変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う (庫磨鳥)
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始動編
【多すぎて】アーマード雑談スレ パート50ぐらい【数え忘れた】 ※改訂済


とりあえず掲示板ネタで何か書きたいなと思い自分の好きな物をぶち込みました。

詳しい世界観の説明とかは、出来るときにやります。

前半は掲示板風。後半が普通の小説となっております。

※1/5 活動報告にて一話の大幅な改訂について報告を上げました。気になる方は見て貰えると幸いです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=253281&uid=109810


349:七色

たすけて

 

350:騎士

どうした? なにかトラブったのか?

 

351:天使

グレムリン? いまどこにいるの?

 

352:七色

いま喫茶店に居て四人テーブルに居るんすけど。

 

俺→□□←銀

金→□□←灰

 

たすけて

 

 

353:騎士

なんだ、いつもの修羅場か。おつかれー

 

354:天使

全員集合は初めてじゃない?

胸熱だねー。

 

355:七色

胸熱ってどころじゃないっす! プレッシャ-がすごすぎてもはや胸焼け起きてるっすよ!?

あと三人は彼女じゃないっす!?

 

356:騎士

いや、手を出しておいて彼女じゃないとかないわー

 

357:天使

これはヒーロー界のクズですわー

 

358:七色

だして無いっすよ!?

あ、もしかしてスキルのこといってます!?

だったら、流石に抗議しますっすよ!?

 

359:天使

だって七色のヒーロースキルって、堕とした魔装少女を自由に出来るやつじゃん。

 

360:七色

いいかたああああああああああああああ!?

それに自由に出来るのは魔法のみっすよ!?

 

361:騎士

堕としたの部分は否定しないのか。

 

362:奈落

それで七色、いまどんな状況なの?

 

363:騎士

奈落さん。お疲れ様です。なんかすいませんね。こんな話していて。

 

364:天使

ほんとだよ。七色。奈落さんにあやまんなさい

 

365:七色

申し訳ないっす! でもまじで助けて欲しいっす!? さっきから三人が俺との出会いから始まって、自分はあれしてもらっただの、自分は一緒にどこそこ行ったのだので会話が成されるたびに雰囲気が太っていくっす!?

 

366:天使

多分、雰囲気が重くなるって言いたかったのかな?

いやぁ……想像通りすぎてもうちょっと面白みが欲しいよねー。

 

367:七色

面白みとか言わないでくれますか!?

 

368:騎士

だってよ。全員がお前のこと好きでー。取られたくない一心でーって話なんでしょ?

いつも言ってるけどもう決意してハーレム……築いちまおうぜ?

 

369:七色

あんたは単に面倒で言っているだけでしょうがあああ!?

 

370:騎士

そりゃ何回も似たような話聞かされたら天使みたいな対応になるよ。

お前のスキルを考えたら仲が拗れるのが一番よくないでしょ? だったら全員を責任とるか、現状維持をだらりと続けていくかじゃん? QED

 

371:七色

いやでもそれは

 

372:騎士

男には何かを守るために悪いことをしなきゃあかん時があるのよ。

お前もそれを承知で『アーマード』に入ったんでしょ?

だったら責任とっちゃいなYO!

 

373:七色

……ぱっとみ真面目な話で煙に巻くのやめて貰っていいっすか?

 

374:騎士

ちっ

 

375:七色

スレで舌打ちしないで欲しいっす!?

 

376:七色

あyば89y

 

377:騎士

あれ? おーい七色ー?

 

 

 

死んだか

 

378:天使

まだ死んでない(いずれ死ぬ)

今度こそ年貢の納め時かも知れないねー。

 

379:騎士

魔装少女の魔法が使える唯一のブレイダー。だけど魔法を使うためには、魔装少女と一定以上心を通わせる必要がある。好かれるごとに強くなるのはいいけど……なんというか、七色には悪いけど俺がこのブレイダーベルトをミスターから渡されなくてガチでよかった。

 

380:天使

そこは完全に同意。ラノベ主人公って見てるだけで充分だってはっきりわかんね。

というか、どうして七色はこうも愛が重い魔装少女と縁を作ってしまうのか?

全員ヤンデレは流石に動画のネタにも出来ませんわ。

 

381:騎士

もう座る席が納得すぎるのは気のせいかな? 事前に話あったわけでは無いと分かるからこそ凄すぎるし、普通に怖い。

 

382:天使

ちなみに最近使える魔法が一つ増えたね。朱色の

 

383:騎士

……今度こそ本当に死ぬんじゃね?

 

384:天使

いやぁ、人数が減る最初の理由が痴情のもつれとは僕の目を持ってしても予想できなんだね。

 

385:悪魔

あんまそう言ってやんなよ。結果的にはああなっているけど七色なりに頑張ってるんだからよ

 

386:天使

悪魔に言われるまでもないよ。冗談だよじょーだん。

 

387:騎士

悪魔先輩、グレムリン討伐お疲れ様です。戦ってみてどうでしたか?

 

388:悪魔

おう、みんなが懸念している通り強くなっているのは確かだな。多分

 

389:天使

どうせ君のことだ一瞬で粉々にしたんでしょ?

そんなんで強さ計れるわけないよねー

 

390:悪魔

電撃の効きが悪かったのは確かだ。先に戦っていた魔装少女の攻撃も通ってなかったし。単に耐久力が上がったか、それとも別の何かまでは分からんが、強化が入っているのは間違いないな。

 

天使どうした? 今日は随分と当たりが強いじゃないか?

 

391:天使

べっつにー? 僕の動画なのに一番人気を取られたのを気にしてるわけじゃないよー? 別にいいもんね。たった二十三票差で負けただけだし。

 

392:騎士

気にしてるね()

グレムリンに関してはやっぱり強化されているみたいですね。俺達ブレイダーにとっては些細な変化かもしれませんが、魔装少女側からすると魔法が効きづらくなっているのはかなりの大問題ですね。

 

393:天使

魔装少女の攻撃が通用しなくなったら、流石に手が足りないよねー

これもフェアリーの仕業なのかな? かな?

 

394:悪魔

わからんが無関係ではないだろうよ。あいつらのことだ。イレギュラーの俺たちをどうにかするためか、あるいは自分たちの悦楽のために実行しても不思議じゃねぇよ。

 

395:騎士

斬撃や刺突など物理的な攻撃は有効なので、やはり魔法の耐性だけが異常に跳ね上がっているとみて間違いなさそうです。

 

396:悪魔

この件は『アーマード』全員で一度話さないといけないな。

 

397:天使

だねぇ。僕の方は強くなったグレムリンのまとめ動画を上げるよ。

 

398:騎士

やっぱりフェアリーの悪行を公表して、大々的に協会内部の調査を行うべきでは?

 

399:悪魔

難しいだろうよ。そんなことをしてしまえば善悪関係無くフェアリーとの関係性を改めなきゃいけなくなるし、無関係な魔装少女も被害にあう。それは俺らも望むものじゃない。

 

400:天使

無用なアンチを沸かすのもノーセンキューってね。それにグレムリン改造に関してはまだ決定的な証拠は無いしねー。

 

401:騎士

そうですか……すいません、出過ぎたことを言いました。

 

402:悪魔

気にするな。気持ちは分からんでもない。

 

403:七色

 

たすけて

 

 

404:騎士

生きていたか!? 七色!?

 

405:天使

助けてって、まさか四人目が……!?

 

406:七色

奈落さんが現地入りしました

 

407:天使

展開が謎すぎて草

 

408:騎士

え、えぇ? なんで?

 

409:悪魔

何してんだあいつ。

 

410:七色

いきなり今まで濁していた別のブレイダーが登場してみんな困惑

俺が一番困惑 カオス

 

411:混沌

呼んだー?(*⁰▿⁰*)

 

412:天使

うーんこれはまさしくカオス

 

413:悪魔

呼んでねぇよ!

 

414:混沌

(ㆀ˘・з・˘)

 

415:騎士

いやてゆーか、マジ現場どうなってんの?

早く実況してくれ。

 

416:七色

え? すご

奈落さんが三人と話したらみんな落ち着いて、俺のことを考えずに色々と暴走してしまったって頭を下げてくれたっす。ああいや。謝罪については俺も非があるからアレなんすけど……。

 

417:騎士

あの、話し聞くだけでブレーキ壊れているってわかるセブンスガールズを大人しくさせただって!?

奈落さん本当にすごい。

 

418:七色

ちょっと待つっす!? そんなふうに彼女たちのことを呼称してたんっすか!? 初耳なんっすけど!?

 

419:天使

というか奈落さんはなんて言って落ち着かせたの?

 

420:七色

無視!?

……なんか俺にとって君たちはかけがえのない存在っていうのを優しく語りかけてる感じっす

いや……いや、間違ってないんっすけど……ないんすけど。

 

恥ずかしいっす!

 

 

421:悪魔

まあ、魔装少女三人が殺し合うなんて展開にならなくてよかったじゃねぇか。

モテ期の税徴収だと思って諦めな。

 

422:七色

悪魔先輩の悪魔!?

 

423:悪魔

悪魔だよ。

 

424:天使

なんにせよ。修羅場が収まってよかったよかった(つまらん)

 

425:騎士

平和が訪れてなによりだね(つまらん)

 

426:七色

このやろー! 本音漏れてるっす!

 

427:七色

げっ!?

 

428:天使

いやだってお前、ここではいいけど四人目の魔装少女に好意を持たれたんだろ?

 

ん? またなにかあったのか?

 

429:天使

まさかの四人目登場?

 

430:七色

グレムリンが近くに現れたっす!? というわけで倒しに行くのでこのへんで!

 

431:騎士

おー。いってらーしゃい。

……ふと、四人目が来るよりマシだったなと思ってしまったんだけど。

 

432:天使

実際そうじゃん。でも、四人目って誰だろ?

スレで話したことあるっけ?

 

433:騎士

いや、聞いたことは無いかな?

七色は進んでセブンスガールズのこと話さないからな。いっつもギリギリの状況になってそこで初めて書き込むし。せめて事前に言ってくれれば、やりようがあるんだけどね。

……こっちの方で朱色の魔装少女調べて見るかな?

 

434:天使

別に修羅場が起きてからじゃいいんじゃないの? 言ってしまえば七色の自己責任なんだし。

 

435:騎士

今日茶化せたのは、まだ俺達が三人のことを知ってて最悪な事態にならないって確信がどっかにあったからじゃん? 

それに知らない魔装少女が、このヤンデレ坩堝に混ざった時にどうなるかって、ある程度予想付かないまま過ごすのは気持ち悪いってのはある

色恋沙汰はマジで取り返しの付かないことが起きやすいよ。

 

436:天使

あーなるほどね。

それなら、七色に直接聞いた方が早いよね

 

437:騎士

そうだねー。別枠でスレ建てて聞こうかな。

 

438:奈落

数が多いから僕も手伝おうかと言ったら全力で止められてしまった。

いま大人しくコーヒー飲んでる。

 

439:天使

妥当

 

440:騎士

適切な判断

 

441:悪魔

お前が出張るのは、グレムリンじゃないだろうが

 

442:奈落

そうか……ここのコーヒー美味しいな。

ああ、そういえばさっき朱色の魔装少女を見かけたよ。

凄い勢いで店を通り過ぎて行った。

 

443:天使

あいつ今日どんだけ~!?

 

 

 

+++

 

 

話題になっていた朱色の魔装少女の情報に、同じ『アーマード』の仲間たちがスレを消費していくのを眺めながら、奈落の名を持つ男性は穏やかな気持ちでコーヒーを飲む。

 

「……ずっとこのまま見てるだけかい?」

 

空っぽになったカップを眺めながら、奈落は“誰も居ない店の中”で語りかける。それがあまりにも無機質で、感情を全て捨てた問いであった。

 

奈落は、本来グレムリンが片付いてから話しかける積もりだったのだが、こうして一人になった以上、静かに居座るつもりはなかった。

 

「ボクの想像とは違う思惑があるならば、出来れば説明して欲しい」

 

中二病と仲間内で揶揄われる魔術師のような顔を隠せる黒染めのコートのフードを取る。その顔は平凡的で、およそ何か特別なものを持っていない青年に見えるが、たった一点。その黒く濁りきった瞳が彼を異常な存在である事を示していた。

 

「話し合いをする気も無いか……」

 

奈落は物憂げなため息を吐きながら、先ほどまでスレッドを見ていた、奈落の目と同じ色をしたスマホ状のアイテム『ブレイダー・スタート・フォン(BSF)』を手に持って構えた。

 

「だったら、ここで終わらせよう」

 

すると、奈落の腰の部分から黒い炎が巻き付くように現れて、ベルトが現れた。

 

――それはまさに、ヒーローが腰に巻くものと似て非なるもので。奈落は慣れた手つきでベルトのバックルの頭にある長方形の穴に『BSF』を差し込んだ。

 

――――≪The abyss gate is opened≫――――

 

ベルトから発せられたのは、まるで地の底に住まう怪物の叫びのように聞いたものを例外なく恐怖へと突き落とす意志が感じられる生々しい音声であった。

 

その怪物を鎮めるかのように、パイプオルガンの調べが鳴り響き。その中で奈落は『BSF』を傾けてバックルの中へと押し込み。仲間の内で決めた台詞を口にする。

 

「変身」

 

――――≪Reach out!≫――――

 

靴底から漆黒が床に広がっていき、奈落を染め上げる。黒に塗り固められ立体の影となった彼が前に向かって手を伸ばすと、指先の黒から全身にかけて一気にひび割れていき、そして姿が変わった奈落が露わになる。

 

まるで人間の骨を象ったアーマースーツ。漆黒色に染められている中で右腕には赤黒い三つのΘが描かれてあった。仮面に描かれている口は“W”のように歪んでおり、黒の世界にペンキを垂らしたかのような白い右目のみが世界を見ていた。

 

その見た目と行いから、仲間以外の全てに怖れられている“偽善悪”の化身。

 

その名は『ブレイダー・アビス』。この世界で十人しか存在しない男の変身ヒーローの一人である。

 

「――燃えろ」

 

アビスは天井に向かって振り払うように手を振るった。それだけで喫茶店全域が黒い炎に焼かれ始めた。

 

『――ア、アアアアアツイアツイアツイアツイアツイアツイアイツアイイイイイイイイ!?!?』

 

どこからかとは違う、まるで店そのものが熱さに悶えて叫び始めた。

 

「奈落の炎が燃やすのは心の内側にあるもの。“君”という存在も、“魔法”も心から来るものだというのなら燃やせない道理はない」

 

炎は徐々に喫茶店を燃やしていくが、そもそもここは現実の世界ではない。精巧に作られた箱庭世界であり、現実に実際存在している喫茶店にはなにも影響が無い。

 

「でも、外から中に入れたのは幸いだったよ。もしも完全に隔離されているなら僕も打つ手がなかったかも知れない……これも君たちの趣味の弊害かな?」

 

『ど、どうしてっ!? どうやってお前はこの世界を知ったあああああああああ!?』

 

熱さに悶える中、理解出来ない気持ち悪さに負けて声の主が尋ねる。

 

『入る事は出来ても気づけないはずだ! 感知出来ないはずだ!? ありとあらゆる探す力を遮断する世界だったはずだ!? それなのにどうして!?』

 

「悪いけど、ボクたちには目に見える絆があるんだよ」

 

『BSF』でのみ使用する事が出来る掲示板式メッセージアプリは、たとえ異世界や外宇宙へ行ったとしても書き込む事が出来る。たかだか現実から隔離された箱庭程度で阻害することは出来ない。

 

奈落は、そもそもこの喫茶店が敵の罠である事を最初から看破していた。それは彼のアビスとしてのスキル『奈落の炎』が関係している。直視でも画面越しでも言葉でも文字でも関係無い。心が宿る何かしらのものであるならば彼の瞳には心の炎が宿る。色と火力の具合で彼は、その心の異常に気づくことが出来る。もっとも炎の形であれやこれやと察する事が出来るのは、奈落という人物が常識外だからというのもあるが。

 

そのため奈落は、七色の書き込みを見た時、すぐに異常を察知して、彼の活動範囲から推理して心の炎の残り火を追って来たのだ。

 

「心っていうのは認識の外にあるんだ。君たちだって似たようなものだろ?」

 

『せっかく、せっかく魔装少女たちの醜い殺し合いが見られると思ったのに! まさかアイツが……アイツが邪魔ものだったなんてっ!?』

 

「彼女たちの心が燃え上がってるのを沈静化させたよ。もっとも彼女たちが常に強火であることは間違いないんだけどね。それでも君たち好みの良い子さ。何事もなければ同じ色をした炎同士、仲良くなるだろう」

 

ちなみに仲良くなった結果、七色の身がどうなるかはアビスの管轄外であった。ぶっちゃけ状況が悪くならなければ何でもよかった。

 

「人を玩具にする諸悪の化身よ。烏滸がましい奈落の死者が――全てを終わらせよう」

 

バックルの表面に右手の平を翳す。

 

――――≪THE END≫――――

 

短い絶望の声が鳴き。右腕の三つのΘが開眼。◎と形を変えて外の世界を見つめる。アビスは右腕を正面へと伸ばした。その挙動は誰かの手を握らんとするもので。

 

『やめろ、やめろおおおお!! これ以上――痛みを与えないでくれえええええ!?!?!?』

 

「――『ペイン・オブ・ジ・アビス』」

 

――――≪PAIN OF THE ABYSS !≫――――

 

アビスの前に底が見えぬ円形の穴が現れる。その奥底から黒い火柱が『喫茶店を模した隔離世界(箱庭)』を覆い尽くし、断末魔と共に全てを燃やし尽くした。

 

 

 

 

「……誰にも夢の邪魔はさせないのさ。もちろん君にもね。フェアリー」

 

「えっと。お客様?」

 

「あ、すまない。コーヒーのお代わりを。久しぶりに香りが鼻に合うコーヒーに出会えたよ。今度からご贔屓にしていいかな?」

 

「ありがとうございます。うち自慢のオリジナルブレンドを、そう言って頂けるのは本当に嬉しいです!」

 

奈落は自分以外に客がいなくなったこともあり、お代わりのコーヒーを飲みつつ、若い店のマスターとしばらく談笑を楽しんだ。

 

こうして、奈落は二杯目のコーヒーを堪能し、何事もなかったように後輩たちのドリンクも纏めて代金を支払い店を出て行った。

 

『BSF』の画面をタッチで操作して掲示板を開けば。七色が、今日何度目かの「助けて」と書き込んでいた。どうやらグレムリンは無事倒せたみたいだが、その途中で朱色の魔法使いが合流して修羅場はさらに加速したらしい。

 

奈落は頬を緩ませながら新たな書き込みをする。

 

――頑張って。応援してる。

 

ちなみにこの後、奈落にも見捨てられたとスレが盛り上がったのを知ったのは、翌日のことだったりする。

 

 

 

 

 

 

 




書けそうなネタを、ゆっくりと書いていきたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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【悪魔】魔装少女を拾った【相談】

一万文字超えちゃった……。

お気に入り、しおり、ここすき、感想。本当にありがとうございます!
執筆の励みになります。今後ともよろしくお願いします。


十五年前ほどから、日本は異世界から来る侵略者によって脅威にさらされていた。

 

その名は『グレムリン』。地球産の火力では歯が立たず。目に映るもの全てを無秩序に破壊する怪物。対抗出来るのは、魔法を扱える少女。通称『魔装少女』のみだった。

 

+++

 

「やああ!」

 

時間は深夜。人気の無い山の中、木々が不自然に存在しない平地にて、オレンジ色のドレスに着飾った小さな女の子が身の丈にあったメイスを振りかぶった。

 

十五年前ならともかく、現在では彼女を一目見れば誰もが魔装少女と正体を看破するだろう。そして、そんな魔装少女の目の前に立つのは人間の大人よりも大きな怪物。

 

――人類の敵『グレムリン』

 

「きゃあ!?」

 

『グレムリン』の見た目は、一言で言えば人の要素を足して二足歩行となったアルマジロだった。オレンジ色の魔装少女の攻撃を鱗甲板で弾き、無防備となった魔装少女に強烈なタックルを浴びせ吹き飛ばす。

 

「うっ! ~~~~っ!」

 

魔法によって編まれたドレスは肉体を完全に防御する無敵の鎧。しかしながら痛みは取り除けないため、オレンジ色の魔装少女は大型トラックに跳ねられたかのような衝撃に悶え苦しみ、地面に伏っしたまま起き上がれないでいる。

 

【アルルルルルルルルルルルルルルル】

 

アルマジロ型のグレムリンはとどめと言わんばかりに、体を丸めてボール状になり魔装少女を引き殺さんと高速回転し突進。鱗甲板表面には目に見えない無数の刃が生えており、通った後の地面を抉っていく。

 

肉体は無敵なれど、あのデスボールに巻き込まれたら全身でミキサーにかけられる苦痛を味わうことになるだろう。

 

「い、いや。やめて……!」

 

魔装少女は己の頑丈さを理解しておらず、単純に潰されて死ぬことに恐怖して逃げようとするが、痛みに悶える体は少女の命令を上手く体に伝達出来ず動く事がままならない。

 

「いや……誰かっ! だれか助けてっ!!」

 

死のボールに潰されるまであと僅か。少女はがむしゃらに星が輝く夜空にむかって叫んだ。

 

――夜空に雷光が迸り、流星よりも速く少女の傍へと落ちる。

 

――――【悪逆! 壊滅!! 粉砕!!!】――――

 

荒々しく、そして獰猛な音声と共に魔装少女とグレムリンの間に影が割って入り、その影はグレムリンに向かって雷が迸る拳を振るった。

 

「シックスパンチ」

 

――――【シイイィィィィィックス!!!】――――

 

――“悪魔”の目で捉えられるはずのない高速の六連撃が、アルマジロ型グレムリンの肉体にぶち込まれ(クリティカル)、その巨体を遠い果てまで吹き飛ばす。

 

【アルルルルルルルルルゥ!?!?!?!?!?】

 

――ドゴーーーーーーーン!!

 

天高く空へと飛び上がったアルマジロ型グレムリンは爆発四散。汚い花火となって跡形も無く粉々となった。

 

(あの人は……)

 

聞き覚えのある“音声”に、オレンジ色の魔装少女はまさかと助けてくれた人の顔を見ようとする。しかしながら死の恐怖から解放されたことによって緊張が解け、意志とは関係無く急激に意識を落とした。

 

「どういう状況だ? どうしてこんな山奥に……あん? たくっ」

 

気絶してしまった魔装少女を見ながら金色の悪魔は少し悩んだ後、仕方ないなとマスクを掻いた。

 

+++

 

1:悪魔

魔装少女拾って家に連れてきた。どうすっかね?

 

2:天使

自首して

 

3:七色

悪魔先輩! ついにやっちまったっすか……っ!

 

4:騎士

いやまって、ロリに見えるだけでワンチャン成人女性って可能性もっ!

 

5:悪魔

ちげぇよ。三馬鹿。

いや、家に連れてきた時点で誘拐であることは間違いないんかね?

 

6:天使

ちょっとー。そこで冷静に考え込まないでよ。ほんと揶揄いがいが無いよね。七色と違って。

 

7:騎士

悪魔先輩はやっぱり大人だなぁ。七色と違って

軽率にノリに乗ってしまってすいません。

 

8:七色

なんでも自分を比較対象にするのって悪い文化だと思うっす!

 

9:悪魔

話進めていいか?

 

10:天使

はいどーぞ。

って、話し始める前に魔装少女の詳細おせーて、知っている魔装少女かもしれないし。

 

11:悪魔

オレンジ色の十歳ぐらい。メイスっぽいステッキが武器かね。今は変身が解けて普通の姿になっているが……。ごっちゃっとしててなんて言えばいいか分からん。とにかく身元が分かりそうなものはなさそうだな。

 

12:騎士

十歳? おかしいですね? 魔装少女規約では確かに十才からとはありますが、それでも特例でなければ魔装少女になることが出来ません。そのため数は少なく公式サイトに記載されている十才の魔装少女は四人しかおらず、その中にオレンジ色の魔装少女はいなかったはず。

 

13:七色

もうこの時点で凄い嫌な予感がするっす。

 

14:天使

もうこの時点で、お察しだよねー?

まあ、まだ見た目は十才に見えるってだけかもしれないしー、セフセフ。

それで、どういった理由でお持ち帰りしたの?

 

15:悪魔

いつも通り、グレムリンぶっ○しに行ったら、こいつが倒れてた。

 

16:天使

伏せ字になること言うなよ! というか簡潔すぎ! もっとkwsk!

 

17:悪魔

すまん。

深夜、山の方が五月蠅いと思って見に行ったら、こいつがグレムリンと戦っていた。深夜の山の中でだ。外傷はないが攻撃は食らったようで、戦闘が終わってすぐに気を失ったんだよ。

それで流石に放置するわけにも行かないだろう? だから、とりあえず保護した。

 

18:七色

それって……

 

19:騎士

魔装少女公式サイトにある魔装少女名鑑を見てきました。

十才前後、オレンジカラー、そしてメイスを武器にした魔装少女は何人か居ましたが、この条件全てに当てはまる魔装少女はいませんでした。

つまり、悪魔先輩が保護した魔装少女は、協会に登録されていない魔装少女となります……。

 

20:天使

まだ予測の段階で言うのもなんだけどさー。

……これ「裏案件」だよね?

悪魔、いま家に居るんでしょ? ちょっとそっちに行くわ。

 

21:悪魔

だろうな。

助かる。俺だけだとどうにもな。

 

22:七色

……えっと。すいません「裏案件」って一体なんすか?

 

23:天使

>>悪魔 君だけだと話が拗れそうだからね。

>>七色 ごめん。移動しなきゃだから誰か代わりに説明よろで。

 

24:騎士

そういえば、七色が加入してから「裏案件」になるような事件ってまだ無かったんだよな。

 

25:混沌

「裏案件」は騎士君が加入してから七色くんが加入するまで三ヶ月。その間にあったもので最後だったからね(╹◡╹)

 

26:七色

あ、混沌先輩。お久しぶりっす。

でも名前が出てないのに現れるの珍しいっすね?

 

27:騎士

混沌先輩。お疲れ様です。

 

28:混沌

「裏案件」は私がメインで担当しているから( ̄^ ̄)

だから私が説明するよ(`・ω・´)キリ

 

29:七色

うっす

 

30:混沌

「裏案件」とは

魔装少女やフェアリー、グレムリン。言わば“こちら側”の存在が関与しており、創作でも現実でも裏社会で起きてそうな事件っぽいの、あるいはそれに該当するものに私たちがそう名付けたものなんだ(´·×·`)

 

31:七色

裏社会って……碌なことじゃなさそうっすね。

 

32:混沌

うん-_-b 七色くんは漫画とかアニメとかで見たことないかな?

例えば魔装少女ならぬ魔法少女たちが生き残りをかけた⚫︎し合いをするとか(><)

あるいは魔法少女がミサイルのように使い捨ての兵器として利用されるとか(><)

……こういうことが本当にあったんだよ(ノω·`o)

 

33:七色

まじでいってんすか

 

34:騎士

マジだよ。なお先輩たちの必死の努力のおかげで、どの「裏案件」も未然に防がれている。詳しい事とかはまた別の機会に聞いてみるといいぜ。

ちなみに俺が関わった裏案件は、有名な魔装少女を奴隷として売り払う。そんなやつだった。

 

35:七色

まさか、船のやつの。ニュースになってたの

 

36:騎士

まあ知ってるよね。しつけーぐらい何日もニュースになっていたし。

あの時は、フェアリーのみならずたくさんの人間が関与していたから、公表せざるを得なくなってしまったんだよね。

 

37:混沌

あの時は、正義くん大活躍だったよ٩( 'ω' )و

おかげでクズどもをたくさん大掃除することができたんだから(*^◯^*)

あ、●してないよ? ちょっと地獄にお引っ越ししてもらっただけだからね(⌒▽⌒)

 

38:七色

ひえ

 

39:騎士

混沌先輩。顔文字が可愛くないです……。

まあ、そんなわけで協会に登録されていない魔装少女であることは「裏案件」に繋がる可能性が高いのよ。

といっても、まだ確定ってわけではないので先走り注意ね。 

 

40:混沌

断定をするのは話を聞いてからだけど、ぼくが思うにはまず間違いなく裏案件だと思うけどねʅ(◞‿◟)ʃ

直感だけど(`・∀・´)

 

41:騎士

専門的に動いている混沌先輩が言うなら、そうなんでしょうね……

 

42:七色

どっちにしても胸糞悪い話になりそうっす……

 

43:悪魔

話を区切って悪いが、分かったことを書いていっていいか?

 

44:騎士

魔装少女が目を覚ましたんですか?

ていうか天使は合流したんです?

 

45:悪魔

ああ、魔装少女は一回起きたし、天使も家に来たんだが、あの野郎。

 

46:天使

wwwwwwwwwwwwwww

ひーお腹痛いww

 

47:混沌

とても楽しそう☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

 

48:悪魔

俺はちっとも楽しくねぇよ。

 

49:騎士

天使とりあえず状況を説明してくれ。

 

50:天使

オレンジちゃん(魔装少女)なんだけど、僕が来る前はまだ寝てたんだ。

そんでねー。起きてー、周囲を見渡してー、悪魔の顔を見てー

再気絶⭐︎

 

51:七色

 

52:七色

すいません。草

 

53:混沌

 

ァハハハハハハ( ゚∀゚)八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

 

54:悪魔

混沌お前今度あったら殴る

 

55:混沌

なんでわたしだけ_:(´ཀ`」 ∠):

あ、ちょっと用事思い出しちゃったから聞き専になるね!ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘

 

56:七色

逃げたっす。

 

57:天使

はー。ほんと笑った。これ動画に使っていい?

もちろん色々と伏せたりするから。

 

58:悪魔

好きにしろ。そういったことが全部お前の管轄だろうが。

ああもう知らん。あとはお前が聞け。

 

59:天使

と言いながら、悪魔はベランダに出て見えなくなりましたとさ。

やっさしー。

 

60:七色

え? 

ああ、怖がらせないため隠れたんっすか

 

61:天使

いつもはタバコ臭い部屋が除菌スプレー特有のミントの香りするし、こういう言わないけど分かりやすいギャップは本当悪魔的だよねー。

よっ、人気一位!

 

62:騎士

こちらで会話してるのも魔装少女を起こさないようにするための配慮ですよね。流石です。

 

63:悪魔

茶化すな

 

64:天使

ちなみに七色は人気最下位。その理由が魔装少女はべらしてるからでー、男女共に同じぐらいすこぶる嫌われてるよー。

あ、オレンジちゃんが起きたから天使二等兵は情報収集作戦に入りたいと思うので、しばらく黙りまーす。ではではっ!

 

65:七色

その情報乗せる必要ありましたっすか!?

えー。最下位……結構ショックっす。

 

66:騎士

ほら、お前の場合、強く愛してくれている人が四人も居るからバランスは取れてるでしょ?

 

67:七色

バランスって、そういう話じゃない気がするっす……。

というか聞いてくださいよ。この間寝て起きたらっすね……。

 

68:騎士

合鍵作られて添い寝でもされてたの? それぐらいならいつもの事でしょ?

 

69:七色

寝ている俺を中心に縛るもの持って四人が笑いながら囲むように立っていたっす。全員魔装少女の姿で

 

70:騎士

ホラーじゃん。

 

71:七色

変身して逃げなければ、俺はここにいなかったかもしれないっす……。

 

72:騎士

変身したんだ……。

 

73:七色

みんなが仲良くなったのは本当に嬉しいっす。でも協力して逃げ場所塞がないでほしいっす。

 

74:騎士

まだ慌てる時間じゃ無い。手袋だって五つ道があるじゃん?

 

75:七色

よくわかんないですし、それだと五つ全部行き止まりっすよね!?

 

76:悪魔

話が長くなりそうだから、天使と魔装少女の会話を書き込んでいこうと思うがいいか?

 

77:騎士

お願いします。

 

78:七色

うっす

 

79:悪魔

最初はやっぱり戸惑っていたんだが、天使のやつはそういうところ本当に上手くてな、すぐに落ち着きを取り戻して事情を聞くことが出来た。

まだ話の途中ではあるが、彼女は自らの意志で魔装少女になったわけじゃないみたいだ。

 

80:騎士

やっぱりですか……。

 

81:悪魔

説明が苦手で、変なところもあるかもしれんが出てきた情報を順番に書いていくぞ。

 

まず彼女の名前は「たかなし みかん」、小学三年の九才らしい。それを証明出来るものは無いが嘘は言ってないだろうよ。

 

んでだ、どうして九才の子が魔装少女をやっていて、そんで深夜でグレムリンと戦っていたかっていうと、本人も分からないみたいだな。

 

 

82:騎士

分からない?

というか九才って、協会が定める年齢基準を満たしていないじゃないですか!?

 

83:悪魔

ああ。気がついたら魔装少女になっていて、森の中にいたんだとよ。

そんで目の前にはグレムリンがいて、頭の中で戦えって何度も繰り返して聞こえてきたらしいぜ。

だから訳が分からないが、とりあえずグレムリンと戦うことにしたらしい。もっとも、すぐにやられてしまい。寸前の所で俺が間に合ったようだ。

 

84:七色

ひどい話っすね。本当にひどいっす。

 

85:騎士

これは……もう確定では?

 

86:混沌

 

純真で優しき少女を拐かし、深夜の森に招待して孤独に追いやる。

その目の前には容易く己を殺す怪物が。少女にも力を与えられるが、それは絶望という味を増させるためだけの希望のエッセンス。

 

ああ、いけないな。いけないね。私が這い寄る刻が来たようだ。

 

87:騎士

混沌先輩が本気ポエムを書き込んだ。

まあ、ここまで話を聞けば当然ですよね。

これは間違いなく「裏案件」です。

 

88:七色

――ごめん。シリアスなのは分かってるっすけど、本気ポエムってなんすか?

 

89:悪魔

今回のは闘技場型っぽいな。小さな魔装少女を戦わせて、それを観戦して大いに楽しむ。

くそったれのフェアリーが考えそうなことだ。

 

90:七色

本気ポエム……

 

91:騎士

人が関わっていると思いますか?

 

92:悪魔

そこまでは分からん。調べるのはそれこそ混沌の領分だ。

久しぶりに大人数で動くことになるかもしれん。覚悟だけはしておいてくれ。

 

93:騎士

はい

 

94:悪魔

時間も遅い。今日はここまでにしよう。

相談に乗ってくれてありがとな。

 

95:騎士

いえ。仲間として当然です。また何かあれば書き込みのほうよろしくお願いします。

 

96:七色

本気ポエム……。

 

 

+++

 

小鳥遊 蜜柑(たかなし みかん)』は九才という短い人生において、もっとも激しい三時間を過ごしていた。

 

いつものようにパジャマに着替えて布団に潜ったと思ったら知らない森にいた。

 

そして自分の姿が憧れの魔装少女に変身しており、目の前には自分たちに酷いことをする異世界の怪物。アルマジロ型のグレムリンが立っていて、頭の中に響く『戦え……戦え……』という言葉に従い、メイスを振るった。

 

彼女が尻込みすることなく戦うことを選べたのは、ひとえに魔装少女の憧れが起因していた。しかし現実は非情であり、訓練すらまともに受けた事のない蜜柑の一撃は無駄に終わり、むしろ反撃の一撃を食らう。

 

怪我はせずとも人生で受けたことのない強烈な痛みに悶え、九才の女の子に戻った彼女は助けを呼んだ。

 

その結果、蜜柑は助かったのだが、助けてくれた人物を一目見る前に気絶してしまう。

 

そして次に目を覚ましたら知らない部屋にいた。よくママがシュッシュとする霧吹きの匂いが充満した室内は、蜜柑にとって見たことのない異世界に見えた。

 

まず自分が寝ていた高そうなソファにガラスのテーブル。自分の家に置かれているのと比べて二倍以上のテレビが壁に取り付けられており、別方向の壁には高そうな額縁に可愛らしいアニメキャラの絵が飾られていた。

 

窓から見える夜の景色は高層ビルの上半分のみであることから、蜜柑は漠然とここが地上何十階かに存在する部屋だと理解する。

 

「――起きたか」

「あ――」

 

蜜柑は、はいと返事をしようとしたのだが、先に振り向いて人物を見たのが悪かった。

 

自分を見下ろしている男性は、ここに蜜柑と同じ年の少女が十人いたとして九人は怖いと思うような見た目をしていた。

 

黒いズボンとシャツと服装自体は地味だが、そんな評価を強引に打ち消すように金の指輪やアクセサリーなど多数装着している。現代において殆ど見ないであろう男らしい顎髭、右頬から顎下にかけて深いナイフ痕が残っており、サングラスをしているものの身長差で下から見上げる蜜柑の目には、しっかりと猛禽類のような鋭い瞳をこちらに向けてくるのが見えた。

 

彼こそ、蜜柑を助けた張本人であり、仲間から悪魔と呼ばれている男性だった。

 

「痛いところは……っておい!?」

「え? 嘘でしょ!?」

 

そんな悪魔そのものみたいな怖さを持つ男性を目にした蜜柑は、おめめをぐるぐるにして再び意識を失う。

 

視界が暗くなりきる寸前に聞いたのはどこかで聞き覚えのある“女性にしては”低めの声による爆笑だった。

 

「やあ、おはようございまーす」

 

――次に目を覚ましたとき蜜柑は“男性にしては高め”の声に挨拶された。

 

目の前でソファに体を起こした蜜柑と同じ目線になるようにしゃがんでいたのは、女性と見間違うほどの細身でアルビノを患っているため白髪と赤目の中性的な容姿の男性であり、蜜柑がよく知る人物だった。

 

「ア、アンギルさん……?」

「あれ? ボクの事知ってくれてるんだ! 嬉しいな!」

「は、はい。『アーマードchannel』のアンギルさんですよね! 動画見てます!」

「動画見てくれてありがとねー」

「うわぁ! 本物のアーマードジャージだ!」

「物販で配っているものと一緒だから、本物もなにもないよー」

 

まさかの有名人の登場に蜜柑は自分の状況を一時忘れてはしゃぐ。その様子を見た天使はこれなら大丈夫そうだと安堵すると同時に、気まずくベランダに一瞬だけ視線をやった。

 

落ち着きを取り戻した蜜柑は天使の問いに正直に答えていく、それが終わると今度は天使が蜜柑の身に起きたことを説明していく。

 

天使が、色々とぼかしながら説明したこともあって、蜜柑が理解出来たのは自分は何かしらの事件に巻き込まれていて、いまも危険な状態だということだった。

 

「とりあえず今日はここに泊まって行きなよ。親御さんにはボクの方から連絡するからゆっくり休んで」

「は、はい……あの」

「ん? なにかな?」

「えっと……あの、さっき、もう一回寝ちゃう前に目の前にいたえっと……き、金ぴかのおじさんって今どこにいますか!?」

「ぶふっ! ふっ! くぅ~……っ! 金ぴかおじさんは卑怯――っ!」 

「あ。あの?」

 

天使は思わず吹き出してしまい、お腹を押さえる。落ち着きを取り戻すのに結構な時間を要した。

 

「ごめんごめん。金ぴかのおじさんね。なにか用事なの?」

「えっと、その……ありがとうって言いたくって、ミカンを助けてくれたのあの人なんですよね! それにあの人って――」

「――天使」

「お、金ぴかおじさん登場って、どしたの?」

 

ベランダから室内に入ってきた悪魔(金ぴかおじさん)に、蜜柑は息を飲む。そして数秒遅れて再気絶する前には無かったはずのベルトを装着していた。

 

その黄金色に輝くバックルは、蜜柑にとっては初めて見るものではなく目を輝かせた。

 

「来るぞ」

「まじで? なんで?」

「大方、どこに逃げても見つけられる発信器みたいなの取り付けていたんだろうよ」

「あー。なるほどね。まじ胸くそ案件ってわけね……これ引っ越し考えないといけないかなぁ?」

「別に良いだろ……こっちに来る前に片付ければよ」

「あの、いったいなにが来るんです?」

「んー。敵」

「え?」

 

顔を青くする蜜柑に、天使は怖がらなくていいと『ブレイダー(B)スタート(S)フォン(F)』をジャージのポケットから取り出す。すると彼の腰には純白の翼を象ったベルトが現れた。

 

「なにせ、うちには怖い怖い金ぴかの悪魔がいるからね!」

「金ぴか言うな」

 

天使は『B.S.F』を頭上に掲げる。

 

――――ʚéɪndʒəl tάɪm(エンジェル・タイム)ɞ――――

 

空気そのものに透き通るような女性型の機会音声が天使のベルトから発せられ、神聖なあるいは電波的な全てを虜にさせるように鳴り響く。

 

続いて、悪魔が『B.S.F.』を斜め下に構えると、全てが“6”のテンキーが現れて、真ん中三つを左から押していく。

 

――――【最強!(6) 完全(6)!! 無欠(6)!!!】――――

 

暴虐的な男性型の機械音声が悪魔のベルトから発せられ。ギターやドラムを中心とした肩にのし掛かるような重い低音が、全てをかき乱すように鳴り響く。

 

まったく違うタイプの二つの音楽ではあるが、蜜柑は不快に思わず、むしろ同時に聞くからこそ丁度良い音楽に思えた。

 

「変身!」

 

天使は頭上に掲げていた『B.S.F』を真下へと落とし、両手を広げるポーズをとった。重力に従い落下する『B.S.F』の画面とバックルの表面が重なり、変化が訪れる。

 

――――ʚædvent(アドベント)ɞ――――

 

『B.S.F』が無数の白羽を模したエネルギー物質に変化して天使を包み込む。体に触れた白羽たちは次々と戦闘スーツへと変化していき、慈悲なる純白の戦士『ブレイダー・アンギル』が現界する。

 

「変っ身!」

 

そして悪魔は『B.S.F』をバックルの真横に差し込むと、バックルの表面に『666』が表示された。

 

――――【サンジョオオオオオオオオオオ!】――――

 

『ブレイダー・ベルト』が叫んだと同時に悪魔の身につけている金装飾が輝きだし全身を包み込む。そして光が収束すると輝く禍々しい金色の戦士『ブレイダー・デビル』が現界する。

 

「ブレイダー・デビルにブレイダー・アンギルだ! すごい!!」

 

変身してグレムリンという脅威に立ち向かえるのは少女だけ、そんな、この世に突如として現れた十人しか存在しない。変身ヒーローの登場に蜜柑はここ一番の輝く瞳となる。

 

「というわけで蜜柑ちゃん」

「あ、はっはい!」

「これから、悪いやつを金ぴかおじさんが倒しに行くんだけど、もしかしたらここに来るかもしれない。だからちょっと怖い目に合うかも知れないけど安心して欲しい」

「悪いやつって、あの時みたいなグレムリンですか?」

「ん。まあそんな感じだねー」

 

天使の言い回しに少しだけ違和感を感じた蜜柑であったが、気にする前にアンギルとは違うもう一人のブレイダーに視線を釘付けにされた。

 

「ブレイダー・デビル……」

「ん、ああ。そうだな」

「あ、あの。わたしを助けてくれたのデビルさんですよね!?」

「ぶふっ。デビルさん……あだっ!」

「まあな。間に合ってよかった」

 

吹き出したアンギルを小突きながらデビルは肯定する。まさに雷を自在に操る鋼の悪魔。その恐ろしい見た目とは裏腹にその声は優しさが含まれており、蜜柑は彼が動画で見た人となりそのままの人物であることを把握する。

 

「本当にありがとうございました! そ、それと」

「ん?」

「ファンです! 後でサインください!」

「お、モテモテだねぇ……さっきの気絶ってもしかして、怖かったからじゃなかったのかな? これは七色のこと言えなくなるかもねー」

「やかましい。サインとかやってないんだが……分かったよ」

 

デビルは困った様にマスクを頭で掻いて、少女の身に起きた不幸を思い、それで幸運な日だったと言ってくれるならやぶさかではないかと頷いた。

 

「とりあえずサインでもなんでも敵を倒してきてからだ、だからここでアンギルと一緒に待っていて欲しい」

「わ、わかりました……やった!」

 

危ないことが迫っているという怖さよりも、デビルのサインが貰えるという喜びが勝ってガッツポーズを取ってしまう。

 

その様子にデビルもアンギルも、マスクの裏でよかったと温かい視線を送る。

 

「念のために変身したけど、出番なさそうなんだよねー」

「それが一番良いだろうよ。アンギル気を抜くなよ」

「分かってるよ。デビルもね」

「あ、あの! ……頑張ってください」

 

悪魔は親指を立てて任せろと伝えた後、ベランダから外へと出て行った。

 

「大丈夫かな?」

「蜜柑ちゃんは僕の動画を見てくれてるよね?」

「は、はい!」

「じゃあ、これは内緒の話なんだけどね。僕の動画でたまにデビルのつよつよ検証とかしてるじゃん」

「はい! あのシリーズ私一番好きで、全部見てます! 特にサンドバッグのやつなんて本当に最高でした!」

「ああうん。あれ一番好きっていうのはなんていうか……将来有望だね」

 

『アーマードchannel』では、他のブレイダーたちも時折登場しており、様々な企画を動画にしている。その中でも蜜柑はファンと言うだけあって、デビルが主体の企画である『デビルつよつよ検証シリーズ』は全動画平均して五回ほど見ていた。

 

その動画の内容は至ってシンプルなもので、デビルの実力を様々な方法で検証するものだ。特に蜜柑のお気に入りは【サンドバッグを殴ったら破裂するのか!?】というドッキリ企画である。

 

アンギルが特注で頼んだサンドバッグは中身を小麦粉に変えており、破裂したら金色の悪魔が粉で真っ白になるというのが当初予定されていた内容だった。そして悪魔は天使の望み通りにサンドバッグを殴って破裂させたのだが、雷の『スキル』を持つ悪魔が殴ったさいに条件反射的に放電してしまい空気中に舞う小麦粉に引火して粉塵爆破が発生。念のために待機していた『ブレイダー・ナイト』の『スキル』のおかげで撮影場所の窓ガラスが全部割れる程度で済んだのだが、危険すぎるとバッド評価がグッドを上回ってしまった伝説の事故回。

 

それを大好きと言う蜜柑に、この子本物だぁとマスクの中で苦笑する。

 

「ま、まあ、そんな訳でデビルの強さを見てきたと思うけどさ。実際の彼はね……そんな動画で見せてきた姿よりも何倍も強いよ」

「そうなんですか?」

「そっ。ボクたちの中で誰よりも強くって……誰よりも空想上のヒーローらしい悪魔なんだ――」

「きゃっ!?」

 

――バチバチバチバチバチバチバチィィッ!

 

天使が言い切ると同時に、数キロ先の夜空に強烈な雷光が出現、数秒間世界を昼にし遅れて大きな静電気音が都会に響き渡った。

 

「あの威力、『ダブルシックス』使った? ……うわぁ、てことはS級以上が来てたんだあぶねー、ほんと事前に気づけてよかったよ」

「えっと、なにがどうなって?」

「うんとね。終わったー」

「……え?」

 

変身を解除して元の姿に戻る天使は呆然とする蜜柑に親指を突き立てた。

 

「言ったでしょ? あの金ぴかおじさんはね。超強いんだ」

「――おい」

「あ、はい」

 

帰ってきたデビルは、理解が追いついておらず呆然としている蜜柑に優しく声を掛ける。

 

「サイン……どこに書けばいいんだ?」

 

――この後、着ているシャツに書いて欲しいとせがまれてしまい、悪魔は聞くんじゃ無かったと後悔するはめになる。

 

天使は、そんな悪魔を見て爆笑。蜜柑曰く「花火の音がした」デコピンを喰らい沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




先んじて今後について話しますと、この作品はあくまでも書き込みのやりとりがメインとなりますので、それ以外はサブとして書いていきたいです。
なので『裏案件』での彼らがどう動いたかは、解決後の書き込みによって、少しだけ触れる形にしたく、どうかよろしくおねがいします。


仕事があるので更新は不定期になりますが、書きたいもの全部書けるまで頑張りたい。



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【混沌】裏案件書き込み板パート18【報告】

おお……めっちゃお気に入りとか増えてる。ありがとうございます!
評価や感想も頂けて、本当に嬉しいです。

※:前半の戦闘シーンを修正・追記しました。
※:今後の展開を踏まえて、変身時の内容を一部変換しました。


『――どうして?』

 

人型の結晶は悲しみにくれながら目の前の男に問い掛ける。

 

渦巻き文様が刺繍されたとんび服の男は、渦が浮かぶ瞳孔で結晶体を無機質に見つめながらハッキリと告げる。

 

「それを語った所でお前たちには理解できまい。精神のみで構成されている君たちは理性というものは蒸発以前に存在せず。ただ感情に従って生きる獣にどうして言葉が届こうか?」

 

『――わたしたちは、ただ、たのしくいきたいだけなのに』

 

「確かに、それは生きるものの全てが持ち得る根底の願い。ゆえに罪と指摘する者の罪となろう。しかし汝らが消化する生もまたその願いを抱く者。反逆はあって然るべきなのだよ」

 

『いやだ。もっとたのしみたい! いきていたい!!』

 

「手遅れだ。区別を知らぬ悪戯の化身よ――現実と仮想をごっちゃにした罰だよ(幻に浸らず現に害をなした報いを受けろ!)٩(๑`^´๑)۶!」

 

男性――混沌は自分の『ブレイダー(B)スタート(S)フォン(F)』をとんび服の内側から取り出す。横に持ち画面を相手に見せるかのように前にだした。

 

『LIGHT』

 

その単語を語ることすら許されない。そんな悲痛な機械音声の後にテンポが速い悲愴的で狂気的なクラッシックが奏でられる。

 

『な、なんだそれは!? や、やめろ!! このおとをきかせないで!!』

 

人型結晶は、人で言う耳元を押さえつけて発狂したかのように悶え始める。

 

----------------------------------------------------

荳也阜繧呈舞縺?◆繧√↓縺ィ蛯キ縺、縺?◆縺雁燕繧呈姶繧上○繧狗ァ√r繧?k縺吶↑螟ァ蛻?↑繧ゅ?縺ッ莠悟コヲ縺ィ謌サ繧峨↑縺?→遏・繧翫↑縺翫b謌ヲ縺?カ壹¢縺ヲ縺上l縺溘♀蜑阪r縺ェ縺翫b謌ヲ繧上○繧狗ァ√r險ア縺吶↑鬘倥o縺上?蜈ィ縺ヲ繧呈兜縺貞?縺励※逕溘r隰ウ豁後@縺ヲ谺イ縺励>縺ィ譛帙?霄ォ蜍晄焔縺ェ遘√r險ア縺吶↑縲ゅ≠縺ょ暑繧医?√←縺?°蜈ィ縺ヲ縺悟ォ後↓縺ェ縺」縺ヲ謚輔£蜃コ縺吶%縺ィ繧帝。倥≧蜿九r縺ゥ縺?°險ア縺励※谺イ縺励>縲

蜷帙?遨コ陌壹↑荳也阜縺ァ逕溘″繧九%縺ィ縺ォ縺ェ縺」縺溘?ゅ◎繧後〒繧る」「縺医k縺薙→縺ェ縺冗函縺阪※陦後¢縺ヲ縺励∪縺?協縺励∩縺ッ遘√↓逅?ァ」蜃コ譚・縺ェ縺???」「縺育カ壹¢繧句暑繧域舞縺」縺ヲ縺励∪縺」縺溽ァ√r諱ィ繧?縺後>縺??ゅ◎縺励※縺?▽縺九?驕主悉繧貞ソ倥l縺ヲ縲∵眠縺励>繧ゅ?縺ォ貅?縺溘&繧後k縺薙→繧帝。倥≧縲よ?縺悟暑繧医←縺?°螳峨i縺九↑譌・蟶ク繧帝℃縺斐@縲∵眠縺溘↑繧句暑繧貞セ励k縺薙→繧貞ソ?°繧蛾。倥≧縲

遘√?證鈴裸縺ョ荳ュ縺ォ豐医?縺ケ縺阪□縺」縺溘?ょ?繧貞眠縺」縺ヲ荳弱∴繧峨l縺溷多縺ォ諢丞袖繧定ヲ九>縺?縺帙★莉ョ蛻昴a縺ョ貍斐§繧倶ココ蠖「縺ィ縺ェ繧九?ょ暑繧医←縺?@縺ヲ螻?↑縺上↑縺」縺ヲ縺励∪縺」縺滂シ溘??縺ェ縺ォ繧ゅ?縺ォ繧よ?繧後★縺ョ蠖ア縺ォ縺ゥ縺?°諢丞袖繧剃ク弱∴縺ヲ谺イ縺励>縲ゅ≠縺ょ暑繧郁ィア縺励※谺イ縺励>縲√%縺ョ蜻ス縺ョ菴ソ縺?%縺瑚ヲ九▽縺九k縺セ縺ァ蜷帙′螟ァ蛻?↓縺励※縺?◆蠢?r縺ゥ縺?°雋ク縺励※谺イ縺励>縲∝暑繧医?

----------------------------------------------------

 

 

 

『BSF』の画面に謎の文字が高速で流れていく。

 

文字が流れきると全ての音が死に絶えたかのような無音の世界となる。混沌がとんび服を広げると腰に装着していたブレイダー・ベルトが露わになる。

 

「――変身」

 

台風を上から見たかのようなデザインのバックル。そのバックルの言わば台風の目に見える中心の穴に『B.S.F』を差し込み回転させる。すると『B.S.F』は穴の中に回転しながら吸い込まれていった。

 

 

『OK...ask...fire...Erase』

 

“懇願”の声が世界に召喚されると、混沌の影が八つに分かれ、それらが螺旋を描くように渦巻きながら肉体に纏わり付いていきアンダースーツとなる。最後に人の形から外れた影が背後に現れて体に覆い被りアーマーへと変化していき、『ブレイダー・カオス』が現界する。

 

『おまえは……なんだあああああ!』

 

「私の名は『ブレイダー・カオス』。変身ヒーローだよ(汝らの天敵だ!)\(^▽^)/!」

 

人型結晶は半狂乱になって、腕を槍へと変えてカオスに向かって伸ばした。

 

「無駄だ」

 

カオスもまた足下の影から八本の影の帯を伸ばし、結晶の槍を粉砕。そのまま影の帯は人型結晶の元へと向かい、その堅そうな体を切り刻む。

 

『そ、そんな!? どうして!? まほうちがう! これはちがう!!』

 

「哀れな生物よ、這い寄れ――混沌の足下に」

 

影の帯に切られ続け満身創痍となった人型結晶。カオスのバックルの穴から柄が生え出てくる。それを握り取ると生き物のように動いていた影の帯たちが柄の先端に集まり螺旋状の刀身へと変化する。

 

カオスが影の剣である『影捻(えいねん)』の剣先を人型結晶に向けて、膝を限界まで後ろへ引き、腰を落とす。

 

『Come over here』

 

構えが完了すると機械音声が流れた。その声は先ほどまでとは違い、仄暗い喜びが含まれていた。

 

『――ああそっか』

 

忽然と姿が消えたカオス。彼の居た場所に影だけが残っており、その影がまるで全力で走っているように動き人型結晶に接近する。観念したかのように人型結晶がぽつりと呟く。

 

『君たちは――枯れた樹の――』

 

影が目前へと迫ると消えていたカオスが露わとなり、『影捻』で人型結晶に捻り貫く。

 

「カオス・スパイラル」≓『chaos Spiral』

 

人型結晶は刺された箇所からゆっくりとひび割れていき、体に力が抜け項垂れると一瞬にして粉々にはじけ飛んだ。

 

 

結晶が宙を舞い、キラキラと光が乱反射するなかで混沌は見得を切る。

 

「……これにて此度の『裏案件』。完全決着」

 

小鳥遊蜜柑の保護から始まった『裏案件』は、こうして解決となった。

 

+++

 

893:混沌

お疲れえええええええええええ全部終わったよおおおおおおお\(^o^)/

 

894:騎士

お疲れ様ですうううううううううううう!

 

895:天使

お疲れえええええええええええええええ!

 

896:七色

うおおおおおおおおおおおおおおおおお!

ちかれた。

達成感とか勝利の美酒とかなくて……ただただ安堵したっす。

 

897:騎士

それな

 

898:天使

ほんそれな

 

899:七色

俺……初めて参加したっすけど……本当に上手くいってよかったっす……ブレイダーになって、『アーマード』に加入して、いや……人生で最も緊張した数日間だったっす。だって失敗したら、みんなが危ない目に合うかも知れないって考えがずっと頭から離れなくって、本当によかったっす……

 

900:天使

七色は本当に頑張ったし、大活躍だったよ。セブンスガールもね。本当にお疲れさま-!

 

901:騎士

改めて言うのは違うとは分かってるんだけどさ……。

七色、怒鳴りつけてしまってごめんなさい。

 

902:七色

いや! 騎士が謝ることなんってほんっとなんにもないっすよ! 

『アーマード』の皆に相談せずに、彼女たちに『裏案件』のこと話してしまって本当に申し訳なかったっす!

 

903:天使

まぁ、結果的に彼女たちのお陰で手が足りたんだから、オーライオーライ。

 

騎士もあんまり気にしなくて良いよ。『裏案件』は秘密裏にしているものだったから激おこするのは当然だった。

はい! 謝りすぎはよくないから、これでやめやめ!

 

904:七色

そうっすよ! これでやめやめっす!

 

905:騎士

そうだな……俺も七色とおんなじで引きずっているのかもしれんね。

 

天使と悪魔先輩が間に合わなければ、誰かが死んでしまっていたと思うとな……。

 

906:天使

あれは本当に仕方ない、運が悪かった。例えるならまじで普通に青信号の横断歩道渡っていただけなのに猛スピードの車にひかれるとかそんなレベルだった。

それに第一世代の先輩たちと違って、ボクたち第二世代はシステム的にフェアリーには対抗しづらいからね。それなのにフェアリーと戦いながら、魔装少女たちを守れたのは『ブレイダー・ナイト』だったからだよ。

 

907:騎士

それは分かってるけどさ……じゃあはいそうですかって、割り切れるものでもないじゃん? 

今回は本当に色々考えさせられた。守るだけでは守り切れない事もあるとかさ。

盾だけっていうのは卒業する日が来たのかもね。

 

908:天使

もー! 七色も騎士も肩張りすぎ! せっかく終わったんだからパーティしようぜ!

今から僕の家に来て騒ごうぜ!! 今夜は奢りだーーー!!

 

909:七色

いええええええええ!! さっすが天使様っす! こう言う時たっかいお寿司注文してくれるからだい好きっす!!

……でも、行けないっすっ! 

すいません!! 手伝ってくれた彼女たちを労いたいので、五人でご飯食べに行く予定入れちゃったっす!

 

910:天使

馬鹿だな……セブンスガールも呼んでいいに決まってるでしょ!

彼女たちも今回の功労者! 誘わない訳がない!!

特上寿司人数分出前取っておくね!

 

911:七色

まじっすか!? じゃあ早速聞いてくるっす!

 

912:騎士

おい! 七色!? それは不味いって!?

 

913:天使

だいじょーぶでしょ。 最初から二人きりとかじゃないんだし、ボクたちは下手に近づかなければ良いと思うしね。

それに、ここまで関わっちゃったんだからセブンスガールと直接顔合わせして、色々と巻きこ……説明して完全な仲間陣営として引き込みたいしね。やった人手が増えるぞ!

 

914:騎士

一回本音隠した意味ないなぁ……。

魔装少女を仲間に引き込むか……それは『アーマード』としてあり?

 

915:天使

彼女たちの気持ち次第で『ブレイダー・セブンス』は強くなるし、簡単に弱くもなる。それなら事情をある程度説明して、納得して貰った方が安全だと思う。

……七色の場合、ほら、生きているだけでセブンスガールが増えててもおかしくないし……ヤバイ事態が起きたとしても動きやすくなるかなって……。

 

916:騎士

生きているだけで増えるは草。

そっか、ほんと色々考えてるんだなぁ……。

 

917:天使

ま、ね。……騎士はさ、七色が名前通りになると思う?

 

918:騎士

分からないなぁ、そもそもセブンスの『スキル』に対象になるのが七つまでって言うのは俺たちの予測でしかないわけでしょ?

スキルの限界保持数が七つなのか、それとも別の意味なのか、こればっかりは七人集まってみないとなぁ……。

 

919:天使

もしさ、セブンスの現界が名前通り七つが限界だったとして――彼に特別な感情を持つ魔装少女が七人を超えたら?

 

920:騎士

それこそ仮定の話しか出来ないし、七人揃った時考えよ?

 

921:天使

そうだね。ごめん。

 

922:騎士

あんまり抱え込みすぎないでね。

天使はさ。すげー頑張ってるよ。皆のために色々動いていて、本当に助かってる。

いつもありがとね。

 

923:天使

不意打ちはガチ照れするんでやめてもろていいですか?

 

924:王様

少し遅くなったがみなのもの! こたびの働き真に大義であった! 我自らが労おうぞ!!

 

925:天使

あ、王様だー! さっきぶりー! そしてこっちでは久しぶりー! そしておつかれー!

 

926:騎士

おつかれー。なにかやってたの?

 

927:王様

うむ! ここ数日政を疎かにしてしまったからな! 財政面で不安が出てきたので激安スーパーに赴いておった!

 

928:騎士

いや、あなたついさっきまで多数のグレムリンと戦っていましたよね?

 

929:天使

もー。いつも言ってるけどっ! お金に困ってるなら言ってよね!

 

930:王様

それは出来ぬ。天使が稼いだのは天使のもの。それに『アーマード』ひいては『アーマードchannel』の活動資金となるものだ! 王が私利私欲で税金を使うなどあってはならない!

 

931:天使

そうやって動画出演の時も時間×800円しか受け取らないんだから……最初はまじで動画の登場尺だけしか受け取らないからどうしようかと思ったよ。

 

いまでも頑なすぎてどうしようと思ってるけど。

 

932:王様

なに、我が妹たちの生活費を捻出してもらっているだけで充分だ! 今後とも妹たちの事はよろしく頼む!

 

933:天使

その金、一応王様の生活費も入ってるんだけど……使ってないよねぇ……。

あーもー。分かったよ。でも今日のパーティには出てよね! タッパたくさん持ってきてもいいから!

 

934:王様

応! 

では、妹たちの様子を見に行く故、我は一度席を外す。

またパーティの時にな。その際には褒美として王のお好み焼きを持参しよう。

ではな!

 

935:天使

わーい。王様の粉物大好きー!

じゃあ、またねー

 

936:騎士

行ってらっしゃーい。

……王様、たまにしか書き込まないから、こうやって来てくれると安心するよね。

 

 

937:天使

仕事で忙しいからねー。

そんでちゃんとブレイダーとしても活動しているし、体壊さなきゃいいけど。

今日は多めに出前頼んじゃおっと、どうせ持ち帰ったものは先に妹たちに食べさせてるんだろうし。

 

938:正義

いつ見てもお前ら二世代は微妙に面倒っちいなぁ?

普通と呼ばれるものが、どうしてここまで拗れるかねぇ?

 

939:天使

げえええ!!? 正義!?

 

940:騎士

アイヤアアアアア!!? 正義先輩!? ナンデ!?

 

941:天使

塩投げろ塩!! 

 

942:騎士

悪霊退散! 悪霊退散!!

 

943:混沌

お塩えーい!(っ’-‘)╮:;:;:;;

 

 

944:正義

ナハハ。随分と嫌われたもんだなぁ。

まっ、それでこそだな。お前たちは。

つか、混沌お前が塩投げるんかい。

 

945:天使

正義もお疲れ様! そしてお帰れ!

パーティは参加しろよな!

 

946:正義

高度なツンデレ芸だな。ナハハ。

別に無理しなくていいぜ? 楽しめなくなったパーティなんて存在価値ねぇだろ?

 

947:奈落

参加するといい、君が参加しない方が気にしてしまうよ。

 

948:騎士

奈落さん、お疲れ様でした!

 

949:天使

奈落さん。お疲れ様ー! 

 

950:奈落

みんなもお疲れさま。みんなの頑張りのおかげで今回も犠牲者を出さずに解決することが出来た。本当にありがとう。

 

951:騎士

そんな、奈落さんあってこそのこの戦果です! むしろ称賛されるべきは奈落さんですよ!

 

952:天使

主犯たちの本拠地を発見出来たのも。

人質として囚われていた魔装少女たちを助けられたのも。

隠れて出てこないフェアリーを炙り出せたのも。

全部奈落さんのおかげじゃないか。

 

953:正義

この人望の差よ。ナハハ。

よかったじゃねぇかよ、奈落。

 

954:奈落

ありがとう。

でも、君にだってみんな感謝しているよ。尊敬もしているし、頼りにしている。

ただ、第二世代は僕たちと違って真っ当な子たちが選ばれているからね。君の正義は彼らにとっては強い毒でしかないから距離感に困ってるんだよ。

 

955:正義

ほんと見た目豆腐でわさびの塊なやつだよお前は。俺にそんなこと言うのお前ぐらいなもんだぜ?

 

956:悪魔

やっと終わった……。

ったく、なんで俺が捕まっていた魔装少女たちの家に送っていく担当だったんだ?

 

957:正義

運転免許持ってて、お前のファンが多かったからだろ言わせんなよ。少年少女のヒーロー。

それとも、ガキたちに言い寄られて殴りたくなったのか?

 

958:悪魔

ばかやろう。冗談でもいうんじゃねぇよ。

……ただ、戸惑っただけだ。

 

959:正義

ナハハ。まあ気持ちは分かるがな。俺だってお前みたいな立場になったら世界を疑う。

はみ出しもの限定の救済者が、悪魔になってヒーロー。んで今では真っ当で純粋な子供たちの人気者ってな。

 

素敵な現実じゃねぇか。ナハハ。

 

 

960:悪魔

てめぇはいつも言い回しがクソなんだよ。正義。

 

961:混沌

こらー!ヽ(`Д´)ノ

 

空気が <(`^´)>

 

悪く <( `^´)/

 

なってる ヽ(`^´)>

 

でしょ! \(`^´)/

 

はやくどうにかしなさいっ!(੭ ᐕ)੭*⁾⁾ カモーン!

 

 

962:正義

おまえふざけんなよwwww

 

963:悪魔

カモーンは卑怯だろw

ったく、悪かったな。混沌。それに正義。

 

964:正義

ナハハ、お前に先に謝られたら俺の立場がないねぇ。

悪かったよ。久しぶりに仲間と話すとあって浮かれちまっていたようだ。

 

965:奈落

正義は寂しがり屋だからね。たまには自スレを立ててみたらどうだい? 少なくとも第一世代のボクたちには遠慮なく話しかけてきなよ。

 

966:正義

ほんと、お前だけだよ俺に対してそんなこと言うやつは……。

つーか、なんだな。第一世代が掲示板で全員集まったのは数ヶ月ぶりじゃねぇか?

 

967:悪魔

失楽園いるのか?

 

968:奈落

いると思うよ。動いているスレはリアルタイムで必ずチェックしているって言ってた。

 

969:悪魔

そうか、まあ元気そうならいい。

お前のやっていることがもの凄く大事なことだと分かっている。だけど俺たちを頼っていいんだ。たまには顔を見せろよ。

 

970:正義

だとよ。失楽園。

 

971:混沌

失楽園みてるー? やっほーヽ(。·ω·。)ノ元気でいろよーー。

 

972:奈落

君がいないと、やっぱり寂しいよ。定期的でいいから顔を出して欲しい。待ってるよ。

 

973:正義

さて、せっかく、ここに五人居て後輩たちに遠慮して貰ってるんだ。五人で出来る話をしようじゃねぇか。

例えばそうだな。『裏案件』の最中に決まった悪魔のヒーローショーの段取りとかな。

 

974:悪魔

五人で話す内容じゃねぇ!? ていうかなんでお前がそれ知ってる!?

 

……まて本気でそれ話すのか!? せっかく集まったんだからもうちょっと真面目な話をだな!?

 

975:混沌

一仕事終えたんだし、それはまた今度でいいよ(*^-^*)

 

976:悪魔

いまやれよ!? ああもう……どうしてこうなったんだか……。

 

977:奈落

その話、ボクは知らないね。聞いてもいいかい?

 

978:正義

蜜柑って切っ掛けの魔装少女がいただろ? それが結構な悪魔ファンみたいでな。

んで、敵に捕まっていたのを救出された後、天使が話しているうちになんか興に乗ったらしくってな。んで気がついたら悪魔のヒーローショーをやるって話になっていた。

ちなみに、コイツはその時戦闘をしてたから知ったのは断ることも出来ねぇほど全部終わってからだったんだよなぁ。

 

979:奈落

こういう時って草って言うんだったっけ?

 

980:悪魔

やめてくれ……今の俺に草は効く。

 

981:正義

おめぇも断ればいいものを、ガキたちのキラキラした目に負けて近日公開とか言っちまうから。ナハハ。

 

982:悪魔

お前揶揄うためだけに暴露しただろ? てめぇはやっぱり一発殴る。

 

983:正義

お? ならヒーローショーのヴィラン役で出演してやるよ。それなら正面から堂々と殴れるぞ?

なんだったら第一世代全員出演のヒーローショーってのも悪くねぇ話だな?

 

984:悪魔

本気で言ってんのか? ……本気で良いかもしれんな。

 

985:混沌

みんな道連れって考えはよくないと思います((((;゚Д゚))))

 

986:悪魔

ステージで一人とか無理だっ!

ちなみに奈落。他人事の腹づもりなんだろうが、本当にやるならお前も参加だから?

 

987:奈落

え? いやボクが出たら、それこそ事故にしかならないと思うけど。

 

988:正義

まっ、ナレーションでもちょい役でいいから出てみろよ。てめぇだって嫌いじゃないだろ?

天使の気苦労は増えるがな。ナハハ!

 

989:悪魔

おっし決まりだ決まり! 

いいんだよ。元はといえばアイツの軽口から始まったんだから。

 

990:混沌

うーん。この悪魔(∗ ˊωˋ ∗)

 

991:悪魔

悪魔だよ。

 

992:正義

違いねぇな!

っと、気がついたらもうすぐ1000レス目か、終いを見るのは久しぶりだな。

 

993:奈落

そう? ボクは結構見ているけど。

 

994:混沌

奈落も掲示板いっつも見ているからね(*╹▽╹*)

 

じゃあ、お決りのやるよ!ヽ(*´∀`)ノ

 

テーマはせっかくだから「天使主催のパーティに関係するもの!」( *´艸`)

 

995:悪魔

1000だったら、パーティに参加するやつ全員ヒーローショーに出る。

 

996:奈落

じゃあ、1000だったら即興でショーの練習しようか。

 

997:正義

1000だったら失楽園もパーティに参加。

 

998:混沌

1000だったらキャビアごちそう(^^)/

 

999:七色

遅くなったっす! 全員来るそうっすよ!!

やっっほー!! 寿司ーー!!

 

1000:希望

1000だったら七色はセブンスガールと個室で一緒に過ごす。

 

 

 

 

 




希望「やった、いいことできた」
七色「きぼおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?」

これで一応全員分の情報は出ましたかね。
一番口調が難しいのは騎士だったりします。
魔装少女もそろそろ書きたいな。


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『番外』新米魔装少女の気苦労その1

今回は番外編で、魔装少女視点となっております。
短めにするつもりだったんですが、気がつけば二倍の量に……。

お気に入りが200件越え、ランキングもここ数日乗り続けているみたいで、ほんとうに嬉しいです。ありがとうございます!!
これからも応援よろしくおねがいします。

また脱字誤字が多い身ですので、誤字報告本当に助かっています。

※作者が早生まれの歳を素で間違えていましたので桃川暖子の年齢を変更しました。すいませんでした!

