ガールズ&パンツァー+ボーイズ&タイタン (ユウキ003)
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第1話 初めての出会い

大人気FPSゲーム、『タイタンフォール』シリーズとガールズ&パンツァーのクロスオーバーものです。登場するパイロットはオリジナルですが、所々に原作のパイロットが登場します。あと、設定上各校は共学校になっていたり、同じ学園艦の上に姉妹校の男子校がある、と言った感じになります。


現在、この世界では『戦車道』と呼ばれる

武芸が行われている。

 

戦車道とは、その名の通り戦車を用いた武芸

である。かつては戦争における陸の王者と

呼ばれた戦車を使い、礼節のある、お淑やか

で慎ましく、凜々しい婦女子を育成しよう

と言う物であった。

この戦車道は世界中で広く知られており、

現在はマイナーなイメージがあるが、それ

でも全盛期には世界的な伝統文化として知られていた。

 

そんな戦車道の誕生と世界情勢の変化から、

戦車=戦争、ではなく、戦車=戦車道という

図式が広く浸透していくようになった。

 

また、それにともない戦車=軍人(男)という

イメージも、何時しか戦車=女性という

変化に見舞われていた。

 

次第に男から女性へとイメージが移っていった戦車。

 

しかし、そんな戦車に変わって、新しい

男達の、戦争の乗り物が発明された。

 

それが次世代人型戦闘兵器、『タイタン』である。

 

世界的な大手企業、『IMC』の子会社、

『ハモンド・ロボティクス』が開発した

全長7メートルほどのロボットである

タイタン。

これらタイタンは人型という事からその手

に主武装を持ち、更にミサイルなどで

武装。多種多様な能力で、戦車に変わる

陸の王者として、対テロ戦争などで

活躍する事になった。

 

加えて、このタイタンに乗る搭乗者、

『パイロット』となる事はとても難しい。

パイロット候補生の内、全体の98%が死ぬと

さえ言われた過酷な訓練を生き延びた

僅か2%だけが、パイロットとして戦場

に立つ事が出来るからだ。

 

パイロットは、腰元に装備した『ジャンプ

キット』と呼ばれる特殊なユニットと

パイロットだからこそ使いこなせる独自の

装備でもって、戦場を駆け回り、

タイタンと共に戦う。

 

パイロットとは、戦場における強者である。

素早く動き、華麗で、圧倒的。

常に冷静であり、臨機応変。

そして何よりも、冷酷である。

 

パイロットに敵うのは、パイロットだけ。

タイタンに敵うのは、タイタンだけ。

 

彼等は君臨していた。

 

戦場という舞台の上で、彼等は戦い

続けていた。

 

そんな現代の死神になろうとする少年達と。

かつての陸の王者を駆る少女達。

 

今、彼等が出会い、そして、物語は

動き出すのだった。

 

 

今、大海原を巨大な船が航行していた。

その名は『学園艦』。

 

巨大な空母のような船の上には町が作られて

おり、人々はそこで生活もしている。

そんな学園艦の上にある『大洗学園』に通う

一人の女子生徒。『西住みほ』。

 

彼女は訳あってこの大洗学園に転校してきた

2年生だ。そんなある日の事。

 

今日も今日とて一人で通学しているみほ。

そんな彼女の周囲では、白い制服を着ている

彼女と同じ学園の女生徒たちが友達と

談笑しながら歩いている。

 

しかし、そこに男子の姿は無い。

大洗学園は女子校ではない。立派な共学だ。

 

だが、その実態は『実質女子校』と呼ばれる

ようなものだ。

その理由は……。

 

『バシュッ』

「あ」

その時聞こえた、スラスター音にみほは足を

止めて周囲を見回す。そして、見えた。

 

近くの家屋の屋根の上を飛び回る数人の人影を。

「あれが、パイロット育成科の……」

みほは人影を見送る。

 

『パイロット育成科』。

それは、タイタンの操縦士であり一流の

兵士であるパイロットを育成する学科だ。

 

戦車に変わる陸の王者、タイタンの軍事的

重要性の、近年の高まりはめざましい物

がある。

それもあり各国はパイロットの育成に力を

注いでおり、その一環として高等学校

以上の教育機関、即ち高校や大学などに

パイロット育成科を設置。

 

現在、パイロットは主に分けて2種類に大別される。

 

非武装化が施され工事現場などで活躍する

タイタンを操縦するパイロットと。

戦場で武装したタイタンを駆って戦う

パイロット。

 

そんな中でも後者は、ある認証を得る事。

『フルコンバット認証』を必要としている。

この認証を得るための訓練で、大勢の男

達が命を落とすのだ。

 

そんな訓練を生きて卒業するためにも、各校

に設置されたパイロット育成科の生徒達は

訓練に励む。もっとも、この訓練も一歩

間違えば命を落としかねない危険な物だ。

 

なので、世界中のパイロット育成科では

入学時に遺書を書き学校側に提出する事と、

死亡時、学校側に一切の責任追及をしない

旨を記載した誓約書への署名を義務づけ

られている。

 

それほどまでに狭き門のパイロット育成科。

また、彼等が街中で訓練しているのは、

パイロットの持つジャンプキットの特性

から、彼等は開けた場所よりも、市街地

などの交戦距離の短い密集地帯で力を

発揮するのだ。

そしてだからこそ、学園艦の上にある

町自体が、彼等にとっての訓練場

なのだ。

 

話を戻すと、大洗学園が実質的な女子校と

されるのは、パイロット育成科に理由がある。

大洗学園に男子が入学する場合、『パイロット

育成科しか』無いのだ。

つまり、男子が籍を置く普通科などは

一切無い。またパイロット科自身入ってくる

生徒の数が少ない。

 

現に大洗学園のパイロットは、各学年に

1人ずつ。つまり3人だけであり、同時に

この3人が大洗学園の男子生徒の総数

である。

だからこそ、大洗は実質的な女子校なのだ。

 

 

パイロットが腰のジャンプキットから噴射炎

を吐き出しつつ、彼女達の頭上を飛び越していく。

みほはそれを見上げながらゆっくりと歩いていた。

 

そして、十字路にさしかかった時。

彼女は横から近づいてくる自転車に

気づかなかった。

更に言えば、自転車に乗っていた男も、

スマホに手にながら運転をしていた。

 

双方の不注意。

「あっ!?」

まず最初に自転車の男が気づき。

「え?」

次いでその声にみほが気づく。

 

『ぶつかる!?』

そう考えたみほは瞬間的に目を

閉じた。

 

が、その時。

『バッ!!』

どこからともなく現れた人影がみほの

体を抱えて跳躍した。

 

みほは一瞬の浮遊感を感じ、直後に

誰かに抱っこされている事。

痛みが襲ってこない事に気づいて

ゆっくりと震える瞼を開いた。

 

すると……。

「大丈夫か?」

青い光を放つフルフェイスヘルメットが

眼前にあった。

「あ、え?」

突然の事に戸惑うみほ。

 

彼女が、そのヘルメットがパイロット

の物だと理解するのに、少し時間を

要した。

「……。あ、貴方は、もしかして

 パイロット育成科の」

「あぁ」

パイロットは頷くと、飛び乗っていた

家屋の屋根から道ばたに飛び降り、

お姫様抱っこしていたみほを下ろした。

 

「怪我は無いか?」

「あ、はい。あの、ありがとうございました」

「気にするな。訓練の最中に目に入ったから

 助けただけだ。じゃあな」

それだけ言うと、パイロットはみほから

離れ、軽やかな動きとジャンプキットの

推進力だけで家屋に飛び乗り、陸上選手

ばりの動きで走り出した。

 

それを見送るみほ。

 

「すごいよね~。あれがパイロット候補生

 なんでしょ?」

その時、一部始終を見ていた周囲の

女生徒達の声が聞こえた。

「うん。世界最強の兵士、ってテレビ

 で言って居たけど、見えた?今の動き」

「全然。あれって人間業?」

「前テレビで言ってたけど、パイロット

 になるのって人間止めるような物

 なんだって~」

「え~?嘘~」

「でもやっぱり憧れちゃうな~。

 パイロットの彼ってかっこ良くない?」

「え~?どうかな~?」

「う~ん、パイロットって高給取りみたい

 だし、私的には有りかな~」

 

そんな話をしながら、女子達はみほから

離れて行く。

それを見ていたみほも歩き出そうとした。

が……。

≪キラッ≫

「あれ?」

足下で何かが輝いた気がして屈み込む

みほ。

見ると、彼女の足下に三毛猫のキーホルダー

が転がっていた。

「これって?」

みほはキーホルダーを拾って立ち上がると

細かくそれを確認し始めた。

どこかに持ち主の名前が無いかと探して

いるのだ。

 

すると……。

「あ。あった。えっと、『O.Kazuki』?

 カズキって、男の人?」

う~んと唸るみほ。

「あっ」

その時、彼女は思い出した。

 

学園でたった3人の男子。その2年生が

自分と同じクラスである事。

彼の名前が『大代(おおしろ) 和紀』である事を。

メット越しであったが、自分を助けて

くれたパイロットの声が彼と似ていた事。

「もしかして、これ……」

みほは、若干意外に思いながらその

キーホルダーをポケットにしまうと

歩き出した。

「あとで返してあげよう」

 

そう思いながらみほは学園に向かって

歩き出すのだった。

 

学園につけば、周囲を歩く者は全員が女子だ。

みほはそのまま自分の教室に向かう。

そしてそこにたどり着けば、教室の中で

一際異彩を放つ存在、2年生でただ一人の

男子生徒、『大代和紀』の姿があった。

 

彼は誰と談笑することも無く、一人で

難しそうな表紙の本と睨めっこしていた。

 

最初は声を掛けようと思ったみほだが、

彼女は2年からの転校生のため、未だに

仲の良いクラスメイトがいない。

更に相手は異性である事や、候補生

とは言え、相手は戦闘のプロの卵。

どうしても萎縮してしまい、そんな事

になっていたら授業が始まってしまった

のだった。

 

そして、何だかんだでお昼休み。

片付けをしていたみほだったが、ペンを

拾おうとして色んな物を落としたり

拾ったりしている内に、教室の中では

自分だけになってしまった。

 

その現状にため息をつくみほ。

 

だったが……。

 

「へ~い彼女~!いっしょにお昼

 どお~?」

不意に聞こえた声に、周囲を見回すみほ。

そして後ろを向くと、そこには明るい

茶髪の少女と、黒髪の少女が立っていた。

 

しばしの間を置き、驚いて立ち上がるみほ。

「うわっ!」

「ほら沙織さん。西住さん驚いて

 いらっしゃるじゃないですか」

「あぁいきなりごめんね」

「あの、改めまして、良かったら

 お昼一緒にどうですか?」

 

「うぇ!?私とですか!?」

戸惑うみほ。

彼女は転校生であったため、親しい友人

も居らず、こうしてお昼に誘われるのも

大洗に来てから初めてだったりする。

彼女の言葉に頷く二人の少女、『武部沙織』と

『五十鈴華』。

 

と、そこへ。

 

「ん?」

沙織たちの傍のドアから入ってきた人物が

いた。

それは口にゼリー飲料のパックを咥えた

和紀だった。

「あっ」

彼の顔を見て、みほは自分の鞄に視線を

向けた。

 

しかし和紀は興味が無いのか3人を一瞥

すると自分の席に向かう。

『い、今返さないと。大事な物かも

 しれないし!』

そう考えたみほは、覚悟を決めた。

 

「あ、あの!」

「ん?」

みほが声を掛けると、和紀は足を止めて

振り返り口にしていたパックを離す。

「俺に何かようか?」

「あ、えっと。その……。こ、これ!」

そう言ってポケットからキーホルダー

を取り出して、まるで貢ぎ物をする

かのように両手に乗せて前に突出すみほ。

 

「あっ」

そして、そのキーホルダーを見た瞬間、

和紀の表情が一瞬変わった。

「あ、その、それ、どこで?」

「け、今朝。助けて貰った時に

 見つけて、裏にローマ字で

 カズキって書いてあったから、

 もしかしてと思って」

「そ、そうか。すまない。探していたんだ」

そう言うと、和紀は足早にみほに歩み寄ると

キーホルダーを受け取りすぐさまポケットに

押し込んでしまった。

 

「ありがとう。この礼はいずれ」

「いいえ。気にしないで下さい。

 ……猫、好きなんですね?」

 

『ピシッ!』

 

みほがそう問いかけると、和紀はそんな擬音

が聞こえてきそうな程固まった。

「あ、あれ?」

その様子に戸惑うみほ。

「あ、あ~。その、悪いがそれは忘れて 

 欲しい。……パイロット候補生が猫を

 好き、と言うのは少々、いやかなり

 ギャップが大きすぎてな。笑われる

 かと……」

そう言って、恥ずかしそうに顔を赤くする

和紀。

 

しかし……。

「え~?良いじゃん、猫可愛いしさ~。

 別に良くない?」

和紀に話題を振る沙織。

「い、いや、それはそうだが、俺は

 パイロットで……」

沙織の言い分に戸惑う和紀。そこへ……。

「ふふふ、大代さん。普段からあまり

 感情を表に出していなかった

 ので、どんな方かと常日頃考えて

 いたのですが、可愛らしい面も

 あるのですね」

 

「……ぐふっ」

華による、言葉のボディーブローと言う

名の追撃を喰らってしまった。

 

「って言うか、お昼ご飯がそれだけって

 味気なくない?ほら、一緒に食堂

 行こっ」

「え?」

そう言ってみほの手を引く沙織。

「ほら、大代さんも」

「え?いや、俺は……」

断ろうとした和紀。しかし……。

「皆さん、大代さんが猫好きだと

 知ったら、どんな反応するんでしょうね~?」

「ごふっ!?」

「一緒に、来て頂けますね?」

「…………。はい」

 

弱点を突かれたパイロットに、もはや

生き残る術は無かった。

彼は項垂れながら3人に続くしかないの

だった。

 

食堂にやってきた4人はトレーを手に

列に並ぶ。

しかしやはり、学校に3人しかいない

男子の一人である和紀がいると、注目を

集めてしまう。

しかし、肝心のみほ、沙織、華は

大して気にしていない様子だ。

 

今は3人でガールズトークの真っ最中だ。

『って言うか、クラスメイトの誕生日も

 把握してるのかこいつ』

と、そんな彼女達のやり取りを聞きながら

思う和紀であった。

 

その後、4人は同じ席に座って昼を

食べていた。話題は、みほが大洗に

一人で引っ越してきたと言う事から

始まった。

「じゃあ、今は一人暮らしの真っ最中か?」

「うん。和紀君は?」

「まぁ俺も一人暮らしだ。学校近くの

 アパートを借りてる」

ちなみに、今では4人が下の名前で呼び

合う仲だ。元々、沙織の提案で、互い

に下の名前で呼び合うようになった。

 

ちなみに、その話題に対する沙織と華の

聞き方、具体的にはお家騒動だとか

何とか聞く2人に和紀は……。

「お前等の頭の中はどうなってるんだ?」

と、突っ込んだ。加えて。

「そう余り突っ込んでやるな」

と言って二人を止めた。

「人に言えない事なんて、色々ある。

 みほが、理由があって大洗に一人で

 引っ越してきた。だったらそれで

 良いじゃ無いか。違うか?」

「そうですね」

和紀の言葉に、華が頷く。

 

「と言うか、俺は今日お前達3人に

 秘密がバレてヒヤヒヤしてる所だ。

 頼むから、余り周囲に広めないで

 くれよ?」

と、ため息交じりに念押しをして、

3人を小さく笑わせるのだった。

 

そして食堂から戻った昼休み。

「ねぇねぇ、帰り皆で一緒にお茶していかない?」

沙織がそう言ってみほと華、更には和紀まで

誘うが……。

 

「無茶言うな。俺は放課後から訓練だ。

 と言うかむしろ育成科は放課後からが本番だ」

「へ~。ってか育成科って何してるの?」

と、純粋な興味から問いかける沙織。

「色々、としか言えんな。弾道計算のため

 の数学や近距離戦闘のための格闘訓練。

 射撃訓練。世界各地で戦えるように

 言語の勉強。移動に関係して地理、

 サバイバル技術。天候についての勉強

なんかもある。ジャンルはバラバラ。

 座学もあれば外で体を動かす事もある。

 とにかく、戦場で生き抜くために、ありと

 あらゆる知識を頭の中にたたき込まれてる

 所だ」

「それって、やっぱり戦争に行くため?」

「いや、どちらかと言うと、『行った時

 大丈夫なように』、と言うべきだな。 

 ……タイタン登場初期の、大規模な

 テロ組織壊滅作戦、『オペレーション

 フリーダム』以降、大きなテロ組織の

 活動は報告されていない。あっても

 散発的な物だ」

「それはつまり、備えている、と言う

 事ですか?」

と、首をかしげる華。

「そうだな。まぁ、タイタン自身、

 災害時などでの活躍も見込めるし、

 俺達が目指してるフルコンバット 

 認証を受けたパイロットなら、

 軍からも引っ張りだこ。

 仮に軍人にならなかったとしても、

 有事の際には即戦力として戦闘に

 投入出来る。それに、タイタンと

 戦えるのはタイタンだけだからな。

 需要は尽きないだろう」

「……戦争、かぁ。何だか、実感

 沸かないなぁ」

「そうか?」

「え?そうか、って、逆に沸くの?

 私達は普通のJKだよ?」

「……戦車道」

 

「ッ!?」

 

ポツリと呟かれた単語に、みほはビクッ

と体を震わせる。

 

「それをやってる女子達が乗ってる

 のは何だ?戦車だ。……タイタンと

 なんら変わらない。戦争で勝つ

 ために人類の英知が生み出した、

 破壊のための兵器。……確かに

 戦車道での試合は模擬戦。

 死傷者が出る事は無い。

 試合で使われる砲弾も、試合用に

 火薬量を減らした物だ。戦車自体も

 特殊コーティングがされているからな。

 ……だが、その砲弾を実戦レベルの炸薬と

同程度まで増やし、相手に放ったとする。

 相手の戦車は、砲弾を受けて大破、

 炎上。中に乗っていた奴らは死ぬ」

 

静かに語る和紀に、3人はどこか戸惑い、

冷や汗を浮かべる。

 

「優れた戦車道の有段者なら、それは

 つまり『優秀な戦車兵』に他ならない。

 後はそいつに、敵を殺す覚悟さえ

 あれば、立派に戦場で活躍できる事

 だろうさ」

 

そして、和紀は更に呟いた。

  

「戦車道なんて言っても、上っ面の

 皮を引っぺがせば、かつて戦車が

 兵器であった頃に男達が学んでいた

 敵を倒す技術。敵を殺す技術を

 女子高生が学んでるって事だ。

 そして俺も、俺以外のパイロット

 候補生達も。学生やりながら人を

 殺す術を学んでいる」

 

彼の言葉に、『かつて自分が学んだ

技術』を思い出しながら、みほは静かに

俯き考える。

 

「……なんと言うか。一般人と兵士の

 境界線が、酷く曖昧な気がするよ。

 この世界は」

 

彼の言葉に顔を見合わせる華と沙織。

と、そんな話をしていた時。

「ん?あれは……」

教室前方の扉から入ってくる人影があった。

数は4人。内一人は男子生徒だった。

と言うのも……。

 

「生徒会長。それに、清水先輩たちも」

「おぉ和紀」

相手はこの学園のトップ、つまり生徒会長

と生徒会の役員である女子2人。

知らない生徒はほぼいない。

そして男子生徒は、この学園の3人の

男子生徒の一人であり最年長、つまり

3年生の『清水 央樹(おうき)』だ。

 

短く切りそろえられた黒髪。

少し日に焼けた肌。

そして何よりその同世代の同性と

比べても大柄な体。

如何にも、男と表現出来そうな体格の

男性だった。

 

その央樹が和紀に気づいて声を掛けた。

「3年生の先輩がどうして2年の教室に?」

「まぁ、こいつらのお目付役だ」

「?」

お目付役、の意味が分からないながらも

生徒会の面々に目を向ける和紀。

そして彼女達の目的というのが……。

 

「必修選択科目なんだけどさぁ、戦車道

 取ってね?よろしく」

廊下にみほを呼び出し、いきなりその話題

を切り出したのである。

「え!?あ、あの、この学校は戦車道の

 授業は無かったはずじゃ……」

生徒会長、『角谷 杏』の言葉に、みほは

戸惑いを覚えた。なぜなら、『それ』こそが

彼女が大洗を選んだ理由なのだから。

 

「今年から復活することになった」

「わ、私!この学校は戦車道が無いと

 思ってわざわざ転校してきたんですけど……」

生徒会広報、『河嶋 桃』の言葉にみほは戸惑う。

「いやぁ運命だねぇ!」

だが、杏はまるでみほの存在を喜ぶかの

ように笑みを浮かべる。

「必修選択科目って自由に選べるんじゃ……」

それは彼女の最後の抵抗でもあった。

しかし……。

「とにかくよろしく!」

『バンッ』

杏は生むを言わさずにみほの背中を叩くと、

他の2人を連れて去って行った。

 

そして、それを見ていた和紀と央樹は……。

「何です、あの茶番」

「やはり分かるか?」

「当たり前ですよ。あれ、あと一歩

 酷くしたら立派な脅迫罪。犯罪

 ですよ?」

「……刑法222条。1、生命、身体、

 自由、名誉又は財産に対し害を与える

 旨を告知して人を脅迫した者は、

 2年以下の懲役又は30万円以下の

 罰金に処する、か」

「分かってるなら何で止めないんですか?

 先輩は生徒会の連中と仲良いですよね?」

「まぁな。ただ、理由があるんだよ。

 理由が」

それだけ言うと、央樹もその場を去って行った。

 

そしてその後、みほは授業を受けるが、

まともに先生の言葉を聞けないほど憔悴

しており、沙織と華が二人して彼女を

保健室に連れて行った。

 

それを見送った和紀は、授業を受けながら

も彼女の事を考えていた。

『あの反応からして、みほには戦車道

 に対するトラウマがあるな。それも

 嫌だという理由で転校してくる程の

 ものが。あの憔悴した表情からも

 それが窺えるが……。しかし

 何だって生徒会連中はあんな事を?

 ……いやな予感がするな』

彼は、心の片隅でそんな事を考えながら

も授業を受けていた。

 

のだが……。

『トントンッ』

その時、教室のドアがノックされて1人の

男性が入ってきた。

 

「ラスティモーサ先生。どうされました?」

その男性に、授業をしていた先生は驚き

ながら答えた。

 

入ってきた男性というのは、左頬に火傷

の傷痕と、短く切りそろえられた白髪が

特徴の、この学園で唯一の男性教師

であり、そしてパイロット育成科の全権

を担う男、『タイ・ラスティモーサ』だった。

 

「授業を中断してすまない。実はちょっと

 用がある奴がいてな。和紀」

「はっ!」

ラスティモーサが声を掛けると、和紀は

すぐに席を立った。

 

軍人と遜色ない教育を受けているパイロット

としての性である。そして周囲の女子が

その事で若干引いていたが、和紀には

関係無い事だった。

「悪いが今すぐ集合だ。完全装備で

 体育館に集合。10分で支度しろ」

「了解っ!」

和紀はすぐに教室を飛び出すと駆け足

で廊下を走り去っていった。

 

「と言う訳だ。悪いな先生。和紀を

 借りていくぞ」

「あ、え、えぇ。分かりました。

 パイロット育成科の子は、そちらが

 優先ですからね」

「悪いな、授業を邪魔しちゃって。

 じゃぁ」

そう言うと、ラスティモーサも教室を

出てどこかへ向かって歩き出した。

 

ちなみに……。

「あ、あれがパイロット育成科の教官さん?

 何か凄いね」

「うん。ちょっと厳ついよね」

「でも、ちょっと有りじゃない?

 ナイスミドルみたいでさ」

「ちょっ、アンタレベル高いわね」

と、女子がヒソヒソとそんな話しを

していたのだった。

 

その後、更衣室でパイロットのスーツを

纏った和紀は、完全装備という事もあり、

自分のガンロッカーの中から銃器を

取り出した。と言っても、持っていくのは

ハンドガン一丁と電気スモークグレネード3つ。

 

ハンドガンはこれまで多くのパイロットの

サイドアームとして実戦を共にしてきた

セミオート式オートマチック拳銃、

『ハモンドP2016』。

腰に下げている電気スモークグレネードは、

対タイタン、対歩兵、対機械歩兵など、

幅広く使える武装だ。電気を発生させる

性質から、敵の通信設備の破壊などにも

使われる。

 

本来であればパイロットは、更にメインの

ライフルやマシンガン。更に対タイタン

兵器を装備するが、それらは威力が強く、

大洗では指定された射撃訓練場以外での

携行を許されない。許されているのは

ハンドガンと軍需品だけだ。

 

まぁ、それでもかなりの重武装

なのだが。

 

和紀はP2016の動作を確認し、マガジン

を出して残弾を確認すると戻し、

セーフティを掛けてホルスターにいれた。

 

と、そこへ。

「あっ!オッス和紀先輩!」

更衣室の扉が開いて1人の男子が

入ってきた。

 

彼はパイロット育成科1年。

『高宮 明弘(あきひろ)』だった。

 

茶髪に飄々とした性格から、チャラ男

をイメージさせる少年だが、それでも

パイロット候補生。既にそこら辺の

暴漢程度、簡単にたたきのめす力を持った

パイロットの卵だ。

 

「明弘。お前も招集掛かったのか?」

「はいっす。何か即行着替えて体育館

 集合。しかも完全装備ってなんなんす

 かね?」

「さぁな。だが、俺もお前も、と言う事は

 央樹先輩もだろう。それより俺は先に行く。

 お前も急げよ」

「うっす」

 

和紀はヘルメットを脇に抱えると更衣室を

出て体育館へと向かった。

 

 

一方、学校の放送室では、和紀達と

同じようにパイロットスーツに着替えた

央樹が杏たち3人と一緒だった。

 

「……本当に、やるのか?」

「当たり前っしょ」

央樹の声に杏は即答する。

「……杏。その選択は賭けに近い。

 それでも良いんだな?

 あの時の西住みほの反応から

 して、彼女は戦車道経験者だが、

 彼女は戦車道から離れたがって」

「じゃあ央樹にはこれ以外に良い案が

 あるの?」

 

央樹の言葉を遮る杏。しかもその声には、

苛立ちとも焦りとも取れる声色が

含まれていた。

 

「無い」

そして央樹はすぐさまそう答えた。

「無いが。やる気の無い者と経験の無い

 者で創られたチームで、本当に

 優勝まで行けると思うか?

 ……確かに俺にはこれ以外の、もっと

 良い方法は思いつかない。

 だがこの方法も賭けに近い。

 それでも良いんだな」

「……」

「清水っ。お前は会長の決定に

 異を唱える気か?」

「現実的な話をしている。

 急造の寄せ集めチームで、強豪が

 ひしめき合う戦いで勝つ可能性は、

 極端に低いのは誰でも分かることだ」

そう言って睨み遭う桃と央樹。

 

「ふ、2人ともやめようよ。ほら桃ちゃん。

 そろそろ放送しないと」

「桃ちゃん言うなっ!」

生徒会副会長、『小山 柚子』が止めに入り、

桃は渋々と言った感じで席に付くと

放送を始め、全校生徒を体育館に集合させた。

 

そして、和紀もそれを体育館でそれを

聞いていた。

 

それから約数十分後。生徒達が集められ

パイロット候補の3人は舞台袖にいた。

壇上には生徒会の3人の姿もあった。

 

彼女達が集められた理由は、選択必修科目の

オリエンテーション、と言う事だったが、

内容は戦車道を全面に押し出したものだ。

戦車道の動画が流れ、更には派手な演出。

科目選択用の用紙は、戦車道の

選択欄が明らかに他よりも大きい。

 

ここまで戦車道を推す理由は、『数年後に

戦車道の世界大会が日本である事から、

文科省から全国の高校や大学に

対して戦車道に力を入れるように

通達があった』、と言う物であった。

 

更に、戦車道履修者に対する好待遇の

数々。しかし……。

 

「なんなんすかね~。この不気味なまで

 の好待遇。いくらなんでも推しすぎ

 っしょ戦車道」

舞台袖にいた明弘はそう呟く。

「それには俺も同感だ。……文科省からの

 お達しとは言え、少しきな臭いな」

『みほへの強引な勧誘もこれが元か? 

