「  」の兄であり、テトの兄 (主義)
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始まり


簡単に言うと時系列はこんな感じです。

ディスボード→現世→ディスボートという感じです。


「兄貴は相変わらずだな」

 

「すこしは手加減してくれてもいい」

 

 

「お前らは手加減されるのが一番嫌いだろ。事実、一度だけ手を抜いたらすぐにそれを見抜いてお前ら二人とも怒ってたはずだ。だから手を抜かないでやっているんだ」

 

 

「でも....まさか一度も勝てねぇとはな」

 

 

「俺はお前らのやり方や攻め方を知っているからな。それの対処方法さえすればお前らに勝つのはそんなに難しい事ではない。だが、確かにお前らは凄い。単体じゃ相手にもならんが二人揃えば俺とも互角に戦えるんだからな」

 

 

「褒めてくれるのは嬉しいけどよ...互角は間違ってるぜ。それなら俺たちが百戦して一回も勝てねぇなんて事はねぇからな」

 

 

「もう...数えきれない..ぐらい今まで..戦った。....だけど一度の..勝利も無し」

 

白は少し少し吐き捨てるように俺に向かって言った。

 

 

「いつかは勝てるさ........その時がなるべく早くなる事を願っている。俺は明日も早いからそろそろ自室で寝る」

俺はチェス盤をそのままにして立ち上がって出て行こうとすると何故か足を誰かに掴まれた。俺は何だと思って足元を見てみるとそこには....大きな手と小さな手が俺の足を掴んでいた。

 

 

「何だ?お前ら、俺は仕事が明日もあるんだ。あまり夜遅く寝るわけにはいかない」

時計を見ると今はもう日にちを跨いでいた。いつもは絶対に日にちが変わる前に寝るのが普通だが....こいつらに捕まると長い間、拘束される。

もうこれ以上付き合っていたら朝日が昇ってくる可能性もないわけではないからな。さすがに寝ないで会社に行くのはかなり辛い。

 

 

「...勝ち逃げ....許さない...」

 

 

「兄貴、あと一回だけで良いから付き合ってくれねぇ?あと一回だけだから」

 

一試合に掛かる時間は場合もよるがかなり掛かる。お互いにお互いを読み合っていると時間は掛かる。

 

 

「.....仕方ない。本当にあと一回だけだからな」

 

 

「うん!」

 

 

「恩に着るぜ!」

 

 

 

 

その後、言わなくても分かるだろうが...朝日が昇るまで試合は続き俺は寝ずに会社に行く羽目になってしまった。まあ、勿論、試合には勝ったがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから16時間後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺には弟が一人、妹が一人いる。その弟と妹はかなり手のかかる奴らで弟は働かず妹は学校に行ってない。まあ、簡単に言えばニートだ。

 

 

 

そして俺はそいつら二人とひとつ屋根の下で暮らしている。あいつらは放っておくと色々な意味で死ぬだろうから仕方なく世話をしている。

 

 

彼らは暇さえあればと言うか…………ほぼ毎日、パソコンの前から動くことはない。唯一、お風呂を入る時だけは動くがそれも二日に一回か三日に一回だ。

 

かなり心配にはなる時もあるがあいつらは自分が自分らしく生きるためにあの道に決めたんだろう。妹は天才が故に世間の基準に合わずはじき出されてしまった。兄は人の顔色を窺い良い顔をしていたがそれを妹に見抜かれそれからは妹に憧れ共に生きる事を誓った。

そんな二人が俺の弟と妹だ。

 

 

 

 

話は変わるが俺には前世の記憶のようなものがある。こんな事を信じないとは思うがな。俺は神様の一人だった。そしてその世界でも俺には...弟が居た。笑う時の顔がとても可愛らしくて女の子にも見えてしまうぐらいの弟が...。今では顔もうろ覚えになってしまったが可愛かったのは憶えている。

 

 

 

あいつは幸せに生きているんだろうか......。あいつの将来をあの世界の行く末を見る事が出来なかった。

 

 

 

まあ、俺の弟なんだから適当に楽しんで生きているんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を考えたりしながら俺は今日も家に帰宅をする。ドアを開け、相変わらず薄暗い部屋に疑問を抱く事も無く俺は自分の部屋に直行した。着ていたスーツをベッドに投げ俺はパソコンを立ち上げいつものようにソファに腰を下ろした。

 

それからはパソコンでチェスをしたり仕事をしたりしているとあっという間に時間は経ってしまうものでもう朝の7時だ。帰宅してきたのが22時ぐらいだった気がするから。軽く見積もっても9時間もパソコンをいじっているか。

それじゃあ、目も痛くなってくるはずだな。

 

幸い今日は....仕事が休みだ。もう少しパソコンをして寝るとするかと思い...次は将棋かオセロどっちにしようか悩んでいるとパソコンからメールの受信音が聞こえた。

 

何だと思ってメッセージを開いて見るとそこには.......こう書き記されていた。

 

『暇だったら勝負をしないかい?』

 

メッセージに書き記されていたのはこれだけだった。相手のメールアドレスには覚えがなく何でか俺のメールアドレスを相手は知っている。これはどういうことだ。俺は世界にメールアドレスを公開した覚えがないが。

 

 

俺は少し考えた末に返答の答えを決めた。

キーボードを手慣れた手つき打ち、相手のメールアドレスに送った。すると1分もしないうちにまた、同じメールアドレスから送られてきていた。

 

 

メールを開くとそこにURLが貼られていた。俺は何一つ躊躇する事なくそのURLクリックした。

 

クリックするとその先にあったのは....あるゲームサイトだった。そしてどうやらチェスで戦いたいようだな。

寝る時間もあるから俺は早く終わらせるためにチェスに取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..疲れた」

 

別に勝つのは難しくなかった。じゃあ、何に疲れたかというとそれは.......相手の負けず嫌いにだ。もうこれで通算30戦目だ。そろそろ諦めて欲しいし俺としてもこれ以上は疲れで死にそうだ。

俺はそう考えメッセージに『もう止めにしないか』と打ち、送った。

 

ここまで執念深い奴とは思わなかった。弟や妹もかなりの負けず嫌いだがそれすらも圧倒するぐらいこの相手は負けず嫌いだな。まあ、負けず嫌いな奴は嫌いではないが...限度がある。今日は休みだが予定は入っている。まあ、休みと言っても休みではないな。

一つ救いになるとしたらそれは....今日の予定が...午後5時くらいだと言うことだな。

 

 

少し経つと相手から返答のメッセージがきた。

『君は強いね。僕がこんなに負ける何て予想もしなかったよ。

 

君はこの世界が生きやすいと思うかい?』

最後にはそんな質問が書かれていた。俺はこの質問をすぐには答える返答を思いつく事が出来なかった。俺に取って生きやすいとは一体何なんだ?俺は弟や妹が幸せに暮らせているところを見たい。俺にとって生きやすいとは弟や妹が生きやすい世界なのかもしれない。あいつらが俺の全てであり、あいつらがいるから俺は存在している。

だとしたら返答のメッセージは決まった。

 

 

 

 

返答のメッセージを送信し俺は天井を見上げながら色々と考えていると何故かパソコン全体が砂嵐になった。どうなっているんだと驚いているとなぜかパソコンの中から声が聞こえだしてきた。

 

 

「君はやっぱりここにいるべき人間じゃない。君は僕たちの方にいるべきだ」

 

 

パソコン内から何も操作をしていないのに声が聞こえだしたと思ったら次は人間の手なのか分からないが手らしくものふが出てきた。俺はついに寝不足で幻覚が見えるまでになってしまったのか。と考えているとその手が俺の方まで伸びてきていた。