拙い文章ですが、気がついたらちょっとずつ加筆修正を加えていきたいとおもうので、よろしくおねがいします。




最近、念願の魔装少女になれた桃色髪の少女は、自分はもしかして不幸なのではないかとため息を吐いた。

 

「だんご~ ため息吐いてどうしちゃったの~ なにか悩み?」

「もう! だんごって呼ばないっでっていつも言ってるのでしょ!? わたしの名前は『桃川 暖子(もものかわ だんこ)』だってば!」

「だんごの方が美味しそうだよ~」

「そういうことじゃないってば!?」

「でも、そのお陰で夢が叶ったんだし、いいじゃん?」

「それが一番納得出来ないの!」

 

桃川は自分の相棒であるキングペンギンをディフォルメして、さらにぽっちゃりさせたフェアリー『モググ』に抗議する。

 

どうしてこうなったのかと桃川は魔装少女になった時のことを思い返す。

 

魔装少女になることを夢に見て親に頼み込み、『魔装少女塾』や『協会』にて魔装少女になるための勉強や特訓をしてきた。そして小学校を卒業した春休み。その願いは叶うことになる。

 

毎年春になるとフェアリーたちが少女たちの中から魔装少女になるものを選ぶのだが、そのさいモググは桃川を選んだ……のだが。喜びに浸れたのも束の間、モググが語った選んだ理由に桃川はいちど心をへし折られることになる。

 

「……名前が美味しそうだったからでフェアリーに選ばれたの、多分わたしが初めてなんだろうな……」

「やったね、史上初の快挙だよ!」

「嬉しくないよ! 例えば魔装少女が集まって、みんなはどうしてフェアリーに選ばれたのって話題になったら。心が綺麗だったからとか、戦う姿に惹かれたとかちゃんとした理由が出てくる中で わたしの場合名前が美味しそうだったから選ばれたんだよ……。って絶対言えないやつじゃん!」

「そう~? ボクは同僚のフェアリーに言っているけどな~。みんな君のことを可哀想って言ってたよ~。なんでだろうね~?」

「会ったことないフェアリーに同情されてるのわたし!?」

 

それにと、桃川はここ数日間で溜め込んでいた不満や疑問をモググにぶつける。

 

「……あのさ。なんでわたし、こんな高そうなマンションで一人暮らしすることになったの? エレベーターガラス張りとかヤバすぎたんだけど?」

「うーん。部屋が開いていたから? でもよかったじゃん。こんなにいいお部屋タダで独占出来たんだから~」

 

魔装少女は申請さえすれば、『協会』などの支援団体から活動地域に近しいところのマンション、時には一軒家などを家賃無料、光熱費水道水ガスなど一定額免除など受けて住む事が出来る。それはひとえに時には戦う少女たちのためにと心優しい人たちから送られる支援であり、それ自体は桃川もありがたいなと思っている。

 

……問題なのは今まで五人家族と狭いアパート暮らしだったところを、魔装少女になったからと流されるままに5LDKの高級マンションに一人で住むことになったということだった。

 

「わたし12歳! 今まで八畳間一部屋で姉二人と雑魚寝暮らし! 慣れるわけないじゃん!」

「姉妹が多い人間って一人暮らしに憧れるって聞いたけどなー。まあボクも一緒に暮らしてるけど」

「それはもうちょっと五年後とかに思うやつ! 普通に寂しいよ!」

 

桃川の最近の癒やしは元魔装少女だったらしい管理人さんとのご飯の時間だけであり、夜など寂しすぎてモググを力いっぱい抱きしめて寝ている。

 

「いや~。魔装少女に貸し出されている部屋が余ってるとは聞いていたけど誰も住んでいないなんてね~。さすがにボクも予想外。ここら辺の地域で活動している魔装少女ってみんな実家暮らしなんだって~」

「わたしもそれでよかったじゃん!」

「実家暮らしだと指定された地域(ここ)まで遠くて活動申請通らなかったんだよ~」

「……現実的な理由! というかお母さんもこれも人生経験とか言って簡単に許可しないでよも~!!」

 

桃川は膝から崩れ落ちて、何かと自由過ぎるマイファミリーに向かって叫ぶ。訳も分からず引っ越しトラックに乗せられて連れて行かれる自分を、全員がめっちゃいい笑顔で手を振るって見送っている姿はしばらく忘れられそうに無かった。

 

「はぁ~。グレムリン現れないかなー」

「魔装少女あるまじき発言だよね」

「だって寂しいんだもん! グレムリンが現れたら他の魔装少女に会えるから、連絡先交換して、眠くなるまでお喋りとかしたい! そしてあわよくば一緒に暮らして欲しいな~」

「そんなこと言って怪我とかしないでよね~」

 

ふんすと意気込む桃川に、モググはやんわりと注意する。

 

「……あ。こういうのなんて言うんだっけ~?」

「どうしたのモググ?」

「そうだった~。噂をすれば影ってやつだね~。現れたよグレムリン~」

「……え゙!?」

 

あまりにもタイミングのよさに、桃川は本気で驚き――

 

「……ごめんなさい!」

 

――いたたまれなくなってモググに全力で謝罪し、とりあえず現場へ行こうと冷静に窘められた。

 

+++

 

「現場ってここ?」

「そうだよ~」

 

異世界からの侵略者であるグレムリンは、定期的に次元の壁を通り抜けて日本へと降り立つ。フェアリーはそんな次元の壁の異常を感知する魔法を有しており、先んじてグレムリンが現れる地点を把握する事ことが出来る。

 

桃川がモググに案内されてたのは町中の大きな公園であった。お昼過ぎほどの時間、数百人が各々好きなことをして過ごし観光客でも賑わっている。

 

「……だんごってさ~」

「暖子だってば……なに?」

「なんか、これぞ魔装少女って感じであざといよね~」

「いまそのそれ言う必要あった!?」

 

桃川は外へ出る前にすでに変身しており、髪と同じ色をした桃色のドレスに可愛らしいステッキと、実に正統派な“魔法を使う少女”な姿となっていた。魔装少女は己の心象に存在する理想の姿を元にして変身するのだが、こうも分かりやすい姿になる桃川は逆に珍しかった。

 

「逆に珍しいから、人気は取れそうだよね」

「そんな奇をてらった感じで人気になりたくないんだけど!? ……というかモググ、どうして現場に一緒に付いてきてくれたの?」

 

フェアリーは少女に魔法の力を与えた後の活動は個々によって大きく変わってくる。自分が担当する魔装少女の体調や生活環境などを管理するマネージャー型。あくまでも友達として接するフレンド型。完全な放任主義など。

 

そんな中には魔装少女と一緒に現場へと赴き戦うフェアリーもいるがかなり珍しい部類であり、それを知識として事前に知っていた桃川は素朴な疑問としてモググにぶつけた。

 

「モググは戦闘経験のない十二歳の魔装少女を一人で戦わせるほど鬼じゃないよ」

「十二歳に一人暮らしさせた妖精の言葉とは思えない……」

「ほら、あれが『次元の裂け目』だよ~」

「え? あ、ほんとだ。あれが『次元の裂け目』……すごい、本当に景色が裂けてる。へぇー、なんか現実じゃないみたーい」

 

桃川は映像で見たことはあるが、直接見ることは初めてであり、モググの不満を忘れて『次元の裂け目』をまじまじと見やる。

 

「だんご~。いつグレムリンが現れるかも分からないんだし、不用心に近づくのは危ないよ~」

「ぎゃああ! なんか腕はえてきたっ!」

「……だんごってほんと運が悪いよね~」

 

軽率に『次元の裂け目』の傍まで近づいてしまった桃川は、爬虫類の鱗を纏い鋭い爪を持った人間のような腕が『次元の裂け目』から出てきたことによって、驚きのあまり背中からでんぐり返し、傍目で見るとコント以外の何物でも無かった。

 

「……トカ、トカカカカカカ!!」

 

それからすぐに裂け目をこじ開けるように出てきたのは人型の蜥蜴。いわゆるリザードマン型のグレムリンだった。桃川は『次元の裂け目』と同じく、初めて間近でみる人類の敵グレムリンにゴクリと喉を鳴らす。テレビで聞いた時はちょっと可愛いと思っていたグレムリン特有のわざとらしい鳴き声が、ちょっと怖かった。

 

桃川はまず落ち着きを取り戻すためにも『魔装少女塾』で習った最初にやることを思い出していく。

 

「えっとえっと、まずは周囲に居る人の避難を呼びかける……ってもうだれもいないじゃん!」

「ここら辺グレムリンの多発地帯だから、みんな慣れたものだよ~」

「いや良いことだけど……なんか、想像してたのと違う」

 

まず第一に周囲の人に避難勧告すること、しかし桃川とグレムリンの周辺にはすでに人っ子一人いない。野次馬根性を発揮して桃川たちにカメラを向けているものもいるが、それも大声を張り上げても届かないほど遠くにいた。

 

中学生になりたての桃川、なんか色々と最悪を妄想していた彼女は気まずそうに遠くで見守る人々をちらりと見て、恥ずかしげに手を振るう。

 

「トカカカカカ!!」

「だんご~。グレムリンが動き出したよ~。はやく注意を引かないと公園が破壊されちゃう~」

「え!? あ、うん!!」

 

グレムリンの破壊活動は無差別である。人間だけではなくとにかく目に映るもの全てを壊す動きをするため、魔装少女はまず声を張り上げるなり、攻撃を当てるなりして注意を引きつける必要がある。

 

「すぅーはぁー」

 

そのために生まれたのが空想上の似て非なる存在、“魔法少女”が行うような名乗りの文化である。桃川は深呼吸して、魔装少女になる前から考えていたオリジナルの名乗りを高らかに叫ぶ。

 

「そこまでだよ! 悪に支配され! 人様にめいわ……くをかけ……るぐ、ぐれ……む、むりぃん………………………」

「……だんご~。途中で心折れちゃだめだよ~」

「よくかんがえたらめっちゃはずかしいじゃん」

「こういうのは勢いだよ~。ほら、グレムリンがどっか行こうとしてるよ~」

「やばい! えっとこうなったら! わたしの魔法で攻撃だ!」

 

桃川はステッキを掲げると、桃色の光がハート型の先端に集まっていく。

 

「よし練習通り上手くいった! これをーえーい!」

 

桃川がステッキを勢いよく振るうと、集まった光が球体となりリザードマン型グレムリンへと向かって飛んでいった。

 

ぶっちゃけ地味ではあるものの、この光の球体こそが物理攻撃を無力化するグレムリンに通用する唯一の手段、『魔法』そのものであった。

 

「いけー!」

 

かけ声と共に光の球体は加速、そこそこな速度でグレムリンへと向かっていき、そして直撃――。

 

ぺしっ。

 

「トカ?」

 

――ゴムボールみたいに弾かれて、空中で霧散してしまった。リザードマン型グレムリンは当たったところをちょっと掻いた。

 

「……あ、あれ?」

「あ、そういえば最近のグレムリンってめっちゃ魔法耐性強くなってて、魔力放出型の攻撃魔法とか効きづらくなってたんだった~」

「それもっと早く言ってくれないと困るやつじゃん!?」

「どっちにしても、だんごの魔力放出型の魔法適正一番した(Eランク)だから結果は変わらなかったと思うよ~。でもほら~、こっちに意識を向けてくれたみたいだよ~」

「ひえっ」

 

ギロリと蜥蜴の瞳で睨まれて、元から爬虫類が苦手な桃川は顔を真っ青にしてぶるりと震える。

 

「……このステッキで叩いたら倒せるかな?」

「ダメージは与えられるかもだけど無理だと思うよ~」

「ですよね! じゃあ、当初の予定通り……」

「トカカカカカカカカカカカカカァ!!」

「他の魔法少女来るまで逃げにてっするぶへ!」

「なんでそこで転ぶの!?」

 

逃げようと動き出そうとしたとき、少しの窪みに足をとられて転んでしまう桃川。あまりの不幸さにおっとりとしたモググも思わず声を張り上げてしまう。その間にリザードマン型グレムリンに距離を詰められて逃げられなくなった。

 

「あわわ……モ、モググ!? なにかこう逆転出来るものとかないっ!?」

「そんなものはないよ~。うーん。まあ、めっちゃ痛いけど死にはしないと思うから、頑張って~」

「がんばってって……あ、ちょっと!?」

 

モググは桃川から離れて、フェアリー特有の飛行能力で上空へ待避する。

 

「あ、魔装少女だからわたしも空飛べるとか!?」

「だんごに飛行魔法の適正ないよ~。逃げるなら走って逃げてねー」

「じゃあ魔法かなんかで援護してくれるとか!?」

「モググ、戦闘に役立ちそうな魔法使えないんだよね~」

「ガチの見捨てられじゃん!? あ、ちょっとまってまってまって!?」

 

 

リザードマン型のグレムリンが迫り、パニックになってその場から動けない桃川。覚悟を決めてバリアの魔法ってどうやって出すんだっけと脳内検索するが間に合いそうに無かった。

 

「あ、むり。しんだ」

「――伏せて」

「はい!」

 

諦めかけたそのとき、桃川は後ろから聞こえてきた声に従い頭を守るようにしゃがんだ。

 

「はぁ!」

「トカァ!?!?」

 

――インナーシャツに短パン、見て明らかに動きやすい格好をした黒い魔装少女が、桃川を飛び越えながらリザードマン型グレムリンの顔を殴り吹き飛ばした。

 

「あなたは!?」

「ごめん、逃げられる前に倒すから後で! 〈魔法展開(スペル):キャットウォーク〉!」

「トカぁ!?」

 

黒の魔装少女が魔法を発動すると、桃川の目には見えないほど素早くなり一瞬にしてリザードマン型グレムリンの懐へと潜り込み、強烈なボディブローを繰り出し、くの字に折れ曲がったグレムリンに怒濤の連撃を繰り広げていく。

 

「〈魔法展開(スペル):ビートルアップ〉」

 

頭を揺らして動かないグレムリンを前にして、身体強化の魔法を自身にかけた黒の魔装少女は全身を捻り力を溜める。

 

「終わらせるよ。『ノワール・クラッシュ』!」

「トカアアアアアアアアアアアアアア!?!?」

 

肉体が強化されて、魔力が籠った拳による強烈な右ストレートがリザードマン型グレムリンに直撃。胴体を消失させリザードマン型グレムリンは致命的なダメージを負った。

 

「トカカカカ……カ……」

 

膝を付き地に伏せるリザードマン型グレムリンは絶命、最後には肉体が粒子となって跡形も無く消失した。その様子を見守ったあと、黒い魔装少女は桃川の方へと振り返った。

 

「あの……え?」

 

桃川は、なんて声を掛ければと悩んでいる黒い魔装少女の手を握る。

 

「あなたは……魔装少女!」

「えっとはい……応援にきたよ?」

「本当にありがとう! 来てくれてほんっっとーにありがとう!!」

「えっと、よかったね?」

 

まるで助けられた一般人みたいに喜び、握った自分の手を振るうご同業の姿に黒い魔装少女は戸惑い苦笑する。

 

「私は『パンチャー・ノワール』。あなたは?」

「は、はい。わたしの名前は『サンシャイン・ピーチ』……であってたよね?

「なんで、モググに聞くの~ まあそうだけど~」

「です!」

 

桃川は浮かれるあまり自分で一日費やして考えた魔装少女名を忘れてしまい、いつのまにか傍まで戻ってきていたモググに小声で尋ねる。

 

「ノワールちゃんって呼んでいい?」

「ちゃん付けはちょっと苦手かな」

「じゃあ、ノワールお姉様!」

「うーん、いいよ」

「それでいいんだー」

 

桃川も冗談半分だったのだが、明らかに自分よりも年上で強くて格好いいノワールがお姉様ならいいなと、許可が出たので正式にそう呼ぶことにした。

 

「あ、妖精同伴って珍しいね……そういえば、最近新しくここ担当になった魔装少女が配属されたって聞いたけどピーチがそうなの?」

「はい! 多分それです。三日前になったばかりで右も左も分からない新米ですがよろしくお願いします!」

「そっか、ピーチがあの本名が美味しそうだからで選ばれた魔装少女だったんだね……」

「めっちゃ知らてれる!?」

 

ノワールは、ピーチに向かって同情した眼差しを向ける。

 

「……なにか困った事があったら相談してね。私が出来ることなら何でもするよ」

「え? じゃあどこに住んでるか教えて貰ってもいいです? というかリラインやってます? お友達になって今度一緒に遊びに行きましょう!」

「だんご~。聞きかたがひどいよ~」

 

 

――こうして桃川暖子の初めての魔装少女活動は終わることとなる。経過的には散々なものであったが、結果としては目的であった魔装少女であるノワールと連絡先が交換出来たことで、今日は良い日だったなーと鼻歌を歌いながら家に帰っていった。

 

――この出会いが、本当の意味で自分の気苦労の始まりとも知らずに。

 

 

+++

 

 

自宅へと帰宅したパンチャー・ノワールは自室のベッドに倒れこむように横になる。

 

「……面白い子だったね」

 

ノワールは桃川を思い出して笑いが零れてしまう。

 

「新人さんだし戦闘には向かなそうだったから、私がしっかり守ってあげないとね」

 

ぎゅっと手作りのぬいぐるみを抱きしめて――天井や壁一面にびっしりと貼り付けられた写真を恍惚とした表情で見やる――。

 

 

「――がんばるから応援してね。セブンス」

 

 




七色「ぶぇっくしょん!」

彼のネタが多いのは、1章の主軸となる物語が彼だからです。

次回は、かなり長めとなるので執筆に時間がかかるかと思われます。気長にお待ちください。


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七色編
【七色】相談に乗って欲しいっす!【緊急】 前編


お気に入り1000件いきました、べらぼうに驚きまいた、日刊ランキング三位、オリ日刊二位になってました、死ぬほど驚きました。その日は仕事に集中出来ませんでした( ̄▽ ̄)。
誤字報告。感想。評価、ここすきも含めて本当にありがとうございます!

それとちょっとだけ、どうするかと悩みましたが、自分の好きなものを書いていきたいと思います。

今回の話は、三部構成になる予定です。

※変身シーンを変更しました。また作者の技術が向上したらさらに手を加えるかもしれません。

※幸太の独白に関して違和感があったので少し修正しました。


――そりゃおめぇ。あん時は俺しかいなかったからだよ。

 

両親が死んだことで一人になった俺を引き取ってくれた親戚の爺さん。気持ちの整理がつきはじめ新しい環境に慣れ始めたころ、どうして俺を引き取ってくれたんだと尋ねたときの答えがそれだった。

 

――ボウズ。この無駄に長い人生の中ではな、どうしても自分だけしかいねぇ、代わりに動いてくれるやつが周りにいねぇ。でも俺がうごかねぇといま目の前にいるこいつは間違いなく不幸になる。そんな奴に出会う時が来る。それがあん時だったわけだ。だからなボウズ。お前がそういったやつに出くわしたら――。

 

俺がしてもらったように助ければいいのか、言い終わる前にそう尋ねると爺さんは笑ってこう答えた。

 

――自分で決めろ。

 

 

1:七色

たすけて

 

2:騎士

なんか最近似たようなの見たな?

ついにセブンスガールに監禁されたの?

 

3:天使

パーティの時、金が「最終目標は七色様を監禁して一生飼うことですわ」って言ってたけど、それが実行されたの?

 

4:騎士

あー。それだ。

個室で二人っきりになった時やばかったよね。

Sだとは思っていたけど、実際目にしたらドが付くSだった。

 

5:天使

大手会社の社長令嬢とは知っていたけど、お嬢様じゃなくて女王様だったのは本当に草だったねー。

 

6:騎士

ねー。

 

……書き込みないけど、これはマジでやばいやつだったのでは?

 

7:天使

これはガチのガチで年貢納めてなう?

 

8:騎士

でもパーティの時に少し話したけど、無理強いは怖がられるのが嫌だからしないって言っていたから、もしかしたら別のトラブルじゃない?

 

9:天使

狼少年ってわけじゃないけど、これはやらかしちゃったかも。

 

10:七色

すいませんっす! 最初に書き込んでからいままで全力で逃げてたっす!

いま、公園の男子トイレに隠れて書き込んでるっす。

 

11:騎士

よかった。不安にさせるなよ。

というかガチ逃げじゃん。何してんの?

 

12:天使

よかった、まだ無事だったー。

それでいったいどうして逃げてんの?

ほぼ間違いなくセブンスガールに関わることだと思うけどさー。

 

13:七色

先に言っときます。

オレナニモシテナイ

 

14:天使

犯人は必ずそう言うんだよ!!

さあ何したか吐いてもらおうか!!

 

15:騎士

カツ丼食べるか? もちろんソースでいいよな?

 

16:天使

えー。そこは卵でしょ?

 

17:騎士

は?

 

18:天使

は?

 

19:七色

適当なことで喧嘩して煙に撒こうとするのやめてもらっていいっすか!(泣)

 

20:騎士

俺たちだって心の準備が必要な時がある!

 

21:天使

そうだそうだ!

はい、すんだので解説どうぞー。

 

22:七色

 

五人で集まって出かけててグレムリン現れて変身

 

変身すると黒色が増えてた、知らない魔法も増えてた。

 

みんなガン見、俺なにも知らない。

 

グレムリン瞬コロ、俺もまとめてコロがされかける。

 

逃げてトイレ引きこもる←今ここっす

 

23:騎士

ごめんまず先に言わしせて欲しいんだけど。

字面が浮気がバレてトイレに逃げ込んでスレに助けを求めるクズ男にしか見えないよね。

 

24:七色

自分でもそう思ったので勘弁してくださいっす……。

 

25:天使

あっはっはー。本当大変だよねーww

 

あー、本当どうしよう。想像を遥かに超えたのきたよ。

 

26:騎士

その黒色、魔装少女に関してどこかで会ったことがあるとか、話をしたことがあるとか七色はマジでなにも知らないのか?

 

27:七色

いえっす

 

28:騎士

えぇ……

 

29:天使

えぇ……

 

30:七色

な に が ど う し て

こ う な っ た っ す

 

31:騎士

知らないよ

 

32:正義

なんか随分と面白いことになってるじゃないか、なぁ?

 

33:天使

ぎゃああああああ!! でたあああああああああ!!!

 

34:騎士

立ち去りたまええええええ!!(お疲れ様です)

 

35:七色

あんぎゃ

 

36:正義

まったく反抗心バリバリで可愛げしかねぇ後輩たちだなぁ。ナハハ。

 

37:天使

というかヒーローショーそろそろ始まるけど準備できてるの?

こっちから姿が確認できないんだけど?

 

38:正義

そりゃ舞台裏にいるんだ。観客席の機材置き場じゃ見えんだろ?

 

39:天使

あ、居たわ。もうお客さん入ってきたんだから大人しくしておいてね!

 

40:正義

はいはいっと。

お、俺の方でも見えたぜ。手振ってやろうか?

 

41:天使

やめて! 演出のために音響スタッフの振りしてバレないようにしてるの知ってるでしょ!?

というか、正義は顔だししてないんだから素顔のままで目立つ行動はNGでしょ?

 

42:正義

誰が素顔でって言った?

 

43:天使

ほんとやめて、ラスボス戦以外でマジで顔出さないで、ヒーローショー台無しにするきなの!?

 

あーもー。なんで出るんだよ! おかげで予定に無かった苦労することになったじゃん!

正義、自分の悪名知らないわけないでしょ!? 炎上ふかひーだよ!

 

44:正義

面白そうだったからな。ナハハ。

悪魔も了承してくれたし、これで出ねぇと勿体ねぇだろ?

それに奈落と混沌の出演を許可したんだ、俺だけ仲間外れは寂しいじゃないか。

 

45:天使

奈落さんと混沌の許可出してから、俺も出たいって話持ちかけてきたのはズルすぎるでしょ……。絶対狙ってやったよね!

おかげでホール借りることになったし、機材から人材までその道のプロに頼むことになりましたよ……。

 

……悪魔に『アーマードchannel』に投稿する動画は、アーカイブか編集動画どっちがいーい? とか言ってたのが懐かしーなー(遠い目)。

 

46:正義

【混沌】裏案件書き込み板パート18【報告】を最後まで見て無かったお前が悪い。ナハハ

 

47:天使

届いた出前の対応に忙しかったんですー!

というか改めて言うけど、今回はアクロバティックな動きするだけで銃とか実際に撃たないでね!

 

48:正義

分かってるって、俺だって流石にショーってことを弁えてるよ。

 

49:天使

君がショーって言葉使うと、絶対碌でもないやつにしか聞こえないよね。

 

50:正義

さあ、ショーを始めようか!

 

51:天使

絶対、死人でるやつー! バトロワとか始まるやーつ!!

 

52:正義

偏見はヒーローとしてよくないんじゃないのか? ナハハ

 

53:七色

あの

 

54:天使

正当な評価ってやつだよ。どうせ否定しないんでしょ?

 

55:騎士

そこまでにしようっか? 話が完全に脱線しちゃってる。

ここは七色の話を聞くスレでしょ?

 

56:天使

あーごめん。完全に熱くなってた。

それで、本人が知らないうちに色が増えてたってことだよね?

つまり顔も知らない魔装少女に愛されちゃったってことだー。

 

57:騎士

またヤンデレなんですかねぇ……。

 

58:天使

だと思うよ。七色は人気投票で最下位だったけど、ファンがいないって訳じゃ無いし、魔装少女の中もセブンスのファンって言う子がいるの確認出来ている。

それでも新しい魔法が発現しないってことは、必要な好意の度合いが言わば「異常な愛」、まあぶっちゃけヤンデレに本気で好かれるってことがスキル発動の条件。それが今までの話し合いで出てきた結論。

 

59:騎士

四人の時は、スキルが発現する前に面識はあったから、すぐに分かったけど、今回はまったく黒色の魔装少女に関して身に覚えがないってのは初めてだな。

これが本当なら、顔の知らない魔装少女に異常な愛を抱かれたって事になるんだが……七色ならあり得そうなんだよなー。

 

60:天使

>>53 ……七色?

 

61:正義

>>53 ナハハ……お前だれだ?

 

62:七色

ごめんなさい。このスマホを拾ったものなんですけど大変なんです。公園のトイレから男の人が出てきたと思ったら、四人の魔装少女っぽい人たちに一瞬で連れ去られちゃって、それでわたしの友達が追いかけていったんですけど、これが落ちててみなさんが話してて、えっとこれってなんなんですか? というかみなさんってもしかしてアーマードなんですか!?

 

63:七色

わたしの使ってるスマホとは違うから使い方とかいまいち分からなくって、お返事遅くなりました。

 

64:七色

あの、なにかお返事を聞かせて貰いたいんですけど。

 

65:騎士

……ごめん、ちょっとなにからツッコンでいいか分からなくって、とりあえず……なにしてんのあいつ!?

 

66:天使

『B.S.F』落としたのはだめでしょー!?

というかてーへんだてーへんだ! 誘拐だ拉致監禁だ!?

 

67:正義 

誘拐自体は>>35に起きていたか?

なんにせよ事件だなぁ。ナハハ。

 

68:天使

笑い事じゃないんだよー! 四人って間違いなくセブンスガールだよね!? 

ついにヤっちゃうために動き出したってことだよね!?

 

69:騎士

おおおちつけ、ままままだ慌てるような時間じゃない。嫌われるのが怖いから無理矢理はしないって言ってた。

可能性としては黒のことを追求するだけで連れて行ったかもしれんでしょ。

 

70:正義

そんなお行儀のいいやつらには見えなかったがね。

なぁ、天使よ。弱い心に浸って生きてるやつらが依存先が関わることに手段なんて選ぶと思うか?

 

71:天使

その言い方、本当にやめた方が良いよ。

それで、落とし物を拾ってくれた人。ごめん状況が分からなくて混乱してるよね?

 

とりあえず、僕たちのことどこまで知ってる?

 

72:七色

もうなにがなにやらです……。

 

アーマードchannelの動画いつも見てます!

 

73:天使

ありがとー。じゃあ、ボクたちに関しては省略して君が見たものを三行で説明すると。

 

痴情のもつれに巻き込まれなう。

by

セブンス。

 

 

74:騎士

一行でよかったよね?

ていうかbyの使い方間違ってるよね?

 

75:七色

あの男の人セブンスさんだったんだ。だから魔装少女に連れ去られたんですね。わかりました!

 

76:騎士

……こうやって、変な方向で有名なのを実感すると、なんだか普通に可哀想になってくるよね。

 

77:天使

有名だからねー。

 

78:騎士

うっし、出かける準備が出来た。

今からセブンスの『B.S.F』を回収してくるわ。

拾ってくれた人。悪いんだけど左下端のアプリアイコンタッチしてくれない? それ起動したらボクたちの端末に居場所が分かるようになるんだよ。

言っちゃえばGPSアプリだね。

 

 

79:七色

こうですか?

 

80:騎士

そうそう。

 

うわぁ、結構近かった……もしかして、さっきちょっと騒がしかったのって七色関係だったのか?

……行かなくてよかったと思うべきか、確認しなかったことを悔やむべきか……。

 

81:七色

わたしはここで待っていればいいですか?

 

82:騎士

どこか人の目から隠れそうなところに置いて貰えればそれでいいよ。

 

83:七色

いえ、もしかしたらまた誰かに拾われるかもなので直接渡したいと思います。

 

84:天使

ごめんこっちはショーが始まるから動けそうにないし、スレは見れるけど書き込める隙が無いかも。

というか二世代のみんなも動けない。希望と王様には連絡はした。

 

85:騎士

七色<<ありがとう。だったら分かりやすい目印になるものを教えて欲しい。

 

天使<<助かる。俺は『B.S.F』を受け取ったら、そのまま七色の行方を捜してヤバイことになっていたら彼女たちを止めることにするよ。

乗り気にはなれないけど、強引なのはダメだと思うからね。

 

86:天使

フラグ不足のハーレムエンドは大体バッドだって相場が決まってるしね。

騎士、よろしくね。

 

87:騎士

時間との勝負だね。

 

 

88:七色

名前は桃川暖子っていいます。見つけやすいように噴水のところでピンク色の魔装少女で杖掲げてますのでよろしくお願いします。

はやめにおねがいします。

 

89:騎士

すぐ行くわ(迫真)

てことで俺は一回落ちる。なにか分かったらメールを送って。

 

90:天使

んー。うん。見つけやすいようにしてくれたんだね。ありがとう。

でも本名とかこういうのに書き込んじゃダメだからね!

 

91:希望

きたよ

七色さがす?

 

92:天使

希望、突然呼び出してごめんねー! 

お願い! 探して位置がわかったらメールで送って! ついでに王様にも送って!

 

93:希望

わかった。

 

94:希望

わかったよ。七色ここにいる

 

95:天使

ありがとーってラブホじゃねぇか!!

あなたたち未成年でしょ!! なんで入れたの!? 管理がばぁ!

 

96:希望

ラブホってなに?

 

97:天使

え?

……えーと、恋人同士が好きを確認するために泊まるホテルかな!

 

98:希望

七色にぴったりなばしょだ。

 

99:天使

………………ウンソウダネ

 

 

+++

 

騎士はバイクに跨がり、七色がセブンスガールによって連れ去られたとされる公園へ向かう。

 

「……あれは?」

 

その道中、人混みに紛れ込んで見覚えのある銀髪の人物を見つけた。

 

「……こっちへ来いか」

 

顎を一度振るい背中を見せる彼女の意図を読み取った騎士はスレに≪銀を見つけた。桃川ちゃんごめん、取りに行けそうにない≫と書き込み、進路を変更する。

 

銀はすでに姿を消していたが、ここ周辺の地理を把握している騎士は方角を指し示されただけで、どこで彼女が待っているかすぐに分かった。

 

そこは数年前にグレムリンの被害にあい、その後も様々なトラブルに見舞われたことで復興の目処が経っておらず、人々から見放された区画。半壊した商店街の道に銀髪の女性が立っていた。

 

「……間違ってたら申し訳ないんだけど、お名前『銀毘 麻胡(かねび まこう)』さんであってる?」

「ええ、出来れば下の名前で呼んで欲しいわ。なんなら七色君のようにマコちゃんとでも」

「よかった。じゃあマコちゃんって呼ばせてもらうね。最後にあったのはパーティの時だから二週間ぶりになるかな?」

 

銀毘はセブンスガールの一員の魔装少女だ。クールビューティを体現させたかのような美貌を持ち、四人の中で最年長の高校三年生。騎士はパーティの時に彼女が七色と離れるため高校を卒業するのが嫌だと語っていたことを記憶している。

 

「それで? 僕をここに呼びつけたのはなにか用事でもあったの?」

 

騎士がヘルメットを脱ぎ、素顔を露わにする。その顔は天使曰く、特撮のヒーローそのものと呼ばれた事があるイケメンと呼ぶに相応しい黒髪褐色肌の青年だった。

 

「分かってるくせに」

「正直なこと言うとね。状況は大体把握してるけど全部憶測でしかないんだ。君たちが七色にあれやこれやするのはいつものことだし、今日も特になにも起こらないんじゃないかって楽観視してるところもあるよ」

「私は……私たちは今回は本気よ」

 

真剣(マジ)な声色に、騎士は困惑の表情を浮かべる。

 

「この前、無理矢理はよくないって言ってたよね? 随分と早い心変わりじゃん」

「思春期なのよ……って、話をぼかしても意味は無いわね――〈チェンジリング〉」

 

銀毘は変身魔法を発動。すると瞬く一瞬のうちに魔装少女の姿へと変貌する。

 

可愛いというかかっこよさが際立つ銀色の軍服風のデザイン。ただしズボンではなく黒タイツにスカートとなっていることで女の子らしさが出ていた。両手には一丁のマスケット銃が握られており、“まだ”戦う気はないという現れなのか銃口は空に向けられていた。

 

「今日、セブンスに新たな色が現れたわ」

「知ってる。俺たちのほうでも結構な騒ぎになったよ。黒色だってね。七色は会った記憶が無いって言っていたけど、君たちはなにか知らないの?」

「私たちも覚えがないし、黒が誰かってのは興味が無いの」

 

七色を誘拐したのは黒のことを追求するのが目的じゃないと言外に語る銀毘。騎士は彼女の本気度を理解して、『B.S.F』を手に取った。

 

「五番目が現れた時、私たちは気が狂いそうなほどの不安に襲われたわ。私たちが知らない誰かが七色を狙っていて、もしも横からかすめられたらどうしようって」

「……そうはならないかもしれないよ?」

「なるかもしれないわ。少なくとも可能性はゼロにはならない。これは女の勘……いいえもっと理論的なものよ。私は私を自覚しているわ。ヤンデレと呼ばれる壊れものだってね。その黒も間違いなくそう。奇跡的に皆とは友達や仲間として歩んでいけてるけど、その黒はどうなのかしらね? 視界は彼を見ることにのみ機能していて、私たちと徒党を組むって考えは毛ほども無くて、そうして大事なものを全部壊して、欲しいものを手に入れようと手を伸ばす」

「そうと決まったわけじゃないでしょ?」

「ええ、分かってる。これは全部私たちの被害妄想でしかないって。でも、このままだと私たちは不安に殺されそうなのよ」

 

理屈ではなく感情の問題だと断言する銀毘に、騎士はやっぱり言葉の説得は無理かと早々に諦める。

 

「だから実行することにしたわ。私たちセブンスガールで女子会を開いた時にとりあえずで練っていた計画をね」

「……正直、マジで聞きたくないんだけど、その計画の内容をよろしければ聞かせていただけませんかね?」

「ラブホで一発よ」

「女の子が言っていい言葉じゃないよ!?」

 

ただでさえ、半分ぐらいしか無かった騎士のやる気がゼロになりかける。なにを好き好んで仲間の童貞を守るために戦わなきゃ行けないのか。こんなこと掲げた騎士道の誓いにねぇよと帰りたくて仕方が無かった。

 

「分かっていたけどね、でも実際に聞くとダメージでかいよね」

「ああ、それと聞きたい事があったの」

「聞きたくないけど、なにかな?」

「一回でも事後になったら、私たちを止める理由は無くなるわよね?」

「あまりにも酷すぎて答えたくない」

 

因みに答えていたら騎士は首を縦に振っていた。どのセブンスガールかは知らないが、その子と七色の合体がすんでしまった場合、中途半端に止めた場合別の致命的なトラブルが発生するだけであり、こうなったら最後まで責任を持てってなる。騎士の心情的にも、本番すました奴らになにも言う気が起きないってのもある。

 

「もう答えてるようなものよ。そうだと思ったから譲ってあげたの。ちょっと悔しいけどね。友達として報われるべきと思うから」

「……灰か」

「七色君。私たちのことよく話しているみたいね」

「困った事があればすぐに、たすけてって言ってくるからね。それと同じぐらいみんなのこと幸せそうに話してるけど」

 

七色がセブンスガールのことで書き込むのは、なにも自分の身に危機が陥った時だけではない。雑談スレでは結構頻繁に彼女たちとどう過ごしたのかが書かれており、振り回されることに困りながらもどこか幸せそうに感じた。

 

「どうする? あなたが七色君の元に行かないのなら、私は戦う理由がないんだけど」

「……逆に、ここはお互い穏便に済まさない? とりあえず黒がどんな子が分かってからでも遅くないでしょ?」

「そうかもしれないわね。でも、元から我慢の限界なのよ」

 

銀毘はマスケット銃のトリガーに指を置く。

 

「これから私は七色君と寝るわ――そして卒業式の時には分かりやすくお腹を膨らませたいわね。みんなに幸せになりますって見せつけたいから。大学には予定通り進学するわ。新しい生活に慣れはじめた頃に赤ちゃんが産まれるの。男の子だったら彼に似て、女の子でも彼に似て欲しいわ。そうね、出来れば私の遺伝子は遠慮して完全敗北してほしいわね。もしも私に似てしまったら子供に申し訳なさすぎるもの。魔装少女は活動年数と倒してきたグレムリンの数によって引退支援金が国と協会から貰えるから、しばらくはお金の心配しなくてもいいわね。もしもの場合は弁金(わかね)が支援してくれるって言うし、シングルマザーでもやっていけそうよ。もちろん、彼女も子育てに忙しいから頼り切りにならないようにするわ。こういう時一人じゃ無いって思えるのはハーレムの強みなのかしら? 許されないことだと分かっているけど、孤独を感じるよりかはましかもしれないわね? ああ、心配しないで七色君に無理はさせないわ。彼だって進学したいだろうし、ヒーローとしての活動もあるから。ただ、みんなで決めるシフト通りに私と子供に会いに来て、三人揃って川の字に寝てくれればいいの。そうしてくれたら絶対頑張れるから、でも子供の誕生日や七五三にはお祝いに来て欲しいわね。心配はしていないけどやっぱり都合が合わなくて行けなくなるかもしれないから、そこは不安。大学を卒業したら二人目が欲しいわね。なんなら双子で一気に三人とかだったら、ものすごく嬉しい。一番目の子供が小学校に入って少し顔に皺が出来はじめるの、その顔を七色君が褒めてくれたら嬉しいわ。変わっていく君も綺麗っすよなんて言ってね、そうやって三回目のハッスルしたいわね……いけないわね。すこし先走り過ぎたわ。なにも子供の成長だけがイベントってわけじゃないのに。家族でクリスマスに正月、花見にひな祭り、海に登山に花火に祭り、紅葉狩りにも栗拾いに出かけてもいいわね、太ったと思ったら子供が出来ていたなんてことがあったりしてね。外に出かけなくても家でゲームやるのも良いわね。ソシャゲにコンシューマー将棋オセロ囲碁トランプ麻雀チェスマンカラ、七色君や子供だけじゃなくって、セブンスガールみんなで集まったら間違いなく楽しいわ。その様子や子供たちの楽しい部分を動画にしてネットに流すの、私たちはこんなにも幸せですってね。……ああ、だめね予定と言いながら滅茶苦茶だわ。考えれば考えるほどやりたいことが浮かび上がってくる。これは予定じゃないわね。そうまだ夢よ夢。確定された未来じゃないわ。だからね――私はこの夢を現実にしたいと思ってるの」

あ、はい……。いや、はいじゃないけども!」

 

めっちゃ早口で語られた未来設計に騎士はドン引きする。ブレーキがぶっ壊れているはずなのに独占欲は控えめ。七色だけではなく他のセブンスガールの事も考えており、みんなで幸せになることをしっかりと計画している。人はここまで冷静に狂えるのだろうかと、騎士はなんだか七色に文句のひとつでも言いたくなってきて、ほんと帰りたいなと遠くを見る。

 

 

――クールヤンデレの銀毘麻胡が魔装少女になったのは12歳の頃だった。正義感に満ちあふれる子だった。だけど他の子とは違う、天才的な魔装少女センス、ストイックな性格、大人びて冷静沈着に見える姿形、銃と遠距離武器による一撃必殺のスタイル。それらが重なりあい彼女にとってある種の災いとなる。

 

彼女の不幸はどこまでも小さな積み重ねだった。仲間であるはずの魔装少女からは冷たいと怖がられ、向上心をうざがられ、才能を嫉妬される。

 

市民からはグレムリンを倒しても魔装少女らしくないと評価が付けられて、見た目や能力から兵器を連想させるからと訳の分からない批判を受ける。そんな言葉に大人な対応をすれば可愛くないと言葉を投げかけられる。ネットでは擁護する声も少なくは無かったが、そのどれもが結局は数の暴力によって潰されてしまった。

 

魔装少女の理想から正反対の道を行く彼女は気がついたら一人になっていた。

 

――すげぇ! あんな強そうなグレムリンを一発で倒したっす! めっちゃ格好良い!!

 

そして孤独に耐えられなくて、自分のやってきたことが間違いであったと人生を一度捨てた少女を救ったのが、七色であった。

孤独が死にたくなるほど辛いと知っている銀毘は彼と、その周囲と誰もが一人にならない未来を望む。幸いに他の三人も喧嘩や嫉妬はあっても気持ちは同じだった。だからこそ唐突に現れた未知の黒が銀毘は怖くて仕方ないのだ。騎士に語った通り、もしかしたら私たちの関係が壊れる切っ掛けになるかもしれないと、だからその不安に負けないように、彼女たちは七色に絶対的な繋がりを渇望する。

 

「馬鹿みたいでしょう? でも、私は……私たちは本気よ」

「……そうだね。またいつものような騒ぎって軽い気持ちだった。君たちの心を理解出来ていなかった。ごめん」

 

銀毘の本気を理解し、まずは軽い気持ちで対応したことを謝った。

 

「俺は別に、君たちと七色がおせっせしても不幸になるとは思ってないよ。でもやっぱり合意の上での話だと思うんだ。もしもさ、ここで強引にしちゃったら、君たちが癒えない傷を追うことになる」

「……」

「七色も、それが分かって抵抗してるんだ。そんな彼の“覚悟”を守るのも仲間の務めでしょ」

 

騎士の人差し指の爪先に光が宿り、『B.S.F』の画面に向かって十字を切った。すると画面に十字架のエンブレムが現れ、『B.S.F』が太陽の如く赤黄色のベルトへと変化して自動で腰に巻かれる。

 

[覚醒せよ! 我らが光の守護者!!]

 

他の『ブレイダーベルト』と比べると人間味が強い男の機械音声が発せられ、テンポアップ気味にアレンジされたファンファーレが鳴り響く。

 

[おまえが~いなっきゃはっじっまっらっないっ!]

 

音楽に会わせて機械音声が歌い出すと、騎士の背後に等身大のメカメカしい十字架が現れる。騎士は両手を水平に伸ばして十字架に背中を預けた。

 

[せっかいをてっらすたっめに~~!!]

 

「変身」

 

[かっがやいて~! イカ~~ナイト~!!]

 

十字架に触れている部分から六角形の金属が騎士の体を包み込んでいき。最後には十字架を背負い、騎士甲冑のような太陽色のアーマースーツを着用した『ブレイダー・ナイト』が現界した。

 

「……個人的にね。私の銀弾()と、ブレイダー・ナイトの十字架()。どちらが強いか試してみたかったの」

「それに関しては俺もすごい興味がある」

 

ナイトは背負っていた十字架型大盾『クロスベル』を手に持ち、前方の銀毘に向かって構える。

 

「……ブレイダーナイト。この盾がお前の全てを防ぐ!」

「……『シルバー・バレット』よ。名前の通り銀弾があなたの全てを貫くわ」

 

興が乗った二人は名乗り上げる。銀毘ことシルバー・バレットはマスケット銃を構える。

 

――誰もいない打ち棄てられた商店街に、一発の銃声音が響いた。

 

 

+++

 

 

灰色の女の子が今にも泣きそうに俯いていた。傍には誰もいなくて、そもそも俺だけが気付いているようで、このままだと消えてしまいそうだったから。

 

俺は手を差し出せたんだ。

 

 

「……幸太……幸太……幸太――起きて、幸太(こうた)

 

七色じゃなくって、俺の本名を呼ぶ声がする。こうやって自分の名前を呼ぶのは今のところ一人しかおらず、まだ夢半ばの思考は考えるよりも前に名前を呼んだ。

 

比恵(ひめ)……?」

「はい。幸太くんの比恵ですよ」

「えっと……ここはどこっす? というかなんで俺寝てるんっすか?」

 

見覚えのない天井に、なにやら様子がおかしいことに気づき起き上がる。

 

「というか、なんで比恵……が……」

 

小学校のころからの幼馴染みである『灰稲(はいいな)比恵』が正面にこちらを見ながら立っているのを見つけ、七色は眠気ごと思考が吹き飛び頭の中が真っ白になる。

 

――なんということでしょう。背中まで伸びてるくせっ毛が強い灰色の髪の幼馴染みが生まれた姿で立っているのではありませんか。

 

そんな風にパニックになり硬直していると灰稲はベッドの上に乗り、四つん這いの姿勢で七色にゆっくりと近づいていく。

 

「あの……比恵? なにやってるんですっかね?」

「幸太が悪いんだよ……」

「あ……あ……なんだ、いつものか」

 

比恵の光が失われた瞳を見た七色は襲われ慣れてしまっていたためむしろ冷静になった。今回もまたどこぞのホテルにでも連れてこられたのだと状況を把握する。

 

ここ最近では、魔装少女に変身してまで既成事実を作ろうとしてくる彼女たち。七色は『B.S.F』をズボンのポッケから取り出そうとして……無いことに気付く。

 

「幸太……」

「あ、終わったかもっす……」

 

迫り来る灰稲に、幸太は絶望の二文字を思い出した。

 

 

 




桃川(うう、みんなこっち見てる……恥ずかしすぎて死にそう。写真撮らないで~!)
モググ(べつにそこまでしなくても分かると思うんだけどな~)

桃川が様子がおかしいことに気付きスレを確認したのはこれから五分後の事だった。



唐突感はどうしても出ると思われますが、ノリとテンポ重視で行きたいとおもいます。


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【七色】相談に乗って欲しいっす!【緊急】 中編①

お気に入り登録、感想、評価、ここすき、誤字報告いつもありがとうございます!
台風や寒暖差などで体調が悪かったりしましたが、おかげ様でどうにか続きを投稿することが出来ました。目先の目標としては七色の章完結までしっかりと書いていきたいと思います。

自分は考えた。三部構成といいながら収まりそうにないなら、中編を分けてしまえばいいのではと……という訳でその1となってます。はい。この作品を書くに当たって封印していた悪いところが出ました。それでも楽しんで貰えたら幸いです。


――あの人を見つけたのは、本当に偶然だった。

 

学校が休みだからと、仲良くなった後輩の魔装少女に誘われて足を運んだ公園で、たまたま男子トイレから出来てきた彼を見つけた。

 

素顔は知っていた。ずっと見ていたから。見間違うはずが無かった。

 

だから、その人が四人の魔装少女に捕まってどこかへと飛んでいったとき、私も変身して無我夢中で追いかけた。

 

「――どこいったのっ!」

 

しかしながらセブンスガール(魔装少女)たちにバレてしまい撒かれてしまった。

 

≪――変身魔法を検知したけど、なにかあったクツ?≫

 

このままじゃ彼に身の危険が及ぶと焦る中、自分を魔装少女へと選抜してくれたフェアリーから思念魔法による連絡が入った。

 

「クツツ! あのね、彼を見つけたの! でも魔装少女につれてかれて追いかけたんだけど見失って……!」

≪落ち着くクツ≫

「ご、ごめん」

≪まぁ、でも事情は分かったクツ。君の愛する彼に出会ったクツね。その彼が他の魔装少女に連れられていったと≫

「う、うん……」

≪だったら、クツツの方でどこに居るか調べてみるクツ≫

「出来るの!?」

≪任せろクツ。それで? そっちでなにがあったか詳しく説明してほしいクツ≫

「分かったよ」

 

自分が知っていることをクツツに話す。話を聞いている間に居場所を調べてくれたクツツに礼を言い。教えて貰った地点へと電柱よりも高く跳躍して向かう。

 

――クツ、クツクツクツクツクツ。

 

+++

 

 

 

107:七色

いま来られないって書いてあることに気付きました……。

十分もポーズとってた意味……。

 

 

108:天使

OTLになってるのが目に浮かぶよ……。

僕たちのためにやってくれたのはわかるから本当に申し訳ないんだけど、そこまでする必要無かったと思うよ……。

 

109:七色

それモググにも言われました……。

 

110:天使

モググ? 名前からして担当のフェアリーかな?

……いまフェアリーが近くにいるの?

 

111:七色

あ。はいモググはわたしを魔装少女にしてくれたフェアリーです。

モググが、自分は魔装少女塾に所属しているフェアリーだと伝えてほしいって。

 

 

112:天使

『塾』かー。魔装少女OGとその相方だったフェアリーたちのたまり場だって聞くし、確か混沌が知人もいるって言ってたから大丈夫かな?

 

113:七色

勝手に名前書き込まないでって怒られた……。

モググが自分は画面を見ないから警戒しないでほしい~とのことです。

 

114:天使

こういった掲示板で本名とか書き込むのはNGだから仕方ないネ。

そう言われてもね。まあ、こっそり見ようとしない時点でちょっとは信用してもいいかな?

 

あ、桃ちゃん。ちょっとなにか書き込んで。

 

115:七色(桃)

こうですか?

 

116:天使

よし。初めて使うから不安だったけど名前変更出来ているね。

とりあえず、いま僕の方で名前変えたから。『B.S.F(それ)』持っているうちはこの名前にしておくよ。

 

117:七色(桃)

あ、ほんとだ変わってる。すごい。

分かりました! とりあえず噴水近くで待っていればいいですか?

 

118:天使

そうだねー。僕はショーから抜け出せないし、代わりに誰か来てもらうように頼むから、近くの喫茶店とかでジュースでも飲んで待っていてよ。代金はこっちで払うから。

 

119:騎士

マジでごめん。

俺は行けそうにない。

 

120:天使

騎士。いま何してんの?

 

121:騎士

銀と戦闘中なう。スレをマスク裏に表示させて、思念打ち込み機能を使って書き込んでる。

豚骨味噌ラーメン食べたい。

便利だけど余計な思考も打ち込んで使いづらいね。

 

122:天使

雑念が漏れてるねー。

戦ってるって、いまどんな状況? セブンスガールから事情聞き出せた?

 

123:騎士

彼女たちは本気で七色をエロゲ主人公にするつもりみたい。

フェイントを読み切るか冷静だね……。

一回でも昇天しちゃえば、俺たちも観念して邪魔しないだろうって銀が足止めにきた。

くっ、惜しい。右……いや幻!? 上だな!

そのことから灰を除いて、足止め要因として待機しているかもしれない。

ここで距離を取るか! 巧みだな!!

 

124:天使

めっちゃ実況挟んでくるやん……。

あと、いまは桃ちゃんいるんだから下ネタ禁止!

 

125:騎士

ごめん。戦いながらだと言葉選べないし、無意識に自分の動きを言語化してしまう。

 

126:天使

それはいいけどさー。ミスとかしないでよー?

 

127:騎士

スレ関係なく慣れない攻撃手の立ち回りしてる所為ですごいミスってる。これじわじわと追い詰められてる気がするね。

気がするねじゃないね。追い詰められてるわ。

 

128:天使

ありゃ? そうなんだ?

 

129:騎士

銀は下準備をすませて俺の盾を貫くこと、俺はその前に銀を無力化するか攻撃を完全防御することが勝利条件だから、俺が攻撃で彼女が守備になるのは必然なわけでして……。

 

130:天使

どっちにしても足止め成功させられてるよねー……それこそ逃げたら狙撃でドン! だろうし戦うしかないかー

 

131:騎士

ヤバイ。見失った。二発目絶対くるぞこれ。

ほら来るよ来るよ! 絶対来るよ!! ほらキタァ!!

 

132:天使

そんでピンチになってるし、負けないでよねー。

 

133:七色(桃)

えっと、もしかしていま魔装少女とブレイダーが戦ってるんですか?

 

134:天使

まあねー。でも身内の模擬戦みたいなものだから、気にしないでー。

それと、これオフレコでお願いねー。

 

135:七色(桃)

オフレコ?

 

136:天使

誰にも言わないでってことー。

そっかー。伝わんないのかー。

おふぅ、謎のダメージが天使を襲う。

 

137:七色(桃)

え!? 天使さんも戦ってるんですか!?

 

138:天使

うーん。桃ちゃんってば天然さんだー。

なんかごめんね。いつものノリで話しちゃって……。

僕は見た目は美少年だけど中身はネット中毒おじさんなんだ……。

 

139:七色(桃)

こちらこそごめんなさい。お姉ちゃんとかならネットに詳しいんだと思いますけど、わたし、そういったのあまり知らなくて。

 

140:天使

桃ちゃんが謝る必要ないって、インターネットは容量用法を守って使いましょー。

というかあんまりネットしないのに『アーマードchannel』のこと知ってくれてるんだね。嬉しいなー。

 

141:七色(桃)

はい! お姉ちゃん二人いるんですけど、お姉ちゃん二人ともファンなので、それで見るようになりました!

 

142:天使

ありがとねー。

なるほど、お姉さんがファンだったんだ。

……ちなみに誰が好きか聞いてもいい?

 

143:七色(桃)

一番上のお姉ちゃんは、悪魔さんと天使さんが好きみたいです。

よく悪天候最高とか言ってます。

2番目のお姉ちゃんは色染め天使最高って言ってました。

わたしは王様好きです! 王様格好いい!

 

144:天使

…………ああうん。べつにお姉さんの情報はよかったんだけど悪魔かける僕に、七色かける僕ね……。

 

お姉さんは漫画とか小説書いてる?

 

145:七色(桃)

はい、一番上のお姉ちゃんが漫画書いてるみたいです。夏と冬に出してお金稼いでるみたいです。どんなの書いてるかは、まだ早いって見せてくれないので知りません。

2番目の姉ちゃんがネットで小説投稿してるって聞きました。中学生になったから見ていいよって言ってくれたんですが、文字だけ見るのは苦手で、ちゃんと見てません。

 

146:天使

そっかー……ちょっとお姉ちゃんズに、僕がお姉さんの書いた漫画と小説見たいから教えてほしいって伝えておいてー。

 

147:七色(桃)

わかりました! 伝えておきますね!!

 

148:天使

よろしくー。

でもそっかー。王様好きなんだー。

じゃあ王様ちょうど手が空いてるってきたから、王様そっちに向かわせるよ。

 

149:七色(桃)

本当ですか!?

 

150:天使

本当だよー。

じゃあ、もうちょっとだけ待っててね。

それと、ショーでの僕の出番が来るから返事出来なくなる。

なにか今のうちに聞きたいことがあったら言って。

 

151:七色(桃)

その、質問じゃないんですが、私の先輩友達お姉様の魔装少女が七色さんのことを追いかけていったんですけど、連絡が取れないんです。もしかしたら誘拐かなにかと思ってるかもしれません。

 

152:天使

誘拐なのは事実なんだよねー……。あとお友達の属性が多い……。

おけー。見つけたら声かけるようにメール出しとくよー。そのお友達の特徴とかここに書き込んどいてもらっていい?

 

出番来た。ショーが終わるまで返事が出来なくなるのでよろしくー。

 

153:七色(桃)

分かりました。

お友達はパンチャーノワールって言います。黒色の魔装少女です。

 

154:七色(桃)

お姉ちゃんから有り金全部お渡ししますので許してくださいって土下座の写真とともに連絡来ましたがどうしたらいいですか?

 

 

 

+++

 

「あんなに怒らなくてもいいじゃん! お姉ちゃんのばか!」

「いや~。あれはだんごが酷いと思うよ~」

「えー。でも本人に見て貰ったら嬉しいものじゃないの?」

「変な所でだんごって年相応だよね~? まあ元となってる人物に見せられないものを書いてる方にも問題はあるとは思うけど~」

 

桃川は魔装少女の姿のままで噴水近くのベンチに座っていた。

 

魔装少女が日常の風景となっている現代にて、桃川のようにグレムリンと戦う以外に魔装少女で活動するものは珍しくなく、通り過ぎる人々は魔装少女だと最初は気に掛けるもすぐに興味を失い視線を外していく。むしろ、フェアリーであるモググの方が珍しいと足を止めるものが多いぐらいだった。

 

桃川は自分のスマホを落ち着き無く弄る。

 

「アイ先輩から連絡が来ない……見かけたら事情を説明してくれるって言ってくれたけど心配だよ……」

 

桃川が言うアイ先輩とはパンチャー・ノワールの事である。この二週間で桃川側の猛プッシュにより、プライベートで一緒に遊びにいくほど仲良くなったことで『黒稗 天委(くろびえ あい)』と本名を教えて貰ってからは、魔装少女ではない時はアイ先輩とあだ名で呼んでいた。

 

ちなみにノワールの時と同じくお姉様呼びをしようと思っていたのだが、本名でそう呼ばれるのはちゃん付けの時と同じく嫌がられたという。

 

ぼんやりとした雰囲気とは裏腹に、自分の何千倍もしっかりとしてて、まともに戦えないことを知ると適材適所と嫌な顔一つせず戦闘中の立ち回りとか相性が良い支援系の魔法を教えてくれたり、魔装少女の先輩としても人生の先輩としても凄く面倒を見てくれる黒稗に、桃川は出会ってからほぼMAXだった尊敬度は限界突破して上がり続けており、いつか本当の意味で恩を返せたらいいなと考えていた。

 

そんな黒稗が魔装少女たちに連れて行かれる七色を見た時初めて見る顔をしていた。怒ってるとか悲しんでいるとかじゃなくて、あってはいけない事が目の前で起きてしまい、その衝撃によって感情の全てをどっかに落っことしてしまったような、そんな顔。

 

桃川が話しかける前に、黒稗はパンチャー・ノワールに変身して追いかけてしまった。桃川は焦りまくりモググを呼び、これからどうするかとトイレの前(犯行現場)で話し合っている最中、七色の『B.S.F』が落ちている事に気付いたのだった。

 

「大丈夫かな?」

「まあ、どこ行ったかも分かんないし、いまは連絡を待つしかないよ~」

「うん……そうだよね」

「そういえば、だんごってブレイダーのこと好きだったんだね。動画も見てるんだって~?」

「あ、そうだ! ここに王様が来るんだって!」

 

落ち込んでいる桃川にモググがわざとらしく話題を振る。すると桃川は気分をコロッと表情を緩めた。黒稗の事が心配なのは変わりないが、まだ12歳の少女は感情の切り替わりが早かった。

 

「最近の魔装少女は、本当にブレイダー好きだね~」

「だって男の人なのにグレムリンと戦えるし格好いいんだよ! わたしもああやって変身してみたいな~。こう、サンシャイーンハートフルッチェーンジ! とか叫んでキラキラに包まれるとか!」

「それ日曜の朝にやってるやつそのまんまだよね~。変身なんて効率的にしたほうが安全なんだよ~。とくにだんごの場合なんて変身している間に危ない目にあうとか絶対ありそう~」

「否定出来ないのがすごく悲しい」

「そもそもブレイダーと魔装少女は変身形態が違うんだから真似するだけ無駄だよ~」

「そうなの?」

「魔装少女がフェアリーによっての覚醒された個人が保有する力なら、あっちは完全に外部から得ている力な上に魔法じゃないからね~」

「へー……。モググって、ブレイダーのこと詳しいの?」

 

なにか難しいことを語ってると、桃川は浮かび上がった素朴な疑問を口にする。

 

「まあね。見た目は物質生命体と違って変わらないけど、こう見えても地球歴二十年だよ~」

「へ~……ん? 二十年?」

「――ごめん。言い間違えた~。十年だよ~」

「だよね! びっくりした!」

 

グレムリンとフェアリーが異世界から来たのは“十五年”前じゃんと、桃川は言い間違えたモググにしっかりしてよねーと笑う。

 

――桃川は、なぜブレイダーの知識とモググが地球に来た年数が関わってるかという疑問に気づかなかった。

 

「ていうか、モググって幾つなの?」

「どうだろ~。精神生命体に年齢の概念はないし、そもそもフェアリーの世界と地球の時間って違うんだよね~。あえて言うなら200歳くらいになるのかな?」

「予想以上におじいちゃんだった!」

「適当に出した数字だから、本当はどうなのか分かんないけどね~」

「モググおじいちゃん。甘いもの食べ過ぎだよ」

「いきなり老人扱いしないの。というか精神生命体は美味いという感情が大事であって、食材事態に含まれている栄養素は無意味――」

「モググ?」

「『次元の裂け目』? でも反応が無かった……? それに形が……」

 

モググの視線の先を追うと、そこには『次元の裂け目』が現れていた。

 

「グレムリン!? うわぁ、タイミング悪すぎるよ!」

 

単独ではグレムリンを倒せる力が無い桃川は、どうしたものかとベンチの上に転がしておいた『ピーチ・ステッキ(モググ命名)』を手に取って立ち上がる。

 

「って言っても、最初の時みたいに他の魔装少女が来るまで……あ、そうだもう少しで王様か来るんだった! じゃあそれまで時間稼ぎすればいいんだよねモググ! ……モググ?」

「…………だんご」

「いや、そんな真剣にだんごって呼ばないで……」

「ここから、すぐに遠くへ移動して、早くっ……逃げてっ!」

「モ、モググ?」

 

モググの様子に、ただごとじゃないと桃川は感じ取り、そういえば『次元の裂け目』がいつもと違うことに気付いた。

 

『次元の裂け目』の見た目は基本的に割れたガラスのように歪な形をしている。しかし、いま桃川たちの目の前に現れた『次元の裂け目』は綺麗な楕円形をしており明らかに違うものだった。

 

「分かんないけど、本気でやばそう」

 

人の言うことを素直に聞き入れられることに定評がある桃川は、とりあえず離れたほうがいいだろうと判断する……だが一足遅く、異形のグレムリンが地球へと現れた。

 

「ろ、ロボット?」

「違う。あれもグレムリンだよ。害獣じゃなくて兵器のほうだけどね」

 

金属の装甲に身を包んだフクロウ顔のグレムリン。それも三体。人工的で無機質な見た目からして自分の今まで見てきたグレムリンとは異なる存在に桃川は脅えて体を震わせる。

 

……クツクツポー……クツクツポー……クツクツポー……

 

「なにこれ……鳴き声……なの?」

 

わざとらしいグレムリンの鳴き声とは違う、機械の駆動音染みた不気味な音を響かせるフクロウ機械型グレムリンは、目に付くものを破壊する訳でもなく三体とも桃川をじっと見ていた。

 

「ひっ」

 

フクロウの一種であるウラルアウルのような漆黒の瞳で見詰められる桃川は恐怖のあまり引きつった声を出して、数歩後ろに下がる。

 

「モググ、ど、どうしよう?」

「速力強化の魔法覚えていたよね?」

「う、うん」

 

黒稗が愛用する速力強化の魔法〈キャットウォーク〉。桃川は黒稗に習って会得しており、黒稗に比べれば荒削りも良いところであるが実戦で使える程度にはものになっていた。

 

「魔法で一瞬だけあいつらの視界を塞ぐから、どこか見つからない所に隠れて」

「え、で、でもグレムリンを放って隠れるのは流石にまずいんじゃ……」

「命には代えられないよ」

「命って……それじゃあまるで死ぬみたいじゃん……」

 

魔装少女はダメージを受けた場合痛みこそ発生するものの肉体は傷つかない、そんな魔法によって守られている。そのため魔装少女に変身している限り、どれだけ絶体絶命に陥っても死ぬことはないのが桃川が知る常識だった。

 

だけど、いつもふるゆわっとしているモググが真剣になっているのを見て否が応でも、いまその常識が覆っているのだと察してしまう。

 

「それと、追いつかれるようなら、ブレイダーの落とし物を放り投げて、多分、狙いはそれだから」

「え? で、でもこれは……」

「説明している時間はもう無いよ! 魔法発動して!」

「う、うん! 〈魔法展開(スペル):キャットウォーク〉!」

 

有無を言わさせないモググの迫力に桃川は大人しく従い魔法を展開する。桃川は自分の体重が完全に消え去ったような感覚を得る。

 

「走って! 〈魔法生成(クリエイト):ダークホール〉!」

 

モググが魔法を発動するとクロウ機械型グレムリン三体がギリギリ収まるように黒掛かった半透明のドームが出現する。それと同時に桃川はフクロウ機械型グレムリンに背中を向けて走りだす。目指すのは七色が誘拐されたトイレ。

 

フクロウ機械型グレムリンを覆うこの魔法は内部に存在する生物の“五感(感じる)”機能を封じるものである。しかし特別な拘束力は無く範囲も狭く少し動くだけで抜け出せてしまうため使い勝手のいい魔法では無かった。それでも、ほんの僅かに自分たちを見失ってくれれば、最低でも桃川は身を隠す事ができ、時間を稼ぐ事が出来ると、モググはそう判断して使用した。

 

しかし、その判断がミスだったことに気付かされるのは早かった。フクロウ機械型グレムリンの一体がドームの中で翼となっている自分の腕を振るうと、数枚の金属の羽が勢いよく射出され、ボウガンから放たれた矢の如く桃川に向かって飛ぶ。

 

「だんご! 避けて!!」

「え? きゃっ!?」

 

モググの声に反応して振り向くと、自分のほうに飛来してくる金属の羽に気付き寸前の所で横に倒れ込んで回避する。ただし無傷とは行かず、金属の羽は桃川の肩を掠めた。

 

「い、痛い! ……え? うそ、これって……血?」

 

強い痛みに桃川は反射的に羽が掠った肩を手で押さえる。すると生暖かい液体が手に付着して、なんだと確認すると白手袋に血が付着していた。

 

「ど、どうして」

「しまった! 魔法無効化能力は魔装少女だけじゃなくてもボクたちのにも……だんご逃げて、だんご!!」

 

決して傷つくことは無いと教えられた魔装少女。それなのにいま自分は怪我をしている。自分が信じてきた常識外の事が起きて、桃川はパニックのあまりへたり込んだまま動けない。

 

……クツクツポー……クツクツポー……クツクツポー……

 

フクロウ機械型グレムリン一体が鳴きながら腰を低くして足に力を入れた。

 

「だんご! 起きて! 『B.S.F』(それ)を捨てて早く逃げて!」

 

モググが叫ぶなかフクロウ機械型グレムリンの一体が翼手を広げ、背中に装着されているランドセル型ジェットパックを起動。足に溜めた力を一気に解放した。

 

フクロウ機械型グレムリンによる時速100を超える急加速低飛行突撃が桃川を襲う。

 

「――あ」

「だんご!?」

 

認識した時には目前に迫り、蹴りの姿勢に入っていたフクロウ機械型グレムリン。刹那の中で桃川は自分の頭がボールのように転がるのだと理解し、短い走馬灯を見る。

 

――安心すればいいさね。お前さんはまだ死なないよ。

 

――――――ターン。

 

魔装少女の命が散る。そんな未来を変えた一発の“銀弾”だった。フクロウ機械型グレムリンのこめかみに目がけて見事命中。バランスを崩し桃川を通り過ぎて行く。そして己が生み出した速度を殺しきれず何度も地面にぶつかり、最後には記念樹に打ち付けられて絶命。粒子となって消え去った。

 

「え? え? ええ?」

「――ごめん、遅くなった」

 

ガキーーーーーーーン!!

 

桃川はなにが起きたか訳も分からずキョロキョロと視線を動かしていると、背後から巨大な十字架が自分を隠す様に前に出てきて、後追いで襲いかかってきた二体目のフクロウ機械型グレムリンの攻撃を防いだ。

 

「ブレイダーナイト!」

 

自分を助けてくれた者の正体を知り、桃川は喜びを叫ぶ。

 

「騎士の誓いに賭けて俺が全て守り通すっ!『カウンタークロス』!」

[カウンタークロースッ!!]

 

『クロスベル』の蓄積されているダメージを相手に返す『スキル』を発動。フクロウ機械型グレムリンが元いた場所まで吹き飛ばされる。

 

……クツクツポー……クツクツポー……

 

フクロウ機械型グレムリンはしばらく考え込むように首を動かした後、羽を広げて、ジェットパックによる最大出力にて地上から豆粒ほどにしか見えなくなるほど上空まで飛翔する。

 

ナイトは射程範囲外、ここから見えない場所で狙いを付けている銀は次弾装填までまだ時間が掛かる。負けることは無いが、不利を悟られ別の場所へと移動する“命令でも出されたら”厄介だ。だからこそナイトは天使の采配に感謝する。

 

「見た目からして、やっぱり君の獲物だったようだ――王様」

「――であるか、ならば親征せし我に、活躍の場を寄越して貰おう」

 

――――――――

† 天涯孤独 †

† 雪上加霜 †

† 天変地異 †

† 阿爺下頷 †

† 唯唯諾諾 †

† 無我夢中 †

† 鰥寡孤独 †

† 尊尚親愛 †

――――――――

 

悠々自適にこちらへと歩いてくる『王様のお好み焼き』と刺繍されたエプロンにタオルで髪を結んでいる青年――王様の『B.S.F』の画面には八つの四文字熟語が均等に並んで表示されていた。

 

\ハイヤ!/\ソイヤ!/\ハイヤ!/\ソイヤ!/\ハイヤ!/\ソイヤ!/

 

野太い男性のかけ声と共にド派手な和楽器ロックが奏でられる中、王様はベルトのバックルに『B.S.F』画面を表にして填め込んだ。フクロウ機械型グレムリンたちが金属の羽を飛ばすも、男性の包み込む強風によって無力化されてどこかへと飛ばされる。

 

「変身」
   

 天 

 上 

 天 

 下 

 唯 

 我 

 独 

 尊 

 

スライドカバーを左右から押し込むと画面に表示された漢字も動き出し最後には八つの文字が残り、それを歌舞伎の口上の如く読み上げられるたびに王様にブレイダースーツが装着されていき、そしてマントを靡かせる武士甲冑風の『ブレイダー・キング』が現界した。

 

「――喝采せよ! 王たる我が来たぞ!」

「王! 王!! 我らが王あいたたたたっ!?」

「怪我してるんだから、大人しくしてて!」

 

桃川が、王様ファンの中で使われている掛け声を叫び、怪我してることを忘れて腕を振るって痛みに悶える。

 

「征くぞ!」

 

キングは体を浮き上がらせ自在に空を飛び始める。フクロウ機械型グレムリンと同じ高さまで達したキングは、そのまま速度を殺さず先制攻撃をしかける。

 

「我が(つるぎ)たちよ!」

 

日本太古の武器、銅剣の形をしたキングの固有武装である『空我剣』を生成。それも握りしめた一本だけではなく、自身を取り囲むように二十本ほど生成し、フクロウ機械型グレムリンに向かって射出する。

 

フクロウ機械型グレムリン二体は回避行動を取るが『空我剣』が追尾してくるのを確認すると、即座に金属の羽を射出して応戦。全て打ち落とす。

 

「遅い!」

 

キングは『空我剣』が打ち落とされている隙に死角外から一体に接近。翼手を切り飛ばし、さらに背中のジェットパックを突き刺して破壊し墜落させる。新たに生成した『空我剣』を両手に持ち、もう一体の方へと急加速。フクロウ機械型グレムリンはそんなキングにタイミングを合わせて蹴りを放つ。

 

「甘いな!」

 

まともに食らえば致命傷にもなり得る鉤爪による蹴りをキングは冷静に剣で打ち払い、体勢が崩れた瞬間を逃さずもう一本で胴体を貫いた。

 

「凱旋の時間へと参ろう!」

 

 天 

 羽 

 々 

 斬 

 

剣を突き刺さったままのフクロウ機械型グレムリンを墜落している最中のもう一体と射線が重なるように投げ捨てる。キングは一列一文字が見えるほど開いていたバックルのカバーを完全に閉じる。するとカバー表面に刻まれていた漢字が空色に光り輝き、三尺はあろう空色の刀身を持った日本刀『天羽々斬』が、天空からキング目がけて落ちてきて難なくキャッチする。

 

「はああああああああああああああ!!」

 

 一 

 刀 

 両 

 断 

 

時速300キロを超えるとされる猛禽類に匹敵する急降下にて、墜落中の二体のフクロウ機械型グレムリンに追いつき音速の一振り。キングが通過した後に残ったのは、胴体が切り離された二体のフクロウ機械型グレムリン。

 

キングが着地、地面を擦ることで速度を落としきり『天羽々斬』で空を斬ると同時に絶命したフクロウ機械型グレムリンが粒子となって空に溶けていった。

 

「す、すごーい!」

 

まさに無双と評価しても過言では無いキングの戦いぶりに、桃川はさっきまで本気で死にかけていたのなんて忘れてはしゃぎだす。

 

「ふむ。追加の戦力はなさそうだな」

「お疲れさま。来てくれて本当に助かったよ。グレムリンのことを知らせてくれた希望にも後でお礼を言わないとね」

「なに、ブレイダー()としての責務を果たしたに過ぎない。騎士よ。お主もご苦労であった。銀もな」

「……ありがとう」

 

ブレイダー・ナイトにブレイダー・キング、そしてセブンスガールの一人であるシルバー・バレットの三人が合流する。

 

「う、うわぁ……有名人がたくさん」

「あれだけの事があって、出てくる感想がそれなの~?」

「あ、モググ! 無事だったんだ。よかった! あいてっ!」

「モググのことよりも、だんごが無事じゃないよ~……。シルバー・バレット」

「……なにかしら?」

「治癒魔法使えるかな? 生憎フェアリーは物質生命体の身体を治す魔法は使えなくて、応急処置でもいいからだんごの傷を塞いで欲しいんだ」

「一応使えるけど得意じゃないのよね。ちょっと見せて……よかった。これぐらいの傷なら塞げるわ。〈魔法展開(スペル):アクアボール〉」

「冷たい!? 染みる!?」

「すぐに終わるから我慢して」

 

傷を塞ぐ前に、洗浄をするべく手の平ほどの水の玉を生成し傷口に被せる。すると回転している水の玉は傷口の血や汚れを取り除いていき中心へと集めていく。

 

「この使い方は初めてみるね~」

「自分で怪我した時にちょっと思いついてやってみたのよ」

 

単なる生活の知恵と語るシルバー・バレットだが、繊細な魔法操作を簡単に熟す様子に、モググは話に聞いていた通り天才なんだな~と思う。

 

「〈魔法展開(スペル):ボディヒール〉」

 

洗浄が終わり、汚れた水の玉をそこらへんに捨てて地面へ吸収させると、肉体の治癒能力を促進させる魔法を発動。桃川の傷口に向かって手の平から緑色の光が降り注ぐ。

 

「傷跡は残らないと思うから安心して」

「は、はい」

 

傷口を治して貰っている中、桃川はというとシルバー・バレットの顔に見惚れていた。魔装少女同士なら認識阻害は働かず、そのままの素顔を見る事が出来るのだが銀色の髪を持つ彼女の顔は美人以外の何物でも無かった。ずっと見ていられる、なんならおかずにしてご飯食べられそうなどとモググが聞いたら、姉に負けず劣らないよねとツッコミが返ってきたであろう感想を抱く。

 

「……ずっと私の顔を見ているようだけど、どうしたの?」

「え゙っ!? えっと……その、あの時わたしを助けてくれたのって、シルバー・バレットさんなんですか!?」

 

綺麗すぎてガン見していたと正直に言うには恥ずかしく、咄嗟に気になっていた事を口にする。桃川のいうあの時とは、フクロウ機械型グレムリンにあわや頭をサッカーボールにされかけた時である。

 

「そうだけど、あなたもしかして見えてたの?」

「いえ! まったく!」

「そんな自信満々に言うことじゃないよね~」

「でも本当にそうだったんですね! 助けてくれて本当にありがとうございます! お礼と言ったらなんですけどリラインなどやっていないでしょうか? お友達になりませんか!?」

「だんご。タイミングも聞き方もひどいよ~」

「……一緒にいると毎日が楽しくなりそうな子ね」

「それについては全面的に同意だね~」

 

苦笑するシルバー・バレットにモググは完全に同意する。傷が完全に治ったとのことで、桃川は自分の肩の傷を確認すると綺麗さっぱり無くなっていた。魔法って本当に凄いなーと感動しているとブレイダーたちが傍に寄ってくる。

 

「もう大事ないか?」

「は、はい!」

 

和式甲冑風のブレイダー・キングを初めて生で見た桃川はやっぱりめっちゃ格好いいと興奮する。

 

「王様、わたしファンなんです!」

「そうか! 我自ら感謝を送ろう!」

「握手してください!」

「うむ! よかろう!」

「スマホのカバーにサインしてください!」

「うむ!」

「リライン教えてください!」

「だんごって、リラインを必ず聞く病気でも患ってるの~?」

 

なお、要求されるままに応じてくれていたキングだったが、リラインはやっておらずID交換は出来なかった。

 

「元気そうで本当によかったよ」

「あ、ブレイダーナイト」

「ごめん。僕が予定通り君に会いに行ってさえすれば、怪我をすることは無かったのに……」

「い、いえ! わたしがドジだっただけなのでお気になさらず……なんなら、ナイトさんのサインも頂ければ……」

「だんごって、想像以上にメンタルおばけだよね~」

 

なんやかんやで友達が出来たこともあり、一人暮らしも慣れてきて、お姫様のご就寝であるーとか言ってふかふかベッドで熟睡している桃川。濃い家族に育てられたためかメンタル面においてはかなりタフだった。

 

「そもそも狙われた理由は俺たちにあるから、巻き込んじゃって本当にごめん……」

「やっぱり、狙いは君たちの落とし物だったの~?」

「その可能性は高いとは思うんだけど、いったいなにが理由で襲われたかってなると分からないんだ」

「えっと……もしかして、さっきのグレムリンって何者かが命を狙って送り込んできた刺客とかそんなかんじのやつなんです?」

「正直に言っちゃうと概ねその通りかな」

「めっちゃ怖いやつじゃん!?」

 

顔を真っ青するする桃川に、ナイトは安心して欲しいと優しく声を掛ける。

 

「とにかく、犯人をどうにかするまで一緒に行動してほしんだけど、大丈夫かな?」

「よろしくお願いします!」

 

桃川はナイトの提案に即決しながら、わたしこれからどうなるんだろうと空を見つめる。――自分の不幸は、まだピークに達していなかったと知るのは、そう遠くない未来だった。

 

 

 

 

 

 




メインの七色や残りのセブンスガールたちを出せぬ不甲斐なさ……。
王様の変身シーンはなんやかんやで20テイクぐらいしました。


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【七色】相談に乗って欲しいっす!【緊急】 中編②

お気に入り登録、感想、ここすき、評価、誤字報告。いつもありがとうございます!
なんとか中編終わりました、いつも中盤になるとスランプみたいになるので、変になりすぎてないか不安です……。
次回からは後編になりますがほぼ間違いなく分裂します()

作者投稿が終わったのでアリスギアアイギスのイベントやるんだ……。

※灰稲比恵の変身時の文字色を変更しました。


※この作品には読み上げタグが使用されています。

「さあ、みんな! 彼の名前を呼んで!」

「「「「――ブレイダー・デビルーー!!」」」

 

――――【最強!(6) 完全(6)!! 無欠(6)!!!】――――

 

「変っ身!」

 

――――【サンジョオオオオオオオオオオ!】――――

 

「「「「「さんじょーーーーー!!!」」」

 

ステージ用に先んじて録音編集を行った変身音がライブスピーカーから流れたことで。事前に変身した状態で袖幕に控えていたブレイダー・デビルがステージへと飛び出る。数百人分の子供達の声援がホールに響き渡る。その声に応えるためにデビルが教えられた通りキメポーズを取ると、先ほどよりも大きな声援がまた返ってくる。

 

人生ってのはなにが起こるか分からんなと、デビルは実際にショーで活躍しているプロの進行役のお姉さんがハキハキと喋っている中で過去を思い出す。

 

自分は素行が悪く、口も悪い。暴力も厭わない。口を開くよりも拳を握ることを優先することの方が多い。さらに人でもブレイダーでも見た目からして悪であるはずだ。事実、天使に出会うまではその通りであった。

 

――たとえ世界を敵に回しても勝てるんだろうけどさー。そんな生き方だと損ばっかりしちゃうよ?