 何故そこまで戦車道に拘る。

 生徒会長』

和紀は静かに、ヘルメット越しに壇上の

生徒会長を睨み付けていた。

 

と、その時。

 

「また、戦車道は多少なれども危険を

 伴うので、実技等の際には実際に

 軍事関係の教練を受けている生徒3人

とパイロット育成科の教官、タイ・

ラスティモーサ先生が皆さんのフォローを

 行います」

柚子の発言に和紀と明弘は静かに眉を

動かした。

 

「へ~。そんな事までするんだ。生徒会は」

明弘は笑っているが内心は、そうではない

だろうと和紀は思っていた。

 

今の柚子の発言を女性的に解釈すれば、

『戦車道を履修する事で男子生徒と

交流が出来る』、と言う事だ。

「それじゃぁ3人とも、こっちに来て~」

 

そう言って、和紀達の方に視線を向ける杏。

「ほら。お呼びだ」

央樹の言葉に和紀と明弘はしぶしぶと

した感じで壇上に姿を見せた。

 

ちなみに、彼等のスーツにはそれぞれの

戦術と呼ばれるシステムがあった。

 

和紀は腕部から射出したフックで高速移動を

可能にする『グラップリングフック』。

 

明弘はクナイのような形で打ち込まれた

地点の周囲を索敵するエコーを放つ

『パルスブレード』。

 

央樹は自らを守る盾であり、同時に自分の

放つ銃弾の威力を強化する『増幅壁』。

 

それが彼等のそれぞれの装備だった。

 

そして、3人は横一列に並ぶとヘルメットを

取って小脇に抱えた。

それだけで女子、特に1年生達の方から

ざわめきが聞こえてきた。

多感な時期の少女達に、戦うイケメン

と言うのは少なからず興味を引かれる

のだろうか。或いは、パイロットは

高給取りとして有名な事を知ってかは、

分からないが……。

 

ともかく、普段男子である3人と殆ど

接点を持たない彼女達にしてみれば、

戦車道の履修=男子との出会いのように

思えてくるだろう。

 

その事実に和紀は内心辟易していた。

そして……。

 

『これから何が起るんだろうな』

 

これから先の事に一抹の不安を

覚えるのだった。

 

     第1話 END

 




個人的にはオリキャラとみほ達の恋愛もありにしようと考えてます。


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第2話 探索目標、戦車

第2話です。若干、生徒会室でみほに迫った杏達へのアンチが入ってるかもしれません。
そう言うのが苦手な方はブラウザバックした方が良いかも。



体育館でのオリエンテーションの後、和紀

たちパイロット候補生3人は、パイロット

育成科の教室に集まっていた。と言っても

机は3つしかないし、人も教官の

ラスティモーサを入れて4人しかいない。

そして今は授業をしていないので、明弘

など頭の後ろで手を組んでいる。

 

ちなみに、今は全員メットを取っていた。

「んで?何なんですか教官。あの

 おふざけは?俺等が女子の面倒

 見るんすか?」

「あぁ、一応そう言う事になってる。

 この学校の生徒の経歴を調べたが、

 リアルな戦車道の経験者はたった

 1人だけ。残りは全部ド素人だ。

 戦車のせの字も知らないだろう」

明弘の問いに答えるラスティモーサ。

ちなみに今の彼も、軍人時代から愛用

しているパイロットスーツを纏っていた。

 

「では何故俺達が戦車道の奴らの

 面倒を見るんです?確かに俺達は

 軍事関係の教練を受けてます。

 1年の明弘だってもう銃器の扱い

 や格闘技、知識なども軍人レベル

 です。ですがそれはパイロット

 としてだ。戦車兵としての知識は

 専門職の連中より落ちますよ?」

「それでも、だろう。お前達以外に

 戦車に関する知識を持っていると

 したら、たった1人の経験者以外

 に無い。それに、お前達は戦闘の

 危険性というものを理解している

 からな」

「何か、体よく広告塔にされた気が

 するんですけどね~」

そう呟きながらも笑みを浮かべる明弘。

 

「そう言ってやるな。それに、これも人に

 教えると言う事の良い経験だと

 思え。覚えて置いて損な経験や 

 知識は無いと言う事だ。

 さて、おしゃべりはここまでだ

 ヒヨッコ共。今日は格闘術の

 訓練だ。気を抜いてると打撲

 程度じゃ済まないぞ」

「「「はいっ!」」」

 

彼等はこの話題を打ち切り、場所を

移して訓練を開始した。

 

そして夜。すっかり暗くなった夜道を

歩いている和紀。

 

だったのだが……。

 

「ん?」

「あっ」

歩いていた先、街灯に照らされた自販機の前

で、パジャマ姿のみほと和紀が鉢合わせた。

 

そして、和紀はみほの顔色が悪いことを

一瞬で見抜いた。

「……眠れないのか?」

そう静かに問いかける和紀。

「……うん」

みほもまた、消えそうな声で頷く。

 

「……愚痴くらいなら聞くぞ?」

「え?」

突然の和紀の言葉にみほは戸惑い、

俯いていた視線を上げて彼の方に

向き直った。

「……今のみほは、何て言うか、

 今にも折れてしまいそうに見えた。

 それを見捨てておけるほど、俺は

 ハードボイルドじゃない、って事だ」

「和紀君。……ありがとう」

 

みほはどこか顔を赤くしながら笑みを

浮かべていた。

 

そして、場所を近くの公園に移した2人。

みほの家はすぐそこだが、流石に男の

和紀をいきなり入れるわけにもいかない

し和紀自身も入るのを躊躇ったので、

公園のベンチに座っていた。

 

そこで和紀は聞いた。みほにとって

戦車道はトラウマである事と、

華と沙織の2人が戦車道を受けるつもり

である事を。2人から一緒にやろうと

誘われている事を。

 

それを聞いて和紀は……。

「やりたくないのなら、やらなきゃ良い」

「え?」

「おかしな事か?みほは戦車道を

 やりたくないんだろ?だったら

 やらなきゃ良い」

「え、で、でも、2人は……」

「お前がやりたくないんだろ?

 だったら、お前自身で決めれば良い。

 やるのかやらないのか。

 ……選択を決めるのはいつだって

 自分だ」

「決めるのは、自分」

 

「そうだ。周りがやろうって言うから、

 なんて理由でやりたくない事やって、

 成果が出るか?流されて、惰性でやってる

 ようなら成果なんて出ないしスキルも

 身につかない。……みほ、俺達

 パイロット候補生は育成科への入学時、

 遺書を書かされる。だが大体の奴はそこに

 躊躇いは無い。逆に遺書を書くことを躊躇う

奴は、大体死ぬか訓練から逃げ出すらしい。

なんでだか分かるか?」

「え?い、いきなりそんな事言われても。

 ……わ、分からない。どうして遺書を

 書くのを躊躇わないの?」

 

「それは、全員自分の意思でパイロットを

 目指したからだ」

「え?」

「パイロットとなるフルコンバット認証を

 受ける訓練は命がけだ。一歩間違えば

 簡単に死ぬ。……だがな、今言った

 躊躇わない奴って言うのは、それを

 分かった上で、覚悟の上で育成科に

 入ってきた。危険を覚悟の上で、

 パイロットになろうとしてるから、

 遺書を書くことなんかに躊躇わない。

 その程度でビビってたら、訓練

 なんかビビりまくりだからな」

そう言うと、和紀は先ほど自販機で

買った缶コーヒーに口をつけた。

 

「結局、自分の意思で、心の底から

 やりたい、やらなきゃ。って思って

ない奴の心なんて脆い。そんなん 

じゃ成果も出ないしスキルも身につかない。

だからこそ、やりたくないなら、

やらなきゃ良い。無理してやって、

そのトラウマを悪化したら元も子もない

だろう?」

「……良いのかな。それで」

やりたくないなら、やらなきゃ良い。

 

その言葉を、逃げのように感じてしまうみほ。

すると……。

 

「日本国憲法第3章第18条」

不意に和紀がそんな事を言い出したのに

驚いて首をかしげながらも彼の方を向くみほ。

 

「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。

 又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、

 その意に反する苦役に服されない。

 更に憲法第23条。学問の自由は

 これを保障する」

そう言うと、和紀はみほの方に視線を向けた。

 

「誰しもが、自分の好きなように生き、

 好きなように選択する権利がある。

 それが人権ってもんだろ?

 ……俺も自分の意思でパイロットに

 なった。だからみほも、自分の進みたい

 方向に進めば良いと思う。周囲が

 何と言おうがな」

 

そう言うと、和紀は缶コーヒーを飲み干し

立ち上がった。

 

「決めるのは何時だって自分だ。だから

 こそ、逃げたって良い。自分自身が

 逃げたいのなら。……でも、いや、

逃げても良いからこそ、後悔しない

 選択をするようにすべきだと思う。

 俺は」

「……すごいね、和紀君は」

「ん?」

「そんな風には、私思った事も無かった。

 逃げても良いなんて、誰にも

 教わらなかったから。家では、勝利こそ

 が全てみたいに教わってたから」

「そうか。けど、人生ってのは何が起るか

 分からない。人生設計とかも 

 所詮は空想の産物だ。その通りに

 進んだ事があるかってんだ。

 それは戦闘も同じ。どこで何か、

 予定には無い事だって起こりえる。

 その事に臨機応変に対応出来てこそ

 パイロットだ。人生だって、

 結局は臨機応変に対応するしか

 無いんだよ」

 

そう言うと、和紀は無くなった空き缶

をスローイングで離れた所にある

ゴミ箱に投げ入れるとみほの方に

振り返った。

 

「まぁ、結局の所自分のやりたいように

 行けって所だ。何と言っても、お前の

 人生を歩むのは、お前自身なんだからな」

「うん。ありがとう和紀君」

「じゃあな。俺はもう帰る」

「うん。さようなら」

 

それだけ交わすと和紀は公園を後にし、

みほも飲み物を飲み干すと空き缶を

ゴミ箱に捨て、家に戻った。

 

その夜。

 

みほはベッドの中で眠りに付こうとしていた。

そんな彼女の脳裏に蘇るのは、ついさっき

まで一緒だった和紀の事だった。

 

朝、自転車と事故りそうになった自分を

助け、昼には友人となり、夜には

アドバイスを送ってくれた、初めての

異性の友人。

 

「パイロット、かぁ」

みほは僅かに顔を赤くしながら、あの時

の彼のパイロットスーツ姿を思い出すの

だった。

 

 

翌日。教室にて。

みほは沙織、華と机を挟んで向かい合い、

その机の上には例の履修科目の申請書が

あり、みほは『香道』の欄に丸をしていた。

3人の様子を少し離れた所で見守っている

和紀。

 

みほとしては、沙織や華の誘いを断る事に

抵抗があった。それでも、昨日の和紀の

言葉と、その胸の内にあるトラウマが、

彼女に戦車道を選ばせる事は無かった。

 

しかし、肝心の沙織と華はみほと同じが

良いと言って、戦車道の丸を斜線で消す

と同じように香道に丸をした。

自分達が戦車道を履修することで、みほ

の苦しい思い出を思い出させたくない、

と言う華たちの行動もあって、3人は

同じ科目を受ける事になった。

 

その様子に安堵している和紀。しかし……。

『まぁ、あの生徒会長がそう簡単にみほの

 行動を許すとは思えないし』

静かに考えながら、和紀は鞄の中から

取り出した『それ』をポケットに

忍ばせるのだった。

 

やがてお昼休み。昨日のように4人が

揃って昼食を食べていたが、そのすぐ

傍では1年らしき生徒達が戦車道の

話をしており、3人とも気まずい雰囲気

だった。

 

何とか話題を創ろうと沙織が話題を振った。

だが、その直後に、校内放送でみほの

呼び出しがかかった。

 

『やっぱり、か』

和紀は『予想通りだな』と内心考えながら、

怯えるみほに、『一緒に行く』と言って

立ち上がった。

 

「か、和紀君」

「安心しろ。候補生とは言えパイロットだ。

 威圧感くらい出せるぞ」

そう言って同行する和紀。そして彼は、

生徒会室に入る前に、ポケットの中に

手を入れ、『それ』を起動した。

 

 

そして、入るなり、桃がみほの書いた

申請書を突き付けてきた。

みほは戦車道をやらないと言う華、

沙織に対して、杏達は、彼女達の

退学をもチラつかせた。

 

それに対して反発する沙織と華。

だったが……。

「アンタは終わりだよ、生徒会長」

「……は?」

それまで黙っていた和紀を、杏が静かに

睨み付ける。

 

「刑法第222条、1、生命、身体、自由、名誉

又は財産に対し害を加える旨を告知して人

を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万

円以下の罰金に処する」

「か、和紀?何を……」

隣に居た沙織が驚いているが、和紀は

止まらずにしゃべり続ける。

「この刑法で守られるのは意思決定の自由だ。

当然、みほが何を選ぶかは彼女自身に決定

権がある。そして、脅迫罪の成立する

瞬間は、害悪を告知した後だ。そして

生徒会長、あんたは言った。

『学校にいられなくする』、と。

この時点で、みほ、沙織、華の3人は

脅迫罪の被害者であり、そして加害者は、

アンタだ。角谷生徒会長」

「へ~。言うじゃ無いパイロット。でもさ~。

 仮にそれが本当だとして、証拠なんて

 あるの?4人が周りの生徒達に、

 脅迫罪がどうのなんて言って、信じる

 とでも……」

 

「証拠ならある」

杏の声を遮った和紀は、ポケットに入れていた

それを取り出した。それを見て、杏の

表情が僅かに引きつる。

 

取り出されたそれは……。

「『ボイスレコーダー』!和紀さん、

 あなたという人は!」

ボイスレコーダーを見て、華は驚いたような、

喜んでいるような表情を浮かべている。

 

そして、無言でボイスレコーダーを

再生する和紀。そこにはちゃんと、杏の

害悪の告知、と取れる発言。更に

桃の発言や、反発する華、沙織へ謝罪を

促す柚子の発言。そのどちらも、横暴を

肯定する物であったり、被害者が

加害者に謝れ、と言う類いの発言だ。

明らかに他の2人も問題発言である。

 

「そっちがその気なら、俺は今すぐ

 この証拠を警察や文部科学省の役人の

 所に届けるだけだ」

「ッ……!!!」

和紀の言葉に、杏は目に見えて表情を

歪ませた。

 

しかし彼女はすぐに不敵な笑みに切り替えた。

「でもさぁ、そんな事をして、そっちは

 ただで済むの?それ、立派な盗聴だよね?」

「成程。それにも一理ある。……で?

 それが何だと言うんだ?仮にだが、

 俺がアンタ達を巻き込んで自滅する 

 覚悟も無く、ここに来たとでも

 思って居るのか?」

「ッ!」

和紀の言葉に息を呑んだのは杏……。

 

ではなく、みほだった。

 

「横暴生徒会を消すのに俺が犠牲に

 なるか。それともみほに苦しみを

 強いるのか。……男だったら、

 どっちを取るかなんて分かりきった

 事だろ?」

そう言って、静かに笑みを浮かべる。

 

「よく聞け生徒会長。パイロットって

 のは自分の命捨てる覚悟で訓練に

 臨む。だってのに、高々退学程度が

 怖くて尻込みしてるんなら、そいつに

 パイロットを目指す資格は無い。

 さぁ、選べ。みほに無理強いを

 止めるか。この証拠を理由に今の

 地位から引きずり下ろされるか」

「き、貴様っ!生徒の分際で会長に

 刃向かい脅すつもりかっ!」

「最初に脅してきた連中が何を

 偉そうに。それとも、アンタ等には

 そこまでして彼女を戦車道に

 引き込む理由があるってのか?」

「そ、それは……」

和紀の言葉に柚子が口ごもる。

 

「……アンタら、何の為にそこまで

 戦車道に拘る?」

 

和紀の視線が3人を睨み付けていた。

 

だが……。

 

「あ、あのっ!」

 

それまで黙っていたみほが声を上げた。

 

 

その少し前。みほは考えていた。

和紀が自らを犠牲にする覚悟で自分を

助けようとしている真実を。

 

もちろん和紀は覚悟の上であり、彼にして

見れば死なないだけマシ、程度の物だ。

そもそもパイロットは生死を彷徨う

訓練をするのだから、和紀はみほ程

退学を重く考えてはいない。

 

だが、肝心のみほにしてみれば、自分を

守る為に和紀が自分自身を犠牲にしよう

としているように見えてしまうだろう。

 

そして、みほにはそれが嫌だった。

自分を励まし、助けてくれた友人の

1人を自分のせいで失いたく無い。

そんな彼女の思いが、みほに声を

出させた。

 

杏達の視線が彼女に集まり、一瞬

萎縮してしまうみほ。

だが……。

 

「戦車道、やりますっ!」

「「えぇぇぇぇっ!?」」

突然のみほの宣言に華と沙織が驚く。

「良かったぁっ!」

それを喜ぶ柚子。

 

「ただしっ!」

しかし、直後にみほの叫びが響いて

杏達は僅かに眉をひそめた。

 

「条件があります。私が戦車道を

 やる代わりに、もう二度と、こんな

 犯罪まがいの脅しは、止めて下さい。

 それと和紀君の録音の件を水に流す事。

 これが条件ですっ」

その言葉に桃と柚子は杏の方に視線を

向ける。

 

「良いよ。その条件飲むよ」

 

そうして、彼女達の話し合いは終わった。

 

みほは放課後に華や沙織と共にアイスを

食べに行き、そんな中で自分の心の内を

吐露した。

 

そして、夜。

 

みほは、昨日の夜に和紀と出会った

自販機の傍に立っていた。彼を待っていた

のだ。

やがて……。

「まだまだ夜は冷えるぞ」

しばらく待っていると、鞄を下げた和紀が

現れた。

 

そんな彼と向き合い、しばし、何と言おう

か悩むみほ。そして数秒の間を置き。

 

「ごめんなさい」

そう言って彼女は謝った。

「折角、私のために色々してくれたのに、

 無駄にしちゃって。本当にごめんなさい」

「あぁ。そのことを言うためにここで

 待ってたと言う訳、か。

 ……まぁ気にするな」

「え?」

「確かに俺はあの時みほを助けるつもり

 だった。それが俺自身の選択だった。

 でも、みほが自分で決めて選んで、

 戦車道をするって言うのなら俺は別に

 何も言わない。そうするだけの理由が

 みほにあった、って事だろ?だったら

 お前の好きにすれば良い。俺はそれを 

 精々友人として応援したり助けたりする

 だけだ」

「和紀君。……ありがとう。優しいんだね、

 和紀君って」

「ん?そ、そうか?」

突然の褒め言葉に和紀は顔を赤くした。

 

「ま、まぁ、兄貴の影響かもな」

「え?和紀君お兄さんいるの?」

「あぁ。陸自のタイタン部隊でパイロットを

 してる。……兄貴は、熱血漢を絵に描いた

 ような人でさ。困ってる人を助けたい

 って言って、パイロットを目指したんだ。

 ……そんな兄貴の背中を見て育ったから、

 かもな。俺もそんな兄貴に憧れて

 パイロットになろうって思ったんだ」

「そうだったんだ」

 

「って、こんな事みほに話しても

 しかたないか」

「ううん。そんな事無いよ。和紀君の

 事、少し知れて、良かった」

そう言って笑みを浮かべるみほに和紀は、

若干顔を赤くした。

 

「そ、そうか。まぁその、俺はそろそろ

 行くよ。おやすみ」

「うん。おやすみ、和紀君」

そう言って、2人は別れた。

 

ちなみに、みほは家に戻ってベッドに入った後。

 

『って、私すっごい恥ずかしい事を言ってた!?』

 

後から襲ってきた羞恥心で顔を真っ赤にして

いたのだった。

 

翌日。

グラウンドに集められた、戦車道履修者達。

そしてそれを遠目に見守っていた和紀達

3人のパイロット候補生達。

ちなみに3人と、更にお目付役の

ラスティモーサもパイロットスーツを

身に纏っていた。

 

しかし……。

「なんつ~か、寄せ集め感が凄く

 ないっすか?」

パイロットたちを代表するに明弘が

思った事を口にした。

「まぁ、な」

改めて周囲を見回す和紀。

 

集まった女子はと言うと……。

 

明らかに興味本位から来ました、と

言わんばかりにはしゃいでる一年生。

 

過去の偉人のファンと思われ、そのため

に制服の上から軍服などを纏っている

2年の歴女。

 

明らかにバレー部の格好をしている

学年バラバラの女子達。

 

そしてみほと沙織、華。そしてその少し

後ろにいる1年の少女。

 

そこに更に生徒会チームが加わるのだが……。

 

「こりゃまぁ、癖の強そうな連中ばかり

 だ事で」

明弘が呆れ半分面白半分と言わんばかりに

呟いた。

 

「しかし、本当にこれで戦車道が出来る

 のか?」

そして和紀は、現実問題としてそこを

心配していた。

パイロット候補生である彼にしてみれば、

戦車だろうがパイロットだろうが、

経験とスキルが物を言う。つまり、経験

とスキルの無い者が戦場で勝てる訳無い

と、彼は分かりきっている。

しかも一部は、明らかにやる気が別方向

に向いていそうで、彼は静かにため息を

ついた。

 

そしてそれは他の2人とラスティモーサも

同じだ。

彼等3人も不安を覚えていた。

 

とは言え、始まったものは仕方無い。

だがまず彼女、彼等の前に問題として

立ち塞がったのが……。

 

現在学園が保有する戦車が、見た目が

ボロボロで錆びだらけの『Ⅳ号戦車』

が『1輌だけ』、と言う始末だった。

 

周りの生徒達の反応は悪いが、戦車道の

経験者であるみほはⅣ号の状態を軽く見た

だけで、運用には問題無い、とした。

 

「へ~~。ドイツ軍のⅣ号戦車か」

そして倉庫の入り口から中を覗いていた

明弘が戦車を見て呟いていた。

「あれ?明弘君知ってるの?」

そんな彼に声を掛けたのは、1年生の

1人、『澤 梓』。

 

ちなみに2人は同じクラスの友人だった。

「まぁね。あれは第2次大戦の始まりから

 ずっとドイツ軍の主力戦車として

 活躍していたⅣ号戦車。まぁ

 メジャーと言えばメジャーな戦車かな」

「へ、へ~」

梓は彼の説明を聞きながらも、ちょっと

戸惑っている事もありそんな返事を

返してしまった。

 

「しかしどうする?」

そこに声を掛けたのは央樹だ。

「戦車は一台につき、最低でも3人。

 多ければ5人以上で操縦する。

 ここにいる生徒は21人。となると、

 最低でも5輌は戦車が必要だ」

「……あと4輌か」

ポツリと、央樹の言葉に反応する和紀。

 

「どうするんだ会長。他の戦車の宛は

 あるのか?」

「それなんだけどね~。河嶋~」

央樹に聞かれた杏は、話しを桃の方

へとパスした。

「はいっ。我が校は何年も前に戦車道を 

 廃止にしている。だが、当時使用して

 いた戦車がどこかにあるはずだ。

 いや、必ずある」

 

その言葉に、パイロット3人は呆れたように

ため息をついた。

「明日、戦車道の教官がお見えになる。

 それまでに残り4輌見つけ出す事。なお、

パイロット候補生の3人にも探索を

手伝って貰う」

「了解した」

3人を代表するかのように頷く央樹。

 

と、そこへ。

「ちょっと待ってくれ」

教官でもあるラスティモーサが声を掛けた。

「先生、何か」

「戦車をこの広い学園艦の中から探すなら、

 人手は多い方が良いだろ?」

桃の言葉にそう言って、3人の方を向く

ラスティモーサ。

 

「そういうわけだ。お前等と、あと

俺の相棒を呼んでこい」

「「「了解っ!」」」

彼の言葉を聞くと、3人は駆け足で

倉庫を出て行った。

 

「和紀たちの相棒、って?」

「さ、さぁ?」

首をかしげる沙織と華。

パイロットの、パの字も知らない彼女達が

彼等の相棒、と聞いても分からないのは

当然だ。

 

そして数分後。倉庫を出た彼女達の前に

現れたのが……。

 

『4体の巨人』だった。

 

「で、でっかぁ!」

「大きいですねぇ!」

沙織と華はその巨人達に驚き、他の

女子達も驚きながらその巨人達を

見上げていた。

 

「そういうわけだ。戦車の探索には

 こいつらの『タイタン』も参加する。

 タイタンにはレーダー類も搭載

 されてるから、捜し物には役立つ

 だろう」

そう言って4体の巨人を顎でしゃくって

示すラスティモーサ。

 

そして彼は4機の方に向き直る。

「そういうわけだ。タイタン各機!

 自己紹介しておけ」

「え?じ、自己紹介?」

彼の言葉に戸惑う沙織。すると……。

 

『『『『了解しました』』』』

タイタン4機から電子音声による返答が

返ってきた。

 

「「「「「しゃ、喋ったぁぁっ!!?」」」」」

すると、タイタンを余り知らない彼女達は

驚き声を上げてしまった。

 

「お~お~驚いてるね~くくくっ!」

その驚きっぷりに笑みを浮かべている明弘。

「まぁ初めてタイタンを見ればあぁも

 なるさ」

央樹もそれにうんうんと頷いている。

 

そして、自己紹介を、と言われたので

並んでいたタイタン4体がそれぞれ

自己紹介をはじめた。

 

『はじめまして。私はアトラス級タイタン、

 シャーシ番号AT-0201。パイロット

 大代和紀の搭乗タイタンです』

そう言ってまず挨拶をしたのは、3機

の中で一番ノーマルな機体、中量級の

アトラスだ。

 

『はじめまして。私はストライダー級

 タイタン、シャーシ番号ST-0101。

 パイロット高宮明弘の搭乗タイタンです』

次に挨拶をしたのは、3機の中でも細い。

それは速度などに特化した軽量級である

が故だ。

 

『はじめまして。私はオーガ級タイタン。

 シャーシ番号OT-0301。パイロット

 清水央樹の搭乗タイタンです』

最後の機体は、ストライダー級と真逆。

アトラス級よりも更に分厚い装甲で覆われた

体。それは防御力を求めた結果生まれた

重装甲の重量級タイタンだからだ。

 

そして、和紀達がそれぞれの相棒の傍に立つ。

更に……。

 

『はじめまして。私はバンガード級タイタン。

 シャーシ番号BT―7274。

 ラスティモーサの相棒です』

3機に続いて挨拶をしたのが、アトラスと

似た中量級のタイタン、バンガード級の

タイタン、『BT』だ。

 

みほ達は、未だに驚いた表情のままに

タイタンを見上げていた。

 

『パンッ』

その時ラスティモーサが手を叩いて彼女達を

正気に戻し、自分に注目させた。

「ほら。時間は有限だぞ。和紀はそこの

 西住たちと。明弘は1年と。央樹は

 バレー部たちと。俺は歴女達に

 同行する。BTはとりあえずここに

 残ってくれ」

「「「はっ!」」」

『『『『了解しました』』』』

 

こうして、少女達とパイロット達と

タイタン達の戦車探しが始まった。

 

 

『ズズンッ、ズズンッ』

みほ達3人に同行するアトラスと和紀。

そして、それに離れた所から付いてくる

女子が1人。

 

沙織の提案で駐車場に来たのだが、当然

有るわけも無く、裏の山林を探す事に

なった。

 

しかしみほは、後ろから付いてくる女子

が気になっていた彼女は……。

 

「あ、あのっ!」

「ふえっ!?」

声を掛けて振り返った。

相手はどこか萎縮している様子だが、

それを気にせず声を掛けた。

 

「良かったら、一緒に探さない?」

「い、良いんですか!?」

すると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

「あ、あの、普通2科、2年C組の

 『秋山 優花里』です。えっと、

 ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

そう言って頭を下げる優花里。

「こちらこそお願いします。五十鈴華です」

「武部沙織!」

「あ、私は……」

 

「存じ上げております!」

みほが挨拶をしようとすると、優花里が

それを遮った。

「西住みほ殿ですよね?」

「え?は、はい」

「では、よろしくお願いします!」

 

 

その後、新に優花里を加えた女子4人、

パイロットの和紀とタイタン、アトラス

を加えた合計6人は山林を探していた

のだが……。

 

「う~~。足痛くなってきた~」

革靴で山林を歩くのは、些か無謀だった

のか沙織がそんな事を言い出した。

「そうか。なら、アトラス。

 彼女を運んでやれ」

『了解です』

和紀の指示を受け、アトラスは地面に膝を

ついた態勢で左手を沙織の方へと差し出した。

 

『どうぞお乗り下さい』

「え!?良いの!ありがと~!」

差し出された左手に乗ると、ゆっくりと

立ち上がるアトラス。

『左腕固定。搭乗者の安全を優先』

「沙織、アトラスが気を配るが、

 あまりはしゃいで落ちるなよ?

 しっかり指に掴まってるんだぞ?」

「は~い!」

 

そうして、再び山林を歩いていること

数分。不意に先頭を歩いていた華が足を

止めた。

「どうした?」

それに気づいて和紀が声を掛けた。

「いえ。あちらから花の香りに混じって

微かに鉄と油の匂いが」

「華道やってるとそんなに敏感になる

 の!?」

「私だけかもしれませんけど」

と、驚く沙織に答える華。

 

「そうか。アトラス、周辺を探索出来るか?」

『了解。少々お待ち下さい。周辺を

 サーモグラフィーで捜索中』

そう言ってアトラスは周囲を見回す。

「ねぇ和紀、さーもぐらふぃー、って何?」

「サーモグラフィーって言うのは物や人が

 発する赤外線を分析する装置だ。

 夏のテレビなんかで、街中の様子を

 真っ赤な画像で見せる時があるだろ?