 

そして何故かそこで俺は意識が途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次、目覚めた時には何故か俺はある椅子に座らせられていた。目を開けると目の前には....女子なのか男子なのか分からない人物が俺と向かい側の椅子に腰を下ろしていた。

前に座っているのは....昔の俺の弟の....テトだった。

 

「....君と会うのは久しぶりだね.....兄さん」

まさか、もう一度こいつに会うとはな。

 

 

「すまなかった」

 

 

「何で謝るんだい?」

 

 

「お前との約束を守れなかった」

 

 

「......その事については怒らないよ」

 

 

テトは少し悲しそうな顔をしながら言っていた。テトのこんな顔を見たのは....初めてだな。

 

「..だって兄さんは....今、15種族のどの種族でも最高の英雄として語り継がれているんだよ。そこまでの事をした兄さんを責める事は出来ないよ」

 

 

「そうか.....そんな感じで伝わっているのか.......。俺は別に英雄になるために戦っているわけでは無かった」

 

 

「それでも兄さんに救ってもらった事を.....皆が感謝していると言うことなんだろうね」

 

 

「そうなのか....、まあ、それそれでお前はどうだったんだ?」

 

 

「どうだってって?」

 

 

「今も戦争が続いているんだとしたらさすがにお前も只ではすまないだろう」

 

 

それからしばらくの間、沈黙が続いた。

 

 

 

 

「ははははははは.......」

 

何故か急にテトは腹を抱えて笑い出した。何かおかしい事を俺は言ったのか。そう思い俺は笑い転げそうになっているテトに問うた。

 

 

「何かおかしい事を俺は言ったか?」

 

 

「いや、おかしくないよ....只、この世界は変わったんだよ。争いを行うにしてもそれは全部これで決まるようになったんだよ」

テトは目の前にあるチェス盤を指差しながら言った。チェス盤.....で争う。

 

 

「どういうことだ?」

 

 

「だから....今、この世界は暴力では無くゲームで全てが決まるようになったんだよ。昔、僕と兄さんが良くそれで決めていたようにね」

昔は確かに...何か意見が食い違った時にゲームで決めていた。だが、まさかそれが今この、世界でも実装されているとはな。

 

 

「....そうか。争いも無くなったか.....」

まさか....俺が望んでいた事を誰かが成し遂げてくれようとは。俺がやった事も無駄じゃなかったかもな。

 

 

「僕が最終的に十の盟約を作って争いを無くしたけどそれまでの仮定を行ったのは....人間(イマニティ)機凱種(エクスマキナ)だったよ。あの時代に多種族が手を取り合う何て兄さん以外に実践できる人がいるとは思わなかったよ」

 

 

俺のようにやった奴.....いや、多分俺とは違うだろうな。俺のように動く奴が居たとしたら...そいつは多分、不幸になるだろうからな。

 

 

 

「居たか。あの悲惨な歴史に幕を落とす覚悟、自分の命と引き換えにしてでも良い覚悟、それを持ってあの歴史に幕を落としたものが........」

 

 

 

それから長い沈黙が流れそれを壊したのはテトの声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う、違う、そんな話をするためにここに呼んだわけじゃないんだよ。僕とゲームをしようよ!」

さっきまでの瞳と違ってテトの瞳は光り輝き希望に満ちている。この瞳を見るのは一体いつ以来だろう。

 

そうだ.....俺はこいつのこの瞳を...守るために戦ったんだったな。道半ばで死んでしまったがこんな風に昔のようにテトと遊ぶことを...夢見ていたんだった。

 

 

 

 

「そうだな....やるか。どれだけ強くなったのか見せて貰おうか」

 



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対話

テトとの勝負は思ったよりも楽しくて...もう何戦目なのか憶えていない。時が経つのさえ忘れてしまっていた。

 

 

「...強くなったがまだ俺には勝てないな」

 

 

俺は前に座っているテトの方を見据えながら言った。テトはチェスが始まったからずっと笑顔を絶やしていない。ここまで笑顔でこちらを見られると少し気味が悪かったりするがそれを決して本人には言えないな。

 

 

「確かに強いね。ゲームの強さはやっぱり相変わらずだね。唯一神の僕でさえ勝てない唯一が兄さんだからね。昔も僕が兄さんに勝てた事は一度も無かったからね。もしかしたら今回は勝てると思ったんだどな~」

テトは上空を見上げている。

 

 

俺はそこである違和感に気づいた。こんな....場所があったか。最初は疑問に思う事は無かったがこんな場所は俺が前に生きていた時には無かったはずだ。それにさっきテトは自分の事を『唯一神』と言った。

 

 

「お前は唯一神なのか?」

 

 

「そうだよ。そう言えば、教えていなかったね」

 

 

「....そうか。それでこの場所を作ったのはお前か?」

 

 

「そうだよ。僕が退屈にならないように僕は...大戦を生き残った16種族にチェスの駒を1種族に付き一個の駒を渡してる。所謂、種の駒。兄さんならここまで言えば分かるんじゃないかな?」

 

 

分かるだろうと言う顔をされてもな.....16種族に駒を一つ.....チェス....そして種の駒.......そう言うことか。

 

 

「...予測だが....誰かは知らないか誰か種の駒を集めるもしくは種の駒を持ち寄り...テトに挑戦すると言ったところか。挑戦.....いや、唯一神の座を掛ける戦いを行うために必要な条件と言った方が正しいかもしれないな。そのゲームが行われるのがこの場所と言ったところか」

 

 

遊び心という範疇を超えてはいるが....面白い。唯一神の座さえゲームで決まると言う事だ。それは16種族の中の誰かが唯一神になりたいと思えば...なれないわけではない。つまりこの世界に生きる全員に唯一神になるチャンスは転がっているということだ。

 

 

「お前がこれを考えたんだろう?」

 

 

「うん!」

 

 

「相変わらず、面白い事を考えるな。それでお前のところまで誰かが来るとは思うか?」

 

 

「....来るよ。...君の兄弟がね」

 

 

「兄弟.....って事はあいつらもこっちに来ているのか!??」

 

 

俺は今まで俺一人だけがこっちの世界に来たと勝手に思い込んでいたが.......確かにこいつは今まで俺だけを呼んだとは一言も言っていなかった。

 

 

「うん!そうだよ!だって兄さんとあそこまでやりあえる何てどう考えてもこっちの世界にいるべき人間だよ」

 

確かにあいつらのゲームの腕に関して言えば尋常じゃない。あいつらの敵になる奴が言えばそれは多分……………異世界にいる奴らだろう。少なくともあの世界にあいつらの相手になる奴はいないな。

 

 

「…………まあ、そこら辺に関して否定はしないがいくらゲームが強いからと言って本人の同意もなくやって良いことではないだろう」

 

あいつらがあの世界を壊滅的に好いていないのは明らかだったがそれでも……………生まれ育ったあの世界に未練が一つもないとは限らない。

 

 

「………大丈夫!僕らはメッセージであの子達にこう尋ねたんだ。「君たちは生まれる世界を間違ったとは思わないか?」その時の二人の返答はその問いに対して肯定的な言葉であったから」

 

 

まあ、あいつらなら肯定的な返信をするだろうな。だってその問いに肯定的な返事をしたからたと言って異世界に飛ばされるとは思わないだろうからな。

 

 

「………………であいつらは今、どこにいるんだ?」

 

 

「多分、エルキアに向かっているんじゃないかな。あの場所からならそれが一番近いだろうし……彼らはこの世界で言う人間(イマニティ)の部類に入る。だとしたらエルキアに向かうのは得策だろうし。それにあの場所から他国家に行くにはかなり歩く必要があるからね」