 

その一言から、悪魔ひいては『アーマード』の環境はまったく違うものへと様変わりした。それこそはみ出し者で悪魔と怖れられていた自分が気がつけば子供達のヒーローになっている。これも全て、天使が計画したネット活動による印象操作のおかげだとデビルは考えてたのだが、天使曰く「悪魔の場合は元々根付いていたものが開花しただけ」と言われてむず痒くなったのは記憶に新しい。

 

ヒーローショーは滞りなく進行していく、話の展開は子供たちにも分かりやすいようにと簡単なものになっている。やたらフェアリー染みた喋るグレムリンが一般人を襲いながら暴れており、それをデビルが倒すと言ったものだ。

 

喋るグレムリンに関しては『アーマード』からすればあながちフィクションでもないのだが、大人たちの中には苦笑するものもいて、生配信のコメントは喋るんかいwと総ツッコミであった。

 

事態に気付いて登場したデビルが、実際にテレビでも活躍しているプロスーツアクターが中に入っているグレムリン(着ぐるみ)と戦闘を開始。勿論あくまでも戦っている振りである。

 

最初はデビルが優先だったが、途中デビルは一般人に扮したプロの劇団員所属のエキストラたちがステージのあらゆる所で倒れていることに気付いて、彼らを気にしてまともに動けず防戦一方になる。実際はS級グレムリンでもなければ、いつも瞬殺なためこのような事態になることは無かったりするが、ワンパンは流石にと天使から指摘が入って演出になった。

 

窮地に陥ったデビル。解説のお姉さんがプロのマイクパフォーマンスで緊張感を煽っていくなか観客席の中央。PS席に突如としてスポットライトが当たる。

 

「ここは僕に任せてよ!」

 

中性的な声がスピーカーから発せられると共にPS席に居たスタッフがテーブルの下に隠されていた小さな台座を取り出し、その上に立って帽子を脱ぐ。すると白髪と赤い瞳が露わとなり正体が露見する。

 

「天使さんだ!」

「キャーーー!! 天使ーー!」

「アンギルー!」

 

――――ʚéɪndʒəl tάɪm(エンジェル・タイム)ɞ――――

 

「変身!」

 

――――ʚædvent(アドベント)ɞ――――

 

子供から保護者の方まで有名人である天使のサプライズ、そして見れることは決して多くは無い、ブレイダーの生変身に観客のボルテージはさらに上がる。

 

「みんなしっかり!! 『エンジェル・ライト』!」

 

ブレイダー・アンギルとなった天使が杖を掲げると、一般人エキストラへとスポットライトが当てられて、あたかも怪我が治ったかのように次々と立ち上がって袖幕へと引っ込んでいく。これにてデビルの障害が無くなった。

 

ふと、デビルは前回の『裏案件』で終始巻き込まれてしまうことになった小鳥遊蜜柑を強化された視覚によって見つける。両親と共に食い入るようにこちらを見ており、その顔には笑顔があった。

 

――やっぱり柄じゃないな。

 

デビルが手をかざしてスキル『悪魔の手』を発動。コンクリートなら容易く切り裂ける爪先から電気が放出され、天井や壁などに設置した避雷針に向かって飛んでいく、不安がる客もいたがデビルが意のままに電気を操れることを知っていたものたちから落ち着きを取り戻していき、全員がすぐに慣れて、電気が会場を迸るといった幻想的な光景に目を奪われる。

 

そして、戦いはクライマックスとなりデビルは拳を握って構えた。待ってましたと言わんばかりにフライング気味に観客から声が上がる。

 

――――【悪逆! 壊滅!! 粉砕!!!】――――

 

「さあ、みんなもせーの!」

「――シックスパンチ」「「「「シックスパンチ!!」」」」

 

――――【シイイィィィィィックス!!!】――――

 

スピーカーから録音した必殺技の音声が爆音で流れ、グレムリンに向かって拳を突き出すと、ワイヤーに引っ張られグレムリンが斜め上空へと吹き飛んで場外へと消えていった。あくまで全て振りではあるが、デビルの体は放電したままであり派手でな演出も合わさって、かなり満足の

行く出来となっており、自然と盛大な拍手が生まれ、第一部が終了となる。

 

……ちなみにステージといい、機材といい、役者やスタッフといい。どれも一流が集っており、この一日限定のヒーローショーのためだけに軽く八桁万円の予算が使われていたりするのだが、ネット配信に備わっているスパチャ(お布銭)機能によって、すでに黒字化していたりする。

 

――はぁ、さて第二部どうなるか。

 

第一部が悪魔のヒーローショーなら。第二幕は第一世代のブレイダーたちが失楽園を除き総出演をする十分程度のおまけみたいなもので、悪魔と正義のバトルが最大の見せ場となる。

 

発端は一人でショーに出たくないと言った自分にあるが、準備が進んでいくうちにスタッフや役者と交流を深めていき別に一人で舞台に立つ訳じゃねぇんだなと気付き冷静になると普通に言わなきゃよかったかもしれないとちょっと後悔していた。

 

正義という人物は空気が読めないわけではないが遊びすぎるところがある。得物をぶっ放して機材やショーをぶち壊すなんてことは絶対にしない事は分かっているのだが、碌でもないアドリブを100%してくる確信があった。

 

そして悪魔は割かし他人事と思って気にしていないが、天使が正義の出演に頭を抱えている。その理由はなにかしらに姿が映るだけで大炎上。マイナス票があったのならば事実上の最下位とまで言われた正真正銘の社会的嫌われっぷりにある。この会場では良いかもしれないが、姿を現した時点でネットのあらゆるSNSにて大炎上祭りが開催する。

 

――彼は“正義の味方”ではなく“正義”である。だからこそ誰も理解してはいけない生物なのだ。

 

「ではみなさん! 世界の平和を守るブレイダー・デビルに向かって大きな拍手をーー!!」

 

進行役のお姉さんの掛け声により、先ほどよりも大きな拍手喝采がホールを包み込む。これが第二部の始まりの合図でもあった。

 

話の展開としては、正義が「随分と楽しそうなことしてるなぁ?」と、いつもの調子で揶揄いに来て、それを悪魔が窘めて戦いに発展するというものだった。その程度で戦いになるかと疑問を持たれればブレイダーたちはYESと首を縦に振る。悪魔と正義は割とくだらない理由で定期的に殴り合ったりしていた。

 

悪魔はこうなったら仕方ながない、もしなにかしでかすようなら本気で一発当てるかと決意して意識をショーに戻した。

 

「――邪魔するようで恐縮なんだけどね」

「…………ん?」

 

スピーカーから聞こえてきたのは礼儀正しさが言葉だけで分かる明らかに正義ではない声。だけど1000%思い当たる声に悪魔は一瞬状況を忘れて素の声を出してしまう。

 

――――≪The abyss gate is opened≫――――

 

「ちょっとボクの話を聞いてくれないか?」

「……あんの馬鹿野郎っ!」

 

間違いなく、すでにここにはいないであろう正義に、一瞬ステージの上であることを忘れて悪態を吐き捨てる。

 

「変身」

 

――――≪Reach out!≫――――

 

本来では最後に一分ほどの出番しか予定されてなかったはずのブレイダー・アビスが正義の代役として登場したのである。

 

+++

 

155:正義

奈落。どうせ見てるんだろ?

ちょっと頼みたいことがあるだが、YESと言ってくれ。

 

156:奈落

状況は把握しているよ。

行くのかい?

 

157:正義

すまんとは思うがな。まぁ、俺が欠席した方が天使も楽になるんじゃないかね?

真面目なお前のことだ。渡された台本暗記してるだろ?

 

158:奈落

一応は。でも出番直前で欠席の方がもの凄く困ると思うけどね。

そもそも、君が向かうほどの問題が起きているのかい? ボクの瞳には異常に思える炎は見えなかったけど。

 

159:正義

さてな。

だが俺の正義が囁くのさ。敵がすぐそこまで来てるってな。

 

160:奈落

君の勘か、なら気のせいではなさそうだね。

……分かったよ。自信はないけど代役引き受けるよ。一緒に天使に怒られようね。

 

161:正義

代役だけでいいぜ。ナハハ。

それにお前の話で、行く場所も当てがついた。あんがとよ。これは借しにしておいてくれ。

 

162:奈落

覚えておくよ。

さて、代役とは言っても正義のハイテンション、ボクに出来るかどうか……。

 

163:正義

いや。別に俺の真似しなくていいからな? 見てみたいも気がするが。

じゃあな。グッドラックだ。

 

164:奈落

君もね。正義。

 

165:悪魔

正義てめぇ!! お前これ終わったら絶対殴るからな!

 

166:天使

もーーー! ほんとにもーーーーー!!!

 

167:混沌

ごめん、いまなにが起きてるか気付いた_:(´ཀ`」 ∠):_

 

168:天使

混沌ずっと台本見て動かなかったもんね……。

 

 

167:混沌

だ、誰か私の代役してくれないかな?(>_<#)キリキリ

 

168:天使

だめです。

 

 

+++

 

 

 

セブンスガールズの金と呼ばれている高価な装飾が目立つドレス姿の魔装少女『アイビー・ゴールド』こと『粟財 弁金(あまざい わかね)』。

 

そしておなじく朱と呼ばれている『クリムゾン・スピアー』こと『朱福(しゅふく) あずき』は、銀毘と同じく自分たちを止めにくるかも知れないブレイダーたちを七色を連れ込んだホテル近くの町中にて待ち伏せしていた。

 

しかし、先にやってきたのは公園で現れたような金属の装甲を纏ったグレムリンの大軍だった。およそ百はいようネズミ機械型グレムリン。単体での強さはそれほどではないが数の暴力に徐々に追い詰められていき、ビルの建設現場にて囲まれてしまっていた。

 

 

「な、なんなんですの、こいつらは!?」

「あ、あぶな……いっ!」

「あずき!?」

 

クリムゾン・スピアーは咄嗟に粟財を狙って振るわれた爪による攻撃を庇って血を流す。抱きかかえて攻撃を受けたところ見ると血を流していた。魔装少女は怪我をしない。そんな常識外の事態にアイビー・ゴールドは覚えがあった。

 

「これは『裏案件』の時の!? ならば、これはフェアリーによる襲撃!?」

 

七色から話を聞いて力を貸した『アーマード』が秘密裏に解決していた『裏案件』。その時に戦ったフェアリーによって改造されたグレムリンも、同じように魔装少女の肉体に怪我を負わせる力を持っていた。ならば他の魔装少女による助けは見込めないと粟財は自分の置かれた状況が、かなり深刻なものだと唇を噛みしめる。

 

「ううっ……」

「ちょっと! しっかりしなさいな!」

「あ、アイビー……逃げ……てくださ……い」

「あなたを置いては行けませんわ!」

「と、ともだ……ちを守って……死ね……るなら……本望で……す。うへへ」

「心配がどこかへ飛んでいきそうな笑いをしないでくださいませ! 本当にあなたって人は!」

 

朱福は強がりではなく本気でそう思っていた。自分と同じ人を好きな友達を守れて死ぬなんてとても幸せなことだと、朱福は痛みを快楽にかえて顔をにやけさせる。

 

生まれもっての不器用でコミュ障であった彼女は自分の意志というものを伝えられずに生きてきた。それが全てでは無かったが学校では虐められて、大人や家族には理解を得られず、ネットにも逃げられず。そんな彼女が縋ったものが常に突き刺さっていた“痛み”であったのは、仕方の無いことだったのかも知れない。

 

もっと痛みをと魔装少女にもなったが。その趣向故に他の魔装少女から距離を置かれてしまい。社会的評価も需要の域を超えているとしてさらに孤立していった。

 

グレムリンと戦って痛い思いをすると、生きてていいって見えない誰かに言ってもらっている気がする。

 

そんな風に狂っていた彼女に転機が訪れたのは、いつものように一人で戦いグレムリンの攻撃を受けた時だった。

 

――大丈夫っすか!?

 

痛みに浸っている朱福は自分を本気で心配し、手を差し伸べたヒーローに、そして自分にしっかりと向き合ってくれた七色に恋して依存する。そして恋敵であるはずの自分を受け入れてくれたセブンスガールを友達として、自分の命を賭けて守る。ひとえにひとりぼっちのあの頃に戻りたくないために。

 

「わた……し……ともだ……ちのために……しね……るんですね……」

「バカな事を言っているあなたには、あとで厳しいお説教ですわ」

「と、ともだ……ちからのキ……ツいたいば……つ……た、たのし……み」

「そんなこと微塵も言っておりませんことよ!?」

 

ちなみにクリムゾン・スピアーはいつもこんな感じの喋り方だったりする。しかし余裕があるというわけではなく、このままでは危険なのは事実だ。そんな二人の様子を見て楽しんでいるかのように合計百のネズミ機械型グレムリンが一斉に鳴き出す。

 

クツチュークツチュークツチュークツチュークツチュークツチュークツチュークツチュークツチュークツチュー

クチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュ

 

ネズミ機械型グレムリンが複数。アイビー・ゴールドに襲いかかる。

 

「気持ち悪いですわ! 〈固有魔法展開(エクストラスペル):ゴールデンリボン〉!」 

 

複数の魔方陣が展開され、そこから黄金色に輝くリボンがネズミ機械型グレムリンに絡みつき動きを止める。

 

魔装少女が必ず保有する己だけが使える『固有魔法(エクストラスペル)』。アイビー・ゴールドの〈ゴールデン・リボン〉は、自在に操作でき、巻き付けた相手を封じる事が出来る黄金色のリボンを生成すると行ったものだ。しかし一度に呼び出せるリボンの数には限界があり、魔力も限界に近づいてきた。さらにいえばネズミ機械型グレムリンには魔法が殆ど効かず、僅かに動きを止めるだけで、すぐに拘束を解かれてしまう。

 

「キャッ!?」

 

反撃した罰だと言わんばかりに、一体のネズミ機械型グレムリンは爪を射出。アイビー・ゴールドの頬を掠める。

 

「……バカなことをした。その罰とでも? ふざけないでくださいませ……」

 

黒色が出現したことによって、不安になったみんなに七色と本番をするのを提案したのは粟財だった。危機感は確かにあったが、粟財がまず始めに浮かんだのはチャンスという言葉だった。

 

彼女の恋の形は束縛系。好きな人が自分の手の平にいることに幸せを感じる。一生監禁して飼いたいという欲もあるが別に独占しなくてもいいのだ、ただ思い通りに生きててくれれば自分は何番目でもいい。

 

故に粟財は七色と自分たちが全員関係を持つようにする計画を口にした。そうなれば関係を破綻させないためにスケジュール管理が必要になってくる。それを自分が担当することで話が付いていた。今日はこの子と一緒にいる、明日は休みで、この日はみんなと一緒に海が見えるホテルに行こう。突然のトラブルやセブンスの活動で予定が狂うのを日々のスパイスとして楽しむのも一興、自分のシフトを気まぐれに誰かに譲って余裕を見せても良い。優しい彼女たちの事だ必ず恩返しをしてくれるだろうし。

 

そんな幸せな未来を求めて、粟財はセブンスガールたちの不安を利用して計画を実行した。だから、この狙われた襲撃されたことも、朱福が怪我したことも自分の所為なのだろうと悔やむ。

 

「……だって、仕方ないじゃない」

 

――申し訳ないっすけど、まずは友達からでいいっすか?

 

出会いこそよくある危ないところを助けられてハートを射貫かれてしまったというものだった。でも、初恋に浮かれて暴走を起こした彼女は七色を自分のものにするために本気で腕や足の一本を切り落とそうとした。それが失敗に終わった後、七色は怒るわけでもなく、怖がるわけでもなく、少し困った様に笑って手を差し伸べてくれた。だから束縛して……“みんな”のようにどこにも行かないようにしたかった。

 

「わたくしだって不安になりましたの!」

 

粟財は奇跡を祈りながらも、自分たちが閉じ込めたヒーローが来ないことを確信していた。だからこそせめて朱福だけでも助けるために震える足に力を込める。

 

その時であった。バイクがエンジン音を吹かしながらネズミ機械型グレムリンの群れに突っ込んできたのは。

 

「え? な、なにごとですの?」

「あ、あ……れは……」

 

乱入者のバイクによって次々と轢かれていくネズミ機械型グレムリン。あまりの唐突な事態の変化にアイビー・ゴールドは理解が追いつかず頭を真っ白にしてしまう。クリムゾン・スピアーはバイクに見覚えがあり、どうして彼がここにと驚く。

 

「――ナハハ。ベストタイミング過ぎて謝りたくなっちまうぜ。なぁ?」

 

適当にネズミ機械型グレムリンを散らかした後、二人の前に止まりバイクから降りた乱入者はヘルメットを取る。ちょい悪染みた中年顔を粟財は二週間前のパーティで見ており、彼女も正体に気付く。

 

「あ、あなたは……!?」

「ようクソガキども、お前たちのヒーローが絶賛お楽しみの中。代わりに俺が代役で来てやったぜ。投げるのは空き缶か弁当箱ぐらいにしておきな」

「ブ、ブレイダー・ジャスティス!」

「生身の時は正義って呼びな。アイビー・ゴールド。まっ、俺はどっちでもいいんだがな」

 

アイビー・ゴールドは世界一の危険人物とまで言われている、正義が自分たちを助けに来てくれたことに、ひたすら戸惑うことしかできない。

 

「正義……ど、どうしてあなたが……」

「さてな。なんだか嫌な予感がしてショーをドタキャンしてきてみたらこのざまだ……はっ! しゃらくせぇんだよ!」

 

問答無用で襲いかかってきたネズミ機械型グレムリンにカウンター気味にムエタイ式の肘打ちを食らわせて、『B.S.F』を取り出す。

 

「ナハハ。お喋りしている暇はなさそうだな。空気読めないドブネズミ共だ。下水路育ちが長かったのかね?」

 

▽△▽△▽△▽△▽

◇◇〔START〕◇◇

△▽△▽△▽△▽△

 

正義が『B.S.F』に表示されたSTARTボタンを押すと、昔ながらのシューティングゲームBGMのようなチップチューン音楽が鳴り響き紫色のベルトが腰に巻かれる。

 

ネズミ機械型グレムリンが遊びを邪魔されたことに怒るように正義を八つ裂きにせんと一斉に群がり始める。

 

「腕とか足だけ狙ってみろ」

「っ! 〈固有魔法展開(エクストラスペル):ゴールデンリボン〉!」

 

正義の言葉の意図を瞬時に理解したアイビー・ゴールドは、ネズミ機械型グレムリンの腕や足に的を絞って拘束する。魔法が効力を発するのは一瞬だけであったが、突如手足が動かなくなったことで速度が乗っていたネズミ機械型グレムリンたちはバランスを崩して地面に転がる。さらに言えば一体に対して巻き付けるリボンが少なく済んだこともあり、先ほどは十体が限界だったのに、今回は三十体の足止めに成功した。

 

「ぜ、全部は無理ですわ!?」

「十分だ。ありがとよ」

 

百体一斉に動き出した分、前の方の足を止めたことで渋滞状態になり動きが止まる。ほんの少しの停滞であったがそれで充分だった。

 

正義はバックルを取り外し、畳まれているグリップを回して展開。上半分を開いて『B.S.F』を中へと装填、ふたたび閉めると上半分がほんの少し前へと突き出て、拳銃のような形になる。

 

『バックルピストル』と呼ばれる正義専用のアイテムの銃口(マズル)を適当に正面に向ける。

 

◆△▽△▽△▽△▽△▽◆

◇〔WHO are YOU?〕◇

◆▽△▽△▽△▽△▽△◆

 

何者であるかという問い掛けに、正義はこれが答えだと言わんばかりに引き金を引いた。

 

「変身」

 

++〔Oh! My JUSTICE〕++

 

踊りたくなるような軽快な音楽を銃撃音が轟きぶち壊す。正義の肉体表面に電子回路のようなのが浮かび上がっていき、次々と『ブレイダー・スーツ』が装着されていく。

 

電子回路が所狭しと刻まれた紫色のブレイダー・アーマー。まるでSFに登場するようなメカメカしいデザインのブレイダー・ジャスティスが現界し、迫り来るネズミ機械型グレムリンに向かって『バックルピストル』のトリガーを引く。

 

正義のスキル『正義の力』で生成された弾丸が発射されて、グレムリンの金属で守られている眉間に綺麗な穴を開けて絶命させる。

 

「見た目の割には柔い奴らだな、量産品ども!」

 

それからジャスティスは高速で引き金を何度も引き、的確に人間で言うところの心臓や肺などに命中させていく。パンパンと渇いた発砲音が鳴るたびに数を減らしていくネズミ機械型グレムリンも、やられっぱなしは心外だと言わんばかりにジャスティスに襲いかかる。

 

「ナハハ!」

 

ジャスティスは攻撃をいなしてはトリガーを引き続ける。丁寧に冷酷に機械のように、まるで作業のように淡々と命を消していく、その姿に助けられているはずのアイビー・ゴールドは恐怖を感じてしまう。

 

「おい」

「な、なんですの?」

「そこに座りっぱだったら、俺が来た意味ねぇだろ。はやく逃げてくれないか?」

「で、ですが……」

「なんだ? 人々を守る変身ヒロインってのは怪我してるやつを無視してもOKって教えられたのか?」

「っ! あ、あなたって人は言い方が酷すぎますわ!」

「ナハハ。よく言われるよ」

 

怒鳴り声を上げるアイビー・ゴールドだが、一秒でも早くクリムゾン・スピアーの怪我を処置しなければいけないのは事実であり、反論できないことに情けなくなる。

 

「そんな顔してるんだ! 雑食だろぅ!?」

 

腕に噛みついてきたネズミ機械型グレムリンの突き出ている鼻を掴み、『バックルピストル』を口内ににねじ込み弾丸をごちそうする。ジャスティスは『バックルピストル』の左側面に露出している『B.S.F』の画面に表示されている番号をタッチした。

 

△〔No.1887〕▽〔No.16〕△

 

『バックルピストル』をベルトにグリップが上にくる逆さまに取り付け直し、起動レバーともなっているグリップを押し倒す。

 

+〔PRESENT〕+

 

ジャスティスの右手に『バックルピストル』と同じデザイン性のショットガン、左手にアサルトライフルが握られた。

 

「守るのは苦手なんだよ。お前だってそこに居るだけで巻き込まれたくないだろう?」

「……分かりましたわ」

 

役立たずと、はっきり言われたような悔しさを感じるが、魔力がほとんど無い自分がここに居たところで迷惑であること、クリムゾンをいち早く治療しないと行けないこともあり、アイビー・ゴールドは不満を飲み込んでジャスティスの言い分に大人しく従う。

 

「アイ……ビー……お……ねがい……七色のと……ころにつれて……って」

「こんな時になに言ってますの!?」

「おねが……い……」

 

魔法によっての応急処置をしたあとは、すぐにでも病院へと連れて行くつもりだった。しかし、クリムゾンは自分たちが襲われているなら七色たちだって危険が迫っている可能性が高い。そんな時に自分だけ安静にしてて、最悪な結末になったら生きる意味を見いだせなくなってしまうと、アイビー・ゴールドに懇願する。

 

その気持ちを察してしまったアイビー・ゴールドは、少しだけ悩んで結論を出す。

 

「……応急処置したあと無理そうなら病院へ直行しますわよ! それとなにが起きたとしても、あなたを嫌う人はわたくしたちの中におりません! それだけは覚えておきなさいですわ!」

「ありが……とう……弁金ちゃ……んはやっぱ……りやさし……い……すき……」

「ああもう、それは七色にだけ言いなさいですわ!」

「仲良しなのは良いことだがな、ほら道作るぞ」

「……ブレイダー・ジャスティス。助けて頂いて感謝しますわ」

 

嫌悪と恐怖を飲み込んでアイビー・ゴールドは礼を言い、ジャスティスは愉快そうに笑う。

 

「あいつの前でも、それぐらい素直に可愛げだせよな」

「やかましいですわ! 〈魔法展開(スペル):バードウィング〉!」

 

ジャスティスは回転しながらアサルトライフルを乱射。その隙にアイビー・ゴールドはクリムゾン・スピアーを抱きかかえて飛行魔法を使用。光の翼を広げて空へと飛び立つ。それを撃ち落とそうとするネズミ機械型グレムリンに対して、正義はショットガンによる散弾の雨をぶつける。

 

「まったくよ。餓鬼の恋沙汰なんて端から見てるだけで充分だってのに、よくもまあ出張らせてくれたもんだ。おかげで28歳は後で天使のお説教を聞かなきゃならねぇ」

 

体を穴だらけにしながらも、まだ僅かに息が有ったネズミ機械型グレムリンの頭を踏み抜いてトドメを刺す。

 

「――数だけの正義が、どれほど価値があるか見せてみろよ」

 

――すべてが終わった後、建設現場は壊滅状態となり、正義の悪名はさらに増えることとなる。

 

+++

 

七色は盛大に焦る。生まれたままの姿である灰稲に迫られている現状もそうだが、『B.S.F』をどこかに落としたことがマジで不味いと。

 

「比恵! 本当に申し訳ないっすけど! 『B.S.F』どっかに落っことしちゃった見たいっす! もしも悪いやつに拾われたら色々とシャレにならないので、ここは一旦穏便に――」

「終わってから一緒に探しますよ」

「終わってからってなにをっす!?」

「セッ○ス」

「言っちゃったっすよ!? はっきり言っちゃったっすよ!!?」

 

いままではやんわりと言葉を濁してきたのにと、七色は今までとはノリが違う、今回ばかりは本気(ガチ)の中の本気(ガチ)であることを理解する。避妊とか、そういうのは一切無し。ここで完全に自分を仕留める気だと。

 

「待ってくれっす。俺たちまだ高校生っすよ!? なにもかも譲っても……いや譲れないっすけど! 避妊無しはヤバいっす!」

「最近は中学生でもするって言いますよ?」

「なんてこと言うっすか!?」

「病院や住む所の手配は弁金がなんとかしてくれるそうですよ? それに、何かあったら遠慮無く頼ってくれって天使さんが言ってくれました」

 

天使ぃいいいい!! と内心で絶叫する七色。天使がそう言ったのは冗談の類いではあったが、いつマジになっても可笑しくねぇなと何時でも動けるように準備はしていたりする。

 

外堀埋められすぎて、もはや壁が出来ている七色だったが諦められるかと頭を張り巡らせる。

 

「本当に素敵な友達がたくさん出来ました。自分はひとりじゃないんですね」

「すんごい素敵な事だけど、せめて服着て言って欲しいっす!」

「みんなで幸せになろうよ」

「笑顔が怖いっす!」

 

七色はいつもの事ではあるが、これは灰稲、銀毘、粟財、朱福の四人で計画したものであることを知り。つまり、灰稲の独断行動でもなく四人全員が本気(ガチ)であることも知る。

 

「……ど、どうしてそこまで?」

「幸太が悪いんですよ。比恵たちを不安にさせるから……」

「黒色に関しては、まじで俺もわかんないっす! だからせめて理由とか原因を突き止めてからでも!」

「そうやっていつも逃げるから」

「それは、学生の身だし四人同時とかは流石にっていつも……」

「そういうことじゃないよ……」

 

七色は今まで見たことのない灰稲の悲しそうな顔に言葉を詰らせる。

 

「――分かってますよ。比恵が周りからどんな風に呼ばれるものだって」

「……比恵」

「男から見たら怖くて逃げ出したい“もの”だって……だから幸太は優しいからずっと無理してるんじゃないかって……分かってますよ。だから答えて、幸太は」

 

七色がまず初めに思ったのはずるいだった。小学校のころからずっと一緒に居たから察してしまう。ここでもし正直な気持ち以外で彼女に向かえば、このまま自分になにもしないでどこかへと行ってしまうと、そして色だけを残したまま、一生自分の前に姿を現さないつもりだと。

 

「幸太は――私のこと好きですか?」

 

――灰稲は気付いていた。七色は自分たちのことを大切にはしてくれているが、好意を意味する言葉を口にしたことがないと。だからここ最近常に不安だった。私たちの傍に居てくれるのは単に優しいからだと……昔聞いたおじいちゃんの言葉を実演しているだけじゃないかと。

 

そんな優しい彼に甘えている自分が、あまりにも恐ろしくて、考えるだけで泣きそうになるほど辛くて灰稲は強い罪悪感を抱きながら粟財の計画に乗った。七色と一緒になる幸せな生活を送るのではなく、自分の罪を知って。もしもの時は終わらせるために。

 

「それはっ……! 灰稲!?」

 

――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

七色が苦悩の末、なにかを言いかけた時、外側の壁が爆発。七色は咄嗟に灰稲を庇うために抱きしめる。

 

「な、ななんっすか!? ってちょごめんっす! せめて毛布着るっす……って比恵!?」

 

土埃が舞いなにも見えなくなった中、そういえば灰稲全裸だったと、毛布を被せようとするが、そのまえにゆらりと立ち上がり爆発して出来た穴の方へと歩いて行く。

 

「……〈チェンジリング〉

 

灰稲は魔装少女へと変身する。灰色のウェディングドレス姿、その手にはウェディングケーキナイフを持つ。

 

――比恵は覚悟を誰にも邪魔されたく無かったと怒りに支配される。

 

「……邪魔をしないでくださいよ」

「……ブレイダー・セブンスはヒーロー」

 

土煙が収まると、穴の外からこちらを見る人物がいることに気付き、七色はギョッと目を見開く。

 

「く、黒色の……魔装少女」

「比恵は知らないといけないんですよ……だから」

「セブンスとセブンスガールたちのやりとりは見ていると幸せな気分になる。楽しくなる……でも」

 

灰色の魔装少女『グレイ・プライド』。黒色の魔装少女『パンチャー・ノワール』は、光が消失した(まなこ)で睨み合い、殺意を膨らませていく。

 

「これは解釈違いだっ!」

「どこかへ消えて!」

 

 




分裂したんだし予定にないもの書いちゃえ←

テストも兼ねてアンケート機能を使ってみたいとおもうのでよろしくです。
※やらかしました、↓「友泉亭」→「優先的」にです。すいませんでした!


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【七色】相談に乗って欲しいっす!【緊急】 後編①

大変遅くなりました。ようやく終盤前までかけたので投稿できるようになりました。

感想、評価、ここすき、お気に入り登録本当ありがとうございます。こうやって続きを書けるのはみなさんのおかげです。
これからもよろしくお願いします。
※すいません! 誤字報告も本当にありがとうございました!


――お母さんは、変身ヒロインになるのが夢でした。

 

そのために沢山の努力をして、声優にもなったそうです。でも求めるものが違って夢を諦めたそうです。

 

でも平凡で優しいサラリーマンのお父さんと結婚して、娘を産んだころ、本物の変身ヒロインである魔装少女が現れました。

 

お母さんは新しい夢を見つけました。それは娘を魔装少女にすることです。

 

お母さんは頑張りました。娘を魔装少女にするためにはどうすればいいのかと沢山の人に聞いて、たくさん習い事を連れて行って、勉強も言葉使いも料理も魔装少女らしく可愛く見られるものを片っ端から厳しく教えて……魔装少女にらしくないことをするともの凄く娘を叱って、あなたのためを思って言ってるのと涙を流してくれました。

 

そうやって、自我が芽生える前からの努力が実り、11才になったとき娘は晴れて魔装少女になりました。

 

ものすごく喜んでくれたお母さん。

 

――貴女はきっと比恵の顔を見たことが無かったのでしょうね。

 

+++

 

183:騎士

移動中に状況報告をしようとおもってスレ覗いたんだけども……。

 

正義先輩ぃ……なにしてるんですか……。

 

184:天使

絶対なにかやらかすとは思ったけど、まさか直前で居なくなるとは天使の目を持ってしても予測できませんでしたよこのやろう。

なにが性質悪いって、本当に必要だから動いたって分かるから怒りづらいんだよ! もおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

185:騎士

荒ぶっているなー……。

 

それで正義先輩はどこにいったのかわかんの?

 

186:天使

SNSで目撃情報多数。町中でド派手に暴れたみたい。作りかけのビル全壊させたとか、いつも通りやることが派手だし普通に迷惑だねー。

 

……あー。どうやら金と朱が襲われてたみたい。それを助けたんでしょうねー正義さんは。

 

187:騎士

そうなのか!? それで二人は無事!?

 

188:天使

無事かどうかわかんないけど、正義が行ったんだからなんとかはなってると思う。

それで騎士、いま状況はどうなってるの?

 

189:騎士

公園で桃ちゃんがグレムリンに襲われた。明らかにフェアリーに改造されてるやつで魔装を貫通出来るタイプ。狙いはほぼ間違いなく七色の『B.S.F』だと思う。

 

190:天使

やばいね。七色だけの問題じゃすまなくなってきたっぽい。

……騎士、僕のこと迎えに来れる?

流石にショーの後片付けとか言ってられないでしょ?

 

191:騎士

ごめん。俺はそっちいけそうに無い。

いまクロスベルに乗って、桃ちゃんとモググ。そして銀の三人一妖精で七色がいるホテルに向かってるよ。途中王様も一緒だったんだけど、希望からの別地点にグレムリンが現れたって連絡が来て、そっち向かった。

けど、話聞く感じ正義先輩がいるとこっぽいね。

 

192:天使

あー。しまったなー。僕の方から連絡すればよかった。

とにかく状況は分かったよ、僕もお客さんが会場出たら、なるはやで抜けてそっちに合流するね。

  

193:騎士

いいのか?

 

194:天使

見るだけの範囲超えてると思うしねー。

怪我人出てるのにショーを運営してたから治しに行けませんでしたは、ヒーラーの沽券に関わるよねー。

もうショー自体は終わるから握手会とか残りのイベント消化は悪魔だけに頑張って貰うよー。

さすがに主役がいなくなるのは無理。

 

195:騎士

混沌先輩は?

 

196:天使

出番終わったら、そそくさとどっか行っちゃったみたい。もしかしたら現場に向かってるかも?

タクシー……いや、こうなったらアンギルのままで自転車漕いだ方が速いよねー……。

アンギルのままでチャリで行くのかー……トレンド一位とっちゃうぞー(死んだ目)

 

197:騎士

うーん。シュール。

というかアンギル飛行能力持ってたでしょ?

 

198:天使

浮遊能力なんだよなぁー。ちょっとぐらいは動く事出来るけど基本は浮くだから、移動凄く遅い。王様みたいに飛べたらよかったのになー!

人生ままならねぇぜ!!

 

199:騎士

ああ、滅多に使わないのってそういう……。

 

200:天使

風とかの影響も受けないから、場合によっては風船より遅いよ……。

 

そういえば、ちょっと聞きたかったんだけどフェアリーが絡んでいるのは絶対として、桃ちゃんのフェアリーはどう?

 

201:騎士

彼……と言っていいかは分からないけど、良いフェアリーだと思うよ。それこそ桃ちゃんの心配ずっとしてた。

所感なんだけど、なんていうのかな。グレムリンを操って裏でなにかやるタイプって感じはしないかな?

 

202:天使

騎士がそう言うなら『塾』のフェアリーってのも本当っぽいかな? 

改造グレムリンってことは『協会』に関与しているフェアリーだろうし、白確と考えてもよさそう。

……魔装少女の需要を増やすためにグレムリンを強くするって本当に嫌な発想だよね。どの口が正義のこと批判しているんだか。

 

203:騎士

『協会』全部がそうってわけじゃないけどね。ちゃんと魔装少女の生活を支援してるのは確かだし、少なくとも本部は本心から魔装少女とフェアリーのことを想って動いているって先輩たちも言ってた。

 

なんにせよトラブルの最中を狙われたのは確かだね。

 

204:天使

情報がどこから漏れたか、今回の襲撃者の目的とか気になることはたくさんだけど、とりあえず『B.S.F』を七色に渡すのが最優先かー。

 

……そういえば桃ちゃんと銀はどうやって移動してんの?

 

205:騎士

あー……。銀はビルを跳んで目的地へと誘導してくれてるよ。

桃ちゃんは……『クロスベル』に乗せたんだけど俺の足にしがみつけながら震えてる……。

さっきから顔伏せて呪詛のごとく無理無理無理無理って言ってる……。

 

206:天使

桃虐かな?

 

207:騎士

そんなつもりは無かったんだけどね……王様や銀だとお姫様抱っこになるから、こっちの方が楽かなと提案したんだけど……。ごめんね……。

 

208:天使

飛行機並の速度で空飛ぶ鉄の十字架の上に乗って移動するのは普通に怖いよねー。

重量200キロ越えの物体がどうやってそんな風に高速で飛んでるんだか……。

 

209:騎士

多分、重力か斥力操ってるのかな。わかんない(理科58点)

 

210:天使

何歳の時の点数かは聞いちゃいけないやつだねー(そもそも理科だったっけ?)

 

211:騎士

て、てんし……?

 

212:天使

まぁほら、スキルも魔法も地球の元ある物理学に当てはめるのは不可能って言われてるしねー。ちょっとはね?

さてと、僕もそっちに向かうよ。

悪魔、君の犠牲は無駄にしないよー。

 

213:騎士

悪魔さんが子供に配慮して、小声で抗議しているのがすごく見える。

 

214:騎士

まって、銀の様子がおかしい。

ビルの屋上に立ち止まった。なんか胸を押さえている?

 

215:天使

どうしたの?

 

216:騎士

確認してくるよ。

 

217:騎士

まずい色が黒に……だめだっ!

 

218:天使

ちょっとなにが起きてるの!?

 

219:天使

騎士!?

 

 

 

+++

 

「はああああああああああ!」

「ふっ!」

 

建物に挟まれたコンクリート道路にて、片方が剣を、片方が拳を振るい、魔装少女同士が殺意をまき散らしながら舞っている。二人の間に共通している唯一のもの。それは目の前の敵を排除することである。

 

「二人とも今すぐ戦うのをやめてくれっす!!」

 

穴が開いたビルから七色は大声で静止を呼びかけるが、二人の耳には届いておらず止まる気配が無い。

 

「〈魔法展開(スペル):ビートルアップ〉!」

 

STR()強化の魔法を唱えたパンチャー・ノワールは強烈な右ストレートを繰り出す。対するグレイ・プライドは剣で受け止めるのは不味いと判断し、上空に跳躍して回避する。

 

グレイ・プライドは七色がいるラブホと向かい合うビルの屋上へと着地して、パンチャー・ノワールを見下ろしながら、魔力を生成する。

 

「〈固有魔法展開(エクストラスペル):マリッジマジック〉」

 

左右の手の甲に魔方陣が浮かび上がる。

 

「させない! 〈魔法展開(スペル):ホッパージャンプ〉!」

 

パンチャー・ノワールは魔法が発動しきる前に倒すと、跳躍飛距離を上昇させる魔法を発動させて、グレイ・プライドよりも高く跳んだ。

 

「〈魔法展開(スペル):シュリンプキック〉!」

 

続いて空気を蹴る事が出来るようになる魔法を発動。パンチャー・ノワールは空間を蹴り斜めに直線的にグレイ・プライドにむかって跳び足を向ける。

 

受ければ怪我だけではすまない必殺の飛び蹴りに、グレイ・プライドは冷静に“詠唱”を続ける。

 

「〈フォックスファイア〉×〈ラクーンウィンド〉=〈フェニックス〉」

 

地面に浮かび上がった二種類の魔方陣が重なりあい、渦巻く紫色の炎の肉体を持つ大鳥を生み出した。

 

グレイ・プライドの『固有魔法』は一度発動してしまえば、任意で解除するまで魔力を微量に消費しながら常時発動し続ける。その効果は自分が扱える二種類の魔法を合成し、新たな魔法を生み出すものであった。

 

「行って」

 

生みの親の命令に従い、紫炎の大鳥は迫り来るパンチャー・ノワールに向かって羽ばたく。

 

「それはよく知ってるからあああ!」

 

大鳥の形をした炎の塊は見た目の怖さとは裏腹に強い衝撃を加えれば簡単に炎が散って霧散すると、パンチャー・ノワールは何度も見てきたグレイ・プライドの得意魔法の弱点を熟知していた。そのため多少の火傷を覚悟してそのまま突っ切る。

 

そんなパンチャー・ノワールの知識通り〈フェニックス〉は蹴りがヒットした瞬間、勢いをろくに殺すこともできず呆気も無く消失。

 

衣服(魔装)』を焦がしたパンチャー・ノワールは攻撃が通ることを確信する。しかしグレイ・プライドは極めて冷静に一手はやく対策を講じていた。

 

「〈モンキーゴーレム〉×〈タートルシールド〉=〈サイクロプス〉」

 

グレイ・プライドの前方に魔方陣が二つ展開し、先ほどと同じく重なると今度は、甲羅模様がある岩で出来た単眼のゴリラ型巨人〈サイクロプス〉が現れる。パンチャー・ノワールの跳び蹴りを正面から受け止めた。

 

――ドゴン!

 

元々岩並に頑丈なゴーレムに、ロケット弾ですら壊せない魔法の盾を合成した〈サイクロプス〉の胸部にパンチャー・ノワールの足が突き刺さる。拘束するためにパンチャー・ノワールの背中へと腕を回そうとする〈サイクロプス〉であったが、パンチャー・ノワールはすでに次の行動に移っていた。

 

「〈魔法展開(スペル):ブルインパクト〉……すぅ――はぁ!」

 

――ドゴンッ!!

 

衝撃力増加の魔法を唱えたパンチャー・ノワールは、もう一本の足で力一杯〈サイクロプス〉の体を踏み抜いた。〈サイクロプス〉の全身に亀裂が走り粉々に砕け散り瓦礫となり動かなくなる。

 

「…………っ!」

「…………はぁ!」

 

再度、対面する二人の魔装少女であったが口を開くことなく衰えない敵意に従い即座に動き出す。

 

「ああもう! なんで『B.S.F』落っことしちゃったっすかね!」

 

自分の馬鹿さ加減に後悔しながら、七色は激化する戦いを見て、立ち止まってられないと外へと出る。

 

突然の魔装少女同士のバトルに、周辺にいた人々は揃って屋上に向かって視線とカメラを向けていた。七色はその中を通り抜けて二人がいる屋上へと向かう。

 

「こんちくしょう! 無駄に階段多いっす!!?」

 

ビルの中では遅いと、七色は非常階段を一気に駆け上がる。

 

「ヒーローになってから鍛えてきた筋肉の使いどきぃ!」

 

最上階の扉前まで辿り着いた七色は勢いを付けて飛び上がり、フェンスを掴んで、そのままよじ登り屋上へと到着する。

 

「――なんて顔してるんすか」

 

戦っているグレイ・プライドは殺意に満ちており、七色が見たことのないほどに怖い顔をしていた。そして黒色の魔装少女も同じように。喧嘩を超えている雰囲気に七色は思わず体を震わせる。

 

「はぁ……はぁ……。」

 

しかしながら鬼気迫る勢いとは別に激しい猛攻のすえ、パンチャー・ノワールはバテ始めていた。魔力保有量がグレイ・プライドと比べて半分ほどであり、消費量が少ないとはいえ肉体強化魔法を多用。さらに高速で動き回る戦闘スタイルのため運動量も桁違いに多く体力消費も激しかった。

 

一方でグレイ・プライドは〈マリッジマジック〉で、普通に使用する際の何倍もの魔力量を消費しているが、元の魔力保有量が多いためまだまだ余裕であり、体力も温存していた。

 

グレイ・プライドは、『固有魔法』もさながら、ペース配分と立ち回りに関しては魔装少女の中でも群を抜いていた。何故なら彼女もまた他のセブンスガールと同じく、そして誰よりも長く孤独に戦い続けてきたためにスタンドプレイの経験が豊富であった。

 

「はやく消えてください……邪魔をしないでください……どうして、あなたはここにいるんですか?」

 

誰が見ても、よほどの事が無い限り決着は付いたも同然であった。勝利の確信によって怒りは衰えないものの少しばかりの余裕が生まれたグレイ・プライドは口を開いた。

 

「……あなたたちが……セブンスを連れ去ったからっ!」

「それがあなたになんの関係があるんですか!?」

「セブンスはわたしの……みんなのヒーローだからっ!」

「意味が分からないよ!」

「終わらせない! 終わって欲しくない! だからっ! 〈魔法展開(スペル):キャットウォーク〉!」

 

油断はしていなかったが、パンチャー・ノワールはなりふり構わず、相打ち覚悟で正面へと突っ込んできたためにグレイ・プライドは剣を止めざる負えなくなり致命的な隙となってしまう。

 

このとき二人の明確な違いは理性の残り具合と、ある事を知っているか否かだった。

 

「――『ノワールクラッシュ』」

 

必殺の一撃がグレイ・プライドに向かって繰り出される。

 

――ちゃんとした説明はできないんだけどね。人が魔装少女となった時。あちらで言う物質生命体の特徴である“肉体に精神が定着している”という概念が逆転するんだ。そうすることで“精神に肉体という殻を覆わせている”と体の仕組みがフェアリーやグレムリンみたいになる。もっと簡単に言っちゃえば擬似的に精神生命体になるってことだね。だから魔装少女による魔装少女へのダメージはグレムリンと同じぐらい効果てきめんだからそれだけは覚えておいて。そして君の魔装少女たちにも教えといてね。取り返しの付かないことが起きないように。

 

「ばかやろう!」

 

魔装少女の攻撃は魔装少女を殺せてしまう。それを奈落から教えられた七色は生身のまま二人に向かって駆け出した。だが間に合わない。自分が割り込む前に拳は届いてしまうと判断した七色は後先のことなんて考えずグレイ・プライドを突き飛ばした。

 

「――あ」

 

それは誰の声だったか、七色の腹部に『ノワールクラッシュ』が直撃する。

 

七色はまず始めにあれだけ強烈なパンチを受けて吹き飛ばされていないことを不思議に思い、その後すぐに腹部に違和感を覚える。それが激痛だと気付いたのは数秒後だった。呼吸の仕方を忘れて膝から崩れ落ち、意識がゆっくりと消えてゆく。

 

――幸太!

 

――セブンス……!?

 

七色は自分の呼んでいるであろう声を聞きながら、意識を落とした。

 

+++

 

激情に支配されるままに拳を振るい続けてきた黒い少女は予想だにしない結果に呆然と立ち尽くす。

 

「幸太!」

 

グレイ・プライドが剣を投げ捨てて必死な面持ちで七色に駆け寄る。

 

魔装少女の攻撃を生身の人間が受けた場合は、魔装少女がグレムリンの攻撃を受けた時と同じく人体に影響は無く、しかし痛みは受けることになる。だから七色は体こそ無事だが、腹部に風穴があくほどの強烈な殴打により、激痛に襲われて脳が肉体の状況を誤認。血流が異常な動きをしてしまったことにより、一時的な気絶状態となる。

 

「幸太! 起きて……こうたぁ……」

 

命に別状は無いのだが、愛する七色が自分の身代わりとなって必殺の攻撃を受け倒れたとあって、冷静な判断が出来ず。グレイ・プライドはパンチャー・ノワールの事を忘れて、ただただ七色の名前を呼ぶ。

 

――灰稲は、母親の夢を叶える道具でしかなかった。

 

娘である自分を大成させるための愛ではないと灰稲が気付いたのは、離婚前に父と母が喧嘩していたのを目撃した時だった。

 

あまりにも娘に厳しすぎるだろと父の指摘に、最後まで母は自分の夢を叶えるためであることを主張し、娘の想いは二の次よりも遠くにあった。皮肉なことに苛烈な教育の所為で年齢以上に賢くなっていた灰稲はそのことに気付いてしまう。

 

親権の話で、父の誘いを灰稲が断ったのは魔装少女としての教育を受ける中で植え付けられた自己犠牲によるものだった。もしも自分が父を選んでしまったら、この母親のことだ。“夢”を連れ戻すためにありとあらゆる手を講じて、場合によっては父親の人生を地獄に変えてまでも自分を連れ出すだろうことが容易く理解出来た。

 

母親はブレーキがいなくなったことで、さらに灰稲比恵という個人を追い詰めることになる。いつしか灰稲は母親が楽しそうならそれでいいかと考えだし、感情をそぎ落としていき、夢を叶える機械へと変わっていった。

 

そうやって母親の夢は叶えられ、灰稲は魔装少女となる。噎び泣いて喜ぶ母親を灰稲は無機質な表情でじっと見ていた。

 

娘が魔装少女となったことで母親の夢は終わった。しかし今度は理想を膨れ上がらせた。魔装少女となった娘を誰からも好かれる人気者になってほしい努力をし始めたのだ。あまり世間受けしない灰色だったことも情熱の炎に油を注いだのかもしれない。テレビ出演、アイドル活動、Bランク以上のグレムリンを単独撃破に、終わらない魔法の習得に勉強。ついには安らげる学校の時間も徐々に減っていった。

 

自分はもう、灰稲比恵として生きられない。そんな諦めと共になにをするわけでもなく無気力に机でぼーっとしていた灰稲に転機が訪れる。

 

――比恵さん、でよかったかな名前?

 

転校してきた七草幸太が話しかけてきた。内容はずっと座っていて天井を眺めているから心配になって声を掛けたというものだった。

 

誰から見てもたった一言、名前を呼んだだけの平凡でありふれた些細な出来事。それでも灰稲は――救われてしまった。

 

「こうたぁ……ごめんね……」

 

それから灰稲は転げ落ちるように依存した、幸太と触れ合う事が灰稲にとって“比恵”で居られる時間であったから、小学校から始まって、中学校、高校へと決して離れるような事はしなかった。その中で灰稲は自立心が芽生えていく。最初は母親を騙す形で、徐々に魔装少女の活動を自分で管理するようになり、スケジュール調整を行い、開けた時間に幸太の家に行くなどをした。途中母親にばれてしまい、魔装少女が男と一緒にいるなんてと烈火の如く怒声を浴びせられたのを切っ掛けに“お仕置き”を行ったことで、彼女は本当の意味で自由となった。

 

家庭の事情の解決は、すべて灰稲比恵が自分で行った事であり、幸太はその事について殆ど知らなかった。しかしながら、灰稲は自分が自分でいられたのは全て幸太のおかげとして、より彼のことを愛した。それと同時に強い不安を常に抱き続けることになる。もしかして自分は母のように優しい幸太に想いを押しつけているだけなのだろうかと。

 

優しい世界が無くなることを怖れて、その不安を仕舞い込み、今までの苦痛を受けていたのだから自分には幸せになる権利があると言い訳をしながら、幸太の傍に居続けた。

 

そんな不安を押し込めることに我慢できなくなったのは、自分を守るためにブレイダーに変身してボロボロになった幸太を見て、母親に夢を押しつけられた時期の自分と重なったからである。

 

ほんの些細な穴から湧き出てくる不安と恐怖、幸太といるだけで幸せになることに罪悪感を覚え始めてしまい。考え始めてしまう。幸太は優しいから自分と一緒にいてくれるだけで、本当は迷惑で辛い思いをしているんじゃないかと。

 

今日覚悟を決めて尋ねることにしたのだ。それは灰稲にとって決死の覚悟と言えることだった。例えそれが植え付けられた自己犠牲が囁くものであっても、自分に全てを与えてくれた人に不幸になってほしくないと。

 

しかし、その結果がこれだと。自分を庇って人が受けていいはずのない痛みを与える結果になってしまったと、灰稲は後悔し涙を流す。

 

「――私は……なにを」

 

冷水を浴びせられたように、先ほどまで抱いていた怒りが沈静化したパンチャー・ノワールは、自分のしでかしたことに、ただただ胸を締めつけられる。

 

「あ……」

「――よくやったクツね~」

 

なんて声を掛ければいいか分からない。でも、このまま逃げることも出来ないとグレイ・プライドと七色の方へと歩いていこうとしたとき、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。

 

「クツツ……どうして?」

「遠目で見ているだけじゃ我慢できなくって、ついつい現場へと来ちゃった。クツクツクツ」

「ク、クツツ……?」

 

自分を魔装少女に選出してくれた、シマエナガのような見た目をしているフェアリーのクツツ。優しく頼れるフェアリーとして信頼を置いていたクツツが、今まで聞いた事のない粘り着くような笑い声をだしていた。

 

「が、我慢って何を言ってるの……?」

「ほらはやく唱えなよ。君のお決まりのアレをさ」

「アレって……まさか『固有魔法』のこと!? ダメだよアレは危険すぎる! それにもう戦う気は……」

「君が無くても、クツツにはあるんだよほんとバカだな!!」

「え?」

「まあ、どうせ拒否ると思ってね――細工は施しておいたんだ」

「く、クツツ!? なにをするの!?」

「〈魔法生成(クリエイト):オープニングコール〉」

 

クツツが魔法を発動すると、パンチャー・ノワールは異変をすぐ感じ取る。体が勝手に魔力を練り上げられる。全身に出てはいけない黒色の魔法陣が浮かび上がる。

 

「だ、だめ……やめてっ! クツツ!?」

 

パンチャー・ノワールが抵抗するも、本人の意志を無視して衣装がより深い黒へと染まっていき、肌も白肌から褐色へと変貌する。

 

「うっ! ……あ。あああがっ!」

「物質生命体の精神構造は理解不能だから出来ないクツけど……語尾めんどっ。出来ないけど、こうやって時間を掛けて仕込めば、魔法を強制発動させるぐらいは出来るんだよ!」

「あああああああああああああああああああああ!!」

 

悲鳴は咆哮へと変わり、瞳孔が開いた瞳はバイザーで隠されることになる。

 

――パンチャー・ノワールの『固有魔法』。その名は〈ブラックサレナ〉。“全力”を特大強化を付与する。自分の行動全てが増加される第一級クラスの強化魔法であるが、致命的なデメリットがあり、それこそが理性を喪失させ、敵と認識したものを殲滅させる“狂化”の付与である。

 

「――なにが?」

 

七色に膝枕をしながらずっと泣いていたグレイ・プライドは、パンチャー・ノワールの咆哮によってようやく状況の変化に気付く。明らかに危険な見た目へと変わったパンチャー・ノワールに、見知らぬ妖精のすがたを見て、ただ事ではないと七色を守るように抱きしめて剣を構えた。

 

その様子を見て、クツツは鳥の嘴を歪ませて嗤う。

 

「――ああ、仮説は正しかった。クツクツクツ! 本当に最高の日だ!」

「え? ぐっ!? ……こ、これはなんですか?」

 

グレイ・プライドは唐突に胸が苦しくなって抑える。それは内臓の異常とかではなく制御が効かない感情が溢れ出てくる感触だった、なにが起きたのかと原因を探るために自分の体を見ると、灰色の花嫁衣装が黒に染まっていた。

 

「こ、この魔法は周囲にも影響するの!?」

「ノーだよ。この魔法って言うか黒稗天委は生まれながらの出来損ないで魔力を外に放出できないんだ。ほんっと雑魚。だから他者を魔法の対象とすることは出来ないのさ! でもね! なんらかの方法で別の魔装少女にパスを通すことで、その問題を解決したの。クツツって天才でしょ!?」

 

クツツの嬉々とした声の説明を聞き、その“パス”には覚えがあり、パンチャー・ノワールが“黒”の魔装少女であることに漸く気がついた。

 

「自我が無くなって暴れる魔装少女が二人。どうなるかな? 二人で殺し合うかな? それとも周囲の人間へを殺しまくるのかな? もしくはそこの忌々しいブレイダーで遊ぶのかな? クツクツクッひゃひゃひゃ!! 苦痛だ! 苦痛を見せろ!? 美味なる苦痛をいまここで!!」

 

「……ごめんなさい、比恵は――」

 

徐々に眠気のようなものに襲われて思考がおぼつかなくなるなかなか、グレイは愛する人に謝罪し、グレイ・プライドは剣を手に取った。

 

――黒に染まった二人の魔装少女。

 

戦いはまだ終わらない。

 

 

 

 

 




変身シーンはお預けになってしまいました。すいません( ̄▽ ̄:)

アンケートありがとうございます。この章が終わり次第書いていきたいと思います(頑張る)。

※分かりづらいかなと思ったので簡易的に致命的な攻撃を受けた際どうなるかと載せておきます。

グレムリン→人間=死
グレムリン→魔装少女=痛みだけ
魔装少女→グレムリン=死
魔装少女→人間=痛みだけ。
魔装少女→魔装少女=死
フェアリー→人間/魔装少女=そもそも物質生命体に対しての攻撃手段がない。
人間(物質兵器)→その他=衝撃だけ(痛みもなければ傷もつかない。威力に対して空気で押されたぐらいになる)

ややこしいなおい(作者)


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【七色】相談に乗って欲しいっす!【緊急】 後編②

感想、お気に入り登録、評価、誤字報告、いつもありがとうございます!

今回めっちゃ長いです(分けた意味)。そして終わりませんでした()
そんな作品でよろしければ、どうぞ楽しんでください。

テンポを最優先にしているので展開が走り気味になっていると思われますがご了承ください。


ブレイダー・セブンスは、名前の通りなら最終的に七つの色を持つことになる。

 

それは全部魔装少女が持つ色だ。

 

――俺に色は無い。

 

+++

 

「――俺は……比恵は!? ……なっ!?」

 

意識を取り戻した七色は、まずはと比恵の安否を確かめるためにがばりと顔を上げる。すると目の前に、いつもの灰色ではなく黒に染まった花嫁衣装のグレイ・プライドが、ボロボロの姿となって自分を守るように背中を見せて立っていた。

 

「……こう……た……」

「なんで……」

「よかった……めが……さめたんだね」

「比恵っ!? しっかりするっす!」

 

御法度である本名を叫びながら、倒れる彼女を咄嗟に抱きかかえる。魔装はズタズタに切り裂かれており、肌には幾つもの切り傷が付いていた。幸いと言えるものではないが体の傷は浅いものばかりで、命に直接関わるものはないものの満身創痍である事は変わりない。

 

「――自傷することで狂化を緩和するなんて、ほんと人間って頭おかしいね」

「お前は……フェアリー!」

「見たら分かるでしょ? バカだねー」

 

クツツを視認した七色は、続けて気絶する前と見た目が変わっているパンチャー・ノワールに気付く。人形のように立ったまま動かず、目元を隠しているバイザーからは水が滴り落ち続けている。この異常事態に七色は真っ先にクツツを睨み付けた。

 

「比恵たちになにをしたんっすか!?」

「そうやって、フェアリーだからって差別するのはよくないよね? まあクツツがやったんだけど! クツクツクツ! 説明してやるから感謝して死ね!」

 

クツツは先ほどグレイ・プライドに話したパンチャー・ノワールに付いて七色に教える。

 

パンチャー・ノワールという魔装少女は魔力を放出する事が出来ない。そのため本来であれば自分を対象にしか発動できないはずの『固有魔法』である〈ブラックサレナ〉を、とある方法によってパスを繋げてグレイ・プライドにも付与させたとクツツは雑に説明した。

 

「……俺を使ったのかっ!?」

 

七色はクツツの言うパスを繋げる方法は、ブレイダー・セブンスのスキルを利用したものだと言うことに気がついた。

 

「せっかく最初ぼかしたのに、しらける真似すんなよあほー。そうだよ。お前のそのなんなのか分からなくて気持ち悪い力を活用してみたんだ。そしたら大成功。お前を経由して他の魔装少女に〈ブラックサレナ〉を強制発動したんだ」

 

もったいぶって説明してやろうと思ったのに先に答えを言われたとつまらなそうにするクツツ。七色はうざそうに飛ぶフェアリーが行った所業に気付き叫んだ。

 

「その子になにをしたんっすか!?」

 

その計画に大事な要素。パスが繋がるためにはヤンデレと呼ばれるほどの異常なほどの好意をセブンスに向けさせなければならない。この計画が最初から仕組まれたことと言うならば、その好意でさえクツツが干渉していることになる。

 

「クツクツクツ。なにが良いのかちっとも分かんないけど、ブレイダー・セブンスが大好きだって言うからもっとのめり込むようにしたんだよ! 人間って反比例して嫌なことがあれば、好きなものがより好きになるって本当だったんだね! 黒稗天委を通してお前を見るたんびゲロ吐きそうだったけど、だんだんと君しか見なくなる様だけは無様で滑稽で飽きなかったよ!」

「孤立するように誘導したんっすか!? お前がそう仕組んだんっすか!?」

「クツツだけの所為にされてもねー。最終的に恐いだの、キモイだの言って拒絶したのは人間のほうだし? ちょっとクツツが悪いことを言えば、勝手に話を膨らませてお決りにひそひそ話を始めるんだもん! ああ、ほんっとクソみたいな生き物だな! 人間って!」

 

クツツは人間の思考を理解できない気持ち悪いものと思っているが、人間が持つ社会性を理解し、把握し、利用することが得意なフェアリーだった。

 

些細な噂話から真実、完全な嘘に至るまでを利用し、親身なふりして近づいた魔装少女の立場を操作する。そうやって人を蹴落とすものを何とも思っていない子を人望厚くカーストの頂上へと導いたり、逆に正義に満ち溢れて輝いている子や引っ込み思案で陰がある子を、事実が混じった悪い噂を混ぜて孤立させたりもした。

 

人間が苦痛に歪む様子を見る。それがクツツのお腹が満たされる感情であり、特に黒稗のような子を絶望させて落ちるところまで落として、苦痛を味わっている姿が大好物だった。

 

だからこそ、自分の“家畜小屋”に迷い込んだ黒稗天委をクツツは逃さなかった。心に思ってもいない暖かい言葉で信用を勝ち取り、魔装少女へと仕立て上げ、自分の管轄である区画と事務所へと導いて、いつものように孤立させていった。

 

その中で〈ブラックサレナ〉のこと、セブンスのファンであること、そしてなによりも元からセブンスだけを生き甲斐にして生きていることから、クツツは今回の計画を思いついた。

 

「ク、ヒヒヒヒ!! 憎くて憎くてたまらないやつに苦痛を与えて食べる感情()は美味いな! ブレイダー・セブンス!!」

 

心の底から憎悪している存在を時には褒めなければいけない環境は吐き気に見舞われる毎日であったが、その苦労が報われて、今までで最高に美味なる感情を“食べた”クツツは邪悪に笑う。

 

「俺が憎い?」

 

『アーマード』は、これまでに多くのフェアリーたちの行いを妨害、そして暴走するフェアリーを消滅させ(ころし)てきた。だから自由に生きたいフェアリーたちにとっては怨敵であり、平穏に人間と暮らすフェアリーたちからしてもブレイダーは恐怖の対象である。

 

しかし、そんなフェアリーとブレイダーとの関係性とは別にクツツは七色個人に恨みを抱いていた。

 

「せっかく仕込んできた魔装少女を、お前がことあるごとに奪っていったから、クツツは一時飢え死にしかけた!!」

「……おまえまさか!?」

「銀毘麻胡と朱福あずき。もう少しって所でクツツのごはんになるところだったのをお前が台無しにしたんだよ!!」

 

日常会話の中で銀毘と朱福は同じ『協会』の支部に加入していたとは七色は聞いていた。そのさい二人は自分と出会って救われたとは言ってくれたが、辛い思い出は心の奥底でこびり付いているらしく、苦しそうにしていた事を思い出し、冷静であろうとした感情を爆発させる。

 

「ふざけんなよ! マコもあずきもお前の玩具じゃねぇっすよ!」

「勘違いすんなよ。クツツがやっていたのは遊びじゃない畜産だ。むしろお前の方が犯罪だろ! 立派な家畜泥棒だ!」

「人間は家畜じゃねぇ!」

「クツツにとっては豚や牛とおんなじだよ。明日のご飯を食べるために管理するべき命だ。それにクツツたちフェアリーはね。美味しいもののためならなんでもするべきことを人間から学んだんだよ! この最低生物!」

 

他生物を虐げて最後には殺して食べる。人間が行う畜産はフェアリーにとってそう見えていると、七色はニュースの特番かなにかで見たことがあった。確かにクツツの言う人間の、この世界の生物の仕組みがフェアリーに悪い影響を与えたのは事実なのだろう。それはクツツという存在そのものが実証している。

 

「……どんなことを言っても! お前のやったことは許せるものじゃねぇっすよ!」

 

――いいか。悪い妖精の言うことなんざ詭弁でしかねぇ。所詮は違う世界から来た、まったく違う生き物だ。なにを言うにせよ。人間を食い物にしてるやつは、人間の敵である事を忘れるなよ?

 

なんにせよ。七色は比恵たちを傷つけたクツツを許すことなんて出来るはずもなく討ち滅ぼすべき邪悪な存在だと断言する。

 

「クツクツクツ! クツツが知らないとでも思ってるの? 確か『B.S.F』だっけ? 変身するのに大事な道具無いんでしょ? つまり今のお前はそこらの雑魚と一緒というわけだ!」

「どうしてそれをしってるんすか!?」

「この目で確認したのさ! 公園で落としたんでしょ? それを拾った魔装少女がいてね……いまその子どうなってるとおもう? ねぇ? どうなってると思う!?」

「……っ!」

「それに、まさかと思うけど狂化されたのが、そこの汚い灰色の魔装少女だけと思ってる? 今頃どこかで無差別に暴れてるのかな? それともグレムリンに殺されちゃってるかな? なんにせよ! 苦痛を受けていることは絶対だよね!? クッヒッ! クハハハハハハ!!」

 

心の底から嗤うクツツはまさに幸福絶頂の中にいた。七色の情報を常に集めていたクツツはセブンスに黒が発生したことを本人とほぼ同じタイミングで知った。それからセブンスガールに拉致られたことや、それを偶然見ていた黒稗が追っかけていったことも、その瞬間に把握しており、これはチャンスだと計画を前倒しにして実行したのだった。

 

結果は見事大成功。さらに言えば何人かのブレイダーに邪魔される事を想定していたのだが幸運にもショーによって凶悪な第一世代の面子は一手遅れている状態。残りの第二世代も未だに来る気配がないと、クツツは完全に流れをものにしたと狂喜乱舞する。その中で七色が『B.S.F』を落としたことはクツツにとっても想定外で、少しだけ残念だったと思う。

 

クツツはこれまでにない感覚に満たされていた。満腹感に包まれながらも甘美なるものをもっと得たい、言わば食欲の暴走である。こうなったらもっと食べたいとクツツはさらに考える。パンチャー・ノワールに七色を襲わせよう。そしてボコボコにした後、グレイを殺させて泣き叫ぶ七色の目の前で狂化を解除させて、耳元で囁こう、お前が全部悪いんだと。

 

――ああ、それによって生まれる苦痛はどれほどのものだろうか!

 

妄想(匂い)に浸り、クツツの我慢は勝手に現界を迎えた。

 

「嬲り殺しにしてやるよ。君の事を愛するパンチャー・ノワールがね! 〈魔法生成(クリエイト):テンプテーションコール〉」

「う――あ――があぁあああああああああああああ――!」

 

クツツは意識誘導の魔法を発動して七色を敵だと認識させる。しかし、パンチャー・ノワールは狂化に抗って動こうとしない。クツツは面倒くさと思いながらも、魔法の効果を強める。あんまりかけ過ぎると、魔法を解いても、動くものを全て敵と認識するようになるなど致命的な人間不信から戻れなくなるが、クツツにとってはどうでもよかった。

 

「……だめ……こうた、にげて……」

 

グレイ・プライドは七色に今のうちに逃げて欲しいと言う。満身創痍である故に狂化はなりを潜めているが解除されたわけではなく、クツツの思惑次第ではパンチャー・ノワールの様に七色を敵と認識して殺されてもおかしくない。

 

――自分がこんなことをしなければと後悔が募り、好きな人に抱きしめられていることが辛く罪深く、これこそ自分が抱いていた不安そのものじゃないかと涙を流す。

 

「ごめんね……わたしのせいで……ごめんね……」

 

こんなことになるならやっぱり自分はもっと早く彼の傍から離れるべきだったと灰稲は謝り続ける。

 

「――ごめん」

「こうた……?」

 

七色は懺悔する。もしかしたら気付かれているのかもしれない。それでも隠しとおしておきたかったものがあった。

 

「俺はひょっとして、比恵たちを自分を彩らせるための“色”としか見ていなんじゃないかって、ずっと怖かったっす。好きって言えなかったのも、本当にそうだったと気付くかもしれないからって思ってて……」

 

七草幸太もまたセブンスガールに依存している。こんな自分を好いてくれている彼女たちの事は大切に思っているのも本当の気持ちである。

 

ただ彼女たちと違うのは、それが彼女たちと同じ好意であるかどうか区別が付かなかった。だからと七色は考えてしまった。もしかして自分は彼女たちのことを単に“色”として見ているのではないのかと。好きと一言口にすれば、自分が彼女たちをどう思っているのかの答えは出てきただろう。だけど不安の通りに本当に見ていたらと考えると恐ろしかった。

 

だから七色は彼女たちから一歩離れるように努めた。そうすれば彼女たちはむしろその気になって一歩離れた距離を当たり前のように詰めてくる。その繰り返しを続ければ余計な事を考えず関係をズルズルと続けていられるだろうと、彼女たちの好意に甘えることにしたのだ。

 

「バカみたいっすね。そうやってうじうじ悩んでいたら比恵を傷つけて苦しませて……最低なことやらかしたっす……」

「……こうた……やめて」

 

グレイ・プライドは気付く、幸太は自分を守る為に素の体のままで戦うのだと、魔装少女の攻撃は人間を殺さないように出来ている。それはフェアリーでも弄ることの出来ない根底的なシステム。時間を稼げばブレイダーが来てくれると仲間を信じているからこそ、出来た判断でもあった。

 

「やめて……!」

「無理っすよ。だって俺は……比恵が好きなんっすから」

 

ヒーローとしても男としても、ここは踏ん張り時だと七色はグレイ・プライドを優しく寝かせて、前に立った。

 

「ク、ヒヒヒなにしてんだか、やっぱり人間はバカだな!」

 

別に魔装少女が直接殺せなくても、ビルの屋上から突き落とせば死ぬのにと七色の選択は、クツツにとって笑えるギャグにしか見えなかった。七色もそんなことは百も承知である。それでも一秒でも長く生き残り、大切な人をこれ以上傷つけさせないためにと立ち上がったのだ。

 

「いくっすっで!? ……な、なんすかっ!?」

「格好付けているところ悪いけどね~。落とし物を持ってきたよ~。ブレイダー・セブンス」

「え? あ、俺の『B.S.F』!?」

 

突如、七色の後頭部になにか堅いものが激突した。反射的に落ちてきたものをキャッチするとそれは公園のトイレ付近で落としたはずの『B.S.F』だった。どうしてと頭の中身を疑問符で埋めている七色に、頭上から一体のフェアリーが声を掛ける。

 

そのぽっちゃりとしたキングペンギンの姿をしたフェアリーの正体に真っ先に気付いたのは、同じフェアリーであるクツツだった。

 

「あれー? どこのフェアリーかと思ったら、はみ出しものサークルに所属している甘党のモググさんじゃないですか? なにしに来たんだよ老害!」

「そういうお前は『魔装少女協会』に所属するクツツだったか? 随分とお行儀の悪いことをしてるんだね~」

「クツクツクツ! フェアリーの癖にファミニストの真似事ですか? 命は尊いものなんです、だから大切にしましょうって? そんなんだから人間増えすぎるんだ! だからちょっとぐらい消費したほうがいいじゃないか!」

「それはフェアリーが決めていいものじゃないよ~……君でしょ? 改造したグレムリンにモググたちを襲わせたのは?」

「なんのことかな? クツクツクツ」

「鳴き声がまんまそれだったよ~。自分の物には自分の特徴を植え付けるフェアリーにはよくある癖だね~……そうでなくても、グレムリンから感じた魔力の波長がお前と重なる。これは人間で言うところの指紋みたいなものだ。バレないわけがないでしょ?」

「流石は地球にきてから長いだけはあるね! 老害がはやく死ねばいいのに!」

 

現れたモググに、クツツは敵意を見せる。その様子を見た七色は少なくとも敵では無いのは理解した。

 

「ブレイダー・セブンス。固まってる前に変身して欲しいんだけど? それとブレイダー・ナイトからの伝言。シルバー・バレットは俺に任せてくれだって」

「マコは無事なんっすか!?」

「黒化して暴れたのを、ナイトが止めてくれるよ。そこのフェアリーを君がはやめにどうにかしてくれないとだんごも危ないんだ。だからモググはそれを持ってここに来たの」

「……分かったっす!」

 

詳しい事はあと最優先はクツツを倒して彼女たちを救うことだと、七色は『B.S.F』を構え……強く握りしめて粉々に砕いた。

 

「壊すの!?」

 

初見であるモググが七色の変身に驚きのあまり思わず叫んでしまう。元は『B.S.F』であった粉々の破片たちは五色に輝きだし、物理法則など完全に無視して落下せずに七色の腰に集まり回転、ブレイダー・ベルトへと形を変える。そのバックルは無色透明のクリスタルで出来ており、七つの宝玉が中心を円で囲うように埋め込まれている。

 

✴︎(Eins!)

✴︎(Zwei!)
✴︎(Drei!)

 

 

✴︎(Vier!)
✴︎(Fünf!)

 

《hier gehen wir 5 Braut!》

 

それぞれが独立しながらも見事に調和している五重奏が鳴り響き、どこか彼女たちに似ている機械音声がカウントを進めていくたびにバックルの宝玉に色が付き輝いていく。

 

七つの宝玉の内五つが輝きだすと、今はここまでだと男性の機械音声が〆るのを見計らって、七色はブレイダーになるためのお決りのあの言葉を叫んだ。

 

「変身!」

 

《Du ermutigst mich》

 

輝く破片が七色に纏わり付いていき、無色の結晶状のアーマーへと変貌させていく、最後に全身が音楽に合わせて灰→銀→金→朱→黒の順に輝いて無色へと戻り、ブレイダー・セブンスが現界する。

 

セブンスが現れたことで、クツツは震え出し耐えるように言葉を吐き出す。

 

「そんな、変身だなんて……新たな苦痛のはじまりじゃないか!」

 

その声は喜びと悦に溢れていた。

 

《Schwarze Lilie》

《✴︎》

《Umarmung》

 

「スキルが勝手にっ!? ……ぐっ!?」

「どうしたの!?」

「ス、スキルが勝手に発動したっすっ!?」

 

変身してすぐ、セブンスのスキルが勝手に発動。セブンスは形容しがたい痛みが胸を襲い、無色のアーマーが黒に染まっていく。

 

「う、グオオオオオアアアアア!」

「まさか君も!?」

「そりゃそうでしょ! だってコイツの力はパスが繋がった魔装少女の魔法を使えることだ! ボクが生成した魔法は〈ブラックサレナ〉の強制発動。その効果はいまでも生きている! 変身した時点で、こいつの〈ブラックサレナ〉も機動するんだ! クヒッ!? ヒャハハハハハハハハハ!! 新たな苦痛をもっと! もっと食べさせろ!!」

 

元々、クツツはそうやってセブンスも狂化させようとしていた。セブンスとセブンスガールたちが理性を失って暴れる好き合う同士が傷つけ合う様を食事にしようとしていた。しかし七色が『B.S.F』を落としたことにより、その計画がご破算となり、修正を余儀なくされたが、まさかここに来て当初の予定であった光景が見られるようになるなんてと、クツツは嗤う。

 

「お前も、クツツのご飯になれよ!」

 

黒に染まるセブンスは抗う手段を講じる余裕も無く意識を闇に沈めていく――その最中、苦しんでいるパンチャー・ノワールと目が合った気がした。

 

+++

 

小学校一年生。魔装少女ごっこでいつもグレムリン役だった黒稗は、我慢できなくて自分も魔装少女をやりたいと言った。そしたら当時よく遊んでいたクラスメイトの女子が私の髪を指さして悪気もなく言った言葉を今でもずっと覚えている。

 

――黒髪なのに魔装少女になれるわけないでしょ!

 

誰が決めたのか魔装少女には、好まれない色というものが幾つか存在する。その中で黒は筆頭で黒色の髪を持って生まれたら魔装少女になることはまず諦めた方がいいとネットでもテレビでも、言いたい放題にされる。

 

それが日常の格差というものにも影響が出ており、なにかして遊べばいつも悪役、イジメの対象にもなり、同性異性関わらずブスや不細工、髪を隠して生きたほうがいい。なんなら顔も隠して生きろと笑いながら言われるのが黒稗の日常だった。

 

だが、黒稗はこのときはまだ好きだったアニメの影響もあって、むしろ彼女は劣悪とも言える環境をバネにして必死に努力した。勉強も毎日ちゃんとして自ら上の学年の勉強も始めた。親に頼んで武術の習い事に欠かさず通い。そして、いくつかの武術の大会などで成績を残し中学校に進学したころには自信に満ちあふれ強い子になったと意気込み。自分を虐めてきたやつらを見返すために魔装少女になってやろうと黒稗は笑って『魔装少女協会』の門を叩いた。

 

頑張れば報われるから頑張る。好きだったアニメの主人公の決め台詞の通りに、黒稗は報われる時が来たんだとこのとき信じて疑わなかった。

 

魔装少女になる方法は、フェアリーから抽出した精神因子を、言わば魂と呼ばれる精神の核に注入することによって変身するための魔法〈チェンジリング〉を発現させるといったものだ。

 

フェアリーの生涯において抽出できる精神因子の数は個体ごとに定められている。だから、フェアリーは厳しく人間の少女達を選び抜く、回数制限が存在する自分の生涯に関わる“夢”と呼ぶべきものを少しでもよくするために、だから黒稗は選ばれなかった。

 

――黒はお断り! 怖い! きもい! 平気でフェアリーを殺しそう!!

――千歩譲って君を黒色の魔装少女にしたとしても魔力量は少なすぎるし、魔力を外に出せないのは将来性がなさすぎるね。

――諦めたら? 才能無いよ。

 

黒稗は特別魔装少女になりたいわけではなかった。でも、そうやって生まれながら持ち得ていたものによって、純粋な拒絶をされるというのは心を歪ませて、全てを投げ出す理由には十分だった。

 

どうして自分は黒なのだろうか? 黒髪黒目で生まれただけでこんな目に合わないと行けないのだろうか? なんで赤や青、黄の髪色ってだけで彼女たちは人気者なのだろう? 生まれで全てが決まるというなら……私はなんのために生まれてきたの?

 

親に相談したら諦めて別の道に進めばいいと優しく言ってくれた。でもその違う道もまた黒色によって辛い目に合うのが怖くて怖くて溜まらなく、新たな不安と恐怖を植え付けられただけで終わった。

 

――死にたいな。

 

数ヶ月前ついに耐えられなくなった黒稗は、どこか手頃に屋上へに行けそうな高いビルを探して都会の中を歩いていた。

 

全てに諦めが付くとむしろ視界が広がることを知る。恐らく生存本能かなにかが生きがいを見つけるためにそうするのかもしれない。足取りは軽く、スキップを踏む。らんらん気分となりこのまま帰ってもいいかもしれないと一瞬だけ思ったが、家に戻ったら最後、二度と天国も地獄も行けず苦痛しかない現実から一生逃げだせない気がした。

 

グレムリンの警報が鳴り響く、これは運がいいと避難を開始する人たちとは反対方向に進んでいった。グレムリンに殺されたら、国から家族に見舞金が出ると何かしらで知識を得ていた黒稗はせめてここまで育ててくれたお礼がしたいなと考えて皆とは反対方向へと進んでいく。その足取りはどこまでも軽かった。

 

――本当に偶々だった。グレムリンが現れて、私と同じ不人気な色であるはずの灰色の魔装少女がピンチになっていて、そうして次に現れた無色のヒーローに黒稗は全てを奪われた。

 

変身したてのブレイダー・セブンスは弱かった。透明なままの彼は普通の人間と大差無く、グレムリンにいいようにやられてしまい結局最後は助けたはずの灰色の魔装少女によって助け返されていた。

 

――大丈夫っすか?