 あれもサーモグラフィーの一種だ」

「へ~。でもそれで調べられるの?」

「物体によって放つ赤外線は異なる。

 だからもしかすると……」

 

と、話していた時。

『発見しました。前方、約400メートル先、

 戦車らしき機影を確認』

「こんな風に、探索に役立つんだよ」

「成程~」

和紀の言葉に頷く沙織。

 

「それじゃあとにかく、行ってみましょう」

「そうですね!それでは、

 パンツァーフォー!」

「パンツのアホ~!?」

優花里の叫びに驚く沙織。まぁ、

軍事知識も無い彼女にその言葉を知るよし

も無かった。

 

「パンツァーフォー、戦車前進って

 意味なの」

苦笑しながらも沙織に説明するみほ。

そして彼等が前進していると、森林の中に、

擱座していた戦車を発見した。

 

「38(t)」

ポツリと、みほは戦車を見ながら呟く。

「何かさっきのよりちっちゃい。ビス

 だらけでポツポツしてるし」

沙織は、さっきのⅣ号よりも小さい38(t)を

前にして少々落胆気味だ。

 

「38(t)と言えば、ロンメル将軍の第7

 機甲師団でも主力を務め、初期の

 ドイツ電撃戦を支えた重要な戦車

 なんです!」

一方の優花里は、その汚れた38(t)に

何やら頬ずりをしていた。

 

「ねぇ和紀はこの戦車知ってる?」

「まぁな。分類的には軽戦車。まぁ

 つまり軽い戦車って事だな。

 この戦車、LT-38。正式名称は、

 生まれ故郷のチェコスロバキアでは

 LTvz.38。さっきみほの言った38(t)

 って言うのはドイツ軍での名称だ」

「……どういうことですか?なぜ、

 そんなに名前が?」

「この戦車が開発され、正式に採用

されたのは1938年。だが同年、

祖国であるチェコスロバキアは

ミュンヘン会談の結果ドイツに

併合され、このLT―38もドイツ軍

の戦車となった。その時についた

名称が38(t)って訳さ。ちなみに、

このtってのはドイツ語のチェコ

スロバキアの頭文字に由来している」

と、和紀が説明を粗方終えると……。

 

「大代さんも戦車好きなんですか!?」

優花里が嬉々とした表情で問いかけてきた。

「あ、あぁ、いや、俺の場合は軍事教練

 で色々習うからな。その過程で知った

 だけだぞ?」

「あ、そうですか」

そんな和紀の言葉に、どこかしょんぼりと

してしまう優花里。

 

「まぁ何はともあれ、これで戦車2台目

 は無事発見って事で」

「そうですね。確か、見つかったら生徒会の

 方に連絡を、との事でしたが……」

沙織はそう言って笑みを浮かべ、華は

顎に指先を当てながら呟いていた。

 

「あぁ、それなら任せろ。アトラス」

そう言ってアトラスに声を掛ける和紀。

「BT―7274へ通信。校舎裏の山林にて

 ドイツ軍軽戦車、38(t)1輌発見。

 回収求む。復唱せよ」

『了解。アトラスよりBT―7274へ通信。

 校舎裏山林にてドイツ軍戦車、38(t)

 1輌発見。回収求む』

「よし。その通信文と現在地の座標を

 BTに送れ」

『了解です』

 

 

一方、倉庫の前に残っていた生徒会の

メンバーと、その傍に立つBT。そして……。

 

『通信、校舎裏、山林よりアトラス級

 タイタン、AT-0201より入電。

 『校舎裏山林にて、ドイツ軍軽戦車

 38(t)1輌発見。回収求む』。座標データを

 受信中』

「どうやら、早速1輌見つかったようですね」

「みたいだね~」

BTの話を聞いていた桃と杏が呟く。

 

その後も、彼女達とパイロット達の活躍。

更にはタイタン達のレーダー機能もあって

次々と戦車が発見されていった。

 

ある物は、どうやってそこに運んだのか

崖の亀裂の中から。

 

ある物は、何故沈めたのか沼の中から。

 

ある物は、どうしてそこに置かれたのか

ウサギ小屋の中から。

 

 

こうして、最初のⅣ号と合わせて、合計

5輌の戦車が揃った事になった。

 

その揃った5輌を前にする面々。

 

「89式中戦車甲型。38(t)軽戦車。M3

 中戦車リー。Ⅲ号突撃砲F型。

 それからⅣ号中戦車D型。

 どう振り分けますか?」

「見つけた者が見つけた戦車に乗れば

 良いんじゃ無い?」

桃の言葉にそう語る杏。

 

「だ、そうですが?教官としては

 何かあります?」

そう言って明弘はラスティモーサに

問いかけた。

「誰もスキルも何も無いんだ。どれに

 乗ったとして、対して変わらん

 だろう。それにM3中戦車は

 その構造から必要な人員も多い。

 ちょうど1年が6人もいるんだ。

 あとは大体、基本的に3~5人で

 運用出来るタイプだ。……良いん

 じゃないか?」

「では、会長のお言葉通り、発見した

 戦車に乗る事。私達は38(t)を。

 お前達はⅣ号だ」

「あ、はい」

桃の言葉によって、割り振りが決められていく。

 

「では、Ⅳ号、Aチーム。89式、Bチーム。

 Ⅲ突、Cチーム。M3、Dチーム。

 38(t)、Eチーム」

 

各々の割り振りが決められた後、彼女達は

パイロットの和紀、明弘、央樹に手伝って

貰いながら戦車を掃除。何とか夕暮れ時

には戦車を綺麗にする事が出来た。

 

それで、戦車自体の整備は自動車部が

やる事になり、彼女達は解散となった。

「んじゃ、俺等はどうします?まだまだ

 体力有り余ってますけど?」

そう言って明弘がラスティモーサに声を

かけた。他の2人も、まだまだ行けますよ、

と言わんばかりだ。

 

「え~?あんなに動いたのに、和紀達

 って疲れ知らずなの?」

純粋な疑問を口にする沙織。そして

周囲の女子達も彼女に同意見だった。

 

「あの程度で疲れた、なんて言ってたら

 パイロットになれないしな。と言うか、

 あの程度は準備運動みたいなものだな」

和紀の言葉に2人が頷く。

のだが……。

 

「そうだな。なら、俺達はこれから射撃

 訓練だ。3人は各自思い思いの武装を

 持って10分後に射撃練習場に集合。

 行けっ」

「「「はっ!!」」」

 

そうして、彼等の射撃訓練は夜まで続き、

それが終わると彼等は解散し下校した。

 

暗くなった帰り道を歩く和紀。

そんな中で和紀は『戦車道』の事を考えていた。

『俺達があいつらの面倒を見る、か。しっかし、

 これまで人に何かを教えたりなんて

 経験が無いぞ。詳しい事も何も知らないし

 戦車道も専門外だからなぁ』

そう考えながら歩く和紀。

と、その時。

『PLLLL!』

「ん?」

ポケットに入っていたスマホが震えた。

足を止めてそれを取り出す和紀。

 

画面にはL○NEの連絡通知があり、

開くと和紀、明弘、央樹の3人で作った

グループに明弘からのコメントがあった。

 

『ふと思ったんですけど、女子達って

 戦車の動かし方何にもしらないですよね?』

『そりゃそうだろ。経験者ほぼ0なんだから』

明弘のコメントに返信する和紀。

 

『そこで思ったんですけど、折角だから

 マニュアルでも作ってやろうかなって

 思ったんですけど、どうですかね?』

「っ」

明弘のコメントに、和紀の眉が僅かに

ぴくついた。やがて……。

 

『良いんじゃないか?どうせなら、

 きっちりサポートしてやろうじゃ

 ないか』

そうコメントを返した和紀は……。

『もう一仕事するか』、と考えながら

帰路に就いたのだった。

 

     第2話 END

 




やっと出せたタイタンたち。

ちなみに主人公達が乗るのはアトラスやストライダー、オーガなど
ですが、他の学校の生徒達は、イオンやスコーチに乗る予定です。

感想や評価、おまちしています。


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第3話 はじめての試合

第3話です。アニメ第3話冒頭と中盤辺りがベースです。


みほ達の尽力によって合計4輌の戦車を

発見する事に成功した。

そして翌日。

戦車道の時間となり、集められた女子達と

それをフォローするために集められた

パイロットに教官、4機のタイタンたち。

 

そして教官の到着を待っていた時。

『接近反応あり。上空より航空機が

 接近中』

BTが何かに気づいて視線を空に向けた。

『機体を識別。……完了。航空自衛隊

 所属、輸送機C―2改と断定』

「ほう?空自の輸送機か。……確か、

 教官は陸自から来るんだったな?」

ラスティモーサはBTの報告を聞くと

杏に問いかけた。

「そうですよ~」

 

と、そうこう話している内に、輸送機は

後部ランプを展開しながら高度を下げ、

そしてそこからパレットに固定された

戦車を学園の駐車場に空挺投下した。

火花を散らしながら駐車場の上を滑る

パレット。そしてパレットは止められていた

赤い高級車に衝突、横転させてしまった。

更に、バックするときに履帯で車を

ぺしゃんこにしてしまった。

 

誰もが呆然となる中、戦車、『10式戦車』が

彼女達の近くで止まるとハッチが開いて、

中から制服を着た黒髪の女性が姿を見せた。

それが、彼女達の教官だった。

 

 

整列した少女達の前に、その女性が立つ。

「特別講師の戦車教導隊、『蝶野 亜美』

 一尉だ」

「よろしくね」

そう言って挨拶をし、彼女達を見回す蝶野

「一尉、大尉クラスか」

そんな彼女を遠巻きに見ている和紀達。

 

すると……。

「あれ?西住師範のお嬢様じゃありません?」

蝶野がみほに気づいて声を掛けた。

皆の視線がみほに集まる。

「師範にはお世話になってるんです。お姉様

 も元気?」

そう言って声を掛ける蝶野。しかしみほは

返事に困っていた。

 

そして、蝶野がみほの家の事を、彼女が

『西住流』という戦車道の中でも最も由緒

ある流派である事を喋ってしまう。

しかし、肝心のみほの表情はどこか暗い。

 

その時。

「蝶野一尉」

ラスティモーサが声を掛けた。

 

「悪いが世間話は後だ。こいつらは戦車の

 動かし方さえ知らない素人だ。

 こいつらを一日でも早く立派な戦車乗りに

 するためにも、今は時間が惜しい。

 早速講義をお願いしたいんだが?」

「分かりました。では早速、本格戦闘の

 練習試合を始めましょう!」

 

「何?話を聞いていたのか一尉。こいつらは

 戦車を動かした事すら無いんだぞ?

 予備知識も0に近い。それを……」

「大丈夫ですよ。何事も実戦ですっ!

 戦車なんてバーッと動かしてダーッと

 操作してドーンッと撃てば良いんだから!」

ラスティモーサの言葉にも、笑みを

浮かべながらそう語る蝶野。

 

すると……。

「ハァ。……和紀、央樹、明弘」

「「「はっ!!」」」

「お前達の作ったあれ、渡してやれ」

「「「了解ですっ!」」」

 

ラスティモーサの指示を受け、3人は

みほたち全員に、ホチキスで留められた

資料を渡していった。

 

「え?こ、これって?」

「各戦車の操縦などをまとめた資料だ。

 1人一部ずつある。参考にしてくれ」

沙織の言葉に応えながら和紀はⅣ号の

資料をみほ達に。更に八九式の資料を

バレー部の『磯辺 典子』たちに渡していく。

 

各自受け取った資料を見ている。中身は

目次付きで操縦や射撃方法などが記載

されていた。

「凄っ!分かりやすいっ!」

「これ、手書きだけと明弘君たちが創ったの!?」

1年の眼鏡を掛けた女子、『大野 あや』は

読みやすさに驚き、梓は傍にいるパイロット達

の方に目を向けた。

 

「まぁね。いや~訓練で疲れて帰ってから

 先輩達と分担して人数分書いたんだけど、

 おかげで朝から寝不足でさ~」

「出来るだけ専門用語を入れないようにした

 んだが、大丈夫か?」

「これなら分かりやすいっ!」

和紀の言葉に頷く沙織。他の生徒達からも

概ね好評のようだ。

 

その後、試合のために彼女達は戦車を

指定された場所に動かさなければ

いけなかった。蝶野の指示で、砲手や

車長、操縦手などを決めた後、彼女達は

パイロット達から貰った資料片手に、

四苦八苦しながらも戦車を起動し、

倉庫から出発した。

 

それを見送るパイロットたち。

 

「よし、じゃあお前達は山中に分散して

 各戦車を監視しつつ、万が一の時は

 それを停止させろ。山中には川や橋、崖

 もある。万が一転落事故でも起こせば

 目も当てられん。いざと言う時は

 力尽くでも良いから止めろ。俺は位置的に

 Ⅲ号突撃砲と八九式を監視する。和紀は

 Ⅳ号。明弘はM3リー。央樹は38(t)だ。

 良いな?」

「「「了解っ!」」」

「よし行けっ」

 

ラスティモーサが指示を出すと、3人の

パイロットは駆け出した。

一番に飛び出たのは和紀だ。彼は腕に

装備されたグラップリングフックを

木に目がけて発射。巻き取る勢いで

宙に舞い、木々の枝を蹴って、ニンジャの

ように飛び回りながら先に進んで居る

Ⅳ号に追いついた。

 

更に明弘と央樹も、同じようにジャンプキット

から青白い炎を吐き出しながら森林の中を

駆け回っていた。

枝から枝へ飛び移り、樹の幹を蹴って

加速。時に着地しながらスライディングし

更に加速。和紀と同じように木々の上を

飛び回りながら、それぞれの監視目標を

追っていた。

 

途中、各々操作に馴れていない事から

トラブルもあったが、5輌とも目標地点に

到着。

そして蝶野の指示の元、試合開始となった。

 

「ん?」

そして、監視を行っていたラスティモーサは

八九式とⅢ号突撃砲の監視を行っていたが……。

「ほう?早速動き出したか。……お手並み

 拝見と行くか」

そう言って2輌のちょうど中間地点辺りを

追うように木々の上を駆け抜けるラスティモーサ。

 

そしてそうこうしている内に、八九式と

Ⅲ号は協力してみほ達のⅣ号を攻撃。

彼女達はたまらず逃げだし、その後を追う

和紀。

 

そして、林を抜けてカントリーへと出た時。

「ッ!?」

和紀はⅣ号の進行方向上に寝そべる1人の

少女を確認した。

「ちっ!」

彼は小さく舌打ちをすると、グラップルを

木の枝に発射し、スイングバイの要領で

加速。

 

「危ないっ!あっ!」

車体のハッチから体を出していたみほも、

少女に気づく。とほぼ同時にⅣ号の脇を

パイロットスーツ姿の和紀が追い越していく

のに気づいた。

 

そして和紀は加速したまま、スライディング

しながら着地。

「ん?」

そして僅かに動いた少女を問答無用で

お姫様抱っこした。

「えっ?ちょっ……!?」

「黙っていろ!舌を噛むぞ!」

 

そう叫んだ時、既にⅣ号はすぐそばまで来ていた。

『仕方無いっ!』

『バッ!』

和紀は少女を抱えたままⅣ号に飛び移った。

ダンッと音を立てて着地する和紀。

「大丈夫か?」

彼はすぐさま腕の中に抱いていた少女を

気遣った。

 

「あっ!」

その少女を見た時、みほは思いだした。

彼女は今朝、みほが寝坊して家を出るのが

遅くなった時に出会った相手だったからだ。

 

「今朝の」

ポツリと呟くみほ。その時車長用のハッチ

が開いて沙織が顔を覗かせた。

「あれ?麻子じゃん」

「沙織か」

「ん?何だ知り合いか?」

「あぁうん。幼馴染みなの」

首をかしげる和紀に説明する沙織。

 

「ってかアンタこんな所で何してんの?

 授業中だよ?」

「知ってる」

ポツリと呟く麻子に沙織はため息をつくが、

直後、後方に着弾し爆音が響いた。

 

「あのっ!危ないから中に入って下さい!

 和紀君は!」

「問題無いっ」

直後、和紀は走行中のⅣ号から飛び降り、

着地。すぐさまグラップルで木々の方へと

飛び移った。

 

そして監視を再開する。が、2輌に追われた

Ⅳ号は、川の上に差し掛かる橋へと到達

した。

「橋、か」

万が一を警戒して、橋の様子を見る和紀。

その橋は架けられて随分経つのか、所々

錆が目立つ。

『幅自体は問題無いが、戦車の重さに

 橋が耐えられるかどうか』

 

そう考えている内に、下車したみほの誘導を

受けながらゆっくりと橋に侵入するⅣ号。

だが、揺れる橋と馴れない操作のせいで

履帯が橋を支えるケーブルに接触して

切断してしまった。

 

「ッ。報告っ、AチームⅣ号、履帯により

 橋のケーブルを切断。橋の不安定化を

 確認っ。このままではⅣ号及び搭乗者

 落下の危険性有り、試合の即刻中止

 或いは一時中断を推奨します」

彼は通信機に向かって報告する。しかし返事は

無い。

 

「教官っ」

『ドンッ!』

彼が叫んだ直後、追いついたⅢ号の砲撃

を喰らったⅣ号。幸いにして砲弾は装甲

に突き刺さり撃破は免れた。更に、砲弾に

押される形となって元に戻るⅣ号。

 

「Ⅳ号、何とか持ち直しました」

そう言って報告を終えた和紀は一旦通信を

切った。

『しかし……。後方にⅢ突と八九式。

 逃げ場の無いⅣ号。更に先ほどの

 攻撃の余波で華が失神したように

 見えた。状況は最悪だが……』

と、観察していた和紀。だが、不意に

戦車が動き出し、華とは違い慣れた様子で

立て直した。

 

『動きが変わった?操縦手が変わった

 のか?』

彼はⅣ号に注目しつつ周囲を警戒していた。

一度下がりつつも、一旦停止して前に出る

Ⅳ号。

 

和紀には知り得ない事だが、先ほど彼が

助けた『冷泉 麻子』が失神した華と

操縦を変わった結果動きがよくなったのだ。

 

と、その時橋の反対側に、生徒会チーム

の38(t)と1年生達のM3リーが

現れた。更に和紀はそれを監視していた

明弘と央樹に気づいた。

 

「ありゃ~。これじゃ正に、前門の虎、

 後門の狼って奴ですね」

「どうかな?」

木々の上に立ちながら見守っていた

明弘の言葉に疑問符を示す央樹。

 

「数が多いからと言って有利になる

 訳では無い。数を揃えようがスキル

 が無ければ所詮は烏合の衆だ」

 

そんな央樹の言葉を証明するかのように、

Ⅳ号はまずⅢ号を撃破。さらに八九式も続けざま

に撃破。最後に、反対側から向かってきていた

38(t)を撃破する事に成功した。

 

それに恐れをなして逃げだそうとしたM3

だが、泥に足を取られ、無理に抜けだそう

とした結果履帯が切れて走行不能となった。

 

そして結果、みほ達のⅣ号、Aチームが

勝ち残る形となったのだった。

 

「やっぱりな」

予想通り、と言わんばかりの央樹と、

その近くで口笛を吹く明弘。

そして和紀は……。

「これが戦車道、か」

と、みほ達のⅣ号を見つめながらポツリと

呟くのだった。

 

その後、回収班が来る、と言う事なので

みほ達は、パイロットである和紀達に

先導されながら山を下りていった。

 

一方。学校敷地内に経つ監視塔から試合

を見守っていた蝶野。

『バシュッ』

するとスラスター音が響いて、彼女の

隣に先ほどまで山の中に居たはずの

ラスティモーサが現れた。

 

「終わったな」

「えぇ。現場での監視役、ありがとう

 ございました。それにしても、あそこ

からここまでこの短時間で来る

なんて。流石は『大尉』」

蝶野の言葉に、ラスティモーサは一瞬

指をピクッと反応させた。

 

「そいつは俺の昔の階級だ。俺はもう

 軍人じゃないぞ?」

「失礼しました。……それにしても、

 どうしてあなたのような英雄が

 こんな小さな学校に?あなたの

 経歴からすれば、教官としても

 あちこちから、それこそ世界中から

 オファーがあったと思うのですが?」

「別に、大した事は無いさ。老後 

 は静かに暮そうと考え、平和なこの

 国へとやってきた。だが、パイロット

 としての性だろうな。どうにも

 平和ってのに馴れない。そんなある日、

 この国で出来た友人と話をしていたら、

 彼女の卒業校でパイロット育成科の

 話が持ち上がったそうだ。そこの

教官をしてみないかと言われ、そして、

 OGしての彼女のツテもあって

 俺はここにやってきた。ただ、それだけ

 の事さ」

 

そう言ってラスティモーサは肩をすくめた。

「そうですか。……それで、如何ですか?

 この国の原石たちは」

「まだまだ荒いところもあるが、やる気の

 ある連中ばかりで退屈してないところだ。

 と言うか、逆にどうなんだ?あの

 お嬢ちゃん達は?」

「同じですよ。彼女達はまだまだ原石。

 これから研磨されていくんです。

 その後どうなるかは、彼女達次第です。

 宝石になるのか、それとも石ころか」

「ふっ、そうだな」

 

と、会話をしていた2人。やがて数秒の間

を置いた後。

 

「そう言えば、例の噂は聞いてるか?」

「えぇ。私も戦車道の関係者ですから。

 先生も?」

「あぁ。噂ではどこかの役人が、冗談

 半分で提案したところ、面白がった

 上の連中の肝いりでそうなったらしい」

「その結果が今度の、『異例の大会』ですか」

「そうらしい。……どうしてこうなったんだか」

そう言って、珍しくため息をつくラスティモーサ。

 

「……『古き陸の王者』と、『新しき陸の

王者』。それがタッグを組んで敵と戦う

試合。よく成立しましたね」

「現在この国の大半の学校がパイロット

 育成に力を入れている。育成科の設置は、

 国から莫大な補助金が出るからな。

 更に育ったパイロットが活躍すれば、

 母校は一躍有名だ。その結果、今全国で

 戦車道をやってる学校には、大体兄弟校

 があったり、ここみたいな共学校だと

 戦車道とパイロット育成科が揃ったり

 している。おかげで、『例のルール』が普通

 に適応出来た訳だが。もっとも、パイロット

育成科が広まった結果多くの学校で

毎年死亡者が出る始末だがな」

「それでも国はパイロット育成に力を

 入れる事を望んでいる。そのために

 多くの若者が日々命を落としている。

 やりきれませんね」

「そうでもないさ」

 

蝶野の言葉を否定するラスティモーサ。

「パイロットになろうとしたのは本人の

 選択だ。周囲が止めようとも、それを

 説得するか振り払ってパイロット育成科

 に入ったのだとして、そして死んだの

 ならそれはそいつの訓練不足や油断、

 運の無さが原因だ。そこに同情なんて

 必要無い。……俺はそう考えてるがな」

「……自らの選択の結果、命を落とす」

「そうだ。その程度の覚悟も無いんなら、

 そいつにパイロットを目指す資格はない」

冷徹とも取れる言葉。

 

だが、その言葉こそが、パイロットになる

事への過酷さを現していた。

そして、蝶野にはそれが分かった。

しかし一方で、彼女は内心不安を

覚えて居た。

 

今度の全国大会は、異例中の異例。

そんな試合では、パイロット達と少女達が、

タッグを組む事になるのだが……。

 

『兵士として高みを目指し続ける男達と、

 あくまでも『嗜み』として戦車にのる

 女達。……それが上手くかみ合うの

 かしら?』

 

彼女は、同じように兵器を扱いながらも

異なる目的を持つ彼、彼女らがどのように

なるのか、不安を募らせていたのだった。

 

 

その翌日。戦車道の時間になり、パイロット達

も集められたのだが……。

「あ~~。先輩方?俺目が変なんす

 かね~。何か金ぴかだったりピンク

 だったり、可笑しな戦車が見える

 んですけど……。まさか寝不足で俺

 寝てるのか?ここは夢の世界?」

「安心しろ明弘。お前は起きてる。

 そして目も変じゃないぞ。俺も

 同じ光景が見える」

明弘の言葉に応える和紀。

央樹も流石に絶句して固まっている。

そしてそのすぐ傍でため息をつく

ラスティモーサ。

 

 

4人の前に広がるのは、ピンク一色に

塗装されたM3。

 

金メッキコーティングをした38(t)。

 

バレー部復活と車体に書かれた八九式。

 

真っ赤なボディに新撰組などの旗を立て

ているⅢ号突撃砲。

 

 

唯一Ⅳ号だけは、外見は変わっていない。

しかし中には芳香剤やらぬいぐるみやら

クッションやらが置かれている。

 

「……過去、あれに乗って戦っていた

 英霊が今のこの惨状を見たら、きっと

 卒倒するだろうなぁ」

「あぁ、まず間違い無く発狂するだろうな」

明弘の言葉に頷く央樹。

 

リアルな軍人として訓練を積んでいる

男達からすれば、この状況は、一言で

『ふざけている』としか見えなかった。

 

金メッキの装甲は光を反射するから目立ち

安いし、兵器に可愛さを求めてピンクに

塗る意図が理解出来ない。同じ理由で

派手な色に塗っているⅢ突もだ。

あれでは敵に見つけて下さい、と言って

いるようなものだ。

八九式はまだマシな部類だが、それでも

バレー部復活をデカデカと主張している。

あれでは戦車道への熱意など感じられない。

更にⅣ号も同じ。兵器に快適性を

求める沙織たちに対して、男子3人は

理解することが出来なかったのだった。

 

 

更に、杏がこの勢いで試合をする、などと

言い出したのだが……。

 

流石に和紀や、他の2人もそれは聞き捨て

ならないものだった。

 

「ちょっと待ってよ先輩方」

連絡を入れるため、その場を離れようと

する桃を引き留める明弘。

「ん~?何~?」

「いや~、何って言うか。会長、ホントに

 こんな戦車で試合する気ですか?」

「そうだけど?」

明弘の言葉に何の疑問も抱かずに、逆に

首をかしげる杏。

 

「いやいやいや~。それマジで言ってる

 んすか先輩」

すると、そうこうしている内に2人の

やり取りが気になったのか、女子達が

そちらに視線を向けていたのだが……。

 

「だとしたら、パイロット候補として

 の経験から言わせて貰うと、戦争

 舐めすぎじゃね?」

 

「は?」

 

普段の飄々とした態度にも見える明弘。

だが付き合いの長い男3人からすれば、

その声色の中に怒りと呆れが混じっている

事が理解出来た。

舐めている、と言う言葉に杏は眉をひそめ、

周囲の女子達も何事か、と注視していた。

 

「だってさ~。こ~んな目立つカラーリング

 で戦場に行ったら、悪目立ちするよね~。

 これ、敵にどうぞ見つけて下さいって

 言ってるようなもんだよ。迷彩ってのは

 意味があるからされてるわけで、なのに

 それ塗りつぶしてこんな派手で目立つ

 カラーリングするってのは、やっぱ

 命賭けて日々戦場に行く準備してる

 俺等パイロットからしたら、

 戦場を舐めてるとしか思えなくてね」

 

そう言うと、明弘はコツコツと38(t)

の装甲を叩いた。

「あぁもちろん責めてるわけじゃないっすよ?