 

 

「エルキア…………?」

 

 

「あ、そうだったね。兄さんは大戦が終わってからの事を何も知らないんだったね。まず、どこから説明しようかな………それじゃあ、僕が盟約を作った辺りからしようかな」

 

 

 

それから一時間ぐらいこの世界についての説明をしてくれた。どうやら俺が居た頃とかなり変わったようで争いで暴力が行われる事は本当にないらしいな。

 

 

「...皆、幸せになれる世界になったんだな」

 

 

「そうだね。誰も争いで死なない世界になったんだよ。兄さんのような犠牲者や大戦の犠牲者が出ないようにね」

 

 

「同じ過ちを繰り返す事がないように...切に願うよ」

 

 

「それで兄さんに二つお願いがある」

 

 

「お願い?」

 

 

「うん!一つ目、誰かが16種族を全部まとめてここまで来たときは...僕と兄さんで迎え撃つ」

 

 

「俺とお前?いや、お前だけで良いだろう」

 

 

「ううん。それじゃダメ。だって僕は兄さんが近くに居てこそ本領を発揮出来るんだから。それに僕たちは兄弟だ。「  」と同じで僕たちも二人で一人なんだから」

 

 

二人で一人か..........良い響きだな。

 

 

「そして二つ目、兄さんは絶対に....人間...いや、どの種族の味方にもならないで欲しいんだ」

 

味方になるなと言うことか...って事は俺が関わると何か面倒な事が起こるという事か。どういうことだ。

「何でだ?」

 

 

「それは...兄さんの影響力が強すぎるからだよ」

 

 

「影響力?」

 

 

「そう。君が一度生きていると分かって...これは仮定だけど人間(イマニティ)の味方をしたとするとそれが他の種族に分かれば...確実に他の種族は人間(イマニティ)の味方をする。これじゃゲームがつまらないよ。僕は16種族が何の影響もされずに統一されて僕に挑みにくるのを楽しみにしているんだから」

 

 

俺にそんな影響力があるとは到底思えないけどな。それにそんな影響力があるのなら()()()にあんな苦労をする事はなかっただろうからな。

 

 

「今、自分にそんな影響力が無いだろうとか思ってるでしょ」

 

 

「顔に出てたか?」

 

 

「うん!それに兄さんは何年経っても癖は変わらないね。何か考え事をしている時に眉間に人差し指を当てる癖があるんだよ」

 

そうなのか。俺に癖なんかあるんだな。今の今まで気付く事が無かった。

 

 

「兄さんは気付いていないんだよ....いや、来たばっかだったから分からないのかもしれないけど..この世界で兄さんは英雄としてどの種族でも語り継がれている。それぐらい兄さんは凄かった。そして16種族の中でも森精種(エルフ)天翼種(フリューゲル)吸血種(ダンピール)海棲種(セーレーン)は兄さんへの忠誠が強い」

 

 

「何でそんな事が分かるんだ。それはお前の勘違いと言う可能性だってあるだろ」

 

 

「いや、ないね。断言出来るよ。絶対にその4種族は兄さんへの忠誠が強い」

 

 

「じゃあ、聞くが何でそう思うんだ?そう言い切るからには何か根拠があるんだろ」

 

 

「うん。あるよ。兄さんの死後、この4種族は荒れたんだ。兄さんを殺したのが誰なのか突き止めるのに一番力を入れたと言っても良いと思うよ。血眼になってどの一族が兄さんを殺したのか突き止めようとしていたよ。まあ、見つけるために何万..いや、何十万という命を犠牲にしていたけどね」

 

俺の死後の事を俺が知っているわけも無いからテトから聞く話を全部信じるとすると...その4種族は何故か俺を殺したのが誰なのか捜索に力を入れたと言うことか。

だが、その4種族に特に思入れがあるわけではないがな。それにどうやらあいつらは約束を守る事がさっきの話を聞く限り出来なかったらしいな。

 

 

「...そうか....俺が死んでからそんな事になったか...」

 

 

「うん....それほど兄さんの存在は大きかったんだと思うよ。だから今回はどこか一つの種族に味方だけはしないで欲しい。お願い!」

 

テトは俺の前で両手を合わせてお願いをしてきた。

 

 

「...分かった。介入しない方が良いなら介入はしない...空と白が心配ではあるが...たまにお忍びで行けば良いか。あの二人ならこの世界をうまく渡っていく事が出来るだろうしな」

 

 

「それで兄さんはこれからどうするの?」

テトは真っすぐ俺の方を見ながら聞いてきた。

 

「どうするって?」

 

 

「..この後、どうするのかだよ。ここにずっと居ても良いけど、どうせ兄さんの事だから久しぶりに色々なところを見て回りたいんじゃない?」

 

もう変わっているだろうからな。この世界の行く末を見れなかった俺としては大戦が終結して一体どの程度変わったのか見てみたいな。

 

 

「そうだな...俺が居ない間でどのくらいこの世界は変化を遂げたのか。興味がないと言えば嘘になるな」

 

正確に俺が死んでから何年経っているのかは知らないが...かなりの年月は絶対に経っている。どの世界でも百年ぐらい経てばかなりの変化を遂げるものだ。だとしたらこの世界の俺が知っている知識は一度リセットした方が良いかもな。テトから教えられた知識も前に俺が生きていたものとは大きく違ったしな。

 

でも、口頭で聞くよりやっぱりこの目で見るまでは半信半疑だからな。

 

 

「じゃあ、行こうか!僕も暫くは暇だし兄さんの観光に同行するとするよ」

 

 

「別にお前は来なくても良いが......来ると言うなら止めもしないが.」

 

 

「絶対について行くよ。だって兄さんといるとトラブルが絶えなくて面白い気がするんだもん」

 

テトは満面の笑みを浮かべていた。こいつがここまで満面の笑みを浮かべている時は何か企んでいる時と相場が決まっている。

 

 

「お前、何か企んでいるんだろう」

 

 

「そんな事ないよ。只」

 

 

「只?」

 

 

「兄さんと一緒に居られるのが嬉しいんだよ」

今さっきより数段良い笑顔を浮かべながらテトは言っていた。

 

 

俺はこの笑顔を俺を一生忘れる事はないだろう。



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舞い降りる者たち

そう言えばまだ、名前を明かしていませんでしたが....主人公の名前はヌーレです。名前を出すのが遅れて本当にすみません。


そしてテトと会話をしてから少し月日が過ぎ今は人間(イマニティ)のところに身を潜めている。本当は隣にいる奴から凄い反対はされたけどこれからの目途を立てるにしてもまずは..下に降りない事には話にならない。そして最初に降りたのが人間(イマニティ)のところだった。

 

 

「僕があんなに反対したのに何でこの場所を最初に選んだの?」

 

 

隣に座っているテトを見ると少し頬を膨らませている。俺としては何であそこまでテトが反対したのかまるで分からなかった、あんなテトは見た事無かったと思ってしまうほどに怒っていた。

 

 

 

「だって見知らぬところに身を潜める訳にもいかないだろ。それに俺たちの外見から考えて多種族ではどうしても浮いてしまうのは目に見えている事だ。なら一番目立たない人間(イマニティ)のところにいる方が身を潜められるだろ。逆に問うがお前は何が嫌なんだ?」

俺は一応、筋が通っていると思うんだがな。

 

 

 

「....空と...白を見に来たんだね」

 

 

 

「まあ、それがないと言えば嘘にはなるが...今回は身を潜めるところとしてここが適していたというだけだ」

 

