転生してもハンターだった件 (邪神イリス)
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死闘の果ての終わり

 

 

とある世界で新大陸と呼ばれる地にて、今、二つの命がそれぞれの背負う物を持ち、激突していた。1つは自身に傷をつけた相手へのリベンジを、1つは自身の後ろにいる仲間達を。

 

 

ガァァァァァァァァァァァァァァ!

 

「オラァァァァァァァァァァァァァ!」

 

 

ガキィィィィン!

 

 

「バリスタ!急げ!ガンナーは回復弾などの援護を忘れるな!」

「畜生!何でこんなとこまでアイツがやってくるんだよ!」

「前にジンが追っ払ったって言ってたけど、まさかジンを追いかけてきたのか?」

「だとしたらどんだけ執念深いのよ!」

 

彼等彼女等は、この世界でハンターと呼ばれる存在で、主にモンスターと呼ばれる者たちの調査・討伐などを依頼を通じて請け負い、日々を暮らしている者達である。

 

彼等はこの新大陸に調査団として派遣され、生活をしていたのだが、突如として、新大陸で最も恐れられているモンスターの一体である『悉くを殲ぼすネルギガンテ』が彼等の拠点、『調査拠点アステラ』へと攻め込んできたのである。

 

突然のことに総司令などの一部を除く者達が呆然とする中、一直線にネルギガンテに突撃し、ネルギガンテとの一騎討ちを始めた者がいた。

 

彼の名はライゴウ・ジン。これまでに多くのモンスターを狩り、モンスターハンターの称号を与えられた人物であり、第5期調査団として、この新大陸に来ていた人物であった。

 

彼にとって、このネルギガンテはこの新大陸における因縁の相手でもあった。今まで幾度も激突し、しかしながら完全な決着はつかなかった。しかし、彼はネルギガンテが拠点に現れた時に予感を感じていた。

 

今回で決着がつくと、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の旅はここまでだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼェヤ!フン!ハァ!」

 

長年の自身の愛用の太刀である『神滅爪 アルファリア』を振るう。本音を言うならばコイツを相手にする時は爆破属性の太刀が良いのだが、今日は本当ならイビルジョーを狩る予定だったところにコイツが現れたので、準備をする暇がなかった。

 

無い物ねだりをしていてもしょうがないし、高い斬れ味のお陰で戦えてるので、これ以上ぐちぐち言うのはやめよう。

 

しかし、戦い始めてどれぐらい経っただろうか?回復薬や秘薬などはとうに使い切り、オトモや援護をしてくれているガンナーの回復弾などでどうにかまかなっているが、それも限界が近い。

 

それ以上に長い時間戦ったせいで集中力が切れそうなのが1番ヤバイ。狩りの中で、集中力が途切れるのは死にも等しい。相手は自然界の怪物。常に油断せず、警戒し続けなければいけないのだ。

 

しかし、自身の相手もすでにかなり消耗している。

 

部位破壊はもうすでに完了しており、ぱっと見は満身創痍であと少しで倒せそうなのだが、こういう奴ほど手負いになるほど強くなる。現に俺もかなり手痛い反撃をくらっており、そこらに血が飛び散っているのが何よりの証拠だ。

 

あ、不味い。ちょっとふらつき始めた。次の攻防で倒さないと負ける。そうなるとかなりの被害が出てしまう。それだけは避けなければならない。

 

「なぁ、ネルギガンテよぉ」

 

「グルルルル・・・・・」

 

「お前が人間の言葉を理解できるかどうかを置いておいて、お前、ほぼ限界だろ?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「俺もさ。・・・・だからよ・・・次で決めようぜ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「次で・・・・お前を狩る!」

 

「!・・・・・ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

「へ、答えてくれんのかよ・・・・・・そんじゃあ、行くぜ・・・・」

 

俺は武器を構える、奴も突撃の体制をとる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・カチャッ

 

 

「ッ!ウオオオオオオオオオオオオオ!」

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

お互いに一気に距離を詰める。

 

奴が腕を振り上げる。俺はその勢いのまま、前方に転がり避け、奴の腹に剣を斬り上げ、斬り下がり、そして鬼神兜割を頭に命中させる。

 

「ガァァァァァァァァ!?」

 

だが、ここで兜割が命中したことで少し気が緩んでしまった。その瞬間を逃さず、奴は瞬時にこちらに体を向け、その巨大な腕を叩き込む。

 

「ガハァッ!」

 

俺はそのまま後方に吹っ飛ばされ、岩壁に激突する。

 

「グッ・・・・カハッ・・・」

 

油断した。頑丈な己の身体と鎧があるとはいえ、疲弊した今の体にはかなり響く。

 

「骨がいくつかやられたか・・・・・」

 

 

ズン・・・ズン・・・ズン・・・

 

 

奴がこちらに近づいてくる。

 

クソッ!動け!動きやがれ!

 

 

 

 

 

パンッ!

 

 

 

 

 

 

今の音は・・・・はじけクルミか?

 

「?・・・・グルルルル・・・・・・」

 

「貴方の相手は私です!ジャック、今のうちにジンの回復を!」

 

アイツ、まさか!危険だ!今すぐ止めねぇと・・・

 

「ご主人様、大丈夫ですかニャ!最後の回復ミツムシですニャ!」

 

!、力が戻ってきた!これなら戦える!

 

「ありがとよジャック!相棒!」

 

俺の声に反応し、奴が相棒からこちらに狙いを変える。

 

部位破壊ができると言っても奴の身体は頑丈、鎧そのものだ。腹以外の一撃で奴の柔らかい場所を攻撃して今度こそ、仕留めなくちゃならない。

 

「となると、狙うは一ヶ所だな」

 

そして俺は太刀を構えたまま、走り出す。奴もこちらが走り出したと共に突進してくる。そしてあと少しで激突する距離になったところで俺はその勢いのまま後ろにバックし、太刀を横に大きく振って納刀する。

 

「ガアアアアアアアアアア!?」

 

奴の顔に無数の斬撃がいくつか走り、剣の軌跡には、桜の花びらのようなものが見える。

 

新大陸に来る前、龍歴院に滞在していた際に教えてもらった技、『桜花気刃斬』だ。ここに来て以来、使ってなかったが、上手く成功できて良かった。

 

そして俺は、奴に向かって軽くジャンプしながら転がり、奴の体を足場として利用して空中に跳び上がる。これも龍歴院時代に使っていた『エリアルスタイル』の技だ。

 

空中に跳び上がった俺はある一点を目掛けて太刀を振り下ろす。そこはかつて通常個体のネルギガンテを狩ったときに調べてわかった弱点であり、しかしあまりにもそこを狙うのは危険すぎるために狩りをする際は無視されていた場所。

 

 

ザシュッ!!!

 

 

「ガアアアアアアアアアアン!?!?」

 

 

 

 

 

 

    首だ

 

 

 

 

 

 

 

 

ネルギガンテの首にアルファリアが喰い込む。この剣は鎌のような形をしているから刺しやすかった。

だが、さすが古龍。倒れるどころか俺を振り落とそうとなりふり構わず暴れまくる。おかげで地面に叩きつけられたりして非常に痛いが、我慢し、更に太刀を喰い込ませる。

 

そして喰い込ませたまま、狩技の1つである『妖刀羅刹』を発動させる。

この技は自身の体力を減らす代わりに攻撃力を高め、相手にダメージを与えてその分だけ相手の体力を吸収して回復するという技だ。

 

「グオアアアアアアアアアアアアアン!」

 

体内から直接ダメージを送り込まれているからか、今まで以上に暴れ始めたが、俺はダメージを送るのをやめない。そうしてこれが少し続いた頃、段々とコイツの動きが鈍くなってきた。

 

今しかチャンスは無いと思った。

 

奴が疲労し、バランスを崩した瞬間、一気に太刀を抜きを奴から降りる。

そしてすぐに振り返り、気刃突きをし、跳び上がり、先程まで太刀を喰い込ませていた場所に気刃兜割を叩き込む。

 

 

「グオオオオオォォォォォ・・・・・」

 

その瞬間断末魔の如き巨大な咆哮したかと思うとだんだん音が小さくなり、そして・・・

 

 

ズズゥゥン・・・・・

 

 

   遂に倒れた。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・・やって・・・・やっ・・・た・・・・・ぜ・・・・・・・・」

 

 

   バタン

 

 

奴が倒れたのを確認したと同時に俺の体も倒れる。

 

相棒や総司令達が駆け寄ってくるのが見えた。

 

「相棒!しっかりしてください!相棒!誰か!誰か早く医者を!」

 

 

 ガシッ!!

 

 

「!!」

 

「その・・必要はない・・・・・」

 

「っ!相棒!」

 

「大丈夫か!お前さん!待ってろよ。今、医者を連れてくるかr」

 

「団長・・・・医者の必要はないですよ・・・・・」

 

「?どういうことだ・・って、お前まさか!」

 

「ッ!ガハッ!ゴホッ!・・・自分の死ぬタイミングぐらい、自分でわかるものですよ・・・・・・」

 

「な、何を言ってるんですか!」

 

「もうすでに内臓がかなりイカれている・・・・骨も何本も折れている・・・・いくら頑丈なこの身体でも、さすがに限界はある・・・」

 

「でm「奴がアステラの近くに降り立ったとき、俺の勘が囁いていた。」っっ!」

 

「コイツが最後の獲物だと・・・俺の旅はここで終わりだとな・・・・・・・」

 

「そんな、そんなのって・・・・・・・」

 

「・・・・・・・団長」

 

「何だ」

 

「あの日、ダレン・モーランを追っ払った後、『我らの団』に誘ってくれて、ありがとうございました。おかげで俺は、こんな所まで辿り着けた」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「相棒・・・・・・・」

 

「ッ・・グスッ・・・はい・・・」

 

「お前はいっつも、周りを見ずに危険な所に突っ込んで行って、心配かけさせやがって・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「だが・・・・・・おかげで・・この新大陸で毎日が楽しく過ごせた。ありがとな・・・・」

 

「ッッ!・・・・グスッ・・・・いえ・・こちらこそ・・・!」

 

「ジャック・・・・」

 

「ハイにゃ・・・・」

 

「お前にはいろんなところで助けられた・・・・・感謝してもしきれない・・・・・・・本当にありがとう」

 

「自分こそ・・・ご主人様と出会えて・・・幸せだったにゃぁ・・・・・」

 

「それなら・・・よかった・・・・」

 

「総司令・・・・・・」

 

「何だ」

 

「俺の武具は・・・・いつか使うにふさわしい奴が出たら・・・・ソイツに渡してください・・・・武器ってのは・・・自分を使ってくれる存在がいることが・・・何よりの誇りですから・・・」

 

「了解した。それが君の意思ならば」

 

「ありがとうございます・・・・」

 

あぁ・・・これでもう、安心して逝け・・・る・・・・・・・な・・・・・・・・・

 

「ッ!相棒!・・・・相棒!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《確認しました。龍達の意思により、ユニークスキル『龍戦士』を獲得・・・・・成功しました。続けて、龍の力を行使できる身体を作成します・・・・・成功しました》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンターを始め、狩りの世界で生き続けること32年。

 

思えば色々とあったものだ。しかし、もし来世というのがあるのならば・・・またハンターとして生きて行きたいな。

 

《確認しました。ユニークスキル『狩人(ハンター)』を獲得・・・・・成功しました》

 

まぁ・・・・・一人旅とかは嫌だな・・・少なくとも相棒の1人はいてほしいな・・・・

 

《確認しました。ユニークスキル『相棒(トモニアユムモノ)』を獲得・・・・・成功しました》

 

・・・・・さっきから聞こえてたがこの棒読みみたいな無機質な声はいったい何だ?

 

まぁ、死ぬんだし、幻聴の1つや2つは聞こえてくるか・・・・・・・

 

最後にそんなことを考えながら、俺の意識は遠くなっていった。

 

こうして、俺は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お久しぶりです。邪神イリスです。
 
 前々から妄想の中で出来上がっていた作品がようやく形づいたので、投稿しました。
 
 他の作品同様、趣味で始めたものなので、相変わらずの不定期更新ですが、暖かい目で見守ってくれると嬉しいです。


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地位向上編
転生、そして新たな出会い


 

 

 

 

 ピチャン・・・・・ピチョン・・・・・・

 

 

 

「う・・・・・ん・・・ここは・・・?」

 

 気がついたら、そこは薄暗く、そこそこ広めな空間で、周りには、薄く光っている鉱石などが見受けられた。

 

「ここは・・・・洞窟か?」

 

 ふむ、洞窟か・・・・・・・・・・・・・・・・ファッ!?

 

 待て待て待て。何故洞窟にいるんだよ!?確かあの時、自分は死んだような感覚があったのだが・・・・・

 

 まさか皆がこんな場所に俺を運ぶなんてことは無いだろうし・・・・・・・てか、今、気づいたが、俺、インナーしか着てないじゃん。まぁ裸とかよりはマシだけど・・・・・何で鎧は無くてインナーだけなんだ?

 

《解。それは貴方の記憶から私が生み出したからです》

 

 ・・・・・・・・・後ろを振り向く。うん、誰もいないな。はぁ・・・とうとう幻聴も聴こえてくるようになったのか・・・・でも何か聞き覚えがあるんだよなぁ。この無機質な声。

 

《否。幻聴ではありません。ユニークスキル『相棒』の効果です。能力が完全に定着したことにより、速やかに反応をすることが可能となりました》

 

「ユニークスキル?」

 

そういや死ぬ間際に何かなになにを獲得しましたとか聞こえたような・・・あれも幻聴ではなかったのか・・・・

 

 というか思わず声に出してしまったが、あれか、防具を装備したりすると発動するスキルのことか?あれ、でも喋るスキルなんてなかったような・・・・・

 

《否。そちらのスキルはモンスターの素材などを貴方が元々生きていた世界特有の技術で利用・加工した結果、そのモンスターの特性などが防具などに定着したものです》

 

 ・・・・・・・元々生きていた世界?色々と疑問が湧くが、それを聞くのは後にして、今は説明を聞くことにする。

 

 『相棒』の説明によると、スキルとは、何らかの成長を世界が認めた際に希に獲得出来るのが「能力(スキル)』らしい。もっとも、スキルの獲得や進化が普通に行われている訳ではないらしい。

 

 因みに何でこのスキルが喋れるのかというと、まず、このスキルとやらが俺に定着するのに60日ほどかかったそうだ。ただし、本来は今のように会話などは出来なかったという。

 わざわざ俺の疑問などに答える為に自己改造を行い、『世界の言葉』というものの権能の一部を流用したのだと説明された。

 

 そして説明を受けているうちに段々と理解できた。そうか・・・・やっぱりあの時俺は死んだのか・・・

 

 まぁ、調査拠点や皆を守れたし、最後の心残りだった奴の狩猟も成功したし、出来ることなら、また会いたいこと以外は特に未練は無いからいいかな。

 

 で、まず俺はどうもスキルを『相棒』の他にも『狩人』、『龍戦士』と、3つ持ってるらしく、それぞれの名前とそのスキルのスキル効果を説明してもらった。

 

 まず、最初に『相棒』のスキル効果は以下の通りだ。

 

思考加速:通常の千倍に知覚速度を上昇させる。

解析鑑定:対象の解析及び鑑定を行う。

並列演算:解析したい事象を、思考と切り離して演算を行う。

森羅万象:この世界の、隠蔽されていない事象全てを網羅する。

 

 この4つだ。正直最後の森羅万象なんて、それって反則じゃねーか!と、思ったが、どうも俺が触れた情報に対して、俺の知り得る事柄にのみ、情報開示が可能らしい。

 要するに、1度でも認識し、理解できた事柄に関しては解析可能な能力というわけだ。

 

 次に、『狩人』の効果が。

 

高速再生:高い再生能力で、あらゆる傷を通常よりも速く再生させる。

痛覚無効:精神攻撃以外のあらゆる痛みを無効化する。

魔力感知:周囲の魔素を感知することができる。

狩猟実行:あらゆる魔物・魔獣などと認識される存在と戦闘をする際、魔法などの威力が上昇する。

 

 この四つだ因みに魔素とは、この世界のあらゆる場所に存在するもので、場所によって濃かったり薄かったりするらしい。

 

 そして、最後のスキルが『竜戦士』なのだが・・・・・これが1番問題なのである。

 

 効果は

 

竜獣武具:上位クラスまでの武器や防具の顕現(召喚)が可能。

竜獣変幻:上位クラスまでのモンスターへの変身。

 

 この2つなのだが・・・実際に試してみた。まず竜獣武具は、イメージすれば召喚できるらしいので、レウスSシリーズと飛竜刀【紅葉】を呼び出す。

 

 

 

 上手くイメージ通りにできた。着心地も以前と変わりなく。使いやすいものだ。

 

・・・・・・・で、ここまでは良いのだが、最後の竜獣変幻なのだが・・・試しに、今いる場所がそこそこ広かったので、リオレウスに変身しようとしたのだが・・・・・なれてしまった。近くに地底湖らしきものがあったのでそこで確認したが、間違いなくレウスだった。因みに炎もしっかりと吐けました。

 小型モンスターにもなれるのかと聞くと、なれるということだったので、ジャギィに変身したが、こちらも完璧であった。

 

 その後、色々と試してみたが、武器や防具はG級以下なら全種類復元が可能ということや、モンスターの能力は完全に変身しなくても使えるということがわかった。実験体になってもらったトカゲや蝙蝠の肉は美味しくいただいた。一応、魔素を吸収できるから食事は必要無いらしいけど。

 

 そして、他にも驚くべきことが二つあった。まず、自分が若返っていたことだ。死んだ時は50歳だったのだが、湖を除いて見たら、20代くらいにまで若返っていた。

 あと、種族も変わっていた。名前は『真竜人』と言い、似たようなもので『龍人族』というのがいるらしいが、全くの別物だとか。まぁ、そんなこんなで、スキルや状況の把握を終わらせることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからかなり日にちが経った。『相棒』によると、正確には30日と6時間15分21秒らしいが・・・・無駄に細かいと思ったのは俺だけでは無いと思いたい。あれからは何をすることもなく、ただただ洞窟散策の為に歩き続けた。

 魔力感知がしっかりと出来るようになってから、個人的に妙に気になる方向があり、それを確かめる為に進んでいるのである。普通の道は普通に歩いたりして進み、地底湖などは迂回せず、水棲モンスターに変身して、そのまま直線に進んでいく。

 やがて、だんだんと魔素が濃くなり始めたような気がする。こころなしか、ヒポクテ草という薬草や魔鉱石という鉱物が増えてきているような気がするし。

 

 そろそろかな?と、思っていると。

 

 

 

(・・・・・・・・!)

 

「我が名は暴風竜ヴェルドラ!この世に4体のみ存在する『竜種』が1体である。クァーーーーーハハハハ!」

 

 ・・・・・・・・何か聞こえてきた。前者は聞き辛かったが、後者は何か凄い笑い声が聞こえた。

 

《解。前者はおそらく念話によるものなので聞き辛く、後者は念話と声帯の両方で喋っているので、聞こえやすいのかと》

 

 なるほど。実験中も思っていたが、五感もかなり強化されているみたいだな

 

 

 ・・・まぁ、件の気になる気配はあの声の方からするし、とりあえず行くしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これからどうするつもりなのだ?」

 

(そうっすねー。とりあえず同郷の異世界人でもいないか探してみますよ。見つからなくても別にいいんですけどね)

 

 俺は三上悟。元々は一応大手と言われるゼネコンで働いていた37歳のサラリーマンだったのだが・・・・包丁を持った強盗から後輩を庇った結果、刺されて死に、何故かスライムに転生した者だ。

 

 それで色々あって、今、この世界に4体しかいない竜種の一体である暴風竜ヴェルドラのところにいるのだが・・・・・

 

「そうか、行ってしまうのか・・・・・」

 

 この竜、露骨に寂しそうである。本当に竜なのかと思ってしまうが、見た目からして竜であるのは間違いない。本人もそう言ってたし。

 

 しかしこのドラゴン。見れば見るほど邪悪で怖い見た目なのだが、ピクリとも動かない。そういえば300年前に封印されたとか言ってたか?

 少し気になったので、質問しようとしたら・・・・・・

 

「む?何だ?今日は客人が多いな」

 

 心なしか、嬉しそうな声でそう言うドラゴンの視線の先を見てみると、そこには、赤い竜が居た・・・・いや、違う一瞬そう見えたけど。よく見たら、赤い鱗や金属などでできた鎧と同じような素材で作られたような、身の丈ほどもある巨大な刀?を背負った奴がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声のする方にたどり着いたのだが、そこには、何と巨大な竜が居た。いや、脚が四本あるから古龍種か?

 かなりでかいな・・・・・・・・・・だいたいラオシャンロンぐらいかな?『相棒』、コイツは一体何なんだ?

 

《解。この個体の名前は、暴風竜ヴェルドラ。世界に4種しか存在しない竜種の1体であり、精神生命体であるがゆえに、不滅の存在でもある。この世界の最強種です》

 

 へーーーってオイ!名前が龍じゃなくて竜ってだけでとんでもなくヤバイ奴じゃねーか!!

 

 ここで狩るか?と太刀を構えようとした時、竜の足下にいる何かに気がついた。

 

 見た目は楕円形で、青っぽい透明な色で、ぷにぷにして柔らかそうな物体だった。これがさっきのもう一つの念話を使っていた奴かな?

 

「ほう、パッと見は人間だが、どうやら違うようだな。我の名はヴェルドラ。この世に4種しか存在しない竜種が1体である」

 

・・・・・・・・・見た目と違って、友好的なようだ。

 

「これは丁寧にどうも。俺はジンと言う」

 

(俺は・・・とりあえず、悟って呼んでくれ)

 

 それから俺は2人・・・いや、この場合は2匹か?とにかく俺は2人と色々と話した。悟も俺と同じく転生者で、前世で後輩を庇って刺されて死んだ結果、スライムという魔物になったらしい。

 そしてこのヴェルドラだが、およそ300年、この場所に封印され続けているのだそうだ。

 

(しかし封印されたと言っても何で封印されちゃったんですか?ヴェルドラさんって結構強そうなんですが)

 

「む?まぁな。ちょっと相手を舐めてたのは間違いないが・・・・・途中から本気を出したのだが、それでも負けてしまったな!」

 

 悟の質問に対して、負けたというのに、悔しがったりするどころか、何とも誇らしげにコイツは答えた。

 

「相手はそんなに強かったのか?」

 

 もしこの世界にコイツより強い奴等がゴロゴロいるとしたら、それは古龍種クラスの強さを持つ奴が大量にいるということになる。

 下手な火山地帯よりも危険な世界に転生なんて御免こうむるんだが。

 

「ああ。強かったぞ。『加護』持ちで、人間の『勇者』と呼ばれる存在だ」

 

 ・・・・名前の特別感からして、とりあえずそんな、『神域』じみた世界では無いようだ。一安心である。

 

「そういえば、勇者は自分で自分の事を『召喚者』だと言っておったぞ。お前達のどちらかと同郷かもな」

 

(え?いやいやいや、自分と同郷ならそんなに強いはず無いですよ?)

 

「・・・・・俺の同郷だったらあり得るかもしれんが。俺の世界には勇者なんていないし、加護なんてものも無いぞ」

 

 あり得るかもしれんと言った時に悟からびっくりしてるような感情が伝わった。そんなに驚くことなのか?まぁ、世界によっては個人の平均的な強さも変わるのだろうな。

 

「この世界に来た『異世界人』は、特殊能力を持つことが多い。それは、世界を渡る際に魂に刻まれる力なのだ。召喚者ならば、必ず特殊能力を持つ。それも個々特有の『ユニークスキル』を持つのだ。偶発的にやって来る異世界人と違って、召喚に耐えるほど強い『魂』を持っているからだろう。召喚の成功例が極端に少ないという事実がその事を裏付けておる」

 

(召喚・・・というと、魔法か何かで呼び出した・・・・・とか?)

 

 魔法?もしかして別世界から来訪した、あのベヒーモスなどが使っていたようなものか?

 

《解。魔法には様々な種類があり、人間や知性のある魔物が使うことがります。因みに人間で主に魔法を使って戦う者を、魔法使いと総称します。付け加えて説明すると、貴方が元々居た世界のモンスターと違い、炎を出したり、電撃を放ったりするのに、火炎袋などの何かしらの内臓器官は必要ありません》

 

 ふむふむ、なるほどなるほど。

 

「その通りだ。30人以上の魔法使いで3日かけて儀式を行うのだ。先程も言った通り、成功例は低いが、強力な『兵器』としての役割を期待されておる」

 

「・・・・兵器だと?」

 

「うむ。召喚者は召喚主に逆らえないように魔法で魂に呪いを刻まれているからな」

 

(何だそりゃ?召喚される人の人権は無視かよ!)

 

「人権?異界には人に権利があるのか?そんなものはこの世界では幻想だ。弱肉強食こそ、万物にして絶対なるこの世の真理なのだから。力こそ、全てなのだ」

 

 ・・・・・どうもこの世界と俺の居た世界は似通っている部分があるようだ。最も、『ドンドルマ』や『バルバレ』などのような大きな街や村なら多少の人権はあるが、そこから少しでも外に出て離れれば、そこはモンスターの跋扈する凶悪な自然界。人権なんてあるはずが無く、モンスターは人間に対して遠慮など一切せずにこちらに襲いかかって来る。モンスターにとって、人間は餌か、自分の縄張りに入ってきた侵入者だ。容赦する必要なんか無い。

 だからこそ、俺達ハンターという存在があるのだが。

 

「なら、異世界人の扱いも奴隷や兵器みたいな感じなのか?」

 

「いや、人によるな。『支配の呪禁』が施されていないので、この世界のことを受け入れられたら普通に暮らしたり、冒険者になったりしてるんじゃないか?実際に、我を討伐しに来た冒険者の異世界人も何度か撃退しているぞ!クアハハハハハ!」

 

(つまり、召喚された場合だけ、強制労働の奴隷生活が待っているって事ですね・・・・・)

 

「労働では無いんだが・・まぁ、そんな感じじゃないか?我は人間に詳しい方だが、全て知っている訳では無いからな」

 

(それもそうか・・・・・・竜ですもんね)

 

 いや、むしろかなり詳しい方だと思うのだが・・・・・

 

 俺の世界でも、一部の古龍種の中には、人に化けて暮らしているような奴もいたなぁ・・・・・・とんでもない依頼をしてきやがったけど。

 

 とにかく、このヴェルドラは喋ることが出来るのが嬉しいみたいで、聞けば何でも答えてくれた。

 それからしばらく、俺は悟と、ヴェルドラに色々な事を話したのであった。

 

 勇者といかに戦ったのか、勇者がどれほど強かったのか、白い肌、真紅の小さな唇。黒銀色の長髪を1つにまとめて垂らしていたそうだ。身長はそんなに高く無く、やや小柄でほっそりした体型。

 顔はマスクで隠されていたらしいが、美人である事は間違いないと言っていた。女性だったそうだ。

 悟が(見惚れて負けたのか?)と聞いたら、「フザケルナ!」と、怒鳴られた。

 

 図星だなと俺達は思った。

 

 反りの入った独特の武器、『カタナ』と呼ばれる剣を使い、盾は持っていなかったという。

 

 ユニークスキル『絶対切断』とユニークスキル『無限牢獄』の2つのスキルを駆使して各種魔法を用い、「我を倒したのだ。」と嬉しそうに語ってくれた。

 

 話してわかったのだが・・・・・・口では雑魚だのゴミだの言っておきながら、コイツはかなり人間が好きなようだ。逆鱗に触れない限りは、襲って来た者を意図的に殺した事は無いみたいだしな。

 

 しかし、かつて1度、300年前にある事件が起きて、街を1つ灰燼にしたらしく。その事が原因で、勇者が派遣され、勇者のユニークスキル『無限牢獄』で封印されたのだと。

 

 ・・・・俺には正直竜の気持ちは完全にはわからない。俺の世界のとある地方の知り合い達に、竜と心を通わせ、共に生きている者達もいるが、俺がモンスターの気持ちを理解できるのは、彼等の本能的な行動を見た時か、狩りをして、相手と戦っている時だけだ。

 

 だが、俺にはこの竜はもう悪い竜とは思えんし、最初に抱いた警戒心なぞ、とうの昔に無くなっていた。

 

「なぁ・・・俺と・・・・友達にならないか?」

 

(お!いいな!俺もお前らと友達になりたいなと思ってたんだ!)

 

 ・・・自分で言い出したのもなんだが、何か少し恥ずかしいな・・・・

 

「な、なんだと!ス、スライムと人間にそっくりな魔物の分際で、『暴風竜ヴェルドラ』と恐れられる。この我と友達になりたいだとっ!?」

 

「・・嫌ならいいのだが・・・・」

 

「馬鹿か!!誰も嫌だなどと言っておらぬだろうが!!!」

 

(え?そう?じゃあ、どうするの?)

 

「そうじゃなぁ・・・お主らがどうしてもと言うなら・・・・・」

 

 凄いチラチラ見て来るな。

 

(どうしても、だ。決定な!)

 

「嫌なら、絶交だ。2度と来る事はない。」

 

「ちょ!待て!・・・・仕方ないな。我が友達になってやるわ!・・・・・感謝せよ!」

 

 素直じゃないなぁ。

 

(じゃあ、よろしく!)

 

「これから仲良くしてくれ。」

 

「宜しくの!そうだ、お前達に名前をやろう。だからお前達も我に名前を付けよ!」

 

(は?何でなんだ?いきなり何を・・」

 

「同格というのを魂に刻むのだ。人間で言うところのファミリーネームとかのような物なのだが、我がお前達に名付けるのは、『加護』にもなる。お前達は名乗っていたが、それは人間だった頃の名だろう?つまり、お前達はまだ『名無し』だから、これで名持ちの魔物(ネームドモンスター)の仲間入りができるぞ」

 

 えーと?つまり、俺達がファミリーネーム(この竜との共通の名前)を考えろと言う事か。しかし、この竜が俺達に名前を付けてくれることによって、俺達も名持ちの魔物(ネームドモンスター)に慣れるらしい・・・・・・そう言う事なら考えよう。

 

 正直俺にセンスは無いと思うので、悟と話し合う。

 

「タイフーン・・・は何か違うな」

 

(トルネード・・・も何か違うんだよなぁ)

 

「他に何がある?」

 

(うーーーん・・・・・・・あ!テンペストはどうだ?)

 

「・・・うん。それなら響きも良いし、大丈夫だと思うぞ」

 

(良し、ヴェルドラ!決まったぞ!テンペストとかはどうだ?)

 

 さて、反応はいかに・・・

 

「・・・・・・・・・・素晴らしい響きだ!今日から我は!ヴェルドラ=テンペストだ!」

 

 気に入ったのかよ!

 

 俺と悟は同時にそう思った。

 

 無言が長かったから不安になってたぞ・・・

 

「そして、悟。お前にはリムルを、ジンはそのままジンという名前を授ける。それぞれ、リムル=テンペスト、ジン=テンペストと名乗るが良い!」

 

 その名前は俺の魂に刻まれた。正直、見た目にも能力にも全く変化は無い。

 

 だが、魂の奥深くで何かが変化した。リムルとヴェルドラとの、繋がりのような物を感じるようになったのだ。

 

 こうして俺達は、友達になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 いかがでしたか?正直、今回はかなり説明ばかりになってしまった気がします。まぁ、ヴェルドラがなければ、ある程度の情報を知る事は無かったかもしれませんし、仕方ないですが。

 それと主人公のユニークスキル『相棒』に関してですが、正直設定的に『大賢者』さんとほぼ同じにするしか無かったです。違いらしい違いは、「詠唱破棄」が無い事と、リムルの世界に関する知識は持ってませんが、その代わりにジンの世界の知識を持っていると言うところですかね。

 それでは、またお会いしましょう。


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一時の別れ

 

 

(さて・・・行く前に一応聞いておくけど、その封印って解けないのか?)

 

「少なくとも、我の力では解けぬな。勇者と同格のユニークスキル持ちなら、可能性があるかもしれぬが・・・・」

 

 友達になった俺達であったが、俺とリムルは出発する前に、ヴェルドラの封印をどうするか考えることにした。正直、せっかく仲良くなった友達を1人だけそこに置いて行くなんてのは、かなり気が引ける。

 

(ヴェルドラはユニークスキルを持ってないのか?)

 

「持っているには持ってるのだが・・・封印された時点で全て使えなくなっている。かろうじて念話は使えるのだがな・・・・」

 

 名付けをしてもらった後に、俺とリムルのスキルの一つがかなり似たような物だというのがわかった。リムルのは『大賢者(エイチアルモノ)』という名前で俺の『相棒』と違うのは、スキルの効果の詠唱破棄の有無と、声が若干違うというところだ。

 

 で、俺達はそれぞれ、この2つのスキルの説明してもらった。

 

 それによると、本来、勇者のユニークスキル『無限牢獄』は、対象を永続の時間、無限の虚数空間と呼ばれる空間に封じ込めるスキルであり、現実世界への干渉を許す程甘い能力では無いんだそうだ。

 

 つまり、この場合、『念話』だけしか出来ないという考え方の方がおかしいのである。

 

 時間とともに封印が弱まる事自体が無いのだから、現実世界を認識した上、『念話』だけでも干渉可能なヴェルドラの方が異常なのだ。

 

 もっとも、無限牢獄の説明をしてもらっておきながら、この時、封印をどうにかしようということばかり考えていたヴェルドラを含む俺たちは、その異常に全く気付いていなかったのだが。

 

 (よし、試してみるか・・・・)

 

 リムルはそう言うと、ヴェルドラに触れた。

 

(・・・うーん。駄目だな。『捕食者』で捕食できるかと思ったんだが、一瞬で跳ね返されちまった。)

 

 そうか・・・・次は俺の番だが・・・これならどうだろうか?

 

 俺はヴェルドラに触れると、掌に意識を集中させ、赤黒いエネルギーを発生させるが、すぐにエネルギーは消えた。

 

《ユニークスキル『竜戦士』にて、ユニークスキル、『無限牢獄』に龍属性エネルギーを送り込みます・・・・・・失敗しました》

 

 駄目か・・・・・俺の生きていた世界に存在する一部のモンスターが使用する謎の属性エネルギー、『龍属性』。

 

 龍属性エネルギーの特徴に、あらゆる属性エネルギーを無効化するというものがあり、その応用で『無限牢獄』を無効化できると思ったのだが・・・・G級のならいけそうなんだがなぁ。今の俺では上位までしか使えない。

 

 やはり勇者による封印というのは格が違った。リムルの『捕食者』と俺の『竜戦士』ともに、僅かな綻びを作ったようだが・・・・すぐに再生されるだろう。

 

 どうにか出来ないかと悩んでいると、リムルがヴェルドラに質問をした。

 

(なぁ、勇者ってダメージ受けてた?というかまず傷付いたりしてたか?)

 

 うん?どういうことだ?

 

「よくぞ聞いてくれた!あの時、我の攻撃はほぼ躱されたのだが、何発かはは直撃させたのだ・・・・だが、全て効果を及ぼさなかった・・・。『死を呼ぶ嵐』、『黒き稲妻』、『破滅の嵐』さえも絶対回避不可能なのだが、効果無し。お手上げよ・・・・・笑ってしまったわ!!」

 

 などとほざきながら高笑いをするヴェルドラ。しかし、俺には話の要点が掴めなかった。

 

「つまり何が言いたいんだ?リムル。」

 

(ヴェルドラの話で確信がついたんだが、どうも『無限牢獄』は自身の身に纏うことで、外部からの攻撃を防ぐ盾にもなるみたいなんだ)

 

 何だそれ。いくら何でも万能すぎるんじゃないのか!?

 

 『無限牢獄』に、『絶対切断』。この二つが揃えばほぼ無敵だろうな。間違いなく最強クラスの存在だ。

 

 

 そんな奴が相手なら、いくらG級古龍種クラスの実力がありそうなヴェルドラでも、倒されて封印されてしまうわけだ。

 

 さて、そんな『無限牢獄』からの脱出方法だが、リムルによると、依代というのに転生させるという方法があるとのことだが、成功率はたったの3%で、しかも依代との相性が悪い場合は、記憶と能力の全てが消えてしまうらしい。

 さて、本当にどうしたものか・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、依代への転生を相談してみるも、現状では不可能だとわかり、再び方法をジンと考えていたリムルは、ふと、閃いた。

 

 いっその事『捕食者』で、ヴェルドラごと喰ってしまうか?

 捕食者の胃袋の中で解析、もしくは隔離して『無限牢獄』の効果だけ消してから解放とか出来ないかな?

 

《解。対象:ヴェルドラをユニークスキル『捕食者』の胃袋に収容することは可能です。更に、『魂の回廊』を通じ、ジン=テンペストのユニークスキル『相棒』と同時解析を行うことで、解析の効率などを上げることが可能です》

 

 可能なのか・・・・他に方法はもう無さそうだし、説明して納得してくれるのなら、やるか。

 

 このままだと、後百年ほど、孤独の中、魔素を流出しつくして消滅する運命なんて、あまりにも救いが無いからな・・・

 

 俺は、ヴェルドラとジンに『捕食者』の能力と、俺がやろうとしていることを説明した。もっとも、『大賢者』の補正なしには、成功は有り得ないのだろうが・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クアハハハハ!面白い、ぜひやってくれ。お前に我の全てを委ねる!」

 

「俺も賛成だな。正直、今リムルが言った方法以外は、今の俺では思いつかない。それに、俺のスキルが役に立つって言うなら、喜んで協力させてもらうぜ」

 

(・・・・言い出しっぺの俺が言うのもなんだが、そんなに簡単に信じていいのか?特にヴェルドラ)

 

「無論だ!ここでお前達が帰ってくるのを待つよりも、お前達と協力して『無限牢獄』を破る方が面白そうだ!なぁに、我とお前達の三人でかかれば、簡単に『無限牢獄』も破れるかもしれん!」

 

 一人じゃなく、三人か。いいな。リムルの『大賢者』と『捕食者』、そして俺の『相棒』で解析を行い、内部からはヴェルドラが破壊を試みる。

 

 スキルの効果の胃袋の中でやるから、解析をしている間に、意思が拡散して消滅する心配もない・・・・・いける。なんだかいける気がしてきたぞ!

 

(じゃあ、今からお前を喰うけど、さっさと『無限牢獄』から脱出してこいよ?)

 

「友達といつまでたっても会えないっていうのは、寂しいからな」

 

「クククッ。任せておけ!そんなに待たせずに、再びお前達と相まみえよう!!」

 

 そして、リムルはヴェルドラに触れ、捕食を行う。一瞬にして、ヴェルドラの巨体が目の前から消え失せた。

 実にあっけないものだ。今まで喋っていたというのに、いなくなって寂しさを感じた。

 

 しっかし、まぁ、あの巨体を飲み込めるとは、リムルすげぇな。

 

《ユニークスキル『無限牢獄』の『大賢者』との合同解析を行いますか? YES/NO 》

 

 当然、YESだ。頼むぜ、相棒!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、世界に激震が走った。

 天災級モンスターである『暴風竜』ヴェルドラの消滅が確認されたのだ。

 

 ヴェルドラ。特S階級(ランク)モンスター。

 

 魔物には、ランクというものがあり、冒険者と同じようにA〜Fの主に6段階評価で表される。

 

 やや強い『+』と、やや弱いもしくは、準級という意味の『-』評価が付く場合もある。

 

 これは『異世界人』と噂される自由組合の頂点『自由組合総帥(グランドマスター)』の称号を持つ神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)という男が新たに策定したクラス分けであった。

 

 今までの駆け出し→初心者→中級者→上級者の四段階評価よりもわかりやすく、ウケがいい。

 

 特Sランクとは、A評価を上回る魔王指定クラスであるSランク、その更に上の『天災』もしくは『災厄』級の魔物である。

 

 A〜Fの六段階評価の枠組みから外れる、規格外の存在。

 

 本来、Aランクの魔物でさえ、国家存続の危機に陥る場合すらある恐るべき脅威なのだ。

 

 その、絶望的なまでの危険度が窺えるだろう。

 

 三百年前に封印されていたとはいえ、そこは天災級モンスター。しかも、竜種は不滅の存在でもある。

 

 どこか別の地方で新たな脅威として再誕していてもおかしくない。

 

 しかし、消滅の報告から二十日ほど経過した頃、西方聖教会が、暴風竜ヴェルドラの完全消滅を宣言したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュラの大森林の周辺には、数多(あまた)の小国が存在する。

 ヴェルドラが消滅したという報告がもたらされると、各国は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 それぞれの国の王や大臣達は、連日、緊急の会議を行い、今後の対策と情報収集を行なっていく。

 

 小国『ブルムンド王国』の大臣であるベルヤード男爵もそんな者達の1人であった。そして、ベルヤード男爵に呼ばれた男もまた、未曾有の混乱の中に生きる者の1人。

 

 名をフューズ。背は低いが、油断ならない目つきをしている男である。

 その役職こそ、小国であるブルムンド王国の自由組合支部長(ギルドマスター)であり、この国で特に重要な役割を担う人物なのだ。

 

「君を呼んだのは外でもない。暴風竜ヴェルドラの件についてだ。聞いているだろう?」

 

 聞いていた当然と言わんがばかりの態度でベルヤード男爵は部屋に入り、椅子に座ったフューズに問いかけてきた。

 

「勿論ですよ、男爵」

 

 フューズは低いしわがれた声で、言葉少なに肯定した。

 

「ふん。流石はギルドマスター、と言っておこうか」

 

 ベルヤード男爵は、鼻を鳴らして吐き捨てるように言葉を続ける。

 

「ではギルドとしての対策を聞かせてくれんか?」

 

「別に何も」

 

「・・・・・何?」

 

「これといって特に何かを行う予定はありません」

 

「・・・・よく聞こえなかったが・・・対策を行うつもりがないだと?」

 

「はい。必要を感じませんもので」

 

 ベルヤード男爵が何を怒っているのかわからないとでも言いたげに、フューズは淡々と答える。

 

 ベルヤード男爵はその態度を不快に思いながらも、それを表に出さないように言葉を続ける。

 もっとも、その努力は全く成功しているとは言い難がったが・・・・・

 

「必要ないとは、異な事を言うものだな。暴風竜ヴェルドラが消滅したという事は、魔物の活性化が予想されるのだぞ!それなのに、対策を立てないというのか!?」

 

「これはおかしな事を仰りますな。対策を立てるのは国の仕事でしょう?我々は自由組合であり、ボランティアではありませんよ?」

 

 事実である。

 

 自由組合とは、国家の枠に縛られぬ組合の事である。

 国ごとに所属する国家所属の職人に比べて、生活の保証はされていない。しかし、国民に準ずる最低限の身分の保証はされている。故に、一定の割合で税の義務だけは課せられているのだ。

 

 こうした仕組みはこの国だけの話ではなく、この周囲の国家のほぼ全てで共通である。逆に考えるならば、自由組合とは国家の枠組みを超えた組織であり、一国家を上回る組織力を持つという事になるのだが・・・・

 

 偶然か意図的なのか不明だが、国家の下に潜り込むように活動を行っているのが実情なのだ。

 

「国民の財産を守るのは国家として最低限の義務でしょう?同様に、組合としても、組合員は守りますとも。お互いに大変ですな」

 

 フューズの白々しい言い草を聞いて、ベルヤード男爵の額に青筋が浮かんだ。明らかに足元を見られている事を悟ったのだ。

 

「御託はいい!自由組合から、傭兵を何人出せる?戦闘に長けた冒険者は?この年の防衛に何人回せるのだ!?」

 

 フューズはやれやれと溜息をつき、

 

「勘違いをして欲しくないので、もう一度言いますが、我々はボランティア団体ではありません。国家と自由組合の協定に基づく動員ならば、組合員の一割に当たる人数を動員しますが、それ以上を要求されるなら、対価次第となりますな」

 

 

 ブルムンド王国の人口は約百万人。そこに所属する組合員は七千人程度。家族は含まれていない。

 

 国家と自由組合の協定に基づく動員が発令された場合、自由組合所属の一割の人数(この場合、七百人程度)が国家の指揮下に入ることになる。

 これは当然だが、国家ごとの組合所属の人数であり、他国の組合員には適用されない。その為、自由組合とはいえ、所属国は明確にされているのだ。

 また、この協定が発令されている期間は、国家が定める事が出来るのだが、その期間中は納めるべき税を二割減とするように取り決められている。

 強制力を持つが、税収を考えるならば乱用は出来ない仕組みなのだ。もっとも、徴収される組合員の給料を立て替える必要のある組合としては、当然の取り決めなのであるが。

 仮に全員を徴収と言われたとしても対応は不可能なのだ。

 

 組合員の半数は、非戦闘員なのだから。

 

 

 王国としてもその事はよく弁えている。その為、本来であれば無理強いはしないのだが・・・・・今回はそういう場合ではなかった。

 魔物が活性化する。確かにそれは大きな理由である。

 

 だが、本当の理由があった。それは・・・・・・

 

 

 

 

「・・・・・下がれ」

 

 ベルヤード男爵が、傍で待機していたメイドを退室させる。メイドが部屋から出たのを確認すると・・・・

 

「やめだ。おいフューズ。本音を言わせる気か?」

 

 フューズはベルヤード男爵が自分の名前を呼んだ事に軽く驚く。そして、初めてベルヤード出たの顔をまともに見据えた。

 

「やつれたな、ベルヤード。白髪増えたんじゃねえか?」

 

「ちゃかすな・・・・情報がいるんだ。事は魔物の活性化だけでは済まない可能性もある」

 

「・・・・東の帝国か?」

 

「そうだ。ヴェルドラに対する遠慮か、あるいは封印が解けるのを恐れたかは知らんが、今まで大人しかった帝国に動きがある。抑止力が消えた今、東の帝国の侵攻を遮るものは何もない。あの森を抜けられたらこの王国などあっという間に飲み込まれてしまう。まして、西方聖教会はあてにならん。纏ってもいないジュラの大森林周辺の国家など、瞬く間に帝国の支配下に置かれてしまうだろう」

 

「教会は動かないか・・・・・だろうな。ヤツ等は、人同士の争いに興味がない。魔物の殲滅が教義だからな」

 

「そうだとも。せめて聖騎士が1人でも動いてくれれば、帝国も迂闊に動けぬものを・・・・魔物への備えが無くなるだけでも時間が稼げるのだが・・・」

 

「無理だろうな・・・教会にすれば、国が崩壊したとしても、自分の懐が痛む訳ではない」

 

 フューズは、ベルヤード男爵の顔を見やって思う。くたびれた顔になったなこいつ・・・・、と。

 

 無理もないのだろうが、ベルヤード男爵はここ数日で一気に老け込んだように見えた。

 

 

 2人は、実は幼馴染であった。

 男爵とはいえ、貴族と懇意にしている事が公になるのは色々と都合が悪い。

 お互いがお互いを利用していると思わせる関係を築く必要があった為、普段は仲が悪そうに演じているのだ。

 

 こんな小国だけで、この難局を乗り切る事はまず、不可能だ。

 しかし、取り越し苦労という事もありえる。

 確かに帝国に動きはあるが、まだ攻めて来ると決まった訳ではない。

 魔物だけならぱ、まだ対策の立てようはあるのだ。

 

「だが、まだ帝国が動くと決まった訳じゃないんだろ?・・・・わかったよ。幼馴染のよしみだ。調査だけは俺が個人的にやってやる。期待されても困るが、ジュラの大森林の様子と帝国の動向は探ってみる」

 

「すまん・・・助かる」

 

「いいさ。ヴェルドラの消滅は俺も気になっていた。理由もなく消えるはずがない。封印の洞窟で何かあったんだろうよ」

 

 そう、まだ帝国が動くと決まった訳ではない。

 

 仮に動くのならば、大規模な軍事行動となる。

 

 小競り合いを仕掛けに動くほど、帝国は甘くない。百万を超える軍勢を持って、周辺国家を悉く蹂躙するだろう。

 だとすれば、少なくとも三年は、準備に時間がかかるはずである。

 それでも時間が多いとは言えないが。こちらにも準備をする余裕が生まれる。

 

「ともかくは情報を掴む事だな。時間もないし、俺はもういくぞ」

 

「頼んだ・・・・・」

 

 2人は頷き合い、そして別れる。

 

 すべき事は山程あるのだ。

 

 

 

 

 

 

 




 どうも、邪神イリスです。

 思っていた以上の好評でとても嬉しいです。ありがとうございます。

 この作品だけは絶対に完結させてみせます(願望)

 さて、今回の話のフューズとベルヤードの話し合いがありましたが、当初はカットしようと思ってました。
 
 しかし、こういった幕間にもこの世界の情報は出ているので、転スラ初心者の方々のことも考え、書籍版と漫画版を混ぜて出す事にしました。

 来週からテストなので、テストが終わったら、また書いて投稿したいと思っています。

 それではまた、お会いしましょうノシ


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地上への脱出



 2021年2月7日 描写追記


 

 リムルがヴェルドラを喰ってから三十日が経過した。

 今まで、何をしていたかというと、まずはリムルの自衛手段の相談だった。今は一緒に行動しているが、何か不測の事態が起きた時の為にも、考える必要があった。

 

 リムルによると、現在進行形で行っている事だが、ヴェルドラが言う所の、魔素濃度の濃い場所で採れる薬草の『ヒポクテ草』という草を喰うことで、胃袋に回復薬を大量にストックしているので、回復手段には今のところ困る事はない。『魔鉱石』という特殊な鉱石も大量にあるが、武器に変化させる事はできない。

 ならばどうしようという時、ふと思い浮かんだ。水や空気を喰って、それを打ち出せば良いのではと。そうと決まれば物は試しと俺達は地底湖にやってきた。

 

 

 

 早速始めたがあまり良い成果は出ない。技の参考としてガノトトスに変身して、水ブレスを打って見せたが、リムルのは威力はかなり低めでちょっと痛みを感じる程度で、決定的な攻撃手段とは言えない。少し気分転換に地底湖を泳いでたら、プカプカ浮いていただけだったリムルがいきなり自由自在に泳ぎ始めたから何事かと思ったら、どうもスキル『水流移動』を得たのだとか。・・・・・・意外にスキルって簡単に手に入るものなのか?

 

 その後、ブレスではなく斬撃を出すようなイメージで練習した結果、リムルは見事スキル『水刃』を獲得し、さらに、俺と会う前に獲得したというスキル『水圧水進』と『水流移動』と『水刃』が統合進化し、エクストラスキル『水操作』まで獲得した。

 

 リムルの自衛手段も手に入れた事なので、いよいよ俺達は地上を目指す事にした。リムルの意思伝達の手段が『念話』しかないなどの不安はあるが、いつまでもジッとしているわけにはいかないし、さっさと旅立つ事にした。

 

 こうして俺達は、慣れ親しんだ地底に広がる広大な場所から、まだ見ぬ世界に思いを馳せ、地上へと目指して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地底湖から地上へと至る一本の洞窟をお互いの元々住んでいた世界について話しながら暫く進んでいると、大きな門で道が塞がれていた。さて、どうやって開ければいいものか。見た感じでは無理矢理ぶっ壊す事も出来そうだが・・・・

 そう考えていると、軋む音をしながら扉が開き始めた。

 俺とリムルは慌てて物陰に隠れ、様子を窺う。

 

「ふぅ。やっと開きやしたぜ。鍵穴まで錆びついちまってんだから」

 

「まぁ、仕方ないさ。300年も手入れされていなかったんだ」

 

「でも、封印の洞窟を調査しろだなんて、ギルドマスターも無茶振りよねぇ」

 

「安心しろって。竜なんて所詮大きなトカゲだろ?」

 

 ・・・・・人間。見たところは、ハンターと比べてかなり軽装備に見えるが、ヴェルドラの言っていた冒険者という奴か?

 

 接触したいところだが、ぱっと見は人間の俺はともかく、スライムのリムルが出てきたら、良くて警戒、悪けりゃ即攻撃を仕掛けてくる可能性がある。リムルもこれには賛成らしく、接触するのはせめてリムルが喋れるようになってからにすることにした。

 

「お二人とも、もっと寄ってくださいよ。あっしの隠密技術(アーツ)を発動させやすから」

 

 技術(アーツ)?スキルの一種か?と思っていたら三人の姿がぼやけて見えるようになった。隠密と言っていたから気配を消すような感じだろうか。能力的にはオオナヅチの下位互換と言ったところか。

 そして、三人組が気配が消えたの確認して、俺達は彼等が戻って来る前に速やかに扉を潜り抜け、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉を抜けて暫く進み、道が複数に分岐している地点に到達。種族が変わって五感が強化されているからか、そのうちの一つから風が通るような音を感じたので、その道を進んでいる時だった。

 

 

「シャーーーーーーーーーー!」

 

 目の前に俺がスキル確認の試し打ちの時に戦ったのとは別個体の黒い蛇が現れた。『相棒』によると、名前は『嵐蛇(テンペストサーペント)』と言うらしい。

 そんなことを考えてると、黒い変な息をかけてきた。俺とリムルは慌てて横に避ける。息があたった地面がドロリと溶ける。俺が倒した時は瞬殺したから知らなかったが、こんな攻撃ができたのか。

 

 だが、正直見た目はヴェルドラやモンスター達と比べたら全然怖くない。だが、無視して進んで、追いかけられてもも面倒なのでせっかくだからリムルの初の実戦相手としてどうかと思い、リムルに相談すると、すぐに提案に乗ってくれたので、俺は少し後ろに下がる。そして嵐蛇がリムルにさっきの息をもう一度かけようとした瞬間にリムルは飛び上がり、嵐蛇の横に落ちながら、空中で嵐蛇の首目掛けて『水刃』を放つ。

 刃は見事命中し、嵐蛇はあっさりと倒れた。

 

 さて、倒したは良いものの、このまま死体を置いていくのも勿体無いので、焼いて食おうかと思ったら、リムルに話しかけられた。どうもリムルの持つユニークスキル『捕食者』の能力で、捕食した相手を解析してそのスキルを得ることが可能なのだそうだ。

 別にそれを止める理由も何もないので、そのままリムルに捕食してもらう。よって、リムルは蛇の持っていた、『熱源感知』と『毒霧吐息』を獲得した。『熱源感知』は周囲の熱反応を捕捉し、隠密の効果を無効化するという効果で、『毒霧吐息』はさっき俺達に吐いてきたやつで、強力な腐食系の毒を吐くものだ。

 さらに、解析が済んだ対象に擬態が可能らしいので、早速見せてもらう事にした。黒いモヤのようなのがリムルを包み、さっき倒した嵐蛇そのものが現れた。

 

 再現度高っ!!

 

 と言うのが俺達の感想である。もうちょっとこう、形だけ擬態するのかと思っていたのでびっくりした。そして、何やら「キーキー」と鳴き声が聞こえたのでそちらを見てみると、同じくスキル確認の際に戦ったデカイ蝙蝠がいた。名前は『吸血蝙蝠(ジャイアントバット)』と言うらしい。

 

 それを見たリムルが何か思いついたのか、蝙蝠に接近し、『毒霧吐息』をかける。かかったと思った瞬間、蝙蝠の身体の半分がドロリと溶け、地面に墜落した。かなりえげつないスキルだな。そして擬態を解いたリムルは蝙蝠を捕食した。

 

 何でまた、蝙蝠に攻撃を仕掛けたのか聞いてみると、蝙蝠を捕食した時に得たスキルが『吸血』と『超音波』なのだが、この『超音波』がお目当てだったそうだ。理由は、蝙蝠の超音波を出す器官を再現することで、言葉を喋れるようになる可能性があるとのことだったので、俺もそれで納得した。

 

 その3日後・・・・・

 

「ワレワレハウチュウジンダ」

 

 遂にリムルが念話無しで言葉を喋る事に成功した。

 

「ヤッタゾダイケンジャ!ジン!」

 

「おう!」

 

 これでまたある程度不自由が無くなるだろう。これなら人間などの知能がある生き物とコミュニケーションを取る事が可能になるからだ。

 

 それから俺達は出口を目指してまた歩き続けた。道中、エビルムカデ、ブラックスパイダー、アーマーサウルスなどといった魔物とも遭遇したが、悉くを倒し、捕食することでも『麻痺吐息』、『粘糸』、『鋼糸』、『身体装甲』などのスキルをリムルは獲得した。

 特にブラックスパイダーなんかは、現れた瞬間、リムルが水刃を連続で放って瞬殺していた。どうも蜘蛛が苦手らしい。かく言う俺も、あまり蜘蛛には良い思い出が無いのだが。

 

 そしてとうとうある日、俺達は洞窟から地上に出る事に成功したのである。この世界に生まれて初めての太陽が降り注ぐ地へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実に数ヶ月ぶりの太陽に俺達は少しだけ嬉しい気分になった。早速周囲を観察する。

 

 どうも森の中にある洞窟をだったようだ。周囲は木々が生い茂り、その葉の間から、木漏れ日が差し込んでいる。

 いつまでもじっとしている訳にはいかないので、当てなぞ無いが、俺達は再び歩き出した。洞窟で何度も魔物に襲われたのが嘘のように平和であり、道中やることもないので、リムルのスキル練習や発音練習に付き合いながら歩き続ける。

 一度だけ、発声練習中に狼のような魔物の群れが襲ってきたが、2人で軽く

 

「「ア?」」

 

 と、声を出して凄んだだけで、

 

「キャイーーーーーーン!」

 

 とか、情けない声で尻尾を巻いて逃げていった。そこそこ大きく、2m超えのも何匹かいたんだが、最弱の魔物だというスライムと中身はともかく見た目はただの人間を見てビビる魔物とか情けない限りである。

 まぁ、襲われないに越したことは無いのだが、そこで俺達はようやくおかしな事に気付いた。俺達の周囲100m以内に魔物が入ってくる気配が全く無いのだ。

 まるで俺達を恐れているかのように・・・・・

 

 と、思っていたら、『魔力感知』が魔物の集団の接近を感知した。

 

 2人でしばらく待って現れたのは、30匹ほどの人型の魔物。体躯は小柄で、武装はしているが、鎧も武器もボロボロで、正直ダメージを受ける気がしない。表情を見る限りは知性が無いわけでは無いようだ。『相棒』によると、コイツらは『小鬼族(ゴブリン)』。スライムと同じで、この世界の魔物の中ではかなり弱い奴ららしい。さて、どうしたものか。俺達の力なら簡単に蹴散らせると思うのだが・・・・・

 

 そう考えていると、赤い布を頭に被っている群れのリーダーらしき個体が

 

「・・つ、強き者よ。この先に何か用事がおありですか?」

 

 ・・・・知性がありそうな感じからありそうだとは思っていたが、喋れるんだな。まぁ、俺の世界だと猫が二足歩行で喋ることなんてよくあるので、そこまで驚きはしないが。

 

 というか強き者達って俺達のことか?『ユクモノ太刀』を背負っている俺はともかく、リムルのどこをどう見たら、パッと身で強い奴と勘違いするのだろうか?単純に彼等からしたらスライムも十分脅威になるからかもしれないが。

 

 念話で軽く相談して、とりあえず俺達も挨拶を声をかけることにした。

 

「初めまして。俺はスライムのリムルという」

 

「俺は真竜人のジンだ」

 

 すると、ゴブリン達がザワめき出したかと思うと、武器を投げ捨てて平伏をしたり、中には腰が抜けたらしく、座り込んでガクガクしている者もいる。

 

 ・・・・・・・一体何事だ?