 だって先輩達のやってる事はあくまで 

 武道であって、戦争のスキルを学んでる

 俺達とは根本的に違う訳ですからね。

 ……でもね、こんなおふざけみたいな

 カラーの戦車で試合って。

 まぁ俺は教官でも無いから口出しは

 しませんけど、ただ一言、言わせて

 もらえば……。『戦場を舐めてると

 痛い目に遭います』よ?」

 

そう言うと、明弘は桃たちの傍を離れた。

「あはは~。ごめんね~変な事

 言っちゃって」

と、彼はみほや他の女子達に、普段通り

の様子で謝るが、彼女達はどこか

戸惑った様子だった。

 

 

これこそが、蝶野が心配していた事だ。

 

パイロットにとって、戦場は命を賭けて

戦う場所。そこには甘さや油断、快適

等という物は存在しない。殺すか

殺されるか。極限状態の連続。油断が

死に繋がる場所。彼等は将来、そんな場所で

戦う為に死と隣り合わせの訓練をしている。

 

対して、戦車道の少女達にとって戦場は、

ゲームと何ら変わらない。ただ実機を

動かすだけで、撃破されたからと言って

死ぬわけではない。ゲームのように

試合が終われば、また次の試合に出られる。

ゲーム風に言えば、リスポーンが出来る

訳だ。

 

戦場というものに対する認識の違い。

 

パイロットにとってそこは命を賭けた

極限の環境だ。生きるか死ぬかの場所だ。

 

対して彼女達には、戦場=戦車が戦う場所

程度の認識しかない。

 

 

彼らと彼女達の間には、戦車やタイタン、

兵器や戦争、戦場に対する認識の齟齬があった。

それはとてつもなく巨大な齟齬だった。

 

 

そして……。

「あ、あの会長。やっぱり試合はまだやめた

 方が良いんじゃ……」

柚子は、彼の指摘もあって試合には反対だった。

「な、何を言う!会長の決定は絶対だっ!」

それに反論したのは桃の方だ。

「で、でも戦闘のプロの清水君があぁ

 言ってたんだよ?実際、彼等の方が

 戦いを知ってる訳だし」

「む、むぅ」

柚子の言い分を認めざるを得ないのか、

口をつぐむ桃。

 

「大丈夫だって~」

その時、杏が2人の間に入って笑みを

浮かべながらそう言って宥めた。

「なんてたって、試合になったら、

 『央樹達も』出るんだからさ~」

そんな彼女の言葉に、2人は一瞬

驚いてから口論を止めた。

 

 

現在の戦場において、タイタンとテロ組織

などが運用していた旧型の戦車の

キルレシオは1対20以上と言うレベルだ。

だが、それはデータでの計算でしかない。

 

実際にオペレーションフリーダムでの戦闘

では、中破したタイタンこそ何機かいたが、

大半は戦車との戦闘で優位に立っていた。

それもあって、戦車は古き陸の王者とされ、

タイタンこそが新しき陸の王者とされたのだ。

 

「大丈夫だって。パイロットとタイタンが

 一緒なんだから。何とかなるって」

その言葉に、柚子はそれ以上何も言えなくなる

のだった。

 

 

一方、和紀はみほ達の傍で戦車たちを眺めていた。

その傍では、やっぱり色を塗ればよかったと

言う沙織。あんまりだと嘆く優花里。

そんな中でみほは、予想外過ぎるペイントに

『楽しい』と呟いていた。

 

だが……。

「認識の相違という奴だな」

そんな中でぽつりと呟く和紀。

 

「どう言う意味だ?」

それは傍に居た麻子にだけ聞こえており、

彼女が小さく聞き返した。

「お前達にとって戦車道、もっと言えば戦車

 は嗜みの、趣味や学芸の範疇だ。

 対して俺達は命がけ。戦場でのおふざけ

 が地獄行きの場所だ。だからこそ合理性

 や戦闘効率を第1に考える。実際、

 戦場であんな目立つ格好をしていれば、

 敵に『どうぞ見つけて攻撃して下さい』

 と言っているようなものだ。それは、

 『殺してくれ』と同義だ。……同じ

 兵器を扱っているが、やる事が変われば

 こうも変わるものか」

最後に、それだけ呟いた和紀はその場を

あとにした。

 

 

そして、生徒会室では今、桃が『対戦相手』

の学校に試合を申し込んでいた。

 

「あぁ、それから。そちらはお聞きになって

 いますか?例の大会の噂」

『えぇ。正直半信半疑な所です』

「でしょうね。前例の無い話ですから。

 ……そこで一つ提案なのですが、

 いかがでしょうか?」

『と言うと?』

「万が一噂が本当であった時のための

 予行演習、と言う訳ではありませんが。

 戦車とタイタンありの、異種混成

 タッグマッチ、と言うのは如何でしょう?」

『それはつまり、タイタンと戦車で

 チームを組み一緒に戦う、と?』

「えぇ。如何でしょうか?例の噂も

 ある事ですし」

桃の言葉に、相手はしばし黙り込んだ。

 

やがて……。

『良いでしょう。そのお話、お受けします』

≪よしっ!≫

相手の言葉に、桃は内心笑みを浮かべていた。

「ありがとうございます。それでは後日」

『えぇ、ではまた』

 

話し合いは終わり、桃は通話を終えた。

そして彼女は、笑みを浮かべていた。

「くくっ!勝てる!タイタンの前には

戦車など無力!これなら、万が一

我々戦車チームが全滅してもっ!

ふふふっ!」

 

この時、彼女は失念していた。と言うより、

『タイタンさえ一緒なら大丈夫だろう』と

高をくくっていた。

だがそうでは無かったことを、彼女は

試合で思い知るのだが、それはまだ先の

話だった。

 

 

一方、話し相手であり試合の相手でもある

『聖グロリアーナ女学院』の一室では、

3人の女生徒がお茶をしていた。

「よろしかったのですか?『ダージリン』

 様。タイタンありきの試合など」

心配そうに呟いているのは、『オレンジペコ』。

この聖グロリアーナ女学院における

戦車道の部隊長を務める金髪の少女である

『ダージリン』の右腕的存在であり、

同じ戦車にのって戦う戦友だ。

「例の噂もある事だし、悪くは無いのでは

 無いかしら?タイタンやパイロットとの

 コンビネーションの練習など、前例が

 ありませんし。練習相手にはちょうど

 良いでしょう?」

「しかし。タイタンと戦車のタッグマッチ、

 ですか。これは戦術を1から組み立てる

 べきかもしれませんね」

そう語るのは、『アッサム』。彼女もまた

オレンジペコと同じ、この学院の

戦車道のエース的存在だ。

 

だが、そんな彼女達であったとしても

タイタンとの戦闘経験など無いし、共に

戦った経験も無い。

 

「えぇ。……ですが、楽しみですわ。

 巨神の名を持つ巨人達。それと戦う

 私達は言わば、ワルキューレと言った

 所かしら」

そう呟くと、ダージリンは小さく笑みを

浮かべるのだった。

 

 

その後、みほ達は戦車道の練習をしていた。

隊形の組み方から移動、射撃。更には

戦車の運用など。いろいろな事を学んでいた。

 

そんな中で、練習試合の事を皆に伝える杏たち。

時間は今度の日曜日。相手は聖グロリアーナ

女学院である事。

 

「うわぁいきなり強豪とかよ」

それに呆れている明弘。

「えぇっ!?もしかして相手強いの!?」

「強いも何も、全国大会で他の強豪校と

 優勝を争うトップランカーの常連。

 準優勝経験もある、文字通りの強豪。

 とてもド素人集団が初陣で戦う相手じゃ

 無いと思いますけど?」

「その点については無論想定済みだ。

 そして、問題は無い。なぜなら

 お前達も参加するからだ」

 

「「は?」」

 

桃の言葉に、和紀と明弘は首をかしげると、

すぐさま集まってひそひそ話をはじめた。

「やばいっすよ先輩。あの人頭おかしいん

 じゃないっすか?俺等戦車道関係無い

 っすよね?戦車も無いのにっ」

「……バカなのだろうか?」

 

と、2人は結構ガチで桃(の頭)を心配していた。

 

「そこっ!聞こえてるぞ!あとバカではない!」

そう言って怒った後、桃は咳払いをした。

 

「んんっ!……なぜパイロットであるお前達

 が参加するのか、と言う話だが、この中で

 知っている者も少ない、あるいは居ない

 かもしれないので説明すると。現在、

 ある噂が流れている」

「はいっ。どんな噂なのですか?」

桃の発言に挙手し、発言する優花里。

 

「その噂というのは、近々開催される

 戦車道の全国大会では、タイタンと

 パイロットをチームの一部に組み込み、

 参加する事を許可される、と言う物だ」

彼女の発言に皆が驚いてざわめく。

 

「その許可がOKとなった理由は定かでは

 無いが、噂として存在している以上、

 全国大会で戦車とタイタンがタッグを

 組んで戦う可能性は0ではない。

 そのため、万が一この噂が本当で

 あった事を想定し、今度の練習試合

 ではパイロット育成科の3人にも

 チームの一部として参加して貰う事に

 なった。無論、相手方の許可は

 取ってあるから問題無い」

 

「戦車とタイタンが戦うって、そんな事

 出来るの?」

話を聞いていた沙織が傍に居た和紀に

問いかけた。

 

「まぁ無理ではない。現在俺達が使って居る

 タイタンは訓練用にチューンが施されている。 

 戦闘でダメージを受け、現実における

 撃破相当までダメージが蓄積した場合、

 機能停止と共に撃破の判定となる白旗が

 上がる装置を内蔵している。それらも

 あって各校の育成科同士の模擬試合も

 無い訳ではない。元々、この撃破判定

 システムは戦車道の同じ物を導入している

 から、扱う砲弾や銃弾、ミサイルの炸薬を

調整すれば問題は無いかもしれないが……」

和紀の答えを周りの生徒達が聞いていた。

 

「でもさぁ、それってつまり、相手もタイタン

 を投入してくるって事だよね?」

「え?ですが、聖グロリアーナ女学院は

 女学校ですよね?そちらにもパイロット

 育成科があるのでしょうか?」

明弘の言葉に首をかしげる華。

 

「いや。グロリアーナ自体には育成科は

 存在しない。だが、同じ学園艦の上に

 兄弟校である男子校が存在する。

 そこにはパイロット育成科もあった。

 ……俺も噂を聞いた程度だが、同じ学校

 でなくても、母体を同じとする兄弟校

 からパイロットとタイタンを招集する

 のは問題無いらしい」

華の疑問に答える央樹。

 

「グロリアーナの兄弟校と言えば、

 『聖ゲオルギウス学院』。そこの

 パイロットとタイタンとなると……。

 あぁクソ。最悪だ」

和紀は、すぐさま頭の中でグロリアーナの

兄弟校の事に思考を巡らせ、そこの

パイロット育成科の『主力タイタン』の事を

思いだし、悪態を付いた。

 

「え!?なになにっ?!どうしたの!?

 なんか不味いの!?」

 

「あぁ、不味い。恐らくグロリアーナの

 戦車に随伴するタイタンは、『イオン級

 タイタン』だ」

「い、イオン級タイタンって?」

その名の意味が分からないながらも聞き返す

みほ。

すると和紀はこう答えた。

 

「タイタンの中でも、戦車の天敵と

 言えるタイタンだ」、と。

 

     第3話 END

 




劇中、和紀達が使うタイタンはアトラスやオーガ、ストライダーですが、
それ以外の学校の生徒達は基本、タイタンフォール2のイオンやトーン、
スコーチなどを使う予定です。

感想や評価、お待ちしてます。


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第4話 作戦会議

今回は前回よりほぼ進んでません。ほぼほぼイオンの解説会みたいなものです。


「作戦会議だ」

 

和紀のその言葉で、急遽生徒会室に集められた

戦車道の部員達とパイロット3人。

最初桃は、会議と聞いて各戦車の車長たち

だけで良いだろう、と言ったのだが……。

「そうかもしれんが、相手はタイタンだ。

 ただでさえタイタンは戦車の天敵みたいな

 ものだ。だからこそその脅威度をしっかり

 と共有しておきたいんだ」

桃の発言にそう返す和紀。

 

「と言う訳で、まずタイタンについて軽く

 話しておきたい。現在世界中で活動する 

 タイタンは、主に3つの世代に別れる。

 『第1世代』と言われる最初期のタイタンが、

 俺達の乗るアトラス、オーガ、ストライダー

 の3機だ。次に、この3機から派生した

 合計6機のタイタン。それが『第2世代』。

 そして、ラスティモーサ先生の乗る

 BT、バンガード級が『第3世代』だ」

「へ~。あれ?でもそしたら3人の乗ってる

 タイタンって、古いの?」

ポツリと呟くみほ。

「まぁ、古いと言えば古いが。だがそれは

 今は良い。問題は相手のタイタンだ。

 第2世代のタイタンは、第1世代の3機

 をベースに発展した機体だ。そもそも

 タイタンはその重さから、重量級、

 中量級、軽量級の3種類に大別される」

「例えば俺のストライダーなら軽量級。

 和紀先輩のアトラスなら中量級。

 央樹先輩のオーガなら重量級。って

 感じにね」

和紀に次いで補足説明をする明弘。

 

「問題は、敵の主力のイオンだ。

 清水先輩、明弘お願いします」

「あぁ」

「はいっす」

和紀が声を掛けると、央樹が部屋の明かりを

消して、明弘がカーテンを閉め切った。

部屋を暗くし、事前に用意していたスクリーン

とプロジェクターを使って画像を見せる

和紀。

 

そこに映し出されたのは、角張った胴体

が特徴的なタイタンだった。

 

「中量級タイタン、『イオン』。これが

 恐らく連中の主力となるタイタンだ。

 タイタンの武装は約5つ。これは

 俺達のアトラスなんかも変わらない。

 まずはその手に持つメイン武装。

 次に肩などに装備されているサブ兵装。

 主に防御用の装備であるアビリティ。

 タイタン各機で設定されている、

 『コアアビリティ』という技。

 そして何より、タイタンという巨体」

「それは、どういうことでありますか?

 巨体が武器とは」

と、挙手をしながら首をかしげる優花里。

 

「タイタンはデカいし硬い。だから最悪、

 パンチでだって相手のタイタンや戦車

 を破壊出来る。また、人と同じ動き

 が出来るから、掴む、投げるなどの

 動作も出来る。戦車の場合、タイタン

 と接近戦になったら、それこそ

 踏み潰されるかパンチで装甲ベコベコ

 に凹まされるかひっくり返されるか。

 或いは砲身を掴まれてひん曲げられるか

 って事だ」

和紀の発言に、戦車に乗る彼女達は驚き

身震いしている。

 

あのサイズの巨人が何発も拳を自分達

目がけて振り下ろしてくるかもしれない

と考えれば、ゾッとするだろう。

 

「ちなみに、我らのパイロット達の

 タイタンはどのような武装で戦うのぜよ?」

そう問いかけてきたのは歴女チーム

の1人、『おりょう』だ。

「俺達のタイタンの武装は、基本的に

 実弾兵装だ。俺のアトラスは40ミリ

 のセミオートキャノン。明弘の

 ストライダーはチェーンガン。

 先輩のオーガはロケットランチャーだ。

 更にサブとして誘導弾ミサイルや

 ロケット弾で武装している。まぁ

 そっちは、恐らく詳しい事を言っても

 分からない奴が多いようだから、今は

 説明を省く」

 

そう言うと、和紀は視線をスクリーンに

向けた。

 

「改めて説明すると、このイオンは 

 戦車にとって天敵とも言えるタイタンだ。

 その理由は、そのチートみたいな防御 

 アビリティと、圧倒的な威力、射程、

 弾速、精度を誇るサブ兵装にある。まず、

 イオンの主武装は、フルオートの

 エネルギーライフル、『スプリッター

 ライフル』。こいつは高温のエネルギー弾

 を連射してくる。その威力は数発で

 戦車の装甲を融解させてくる」

そう説明する和紀の後ろでは、イオンの

スプリッターライフルを発射する映像が

流れていた。

 

「更に、このライフルは銃身を展開する事

 で横一列、同時に3発のエネルギー弾

 を発射することが出来る」

「えぇっ!?そんなことまで出来るの!?」

「でも、エネルギーを分割するんだから、

 威力は落ちるよね?」

驚く沙織に、みほはポツリと呟くように

答えた。

 

「あぁ。みほの言うとおり。一発の威力は

 通常時より劣る。だが、この3発を同時に

 当てる事で低下した分の威力を補う。

 つまり、3発全て当るのはヤバいって

 事だ。……だが、イオンの本当の恐ろしさ

 はこんなものじゃない。本当に恐ろしい

 のはそのサブ兵装と防御アビリティだ。

 まずは防御アビリティの方から説明する」

 

和紀がそう言うと、明弘が次の動画を流し

はじめた。

 

そこには、イオンが左手から水色の波動の

ようなものを展開する映像が映っていた。

「あれは……」

女子達の誰もがその動画に釘付けだった。

麻子も動画を見ながら呟いている。

「あれは『ヴォーテックスシールド』。

 イオン最強の盾とも言うべき技だ。この 

 シールドの最大の能力は、シールドで

 受けた実弾。銃弾だろうが砲弾

 だろうがミサイルだろうが、全てを受け止め

 相手に跳ね返す事が出来る」

それを証明するかのように、動画が動き出し、

無人機から放たれた数多の銃弾やロケット砲

の砲弾を受け止めると、シールドを解除し、

無人機達に撃ち返してしまった。

 

和紀の言葉に、一瞬の静寂。直後。

「「「「「はぁぁぁっ!?」」」」」

女子達の大半が驚いて悲鳴のような声

を上げてしまった。

「えっ!?そ、そんな事出来るの!?」

「あぁ。出来る」

驚く沙織に和紀が答えた。

 

「このヴォーテックスシールドは、物理的

 な弾丸を捕らえ、相手に撃ち返す。

 当然、戦車の砲弾もな。まず、この点

 で戦車の天敵なんだよ。戦車の主砲は

 連射が出来ないだろ?このシールドは

 タイタンのエネルギーを消費して

 使われるが、戦車が一発撃って次に

 撃つくらいの時間があればエネルギー

 はある程度回復する。更に数で

 押し込もうと撃ちまくれば、今度は

 砲弾の雨が一斉に襲いかかってくる

 って訳だ」

「そ、それじゃあ戦車の攻撃なんて

 殆ど効かないじゃん」

沙織の言葉に、殆どの女子達は俯いている。

 

「これはイオンの盾だ。そしてイオンには、

 メインのスプリッターライフルを超える

 威力を持つ矛もある。それがこれだ」

彼がそう言うと、動画が動き出し、今度は

左肩背部に搭載されていたパーツが稼働。

起立すると数百メートル離れた地点に

置かれた、戦車のスクラップに狙いを定めた。

 

そして光が瞬いたかと思った次の瞬間には、

スクラップに大きな穴が開いていた。

 

それだけで女子達はざわめく。

「な、何あれ。何なのあの威力。って言うか

 撃ってから命中するまで、殆ど間

 無かったよね?」

周りの感想を代弁するように語る沙織。

「そうだ。あの威力、弾速、射程、精度こそが、

 イオンの持つ矛。防御のヴォーテックス

 シールドと対を為す『レーザーショット』

 と言う攻撃兵装だ。メインのスプリッター

 ライフルもそうだが、光学兵器。つまり

 ビームなんかは大気の影響を受け、

 ある一定の距離まで進むと急速に威力が

 衰え消える。が、逆にその距離の中で

あれば、どんなに離れていようが距離

に関係無く、レーザーショットの威力

は同じだ。そして最も厄介なのが、

この武器の射程と、その命中精度だ」

「射程と精度?なぜだ?」

首をかしげる麻子。

 

「レーザーショットは光学兵器だから、

 狙った地点に向かって真っ直ぐ飛ぶ。

 砲弾みたいに風や重力の影響を

受けないからな。更にその射程は、

さっき見て貰った通りだ。遠距離から

一撃で戦車に当ててただろ?

 つまり、イオンにとって戦車は良い的

 なんだよ。例えばイオンに対して

 停止した状態で射撃したとする。

 イオンはシールドで砲弾を受け止め、

 レーザーショットのカウンタースナイプ

 で一撃必殺。と」

「そんな事が出来るんですか!?」

優花里は興奮と驚きが混じった様子で聞き返す。

 

「あぁ」

するとそれに答えたのはラスティモーサだった。

「実際、この戦い方は対テロ大規模作戦、

 オペレーションフリーダムでイオン

 乗りのパイロットがよく使った手だ。

 この手で多くの戦車を撃破したのは、 

 俺の知人にたくさんいる」

従軍経験があるような彼の説明に、

女子達が戸惑っていると……。

 

「ラスティモーサ先生はその作戦、

 オペレーションフリーダムの

 最前線で戦ってたパイロットなんだよ。

 だから戦い方については、この中の

 誰よりも詳しいんだよ。つまり、

 正真正銘戦争を生き抜いた、そして

 実戦を経験した百戦錬磨のエースパイロット」

「えぇっ!?そうなのでありますか!?」

明弘の言葉に、特に驚いたのは優花里だ。

他の女子達も、同じように驚いている。

まぁ、身近な人間が戦争を経験している事

なんてそうそう無いのだから仕方無いのかも

しれない。

 

「もう昔の話だ。それより、話をイオンに

 戻そう。今見て貰った通り、イオンは

 射撃戦闘に特化した機体だ。今和紀が

 説明したライフル、シールド、レーザー

 の他に、イオンにはレーザーワイヤー

 感知式の設置型トラップがある。

 それと、一番厄介なのが、コアアビリティだ」

 

「こああびりてぃ、って何ですか?」

彼の言葉に首をかしげたのは、1年生

チームでM3の操縦士をしている

『阪口 桂利奈』だ。

「お前達に分かりやすく言うと、必殺技

 みたいなものだな。明弘、レーザーコア

の動画は出せるか?」

「はいっす」

そう言うと、映像が切り替わり、イオン

が映し出された。

「例えばイオンの場合、胴体部のカメラ

 から高出力のレーザーを発射する」

彼が説明すると、実際に、彼の後ろの

スクリーンに映っていたイオンが胴体部

から赤い熱線を放ち、その先にある

何十と言う数の厚い鉄板をぶち抜いた。

 

その光景に、女子達は皆唖然とした表情を

浮かべる事しか出来なかった。

「こいつは一瞬で戦車を撃破できるだけの

 技だ。もちろん試合では精々、ポインター

 レベルの光を照射するだけだろう。実際、

 タイタン同士での模擬戦もそうだからな。

 ……だが、この技の元々の威力を考える

 と、戦車の場合喰らっただけで撃破扱いは

免れないだろう」

 

ラスティモーサの説明に、彼女達は軽く

絶望しかけていた。なにせ相手が

チート級の防御技と攻撃力を持っている

のだからしょうがない。

そんな現実に周りが項垂れている事に、

みほは何とかしようと考えた。

 

「ね、ねぇ和紀君?そこまで分かってる

 のなら、対策とかあるの?」

「ん?まぁな。……イオンには今言った

 ように多くの優れた装備があるが、

 それゆえに弱点も大きいんだ」

「弱点?」

みほが首をかしげる中、弱点という言葉に

生徒達も僅かに下げていた視線を上げた。

 

「そう。イオンのレーザーショット。

 ヴォーテックスシールド、そして

 ライフルの3Wayショット。これは同じ

 ジェネレーターからエネルギー供給を

 受けているんだ。こいつは駆動用バッテリー

 とは別口なんだが、例えばレーザー

 ショット1発だけでエネルギーの60%

 を消費する。更にエネルギー回復までには

数秒の時間を要する。更に、レーザー

ショットを撃った直後のエネルギー量は

精々40%。イオンは攻撃を受けた場合

残りの40%でシールドを展開しなきゃ

いけない。だがその消費量は大きい。

数秒でエネルギーが切れ、イオンは

シールドもレーザーショットも使えなくなる。

あと、さっき話したトラップもこの

エネルギーが無いと展開出来ない場合

がある。

まとめると、レーザーショットには

連射が効かない。エネルギーを使い切る

とイオンにはライフルと格闘以外の攻撃

手段が無いんだ。更にさっきいった

レーザーコア。これはコアの発動から

レーザーの照射まで1秒のタメ時間と、

そのために赤いレーザーが胴体部に収束

する予備動作がある。……熟練パイロット

なら、この予備動作とタメ時間の間に

障害物などに隠れるなどして攻撃を避ける。

更にレーザーコア発動中はダッシュや

スラスターを使ってのステップ移動が

出来ないと言う欠点がある」

と、粗方の弱点を説明する和紀。

 

「んでさぁ」

その時、しびれを切らしたのか杏が

声を上げた。

「あんた達には勝てる自信があるの?」

どこか鋭い視線。そしてその質問は、

ここにいる女子全員が聞きたい質問だ。

そして更に言えば、彼女達はYESの

返事を望んでいた。

 

「……前提条件として」

和紀はそう切り出して話し始めた。

 

「相手のタイタンが俺達と同数。

 あるいはそれ以下であれば、勝利の

 可能性はある」

「どうして?」

「これまでに話した通り、イオンには

 戦車を一撃で、それも遠距離から撃破

出来るだけの兵装がある。となれば、

一緒に戦う俺達パイロットとタイタンの

最優先目標は、イオンの攻撃から戦車

を護る。或いは、その意識を自分達に

向ける事で戦車から注意を逸らす事だ。

となると、最低でも俺達3人で相手

出来る数。それは同数である3機まで

だ。それ以上となると、阻止は簡単

じゃないからな」

「でも、どうするの?そんな凄い装備

 がたくさんあるのに、どうやって

 戦うの?」

 

沙織の問いかけは至極真っ当な物だ。

あれだけの装備を見せられれば、誰

だって萎縮してしまう。

「それについては、接近戦しかない」

「接近戦?と言う事は、格闘戦とか?」

「そうだ。みほが今言ったように。

 俺達3機は敵イオンに対して近接戦闘

 を仕掛ける。明弘のストライダーは

 軽量級だからイオンよりも機動性が

 高いし、清水先輩のオーガも重装甲

 だから多少の被弾は物ともしないし、

 パワーもイオンより上だ。シールドも

 機体の全方位に展開出来るわけじゃ

 ないから、ストライダーなら

 背後を取ってからの射撃も有効だ。

 パワー自慢のオーガなら、敵

タイタンの腕を引きちぎる事だって

出来る」

 

その答えは、彼女達にとって心強い物

だった。

「だが、この作戦には問題がある。それは

 俺達が敵のタイタンに掛かりっきりになる

 って事だ。当然、俺達には戦車チームを

 支援するだけの余力はない。そうなれば、

 当然敵の戦車チームを対応するのは、

 お前達自身だ」

「つまり、この試合は、タイタンVSタイタン

 と戦車VS戦車。って事だね」

みほの言葉に和紀が静かに頷いた。

 

「もちろん、相手のタイタンを片付ける

 事が出来れば、俺達も戦車チームを

 支援する事が出来るし、そうなれば

 戦車チームがピンチでも逆転する事も

 夢じゃない」

その言葉に、女子達は安堵の笑みを浮かべる

のだが……。

「最も、相手がそれをさせてくれる

 くらいなら良いんすけどねぇ」

明弘の言葉で、その表情は戸惑いのそれ

に変わってしまった。

 

「え?そ、それってどういうこと?」

「……聖ゲオルギウスには、エースがいる」

戸惑う沙織の言葉に応えたのは央樹だった。

 

「学院のパイロット育成科2年。本名は、

『結城 智(さとし)』。イオンのヴォーテックス

シールドを巧みに使いこなして味方や

自分を守り、反撃のレーザーショットを

使った一撃は、命中率90%以上を誇る

防御と狙撃の天才。既に未来のエース

パイロットとしても注目されおり、

仮想空間での他校の育成科との練習試合

ではかなりの成績を収めている。

そして、その高い防御能力と狙撃能力

から、『フォートレス』。要塞の異名を

持っているパイロットだ」

「聖グロリアーナがパイロットを招集すると 

 なると、そのフォートレスも十中八九

 呼ばれるだろう。それに、敵は奴だけ

 じゃない。部隊長クラスのパイロットを

 投入してくるはずだ。相手は一筋縄で

 はいかないだろう」

央樹の言葉に続き、そう語る和紀。

 

「正直、パイロットとしてはっきり

 言わせて貰えば、戦車チームは

 練度もスキルも経験も、全て向こう

 より劣っている。俺達がそれをカバー

 しようにも、恐らく敵タイタンとの

 やりあいでそっちをカバー出来る

 可能性は極端に低い。ましてや、

 前置きしたが、俺達で阻止出来る

 タイタンはせいぜい同数の3機。

 それ以上が来てしまった時点で、

 恐らく俺達の敗北は決定されたと

 言っても良いだろう」

 

敗北の可能性が高い、と言われ彼女達は

皆意気消沈としている。

「ちょっとちょっと~。最初っから

 気分下げるような事言わないでよね~」

だが、そんな中でも杏はどこか楽天的だ。

「気分を害するようで悪いが、俺は

 現実的な話をしている。試合だろうが

 何だろうが、そこで物を言うのは経験

 と技術だ。今からではその差を埋める

時間が無い。そして、だからこそ相手の

 大きさを、ここにいる全員に共有して

 欲しかった。相手は強豪だ。もし、 

 本気で勝ちに行きたいんだとしたら、

 最低限、自分が格上の相手に挑むんだと

 言う認識と、絶対に油断しない事を

 肝に銘じて欲しい」

そう言うと、和紀は明弘と央樹に

お願いしてスクリーンを閉じ、カーテンを

開けて貰った。

 

その後、当日の集合時間が告げられ、麻子

が止めそうになる等のハプニングが

あったが、みほや沙織の説得もあって

彼女の離脱は回避された。

 

その後、桃が考えた作戦を聞いていた

女子とパイロット達だが……。

「相手を甘く見すぎだ」

桃の立てた作戦を、央樹はそう一蹴

した。

「何だと清水っ!私の作戦に不満が

 あるとでも言うのかっ!」

「Y字型の地点に敵を誘い込もうと言う

 事と高低差を利用する事は評価に

 値する。が、相手は浸透強襲戦術を

 得意とするグロリアーナだ。 

 そもそも浸透戦術は敵の攻撃を

 受けつつそれを回避して敵の後ろに

 回り込むような戦術だ。となれば、

 相手側はこの程度のキルゾーン

 突破など造作も無いだろう。

 和紀、お前はどう思う?」

「……はっきり言わせて貰うと、

 相手チームは易々とキルゾーンを

 突破。両サイドから侵攻しチームを

 左右から包囲。そのまま何も対処

 出来なければ、恐らくそこで全滅

 でしょうね」

「だろうな。明弘はどう思う?」

 