 

二人の話は人間(イマニティ)の中で暮らしていれば嫌でも聞こえてくる。どうやら、早くもこの人間(イマニティ)の王になるらしい。あいつらならそうなるとは思ってはいたがまさか、こんなに早くなるとは思わなかった。予想以上に彼らには素質があったという事だろうな。これはあいつらが俺たちに挑みに来るのも予想よりも早いかもしれない。

 

 

「本当は僕より「  」の二人の方が良いから来たんじゃないの?」

 

 

珍しくテトは涙目をしながら俺の方を見てきた。

 

 

「おい....別に俺はお前よりあいつらの方が好きだからここに来たわけじゃない。テトの事も好きだし空や白の事も好きだ。どっちが一番好きとかはない。だってお前らは俺の大事な弟と妹なんだから」

俺はそう言いながら隣に座っているテトの頭を撫でた。昔は撫でられる事が好きだったテトだけど..まだ好きか分からないけどテトを落ち着かせるにはこれしかないだろう。

 

「...う..分かった。信じる」

いや、信じるも何もない気がするんだが...。

 

 

「じゃあ、話し合いを始めようか。まずはどこの国に行くことにする?」

人間(イマニティ)の国に関しても..ここを離れる前に観光をしていく。見に行きたいところはたくさんあるからな。正体さえバレなければ....という前に人間は寿命があるから俺の顔を憶えている人物はいないだろうから顔を隠さなくても大丈夫な気もするが...テトが念を押して来るから仕方なくフードを深くかぶりながらここまで来た。

 

 

「僕は兄さんの行きたいところであればどこでも良いよ。観光をするのは兄さんだしね」

 

 

「俺か....じゃあ、まずは吸血種(ダンピール)のところに行くとするか」

あそこの一族はどの種族からでも血液を採取しないと生きていけないのに...こんな状況になって血液の採取もかなり困難を極めるだろうから今、どうなっているのか気になる。

 

 

吸血種(ダンピール)...序列が12位であり種族の特徴としては口に牙が生えていて吸血衝動があるところ。大戦が終わり一番苦労した種族と言っても良いかもしれないね。盟約によって吸血をする事が難しくなった種族」

 

吸血じゃなくて体液でも生き延びる事は出来るから絶滅しているという事は無いだろうけどそれでも心配だ。吸血種(ダンピール)には大戦時に無理なお願いを引き受けてもらった事もあるから何か俺が手伝えることなら手伝いたいしな。だけどテトにはどこか一つの種族に加担する事はダメだと言われているからあまり助けてやる事は出来ないかもしれないけど今の吸血種(ダンピール)の現状を見なくては何も始まらないからな。

 

 

「だから...今の現状を確認したいし行くか」

 

 

「兄さんが言うのなら僕はそれに付いていくだけだよ」

 

その後ある程度相談すべきことをしたりして俺たちは路地裏を出た。路地裏を出る頃には日が傾き始めていた。そして俺はある違和感に気づいた。

まだ、普通に営業しているはずの店が閉めているというかほとんどの店が閉められている。俺は何が起こっているのかを知るため、辛うじて見つけ出した住民に聞いて見るとどうやら今日は新しい国王の挨拶があるらしい。

 

 

「それでこんなにいない訳か。テト」

 

 

「何だい?」

 

 

「見に行っても良いか?」

ここで見に行かなかったら暫くの間は人間(イマニティ)のところに来る事は無いだろうから会えないしな。それにしてもテトがあいつらのところに行くと何故か不機嫌になってしまうからな。

 

 

「....仕方ないな~良いよ」

 

 

「では、行くか」

 

 

俺は住民からどっちの方角でやっているのか聞いてその場に駆け付けた。すると丁度、あの二人が演説みたいな事をしていた。

 

何か見てると涙がこぼれてきそうだ。あの二人が人前で自分の意見を言っている。...こんな事誰が予想出来たと言うんだ。俺でさえ、まさかあいつらが生きているうちに人前で話すとは思わなかった。子供の成長ってこんな感じなんだなと俺は...子供もいない癖に思った。

 

そして演説が終わると二人の側にチェスの駒が出現した。

「テト。あれが主の駒ってやつか?」

 

 

「うん!人間(イマニティ)が保持している種の駒はキング。あれが僕たちと戦う時に僕らが取るべき駒だよ」

 

 

「そうか....人間(イマニティ)がキングか。これは何の因果...」

いつか誰かが来た時に取る駒をあいつらが保持しているとはな。まあ、あまり長居するのもまずいし俺たちもそろそろおいとましますか。

 

 

「行くぞ。テト」

 

 

「.....あ...うん。もういいの?」

 

「良い。あいつらが元気そうなところが見れたからな。それに俺たちがあまりここに長居すると..気付かれる可能性も零じゃないからな」

 

 

俺はフードを目深にかぶり人間(イマニティ)の国を出る事にした。途中でテトが片手を俺を方に差し出してきていたから仕方無く握ってやった。



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予想外

だが、予想外の事が起こるのはいつもの事だが.....まさかこんなところに...森精種(エルフ)が居るとは思わなかった。何故かエルフとフードをかぶっている奴が一人、俺たちの行く手を阻んでいる。

 

 

「...何でお前は俺の行く手を塞いでいるんだ。要件が無いようなら俺たちは行かせてもらう」

 

そう言って二人の隣を横切った瞬間に俺たちぐらいにしか聞こえない声で森精種(エルフ)はこう言った。

 

 

「...まさかこんなところに最古の英雄が居ますとは驚きなのですよぉ~」

 

俺は足を止めてしまった。何でこいつにはバレている.....少なくともバレないように行動してきたと思うんだがな。

 

 

 

「やっぱりそうでしたか...まさかと思っていましたがこんなところにいらっしゃるとは....」

 

 

「何の事だ?最古の英雄だとかなんとか言っているがそれは俺じゃない。お前の人違いだ」

 

 

 

ここは早く立ち去った方が良いな。下手に暴露でもしてしまったら何をしてくるか分からないからな。

 

「今さらそんな事言っても無理なのですよぉ~あなたの事は父様から聞かされたことがありますから特徴や人相に至るまで大体な事は把握しているのですよぉ~それに........」

 

 

テトは隣でだんまりを決め込んでいる。今、テトが話し出せば話は確実にややこしくなる事は目に見えている。

 

「違う。お前が俺の事をその目的の人物と思い込むのは勝手だが俺たちは急いでいる。道を空けてくれないか?」

 

 

俺はここに戻ってきてから一度もしたことがないぐらい鋭い目つきで森精種(エルフ)の事を睨んだ。だが、森精種(エルフ)は決して怖がる様子も無いが.....何でか笑みを浮かべている。不気味としか言いようがない。

 

「良いのですよぉ~まずは確認が取れただけで.....だけどいつかあなた様を...............」

 

 

俺はこの場から立ち去る事を第一に考えていたからか森精種(エルフ)の言葉が途中までしか聞こえる事は無かった。だが、一つ確かな事があるとすれば森精種(エルフ)は俺が見る限り..立ち去るまでの間ずっと気味の悪い笑みを浮かべていた。

 

 

「気味がわりぃな」

 

 

森精種(エルフ)から一定の距離を保つと俺はやっと一息をついた。追ってくる気配もないし何かを探ってくる感じもない。

 

 

「なぁ、テト」

 

 

「な~に?」

 

 

「あいつの事をどう思う」

 

 

「...森精種(エルフ)の事だね。う...何であの森精種(エルフ)が兄さんの正体に気づけたのかは大体わかるよ」

 

 