 

それでも、灰色の魔装少女を守る為に何度も起き上がって、戦いが終わった後、ボロボロになった自分よりも魔装少女を心配する姿は間違いなくヒーローで黒稗は一目惚れも合わさって完全な虜となった。

 

だから、彼の手を握る魔装少女を羨んだ、妬んだ。そして望んだ。――ああ、私もそこに、また頑張ればあの灰色の魔装少女のように……。

 

「……それからセブンスをずっと追っかけながら、必死に魔装少女になるために行動を再開したの。その中でクツツと出会って、私は魔装少女になることが出来た。クツツが管理する拠点でも黒色であることが原因で散々な目にあったけど、セブンスを見ているだけで全部どうでもよくなって頑張る事が出来たの」

 

気がつけば黒稗は高い所へと立っていた。ビルか崖か分からないが先に道が無くて、地上は遠く、空に近い。そんな場所。黒稗は背後にいる人物に話しかける。正体は分からないが、何故だから後ろに居てくれるというだけで心が安らいだ。

 

「セブンスが魔装少女と仲良くしているところをみると幸せになれた。彼女たちのようにセブンスなら私を当然の様に受け入れてくれて私のヒーローになってくれるって信じられたから。だから終わらないラブコメ漫画のようにセブンスの傍には魔装少女が増えていって、頑張りながら順番さえ待っていればセブンスの傍に寄って笑える日が来るって考えるだけで幸せだった」

「……」

「別に夢のままでよかった。たとえずっとひとりぼっちだったとしても、セブンスを見るだけで頑張れば報われるって信じられることが出来たから……だから、終わって欲しくなかったの」

「……それが俺たちに会いに来た理由なんすね」

「……このまま放っておいたら最終回になる気がして、生き甲斐が終わってしまうかもってなったら我武者羅だった。自分でもどうしてあそこまで理性を失ったのか分からないけど、あのままただ眺めているだけは出来なかった」

 

そう理由を口にした黒稗だったが、すぐさま首を横に振って自分の言葉を否定する。

 

「……ううん、違う、本当は分かってるの。あのとき私が抱いたのは、もっとずるいもので……私は……ただ死にたくないと思っただけなんだ」

 

もしもの話。今日からセブンスたちのあり方が変わってしまい。自分が受け入れられずに日々が過ぎたら、今度こそ黒稗は死を選ぶだろう。

 

「愛する人に置いてかれたら、今度こそ生きていけないよ……」

 

黒稗天委にとってセブンスは愛する存在であり夢であり目標であり生きる理由、つまり全てなのだ。好きだった魔法少女アニメも殆ど忘れてしまい興味すら持てなく、友達も居なければ、家族も頼ることはおろか、自分を好いてくれる他人を信用しきる事が出来なかった。

 

自分を慕ってくれている“らしい”桃川暖子。彼女に自分を頼ってくれと口にしたのはひとえにロールプレイのようなものだった。セブンスガールの一人になるなら、優しくて強くて頼れる魔装少女じゃないと、そういった考えがあって弱い彼女を面倒を見ることで満たされようとしていた。そんな風に接していく日々を重ねると桃川は黒稗のことを心から尊敬するようになるが、黒稗は日に日に心の中では黒の魔装少女だって馬鹿にしているかもしれないと猜疑心を強めていった。

 

なにかが違う気がすると頭の片隅でナニカが訴えていたが、それを拾い上げる方法を黒稗は知らず。クツツなどを含む周辺の環境が違和感を解消することを許さなかった。そしてグレイ・プライドを守る為に割り込んだセブンスに、己の拳が当たった瞬間気付いてしまう。自分がどれほど愚かで救いようのない人間だったかを。

 

「知らないうちに私は心まで真っ黒になっちゃったよ」

 

黒稗は、その場で蹲って啜り泣く。

 

「……どうすれば……よかったの?」

「どうして欲しかったんすか?」

 

その問いに黒稗は涙を流しながら、全ての根本となった願いを初めて吐き出す。

 

「私は……助けて欲しかった。助けて欲しかったの! 誰かに! 私のヒーローに!! こんな辛い日々から手を握って引っ張って欲しかったの!」

 

でも、もう無理だ。取り返しの付かないことをしてしまった。泣きだす黒稗に背後の人物は、そっと近づいて後ろから抱きしめた。

 

「……言ってくれっす」

「…………いいの?」

 

返事はせず代わりに抱きしめながら、そっと頭に手を置いた。黒稗は振り向く、そして自分が愛するヒーローに求めた。

 

「――――――たすけて」

 

+++

 

「――幸太!」

 

――名前を呼ばれたと、悲痛の叫びを聞いたと、そして助けてと言われたと、ならやるべきことはひとつだと! バックルの宝玉が輝きだす。

 

《Graue Ehe》

 

セブンスに初めて変身してから色が付いていた灰色の宝玉が輝き出す。それはグレイ・プライドとの繋がりを示すものであり、彼女の〈固有魔法〉である〈マリッジマジック〉を使用する事が出来る証である。

 

《Silber kugel》

《Goldenes Band》

《Zinnoberroter Speer》

《Umarmung》《Umarmung》《Umarmung》《Umarmung》

 

《Sei vorbereitet!》

《Eid Schwägerin!》

《Nimm die Bräute in die Hand!》

 

《✴︎》《✴︎》《✴︎》《✴︎》《✴︎》

 

《Fluchen!》

 

セブンスの全身に金色の(リボン)が駆け巡り。黒のアーマーに同化する。続いて左腕に銀と黒が混じり合った腕と同じぐらいの機械的な筒が設置され、その中に黒と朱色の槍が装填されパイルバンカーと呼ばれる武器となる。またアーマーも追加されていき、ひとまわり大きくなる。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

セブンスは雄叫びをあげる。それは先ほどとは違う苦痛によるものではなく理性があるゆえの活を入れるものであった。

 

「……俺は本当に果報者っすね」

「は? なに……は?」

 

理性を失わず、明らかに強化された姿となって堂々と立つセブンスに、クツツは頭の中を疑問符で埋め尽くされる。

 

「おまえ……狂化はどうしたんだよ!? 答えろよ!?」

「俺はどうしようもねぇ男っす! でも比恵が、マコが、弁金が、あずきが、そして黒稗天委が、俺の事を好きだって言ってくれる人が五人もいるっす! みんなが居るから俺はお前の思い通りにならない!」

「答えになってないんだよ。ばかやろう!! もう良いよ! ほらはやく殺し合えよほら!! 動けってああもう!! なんで動かないんだよ!!」

「……せぶん……す……」

 

クツツはパンチャー・ノワールと戦わせようとするが、涙を流しながらずっと立ち止まったままに動かなくなり、さらには理性が戻り始めているとクツツは苛立ちのあまり翼で頭をかきむり深いため息を吐いた。

 

「――もういいや。よく考えたらお腹いっぱいだし? もうお前達なんてしらないね! さっさと死ねよ! 〈魔法生成(クリエイト):チェンジコール〉」

「あ、逃げるなっす!?」

 

クツツは魔法を発動し、その場から一瞬で居なくなる。そして入れ替わるように改造されたグレムリンが一体現れた。以前桃色の前に現れたリザードマン型グレムリン。それを改造し全身を機械の体に作り替えられて、巨大化させたその姿はもはや人型の恐竜である。

 

「……比恵、それに天委。待っててくれっす。すぐに終わらせるっす!」

 

――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!

――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

互いに雄叫びをあげながら突進していき、相手に向かって拳を前に出した。

 

+++

 

238:天使

ああもう! 状況どうなってるのさ!?

僕はどこへ向かえばいいの!?

 

239:騎士

すまん天使。心配かけた。

銀が黒くなったとおもえば理性を失って襲ってきて対処してた。

 

240:天使

騎士! 無事でよかったよ!

ていうかそれマ!?

 

241:騎士

マ。

といっても落ち着き始めて理性が戻ってきているかな? 黒のままだから異常はまだ続いているみたいだけど。

それと桃ちゃんが……は無事で、モググに七色の『B.S.F』を届けてくれるように頼んだ。

 

242:天使

なんか立て続けに色々と起こりすぎじゃない?

黒になるってガチの精神汚染だよねー……。

 

243:騎士

確かセブンスに新しく追加された色って黒だったじゃん?

絶対関係してるだろ。

天使。とにかく合流して七色のところに向かおう。

 

244:天使

そのために今自動車追い抜く速さでチャリ漕いでるよ!!

ちなみにこれは音声入力だよ!!

こうやって肉体労働するとわかるけどブレイダーってほんっと凄いね!

疲れてはいるけど!! 後衛回復役に肉体労働はしんどいよ!!!

 

245:正義

叫んでるせいか「!」がいつもより多いな。ナハハ

しかし、やっぱりそっちでも同じ現象が起きてんのか。

 

246:騎士

正義先輩!?

 

247:天使

こんちくしょー正義!! 勝手にいなくなってこのやろー!!

同じ現象ってどういうことだよべらぼうめい!!

 

248:騎士

天使落ち着いて?

 

249:正義

ナハハ。悪かったよ。

んでだ。金と朱が黒色になってた。そんでまさか見送った矢先近くで縛られて転がってるとは思わなかったぜ。ナハハ

 

250:天使

金と朱も黒になってたの!?

 

251:騎士

縛られて転がってるって何ですかね?

 

252:天使

ちょっとー! ひどいことしたんじゃないでしょうねー!

 

253:正義

俺がどうこうする前に、自分でやったみたいだぜ?

話を聞けば突然魔装が黒に染まりはじめ、理性が失っていく感覚に襲われたらしく、これはまずいなと金が自分の魔法で自分と朱を縛り上げたらしい。色の汚染は止められなかったが、おかげで理性は失わずに済んだみたいだな。

賢く決断が早いのは金持ちの特徴なんかね?

 

254:天使

縛り上げたって『ゴールデン・リボン』を使ったってこと?

 

255:正義

ああ。しっかし亀見てえな縛り方して随分と変態だなぁ? いったい誰に使うのを想定して練習したのかね? ナハハ

 

256:騎士

やめてあげてください。

と、とにかくこの黒化現象は金の『固有魔法』で封じられるって事ですね。

 

257:正義

魔法自体は発動し続けているみたいだな。リボンが解かれるとバーサーカーになるみてぇだ。もっともその感覚が少し薄まってきたみたいだが。

 

258:騎士

銀の方もそう感じられますが効力が弱まっている? 

 

259:正義

まっ。七色が何かやったのかね?

どうも俺たちは手遅れになったみたいだぜ? ナハハ

 

260:天使

何が悔しいって、言い方悪いのがいつものことすぎて、いい意味で手遅れって言ったのがわかるってことだよねっ!

七色の方で解決したのかな!?

 

261:騎士

いや黒化はそのままだから、まだ何かが起きている最中だとは思うよ。

急いで七色の元へ向かおう。

 

262:天使

わかったよ……持ってくれよ僕のあしぃ!

坂道なんてなんのそのー! 明日ベッドから起き上がれないなこれぇ!

 

263:正義

まっ、いい運動ってやつだな。

 

それとだ金と朱のやつが七色のところ行きてぇってうるせぇから。俺もそっちに合流するぜ。

もっとも目的地に付く頃には全部終わってそうな気がするがな。

 

264:騎士

銀もそう言ってます。本当なら安静にして欲しいところですけど、流石に無理とはいえませんね。

というか、正義先輩の方は二人居ますよね? どうやって移動を?

 

265:正義

こいつらが無理言ってるんだ。米俵扱いしても文句はねぇだろう、ナハハ。

朱の奴動かすたびに締め付けが強くなるって喜んでるぜ。ナハハ。

 

266:騎士

ほんとやめてあげてください

 

 

 




初登場から、数ページ分で新フォームとはたまげたなぁ←

次話で七色の章は完結の予定です。

終わったらですが活動報告にて少しだけ作品の事や、今後の執筆活動、そしてちょっとだけ作者について語らせていただきたいと思うので、よろしければその時は、そちらも見て頂けたら幸いです。

↓活動報告
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【七色】相談に乗って欲しいっす!【緊急】 後編③

お気に入りが1600件行ってました。すごい(語彙力)
感想、評価、お気に入り登録、ここすき含め本当にありがとうございます!

これにて七色の章は完結となります。今後の活動について活動報告で記載したいと思うのでよかったら見てください。


黒染めに染まったブレイダー・セブンス。装甲が分厚くなり体が大きくなったこともあって本人は内心でヘラクレスフォームと名付けた。〈ブラックサレナ〉による“全力”の強化は、その名の通り筋力、体力などの肉体的なものから、気力、活力など精神的なもの、そして跳躍力、全速力など行動の全てに強化補正が掛かるといったものだ。

 

そんなセブンス・ヘラクレスフォームは、場所をビルの屋上からだだっ広い橋の上へと場所を変えてクツツと入れ替わるように現れた恐竜型グレムリンに真正面から殴り合いを挑んでいた。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

―GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?

 

殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る横腹を蹴って、よろめいたところをアッパーカット。金属で覆われた超重量級の肉体が宙に浮き、橋の下である道路へと落ちる。

 

アスファルトを砕くほどの落下衝撃に見舞われる恐竜型グレムリンだが何事もなく起き上がり、大幅に向上させられた再生能力によって、セブンス・ヘラクレスフォームの豪腕によって砕かれた骨や左腕に装備されているパイルバンカーによって抉られた肉を瞬時に治す。

 

大型トラックを簡単に吹き飛ばせる力を持ち、なおかつダメージを瞬時に回復する能力を持つ恐竜型グレムリン。俗に言うSクラスと呼ばれる動く災害として扱われる強さを持っていた。

 

しかし、今のセブンスにはどうでもよかった。“殴ればいつか殺せる”と、とてつもなく冷静にシンプルな結論をだして橋から飛び降り、敵の頭に踵落としを食らわせる。

 

〈ブラックサレナ〉は“全力”を強化すると同時に理性を失わせて暴走させる狂化を付与する。しかし現在のセブンス・ヘラクレスはアイビー・ゴールドの『固有魔法』である〈ゴールデンリボン〉の効果によって狂化は抑制されている状態である。

 

しかしながらわざと半端掛けしているような状態であるため多少狂化に影響されており、そもそも“全力”強化も合わさってセブンスの思考は暴“力”性が増していた。

 

――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!

 

地上最強生物と歌われる姿を持つ恐竜型グレムリンも黙ってはいなかった。割られた頭蓋を再生しながら反撃を開始する。逆関節の足を限界まで閉じて一気に解放。肩を前に突き出して突進を繰り出す。

 

恐竜型グレムリンのショルダータックル。瞬間時速180キロの人型砲弾にセブンスは直撃して吹き飛ぶ。

 

「グアッ!!」

 

セブンスは体を捻って足の裏を地面へと向けると両足を勢いよく伸ばしてアスファルトをぶち抜き、地面を抉ることで速度を殺す。十数メートル移動した所で完全に止まり、視線を正面に向けると巨大な肩が再度迫ってきており、セブンスは考えるよりも前に右拳を突き出した。

 

+++

 

七色は戦いの最中、集中力が強化されている影響か一種のトランス状態に陥り、猛攻を繰り広げる中で思考は過去の思い出を呼び起こしていた。

 

――両親が死んでから、心を染めていた色と呼べるものが全て抜け落ちてしまった。

 

金持ちとも、何かしら特別な才能で活躍しているわけでもないサラリーマンと主婦。だけど優しくて、厳しくて、面白くて、格好良い、そんな父と母だった。

 

そんな両親に憧れた。それぐらい子供にとって血の繋がったふたりの親は理想であり目標になるほどの人間に思えたのだ。

 

少しのんびりとしているけど結構頑固で落ち込んでいたりするとすぐに察知してくれて頭を撫でてくれる母親のように、ちょっと頼りないように見えるけど、常に家族のためにと仕事でも休みでも頑張ってくれて時には強かった父親のように。そんな親の下でたくさんの思い出を作って大人になりたかった。

 

でも、その夢はもう叶わない。二人は死んだ。俺の知らないところで事故にあって当たり前だった日常の中でいなくなってしまった。

 

父さんの色、母さんの色。どちらも大事な色だったけど、遺影の前にした俺はそのどちらの色も無くしてしまった。

 

爺ちゃんに引き取られて、新しく始まった生活は変わった事ばかりだったけど特別なことはなくすぐに慣れることは出来た。本人は照れて否定するかもしれないけど、わざとらしいほど無遠慮にご飯の時でも何でも話しかけてくれたのは変わる切っ掛けになったと思う。

 

それでも抜け落ちた色は戻ることなく生きるという事が途端に難しくなり、しばらくは延々と熱中していたはずのゲームを暇潰しの道具として動かし続けた。

 

どうして自分は生きているんだろうと自問自答の日々。その答えの行き着く先は、いつだって父さん母さんは自分に生きて欲しいと願っているというものだった。

 

だから俺は死んでしまったふたりのために生きたかった。生きるためには新たな目標が必要だった。だから俺は――数多くある爺さんの言葉の中で都合が良さそうなのを頭に浮かべて、比恵に声をかけたんだ。

 

それからの日々は俺には勿体ないぐらいの日々が始まった。比恵は自分の傍にいつも居てくれて、なにもやる気の無い俺に色んな事を教えてくれた。もっとも綺麗な灰色の彼女に俺は色んな事を教えて貰ったんだ。彼女と居る時間は本当に尊くて、自分がどういう人間かを自覚出来る時間だった。

 

中学生になってからは比恵は俺の事を好きと言ってくれるようになった。それがどんなものか気づけないほど俺は鈍感ではなかったらしい。きっとこのときに俺はもっと真剣に対応するべきだったんだと思う。だけど、適当にはぐらかす日々を選んだんだ。

 

自分を救ってくれた彼女の事は大切に思っていた。だけど俺は彼女の事を自分が生きるために必要な“色”としてしか見てないんじゃないかって思うと怖かった。だから俺は彼女に甘えることにしたんだ、いつしか自分が君の灰色に染まったんだと自信を持てる日まで。

 

でも、ブレイダー・セブンスになって自分は無色でしかないと突きつけられたことで、その考えはいつしか形骸化してきて甘えだけが残ってしまった。ブレイダーになってからの日々は自分に色んなものを与えてくれる日々だった。仲間と呼べる人も尊敬できる人もできて、自分を本気で好きだと言ってくれる人が四人も増えて、だから余計にのめり込んでしまって、きちんとやらないと行けないことだけを忘れてしまって、そのツケを彼女たちが支払う形となってしまった。

 

愛想を尽かされても仕方ながないことをしてしまった。それでも許されることなら、俺の想いを聞いて欲しいと願う。

 

――今はまだ大人になれないバカの発言でしかないかもしれないっすけど。

 

灰稲比恵。銀毘麻胡。粟財弁金。朱福あずき。そして黒稗天委! 俺を好きで居てくれるお前らを俺はっ!

 

+++

 

大好きだああああああああああああああ!!(ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!)

 

泥臭い殴り合いに変化が訪れる。何度もセブンスの攻撃を食らい続けてきた恐竜型グレムリンは、再生能力が次第に落ちていき傷が目立ち始めてきた。改造グレムリンの中でも最強を誇る巨体がついに膝を付く。

 

セブンスは空に向かって雄叫びを上げる。五人に届くようにどこまでもどこまでも高く。それに呼応するかのように左腕のパイルバンカーがカチリと音を立てた。

 

「Countdown」

 

セブンスは残っている全てのエネルギーを解放、左腕を視線と水平になるように構えながら駆け出した。

 

✴︎(V)

 

目標である恐竜型グレムリンが危険を察知して立ち上がろうとするも、それはもはや急所を狙いやすくするだけの愚行にしかならなかった。

 

✴︎(IV)

 

杭にはクリムゾン・スピアーの『固有魔法』。〈絶対貫通〉が付与されており、その名前のとおりあらゆる物質を貫く事が出来る。

 

✴︎(III)

 

シルバー・バレットの『固有魔法』。〈シルバーショット〉は触れた物質を銀へと変質、あるいは人差し指が向いている方向へと亜音速で射出する事が出来る。セブンスは二番目の効果を自身に付与。亜音速まで急加速する。

 

✴︎(II)

 

風景が後ろへと流れていく高速の世界にて、セブンスは直感に従い拳を突き出した。

 

✴︎(I)

 

人型の弾丸となったセブンスの左拳が恐竜型グレムリンの溝内部分へと触れた瞬間、速度と力、セブンスに加算されているエネルギー全てを込めた杭が射出され、恐竜型グレムリンの胴体を容易く貫いた。

 

✴︎(O)

 

色さえ失ったことを粛々と告げられる。

 

《Nichts》

 

全てのエネルギーが消失したかのように拳を突き出した状態で不自然に急停止したセブンスは、ゆっくりな動作で左腕を後ろに下げて杭を抜いた。恐竜型グレムリンは膝から崩れ落ちて、胴体に開いた先が見える穴が広がるように粒子化していき、最後には普通のグレムリンのように完全に消失した。

 

「…………」

 

戦いは終わり、妙に気まずい静けさが辺りを支配する。変身を解除を念じるとアーマーたちが逆再生するかのように欠片へと変わっていき体から離れていく。そして欠片たちは手へと集まり最後には『B.S.F』へと元に戻った。

 

「……あ~、えと」

 

七色は気まずそうに頬を掻いて後ろを振り返る。そこには傷が治っているグレイ・プライド《灰稲 比恵》が立っていた。

 

「できれば、安静にしていてほしかったんすけど……」

「幸太……私は幸太のことが大好きだよ」

 

彼女が脈拍もなく告白してくるのは、いつもの事だった。だけどその表情は強い不安と決意に満ちあふれており、ここでいつものようにはぐらかせてしまえば彼女はどこかへ遠くへ行ってしまうのだろうとすぐ分かった。

 

「……小学生の時に比恵に声を掛けた理由。爺さんが俺にしてくれたようにしたかったって言ったっすよね? ……今ではそうでありたいと頑張ってるっすけど比恵の時は正直、単なる都合のいい言い訳でしかなかったっす……比恵。こんな俺に助けを求めてくれて、おかげで俺は救われたっす。本当にありがとう」

「――どんな理由でも、私を助けてくれたのは幸太だよ。助けてくれて本当にありがとう。大好き、本当に大好きだよ。私のヒーロー」

 

結局のところ七色も灰稲、そして他のセブンスガールも似たもの同士が集まって傷のなめ合いをしているだけなのかもしれない。でも、それを七色は幸せだと断言する。

 

まだ高校生な自分に出来ることは少なく、はっきりと決断できる度胸は無かった。だけどもう二度とこんな事が無いように、一歩踏み出す覚悟を決める。

 

「比恵。今から最低なこと言っていいっすか?」

「はい。いいですよ」

「俺は――灰稲が、みんなの事が同じぐらい大好きっす! だからこれからもそばにいてほしいっす!」

「――っ! はい!!」

 

非常識で酷い告白なのだろう。それでも初めて愛する人から好きと言われたことで灰稲の不安は呆気も無く消え去り、その眩しい花嫁の笑顔に、七色はドキリと心臓を鳴らした。そして――

 

「――嬉しい」

 

――背後から聞こてきた声に、別の意味でドキリと心臓が鳴った。

 

「か、銀毘さん……?」

「いやね。そんな他人行儀で呼ばないって言ったでしょ? 私の事はマコって可愛く呼んで? ううん、いま呼び方なんてどうでもいいの。あなたが私の事を大好きって言ってくれたことが本当に嬉しい。この日を是非国の記念日にしましょう? っていけないわね、流石に冷静に欠いていたわ。本当にこんな女でごめんなさい。私と貴方の記念日で良いわよね? さあ、盛大にパーティをしましょうか、場所はホテル付きのレストランで良いわよね? 一生の思い出になるように乾杯しましょう? もちろんその後は私に弾丸を撃ち込んでね?」

「どうしてここに居るっすか!?」

「ちょっと、抜け駆けは無しでしてよ!? 計画がご破算になったのですから、まずは改めてスケジュールを組み立てることから始めるべきですわ!」

「弁金!? それにあずきも!?」

「わ……たしはさい……ごでもいいで……すけど……」

「幸太」

 

七色の右腕を銀毘が、左腕を粟財が腕を組み、そっと背後に近づいていた朱福が背中にぴったりと張り付く。そしていつの間にか灰稲が真正面に立っていた。絶対逃がさないお決りの陣形である。

 

「……もしかして、みんながいること分かってましたっす?」

「幸太が悪いんですよ? 気付かないんですから」

「いつものことっすけど! 嵌められたっす!? あ、アンギルにナイト! ヘルプミーっす!!」

 

このままだとラブホリターンズだと、少し離れた場所に立っているアンギルとナイトに救いを求める。

 

「……どうしよっか?」

「みんなの傷は癒やしたし、もう別にいいんじゃないかなー」

「七色は?」

「大丈夫そうだし、なんかあったら彼女たちがどうにかするとおもうー。報告はあとでスレで聞けばいいでしょ」

「そっか。まあ天使はショーのこともあるし、王様は先に仕事に戻ったし馬に蹴られる前に帰りますか」

「さんせーい。ではかいさーん」

「ふたりともー!? 空飛んで帰らないで!? というかアンギルに関してはなんでチャリ乗って浮いてるっす!?」

「いーてぃー」

「そうじゃなくて!? あっちょまってくださいっす! 置いてかないでー!」

 

「幸太」

「七色……いえ、幸太君」

「もう遠慮する必要はありませんわよね! 幸太!」

「ちょ……っとはずか……しいけ……ど……こ、幸太さん」

 

自分が一歩踏み出したと思ったら、十歩ぐらい接近してくるセブンスガールに思わず顔を引きつらせてしまう七色。ここで灰稲が爆弾をもう一個。

 

「私、いま変身解除したらすっぽんぽんなんですよ?」

「まだそこまでの覚悟は出来てねえっすよ!」

「…………」

「って、びっくりした!? ごめん気がつかなかったっす!」

 

いつものように騒ぎだす七色たち、そこには五人目のセブンスガールとなった黒稗天委も遠慮がちに立っていた。

 

「……私は「そういえばなんて呼べばよかったっすか?」……え? えっと名前で呼んでほしい……ってそうじゃなくてっ!」

 

脅えながらも何かを言おうとし黒稗だったが、七色のわざとらしい無遠慮な問い掛けに遮られてしまい、完全に言いたかったことが頭の外へと行ってしまい言葉に詰る。

 

セブンスガールたちは最初だからここは譲ってあげると七色から無言で距離を置いた。

 

「そっか。じゃあ、天委」

「ひゃ、ひゃい!」

 

七色が名前を呼び笑いかけると、黒稗は一瞬にして顔を真っ赤にする。

 

「これからよろしくっす!」

「っ! う、うん! うんっ!!」

 

生まれながら嫌われ者とされてきた黒き少女は、この瞬間だけは全てを忘れて、ただの女の子のよう涙を流しながら笑い。大好きな人を強く抱きしめた。

 

こうして、新たなセブンスガールが迎え入れられた。

 

――ちなみに七色は童貞喪失の危機はまだ続いており、一人増えたことで逃げる難易度が上がるのだが、その事には気付いていなかった。

 

 

+++

 

――自分が改造を施したグレムリンと入れ替わって転移したクツツ。

 

彼が逃げ込んだ先は、自身が受け持つ区画にある他の建物と比べて斬新性がありすぎるために浮いている巨大な3階建ての建物、『魔装少女協会』が管理する第8支部である。現代の技術を惜しみもなく使われておりポップなデザインとは裏腹に至る所に近未来的な技術が多く導入されている。

 

「あーもー。むかつく!! クソクソクソ!!! せっかくいい気分だったのに最後にあんなことがあるなんてクツツってば本当に不幸!!」

 

その支部の奥。関係者専用の通路を通り過ぎて、特殊なパスカードがなければ使うことができないエレベーターに乗り込み。クツツは地下へと降りる。

第8支部の地下。そこはクルルを筆頭にした関係者たちによるグレムリンの改造施設である。そこはまるでSFと中世ファンタジーが入り混じった空間となっており魔法陣が敷かれている手術台に擬似的な空間の裂け目を発生させる装置。そして改装した機械グレムリンを縮小し意識消失保存させる保管庫などがある。

 

「あーもー。こうなったら改造グレムリン全部出しちゃうもんね。クッヒャハハハハハ!! あの様子じゃ誰か一人は死ぬでしょ!! クツツの食事を邪魔した罰だよ!」

 

恐竜型グレムリンほどの強い個体はないものの、桃川や天財に送られた改造型グレムリンで三割ほどであり、残っている在庫の全てを放出するとなれば都市ひとつ大惨事にするほどである。

 

元からそのつもりで作ってきたんだ。その予定が早くなっても、似たものを糧として生きる仲間たちは誰も文句は言わないだろうと、クツツは短絡的に実行することを決める。

 

「クッヒャハ! 今日はいくらでも食べられそうだ!! 死んでいく様を大スクリーンで見よう! いつもは不味くて吐き気がするポップコーンと炭酸ジュースも今日は美味しく食べられそうだね!!」

 

チーンと到着を知らせる音が鳴り、扉が開き、エレベーターの外へと出たクツツはすぐに違和感に気づいた。

 

「……?」

 

無音。いつもは聴こえるはずの装置の駆動音すら無い。クツツは奇妙な不気味さに他のフェアリーの気配を探る。いつもは必ず2、3体のフェアリーがいるはずなのに探知できない。

 

この後に及んで、またなにかトラブルがあったのかとクツツは苛つく。だからこそ地上へ戻るという発想は最初から無く、そもそもクツツにとって地下施設は決して明るみになってはならないもの、異常事態があれば確認しに行くのは当たり前であり、ここへ来た時点で定めは決まっていた。

 

――精神生命体にとって恐怖の感情はもっとも忌避すべき感情である。取れないほど心の奥底にこびりついてしまった恐怖は糧になることすらなく、さらに腹の奥で粘り着くように他の感情を得ることを阻害、フェアリーの中には恐怖に支配されたことで感情の供給が出来なくなって餓死するものもいる。

 

通路を進むたびにクツツはそんな恐怖に襲われる。蛍光灯が点滅している室内は部屋を見渡せば不自然に荒らされており、機材たちは破壊され尽くしている。僅かに残るついさっきまでフェアリーが居たであろう痕跡が不気味さを増長させ、本来はその部屋に保管されていたはずのグレムリンが全て居なくなっている。

 

――地下施設は誰かの襲撃にあった。じゃあ誰が? その答えを見つけるのに、そう時間は掛からなかった。

 

「ーーど、どうしておまえがいるんだよっ!?!?」

 

施設の最奥に到達したクツツは、通路の行き止まりにて立っていた渦巻くマスクを被るそいつの名を発狂気味に叫んだ。

 

「ブレイダー・カオス!」

「……汝か、私の仲間を貶めた張本人は――哀れな愚者よ。這い寄れ混沌の足下に」

「あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

慈悲の無い冷たい宣告と共に、カオスの周辺で蠢いていた影がクツツの方へと向かう。クツツは咄嗟にカオスに背中を見せて、全速力で来た道へと戻ろうとする。

 

必死の逃走。故に違う方向から手が伸びてきたことに気づかなかった。

 

「――ぐえ!?」

 

クツツを捕まえたのは、カオスの影では無く。漆黒色に染められた手。

 

「ア、アビス……」

「――君で十三体目」

 

この施設に関わっていたフェアリーの数はクツツを除いて十二体。つまり他のフェアリーが居なかったのは、とっくの昔に奈落の手によって全て燃やされていたということだ。

 

「ま、まってくれ!? もう悪いこともしない!! なんでも言うこと聞くから! 他の支部のことも全部話すよ!?」

「ボクの仲間を弄んだ諸悪の化身よ」

「まってって言ってるでしょ!? お願いいやだっ! いやだっ!? 死にたくない!! ――あ、あ、あつい! あついあついぃいいいいいい!!」

 

握りしめられたクツツは、鉄板の上で焼かれているような熱さに悶え苦しむ。クツツは必死に抵抗するが、もはや体を動かすことすらままならず叫ぶ事しか出来ない。

 

――――≪THE END≫――――

 

「烏滸がましい奈落の死者が――全てを終わらせよう」

 

そんなクツツに容赦なくアビスは告げる。

 

「クラッシング・バイ・アビス」

 

――――≪CRUSHING BY ABYSS!≫――――

 

あづううううううううううううううぐべっ――――」

 

右腕の三つのΘが開眼。黒い炎に焼かれ、まさに地獄の苦しみを受けて泣き叫ぶクツツをアビスは躊躇いなく握りつぶした。

 

グシュっと生々しい音が鳴り、クツツだった灰が宙に舞う。その灰すらも粒子となってクツツというフェアリーは最後は己が尤も好物とする最大の苦痛を味わいながら果てることとなった。

 

+++

 

 

混沌がチャットルームを立ち上げました

招待した奈落が参加しました

招待した悪魔が参加しました

招待した正義が参加しました

招待した失楽園が参加しました

 

――――――――

奈落:こうやってチャット機能を使って話すのはいつぶりだろうね?

正義:さてな、希望が現れたとき以来だったか?

正義:それで? 終わったのか

奈落:うん。混沌と一緒にグレムリンを改造していた施設を壊滅したよ

正義:あーあー。せっかく王様に運ぶの変わって貰ったのに全部終わっちまった後か

正義:これじゃ俺が行ってもオーバーキルにしかならねぇな

奈落:改造されていたグレムリンは混沌が、フェアリーはボクが全員殺した

奈落:結果的に第八支部のフェアリーを全員殺したことになる

奈落:だから、今回はこっそり後片付けとは行かないね

正義:どうせ早いか遅いかの違いだったんだ。お疲れさん。ナハハ

正義:んで? どうして混沌も悪魔も黙ってる?

正義:まっ、悪魔の方はどうせしょうもないことで落ち込んでんだろ?

悪魔:……ショーなんてやっている場合じゃ無かっただろ

正義:はっ、ガキたちの笑顔は一円も価値がなかったってか? 可哀想な話だな。えぇ?

悪魔:てめぇ

奈落:もしも君が動いてショーを台無しにしてしまったら、今度は天使が困っていたよ

奈落:背負いすぎて、いま困っている人を優先しすぎてしまうのは君の悪い癖だ

悪魔:それは、そうだが……。

奈落:君がヒーローであることは天使の願いでもあるんだ

奈落:それを蔑ろにしないであげて

悪魔:わかったよ。ショーなんてって言ったのは悪かった

悪魔:ただ、正義。てめぇは後でマジで殴る

正義:まっ迷惑かけたからな、甘んじで受けてやるよ

悪魔:……ちっ。それで混沌はどうした?

混沌:……この結果はひとえに私の力不足が招いたものだ

混沌:故に全ての責めは私にあろう

混沌:本当にすまなかった

正義:てめぇの方が書き込んでいるのは珍しい

正義:裏案件な事態ではあったが、対応が遅れたことで落ち込んでいるわけじゃないんだろ?

混沌:……社会の安定を壊すことを怖れて、自己解決を頼りにしていた結果がこれだ!

混沌:七色やセブンスガールだけではない! どれだけの無垢な少女が犠牲になった!?

悪魔:何があった?

奈落:別にいつものことさ。

奈落:ボクらがブレイダーになる前から続いていた不幸があった

悪魔:……仕方ないだろうが

奈落:そうだね。でも、助かっている魔装少女もいるのは事実だからと

奈落:干渉を控えたことを混沌は後悔しているんだ

正義:なるほど、便利は便利だと思って放っておいたらもっと酷いことになっていたと?

正義:んで。自分が決めた事の結果がこれだと頭を抱えてるってか?

悪魔:あれは俺たちが全員で決めたことだ。その言い方は止めろ

正義:俺はそう思ってるぜ? でも混沌はどうだかね?

正義:お前はこれからどうするつもりだ? どうせ今までのようには行かないんだろ?

混沌:……私たちは所詮、正義ではない

混沌:だからこそ己の罪深さを理解しながらも問うことを許してくれ正義よ。

混沌:汝ならどうする?

正義:なにも変わりはしないさ

正義:敵を排除するための正義がやることなんて、これしかないのさ

正義:戦争やろうぜ

 

 




一話の終わりのように、これから物語が始まっていくんだと、そしてまったく違う別の物語が動き出したんだと。ちゃんと表現できていたら幸いです。

――――

第二章「協会(奈落)編」につづく。


活動報告にて作品や今後、作者についてちょっとだけお話させてもらってますのでよろしければ。


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閑話1
『番外』ブレイダーを語るスレ


感想、評価、ここすき、誤字報告、お気に入り登録いつもありがとうございます!!

PS3買いました。なにも間違っていません、アーマードコア楽しいです。

他作品プロット書いて力尽き締め切り間に合わぬ()
というわけで、早めに番外編を投稿することにしました。はい。

作者はスレのノリというのがあまり分からず、言ってしまえばこれが限界でしたがよろしければお楽しみください。


461:名無しの人

いまブレイダーってどんだけいんの?

 

462:名無しの人

第一世代がアビス、カオス、ジャスティス、デビル、エデン。

第二世代がセブンス、ナイト、アンギル、キングで合計九人だったか?

 

463:名無しの人

いや、十人だったはず。第二世代にホープってのがいる。

いっさい表に出てないけど『アーマードchannel』の概要欄に名前が挙がってる。

 

464:名無しの人

魔装少女に比べると四年目でやっと倍に増えたって感じやの。

 

465:名無しの人

自然発生って噂本当なんかね?

 

466:名無しの人

アンギルが動画配信した時はどうなるかと思ったけど今では動画全部見てるぐらい嵌まってる。

 

467:名無しの人

動画は二番煎じなのばかりだけど、なんかヒーローが織りなす日常みたいなので嵌まるんだよな。

デビルとアンギルの箸で豆を運ぶ動画めっちゃ好きなんだが。

 

468:名無しの人

わかる。もう場面からしていつもシュールで面白いのに、アンギル不器用すぎて豆一個も運べないし、デビルは途中までうまくいってたのにアンギルに唆されて、スキル使って豆ぶちまけたのほんとすき。

 

469:名無しの人

なんかテレビの企画で特撮ヒーローがゲームとかアトラクションに挑戦するの好きだったわい歓喜。

 

470:名無しの人

コンテンツ的面白さは別にして登録者数一億越えは普通に凄いわ。魔装少女チャンネルの中で最高登録者数200万だぞ。

 

471:名無しの人

世界に十人しかいないブレイダーのチャンネルだし、なんならブレイダーの情報がここでしか出回らないからってのはあるかも。

 

472:名無しの人

なんだかんだで付き合いがいいデビルさんマジヒーロー。

 

473:名無しの人

昔から知ってる身として、いま人気になってるか分からん。第一世代なんて魔装少女が最後に倒すべき敵と言われてたじゃん。それが最近では魔装少女にも根強い人気があって洗脳でもされたの?

 

474:名無しの人

第一世代の悪名は大体ジャスティスのだから……。

 

475:名無しの人

暴力で世界を平和にしてしまった男。

ミサイル三万発で戦争をなくした男。

誰も勝てなかったから犯罪者にならなかった男。

一秒でも早く死んで欲しいけど、死んだら本気で困る。

日本経済を破滅させてGDPと円の価値を三倍にした男。

国の自給率を二十倍にした男。

いるだけで世界を脅迫できる男。

撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけだといいますが、お前を撃てるやつなんかいねぇよ。

敵を撃ち、アンチを撃ち、ついでに信者も撃った。

SNSを衰退させて掲示板サイトを再び流行らせた男。

行政機関を半壊させて、犯罪を八割減らした男。

報道の天敵。

ヒーロー=正義の味方を禁句にした男。

破壊と再生のなにか。

世界が一丸となっても勝てないラスボス。

正義は勝つって言葉の擬人化。

日本が核を持たない理由の擬人化。

ぼくのかんがえたさいきょうのひーろー。

デビルと戦って負けなかった男。

 

476:名無しの人

素早い異名コピペ。俺でなきゃ見逃してたね。

 

477:名無しの人

全部事実なのが酷すぎる。

 

478:名無しの人

SNSアプリが一部を除いて軒並み死んだのってジャスティスの所為だったの?

 

479:名無しの人

方法は分かんないけど、自分の誹謗中傷するやつの居場所特定して襲撃しまくって、それが発覚して皆が離れて死んだって感じやね。

 

480:名無しの人

あの時は原因が分からなくて無差別の犯行って言われてたから本気で怖かったな。

 

481:名無しの人

自業自得だけど悪口の代償が鉛玉は暴利だろ。

 

482:名無しの人

物や人体は傷付けずに痛みだけを与える兵器って割と最悪な部類じゃね? 何か月も痛みが引かずに気が狂ったやつもいるんだろ?

 

483:名無しの人

>>482

敵は撃つがジャスティスの行動信念らしいからな。ただその敵認定が独創的過ぎて判定が分からん。たまに自分のファンとか支持者も撃つからな。

 

484:名無しの人

自分の正義を我が物顔で語るやつはアンチと変わらんって発想らしいな。実際外国じゃジャスティスのためにとか言ってテロ染みたこと画策した団体もいたって話だし。

 

485:名無しの人

というか人気投票でジャスティスが六位だったの未だに信じられん。

 

486:名無しの人

考察勢が言うには真面目に働いている人からしたら犯罪を減らして、仕事が増えた分休みと給料を増やしてくれた張本人だからって好きな人は多いみたい。目立つと撃たれる怖さから言わないだけで感謝してるやつは多そう。

 

487:名無しの人

第一回ブレイダー人気投票

一位:デビル

二位:アンギル

三位:キング

四位:カオス

五位:エデン

六位:ジャスティス

七位:アビス

八位:ナイト

九位:ホープ

十位:セブンス

 

488:名無しの人

名前だけしか世に出てないホープじゃなくてセブンスが最下位なのいつ見ても草生える。

 

489:名無しの人

最近で登場したばかりってのもあるが、魔装少女侍らすのはヒーローとしてアウト。

 

490:名無しの人

むしろ魔装少女が囲っているんだよなぁ。

 

491:名無しの人

なんか十人目に魔装少女と一緒に戦うスキルを持ったブレイダーが現れるの個人的に胸熱ポイント高いんだが、ラノベみたいなやつが来るとは思わなかった。

 

492:名無しの人

よくもまぁ、不人気なやつらばかり集めたもんだよ。なにがいいんだか。五人目なんて黒ってはなしだろ? ここまでブス専だと見てるだけで気持ち悪い。

 

493:名無しの人

色差別するのまじダサいよ。

 

494:名無しの人

あと、下手にそういうこと書き込むんじゃねぇよ。ここだってあんまり気にされないってだけでジャスティスに覗かれてるんだぞ。

でも黒って珍しいな。黒系ってだけで選考から省かれるって話だろ?

 

495:名無しの人

魔装少女って正体が分かるものは認識阻害されるから、主に色が印象強く残るってのは分かる。

でも、黒とか灰が不人気ってのが分からない。

 

496:名無しの人

フェアリーの好き嫌いの話ってだけじゃなかったっけ?

 

497:名無しの人

というか、セブンスを囲ってる魔装少女って実力派ばっかだな。グレイ・プライドなんて数年前まで最強の一角とか言われてなかったか?

 

498:名無しの人

合成魔法が便利すぎるんよ。実質固有魔法を一人で数えきれないほど持っているみたいなもんだし、グレイ・プライド本人もソロでずっとやっていたからか判断能力がえぐい。

 

499:名無しの人

テレビにでなくなってから頭角表したよね。魔力抵抗力が向上した新型グレムリン相手でも安定した強さを見せてる。

 

500:名無しの人

アイドル稼業やめたの元からセブンスが関わっていたって話だな。

 

501:名無しの人

それで魔装少女板の方はしばらく炎上しまくってたからな。あん時は普通にキモかった。

 

502:名無しの人

ただでさえ危ない目にあってグレムリンと戦ってくれてるんだからそこら辺自由にさせてやればいいのに、これだから魔女ブタどもは理想を押し付けすぎんだよ。テメェらの所為で秋葉がどうなったか忘れてるだろ。

 

503:名無しの人

ここで言っても仕方ないだろ。喧嘩したいならあっち行ってくれ。

 

504:名無しの人

すまん。変に熱くなった。

 

505:名無しの人

ここの住民、荒れてもすぐ沈静化するイメージあるよな。

 

506:名無しの人

そもそも人少ないし、ジャスティスに一番見られているから物好きでも弁えている奴しか集まらないってのはある。アンチスレとか最近ではほとんど鍵付きだし。

 

507:名無しの人

シルバー・バレットもグレムリン討伐数最上位に入るのに戦い方が魔装少女らしくないって評価されないシステムは普通におかしい。

 

508:名無しの人

暴れる前に狙撃して終わらせることが多いからありがたい以外ないのに阿呆どもは早く倒して面白くないだの、他の魔装少女の求められるものが増えるだのって批判しかしねぇのほんとクソ。

 

509:名無しの人

アイビー・ゴールドもセブンスが関わると騒騒しいけど真面目にグレムリンと戦ってるし、サポートがすげぇ上手いのに魔装少女の雑誌とかだと金持ちの道楽かとか評価が散々なの目節穴か?

 

510:名無しの人

そういえば気になってたんだけどクリムゾン・スピアー。どう見たって朱色だよね? ヴァーミリオンじゃないの?

 

511:名無しの人

単なる名付けを間違えたってだけならよかったんだけどな……。最初期のインタビューで魔装少女の先輩から教えてもらって名付けたって言ってたよ。すごく嬉しそうに()

 

512:名無しの人

え? それっていじめ?

 

513:名無しの人

第8支部だから可能性は高い。あそこ元から魔装少女からフェアリーまでろくでもない噂よく聞くし。

 

514:名無しの人

そういやセブンスガールの新入りの黒の魔装少女やシルバー・バレットも第8支部に居たんだよな……あ(察し)

 

515:名無しの人

それが関係しているかわからないけど。第8支部いま閉鎖されてるね。

魔装少女板のほうはそのことで盛り上がってる。

 

516:名無しの人

マジか。

 

517:名無しの人

いまサイトの方見てきたけど、しばらく閉鎖しますって案内出てたわ。

 

518:名無しの人

セブンスガールが修羅場ってたみたいな話も聞いたばかりだし無関係じゃないのか?

 

519:名無しの人

ン~。これはにおいますね~。人身売買事件のときと同じ香りがしますね~。

 

520:名無しの人

組織自体はだんまりだし、まじできな臭さが消えないんだけど。

 

521:名無しの人

これはアウトかなー。

 

522:名無しの人

ブレイダ-って、やっぱりフェアリーや魔装少女に対するアンチ的存在なんかね? 人身売買の一件で裏でこういったの何度か解決したって露見したし。

 

523:名無しの人

だからといってフェアリー殺しはだめだろ。視方によっちゃアビスのやってることジャスティスよりも性質悪いぞ。

 

524:名無しの人

だったらフェアリー関連の法律がガバなのいい加減どうにかしろよ。百歩譲って特例処置だとしても、人を傷つけたとしても実質逮捕できないとか人間じゃないから法の対象外とかまじふざけてるだろ。

 

525:名無しの人

フェアリーといっても人間みたいに人それぞれとは分かってるけど、アビスが現れる前は社会問題にもなってたくらいだからな。

 

526:名無しの人

フェアリーのやることだからって諦め混じっていたのが、悪いフェアリーと魔装少女絶対燃やすマンが現れたことで、フェアリーたちの間で地球で絶対やってはいけない授業が義務化されたらしいな。

 

527:名無しの人

躾って大事なんだな。犯行を実証できないって見逃されてきた魔装少女もアビスの標的になったことから法整備が進んだって話だろ?

 

528:名無しの人

悪の必要性を考えさせられる。

 

529:名無しの人

偽善悪って言われてるんだっけ? あれどういう意味なの?

 

530:名無しの人

テレビの批判的な発言が元ネタで「あんなのヒーローじゃないですよ私刑やってる時点で偽善ですよ「偽善、悪」い奴です」って字幕が流れて。そっからネットの方で絵師が引用してアビスのファンアートに偽善悪って名付けたのが発端。

 

531:名無しの人

ついでに本人が気に入ったらしくて絵師は申し訳なさで爆散した。

 

532:名無しの人

なお、法整備した後もアビスが魔装少女の力を燃やして普通の女の子にしてからじゃないと警察は動かない模様。

 

533:名無しの人

マジで法整備した意味を成してない。そんなんだからジャスティスに半壊させられるんだろ。

 

534:名無しの人

むしろジャスティスが半壊させたから機能してないんじゃ……

 

535:名無しの人

元から魔装少女に関して警察だけじゃなくて国自体が放置気味だったしいまさら。噂では協会が魔装少女専門の懲罰部隊を設立するって言ってたけど、どうなったんだろう。

 

536:名無しの人

魔法を使って攻撃するのはグレムリンだけって公言してる組織が設立したとしても表立って言えるわけがないだろ。

 

537:名無しの人

魔装少女の懲罰部隊。ドMのわいめっちゃ楽しみにしてたのに……

 

538:名無しの人

>>537

過労気味の魔装少女さんはしっかり休んでもろて。

 

539:名無しの人

>>538

優しい……それよりも変態って罵倒してもろて。

 

540:名無しの人

>>539

不満気にするんじゃねぇよww

 

541:名無しの人

>>539

せめて魔装少女否定してもろて……

 

542:名無しの人

そりゃ魔装少女専用の懲罰部隊なんだし対象となるものが魔装少女だから楽しみにするのは魔装少女では、自分で書いていて思ったんだけど色々ひどい。

 

543:名無しの人

ドMの魔装少女さん。ここはブレイダーのことについて語るスレですよ。早く自分の巣に帰ってください。

 

544:名無しの人

>>543

あへっへへ。

 

545:名無しの人

>>545

ダメだこいつアビス呼ばないと。

 

546:名無しの人

変態だけじゃブレイダーは動かないんだよなー。

 

547:名無しの人

キングの王様キャラってあれ素なんかな? いや、ロールプレイとかそういう話じゃなくて変身すると性格が変わるタイプなんかなって。

 

548:名無しの人

そこら辺はよくわかんないけど、移動販売車でお好み焼き焼いている時もあんなかんじだったよ。

 

549:名無しの人

え? あれって本人だったの? てっきりファンかなにかかと思ってたけど。

 

550:名無しの人

王様のお好み焼き好き。生地がもちもちで、甘めのソースがほどよくていつの間にか全部食べてる。

 

551:名無しの人

プライベート詮索するのはNG。アンギルの質問応答でもキングのプライベートに関しては何も話せないって言ってたでしょ。見て見ぬふりをするのが吉。

 

552:名無しの人

あれってもう自分で言ってるようなものじゃねぇの?

 

553:名無しの人

公式で明言化されてないから、念には念を入れてみたいなところはある。

 

554:名無しの人

凸った奴の末路も碌でもないのばかりだからな。第二世代にちょっかいかけるとランダムエンカウントで第一世代が出てくる。

 

555:名無しの人

第一世代は各々でやることが結構違ったりするけど、第二世代は今のところ対グレムリンで一貫している気がするな。

 

556:名無しの人

第一世代がアレだったってだけで、第二世代がブレイダーとして正しい疑惑。

 

557:名無しの人

第一と第二が仲が良い感じなの不思議なんだけど、いや自分の価値観の話だけど空気感が普通は対立してそうな気がして。

 

558:名無しの人

第二は王道のヒーローって感じだけど、第一はダークヒーローって思ってる。それこそ別シリーズのヒーローとして捉えてる。だから対立ってのは無いイメージかな。

 

559:名無しの人

そういや最近エデン見てないな。知ってる人おる?

 

560:名無しの人

>>559

出張中らしい。寂しいような、もう二度と帰ってきて欲しくないような……

 

561:名無しの人

>>559 出張とのことらしいがどこへ行っているかは不明、海外の可能性もあるけど宇宙とか地底でも不思議と思わない。

 

562:名無しの人

フェアリーの世界行って暴れ回ってるって噂では聞いた。

 

563:名無しの人

人間ってフェアリーの世界行ったら死ぬんじゃなかったっけ?

 

564:名無しの人

酸素が無いからな。逆にフェアリーもあの縫い包みみたいな姿じゃないと死ぬらしい。常に宇宙服着て活動しているようなものとはどっかで聞いたな。

 

565:名無しの人

変身した姿なら行けるんじゃね? 知らんけど。

 

566:名無しの人

どうかとは思うけどいなくなったら居なくなったで寂しいんだよな。他人事だからってのはあるかもだけど、たまにエデンの声が入ってる動画見てる。

 

567:名無しの人

嵌る人は嵌るからな。第一世代の中じゃやらかしみたいなのは少ないし、こういうのが好きなやつはとことん好きだと思う。

 

568:名無しの人

エデンに票を入れたものとしてカオスを抜けなかったのはちょっと悔しい。

 

569:名無しの人

最古のブレイダーとしてやっぱ根強い人気あるよなカオス。

 

570:名無しの人

人身売買の時の生配信で人気が爆上がりしたってのがあるだろ。あんなの男の子なら絶対好きになっちゃう。

 

571:名無しの人

厨二病で痛いって意見あるけど、俺は不思議と思わないんだよな。あまりにも自然体だからか?

 

572:名無しの人

たまにアーマードchannelでカオス直々に表明文が記載されることあるけど顔文字使ってめっちゃ可愛いのなんなのww

 

573:名無しの人

>>571

暴れるクズ共を制圧した時人権守れって文句言った時のセリフ強すぎて好き。

「汝らの所業は人の物であらず。故に汝らを私は人とは思わんよ」

 

574:名無しの人

こう言った台詞現実で言う人いるんだと思ったし、あ、これガチだなとも思って画面越しに首筋がヒヤッとした。

 

575:名無しの人

そのまま皆殺しするんじゃないかって本気で心配してた。

 

576:名無しの人

自己中のブレイダーの中で他人の事を考えて行動してくれている気はする。状況に応じて人を躊躇いなく見捨てそうな仕事人な冷たさが垣間見えるのは嫌いじゃ無い。

 

577:名無しの人

人身売買みたいな事件を取り扱っているってのはいつもので聞いたな。

 

578:名無しの人

カオス。俺はダメだな。なんていうか見ているだけで怖くてたまらんくなる。

 

579:名無しの人

>>578

俺も見た目が異形っぽい所為か見る度にSAN値チェック入る。

 

580:名無しの人

まあわからんでもない。その怖さを掻き立てられるのが好きってファンも多いし、ホラー系ヒーローみたいなんだろうな。

 

581:名無しの人

それとなんていうか……カオスを見ていると時々疼くんだ。口で説明できないけどなんか忘れているなっていうか……。

 

582:名無しの人

連投すまん。上のは忘れてくれ。曖昧すぎて自分でもわからない。

 

583:名無しの人

>>582

最近カオスの話題になるたびに何かを忘れてるムーブするやつ見るけど。それ流行ってるの? 

 

584:名無しの人

なんか怖いよな。カオスの怖さとなんか関係あるんかな。

 

585:名無しの人

というかナイトの順位が低いのはなんで?

 

586:名無しの人

いやぁ。……なんでだろう。

 

587:名無しの人

何もしてなさすぎてあまり印象がない。

 

588:名無しの人

好きな人は好きだけど、キャラで言うとパッとしない。防御系だから派手さが無いって言うか、好きだけど投票する理由がない。

 

589:名無しの人

見た目と変身音はいいだろぅ!!

 

590:名無しの人

なんていうか優しい好青年って感じはするんだけど、他のブレイダーに比べると存在感が薄いです()

 

591:名無しの人

強い塩味になれちまった時に出てきた素材の味のみの野菜煮感。

 

592:名無しの人

見た目と比べて中身が負けてるスカスカのスイカみたい。

 

593:名無しの人

散々な評価でかわいそう。

 

594:名無しの人

ナイトがいるだけで損害が七割抑えられるって話は聞いたことあるけど地味としか言えんのだよね。ありがたいことには変わりないけど人気で言えば上がる理由がないんだよね。

 

595:名無しの人

俺的にはデビルが一位なのマジで分からんのだが。海外人気?

 

596:名無しの人

なにかと人助けとかしている話は聞くしね。それに生身も格好いいし、かっこよさでは何も言えんわ。

 

597:名無しの人

ヴィジュアル人気もそうだけど、やってることが本当ヒーロー。第一世代の中で唯一人命を優先してくれるって異名は伊達じゃない。

 

598:名無しの人

この間やったヒーローショーは普通に面白かった。子供向けに調整はされてたと思うけど、スキル使った演出とか神がかっていた。

 

599:名無しの人

子供と保護者の招待制だから仕方なかったけど配信じゃなくて生で見たかったな。

 

600:名無しの人

敵役にアビスが出てきて歓喜のあまり思わず部屋で叫んでしまった。

 

601:名無しの人

わかる。というかアビス想像以上に身のこなし軽やかだった。てっきり魔術師的な戦い方すると思ったけどあれだと格闘もできそう

 

602:名無しの人

配信の方の同時接続120万人超え、しばらく信じられなくてバグったかと思ってた。

 

603:名無しの人

チャット機能閉じてたのはほんと英断。告知出たとき海外ではニュースにも取り上げられたらしいからな。変身できる十人しか居ない男子ってなると注目度はやっぱ桁違いになる。

 

604:名無しの人

というか、その後のアンギルがチャリ漕いでる画像出回ったけどあれなんなんだww

 

 

 

――今日も今日とてスレは止まること無く続いていく。

 




終わり方が分かりませんでした!!
番外編は後一個書く予定ですが、なんかダメそう(だめそう?)ならそのまま本編入ります。
これからもマイペースにやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

↓よろしければアンケートにご協力ください


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『番外』アーマードchannel

お気に入り1800件ありがとうございます!
評価や感想なども沢山頂いていて本当に嬉しい限りです( ̄▽ ̄)。

というわけで(挨拶)アンケートで多かったアーマードchannelの短編を書いてみました。
動画一本分を意識してすごく短いですが楽しんで貰えたら幸いです。

※複数書く可能性を考慮して念のために書いてあった『まとめ』を消しました。


~悪魔と天使でやってみた30 【ピーナッツ箸つまみ】~

 

天使が悪魔を唆して色々とやってみたシリーズも30回目! こんかいはピーナッツを箸でつまんで違う皿へと移動することに挑戦したよ!

 

次→悪魔と天使でやってみた31 【サンドバッグを全力で殴る】

前→悪魔と天使でやってみた29 【1500メートル走】

 

天使:いつもの白いの、本気でやってる。

悪魔:いつもの金ぴかの、嫌そうだけど真面目にやってくれている。

 

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ʚ now loading ɞ

 

 

 

 

 ▶
00:00/02:37

 

動画が再生されるとアンギルがテーブルを挟んで正面に現れた。

 

「――というわけで! 今日はピーナッツ十個を箸でつまんでどれだけ速く別の皿へ移動出来るかを競うよー!!」

「導入が早いんだよ」

 

バンっとテーブルを叩きながら前振り無しで展開を進めようとするアンギルに画面外からデビルが突っ込む。

 

「ぶっちゃけタイトルにやること書いてるしー、いままでの前振りがむしろ無駄だったんじゃないかなって!」

「せめて挨拶ぐらいしろよ」

「ぼくはブレイダー・アンギル! そこのがブレイダー・デビルだよ!」

「指を差すな。というか画面外に居たままだがいいのか?」

「それじゃいってみよう!」

「おい聞けよ」

 

アンギルが指パッチンすると画面が移り変わる。

 

「改めてルールの説明! ここにある豆十個乗ってる皿があるので、隣のなにも乗ってない皿に箸でつまんで移し替えるよ!」

 

中央から右にずれた猫背気味に座り箸を指で挟みながら画面に向かって手を振るうアンギルが説明に入る。その隣には股を大きく開いて座り、腕を組みどこか不機嫌そうにするデビルが居る。

 

「今までで一番地味な企画だな」

「うっせぃやい! っていうわけで先に移し終わったほうが勝ち! 早速いくよ! よーいスタート!」

 

カカカカカカカカカカカッ!

 

「終わったぞ」

「はやいよ!?」

 

キーンっと音がしたあと場面が再び変わる。先ほどと違うのはデビルの前に置かれた豆の数。

 

「はい! というわけでデビルさんにはハンデとして豆百個入ったタッパから、なにも入っていないほうのタッパへと移し替えて貰おうと思います!」

「これ本当に百個か?」

「わかんない! この企画のために買った豆の袋の中身丸ごと出しただけだし」

「適当がすぎるわ」

「というわけで! よーいスタート!!」

「ったく……」

 

カカカカカカカカカカカカカカカッッ!

 

「だからはやいって!」

 

残像が見えるほど高速で豆を箸でつまんでは別のタッパへと移し替えていくデビル。アンギルは慌てて豆をつまもうと箸を動かす。

 

つるん。

 

「あ、ちょ。むずっ! え!? なにこんなむずかったの!? 出来ないんだけど!? うそっ!? われブレイダーぞ!?」

「お前は本当に不器用だな」

「うるさいよっ! くっこの!! ぶえっ!? どっかいったんですけどおおお!?」

 

アンギルはつまもうとした豆がどこかへと飛んでいってしまい、画面から消える。その間もデビルは順調に豆を移し替えていき残り半分となっていた。

 

「……」

「なんだ? 諦めたのか?」

 

どっかいった豆を見つけて、席に戻ったアンギルだったがデビルの作業をじっと見ている。

 

「……デビル。このままだと豆を箸でつまんで動かしただけの動画になるよねー?」

「このままもなにも元からそういった企画だろうが」

「ちょっとここいらで、デビルがどれだけ速く終わらせるかRTA企画に切り替えようか!」

「やることブレるのは動画的にどうなんだ?」

「ブレイダーなだけに?」

「……………………」

「お、面白ければなんでもいいんじゃい!」

「といっても、もう終わるんだが?」

「あ、その事なんだけどちょっと止まって?」

「あ? てめぇ!?」

 

デビルが素直に作業を止めると、アンギルは躊躇いなく移動した豆を元のタッパに戻した。

 

「というわけで企画変更! デビルはこの量の豆を何秒以内に別のタッパに移し替える事が出来るでしょうか!」

「ったく、つってもこれ以上はやくはできんぞ」

「スキル使えばいいじゃん」

「豆で?」 

「豆で」

「…………」

「とっれだか! とっれだか!!」

 

デビルは仕方ないなと箸を持つ手に電気を迸らせる。速度が上がるということはそれだけ精密な作業が求められる。デビルは意識を集中させる。イメージするのは寸分違わず機械的な動作を終わるまで繰り返す自分。思いの外ガチな空気になってきたことにアンギルは雰囲気によって無意識にゴクリと唾を飲んだ。

 

「――いくぞ」

 

超高速の世界にて、デビルの腕が動き箸が開き、そして豆を掴み。

 

ばしゃーーーーーーーん!!

 

――爆音と共にはじけ飛んだところで場面がモノクロとなり動画が終了した。

 

 

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ʚ つづく ɞ

 

 

◀To be continued◥◣◤

 ▶
02:37/02:37

 

 

 

 




いやぁ……頑張ったうん()
数字とかはざっくりとこれぐらいと感覚で決めているので悪しからず。

アーマードchannelに投稿されている動画は短めで気軽に見れるのが多いみたいです。

次回は元々本編に組む予定だった新米魔装少女の気苦労その2を番外で出したいと思うのでよろしくお願いします。


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『番外』新米魔装少女の気苦労その2

お気に入り登録、評価、感想、誤字報告など本当にありがとうございます。

たまには朝に投稿でもと(間に合いませんでした)。

アーマードchannel流石に短すぎたと危惧していましたが、面白いと思ってくれたかたが居て安堵しました。毎回盛り込むなどは大変ですが、また機会があればやっていこうと思います。

※こちら側でもご報告を、桃川暖子の年齢ですが作者が脳死していた結果。中学校一年の早生まれならマイナス1で考えており、それが間違いだったと最近になって気付きました。というわけ桃川について何度か出ている年齢ですが十二歳へと変更されていますので、よろしくお願いします。ごめんなさい!

※魔法の説明を変更しました。


――ブレイダーたちが関わる事件に巻き込まれた時、多分なにかしらで気絶したであろう自分は凄い夢を見た。黒く染まったシルバー・バレットとブレイダー・ナイトを圧倒する、そんな夢。

 

めっちゃ強い自分というのは気分がよかったが、途中で夢という事に気づき他人事に思えてくると羞恥心に襲われていき、すんごい楽しそうに高笑いする自分にやめてぇ、時々思い出して恥ずかしくなるやつじゃんっと自分に対して止まってくれるように拝み倒す。

 

シルバー・バレットを無力化したあたりで夢だし起きたら忘れるんじゃ? と桃川は自分の事を天才と開き直ると自分のような“誰か”が耐えられなくなったと吹き出した。

 

――――まったくお前さんは本当に見ていて飽きないね。

 

間違いなく自分の声ではあったが、桃川は不思議と自分とは違う別の誰かのものだとは理解した。

 

――――まっ、ここはあたしに任せるさね。悪いようにはしないからさ。

 

そう言われて安心した桃川は夢の中で眠りにつき、次に目が覚めたのは自分が寝ているベッドの上で全てが終わっていた後だった。そして――

 

――――暖子は本当にねぼすけさねぇ。もうお昼頃だよ。

 

心の中に夢でみた知らない誰かが居た。

 

+++

 

「グースピー……くかー」

 

それから二週間後、立夏をすぎたころ。桃川暖子は小さな体では広すぎるダブルベッドで幸せそうに寝ていた。

 

PIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPI...

 

前日に設定してあった目覚まし機能が起動。スマホが振動しながら大きな電子音を鳴らす。

 

「ん~」

 

むくりと体を起こすのは寝癖で桃色の髪が酷いことになっている桃川暖子(もものかわだんこ)。目を瞑ったままスマホを探す。いつもは枕もとにあるのだが寝ている間に弾いてしまいベッドの下へと落ちていたため見つからず。音は聞こえるが寝ぼけた脳ではどこで鳴っているかを把握出来ない。

 

最終的に起こした体をベッドに預け、両腕両足を広げ動かす一人ローラー作戦にでるが無駄に終わる。音のテンポが変わる中、桃川は体を動かすのを止めて。

 

「――くかー」

 

諦めて二度寝に入った。

 

――起きんかぁあああああああああ!!

「ぎゃあ!?」

 

頭の中から聞こえてきた怒鳴り声に桃川は驚きのあまり飛び起きる。

 

――あっはっはっは! 毎日飛び跳ねかたが違ってほんと飽きないねぇ!

「う、うう……! もう! 叫んで起こさないっていつも言ってるじゃん!?」

――起きない暖子が悪いさね。

「いっつも起こされるたんびに寿命が縮んでるよ!?」

――して、そろそろ朝ご飯が出来るころだけど着替えなくていいのかい?

「あー! ほんとうじゃん!! もうなんで早く起こしてくれなかったの!?」

――昨日起こすの早すぎるって文句言われたからだねぇ。

「ごめんなさい!」

 

目覚まし早く設定していたのにと桃川は慌ててパジャマから着替えはじめる。白を主体とした気品を感じられるシャツとスカート。空想上の制服が現実に出てきたようなデザイン製。明らかに現代からは浮いているが、それが良いと評価されている『聖ジャンヌ女子学院』の制服に着替えていく。

 

――馬子にも衣装とはまさにこのことさね。

「それって褒めてないでしょ」

――意外と似合うって言ってるのさ。

「やっぱ褒めて無いじゃん」

 

自分にしか聞こえない声と会話をしながら着替えを終えた桃川は外へと出る。

 

「よし! じゃあ管理人さんのところ行こうか!」

――元気があってよろしい。でも暖子。鍵をかけるの忘れてるよ。

「忘れてた!? ありがとう鬼美(きび)

 

桃川はブレイダーの事件に関わってから、自分の心の中に居着いた“誰か”――鬼美に礼を言い、しっかりと扉に鍵をかけてエレベーターに乗り込んだ。

 

+++

 

一階まで降りた桃川は遠慮無く管理人室の中に入っていく。

 

桃川が住むマンションの管理人室は普通とは言い難いものだった。ひとりが仕事できるスペースで十分のはずの室内は五人が居座ったとしても余裕がある広さであり、キッチンにオーブンなど料理に関わるものが完備されており、ここで作った料理をすぐに食べられるようにと四人用のテーブルが置かれている。

 

そんな台所なのか管理人室なのか分からない室内には、赤系長髪を括ったローポニーテールの女性。エプロン姿が様になっておりその手にはしゃもじと茶碗が握られている。

 

「管理人さん! おはよう!」

「暖子ちゃんおはよー! 今日も朝から元気がいいね! ごはんはどれくらい食べる?」

「おおもりー!」

「いえーす! サービスたくさんしちゃうよー! お代わりもあるからね!」

 

このマンションを管理する赤髪の女性こと『鈴鹿 姫咲(すずか きさき)』は、小さなお茶碗に米を盛りに盛っていき席についた桃川に手渡す。彼女はこのマンションの管理業をする最中、未成年の魔装少女のためにご飯の支度や家事の手伝いなど生活の手助けをしてくれている。といっても現在、このマンションに住んでいる魔装少女は桃川しかいないのだが。

 

「本日は鈴鹿特製卵焼きとホウレンソウのお味噌汁に焼き鯖! そして主食のピッカピカの白米!」

「すっごい和食! 大好き!」

「いえーす!」

 

満面の笑みで親指を突き立て合う二人。その様子を桃川の中で見ている鬼美は毎日騒騒しいねぇと微笑ましく思っていた。

 

「いただきます!」

「召し上がれ!」

 

見て分かるほどの美味しそうなご飯を目の前にして胃が空腹感を強めて急かしてくる。それに抗う理由はないと桃川は箸を動かし始めた。

 

「今日もとっても美味しいです!」

 

――それには同意するが、もうちょっとゆっくり食べるさね。

「美味しすぎてむりー」

――しかたないねぇ。

 

桃川の感じるものは鬼美も感じることが出来るため鈴鹿の料理に舌鼓を打つ。箸を止めることなく食べ続ける桃川に鈴鹿は嬉しそうにする。ちなみに鬼美の声は桃川にしか聞こえておらず、鈴鹿には独り言を話しているように聞こえる。

 

「暖子ちゃん最近よく食べるから、とても嬉しいよ」

「ひょうへふか?」

――口にものいれて喋らない。

「うん! 魔装少女はなにより体が大事! だから一にご飯、二のお風呂、三、四が無いならご飯にして三食しっかりたべてお風呂に入って最後に睡眠! 健康な体で世界を救っちゃおう!」

「なるほど! おかわり!」

「はいよ! おかわり一丁!」

――間違ってはいないんだけどねぇ。

 

鈴鹿はすでに引退した身ではあるが魔装少女時代から大切にしている持論を語り、桃川はそれに深く同意しながら茶碗を差し出す。鬼美は楽しくあるも、もう少し静かに食べるように注意するべきか悩み、体があったら苦笑していたんだろうなと思う。

 

「そういえば、先輩のあの子とは上手くやっていけてる?」

「アイ“ちゃん”ですか? はい! この間も一緒に魔法の練習をしましたし、そのあと一緒にクレープ食べました!」

 

二週間前。セブンスに関わる事件から桃川の先輩にあたる魔装少女。パンチャー・ノワールこと黒稗天委との関係は少しだけ変化した。

 

黒稗はセブンスに救われた後桃川に自分がどういう気持ちで接していたのかを語った。

 

その内容を纏めれば純粋に好意を向けてくれるのに、それを信用せず夢を実現するための糧としか見ていなかったといったものだった。黒稗は嫌われる覚悟で話した。それこそ桃川が許してくれないというのならば、それ相応の罰を自分に与えるつもりだった。

 

そんな黒稗の意志とは裏腹に桃川はその場ですぐに黒稗の笑って許した。というかは――。

 

――???

 

よく分かっていなかった。なので話を聞いた桃川は騙されたとか欠片も思わず、天委先輩なんか難しいこと考えていたほえーぐらいである。

 

黒稗の考えを半分も理解出来なかったというのもあるがそもそも桃川にとって黒稗は尊敬できるし頼りになる魔装少女であることは間違いなく、だめだめな自分の面倒を見てくれた事実は変わりない。

 

さらに言えばめんどくさい思考に関してだいたい姉二人の所為で本人が知ること無く耐性が付いており、桃川にとって黒稗の告白した内容は“いつもの”で済ましてしまうものでしかなかった。ポカンとする天委を見て話は終わったと言わんばかりに遊びに誘ったことで、モググと鬼美の二人から空気を読めだの、他人の悩みにもうちょっと真剣に取り扱えだの内外から説教を受けることになる。

 

そんな桃川だからこそ黒稗はまた一つ救われる事となり、関係性は良好のままで話は終わり、変わったことといえば本人の希望でフランクな呼び方になったぐらいである。

 

「今日も学校が終わってから、いっしょに『塾』へ行くんだー」

「そうなの?」

「うん。モググが最近忙しいみたいだし、様子を見に行くの」

 

暖子の魔装少女にしたフェアリー、モググとは桃川が一人は寂しすぎるということで一緒に暮らしていた。しかし、ここ最近は何かしらの用事で、ずっと『塾』の方におり、帰ってきていなかった。

 

「そういえば最近忙しいみたいで帰ってきてないんだよね?」

「うん。モググだけじゃなくて何だか『塾』自体が慌ただしいみたいで、先生とかも最近残業詰めなんだって」

 

モググのほうから掛かってくる心配の連絡で、どこか声色に元気がないと思った桃川は一度彼の様子を見に行くことに決めていた。それを黒稗に話した所、興味があるとのことで一緒に『塾』へ行くこととなった。

 

――暖子。しつこいようだけどあたしの事はモググに言うんじゃないよ?

 

鬼美はいつものようにモググに自分の存在を隠す様に言う。理由を聞いても時がきたら話すの一点張りで、桃川は理由を聞かされないでいるも、その願いは真剣味を帯びていて、桃川はそこまで言うんならと鬼美の事をモググに伝えていなかった。

 

「ごちそうさまでした! 今日もとても美味しかったです!!」

「いえーす! そんなこと言われたら夜も頑張っちゃうから門限には帰ってきてね!」

「ちなみに夜はなにー?」

「サーモンシチュー!」

「ぜったい美味しいやつじゃん!」

――暖子、もうそろそろ出ないと遅刻するよ。

「あ!? ほんとだ! 行ってきまーす!」

「行ってらっしゃーい。車とか気を付けてねー!」

「はーい!」

 

マンションから出て学校へと歩き出す、そんななかで桃川は抱いていた不安をぽつりと呟く。

 

「電話はともかく、直接あったら隠せるかなぁ?」

 

嘘とか誤魔化すのが苦手なことを自覚している桃川は、そもそも鬼美のことを隠せる自信が無い。鬼美も否定できないのか返事は沈黙のみだった。

 

+++

 

桃川の通う『聖ジャンヌ女子学園』は小中高一貫にして定時制を採用している極めて異例の私立高校である。その設立には魔装少女の事情が大きく関わっている。おおよそ学校に通う年頃の少女がほとんどであるため、彼女たちは一日の大半を学校に居る。しかしグレムリンは都合良く現れてはくれず朝昼晩、いつでも現れる。そのため魔装少女たちの生活や成績に多大な影響が出てしまい、時には“グレムリンが現れるタイミングでいつも授業を抜け出す女生徒”がいると身バレにも繋がったりした。

 

そういった魔装少女のために設立された『聖ジャンヌ女子学園』は、朝の部と昼の部を分けることによって生徒の学校外での自由時間を増やし、制服を着ていれば外出での活動を許可していることによって魔装少女の活動をしやすくし、また木を隠すなら森の中と言わんばかりに一般生徒も同じ時間帯に下校することで身バレ防止にも繋がっている。

 

桃川は流されるままに入学したため色々と不安はあったが、豪邸みたいな外見とは違い校風は結構無法(自由)であり桃川はすぐに馴染む事が出来た。給食も美味しく、友達も出来て、ついでに言えば授業も少なく宿題も少ないので知らない土地での学校生活は桃川にとって楽しく充実しているものだった。

 

「中学校の勉強って途端に難しくなるって聞いたけど、なんか小学校で習ったものばかりだね」

――成績ごとにクラスを分けているのかもしれないねー。

「なるほどー……ん? それだとわたし小学校レベルの学力しかないってこと?」

――実際そうさね。

「ぐぬぬ……」

 

今日も何気ない授業を終えて、給食を食べて下校した桃川は黒稗の待ち合わせ場所に徒歩で向かう。その最中、もはや当たり前となった鬼美と小声で話をする。

 

桃川はどう見たって独り言を話しているようにしか見えないことを自覚しており、他人に聞かれると恥ずかしいじゃんと一度念話のように話せないかと打診したが、鬼美は桃川の思考に壁を作っている状態であり、その壁を外せば思考を読み取って会話することは可能であるが、そうすると桃川が考えていることが全部鬼美に筒抜けになってしまうこと聞いて、即答で断った。

 

「それにしても、まだ学校で他の魔装少女に会ったこと無いんだけど本当にいるのかな?」

――さてね。あそこはそれっぽい子が多すぎて分からんさね

「せっかく同じ学校に居るんだ、もし居るんならお友達になりたいよねー。鬼美なにか良い方法知らない?」

――そういえば魔装少女を索敵する魔法があったはず。覚えてみるかい?

「おお!」

――もっとも、故意な正体を探る行為は退学にもなりえる規則違反だから、使ったのばれたらお友達になる話じゃなくなると思うさね。それでも使ってみるかい? 

「それ聞いたらできないよ!?」

 

桃川がそういえば正体探るのは普通にダメだよねと落ち込む様子に鬼美はカラカラと笑う。それに桃川がプンプン顔となり、話題が変われば機嫌を直して話を盛り上げはじめる。

 

――……ねぇ。暖子。

 

そんな風に自分しか聞こえない声と当たり前のように会話を続ける桃川に鬼美が問い掛ける。

 

「え? なにー?」

――いまさらな気がするけど、あたしの事を受け入れすぎじゃないさね? 