 

「つ、強き者達よ。貴方様方のお力は十分にわかりました。どうか声を鎮めて下さい!」

 

 ・・・・リムルは今、喋る時に『思念』を乗せて会話しているからそれが強過ぎたのか?もしかしたら俺もそうとは知らずに出してたのかもしれないので先程より少し小さめの声で謝罪する。

 

「すまんな。まだ調整が上手く出来なくて」

 

「驚かせてしまって申し訳ない」

 

「お、恐れ多い。我々に謝罪など不要です!」

 

 まだ少しビクついているが、さっきよりはまだマシだと思う。

 

「で、俺達になんか用か?俺達は別にこの先に用事なんか無いよ?」

 

 と、リムルが伝えると

 

「左様でしたか。この先に我々の村があるのです。複数の強力な魔物の気配がしたので、警戒に来た次第です」

 

 強力な魔物の気配?思わず俺とリムルは顔を見合わせる。そんなの居ないよな?

 

《告。周囲100m以内に、個体名リムル=テンペスト及び、ジン=テンペストを上まわる魔素を持つ魔物はおりません》

 

 だよな。

 

「俺達の『魔力感知』ではそんなの感じないのだが?」

 

 俺がそう言うと

 

「グガッ、グガガッ。ご冗談を。そのようなお姿をされても我々は騙されませんぞ。ただのスライムや人間に、そこまでの妖気(オーラ)は出せませぬ」

 

 って、俺達のことか。しかし、妖気(オーラ)だと?そんなものを出した覚えは俺達にはないのだが・・・・・まさか。

 

 『相棒』。『魔力感知』の視点を切り替えてほしい。自分を見てみたい。

 

《了》

 

 そして切り替えた瞬間に見えたのは、溢れ出るほどのでかいプレッシャーを感じるもの。

 

 うわぁ。だだ漏れじゃねぇか。どうやらリムルも同じようだ。お互い、全く気付いていなかったが、こりゃ、凄んだだけで狼も逃げるし、彼等も怯えるわけだ。

 

「ふ、ふふふ。わかるか?」

 

 リムルが、俺達がこれに気付いてなかったのをバレないようにか、誤魔化すように言う。

 

「勿論です!漂う風格までは隠せませぬ!」

 

 すぐに俺とリムルは妖気(オーラ)が身体の中に引っ込むように念じる。すると、全身を覆っていたプレッシャーのようなものがスッポリと消えた。それでも地味に滲み出ているが。

 

「おおっ!助かります。その妖気(オーラ)に怯える者も多かったので」

 

「ははは・・・いやなに、妖気(オーラ)を出していないといろんな魔物に絡まれるからな」

 

 と、リムルが上手く誤魔化してくれた。

 

 その後しばらく俺達はゴブリンと会話を楽しんでいると、話の流れで村はお邪魔することになった。どうやら泊めてくれるらしい。見た目と違ってかなり親切な奴等だ。

 しばらく歩き、彼等の村に到着した。家はボロボロで、藁でできており、俺達はその中で1番マシに見える建物?に案内された。

 

 個人的にそこまで気にはならないが、あちこち隙間だらけであり、正直な所、俺の世界のフィールドごとに設置されたベースキャンプの方が、もっと快適な場所だと思う。

 

「お待たせいたしました。お客人」

 

 そう言いながら、1匹の年老いたゴブリンが入ってきた。そのゴブリンを支えるように、先程まで俺達を案内して来たゴブリンリーダーが付き添っている。

 

「大したもてなしも出来ませんで申し訳ない。私はこの村の村長をさせて頂いております」

 

「ああ、いやいやお気遣いなく」

 

 俺はそう言い、待っている間に出された、お茶らしき物を一口飲む。味は少し苦い。

 

「それで?何か用があるから自分らを招待してくれたんですよね?」

 

 と、リムルが直球で尋ねると、いきなり2匹は、バッ、と、此方に対して平伏した。

 

「貴方様方の秘めたるお力、息子から聞き及んでおります。我らの願い、何とぞ聞き届けては貰えませんでしょうか」

 

 俺とリムルは一瞬目を見合わせる。

 

「内容によるな。言ってみろ」

 

「ははっ」

 

 リムルが尊大な態度で返答し、村長が内容を話し始める。

 

「ひと月程前、この地を護る竜の神が突如消えてしまわれました。その為、縄張りを求める近隣の魔物達がこの地に目を付けたのです」

 

 竜・・・時期的にも合っているし、もしかしてヴェルドラのことか?

 

「中でも牙狼族なる魔物は強力で、1匹に対し我ら10匹で挑んでも苦戦する有様でして・・・・」

 

「・・・そいつらの数は?」

 

「群れで100匹程になります。比べて我らの内、戦える者は雌を含めて60匹程度です・・・・・」

 

 絶望的なまでの戦力差だ。勝ち目なぞ、万が一にも無いだろう。

 

「牙狼族が100匹程っていうのは確かなのか?」

 

 俺がそう質問すると、ゴブリンリーダーが答えた。

 

「それは確実です・・・・リグルが牙狼族との死闘を経て手に入れた情報ですから」

 

「「リグル?」」

 

「リグルは私の兄です。さる魔人より名を授かった村一番の戦士でした。兄がいたから、我らはまだ生きているのです。」

 

 でした。ということは・・・・

 

「・・・・もう、いないのか?リグルは」

 

 リムルが聞くと・・・

 

「・・・・・自慢の息子でした。弱き者が散るのが宿命だとしても。息子の誇りにかけて、我らは生き残らねばなりません」

 

 ・・・・・・・・

 

 俺達は軽く念話で話をした後、顔を上げた村長にリムルが問い始めた。

 

「村長。一つ確認したい。俺達がこの村を助けるなら、その見返りはなんだ?お前達は俺達に何を差し出せる?」

 

 これは俺とリムルが念話で相談したことだ。正直、俺達は別に見返りがほしいわけではない。しかし、ここは少し体裁を整える必要があると判断したからだ。

 入り口の方をチラッと見てみると、いつのまにか、他のゴブリン達も集まっていた。そして、頷き合ったゴブリンリーダーと村長は、

 

「「強き者達よ!我々の忠誠を捧げます!」

 

 ・・・ふと、思い出した。とある子供が、なけなしの小遣いを持ってきて、村を襲おうとするモンスターを倒してくれと頼んできたことがあった。

 

 泣きながら「助けて」と言われ、場所を聞いて、団長達にすぐに送ってもらい、最速で討伐を完了したのは良い思い出だ。あの時より早く、クエストを成功したことは無いだろう。

 

 ウォォーーーーーーーーーン・・・・・・・・

 

 ここから少し遠めの方から遠吠えが聞こえてきた。

 

「牙狼族の遠吠えだ・・・!」

 

「ち、近いぞ」

 

「いよいよ攻めにくるのか!?」

 

「これ、やばいって!」

 

「おしまいだ!オレ達みんな食われちゃうんだ!」

 

「逃げようよ!」

 

「どこへ!?」

 

「行くとこなんて無いよ。ケガ人や女子供もいるんだぞ!?」

 

 スゴイ慌てようだ・・だが・・・・

 

「お前たち、落ち着きな」

 

「怯える必要はない。これから倒す相手だ」

 

 リムルが強気の口調で声をかけ、皆が俺達に注目する。

 

「で、では・・・・・」

 

「ああ、お前達のその願い、暴風竜ヴェルドラにかわり、このリムル=テンペストと・・」

 

「ジン=テンペストが・・」

 

「「聞き届けよう!!」」

 

 すると、ゴブリン達は一斉に平伏し、

 

「「「我らに守護をお与えください。さすれば、今日より、我らはリムル様とジン様の忠実なるシモベでございます!」」」

 

 俺達は大きく頷いた。

 

 こうして俺達は、ゴブリン達の主、守護者となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お気に入り 71
( ゚д゚)ポカーン・・・・・・・・

お気に入り件数を確認した時の自分の状態がこれ↑です。いや〜〜無事にテストが終わり、今話を書き終わった後、投稿する前にどれくらいなったかなと見てみたらこれだったのでびっくりしました。

他の人気の作品と比べたら全然少ないですが、自分の出した作品の中で一番多いので嬉しかったです。

このご好意に応えるべく、相も変わらずの不定期更新ではありますが、引き続き更新を頑張らさせていただきます。

さて、いよいよ次回は対牙狼族回。オリキャラも1人・・・というより1匹?出す予定です。
ぜひ、楽しみに待っていてください。


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ゴブリン村の戦い

 

 

 牙狼族。東の平原の覇者。

 東の帝国とジュラの大森林周辺諸国との貿易を行う商人達の悩みの種であった。

 1匹1匹がCランク相当の魔物であり、油断するとベテランの冒険者でも一撃で食い殺されることが危険な魔物だ。

 

 しかし、その脅威の本質は群れでの行動であった。

 有能なボスに率いられた時、牙狼族はその真価を発揮する。

 群れでありながら、1匹の魔物であるかの如く、一糸乱れぬ行動を可能とするのだ。

 

 そして、その群れとしての評価は・・・Bランクにも相当する。

 

 東の平原は、広大な穀倉地帯に隣接している。

 その為、帝国の生命線を握る重要な場所であり、その警備は常に万全である。

 牙狼族がいかに狡猾で、優れた能力を有していたとしても、帝国の防衛を突破する事は困難であった。

 仮に突破できたとしても、それは帝国を怒らせる要因となり、牙狼族の未来はその瞬間に途絶える事になるだろう。

 

 その群れのボスはその事をよく理解していた。何十年にもわたる帝国との小競り合いで学習し、その事を深く経験と共に学んだのだ。

 小規模な商人に手を出す程度ならば、帝国が本腰を入れる事はまず無い。しかし、一度穀倉地帯へと侵入しようとすれば、帝国はその牙を剥く。

 かつて、何度も同胞が犯した過ちを繰り返すわけには行かない。

 

 ボスはそう考える。

 しかし、魔物の本能として、このままでは自分達の進化が途絶えてしまう事も理解出来ていた。

 

 牙狼族は、本来は食事を必要としない。人を襲って食べるのは、彼等からすれば、オヤツを食べる程度の認識である。

 

 何故なら、人には魔素はあまり多く含まれていないからだ。

 牙狼族にとって、食事とは魔素の吸収である。より強い魔物を襲うか、多くの人間を殺し、『災厄』クラスの魔物へと進化するか。

 このままでは、どちらの方法も行う事は困難であった。

 

 牙狼族にとって、帝国は強大過ぎたのだ。しかし、このまま商人を襲い続けたとして、『災厄』クラスへの進化等、夢のまた夢である。

 

 南には、肥沃な大地に森の恵み、強大な魔力を持つ魔物達の楽園があると聞く。しかし、そこへ到達する為には、ジュラの大森林を抜ける必要があった。

 森の魔物自体は、大した事が無い。何度か、森から出た魔物を狩った経験が、そう教えてくれる。

 では何故、これまで森に侵入出来なかったのか?

 

 暴風竜ヴェルドラ。

 

 その竜の存在が、理由の全てである。

 封印されて尚、その魔力の波動は、彼等の心を怯えさせた。

 あの森の魔物は、ヴェルドラの加護を受けていると信じている。だからこそ、あの凶悪な波動の中で生活出来るのだと。

 そう信じ込んでいるのでなければ、狂っているのだろうと。

 

 今までは苦々しく思いながらも、その存在のせいで侵入を諦めていたのだ。

 

 そう、今までは・・・・・

 

 ボスは、その鋭い血色の瞳を森へと向ける。

 あの忌々しい、邪竜の気配は無い。今ならば、森の魔物を狩り尽くし、森の覇者となる事も不可能ではない。

 ボスはそう思い、舌舐めずりをした。

 そして、進撃の合図である遠吠えを行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴブリン達が俺とリムルに忠誠を誓った後、俺達は牙狼族の迎撃を行う為の人員を確保する為に、迎撃の準備として柵を作るように言った後、村長に怪我人がいる家に案内してもらった。

 

 負傷者は、不潔そうな大きめの建物に一纏めに横たえられていた。

 

「皆、牙狼族にやられた者です。中にはもう長くない者もおります・・・・・」

 

 負傷者を見た限り、薬草らしき物で一応の治療はしているようだが・・・・思っていたよりも傷は深いようだ。爪や牙で引き裂かれたのか、大きく裂けて膿んでより、包帯には血が滲んでいた。

 

 どうしたものかと思ったが、何かを思いついたのか、リムルがいきなり負傷者の一人を飲み込んだ。

 

 ・・・あ、なるほど。

 

「リムル様!?い、一体何を「心配するな。まぁ、見ていろ」ジン様・・・」

 

 少しして、リムルが負傷者を吐き出した。村長が吐き出されたゴブリンに近づくと・・・

 

「こ、これは!傷が塞がっている!?」

 

 どうやら、上手くいったようだ。

 

「さ、流石はリムル様。蘇生の力をお持ちとは・・・」

 

 残念ながらそんな物は持っていない。では、どうやったかと言うと、簡単な事だ。

 洞窟にいた頃に作っていた回復薬を体内でぶっ掛けてから吐き出しているのだ。

 

 思っていたよりも効果は高いらしく、傷痕すら残っていない。

 

 

 リムルが負傷者の怪我を全て治し終わった頃に、

 

「リムル様ー、ジン様ー」

 

 外から俺達を呼ぶ声が聞こえたので、そちらに向かった。

 

「ご命令の『柵』を作ってみました・・・・いかがでしょうか?」

 

 負傷者の所に行く前に、俺達は、柵を作っておくように言っておいたのである。

 

 木を切っている時間はないので、材料は、家を壊してその素材を流用する事にした。余り余裕がないので、こればかりはしょうがない。

 出来上がった柵を軽く触ってみる。

 

「少し強度が不安だが、時間もないしこんな物だろう。補強は俺がするからリムルは罠の準備をしといてくれ」

 

「おう。任せた」

 

 リムルが牙狼族が来るであろう方向にある村の出入り口に向かい、最後の準備を整えている間に、俺は柵の補強を始める。

 

 両手を翳し、指先から細い糸を出して、柵の繋ぎ目などに巻きつけていく。

 

「ジン様。その糸は・・・・」

 

「ん?ああ、俺のスキルだよ。これなら、数回程度なら、体当たりをされても壊れる事はないはずだ。」

 

 俺が使ったのは、『影蜘蛛 ネルスキュラ』の糸だ。奴の糸は大型モンスターや俺達ハンターの動きも止める事ができるほどの頑丈さと柔軟さを持ち合わせている。これなら大丈夫のはずだ。

 

 リムルの方も準備が終わったようだ。後は奴等が来るのを待つだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になった。

 

 牙狼族のボスは目を開く。

 

「いい月だ」

 

 今宵は満月。戦いにはおあつらえ向きだ。

 

 ゆっくりと身を起こし、周囲を睥睨する。

 そんなボスの様子を同胞である牙狼達は、息を潜めて窺っている。

 

 いい緊張具合だと、ボスは考えた。

 

「今夜、あのゴブリンの村を滅ぼし、ジュラの大森林への足がかりをつくる」

 

 その後、ゆっくりと周囲の魔物達を狩り、この森の支配者となるのだ。

 

 ゆくゆくは、更なる力を求めて南への侵攻も視野に入れている。

 自分達には、それを可能とする力がある。

 

 自分達の爪はいかなる魔物であろうと引き裂き、その牙はいかなる装甲も喰い破るのだから。

 

「行くぞ。奴らに忌々しい邪竜の加護は既にない。蹂躙の始まりだ」

 

 ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!

 

 ボスは咆哮した。蹂躙を開始する時間だ。

 

 

 しかし、ボスは気になる事があった。

 

 数日前、斥候に出した同胞が気になる情報を持ち帰っていた。

 

 異様な妖気を漂わせた、小さな魔物と人間らしきものがいたというのだ。

 

 その魔物と人間の妖気は、ボスである自分を上回っていた、と。

 

 そんなハズはないと、ボスは相手にしなかった。

 

 この森には、そんな脅威など感じ取れない。出会う魔物は皆弱く、森の中程である現在地まで、抵抗らしい抵抗は受けていない。

 

 一度だけ、ゴブリン十数匹に何匹か同胞が殺されたが、それだけである。

 

 そもそも、魔素があまり含まれてない人間ごときが、そんな異様な妖気を漂わせるはずがないのだ。高ぶって勘違いしたのだろう。

 

 そう考え、ボスは視線を前方へと向け、同胞を連れて進み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になり、牙狼族のボスが蹂躙の始まりの咆哮をした頃、ボスの咆哮が聞こえた村の方では、村を囲んでいる柵の出入り口でジンとリムル、そしてゴブリン達は、彼等が来るのを待ち構えた。

 

 

 ジンとリムルが牙狼族らしき集団を魔力感知で見つけた、それから数分とかからず、木の上に登って、見張りをしていたゴブリンが叫んだ。

 

「あ!き、来たっ。来たっすよ!牙狼族っす!!」

 

 それから更に、牙狼族が村に近づいた所で、

 

「そこで止まれ」

 

 リムルが牙狼族に話し掛けた。

 

 自分達に止まるように言ってきた牙狼族の方では、顔に星のような模様がついている個体と、炎のような模様がついている個体がある事に気づいた。

 

「オヤジ様。あの2匹です」

 

「前に伝えた例の・・・」

 

「お前達が見たという異様な妖気をまとう魔物と人間らしきものの事か?・・・・くだらん。ただのスライムと人間ではないか。そのような妖気はまとってないぞ」

 

 進行を一時止めた牙狼族に、ジンとリムルが話し掛ける。

 

「一度しか言わないから、よく聞いとけよ」

 

「このまま引き返すなら、俺達は何もしない。さっさと立ち去るがいい」

 

「オヤジ殿。どうします?」

 

「オヤジ様?」

 

 牙狼族のボスはリムル達を観察する。

 

「(人間の村によくある柵か。おおかた、あの人間が知恵を与えたのだろう。ゴミのような弱小種族風情が生意気な!あの程度の木切れ、我らの爪や牙の前には何の役にもたたぬ。我らの力を見せつけてやろう!)」

 

 そう思いボスは命令を下す。

 十数匹の牙狼達が、まるでボスの手足の如く柵へと攻撃を開始した。

 

 牙狼族は、群れで一個の魔物となる。その真価を発揮した、一糸乱れぬ攻撃であった。

 

 それは『思念伝達』による連帯行動。言葉で出すよりも素早く連携が可能なのである。

 

 しかし、先頭の牙狼達が柵に少し近づいた瞬間。

 

「ギャン!」

 

 見えない何かに切り裂かれ、血飛沫を上げて、地面に転がった。

 

「バカなっ。一体何が起こったと・・・っ!?」

 

 そこにあったのは、同胞の血に濡れた線のようなもの。

 

「なんだこれは!?」

 

 驚いていたのは、ゴブリン村の者達もであった。

 

「あの糸はさっきの!?てっきり柵を補強していたのかと・・・・」

 

「ああ、補強で俺が使ったのはただの頑丈な糸だよ」

 

「あれはジンが柵の補強をしている時に、俺が設置しておいた、『鋼糸』だ」

 

 その後も、牙狼達は怯む事なく、攻撃を仕掛けるが、細くて見えにくい『鋼糸』だけでなく、木の上からゴブリンが弓矢を放ち、次々と倒れていく。

 

 数体ほど、潜り抜けて辿り着いた個体もいたが、柵の破壊に手間取っている所を撃破された。

 

 これに慌てたのは牙狼族のボスである。

 

「(有り得ん!我ら誇り高き牙狼族が、ゴブリンやスライムなどという下等な魔物や人間に翻弄されているなど!)」

 

 牙狼族のボスは、自分の思い描いた展開とのあまりの違いに狼狽した。

 

「(・・・・・認めぬ)」

 

 下等な弱小種族に自身らが翻弄されるなど認めてたまるか。ならば、自分自身が先頭に立ち、蹂躙してやろうと考えた。

 

 自分は群れで最強の存在であり、単体でも充分強いのだ!と。

 

 そう思ったボスは飛び出した。

 

「「オヤジ殿/様!?」」

 

 2匹の牙狼が止めようとするが、ボスはそれを無視して進む。

 

「(小賢しい真似を。糸の罠は同胞達の血で見える上に、我が爪と牙を持ってすれば切断も容易い)」

 

 しかし、ボス自身が動き出した時点で、全ては決着したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思っていたよりも上手くいった。『鋼糸』だけならともかく、木の上からは矢も飛んでくるからな。順調に牙狼族を撃退し、数十匹ほど倒した頃に、痺れを切らした群れのボス格の個体が、こちらに突撃してきた。

 

「調子に乗るな!人間とスライム如きが!!捻り潰してくれる!」

 

 糸や矢を潜り抜け、そう言いながらこちらに飛びかかって来た。

 

「「「ジン様!!リムル様!!」」」

 

 慌てたゴブリン達が叫ぶ声が聞こえたが、心配する必要はない。

 

 俺達は少しだけその場から後ろに下がった。

 

 すると、牙狼族のボスが空中で静止した。

 

「な、何だこれは!?」

 

「『粘糸』だ。残念だったな」

 

 そう、リムルは、他の所には『鋼糸』を、そしてこの出入り口付近には『粘糸』を仕掛けておいたのだ。見事に引っかかってくれて良かった。

 

 ボスが身動きできなくなっている所を、すかさずリムルが『水刃』を放ち、ボスの首を跳ね飛ばした。

 

 こうして、非常にあっさりと、牙狼族のボスは倒されたのである。

 

「聞け、牙狼族よ!お前達のボスは死んだ!」

 

「選ぶがいい。服従か死か!」

 

 ・・・・・・ん?その2択だと、服従するくらいなら死を!という感じで一斉に特攻してこないか?

 

 うん。何かしまったって、雰囲気してるから、ノリで言っちゃったか?

 

 ・・・それにしても様子がおかしいな?まったく動かないぞ。統率者がいなくなったから逆に決め兼ねてるのか?

 

 ちょっとリムルに念話でどうするか聞いてみるか。

 

『おい、どうするリムル。てっきり特攻してくるかと思ったが、逃げたり特攻してくるどころか、アイツらまったく動かねぇぞ』

 

『うーん。そうだな・・・ひとつ後押ししてみるか。ちょっと、ボスを喰って様子見てみる。それでも動きが無さそうなら、擬態して、威圧したら逃げてくれるかも』

 

『よし。じゃあ頼む』

 

『おう』

 

 そう言い、俺とリムルは牙狼族のボスであった死体に近づく。

 

 先程までの争いが嘘のような静けさの中、俺達が死体に辿り着くまで、妨害しようとする者は皆無で、辿り着いたとき、ボスの側に控えていた、星の模様が顔にある個体と、同じように炎ような模様が顔にある個体が一歩後ずさった以外動きは無く、そのままリムルはボスの死体を喰った。

 

 しかし、牙狼達は、目の前で自分達のボスが喰われたというのに、動きが無い。

 

 うーむ。これは最終手段しかないみたいだぞ。

 

 リムルもそう考えたのか、牙狼に擬態した。

 

 そして、大音声で、咆哮による『威圧』を行った。

 

「クククッ、仕方がないな。今回だけは見逃してやろう。我らに従えぬと言うならば、この場より立ち去る事を許そう!!さぁ行けっ!!」

 

 うん、迫力満点。これなら牙狼達はビビって逃げてくれるだろう。無益な殺生はしない方が良いしな。と、思っていたら・・・

 

「「「我ら一同。貴方様方に従います!」」」

 

 ・・・・・・・・え?

 

 服従の宣言と一緒に平伏された。

 

 少し予想外だったので、一瞬、唖然としてしまったが、どうやら俺達に服従することを選んだようだ。『念話』みたいなので話し合ってたのか?

 

 まぁ、これ以上争う必要が無くなったのだから良い事だ。

 

 こうして、ゴブリン村の戦いは終結したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一夜明けた。

 

 あの後、ゴブリンと牙狼達にはそれぞれ1匹ずつの2人1組でペアになってもらって眠って貰った。

 

 そして朝になり、村を整備していくための指示を出そうと思って集まってもらったのだが、少し気になっていた事を、リムルが村長に聞いた。

 

「そういえば村長。お前の名は?あまり気にしてなかったが、俺達はまだお前の名前を知らないなと思ってな」

 

「いえ、魔物は普通、名を持ちません。名前がなくとも意思の疎通はできますからな」

 

 なるほど・・だけど俺達が呼ぶのには不便だし・・・・・そうだ。

 

「俺とリムルで、お前達に名前を付けるのはどうだ?」

 

「お、良いな。それなら俺達も不便じゃなくなるからな」

 

 と言った途端、周りから凄く熱い眼差しが届いてきた。

 

 え、何事?

 

「よ、宜しいのですか?」

 

 恐る恐るといった感じで村長が話しかけてきた。

 

「お、おう。とりあえず、俺とリムルでそれぞれ1列に並ばせてくれ」

 

 一瞬の間の後、歓声を上げて大興奮状態の彼等。そんなに名前が欲しいのなら、自分達で付ければ良いと思うのだが・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、名付けが始まった。村長とゴブリンリーダーはリムルが前者は『リグルド』、後者は兄の名前を継ぐ意味で、彼の兄と同じ『リグル』という名を付けた。

 

 そんな感じでドンドン名付けをしていると、村長が話しかけてきた。

 

「リムル様、ジン様。大丈夫なのですか?」

 

「ん?」

 

「何がだ?」

 

「いえ、御二方の魔力が強大なのは存じてますが、そのように一度に名を与えるなど・・・・・・」

 

「?、大丈夫じゃないか?」

 

「まぁ、問題ないだろ」

 

 それならば・・・・と、リグルドはまだ何か言いたげだったが、気にしている暇はない。

 

 それにこんな嬉しそうなのに、途中で中断するのは可哀想だしな。

 

 そんなこんなで最後の2匹となった。リムルは、顔に星の模様がある個体、俺は炎の模様がある個体だ。

 

 前者は牙狼族のボスの息子、後者は娘だそうだ。

 

 うーん。どうしようか・・・・・よく見たら炎じゃなくてどこか花にも見えるな・・・・・よし。

 

「お前の名前は『炎華(えんか)』。炎の華でエンカだ」

 

 そして俺が牙狼族のボスの娘に名付けをした瞬間、体内からごっそりと魔素が抜き取られた感覚がした。

 

 同時に、モンスターに強制睡眠状態にされた時のような猛烈な虚脱感が俺を襲う。

 

 倒れる時にたまたま視覚に入ったが、どうやらリムルも同じような状態らしい。

 

 何なんだ。これ?

 

《告。体内の魔素残量が、一定値を割り込んだため、低位活動状態(スリープモード)へと移行しました》

 

 ・・・・・・・へ?

 

《尚、完全回復の予想時刻は3日後です》

 

 え?いやいや、名前付けただけだぞ?

 

 そんなことだけでここまで魔素って消費するのか?

 

 そういや村長改め、リグルドがそんなことを言っていたが・・・・まさか魔物の中では常識だったのか?

 

 まあ、起きてしまったことは仕方ない。3日語には回復するらしいしな。

 

 意識だけはあるのだか、瞼が重すぎて目は開けられないし、『魔力感知』も使えない。

 

 触覚は感じるので、寝るためのワラの上で寝かされているのはわかる。

 

 睡眠が不要なこの身体だが、久しぶりの睡眠を楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから3日が経過、魔素は完全に回復した。

 

 むしろ、倒れる前より魔力と魔素の総量が上がったような気もする。

 

 そして、身体を起こして、目を開けると・・・・

 

「まぁ、ジン様、リムル様。お加減はもうよろしいのですか?」

 

 緑色の肌の美人さんがいた。

 

 ・・・・・・・誰!?

 

 ふと、横を見ると、リムルも起きたようだ。

 

「リグルド様を呼んでまいりますね。」

 

「「あ、はい」」

 

 そう言って、彼女は建物から外に出ていった。

 

 ・・・・・・・・

 

「なぁ、リムル」

 

 

「・・・なんだ?」

 

「あの美人さん、村にいたか?」

 

「いや、いなかったと思う」

 

 だよな。でも、倒れる前に村で見かけた人物の中に似ている者が居るのだが・・・まさかな・・・・・

 

 しばらくして、背中を向けていた出入口から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「リムル様!ジン様!御二方とも、お目覚めになられましたか!」

 

「うん?この声は・・」

 

「おお、リグルドか、さっきの女性は・・・」

 

 前より力のある声にそう言って答えながら、振り返った俺達の前に表れたのは・・・・

 

 老人のようなヨボヨボさは無い、めちゃくちゃ鍛えまくった男のハンターのような筋肉ムキムキのマッチョマンだった。

 

 誰だよ!?

 

 俺達は心の中でそう叫んだ。

 

「さぁ、こちらへ、宴の準備が出来ております。」

 

「お、おう」

 

「わ、わかった」

 

 驚きもそのまま、俺達は広場までリグルドについていく。

 周りを見てみると、明らかに皆デッカくなってるのがわかる。俺達が寝てる間に一体何があったんだ?

 

 そして、広場に付いた俺達を出迎えたのは・・・・

 

「御回復、心よりお慶び仕ります!!我が主よ!!」

 

「御回復されて良かったです。我が主様!!」

 

 額に角を生やした、2匹の牙狼?だった。

 

「ラ・・ランガ?」

 

「その模様・・エンカか?」

 

「「はっ」」

 

 ・・・・・どうゆう事だ?牙狼族のボスよりもデカいし、人語も流暢に喋るようになってる。

 

 そんな俺達の戸惑いを他所に、魔物達は喜びの雄叫びを上げ始めるのだった。

 

 

 

 

 




 どうも、邪神イリスです。

 読了ありがとうございました。

 炎華は、ジン用の嵐牙枠が欲しいなぁ。と思い、考え付いたキャラクターです。

 リムルには居て、ジンには居ないのは何か可哀想な気がしまして・・・・・・

 他にも、オリキャラは数人出す予定です。


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ドワーフ王国へ

 ジンの服装などがわからないと思うので、ここで補足しておきます
 
 髪は黒で長く、首の後ろ辺りで纏めている。

 顔付きなども含め、イメージとしてはFGOの新宿のアサシンですね。
 
 ジンは基本的に村にいる時は、ユクモノシリーズ(頭装備無し)と真ユクモノ太刀。村の外に出る時は、レウスシリーズと飛竜刀[朱]を装備しています。


 

 

あの後、俺達は全員が広場に集合するまでの間に、色々と確認してみたが、今、この村にいるゴブリンと牙狼は全て成長していた。

 

いや、この場合は成長というより進化だ。

 

相棒』によると、魔物にとって、名前を付けるという行為は、魔物の進化を促す事なのだと言う。

 

そういえば、ヴェルドラが俺達に名前を付けたときに何か言ってたな・・・確か、『名無し(ネームレス)』とか『名持ちの魔物(ネームドモンスター)』とか何とか言ってたな。

 

《解。魔物にとって、名前を得るということは名持ちの魔物(ネームドモンスター)になるという意味であり、それは魔物としての格を上げ、進化を促します》

 

な〜るほど。それならアイツらがあそこまで大喜びしていた理由もわかるな。俺とリムルがぶっ倒れたのもそれが原因か。

 

しっかし、魔物の進化ってすごいな。ゴブリン達は小柄だった進化前と比べて背が伸び、雄のゴブリンは筋肉がつき、雌のゴブリンはかなり女性っぽくなっていた。

 

因みに、雄ゴブリンは『ホブゴブリン』に、雌ゴブリンは『ゴブリナ』にそれぞれ進化していた。

 

俺達がリグルドに聞いたところ、『世界の言葉』が聞こえたそうだ。これは進化した者全てが聞いたらしく、とても珍しいことなのだ!と、興奮して語ってくれた。

 

ただ、そんなことより気になるのは・・・・

 

「なぁランガ、エンカ。牙狼族に関して、俺達はお前達2匹にしか名付けしてないと思うんだが、何で牙狼達全員が進化しているんだ?」

 

俺達が回復したのが余程嬉しかったのか、凄い纏わりついて離れない2匹に質問するリムルに続いて、俺もうんうんと頷く。あの時、この2匹に名付けをした時に、俺達はほぼ同時に魔素切れを起こしたはずだが・・・・・

 

「我が主よ!我等、牙狼族は『全にして個』なのです。同胞は皆繋がっております故に、我が名は種族名となったのです!」

 

「私は元々、突然変異で生まれた特殊個体であった為、私と、私と同じ血を引く者達はランガ達とは別の種族に進化しました。立場的には、ランガが群れのリーダーであり、私は副リーダーとしての立場となります」

 

なるほど。共通の名として、種族全体が進化したのか。

 

因みに、ランガ達の種族は『嵐牙狼族(テンペストウルフ)』、エンカと一部の雌の種族は『炎牙狼族(インフェルノウルフ)』だ。

 

2匹によると、前のボスは『全にして個』である事を信じきれていなかったらしい。

 

もし、信じきれていたら、あの戦いはもう少し別の形になっていただろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リムル様とジン様がお目覚めになられた。皆、宴の準備はできておるな?」

 

「「「はーい/おー!」」」

 

少しして、全員が集まったので、宴を開始することにした。

 

「えーでは、皆の進化と・・」

 

「戦の終わりを祝って・・・・・」

 

「「かんぱーーーーーい・・・」」

 

・・・・・・・・・

 

皆が静かにコチラを見つめてくる。

 

「「見つめていないでしろよ乾杯!!」」

 

しているコッチが恥ずかしくなるじゃねぇか!

 

「リムル様、ジン様、『かんぱい』とは一体・・・」

 

恐る恐るという感じで聞いてきたリグルドにリムルが答える。

 

「え?ああ、なんだ。知らなかったのか。こうやってコップを掲げてな・・・」

 

何でやらないのかと思ったが、単に乾杯を知らなかっただけのようだ。俺達とリグルドが乾杯するのを見て、他の者達も真似をしだし、宴が始まった。

 

まぁ、よく考えてみたらそうだよな。そもそも人間じゃないから俺達の社会常識が通じわけがないよな。

 

食事も基本生か焼いただけの物がほとんどだし、家もボロボロだ。課題は山積みだが、今は宴を楽しもう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、進化や戦の終わり、そして俺達の回復を祝い、宴は夜まで続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆広場に集まれ!リムル様とジン様より大切なお話がある」

 

翌日、俺達は再び、リグルドに皆を広場に集めてもらった。

 

集めてもらった理由は、今後の課題をクリアして行く前に、この村で生活する際のルールを教えることだ。ルールの内容に関しては、あらかじめリムルと2人で話し合い、基本の3つを決めた。

 

他の細かいルールは、今後少しづつ決めれば良いだろう。

 

全員が集まったのを見計らい、説明を始める。

 

「おはよう。皆。見ての通りだが、進化も相成って、俺達は大所帯となった」

 

「そこでだ。なるべくトラブルを避けるために、俺とリムルでルールを決めた」

 

「ルールは3つ。1つ、仲間内で争わない。2つ、進化して強くなったからと言って他種族を見下さない。3つ、人間を襲わない。以上だ。最低この3つは守ってもらいたい」

 

さて、反応はどうかな?

 

「宜しいでしょうか?」

 

リグルが質問してきたので、それにリムルが応える。

 

「お、なんだねリグル君」

 

「何故、人間を襲ってはならないのでしょうか?」

 

うん。やっぱり疑問に思うか。

 

「リムル様とジン様のご意思を・・・・!」

 

「いいから。いいから。気にするな。」

 

リグルドが、鬼の形相でリグルを睨みつけたので、落ち着かせる。

 

疑問を持ってくれるということは、俺達の言葉を真面目に聞いてくれているという事だしな。

 

そしてリムルが応える。

 

「簡単な理由だ。俺達が人間が好きだから。以上!」

 

「なるほど!理解しました!」

 

軽っ!え?何?今の説明で理解できるのか!?もっと反論しても良いのに・・・・肩透かしもいい所だ。

 

とりあえず、予め用意しておいた建前の言い訳を述べていく。

 

「いや、ええとな。人間は集団で生活してるだろ?彼らだって、襲われたら抵抗する」

 

「もし襲われたことで本気になって、数で押されたら絶対に敵わない。そういう訳でこちらからの手出しは禁止だ。それに、仲良くする方が色々と得だしな」

 

「もちろん。相手から攻撃してきたら、反撃しても構わない」

 

まぁ、もちろん本音はさっきリムルが言った通り、人間が好きってほうだ。そもそも俺達は、元は人間だしな。

 

ホブゴブリン達はより深く納得した!という表情になった。

 

「他に何かあるか?」

 

「他種族を見下さない・・・というのは?」

 

この質問にリムルが応える。

 

「いや、お前ら進化して強くなっただろ?調子に乗って弱い種族に偉そうにするなよ!って意味だよ。ちょっと強くなったからと言って、偉くなったと勘違いするな。いつか相手が強くなって仕返しされるかもしれないし、余計な争いが起きる可能性も出るしな」

 

皆熱心に聞き入ってくれてるし、大丈夫そうだな。

 

どれだけ忠告しても、言う事を聞かない者は出る。ハンターだった頃も、そうやって調子に乗ってルールを破った結果、ギルドナイトによって粛正された者は何人かいた。

 

それでも、トラブル原因はなるべく少なくなる方が良いしな。

 

「そんな所だ。なるべく守るようにしてくれ」

 

こうして、俺達はこの村での新しいルールを決め、新たな共同生活の幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ルールの次は役割分担だが・・・・・

 

『なぁリムル。役割分担についてなんだが・・・どうする?正直な所、俺もお前も統治とか苦手だろ?』

 

『あー・・そうだな・・・・・・よし。細かいは割り振りは元村長でもあるリグルドに任せよう。』

 

『それが一番だな』

 

ぶっちゃけた話が、丸投げである。まぁ、こういうのは得意な奴に任せるのが1番だしな。

 

そして、リムルがリグルドに声を掛ける。

 

「リグルド」

 

「はっ」

 

「君を『ゴブリン・ロード』に任命する。村を上手く治めるように」

 

その言葉を聞いた瞬間、リグルドの顔が感極まったような感じになったと思うと、

 

「ははぁ!!身命を賭してその任、引き受けさせて頂きます!!」

 

うん、これが一番だな。基本的に俺達は多少指示したりするだけでいいな。リムルの世界ではこういうことを『君臨すれども統治せず』と言うんだったか。いい言葉だな。

 

それに、そのうち人間の町とか色んな所に行ってみたいし、一々俺達の指示がなければ何もできないんじゃ困るしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「建て直してこれなのか?」

 

「お恥ずかしい話です・・・・・」

 

リムルが言った言葉に対してリグルドが答える。

 

あの丸投げの後、防衛戦の時に柵を作るために解体した家を、建て直させたのだが・・・・相も変わらずのボロボロの家しか出来なかったのである。

 

「まぁ、別にリグルドの采配が悪いわけじゃないんだ。建築に関するちゃんとした知識もないんじゃ、こんなものでも充分だと思うぞ」

 

「面目ない・・・・」

 

とはいえ、俺もハンター時代にベースキャンプの設営はしたことはあるが、それとは勝手も違うし、どうしたものか。それに・・・・

 

「家もだが、衣服関係もなんとかしなきゃなぁ・・・・・」

 

「こうなると技術者との繋がりが欲しいな・・・・」

 

俺達がそう呟いていると、リグルドが声を上げた。

 

「あ!」

 

「「ん?/どうした?」」

 

「今まで何度か取引をした者達が居ます。器用な者達なので、家の作り方なども存じておるやも!」

 

 ふむ、正直俺もリムルも指導する程の技術は持っていない。そこへ来て、指導してもらえるかもしれない取引相手がいるのなら・・・・・

 

『なぁ、リムル。これは・・・』

 

『あぁ、行ってみるのが良さそうだな』

 

どうやらリムルも同じ意見のようだ。

 

「なるほど!行ってみるのもいいかもしれないな。それで、何を使って取引していたんだ?金か?」

 

「いえ、冒険者の身包みを剥いだ金銭等も多少はありますが、金よりも物々交換や雑用などで物資を工面して貰っておりました。我等が使っている道具のほとんどが、その者達に用意して貰ったものなのです。」

 

「ほう。で、何という者達だ?」

 

「ドワーフ族です」

 

「ドワーフっていうと・・・あれか?鍛治の達人というイメージの・・・・・」

 

「おおっ、ご存知でしたか」

 

ドワーフ?何だそりゃ?リムルは何か知っているみたいだけど・・・・・

 

《解。主に鍛治を中心とした物作りに長けており、この世界の技術の発展を担ってきた種族です》

 

ふむ、なるほど。要するに、俺が前に生きていた世界で言えば主に武具の作成を行う竜人族や土竜族達みたいなものか。

 

因みに、リムルがドワーフを知っていた理由は、リムルの世界では、神話や御伽話に出てくる鍛治が得意な種族として、有名だったからだそうだ。

 

「ドワーフの王国は大河沿いに北上して2ヶ月の距離です。嵐牙狼族(テンペストウルフ)達の脚ならばもっと早く着くかと」

 

「なるほど。河沿い進めば迷うこともないから安心して行けるな」

 

「・・・・よし。俺とジンが直接交渉しに行く。リグルド、準備は任せてもいいか?」

 

「!!、昼までには全ての用意を整えましょうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、宣言通りにリグルドは昼までに準備を整えた。

 

ドワーフ王国に向かう者の選抜も抜かりなく行っている。

 

自分の息子であるリグルを筆頭に、計5組と、リムル、俺、ランガ、エンカである。

 

荷物を受け取り、俺がエンカの背中に乗ると、凄い嬉しそうに尻尾を振っていた。

 

移動する際に、落ちないよう念の為にリムルが『粘糸』を使って、俺達を固定する。

 

アイツ、だいぶ器用になっているな。

 

荷物の中身はお金と食料の2種類のみ。

 

用意した食料は3日分。もし、それ以上かかった場合は自給自足する予定だ。

お金は銀貨が7枚に銅貨が24枚。

うん、間違いなく大した額じゃないな。まあ、無いよりはマシだし、元々期待していなかったから問題ないな。

 

こうして、俺達は一路、ドワーフ王国に向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドワーフ王国は、ゴブリンの足で歩いて2ヶ月の距離にあるらしい。

森の中を流れるアルメド大河。これを辿って行くと山脈に出るらしく、その山脈に、目指すべきドワーフの王国がある。

 

東の方にあるという帝国とジュラの大森林周辺にあるらしい複数の国家。

この間を隔てるのがカナート大山脈である。故に、貿易をする為のルートは三つに分けられる。

一つはジュラの大森林の中を通り抜けるルート。もう一つは大山脈を越えていく険しい登山道。そして海路だ。

 

本来はジュラの大森林の中を通り抜けるルートが最も短く安全なのだが、何故かあまり利用されていないらしく、主に、大山脈を越えていく険しい登山道が主流となっているそうだ。

海路に関しては、コストがかかる上に、海の巨大魔物の脅威がある為、最も利用の少ないルートだそうだ。

 

この三つのルート以外に、ドワーフ王国を通り抜ける事も可能なのだが、コチラは通行税がかかってしまう。

 また、商品を輸送している場合は関税もかかる上に、荷物の検査も受ける必要がある。危険物の持ち込みを防止する目的がある以上、これは必須らしい。

 

少数の者ならば良いのだろうが、隊商を組んでの通り抜けには、時間とコストがかかり過ぎるので敬遠されているようだ。

 

安全なのは間違いないので、得られる利益を含めた懐具合と要相談となるだろう。

 

今回は帝国に用がある訳ではない。

 

東に森を抜ければ帝国だが、北上して、カナート大山脈を目指す。

 

山頂まで登る必要はない。ドワーフ王国はアメルド大河の上流部であるカナート大山脈のその領土を構えている。

 

山脈の、自然の大洞窟を改造した美しい都。

 

それがドワーフの王国なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は予定通りに、アメルド大河に沿って北上していた。

 

川に沿っての移動なので迷う事はない。万が一の為に俺は『相棒』に、リムルは『大賢者』に脳内で地図を表示してもらっている。

 

案内は、ゴブタという者が、一度ドワーフ王国に伝令に行ったことがあるという事なので、そいつに頼み、今は、俺とリムルの前を先導して走っている。

 

しかし、嵐牙狼族(テンペストウルフ)炎牙狼族(インフェルノウルフ)に進化した牙狼達なんだが・・・・とにかく速い!更にここまで、まったく疲れを見せていない。

 移動を開始してから3時間程が経過しているのだが、一度も休憩を入れず、時速八十キロの速度で走り続けている。でこぼこした岩場なども何のそのだ。流石に谷を駆け下りる時は地味にびびってしまったが、ハンター時代にはあれよりもっと高いところから地面に叩きつけられたこともあったのを思い出したら、まったく怖くなくなった。

 

しかし、順調とはいえゴブリン達の体力は大丈夫かと思い始めた頃。

 

『おーい。お前達大丈夫か?』

 

『リムル様?』

 

リムルから念話が届いてきた。

あれ?リムルって離れた複数の相手に同時に念話をすることってできたっけ?

 

《解。牙狼族のボスより獲得したスキル『思念伝達』によるものと思われます》

 

なるほど。

 

『相棒』から、そう説明を受けていると、リグルから返事が聞こえてきた。

 

『ご心配には及びません。進化のお陰か、我々もそれ程疲れなくなっております』

 

『そうか』

 

ふむ、これなら大丈夫そうだな。あ、進化といえば。

 

『そう言えば、リグルの兄も確か誰かに名前を付けてもらっていたよな?その時も進化はしてたのか?』

 

『はい。ですが今の我々程の変化はありませんでした。兄は10年ほど前、村に立ち寄った魔王軍の幹部ゲルミュッド様に命名されたのです。いずれは部下に欲しいと』

 

『へぇ・・・・・』

 

魔物は名付けによって進化する。ただし、どうやら名付け親によって、その程度はだいぶ異なるようだ。俺とリムルではあまり大差はなかったけどな。

 

しっかし、魔王軍ねぇ。名前からして、もう物騒な感じしかしない。

 

そういや、新大陸にいた頃、『悉くを滅ぼすネルギガンテ』を初めとする古龍などのG級(マスターランク)のモンスター達を見たクロエ(・・・)が魔王がどうのこうのとか言ってたが、何か関係があったのか?あの時は、正直特に興味はなかったしなぁ。

 

まぁ、勇者とかいう存在もいるらしいし、大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日目の終わり、就寝前の食事を取っている時。

 

「ゴブタ、お前はドワーフ王国に物々交換に行ったことがあるんだろ?」

 

「どんなところなんだ?」

 

今向かっているドワーフ王国について聞いてみた。

 

「は、はいぃぃぃぃ!!」

 

そんなにビビらなくても良いのに。

 

「え、ええとっすね、正式には『武装国家ドワルゴン』という名称(なまえ)っす。ドワーフ王は英雄王と呼ばれる人物で・・・・」

 

ゴブタの話をまとめると、現在の王ガゼル・ドワルゴは、初代から数えて3代目になるらしく、若き日の祖父に似た覇気を纏った偉大な英雄であり、この地を公平に統治する賢王としての名声が高いそうだ。

 

まさに、現代に生きる英雄の1人。

 

ドワーフの初代英雄王グラン・ドワルゴが国を興してから千年経つが、初代の意思を継ぎ、歴史と文化、そしてその技術を守り、発展させてきたという。

 

そんな賢王が治める地が、武装国家ドワルゴンなのだそうだ。

 

これは行くのが更に楽しみになった。一体どれほど素晴らしい国なのだろう?

 

「因みに、ドワーフだけでなくエルフとか人間もいっぱいいるっす」

 

エルフ?

 

なんかリムルがすごいそわそわしだしたのだが・・・・・

 

《解。そのほとんどが森で暮らし、主に魔法や弓術、精霊術などに長けた種族であり、多種族と比べてかなり長い期間を生きる長命種です》

 

へーー。

 

あ、そういえば。

 

「かなり今更だが、魔物の俺達が入っても大丈夫なのか?一応ゴブタは取引に行ったことがあるみたいだが」

 

「心配はいりません」

 

俺の疑問にリグルが答える。

 

「ドワルゴンは中立の自由貿易都市。王国内での争いは王の名において禁じられております」

 

「ほう」

 

「噂では、建国されてからこの千年。ドワーフ王率いる軍は不敗を誇るとか」

 

「ふーーん・・・千年!?」

 

なるほど、無敵のドワーフ王の不興を買ったりするようなバカは少ないということか。

 

「なら、こちらからちょっかいを出さなければ大丈夫だな」

 

「ええ」

 

「・・・・・自分が行った時は門の前で絡まれたっすけど(ボソッ

 

「トラブルなんて起こり得ませんよ。」

 

・・・・・なんだろう。今、すごい盛大にフラグが立ったような気がしたのだが、ゴブタが頼りないだけかもしれないし、大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ゴブリン村を出発してから丸3日、眼前にそびえるカナート大山脈。その麓に広がる牧草地。大自然が創造した天然の要塞。

 

武装国家ドワルゴン

 

徒歩で2ヵ月かかる距離を、俺達は3日で走破したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「る、留守番ですか?」

 

「さすがに腰布とデカい狼の集団じゃ悪目立ちするからな。ここから先へは俺とジンと案内のゴブタだけで行く。リグル達は俺達が戻るまで森の入り口で野宿していてくれ」

 

「はい・・・・・」

 

 何というか・・・すごいしょげている。だが仕方がない。さっきもリムルが言ったみたいに、悪目立ちするのは避けないといけないからな。無用なトラブルを避けるためだ。ここは我慢してもらおう。

 

「よし、行こう。リムル。ゴブタ」

 

「ちょっと気の毒っすね」

 

「まぁ、仕方ないさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通ってよし。次!」

 

並び始めて約1時間。門の前には行列ができていた。

 

天然の洞窟を塞ぐように設けられた大門。この大門は軍の出入りの為のものであり、大門の下の方の小さな出入り口に俺達は並んでいた。

 

扉は大門の両側にあるのだが、列ができていない右側の方は、どうやら貴族などのお偉い方々御用達の通路らしい。

 

「結構しっかりチェックするんだな。中々列が進まない」

 

武装国家の名に恥じぬ、厳重な警備だ。

 

「中に入った後は自由に動けるんすけどね」

 

ふーん。とリムルと思っていた時だった。

 

「おいおい、魔物がこんな所にいるぜ?」

 

・・・・・・・・うん?

 

「まだ中じゃないし、ここなら殺してもいいんじゃねぇの?」

 

「おい、荷物置いてけよ。それで見逃してやるよ。そこの鎧着たお前は鎧と武器も置いていけ」

 

はい、案の定、早速人間に絡まれました。フラグ回収です。

 

 

 

 

 

 




お気に入り件数100超え、だと・・・・!

予想外の評価に、やる気が出ています。
テストが終わったので、しばらくは早めに投稿したいなぁ(願望)



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ドワーフの職人

 

 

はぁ・・・どうしてこうなった事やら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?言い訳を聞こうか?」

 

この男はドワーフ王国警備隊隊長のカイドウ。スライムの体なら牢の格子なんて簡単に抜けられるという理由でリムルを酒樽に突っ込み、ゴブタを縄で縛り、俺を鎖で雁字搦めにして牢に放り込んでくれた張本人だ。

 

誤解される前にはっきりと言っておこう。俺達は別に何も悪いことは一切していない。

 

説得しようとリムルが必死に弁明をしており、俺も不足しているところをフォローする。

 

「自分達は入国審査の列に並んでただけですって。そしたら・・・・・・・」

 

 そう、あれは2人組の冒険者に絡まれた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、魔物がこんな所にいるぜ?」

 

「まだ中じゃないし、ここなら殺してもいいんじゃねぇの?」

 

「おい、荷物置いてけよ。それで見逃してやるよ。そこの鎧着たお前は鎧と武器も置いていけ」

 

 

その1、絡まれた

 

「・・・・ゴブタ、前に来た時もこんな感じで絡まれたのか?」

 

「はい、ここでボコボコにされて、コボルトの商人さん達に拾われたっす!あそこで拾われなかったら、俺、死んでたかもしれないっすね?」

 

・・・・それを聞いて俺は片手で頭を抱える。

 

「絡まれたんだ・・・じゃあ、しょうがないか?」

 

「弱い魔物の宿命みたいなもんなんすよ・・・・」

 

リムルの疑問に、何やら悟ったような目をして項垂れながらゴブタが答えた。

 

うーん。そういうのは先にいってほしかったなぁ・・・昨日の夜にボソッと言っていた気がするな。

 

「おい、雑魚い魔物のくせに、こっち無視してんじゃねーよ!鎧着ているお前も、こんな雑魚と一緒に居るってことはどうせ見掛け倒しなんだろ?」

 

・・・・・・流石にこれで腹が立つなというのは無理がある。まぁ、怒らせて攻撃した所を正当防衛振りかざして好き放題するつもりなんだろうが。

 

「ゴブタ君・・・前に俺が言ったルールの3つ目、覚えているかね?」

 

「はいっす!『人間を襲わない』!」

 

「うむ。では、少し目を瞑り、耳を塞いでおくんだ」

 

「?よくわかんないっすが、了解っす!」

 

「おい!さっきからぺちゃくちゃ喋っていないでさっかと荷物を置いてけ!雑魚魔物が!!」

 

「・・・雑魚?それは俺のことか?」

 

とりあえず、リムルが対処するみたいだ。まぁ、いざという時はあまりしたくないが、軽く叩きのめしてやれば良いだろう。

 

「てめーに決まってるだろうが!スライムなんざ、雑魚中の雑魚だろ!」

 

「ほう?俺がスライムに見えるのか?」

 

「喋るのは珍しいが、どっからどー見てもスライムだろうがよ!」

 

「こいつ、ふざけやがって・・・・どうやら痛い目見ないと自分達の置かれた状況が分からないみたいだな・・・ええ?スライムさんよぉ」

 

 そう言って、剣を構える2人組。しっかし、何処の世界にもマナーしらずな奴っているもんなんだなぁ。どうして順番を待つということすらもできないのか・・・・・

 

「ククク。いつから俺がスライムだと勘違いしていた?」

 

・・・・・リムルの奴、演技がちょっとノリノリになってないか?

 

「違うってんならさっさと正体を見せな!死んだ後では言い訳もできないぜ!」

 

そう言いながら2人組がリムルに襲いかかった瞬間、リムルの身体から黒い霧が噴射される。そして、霧が晴れた後には1体の魔物が出現する。

 

 

その2、リムルが狼に変身した。

 

 

「どうだ?これが真の姿(ウソ)だ。」

 

なるほど、これなら奴等もおとなしく諦めるだろう。

 

因みに、リムルが擬態したのは、『黒嵐星狼(テンペストスターウルフ)』。ちょうど、ランガが成長したような姿だ。名前を付けたら、その名付けをした魔物の派生系にも擬態できるようだな。

 

これで大丈夫!・・・と、思ったら・・・・・・・・・

 

「ハッタリだろ?見た目だけ厳つくしてもスライムはスライムだぜ!」

 

「おい、お前らも来い!5人でやっちまうぞ!」

 

まったくと言うほど、ビビっていない。しかも、少し離れて所に居た仲間を呼んできた。

 

いくら何でも、見た目だけで実力を判断するって、馬鹿としか言いようがないな・・・・・

 

「うおお!風破斬!」

 

「くらえっ」

 

「火炎球!」

 

リムルが動かないことを良い事に、攻撃を仕掛けまくっているが、まったく効いてない。偶に流れ弾がこっちにきたが、全部斬り伏せたので、問題ない。

 

 

 

ぷちっ

 

 

 

コイツら本当にどうしようかと思っていたら、そんな音がリムルから聞こえた気がした。

 

「お前らいい加減にしろ!!ダメージなくてもウザいわっ!」

 

「ん?おい、ちょっと待てリムr」

 

そう言い、俺が止める間も無く、リムルは『威圧』も込めた咆哮をかました。

 

 

その3、ちょっと大きな声で吼えた

 

 

馬鹿な五人がやられるだけだったらよかったのだが、リムルは盛大に周囲に居た他の人達も巻き込んでしまった。

 

《個体名:リムルの威圧の効果を報告します。逃走16名、錯乱68名、失神92名、失禁「いや、被害報告とかはいいからな?」・・了》

 

流石にリムルもやっちまったという感じの顔をしている。これ、本当にどうするんだよ・・・・

 

そう考えていたら・・・・・

 

「こらー!そこのお前ー!!」

 

扉の方からドワーフ王国警備隊の人達が走って来た。

 

ビクゥッ!とその声に反応したリムルは慌てて『擬態』を解く。

 

「は?スライム?」

 

「えーと・・・テヘペロ!」

 

そして、俺達は参考人として連行されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・というのが事のあらましです。ね?俺達悪くないでしょ?」

 

「うーん・・・まぁ、見ていた者の証言と概ね一致するが・・・・」

 

ユニークスキルなどについては伏せつつ、包み隠さず全て話したのだが・・・まだ、少し疑われてる気がするのでどうにかしたいのだが・・・・・

 

 

バターーーン!