「分かるのか!?じゃあ、何で奴らは俺の正体に気付いたと思う?」

 

 

「兄さんの腕だよ」

 

 

「腕...そう言うことか....だが、なるべく見えないようにしていたつもりだったしこの腕の事まで現代に伝わっているのか...」

俺は少し思考してすぐに気づいた。腕がかなり長いコートを羽織っているんだが隙間から見えてしまったと言うところか。

 

「うん。伝わってる、兄さんの秘密にまでは気付けてないけど....あの大戦のあの場に居たものは皆、見たものを書物に残したり、口頭で伝えたり色々な形で伝わっているからね。今を生きている人達にも知られているんだろうね」

 

 

「それはかなり面倒だな...俺の特徴とかが出回っていると言う事だろう...下手に外に出ない方が良かったのかもしれないと今になって思ってしまうな」

 

 

「大丈夫だよ!.....ほとんどの人が兄さんの事を死んだと思ってるからね。それでこれからどうする?」

 

 

「今までと変わらない。まずは、吸血種(ダンピール)に行く」

森精種(エルフ)の事が気にならないと言ったら嘘になってしまうけど今は...第一目的地を変える気にはならない。吸血種(ダンピール)が一番16種族の中で危機的な状況だろうからな。

 

 

「兄さんがそういうならそれに従うよ!じゃあ、そろそろ向かおうか」

 

テトはいつもと変わらぬ笑みを浮かべながら僕に手を差し伸べてきた。これは握れと言うことで良いのか...分からんが握ってみて..もし、嫌そうだったらすぐに握るのを止めれば良い話だしな。

 

 

「そうだな」

 

握っても別に嫌そうでなかったら俺はそのままエルキアを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィー」

 

 

「...............」

 

 

「フィー」

 

 

「...あ..クラミー..ごめんなのです」

 

 

「どうしたの?あのフードをかぶっている奴が去ってからずっと立ち尽くしているけど....さっきの人は知り合いだったの?」

 

 

「ううん。今日、初めて会った。...だけどまさか生きているとは思いませんしたよぉ~もうかなり昔に死んだと父から聞いていましたから。だけど生きていたのですよぉ~」

 

 

「そんなにあの人は凄い人なの?」

 

 

「凄い人ですよぉ~クラミーでも大戦中の英雄って言ったら聞いた事があるんじゃないですか?」

 

 

「英雄...あ..ヌース」

 

 

「うん、大戦中に命を落としたと聞いていましたが..生きているとは..思いもしませんでしたよぉ~」

 

 

「え...さっきの人がヌースだと言うの!!...フィーの見間違いでしょ。死んでいる人がここにいる訳がないもの」

 

 

「死んで無かったとしたら......歴史何てほとんど間違いで構成されている事が多いんですし歴史でも決して彼の死体は見つからなかったとされていますし」

 

 

「でも、何であの人がそうだと思ったの?そこまで言うにはなんか根拠があるのよね」

 

 

「うん....あの人は腕を隠していたから..最初は分からなかったですけど~.....彼の腕には文章が書かれていたのですよぉ~」

 

 

「文章?」

 

 

「...父から聞いた通りなら遠い昔...悠久の大戦が行われていた時代..........15種族が忠誠を誓った時にヌーレ様は15種族の安全と安心を保障する事を自らの両腕に刻み込んだと言われているのですよぉ~まだ、じっくり見た訳ではないけど...外見とあの目の鋭さも聞いた話と合致しますし両腕に文章が書かれており、私が「...まさかこんなところに最古の英雄が居ますとは驚きなのですよぉ~」と言った時に歩みを止めた。あれはまさかバレるとは思わなかったと言ったところでしょうね」

 

 

「....最古の英雄....ヌーレ......かつてこの大戦を終結させるために命を懸けた男.....」

 

 

 

 

「あ~~~~~~~~~まさか..ヌーレ様にこんなところで出会えるなんて...///」

 

 

 

 

 




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吸血種①

一週間ぐらい費やしてしまったが吸血種(ダンピール)の国に付く事が出来た。森精種(エルフ)とはどうせいつかまた出会うだろうし..その時に考えるとして今は....この現状をどうするかだな。

 

「予想以上にかなり酷い状況だな」

 

俺は吸血種(ダンピール)の今の状況をこの目で見てかなりまずいと思った。正直な事を言うと絶滅するのも時間の問題だろう。このままいけば...一年....いや、半年後には絶滅している可能性だってないとは言い切れない。

 

 

「兄さんの言う通り....かなり酷いね。これじゃゲームどころじゃないね。国の衰退はもう待ったが聞かないだろうし..元々、吸血種(ダンピール)が生きていくには他の種族の血液や体液が必要になってくる。かと言って僕が作った十の盟約によってそれは困難になり今では絶滅するかしないかまで追い込まれているか..。正直、人間(イマニティ)のところよりこっちの方がかなりまずい状況と言えるね」

 

確かにテトが言ったように...いくら人間(イマニティ)が最下位に追い込まて危機的状況だと言ってもそれは絶滅では無くゲームでの敗北で追い詰められているだけだ。それならまだ俺の弟や妹のように頭の良い奴がうまくすれば逃れる方法はあるが絶滅に関しては...それよりもっと解決するのが難しくなってくる。

 

 

「テト...全権代理者はどこにいると思う?」

 

あまり目立つのは俺の本望でもないしテトもそうだろう。だけどこの状況を見て見ぬふりは出来ないからな。今回は特例ということで良いだろう。

 

 

「.......そうだね。多分...あそこじゃないかな」

 

そう言ってテトは道端に倒れている一人....一体と行った方は良いのかもしれないが吸血鬼が一体、地面に寝転がっている。今にも死にそうな感じで倒れている。

 

 

「あれが全権代理者か....何でそう思うんだ?」

 

 

「だってあの吸血鬼が右手に持っているものを見てくださいよ...」

 

 

何を持っているんだと思ってみてみるとそこには.........

 

 

 

                  「種の駒」

 

 

「うん。種の駒を持つことが許されているのは種族の全権代理者だけと決まっているからね。そしたらあの子が全権代理者の可能性はほぼ100%と思って僕は言ったんだよ」

 

確かにあの子が持っているのは種の駒で間違いない。人間(イマニティ)のところで空と白が手にしたのを見たからな。だが、だとしたら何で全権代理者があんなところで倒れているんだ。

 

疑問に思いながらも俺とテトはその人物に近付いて行った。

 

「お~~、生きてますか~~~」

テトは近付くとすぐに倒れている吸血鬼の耳元でそう言いだした。テトが何度か繰り返して言っているとその吸血鬼が小さな声で何かを呟きだした。

 

「ち.....ち.....ち..が.......」

 

血か....だが、一般人であれば血を吸われるともう二度と日光が照っている場所に行くことは出来なってしまう。だからほぼ隔離された吸血種(ダンピール)という一族。

 

俺は上半身に着ているものを全部脱いで倒れている吸血鬼に肩を近づけた。

 

 

「飲め...お前には聞きたい事もあるからな」

テトが慌てて止めようとするが俺が自分の背中を指差すと安堵したようにため息を付き事の一部始終を見ていた。

 

 

「ほ...ん..とう.に..の..んでい.いいの?」

 

 

「良いと言っている。だから早く飲め」

 

 

俺が急かすとすぐに吸血鬼は俺の肩を噛み血を飲んだ。

 

 

 

 

そして1分ぐらい続き...俺はちょっと長すぎるんじゃないかと思った。普通10秒も噛んでいればかなりの摂取量のはずなのに...まだ噛んでいる。

 

 

