う事が非常に多いようで・・・でも、原因は分かる気がします。

 だけど・・・

 

 

「お姉様・・・そこまで、気負わなくても良いですよ・・・もう、独りぼっちじゃ、無いんですから・・・、分かって、下さい、お姉様」

 

 

 誰にともなく一人愚痴る言葉は遠く、瞳に零す涙は拙く、だけど、届いてくれない・・・ううん、届かなくても良い、だけど、だからこそ、私はお姉様と共にあろうとしたんです。

 あの頃の【雪音クリス】は何処にもいない、そして、優しかったであろういつかの【セレナ・カデンツァヴナ・イヴ】もいない、話に聞いた彼女の優しさは憧れた、けれど、それだけ、結局、世界は優しさではなく力ばかりが先を行く。

 だから、私も、【あの世界】を終わらせるための力を願った、幾度手を伸ばして、手にした力、だけど、それは世界を動かすほどの危険な力、それでも、お姉様は扱う事に何のためらいも無かった。

 まるで何処か忘却に消えてしまった何かを見る瞳で、私の世界を壊してくれた。

 だから、私の全てはお姉様の為に有ろう、そうなり変わろうと願い、信じ、突き進んで、ただ、ただお姉様の為だけに、この力も、私自身もそうあろうとして。

 ・・・だから、あの時、あの【わたし】に出会って違和感を感じた・・・だって、あれは、弱い、棄てるべき私の姿で・・・

 

 きっと、お姉様も、同じ思いを持っていて・・・だから、もう一人の自分は、もう、要らなくて・・・関係も、最早無いと言える、だろうけど・・・でも。

 時折見せるお姉様の優しい微笑みは、何処か現実を喪失する程の眩しさで、綺麗で、美しくて、何にも代えがたいほどの輝きが、私の求めた眩しさが、そこにあって・・・だからこそ・・・

 私は、お姉様の幸せを願って、信じて、だからこそ、復讐を必ず成し遂げる、その為には何でも扱う、私も、何にだってなれる、そう告げて、告げられたのは一言【私以上に、自分を大切にして、クリスはたった一人しかいないんだから!】 そう、泣きながらに伝えられた言葉は、私の思っている事そのままだった。

 

 だから、私はお姉様と一生を共に生きようと思った、その道がどれほど過酷であろうと絶対に自己犠牲をしないと、互いに約束した、たとえ何が起ころうと絶対に一緒に居ようと。

 その約束、私は絶対に忘れません、誰に何を言われたって、私はお姉様のモノです。

 たとえお姉様が私を拒絶したとしても、私の存在はお姉様の為のモノ、ですから・・・

 

 

「お姉様、絶対に、私を一人に、しないで、くだ、さい・・・お願い、ですから・・・

死神でも、誰でも関係ない、私は、クリスはお姉様だけのモノです、だから・・・」

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いてか聞かずか、友里は静かにその場を後にした、互いにたった一人の大切な人、だけどそれは歪な親愛、そして信愛。

 友里が廊下に出た後ため息を吐きながら、店側に顔を出すと―

 

 

「はうぅ~ ツヴァイウィングのお二人が~ あぅー」

 

「あ~ その、大丈夫か?」

 

「あひゃぅ! だ、大丈夫れふ! 楓子はぜんじぇん問題ないでふみゅ!?」

 

「ちょっと、落ち着いて! ・・・二人とも、何してるの?」

 

「いや~、普通に接してただけだと思うんだけど、なぁ? 翼?」

 

「いや、奏は明らかに距離が近いと思ったけど・・・」

 

「そうか? けど、勝手にサイン書いたのは翼の方だろ?」

 

「あ、あれは! あの、友里さん、ごめん」

 

「はぁ、他の問題は翔希くんたちが片付けてくれてるとは言え、こうやって問題を起こすのは如何なものか、と司令達なら言うでしょうけれど、今回は非番な時の応急措置として処理しておきましょう。

 それで、大丈夫だったかしら? えっと」

 

「あ、自己紹介がまだでした! すいません!

えと、柴羽月 楓子(しばつき ふうこ)と言います! リディアン音楽院の二年です!」

 お姉さん方が助けてくれたので怪我も何もありません!」

 

「そっか・・・? ちょっと待てよ、セレナは確かわたしと同い年だからアンタの方が年上だろ?」

 

「はえっ!?!? そ、そうなのですか!? て、てっきり成人してる方かと・・・」

 

「まぁ、セレナの応対を見るとそうだな、確かに年上の綺麗な女性に見えても仕方ないな・・・

実際、私も奏も初めて会った時明らかに年上だと思った事だし・・・」

 

「だよな~、まさか同い年だなんて思わないよな~

・・・・・・それだけ、辛い事を受けて来たんだろうな・・・あいつ・・・」

 

「奏・・・」

 

 

 二人の言いたい事は二課でも皆が思っている事。

 それはクリスからも伝えられた世界の衝撃で、彼女たちを助けることが今の自分達には出来ないと言われているようなものだった。

 事実、こちらの装者たる奏や翼では片手間で戦闘不能にされてしまう程、二人ともに相当に鍛錬をしてきているはずにも拘らず、だ。

 それだけに、いや、それ以上に彼女の在り方、力強さは異常ともいえる、それはクリスに対しても同じ事であって・・・。

 

 

「所で友里さんがこっちに来たって事は、起きたのか?」

 

「いえ、クリスさんに任せることにしたわ。

私が居ても大したことは出来そうになかったから」

 

 

 何故か二人してこちらをジト目で見てくるのだけれど、何かまずいことしたかしら・・・?

 今はそれよりも二課としてすることをしましょうか。

 

 

「なぁ、友里さん、セレナの様子を見に行っていいか?」

 

「私も、いいですよね」

 

「え、えぇ良いと思うけど、そんなに心配にする事・・・?」

 

「なんだろうな・・・気になるというか、着替えはいくつか渡したけど、マフラーなんて入れて無かった筈なんだ」

 

「何かに紛れて入ったとかは?」

 

「それだったらセレナ達が付けてくるはずは無いと思う」

 

「ま、まぁ、ただの過ぎた心配になってくれてればいいのだけど・・・」

 

 

 そうして、友里は今回の件の仕事をこなすことにして、奏と翼はセレナのもとに・・・

 これが先程の会話に繋がり、そして混沌を更に激化させていく――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「そーいや翔希くん、目標の場所がなんでわかるの?」

 

「電磁波辿ってるだけ、と言っておこうかな?」

 

「いやそれ本気の嘘じゃん! と言うよりそのデバイス絶対追跡機能付いてるよね・・・」

 

「まぁ、少し改変はさせて貰ったし・・・それじゃ、行きますか」

 

「ほ~い、またなんかあったら報告よろ~」

 

「そっちもね、リューシェ」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 



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第二十話

セレナさん夢編、多分この後しばらく夢は出ない、と思う
 詰まる所小さいセレナちゃんは当分出ないです、多分
 ・・・こっからもう少し早く本編進めたいですね、ホント、色々書いてるけど、先日の切ちゃんの誕生日とか当日に書き終わった位ギリギリやったわ・・・
 ・・・因みに次はマリアさんの誕生日までああいうのは書かないと思う、多分。
では、本編へ・・・どうぞ



―――一方、眠っているセレナは―――

 

 

 

―――――Phase SERENA―――――

 

 ・・・ここは・・・

真っ暗な世界、だけど、その暗さになぜか懐かしさを感じている自分が居る・・・だって、ここは――

 

 

 

「・・・お久しぶり、で、あってますか・・・?」

 

「・・・間違って、ないわ、もう一人の、私・・・」

 

 

 其処にはいつか見た昔のわたしがこちらをしっかりと見つめていた、逃さないかのよう、だけど、憐れんでいる様な・・・複雑な感情が直ぐに見て取れた。

 でも、この子が私を呼んだわけでは無いと思う・・・でもなんで彼女が?

 

 

「それで、こちらに来ているって事は、何かしら私に用事が―」

 

「・・・そうだと思ったんですけど、大体の話は雪音さんが言っててわたしから言いたい事ってあまりないんです・・・ただ」

 

「ただ?」

 

「自分の身体を大切にしてください! ただ一人の孤独な体じゃないんですから!」

 

 

・・・それは、分かってる・・・けど。

 

 

「なら・・・貴女には分かるの・・・この身体の痛みが、苦しみが、悲しみが!

どれだけ絶望してきたのか・・・わかって、くれるの?」

 

「それは・・・」

 

「貴女の世界についてはこっちに来た立花から聞いたわ。

 そっちにはマム、ナスターシャ教授がいるそうね」

 

「・・・・・・」

 

「せめてマムだけでも生きていて欲しかった。

たとえ少ししか生きられなくても、導いてほしかった・・・そうであれば、私も少しは違ったかもしれない、けど、そんな導なんてどこにもなかった!」

 

「でも、それでも! マムや姉さんがちゃんと導いて―!」

 

「そんなモノ・・・無かった、有ったのは私が紡いで纏ったアガートラームだけ!

姉さんが最後に遺したのは生きていて欲しいという願いだけ、いえ、【呪いの言葉】だけだった!

 だから生きた、生き残り続けたよ! でも、それでどれだけ必要と、大切だと思っていた人が亡くなったと思ってるの!?

 私を大切に守って一緒に歩んでくれた【あの人】は私を残して最後に亡くなった、悲しかった、辛かった! だけど、生き残るしか無かった! なんで、何でまだ小さかったわたしに何もかもを背負わせるの!

 無理だよ、何も呪わずにただ生きるなんて、無理だった・・・挙句に奴隷商に捕まって、売り飛ばされて、たどり着いた世界には人間の悪意しか無かった・・・・・・・・・だから」

 

「・・・殺したんですか・・・その人たちを・・・」

 

「えぇ、凄く甘い味がしたわ・・・今思い出しても気味が悪くて、解放される思いは楽しくて・・・だけど・・・」

 

「そんな事をして、気が楽になる訳が―っ!?」

 

「・・・? もう一人のわたし? どうしたの?」

 

「何で、悲しそうなのに、笑ってるんです・・・か?」

 

「え、笑って・・・?」

 

 

 頬に触れてみる、と不思議と口角が上がってるのが分かる。

私は、笑いたいわけじゃ・・・え? なんで・・・なに・・・が?

 

 

「ち、ちがっ!? 私、笑いたいわけじゃっ!?

違う、そうじゃないの! 私、わたしはっ!?」

 

「落ち着いて下さい! 別に怒る訳じゃないですから!

落ち着いて、ゆっくり深呼吸してください・・・ゆっくり」

 

 

 言われたようにゆっくりと深呼吸しようとする、だけど、何故か心からその笑みが消える事が無くて、恐くて、震えて、だけど抑えられなくて―――

 まるで、壊されるかのようで、いや、こんなの、こんなの!!!

 

 

「こんな感情、私じゃない!!!

誰! 私にこんな思いをさせているのは! だれなの!?」

 

「落ち着いて! お願いだから! そんなに焦ってちゃ変えられるものも変わらない!

だから―」

 

 

 落ち着いて、その言葉の後には自分の感情が何処かにトンでイキそうな感覚と一緒に真っ黒な狂った感情が溢れて、溢れて、あふれて、アフれ・・・あれ・・・わたし・・・?

   あれは・・・わたし・・・・・・?

 

 気が付けば、真っ暗な感情が、真っ黒な大樹の様な形を成してこの精神世界を覆いつくしていた。

だけどソレを見て感じ取れたのは小さいセレナで、その中心にいたセレナは―――

 

 

「もう一人の私! ううん、セレナさん! わたしも頑張るから! お願いだから! 自分に、過去に、呪いになんか負けないで! わたしも、雪音さんも、みんな貴女を助けたいから、頑張って、挫けてでも、助け出したくて、だから!」

 

 

 ギアを纏い黒い大樹を少しずつ切りつけながら声を張り上げる。

 その小さくも優しく、張り上げた声は届いてるか分からない、だが、大樹は尚も呪われたセレナを縛り上げ、あたかも手中に収めたかのように、微かな笑い声を吐き出しているかのように胎動する。

 それがどうしようもなく許せなくて、助け出したい、そう願ってやまない、ううん、願うんじゃない、助け出したい、たとえ弱くても、この力は、いつか誰かを助けるための力だと、そう自分に言い聞かせて、だから、だから―――

 

 

「逃げなさい、もう一人のわたし・・・この呪いは、ただじゃ―」

 

「黙っててください! このぐらい、わたしでも!」

 

 

 そう自分に言い聞かせ、弱いながらも短剣をひたすらに突き立てる、だが甲高い音と共に何度も弾かれてしまう、だけどそれを意にも介さずに繰り返し刃を突き立てる、だけど次第に大樹がその枝を少女に向かって振り下ろし――

 

 

「お願い! 避けて!」

 

 

 少女の叫びは届くことなく、無音に延ばされた枝木は少女に容赦なく叩きつけられる・・・が

 

 

『・・・ったくみてらんねーな!』

 

「っ!? だれか、居るの?」

 

「えっ、ヴェイグさん?」

 

 

姿は見えない、だけど小さいセレナの周囲を護る様に特殊な模様をしたキューブが展開されていた。

 あれは・・・?

 

 

『このままの状態じゃ一方的にやられちまう、一旦離れろ!』

 

「っ! はい!」

 

 

 判断が少し遅いが状況的に不利だと判断したのか、一旦大樹から離れ状況の確認を始めた。

 その間に―――

 

 

「(出来ればこの呪縛を変容させることが出来れば・・・けど、さっきから頭に来るこの声は何・・・?)」

 

 

 今現在、お互いのセレナの脳裏に不可思議な声の様な文字列が不明瞭に羅列しており、時折聞こえる声の様な叫びの様な【音】が互いの判断を鈍らせている。

 それは先程小さいセレナを助けた声じゃない、でも、何処かで聞いたような声も混じっていて・・・

 

 

「ねぇ、小さい私、この声は響いている・・・?」

 

「・・・声・・・ですか・・・」

 

「さっきから、頭に反響する音・・・聞き覚えがある?」

 

「・・・・・・この歌・・・まさか・・・え、けど・・・・うぅん。

多分、いや、絶対に、マリア姉さんの残した思いが、この歌には残ってる!」

 

 

 だから聞いて! そう言った彼女の言葉は何よりも強くて、だけど優しくて・・・

 なんで、何でこんな私にそんなに優しく笑って話せるの・・・? 私はあなたとは違う、ううん、全くの別の存在になってしまった、だからあなたがそんなになって頑張る意味も必要も無い、なのに、なんで―

 

 

「誰かを助けるのに、理由が、必要ですか!

だったら、言います! これは、わたしの、ううん、私達のワガママだ!」

 

「っつぅ・・・何て、なんで・・・」

 

 

 明るいワガママなんだろう・・・そんなワガママを言えたら、私も変わっていたんだろうな。

 それに、彼女はまだ私の【大樹(マリス)(悪意)】を祓おうと必死になってくれている・・・だとしたら、私は・・・

 そんな思いを知ってか知らずか少しずつながらきつく巻き付いてくる大樹は、未だに成長が止まる事は無い、でも、これは、きっと私に呼応しているんだ・・・だったら。

 

 

「・・・一緒に、歌って、いい?」

 

「うん、一緒に歌って! 私達の大切な思い出(うた)を、そして、世界は不幸ばかりじゃない事を知って!」

 

 

 大切な・・・歌・・・思い出・・・マリア姉さんとの・・・けど、遺してくれたモノは・・・わたし、何か、忘れて・・・?

 思い出せない、けど、この音は分かる、懐かしい、姉さんの歌と、【何か】に繋がる、大切な―――

 

 

  「りんごは浮かんだ、お空に」

 

 

この歌声、この歌、覚えがある・・・だけど、詩を忘れてしまった、大切だったのに、私の、大切な思い出―――

 

 

  「ラーラーラ、ラララーラ、ラーラララ」

 

 

 何時しかの、永久(とこしえ)の歌、でも、歌っていると不思議と落ち着く、もう、歌詞も何もかも覚えていない筈なのに、彼女の歌と一緒に歌える。

そっか、私、歌いたかったんだ・・・なんで忘れていたんだろ、歌を纏う力を持っているのに、歌を、大切な思い出すらも、捨てかけて―

 だから、今に思い出したこの数瞬の思い出だけは、どんな悪意にも―

 

 

 「(打ち破らせたりは、絶対に、しない!

 もう二度と、忘れない、姉さんとの大切な思い出はぁっ!)」

 

 

 強く願い、数瞬、瞬きと共に拳を握り思い描く、私は、立ち止まってる場合なんかじゃない!

 忘れてでも、残っている、想いは、まだ、生きてるんだから―――

 

 

 

   《お前は、そんな簡単に生きられると?》

 

 

 この、声は・・・っ!?

 

 

   《我等はお前と共にある、忘れた等言わせぬぞ》

 

 

 あぁ、そう、だったね・・・私は・・・

 

 

『様子がおかしい、一体何が・・・?』

 

「っ!? ヴェイグさん、あの黒い靄は―」

 

『気を付けろ! 無理なら引いた方が良い! こいつは―』

 

 

 

   「さっきから聞こえている声は貴方だったのね、ドヴェルグ族、だったかしら?」

 

 

 

「っ!? ヴァイグさんの事が、分かって?」

 

『違う! 多分何かしら気配を感じていたからだろう、けど、近くで見てわかった。

 コイツ、俺達が作った遺物を大量に持ってやがる、それで普通でいられる方が異常だったんだ』

 

「じゃあヴェイグさんの事が分かったのは」

 

『恐らくそっちの言う【聖遺物】の記憶からこっちを特定したんだろう。

 第一、アレらを扱えるのはそれ程居ないだろうからな・・・とはいえ、どういうことだ?』

 

「? どういう、事ですか?」

 

『さっきから動きが無い、攻撃するなりやるならしてくるはず―』

 

 

 

 そう、先程発した言葉を皮切りに囚われて居るセレナは項垂れるようにしながら、その口元は歪つに微笑み、無機質な金属音が木々が揺れ動くたびに激しく鳴り出す。

 ただその中で不敵な笑みが響き、だけど、瞳から零れる【ソレ】を見逃すことは、小さいセレナにはできなかった、それは、恐らくだが彼女の、たった一縷の望み―――

 だからこそ、小さいセレナは思った、もしかしたら、わたしもこうだったのかと・・・でも、涙は決して噓をつかない事を、知っている、分かって居る、だから―

 

 

  「(その涙に、応えるよ、もう一人の私・・・だから聞いて、そして思い出して、姉さんとの思い出を、明るく笑えたその時を―――)」

 

   「―星が、生まれて、歌が生まれて、ルルアメルは、笑った、常しえと―」

 

 

 静かに微笑みながら歌う、謡う、詠う―

歌は決して誰かを縛り付ける物じゃないと示すために、繋ぐための絆である為に―――

 だから―

 

 

 「(歌って、あなたなら、わたしでもあるあなたなら、分かるはずだから!)

 

   星がキスして、歌が眠って―

 

 

 「(歌はあなたの居場所を照らしてくれる、だから気付いて、貴女は―)」

 

   「かえるとこは、どこでしょう・・・?」

 

 

 「(独りじゃない、だから、だから―――!!!)」

 

   「か、え、るとこは・・・どこでしょう・・・?」

 

 

 「貴女には、変えられる、帰れる今がある、だから!」

 

 

 帰ってきて!

小さな身体から発せられる心音はどんなものよりも強く、熱く、時に静かに、だけど激しく照らし出す。

 この世界には眩しすぎる程の白銀が辺りを照らし出す、それは彼女の世界を照らす星空の様に、月の様に明るく輝き照らし出す。

 意識が混沌に溶けだし混濁した彼女の意識は、小さな歌声から徐々に明るい世界へと連れ出そうとする、ただ、彼女を飲み込もうとする闇がそれを許さないかのように、蛇のように巻きつき離さない。

 だが、それでも囚われた少女はその遺された唄を歌おうと口から漏れ出す息に乗せて、か細く吐き出される音へと変わりつつ、だがそれを何者かが許さないというように縛り上げていく。

 それでも、彼女は―――

 

 

「(私は・・・もう一人じゃない、ううん、独りじゃ、もう居られない!

・・・貴女に応えるよ、セレナ・・・私は、私である為に!)」

 

   「りんご、はおっこちた、じべたに・・・」

 

 

 絡まっていた大樹が少しずつ変容し、彼女の意識を取り戻そうとナニカが蠢き出すように変化し始める、だがそれと同時に彼女の背後に悪魔の様な、鬼の様な形相のオーラが立ち昇り、歌わせることを否定するかのように囚われて居るセレナの首を締めあげようとして―――

 

 

 「(!? やらせない!) 行って! 【ティアライト】!」

 

 

 小さく木霊するナイフを一本投げ出した、それは大樹に当たり力無く落ちるかに見えた・・・が

零れた一滴が辺りの景色を少しずつ変えていく、空に、地に、世界を表すかのように自然が生まれていく。

 それと同時に悪魔が蠢き、鳴き出した、まるで理性が崩壊していくかの様に・・・

そうして、囚われている少女は―

 

 

 

 

   「りんごは、うかんだ、おそらに・・・」

 

 

 

 

 最後の一節を歌い終え、左手に力を籠める。

 右の手で枝木を掴み、口元を怒気に歪ませ、思い切り身体を捻り回し黒き大樹を崩していく、枯れ木を砕くかのように、そうして彼女は―

 

 

 「ありがとう、小さい私・・・さて、貴女と会うのは何度目かしら? 私の悪魔・・・いえ、サタン?それともタナトスとでも呼べばいいかしら?」

 

 

 大樹から抜け出し、未だにその場に残るソレに相対し言葉を掛ける

まるでそこに最初から居たのかのように―

 

 

 

  《お前は我々を裏切れはしない、この先、一生(さいな)まれ続ける、それでもお前はそんな不純な【絆】なるモノを信じるのか? 自分を裏切ったその曖昧なものに》

 

 

「・・・えぇ、確かに、私はそれを否定し続けていたし、共にいる者には隷属を敷いていたのは間違いない、けれど、クリスは違う・・・そして、わたしでもある彼女も―」

 

 

  《だからこそお前は傷付くのだ、我々に身を預け、世界を、人類悪の抹消が使命、我等は、お前のその意思に従い共にある》

 

 

「それも分かってる、だから私はこの身を生涯呪うと誓った身、だから―」

 

 

 そう、だから彼のような存在も、ラルムのような存在も、私には必要で・・・だから、人を、世界を呪い殺すと決めた、あの怪物(ネフィリム)を生み出したこの世界を、何よりも―

 

 

「弱い私を許せない、だからこそ、あなた達の様な力持つ呪いが必要だった、たとえそれが何であれ、私は力を得る為に手段を選んでなんかいられなかった」

 

 

  《だが、今のお前は―》

 

 

「優しさに絆されている・・・言いたい事は分かる、だけど信念には貫くための意味が必要、それはあなたも分かるでしょ?

 私は自分が強いなんて思った事は一度もない、まして最強なんて(おご)りは自分の身を殺すことにしかならない・・・だからこそ、手に入れる必要があったの、あの遺物を・・・そう、ドヴェルグダインの遺産を―」

 

 

「でも! それでも、貴女は・・・自分を見失ってなんか居なかった!

どんな呪いにも打ち勝ってきたから、今ここで、自分を背負い生きている・・・そう、ですよね?」

 

「・・・たった二つの聖遺物を同時に纏ったぐらいの怒りしか知らない貴女程度では、私の全部は分からないでしょ・・・そんな程度じゃないの、私の怒りは・・・私の思いは―――」

 

 

  《そうだ、故にお前は渡り歩いた、我らを求め、我らを扱い、この世界を、己が世界を、罪を、原罪を、スベテヲクライ、新たなる世界を、カミヲ食らいつくスモノへと昇華せしめる―》

 

「あぁ、そんな気さらさらないわ、それと、我が出過ぎてるわよ?

 そんなのだから、私の様な矮小に負ける、絶大な力を持っていながら、強さなんてあった物じゃない・・・

 最悪で最弱、だから・・・私は・・・姉さんたちの後なんて追えない、もう、あの背中を追いかけるなんて、出来ない・・・私はもう、罪を知らないモノではない、地獄を知り、人の闇を知って、絶望を知って・・・それで、それでも、人を信頼したかった! だから・・・クリスの手だけは、振り払えなかった、だから―」

 

「それが、貴女の優しさ・・・守りたいと願う、本当の強さ・・・そのはずです。

だって、こんなに離れてるのに、貴女の手は、暖かさに溢れてるんですから」

 

「・・・もう一人のわたし・・・」

 

 

 

 そっと隣に立って私の手をぎゅっと握りしめてくれる優しい両手、やっぱり・・・貴女は優しすぎるのよ、もう一人のわたし、でも、だからこそ、私は・・・

 

 

  《それで、そんなハンパな心で、お前は【ホロボスモノ】に対抗できると思っているのか? お前の全てを、何もかもを壊したアレを、幾度となく挑み、敗走した事、忘れた訳ではあるまい》

 

 

 その事は分かって居る、でも、だからと言って何もかもを無碍にできる程、私は・・・壊れ切れてない・・・多分、心は、あの時の優しさを忘れてないんだ。

 だとしても、私は―

 

 

「えぇ、忘れはしない、何事も、忘れるものですか、私の起こしたことも、アイツが滅ぼした何もかもを、それは、全部私と言う糧になっている・・・だからこそ」

 

 

 

 

    お前も力を貸せ!

 

 

 

 小さな一言、だけどそんな一言で十分だった

私の中にある思い全部をぶち撒けた訳じゃないけど、それでも、コイツを従えるには十分。

 それでも、足りはしない・・・あいつは、それ程にまで強くなっていってる。

こんな所で、立ち止まっている場合じゃないんだ・・・だから、だからね・・・

 

 

 

「小さい私・・・ううん、多分生きてる経験はあなたの方が上だと思う、だから・・・姉さん」

 

「ふぇっ!? え!? な、なんでその呼び方なんですか!?

 むしろわたしのほうから貴女を姉さん呼びするならわかりますけど、え? 何で!?」

 

「ふふっ、慌てた表情も可愛いわね、姉さん」

 

「ちょ、ちょっとどういう事なんですか! いつもの様に呼んでくれれば・・・それと、その、悪魔さん? どうなったんですか」

 

「あぁ、彼なら―」

 

 

 後ろを少し見やり、先程まで悪魔の様な形相をしていたソレは跡形もなくなっており、そこに立っていたのは執事服を着た黒山羊の顔をした奇妙な人物と、その傍らに黒龍の様な姿をした人型の生命体がこちらに向かって跪き、頭を垂れていた。

 それを後目に、小さいセレナに大丈夫と一言吐き出し、戻れ、の号令と共にその場から黒煙を撒き散らし消えていくのが見て取れた。

 

 

「なんか、呆気ない、と言いますか・・・」

 

「私がブレてしまった時に出てくる悪霊のようなモノよ、貴女が気にする事じゃない・・・けど、呼んでしまったのなら、ごめんなさい、それと、ドヴェルグの彼も」

 

「えと・・・ヴェイグさん、いい・・・ですか?」

 

『構わなくていい、どっちにしろ、俺も話す事がある』

 

「声は聞こえて無かったけど、本当に居たのね・・・ドヴェルグの民・・・」

 

『知ってたから俺を呼んだんじゃないのか?』

 

 

 言いながら私とセレナの間にその姿を現した彼・・・確か彼女は彼の事をヴェイグと言っていたわね。

一応でもあるけど、彼には感謝している・・・あの世界を生き抜けたのは彼らが作ってくれた遺物のお陰だったから

 

 

「でも、不思議ですね」

 

「? 何か?」

 

「だって、本当だったら何かしらで行き来しないと会えないのに、私たちはこうして夢で会って話しあえて・・・それに、ヴェイグさんとも一緒に居られる、本当に不思議と思いません?」

 

『確かにな、普通人間の深層意識だったら俺も入ってこれはしない、が、此処はそれとは違う世界なのかもしれないな』

 

「・・・それは、当然かもしれないわね」

 

「え、どういう―」

 

「もしその深層意識が人間における意識の底の方だという意味なら彼の言う通りだけれど、私の場合は・・・ヴェイグさんでいいかしら?」

 

『呼び捨てでも構わない、あんたの事はどう呼べばいい?』

 

「同じセレナだと面倒ね、カデンツァと呼んでもらっていい? それで用事なんだけど、私に触れて貰える?」

 

『分かった、カデンツァ、だが触れる前にいいか?』

 

「・・・あまり時間は無いと思うのだけど、何?」

 

『お前は一体どれだけの聖遺物を喰らってきた?』

 

「・・・・・・喰らったのは、ファ▲×●Xのものだけ、の筈・・・」

 

『・・・成程な、お前の状態はそう言う事か、じゃぁ、触れさせてもらうぞ』

 

「え? 今何を言ったか分かったんですか?」

 

『悪い、セレナ、少し黙っていてくれるか?』

 

「あ、はい」

 

 

彼の前に屈み、手を広げ、彼を受け入れるように・・・抱きしめる様な感じで―

 

 

「あの、もう一人の私? ひょっとしてヴェイグさん抱きしめようとしてません?」

 

「聡いわね・・・もう少しだったのに」

 

『お前何気に俺をぬいぐるみみたいにする気だったろ今!』

 

「はいはい、本当は胸のあたりをと思ったけど、思ったより時間もなさそうだから両手で良い?」

 

『はぁ・・・本当にコイツお前と同一人物かよ・・・』

 

「えと、お、大きくなったら多分色々と綺麗になれるから、こんな感じに可愛いもの好きになってると思うよ、うん、多分」

 

「・・・さっきまでの緊張感返して」

 

『ソレをお前が言うな! はぁ、さっきまでの雰囲気は何だったんだお前は、まさか今のコレが素なのか?