 

 

どうするかと俺達が思っていた所に、大きく扉が開かれた。そして、勢いよく兵士が飛び込んでくる。

 

「隊長、大変だ。鉱山でデカい事故が起きた!なんでも、アーマーサウルスが出たとかで・・・」

 

「なんだと!?町に出てくる前に仕留めんと・・・っ」

 

「いや、そっちは大丈夫です。すでに巡回のヤツらが討伐に向かってます。ただ・・・・『魔鉱石』の採取のために奥まで潜っていた鉱山夫が酷い怪我を負ったようで・・・・」

 

「なにっ!?ガルム達が!?」

 

何というか・・・・

 

「俺達空気な」

 

「っすね。」

 

リムルとゴブタの言う通りだな。しかし、アーマーサウルスか・・・確か、洞窟にいた頃に倒した蜥蜴がそんな名前だったな。俺達は一撃で倒せたが、一般人からすれば充分脅威なのだろう。

 

「詰め所行きの回復術師達も付き添いで行ってしまってて、今はひよっこしか残っていやしねぇ!!しかも今は戦争の準備だかで回復薬の(たぐい)は品薄だ。このままじゃ・・・」

 

「馬鹿言うな!あいつらは俺の兄弟みたいなもんなんだ。そう簡単にくたばってたまるか!とにかく、今あるだけの回復薬で・・・・・」

 

ふむ、これは・・・・・

 

「おい、リムル」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく回復薬をかき集めろ!早くしねえと間に合わなk「旦那、旦那」ん?あっ、おい!何勝手に出てんだお前!」

 

「まぁまぁ、それどころじゃないんでしょ?これ、必要なんじゃないですかね」

 

そう言ったリムルが乗っている机の隣に、さっきまでリムルが入っていた酒樽を置く。

 

ちなみに鎖は普通に引き千切った。俺を拘束するのなら最低でもネルスキュラの糸並の耐久力は欲しいな。

 

「これは・・・・」

 

「回復薬ですよ。飲んで良し!かけて良し!の優れもの!」

 

ご存知、リムル特製の回復薬。魔物から提供された得体の知れない薬なんて、正直言って普通は試そうなんてしないだろうが・・・・

 

「旦那の兄弟分、このままじゃヤバイんでしょ?他に打つ手がないんじゃ、とりあえず試してみちゃどうです?」

 

今は緊急事態、しかも大怪我をしているのは彼の兄弟分。弱みにつけ込んでいるようなもんだが、交渉の為だ。致し方ない。

 

 リムルに説得され、少し考えたそぶりを見せ、顔を上げてこちらに向くと、

 

「お前らここから出るなよ!おい!行くぞ!」

 

「隊長マジすか。アレ魔物でしょ?」

 

「うるせえ!とっとと案内しやがれ!!」

 

そう言って、部下を連れて部屋を出て行った。とりあえず、俺達の事を信じる事にしたようだ。

 

見かけ通り、人のいいヤツでよかった。とにかく、今は薬が効いてくれることを祈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待つこと1時間ほど、リムルは糸を操る練習を、俺は片手立ちで筋トレを、ゴブタは寝て暇を潰していたら、ドアの方から足音がしたので、中断し、待っていると・・・・・・

 

「助かった!ありがとう!!」

 

部屋に入って来るなり、カイドウがそう言って頭を下げてきた。それに続いて、件の鉱山夫達も口々にお礼を言ってきた。

 

「あんたらがくれた薬じゃなきゃ死んでた!ありがとう!」

 

どういたしまして。

 

「今でも信じられんが、千切れかけてた腕が治ったんだよ。生き残れても仕事がなくなる所だった」

 

そいつは良かった。腕や脚は大事だからな。

 

「・・・・・・(コクコク」

 

・・・・・・いや、何か言ってくれよ。凄い感謝しているという気持ちは伝わってくるけどよ。

 

「いやホント、あんな凄い薬は初めて見たぜ。俺に出来ることなら、何でも言ってくれ」

 

「いやなに、当然の事をしたまでだよ」

 

今回の一件で、カイドウは俺達を信用してくれたようだ。

最初はどうなることかと思ったが、何とか上手くやっていけそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜明け、翌日。さすがに一様の面目などもあり、今すぐ釈放は出来ないという事で、詰め所の一室を借りて夜を過ごし、釈放された俺達は、カイドウの紹介で鍛冶屋に行くことになった。

 

しかしまあ・・・・・

 

「すごいな・・・」

 

「あぁ・・・・」

 

「っすね・・・・」

 

さすがは物作りに長けているというドワーフの国だ。ゴブリン村に比べてずいぶん文明的だ。その中でも特に武器防具が凄い。数も種類も豊富だ。

 

俺の世界のナグリ村を彷彿とさせる。そういえば、我らの団の加工担当に弟子入りしたナグリ村の加工屋の娘やナグリ村の人達も元気にしているだろうか・・・・

 

うん?この辺りの武器、なんか薄く光ってるな。

 

「あ、それそれ、それ打ったヤツだよ。」

 

「ん?」

 

武器を見ていた俺とリムルにカイドウが後ろから声を掛けてくる。

 

「これから会う鍛治師」

 

どうやら目的地に辿り着いたようだ。

 

「おい!兄貴、いるかい?」

 

そう言って、カイドウが店の中に入って行く。

 

「お邪魔します」

 

「お邪魔しま〜す」

 

「どうもっす!」

 

そう言いながら、俺達もカイドウに続いて店に入っていく。

 

店の奥の方で、槌を振るい、黙々と作業をしているドワーフがいた。

 

「なんだカイドウか。悪いが、今忙しいんだ。急ぎでないなら日を改めてくれ」

 

恐らく彼が、カイドウが紹介したいと言っていた鍛治師、『カイジン』だ。ここに来る道中、聞いていたが、何でもカイドウの兄だとか。

 

しかし・・・・どこか我らの団の『加工担当』と同じような雰囲気を感じる。同じ鍛治職人だからかな?

 

 ・・・・・あれ?

 

「ん?・・・昨日の3人じゃないか。ここで働いていたのか。

 

「ああ、どうも、リムルの旦那。ジンの旦那」

 

リムルが声を掛けたのは、昨日、回復薬で助けた3人組だ。思ったよりも早く再開出来たわけだが・・・奇妙な偶然もあったもんだ。

 

ちなみに昨日聞いたが、彼等3人は兄弟だとか。

 

「カイジンさん、このお2方ですよ。昨日、俺達を助けてくれたスライムと人族は。」

 

3兄弟の長男『ガルム』が俺達の事を説明する。

 

「そうだったのか。礼を言う。すまんが、今ちょっと手が放せなくてな」

 

「いや、いいよ」

 

「邪魔をしてすまない」

 

話は彼の作業が終わった後でも出来るだろうしな。

 

「親父さん。相談してみちゃどうです?」

 

「む?」

 

そこに次男の『ドルド』がやって来て、カイジンに話しかける。

 

「いやいや、相談しても無理だろ」

 

「でも、あんな不思議な薬を持っていた方達ですぜ」

 

「そうですよ、親父さん」

 

「・・・・・・(コクコク」

 

おいおいおい、ただのスライムや元ハンターに何を期待してるんだ?

 

まぁ、ここで恩を売っとくのもアリなのか?内容を聞いてみないと役に立てるかどうかはわからんが。

 

リムルに視線を送ると、リムルはこっちに頷いてくれた。決まりだな。

 

「役に立てるかはわからんが、話してみてくれ」

 

リムルがカイジンに話しかける。

 

「実はな・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・成る程。今週末までに長剣(ロングソード)を20本納品しなければならないのに」

 

「素材が足りないと・・・」

 

 

それはかなりまずいのではないだろうか・・・・俺もハンター時代に納品のクエストはかなりやってきたが、今回の件は、それらとはかなり勝手が違う。

期日を守れなかった事はなかったが、それでも、期日までに納品ができない事の不味さはなんとなくだがわかる。

 

「国が各職人に割り当てた仕事だ。引き受けた以上、出来ないじゃ済まされねぇ」

 

うーむ、どうしたものか・・・

 

「・・・・ん?これは違うのか?」

 

リムルが壁際に乱雑にまとめて置かれた長剣(ロングソード)を指差す。確かに、数を数えたところ、ちょうど20本ある。これで代用できないのか?

 

「ああ、それはただの鋼の剣だよ。今回の依頼は『魔鋼』を使った長剣(ロングソード)だ。」

 

うん?『魔鋼』?

 

「普通の剣とどう違うんだ?」

 

俺と同じような疑問を持ったらしいリムルが、カイジンに質問する。

 

「ウチにあった在庫で出来たのはこの1本だけだ。見てみるか?」

 

「頼む」

 

俺がそう言うと、カイジンは近くに置いてあった1本の剣を持って俺達に見せる。

 

これか・・・・あれ?この剣も光って見えるな。さっきの纏めてあった剣は光ってなかったが・・・・・

 

「この剣は、魔力を馴染ませやすい『魔鋼』を芯に使ってあるんだ。簡単に言うと、使用者のイメージに添って成長する剣なのさ」

 

何だそりゃ。前の世界には絶対に無かった特性を持つ武器だな。

 

「なら、兄貴。まず引き受けなきゃ良かったんじゃねぇか?」

 

「俺だって最初は断ったさ。そしたら、あのクソ大臣のベスターの野郎が・・・・・」

 

 

 

『名高いカイジン殿ともあろうお人が、コノ程度の仕事も出来ないのですかな?(笑)』

 

 

 

「とか、こともあろうに国王の前で言いやがって・・・・!」

 

うわぁぁ・・・それは仕方ないな。

 

「落ち着けって兄貴。自由組合(ギルド)に採取依頼は出したのか?知り合いに融通してもらうとか」

 

「やれる事はやったさ。でも絶望的だ」

 

これはほぼ詰んでるなぁ・・・・・・

 

「くそっ、期日までもう5日も無いってのに・・・」

 

カイジンが苛立たしげに、机を叩きながらそう言う。

 

ここまで話を聞いていたが、その大臣のベスターとかいう奴が『魔鋼』を買い占めるなりして、カイジンを陥れようとしてるんじゃないかと考えたのだが・・・・・考えすぎかなぁ。

 

ところで相棒。1つ聞きたい事があるのだが。

 

《はい》

 

洞窟にいた頃、リムルが鉱石を見つけ次第喰いまくっていたよな?確かあれって・・・・

 

《解。個体名:ヴェルドラ=テンペストの魔素を受け、超高純度となった魔鉱石です》

 

やっぱり!!

 

《なお、個体名:リムル=テンペストならば、即時に精製、『魔鋼』を抽出する事が可能です》

 

よし。それなら・・・

 

「なあ、リムル、『相棒』に聞いたが、お前が洞窟にいる時に喰ってたのが使えるらしいぞ」

 

「おう。俺も今ちょうど『大賢者』に確認を取っていた所だ。任せておけ」

 

「ああ、頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・とまぁ、こんな状況よ。」

 

「なあ、カイジン。」

 

 説明を終えたカイジンに俺が話しかける。

 

「ん?」

 

「俺達の村に技術指導として来る気はないか?」

 

「・・は?いや、俺は・・・・」

 

「いやー、親父さんの打つ剣、気に入っちゃって。」

 

 リムルはそう言いながら、いきなりの俺の提案に狼狽えるカイジンを尻目に、魔鋼の長剣(ロングソード)を飲み込む。

 

「あっ、コラ!なに食ってんだ!それは1本しか無い完成品なんだぞ!?・・・・・・って、おいコラ!」

 

剣を飲み込んだリムルはカイジンの声を無視し、続いて置いてあった鋼の剣を全て飲み込む。

 

数秒後、リムルを中心に強い風が起こる。

 

俺は平気だったが、カイジン達は思わず顔を腕で庇う。そして庇うのをやめると・・・・・・

 

「無理強いはしないさ。でも、検討はしてみてくれ」

 

「魔鋼の長剣(ロングソード)20本、完成だ」

 

そこには、今し方リムルが作った、薄く光った魔鋼の長剣(ロングソード)が20本、並べてあった。

 

 

 

 

 

 




 何とかクリスマスまでには出せました・・・・・

 それと、前回は言い忘れてしまいましたが、⭐︎評価をしてくださった、北の森様、青い眼をしてる黒い龍様、北竜様、白神白夜様、四葉志場様、黒瀧仙様、イセリアル様、わけみたま様、A day様、おぼ様、緋色の茶会様、禅吉様、本当にありがとうございます!しかも、⭐︎10をしてくださる方もいらっしゃるだなんて・・・・本当に嬉しいです!

 さらにお気に入り登録250件・・・・!

 よりいっそう執筆を頑張らさせていただきます!

 しかし、書くのは大変だけど、早く戦闘シーンを出したいなぁ・・・・・


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運命の人達

 

 

「打ち上げぇ?」

 

 何とも嫌そうな顔でリムルがそう言う。

 

「ああ、リムルの旦那とジンの旦那のおかげで無事に納品できたんだ。御馳走させてくれや」

 

「俺は行くぞ。ここの所酒が飲めていなかったし」

 

「いいよそんなの。味覚無いし」

 

 俺はともかく、味覚が無いリムルは断るつもりだったようだが・・・・・・

 

「綺麗なお姉ちゃんもいっぱいいるから!」

 

「そそっ。若い娘から熟女まで!」

 

「・・・・・・・・・・!(コクコク」

 

 3兄弟のこの言葉を聞くと、すぐに前言を撤回し、行く事にした。リムルは「仕方ないなぁ」と言いつつも、満更でもない顔をしており、ゴブタも顔が一気に明るくなった。

 

 お前ら分かりやすすぎるぞ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ、仕事があるというカイドウと別れ、俺達は打ち上げをしに向かう。

 

 打ち上げをする場所は、彼等の行きつけの店で、名前は『夜の蝶』と言う。

 

 カイジンの店から少し歩いて、その店に到着。中に入店すると・・・・・・

 

「「「「いらっしゃいませーーー!!」」」」

 

『FOOOOOOOOOOOOO!』

 

 店員さん達の声が聞こえたと同時に、興奮しすぎて誤って発動したらしいリムルの念話が頭の中に響いてきた。

 

「うわぁ。可愛い!」

 

 魔物と言えど、女性陣からしたら愛らしい見た目のリムルは、すぐに店員の女の子達に抱き上げられ、揉みくちゃにされてた。

 

 ・・・・・・まぁ、幸せそうだし大丈夫だろう。

 

 

 そんな事を考えながら、凄いデレデレな状態になっているリムルを見ていると。

 

「お兄さん、カッコいいね」

 

「ありがとう」

 

 何人かの女の子達がこちらにやってきた。

 

 しかしまぁ、一般的な感覚からしたら、充分露出している格好だし、目の保養になるのだが、正直前の世界の女性ハンターの装備の方が露出度が高かったので、そこまで興奮したりはしないな。特にキリンシリーズやナルガシリーズとかがなぁ。あれ絶対工房の人達の趣味だろ。

 

「えーと、楽しんでくれてるみたいでなによりだ」

 

 カイジンのその言葉で、デレデレになっていたリムルは落ち着きを取り戻したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムルが落ち着きを取り戻したところで、俺達は席に座り、食事や酒を楽しんでいた。

 

「いや本当、旦那らには感謝してるんだ。お陰でドワーフ王への面目が立つ」

 

「そいつは良かった。」

 

「しかし恐れ入ったよ。俺の渾身の一振りが、まさか数秒で量産されちまうとはね」

 

カイジンの一振り(オリジナル)が素晴らしかったからな。俺はそれを複製(コピー)しただけだ。」

 

「あんたは最高の職人だよ。カイジン。」

 

「・・・・・・・」

 

 俺達のこの言葉に嘘偽りはない。実際、カイジン以外の剣でもコピーは可能だろうが、勘みたいなものだが、彼の一振りを超える物は出来なかったと思う。

 

「それでな、旦那ら。村に来ないかと誘ってくれただろ?あれなんだがな・・・・・」

 

「あ、ママさん。さっきの美味しいのおかわりもらえる?」

 

「俺もさっきのと同じのを頼む。」

 

「お、おい。旦那ら!?」

 

 「はい、どうぞ。「ありがとう」スライムさん。味、わからないんじゃなかったの?」

 

 「綺麗な人にお酌してもらえたら、何でも美味しく感じるんだ」

 

「あら、お上手」

 

 カイジンの言葉を遮ったのには理由がある。

 

 彼はこの国の職人で、王に恩義もあるだろう。義理堅い性格みたいだし、無理を言って困らせたくない。

 

 彼の剣を見てみる限り、かなり良い腕の職人みたいだし、国がそんな技術者を簡単に手放すとも思えないしな。

 

 それに、見返りは充分貰ったような物だし、これ以上求める気も無い。

 

 あ、そういえばゴブタはどうしたかって?

 

 アイツは今回は留守番だ。まだ子供だから仕方ないね。俺とリムルの糸で動けないようにして、カイジンの店に置いて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、スライムさん。お兄さん。これ、やってみない?」

 

「「ん?」」

 

「これ!」

 

 俺達に声を掛けてきた褐色に黒髪のエルフの女の子が持っていたのは、顔と同じくらいの大きさの水晶玉だ。

 

「私、これ得意なんだよ?結構凄いって、好評なんだから」

 

 ふーん。

 

「へ、へぇ。それで、一体何をするんだ?」

 

 いや、リムル。ドキドキしている所悪いのだが、水晶玉で得意という事は恐らく・・・・・

 

「占いよ」

 

 やっぱり。リムルも少し拍子抜けした雰囲気だ。しかし、占いかぁ・・・

 

「何を占ってくれるんだ?」

 

「そうねぇ。何が良い?」

 

 何が、と、言われても、うーむ・・・・・

 

 どうしようかと悩んでいると、

 

「スライムさんとお兄さんの『運命の人』とか!」

 

 え?

 

 リムルを膝に乗せているエルフの子が、そんな事を言い出した。

 

「あ、それ良いかもー」

 

「じゃあ、始めるね」

 

 俺達に有無を言わさず、占いが始まった。

 

 『運命の人』かぁ・・・・俺からすればそんな人は既に結構居るしなぁ。

 

 この世界で初めての友であるリムルやヴェルドラ、前の世界なら、我らの団の皆に、新大陸調査団のメンバー。

 

 『ギィ』とその仲間(アイツ曰く雑用らしいけど)との出会いだって、運命のような物だ。今頃何をしてるんだろうなぁ。

 

「あ、映った!」

 

 お?どれどれ。

 

 俺達は水晶玉を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにまず映ったのは、左眼の眼元に火傷のような痕が付いた黒髪の女性と5人の子供達。次に映ったのは若い風貌の男性。最後に、鎧を纏い、剣を腰に掛けた女性と一緒に映る姿。

 もしかして、この火傷痕の様なのが付いている女性が、俺達の運命の人なのか?

 

 そこに同じように水晶玉を見ていたカイジンが声を掛けてくる。

 

「おい、その人もしかして・・・爆炎の支配者。シズエ・イザワじゃねぇか?」

 

 シズエ・イザワ?

 

「有名なのか?」

 

 リムルがカイジンに問い掛ける。

 

自由組合(ギルド)の英雄だよ。見た目は人間の若い娘さんだが、何十年も活躍してたんだ。今はもう引退して、どっかの国で若手を育ててるんじゃなかったかな」

 

「英雄・・・・」

 

 シズエ・イザワ、か・・・何処となくリムルの前世の名前に似ているな。こちらの世界で当てはめるなら、シズエの方が名前で、イザワが名字かな?

 

「スライムさんとお兄さん。運命の人、気になるんだ?」

 

「ん?そりゃまぁ、運命と言われてるしなぁ」

 

「ずるーい」

 

「いや、ずるいと言われてもな・・・・」

 

 そんな事を話していると、誰かが店に入って来る音がした。

 

「あら、いらっしゃい」

 

「おい、女主人(マダム)!この店は魔物の連れ込みを許すのか?」

 

 そんな声が聞こえてきた。一体何だ?魔物・・・この場合はリムルの事だな。今思い出したが、秘密にする気は無かったが、俺の種族が人間ではなく、『真竜人』だという事を言ってなかったな。

 

「え?い、いえ。魔物と言いましても、紳士的なスライムですし・・・・」

 

「なにぃ?スライムは魔物じゃないとでも抜かすか!?」

 

「いえ・・・・・・、そのような訳では、決して・・・・・」

 

 ママさんがのらりくらりと言葉を濁して怒りを逸らそうとしているのだが、全く取りあおうとしない。

 

「まずいな・・・大臣のベスターだ。」

 

 へぇ、アイツがカイジンを陥れようとした(あくまで可能性)噂の大臣か。いかにも神経質って感じだが・・・ん?水差しを持って・・?

 

 

 バシャーーン!

 

 

 冷たっ!

 

「ふん!魔物にはこれがお似合いよ。」

 

 コイツ、リムルに水をぶっ掛けてきやがった!しかも近くに居た俺にも少し掛かったし、リムルを膝に乗せてる子に水がちょっと掛かったが、それを気にする素振りもない。

 

「た、大変・・・っ」

 

「お兄さん、スライムさん、大丈夫?」

 

 女の子達がハンカチで濡れた俺達を拭いてくれる。

 

「・・・・ああ、大丈夫だ」

 

「・・・・俺も大丈夫だよ。お姉さんこそドレス濡れなかった?」

 

 もちろん内心はブチギレモードだ。これでキレない訳が無い。

 

「いいよ、大したことじゃない。」

 

 リムルが大臣を睨みつけようとした子達を諫める。

 

 頭にきたが、相手は一国の大臣だ。俺達の短気でカイジン達やこの店の人達に迷惑を掛けるわけにはいかない。

 

 

 ガタッ!

 

 

 ん?カイジン?

 

「おや、カイジン殿。貴方もこの店nぶげらぁっ!」

 

 カイジンが立ち上がったかと思うと、そのままベスターに近づき、思い切り右手で殴り飛ばした。

 

「・・・よくも俺の恩人達にケチつけてくれたな。」

 

「き、きっ、貴様!誰に向かってそのような口を・・・」

 

「あ゛あ゛っ?」

 

「ひっ、お、覚えてろ・・・!」

 

 動揺したベスターをカイジンが睨みつけ、捨て台詞を吐きながらベスターは店を去って行った。

 

「悪かったなママさん。店を汚して」

 

「それはいいけど・・・・」

 

「いいのかカイジン、正直すっきりしたが、相手は一国の大臣なんだろ?」

 

「この国に居られるなくなるんじゃないか?」

 

 そうだ、後味が悪くなっていたかもしれないが、カイジンは別に奴を殴りとばさなくても良かったのだ。たとえ腕の良い職人でも、大臣を殴ってしまえば、この国に居る事は出来なくなるだろう。

 

「なに、俺の帰る場所は、あんたらが用意してくれるんだろう?」

 

 ・・・・・・・!

 

「でも、王のために頑張ってきたんだろう?」

 

「へっ。やっぱりそれを気にしてたのかい。恩人を蔑ろにしてお仕えしたところで、王が喜ぶもんか。ここで応えなきゃ、俺は王の顔に泥を塗っちまう。だから、旦那らについて行かせてくれ!」

 

 カイジン・・・・・・

 

「・・・・・・わかった。」

 

「実は、俺達はその言葉を待っていたんだ」

 

「だと思ったぜ。わははははは!」

 

「よっしゃ飲み直しだー!」

 

「「「おーーー!」」」

 

 細かい事はいいんだ。カイジンが来てくれるって言うのなら、俺達はそれを受け入ればいいのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、カイジンが来てくれる事になったはいいが、当たり前だが、一国の大臣を殴ったのは、やっぱり見逃されないよな。

 

「兄貴にリムルの旦那にジンの旦那まで・・・・何をやっているんだよ」

 

 警備兵を引き連れてやって来たカイドウの第一声がこれだ。

 

「フン!馬鹿にお灸を据えてやっただけよ!」

 

「と、とにかく・・・・、兄貴達の身柄は一旦拘束させて貰う!」

 

 そう言って、部下に指示を出すカイドウ。そんな訳で、俺達は王宮へと連行されて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その2日後、裁判が始まった。

 

 この日、俺とリムルはこの世界で初めて、本当の意味での『危機感』を覚えた。

 

 その危機感は、目の前の1人の男から感じていた。

 

 その男は、武装国家ドワルゴンの現国王、ガゼル・ドワルゴ。

 

 一眼見ただけでわかった。この男、間違いなく強い。

 

 牙狼族と比べるのもおこがましい存在だ。

 

 

 

 

 




 メリークリスマス!

 はい、という事で、今日はクリスマスという事もあり、気合が入ったので初めての連続投稿です。
 まぁ、その分いつもより少し短くなっているのですが・・・・・

 それはそうとして、新たに☆評価をしてくださったMr.U様、ありがとうございます。

 冬休みになったので、宿題や受験勉強をしつつも、早めに次を投稿できるかもです・・・・・たぶん(あんまり自信無し)

 とりあえず、目標としては、大晦日までには次を投稿したいですね〜〜


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裁判開始、英雄王の審判

 

リムルに水をぶっ掛けて来た大臣をカイジンが殴り飛ばして、また拘束されてから2日後、裁判になった。

 

この場で自由に発言出来るのは伯爵位以上の貴族だけ。当事者の俺達ですら、王の許しなく発言は出来ない。

 

発言をした時点で『有罪』確定。冤罪も何も関係ないんだと。そりゃあ、外で問題行動を起こす訳だ。下手に国内で何かやってしまったら、下手すりゃ良くて一生牢獄行き、悪けりゃ死刑だろうしな。

 

まぁ、と言う訳で、俺達の意見を代弁する弁護人のような男がいるのだが・・・・この男、とにかく胡散臭い。 

 

正直、人を見た目だけで判断するのは駄目なのだが、どうにも嫌な予感がするんだよなぁ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・と、このように、店で寛いでおられたベスター殿に対して因縁をつけ、カイジン達は複数で暴行を加えたのです。」

 

 おいおいおいおいおい!?コイツまさか見た目通りの奴なのかよ?!

 

「事実か?」

 

「はい!店側からも調書を取ってございます。」

 

 いやいや。あの店の人達がそんな証言をするわけないだろ・・・・まさか。

 

 俺はチラッと、少し離れた場所に座っているベスターを見ると、ニヤニヤした顔で、こちらを愉悦感たっぷりの顔で見ていた。

 

 怪我をしたにしても、必要以上に包帯なども着けてるし、さてはアイツ買収をしやがったな。

 

 裁判が始まるまで牢に入れられていた時にカイジンから聞いていた通りの狡賢い男のようだ。

 

 カイジンはその時に、ベスターとの因縁に関して話してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は昔、この国の王宮騎士団の団長をやっていたんだ。まぁ団長と言っても、七つの部隊の1つを任されていただけなんだがな」

 

 その七つの部隊はそれぞれ、裏方担当の工作部隊・兵站部隊・救急部隊の三部隊、花形の重装打撃部隊・魔法打撃部隊・魔法支援部隊の三部隊。そして最も重要な王直属護衛部隊があるそうだ。

 

 俺の世界だと、モンスターという共通の脅威が居る為、滅多に戦争は起きてなかったから、あまり軍に関して聞いたり知ったりする機会はなかったが、それぞれで役目をしっかりと決めておくのは何処も同じなんだな。

 

 で、カイジンはその中の工作部隊を団長を務めていて、その時の副官がベスターだったそうだ。

 

「ヤツは公爵家の出でな。金で地位を買ったと言われていた。庶民の出だった俺に従うのは面白くなかったんだろうな。よく衝突していたよ・・・・そんな時にある計画が立ち上がったんだ」

 

 その計画の名は『魔装兵計画』。魔剣などに変わる新たな兵器開発として、エルフの技術者との共同開発が行われたらしい。

 

 しかし、功を焦ったベスターが独走してその魔装兵の動力・・・・人間でいう心臓のような場所となる『精霊魔導核』の暴走を引き起こしてしまい、初期段階で実験は失敗。計画は頓挫してしまったとの事だ。

 

「で、俺は責任を取って軍を辞めざるを得なくなったのさ」

 

 語り終えたカイジンは疲れたように溜息を吐いた。

 

 あれ、だけどそれなら・・・・・・

 

「ベスターはお咎めなしだったのか?」

 

 俺が今、ふと疑問に思った事と同じような事をリムルがカイジンに問うと、

 

「ああ。奴が軍の幹部を抱き込んで偽の証言まででっち上げたのさ。全ての責は俺1人にあるんだと」

 

「うわぁ」

 

 その返答にリムルが思わず呻く。

 

 うーむ。これは酷いな。

 

「こいつらは当時俺を擁護してくれてな」

 

 カイジンが一緒に拘束された三兄弟を指差す。

 

「揃いも揃って不器用なくせして必死に俺を庇ってな、んで、一緒に軍を追われた」

 

 はっはっはっはっはっ。

 

 と、カイジン達は笑ったが、聞いているこちらからしたらまったく笑い事にならない。

 

「だが・・・まぁ、ヤツも別に悪人ってわけじゃないんだ」

 

「え?」

 

「・・・・どういう事だ?」

 

 突然ベスターを庇うような言葉に、俺達は疑問を持った。

 

「俺とは馬が合わなかったが、もともと研究熱心で努力家だ。功を焦ったのも王の期待に応えようとした結果だしな。俺が旦那達についてここから消えりゃ、ヤツも少しはマシになるだろうさ。はっはっは!」

 

 そう言ってカイジンはまた笑ったが、そういうものなのだろうか・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして裁判は終盤に差し掛かり、

 

「王よ!この者達への厳罰を申し渡し下さい。」

 

 ベスターが立ち上がり、そう言った。

 

 カイジンはああ言ってたが、コイツに本当に良心なんてあるのか?!

 

 しかし、正直マズい状況だ。発言が許されないという事は、俺達が事実だという事を主張する事すら出来ないんだからな・・・

 

 カイジン達も、顔を青ざめて俯いてるし・・・・

 

 王は目を閉じたまま微動だにしない。その様子を確認した側仕えが王に代わって発言を行い、裁判を閉会しようとした時だった。

 

「待て・・・・・カイジンよ。」

 

「・・・はっ!」

 

 王が目を開けて閉会の言葉を遮り、カイジンの名を呼んだ。

 

 一拍おいて、カイジンが返答して椅子から立ち上がりる。さすがに王の問いかけに対しても、返事をしてはいけないわけではないようだ。

 

「久しいな。息災か?」

 

「は!王におかれましても、ご健勝そうで何よりでございます。」

 

 再びの問いかけに対して、カイジンは膝をつきながら答える。

 

「よい。余とそちの仲である。それよりも、戻って来る気はあるか?」

 

 カイジンに応じて、王は本題を切り出してきた。

 

 かなり異例な事のようで、周囲が一気にざわめきだし、ベスターは青ざめ、裏切った代理人にいたっては、今にも死にそうな程の土気色の顔色になっていた。

 

「恐れながら王よ。私は既に主を得ました。」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「王の命令であれど、主を裏切ることはできません」

 

 カイジンはそう言い、王を見つめる。

 

 その目を見て、王は小さく笑みを浮かべ、

 

「・・・で、あるか。」

 

 周囲を再び静寂がつつむ。王が笑みを収めると、

 

「判決を言い渡す。カイジン及びその仲間は国外追放とする。今宵日付が変わって以後、この国に滞在する事を許さん。以上だ。余の前より消えるがよい」

 

 王の一喝で、裁判は閉廷された。かなりの威圧感だった。前の世界でG級古龍の依頼をしてきた時の王を思い出すな。

 

 ただ、最後にこの場から去る時に、王を後ろ目で見てみた時、気のせいだったかもしれないが、その顔はどこか、少し寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場は先程まで、騒々しい遣り取りがあったとは思えないほどの静寂に包まれていた。

 

 6人の犯罪者が逃げるようにこの場を去り、近衛に連れられて共犯の代理人も出て行った後、誰1人として動く者はいない。

 

 ベスターはゴクリと唾を飲み込む。王が沈黙している事にどんどん恐怖が込み上げてくる。

 

 そして、その静寂を壊すかの如く、王ガゼルが口を開いた。

 

「ベスターよ」

 

「・・・っ」

 

 その声に反応したベスターが、俯いていた顔を上げると、

 

「これを見よ」

 

 そう言い、いつの間にか近衛が運んで来た2つの品を指し示す。

 

 1つはベスターが見た事もない液体の詰まった瓶。もう1つは一本のロングソードだった。

 

「そ、それは・・・・」

 

「警備隊長より余ったものを預かった。鉱山夫達の傷を完全に治したそうだ」

 

 それを聞いたベスターに衝撃が走る。

 

「まさか、完全回復薬(フルポーション)!?そんな・・・・ドワーフ(我ら)の技術を持ってしても、上位回復薬(ハイポーション)までしか作れないというのに・・・・・」

 

 回復薬の原料として使われるヒポクテ草の完全抽出液。それが完全回復薬(フルポーション)だ。

 

 ドワーフの技術の枠を集めても、98%の抽出が限界。しかも98%では上位回復薬(ハイポーション)の効果しか得られないのだ。それが、99%!驚きにベスターの顔が歪む。

 

 そして更に驚いたのがロングソード。

 

 芯に使った魔鋼が既に侵食を始めていると言うのだ。

 

 有り得ない。普通は10年もの時間をかけて馴染んでから、徐々に侵食は行われるものなのに!

 

 2つを見て、ベスターは思った。

 

(知りたい・・・その製造方法を!!)

 

 しかし、その顔を見た王は、

 

「・・・惜しいものだ。そのような目ができる臣を失うことになるとは」

 

 そう、ベスターに告げた。

 

「!!王よ、お待ちください。私は・・・・っ」

 

 その言葉に反応し、心臓が早鐘を打つベスターは、必死に言い訳をしようとするが・・・

 

「その薬をもたらしたのは、あのスライムと人族だ」

 

「!!」

 

「お前の行いが、あの魔物と人族との繋がりを絶った。ベスターよ。何か言いたい事はあるか?」

 

 王の怒りを感じるその言葉にベスターは愕然とし、フラリとよろける。

 

「わ、わた、私は・・・・」

 

(なぜ・・・・なぜ、私は王に問い詰められているのだろう。)

 

 ベスターの脳内に、幼き日の記憶が浮かぶ。

 

(幼い日、凱旋される王を見て誓った・・・あの王にお仕えするのだと。お役に立つのだと・・・・・)

 

「もう一度問おう。ベスターよ。何か言いたい事はあるか?」

 

 そして、両膝をつきながらベスターは悟った。

 

(ああ、そうか・・・・私は道を誤っていたのだ・・・カイジンに嫉妬した、あの時から・・・・・・・・)

 

「何も・・・・・何もございません。王よ。」

 

「そうか」

 

 ベスターの返答にそう答えて王は立ち上がり・・・

 

「王宮への立ち入りを禁止する。二度と余の前に姿を見せるな」

 

 後ろを向き、歩きながらそう告げた。その言葉に項垂れいたベスターに足を止めたガゼル王は振り向いたまま、

 

「だがベスターよ。これまでの働き」

 

 その声にベスターは顔を上げ、

 

「大儀であった」

 

 そう言い、ガゼル王は裁判所から去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立ち去る途中、ガゼル王は近くの暗闇に声をかける。

 

「暗部よ。あの魔物(スライム)と人族の動向を監視せよ」

 

「は!」

 

「気取られるなよ」

 

「この命に代えましても」

 

 王の命令を受け、暗部は影から姿を消した。

 

 王は思っていた。

 

 あの魔物と人族は何者かと。

 

(あれらは一種の化け物だ。まるで彼の暴風竜が如き存在感。余の(スキル)でもその心の深奥を覗けぬとは・・・・)

 

 魔物もそうだが、特に人族は覗こうとした瞬間、言い知れぬ『何か』を感じ取った。それも1つや2つではなく、多くの『何か』を英雄としての彼の直感が、王に無視しえぬ何かを感じさせたのだ。

 

 その直感を信じ、王は行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー。一時はどうなることかと思ったが、ま、概ね予定通りだな!」

 

「その代わりに入国禁止となったがな」

 

 森の入り口でリグル達と合流して国で何があったか話終えてそう言ったリムルに俺は言葉を付け加える

 

 そんな俺達にリグル達はホッとした顔を見せた。

 

「御二方共、ご無事で安心しました。それにしても裁判とは・・・・・」

 

「俺の日頃の行いがよかったから助かった感じだけどな」

 

「どっちにしろ、鉱山で強制労働をする羽目になんてならなかったんだからな。入国禁止で済ませるなんて、優しい方だ」

 

 昔は装備を造ってもらう為に自分で鉱石を取りに行ったりもしたが、強制じゃなかったしなぁ・・・・良いお守りが出ないって嘆いていた奴もいたな。

 

「そうだ。まだ紹介してなかったな。彼が武具製作の職人の・・・・・」

 

 俺とリムルがカイジン達の紹介をしようと後ろを振り向いたら、呆然として、顔を青ざめているカイジンと三兄弟がいた。

 

「・・・・おい。どうしたんだカイジン」

 

 俺が疑問を口にすると、

 

嵐牙狼族(テンペストウルフ)炎牙狼族(インフェルノウルフ)に驚いているのでは?」

 

 と、カイジン達の代わりにリグルが答えてくれたので納得した。まぁ、最初は怯えるよな。 

 

 とりあえず、呆然としているカイジン達をおいといて、リムルがそのまま紹介を続ける。

 

「まぁ、いいや。続けるぞ。三兄弟の長男のガルム。腕のいい防具職人だ。次に次男ドルド。細工の腕はドワーフ随一って話だ。そして三男のミルド。器用で建築や芸術にも詳しいんだ」

 

「最初は約束したのはカイジンだけだったんだが、どうせ全員国を離れなければならなくなったからな。全員誘ったんだ」

 

「さすがはリムル様とジン様!」

 

 俺達の説明を聞いたリグルは、興奮したような様子を見せる。

 

「さて、じゃあ帰るとするか!俺達の村に!」

 

 リムルがそう言い、リグル達は荷物を背負う。

 

 ただ・・・・・・何か忘れている気がするんだよな・・・・こう、何かというか誰かを置いて来たような・・・・・・・

 

 と、何を忘れたのかを思い浮かべようとした時だった。後ろ・・ドワルゴンの城門の方から、こちらに向かって何かが勢い良く走ってくる音が聞こえてきた。

 

 リムル達も気づいたようで、何かと思って振り向いてみると・・・・

 

「ひどいっすうううううううううう!!」

 

 嵐牙狼(テンペストウルフ)に乗って、顔を青ざめたゴブタが門の方からすごいスピードでやって来た。

 

 そうだった。ゴブタを糸でぐるぐる巻きにしてカイジンの店に置いてきてたんだった。

 

「お、おおゴブタ。大丈夫だったか?」

 

 リムルが少し動揺した感じで追いついたゴブタに声をかける。

 

「リムル様もジン様もあんまりっすよ!怖い兵隊さんが来て泣きそうだったっすよ!!」

 

「すまんなゴブタ。こっちも少し色々とあってな・・・」

 

「いや悪い・・・・ごめん。今度綺麗なお姉ちゃんのいっぱいいる店連れてくから」

 

 とにかく俺達は謝り、リムルがそう言うと、

 

「ホントっすか!?絶対っすよ!?約束っすからね!!」

 

 と、血涙を流したゴブタが凄い形相でリムルに聞き返す。

 

「お、おう・・・・・・」

 

「やったっすーー!」

 

 ・・・・何というか。凄い単純だな。機嫌を治してくれたからよかったけど、ドワーフ王国入国禁止になったから当分は無理だろうがなぁ・・・・・・・・

 

 そして俺はここでふと気がついた。今、ゴブタは嵐牙狼(テンペストウルフ)に乗って、門の方から来たが、そもそも俺達は王国内に狼を連れてきてない筈なのだが・・・・・・一体どうやったんだ?

 

 ・・・・・・まぁ、後で本人に聞けばいいか。

 

「よーし。じゃあ帰るぞ!」

 

「俺達の村に!」

 

「「「おーーー!」」」

 

 そして俺達は、新たな4人の仲間を加え、村に帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ブルムンド王国の自由組合の自由組合支部長(ギルドマスター)フューズの前には、3人組の冒険者が座っていた。

 

 隠密行動や情報収集に優れた盗賊(シーフ)の男、ギド。軽口を叩くが仕事は丁寧にこなし、防御力に秀で、パーティの壁役としての職務を着実にこなす重戦士(ファイター)の男、カバル。特殊魔法に特化しており、多彩な魔法を操る事ができ、中でも移動系魔法に優れており、パーティの生存率を高める為に用意周到さが特筆ある法術師(ソーサラー)の女性、エレン。この3人だ。因みに冒険者としてのランクはBである。

 

 3人はヴェルドラの封印されている洞窟の調査に向かわされ、調査を終えて、その報告を行なっている所だった。

 

「・・・・・そうか。報告ご苦労」

 

 そして報告書類に目を向けてフューズは3人に

 

「今日を含め三日間休暇をやる。その後もう一度、森の調査に向かってくれ。洞窟内部に入る必要はない。周辺の調査をくまなく行うように。では、行っていいぞ」

 

 そう伝えた。

 

 その言葉に、3人は何も言えない表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『行っていいぞ』じゃねーよ!」

 

 建物から出た後、カバルがそう叫ぶと、

 

「それをギルマスの目の前で言って欲しいでやす」

 

「うんうん」

 

「・・・・言えるわけないだろぉ。相手はギルマスなんだぜぇ・・・・・」

 

 ギドがジト目で文句を言い、エレンがそれに肯くが、それに対してカバルは肩を落としながら言い返す。

 

「はぁ・・・3日後にはまたあの森かぁ・・・・・」

 

「短すぎる休暇でやすねぇ・・・・」

 

「言うな。お前ら・・・・・・」

 

 3人が喋りながら、とぼとぼと宿屋へ向かっていると、

 

「失礼。キミ達はもしかして、ジュラの大森林に向かうつもりか?」

 

 後方から、3人に声をかけてきた者がいた。

 

 3人が振り向くと、そこには表情のない美しい模様を象った仮面を被った、黒髪の女性が立っていた。

 

「私の名はシズ。もし迷惑でなければ、同行させて貰えないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 どうも。邪神イリスです。

 ようやくドワーフ王国終わったので、次の話から、ようやく地位向上編の終盤に入ることができます。

 それと、感想で疑問に思われた事に対して、返信でお伝えしましたが、ここでいくつか補足をさせていただきます

 まず、なんでジンがネットスラングや現代日本にいないとわからない言葉を使えるのかに関してですが、洞窟から出る際までの道のりで、リムルから色々と日本の文化などについて聞いてたからです。一様少し編集しなおしましたがもっとちゃんと描写しとくべきでした。正直な話、まったく気にしないで書いていました。面目ないです・・・・・・・・

 それと、50歳まで戦い続け、G級古龍を単独で倒した歴戦のハンターの風格がもっとほしいですとのことですが、ぶっちゃけ彼からしたら、今までこの世界で出会った人物達は、ヴェルドラ以外はあんまり脅威にならないんですよね。
 ガゼル王に対しても、あくまでハンターとして戦ってたら、かなり強いだろうな感覚なので、G級古龍とかを相手にしてきた彼からすれば政治的ならともかく、戦力的にはあんまり脅威じゃないんですよね。
 牙狼族だって、リムルがいなかったとしても一人で殲滅が可能ですし、絡んできた冒険者達も簡単にねじ伏せれます。
 結局、彼にとってもマジな脅威と感じて本気になるような相手は、原作第1巻の時点ではヴェルドラしかいないという訳です。リムルも『今』はまだ互角に戦えたりはできないです。

 それともう1つ、何でガゼル王はジンの事を人族だと思っているという事に関する理由ですが、ジンは中身こそ違いますが、見た目は人間で、モンハンで言う竜人族の特徴(耳が尖ってるor指が4本)などがないので、人族だと思いました。普段は魔素も漏れ出さないように抑えてますしね。

 ここまで長々とご説明しましたが、こういった所を指摘してくださったのは助かりましたし、普通に嬉しかったです。ありがとうございます。

 まだまだこんなダメダメなところがある自分の作品ですが、これからも、暖かい目で読んでいただけると、幸いです。



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運命の出会い

 

村に帰り着いて数日が経った。カイジン達のおかげで腰掛けなどの布1枚だったゴブリン達は、獣の皮を応用したちゃんとした服を着ており、家も丸太などを利用した頑丈な物になり、武器や木を切るための斧などを新しく作る事ができた。

 

まぁ、この後の為に、家や道具は簡易的なものしか今は作ってないのだが。

 

「はい!じゃあまず、オイラがお手本を見せるっす!よく見ておくっすよ。」

 

 ゴブタは仲間のゴブリン達にそう言うと、

 

 「ふんぬううううううう・・・・ほいっ!」

 

 「「おおおおおおっ!」」

 

 ゴブタの影から嵐牙狼(テンペストウルフ)が現れた。

 

 「こんなカンジっす!みんなもやってみるっすよ!」

 

 ゴブタが教えているのは嵐牙狼(テンペストウルフ)及び炎牙狼(インフェルノウルフ)の召喚だ。

 

 ドワーフ王国に俺達に置いて行かれそうになった時、兵士達に囲まれたゴブタの頭の中は1つの願いで満たされていたとのことだ。

 

 ずばり、『この場から逃げ出したい!』

 

 そう思った瞬間、嵐牙狼(テンペストウルフ)の召喚に成功したらしい。

 

 『相棒』によると、『思念伝達』と『影移動』を合わせて編み出したようだが、わかってやったとは思えない。意外とそういう感覚的なものに関しては天才なのかもしれないな。だが・・・・・

 

 「それじゃダメっすよ。もっとこう・・・ぐぐっ・・・・・ときて、ふわあ〜〜〜〜っぽん!ってカンジっす!」

 

 「「「「?????」」」」

 

 教える方の才能はないようだ。教えてもらっているゴブリン達が説明がわかりにくて困惑している。

 

 「おーい。リムルの旦那ー。ジンの旦那ー。」

 

 ゴブタ達を見ていた俺達の所に斧を肩に乗せて、カイジンがやって来た。

 

 「移動先の伐採はとりあえず終わったぜ。後は、移ってからボチボチ開拓するとしようや。」

 

 「そうか。ありがとう。」

 

 「さすがカイジン。仕事が早いな。」

 

 「俺の打った斧だからな。当然よ。それに早く全員の寝床を確保しなきゃならんしな。」

 

 「ははは・・・・」

 

 カイジンの言葉に俺達は乾いた笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドワーフ王国から帰ってきた時だった。俺達の村には一つの大きな変化があった。

 

 「リムル様とジン様の噂を聞き、庇護を求めて近隣の小鬼(ゴブリン)村から集まってきたようです。」

 

 「へ、へぇ・・・」

 

 リグルドの報告にリムルは動揺した様子で返事をする。

 

 まぁ、無理もないがな・・・・

 

 俺達の目の前には、たくさんのゴブリン達が集まり、俺達の帰還を喜んでいる。そう、人口が増えたのだ。

 

 「・・・・なぁ、『相棒』、これ、どれくらいいるんだ?」

 

 《解。およそ500名です》

 

 「500・・・・」

 

 どう見たって、今の村の居住スペースでは全員住むのは不可能なので帰ってもらおうと一度俺達は考えたが、追い返した場合、彼らはどうなるのかとそれぞれ『大賢者』と『相棒』に意見を聞くと・・・・

 

 《解。ヴェルドラの消失により、ジュラの森は知恵ある魔物達の覇権争いが始まっています。進化前の小鬼(ゴブリン)族では、抵抗する間も無く淘汰されるでしょう。》

 

 という答えが返ってきた。

 

 ヴェルドラの消失ということは俺達が原因だし、すごい期待している目で見てきてたので、全員を受け入れる事になった。

 

 「わかった。ついて来たい者は来ると良い。」

 

 「その代わり、裏切りは許さんからそのつもりでな!」

 

 それで、2人で協力して、昨日ようやく全員の名前を付け終えた。裁判の時よりも疲れたな・・・・

 

 「我が主達よ!」

 

 そんな事を思い返していると、目の前にランガが尻尾を振りながらやってきた。

 

 「お、おう。どうしたランガ。」

 

 「測量を終えたミルド達を連れ、帰ってまいりました。」

 

 返事をしたリムルに、ランガの後ろから現れたエンカが答えた。

 

 「そうか、ご苦労だったな。」

 

 「エンカもランガもお疲れ様。」

 

 「「はっ!」」

 

 「でもランガ、誰かを乗せている時にスピードの出し過ぎはダメだぞ。」

 

 「・・・はっ。」

 

 リムルはランガの背を見ながら注意をし、ランガは少し落ち込んだ様子を見せた。

 

 ランガの背には、ミルドが乗っていたのだが、泡を吹いて気絶してしまっている。

 

 ランガはやる気は良いのだが、張り切りすぎてしまう事が多いんだよな。

 

 そう思いながら、俺がエンカを撫でると、エンカは嬉しそうに尻尾を振り回す。

 

 因みにエンカはスピードを出し過ぎたりしてないので、背に乗っているゴブリンは気絶などはしていなかった。

 

 それから俺達は荷物を纏め、皆を集めた。

 

 「さて、測量なども終わったし、そろそろ出発しよう。」

 

 「いざ、新天地へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 

 「うおおおおおおおおおおお!」

 

 ギルドで、ジュラの森の調査をするよう言われたカバル達一行は、全速力で森の中を駆け抜けていた。後ろからは、7匹の巨大な蟻が追いかけて来ている。

 

 「カバルの旦那が悪いんでやすよ!いきなり巨大妖蟻(ジャイアントアント)の巣に剣なんてぶっ刺すから!!」

 

 「う、うるせーな。俺はリーダーだぞっ!」

 

 「リーダーのくせに迂闊すぎよぅ。」

 

 「うぐ・・・・・」

 

 「死んだらカバルの枕元に化けて出てやるんだから〜〜っ。」

 

 「ふははははははは!そりゃ無理ってもんだ!!何故なら俺も一緒に死ぬからな!」

 

 「!、イヤーーーーーーーーーー!」

 

 エレンが後ろを振り向くと、蟻達はすでにあと少しで追いつく距離まで迫って来ていた。

 

 「・・・私が足止めをしよう。」

 

 そう言い、シズはその場に立ち止まる。

 

 「シズさん!?おい、よせって!」

 

 立ち止まった事に気づいたギドがシズに声をかける。

 

 「心配はいらない。あなた達を逃すくらいなら、今の私でもできる・・・・この、『炎の力』を用いれば・・・・」

 

 そう言い、シズは剣を抜くと、刀身に強い炎を纏わせる。

 

 「何なの、あの炎!?」

 

 カバル達が少し離れた所で足を止めて見守る中、シズは剣から炎を放ち、突っ込んで来た3匹を燃やし尽くすが、その炎を突っ切り、1匹が飛びかかる。

 

 それに合わせてシズも空中に飛び上がり、すれ違い様に背中を斬り、同時に斬り口から炎が吹き出る。その勢いのままもう1匹を真っ二つにして地面に降り立ち、残りの2匹に向かう。

 

 (早く・・・・早く倒さなければ、これ以上は・・・・・)

 

 前方の1匹が顎や脚で攻撃するが、それを交わして胸を斬り裂き、最後の1匹の頭を斬った。

 

 辺りには静寂が広がり、残った蟻達の死骸を炎が燃やしていく。

 

 (・・・・・よかった。間に合った。)

 

 シズがホッと一息をつこうとした時だった。

 

 「シズさん、まだだ!倒しきれていない奴が・・・っ!」

 

 体のほとんどを炎が包み、死に体になりつつもシズをみちづれにしようと蟻が、その強靭な顎でシズを噛み切ろうとしたが・・・

 

 「伏せろっ!」

 

 「!」

 

 

 

 ガラアアアアアアアン!

 

 

 

 何処からか声が聞こえ、その声に従い、仮面が外れた事も気にせずシズが伏せた瞬間、空中から黒い稲妻が走り、蟻を消滅させた。

 

 その際の衝撃で、蟻がいた場所は大きなクレーターができ、煙がもうもうと立ち込めていた。

 

 突然の出来事にシズはその場に座り込んで呆然としていた。

 

 そこに戦いを離れて見ていたカバル達が駆け寄る。

 

 「シズさん、大丈夫か?!」

 

 「今の、黒い稲妻・・・みたいだったでやしたね・・・・」

 

 「一体誰が・・・・」

 

 「うおおお、びっくりした・・・」

 

 すると、煙の向こうから誰かの声が聞こえ、同時に人影も見えた。

 

 「あれで大分加減したんだろ?・・・・とんでもない威力だな。俺も念のために今度もう少し威力を確認しておくか。」

 

 「とりあえず、このスキルも当面の間は封印決定だな。」

 

 そう言って現れたのは、シズの仮面を乗せたスライムと、別の世界で『ハンターシリーズ』と呼ばれていた防具の頭パーツ以外を装備した男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやぁ、びっくりした。戦闘音がしたから何事かと思って来たら巨大妖蟻(ジャイアントアント)が倒されていて、まだ息があった個体が1人に襲い掛かろうとした所をリムルが最近手に入れたばかりのスキル『黒稲妻』を放って助けたのだが・・・・チリ一つ残さず消し去るとはな。本気で放てば上位キリンの本気の雷ぐらいの威力にはなるかな?

 

 さて、その助けた人達だが、俺達・・・特にリムルを見て何か面食らったような表情をしていた。

 

 「・・・・スライム?」

 

 「スライムで悪いか・・?」

 

 「あ、いや・・・」

 

 疑問を投げかけて来た剣を背中に背負った男にリムルがドスを聞かせた声で言い返すと、男は顔を青ざめた。

 

 まぁ、普通は今のをスライムがやったとは思わないだろうなぁ。妖気を抑えたリムルは見た目だけは最弱クラスの魔物だし。

 

 「ほら、仮面。そこのお姉さんのだろ?」

 

 そう言ってリムルが先程広った仮面を座り込んでいた女性に渡す。

 

 「さっきはすまなかったな。」

 

 「手に入れたばかりで使い慣れていないスキルだったんで加減がわからなかったんだ。怪我しなかったか?」

 

 「ええ、大丈夫・・・助かったよ。ありがとう。」

 

 「「!」」

 

 その時に、俺達は初めてその女性の顔を確認した。

 

 黒髪に黒い瞳。そして何より特徴的な左眼の下にある火傷のような跡。ドワーフ王国でエルフの女の子が占いをしてくれた時に見た女性だった。

 

 (思っていたより早く会えたな。運命の人・・・・)

 

 そんな事を思っていると、

 

 「はああぁぁあ・・・・」

 

 ため息を吐きながら、背中に剣を背負った男がその場に座り込む。

 

 「どうした?あんた達はどこか怪我でもしてるのか?」

 

 そうリムルが聞くと、

 

 「いや、精神的な疲労っつーか・・・・」

 

 「あっしら3日も巨大妖蟻(ジャイアントアント)に追われていたんでやす・・・」

 

 「荷物は落とすし。」

 

 「振り切ったと思って休めば寝込みを襲われやすし。」

 

 「装備は壊れるしぃ。くたくただし、お腹ぺこぺこだしぃ。」

 

 と、どんどん言葉を並べていく彼らを見て俺は思い出していた。

 

 (そう言えば・・・彼らは以前俺達と洞窟ですれ違った冒険者の3人組だよな。)

 

 まぁ、向こうは気づいていなかったけど。

 

 「そうか。それは大変だったな。」

 

 「よかったら、簡単な食事でよければご馳走するよ。」

 

 「「「え?」」」

 

 え?ってなんだよ。そんなに驚くことか?

 

 「スライムさん達はこの辺に住んでるの?」

 

 金髪の女性がそう俺達に問いかけた。

 

 「ああ。そうだ。」

 

 「引っ越したばっかでさ。この先に町を作ってる途中なんだ。」

 

 リムルがそう言うと、仮面の女性以外の3人は少し離れて円陣を組む。

 

 「魔物が町!?」

 

 「怪しい・・・・」

 

 「でも悪いスライムじゃなさそうでやすし、あの人を見ると人間も住んでるっぽいでやすよ。」

 

 ・・・・・小さい声で喋ってるんだろうけど、以前より五感が強化されてるから普通に聞こえるんだよなぁ。

 

 「1つ訂正しておくが、俺は人族じゃないぞ。」

 

 そう言って俺は背中にリオレウスの羽を生やす。

 

 「「「!?」」」

 

 すると再び3人組は円陣を組む。

 

 「嘘だろ。どこからどう見たって人族だったぞ!?」

 

 「魔人・・・でやすかね。」

 

 「でも、見た感じは優しそうだしぃ・・・」

 

 ・・・・しまったな。かえって警戒させてしまった。

 

 どうしたものか・・・・・

 

 「なぁ、ジン。」

 

 「ん?」

 

 「ここは1つ、俺が無害アピールでもしてみるよ。」

 

 「アピールするって・・・一体どうやるんだよ。」

 

 「まぁ、見てろって。」

 

 そう言ってリムルは3人に近づき、

 

 「俺はリムル。『悪いスライムじゃないよ!』」

 

 「ぶっ!」

 

 リムルが自己紹介すると、仮面の女性が吹いた。何かおかしい所でもあったか?

 

 「どうしやした、シズさん。」

 

 「いえ、なんでもない。それより・・・」

 

 そう言って仮面の女性・・・シズはリムルに近づいて抱き上げ、

 

 「お邪魔しよう。この子とこの人はきっと信用できる。」

 

 そう言ってくれた。

 

 「町はこっち?」

 

 「あ、ああ。」

 

 「んじゃあ、行くか。」

 

 シズはリムルと俺に町の方向を聞き、リムルを抱き上げたまま、町に向かって歩き出す。俺はその隣を歩き、冒険者の3人組も顔をお互いに見合わせてから俺達の後を追いかける。

 

 「なぁ、自分で歩けるんだが。」

 

 「ねぇ。スライムさんとえ〜と、「ジンでいい。」ジンさん。国はどこ?」

 

 リムルの言葉を聞き、俺達の町について聞いてきた。

 

 「国と呼べる程の規模ではないぞ?」

 

 「あと、町の名前もまだ決めてないしな。」

 

 「そうじゃなくて。」

 

 ・・・ん?

 

 「さっきのはゲームのセリフでしょう?」

 

 ・・・・・・ゲーム?ゲームって確かリムルから聞いた話で何かそんなのがあったような・・・

 

 「私はよく知らないけれど、同郷だった子から聞いたことがある。」

 

 「「同郷・・・」」

 

 つまり、彼女の言っている国というのは・・・・・

 

 「故郷はどこ?ジンさん。スライムさん。」

 

 「・・・日本だよ。」

 

 「やっぱり!そうだと思った。私と同じだね。あれ?ジンさんは違うの?」

 

 「残念ながら、日本ではないな。」

 

 俺の故郷は名も無き小さな村だったからな・・・・

 

 「そっか・・・でも、私は2人と会えて嬉しいよ。」

 

 彼女は仮面をずらして俺達に笑顔を見せながらそう言った。

 

 これがこの世界に転生した俺とリムルにとって、ヴェルドラに次いで2番目の・・・

 

 運命の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 どうも、邪神イリスです。

 今回は少し短めですね。

 戦闘描写は書くのは大変ですが楽しいので、モチベを下げずに書くことができました。

 そしてようやく出せたシズさん。漫画版やアニメ版では運命の人とも言われるほどリムルと縁のある方ですね。

 因みにハンターシリーズを装備してた理由は、単に探索にはちょうどいい見た目かな?と思っただけです。

 むしろこっちのがいいだろ!という装備がございましたら教えて頂きたいです。その時は修正いたします。

 それと、新作モンハンライズは新たにデモ版が配信開始しましたね。現状作者はマガイマガドに全敗中です。作品自体は発売日に実写版モンスターハンターを見た帰りに買おうと思っています。


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炎の魔人降臨

 


 

 

 町に戻りながら全員の自己紹介をし、今、冒険者の3人組のギド、カバル、エレンは串と皿を持って1枚の鉄板を囲んでいた。

 

 

 ひょいっぱく。

 

「あーーーーーー!ギド、ひどーーい!よくも私のお肉を!!」

 

「食卓とは戦場なんでやすよエレンの(あね)さん。」

 

 するとエレンはカバルに近づき

 

「いいわよぅ。じゃあカバルのもらうから。」

 

 カバルがじっと見つめていた肉を食べた。

 

「ギャーーーーーーーーーー!丹精込めて育てた俺の肉がーーーーー!!」

 

 しかしまぁ、何というか・・・・

 

「・・・賑やかな連中だな。」

 

「そうだな・・・・ん?」

 

 あれ?何か近くから肉や山菜とは違う物が焼けるような音が・・・・

 

「スライムさんスライムさん。焼けた鉄板触れてるよ?」

 

「ーーーーーーっ!!」

 

「おい、大丈夫か?リムル。」

 

「溶けるかと思った・・・・」

 

 そう言いながらリムルはお茶を飲む。見たところ、目立った外傷も無さそうだしよかった。しかし、何で触れていた当人がそれに気づかなかったんだ?普通は熱さで気付くだろうが・・・・

 

「溶けなかったところをみると、熱に対する『耐性』があるのかな?