「おい...長すぎじゃないか?もう良いんじゃないか」

 

 

「だめぅ.......もっとぅ...もっとぅ...もっとぅ..」

このままにしておいたら俺の血液を全て吸い取られるんじゃないかと思い俺は少し強引に逃げる事にした。

 

 

「え....もっと吸いたかったですぅ....」

さっきまで地面に倒れていた吸血鬼とも思えないぐらいに元気になっている。これなら話す事も出来るだろうな。そう思い俺は脱いでた服をまた着た。

 

 

「全権代理者がまさか倒れているとは思わなかった...何で倒れていたんだ?」

 

 

「血...血....血...吸いたいですぅ..」

 

 

「ちゃんと話してくれたら吸わせてやってもいい。だから今の状況を話してくれ」

 

もう大体の状況などは分かっているがやっぱり答え合わせは必要になってくるからな。それに全権代理者の声でこの状況を聞いておかないといけないしな。

 

 

「..吸血種(ダンピール)は血液や体液が無ければ生きていけないのですぅ。でも、十の盟約が作られてしまって血液を人から摂取する事が出来なくなってしまったのですぅ~だから吸血種(ダンピール)は絶滅寸前まで来てしまったのですぅ~.....ヌーレ様」

途中まで理解は出来たが...こいつは最後にこの話では絶対に出ないはずの名前を出した。

 

「何でそこでヌーレが出てくる?」

 

 

「だって~目の前にヌーレ様が居ますから。名前を呼ぶのは普通ですぅ~」

何でか知らないがこいつは俺の事をヌーレだと理解しているらしい。決してこちらから名乗ってはいない...だとしたら、ほぼ俺が上半身裸になった時に体に刻み込まれている文字を見たからと言ったところか...。

 

 

俺は腕まくりをして自らの腕に刻み込まれているものを見せながら俺は言った。

「これを見てそう思ったのか?」

 

 

「確かにそれもありますけどぉ~~血の味で確信しましたぁ~」

 

血の味.......そんなもので吸血種(ダンピール)は分かるもの何だろうか。大戦の時にはそんな事は言っていなかったがな。

 

 

「血の味って種族や一人一人違うものなのか?」

 

 

「.....違いますよぉ~特にヌーレ様のはこの世と思えないくらいに美味しいんですよぉ~~~だからもう一回だけ吸わせてくださいよぉ~~~~~~」

そう言いながら吸血鬼は俺に迫ってくる。いくら神様の俺でも自分の血を無限に生成できるわけじゃない。何度も何度も連続で吸われ続ければ貧血になり最悪の場合、死ぬ可能性もある。

 

 

「落ち着け!俺の言うことを聞いてくれれば好きな時に血を吸わせてやるから大人しくしろ!」

そう言うと吸血鬼は静止した。どうやら俺が言った事がきいたようだな。

 

 

「...仕方ないですね~..いつでも好きな時に吸わせてくれるなら今はおとなしくしていますぅ~」

勢いで言ってしまったがかなりこれは面倒かもしれない。まあ、今はそんな事をいちいち考えても仕方ないだろう。

 

 

「お前は何故、16の駒が一種族に付き一つなのか知っているか?」

これに気づけているのがどれくらいいるのか確かめておきたい。全権代理者の中で一体何人が気付けているのか。

 

 

「うん。知ってますよぉ~..16の駒はチェスの片面の駒の数と一致しますし..そこら辺を考えると唯一神への挑戦権が全種族を統一..奪うにしてもチェスの駒(種の駒)を16個集めたものが神への挑戦権を得る事が出来ると思っているんですけどぉ~違いますかぁ~ヌーレ様~」

 

この吸血鬼は説明している時も何度かよだれが垂れそうになっていた。こいつそこまで血が飲みたいのか。あまり我慢させると後々、俺が何かされる可能性もあるからこいつの理性がまだあるうちに飲ませておいた方が良いかもしれないな。

 

 

「お前もう我慢出来ないだろ」

俺は仕方無くまた、上半身を脱ぎ地面に腰を下ろした。

 

 

「ありがとうございますぅ~ではいただきます」

 

 

 

吸血鬼は俺の肩に手を当てて勢いよく牙を俺の肩に突き刺した。もう何度目か分からないぐらい血を吸われているからか痛みすら無くなり吸血鬼が離れるのを待つだけだ。テトは少し不安そうな顔をしながら俺の方を見ているけど....テトも止める事はしない。

 

そして今回も約1分近く血を吸いこれ以上はダメだと思い吸血鬼を自分から離した。本当にこいつはほっとくと俺の血を全部吸い取ってしまいそうで怖いな。

 

 

「これで少しは満足したか?」

 

 

「...まだ満足はしてないけどぉ~..これ以上してヌーレ様に嫌われるのは嫌だから~今回はこれ以上血を吸う事はしないよぉ~」

 

 

 

 

さすがに何度も何度も繰り返し吸われると限界がくる。そして最終的には貧血で倒れてしまうからな。

 

 

「それでさぁ~この後どうするつもりなの?」

ここにきてテトが口を開き問いかけた。

 

 

 

「..全権代理者として.......吸血種(ダンピール)を絶滅させるわけにはいかないからぁ~やっぱりどこかと同盟を組むのが良いのかなぁ~」

 

同盟とかは別に悪いわけではないと思う。だが、同盟を組む以上は相手にも利点が無ければ同盟は成立しない。こちらには利点だけで相手には欠点だけとなったら誰も同盟を組む気にはなれない。

 

 

同盟を組むうえで大切なのはどれだけ相手に利点があると思わせられるかだ。そうでなければ同盟の成立はほぼ不可能。吸血種(ダンピール)が他の種族に一体何の利点を与えられるかだ。

 

 

 

「今の現状化で吸血種(ダンピール)は何を他種族に与えられるんだ?」

 

 

「........う~ん......何もないかもぉ~」

 

 

「それだとどの種族も同盟には応じないだろう。何かないのか?なんでも良い。交渉材料になりうるものであれば何でも良いんだが」

 

 

 

もう一度吸血鬼の全権代理者は考えたがやっぱり何も思いつかなかったみたいでお手上げのようなポーズを取っている。

 

 

 

 

「そうか........お前はもっと吸血種(ダンピール)の数を増やしたいと思うか?」

 

 

「増やした方が良いとは思いますけど~今すぐにとは思いませんねぇ~」

 

今は絶滅しない事の方が第一優先と言うことか。それはそうだな。

 

 

「じゃあ、一先ずはこの状況で良いんじゃないか....下手に急ぎすぎたりし過ぎると逆に他種族との争いが起こる可能性もあったりするからな。今は大人しく事の成り行きを見ていた方が良いだろう。それと一つ聞きたいんだがお前は血液無しでどれくらい持つんだ?」

 

 

「....ずっと飲みたいけどぉ~..飲まなくても死ぬ事は多分、ないと思いますよぉ~今日だけでかなりの血液を摂取しましたしぃ~」

 

 

「なら俺たちが去った後も当分は大丈夫だな」

 

 

「もう...行っちゃうんですかぁ...?」

初めてこいつが少し悲しそうな顔をした。あまりここに長居する気はないが逆にすぐに去る気も無い。まだ、何も観光もしていないしこれからの事もまだ決まってないからな。

 

 

「まだ行かない。だが、いつかは俺も去る時が来るからな。その時のために聞いただけだ」

 

 

それからは少し会話をして俺は適当に寝泊まりが出来そうなところを探してテトと何故か付いて来た吸血鬼と一緒に寝た。



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吸血種②

俺は珍しく肩の方の痛みで目を覚ました。こんな風に目を覚める事がないから何だと思って肩の方を手を動かしてみるとそこにはやけに大きな個体が居た。視線をそちらに動かしてもまだ目覚めたばっかだから視界がはっきりしなかった。