 さっきのは演技とかいうんじゃないだろうな!』

 

「そんな事言わないわよ、さっきのも本気の私、そして可愛いもの好きなのも私よ?」

 

「・・・ヴェイグさん可愛いですもんね、分かります」

 

『・・・もう何も言わんぞ』

 

 

 あら、拗ねちゃったか、まぁ、冗談はここまでにして、そろそろ本当に時間が無いからやる事終わらせて話したい事も纏めちゃいましょうか

 

 

「それじゃ、ヴェイグ、お願いして良い?」

 

『最初からそうしてくれればよかったのによ・・・』

 

「ま、まぁまぁ、落ち着いて」

 

『はぁ、いいか? お前に触れて出来る事は、俺達が生み出して来た数多の遺産がお前にどれほどの影響を与えているのかを探るのと、どれだけの量持っているかの探知だ、それ以上も以下も出来ないからな。

 お前も、何とかしてほしいとも思って無さそうだしな』

 

「えぇ、それで構わない、はじめましょうか」

 

 

 私は両手で祈るように重ね、その手の上にヴェイグが右手を乗せる

 正直言えば、どれがドヴェルグ=ダインの遺産か分からない私にとっては、これが一番助かっていると言っても良い行為であり、救い、にもなってくれていると思ってはいる。

 ヴェイグは表情を変えることなく、眼を閉ざし、探るように何かを唱えていた。

 でも、そろそろ、この世界も限界が近い、流石にあんな事に時間をかけ過ぎた・・・このモフモフ抱きしめたいのに・・・? あ、思考がズレた。

 

 

『おい』

 

「ごめん」

 

「ふぇ?」

 

『・・・はぁ、まぁ、大体わかった』

 

 

 手から離れていくヴェイグの掌・・・もう少し味わっていたかったんだけど、今はそう言う事じゃないからね、うん、大丈夫、分かってる・・・それに―

 

 

「それじゃあ、本題から言ってもらえる?」

 

『・・・アンタがどうやってコレらを扱ってるかは分からないが、少なくともアンタの持ってるドヴェルグの遺産は、何故かアンタを気に入ってるみたいだ、不思議なことにな』

 

「え、それならそこまで心配する事じゃないって事ですか?」

 

『いや、違う、むしろその逆だ。

 カデンツァの持っている俺達の遺産は正直数えるのが億劫になる程の量だった、が、それを無しにしても普通の人間が持っていいレベルを遥かに超えている・・・アンタ、一体・・・』

 

「そう、この子達は、扱われたいと思ってくれてる訳ね・・・ありがとう、それが聞けただけで十分よ」

 

『おい待て! お前の身体は確かに普通じゃない! だがそれが【あいつら】を扱っていい理由になんかならない! いつか絶対限界が来る、だから今のうちに扱うのを―むぐっ!?』

 

 

 人差し指で彼の口を塞いであげる、分かってる、これ以上扱えばどうなるのか・・・でも、それでも

 

 

「貴方の優しさに感謝するわ、でも、止まれないの・・・これは、私が望んだ事だから―」

 

『・・・・・・』

 

「そろそろ時間ね、ありがとう、こんな私に付き合ってくれて」

 

 

 周りの景色が少しずつ崩れて行っているのが分かる、今回は大分と長かったわね・・・

でもその分、大切な何かを得られた気もして―

 

 

「あのっ! また、会えますよね?」

 

「・・・今度は、こんな不安定な所じゃなくて、現実で会いたい・・・かな」

 

「はい! 絶対、会いに行きます! だから!」

 

 

―――――生きるのを、諦めないでいて―――――

 

 

 

 それは、いつしか自分の呪いと化していた言葉、だけど、彼女から響いた言葉は、不思議と暖かくて、でも、だからこそ・・・

 

 

「(響くわね・・・心に、想いに・・・)」

 

 

 そうして、この時間は終わりを告げるように、ガラスが割れる音と共に薄っすらと消えていく、再開を夢見て、小さな私とのまたの別れを、心に甘受しながら・・・甘くて、心地よい時を感じて・・・わたしはまた、おちていく、落ちて、堕ちる・・・知っている世界へ・・・

 

 

 そして、私は・・・

 

 

「(この痛みに・・・落ちていくのね・・・恨み裏切られ、絶望に満ちる世界に・・・

けど、諦めない、絶対に、生き抜くから、だから、姉さん)」

 

 

 

 

     行ってきます

 

 

 

 

 小さな声は何処かに響いて消えて、でも、暖かさは抜けない、この想いは、絶対、手放しちゃいけない大切な、ものだから。

 だから、小さな私・・・ありがとう、あの頃の、大切な歌を思い出させてくれて・・・そして―

 

 

 

 

   行ってらっしゃい、もう一人の私

 

 

 

 光になって消えゆく世界の、最後に響いた言葉は、何より暖かで、何よりも心に強く届いた・・・

 あぁ、貴女のような世界に生きられたら・・・うぅん、私は、私の道を、ただ、ただ歩いてく。

 そう、決めた、だから―

 

 

 

これからも、宜しくね・・・私の(呪い)

 

 

 



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第二十一話

 やっと夢部分が終わって・・・次は会議に向かう感じです。
・・・時間経過ゆっくりすぎない・・・? 三十話までに例のライブ行けるのかなこれ・・・無理か?
 いやそこは何とかしよう、うん。

・・・・・・そう言えば、Appleって楽曲コード本当に無いんですね・・・
 普通に有るかと思ってたよ・・・おかしいねぇ。


 ・・・では?


こんにちは、クリス・カデンツァヴナ・イヴ・ユキネです。

 前の話では私たちは出てないという事になりましたが、リアル側の姉様は結構大変だったんですよ?

 

あ、若干違うような話もありますが、私達は元気です、はい、建物が少し無事じゃないですが・・・

 と言うのも、姉様が眠りに落ちてから初めに起きた変化が発熱、それから藻掻く様にわめき出して、えっと、最初は一人で何とかなったんですが、結構大きな音が出てしまってですね、はい、友里さん達に心配されました。

 

 何が起きたかって言うと、ですね、お姉様の周りに黒い大樹の様な枝木が大量に現れて、お姉様を覆いつくして、妨害しようとした私を的確に迎撃して来てたんです。

 とはいえ、それも五分足らずで終わりましたが、あとで友里さん含め二課の皆には色々言われそうだけど、今はそれはどうでもよくて!

 

 

 

「お姉様、大丈夫ですか?」

 

「クリス・・・よね、えぇ、大丈夫、ごめんなさい、大分迷惑かけたみたいね」

 

「うぅん、お姉様からくる迷惑なんて大したことありません!

それに言ったじゃないですか! 私はお姉様と共にあるって・・・ひょっとして、傍に居ちゃ、ダメですか?」

 

「そんな事は言わない! 絶対、言わないから、だからクリス、私と一緒に居て」

 

 

 はい、お姉様!

 

あれから数分だけでしたが、まぁ、こっちは大丈夫、だと思います、幸い被害は無かったですから。

 後ろで友里さん達が色々話したそうにしてるけど、知りません! 私には、お姉様が居ればいい、でも、お姉様が私のせいで泣いてしまうのなら、私は・・・

 ・・・優男まで来たみたい、話す事は結構あるとは思うけど・・・

 

 

「ごめん友里さん、僕の報告忘れで迷惑かけたみたいで」

 

「いえ、こちらも注意が行き届いて無かったから、お互い様よ、それに今回のノイズの件もこの子達のお陰で片付いた訳だし」

 

「あたし達が行動制限受けててギアを持ってなかったからホントにヤバかったんだよな~

いやマジで助かったよ、ありがとな、二人とも」

 

 

「・・・お礼を言われる事じゃ、ううん、そんな事でお礼なんて言わないで。

私には、言われる資格なんて・・・」

 

「だが、セレナのお陰で沢山の人が助かったのも事実だ、だからお礼位受け取った方が良いぞ」

 

「やめて、本当に、お人好しが過ぎる・・・そういうの、大嫌いなの、善意が、痛いのよ、私にとっては」

 

「・・・お姉様のしていることは人としての事です。

ですが私たちのしたい事は、人ではない、ましてや兵器の為す事・・・お分かりですよね」

 

 

 そこまで言って、皆して黙る・・・分かって居たけど、お人好しなだけじゃ、人生何もよくなりはしない。

 変える努力が、この世界からあんな物を無くす為の力が、私達には欲しい・・・だから

 

 

「お姉様、明日にでも、二課に向かってみませんか?」

 

「えっ? な、何で!」

 

「確か、二課の聖遺物にはデュランダルと言う聖遺物がある筈ですよね?」

 

「え、あ、えぇ、確かに、そうだけど・・・でもあれは―」

 

「はぁ、分かった・・・これ以上多国間をウロウロ回るのはやめ・・・後でキャロルさんも呼んで話し合いましょうか」

 

「うし、じゃあとっとと買い物済ませて明日に備えるか、動けるか? セレナ」

 

「休みすぎたくらいよ、大丈夫、動けるわ・・・けど、大分迷惑かけちゃったと思うのだけど・・・

周りも結構壊してしまったみたいだし」

 

「それなら問題は無いわ、一応こちらで修理の手配はしておくから・・・って翔希くん?」

 

 

あれ、翔希さん・・・? 木目や壊れた家具に触れて何を?

 

 

「これぐらいなら、何とかなると思う、ただ、僕の奥さんに来てもらわないと難しい所が出てるのも事実だけど、使えるようになるぐらいには治せるから問題は無いよ」

 

「翔希くん、また何かするつもりで・・・?」

 

「何かって、まぁ、迷惑かけたし、やってあげるのは普通な事だと思うけどね・・・さて、僕はここいらを片付けたらそっちに合流するよ。」

 

 

 彼女達にも色々訳を話して分かってもらえたし、こっちは問題無いから。

言っては破片とかをかき集めて掃除し始めてる・・・でも、良いのかな?

 

 

「僕たちの事をそこまで信用してほしいとは言えないよ

でも、君たちの瞳に映る世界を、どうか信じて欲しい」

 

「・・・それは、どういう意味で言っているの・・・」

 

「君たちはこの国を見て回っていたはずだ。

そして、誰も君達に優しくしていない筈が無い、それを知っている筈・・・

現に、キミに殺された人達は・・・抵抗した後がまるでなかった、いや、有った人も居たが、それも少数だったよ。

 分かって居るよね、この国は、最悪ばかりが蔓延っている場所じゃないって事、こうやって話しあえるんだから―」

 

 

 

―君達は、もう休んで良いんだよ―

 

そんな些細な言葉、だけど、その言葉は・・・

 

 

休めると思うな! そんなフザケタことを言うな! 何もわからぬ愚か者共が!!!

 

 

 一喝、その叫び声にも近い音は周りを震わせ、更に黒い瘴気を溢れさせるには十分な理由でもあった。

うん、分かってるよ、お姉様・・・だから―

 

 

「そちらは、知らないんです、いえ、話してない以上分かることも無いでしょうし、分かられたいとも思いません。

 だから、放っておいてください・・・私達は、自分のやりたい事をしているだけなのですから―」

 

「だからって、放っておけねぇよ! それだけ強いのは分かってる、けど! けどっ!」

 

「奏・・・うん、私も奏に賛成だ、二人ともは一応ではあるが二課で請け負わせて貰っている以上、私達も無関係とはいえないんだ、だから―」

 

 

 

 あぁ・・・だから、その優しさは―

 

 

 

「要らないって、言ってる・・・どうして、何でそんなに優しく出来るの?」

 

「何でか、か・・・昔、あたしもセレナみたいに荒れてた事はあったけど、な、けど、分かったんだよ、アタシの本当にしたい事が、だからきっとセレナにも―」

 

「傷に障る・・・だから、これ以上は・・・」

 

「・・・うん、そう、だね。

 二人とも、これ以上の対話は要らないと思うよ、けど、二人とも、これを受け取っておいてくれるかな?」

 

 

 手には二枚のチケットが握られていて、それが意味する事は、つまり・・・

 

 

「私達に来いって言う事? この二人のライブに?」

 

「うん、君達には知ってもらいたいんだ。 歌は、呪う為の物だけじゃない事を、誰かを幸せにできるんだってことを、ね?」

 

「ん? なぁ、翔希のアニキ、それってまだ抽選中のチケットじゃなかったか?」

 

 

 書いてあるのは来年初めのライブ、総動員数数万を超える程の大型会場で、一般でも一席2万超えは下らないとか言われてたような・・・

 何でそんなチケットを?

 

 

「抽選中ではあるけど、チケットは事前に出来てるからね?

 後は彼女たちに渡した席を当たらないようにすればいいだけだしね、後は簡単な事だよ、緒川さんも了承してくれたし、それに、聞いてほしいんだよね、奏さん」

 

「はぁ、まぁ、な 折角だし此処の子にも一緒に来てもらえばいいんじゃないか?」

 

「あ~、そっちは当たってもらわないと、ね、流石に何でも優遇するわけにはいかないし、ね?」

 

「面倒増やすわね、あなた」

 

「申し訳ないとだけ言っておくよ、友里さん・・・っと、ある程度の補修は完了したよ」

 

「相変わらず早いわね」

 

「まぁ、ほぼ趣味みたいな感じですからね、DIYは。

 さて、じゃあ今日の本来の目的をやって行こうか、ね?」

 

「ん、あ、あぁ、迷惑かけちまったけど、まぁ、待ってたお陰で、店も再開したみたいだし、行くか」

 

「えぇ、さ、二人とも、行きましょ?」

 

 

「(なんでか踊らされてる気がするのは何故でしょうか・・・

気のせい、であれば良いのですが・・・)」

 

「クリス、今は・・・」

 

「はい、問題無いです、お姉様、行きましょうか」

 

「えぇ」

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 その後だけど、紫葉月さん達と何やかんや話しあったり、お昼をご馳走になってしまって、まぁ、何だかんだ話しあったりしてたら、時間があっという間に過ぎてしまっていて・・・結局買い出しが終わった頃にはもう日が暮れていた。

 あれだけ激しく振っていた雨ももう止んで空には綺麗な夜空が照らし出されていて、地上はそれに呼応するように様々な明かりが照らし出されて行って・・・少し、喧噪に酔う。

 家についた時にはもう八時を過ぎていた、気付いたら家の中には私たちの食事が用意されていて、【電子レンジであっためて食べてね!(^^)!】と、妙な顔文字と共に二人分の食事とボトルジュースが置かれていた。

 ・・・あいつはどれだけ私達の生活を監視するつもりなのか・・・結局、私たちの元の住処に向かう事は出来なかった・・・

 まぁ、時間だけはあると思えばいいのかもしれないけれど、それでも、こんな事をしている間にネフィリムがどれだけ強くなっているか分からない・・・だからこそ、私達は、まだ強くならないと。

 今は、明日の事でも考えればいいか、そういえば、この着る奴はタンスに入れておけばって言っていたけど、確か部屋に衣装掛けがあったはず・・・あ、クリス、お願いできる?

 

 うん、一緒に纏めてしまうとサイズが合わない問題があるから別にしないとね、後の事は、私たちの用事を終わらせてからにしましょうか、明日は速いから、食べ終わって片付けたら早いとこ寝てしまいましょうか?

 ・・・クリス?何?

 

 

「お姉様、少し、円くなりましたか・・・?」

 

「・・・悪気で言ってる訳じゃないでしょ?」

 

「あっ! すいません、あの」

 

「分かってる、性格がって事でしょ・・・

 寝てる時にね、もう一人の私と出会ったの」

 

 

 その時にね、教えてくれたの、姉さんの大切な思い出と・・・あの頃大切にして仕舞っていた歌の事を、ね、眠る時に聞かせてあげる、あの頃の、優しい歌を・・・

 

 

「はい、お姉様」

 

 

 クリスは優しい微笑みを向けてくれる、うん、だからかな、貴女と一生を共にしたいと思ったのは・・・

 そう、だから・・・

 

 

「(あんなものを作り出した過去の人類も、そして今に生きる残虐なモノたちを、そしてそれに連なるフィーネも一生を懸けてでも許す気はない、だから)

 アンタも命を懸けて貰うわよ、フィーネ」

 

 

 誰にともなく呟く言葉は何処かに響き、そして消えていく。

 私は、もう、昔の無邪気で優しい誰かには成れない、ううん、もうそんな時期は遥かに遠く過ぎ去ってしまった、だから、これからは、紡がせて貰うよ、私の、私たちだけの物語を―――

 

 今は、ただ、穏やかなこの時を、謳歌しましょう、ねぇ、クリス・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

・・・翌日・・・

 

 

 

 

 

 私達は昨日言った通り特異災害対策本部の、入口でもあるリディアン音楽院の前に居た。

 と言うのも、だ、私達は入る許可は貰ってはいるが認証用の道具を持っていないので今は手持ち無沙汰の待ちぼうけ状態である。

 只今の時間は六時半を少し過ぎた辺りだろう・・・多分だけど、二課の人はこちらがここに居る事を分かって居るとは思うのだけど、迎えが来ない上、こちらから向こうに連絡する手段が無い、と言う事で待つしかなく・・・と思っていたら、誰かがこっちに走って来るのが見えた。

 あれは、確か二課のオペレーターの・・・誰だったかしら?

 名前は、思い出せないわね、茶髪の撥ねっ毛が特徴で、何だか幸薄そうで影も薄そうな・・・まぁ、迎えに来てくれているならだれでもいいわね。

 彼がこんな時間に来なくてもって言っていたけど、私達には時間が惜しいの、早くして・・・と言ったら渋々ながら私達を二課に案内してくれた。

 

今はまだ人があまりいないそうで、彼はここで徹夜していたらしいのが分かった、のは良いのだけど。

 

 

「ちょっ!? 藤尭君!? 何でその二人をこっちに連れてくるのよ!」

 

「・・・フィーネ、居たの、てっきり出禁かと思ってた」

 

「了子さん、一応協力者なんですからその言い方は無いんじゃ・・・

あ、でも今ここで二人が本気でやって来たら俺達じゃヤバいっすよね、すいません」

 

「あ、いや~そう言う事じゃないんだけどね~・・・ごほん。

えっと、はろ~、わたしがかの有名な科学者の 櫻井 了子 よ? 改めてよろしくね? セレナちゃん、クリスちゃん?」

 

「・・・・・・人攫いが何言ってんの、このクズが・・・」

 

「ね、姉様、今はそんな敵意むき出しにしないでも・・・」

 

「えっと、昨日司令から本部に来るって聞いていたけど・・・こんなに早く来るとは思わなかったし何も準備してないんだよなぁ・・・了子さん、何かいい案ある?」

 

「あ”~・・・聖遺物が目的なんでしょうけど、今は私も近付けないから何も出来ないの、ごめんね~

 それでアレなんだけど、少し昔話でもしましょうか」

 

「・・・昔 「ばなし?」 ?」

 

「そ! 私がフィーネであることを知ってる二人なら、私がどういう存在か分かって居るでしょ?」

 

「・・・・・・えっと、リィンカーネーションシステムで無限転生を繰り返す不死の存在って聞きましたけど」

 

「それでどれだけの犠牲者が出たか・・・聞くに堪えないのだけど、言いたいなら好きにして、私は勝手にさせて貰うから」

 

「ま、まぁそんな事を言いたいわけじゃないのだけど~、そうね~ 私の初恋の話とか「却下!!!」 え~、じゃあ別の色恋話でも―」

 

「そんな与太話を聞きに来たわけじゃない! これ以上ふざけるのなら―「姉様! 待って!」・・・クリス?」

 

「・・・司令さん達が来るまでは時間があります、それにキャロルさん達がこちらに来るにもまだ早いですから、フィーネの話を聞くだけ聞いても、損は無いと思います」

 

「はぁ~、分かった、聞くだけね」

 

「助かるわぁ~、あなた達に背を向けたまま研究なんて刺されそうで怖かったもの、聞く気になってくれて良かったわ」

 

「じゃあ俺はコーヒーでも入れてきますね」

 

「あ、藤尭さん、ホットミルク有りますか?」

 

「ん、えっとクリスさんはホットミルクで、セレナさんは―」

 

「悪いけど、クリスと同じのをお願いできる?」

 

「あ、はい、ちゃっと行ってきますね」

 

 

 藤尭が扉を抜けて行ったのを確認し、改めてフィーネを、いえ、この時は【櫻井 了子】だったわね、彼女を見てみる、怪しさの際立つ笑みに不思議な感覚に刈られそうになる気はするが、所詮は気のせい、だと思う、現に今の彼女は、あの時出会ったフィーネの持つ覇気と言うモノがまるっきり感じられないのだ。

 とはいえ、油断する気も気を抜くつもりも無い訳だけど、それに協力関係を結ぶとは言ったものの、本来相容れたくない相手で、私たちの恨むべき、憎むべき災厄の原種、古来から神との交信を生業とする巫女の末裔、いえ、その存在そのものと言えばいいのかしら?

 そんな何年生きているかもわからない彼女、だけど・・・

 

 

「さて・・・あの時挨拶がしっかりできて無かったわね、フィーネ・・・お久しぶり、と言っておきましょうか?

 セレナ・カデンツァヴナ・イヴ・・・あなたが連れ去った孤児の姉妹の妹と言えば、分かってもらえるかしら?」

 

「あぁ、あの後、アガートラームの装者が見つかった報告でお前の事は知っている・・・

だが、ネフィリムの暴走報告の後を私は知らない、全滅したという報告だったが?」

 

「ははっ、まぁ、そうよね・・・私もなんで生きているのか不思議よ。

 でも、生かしてくれた人に報いなければ、やってられなかった・・・正直言えば、今の人格になったのは、私が一人っきりになってしまった時からだったもの」

 

「詳しくは後で聞くことにしよう・・・だが、私は謝る気は――「謝って欲しいなんて言わない」・・・」

 

「色々な子に、大切な思い出も無かった訳じゃない、確かに施設に居たときは辛い事が多かった、けどそれだけじゃないのは本当、そこだけは感謝してる、親が居なくなった私達を生かしてくれた事には、ね。

 だけど、それとこれは別問題よ、あの怪物を渡した時点でアンタも同罪なのだから」

 

「生憎だが、私も全ての聖遺物を管理できているわけでは無い、正直言えばネフィリムに関しては知ってはいたがあれは米国の独断だ、とは言え、その存在を知っていて無視してしまった私の落ち度でもあるが。

 正直に聞く、何があった?」

 

「・・・・・・弦十郎たちが来たら話す、どうしなくても、あの施設の記録はほぼ残ってないでしょうし、ここに居る人達には色々聞いてから判断してほしい、協力するのか、私達を捕えるのか」

 

 

 そこまで言い切って、お互いに押し黙る、フィーネの金色の瞳が閉じ、溜息一つ、そうして一つ映像出力する。

 これは、デュランダル・・・? それと。

 

 

「今ここにある主な聖遺物はこの二つ、一つはそっちも言っていた サクリストD【デュランダル】、それともう一つが―」

 

「ネフシュタンの鎧・・・ですか?」

 

「よく調べているわね、えぇ、その通りだ。

だがどちらもまだ未起動、後は歌の力で何とか起動できればだが・・・」

 

「・・・ねぇ、フィーネ、もう一ついいかしら?」

 

「あぁ、どうしなくても私はそっちに抵抗できないからな、応えられるものなら答えよう」

 

「言ったわね、じゃあ聞くけど、ノイズ支配兵器、【ソロモンの鍵杖】と言うモノが日本に入り込んでいるって聞いたのだけど、あるのかしら?」

 

「っ!? なぜその情報を?」

 

「・・・やっぱりあるんだ、人を蹂躙するための兵器・・・」

 

「・・・・・・お前と初めて会った時はここまでやる奴だとは思わなかった・・・なんだ、あの時からお前はなりを潜めていたのか?」

 

「・・・? そんな事が出来ていたなら、ネフィリムにあそこまでの事はさせていなかった。

 でもあれがアンタの差し金じゃないって分かった以上、アイツをぶっ潰す為に協力してもらうよ、フィーネ 勿論、否定なんかさせない」

 

「錬金術師共も関わっているのだろう? だとしたら、私は奴らの目の敵だ、それで協力体制が敷けるなら相当なものだが、出来るのか、お前に」

 

「出来る出来ないじゃない『やるんだ』 」

 

 

 居ない所から声が唐突に響く、やっぱり来るのが早いですね・・・今の時間は、もう七時を過ぎましたか。

 

 

「すまない、来るのが遅れた」

 

「いえ、まだ皆さんも集まってませんので大丈夫です、キャロルさん、それと【サンジェルマン】さん」

 

「フィーネは居るのか、この場所に」

 

「サンジェルマン、今は協力する事って報告したはずでしょ、敵対するのは後・・・

正直、私も殴り飛ばしたいぐらいいら立ってるけど・・・?」

 

 

そこまで言って、後ろの扉が開く音が聞こえた、そう言えば藤尭が居たのよね、忘れてた

 

 

「お待たせって何か人増えてます?

えっと、そこの人は確か前に紹介してくれた・・・キャロルさんで・・・えと・・・」

 

「自己紹介は司令達が来てからにしましょ、詳しい話も、ね?」

 

「えっと、と、取り敢えず、紅茶取ってきます!」

 

 

 やたら慌ただしく藤尭が去って行った・・・なんか申し訳ないことしたような・・・まぁ、気にしなくてもいいか

 ・・・? メール?

 

 

「ふぃ・・・了子、メールが来てない?」

 

「あら? 本当ね・・・えっと、食堂に集まっておいて、だって」

 

「誰ですか?」

 

「弦十郎君よ」

 

「あ、じゃあ藤尭さんもそっちに集まっておくように言っておきますね

・・・うん、他の人達も結構集まって来てるみたいですね」

 

 それじゃ、食堂に移動しましょうか、と一言、全員そろって食堂まで・・・行くのだけど場所が分からないのでフィーネ・・・了子が先頭だ。

 それにしても、やっぱりクリスは耳が良いわね・・・結構離れてると思うのだけど、これなら割と早い段階で話が出来そうね、もう誰か来たみたいね

 

 

「すまない、相当待たせてしまったみたいだな」

 

「そんな事無いわよ、彼女たちが早すぎただけよ、弦十郎君」

 

「それは別にいい、それよりとっとと話し合うぞ「ちょっと待ってくれ」 ・・・なんだ?」

 

「こちらでも纏めておきたい物があるんだ、悪いが少し待っていてもらえるか?」

 

「あまり遅らせるなよ」

 

「分かっているさ、すまないなキャロル君、と、そちらの方は?」

 

「お初にお目にかかる、錬金術師協会、パヴァリア光明結社の幹部を務めている、サンジェルマンだ」

 

「これは、ご丁寧にすまないな、俺は―」

 

「自己紹介の方は良い、どうしなくてもまだ時間はかかるだろ?

 それよりも、今後の事を早急に話しあいたいからこうしてきたんだ、それに、向こうからの通信が来ていて敵わないからな、出来る事なら急いでくれ」

 

「あ、あぁ、そうだな、では少し待っていてくれ、施設にある物は自由に使ってくれて構わないからな」

 

 

 

 ・・・いつも思うのだけどお人好しが過ぎないかしら、まぁ、それ自体今に始まった事でもない、か。

 緒川さんや友里さんまで揃って来たわね・・・けど、わざわざここに集まる理由って・・・

 

 

 

「朝早くて準備があまりできて無かったからよ、まぁ、今日来るのは分かって居たから資料諸々は纏めてあるのだけど、出来てなかったところが・・・って、コレはただの愚痴ね、ごめんなさい、すぐに準備するわ」

 

「手伝いましょうか? 友里さん」

 

「有難いけど、これぐらいなら私たちがやるから気にしなくても良いわよ、でもありがとうクリスちゃん」

 

 

 

 そうこうして準備がどうのこうので、大型のモニタースクリーンまで取り出して・・・あれ?

もしかしてだけど・・・

 

 

「ねぇ、サンジェルマン、今日アダムが通話に参加するの・・・?」

 

「あ、あぁ、局長たっての希望だからな・・・本当は嫌だが、しなければしないで面倒でな、すまない」

 

「それと、もう一人今回の事で話してくれる人が居るらしいよ・・・まぁ、僕も前日会って来たばっかなんだけどね、あ、僕は仕事の方があるからこの後抜けるよ」

 

 

 気付いたら翔希まで来てる、後は、装者の子達かしら?