「う~ん。この作戦をマシにするんだと

 したら、敢えてキルゾーンを突破

 させ、周囲から上がってくるところを

 俺等の梱包爆弾、『サッチェル』で

 吹っ飛ばすってのはどうです?」

「だがそれだと俺達が戦車チームと

 共に行動するしか無いな」

明弘の言葉に、和紀は顎に手を当てて

考えた。

 

やがて、彼はみほへと視線を向けた。

「みほ」

「えっ?はいっ」

「お前なら、グロリアーナの戦車チーム

 とどう戦う?とりあえず、敵タイタン

 の事は考えなくて良い。純粋に、

 敵戦車チームへの対処を考えて欲しい」

「えっ!?わ、私が?」

「この中で、戦車道の経験があるのは

 みほだけだ。俺達も軍事関係の

 教練を受けているとは言え、戦車の

 運用については殆ど知識が無い。

 だからこそ、この中でおそらく一番

 戦車を知っているであろうお前に

 聞きたいんだ」

「え、えっと。……もし、仮にだけど。

 敵のタイタンを考慮しなくて良いの

 なら、私達が取るべき行動は攪乱と

 陽動を使って相手の戦車を孤立

 させ、1輌ずつ撃破していくべきだと

 思う。そして、出来る事なら障害物

 の多い、うん。市街地なんかで戦うと

 良いかも。こっちの戦車の事を考える

 と、相手戦車の装甲を抜くには最低

 でも100メートル以内に接近しないと

 無理だから」

「市街地での待ち伏せか。確かに、平野部

 などで相手と打ち合うよりかは、まだ

 勝機があるな」

「じゃあ、こんなのどうです?河嶋

 先輩の作戦を第1段階にして、そこで

 相手を撃破出来れば良し。もしダメ

 だったら速やかに地点を放棄。

 敵包囲を脱出し市街地戦に移行。

 って感じで」

みほの作戦に頷く和紀。更に、そこに

提案する明弘。

 

「で、問題は、この部隊を誰が指揮

 するかだな」

央樹はそこにいる全員を見回しながらそう

問いかけた。

「え?それは清水先輩とかが指揮を執る

 んじゃないんですか?」

彼に問いかけるみほ。

「それは無理だな。俺は精々、タイタン部隊

 の指揮官だ。戦車関係に関しての指揮は、

 戦車道履修者の中で決めてくれ」

央樹の言葉に、女子達は皆、ひそひそと

話を始めた。

そんな時。

 

「個人的には……」

和紀が口を開いた。

「俺は戦車道履修者であるみほを推したい。

 経験の意味から言っても、この中では一番

 あるわけだからな」

「えぇっ!?わ、私っ!?」

驚き自分自身を指さすみほ。

「確かに。俺も賛成っすね。戦車道

 を知らない人がリーダーやるよりかは、

 勝率も上がると思いますし」

「そうだな。俺も戦車チームの隊長には

 西住を推したい」

更に明弘と央樹もみほを推した。

 

それもあり、周囲の女子達もみほが

リーダーになる事に賛同気味だ。

「じゃあとりあえず、隊長には

 西住ちゃんって事で~!」

そう言うと、静かに手を叩く杏。更に

周りの女子達も拍手を送り、これで

みほの戦車チーム隊長が決定した。

 

それに戸惑っているみほ。

「がんばってよ~。勝ったら素晴らしい

 商品上げるから」

「え?何ですか?」

商品、と言う言葉に柚子が首をかしげる。

 

「干し芋3日分!」

対して杏の出した褒美に、パイロットや女子達

は苦笑を浮かべていた。

「あの、もし負けたら……」

すると、そこに声を掛けたる典子。

 

「大納涼祭りであんこう踊りを踊って貰う

 かな~?」

「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」

杏の言葉に、転校してきた為にあんこう踊り

を知らないみほと、同じく県外からの

入学組であった明弘と和紀は首をかしげる。

しかし残りのメンバーと央樹は皆、顔を

青くしていた。

 

「あ、杏。それは、その、余りにも罰が 

 大きすぎる気がするのだが……」

「そう?」

央樹の言葉に首をかしげる杏。

しかしその周囲では女子達が央樹の言葉

に頷いていた。

 

「……良く分からんが、どうやらみほは

 負けられないようだな」

「み、みたいだね」

首をかしげる和紀と、冷や汗を浮かべるみほ

だった。

 

 

その後、作戦会議も一通り終了した一同は

解散となって、パイロット組も、もう遅い

ので今日は早めに下校となった。

 

そして、みほは沙織達と別れ、今は和紀と

一緒に並んで歩いていた。

 

「試合、勝てるかな?」

そんな中で、ぽつりと言葉を漏らしたみほ。

「和紀君たちが言ってた感じだと、相手の

 パイロットとタイタンも強そうで。

 戦車チームの方も、強豪のグロリアーナ

 だし。それに……」

技術の差は、そう簡単には埋められないから。

 

そう呟こうとしたみほ。だったが……。

「大丈夫だ」

「え?」

和紀の言葉に、みほは首をかしげながら彼

の方に視線を向けた。

 

「確かに相手は強い。戦車も、タイタンも、

 パイロットも。だが、だからと言って

 最初から負ける事ばかり考えていては、

 本当に負ける。勝機も逃す。

 ……あの時、俺は女子達みんなに色々

 酷な事を言ったかもしれない」

相手のタイタンの戦闘力もそうだが、彼女達

の技術が劣っている事を、和紀は突き付けた。

あの時杏が言ったように、それは気分を

下げるような発言であった。

「そんな事無いよ。和紀君は本当の事を

 言っただけでしょ?」

「あぁ。……だが、それでも、せめて

 理解はして欲しかった。戦いは

 楽でも甘くも無い。性能や技術が

 全ての世界であり、油断や楽観は、

 時に大きな代償を支払う。だからこそ、

 嘘や楽観的な発言は出来なかった」

 

そこまで呟くと、和紀は足を止めた。更に

みほも足を止め、彼の方へ振り返る。

 

「タイタンは俺達で何とかする。そして、 

 できる限り戦車チームもサポートする。

 ……俺達だって、サラサラ負ける気はない。

 勝つぞ。この試合」

「うん。そうだね」

和紀の言葉に、みほは笑みを浮かべながら

頷く。

 

「勝とうね、試合」

「あぁ」

 

和紀は頷くと、拳を差し出した。みほは

しばしそれを見つめた後、彼女は笑みを

浮かべながら同じように拳を差し出し、

それをコツンとぶつけ合った。

 

 

そして、古き陸の王者と、新しき陸の王者

が共に戦う日がやってきた。

 

それは、新たな歴史の1ページの始まり。

 

鉄の巨人に乗り戦う男達と。

 

鉄の獣に乗り戦う乙女達の。

 

認識の違いからお互いすれ違いながらも、

共に戦う事を決めた者達の物語が、

今正に加速しようとしていた。

 

     第4話 END

 




次回から聖グロ戦です。お楽しみに。

感想や評価、お待ちしてます。


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第5話 史上初の戦い 前編

今回は短めです。いつもの半分くらいです。良い所だったので
敢えて区切りました。


強豪、聖グロリアーナとのタイタン有りの、

異機種混合試合をする事になった大洗学園

の戦車道チーム。

 

そして試合当日の早朝。既にそこには

パイロットスーツ姿の和紀達3人と、

ラスティモーサの姿があった。

「よく聞けお前等。相手は遠距離戦に

 優れたイオンで攻撃してくる。射撃戦

 じゃ実弾を止められるヴォーテックス

 シールドを向こうが有利だ。

 とにかく距離を詰めて戦え。

 相手は恐らく、1機ずつ確実に潰そうと

 するだろう。自分が戦う敵だけじゃない。

 他の敵の動きにも注意しろ。そいつが

 自分を狙っていたら、自分と戦ってる

 敵を盾にして射線を遮れ。分かったな?」

「「「はいっ!」」」

「よし。なら次は武器の整備だ。戦場で

 ジャムる程怖い物はないぞ」

「「はいっ!」」」

 

3人は返事を返すと、すぐさま倉庫の中に

入って行き、ガンロッカーから持って

来ていた各々の武器を再点検していた。

 

彼等の武器は、基本的に4種類+戦術アビリティだ。

 

対人戦闘などで使われるメイン武装。

予備武器としてのピストルなどのサブ兵装。

グレネードなどの投擲兵器である軍需品。

対タイタン戦闘を考慮した対タイタン兵装。

 

これら4つがパイロットの武装だ。

 

大洗では、弾薬の共通の観点からサブ兵装

は最もオーソドックスなハモンドP2016

で統一している。

 

メイン武装は、和紀がアサルトライフルの『R-201』。

明弘がサブマシンガンの『CAR』。

央樹がスナイパーライフルの『ロングボウ-DMR』。

 

更に、彼等の対タイタン兵装は『チャージ

ライフル』という荷電ビーム発射式の

スナイパーライフルだ。

 

更に軍需品は、和紀が『電気スモークグレネード』。

明弘が『ファイヤースター』。

央樹が『サッチェル』を装備している。

 

正直な所、これだけの装備があれば和紀達

3人だけでも敵戦車チームを撃破出来る。

ジャンプキットの機動性と、タイタンの装甲

さえ射貫くチャージライフルの威力が

あれば、3人だけでも聖グロリアーナの

戦車チームを全滅させる事は、夢ではない。

 

まぁ、相手のタイタンチームがそれをさせて

くれれば、の話だが。

 

ともかく戦場で武器の不具合が命取りになる

事はここにいる全員が理解している。

だからこそ入念に武装のチェックを行う。

 

ちなみに、今回使用される弾丸はペイント弾だ。

実弾を使ったのでは、何人死ぬのか分かった

ものではないからだ。チャージライフルも、

発射こそするが殆どエフェクトだけのような物だ。

人に当った場合、少し皮膚が火傷する程度まで

出力は抑えられており、着弾判定は、タイタンの

場合はデータリンクを通して戦いの模様を見て

いるAIが判断し、戦車の方にはいつもの

白旗システムがあるので、被弾に応じて

これが上がるようになっている。

 

そうして、彼等が入念に武器の装備をしていた時。

「ん?」

倉庫に入ってきた足音に気づいて和紀が

振り返った。見ると、みほがちょうど倉庫に

入ってきた所だった。

 

「あっ、おはよう和紀君。それに、

 明弘君も、清水先輩も」

「あっ、おはようっす西住先輩」

「おはようみほ。思ってたより早いな。

 女性陣はまだ殆ど来てないぞ?」

と、和紀が言うと……。

 

「あっ!そうだ和紀君っ!お願い

 手伝って!」

「ん?あ、あぁ。俺で良ければ」

 

 

唐突なお願いに、和紀は困惑しながらも

了承した。

 

で、その後。

 

「手伝うって、こう言う事ね」

『市街地を走るⅣ号』の車体の上に

座りながら1人呟く和紀。

 

みほが言うには、麻子を起こしに行くのに

Ⅳ号を使うとの事で、しかし運転手は華が

するらしく。麻子ほどは上手くない彼女を

補佐するために目となる人が必要なそうだ。

とは言っても、和紀のやった事と言えば

十字路に進入する際の警戒などだけで、

みほが出来るだけ広い道を選んだのも

あって順調に麻子の家へとたどり着いた。

 

見ると既に沙織と優花里が麻子の家に

来ていた。

「え!?みほっ!それに和紀までっ!?

 ってかなんで戦車持ってきたの!?」

「最終手段、だそうだ」

そう言って戦車の主砲をコツコツと指先で

叩く和紀。

「さ、最終手段?」

 

「あ、和紀君。そこ危ないよ」

「あぁ」

みほの言葉を聞き、和紀はⅣ号の傍を離れた。

 

そして直後。

『ドォォォォォンッ!!!!』

爆音が周囲に広がった。

すると案の定、と言うべきか爆音で麻子を

たたき起こすどころか、周囲の民家の人達

も何だ何だ、と慌て出す。

 

「すみませんっ!空砲ですっ!」

そう言って周囲に呼びかけるみほ。

 

そして、麻子も流石の爆音で起きたようだ。

「な、なんて派手な目覚まし」

戦車の空砲を目覚まし代わりに使うみほの

機転に、引きつった笑みを浮かべる沙織。

「確かにな」

そしてそれを聞いていた和紀も、ヘルメット

の下で笑みを浮かべていた。

 

その後、麻子を回収したⅣ号は市街地を走り、

何とか学園に戻った。

 

試合は大洗町全体を使って行われる為、

学園艦はもうすぐ港に寄港する。なので

艦を降りる車の列の中に、みほ達の戦車と

和紀達のタイタンの姿、更にラスティモーサ

のBTの姿もあった。

 

そして、港に到着後。戦車達が先をゆっくり

と進み、その後ろをタイタン4機が付いていった。

と、その時。

 

不意に彼女達の走る道路を大きな影が覆った。

みほ達が『何だろう?』と言わんばかりの影の

方に目をやると……。

 

そこには、大洗の学園艦の、有に3倍以上は

ありそうな巨大な学園艦が、大洗艦の隣の

港にたどり着いた。

 

「でかっ!?」

「……あれが聖グロリアーナの学園艦だ」

驚く沙織に答えたのは、乗っている

オーガのスピーカーを通して喋っている

央樹だ。

 

「あっ、隊長。あそこ」

その時。明弘のストライダーが聖グロリアーナ

の学園艦の一部を指さした。

見ると、そこを戦車数輌と、タイタンが歩いていた。

 

「あれって……」

「聖グロリアーナの戦車と、聖ゲオル

ギウスのタイタンだな。戦車は、

一輌目は『チャーチルMk.Ⅶ』。

あとの2輌は『マチルダⅡ』だな。

こっちは型式までは、こっからじゃ

分からないな」

「ねぇねぇ。そのチャーチルとかって

 強いの?」

と、和紀に声を掛けたのは沙織だ。

「あぁ。一番厄介なのは装甲だ。

 速度の面から言えば、例えば

 お前達のⅣ号の方が早い。

 だが、その分奴らは装甲が分厚い。

 実際、マチルダは第2次世界大戦

 序盤で活躍した戦車だ。それと

 あのリーダー車両でもある

 チャーチル。あれには8個の

 バリエーションがある。聖グロの

 はその7番目だ。兄妹に例える

 なら末っ子の一歩手前って所か。

 おかげでそれ以前のバリエーション

 と比べても更に装甲が厚い。

 だからこそ、至近距離じゃないと

 こっちの弾が通らないんだよ。

 装甲が厚くて、弾が簡単に装甲で

 逸らされるからな」

と、軽くレクチャーじみた事をする和紀。

 

「しかし、相手は案の定イオン級か」

と、続いて語り始めたのは央樹だ。

先ほど見えたタイタンは、実際イオン級

だった。

 

「どうやら事前に考えていた対応策を変更

 する必要は無いようだが……」

『だが、だからと言って油断はするなよ。

 お前等』

その時無線から聞こえた声。それは

ラスティモーサの声だ。

 

『相手は2つ名を授かる位の猛者もいる。

 油断してると、その猛者1人でだって

 お前達を全滅させられるかもしれないぞ。

 締めてかかれよ』

「「「はいっ!」」」

 

教官の言葉に、気を引き締める3人。

 

 

だが、彼等は気づいていない。こちらから

相手が見えたのなら、それは逆に相手から

もこちらが見えている、と言う事に。

 

 

「……ダージリン様。少しよろしいですか」

1機のイオンが無線をダージリンの

チャーチルへと繋いだ。

「何かしら?」

「今回の戦い、あまり油断されない方が

 よろしいかと」

「あら?どうして?『フォートレス』の

 異名を持つあなたが、まさか模擬戦如きで

 恐れをなしたとも思えませんが?」

 

そう、3機のイオンの内の1機に乗るのは、

和紀達の予想通り、聖ゲオルギウス2年生

にして、同学園パイロット科の期待の星、

『結城 智』。和紀と同じ、グラップル使い

のパイロットだ。

 

「恐れて等居ません。ですが、相手は

 警戒に値する存在です。……彼等の

 教官らしき相手を確認しましたが、

 恐らくは、『ナンバーズ』です」

その単語に驚いたのはダージリンだけ

ではない。結城と同じ他のイオン級の

パイロットや、ダージリンと同じ戦車

に乗るオレンジペコ達もだ。

 

「ナンバーズと言うと、先の対テロ戦争で

 活躍したと言う、あの?」

「はい。……戦場の生ける伝説。世界最強

 クラスのパイロット10人。その1人が、

 あそこに」

そう言って、智は大洗チームへと視線を

向けた。

 

「恐らくは教官として、パイロットを指導

 しているのでしょうが、それでも

 ナンバーズの教え子たち。油断すれば、

 喰われるのは我々かと」

「そう。ならば、油断しない方が良いかも

 しれないわね」

 

この試合の前日、はっきり言って

ダージリンは負けるなどとは思って居なかった。

タイタンという脅威に最初こそ警戒していた

が、相手のタイタンが第1世代だという事実。

数も少ない事。更には智という2つ名を持つ

エースパイロットがいることから、と言う

のがその考えの下であった。

 

だがそれも今この時まで。

 

戦闘のプロの卵であるパイロットの言葉は

十分に説得力があった。

だからこそ……。

 

「各車。聞いていたわね?……油断しない

 ように」

ダージリンは、表情を引き締めながら

各員に油断しないよう徹底させた。

 

大洗町では戦車の試合に向けて準備が

行われ、開始地点となる草原に、大洗の

戦車5輌とタイタンが3機。

集まっていた。そして車長である5人と

タイタン部隊の隊長である央樹が並び、

聖グロの戦車チームとタイタン部隊を

待っていた。

 

やってきた戦車はチャーチル1、マチルダ4。

タイタンはイオン級が3機。

『どうやら、最初の賭けには勝てたようだな』

と、央樹は内心考えていた。

 

やがて聖グロの女子達と、タイタン部隊の

隊長であり央樹と同じ3年のパイロット

育成科でクローク使いの、

『立花 啓吾(けいご)』が彼女達の前に

立った。

 

既に審判の3人も揃っており、あとは挨拶

をするだけだ。

挨拶を交わす桃とダージリン。

 

だったが……。

「それにしても、個性的な戦車ですわね。

 正直、こんな物に意味があるとは思えません

 でしたが、それとも、道化を演じるための

 偽装ですか?」

「な、何?」

ダージリンの言葉と、どこか警戒した様子に

戸惑う桃。

 

すると、彼女は最後尾に並んでいた央樹に

目を向けた。

「見せて貰いますわ。かつての大戦の

 英雄の教え子の力」

 

そして、挨拶を済ませた各チームはそれぞれ

の地点で開始時間を待っていた。

戦車に乗るみほ達。

和紀達もコクピットハッチを開けたまま、

タイタンのシートに腰掛けていた。

 

暢気に鼻歌を口ずさむ明弘。

精神統一するかのように俯いている央樹。

そして、サブアームのP2016のマガジン

や動作を確認し、ホルスターに戻す和紀。

 

そして……。

『そろそろだ。各機、リンクを』

タイタン部隊の隊長である央樹からの指示が

明弘と和紀に届く。

「『了解』」

 

2人は返事を返し、そしてタイタン3機は

コクピットを閉じる。

 

『『『パイロットへコントロールを委譲』』』

 

タイタンと和紀達3人がリンクし、これで

準備は整った。

 

そして、あと少しで試合開始、と言う時。

和紀はみほに通信を繋いだ。

『みほ』

「あ、何?和紀君」

『……心配するな』

「え?」

『お前達の背中は、俺達が、パイロットと

 タイタンが守る。お前達は気にせず、

 目の前の敵を倒すことにだけ集中しろ。

 できる限りのサポートをしてやる。

 だから、落ち着いてリラックスして行け。

 それだけ言いたかった。通信終了』

和紀は、一方的にそれだけ言うと通信を

切った。

 

それでも……。

『ありがとう、和紀君』

 

みほは周りに気づかれる事無く、頬を赤く染め、

緊張とも違う胸の高鳴りを隠すように、

胸の前で両手を抱くのだった。

 

 

そして、『彼』も……。

 

『伝説と言われたナンバーズが1人。

 その教え子たち。強敵ですわね』

ダージリンはチャーチルの中で密かに

警戒心を強めていた。

伝説の兵士の教え子だ。素人でも、警戒

すべきだと言うことは分かる。

 

すると……。

『ご心配には及びません、ダージリン様』

通信機から智の声が聞こえてきた。

「どう言う意味かしら?フォートレス」

『ダージリン様達は敵戦車にのみ、集中して

 下さい。……以前話したように。我々は

 敵タイタン部隊と戦いながら、ダージリン

 様達を守ります。……私にも、フォートレス

 の異名を持つに至ったプライドがあります。

 そのプライドに賭けて、必ずやお守り

 いたします』

 

それは、智が『フォートレス』の異名を持つ

に至った覚悟。『仲間を守る』という覚悟の

現れだった。

その言葉を聞き、ダージリンはしばし驚いた後……。

 

「ならば、頼みましたよ?フォートレス」

笑みを浮かべながらそう呟いた。

『はっ。必ずや』

 

これまで交わることなどなかった2人。

だが、そのやり取りはまるで、

『女王』とそれに『仕える騎士』の

やり取りのようであったと、周囲の

者達はのちに語った。

 

 

そして……。

 

『試合開始っ!』

 

そして聞こえる審判からの、開戦を告げる声。

 

その合図と共に、鋼鉄の獣、戦車たちが音を

立てて走り出した。その後ろに続く鋼鉄の

巨人、タイタン達。

 

 

今、史上初の戦車&タイタンの、新旧の

陸の王者たちを操る少年少女達の

戦いが始まった。

 

     第5話 END

 




次回はバトル回です。
個人的には、原作と違う終わりにしようかな、って思ってます
のでご期待下さい。

感想や評価、お待ちしてます。


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第6話 史上初の戦い 中編

今回はVS聖グロ編の中編です。
次回には決着つくと思います。


試合開始の合図と共に動き出した大洗と

グロリアーナ。

 

戦車が走り、その後ろをタイタンが付いていく。

ついに始まった試合。しかし……。

「あの~、それでどうするんでしたっけ~?」

通信機から聞こえる、1年生チーム、

『宇津木 優季』の声を聞き、タイタンに

乗るパイロット3人は内心、『おいおい』と

思って居た。

 

更にみほの説明を聞いても、『大野 あや』は

「そうなんだ~」と呟いていた。つまり、

先ほど説明した、と言うみほの話を殆ど

聞いてなかったと言っても過言ではない。

 

『おいおい。大丈夫か1年連中は』

それを後ろで聞いていた和紀は内心呆れを

感じていた。

明らかに空気が緩すぎる。戦闘に対する

危機意識など皆無にも思える声色。

 

『これで勝てたら、ほぼ奇跡だな』

そう、彼は考えながらアトラスを走らせた。

 

「なんか作戦名ないの~?」

その時聞こえた杏の声。

「え?え~っと、作戦名は……」

と、みほは迷った後。

 

「か、和紀君?何か良いアイデア、ない?」

と通信機で和紀に聞いてきた。

「俺かよ。あ~。俺達の最初の戦い

 なんだから、始まり、出発点。 

 ……あぁ、適当だが、SP、なんて

 どうだ?」

「SP?」

「あぁ、Starting Pointの頭文字を

 取った。どうせ作戦名なんて、大した

 意味を付けても相手に悟られる

 だけだからな」

みほにそう説明する和紀。

 

結果は……。

「うん。じゃあ、SP作戦で行きましょうっ!」

こうしてとりあえず作戦名は決まった。

 

そして当初の予定通り、みほ達Ⅳ号が敵の

偵察をすることになり、それには和紀も同行

していた。

アトラスは大きく、タイタンの足音は響き

安いので、和紀だけがⅣ号の車体に掴まる

形で同行したのだ。

 

岩場の影から向こう側、平地を走る5輌の

戦車と3機のタイタンを確認する和紀、

みほ、優花里の3人。

 

そしてみほの目から見ても、グロリアーナ

の練度の高さは分かった。それほどまでに

優れた操縦技術がある事が、相手の練度の

高さを物語っていた。

 

「どうする?ここからなら、俺のチャージ

 ライフルでも1輌くらいならやれるかも

 しれないぞ?」

「え?出来るの?」

首をかしげるみほに、和紀は背負っていた

チャージライフルを取り出し構えた。

 

「こいつは対タイタン用のビームライフルだ。

 現行戦車の装甲くらい、余裕でぶち抜ける

 出力だ。当然、命中しただけで撃破 

 扱いは免れない。……最も、周囲のイオン

 が当てさせてくれれば、の話だがな。

 どうする?」

彼の発言にみほは迷った後……。

 

「ううん。止めておこう。まだ作戦の

 準備も出来てないし」

「……了解した」

みほの言葉を聞き、彼はチャージライフルを

収めた。

 

そしてみほと優花里は戦車へ。

和紀はⅣ号の車体の上に掴まった。

「アトラスはオーガ、ストライダーに同行。

 トラップポイントで待機だ」

『了解。部隊に追従します』

 

タイタンは搭載されたAIによってある程度

パイロットから自立して活動する事が

出来る。なので、パイロット搭乗時と

比べて戦闘効率の低下があるが、

こう言ったように別れて活動する事が

出来るのだ。

 

そして、作戦通りⅣ号が単独で囮を開始。

奇襲として一発、砲弾を発射したが外して

しまった。そのまま逃走を開始するⅣ号と

それを追うグロリアーナの戦車チームと

タイタン達。

 

「……どう見ますか?」

『囮ですね』

ダージリンが智に通信を開けば、彼はそう

即答した。

『おそらく、こちらを向こう側の有利な地点

 に誘い込んでの包囲戦。確か、事前に

 確認した地図データによれば、あの

 方向にはY字型の、アンブッシュに

 適した地形があります。恐らくは、

 そこでの待ち伏せをしている可能性が

 高いかと』

 

パイロットは戦闘のプロフェッショナルだ。

事前に地形を観察するなどは当然するし、

あらゆる可能性を考慮に入れておく。

例えば、『この地形は待ち伏せに適している』、

と言った事を事前に警戒しておく。

それ故に、大洗側の戦術はバレバレで

あった。

 

「では、それに掛かった振りをしましょうか。 

 全車、適時砲撃。ただしタイタン部隊は

 あくまで随伴という形で」

『よろしいのですか?我々イオン級の

 レーザーショットなら、あんな戦車

 一撃ですが?』

ダージリンの言葉にそう問い返したのは、

智や啓吾と同じ、聖ゲオルギルスの

1年パイロットであり、ホロパイロット

使いの『春日井 将(まさる)』だ。

 

パイロットであれば、チャンスを逃すと言う

のは論外中の論外だと教えられてきた。

そして今、戦力差は戦車5輌+タイタン3機。

相手は戦車1輌。しかも今は一本道を

逃げている所だ。タイタン3機が狙えば、

余裕で蜂の巣だ。

 

「それも手の内の1つですが、いくらなんでも

 弱い者いじめが過ぎますわね。それに、

 敢えて策に乗り、嵌まったと見せかけ

 て倒す事も出来ますし」

油断をしていないとはいえ、彼女達は

騎士道精神を重んじる。故に、この場で

タイタン達にⅣ号を撃破しろ、とは

命じない。そして彼等はあくまでも

戦車道の試合に参加している身だ。

なので最終的な決定権は戦車チームの

隊長であるダージリンにある。

 

『了解しました。では、我々は防御に

 徹します』

「え?」

ダージリンが、智の言葉の意味が分からず

首をかしげた、その時。

 

突如として智のイオンが戦車達の間から

スラスターを使って車列の前に出た。

そしてその左手からヴォーテックスシールド

を展開し、直後、放たれた光線を捉えて

無力化した。

 

「ちっ!防がれたか」

それはⅣ号に乗っていた和紀のチャージ

ライフルによる狙撃だった。

 

そのまま和紀は、何とかチャージライフルを

撃つが、智に続いて前に出たイオン部隊の

ヴォーテックスに阻まれてしまった。

とは言え、聖グロの戦車チームも、自分達の

前にイオンがいるので発砲は出来ずにいた。

 

「和紀君っ!」

「このまま俺のチャージライフルでやれる

 だけやってみるっ!お前達は前だけ見て

 走れっ!」

みほの言葉にそう返す和紀。

「分かったっ!気をつけてねっ!」

そう言うと、みほは車体の中へと戻った。

そして和紀は、視線を後方の敵チームへと

向ける。

「さぁ、来い……!隙を見せた瞬間、

 こいつでぶち抜いてやるっ……!」

 