 

 

そして少しずつ視界がはっきりしてくるとその大きな個体が何なんのか分かってきた。

「おい....お前、何で俺の血を飲んでいるんだ?......吸血鬼」

 

そう言えば、俺はまだこいつの名前を知らないんだったな。

 

「へぇへぇ....ヌーレ様の血の味が美味しすぎて我慢できなかったんですぅ~」

こいつは目を離すとすぐに俺の血を飲んでいる。別に調子が悪くなることがないから良いが...寝ている間も飲まれているとなると少し対策を考えなくちゃだめかもな。

 

「少しは自重が出来ないものなのか?別に血を飲まないと死ぬなんて事もないんだろ。俺が起きているうちは許可してやるから寝ている時は止めてくれ」

 

 

「.....我慢出来ないんですよぉ~...それもこれもヌーレ様の血が美味しすぎるからですよぉ~」

吸血鬼は今にもとろけそうなほどの顔をしながら言った。自分では自分の血が美味いか不味いか何て分かりはしないからこいつの言っている事を肯定も出来なければ否定も出来ない。

 

 

「はぁ~....それで昨日、聞いてなかったがお前の名前は何て言うんだ?吸血鬼って個体名称で呼ぶのも面倒だし他の吸血鬼と区別するためにもな」

 

 

「僕の名前ですか~~僕の名前はプラム・ストーカーって言います~」

 

 

「プラム・ストーカーか。じゃあ、呼び方はプラムで良いな」

それにしてもこれからどうするべきか。観光はしたいがこの国によく考えたら観光できるところ何てあるか。今にも滅びかけているこの国に何か観光すべきものがあるのか。

 

「なあ、プラム」

 

 

「はぁ~い、何ですか?」

 

 

「この国に今、観光場所なんてあるのか?」

 

 

「うう~ん......ないと思いますよぉ~」

 

まあ、そりゃそうだよな。この国の惨状から考えるに聞くまでもないかもしれないな。でも、そうなると今日は何して過ごすか。正直、観光するために吸血鬼(ダンピール)の国にまで来たと言ってもいいからな。それが出来ないとなると目的が無くなってしまうな。俺は思考を巡らせ何をしようか悩んで...十分ぐらい経つと一つの案が思い浮かんだ。案と言っても大したものではなく只、ゲームをするだけなのだけど...。

 

 

「それじゃプラム。俺とチェスで一勝負しないか」

 

 

「ヌーレ様......とですかぁ~....」

 

 

「ああ、俺とだ。テトもそのうち目を覚ますだろうが、まだ目覚める感じはないからな」

 

俺はテトがベッドの上でぐっすり寝ているのを確認してプラムの方に視線を戻した。あいつは一度寝たら目覚めないからな。軽く見積もっても後二時間ぐらいは起きはしないだろう。

 

 

「いいですよぉ~ヌーレ様が相手だと勝てるとは思ってませんけどゲームには運もあったりしますからねぇ~」

 

 

「それじゃ..懸けるものを決めようか。もし、僕が負けたら一つだけ願いを聞いてあげるよ。プラムは何を賭けてくれる?」

 

プラムも常識の範囲の願いしかしないだろう....もし、血液を全部よこせとか言われたらさすがに聞けないけど命に危険に晒されるような事以外なら聞いてあげてもいいしね。

 

 

「....僕の全てぉ~...」

 

うん?こいつ今、耳を疑うような事を言わなかったか...。これは只の遊びで別にお互いに適当なものを懸けてやるべきもののはずだ。

 

 

「俺の聞き間違いかもしれないからもう一度聞くぞ。プラムは何を賭けるんだ?」

 

 

「....僕の全てぉ~」

 

どうやら聞き間違いではなかったらしい。.......いや、どう考えてもおかしいだろう。普通、自分の全てを賭けるなんて事をするか。負けたら自分が他人のものになってしまうかもしれないんだぞ。普通の奴なら絶対にしない。プラムは狂っているのか。

 

 

「お前、正気か?」

 

 

「うん。正気ですよぉ~」

 

そう言えることが正気ではないと思うがな。正気な奴は正気ですよとは言わないと思う。まあ、これ以上こいつに何を言ったとしても変わらないだろう。

 

 

「...お前がそれで良いんだったら俺は別にこれ以上何も言わない。それじゃ始めるとしようか」

 

どんな勝負になるか楽しみだな。そんな事を考えながら僕は最初の駒を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝負は思ったよりも長く続いた。正直プラムの事をかなり侮っていた。もう少し短時間で終わると思っていたが試合は予想よりも長い、どうやらプラムは頭の切れがいいらしい。空や白と比べると少し劣っているかもしれないが俺が思っていた予想よりは遥かに上回っていた。

だけどそれは予想を上回っているだけで俺を倒すにはまだ足りない。

 

そして結果は勿論、俺が勝った。

 

「プラム。思っていたよりもやるな」

 

 

「...そうですかぁ~~~ヌーレ様にお褒めいただいて僕は嬉しいですぅ~~」

 

言葉だけを聞けば嬉しいものだけどプラムの顔を見るとそんな気持ちは一瞬で吹っ飛ぶ。だって涎をたらしそうになりながら言っているのだ。今にも俺の腕に飛び掛かってきそうな感じだ。こいつは勝負中ずっとこんな感じだった。

 

 

「お前。もう少し自分の欲を隠すことを出来ないのか?」

 

吸血衝動があるのは知ってはいるが昨日と今日でかなりの量の血液をプラムにあげた気がする。普通の吸血鬼なら一か月程度は満腹の気分でいられるぐらいには。だが、プラムは今でもお腹を空かせているらしい。

もしかして全権代理者だから普通の吸血鬼と何か違うのだろうか。

 

 

「ヌーレ様の血が美味しすぎるんですよぉ~」

 

 

「自分では分らんから何とも言えないな。プラムは俺がここを去った後は大丈夫なのか?」

 

正直、俺の血をかなり飲んでいるはずだからしばらくは大丈夫だろうけど次に俺がいつ帰ってくるのか分からないからな。一応、こういう事も聞いておきたい。

 

 

「...一か月ぐらいは大丈夫だと思いますぅ~」

 

それは一か月を過ぎたら空腹になるという事か。俺も一か月後にここに絶対に帰れる保証は出来ないんだよな。かと言ってプラムを連れて行くのはかなり難しいんだよな。毎日、あの量を飲まれたら俺が貧血で倒れるのは目に見えている。

 

だけどここで見捨てるというのは.....何かな。折角、見つけた吸血鬼の全権代理者だからな。

 

 

「お前は俺と一緒に来る気はあるか?」

 

 

「行きたいですぅ!~~ヌーレ様の血も美味しいですし吸血種(ダンピール)が受けた恩を返すこともせず離れる訳ではいきませんからぁ~」

 

俺はこいつらにそんな大きな事をした覚えは全くと言って良いほどないんだけどな。俺が思い出せないだけなのか、それとも俺にとって小さな事でもこいつらにとっては大きな事だったのかもしれないな。

 

 

「まあ、お前がその気なら一緒に行くか」

 

 

「は~い」

 

 

 