 

 

「翼さん達は調整してから来ますから、その前には会議を始めちゃって大丈夫らしいです」

 

 

 ・・・そう、なら今は・・・

 

 

「ふみゅ・・・ゆっくり、して居ましょうか・・・お姉様・・・」

 

「ふふ、そうね、クリス」

 

 

 さっきまで普通に起きてたはずなんだけど、やっぱりクリスは朝に弱いわね、でもそんなところが本当に可愛くって、その、うん

 

 

「相変わらずなのだな」「あぁ、相変わらずだ」

 

 

 

 ・・・視線の痛さは感じないけど、なんか生温い視線を感じる・・・まぁ、クリスの暖かさに比べたら何でもないのだけど。

 さて・・・私たちの話し合い、はじめましょう?

 

 

 

 

・・・絶対に、潰してやるから、ネフィリムを・・・

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 



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第二十二話

 文字数多くしようとしたら今月中に投稿できなくなりそうだったので投稿します。
いや、もう少し増やせると思うんですよ? ただ一話1万前後がやっぱり丁度いい区切りかなと思ってしまうんです・・・はい。

 ・・・あ、そういえばお気に入り登録もうじき50行きそうなんでがんばりますと評価の方ありがとうございます(今更

 まぁなんだかんだがんばりますが、文字数増えると投稿頻度落ちそうなんで、はい、やっぱりこのぐらいの量が落ち着くのかな、と・・・



・・・関係ないけど劇場版バンドリ楽しくて結構行ってたりした(ぉぃ
 ・・・・・・では、しばらく話し合いなのでゆっくりどうぞ~


 

 

―――――特異災害対策本部二課・食堂(ホール)――――――

 

 

 

 

 それから数分、弦十郎が戻って来た辺りから私たちの話し合いが始まった。

最初は私の処遇についての話し合いだったが、此処で映像出力で二名程現れて・・・

どちらも私が知っていると言えば知っている人・・・ではある、かな。

 画面を半分に分けて話しあう事に、右側に映っているのは白のテンガロンハットと同色のタキシード、そして筋肉質な体型美が映えるかの結社の局長、こと【アダム・ヴァイスハウプト】

 そしてもう方や・・・いやもう一人いるから三人程遠隔で通信対話して来てる。

 長い白の髪の毛が映える明らかな偉丈夫で厳めしい表情の際立つ、ほりの深い(?)と言えばいいのか? まぁ、恐らくでなくてもこの施設の関係者なのでしょうね、名前は・・・【風鳴 訃堂】と言ったかしら。

 そうしてもう一人の立役者であり、同じ風鳴の家系の人間、らしいのだけど詳しい事は、まぁ気にしないでおきましょう、たしか【風鳴 八紘】だったわね

 

 そうして私の席の左隣がクリス、右隣りにキャロルが居て、その隣にサンジェルマンさん、こちらとは別の正面テーブル側で司令、こと弦十郎が立って話し合う形。

 現状話しあう事の議題の中心は、やはり、私たちの事だろう・・・と思うが、そこに櫻井 了子こと、フィーネも混ざる事になる。

 彼女自身自分の経歴を様々な形で消したにしろ、人の記憶までは消しきれていなかったことから、過去起こして来た事を記録として私も知ることが出来はした・・・したけれど・・・

 それでも彼女がどうしてそこまで技術力のある人間であったのかは分からなかった、元々の人間のサガだったのか、それとも執念か?

 

 

「(ダメね・・・無駄な事を考えてしまっている・・・

だけど、キャロルから見せてもらった月の装置・・・あれは明らかに・・・)」

 

 

 と、そこまで考えて画面が切り替わる、月の衛星写真、だと思われる。

 フィーネが今更こんなものをとか言っていたけど、問題は其処じゃない、ううん、そこだけだったなら良かったと思う、だって、あれも、私が恨み殺したいと願ってやまない存在の【ソレ】でもあるのだから。

 

 

「それで、だ、次はバラルの呪詛について、ではあるんだが、この月の写真、もう少し拡大しておくか。

 ・・・了子、お前にはこれが何かわかるか?」

 

「・・・・・・月遺跡、かしら。

それぐらいある事は私も知っている、だが前にお前たちは【あれは装置では無い】と言っていた。

 どういう事だ? あれはただの呪いでは無いのか?」

 

「そう、だと言いたかったが、セレナ、話してくれ」

 

「えぇ、まず、そうね、フィーネ、このアガートラームの出所は?」

 

 

 此方がそう言ってギアペンダントを揺らし出所を催促する。

まぁ、十中八九彼女はこれを元となる存在を知りはしないだろう、私も、本当の事は知らなかった。

 だがそれはF.I.S.に居たときの話、今は、これについて詳しく話すことが出来る、ただそれはフィーネの反応を見てから―――

 

 

「・・・銀の腕から抽出したエネルギーをそのシステムに入れ込んだものだから、どちらの腕かは覚えが無いな・・・それが何なんだ? 月の話とは関係があるのか?」

 

「むしろ強い関係性があるのをお前は知っている筈だ。

そしてセレナの扱うアガートラームは、過去の歴史上の物そのものじゃない。

 ・・・分かるか? この意味が?」

 

「遠回しすぎるぞ! 何が言いたい!」

 

「・・・じゃあ、ラルム、出てきなさい」

 

 

 私のすぐ後ろの影から黒い陰影が浮き出てヒト型を形取り、頭部は龍の様な分厚い鱗が兜の様に見えるが、その瞳から見える紅い眼光は、何処か優しさを込めて周りを見守っていた。

 ・・・前に比べれば何処か丸くなった、気がする、でも今回彼を呼んだのは・・・

 

 

「ラルム、フィーネを知ってる?」

 

 

 そう、今回は彼についての話をする事が肝・・・と言うのも、このアガートラームの出所を聞いたのも彼からだったから。

 でもそれだけならよかったのだけど、肝心の女性に話したい事がある、と言ったきりそれが誰なのか分からなかった、けど、聖遺物を探り出しているうちに、 櫻井 了子に関して妙に興味津々に目を向けてきていたのも分かってる・・・だとしたら、彼が何なのか・・・恐らくだけど、櫻井 了子ことフィーネが一番知っているに違いない、多分だけど、ね。

 そうだと考えればあれだけど、恐らくこの子は先史文明期の異物・・・それか・・・

 今は、彼のメッセンジャーとしての機能を信じるしかない、かな?

 それで私が行ったこの質問に対して、平仮名の文字列が描かれた紙で応答する。

 

 

「む? ・・・【たいせつなひと】?」

 

「どういう事だ、ラルム君?」

 

 

 その回答はガクガクと震えて答えられないかのように振動しているが、指先を何とか安定させて答えを弾き出した・・・これは、前に聞いた応答の答え・・・にしては妙ね

 

 

「・・・【わた、は、た、せ、なアヌンナキの、欠片】・・・私は大切なアヌンナキの欠片・・・?

アヌンナキ、確か、神の事をそう言うんだったな」

 

「途中の動詞が抜けてると思う、けど大体は有ってると思う。

前にラルムに同調してみた景色は、月の裏側で誰かと戦ってた男の人だった・・・相手は良く見えなかったけど、その人に片腕を持ってかれたのを見た、そしてそれが地球に降って来た、らしい」

 

「はっ!? らしい、だと!

お前の見た人型と言うのは、まさかだが・・・」

 

 

 そこまで言ってフィーネがある人型を紙に書いて渡してくる、かなり雑な書き方だったが、色合いも合わせて書いてあるから、非常に分かりやすかった、確かに、この人が、アガートラームの腕になった人だ。

 

 

「間違ってないよ、フィーネ、私がラルムを通してみた景色で戦っていたのは彼よ」

 

「そんなバカな! アレがどれだけ昔だと思っている!

あのお方は我々人類を見捨て―」

 

「本当に見捨てたと思っているんですか? フィーネさん」

 

 

 クリスの言葉に押し黙るフィーネ、もう隠す気はないのか、団子結びだった髪はもう既におろされ、長い金髪が煌びやかに怪しく輝いていた。

 だけど、クリスの言葉は止まらない・・・

 

 

「私は、ううん、私達はあなたの言う【あの方】と言う人・・・神様は知りません。

 ですが思う事はあります、その人は、多分私達を信じているからこそ、こんな呪詛を掛けたんじゃないかって、誰とでも、言葉でなくとも分かりあえる手段を知っているから、分かりづらくとも、こんな手段を取ったんじゃないでしょうか・・・でも、今は、その【バラルの呪詛】も存在し得るか怪しいのが、私たちの見解です」

 

「・・・あぁ、あの方は、人を好いていたよ・・・なんでお前たちに諭されているんだ私は・・・」

 

「先史文明の巫女フィーネ・・・お前は、好きだったのか、その人の事が」

 

「あぁ、今も、ずっと恋焦がれているさ、この想いが果てる事はない、たとえこの身体が尽きたとしても、また永遠に転生を繰り返し、あの方へと至る道を探し出すさ」

 

「その第一の手段として、相互理解の壁の破壊、つまり、月遺跡に安置されている呪詛の破壊を目論だのですね」

 

「・・・・・・何もかも御見通しか、気味が悪いな・・・」

 

「いえ・・・聖遺物や呪詛については私達が独自に調べたものですが、それ以外の理由に関しては、こちらに来た【立花 響】さんのお陰ですよ」

 

「なぜアイツが?」

 

「詳しい事は言ってくれない、だけど生きてそのお方に出会って欲しいって言っていたわ」

 

「つまり、アイツも私が月を壊すことを知っていた、と言う事か?」

 

「・・・まるで体験談みたいでしたけど・・・まぁ、それは今は良いです」

 

 

 ふぅ、と一息、八紘さんは先程からこちらの会話を何かしらで書き留めていて、訃堂は・・・まぁ、話は聞いているのでしょうね、たぶん

 まぁ私たちの憶測が、あのガングニール使いに色々教えて貰って確信に変わった。

 これで、私たちの言いたかったことは終わり・・・それで・・・

 

 

「例のカ・ディンギルと言うのはここにあるのかしら?」

 

「名前が出た時にはヒヤッとしたが、最早今更だな、あぁ、此処がカ・ディンギルだ」

 

 

 辺りがザワッと凍て付いたように鎮まる・・・まぁそうよね、カ・ディンギル、曰く天に至る存在だとか、塔だとか言われているけれど、そんなモノ近辺で作って居れば目に見えてわかってしまうもの、やはり、木を隠すなら森の中、聖遺物を隠すなら研究所と言った所かしら?

 

 

「だが、今は只の塔にしか過ぎない、肝心の弾が無い以上撃ち出す事も出来ないのでな」

 

「・・・その為の不撓不屈の剣、か・・・準備に余念が無いというか・・・まぁ、それはこちらとしても同じか」

 

 

 キャロルが少し考える仕草を見せて何か考えてる、と、変わる様にサンジェルマンが次の問いに変えて来た。

 

 

「じゃあ質問が変わるが、今現在世界中で危険存在とされて居る【ネフィリム】はお前が探し出したものか?」

 

「それに関してはノーと答えておこう。

 前にもセレナ達には言ったが、私が全てを管理できるほど聖遺物の数は少なくない、それは数々の伝承を読み解いているお前達なら良く分かる事だろう?

 それと同じだ、今回のデュランダルに関しても本当にたまたま手に入った産物に過ぎん」

 

「なら、神獣鏡(シェンショウジン)に関してもかしら?

 ・・・あれは確か、あなたが持ってこようとした物だったはずだけれど?」

 

「あれは・・・」

 

 

 そこで押し黙る、ふん、やっぱりここでは言い辛いと言った所かしら・・・

 私はキャロルから貰った過去視で彼女が如何に神獣鏡(シェンショウジン)を手に入れたかは知っている・・・だけどそれは同時に、ある人物の信用を裏切ることになる。

 だからこそ、喋れないのでしょうね

 

 

「少なくとも、私とキャロル、クリスは知っているわ・・・今は奏も翼も居ない、吐くならとっとと話した方が良いわよ」

 

「・・・本当に嫌な奴になったな、お前は」

 

「お陰様で、ね、本当に・・・世界が嫌になったからこうなったに過ぎないわ」

 

「フン、まぁいい、どうしなくても話す事だ。

 前にあの茶店で話したことを覚えているか? お前が施設から命からがら逃げだした時に、天羽一家がノイズに襲われていたという話を」

 

「あ~、確かしていたわね、その時貴女はF.I.S.には居なくて米国の独断でネフィリムの起動をしたって言う話ね、それが?」

 

「分かるだろう、知っているのならその先はお前が本人たちに話せばいい、聞いているのだろう、天羽奏、風鳴翼」

 

 

 そう言い終えるのと同時に扉が開け放たれ青髪と赤髪が一緒に入って来る、片方はかなりの怒気を纏わせているわね、ま、当然ね、だってあれをしたのは。

 

 

「どういう事だ! 了子さん!」

 

「分かるように言った方が良いわ、フィーネ、あなたの口から、ね」

 

「やれやれ、何度言えばいいのやら、恐らくお前たちも考えていることは分かって居るだろう?

 あれをやったのは私だ、日本国に保有する聖遺物を管理できる数で管理する為、私個人で別口の装者達を扱う為に、奪ったのさ、あの場で」

 

「・・・じゃあ、じゃああれは、了子さんが・・・ウソだろ・・・なぁ、ウソって言ってくれよ、了子さ―」

 

「いつまで盲目的になっているつもりだ天羽奏、お前の目の前に居るのは今まで相手取っていた櫻井了子などでは無い、先史文明から生きる転生者、フィーネそのものd―」

 

「ウソだ! だって、だって了子さんは―」

 

「奏、落ち着いて―」

 

「じゃあ翼は落ち着いていられるのかよ! 目の前で家族を殺されて、しかもその犯人が、こんな、こんな!!!」

 

「てっきりあの時には気付いていたかと思ったのだが・・・やはりこちらの装者は木偶ばかりか・・・

 あちらの施設の装者の方がよっぽどマシだったぞ」

 

「っ!? このっ!!!」

 

「落ち着け! 奏!!!」

 

 

 勢いを付けて殴りかかろうとする奏を平手で抑える弦十郎、それを呆れながら見る私達と錬金術師組、それに対して収めようとする二課組。

 まぁ、こうなる事は遅かれ早かれなっていたでしょう、だから

 

 

「奏、今彼女を殴っても意味なんか無いわ、彼女が殺した人数なんて私がやった数なんかより比較にならないから、だからこうやって無理やりでも力を貸して貰おうとしてるの。

 ・・・彼女の技術が今一番に必要なのは分かって居るでしょ? 奏」

 

「ックッソ!!! なんでだよ! 何で了子さんが!」

 

「・・・これも一つの経費のようなモノだ、とは言え、謝らないのは筋が通らないだろう。

 すまなかったな、天羽奏」

 

「っ! 私は、そんな面したヤツの謝罪を聞きたいわけじゃねぇ

・・・悪い、セレナ、話を邪魔しちまって」

 

「もういいのかしら? 天羽奏」

 

「逐一フルネームで呼ぶな、もういい、後は聞くだけ聞くことにするよ」

 

「そ、それじゃあ・・・あ、今は神獣鏡(シェンショウジン)は何処にあるのかしら?

 ここにあるように思えないけれど?」

 

「それは別の隠れ家に避難させてある、全く、F.I.S.がまだ残っていたのならアレをギア転用して、装者を探したのだが、これではもうマトモなギアを作る事も出来はしないな」

 

「・・・櫻井女史、少しいいですか?」

 

「何だ? 翼、手短に頼むぞ」

 

「はい、先程からギアの何かしら言っていたようですが

ひょっとして米国に装者が居るのですか?」

 

 

・・・翼何か勘違いしてる・・・?

 そもそもシンフォギアが作られたのは櫻井了子のお陰であり、その影響でフィーネが現出、今回の事件を引き起こした大元になっている。

 またそのせいで米国の聖遺物研究所は軒並み頭の悪い集団の集まりになってしまっていた・・・良心がある人も居なくは無かったけど、それでも・・・

 

 

「米国、F.I.S.には私以外にも、私の姉さんの他に二名程、薬が必要ながらも装者は居たわ。

 尤も、まともに適合出来ていたのは何故か私だけ、そして、それらは自分たちの起こした不慮の事故で失っている・・・本当にバカよね、人間って、目前の利益しか見えず、持っていた益をみすみす殺してしまうんだから。

 質問の答えだけど、フィーネに聞かなくても私が知ってる、そして、現状装者はここに居る四人だけよ」

 

「ホントか、それは」

 

 

 奏が聞いてきた、まぁ、他に装者が居れば御の字でしょうし、分からない話でも無い。

 だけど他の場所に出たノイズや他の災害は何故か善行団体に変わったパヴァリアが全面的にカバーしている、キャロルもその一役を担っているし、何かあればテレポートジェムで私もその現場に急行する事も、まぁ多々あったわ。

 その事を告げると、奏は何も言わずに黙った、ま、当然よね、今の奏じゃあいつギアを纏えなくなるか分かったものじゃないモノね。

 

 

「さて、話すことは大体話したかしら・・・あぁ、そう言えばまだ月に出来ている異常について話してなかったわね」

 

「あまりに話が飛びすぎて忘れていたな、それで、今映っているこの黒い奴は何だ?」

 

「「あぁ、こいつは―――」」

 

 

 私とキャロルは同時に言の葉を紡ぎ、そうしてその危険性について、そして何故沢山の聖遺物を求めたのかの答えを紡いだ、だって、あれはもう・・・

 

 

「「ネフィリムだ」」

 

 

 そうとしか見えない、現に過去ネフィリムのDNAを鑑定して月に廃棄躯体のオートスコアラーに調査させた結果、同種の物と判断され、それが錬金術師各位に通達され、それも私が一番に聞き届け、そして・・・

 

 

「間近にいたネフィリムの分体を撃破して調べた結果、今から約一年ほど前にネフィリムが月についていた、と言う事らしいわ」

 

「そんな、事が・・・」

 

「だがこれが事実だ、それにその近くのニュースでは無人探査機を月に向かって撃ち出したニュースが公にされて居るのを聞いている。

 さ、これで全部、か、セレナ、後話す事はあるか?」

 

 

 そこで一旦の沈黙が訪れる、それもそうよね、今日だけでも色々な情報が錯綜してるもの。

 因みにラルムはフィーネの近くに居る、アイツの動悸が落ち着いているのを感じるし、今は放っておきましょう。

 ・・・? 弦十郎、こっちを見て何かしら?

 

 

「君たちの為してきたことについては粗方分かった・・・

だが次に、君達を、いや、セレナ君たちを陰で支援している者は一体・・・」

 

 

 あぁ、彼の事を聞きに来たか・・・流石に分かるわよね、まぁ、隠しておくことも無いし、会うのももう少し先の予定だったけれど、もう会ってもらいましょうか?

 いい、クリス?

 

 

「良いと思いますよ、それに彼なら今よりもっといい環境にしてくれると思います、それに奏さんに対しても良い事があると思いますよ」

 

「? あたし?」

 

「はい、連絡入れて・・・置きました。

直ぐ近くに来られるそうです」

 

 

 そうして私達は少しの間待つことにした、とはいえ、彼もそれ程遠くには行ってないでしょうし、そこまでは待たないんじゃないかしら?

 ・・・簡易端末に連絡が来たわね、学院前に着いたらしいわね、緒川に迎えに行ってもらって、後は―

 

 

「来るまで少し時間が掛かるな・・・どうする?」

 

「少し話疲れたし、少し休憩してていいかしら?」

 

 

 あぁ、と返事を聞いてクリスに寄り添い少し目を閉じる

 ふぅ、どれぐらい話してたんだろ・・・まだ何も解決には至っていないけれど、でも光明は、みつかる、かな?

 その間、風鳴側と錬金術師側で色々情報の話し合いをしていた、静かにだけど、私の今後をどうのとか言っていたけど、正直言えば、しばらくはここに滞在する感じね。

 まぁ、それは後で伝えればいいとして・・・そろそろ着くかな?

 

 

「皆様、お待たせしました、セレナさんからの紹介の方を連れてきました」

 

 

 目を開けてその姿を見る、やっぱり変わらないわね、この人は・・・

 そこに居たのは全身を白に統一したような研究服の男、白の短髪のサラサラヘアーが妙にアレだけど、眼鏡できっちり決めた感じは相変わらず、でも、彼が居たから色々と知る事もやる事も出来たから、あれこれ関係なくとも、やっぱりここに連れてくる事になるのよね・・・

 さて、じゃあ紹介しておきましょうか・・・ねぇ

 

 

「えぇ、紹介に預かります、私の名はジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。

まぁしがない生化学者ですよ、以後よろしく、ですかね」

 

「一月ぶり、かしら、ウェル、近況はどうかしら?」

 

「えぇ、えぇ、お久しぶりですセレナさん、その態度、お変わりないようで非常に嬉しい限りです、っと、失礼、私は元気ですよ、えぇ」

 

「・・・お菓子ばかり食べて無いですか? ウェルさん」

 

「だ、大丈夫ですよ、ちゃんと栄養を考えて摂取してますから、ね、クリスさん

だ、だからそんな目で見ないで下さい!」

 

「・・・えっと彼が何だって・・・?」

 

「そいつは・・・確か元F.I.S.の研究者では無かったのか?

ならお前が相対するべき相手でもある筈だが?」

 

 

 そう、フィーネの言う通り、Dr.ウェル・・・私はウェルって呼んでるけど、彼は元々F.I.S.の出であるのは私も知っている、だけど彼は・・・

 

 

「私達を第一に心配してくれた彼を裏切る真似はしたくない、第一、ネフィリム起動時には別の研究機関に行っていて彼は居なかった、だから、別に彼を攻撃する理由は無い、それに裏も取れてるから、彼は白よ」

 

「はい、少なくともアダムなんかよりは信頼できるので・・・それに、リンカーはこの人が作ってくれてるんです。 反動も少ないので勝手が良いはずですよ?」

 

 

 その言葉に対してアダムが「酷いじゃないか、その呼び方、これだけ支援してあげてるのに」とか言っていたけど、サンジェルマンが「それは私達が支援しているだけで局長は何もしてないですよね」ときっかり切ってくれたので、気にしないで良いと思う、うん。

 それに、Drを信じられる理由は・・・

 

 

「私達がF.I.S.に入ってきた時から優しく接してくれていたのはウェルとマムぐらいなものだったから・・・後は・・・」

 

「それに博士はちょっと頭悪い感じがしますから」

 

「それは傷付きますね・・・これでも貴方達を支援しているんですから少しは見返りがあっても・・・いえ、無くても全力で支援しますよ、あれは、僕も無関係ではありませんからね」

 

「それはそうと、あたしのギア適性を引き上げてくれるって事なのか? そのリンカーっての」

 

「少なくとも、前セレナさんがこちらに渡して来たリンカーの検体を見せてもらいましたが、あれは体に毒しかもたらさない害悪でしか無いですよ・・・ですので、後でこちらのLiNKERを扱ってみてください。 きっと気に入ると思いますよ?」

 

 

 言うが早いか、緑色の液体の入った注射器をいくつか奏に渡して、説明書まで同封していた物をケースごと置いていた・・・

 いったいどれだけのLiNKERを作ってたのやら・・・

 

 

「F.I.S.が解体してしまいましたし、適合者を探すにも聖遺物もギアの機体もありませんからね・・・LiNKERが余ってしまうんですよ・・・それで、【これ】を栄養剤とかに出来ないかな、と考えて―」

 

「結局食事放棄してるじゃないですか! 良いからマトモなモノ食べて下さい! 今すぐに!」

 

 

 そんな事でも咎められてクリスに無理やり食事させられているウェルを見て、何か哀れに思いつつ・・・まぁ、彼は相変わらずで・・・

 

 

「アイツ、あんなのだったか・・・私が会った時はもっとマッドな研究者だったはず・・・」

 

「人と思えないような研究を擬似的にしてたのは上の人を納得させるための口実だったみたい、その実、チルドレンたちには不自由をさせたくない、っていう面が強かったらしいわ・・・おかげで色々助かったけれど・・・

 彼がネフィリムの被害に遭っていなくて、良かったとは思っている」

 

「ははっ、まぁこんな僕程度、生きていたってどうしようも・・・」

 

「そんな事―」

 

「ま、まぁまぁ、落ち着いてくれ、今は互いにせめあっているときでは無いだろう?

・・・それにしても、了子君が君の事を相当優しい人だと言っていたが・・・それは一体・・・」

 

「・・・そう、ね・・・話すと言った以上、話さないと、かしら・・・

まぁ、ウェルも話してくれるなら、話しておくわ」

 

 

 いい? と一度ウェルに問うと、問題無いです、と返って来た。

 ふぅ、覚悟を決めるか・・・多分だけど、ウェルはF.I.S.の記録を撮った映像をいくつか持っているみたいだし・・・

 

 

 

「それじゃあ、話しましょうか、私が如何にクリスと出会い、どうしてここまで荒れてしまったのか、その顛末を―――――――――」

 

 

 

 

 

 ただ事では済まない、でも、知っている人が多い方が良いかも知れない。

 

これは私が受けて来た、人の残虐と、残酷、そうして得た絶望の世界・・・

 フィーネの作り上げた、悪意の世界を・・・

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 



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第二十二、五話

もはや何も言うまい・・・?
セレナちゃんの過去を端的に話し合おうとか言うところです。
・・・後少しで無印行けるかなというところまで書いたは良いけど投稿は相当遅れそうな気しかしないです。
 とりま頑張りますよ、はい では・・・?


 これは私、セレナ・カデンツァヴナ・イヴが受けて来た現実、そしてこうなってしまった原因へと至る本当の話・・・

 これは、そうね、今話してる時間の五年以上昔の話よ―

 

 

 

 

 

 

 

 

―――セレナが荒れた理由と、クリスとの出会いから錬金術師との関り―――

 

 

 私はね、当初こそ、聖母とか優しき女神なんて呼ばれた程に人に優しく、誰とでも分かり合おうとする程分け隔ての無い優しさを持っていた、それは生まれ持ってともいえるものらしくて、姉さんもそんな私を大切にしてくれたし、姉さんの優しさを真似て育ったの・・・そんな姿を父も母も優しい瞳で微笑んでくれて、それが嬉しくて、誰にでも優しい、善人であろうと、そう思って生きていたの

 

 ・・・・・・でもね、世界ってやっぱり残酷で、時間ってやっぱり戻らないのよね、どうあっても。

 

 最初に響いたのは何かが爆発する音で、今でも覚えてる・・・私達に被害が出ないようにって、父も母も私達を抱きしめて逃げ惑っていたわ、ただ、当時それが良く分からなくて、追いかけっこでもしてるのかなって思ったの。

 それで速く走って行こうとしていた私を庇って・・・父も、母も、私に覆いかぶさるようにして・・・黒くなって、亡くなった・・・それを聞いたのは後になってからだった・・・その時は気を失っていて、マリア姉さんに起こして貰うまで全然動けなくなっていたみたい。

 

 それから私達は二人で当て所もなく歩いて行って・・・そうしてる所で、ある人達に捕まったの、正確には保護、と言った方が良いのかもしれないわね、ねぇ、フィーネ?

 

 

「・・・そう、だな、あそこの戦地が終わってから私達が現場で救助活動の最中を縫って、親元の無い子供達を誘って、F.I.S.に預けたんだからな・・・だが、お前達だけでは生きていけなかったんだろうし・・・知らない母性でも現れたのかもな、私らしくもない」

 

「でも、事実、貴女のお陰で今まで生きてこられているのは事実よ・・・一応、そこには感謝するわ」

 

 

 それでも貴方のしたことが覆る事は無いけどね。

 

 それから・・・そうね、そこで行われたことでも話しておきましょうか?

 

 

「ソレでしたら、映像があるので、それを見ながら解説していきましょうか」

 

 

えぇ、ありがとうウェル。

 ・・・さて、入れられてから数日、身体検査と色々調査され、此処がどういう所かまだあまり記憶出来てない頭で何とか理解しようと頑張りながら、怖いながらも姉さんと頑張って生きて行こうと・・・その時は、お母さんも、お父さんも生きているから、いつか迎えに来てくれるって信じて、頑張ってたのよね・・・現実は全く違うのを知ったのは、入ってから一年ぐらい経ってから・・・かな。

 早い事に、その施設に収容されてる子供達・・・その施設では私たちの事を【レセプターチルドレン】って呼んでたらしい、何でも、フィーネの器になる子供、及び装者を探す為の研究が・・・ってそれを言えば此処も似たようなモノよね。

 そんな事は今はどうでもいいわね。 私が装者として覚醒したのは七歳になるぐらいだったかしらね。

 

 その夜は不思議と寒くて、姉さんと一緒に抱き合って寝ていたのだけど、何かに呼ばれるかのように目を覚ませられて、無意識に動き回ってたら・・・

 

 

「聖遺物の保管庫に一人で歩いて行ってたんですよ、研究員の誰かしらがそんな事言ってまして・・・まぁ、本人も寝ぼけ眼で見たらしいので詳しい事は後に監視カメラで分かりましたが。

 やっぱり、アレ等の覚醒は、本人の意思とは、全く相反するもので・・・嫌になりますよ、本当に」

 

 

 ・・・そう、ね、ウェル、でも貴方が悲しんだりすることは無いわ・・・だって、姉さん達を護ることの出来る力が手に入った事を本当は嬉しかったんだよ・・・だけど・・・あの研究者共は・・・!