「それ自分から言っちゃうんだ。んー。でも鬼美ってなに聞いても適当にはぐらかすから、なに聞いても無駄じゃん」

――否定出来ないねぇ。

 

この二週間、桃川はなんどか鬼美の正体について尋ねたことがある。そのたびにはぐらかされており、結局正体の分からずじまいのままでいる。普通であれば自分の中に現れた謎の意志に不安や恐怖を覚えるものだが、桃川は最初こそお化けに乗り移られたと騒いだが、二日したらそういうものだと言わんばかりに受け入れていた。

 

「なんかよく分かんないものをずっと気にしてるのも仕方ないかなって、それに鬼美が居て助かってるし、今の生活も寂しくないし!」

 

桃川にとっては結局それである。わからないものは難しく考えない。桃川にとって鬼美は悪い人ではなく、色々と自分を助けてくれる同居人的存在でしかなかった。そのため気になることは沢山あるけど自分から話してくれるまで下手な勘ぐりはしない。

 

人の話を聞くのは大好きであるが深く追求して面倒なことになるのは姉二人によって経験済みなため、そこらへん桃川は弁えているからこその関係性でもあった。

 

――……そうかい。

 

鬼美はぶっきらぼうに答えるが、その声色は暖かさを隠しきれていなかった。

 

「あ、でも漫画見てて思ったんだけど昔人の体に封印された鬼とか? 名前にはっきり鬼ってあるし!」

――さあ、なんだろうねぇ。

「ほら、やっぱりはぐらかすじゃん」

 

それから待ち合わせ場所にて黒稗と合流するまで鬼美との会話は止むことは無かった。

 

+++

 

「それで魔法の方はどう?」

「アイちゃんに教えてもらった強化系魔法は普通に使えるようになったよ! でもアイちゃんが使うのと比べると効果が微妙なんだよね、ラグもあるし……」

「相性もあるけど、覚えた魔法の魔方陣は定期的に見直してる?」

「うっ……してないです」

「魔法はどれだけ魔方陣を正確に思い浮かべるかで決まるから、とりあえずは気が向いたら魔方陣を見直す習慣は付けた方がいいよ」

「はい……努力します……」

 

二週間前、悪いフェアリーに利用され、最後にはセブンスガールの一人となった魔装少女。パンチャー・ノワールこと黒稗天委と合流した桃川は目的地に向かう道中、黒稗に買ってもらったタピオカドリンクを片手にずっと口を動かし続けていた。その内容は自分は魔装少女としてどう戦えばいいかというもので、黒稗の真剣な指摘に桃川は怠けているのをバレてしまったような申し訳なさに縮こまることしか出来ない。

 

「でも、暗記って苦手です……」

「こればかりは、コツコツ積み上げていくしかないから、がんばって」

「はい……頑張ります……」

 

魔装少女が『魔法』を使うのに必要なのは“魔方陣の記憶”である。使いたい魔法の魔方陣を覚え、使用する際にその魔方陣を正確に頭の中で思い浮かべて、詠唱を発言、必要分の魔力を消費して魔法が発動される。そしてその魔方陣を、どれだけ正確に思い浮かべるかで効果が変わっていく。

 

「覚えた魔法はともかく、新しい魔法もどんどん覚えていきたいな。なにかオススメのとかある?」

「うーん。暖子の戦闘適正もまだ分からないことが多いし、とりあえずは簡単な魔法をとにかく覚えて、しっくりくるのを探してもいいかも。『イージースクエア』シリーズは知ってる?」

「知らない」

「魔法自体の威力や効果は低いけど簡易的な魔方陣だから覚えやすいよ」

「おお、たしかにこれなら覚えやすいかも!」 

「他にも――」

 

『魔装少女協会』は魔装少女に関する幾つものサイトを運営している。その中で『魔法職人』と呼ばれる魔法を製作する事が出来る専門家たちが、自分の作った魔法を無料公開しているサイトも存在する。そこには万を超える魔方陣が投稿されており、黒稗はスマホを操作してオススメの魔法を桃川に幾つか見せる。

 

使いやすいと人気の魔法でも、その魔方陣は六芒星の中に更に幾つもの六芒星や図形が散りばめられており、時には別の図形や家紋に近しいものや数字やら文字が描かれているものが多い。その中で黒稗は出来るだけ魔方陣が簡易化されているものや、細かな造形が無いもの、逆に特殊な形で覚えやすいものなどを知る限り桃川に見せていく。

 

――暖子。塾に行かなくていいのかい?

「忘れてた! モググの様子見に行くんだった!」

 

鬼美の指摘に、本来の目的を忘れていつの間にか歩道端で魔方陣の観賞会になっていた事に気付く。

 

「ご、ごめん。私も夢中になっちゃった……」

「謝ることないよ! 質問したのわたしだし、すごく勉強になった!」

「そ、そう? それならよかった」

 

二人は再び歩き出す。桃川がタピオカドリンクを飲んだため会話が止まったのを見計らって、今度は黒稗が話題を振った。

 

「暖子は魔装少女グレイ・プライドって知ってる?」

「うん。アイちゃんと同じセブンスガールの人だよね?」

「うん、そうだよ……っふふ」

「アイちゃんめっちゃ嬉しそう」

「んんっ!」

 

黒稗はセブンスガールの一員になったことがもの凄く嬉しく、二週間経っていてもそれを想うたんびに顔がにやけるのを止められなく、桃川に指摘されてわざとらしく咳き込む。

 

「魔法のことなら、多分あの人が頭一つ飛び抜けて詳しいと思うから暖子が望むなら都合の良い日に話してもらうように頼むけど、どうする?」

「ほんとっ!? ぜひお願いします!」

「分かった。それなら後で連絡しておくね」

「アイちゃんありがとう!! わー! グレイ・プライドさん、サインとか書いてくれるかな? リラインやっていたら連絡先交換してくれるかな!?」 

「ちゃんと魔法のことも聞いてね?」

 

グレイ・プライドこと灰稲比恵とは本気でバトルした中であり、事件後はセブンスガールの中で誰よりも交流するのが気まずかったのだが、灰稲は結果的に七色との関係が進歩したのは、あの事件があったからとポジティブに考えており、さらに言えば同じ不人気の色と扱われている者同士と黒稗にセブンスガールの中では誰よりも早く親身に寄り添ったことで、黒稗もまた一番に心を開いた。

 

そのため、まだまだ関係は短いが桃川とは正反対のタイプだというのは理解しており会わせたことで何かトラブルが起きないか、はしゃぐ桃川を見て提案してよかったと思うと同時に少し不安になる。

 

「あんまり騒がしいの得意じゃない人だから、気を付けてね」

「そうなの? わかったよ!」

――暖子にとっちゃ、中々難易度の高い話だねぇ。

「そこまで苦手じゃないよ!?」

「ど、どうしたの? 急に大声出して……」

「あ、いえ。なんでもないじゃん!? あ、そういえば七色さんとはどんな感じなの!?」

――……おばか。

 

桃川がとっさに誤魔化すために禁句を言ったことに気付いたのは黒稗がキラキラした瞳を、ぎゅいんとか音を出しながら自分に向けてきてからだった。

 

「――聞いてくれる?」

「あ、うん……うん」

 

黒稗天委という女の子は、元々セブンスの病的なほど熱烈なファンである。そんな子にセブンスの話を振ればどうなるか想像難くない。話自体は面白いから好きだけど黒稗にセブンスの話題を振るときはしっかり時間を空けている時にしようと人生で初めて見るデジタル時計の午前0時に誓っていたのを桃川はすっかり忘れてた。

 

――どうすんだい?

「たぶん、塾についたら終わるかも……たぶん」

 

――終わらなかったので残念そうにする黒稗に申し訳ない気持ちになりながらも桃川が責任もって中断させました。

 

+++

 

『魔装少女塾』の施設は都会と呼ばれるビル街から少し離れた場所にある小学校の廃校を再利用しているものだ。むしろ現代の同年代の少女にとって珍しい大型の電波時計が設置されている校舎。魔法の訓練に最適なグラウンドや体育館など、一世代前の風景がそのまま残されていた。

 

到着早々、黒稗は申し訳なさそうに桃川に謝る。

 

「ごめんね。私ばっかり話しちゃった」

「ぜんぜん大丈夫ですよ! パンケーキ食べにいった時の話とかまた今度聞かせてください!」

「うん! また今度ね」

――次連絡するときは昼時にしときなよ。

「……あ、いいこと思いついた! セブンスガールのみんなとお泊まり会すればいいじゃん!」

――なぜ自ら地獄へ歩んで行くのかねこの子は?

「魔装少女でお泊まり会するの憧れだったんだー」

――慣しにまずは学校のお友達から始めてみないかい?

「セブンスガールのお泊まり会するの? もしやるなら私もいっていい?」

「もちろんだよ!!」

――…………。

 

鬼美は自分が耐えられる自信がないため静止を試みるが話が進んでしまい。もうどうにでもなれと諦める。

 

「『魔装少女塾』、来たこと無かったからちょっとドキドキしてる」

「アイちゃんは来たこと無いんだよね?」

「うん、存在を知ったのは魔装少女になってからだったから……」

「あー。たしかにわたしもお母さんに聞くまで知らなかったんだよね」

 

『魔装少女塾』は元魔装少女たちの教師や、その相棒と呼べるフェアリーから高度な授業を受ける事が出来る。しかし率先して宣伝などはしておらず。最近では活躍している魔装少女が口コミで広げているも、まだまだ世間一般的の知名度は知る人ぞ知るぐらいになっている。

 

「ここの授業ってどんな感じなの?」

「すごく面白いよ! 『協会』の授業って教科書に書いてあること、そのまま言っているだけだけど……」

「『協会』のほうは授業というか研修だからね」

「こっちでは塾講師(先生)たちも凄い面白い人たちばかりだし授業も色んなことを教えてくれるから全然飽きない!」

――まあ結構、内容は偏っちまっているけどね。

 

桃川が言う面白い塾講師(先生)たちは、実際に魔装少女として活動するにあたって役に立つものを教えてくれることが多いが、その内容は先生の好みによってかなり偏っていた。一方『協会』が定期的に開催する研修などは基礎を平均的に教えてくれるので、ひたすらつまらない事を除けば、どちらもちゃんと桃川の糧になっていた。

 

 

「それで、暖子のフェアリーってどこに居るの?」

「なにもしてなければ職員室で甘い物食べていると思うよ」

「塾講師なの?」

「違うと思うけど……そういえば、モググってなんの用事でいま『塾』に居るんだろう」

 

モググとは、小学校を卒業してすぐ『塾』によって開催されたフェアリーとの交流会で初めて出会い、“名前が美味しそう”という理由で選ばれた。それから、なんやかんやの付き合いになるが桃川は、結構モググのことをよく知らなかったりする。

 

「モググがおじいちゃんってのも最近知ったし、今度いろいろ聞いてみようかな?」

――ぶふっ! モググを老人扱いするのかい!? こりゃ傑作さね。

「めっちゃ笑うじゃん」

 

ツボに入ったのか鬼美はしばらく笑い続ける。その反応に絶対モググと鬼美なんか関係あるじゃんと思うが職員室についたこともあり、追求することなく話を終わらせる。

 

「モググいるー!?」

「あの、暖子、入るときの挨拶とか……」

 

『塾』では職員室に入り浸る生徒や元生徒などが多く、桃川のように友達の家に上がり込んだような気軽さで入ったとしても特に問題はなく、それを知らない黒稗がいいのかなと桃川に続き遠慮がちに入る。

 

「あ、モググいたーってどうしたのみんな?」

 

職員室に入ってすぐテレビの前でモググを見つけたが、そこには先生やフェアリー、そして生徒や現役で活躍している魔装少女たちがテレビをかじりつくように見ており、桃川たちに気付いていない様子だった。

 

「なにみてる……の? ってええ!?」

「ブレイダーカオス? どうしてテレビに?」

 

画面に映っていたのはブレイダーカオスであり、白い壁をバックに教壇に立ち何か話し込んでいた。それを聞く皆の顔はとても真剣で――恐怖や不安などに染められていた。

 

いったいなにを話しているんだろうと桃川たちもテレビに耳を傾けて、カオスが話している内容に驚き、ここにいる全員と同じような反応をする。

 

 

≪――故に私たち、第一世代ブレイダー。カオス、デビル、ジャスティス、エデン、アビスの五人は――『魔装少女協会』に宣戦布告を行うこととする≫

 

 

「……なにこれ?」

「うそ……」

――ああ、やっぱりあんたは……

 

――何気ない平和な昼下がりにて、こうして来るべきではなかった変化が訪れることになる。

 




設定の説明するとき、いつもちゃんと伝えられているだろうかと不安とです。活動報告にも載せましたが、思いつく文章をなんとか書いているようなものなので、誤字脱字も多く地の文は特に見づらいとは思いますが、それでも楽しんで貰えたら幸いです。

設定の矛盾がまじで怖い()

これにて番外編は終わりとなって本編を始めたいと思います。次回の更新は来年に成ると思うので、よいお年を!

次回:奈落の章。
プロットの段階でも七色の時の二倍ありそうでやばいですが頑張ります!


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戦争決闘五番勝負編
【数字は】アーマード雑談スレ パート78ぐらい【感じるもの】


Q「日曜日に投稿する予定だったのにどうして月曜日になったんですか?」

A「ブラッ○ボーンに再度はまって全クリしていたから、DLCのラスボスは強敵じゃった」

作者:「それと雪かきな?」←ヒント福井在住

Q&A「「ごめんなさい」」

新年明けましておめでとうございます。
お気に入り登録、評価、感想、ここすき。いつも本当にありがとうございます。みなさまのお陰で去年は忘れられない年になりました。2021年になってからも出来る限り頑張って生きたいと思いますので、よろしければ見て頂けると幸いです。

元々「新米魔装少女の気苦労その2」この後の話になる予定だったので、少し時系列が戻りますことをご了承ください。

※魔装少女特別法あたりの内容を変更しました。


たとえ千年後、万年後になっても――。

 

+++

 

762:天使

それじゃあ、黒もセブンスガールにちゃんと馴染めたんだねー。

 

763:七色

うっす。最初は遠慮がちで周りに合わせるだけって感じだったっすけど、最近は結構自分からもやりたいこととか遠慮なく言ってくれるっす。

 

764:天使

それはなによりだよ。

ほんっと一時はどうなるかと思ったけど大団円で終わってよかったよかった。

 

765:七色

はいっす!

 

766:天使

二度と『B.S.F』落とさないでね(圧)

 

767:七色

ハイッス……。

 

768:天使

まぁ、クツツだっけ? そいつが言っていた計画通りなら何も知らずに変身していたらまずかったし、案外落としたのは不幸中の幸いだったかもねー。

 

769:七色

そう思うんならそろそろ弄るネタを変えてくださいっす……。

 

770:天使

えー。あと七回は使いたい。七色だけに。

 

771:七色

黒の友達も巻き込んだらしいので申し訳なさでいつも心臓が爆発しそうになるっす……。

あの時はみんなの怪我を治してくれて本当にありがとうございます天使さん(深々)

 

772:天使

それはヒーラーとして当然のことをしただけだよ。それで思い出したけどセブンスガールみんな精神が汚染されたんだよね? あれから後遺症とかない?

 

773:七色

後遺症かはわかんないっすけど……。

 

みんな以前より積極的になったっすね。

 

774:天使

書く5秒前ぐらいには自分で答えに行き着いちゃったよ()

それ後遺症じゃないと思うし、原因は君でしょ。

 

775:七色

やっぱりそうなっすかね?

みんなとちゃんと向き合うって決めたっすけど、まだ実感らしいものがなくて……。

 

776:天使

いやぁ。セブンスガールの変化はどう考えたって七色がちゃんと好意を伝えたからでしょ? ブレーキは元から壊れていたけど、さらにリミッターが七つぐらい外れたよねー、七色だけに。

 

777:七色

それはやってるんっすか!?

いやでも、最近大人しいといいますか寝込みを襲うとかしなくなったっすよ。

 

778:悪魔

獲物が逃げなくなったからな。わざわざ追い立てる必要もないだろ。

 

779:天使

悪魔おつー。

 

780:七色

悪魔先輩お疲れ様っす。そんで登場と同時に薄々気がついてることを必死で気づかないふりしているものをはっきりと言わないで欲しいっす。

 

781:悪魔

前に進むと決めたんだろ? 目を逸らさず受け入れろよ。

 

782:七色

下手に進みすぎると高校卒業する前にパパになるんっすけど?

 

783:悪魔

お前ならそれでも幸せになりそうだがな。

 

784:七色

なんてこと言うんすかこの悪魔は!?

 

785:悪魔

悪魔だからな。

 

786:天使

それで? ここしばらく用事があるって行方不明になっていたけど、どうしたのさ? ショーが終わってからあんまし元気なかったのとなんか関係あんの?

 

787:悪魔

ちょっとな。もう少ししたら詳しい話を混沌がする。それまでは待ってくれ。

 

788:天使

混沌ってことはまた『裏案件』? 最近多いんじゃないの? 小鳥遊蜜柑ちゃんの事件からまだ一ヶ月ぐらいしか経ってないよね?

 

789:七色

俺この間のが初めてだからよくわかんないっすけど、普通はどれぐらいなんすか?

 

790:天使

僕が知る限りだと、それこそ季節ごとって感覚かなぁ。魔装少女売買事件の時はそうしなきゃいけないから表沙汰にしたけど、基本的に『裏案件』として扱うのは、これ絶対表に出せないよね? って内容だからだし、そこまでってなると逆に中々ねー。

 

791:七色

なるほどっす。

 

792:天使

ていうか悪魔、質問を重ねて悪いんだけど第8支部の件どうすんのさ?

七色の事件なんて『裏案件』扱いにするしかないでしょ? あんなに派手にしちゃったら隠すの無理じゃない?

まだ僕たちは関わってるって情報は出てないけどさー。表沙汰になるのは時間の問題だと思うよー。

 

793:悪魔

悪いな。その辺も今は言えん。

 

794:天使

……ねぇ。ほんと何考えてるの? 嫌な予感しかしないんだけどー?

 

795:奈落

話の途中にごめん。ちょっと知恵を貸して欲しいんだ。

 

796:七色

奈落さん。お疲れ様っす!!

 

797:天使

奈落お疲れー。

別にいいよ。ここに書き込むってことは本気で困ってるんでしょ?

僕のは後で直接混沌に聞くよ。

 

798:奈落

ありがとう。

実は出かけた先のカフェテラスでコーヒーを飲んでいたんだけど、運悪く『次元の裂け目』が現れてね。幸い魔装少女が近くにいたみたいだからグレムリンが現れる前に現場に到着したんだけど、そこでトラブルがね。

 

799:天使

なんだろう、今日の僕は超能力にでも目覚めたのかな? 予知できるよ?

 

800:悪魔

奇遇だな。俺もだよ。

 

801:奈落

アビス姿のままでコーヒー飲んでいたから、魔装少女たちがすごく驚いちゃってね……。

 

802:七色

何やってるんっすか!?

 

803:天使

本当何やってるんですかねー。ていうかよく気がつかなかったよね?

 

804:奈落

夢見が悪くてね。気分が優れないからと気晴らしに外に出たのがいけなかったらしい。魔装少女がこちらを二度見するまで気がつかなかったよ。

 

805:七色

変身したまま寝ちゃったってことっすか?

 

806:悪魔

そういや七色は知らなかったな。こいつは逆なんだよ。必要な時しか生身に戻らんから、こいつにとってアビスのほうが素みたいなもんなんだよ。

 

807:七色

ええ!?

 

808:天使

それ僕も初めて聞いたんだけど!?

 

809:悪魔

そうだったのか? まあこいつは自分のことそんなに話さないからな。

 

810:奈落

いやぁ、うっかりしちゃったね。いつもは出かけるまえに鏡を見るんだけど、今日は忘れてたよ。

 

811:天使

まって鏡みないと分かんないの? やばない??

 

812:奈落

その……ごめんだけど、現状の解決策を早急に提案してほしんだ。

魔装少女たちが戦いに集中出来ていなくてね。脅えた視線をなんども向けてるよ。

それでグレムリン相手に劣勢になってる。困った。

 

813:悪魔

困ったじゃねぇよ! お前がどっか行けばいい話だろ!

 

814:奈落

それが腕を少し動かすだけで、みんな体を硬直させてしまって、さらに状況が悪化するんだ。怪我とかはしないとは思うけど心配で身動きが取れない、カップを持った考える人みたいになっている。

 

815:天使

ネットで現場の実況配信上がってるや。奈落ほんとにカップ持った考える人になってんじゃん。

 

816:奈落

こういう時、思考するだけで文字が打てる機能って便利だよね。

 

817:悪魔

とにかく詳しい情報をくれ。

 

818:奈落

グレムリンは防御能力だけで言えば高ランクみたいでね。魔装少女たちがまだまだ戦闘慣れしてないこともあって牽制して被害を食い留めているだけで収まっているよ。

 

819:天使

奈落がグレムリン倒せばいいんじゃない? 動けなくても出来るでしょ?

 

820:奈落

いや、僕のはほら、戦い方が世間に見せられるような様をしていないというか……。

 

821:悪魔

なにをしても火炙りだからな。

 

822:奈落

ボクのスキルは心を燃やす炎。魔法ならともかく物質は燃えにくいんだよね。フェアリーだと小さいから肉体を粉々に砕いたりできるけど、グレムリンは基本的に巨体だから中々ね。

 

823:天使

あー、たしかに見るだけでトラウマになるよね。

 

824:悪魔

ったく。仕方ねえか。要するにとっとと戦闘終わらせればいいんだろ?

 

825:天使

出撃ですかい悪魔さん?

 

826:悪魔

このまま放っておいて事故が起こってもあれだ。とっとと終わらせていく。

 

827:天使

行ってらっしゃーい。

 

828:奈落

ごめんね。じゃあボクもこの辺で失礼させて貰うよ。突然書き込んで申し訳なかったね。相談に乗ってくれてありがとう。

 

829:天使

全然だいじょうぶだよー。むしろ奈落はもう少し書き込んでもいいと思うよ。

 

830:七色

考えているうちに解決しちまったっす……。

 

831:天使

解決はしてないけどねー。なにかいい案でもあったの?

 

832:七色

まったくっす。でも、奈落さんって想像以上に怖がられてるんっすね……。俺からしたらブレイダーなりたての頃めっちゃ世話してくれて、めっちゃ頼れて優しい先輩って感じっすからちょっと不思議というか……変な気分っす。

 

833:天使

仕方ないよ。はっきり言っちゃえば魔装少女たちにとっては悪いことをすれば自分たちを狩りに来る処罰者なんだし、ほら、交番を通り過ぎると思わず顔ふせちゃう時みたいな気分になるんだと思うよー。

 

834:七色

分かるっすけど、その例えでいいんっすかね?

 

835:天使

さらに言えば、アビスが魔装少女の前に現れるのは大体そういう時だから、今日不運にも出会っちゃった魔装少女たちにとったら、自分なにかやったっけって罪を数えていてもおかしくないよねー。

 

836:七色

そういえばみんなと話していて話題になったんっすけど、奈落さんに狙われる条件って明確に決まっていたりするっす? 

 

837:天使

そこら辺は個人の判断なんだよねー。だから本人も私刑行為でしかないって言ってる。

 

838:七色

いや、それは……まあ……。

 

839:天使

まっ、そんなこと言っちゃえばブレイダーそのものが社会ルールガン無視の個人なんだけどね。ブレイダーになった時点で、ボクたちはやること違えど正義と大差ないよ。だからボクたちは自分で“選んで”他人を“選ぶ”、そんな風に考えないとやってけないよー。七色もそこは覚えておいてね。

 

840:七色

選んで選ぶ?

 

841:天使

簡単に言っちゃえばもしもの時は知らない他人より、君を好いてくれている子たちを優先しなってことだよ。

 

842:七色

…………うっす。

 

843:天使

話を脱線させちゃったね。個人の裁量といっても、奈落の裁定に関しては僕は見る感じ狙われて当然とは思ったよ。

裁判記録で見られる範囲だけど、気分悪いものが多いよほんと。だから調べるのはあんまりおすすめはしない。

 

844:七色

でも知らないと、もしものために知らないままじゃ何もできないっすから。

 

845:天使

そっか、七色は特にそうだよね。

わかったよ。といってもまずは僕と同じくネットで裁判記録を見なよ。魔装少女特別法によって行われた裁判の記録は、裁判所のホームページで特別事件って押してからじゃないと検索しても出ないから注意ね。

 

846:七色

ありがとうっす! みんなと相談してみてみるっす。

 

847:天使

はいよー。

 

848:天使

ってアビス何してんの!!?

 

849:七色

何かあったんっすか!?

 

850:天使

どうなったか実況配信に目向けたらアビスが魔装少女と戦ってる!?

 

 

+++

 

――時間は少し戻り、まさに雷の速度でアビスの元へと来たデビルは、グレムリンを一瞬で葬り、デビルの姿のまま対面の席へと座った。

 

「……天使と七色には悪いことしちゃったね」

「悪かったな。やっぱり隠し事は苦手だ」

 

アビスは冷めたコーヒーが入った杯をW状の口元部分に傾ける。穴が開いているわけではないのに、しっかりとコーヒーが喉を通り、カップの中から消えていく。

 

「いいよ。天使は皆のことちゃんと見てくれているから時間の問題だとは正義も考えてた……第二世代のみんなには迷惑を掛けることになるね」

「……あいつらだってブレイダーだ。静観するにしろ敵になるにしろ覚悟は決めるだろ」

「そうだったらいいんだけどね。僕は協力的になるほうがむしろ不安だよ。辛い思いはしてほしくないからね」

 

アビスは幾つかの嘘を付いた。ブレイダーの姿でカフェテラスへと来たのは故意であり、スレに書き込みをしたのはデビルがボロを出す前に話題を変えて、なおかつこうやって合流するためだった。

 

「…………」

「聞きたい事は分かっているつもりだよ。でも今はなにも聞かないでくれると助かる」

「だけどよ。本当にいいのか? もしもあの野郎の計画が始まってしまえば、それこそお前の“夢”に……悪い」

 

デビルは少なくとも、こんな何十人がこっちを見ている場所で聞く事じゃなかったと謝罪する。アビスは構わないとコーヒーを減らしていく、その姿はデビルが見る限りいつも通りであるからこそ気に掛かってしまう。

 

「あ。あの。助けて頂いてありがとうございました!」

「っと、こっちこそ悪かったな。獲物をとっちまって」

 

アビスを視界に収めてしまったことで混乱状態となり、戦いに集中出来ていなかった三人の魔装少女がデビルたちに声を掛けてきた。全員がおよそ思春期ほどの女の子。魔装少女としてもまだまだ新米で、ようやく慣れだしたぐらいである。

 

「ボクも謝りたい。君たちを怖がらせるつもりは無かったんだ。ごめんね」

「あ、いえ。私の方こそ変に怖がっちゃってすいません」

 

リーダー格の魔装少女が頭を下げると、同じチームであろう二人も続けて謝罪する。

 

アビスの瞳は心を炎として見る事が出来る。いま目の前にたつ魔装少女たちは色や揺らめく形は違えど、そのどれもが若々しく燃え盛り、晴々しく燦めいていた。

 

ほどよい正義感を持ち、普通の人間の域を超えず。さりとて優しく強くそれでいてまっすぐな思いで人々を守る為に戦う魔装少女。アビスはそう三人を評価した。

 

「……あの……それでアビスさんはどうして私たちの前に?」

「全くの偶然なんだ。だからボクが言うのもなんだけど君たちに何かするつもりはないから安心してほしい」

「そうなんですか!? よ、よかったぁ。私知らないうちに何かしちゃったのかと思って怖かったんです!」

「ちょっと、そういう風に言ったらアビスさんに失礼でしょ!?」

「あ、ごめんなさい!!」

「ほんとリーダードジ。そんなんだから私たちも焦る」

「あれ? もしかして二人は私の心配をして集中出来ていなかったの?」

「「七割ほど」」

「ほぼ!?」

 

緊張感から解放されたとあってか三人組の魔装少女は騒ぎ出す。

 

「……君がトゥルー・サファイア。そっちの子がトゥルー・トパーズ。そしてリーダーの君がトゥルー・ルビーだったかな?」

「私たちの事を知ってるんですか!?」

「うん。幼馴染み三人組で活動している魔装少女。確かチーム名は『宝石戦隊トゥルーズ』であっている? いい名前だね」

「リーダーが付けた上半分のやつも知られてる……」

「やっぱり止めとけばよかった恥ずかしいっ!」

「ええっ!? 格好良いのに!?」

 

またもや騒ぎ出す魔装少女たち、全員が仲が良く力を合わせて人々を脅威から守る。傷つくことはあるだろう、悩むことあるだろう。理由があれば魔装少女を止めて違う道を歩むだろう。それでも正しい道を歩める平和のもとで戦うのが似合う子たちだとアビスは評価する。

 

だからこそ、アビスはもっと早く動けばよかったと後悔する。

 

「え? あ?」

「「リーダー!?」」

 

――突然、きょとんとするトゥルー・ルビーがアビスに向かって突き飛ばされた。アビスが椅子から立ち上がり優しく受け止め、彼女を突き飛ばした“四人目”の魔装少女に目を向ける。

 

「――死ねぇええええええええええ!」

 

これ以上ないシンプルな殺意を叫びながら四人目の魔装少女はアビスに向かって『魔道具』である鈍器を振るう。事前に幾つかの魔法によって強化された凶悪な一撃。直撃を受ければ人を肉の塊にするだろう。

 

「――巻き込んじゃってごめんね」

 

アビスはトゥルー・ルビーを守るように前に出て、迫り来る鈍器に対して腕を前に出す。その指先が『魔道具』に触れる。すると『魔道具』に火が灯り綿毛の如くあっという間に燃え尽きてしまった。

 

「……は? ぐえ!?」

「『魔道具』も魔法の一種だからね。ボクにとっては可燃物質の塊でしかないよ」

 

四人目の魔装少女が呆けている最中、アビスは慈悲無く腹部に強烈な掌底を繰り出して吹き飛ばした。

 

「怪我はない?」

「は、はい……なにが起きて?」

「出来れば、このままこの場から離れてほしい」

「リーダー平気!?」

「へ、平気だけど、な、なにがあったの?」

「あいつが、あの魔装少女がリーダーを背中から押したっ……!」

 

トゥルー・トパーズが指を差す先には、突き飛ばされた魔装少女が体を起こし憎々しい表情でアビスを睨み付けていた。

 

「アビスぅっ!!」

「君はもう少し狡猾で慎重だと思っていたよ。ハニー・ネイル」

「私だって、私だって! こんなことはしたくなかったのよ!! だけどお前がいるから! 怖くて怖くて怖くて怖くて! 平穏に暮らせないのっ!?」

「だから殺しに来たのかい? 手段を選ばずに」

 

もはや錯乱状態と言っても過言では無いハニー・ネイルに、トゥルーズたちは恐怖を抱く。

 

「出来れば、君たちにはこの場から離れてほしい。ここに居ると傷つくことになるから」

 

アビスの願いに反応の差はあれど誰もが足を動かすことはなかった。これから始まるのはとても怖いものだと、自分たちが今まで見たことのない世界の出来事が起こるのだと理解出来るからこそ立ち止まる。何故なら魔装少女だからこそ、今から起こることを眼に焼き付けるべきだと勇気が語るから。

 

「……やっぱり無理か。君たちは素敵な魔装少女だ。だからこそ見ない振りをしてほしかったんだけどね」

「おい」

「遅かれ早かれだよデビル。こうなった以上、彼女たちは何れ知ることになる。画面越しの方がいいのかもしれないけど、“これから”の事を考えれば直接見せた方がいいとボクは判断する」

「……どっちにしろ俺たちはお前のやることに口を出さない。そう決まっている」

「ごめんね。ありがとう」

「あの……。あの魔装少女は……」

 

もう分かっている。だけどいざ目の前に現れるとなると現実感が無くて、トゥルー・ルビーは思わず尋ねてしまう。

 

「――烏滸がましいボクが燃やす“もの”さ」

「ふざけないでよ! なんで私が狙われなきゃ行けないのよ!? 他にも第8支部の魔装少女はたくさんいるでしょ!?」

「別に第8支部出身者だから狙っているわけじゃないよ。ハニー・ネイル。君はたくさんの魔装少女を騙し嘲り奈落に突き落とした」

 

『魔装少女協会』の第8支部。その地下にはフェアリーたちによるグレムリンを改造する施設が存在した。セブンスの事件を切っ掛けに、カオスとアビス両名によって、施設は完全に破壊。第8支部に属していたフェアリーは全てアビスの手によって焼き殺されることとなる。

 

その後に第8支部は閉鎖に追いやったが、アビスのやるべきことはまだ終わっていなかった。それこそが悪い魔装少女の“焼却”活動である。

 

ハニー・ネイルという魔装少女は苦痛などを糧とするフェアリーたちによって作為的に作られたカースト制度で常に上位に君臨していた魔装少女である。

 

――クツツは言った。人を蹴落とすことをなんとも思っていない子を上位に仕立て上げたと、まあつまりそういうことである。

 

「な、なによ!? もしかしてあの子のこと言ってるの!? 別にそれぐらい良いじゃない。ただ揶揄っただけでしょ!? あいつが朱色の英語知らなかったのが悪いんだから!!」

「それだけじゃないとボクは知っている」

 

特にハニー・ネイルは第8支部の空気に最初から順応していた。フェアリーたちに誘導されることなく、むしろ染めるほうであった彼女は、まさしくつい最近まで人生を謳歌していた。だからこそどれだけ取り繕うと、否定しようと彼女はアビスに脅える。

 

アビスが自分の近くに現れたと知った彼女は恐怖に耐えきれなくて、ずっとアビスに脅えていく人生を送るぐらいならと、逃げ続けていた日々を終えて、きょうハニー・ネイルは現れたのだった。

 

「あんたも! なんで間抜けた顔でそっちにいるのよ! そいつは私たちを殺す異常者じゃないの!」

「はぁ!? なに勝手なことを言ってるのよ!! 関係の無い私たちに話を振らないで!」

 

二人を守るように前に出たのは勝ち気なトゥルー・サファイア。

 

「本気で言ってるの!? どうせ貴方たちだってそいつに燃やされるの! そうよ魔装少女の行き着く先はこいつに全部燃やされて殺されるのよ!! だから今のうちに殺るしかないじゃない!!」

「そんなはずないじゃない! 引退してちゃんとしたセカンドライフを過ごしている先輩だって知ってるんだから! あなたは狙われるそれ相応の悪いことをしたって話だけでしょ!」

「そう。リーダーを突き飛ばした所を見るに完全にあなたの自業自得」

「えっと……そうだそうだ!!」

 

トゥルーズたちの反論にハニー・ネイルは唇を噛みしめ、アビスは静かに驚愕する。

 

悪いことをすればアビスが燃やしにくる、そんな寝物語みたいなのを現代の魔装少女たちは、法を犯せば警察が捕まえにくるように常識として捉えられていた。ほんの少し前までは魔装少女限定の殺人鬼や放火魔と脅えられていたのが、気がつけば正反対の法の番人扱いされている。

 

ふと、アビスは天使の顔を思い浮かべる。本当に彼が入ってから第一世代(自分たち)の環境は変わった事が多いと感謝すると同時に自分がより烏滸がましい存在になってしまったなと自虐する。

 

「うるさいのよ!」

「だめだよ」

 

言い負かされたハニー・ネイルはトゥルーズに向かって乱暴に魔力弾を放つも、即座にアビスがトゥルーズたちの前に割って入り焼失させる。

 

「さっきからウザいのよ! 〈固有魔法展開(エクストラスペル):スラッシュネイル〉!!」

 

その隙にハニー・ネイルは鉄すら容易く切り裂ける爪を伸ばし、正面からアビスに飛びかかった。錯乱状態、それに戦闘経験が乏しい彼女に爪を振り回してアビスを細切れにする以外の思考はなく、その様子をアビスはハニー・ネイルの淀んだ揺らめきをする炎から正確に把握していた。

 

「ああああああああああああああああああああああ!!」

「――外道であることを許容できない乙女よ」

 

――――≪THE END≫――――

 

アビスが一歩後ろへと下がる。ハニー・ネイルは地に足を付け爪を空振りする。外したと認識した時にはもはや手遅れであり、右腕にある三つのΘが開眼し、◎へとなり体を伝って踵を上げている右足の裏へと移動する。

 

「モーニング・トゥ・ジ・アビス」

 

――――≪MORNING TO THE ABYSS!≫――――

 

「ぐふっ!?」

「――烏滸がましい死者が全てを終わらせよう」

 

アビスによる容赦無き突き蹴りが放たれて、足裏がハニー・ネイルの胴体をヒットする。

 

「げほっごほっ……さ、最低よあなたっ!」

 

胴体に◎の焼痕を入れられたハニー・ネイルではあったが、ダメージ自体は軽微であり吐きそうになりながらも台詞を残して逃げてしまう。

 

「いいのか?」

「いいよ。もう終わった」

 

ハニー・ネイルはすぐに見えなくなり、沈黙を貫いていたデビルが問い掛けるとアビスは淡々と答える。

 

「あの技は時限式なんだ」

 

――ビル風に運ばれてきた断末魔がやけに鼓膜に響く、熱い助けてと何度も何度も救いを求める声が聞こえてきてトゥルーズ、野次馬たち全てが口を閉ざして耳を傾けてしまう。

 

「あの……どうなったんですか?」

「命に別状はないよ。魔装少女の力だけを燃やし尽くした……これから彼女は普通の人間として裁かれるんだ」

「魔装少女特別法?」

「ちゃんと勉強しているんだね。彼女は未成年だけど魔装少女の力で行われた違法行為は、大人と同じ処罰を受けることになる。気を付けてね」

 

悲鳴が止んだあと、同じ方向からパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 

今頃、ハニー・ネイルは罪状を読み上げられて、手錠を掛けられているころだろうと、アビスはサイレンの音が聞こえなくなるまで静かに耳を傾ける。

 

魔装少女が犯罪を行った場合、プライバシー保護を除いた少年法の適応外となり、審議および判決には成人と同等に扱われる。

 

懲役判決を受けた際には未成年魔装少女のためだけに専用に作られた刑務所での生活することとなり経歴に前科が付けられる。少年法が残されている中、魔装少女だけ成人と同じように裁かれるのは不平等だと言う意見も少なくないが、グレムリンという災害を唯一解決できる存在に対する法治国家の限界である。

 

「かなり目立っちまったな」

 

サイレンが聞こえなくなったのを見計らってデビルがアビスに声を掛ける。

 

「今度、天使に菓子折のひとつでも持っていかないとね。天使のことだからアニメのグッズとかの方がいいのかな?」

「そういったの他人に聞かれると恥ずかしいみたいだぜ」

 

野次馬の何人かはスマホのカメラをこちらに向けており、先ほどまでのやり取りは全てネットにて拡散されてしまっている。これからしばらくSNS上では様々な意見が書き込まれており、しばらく天使はその対応に目を回すことになるだろう。それこそ計画が始まるまで。

 

アビスはそっとトゥルーズの方へと視線を向ける。

 

「わたし、ぜったい、わるいことしない」

「うん、私も魔装少女としてもっと力に責任を持つことを考えないと」

「怖かったけどいい勉強になった」

 

彼女たちはハニー・ネイルの末路を見て、自分たちはああならないようにしようとより気を引き締めて活動していこうと頷きあっていた。きっと彼女たちは魔装少女を長くやっていけるだろうとアビスは思い、だからこそ、これから自分たちが起こす騒動によって、どうか不幸にならないで欲しいと願った。

 

「どうした?」

「ちょっとね。これからの事を考えていた」

「……しつこいようだが。本当にいいのか?」

「うん。ボクの答えはブレイダーになってから決まっているよ」

 

ふとトゥルー・ルビーもまたアビスを見る。静かに佇む彼はあまりにも儚げで、無機質で……なぜか恐ろしいと感じてしまった。

 

「――誰にも夢の邪魔はさせないのさ」

 

――これは、ブレイダー・カオスによる『魔装少女協会』への宣戦布告がテレビ放送された三日前の話である。




今回は割と疲れながら書いたので、色々と不安です……。

この2章から、ちょい役からメインまで登場人物がかなり増えることになりますが、多分、あんまり覚える必要ないです(身も蓋もない発言)。

さあ、今年も頑張るぞー。


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【天使】こんとおおおおおおおん!?【宣戦布告】

感想、お気に入り登録、誤字報告、評価本当にありがとうございます!

特殊タグの組み合わせなど、他作者様のご参考にさせて頂いたりなどして勉強したりしているんですが、難しすぎて無理しない事にしました( ̄▽ ̄)数字ほんとむり。
ですが、これからも色々と試していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。

作者は基本的にPCで執筆しているため、スマホの方はヨコ画面にすると見やすいかもしれません。

今回は説明回なため戦闘描写は無いです。ごめんなさい! それでも楽しめたら幸いです。

※冒頭文は手動スクロールとなっております。


私たちアーマードは数多くの非道を見た。

決して人の眼に映してはいけない邪悪を見た。

悪なる人間、悪なるフェアリーが確かに存在することを私は見た。

 

同時に善きなる人間、善きなるフェアリーも数多く見てきた。

人々の平和を守り傷つきながらも立ち上がり、泥にまみれたはにかむ少女を見た。

その傍らに飛ぶフェアリーが、この世界に向けた愛を謳うのを見た。

 

全てが善であると夢想出来ぬ世界が愛おしく。

悪の全てを否定することの出来ない世界を慈しみ。

過ぎ去りし記憶に映る友に、そんな世界を守ると誓った。

 

故に私たちは沈黙を肯定した。膿を瞳に映し痛みを知る子が現れないようにと。

残酷を混沌に沈め、振りまかれる希望が少しでも多く人の元に届けられるようにと願った。

だが、その願いは管理者によって裏切られることとなる。

 

 

私は過去、信じると背を向けた。だから咎は私にもあるのだろう。

 

 

社会の管理者に任せるほうが正しいのだと。

システムとして、バグを取り除き正常である努力を行うのだと。

だが、管理者は秘密を埋めるだけで全てが解決したとばかりに振る舞った。

 

その結果、沢山の手が届かぬ不幸が生まれた。

決してあってはいけない悲劇が深淵に飲まれて、這い寄ることすら許されなかった。

少なくない魔装少女だった少女たちが絶望に飲まれて今も生きている。

 

故に私たち、第一世代ブレイダー。

カオス、デビル、ジャスティス、エデン、アビスの五人は。

『魔装少女協会』に宣戦布告を行うこととする。

 

魔装少女のために、夢のために、正義のために、弱きもののために、世界のために。

私たちは再び汝らの敵となろう。

 

這い寄れ。 混沌の足下に。

 

 

 

 

 

 

+++

 

1:天使

どういうことか説明せえええええええいいいい!!

 

2:混沌

やっちゃったぜ(・ω<) 三☆

 

3:天使

やっちゃったぜじゃないでしょ~!?

 

4:七色

みんなから連絡来て知りました! なにごとっすか!?

 

5:騎士

プロテイン吹いげほえばっ!?

 

6:七色

騎士が死んだっす!?

 

7:天使

これも全部悪魔ってやつの仕業なんだ!

 

8:悪魔

落ち着け。

 

9:騎士

勝手にころさないで……。それでさっきの放送どういうことですか!?

 

10:天使

数日間裏でこそこそやってると思ったら、協会に喧嘩売る準備をしてたってわけー? 僕たち第二世代に黙って?

 

11:混沌

ごめんね。話し合った結果。君たちにはあと出しで全部話そうってなったんだ(⁎⁍̴̆Ɛ⁍̴̆⁎)

ほんとごめんね(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

 

12:騎士

顔文字もうちょっとシリアスになれるの選んでもらっていいですか?

 

13:七色

とりあえず宣戦布告の件について教えてもらっていいっすか!? ちなみにこのスレみんなと見てるっす!

 

14:悪魔

まっ、魔装少女にとっちゃ気が気じゃないわな。はっきりとお前たちと戦争やるぞって断言したようなもんだしな。

 

15:天使

ああもう! とりあえず今下産業でよろしく!!

 

16:混沌

この間の1件で私マジギレヽ(`Д´#)ノ

協会もうゆるさねぇ(c" ತ,_ತ)

一回しばく(# ゚Д゚)カス!!

 

17:騎士

混沌先輩本気で怒って……る?……怒ってるのか?

 

18:天使

顔文字のせいであんまり分かんないけど、実行に移している以上これはマジギレですねー。

 

あーもうおしまいだ〜(協会が)

 

19:七色

あの、この間の一件ってもしかして俺のっすか?

 

20:奈落

そうだね。第8支部の惨状を目にして、このままではいけないと判断したんだ。

 

21:天使

奈落も来たってことは、シリアス度はMAXだねー。んで、これ正義は来ないの? この宣戦布告やれって言ったのアイツでしょ?

 

22:悪魔

やっぱわかるのか?

 

23:天使

わかるよ。文章は混沌が考えたんだろうけど、わざわざテレビ放送だけなところが正義らしくて、ほんといやらしい。

 

24:奈落

テレビが昔と比べて見てる人が少ないから、情報の遅延がどうしても発生する。その遅れが計画のために必要らしくてね。

ちなみに正義は最後の仕込みの確認をするため来られないってさ。

 

25:七色

正義先輩も動くって……協会と本当に戦争をするつもりっすか!? 魔装少女はどうなるっす!?

 

26:騎士

俺たちと魔装少女が戦うなんて……。

 

27:悪魔

気持ちはわかるが落ち着け、なにも全面戦争をするつもりはない。そんなことは俺がさせねえよ。

 

28:天使

まさかと思うけどミサイルレッツパーティで協会関連の施設全部壊して終わりとか言わないよねー?

 

29:混沌

それは断ったよ(●´ω`●)

 

30:騎士

一つの案として出てたんですね……。

 

31:七色

それじゃどうするつもりっす? できれば早めに答えてくれるとありがたいっす……なんかみんなすごい物騒なこと口走り始めたんで。

 

32:奈落

七色を通して、五色の炎が徐々に燃え上がっていくのが見えるけど大丈夫?

 

33:天使

なんでそんなにヤル気なんですかねー? 

 

34:七色

俺のためってのもあるみたいっす。ただ、みんな協会に碌でもない思い出しかないので……ちょっと過去の思い出とか記憶とかをお掃除をしたいとか……。

 

黒と一緒にいてそのまま合流していた桃ちゃんが怯えてるのでちょっと落ち着かせるっす。

 

35:天使

そういえば、セブンスガールのみんなは協会にいい思い出ないんだっけ……が、頑張ってねー。

まあ七色たちはともかくとして、第一世代の皆さんは第二世代の僕たちにどうして欲しいの?

 

36:混沌

計画に関して話すのはもう少しだけ待って。人( ̄ω ̄;)

いくつかプランがあって、まだどれを実行するか決まってないんだ(>人<;)。

正義の準備がどうなるか次第で、決まったらすぐに説明するから(: ̄ω ̄)人

 

37:悪魔

ただ身の振り方はすぐとは言わんが始まる前に決めてくれ。

 

38:騎士

身の振り方ですか?

 

39:奈落

僕たち第一世代は協会と戦争をする。戦争だからね。どれだけ被害を抑えるように挑んでも色んな人が不幸になることは止められない。ボクたちのやることに関われば辛い思いをすると思う。だからボクたちが始める協会との戦争にどう関わるのか第二世代のみんなには自分で決めて欲しいんだ。

 

40:騎士

そんな急に言われたって……もしもですよ? 俺が止めるって言ったらどうするんですか!?

 

41:悪魔

俺たちも止まるわけには行かないからな。終わるまでベッドの上で祈っていてくれ。

 

42:騎士

……いつものように裏で動いて穏便に解決するとかできないんですか?

 

43:悪魔

戦争をふっかけるのは、そうやって穏便に済ましてきたツケみたいなもんだ。だから俺は賛成した。そもそもこれは『裏案件』じゃないからな。

 

44:天使

第8支部はそれほど酷かったの?

 

45:奈落

行われていた所業だけで言えば他の『裏案件』とあまり大差は無いよ。でも問題なのは協会内部で行われていて、それを協会はしってか知らずか、あるいは僕たち任せか長年放置し続けていた。

 

46:混沌

深淵から這い上がってきたものは、消えるその日まで二度と光を得ることはないだろう。

どうか咎の針を突き刺してほしい。そして願わくば混沌の底にて安寧の温もりに癒されんことを。

 

47:奈落

僕たちがブレイダーになる前から続いていた不幸があった。それを放置し続けていた協会は、僕も一度は丸ごと燃やすべきだと思ったよ。

 

48:騎士

怒りはもっともですが、戦争をするほどですか!? それこそ『裏案件』の情報を公開すれば協会だってちゃんと改革のために動き出すんじゃ? まずはそれから始めましょうよ!

 

49:天使

騎士。そうしたら事態はもっと泥沼化すると思うよ。『裏案件』は表に一個出ただけで、協会の存在そのものを殺せる可能性を秘めた戦略級情報兵器みたいなもんだよ。

そんなもの、あっちは絶対に認めないだろうし、協会は生き残るために本気になって僕たちをどうにかしてくると思う。そうなったら一番被害を受けるのは間違いなく大人たちの保身で戦わされることになる魔装少女。

 

それこそ、どっちかが潰れきるまで終わらない最終戦争待った無しだよ。

 

50:騎士

でもだからって、戦争ですよ? 戦争はダメなんじゃないですか!?

 

51:奈落

騎士。少し訂正をさせて欲しい。たしかに僕たちは戦争という表現をあえて使ってはいるけど、君が教育として見せられた映像のようには決してならない。そのために僕たちは数日前から動いているんだ。

 

52:騎士

……すいません。しばらく黙って様子を見守りたいと思います。身の振り方についてはその時に話します

 

53:混沌

本当にごめんね(´・ω・)

 

54:天使

とりあえず正義のバカちんから話聞かないことにはどうするか本決まりはできないけど、僕は乗るよ。

 

55:悪魔

天使。これはお前が嫌う炎上案件ってやつだぜ? それでもいいのか?

 

56:天使

気遣うの遅すぎるよ。宣戦布告が開始された時点で既に僕のネットアカウント全部、火の海ですよー。

だったら僕も早めに計画に乗って情報管理した方がいいでしょ?

 

57:混沌

正直言って助かるよ。本当にありがとう( ̄^ ̄)ゞ

 

58:天使

きっと僕が乗っかるのも正義は予測しているだろうしねー。むかつくけどこういう時、あいつのやること派手で馬鹿で救いようが無いけど、乗っかった方が良い結果になるからねー。むかつくけど。

 

59:悪魔

やっぱわかるもんなんだな。それともお前がすごいんかね。

 

60:天使

お褒めに預かり光栄だよ。あと言っとくけど今後の生活のためにも悪魔には変わらずヒーロームーブしてもらうからね!

 

61:悪魔

悪いが、その辺は正義と話し合ってくれ。俺はいつものようにしかできないぜ?

 

62:天使

じゃあ別に心配しなくていいや。

 

63:悪魔

それはそれで、文句言いたくなるが?

 

64:王様

此度の知らせ。まことに驚いた。しかしながら余の知慮では到底理解に及ばぬ深い事情があってのことだと考え、妹たちの安全のためにも静観することに決めた。

よって余は、このことに一切の口出しをせず干渉しないことを宣言する。

 

65:混沌

わかったよ。妹さんのそばにいてあげてねヾ(@⌒ー⌒@)ノ

 

66:王様

王らしからぬ消極的な決断を詫びよう。代わりと言ってはなんだがいつでも我が店に食べにきてくれ、馳走しよう。

 

67:奈落

迷惑かけてるのは僕たちの方だからね。今度普通に食べにいくよ。

 

68:天使

王様はそれでいいよ。あり方を変えないブレイダーが居るってのは、不安に思う人たちの緩衝材にも成ると思うしねー。妹さんも不安になるとおもうから傍にいて上げてね。

そういえば希望は?

 

69:混沌

よく分かっていないってのはあるんだろうけど、私を信じるといってくれたよ(T ^ T)

 

70:七色

金が先輩たちに聞きたいことがあるらしくって、事前にどこまで話が済んでいるのかって。

 

71:奈落

やっぱり彼女は、君たちをマネジメントしているだけあってもっとも知慮深いんだね。

 

72:天使

正義がなんも考えなしで、あんなきちんとした宣戦布告させるとは僕も思ってないけどねー。んで、この数日なにしてたの?

 

73:悪魔

まっ、言っちまえば関係各所に戦争するぜって報告とかだな。そんでまあ色々と大人の話し合いをな。俺はほとんど関わってねぇけど。

 

74:天使

ガチやん。

 

75:奈落

混沌は魔装少女塾や幾人かの魔装少女やフェアリーたちに。

悪魔は秋葉自警団と落葉会、協会北陸支部に。

僕も何人かの知人に協力や支援を頼んだりだね。みんな考えの差はあれどスムーズに了承してくれたよ。

 

76:混沌

外堀から埋めたよね(^ω^)

 

77:天使

ガチやん(語彙力)

 

78:七色

今みんな話し込んじゃってるんっすけど、なんか話が難しくって桃ちゃんと一緒になって首傾げてるっす。

 

79:天使

ていうかさっき指摘忘れたけど、桃ちゃん一応部外者だから聞かせたらダメじゃないの?

 

80:七色

黒の友達だし、不安にさせたまま放置するってのも……。

あとみんなはよくわかってないみたいなのでセーフって言ってるっす。

 

81:混沌

セフセフ(=^▽^)b

 

82:悪魔

いいのか?

 

83:混沌

彼女は塾寄りの魔装少女だからね。なにかしらの形で塾学長から説明はあったと思うよ(=^ェ^=)

そういうところちゃんとしてる魔装少女だから(๑╹ω╹๑ )

いつもストレスで死にそうだけど(o´・ω・`)

 

84:天使

胃に良い飲み物用意するから今度持っていってあげてねー?

エデンの名前出してたけど、失楽園と連絡取ったの?

 

85:奈落

いいや、でも話は聞いていた。本気で嫌なら言う人だから、ここまで連絡が一つも無いって事は良いんだと思うよ。ボクの眼から見ても、いつもの調子だったしね。

 

86:天使

そっか……さて、とりあえず最後の質問になるんだけどー。聞きたくないんだけどー。マジで聞きたくないんだけどー。正義のやつほんとなにしてんの?

 

87:混沌

うーん。OHANASHI(^^;)?

 

88:奈落

交渉かな?

 

89:悪魔

脅迫でいいだろ。

 

90:七色

とりあえず碌でもないことをしてるのだけは分かったっす。

 

91:天使

ホントニネ。

 

92:混沌

といっても、本人が直接しているわけじゃないんだけどね( ˘ω˘ )

 

 

+++

 

「――だから言ったよね? なるはやで対応したほうがよくねって」

≪だ、だけど本気で協会と事を構えるなんて想像出来るわけがないじゃないですか。それに言っていることの大半が抽象的で本当に協会に向けた宣戦布告であるかどうかも……≫

「最後にはっきりと宣戦布告するって言ってんじゃんかよ。それにテレビ放送なんて面倒なことまでして悪戯するようなやつらじゃないって分かってっしょ?」

 

すみれ色の家具が多く置かれている執務室にて、すみれ色のバンド系衣服を着た金髪ギャルが、怒気を含んだ声色で壁に埋まっている大型モニターに映る十数人の女性たちを黙らせる。

 

彼女たちは『魔装少女協会』を管理する側の人間であり、支部代表から本部の重鎮たちと勢揃いしている。二時間前に放送された混沌の宣戦布告に関して話し合いが行われた。

 

≪あ、貴女のような魔装少女と違って、私たち管理者側は常に忙しい。だからどうしても動きが遅く――≫

「ちょっと、あーしも“管理者側”なんだけど? OK?」

≪そ、それは……存じています。魔装少女協会第十支部リーダーにて支部代表、魔装少女ヴァイオレット≫

「自己紹介あざーっす。まっ、そういうわけだからあーしも運営の大変さは承知なわけで、それでもこれは地震雷火事グレムリン並にヤバイ案件じゃんって、はようごけってメールしたよね? なのに会議が始まったの五分前って、ぜんぜんうけないんですけど?」

 

魔装少女協会には、本部を含めて全国に80以上の支部が存在する。バンギャ系の魔装少女。ヴァイオレッドは、第十支部の運営を行う立場の支部代表でありながら、その支部に属する魔装少女たちのリーダーを兼任している魔装少女であり、“敏腕”の名で知られていた。

 

「管理一本のあんたたちが、あーしに遅れをとるなんてめちゃヤバっしょ?」

≪こ、ここは大事な話し合いをする場ですからもっと言葉を丁寧に――≫

「――確かに独特の言葉を使って、意味が通じず情報の齟齬が発生したら問題になるよね。でも、いま話題そらす意味ある? こんな大事な話わざと逸らそうとしてんならまじ性格わるすぎじゃね?」

≪そ、そんなこと!≫

「自分がどれだけヤババなことしてんのか自覚してちょ」

 

魔装少女でありながら、支部代表であることは極めて異例であり、この会議に参加している魔装少女は彼女だけである。それ故かヴァイオレットは日常において、他の経営者から非協力的な態度(特別扱い)を受けている。

 

しかし、完全に孤立しているからこそ彼女にブレーキをかけられる人物がおらず、管理者たちは正論の暴力に黙ることしか出来なかった。

 

「現場の魔装少女から、ぴえん通り越したぱおんテルがたくさん来てんの。あーしの第十支部だけじゃなくて、東京内外関係無く他支部の魔装少女からたくさんね。そんで揃いも揃って言うんだわ。あんたたちが塩対応すぎて不安しかないって」

≪そ、それは――≫

てめぇら揃いも揃って恥ずかしくねぇんかよ!!

 

猛々しく怒声を上げるヴァイオレット。年齢立場関係無く経営者たちは全員何も言えず黙りこむ。

 

「そもそも、どうして宣戦布告されたか分かってるやつ、ここにおる?」

≪……現在調査中です≫

 

答えたのは管理者たちの中でも、上層部に位置する人物。

 

「タイミング的に、どう考えても第八支部が関係あるでしょ? あそこに何があったのか、なんでカオスやアビスに潰されたんか、理由まであーしも教えてもらってないんだけど?」

≪…………現在、調査中です……≫

 

――言えるわけないよね。身内の恥ってレベルじゃないんだしー?

 

「あっそ。まあそれはどうでもいいわ」

 

不気味なほどにさっさと話を終わらせたヴァイオレットは、駆け足気味に“本題”に移る。

 

「んで、宣戦布告。どうするか決めてるやつおる? 先に言っとくけどさ。魔装少女に戦わせるなんて鬼ヤバなこと考えているやつ流石におらんよね?」

≪で、ですがもしも本当に協会を襲撃された際には魔装少女の力でなければブレイダーに対抗出来ません≫

「なんで戦争すること前提なん? まずは『アーマード』と交渉するとか、そういうこと考えないわけ?」

≪あのジャスティスが交渉を受けてくれるとは……≫

「あのジャスティスだからこそ魔装少女たちに戦わせるなんて二度としちゃいかんのでしょうよ!!」

 

第二世代が現れる前、魔装少女とブレイダーは様々な大人の事情で衝突したことがあった。その結果はブレイダーの全勝。負けた魔装少女の末路は戦ったブレイダーによって変わった。

 

一番穏便だったのはデビルだったのだろう。彼は紳士的に魔装少女たちと戦い。最後には魔装少女たち全員と和解を果たして、未曾有の危機を乗り切った。

 

一番残酷だったのはジャスティスだったのだろう。彼はどこまでも平等的に魔装少女たちを扱った。“敵は撃つ”。大人たちの都合によって、ただ振り回されていただけの魔装少女たちは、一部を除き普通の少女に戻った後でも鉛の味を忘れられないでいる。

 

この事件後、『協会』は大人の事情で魔装少女たちを戦わせたことが世間に暴露されて、魔装少女や支援者(スポンサー)からの信用を落とす事となり、傾きかけたことがある。それを阻止した一人がヴァイオレットであり、その功績と得た信頼から支部代表にまで上り詰めた。

 

上層部は言葉を詰らせる。ブレイダーを真っ向から相手取るのが、どれだけ愚かな事か理解はしている。しかし、ブレイダーが宣戦布告してきた理由を察せられるからこそ、下手に争う事を回避する選択肢もとれず、八方塞がりとなっていた。

 

フェアリーたちの愚行(わがまま)、魔装少女の犯罪(失敗)そして自分たち普通の大人たちが得ている権力()。戦争をするにせよ、しないにせよ埋めたはずの秘密を暴かれてしまえば、どちらにせよ自分たちは終わるのだ。

 

「――もういいわ。お前らが案山子になるんだったらあーしにだって考えがあるし」

『な、なに?』

「あーしが、直接ブレイダーと交渉するわ」

『ま、まって、と、とにかく、もっと意見を募れば、より良い案が浮かぶかもしれないわ……』

「宣戦布告してんのにブレイダーたちが、そんな悠長に待ってくれるってマジで思ってる? 一秒がダイヤ並に貴重だってわかれ。成功したら万々歳だし、失敗したらあーしが全部責任とるわ。それでいいっしょ?」

 

交渉が上手く行ったとしても、“秘密”が暴かれてしまえば意味がないと、上層部たちはとにかく会議を長引かせてうやむやにすると、数人が口を開きかけた時にはもう遅く、事態は動いてしまった。

 

≪わたしは……賛同します≫

≪そ、そうですね。とりあえずはヴァイオレットさんに任せてもいいのでは?≫

≪彼女ならうまくやってくれるでしょう≫

 

真っ先に賛同を口にしたのは“秘密”を知らない中堅の管理者たち、彼女たちの頭にあるのは常に自分の保身である。そのため自分から渦中の栗を拾ってくれるというのならば反対意見なんて出るはずがない。

 

「まっ、あーしに任せるっしょ! とにかく全面戦争だけは回避してみるからさ、応援よろしくっ!」

 

中堅以下の“民主的判断(多数決)”によって出来た強固な流れは上層部とはいえど止められず。胸を張って答えるヴァイオレットに映像のラグだけが理由ではない、まばらな拍手が送られる。

 

ヴァイオレットは平和の使者としてブレイダーと交渉する事が決まり、会議は号令をかけることなく終わる。連鎖的に管理者たちは映像を切っていく。

 

≪――滅びの魔女の癖に!≫

「陰口は誰かに聞かれたら悪口なのよ。勉強になったっしょ?」

≪ッ!!――≫

 

その最中、上層部の一人が通話を切り忘れて、ヴァイオレットの忌名を口にする。それを本人はあくまでも笑いながら指摘した。

 

適当に手を振りながら最後の通話が切れると同時に、ヴァイオレットは疲れたーとソファに寝っ転がるが、その表情は疲労が感じられない、むしろ達成感に満ち溢れたにんまり顔であった。

 

ヴァイオレットは休むことなくスマホを操作して連絡を掛ける。音が鳴ってすぐに相手に繋がった事に、さらに笑顔を深くする。

 

「お、お。すぐでたじゃーん! そんなにあーしのテルを待っててくれたの~!」

 

先ほどの会議の刺々しい声とは違い、ヴァイオレットは甘えるような声を出す。それだけで完全に気を許している人物だというのが分かる。

 

≪そうだな。飯が喉を通らないぐらい待ち遠しかったぜ≫

「それ単にご飯食べた後だからっしょ?」

≪初めて行くパン屋だったが、カツサンドは中々に美味かった≫

「後で店教えてちょ。って言うか会議の結果とか聞かんのかーい?」

≪全部上手く行ったんだろ。じゃなきゃそんな嬉しそうにしてねぇだろうが≫

「きゃ、やだー。あーしの事なんでも知ってるって? まじ惚れ直したわー」

≪元からいい女だとは知ってるぜ?≫

「ぶー。たまには好きの一言ぐらい語るに落ちろってのさー。まさよしー」

≪ナハハ。ちょっと機嫌悪くなると、俺の本名言う癖直したら考えてやるよ≫

「それは出来ませーん……んで、あーしマジで几帳面だからちゃんと話すけどさ。計画通りあーし単独での『アーマード』との交渉権勝ち取ったから、いっちょよろしくおなしゃすね――“正義”」

 

――ヴァイオレットが話している人物。それは先ほど会議で決まったはずの交渉先の相手であるブレイダー・ジャスティスこと正義、その人であった。

 

そう交渉役を担ったヴァイオレットはジャスティスと繋がっており、先の会議でのヴァイオレットの言動は、交渉相手(ブレイダー側)によって事前に決められていたものだった。

 

≪戦争を止めるなんてのは外交官の仕事だ。普通の会社員どもでしかない協会の管理者なんぞ、お前の敵じゃなかっただろ?≫

「敵にもならんかったわー。仕事が出来る中堅勢は保身に秒ダッシュしたし、上層部もすぐ黙ったし。そっちはどうなってんの?」

≪外部組織との話し合いはすでに終わってるぜ。『塾』は身内を守るので手一杯だろうから元から動きはねぇと思ってるし、ほぼ独立している魔装少女やフェアリー含めて協会の“秘密”の事は勘付いているだろうしな、それを知るためにも傍観するだろう≫

「会場の方は?」

≪『落葉会』と『秋葉自警団』の連中とは話が付いた。そろそろイメージアップも行いたいんだろうよ。こっち側に付いて大盤振る舞いしてくれるってよ≫

「完璧じゃーん」

≪ついでに『北陸支部』はいつもどおりだぜ≫

「何でもいいから稼がせろっしょ? 上層部雑魚すぎて逆に何してくんのか予測できんし、あーしの方でも魔装少女を派遣してもらうようにテルろうかなー?」

≪それも良いが、お前の護衛はアビスに懐いているガキたちに頼もうと思ってる≫

「アビスっちの? マ? どんな子?」

≪元懲罰部隊の連中だな≫

「それマ!? いまあの子たちアビスっちの所にいんの!? どこいったしと思ってたから安心したわー。あーしの安全具合にも安心したわー」

≪フェアリーたちの動きはどうだ?≫

「特に変なところはないかんじ? いつもどおり人間のやることは難しって投げっぱなしっぽい。といっても、あーしの力じゃ動向探れるのは表で限界っすわ……」

≪元から食欲が動かない限りは、なにも興味を持たないやつらだ。人間側の問題に積極的に関わることはないだろうよ。表も裏も、自分の尻に火が付くまでな≫

 

たった一つでも、関係者の耳に入れば大混乱は免れない情報たちが、日常会話のような気軽さで交換されていき、会話の内容は戦争そのものへとシフトする。

 

「それで、正義の話聞いてる感じ。これって戦争っていうかー……“祭り”って言うやつじゃね?」

≪戦争だぜ? どんな形にせよ負けたら大切なものを失うんだからな。さらにはチップは不平等で、始まる前から八百長もあると来た。そんなものはスポーツとも言えんだろ?≫

「ぶっちゃけ言うとさ、やる意味がわかんねーんだけど? いつも通りパパッとしてドーンとやんないわけ?」

≪俺は今回脇役でしかねぇからな。『協会』を別に敵とは思っちゃいねぇぜ。だから俺が直接どうのこうのするってことはしねぇ。頼まれた以上、あいつらの望みを叶えるなら、これが一番“効率”がいいと思ったまでだ≫

「正義は仲間思いだねー、そんでもって――すっげー冷たいね」

 

仲間思いではあるのだろう、優しさもあるのだろう、その中に含む絶対的な冷酷さをヴァイオレットは指摘する。

 

――暖かな正義は、常に誰かを焼く光であるものだ。

 

「これが最後まで上手く行ったら、確かに被害は最小限で、成果は最大限になるんだろうけどさー。そのために四人、いや五人は生贄確定じゃん」

 

ヴァイオレットが語った数字は魔装少女、そしてブレイダーを指したものだった。

 

≪あいつらも承知の上だ。どれだけいい子ちゃんぶってもやることは戦争だからな。魔装少女も、そんで俺たちからも、多少の犠牲はあって当然ってやつだぜ≫

「まさよしのほんとそういうところさーマジヤババ。まっ、あーしは好きだけどね!」

≪あんがとよ。俺もお前のこと好きだぜ?≫

「ライク的な意味でっていうんでしょ、ほんとこのメンズはちょっとはデレろし!」

 

ヴァイオレットは隙あらば“いつも”のように告白し、正義もまた“いつも”のように適当に流す。これが初めて出会ってから十年間続く、彼と彼女のいつもの光景である。

 

「つーわけで、なんとか折衷案をもぎ取ってきたぜって、この話を持っていくにしてもちょっち時間を置かないとダメなわけよ。あーしに対するお礼も兼ねて久しぶりにご飯たべに行くしかねっしょこれは!」

≪おおいいぜ、牛丼屋でいいか?≫

「摩天楼の天辺星フレンチレストラン予約してっから、迎えにきてちょ」

≪ナハハ。ほんといい女だよ、お前は≫

「でしょ? んじゃ、また後でばいばーい」

 

通話を切ったヴァイオレットはウキウキとした様子で準備を始める。話題は戦争のことばかりになり、ロマンスの欠片もない食事会になると分かっているが、ヴァイオレットはそれでよかった。なにせ惚れた男と肩を並べられる機会が訪れたのだから。

 

「……怒られるから誰にも言わんけど、そこだけはあーしマジで感謝してんよ。ばかばっかな人間に、それにひっどいフェアリーたちにはね。マジで誰にも言えんけど」

 

――だったら俺ん家でも来るか? かわいそうな家出娘。

 

10年前に救われてから抱いた自分の夢が一つ叶ったのは事実だと、正義が迎えに来るまでヴァイオレットは鼻歌をうたい続けた。

 

+++

 

――その翌日、ヴァイオレットが事前に決まっていた(必死にもぎ取ってきた)折衷案を、『協会』が受諾した。

 

 

ブレイダーVS魔装少女

 

戦争決闘五番勝負

 

 

準備は急ピッチに進められて、二週間後役者と舞台が揃い戦争()は始まった。

 




情報が思いのほか小出しになってしまったことが無念です。

そういえば一章最後の会話に失楽園が居たことはお気づきになったでしょうか? 実はしれっといました。

多くの組織名などが出たかと思いますが、今はあんまし覚えなくていいです()。ノリでお楽しみください。今後ちゃんと全部出せればいいなぁ……あとこれ前にも言った気がするな……。

今後の投稿は、一試合ごとに書けたら投稿していく予定です。文量がどうしても多くなるので、その分遅くなると思われますが、待って頂けると幸いです。
……なんか作者予定を守ったことない気がしますが、多分今度はちゃんとそうなります多分。


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一回戦 試合前

感想、評価、誤字報告、お気に入り登録ありがとうございます!
おかげさまで、自分でも驚くほど続いております( ̄▽ ̄)これからも頑張って行きたいと思うのでよろしくです。

今回から見せ方が変わるので、詳しい説明は活動報告の方に記載したいと思いますのでよろしければ↓の方からご確認ください。

活動報告

ブレイダー・デビルの変身タグをリニューアルしました。こちらも気に入って貰えたら幸いです。

機種によって見え方は違うと思いますが、スマホ版のさい特殊タグ表現があるところは画面を横向きにして見て頂けたら嬉しいです。


ブレイダーVS魔装少女五番勝負。

 

カオスによる宣戦布告が行われた翌日に『魔装少女協会』の公式アカウントおよび『アーマードchannel』にて、大々的な宣伝が行われた。第一世代のブレイダー五人とリーダー格の魔装少女五人における三本先取を勝利とする戦争(イベント)

 

どうして開催されたのか、勝った場合、負けた場合なにかあるのか、そういったものがぼかされている中で、とりあえず自分が思い描いていた戦争にならないことに人々は一喜一憂した所で、その五番勝負が開催される場所に驚く事となった。

 

――『見捨てられた街 秋葉』

 

十年前の歩行者天国にてグレムリンが現れて魔装少女が駆けつけて、それを倒した。事件が起きたのはそれからだった。

 

脅威が取り除かれたや否や、野次馬たちが当時12歳であった魔装少女を囲いだした。記録によればそのときの人数は現地人および観光客を合わせて1000人を超えていたとされる。

 

ただ現実に現れた魔法を使う少女を見たい。そんな一途な気持ちだったのかもしれない。その場に居た人間は後に語る、気がついたら、ただ前へと前へと押されてしまったと。その結果、囲われた魔装少女は人の雪崩に押しつぶされてしまう。抜け出すことが出来ず、絡み合う足に何度も何度も踏まれてしまい、圧迫される。

 

大人たちの下敷きとなる。そんな普通の少女なら死んでもおかしくなかった状況に魔装少女は恐怖のあまり魔法を一般人に向けて放ってしまった。

 

結果、奇跡的に死者こそ出なかったが、後遺症を残すほどの重傷者を数名出した事件となり、責任の所在によって、様々な意見が飛び交う中、当時の『魔装少女協会』は、ある決断を行う。

 

――秋葉原の協会支部の撤退および魔装少女に出入りを完全に禁止する。

 

「あの頃は本当に酷いものでしたね。グレムリン(害獣)が現れたとしても、倒せる肝心の魔装少女(猟師)を呼べないと来ました。安全神話の崩壊により住人だけではなく、企業を含めたあらゆる店が、行政機関が秋葉原を見捨てて去ってしまいました」

 

西洋サイズの巨大な家具が目立つ室内にて、そんな家具たちすら小さく見えるほどの巨漢の肥えた中年男性がステーキとライスを交互に頬張りながら話を続ける。

 

「それでも秋葉を捨てきれない人々が立ち上がりましたが、グレムリンの存在がそれを邪魔してしまいます。なにせ魔法じゃないと駆除出来ない上に強い。並の格闘家でも太刀打ち出来ず、自衛隊の装備を持っていたとしても個体によってはこちらが普通に負けます」

 

綺麗にライスを食べきったと思えば、男性は炊飯器からおかわりを山盛りよそい、食事を再開する。

 

「法外の人間ですら、そんな秋葉原を見捨て始めた時、当時十六の少年が颯爽と現れました。彼は尋常では無い強さを持っていて、グレムリンの撃退だけではなく戦える大人たちをまとめ上げて、『秋葉自警団』を設立。それからさらに数年後、大人になった少年はヒーローとなりました」

 

ずっと食べている料理から離さなかった視線を正面へと動かすと、そこには顔に傷跡を持っているサングラスの青年が居た。

 

「ですので、私は秋葉を管理する個人として純粋に嬉しいですよ。あなたがこうやって私を頼ってきてくれたことが、ブレイダー・デビル」

「俺たちの要望を聞いてくれてありがとよ。まさか会場だけではなく、その準備とかも全部やってくれるとはな。商売のことはあんまり分からんが、大丈夫なのか?」

 

悪魔が食後の一服と煙草を加えると、傍に控えていた中年男性の部下がライターを差し出してくる。

 

「ありがとよ」

 

煙草に火を付けて一呼吸。手を上げて礼をすると、部下もまた会釈を返し元の立ち位置に戻る。

 

「問題ありませんよ。黒字にすることは正直難しいですが、投資とはそういったものです。この秋葉はネット環境が戻ったこともあって、外と同レベルの生活環境まで戻る事ができました。しかし、これからの事を考えれば内々のままやっては行けません。『アーマード』と『魔装少女協会』の戦争。会場提供者として、しっかりと利用させて貰いますよ」

「下手に義理人情なんて言わないのは、ほんとお前らしいよ。アングリー」

「私たちにとって義理人情なんて“あって当たり前の常識”です。それを土台にして金や地位を求める。そうでなければ『落葉会』の組長なんてなれませんでしたよ」

 

――見捨てられた秋葉を表で牛耳る元裏の組織『落葉会』、暴力団組織の下っ端であった彼らは同じように見捨てられて、この街へと流れ着いた真性の成り上がり集団。秋葉のブレインであり、行政機関が機能していない秋葉のルールと商いを管理している。アングリーはそんな『落葉会』の組長、つまり事実上、秋葉のトップである。

 

そしてアングリーこそ、今回の『戦争決闘五番勝負』にて会場の用意だけではなく機材や交通、ホテルや細かなもの、それに必要な人員全て用意してくれた張本人である。

 

「ついこの間の静けさが嘘のように、ここ最近の秋葉は本当に賑やかになりましたよ。私たちも貴方が帰ってくると聞いた日からお祭り状態です」

「そんなもんかね」

「ホホホ。相変わらずこういった話は苦手な用ですね」

「……いい加減年なんだし、少しは喰うの抑えたらどうだ?」

 

内面を当てられた悪魔は、照れくさくなって話題を変える。

 

すでにステーキは三枚目、ライスは六合目ほど、サラダボウルが空になった回数は数えきれず、それでもなおアングリーは食事を続けていた。いつもの光景ではあるが、悪魔は久しぶりにあったこともあって言うだけ言った。

 

「出来ませんね。食べるのは私の生き甲斐ですし、私にとって身体に溜まる脂肪こそ財宝そのもの、充実した人生の証として出来るだけ多くの贅肉と共に黄泉の国に行く予定ですので」

「そうかい。悪かったな余計なこと言って」

「いえいえ。言い返すものではないのですが、デビルも煙草は止めないので? ヒーロー稼業に差し支えると思いますが?」

「これだけはどうしてもな」

「体力などに影響が出ませんか?」

「天使に言われて健康診断したんだが、本当に吸っているのかと疑われたよ」

「ホホホっ! それはなによりですね」

 

生粋の喫煙者と暴飲暴食を生き甲斐とするアングリー。年齢は丁度親子ほど違う二人であったが、お互い世間的に悪い事とされるものを止められないどうし、結構気が合う事が多かった。

 

吸いきった煙草を灰皿に押し付けた悪魔は立ち上がる。

 

「ごちそうさん。美味かったよ」

「シェフに伝えておきましょう、これからどこへ?」

「自警団の方に、あんまり気は乗らんがな」

 

そういって苦笑する悪魔は、嫌だからというものではなく気恥ずかしさからくる反応だった。

 

+++

 

秋葉原が見捨てられてから、動かなかった大人ばかりだったわけじゃない。それこそ『協会』のご機嫌とりを行い、なんとか魔装少女たちに来てもらうように頼んだり、国には武力的支援も要請した。しかし、その全てが大人の事情で一蹴されてしまう。

 

国はともかく、すでに失脚している当時の『協会』の上層部が関係復帰を断った理由は、とても勝手で、愚かで、無個性で、無知で、なんとまぁ差別的な理由であったと真相を知った悪魔は“一般人”という『悪』を知った。フェアリーが関わっていなかったらこそ余計に人の悪に触れた形となる。

 

それが秋葉の外で暮らすことを決意した一因にもなっており、現在、それが周りに回って秋葉で協会と決着を付けようって言うんだからと、デビルは因果というものを感じていた。

 

「……変わってんなぁ」

 

元は歩行者天国として有名であったビル通り、悪魔の記憶では変わる事の無かったサブカルチャーの広告板が並び、ゴミも多く、見て分かる通り治安が悪い印象があった。

 

それが今では、ゴミはどこにも落ちておらず、看板に描かれているものは全て悪魔の知らないものへと変わっており、超大型ディスプレイには最新のアニメPVが流れている。行き交う人々に見知ったものはおらず、悪魔はここ行き交う数百あまりの人が全員外から来た者たちだと把握する。

 

「天使から、秋葉原が戻ってきたってネットで騒がれていたって聞いていたが、ここまでとはな」

 

ふいに悪魔は観光客の中に変なものを見つけた。メイド服と目だけを隠すタイプのマスクを着て、アニソンらしき音楽に合わせてダンスをする男性。近くにはスマホが設置されており生配信中だという事が分かる。あまり褒められたものではなく、もう少ししたら『秋葉自警団』が来て止められるだろう。

 

だが踊っている本人、それと見ている数人が楽しそうに涙を流しているのを目にした悪魔は少しだけ昔を思い出した。

 

――拙者たちの世代はな! ここでこんな風にバカ丸出しで踊ってみたとかしてたんだよ!