 

「「耐性?」」

 

「異世界から渡ってくる者はその際に強く望んだ能力を得る。それが『スキル』だったり、『耐性』だったりするの。」

 

 へぇ。つまり、リムルはその熱に対する耐性を持っていたから鉄板が熱くなかったのか。

 

《解。個体名:リムル=テンペストは『熱変動耐性』を所有しています》

 

 俺の場合はどうなんだ?

 

《解。個体名:ジン=テンペストは耐性を所持しておりませんが、スキル『竜戦士』でモンスターに変身してる場合や防具を装備している時は耐性を得ることが可能です》

 

 なるほどな。耐性の強さはモンスターによって変わるしなぁ。使い勝手が良いのだか悪いのだか・・・・ま、俺が上手く使えばいいだけか。

 

 俺がそうやって耐性に関する説明と考察をしていると、リムルが耐性を得た経緯を話だした。

 

「俺、前世は刺されて死んだんだけど。」

 

 リムルがそう言うと、シズから驚いたような雰囲気を感じた。

 

「その時に、背中が熱いとか血が抜けて寒いとか考えてたから、それで手に入れたんだろうな。」

 

「へぇ・・・・ジンさんはどうなんですか?」

 

「俺か?・・・・俺は君達とは別の世界の出身なのは言ったと思うが、俺はそこでとあるモンスターと戦ってな。その時の傷が原因で死んで、この世界に来たんだよ。耐性は特に会得はしてないな」

 

「そっか・・・・2人とも大変だったんだね」

 

「まぁな」

 

「まぁ、特に悔いもなかったし、大丈夫さ。強いていうのなら行きたい所があったぐらいかな」

 

 俺がそう言ったあと、3人で揃ってお茶をずずっ・・・っと飲む。

 

 因みに冒険者3人組は肉をかけて取っ組み合いをしている。

 

「そう言うシズさんこそ、苦労したんじゃないのか?」

 

 リムルがシズにそう問いかけはじめる。

 

巨大妖蟻(ジャイアントアント)との戦いの時に炎を操っていたみたいだけど、あれはこっちに来る時に望んで得た力なのか?」

 

「・・・・いいえ、違う。炎は私にとって呪いだから」

 

「呪い?・・・どういうことなんだ?」

 

 するとシズはお茶を入れたコップを机に置き、仮面を外して語りはじめる。

 

「私が元の世界で最後に見た光景は辺り一面の炎」

 

「とても怖い音が鳴り響く中、住み慣れた町は紅蓮に染まっていた」

 

「・・・・もしかして、空襲か?」

 

「多分、そう。東京大空襲って言われてるんでしょ?私の教え子・・・その子も日本出身なんだけど、歴史の授業で習ったらしいね」

 

「2人とも、その空襲というのは何だ?」

 

「ああ、そっか。ジンは日本出身じゃないから知らなくて当然か」

 

 俺は2人から空襲と彼等の世界の悲惨な歴史を簡潔にだが説明してもらった・・・シズにとっては、つらい記憶だっただろうが。

 

「そうか・・・俺の世界でも小競り合いは定期的に起きることはあるが、まず関わる事はないし、デカい戦争なんざ俺が生まれるずっと前に起きて以降なかったからな」

 

「ジンのいた世界には人類共通の脅威がいたからだよな?」

 

「まぁな。それでも仲が悪い所はあるが、モンスターという存在がいる以上戦争なんかやっていたら血の臭いにつられてやって来るだろうからな・・・それで、シズはその空襲が原因で転生してこっちの世界に来たのか?」

 

「ううん。私は死んでないよ」

 

 何?いや、だがリムルの話などから計算すると、転生ではなく転移で来たとするなら若すぎないか?

 

「炎の中を必死に逃げ回っていた時、私はある男に召喚されたの。でも男が本当に召喚したかったのは別の誰かだったみたいで、とても落胆した様子だった」

 

「だから、すぐ私に対する興味を失ったようだったけど、ふとした気紛れからか、彼は私に炎の精霊を憑依させたの」

 

「それは炎を操る力をくれたけれど・・・同時に呪いでもあったの。この力・・・炎のせいで、私は大切な人達を失ってしまったから・・・・」

 

 その時のシズが脳裏に描いたのは、この世界に来て初めてできた友である1人の少女と1匹の魔物であった。

 

「だからかな・・・人と親しくなるのは少し怖かったんだけど」

 

「やっぱり仲間っていいね。最後の旅で楽しい人達と出会えたもの。彼らはお互いを信頼してるし、遠慮なく喧嘩もするし。いい冒険者だよ。ちょっと危なっかしいけどね」

 

 そう言ってシズは微笑み、カバル達に目を向ける。

 

 ちょうどエレンが鉄板の上に残った最後の肉を手に取り勝ち誇っていた。絶望した表情のカバルとギドだったが、リグルドがおかわりを持ってきた瞬間にすぐ復活した。

 

 それにしてもだ。戦争の最中に人違いでこの世界に飛ばされた挙句に呪いなんかまでかけられて、今は楽しくもどこか危なっかしい仲間たちをフォローして・・・苦労なんて言葉では纏めきれないような人生を送っているようだが、少なくとも、今は幸せなようだ。

 

 俺達はもっと彼女の話を聞きたいと思い、腹ごなしも兼ねて散歩に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ・・・・」

 

 俺達はいま、リムルとシズはランガに、俺はエンカの背にそれぞれ乗り、森の中を駆け抜けていた。

 

「すごい速いね。聞いた事はないけど、嵐牙狼族(テンペストウルフ)炎牙狼族(インフェルノウルフ)だっけ?」

 

「そうだよこっちがランガで」

 

「この子がエンカだ」

 

「ランガ、エンカ、ご主人達をちゃんと守るんだよ」

 

「無論です。我が主達の朋友よ」

 

「それこそが、私達の使命ですから」

 

「はぇ〜〜・・・・」

 

「どうかしたのか?」

 

 リムルが後ろにいるシズに声をかける。

 

「うん。町で出迎えてくれたホブゴブリンのリグルドさんも、このランガやエンカも流暢に話すなぁ・・って」

 

 そう言ってシズが思い出すのは、自分達がリムルとジンに案内されて町についた時に出迎えてくれたとても体格の良いホブゴブリン。その特徴的な肌の色などがなければ、ホブゴブリンとは分かりにくかっただろう。

 

「魔物が喋るのは珍しいのか?」

 

 俺がそうシズに聞く。

 

「すごくね。でも、それ以上に魔物が町を作ってることに驚いたけど」

 

「俺達の町は気に入ってもらえたかな?」

 

 リムルがそう聞くと、

 

「とっても」

 

 シズさんは笑顔を浮かべながらそう言った。

 

 こんな風に褒められると、皆で頑張っている甲斐があるというものだ。

 

「そうだ!面白いものをみせてやるよ」

 

 何かを思いついたのか。リムルはそう言うと、俺とシズと『思念伝達』で意識を繋げる。

 

「今から俺の記憶の一部を見せるけど・・・・見えるか?」

 

「ん?・・・あぁ、何か見えてきたな。」

 

 「うん・・・えっと、誰かの部屋?」

 

 少しずつリムルの記憶が見えて机や椅子のような物が見え、その机の上に乗せてある薄い黒い板にエルフみたいな女性が浮かび上がった瞬間だった。

 

「ちょっ!間違った!今のなし!!」

 

 急にそう言って記憶のイメージを消した。

 

「綺麗だったよ?」

 

 シズがそう言う。何も変な所はなかったがなぁ・・・・・

 

「見せたかったのはこっちだ」

 

 リムルがそう言うと、見えてきたのは一面焼け野原で瓦礫があちこちにある街のような場所。さっきリムル達が言っていた空襲とやらによる物だろうと想像できた。しかし、徐々に道が整備された物に変わっていき、露店が建てられ、しばらくすると巨大な塔が建てられたりしていき、人々は皆笑顔を浮かばている。

 

 イメージの中は夜に変わったが、街の明かりは夜なのに昼間だと勘違いしてしまうほどに照らしていた。

 

「すごい・・・・・」

 

「これがリムルが生きた世界か・・・・」

 

 俺とシズは思わずそう呟いた。

 

「俺も全部を自分で見たわけじゃないけどな。戦争が終わって、皆で復興して、経済も発展していったんだ」

 

「そっか・・・・こんなに綺麗になったんだね・・・・お母さんにも見せてあげたかったな・・・・」

 

「シズ?」「シズさん?」

 

「ううん。何でもない」

 

「とりあえず。俺はこっちでも同じように皆で楽しく暮らせる町を作りたいと思っている。それに向かって俺達も頑張っているんだ」

 

「こんな物を見せられたら、目指さない訳にはいかないな。これからも友として協力させてもらうぜ。リムル」

 

「おう。よろしくな!」

 

「そうだ。シズ。良かったらまたこの町に遊びに来てくれないか?」

 

「え?」

 

「そうだな。同郷のシズさんにここを第二の故郷と思ってもらえたら俺も嬉しい」

 

「・・・・ありがとう。きっとお邪魔する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムルとジンに再来を約束した瞬間だった。

 

 

 ドクン!

 

 

 

 シズの心臓が大きく鼓動する。

 

(そんな・・・・まさか、もう!?)

 

「そういえば、シズさんを召喚したのって誰なんだ?」

 

「そういえばそうだな。人1人を別の世界から呼び出すなぞ、1人の人間でできるものではないはずだが・・・・」

 

「あの人は・・・・」

 

 シズは2人に心配をかけまいと、焦りを顔に出さないように質問に答える。

 

「この世界の頂点の一角・・・魔王、レオン・クロムウェル」

 

「「魔王!?」」

 

 その名を聞き、2人は驚愕の声をあげる。

 

(いるとは聞いていたが、思わぬところで名が出たな。しかもイケメンそうな名前だしムカツク)

 

(ヴェルドラの話では30人の魔法使いが3日もかけて召喚は行うとのことだったから1人でやる時点でどんな奴だと思っていたが・・・・まさか魔王だったとは・・・・)

 

 2人がこんな事を考えているうちにも、シズの心臓の鼓動はどんどん強く、激しくなっていく。

 

(早すぎる!!このままだと2人を巻きこんでしまう。早く離れないと・・・・)

 

 

 ドクン!

 

 

 しかし、すべて遅かったのだ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、シズ。さっき『最後の旅』だと言っていたが、あれってどういう・・・・シズ?」

 

 最初に異変に気付いたのは長年のハンター生活で勘が冴えていたジンだった。

 

「ランガ、エンカ、止まってくれ。リムル、シズの様子がおかしい」

 

「え?ちょっ、シズさん大丈夫か?顔色が・・・っ」

 

 その時だった。止まったランガから降りて顔を俯けていたシズはいきなりリムルをランガからはたき落す。

 

「!?」

 

「リムル!」「「主よ!」」

 

 急いでジン達はリムルの傍に駆け寄る。

 

「俺は平気だ。それより・・・」

 

「ああ。シズ・・一体どうしたんだ・・・・」

 

 リムル達が見る中、シズが立ち上がり、頭に乗せていた仮面が落ちる。

 

《 《対象の魔力が増大しました。警戒してください》 》

 

 2つのスキルは、それぞれの主人に警戒を呼びかけると同時に、シズを中心に炎が噴き上がる。

 

 彼女の眼は、赤く染まり、その瞳は白くなっていた。

 

(なんだよ、その殺気は・・・・)

 

(瞳といい、この膨大な妖気といい、さっきまでとはまるで別人じゃねぇか)

 

「おおい!リムルの旦那ー!ジンの旦那ー!」

 

 そこにカバル達三人組が町に方から駆けつけて来た。

 

「さっきなんかすげぇ火柱が見えたけど・・・げ!?あれ・・・シズさんか?何がどうなって・・・・・」

 

「・・・・ん?」

 

「どうしたのギド?」

 

「シズ・・・・シズエ?シズエ・イザワ?え、まさかあの・・・??」

 

 

 ・・・・・クイッ

 

 ボゴオオオオオオッ!

 

 

 するとシズは指を上に向けて曲げると、彼女が立っている場所を中心に小規模な爆発と火柱が立ち、ジン達は先程まで立っていた所から更に後ろに退避して炎を避ける。

 

 そして、その炎を見てギドは確信した。

 

「ま、間違いありやせん。彼女は『爆炎の支配者』シズエ・イザワ。その身にイフリートを宿す最強の精霊使役者(エレメンタラー)でやす・・・・!!」

 

「イフリートぉ!?Aランクオーバーの精霊じゃねーか!!」

 

「冗談でしょ!?伝説的英雄じゃない!!」

 

 三人がぎゃーぎゃー騒いでいる中、ジンが気になる事を言っていた。

 

(『相棒』。精霊ってなんだ?)

 

《解。精霊とは、世界に漂う自然エネルギーの欠片が寄り集まり、自我を持った存在です。現在個体名:シズエ・イザワがやどしている炎の巨人(イフリート)は、火属性の精霊の中でも上位に位置する精霊です》

 

(なるほど。理由はわからないがそのイフリートの力を放ち、シズは全力で俺達を殺す気になっているということか。そうなると村やリグルド達もそうだが、カバル達も危険だな)

 

「三人とも、ここは俺達に任せてここから逃げ「そんな訳にはいかねぇよ」・・・!」

 

 ジンが三人に逃げるよう言おうとするが、カバルがそれを止める。

 

「あの人がなんで殺意剥き出しにしてんのか知らねーが」

 

「あの人は俺達の仲間でやすよ」

 

「ほっといて逃げるなんてできないわよ!」

 

(・・・・・・彼女が言ってた通り、いい仲間達のようだな)

 

「わかった気をつけろよ」

 

 リムルは三人にそう伝えておく。

 

(さて、どう彼女を止めたものか・・・・・・・)

 

 ジンがそう思いながら背中に『狐刀カカルクモナキ』を顕現させ、構えた時だった。

 

「・・・・・・ハナ・・・・レテ・・・」

 

「「「「「!!」」」」」

 

「オサエキレナイ・・・・ワタシカラ・・・ハナレテ・・・・・」

 

 そう言うシズの背後に炎を纏った男がぼんやりと浮かび上がり始めた。

 

(抑えきれない・・・・?)

 

(そういえばシズさんは呪いだと言っていたけど・・・・)

 

(ひょっとして・・・・)(まさか・・・・!)

 

《解。現在、個体名:シズエ・イザワの意思に反して、魔力が急上昇しています》

 

《よって、個体名:シズエ・イザワと同化しているイフリートが、主導権を取り戻そうと暴走していると推測できます》

 

 彼等にとって最も頼れるスキル達が、主の求める答えを導き出す。

 

「なるほど・・・・」

 

「やはりそうか・・・・・心配するなシズさん。あんたの呪いは俺達が解いてやる」

 

「だから・・・後は任せてくれ」

 

 素早く動けるようにリムルとジンはそれぞれランガとエンカの背に乗りながらそう言う。

 

「・・・・オ・・・ネ・・ガ・・・イ・・・・・・」

 

 2人のその言葉を信じ、シズが目を瞑る。

 

「勝利条件は、イフリートの制圧とシズさんの救出だ」

 

向こう(モンスターハンターの世界)にいた頃の古龍討伐戦と比べたらまだ簡単な方さ。絶対に助けるぞ」

 

「はは・・・まさか、過去の英雄と戦う日が来るようとはね・・・・」

 

「人生、何が起こるかわかりやせんね・・・」

 

「「・・・・・・行くぞ・・・!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 どうも、邪神イリスです。

 ようやく地位向上編で個人的に1番盛り上がる所に入れました。感想で言われていた「オリ主空気じゃね?」を払拭できるように頑張ります。

 というかあれなんですよね。原作読んだりしていたらわかると思うんですけど。リムルってマジで万能すぎるんですよね。うちのオリ主は戦闘関連ならかなり活躍できるんですが、さすがにあの魔鋼を使った剣の量産なんて真似はできませんしね。家だって簡易的なテントぐらいしか作ったことないですし、回復薬は・・・・・材料さえあればいけるかな?まぁ、この辺りは現在要検討中です。

 原作死亡キャラも展開によっては生きれるなら生き残らせるか、原作通り死なすかも悩みどころです・・・・


 さて、次回はいよいよイフリート戦。ちゃんとした戦闘描写ができるよう頑張らせていただきます。



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受け継がれていく意思

かつて炎で全てを失った少女は世界を渡り、奇しくも炎の力を手に入れた。

少女はその力を人々を守ることに使ったが、炎は少しずつ彼女を蝕み、

やがて少女は炎を制御する事ができなくなっていった。

少女の名はシズエ・イザワ。

炎系の最上位精霊『イフリート』をその身に宿し、

爆炎の支配者と謳われた英雄だった。














 

 

 

 

 シズの身体を炎が完全に包み込み、現れたのは燃え盛る炎のような赤い髪の男・・・恐らくコイツがイフリートなのだろう。

 

 「念のために聞いておくぞイフリート!お前に目的はあるのか!?」

 

 リムルがそう問うと、イフリートは左手人差し指を上に向ける・・・・・・上?

 

 見ると、空中に大量の火球が生成されていた。

 

 そして手を振り下ろすと同時に、一斉に俺達に向かって飛んできた。

 

 「エンカ、まずは回避に専念していろ。」

 

 「はっ!」

 

 炎の雨を縫うように走り、火球を避ける。たまに当たりそうなのがくるが、それは太刀で斬るか刃の腹で打ち払う。本来は両手で扱う太刀だが、俺は片手でも扱えるよう訓練していたので、走るエンカの背の上でも難なく太刀を振るうことができる。

 

 とにかく、今のイフリートでわかることは、会話をする気などまずなく。俺達全員を始末しようとしている事だ。しかも奴の視線から察するに、俺達の事は単なる障害物程度にしか見ていないのがわかる。

 

 「おい!お前達無事か!」

 

 リムルが三人組に声をかける。俺も三人の方に視線を向けると・・・

 

 「あっちぃ!あっつ!!」

 

 「死んじゃうーー!!」

 

 「無理!無理でやすーー!!」

 

 ・・・・・大丈夫そうだな。しっかり剣で防御したりしてるし。

 

 さて、このまま回避するだけではキリがない。奴の母体であるシズさんの身体が心配ではあるが、リムルの回復薬があるから大丈夫だろう。まずは奴を無力化しなければ。

 

 「エンカ。奴に接近するんだ。」

 

 「お任せください!」

 

 奴が発生させる火球や火柱を避けながら接近し、太刀を構える。

 

 そしてすれ違った瞬間、奴の左腕を斬り裂いた・・・・・のだが、ここで俺は違和感を感じた。

 

 (斬った感触がない・・・?)

 

 疑問に思って少し離れながら奴の腕を見ると、傷など最初からなかったのように腕は無傷であった。リムルも水刃を放つが、奴の眼前にきた所で蒸発した。

 

 「我が主よ。精霊種に爪や牙などの攻撃は通用しません!」

 

 「何だと?」

 

 「下位の精霊であれば、雨などで弱体化するのですが・・・・」

 

 うーむ、弱体化するとしても俺が変身して雨を降らせる事はできるが、二次被害が大きい・・・・・・・いや、待てよ。

 

 (『相棒』。リムルが水刃を放つ為に溜め込んでいる大量の水や俺がガノトトスなどのモンスターの水ブレスを放つことでも弱体化できないか?)

 

 《解。弱体化には成功しますが、水蒸気爆発が高確率で生じる可能性があります》

 

 (爆発だと!もし生じたらどうなる?)

 

 《建設中の町を含むこの辺り一帯が更地になります。実行しますか?》

 

 (実行しますかじゃねーよ!却下だ却下!!)

 

 鏖魔ディアブロスやネロミェールでもそこまでの威力は・・・・いや、場所が拠点からかなり離れていただけで普通にあったな。

 

 しかし、このままだと無力化するどころかこっちが体力を削られていってやられちまう。実体が無いような奴と戦った事なんてないし、リムルの黒稲妻や俺の毒とかも効かないだろうしな・・・・・・

 

 (だが、俺も初見のモンスターと戦った時はこんな感じだった。徹底的にあらゆる攻撃を試して、通る攻撃を見つけてやる。)

 

 しかし、こちらを嘲笑うかのように奴はニヤリと笑みを浮かべると、奴の髪から炎が横に広がり、いくつもの人影を生み出し、更に空中に炎を纏った小型の飛竜種のようなものが複数現れる。

 

 《告。イフリートが中位精霊火炎蜥蜴(サラマンダー)を召喚しました》

 

 (マジか・・・・分身だけでなく他の精霊も呼び出せるのかよ。有効な攻撃方法も見つかってすらいない現状でこれは厳しいぞ。それにあの顔、自身の勝利をまったく疑ってないからか、かなり油断しているようだ。チャンスは必ず訪れる!)

 

 更に増えた火球やサラマンダーの熱線を避けながらそう思っていた時だった。

 

 「水氷大魔槍(アイシクルランス)!」

 

 突然、後方の方から氷の飛礫が飛び出し、サラマンダーの一体を貫く。貫かれたサラマンダーは火花を散らしながら蒸気となって消えた。

 

 (効いただと!?)

 

 後ろを振り向くと、カバル達に庇われながらエレンが杖を構え、空中には紋様が浮かんでいた。

 

 (あれは・・・そうか!あれが魔法か!)

 

 つまり魔法なら効くという事なのだろう。

 

 だが、俺は魔法は使えない・・・・・そうだ!

 

 俺はある事を思い付き、エンカの背から降りてある武器を出す。ある弾の連射が可能なヘヴィボウガン。『デルフ=ダオラ』だ。

 

 そして俺はデルフ=ダオラに『氷結弾』を込めてその場にしゃがみ、引き金と持ち手から自身の魔素を送り込む。

 

 その間にリムルは、エレンがもう一度放った水氷大魔槍(アイシクルランス)を喰らい、それを解析。

 

 同時にリムルは水氷大魔散弾(アイシクルショット)を、俺は『狩人』の効果で威力を上げた氷結弾の連射を行う。

 

 当たったサラマンダーや分身は次々と蒸発するかのように消滅していき、奴が生み出した全ての分身とサラマンダーを消し去る事に成功する。

 

 単純な物理攻撃を防ぐのであれば、魔素を込めてスキルの効果を乗せた攻撃ならばどうかと思ってやったが、上手くいってよかった。

 

 「後は貴様だけだ。」

 

 「イフリート・・・!」

 

 「・・・・・炎化爆獄陣(フレアサークル)。」

 

 奴がそう言った瞬間、俺とリムルの足元に紋様が浮かび上がる。

 

 「マズっ・・・・!」

 

 一瞬にして、巨大な火柱が俺達を包み込む。

 

 「「主よ!」」

 

 「ちょっ!今のヤバイだろ!」

 

 「あれを直撃だなんて・・・・今頃旦那達は灰も残さず燃え尽きて・・・・・・」

 

 「・・・・いや、よく見て!あれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランガやエンカが心配する声を上げているのが聞こえた。普通ならば今の炎で俺達は消し炭になっていると思うだろう。だが、生憎と俺は五体満足の状態だ。

 

 確かに紋様が浮かび上がった瞬間はマズいと思ったが、俺はその時に『思考加速』を行い、ある事を思い出していた。俺の耐性は『変身するモンスター及び装備した装備によって変化』するということを。

 

 だから俺は、炎に包まれる瞬間に炎に強い耐性を持つモンスター『斬竜 ディノバルド』の防具、『ディノSシリーズ』を纏い装飾品も同時に装着してスキル『火耐性[小]』を発動。炎を完全に無効化させていた。

 

 リムルも『熱変動耐性』を持っているからこの炎は効かないはずだ。

 

 ・・・・・・・・さて、俺達を倒せたと思い、油断している今のうちだ。そろそろシズさんを返してもらおう。

 

 俺は指先から燃えにくいネルスキュラの糸を出し、念のために魔素を纏わせながらイフリートに巻きつける。

 

 「!?」

 

 突然自身を拘束した糸に困惑表情を浮かべるイフリート。

 

 「これで終わりだ。残念ながら俺達にはお前の炎は効かないぞ。今だ!やれ、リムル!」

 

 「おう!任せろ!」

 

 そう言ってリムルは飛び上がり、『捕食者』を発動し、イフリートを飲み込み、強い光を放つ。そして次の瞬間には、先程までイフリートが立っていた場所に傷一つない状態のシズがいた。

 

 倒れるシズを俺とリムルは慌てて駆け寄り、支える。

 

 「スライムさん・・・ジンさん・・・ありがとう・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付けば、イフリートは真っ暗で何も無い空間にいた。

 

 恐らくあのスライム達の仕業だろうと思い、この謎の空間から脱出をする為に右手に炎を溜める。しかし、それを止めた者がいた。

 

 「観念せよ、イフリート。貴様にこの空間は破れん。」

 

 イフリートが振り向くと、そこにはイフリートにとって驚くべき存在が佇んでいた。何せ、それはこの世界の最強種である竜の一体であったのだから。

 

 「リムルとジンはこの我の盟友(ともだち)だ。貴様なんぞの敵う相手ではないわ!クハハハハハハハハハ!!」

 

 「暴・・風・・竜・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから1週間が経った。家ができるまでの間、生活する為に建てたテントの中のベッドの上でシズはずっと眠り続けている。

 

 おかしい・・・・彼女を苦しめていた元凶のイフリートは確かにリムルが喰ったはずなのに・・・・・・

 

 《告。イフリートとの同化が彼女を延命させていたようです》

 

 (何・・・!?だとしたら、俺達がやった事は逆に彼女を死なせる事に・・・・)

 

 《彼女の気力は、通常ではイフリートを抑える事ができないほど激しく消耗していました。イフリートとシズを分離させ、浄化しなけば、やがては自我を失い、暴虐の限りを尽くしていたでしょう。そしてそれは、シズエ・イザワの望みではないと思われます》

 

 (・・・・・・・・・そうだな。)

 

 「・・・・・・スライムさん。ジンさん。」

 

 「シズさん!?」

 

 「気がついたか。具合はどうだ?」

 

 「・・・・ずっと傍にいてくれたの・・・?」

 

 「あ、あぁ・・・・良かった。もう目を覚まさないんじゃないかと心配してたんだ。」

 

 「少し待っていてくれ。今、リグルドに水を持ってくるよう頼んでくるから。リムルはシズの傍にいてくれ。」

 

 「ああ、わかった。」

 

 そのまま俺が扉から外に出ようとすると、

 

 「スライムさん。ジンさん。」

 

 「ん?」「どうした。」

 

 シズが俺達を呼び止める。

 

 「いいよ・・・・必要ないから。」

 

 「え・・・・」「それってどういう・・・・」

 

 「もう何十年も前にこっちに来て、辛いことも沢山あったけど、良い人達にも沢山出会えて・・・最後にはこんな奇跡みたいな出会いがあった。心残りが無い訳じゃないんだけど・・・私はもう・・十分生きたから・・・・・」

 

 そう言うシズの黒髪は見る見る白くなり、肌も皺だらけになっていく。まるで止めていた時間を一気に進めていくように・・・・・

 

 「シズ・・・・」「シズさん・・・・・」

 

 「俺達に何か出来る事はないか?」

 

 「心残りがあるのなら言ってくれないか?俺達がなんとかしてみせる。」

 

 「頼めないよ・・・・貴方達の人生の重荷になってしまうよ・・・・・」

 

 「俺達があんたの力になりたいんだ。」

 

 「言ってくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わかった。必ずなんとかする。」

 

 「だから・・・・ゆっくり休んでくれ。」

 

 「・・・ありが・・・・とう・・・」

 

 そして、リムルがゆっくりと、“シズを包み込んでいく”・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ白な空間を、シズエは1人歩く。

 

 そして何かに気づき、後ろを振り向く。

 

 そこには二つの人影。1つは背の高い女性。もう一つは小さな獣らしきものを肩に乗せた少女。

 

 安堵し、微笑みを浮かべて人影に向かってシズエは走る。

 

 「そこにいたんですね!もう、私を置いて行かないで!」

 

 だが、人影は首を振り、背の高い女性がある一点を指差す。

 

 彼女は悲しげな顔を浮かべ、指差す方へ顔を向ける・・・・・

 

 その先には一際大きく輝く光があり、光の向こうには古い民家があり、その縁側に1人の女性が座っていた。

 

 「・・・ぁっ。」

 

 それを見たシズエは勢いよく走り出す。

 

 「お母さん!」

 

 声に気づいた女性がシズエに顔を向け、彼女の顔を見るや、笑顔を浮かべて手を振る。

 

 「お母さん!」

 

 いつの間にか、転移して成長した少女はかつての転移される直前の姿に戻っていた。

 

 「お母さん!!」

 

 そして光を抜け、少女は母親に抱きつき、母親もそれを受けとめる。

 

 「お母さん・・・・・」

 

 二つの人影はそれを確認すると、消えた。まるで、最初から存在していなかったかのように。

 

 あるいは、それは少女の想いの生み出した、幻なのかもしれないけれど。

 

 

 こうして、少女は母親と再会する。

 

 少女の長い旅は、今、終わりを迎えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムル達の居るテントを目指して、カバル達は歩いていた。

 

 「シズさん、大丈夫かな・・・・・」

 

 そう言うエレンの手には、お見舞いの為に摘んできた花があった。

 

 「心配いらねーって。リムルの旦那とジンの旦那がついてんだからよ。」

 

 「そうでやすよ。旦那達がくれた回復薬、すげー効き目で、俺達の傷をあっという間に直したじゃないでやすか。きっと大丈夫でやすよ。」

 

 すると後ろからやってきた人物が三人に気づき、声をかける。

 

 「おや、これは御三方お揃いで。」

 

 「あ、リグルドさん。」

 

 「皆さんもお見舞いですかな?」

 

 「ええ。リグルドさんもっすか。」

 

 「はい。シズ殿の着替えをお持ちした所です。」

 

 そしてリグルドはテントの扉をノックし、中へと入る。

 

 「リムル様、ジン様。失礼しま・・・・」

 

 「「「「!?」」」」

 

 中に入ると、部屋のベッドの近くでジンが顔を俯けて座り込み、部屋の真ん中には服も何も着ていない青みがかった銀髪の少女が立っていた。

 

 「え・・・何!?」

 

 「裸の女の子!?」

 

 「え、誰!?え!??」

 

 混乱するカバル達だったが、リグルドはその少女の正体に気づいていた。

 

 「リムル様、そのお姿は・・・」

 

 「「「え!?・・・えええええええええ!?」」」

 

 「こ、この子が・・・」

 

 「リムルの旦那ぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カバル達が姿を大きく変えたリムルに驚愕してから約10分。リグルドが持ってきた服にリムルが着替えた後、俺達はシズについて彼らに話した。

 

 「そうか・・・・シズさん、逝っちまったのか。」

 

 3人の表情は暗く、エレンは涙を浮かべている。

 

 「というかあんた・・・・本当にリムルの旦那なんでやすか?どうにも、その・・・・なんか髪と瞳の色だけを変えたちっこいシズさんっぽいっつーか・・・・・・」

 

 まぁ、普段のあのスライムの姿だけを見ていたらそう思うのも無理はない。

 

 「本当だよ。ホレ。」

 

 そう言ってリムルはいつものスライムの姿に戻る。

 

 「「おお!」」

 

 「ふへーーー・・・。」

 

 「見事なもんでやすね・・・・」

 

 「・・・・・シズさんを食べたの?イフリートを食べたみたいに。」

 

 「・・・それが俺達にできる。唯一の葬送だったからね。」

 

 そう言うリムルの言葉で思い出すのは、シズの最後の言葉。

 

 『貴方が見せてくれた懐かしい故郷の景色の中で、眠りたい・・・・・』

 

 「・・・・・・・・すまないな。仲間のお前達に相談もなく。」

 

 「いや・・・・それがシズさんの望みだったのなら、仕方がないさ。」

 

 「すまんなエレン。割り切れないかもしれないけど。」

 

 リムルがそう言うとエレンは首を振り、涙を拭って、微笑を浮かべる。

 

 「最後にお別れの挨拶くらい、言いたかったな。」

 

 「シズさんは最後の旅でお前達と仲間になれて楽しかったと言ってたよ。」

 

 「ちょっと危なっかしいとも言ってたがな。」

 

 「あーーーーね・・・」

 

 そう言ってギドがカバルに目を向ける。

 

 「おいコラ。なにこっちを見てんだお前らっ!」

 

 「だって・・ねぇ・・・」

 

 「お前だってこの前盗賊(シーフ)のくせに落とし穴にハマってたじゃねーか!シズさん呆れてたぞ!」

 

 「あ、あれは姉さんが急に押してきたからでやす!」

 

 「ちょっとぉ、私のせいにしないでよぉ。あの時は突然蜘蛛が落ちてきて・・・・・」

 

 ・・・・・何と言うか、さっきまでの雰囲気よりも、こういうのが彼ららしくていいな。だからこそ、シズは最後の旅を楽しめたのだろう・・・

 

 「あの時シズさんが蜘蛛を取ってくれたのよねぇ。」

 

 「あれ以来シズさんが罠探しを手伝ってくれやして・・・・」

 

 「ホレ見ろ!俺だけじゃねぇじゃん!」

 

 いや、お前らシズに頼りすぎだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてと。じゃ、そろそろお暇するかね。」

 

 あれからしばらく彼らとシズの旅の話を全て聞き終えた頃、カバルがそう言って立ち上がった。

 

 「帰るのか?」

 

 「ああ。ギルマスにこの森の調査結果と・・・・それに、シズさんの事も報告しなきゃならんからな。」

 

 ギルマス・・・ギルマス?もしかしてギルドマスターの略か?

 

 「ギルドがあるのか?」

 

 俺がそう聞くと、

 

 「おうよ。自由組合つってな。ほとんどの冒険者が所属してるんだ。」

 

 そうカバルが教えてくれた。

 

 形は違えど、こっちの世界にもギルドがあるんだな。

 

 「もちろん、ここの事は悪いようには報告しないぜ。」

 

 「リムルさんとジンさんの事、ギルマスにちゃんと伝えとくね。」

 

 「旦那達も、何か困ったことがあれば、頼るといいでやすよ。」

 

 「おう、そうさせてもらうよ。」

 

 「気をつけて帰れよ。」

 

 だが、扉を開ける前にカバルが立ち止まり、

 

 「あっ、と最後にもう一つ。なぁ、リムルの旦那。もう一度人の姿になってもらえねぇかな。」

 

 振り返りながらそう言ってきた。

 

 「?いや、それぐらいは・・・・」

 

 「ああ。別に構わないけど。」

 

 そしてリムルは再び、人の姿に変わる。

 

 「一体なんだって・・・・」

 

 「「「シズさん!ありがとうございました!!」」」

 

 そう言って三人は頭を下げる。

 

 「俺、貴女に心配されないようなリーダーになります!」

 

 「貴女と冒険できたこと、生涯の宝にしやす!」

 

 そして、エレンがリムルに抱きつく。

 

 「ありがとう・・・・・お姉ちゃんみたいって、思ってました。」

 

 ・・・・・本当に、彼らがシズの最後の旅仲間でよかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで、お前らの装備ボロッボロだな。」

 

 「そういえば、確かに。」

 

 「「「ひどっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・って、え?」

 

 「あ、あの・・・」

 

 「こ、これって・・・・」

 

 最初に会った時からそうだったが、彼らの装備がイフリートとの戦いで完全にボロボロになっていたので、餞別を渡す事にした。

 

 粘鋼糸衣(スパイダーローブ):蜘蛛の糸で編み込まれている純白のローブ。

 

 甲殻鱗鎧(スケイルメイル):トカゲの甲殻を用いた重鎧だが、見た目と性能に反して軽い。

 

 硬革鎧(ハードレザーアーマー):周辺の魔物の毛皮を加工した魔法耐性付きの品。

 

 この三つに加え、帰るまでの食料と新しい武器だ。

 

 「餞別だよ。ウチの職人の力作だ。」

 

 「紹介する。カイジンとガルムだ。」

 

 「力作っつっても、まだ試作品だけどな。」

 

 「着心地はどうだい?」

 

 すると・・・・

 

 「え?カイジンってあの伝説の鍛治師の?」

 

 「じゃあ、まさかガルムって、あのガルム師でやすか?」

 

 「うおーーーーーーーっ!家宝にしますぅぅぅ!!」

 

 この喜び様だ。どうやら、俺達が思っていた以上にカイジン達は有名人だったようだな。まぁ、国王が直々に留まらないか?と誘うほどだしな。

 

 良い土産を渡せて良かったと思う。

 

 

 

 

 

 

 「また来るぜー!」

 

 「ありがとー!」

 

 「おたっしゃでー!」

 

 悲しみを吹き飛ばすように大はしゃぎした後、彼らは去っていった。ハンター並のたくましさを持った三人だったな・・・・・

 

 「さてと。」

 

 三人を見送り、リムルはスライムの姿に戻り、リグルドに声をかける。

 

 「しばらく1人になりたい。俺のテントに誰も近づけないでくれ。」

 

 「はっ。」

 

 「じゃあ、俺は少し用事を済ませに行ってくる。」

 

 「ん?何処に行くんだ?」

 

 「まぁな。これをただ置いておくだけにする訳にはいかないだろ?」

 

 そう言って俺は腰に差した物に指を差す。

 

 「ああ、そうだな・・・・・じゃあ頼む。」

 

 「おう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンカの背に乗り、やって来たのは、今建設中の町を見下ろせる位置にある丘の上に立つ樹の根元だ。

 

 「我が主。今から何をなされるのですか?」

 

 「身体はリムルが取り込んだから中身はないが、シズの魂が安らげるように、ここに墓を作ろうと思ってな。」

 

 「墓・・・ですか。」

 

 「まぁ、墓といっても簡易的な物だが、ここからならいつでも町が見えるだろうと思ってな、リムルに相談しておいたんだ。」

 

 そう言って、俺は土を盛らせ、彼女が使用していた剣を刺し、あらかじめ摘んでおいた花を供える。

 

 どうか、彼女の魂が幸福な夢の中で眠り続ける事ができるよう、俺は祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ちょうど人への擬態の確認を終わらせたリムルと墓を作り終えたジンは同じ事を思い浮かべていた。

 

 (シズさんの心残りは彼女の教え子達のことだった。)

 

 (ドワルゴンに行った際の占いで見た5人の子供達、そして2人の男女。)

 

 (しかし、こいつ等が何処に居るのかもわからん。)

 

 (地道に情報を集めるしかない。それこそ、ギルドを頼るのも一つの手だ。)

 

 (それからもう一つ。)

 

 (俺達にはやらなければならない事がある。)

 

 ((魔王、レオン・クロムウェル。))

 

 「覚悟しろよ。そのイケてる面をぶん殴ってやるからな。」

 

 「何故、彼女を召喚し、辛い人生を送らせたのか、問いただしてやる。」

 

 

 

 

 

 

 斯くして、リムルという名のスライムと、ジンという名の異世界の狩人は、1人の女性の姿と想いを受け継いだ。

 

 そして世界は、激動の時代を迎えることになる・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは乾ききった大地。雨は何日も降らず、草木が全く生えていないその場所に、1人の魔物、豚頭族(オーク)が倒れていた。

 

 するとそこに、仮面を着け、シルクハットを被り、杖を持った男が近づく。

 

 「・・・・お前に、食事と名をやろう。」

 

 「・・・・・・・・・・あ、貴方は?」

 

 「俺の名はゲルミュッド。俺のことは父と思うがいい。」

 

 「お前の名はゲルド。やがてジュラの大森林を手中に収め、豚頭魔王(オーク・ディザスター)となる者だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 どうも、邪神イリスです。

 今話にて地位向上編は終了。これからどんどんキャラが増えてまいります。

 因みにディノSシリーズを纏った理由は見て目のデザインが良かったからです。グラビモスとかのでのよかったのですが、ちょっと見た目がふっくらすぎるし、もっとたくさんのモンスターを出したいなと思いましたので。
 氷結弾ならイヴェルカーナでもいいだろ!と思われた方もいらっしゃると思いますが、マスターランク=G級という解釈をしているので、『今』のジンでは使えないのでデルフ=ダオラにしました。

 それと、昨日から映画『モンスターハンター』&新作『モンスターハンターRise』狩猟解禁!

 作者は初日最初の公開映画を観てから予約しておいたゲームも購入しました。いやーあれですね。ネタバレになるのであまり言えないのですが、どちらも素晴らしかったです!
 特に映画はあまり予告を見ないでほぼ前情報無しで行ったので、色々と驚きました。それと、つくづくプレイヤーが操るハンターが化け物なのだと実感しましたね。

 いくつかこの作品でも使えそうな設定もありましたし、これからの進み方次第では設定を流用するかもしれません。


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森の騒乱編
騒乱の時代へ






 彼の目に映るのは、常に苦悩し続ける王の姿。

 飢える仲間達を想うも、何も出来ずにいる自身に苦悩する王の孤独な姿。

 

 

 雨が何日も降らず、日照りが続き、大地が枯れて作物が実らなくなり、大飢饉が発生した。

 少し境界を越えれば、豊かな国々がある。

 だが、そこに出向くことは出来ない。何故ならばそこは魔王の領土なのだから。

 その境界を越えることは明確な魔王への敵対行為。飢えて死ぬのを待つまでもなく、皆殺しにされてしまうだろう。

 彼等の住む土地は、3つの領土と森に囲まれている。

 3人の魔王が治める領土は、彼等のような下等な魔物には絶対不可侵であった。

 それならば、残る道は一つ。少し境界を越えた先にある豊かな森だ。王がそこに活路を見出したのは、至極当然の流れだった。

 しかし、その森はかの暴風竜が守護する土地でもあったのだ。




 腹ガ減ッタ・・・・・・・

 何デモイイ、飯ガ食イタイ・・・・・・



 声にもならないような声を上げながら倒れていく仲間達。

 だが、その声は減るどころか、数倍にも増えていった。

 生存本能が刺激され、産まれてくる赤子が増えたのが原因である。

 その事が、事態をより深刻なものへと変えていく。

 

 王が笑った顔など見た事もない。

 自分の食糧までも、小さな子供達に分け与える王。

 けれども、翌日にはその子達も死んでいるだろう。

 それ程までに痩せ衰え、生きる力を失っているように見えるのだから・・・・・・

 そして王は、禁忌を犯した。

 与えられる食糧が無くなった王は、自らの血肉を最後の我が子に与えたのだ。

 誰が止める事が出来ただろう・・・・その、あまりにも儚い願いを・・・・・・

 王はただ、我が子に生き延びて欲しかっただけなのだ。


 

 その行為を諫める事が出来なかった事が、罪。

 食べても食べても満たされぬ。

 そして毎晩夢を見るのだ。

 あの、凄惨なる王の姿と、何も知らずに腸を貪る赤子の姿を。

 結果的に子は進化し、新たな王となった。しかし、依然として飢饉は続き、王は毎日苦悩している。

 何故、自らは生き延び、他の者達は死んでいくのかと。

 誰か、救ってほしい。

 この・・・・・いつ終わるとも知れない、永劫の餓鬼地獄から。



 この叶わぬであろう願いを胸に、今日も1日が始まる。







 
 





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、リムル様。可愛らしくなられて」

 

「スライムの姿じゃないが、分かるのか?」

 

「もちろんです!」

 

 今、リムルは自身の服を用意してもらう為にハルナに寸法をしてもらっている。

 

 そういえば、リグルドも一目でリムルだと気づいてたよな。カバル達は気付いていなかったが。

 

「えーと・・・・旦那?間に合わせですが、こいつをどうぞ。性別ないっつっても、真っ裸じゃいかんでしょ」

 

「おお、助かるよ」

 

 顔を赤らめ、目を逸らしながらガルムが服をリムルに渡す。

 

 分かり易い程戸惑っているし、もしかしたら名付けに関係があるのかもしれない。

 

 因みに俺は何も感じてはいない。リムルの前世が男だというのは大分前に聞いたし、裸よりも恥ずかしいんじゃないかという程の露出度の高い装備を着ていた女性ハンター達を知っているからかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寸法を終えた後、せっかくリムルが人の姿になれるようになったので、1日を人型で過ごすと決め、今はそれぞれランガとエンカの背に乗り、軽く町を見回り、用事を済ませる為に町の外へと向かう。

 

 因みに、俺も新しく作ってもらった服を着ている(見た目はリムル達が着ているのとほぼ同じ)。ユクモノシリーズとかでもいいのだが、普段生活する分には、コレで充分だろう。

 

「リムル様、ジン様、おはようございます」

 

「おう、おはよう。」

 

「建設の方はどうだ?」

 

「順調です!ただ、中々家の方はまだ出来てませんけど」

 

「時間はあるんだから、焦らずやっていけよ」

 

「はい!」

 

 俺達がシズの看病をしていた間も、町の建設は着々と進められていっていた。

 

 排泄物の処理などの問題を早めに解決する為に、今は上下水管道の設置を優先しているので、家はまだテントばかりだが、カイジンやドワーフ三兄弟の工房など、いくつか建て終わった物もある。

 

 俺達が思っていたよりも、リグルドの統率力が高かったおかげだろう。

 

「リムル様!ジン様!」

 

「おう、リグルド」

 

「これから、お出かけですかな?」

 

「ああ、ちょっと封印の洞窟までな」

 

 最近、作業などを円滑に進める為にゴブリン・キングに格上げしたせいか、ますます筋骨隆々になり、やけにつやつやしている。

 

「そうだ。ゴブリン・ロード達は役に立てているか?」

 

 リムルがそう聞くと、

 

「もちろんですとも!」

 

 と、リグルドは嬉しそうに答える。

 

 住人がおよそ500人増えたことにより、流石のリグルドでも、1人ではまとめきれないという事で、リグルドの下に、新たにゴブリン・ロード4人を指名した。

 

 それぞれの役職は経済などに詳しいリムルと話し合って決めた結果、ルグルドが司法、レグルドが立法、ログルドが行政を司る長官で、ゴブリナのリリナが生産物の管理大臣だ。

 

 もっとも、まだ名ばかりの役職なんだけどな。細いことは追々決めていけばいいから大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、リムル様・・・」

 

「ん?」

 

「今日もお食事は必要ないのですか?」

 

 リグルドに行く場所を伝え、さぁ行こうと思った時、リグルドがそう聞いてきた。

 

「ああ、どうせスライムの身体じゃ味がしな・・・・」

 

 すると、リムルは目を見開き、肩を震わせる。

 

 ・・・・・もしかしてだが、今までリムルはスライムだった為に食事をしても味がせず、虚しい気持ちになるからということで、食事は一切していなかった。しかし、今は人の姿になれるようになった。

 

 リムルは擬態した者と同じ力、五感の機能を持つ。ならば、今のリムルなら味が感じれるのでは?

 

「待て、今日から俺も一緒に飯を食う事にする。」

 

 俺が考え事をしていると、先程とは真逆の返答をリムルがする。

 

「なんと!」

 

 その答えを聞いたリグルドが嬉しそうな顔をする。

 

 いつも食事にだけは参加しないリムルを見て寂しそうだったしな。

 

「では今夜は宴会ですな。ご馳走を用意するようリリナに申し付けておきましょう」

 

「うむ、頼んだぞ」

 

「じゃあ、俺達は少し行ってくるな」

 

「はい。お気を付けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっほーーーーーーーー!」

 

「嬉しそうだな、リムル」

 

「いやだって、ジン!味のある飯が食えるんだぞ!この世界に来て最初に肉を食って味がしなかった時の俺の気持ちがわかるか?!」

 

「まぁ、せっかく目の前に美味そうな飯があるのに、まったく味がしないなんて、拷問以外の何物でもないな」

 

「だろ?ご馳走はなんだろうな?肉?やっぱ肉かな?米も欲しいけど稲がないからな〜〜」

 

「米ねぇ・・・・・・」

 

 俺が思い出すのは、我らの団の料理長達が作った数々の料理・・・・・ああ、また食いたくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、森の中を進んでいると、リグルとゴブタ達に出会った。

 

「よう、リグル!」

 

「周辺警備兼食料調達、ご苦労さま」

 

「リムル様!ジン様!」

 

「今夜は宴会の予定なんだ。美味そうな獲物を頼むよ」

 

 そう、リムルが言うと、

 

「今日はリムル様も食べるっすか?」

 

 と、ゴブタが少し驚いたような顔で聞いてきた。

 

「ああ!なんてったって、この身体には味覚があるからな!」

 

 するとゴブタは、

 

「いっぱい食べたら、おっぱいも育つっすかね?」

 

 視線をリムルの胸に向けながら、とんでもなく失礼な事を言った。

 

 瞬間、リムルは後ろ回し蹴りをゴブタの鳩尾に打ち込む。

 

「げふぅっ!!」

 

 防御する間も無く、もろに喰らったゴブタは泡を吹きながら悶絶している。もっとも、今回は自業自得なので、助けたりはしない。

 

「すみません、リムル様。ゴブタには後でキッチリと教育しておきますので」

 

「ああ、そんなに気にしてはいないけどな。そんな事より、獲物を頼むな」

 

「では、特上の牛鹿をご用意しましょう。最近は森の奥から移動してくる魔獣が多いので、獲物は豊富なんです」

 

「・・・・何かあったのか?」

 

 俺がそう聞くと、

 

「いえ、たまにですが、環境の変化などで魔獣の移動がありますからね。大した事はないと思うのですが、念の為に警備態勢は強化しております」

 

 そう、リグルは答えた。俺はそれを聞いて、少し考えた。

 

 俺が居た世界でも、時折、モンスターの移動は起きる事があった。ハンターの間でよく移動する事で有名なのは、『ポポ』を求めて砂漠などからわざわざ寒冷地帯まで行く『轟竜:ティガレックス』や繁殖の為に移動する『火竜 リオレウス』などだが、俺はそれ以外の移動をしたモンスター達を知っている。『アオアシラ』、『ジンオウガ』、そして『ラオシャンロン』などだ。彼らの移動の理由は、『彼ら以上の実力を持つ存在』によって住処を追われた事だ。

 

 リグルはただの環境の変化と言ったが、どうにも気になる。万が一という事もあるし、念の為にエンカ達を同行させよう。

 

「エンカ、警備隊に同行してくれ。もしもの時は任せたからな」

 

「承知しました!」

 

「じゃあ、ランガも一緒に行ってくれないか?」

 

「お任せください」

 

「しかし、リムル様とジン様はお出掛けでは・・・・・」

 

「大丈夫だ。俺達は今、封印の洞窟に向かっていてな」

 

「もうすぐそこだしな。気にするな」

 

「しかし・・・・」

 

「遠慮はいらぬ。我らを連れて行け、リグル殿」

 

「我が主達が心配はいらないと言っておられるのです。大丈夫ですよ」

 

 俺達の申し出をすぐに受けたランガとエンカだが、俺達に頼まれたのが嬉しかったのか、真面目な顔とは裏腹に尻尾を凄い振っていた。こういう所を見ると、本当に兄妹だなぁ。と実感する。

 

 「じゃあ、俺達は洞窟にいるからな。」

 

 「何かあったら連絡を「あっ!」・・・どうかしたか?」

 

 もしもの時は連絡する旨を伝えようとしたリムルの言葉を、何かを思い出したかのようにリグルが遮る。

 

 「すみません。忘れてました。森の巡回中に拾ったのですが、リムル様達がお持ちの方がよろしいかと・・・・」

 

 そう言いながらリグルが懐から取り出して渡してきたのは、シズが身に付けていた仮面だった。イフリートとの戦いで何処かにいったので、探していたのだが、リグルが見つけてくれたみたいだ。

 

 「探してたんだ・・・・ありがとな。」

 

 そう言い、リムルが仮面を受け取る。

 

 「見た所、壊れたりしている部分は無さそうだな。」

 

 「ああ、何処か欠けたりしてなくて良かったよ。」

 

 シズからは色んなものを貰ったが、形のある形見はこの仮面と、彼女の所持していた剣だけだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リグル達と別れた後、俺達は洞窟に到着し、地底湖の側まで到着する。

 

 「よし、ここら辺でいいな。」

 

 「んじゃあ、始めるか。」

 

 俺達がここに来た目的は、お互いのスキルと耐性をもっとしっかりと把握する事だ。

 

 リムルはイフリートとシズを喰った事で、更にスキルや耐性が増えたのでその確認。俺はモンスターのブレスなどの威力の細かい調整などの確認の為だ。

 

 上手く使いこなせれば、強力な物を手加減して使う事ができる。せっかく持っていても、上手く使いこなせないのであれば、意味はないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず、耐性を改めて確認した所、リムルが持っている耐性は、『熱変動耐性』、『物理攻撃耐性』、『痛覚無効』、『電流耐性』、そして『麻痺耐性』だ。この内、『痛覚無効』は、俺のスキル『狩人』のスキル効果にも含まれている。

 

 そして、俺の耐性は、スキル効果に含まれている『痛覚無効』、『状態異常耐性』、『自然影響耐性』と、各種属性に合わせてモンスターの鎧を纏って防具のスキルを発動。もしくは、そのモンスターに変化する事で無力化できる。

 

 例えば、火属性は、先日の『ディノバルド』や『グラビモス』、『リオレウス』に『テオ・テスカトル』など、多岐に渡る。状況に合わせた物にすればいいだろう。

 

 そこで俺とリムルがふと思った事があった。

 

 (相棒。シズがイフリートに乗っ取られた時に聞こえたあの声は、お前や、前に『無限牢獄』の合同解析を許可した時に少し聞こえたリムルの『大賢者』の声とは違う感じだったが、あれはなんだったんだ?)

 

 そう、実はあの時、こんな声が周囲に響いたのだ。

 

 《ユニークスキル『変質者』を発動します》と、

 

 《解。スキルの獲得・進化、または世界の改変を告げるのは、通常『世界の言葉』です。『世界の言葉』は、誰の耳にも響きます》

 

 (何?じゃあ、やはりあの時の声はお前でも『大賢者』でもなかったと?)

 

 《解。ユニークスキル『大賢者』及びユニークスキル『相棒』は、『世界の言葉』の権能の一部を流用して言葉を話しています》

 

 ・・・・・・言われてみれば、この棒読みみたいな感情を感じない声、『相棒』を獲得する前から聞こえていたな。

 

 「何だか、紛らわしいな、大賢者と相棒(お前ら)は。」

 

 「そうだな。」

 

 《 《・・・・・・・・・》 》

 

 「それにしても、『世界の言葉』かぁ・・・」

 

 「流石にもうお互いの前世の常識が通用するとは思ってないけど、不思議な現象だよな。」

 

 「確かにな。もっとも、それを利用して喋るスキルも大概だと思うがな。」

 

 「「はっはっはっはっはっ!」」

 

 《 《・・・・・・・・》 》

 

 《 《・・・・・貴方の疑問に答えるために自己改造したのです》 》

 

 「ん?何か言ったか?」「どうかしたか?」

 

 《 《否》 》

 

 「よし、じゃあ次は。」

 

 「スキルの確認だな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、スキルの威力などを試すのにちょうどいいという事で、リムルが新たに手に入れたスキル、『分身体』を使う事にした。

 

 今はリムルが分身体と各種耐性及びスキル『範囲結界』を同じにし、『多重結界』を分身体に発動させた。

 

 「よしよし、んじゃあ、まずは俺からな。」

 

 「ああ。」

 

 「せーの・・・・」

 

 

 カッ・・・!

 

 

 ドゴオオオオオオオオオ・・・・・・

 

 

 リムルのスキル、『黒炎』がリムルの分身体を中心に燃え上がる。

 

 「・・・・・えげつない。怖っ!何コレ怖っ!!」

 

 そう言いながら、リムルは炎を捕食して消火する。

 

 「・・・・・確かにかなりの威力だが、俺もこれぐらいはできると思うぞ?」

 

 「はあっ!?」

 

 リムルが何言ってんだコイツという感じでこちらに顔を向ける。

 

 「まぁ、見てろ。」

 

 そう言いながら、俺は体内に『リオレウス希少種』の火炎袋を形成させる。そして炎を溜め込み・・・・・・

 

 ヒュンッ!

 

 

 ドゴン!ドガァン!ズガァン!

 

 

 吐き出された火球は着弾すると同時に爆発し、先程の『黒炎』のように燃え広がる。

 

 「ほらな?」

 

 「ほらなじゃねーよ!むしろ爆発する分そっちの方がやべーじゃねーか!」

 

 そう言いながら再びリムルが消火する。

 

 「俺の分身体は・・・・あ、無事だ。」

 

 「あれだけくらって無傷とは・・・・結構硬いんだな、『多重結界』は。」

 

 「・・・・・そろそろ帰るか。」

 

 「ああ、リグルド達が待っているだろうしな。」

 

 リムルがここまで一気に攻撃と防御を強化できたのは、『大賢者』と『相棒』、そしてシズが遺したスキルのおかげだ。

 

 シズが遺したスキル、それこそがユニークスキル『変質者(ウツロウモノ)』だ。

 

 効果は大きく分けて2つ。

 

 統合:異なる対象同士を一つのモノへと変質させる。

 

 分離:対象に備わる異なる性質を、別のモノとして分離する(分離された対象が実体を持たない場合、消滅する可能性がある)

 

 この2つだ。

 

 このスキルでシズはイフリートとの同化を受け入れつつも、自我を守る事が出来たのだ。

 

 その能力で、シズは人である自分とイフリートを1つの存在へと『変質』させていた

 

 正直な所、俺とリムルは別に必要のない物じゃないかと思っていたのだが、『大賢者』からしてみれば、かなり有用なスキルであるらしく、なんとスキルにも適応可能との事だった。更に『相棒』が《同時解析を行う事で更に効率が上がります》という事で、任せたのだが・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《告。『炎化』とエクストラスキル『炎熱操作』及び『水操作』が統合により消失。新たに『黒炎』とエクストラスキル『分子操作』を獲得しました》

 

 《更に『黒稲妻』と『分子操作』をリンクさせる事が可能です。リンクさせますか? YES / NO》

 

 「お、おう・・・・」

 

 《エクストラスキル『黒雷』を獲得しました。続けて、『熱変動耐性』に『炎熱攻撃無効』を統合、『熱変動無効』へと進化しました》

 

 《告。各種耐性と『範囲結界』をリンク、『多重結界』として身体を覆う事が可能です。『多重結界』を常時発動しますか? YES / NO》

 

 「はい・・・・あの・・大賢者さん達、なんかムキになってません?」

 

 《 《否》 》

 

 (・・・・・『相棒』に許可出すの早まったかなぁ・・・・まぁ、リムルが強くなるからきにしなくていいか。というか『大賢者』と『相棒』、いつからここまで連携が取れるようになったんだ?)