 

 

「この映像は・・・っ!?」

 

「酷いものですよね・・・僕が非番の時にこんな研究を堂々と記録してやってるんですから・・・

人は、いえ、子供たちは・・・モルモットなんかじゃないというのに・・・」

 

 

 そこに映し出されているのは私を除いた子供たちが無理やりに聖遺物に対して歌を歌わされ、薬物の過剰投与をさせられ、血反吐を吐き散らかしながらも無理やりに纏わされ・・・そして・・・

 

 

「おい・・・これ・・・マジなのか? わたしも、間違ってたらこうなってたのか!?」

 

「・・・あれは、まだ実用に至る前の劇物のリンカーです・・・あんなもの使っても適合率の上昇は微々たるもので・・・そんなモノの過剰投与が十になる子供の身体に耐えられるものじゃない・・・

 結果として、聖遺物たちに拒絶され、身体を・・・ぶちまけられたのですよ・・・

 あの子達は、何も悪く無い・・・悪いのは、僕達ですよ」

 

 

 でも、ウェルは悪く無い、貴方が居ない時にやらされたの・・・わたしを除く、非適合者たちを、一斉検査と称しての・・・大虐殺・・・

 その映像に映るのは血塗れになった試験室を呆れた目で見つめる職員たちと、泣き喚く子供達・・・

 その場には、マムもウェルも居ない・・・非道な大人たちの蛮行でしか無かった・・・

 ・・・・・・? この、映像は・・・?

 

 

「っ!? すいません! 即刻止めて下さい!」

 

 

 映像は姉さんが聖遺物の前に立たされている所で停止させられ、その場所のガラス戸の向こうには私が誰かと一緒に立っている状態で止められた・・・ねぇ、ウェル・・・これ・・・

 

 

「今の、セレナさんには・・・見せられません・・・申し訳ありません・・・」

 

「ねぇ、何が、有ったの・・・姉さんに、何が・・・?」

 

「貴女の姉であるマリア・カデンツァヴナ・イヴさんは・・・ネフィリムによって殺された、この事実は変わりません・・・なので、この映像を見る必要は・・・「ウェル!!!」・・・」

 

「何を・・・隠してるの? 教えてよ! ねぇ!!!」

 

「隠していませんよ・・・それに、ガングニールの欠片は、セレナさんが持っているでしょう? マリアさんの形見として」

 

「あれは・・・姉さんが・・・? ねえ、さん・・・が・・・?」

 

 

 ・・・あれ? 私、何か忘れてる・・・でも、記録上では・・・姉さんは、ガングニールを、纏って・・・? 劇薬で・・・纏った・・・?

 でも、姉さんは切歌ちゃんや調ちゃんとも会ってて・・・でもこの映像は・・・私が八歳ぐらいになる前の物で・・・?

 

 

「ねぇ・・・この映像って・・・」

 

「何を言われてもこれ以上は見せられません・・・これ以上、貴女は何かを気負う必要は無いですよ・・・

 お願いです、これ以外なら見せられますから・・・申し訳ありません・・・」

 

「・・・ウェル君・・・この先は・・・」

 

「たとえセレナさんの関係で上司になるであろう方でも見せられません・・・すいません、コレは・・・残してはいけない記録なんです。」

 

 

 お願いします、と、念を押して映像を一度切る・・・ねぇ、ウェル・・・貴方は、本当に私たちの味方なんだよね・・・ねぇ?

 

 

「えぇ、誰が何と言おうとも僕は、セレナさん達の味方ですよ。

 たとえ、裏切り者と言われても・・・ね

 

 

 ・・・? 何か言っていた、気がするけど・・・今はそんな事を言っている場合じゃないわね・・・

 そういえば・・・この後にウェルやマムが帰ってきて、子供たちが半数近くいなくなっていたんじゃなかったっけ・・・どうなの?

 

 

「・・・はい、その通りです・・・それからですね、貴女も壊れたように話が飛んでしまった喋り方をしだしたのは。

 それから櫻井 了子・・・いえ、フィーネと言っておきましょうか。

 彼女の行動は早かった、少なくなった子供達を補充するかのように、戦場を渡り歩いたかの様に様々な人種の子供達を際限なく施設に入れ込み、優しく接している間にも・・・非道が何処かで行われていて・・・僕もナスターシャ教授も、抑えるのが手一杯に成ってしまって・・・

 上にも掛け合ったのですが・・・子供達には、未来が無くなって・・・ですが、僕もそんな事を簡単に許せるほど人間出来ちゃいないですし、終わっても無いです。

 何とか数名ほど、歳の多い子達を隠蔽して助けたり・・・本当に忙しかったですよ・・・ネフィリムが来る前は、ですね・・・

 来てからは・・・酷いものでした、僕は即刻研究から切られ、ナスターシャ教授も、ギリギリの所を繋いでた所でしたが・・・それでも、人の欲を抑えることが出来なかったんでしょう・・・

 結果として、アレが・・・完全自立兵器【ネフィリム】・・・僕達は神の異形体として判断しましたので別称【メギド】・・・神の怒りを示して、そう呼ぶことにしました。

 ・・・・・・因みにですが、初期起動時に抑える為に、セレナさんも絶唱を歌っていたのですよ。

 その後に、イガリマと、シュルシャガナの装者が大切な人を護る為に、と一緒に絶唱していたんです。

 もっとも、コレは後で確認できたデータの話でしたが・・・そこにガングニールの破片もあったので・・・恐らく、あそこに有った聖遺物の殆どは・・・もう機能すらしなくなっているかと・・・」

 

 

 ・・・あれ、私も、絶唱したの・・・?

 あれは、姉さん達が抑えた影響で施設を全壊、ネフィリムがさらに暴走して・・・人を、モノも、見境なく食べつくして・・・姉さんを、切歌ちゃんや調ちゃんも・・・誰も彼も、喰べつくして・・・

 

 

「えぇ、最後に映った記録は・・・これです」

 

 

 その映像は、ネフィリムの前に何処かで見たような機械的な装甲が見られて、その色は黒を基調として居ながら、ギアペンダントの赤色が所々に散りばめられた装甲、そして、鎌首をもたげて対象、ネフィリムを威嚇し、暴れ回った瞬間に、映像が途切れて・・・

 

 

「あれは・・・まさかと思うが、ラルム、なのか?」

 

「・・・おそらくこれが、彼・・・と言えばいいのか分かりませんが、初期起動した瞬間だったのでしょう・・・そして、これがセレナさんの、力でもあります」

 

「あの・・・それから先って、お姉様が辿った道筋で、間違ってないのでしょうか・・・」

 

「えぇ、恐らくそうでしょう・・・一応、映像記録でどっちに向かったかまでは分かったのですが・・・如何せん、あの崩壊が起こってから一週間程帰国に掛かってしまったので、事後処理も何も、有ったものじゃなかったのですよ・・・しかし、本当に惜しい人達を亡くしました・・・

 せめて、ナスターシャ教授でも生きてくれていれば、と思いましたが。

 ・・・セレナさん、後は、貴女の辿った道程を・・・教えてください」

 

 

 辛いと思いますが、と付け加えてくれた・・・確かに、辛いけれど、コレは誰かにも知っておいてもらいたかったことでもあったから。 話すよ、私は・・・

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 F.I.Sがネフィリムによって倒壊した後、南の方面に別の施設があるらしく助けて貰う為に他の生き残りである研究員の人達と共にその場所を目指す―

 

 間柄親しい訳では無かったが、話しあう内に打ち解け合う事も出来る人は何人か居た、だけど、皆が皆そんなに優しい訳では無く――

 

 

 

 

「だから捨て置けと言っただろ! いくら装者が重要だからとは言え、私達まで身投げすることは無い!

重要なのは【装者】ではなく【シンフォギア】だ! だったら彼女は別にどうなったって―」

 

「唯一の適合者を投げ捨てて自分だけ助かろうとするようなことをするな!

第一、彼女が居なければこんなものただの宝石に過ぎんだろ!」

 

 

 そんな事を言い始めたのは三日ぐらいたったころだと思う、辺りはもう既に暗く、遠目ではあるが、木々が見え始めている所までは来たが、辺りには一切の家と言う家は見えていない。

 不幸中の幸いと言えば、避難道具にはテントが何組かあった事、また、それらが簡易で軽く、小さい私でも持ち歩けるほどのモノだった事が幸いしていた・・・だが、ただそれだけだ。

 水も人数分ともなれば相当量であり、持ち歩くにもバッグに入る分でも重量が重み、その中にも食料、携帯用のレーションなど、人数的に考えても一月持たないだろうというのは小さい私にでも分かった。

 

 ただ、あまりにも周囲が閑散としすぎているのはあまりにも不思議で、どれだけ街から離れた位置に作られていたのか・・・今にして思えば極秘裏にするにしては、交通の便が悪すぎるとしか言えなかった。

 だがそれでも生き残る為に、聖遺物たちを何とかするためには行動するしかない、それは小さい私でもなんとか分かったのだけど、問題はその量、そして人数・・・

 

 

 その場から行動し出した時は私を含めて十人余り、明らかに多すぎる程、その上体力のある人はあまりいなかった、だから私がギアを纏って荷物運びを手伝っていたのだけど・・・それでも、此処から無事に似た施設までたどり着けるかどうかは希望も何もあった物では無かったらしい。

 らしい、と言うのはあくまで聞いた時の話・・・でも実際、クリスと出会えた以上、施設は有った訳だけど、その距離が問題だった。

 結局、私以外は皆死んでしまったのだから・・・食糧難だけでなく、森も抜けて行ったときに毒を貰って亡くなった人も居た、それだけでなく、身内同士のやり合いも有ったの。

 

 仕方ない、なんて思いたくなかった、みんな生きて安心できる世界で過ごしたかった。

 確かに、姉さん達は、ううん、私の家族と思った大切な人たちは皆居なくなってしまったけれど、それでも、絶望だけに染まらないように、その時は必死に頑張ったんだよ?

 けど、結局世界は私を、わたしたちを拒絶した、最後に残ってくれた私にとって大切な希望も、私に最後の聖遺物を遺して逝ってしまった。

 あの人だけでも、生きていて欲しかった、私の、導になって欲しかった・・・けど、結局叶わなかった。

 

 

 それから私は一人で地図に付けられた跡を頼りにひたすら歩いて行った、歩いて、歩いて、動かなくなるほどにまで歩き通して、つかれて、でも、未来がある事を信じて・・・

 そう、信じて・・・

 

 

 

「どう、なったんだ、その後は・・・」

 

「最悪の、世界が待ってた・・・あんな事、知りたくなかったのに・・・っ!」

 

「あぁ、そこから先は・・・サンジェルマン達が知っている筈だ・・・そうだろ?」

 

「・・・・・・あぁ、一応、な・・・だが私達が行ったのは事後処理だけだ、それにその場にいた何人かの命は、無事では無かったな・・・恐らくだが、そこで今の彼女が覚醒したんだろう」

 

「ふむ・・・詳しい事は聞かない方が、良さそうだな・・・

だったらそこを抜いて続きを話してくれるか?」

 

 

 

 ・・・ありがとう、弦十郎・・・けど、ある程度は話させて貰うわ。

 私が最悪を受けて数か月ほど経っていたんだと思う、もうその頃には私には時間的感覚が無くなっていて、気付けば痛みも苦しみも、何かに置き換わってしまっていたんだと思う。

 解放されたときには、その場にいた何十人と殺してた・・・それだけは、覚えてる、その後誰かが来ていた気配は有ったけど、私は当初の目的通りに記されていた目的地に歩いて行ったの、その場所にあったいくらかの食料を奪って、ね。

 

 ・・・それから森を抜けて・・・いくら経ったか分からないぐらいの日にちを歩き通して、それで気が付いたらいくら歩いても疲れる気配が無くなっていて・・・

 それ自体は、これを見て貰った方が良いかしら・・・背中を見て貰える?

 

 

「友里、頼む」

 

「はい、失礼しますね・・・? 翼ちゃん、奏ちゃん・・・見た時こんなのあったかしら?」

 

「? どうしたんですか?」

 

「・・・黒い、突起物・・・? 何ですかコレ・・・」

 

「あぁ、そう言う事か、だからあんな無茶しても無事だった訳か・・・」

 

『分かるんだね、キミには、やはり、なら、説いて貰おうか、その聖遺物について』

 

 

 アダム、アンタも分かってるでしょ、この異物について・・・

ついでに胸元に入れ込まれている紅の結晶、ギアペンダントとは違う深紅の結晶を見せる。

そう・・・私は・・・

 

 

「まさか、身体全てに聖遺物を入れ込んだのか、お前は!」

 

「逸話や神話、伝承を調べたり、色々と、やって、ね。

生きる為に、自分を道具にすることも厭わなかった結果よ」

 

「そんな事をすれば、生命として終わる事が分かって・・・っ!?

 そうか、その為の【逆さ鱗】を埋め込んでいるのか! だがそんな無茶をたった一人の子供に出来るものか!」

 

「普通なら、そうでしょう・・・でも、それは一人で背負ったならばの話です。

お姉様、もう打ち明けてよろしいので?」

 

「えぇ、双対の聖遺物・・・と、言えばいいのかしら?

 私達はこれを【双星の呪戒(ジェミニ・ギアス)】と呼ばせて貰っているけど、まぁ、これも体を壊すには十分な聖遺物、そして、私の力の変換機能を担ってもらってて、そして―」

 

 

「ファフニールの龍血逆鱗・・・そこまで揃っていたのか、いつだ?」

 

「いつ? とは?」

 

「いつF.I.S.に運び込まれていた、そんなモノ普通では―」

 

「さぁ、私は最後に残ってくれていたあの人から形見として受け取っただけなので、詳しい事は知らない。

でも、あの人も私の幸福を願っていたのは、確かだった・・・もう戻れないけれどね」

 

 

 そう行って自嘲気味に笑う、周りは冷める程に静かだったけど、逆にこの感じが心地いい・・・そうだ、私は、クリスも自分の世界に巻き込んで、そして・・・

 

 

「・・・それから、クリスと出会って・・・後は、アンタ達も情報として知っている筈よ。

 バルベルデ大虐殺事件・・・軍隊が軒並み惨殺された惨たらしい事件の事を。」

 

「・・・・・・あれを、本当に君一人で・・・」

 

「クリスにもいくらか手伝ってもらったけどね・・・この子も、復讐したいって言っていたから。

だから―」

 

「殺させたのかよ・・・本気か!」

 

「本気よ、そうでなかったら私達は自分の意思もなく殺されていた。

殺されて当然だったのよ、あんな奴ら―」

 

「だからって、だからってっ!?」

 

「奏、戦場での油断は命取りよ・・・今あなた達の前に居るのは心優しいセレナでは無い。

何千何万の人間を殺した虐殺者、ただそれだけよ」

 

 

 迫って来ていた奏に一瞬にして近付き背後からナイフを突き立てる。

全く、ギアも纏わず、身体の弱い人間は・・・いえ、私たちの環境がおかしかっただけ、か・・・

 

 

「それに比べて、この日本は本当に平和ボケの酷い世界ね・・・こんな所じゃいざと言う時に身を護る事も出来やしない・・・いえ、それすら必要が無いほど平和なのかしら・・・

 ・・・私たちの居た世界が此処ほど平和であったなら、どれだけ・・・どれだけ!!!」

 

 

 奏からナイフを引き、感情のままにこの世界の不条理を言葉に・・・でも、言葉だけじゃ事足りない、そんなモノだけで、人が分かり合えたら、あんな残酷も無かったのに・・・クリスも、此処までなる事は、無かったはずなのに。

 だから――――

 

 

「・・・フィーネ、バラルの呪詛について、再度問いかけるわ。

 アレが壊れれば、本当に人同士の争いは無くなるの?」

 

「・・・・・その、筈だ、統一言語を失った我々が最初にとった行動が戦争だったからな。

 ならば、逆に統一言語が戻れば・・・と思ったが・・・」

 

「こんな惨状で今更言語が戻った所でどうにもなりませんよ。

統一言語は統一意識で再生される、と言うのであれば、確かに【戦争】事態は起きませんよ。

 しかしそれは人類の発展の妨害に他なりません。 違いますか?」

 

「今にして言えば、そうなのだろうな・・・

だが、あのお方と話し合う為には、あの言語が必要であったのだ・・・あった、筈だ」

 

「だけど、当の呪詛は、今やネフィリムの体組織と混同されていると言っても過言じゃないのでしょうね・・・壊れていないのは、恐らくネフィリム自身理解できていないからでしょう。

 でも、これでネフィリムが次に狙うのが良く分かる・・・キャロル、アレを持ってきてる?」

 

「持ってこない筈が無いだろう、これを目的にしてたんだろう?」

 

 

 長方形の何枚折りかされた機械部品の様なアイテムを空間から取り出してこちらに投げ渡してくる。

 一応聖遺物なんだから変な扱いは・・・

 

 

「一番変な扱いしている奴には言われたくはない、と他の聖遺物たちも言うんじゃないか?」

 

「それもそうね・・・じゃ、これが、多分一番狙われやすい、と私達は思ってるけれど、どうかしら?」

 

「・・・まさかそれまであるとは、お前たちは一体どれだけ・・・」

 

「了子君、これは・・・まさか」

 

「深淵の竜宮・・・入るのは容易では無かったにしろ、警備の無力化は楽だったぞ」

 

「そしてこれは―――」

 

「ヤントラ・サルヴァスパ・・・任意的機械制御装置・・・それさえあれば機械と判断されるものは何でも制御できてしまうという、聖遺物・・・だが、それなら態々盗む必要も―」

 

(オレ)達の城を動かすために必要だったんだ、すまないな」

 

 

 そこまで言って画像を別のモノに移し替える、私が次に移りすんだ場所、それがキャロルの潜んでいる城、【チフォージュ・シャトー】

 何でも錬金術の技術を最大限に活用して作られた【不落の城】・・・がテーマらしい、あくまで聞いただけな上、私が全力を出すとあっという間に堕ちてしまうからとか、だから今は、いろいろできる便利な移動要塞としか思っては無いけど。

 

 

「・・・だったら、協力体制をとってくれれば―「(フィーネ)が居る所に協力が簡単にできると思うな、お前とて分からぬものと手を取り合うことなど出来んだろう?」 ・・・ぬぅ」

 

「そう言う事だ、結局皆自分可愛さに甘え、本来の事をおろそかにしているにすぎん。

 その上、悪事に加担していることも知らずにこの様、笑えるとしか言えないな」

 

「キャロルさん・・・奏さん、翼さん、あなた達は、それでもフィーネを・・・櫻井了子を許せますか?」

 

 

 そう言われては黙る二人、そうよね、さっきフィーネに拳を向けようとした奏はそう簡単には許せる筈が無い、結局、人間集まれば衝突は避けられない、当然の結果ね・・・挙句、自分の目的すらも達成できなくしてしまうなんて、本当に、本末転倒よね、フィーネ。

 それで、アンタらは彼女の罪に対してどう付き合うつもり?

 

 

「・・・それでも、この力は了子さんがくれた、唯一の、武器で、あたしの信念だったんだ・・・

恨んでも、今更どうこう言える立場じゃねーよ、あたしは・・・」

 

「そう、だな、例え加担してしまっていたとしても、それは結果に過ぎない。

そのお陰で私達はこうして出会い、互いに理解し合おうとしているんだ。

 無駄、とは言えないだろう、だから、櫻井女史を、いや、彼女だけを罰に掛ける様なことをするなら―」

 

「それは俺達の罰でもある、事実、こうやって聖遺物を管理、保管し、利用する手立てまで整えているのはこちらだからな、個人の失態は全体の失態でもある・・・だから、キミが了子君を殺そうとするなら、俺達もそれ相応の罰を―――」

 

「バカ言ってんじゃない、あなた達はこっちの事とは無関係だ。

 偶々今回関わっただけで、それがフィーネの関係者だっただけ・・・

私とて、無関係な奴らを鏖殺しにしたいわけじゃない、それだけは分かって欲しい」

 

(オレ)達が無事な理由がそう言う事だ、とは言え、サンジェルマン達の目的としては一国軍が全滅したのは心穏やかでは無かったようだがな」

 

 

 サンジェルマンが渋い顔してるけど、まぁ、事実ではあるらしいわね。

 彼女たちも昔から数えられない程の人数を殺してきている・・・けど、それは目的達成のためのモノ、私が殺すモノとはわけが違う。

 ・・・でも、人を殺せて分かった事もある・・・

 

 

「私は・・・もう人には戻れない・・・

ふぅ、話疲れたわね・・・少し休憩させて貰っていいかしら?」

 

「・・・そうだな、(オレ)達も少し休ませて貰おうか、サンジェルマン、お前たちはどうする?」

 

「一応、連絡を入れさせて貰おう」

 

『じゃあ、させてもらうとしようか、ゆっくり、言ってくれよ? はじめる時は』

 

「別にあなたに報告する義務は無いので此方で好きにやらせて貰います。

・・・訃堂さんは・・・なにを?」

 

『別に大したことではない、気にしないでもいい』

 

「・・・・・・なぁ、セレナ、さっき言った事・・・」

 

「答える気はないわ・・・それじゃ、また後で」

 

 

 そう言い終えて各々色々やり始めてるけど・・・こんな所にいる時点で、私は既に捕まっているようなモノよね。

 だけど、なんでこの人達は、私達を捕える様なことをしないの・・・?

 あの時の大罪人で、この国でも人を殺していることを知っている筈なのに・・・

 ・・・・・・考えるだけ疲れるわね・・・今は、ゆっくり休憩させて貰いましょ。

ねぇ、クリス・・・私達・・・これで、良いのよね・・・?

 

 

「お姉様、大丈夫ですよ・・・私達は、絶対に果たすんです、復讐を・・・あの怪物を・・・」

 

 

   ―――打ち砕く為に―――

 

 

小さい言霊、だけど今の私達には必要な言葉の重ね合い

・・立った小さな軌跡かもしれない、だけどそれでいい・・・だって、私達は・・・

 

 

「もう人でなしなのだから・・・いいよね、クリス?」

 

「はい! 何も問題はありません、お姉様」

 

 

 さて、次は・・・何を話しあいましょうか・・・これからか、あの怪物(ネフィリム)についてか・・・分からないまま殴り合いも、まぁ良いでしょう・・・? 奏、何かしら?

 

 

「なぁ、これだけは教えてくれ・・・お前は、この先、生き続ける気はあるのか?」

 

「それは、どういう意味での質問かしら? 奏」

 

「クリスを残して消えちまうような事しねぇよなって事だよ!」

 

「大丈夫よ、だって、消える時は―――」

 

 

 

―――――クリスと一緒なんだから―――――

 

 

 消えないとは答えない、だって・・・私は復讐の為に生きてるのだから、終われば、どうなるか・・・そんなの自分ですらわかる事でもない、だけどこれだけは言える。

 私は、クリスを残して消える気はない、例え、ヒト型でなくなったとしても、私は―――

 

 

 

 

 

   ―――――この世界を、呪い続けるのだから―――――



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第二十三話

 会議は続くよまだまだ・・・っと遅れて申し訳ない、なかなか難産になってきたこの頃・・・?

しばらくは対話になります、今回はセレナさんと結社の人たちのとか、色々・・・?


今、ライブの所書いている最中なのでもう少ししたら無印のところに入っていけると思います、はい・・・では後で。


 

 

 

 

 

 

 

―――会議、再開―――

 

 

 

 

 

 場所は変わって指令室、時間は、十時を過ぎたくらいかしら?

どうも、お早う、ね? セレナよ

 それぞれに席が設けられ、本格的な会議場の体を成している。

 先ほどの対話から奏や翼がこちらに向ける視線は明らかに別のモノに変わってはいたけど、そんな事を今更気にすることは無い、だって、今まで幾度となく向けられてきた視線でもあるし、そんな心の人間に助けられることも、無い、そんな弱い人間になんか助けられることは、もう、ない。

 だって、その弱い心は、私が昔に切り捨てたモノなんだから―――

 

 

 それで、次に話す事について、だけど、その前に中央テーブルには未起動の完全聖遺物やそれに連なる聖遺物、及び、シンフォギアのペンダントも並べられ、それに私たちの持っている唯一出せる聖遺物をいくつか場に置いておく、ただ、【ダインスレイフ】等の呪われた聖遺物は現存するだけでも周囲に変化を巻き起こす為並べない。

 これはあくまで私やキャロルが扱えるだけのようなモノ、クリスも一応は扱えるのだけど、それでも長時間は無理だって言っていた。

 そうしてこの中に・・・

 

 

「了子君、この杖のようなモノがさっき言っていた【ソロモンの鍵杖】なのか?」

 

「あぁ、コレは先日、F.I.S.が崩壊する前に半分は起動状態にして置いた物、だがまだ能力の半分も利用できない・・・もし扱えれば、ノイズの完全使役も容易いのだがな・・・」

 

「・・・前から思っていたのだけど、コレでバビロニアの宝物庫にアクセスしているのよね?」

 

「あぁ、私が何度も転生している中でこれだけはその性質を変えて居ないのだが・・・何かおかしいか?」

 

 

 ・・・フィーネは気付いていない? 何故?

だって、普通に言えば、ソロモン・・・つまり、悪魔の塔の創設者であり、有名な伝記では【ソロモンの七十二柱】と言うメジャーもメジャーな、と言っていいかは分からないけれど、恐らくその扉を開く鍵でもある筈の【ソロモン】と名の付いた【鍵】・・・それがかの有名なギルガメッシュ伝記に登場する【バビロニア】、しかもその英雄の宝物庫の鍵になっているというのがまず疑問だ。

 繋がっている以上そこにおかしく思う事は無いのだろうけれど、普通であれば、原典の鍵、及び杖があってもおかしくは無い・・・

 私やキャロルの考えが違うのかしら?

 

 

「あの、フィーネ、コレが【ソロモン】の名に関するもので間違っていないんですよね?」

 

「あぁ、名義上間違って―「じゃあ何でギルガメッシュ王の宝物庫を開く鍵になってるんですか?」・・・? どういう事だ? 何が言いたい?」

 

「それに関しては私達も疑問に思っていた。

フィーネ、お前がアンティキティラの羅針盤を奪って行ったのを覚えているか?」

 

「・・・あぁ、一応、な・・・だがアレは今の話と―」

 

「あの時私達が持っていたのと同じだ、この鍵はな」

 

「・・・? 何故お前たちがソロモンの杖を持っていたんだ?

 そして何故こちらに・・・」

 

「恐らく、ですが、物々交換された物が渡りに渡って日本国に運び込まれたのでは?

 何百年もそう言う道具を大切にできる程人間はしっかりできてませんから」

 

 

 私達を見ればわかると思いますが、と言葉を締めた。

 事実、その後サンジェルマンはソロモンのソレを協会に預けた後の事を知らないそうだ。

 実際、起動できたことは無かったらしいから、結局この今に至ると言った所か・・・

 ・・・・・・所でだけど。

 

 

「それを扱ってノイズにどこまでのことが出来るの?」

 

「一応だが、細かい所まで出来はする、特定の人物だけを襲うように、とかな。

 だが持っていたにしても扱えたことが無い以上は―「なら起動しましょうか?」 っ!? なに?」

 

「クリス、いいの?」

 

「はい、お姉様も気になっていましたよね? これが、彼の魔術師、ソロモンの扱ったとされる杖なのかどうか」

 

「そう言えば、二つ名に【魔術王】なんてけったいな名前があったわね・・・

ホント、伝記って読めば読むほど、胡散臭い、って私たちが扱ってるコレもそうか」

 

「・・・で、本当にこれを起動するのか? 後でどうなっても」

 

「あくまで確認の為に起動ですよ、とは言え、こんな所で急に誤作動起こしてノイズまみれになっても困りますし・・・外でやります?」

 

「待て待て、歌で起動するって言うなら私達が歌っても起動するんじゃないのか?」

 

「・・・多分、クリスなら一番早く起動できるわ、次に私が・・・だとも思うけれど、翼とどっこいじゃないかしら?