 

「……ああ、本当だったみたいだな」

 

見捨てられた秋葉での暮らしは、確かに命懸けの日々であった。グレムリンだけではなく無法なことをいい事に暴走する人間も多くいて、戦いがあった数と同じだけ不幸があったといっても過言で無かった。

 

それでも悪魔は、この秋葉に“捨てられて”よかったと改めて思う。

 

「ここに居ると、また煙草が吸いたくなるな」

 

さすがに歩き煙草は出来ないなと、悪魔はその場を後にし目的地である『秋葉自警団本拠地』へと歩みを再開する。

 

+++

 

「……なんだこれ?」

 

グレムリンを秋葉から追い出して人を守るために、自分の元へと集ってくれて結成された『秋葉自警団』。その拠点は元はなにかの事務所だったオンボロの二階建てビルだった。しかし、その建物は紆余曲折あって倒壊したこともあり、新築が建てられたとはデビルも聞いていたのだが、その新築が想像外のもので思わず引いてしまう。

 

四階建ての、まさしく現代建築に相応しいビルが建てられていた。だが問題なのはそのビルの塗装が誰かをモチーフにしているか一発で分かる金と黒であり、イナズママークや見たことがあるマスクの横顔などのペイントが添えられており、極めつけは『秋葉自警団本拠地』と彫られた看板の隣に鎮座する、等身大のブレイダー・デビルの銅像が置かれている。

 

「若? 若じゃないですか!? お久しぶりです!」

 

外でこれなら中はどうなってるのか考えるのも億劫となり、もう帰っちまおうかなと入り口前で悩んでいると背後から聞き覚えがある声を掛けられる。

 

「……霧升(きります)さん。お久しぶりです」

 

後ろを振り向くと、そこにいたのは未成年時代の時に出会い、そして戦友となった三十路の男性。悪魔が抜けてから自警団をまとめ上げている霧升団長である。

 

「お久しぶりです。そんでもって敬語なんてよしてくださいよ。あなたに下手に出られちゃ、申し訳なさで膝に力が入らなくなってしまいます」

「今は団長だろ?」

「団長でもなんでも、若はあっしらをまとめ上げた初代団長なんです。どっしり構えてくれた方があっしだけではなくみんなも気が楽ってもんですよ」

「相変わらず口がうまいな、お前は」

「それだけが取り柄ですからね。今も昔も」

「んなことあるかよ。お前がいなきゃ、俺はとっくの昔に死んでたよ」

 

霧升は秋葉原を拠点としてオタクを狙ったグレーな商売をする人間だった。そのためか口は達者であり、また組織管理の才能を持ち、悪魔の相談役を担っていた。そんな霧升が傍にいてくれたからこそ悪魔は『秋葉自警団』をまとめ上げられたし、死に目にあったさい彼の機転によって何度も救われてきた。

 

「それこそお互い様ってやつです。黒歴史を積み重ねていくあっしを変えてくれたのは若なんですから」

 

霧升は褒められた人間ではなかったが、若き頃に悪魔と出会い魅了された人間である。ただのクズとして死んでいくはずだった人生を変えてくれた悪魔には生涯で返しきれない恩をかんじており、こうして互いが互いを尊重する良好関係は今もなお続いている。

 

「それにしてもどうしてここへ? 試合前の観光ですか?」

「そんなところだ。新しい本拠地が建ったとは大分前から聞いていたが、見たことが無かったからな……こんな趣味が悪くなってるとは思わなかったが……」

 

どうりで誰も写真を送ってこないわけだと、呆れた声を出す悪魔に霧升は苦笑で返す。

 

「みんな若の事が好きなんですよ。あっしも含めて秋葉の外に出た後はしばらく涙が止まりませんでした。中には、若成分補充とかいって天使が生産するグッズを買いあさるやつが続出したぐらいですぜ」

「ああ……天使からいつも秋葉の発注が多すぎるって聞いた事があるな」

「運び屋連中しか居なかった昔ならいざ知らず、今では『落葉会』がきちんと物の流れを管理してくれていますからね。おかげでグッズだけではなく生きるのも楽になりました」

 

運送関係からも見捨てられた秋葉は日用品から食料まで入手困難な時期があったが、『落葉会』が立ち上げた運送会社のおかげで、外の物がかなり入りやすくなった。

 

「そういえばヒーローショー、まじで最高でした。全員泣くほど感動していましたよ。そういうあっしも、ちょちょぎれましたがね」

「感動する要素あったか? というか勘弁してくれ普通にはずい」

 

身内に見られていることを知って悪魔は気まずそうに顔を逸らす。その様子にお変わりありませんねと霧升は笑った。

 

「お前も人のこと言えないだろ」

「そうですね。代わりと言ってはなんですが秋葉の方は大分様変わりしましたよ。少し寂しい気もしますが、『北陸支部』と仲良くできたこともあって安全が戻り、昔のようにとは言えませんが、着実に“まとも”になっていっています」

「ああ、俺も見た」

 

二人はしばらく黙って街の音に耳を傾ける。悪魔たちが知る秋葉はもっと静かで退廃的で空気そのものが終わっていた。それが今では騒がしく活気あって息を吹き返している。

 

「……国の機関もいずれは何食わぬ顔で戻ってきて、俺たちはお役目御免になるんでしょうね」

「どうだろうな。話に聞くかぎり、ここはまだ臭い場所らしい。話が纏まらない以上は、秋葉は秋葉のままだろうな」

「それはそれで、ずっと定年退職出来なさそうで嫌ですね……っと誰か来ましたね」

「……ああ?」

 

最初に霧升が気付いた、こちらに歩いてくる小さな人影たち、悪魔は誰か即座に気付き思わず声を上げた。

 

「蜜柑? どうしてここに?」

「え? あ、ああー!! デビルさんがいる!?」

「え、うそぉ!? どこに!?」

「……お知り合いですか?」

「ちょっとな。片方は知らないがあの子は魔装少女だ」

「なんとまぁ。秋葉に魔装少女が、時代は変わりましたね」

 

小さな影は二人いて、その片割れは悪魔がよく知る人物だった。小鳥遊蜜柑。『裏案件』にて知らずの内に魔装少女にされてしまい、事情を説明されることなくグレムリンと戦わされた女の子。ブレイダー・デビルの大ファンであり、ヒーローショーをやることになった切っ掛けの子である。

 

「あ、あの! お久しぶりです! ヒーローショー凄いかっこよかったです!! とくにアビスさんとの戦いがかっこよくてその……味方同士なのに戦うのってなんだかいいですね!」

「若、この子才能ありますぜ」

「なんか似たようなこと天使も言ってたわ」

「蜜柑ちゃん走るのめっちゃ速いじゃ……ん……」

 

桃色の少女が少し遅れて到着し、悪魔を見て固まる。見覚えがありまくるその反応に悪魔はすぐに自分の顔を見て驚いたと分かった。

 

悪魔の風貌は頬に傷跡があるサングラス。年端もいかない少女からしたら怖いだろうものである。

 

「あの、蜜柑ちゃん? デビルってブレイダー的な意味じゃないやつだった?」

「え? 違うよ。この人がブレイダー・デビル……ってあ、ごめんなさい! 変身してないのにデビルって言っちゃってました!」

「俺の場合はいいから、そんな畏まるなよ」

「若、元から身バレとかあんまし気にしないタイプでしたからね」

 

動画活動などで公言などはしていないが、元から隠す気はそれほど無く、秋葉では知るものも多い。それでも悪魔の素顔があまり世に知られてないのは、日本が培ってきた変身ヒーローに対するマナー。またはジャスティスの影がちらつくなど、様々な要素が噛み合った結果である。

 

「てことは、本当にブレイダー・デビルなんだ! すごい! サインください! ――あ、はい、まずは謝ります……。 あの、最初疑っちゃってごめんなさい!」

「気にしなくていい」

「じゃあサインくださ――はい、後にします……」

 

まるで“誰かに叱られた”かように縮こまる桃色の少女。悪魔はどうにも初めてあった気がしないでいた。その違和感はすぐに払拭されることとなる。

 

「えと、そういえば自己紹介がまだだったね! 私、桃川暖子と言います!」

「桃川暖子……あー、もしかしてセブンスの件で巻き込まれた魔装少女か?」

「あ それわたしですね!」

「この子も魔装少女とは驚いた」

 

まさか、スレに時折出てくる桃ちゃん本人に、それも蜜柑と一緒に出会うとはこれも縁かねと悪魔は思う。

 

「というかだ。二人はどうしてココに?」

「えっと、私たち『塾』のみんなと一緒に試合を見に来たんですけど、はぐれちゃいまして」

「ご、ごめんなさい。私が色々と目移りしちゃって」

「あれは仕方ないよ。というか私が話フリまくっちゃったのが大体の原因だし」

 

原則、一度魔装少女になってしまえばその力を失うことは無い。現状、明確に魔装少女の力を失わせる方法はアビスのスキルぐらいである。

 

そのため小鳥遊蜜柑を含めたあの事件で魔装少女にされた子たちは、事件後『塾』預かりの魔装少女となった。蜜柑は『協会』が定める魔装少女規約で定められている魔装少女として活動できる年齢の十歳に達しておらず、とりあえずは魔装少女としてどう生きるのかの勉強中である。

 

また蜜柑たちは『裏案件』に関わっているとして、『協会』そのものに存在を伏せられており、十歳未満の子たちは十歳の誕生日を迎えたら順次、色々な理由を付けて公式に発表していく手立てとなっている。なおこの計画の裏に居る『協会』関係者は、すみれ色のギャル風魔装少女だったりする。

 

「保護者の方とは連絡が付いてるんです?」

「その、二人してスマホの充電が切れちゃいまして……めっちゃ話が盛り上がって、そのまま充電忘れてしまいました……」

「私も写真たくさん撮ってたらいつのまにか……」

「そいつはいけねぇ。見知らぬ街で誰にも頼れなかっただろ? ちょっと待ってな、いま携帯充電器持ってきてやっからよ」

「……迎えは来たようだぞ」

 

――わん!!

 

「あ、(わん)ちゃんだ!」

「かわいい! お手とか出来るかな?」

「ていうか、めっちゃちっちゃいね! 名前なんていうんだろう?」

 

チワワ並に小型な淡紅色のふわふわした毛並みを持つ子犬が、こちらに寄ってきて一鳴き。それに続いて漆黒色の魔術師のようなフード付きコートの男性が遅れて傍に来る。

 

「この子たちの迎えか? 奈落」

「元は混沌が頼まれたんだけど、時間があるからボクが代わりに来たんだよ」

「えっと……どなたです?」

「アビスだよ。ブレイダー・アビス」

「ええ!? あのアビスさんですか!?」

 

子犬と戯れていた桃川たちであったが、思わぬ奈落の登場に驚愕する。蜜柑も変身した姿は見たことあったが、こうして直接会うのは初めてだったため桃川と同じように驚く。

 

「小鳥遊蜜柑ちゃんと桃川暖子ちゃんだね。塾長から頼まれて迎えに来たよ」

「わん!」

「もうすでに会場の中に入っているから一緒に行こう。物凄く心配していたから、ちょっと怒られるのは覚悟してね」

「うっ、はい……えっと、アビスさん?」

「生身の時は奈落って呼んでね」

「あ、ごめんなさい。奈落さん。わざわざありがとうございます」

「ありがとうございます!」

 

構わないよって薄く微笑む奈落、その笑顔を見た桃川は妙な怖さを感じ取ることになる。その原因が何かを考えてしまったら、なんだか悪い気がして気にしないことにした。

 

「ほら、とりあえず携帯充電器持っていきな、秋葉に来てくれた記念のプレゼントだ」

「あ、ありがとうございます!」

「ありがと――あ、こ、これってもしかして……」

「お、やっぱり蜜柑の嬢ちゃんは分かるかい? そうデビルをモチーフにした限定グッズさ、秋葉にはこういった許可を得てデビル関連の観光名所やらグッズが沢山あるから探してくれな」

 

なお、本人に許可を得たのはかなり後出しだった模様。さらに付け加えるならGOサインを出したのは天使である。

 

「もしかしてって思ったけど、やっぱりアレとかアレとか、デビルさんをモチーフにしていたんですね……また後で見に行かないと!」

「おっと、もしかして迷子になったのは、それが原因だったか。目移りさせちまうってのも考えもんだな」

 

霧升は黒と金の携帯充填機を二人にプレゼントして喜ばれる。悪魔は多分、あれ誰かの私物だなと思ったが黙ってることにした。ほぼ間違いなく布教用で余ってるやつだと知ってるから。

 

悪魔は、寄ってきた子犬の頭を撫でる。

 

「ありがとな“希望”、お前が居てくれて助かったよ」

「わん♪」

「あの! 悪魔さん!」

「ん?」

「試合、頑張ってください!!」

「……ああ、見てってくれ」

 

事情を深く知らない蜜柑は、純粋に試合に勝てるようにと声援を送る。それに悪魔は複雑な心境を黒いレンズの奥に隠して、笑顔で応答した。

 

二人が奈落と子犬――希望に連れられて会場へと向かった、一緒について行ってもよかったが、煙草を吸いたい気分になってしまったため、悪魔は少し時間をおいて向かうことにした。

 

「どうぞ」

「あんがと」

 

煙草を咥えると、当たり前のように霧升がライターを取り出して火を付けてくれた。悪魔は煙を深く吸い込んで晴天に向かって吐き出す。

 

「……俺はお前たちを裏切ることになるかもしれん」

「悪魔は、神様に見捨てられた者たちにとって最後の希望。握って貰った以上、死ぬまでその手を離しませんよ。それが昔っから言われてる悪魔の契約ってやつですからね」

「そうやってお前は付いて来てくれたな」

「はい、あっしだけじゃねぇ、この秋葉にとって若、あなたは“悪魔”でヒーローですから」

 

――てめぇらの行いが神が決めた正しき道って言うんなら、俺は悪魔でいい。

 

社会が定めた決まり事、それによって危ぶむ人々のために拳を振るう少年を誰かが指差す。それに対して少年は傷だらけとなりながら断言した。

 

「ああ、そうだな――俺は悪魔だ」

「行ってらっしゃい。ご武運を」

 

霧升に見送られながら、悪魔は自分が戦う場所へと歩みを進める。自分の行いがどういった結果になるか分からない。だからこそ悪魔はいつものように戦うことを決意する。

 

+++

 

第5支部は芸能事務所も兼用している特殊な支部である。なので第5支部に属する魔装少女たちはグレムリン退治を二の次あるいは完全に蚊帳の外へと出して、アイドル業をメインとして活動している。そのため支部のリーダーを決める方法も他では考えられない、ファンによる投票によって決められてる。

 

――そんな第5支部にて十才の頃からアイドルとして活動し、三年連続でリーダーの座をキープしている魔装少女が居た。

 

「――ひとみ、やっぱり止めようよ」

 

濃紺色の髪を持つ高校生ほどの少女が、自分よりも少しだけ小さく正反対に明るい水色の髪の少女に、何度目か分からない提案をする。

 

「うにゅー。いくらお姉ちゃんのお願いでも、これだけは聞けません!」

「でも……相手がいくらブレイダー・デビルだからって危険だよ」

「心配しないでお姉ちゃん! ジャスティスやアビスならともかくデビル相手に私が負けることなんてないんだから!」

 

いつもの事ではあるが、自信満々なところがたまに傷な妹に心配の念が積み重なる。妹は例え失敗しても、瞬時に成功の糧にしてしまう天才で、いざ本番のステージに立ってしまえば、妹は誰よりも真剣になるのは知っている。しかし、今回ばかりは相手が悪すぎるのではと不安は消えない。

 

「アルテメット・アイドルは名前の通りさいきょー! 悪魔なんてすぐに退散させちゃうんだから!」

 

魔装少女五番勝負の先鋒。つまりブレイダー・デビルの対戦相手こそ、そんな絶大な人気を持つ魔装少女『アルテメット・アイドル』こと『惹彼琉(ひかれる) ひとみ』であった。

 

それでも姉心として、今回は流石に相手が悪すぎるのではないかと思う。

 

「いくらアイドル活動のためだとは言え、あのデビルだよ? お姉ちゃんは反対だよ」

「大丈夫だよ。私が戦うのはあくまでもファンを増やすためだし、もし危なかったらすぐに降参するから!」

 

ひとみが今回五番勝負に出た理由は言ってしまえば、アイドルとしての人気取りだった。

 

「ひとみは何度もグレムリンを倒しているから、みんな戦えるって知ってくれているよ」

「ううん。確かに凄いって言ってくれてるけど、それは魔装少女アイドルの中では“戦えるだけ”ってぐらいの認識だよ。アンチもファンも、結構な人がそう思ってる」

「仕方ないよ。だってひとみは“本気”を出したことないんだから」

「だから、わたしは本気のわたしを見せるためにもデビルと戦いたいの」

 

自分の濁ったものとは違い、どこまでもキラキラと輝く妹の瞳に見詰められる。いつもの負け確定演出、逆転する事も出来ず、結局いつも通りに根負けした姉は降参を示す。

 

「……そこまで言われたら、なにも言えないね」

想衣(おもい)お姉ちゃん! ありがとう!!」

「でも怪我は絶対しないでね」

「もちろんだよ! 怪我なんてしたらアイドル失格だからね! 代表(マネージャー)にも約束させられたし」

「今度謝らないとね」

 

頭を差し出してくる妹に、姉である『惹彼琉 想衣(ひかれる おもい)』は仕方ないなと撫で始める。

 

「もう中学生なんだから、そろそろ姉離れしないとね」

「え~。やだ~。お姉ちゃんとずっと一緒に暮らす~」

「姉としては、ひとみにはちゃんと自立してほしいよ……」

「やだー。お姉ちゃんとはずっと一緒に居るー」

 

自分の事が好きすぎる妹。想衣は姉としてと言うにはその声色は妙に重々しかった。そんな姉の言うことにひとみは、いやいやと全力で甘える。

 

「そろそろ出番でーす!」

「あ、はーい!! いまいきまーす!!」

 

スタッフの呼びかけに、ひとみは元気よく返事して立ち上がりポーズを決める。

 

「チェンジリング!」

 

惹彼琉ひとみは白と水色のアイドル衣装を纏った魔装少女アルテメット・アイドルへと変身する。

 

「お姉ちゃん! 最後に元気を注入して!」

「もう、ほんと甘えん坊なんだから」

 

手を広げて待機するひとみを、想衣はそっと優しく抱きしめる。

 

「魔装少女でもなんでも、私はお姉ちゃんの妹だから……だからお姉ちゃん、私のことずっと傍で応援してね!」

「……うん」

「じゃあ。言ってくるね!」

「頑張ってね」

 

元気いっぱいに控え室を出て行く妹を、想衣は見えなくてもしばらく手を振り続けた。

 

 

「――ごめんね。こんなお姉ちゃんで」

 

 

+++

 

見捨てられた秋葉では、昔と比べて変わらずに残っているものもあれば、大きく変わった場所もあった。それこそが『秋葉ドーム』。グレムリンによって無残にも破壊された土地に建てられたもので、建築面積は東京ドームよりも一回り小さいものの、観客動員数三万人、グラウンド面積130×110の巨大会場である。

 

『落葉会』が、いつか外との交流が再開する将来を見据えて建築したものであり、その理由の中には大々的な大型建築の仕事を外部発注することで秋葉の現状を外へと匂わせることや、仕事口を増やす事による雇用の増加。大暴落した際に購入した秋葉の土地を他に食い込ませないためや、今の秋葉や『落葉会』の存在を知らしめるシンボルとしての効果も期待されている。

 

魔装少女とブレイダーの対決。さらに言えば見捨てられた秋葉が会場とあって、一試合ごとに設けられた抽選倍率七十倍の争奪戦を勝ち抜いてきた客で満員御礼となっていた。

 

老若男女は、出回る売り子たちから商品を買いながら、まだかまだかと興奮冷めあらぬ様子で試合が開始されるのを待っていた。

 

そして、事前に予告されていた開始時刻ぴったりにドームのスピーカーから聞き覚えのあるポップな歌が流れて会場に歓声が上がり、観客の大半が自前のペンライトを取り出した。

 

音楽の名前は『アイドルでもいいでしょ?』。アルテメット・アイドルのデビュー曲であり、動画再生数2000万越えをしている流行を築いた音楽である。

 

≪――彼女が魔装少女に選ばれ、アイドルとなったのは三年前。彼女は生まれながらに星だった。エベレストの頂点に立ったものは今までにもいたであろう。しかしそれでも宇宙より見下ろす天才には届かない……! 太陽と月にも負けぬ星は、空を見上げる我らを見てなにを思うだろうか≫

 

流れている歌と似合わない硬めの前口上が語られる。その内容が大げさで尖っているのは仕様と言うものだろう。

 

搭乗口にスモークが炊かれ、それを突っ切るように少女が現れた。

 

≪ただ踊れるだけの偶像? 歌うだけの幻想? それだけのものに私たちは手を伸ばしはしない!! その小さな体には世界を輝かせるだけの光が宿ってる!≫

 

自分の魔道具であるマイクを両手に持ち、精一杯空気を吸い込み――。

 

≪私は証明するためにここに来た! 自分もまた世界を守る魔装少女なのだと! 第5支部魔装少女リーダー! アルテメット・アイドルの登場だああああ!≫

 

「みんなああああああああ! おまたせええええええええ!!」

 

アルテメット・アイドルの登場によって、天にも届くであろう、おおよそ三万人によるファンたちの雄叫びが上がった。

 

――Leader of the 5th branch
()

 

アルテメット・アイドル

 

Idol Maso Girl――

 

 

観客席は水色と白色のペンライトで埋め尽くされ、自分の色で染め上げられた会場全体に平等的に手を振い続ける。ファンは後にこの時の様子を語る。気のせいかもしれないけど、彼女は僕ら一人ひとりにちゃんと眼を合わせてくれたような気がしたと。

 

そしてアルテメット・アイドルが、口元にマイクを近づけると止まぬ歓声がピタリと無くなり、彼女の声を聞くためだけの舞台が出来上がる。

 

「――わたしは今日勝つためにここに立っています。だからみんな私が勝てるように心の底から応援してください!!」

 

その声は会場全体にしっかりと届き、頑張れと、勝とうねと、怪我だけはしないでくれと言う言葉が混ざり合い、ドームを揺らすほどの声援としてアルテメット・アイドルに返ってくる。

 

ファンたちにありがとうと改めて礼を言ったアルテメット・アイドルは自分が出てきた反対側の入場口へと体を向けた。

 

――音が変わる。アイドルソングから一変、ギターやドラムを中心とした肩にのし掛かるような重い低音が、全てをかき乱すように鳴り響く激しいものへと。

 

青と白で輝いているペンライトが、ブラック()ダークイエロー()に変わる。

 

第一試合の観客の大体は高倍率を勝ち抜いてきたアルテメット・アイドルのファンで構成されているからこそ、場を盛り上げる方法を熟知していた。しかし、それだけではない、アイドルに人生を捧げている老若男女たちではあるが、彼らは我らがアイドルの対戦相手の登場も今か今かと待ちわびていたのだ。

 

なにせ対戦相手は、“あの”ヒーローなのだから。

 

「きゃああああああああああ!! デビルさーーーーーん!!」

「蜜柑ちゃんまだ出てきてきてないから、落ち着いて!」

 

その中にはこってり絞られたが、そんな事を忘れたと言わんばかりに騒ぐガチファンの少女が居たとか。

 

≪――神様に見捨てられた人々は、絶望の淵に禁忌に手を触れた。どうか二束三文しか出せぬ、私たちを助けてくれと神の敵に願ったのだ≫

 

観客たちは驚くことになる。何故なら搭乗口に出てきたのは頬に傷跡があるサングラスの男性だったからだ。誰だという疑問と、まさかという期待が入り交じったどよめきが会場を走る。

 

闊歩する男性は手に持っていた『スマホ(『B.S.F』)』を斜めに構えた。

 

≪契約は成った。人々の願いを叶えるために神の敵――悪魔はヒーローになった≫

 

 

――――――  T H U N D E R ∞ D E V I L  ――√ ̄\_/――

最強(6)! 完全(6)!! 無欠(6)!!!

 

――√ ̄\_/ L I V E D ∞ R E D N U H T  ――――――

 

 

おなじみの変身音が『B.S.F』と同期している会場のスピーカーから流れたことで、アルテメット・アイドルの登場の時に負けないほど会場のボルテージは最高潮に達した。

 

≪さあ、現れてくれ我らのヒーロー! ブレイダアアアアー! デビルウウウウ!!≫

 

「――変っ身!」

 

 

サンジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

金の装飾品が輝き出して男性を包み込む。そして光が消えるとそこには金と黒の悪魔(ヒーロー)

ブレイダーデビルが現界していた。

 

――電気が周辺に飛び散る様は見た目と相まって怖れられるものに見えるだろう、しかし、だからこそ彼の生き様に憧れ、好いてしまうものだ。そして気付く、彼は私たちを守ってくれている悪魔なのだと。それを人は自然と零れ落ちるようにヒーローと呼んだ。

 

 

≪ブレイダー・デビルVS()アルテメット・アイドル 両選手が揃った所でお待たせしました! 戦争決闘五番勝負、第一回戦、開始イィィィ!!≫

 

 




少しメタ情報となってしまいますが、作者のちょっとした遊び心で本来はアルテ“ィ”メットの所を、アルテメットにしています。
理由の一つとしてはそっちの方が可愛いかなと(  ̄▽ ̄)多分……。

かなり長めの話になりましたが、これでもかなり削った方だったり……それで意味不明な所があったらごめんなさい。場合によっては外伝作らないと行けないかも……


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一回戦 本番

感想、お気に入り登録、ここすき、評価、誤字報告本当にありがとうございます!
評価数が100を超えたようで、本当に嬉しい限りです。
そして誤字報告をしてくれた方、いつも本当に多くてすいません( ̄▽ ̄;)そしてありがとうございます。

色々と不器用な自分の作品ですが、楽しんで貰えたら幸いです。

私事ではありますが、同じハーメルンで執筆活動をしているめど(激熱西方歌詞姉貴)さん。
特殊タグ関連で大変お世話になっており、ご本人様から許可を頂いたので、一度、ちゃんとしたお礼をこの場を借りて行いたいと思います。いつも本当にありがとうございます。


それでは本編をお楽しみください。


≪ーーというわけで戦争決闘五番勝負、第一回戦が開始されました。『アーマードchannel』では引き続き僕ことブレイダ―・アンギルとゲストのグレイ・プライドさんで進行していきたいと思います≫

≪よろしくお願いします≫

≪試合の状況は共通で『魔装少女協会』の公式channel、国外含めて四つのテレビ局にて放送されており、チャンネルや番組ごとに解説者がいるので、自分のお気に入りのチャンネルで試合を見守ってねー。さてとゴングは鳴ったけど、まだ両者とも動かないね≫

≪様子見とはちょっと違う空気です。お互い動かない理由が別にありそうですね≫

 

ドーム内の放送施設にてアンギルとグレイ・プライドが、『アーマードchannel』にて配信している試合の様子を見守っている

 

――ブレイダー・デビルという見た目からして怖く、本気になれば小さな女の子ひとり塵にするのも容易い存在が目の前に敵として立っている。しかし、アルテメット・アイドルの心は穏やかだった。

 

その理由は芸能界という魑魅魍魎が住まう界隈にて三年間トップアイドルとして関わってきたアルテメット・アイドル自身の直感が、デビル(この人)は安全だと告げていたからだった。

 

それだけではない、常にあるステージに立っているときに生まれるはずの孤独感が無く、まるで姉が傍にいるような安心感が緊張や不安を消していく。まさかそんな事があるはずないと気持ちを切り替えようとするが、奇妙な感覚を振り払う事が出来なかった。

 

「……アルテメット・アイドルでよかったか?」

「アルテちゃんでいいよ。悪魔のお兄さん」

 

魔装少女とブレイダー。聴覚機能は強化されており数十メートル離れていても、はっきりと会話出来る。アルテは内心で話しかけられたことに驚くも、それをおくびに出さずアイドル活動で培った営業能力が条件反射的に会話を成立させる。

 

「ちゃん付けはちょっと恥ずかしいから勘弁してくれ。アルテって呼ばせてもらうがいいか?」

「仕方ないなぁ。じゃあ私が勝ったらアルテちゃんって呼んでもらおうっと、それでどうしたの?」

「んー。気分を害したら悪いんだがな――『固有魔法』を使うまで俺は手を出さない」

「……わたしはありがたいけど、本当にいいの?」

 

実のところ、アルテは戦闘が得意な魔装少女ではない、それでも本人がデビルに勝てると自信を持っているのは『固有魔法』の存在があるからだった。

 

しかし、完璧に発動するまでにかなりの時間を要する。だから試合が始まったらすぐにアイドル活動で鍛え上げたおねだり術を全力で活用して、何がなんでも『固有魔法』を発動させる計画していたのだが、まさかデビルの方から『固有魔法』を発動してもいいと言われるのは予想外であった。

 

≪おっと、デビルからの先手を譲る宣言だ~≫

≪何か狙いがあるんでしょうか?≫

≪さあ。でもデビルらしいなって気はするねー。意外とエンタティナーなんだよね。そういうところだぞ。あ、ちなみに戦っている二人の声は最新の音声機器によって、会場だけではなく配信にも届くようになってるよー≫

 

「……わたし、悪魔のお兄さんにどうやって頼み込もうか数日間悩んだんだけどな~」

「悪いな。俺は勝負をしないと行けないんだ」

「むむっ! それって『固有魔法』無しじゃ、わたしの事瞬殺できるってこと!?」

「多分な」

「微妙なお返事はノーセンキュー! 具体的に秒で言ってよ!」

「0.2」

「コンマ!?」

 

ふくれっ面を見せるアルテに、デビルは少し困った様な反応を見せる。そのやり取りに会場からは笑いが零れた。アルテのプロとしての高い意識が、ここは笑いをとって見ている人々を楽しませるところだと考えるよりも先に体が動いた結果だ。

 

≪あー。平和だねぇ。もう勝敗関係無くこれで終わんないかなー≫

≪アンギルさん。ほんね出ちゃってますよ? 大丈夫なんです?≫

 

「さて、どうする?」

「ふふん。私の魔法を見て後悔してからじゃ遅いんだからね! 〈固有魔法展開(エクストラ):コッペリア・レ・ステージ〉!」

 

大人に甘えることも手慣れているアルテは遠慮無く『固有魔法』を発動。マイクはヘッドフォン型へと変わり、可愛らしさを感じるカラフルなスピーカーたちが会場に散らばる。そしてアルテとデビルの丁度中間当たりに魔方陣が浮かび上がり、そこから背丈がデビルと同じくらいのメタリックなモデル人形が現れた。

 

≪アルテメット・アイドルの『固有魔法』が発動されて、ステージとモデル人形が一体出てきましたね? どういった魔法なんですか?≫

≪はい。私の知る限りになりますが〈コッペリア・レ・ステージ〉は、アルテメット・アイドルが歌うことで、ゴーレムが強化されて戦い出すといったもののようです。そもそも彼女が戦う事は滅多にないので、見られること自体珍しく、同じ魔装少女として楽しみです≫

≪グレイってけっこう魔法オタクなところあるよねー。曲の方は僕も聞き覚えがあるよ。確か『ブレイブコール』って言う、アイドルソングというよりも、バトルの挿入歌みたいで派手で格好良いやつだ。まさに、あそこで歌うのは打って付けのやつだね≫

 

アルテは胸に手を当てて静かに深呼吸をする。自分が勝つには音ゲーで言うところのフルコンボを出さなければならない。つまりたった一つの失敗が、そのまま負けを意味して試合(ライブ)を終わらせる。

 

――緊張して怖い……だけど自分はアイドル。ライブに立った以上、歌いきるまで逃げることは出来ない!

 

アルテメット・アイドルは覚悟を決める。

 

――アイドルはいつも全力だった。だけど魔装少女はと言われれば、サボりがちだったのは本当。だから今日、わたしはアイドルとしても魔装少女としても全力で戦って勝つ。お姉ちゃんのためにも!

 

「いくよ。悪魔のお兄さん! 魔装少女アイドルの全力を見せてあげる!」

 

静かなソロギターが音楽が会場中に響き渡ると、モデル人形(コッペリア)が突然魂を与えられたかのようにびくりと動き出して、デビルの方へと走り出した。

 

その動きは鈍く、遅い。どうにも頼りなくシュールな光景だった。

 

≪おっと音楽が鳴り出したと共に人形、魔法名からしてコッペリアかな? それが動き出してデビルに向かっていきましたねー≫

≪魔法が発動したからだと思います。見た限り完全自立型のようですが、それにしても動きが悪すぎる気がします≫

≪うん、戦闘できるようには見えないよねー≫

 

広大なドームで奏でられるものにしては些か侘しいものである。しかし、曲はまだ始めもはじめ、導火線に火が付いたばかりである。

 

アルテは軽く息を吸って左手を胸に置き、右手を横へと広げた。

 

――歌いだしと同時に音楽がギターとエレクトリカル楽器が織りなすアップテンポへと変わる。

 

 

 

ハジマリを告げる合図は ちっぽけなキミのハートで!

ドンドン鳴る成る鼓動に名前を付けようか!

『ブレイブコール』

 

 

 

――これは、曲のワンフレーズをアルテが歌いきるまでに起きた出来事である。

 

早口で歌詞が綴られると、コッペリアに変化が訪れた。モデル人形な造形は騎士甲冑のように変化し、体格も一回り大きくなった。観客たちがコッペリアの変化を認識したころには、悪魔の目の前まで接近して拳を振りかぶっていた。悪魔は冷静に、己の顔面に向かってくる拳を裏拳でいなす。

 

「やるな」

 

コッペリアの連撃にデビルは回避に専念する。その中でコッペリアが速度、威力ともに最強格であることを把握したところで、迫り来る顔面を狙った拳を強く払いのけ、体勢を崩したコッペリアの顎にすかさずアッパーカットを繰り出した。

 

それに対してコッペリアは敢えて自分から真上への跳躍により回避、そのままバク転を行い距離をとる。

 

≪すげぇ! 姿変わったと思ったらデビルと殴り合った!?≫

≪凄い……曲の出だしだけでどれだけの強化(バフ)が……≫

 

 

 

自由の翼は背中に無いけど前に進む足はあるから 進んで転んで回って立って歩いて

行けるよ ほ ん と う?

 

 

 

2ラウンド(フレーズ)目。コッペリアは自分からアタックを仕掛ける。地面に穴が開くほど勢いにて急加速。先ほどよりも格段に速く、力も上がっている。

 

「――行くぜ」

 

手に電気を纏わせたデビルは接近してくるコッペリアに自らも駆け出した。互いの突き出した拳がぶつかり、キィンと甲高い金属同士の接触音が鳴る。デビルは触れた拳からコッペリアの身体に電気を流すが、影響を与えることなく、電気は身体を伝いそのまま地面へと流れて行ってしまった。

 

――電気や雷そのものは、効果がないみたいだな。

 

デビルは冷静に且つ迅速に放電を抑えて、スキルによって発電させた電力を蓄積させる方向へとシフトチェンジした。デビルは身体(スーツ)に電力を溜めれば溜めるほど強化されていく、そのため徐々にそれでも刹那よりも速くデビルとコッペリアとの動きの速度に差が出始める。

 

――押され始めてる……! できれば3フレーズ目に入るまでに主導権握りたかったけどっ!

 

アルテはデビルの強さを実感して少し心を乱す。それでも音程がずれることもなく、振り付けも完璧と遺憾なく天才性を発揮。そんな中でアルテは2フレーズを歌いきる一秒にも満たぬ時間内に、迷い、別の道を探し、そして当初の予定通りに3フレーズ目に入ることを決断する。

 

曲のテンポが遅くなり、その分音が重くなる。曲調が変わった瞬間デビルは直感に従い腕を頭上に向かってクロスさせる。

 

デビルが防御体勢を取ったほぼ同時に、コッペリアのチョップが脳天めがけて振り下ろされた。

 

「ぐっ……!」

 

あるいは鋼すら砕けるであろう威力に、デビルは咄嗟に全身の関節を動かして衝撃を地面に逃がす。ひび割れ地面が爆ぜる。第三者からは見えなくなった土煙の中でコッペリアは、痛み動きが鈍ったデビルの腹部へと正拳突きを放った。

 

デビルは砂煙の外まで突き飛ばされ、コッペリアも砂煙から飛び出してデビルを追う。その姿はさらに変化しており、鎧が増して巨大化しているだけではなく腕がオラウータンのように長くなっている。

 

≪見えなくなったと思ったら、デビルが突き飛ばされて出てきた! コッペリアの攻撃を食らったのか!? いやマジか! これは予想外すぎる!≫

 

 

 

涙の 意味が 強さって呼ぶなら 雫が落ちる度に

残るものはなに?

 

 

 

デビルはさらに発電量を上げ限界まで電気を溜め込んだ。それはデビルが完全に本気を出した事を意味し、雷光の如く縦横無尽に会場を駆け出し始めた。

 

コッペリアはそんなデビルの動きを予測して先回りを行いながら、長い手を最大限利用した鞭のようにしなる連続フリッカージャブを繰り出す、その威力、数ともに曲がるマシンガンと例えても大袈裟では無かった。

 

デビルは回避に専念して隙を見つけては攻撃を繰り出して行く。より効率的に最適化した動きで、相手の隙に強烈なパンチやキックをお見舞いする、試合はさながらキックボクシングのように成ってきたが。両者の動きがあまりにも速すぎて、試合を見ている常人には、ただただ雷光と破壊される会場の中、アイドルが歌っている様を見せつけられる形になっていた。

 

≪いや、もうこれ見えねぇから実況出来ないねー……さて、曲調がバラードになった途端、強さがすごい増したけど、そんなことある?≫

≪……あくまで予測にはなるんですが、恐らくアルテメット・アイドルの『固有魔法』の本質は、召喚したコッペリアを“強化”するものではなく“成長”させるものではないかと≫

≪成長?≫

≪はい。先ほど強化と表現したんですが、それだとデビルさんに匹敵する力を手に入れたとしても、次第に、まるで武術の達人のように動きがよくなっていくのは難しいんです。なのでコッペリアという“対象”に起きている現象は強化ではなく経験値の会得(レベリング)ではないかと≫

≪なるほど。つまりアルテメット・アイドルが歌うほどにコッペリアは経験値を獲得していって、レベルアップをしているから、ステータスも伸びるし、技も覚えるのね≫

 

デビルは戦いの最中で、コッペリアの動きが段々と多彩になっていくのを感じ取る。ムエタイから空手、ボクシングに留まらず、柔術や合気道、カポエラやテコンドーなどの動きも見せ始めた。人間が編み出した技術を、長い手と巨体と人間離れした身体で繰り出してくるってのは中々堪えるなと、デビルはとにかく防御に徹する。

 

ちなみにグラウンドと観客席の間には魔装少女数名とブレイダー・ナイトの協力の元無色透明なバリアが張られており、一定の安全は確保されている。

 

≪……そうか、それなら歌はかなり効率が良いですね≫

≪どゆこと?≫

≪経験値と技の出処についでですが、これも確証はありませんが経験値の会得条件は彼女の歌を聞くこと、そして経験値の出処は人の情報だと思われます≫

≪人の情報?≫

≪その人が持つ身体能力(ステータス)技術(スキル)と言ったところですか、一人に対して、どこまでの情報(経験)を得られるかは分かりませんが……アンギルさん、この放送はどれくらいの人が見られています?≫

≪あー。現在『アーマードchannel』の同時接続数は120万人だけど、国内外問わず色んな方法で配信されてるから……億を超えちゃうかもねー≫

≪つまり億単位の人々の経験値をあのコッペリアは得ている……この考察が間違っていなかったら、とんでもない話です≫

≪そりゃーデビルでも苦戦するよねー≫

命を吹き込まれる人形(コッペリア)とは言い得て妙ですね≫

 

グレイの考察はほとんど正解であった。『コッペリア・レ・ライブ』は、アルテの歌を聞いている人間が生きて得た人生の経験をコピーしてコッペリアという端末に継ぎ足していくものだった。

 

ただ、得られる経験値はひとりに対して1%~5%であり、その中に戦いに必要な技が得られるかどうかは完全なるランダムである。そのため百人千人程度では平均的なグレムリンを一体倒せるかどうかで留まってしまう。

 

この特性故にアルテは今まで“本気”と言えるほどの実力を出し切れた事が無かった。グレムリンの出現はランダムであり、戦いの様子を生配信するという行為は火種になりやすい事からできなかったのも要因となっている。

 

だが今回は全世界の人間が注目するであろう試合。アルテはここで歌えるならデビルに勝てると踏んだのだが……。

 

――予想よりも歌を聴いてくれる人が少ないっ! このままじゃレベルが足りないよ……!

 

コッペリアに経験値を与えるためには、アルテの歌を人に聞いて貰う必要があった。しかし人は興味の無い歌は脳が勝手に雑音だと処理してしまう。そうなったらパスは繋がることはない。故に当初から戦闘用の歌として作られた『ブレイブコール』は、出来るだけ沢山の人に聞いて貰う工夫が成されているのだが、状況はあまり芳しくなかった。

 

この試合のメインはあくまでもデビルとコッペリアの戦いでである。たとえ見えていなくても、地球上の生物を超越した戦いを少しでも見ようと、視力に集中するあまり耳の機能を低下させる人間は、ファンが多い会場内だけで数えても少なくは無かった。

 

さらに言えば、そこら中で鳴る電気音や破壊音が歌を阻害しており、ここに来てアルテはデビルとの相性の悪さを実感する。

 

アルテの視力は常人の範囲内であり、戦いの様子は直接見えていない。しかしコッペリアから伝達されるダメージ、身体を再生したなどの情報から漠然と戦況を把握する。コッペリアはレベルアップを続けており、ステータスも技も無制限に増えていく、しかし、それでも今だ雷鳴にすら届かず。

 

デビルは直に必殺技を繰り出してくる、しかも必ず当ててくるだろう、アルテはこのままでは負けるのは時間の問題だと、とっさの判断で一手加えることにした。

 

 

 

Oh...零れる...

Oh...零れる...

 

 

 

≪……あれ? こんなに長い間なんてあったっけ?≫

≪スキャットと呼ばれるものですね。元々はないんですか?≫

≪うん。サビに入る前に一節あるんだけど、そこが好きで頭の中で歌おうとしてたらタイミングがズレて混乱しちゃった≫

 

アルテはメロディーをループさせて、元々は無かった即興詩(スキャット)を口ずさむ。その理由は大幅レベルアップを期待できるサビに入る前のワンフレーズ、それをベストタイミングで歌うためだ。戦いの様子は相変わらず目視できない、コッペリアから届く情報を元にした完全な直感頼りとなる。

 

そんなのは不可能……なはずだった。

 

――彼女は天才アイドル。一番の盛り上がりどころは、たとえ見えなくても本能で感じることができる。

 

 

泣いたって失うばかりでしょ!!

 

 

伴奏が無となり、アルテは溜めていた気持ちを全開に叫ぶ(歌う)

 

試合に夢中になっていた人が、仕事に集中していた人が、作業に没頭していた人が、試合に見向きもせずお喋りに興じていた人が、テレビを付けたまま夢現だった人が、アルテの歌に意識を向けた。

 

そして大幅なレベルアップを果たした瞬間こそ、デビルがコッペリアを投げ技にて遠くへ飛ばすことに成功し、キメ時だと必殺技の構えをとるために足を止めた、まさしく絶好のタイミングであった。

 

「……なっ、ぐ!?」

 

音速の壁を突き抜けたコッペリアが、そのままの勢いでデビルにタックルを食らわせてグラウンドの端までぶっ飛ばし、バリアに叩き付けた。

 

≪二人が見えたと思ったら、デビルがぶっ飛ばされた! みた感じ必殺技を放とうとしたところを狙われたか-!?≫

≪歌い出しのタイミング完璧でしたね≫

≪そして続けて、コッペリアの猛攻が始まったー! 端に追い詰めたデビルをとにかく殴る! 心なしか姿が変わっているようだけど、最初あたりしかちゃんと見えていなかったから分かんないなー!≫

≪むしろ肩幅が小さくなりましたね≫

 

巨大化し続けていくと思われていたコッペリアの体格は逆に引き締まった姿となっていた。デビルに勝つために速さを求めて支障がでる部分をそぎ落とした印象を受ける。

 

コッペリアはデビルに蹴りを放ち、拳を穿ち、ありとあらゆる技を駆使して、デビルを攻め続ける。

 

 

 

ブレイブコール!

行かないでよ六等星!日が昇る前に飛び上がれ!

ブレイブコール!

夜の帳よ無力な私のお願いを聞いて!!

 

 

 

≪デビルさんが防戦一方となっています、アルテメット・アイドル、完全に足を止めて倒しに行っていますね。やはり早く決着が付けられなかったのが響きましたか?≫

≪それは無いよ≫

 

 

 

いつか 流星になって永遠に……

 

 

 

コッペリアはすでにステータス上ではデビルを超えていた。それでもレベルアップはまだまだ続く。『ブレイブコール』は元から一番しかない曲で、次のワンフレーズで曲は終わりとなる。

 

だからといって試合が終わるわけでは無い、あとは勝つまでメドレーを歌い続ける。たとえそれが何十時間掛かっても勝つまで。

 

≪デビルって確かに最初から必殺技だぜ! ってイメージあると思うけど、それは出来るだけ速めに倒して被害が出ないようにするためなんだ。だけど――≫

 

 

 

あなたのもとへと……!

 

 

 

アルテが無事に歌いきるほぼ同時、コッペリアはひたすらガードして耐えていたデビルに対して、防御ごとぶち抜く踵落としを繰り出した。

 

≪――元々、デビルは超々持久型のヒーローだよ≫

 

踵落としは脚を振り下ろす技である。

 

その振り下ろされるまでの僅かな“間”。デビルはそこで初めて動き出した。

 

小さなステップで真横へとずれて身体を縦にする。コッペリアの踵が空振りとなり、地面へと接触するよりも速く、デビルはコッペリアの顔面に強烈なコークスクリューブローを繰り出した。

 

≪悪魔は……本当に強いんだ≫

 

――雷の悪魔になる前の少年は、この秋葉でずっと戦い続けてきた。常に自分よりも大きく強く、倒す事は叶わず、腕を振るうだけで簡単に人の命をもぎ取れる存在と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!悪逆!

 

デビルは追撃として人間で言うところの鳩尾部分に掌底を食らわせて吹き飛ばす。右腕に迸る電気(イナズマ)、その形はまるで蝙蝠の羽のように見えた。

 

!壊滅!

 

「っ!? 行ってコッペリア!!」

 

アルテの指示に従って、コッペリア、即座に体勢を立て直して音越えの速度にて距離を詰める。

 

――それを悪魔は、光の速度で迎え撃つ。

 

!粉砕!

 

 

 

「シックスキック」

 

 

 

 

シィイイイイイイイイイイックス!!

 

 

 

落雷そのものの突き蹴り六連打がコッペリアに直撃。音の壁を突き破りながら百メートル以上ある反対側の端まで吹き飛んだ。バリアに直撃したコッペリアは粉々に砕け散る。

 

バリアは見事、観客の安全を守ったものの遅れて聞こえて爆音とドームそのものが揺れたことで、観客席から沢山の悲鳴があがる。

 

「きゃっ!?」

 

アルテは爆風にさらされて体勢を崩し尻餅をついた。完全に腰が抜けてしまって立つことが出来ない、アルテは恐る恐るとした様子でゆっくりとデビルの方に視線を向ける。

 

デビルは威風堂々とした姿でたち、たった一言アルテに問うた。

 

「――――どうする?」

 

続けるのか、降参するのか、アルテはショックから回復できていない思考で考える。

 

デビルと打ち合えた、さらには追い詰めることも出来た。最後に反撃を食らったものの自分の強さをアピールするには十分すぎる成果だ。アイドルとしても、魔装少女としてもアピールは大成功と言える。なら怪我をする前に引くのもプロであると、アルテメット・アイドルはそう判断する。

 

――これ以上無理したら、お姉ちゃんに約束破ったって怒られちゃうよね。でも……負けるのは嫌だ!

 

だが、“惹彼琉ひとみ”個人の想いが勝ってしまう。善戦したんじゃダメなんだ。デビルという地球最強の存在を倒して、自分はようやく文字通りアルテメット・アイドルとして盤石な地位を得る。

 

――勝てば、ファンも沢山増えて、もっともっと稼げる――そうしたら……今度こそずっとお姉ちゃんと居られるんだ!

 

「ま、まだまだいくよ~!!」

 

アルテは立ち上がって、自身の魔道具であるマイクを出現させて叫んだ。その諦めない姿勢に静かになっていた会場から、アルテを応援する声が聞こえてきて、徐々に大きくなっていきついには大歓声へと変わる。

 

――そんな中、アルテはデビルに勝てる方法を必死に探す。

 

たしかに『ブレイブコール』より再生数が多い曲や、売れた曲はいくつかある。だけど『ブレイブコール』と比べれば、聞いてくれる層が限られるため、先ほどよりもレベルアップすることは不可能だと判断する。

 

『ブレイブコール』をまた歌ってもそうだ。歌い方やメロディを変えたとしても、またそれかと意識を逸らしてしまう人は少なくない。それにメロディやタイミングをデビルに知られてしまった以上、意表を突くことは絶対に出来ないであろう。

 

立った。マイクを握った、みんなが応援してくれる。諦めるつもりは毛頭ない。最後まで歌い切る覚悟はある。

 

ーーそれでも、わたしは勝てない。

 

≪……動きがありませんね?≫

≪デビルはアルテメット・アイドルが歌わない限り動かないだろうし……って動いているやん!≫

≪はい、アルテメット・アイドルの方へとゆっくりと進み始めました。何をする気でしょうか?≫

 

「な、なに?」

 

アルテの目の前まで来たデビルは、戸惑うアルテをしばらく見つめた後、小さくため息を吐いて手を頭に乗せた。

 

「……強いな」

「ふえ?」

 

デビルはそれだけ言って、アルテに背を向けて入場口へと向かって歩き出した。誰もが混乱する中、デビルは、そのまま会場を後にした。

 

≪デビルさーん!? ちょっと-!?≫

≪帰っちゃいましたね……≫

≪え? これ試合的にどうなんの?≫

 

残されたアルテは、唖然としながら自分の頭に手を置いた。

 

悪魔(デビル)の手はブレイダー・スーツに覆われていることもあってか固く、温もりのようなものは無かった。だけどアルテはどうしてか頭に残った感触が、姉に撫でられた時と重なった。

 

 

 

――『一回戦。デビルの棄権により、勝者アルテメット・アイドル』

 




これにて第一試合は終了。次はスレ回となります。

ちょっとした小話。必殺技を放つ前のデビルの一連の動きは、最近見た仲間の戦い方が咄嗟に出たものです。また蹴り技にしたのはコッペリアの手が長いから、腕だとリーチ的に不利と判断したからです。多分速度差的にパンチでもよかった()。

では、また明日の正午に。


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戦争決闘五番勝負スレパート11&一般人スレ

この話は全話と同時予約投稿なためお礼の方はまた後日お伝えしたいと思います。
※先んじてお気に入り2000件突破しました本当にありがとうございます。

スレオンリーとのこともあって結構短めとなっていますが、それでも楽しんで頂けたら幸いです。

今回、透明文字が使用されいますので、内容が気になる方は誤字報告や範囲選択、メモ帳などにコピペしてみてもらえたら幸いです。


487:悪魔

すまん、負けたわ。

 

488:天使

(自分から)負けましたね……。

まあ、とことん悪魔らしいけどねー。むしろ僕としてはアイドルをぶん殴りに行かなかったのは正直ホッとしてる。

 

489:七色

いやいやいや! どう考えたってあれ悪魔先輩の勝ちじゃないっすか!? 俺発表聞いて三度見しましたよ!?

 

490:天使

まーね。一応ルールとしては相手を戦闘不能、もしくは降参させたらって感じだから、なんも言わずに会場出て行ったデビルは降参扱いと処理されたみたい。

 

491:七色

いやでも……悪魔先輩はそれでいいんっすか?

 

492:悪魔

ああ。言い訳はしないさ。どこか舐めている自分がいたんだろう。終わったと思ったが立ち上がった。アルテは強かったよ。

 

493:天使

かっくいいねー。それインタビューと配信でいうからね。

 

494:悪魔

好きにしろ。変に盛るなよ?

 

495:天使

ちっ(投げキッス)。

ちなみに書き込み見る限りでは、悪魔の棄権は解釈通りって好意的に見られてるのが多いよ。日頃の行いだねー。

僕的にも一安心だ。

 

496:七色

まあ、悪魔先輩が納得してるなら俺は口出ししないっす。お疲れ様でした!

 

497:天使

さて! 試合も終わったし片付けの準備入りますか!

 

498:悪魔

気持ちは分からんでもないが、またあと四試合残ってるからな。

 

499:天使

やだーー!!! 平和に終わったじゃーーん!! 今ならまだドッキリイベントでしたーっていけるってーー!!

 

500:七色

残りの試合もこんな感じにな……らないっすよね……。

 

501:天使

残ってる面子がねー。それに協会側も三回負けると『アーマード』の指示のもと協会の無条件降伏テコ入れが始まるから、あっちも本気でやってくると思う。むしろ一回戦が平和だったことが奇跡だよ。

 

502:七色

俺たちが負けた場合は特になし。数年は静観に徹するていうのが何回聞いても不公平な気がするっす。

 

503:正義

後ろめたいことがある協会はチャレンジャーで、俺たちは仕方なく説得されたチャンピオンさ。元からの立場が公平ではないからな。ナハハ

 

504:天使

げぇ。正義。裏であれこれするの忙しいからスレには顔出さないんじゃなかったの?

 

505:正義

自分の出番まで暇になったんだよ。人がいなさそうだから顔出してやったぜ。

 

506:天使

誰のせいだと思ってんねん! って言いたいことだけど今回は一概に正義だけがって話じゃないからねー。

 

507:正義

ナハハ。俺は今回はあくまで手伝うだけだぜ。じゃなきゃこんなお行儀よくしているかよ。

 

508:天使

そうだねー……んで? 誰の手伝いなの?

 

509:正義

お前は誰だと思ってる?

 

510:七色

……えっと? 二人ともなんの話を?

 

511:正義

これでも苦労してるんだぜ? 帳尻合わせは苦手なのによ。まっ俺も便乗した口だから人のこと言えないが。

 

512:天使

……まぁいいけどねー。ここまできたら今更だし。多分これは正義に聞くやつじゃないだろうし。

 

513:七色

なんか賢そうなやりとりしてるっす……。

 

514:天使

七色、実を言うと今のはもの凄くどうでもいいことだけど、やたら意味深な事を言う悪の幹部会話ごっこだから気にしなくて良いよ。

 

515:正義

ナハハ。

 

516:七色

絶対嘘っすよね!?

 

517:天使

そういえば二回戦って失楽園が出ることになってるけど、本人来るの?

 

518:正義

その予定はねぇよ。まっ棄権だな。これで二連敗になるぜ。

 

519:天使

追い詰められてるじゃーん。

ていうか悪魔いま何してるか分かる?

 

520:七色

そういえば、正義先輩と入れ替わりで居なくなったっすね?

 

521:正義

悪魔なら楽屋に乗り込んできた対戦相手のアルテメット・アイドルに連れて行かれたぜ。なんでも姉に見合いさせるためとかでな。

 

522:天使

いや草。絶対後で相談スレ立てるでしょ。七色の魂を賭けてもいいよ。

 

523:七色

そこは自分の魂を賭けてくださいっす……。

失楽園先輩、なんだかんだでまだ会った事無いんすよね。どういう人なんっすか?

 

524:天使

グラウンドの補修も終わったから、不戦敗確定とはいえ実況にそろそろ戻るよ。

 

525:失楽園

ちょっと? わたくしを除け者にしようだなんてチェリーを散らかしてやりましょうか?

 

526:天使

だから一言だけいうなら、教育の悪さだけは第一世代随一だねー。

 

527:天使

……ん!?

 

528:七色

教育に悪いのは先輩全員に言えそうっすけど、随一っすか。

というかスレ一個抜けてるっすけど、バグかなんかっす?

 

529:正義

ナハハ……たくっ、来るなら来るで早く連絡しろよ計画狂ったじゃねぇか。

あー面倒くせぇな。

 

530:失楽園

ベッドの上でもなんでも運動の前には準備が必要でしょ? すぐに本番しろだなんて、あんたちゃんと相手のこと満足させられてんの? どうせ上じゃないと気が済まないタイプなんだから味わって食べることを身につけないと相手を満足させられないわよ? 魔羅も菊門もでかいんだから心も同じぐらいにでっかく欲しいわね

 

531:天使

書いてる! 見えないけど絶対碌でもないこと書いてる! え? 配信できるこれ!?

 

532:正義

そんなんでBANされたら『アーマードchannel』なんぞ、とっくの昔に無くなってる。まっ、放送事故確定ってやつだがな。

 

533:失楽園

ーーさて! 久しぶりの地球よ。楽しく行きましょうか! 正義、天使どっちでも良いわ! 秋葉のラブホ予約してちょうだい! もちろんデリヘルも、男でも女でもどっちでもいいわよ!

 

534:天使

自分でやって。

 

535:七色

なるほど……教育に悪い……なるほど!?

 

536:正義

七色、間違ってもお前の女に会わせない方がいいぞ。こいつは他人同士のプレイを見るのも好きだからその気にさせるのが上手い。絡まれるとクソうぜぇ。

 

537:七色

……えぇ。

 

 

+++

 

787:名無しの観客

たくしゃんひかってしゅごぁったねぇ

 

788:名無しの観客

試合終わってから10分経ってんのにまだ幼児退行してるやつおるやん。

 

789:名無しの観客

気持ちはわかる。まじで想像以上の戦いだった。神々の戦いってああいうんだなってワイも頭真っ白になったもん。

 

790:名無しの観客

正直そんな期待してなかったけどアルテメット・アイドルってあんなに強かったんやね。おかげで地上最強のステゴロ試合を見れたわ。

歌も良かったしこれはアルバム買いですね。

 

791:名無しの観客

ブレイブコールは3dアルバム「アイドルの愛」に入ってるからぜひ買ってくれ。アルテちゃんの歌はああ言ったのが多いからアイドルそんなに興味なくてもいいのでとにかく歌を聴いて欲しい。

 

792:名無しの観客

布教ニキ助かる。配信で聞いてガチハマりした。アイドルの歌唱力じゃねえっすよ。

 

793:名無しの観客

今回ので魔装少女のアイドルの見方変わったな。と言ってもアルテちゃんが特別なのかもしれんが。

 

794:名無しの観客

本人が戦えるってわけじゃないけど、魔装少女でデビルと渡り合えるのって殆ど居ないんじゃないのか? これはまた強さランキングスレが盛り上がりますわ。

 

795:名無しの観客

お前らそうやって持ち上げるけど、結局は瞬殺だったじゃんか。確かに歌は最高でめっちゃ盛り上がったし、めっちゃ可愛かったし、めっちゃ強かったけど、精々健闘止まりだろ。

本来は戦闘向けの魔装少女じゃないのにマジで頑張ったと思うけど、あんなんじゃ赤布施ぐらいしか出したくないなぁ。

796:名無しの観客

>>795 アンチかと思ったら普通にベタ褒めだった。

ちなみにデビルの行動が最後まで解釈一致しとってワイ落涙しとるんだが、気持ち分かるやつおる?

 

797:名無しの観客

>>796 お前は俺か

そうなんだよ。アルテメット・アイドルとの最初のやりとりとか、女の子を殴らないとか、去り際とかブレイダー・デビルだって気持ちがヤバすぎて尊い。

 

798:名無しの観客

でも、デビルって昔魔装少女と普通に戦ってなかった?

 

799:名無しの観客

長文注意、あくまでわいの考察だけど興味があるなら見てって。

 

ブレイダー・デビルは、戦士に対しては礼儀として誰であろうと真面目に戦うが、今回はアイドルということもあって、少しだけ扱いが特殊になっていた可能性がある。そもそもアルテメット・アイドルはコッペリアが無ければ戦う事が出来ないようなので、アンギルがデビルは長期戦タイプと言ったように、何度復活してもコッペリアを倒しまくって、相手の心が折れるか魔力切れで勝とうしてたと思われる。

 

長文投稿すまそ。

 

800:名無しの観客

アルテメット・アイドル本人に戦闘能力はないから直接狙わなかったのね。

 

801:名無しの観客

デビルが戦ったことある魔装少女、調べる感じ脳筋が多いからなぁ……。

 

802:名無しの観客

でも試合を放棄したのは謎なんだよな。デビルらしいと思うし、逆にらしくないとも思う。

 

803:名無しの観客

俺はコッペリアを壊してしまえば大人しく負けを認めると思ったけど、アルテメット・アイドル魔力切れ起こしても諦めなさそうに見えて、最終的に拳を振るわないと勝てないと判断したから引いた説を押したい。

 

804:名無しの観客

目の前に立っていたのはアイドルであり、立派な戦士だったわけか……。

 

805:名無しの観客

戦士(魔装少女)。案外アルテメット・アイドルは対デビルとして最良だったんだろうな。普通に戦っても打ち合えるほどには強いし、デビルは直接本人を狙わないだろうし、この組み合わせが偶然じゃなかったら考えた奴、まじ天才。

 

806:名無しの観客

……あの、これ言って良いのか分かんないけど、素顔がね、とてもアウトローで、カタギじゃない感が凄くて、ヤバイぐらい興奮した。

 

807:名無しの観客

元々、率先して公表しなかったってだけで、デビルは顔出しOKだったって聞いて驚いた。中身も普通に柄悪くて、見た目全然変身負けしてなくて草

 

808:名無しの観客

顔の傷が性癖すぎる。今時こんなワルで格好良い男がいるなんて、絶滅危惧種で保護しないといけないんじゃないですか偉い人!!

 

809:名無しの観客

保護いらないほど強いので大丈夫です。

 

810:名無しの観客

そのデビルなんだけど、ブレイダーになる前は秋葉に住んでいて、生身でグレムリンと戦って追い払っていたってマジ?

 

811:名無しの観客

デビルが初めて目撃されたのって秋葉の近くだったし、なんでも現地組が地元民から聞き入れた情報らしい。高校生ぐらいの年でグレムリンを街の外へと追い出していたって言ってた。だから秋葉にずっと居た人たちはデビルのことよく知ってるみたい。

 

812:名無しの観客

見捨てられたどうのこうので悪魔がヒーローになったってそういう……ヒーローが過ぎる。

 

813:名無しの観客

行くところなくて秋葉に残らざるを得なかった人に悪いけど、見捨てられたおかげで、俺の生きがいが生まれて生きていけてるんだよな。

 

814:名無しの観客

>>813

これは生き生きと生きてますわ。

 

815:名無しの観客

というか、その話聞くと秋葉ってブレイダー側のホームグラウンドってことじゃね? そもそも協会がどのつら下げて秋葉でって思ったけど、アーマード経由だったのか。

 

816:名無しの観客

結局、カオスの戦争放送ってデモンストレーションとかだったんかな?

 

817:名無しの観客

忘れてないか? 今回の件ジャスティス絡んでる。

 

818:名無しの観客

もうそれだけで、安心できないってわかんね。アンギルのあのイヤイヤ感もガチやろ。二回戦から何かあると身構えた方が絶対いい。

 

819:名無しの観客

二回戦

ブレイダー・エデンVSエリアル・アイス

 

820:名無しの観客

協会の方ガチメタ張ってきてるやん。必死か。

 

821:名無しの観客

と言っても、エデン出てこなくて不戦敗になりそう、始まる前にアンギルもそれっぽいこと仄めかしていたし。

 

822:名無しの観客

残当。あの下ネタオカマ全世界で中継されてんのに出せるわけないだろ。

 

823:名無しの観客

ごめん。ちょっと話戻したいんだけど、秋葉に見たことないデビルグッズがあるんだけど、これってもしかして、ココだけしか買えないやつでは?

 

824:名無しの観客

はやく見せろよこら。場合によっては俺も(財布の中身が)死ぬぞ!?

 

 

――スレは、二回戦が始まるまで秋葉限定のブレイダーグッズでしばらく盛り上がることとなった。




こいつはひでぇや()

これにて、連続更新は一旦終了としまして、また一、二週間後を目処に更新したいと思います。次回はメインとなる奈落視点となるので、楽しんで頂けたら幸いです。

次回予告。
いつものようにまたたくさん新キャラでます。


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奈落

感想、お気に入り登録、評価、ここすき、誤字報告。本当にありがとうございます!
お気に入りが2000件を超えたということで、これからも頑張って行きたいと思います。

失楽園を楽しみにしてくれている方が多いと思われますが、今回はメインとなる奈落視点となっておりますので、楽しんで頂けたら幸いです。

今回、アビスの必殺技演出を「めど(激熱西方歌詞姉貴)」さんに作って頂きました。作者の腕では到底実現不可能だったもので、本当に凄いので見てください。

※間違って投稿してしまったので、そのまま出すことにしました。


 

 奈落:つまりボクは対戦相手を指名できるんだね?

 正義:ああ、最終戦、お前は自分で相手を選べるようにしておいたぜ。

 奈落:でも三勝しても、されても試合は終わっちゃうんでしょ?

 正義:その帳尻合わせはしている。

 正義:もっとも、本番やってみんとわからんがな。

 正義:理想は悪魔が負けることだが、どうなるかね。

 奈落:彼が黒星になるのは非現実的な気がするよ。

 正義:案外あるかもしれんぞ?

 正義:目の前の事を優先しすぎるって評価したのはお前だぜ?

 正義:まっ、お相手さん次第だろうがな。

 正義:二回戦の黒星はほぼ確定。

 正義:混沌の勝ち負けで、俺が白黒付ければ晴れてリレーは繋がれるってな。

 奈落:怖い話だね。

 正義:戦争だからな。それでどうする?

 奈落:甘えさせて貰うよ。

 奈落:当日、ボクは五番勝負が開始される直前に第3支部に行く

 奈落:いちど見てみないとだけど、もしも間違いでないのなら

 奈落:聖女を燃やそう

 

 

+++

 

『魔装少女協会第3支部』を一言で表すならば“宗教団体”。属する魔装少女を聖女として扱い、奉仕する。ネットの海を中心に布教活動を行っており、全世界に信者が数百万人いるとされている。ただ魔装少女協会の支部であるため宗教法人として認められておらず、非公式な呼び名として、信者たちは『魔装少女教』或いは『第3支部』と呼んでいる。

 

第3支部は観光目的とした商売も行っているため、敷地内の出入りは基本的に自由となっている。奈落は無料で配付されているパンフレット。その中にある第3支部敷地内の地図を見て悩んでいた。

 

「分かってはいたけどね……」

 

大学並の広さと施設数を誇る第3支部に、奈落はどうしたもんかと悩ませる。別段迷子になったわけではない。目的の人物がいる場所はおおよそ把握できているのだが、そこまでのルートがパンフレットに記載されていないのだ。

 

ゴールが見える迷路であるから、時間を掛ければ何れはたどり付けはするだろうが。今回は戦争決闘五番勝負にて自分の番が来るまでに目的の人物――第三支部のリーダーである魔装少女に出会わないと行けなかった。

 

「与えられた機会を逃すわけには行かない……ひとりでどうにかしたかったけど仕方ないか」

 

奈落はできれば頼りたくなかった“協力者”との待ち合わせ場所へと向かう。

 

第3支部内部を一言で表すなら、西洋の宗教施設が敷き詰められた土地である。

 

ゴシック式からロマネスク式まで、第3支部の建物は数百年前の西洋宗教建築を意識してデザインされている、ただ勿論のこと使用されている建築技術は日本のものであり、国の建築法にきちんと遵守している作りとなっているためか、外見だけでも古き造形の中に時代錯誤差を感じる所は少なくなく、地球のものではない異世界の建築物感が出ている。

 

「ここかな?」

 

まるでイギリスにある寺院風の施設。観光客や信者たち向けに建てられた食事処。壁際に設置されている幾つもの企業店舗から料理を買って、数百席はある飲食コーナーにて食べるフードコート形式となっている。

 

奈落は人混みのなかを見回す。奈落の眼には確実に百人は居るであろう施設内は火の海に見えており、覚えのある“炎”の方へと向かう。その途中で相手側も奈落に気付き立ち上がった。

 

「――奈落様。こちらでございます」

 

黒ローブを着て両目を黒いアイマスクで隠す、見て明らかな魔装少女こそ奈落の協力者であった。多様性にとんだ都会と言えど、魔装少女らしい格好、それも黒系となれば目立つことこの上ないのだが、周囲の人々は彼女を認識してないかのように振るまっている。

 

「こうやって直接会うのはハニー・ネイルの一件以来だね。変わりない?」

「はい。私たちは平和で充実した生活を送らせて貰っています。これも全て奈落様のおかげです」

「いつも言っているけど、もうちょっと楽にしてもいいんだよ?」

「いいえ。それはできません。私たちは見えざるモノ、聞かざるモノ、言わざるモノ。『元懲罰部隊』は奈落様に忠誠を誓った魔装少女です。(こうべ)を垂れるべき忠誠の主には、それなりの態度を」

「オルクスは変わらないね」

 

アビスが現れてから魔装少女は普通の人間へと戻り、幾人も犯罪者として裁かれてきた。その影響下で協会側の不正行為も明るみとなり、スポンサーや支援者からの批判の声もあがりはじめたことに上層部は危機感を抱き、幾つかの対策案が実行された。

 

その中にあったのが『懲罰部隊設立計画』。

 

「二人は元気かい?」

「はい、お変わりないです。ドゥーエは嵌っているゲームで最高ランクになれたと喜んでいました。トーレは現実に飽き足らず、ゲームでも農業を行っています」

「それなら良かったよ」

 

魔装少女は魔装少女を殺せる仕様を利用し、アビスの標的になりえそうな且つ協会の指示に従わない魔装少女を秘密裏に暗殺する部隊の設立。フードの少女――サイレント・オルクスはそんな計画によって育成された『元懲罰部隊』の魔装少女の一人である。

 

『懲罰部隊設立計画』は『裏案件』として扱われ、『アーマード』の介入によって殺人が行われる前に阻止、この計画によって暗殺技術を教育された魔装少女の三人を奈落が保護することになる。彼女たちは元から天涯孤独の身ということもあって事件後に山奥の一軒家に住むことになり、主に情報面で奈落の活動に協力している。

 

もっとも、奈落本人はできれば自分のことなんて忘れて、普通に暮らして欲しいと常日頃願っているが三人の過去を考えれば、下手に自立を促進させると不幸になることは明白で、助けた責任を取れと仲間内から言われたこともあって、歪んではいるものの保護者に向ける情のようなものという解釈で彼女たちの忠誠を受け取っている状況である。

 

「…………」

「どうかしたのかい?」

「はい。奈落様がこうして頼ってくれることが嬉しいです。もしかしたら一人でやろうと来ない可能性を憂いていました」

「……あはは」

 

時間があったら、ひとりで目的の人物を探そうと思っていただけに奈落は渇いた笑いで誤魔化すことしかできなかった。

 

「……さて、時間が無いからね。そろそろ移動しようか」

「はい。どこまでも付いていきます」

 

+++

 

フードコートを出た奈落たちは歩きながら話を続ける。近年、忌避感が強くて着るものが少なくなった黒系の衣装に身を包んでいる二人、オルクスに至っては見てすぐに魔装少女と分かるローブ姿なのだが、行き交う人々誰しも二人に視線を向けることは無かった。

 

「ひとつ、質問することをお許しください」

「そう畏まらなくてもなんでも聞いて」

「はい、今回の対象は、この第3支部のリーダー。『シスター・イースター』とお聞きしています。その理由は?」

 

奈落の行いは、なんであれ付き従うオルクスが理由を尋ねるのは珍しいことであった。それも仕方ないかと質問をされた奈落は思う。なにせ今回の魔装少女は、あまりにも異質なのだから。

 

「――〈死者蘇生〉の『固有魔法』を持つ魔装少女。ただ表で魔法を披露したことはなく、信者の方々から零される情報に誰しもが疑惑的ではあります。私たちも正直、信じることができていません。奈落様は語られる彼女の力が詐欺だとお考えです?」

「……ボクの瞳は、人の心を炎として捉えることができる。その“心”っていうのはボクも確定してこれっては言えないんだけどね。言葉を換えれば“魂”だと思うんだ」

 

奈落は立ち止まって空を見上げる。天気予報では雲一つない晴天あって、今日は綺麗な青空が広がっている。

 

――だが、奈落はブレイダーとなってから、そんな空の色を忘れてしまっていた。

 

「このスキル()を得てからボクは人が死んだ後どうなるかを知った」

 

――空に見えるのは何万何億の色が重なり合った炎。ぽつぽつと地上から火の玉が上へと昇っていき、混ざっていく。そんな空を埋め尽くす炎を奈落は『三途の川』と呼んでいた

 

「長い時間を掛けて培ってきた炎は天に昇り時間を掛けて鎮火していく。そして、まっさらとなった核はまた地上へと降り、物質生命体の生の息吹を与える。それがこの世界で定められた“魂”と呼ぶべきもののシステム。ボクだけしか見えないから証明なんてできないけどね」

「はい、私たちは信じています……。シスター・イースターの魔法は本物だと?」

「炎を鎮火しきれなかった核が地上へと降るのは、そう珍しいことじゃないけど、ここ第3支部に定期的に、まるで天昇るときと同じぐらい燃え盛る炎が『三途の川』から離れて降るのを何度も確認しているんだ」

 

見える奈落だけが分かる異常事態が、この『第3支部』で何度も確認された。

 

「だから、それを確かめに行くから協力して欲しい」

「はい。わかりました」

 

――嘘を付く、炎が降る原因を確かめるのも理由のひとつであるが、奈落にとって本命はその後。降った炎が再度天に昇っていく時に見えた異常事態の究明であった。しかし、口にすることはない。

 

――もしも自分が考えている通りなら、人に聞かせられるものではないからだ。

 

出入り口からもっとも遠い場所に配置されている施設。パンフレットには“拝殿”と書かれているゴシック式の建築物である。元となった大聖堂と比べて小さめではあるが、窓全てが魔装少女が描かれているステンドグラス製と圧巻の光景である。それを目的に来る観光客も少なくなく、立ち止まって拝殿の写真を撮っている人が、とにかく多い。

 

「やりたいほうだいです」

 

オルクスの率直な感想に奈落は苦笑する。実際、この建物だけではなくモチーフとなった建築物がある国から抗議の声が何度も上がっていたりする。

 

「この建物にシスター・イースターが?」

「いいえ。私たちが調べた結果、ここにはシスター・イースターは居ません。ここは“入り口”です」

 

現在はオルクスしか同伴していないが、この数週間『元懲罰部隊』は三人総出で第3支部のことを調査しており、シスター・イースターが居る場所、そしてそこへと繋がるルートを探っていた。そして『元懲罰部隊』が、もっとも可能性が高いと結論付けた建物こそ、この“拝殿”だった。

 

拝殿内に入ると電子機器が目立つ受付所があり、その両隣に奥へと進める扉があった、そこに立ち塞がるスーツ姿の警備員を“素通り”して中へと入る。

 

拝殿内部は中央に円形の祭壇があり、それを囲うようにしてチャペルベンチが均等に並んでいる。柱や壁には芸術的な造形が施されている一方で、至る所に祭壇を映すためのカメラや照明があり、奈落は巨大なセットみたいだと感想を抱いた。

 

「この拝殿は、第3支部に属する魔装少女と信者たちの交流を行っている施設みたいです」

「聖女たちと直接出会う聖域と言ったところかな?」

「はい、そしてシスター・イースターの元へと至る道が、ここです」

 

オルクスは舞台へと上がる。奈落もそれに続き、すぐにオルクスが言う“道”に気がついた。

 

「この舞台、(せり)が付いてるんだ」

「はい。ここから床下へと行く事ができます。ネットにてメンバー限定の魔装少女と信者たちによる交流会を確認し、舞台の構造に気付きました。その後、拝殿の外周を数日間監視を行った所、魔装少女たちの外での出入りが無かったため、恐らく床下から外へと往き来する道があると予想されます」

 

オルクスは、ここで一旦話を切って、顔を俯かせる。

 

「しかし、調査不足が原因で確証には至らず、シスター・イースターが本当に居るのかどうかさえも不明です……申し訳ありません」

「そんなことはないよ。時間が無い中で沢山のことを調べてくれた。それに、これ以上踏み込んだら君たちに危険が及ぶ可能性があったからね。引き際も含めて完璧だよ」

「はい……褒めて貰えて嬉しいです」

 

落ち込んでいたオルクスであったが、奈落に褒められたことですぐに回復する。オルクスが表に出した反応は唇を小さく緩ませるぐらいだったが、奈落の眼には振るわれる犬の尻尾並みに揺らめく炎が見えた。

 

『元懲罰部隊』は、魔装少女の暗殺を目的として用意された魔装少女である故に、真正面からの戦闘はそもそも苦手であり、不殺を意識すると途端にほとんど戦う事ができなくなる。なので彼女たちが魔装少女と戦う危険性を考えて、無茶をしなかった事が奈落は純粋に嬉しかった。

 

 

「奈落様」

「うん、よろしく」

 

差し出された手を奈落は掴む。しかし、舞台の床下――“奈落”へ自分(奈落)が行く事になるなんてと、奈落は陳腐な駄洒落みたいだと、笑みを零した。

 

――今度、この事をスレに書き込もうかな?