 

 《続けてユニークスキル『捕食者』の擬態とスライムの固有スキル『溶解、吸収、自己再生』を統合。エクストラスキル『超速再生』を獲得しました。これにより、『溶解、吸収、自己再生』は消失しました。更に・・・・》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 といった感じで、一気に強力なスキルをリムルは獲得した。あまりに突然大量に手に入れた事に、本人は少しビビっているようだが。

 

 「この仮面、確か、魔力を抑える力があるんだよな。」

 

 そう言いながらリムルが懐が出したのは、リグルが見つけてくれた、シズの着けていた仮面、『抗魔の仮面』だった。

 

 「ああ、そういえばそうだったな。」

 

 実はこの仮面は、魔法道具(マジックアイテム)という魔法を付与された物だったのだ。

 

 『相棒』達によると、付与されているのは、『魔力抵抗、毒中和、呼吸補助、五感増強』の四つと、中々有能な物だった。

 

 そして、俺は古龍の天候を操るイメージで制御しているが、リムルは若干だが、妖気が漏れ出ているのだ。しかし、この仮面の『魔力抵抗』を使えば、それを防げるのでは?という、考えに俺達は至った。

 

 カポッ

 

 「どうだ?」

 

 「似合ってるんじゃないか?それに、妖気が消えてるようにも感じる。」

 

 (『相棒』、リムルの妖気は?)

 

 《解。個体名:リムル=テンペストから僅かに漏れ出ていた妖気が完全に消失しました。この状態ならば、『人間』と認識されるでしょう》

 

 (それなら、大丈夫だな。)

 

 「よし、これからは対外向けにはこの格好で出向くことにするよ。」

 

 「少なくとも、一目で魔物だとは判断されにくくなれるだろうしな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、スキルや耐性などの確認を終えて、洞窟から出たのであったが、俺はここで何か違和感を感じた。

 

 どこかこう・・・肌がピリピリするような感覚を感じたのだ。その事をリムルに伝えようとした瞬間だった。

 

 『『リムル/ジン様!!』』

 

 頭の中に俺達の名を呼ぶ声が響く。

 

 (今の声は・・・)

 

 《個体名:ランガ及び個体名:エンカからの思念伝達。声音から救援要請と推測しm・・・・》

 

 『相棒』の説明を聞き終わるよりも前に、俺達は思念が伝わってきた方へと走り出す。

 

 あの2匹が救援を呼ぶという事はかなりの緊急事態の可能性が高い。

 

 そして、森の中を疾走し、目的地に辿り着くと・・・・・

 

 「ぎゃーーーーっ!」

 

 白髪の刀を持った初老の男にゴブタが斬られていた。

 

 近くでは、リグルが剣を支えにして、膝をついており、周りでは、警備隊の皆が倒れ伏している。

 

 そしてその奥には、リグルと睨み合っている鉄の塊を先につけた棍棒を持つ紫髪の女がおり、更に奥には赤髪の男と桃髪の女がこちらを睨んでいる。

 

 

 「何だ・・・?」

 

 「お前ら・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 ・・・・・・・・( ゚д゚)ンン?

 (つд⊂)ゴシゴシ (;゚д゚)ンンン・・ッ!?

 お気に入り者数:746人だと!?(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

 投稿する前にどれくらいになったか確認してみたら、めちゃくちゃ伸びててびっくりしました。

 さて、いよいよ森の騒乱編です。

 次回は更にオリキャラが登場します。出番を作ったりするのは大変かもしれませんが、頑張っていきたいと思います。

 あ、因みにですが、作者はライズは現在HR5まで進みました。早くストーリーの続きが見たい・・・・・でも、テストや執筆もある・・・・・・というか百竜夜行楽しいけど、ソロでやってるから集会所が辛い・・・・


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大鬼族達の襲撃

 

 

「ぎゃーーーーーーーーーーー!斬られたっす!超痛いっす!死ぬっすーーーーーーーっ!」

 

「落ち着け、傷は浅い」

 

 そう言いながら、リムルがゴブタとリグルに回復薬をぶっかける。

 

「大丈夫か?リグル、ゴブタ。」

 

「「ジ、ジン様!リムル様!」」

 

 俺が声をかけると、駆けつけた俺達に気づいたリグルとゴブタが声を上げる。

 

「回復薬っすか!?助かったっす!!」

 

「リグル、状況を説明してくれ。警備隊に何があったんだ?」

 

 リムルがそう聞くと、まだ少し痛むのか、片腕を押さえながらリグルが答える。

 

「倒れている者達は無事です。魔法により、眠らされただけですから。」

 

 そう言われて、改めて、倒れている者達をよく見ると、背中がゆっくりと上下しており、イビキをかいている者もいる。

 

「面目ありません。強力な妖気を感じ、警戒していたのですが、まさか大鬼族(オーガ)に出くわすとは思わず・・・・」

 

「「オーガ?」」

 

 オーガって何だ?

 

《解。大鬼族(オーガ)とは、知恵ある魔物であり、この森における上位種族の1つです。強さの階級で表すなら、およそB〜B+ランクに該当します》

 

(なるほどね・・・・)

 

 恐らく、リーダー格はあの赤髪のオーガだろう。カブラシリーズの様な鎧を着ており、腰には刀を差している。おまけに、感じる妖気はランガやエンカに匹敵している。

 

 そう推測していると、上の方から何かがぶつかる音がした。

 

 俺とリムルが顔を上に向けると、ハンマーを持った黒髪のオーガと双剣使いの青髪のオーガをランガが、槍を持っている女オーガ(あの髪色は確か・・・東の地方の色の緋色だったか?)と、篭手を嵌め、徒手空拳で戦っている淡藤色の髪の女オーガを相手にエンカが戦っていた。

 

「ランガ!」「エンカ!」

 

 俺達が呼びかけると、2匹は地上に降りて、俺達に駆け寄る。

 

「「主よ!」」

 

「申し訳ありません・・・!」

 

「我らが共にいながらこのような・・・・」

 

「隙のない状況で俺達に救援を呼びかけれたんだ。手遅れになる前だったから心配するな」

 

 謝罪をしてくる2匹に俺はそう答える。

 

 ここまでの実力者達を相手に、しかも数で負けている状況でここまで耐え抜いたんだ。2匹を責める方がおかしいだろう。

 

 さて、エンカとランガが相手をしていたのも合わせて、合計8人のオーガか・・・・・

 

「おい、お前ら!事情は知らんが、ウチの奴等が失礼したな」

 

「俺達と話し合いに応じる気はないか?」

 

 リムルに続いて俺がそう言う。

 

 彼我の実力差は明白なのにゴブタとリグルは傷こそ負わされたが、致命傷ではなかったし、警備隊のほとんどは無傷で無力化されている。

 

 それに、よく見たら鎧に返り血が付いていたり、少しボロボロになっているので、何か訳ありなのかもしれない。

 

「お兄様、あの者の仮面・・・・」

 

 

 桃色の髪の女オーガが、赤髪のオーガに何かを伝えるのが聞こえた。

 

 仮面・・・つて事は、リムルが着けている仮面か?あれがどうかしたのだろうか?

 

「正体を現せ。邪悪な魔人共め」

 

 ・・・・・・・・・は?

 

「おいおいおい!ちょっと待ってくれ!!」

 

「俺達が何だって!?」

 

 思わぬ言葉に俺達が、反論しようとするが、

 

「しらばっくれるつもりか?魔物を使役するなど、普通の人間にできる芸当ではあるまい。見た目を偽り、妖気を抑えているようだが甘いな。オーガの巫女姫の目は誤魔化せん」

 

 俺達の反論を全く聞き入れない。

 

 いやいやいや。偽るもなにも、俺はこの姿が基本だし、リムルに至っては邪悪な雰囲気なぞ一切ないスライムだぞ?一体何を根拠に・・・・・

 

 ていうか、魔人ってなんだよ!?

 

《解。魔人とは、人型の強い魔力を持つ知恵ある魔物の総称です。特に強い力を持つ個体は、上位魔人とも呼ばれています》

 

 あ、そうですか・・・・・

 

「ふん。答えを聞くまでもない。貴様達の正体は全て貴様が着けているその仮面が物語っている」

 

 そう言いながら、赤髪のオーガが刀を抜いてこちらに剣先を向ける。

 

 それよりも仮面だと?確かにさっき仮面がどうとか聞こえていたが・・・・

 

「待ってくれ。何か誤解があるんじゃないか?」

 

「これはある(ひと)の形見で――」

 

「同胞の無念。その億分の1でも、貴様達の首で贖ってもらおう」

 

 俺に続いてリムルが弁明しようとするが、容赦なく言葉を切って捨てる。

 

 うーーむ。完全に頭に血がのぼっているな。一旦頭を冷やしてもらわないと、話を聞いてくれなさそうだ。

 

 まぁ、Aランクオーバーのイフリートと比べても、それほど脅威は感じないし、軽く力を見せつければ大丈夫だろうリムルもそのつもりみたいだ。・・・・・ただ、なんか、あの白髪の老オーガが気になるんだよなぁ。一応警戒しておこう。

 

「ランガ、魔法を使うのはどいつだ?」

 

「はっ。巫女姫と呼ばれた、桃髪の女です。」

 

「お気をつけください。あの者の魔法によって、抵抗できた我々以外は全員眠らされたのです」

 

 リムルの問いにランガが答え、エンカが補足してくれる。

 

「じゃあ、エンカはランガと一緒に彼女が魔法を使わないよう、牽制を頼む」

 

「残りは俺達が引き受けるよ」

 

「しかし、それではジン様とリムル様が7人を相手取る事に・・・・」

 

「問題はないから安心しろ」

 

「というか、負ける気がしないからな」

 

 俺とリムルの言葉を聞き、オーガ達が、一気に殺気立つ。

 

「・・・真勇か蛮勇か、その度胸に敬意を払い、挑発に乗ってやろう・・・・後悔するなよ」

 

 赤髪のオーガが喋り終わると同時に、赤髪のオーガと桃髪の女オーガ、白髪の老オーガ以外の5人のオーガが走り出し、黒髪のオーガ、青髪のオーガ、紫髪の女オーガはリムルに、緋色髪の女オーガと淡藤色の女オーガは俺に向かってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず最初に攻撃を仕掛けたのは黒髪のオーガだった。

 

 その手に持っていた鎚を振り下ろすが、リムルはそれを避けて後ろに回ると、新たに手に入れたエクストラスキル『万能変化(ばんのうへんげ)』を発動、左の手の平に小さな口を出現させてそれを黒髪に向け、スキル『麻痺吐息』をかける。

 

 黒髪のオーガは避ける間もなく、霧を全身に浴びて痙攣。そのまま硬直したように地面に倒れる。

 

 この『万能変化』は、ジンの『竜戦士』の『竜獣変化』のようなものであり、リムルが喰べて『大賢者』が解析した魔物の部位を任意で選択し、同時に複数の魔物の外見的特徴を出す事ができるのである。

 

 そして、黒髪のオーガが倒れると同時に、死角から紫髪の女オーガが棍棒(メイス)を振るうが、『魔力感知』を発動していたリムルは軽々とそれを避ける。

 

(でかい。なんて見惚れてる場合じゃないな)

 

 一瞬、その大きな母性の塊に見惚れかけるが、気を取り直し、リムルは足払いをかけて態勢を崩した所を左手の指先から出した『粘鋼糸』でグルグル巻きにする。

 

 紫髪の女オーガは藻掻いて糸から抜け出そうとするが、イフリートの怪力をも封じ込めた、ネルスキュラの糸と同等の硬さを持つ糸だ。ジンの世界にある『消散剤』でも無い限り、そう簡単には抜け出せないだろう。

 

「転びそうですよ、お嬢さん。(なんちゃって)」

 

 そして、青髪のオーガが足元からリムルの顔面に突きを放つ。

 

 しかし、金属が硬質なものとぶつかる鈍い音が響き、青髪のオーガの直刀は見事に折れた。

 

 リムルが、右腕にスキル『身体装甲』を発動させることで直刀を弾いたのだ。

 

 驚きに目を見開く青髪のオーガの隙を見逃さず、リムルは硬質化させた腕で正拳突きを放ち、青髪の胸当てを破壊、吹っ飛ばされた青髪のオーガは木にぶつかり、倒れ込む。

 

 一方、ジンの方では、緋色髪の女オーガが槍を構えて高速の突きを連続で放つも、ジンはそれを全て避け、右手で槍を掴むと同時に自分の方へ引っ張り、バランスを崩した所を狙って、左手に生やした『ランゴスタ』の麻痺針を突き刺す。

 

 マトモに何度も喰らえば大型モンスターでさえ、簡単に麻痺状態になる麻痺毒をよける間もなく喰らい、緋色髪の女オーガは体が硬直し、その場に倒れる。

 

 後ろから淡藤髪の女オーガが正拳突きを放つが、ジンはそれを避けて追撃の数発のパンチも躱すと、更にもう一発放とうと淡藤髪の女オーガが拳を振りかぶった瞬間。

 

「ふんっ!」

 

 ジンは、がら空きになった胴体に『ブラキディオス』に変えた右腕で、粘菌を纏わせずに右ストレートを叩き込む。

 

「かはっ・・!」

 

 不意を突かれた攻撃に淡藤髪の女オーガは腹を抑え、その場に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちょっと力を込めすぎたかな・・・・・(汗) )

 

 腹を抑えて倒れ込んだ女オーガを見ながら、俺はそう思った。

 

 これでもかなり加減したんだかなぁ・・・・・俺もまだまだだな。

 

 さて、残るオーガは、エンカとランガが牽制をし続けている桃髪の女オーガと、赤髪のオーガ、そして嫌な予感のする白髪の老オーガだ。

 

 すると、先程まで目を細めていた老オーガが、細めていた目を開けて喋り始めた。

 

「・・・エビルムカデの『麻痺吐息』、ブラックスパイダーの『粘糸・鋼糸』、甲殻トカゲ(アーマーサウルス)の『身体装甲』。もう片方の者のは分かりませぬが、見たところ、麻痺系と、攻撃特化の物。不意打ちへの反応速度を見るに、どちらも『魔力感知』を持っておるでしょう。他にも多数の魔物の(わざ)を体得しているやもしれません。ご油断召されるな、若」

 

 ・・・・・凄いな、あの老オーガ。リムルが洞窟で捕食した魔物の名前とスキルを一目みただけで言い当て、しかも、『魔力感知』を持っていることも見抜いている。

 

 あまり、手の内を見せるのはまずいな。

 

「なあ、ここら辺にしないか?俺達の実力は分かっただろ?」

 

「そろそろ俺達の言い分も聞いて欲しいんだけど。」

 

「黙れ。邪悪な魔人め。」

 

 これ以上は穏便に済ませたいので、話を聞いてもらおうと思った俺にリムルも合わせてくれたが、すぐに断られる。

 

 これぐらい、実力差を見せれば、多少は話をしてくれるだろうと思っていたのだが、中々上手くいかないな。

 

「確かに貴様達は強い。だからこそ確信が深まった。やはり貴様は奴らの仲間だ。たかだ豚頭族(オーク)如きに我ら大鬼族(オーガ)が敗れるなど考えられぬ・・・っ」

 

(オーク?そういえばルグルド達が俺達を頼って来た時に森の覇権を巡って小競り合いが始まったとか何とか言ってたが・・・・)

 

「おい、それって一体どういう――」

 

「黙れ!全ては貴様ら魔人の仕業なのだろうが!」

 

 俺の質問を遮り、赤髪のオーガが叫ぶ。

 

「待てよ、だからそれは誤解――」

 

「っ!危ねっ!!」

 

 そう言いながら俺はリムルの腕を引っ張り、攻撃を避ける。

 

 いつの間にか、気配を消して後ろに周っていた白髪の老オーガが刀を振るってきたのだ。

 

 嫌な予感はしていたが・・・・警戒しておいてよかった。

 

 だが、次の瞬間、俺達の顔は驚愕で染まる。

 

 

 

 ボトッ・・・

 

 

 

 ・・・・・・え?

 

 避けきれなかったリムルの右腕が斬り落とされていたのだ。

 

「むむ・・・ワシも耄碌したものよ。頭を刎ねたと思ったのじゃが・・・・次は外さんぞ」

 

 そう言いながら、老オーガは刀を鞘に納めて再び構える。

 

 この爺さん。俺達の『魔力感知』を掻い潜り、リムルの『多重結界』と『身体装甲』をあっさりと破ったようだ。

 

 ・・・なんだかコイツ、ソードマスターみたい奴だな。新大陸でその剣技は何度かみたが、老いを感じさせぬような素晴らしい剣筋だった。

 

「どうやら蛮勇の方だったようだな。右腕を失い、発狂しない胆力と、その危機察知能力は褒めてやる。確かに貴様達は強かったが、二人で俺達を相手取ろうとしたその傲慢さが貴様達の敗因だ。冥府で悔やみ続けるがいい!!」

 

 そう言いながら刀を振り下ろして出してきた斬撃を俺達は回避し、その間に俺は斬り落とされたリムルの右腕を回収し、リムルに渡す。

 

「ほら、リムル」

 

「おっと、ありがとう」

 

 そしてリムルはその右腕を吸収する。その事にオーガ達が驚く様子を見せる。

 

「すぐに調子に乗っちゃうのは、俺の悪い癖だな」

 

「まあ、その癖はこれから無くせばいいさ」

 

「そうだな。アイツの忠告痛み入るよホント」

 

 そう言いながらリムルは仮面を外し、オーガ達に顔を向ける。

 

「もう少し慎重になっていれば右腕も失わずに済んだかもしれないぞ」

 

「ホントホント。ああ、もう超痛い・・・・・・・・まあ、『痛覚無効』と『超速再生』が無ければの話だけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤髪のオーガは悪寒を感じた。

 

 先程老オーガが斬り落とした筈の右腕が完全に再生させ、平気な顔をしている仮面を持っている魔人と、背中の太刀を一切抜かずに、紫髪の女オーガの妹と、槍の使い手として並ぶ者無しの『自身の妹』を倒した魔人に対して。

 

「ば、化け物共め!!貴様達は全力で始末してやる!焼き尽くせ、鬼王の妖炎(オーガフレイム)!!」

 

 2体の魔人こと、リムルとジンは一気に炎に包まれる。

 

 この炎は赤髪のオーガの奥の手であり、これを受けて生きて帰った者は今まで1人としていなかった。

 

「やった・・・・のか?」

 

「悪いな。俺達に炎は一切、効かないんだ」

 

「っ!?」

 

 炎の中心の方から、仮面を着けていなかった方の魔人・・ジンの声が響く。

 

 そして炎の中から一切無傷のリムルと、オーガ達にはあまり馴染みはないが、所謂、騎士や像を彷彿とさせるような銅色の全身鎧、『クシャナSシリーズ』を纏ったジンが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の強さに怯えを感じた赤髪のオーガがいきなり炎を掛けてきたが、俺は冷静にクシャナSシリーズを纏って、炎を無効化。リムルは既にスキルで無効化を得ているので、炎はまったく聞いていない。

 

「本当の炎を見せてやろう。よく見ておけ」

 

 そう言って、リムルが発動させるのは、新たに得たエクストラスキル『黒炎』。これを球体にした物をリムルは空中に出現させる。

 

『ジン。お前も何か力を見せてくれないか?』

 

『わかっている。その為にこの装備を着たんだ』

 

 リムルの念話に俺はそう答える。

 

 俺は兜にとある『龍』の角を生やし、力を込めて集中する。

 

 すると、先程まで晴天だった天気は曇り、雨が降り出し、強風も起きている。

 

 しかし、炎や警備隊の面々や俺やリムル、オーガ達にこの雨は一切降っていない。

 

 これこそが、『鋼龍』や『風翔龍』などの異名を持つ、古龍が一体、『クシャルダオラ』の天候操作能力だ。

 

 古龍とは、俺の世界にて天災や伝説として扱われ、尚且つ残存するモンスターの種類に当て嵌まらないモンスターの総称であり、それぞれが通常のモンスターよりも強力な能力を持っている。

 

 このクシャルダオラも例外ではなく、その能力は先程も言った天候を操る事だ。密林などでは暴風雨を、寒冷地では猛吹雪を起こしたりする事ができ、そのコントロールは主に角で行う。

 

 クシャルダオラはただその場にいるだけで無差別に天候を変えていたが、俺は『相棒』もいるおかげで今回のような細かい操作が出来る様になった。

 

 その気になれば今すぐ巨大な竜巻を発生させてオーガ達を吹っ飛ばす事もできるが、今回はあくまで天候を操るだけだ。何故なら――

 

(あくまで今は戦意を喪失させるのが目的だしな・・・・・・これで降参しないのなら、他の古龍の力も使わざるを得ない事になるかもしれないが、周りへの2次被害がでかいのが多いんだよなぁ・・・・)

 

 俺がそう考えていると、桃髪の女オーガが怯えた顔で話し出す。

 

「ああ・・・あれは・・・・あの炎は、周囲の魔素を利用した妖術ではありませぬ!あの炎を形作っているのは純粋にあの者の力のみ。そして、周りの天候の変化も幻ではなく、現実。あの者が直接天候を操るという事の何よりの証拠!つまり炎の大きさとこの天候の変化がそのままあの者達の力!!」

 

 よしよし。良い感じでビビってくれている。本当に頼むから、これで降参してくれよ。

 

「くっ・・・」

 

「若。姫と妹様を連れてお逃げください。ここはワシが「黙れ爺」若・・・・」

 

「無残に散った同胞の無念を背負ったこの俺が・・・・ようやく見つけた仇を前に、仲間達を置いて逃げろだと?冗談ではない。俺には次期統領として育てられた誇りがある!生き恥を晒すくらいなら、たとえ敵わず命果てようとも、一矢報いてくれるわ!」

 

「若・・・・それでは、ワシもお供致しましょうぞ」

 

 そう言って老オーガが赤髪のオーガの横に並び立つ。

 

「兄上・・・拙者も共に最後まで戦うでござる」

 

 そう言って並び立ったのは、先程俺が麻痺させたはずの緋色髪の女オーガだった。

 

(あの槍使いは赤髪の妹のようだな。それにしても、麻痺が解けるまではもう少し掛かる筈なんだが・・・・いや、解けた訳じゃないな。身体のあちこちが僅かに震えている)

 

「妹よ、無理はしなくてもいいんだぞ」

 

「なんの!この程度、普段の修行と比べれば軽い物でござる!それに、兄上や爺が最後まで戦うというのに、拙者だけが寝たままでおられる筈がないでござるのは、兄上が最も知っておられるでしょう?」

 

「妹様・・・・」

 

「・・・・ふっ、そうだな。では、共に行くぞ!」

 

「承知!」

 

 そう言って、槍をこちらに構える。

 

 ・・・・・多少の予想はしていたが、そうきたか。どうも完全に裏目に出てしまったようだ。さてさて、どうしたものか・・・・・

 

「お待ちください。お兄様!爺!妹よ!」

 

 そう言って、三人の前に立ち、両手を広げて静止の声を上げたのは、桃髪の女オーガだった。というか、あの三人は兄妹だったんだな。

 

「そこを退け!」

 

「いいえ、退きません!この方達は敵ではないかもしれません!」

 

「姉上!?」

 

 お?

 

「何故だ?里を襲った奴と同じく、仮面を着けた魔人ではないか。お前もそう言っただろう!?」

 

 

「はい。ですが・・・・昏睡の魔法に抵抗(レジスト)してみせたあの2人のボブゴブリンは、この者達をとても信頼し、慕っているようでした。わたくしを牽制していた狼達も・・・それはオーク共を率いていた魔人の有り様とは、あまりに違うように思うのです」

 

「確かに、言われてみればそうだが・・・・」

 

「お兄様、冷静になって考えてみて下さい。これだけの力ある魔人達が、姑息な手段を用いてオーク共に我等が里を襲撃させるなど不自然です。それこそ、2人どころか、どちらかお一人で我等全てを皆殺しに出来ましょうから。この方達が、異質なのは間違いありませんが、おそらく、里を襲った者共とは無関係なのではないかと・・・・」

 

 ナイスだ、お姫さま!

 

 様子を見た感じでは、後、もうひと押しだな。

 

「よく考えてくれないか?彼女が本当はどっちを庇おうとしているのか」

 

「なぁ、若様?」

 

「む・・・」

 

 ようやく話を聞いてくれそうになったので、天候操作を解除。風と雨は止み、空には再び青空が広がる。

 

「空が・・・」

 

 桃髪の女オーガがそう呟いたのが聞こえた。

 

 あっ、そうだ。

 

「リムル。それももういらないんじゃないか?」

 

「そうだな」

 

 リムルは空中に浮かばせていた黒炎を捕食して消す。

 

「!?今、何を・・・っ」

 

「捕食したんだよ。あんなのテキトーに投げたら、死人が出るだろ」

 

 いきなり黒炎が消えた事に驚いた赤髪のオーガの問いにリムルが答えた。

 

「・・・結局、何者なんだ、お前達は?」

 

「俺?俺はただのスライムだよ。スライムのリムル」

 

「俺はジン。種族は真竜人だ。」

 

「真竜人?聞いたことがない種族だな・・・それにスライムだと?馬鹿な。いくらなんでもそんなことがありえる筈が・・・」

 

 リムルがスライムだという事を疑っているようなので、リムルが姿をスライムに戻す。

 

「ええっ!?」

 

「ほ、ほんとに・・・」

 

 まあ、初見で人間の姿のリムルをスライムだと見抜くは難しいしな。

 

「因みにだが、リムルが着けていた仮面は、ある(ひと)の形見でな。今朝、俺達の手元に戻ってきたばかりなんだ」

 

「なんなら、お前らの里を襲ったヤツのと同種ものか、確認してもらって構わない。ホレ、汚すなよ」

 

「あ、ああ・・・・」

 

 リムルから赤髪が仮面を受け取る。

 

「似ている気はするが・・・・」

 

「これには抗魔の力が備わっているようです。」

 

「しかしあの時の魔人は妖気(オーラ)を隠してはおらなんだ。」

 

「それに、あの時の魔人の仮面はもっと派手だったような気がするでござる。」

 

「では・・・・」

 

 赤髪のオーガや老オーガ、緋色髪の女オーガは気不味そうな顔でこちらを見、桃髪の女オーガは少し恥ずかしげに目を逸している。

 

「――申し訳ない。こちらの勘違いだった。どうか謝罪を受け入れて欲しい」

 

 そう言いながら、赤髪が跪き、こちらに頭を下げる。

 

「うむ。苦しゅうない」

 

「まぁ、誤解が解けたのなら構わないよ。どちらも死者が出た訳ではないしな」

 

 リムルと俺は、彼の謝罪を受け入れる。

 

 一時はどうなることかと思ったが、和解出来て良かった。

 

「あれ・・・リムル様・・・?」

 

「ジン様・・?あれ、俺、何で寝て・・・・?」

 

「おっ、起きたか」

 

「大丈夫か?お前ら」

 

 桃髪が魔法を解除してくれたのか、警備隊の面々が目覚め始める。

 

 その間に紫髪の『粘鋼糸』を解き、青髪と淡藤髪にリムルから受け取った、水の膜で包んだ回復薬を掛ける。

 

 麻痺している黒髪と緋色髪は、リムルがユニークスキル『変質者』で麻痺毒を分離させた。

 

「よし、じゃあ全員で町に戻るか」

 

 皆の回復を確認してランガの背に乗り、リムルがそう言う。

 

「全員て、俺達もか」

 

 困惑した顔で赤髪が聞いてきたので、俺が答える。

 

「ああ。こちらとしても、色々と事情を聞きたいしな。飯くらい出すさ」

 

「招待はありがたいが・・・・いいのか?俺たちはそちらの仲間を傷つけてしまったが・・・」

 

「そりゃお互い様だしな。死人は出なかったんだし、良しとしよう。」

 

 勘違いでこちらに攻撃してしまったのが後ろめたいのか、遠回しに遠慮しようとしているように感じたが、リムルが引き続き誘った。

 

「それに今日、うちは宴会なんだ。人数が多い方が楽しいだろ?」

 

「・・・・そこまで言われたら、断る訳にはいかないな。」

 

「じゃあ、行くぞ。そういえば、お前達の名前はなんだ?」

 

 俺が赤髪に名前を聞くと、

 

「いや、俺達に名持ち(ネームド)はいないよ。」

 

「あ、そっか普通は無いんだったな」

 

 リグル達には俺達が名前をつけてあるから、すっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジン達が村に帰り着き、オーガ達を村の皆に紹介した後、リグル達が仕留めてきた牛鹿を捌き、村の食事を、作るのを主に担当しているゴブイチが、山菜と肉を串に刺して焼いていた。

 

「・・・・良し!」

 

 中まで火が通ったのを確認して皿に載せ、広場の中央に設置された、背もたれ付きの長椅子に座って肉を待っているリムルのもとに持っていく。

 

「リムル様、どうぞ」

 

「おう、ありがとう」

 

 ゴブイチが恭しく差し出す皿の上から、リムルが焼きたての肉を受け取り、一口食べる。

 

 固唾を飲んでゴブイチ達が見守る中、ゴブリナの一人が、ゴブイチに小声で話しかける。

 

「・・・・ねぇ。リムル様、味がわからないって、言ってなかった?」

 

「今は人間のお姿だからな。きっとわかってくださる。美味いものを召し上がって頂きたいじゃないか」

 

 そして、リムルが肉を飲み込むと、体をぷるぷると震え始める。

 

「・・・リムル様?」

 

 やはり味を感じる事が出来なかったのかとゴブイチ達が思った瞬間・・・・

 

「うんっっっまぁぁぁい!!美味いよゴブイチ君!!」

 

 彼等が今まで見たことがないような笑顔でそう叫んだ。

 

 

うおおおおおおおおおお!!

 

 自分達の主の一人が、味が感じれるようになった事を嬉しく思い、周りのホブゴブリン、ゴブリナ達は大声で歓声をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムルがこの世界で初めて味を感じながら料理をたべてから30分ほどたった。

 

 皆はそれぞれ酒を片手に肉や山菜を楽しみ、音楽に合わせて踊っている者もいる。

 

 その広場の一角で、オーガ達のリーダーである赤髪のオーガから攻撃を仕掛けたてきた理由を、リグルドとリグル、カイジン、そして俺が聞いていた。

 

豚頭族(オーク)大鬼族(オーガ)に仕掛けただって?そんなバカな!」

 

 赤髪の話を聞いたリグルドがその内容の有り得なさに、思わず叫んだ。

 

「事実だ。武装した豚共数千の襲撃を受け、里は蹂躪し尽くされた。300人いた同胞は、もうたった8人しかいない」

 

 話を纏めると、丁度俺達がイフリートと戦っていた頃、オーガの里をオークの軍隊が襲撃してきたらしい。

 

 魔物には人間と違い、宣戦布告を行ったりするルールはないので、不意打ちを咎められる事は無い。

 

 しかし、今回の場合、オークがオーガに仕掛けたという事が異常なのだ。

 

 理由は簡単。種族としての強さによる格の違いだ。

 

 『相棒』によると、オークの階級(ランク)はDランク。子鬼族(ゴブリン)よりは強いが、ベテランの冒険者の敵ではない。

 

 対してオーガは遭遇時に教えてもらったように、Bランク以上。普通なら戦う前から勝敗は見えている。

 

 それなのに弱者が強者に戦争を仕掛け、あまつさえ、勝利してしまったのだ。

 

 オーガ達によると、オーガの里は、村より若干大きく、少数の部族が寄り集まって暮らしていたらしい。

 

 Bランクの魔物で構成された、総数300体くらいの戦闘集団。それは、この世界の小国の騎士団3千人に相当する戦力だと、『相棒』が教えてくれた。

 

 普段から部族間で戦闘訓練を行う程の戦闘狂で、他の種族同士の諍いに助っ人として参加したりもするらしい。

 

 魔王が起こす戦の先陣を駆けたりと、時代ごとに活躍する一族も居たそうで、彼等も、そうしたオーガの血を引くのだそうだ。

 

 所謂、傭兵のような事を生業として暮らしていたのだとか。

 

 俺の世界では、ハンターがいるから傭兵はあまり需要がないから、かなり珍しい存在だったなぁ。

 

 まぁ、それは置いておくとして、問題は、先程も言った通り、そんな戦闘種族を下位種族であるオークが襲い、勝利したという事だ。

 

「信じられん・・・有り得るのか、そんなこと・・・」

 

 その有り得なさにに、カイジンがそう呟く。

 

「そんなにおかしい事なんすか?」

 

 ゴブタが肉を片手にそう聞いてくる。

 

「当然だ。オーガとオークじゃ、強さのケタが違う。格下のオークが仕掛ける事自体有り得んし、まして全滅させるなど「全滅ではない。まだ俺達が、いる」・・・・すまん」

 

 カイジンの言葉を遮り、赤髪が燃え盛る炎を思わせる瞳でカイジンを睨みつけ、カイジンは謝罪を口にする。

 

「まぁ、自分達よりも格下の存在に為す術もなくやられるのは悔しいだろうなぁ」

 

「確かにそりゃ、悔しいわけだ」

 

「リムルか。肉に夢中で聞いてないと思っていたよ」

 

「あのなぁ、ジン。いくら久しぶりに美味い肉を食えたのが嬉しいからって、大事な話を聞いてない筈がないだろ?」

 

「そうだな」

 

 離れた所で聞いていたのか、先程まで、今まで食えなかった分の肉を堪能していたリムルがこちらに歩いて来た。

 

「肉はもういいのか?リムル殿。」

 

「ちょっと食休み」

 

 赤髪の問いに対して、リムルは満足気な顔で答える。

 

「それにしてもお前の桃髪の妹は凄いな。薬草や香草に詳しくて、あっという間にゴブリナ達と仲良くなった」

 

「・・・箱入りだったからな。頼られるのが嬉しいんだろう」

 

「緋色髪の方も凄いと思うがな。ゴブリナどころか、ホブゴブリン達ともいつの間にか、仲良くなっていた」

 

「あの子はまだ少し世間知らずなところもあってな。興味を持ったものにはとことん試したりするのだが、その過程でよく、友人を作る事が多かったからな。他人と仲良くなるのが得意なのだろう。」

 

 俺達が視線を向けた先には、ゴブリナ達と楽しそうに話す桃髪と、リムルが皆に教えた、将棋という物に興味津々の様子で目をキラキラさせながら見ている緋色髪の姿があった。

 

「そういえば、どうして俺達がオークを手引きしたと思ったんだ?何か仮面がどうとか

言ってたけど。」

 

 リムルが赤髪に問いかける。そういえば、そのあたりの理由をまだ聞いていなかったな。

 

「・・・・・奴等が里を襲ってきた時、その全てが、鎧などの整った装備を揃えていた」

 

「オークが鎧を・・・?」

 

「ああ。人間が着用するような全身鎧(フルプレートメイル)だった」

 

 カイジンが問いかけに対し、赤髪が答える。

 

「そして、その豚共の中心に、凶悪な妖気(オーラ)を隠そうともしない、怒り顔の道化のような仮面を付けた上位魔人がいた。」

 

「なるほど。だから、同じように仮面を付けていたリムルと、一緒にいた俺ををそいつらの仲間だと勘違いしたと」

 

「その通り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、お前らはこれからどうするんだ?」

 

 リムルが赤髪にそう問いかける。

 

「どう、とは?」

 

「今後の方針についてじゃないのか?」

 

「ああ、ジンの言う通りだ。再起を図るにせよ、他の地に移り住むにせよ、仲間の命運はお前の采配に掛かってるんだろ?」

 

「・・・・・知れたこと。力を蓄え、再度挑むまでだ。」

 

「当てはあるのか?」

 

 赤髪の応えに対して俺がそう聞くと、彼は気まずそうに目線を逸らす。

 

 どうやら無いみたいだな。

 

『なぁ、ジン。ちょっといいか』

 

『ん?なんだ?』

 

 リムルが念話で俺に話しかけてきた。

 

『俺の考えなんだけどさ・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど。どう決めるかは彼等に任せるとして、とりあえずは聞いてみるか』

 

『あぁ。そうするよ』

 

「提案なんだけどさ。お前達、俺とジンの部下になる気はあるか?」

 

「・・・は?部下?」

 

 リムルからの突然の提案に困惑する赤髪に俺が追加で説明する。

 

「ま、俺達が支払うのは、衣食住のみなんだがな。拠点があった方が、お前達にも都合がいいんじゃないか?」

 

「しかし、それではこの町を俺達の復讐に巻き込むことに・・・・」

 

「まぁ、それだけが理由というわけではないんだがな」

 

「数千の、しかも武装したオークが攻めてきたんだ。どう考えても異常事態なのは間違いないし、この町だって、決して安全とは言えないだろう?」

 

「そういうわけで、戦力が多い方が、此方としても都合がいいというわけさ」

 

「・・・・・・」

 

「逆に、お前達に何かあった時は、俺達も一緒に戦う」

 

「俺達は仲間を見捨てる気はないからな」

 

「・・・なるほど・・・・・・・・悪いが、少し考えさせてくれ」

 

「おう。じっくり考えてくれ」

 

「時間はある。急いで答えを出さなくてもいいからな」

 

「・・・・わかった」

 

 そう言って、赤髪はこの場から離れて行く。

 

「・・・さてと、俺はもう少し肉を貰うとしようかな」

 

「そうだな。せっかくなんだから、肉以外も食べてみろよ」

 

「おう!そうさせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・悪い話ではない」

 

 広場から離れた所を赤髪のオーガが歩いていると、近くの木陰から、声がかかり、赤髪は足を止める。声をかけてきたのは、青髪のオーガだった。

 

「だが、決めるのはお前だ。我らはお前と姫様、妹様に従う」

 

 「・・・・・・」

 

 赤髪はそれを振り向かずに聞き、再び歩き出してその場を離れる。

 

 「・・・・・ッ!」

 

 ドゴォッ!

 

 しばらく歩いていた赤髪は足を止めると、顔を歪め、八つ当たりをするかのように、近くの木に拳をぶつける。

 

 その脳裏に浮かぶのは、自分や妹達を逃がしながら殿として戦士団と共に戦い続けた父を、一撃の元に葬った、異様な妖気(オーラ)を纏った巨大なオーク。

 

 「俺にもっと力があれば・・・っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴を行った次の日の朝、俺とリムルの元に、赤髪のオーガがやってきた。その顔は、どこか覚悟を決めたようにも見える。

 

「・・・・・決めたのか?」

 

「答えは急がなくてもいいんだぞ?」

 

 俺とリムルが問いかける。

 

「オーガの一族は戦闘種族だ。人に仕え、戦場を駆けることに抵抗はない。主が強者なら、なおのこと喜んで仕えよう。昨夜の申し出承りました。我等オーガ一同、貴方様方の配下に加わらさせて頂きます」

 

 そう言いながら、彼は膝を付き、頭を下げる。

 

 ・・・・彼の気持ちにもっと配慮すべきだった。いくら弱肉強食が普通の魔物でも、自身の仲間達を殺されて、恨みを持たない筈が無い。

 本当なら今すぐにでもここを出て、たとえ死ぬことになろうとも、仇を討ちたいだろう。

 これは自分自身の不甲斐なさを呑んだ。一族の頭としての彼の決断だ。

 

 ・・・・なら、俺達に出来るのは、その決断を悔いのないものにしてやる事だけだな。

 

 俺とリムルは頷きあう。

 

「わかった。他のオーガ達を全員ここに呼んでくれ」

 

「全員に俺達の配下となった()をやろう」

 

 

 




 どうも、邪神イリスです。テストなどが重なった結果。大幅に遅れてしまいました。

 さて、ようやくオーガ達との対決です。そして2人のオリキャラも登場です。
 
 因みに緋色髪の女オーガの元ネタは『境界線上のホライゾン』の『本多・二代』。淡藤色の女オーガは、『Fate/GrandOrder』に登場する『マルタ(ルーラー)』です。見た目も、それぞれの髪の色を変えて、それぞれ緋色髪の方は二本、淡藤色の方は一本の角が生えたようなイメージです。

 それにしても、短すぎないように調整していたら、まさか初めての1万字を達成する事になるとは・・・・・
 まぁ、人によっては、これぐらい普通に書かれているお方もいらっしゃるのでしょうが。





 それと今更ですが、実は自分、ワールドとアイスボーン及びフロンティアと4G、ストーリーズは、お金がなくてプレイした事がないんです。(^_^;)
 特にフロンティアの化け物モンスターの中には全く知らないのもチラホラと・・・・・
 ある程度のストーリーの内容及びモンスターについては把握しているのですが・・・・モンスター関連などの描写などで間違っている所や、矛盾している所があったら、ご指摘していただけると幸いです。m(_ _)m

 あ、前回の後書きにも書きましたが、ライズはしっかりとやっています。あっちのモンスターもなんとかして出せないかなぁ・・・・

 至らぬところが多いこんな自分の作品ですが、これからも、温かい目で読んでいただけると嬉しいです。

 そろそろSAOの方も書かないとなぁ・・・・・

 


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ジュラの森の異変

 

 

「お、お待ちください!名付けとは本来に大変な危険を伴うものなのですよ!?」

 

「そうです!それこそ高位の魔物への名付けは、時に死を迎えてしまう事もあるのですよ!」

 

桃髪と淡藤髪の2人が、俺達が名をあげると告げた瞬間、鬼気迫る表情で説得してきた。

 

多分、2人が言っているのは、前の名付けの時に俺とリムルがぶっ倒れた状態の事を言っているのだろう。

 

確かにこの8人は当時のリグルド達より圧倒的に強いので、1人で8人に名付けをすれば危険だろうが、俺とリムルはそれぞれ4人ずつに名をあげるから大丈夫だと伝える。

 

それでも尚、反対しようとした2人だが、赤髪がそれを止めた。

 

「異論などありません。ありがたく、頂戴致します」

 

依然して不安そうな表情だが、彼の言葉を受け、2人は納得してくれたので、俺達は名付けを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ね。」

 

「しか・・・・・大丈・・・・か。」

 

なんか・・・・声が聞こえるな。なんだ?俺、いつの間に寝ていたんだ?

 

「あれから一晩経ったけれど・・・」

 

「大丈夫でござる!ジン様とリムル様ならすぐにお目覚めになられると思うでござる!」

 

眼を覚ますと、2人の美人が俺の顔を覗いていた。

 

・・・・なんだろう。こんな事、前にもあったような・・・たしか、リムルがいた世界ではこういうのをデジャブと言うんだったか?

 

「あ!ジン様!お目覚めになられたでござるか!」

 

「ジン様、おはようございます」

 

「あ、ああ・・・おはよう」

 

体を起こして周りを見ると、そこには更に2人の美人がリムルを抱えている。

 

え・・・誰だ?いや、たしかオーガに名付けをしようとした所の辺りは記憶に残っているのだが・・・・まさか。

 

「お目覚めになられたか。ジン様、リムル様。」

 

声が掛かってきた方を見ると、赤髪の男がこちらに歩み寄り、俺達の前で膝をついた。

 

「・・・・お前、オーガの若様だよな?」

 

「はい。今は鬼人(キジン)となり、リムル様より頂戴した、紅丸(ベニマル)の名を名乗っております」

 

リムルからの問いにベニマルが答えたところで思い出した。

 

俺とリムルで4人ずつ名付けを終えた途端、いきなり低位活動状態(スリープモード)になったんだった。

 

《告。上位の魔物に名付けを行った場合、それに見合う量の魔素を消費します》

 

つまり、俺達はそれぞれたった4人に魔素のほとんどを持っていかれたという事か。

 

そうなるならもっと早く言って・・・・いや、そういえば、エンカに名付けをした時も、ゴブリン達に名付けをした時より、魔素を持っていかれた感覚があったな。

 

それにしても、鬼人ねぇ・・・・・名付けをする前と比べて、だいぶ若々しくなっている。

 

ベニマルは太く白かった二本の角は漆黒に染まり、洗練されたかのように鋭くなっている。

大柄だった体格が一回りほど小さくなっているが、身体は以前より引き締まっており、内に秘めた魔素量(エネルギー)がめちゃくちゃ増えている。イフリートまではまだ及ばないが、それでも、推定でAランクオーバーはあるだろう。

 

これはあれだな。リグルドショック(リムル命名)か。

 

「リムル様、朱菜(シュナ)です。お目覚めになられて本当によかった」

 

「ジン様!拙者は緋夜(ヒヨ)で御座います!」

 

桃髪の少女のシュナはオーガの姫様で、ベニマルの妹の1人。二本ある角の色はかわっていないが、名付け前よりも細く鋭くなっている。

 

そして緋色髪の少女のヒヨはベニマルのもう1人の妹で、シュナの妹でもある。ベニマルと同じように二本の角は漆黒に染まっており、長い緋色髪は艶に満ち、その瞳はどこか、武人としての気質とまだ好奇心旺盛な子供のようなものの両方を感じる。

 

紫苑(シオン)です。リムル様につけて頂いた名前、とても気に入っています」

 

「私は淡波(アワナミ)です。素敵なお名前を与えてくださり、ありがとうございます。ジン様」

 

紫髪の女性はシオン。名付け前より野性味が薄れて知的な雰囲気がなり、額に生えた黒い一本角が髪を左右対称に分けている。

 

淡藤髪の女性はアワナミ。シオンの妹だそうだ。シュナ達と違い、髪を束ねずに後ろに流していて、落ち着いた雰囲気で優しい瞳をしており、額には、黒く鋭い一本角が生えている。

 

因みにシオンとアワナミは、名付けをする前から角が黒かった。何か違いがあるのだろうか。

 

「ベニマルの後ろに控えているのは、ジンが名付けをした、俺の腕を斬り飛ばしてくれた爺さん」

 

白老(ハクロウ)だな」

 

「ほっほっほ。いじめてくださいますな。不意打ちを悟られたどころか、一瞬で再生され、焦ったのはこちらでしたぞ」

 

ハクロウはかなり若返っているように見える。足腰もしっかりしていて、眼力はより鋭くなっている。伸びた髪は総髪にしており、額からは二本の小さな角が生えている。戦った時よりも、ソードマスター達のような雰囲気を感じる。

 

若くなったのも、進化の影響かな?リグルドがそうだったし。

 

「鬼人ねぇ・・・・」

 

リムルがそう呟くと、テントの入り口から、1人の男性が入室してきた。

 

「鬼人とは、オーガの中から稀に生まれるという上位種族のことです。一度に8人もの鬼人が誕生するなど、前代未聞の事です」

 

「お前は確か・・・・」

 

「リムル様より、蒼影(ソウエイ)の名を賜りました。ご快復、お慶び申し上げます。リムル様、ジン様」

 

ソウエイはベニマルと同年代との事だ。浅黒い肌と青黒い髪、額の中心からは、白い一本角が生えている。

 

「・・・あれ?もう1人はどうした?」

 

人数が足りない事に気付いた俺がベニマルに聞くと、

 

「ああ、ヤツはカイジン殿の工房に入り浸っていて・・・お、来ました」

 

テントの入り口の向こうから、こちらに向かってくる人影が見えた。

 

「リムル様、ジン様。元気になって良かっただよ。分かっかな。オラ、黒兵衛(クロベエ)だ」

 

クロベエは、俺が名付けをしたオーガだ。あまり顔つきなどは変わっていないが、大柄な体格は、ベニマルと同じように一回りほど小さくなり、引き締まった体型になっている。

 

しかし、ベニマルだけかと思いきや、よく見たら全員の魔素量がAランクオーバーだった。そりゃあ、たった4人で魔素を全部持っていかれるわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、リムルとジンが、ベニマル達と交流を深めていた頃、ジュラの大森林に起こった異変は、確実に侵食を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュラの大森林の中央に位置する湖、シス湖。このシス湖の周辺に広がる湿地帯は蜥蜴人族(リザードマン)の支配する領域である。

 

湖周辺には無数の洞窟が存在し、それは天然の迷路と化しており、踏み入る者を惑わせる。そして、その迷路の奥深くにリザードマンの根城である地下大洞窟が存在した。

 

こうした地形の利に守られ、リザードマンは湖の支配者として君臨、繁栄していたのである。

 

だが、平和というものはいとも容易く壊れる物。

 

その日、リザードマンにもたらされた凶報が、彼等の今後を左右する重大な事変の幕開けとなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どいてくれ!」

 

リザードマンの根城のとある部屋に、数人のリザードマンの戦士が、その部屋を守っている戦士を押し除けて、部屋に入る。

 

「ほ、報告します!」

 

「騒がしいな。一体どうしたと言うのだ。」

 

部屋の奥には玉座があり、そこには、リザードマンの首領が座っており、周囲には、側近である部族長達や、首領の娘でもある親衛隊長とその部下がいた。

 

「シス湖南方にて、オークの群勢を確認!我らリザードマンの領域への侵攻と思われます!」

 

「オークだと?」

 

オークが進軍して来るという報告を受けた首領だが、慌てる事なく告げる。

 

「戦の準備をせよ!豚如き、蹴散らしてくれるわ!」

 

彼には絶大な自信があった。凶暴なリザードマンは単体でもC+ランク。戦士長クラスならばB−相当であり、中にはBクラスにも相当する個体もいる。

 

そんなリザードマンの戦力である戦士団、その数1万。

 

部族の半数が戦士として参加した場合での数字であるが、その戦力は決して低くはない。むしろ、非常に高いのだ。

 

通常、この世界の一般的な小国の騎士が完全武装した状態の強さが、C+ランクに相当するのだが、各国の人口比率において、軍隊が占める割合は多くても5%以下、戦時下でもない限り1%程度に留めるのが普通である。

 

つまり、リザードマン特有の連携で一団となって戦う1万もの大軍は、人口百万にも満たない小国の国家戦力を軽く凌駕しており、しかも自分達に有利な土地での戦いだ。負けるはずがない。そう首領は確信する。

 

「それで、数はどのくらいなのだ?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

親衛隊長が、報告してきた戦士に尋ねる。

 

この時の首領には気になる事があった。

 

元々オークは弱者には強く出るが、強者には決して歯向かわない種族の筈。リザードマンは決して弱者ではなく、このジュラの大森林において強者に位置する種族だ。

 

ゴブリンに対しての進軍ならば分かるが、何故、リザードマンを恐れずに攻めこんで来るのか。そうした疑問が首領にはあった。

 

豪胆な性格ではあるが慎重さも兼ね備え、そうした豪気と用心深さを併せ持っているからこそ、首領はリザードマンの群れを統率する事が出来ているのだ。

 

「どうした?オーク共の数はと、聞いている。」

 

親衛隊長からの問いに答えずに顔を俯かせている戦士に、親衛隊長が答えるようにもう一度問う。

 

「そ、それが・・・・・オークの群勢、その数およそ40万・・・」

 

その内容に場の空気が凍りつく。

 

「馬鹿な!我々の40倍もの群勢だと!?」

 

親衛隊長の叫びに、戦士は慌てて答える。

 

「ワタシにも信じられませんでした!ですから、『魔力感知』と『熱源感知』で何度も確認したのですが・・・・間違いありませんでした」

 

「・・・・事実なのか?」

 

「この命にかけて、真実であります!」

 

首領の問いに戦士が応じた。

 

「そうか・・・下がって休むが良い。」

 

「はっ」

 

戦士が退室すると、部屋は側近達の話で騒がしくなる。

 

「有り得ん・・・!40万だと・・・・・」

 

「そもそも奴らは勝手気ままで協調性のない連中だ」

 

「40万などという途方もない数を統率などできようはずもない!」

 

「食糧なんかは一体どうしていると言うのだ。それほどの数の群勢を支えるほどの食糧を、そう簡単に賄える筈がない!」

 

「・・・・噂ですが、オークの群勢がオーガの里を滅ぼしたとか」

 

「「なんだと!?」」

 

「与太話と思っていたのですが、力では劣っていても、数で圧倒したと言うのならあるいは・・・・・」

 

「信じられん・・・・一体何故、こうも急に力を・・・?」

 

40万もの群勢を統率し、オーガの里をも滅ぼせる存在に、首領は心当たりがあった。

 

豚頭帝(オークロード)・・・・・」

 

「「「!!」」」

 

その呟きに、側近達や親衛隊長の視線が首領に集中する。

 

「40万もの群勢を纏め上げているオークがいるのならば、伝説の特殊個体(ユニークモンスター)の存在を疑わねばなるまい」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

首領のその言葉の意味を正確に理解した者達が沈黙した事により、地下の大洞窟は静寂に包まれていった。

 

首領の側近達、リザードマンの各部族の代表を務める部族長達であるからこそ、その可能性を頭から否定は出来なかった。

 

伝説として語り継がれているオークロードならば、40万もの大軍を率いる事も可能だと考えれるからだ。

 

「・・・・・まだ、可能性の話だ。だが、打てる手は全て打つべきだな」

 

そう言うと、首領は椅子から立ち上がり、声を上げる。

 

「息子よ!我が息子はおるか!?」

 

「ここにおりますよ」

 

部屋の入り口から、1匹のリザードマンが入ってくる。

 

そのリザードマンの『名』はガビル。リザードマンの戦士長の1人であり、首領の息子であった。

 

「親父殿。その呼び方は些か無粋ではありませぬか。吾輩にはガビルというゲルミュッド様から頂いた名前があるのですから」

 

「呼び方などどうでもよかろう。それよりも、お前にやってもらいたい事がある」

 

「・・・・伺いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オークロード?なんだそりゃ。」

 

俺は木刀を持って、迫りくる斬撃を避けながら、ベニマルに聞き返した。

 

「まぁ、簡単に言うと・・・・化け物です。」

 

「おい、簡単すぎだろ。って事は、今俺達の目の前にいるジンとハクロウもオークロードか?」

 

俺達の視線の先には、今し方、木刀で近くの木を斬り飛ばしたジンとハクロウがいる。

 

「ああ、あの2人も似たようなもんですね。」

 

「ホッホッ。言ってくれますな。稽古がしたいと望まれたのはリムル様でありますのに」

 

「それにお前も人の事は言えないと思うぞ、リムル。さて、次はどうするか・・・・」

 

「俺、ちょっと休憩」

 

「仕方ありませんのう。お主らはまだ続けるぞ」

 

「「「えーーーーっ!?」」」

 

「ジン様!早く続きをお願いするで御座る!」

 

「わかったよ。・・・ヒヨ、お前まだ余裕があるな。さっきより少し早く打つからな」

 

「!!わかり申したで御座る!いつでも来てくだされ!」

 

「よし!その意気だ!」

 

ハクロウはゴブタ達に、ジンはヒヨへと再び稽古を始める。

 

剣術とかを学びたいと言ったらこの有り様。まさに鬼コーチ。ジンも同じくらいのスパルタというか、実戦でした方が早く身につくと言い出したのにはびっくりした。

どうやったら木刀で斬撃を出したり出来るんだよ・・・・・

 

ハクロウ曰く、知恵さえ有れば魔物にも習得できる、技術(アーツ)という、修練によって得るスキルのようなものがあるそうなのだが・・・・ジンの場合は、アーツじゃなくてアイツ自身の力量でやってる感があるんだよな。

 

あ、ゴブタ達がハクロウに吹っ飛ばされた。後ろから不意打ちを仕掛けたりしているが、軽く迎撃されている。

 

ジンとヒヨの方はもっととんでもない。ジンの木刀は、アイツがよく使う太刀の大きさに合わせているが、それでもヒヨの持っている練習用の木製の槍の方がリーチ差があるにも関わらず、全ての攻撃を止め、受け流し、ヒヨの方が一方的にボコられている。

 

まぁ、倒れてもゴブタ達と違ってすぐに起き上がり、試合を続けている。というかめっちゃ目が輝いている。あれを楽しんでいるのか?

 

おっと、そんな事よりオークロードについて聞かないと。

 

「まぁ、さっきのは冗談ですが。オークロードというのは、数百年に一度生まれるというオークのユニークモンスター。オーガで言う所の今の我々のようなものです。なんでも、味方の恐怖の感情すら喰らうため、異常に高い統率能力を持つんだとか」

 

「うへぇ・・・・」

 

感情も喰うって、どんな奴だよ。

 

「里を襲ったオーク共は仲間の死にまるで怯むことがなかったので、あるいは・・・と思いまして」

 

「なるほどな・・・・・」

 

「まぁ、可能性でいや非常に低い話です」

 

「ふーん・・・・里が襲われた理由に関しては、他に何かないのか?」

 

「・・・・そうですね。関係あるかはわかりませんが、襲撃の少し前にある魔人が里にやって来て、『名をやろう』だとか言って来たんです。まぁ、あまりにも胡散臭かったので、俺を含め、全員から突っぱねられて、結局、悪態を突きながら帰って行きましたがね」

 

「魔人ねぇ・・・・・もしかしたら、そいつから恨みを買っているかもしれないって事か」

 

「仕方ありませんよ。主に見合わなけりゃ、こっちだって御免だ。名を貰うのだって、誰でも良いという訳では無いのですから」

 

それを聞いて、俺は嬉しく思った。

 

「それで、そいつの名前はなんなんだ?」

 

「なんて名前だったかなぁ・・・たしか、ゲレ・・・ゲロ・・・ゲリュ・・・」

 

「ゲルミュッドだ」

 

「そう、それだ」

 

名前を上手く思い出せなかったベニマルの代わりに、ソウエイが近くの影から現れて答える。

 

影から現れたのは、ソウエイが進化した事により獲得したエクストラスキル『影移動』の効果だろう。

 

というか、ゲルミュッド・・・どこかで聞いたような・・・あ!そういえば、リグルの兄に名前を付けた魔人が同じ名前だったな。あちこちで手当たり次第に名付けをしているのか?