 まぁ、とっとと起動しましょ、もし本当にノイズの制御が出来るのなら、それに越した事は無いし。 それに・・・中の何かが騒いで五月蠅いし、ね・・・」

 

「ん? 何か言ったかセレナ?」

 

「何でも・・・それで、まだ未起動の聖遺物は、サクリストD こと【デュランダル】と、こちらとしても重要な【ネフシュタン】、後・・・」

 

「今ここにある分だとそれだけだ・・・

 しかし、他国が今どれほど聖遺物を保持しているかは分からん。

現に米国はあの怪物に襲われない為に隔離しているらしいしな」

 

「だとしたらここも相当に危険では?」

 

 

 

 言いたい理由は良く分かる、現にここを【カ・ディンギル】であると言った以上、此処は人口聖遺物の中と言っても良いのだろう・・・? あ、そもそも聖遺物は人の作ったものか。

 近代文明で作り上げた砲台、それには恐らくだけど聖遺物と同じような力が備わっている筈。

 そうだとすれば、此処が危険であるのは想像に難くない・・・けど。

 

 

 

「平気でしょ、事実コレが砲台だとしても、弾が無い以上恐らくネフィリムは近づいてこない。

 そして対抗するためにも、サクリストⅮ、こいつが欲しい」

 

「先程から言っているだろう、コレは国の― 「そもそも国として現存できなければ保持している意味も無いはずですが?」 ・・・あいつが国を容易く滅ぼすと? 聖遺物しか喰らわない筈・・・」

 

「・・・それについては・・・キャロル、お願い」

 

 

 

 あぁ、その返事と共に、然る時に起こり得た一つの国の攻防戦が・・・いや、最早ネフィリムの一方的な蹂躙が映し出されている。

 逃げ惑う者、立ち向かう者、数多の人物が次々に灰燼と帰していく・・・

 私達がそちらに着いた時には既に何もかもが終わった後で、残った後の塵には人の物であったであろう異物があちらこちらに散乱していた。

 そして、現場の焼け着く様に染み付いた鉄の臭い、そして硝煙の燻ぶった黒い煙、何処で呼吸しても歪な香りしかなくなった其の地は一夜経たずに廃墟になる程にまでなってしまった。

 ・・・そこには憶測ではあったけど、一応聖遺物が祀られて居たらしい。 と言うのも、その聖遺物を目指してくるだろうと予測して動いていたのだけど、それを、奴の分身体【N(ネフィリム)・ダミードール】によって邪魔され、私たちの力を露呈させられたと言っても良いとおもう、事実、この数か月後に遭ったネフィリムには、私たちの力が殆ど通用しなかったから。

 だから、言える、これほどに聖遺物を管理しているこの国なら、間違いなくネフィリムの標的になっていることは間違いないって。

 

 

 

『今まで・・・どれほどの国が被害に遭ってきた?』

 

『五か国ほどだよ、数えでね、そろそろもう一国家滅ぼすんじゃないかな、【アレ】は』

 

 

 

 細かい障害なら数えてもキリがないほどだけど、としめたアダムの言葉に頷く私達、それについてはサンジェルマンもキャロルも知っている上、私も関わった事の多くが、大部分の街を、市を滅ぼして行っていて・・・

 その罪の贖いに、私が標的になっていて・・・後は、言わなくても分かるよね?

 

 

「そんな・・・けど、セレナは見ず知らずの人達を護ろうとして・・・そして―!」

 

「奏、言葉で取り繕えるならいくらでもできる、だけど―――」

 

 

   そんな程度で人が分かり合えると思わないで!

 

 

「程度・・・程度、だって・・・?」

 

「あの黄色のガングニールの子が言っていたことが、全て成せるだなんて甘言はやめて、だとしても、と手を伸ばされても、私たちの血塗れた手を握るその意味を、その意思を、あなた達に背負えると?

たとえ手を握り合った仲でも、次の日には敵対する事だってザラにある。

 そんな中で、敵とされて居る相手とも、手を取り合えると・・・? ふざけないで!!!

 だったら、だったらなんで私たちはその手で殺されているの! これもそれも全てあのバラルの呪詛のせいだとでも? いいえ、そんな事はあり得ない! アレこそ人の本懐、人そのものの意思に他ならない! 私がこうなっているのも、人の欲が消せないのも、あれだけのセイでは決してない。 私達が互いに理解し合えないのは・・・己も、相手も、何もかも怖いから・・・昔のわたしであったなら、恐怖の前に何かしようとしていたのかもしれない。

 だけど! そうした結果、どうなった・・・? クリスは見るも無残な姿に変わり果て、私はもう人としての形を留める事は無かった・・・今生きている理由は、最早身体自体が完全に【人】と言う器を成しているに過ぎない・・・

 それでも、この姿をしているのは・・・未練、なんでしょうね、私と、あの世界と、今を繋いでくれている・・・だとして、アイツを殺しても・・・結局、私は・・・

 

 

  大罪人であることに変わりはない・・・たとえ、私が殺してなかったとしても、ね」

 

 

 

 そこまで言い切って、映像は幕を閉じ、通信状態の三人が再度映し出される。

 奏はもう言える事は無いのか、唇を歯噛みして悔しそうに目を伏せて、翼は視線をオロオロさせて、何処か焦っているようで・・・、弦十郎は聞き終えて何かを決したかのように何かを書き綴・・・正確には叩き込んでいると言えばいいのかしら? まぁ、こんな大罪人を政府が見逃すはずが・・・? 弦十郎、それは何?

 

 

「これ以上詳しい事は君が話したいときに話してくれ、だが、なんだ・・・少しは、この世界について良い事もあると、君たちに知ってもらいたいんだ。 と言う訳でだ、奏、翼」

 

「はい!」 「なんだ? ダンナ」

 

「君たち四人で、あるテーマパークに行ってもらおうと思っている、と言うよりは、あと少しで期間が切れそうなチケットがあるのでな、ついでだから行ってもらいたいんだ。

 俺もいければと思ったが、離れる訳にも行かないだろうしな」

 

「あら、別に気にしなくてもいいのに、弦十郎君が居なくてもこっちはしっかり回せるわよ。

 それより保護者も無しに中高生を遊び惚けさせるのが問題だと思うのだけれど?」

 

「ぬ・・・それもそうか・・・」

 

「ねぇ・・・また私たちに無駄ごとを―「無駄だなんて言わせないさ」・・・なに?」

 

「君は誰よりも人を護ろうとして、絶望を知り、それでも今尚生きようとしている、だから、知っておいて欲しいんだ、キミが守って居たモノを、誰の為に守ろうとしていたのかを・・・」

 

「知ったかぶりしないで! 私たちの何を―「確かに分からない! だが、最初は誰でもそうさ」・・・」

 

「だから、これから互いに分かりあって、知り合って・・・そうして、その先で、笑い合おう、君となら、違うな、君たちは笑っていて良いんだ、だから」

 

 

 

 ・・・本気で言っているの、コイツ・・・

だとしたら、相当に頭が逝っているとしか思えない・・・だって、私達は許されてはならない程の罪を犯して来た、罪には罰を、それが私たちの為してきた事であり、同時に自分達を戒める楔。 それだけでは無いのだけれど・・・やっぱり、分からない、何が言いたいの、こいつは・・・周りの奴らも不思議な笑みで、気持ち悪い・・・ぅっ

 

 

 

「お姉様! 大丈夫ですか!?」

 

「ごめ・・・クリス、肩、貸して」

 

「・・・弦十郎、あんまりそう言う事はやらない方が良い、彼女自身、何でも受け入れられる程強くは無いんだ・・・あの時から、彼女の幸せは無くなったんだからな・・・」

 

「どう、いう事だ?」

 

「その前に、ベッドに運んでやれ・・・さて、こっからは彼女についての事ではあるが・・・そうだな、(わたし)達もお前たちに協力しても良いと(わたし)は思っているが、お前たちは?」

 

『ないよ、異論は、合流したのだからね、その為に』

 

「局長が異論無いのなら、私達は言える事は無い。 このまま話を続けよう」

 

 

「そう、か 所で、君たちの組織は一体・・・」

 

「セレナから教わらなかったのか? 錬金術師結社【パヴァリア】そこのサンジェルマンは、その結社の幹部をしている・・・統率者でもあるな」

 

「局長がやらない以上、誰かがやらなければ結社として崩壊するからな・・・それに、この事にセレナも関わっている」

 

「錬金術師、か・・・」

 

「そうだ、フィーネ、お前がかつて相対した存在、そしてお前も扱った事のある術だ」

 

「・・・サンジェルマン・・・アダム・・・あぁ、そうか、それでアンティキティラの羅針盤と言っていたのか、ようやく思い出したぞ」

 

 

 くくっ、と低い声で少しの笑い、その後に言葉を綴る・・・それは過去にフィーネが対錬金術師にしたのであろう所業の数々、だがそれをもってしても、己が命題を成せなかった、からこそ今に至る。

 そうして、現在に至るのだが・・・

 

 

「それよりも、セレナ君のあの容態は何なんだ・・・翼からも聞いたが、幸福を感じると成る、とはいったい・・・?」

 

「それはだな――「不幸喰ライ、そうじゃないか?」 ・・・あぁ、そうだ」

 

「アイツの体中に聖遺物を入れ込まれているのはお前たちも確認しただろ? それと同時に不幸がクリスに向かわないように、ありとあらゆる不幸を喰らい、自分のものとする、そうして得た負の感情は彼女の力になる、故の戦場での殺害だった訳だ・・・

 最も、アイツも何かがあって女性に好かれる【ナニカ】を持っているらしい・・・効果は・・・まぁ、そこの装者二人が良く見ているだろう?」

 

「私・・・「達?」」

 

「先日、ノイズの襲撃があって、そこで助けた女性がおかしな言動をしていなかったか?」

 

「そういや、セレナの事を、真っ先に【お姉さん】って言ってたな・・・でもあれは―「偶然だと思うか?」 ?」

 

 

「今まで数多の女性たちを助けて来たアイツだが、誰も彼も、年上年下関係なく、女性は皆彼女を見て第一声には【姉さん】と口にする。

 これでは、まるでサキュバスの呪いの様な、だな」

 

「それを、彼女は?」 「知らない、だが薄々勘付いているんじゃないか?」

 

「じゃあ、じゃあクリスのあの慕いようは・・・」「呪いの所為、と言いたい所だが厳密には違う」

 

 「な、なんだ、違うのか」

 

「敢えて言うなら、それよりもキツイ呪いに掛けられていると言った方が良いかもな、何せ、アイツの主従を結ばせたのは・・・いいや、コレは言わなくていいか、それにやったのは(わたし)じゃない、セレナが、自分の意思でやった事、そして、クリス自身もそんなセレナと契りを結ぶことになんら抵抗も無かった、まるで、初めからそうなる事を望んでたかのように、な」

 

「・・・じゃあ、アイツが死んだら・・・」

 

「クリスも死ぬ、そういう呪いだ・・・

 こっちが聖遺物どうのこうのと騒いでいる間にも、アイツは次々に曰く付きのアイテムを探し出して、(わたし)達に扱いやすいように加工させられていたな、今にして思えば当然か、なんせアイツは―――」

 

 

 

 

 

 

 

    世界に呪われた聖女なんだからな・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・は? 聖・・・女・・・? それに、呪われたって」

 

「簡単な話だ、アイツは全世界の悪意を一心に受けると決めた幼い時からダインスレイフを何の負荷もなく扱い、それ以外の呪物も容易く、何を支払うでもなく扱いのける、正直、(わたし)も正気を疑ったよ・・・まぁ、アイツは自分を【狂気の化身】と揶揄していたが・・・

 それでも、アイツは・・・セレナは、(わたし)達の大切な・・・」

 

「本当に、大切に思って・・・居たんですね・・・ですが、なんで?」

 

「・・・(わたし)達【パヴァリア光明結社】はたった一人の少女に皆負けたんだ。

ありとあらゆる術式、聖遺物の効力、あらゆるものを駆使して、負けたんだ、彼女はただ【アガートラーム】を纏っていただけだったというのに、な」

 

「あぁ、その時にも私や局長達も力を貸してくれていたが・・・刃が彼女の守る者に届く遥か前に潰されていた、私も、キャロルも、プレラーティやカリオストロも、結社のほぼ全勢力が、彼女一人に推し負けたんだ、それも、十になった辺りの少女に、ね・・・正直、心が折れたよ」

 

『だからこそ、してるのだよ、彼女の支援をね しなければね、殺されないように』

 

「なん、だよそれ・・・じゃああたし達が戦った時は、手加減してたってのか? あれで」

 

「ラルムの存在を出しただけ十分な戦果だ、と言いたいが、アイツ一体で本来ならあそこいら一帯は廃墟同然になる筈だったが・・・イレギュラーが居たお陰で倒壊は殆どなく済んだのは意外だったな」

 

「成程、響君の事か」 「違う、お前の事だ、弦十郎」 「・・・」

 

 

「何でアイツがお前に対してあれだけ用意周到に戦いを進めていたか分かるか? それはお前が(わたし)達やアダム達よりも危険と判断したからだ」

 

「それでも、俺は彼女の毒で一時戦闘出来ない程まで追い詰められたが」 「だがそんなモノ己が力でどうとでもできただろう?」 「・・・ぬぅ」

 

「アイツの麻痺毒であそこまで早く復帰できたのは弦十郎を置いて他に居ない。

対策のしている錬金術師ですら手間取っている間に狩られる始末、(わたし)とオートスコアラー達を合わせて戦っても十分もたないんだ、こっちがな」

 

「あぁ、それは私達も同じだ、むしろ五分も保たない、局長に至っては―」『一分だよ、全く、しかもクリスにね、酷いものだよ』

 

「クリス君一人で、君たちの長が倒されるほど、なのか・・・」

 

「むしろあの時の戦いはただの蹂躙だったな、と言うよりアダムが【嫁にしよう、彼女を、祝ってくれ、僕達を】 なんて出鱈目こいて彼女をブチギレさせたからな、自業自得だ」

 

『冗談のつもりだったんだ、本当にね、困ったものだよ、通用しないのは』

 

「ですが局長、あの時の言葉は冗談では無いように聞こえましたが、その上、彼女はその時11程の少女だったと記憶していますが―」

 

『黙っておいてくれ、その事は、分かっているよ、気が早いのは。 だが先約しておきたかったんだよ、何事も、早い方が―――』

 

 

 

   ズドンッ!!!

 

 

 

 唐突に通信先のアダムの部屋の後方に大きな穴が空き、彼の頭を何かが撃ち抜いた後が出来ていたが、彼自身それを気にすることなく、苦笑いを浮かべていた。

 

 

「だ、大丈夫なのか? アダム局長・・・?」

 

「いつもの事だキニスルナ」

 

「あぁ、このぐらいで局長は倒れないからな。

 しかし相変わらずの精度の高さに驚くよ、よっぽど憎んでいるんだな、局長の事」

 

『おいおい、酷いじゃないか、傷付くよ、心が』

 

「身体が傷付いても大したことない癖に良く言うな、ホント。

 どうせならダルマにでもして貰った方が良いんじゃないか? 動かない局長らしく丁度いいオブジェになるぞ?」

 

『やめてくれよ、言うのを、実行されるからね、今に・・・っと!?』

 

 

 画面の向こうでは次から次に風穴から飛んでくる弾丸を器用に避けるアダムが映し出され、次第に弾幕が濃くなっていき・・・

 

 

『許さない・・・姉様を汚そうとするアンタなんかアアアァァァァ!!!!!』

 

『待ってくれないか! それはもうやめにした話だったはずだろう、だからこれは言葉の―――』

 

『知らない! このまま滅んじゃえーーーーーー!!!!!』

 

 

 

     MEGA DETH CARNIVAL

 

 

 

 最後に見えたのは真っ赤に燃えたギアを纏い空を浮遊する銀髪の少女に射抜かれる巨体の姿だけだった、哀れアダムの冒険はここで終わってしまった―

 

 

 

「はぁ、オシイヤツヲナクシタナー」

 

「全く、口には気を付けろとあれほど言っておいたのに・・・局長だから仕方ないか」

 

「い、いいのか? あれは」

 

「どうせんでもあとでアダムの部屋だけ再生すればいいだけの話だろ? だったら今の(わたし)達に何の関係も無い・・・音声を切っておいてくれ」

 

 

 先ほどから鈍い物理音が響き続けているのが伝わって来るが、まぁ、気にしなくていい、いい、のか・・・?

それはともかく、彼女の手に別の物が握られて居たような・・・

 

 

「【ソロモンの杖】の起動ついでに叩きに行ったんだろう、所々にノイズの残骸を出している辺り、意図して使っているな、まぁ、起動完了している辺り流石と言えるか」

 

 

 流石アダムだ と感嘆する・・・が反応はそれでいいのか・・・?

 

 

「・・・まぁ、こっちの事はまだ色々やる事はあるが・・・さっきの流れでまだ話すのは少し気が引けるしな・・・どうする?」

 

「彼女達にも色々準備が必要な物もあるし・・・後は俺達で話しあえばいいだけだろうからな、翼、奏、付き合わせてすまなかったな」

 

「いえ、こちらとしても彼女について色々聞けて良かったです・・・ですが」

 

「より一層付き合い方が難しくなっちまったな・・・どうするか考えるの、ちょっとめんどくさいな・・・」

 

「奏っ」 「分かってるよ、翼、兎に角 彼女から出来る限り目を離さないようにしておく、それでいいか?」

 

「クリスにも気を配っておいてくれ、あれでもセレナに次ぐ、って言わなくても分かるよな、お前たちもアイツにやられてるんだろうからな」

 

「ところでクリス君が向こうに居るという事は、今セレナ君は― 「緒川さんが様子を見に行きました」 そうか」

 

「ま、此処の場所を登録してるだろうから、クリスもすぐに帰って来るだろう、と噂してたら来たか」

 

「只今戻りましたキャロルさん、弦十郎司令・・・これ、あのクズの物です サンジェルマンさん処理お願いします」

 

「・・・あんなでも局長だからあんまり悪口を言わないで―「な・に・か?」 ・・・何でもない」

 

 

 何故かおぞましい微笑みを見た気がする、だが此処にいる者たちの話ではあの男はまだ生きているらしいから気にしなくても良いらしい、それよりは―

 

 

「クリス君、ソロモンの杖の起動は出来たのか?」

 

「あ、はい、あのクズを潰そうと歌を口にしたときに並列して起動しましたから、特に問題無いかと?」

 

 

 ・・・クリス君、それは良いが、その禍々しい杖状の【ナニカ】に触れて良いのか、悪いのか・・・

 

 

「弦十郎さん、これについて聞きたいんですか? これはですね―――」

 

「ストップ! まて、落ち着け弦十郎! 早まるな聞くな言わせるな! クリスも早くそれを仕舞え! 良いから!」

 

「・・・はぃ・・・」

 

 

 ・・・・・・なぜかとてつもない勢いでキャロル君に制止されたが、どうやら認識してはいけない【ナニカ】だったらしい・・・ん? 今動かなかったか?

 

 

「・・・このこかわいいですよね?

 

 「・・・(俺は何も聞いていないっ!)

し、しかし・・・もうこんな時間か、時が経つのも早いものだな」

 

「もうお昼ですか・・・じゃあこのままいつもの所に集合ですかね?」

 

「キャロルさん達はお昼どうしますか?」

 

「・・・そう、だな―「考えていないのなら、私達と一緒にどうだろうか?」・・・いいのか?」

 

「だな、そうだ! サンジェルマンさんも一緒にどうですか?」

 

「キャロルも向かうのなら、同伴に与ろうか」

 

「藤尭、友里、此処まで話しておいたことの纏めは―「あの局長さんがやられている間に全て纏めておきましたよ」 そうか、出来て無かったら飯の後でも良いと思ったんだが」

 

「その辺は抜かりなく、今日仕上げるものもセレナさんが早く来たお陰で直ぐに済ませる事は出来ましたから、取り合えず翔希さんに連絡入れておきますね」

 

 

 あぁ、頼む・・・ふぅ、これで先ずはひと段落、か・・・そういえば、八紘の兄貴、一言も喋ってなかったが・・・

 

 

『別に気にしなくても良い、こちらはこちらで聴取を執っていただけなのでな、それで、その後はどうする?

 もしまだ話しあうのであればこのまま通信を続けておくが?』

 

「いや、もういいだろう、セレナ君達はしばらくこちら預かりで良いだろうし、親父もそれでいいよな?」

 

『あぁ、是非そうしてくれぃ!』

 

 

 ヤケに声を張っているな・・・まぁ、奏以来の貴重な戦力と言う点でも、重宝する事になるだろうな・・・

さて、ここから忙しくなりそうだ

 

 

「司令、翔希さんがあと二十分ぐらいしてから来てくださいと報告が来ましたので、追々向かう事にしましょう」

 

「そうだな、今日はもう早上がりで良いだろう、藤尭、今日はもう良いぞ、明日も非番で良いからな」

 

「マジですか! 有難うございます!!」

 

「いや、わざわざ夜勤までやらせて此処まで居させてしまったしな、なに、飯代位こっちで請け負うから好きなの食べて良いぞ?」

 

「うわ~ 今日ほどマジで夜勤明けが嬉しい日も無いですよ~ あ~ テンション上がって頭ヤバいかもな~」

 

「そう言って羽目を外し過ぎないでよね?」

 

「分かってます! 節度を持って ですからね」

 

 

「・・・こちらもこういう奴らばかりの結社ならどれだけ楽だったことか・・・」

 

「言わないでくれキャロル、悲しくなるから」

 

 

 

 ・・・彼女たちも彼女達で相当に辛かったんだろうな・・・まぁ、今回は全員分奢って良いだろう・・・と言うよりいつもあそこでは後払いにしているから気にしなくても良いのかもしれないが・・・

如何せん、彼にはこういう事も含めて感謝してもしきれない、それに、まぁ、他にもいろいろあるが、まぁ、言葉では言い表せないぐらいには、あるな。

 

 

「これで記録お終い、さて、そろそろ向かいましょうか」

 

「そうだな、良し、戸締りして・・・と、そう言えばだ、響君はどうしてるんだ?」

 

「あ、そう言えば散々話していてすっかり忘れてました・・・部屋にいるんでしょうか?」

 

「だれか彼女の様子を―――」 「あ~!!! すいません! 立花 響! 寝坊しました!」

 

 

 唐突に開かれる指令室の扉から、勢い良く前のめりに転けそうに・・・こけた

 

 

「っと、大丈夫か? 響君」

 

「あ、はい! 頑丈さだけは取柄なんで・・・って、あれ? サンジェルマンさん!?」

 

「? お前とは初めてだったはずだが?」

 

「あ、えっと・・・『響、響、後は私が話すから通信機渡して』 あ、はい!」

 

「その声、リューシェか」『そだよ~いつぶりだっけ?』

 

「前 翔希が局長に交渉して以来だから、半年ぐらいじゃないか?」

 

『そんなもの振りか~・・・で? 通信に来てたはずのその局長は?』

 

「先程、クリスによる抹殺が遂行されたところだ、無事を願うつもりは無いが」

 

『あ~、まぁいいや、どうせ生きてるでしょ

それで~、こっちの響って子がサンジェルマン・・・相変わらず長いから【エルマ】って呼んでいい?

 その子なんだけど、実は並行世界の最も強い響ちゃんだったりするんだよね? 多分』

 

「つまり(わたし)達の事を知っていたのはその並行世界の(わたし)達と会っていたからか・・・だが見る限り、そっちの(わたし)達は亡くなっているんだな?」

 

「はい・・・だから、他の世界でもこうやって出会えて手を握り合えるのがうれしくって・・・」

 

『あ~ ところでこれからお昼だよね~

とっとと来てくれない? お話は後で良いから~、ね?』

 

「そう、だな、これ以上遅れる訳にはいかないから急ぐか」

 

「サンジェルマンはそのまま言ってくれ、(わたし)はセレナを連れて行く」

 

「分かった、後でな」

 

 

 あぁ、いうが早いかキャロルはセレナが居るであろう部屋を目指す。

まぁ、まだ話すことは纏まっていないのが現状、だろう。

 幸い、ここにいる奴らはセレナを許し、幸せにしようと考えるお花畑な連中が多いと言える・・・だが、それだけで物事は簡単には済まないのが現状であって。

 こと、件の問題、ネフィリムの事に関しては、まだ纏まっていないのが気にはなるところだが・・・今はまだゆっくり考えればいいところだろう。

 もし、だ、必要ともなればシャトーの全出力を使ってアイツを、ネフィリムを対消滅させる覚悟くらいは必要だろうな・・・

 とはいえ、だ

 

 

「起きているか? セレナ」

 

「起きてる、少し気分が優れなかっただけよ」

 

「そうか、これから例の場所で昼食を取るんだが、動けるか?」

 

「・・・えぇ、平気、大丈夫よ・・・」

 

「・・・・・・頼むから、あまり心配させないでくれよ・・・(わたし)にも、セレナが大切なんだから―――」

 

「分かってる・・・じゃあ、遅れると悪いから、向かいましょう?」

 

 

 

 あの司令も言っていたが、やはり、幸せには、なって欲しいかもな・・・なにせ、世界の不幸を一身に背負ってきたんだ・・・だから―

 

 

 

 

  ―――どうか、彼女たちに幸福があってくれ―――

 

 




・・・途中弦十郎さんが言っていたテーマパークについてですが、別口で書いていきますので本編とは別投稿にします(分けるだけで対して変化は無いかと?

そろそろ苛烈になってくるかと・・・次回はやばいのが来て、来ます!(?)

ではまた


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第二十四話

今回投稿しないと今月投稿できない気がしたので投稿します。
・・・そういえば、マリアさんの誕生日ってそろそろでしたっけ?
 なんかしとこうかな・・・?

えっと、今回は話し合いもあるけど、ネフィリム全般色々いいます。


・・・次回は時間が飛びます、はい、進行度はあまりよろしくないですが、頑張る


 それでは!


 それから色々、飯食べて映画見て―――

 

どうもこんにちわ、で時間的にもいいわね、セレナよ。

 

 あれからまた色々話し合うことになるとも思ったけれど、起動したソロモンの杖の試験運用に付き合わされたり、ツヴァイウィングの二人の身体強化に付き合わされたり、まぁ、情報自体はある程度共有できたから悪い事ではなかったが、それでも、フィーネの核心部には触れられなかった・・・まぁ、私自身の話すことのほうが多かったことも相まって時間が一日では足りない、その上、月面調査も併せて成す事が大幅に増えた、というのが現状なのだろう、あの喫茶店の店主も苦笑いしていたところを見ると、当分はそれぞれの対策に当たると言っていた、だからこそ、私達のやりたいことが出来る、だから、ね。

 

 

 

 『個体N―DOLLの出現を確認、個体数28! 皆さん! エンゲージまで残り10っ!?

ってセレナさん! 先行しすぎないでください!』

 

「ネフィリムの小型個体が国内の至る所に発生しているのは着いたときから知っていた!

これで・・・158!」

 

 

 

 地上に着地する瞬間、ネフィリムの分体を一発で殴り飛ばす。

 殴られた部分から消滅するように消えていくのを後ろ目に確認し、脚部のブースターを点火、速度を出さないように出力のみを引き上げていく。

 その間遠方からクリスの狙撃が私の死角を潰すように跳弾し、ネフィリムを地面に縫い付ける。

 

 ところで、なぜ唐突にノイズではなくネフィリムの子供のような個体を大量に相手取っているのか、というのも基本的に避難警報はノイズ以外には地震や津波以外に発令しないから、ということでネフィリムの存在をある程度の距離から感知できる私やキャロルの持っているシャトーの機能で探知するしかない。

 だけどその機能を取り付けるだけでも時間がかかる、故にデータだけを施設に取り込んだ、そうしたら近辺だけだがネフィリムの反応を探知することに成功した・・・まぁ、施設の機材が程良くあっていたんでしょうね、こちらが気にすることではない・・・にしても・・・

 

 

『これだけの量、一体どうやって隠れていたんでしょうか・・・』

 

「奴らはこれだけじゃ収まらない! おそらくだけどこの国全土にまで出没しているでしょっ!

 本体のネフィリムがやってくるのを待ちながら・・・ねっ!」

 

 

 三体ほど一気に飛び込んできたのを両手で纏めて抱え込み咆哮、吐き出される音の波に反応して真っ青なブレスが直線状に放たれ霧散する。

 もはや人ではない、と以前から言っていたのはそういうこと、現に着地からここまでギアは足にしか装着していない、あくまで機動力確保のためのギア運用、部分展開、これが運用できるようにしてくれたのはキャロルのおかげ、実際、歌うことなく念じるだけで装着できる利便性で的確に運用できる、ただ難点としては呪いの力を転用できないから装着部分は赤の宝玉が足首辺りに煌めいていて踵あたりから白い、白銀の羽が煌びやかに輝く今に似つかわしくない白銀のヒールシューズ、ただ踵は着地した瞬間にネフィリムに弾け飛ばしておいた、なんで女性ってあんなタイプの靴で安定できるの・・・? よく分からない。

 

 

「いや、あたし達からしたらセレナの戦い方も相当だぞ!?」

 

「奏、戦場には来ないでって言ったはずだけど?」

 

「それでも私達は防人る者だ、民を守るために此の身を戦場に捧げる覚悟なら当の昔に出来ている!

 っ! ハァッ!」

 

 

  【蒼の一閃】

 

 

 腰部から一気に弾き出された刀から蒼色の巨大な波動が一直線に小型ネフィリムたちに襲いかかる、これなら倒せるだろう、と息巻いている・・・が

 

 

 

 

  ズガンッ!!!