 

「ふっ」

 

そう考えてしまった自分に気がついて、ついには頬を緩ませた。

 

「はい。〈魔法展開(スペル):新月遊泳〉」

 

オルクスが暗殺目的で秘密裏に開発された魔法を唱えると、二人は床をすり抜けていき、床下(奈落)へと移動する。役者が転げ落ちれば大怪我をするほどの高さがあるも、なんなく着地。

 

「まさに舞台裏って感じだね」

「はい。先導します。付いてきてください」

「頼むよ」

 

オルクスを先頭に移動を開始する。床下(奈落)を抜けると、そこは絨毯が敷き詰められた長い廊下へとなっていた。

 

「私たちが調査できたのはここまでです、これから先は未知となりますのでご注意ください」

「わかったよ」

 

廊下は完全な一本道であり、二人はとにかく奥へと進み続ける。

 

「――声がするね」

「はい。どうします?」

「ちょっとだけ聞こう」

 

廊下の半分ほど進むと、壁側にスタッフと書かれた扉があった。その中から二人が世間話をする声が聞こえており、情報収集も兼ねて、聞き耳をたてる。

 

「――なにもしてない本部に稼いだ金を渡さなきゃならんのはやっぱ納得できねぇよな。いい加減、この第3支部は独立して宗教法人にでもするべきだと思うんだがね」

「それには賛成だけど、日本で居場所がなくなるぞ? ただでさえ本部と折り合いが悪くて空気が最悪だって言うのに」

「つっても、協会ももう終わりだろ? 忌々しいとしか思っていなかったがブレイダーもこういう時に役に立つ。なんならとっととミサイルでも撃って本部の連中を皆殺しにしてほしいものだ」

「まっ、そうだな……魔装少女ってなんで人を殺せないんだろうな。できたらもっとやりようはあったのに」

 

話の内容は『第3支部』の現状、そして協会側の愚痴を含めた好き勝手な雑談だった。その内容は暴力的なもので宗教独特の規律感が薄く俗物的な印象を受ける。信仰か金、どちらが大切かと問われれば間違いなく後者を選ぶ者たちの会話といっても過言では無かった。

 

「表で働く人たちは宗教家に相応しい揺らめきを持つ炎だったけど、裏に潜む彼らはどうなんだろうね」

「奈落様、情報収集の許可を」

「ボクは気にしていないよ。だから行こうか」

 

炎が荒ぶり始めたオルクスを宥め、奈落は先に進むことにする。長い一本道を終えた先は地上へと続く階段があり、登りきった後にある扉の中に入る。

 

「ここは……塔?」

「いいえ、展望台の内部だと思われます」

 

奈落たちが出た場所は、第3支部内に建てられている展望台の内部だった。地上からエレベーターで最上階まであがると第3支部全体を見渡せる観光客用に作られた建物であり、本来は内部に入る事はできない。

 

「この道で正解だったみたいだね」

「はい。そして進む先はあちらです」

 

展望台の中には、奈落たちが昇ってきたものとは別の降りの階段があった。吹き抜けた空間を見上げると、数メートルは及ぶステンドグラスには祈るシスター服の少女が描かれている。この人物こそ自分たちが目的の魔装少女であるシスター・イースターであろう

 

「それで? 君はただの監視役なのかい?」

 

――奈落はステンドグラスを見上げて問い掛ける。

 

「うっわ最悪。ここにずっと居るだけの簡単なお仕事だったのに侵入者だなんて」

 

ステンドグラスに背中を預けて、スマホを弄りながら奈落たちを見下ろすのは、全体的にメカニカルなアーマーで身を包み背中に両翼を持つ魔装少女。

 

彼女の魔装に貼られているエンブレムを見て、奈落は正体を把握する。

 

「――『北陸支部』の魔装少女」

 

『協会』の一部でありながら、事実上の独立組織として活動を行っている地方支部が存在する。それこそが『北陸支部』、魔装少女が不足している地域を中心に依頼を請け負い、魔装少女たちを派遣する事を生業としており、そんな『北陸支部』に属する魔装少女たちは個々専用のエンブレムを持っているのが特徴である。

 

「そっちの女は、このわたしと同じ魔装少女? なんの魔法を使ってるか知らないけど、このわたし、『アルバトロス』の索敵能力からはノーエスケープだ!」

 

 

――怠け者の阿呆鳥――

ランカー10 アルバトロス

 

 

【挿絵表示】

 

 

「『北陸支部』の魔装少女が、どうして第3支部に?」

「そんなの依頼に決まってるでしょ! 何もなければ、ここを見張っているだけで日給三万円なんて他じゃ考えられない。でも、そういう時に限って侵入者だなんてほんとノーラッキー!」

「そういうんじゃなくて、『北陸支部』は『協会』関係の依頼を受けるのは規則違反になるよね?」

「ギクッ! な、なんで侵入者が知ってるのよ! 表だって言っていないやつなのに!?」

 

図星を突かれたアルバトロスは焦りのあまり罪を認める。『北陸支部』は幾つかの理由で『協会』に関連するあらゆる依頼を受けてはいけないという規則が存在する。もしも破ってしまった場合、さらに故意的であればなおさら、重いペナルティを受けることになる。

 

「……見逃してくれたら、この事は黙っててもいいよ?」

「よろしいのです?」

「あくまで『北陸支部』の事情だからね。彼女を燃やす理由にはならないよ」

「そ、そうは行かないの! もしも素通りさせたのがバレたらノーマネーになるだけじゃすまないんだから! 死にはしないけどもの凄く痛い思いしたくなかったら大人しくお縄につけ!」

「ちゃんと仕事をすることは偉いと思うけど、ごめんね。今は急いでいるから褒めてあげることはできないよ」

 

奈落は、こうなったら生身でいる意味はないと『B.S.F』を取り出した。

 

――――≪The abyss gate is opened≫――――

 

「変身」

 

――――≪Reach out!≫――――

 

 

「……な、な、ななんんでアビスがここに!?」

 

アルバトロスは侵入者の正体が、魔装少女絶対燃やすマンことブレイダー・アビスである事を知って盛大に動揺する。

 

「くそっ! ガチノーラッキー!!」

 

仲間内から“そのままの意味で阿呆鳥”と散々な評価を受けているアルバトロスは、もう倒すしかないじゃないと謎の即決。空を自在に飛行できる装備型の『固有魔法』、〈ジェットバード〉を起動、両翼から空気を噴射させて飛行を開始する。

 

「あんたが空中戦苦手なのは、このわたしでも知ってるんだ! ずるいと言わないでよね!」

 

身体を傾けて、へそを壁際へと向けたアルバトロスは円形の展望台を周回するように飛ぶ。彼女の得意攻撃は、上空からの魔力弾による爆撃。安全な上空からアビスが参ったと言わせる、あるいは『第3支部』からの増援が来るまで持久戦に持ち込むつもりで攻撃を開始……しようとした。

 

「――か、か、火事だあああああああああ!?」

 

――地上は黒い炎に包まれており、アルバトロスは思わず叫んだ。彼女の不幸は、アビスには自分の番までにシスター・イースターに会わなければいけないというタイムリミットがあったこと。

 

「……神話として謳われる。世界樹の天辺に住まう雄鶏を殺すためだけの炎の杖。それにあやかり即席の技にこの名を付けよう」

 

 

 

 

.Θ  Θ  Θ

. ──THE END──

. ──THE END──

. ──THE END──

.◎ ◎ ◎

.◎ ◎ ◎

.◎ ◎ ◎

 

 

 

右腕三つの眼が開眼すると周辺の炎が右手に吸い寄せられて収束する。

 

「レヴァーテイン・アビス」

[copy]

 

――――≪LAEVATEINN ABYSS≫――――

 

「――適当すぎたかもしれないね」

 

アビスは右腕を勢いよく振るった。

 

「え? ちょっ!?」

 

――アビスの右手がチカッとしたのが見えたと思ったら、円錐状の炎が己の頭の横を掠めるように伸びてきた。そしてバランスを失い落下したところで片翼が炎の杖で焼かれたことに気付いた。

 

「やっ!? まってまってとまっ!? ぶぎゃ!? ごへ!? ぶで!?」

 

翼を斬られて渦を巻きながら墜落するアルバトロス。そのまま体勢を立て直す事ができず。地面へと顔面から激突。何回か跳ねて柱にキスをしたところで止まった。

 

「……なんかごめんね」

 

命に別状はないとしても、中々に悲惨な結果となったことでアビスは思わず謝ってしまう。

 

「い、痛い……生きてる、魔装少女ってすご……」

「うん、元気そうで安心したよ。……さて」

「ギク!」

 

痛みが走る鼻を撫でながらアルバトロスは後ろを振り向くと、傍まで寄っていたアビスが見下ろしていた。適当にペンキで塗られたような右目がヤケに怖い。

 

「……流石に事を構えちゃったからね。このまま無視って言うわけにも」

「い、いや~。ほら! けっきょく、このわたしは飛んでいただけだしノーカウントでお願い!」

「でも第3支部にボクたちのこと連絡しちゃったよね?」

「…………」

 

アルバトロスは耐えられなくて、そっと視線を逸らす。規則はバレなければ破った事にならないと(のたま)う彼女であるが、仕事はちゃんとするほうである。アビスたちを確認してすぐ『第3支部』に侵入者が現れた事を連絡入れており、アビスたちは慈悲が発生しないほどの不利益を受けてしまったこととなる。

 

「な、なにとぞご慈悲を……」

「……まあいいよ。ボクは許そう」

「ほんと!?」

「だけど『北陸支部』が許してくれるかな?」

「……え?」

 

喜んだのも束の間、アルバトロスは奈落へとたたき落とされる。

 

「『北陸支部』の事務所と繋がっています。どうぞ」

 

オルクスはそう言ってアルバトロスにスマホを渡す。震えた手でスマホを耳に当てる、背中を丸める姿は、まるで捌かれる寸前の鳥そのものである。

 

「……も、もしもし? あ、はいアルバトロスです。はい……いや、このわたしは何時もこんな感じですよ? ……えっとですね。はい……はい……いや、たいした事じゃないんですけど……はい……え? リーダーとコロちゃんがいる? よりによってなんでその二人! ……いえ、なんでもないです……はい、じゃあコロちゃんに一度代わって頂けたら……すぅはぁ!!」

 

待機メロディが流れだすと呼吸を思い出して精一杯吸う。

 

「……あ、はい。アルバトロスです。コロちゃんさんお忙しいところ質問したいことがありまして……いや、このわたしって常にこんな感じでしたよ? ……そ、それでですね。もしもの、本当にもしもの話なんですけど、いや、このわたしの事じゃなくて、あくまでもしもの話なんですけど……北陸支部の魔装少女が協会関係の依頼を受けて、さらにブレイダーと戦闘になった場合、その魔装少女の処遇ってどうなりますか?」

≪ころします≫

「ですよねー! やっぱりそうですよねー! ありがとうございます参考になりましたお疲れ様!!」

 

アルバトロスは通話を切って、持ち主のオルクスにスマホを返す。そしてアビスに涙目で助けを求める。

 

「自首の方が罪は軽くなるよ」

「ノーホープ!! ……ひえっ!」

 

自分のスマホの着信音が鳴り、盛大にびびりながら画面を確認し、己の死を悟る。それでもここで逃げ出したほうが酷くなるという知識があるために、アルバトロスは泣く泣く通話を始める。

 

「オルクス。ここから先は君の『固有魔法』は通用しなくなる、いつでも戦うか逃げられるように意識を切り替えておいてね」

「はい、どこまでも付いていきます」

 

アビスとオルクスは階段を降り、先へと進む。残された時間は少なく、第3支部にも潜入がバレた以上、急ぐ必要が出てきた。

 

「――えっとですね。ちょっっっとした偶然というか事故でブレイダー・アビスとあわや交戦になりそうになりまして……場所!? 場所はですねー。室内の広い場所で……ま、まさかそんなことアルハズナイヨー! ……リーダー! このわたしを信じてほしいなって……はい、いえ違いません、すいません――」

 

一羽残った“阿呆鳥”が、しばらく鳴き続けた。この後、違反行為は即座にバレて多大なペナルティを食らうのだが、仲間内からの反応は“いつかやるとは思っていた”と酷く冷めたものだったらしい。

 

+++

 

使われなくなった焼却炉があるゴミ捨て場。ボクはいつもそこに隠れていた。

 

そんなボクを見つけた人が居た。それから彼女は毎日のように会いに来て、色んな知識を適当に見せては、ボクに感想を求める毎日が始まった。

 

彼女は物静かで、不思議で、けっきょく最後まで何を考えているか分からない人だったけど、人として足りないものを全部くれた。

 

だからボクは、自然と彼女を愛した。こんな日がずっと続けばいいなと思ったある日、彼女はふと自分の事を話した。

 

 

「魔装少女になりたいの」

 

 

――誰にも、夢の邪魔はさせないのさ。

 

 




※画像に関して問題が出てきた場合、また別の方法を考えたいと思います( ̄▽ ̄)←絵が描けない。

では、また二回戦分を書けたら投稿したいと思うので、時間は掛かると思います。よろしければそれまでお待ち頂けると幸いです。

2章は長期に渡っての執筆が必要不可欠ということもあり感想や評価など頂けると幸いです。


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二回戦 試合前

感想 お気に入り登録、評価、ここすき、誤字報告ありがとうございます!
お気に入りが凄い増えてべらぼうに驚きました。また沢山評価して頂き改めてありがとうございます。

本来であれば本戦と連続投稿したかったのですが、三月に入ってから仕事が少し忙しくなりそう、また試験的な意味も兼ねて投稿することにしました( ̄▽ ̄)予定は未定(諦め)。
というわけで(というわけで?)楽しんで貰えれば幸いです。

注:下ネタたくさん。(多分R15に収まっています多分)

※クラッシュの原因と思われる箇所の修正を行いました。なにか問題がありましたら『活動報告』にてご連絡頂けると幸いです。これで問題があれば一旦修正のために作品自体を非公開にしたいと思います。


秋葉ドーム内、魔装少女に用意された楽屋にて。

 

(はぁ……めんどくさい……)

 

季節外れの分厚い毛皮風のコートにウシャンカと呼ばれる四角い帽子を被った魔装少女。『エリアル・アイス』は内心で深いため息を吐いた。

 

「――エリアル・アイスってやっぱでかいよね。ほんっとロシア系って羨ましいよ。胸も尻もそんだけデカかったら、男なんて選び放題でしょ?」

「知らない」

「『固有魔法』と一緒に性格も冷たいな! もうちょっと可愛げないと魔装少女やっていくのは厳しいよ~?」

(めんどくさい……)

 

174センチの高身長。ロシア美人と呼ばれる顔つき。豊満と評される体付き、そんな自分の容姿をエリアル・アイスはめんどうを引き起こす原因にしかならないと嫌悪していた。

 

なのに『協会本部』に属し、その強さは最強格に匹敵する事から本部枠として三回戦に出場する事が決まった魔装少女『バスター・クイーン』は遠慮無しにネタにする。エリアル・アイスがなんども本気で自分の楽屋に帰ってくれと言っても、“仲良しだからこその軽口”のように扱って本気で取り扱おうとせず出ようとしないあまりか、エリアル・アイスの私物であるお菓子やジュースを無許可で飲み食いするなどひたすらに無礼な態度をとり続けている。

 

「それにしても『協会』も大変だよね。大事な試合なのに第5支部のご機嫌取りのためにアイドル出して、相手がキモオタだったからよかったけど嫌だねー。歌の宣伝のために不利益を被るこっちの身にもなって欲しい。エリアル・アイスもそう思うでしょ?」

 

バスター・クイーンはどこまでも他人を悪く評価する。エリアル・アイスを揶揄っているわけではない。他人を見る目が歪みきっているのだ。故にエリアル・アイスは無視を決め込む。どう答えても自分の意見を曲げないので反応するだけ面倒このうえ無いからだ。

 

(噂通りの人。大事な決闘って聞いたけど、こんなのを選ぶなんて協会も(すえ)? もしくはアビスにわざと燃やそうとしている? でも三回戦の相手はカオスだし……止めた、考えるのめんどくさい)

「エリアル・アイスも大変だよねー。不戦勝確定とはいえ第20支部からわざわざ、こんな危ない所に来るなんて東京には他にも良いところあるから、終わったら観光しなよ」

(……番号付きの支部は全部東京都の支部! ……ほんとめんどうくさい……!)

 

支部の番号は都内支部の建設計画段階にて優先順に付けられたものである。そのため土地の規模や使用された予算の額など、数字が若い程大きいものとなっている。

 

エリアル・アイスは第20支部のリーダー。第20支部は下から二番目の数字を持つだけあって活動地域は東京内であるのにも関わらず人口も少なく、田舎的な景色が広かっている。

 

在籍する魔装少女はたった3名であり、地方の支部と比べても下から数えた方が早い。建物自体も築数十年は経過している地震対策が不安になる木造建築の公民館である。

 

だけど、エリアル・アイスはそんな支部を気に入っていた。支部の空気は緩く、自分が私物を持ち出して怠けていても、グレムリンが現れた時にやることやれば何も言われず、エアコンなどの電化製品をケチらず稼働してくれる。居心地がいいのだ。だから、バスター・クイーンの明らかに第20支部を見下している発言は、カチンときた。

 

「あれ? もう出番? 頑張ってね。なにもすること無いと思うけど。あーあ、私もこの時だけは第20支部の魔装少女になりたかったな。冗談だけど」

 

エリアル・アイスは怒りを抑えて黙って楽屋を出て行く。このまま同じ空気を吸っていると思うだけで、面倒くささを通りこして魔法を発動してしまいそうになったから。いや、相手がバスター・クイーンでなかったら、エリアル・アイスは挑んでいたかもしれない。

 

扉をしめてすぐ、怠け者の自分に助けられたのか邪魔されたのか、エリアル・アイスは分からなくなって深いため息を吐いた。

 

+++

 

「エリアル・アイス? 貴女が外に出るなんて珍しいけど、なにか会ったの?」

「フスティシア……」

 

外に出て当てもなく通路を歩いていると、黒髪ロングでキリッとした目つき、儀礼服のような格好の魔装少女。『フスティシア』とばったり出くわした。

 

「私の楽屋にバスター・クイーンがいるの」

「それは……辛かったでしょう。ごめんなさい。気付かなくて」

「別にいい。そんな顔しないで」

 

心の底から助けになれなかった事を悔やむフスティシアを見て、エリアル・アイスの旅立っていた怠惰な感情が戻ってくる。

 

「バスター・クイーンの事はこの戦いが終わったら本部に正式に抗議するわ。まったく本部は何を考えて彼女を放置しているのかしら? いずれは魔装少女全体の問題になりかねないと言うのに」

「アビスに燃やされればいいのに」

「それはダメ。ブレイダー・アビスの行いは私刑よ。恐怖による治世しか生んでいない。確かに『協会』の対策が間に合っていない事実はあるけど、だからこそ出来るだけ自分たちの手で解決していかないと」

「(そういう意味じゃなかったんだけど)……ごめん」

 

エリアル・アイスの呟きは魔装少女が嫌いな魔装少女に言う常套句であり、決してフスティシアが言うような真面目なものではなかったのだが、説明するの面倒だとエリアル・アイスは適当に謝る。

 

「あ。ごめんなさい。エリアルが悪いわけじゃないのにね」

「……フスティシア。あなた本当にジャスティスと戦うの?」

 

フスティシアは真面目で正義感に溢れて、多彩な才能を持ち、面倒見が良くて意識が高い。ぼーっと生きていくことが大好きなエリアル・アイスにとっては苦手なタイプである。

 

だけど、周囲から人間として生まれた女神様と呼ばれて囲まれている彼女に同情している部分もあり、だからこそエリアル・アイスは基本は身内しか思わない心配をする。

 

四回戦、彼女は出場する。その相手はあのブレイダー・ジャスティス。フスティシアは代表たちが、ジャスティスの相手にする魔装少女を決められずに頭を抱えていたとき自分から戦うと直訴したのだ。それを聞いた時エリアル・アイスは彼女の正気を疑った。

 

「ーー戦う。同じ正義を名をもつ魔装少女として彼を絶対に倒すわ」

「……そう、無理しないようにね」

 

フスティシアは気迫のこもった目で答えた。エリアル・アイスは、自分に出来ることはないと簡単に応援の言葉をかける。

 

「――エリアル・アイスさーん! どこですかー!?」

「……呼ばれたから行く」

 

スタッフの呼ぶ声に、エリアル・アイスはめんどくさいなと思いながら、そちらに向かおうとする。

 

「そう、こんな所で話し込んでしまって申し訳なかったわ。二回戦頑張ってね」

「頑張ると言っても、相手が出ないって話し」

「聞いてないの? ブレイダー・エデン。帰ってきたみたいよ?」

(――厄日。ほんとめんどくさい)

 

どうやら、楽は出来そうにないとエリアル・アイスはとても深いため息を吐いて、スタッフの声がする方向へとゆったりと歩き出す。

 

エリアル・アイスにやる気はない。勝敗はどうでもよく、そもそもエデンに最も勝てる可能性があると言った理由で上層部から半ば強制的に五人の内に入れられただけだった。

 

勝ったら何かあると明確に約束されたわけでもなければ、その逆負けても何かあると言われたわけでもない。

 

ーーだが、吹けば飛ぶ小さな支部であることは事実で、本部の人間と話した第20支部代表が浮かない顔をすれば、何があったのか察してしまう。

 

(流石に面倒みてもらっているばかりだと気になる……めんどくさいけど頑張ろう……はぁ)

 

エリアル・アイスは『協会』や『アーマード』の事情を知らない。『戦争決闘五番勝負』の勝ち負けが何を意味するか無論聞いてはいない。

 

だが、自分が快適に過ごせる場所を守るために、エリアル・アイスは最初から戦うことを選んでいた。でなければ怠惰な彼女が秋葉にくること自体なかっただろう。

 

(ーーさっさと凍らせて終わらせる)

 

+++

 

1:悪魔

試合終わった後、姉を紹介したいとアイドル妹に連れられたんだが、その本人はさっさとどっか行って姉と二人っきりになってる。

どうすればいいんだこれ?

 

2:混沌

仲良くなればいいと思うよ(^ν^)

 

3:悪魔

何度か話を振ってみたんだが、どうも反応が悪くてな。こういう時は退散した方がいいのか?

 

4:混沌

私はそもそも女性経験記憶にないので何も言えないです( ̄▽ ̄)

 

5:悪魔

七色は? なんならセブンスガールでもいいが。今日は常にスレを覗いていると思ってたんだが反応がないな。何か助言でも貰えればと思ったんだが。

 

6:混沌

……ほら、失楽園帰ってきたから(・Д・)

 

7:悪魔

適切な判断だ。

 

8:失楽園

あら? 呼んだかしら〜?

 

9:悪魔

スレ立ち上げて悪いが、ここで相談するのも姉にも妹にも悪い気がしてきた、自分でどうにかしてみるわ。

 

10:混沌

(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..

 

11:失楽園

あんまり冷たい態度取られちゃうと暖取りに抱きしめに行っちゃうわよ?

 

12:混沌

;::: .:.;: ・`).:.;:.:.;: ω・`);::: .:.;: (´・ω・`)ただいま

 

13:悪魔

クソ! 完全にミスった!! お前の出番もうすぐだろうが!?

 

14:失楽園

ちょっと準備が遅れているみたいで待機中よ。暇つぶしにスレを覗いてみれば悪魔が童貞卒業しそうになってるじゃない。こりゃ絡みに行くしかないでしょってね!

 

15:悪魔

テメェに異性のことでとやかく言われたくねぇんだよ! 節操なしが!!

 

16:失楽園

あらひどい。あんなに私のこと求めたのに!! いざ戻ってきたらこの仕打ち!! ナイスドSね!

 

17:混沌

【混沌】裏案件書き込み板パート18【報告】の969レス目だねヽ(;▽;)

 

18:悪魔

こうやって再会できたことは本気で嬉しいと思ってる。タイミングが最悪なんだよ。

あと混沌、わざわざ持ってこなくていい。

 

19:失楽園

まぁ、揶揄うのはこの辺にしておいてあげるわ。そのお姉さんって明るめ? それとも暗め?

 

20:悪魔

勝手に話を進めんな!

 

21:失楽園

妹と戦った怖いお兄さんと二人っきりっていう相手の境遇を考えなさいよ。普通の女の子なんでしょ?

 

22:悪魔

……ったく。妹とは対照的なイメージだな。人見知りのようだ。

 

23:失楽園

ならとりあえず妹のことを全面に押し出すように話題にしなさい。共通の話題って言ったらそれしかないんだし、どうせ変に気を使って避けているんでしょ?

 

24:悪魔

まぁ……な。

 

25:失楽園

自分じゃなくて姉とくっつけさせようとするってことは仲は結構良いと思うわ。アイドル家業やってんだから、家族と関係最悪なら何を思ってもまずは隠そうとすると思うしね。悪魔から見てどうだったの?

 

26:悪魔

こういう表現が合ってるかはわからないが、妹の方は結構シスコンって感じたな。姉が早く姉離れしてほしいと言ってはいるが甘えられること自体悪い気はしていないみたいだ。

 

27:失楽園

まぁいいわね! 血の繋がった百合めの姉妹愛! そこに男が入るのもわたしは好物よ! あと数年したら姉妹丼も夢じゃないわね羨ましいわ!

 

28:悪魔

◻︎すぞ。

 

29:失楽園

半分冗談よ。ナニをするにしてもまずはお姉ちゃんの緊張をほぐしてあげなさい。そしたら後は自然に会話もはずむし、流れでベッドインできるわ。

 

30:混沌

もうほんと変わりなくて私は一安心だよ(´ー`)

 

31:悪魔

諦観するな、どうにかしてくれ。

 

32:混沌

むり✌︎('ω')✌︎

 

33:悪魔

ああもうクソが! ……求めていた助言には変わりないしな。参考にさせてもらう。相談に乗ってくれてありがとな。

 

34:失楽園

使ったホテル後で教えてちょうだい。

 

35:悪魔

本当に感謝している、だが今度あったらマジで殴る。

……失楽園、二回戦ほどほどに頑張れよな。ほどほどにな。

 

36:失楽園

あら、知らなかったかしら? わたしはいつだって全力プレイよ! エロい意味でね!

 

37:悪魔

もう知らん。じゃあまたな。

 

38:混沌

頑張ってねー٩(^‿^)۶

じゃあそろそろ僕も退散しまーす、失楽園怪我はしないでね( *`ω´)

 

39:失楽園

ちょっと待ちなさい先に伝えとくわ。楽園のことよ。

 

40:混沌

……うん(´-ω-`)

 

41:失楽園

楽園は予定より早く失墜することになるわ。ごめんなさい。

もう少しだけ頑張ってみるけど期待はしないでちょうだい。

 

42:混沌

……謝るのは僕のほうだよ(´·×·`)

君が稼いでくれている時間で、なにも解決出来なかった。

 

43:混沌

……否、むしろ私が甘美に浸ってしまったために、このような事態へとなってしまった。

これでは、なんのために汝が地球を離れてっ……! 本当にすまない!

 

44:失楽園

別に良いわよ。わたしは女が好き、同じくらい男も好き、エロく感じるものならなんだって好き。だからエロが溢れるこの世界を守りたいだけ、これはわたしの性癖よ。誰にも譲らないしあげないわ。でも現実問題、時間は残されていないとだけは覚えておいて。他の子にも伝えておきなさい。

 

45:混沌

……失楽園。君はいつだってイケメンだね(✿˘艸˘✿)

 

46:失楽園

あら!? もしかしてフラグ立っちゃったのかしら!? そろそろスチル回収できちゃう!? あなた相手なら最初は受けがいいわ!

 

47:混沌

それは絶対ないから(ノꐦ ๑´Д`๑)ノ彡┻━┻

 

48:失楽園

あら残念。一度で良いから『アーマード』の誰かと寝たいんだけどね。これだけいい男たちが揃っているのに生殺しきついわー。禁欲生活送っているから余計そう感じるわー。あーあ、やっぱり早めにきてナンパの一つでもすればよかったかしら?

 

49:混沌

ナンパは戦いが終わってからにして(∩゚д゚)アーアー

 

50:失楽園

勝ったらすぐに帰るわよ。穴を巨根で塞いだけどいつまで我慢できるかわからないもの。世界が早漏でないことを祈るわ。わたしのプレイが終わるまで我慢して欲しいわね~。

 

51:混沌

なんだろうね、この言っていることなにも間違ってないのに全部間違っている感( ̄▽ ̄:)

 

52:失楽園

さて、呼ばれちゃったから一発かましてくるわ。

 

53:混沌

うん、頑張ってねー(ノ´∀`)ノ 

 

54:失楽園

相手は18歳……行けるわね! さあハッスルしましょうか!

 

55:混沌

ごめんやっぱりそんなガンバんないでほどほどお願いしますあなたの対戦相手普通の魔装少女なんですほんと勘弁してあげてください(p q)

 

56:混沌

失楽園? しつらくえーん? ……失楽園さーん!!?

アタフタヽ(д`ヽ≡ノ´д)ノアタフタ!!

 

 

+++

 

二回戦がきちんと開始される。その事に驚いた者は少なくなかった。ブレイダーエデンは日本におらず出場できない。そんな噂を誰しもが聞いていたからだ。そのため折角チケットを獲得できたのに試合を見れずに返金の流れかなと残念がっている声も多く上がっていた。

 

しかし、二回戦は問題なく開始されるという放送が流れて観客は安堵し期待を膨らませた。戦う魔装少女は可哀想だとは思うが絶対面白いことになると。

 

そんな奇妙とも言える空気が蔓延しきった頃、会場のスピーカーからクラシックな音楽が流れ始める。

 

≪日差しに照らされ汗が止まない日が多くなった現代。このままでは地球温暖化が進みいずれは人類滅亡! そうなる前に私が冷やしてやると氷の世界から魔装少女がやってきた!≫

 

(九州生まれなんだけど……めんどくさい)

 

とても優しい曲調、されど何十にも及ぶ楽器の重々しい音と共にロシア美人の魔装少女――エリアル・アイスが入場口から出てきた。内心で適当が過ぎるとツッコミながら、エリアル・アイスは何処までも気怠そうに指定の位置まで鈍足に歩いて行く。

 

≪あらゆる生物を凍らせ黙らせる! 進む道を邪魔するものは問答無用に氷像だ! 生命よ、寒さに脅えろ! 彼女こそ氷河期の化身! エリアル・アイスだあああああああああああ!!≫

 

 

 

=========================

*Leader of the 20th branch*

 

* Aerial ice *

 

*Maso Lady of the ice world*

=========================

 

 

 

(……あ、やばい)

 

――エリアル・アイスは誰が考えたんだかと深いため息を吐いた。その吐息は白く氷の結晶が含まれており空気に溶け込むことなく、地面へと落ちていった。

 

そして、大地に触れた瞬間、グラウンドの地面全てを凍らせた。急激に会場の温度が下がる。観客は寒さに震えだし、スタッフは慌てて観客席の暖房を動かすように指示を出す。

 

(……うっかり)

 

エリアル・アイスは先んじて『固有魔法』を発動させていた。その理由はスタッフに事前に発動しながら入場してもOKですと言われたからと簡単なものであったが、出力調整をミスっていた事に気がつかなかった。

 

(これルール違反で失格にならない? そうなったら流石に気まずい……)

 

裏に潜んでのんびりしていたいタイプのエリアル・アイスは、のべ数万人の視線が集まるグラウンドに出て無自覚に緊張していた。それ故起きた事故に無表情を貫きながらも彼女にしてはかなり焦る。

 

そんな中、音楽が一旦止まり、反対側の入場口から一人の男性が静かに現れた。失格にはならなさそうと安堵したのも束の間、現れた人物の正体について考える。

 

(男……? それにしては凄く細いけど……あ)

 

≪――優雅に歩むお前の正体に誰もが疑問を持つ≫

 

ーーとは言っても反対側に入場口から出てきた以上、正体は限られており、すぐに思い当たった。

 

≪お前はなんだ? ヒーローか? ヴィランか? 男か女か? その問い掛けにお前は答えた! あらゆる性を楽しむために全てとなったと! これが人類の終着地点か!? 刮目せよ!! その名は――!≫

 

顔や肩の骨格からして確かに男性であることは間違いないのだろう。しかしエリアル・アイスは自分よりも細身な体付きで、きめ細やかな化粧を施し、派手目な衣服に確かな女性を感じていた。

 

≪ブレイダアアアアアア! エデエエエエエエエエン!!≫

 

中性という言葉では表せない。一つの身体に男と女、どちらも存在している人物――失楽園は両手を翼のように広げた。その手に持つは“ふたつ”の『B.S.F』。

 

 

 

ADAMEVA

 

 

 

右手の『B.S.F』から男性の音声で『ADAM(アダム)』、左手の『B.S.F』から女性の音声で『EVA(イヴ)』と鳴ると、男女入り交じったコーラスが特徴的なとても静かでゆったりとした賛美歌が流れ出す。

 

そんな音楽に悦を浸るようにゆっくりと、茶色を下地にして緑かかったバックル、その両横の空洞にそれぞれ『B.S.F』を差し込んだ。

 

UTUWATOINOTCHI

▶▶▶▶▶▶▶▶

 

 

 

ADAM

 

 

 

▶▶▶▶▶▶▶▶

◀◀◀◀◀◀◀◀

 

 

 

EVA

 

 

 

◀◀◀◀◀◀◀◀

 ◥BODYANDLIFE◤ 

 

エネルギーがバックル中心に集められる。熱くなる腹部は失楽園にとって快感でしかなく、それに浸りながら、目を閉じて背筋を伸ばし、顎と胸を上にあげる。そしてゆっくりと両手を斜めに下げた所で、例の言葉を発した。

 

 

 

「ーー変身ッ」

 

 

 

PARADISE LOST

 

 

――嘆きにも聞こえる高いソプラノボイスと共に、バックルから木が生えてきて失楽園の身体に纏わり付く、それらは形を変えてアーマーへと変貌していき、ある程度形になった所で、今度はアーマーの表面から緑の葉が生え、アーマー表面にくっつくように硬化、第二の装甲として失楽園に纏い――ブレイダー・エデンが現界する。

 

「折角可愛い子がいるのに、ここはちょっと殺風景過ぎるわね」

 

ブレイダー・エデンは踵を上げて強く地面を踏みつけた。すると凍り付いた大地から生命が溢れる。多種多様な花が咲き乱れていき、花畑へと様変わりした。

 

「さあ! 楽園に至る遊戯(プレイ)を始めましょうか!!」

 

テンション高めに決める失楽園とは裏腹に、花畑になったグラウンドを見るエリアル・アイスはふと思う。

 

(――これ、勝てなくない?)

 

≪ブレイダー・エデンVS()エリアル・アイス! 両者揃った所でお待たせしました! 戦争決闘五番勝負、第二回戦、開始ィィィィィ!!≫

 

 




前書きと後書き書くのも楽しいです( ̄▽ ̄)だから長くなるんだけど……。

これでブレイダーは残り一人となりました。出来れば早めに登場させたいですが、まだまだ道は遠そうです。

次話は仕事と身体の調子次第になりますが、今回と同じぐらいの感覚で投稿したいと思います。寒暖差つらい……。

それまでお待ち頂けると幸いです。

※この度はトラブルに巻き込んでしまい申し訳ありませんでした。これからもこの作品を楽しんで頂けたら幸いです。
活動報告にて、簡単ではありますが詳細を載せました。よろしければご確認ください。
20話のクラッシュ問題について その2


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二回戦 本番

感想、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここすき本当にありがとうございます!
お気に入り登録が2500件を超えました( ̄▽ ̄)すごい(小並感)

月初めは寒暖差で死んでいて、二週目はトレーナーになっていましたが、なんとか予定範囲内には投稿できて安堵しています……ごめんね!

楽しみにしている方が沢山いると思われる今回ですが、そもそも作者あんまり得意ではなく、期待にはそえないかもしれませんが、それでも楽しんで頂けたら幸いです。




≪さあ、始まってしまいました二回戦。『アーマードchannel』では引き続き僕ことブレイダーアンギルとグレイ・プライドから変わりましてー≫

≪愛する人の心臓を射貫きたい。銀の弾丸ことシルバー・バレットよ≫

≪物理的な意味で人生を墓場にボッシュートだねー。……さーて始まる前から動きがあった二人だけど、試合開始の合図がなってからが動かなくなったねー≫

≪エリアル・アイスの方はグラウンドに咲き乱れた花を警戒しているのかしら?≫

 

エリアル・アイスの『固有魔法』。〈凍りの結晶〉はあらゆる物質を凍らせる氷晶を生成する魔法。調整が難しく凍らせることだけに特化しているが、その威力及び効果範囲は最強クラスであり、渇いた砂土のグラウンド全面を一瞬にして凍らせるほどである。

 

ただその強力な『固有魔法』を宿した代償か、エリアル・アイスは通常魔法の適性が極端に低く、『固有魔法』以外でダメージを与える手段が無いに等しい。なのでグレムリン相手では近づくことなく氷像にして、同じ第20支部に所属する魔装少女にトドメを任せるかそのまま放置して自然消滅(飢え死に)させるのを基本している。

 

(めんどくさいなもう)

 

上層部が彼女を選んだのは、エリアル・アイスであれば完封あるいはエデンの“植物を操るスキル”に対して無力化もしくは弱体化を行える期待からだった。

 

だが、いざ蓋を開けてみればエデンは凍った砂土などお構いなしに花畑を生み出してみせた。聞いていた話が何もかも違うと、エリアル・アイスは今度は氷晶が出ないように気をつけながらため息を吐く。

 

「……画像で見た時から素敵と思ったけど直接目に入れたらもっと素敵。原石だからこそ持つ美しさに目眩がしそうだわ」

「…………」

「あらやだ? 不快にさせちゃったかしら?」

 

美人とされている容姿、それに関係するものは嫌いな面倒ごとがセットで舞い込んでくるのが常だったエリアル・アイスは不快な空気を醸し出し、エデンは正確にそれを読み取った。

 

「嫌がらせるつもりはなかったの。本当に素敵だったからつい言葉にしちゃったわ。ごめんなさいね」

「……べつにいい」

「優しい子。ますます好きになったわ」

(……なんか聞いていた話と違う?)

 

ブレイダー・エデンと言えば変態オカマ。誰でもどこでも口が開けば性の事ばかりであり、男性も女性も性対象とみており、そういったトラブルを何度か起こしたことがあるらしい。それがエリアル・アイスが聞いていたエデンの人物像であった。

 

そのためエリアル・アイスは中年エロジジイみたいなのを想像していたのだが、言葉の節々に自分に対する気遣いを感じられて、態度もいたって淑女(紳士)的、気持ち悪さを一切感じず。変に敷居を高く設定してしまっただけに無意識的に警戒度を下げてしまう。

 

≪数秒で剥がれる化けの皮被って口説いてるんじゃないよ≫

≪アンギル?≫

 

実況席にてこんな発言があったのだが、会場には一切聞こえていない。

 

「貴女のこともっと知りたいけど、もうちょっと後にしましょう――最初は優しくいくわよ」

 

エデンがそう言うと足下から太い蔓が四本ほど生えて、個々が独立してエリアル・アイスに襲いかかる。案の定、気温や雪の影響は受けていない。

 

(こうなったらやるだけやる!)

 

エリアル・アイスは息を吸って肺に息を溜め込む。

 

「凍って」

 

右から左へと首を動かしながら口を細めて息を吐き出した。全てを凍らせる氷晶はエリアル・アイスが生み出した“風”の中に生まれる。

 

氷晶が含まれた白い息風は目に見えて分かるほど遠くへと素早く飛んでいき、蔓たちをあっという間に凍らせる。芯まで凍った蔓たちは宙に固定され、自らの重さに耐えきれなくなって崩れていく。

 

「前戯は始まったばかりよ!」

 

≪ブレイダー・エデン。グラウンドのあらゆる場所から蔓を生やし始めたわね。エリアル・アイスを捕縛するつもりなのかしら?≫

≪多分ねー。……亀甲縛りとかしなければいいけど≫

≪あれ完成するのに時間掛かるから違うんじゃないかしら? アイビーが来てからしなくなったけど難しいのよね≫

≪シルバー・バレットさん?≫

 

(埒が明かない!)

 

迫り来る無数の蔓を凍らせ続ける。このままだと押し切られるとエリアル・アイスは酸素を腹に溜め込み始める。その間にも幾多の蔓たちはエリアル・アイスに群がる。

 

「――っ!」

 

息を溜めきるのが間に合わないと判断したエリアル・アイスは魔道具を生成する。粒子が集まり生成されたのは大きめの白い団扇。それを握りしめ勢いよく一回転、自分を囲うように真白い風を生む。

 

≪息じゃなくても凍るんだ!?≫

≪自身が生み出した風ならなんでも良いみたい、凍らせられる距離(キルレンジ)は2.2メートルぐらいかしら? かなり短いけど防御手段としては最強クラスかもしれないわね≫

 

(これで、おわり!)

 

襲いかかってきた蔦を凍らせたエリアル・アイスは溜めきった息を全力で吐いた。

 

――吹雪、暖かく夏向かう季節を逆転させる災害。太陽の出番は訪れず北風が大地を襲い、全てを凍らせて粉々に散らせていく、そうして呆気もなく花の楽園は失墜した。

 

≪猛吹雪でグラウンドが見えなくなっちゃったねーって、というか会場内の温度どうなって……マイナス20!? 不味いって、ナイト! どうにかできる!?≫

 

暖房の意味を無くす冷気が観客席にも流れ込む。観客たちは寒さによって震えて、その身をどうにか暖めようと躍起になる。実況席で天使が叫ぶとほぼ同時、グラウンドと観客席を分断するバリアに変化が起きる。先ほどまで突き抜けてきた冷風が無くなり、気温が少しずつ戻り始める。

 

バリアに阻まれて外に出ることが叶わない吹雪は、半球を描くようにグラウンド内で吹き荒れる。外から様子が見えなくなって二人がどうなったか分からない。

 

≪……スノードームの中身って、案外試されている大地なのかもねー≫

 

吹雪が大人しくなり静かな粉雪へと変わる。花園は雪によって埋まり、それを踏みしめて立つエリアル・アイスは帽子に積もった雪を落とす。エデンは見える範囲ではどこにもおらず、元居た場所には雪山が出来ていた。

 

湯気立つエリアル・アイスは浮き出た汗を袖で拭いながら息を整える。

 

(……やりすぎた?)

 

――どさ。

 

「ん?……」

 

埋めるつもりで全力を出しはしたが、流石に加減をすればよかったかもしれないと後悔している最中、雪山の“表面”が崩れ落ちて中身が見えた、茶色系の荒い表面、いわゆる“樹皮”と呼ばれるものだった。

 

「しまっ――きゃっ!?」

 

エリアル・アイスは気づくのが遅すぎた。ブレイダー・エデンは雪の中を這わせていた蔓を地上に出して、エリアル・アイスの両手両足を縛り上げて宙に浮かせて、雪山の方の傍まで引っ張られる。

 

≪そのまま埋まっていればよかったのになー≫

≪さっきからエデンに厳しいわね?≫

「なにをもがっ!?」

≪うわー。この絵面配信していいのかなー?≫

 

両腕両足を縛っているものより遙かに小さい蔓がエリアル・アイスの口元を塞ぐ、山の雪が落ちて姿が露わになる。それは不自然に捻れ渦巻き状となっている木だった。

 

ミシミシと音を出しながら木々が動き出す、それは逆再生そのもので、木は段々と小さくなって最後に雪の中へと消えてしまった。そして、吹雪の間中に居たエデンだけが残った。

 

「な、なにするつもり?」

「安心してちょうだい。レ○プは性癖じゃないの」

≪なにひとつ安心出来る要素がねー!≫

 

目と鼻の先まで連れてこられたエリアル・アイスは、ここに来てエデンの噂を思い出して脅える。それに対してエデンは優しく宥めるように話しかける。そんな中、実況席でアンギルが頭を抱えた。

 

≪コホン……エリアル・アイスは完全に捕まった形になったわね この状況を脱する手段が無ければブレイダー・エデンの勝ちね≫

(鼻呼吸は出来るけど、凍らせたところで……これは詰んだ?)

 

自分を拘束する蔓を凍らそうとすれば、繋がっている自分もそのまま一緒に凍ってしまい結局は身動き取れない。エリアル・アイスは〈凍る結晶〉に特化した魔装少女であり、他の魔法は殆ど使えない。捕まった時点で勝てる見込みが無く、これはもうダメかと諦め気味となる。

 

「間近で見たらもっと素敵ね。でも不思議。わたしから見る貴女はこういった戦いに出るような子に見えないけど?」

「……」

「なにか事情があるなら聞かせて欲しいわ」

「……どういうつもり? なに考えてるの?」

≪そいつエロいことしか考えてないとおもうよ≫

 

塞がれていた口が解かれる。近い距離息を吹きかければ凍らせることは容易くなったが、エデンの行動があまりにも不可解すぎてエリアル・アイスは行動の理由を問う。

 

「頑張る子には応援したいじゃない? それで、どうして戦おうと思ったの?」

「……」

「そうね……。私も仲間のために戦ってるけど……」

≪嘘付いてないとは思うけどいけしゃあしゃあが過ぎるわ!≫

≪ツッコミが止まらないわね≫

 

エリアル・アイスが『戦争決闘五番勝負』に出た理由は、出場するか否かを聞いてきた第20支部代表が見たことない顔をしており、エリアル・アイスは嫌でも上層部になにを言われたかを理解して意志を曲げてまで首を縦に振ったのだ。

 

「事情によっては勝ちをプレゼントしてあげても良いわよ?」

≪……いいの?≫

≪僕は今回あくまで実況役でしかないからねー。どうにでもなーれー≫

≪単に投げやりになってない?≫

 

エデンの発言に、少なからず周囲はざわついた。そんな中でアンギルは仕方ないといった態度で適当に流す。そもそも2回戦は不戦敗のつもりで予定を立てているので、ここで負けたとしても当初の予定通りでしかないのだ。むしろアンギルが懸念するのは、ここから先の展開、配信者的には何でもいいので終わって欲しいまである。

 

「な。なんで?」

「わたし、あなたのことが好きになっちゃった」

「ほんとなに言ってるの?」

「だから、傷つけたくないのよね。んーどうしようかしら?」

 

様子をうかがってもマスク越しでよく分からない。どういった意味での“好き”なのか、めんどくさがって惚れた腫れたの経験がまったく無いエリアル・アイスには分からず、突然の告白にエリアル・アイスは戸惑うことしか出来ない。

 

「そうね、こうしましょう。貴女から今日ここに居る事情を聞いたらわたしの勝ち、最後まで言わなかったら貴女の勝ち」

「……なにをするつもり?」

「そう怖がらないで、わたしが使うのは自分の手と声だけ、それに、触れるのは貴女の顔だけにするわ、どう?」

≪同人誌の冒頭なやつー!≫

 

エリアル・アイスは答えない。しかし沈黙は承諾と言わんばかりにエデンは答えを待たずに勝手に動き始める。バックルの右側に差し込まれた『B.S.F』を抜き、反対にして再度差し込んだ。

 

UTUWATOINOTCHI

▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

EVA

 

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲

◀◀◀◀◀◀◀◀

◀◀◀

 ◥BODYANDLIFE◤ 

 

 

TilT EVA

 

全身のアーマーから葉が生えていきエデンを完全に多い隠したと思えば、ものの数秒で葉は飛び散って、姿が変わったエデンが露わになる。

 

茶色が消えて緑色のみになったエデン。男性にしては細かった腕や脚はより細く、体型は骨格そのものが変わりより滑らかに、そしてその胸部にはアーマー越しでも分かる明らかな膨らみがあった。

 

「怖がらないでね――優しくするから」

「――っ!?」

 

≪……噂には聞いていたけど、本当に性別を変えられるのね? それともスーツの形だけなのかしら?≫

≪いんや。本人曰く中身も完全に女性になっているみたい≫

≪変身するとほかに何が変わるのか聞いても?≫

≪話す機会が無かったってだけで隠しているわけじゃないから別にいいよー。エデンのスキルは方向性が二つあってね。茶色と緑の姿は、そのどっちも半々で使えるフォーム。そんで今の『Tilt-EVA』ともう一個『Tilt-ADAM』は、各々の方向性に特化させたフォームになるよ≫

≪ブレイダー・エデンは何をするつもりなの?≫

≪あー、多分というか間違いなく――≫

 

 

「わたしの声に全部委ねて」

≪女声でASMRボイスするためだけにフォームチェンジしましたねアイツ≫

 

――エリアル・アイスの耳元で囁かれた声は間違いなく女の人のもので、怠惰で興味すら湧かなかったために錆ついていた扉から、カチリと音がした。

 

「まずは、そうねこの体勢は辛いでしょ?」

 

雪の中から数本の細い木が地上へと伸び、絡み合って一席のリクライニングチェアとなる。エリアル・アイスは蔓に操られるままに椅子に身体を預ける。

 

「え?」

 

エリアル・アイスは思わず驚きの声を上げてしまう。木で作られた椅子ではあるが、まったく固くなく、むしろ綿が詰っているかのようにクッション性が抜群だった。ほぼ無意識に身体の力を抜いてしまったエリアル・アイスは、続いて斜めに傾く背もたれに膝部分にある山は己の身体に完璧にフィットしている事に気づき、まるで重力から解き放たれたかのような開放感を得ることとなる。

 

≪エリアル・アイス。もの凄く顔が緩んだー≫

≪事前情報では寝ながら動画を見るのを趣味としている話だから、拘束力は絶大ね≫

 

「どうかしら? あなたのために作ってみたのだけど? 気に入ってくれた?」

「っ!? ……べ、べつに」

「そう? でも緊張が無くなった貴女の表情、とても愛くるしいわ」

 

緊張と言う壁を壊されたエリアル・アイスは、エデンの囁き声をまともに受けてしまう。とっさに否定的な態度をとるも、その対抗は無意味に近かった。

 

今まで感じたことの無い、鼓膜手前に湧き出る小さくも主張が激しい痒さにエリアル・アイスは、ただただ戸惑うことしか出来ない。

 

「触るわよ」

「ま、まって……っ!?」

 

エデンはエリアル・アイスの囁いている耳元の反対の頬を覆った。グローブ越しであるはずなのに、感触は素手そのもので、少し冷ための温度に優しく愛されるように撫でられる。こそばゆさは痒さと混ざり合い、先ほどまであった数え切れない人々に見られているという理性が霧散する。

 

「ねぇ、教えてくれない? どうして貴女はわたしと戦ったの?」

≪エデンのエロボイスに、エリアル・アイス思わず身を仰け反らせる。そして配信切断ボタンにカーソルを合わせる僕ー≫

≪優しく撫でているだけに見えるけど、よく見れば重心を抑えつけて起き上がれないようにしているわね、芸が細かいわ。エリアル・アイス随分と効いているわね? 事前情報から分析した感じでは彼女こういった事に興味すら湧かないタイプに見えたけど分からないものね?≫

≪エデンに目を付けられた時点で枯れているって事は無いんだよなー≫

≪それにしても声だけでああなるものかしら?≫

≪僕も把握してるってわけじゃないけど、エリアル・アイスが最も反応するであろう好みドストライクの声作って聞かせてるんだと思う。実際、僕が聞いたことあるエデンの女性声はもっと高かったよ≫

≪彼女は怠惰に過ごす事を趣味としているようだから、何でも世話してくれそうな甘やかし系年上お姉さんの声を好むのは納得できるわ。驚くべきなのは、今日初めて出会ったばかりであろう彼女の好みを的確に当ててきた多彩な技を持つエデンね≫

≪うん、ちゃんと実況してくれてくれるのはありがたいんだけど具体的に内容を述べないであげて?≫

 

実況でエリアル・アイスの性癖が暴露されている間にも、エデンは彼女の耳元で囁き続けていた。始まってから数分。視聴者のどよめきは収まらず、自分たちは何を見せられているんだろうというコメントがそこら中で沸き続ける。それらに紛れて喉を鳴らすものが少なくないのはきっと仕方の無いことだろう。

 

「もっと力を抜いてもいいのよ? わたしに全部委ねて、ね?」

 

エリアル・アイスの反応もそうだが、エデンの声があまりにも耳が通るのだ。声フェチたちは己のヘッドフォンの質に一喜一憂しながら(彼女)の声に集中する。

 

「ここ弱いのね?」

「だ、だめ……!」

 

段々とエリアル・アイスの弱いところを把握していくエデン。触り方を最適化していき刺激を増やしていく。

 

――痒い、痒い、とにかく痒い。耳の穴を綿棒でそっと擦られているような、背中の中心部を首筋から腰まで指の表面で撫でられたような、内股にシャワーを強めに当て続けられているような、脚の裏を爪を立てて掻かれているような、そんな痒さに苛まれ続ける。それでも身体が動こうとしないのは、その痒さがエリアル・アイスにとって心地良いものであるからだ。

 

「わたしね。優しくて可愛い貴女の力になりたいの」

≪試合に関係無い話になるけど、ああいうのいいわね。私もセブンスに頼んで安眠ボイス作って貰おうかしら?≫

≪≪≪≪ガタガタガタガタッ!!≫≫≫≫

≪ステイステイ! 試合中!≫

≪シチュエーンはそうね。夜寝れない私を心配して声を掛けるの、不安そうな様子から段々と事情を聞いていって安心して、寝付けない私に添い寝を提案するの、それともピロートーブツッ――≫

 

影響は広がる。協会たちは大混乱となっていた。エリアル・アイスの反応が強まっていく様子に完全にコンプライアンスアウトで、すぐにでも試合を中止させるべきだと意見が出るが、この『戦争決闘』に人生を賭けている管理者たちは何がなんでも“勝つまで”試合を続行させるべきだと意見を却下する。

 

「わたしの声で感じてくれてるの? 嬉しいわ」

「そ……んな……こと……!」

 

エデンはどこまでもマイペースにエリアル・アイスを堕としていく、痒みはどんどんと蓄積されていき耐えきれなくなる。思考はもはや蕩けており、自分がここまでして耐えている理由を思い出せないでいた。

 

「フゥ~」

「ひゃん!?」

 

耳に息を吹きかけられたエリアル・アイス。その口からとても、とても艶やかな声が零れた。理性か崩れ、本能が強く主張し始める。考えることそのものがもの凄くめんどうになっていき、強くなり続ける痒さと熱さに悶え始める。

 

(……痒い……熱い……(へそ)下あたりが熱くて痒い……掻きたい……掻きたい……)

「ねぇ、教えて?」

(なにを?)

「あなたはどうしてここにいるの?」

(それを答えれば――)

 

――エリアル・アイスは自分がこのとき何を求めたのか、思い出すことは終ぞ無かった。

 

「わ、私は――」

 

エリアル・アイスは自分が出場した経緯を話した。本部の魔の手から第20支部を守るためエリアル・アイスの話はあくまで彼女による主観であったが、エデンのみならずこの話を聞いた殆どの人物が権力を利用した脅迫だと判断するには十分だった。

 

――会場の外、喫茶店にて正義がめんどくせぇなといつものように笑う。

 

(これで……これで……? これでどうなるの……?)

「話してくれてありがとう」

 

妖艶さだけを消した同じ声。それを聞いた途端エリアル・アイスを苛んでいた痒みがすっと引いていく。完全に無くなったが頭の中はふわふわしており、思考は微睡みに浸り続けている。寝てもいないのに寝起きの時の全てがどうでもよくなるあの瞬間のような、エリアル・アイスは強い睡魔に襲われる。

 

(――なにか、なにか大事な事を忘れている?)

 

このまま寝てしまったら後悔しそうな気がして、瞼に力を入れる。

 

「安心して、私たちが貴女たちを守ってあげるから、いまはゆっくりお休みなさい」

 

――それならいっか。

 

エリアル・アイスは今度こそ完全に力を完全に抜いた。時間も掛からず瞼を閉じた魔装少女から静かな寝息が立つ。エデンはエリアル・アイスを優しくお姫様だっこして、ゆっくりな歩幅でグラウンドを去った。

 

≪お客様ー。なにしれっとお持ち帰りしようとしてるんですかダメですよー! お客様ー!≫

 

 

――『戦争決闘五番勝負、第二回戦。勝者ブレイダー・エデン』と知らせが出たのは、混乱止まぬ数分後のことだった。

 




エリアル・アイスは痒さのあまり大事な所を掻こうとする寸前だったらしいですね。

流石にここまで凝ると終わりが見えなかったので、フォームチェンジは簡易的にしましたなにか思いついたら変えるかもです。

次はコメント回となりますので、次の日曜日までに投稿できればいいなと祈っています。それでは。




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戦争決闘五番勝負スレパート11&一般人スレ②

感想、お気に入り登録、評価、ここ好き、誤字報告ありがとうございます!
感想めっちゃ来ました(ストレート)楽しんでいただけたようで幸いです( ̄▽ ̄)

今回はスレ回となっております。どうにか予定通りに投稿できてよかったです。


622:天使

戦争って悲しいねー。

 

623:混沌

あの……失楽園にお持ち帰りされた魔装少女さんはどうなりました?(lll′-`lll)

 

624:天使

七色に確認してもらってるー。最悪シテるけど大丈夫でしょ。

 

625:七色

大丈夫じゃないっす。めっちゃ気まずいっす。というかなんで自分なんすかね……。

 

626:天使

だって秋葉にいて暇なの七色しかいないし。

失楽園のASMRで気分が絶好調になってるセブンスガールたちの中に放り込んだ方が良かった?

 

627:七色

今から確認しに行くっす!! というかみんなどうしているんっすか?

 

628:天使

今は落ち着いて君のボイス収録の話し合いしているよー。

 

629:七色

それ落ち着いてる言わないのでは? あとやること前提なんっすね!?

 

630:天使

まぁ、ボイス販売とかそろそろ手を出そうかなとは思ってたし、いいかなーってついでにスケ調整とか金あたりがやってくれるなら楽だし。

 

631:七色

あ、みんな巻き込むんっすね……ならいいっす。

 

えでn

 

632:天使

あれ? どしたん? やっぱオセッセしてた? 警察か正義呼ぶ?

 

633:混沌

あわわわわ(>_<:)

 

634:七色

すいませんっす! 打ち込みながら移動していたので不注意で人とぶつかりそうになったっす。

 

635:天使

歩きスマホはやめようねー。脳波入力使わないの?

 

636:七色

苦手で……今度練習しとくっす。

 

それで楽屋の中なんすけど、まず失楽園先輩は居なくて戦った魔装少女が毛布にくるまって寝ていたっす。見た感じ、特になにかした痕跡はないっすね。

 

637:天使

そういえば勝ったらすぐ帰るって書き込んでたねー。

完全にすることして帰ると疑ってなかったからすっかり忘れてた。

 

638:七色

試合見てたから気持ちは分かるっすけど

信用ないっすね……。なにか嫌な事されたんっすか?

 

639:天使

いんや。最初に一回地雷踏まれたぐらいで後はまったく、トラブル起こした数は第一世代じゃ最も少ないし、そもそも僕がブレイダーになってから一ヶ月もせずにこの世界の外へ行っちゃったしね。だけどね。配信ってぶっちゃけ暴力表現よりもエチチな方が規制されやすいの。

 

640:七色

あー。お疲れ様っす。

 

641:天使

今更な気はするんだけどねー。正義が言うようにエデンの行動でBAN食らうなら、とっくの昔にされていると思うし、だけどなんていうか配信者としての忌避感が出ちゃうというか、とにかくエデン関連のトラブルは変に反応しちゃうんだよねー。

 

642:七色

仕事いつもお疲れっす。

それと、テーブルの上に「氷菓子を食べるのはもうちょっと暑くなってからにするわ」ってメモが残されてたっす。

 

643:天使

ロックオンされた氷菓子(仮名)可哀想。というか言い回し的に夏には戻ってくるのかなー。あるいはタイムリミットが夏?

 

644:七色

そういえば失楽園先輩って何やってるんっすか? タイムリミットとか混沌先輩とのやり取りもそうっすけど、何かヤバいこと起きてるんなら知りたいっす

 

645:混沌

その件はこの戦争が終わってから話すよ(._.)

じゃあ、次は私の番だから落ちるよ。

幸有らんことを。

 

646:七色

うっす……。

三回戦、頑張ってくださいっす!

 

647:天使

頑張ってねー。

……書き込みだけで判断するなら普通に見えるけどやっぱり張り詰めてるのかねー。

 

648:七色

混沌先輩のことっすか?

 

649:天使

うん。魔装少女と戦うのかなり複雑なんじゃないかなー。混沌は魔装少女のためにブレイダー活動をしているから、本当はこんなことやりたくなかったと思うよ。

 

650:正義

まっ、今回ばかりは誰が相手でも戦うだろうさ。なにせ守りたいものに蓄積されていった利子の返上だ。難儀なものだな、真面目に働いていただけに返済が間に合わなくて破産申請を出す事になったってのは。

 

651:天使

そうは言うけど相手を見る感じ、正義も結構気を使ったんじゃないの?

 

652:正義

一応俺がマッチングしたわけじゃないって言っておくぜ。ナハハ。

 

653:七色

また難しい話してるっす。

 

654:天使

いやいや。ただ混沌と戦う魔装少女ってちょっと訳ありなんだよね。

 

655:七色

訳あり?

 

656:天使

定期的にアーマードchannelに、こんな悪いことしてますよとか、奈落に燃やして欲しいとかのお気持ちメールにこの魔装少女の名前が出てくるんだよねー。

 

657:七色

マジっすか!?

 

658:天使

マジ。んで、流石に無視できないって何度かどうするって話したんだけど、本部がガッチガチで守っているみたいで調べるのも難航しちゃってて後回し気味になっちゃったんだよねー。

 

659:正義

本部の隠し球、その実力だけいえば他を切ってもこいつを守ると判断するほどには便利なんだろうさ。

 

660:七色

強いから手元におきたいってのは分かるっすけど便利?

 

661:正義

強い魔装少女は割といるが、強くて上層部に従順なのはこいつぐらいなもんだろうよ。だから多少の悪い部分は目を瞑るし、なんなら手を出すってな。奈落のガキ共が近づくことすらできないっていうのは中々だぜ。

 

662:七色

ほえーっす。

 

663:天使

七色ついていけてる?

 

664:七色

なんか新情報がしれっと出てきてるっすけどなんとか……。じゃあその魔装少女が3回戦に出るのって?

 

665:天使

そりゃ負けられない大事な戦いだからねー。こういう時に出さなきゃいつ出すのってね。まあどっかの誰かさんが推薦したのかもしれないけど。

 

666:正義

ナハハ。まっあっちには紫色の事情でもあるんだろうよ。

 

667:天使

そういや聞きたかったことあるんだけど、2回戦の協会側の方でやらかしが浮上しちゃったわけだけど正義的にはそこんところどうなん?

 

668:正義

空気を変えちまうのは出来ればもっと後にしてほしかったぜ。人は不安を覚えちまうと他人事とは思えなくなっちまうからな。自覚がある奴は特に、囲い漁はできなくなっちまったかもな。

 

669:天使

最後まで視聴者感覚でいて欲しいけど、どうだろうねー。

 

670:七色

逃げちゃうてことっす?

 

671:正義

それならまだいい。問題は短絡的な行動に出るかどうかだ。追い詰められたネズミは相手を傷つけて窮地を脱しようとするもんだぜ?

 

672:天使

七色。念のために変身して僕たちがいる実況席のそばにいて。そんで知り合い全員に僕たち側にくるように言って。

 

673:正義

出来る女が睨みを効かせているから派手なことはできないと思うがな、念のためだ。秋葉の連中に俺の武器を回す。何人かこっちに来させろ。

 

674:天使

混沌と悪魔にもメール送っといた。念のためとはいえやりすぎかなー?

 

675:正義

さてな。だが俺の正義が何かが起きると囁く、できれば用心しといてくれるとありがたいぜ。

 

676:天使

正義の正義がなにを囁いているんですかねー?

ヤダヤダ。戦争らしくなってやだなー。シリアス過ぎると疲れちゃうんだけどなー。

 

677:七色

返信遅れて申し訳ないっす! もうすぐ実況席の方へ着くっす!

 

678:正義

そうさな、空気を変えてみるか。七色。

>>634 でぶつかりそうになったのモデル系美人な女だっただろ?

 

679:七色

え? そうっすけどどうして女の人って分かったんっすか?

 

680:天使

あー僕わかちゃったー。

こほん……ばかやろう! そいつが失楽園だ!

 

681:七色

は?

 

682:正義

あいつ、フォームごとに変身解除すると中身がその時の姿のままになるんだよ。

 

683:七色

うそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?

 

684:天使

あ、音声入力にしてたんだ。叫び声聞こえてきてみんな反応しちゃったよ。

 

685:正義

ナハハ。まっ俺もできれば最後までこんな感じでやっていきたいぜ? できればな。

 

 

+++

 

221:名無しの観客

はい。みなさんが落ち着くまでに3スレ消費されましたー。

いやマジでスレ止まらんくって笑いっぱなしだった。

 

222:名無しの観客

決まり手、催眠ボイスってほんとのこと言っても誰も信じてくれなさそう。

 

223:名無しの観客

なんでっていう疑問がエデンだしなぁで終わってしまう。

 

224:名無しの観客

情報過多過ぎてもうどこから話していいかわかねぇよ!!!

 

225:名無しの観客

とりあえずエリアル・アイスはいかに可哀想だったかを話すか?

 

226:名無しの観客

固有魔法が始まる前から効かないんじゃねって分からせられるの可哀想

 

227:名無しの観客

実況で性癖暴露されたの可哀想。なんならはじめての目覚めが数えきれない人に見られたの本当に可哀想過ぎる。

 

228:名無しの観客

敗因がASMRボイスって言われ続けることになるのマジ可哀想

 

229:名無しの観客

そもそも出場した理由がパワハラってのはカワイソクライシス。

 

230:名無しの観客

パワハラ(脅迫)に関しては本当なん? なんか聞いておる感じあくまでもエリアル・アイスがそう思ったって感じにも聞こえるけど。。

 

231:名無しの観客

協会側の公式配信荒れまくってるけど、完全に無視してるしなんならエデンを悪く言って逸らそうとしてるのでガチっぽい。

 

232:名無しの観客

それに関して第十支部リーダーが声明出したぞ。以下コピペ。

 

「エリアル・アイスが脅迫されて出場した件について、現在簡易的ではありますが事実確認を行いました。端的となりますが、この件は事実であり調査を行い次第ご報告します」

 

ちなみに本部は沈黙を貫いているそうです。

 

233:名無しの観客

様々なトラブルを解決してきたヴァイオレットさん、流石に行動が早い。というかこれ内部告発じゃないの?

 

234:名無しの観客

事実と断言しているからな。というか脅迫してまで戦わせるって協会側は魂でもチップにしてるんか?

 

235:名無しの観客

まじで命取られるとか? 表ではいかにもお祭りですって空気でやってるけど戦争って言ってるし。

 

236:名無しの観客

とにかく巻き込まれただけのエリアル・アイス可哀想。

 

237:名無しの観客

お持ち帰りされたけど、あの後ナニされたんですかね……。

 

238:名無しの観客

>>237 そりゃお前……なにもなかったってアンギルが配信で言ってたぞ?

 

239:名無しの観客

>>238 なかったんかい!

 

240:名無しの観客

あのまま協会側の楽屋に戻っても碌なことにならないと判断して連れて行ったと思うわいと、単にエロいことしたかっただけと思うわいがいる。

 

241:名無しの観客

エデンは行動原理が全部エロに直結してる。誰かを助ける時も、命賭けるときもエロいこと考えてる。だからどっちかとかじゃなくて、

全て=エロ=全て。

それがエデン。

 

242:名無しの観客

俺たちの兄貴姉貴はやっぱり格がちげぇぜ。

 

243:名無しの観客

初登場がセッ○スの最中だったから全裸だったとか俺たちに出来ない事を平然とやってのける!

 

244:名無しの観客

男女どっちでも行為が可能なところに痺れる!

 

245:名無しの観客

言ってること大体放送禁止用語なの憧れないです()。

 

246:名無しの観客

言い方難しくしてるだけで、発言の大半がち○こま○こ関係なのはさすがに笑うしかない。

 

247:名無しの観客

はよボイス販売しろよ! 男女ハーレムものでオナシャス!

 

248:名無しの観客

両刀使いがここにも居ただと……?

 

249:名無しの観客

>>247 それただの乱交ものじゃね?

 

250:名無しの観客

でも、ボイス欲しいよな。他のブレイダーも良い声してるし、グレムリンに襲われてデビルに助けられる一般人シチュで欲しい。

 

251:名無しの観客

カオスに冷たい言葉なげらかけられて、一刀両断される悪側でお願いします。

 

252:名無しの観客

ただひたすらセブンスと魔装少女がイチャついているのを聞いているだけの第三者ボイスあったら買います。

 

253:名無しの観客

あんまり聞いた事のないボイスシチュばかりで草。

 

254:名無しの観客

そりゃ変身ヒーローなんだから、それに関わるもの聞きたいじゃん? わいはとにかく必殺技音声集が欲しい。というかブレイダーは玩具販売とかしないんかな?

 

255:名無しの観客

>>254 企画としてはあったみたいだけど頓挫したらしいぞ。

 

256:名無しの観客

>>254 悪評が多いから玩具会社側が断ったんだったか? まあ残念ではあるが当然といえば当然。

 

257:名無しの観客

グッズはあっても、模した玩具が無いってそういう理由だったんか。

 

258:名無しの観客

そのブレイダーの玩具があったとして、それを遊んでいる子供に過激アンチがちょっかいかけてもおかしくないからな。持っているだけで安全性が損なわれるのは流石に無理やろ。精々個人で作って楽しむぐらい。

 

259:名無しの観客

やっとスレ追いついたんだけど、めっちゃ話脱線してない?

 

260:名無しの観客

すでに3スレ目だから、ぶっちゃけ賢者タイムになっている感はある。

 

261:名無しの観客

下手にエロトークすると……ほら察しろ、怖いやつが来るかも知れないだろ。

 

262:名無しの観客

エリアル・アイス、今後の活動に差し支えないか心配だなぁ……。

 

263:名無しの観客

第20支部のSNSの公式アカウントの乗り物日記好きだから、まじでなにも起きないでほしい。

 

264:名無しの観客

マッハ・カームがエリアル・アイスを現場に運んだ際に使われた乗り物日記は俺も好き。

 

――――

一輪車。星★★★

 

小柄で運びやすく田んぼ道にも強いけどバランスが難、練習が必要。

速度出したら石に躓いてアイスを田んぼの用水路に落っことしちゃった。

できれば、あと何回か試したかったけど拒否られる。

もう一度乗って貰えるように交渉中。

 

――――

 

プラスチックスノーボード 星★

 

サンタのソリを引くトナカイ気分になって楽しかった。

だけど脆かったらしく目的地に着く頃にはソリは半壊。

なんとかグレムリンを倒して帰路につくとアイスが道の途中に転がっていた。

 

――――

 

タクシー 星★★★★★

 

速度はそんなにだったけど、出来る限り急いでくれたおじいちゃんに感謝。

往復12800円。ちょっと目的地が遠かった。

代表に滅茶苦茶怒られた。

 

――――

 

なんど見ても笑える。

 

 

265:名無しの観客

だめだどれも面白いww フォローしとこww

 

266:名無しの観客

エリアル・アイス散々じゃねぇかw 可哀想属性は元からかよww

 

267:名無しの観客

まあ、エリアル・アイスが極力動きたくないからマッハ・カームが運搬しているって事情はあるけど、これ以外にも定期的に呟いていて20支部の魔装少女と代表ものすごく仲がいいの伝わってくるから、俺は好き。

 

268:名無しの観客

アーマード派だから知らなかったけど、魔装少女側では20支部って有名なの?

 

269:名無しの観客

>>268 いんや。広報行為がSNSの呟きぐらいってのもあるけどマイナー。根っからの魔女ブタでも名前だけしっているのが多いっぽい。試合終わってから爆伸びしているけど元は200ぐらいだったし。

 

270:名無しの観客

ほんと色んな魔装少女がいるんやね。

 

271:名無しの観客

というか20支部のアカウントいま地獄なんだけど変態どもが集まってセクハラしまくってる。

 

272:名無しの観客

>>271 いや、普通に平和やぞ? 試しに関係性ある名前で検索してもなんも出てこんし。

 

273:名無しの観客

>>272 嘘やと思っていま見に行った全部消えてるんだけど……。

 

274:名無しの観客

あー怖いやつが動いちゃったなぁ。面白半分で書き込みとか絶対やるなよ? マークされるから。

 

275:名無しの観客

バカ共が、対決してるからって気抜いただろ。宣戦布告文で魔装少女のためにって書いてあるの見てないのかよ。敵じゃないんだよ魔装少女は。

 

276:名無しの観客

>>275 そういうことここで書き込んでも意味ないでしょって。

とにかく、第20支部のことは見て見ぬ振りが一番良さそうやね。ほんと何時もどうやって秒消ししてるんやろ。

 

277:名無しの観客

あの、なんでみんな名前呼ばないんです?

 

278:名無しの観客

>>277 だって怖いもん。ボタン押したら爆発するダイナマイトってのは分かるけど、どれがボタンなのかが分からないから、極力ボタンっぽいものは触れたくない。

 

279:名無しの観客

ちなみに前のスレまで普通に名前書き込んでた。住民の防衛本能の高さがわかる。

 

280:名無しの観客

なんか協会の脅迫もそうだけど、徐々に臭い物が漏れてきた気がする。

 

281:名無しの観客

なんなら決闘五番勝負でよかったのに、わざわざ戦争って付けた理由を考えよう。

 

282:名無しの観客

三回戦、カオスの戦いが見れるの普通に楽しみになんだけど、色々と怖いわ。

 

283:名無しの観客

バスター・クイーンって昔一回名前聞いたな。なんか別の魔装少女がこいつに酷いこと言われたってSNSに書き込んで、すぐさま撤回したやつ。

 

284:名無しの観客

あの時流れがあまりにも迅速で急だったから闇を感じた。

 

285:名無しの観客

バスター・クイーン、今のタイミングだから言うけど鍵付きの掲示板でヤバイぐらい名前があがる。あれが全部マジだったら、いつアビスに燃やされてもおかしくないぞ。

 

286:名無しの観客

もしかしてこのイベント自体がバスター・クイーンをどうにかするために企画されたものとか?

 

287:名無しの観客

それだけってわけじゃないけど、理由の一つとしてはありそう。というかそれを言うならアビスの対戦相手がまだ不明なのがマジで不穏。

 

288:名無しの観客

本当に戦争にならないといいな……。

 

289:名無しの観客

暴走したシルバー・バレットについて誰もなにも言わない件について。

 

289:名無しの観客

慣れた。

 




スレは基本的に感覚強めで書いているので話が右往左往したりしますが楽しんでいただけたら幸いです。

仕事の転換期(まだ未定)で最悪辞めることになりますがまぁそん時はそん時です(諦めが肝心)
そんなわけで更新がどうなるかは自分も予測つきませんが、特に問題がなければいつも通りの感覚で投稿したいと思いますのでその時はよろしくお願いします。

次回は奈落視点と予定にはありませんでしたがちょっとだけ悪魔視点もあります。

ではでは( ̄▽ ̄)


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奈落Ⅱ

感想、お気に入り登録、評価、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます!
おかげさまで20話を超えていた事に気付きませんでした!( ̄▽ ̄)おかげさま?