 

「報告がこざいます、リムル様」

 

「ん、ああ。なんだ?」

 

「この町から少し離れた所で、リザードマンの一行を目撃しました。湿地帯を拠点とする彼等がこんな所まで出向くのは異常ですので、取り急ぎ、ご報告をと」

 

「リザードマン?オークじゃなくてか?」

 

「はい。何やら、近くのゴブリン村で交渉に及んでいるようでした。ここにもいずれ来るやもしれません」

 

「ふーーん・・・・」

 

「リムル様ーーー!」

 

「お?」

 

こちらを呼ぶ声が聞こえたので、声のする方を向くと、シオンがこちらに向かって来ていた。

 

「お昼ごはんの用意が整いました。今日は私も手伝ったんですよ」

 

「おう。ありがとう、シオン」

 

もうそんな時間だったか。

 

「お前らも行かないか?」

 

「や、俺は今日は遠慮します」

 

ベニマルはそう断り、ソウエイもいつの間にか姿を消していた。

 

「あ、そう?あっ、ジンはどうする?」

 

「ん?あぁ、俺はもう少しヒヨと付き合うから、先に行っててくれ。」

 

「わかった。じゃあシオン、連れて行ってくれ」

 

「はい。リムル様」

 

そう言うとシオンは、スライムの姿に戻った俺を抱き抱え、食堂へと歩いて行く。

 

それにしても、リザードマンか・・・・この世界の奴等って、俺の生前のイメージと違ったりするからな。どんな奴か楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、ジンとの試合で夢中になっていたヒヨ以外のハクロウとベニマル、そして『影移動』でその場から去ったソウエイ達の心は、シオンに抱き抱えられて食堂へと向かうリムルを見ながら一つになっていた。

 

(((ご武運を、リムル様・・・)))

 

リムルはまだ知らない。この後、ある意味でオークロード以上の脅威?と対峙する事を。

 

 

 

 

 

 

 




 どうも、邪神イリスです。

 ようやくベニマル達の名付けが完了しました。これで編集中にジンとリムルが名付け前に普通に名前で呼ばないよう注意する必要がなくなるので少し楽になります。
 名付けも、リムルだけ6人やらせるのはおかしいかなと思い、均等に分けることにしました。

 オリキャラ2人の名前に関しては、これでよかったでしょうか?女性らしい名前になるよう作者と転スラ好きの友人と考えたのですが・・・・どうでしょうか?

 そして、迫り来るオークの群勢。リムル達の方は原作より戦力が増えているので少しばかり量を増やしました。今後も戦力調整の為に敵の軍の数を増やしたりする事があると思います。
 まぁ、ぶっちゃけ、多少増えたところでリムルとジンがいる時点で誤差の範囲なんですけどね。

 それにしても、転スラアニメの方だと、いよいよワルプルギスですね。我が作品はいつになったらあそこまで辿り着けるのだろうか・・・・

 受験などが待っておりますが、時間がある時にコツコツと書いていく所存でございますので、気長にお待ちいただけると嬉しいです。


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毒と決闘

 

さて、リムルにも言ったが、もう少しだけ、ヒヨとの試合に付き合うとするか。

 

ベニマル達から聞いた話によると、ヒヨはオーガの里で一番の槍の名手らしい。ただ、まだまだ経験不足の為に高い才能を使いこなせていなく、発展途上中なのだとか。

 

それで、彼等に名付けをしてから数日経った今日の朝、

 

「ジン様!初めて遭い見えた際に為す術もなくジン様に負けました通り、拙者はまだまだ未熟で御座います。ですので、是非!拙者と試合をして頂けないで御座いましょうか?」

 

と、俺に稽古を頼みに来たのである。

 

まぁ、前の世界にいた頃に、我らの団の旅の行き先の一つである『カムラの里』に寄った際など、指導をした事もあったし、強くなりたいという姿勢は嫌いじゃないから承諾したんだが・・・・・思った以上に成長速度が速い。

 

搦手なんかにはまだ対応しきれていないが、それも恐らく時間の問題だろう。成長しきった時が楽しみだ。

 

「ジン様。お昼の準備が出来ましたので、そろそろ中断しませんか?」

 

「ん?アワナミか。そうだな・・・・そろそろ止めるとするか」

 

「ジン様!拙者はまだまだやれるで御座いますよ!」

 

「それでぶっ倒れたら意味がないだろ?適度な休憩も入れないと」

 

「・・・・・・・・・はい」

 

「ヒヨ、そう落ち込まないの。また後で試合ってもらえるようお頼みすればいいでしょう?」

 

「!、そうするで御座る!」

 

どうやら、気を持ち直してくれたようだな。

 

それでアワナミだが、今は俺の秘書的な物をやってくれている。というのも、名付けをした次の日、シオンがリムルの秘書をやると名乗り出て、それと競うかのように、アワナミも俺の秘書をやると名乗り出たので、俺達は2人の提案を承諾した。

アワナミは家事全般が得意で、彼女が作った料理は中々の物で、おかげで彼女とゴブイチが作る飯が毎日の楽しみの一つとなった。

 

「アワナミーーー!」

 

「ん?」

 

前方から、アワナミを呼びながら、こちらにシュナが駆け寄って来る。

 

シュナは進化によって、ユニークスキル『解析者(サトルモノ)*1』を獲得していた。

 

リムルのユニークスキル『大賢者』の効果を受け継いでいるようだが、鑑定能力はリムル以上で、『魔力感知』だけで解析可能であり、様々な試みを短期間で進める事が出来るらしい。

 

彼女は里にいた頃は織姫と称されるほど裁縫が得意とのことで、ガルムやドルドと分担して皆の衣服の製作をしている筈なのだが・・・・何かあったのか?

 

「アワナミ・・・ジン様とヒヨも・・いらしたのですね・・・はぁ・・はぁ・・・」

 

「どうしたんだ?そんなに慌てて」

 

「大変なんです!リムル様がシオンの手料理を頂くと!」

 

「「ええっ!?」」

 

・・・・・・えっ?いや、それの何処が大変なんだ?アワナミとヒヨもなんかヤベェって感じの顔をしてるが。

 

「リムル様と姉さんは今何処に!?」

 

「食堂へ向かっています!ああなった彼女を止めれるのは貴女だけなので、急いで探してたんです!」

 

「とにかく急いで食堂へ向かいましょうぞ!このままではリムル様が!」

 

「いや、お前らどうしたんだ?」

 

「ジン様!事情は走りながらお伝えするので、今は食堂へ!」

 

「お、おう」

 

そして、食堂へと走りながら聞いた内容は、なんとシオンは究極的に料理が下手なのだそうだ。

 

その酷さたるや、料理を食べた者は酷い時では1週間ほど寝込んだとか。

 

そりゃあ焦るよなと思いながら食堂に辿りつき、扉を開けた瞬間であった。

 

「むぐゅっ!」

 

 

 

 

・・・・むぐ?

 

 

 

 

 正面には大きなテーブルがあり、右側では、ベニマルが扉側に顔を向け、ハクロウが何故か気配を絶ちながら2人ともお茶を啜っている。

 そして奥の方にはリムルが椅子に座っており、その右にはシオンが笑顔で控えていたのだが・・・・問題はリムルとその右斜め後方にいる男だ。

 リムルは目を完全に瞑っており、右手にスプーンらしきものを持ち、右斜め後方に突き出している。そしてその先には、スプーンの先を咥えているゴブタの姿があった。

 

 先程の恐らくゴブタの声であろう物に反応したリムルが目を開けてゴブタの方へ視線を向ける。

 

スプーンの先を咥えたゴブタが何かを飲み込むように喉を動かす。

 

 

 

 

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?おげらああああああああああああああああっ!!」

 

「ぐええええらあああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

うわぁ・・・・これはひどい。

 

 

 

 

「ぐっ・ごっ・・・がっ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パタリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔色を一気に変え、当たりを転げ回ったゴブタは、そのまま泡を吹き、ビクンビクンと痙攣している。

 

「・・・・あれ?」

 

「・・・・・シオン」

 

「は、はい!」

 

「今後、人に出す飲食物を作る時はベニマルの許可を得てからするように。」

 

 リムルがそう言うと、ベニマルが目を見開き、リムルを見た。

 

 アイコンタクトか念話で会話でもしたのか、ベニマルはガックリと項垂れる。

 

 同じようにシオンも項垂れているが、彼女には今から説教が始まる。

 

「姉さん!あれほど料理を作るのはやめてくださいと言いましたよね!というか基本的にリムル様の料理はゴブイチ殿かシュナ様が作られているはずでしたよね?!」

 

「いや・・・ゴブイチ殿は遠慮していたけれど、シュナ様は衣服の製作で忙しくされていたから厨房の人手が足りないかと・・・・」

 

「それぐらいシュナ様なら計算出来ていると分かっている筈でしょう!?」

 

めっちゃ怒ってる。シオンが姉だから立場的にはシオンの方が上なのかと思っていたけど、家事、特に料理に関してはアワナミの方が上なんだな。

 

さて、これがシオンの作った料理・・・って、なにこれ。

 

紫色のドロドロした液体に青っぽい固形の具材だった物らしき物が入っている。しかも一部は顔のようにも見えてるし。

 

「というか、今回は何を作ろうとしたのですか?」

 

「ささ身と青菜のすまし汁・・・・」

 

「そんな上品な料理だったの!?」

 

リムルが思わずツッコむ。いや、それがどうやったらこんな意味不明の物体になるんだよ。

 

今後、ゴブタのような犠牲を出さない為にも、ベニマルには頑張ってもらいたい物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リムルやジン達が住む町から離れた場所に位置する集落に、ゴブリンの族長達が集まり、お互いに青ざめた顔を突き合わせ、集会を開いていた。

 

以前開いた集会の時と比べ、集まった数は減っている。

 

それもそのはず、逃げたのだ。ジュラの大森林を激震させる未曾有の危機を前にして・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそもの始まりは、平原から移動して来た牙狼族の襲来だった。あの時、名持ち(ネームド)の所属する村をゴブリン達が見捨てたのが事の始まりだった。

 

 見捨てられた筈の同胞達は見事に牙狼族を撃ち破り、勝利を収めた。かの村に救世主が現れたのだ。

 その思いもしなかった強力な力を秘めた存在は、同胞達を庇護したらしい。危機を乗り切ったどころか、今では牙狼族達をも従え、復興を成し遂げようとしているのだ。

 

 当時の集会で、彼等を見捨てずに共に戦うべきだと主張した村々は、今ではかの村の傘下として加わっている。

 

 卑小なゴブリンは、群れて助け合わねば生きて行く事さえ困難である。だからと言って、同胞を見捨てたゴブリン達は、今更仲間に加えて欲しいと申し出るなど、そんな恥知らずな真似は出来なかった。

 

 いや、正確には、やる勇気がなかったと言うべきだろう。現に、今からでも遅くないと主張する者がいるのも事実である。

 

 だが、今更傘下に入ったところで奴隷のような扱いを受ける事になるだろうと考えてしまい、決断できていないというのが実情だった。

 

 幸いな事に、かの村の救世主に周辺の村々を併呑するような意思はないようであった。

 

 ならば、このまま大人しく暮らしていれば、今までと同様に暮らして行ける・・・・・はずだった。

 

 ある日突然、全身鋼鎧(フルプレートメイル)を身に纏った数匹のオークの騎兵が村にやって来たのだ。

 

「我は豚頭騎士団(オークナイツ)の騎士なり!今日この時をもって、この地を偉大なるオークロード様の統括地と定める。お前等虫ケラ達にも生き残るチャンスを与えてやろう。数日のうちに集められるだけの食糧を用意し、我等の本陣を目指すのだ。そうすれば、奴隷としてその命だけは助けてやろう。ただし、逆らおうものなら容赦せん。我等は敵対する者の降伏など許さんからな。よく考えて行動する事だ。グハハハハハハ!」

 

 そう、一方的に宣言すると、オークの騎士達は高笑いをしながら悠々と帰って行った。

 

 怒りはまったく湧かなかった。その圧倒的な力を目にしたからだ。

 

 そのオークの騎士1匹だけで、村のゴブリンを皆殺しにする事なぞ容易い事なのだと確信した為に。

 

 そんな者が数匹も居るのだ。端から勝負になどなりはしない。

 

 本来オークとはDランク相当の魔物だ。ゴブリンより強いとは言え、1匹でそこまで圧倒的な強さを持つなど異常である。

 

 尋常でない程得体の知れない何かが、このジュラの大森林にて起きているのだと、皆がそう確信したのであった。

 

 そしてそれはその村だけでなく、周辺一帯にある全ての村にもたらされた先触れであったようで、各村でも同じ状況にあるという報告が族長達の集会でなされた時、皆はどこにも逃げ場がない事を悟り、彼等の絶望はより深いものへとなった。

 

 命は助けるとオークは言っていたが、村の食糧を全て差し出すならば結果は同じ。

 

 殺されるか、飢えて死ぬか。確実な死か、少しでも生き残れる可能性がある方に賭けるかの違いでしかないのだ。

 全ゴブリンで歯向かっても全滅する未来しかない。そもそも戦えるゴブリンの総数は1万にも満たない。

 

 もう、どうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 リザードマンの使者が村を訪れたのは、そんな時だった。

 

 これは希望ではないのか?藁にもすがる思いで族長たちはリザードマンの使者、戦士長ガビルと名乗る男を出迎える。

 

 名持ち(ネームド)の戦士長の到来に族長達は沸き返った。この窮地を救い、自分達ゴブリンを助けてくれる救世主に思えたからだ。

 

 彼は言った。

 

「吾輩の配下となると誓えば、お前達の未来を約束しよう!」

 

 この言葉を信じると、族長達は判断を下した。

 

 縋るもの無き、弱者ゆえの過ち。

 

 中には、リザードマンの配下となるより、同法の配下になる方が良いと主張する者もいたが数は少なく、結局、ガビルの配下に加わる事になった。

 

 この判断が、この後のゴブリン達の運命を決定付ける事を、彼等は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、親父殿ときたら」

 

 リザードマンの戦士長ガビルは、腹心の部下三名と、直属の配下100名を引き連れて湿地帯を出て、『走行蜥蜴(ホバーリザード)*2』に乗って森の中を進み、ゴブリンの村々を訪れて回っていた

 首領より、特命を受けたからである。その内容は・・・・

 

「『ゴブリンの村々を巡り、その協力を取り付けてこい。』だと?オーク如きに恐れをなすなど、誇り高きリザードマンの振る舞いとは思えぬ。昔はあんなにも大きく偉大な男だったというのに・・・・・・」

 

 と、ガビルがブツブツと呟いていると、腹心の一人が、声を掛ける。

 

「ねえねえ、ガビル様はいつ首領になるの?」

 

「む?いや、少々不遜な事を言ってしまったが、吾輩など親父殿の足元にも遠く及ばんよ」

 

「今のガビル様なら、きっと全盛期の首領にも劣らねえぜ」

 

「然り」

 

「うんうん」

 

 部下たちからの思わぬ評価に、ガビルは戸惑う。

 

「え?いや、そんな事は・・・・」

 

「だってガビル様はネームドだし」

 

「うむ。その槍さばきにおいて、右に出る者無し」

 

「あんた今立たないでいつ立つんだよ」

 

 三人と100名の配下達は、ガビルをジッと見つめる。

 

(え、何?ひょっとして吾輩・・・結構イけてる・・・・?)

 

「・・・うむ、そうだな。親父殿ももう年だ。少々強引なやり方でも、吾輩が支配者に足る力を持っているところをお見せしよう。それでこそ安心して引退していただけるというもの」

 

「じゃあ・・・?」

 

「うむ」

 

 ガビルは、照れているのを誤魔化すように、頬をポリポリとかく。

 

「オークの軍勢の撃退をもって、リザードマンの首領の座を受け継ぐこととしよう」

 

 そう言うと・・・・・・

 

「さっすがガビル様だぜ!」

 

「かっくいー!」

 

「至極当然」

 

 配下達は沸きあがり、それを見て、ガビルは満足気な表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ・・・焼き入れん時の温度は勘なのかい?」

 

「んだ。火色を見れば大体分かるだよ」

 

「俺ぁ計るなぁ」

 

「オラも戻りの時はキチッと計るだよ」

 

「ああ。外が寒いと、粘りが出ねぇからな」

 

 俺とリムルは今、クロベエとカイジンの工房にいる。

 

 クロベエは進化の際にユニークスキル『研究者*3』を獲得していた。

 

 クロベエは鍛冶が得意だった。なんでも、ベニマル達の武器は全て彼が造ったのだとか。

 

 ベニマル達から聞いた話によると、今から四百年前のオーガの里に、森で遭難したのか、傷つきボロボロの状態だった鎧武者の集団がやって来たらしい。

 

 当時から既に戦闘集団だったオーガは今よりも魔物に近い存在だったが、弱った者を襲うような真似はせず、森の上位者であったことから食事に困る事もなかった為、やって来た武者たちを手厚く介抱したのだという。

 

 その事に感謝した武者達はオーガに戦闘秘術を教え、刀を始めとした武具の製法を教えたのだそうだ。

 

 その武者達の一人がハクロウの祖父で、彼の技術は祖父に教え込まれた物なのだという。

 

 そしてクロベエは家業として鍛冶技術を継承したとのことだ。

 

 そんなクロベエは、今ではカイジンとすっかり意気投合しており、町中を歩き回っていた際に彼らの工房によったのだが、かれこれ2時間ほど専門的な会話が続いている。

 

 前の世界に居た頃、加工担当と加工屋の娘の二人が武具を造る所を見る事が多かったから、俺からすればそこまで苦にはならないのだが、リムルは中座するタイミングを逃してしまったらしく、クロベエがリムルに

 

「な?鍛造って面白いだろ?リムル様」

 

 と聞いても、

 

「お、おう・・・」

 

 と、どもりながら返事をしている。本人も鍛冶自体に興味がないないわけではないようだが。

 

「リムル様!ジン様!此処におられましたか!」

 

 そんな時、慌てた様子でリグルドが工房に入ってきた。

 

「リグルド?」

 

「どうしたんだ一体?」

 

「大変です。リザードマンの使者が訪ねてきました」

 

 リザードマン・・・リムルが教えてくれたやつだな。ソウエイが言ってたらしいが、近くのゴブリン村で交渉に及んでいたんだったか。この村にも何かの交渉で来たのか?

 

「わかった。すぐ行くよ」

 

「カイジン、クロベエ。続きはまた今度ゆっくり聞かせてくれ」

 

  リムルとリグルドと共に工房を出て、町の出入り口に向かっていると、

 

「リムル様、ジン様。話は聞いた。俺達も同席して構わないか?リザードマンの思惑を知りたい」

 

 そう言い、ベニマル達が願い出た。俺達はこれを承諾し、俺、リムル、リグルド、ベニマル、ハクロウ、シオン、ヒヨ、アワナミの8人で対応することにした。

 

 さて、リザードマンの使者か・・・・一体どんな奴なのだろうか。敵でなければいいのだが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町の出入り口に着くと、そこには一人のリザードマンが・・・・・・

 

「あれ?使者って一人なのか?」

 

 リムルが呟いた。

 

 使者という事だから、もっと大人数だと俺も思っていたのだが・・・・そう考えていると、森の奥から地響きを立てながらリザードマンの集団がやって来た。

 

 先頭にいた者は、乗っているトカゲの足を止めると、その勢いに乗りながらわざとらしい降り方で地面に立つ。

 

「ご尊顔をよーく覚えておくが良いぞ。このお方こそ、次代のリザードマンの首領となられる戦士」

 

 こいつがリザードマンの次期首領?

 

 

 

 

 バッ!

 

 

 

 

 ん?

 

「我が名はガビル!お前達にも吾輩の配下となるチャンスをやろう。光栄に思うがよい!!」

 

「「「・・・・・・・・・はぁ?」」」

 

 両手を広げて宣言したリザードマンに、周りのリザードマン達が拍手をする。

 

 突然の馬鹿馬鹿しい発言と光景を見て、俺達は思わず啞然としてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガビルと名乗るリザードマン発言を聞き、普段は冷静なジンですら、一瞬啞然としていた。

 

 配下になるチャンス?光栄に思えだと?

 

 こいつ・・・一体何様のつもr・・・・って、ちょ、シオンさん?やめて!イライラするのはわかるけどそれ以上絞められたらスライムボディがスリムボディになっちゃう!

 

 慌てて俺はシオンの腕からベニマルの腕に避難し、シオンが申し訳なさそうに頭をペコペコと下げる。

 

 少しは落ち着きを取り戻してくれたっぽいので再びシオンに抱かれる。

 

「あの・・ガビル殿と申されましたな?配下になれと突然申されましても・・・・・・」

 

 リグルドがガビルにそう抗議する。全くもって彼の言う通りである。

 

「やれやれ、皆まで言わねばわからんか。貴様らも聞いておるだろう?オークの軍勢が、このジュラの大森林を進行中だと言う話を」

 

 ほほぅ・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しからば、吾輩の配下に加わるがいい。この吾輩が!オークの脅威から守ってやろうではないか!貧弱なゴブリン程度では、到底太刀打ちできまい?」

 

 そう言い、改めてジン達に視線を向けるガビルであったが・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そこにいたのは貧弱なゴブリンではなく、屈強なホブゴブリンらしき者が一人、オーガらしき者が五人、そしてスライムが一匹と、『人族』らしきものが一人立っていた。

 

 そしてジン達に背を向けると、側近の三人と円陣を作り、ヒソヒソと話し出す。

 

「ゴブリンがいないようだが?」

 

「あれー?」

 

「情報によれば、確かにここはゴブリン村のはず・・・・・・」

 

「というか、貧弱な奴が誰もいないよ?」

 

「スライムと人族は貧弱ではないと言うのか!?」

 

 それを見ながら、ジンとリムルも念話で話し合う。

 

「(どうする?ジン)」

 

「(オークが攻めてきてると言うのなら、リザードマンと手を組むというのは悪い話ではない・・・・・・だが)」

 

「(だが?)」

 

「(見たところ、実力はそこそこはあるみたいだが・・・リムル、お前、あいつと手を組めると思うか?)」

 

「(・・・・うん。まぁ、ああいうアホは嫌いじゃないけど、背中を預けるのはちょっと・・・)」

 

「((イヤだよなぁ・・・・・・))」

 

 二人が話し合っている間に、ガビル達も結論が出たのか、再びジン達に向き直る。

 

「あー、ゴホン。聞けば、この村には牙狼族を飼いならした者がいるそうだな。そいつは幹部に引き立ててやる。連れてくるがいいぞ」

 

 ガビルはドヤ顔でそう言う。

 

 シオンは再び苛立ち始め、抱えているリムルを締め付け、ベニマルも「こいつ殴りてぇ」という表情をし、アワナミに至っては手をボキボキと鳴らし、今にも殴りかかりそうな雰囲気である。

 

「あー・・・牙狼族を飼い慣らしているわけじゃないけど、仲間にしたのは俺とジンだけど」

 

 リムルがスライムの姿のまま、俺を指しながらそう言うと、

 

「スライムと人族が?冗談を言うでない。まぁ、証拠を見せてみろ。そうしたら多少は信用してやるぞ?」

 

 これには、流石のジンとリムルもイラつき始める。お互い、それぞれの前世で一度や二度は理不尽な依頼を受けた事はあるので、多少は平気ではあるがが、ここまで馬鹿だと対応を変えざるを得なくなる。

 

「(とりあえず、証拠を見せてやるか)」

 

「(そうだな。あそこまで言うんだ。アイツの力量も気になる。ランガだけでいいかな?)」

 

 「(いや、エンカにも手伝ってもらおう。あいつらなら、いい感じに威圧も出来るだろう)」

 

「(OK)ランガ」

 

「エンカ、出てくれるか?」

 

「「ハッ」」

 

 2人が自身らの影に呼びかけると同時に、それぞれの影から普段よりも大きな身体でランガとエンカが現れる。

 

「か、影の中から!?」

 

 突然2人の影から現れた2匹を見て、リザードマン達は驚く。

 

「どうもお前達に話があるようでな」

 

「そいつの話を聞いて差し上げろ」

 

「御意」「かしこまりました」

 

 そして2匹は同時に、リザードマン達に対してスキル『威圧』を発動する。

 

 その様子をジン達と一緒に見ていたベニマルとアワナミは首を傾げる。

 

「あれ?あの2匹、あんなにデカかったですかね?」

 

「以前、初めて森の中で戦った時はもう少し小さかったような・・・?」

 

「あれがあの2匹の本当の大きさなんだよ。ランガが尻尾を振った時の被害が甚大だったんだ。それで叱ったら小さくなったんだ」

 

「エンカは特に怒られる様な事はしてなかったんだけど。ランガが身体を小さくした理由を聞いた後に、迷惑をかける前にって言って。同じように縮んでいたんだ」

 

「へぇ・・・・」

 

「そんな事があったのですね」

 

「まぁ、威嚇するにはあのサイズの方が都合がいいしな」

 

 ジンとリムルの話を聞き、2人は納得した表情を浮かべた。

 

「主達より命を受けた。聞いてやるから話すがよい」

 

「・・・・お、おお。貴殿らが、牙狼族の族長殿かな?」

 

 2匹が威圧をしながら声をかけ、リザードマン達が萎縮している中、ガビルは少しばから狼狽たえたものの、臆さず2匹と話す。

 

 その姿を見て、ジンとリムルは少しだけ、彼を見直した。

 

「いや、私は族長ではない。族長は兄であるランガだ」

 

「そうであったか。どちらも、さすが威風堂々たる佇まい。しかし・・・・主人がスライムと人族とは些か拍子抜けであるな。」

 

「((ああん?(#^ω^)))」

 

 ガビルの言葉に、少しばから見直していたリムルとジンは内心一気にキレる。ある程度は我慢できるといえど、流石に我慢の限界があるというものだ。

 そんな事は露知らず、ガビルは更に調子に乗っていく。

 

「どうやら貴殿らは騙されているようだ。良かろう。この吾輩が、貴殿らを操る不埒者達を倒して見せようではないか!」

 

 そう言いながらガビルはリムルとジンを指差す。

 

「見せてやってくださいよ、ガビル様ーーっ!」

 

「ガビル様かっけーーっ!」

 

「ガビル無双」

 

「「「「ガ・ビ・ル!ガ・ビ・ル!ガ・ビ・ル!ガ・ビ・ル!ガ・ビ・ル!ガ・ビ・ル!ガ・ビ・ル!」」」」

 

 

 

「・・・トカゲ風情が・・・・・」

 

「我が主達を侮辱するとは・・・・・・」

 

(あ、ヤバイ。アイツ死んだ)

 

(他の奴がキレている所を見ると、逆に冷静になるもんだな・・・・)

 

 ガビルとその配下達が調子に乗る中、ランガとエンカは完全にブチギレ、今にも襲い掛かろうとする姿を見て、リムルとジンが冷静になり、2匹を止めようか考えた時だった。

 

「あれ?何やってるっすか?」

 

 後ろから、ある男の声が聞こえてきた。

 

「「ゴブタ!?」」

 

「お前、(シオンの手料理のせいで)死にかけてたはずじゃ・・・・・」

 

 そこに居たのは、ベニマルが呟いた通り、先刻、シオンの料理を食べ、今は生死を彷徨っていたはずのゴブタだった。

 

(俺が診た限り、少なくとも1日は起き上がれない状態だったはずだが・・・・どういう事だ『相棒』!)

 

《解。個体名:ゴブタはシオンの料理への抵抗に成功。『毒耐性』を獲得したようです》

 

(なるほどな。てか毒耐性って・・・・・)

 

「・・・・・良いところへ来た、ゴブタよ。」

 

「へ?」

 

 そしてそんなゴブタを見たランガはゴブタを咥えてガビルの前に立たせ、エンカは槍を持たせる。

 

「・・・・え?・・・え!?・・・な、何すかこの状況ーーーーーーー!?」

 

 ゴブタの前では、既にガビルが槍を構えている。

 

「トカゲ。この者を倒せたのなら、貴様の話、一考してやろう」

 

「もっとも、倒せるかは知らないがな」

 

 ランガとエンカは、ゴブタを戦わせる事で、ガビルの実力を測る事にしたのだ。

 

(ゴブタを生贄に、アイツの力量を測るつもりか?ランガ達も意外とずる賢いな・・・・)

 

(ふむ・・・ハクロウとの稽古を見ていたが、素質はあるようだし、ゴブタならアイツ相手にはちょうど良いかもな。)

 

 リムルは少し心配しているが、ジンはあまり心配はしていなかった。

 

「構いませんぞ。部下にやらせれば恥はかきませんかたな。なぁ、スライム殿、人族殿」

 

 自身の勝利を微塵も疑ってないのか、ガビルは再び挑発する。

 

「ゴブタ、遠慮入らん。思いっきりやったれ」

 

「ええっ。何なんすかもーーーー・・・・」

 

 いきなり決闘に駆り出されたゴブタは不満げな表情だ。

 

「勝ったら俺からクロベエに頼んで、お前専用の武器を作ってもらってやるぞ」

 

「えっ、ホントっすか?ちょっとやる気出たっす」

 

「負けたら『シオンの手料理の刑な。」

 

「頑張るっすーーー!!」

 

 ジンの言葉で少しばかりやる気を出したゴブタだが、リムルの一言で、負ける事が絶対に出来ない戦いとなり、背水の陣で挑む決意をする。

 自分の料理の刑と言われてからやる気を出された事に、シオンは少し不満そうな表情だった。

 

 

 そしてお互いに配置に着く。

 

「では、始めろ!」

 

 ランガとエンカの遠吠えを合図に、試合が始まった。

 

「ふっ。偉大なるドラゴンの末裔たる我らリザードマンに、ホブゴブリンなんぞが勝t ぬおっ!?」

 

 試合が始まったのにも関わらず、慢心して喋っている所を狙い、ゴブタが槍を投げつける。

 

「おのれ小癪なっ!」

 

 反撃とばかりに、ゴブタが居た場所に向けて槍を振るが、そこにゴブタはいなかった。

 

「!?馬鹿なっ。消えたとでも・・・」

 

 そしてガビルの影がざわめいた瞬間、

 

「とうっす」

 

 影の中からゴブタが現れ、ガビルの後ろ首に飛び回し蹴りを叩き込む。

 

 ガビルが投げられた槍に気を取られている隙に、『影移動』を使って自身の影からガビルの影に移動し、以前、リムルから喰らったのと同じ回し蹴りを使用したのだ。

 

 不意を疲れて、一撃を喰らったガビルはそのまま倒れ、起き上がる気配がない。

 

「終わりですね」

 

「勝負アリ!勝者ゴブタ!!」

 

「っし!」

 

「ようやった。ようやった。鍛えがいがありそうじゃのう」

 

「ハクロウの稽古を見ていたが、最後まで残っていたのはゴブタだったからな。約束通り、後でクロベエに頼んでおいてやるよ。」

 

「やったっすーーーっ!

 

 ランガが宣言し、ベニマル達が喝采を挙げる。

 

 ベニマル達に胴上げをされ、褒められる中、シオンに抱えられながらリムルは1人で考えていた。

 

(『影移動』は元々テンペストウルフのスキルだ。俺も黒嵐星狼(テンペストスターウルフ)持つ能力として使えるけど使った事がないし、あの回し蹴りも以前俺が喰らわしたやつだし、アイツってもしかして本当に天才なのか!?ベニマル達どころか、ジンも普通にゴブタが勝つと考えていたみたいだし・・・・・まぁ、勝てたから良いか!)

 

「どうした?リムル」

 

「ん?いや、考え事をしていただけだよ。やったなゴブタ!・・・・・さて、そこのお前ら、見てたな?勝負はウチのゴブタの勝ちだ」

 

「オークと共に戦うというのなら検討はしておくが、配下になれという話は断る。今日のところはソイツを連れてとっとと帰れ」

 

 ジンとリムルの言葉を聞き、呆然としていたリザードマン達は気を取り直す。

 

「い、いずれまた来るぜ!」

 

「然り。これで終わりではないぞ」

 

「覚えてろーーーーーー!!」

 

 そう言ってリザードマン達は、気絶したガビルを連れて村から去って行った。

 

「さてと・・・今後の方針を立てないとな」

 

「だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、町の中で1番大きな寝泊まりができる建物に隣接した打ち合わせ用の小屋で、今後の方針を決める会議を俺達はしていた。

 

 リグルドやベニマル達を始めとした主要な者は建物の中で、他の者達は、外で窓から会議の様子を見ている。

 

 まずは、会議が始まるまでにソウエイが『分身体』を使って調べてきた情報を整理する。

 

 最初に、この町以外に点在していたゴブリンの村々のほとんどは、ガビルの傘下に加わり、加わらなかったゴブリン達は恐慌状態となって各地に散らばっていったそうだ。

 ガビルが傘下に収めたゴブリンの数は総数7千匹程。現在は山岳地帯麓に集結し、野営しているそうだ。

 おそらくだが、ガビルが来た時に言っていた、オークの進行からの庇護をエサに交渉したのだろうと言うのが、俺達の見解だ。

 

 リザードマン達は、湿地帯に住んでおり、こちらはリザードマンの首領が各部族の戦士を取り纏め、1万体近くの軍を組織しているらしい。

 食糧を豊富に用意し、自然の迷宮でもある、住処の洞窟に立て篭り、オークを各個撃破する構えだと言う。

 

 俺達は疑問を感じた。戦闘力で言えば、オークよりもリザードマンの方が上だ。森の上位種族でもあるオーガの里を壊滅させたからと言っても、その数は数千。あまりに警戒しすぎではないかと。

 

 俺は嫌な予感がした。

 

 そして、偵察から戻ってきたソウエイの報告を聞き、その予感が当たった事を確信した。

 

「報告します。およそ40万のオークの軍勢を確認しました」

 

「はぁーーーーー?40万ーーーーー??40万のオークの軍勢がこの森に侵攻して来てるってのか!?」

 

 あまりの軍勢の大きさに、リムルが驚きの声を上げ、他の者達もざわついている。俺もハンター時代、アプトノスの大移動などを目撃した事などはあるが、40万もの大軍なぞ見た事もない。

 

「俺達の里を襲撃してきたのは数千だった筈だが・・・・」

 

「あれは別動隊だったのだ」

 

 ベニマルの疑問に、地図が無い代わりにみんなの話と『思念伝達』を使ってある程度の地形を書いた木板の上に俺達の現在位置などが分かり易い様、駒の代わりに置いた石を動かしながら、ソウエイが答える。

 

「本隊は大河に沿って北上している。そして本隊と別動隊の動きから予想した合流地点は東の湿地帯・・・・つまり、リザードマン達の支配領域となります」

 

 動きを見る限り、俺達の町は狙われていないが、それならわざわざ別動隊を作って、進路の妨げになっていないオーガの里を襲う理由はない。

 

「オークの目的は・・・・一体なんだ・・・?」

 

 俺は小さくそう呟く。

 

「ふむ・・・・オークはそもそもあまり知能の高い魔物じゃねぇ。この侵攻に本能以外の目的があるんだとしたら、バックの存在を疑うべきだな」

 

「例えば・・・魔王、とかか?」

 

 カイジンの発言にリムルがそう問い返し、場は一気に静まり返る。

 

「・・・・なんてな。ま、何の根拠もない話だ。忘れてくれ」

 

 リムルは彼の世界にあったという菓子のポテチを一枚口にしながらそう言う。まぁ、もし魔王が絡んでいたとしても、それがシズを召喚した魔王レオンとは限らない。話によると、どうも魔王は複数居るみたいだしな。

 

「・・・・・・魔王とは違うんだが。豚頭帝(オークロード)が出現した可能性は高くなったと思う。40万もの軍勢を普通のオークが統率するなど、どう考えても不可能だ」

 

「前に話していたあれか」

 

「確か、数百年に一度生まれる特殊個体(ユニークモンスター)だったか?」

 

「はい」

 

 ベニマルの言う通りだな。ここでいないと決めつけてしまうよりも、最初からいると考えて対処法を考えた方がいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 会議を続けていると、突然、ソウエイが表情を鋭くして硬直した。

 

「どうした?」

 

 リムルの問いにソウエイが答える。

 

「偵察中の『分身体』に、接触してきた者がいます。何やら、どうしてもリムル様とジン様に取り次いでもらいたいとの事、いかが致しましょう?」

 

「俺達に?」

 

「誰だ?ガビルでもうお腹いっぱいだし。正直変な奴だったら会いたくないんだけど」

 

 リムルと同感だ。

 

「変・・・・ではないのですが、大変珍しい相手でして・・・その・・樹妖精(ドライアド)なのです」

 

 ソウエイの言葉に俺とリムル以外の全員が驚きの声を上げる。ハクロウも驚いている表情をしているところを見ると、かなり有名な魔物らしいな。

 

「か、構わないお呼びしてくれ」

 

「はっ」

 

 リムルも驚いているのか、少しどもりながらソウエイに伝える。

 

 その瞬間、何処からか一枚の葉が部屋の中に入ってきたと思うと、薄緑色の光と風を伴い、1人の女性が現れる。綺麗な緑色の髪に白い肌と青い瞳、人間で言うところの20歳ぐらいの見た目だが、その姿は薄っすらと透けている事から、肉体を持っていない事がわかる。系統としては炎の巨人(イフリート)に近いか?

 

「初めまして。”魔物を総べる者”及びその従者たる皆様。突然の訪問相すみません。わたくしは樹妖精(ドライアド)のトレイニーと申します。どうぞ、お見知りおき下さい」

 

「こちらこそ初めまして。俺はジン=テンペストだ」

 

「俺はリムル=テンペストです。初めましてトレイニーさん」

 

 俺達が挨拶わかる交わす中、周りのどよめきは部屋の中も外も、一層強くなっていた。

 

「え?本物のドライアド?」

 

「マジで?」

 

「は、初めて見ましたぞ」

 

「そりゃそうだ。ドライアド様が最後に姿を現されたのは数十年も前の事・・・・」

 

「何故今、この町に・・・」

 

 有名な魔物なのかと思っていたが、皆の戸惑いがすごいな。

 

《解。樹妖精(ドライアド)は森の最上位の存在であり、“ジュラの大森林の管理者”、森の上位種族である樹人族(トレント)を守護している事から、“樹人族(トレント)の守護者”とも呼ばれています。魔物の区分としては、Aランクの中でも上位に位置します》

 

 なるほど、リグルド達が畏れ敬うわけだ。ベニマル達も少し緊張しているようだ。

 

「ええと、トレイニーさん?今日は一体何のご用向きで・・・?」

 

 リムルがトレイニーに問いかけると、笑みを浮かべながらトレイニーは答えた。

 

「本日はお願いがあって罷り越しました。リムル=テンペスト、ジン=テンペスト・・・・・魔物を総べる者達よ。あなた方に豚頭帝(オークロード)の討伐を依頼したいのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
スキル効果は思考加速、解析鑑定、詠唱破棄、森羅万象

*2
二足歩行の中型恐竜のような大きなトカゲ。リザードマンにとっての馬のような存在。

*3
スキル効果は鑑定系の『万物解析』、リムルの『胃袋』と同じような物の『空間収納』、屑鉄を大量に収納して鉄の塊にするなどといった風に収納した物質を弄れる『物質変換』の3つ。




 どうも、邪神イリスです。

 受験勉強が一旦ひと段落ついて時間が空いたので、投稿いたしました。

 いやぁ、転スラ二期が終わったと思ったらまさかの映画化とは、色々と楽しみですね。
 書籍版最新巻もまだかまだかと思っている日々です。

 そして、皆様のおかげで、『転生してもハンターだった件』のお気に入り登録者数が1000を越えました!こんなにもたくさんの方々に読んでもらえていると思うと、とても嬉しいです!
 
 今後も頑張って書いていかさせていただく所存です。


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オークの目的

 


 

 

 

 

 

 

「「・・・・・」」

 

オークロードの討伐。

 

トレイニーの突然のその申し出に、ジン達は一瞬、沈黙してしまった。

 

「ええと、俺達がですか・・・?」

 

「ええ、そうです。リムル=テンペスト様」

 

リムルの言葉をトレイニーは笑顔を浮かべながら肯定する。

 

「一つ確認させてほしい。オークロードが居ることに関しては、俺達の間ではまだ仮定なんだが。今の言葉から察するに・・・・・」

 

樹妖精(ドライアド)はこの森で起きた事ならば大抵は把握出来ます。いますよ?オークロード」

 

ジンの質問をトレイニーが肯定すると、一瞬空気が凍りつくと、周りがまたざわつき始める。

 

「な、なんと!」

 

「ドライアド様がお認めに・・・・っ」

 

「いきなり現れて、随分身勝手な物言いじゃないか?樹妖精(ドライアド)のトレイニーとやら。なぜこの町に来た?ゴブリンよりも強く有力な種族はいるだろう」

 

ベニマルがトレイニーにそう問いかける。

実際、ジュラの大森林には、ガビルとの決闘の時などは例外として、基本的にゴブリンよりも強い種族はベニマル達元オーガ以外にもリザードマンを始め、多数存在する。

 

「そうですわね。あなた方・・・元オーガの里が健在でしたら、そちらに出向いていたでしょう」

 

トレイニーはベニマル達に視線を向けながら問いにそう答える。

 

「まぁ、そうであったとしても、この方達の存在を無視する事は出来ないのですけれど」

 

トレイニーはジンとリムルに視線を移しながら話を続ける。

 

「トレントの集落がオークロードに狙われれば、数の少ないドライアドだけでは対抗出来ません。ですから、こうして強き者達に助力を願いに来たのです」

 

顔は笑みを浮かべつつも、真剣な眼差しでトレイニーは二人に頼み込む。

 

「(個人的に『依頼』と言われたからには断り辛いのだが……)」

 

ジンはハンターだった頃の性分を思い出し、内心で苦笑いをする。

 

「あー、うん。そういう事なら協力はしたいんですが……」

 

「いいんじゃないか?」

 

「ジン!?」

 

「ただ、トレイニーさん。貴女が言ったように、俺達はこの町の主なんだ。率先して藪をつつくような真似をして、この町を危険に晒すわけにはいかないんだよ。だから、答えを出す前にまずは情報を整理させてくれないか?」

 

ジンは困った顔をしながらもトレイニーに返事をした。

 

「・・・・確かに仰られる通りですね。失礼致しました。では、私も会議に参加させていただけませんか?」

 

「もちろん。むしろお願いしたいです」

 

トレイニーの提案にリムルは即答で了承した。

 

そして、トレイニーを加えた全員で会議を再開すると、シュナがオーク達の目的に心当たりがあるという。

 

「ソウエイ、わたくし達の里の跡地は調査して来ましたか?」

 

「・・・・・はい」

 

ソウエイにしては珍しく、少し言い淀むようにして答えた。

 

「その様子ではやはり・・・・無かったのですね?」

 

「・・・はい・・・・同胞のものも、オーク共のものも。ただの一つも」

 

言い辛そうにだが、断言するソウエイ。

 

「???無かったって、何がだ?」

 

「死体です」

 

「「「死体!?」」」

 

ソウエイの言葉を聞いた皆は息を呑んで言葉を失う。

 

「なるほどな・・・・40万もの大軍が食えるだけの食糧をどうやって調達しているのか疑問だったが・・・」

 

「奴らには兵站の概念などありはしませんからな・・・・・

 

ベニマルやハクロウは戦慄しながらも納得したという表情で呟いた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! その言い方だとまるで・・・」

 

「ええ、リムル様が考えられている通りです・・・・・・ユニークスキル『飢餓者(ウエルモノ)』。豚頭帝(オークロード)が生まれる時、必ず保有しているスキルです。食べた魔物の身体的特性やスキルなどの性質を自分の物とする。リムル様の『捕食者』と似ていますね。ただ、『捕食者』と違って一度で確実な奪取はとはなりませんが、食欲に任せて食い続ければその確率も上がるというもの」

 

そう、オークは軍の食糧の代わりに、あらゆる物を喰らい尽くす。それは、死体であれば同族だろうと関係なかった。

 

だが、皆が戦慄する中、ジンは死体を喰うという行動自体に対しては、そこまで衝撃を受けていなかった。

何故なら、ジンはハンター時代、死体や共食いを行うモンスターを幾度も見てきたからである。

 

代表的な個体を挙げるのであれば、『恐暴竜 イビルジョー』だろう。

 

常に高い体温を保たねば生きていけないイビルジョーは、餌となる生物が近くに居ない場合は、死骸を捕食し、腹が減っていれば我が子や、ハンターや他のモンスターに斬られた自身の尻尾でさえ捕食対象として見るのだ。

 

閑話休題。

 

少なくとも、ソウエイが調べてきた情報とトレイニーからの情報を整理して、可能性の出て来たオーク達の目的。それは・・・・・

 

「オークの目的は、オーガやリザードマンといった森の上位種を滅ぼす事ではなく、その力を奪うってことか・・・・」

 

それこそが、現在のオーク達の行動から導き出せる答えだった。

 

「・・・・・となると、ウチも安全とは限らねえな。テンペストウルフやインフェルノウルフに鬼人。ひょっとするとホブゴブリンもか?オークが欲しがりそうなエサは沢山あるからな」

 

ポテチを一枚口にしながらそうぼやくリムル。

 

「ああ。それに、このまま時間が経てば経つほど、奴等は強くなってしまう可能性は高い。早急に手を打つ必要があるな」

 

ジンは腕を組みながらそう言う。

 

「ジン様の言うとおりです。それに、今回の豚頭帝(オークロード)の誕生の切っ掛けに魔人の存在を確認しております。その魔人は現在この世に君臨しているいずれかの魔王の配下ですので、貴方様方も放っておけないと思いますけれど」

 

「「・・・・・・・・」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

澄ました顔でお茶を飲むトレイニーさん。

 

森で起きたことは大抵把握していると言ってたな。つまり、俺とリムルとシズの関係も知っているわけで・・・・・まったく、大人しそうな顔をしている癖に、食えない御仁だ。そう言われて俺やリムルが動かない訳がない。

 

「改めて、豚頭帝(オークロード)の討伐を依頼します。暴風竜の加護を受け、牙狼族を下し、鬼人を庇護する貴方様方なら、豚頭帝(オークロード)に遅れを取る事はないでしょう」

 

「・・・・・わかったよ。豚頭帝(オークロード)の件は俺とジンが引き受ける。皆もそのつもりでいてくれ」

 

リムルの言葉に皆が力強く首肯した。

 

こうして、俺たちは新たなる脅威に立ち向かうべく動き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、40万もの軍勢を相手取る為、現在のオーク達の侵攻先であるリザードマン達との同盟を検討したいところ。なんだけど・・・・・

 

「「使者がアレだからなぁ・・・・・」」

 

使者としてやって来たガビルが、同盟を組んでも大丈夫なのかと不安になるには十分過ぎる程のインパクトを持っていた。

 

「うーーん・・・・リザードマンの話が通じる奴と交渉したいところだけど・・・・」

 

「リムル様。でしたら、自分が交渉に向かいます。リザードマンの首領に直接話をつけてもよろしいですか?」

 

「出来るのか?ソウエイ」

 

「はい」

 

凄い自信だ。

まあ、ソウエイなら問題ないだろう。

 

「よし、任せる。決戦はリザードマンの支配領域である湿地帯になる可能性が高いが、これはリザードマンとの共同戦線が前提条件だ。くれぐれも舐められないようにな」

 

「心得ました」

 

恭しく頭を下げると、ソウエイはそのまま音もなくその場から姿を消したのだった。

 

しかし、リザードマンの首領がガビルみたいなアホじゃなければ良いが・・・・まぁ、それは有り得ないだろう。一族の長を務める者なのだ。きっと賢明な判断が出来る人物に違いない。うん。

 

そんな事を考えていると、リムルが何かに気づいた。

 

「これ、ソウエイが置いたコマか?」

 

リムルが指さしたのは、地図の上に置かれた小さな石のコマだ。

 

「ええ。周辺のゴブリンを取り込んだガビルの隊らしいです。気絶したガビルを囲んで、しょんぼり沈んでいたとか」

 

ベニマルがそう説明してくれる。

 

「どうかしたのか?」

 

「いやな。オークの迎撃をする為のリザードマンの本隊はこんなカンジで展開するよな?するとなんか・・・・」

 

カチャカチャと、リムルがコマを配置していく。

 

「ガビルの隊が、リザードマンの本拠地を襲撃したら一気に落とせる布陣に見えるんだよ」

 

言われてみれば確かにそう見える。アイツかなり調子に乗るタイプだから、周りに乗せられて変な気を起こす可能性もあるから否定出来ないな・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?こ、ここは・・・っ」

 

「起きたかよっ!?」「わーん!ガビル様ーー!」

 

一方、件のガビルは、夜の森の中でようやく目が覚めた。

 

「(そうだ。我輩はあのふざけた顔の男に・・・・!)」

 

怒りに震えるガビルは、最後に自分を蹴り飛ばしたゴブタの顔を思い出す。

 

「うぬ・・・すっかり騙されたわ」

 

「どう言う事?」

 

ガビルの言葉に首を傾げる部下達。

 

「簡単な事よ。我輩を制したあの者こそ、あの村の本当の主に違いない!」

 

「「「なんと!?」」」

 

驚く部下達は、円陣を組んで話し合う。

 

あれ(ゴブタ)が・・・?」

 

「でも、そうじゃないとガビル様が負けるなんて有り得ないよ」

 

「然り」

 

「汚い!騙してガビル様の油断を誘うだなんて!」

 

「ふざけやがって!」

 

「まぁ、落ち着け。弱者なりの知恵というやつだろ」

 

憤慨する仲間達に冷静に語りかけるガビル。

 

その姿だけはまるで歴戦の猛者のようであった。

 

実際は一撃でノックアウトにされて気絶していただけであるし、客観的に見てもどうやったらその考えに行き着くのか疑問に思うのが普通だが、残念ながらそれを注意する者はこの場には居なかった。

 

「さすがガビル様。器の大きさ山の如し」「よっ!次期首領!」「いやーーカッコええなあ、ガビルはん」

 

「いやいや、我輩など・・って何ヤツっ!?」

 

「さっきから居たよあの人」

 

ガビルが聞き覚えのない声に反応して振り返ると、そこには人を馬鹿にしているような左右非対称の笑顔を模した仮面を付け、ど派手で色鮮やかな服を着た道化の男であった。

 

「ワイはラプラスと言う(もん)です。ゲルミュッド様の使いで、あんたに警告をしに来たんや」

 

「おお!ゲルミュッド様の!?」

 

自身に名を授けてくれた存在の使いと聞き、ガビルは警戒心を解く。

 

「わざわざご足労をお掛けしましたな。それで、ゲルミュッド様の警告とは?」

 

「これがまたえらい事になっとるんですわ。今回のオークの軍勢・・・・本当に豚頭帝(オークロード)が率いているようでっせ」

 

「「「「オークロード!?」」」」

 

ガビルの部下達はその言葉を聞いて驚愕し、一斉に騒ぎ出す。

 

そんな中、ラプラスはガビルを相手に話を続ける。

 

「リザードマンの首領は出来たお人やけど、もうかなりのお歳やし・・・・正直なとこ、お父上には荷が重いとちゃいますか?」

 

その言葉に、ガビルは冷静に思考を巡らせると、ざわつく部下達を一喝する。

 

「静まれぃ!!!」

 

ビクッと身体を震わせる部下達。

 

「伝説だか何だか知らんが、他より僅かに優れているというだけだ」

 

「「「ガビル様・・・・」」」

 

「・・・・だが、そんな悠長な事も言ってられなくなった。オーク軍撃退の後に首領の座を受け継いだのでは間に合わん!ラプラス殿。挨拶もそこそこだが、我輩達は・・」

 

「ええってええって。湿地帯に戻りはるんやろ?ここからは数日はかかるし、早よ行った方がええで」

 

「うむ。かたじけない」

 

ガビル達は走行蜥蜴(ホバーリザード)に跨がり、湿地帯に向かって走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・せいぜい頑張りや。ガビルはん」

 

手を振りながら見送るラプラスの瞳は冷たく光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、邪神イリスです。

大学関連でバタバタしたり、急性胃腸炎で入院したりと執筆する時間がなかったのですが、入院時のストレス発散も兼ねて書きました。

感想の方でも楽しみにしていてくださる方もたくさん居らっしゃいますし、オークとの戦争はしっかりと描いていけたら良いなと思っております。


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恐怖を知る者と知らぬ者

 

 

 

 

会議を終えた翌日。

 

俺とリムルは住民達を広場に集めて説明会を行っていた。

 

なお、リムルはなんかお神輿みたいなものに乗せられている。ホントは俺の分も用意するつもりらしかったが、時間がなくて間に合わなかったらしい。

 

・・・・・・まあ、別に俺はいいんだけどね。

 

「─────という事で、俺達はオーク軍を相手にする事になった。決戦は湿地帯で行うつもりだ」

 

「そこで勝てればよし。だが、もしも負けた場合は、速やかにこの町を放棄し、トレントの集落に落ち延び、その際に同時に人間に応援を依頼した後にそれと協力しつつオーク軍を迎え撃つことになる」

 

シュナ達に聞いた話によると、過去に出現したオークロードは全て人間に討伐されているとの事なので、今回もそれに倣っていく方針だ。

 

だが、現状俺達が唯一頼れる人間であるカバル達に直接連絡をするのは、負けが確定した時の作戦に移行する事になってしまった時でもいいので、コボルトの商人にはオークロード誕生の情報だけ流して貰っている。

 

「正直、敵戦力は少なくない。だが、俺たちは勝つつもりで行く。負けるかもと怯える必要は無い。状況は『思念伝達』で知らせる。皆落ち着いて、決められた通りに行動する様に!」

 

「「はい!!!」」

 

「では、第一陣に加わる者を発表する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リザードマンの根城の玉座の部屋で、リザードマンの首領は、兵士からの報告を聞いていた。

 

「そうか・・・・わかった。下がってくれ」

「ハッ!」

 

報告が終わると、部屋を出て行く兵士達。

それを見届けると、彼は深い溜め息をつく。

 

今もたらされた、強力なオーガの里が1日も持たずにオークの群れに飲み込まれて壊滅したという報告から、恐れていた事が現実となった事を悟ったからだ。

 

もはや疑いようもない。オークロードが出現したのだ。

 

数だけを見れば、40万の軍勢に対して自分達は圧倒的に不利であるが、相手はオーク。此方は最低でも1万も居れば、湿地帯や洞窟などの地形の利も合わさり、互角以上に戦う事が可能だ。

 

しかし、オークロードが居るとなると話は別だ。

 

奴の持つスキルである飢餓者(ウエルモノ)の力により、オークは喰らえば喰らう程強くなる。オーガの里が飲み込まれたという事は、今では自分達リザードマンと同等の強さになっている可能性もある。

 

数の有利さでリザードマンの同胞が疲弊した所を攻められるだけでも苦しいのに、一兵卒当たりの戦力の差が無くなったとしたら、それこそ勝ち目は無いのだ。

おまけに飢餓者の能力で敵から食糧が無くなるまで永遠に戦い続ける事が出来るのだから、篭城戦すら不可能である。

 

ゴブリンの協力を取り付かせに行かせた、ガビルからの報告も未だ無い。しかし、時間をかければかける程、相手を強化させてしまう恐れがある。

 

最悪の場合、自ら軍を率いて出陣する必要があると感じ始めた時だった。

 

「首領!」

 

1人の兵士が慌てた様子で飛び込んで来た。

 

「何事だ?」

 

「侵入者です!鍾乳洞の入り口にて、首領に会わせろと・・・・」

 

リザードマンの首領は、すぐに決断を下す。

 

「・・・・会おう。連れて参れ」

 

「えっ!?は、はい!承知致しました!!」

 

兵士は驚いた表情をしたが、命令に従い、慌てて退室する。

 

「首領、危険では・・・・・・・」

 

「・・・・そなたも感じるか・・・・この妖気・・・只者ではあるまい」

 

親衛隊長の言葉に、首領は真剣な眼差しで答える。

 

兵士が報告しに来たとほぼ同時に感知した、感じた事もない程の強力な妖気を放つ存在。

 

しかし、その隠す気のない妖気からは敵意は感じられなかった。

 

「(この妖気(オーラ)・・・・これはリザードマンの精鋭100体でかかったとしても、敗北するやもしれんな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

待つ事数分。

 

兵士に案内されて現れたのは、浅黒い肌に青黒い髪。青い瞳の冷徹な気配をした魔物・・・・ソウエイであった。

 

「失礼。今取り込んでおりましてな。おもてなしも出来ませぬが・・・」

 

首領は玉座から立ち上がり、周りのリザードマン達は万が一に備え、ソウエイに槍を構えて警戒していた。

 

「気遣いは無用だ。俺は単なる使者・・・・・我が主達の言葉を伝えに来ただけなのでな」

 

「・・・・・」

 

首領は目線で、兵士達に警戒を解くように指示を出す。

 

「・・・して、どのようなご要件で?」

 

「我が主達は、お前達リザードマンとの同盟を望んでいる」

 

「・・・同盟?はて・・・・そちらの勢力が如何様なもので、そなたの主達とやらが誰なのか、儂は知らんのだがね」

 

この時点で、首領は首筋に冷たい汗が流れるような錯覚を味わっていた。これ程まで強力な妖気を放つ魔物を使役する存在が複数人居るのだとしたら、それはもう魔王に匹敵する存在なのだ。

そんな相手と敵対する事など、正に自殺行為である。

 

「我が主達の名は、リムル=テンペスト様とジン=テンペスト様だ。ドライアドより直に要請を受け、オーク軍の討伐を確約されている」

 

「森の管理者が、直接・・・!?」

 

「ドライアドの話では、オーク軍を率いているのはオークロードだと言う。この意味を踏まえて、良く検討して欲しい」

 

首領は考えを巡らせる。

 

たった今、オークロードの存在を目の前の男に肯定された。ドライアドという森の最上位存在の名前まで出しているのだから、本当の事だろう。

 

何故なら、大森林の樹木を通し、大森林の全ての事象を見透すという存在の名を騙るような愚か者は、このジュラの大森林には居ないのだから。

 

それに、同盟と言うからには一方的な隷属ではなく、対等な関係として扱ってくれるという事になる。

 

そこまで考えが至った時だった。

 

「ふんっ、リムル?ジンだと!?聞いた事も無い!」

 

若いリザードマンの兵士が声を上げる。

 

「どうせそいつらもオークロードを恐れて、我らに泣きついて来たのだろう?素直に助けてくれと言えばいいものを「やめろ」え?」

 

「今すぐ口を塞ぐのだ」

 

首領がその言葉を遮る。

 

「首領。そのような態度では舐められ・・・・!」

 

若い兵士は、僅かな痛みを首から感じた。

 

「───な、こ、これは・・・・・」

 

 若い兵士の首には、いつの間にか細い糸が巻きつけられており、僅かに血が流れていた。

 

「同族の非礼を詫びよう。許してやってもらえないかな?これは対等な申し出なのだろう?」

 

「・・・・・失礼。脅す気はなかったが、主達を愚弄されるのは好まぬ」

 

ソウエイは特に気にした様子も無く答えながら指を動かして糸を回収するが、首領は冷や汗を流していた。

 

「(よく言う・・・・止めねば迷わず首を刎ねるつもりであっただろうに)」

 

あと一秒でも、若い兵士の言葉を遮るのが遅かったら、今頃彼の首は胴体と別れを告げていたであろう。その事実に背筋が凍り付く。

 

「・・・ジュラの大森林に暮らす魔物に、森の管理者を騙る愚か者は居ない。見たところ、私の知るそれとは内包する妖気が大きく違うが、そなたは南西に暮らすオーガだろう?」

 

「今は違う。主の1人であられるリムル様より『蒼影』の名を賜った折、鬼人となった」

 

「鬼人!?」

 

鬼人とは、オーガの中から稀に生まれるという上位種族である。首領は確信した。ならばこのソウエイと名乗った鬼人に名を与えたというリムルなる者と、もう1人の主であろうジンなる者とは、それ以上の存在であると。