 

 

 

 集団に当たる前の位置で刃が消滅し黒煙を撒き散らす、セレナとクリスはやっぱりと言う顔持ちで呆れた瞳をネフィリムたちに向ける。

 そうして煙が晴れた頃に先程までいたものとは違う大きさのネフィリムが赤い瞳を相手に向けながら煙のような息を口から吐き出していた。

 

 

「なっ!? アレを、防いだのか?」

 

『違います、喰べられたんです!』

 

「食べた、だと?」

 

「そういえば、あなた達はネフィリムの主食が何だったか知らなかったわね。 いいわ教えてあげる、クリス!」

 

 

 遠方から三発ほどの細いミサイル上のなにかが高速で飛来する。

 見るのは愚か下手をすれば可視速度を超えていたのかと思えるほどの速度だったが、相手三体をそれで吹き飛ばせたのだろうかと思えたのだが。

 

 

『弾け飛ばします! ご注意を』

 

 

 当たったであろう三体の内部から赤結晶状のクリスタルが増殖、内部破壊を引き起こし破砕される寸前、他のネフィリムたちが集いそれぞれを喰らっていく、まるで餌に群がる鯉のように―

 それを黙認し、右腕に呪いの渦を作り出し、溜め込む・・・そして

 

 

「確認は終わったかしら? だったら―  これで終わりよ!

 

 

 

  【〈CoDE.Cast:CARSED>TOrNAdE FeArS】」

 

 

 

 塊になっていたネフィリムたちのど真ん中に右腕を打ち込み大きな力場を作り出す、そうして内側から生まれた竜巻は縦に渦巻くことなくブラックホールのように内側に巻き込んで引き裂いていく。

 その音は何かを細切れにするようにグシャグシャと不快な音を巻き起こしながら、ネフィリムの血のような黒い液体や緑、茶色など様々な色のなにかが弾け飛びながら悲鳴が響くことなく圧し潰されていく。

 その様子を見たくもないように目をそらし他の個体を探しながら様子を見るツヴァイウィング、それに対してクリスは複数の弾丸を嵐の中に打ち込み、更に加速させて行く。

 それはさながら歪曲に曲がるレールガンのよう、一体、また一体と肉片ながら生命維持されているネフィリムの心の臓を撃ち抜いていく、まるで曲芸のように、そうして―

 

 

『これで・・・終わりっ!』

 

 

   【MEGA DEATH SpyRaL】

 

 

 本来であればミサイルの連射の砲撃を渦状にうごめく弾丸で成す、直線にしか動かないものを空間を捻じ曲げるか如く闇の渦の中に入り込み撃ち抜かれたネフィリムから無数のスパイク状の赤結晶が再び隆起する。 それだけで留まらず、這い出た結晶が更に黒ずんでいき動きを止めたネフィリムたちに突き刺さっていく。 そして―――

 

 

「・・・いい感じのオブジェができたわね」

 

『上手く行きましたか?』

 

「上出来よ、クリス、お疲れ様・・・これで185体・・・埒が明かない・・・けど」

 

 

 そこまで口に出して首を横に振り否定するように汗を振り飛ばす。

もうじきに10月も終わる頃だが、それでもまだ暑い時期が続いており、ギアを纏わずに動いていたセレナには現状の暑さが吹き抜ける風に何処か心地よさを感じつつもその乾気に苛立ちも感じていた。

 そこまでしても苛立ちは収まらない、だから―

 

 

「なぁ、セレナ、それをどうするんだ?」

 

「・・・黙ってて・・・さて」

 

 

 脚部に込めたエネルギーを別の形に変形させる、右足はまるで重機のようにドッシリと構え、反時計に二回転、勢いをつけて左足を突き刺すように叩き込む、更にそこを支点にし前のめりに上に駆け上がる、そうして頂点立ち、右足を思い切り点火したブースターで叩き落とす。

 縫い留められたネフィリムの塊は弾け飛ぶことなく潰れていき― そうして―

 

 

 「何度目かしらね・・・消え散りなさい!

 

     ヴァニッシュドカノン・ヘルズ・セレナード

   !VaniShD CaNon HELL`s SERENADE!」

 

 

 叩きつけた右足から赤黒い極太の光線が地面を抉り散らし、弾けた火花が天上に舞い上がり辺りを更に暗く染め上げる。

 それは彼女の象徴のような色、打ち込んだ瞬間の爆音は小さく消えて、纏まっていたネフィリムが悉く消え去っいく、まるで鏖殺し尽くすかの如く、しかし留まることはなく、彼女の狂気は更に濃く、さもレーザーの様なソレは鋭い刃物のように変質していく、刃のような、されどナマクラを作り出したかに思えたソレが収束し、更に白い闘気となり弾け飛んで木霊する・・・ソレは、まるで一つの聖遺物に変わったかのような変化だった・・・そして―――

 

 

 

「またハズレ・・・村正の贋作か・・・」

 

『勾玉、鏡、村正の贋作・・・かなりのモノを蓄えた用に感じますね・・・」

 

「前はシャムシールの贋作だった、その前は毒蛇の呪眼・・・」

 

『確実に、何かの意思を汲んだ異物を此方に渡してきてる・・・ひょっとして、遊ばれている?』

 

「・・・・・・アイツなら・・・間違いなくヤル・・・そうして、多分、私がここにいることを勘付いたはず」

 

『だとしたら、半年の間に来るのでは―』

 

「な、なぁ、さっきから何の話を―」

 

「・・・奏、翼、人間を辞める覚悟はある?」

 

「っ!? はぁっ!? おま、何言って!?」

 

「セレナ、自分で何を言っているのか、分かっているのか!?」

 

「当然、それに見たでしょ? あなた達の攻撃、あいつらには傷を付けることすら出来てなかったの」

 

「それは、ギアの出力を出せて―「じゃあしっかり出力の出せる翼の攻撃も通っていなかったのはなぜかしら?」 っ!」

 

 「だけど、人間をやめるって―」

 

「ちょっとストップ、皆熱くなりすぎです。 少しは冷静になってください」

 

 

 唐突に風が抜けたかと思ったら、来たのね、凪 翔季・・・しかし相変わらずに苛つかせてくる感じ、なんでかしらね・・・

 まぁ、それはいいけど・・・

 

 

「ネフィリムの残骸は残してない、一課はお呼びじゃないのだけど?」

 

「いや、周辺の被害状況の報告も僕たちの仕事だからね

 ・・・それに、僕も戦闘に色々入らせて貰ったから、ね?」

 

 

 言って此方に何かを投げ渡してくる・・・これは、贋物・・・?

 

 

「ここいらに居たネフィリムが体内に保有していた聖遺物、箱の形からして【パンドラ】かと思ったけど・・・アレは災厄の聖遺物だし、セレナさんが持ってるかと思ったんだけど」

 

「その異名については私もよく知っているけれど、生憎持っては居ないわ。

 キャロルも存在は知っていても倉庫にも入ってないと言っていたわ」

 

 

 投げ渡された小さな箱状の塊を見つめる。

 所々煤けており元の色が分かりづらいが、白を貴重にした幾何学模様の箱だった、どうやらこれはピンクに近い色だったのかもしれない。

 それにこれは彼が言ったように【パンドラの箱】ではない。 事実、そうであったのならば私がこの手に加えない訳がない。

 アレは人の不幸の体現、私にあっている聖遺物だから、逃したくはない・・・でも、目の前のこの箱は一体・・・

 

 

 

「開けていいかしら?」

 

「どうぞ、とはいえ、僕たちじゃ開けられなかったんだ、でも君なら開けられるんじゃないかな?」

 

「なにそれ、どういう・・・って、開かないのだけど?」

 

「? なぁ、翔季の兄貴、こういう箱なら外側を壊して中身を出せばいいんじゃ?」

 

「もしこれが箱と一体型の聖遺物だった場合それでは効果がなくなってしまう。

 それにね、調べたらこれが【完全聖遺物】だっていうのが分かった、だからセレナさんになら開けられるかと思ったんだ。」

 

 

 

 まぁ、結果は無理だったわけだけど・・・

 にしても不明確なモノを渡すなんて、どういうつもり?

 

 

「セレナさんたちは確か聖遺物を掻き集めていたと言ってましたから、どんな聖遺物でも力になるかと。

 それに、自分の使っているギア以外のギアも纏えますよね?」

 

「何を根拠に・・・?」

 

 

一つのペンダントを投げ渡してきた、これって・・・

 

 

「【複製トリシューラ】 僕たちはオリジナルを持っていないからね、贋作だけどオリジナル以上の性能を作り出すことにして、まぁ、成功させたのが僕たちのリーダーだけど、よかったら試しに使ってみてくれないかな?」

 

「扱うのに歌が必要でしょ、コレから聖詠は浮かんでこないのだけど・・・?

・・・あぁ、なるほど、櫻井了子の作ったギアシステムじゃないから、つまり、そういうこと?」

 

「うん、そういうこと。 君なら雑にでも簡単に扱ってくれそうだし、壊さなければあの人も何も言わないだろうからね」

 

「・・・先ほどから話を聞いていれば、なんだ? 櫻井女史ではないものが、ギアシステムを、作ったと言ったか?

 コレはそんなに簡単に真似できるものなのか? あの人からすれば無理だと言っていたが」

 

「普通は、無理だろうね、でも僕たちのリーダーはソレを可能にする科学力を持ってる、それに信頼できる。 だから僕たちは【彼女】についていくことが出来る・・・って言っても、君たちと合うことは絶対ないと思うけどね。 だから僕たちが代理として君たちの【異変】を解決するために力をつけて色々やらせてもらってる・・・っと、コレは特に君たちには関係ないことだったか」

 

 

 

 ごめん、と一言謝ってきた、というよりそんなことで謝らないで・・・私に謝ることなんて、ナニモナイ、ただ・・・力が欲しい、ソレだけだから―

 

 

「翔季、一つ聞きたい・・・あなたの全力は、私より強いの?」

 

「・・・力の使い方による、かな―」

 

『そんなことないでしょ翔希く~ん、私達の主戦力集って戦ってもかすり傷一つ付けられないんだからわたしたちの中で最強は間違いなく翔希くんだよ?』

 

「ちょっとリューシェさん! ・・・ごめん、今のは―」

 

「そう、なら―」

 

 

 私と戦ってくれる?

 思ったことはそのままに、だけどまっすぐ左手にダインスレイフを引き出し真正面に向ける、彼の戦い方は詳しくはわからないが、速度に特化させたものなのは見ていてよく分かる、そして―

 

 

「翼たちの戦闘教官もしているらしいわね?」

 

「はぁ・・・君とは絶対戦いたくは無かったけど・・・演習ならいいか・・・

分かった、けどすぐには出来ない、此方にも準備があるからね」

 

 

 それは分かってる、けど、逃げないで

 

 

「勿論、あ、場所は・・・二課のエレベータシャフトのエリアでいいかな、あそこ結構広いし、ちょうど壊していい許可もおりたから―」

 

「ちょっ!? 待て待て翔季のアニキ! そんなところで戦ったらリディアンにも被害が出るだろ!

 本気かよ!!?」

 

『構わないわ、奏 むしろ景気のいい花火を打ち上げてくれればいいわ』

 

「その声、櫻井女史か・・・しかしいいのか? あそこを壊せば二課も扱えなくなる。

その上、リディアンにも多少なり被害が―――」

 

『そのことについてだが、話がある、一度本部に集まってくれ』

 

「旦那・・・」

 

 

 どうやら何か考えがあるそうね、ま、私は何も気にすること無く容赦なくフィーネの異物を壊す気だったけど、どうやらこの人もソレを壊す気でなんだかんだノリが良いみたいで助かるわ。

 さて・・・じゃあ

 

 

「186体目・・・逃さないわ!」

 

「っ!? 居たのか!?」

 

『さすがお姉さま、此方からでは建物の影で射抜けなかったので助かります。』

 

「気づいてたなら連絡してくれればよかったのだけど・・・まぁ、コイツにも利用価値はあるもの、ね!」

 

 

 右手で貫いた心臓部、ソコに這わせるようにダインスレイブを近付けて、思い切り横に薙ぐ。

 しかしネフィリムは横に真っ二つになること無く体制そのままに力尽きる、そうして溢れ出た気味の悪い色の体液をダインスレイフが余すこと無く吸い尽くしていく、そして・・・

 

 

「こんなものね、後は私の血を最後に飲ませて・・・終わり」

 

 

 右手首を軽く切り溢れ出る血を剣に与える、それを喜んでいるかのように脈動し吸引していく血吸剣《ダインスレイフ》、しかし一定の量を吸うと満足したのか赤い脈動は収まり、黒く寝静まる、まるで生きているかのような脈動は見る人が見れば(おぞ)ましい異物に感じることは確かだろう。

 かの伝説では其の者の血が尽きるまで血を喰らい続ける魔剣、だけど、コイツにはその常識は通用しない、いや、させはしない。 私という楔が、コイツを活かし殺す その為に互いに活かし殺し続ける、そう決めた・・・だから、コイツは―――

 

 

「ダインスレイフ自身が、セレナさんであり、また彼の存在【ヘグニ(原初の所持者)】を模した【異形】へと成り得た、彼のドヴェルグすら畏怖した存在・・・それが」

 

「そう、それが私・・・異端者【セレナ】と言う叫びそのモノ、分かったでしょ? 私が何を背負い、なぜ生きられているのか」

 

「・・・検査しなくても分かる・・・セレナさん、貴女は・・・・・・」

 

 

 

  ―――人の形を模した、聖遺物だ―――

 

 

 

「くふっ! フハハハっ! なぁにその言い方っ! 笑えるじゃないっ! ふふっ」

 

「なっ!? あんだよ・・・それ、セレナ自身が人じゃないみたいな言い方――『奏、残念だけど、彼女の言う通り、人じゃないわ』

 っ!? はぁっ!? どういうことだ!」

 

『それについて詳しく話したいから早く帰投してくれ』

 

「了解しました、奏、詳しいことは」

 

「―っちっ! 分かった! ・・・もっとしっかり話してもらうぞ! アンタのこと」

 

「・・・とはいえ、遥か昔のことは、忘れたけどね・・・まぁいいわ、戻りましょ」

 

 

 

 そこで本当の絶望を教えてあげましょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ~二課本部~

 

 

 

 

 あれから数十分、撤収にしては早かったほうだと思う。

一課の仕事がある翔希は無理やり連れてきた、コイツ一人居なくともなんとか出来るでしょ?

 まぁ、それで私が人じゃなくなっている理由・・・か、クリスやキャロルには話してあるけど、二人共そんなことより私のことが心配とか言って離してくれないのよね・・・ま、いいけど。

 ・・・で

 

 

「どうしても検査させてくれないの?」

 

「何度も言っているでしょ、誰にも身体を見せる気はないから」

 

 

 結局こうなるのは見えていたのだけど、にしてもこのフィーネの時は相対しづらい・・・本当に嫌なヤツに転生したものね。

 

 それで、人間じゃないどうのは前回、聖遺物を複数身体に入れているという話をしたわね、それで私自身が聖遺物のソレになっているんじゃないかっていう話。

 半分正解で半分外れなのも、話したかしら?

それで結局どういう存在かって言うと・・・私自身も分かってない、キャロルも誰も理解できていない。

 

でもそれでいいのかもしれない、だって、これ以上誰かと関わって生きるのは、辛くなるだけ―――

 

 

「だがそれでも俺たちは君たちを助けたいんだ、済まないが無理にでも君たちの身体を調べさせてもらう」

 

「っ・・・だから、私達は―」

 

「弦さん、らしくないですよ、相手の嫌がることはしない主義じゃなかったんですか?

 とはいえ、此方のリーダーもあなた達のことを気にかけているので人のことは言えませんがね」

 

「・・・それでも、私達は・・・」

 

「お姉さま・・・」

 

 

 静かになる周りの状態に、不思議と心は怒りとは別に穏やかになっていくのを感じて、またその矛盾に怒りを覚えうるのも嫌気が差しため息一つ、それで・・・

 

 

「・・・ふぅ、知りたいんだったらアイツを、悝嶺 幽華に聞きなさい、一応私達の専属医みたいなことをしていたから、おそらく私達の体のことを一番知っているはずよ」

 

「それでも、全てを話してはくれないでしょうけど、少しは理解に足るものがあると思われます。

とはいえ、あの人の性格ですから、ほとんど話してくれないこともあるでしょうが」

 

「悝嶺さんか・・・分かった、今度食事に誘ったときにでも聞いてみるよ」

 

「翔希さん、よろしいのですか?」

 

「彼女は闇医者だけど、決して悪ではないからね。

それでも、何もかもが良かったと言えるほどの善人でも無いけれど、ね。

ま、彼女のことはこっちに任せてほしい、二課の皆さんはこれまで通りにお願いします。」

 

 

 そういった彼はまだ仕事があるからと早々に去っていった。 思えば彼も大概にイレギュラーだと思う。 というのも、彼からはフォニックゲインや呪いとは全く別の不可思議な力の波動が見て取れたから、しかも虹色に輝いて見えるから余計に眩しくて、痛い、というのもおかしいと思うけれど・・・あっ

 

 

「アイツの実力を見れてない・・・」

 

「彼も多忙だからな、暇なときに相手取ってくれればいいだろう

それよりも、君の身体の聖遺物・・・逆鱗と、双対のギア・・・だったか?」

 

「コレらは正確にはシンフォギアシステムのものではない、一種のお守りみたいなものよ。

 そもそも、シンフォギアシステムは 櫻井了子 にしか作れない危険物、だとしたら私達歌女が簡単に扱える聖遺物で言えるなら完全聖遺物の起動しか無い。

 そこから技術的になにか提供してくれるなら、ということで、一番に信頼できるウェルに色々頼んだの、その結果、キャロルと併せて色々な聖遺物、呪物を掻き集め、私自身に連動するように扱うことが出来るようになった・・・あとは、あなた達も見てきたとおり、私とクリスにはノイズの攻撃は一切受け付けない身体になった、後は、分かるでしょ?」

 

「・・・人ではない、か、だが君たちは食事もするしキチンとした人である上に、化物のようにも思えないんだ、例え、人並み外れた力を持っていようと、な。」

 

「・・・・・・チッ ウェル、この前の検査結果を」

 

「了解しました、セレナ様、ですがよろしいのですか?」

 

「後はこいつらがどうするかの話、私のことなんでしょうけど、気にすることでもない、悝嶺に聞きに言ってもはぐらかされるだけ、時間の無駄、でも彼女しか知らない事象もあるから一切無駄とは言えないでしょうけど、ね。

 それで、そのデータを見て、私達をどうするか・・・しばらくはあの家を使ってあげる、けど、必要以上に邪魔するようなら・・・」

 

 

 天井を見上げ、指先で指し示した後、握りこぶしを作り―

 

 

「あんたらの世界も潰す、この世界で邪魔なものは・・・壊せない物なんかいらない。

私は・・・ただ、復讐を成すだけ、それだけ」

 

「セレナくん・・・君はそれでいいのか? その先に、自分はいるのか?」

 

「知らない、後はあんたらの事でしょ、その世界に私なんか必要なわけない。

人と同じように生きることの出来ない怪物の私が、人と同じように生きていて良いわけ、無いでしょ」

 

 

 それにこの世界は、私の大切なものを悉く奪っていく、壊していく、コロシていく・・・そうして、燃え尽きた丘の上に、何が残る? 大切なものが、また増えると? ・・・クリスは、大切なもの、それは、間違っていないはず、あの時の間違いを二度としない為に、私は強くなった、その、ハズだ、だけど、護れているの? 私は、このまま強くなれるの?

 私の心の世界は、何を映し出しているの・・・?

 

 

「お姉さま・・・もうここにいる必要は無いです、行きましょう」

 

「・・・そうね、行こうか、クリス」

 

 

 私の中に新しく生まれた大切なもの、それは多分、これからも私の中で全く別の概念になって、元の私とは全然違う存在に移り変わっていて・・・でも、私は未だに姉さんの言葉を思い出す。 呪いのように、その一言は未だに私をこの世界に縛り付ける・・・あのとき言った言葉は一生忘れることはない、私に【生きていて、世界を見て】と言った姉さんの表情は明るかった、だけど、この世界は、そんな容易く生きていられる世界じゃなかった・・・最悪は・・・すぐ其処にあって・・・

 なんで、わたしは・・・世界を呪って・・・ちがう・・・わたしは・・・私を・・・そうだ・・・そうだった、ははっ、なんだ、世界を壊す? そんなんじゃ復讐は果たせない・・・それは最悪の結末だ。

 この手で、ケリを必ず着ける、その為になんだって利用する、フィーネも、この砲台も、デュランダルも、何もかも・・・聖遺物は・・・私の力で、アイツの・・・ネフィリムの、獲物・・・あぁ、そうか、この追いかけっこは、そういうことだったんだ・・・

 

 私がヤツを追えば追うほどに、アイツは聖遺物を喰らい続け強くなっていく、そうして、私もアイツと同じように強くなるために兵器を纏う。 同じだ・・・結局・・・でも、それでも―

 

 

「お姉様の思いはいつか届きます。 私も一緒に居ます、ですから、諦める事は、しないでください」

 

「勿論よ、絶対、アイツを、ネフィリムを!」

 

 

 

   この手で仕留めると決めたのだから、止まらない、止まってなんて、やらないから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってしまったか・・・」

 

 

 司令室には錬金術師たちを除くメンバーがほぼ全員少女たちが出ていった後を静かに見送っていた、しばらく言葉を発すること無く、ようやく出た言葉が司令の一言だった。

 それに対して、未だ誰も何も言葉を発することが出来ないでいる、了子含め、彼女の存在が世界にどれほどの危険性を孕んでいるのかは、誰しもが理解していて・・・そして―

 

 

 【特危険排除対象:セレナ・カデンツァヴナ・イヴ 又それに与する者も状態問わず排除の旨―――】

 

 

 先刻、防衛省から届いた災害排除対象として、彼女がその最たるものとされていたのは以前から挙げられていたが、此方に捕縛されていると誤認しているあちらからは、弁解の余地もなく彼女を排除しろと指令が上がっている。

 国からの依頼・・・コレを無碍にすれば、護国の名でもある風鳴であったとしても除名は免れない・・・が、弦十郎はソレを良しとしない、いくら罪人であったとしても、ソコには理由がある、だからこそ矯正し、ともに過ごすことができれば、と、口利きしてくれていたが、痺れを切らしたのか、それとも他国との多数決で矯正されたのか、不明ではあるが、厳命が早すぎる、というのがあった。

 なお、このことに対して上に類する【風鳴 訃堂】並び外交官でもあり弦十郎の兄君の【風鳴 八紘】も手を焼いていた、特に風鳴 訃堂は彼女を活かすために最大限の助力を惜しむこと無く動いていた、八紘とてソレは同じだ。

 しかし、ここ数年において彼女のしてきた悪行は決して許されることではない、が、ここまでコレが発令されていなかったのにも訳がある、それは彼女の特異性にも由来するが、一番には【ノイズに唯一対抗できるシンフォギア装者である】というのが一番にあり、また適合数値的にも奏のソレを上回っているのも見て取れていた、が故に排除を優先するのではなく、彼女をノイズ排除の盾役、及び立役者として表舞台で活躍してもらうことを前提に話し合いに出ても居た、が・・・

 

 

「これ以上は騙し続けるのも、無理・・・ですか・・・」

 

「ですが、いま現状彼女を排除できうる存在が居ない以上、これを行うことが出来ない、というのが現状でしょうか・・・」

 

「ま、絶対やらないでしょ? ね、弦十郎くん?」

 

「あぁ、こんなこと、許されて言い訳がない。 だが同時に彼女自身許されていいわけではないが・・・」

 

 

 今でこそ彼女は静かにしている、それは俺たちを信頼しているからなのか、それとも大したことないと判断しているからなのか、それはわからないが、彼女に協力することを決めた以上国家相手でも何とかせざるを得ないのが現状だ。

 とはいえ、親父(訃堂)でも其処まで抑制出来ていないのを考えると、外国からの影響力も視野に入れられる、が、八紘兄貴も抑止力として動いている以上外国陣営の影響力は其処まで無い・・・とすれば。

 

 

「民の怒りが原因か・・・?」

 

「国防である以上、国内の問題も此方に回ってくる・・・ですが、この注意はあくまで此方にいる彼女が新たに誰かを殺した場合の注意・・・だけど、大丈夫でしょうか?」

 

「・・・緒川が一応監視に就いてくれているが、それでどれだけ抑制できるか・・・そういえば、ソロモンの杖はどうしたんだ?」

 

「此処にあるわよ、全く律儀なものね、てっきりそのまま持っていくのかと思ったのだけれど・・・?

 なにこれ、なんでこんなものが?」

 

「どうしたんだ了子くん?」

 

 

 ソロモンの杖に見慣れない文字列、そして封されるように青かった部分が赤く明滅している、そうして浮かび上がっている文字には―――

 

 

 

 「【ソロモン王は目覚め得た、起き上がる時は近い】・・・どういうこと?」

 

「了子くんがわからない以上、彼女たちに聞くしか無いな・・・しかし彼女たちの行ったとおりの事が起きてしまったというべきか・・・?」

 

「まだ分かりませんね、了子さん、それでノイズを操れるんですか?」

 

「・・・不明ね、こんなところで扱うわけにも行かないから、奏ちゃんか翼ちゃんに任せるしか無いわね」

 

「はぁ、そうですか・・・とはいえ、色々知れてしまった以上、彼女たちを放置する訳にも行きませんし、しばらく彼女たちの監視をしないといけませんね」

 

「そうなるな・・・というと、翼か奏に任せないといけなくなるが、出来るか? 二人共」

 

 「構わないぜ?」 「了解」

 

「助かる、さて、緒川の通信を待つしか無い・・・か?」

 

「そうで・・・! 司令、伝令です、緒川さんから!」

 

「っ!?どうした! 緒川!」

 

『っく!? 申し訳ありません・・・数人、やられてしまいました・・・』

 

「っ!? なん・・・だとっ!?」

 

 

 唐突な訃報、しかしその報告をしている緒川自身忙しなく動き回っている様な音が聞こえている、それと同時に―

 

 

『逃げるな・・・私の動きを抑制しようなんて・・・させない・・・もう、今更私を止められると思うな!

 ・・・もう、遅すぎるのよ、あんたらは、一手を間違えた―』

 

 

 緒川の通信機越しにセレナの声が聞こえるのと複数の銃撃音、どこかしらからの悲鳴が上がっているのがすぐに分かるほどの大音量で響いてきていて―

 

 

「緒川! 絶対に捕まるな! 俺がつくまで耐えきってくれるか!」

 

『簡単に捕まりませんよ! 僕は!ですが三分保つか怪しいです!』

 

「気合でなんとかしろ! すぐに向かう! 例の倉庫だな!」

 

「はい、アガートラーム、及びイチイバルの反応を検知しているから其処で間違って・・・民間人の生体反応途絶・・・後、一人・・・」

 

「っく! すぐに着くから待ってろ!」

 

 

 駆け出すとすぐとなりに置いてあった赤色のジャケットを羽織り速度そのままに駆けていく、時刻は、彼女たちがこの場に居なくなって早一時間ほど経っていた。

 この場(二課本部)から彼女たちを見つけた廃屋の倉庫まで車でも十分近く掛かる、故に弦十郎の取った行動は―――

 

 

「凪、お前の武道、頼りにするぞ! はぁっ!!!」

 

 

 地上に降り立ち、周りに誰も居ないことを確認し、地面を思い切りけるつけ飛び上がる。

 高度はリディアンの屋上を遥かに超え、目的地まで一直線に飛び出していく―――

 

 

 ・・・さて、此処でだが、セレナたちが元の倉庫に向かって行こうとしていて散々二課に邪魔されてきていた訳だが、先程、緒川が言ったように、彼女たちは自分達の住んでいた倉庫に着いているにも関わらず、緒川が何やらやばい感じになっている、だけどそれ自体彼が原因というわけではない。

 本当に原因は他にあるわけだ・・・さて、少し時を戻そうか?

  ・・・ん?僕が誰か? だって? 気にしなくていいさ、君等には、必要だろう? 案内人が、なろうじゃないか、この僕が・・・

 あぁ、しているよ、仕事をね、これでも多忙なんだよ、僕は。

 其処の君、僕がさる組織の局長じゃないかと疑っているように思えるが・・・さて、君のような勘のいい子供(ガキ)は嫌いじゃないが好きでもないよ。

 それに彼女たちも言っていたじゃないか、僕の身体がどうなっていても彼女たちは気にすることはないよ・・・ただ、気落ちしてしまうね、どうにも、強いのだよ、彼女たちは。 分かるかい? 何百年もトップを張ってるのに十歳そこらの少女に堕とされるトップがいる時点で僕の存在価値は― 『そもそもお前の存在価値はオートスコアラーほどもないぞ?』 ・・・親友の娘が辛辣で辛いよ、助けてあげたはずの恩は何処に・・・あぁ、それは彼女の父親の残した約束で終わってしまったのか、仕方ない、でも彼女の稀代の錬金術師でもあるわけだ、コレばかりは、許すほかないのだろうね・・・え、逸れていると? 話題が?