そう言いながらも、和紀は牽制のレーザー

を放ち続ける。

 

『防御を怠ればまず間違い無く戦車チームが

 狙われます。我々がこのまま防御を』

一方戦っている智達も、ダージリン達を

守る為に今はヴォーテックスシールドに

よる防御に徹していた。

「えぇ。お願いしますわ」

 

そして彼女も、防御を解いた瞬間に和紀が

狙って来る事は目に見えていたので、そう

返した。

 

そうして、彼等が追走撃を繰り広げていた頃。

 

アンブッシュ地点では……。

 

「先輩」

「何だ?明弘」

今、2人のタイタンは、Y字の崖の上。

ちょうど戦車部隊の待ち伏せ地点から見て

前方、左右の崖の上の岩場の影に隠れていた。

戦車部隊から見て右側の崖にオーガ。

左側の崖にストライダー、と言う形で

配されていた。

のだが……。

 

「俺のストライダーのカメラアイが変

 なんすかねぇ。幻が見えるんすよ。

 女子達がバレーしてたりトランプ

 してたり。生徒会長に至っては、

 なんすかあれ?デッキチェア

 持ち込んで寝てますよね?俺の 

 ストライダー昨日整備したばっかり

 のはずなんすけど、もう壊れたかな?」

「壊れないぞ明弘。お前のストライダーは

 正常だ。……俺にも同じ様子が見える」

 

岩陰で待機し、いつでも臨戦態勢の2人。

 

一方で、『ゆるい』どころではない気の緩み

が滲み出ている大洗戦車部隊の女子達。

「……これで勝てたら奇跡っすね」

「同感だ」

ポツリと呟く2人。

 

と、その時。

『Aチーム、敵を引きつけつつ、待機地点に

 あと3分で到着します』

そこに届いたみほ達からの通信。

「来た来たっ!」

その通信に、明弘はメットの下で笑みを

浮かべ、ストライダーの武装、『XO―16

チェインガン』を構えさせる。

「……」

央樹も無言でオーガの武装、『4連ロケット』

を構えさせた。

 

しかし、一方で戦車チームの、特に1年生

チームの動きはトロい。

そしてその状況は、通信機越しに聞こえる

1年生たちの声で分かってしまう和紀。

 

既に、追走撃は和紀がチャージライフルに

よる狙撃を止めた事もあり、戦車とタイタン

の位置を入れ替え、戦車による攻撃が

続いていた。後ろのイオン3機は周辺からの

奇襲を警戒しているのか、左右や後方に

気を配りつつ戦車チームに続いている。

 

『念のため、警告しておくか』

後ろを警戒しながらも、そう考えた和紀は

無線を開いた。

 

「全員に通達。現在目標は、戦車チーム

 を先頭に、その後方にタイタン3機が

 展開中。Ⅳ号Aチームとの距離は

 約250メートル。出口から出てくる

 1輌目は俺達だからな?間違っても

 撃つんじゃないぞ?」

そう言って念押しする和紀。

 

そして彼は通信を切り替え、央樹と明弘に

繋いだ。

「2人とも、準備は?」

『OKっすよ!』

『あぁ、問題ない。それと、お前の相棒は

 ここで待機中だ』

央樹から送られてくる愛機の座標データ。

 

「了解です。では、手筈通りに」

 

そして、Ⅳ号が入り口に現れると……。

 

「撃て撃てぇっ!」

桃が叫び、4輌から砲弾が放たれた。

「うわっ!?」

これには驚き声を上げてしまう和紀。幸い

周囲に着弾しただけで命中弾は出なかった。

だが……。

 

「馬鹿野郎っ!味方に向かってぶっ放す

 奴がどこにいるっ!さっき言ったろうがっ!」

彼はたまらず、無線機に向かって怒鳴った。

『ちっ!これだから素人はっ!』

 

そして和紀は心の中で、戦車チームの練度の

低さに舌打ちしていた。

彼はⅣ号が坂を登っている間にグラップルで

Ⅳ号を離れ、崖上に待機していた相棒、

アトラスに乗り込んだ。

 

『パイロット搭乗。操縦権を移行します』

そしてすぐにアトラスの40ミリ

キャノンを構えさせる。

 

そして、戦車チームが入り口を突破したその時。

『今だっ!』

央樹からの指示で、崖の淵の岩陰に隠れていた

3機のタイタンが崖上から一斉に射撃を放った。

 

『ッ!敵襲っ!』

もちろんイオン3機も咄嗟に反応して

シールドを展開する。だが……。

 

『『『ドドドドォォォォォォンッ!!』』』

弾丸やロケットが命中したのは戦車チーム

とイオン達3機の、僅かな間だった。

 

『外した?いや、そんなバカな』

智はすぐさま考えを巡らせる。

 

相手は伝説と詠われたラスティモーサの教え子たち。

この程度の距離で外すのはおかしい。

ならば攻撃する事が目的ではない?

では別の目的があるのか?

 

僅か1秒の中でそう考える彼の目に、周囲

に立ちこめる砂煙が映り、そしてそれが

彼に答えを教えた。

 

『ッ!?』

「全機近接戦闘用意っ!」

『『ッ!?』』

智の言葉に2人の間に緊張が走る。

「敵はっ!」

 

相手の目的を智が叫ぼうとしたその時。

 

『ゴゥッ!!!!』

 

最初の攻撃で出来た砂煙を破って現れた、

重量級タイタン、オーガ。

そして勢いに乗せたその巨体の体当たりは、

3番機、将のイオンに命中した。

 

『ドガァァァンッ!』

「ぐあぁぁぁっ!」

突然の体当たりに驚き、対応出来なかった

将のイオンは数メートルを吹き飛ばされた。

 

「ッ!将っ!」

咄嗟に啓吾のイオン、2番機が背中のレーザー

ショットでオーガを攻撃しようとした。

 

『ヒュンヒュンッ!』

「っ!?」

そこに横合いから飛んできた銃弾が装甲を

覆う、シールドに命中し啓吾は咄嗟に

ヴォーテックスシールドを展開して攻撃を

防いだ。

 

オーガに次いで、別方向から飛び出してきた

のはストライダーだ。それが啓吾のイオンに

襲いかかった。しかしストライダーは

イオンがシールドを展開した時点で射撃を

中止。スラスターを吹かしてその懐に

飛び込んだ。

 

「ッ!こいつ接近戦をっ!」

「さぁてっ!お手並み拝見っ!」

驚く啓吾と、メットの下で笑みを浮かべる明弘。

しかし啓吾も3年のパイロット候補生。

すぐさま気持ちを切り替え、ライフルを

背面腰部のマウントラッチに固定すると、

両手をフリーにして、拳を振りかぶった。

 

振るわれる拳が轟音と共に空を切る。

明弘のストライダーは更にスラスターを

吹かしてこれを回避する。

右サイドに回り込んだストライダーの蹴りが

イオンの膝に命中し、その膝を地に着かせた。

 

「もう一発!」

「甘いっ!」

振るわれるストライダーの右拳。しかし

啓吾のイオンはそれを右腕で振って

払いのける。払われたパンチがイオンの

頭上を通過する。

「ここだっ!」

更に立ち上がりながら左肩のレーザー

ショットを放つが……。

 

「残念っ!」

回復したスラスターによる回避で、それを

避ける明弘のストライダー。

 

「ちぃっ!やはり第1世代とは言え、軽量級!」

「速さだけなら、第2世代の中量級に

 だって負けないってのっ!」

そう言って、ハイレベルの近接戦を展開する

ストライダーとイオン。

 

回避重視のストライダー。カウンターを狙うイオン。

 

そのすぐ傍では、央樹のオーガがパワー

と重装甲でイオンを圧倒していた。

殴りかかっても受け止められ、殴り返すオーガ。

 

そして……。

「はぁっ!」

「くっ!?」

智のイオン、1番機に襲いかかった和紀の

アトラス。しかし相手はエース級の候補生。

飛んできたパンチを防ぐが、アトラスの

膝が地に着く。

 

両者ともに中量級。装甲も機動性もほぼ互角。

ならば、勝負となるのはパイロットの技量、

タイタンの操縦技術、そして、タイタンを

使っての格闘戦の経験値だ。

 

「おぉっ!」

「何っ!?」

和紀のアトラスがスラスターを吹かして

突進。智のイオンに、ラグビーのように

強烈なタックルをかます。

 

「ぐっ!?だがっ!」

しかしそれでもイオンは倒れず、組み

合わせた両手を振り下ろし、アトラスの

背中に叩き付けた。

「ぐあぁぁっ!」

地に倒れるアトラス。

 

「これでっ!」

トドメとばかりにその背中を踏みつけよう

とするイオン。

「させるかっ!」

しかし片足を上げていた事が仇となり、

もう片方の足をアトラスの手で簡単に

掬われてしまった。

 

「うっ!?」

バランスを崩して背中から倒れるイオン。

その隙に立ち上がるアトラス。

しかし智のイオンも負けじと立ち上がり、

すぐさま拳を構え、戦闘を再開した。

 

 

そして、その様子をモニター越しに見ていた

観客達は、巨神の名を持つロボット達の

ぶつかり合いに驚き、歓声を上げた。

 

スラスターが吹き荒れ、拳と拳が

ぶつかり合う。マイク越しに聞こえる

打撃音は鼓膜どころか魂まで震わせる

ほどの、熱いぶつかり合いの様子を

観客達に届けた。

 

元々、育成科同士の試合はシミュレーション

を使った物であり、一般人が目にする機会は

そうそう無い。

つまり、観客たちが、タイタン同士が生で

ぶつかり合うのを見るのは、殆どこれが

初めてなのだ。

 

男としての性か、男性の観客達の盛り上がり

は凄い。

だが、観客席となっている広場のすぐ近くに

あるモールの一角からモニターの様子を

見ていた青年達3人は、静かに、しかし

しっかりと戦いの様子を見守っていた。

 

「第1世代とは言え、あの動き。よほど良い

教官がいるみたいだな」

「ですね」

「タイタン戦は互角、か」

 

制服の一部に、『青い星に稲妻』が描かれた

校章を持つ彼等3人。しかし……。

 

「お?先輩、あれって」

1年生と思われる青年が、モールの別の場所を

指さした。先輩、と呼ばれた青年がそちらに

目を向けると……。

 

「あれは、プラウダの」

彼の視線の先には、1人の制服姿の青年が

居て、モールの一角から3人と同じように

モニターを見つめていた。

 

 

そう、今この場に集まっているのは、ただの

観客だけではない。各地各校の育成科の、

パイロットの卵達も集まっていたのだ。

3人が気づいていないだけで、その

青年以外にも、この試合を見ている者は

いる。

 

 

そして、そんな彼等の目からみて……。

 

『タイタン同士の戦闘は互角。だが、

 戦車チームの戦いは、酷い物だ』

 

それが、候補生達の目から見た、聖グロ

と大洗の戦車チーム同士の戦いの、

認識だった。

 

戦車チームの戦いは、一言で言えば

『酷い』、そのの一言に尽きた。

 

デタラメに相手に向かって砲撃を繰り返す

戦車。その砲弾は一発も当らず、周囲の

岩を吹き飛ばすばかりだ。

「みんなっ、落ち着いて……!

 作戦を第二段階へっ!」

みほはそう言って、無線で繰り返し指示を

出す。だが……。

 

「撃って撃って撃ちまくれぇっ!」

それを妨害しているのが、桃の叫びだ。

まくし立てるように無線に向かって叫び、

戦車チームの連携のための通信を妨害して

いると言っても良い。

更に1年生チームは、砲撃の振動と爆音で

恐れをなして戦車を放棄して逃げ出す始末。

更に生徒会チームの38(t)も履帯が片方

外れて動けなくなってしまった。

 

観客のパイロット候補生達からすれば、

もはやこれは試合ではなく、動いて反撃

してくる標的を的にした射的ゲームだ。

このままでは後数分で、大洗の戦車

チームは嬲り殺しにされてしまうだろう。

 

だが……。

 

「ちっ!?」

それに反応したのは央樹だ。戦車チームの通信は

彼等も拾っていたのだ。

彼のオーガは今、イオンを両手でねじ伏せていた。

腹ばいの姿勢で倒れたイオンを上から

押さえ付けている。

 

「戦車チームへっ!聞けぇっ!」

彼の怒号が響き渡り、桃もみほも、驚いて

口を閉じた。

 

「第1段階は失敗したっ!残っている車両は

 西住達のⅣ号に続いて戦線を離脱っ!

 市街地へ行けっ!Move!Move!!」

このままでは不味い、そう判断した央樹が

指示を出したのだ。

 

「ま、待てっ!私達はまだ戦え……」

「バカを言うなっ!」

桃の声を、怒号で制する央樹。

「左右を包囲され、二輌戦闘不能っ!

 このままで終わりだぞっ!各車聞けっ!

 今すぐⅣ号に続いて現時点を放棄っ!

 市街地に迎えっ!勝ちたければみほの

 指示に従えっ!

「「「りょ、了解っ!」」」

 

央樹の怒号に、生き残っていたⅣ号、Ⅲ突、

89式が動き出した。そして……。

 

「皆さんっ!」

みほが無線に向かって叫んだ。相手は

タイタンチームだ。

「和紀っ!明弘っ!」

「はいっ!」

「おうっすっ!」

 

央樹の言葉を合図に、3機は動き出した。

3機のタイタンは戦車チームを追って

駆け出した。

「っ!待てっ!」

それを見て将のイオンが咄嗟に追った。

「ッ!?待て3番機っ!下手に深追い

 するなっ!」

咄嗟に警告を出す啓吾。

 

すると……。

「置き土産にど~ぞっ!」

路地から飛び出したストライダーの機体

から煙が吹き出した。

「ッ!?電気スモークだっ!止まれ3番機!」

それが何なのか、分からない智ではない。

彼が咄嗟に警告すると、将のイオンは

咄嗟にスラスターを吹かして後ろに後退した。

 

「戦車チームへっ!そっちにタイタンが

 向かったっ!隠れろっ!」

智は咄嗟に無線で戦車チームに連絡をした。

「ッ!各車、急速後退っ!岩場の影に

 隠れなさいっ!」

ダージリンは咄嗟に指示を出し、大洗の

戦車チームを追おうとしていた各車を後退

させた。

直後、坂を正面から駆け上がってきた

ストライダーのチェインガンが火を噴き、

彼女達の戦車が隠れた岩を抉る。

 

しかし戦車を撃破するには至らなかった。

とは言え、だからといって足を止めては

後ろのイオン3機が追いついてくる。

ストライダー、アトラス、オーガの3機は

聖グロの戦車チームを牽制しつつ、大洗の

戦車チームの後に続いた。

 

荒野を抜け、森林地帯を走る沿道に出ると、

その上を走って市街地へと入った戦車と

タイタンたち。そして後方からは聖グロの

戦車チームとタイタン達が追ってくる。

 

しかし、みほ達にとってここは大洗の町は

庭のような物。それもあって戦車チーム

とタイタン部隊は聖グロと聖ゲオの部隊を

撒いた。

 

 

そして……。タイタン3機も周囲を警戒

しながら移動していた。

「明弘」

「はい。何ですか先輩?」

和紀は明弘に通信を繋げた。

 

「明弘、お前は戦車チームを援護してやれ。

 相手のタイタンは、俺と清水先輩で

 何とかする」

「良いんですか?」

「市街地ならアンブッシュも出来る。

 幸い、タイタンは屈めば何とか

 民家の影に隠れられる。

 それに、タイタンと戦えるのは、

 タイタンだけじゃないだろ?」

その言葉を聞いた明弘は、メットの下で

笑みを浮かべた。

 

「仰る通りで。ほいじゃ先輩方、

 俺は戦車チームの援護に行きます。

 ……くれぐれも、気をつけて」

しかし最後、普段の彼からは想像も

出来ないような、低く、どこか警戒心を

思わせる声が聞こえてきた。

そしてそれを最後に離れて行く、

明弘のストライダー。

 

「……行くぞ和紀」

「はい」

そして、2人もそれぞれの敵を倒すべく、

動き出した。

 

 

一方、ダージリンと智達は、それぞれ共に

動いていた。

智のイオン、1番機がダージリンの

チャーチルに随伴し、残りの2人もそれぞれ

マチルダに随伴しながら周辺を警戒していた。

 

彼等、彼女等も、ここが大洗チームの

ホームグラウンドである事は知っていた。

それゆえに地の利は相手にある。どこに

何があるのか、どこが奇襲に適している

のか。それゆえに警戒心も強い。

 

だが、やはりと言うべきか。戦車チーム

とパイロット達の間には、どうしても

『温度差』が出てしまう。

初戦で相手の戦車チームの、練度の低さ

を知っていた彼女達だったが、それ故

油断してしまう。

 

そして、それが命取りとなる。

 

1輌の戦車が、市街地をゆっくりと走行し

ながら周囲を警戒していた。

だが……。

『バシュゥッ!!』

 

「えっ!?」

突如として後方から聞こえた音。直後。

戦車の車体の一部が溶解、赤熱化した。

そしてそれによって撃破扱いとなり、

車体から白旗が上がる。

車長を務めていた女子は訳も分からず

困惑していた。

 

そして、彼女はすぐさま通信を繋いだ。

『こ、こちら4号車!申し訳ありませんっ!

 謎の攻撃を受け撃破されましたっ!』

「ッ!?」

この報告を聞いたとき、ダージリンは

驚き、危うく手にしていたカップを

落としそうになった。

 

そして通信はタイタン部隊の智たちも

聞いていた。

「こちらタイタン部隊の智だ。攻撃を

 受けた際、周囲に戦車やタイタンの

 姿は見なかったか?或いは、何か音を

 聞かなかったか?」

『え、え~っと、音、と言えば、何か

 ビームの発射音のような』

 

「ビーム、か」

智はすぐさま敵タイタンの兵装を思いだし、

彼等がビーム兵装を持っていない事を

確認した。

「敵タイタンにビーム兵装はない。

 となると、パイロットによるチャージ

 ライフルを使用しての狙撃、か」

 

智の読み通り、聖グロの4号車を撃破した

のは、建物の影に潜んで居た明弘の

チャージライフルによる狙撃だ。

「ダージリン様。今すぐ展開している

 戦車を合流させてください。このまま

 では各個撃破される可能性があります」

「1箇所に集中するの?それだと包囲される

 可能性があるけど?」

「はい。それは重々承知です。……ですが、

 兵士として高いレベルにあるのは敵の

 タイタン部隊だけです。戦車チームの

 練度は初心者のそれです。なのでしっかり

 とした防御陣を形成し、向かって来たのなら

 叩く。来なければ、敵タイタン部隊を仕留めた

 あと、我々が敵戦車部隊を叩きます」

 

「……分かりました」

ダージリンは、しばし悩んだ。

戦車とタイタンが戦うと言うのは、

例えるならナイフを持った子供が銃を持った

軍人と戦うような物だ。十中八九、子供が

負ける。

つまり、一方的なワンサイドゲームに

なりかねないのだ。騎士道による正々堂々を

重んじる彼女達からすれば、品のない試合に

なってしまいそうだが、しかし、その

ワンサイドゲームは『聖グロの戦車チーム

と大洗のタイタン部隊にも』言える事だ。

 

つまり、歴戦の経験者である彼女達でさえも、

敵タイタンチームから見ればナイフを持った

子供と同じ。余裕で倒せる相手という訳だ。

だからこそ、ダージリンは智の提案に同意した。

 

「各車、私たちの位置は分かりますね?

 こちらに集合し、防衛に専念します」

無線に呼びかけるダージリン。すぐさま

各車長から返事が届く。

 

「……よろしいのですか?」

そう問いかけてきたのはオレンジペコだ。

「仕方無い、では納得出来ないのは事実。

 ですが、相手のパイロットは、かつての

 戦争の英雄の教え子。あなたも

 ナンバーズの事は聞いたことがあるでしょう?」

「はい。かつての対テロ戦争、オペレーション

 フリーダムで、驚異的な戦果を上げた、

 10人のパイロット。それがナンバーズ」

「その教え子というだけで、油断は 

 出来ませんわ。現に、1輌がその攻撃で

 撃破されています。……油断大敵、

 と言う事でしょうね」

 

彼女達が敵のパイロットを舐めていた訳

ではない。

しかし、敵のパイロットである和紀達が、

それも単独で戦車チームに対して仕掛けて

来る事が、予想外だった。

彼女達も事前にパイロットについて、ある程度

は勉強していた。だが、だからといって

パイロットの行動が読める訳ではない。

 

彼女達もパイロットと戦うのは、この試合が

初めてなのだから。

それ故にその行動を読む事が出来ずに、

結果1輌が撃破されてしまった。

 

「パイロット。……いかに卵と言えど、

 その実力は既に完成された兵士と

 言っても過言ではない、と言う事ですか」

ポツリと呟くダージリン。

 

そうこうしている内に、索敵のために周囲に

分散していた残り3輌のマチルダとイオン

2機が合流し、周辺警戒を始めた。

 

と、その時。

『ズズン……ズズン……』

智の耳に、こちらに近づいてくる音が届いた。

そしてそれはつまり……。

 

「敵襲ッ!敵タイタン接近中!」

彼はすぐさま無線に向かって叫んだ。

それだけですぐさま啓吾と将は周囲を警戒する。

加えてダージリン達も即座に戦闘態勢に入る。

これは、流石に戦車道経験者と言った所だ。

 

そして……。

『バッ!!!』

建物の影からオーガとアトラスが現れ、突進

してきた。

 

「敵タイタン確認!アトラスとオーガだ!」

智の叫びに答えるように、彼のイオンと残り

2機のイオンが建物を遮蔽物にしてスプリッター

ライフルを構える。

 

だが、それでもオーガを先頭に突進してきた。

 

次なる戦いは、市街地戦。

 

戦車とタイタンの、史上初のタッグマッチは、

まだまだ終わらない。

 

     第6話 END

 




って事で、聖グロ戦は次回で終わらせる、予定です。

感想や評価、お待ちしてます。


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第7話 史上初の戦い 後編

今回は戦闘描写なんなりで長くなります。


序盤の戦いにおいて、タイタン戦は互角。

戦車戦は終始相手の聖グロに圧倒される形

となった大洗と聖グロの戦い。

 

しかし大洗チームは地の利がある大洗町の

市街地に逃げ込む事で一旦は聖グロチームを

撒くことに成功。そんな中で奇襲をしかけた

明弘の狙撃で聖グロの戦車一輌を撃破。

 

奇襲を警戒した智はダージリンへアドバイス

を出し、部隊を集結させた。

 

そして、そこにアトラスとオーガが襲い

かかって来た。

 

「北側より敵タイタン2機が接近中!」

その敵襲に、隊長である啓吾が対応する。

「1番機3番機!俺を基点にフォーメーション

 アローヘッド!」

「「了解っ!」」

 

啓吾の指示に従い、イオン3機が、啓吾の

2番機の後ろ、左右に展開。3機で三角形を

描くように布陣する。

 

対してアトラスとオーガは、オーガを先頭に

縦一列に並んで突き進んでくる。

 

「まずは前方のオーガだっ!奴のパワーと

 重装甲は厄介だっ!先に潰すぞ!」

「「了解っ!!」」

 

啓吾の判断に従い、スプリッターライフルを

構えるイオン3機。

 

彼の判断は正しい。オーガは重量級で、

パワーは第1世代とは言えイオンを超える。

接近戦に持ち込まれれば、まず間違い無く、

ボッコボコにされる。

だがオーガは重量級らしく足が遅い。

だから接近される前に、射撃で撃破しようと

するのは間違っていない。そして何より

イオンにはヴォーテックスシールドが

あるのだから、射撃のアドバンテージ自体

はイオン側にあった。

 

『『『ドドドドドドドッ!』』』

放たれる光弾の雨。

だが……。

 

それもオーガが展開した『青い渦巻状の

シールド』、つまりヴォーテックスシールドに

よって防がれてしまった。

 

「ッ!?奴もヴォーテックスシールドか!」

啓吾が忌々しげに呟く。

 

 

現在世界各地で運用されている第2世代の

タイタンに対して、アトラス達第1世代と

BT、つまりバンガード級の第3世代は、ある

一点において勝っている点がある。

 

それは、タイタン用兵装を任務に応じて

付け替える、言わば装備の換装が出来る事だ。

 

第2世代のタイタン達は、戦闘で使用する

武装を予め決定されており、基本的に

他機種の武装を使う事は推奨されていない。

 

対して、第1世代のタイタンとバンガード級は

状況に応じて武器を換装出来るようになって

おり、状況に合わせて武装を交換できる。

この武器交換という汎用性においては、

第2世代は、第1世代やバンガード級の

タイタン達よりも劣っているとも言える。

 

これは第2世代タイタンが、部隊での運用を

考えて設計されているからだ。それぞれに

与えられた長所を生かすための事だが、

それ故に、器用さ、運用の柔軟さと言う意味では

第1世代のアトラス達に軍配が上がる。

 

そして、だからこそオーガは、イオン達と

違ってヴォーテックスにエネルギーを割ける

のだ。

何とかイオン3機からの射撃でオーガの

ヴォーテックスシールドをオーバヒート

させて一時使用不可まで追い込んだが、

その時には既に近距離まで近づかれていた。

 

「和紀っ!」

「はいっ!」

 

央樹の合図に答え、和紀のアトラスがオーガ

の後ろから飛び出し、転がって建物の影に

隠れると、そこから上半身とキャノン砲だけ

を覗かせ、狙うは纏まっていた聖グロの

戦車チーム。しかも今和紀が狙っているのは

ダージリンの乗るチャーチルだ。

 

「ッ!?狙いは戦車かっ!」

それに気づいて智は咄嗟にアトラスと聖グロ

戦車チームの間にイオンをスラスターで

割り込ませ、ヴォーテックスシールドを展開

した。

 

放たれたセミオートキャノンの炸裂弾が

シールドに捕らわれふわふわと浮かぶ。

「ちっ」

和紀は小さく舌打ちをすると素早く建物の

影にアトラスを屈ませた。

 

直後にイオンのシールドが解除され、

戻ってきた砲弾が、アトラスの隠れていた

建物に命中し爆発、半壊させてしまう。

 

「やっぱりフォートレスの異名は伊達じゃ

 無いかっ!」

「俺の防御を抜けると思うなよっ!」

アトラスとイオンの中で叫ぶ和紀と智。

 

一方、和紀と同じように建物の影に

飛び込んだオーガが、肩から無誘導のロケット、

『ロケットサルヴォ』が横薙ぎに放たれ

将と啓吾のイオン、更にその近くにいた

マチルダ1輌に向かってくる。

 

「くっ!」

咄嗟に将がイオンのヴォーテックスで

サルヴォを受け止めたが、逸れたロケット

が民家に命中し爆発。辺りに煙りが立ちこめ、

タイタンと比べて視認性の低い戦車はこれだけ

で周囲の状況が分かりにくくなる。

 

「奴ら、最初に戦車チームを潰すつもりかっ!」

啓吾は和紀達の狙いを察し、オーガに攻撃させ

まいと牽制のスプリッターライフルを放つ。

咄嗟に建物の影に隠れるオーガ。

 

と、その時。

 

『ガガガガガガッ!』

「ぐっ!?」

啓吾のイオンに背後から衝撃が走った。

咄嗟に振り返りながらヴォーテックス

シールドを展開する啓吾。

 

見ると、背後から明弘のストライダーが

接近してきていたのだ。

「くっ!将っ!ストライダーだっ!こいつは

 俺がやるっ!お前はオーガを頼むぞっ!」

「り、了解っ!」

 

これでタイタンは再び3対3だ。

 

啓吾はヴォーテックスで受け止めた

チェーンガンの銃弾を跳ね返す。しかし

明弘のストライダーもスラスターを

吹かして建物の影に飛び込み、これを

避けた。

 

そうして始まるタイタン同士の銃撃戦。

いや、砲撃戦。

 

オーガのロケットが住宅街諸共爆撃し、

チェーンガンが穴を開け、キャノンが

壁を吹き飛ばし、イオンのライフルが

建物や壁を燃やしていく。

 

そして、そんな砲撃戦の中で戦車たちはと

言えば、タイタン達に踏み潰されない

ように味方タイタンの後ろで待機する事しか

出来ない。

 

そもそも最高速度で言えばタイタンよりも

戦車の方が速い。だが、それは平野部など

の場所に限る。市街地での戦いならば、

機動性で言えばタイタンの方がその柔軟性

から戦車よりも素早く動ける。

 

更に高い身長と上半身に集中する武装から

タイタンは戦車に対して、撃ち下ろしが

出来る一方、この市街地では戦車が

動き回るタイタンを狙って砲撃するのは

色々無理があった。

 

 

「歯痒い物ですわね。私たちも、支援の

1つでも出来れば……」

ダージリンのチャーチルは家屋の影に

隠れていた。そんな中で、砲声を聞きながら

僅かに眉をひそめるダージリン。

 

と、その時。

『ドゴォォォォォンッ!!』

 

彼女達の戦車の近くに砲弾が落下し爆発した。

『流れ弾?』

ダージリンは、最初そう考えた。近くで

タイタン合計6機が砲撃戦を繰り広げて

いるのだ。まして相手側の大洗タイタン部隊

は実弾兵装。だからこの爆発に対して

ダージリンは最初、そう考えた。

 

しかし直後に、『ある事』を失念していた

自分に内心怒りを覚えながら無線機に

呼びかけるダージリン。

 

「各車、すぐさま周辺を警戒しなさい。

 周辺に大洗の戦車部隊が潜んで居る

 可能性があります」

 

ダージリンの指示に従い、すぐさま

見える範囲で索敵を行う各車の車長。

すると……。

 

「ッ!ダージリン様っ!敵の89式

 中戦車を発見っ!7時の方角ですっ!」

あるマチルダの車長の1人が、家屋の影

からこちらを狙う89式を発見した。

 

その報告を受けて、ダージリンは静かに

唇を噛んだ。

 

『私としていた事が、失念していましたわ。

 今はタイタンと戦車の混合試合。

 大洗のタイタン部隊に意識が行くあまり、

 戦車チームの事を忘れてしまうなど』

 

だがそれは仕方の無い事かもしれない。

何せ、タイタンと戦車が一緒に戦う試合など、

前例がなくこれが初めて。これまで敵の

全てが戦車という、言わば1つの種類に

限定されていたのに対し、この試合は

戦車とタイタンの双方に気を配らなければ

いけない。だが、最初からいきなりそれが

出来るのか?と聞かれれば首をかしげるだろう。

初めて、となれば出来ない事もある。

まして敵、つまり大洗戦車チームははっきり

言って、脅威と感じなかった。初戦で

ほぼ圧倒していた事が、逆に彼女達への

認識や注意を甘くしてしまった。

 

 

とは言え、それはダージリンに対して何の

慰めにも言い訳にもならない。

そして現状、聖グロの戦車チームの居る地点

から12時の方角ではアトラス&オーガが

イオン2機と戦闘中。

背後から奇襲してきたストライダーも、今は

彼女達から見て3時の方角で啓吾のイオンと

戦闘中だ。

 

そして更に7時の方角から現れた89式中戦車。

これで聖グロチームは、実質的に三方向から

囲まれた形になる。

『してやられましたね。奇襲対策として

 密集していたのが裏目に出た形となって

 しまった、と言う事ですか。ここは、

 現状からの脱出を最優先するべき。

 定石で行けば、唯一敵影の無い9時の

 方角へと移動するべき。ですが、相手も

 それを理解しているとしたら、伏兵を

 潜ませている可能性も。ここは……』

「各車、及びタイタン部隊の各員へ。

 戦車チームはこれより6時の方角へ

 転進。89式の攻撃を掻い潜り突破。

 現状の包囲網を離脱します。タイタン部隊

 は引き続き、敵タイタン部隊をお願い

 できますか?」

『了解しました。タイタン部隊はお任せを』

ダージリンの言葉に部隊長である啓吾が応える。

 

「各機っ!タイミングを見計らって牽制射っ!