テトがぐっすりと寝ている間に決まった。あいつはまるで目覚める気配がなくて最終的には日が傾き始めるまで起きる事は無かった。




これで吸血種のお話は一応、終わりです。


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アズリールとの接触

俺たちは三日ぐらい滞在した後に吸血種の住処を出た。吸血鬼を一匹増やして俺たちはまた次の種族の元へと向かおうとしていた。だけどその途中の村で人間種(イマニティ)獣人種(ワービースト)と闘うという話を小耳にはさみ俺たちは目的地を変えた。あの弟や妹がどのように戦うのか気になったし別に俺たちの方は急ぐほどの用があるわけでもない。

テトやプラムも別に俺がそれで良いのなら良いらしいので俺たちは目的地を獣人種(ワービースト)の占領地域へと変えた。

 

 

それは良かったのだが……迷った。

 

 

 

 

「だけどそれにしてもまさか迷うとはな」

 

 

もうちょっと村の人に獣人種(ワービースト)の占領地域の方向を聞いておくべきだった。大丈夫だろうと思いあまり聞くことなく来てしまった。そして迷った。

 

 

 

「これは完全に迷ったね~」

 

テトは辺りを見渡しながらそんな事を口にしていた。いつから人間種(イマニティ)獣人種(ワービースト)が闘い始めるのかが全く分からない状況の今は一瞬でも早く着きたい。

 

 

 

「どうするですかぁ~ヌーレ様」

 

 

「もう少し歩いてみよう。誰かを見つけたらその人に道を聞けばどうにかなるだろうしな」

 

 

 

 

そしてその後も暫く歩き続けたが…会話が成り立ちそうな生物は見つからなかった。さすがにここまで見つからないとは思わなかった。正直な事を言うと少し歩けば見つかると思っていたんだ。

 

 

 

「これは酷いな」

 

思わず口から本音が出てしまった。

 

 

 

「そうだね~これじゃ獣人種(ワービースト)の占領地域に着くころには全てが終わっているかもしれないね」

 

 

 

「だな。何とかこの窮地から脱するための策はないものか」

 

 

辺りは一面が緑に囲まれている。誰かが住んでいるような痕跡もなく人の気配もしない。

 

 

 

「うう~ん………ないね。だから今はここにじっと待機しておくのが一番良いんじゃない」

 

確かにテトの言う通りでこれ以上歩き続けるのは止めた方が良いかもしれない。

 

 

 

そしてこれ以上歩いても余計に迷うだけだという結論に至り、ここで一旦、休む事になった。無駄な体力を消費する事はこれからの事を考えると避けておきたいしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二、三時間近くここで待機していたが誰一人とて来なかった。もうさすがにこれ以上待ったとしても誰も通りかかる事はないかと諦めていた時にそんな瞬間は訪れた。空を見上げると羽を生やした生物が飛んでいるのが見えた。

 

 

 

「そこの天翼種(フリューゲル)~~~~~」

 

 

全身全霊を込めて叫びながら言うと……こちらに気付いたのか天翼種(フリューゲル)は急降下して俺たちの元に降り立った。まさか本当に聞こえると思っていなかったので少し驚いてしまった。

 

 

 

「うちを呼んだのはお前かにゃ?」

 

 

 

「そうだよ。でも、良かったよ。正直な事を言うと聞こえないだろうと思ってたから。それで僕は道を聞きたいんだけどここら辺の地形に関してある程度は知ってるか?」

 

 

 

「まあ、ある程度なら知ってるにゃ」

 

 

「それなら良かった。ここで何も知らないと言われたらどうしようかと思った。獣人種(ワービースト)の占領地域はどっちかな?」

 

 

「うう~んと獣人種(ワービースト)かにゃ……多分、北の方向を進めば着くと思うにゃ」

 

北の方向か……どうやら自分たちが思っていた方向とは真逆だったようだな。だけどこの天翼種(フリューゲル)も『多分』と言っているからな。

 

 

「そうか。ありがとう。参考にさせてもらうよ」

 

今はこれしか情報がないわけだから仕方ないな。

 

俺たちはその天翼種(フリューゲル)と別れて北の方をへと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの人間、何かどこかで昔に会ったことがある気がするにゃ……うう~~~~ん、多分、気のせいだと思うにゃ。あ………そうだにゃ!!!こんな事をしている場合はないにゃん。早く向かわないと!!!」

 



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獣人種①

獣人種(ワービースト)の占領地域に着いたのは天翼種(フリューゲル)と会ってから数時間が経過してからだった。天翼種(フリューゲル)は間違ったことを言っていなかったようだ。もしかしたら、あの天翼種(フリューゲル)もうろ覚えのような感じだったからもしかしたら道間違っているのかなと思ったりもしたけど…信じて良かった。

 

 

 

 

 

 

そして着いた時はまだ試合が始まっていなかった。まあ、急いできてなかったら多分間に合っていなかっただろうから急いできて良かったと思うべきかもしれない。でも、早くきたからと言ってすることがあるわけでもないため、俺たちは適当に獣人種(ワービースト)の占領地域を歩き回っている。やっぱり全てが俺が飛ばされたあの世界と似ている。テレビ機器もそうだが…このビルを作る事もこの世界の技術では不可能と言ってもいい。だが、それを作った。これは間違いなく十六種の中で一番技術は発展していると言っても良い。

 

 

 

 

この技術をもっと効率的に使えばもっと上位のランクを食い込む事だって不可能じゃないと思うけどな。プラムとかは電子機器とかが珍しいのか食い入るようにずっと見ている。まあ、僕も最初に見たときは今のプラムと同様に食い入るように見てしまったな。初めて見るものなんだから…仕方ないかもしれない。

 

 

 

 

適当に歩いていると見るからに幼い少女に見えるような少女が立っていた。何で彼女がこんなところで立っているのかは分からないが…見た目はプラムより小さい。髪はプラムと一緒でとても綺麗な青色。オレが見ていることを不愉快に思ったのか少女は俺の方に近寄って来た。

 

 

 

 

 

 

「なに見てやがる、です」

 

 

 

 

 

「いや、ちょっと目を引くぐらいに綺麗な青色の髪をしているから見ていたんだ」

 

 

 

最初は無いを言われているのか理解できなかったのか、こいつ何言っているんだという顔をしていたが少し時間が経って自分が褒められているのに気付いたのか…少女は少し笑みを浮かべ始める。

 

 

 

 

 

「もっと褒める、です……悪い気しない、です」

 

 

 

ここで俺は思った。この子は少し変わっている子だ。こんな語尾を付ける奴、初めて会った。あんまり関わらない方が良い子かもしれない。

 

 

 

 

 

「……か、可愛いし、綺麗な瞳しているな」

 

 

 

俺は何でこんな子供の言う事を聞いているのだろうか。言った後で気付いたが…俺の後ろから少し鋭い視線を一つ感じる事が出来た。後ろを振り返るとそこには…俺の予想通りの人物が笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

「…テ、テト、なんかどす黒い何かが後ろから出ている気がするが…気のせいかな?」

 

 

 

 

 

「気のせいじゃないですか。ボクは兄さんが小さいケモ耳の子を可愛いと言っていたからと言って…何とも思ってませんよ」

 

 

テトは今も満面の笑みを浮かべている。これほど不気味な笑みが他にあるだろうか。

 

ボクは向き直り再び青い髪の少女の方を向いた。

 

 

 

 

 

「そう言えば、君の名前は何て言うんだ?」

 

 

 

 

「…いづな、です。そんなこと聞いてどうするんだ、です」

 

 

 

 

「呼ぶのに少女じゃ区別がつかないからな」

 

 

 

 

「こっちが名乗ったんだからそっちも名乗れ。です」

 

 

 

 

 

「…そうだな…俺の名前はヌーレ。只の旅をしている者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

名前を教えあった後も俺といづなは暫くの間、言葉を交わした。

 



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