 すまないね、身内話ばかりしてしまうのだよ、最近ね、おかしいね・・・まぁそれは気にしなくてもいいだろう? 当然、君たちも、だよ。

 

 はて、その身内事僕のワイh・・・一体君は何処から撃って来ているんだい? 弾だけが的確に僕を貫いているんだけど? そしてどうしてかな建物に損害を与えない手法、さすがとしか・・・また飛んできたよ? 流石に彼女も怒っているからこの辺にしておこうかな、では、彼女たちについて見ていこうか?

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

――その後、アダムはしばらく姿を見せることはなかった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 ―緒川が連絡を入れる前、セレナたちが二課本部から出てきてから―

 

 

 少女たちはまず先に自分達の元々の棲家に急ぐように駆け出していた、なお、この時の速度は言うまでもなく相当早い、まず人の引き出す速度ではないというのも言うに固くない、が、緒川もそれに並ぶような速度で彼女たちの後をつけ、見逃さないギリギリを追っていった。

 しかし少女たちも追われているのを気づいてるからか、幾らか無駄とも思える方向へと移動した後に目的の場所、二課に見つかる前まで住んでいた倉庫に辿り着いていた。

 なお、着いた時点で緒川は大分遠巻きの場所につけ離されていたが、まぁ、それでもすぐにたどり着けるほどの距離であるだろう。

 それで、だが、今の彼女たちの住処がどうなっていたか、覚えているだろうか?

 死体処理班が彼女たちの場所にいた故人たちの処理のために幾人もの人が出入りした後、事後検証の為に至る所に通行禁止のテープが張り巡らされているため、通常では通るのにも一苦労するぐらいには、彼女たちの場所は侵されていると言ってもいいのだろう。

 ただそれ自体彼女たちが許すことは無いのだろうが・・・

 

 しかし、それでも彼女たちは一介の犯罪者、例え日本国であったとして世界は変われば状況も変わる、故に墓荒らしのようなものまで現れないことはない・・・つまり・・・

 

 

「貴様ら、此処で何をしている」

 

「んぉ? 何だ・・・って、キレイな嬢ちゃんたちじゃないか? おい、誰かの連れか?」

 

 

 染めたような粗い金髪、そばかすまでぶつぶつとついている学生と思しき荒れた少年、その周りに5、6人程が集まってきていた。

 ソレを見て、再度問いかける、同じように、圧を乗せて―

 

 

「コレで最後だ、貴様ら、此処で何をしている」

 

「おいおい、見てわかんないか? 金目のものとか探してんだよ、ほら、此処って彼の有名な殺人鬼の住んでた所って言うじゃん? だったら財産か何なおいてんじゃないかってな?

 あんたらも似たような口か? だったら遅かったな、生憎取れるもんは俺たちが全部貰っちまったよ」

 

「・・・」

 

「あん? 返答もなしか? こっちは答えてんだ、そっちも答えるもんだろ? それとも何か? 犯し―」

 

 

 

   ズガンッ!!!

 

 

 

「もう一度問います、なにをしてるの?(・・・・・・)

 

 

 天井が抜け、そこからAML(アンチマテリアルライフル)による近接狙撃、普通で言えば、足元を射抜くだけでもそこから飛び出す破片で傷がつくものだが、入射角を調整して破片が当たらないようにしている、だがコレはあくまでの温情で、脅し、【いつでもあんたらを殺せるぞ】と言っているだけである。

 ただ、ソレに対してコイツラは・・・

 

 

「は、はは、何だよその脅しは! き、きかねぇよんなもん!

脅されたってあるもんはこっちの―っ!?」

 

「・・・此処に居た人が、誰か知ってる?」

 

「あん? 誰か知ってるか?」

 

 

 そう言いはするものの、だれも誰が居たかは知らない様子だった・・・が

 

 

「あれ、でも有名な殺人鬼の告知が掲示板に・・・あった、最近の・・・っ!?」

 

 

 睨み効かせるのも飽きて、ナイフをジャグリングしながら相手から目をそらし、口笛を適当に吹く、音程もバラけたただの風音に乗せたもの・・・ただ、彼らはどうするのか、と

 

 

「な、なんだよ、可愛らしい嬢ちゃんたちがそれとなく話してただけの事だろ・・・? だ、だったらビビることはね~よ・・・なぁ?

 そ、それにこんなの信頼できるほどのことじゃないだろ? な、なぁ?」

 

 

ガタガタ震えながら周りに同意しようと意見を求める・・・が、とどめは既に刺されている

 

 

「あぁ、そういえば名前を言ってなかったわね、冥土の土産に教えてあげる。

 セレナ・カデンツァヴナ・イヴ それが私の名よ」

 

「ま、間違いねぇ、こいつは・・・コイツは―――っ!?」

 

「・・・殺すのは容易いけど、奪ったものを返してくれるなら見逃すわ。

取ったもの全部おいてとっとと―――」

 

 

 だがソレだけで簡単に終わるほど単純ではなくなった現状を、少女は分かってなかった、ただ、激昂するには、十分な理由を持っていた・・・それだけで・・・終わる―――

 

 

「う、う、動くな! コレがどうなっても良いのか!」

 

『姉さま! アレは―』

 

 

 遠巻きに離れていた野郎の一人が貴重に保管されていたリボンをその手で握り、ライターで火をつけようとその動きをやろうとした瞬間――

 

 

「それに、キタナイ手でフレるな”あぁぁぁぁ!!!!!」

 

「はっ!? あ”っ!? え・・・」

 

 

 瞬間、飛んでいたはずのナイフが何処かに消え、少年のあったであろう腕の部分は肩から先を失くし、鮮血は数秒ほど遅れて流れ出していた。

 それに反応するのが遅れ、何が起きたのかわからずに喚き散らかされていて・・・

 

 

「・・・あぁ、そうか、結局、人間は・・・どいつもおんなじなんだ・・・そっか・・・」

 

「や、やめてくれ、かえす、盗ったもんは全部おいていくから―」

 

「今更言うな、クズが」

 

 

 トスッと眉間の真ん中に包丁が突き刺さる、深く、深く、人の膂力では到底刺さらないほどの深さまで刺さったそれは、刺さったところから血を吹き出させること無く、相手の命を奪っていった。

 そうして一人殺したところで―

 

 

「てめぇらも・・・逃さない・・・ころして・・・奪って・・・奪い返して・・・終わらせてやる、ナニモカモ・・・・・・ね・ぇ・?」

 

 

 言い終わるが早いか、子を散らすように悲鳴を上げながら散り散りに逃げていく相手を簡単に殺すことはない、自分にされたことを、相手にもやってやる・・・気がつけばそんなことばかりやって、奪って壊して、殺して、そうやって生きてきた今が、この最悪を引き出すのに、対して時間は掛からなかったのだろうか・・・そうして、彼女たちの見る夢は・・・―――

 

 

「お前で、最後だっ!!!――っ!?」

 

『やらせません!!」

 

 

 トドメの一投が銃撃と複数のクナイによって阻止され、一人の侵入者を取り逃した、それと同時に聞き覚えのある声と、もう一つの人影が確認できた。

 

 

「なぜ邪魔をする、緒川っ!!!」

 

「民を護るのが僕たちの仕事です! なぜ無抵抗になった彼らを―」

 

「無抵抗? 本当にそう思うの? ・・・なら何故違法の武装を彼らが持っていたのかしら?」

 

 

 明らかに未成年の彼らの懐を足で器用に転がし、ソコにある異物、明らかにモデルガンにしては精巧に出来すぎているソレを小指で器用に外しナイフを持っていない左手で器用に分解していく、中身に六発ほどの鉛玉が見える・・・普通で言えば、この時点で大罪、まず表に出れるような罰ではなくなる。 だが少女はコレも見抜いていた、だから、両腕を断ち切り、下手な抵抗を出来ないようにして殺した。

 普通であれば此処までしなかっただろう、だが、彼らは少女の逆さ鱗に触れてしまった、故に・・・

 

 

「退いてください、彼らはまだ助けられるはず―」

 

「もう無理よ、マンイーターの力とダインスレイフの吸血能力を甘く見ないほうが良い・・・もう終わりね」

 

 

 そう話している間に最初に両腕を切られた少年が干からび、ミイラのように変質してしまっていた。 ソレだけでなく、辺りに真っ赤なオーラの様な影が倒れている少年たちからある一点に引き寄せられ、いや、吸われて行くのを確認できた、が故に

 

 

「貴女をこれ以上罪人にする訳には行きません! お覚悟を!」

 

「そう、なら私のやり方で、貴方を討たせてもらう!」

 

 

 戦闘、開始の合図の瞬間、緒川が何処かに連絡しているのを確認、瞬時に刃を交え、相手の足を狙い斬撃と投擲を放つが丸太に変質して躱される、だがその後撃たれた銃撃を影を守るように回避、銃撃を片手で回す短剣で弾き、緒川に接近、だが剣戟は影に飲まれ消えた、瞬時に辺りを確認するも複数の分身がこちらに睨みを効かせている。

 

 

「クリスさんには攻撃させないんですか? 二人がかりならたとえ僕でも危ういんですが」

 

「貴方を倒すのに二人がかりなんて笑えない冗談よ・・・アンタやあの司令をぶっ飛ばすのにそこまでのものは必要ない、それに―」

 

 

 その言葉と同時に一歩前に、銃撃の音がなると同時に髪が流れ、まるでそれが目眩ましかのように揺らめき、言葉のように動き、緒川を追い詰める。

 気づけば分身も数瞬で消え去っており、彼の袂に迫る凶刃はその胸ぐらを捉えようとしていた―かに見えた。

 

 が、寸前のところで、発勁の気迫で間を開けられた

 

 

「――っ! ・・・助かりました、司令」

 

「部下の不始末をどうにかするのも、上の仕事だからな・・・さて、セレナくん・・・どうしても、人を殺すのはやめてくれないのか」

 

「クドイッ! 私の人生をぶち壊した人間たちなどこの世界に腐るほどいる、そんな奴らを庇ったところで何になる! ・・・だったら、私はこんな世界、知りたくなかったのに・・・

 あぁ、あんたらに早く会えていたのなら、変わっていたのかも知れないのに・・・今更、遅い!」

 

 

 自分の頭上に複数の真っ赤な刃を形成する、それは人を殺した意、その真っ直ぐな意思そのモノ、そうしてコレで脅すことを、相手に、そうして己に言い続けてきたこと・・・もはや、世界の優しさなど、微塵も投げ捨てた・・・心に残る愛は、いつかの、自分のものだと思うから―――

 

 

「逃げるならこれ以上何もしない、それでも関わろうとするのなら・・・戦ってもらうわよ、弦十郎!」

 

「・・・俺は、ただ君たちを―」

 

「・・・・・・ねぇ、いつまでそんな甘ったれた思考でいるつもり? 貴方は人を切り捨てる立場の人間でしょ、優しさだけで物事が為せるだなんて甘い考えで、私達の居た地獄が分かるだなんて言わせない!

 こんな甘ったるいこの国で・・・正義を履き違えてなんてほしくない・・・

 ・・・ねぇ、なんで・・・なにを・・・」

 

 

 

 

 

 

 

    私は・・・何を・・まちがってきたの・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 数刻後、司令部

 

 

「ダンナ・・・アイツラは・・・」

 

「・・・言わないでくれ、俺には、どうしようもなかった・・・」

 

「諦めるのか、アイツラのことを」

 

「諦めるつもりは毛頭ない・・・だが・・・俺たちとて政府の犬であることに変わりはない・・・・

 彼らの決定を覆せるものがない限り、俺達は、彼女たちを殺すしか・・・」

 

「・・・出来るやつがいるのかよ・・・アタシたちだって太刀打ちすら出来ないんだぞ!

 それに緒川さんだって足に怪我を負う始末・・・でも、アタシだって放っておきたくは―」

 

「今は・・・互いに安静にする時間が必要だ・・・それに、彼女たちは一応ノイズの殲滅には協力してくれるという話は付けれた、とはいえ、邪魔をしないことが条件だ」

 

「・・・・・・はぁ」

 

 

 呆れたような、疲れた響きが司令部に響き渡る。

あれからだいぶと時間が立ち、今現在、緒川は多少なりとも怪我をしているため入院をすることに、弦十郎は戦うことはなかったものの、彼女たちに悪いことをしたと、己の行動を恥じても居た。

 

 

 

「ふぅ、難しいものだな・・・」

 

 

 儘ならないことばかりが世界に蔓延っていて、それを許容するにも、悪意は常に広がり、ソレを抑える者はいない。 故に世界は壊れることを許容してしまっているように動いていく。

 彼女は、セレナは一体どれだけの犠牲を払って、あの怪物に勝とうというのだろう・・・むしろ、その犠牲は、必要だったのだろうか、ということもある。

 だが彼女は血を吸い込むたびに強くなっているというのは緒川が教えてくれた、ということは彼女のメインで扱っているダインスレイフが彼女に力を貸し与えているのだろう。

 ・・・最も、彼女があの星遺物に操られている可能性は、無いと断定して良いのだろう・・・扱う器として、彼女は感情が豊かすぎる。

 人一倍泣いて、人一倍怒る、そこに笑顔でもあれば、と思うが、彼女は決して笑うことはない、彼女の微笑みは、心からの笑いには程遠いから・・・

 

 

「奏は、どうしたら良かったか分かるか?」

 

「そんなもん分かるもんじゃね―よ・・・けど、ライブの音を聞かせて、歌は恨むもんじゃないって分かってくれりゃ少しは変わってくれるんじゃねーの・・・アタシはソレを信じるぜ」

 

「そう、か・・・なら、この件は奏たちに任せて俺たちは俺達の出来ることをするとしよう」

 

「おう、任せてくれ! それにダンナの元気がね―とこっちまで気が滅入っちまうからな~

さって、じゃレッスンにでも行ってくるよ」

 

 

 意気揚々と司令室を飛び出していった奏、翼は居られなかったからか、訓練室で今後の鍛錬に励んでいた、ソレに対して弦十郎も今後について考えることにした。

 

 

「・・・よし、今後はセレナくん達の徹底的に支援することにする、奏の補助も含めてそのほうが良いだろう」

 

「司令、あの子達って通信デバイス持ってましたか・・・?」

 

「帰ってくる前にいくつか渡しておいた、それに賃金にも困っていたらしいからな・・・

まぁ、後は彼女たちの動向を少しずつ探るしか無い まぁ、最悪には、ならないだろう」

 

「それ、保証してくれるんでしょうね・・・」

 

「あぁ、衣食住をこちらが保証する代わりに、一応ではあるがこちらに対して敵対はしないと言ってくれたが、二課に対してだけと言っていた」

 

「・・・不安しかないですね」

 

「後は、なるようにしかならないな・・・だが、彼女たちを暴れさせないのが今後の課題、だろうな」

 

 

 頭は痛くなってくるが、コレばかりは仕方ない・・・だがそれでも、と、今後について深く反省しながらも、時間の経過を見ながら・・・

 

 

「(今は時を待て・・・か、なるようにしかならないのを待つのは、正直に辛いな・・・)」

 

 

 唯一の幸運は、未来の存在がこちらにいることだろうか?

 なお、当の響は―――

 

 

 

 

「う~ん、お~いし~」

 

「まだおかわりあるから、どんどん食べてっていいよ~」

 

 

 

 ・・・ふらわーに行くわけに行かないので、いつもの店(陽溜まりにゃんにゃん)で食べくつろいでいた―――

 

 

 

 



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第三章 黒銀破壊に服す(シンフォギア無印編・・・?)
第二十五話


やばい・・・一月以上空いたにも関わらずあまり書けてない、非常に申し訳ないです
 ・・・後それとは別であざみねさんの例の字出せなくなってたから簡単な方に変えていきます・・・気がついたらあの人が一番面倒になっている、いや実際面倒なんだけどさ。

 というわけで(?)ライブ、始まります(まだだけど)

 前回から間が空きすぎてだいぶヤバイ・・・次の投稿今月内にしたいけど・・・出来るだろうか・・・?


・・・ごめん、では


 そうして、それから数ヶ月の時が流れた―

 

 現在、セレナによる被害者は減少し、此処数ヶ月での被害者は先の倉庫での被害者を除けば0に近い数値を叩き出していた(出た被害は殆どがノイズによるものだった為、お咎めはなかった)

 

 そうして、来る時・・・そう、本日は晴天、忌み嫌われた日でもあるとされる、件のライブが開かれる祭天の日である・・・あるには、あるが・・・

 

 

「ねぇ、翔希くん、準備って出来てるの?」

 

 

 そんなときでも気怠げに伸びて猫たちをその視線で追いながら厨房で洗い物をしている当人に話しかける、なお現在の時間はお昼が終わった時間帯・・・とはいえ、新年明けでもあるせいか、客のラッシュは半端ではなかったが、お猫様のおかげか、その時間を乗り切っていた。

 

 

「そっちに抜かりは無いよ、それにセレナさん達にも連絡は飛ばしたし、来てくれるよ、きっと」

 

「ふぅ~ん・・・ってか来るのかね、ノイズ」

 

「ははっ、来ないだろうね、ノイズは」

 

 

 元来世界、つまり、こちらに来た響の世界の歴史を正史と捉え、今の時代で何が起きるかを考えた場合、櫻井了子、もといフィーネの反乱が起きる、わけだが・・・

 

 

「あんたらに監視されてちゃできるものも出来ないし、やるつもりもないわよ。

それに、ソロモンの杖は厳重管理のもと、だぁ~れも近付けないんだから」

 

「櫻井さん、こんな所に居て良いんですか?」

 

「あたしがよんだぁ~ あの鎧の起動に成功できたらどうすんのかなぁ~っておもってさぁ~」

 

「それより、あんたらはどうすんの?

 私はこの後すぐに現地に行かないといけないのだけれど?」

 

「今日は臨時休業にして僕たちも現地ライブの警備に当たるように言われてるし、それに、セレナさん達からもメールで警備に入ってくれるように言ってくれたから」

 

「だから~今はアンタの最終確認ってだぁけ~

あっちの【立花 響】の存在の影響で、正史は無かったものになっているこの世界を繋げる方法は・・・まぁ、そこを考えるのはライブが無事に終わってからってことで~」

 

「はぁ、ホンットあんたらと関わらされて碌な事無いわね・・・

ま、二課の皆はあんたらの事を歓迎しているみたいだけど、とはいえ、今回は本当に無事【ネフシュタンの鎧】の起動がうまく行けば、今後の医療にも役立てるかも知れないってことぐらい・・・かしらね?」

 

「ふ~ん、そっか~・・・なら良いか。

翔希くん、ホルン持っていって良いんだよね?」

 

「うん、持ってかないと立花さんが帰れないからね」

 

「お前たち、話し聞いてたのか?」

 

「まぁ、現状最悪は起こり得ない、というのが分かっただけ重畳かな。

それさえわかれば、今回のライブも無事に済むはずだしね」

 

 

 と、そうこうしているうちに入口側に二人ほどの影が見える・・・来たか

 

 

「翔希さん、準備はよろしいですか?」

 

「翔季、そろそろ行かないと時間に遅れるんだけど?」

 

「二人共、丁度いいときに来たね、準備は出来てるよ」

 

 

 そう言っては先程入ってきた二人の【少女】にバッグを渡す。

片方は黄緑色のショルダーバッグ、もう片方は赤色の背負いバッグ、それと―

 

 

「リューシェも、コレ持っていってよ」

 

「うぁ~い、分かってる~」

 

「やる気出しなさいよリューシェ」

 

「それと、本日はお願いしますね、櫻井 了子主任」

 

「あ、え、えぇ よろしくね・・・えっと」

 

「あ、自己紹介が必要でしたか、失礼しました。

まずは私、龍旋(りんせん) ミル と申します、そしてこちらが」

 

「この子達のリーダーを務めている、別称【ギルドマスター】アイリス・ブラックシェイプよ。

こちらの科学力は知っている、一応貴女の技術力には感謝しておくわ フィーネ」

 

 

 先に名乗った方は身長は170ほどの長身に腰には日本刀を携えて、朱色の着物姿、赤の滲んだ色が陽に当たってより赤く見えるほどの黒い髪が背中を超えた辺りまで伸ばされていて、スタイルのいい胸が着物を着ているにも関わらず表立って見えるほどにまで主張している・・・これでも大分押し込んでいるとかなんとか・・・

 もう片方、僕たちのギルドリーダーは、紫の髪を上の方で一つにまとめたポニーテールが腰辺りまで届いてるほどの長髪で、衣服的にはSFを彷彿とさせるようなラインの発光が走っているジャケット、及びミドルスカート、色彩はねずみ色といえば良いのか、明らかに場とミスマッチ感がある衣装ではあるが、この格好はわざとらしい・・・相変わらず冗句所が分からないリーダーだ。

 

 

「・・・リーダー、と言ったか?」

 

「えぇ、格好が気に食わないかしら?」

 

「大分、特徴的な集団なのだな、お前たちは・・・」

 

「ま、こっちよりは大分進んでいるもの、私達の技術・・・ま、それはともかくとっとと向かいましょ?」

 

「・・・・・・こんな中、男はお前一人なのか?」

 

「いや・・・男性比率は割と多いと思うんだけど・・・主戦力となると女性比率は多いよ、僕たちのギルドは・・・」

 

 

 まぁ、この世界じゃ今もって関係ないから言わないし、彼女たちが来るとは思わなかったから何も言わないけど・・・あぁ、彼女たちは僕の妻じゃないから気にしなくていいよ。

 

 

「誰に向かって話してるの? 翔希くん」

 

「なんでも無い、じゃあ行こうか」

 

「・・・猫はどうするんだ?」

 

「ん? 連れてくよ? 警備隊だしね?」

 

「? 猫が・・・警備? 何を言って・・・」

 

「あ、あぁ、そういえば僕たちしかこの子達の声がわからないんだった、はい了子さん」

 

「耳栓・・・通話デバイスか?」

 

「そんな感じ、とりあえず付けてみて、音量は小さめにしてあるから」

 

 

どういう事? と疑問に感じながら受け取ったソレを耳に近づけてみると―

 

 

『ナーナー (聞こえる? 薬臭い人~)』『にゃ~(いやもうこの人に言うのはちょっと・・・)』『に~(いや、近づかないほうが良い、こちらの信用できるのはてんちょとにゃ~様だけにゃ)』

 

 

「翔季く~ん? な~んか失礼な声しか聞こえないんだけど~」

 

「猫は人より正直ですから、お猫様の言う通りにしか成りません!」

 

「私が失礼な人みたいな言わないで!」

 

「えっ? しつれいにゃひとじゃなかったの~?」

 

「リューシェさん、思っても言っちゃダメだよ?」

 

「ふふ、相変わらずね、あなた達は」

 

「そう思っているならこっちの支援として来てほしかったな、ミルさん」

 

「今回は臨時戦力として来ているだけ、主だった部分はあなた達に任せるって言ってあるでしょ?」

 

「にゃ~ 分かってるけどさ~」

 

「・・・それよりリューシェ、私があげたイモータルギアはどうしたの?」

 

「うにゃ? いもーたる? もってたギアならセレナちゃんにあげたけど?」

 

 

 そう、彼女のもっていたギアは本来的に彼女たち、セレナさんかクリスさんのどちらかに補助ギアとして扱わせるために今回のライブ用として渡す約束をしていた・・・はずなのだけど・・・

 

 

「あの三叉槍はどうでもいいの、それのバックアップデータとして渡しておいた奴はどうしたの?」

 

「・・・あ~、アプデして渡したんだったかな~ まいいや、はやくいこ~」

 

 

 ・・・あれをアップデートしたのは僕だけど・・・あれ、タイミング間違えたやつかなコレ・・・

 

 

「リーダーアイリス・・・あの状態で渡して大丈夫だった・・・?」

 

「はぁ、ま、なるようにしかならないでしょ。 やってしまった以上はこちらに責がある。ま、後は時間次第じゃないかしら、彼女があの力を飲み込むにしろ、外れるにしろ、どちらでも彼女の力になるはずよ。

 そういう風に作ってあるから気にしてても仕方ない。 それじゃ、とっとと行きましょ」

 

 

 そうして外に出るなり外にある車に乗り込む、操縦は勿論僕だが、ほぼオートなため、中で諸々の準備もしていくことになる、ま、櫻井さんの護送も担っているから見た目装甲車も格やというような形だけど、一般車に見えるように加工して、あるらしいのだけど、アイリスリーダー・・・相変わらず何処にそんな技術力が・・・

 

 

「錬金と魔術を合わせればできないことは無いんじゃない? ま、不老不死は楽にしろ巨万の富だとか夢物語だとか気にしなくても良いし、と、翔季、一応コレ持っときなさい、臨時ノイズ用兵器簡易アーマー、効果時間は―」

 

「平均五分、もって十分ぐらいでしょ、分かってる、ま、今回の相手はノイズに限らないと思うし、ネフシュタンの起動次第じゃアレを弦十郎さんに纏ってもらったほうが一番とも言える状況になるかも知れないから・・・っと、とりあえずセレナさんたちも拾っていくからそっちに向かっていいよね」

 

「何処に居るか分かってるの?」

 

「とりあえずネフィリムの話を餌に自宅待機してもらってるから、多分家にいるよ」

 

「来るの? あの化物、もう想定外の成長を遂げてるから私達でも対処しようがないのだけど?」

 

「だからセレナさんに任せる、できなければ弦さんに任せる、かな。

まぁ、打倒はできなくても退けるぐらいはしないと、ね?」

 

「まるでなにか来ることは確定的な言い方だな・・・私は何もできないんだぞ? ソレ以上の被害は無いんじゃないのか?」

 

「そう、だね、でも警戒しておくに越したことは無いと思う・・・っと、着いた。

 もしもし、セレナさん、クリスさん、迎えに来たよ~っと、うん、フィーネも一緒で悪いけど、大丈夫?

 ・・・うん、準備は、出来てる? じゃ、待ってるから」

 

 

 家の前で駐車して少し待つ、中に入って迎えに行っても良かったけど、大体は服着ていない時が多いしでリューシェさんか他の女性の人が迎えに行ってくれないと非常に困る、というのが大体なんだけど・・・

 あ、来たかな?

 

 

「車の上使わせてもらうけど、いい?」

 

「ん? セレナさん、何か乗せるものがある?」

 

「えぇ、一応、ね、私も扱えるものだけど、留めるの手伝ってもらっていいかしら?」

 

「OK 分かった、少し待ってて」

 

 

 えっと・・・サーフボード並みの大きさの・・・明らかに未来的な重火器が入ったようなバッグなんだけど・・・これクリスさん用の道具・・・? そういえば、彼女たちって基本的にシンフォギア武器より現世にある現存武器をメインに扱うことが多いって、あれ、これある意味核兵器の武器じゃ・・・

 

 

「何か気にしているようだけど、詳しいことはそこにいる紫に聞いて、私は知らない」

 

「・・・アイリスリーダーの道具でしたか・・・まぁ、了解しました」

 

 

 気にしたら負けなようだ、普通に戦車につけるタイプのAMR(アンチ・マテリアル・ライフル)並の大きさ・・・というよりなんで普通に人一人の力量で持ち上がるのこれ、玩具とかじゃ・・・いや、リーダーのことだから、多分・・・

 

 

「言ったでしょ、魔術と錬金の術を扱えば何でも出来る、と それは貴方がよく知ってるじゃない翔季」

 

 

 ですね・・・まぁ、無茶苦茶は今に始まったことでもないから気にしなくていいか。

 

 さて、皆揃ったことだし、向かうとしますか・・・

 

 

「あの、どれくらいかかります?」

 

「ん~一時間、ちょっとぐらいじゃない? あの通り混むのは確実だしね~」

 

「・・・あんまり車に揺られるのは・・・」

 

「それじゃバイク使えば良いんじゃない? 別にいいよね~翔希くん」

 

「なんで皆して僕に意見してくるかな・・・まぁ、別にいいと思うけど」

 

 

 実際、ここ数ヶ月でセレナさんもバイク免許(詳しいところは見えないけど)を持っているみたいだし、二人乗りは余裕って聞いたし・・・ただあのバイク・・・

 

 

「(対戦場用な上、アガートラーム、及びイチイバルに適正を持たせた戦術用兵器、ってどういう意図で作ったんだろ・・・考えたら負けか・・・)」

 

 

 もはや気にすることでもないと考えをやめ、二人の先を先導するように車を動かしていく。

 なお翼のバイクは相変わらず乗り捨てられ壊れていくが彼女たちのバイクは乗り捨てられても殲滅兵器として自立駆動する不可思議な道具になるからしっかり調整すればそう壊れることは無いらしい。

 ・・・それを考えると、翼のはバイク自体も変化はするが耐久度が上がっている訳ではない上、消耗品としては高すぎる・・・だからこそ―

 

 

「(翼さんには悪いけど、バイクの不法投棄はやめるように固く言ってあるんだけど・・・下手するとチャリ(自転車)でもやりそうだしなぁ・・・はぁ、緒川さんの心労が・・・それは僕もか・・・)」

 

 

 もはやそんな考えなど知りもしない当人たちは最終確認を得て準備を進めていた、なお聖遺物の元にはウェル博士を含む何人かの研究員が配備されており、アイリスもこちら側に来る予定となっていた。

 

 

「翔季く~ん、そろそろ大幅カットして当該エリアに入ったほうが良くない?