 戦車チームを撃たせるなっ!」

「「了解っ!」」

啓吾の指示を聞き、スプリッターライフルの

弾倉をリロードしたイオン3機は、タイミングを

見計らい、攻撃に出た。

 

『『『ドドドドドドドッ!!!!』』』

放たれる光弾の雨に、オーガ、ストライダー、

アトラスは建物の影に隠れた。

「今ですっ!」

「各車、迅速に移動しなさい」

啓吾の言葉と、ダージリンの指示を聞いた

チャーチル、マチルダが動き出した。

 

「く、来るっ!アタック行くよっ!」

それに対して車長の典子の指示の元、89式が

砲撃を行うが、砲弾は空しく家屋に命中するか、

距離があるため装甲に弾かれてしまう。

更に……。

 

チャーチルが89式の前を通過する際。

『ドォォォォンッ!』

その主砲が火を噴き、89式に直撃した。

至近距離からの砲撃で車体が一瞬浮く89式。

そして一拍の間を置き、白旗が上がる。

 

「ご、ごめんなさいっ!Bチームやられ

 ましたぁっ!」

「分かりました。その場を動かないで下さい」

典子の通信を聞いて答えるみほ。

 

『やっぱりそっちに行かれちゃったか。

 でも、『予定通り』』

と、小さく笑みを浮かべるみほ。

 

そして……。

89式を突破した4輌が包囲網を抜けるため

とにかく前へ前へと走っていた。だが……。

 

『ドォォォンッ!』

最後尾を走っていたマチルダが、突如側面から

放たれた砲撃を喰らい撃破されてしまった。

「ッ!?」

慌てて後方を確認するダージリン。

「アンブッシュ、ですって」

 

彼女が呟くと、車高の低さを生かして

家屋同士の間に隠れていたⅢ突が家屋の

迷路の中に消えていく。

 

そう、みほはダージリン達が敢えて

89式の包囲を突破すると読んでいたのだ。

ちなみに、唯一空いていた9時の方角には

みほ達が待機していた。

 

「こちらCチーム!マチルダ1輌撃破っ!」

「分かりました。じゃあ、作戦を第2段階へ

 移行します。Cチームは、さっきお話しした

 場所で待機していて下さい」

「了解っ!」

Ⅲ突の車長であるエルヴィンと通信をし、

指示を出すみほ。

 

そもそも彼女は、ダージリン達が防御を

固めたのを、偵察に出ていた明弘から聞き、

更に和紀達と話し合って次の作戦を

決めた。

 

ただでさえ数も練度も不利な状況で、

彼女が考えたのは犠牲覚悟で相手の数を

とにかく減らす事だ。

 

和紀達は言わば、その作戦のための囮だ。

 

そして、マチルダ1輌撃破の報告は智達

にも届く。

「くっ!?将っ!お前は戦車チームの

 援護に行けるかっ!?」

通信機に向かって叫ぶ智。しかし……。

「ダメですっ!うぐっ!こっちも砲撃で

 釘付け状態ですっ!」

何とか央樹のオーガと撃ち合いながらも

叫ぶ将。

「先輩はっ!?」

「すまんがこっちもまだ掛かりそうだっ!

 こいつチョロチョロとっ!」

更に3年の啓吾も、速度を生かして

動き回る明弘のストライダーに苦戦していた。

 

イオンは、その性質上ヴォーテックスを機体

の前面にしか展開出来ない。なので全力で

移動するとなると、相手に防御の無い背面を

晒すことになる。そうなれば良い的だ。

 

「くっ!?なら、まずは目の前のこいつをっ!」

智のイオンがスプリッターライフルを放つ。

だが、アトラスも負けじと走り回りながら

キャノン砲で応戦してくる。

 

「みほ達の所へは行かせるかっ!」

 

そうして、男達はそれぞれの仲間である

少女達のために、戦う。

 

一方、更に1輌が脱落した聖グロ戦車チーム。

これでタイタンはお互い3対3。

戦車は2対3と言う展開だ。

だが、地の利は大洗側にあり、更に車高の

低いⅢ突は奇襲などにうってつけの戦車だ。

 

とは言え……。

 

『相手も、そうそう同じ手が通じる程

 素人じゃない。きっと、すぐに対策を

 講じてくる。進路を予想してⅢ突を

 配置する?ううん。先に見つかれば

 Cチームがやられる可能性もある。

 せめて、相手側を引っかき回せる存在、

 囮のような物があれば……』

 

そう考え、みほはハッチから体を

乗り出して周囲を見回していた時。

「……え?」

彼女の視界に、こちらに向かってくる

金色の車体が映り込んだ。

 

 

一方、包囲網を脱したダージリンは市街地を

慎重に、音を響かせないようにゆっくりと

索敵を行いながら移動していた。

「いかがいたしますか?ダージリン様」

オレンジペコは隊長である彼女に問いかける。

 

「……油断が無かった、と言えば嘘になって

 しまいますね」

「え?」

「大洗の戦車チームの事です。正直、相手の

 タイタン部隊の動きの派手さと初戦、こちら

 がほぼ圧倒していた事から、きっと私も

 心のどこかで彼女達を侮っていたのでしょう。

 私もまだまだですね」

そう言って苦笑を浮かべるダージリン。

しかし……。

 

「まぁ、だからといって負ける気はありませんが」

彼女は表情を引き締めながら、思考を巡らせる。

 

『幸いまだ数ではこちらが有利。敵タイタン

部隊は、彼等に任せるとして。私たちは

同じ敵戦車部隊に専念する他ない。

あと向こうで残っているのはⅢ号突撃砲と

Ⅳ号だけ。先に潰すべきは車高の低さなど

から奇襲や待ち伏せに長けたⅢ号。

ここは密集隊形のまま索敵前進しつつ

Ⅲ号を優先的に……』

 

と、その時。

 

『ドォォォォォンッ!』

 

彼女達の近くに砲弾が落ちた。

「ッ!?」

『仕掛けてきたっ!?まさか数の不利を

 覆すために!?』

練度や数の不利を補うために待ち伏せを

してくるだろうと考えていたダージリンの

考えが外れた。

 

すると、マチルダから通信が届いた。

『敵車両発見しましたっ!しかし、

 38(t)ですっ!あの金色のっ!』

その内容は、完全にダージリンの意識外

の物だった。

 

『そうでしたわね。38(t)は履帯を破壊した

 だけで完全に撃破した訳ではありません

 でしたわ。ならば……』

「各車、迎撃しなさい」

咄嗟に指示を飛ばすダージリン。

 

 

そんな中で……。

「見つけた見つけたぞぉっ!喰らえぇっ!」

桃は明らかに悪役がしそうな笑みを浮かべ

ながら引き金を引いた。

 

しかし放たれた砲弾はチャーチル達の傍の家屋

を破壊しただけだった。

「桃ちゃんここで外す?」

「桃ちゃん言うなっ!」

 

と、そんなやり取りをして居たのも束の間。

『『ドドォォンッ!』』

チャーチルを護衛していたマチルダ2輌に

より砲撃が、突撃して来た38(t)に見事

命中。

「や~ら~れ~た~」

これで38(t)も完全撃破となり、杏の

間延びした悲鳴が車内で響く。

 

突然の奇襲にも聖グロは驚く事無く

対応した。だが……。

 

『ドォォォォンッ!』

 

その時、38(t)が来たのとは全く逆の方向

から響いた砲撃音。

そして放たれた砲弾は、奇しくもチャーチル

を守る形となっていたマチルダ1輌に命中し、

これを撃破した。

 

慌てて背後を確認するダージリン。見ると、

近くの家屋の影にⅣ号の姿があった。

『まさか、味方を囮にっ!?』

 

今の攻撃は、38(t)を完全な捨て駒扱いにした

作戦だ。まさかの作戦に驚くダージリン。

 

ちなみにだが、今の作戦を思いついたのは

みほではない。

 

 

~~少し前~~

「えっ!?生徒会チームが生きてたっ!?」

和紀は相変わらず智のイオンと撃ち合いながら

みほからの通信を聞いていた。

『う、うん。それでこれから一緒に相手を 

 攻撃しよう思う。だから念のために

 連絡をと思って』

「了解したっ!こっちは今も絶賛撃ち合い

 の真っ只中だっ!」

通信機に叫びながら、建物の影から出て

キャノン砲をぶっ放すアトラス。

 

と、その時和紀はある事を思いついた。

 

「そうだみほっ!作戦を思いついたっ!」

『え?』

「38(t)を囮にするんだっ!どのみち、

 河嶋先輩の砲撃の腕じゃ相手に当てる

のは無理だっ!囮か壁役に使った方が

まだ役に立つだろうっ!」

と、(結構失礼な事を)叫ぶ和紀。

 

「う、うん。分かった。やってみる」

 

正直、みほは囮という単語にあまりいい顔

はしなかったが、戦闘のプロである和紀の

意見もあって、囮作戦を敢行。

見事相手の1輌を撃破したのだ。

 

これで、戦車もタイタンも、お互いに同数

となった大洗と聖グロ。

 

そして……。

「よしっ!和紀っ!明弘っ!ここから

 一気に状況を変えるぞっ!」

「「了解っ!」」

 

「将っ!先輩っ!奴らに動きがあります!

 警戒をっ!」

「「はい(あぁっ)っ!」」 

 

砲撃戦を繰り返していた6機のタイタン。

しかし、その膠着状態も終わりが来た。

 

まず、明弘のストライダーが啓吾のイオン

に突進していった。

 

「血迷ったかっ!」

啓吾はそう叫びながらイオンの必殺技、

コアアビリティを発動させた。

 

『レーザーコア、オンライン』

 

電子音声がコクピット内部に響き渡り、

カメラアイから三方に伸びる赤いレーザー

サイトが、レーザーコアの発動をストライダー

に知らせる。

 

そして……。

「やっぱりそう来るよねぇ!」

明弘は、温存していた電気スモークで自機、

ストライダーの機体を隠すと同時に、同じ

ようにコアアビリティを発動させた。

 

『ダッシュコア、オンライン』

 

そしてコアアビリティを発動したストライダー

は、驚異的な速度でもって市街地を駆け抜ける。

 

「ちっ!合わせて来たかっ!」

それを追うように放たれる赤熱の奔流、

レーザーが市街地を焼き払うが、しかし

追いつけない。旋回速度が遅いためだ。

ダッシュコア発動中のストライダーの

移動速度は、はっきり言って全タイタンと

比べてもぶっちぎりのトップだ。

 

そしてそのストライダーが向かった先が……。

 

「ッ!?将っ!そっちにストライダーが

 向かったぞっ!」

「えっ!?」

 

オーガと撃ち合っていた将のイオンの所

だった。

「こ、こいつっ!?」

 

『レーザーコア、オンライン』

 

咄嗟に将は機体を振り向かせ、レーザー

コアでストライダーを狙撃しようとした。

装甲の薄いストライダーならば、レーザー

コアで装甲値を削りきり、撃破扱いにする

事は出来る。

 

だが、それは妨害者がいなければ、の話しだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!!!」

『ドゴォォォォォォンッ!』

 

そこにスラスターを吹かして突進してきた

オーガのタックルが命中する。

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

吹き飛ばされ、倒れた将のイオン。そして

目標を外れて放たれたレーザーコアが、

無情にも空を切り裂くだけに終わって

しまった。

更に……。

 

「追い打ちさせてもらうよっ!模擬戦

 でも、俺等パイロットなら、これくらい

 当たり前だろぉっ!」

「悪く思うなよっ!」

倒れたイオンにオーガのロケットと

ストライダーのチェーンガン、更に

オーガのロケットサルヴォ、ストライダー

の『クラスターミサイル』が炸裂する。

 

タイタン2機による集中砲火。それは、

ただでさえ戦闘でダメージが蓄積されていた

イオンを撃破するには、十分だった。

 

『パッ!』

 

各部から煙を吹き出すイオンの一部から、

白旗が揚がりこれで撃墜判定となった。

 

「よしっ!これで1機撃破っ!」

明弘はコクピットの中で獰猛な笑みを

浮かべた。だが……。

 

「ちっ!こうなれば……!行くぞ!」

『了解。レーザーコア、オンライン』

智のイオンが、和紀のアトラスがリロードの

ために建物の影に隠れたタイミングでレーザー

コアをオンラインにした。

 

それに気づいた和紀は、身を乗りだそうと

していたアトラスを建物の影に隠した。

だが直後、彼は疑問に思った。

 

試合での使用を想定し、レーザーコアの威力

は実戦レベルよりもかなり抑えられている。

なので建物に隠れれば防ぐ事は出来る。

命中時にのみ、実戦レベルでの威力が

入った、と言う『想定で』タイタンや

戦車がダメージを負うように考えられている。

 

つまり和紀のアトラスが建物の影に隠れた

時点で、アトラスに向けてレーザーを撃つ

のは無意味に近い。よしんば牽制には

なったとしても、それではコアアビリティの

無駄遣いのような物だ。

 

そして、そこまで考え、和紀は相手の狙いを

察知した。

「明弘っ!先輩っ!逃げろぉっ!」

咄嗟に通信機に向かって叫んだ和紀。

 

「ッ!?」

「え!?」

咄嗟にヘッドスライディングのように建物の

影に隠れるオーガ。しかし明弘のストライダー

は対応が遅れてしまい、更に……。

 

『ダッシュコア、オフライン』

 

ダッシュコアが終了してしまった。そして……。

 

『ヴァァァァァァァァァァァッ!』

 

放たれた赤熱の奔流。それは……。

 

明弘のストライダーを捉えた。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?!?」

 

レーザーコアを受けて震えるストライダー。

そして将のイオンがそうであったように、

戦闘で少なからずダメージを負っていた

ストライダーは、数秒の照射を受け、撃破

扱いとなって全身から白煙を吹き出しながら

その場に膝を突いた。

 

「くっ!?明弘がっ!」

「やむを得ないかっ。和紀っ、少なくとも相手

 はこれでコアアビリティを使い切ったっ!

 一気に攻めるぞっ!俺は敵隊長機をやるっ!」

 

「了解っ!だったら、フォートレスは俺がっ!」

 

2人のタイタンが、猛然と駆け出した。

そして……。

 

『シールドコア』

オーガのコアアビリティが……。

 

『ダメージコア』

アトラスのコアアビリティが……。

 

『『オンライン』』

発動する。

 

「来るかっ!」

啓吾はオーガを迎撃する為にレーゼーショット

を放つが、それをヴォーテックスで防ぎ、

逆にロケットサルヴォや4連ロケットの

ロケット弾を放つ。

 

だが、イオンもそれをヴォーテックス

シールドで受け止め、オーガに返した。更に

進行方向上に設置式のトリップワイヤーを

設置するが……。

『ドドォォォォンッ!』

 

「ッ!?こいつっ!?」

オーガはそれらを機体のシールドで受け止め

ながらも前進をやめない。シールドコアの

アビリティでオーガのシールドは増加

している。だからこそ、こんな無謀な

前進も出来るのだ。

そして……。

「おぉぉぉぉぉっ!」

 

オーガの体当たりが啓吾のイオンに襲いかかった。

「ぐっ!?」

しかし、それでも啓吾のイオンはオーガの

タックルを僅かに後退りながらも受け止めた。

「そうそう何度も、倒されてたまるかっ!」

そして、左手でオーガを押さえ付けながら

右手のスプリッターライフルの銃口をオーガに

突き付ける。が……。

 

「ここからは、純粋な削り合いだっ!」

オーガもロケット砲をイオンに突き付けた。

そして機体が接触した事で、接触通信が

行われ、2人の声が通信機越しに聞こえる。

 

「この距離なら、シールドは使えまいっ!」

「ッ?!こいつ自爆覚悟でっ!?くっ!?

 負けるかぁぁぁぁぁっ!」

咄嗟にライフルの引き金を引く啓吾。

「こっちの、台詞だぁぁぁぁぁっ!」

 

『ドドドドドドドドッ!』

『ドドドドォォォォォォォンッ!!!』

 

爆炎がオーガとイオンを包み込む。

 

一方、アトラスとイオンは……。

家屋を盾にしながらもイオンと距離を詰める

アトラス。

と、その時。

 

『シールドエネルギー、残り30%を切りました。

 回避を提案します』

アトラスのアドバイスが和紀の耳に届く。

「いやっ!奴に時間を与えたらレーザーコアを

 また使われるっ!ここは、一気呵成に

詰めるぞアトラスッ!」

『了解』

 

アトラスは射撃を行いながらイオンと距離を

詰める。

「やはり接近戦で来るかっ!」

フォートレスの異名を持つ智の精密射撃が

ジワジワとアトラスのシールドを削っていく。

だが、トリップワイヤーを仕掛けようが、

アトラスはそれを破壊し今も前進を続ける。

 

「ならば……っ!」

近づかれる前にシールドを削り取ろうと、

智のイオンがレーザーショットの狙いを定める。

だが……。

 

「ここで使うっ!」

和紀は咄嗟に、防御アビリティの一つである

『パーティクルウォール』を展開。そして

直後にレーザーショットが放たれるが、これを

ウォールが完全に防いだ。

「っ!?まさか合わせたのかっ!?」

 

「伊達に、ナンバーズの教え子じゃないんだよぉ!」

和紀のアトラスがウォールを突き抜けイオンに

突進する。

そして、智のイオンはトリップワイヤーと

レーザーショットを使った事で、もう攻撃用の

エネルギーがほぼ残っていなかった。

 

そこに撃ち込まれるキャノンの砲弾。更に

放たれたミサイル、『スレイブド弾頭』が

着弾する。

『ドドォンッ!ドォンッ!』

「ぐっ!?」

イオンの周囲で炸裂する砲弾。

そして炸裂によって発生した砂煙が一瞬、

イオンの視界を覆う。

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

そして、それを超えたアトラスがイオンに

タックルをかました。

更に左腕をイオンの右脇の下に回し、その

右腕をロックし、そしてキャノン砲を腰部背面

に一旦マウントすると、右手でイオンのカメラ

部分を押し込んでいく。

 

更にスラスターを吹かしてイオンを押し込むアトラス。

民家に激突し破壊しようがそのまま突き進む。

 

「ぐっ!?ぐぅっ!?こいつっ!」

「こっちにも、負けらんない理由がある

 んでなぁっ!」

 

接触通信に向かって叫ぶ和紀。

 

「負けられないのは、こちらも同じだっ!」

だが、智もただやられっぱなしではない。

『ドゴォンッ!』

咄嗟に足でアトラスを蹴飛ばしたのだ。

 

「ぐぅっ!?」

蹴飛ばされ、吹っ飛ぶアトラス。だが

散々引き回された結果か、イオンを

蹴った反動でバランスを崩して倒れた。

 

しかし2人はすぐさま愛機の武装をチェック

し立ち上がった。

 

そして、すぐさま睨み遭う2人。

 

だが……。

 

「すまん智っ!やられたっ!」

直後智の耳に啓吾の報告が届いた。

すぐさま視線を巡らせる智。見ると、

かなり離れた場所で啓吾のイオンが白旗

を上げ、シールドの削り合いに勝利した

オーガが移動を開始していた。

 

「くっ!?まさか先輩がっ!」

『だがオーガの様子からして、もう

 ダメージは相当なはずっ!だがっ!』

今、智の前にはアトラスが居る。

下手に背中を見せればやられる。

それは智にも分かりきった事だった。

 

 

一方、みほ達とダージリン達の戦車チームは、

お互いの事を考え、動けずにいた。

みほ達は不意の遭遇戦を。

ダージリン達は待ち伏せを。

それぞれ警戒していたのだ。

この住宅街では、下手に移動すると至近距離

でばったり遭遇、なんてのもありえる。

しかしみほ達にはそれに対して咄嗟に

対応するスキルがあるかどうか怪しい。

一方のダージリン達は待ち伏せに適した

Ⅲ突を警戒して不用意に動けなかったのだ。

 

と、その時。

『ダージリン様っ!敵タイタンが1機、

 そちらに向かいましたっ!今すぐ退避をっ!』

出方をうかがっていた所に智から届いた

悲報とも言うべき報告。

「ッ。分かりました。各車、ここは一旦

 移動し、フォートレスのイオンと合流します」

「よろしいのですか?それだと、

 フォートレスと戦闘中のタイタンに

 狙われる恐れが……」

と、ダージリンに問いかけるオレンジペコ。

「それは最も。ですが、戦車のみでタイタン

 と戦うのは自殺行為に等しい物。違くて?」

「いいえ」

 

彼女の言うとおり、戦車2輌で倒せる程、

タイタンは弱くない。如何にダメージを

負っているとはいえ、だ。

ならば智のイオンと合流する、と言う考え方

は間違っていない。

 

そして、それはみほが読んでいた事だ。

『ドォォォンッ!』

「ッ!」

移動しようとしたチャーチルの近くに砲弾が

命中する。

 

そして、チャーチルとマチルダの移動を阻む

ように家屋の影からⅢ突とⅣ号が姿を見せる。

「無理に当てる必要はありませんっ!

 清水先輩のオーガが合流するまで、ほんの少し

 の時間稼ぎが出来れば大丈夫なのでっ!」

「了解っ!」

みほの指示にエルヴィンが答える。

「各車迎撃をっ!突破しますっ!」

対して、ダージリンも周囲に指示を出し、突破

を試みる。

 

『ドォンッ、ドォンッ!』

『ドォンッ!』

砲声が住宅街に響き渡るが、車体の半分以上を

家屋に隠しているⅣ号と、微妙に前進と後退を

繰り返して狙いを絞らせまいとするⅢ突。

 

『こうなったら、私達が盾になりますっ!