 

「(オークロードの出現・・・・この局面において、強者からの援軍を期待出来るとなると、断る理由など無いな。だが・・・・)ソウエイとやら。一つ条件がある」

 

「・・・・聞こう」

 

「そなたの主達、リムル=テンペストとジン=テンペストと会いたい」

 

「──────────────────わかった。では、我々は準備を整え、7日後にこちらに合流する。その時、お目通りしていただくとしよう。それまでは、決して先走って戦を仕掛ける事の無いように」

 

「承知した」

 

ソウエイが7日後と伝えたのは、この時、瞬時に思念伝達でリムル及びジンに交渉の状況を伝え、準備や移動の時間を考慮した結果と『ある伝言』を伝えられたからである。

 

「最後に一つ、リムル様達より伝言がある。「背後にも気をつけろ」との事だ」

 

「・・?そうしよう」

 

「では」

 

ソウエイは音も無く消え去る。それを確認した首領は、脱力して玉座に座り込んだ。

 

「首領!」

 

「・・・・・・どうにか聞き入れてもらえたか。光明が見えたようだ・・・・親衛隊長」

 

「はっ」

 

「皆を集めよ」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十分後、大広間には兵士達が集まっていた。

 

「よいか、皆のもの!オーク軍は既にこの地下大洞窟まで迫って来ている!だが、恐れる事はない。7日後にはドライアドの要請を受けた強力な援軍が見込める。それまで我々は籠城し、戦力を温存するのだ!目的はあくまで防衛だ。間違っても攻撃に打って出ようとは思うな!戦死すればそのままエサになり、奴等の力が増すと思え!それがオークロードと戦うという事だ。そして援軍と合流した後、反撃に転じる!その時まで堪えるのだ!誰一人死ぬ事は許さん!!」

 

「「「おおぉーーーーー!!!」」」

 

こうして、リザードマン達は、オーク軍への抵抗を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4日後。

 

リザードマン達は今のところ、一人の犠牲者も出していなかった。

大洞窟という天然の迷路を利用して、オーク一体に対して必ず複数人であたり、防御に徹していたからだ。

 

「よし、回り込め!」

 

合図とともに一人の兵士がオークの後ろに回り込み、兜を弾き飛ばしながら頭を斬って倒す。

 

「はぁ・・・はぁ・・・これが本当にオークなのか?まるでオーガと戦っているような気分だ・・・・・」

 

「ゾッとするな・・・・・こんな奴らが40万もいるなんて・・・・・・」

 

「それがオークロードの能力なんだろう」

 

「うへぇ・・・・あと3日も守り通せるのか・・・・・?」

 

そんな会話を、たった今オークの一匹を倒した戦士達が話していると、後ろから声がかけられる。

 

「守ってばかりでは、疲弊するだけだ」

 

「!貴方は・・・・っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「親父殿!」

 

「おお!戻ったか!」

 

親衛隊長と状況の確認をしていた首領の元に現れたのは、ガビルであった。

 

「して、ゴブリンからの協力は上手く取り付けれたのか?」

 

「は!総数7000匹程ですが、待機させております」

 

「そうか」

 

「しかし、オーク相手に籠城とはどういうつもりなのです?とても誇り高きリザードマンの戦い方とは思えませんな」

 

ガビルの問い掛けに、首領は答えた。

 

「お前がいない間に、同盟の申し出があったのだ。その同盟軍が三日後に到着予定でな。その者達と合流するまでは、防衛に徹するのが最善だ」

 

だが、この答えが、リザードマンのその後の運命を変えてしまう言葉でもあった。

 

「・・・・・老いたな、親父」

 

「何?」

 

ガビルは首領を睨みつけながら言うと、スッと、片手を上げる。

すると、玉座の間の入り口から、ガビル配下の精鋭リザードマン達がぞろぞろと入ってきた。

 

「天然の迷路を利用し、大軍と戦うのは良い策かもしれん。だが、それでは数多ある通路に戦力を分散させすぎて、戦力の集中による迎撃が出来ぬ。このままではジリ貧だ」

 

ガビルがそう言うと、ガビル配下のリザードマン達が、首領や親衛隊長たちに槍を向ける。

 

「!?ガビル殿!!これはいったいどういう・・・っ」

 

「落ち着け、親衛隊長。危害を加えるつもりはない」

 

「しかし・・・!」

 

「手荒な手段になってしまった事は後で詫びる。窮屈な思いをさせるが、我輩が豚頭帝(オークロード)を討つまで辛抱してくれ」

 

ガビル配下のリザードマン達が、首領たちを玉座の間から連れ出していく。

 

「待て、息子よ!!勝手な真似は許さんぞ!!せめて同盟軍の到着まで待つのだ!!ええい、放せ!放さんか!」

 

「ガビル殿・・いえ、兄上!目を覚ましてください!!」

 

人はガビルに向けて叫ぶが、最早ガビルの心には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配下達が、首領たちを連れ出すと、自分が特に信頼している三人の部下の1人が歩み寄る。

 

「ガビル様。これを・・・」

 

その手にあったには、リザードマンの首領としての象徴でもある三又の槍。魔法武器(マジックウェポン)水渦槍(ボルテクススピア)だった。

 

「!、父殿の・・・!」

 

ガビルが水渦槍を手に取ると、槍から凄まじい力が流れ込んで来るのを感じる。

 

「この力・・!水渦槍(ボルテクススピア)よ・・・・我輩を主と認めてくれるのか・・・!」

 

ガビルがそう呟くと、同時に部下達が集まる。

 

「ガビル様。各部族長の掌握が完了したぜ。若い連中には、この防衛線に疑問を抱いていた者も多かったからな」

 

「・・・・・そうか」

 

自身に跪く部下たちに、ガビルは視線を向ける。

 

「みんなアンタに付いていく。頼むぜ、ガビル様」

 

「・・・いいとも。我輩がリザードマンの真の戦い方を見せてやろうぞ」

 

ガビルはそう言い放つと、部下たちと共に玉座の間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「蹂躙せよ!蹂躙せよ!蹂躙せよ!蹂躙せよ!」」」」

 

湿地帯を埋め尽くす、オークの大軍。リザードマンの住処である大洞窟へと殺到するその一角から、ザワめきが生じた。

ガビル率いるリザードマンの戦士たちが、オークの群れの横腹に襲撃を開始したのだ。

 

「豚どもを必要以上に恐れることはない!湿地帯は我らの領域!!素早い動きでオーク共を撹乱するのだ!ぬかるみに足を取られるノロマに後れは取らん!」

 

戦闘はリザードマンの奇襲から開始された。

 

湿地帯の王者。それがリザードマンだ。高い戦闘能力を有し、足場の悪い泥の中であっても、素早い高速移動を可能とする種族。

最初の奇襲で、洞窟で戦うよりもはるかに簡単にオークを数匹ほど一気に葬り去る事に成功した。

 

「俺達の攻撃が効いてるぞ!」

「やっぱりガビル様の言う通りだ!」

 

「よし!一旦離脱!!」

 

ガビルの声に、リザードマン達は一斉にその場を離れる。

 

ガビルは決して無能ではない。大局を見る目こそ持たないが、戦士団を率いるその手腕は称賛されるべきものがあり、その実力も、多くの仲間が認めるものだった。

 

「む?なんだ・・・・・?」

 

 

 

ただ一つ、誤算があるとすれば・・・・・

 

 

 

「オークが・・・・・オークの死体を喰っているのか・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガビルは知らない。豚頭帝(オークロード)の恐怖を。

 

首領は知っていた。豚頭帝(オークロード)の恐怖を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その違いが今、結果となって牙を剝く。

 

 

 

 

 

 

 




どうも、邪神イリスです。

サンブレイクのPV3弾を見てやる気を出し、執筆を進めて投稿しておきながら、ジンやリムルの登場シーンが少ないという。次々話までには、絶対にジンの戦闘シーンを出すつもりなので、もう少々お待ちください。

しかし、オーバーロードといい、転スラといい、ラノベのリザードマンはかっこいい連中ばっかりですね(オバロの方はちょっとアレなシーンもありましたけど・・・・・・)


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初陣

 

 

「こ、こいつら、自分の仲間を喰ってやがる・・・・」

 

仲間の死体に群がり、貪るように死体を食べ始めるオーク。

その姿を見たリザードマン達に動揺が広がる。

 

歴戦の勇士であるリザードマン戦士団にとっても、忌避すべき光景。

 

一人の戦士がその光景に怯え、後ずさった瞬間、その一瞬の隙を見逃さず、オーク兵がその戦士の足を掴んで自分達の方に引き寄せた。

 

「うわあああぁっ!?た、助けてくれええっ!ガ、ガビルさm、ぎゃああああっ!!」

 

そのままリザードマンはオーク兵に飲み込まれ、生きたまま四肢を裂かれ、喰われて殺された。

 

「退却だ!急げ!」

 

仲間の断末魔を聞きながらも、乱れてしまった陣形を整えるため、ガビルは一時後退を指示した。

 

 

 

しかし・・・・・・

 

 

 

「ガビル様!回り込まれちゃったよ!」

 

「なに!?」

 

ガビルが指示した時には、すでに手遅れだった。オーク軍は先程までとは打って変わった素早さで左右に展開し、リザードマンの戦士団を包み込んでしまい、退路がなくなってしまった。

 

「(何が起こった!?明らかに奴らの動きが素早くなっている・・・!!・・・・ん?)」

 

ガビルが迫りくるオークの手足をよく見ると、先程までとは明らかに違う特徴が出来ていた。

 

「(馬鹿な!?オークの身体に水かきと鱗だと!?それではまるで・・・・まるで我らと同じではないか!?)」

 

そう、それはまさしくリザードマンの特徴であった。

 

「ガビル様!さっき仲間が1人喰われた!」

 

「然り。そこから奴らの動きが変わった!」

 

「(まさか・・・・・・喰うことによって我らの能力を・・・!?)」

 

ガビルは知らなかったが、それこそが『飢餓者(ウエルモノ)』の能力の一つ、『食物連鎖』だった。

ある程度の割合で喰った相手の能力・身体的特徴を吸収し、自らの支配下にある者へと還元(フィードバック)させるのだ。

群れであると同時に一個の個体でもある。牙狼族の性質とは異なるが、群体と化すことも『飢餓者』の特徴であった。

 

だからこそ、リザードマンの首領は戦死者が出る事を極端に嫌っていたのだ。

 

「(くそ!このままでは全滅だ!一度立て直す必要がある!)密集隊形!ゴブリン隊を中央に、隙無く固まれ!ゴブリン隊を守りつつ、オークの包囲を突破する!」

 

リザードマン戦士団は一斉に防御態勢を取った。

 

「(我らだけなら逃げ切れたかもしれないが、ゴブリン共をここまで連れて来た事が裏目に出てしまったか・・・!)」

 

そしていよいよ、包囲網を突破する為に動き出そうとした時だった。

 

オーク軍の先頭に、一際大柄なオークが姿を現した。

 

黒い全身鋼鎧(フルプレートメイル)を纏い、右手に両刃斧、左手に大盾を装備しているそのオークは、圧倒的な存在感を持っていた。

 

「(なんと凄まじい妖気であるか!!間違いない。奴がそうだ!)そこのオーク!」

 

ガビルは声を張り上げ、その大柄なオークを呼び止めた。

 

「一目見てわかったぞ。貴様が豚頭帝であるな?我が名はガビル!リザードマンの首領である!我輩と一騎打ちを「(ロード)ではない」・・・・・は?」

 

名乗りを上げようとしたガビルだったが、その大柄なオークにあっさり否定されてしまい、思わず呆気に取られてしまった。

 

「我は豚頭将軍(オークジェネラル)豚頭帝(オークロード)様の腹心の1人だが、強さでは足元にも及ばぬよ」

 

豚頭将軍(オークジェネラル)と名乗ったオークの言葉に、ガビルは絶句した。

 

「(オークロードではない・・・?これほどの力を持ちながら、足元にも及ばぬだと?では・・・・・一体どれほどの化物だというのだ。本当のオークロードは)」

 

「一騎打ちだったか?面白い。受けてやろう」

 

「・・・・・・感謝する」

 

ガビルは、その言葉を聞いて覚悟を決めた。

 

自分が死ぬ事に対してではない。このオークに背を向ける事は、同胞を見捨てる事と同義であるからだ。

 

「では、参る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(―――なんということだ・・・・・)」

 

リザードマンの首領は、ソウエイの言葉を思い出していた。

 

「(『背後にも気を付けろ』・・・あれはこういった事態になることを警告していたのだ。ガビル(あやつ)にもっと、オークロードの恐ろしさを語って聞かせておくべきだった・・・・)」

 

正確には、話していなかった訳ではなかったが、具体的な恐怖の逸話を話していなかったのだ。これは、首領自身が過去の話として重要視してなかった為でもあった。

 

「(・・・いや、今更そんなことを言っても詮無きこと。今は儂のすべきことを考えるべきだ)」

 

現在、首領や親衛隊長たちがいる部屋は、非戦闘員である女子供老人を避難させるために用意されており、後ろには、万が一の為の脱出用の通路があった。

今のうちに少しずつでも非戦闘員は脱出させておくべきだろうが、森へ逃げたとしてもオークに発見されるのは時間の問題。

 

それ以前に、無事に逃げおおせれたとしても、今後の生活が成り立つとは思えない。

 

故に、首領は逃げ出せと言う命令が下せないでいた。

 

「!首領、通路の先から血の匂いが・・・・」

 

「・・・・来たか」

 

突如、通路から漂い始めた血の匂い。つまりそれは、通路に展開している部隊が何かと交戦しているということ。

 

首領はその事を予測しており、冷静に状況を分析していた。

 

「親衛隊長、よく聞け。そなたに密命を与える」

 

首領が親衛隊長にそれを伝え終えるとほぼ同時に、通路の入り口に巨大な手が掛かった。

 

「こぉんなとこに隠れていやがったかぁ、トカゲ共めぇ」

 

現れたのは、黒い鎧を纏った、オークジェネラルだった。その後ろには、他にもオークの兵士が10匹程控えていた。

 

「女子供は下がっておれ!」

 

首領と共に、戦士達がオークの前に立ちふさがる。

 

「無駄だよぉ。どうせ全員オークロード様への供物となるのだぁ!!」

 

オークジェネラルが巨大なバトルアックスを振り回し、近くにいたリザードマンの戦士を一撃で葬る。

 

首領は倒れた戦士の槍を拾いながら、親衛隊長にアイコンタクトを送る。

 

「(行け!)」

 

「・・・ッ!!」

 

親衛隊長は頷くと、避難通路から外へ走り出した。

 

「品のない豚の割にはなかなかに手応えがありそうではないか。相手にとって不足無し!」

 

首領は手にした槍を握り締めると、オークに向けて突進していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーク達との決戦の舞台となる湿地帯へと、町を出発してから三日が経った。嵐牙狼族(テンペストウルフ)炎牙狼族(インフェルノウルフ)のお陰で、今のところ道のりはかなり順調だ。この調子で行けば、遅くとも明日の昼過ぎ頃までには目的地に到着出来るだろう。

 

「リムル。日もだいぶ暮れてきたし、今日はこの辺で野営にしよう」

 

「そうだな」

 

俺の提案にリムルが同意し、進軍を中断して皆で野営の準備を始める。

 

今回連れて来たメンバーは、ベニマル。ハクロウ。シオン。ヒヨ。アワナミ。先行して偵察中のソウエイ。それにランガにエンカと、ゴブタを隊長とした、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)100組だ。因みにシュナやリグルド達には村を任せてある。

 

40万もの軍勢を相手にこの戦力は少ないだろうが、なにも真っ向から全ての敵を相手取るわけではない。

俺とリムルの狙いはオークロードただ一人。ベニマル達にはそこまでの梅雨払いをしてもらうつもりだ。

 

それと、リムル達はシュナやクロベエ達が用意してくれた新しい武器や服を着ており、俺もいつでも戦闘が出来る様に、レウスSシリーズと飛竜刀【藍染】を装備している。

 

『リムル様。ジン様』

 

皆と共に野営の準備を進めていた時、ソウエイから俺とリムルに『思念伝達』が届いた

 

『ん?なんだ、ソウエイ』

 

『オークの動きか何かを掴めたのか?』

 

『いえ、交戦中の一団を発見しました』

 

交戦中の一団?

 

『詳しく教えてくれ』

 

『はい。片方はリザードマンの首領の側近。交渉の折に見かけた覚えがあります。もう片方はオーク達ですね。上位個体と思しき一体と、その取り巻き50体ほどです。どうやら自分の力を誇示するつもりのようで、上位個体が1人でいたぶっています』

 

『そのオーク達にお前は勝てそうか?』

 

『容易いことかと』

 

リムルの問いに即答するソウエイ。しかし、簡単に言いすぎではないだろうか。まあ、ソウエイの実力なら本当に可能だろうけど。

 

『よし分かった。首領の側近がやられそうになったら助けてやってくれ。俺達も今からそちらに向かう』

 

『御意』

 

さてと、これで何か状況がわかればいいんだが・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャリィィィィン!!

 

 

「かはっ!」

 

持っていた槍で攻撃を受け止めようとした親衛隊長だったが、オークジェネラルの半月刀はそれをあっさりと切り裂き、そのまま親衛隊長を吹き飛ばした。

 

「(なんてパワーだ・・・!この傷は・・・致命傷か・・・・)」

 

親衛隊長は自分の死を覚悟した。

 

「おい、なんだよ。もう終わりかぁ?つまらんな」

 

オークジェネラルは倒れ伏す親衛隊長を見下ろし、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、剣先で軽くつつく。

 

「もう殺っていいんじゃないすか?」

 

「は、早く喰いてぇよ」

 

取り巻きのオーク達の声が聞こえてくる。

 

「飽きてきたってよ。そろそろ〆時みたいだな」

 

「(父上・・・・兄上・・・・・申し訳ありません。私はもうここで・・・・)」

 

目を瞑り、親衛隊長は最期の瞬間を待つ。だがその時────

 

「な、なんだ貴様は!?突然現れやがって、獲物の横取りでもしようってのか!?」

 

親衛隊長が目を開けてみると、そこにはソウエイの姿があった。

 

「ソウエイ殿・・・・」

 

「勝手に死なれては困る。リムル様たちがお前に事情を聞きたいそうだ」

 

「そこをどけええええ!!」

 

オークジェネラルは半月刀を振るってソウエイに斬りかかる。しかし、それよりも速くソウエイは二振りの忍者刀でオークジェネラルを切り裂いた。

 

「ぐああああああああっ!!!」

 

親衛隊長が啞然とする中、ランガとエンカの影移動でやって来たジンとリムルが親衛隊長に近寄る。

 

「大丈夫か?君がリザードマンの首領の側近だな?」

 

「え、えぇ・・・」

 

「これを飲め。大丈夫、回復薬だ」

 

リムルが親衛隊長に回復薬を飲ませる。すると、一瞬で怪我が治る。

 

「これは・・・!?致命傷だと思ったのに・・・あなた達は一体・・・」

 

「俺はジン=テンペストだ」

 

「で、俺がリムル=テンペスト。リザードマンとの同盟のため、会談に参加するべくここに来た。よろしくな」

 

「・・・っ」

 

「それでソウエイ。上位個体のオークはまだ生きてるのか?」

 

「はい。何かしら情報を持っているかと思い、急所は外しました」

 

「さすがソウエイ、わかっているな」

 

オークジェネラルは深手こそ負っていたが、ソウエイの言う通り、まだ息があるようであった。

 

「それじゃあ、ちょっと話を聞いてみるか」

 

そう言ってジンはオークジェネラルに近寄り、尋問を開始しようとするが。

 

「ぐぐぐ・・・あえて急所を外しただと?負け惜しみを・・・・・」

 

立ち上がったオークジェネラルは半月刀を構えて妖気を立ち昇らせる。

 

「貴様程度の非力な腕ではこの俺には通じぬだけよ。主の手前、格好つけたかったのか?残念だったな!オークロード様より授かったこの偉大な力を前に貴様らは敗北────「痴れ者め」は?」

「あ、おい。そいつからは情報を────」

 

オークジェネラルがベラベラと喋っているところへ、ソウエイが止める間もなくシオンが大刀を振り下ろす。

 

「リムル様たちを前に不敬ですよ!」

 

その言葉と共に一閃が放たれて轟音が響き、オークジェネラルは跡形も残さず消滅した。

 

「リムル様、ジン様!愚か者に罰を与えておきました!」

 

「お、おう・・・ありがとう・・・(愚か者はおまえだってのもーーーっ!)」

「(姉さん・・・・)」

「(うーむ、本人に悪気がないのが何ともな・・・・)」

 

褒めてほしい雰囲気と表情をするシオンに、リムル達は内心頭を抱える。

 

リムル達がオークジェネラルに対して何もしなかったのは、ベラベラと喋らせて少しでも多くの情報を引き出したかったからなのだ。それを邪魔された上に、貴重な情報源を殺してしまったのだ。

 

「・・・・はっ!!気を付けて!まだヤツの取り巻きが───!」

 

あまりの突然の出来事の連続に啞然としていた親衛隊長だったが、ハッとして危険を知らせようとするが・・・・

 

「手応えががなさすぎで御座る」

 

「暇つぶしにもならなかったぜ」

 

既に取り巻きはベニマル、ヒヨ、ハクロウ、ゴブタの四人が殲滅していた。

 

「(この方達ならば・・・・)」

 

親衛隊長は首領からの密命を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そなたに密命を与える。こうなった以上、我らの滅亡は避けられんだろう」

 

「だが、身内の過ちに他を巻き込むわけにはいかん」

 

「お前はソウエイ殿を探し、この事を伝えるのだ」

 

「お前の双肩に、リザードマンの最後の意地と誇りが掛かっている・・・・頼んだぞ・・・娘よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(言いつけに背くことをお許しください、父上!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いがございます!」

 

突然、親衛隊長が(ジン)たちに平伏して来た。

 

「どうか、わが父たる首領と、兄たるガビルをお救い下さいませ!!」

 

かなり切羽詰まった様子だ。

 

「ふむ。理由を聞こうか。何かあったのか?」

 

「・・・・兄ガビルが謀反を起こし、父を幽閉したのです。兄は自らの力でオーク軍を退けるつもりです。ですが・・・兄はオークロードの力を甘く見ており、このままでは敗北し、リザードマンは滅亡することになるでしょう・・・・」

 

「虫のいい話であることは重々承知しております。しかし!力ある魔人の皆様を従えるあなた様方の慈悲にすがりたく!どうか・・・何卒我等をお救い下さい!!」

 

必死に懇願する親衛隊長。その顔には涙が流れている。

 

そんな彼女にシオンが近寄り、肩に手を掛ける。

 

「よくぞ申しました!リムル様とジン様の偉大さに気づくとは・・・貴女は見所があります。貴女の希望通り、リザードマンは救われるでしょう」

 

「え、でも・・・リムル様とジン様はまだ何も・・・・」

 

おいおい・・・・それでいいのかシオンよ・・・・見ろ。アワナミもあきれた様子で頭を抱えてるじゃないか。

 

「姉さん・・・勝手に決めないでください」

 

「何を言っているんですか?リムル様とジン様の力があれば、オーク如き簡単に蹴散らせるではないですか」

 

いや、確かにさっきの連中程度なら軽くやれるから、それはそうなんだけどな?

 

「まぁ、元々オークと戦うつもりだったから仕方ないか・・・」

 

「そうだな。えっと・・君は首領の娘さんだっけ?」

 

「は、はい!」

 

リムルの言葉にコクコクと首を縦に振る。

 

「では、君を首領の代理と認める」

 

「ここで同盟を締結することに異論はあるか?」

 

「い、いえ!異論など!」

 

「なら決まりだな。同盟は締結された。リザードマンの首領の救出はソウエイ。お前に任せるぞ」

 

「御意」

 

リムルに命じられると同時に、ソウエイは影移動でその場から消える。

 

「さて、俺達は湿地帯に向けて進軍を続けるぞ!」

 

「「「「おおーっ!!!!」」」」

 

こうして、リザードマンとの同盟が交わされた。

 

戦場である湿地帯に到着するまで、もう間もなくである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、森のとある場所に、二つの人影があった。

 

「よっしゃ!よっしゃ!いい感じに計画が順調に運んどるなぁ!なぁ?ゲルミュッド様!」

 

「うむ」

 

一人は、ガビルと話していた道化の男、ラプラス。もう一人は、ペストマスクのような仮面にシルクハットを被った男、ゲルミュッド。

 

ゲルミュッドの手には、人の頭ほどの大きさの水晶玉があり、そこには戦場の様子が映し出されていた。

 

この水晶玉は視覚共有して映像を映し出す高価な魔法道具(マジックアイテム)であり、それぞれにオークジェネラル三体を登録し、戦場の様子を盗み見していたのである。

 

豚頭帝(オークロード)の出現は予想外だったが、同時に幸運だった。豚頭帝(我が子)が森の覇権を手に入れる日も近いだろう・・・!そうすれば俺の野望も「なかなか楽しそうな話をしていますね」!?な、何者だ!」

 

突然背後に現れた人物に驚きながらも、即座に攻撃体勢に移る二人。

 

「わたくしの名はトレイニー。この森での悪巧みは見逃せません」

 

そこに現れたのはトレイニーだった。

 

「こりゃヤバいでゲルミュッド様。森の管理者(ドライアド)や」

 

「何だと!?」

 

ゲルミュッドは思わず後退る。

 

「御名答。それで、何を企んでいるのか話してくださいませんか?」

 

「いやーその辺は守秘義務とゆうか・・・・」

 

笑みを浮かべて問い掛けるトレイニーに断ろうとしたラプラスだったが・・・・・・

 

「そうですか。では、もう用はありませんので、森を乱した罪としてあなた方を排除します」

 

「はぁ!?」

 

「精霊召喚:風の乙女(シルフィード)

 

トレイニーは羽の生えた女性の姿をした風の精霊、シルフィードを召喚する。

 

「待て待て待て待て!気が早すぎやろ!?」

 

「断罪の時を罪を悔いて祈りなさい。大気圧縮断裂(エアリアルブレード)!!」

 

慌てるラプラスを無視して、トレイニーは無慈悲に命令を下す。

 

精霊と同化したことで無詠唱で瞬間的に発動した魔法により、大気の断層が2人を包み込む。

 

「ちょ!マジかいな!」

 

ラプラスは寸でのところでゲルミュッドを庇うが、代償に右腕を切り飛ばされる。

 

「お、おい腕!!」

 

「めっちゃくちゃしよるなアンタ。問答無用かいな・・・・・・まぁ、後はもう成り行きを見守るだけやし、ワイらはお暇させてもらうわ。ほな、サイナラ!!」

 

ラプラスは煙玉を使い視界を奪う。

 

巧妙にも様々な脱出手段を用意していたらしく、煙が晴れたときには2人の姿はなかった。

 

「逃げられましたか・・・・・・・・状況は思わしくありません。リムル=テンペスト。ジン=テンペスト。豚頭帝(オークロード)の討伐。信じていますよ」

 

2人が消えた場所を見ながら、トレイニーは一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リザードマンが圧倒的に不利だな。シミュレーションゲームなら詰んでいるぞ。コレ」

 

「そうだな・・・・ところでリムル。そのシミュレーションゲームってのはなんだ?お前の世界にあった何かか?」

 

「あぁ・・・それはまた今度教えるよ」

 

湿地帯に到着した(リムル)達は、上空から戦場を見下ろしていた。いやぁ、『大賢者』さまさまだな。こんな簡単に空を飛べるようにしてくれるなんて。

因みにジンも、俺が吸血蝙蝠(ジャイアントバット)の羽を部分擬態しているように、着ている鎧と同じ赤い鱗の生えた翼を広げて飛んでいる。

 

さて、こんな絶望的な状況でもリザードマンが全滅していないのは、ひとえにガビルが頑張っているからだろう。

 

部下達を奮い立たせながら、果敢にオークジェネラルとの一騎打ちを行っている。ただのお調子者だと思っていたが、なかなかどうして、いい根性をしているじゃないか。

 

だが、オークジェネラルとは地力の差が大きいようで、徐々に追い詰められている。

 

「エンカ。ランガたちと一緒にガビルの救援を頼む。そろそろ持たなそうだ」

 

ジンがエンカに念話で指示を飛ばす。これでガビル達は大丈夫だろう。

 

『リムル様。それでは俺たちは好きに暴れさせてもらいますよ?』

 

俺の思案をよそに、ベニマルが念話で聞いてきた。

 

『ああ。任せる。お前ら達の力をみせつけてやれ』

 

『了解!』

 

俺の言葉に嬉しそうな返答が届き、5人は一斉にオークへと向かって行く。

 

後は首領のほうだけど・・・・まぁ、ソウエイに任せておけば大丈夫だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおっ!!」

 

劣勢の中、ガビルはオークジェネラルを相手に挑み続ける。

 

渦槍水流撃(ボルテクスクラッシュ)!!」

 

ガビルの持つ水渦槍(ボルテクススピア)が、回転しながら水の竜巻を発生させ、オークジェネラルへと突き進む。

 

「ふん!」

 

対するオークジェネラルはバトルアックスから逆回転の竜巻を発生させて相殺する。

 

混沌喰(カオスイーター)!!」

 

オークジェネラルから禍々しい妖気(オーラ)が実体化して、ガビルへと襲い掛かる。

 

「(コイツら・・・吾輩を喰おうというのか・・・・!)」

 

ガビルは実体化した妖気の攻撃を躱しながらオークジェネラルへと一気に加速して迫る。

 

「でりゃああああああ!!」

 

しかし、渾身の一撃は盾であっさりと受け止められ、逆に反撃を受けてしまう。

 

「ぐあっ!!」

 

吹き飛ばされたガビルだったが、なんとか受け身を取る。

 

「この程度か? 蜥蜴は地面に這い蹲っているのがお似合いだ。死ねぇ!」

 

そこへ、オークジェネラルがトドメを刺そうとバトルアックスを振り下ろす。

 

「よっと!」

 

その時、突然現れた黒い影が、振り下ろされた斧を止める。

 

「ぬぅ! 何奴!」

 

突然の攻撃に驚くオークジェネラル。

 

助けられたガビルの目に飛び込んできたのは、自分を負かしたホブゴブリン、ゴブタだった。

 

「貴殿は・・っ!あの村の真の主ではないか!?」

 

「(・・・・・主?何言ってんすかこの人)」

 

ゴブタが呆れた表情になるのも無理はなかった。

 

「もしや、助太刀にしてきてくれたのであるか?」

 

「あれは、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の隊長、ゴブタだ」

 

「!?牙狼族のっ・・・!」

 

続いて現れたのは、ランガとエンカの二頭だった。

 

「我が名はランガ。こっちは妹のエンカ。リムル様とジン様の命により、助太刀に来た」

 

「いかにしてここまで・・・・・・」

 

「影移動です。学んでないのですか?」

 

呆れた表情を浮かべるエンカ。

 

そんな彼らをオークジェネラルは少しばかり警戒する。

 

「グググ・・・・リムル?ジンだと?何処の馬の骨かは知らないが、邪魔をするなら容赦は──」

 

突然、轟音と共にドーム状の黒い炎がオーク軍の一部を包み込む。

 

「おおっ!!始まったっすね」

 

その光景を見ていたゴブタが吞気にそう呟く。

 

「(何が起きた!?リザードマンの大魔法か?蜥蜴ごときが多人数による儀式魔法を使えるとは・・・!早々にケリをつけ、あの大魔法を操る者共を始末せねば!)」

 

そう考える、オークジェネラルがゴブタ達へと振り返ると・・・・・

 

「なにぃ!?いつのまに増えた!?」

 

少し目を離した隙に、『影移動』で移動した狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)が勢揃いしていた。

 

「ええっと、ガビルさんでしたっけ?さっさと態勢を立て直して、防御陣形を整えるっすよ」

 

「う、うむ。わかったのである。しかし・・・・あの黒い炎は一体・・・・」

 

「心配ないっすよ。オイラも初めて見たけど、味方の術っすから」

 

その黒炎の発生源には、5つの人影が、オーク達の前に現れていた。

 

「き、貴様ら何者だ!?」

 

「覚えていないのか?非道いな。里を散々喰い散らかしてくれたじゃないか」

 

その中の一人、ベニマルがオーク達を見据えて、不敵な笑みを浮かべる。

 

「その角・・・まさかオーガか!?」

 

「どうかな?今は少し違うかもしれないな。もう一度言う。道を開けろ豚共。灰すら遺さず消えたくなけらばな」

 

その言葉とともにベニマルは再び黒炎を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そんな状況下でも、オークジェネラルは冷静であった。

 

「フハハッ!トカゲ共を助けに来たようだが、無駄なこと!貴様らは所詮、ゴブリンに犬畜生!どこぞの木っ端魔物の配下が加わったところで、豚頭帝様に勝てるわけがないのだ!!」

 

「何だと!」

 

リムルとジンを木っ端呼ばわりされて、ゴブタ達がキレる中、静かに怒りを露わにする二頭が居た。

 

「では見せてやろう・・・!」

 

「後悔しても遅いですからね・・・?」

 

ランガとエンカが力を解放すると、同時に空に暗雲が垂れ込める。

 

そして、激しい雷鳴が鳴り響くと共に、巨大な竜巻と黒い稲妻が発生。

さらに、青い火の粉が舞ったかと思うと、地面に着火し、青い炎の柱が吹き上がる。

 

『黒稲妻』と『風操作』を併用したランガの広範囲攻撃技『黒雷嵐』と、名付けにより会得した、『炎妃龍 ナナ・テスカトリ』のヘルフレアの劣化版を使えるエクストラスキル『蒼炎』と『炎熱操作』を組み合わせた連携による、エンカの広範囲攻撃技『咲き乱れる炎(ヘルフレアウォール)』。

 

二つの合わせ技により、オーク達はこれまでの自分達の立場とは逆に次々に殺戮されていく。

 

「バカな・・・!」

 

驚愕するオークジェネラルだったが、次の瞬間には、周囲のオーク兵達諸共、その肉体を焼き尽くされていた。

 

その一部始終を見ていたリムルは、あまりの規格外さにドン引きし、逆にジンは、更なる力を手に入れた二頭に関心の表情を浮かべていた。

 

 

 

ウォーーーーーン!!!

 

 

 

天まで届く程の遠吠えを上げると、二頭の身体は先程までより一回り大きくなり、角が二本に増えていた。

 

黒嵐星狼(テンペストスターウルフ)』と、『蒼炎華狼(インフェルノブロッサムウルフ)』である。

 

その姿と威圧感は、『飢餓者』の影響によって心が鈍化しているオーク兵たちですら、恐慌状態に陥ってしまうほどであった。

 

「よく見ましたかオーク共」

 

「これが貴様らが木っ端と侮った御方の力の一端だ」

 

「(もう吹っ飛んじゃったすけどね、オーク達・・・・)」

 

『おい、ゴブタ!』

 

ゴブタが内心でそう呟くと同時に、ベニマルからの念話が入る。

 

『あ、なんすか?』

 

『まだオーク共を全滅させたわけじゃないぞ。ランガとエンカの姿にビビっている今が好機だ』

 

「『了解っす!!』ガビルさん!左右からオークの残党を片づけるっすよ!」

 

「心得た!」

 

そのままゴブタ達は、オーク軍との乱戦を繰り広げ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、世話の焼ける。そら」

 

ベニマル達もまた、次々とオーク兵を殲滅していた。

 

「やっぱり手応えのある奴はいないな。どうする?あとはゴブタ達に任せるか」

 

「ほっほ、御冗談を。リムル様とジン様の華々しい勝ち戦の最初の一戦目」

 

「調子に乗るナ!」

 

油断していると判断したオークの1人が、ハクロウへ背後から斬りかかる。が・・・・

 

「!こいっ―――!」

 

 

 

 

パァンッ!!

 

 

 

 

ハクロウは仕込み刀で軽々と受け流し、オーク兵を切り刻む。

 

「我らが活躍せぬわけにはいきますまい?」

 

「ですね。すぅっ―――!」

 

シオンは剣に有り余る闘気を纏わせ、振り下ろすと、その衝撃だけで前方にいた数十人のオーク兵が吹き飛んだ。

 

「では、兄上。拙者とアワナミは、向こうのオークを始末してくるで御座る」

 

「ああ。頼んだぞヒヨ」

 

「承知!いくで御座るよ、アワナミ」

 

「ええ!」

 

槍使いであるヒヨは動きを阻害しないように足を守るための軽鎧をスカートのように身に着け、胸周りにも、腕の動きを阻害しないような防具を着けている。そして、腰には短めの日本刀を差しており、長い髪をポニーテールにして纏めていた。

 

アワナミは近接格闘を得意としているため、両腕にガントレットを、両脚には軽くて頑丈なソルレットを装着している。服装はシオンと同じパンツスーツで、色が淡藤色となっている色違いバージョンであった。

 

二人は、それぞれ別の方向に飛び出すと、ヒヨはオークの一軍に狙いをつけ、勢い良く地を蹴る。

 

「ふっ!」

 

短い呼気と共に、突き出された槍は、一瞬前まで確かにそこに居たオーク兵の心臓を正確に貫いていた。

そして、そのまま穂先を回転させると、横に薙ぎ払うように槍を引き抜く。

 

血を吹き出して倒れるオーク兵。

 

だが、それを確認する事なく、即座に次の標的へと鋭い視線が向けられたと思うと、喉笛を斬り裂き絶命させる。

 

すれ違いざまに的確に心臓や喉を貫き、斬り裂いていくヒヨ。

 

その光景を見た他のオーク兵達は、慌てて逃げ出そうとするが、既に遅かった。

 

逃げる先には、ヒヨの相棒であり護衛役でもあるアワナミが立ち塞がり、その拳を振り下ろしていた。

 

「ぐべぇ!」

 

ドゴッと音を立てて地面にめり込むオーク兵。

 

「逃がさないわよ。覚悟しなさい」

 

「オーガ風情が!」

 

怒りの形相を浮かべたオークが、手にした斧を振るうが、その攻撃はアワナミに掠る事すら無かった。

ヒラリと身を翻して避けるアワナミ。そのまま、お返しとばかりに強烈な回し蹴りを放つ。

咄嵯に盾で防御するオークだったが、逆に盾ごと一撃で全身の骨を砕かれ、絶命する。

 

シオンの妹であるアワナミは、里では腕相撲で勝てなかったのがシオンだけという程の怪力の持ち主。

 

一発一発に殺意を込めたその一撃は、まさに必殺。たとえ鎧を着ていようが、盾を構えようが、まともに当たれば、並大抵の存在では即死は免れないという威力を誇る。

 

鬼人達にとって、既にオーク兵達など、障害にすらなっていなかった。

 

さらに、そこへ、リムルからの『思念伝達』で俯瞰情報を得たベニマルが中心となって指揮を行っている。

 

圧倒的だったはずのオーク軍は、見る間に数を減らしていった。

 

一方、首領が戦っている部屋には、ソウエイが到着していた。

 

「来てくれたのか・・・ソウエイ殿・・・・!」

 

槍も折れ、ボロボロの状態の首領に、ソウエイが歩み寄る。

 

「父上!」

 

そこへ、親衛隊長も駆け寄り、リムルから預かった回復薬を与える。

 

「傷が・・!しかし、何故ソウエイ殿が・・・」

 

「同盟は締結された」

 

「!?それはどういう・・・」

 

「私を首領の代理と認めてくださったのです。援軍は来ます。まだ諦める時ではありません!・・父上!」

 

「何と・・・!(リザードマンは・・・助かるのか・・・!?)」

 

驚愕に目を見開く首領。

 

そんな中、ソウエイの背後から襲い掛かろうとする豚頭将軍(オークジェネラル)に気付く。

 

「!!、ソウエイ殿!(しまった!オークジェネラルが!使者殿を死なせたとあっては、先方の主殿に顔向けできん!!この身を盾にしてでも―――!)」

 

慌ててソウエイを庇おうとする首領だったが、ソウエイは余裕の態度で、後ろ指でオークジェネラルを指差す。

 

「心配はいらない。既に動けなくしてある」

 

見ると、オークジェネラルは武器を構えた態勢で動きを止めており、よく見れば、細い糸がオークジェネラルの体に巻き付いていた。

 

その光景に思わずポカンとしてしまう首領。強力なオークジェネラルが成す術もなく動きを止められたのだから、無理もないだろう。

 

「しかし、残念だ。何か情報を引き出せないかと思っていたが、コイツには情報共有の秘術がかけられているようだな」

 

進化して会得したソウエイが持つエクストラスキル『観察眼』は、魔素の僅かな揺らぎも捉え、相手の能力や状態を把握する事が出来るのだ。

 

「手の内を晒してこちらの情報をくれてやる義理はない。とはいえ・・・このまま殺すのではもったいない・・・・そうだな。お前には伝言役を頼もうか」

 

そこへ、オークジェネラル配下のオーク10体がソウエイへと殺到する。

 

だがソウエイは慌てる様子も無く、右手を軽く振って、ネルスキュラの糸を組み合わせて強度が上がった、細く張り巡らされた『粘鋼糸』でオーク達の体を絡め取ると、そのまま鎧ごと斬殺した。

 

「ぐべっ!!」

「うぎっ!」

 

断末魔の叫びを上げることすら出来ず、崩れ落ちるオーク達。

 

その光景に、息を飲む首領と親衛隊長。

 

「(あぁ・・・儂の判断は・・・この同盟を受け入れるという判断は正解だった)」

 

オークを蹂躙するソウエイの姿を見て、それを実感する首領。

 

そして、その場にいたオーク兵を全滅させたソウエイは、オークジェネラルに歩み寄りながら、オークジェネラルを通してこの光景を見ているであろう存在に告げた。

 

「さて・・・見えたか?オーク共を操る者よ。次は貴様の番だ。オーガの里を滅ぼし、鬼人を敵に回したこと。せいぜい後悔するがいい」

 

直後、オークジェネラルは跡形もなくバラバラに切断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ共が!役立たずめ!!」

 

その豚頭将軍(オークジェネラル)を通して戦況を見ていたゲルミュッドは、オークジェネラルが死亡したことで見えなくなった水晶玉を、激情のままに地面へと叩きつける。

 

「(鬼人だと!?ゲルドには俺の名付けを断りやがったオーガ共の里を真っ先に襲わせたが、まさか生き残りが進化したとでもいうのか!?それにあの獣だ!ジュラの森にあんな化物がいたなど聞いてないぞ!!俺の知らぬところで一体何が起こっているというのだ!!)」

 

中庸道化連との契約は終了しているため、後は自分一人で何とかするしかない。いくつかのイレギュラーこそあったが、計画の完了まで目前だった。それが、一時間足らずで一気に瓦解してしまった事に、激しい怒りと焦りを感じる。

 

「(まずい・・何とかしなければ!!もしも計画が潰れてしまったら・・・!このままでは俺が・・・・・俺があの方に殺されてしまう!!)」

 

そう考えたゲルミュッドは飛行呪文を唱えると、形振り構わず湿地帯へと向けて高速で飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲルミュッドが飛び立ってすぐの頃、とある城の豪華な部屋で、一人の男が、ワインを片手に外の景色を眺めていた。

 

「いやー、まいったまいった。いきなり人の腕を斬り飛ばすとか、非常識な姉ちゃんやで」

 

その声を聞いた男は笑みを浮かべると、振り向きながら声の主に語りかけた。

 

「笑わせるな。その程度、君にしてみれば大したことはないんだろう?――――――ラプラス」

 

そこには、トレイニーに片腕を斬り飛ばされたはずのラプラスの姿が、五体満足な様子で立っていた。

 

「まぁな。せやけど、懐の水晶が割れたらどないしよかと思たわ」

 

そう言いながら、ラプラスは懐から一つの水晶玉を取り出す。

 

「それは困るね。私もそれを楽しみにしていたんだ。だけど、君が不覚を取るなんて、万が一にも有り得ないだろう?」

 

「買いかぶりすぎや。ワイだってたまにはミスくらい犯すんやで。それよりホレ。視覚の主はゲルミュッド。そろそろクライマックスやで」

 

「見せてもらおうか」

 

男が水晶玉を見ると、そこには、一体のオークが映し出された。

 

「これは豚頭皇帝(オークロード)か」

 

「せや、湿地帯のど真ん中や」

 

「ということは、ゲルミュッド自ら戦場に降り立ったという事か。手出しは厳禁だというのに、使えん奴だ」

 

「まぁまぁ。お、ホラもう2人出て来たで」

 

ラプラスに促され、男が視線を向けると、水晶玉に映っている映像が切り替わり、2人の魔人・・・リムルとジンが映し出された。

 

「・・・・・前言を撤回しよう。ゲルミュッドのおかげで、面白いものがみられそうだ」

 

男は先程までとは打って変わって、楽し気な表情を浮かべる。

 

「へーえ・・・・十大魔王が人柱。『人形傀儡師(マリオネットマスター)』クレイマンに、そこまで言わせるとはねぇ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 




どうも、お久しぶりです。邪神イリスです。

大変遅れて申し訳ございません。
大学に入学してからバイトなどで忙しかったり、執筆のモチベーションが下がったりと中々書くことができないでいましたが、最新巻発売と映画公開決定などでやる気を出して頑張りました。

さて、遂にリムル&ジン勢が参戦です。
個人的にジンに一掃してもらったりするよりも、ちゃんとベニマル達の活躍シーンがあった方が良いと思い、こんな形になりました。

次回はいよいよ、オークロードとの決着です。
しっかりと戦闘シーンを描けるように頑張りたいと思います。


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飢える者、狩る者、喰らう者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやはや、進化したベニマル達の力は凄まじいな。

 

エンカのあれとかナナ・テスカトリの炎だろ?いつのまに使えるようになったんだ?

 

≪解。あれは個体名:エンカが、名付けによる進化の際に会得したエクストラスキル『蒼炎』です。威力などを含め、『炎妃龍 ナナ・テスカトリ』のヘルフレアの劣化版と言えるスキルです≫

 

あいつのよりも劣化しているのに、あの威力か。『炎熱操作』だったか。スキルの組み合わせによっては、ここまで高火力になるんだな。

 

さて、いよいよオークロードが出て来たな。

 

黄色く濁った瞳を光らせ、放出されている妖気は付き従えている2体のオークジェネラルと比べても桁違いのものだ。

これ以上他の魔物を喰って強化されても面倒なだけだし、とっとと狩ってしまおうと思った時だった。

 

何かがこちらに向かって高速で飛来してきたのを感じた。

 

そいつはそのまま俺とリムルの近くを横切ると、両軍が対峙するど真ん中へと降り立った。

 

妙な仮面を付けてシルクハットを被った小柄なそいつからは、ベニマル達と比べれば劣るが、そこそこ強めの妖気を感じた。

 

「これは一体どういう事だ!?このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!!」

 

そう叫ぶと、そいつは俺達を睨みつけてきた。

 

ゲルミュッド・・・こいつがそうなのか・・・・・しかし、計画だと?

 

「お前の計画とは何の事だ?」

 

地上に降りた俺がそう尋ねると、ゲルミュッドは得意げに語り始めた。

 

「そんなもの!新しい魔王を生み出すことに決まってるだろうが!!もう少しで俺の手足となる、新しい魔王が誕生したと言うのに!!

 だから名付けをしまくった!種を蒔きまくったんだ!最強の駒を生み出すためになぁ!!」

 

ベラベラと細かい事を喋り出したゲルミュッド。

 

何だこいつ。聞かれただけで敵に説明を始めるとは馬鹿か。

 

余程自分の計画と力に自信があるんだな・・・・・・・あぁ、そうか。なんかイラついて来ると思ったら、思考とかが似ているんだ。あの密猟者(クズ)共に。

 

「このノロマが!貴様がさっさと魔王に進化していれば、上位魔人であるこの俺様が出向く必要などなかったのだ!」

 

「魔王に進化・・とは、どういう事カ・・・?」

 

「チィッ!本当に愚鈍な奴よ・・・・・時間がない。手出しは厳禁だが、手柄を立てれば帳消しになるはず・・・・」

 

会話から察するに、どうやらオークロードは計画とやらを理解出来ていないようだ。

 

「ゲルミュッド様!」

 

そんな中、ゲルミュッドに気付いたガビルが駆け寄って来た。

 

「我輩たちを助けに来てくださったのですか!?申し訳ございません。ラプラス殿から警告は聞いていたというのに・・・・」

 

「ガビルか・・・・ちょうどいい所に来た。貴様もさっさとオークロードの糧となれ」

 

「――――――え?」

 

ガビルが呆然としていると、ゲルミュッドが練り上げた魔力弾が空中で円を描く様に無数に分裂する。

 

「死ね!死者之行進演舞(デスマーチダンス)!」

 

そして、一斉に放たれた魔力弾は、まるで意思を持つかのように、逃げ場のない広範囲に広がりながらガビルを襲った。

 

「ガビルよ!ようやく俺の役に立って死ねたんだ。光栄に思うがいいぞ!オークロード、あのトカゲを喰え。あれでも俺が名を与えた個体の一つだ。お前を魔王に進化させるだけの力はあるやもしれん」

 

「いい気分になっている所悪いんだけどな。この程度の力でどうやって殺す気だったんだ?」

 

「・・・はぁっ!?」

 

リムルの言葉を聞き、目の前の光景を目の当たりにしたゲルミッュドは、信じられないと言わんばかりに盛大に驚いていた。

 

何のことはない。単にリムルが攻撃が当たる前にガビルの前に割って入り、『捕食者』で魔力弾を全て捕食しただけなのだ。

 

一応、念の為にカバー出来る様に備えていたが、必要なかったようだな。

 

勿論、そんな事は知らないゲルミュッドは、自分が生み出した魔法の威力を過信していた。だからこその驚愕だったのだが。

 

助けた理由は簡単だ。行動こそ間違えてしまったが、ガビルは確かに、同族の未来のために戦っていた。そんなアイツの心意気が気に入ったからだ。

 

「・・・まさか、今の攻撃を防いだのか?馬鹿な!俺の最高の技だぞ!!有り得ん!!」

 

「そんな事より、自分の心配をしたらどうだ?」

 

俺がそう言うと、ゲルミュッドの表情が青ざめて行く。

 

「よう、ゲレ・・じゃなくって、ゲルミュッドだったか。オーガの里で全員に突っぱねられた名付けは、順調だったようだな」

 

「き、鬼人・・・・!!」

 

自分がベニマル達に囲まれていることに気付いて。

 

「我らの里をオーク共に襲わせたのは貴様だな?」

 

「違うのなら早めに弁明するで御座る」

 

「何時までも湧き出てくるオーク共の狩りにも飽きてきたところです」

 

「明確な仇がこれと分かれば、殺る気も出るというものぞ」

 

ベニマル達5人はゲルミュッドを取り囲むように位置取ると、各々武器を構えた。

その様子にゲルミュッドの顔色がさらに悪くなる。

 

「・・・・あぁ、そうだよ。それがどうしたぁ!上位魔人を舐めるなぁ!!」

 

そう言って、ゲルミュッドはベニマル達に向けて魔力弾を放った。

 

「お前の方こそ、鬼人(俺たち)を舐め過ぎだ」

 

「え?ぎいやああああああああっ!?!?!?」

 

易々と攻撃を回避していたベニマルが、ゲルミュッドの左耳を切り裂いていた。

 

「耳っ・・耳がぁっ・・!!」

 

「そんなものじゃないぞ」

 

のたうち回るゲルミュッドに、ベニマルが近付く。

 

「親父は俺と妹達(シュナとヒヨ)を逃がすために死んだ。親父だけじゃない。多くの仲間が、生きたまま喰われて死んでいった」

 

 

 

「そんな程度の痛みじゃなかったはずだ」

 

 

 

怒りの形相を浮かべて、ベニマルはゲルミュッドに迫る。

 

「ひぃっ!!!」

 

恐怖で震えるゲルミュッドは、絶望の表情を浮かべる。

 

「くっ、くそ・・・!お、俺を助けろ!オークロード!・・・いや、ゲルド!」

 

ゲルミュッドがオークロードの名を叫ぶと、それまで一切動かなかったオークロードが動き始めた。

 

「ふははははっ!やれ、ゲルド!この愚か者共に、俺様に歯向かった事を後か―――」

 

 

 

ドシュッ!!

 

 

 

ゲルミュッドの声が途切れた。

 

オークロードがその手に持つ肉切包丁(ミートクラッシャー)でゲルミュッドの首を刎ねたのだ。

 

そして・・・・・

 

 

グチャッ、バリボリ、グチャバキッ。

 

 

音を立てて、オークロードはゲルミュッドの身体を喰い始めた。

予想だにしていなかったその光景を見て、俺達は固まっていた。

 

そして、オークロードの妖気が爆発的に増幅し、どこかから声が聞こえてきた。

 

《確認しました。個体名:ゲルドが魔王種への進化を開始します》

 

(ん?なぁ、『相棒』。今のお前の声と違うよな?)

 

《解。先程のは『世界の言葉』より発せられたものです。個体名:ゲルドがゲルミュッドの要望に応えるべく、進化を望んだものと推測されます》

 

『相棒』に問いかけていると、オークロードから妖気が溢れる。

 

《警告―――》

 

マズい。どうやらリムルも気づいたようだ。

 

「全員オークロードから離れろ!奴から溢れる妖気に触れるな!」

 

俺は装備をアーティアSシリーズに変え、ゴブタ達を下がらせる。

 

すると、妖気が触れたオークの死体が、白い煙を発しながらドロドロに溶け出した。

 

「ひえええ!と、溶けたっす!オークの死体が溶けたっすよ!!」

 

触れたものを『腐食』させる妖気か・・・・俺は装備のスキルがあるから問題ないが、地味に面倒だな。

 

俺は『屍套龍 ヴァルハザク』の翼を広げると、体から『瘴気』を出して操り、妖気とぶつける。

 

この前リムルと共にスキルの実験を行った際に気づいたこととして、俺が持つモンスターの力の中には、この世界に合わせてさらに進化した物がいくつか見受けられた。

その一つがこれだ。本来は肉食性の微生物の集合体である瘴気に魔力を込める事で、腐食の効果を付与できるのだ。

 

これをオークロードが放つ腐食の妖気とぶつけて相殺することで、妖気が後退する面々に届かないようにする。

 

そして、その間にも、事態は深刻な状況へと陥っていた。

ゲルミュッドの肉体を食べ終えたオークロードが、その巨体を起き上がらせた。

 

《・・・・・・・・・・成功しました。個体名:ゲルドは『豚頭魔王(オークディザスター)』へと進化が完了しました》

 

先程までとは比べ物にならない威圧感と妖気。なるほど。これが魔王か。

 

「我は豚頭魔王(オークディザスター)!!この世の全てを喰らう者なり!!名をゲルド。魔王ゲルドと呼ぶがいい!!!」

 

「・・・!我らが父王よ」

 

「王よ」

 

「魔王ゲルド様」

 

ゲルドが名乗りを上げると、オーク達が一斉に跪く。

 

コイツは・・・・この場で殺しとかないと、知恵がある分、あの暴食野郎よりも厄介な災害になるな。

 

「シオン!」

 

「承知しています!」

 

俺が動こうと思うと、ベニマル達が動いた。

 

「おい?」

 

「ここは俺たちにお任せを。どうやら舐めてかかれる相手じゃなさそうです」

 

妖気を纏わせ、大上段から振り下ろしたシオンの大太刀と、ゲルドの肉切包丁が激突する。

両者互角の鍔迫り合いとなるも、鬼人一のパワーを誇るシオンをゲルドが弾き飛ばす。

 

シオンは咄嗟に後方へ飛ぶことで威力を軽減させたようで、ダメージは無いようであった。

 

そこへゲルドが追撃を行おうとするが、背後に回ったアワナミが拳でゲルドの背骨を砕き、同時にハクロウが首を斬り落とし、ヒヨが槍で心臓を貫いた。

 

しかしゲルドは首を片手でキャッチすると同時に、肉切包丁を振り回して3人を牽制する。

 

「心臓を貫かれ、首を断たれてなお動きよるか!」

 

そして、頭を元の場所に戻すだけで元通りになり、問題なく動いている様子から、心臓と背骨も既に回復したようだ。

魔王ゲルドの最も面倒な能力は、リムルの『超速再生』にも匹敵する異常な回復力だな。

 

「操糸妖縛陣。これでもう逃げられん」

 

ハクロウの影から現れたソウエイが、ゲルドを『粘鋼糸』で捕縛する。

 

「やれ!ベニマル!」

 

「腹が減ってるなら、これでもくらってな!」

 

動きが封じられているゲルドを、ベニマルの黒炎獄(ヘルフレア)が包み込む。

数秒後、黒炎獄が消失すると同時に、ランガとエンカがそれぞれ『黒稲妻』と『蒼炎』を一点に収束して放った。

 

攻撃がゲルドに直撃すると同時に、辺りに爆煙が巻き起こる。

 

すると、フラフラになったエンカが俺にすり寄ってきた。

 

「魔素切れか?エンカ」

 

「はい・・・申し訳ございません・・・・」

 

どうやらランガ共々。さっきの攻撃で余力を使い切ったようだ。

 

「後は俺たちで何とかする。今は休んでいろ」

 

「はっ・・・・!」

 

俺の言葉に安心したのか、エンカはそのまま俺の影に入っていった。

 

さてと、ベニマル達の攻撃は中々のものだったが・・・・・俺の予想では、このまま倒せるとは思えない。

案の定、ゲルドはゆっくりと起き上がると、自らの腕を引き千切り、喰っていた。

 

(あいつ、なんで自分の腕を千切って喰ってるんだ?)