もうお昼かなり過ぎてるし、開演17時からだよね?」

 

「たしかそのはず・・・今の時間は・・・14時ぐらいか・・・それじゃ、直接駐車場に突っ込もうか」

 

「は? 何を言って・・・」

 

「じゃ、飛ばしますよ、シートベルトしっかり付けておいてください」

 

 

 ちなみにこっからは完全にオートパイロットなんで、僕はスイッチを適当に押すだけ、あいも変わらず適当で済むのはさすがといえば良いのか・・・

 ま、こんな事は今はどうでもいいか、さて、そんじゃー

 

 

「私達は私達の出来ることを、ね?」

 

「・・・あ~、所であの、立花 響ちゃんは?」

 

「一応特別待機室で控えているかと、ま、何も起きなければライブを見て帰ってもらうってことになる、かな?

 と、そろそろ着きますよ」

 

 

 現地到着、とはいえ、こちらも関係者用の駐車場に入る形になるけれど、ま、一応関係者だし良いか。

それじゃ、リューシェさん後の方は―

 

 

「ん! こっちは張っておくから気にしないで~ なんとか【外部から】の敵は対応しておく~、ま、来るか分からないけど~」

 

 

 返事と同時に駆け出して外壁を駆け上がっていく、が途中で止まって―

 

 

「そーいや認識阻害の術式ってどうすんの?」

 

「こっちで張るから気にしなくていいわ、貴女は上部からの外敵を警戒してて」

 

 

 りょうか~い、と元気な声と駆け出した足音が響き渡った後、また静かな駐車場に変わって・・・あっと。

 

 

「了子さんはそっちに任せておいて、と・・・セレナさんたちは―」

 

「通常通り正門から来場すれば良いのでしょ? 流石にそこは普通に・・・何かしら、あなた達は」

 

「ごめんだけど、護送という形で送らせてもらう様になってるから・・・あぁ、席にはちゃんと時間に着けるようにエスコートしてもらってね、それじゃ、僕は例の二人と接触してくるからまた後でね」

 

 

 ま、本当は僕たち(翔季)が彼女たちをエスコート出来ればよかったんだけど・・・今回に関しては予想以上の何かが起きそうな気がして気が気じゃない。

 恐らくだが・・・敵はノイズばかりではない・・・勿論、錬金術師の反逆者達が来る可能性も視野には入れている、だからか、実験エリアにはキャロルさんも先んじて入っている。

 まぁ、そういうわけで・・・そろそろ僕の出番はここまでだね、さて、了子女史はネフシュタン起動に尽力するそうだし、僕は僕で緒川さんと一緒に警備がんばりますか~

 

 

「翔季、何も起きない、なんて考えないようにね」

 

「・・・はぁ、だからこういうのは・・・いや、今回の敵はやっぱり、ネフィリム、ですか?」

 

「それは大元の話、問題はそれを利用している奴らがいる、というところかしらね」

 

「そろそろ行っていいですか・・・?」

 

「えぇ、イヤマイクを付け忘れないようにね」

 

 

 それを合図に僕たちはそれぞれの持場に着いた、まぁ、僕は他スタッフに紛れて現地警備作業に移るんですが・・・お猫ちゃん達、誘導お願いしますよ?

 

 ・・・愛らしい返答ありがと、それじゃ、行きますか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 

 

 ―現地、正面ホール入口―

 

 

 

 黒服二人に連れられ一般入場口と書かれた入り口、を通り抜けた特別入場口の方に通された。

確か特別口は観客たちの居る所とは別口の場所での鑑賞だったはず・・・? でも私達の案内される場所の話では、ツヴァイウィングがよく見えるエリアだと聞かされていた。

 第一、万が一に何かが起きた場合対応できるように動きやすい場所確保がなされていると聞いていたが。

 

 

「なるほど、そういう意味での【特別席】ね・・・」

 

 

 特別、とは言い得て妙だが、主賓席とでも言えるような特殊なエリアが区分されており、ここには演者をサポートしている団体の主賓が集って見に来るエリア、一般人立入禁止の場所で・・・まぁ、確かに主要人員の守護にはもってこいの場所でもある。 それに一応ではあるがライブは見やすいエリアではある。

 そんなだけど、開演までまだ時間がある為、ライブに必要な物の買い足し(クリスが物珍しそうに見てたから一応の購入) とかお手洗い諸々済ませて一旦外に出て一息・・・飲み物はスタッフの物を貰ってる・・・本当に貰ってよかったのかしらね、コレ・・・ま、気にするだけ野暮・・・?

 あれ、あの子・・・

 

 

「お姉様・・・あの子って・・・」

 

「立花 響・・・? でも少し幼げが見えるわね・・・」

 

 

 けどあの子は確かネフシュタンの近くで待機、一応ライブの見えるエリアに居るはず、それはあの男、翔希が行っていたから間違いではないはず・・・なら、彼女は・・・

 

 

「この世界の、立花さん・・・かな・・・」

 

「でしょうね、誰かを待っているみたいね・・・?」

 

 

 目の前の少女が何処かに電話している、その少し距離の離れている所に少女を見ている何人かが、チラチラと怪しげに映った・・・何なのかしらね・・・全く

 ただ、少女はそれに全く気がつく気配はなく、電話を切って少し不満げに辺りを見渡し、中にはいるでもなくベンチに腰を掛ける。

 そんな少女を見ていて気が付かなかったが、今回のライブに以前会った喫茶店の少女、柴羽月 楓子とその家族が来ている事は知ることは無かった(ただ彼女はセレナがこちらに来ていることは一応知っていた)

 少女から視線をそらし、辺りを見回し、何も危険はないか再度確認、一応近くに黒服は居るが過度なことをしなければ問題は無いだろう、と判断している、買ったばかりのサイリウムをナイフのようにくるくる回したり、上に投げてバトンループさせたりして遊び始めた辺りで事態が動いた・・・とはいえ、私達からしたら大したことはないのだけど・・・

 

 先程少女を見ていたハデな染毛をしたアロハシャツな男性が後ろに厳つい、というよりもはや時代錯誤もいいところなヤツが数人、たった一人で来たであろう少女に群がっていた・・・はぁ、話を聞く気もないし、どうしなくてもなるようにするしか無いか、そもそも、私が嫌いなのは―

 

 

「なぁ嬢ちゃん、一人で見るのは寂しそうだしー俺達と―」 「やり取りが古い上に胡散臭さぐらい消してきなさいよ」 「っ? なんだあんた・・・って極上なおじょうさ―っぶっ!?」

 

「ふぇ!? なになに!?」 「貴女はこっちに」 「えっ!? は、はい!」

 

 

 アイテムボックス(マフラー)から適度なバッグをクリスから投げ出され、先頭に居たチャラ男の顔面に命中、それも丁度バッグの真ん中、一寸のズレもなく当たった、ちなみに中身は錬金術で扱うための水が入ったボトル二リットル×4本ぶんである

 錬金術で、とは言ったが、ただの水操作で扱うだけなので酸とか入ってたりはしない、ただの水だ、とはいえ四本も入っていればそれなりの重症にもなる。

 ・・・さて

 

 

「他の奴らはどうする? せっかくのライブという大舞台を汚したいなら掛かってどうぞ?

そうでないなら回れ右して帰ってくれる?」

 

 

 コレは忠告、まぁ、私もせっかくのこの場所を血で染めたいとは思っては居ない、第一、相手はなんの力も持たない人間、緒川や弦十郎とは違う、普通の、無辜の民だ。

 ま、だからといってただで逃してあげる通りも何もないのだけど?

 

 

「あんまり、甘く見るなよ―ってお前らはなんだ―!」

 

「セレナお嬢様、そろそろ時間も間近なのでツヴァイウィングのお二人と合っていただけますか?

こちらの処理は私達がいたしますので」

 

 

 せっかくの戦う準備が無駄になってしまったが、まぁ、彼女たちが私達を呼んで居るのなら仕方ない

 

 

「おい、まだ話は―」 「ツヴァイウィングのライブに不用品は要りません、ご退場いただきます」

 

 

 まだ来場すらしてないうちに彼らは退場させられていった、ま、私が相手していたら骨折だけじゃ済まなかったでしょうし、彼らに任せてよかったかも知れないわね・・・と、クリス~

 

 

「こちらですお姉様、大丈夫でしたか? えっと」

 

「あ、は、はい! 私は大丈夫です! 助けてもらってありがとうございます!」

 

「いえ、警戒していて最善に尽くせなかった私達の落ち度よ、ごめんなさい」

 

「えっと、お姉さん達は・・・?」

 

「私はセレナ、そして」 「妹のクリスです」

 

「あ、私は立花 響って言います! 実は今回のライブが初めてで・・・友達と一緒に来たかったんですが・・・あれ、未来から電話・・・?」

 

 

すいませんと一言謝ってから電話に出る・・・と、彼女が驚いたように嬉しそうに話し合ってるのが聞こえる、どうやら何か有ったようね・・・

 ライブまで二時間ちょっと・・・もう少し時間を潰していましょうか。

 電話を終えた響がこちらに向かって手を振っている、どうやらあちらは何とかなりそうな感じかしら?

どうやら大した事ではなかったようで、彼女の親友の両親も向かうことを許可してくれたらしい・・・にしては開始まで残り時間がなさそうだけど大丈夫なのかしら?

 

 ・・・どうやら大丈夫らしい、彼女もこちらに笑顔で手を振って迎えに行ってくると走り去っていった。

 

 

「嵐のような人ですね・・・こちらに来た立花さんもそうでしたけど」

 

「そうね、あぁいう人が、一番救われてないといけないのかも知れないわね・・・」

 

 

 そう、私なんかより・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、こちらの準備は完了してます、音響調整! テスOKですか!?」

 

 

 会場裏側では現在最終チェックが行われている、場所も広い影響もあってかかなりの人数が入り乱れあっちへこっちへと作業が取り行われていて、移動にも難が見えることもありそうなほどである。

 そんな中でも隙間を容易く通ってツヴァイウィングのもとに颯爽と歩いていく影・・・

 

 

「ツヴァイウィング、準備は大丈夫ですか?」

 

「っと、なんだ、翔季のアニキか、あぁ、アタシは大丈夫、けど翼がなぁ・・・」

 

「わ、私も大丈夫だから! そんな不安がらなくてもっ」

 

「大丈夫だよ、二人共 今回も今回で満員御礼だしね。

練習はちゃんと出来てるんだ、だから全力で楽しんでくればいいよ」

 

「そう、だよね。 うん・・・よし!」

 

「お、翼、やる気十分ってか? さっすがアニキ、アタシ達の状態管理もバッチシだな」

 

 

 ・・・それどういうことだろう、確かに緒川さんや弦さんにも二人の体調には気をつけておいてくれとよく言われたけど、僕が出来るのは食事による体調管理ぐらいのもの、それ以外の管理は緒川さんに一任しているし・・・それを考えると、セレナさん達の体調管理も僕がやっている訳か・・・はぁ、ま、好きでやってるから良いか、それはそれで、世界を跨いでもやっていることが変わらないのはどうなのだろうか・・・

 っと、考えている場合じゃないや。

 

 

「今回はそんなに話せないからとりあえず、お土産品だけ置いておくよ、好きなときに食べておいて」

 

「おっ? 今日はなんだ?」

 

「開けてからのお楽しみってことで、それじゃ僕は了子さんの所に寄ってから警備隊に混ざるから、ライブ、頑張ってきてね」

 

 

 おう、はい、と元気の良い返事を聞いて楽屋を後にして、そこより下にある研究施設に向かう、早く、猫たちも待たせてるから出来れば早めが一番だけど・・・お?

 

 

「もしもし、セレナさん? 何か?」

 

『こっちで立花 響と名乗る少女を確認したんだけど、要保護が必要かしら?』

 

「あ・・・いや、其処まですると怪しまれるし、軽い監視程度で良いと思うよ、一人できてるんだよね?」

 

『いえ、小日向という友人が近くに来たから一緒に入場したのを確認したのだけど?』

 

「マジですか?」

 

『本当よ? というより、マジなんて言葉使うのね・・・』

 

 

 計画外・・・いやむしろこちらのほうが普通であるのか・・・

とりあえずこちらの響さんには何も言わないほうが、いや言っても仕方のないことか、それに今回戦場になってしまったとしても、彼女が帰ってからになるだろうし、第一―

 

 

「セレナさん達は言われた通りの対応準備でお願いします、開場時間は―」

 

『分かってる、後一時間もすれば入場するわ・・・それより、あの白猫は何処に言ったの?』

 

「会場のセンター屋上、吹き抜けになってるところを薄氷でバリアコーティングしてると思うから、アイリスリーダーはその補助も遠隔で担ってる。

 僕は魔術とかろくに使えないから警備に交じるだけ・・・とはいえ、来る相手がネフィリムだったりするのなら―」

 

『だとしたら、奴らの狙いはソロモンの杖と、ネフシュタンということになる。

それがどういう事がわかってる?』

 

「ネフシュタンを食われた時点で僕たちの負けになる。 それ自体は分かってる、もし起動が成功し次第安全に保管し、日本国の兵器として流用されるはず・・・詳しいことは知らないけど多分・・・」

 

『・・・はぁ、どいつもこいつも・・・私も同じか・・・』

 

「セレナさんは違う! 少なくとも、あれらを兵器としか見ない人たちとは、違う・・・」

 

 

 思わず大声で彼女の言ったことを否定する、だって、彼らと彼女では、扱う立場が違う・・・彼らは政略として、だけど、彼女たちが扱ってくれるなら、扱い終われば、もう兵器として効果を無くすはずだから・・・それに・・・

 

 

『はぁ、ま、ありがとうと言っておくわ、でも、その優しさは―』

 

「毒になる、それは僕が一番知ってるよ。 だから、ううん、だから皆に優しく、甘いんだろうね、僕は」

 

『・・・だから嫌になる、アンタの相手は・・・』

 

「多分、二課の皆君に優しいから居たくないんじゃないかな?」

 

『・・・・・・だから・・・? それが分かったところで―』

 

「うん、何にもならない、だから僕はセレナさん達の援護をするだけ、僕が出来るのは精々露払いぐらいのものだからね・・・っと、だいぶ話し込んじゃったね、それじゃあとで」

 

『ええ、あったら、戦場でね』

 

 

 そこまで言い残してセレナさん側から切られ、僕は歩きながらこの後のことを考える。

 

 今回のライブには万を超える人数が一同に介し、皆の心を一つに【音】として【楽しむ】ための新年早々の記念ライブ、ツヴァイウィングとしても今年を善きものとするためのライブでもある、かな。

 観客動員数も然ることながら、その警備体制はかなり厳重なもの、というのも野外ライブ同然な吹き抜けの天井、そして一躍有名となった歌姫たちの警護にも力が入るというもの。

 だが、警備が有ったにしてもこちらに来た立花 響さんの言では、死亡者数は1万を超えたほどの大災害だったらしく、それでも彼女自身は翼たちに感謝していたらしい。

 だけどこちらは彼女の居た世界の過去ではない、それと同じようなことが起こりうる可能性はほぼほぼないと言っても過言ではない、その証、証明がセレナさんであり、錬金術師の方々でもある。

 今現在、パヴァリアのメンバーと国防の警護隊、そして装者・・・それと保険のような僕たちの存在、一応【悝嶺】さんには連絡をとってこちらにも来ていると報告も有ったけど、人数が人数なため救護部隊も外に待機してはいる。

 とは言ったものの、それでも不思議と不安は拭えない、現状で言えばほぼ最高戦力とも言えるこの状況において、何を不安がれば、とも思うだろうが、一番の埒外存在、ネフィリムの問題だ。

 

 一応ではあるが、あれは軽度の存在であれば僕でも、いや弦さんでも簡単に屠れはする、星遺物であってノイズではないから、といえばそのとおりである訳だが・・・相手は増殖しているのを前日に確認している以上、楽に考えてはならないだろう、場合によっては今回の歌により発生するフォニックゲインに釣られて現れる可能性が一番にでかいのは確かだから・・・

 だけど・・・真っ当な装者であるはずの翼さんよりセレナさんのほうが適正が高いってどういう事なんだろう・・・

 ウェル博士曰く、愛によって物事は起きるのだとか・・・つまるところギアの適正には深い愛情のような何かが・・・あぁ、だからリューシェさんが纏う時あんなに出力が低いわけか、だとすると一番愛の深いクリスさんが出力を一番出せる、のかな・・・

 一応ウェル博士の作り出した高性能なLinkerは奏さんに常備させているみたい、衣装を着ていても見えずに気にならないほどの大きさらしく、一回の使用で一時間は応用できる、らしい、この辺は流石と言える。

 

 ・・・さて、ここまで考えて対策のしすぎ、と言えるかも知れない、だけどこちらに来た立花さんの影響でそのなにかが、確信的に起き得るのが確かだと、そう思えるからこそ僕たちもこうやって警備に付くわけなのだけど。

 

 

 

「その辺どうなんですか、櫻井・フィーネ・了子女史」

 

「変に名前を長くしないでよぉ~ 今はただの櫻井了子よ 今回の実験で私は何もするつもりはないし、何も出来ないって話したばっかりじゃない。

 ただ起動がうまく出来ればいいって話だったでしょ? そっちの研究者っていうの? あなた達のリーダーは頻りに装置やデータを見回って怪しんでるのだけど・・・」

 

「それは貴方の前科があるからでしょう、諦めてください」

 

 

 これ、よければ食べてください、と袋詰めのお菓子を備え付けのテーブルにおいて、人数分の飲み物(ボトル)を適当に立てて置いていく、すまないな と弦さんが一言かけてくれるけど、僕にはコレぐらいしか出来ないから、いや、厳密に言えばまだ出来ることはあるけれど、それはこの世界において必要な力ではないといった方が正しい、現に弦さんもノイズ相手には手すら出せないから・・・つまるところ、いくら強くてかっこよくても、肝心の力が通らなければ意味がない・・・と、そろそろ―

 

 

「客席回ってきます、その後猫さん達の配備しておきますので一応アナウンスの方に連絡お願いできますか? 緒川さん」

 

「あ、了解です 一応此方でも警戒しておきますので後で合流しましょう」

 

 

 さて、開演までの時間、こっからが僕たちの仕事時間だ・・・そういえば、リューシェさん、暇してないよね・・・?

 

 

「少し不安だ・・・」

 

「リューシェならこっちで遊ぶもの提供してあげたから問題ないわよ。 それにこっちも開演まで暇そうだから・・・そうだ、コレを貴方に渡しておく、緒川と弦十郎にも、ね」

 

 

 言うが早いかとそのまま投げ渡されたのは宝石が嵌め込まれた銀色の腕輪・・・この色、たしか覚えがあるような、アメジストカラーの宝石は装着したときにキラリと輝き何かを答えようとしているかのように鳴動した、なお、他二人のも輝いて見えたがどうやら見えているのは僕とアイリスリーダーだけみたいだ。

 

 

「アイリスさん、これは?」

 

「ま、危険に感じたのなら弾くなり呼びかけるなりしてみて、【それ】は答えてくれるだろうから

 さ、開演までもう時間も無くなってきたからとっとと行った行った」

 

「リーダー、最悪は無いと考えて良いのかな?」

 

「その油断はしないほうが最善になると思うわ。 警戒は厳にお願い」

 

 

 了解、の返事と同時に緒川さんと一緒に部屋を抜け出し、所定の行動を開始。

緒川さんはアナウンスの方に警告を、僕は僕で猫さんたちとリューシェ、及びセレナさん達に警告諸々、まぁ、やることがあるのならば、僕は全力で成すだけだ。

 

 

「・・・後三十分・・・この時間が一番緊張するね。

 もしもし、リューシェさん、セレナさん、クリスさん、場所についてますか?」

 

『もう着いてるわ、クリスも一緒よ』 『こっちはばっちこーい! な~んも問題ないよ、現在は敵勢な~し もうちょい遊んで警戒しておくね~』

 

「そっか、じゃあこっちも―」 『あ、そだ翔希くん』 「?」

 

『ミル姉さんは何処に?』

 

「あ・・・彼女は、外部に居るよ、ここは海に面しているからね、そっち側にいるよ」

 

『はぁ~、じゃ海からはあまり来なさそうだなぁ~ ま、頑張るって言った以上やるよ~ そんじゃまた後で』

 

「うん、またね・・・さて、そんじゃ警備がんばりますか~・・・あれ?」

 

 

 ここ、関係者通路なんだけど・・・彼女は?

 前方に会場をじっと見る黒いゴシックドレスを来て片目は血よりも紅い瞳、もう片方は金よりも輝いているかのような明るい瞳、身長は大体140ぐらいだろうか、黒い髪は所々に赤い線が入っているかのように妙な鳴動を起こしているかのように錯覚してしまうほど、それが腰ほどまで流れて内側にクルンッとカールが掛かっている。 ヘッドドレッサーは色に似合わず淡黄色で、黒いゴシックとはまるで間逆な・・・それはともかく―

 

 

「あっと、家族と別れちゃったのかな? 名前はわかるかい?」

 

「? おにいさん、ここの係の人?」

 

「うん、そうだよ、もし迷っていたら家族のところまで送ってあげるよ」

 

「うん。問題ないよ~ わたしはここから見ておきたいから」

 

「あ、あの、ここ係員用の通路だから、それにこっからじゃライブ見えないし・・・えっと」

 

「あ、じゃあ一緒に見ていてくれる? 一人でつまらなかったの」

 

「えっ!? あ、う~ん・・・まぁ、大丈夫かな、じゃあ離れないように気をつけてね」

 

「うん! ありがとう係のお兄さん」

 

「一応自己紹介しておこうか、僕は凪 翔季、君は?」

 

「わたし? わたしは・・・お姉ちゃんは『フィリメル』って言ってた、略して『フィル』ってよく呼んでくれていたよ」

 

 

 ? お姉ちゃん? ということは家族が居るのか? 姉と一緒に来たと考えれば・・・だけど当の姉は此方の係員に妹の捜索申請をしていない、ということは、どういうことだ?

 いや、あまり深く考えても仕方ないか、とりあえず、リーダーや弦さんに連絡して・・・あれ、通信機が、電波障害かな・・・?

 

 

「? どうしたの? 翔季お兄ちゃん」

 

「あ~ いや、なんでも無いよ、所でフィルちゃんは猫は好きかい?」

 

「え、おねこさん! 居るの!?」

 

「うん、会場には沢山のお猫さんがいるよ、近くだと・・・あ、居た、ラーファ」

 

 

 真っ黒ながらスタイルの良い黒猫、アメリカンショートヘアーのラーファ、一応クロエルと双璧の看板猫だ。 だからか歩いていると良くお呼びがかかるから人気も高く、本人(?)も満更でもないのかよくすり寄って撫でてもらったり頭を押し付けてくることの多い、クロエルとは正反対な懐き猫だ。

 今は係員を含めた避難経路の巡回していたようだし、ちょうど良かった。 僕一人だとどうにも少女の対応って難しくってね・・・? なんか寒気が・・・

 

 

「(リューシェさんが噂でもしてるのかな・・・?)」

 

「? どうしたの? お兄ちゃん」

 

「なんでも無いよ、さ、そろそろ開演だから席に行こうか」

 

 

 そうして一緒に歩き出す様はまるで姫と騎士のような、とは誰が言った弁だったか、今は知ることはないだろうし、知っても仕方のないこと。

 ・・・さて、ライブが無事に成功しますように、結構願掛けしたんだから、本当に何事も有ってほしくないんだよ、ね。

 それでも、一応ではあるが、セレナさんは翼と奏の実力強化には散々付き合ってくれた、まぁ、その中でも僕や弦さん、緒川さんも混じって特訓するのが多かったと思う、それで実力は大分ついたとは思うが、不安は拭いきれていないのは、心配のしすぎだろうか?

 

 

「ふふっ 楽しみだね、お兄ちゃん!」

 

「あ、うん、そう、だね」

 

 

 ・・・考えすぎ、じゃなければいいか、それでも、最大限助力をしよう、今の僕に出来るのはそれぐらいだろうし。

 何も起きなければ、という甘い考えは捨てなければとは思うけれど、それでも、僕は・・・

 

 

『通じてるわね、翔季、リューシェ、セレナ、クリス、ツヴァイウィング』

 

「アイリスリーダー、開演までまもなくですが、なにか?」

 

『そこまで多く語るつもりはないわ、ただ、何事にも全力で挑んで、それだけよ』

 

『当然だ! アタシ達のライブ、その力で世界に示してやる、歌は、世界に通じるんだって、セレナにも、な』

 

『あぁ、世界は残酷ばかりじゃないと、伝えよう、私達にはそれが出来る! だから、セレナ、クリス、どうか私達を見守ってて欲しい、そうして感じてほしい、護るべき世界は、ここにあるっていうことを―』

 

「開始まで後五分・・・準備は」

 

『こんな時間になってまで出来てないやつは居ないわよ、さぁ、ハデにやっていきなさい! ツヴァイウィング!』

 

 

 

 応っ! と勢いよく返事が響いて通信が切れた・・・ただ此方に内密のメールで一言―

 

 

 

  『内部の敵に気をつけて―』

 

 

 何故それを僕に? まるで敵がノイズのような【この世界のモノ】じゃないような書かれ方をしているのが一番気になる。

 ・・・それでも、何故だろう、この空間におびただしい【殺気】という気配を感じるのは・・・

 普通じゃないコレは・・・本当にこれから楽しいライブになるのか・・・甚だ疑問だが、今は―

 

 厳重注意、に留めておこう、ここによく分からない少女も居るし、ね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

ただ、このときに一番警戒しておくべきだったのは、何よりも、内側にいる、人という敵だったのは、あとになってよく分かった・・・それを語るのは、まだ後の話だ―

 

 

 

 

 

 さぁ、舞台は開かれた、偶像は舞い踊り、その世界に舞うは、血潮か、灰か、さぁ、世界は何を踊らせる?

 言霊遊びは今宵に開かれる妖艶によって幕が切って落とされる、もうソレらを隠すものは居ない、さぁ、邪智暴虐の女王はこの世界の人類に何を見るか・・・

 

 

 少女の歌は、何を映す? 世界は、深淵への片道切符を切った、ここから彩られるは悲鳴か喜声か、さぁ諸君、絶望か希望、君たちの映したい未来は、どの様に牙を見せ、世界を映すのか。

 それが見られるまで、今しばし、悠久の時を待とうではないか? なぁ、幽華お前は、どう見る?

 

 

 「あ~、今はどうでもいいっす、それより他の転生者が幾多も居るみたいなんで騒乱に合わせて殺してきますんで金相応に弾んでくれない?」

 

 

・・・あぁ、そのへんはちゃんとしておこう、うぬ

 

 

「毎度! いや~ヤブ医者やってても儲け薄いからね~ こういう事してないと・・・っと

そうだ、今回こっち一人じゃないって言ってたっけか?」

 

 

 一応な、お前の補助をしてくれるものだ、とはいえ当人は来ない、遠隔援護がメインだからな

 

 

「な~る、あ~、でも翔希くんたちとも色々やらんといけんくなるのか面倒いな~、認識阻害でもやっとくか、扱うのも億劫になるけど、臭いし」

 

 何を扱うつもりだお前、そんな事しなくてもあのエンジニアが作った物を持っていけば問題ないだろう。

 

「うん? あぁ、そろそろ時間? 了解了解~ んじゃまったね~」

 

 おい、幽華! おま―――、もう行ってしまったか、あぁ、わたしの出番はこれ以降無いぞ、ただの読み手なのでな。 では、私も退場しよう・・・

 

 

 ま、場合によってはこの世界そのものが崩壊するかも知れないからな、ま、部外者はとっとと消えておくよ、とほほ、ライブチケットが当たらないとか結構あるもんなんだな・・・はぁ。

 だからといってあの被害者になりたいとかそういう事は、無い、第一此方何の力もなくこんなとんでもに飛ばされて正直困ってるわけだ、まぁ、生活に困ることは、いや私のことはどうでもいいのだ。

 まず最初にセレナちゃん様を見かけたときにとんでもやばい気配があって・・・いやそういう事を言いたいわけでは、えぇい! 幽華! 締める時はしっかり締めないか! わたしではどうしようもない!

 

 は、次回予告でもすれば?と? ホォ、なるほど

 

 とはいえ分かってのとおりだと思うのだが? 安全にライブをやって、ネフシュタンを起動して終わりではないのか?

 ソロモンの杖がない以上ノイズが出ない・・・? あのイケメン店主に寄り付いた幼女は誰か?

名前をもじれば分かる、のではないか? 第一に容姿答えを言っているような・・・

 

 すまん、もう無理だから締める、ではまた次回、なおわたしの出番はもうないから何も出ないぞ

 

 



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