 その間にダージリン様達は突破して下さいっ!』

「……お願い」

 

時間が無いため、これ以上釘付けになるのは不味い。

そう考えた最後のマチルダの車長は、

ダージリンに無線でそう伝えると走り出し、

その後ろにチャーチルが続く。

 

そして、前進するマチルダは、Ⅲ突に向かって

突進すると激突。

 

「「ってぇっ!」」

直後、マチルダの車長とⅢ突のエルヴィンが

異口同音の叫びを放ち、そしてほぼ同時に

砲弾が放たれた。

 

『『ドドォンッ!』』

 

放たれた砲弾で砂煙が上がる。そして数秒して

煙が晴れると、そこには白旗の揚がった

マチルダとⅢ突の姿があった。

 

それでも何とかⅢ突を抜け、更にそのまま

Ⅳ号の前を通過するチャーチル。

「ッ!?抜かれたっ!?」

車長用のハッチから身を乗り出しながらも

驚くみほ。

「このまま、フォートレスとの合流を」

 

そして、ダージリンが指示を出そうと

した、が……。

 

『ドォォォンッ!!』

直後、チャーチルの至近距離にロケットが

続けて命中した。

 

「くっ!?」

ガクガクと揺れるチャーチルの車内で、

ダージリンが手にしていたカップが

滑り落ち、カップが床に落ちて割れて

しまう。

 

そして、それと同時にチャーチルからも

白旗が揚がった。

 

みほはロケットが飛んできた方向へと目を

向ける。そこに立っていたのは、既に

ボロボロながらも毅然とロケット砲を

構えたオーガだった。

 

『これで、戦車部隊は全滅だ』

無線機を通して聞こえる央樹の声にみほが

安堵した、その時。

 

『ビシュゥッ!』

 

「ぐぅっ!?」

 

オーガの背中に、レーザーショットが命中し、

そしてそれによって限界を迎えたのか、

オーガが地に膝を突き、白旗が揚がる。

 

慌てて視界を巡らせた、彼女の視線の先

には、Ⅳ号を見つめる智のイオンの姿が

あり、そしてイオンの構えるライフルが

Ⅳ号を狙っていた。

 

慌てて車内に戻ったみほ。するとそれを

合図にするかのように、高温の光弾数発が

Ⅳ号に降り注ぎ、そして、それによってⅣ号は

撃破扱いになったのだった。

 

これで、残ったのはお互いタイタンが1機ずつだ。

 

 

数分前、智のイオンと和紀のアトラスが睨み

あっていた。

 

だが、そんな中でも状況は変化し、残っていた

マチルダとチャーチルが撃破されると、

智はイオンに内蔵されている電気スモークを

周囲に放射してアトラスからのロックオンと

その視界を遮った。

 

「ッ?!させるかっ!」

 

咄嗟に相手の位置を探るための砲撃を行う

アトラス。だが、煙を突き抜けた攻撃は、

イオンのヴォーテックスによって返され

アトラスに命中してしまった。

 

「ぐっ!?クソォッ!」

 

そして、爆発でアトラスが数秒バランスを

崩し、立ち直る間にレーザーショットで

オーガを。ライフルでⅣ号を撃破してしまった。

 

これで、残っているのはイオンとアトラスのみ。

 

両者はしばし睨み遭った、直後。

 

「ッ!」

和紀のアトラスが前に出た。

智は冷静にイオンのスプリッターライフルで

狙いを定める。そして放った。

 

だが……。

「ッ!?何!?」

 

アトラスはそれを手にしていたキャノン砲を

盾にする事で防いだのだ。まさかの防御に

彼が驚いた一瞬の隙に、アトラスは今の攻撃

を受けて撃破判定を受け、使い物にならなく

なったキャノン砲をイオンに投げつけた。

 

「ッ!?」

それを咄嗟に左手で防ぐイオン。だが、

ぶつかった衝撃で一瞬動きが鈍った隙に、

アトラスがイオンの懐に潜り込んだ。

 

「おぉぉぉぉぉっ!」

 

そして、振るわれたアトラスの腕がイオン

のライフルを大きく弾き飛ばした。

更に振るわれた拳が、イオンの反撃に使おう

としていたレーザーショットを破壊する。

 

「くっ!?このぉっ!」

携行武装が無くなった智は咄嗟にアトラスに

殴りかかる。

 

『ドゴォォンッ!』

爆音を響かせながら一歩、アトラスが下がるが……。

 

「おらぁぁぁぁぁっ!」

 

反撃に繰り出された拳が逆にイオンに命中し、

2歩下がらせた。

 

そこからは巨人同士の殴り合いだ。

 

爆音が響き渡るその戦いぶりを、みほや

ダージリン達。更に機体から出た央樹や明弘、

啓吾や将。更にスクリーン越しに多くの

観客達が、見つめていた。

 

 

そして……。

『『ドゴォォォォンッ!!』』

クロスカウンターが決まり、お互いに

蹈鞴を踏むアトラスとイオン。

 

そして、2機のコクピットの中では盛大に

アラームが鳴り響いていた。今、不意に

攻撃すればカウンターを貰って撃破扱い

になる事は、和紀も智も知っていた。

とは言え、今更ここで止まっていても

試合は終わらない。

 

だからこそ、2人のたどり着いた結論は、

同じだった。

 

彼等はすぐさまタイタンの脱出装置を

作動させた。

 

直後、天高くタイタンから打ち上げられる

和紀と智。

彼等はすぐさま、手にしていた武装、

和紀は『R―201』を。

智は『G2A5』、いわゆるマークスマンライフル

に分類される武器を構えた。

 

『ダダダダダっ!』

『ダンダンダンッ!』

 

放たれた試合用のペイント弾。すると……。

『『ベチャッ!』』

 

それが当ったのはお互いの武器だった。

「「ッ!?」」

神の悪戯、とでも呼べそうな自体に流石の

2人も驚き、一瞬動きが止まる。

 

そしてその間に2人は着地し、武器を

捨てた。そして……。

『『ダダッ!!』』

 

ほぼ同時に駆け出した。それも、相手に

向かって。

 

『『シャッ!!!』』

そしてお互いのナイフを抜き、斬りかかる。

しかしナイフ同士がぶつかり合い、火花

が散る。

 

そこからは、もはや達人級の格闘戦だ。

 

相手のナイフを逸らし自分の拳やナイフで

致命傷を与えようとするが、どうやら格闘戦

のレベルは拮抗しているのか、お互い有効打

を繰り出せずに居た。

 

そして、お互いの左手が、お互いの右手に

あったナイフを弾き飛ばした。

 

だが、それでも2人は一瞬、刹那の合間に

思考し、そして、次の一手を繰り出した。

 

『『ジャギッ!!!』』

 

お互いのピストル、P2016を相手の頭に

突き付けあい、そして……。

 

『『パンッ!』』

引き金を引いた。

 

『『ビシャッ!!』』

と同時に、放たれたペイント弾が2人の

ヘルメットをピンク色で汚す。

 

そして、2人はまるで固まったかのように、

その場で動かなくなった。

 

だがそれは観客たちも同じだ。

 

「ど、どっちだ?どっちが勝ったんだ?」

「殆ど同時に見えたぞ?」

観客達が審判の判定を待つ間、ヒソヒソと

話をしている。

 

そして、更には例の3人組もだ。

「今の、殆ど同時でしたよね、先輩」

「あぁ。問題は、戦車道の審判がどう判断

するか、だが、恐らくは……」

と、1人が呟いていた時。

 

『え~審議の結果、最後は相打ちと判断し、

 結果、この試合は引き分けとしますっ!』

 

唐突にスピーカーから聞こえた話に

観客達が驚いている中、彼はただ1人、

『やっぱりな』と言わんばかりの表情を

浮かべた後、2人を連れてその場を後にした。

 

 

こうして、大洗と聖グロの練習試合は、

『引き分け』という形で終了したのだった。

 

     第7話 END

 




投稿が遅くなり失礼しました。

最近、APEXにドはまりしてまして……。
まぁ言っても運が良ければチャンピオンになれる
程度の腕前なんですが。

感想や評価、お待ちしてます。


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第8話 顔合わせ

遅くなりすみません。実は完成間近で一度データが吹っ飛びましてやる気を失っておりました。


長い戦いの結果、引き分けという形で幕を下ろした大洗と聖グロの戦車&タイタンによる史上初の戦い。

 

そして、戦いが終わった事で、試合で攻撃を受けて動けなくなった戦車が回収され、タイタン達は再起動し各自で移動していた。

 

そして、戦い終わったパイロット達はパイロットスーツを脱いで制服に着替えると、それぞれの仲間と合流した。

 

ちなみに、戦いは引き分けで終わったので、みほ達があんこう踊りをする事は回避されていた。

 

そしてその後、みほ達は近くのモールへ行く事にした。麻子は1人『おばあに顔を見せてくる』と言って別行動になり、それに代るように和紀が彼女達と行動を共にする事に。

 

「いや~。にしても最後は凄かったね~和紀」

「ん?」

和紀のそう声を掛ける沙織。

「見てたよあれ。相手の最後の1人とこう、映画みたいにナイフで戦ってたの」

「あぁ、あれか」

ポツリと呟く和紀。

「何よ~。褒めてるんだからもっと嬉しそうにしたら~?」

ぷく~っと頬を膨らませる沙織。

 

「……悪いがあの結果じゃ喜べないよ」

「え?」

和紀の言葉にみほが首をかしげる。

 

「あれが実戦だったら敵味方双方全滅だぞ?模擬戦だから引き分けで終わった物の、パイロットとして『あれが実戦だったら?』。そう考えれば手放しでは喜べないんだよ。……俺もまだまだだな」

戦いが終わっても、やはりパイロットと彼女達では温度差があった。そのことを感じてしまうみほ。

 

そして、それを和紀も理解したのか……。

「まぁ、お前達が深く考える必要は無い。試合はとにかく終わったんだ。後は自由時間。折角陸のモールに来たんだろ?何かしたい事は無いのか?」

と、彼女達の気分を切り替えさせようとそう言って話題を変える和紀。

 

そして、この後どうするか?と話ながら歩いていた時。

『ん?』

和紀は前方で走る人力車を見つけた。

『人力車か。随分珍しい物が走ってるなぁ』

 

和紀はそれくらいの認識だったが、その人力車を引いていた男性が彼等、正確には華に気づくと彼等の方へやってきて、華を『お嬢』と呼んだ。

 

「華、知り合いか?」

「はい。私の家に奉公に来ている新三郎と言います」

『奉公って、随分古い言い回しだなぁ』

 

と、和紀が考えているとその新三郎が引いていた人力車から妙齢の女性が降りてきた。和紀は黙って見護っていたが、優花里が口を滑らせてしまって、華が戦車道をしていると知ると、その女性、華の母親である『五十鈴 百合』は何とその場で失神してしまったのだった。

 

その後、彼女を実家に運び、更に華と共にみほや和紀まで彼女の家にお邪魔していた。

 

「戦車道の事、親に言ってなかったのか?」

「……えぇ」

部屋の隅で立っている和紀からの問いかけに、静かに頷く華。

 

「……戦車道に、偏見があるからか?」

「分かり、ますか?」

「さっきの反応を見ればな」

 

と、そうこうしている内に、百合が目を覚まし新三郎が華を呼びに来た。そして2人が話をしているのを、廊下で聞いていたみほ達と和紀。

 

そして話を聞いていれば、『力強い花を生けてみたいたい』とする華の言葉に対して、百合は『素直で優しいあなたはどこへ行ってしまったの』、とまるで華が反抗期だと言わんばかりの言葉を投げかける。そして、その責任がまるで戦車道にあると言わんばかりに戦車道や戦車を侮辱する百合。

 

すると……。

 

「傲慢だな」

 

襖を開けて中に入る和紀。みほや沙織たちの制止を振り切り、中に入る。

「お客人、困ります勝手に!」

新三郎がそれを止めようとするが……。

 

『ギンッ!』

「うっ!?」

有無を言わさぬ和紀の鋭い視線に、何も言えなくなってしまった。

 

そして、静かに華達の方へ歩み寄る和紀。

「自分の娘が、自分の敷いたレールから外れる事がそんなに我慢ならないか?」

「何ですって?」

「今のアンタの言葉が正にそうだ。自分が望んだ通りに娘が動けば喜び、外れればまるで反抗期と言わんばかりの態度。……娘だから自分の言う事を何でも聞くと思ってるのなら、そいつは親の傲慢、思い上がりだ」

「ッ!何ですかあなたはっ!他所の家の事情に口を出してっ!」

「他人だからこそ指摘出来る事もある。何より、俺はアンタの娘さんの友人のつもりだ。だから彼女の好きなようにさせてやりたい。それだけだ」

 

「華さんの友人、ですって?あなたは一体……」

「申し遅れたが、大洗学園。パイロット育成科2年。大代和紀だ」

と、和紀が名乗ると百合は驚愕し、更に和紀を睨み付けた。

 

「未来の殺人鬼が、我が家のしきたりに口を出すなど100年早い事ですっ!」

「ッ!お母様今のは言い過ぎで」

「華さんはお黙りっ!」

そう言って華を遮る百合。

 

「私は鉄と油の臭いよりも、更に血の臭いが嫌いです。そんな場所で好き勝手に暴れるだけの兵士など……。即刻我が家から出て行きなさい!ここはあなたのような殺人鬼がいて良い場所ではありませんよ!」

「ふんっ、俺も言いたいことは言わせて貰った。そうさせて貰う」

 

そう言うと、和紀は1人華の家を後にした。そしてその後、華本人も百合より勘当されてしまうのだった。

 

そして夜。みほ達が学園艦に戻ると1年生チームが謝りに来たり、ダージリンから紅茶が送られてきたりしていた。そんな中、帰路に就く華。

 

しかし、彼女が歩いていると前方に和紀を見つけた。

「ッ、和紀さん」

「よぉ」

そう言って声を掛ける和紀。すると、華はすぐに頭を下げた。

 

「すみません和紀さん。私の母が、失礼な物言いをしてしまって」

「いや、良いんだ華。気にするな。……パイロットが未来の殺人鬼という表現は可笑しくはない。俺達は時が来れば戦場へ行き、殺し合いをする。分かりきっている事だ。だから顔を上げてくれ」

 

そう言って華に頭を上げさせる和紀。

「むしろ、こっちこそ悪かったな。2人の問題に首を突っ込んであ~だこ~だと」

「いえ。それは良いのですが、どうしてあの時、あんな事を?」

華の質問を前に、和紀は近くの電柱に背中を預けた。

 

「俺達パイロット候補生は、自分の意思でこの道を選んだ。死ぬ事も覚悟の上でな。俺もそうだ。自分の意思で、この道を選んだ。……だから、かもな」

「え?」

「……誰かに何かを強要するって言うのが、俺は許せないんだよ。あの時の、お前の母親はお前に道を強要しようとした。それが俺は許せなかったんだ」

 

そう言って夜空を見上げる和紀の横顔を華は静かに見つめていた。

「それより、みほ達からメールで聞いたよ。勘当、されたらしいな」

「……はい」

「すまない。俺が余計な事をしたばっかりに」

「いえ。これは和紀さんのせいではありません。多分、和紀さんがあの時前に出なかったとしても、私はきっと勘当されていたでしょう」

 

「……今後の宛はあるのか?」

「お金のことをご心配でしたら、大丈夫です。今すぐどうこうと言う事はありませんので」

「そうか。……まぁ、何かあったら頼ってくれ。俺もアルバイトとかはしてないし、親からの仕送り生活だが、パイロット候補生は災害派遣とかがあると、かり出されて国から少ないが給料も出てる。だから、華1人くらいなら何とか出来ると思うから。本当にヤバくなったら遠慮無く頼ってくれ」

 

その言葉に、華は少しばかり顔を赤くした。

「本当に、よろしいのですか?」

「あぁ。俺に出来る事ならな」

そう言って笑みを浮かべる和紀。

 

「実を言うと、俺。学園に入ってから友人が出来なくて困ってたんだ」

「え?」

「周りは殆ど女子。男の同級生は居らず、上級生の央樹先輩とラスティモーサ教官くらいしか男の知り合いはいない状況で、結局女子とどう接して良いか分からず気がつけばボッチのまま2年生になって。そんな時、お前達に声を掛けて貰えて、内心嬉しかった。……だからその、初めて出来た友人の悩み。聞いてやらないとな」

そう言って、和紀は最後に顔を赤くした。それを見て華は少しばかりキョトンとした後。

 

「ふふっ。では、何かあった時はお願いしますね、和紀さん」

「あ、あぁ。俺に出来る事なら協力する」

こうして、二人は密かに仲を深めたりしていた。

 

 

一方、夜の学校の倉庫。そこを訪れて居た者がいた。それは1年生チームのリーダーでもある梓。昼間の試合で情けなくM3から逃げ出したことを先ほどみほ達に謝ったばかりだが、やはり負い目を感じていたのか1人ここを訪れたのだ。

しかし……。

 

「あれ?明かりが」

梓は倉庫から光が漏れている事に気づいて、恐る恐る中に入った。そして周囲を見回すと、奥の方で起立していたタイタンの足下に人影があった。

「ん?」

梓が中に入ると、人影、明弘は彼女に気づいて振り返った。

「何だ梓か。どうしたんこんな時間に」

「あ、えっと、その、戦車を見に来たんだけど、明弘君は何を?」

「何って、相棒の整備」

明弘はそう言って後ろのストライダーを指さす。

「整備って、こんな時間まで?」

「あぁ、かれこれ数時間はな」

そう言って、明弘は工具を持つと足回りの点検を始めた。

 

「整備って言うけど、実際は簡易的な物だけどね。流石にパイロットと言えど、専門のメカニックほどの知識と経験は無いからな」

「そうなんだ。でも、だったらどうして?こういうのを専門にしてる人達って居るんでしょ?」

「あぁ。まぁ居るに居るけど。……けど、だからって俺達が整備を怠って良い理由にはならないからな」

 

「そう言う物、なのかな?」

「……じゃあ逆に聞くけど、戦車道の皆は違うの?」

「え?」

明弘の言葉に疑問符を浮かべる梓。明弘はストライダーを見上げる。

 

「俺達にとってタイタンって言うのは戦場で一緒に戦うパートナーみたいな存在だ。戦場の甘いも酸いも一緒に経験し、いざって時は、『一緒に死ぬ』存在だ」

「ッ!」

普段の飄々とした様子からは離れた、どこか冷たい明弘の言葉に梓は息を呑んだ。

 

「戦場で一番傍に居る相棒。それがパイロットにとってのタイタンだ。けど、じゃあ戦車道をやってる梓たちにとって戦車って何?ただの鉄の塊?乗り物?」

「それ、は……」

梓は何も言い返すことは出来なかった。戦車道を始めたばかりの彼女達にとって、戦車は所詮戦車。道具か何かでしかない。だがパイロットである明弘たちは違う。

 

彼等にとってタイタンは戦友、相棒、パートナー、苦楽をともにする存在。言うなれば、戦場という舞台を共に舞う伴侶のようなもの。時には共に死する可能性さえあるのだ。

「……少し前から思ってたんだ。西住さん以外の戦車に対する対応って言うか、距離感?考え方って言った方が良いか?……そう言うのもまた、俺達パイロットとは差があるんだよ」

「差?」

「そう。差。……俺達にとってこいつらは自分の命を預ける唯一無二の戦友。でもさ、戦車を自分達のカラーで染め上げたりしてたあの時の皆を見て思ったんだよ。皆は戦車を相棒として見ていないって」

「……」

梓は明弘の言葉に何も言えない。

 

「……俺が戦車道に口出しする気はあんまり無いんだけどさ。もうちょっと相棒の事を考えてやったら?これから先、戦車って言う相棒に乗って戦うんだからさ」

「戦車が、相棒」

「そっ。相棒は大事にしないとね」

 

それだけ言うと、明弘はストライダーの整備に戻っていった。残された梓は、しばしM3リーを見つめると、その車体に触れ『逃げて、ごめんね』と小さく謝り、その場を後にしたのだった。

 

 

それから数日後。みほ達は戦車道の全国大会の抽選会場へと来ていた。そして、事前に予想されていた通り、今回は特別ルールとしてタイタン及びパイロットの参加が認められる事になった。各校は、学校法人を同じとする兄弟校などからタイタンとパイロットに参加を要請することが可能となっていた。これで、大洗のように共学校では無くともタイタンとパイロット達が参加出来る事になった。

 

そして、抽選の結果、大洗は最初から強豪の一角と言われる『サンダース大付属校』と戦う事が決定してしまった。

 

 

その後、みほ達は抽選会場からほど近い戦車喫茶に足を運んでいた。みほ達以外、杏たちは既に先に戻っている。ここに居るのはみほ達5人と和紀だけだ。そして周囲を見回せば、同じく会場にいた制服姿の女子達が大勢いる。そんな中で、肩身が狭いのか男達、恐らくパイロット育成科の男子生徒達が目立たないように俯きながら女子達と相席していた。

 

そして注文を頼み終えた後の事だ。

「そう言えば、先生ってここで合流だっけ?」

「あぁ。何でも昔なじみが近くに住んでるらしくて、顔を出してくるって言ってたぞ」

首をかしげる沙織に説明する和紀。

 

先生とはもちろんラスティモーサの事だ。

 

そして、頼んだケーキが届き食べ始める前だった。

「ごめんね。一回戦から強いところに当っちゃって」

そう言ってみほは他の面々に向かって謝った。

 

すると……。

「気にするな」

それを真っ先に和紀がフォローし、彼は頼んでいたコーヒーに口を付けた。

「くじ引きは運と確率だ。計算は出来てもそこに絶対ってのは存在しない。それに、決まった事を今更悔いても仕方無い。今考えるべきは、サンダースとどう戦い、どう勝つか。そうだろ?」

「和紀君。……うん、そうだね。ありがと」

みほは和紀の事を見つめ、少ししてから笑みを浮かべた。

 

「それにしても、サンダース大付属校というのは、そんなに強いのですか?」

「強い、と言うより凄くリッチな学校なんです。だから戦車の保有台数も全国一位なんです。チームも一軍から三軍まであるみたいですよ」

首をかしげる華に優花里が答える。

 

「でも、一回戦に出られる戦車の数は10輌までだから。タイタンの方も5機までだし」

「いやいや、10輌ってウチの倍じゃん。タイタンだって向こうの数の方が多いんだし、勝てるの?」

「……そこは戦術と戦略とチームワークでどうにかするしか無いだろ」

『最も、そのどれもが相手より劣っているのが現状かもしれないが』

沙織の言葉にそう返す和紀。

 

 

その後、沙織が話題を変えて、みほがケーキを食べようとしたその時。

「副隊長?」

 

彼女達に声を掛ける人間がいた。そこに居たのは、みほの『元チームメイト』である『逸見エリカ』と、みほの『姉』でありみほの古巣、『黒森峰女学園』の戦車道の隊長である『西住まほ』。そしてその後ろに控える2人の男子。

 

エリカは、みほの存在を侮辱するような言葉を投げかけた。

「無様な戦いをして、西住流の名前を汚さない事ね」、と。

 

それに華たちが反論するよりも早く。

 

「おいおい。人の可愛い教え子に随分な物言いじゃ無いか」

 

男の声が響いた。そして、その場に居た多くの男子達が、直後に目を見開き、声のした方へと視線を向ける。

 

「ら、ラスティモーサ先生」

みほの視線の先にいたのは、教官であるラスティモーサだった。

「はぁ?誰ですか?あなたは」

エリカは怪訝そうな表情で彼をにらみ返す。

 

「なに。俺は彼女達の教官みたいなものさ。ここで待ち合わせをしていたので来てみれば、礼儀を知らない小娘が、俺の教え子にいちゃもんを付けていたからな」

「ッ」

ラスティモーサの言葉に、エリカは密かに息を呑み、舌打ちをする。更に……。

 

「あらそうですか。なら彼女達の教官だというあなたに一言言っておきますけど、こんなド素人の集団が戦車道の試合に出ることこそ、失礼だとは思いませんか?」

そう言って、勝ち誇ったような笑みを浮かべながらラスティモーサとみほ達に視線を向けるエリカ。しかしその後ろでは、男子の1人が顔色を真っ青にしていた。

 

「大体、なぜ戦車道の教官が男性なのですか?戦車道の教官を雇うお金も無いのですか?であれば、そこにいる彼女達の実力などたかがしれて……」

 

「あぁもうバカっ!!」

 

エリカが相手をこき下ろしていると、後ろにいた男子の1人が彼女の頭を掴んで強引に下げさせた。

「痛っ!?ちょ、何すんのよっ!?」

「それはこっちの台詞だよっ!?逸見さんも言葉を選んでっ!死にたいんですか!?」

「はぁっ!?だからどう言う意味よっ!?」

 

ワーギャーとやり取りをする2人。するともう1人の男子が2人の前に出て、ラスティモーサの眼前で敬礼をした。

 

「連れが大変失礼しました、大尉。どうかご無礼をお許し下さい」

そう言って頭を下げる姿に、エリカが目をパチクリさせる。しかし戸惑っているのは、事の次第を見守っていたみほや、騒ぎに目が向いていた周囲の女子達だ。

 

しかし、そんな中で男子達だけは、先ほどまでの肩身の狭い思いなど、どこ吹く風と言わんばかりにラスティモーサに注視していた。

 

「このような場所で、まさか大戦の英雄であるラスティモーサ大尉に出会えるとは驚きです」

「大尉は止めてくれ。俺はもう軍を引退した身だ」

「そうはいきません。ナンバーズに名を連ねる大尉は俺達パイロット候補生にとって英雄であり目標。それを前にして礼節を欠く事は出来ません」

「ふっ。真面目だなお前は。……名を聞いておこう、パイロット」

 

「はっ!このたび、黒森峰女学園の援軍として兄弟校のパイロット育成科より出向が決定しました、『安達(あだち) 幸広(ゆきひろ)』と申しますっ!」

 

「安達幸広。聞いた事があるぞ。軽量級のノーススターを操り、自身も癖があるクレーバーを使った長距離狙撃を得意とする候補生。『鷹の目』、『ホークアイ』の異名を持つ2年生がいると。……お前の事か」

「はっ!大尉に名を覚えていただけるとは、光栄でありますっ!」

 

幸広はビシッと背筋を正す。

「ね、ねぇちょっと和紀っ。なんであの人先生にあんな感じなの?訳わかんないんだけど……っ!」

その時、状況が理解出来ない沙織が和紀に小声で声を掛けた。すると、和紀が答えるよりも早く……。

 

「たは~。やっぱり女性陣は知らないかぁ」

彼女達と和紀たちの近くに、見覚えの無い男子が立っていた。背丈や制服を着ている事から学生である事は誰もが分かるが……。

 

「だ、誰……!?」

突然現れた男子に戸惑う沙織。みほ達も半ばハテナマークを浮かべている。一方で……。

 

「ッ、その制服。まさか……」

「へへっ。ご明察♪」

相手に鋭い視線を向ける和紀と、対してその男子は笑みを浮かべながら右手でピースサインを形作る。

 

そして……。

 

「タイ・ラスティモーサ大尉。元ベテランパイロット」

男子が周囲にも聞こえるようにラスティモーサの事を話し始めた。そして、安達やまほ、更にエリカや周囲で様子を見ていた女子達やパイロット候補生達までもが彼に視線を集めた。

 

「今から10年以上前の、テロリズム壊滅を目的として行われた大規模な軍事行動であるオペレーション・フリーダム。この作戦は、あちこちで行われた。中東の砂漠。東南アジアや南米のジャングル。時には先進国の都市でも。パイロットとタイタン達はテロ殲滅のために世界中を駆け巡り、そして戦った。……パイロットの戦闘力は一般的な兵士と比べものにならない。それだけパイロットは強かった。……でも、この戦争の中で異彩を放つパイロット達の中で更に、抜きん出た戦果を残した10人の伝説級のパイロットたちが居る。後に人々は、その10人を指してナンバーズと呼ぶようになった。……そして今、俺達の前に居る大尉こそが、そのナンバーズの1人にして、第3位の実力者って事さ。つまり大尉は、百戦錬磨の英雄であり、世界で三番目に強いパイロットって事」

 

『『『『ざわざわ』』』』

彼の言葉に、周囲にいた女子達がざわめき出す。

「やれやれ。どうしてこいつと言いお前と言い。俺の過去を話したがるんだ?俺はもう引退したロートルだぞ?……と言うか、お前の名前は?」

「これは失礼しました大尉。私はサンダース大付属高校、パイロット育成科2年、『東洞(とうどう)隼斗(はやと)』と申します。以後、お見知りおきを」

「ッ!?サンダースって、確か私達の1回戦の相手じゃ……!?」

相手の素性を聞き、戸惑う沙織。

 

「そゆこと♪……まぁでも、こんな場所で大尉に会えるとは予想外でした。けど、正直良かった。……大尉の教え子となれば、旧型だろうが数が少なかろうが、油断なんて出来ませんからね」

 

そう言って隼斗は和紀を睨み付け、和紀もそれに応じてにらみ返す。すると……。

「そんな寄せ集めの連中が強いとでも?」

エリカが隼斗に声を掛けた。

 

「聞いてるわよ?大洗のタイタン部隊は、旧型機が3機だけ。戦車道のチームだって、素人同然だって」

そう言って、エリカはどこかみほ達を見下すような視線を向けるが……。

 

「分かって無いなぁお嬢さんは」

沙織達が反論するよりも先に、隼斗がやれやれと言わんばかりに苦笑しながらそう言った。

「ッ、どう言う意味よっ!」

 

「実は、大尉にはナンバーズ第3位である事と同じくらい、圧倒的な功績があるのさ」

「は?功績ですって?」

「そう。……ナンバーズ第1位。つまり世界最強のパイロットの名は、『ジャック・クーパー』。オペレーション・フリーダム中期から後期に掛けて活躍した、今やパイロットを目指す者ならば誰でも知っている最強のパイロット。俺達にとっての憧れのような存在。……でも、ここで重要なのは『誰が』彼を育てたのか、だ」

 

と、隼斗が口にしていると……。

「クーパーか。懐かしい名前だ。あいつは今頃何やってるのやら」

ラスティモーサがどこか懐かしむような表情を浮かべている。

 

そして、数秒してエリカは。そして周囲に居た女子達は理解した。

 

「おっ?みんな分かった感じ?なら、言わせて貰うけど……。今俺達の目の前に居る人は、世界で3番目に強い人であり、同時に世界最強のパイロットのお師匠、教官、先生って訳さ。分かる?」

 

そう言うと、隼斗はどこか凶暴な笑みを浮かべながら……。

 

「俺達の敵の先生は、文字通り世界最強の教官って事さ。油断なんかしてたら、寝首を掻かれるのはどっちかな?それに、『窮鼠猫を噛む』って諺がある。弱いと思ってると、『死ぬ』よ?」

「ッ!?」

 

最後の最後、隼斗の笑みと、そして一瞬の殺意と敵意を乗せた言葉にエリカは『ゾクリ』と背筋を震わせる。

 

数秒して、隼斗は安達に指鉄砲を作り、向ける。

「鷹の目、ホークアイ。更にプラウダに聖グロ。どこも兄弟校とかから俺や君と同じ『二つ名』を持つパイロットを引っ張ってきた。当然、知ってるでしょ?」

「当たり前だ。それくらい調査済みだ」

 

次第に、カフェの中にピリピリとした緊張感が満ちてきた。安達や隼斗は飄々としているが、エリカに頭を下げさせた1年の生徒や和紀、更にそれ以外のパイロット候補生達の男子達も、目を鋭くし警戒心を引き上げる。

 

そんな中で大半の女子達は、自分達の隣や傍で敵意と警戒心を剥き出しにする彼等に、半ば怯えていた。

 

しかし……。

 

「おい阿呆ども。ここで近接格闘術の訓練でもする気か?」

 

不意に、ラスティモーサが2人の間に立って仲裁をはじめた。

「いやいやまさか」

すると隼斗は笑いながら手を下ろし、安達もそれに呼応して敵意を下げた。

 

「いや~ごめんなさいね~。ちょ~っと悪ふざけが過ぎちゃいましたわ~。じゃあ、俺はこれで」

そう言って隼斗は踵を返して歩き出した。しかし、和紀の傍を通り過ぎた時。

 

「楽しみにしてるよ、君たちとの試合」

 

隼斗は和紀にだけ聞こえるように小さく呟くのだった。隼斗はそれだけ言うと、連れらしき女子達に一言言って店を出て行った。

 

 

そして結局、みほ達は呆然とした後、ラスティモーサに声を掛けられるまでずっと呆けてしまっていた。しかし、彼が一緒である事で注目を集めていた彼女達は、結局頼んだケーキを早めに食べ終えると和紀とラスティモーサを伴って店を出た。

 

 

だが、そんな中であの店に居た戦車道を嗜む少女達は、共通の思いを抱いた。

 

それは、『彼等が自分達との違いすぎる存在』と言う現実だった。そして少女達は更に思う。

 

『これから先、彼等と一緒に戦っていくのか』と。

 

 

始まる全国大会。それは、鋼鉄の巨神と鋼鉄の獣が入り乱れる乱戦になる事を、知る者はいない。今は、まだ。

 

     第8話 END

 




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