 

《解。豚頭魔王(オークディザスター)ゲルドは『自己再生』を持っています。異常な再生速度は、ユニークスキル『飢餓者(ウエルモノ)』との相乗効果と推測されます》

 

ようするに喰えば喰う程回復し、より強くなるというわけか。

 

そんなゲルドの下に、一体のオークジェネラルが歩み寄り、跪く。

 

「王よ、どうかこの身を御身と共に」

 

「・・・・・・うむ」

 

ゲルドはオークジェネラルの首を一撃で引き千切って即死させると、無造作に喰らい始めた。

それを喰い終わる頃には、炭化していた肌は生え変わり、完全に回復するどころか、先程よりも妖気が膨れ上がっていた。

 

「足りヌ・・・もっとだ。もっと喰わせロ!」

 

・・・・・・・ここから先はベニマル達には厳しいな。

 

「リムル」

 

「あぁ。みんなは下がっていてくれ。後は・・・・」

 

 

 

「「俺たちに任せろ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の意思を汲み取ったベニマル達が後退し、ゲルドの前にリムルとジンが立ちはだかる。

 

「・・・・でかい牙狼はどうした?」

 

「ランガとエンカの事か?俺たちの影の中だよ」

 

何時の間にか姿が消えていた事に疑問を持ったゲルドの問いに、リムルが答える。

 

「・・・・・喰ったのか?」

 

「まさか。理由もなく仲間を喰ったりしないさ。お前じゃあるまいし」

 

ジンの挑発に、ゲルドが怒りを露わにするかのように、2人への攻撃を開始する。

 

死者之行進演舞(デスマーチダンス)!」

 

ゲルミュッドを喰らう事で会得した技。ゲルミュッドのものとは比べ物にない量の魔力弾が降り注ぐ中、2人は行動を開始した。

 

「出番だぞ、相棒」

 

《了。『大賢者(エイチアルモノ)』への主導権の一任を確認。自動戦闘状態(オートバトルモード)へと移行します》

 

リムルの身体の使用権限を一時的に与えられた『大賢者』が、魔力弾を『捕食者』で喰らいながら接近し、刀に黒炎を纏わせてゲルドの左腕を斬り飛ばした。

傷口を黒炎が消える事なく燃やされ続ける事で、腕の再生は始まらない。

 

この段階で、既にゲルドは2人を餌ではなく、敵と認識するようになっていた。

 

「ヌゥッ!?」

 

再び接近した『大賢者』と鍔迫り合いになるが、黒炎によって肉切包丁はドロドロに溶け出し、ゲルドの手からも離れて地面へと落ちる。

咄嗟の判断で『大賢者』を弾き飛ばしたゲルドだが、『大賢者』と交代するかのように大きな影がゲルドの目の前を飛び上がり、『何か』で体を切り裂かれる。

 

ゲルドが自身の周囲を見ると、金色の鱗のような物が地面に刺さっていた。

 

そして空を見上げると、そこには刃物のように鋭い金色の鱗に身を包み、翼を広げてホバリングする『千刃竜 セルレギオス』へと変身したジンの姿があった。

 

ジンは大きく吼えると、そのまま急降下しながら幾つもの飛刃をゲルドに向けて放ちながら、強靭な後脚で蹴り技を放つ。

ゲルドは何とか防ごうとするが、その全てを捌き切れずに飛刃が身体を切り裂き、蹴り飛ばされると同時に地面に着弾した飛刃が炸裂し、ダメージを負う。

 

そのままジンはゲルドの肩を後脚で掴むと、姿を『火竜 リオレウス』へと変え、ゲルドを持ち上げながら空中へ飛翔すると、縦に周回して地面に叩き落とした。

 

「ぜあああああああっ!!」

 

さらにそこへ、元の鎧の姿に戻りつつ、空中できりもみ回転をしながらショウグンギザミの双剣『ヤツザキ』で追撃をかける。

 

「小癪なっ・・・・!?」

 

ゲルドが反撃しようとするが、僅かに身動きするだけで全身に痛みが走り、一瞬動きが鈍る。

見ると、身体のあちこちに小さな傷が出来ており、傷口が再生することなく、そこから血が流れ出していた。

 

「いくら回復力が高くても、裂傷は無効化出来ないようだな」

 

裂傷とは、ジンの世界の一部のモンスターが扱う状態異常であり、発動したら何かしらの方法で解除しない限り、少し動くだけで延々とダメージを喰らい続けるというもの。

ゲルドは何度も飛刃などを受けたために裂傷が発動し、『自己回復』による再生能力を阻害する効果を受けていたのだ。

 

その隙を見逃さないジン。

 

構えるのは、金色に輝く豪華絢爛な装飾が施されたガンランス『ガイラバスター・水』。

 

砲塔にエネルギーが溜められていき、先端から吹き出た炎が、その色を次第に白を経由し青色へと変わる。

 

『それ』が何なのかがわからなくとも、危険であると察知したゲルドはそれを阻止しようと動くが、動き出すのが僅かに遅かった。

 

「吹っ飛びな」

 

溜めた高温を一気に前方へ解き放つと同時に爆発。飛竜のブレスの原理を応用したガンランスの必殺技『竜撃砲』が炸裂し、爆炎がゲルドを包み込んだ。

 

「グオオォオオッ!!!」

 

そのままジンは竜撃砲の反動を利用して、リムルの下まで下がる。

 

(さてと、痛手は負わせたが、この程度で死ぬのならベニマル達も苦労しない。『大賢者』と『相棒』の予測が正しければ・・・・)

 

ジンが油断なく爆煙に包まられたゲルドの方を見ていると、煙の向こうから『両腕』が伸びてきて、そのままリムルを鷲掴みにした。

 

「リムル様!」

 

「う、腕が再生してるっす!」

 

シオンが叫び、ゴブタが驚く中、煙が晴れるとそこには、腕を再生させてリムルを捕まえたゲルミュッドが立っていた。

 

黒炎ごと自らの腕を引き千切って喰らう事で、腕を再生させたのだ。

 

腐食のオーラに包まれ、リムルの身体が溶ける。

 

「ヌハハハハッ! このまま喰らってくれるわ!!」

 

「《・・・・否》」

 

だが、それは罠だった。

 

「《炎化爆獄陣(フレアサークル)》」

 

その瞬間、ゲルドの足元に文様が浮かび、リムルごとゲルドを炎が包み込む。

 

捕まったのはあくまで作戦の一つ。溶かされたように部分的に人化を解き、油断したところを炎で焼き尽くすつもりだったのだ。

 

捕まるのはリムルだろうとジンだろうと関係ない。

 

ゲルドが炎に対する耐性を持っていないのに対して、2人は耐性を持っているが故の作戦だった。

 

しかし、2人にはある懸念があった。

それは、『大賢者』と『相棒』が極小確率切り捨てた可能性だった。

 

《確認しました。豚頭魔王ゲルドは、炎熱攻撃耐性を獲得しました》

 

(『世界の言葉』・・・・ベニマルの黒炎獄から俺の竜撃砲やリムルの炎化爆獄陣・・・ここまで4度も炎に類する攻撃を受けてるんだ。耐性を会得しない方がおかしい)

 

ジンは内心でそう呟くと、内心で思考を巡らせ、燃え盛るゲルドを見据えた。

 

(炎で焼かれた事で、焼けた皮膚が再生したから裂傷も解けている。あの様子だと毒に耐性を持つのも時間の問題だな。確実に殺すとして、あとやれるとしたら他の耐性を持つ前に・・・・)

 

『ジン。聞こえるか?』

 

ジンにリムルの『思念伝達』が届く。

 

『コイツの倒し方がわかった。サポートを頼む』

 

『・・・・・なるほど、わかった』

 

ジンは笑みを浮かべると、その姿を変え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレに炎は通じぬようだゾ?」

 

「そうかよ。炎で焼け死んだ方が幸せだったかもしれないぜ」

 

リムルは身体の使用権限を『大賢者』から戻すと、リムルの身体が溶け出し、ゲルドに絡みつく。

 

「ぬぉっ!?こ、これは・・・!?」

 

「言ってなかったっけ?俺、スライムなんだよ。喰うのはお前の専売特許じゃないんだよ。あと、後ろに注意な」

 

「何、をっ!?」

 

突然、ゲルドは背中から何かに押されたような衝撃を受け、前のめりに倒れ伏す。そして次の瞬間、首に『ナニカ』が嚙みついて来た。

 

「ぐあああああああっ!!!」

 

ゲルドが慌てて振り向いた先に居たのは、ゲルドを上回る巨体。

 

濡れ光る暗緑色の鱗に覆われ、異様に太く強靭に発達した後脚と尻尾。

そして、何よりも特徴的なのは、あらゆるものを食い尽くさんとばかりに首元まで裂けた巨大な口と無数の棘・・・否、口外にまで発達した牙に覆われた顎。

 

ジンの世界では、『健啖の悪魔』。『貪食の恐王』とも呼ばれて恐れられた生態系の破壊者。

 

 

 

 

『恐暴竜 イビルジョー』である。

 

 

 

 

「この姿はお前と同じ悪食な奴の姿でな。厄介度ではお前の方が上だが、恐ろしさで言えばコイツの方が上だったよ」

 

ゲルドに首に嚙み付き、強靭な後脚で背中を踏みつけながら、そう語るジン。

嚙み付いている首からは、強酸性の唾液が分泌され、ゲルドの肌を焼いていく。

 

「ぐっ、貴様ぁっ!」

 

ゲルドは何とか抜け出そうと暴れようとするが、全身が異常に発達した筋肉の塊であるイビルジョーの巨体から抜け出せるはずがない。

 

「俺がお前を喰うのが先か、お前が俺たちを喰うのが先か。相手を先に喰った方が勝ちだ!」

 

先に相手を喰い尽くした方が勝利する、本能のまま相手を滅ぼす弱肉強食の理。

 

(喰われる前に、喰ってやる!!)

 

ゲルドは、自分の中の力を振り絞り、『自己再生』で捕食部を回復しながら『飢餓者』の力で2人を腐食で溶かして喰らおうとし、それをリムルは『超速再生』で、ジンは『狩人』で修復していく。

 

リムルが先に捕食する確率は・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

 

ふと気が付くと、俺は見知らぬ場所に立っていた。

 

「おーい!」

 

「リムル、お前もか」

 

「ああ・・・・・にしても、なんだ?この光景・・・・・」

 

周囲に広がるのは、見渡す限りの干上がった大地に枯れ果てた草木。そして、照りつける太陽。

まるで世界の終わりのような風景だった。

 

「ここはどこなんだろうな?」

 

「わからん。まあ、考えても仕方ないだろ。それよりも、まずはここが何処なのか調べないとな」

 

俺達は、そう結論付け、周囲を探索する事にした。

少し歩いていると、何処からか泣き声が聞こえてきた。

 

「オークの・・・・子供か?」

 

そこに居たのは、痩せこけて泣き喚く子供のオーク達。

そこに、何処か見覚えのある体の大きなオークが一人歩み寄る。

 

「腹が減ったのか・・・・少し待っていなさい」

 

そう言うと、そのオークは自らの腕を引き千切り、子供達に与える。

 

「さぁ、食べなさい。しっかり食べて、大きくなるのだぞ」

 

そう言って、左腕を差し出すと、子供達は一斉にその腕に群がり貪るように食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王よ、もうおやめください」

 

子供たちが去ると、大柄なオークの後ろに立っていたオークが、大柄なオークに跪き、懇願する。

 

「この大飢饉の中。王であるあなたまで失っては、我らオークには最早絶望しかありません」

 

「・・・・・・・一昨日産まれた子が今朝飢えて死んだ。昨日産まれた子は虫の息だ。

 この身はいくら切り刻もうと再生するというのに・・・・・」

 

王と呼ばれているオークが『左腕』をさする。先程引き千切り、子供たちに与えた左腕は、僅かな間で完全に元通りになっていた。

 

「これが既に絶望でなくて、何だと言うのだ」

 

すると、王は何処かへと歩き出した。

 

「王よ、どちらに!?」

 

「森に入り、食糧を探す」

 

「しかしジュラの森は、かの暴風竜の加護を受けし場所!」

 

「その暴風竜は封印されて久しい。少しばかりの恵みを―――」

 

「王よ!!」

 

オークの制止を振り切り、王は森へと歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光景が変わる。

 

終わる気がしない枯れ果てた大地を一人、飢える同胞達の為、歩き続ける王。

 

(腹が減った・・・・何でもいい。飯が食い・・・たい・・・・・・)

 

だが、それも限界のようで、王・・・・否、ゲルドはその場に倒れる。

 

「・・・・飢えたオークの若者か。中々に強い力を秘めているようだ。これなら豚頭帝・・いや、豚頭魔王すら視野に入れてもいいな」

 

どうやら、ここでゲルミュッドと出会ったようだ。

 

「――――――あのお方はオレに食事と名を与え、そしてオークロードの持つ『飢餓者』について教えてくれた」

 

俺たちの背後に、魔王の姿のゲルドが現れていた。

 

「オークロードとなった俺が喰えば、『飢餓者』の支配下にある者は死なない。飢える仲間を救えるのだと。邪悪な企みの駒にされていたようだが、それに賭けるしかなかった」

 

「だからオレは喰わなけらればならない。お前達が何でも喰うスライムと俺をも上回る捕食者だとしても・・・・オレは喰われるわけにはいかない」

 

「・・・・腐食の過程が無い分、喰い合いはリムルに分がある。お前は負ける」

 

「同胞が飢えているのだ。オレは負けられぬ。

 オレは他の魔物を喰い荒らした。ゲルミュッド様を喰った。

 ・・・・・同胞すら喰った」

 

「オレが死んだら同胞が罪を背負う。もはや退けぬのだ」

 

 

 

「皆が飢える事が無いように、オレがこの世の全ての飢えを引き受けてみせよう!!」

 

 

 

骨と筋肉のみとなって尚、執念で動くゲルド。

だが・・・・・・・

 

「それでも、お前の負けだ。お前は死ぬ」

 

「お前が『飢餓者(ウエルモノ)』なら、ジンは飢えた獣を『狩猟者(カルモノ)』。そして俺はそれを『捕食者(クラウモノ)』だ。お前の罪もお前の同胞の罪も、全部俺とジンが喰ってやる。俺達は欲張りだからな」

 

「罪を喰う・・・だと?」

 

「そうだ。だから安心して眠れ」

 

「・・・オレは負ける訳には――――」

 

そう言って、ゲルドは崩れ落ちた。

 

そして、世界が変化する。

 

荒廃した大地は緑溢れる美しい森林や草原へと変わり、枯れた川には水が流れ、様々な色とりどりの花が咲き乱れる。

 

それを見たゲルドは涙を流し、魔王ではなく、一人の心優しきオークの長としての姿に変わる。

 

「ここは暖かい・・・・強欲な者よ。俺の罪を喰らう者達よ。

 感謝する・・・・俺の飢えは今、満たされた・・・

 

その光景の中に、ゲルドは光となって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現実の世界ではそれと同時にリムルはスライムから人の姿になり、ジンもまた、イビルジョーへの変身を解いた。

 

「俺たちの勝ちだ」

 

「安らかに眠れ、ゲルド」

 

静寂に包まれた戦場で、リムルとジンが勝利を宣言する。

 

その瞬間、リザードマンやゴブリンの陣営からは歓声が、オーク達からは嘆きの声が上がった。

 

そこへ森の管理者であるトレイニーが現れ、事態の収束に向けた各種族の代表を集めての話し合いを翌日の早朝に、議長をリムル及びジンとして、行われることが決まったのだった。

 

そんな中、オークジェネラルの中でただ一人生き残った、ゲルドの腹心の瞳は悲しみに満ちていながらも、その顔はどこか晴れやかなものだった。

 

「・・・・・王よ。やっと・・・解放されたのですね・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

こうして、ジュラの大森林での戦争は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、邪神イリスです。

映画公開日までに何とか一話出したいと思いながら執筆しました。

ジンの戦闘シーンは一番頑張りました。モンスターの力も使いつつ、どうやって戦わせるか、何度も脳内シミュレーションをしては文字にするのを繰り返しました・・・・まぁ、ジン本人はまだ全然本気を出していないんですけどね!

次回でいよいよ森の争乱編も終わりです。サンブレイクのアップデートが来たりと、また投稿が遅れるかもしれませんが、今年中に出せたらいいなぁ~って思ってます。


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大同盟締結

 

 

 

 

 

魔王ゲルド討伐の翌日。

 

戦場となった場所から少し南南西にある森寄りの広場に仮設されたテントに、各々の種族の代表が集まっていた。

 

戦後処理の為の話し合いだ。

 

参加者は、俺とリムルと町に残っている2人を除いた鬼人達。

 

リザードマンからは首領と親衛隊長とその副長。

ガビルは反逆罪として連行されていった。結果的に犠牲者は少なかったが、一歩間違えたらリザードマンが全滅していた可能性もあったのだから、アイツにはしっかりと反省してもらいたいものだ。

 

他にはトレイニーさんと、ガビルに連れてこられたゴブリン達から代表が数名。

 

そしてオークから魔王ゲルドの側近を含めた代表が10名。

『飢餓者』の影響が無くなったおかげで理性的だが、そのぶん麻痺していた罪の意識が表に出てきてしまっているようで、顔を青ざめているいる様子が伺える。

 

「じゃあ、これから戦後処理についての話し合いを行う」

 

進行役は俺とリムルだ。

 

だが、残念ながら俺もリムルも戦後処理なんて経験が一切無い。

 

という事で、まずは俺たちが思っていることをこの場に居る皆に伝えることにした。

 

「まず最初に明言するが、俺とリムルはオークに罪を問う考えはない」

 

俺の言葉に、オーク達の表情が驚愕に染まる。

 

「被害の大きいリザードマンからしたら不服だろうが、聞いてほしい。彼らが武力蜂起に至った原因と現在の状況を話す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・なるほど。大飢饉にゲルミュッドなる魔人の存在ですか」

 

「ああ。だからといって侵略行為が許されるというわけではないが、逼迫した状況から分かる通り、現在の彼らには賠償できるだけの蓄えはない」

 

リムルの言う通り、侵略行為は良いか悪いかで言えば悪であり、ゲルミュッドに利用されたからとはいえ、残念ながら決断した時点で彼らは同罪だ。

 

だが、同時に彼らには生き残る為の道が他になかった事も事実だ。もし同じ立場であったら、他の種族も同じ様に行動していた可能性もあるからな。

 

 

まぁ・・・・・・

 

 

「これは建前なんだがな」

 

「・・・では、本音の方を伺ってもよろしいかな?」

 

リザードマンの首領が俺たちに問う。

 

「オーク達の罪は、全て俺とジンが引き受けた。文句は俺達2人に言ってくれ」

 

「なっ!?お待ち頂きたい!いくらなんでもそれでは道理が「それが魔王ゲルドとの約束だ」っ!」

 

俺がそう言うと、立ち上がったゲルドの側近は言葉を失い、力なく着席する。

 

「なるほど・・・・しかし、それは少々ずるいお答えですな」

 

リザードマンの首領の意見もわかる。

俺とリムルも簡単に受け入れられるとは思っていない。

 

だが、魔王ゲルドとの約束の為だ。ここで引き下がるわけにはいかない。

 

そう思い、説得しようと口を開きかけると、俺とリムルの後ろに控えていたベニマルが前に出た。

 

「魔物に共通する、唯一不変の法律(ルール)がある。弱肉強食。立ち向かった時点で、覚悟は出来ていた筈だ」

 

「・・・・弱肉強食。確かにその通りですな。駄々を捏ねてはリザードマンの沽券が下がりましょう。しかし、どうしても一つだけお聞きしたい事がございます。オークの罪を問わぬという事は、生き残った彼ら全てを、この森にて受け入れるおつもりですか?」

 

「確かに。戦で数は減ったが、まだ40万のオークがいるからな」

 

オークの総数40万は戦士だけの数ではなかった。飢饉から逃れる為に老若男女問わず全部族総出で出て来たという事を、ゲルドの記憶を垣間見た俺とリムルは知っている。

 

そこで俺達は、一つの考えを思いついていた。

 

「夢物語のように聞こえるかもしれないが、ジュラの森に住む各種族間で、大同盟を結べたらどうだろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大同盟・・・・・」

 

周りの誰かが小さく呟くのを横目に、ジンとリムルは概要を話す。

 

「まず、オーク達には各地に散ってもらい、その土地土地で労働力を提供してもらう。その見返りに、リザードマンやゴブリンからは食料や住む場所を提供してほしい」

 

「住む家などの技術支援や加工品は俺達の町の職人に頼む。ウチも人手不足だから、オークの労働は当てにしている」

 

「技術を身に着けたら、そのうち自分達の町を作ればいい。その頃には、各地に散った者達とも住めるようになる筈だ」

 

「最終的に多種族共生国家とか出来たら面白いんだけどな」

 

2人のその言葉に、リザードマンの首領は目を見張った。昨日の終戦から、僅か半日の間にここまでの話が進むとは思っていなかったのだ。

 

そして、リムルの言った"多種族共生国家"という言葉に、その場に居た全ての者が反応を示した。

皆の脳裏に浮かぶのは当然、理想郷のようなその光景。

 

だが、それは絵空事ではない。

 

今、目の前にいる2人なら、それも可能なのではと思えるのだ。

 

「わ、我々がその同盟に参加してもよろしいのでしょうか・・?」

 

魔王ゲルドの側近が、不安そうな表情でリムルとジンに問いかける。

 

「帰る場所も行く当てもないんだろう?」

 

「ちゃんと働けよ?サボる事は許さんからな?」

 

その言葉に、感極まって涙を浮かべたオーク達は、その場で2人に跪く。

 

「もちろん・・・もちろんですとも!命懸けで働かさせてもらいます!!」

 

「・・・我らも、異論はありません。ぜひ、協力させて頂きたい」

 

リザードマンの首領は力強く頷くと、親衛隊長らと共に2人に跪く。

 

この様子に、リムルは同盟を結ぶのにそういう仕来たりでもあるのかと思っていたが、ジンは嫌な予感を感じていた。

 

そして、鬼人達も2人に跪くと、トレイニーが立ち上がって宣誓した。

 

「では、森の管理者として、わたくしトレイニーが宣誓します。リムル様とジン様をジュラの大森林の新たなる盟主として認め」

 

「「(盟主!?)」」

 

「その名の下に、『ジュラの森大同盟』は成立しました!!」

 

そう言うと、トレイニーも2人に対して跪く。

 

ジンはなんとなく予想していたが、まさか自分が盟主になるとは思ってもいなかった為、内心驚きの声を上げた。

 

こうして、そんなジンと冷や汗が止まらないリムルを余所に、ジュラの森大同盟は成立したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりのプレッシャーに、リムルが一回休憩にすると言い、各々が一旦テントを後にする中。

 

ベニマル達の下に、魔王ゲルドの側近が訪ねてきた。

 

「何か用か?オークの生き残りよ」

 

「・・・・・本当は今でも里を襲ったオークを根絶やしにしたいだろう。弱肉強食と言っても、憎しみはそう簡単に割り切れるものではない」

 

そう言い、ゲルドの側近はベニマル達に対して頭を下げる。

 

「詫びて詫びきれはしない。虫のいい話であるのは重々承知している。だが、どうかこの首一つで、ご容赦願えないだろうか・・・!」

 

両者の間に沈黙が流れる。

 

「・・・・・・・・・会議の前。リムル様とジン様に呼ばれた。鬼人族は今後どうするのかと。

 我らに帰る里は最早無い。今後もリムル様達の下に、在り続けたいと伝えたら、俺達に役職を与えてくださった。今回の働きを見て、考えていてくださったらしい」

 

「私とアワナミは『武士(もののふ)』。それぞれリムル様とジン様の護衛役ですよ!秘書も兼ねてます!」

 

自慢気に言うシオンに、ベニマルは苦笑しつつ、言葉を繋げる。

 

「ハクロウは『指南役』。ソウエイは『隠密』。ヒヨは『一番槍』だそうだ。村に残っているシュナとクロベエにも、それぞれ『巫女姫』と『刀鍛冶』の役職を与えられた」

 

「・・・・で、俺は『侍大将』の座を賜った」

 

「侍大将・・・・・」

 

「軍事を預かる役どころだ。そんなとこに就いちまった以上、有能な人材を勝手に始末するわけにはいかないだろ」

 

「っ!」

 

はっとなって顔を上げる側近。

 

その顔には、戸惑いが浮かんでいた。

 

「だから、お前を殺すつもりはない。リムル様とジン様に仇なす存在なら容赦しないが、同盟に参加し、盟主と仰ぐのなら敵ではない」

 

「仇なすなど・・・!!あの方達は我らオークを救ってくださった。従いこそすれ、敵対などありえん!」

 

「では、俺達は同じ主をいただく仲間だ。せいぜいリムル様達の役に立て。それを詫びとして受け取っておこう」

 

そう言って、ベニマルは踵を返す。

 

「・・・父王ゲルドの名に誓って・・・・!」

 

その背中に声をかけると、ベニマルは振り返らずに手を挙げて応えた。

 

その後ろ姿に、ゲルドは深く頭を下げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山ー520M、山ー521M、山ー522M、山ー523M」

 

現在、俺とリムルはオーク達に名付けを行っている。

 

適当すぎて彼らには申し訳ないが、まったく気にしていない様なのでそのまま行わせてもらおう。

 

何せ、総数約30万の名付けだからなぁ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はジュラの森大同盟が成立したその日に戻る。

事の発端は、30万の飢えたオーク達の食糧問題だった。

 

これに関しては、トレイニーさんが出し惜しみせずに森の実りを提供してくれるという事になったので、問題は解決した。

 

ちなみに食糧の運搬はベニマルの指揮の下、嵐牙狼族(テンペストウルフ)炎牙狼族(インフェルノウルフ)が行ったが、ランガとエンカは俺達に甘えたいのか、運搬には参加せず影の中にいる。

まぁ、今回は色々と頑張ってくれていたからな。

 

あと、2匹が進化した影響で、眷属である嵐牙狼族と炎牙狼族の一部がそれぞれ星狼族(スターウルフ)華狼族(ブロッサムウルフ)に進化していた。今の所最大数は100だが、そのうちにまた増えるかもしれない。

 

だが、ここでまた別の問題が発生した。

 

これまでオーク達は、『飢餓者(ウエルモノ)』の影響で一時的に魔素が増えていたおかげもあり、空腹に困ることもなく生きて来れていた。

 

しかし、ゲルドが死んだ今、それは徐々に失われていき、子供や老人などの体力の無い者から倒れるのも時間の問題だった。

 

それを防ぐ方法が、魔素が失われる前に俺とリムルが喰い、同等量を与えるというものだった。

与えるというのは名付けの事だ。

 

 

 

 

ただし・・・・30万人分の。

 

 

 

 

というわけで始まったのが、この名付け地獄だ。俺とリムルでそれぞれ15万人ずつ担当している。

 

なお、この方法の中の過程の一つである魔素を喰うことに関して、当初は俺には不可能かと思われたが、思わぬところに解決策があった。

 

それはあのイビルジョーの能力だった。

 

イビルジョーに新たに増えた能力の中に、『捕食者』と似たような能力がある事が判明した。

ただし、あくまで出来るのは喰う事と与える事だけであり、『捕食者』や『飢餓者』みたいな、食べた相手の能力を使えるようになるなんて力はない。

 

ともかく、コレのおかげでリムルの負担を減らす事が出来た。

 

名付けの傾向に関しては、まず大部族に山、谷、丘といった風に部族名を授け、後は並んだ順番で数字と、リムルに教えてもらったアルファベットのMを男に、Fを女性にという感じだ。

 

そんなこんなで名付け続けること10日。遂に最後の集団の2千人となった。

この集団は豚頭親衛隊(オークエリート)の生き残りとの事で、ゲルドの側近のたっての願いで、俺たちの下で働くこととなった。

 

そして、最後の一人が俺の前に立つ。

 

彼は、ゲルドの記憶にもいた彼の側近。彼には俺の魔素を与える事になるだろう。

 

故に、この名前を与える事にした。

 

「お前の名はゲルド。死の間際まで仲間を思い続けた偉大なる王であった豚頭魔王ゲルドの意思と名を継ぎ、ゲルドと名乗れ」

 

「その名を賜る事の重み、しかと受け止めました。我が忠誠を貴方様とリムル様に!」

 

「ああ。期待しているぞ、ゲルド」

 

「ははっ!」

 

ゲルドへの名付けとともに、俺の魔素が吸われるのを感じた。もっとも、他のオークへの名付けには自前の魔素を一切使っていなかったので、低位活動状態(スリープモード)にはならなかったが。

 

さて、後はリザードマンの首領への挨拶だな。

 

そういやガビルはどうしてるんだろうか・・・・・

 

なお、リムルは首領への挨拶が終わると同時に気が抜けたのか、低位活動状態へと強制突入した。

まぁ、数日も経てば目が覚めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦が終わり、2週間程経った頃。

 

ガビルは父親である首領の前に引き立てられてきた。

 

ガビルは戦の終了と同時に牢に入れられていた。

 

ガビル自身は謀反を起こしたのは事実なので、文句を言うでもなく受け入れていた。

良かれと思って起こした事は、結果としてリザードマンの滅亡寸前まで陥ったのだ。処遇は死罪であると考えていたが、そのことに不満もなかった。

 

「ガビルよ。今回の件について、何か言いたい事はあるか?」

 

「・・・・部下たちの助命を願います。全ては我輩の独断。彼らは我輩の命令に従ったにすぎません」

 

「わかった。では、もう思い残すことはないな?」

 

父親のその言葉に、ガビルはある人物達の姿を思い出す。

 

「・・・スライムのあの方とひとぞ、いえ、真竜人の方はどちらにおられるでしょうか?」

 

「リムル様とジン様なら昨夜お越しになられたが、もうここにはおられぬ。何故、そんな事を聞く?」

 

「死罪となる前に聞きたかったのです。何故――――――助けてくれたのかと」

 

下等なスライムとただの人族だと見た目だけで侮り、無礼な態度を取った間抜けな自分を、助ける理由などないはずだと、ガビルは牢にいる間、ずっと考えていた。

 

「あの方々はもうご自分の町へ帰られた。知りたければ自分の足で尋ね問うのだな」

 

「(・・・・・・・・・・え?)」

 

ガビルは顔を上げて首領を見上げる。

 

「処分を申し渡す。ガビルよ、お前は破門だ。二度とリザードマンを名乗る事は許さぬ。出ていくがいい」

 

「お、親父殿・・・!?」

 

その目に映るは、巌のような父の姿。

見るだけで力強さを感じるその姿に、自分が名を持つだけで楯突いたのかと、ガビルは自分の眼が曇っていたのだと悔やむ気持ちが湧いてきた。

 

心なしか、以前よりも若々しくなっている気もしたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呆然としたまま外へ放り出されたガビルに、兵士が「忘れ物だ」と言い、荷物と共に細長い包みを渡す。

 

それが何なのかに気付いたガビルは、包みを取って確認する。

 

それ、リザードマンの宝とも言える魔法武器(マジックウェポン)水渦槍(ボルテクススピア)だった。

 

「これはリザードマンの首領が持つべき物・・!」

 

「首領のお考えだ。黙って受け取れ!」

 

「親父殿が・・・?」

 

――――ガビルよ。リムル様より『アビル』の名を賜ったこの父がある限り、リザードマンは安泰である。

    貴様は自分の思うがままに生きるがよい。

    ただし、中途半端は許さぬ。肝に銘じるのだ。

 

涙を流すガビルに、聞こえる筈のない父の声が聞こえた気がした。

 

ガビルは万感の思いを込めて一礼すると、踵を返して歩き始めた。

 

「(親父殿、見ていてください。我輩は一から出直します。この槍に恥じぬ男になる為に。

  もしも許されるなら、あの方達の下で――――)」

 

しばらく進むと、見慣れた集団がガビルの前に現れた。

 

ガビル配下の百名の戦士達である。

 

「待ってましたよガビル様!!」

 

「水くさいぜガビル様」

 

「我らを置いて行こうなど言語道断」

 

「な、何をしておるのだお前達!?我輩は破門になったのだぞ?」

 

困惑するガビルに、配下達は口々に言う。

 

「だからですよ!俺達の頭は貴方しかいないでしょうが!」

 

「ガビル様が破門なら、我々も破門されますよ!!」

 

「馬鹿者どもめ・・・・・」

 

そう言いつつも、ガビルの目にはうっすらと涙が浮かぼうとする。

 

だが、それは気合で吹き飛ばす。

 

「しょうがない奴らであるな!わかった。まとめて面倒を見てやろう!我輩に着いて来るがいい!!」

 

ガビルは、仲間たちと共に歩き出す。

 

ガビル達がリムルとジンと再会するのは、もうしばらく後の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同盟締結から3ヶ月が経過した。

 

俺はシズの墓がある丘から街を見下ろしながら、これまでの事に思いを馳せる。

 

名付けにより、豚頭族(オーク)は『猪頭族(ハイオーク)』へと進化し、その仕事ぶりと技術の吸収力はカイジンを唸らせるほどであり、彼曰く、「鍛えれば、ドワーフに劣らぬ技術を持てるかもしれん!」との事だ。

 

彼らのおかげで今まで滞っていた部分にも人手が入り、建物の建設などが進んでいる。

 

特にオークロードと同格の存在である猪人王(オークキング)へと進化したゲルドはよく働く。

 

むしろ働きすぎなぐらいで、この前も「いいから休め!」と、リムルに叱られていた。

 

進化した際に、彼はユニークスキル『美食者(ミタスモノ)』を獲得していた。

同族限定での『受容』と『供給』。そして配下の2千名と『胃袋』を共有できるらしい。

 

他には、ゴブリン達が一族郎党を引き連れてやって来て、俺とリムルの2人で全員に名付け終えた頃、ようやく町に住む者全員に家が行き渡った。

 

さらに水道も通した。こちらはリムルの前世の知識も役に立ち、上下水道も完備されている。

 

まだまだ成果が出ていない分野も多々あるが、とりあえずの体裁は整ったと言えるだろう。

 

今やこの地には1万を超える魔物たちが暮らしている。

 

 

ようやく俺達の安住の地・・・魔物の町が出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 




どうも、邪神イリスです。

ゲルド戦を投稿して2日も経たないうちにいきなりお気に入り登録者数などが増えたので内心すごくビビっておりました。
おかげさまで10万UAを突破。お気に入り登録者数1100人を突破。さらに評価バーがオレンジになりました!
しかも初のランキング入りで、2次創作日間ランキング84位!!
これも読んでくれている皆様のおかげです。本当にありがとうございます!!

もうニヤニヤが止まらず、映画を見たのも相乗効果となり、モチべが一気にアップして、張り切っちゃいました。


さて、まずはジンのアルファベット云々に関してなのですが。
モンハン世界でアルファベットってどうなんやろ?と、色々調べたのですがよく分からなかったので、自分達(現実世界のプレイヤー)からはDOWNなどはアルファベットして認識(翻訳こんにゃく的な)され、実際のモンハン世界では別の言葉になるんじゃね?という解釈になりました。
このあたりに関しては詳しい方がいたらぜひ教えてほしいです。

次回はいきなり次の章に入らずに、転スラ日記とかをベースに何か幕間的な感じのを出したいなーって思ってます。ガビル介入とかもその辺りでやるかも?
楽しみに待って頂けたら幸いです。



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同盟締結後
幕間1


 

スキル確認

 

 

 

大同盟締結から1週間が経った頃、俺とリムルは、新たに進化したスキルの効果の確認をしていた。

 

まず、リムルは豚頭魔王ゲルドを捕食した結果、『捕食者』と『飢餓者』が統合され、新たなユニークスキル『暴食者(グラトニー)』へと進化した。

元々『捕食者』が持っていた能力に『腐食*1、受容*2、供給*3』の三つの能力が加わり、『胃袋』の容量も大幅に増えたそうだ。

 

そして、いつの間にか俺の『狩猟者』にも能力が追加されていた。追加されたのは、『供給、物質再現』の2つだ。

 

まず、供給に関してだが、これの効果はゲルドとリムルが持っているのと同じ効果だ。

 

どうも、イビルジョーになって喰らいついていた時に魔素と『飢餓者』のスキルの一部を喰っていたようだ。

自分で言うのもなんだが、ヤツ(イビルジョー)の悪食っぷりには呆れてしまう。

 

次に、物質再現。これは、名前から想像出来るように、一度使用した物を再現出来るようになるというものだ。

 

この一度使用した物というのは、かつて俺が下位・上位ハンターだった頃に使っていたもので、G級ハンターになってから使った物は含まれていない。

試しに念じれば、閃光玉やシビレ罠、さらには回復薬なども作る事が出来た。

 

ただし、それらの素材を生み出すことは不可能だった。あくまで、狩りで使用したアイテム限定なのだろう。

 

これらのアイテムをこちらの世界の物で再現できないか、折を見てカイジン達と相談することにしたいと思う。

 

シビレ罠や閃光玉とかがあったら、魔獣狩りも楽になるだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガビルの来訪

 

 

 

 

同盟締結から1ヶ月が経過した。

 

俺とリムルの家も完成し、その日は2人でシオンとアワナミを連れて食堂へやって来たのだが・・・・・

 

そこには、思わぬ来訪者たちが来ていた。

 

「・・・・・・何をしているんだ?ガビル」

 

「おお!これはリムル様にジン様ではありませんか!」

 

そこには、ガビルが部下たちと共に食堂でホブゴブリン達に混ざって食事をとっていた。

 

「斬りますか?」

 

「姉さん!何故いきなりそうなるんですか!?」

 

真面目な顔でリムルに問いかけるシオンをアワナミが止める。

 

今の、許可さえもらえば本気で斬ってたな・・・・

 

「それで、何故ここにいるんだ?」

 

「実は・・・・・」

 

要約すると、どうもリザードマンの首領ことアビルに勘当され、他に行く当てもなかった為、ここに来たらしい。

 

「必ずお役に立って見せます!何卒!どうか我輩たちを配下に加えてくださいませ!」

 

うーん・・・・・まぁ、反省しているようだし、俺もリムルも別に構わないのだが・・・・

 

「なんで親衛隊長までここに?」

 

「あ、私は勘当された訳ではありませんよ」

 

リムルの問いかけに、親衛隊長は立ち上がって答える。

 

「リムル様から『アビル』の名を賜った父の統率は100年は揺るがないでしょう見聞を広めよと、私を送り出してくれたのです」

 

「えっ!?我輩を慕って付いて来たのでは・・っ」

 

「いえ、違います」

 

親衛隊長のその言葉に、ガビルはショックを受けているようだった。

 

「私、一応(・・)は兄上を尊敬しておりますよ。でも、それよりもソウエイ様に憧れておりまして・・・・・」

 

「お前は昔から生意気なのである!」

 

「兄上こそ、少しは自重を覚えてください!」

 

「なにを!?」

 

そのまま言い争いを始める二人。仲が良いのか悪いのか・・・・まぁ、喧嘩するほど仲が良いというやつなのだろう。

 

ということで、仲間にする以上名前が必要だろうとなり、ガビルの部下100名と親衛隊長及び彼女の従者4人に名付けを行った。

 

名付けを終え、皆が嬉しそうにする中、ガビルが羨ましそうに俺たちを見ていた。

 

「羨ましそうにするなよ。お前には『ガビル』という立派な名前があるだ・・ろっ!?」

 

「ちょっ!リムル!?」

 

すると、リムルの魔素が一気に消費され、そのまま低位活動状態(スリープモード)へと移行した。

 

どうやら、名付けは上書きが出来たらしい。すぐに調子に乗りそうだから厳しくする方針の筈だったのだが・・・まぁ、起こってしまったものは仕方がないだろう。

 

結果、ガビル達はランクの魔物である蜥蜴人(リザードマン)から、龍の翼と角、そして鱗を持つ『龍人族(ドラゴニュート)』へと進化した。

強靭な肉体を頑丈な龍鱗に覆われ、物理攻撃と魔法攻撃に耐性を持つ『多重結界』が常に張られているそうだ。

 

ガビルとその部下達は、リザードマンの頃と比べて角や翼以外に見た目の変化はなかったが、親衛隊長こと『蒼華(ソーカ)』とその従者である『東華(トーカ)』、『西華(サイカ)』、『南槍(ナンソウ)』、『北槍(ホクソウ)』の5人は人型に近い姿に進化した。

 

この5人はソウエイに預けて彼の配下となった。

 

角や翼などは収納できるため、将来的には人間の国での諜報活動なんかを期待されている。

 

ガビル達には、ヴェルドラが封印されていた洞窟の地底湖周辺に住んでもらい、現在は回復薬の原料であるヒポクテ草の栽培を任せてある。

まぁ、雑草をヒポクテ草と間違えて見せに来て、リムルから体当たりを喰らったりと、進化しても何処か抜けているのは変わりないが。

 

なお、魔物のランクで言えば、ガビルの部下達はBランク。ソーカの配下達は+Bランク。ソーカは-Aランク。そしてガビルは、Aランクと、魔物の強さとしてはかなり上位の存在だ。

 

そういえば、ドラゴニュートと俺の種族である真竜人は似てるようで別の存在だとか以前聞いてたな。

 

転生してからしばらく経った頃に『相棒』に聞いたのだが。曰く、真竜人とは、俺の持つスキルの使用を可能にするために新たに生まれた種族だとか・・・・・。

 

つまり、この世に真竜人は俺一人という事になる。

 

・・・・・・なんか寂しいが、リムル達が居るからそこまで苦ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

稽古

 

 

 

 

 

「ふっ、はっ、ぬんっ!」

 

「そうだ。この前のオーク達は『飢餓者』で理性が薄れていたからよかっただろうが、そういったフェイントも混ぜていくようにな」

 

「はい!ジン様!!」

 

現在、拙者ヒヨは、ジン様に稽古をつけて頂いていた。

 

ジン様とリムル様より与えられた拙者の役職『一番槍』とは、戦が起こった際、戦場で先頭に立って部隊を率いりつつ、敵陣へ攻撃を行う役目であり、兄上やジン様の指示によっては、退却する部隊の殿を務める事もある重要な役職だ。

 

その任務を遂行する為にも、日々鍛錬を怠らず、己を高める事が肝要で御座る。

 

「はっ!」

 

先程教わったばかりの足運びを駆使しながら、正面のジン様に肉薄し、一閃!

 

しかし、それは虚しく空を切る。

 

(くっ、やはり速い!!)

 

既に何度か打ち合っているのだが、その度に軽くあしらわれているのだ。

 

「そこで御座るっ!」

 

拙者の放った突きを、身を屈めて避けた瞬間を狙って、渾身の一撃を放つ。

 

だがその瞬間、ジン様の姿が消えっ───

 

「あいたぁっ!!」

 

いつの間にか背後に移動していたジン様が、持っていた木刀で拙者の頭を叩いた。

 

痛む頭を押さえ、拙者はその場にしゃがみ込む。

 

「はっはっは。惜しかったな。もう少しだったぞ」

 

「むぅ・・・・・・悔しいでござる」

 

ジン様はそう言うが、これまで拙者は一太刀も当てれていなかった。

 

里に居た頃よりも強くなったという実感はあるが、我らが双主の一人であるジン様は強い。

拙者たちが苦戦したオークディザスターも、リムル様との連携であっという間に倒してしまったほどだ。

 

「そういえば、ジン様。一つお聞きしたいことがあるので御座るが、良いでしょうか?」

 

「ん?別に構わんが、なんだ?」

 

「いえ・・・ジン様の教えはとても分かりやすく丁寧なので、もしかして、以前にも、誰かに教えを授けられた事があるのかと思いまして」

 

そうなのだ。

 

拙者はジン様の動きを見ていて気付いたのだが、戦い方を教えるのに慣れているというか、そんな感じがしたので御座る。

 

それに、動きにも無駄がない。拙者たちと初めて会った際に交戦した時もから感じていた。まるで、ずっと前から修練を積んできたかのような・・・・・・

 

「あー、確かにな・・・・・」

 

すると、ジン様は空を見上げ、呟かれた。

 

「昔、2人ほど教え子がいてな。一人は、教えれた期間こそ短かったが、飲み込みが早くて優秀な弟子だったよ。もう一人は、そこそこ長く教えれてな。その子も中々の才能を持っていた」

 

「おお!それで、今そのお二人は何処に?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ジン様・・・?」

 

ジン様はどこか遠くを眺めるような目つきで、暫く沈黙された。

 

「今は・・・もう会えないかな・・・・・

 死んだわけじゃないんだが、ここから会いに行けないほど遠い場所にいるんだ」

 

懐かしそうな表情を浮かべるジン様。

 

その瞳には、哀愁の色が見えるような気がする。

 

「ふむ。少し休憩するか。飲み物を取ってくるから待っていろ」

 

そう言って、ジン様はその場を離れられた。

 

拙者は、何か悪い事を聞いてしまったのではないかと心配していると、不意に声をかけられる。

 

「あら、ヒヨ」

 

「アワナミ・・・」

 

そこに立っていたのは、アワナミであった。

 

「そろそろお昼だからジン様を探しに来たんだけど、貴女一人?ジン様は?」

 

「ああ、飲み物を取りに行ってくださってるで御座る・・・・」

 

「・・・・何だか落ち込んでるようだけど、どうしたの?」

 

「いや・・・実はジン様に失礼な事を聞いてしまったのではないかと・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒヨから聞いた話は、ジン様にかつての教え子について聞いてみたら、少し暗い顔をされてしまったというものであり、その事にショックを受けていたようだ。

 

彼女は良くも悪くも純粋だ。些細な事でも不安になってしまう事が時たま起こる。

 

(まぁ、私もヒヨと同じ立場ならそうなるかもね)

 

名を与えてくれた主を失望させてしまったのではないかと思えば、不安にもなるだろう。

 

私はそう思いながらも、ヒヨに慰めの言葉をかける。

 

「大丈夫よ。きっと気にしてないわ。

 だって、その教え子の方達は死んだわけじゃなくて、今は会いにいけない場所にいるんでしょ?つまり、何かきっかけがあれば会えるのかもだし、そう悲観する事もないと思うけど」

 

「そうだろうか・・・」

 

「そうよ」

 

私達はゲルミュッドが手引きしたオークの襲撃によって、多くの仲間を失った。

 

だけど、まだ私達以外にも生き残りがいる可能性はある。

 

特にその可能性が高いのは、私、姉さん、ベニマル、シュナ様、ヒヨ、ソウエイの6人にとっての兄貴分のような人だ。

 

彼はオークによる侵略の少し前、出稼ぎの為に傭兵として数人の仲間と共に雇われていった。

何処に雇われたのかはわからないが、オーク襲撃の際には里に帰って来て居なかったことから、今も生きている可能性は高い。

 

それと同じだ。

 

死んだと決まった訳じゃないのだ。

 

会えないと思って絶望するよりも、少しでも希望を見出す。

 

この数ヶ月で、ジン様を見てきた私だが、あの方はそういうお方なのだと思う。

 

まあ、それはともかく。

 

「ほら、元気出しなさい。そんなんじゃ、稽古に集中出来ないでしょ?」

 

「うむ・・・そうだな。ありがとうで御座る。少し楽になった」

 

「どういたしまして。でも、私も貴方の立場なら、同じ気持ちになるかもしれないから」

 

「ふっ。確かに、それもそうであるな」

 

「でしょ?お互い頑張りましょう」

 

私が笑いかけると、彼女も笑顔を返してくれた。

 

ふと、遠くを見ると、こちらにジン様が歩いて来ているのが見えた。

 

「おーい、ヒヨ。休憩は終わりにして、続きを始めるぞ!」

 

「承知!すぐに行きますで御座るよ!!」

 

ヒヨが駆け出すと、ジン様は満足そうに微笑んでいた。

 

お互いに気晴らしになるだろうし、あともう一試合終えてから、昼食だという事を伝えよう。

 

こうして、今日もまた、私達の一日は過ぎて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
無機物なら腐食、生物なら腐敗させる腐食効果の付与。魔物の一部を吸収した際に能力の一部を獲得可能。

*2
己の影響下にある魔物の得た能力を獲得可能。

*3
影響下にあるか、もしくは魂の繋がりのある魔物に対して能力の一部を授与出来る




明けましておめでとうございます。
どうも、邪神イリスです。

ということで、今年最初の投稿は幕間でございます。
かなり短めですが、急いで執筆したから許してくだされ・・・・・・

とりあえず、幕間をもう一つやったら次章に突入です。

相変わらずの不定期亀更新ですが、今年もどうぞよろしくお願いします。

他の作品たちも頑張って書いていく所存です。


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幕間2

 

 

 

お盆

 

 

 

 

 

 

 

月日が経つのは早いもので、大同盟締結から、半年が経過していた。

 

この期間では色々なことをしたな。

 

まず、春には「森の恵みに頼り過ぎず、自分達が喰う分くらいは自分達で賄うべきだ」

というリムルの呼びかけにより、畑づくりとリムルが発見した米作りの為の水田づくりを行った。

 

種を植える場所はドライアドであるトレイニーさんに協力してもらい、植物にとっての栄養が多い場所を見繕ってもらった。

 

大人だけでなく、子供の魔物たちも参加し、皆で楽しく作業しており、俺は作業中に、生前に出会ったユクモ村のモンスターハンターの彼も、土地の一部を譲ってもらって依頼がない時は畑仕事をしていた事を思い出した。

 

特にゲルドは飢饉を体験したことがあったからか、熱心に働いていた。

 

だが、残念ながらその後の夏の日差しと上手く土に馴染めなかったのか、数株を残して枯れてしまった。

 

しかし、諦めずに試行錯誤を繰り返した結果、何とか復活させる事に成功し、現在は三つ目の農場を開墾中だ。

 

他には、リムルの世界で行なわれていた『七夕祭り』などの祭りも二回ほど行った。

 

特に夏祭りは以前ユクモ村で行われた祭りを彷彿とさせて中々楽しかったと思う。

 

ゲルドが的当てで玉を外したゴブリンの子供に内緒で一回おまけをしてあげたりする優しい一面を見つけたり、ランガたちが花火が苦手だとわかったりもしたな。あのエンカが花火の音を聞いた瞬間、びっくりしてこっちに突っ込んできたからな。恥ずかしかったのか、すぐに離れたけど。

 

あと、ヒヨが目をキラキラさせてアワナミを引っ張って色々と遊びまわっていたな。

リムル考案の食べ物もどれも美味かった。

 

一番夏祭りで面白かったのは、ハクロウとゴブタがやっていた金魚すくいだな。

子どもたちには普通の小さな金魚をすくわせていたのだが、大人向けの金魚型の魔魚をすくうのは指を喰われるかどうかのスリルがあってよかったな。

 

最終的にはポイの持ち手で眉間を突いて動きを止めたところを仕留めた。

 

ヒヨやゴブタの修行をしていない時などは、よくハクロウと一緒に釣りに行ったりもする。

この前の釣りでは、あのゴブタがハクロウの目を欺いたりしてたな。

 

成長に合わせて、翌日からあいつの修行の量を倍にしたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日、今日はベニマルと2人で部隊の編成の見直しを行っている。

 

「ジン様は、軍の指揮を行ったことがあるのですよね?」

 

「ああ。と言っても、数回程度だがな」

 

開拓地に行った時のラヴィエンテ討伐戦の指揮も大変だったが、一番大変だったのはラオシャンロンとシェンガオレンの同時進行だな。

 

二匹が争ってくれれば楽だったんだが、あいつら一直線に砦を目掛けて進んで来たんだよな。

 

「それでも構いません。それで、軍を率いる際の注意すべき点などを聞けたらなと思いまして」

 

「そういえば、お前は本格的な指揮したりするのはオーク軍との戦いが初めてだったな」

 

俺がそう言うと、ベニマルは苦笑しながら肯定する。

 

「ええ。ですので、勝手がわからなくて困っているんですよ」

 

「・・・・わかった。俺の個人的な考えで良ければ話してやる」

 

「ありがとうございます!」

 

結局、俺とベニマルは日が暮れるまで一緒に部隊の指揮などについて話し合う事になったのであった。

 

途中からベニマルの愚痴を聞くだけになっていた気がするが、アイツも吐き出せるときにはそうした方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くあぁぁ・・・・っ」

 

そして、夜。

 

話を切り上げた後、俺は新たに完成した大浴場に浸かり、のんびりと寛いでいた。

 

この大浴場は、リムルが陣頭指揮を取って作ったものだ。

 

熱が逃げない性質を持つ影空間を利用して、リムルとソウエイが『影移動』を使って配管作業を行う事で遠くの火山地帯から温泉を引っ張ってきて完成させたのだ。

 

これにより、温度調節の必要もないので、常に快適な温度の温泉に入浴出来るようになった。

 

因みに、俺とリムルの家にも、それぞれ個人用の風呂が設置してある。

 

大浴場はカイジン達の頑張りのおかげで十数人が同時に入れる広さがあり、それぞれ女性用と男性用。そしてどちらも入れる混浴となっている。

 

そもそも俺は温泉と言われたらユクモ村やセリエナの温泉のイメージが強く、普通は男と女で別れて入るとリムルから聞いたときは少しだけ驚いたし、リムルも俺が混浴を作ろうと言った事に驚いていたな。

 

まぁ、さすがに裸ではなく、ユアミシリーズをモデルにした湯着を着て入ると説明したら、納得してくれたけど。

 

こっちには、主にヒヨとアワナミなど、俺と話をしたいという奴らがよく来る。

 

後、この混浴の場だけは俺が指揮を執り、ユクモ村の温泉と同じような造りになっている。

 

・・・・・未練はないつもりだったが、こうしてこっちの世界で過ごしていると、色々と思い出すことがある。

 

特にアスカには悪いことをした・・・・新大陸での任務が終わったら、色々と話をするって約束を果たせなかったな。

ハヤトも大丈夫だろうか?噂では、百竜夜行の兆候が見られると聞いていたから、新大陸から戻り次第、アスカや団長たちと一緒に応援に向かうつもりだったからな。

 

・・・・・・・だが、俺たちの次の世代の若いハンター達も成長しつつあった。きっと、彼ら彼女らならば、どんなモンスターが相手でも乗り越えられると信じよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、今日はなんだっけ。第一次都市計画完了兼、大浴場開設兼、第三農場開墾兼、クロベエ鍛冶工房新設兼、ヒポクテ草ノルマ達成兼、第六回ゴブリン邂逅祭その他諸々の記念で・・・・・

 まぁ、とにかく乾杯だ!」

 

「「「かんぱーい!!」」」

 

リムルの音頭で、宴会が始まる。

 

この町の魔物たちはとにかく宴が好きだ。

だが、そう何度もやっていては流石にキリがないので、こうして定期的にまとめて祝う事としている。

 

みんなでワイワイと酒を飲みながら、俺は、会場の端でこちらを見守る黒髪を視界の端に入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴を終え、夜も更けた頃。

俺は街を一望できる丘へと来ていた。

 

月明かりの下、樹の根元にある『彼女』の墓の前に座り、しばらく眼下に広がる町並みを眺めていると、背後に気配を感じ、口を開く。

 

「『お盆』だったか?リムルの世界の文化で、夏の一時期、死んだ者や先祖の霊が戻ってくる時期・・・だそうだな」

 

そう言いながら、振り向く。

 

そこには、俺とリムルと初めて会った時の『彼女』の姿があった。

 

「久しぶりだな。シズ」

 

「・・・見えていたんですね、ジンさん」

 

少しばかり半透明な姿で立っていたのは、俺とリムルが看取ったシズエ=イザワだった。

 

「ああ。なんとなくだけどな。お前さんが来てるのはわかっていたよ」

 

俺がそう言うと、彼女は嬉しさ半分。寂しさ半分といった表情を浮かべる。

 

「リムルとは会って来たのか?」

 

「うん。さすがにスライムさんは私には気づいていなかったけど、元気そうで安心しました」

 

「・・・あいつは、お前さんの事をずっと気にしていたぞ」

 

「知ってます。私自身、ちょっと気になっていましたから、お母さんにちょっと出かけてくるって言って、やってきちゃいました」

 

「そうか。その様子だと、死んだ母親とは会えたんだな」

 

「はい。・・・・・あれ?私、スライムさんとジンさんに母の事を話しましたっけ?」

 

「お前を取り込んだ後に、僅かに読み取れた記憶で見たらしいぞ。それ以外では、『彼ら』に関するものが僅かに見えただけらしいが」

 

「そうだったんですね・・・・・」

 

俺がそういうと、シズは微笑みを浮かべて、俺の隣に腰掛けた。

 

しばらく、2人で街を眺めていると、ふと、彼女を見て思い出し、俺は彼女に問いかけた。

 

「なあ、シズ。一つ聞いていいか?」

 

俺の言葉に、シズは小さく首肯する。

 

それを確認した後、俺は質問を口にした。

 

「お前が付けていたあの仮面・・・・あれ、誰かからの貰い物だったりしないか?」

 

俺の問いに、シズの瞳が揺れ動く。

 

どうやら、俺の予想は当たっているようだ。

 

「・・・知っているのですか?あの人を・・・・・」

 

「お前さんの言う『あの人』ってのが俺が知っているのと同一人物は分からんが・・・・・

 シズと初めて会った時は町の開拓などに気を取られて忘れてたんだがな。あの仮面に見覚えがあるんだよ。前の世界でな」

 

俺がそう答えると、シズは俯き、膝の上で両手を握り締めている。

 

「俺がその仮面の持ち主と知り合ったのは、俺が元いた世界。そこでの出来事だ。異世界から迷い込んだって言ってたアイツは、最終的に俺たちが協力して元の世界に戻っていったんだが、その時に着けてたんだよ。あの『抗魔の仮面』を」

 

あれは俺達が『渡りの凍て地』を発見する前・・・・・歴戦王のクシャルダオラの討伐をしていた時だったんだよな。

 

さあ狩るぞ!と思ったら、見たことない奴が襲われていたから驚いたもんだ。

 

「・・・・あの仮面は私の恩人から貰ったもの。あの仮面のおかげで、あの時までイフリートを抑える事が出来たんです」

 

「そうか・・・・・」

 

そのままお互いに無言になる。

 

だが、それは決して居心地の悪いものではなかった。

 

やがて、山の向こうから朝日が顔を出し始める。

 

それと同時に、シズの身体が薄くなり始めた。

 

もう時間切れのようだ。

 

「そろそろ帰るみたいだな」

 

「はい。色々とありがとうございました」

 

「気にするな。俺も久々にお前に会えて楽しかった」

 

俺がそう言うと、シズは少しだけ寂しそうな顔をした後、何かを思い出したように口を開いた。

 

「あの子たちの事、よろしくお願いします」

 

「・・・・あぁ。機会が出来たら、必ずリムルと行って来る」

 

俺がそう言うと、シズは優しく微笑んで消えていった。

 

その後、町に戻った俺は、今日は休む事にして眠りについた。

 

次は何をしようかと考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書いていたらいつの間にかシズさんがヒロインしてました。どうも、邪神イリスです。

兎にも角にも、いよいよ次話から新章へと入ります。

今後出てくることのない設定ですが、ユクモ村のモンスターハンターに関しては、MHP3の主人公という設定です。ポッケ村のハンターと違って会ってそうなので。

あと、シズの記憶云々も自分の妄想です。アニメの描写で母親と再会していたから、お盆の際になんかそんなやり取りでもしたのかなーって思ったので。


それと、感想欄で「こうした方がカッコイイ」などのご意見を頂けました。本当にありがたいです。

今後も何か文章で疑問があった点がありましたら、教えてほしいです。
こちらでも気を付けていますが、見落としがある場合もあるので、その都度修正していきたいと思います。











おまけ


現時点でのジンのステータスです。知りたいという方もいるかと思うので、ここで公開しておきます。






名前:ジン=テンペスト

年齢:享年50歳(現在は若返って、23歳ぐらいの頃の姿になっている)

性別:男性

種族:真竜人

加護:暴風の紋章、???

称号:魔物を統べるもの、???

魔法:なし

ユニークスキル:『相棒』、『狩猟者』、『竜戦士』

エクストラスキル:『剛力』、『身体強化』、『超嗅覚』

コモンスキル:『威圧』、『思念伝達』

耐性:痛覚無効、腐食無効、捕食耐性、その他『竜戦士』で装備する防具及び変身するモンスターによって変動





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