内容が内容だけに、前書きはこのへん本編をにてお楽しみ頂けたら幸いです。

※アビスの台詞を追記しました。


「……困ったね」

「困りました」

 

階段を降りて短い通路を進むとエレベーターがあり、さらに降った先にあったのは、もはや秘密基地と言っても差し支えない地下空間であった。

 

「対応が迅速だったね」

「はい」

 

エレベーターから出てすぐに、連絡を受けてアルバトロスの応援に行こう集まっていた魔装少女たちに囲まれてしまい。アビスたちはオルクスの壁を透過する魔法などを駆使して強引にその場から逃げた。

 

 

「第8支部もそうだったけど、ここでもこれだけ広大な地下施設があるなんてね。誰が作ってるのかな?」

「分かりません。あとで調べます」

「単なる独り言だから気にしないでいいよ……心当たりはあるしね」

「え?」

「なんでもない。それにしても、ここに隠れるのはやり過ぎたかな?」

「いいえ、念には念を入れた適切な判断です。第3支部の魔装少女は私たちを二度見逃しました」

「そう言ってもらえると幸いだよ……。撒いたみたいだし外に出ようか」

「はい」

 

飾り気がなく殺風景を思わせるが、ベッドやパソコンデスク、水は補充されていないがウォーターサーバーの機械がある私室、その押し入れの中にアビスたちは隠れていた。オルクスは畳まれた布団の間に、アビスは段ボールと天井の隙間に入り込んでおり、部屋に入ってきた魔装少女たちも、隠れていると考えが及ばなかったのか押し入れの中を見ることは無かった。

 

「……出れないです」

「ここで寝るには物が多すぎたね。いま引っ張るよ……よっ」

「ありがとうございます」

 

魔法を使えば簡単に出られるのだが、ここに来るまでに魔法を多用したため、節約を意識しないとまでに魔力が減っていた。そのためオルクスはアビスに引っ張ってもらい外へと出る。

 

「提案します。こうなっては私たちを探している魔装少女を捕まえて情報を得たほうがいいかと」

「……捕まえるのはともかく、魔装少女に話を聞くのが最善かな」

「もしもの場合はお任せください。そういうの得意です」

「頼もしいね。いつものことだけど」

 

無表情であるがどこか得意げなオルクスに、アビスはマスクに隠れて苦笑する。

 

+++

 

地下エリアの正体。それは第3支部に所属する魔装少女たちに用意された『地下寮』である。そのためアビスたちがすぐに魔装少女たちの集団に鉢合わせたのは仕方のないことだった。

 

「ねぇ、不法侵入してきた不審者って誰か分かったの?」

「なんでもブレイダー・アビスらしいわ。先行組がばったり出くわしたって」

「ええ!? それが本当ならヤバイじゃん!」

 

地下エリアを回りアビスたちを探す数人の魔装少女が、緊張感に疲れ始めて口を動かし始める。

 

「だ、第3支部の魔装少女が何か悪いことしたのかな?」

「それは分からないけどブレイダーって、いま秋葉にいるんじゃ? アビスも試合にでるんでしょ?」

「もしかして、地下寮の調査とかじゃない? ほらここって普通じゃないし」

「あー。ありそう。慣れちゃったら快適だけど客観的に見れば犯罪的だしね」

 

地下寮での魔装少女生活は窮屈で閉鎖的である。日常的に外へと出られる瞬間は支部専用車での学校の送り迎えのみであり、決められた時間と共に食事や就寝を行わなければならず、まるで自衛隊や囚人のような生活だと思う子も少なくはない。

 

しかし、慣れてしまえば食事は朝昼晩美味しい物が食べられて、風呂はともかくシャワーは何時でも入れて、シャンプーなどの消耗品も完備。事前に頼めば、その銘柄を支部が用意してくれるほどだ。外出に関しても支部での活動を除いた日は、事前に報告を行い門限さえ守れば出来る。

 

魔装少女の中には、自分がこっちに来る前に通っていた私立女子高の寮に比べれば楽園だという意見もある。しかし、年頃の魔装少女に半ば軟禁状態で地下に住まわせていると言われれば否定は出来ず。そんな客観的視点を自覚しているだけあって不安の種は成長する。

 

「それ関係ある? アビスの標的って魔装少女だけでしょ?」

「でも、いま『協会本部』と争っているんだし……もしかしたら、第8支部みたいに襲撃しにきたのかな?」

「ちょっとやめてよ。第8支部は単に閉鎖になっただけでしょ? ブレイダーが関わってるってあくまで噂でしょ? 本部も違うって否定しているし」

「でも、絶対なにか隠してるよねー。『協会』これからどうなるんだろ……」

「――問題ありません。アビス様たちがきっとよりよいものにしてくれます」

「ブレイダーたちが私たちの上司になるってこと? ……まあ、そっちの方が私はいいかもー」

「まっ、なにかあれば最悪魔装少女を引退すればいいだけだし……ねえ、今知らない声混じって無かった」

 

聞き覚えのない声にようやく気付き、その声がしたであろう背後に全員が振り向く。そこに居たのは目元を黒帯で隠した魔装少女。サイレント・オルクスと――。

 

「やあ! ボクはブレイダー・アビス!」

 

そして、ブレイダー・アビスが立っており、仲間たちが聞けば頭でも打ったのかと疑われるほどの陽気な挨拶をする。

 

「出会い頭で申し訳ないんだけど、ちょっと聞きたい事が……」

「きゃ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「やっぱり駄目だったみたいだね……逃げようか」

「はい」

「あ、ちょっとまてー!?」

 

 

殺人鬼にでも出会ってしまったかのように魔装少女の一人が叫んだことで、アビスは絶叫を聞きつけて集まってくるであろう魔装少女たちが来る前に逃亡を行う。

 

「――曲がる時に使います、フェイントをかけてください」

「わかった、最初は左に行くよ」

「はい……〈固有魔法展開(エクストラ):リバーリーフ〉」

 

腕を振るい綺麗なフォームで走るアビスに、オルクスは跳ぶよう併走、T字通路の突き当たりを左に曲がった瞬間、オルクスは『固有魔法』を発動。アビスたちは身体を反転させて右の方へと進路を変える。

 

「ま、まてー!」

「このまま追っていいの!?」

「わかんないけどとにかく今は言うとおりにするしかないでしょ!?」

 

アビスたちを戦々恐々としながらも追ってきた魔装少女たちは“左”に向かい、そのまま見えなくなったアビスを反対方向に逃げたとは知らずに追い続ける。

 

オルクスの『固有魔法』である〈リバーリーフ〉は他者の視覚に干渉を行い、自分に対する認識を調整する事ができる。内容こそ地味ではあるが、人数制限はなく、適応範囲も自分を認識できる距離であれば対象とにすることができ、それこそ魔力さえ消費していれば彼女と対象者は誰にも感知されない石ころにも目を奪うアイドルにもなれる。

 

ただ普通の人間や生物、グレムリンなどは魔力を消費し続ければ持続して効果を発揮するのだが、魔装少女だけは効果が適用されてから二秒過ぎてしまうと無力化されてしまう。

 

――魔装少女が、その子の考えうる最も完全な姿(理想)を体現した姿とされるなら、彼女は暗殺者のとして天賦の才を持って生まれてきた。しかし、その代償と言わんばかりに人殺しの才能は持たず、どれだけ過激な教育を施されてもオルクスは最後の最後まで人を殺すことを拒絶し、それが『固有魔法』にも影響が出たとされる。

 

「話しかけるって難しいね」

「あのまま問い掛けてもよかったのでは?」

「どうだろう。下手に囲まれちゃうと戦うことになりそうだったし、退いて正解だったと思ってるよ」

 

流石に悪い事をしていない魔装少女に『奈落の炎』を使うのは烏滸がましいが過ぎると考えていた。なによりアビスの戦意を下げていたのは、魔装少女たちの()が戸惑いと不安の色をしていたからというのもある。

 

「大人たちの指示に従っているってだけでボクを捕まえるのに疑いを持っていた。だから怖がらせるのは、ちょっと罪悪感が凄くてね」

「あの北陸支部の魔装少女に色々と聞けばよかったです」

「たぶん、なにも知らないんじゃないかな?」

 

アビスの予想は正解であり、アルバトロスは第3支部の事情は殆ど知らなかった。どこまでも日給三万円に惹かれて規則を破った阿呆鳥なのである。

 

「せめて案内板でもあればいいんだけどね」

「……護衛を受けずに全員で来るべきでした」

「うん? 護衛?」

「あ、いえ……なんでも……はい」

 

オルクスはあまり役に立ててないと歯痒さに負けて口を滑らせてしまう。現在、『元懲罰部隊』の残り二人は正義に頼まれて、第十支部のリーダー兼代表であるヴァイオレットの護衛をしているのだが、アビスはその事を知らされていなかった。

 

「そう、危ないことはしていない?」

「……はい、あくまでも念のためとのことです」

「ならいいけど、あの二人は無茶をしやすいから少し心配だね」

「はい……あの、聞かないんですか?」

「悪い隠しごとはしないと知っているからね」

 

何事に対しても報連相(ほうれんそう)を怠らない彼女たちが初めて自分に隠し事をしたことにアビスは純粋に嬉しかった。

 

保護した時、彼女たちの心は火種ほどに消耗しており、自分の言葉一つ無ければなにもしない子たちだった。“まるで昔の自分”のようであった彼女たちにアビスは様々な経験させた。美味しい食事を食べること、ゲームをすることなど、命令でしか動かない彼女たちに敢えて有り触れた事をさせるために命令を行った。

 

そんな彼女たちが自分に隠し事をした。趣味を見つけるまでに至った彼女たちの()は当初とは比べものにならないほど活性化しており、自立心も根付いている。

 

――頼りになる仲間たちも居るし、例え自分が居なくなったとしても彼女たちは生きていけるだろう。

 

「アビス様?」

「いや、なんでもないよ」

 

()揺らぐオルクスに申し訳なさを感じながら適当に誤魔化す。その様子にオルクスは余計に不安を覚えて、気になっていた事を口にする。

 

「アビス様、間違っていたら申し訳ありません。ですが今日のアビス様は少し様子がおかしいように思えます」

「……そうかい?」

「なにか不安なことがあるのですか? まさか体調に問題が?」

「……そういうのじゃなくてね。実は個人的な理由でシスター・イースターと接触するのを今まで避けていたんだ。それが影響しているのかもしれない」

「……個人的な理由がなにかお聞きすることは出来ませんか?」

「ごめんね。ボクだけじゃなくて、他人のプライバシーに関わることだから」

 

いつものように穏やかではあるが、はっきりと拒絶を示すアビス。シスター・イースターに会うのを躊躇っていた。それだけで察する事が出来るものがあるために、オルクスは内容の重さに口が動かなくなった。なによりアビスがまるで蝋燭の火のように今にも消えてしまいそうなほど希薄に見えてしまったことも理由にあがる。

 

「アビス様……」

「オルクス、魔装少女だ」

 

オルクスが悩んでいると、カランカランと杖についた鐘をならしながらひとりの魔装少女が曲がり角から現れた。

 

「――ここにいましたか~」

 

のんびりとした空気が抜けている声は聞く相手の敵愾心を薄めることだろう。派手な柄が入ったモンゴルの民族衣装風の魔装の上にコートを肩に掛けるように羽織っている。また全体的に綿毛の装飾が目立ち巻角が映えた帽子を被っていることから、どこか羊飼いと羊を足して割ったような印象を受ける。

 

「アポなしで来る悪い人、ようやく見つけましたよ~」

「すまないね。時間が無かったもので無理は承知だったんだ」

「そうなんですか~? ではしかたないんですね~。でしたら~……改めてご連絡してから来てくださいね~」

「そうは行かなくてね。申し訳ないけどボクの話を聞いてくれると助かるよ『スレプト・シェパーデス』」

「おや~。わたしのこと知っているんですね~。呼びづらかったら、スレプトでもシェパーでもデス子でも呼びやすい名前で呼んでくれていいよ~」

「どれも素敵な愛称で迷いそうだ」

「アビス様」

「大丈夫、ちょっと下がってて」

 

オルクスはアビスを守るように前に出ようとして逆に後ろへと下がるように窘められる。

 

「それで、どうして第3支部に来たんですか~?」

「ちょっと気になる事があってね。問題が無かったらすぐに去るさ」

「――それはシスター様に関わること~?」

「……そうだね」

 

威圧混じる微笑みをアビスは正面から受け取る。アビスは最初から狂うように捻れた()を見て知っていた。スレプト・シェパーデスという魔装少女が狂信者であることを見抜いていた。

 

「シスター様の『固有魔法(奇跡)』は本物だよ~?」

「そうかもね」

「じゃあ、なにが問題なの~?」

「それを確かめるために行くんだ」

「あっそ~。じゃああなたの冒険はここでお終いだよっ

 

スレプト・シェパーデスの足下に魔方陣が浮かび上がる。『固有魔法』であると見抜いたオルクスが止めようと魔力を込めようとするが、それをアビスが手で止める。

 

「君の魔法は知っている。だから提案だ……それを使わないでもっと平和的に話し合わないかい?」

「もう遅いよ! 気が済むまで羊でも数えなさ~い! 〈固有魔法展開(エクストラ):メリーハッピーランド〉!」

 

スレプト・シェパーデスの『固有魔法』は相手に睡眠を付与して自由に夢を見させる事が出来る。対象となったアビスの意識は時間を掛けることなく朦朧としていき視界が揺らぎ意識が落ちた。

 

 

気がつけば見覚えのある狭く綺麗な部屋に居た。『』と心配そうに母親に呼ばれたので「なんでもないよ」と返す。それでも心配は消えず母親は過保護気味に『なにかあればすぐに言うのよ?』と台所に立った。鼻歌を歌いながら包丁で野菜を切っている母親からテーブルに目を向けると真っ白なケーキが用意されており、これが何かを問い掛けると『大事で可愛い息子のおやつ』と冗談交じりで言った。それを聞いてそういえばそうかとラップを剥がし、フォークで食べる。口の中に生クリームと卵の甘さが広がり、どうしてか苦い味がすると想像していたので反射的に「甘くておいしい」と呟いてしまい、聞き耳を立てていたのだろうか母親が『ケーキだからね』と笑った。一口を大事に大事に食べていると玄関のチャイムがなった。それにボクは驚きながらも、ようやく来たんだと嬉しそうに玄関まで掛けよって誰かを確認せずに鍵を開けた。ガチャリと扉が開き、そこに居たのはモニカだった。「いらっしゃい」と言うと彼女はにこりと笑って中に入る。もう数なんて覚えてないほど家に来ているモニカは自然な足取りで自分の隣に座りスマホを母親のスタンドに設置して見せたかった動画を流し始める。物静かな自分たちが時折笑い声をだすため気になった母親が『なにを見てるの?』とモニカとは反対に座り三人で動画を見ることになった。これがボクたちの代り映えのしない幸福に満ちあふれた日常。ふとモニカに「魔装少女は上手くやれている?」と尋ねると、モニカは充実していると言わんばかりにどや顔で笑った。そんなモニカに苦笑をしながら充実した学校生活の事を話す、体育の授業ではたくさん走ったと語った。すると『頑張ったね』と母親が頭を撫でてくる。それに気恥ずかしさを感じながらも止めることはなく、『ご褒美に今日の晩ご飯は豪華にするね』という言葉に素直に傾いた。『モニカちゃん』も夕飯食べる?』と母親が言うと、モニカはにこりと笑って頷いた。ごちそうになりますと笑う彼女は悪戯っけがあって、それが可愛いと思えてしまうのは惚れた弱みと言うべきなのだろうか、いつか告白の一つでも出来ればいいなと思うが、平和な日々はこれからも続くんだゆっくりと―――――――

 

 

――――≪THE END≫――――

 

 

()()()

 

 

 

 

 

 

「――奈落様!」

「っ!?」

 

オルクスに名前を呼ばれたアビスは意識を覚醒させる。そして目に飛び込んできたのは自分の両手がスレプトを壁に押しつけて、その細い首を絞めている場面だった。

 

「か……かっ……!」

「このままでは死んでしまいます! 手を離してくださいっ!!」

 

人に死に敏感なオルクスが脅えて叫ぶ。そのことでようやく思考が働き出したアビスは慌てて手を離した。

 

「……ごめん、ありがとう」

 

アビスは心の底から謝罪と感謝を送る。もしあのまま必殺技を発動してしまっていたら魔装が焼かれ、ただの少女となったスレプト・シェパーデスの首をへし折っていた事だろう。夢現の狭間で人を殺しかけた、その事に冷や汗は止まらないものの、アビスは心のどこかで“それでもよかった”という考えが湧き出てきて、それを念入りに奥底に埋めた。

 

「……自分で考える以上に地雷だったか……」

「いったい何があったんですか?」

 

強烈な眠気に襲われて抗っているとアビスがゆっくりと動き出して、スレプトの首を絞めだしたのだ。すると瞼が一気に軽くなったオルクスは訳も分からず、このままでは人が死ぬという恐怖に従いアビスの事を止めに入った。

 

「スレプト・シェパーデスの『固有魔法』は、どうやらスキルの影響か魔法の掛かりが中途半端だったみたいだ。その結果、夢遊病のようになり感情のままに行動したんだろう」

「ど、どうし……え?」

「うっ……うっ……」

 

騒ぎを聞いたのか、それともスレプトが事前に呼んでいたのか第3支部の魔装少女集まってきた。しかし壁の隅に蹲り啜り泣いているスレプト、そしてそれをじっと見やるアビスという光景を見て動揺のあまり立ち止まる。

 

「うっ……ご、めん、なさい……ごめんなさい……ごめんなさい!!」

 

必至に謝りだすスレプトに、オルクスは殺されかけてトラウマを植え付けられたと判断したが、それは間違いであったとすぐに分かる。

 

「……本当にごめん。君のことはよく調べていたんだ。君の『固有魔法』は相手を眠らせただけではなく、“幸せな夢”限定だけど自由に見せることが出来る」

 

淡々とした口調ではあるが、アビスは押しつぶされそうなほどの罪の意識を感じていた。それは“殺し掛けた”こともそうだが“魔法を発動することを無理にでも止めなかった”という思いのほうが強いモノだった。

 

さらに言えば、自分が燃やしてきた魔装少女は、簡単に言えば感情が消えうせるほどの非業を行ってきたものたちであったが、スレプトは違う。彼女はグレムリンと戦うものは少ないものの定期的に睡眠セラピーを開き〈メリーハッピーランド〉を使い、不眠症や鬱病を患っている人々に癒やしを与えてきた彼女に苦痛を与えてしまったことが辛かった。

 

――強く止めなかったのは“夢”を見たかった。それだけだった。その結果が、“彼女”のように誰かを救う魔装少女を一人奈落にたたき落としてしまった。やっぱりボクは烏滸がましい死者でしかないのだろう。

 

「その代わり――君は魔法で眠らせた人の記憶を得ることになる」

 

それはデメリットではなく“仕様”と呼ばれるもの。眠らせた後に見せる夢を作るには対象者の記憶(情報)を習得する必要がある。それから感覚的にではあるが得た記憶を頼りにスレプト本人が記憶を元に夢の内容を決める。故にスレプト・シェパーデスは“奈落”と呼ばれる前の少年の夢を見た。

 

「うっ……うえっ!!」

「無理に話さない方がいい……ごめん、味の濃い飲み物と桶を持ってきてあげて、普通の水と白色の飲料は駄目かも知れないからそれは避けて」

「は、はい!」

「アビス様」

「オルクス。彼女を抱きしめて背中を優しくさすってあげて」

「はい」

 

さすがに侵入者がどうとか行ってられる状況じゃないと、第3支部の魔装少女たちはアビスの頼みに動き出す。アビスは自身の記憶からスレプトの症状に対応する。

 

「ううっ……知らない、こんなの知らない! ……どうして腐ったカップ……ううっ、いやッ! 天井を見せないでっ!! ……うっ! お願い……お願い……します、名前をよんで……わたしはたまじゃ――」

「落ち着いて、それは君の記憶じゃない」

「いい子いい子」

 

オルクスがスレプトの事を強く抱きしめて背中を撫で続ける。時間が無いことには変わりないが、錯乱している彼女を放っておくことは出来ずはずもなく、落ち着くまで寄り添う。しばらくすると、ほんの少しだけ落ち着き始めたスレピトは、恐る恐るアビスに問い掛ける。

 

「あなたは……どうして……こんな地獄に居て死のうとしなかったの?」

「自分で死ぬという考えに至るには、満ち足りていた過去が必要なんだけどね。ボクはそれが無かっただけさ。それに垂れていた蜘蛛の糸に触れているだけでボクは幸せだった」

 

アビスの答えを聞いたスレプトは、震えた指先を通路の奥に向けた。

 

「シスター様はあっちの扉の先にいる……注意書きがあるからすぐに分かると思う……」

「どうして居場所を?」

「――モニカさんに会ってきて」

 

スレプトはそれだけ言って第3支部の魔装少女たちの手を借りながらその場を去った。二人きりとなった空間で、オルクスはなんども口を開いては閉じてを繰り返す。

 

「どうやらゴールは近いらしいね。行こうか」

「……はい」

 

その様子に気づきながらもアビスは触れず、スレプトが示した道を歩き出した。オルクスは躊躇いがちにその後ろを付いていく。

 

 

――目的の魔装少女にもうすぐ出会う。

 

 

+++

 

――ボクの生まれたアパート周辺は、はっきり言って異常だったのだろう。なにせその近くにあったゴミ捨て場に、一日中焼却炉前で座り込む子供が居ても誰も反応することはなかった。

 

まあ、それに関してはボクの事を知っていたからこその態度だったのだろうけど、それを抜きにしても悪いほうの人間味が満ちあふれて、誰もが大事な物を無くした。まさに地獄と呼ぶに相応しい環境だった。

 

ボクもそんな地獄の空気に当てられた人間だった。生活環境がそのまま影響しているということもあるだろうが、当時の少年は間違いなくネコにも劣る下等な生物でしかなかった。

 

傷口に塩を塗り込まれることが分かりきっている学校に行くなんてもっての他で、知識が無いながらも今日を生き残るために大人との接触を避ける。そのため匂いと汚さを嫌って、誰もがすぐに去るゴミ捨て場に目を付けたのは、我ながら生存能力が高い選択だったなと時折思い浮かべては笑ってしまう。

 

それでも、何れはそのまま息が止まってゴミの様に死んでいくのだろうとは自覚しており、それでいいかと夜が訪れるまで捨てられていた段ボールを適当に焼却炉前に敷いて何もするわけでもなく、ただ毎日毎日空っぽに生きていた。それは誰から見てもゴミそのものだったと思う。

 

――そんな、静かに朽ち果てるだけの息をするゴミが、人のようなものに変わった転機が訪れたのは切っ掛けというものがない

 

ゴミ捨て場に通りかかった彼女がボクを見つけたのだ。

 

彼女の名前は『モニカ』。名字もそれが本名かどうかも知らない。

 

ボクがモニカに関して知っている事はあまりにも少ない。なにせ彼女は自分の事は殆どなにも言わなかったし、自分も聞くという発想そのものが無かった。

 

だから、毎日のようにゴミ捨て場まで来て日が暮れる前まで居続けて、ボクに様々なものをスマホで見せてくれた。その一連の行動の理由を最後まで知ることはできなかった。

 

モニカは滅多に言葉を口にすることは無かったが、代わりに感情が強く表に出ていた。泣ける映画では五分もせずに涙を浮かべてボクの服で拭いたり、心霊スポット巡りをする配信者の動画では始まる前から脅えて、ボクの腕をぞうきんみたいに引き絞り、そしてよく笑いよく怒った。

 

そうやって感情に触れて感情を知り、知識を得て徐々に人ということを知っていく、彼女もボクに教える事が自体が楽しいと感じてくれたのか色々な事を教えてくれた。

 

漢字、かけ算をボクに教えるモニカはとても楽しそうで、でも割り算は彼女も苦手だったらしく、説明を聞いたらボクの方が早く覚えた事は今でもちょっとした自慢になって、たまにそれを思い出してボクが言うとむっとする彼女が好きだった。

 

――好きだった。恋か愛か依存か名前を付けられるほどの経験が無かっために最後の最後まで気付くことが出来なかった気持ちは膨れ上がり自立心と欲を育てる。そして向上心に従うままに教育を受けるようになって夢を見るようになった。

 

――夢を見た。それが覚めるものだと知らずに。ずっと……夢を見ていたんだ。ほんの十秒ほどのモノに君を犠牲にして。

 

 

 

 

+++

 

秋葉のビル地下にある穴場のバー。本来であれば開店は夜からだが、悪魔は顔見知りのマスターに頼んで特別に開けて貰い、自分の対戦相手であったアルテメット・アイドルの姉。惹彼琉想衣と会話を弾ませていた。

 

「アイドルって幼稚園のころからやってんのか? すげぇな」

「テレビでアイドルを見てから憧れちゃったみたいでね。お母さんもノリノリだったこともあって動画デビューしたんだよ。そしたら人気に火が付いてそのままって感じかな」

「天才って聞いてはいたが正しくだな」

「三日で百万再生行ったときはほんとびっくりしちゃった」

 

妹のことを語る想衣は誇らしげで楽しそうだった。

 

「あ、ごめんね気がつけばずっと妹の話ばっかりしちゃってた」

「むしろ助かる。正直言っちまうと俺はコミュ障でな、だから人の話を聞いているほうが好きなんだ」

「ふふっ、それ本当? 見た目からして毎日女の子を口説いているって言われたほうがしっくりくるよ?」

「カタギじゃないとはよく言われるが、ナンパ師って評価は初めてかもしれんな」

「ほんと? やった、悪魔さんの初めて貰っちゃった」

「どこかしら表現に含みがあるのは気のせいか?」

「深読みのしすぎだよ。ふふっ、でもこれは妹には話せないかな」

 

話し始めてしまえば悪魔と想衣は相性がよかった。会話のテンポやペースが丁度良く、気を遣いながらもちょっとした所は遠慮が無く軽口を言う。そんな想衣との会話は楽しいものであるが、悪魔はやけに口寂しさを感じた。

 

「煙草、吸っていいよ」

「いいのか?」

「私は気にしないから、むしろ周りに吸う人いなかったからちょっと興味があるかな?」

「つっても未成年だろ? 悪いお子様とは言え気にしちまうな」

「えー。これでも私20歳なんだけど?」

「……まじか、高校生ぐらいだと思ってたわ」

「んん? 19だっけ? ……忘れちゃった」

「人のことは言えんが普通忘れるかね?」

「てへっ」

 

首をこてんと傾けて誤魔化す想衣。悪魔は煙草に火を付けて吸い込み、出来るだけ煙が広がらないように換気扇に向かってゆっくりと吐く。

 

「美味しい?」

「美味い」

「へー……一口貰っていい?」

「自分で買ってくれ。結構高いんだよ」

「悪魔さんは意外とけちんぼだなー」

 

膝を枕にしてこちらを覗き込む想衣に記憶の陰が重なる。そして同時にどうして出会ったばかりの彼女と、こんなにも話しやすいのか納得する。

 

「想衣はあれだな、俺の義母親(ははおや)に似てるな」

「……それって老けてるってこと?」

「ちげぇよ。つっても言葉じゃ上手く説明できないが……性格とかは全然だがなんだか雰囲気がな。見ていたら思い出しちまった」

「……ねえ、悪魔のお母さんっていまどこに居るの?」

 

そう質問されて悪魔はまずったなと内心で悔やみながら、灰皿に煙草の灰を落とす。

 

「……数年前に亡くなった」

「そっか……。ごめんね」

「いやいい。秋葉(ここ)なら誰でも知っている単なる事実だ。俺のほうも悪かったな」

「ううん、悪いことなんてなにも無いよ」

 

そこで会話は一旦止まり流れているBGMに耳を傾ける。想衣がなにか言おうとしているのを悪魔は待った。

 

「――ひとみはシスコンなんです」

「お、おう」

「私が傍にいられる数日は、いつもべったりで仕事も減らして、その仕事の時でさえも私の傍から離れないの。私の言うことなら何でも聞いてくれて、服とかも私の選んだのしか着ないし……昔一回だけ私の冗談を真に受けて大事な仕事をドタキャンした時は流石に怒っちゃった」

「正直、想像以上でどう反応して良いかわからん」

「当の姉としては中学生になったし、そろそろ姉離れして欲しいなって思うんですよ。もしもこのままだと妹の将来はどうなるんだろうと考えると心配で心配で……」

「まぁ、聞いている感じ結婚しても姉と一緒に暮らすって言いそうだな」

「そこまでは無いと言えないのがうちの妹です。――ほんと、なんでこうなっちゃったんだろうね」

 

恥ずかしそうに、嬉しそうに、そして辛そうに、悲しそうに想衣は言った。

 

「ひとつ聞いていい?」

「なんだ?」

「悪魔さんは、お母さんと一度だけ会えるなら会いたい?」

「そりゃそうだ。恥ずかしい気はするが話したいことが沢山ある」

「じゃあ。“魔装少女協会第3支部”って知ってる?」

 

吸おうとしていた最後の一息が止まる。

 

「……最近知った」

「そっか、なんだかタイミングが良いね」

「……あくまで噂なんだろ?」

 

仲間が現在進行形で関わっている事を悟られないように言葉を選ぶが、サングラスで隠れている視線を逸らしてしまう。

 

「――ねぇ、ブレイダー・デビル。一生のお願いがあるの――妹を救ってください」

 




アビスはスキル関連以外に特別秀でたものは(多分)無いので。なのでオルクスが居なかったら、そもそも逃げるのも難しかったり。こいつ、そんなんでよく一人で来ようとしてたな←

今回はいままでで一番の難産でした。情報開示の具合や描写の取捨選択に正解はないですね……。

次回から三回戦ですが、特殊タグやプライベートの事情もこみでかなり遅くなるかもしれません。お待ちになって頂けると幸いです。それでは


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三回戦 試合前

感想、お気に入り登録、評価、誤字報告、本当にありがとうございます。
調整平均が8,6を越えしました異次元ですね!( ̄▽ ̄)異次元ですね?
これからも頑張っていきたいと思うので、楽しんで頂けたら幸いです。

自作は基本的に「十人ヒーロー」「変身十人」と呼称していたりします。だからなにかってわけじゃないんですが←。
……タイトルの(仮)2章終わったらどうにかしないとなぁ……。

というわけで(挨拶)三回戦も楽しんで頂けたら幸いです。

※:カオスの文字化け内容を、今後の展開と齟齬が発生する可能性があったため一新しました。事前に三話の方も内容のみを変更しますのでよろしくです。


 1/10

 

 

 

N_アーマード06:22

おはよう!

N_アーマード06:27

みんな昨日はお疲れ様!

もうダメだって何回も思っちゃったけど最後の最後まで諦めるなって私たちは支え合って、この日を迎えることができた!

世界は救われてヒーローになることが出来た。秘密裏の戦いだったから誰にも知られることはないだろうけど、私たちは間違いなくこの世界を守ったんだ!

結局、私たちの目的は達することが出来なかったけどポジティブに行こうよ!

逆に考えればいいんだ。失われたものは私たちみんなで再現しちゃえば良いんだって、完璧には無理かもだけどみんなで協力すれば凄いものが作れるよ!

N_アーマード06:52

そりゃ無謀だろうけど無理を覆してきたのが私たちでしょ?

出来るよなんでも。

N_アーマード07:10

なにか反応してよ。

お願いだから。

N_アーマード07:14

居るんでしょ?

私ひとりの力じゃ絶対どうにもならなかったって

N_アーマード07:21

ねぇお願い誰でもいいから反応して

だっておかしいもん。最初から一人だったなら、なんでこんなに寂しいの?

ここにみんな居たんでしょ?

おねがいだよ

ひとり生き残ったなんて言わないで返事して

N_アーマード07:32

なにも思い出せないんだ

 

+++

 

「……」

 

ブレイダー側に用意された楽屋にて渦巻き模様のトンビ服を着た男性――混沌がただじっと座って自分の出番を待っていた。

 

――『戦争決闘五番勝負』の準備期間。郵送代理受け取り業者から『アーマード』宛てに一通の手紙が送られてきた。差出人の名前や住所などは無く「元第8支部の魔装少女」とだけ書かれてあった。経験から恨み辛みが綴られているものではないと判断した天使はブレイダーたちに誰が最初に読むと問い掛け、混沌は真っ先に手を上げた。

 

その中身に手書きで綴られていたのは自分の過去と、そして感謝の言葉であった。

 

その魔装少女は憧れるままに努力を沢山して、夢を叶えて魔装少女になった。しかし『協会』に割り当てられるままに所属した第8支部で酷い虐めを受けて、心が折れたことにより二十三となった今でも家の外へ出られない生活を送っているという。苦しいだけの毎日の中で第8支部が閉鎖になったことをネットで知り、心がスッとしたという。それから悪夢を見なくなり、まだ家の周辺を散歩する程度だけど外に出られる様になったと言う。

 

――もしかしたら勘違いかもしれませんが、私が前を向いて生きていけるようになったのは、ブレイダーの皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

 

そう締めくくられ手紙には一切の恨み言はなく、人生を狂わされてもなお他人を思いやれる暖かさを持っていた。

 

だからこそ混沌は後悔を強めた。彼女が第8支部に居たであろう時期にはすでにブレイダー・カオスとして活動していたからこそ余計に。

 

『魔装少女協会』は魔装少女を日常に溶け込まし、彼女たちの生活を安定させることに多大な貢献しており、世界を誰が守っていると問われれば間違いなく『協会』であるとカオスは答えられる。事実、現在進行形で無遠慮に現れているグレムリンに対応しているのは戦争決闘に関わっていない協会関係者や協会の魔装少女である。

 

魔装少女になれなくても、少しでも魔装少女の力になるために一生懸命に働く人たちを混沌は知っている。その自由奔放さから社会問題まで発展したフェアリーたちも、ルールを教えればそれをきちんと守ってくれるものが大半だと混沌は知ってる。

 

――だから信じられることができた。盲目的に信じすぎてしまうことができた。このさい“過去”の出来事は関係無く、言い訳にしかならない。

 

協会は巨大な組織である事には変わりなく、必ず悪い人間やフェアリーが潜むだろうという考えはたしかにあった。それでも混沌は“魔装少女が関わる組織なら自然と悪は啄まれるだろう”と、ならば自分の役割は漏れてしまった悪意を処理することだと決めつけた、中身がすでに虫に食われているとも知らないで。

 

「よう。随分と元気がないじゃないか? 混沌」

 

そんな風に混沌が自己嫌悪に陥っていると、ノックもせずに正義が入ってきた。

 

「……汝は番が来るまで会場には近寄るつもりはないと聞き及んでいたが? 正義」

「空気が悪くなってきたからな、喉を痛める前に避難してきたんだよ。希望は?」

「物珍しいのか秋葉中をずっと散歩しているようだ。なにかあるというのなら呼び戻すが?」

「いやいい。それで? お前は“メイソウ”でもしていたのか?」

「ああ……そうだな」

 

正義は無遠慮に座り、『落葉会』が用意した手つかずのジュースを飲み出す。

 

「……奈落はどうしている?」

「さてな。シスター・イースターと出会ったら連絡は寄越すように言ってある、それがまだってことは迷子になっているのかもな」

「無事であればいいが……。正義、シスター・イースターの『固有魔法』が本物だった場合……あまりにも酷ではないか?」

 

第一世代の面々は、奈落の過去を知っている。だから混沌はシスター・イースターの『固有魔法』がどうであれ、出会うことで奈落の心が傷を負うのは避けられないのではと懸念していた。

 

「アビスの対戦相手を指名制にしたのは俺だが、シスター・イースターを選んだのはアイツの意志だ。どうなろうが俺たちは奈落の夢に関する一切の行動を阻害しない。そう決まってるだろ?」

「それはそうだが……」

「まっ、あいつにとって本物であったほうが都合がいいんだろうがな」

「……なにを隠している?」

「べつに他愛ない妄想だぜ」

 

どうにも奇妙な不安を持った混沌は、ぼかす正義を問いただそうとするが部屋の扉がノックされて出番が来てしまう。奈落のことは気がかりであるが、まずは目先の戦いだと意識を切り替えて、ゆらりと立ち上がる。

 

「あんまり気負うなよ」

「……気楽にはできんよ」

 

それだけ言い残して混沌は部屋を出て行った。

 

「まっ。あれなら勝っちまいそうだな」

 

ああやって感情的になればなるほど、混沌という人物は冷酷に戦い勝つことを選ぶ。相手も地雷を踏むことに掛けては天才的とヴァイオレットから太鼓判を押されたバスター・クイーン。『固有魔法』は確かに強力だがカオスのスキル『混沌の渦』とは相性が悪すぎる。バスター・クイーンが無茶苦茶するまえには決着は付くと正義は確信していた。

 

「さて、問題は試合というよりもだな」

 

人は恐怖を払拭するためならば何でもやりだす生き物だ。一勝してしまった事がどう影響するのかは分からないが対策はある程度している。ヴァイオレットも頼む前から睨みを効かせてくれているようで、下手な動きはできないと思われる。そもそもこの『戦争決闘五番勝負』自体が『アーマード』が最大限譲歩して開催された(てい)なのだ。ルールの元でじゃあ戦って今後どうするか決めましょうかって時に番外戦法を使い自分たちの機嫌を損ねればどうなるか協会側のほうが分かっていることだろう。

 

――緩みというものは無かった。真性のバカを計算内に入れろってのが酷というものだ。

 

+++

 

「心配かけちゃってごめんね」

「全然いいよ! もう辛くない? だいじょうぶ?」

「はい! もう元気もりもり超ベリグッドです!」

「「ぐー!」」

 

一回戦ブレイダー・デビルとアルテメット・アイドルの試合が終わったのと丁度、テンションの限界値を超えた小鳥遊蜜柑は軽度の目眩に襲われたため秋葉ドーム内に設置されている休憩室の畳の上で横になっていた。二回戦が終わったあたりで完全に回復した蜜柑は付き添いでそばにいた桃川暖子の親指を付き出し合う。

 

「でも、ごめんね。折角の自由時間なのに」

「それこそ気にしなくていいよ。後輩が困った時に助けるのが先輩の役目だしね!」

「……あ、暖子ちゃんってそういえば中学生だったね!」

「忘れてたの!?」

 

同年代のお友達にしか見えなくてとはっきり言われた桃川は分かりやすくショックを受ける。

 

――先輩風吹かすにはもうちょっと努力が必要さね。たとえば迷子にならなくなるとか。

「それ言われるとなにも言い返せないじゃん……」

「……?」

「な、なんでもないよ。とりあえず出よっか」

 

桃川は自分の中に居る謎の存在、鬼美にトドメをさされて項垂れる。桃川以外に鬼美の声は聞こえないため話が繋がらない独り言に首を傾げて、桃川はそれを誤魔化しながら休憩室の外に出た。

 

「こっちだよ~」

「モググー。蜜柑ちゃん起きたよー」

「ご心配おかけしました!」

 

桃川たちは太ったキングペンギンの姿をしたフェアリー、モググと合流する。三回戦がそろそろ始まるというアナウンスが流れた事もあって、大半の人が観客席に行くなり、フリースペースでスマホで配信を見るなりしており、店舗も何もないこの場所は殆ど人がおらず、時折スタッフたちが右往左往しているのが見えるぐらいである。広大でありながら静かな空間に桃川はどこか落ち着かなかった。

 

「もう平気?」

「はい、ちょっと横になったら楽になりました」

「ならよかったよ~。いやー、それにしても叫ぶだけ叫んだと思ったら膝から崩れ落ちた時はほんと心配したんだよ~?」

「あう……」

 

なにか切れてはいけない神経でも切れたのかと思ったと言うモググに、蜜柑は申し訳なさと恥ずかしさから顔を赤くする。

 

「もう! モググったらデリカシーを考えなよ!」

「えぇ~。普通に心配しているだけだよ~?」

「乙女心は複雑なの!」

「だんご見ていると、結構シンプルな気がするけどね~」

「普通にひどい!」

 

単純だと言われたことで頬を膨らませてお冠となった桃川にモググはまぁまぁと宥めに入る。

 

「それで自由時間はまだまだあるけど、どこか行きたいところあるの?」

 

『塾』が『アーマード』から貰ったチケットは一回戦分だけであり、二回戦が始まる前には観客席から退出していた。それからは塾長の方針で保護者と生徒数人で班分けを行い夕方まで秋葉内を各々で自由行動することとなった。

 

桃川たちも複数人で回る予定だったのだが、蜜柑がはしゃぎすぎて倒れた事で班を再編成。モググが保護者役となって二人一体で自由時間を過ごすこととなった。

 

「あ、それなんだけどモググ。アイちゃんに会いに行きたいんだけどダメかな?」

 

セブンスガールの魔装少女であり友達である黒稗天委が同じ秋葉ドームに居ることもあって、一度顔を合わせて起きたいと思っていた。すでにこの事は一回戦が始まる前から本人に連絡済みであり、『アーマード』側のスタッフエリアまで来てくれたら迎えに行くと返信が来ていた。

 

「ん~。それよりもご飯とか食べなくていいの?」

「さっきめっちゃ食べたから、あんまりお腹空いていないよ」

「暖子ちゃん試合始まるまですごいたくさん食べてたもんね」

「ドームフード、全部美味しかったよ!」

 

鬼美が表に出てくるようになってから暖子はよく食べるようになった。成長期と言うにはその量は日に日に増えており、気がつけば成人男性三人分は普通に平らげてしまうほどである。さすがにおかしいかなと思い鬼美に尋ねると、ちょっと事情があって大量のカロリーを消費しており、出来るなら太る勢いで食事をして欲しいと言われていた。

 

難しいことはまぁいいかで済ませる桃川は素直に従いたくさん食べるようになったのだが、お菓子の間食が増えたことにたいして健康に悪いと説教されたのは未だに納得していなかったりする。

 

「そういえばみかんってブレイダー・デビルのこと好きなんだよね? グッズとか見に行かなくていいの~?」

「あ、えっとすでにお小遣いギリギリまで買って家に送ったのでだいじょうぶです。なので見に行ったら辛くなるというか……ううっ、なんで小学生ってバイト出来ないんだろう……」

「法律で決まっているからかな~」

「モググってこういう時ほんと人間っぽいこと言うよね?」

 

蜜柑はコツコツ貯めていたお年玉と、親から貰った追加のお小遣いを全部デビルを模したグッズにブッパしていた。だが小学生の財力では全部には届かず、泣く泣く諦めたものをもう一度見に行くのは辛すぎると言う。

 

「ていうか、モググ的にはアイちゃんに会いに行くのはダメな感じなの?」

「ん~、いまブレイダーの傍に近づくとなんかトラブルに巻き込まれそうで嫌なんだよね~」

「あー。それ言われたらなにも言い返せないやつじゃん」

 

桃川は七色を中心とした騒動に、蜜柑は運悪く巻き込まれてしまい魔装少女となった実績があるため。反論できる余地がなく桃川はモググの言葉に納得する。

 

「でも、アイちゃんと遊びたいなぁ」

「こっちに呼ぶことってできないの?」

「どうだろう。聞くだけ聞いてみようかな?」

 

『アーマードchannel』の試合配信ではアンギルとセブンスガールが交代制で実況する。だけど黒稗は本人の希望と順番的な理由で行わないらしく、もしかしたら誘ったら来てくれるかもと桃川はメッセージを送る。

 

「そういえばアイちゃんって魔装少女なの?」

「あ、ごめん。蜜柑ちゃんは知らなかったよね。そうだよー。それになんとアイちゃんは、あのセブンスガールの一人で、ほんとに強くてほんとに凄いひとなのだ!」

――人を褒めるにしても語彙力が必要なことを思い知らされるね。

「だんご~。愛称とは言え本人を特定出来そうなことを大声で言わないの~」

 

桃川はそうだった、ごめんと言おうとしたが口が動かなかった。なぜなら怖い笑顔を浮かべた知らない女性が傍に立っていることに気付いたからだ。

 

「――へぇ。君たちってブレイダーの関係者なんだ」

「だ、誰ですか?」

「名前ってまず自分から言うもんじゃなかったっけ?」

「えっと、私は小鳥遊蜜柑って言います」

「あっそ、で?」

「あぅ…………」

 

 

大柄な態度に蜜柑は萎縮してしまう。桃川がムッとして注意しようとした寸前。

 

――暖子。

 

聞いたことのない声色で名前を呼ばれ、寸前の所で止まることができた。

 

――今から話すことに返事をするんじゃないよ? 指示を出すからそいつにバレないように動きな。

「……もうすぐ試合が始まるのに、どうしてここにいるの? バスター・クイーン」

「私のこと調べたの? ストーカーじゃん、キモいなぁ」

「三回戦に出てくるんだから嫌でも聞いちゃうよ~」

 

――スマホを背中に隠して、音を小さくして誰でもいいから『アーマード』の関係者に繋げるさね

 

桃川は言われた通りにバスター・クイーンに見えないようにスマホを操作していく、毎日触っているだけあってミスすることなく五十音順で一番上になっている“アイちゃん”に電話が繋がる。

 

≪もしもし? どうしたの?≫

「ん?」

「は、はい! どうしてバスター・クイーンさんはここにいるんですか!」

 

音量が小さくしきれなかったらしく、僅かに聞こえた黒稗の声にバスター・クイーンが反応したことで咄嗟に大声を上げて誤魔化す。さらに桃川は意図したものではなかったが自分たちが置かれている状況を簡潔にであるが電話先に伝えることが出来た。

 

「……恩返しをしようとおもってね」

「お、恩返し?」

「そっ、『アーマード』ってほんと酷い奴らなんだよ。私がお世話になってる人たちのこと脅しているみたいでさ。見世物にするつもりみたいなんだ。それを回避するためには魔装少女が三勝しないと行けなくってね。理不尽だと思わない?」

「君たちが、そうされることをしたからじゃないの~?」

 

モググはいつもの飄々とした態度で、だけど棘々しい声色で返す。まさか反論されるとは思わなかったのかバスター・クイーンは分かりやすく顔を顰めた。

 

「うっざ。フェアリーって喰うことしか頭にない虫みたいなのばっかかと思ってたけど、お前みたいな生意気なのもいるんだね?」

「“あれら”の生き方も否定はしないけど一緒にはされたくないかな~」

 

――蜜柑の横に寄りな。そう、それでいいさね。

 

「だ、暖子ちゃん……?」

 

蜜柑は戸惑いこそあるものの、状況について行けておらずバスター・クイーンが放つ怖い雰囲気を捉えきれないでいた。

 

「それで? 恩返しって言うけど具体的にはなにをするつもりなのかな~?」

「私が勝ってもあと一勝しないといけないよね? でもフスティシアは頼りないし、五回戦の魔装少女もはた迷惑な事にまだ決まってないんだって、そうなるとやっぱ不安だよね?」

 

桃川たちを見下すバスター・クイーン。その瞳には決して身長差が理由だけではない威圧があった。

 

「だからさ――君たち私と一緒に来てよ」

 

バスター・クイーンが浮かべる歪んだ笑みに桃川は反射的に全力で首を横に振るった。

 

「なんでよ? 君たちぐらいの子供が好きそうなお菓子もジュースも置いてあるからさ。この茶番が終わるまで教会の方でさ? 大人しくしているだけでいいからさ? 来なよ?」

「君の行いは誘拐という名の犯罪って、フェアリーのモググでも知ってるよ!」

 

バスター・クイーンが桃川たちを連れて行こうとする理由、それは『アーマード』に対する人質にするためであることは明白だった。桃川は早く誰か来てと祈り続けながら、モググとバスター・クイーンの様子を見守る。

 

「関係ないよ。だって“私がなにかしてもお母さんたちが全部どうにかしてくれる”から、むしろ親孝行してるんだからさ、喜んでくれるよ」

 

自分の発言がどれだけ破綻しているか気付かないバスター・クイーンに、モググは彼女が、最悪の部類に入る人間だということに気付き、最悪を想定しだす。

 

――バスター・クイーンという人間は自我が芽生えた時から優しくされまくり、甘やかされまくり、そして全てを与えられまくりだった。親は欲しいと言った玩具の全てを買い与え、壊したら叱ることすらせず、すぐに新しい玩具を買って与えた。人に危害を加えれば、被害者の方が悪いと責任を擦り付け、飽きたものをすぐに放り投げることを褒めた。魔装少女になりたいと言えば本部に所属する母親がコネを使ってフェアリーたちとの顔合わせなどをすっ飛ばして魔装少女となった。

 

本人にとっては幸運にも魔装少女として類い希な才能を持っており、また機嫌を損ねない頼みならば大人たちに従順だったことが彼女の価値を高める事となり、彼女の問題行動は全て協会上層部にてもみ消しや、買収、強引な法的処置などで消されることとなる。

 

――嗚呼、お前は鬼か

 

桃川の目の前に居る魔装少女は、思考性に道徳も倫理はもちろん、社会性が著しく欠けた人間性の怪物だと理解した鬼美はそう言った。

 

「……ひ、卑怯者共ってもしかしてブレイダーの人たちの事言ってるんですか!?」

「蜜柑ちゃんっ!」

 

『アーマード』の中傷に、蜜柑はどうしても我慢できずに脅えながらも否定的な態度で問いただす。バスター・クイーンの機嫌を損ねるにはそれだけで充分だった。

 

「ま、ぶへ!?」

「モググ!?」

 

止めようとしたモググをはたき落して、バスター・クイーンは蜜柑の前に立ち凝視する。

 

「なに? お前あいつらのファンなの?」

「え……あぅ……」

「あんなキモオタやオカマたちのなにがいいんだか理解できないね? ゲテモノ好みなの?」

「う、うう……ブ、ブレイダーはみなさんいい人たちです!」

 

不機嫌さを全力で乗せたバスター・クイーンの批判に勇気を振り絞って蜜柑は反論する。

 

「……はぁ~~」

 

バスター・クイーンは深い深いため息を吐いた。溜めた空気を吐き出しきった後、蜜柑を覗く瞳は狂った光を灯す。

 

「――ぶっちゃけさ二人運ぶのは面倒だと思ってたんだよね。だからお前はいいや。見ているだけでキモいし」

「っ!? チェ、≪チェンジリング≫!」

「変身するなっ!」

 

モググがそう叫ぶが時すでに遅く、蜜柑は身の危険を感じて魔装少女となってしまう。

 

「〈固有魔法展開(エクストラ):トリリオン・インパクト〉」

 

バスター・クイーンは無感情に魔法を唱えて、親指に中指を引っかけた右手を蜜柑の額に置いた。彼女が今から行うのはなんの変哲もないデコピンだ。

 

バスター・クイーンの『固有魔法』、〈トリリオン・インパクト〉は己の発生させた運動エネルギーを“自由”に加算する魔法。つまりちょっと痛いだけのデコピンが彼女が望めばミサイル並みの衝撃力を持たせることもできる。

 

「死ねば?」

「――――え?」

 

――魔装少女は魔装少女を殺せる。『小鳥遊蜜柑(ボルト・オレンジ)』の頭は渇いた空気音とともに真っ赤な汁を飛び散らかして弾け飛んだ……“そんな未来を想像した”桃川と鬼美は合わせたわけではなく全く同じ選択を取った。

 

「鬼美!」/暖子

 

桃色の髪と瞳に白が上塗りされて綺麗な桜色へと変わる。

 

チェンジリング(変わるさね)」/チェンジリング(変わって!)

 

桃川の身体が光に包まれて、魔装が装着されていく――ここに一人の魔装少女が返り咲いた。

 

「――は?」

 

力が込められた中指を放とうとしたバスター・クイーンだったが、指がまったく動かなくなり力が抜けていく、次に右腕そのものがうんともすんとも動かなくなったことに気づき、じくじくと痛みが発生し始めたことで、ようやく自分の右腕になにが起きたのかを知った。

 

「――いっ、がああああああああああああああああああああ!!?」

 

右前腕の内側に“小さな二本指”が突き刺さっていた。筋肉の繊維に直接触れているそれはバスター・クイーンに激痛を与える。咄嗟に腕を振るって二本指を無理矢理振り払い後ろに転げるように後ろに下がり、穴をもう片方の手で抑えるが血がぽたりぽたりと地面に落ちる。

 

「でぇ! ふざけ……っ!? くそっ血がっ!? ふざけんな傷害罪だぞ!?」

「――生憎様、“鬼”同士の喧嘩に人の法なんて無意味さね。それよりもいいのかい? 魔装少女が魔装少女に加えた傷は生身の傷そのものさね。放っておくと出血多量で死んじまうかもねぇ」

「だ、暖子ちゃん……?」

「まったく、魔装少女の血の気が多いのは昔も今も変わらないねぇ。危ないから隅っこに寄っときな!」

 

サンシャイン・ピーチの正統派魔装少女と呼ばれる魔装の面影はなく、二本角の額当てから始まり、裾が短い和服をベースに手甲と具足を装着している。そんな姿形も性格、髪や瞳の色に至るまでまったくの別人となった桃川に、蜜柑は戸惑うことしか出来なかった。

 

「はっ、ははは! やっぱり『アーマード』は邪悪な集団じゃんか! 他人に怪我をさせておいてさ! 謝ることもできねぇのかよ!」

「あんたに会話はちと贅沢品過ぎるみたいだねぇ――さて、バスター・クイーンと言ったか若造? 噎び泣いて謝るか、窮鼠の如くなけなしの抵抗をするか、どちらでも好きなの選びな」

「死んじまえ!」

 

もうどうでもいい。ただ目の前のいけ好かない魔装少女を砕いてやると、このドームごと粉砕してやると立ち上がり魔力を込めた。

 

――なんとまぁ、欠伸が出ることだろうか。

 

魔装少女(対人)戦がまるでなっていないと、そもそも甘やかされてきたバスター・クイーンにまともな戦闘技術なんてあるはずなく、あまりの隙だらけの様子に桃川(鬼美)は退屈を感じた。そんな心境とは裏腹に、一切の容赦はしないと決めている桃川――鬼美は瞬く速度で全身に魔力を流しこみ、バスター・クイーンの目前まで移動した。

 

「お、おまっ!?」

「魔方陣無くても肉体の強化ぐらいできるって、最近の若い子は知らないみたいさね!?」

 

まあ、魔方陣を通したほうが事故の確率や負担が低く安全であるため、そう啖呵を切りながらも新しいものだと苦手意識を持たず、こうなるんだったなら覚えていけばよかったと鬼美はちょっと後悔する。

 

「そらよ!」

「ぎぃ!?」

 

バスター・クイーンの膝部分を横から蹴り、強引に宙へ浮かしたバスター・クイーンの足首を掴み上げて回転、回転、回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転!!

 

「あはっ! あははははは!! 天地逆転の真理に酔って井戸(イド)に墜ちろ! そんでもって水面の月を壊して風情無く逝っちまいな! 嗚呼、駄作も駄作!」

 

回転し続けている桃川(鬼美)の足下に四つ魔方陣が重なりながら浮かび上がると回転は加速。さらにはバスター・クイーンは身体が固定化され指一本動けなくなる。

 

「〈魔法多重展開(その名は――)円光速月(えんこうそくげつ)〉」

 

超高速に回り続ける視界、強烈なGに狂いそうになる中、これから自分はどうなるのか嫌でも理解させられたバスター・クイーンは止めろ人殺しと言おうとしたが、時すでに遅く――呆気なく足を掴んでいた手が離された。

 

――――ズドーーーーーーーーーン!!

 

魔法によって極限まで増幅された遠心力によってバスター・クイーンは声にすらならない叫び声を上げながら会場の頑丈な壁をぶち破り、空へと飛んでいった。

 

「――こうして鬼は退治されましたとさ、おしまい」

 

鬼美の使った魔法()は相手を遠くにぶん投げるだけのものであり、魔装少女に対するダメージは魔装少女のものではない外的要因となるので怪我を負うことは無い。回っている間に止血も済ませて、さらに人間砲弾と化したバスター・クイーンに人や物が当たった場合、発生するエネルギーを全て“痛み”へと変換して本人が請け負う魔法も付与しあるため、周りに被害は発生しないように出来ている。

 

――まったく性質が違う魔法を四つ互いが干渉することなく同時に発動した鬼美。魔法に詳しいものならば、そんな彼女のことを揃ってこう評価するだろう――怪物と。

 

「だ、暖子ちゃんなの?」

「いまは違うさね。というか小鳥遊蜜柑!」

「は、はい!」

「譲れないものがあるのは分かるけど、無茶が過ぎるさね!! これに懲りてもうちょっと落ち着きな!」

「ご、ごめんなさい!!」

 

鬼美のしかり声に背筋を伸ばす蜜柑。自分が死にかけたという実感があまり無いためか心に傷を負った様子は無く、鬼美は安心する。

 

「――き、鬼美なの?」

 

感情がごちゃ混ぜになったような震えた声でモググは静かに問い掛ける。

 

「……なにもかも違うのに君の面影を感じたんだ。だからどうしでぶ!?」

「昔っから判断が遅いフェアリーさね!! とっとと魔法の一つでも使っていればあたしの出番はなくてすんだんだよ!」

「まってなかみでるなかみでるなかみでるなかみでるなかみでるなかみでるって!」

「ちっ!」

「あわわ……」

 

センチになっているモググに対して鬼美は容赦なくアイアンクローをかます。ペチペチと手を叩きギブするモググに、仕方ないと言わんばかりに鬼美は解放するが、その顔は鬼のような怒りに満ちあふれており蜜柑はドン引きした。

 

「し、死ぬかと……鬼美、きみはだんごのなんなんだい?」

「モググ。あたしはあんたに対して本気で怒っている」

「……えっと~?」

「だから、この怒りが収まるまであんたの質問にはなにも答えてやんないさね」

「……その変に頑固なところ変わらないね~」

「とろくてドジなあんたが悪い」

 

この身勝手さは本物の鬼美だと確信したことで、モググは幾らか冷静になる。

 

「鬼美、ところでだんごは無事なの~?」

「…………」

「……ごめん、蜜柑、いまモググがした質問と同じことこの面倒なのに聞いてくれない?」

「あ、はい。えっと、暖子ちゃんは無事ですか……?」

「刺激が強いからちょっと寝かしつけたよ。二時間ぐらいすれば起きると思うさね」

 

自分の戦いが血生臭いのを自覚している鬼美は、入れ替わるついでに桃川を眠らせた。突然の眠気に抵抗なく受け入れたものだから気が許され過ぎるってのも困りものだねと、先ほどからもう食べられないとか寝言を伝えてくる桃川に内心で苦笑する。

 

「それで、これからどうするの~?」

「そうさね……あたしには聞きたいことが山ほどあるやつが居る。だがそいつは主役で忙しいと来てる」

「……え? まじどゆこと?」

「さてな。だが最悪は無かったみたいだぜ?」

 

鬼美は、こちらに近づいてくる複数の気配を察知していた。現れたのはすみれ色の魔装少女に、その両脇を固める。特徴的なヘッドフォンをした魔装少女と口元をマスクで隠す魔装少女。そして紫色のブレイダーを見た鬼美は、ニヤリと笑った。

 

「だから、あたしも祭りの主役になって暴れようと思うさね。良い考えだろ?」

「変わらないね~」

 

鬼美は桃川の顔で悪戯を思いついたように悪い笑みを浮かべた。

 

+++

 

――ブレイダー・カオスの世間的評価はよく分からないである。最初のブレイダーであることと、影と剣を使って戦う。怒らせたら怖い。見た目からして怖い、喋り方が中二病染みている。文章はなんか古くさいけど可愛い。どうにも魔装少女のために戦っているらしい。周知されている情報は言えばこれぐらいしかないのである。

 

ジャスティスのプライベートも秘匿はされているが、性格や行動理念は結構ハッキリしている一方で、カオスはそれすらも曖昧である。またカオスを関係とした奇妙な体験がネットでよく書き込まれる事から都市伝説などが多く囁かれており、謎をさらに深めている。

 

考察勢が最も話題にするブレイダー。そう言われるだけあってか第3回戦を第1候補に選んだ観客たちは、カオスをもっと知りたいと思うものが多く、スマホ片手に好奇心混じり合う熱気が静かに渦巻いていた。

 

――スピーカーから流れていた適当な音楽が止まり、それに合わせて観客も一瞬にして静かになる。

 

ブレイダー側の入場口から静かな歩みで現れたのは渦巻き模様のトンビ服を着た男性。初めて世に出るカオスの素顔だと気付くと観客はこぞってSNSに書き込みを行い始める。

 

LIGHT

 

スピーカーに通さずとも、その悲痛なる叫びの如く機械音声は観客だけではなく配信を聞いていた人類全ての鼓膜に届いた。

 

『世界は混沌から生まれたと言う。それは偶然か? それとも運命か? 女性のみが変身して戦えるこの世界に、お前が最初に現れた』

 

テンポの速い悲愴的で狂気的なクラッシックがスピーカーを通して奏でられる。それに合わせるように前口上もまた低く圧がある声で語られる。

 

『悪に這い寄り、全てを飲み込め! 原初のブレイダー……カオス!』

 

 

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----------------------------------------------------

 

 

謎の文章がスマホの画面に映し出されて、それが流れ終わると全ての音が死に絶えた世界で、混沌は静かに宣言する。

 

「――変身」

 

OK...ask...fire...Erase

 

 

バックルの渦にスマホが吸い込まれ、懇願の声が世界に発信されると混沌の影が八つに分かたれて、それらが渦巻くように肉体に纏わり付きはじめアンダースーツと変化する。最後に人の形から外れた影が背後に現れて体に覆い被りアーマーへと変化していき、『ブレイダー・カオス』が現界した。

 

カオスから醸し出される怖気に影響されてか会場の沈黙は続く、それでも進行は続き、今度は魔装少女が登場する番となった。

 

バスター・クイーンという名の魔装少女を知るものは、そこまで多くはない。だがネットでの評判はすこぶる悪く、魔装少女を中心とした鍵アンチスレでは常連で、その親が協会上層部の人間である事が露見しており、噂が噂を呼ぶにしても彼女の評価は最悪そのものであった。

 

そんな噂は本当なのか興味津々の様子で登場を待つが、観客たちがバスター・クイーンを直接、見ることは二度と無かった。

 

≪――お知らせします。三回戦を出場する予定でしたバスター・クイーンが急遽出場する事が出来なくなったため、代わりに別の魔装少女が出ることになりました≫

「……なに?」

 

対戦相手であるカオスも寝耳に水なお知らせに、会場が音を発することを思い出してざわつきだす。そんな中を悠々自適に会場入りする桜色の魔装少女。

 

≪――気まぐれ女王は尻尾を巻いて逃げ出した。大変だと家臣たちが騒ぐなか、一人の魔装少女が手を上げる≫

 

前口上を担当する司会者は、突然の変更もそうだが、見たことも聞いたこともないため情報がなにもない事に勘弁して欲しいと想いながらもプロの意地を見せて思い浮かんだ言葉を並べていく。

 

≪季節外れに返り咲く、桜花爛漫の花道を優雅に歩く羅刹の名は――≫

 

 

 

 

サンシャイン・ピーチ

 

 

 

 

「――鬼美、鬼美……だ、と? まさか、そんな馬鹿な!?」

「ことがあっちまうのが現実らしいさね。さて見知った誰かさん。久しぶりに一手付き合いな」

 

≪ブレイダー・カオスVS()鬼美! 両者揃った所でお待たせしました! 戦争決闘五番勝負、第三回戦……開始!≫




仕事の環境が変わったストレスを燃料に、鬼美の登場板(造語)がかなり自分好みに仕上がったので、一日でも早く見せたいと頑張りました←。

鬼美のは二時間ぐらい触って、出来なさそうあるいは出来たとしても手間が凄すぎると判断するも、一時間ほど粘って諦めて、素材はそのままにもう最初からくみ上げたものです。まあ登場板(造語)もブレイダーの変身シーンも大体そんな感じでやっていますので、お気に入りがあったら幸いです。ちなみに作者は全部好きです。

次回は恐らくちょっと時間がかかるかもしれませんがお待ちになって頂けると幸いです。それでは

↓おまけに三時間の試行錯誤。やりなおす直前を残してしまっていたので記念にはります。今回だけにします( ̄▽ ̄)←。








サンシャイン・ピーチ


 






改めて、それでは。


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三回戦 本番

感想、お気に入り登録、評価、ここすき、誤字報告いつもありがとうございます!
誤字報告、いつも助かっています( ̄▽ ̄)ほんとありがとう。

謎ばかりだして回収することが少ないことが多くて申し訳ないですが、とりあえず今は
広がる世界観を楽しんで頂けたら幸いです( ̄▽ ̄;)

今回特殊タグ少ないです。



まず、混沌を襲ったのは混乱。延々とループしていた苦悩が吹き飛んだ。次に自前の武器である『影捻(えいねん)』と鬼美の手甲がガキンとぶつかり合う衝撃。身体が無意識に反応しており、鬼美の打撃を防御したのだと気付いたのは少し遅れてからだった。

 

≪――とりあえず桃ちゃんは無事なんだね!?≫

≪アンギル! 試合が始まってしまっていますわ!≫

≪ああもう、事情は後で聞くからね!――……あ、これミュートになって……はい三回戦が始まりました、引き続き『アーマードchannel』ではアンギルが実況していくよー≫

≪三回戦のアンギルと一緒に実況をやっていく、格闘ゲームやってそうと言われるアイビー・ゴールドですわ。短い間ですがどうぞよろしくてよ≫

≪さて、これまでの試合では最初しばらくはお互いに動かないって感じだったけど、三回戦は開始宣言と同時にバスター・クイーン改め謎の魔装少女、鬼美が先制をとったねー≫

≪格闘戦を得意とする魔装少女みたいですわね。ノワールと一緒なタイプかしら?≫

 

「まて!?」

「犬じゃないんで止まるわけないさね!!」

 

拳と剣の鍔迫り合いは、体格的にも小さな鬼美に軍配が上がる。弾かれたことで体勢が崩れた混沌の腹部に、鬼美は二本指を突き立てた拳を放った。ズブリっと混沌のアーマーを鬼美の腕が貫通する。観客がその光景を認識して悲鳴を上げる前に状況は動く。鬼美はそのまま蹴りを繰り出す。

 

ナイフの如く切れ味を持つ脚刀がカオスに触れる直前。カオスはドロリ黒い液体となって周辺に飛び散る。土に吸収されず大地にへばりつく黒い“ソレ”は一カ所に集まり人の形となっていく。シルエットが完全に人の形になると地面から剥がれ立ち平面から立体へと、そして気がつけばカオスが五体満足で『影捻』を握りしめて立っていた。

 

≪ブレイダー・カオスはいったい何をやったんですの!?≫

≪とっさに肉体を影にしたみたい≫

≪肉体を影に? それは一体どのような状況でして?≫

≪いや、言っておいてなんだけどカオスのスキル。ボクたちから見てもほんと意味分かんないから説明しようがないんだよね≫

 

――そもそもブレイダーの『スキル』自体、ボクたちでもよく分かっていない事が多いし、知っていることを公表するのはちょっとねとアンギルは内心で付け足す。

 

「頭は冷えたかい?」

「この貫くような突き、斬るような蹴り! ……覚えがある。ああ、覚えがある! その言い回しも不遜な態度も! お前は……鬼美か!」

「最初からそう言ってるさね! このおバカ!」

 

やっと理解が追いついてきた混沌に、鬼美は頭の回転が遅いと理不尽に怒鳴る。

 

「だが何故だ!? どうして――!」

「おっとまちな。舞台の上にプライベートを持ち込むきかい?」

「むっ……」

 

現在億単位の人間に見られている試合の中で感情のままに問いかける混沌であったが、鬼美に指摘されてギリギリの所で口を閉ざす。

 

≪……なんか知り合いみたいですわね?≫

≪だねー? まあカオスは結構、魔装少女とか知り合い多いから でも鬼美って魔装少女いたっけ?≫

 

姿形は違うが髪と瞳の色、そして言葉使いから戦い方から自分の対戦相手として立っている魔装少女は間違いなく鬼美だと確信したことで、混沌は多少なりとも気持ちに整理が付く。

 

――戸惑いと、わけわからなさと、嬉しさと、悲しさと、申し訳なさと様々な感情が混ざり合い、正しく頭の中が混沌(カオス)となっているが、彼女が鬼美だというのならば理解していることはひとつだけある。彼女は、まず戦うことから始める鬼だということだ。

 

「とりあえず戦う素振りぐらい見せてほしいものさねぇ。なよなよしている男は嫌いだよ」

「――ああ、ならば這い寄れ! 混沌の足下に!!」

 

混沌は『影捻』を地面に突き刺した。すると刀身から影が伸び、立体となり地面を這いつくばるように、上空から弧を描くように、直線湾曲軌道で世界を塗り潰す数十本の影の帯となって鬼美に襲いかかる。それに対して鬼美は反転、後ろの壁に向かって走り出した。

 

壁の端に到達した時点で影の帯は途中で枝分かれを繰り返し、広がりながらゴール目標である鬼美に向かって行く、それに対して鬼美はニヤリと獰猛に笑い、身体の調子を確認するために二回跳ねたあと、姿勢を低くして地面を手に付ける。

 

「よーい……」

 

視線を左右に何度も動かして影の帯の位置を把握。そして自分に到達する二秒前が最善であることを導き、腰を浮かした。

 

「――ドン!」

 

完璧なクラウチングスタートをきった鬼美は、尋常ではない速力で小さな身体を最大限活用して影の帯の隙間を縫うように進み続ける。影の帯は鬼美を捉えようとするが追いつかず、カオスとの距離が間近に迫った瞬間、試合を見ていた億超えの瞳は鬼美の姿を見失った。

 

≪鬼美! 背中から奇襲だ―!≫

≪まったく見えませんでしたわ!?≫

「……真っ向勝負が好きな鬼子と思えば、勝つためなら相手を騙すことを厭わない人の子でもある。お前はそういう奴だったな」

「勝たないと吠えられないのさ! なにごとも!!」

 

――背後に回った鬼美にカオスは振り向きざまに『影捻』で斬り掛かる。袈裟状に来る刃を鬼美は右手甲で弾き、脇腹目がけて左拳で殴りかかる。カオスは体勢を立て直すために後ろに一歩下がった。それにより鬼美は空振ると判断し、振り切る前に体勢を元に戻す。仕切り直しとなった二人は間を置かず行動を再開。今度は鬼美が先手を取って二本指を突き立てた左ジャブを繰り出すと、カウンターを狙っていたカオスは伸ばされた左小手に狙いを付けて『影捻』を振るう。しかし、鬼美は咄嗟に右脚を浮かせて前に出し、腰を捻ることで伸びていた左腕の位置を変えることで回避する。そして、そのまま右脚を振るって遠心力を溜めてから軸足を交代、左跳び蹴りを混沌の顔面に叩き付けた。

 

「ちっ、浅い」

「――やはり、普通に戦っては勝つのは難しいか」

 

蹴りの方向と反対に自分から移動することでダメージを緩和したカオスは、両脇から影の腕を生やし、またその数だけ『影捻』を生成。四刀流となる。

 

≪こ、これは中々、扁桃体(へんとうたい)を刺激する見た目ですわね……≫

≪素直に気持ち悪いでいいと思うよ。というかあんなこと出来たんだねー≫

 

元からホラーチックな風貌と言われてきたカオスであるが、腕が四本となったことで異形度が増しており、アイビーを初めとした、数多くの人間に恐怖を植え付ける。

 

「元からその渦顔は好みだったけど、随分とイケメンになったじゃないかい」

「怪物好きも変わらずか」

「強そうな見た目が好きってだけさね!」

()がさんよ!」

 

鬼美とカオスによる逆鬼ごっこが始まる。

 

「はっ! 影はもう伸ばさないのかい!?」

「そこまで器用ではなくてな!」

 

腕を四本にしたのはある種の苦し紛れではあった。鬼美の言うとおりカオスは動きながら影の帯などを操作するのを苦手としている。鬼美を相手に足を止めることは愚行以外の何物でも無いとさっきの応戦で思い出したカオスは影による遠距離攻撃を選択肢から除外した結果が四刀流による単純な手数の増加である。

 

≪カオスは鬼美を追って追撃するけど、まったく当たらない! そして暇さえあればポーズを繰り出す鬼美に会場も沸き始めてるねー! そういうボクもちょっと楽しい≫

 

鬼美は猿のように身軽な動きで四本の斬撃を避けながらグランドを時計回りに逃げる。その間、鬼美は無駄に洗礼された無駄のない無駄な動きにてカオスを挑発する。デビルの時とは違って人の動体視力の範囲内で戦いが行われているため、見ているものにちゃんとした戦いの楽しみを与えていた。

 

≪凄いですわね……鬼美って本当になにものなのかしら?≫

≪というと?≫

≪直感染みた意見になるのですが、まるで人と戦い慣れてるみたい≫

 

魔装少女はグレムリンと戦うことでのみ力を行使することを許されている。そのため対人経験が乏しいのは当たり前である。しかしアイビーから見た鬼美の戦闘技術は人を相手取るのを前提としたものに思えた。

 

「あっはっは! 鬼さんこっちだよ! ほら手のなる方にはやくきな! 這い寄られるまえに逃げちまうよ!」

「鬼が逃げてるばかりでは、ページが増えるばかりだがいいのか?」

「そん時は一行で纏めるさね。追いかけっこは鬼が勝ちましたってね」

「詭弁を論ずる……賢い鬼の子よ、問おう、その身体は汝のものか?」

「違う、だから傷ひとつ付けてみな、殺してやるよ」

「……り、理不尽( ゚д゚)(道理が合わん)

 

カオスが追って鬼美が逃げる。それがしばらく続いたことでお互いの思考に余裕が生まれる。そのことで口が緩み出す。

 

「懐かしいね。昔を思い出すよ」

「抜かせ。昔であるならばお前と戦うことすらままならなかった」

「お前“たち”だろう? それともあたしが知らないだけであの四人に勝ったのかい?」

 

カオスの足が止まる。鬼美も合わせて止まり、様子を伺う。

 

「――ああ、そうか。五人だったんだな」

「……バカが」

 

今にも泣きそうな声で言うカオス。そんな彼に向けてではなく記憶の中で笑う少女たちに向かって鬼美は悪態を付いた。

 

「なあ、鬼美よ。答えてくれ“私は何人”居たんだ?」

「……現在(いま)と変わりないよ」

「そうか……そうか……」

 

耐えきれなくなったカオスは鬼美にだけ伝わるであろう暗号めいた問いかけをする。鬼美は仕方ないねと思いながら同じように答える。カオスはその答えをゆっくりと噛みしめるも、うまく飲み込めない。

 

「……ああ、ダメだな聞きたいことがたくさんある、話したいことがたくさんある。鬼美よこの激情を私はどうすればいい?」

「……アタシはすでに地獄の鬼さね。あんたの顔を間近で見たらおさらばしようと思っていたが気が変わったよ。見事に鬼退治ができたら褒美を上げよう」

「ならば全身全霊を持って勝とう」

 

蠢く影がカオスに纏わり付いて形を作る。楕円状に膨れ上がる影に見たものは卵を連想させた。いったい何が産まれるのだろうか? 不安と恐怖に誰もが言葉を詰らせるなか現れたのは“災害”の象徴。八つ目に八本足、背中には仮面と同じ渦が描いているそれは正しく、4tトラック並みの巨大な大蜘蛛。

 

譏斐?繧医≧縺ォ縺ッ縺?°縺ェ縺?◇(昔のようにはいかんぞ)!!』

「はっ、妖怪大戦争でもしようってかい? どこまでもあたし好みだね!!」

 

もはや言語化できていないカオスの鳴き声に、鬼美はどこまでも愉快そうに吠えた。

 

≪な、なんなんですのあれ!? わたくし虫駄目なんですの!?≫

≪カオスのフォームチェンジになるのかな? 僕たちは適当に『影蜘蛛』とか呼んでるよ。表に出るのは初めてかなー?≫

≪どうしてですの!?≫

≪見てくれがキモいから≫

≪なっとくのキモさですわ!≫

 

「――悪いね、ちょっと無茶をするよ」

 

――つくづく自分は鬼だと己を嗤う。この身体は大切な大切な暖子の身体だ、無茶をすることはあってはならない。彼女の今後の人生を考えればブレイダーから距離を置かせた方がいいに決まっている。自分とカオスの“過去の因縁”がまだ生きていると言うのならば、そもそも戦わない道を選ぶべきだっただろう。

 

だが()められない、()められない。なにせ“戦闘狂”である自分にとって久しぶりの戦闘なのだから! そうだ! けっきょくは戦いたいから戦うのだ!!

 

「さっきも言ったが、この身体に怪我させたらぶっ殺すさね!!」

菫晁ィシ縺ッ縺ァ縺阪s繧(保証はできんよ)!」

「なら、後悔するさね! あたしも本気でいくよ!!」

 

魔装少女の肉体そのもののステータスは元の身体を鍛えれば鍛えるほど上がっていく。逆に言えば元の身体が貧弱であれば、たとえ魔装少女になったとしても素の人間よりも弱いということも珍しくはない。もっともそこから魔法による強化を行うため、素のステータスを気にする魔装少女は格闘や近接系を含めても少数だったりする。

 

桃川の肉体的才能は同年代の子と比べても平均よりちょっと下である。スポーツのプロを目指さなければ、十分ではあるが、もしもの自分が表に出て戦うのなら大が付くほどのステータス不足だと、鬼美は桃川の肉体を改造することにした。

 

鬼美はまずは中身の強化を行った。肉体が同じなため心に直接触れられるという裏技を使いプラシーボ効果と様々な魔法の応用にて内臓機能の向上、筋肉繊維の強化と変化、骨を頑丈にして、栄養素の吸収率操作などを行い基礎となる健康的な肉体を作っていく。また、ながら運動のように日常生活の中で必要な部分に負荷をかけて筋トレを施し、魔装少女の姿での訓練時には余分に魔力を消費させて魔力量を増幅促進。その代償に必要カロリーが日に日に増しているが成果は出ており、僅か数ヶ月たらずで鬼美の動きに付いてこれる魔装少女(身体)へと変貌していた。

 

――どうしてここまでしたのか、それは並みの魔装少女の肉体では鬼美の本気に耐えられないからだ。鬼美は確かに現代の“安全”な強化魔法を使えないが――それを勝る“危険”なものを持っていった。

 

「我らが愛し憎しみ慈悲憤怒を抱く神よ。お前は何れまで寄り添うものか。相容れぬからこそ怖れ合うと言うのならば、今こそ混じり合わん」

≪――なっ!?≫

 

鬼美の足下に重なった六つの魔方陣が展開される。灰色の魔装少女の絶句する声をマイクが拾う。

 

「これは太古から続く寄り添いながらも、触れられぬ(モノ)同士が一蓮托生となる軌跡の物語」

 

魔方陣たちが鬼美に収束していく。その最中、本気となった『土蜘蛛(カオス)』が足を動かし蜘蛛の巣を揺らすと、巣の糸から影の帯が地面に向かって延びていき、それらが数十本、鞭のようにしなりながら大地に襲いかかる。

 

≪巨大な姿でどうするかと思ったら真っ先に制空権とって安全な所で無差別攻撃って容赦ねー≫

≪というかやり過ぎですわ!?≫

≪いや、むしろまだ足りないのかな……ほんと、今まで聞いたことが無いのが不思議なぐらいの強さだよ≫

 

触れた地面を抉りとるほどの威力。掠めただけでも無事ですまない踊り狂う不規則の影の鞭に鬼美は付き合わない。気がつけば彼女もまた蜘蛛の巣の上に立っていた。

 

「〈魔法多重展開(その名は――)献炎乗仲(けんえいのなか)〉」

 

――鬼美の魔装は変化していた。着物をベースに手甲具足の最低限の鎧を着ていた風貌が、赤と黄色の炎を象った平安時代あたりの全身甲冑姿となっている。その背後には全長よりも大きな六重魔方陣が浮かび上がっており、個々が違う速度且つ偶数は右に、奇数は左に回転していた。鬼美の挙動に合わせて桜の花びらを模した火の粉が周辺に飛び散る幻想的な光景が彼女をより人から外れてる印象を持たせる。

 

≪――な、なんなんですかあれ!?≫

≪ちょ、ちょっとグレイ!? いまわたくしの番ですわよ!? スケジュールは守ってくださいまし!≫

≪グレイが思わず声上げちゃうほどの魔法かー。なにか普通のと違うの?≫

≪なにもかもです!≫

 

グレイが興奮するのも仕方が無く、鬼美の魔法は魔装少女たちが現在使っている魔法とは逸脱していた。アンギルの問いに、グレイは状況を忘れて説明しはじめる。

 

魔方陣の同時多重展開。それは言わば魔法の同時発動を意味する。幾人の魔装少女や『魔法職人』が目指している“現在の技術で実行不可能とされていた”頂きである。魔法の発動に必要な工程はまず記憶した魔方陣を頭に思い浮かべて、次に詠唱を行い、そして必要分の魔力を消費する。そうやってはじめて魔法の効果が発動されるのが基本原則である。

 

その中で魔方陣を同時に四つ別々に思い浮かべられたとしても、それは“四つの魔方陣に見えるひとつの魔方陣”というまったく別ものとして処理される。その四つのいずれかの詠唱を行ったとしても魔法は発動することは無い。さらに当たり前のことであるが詠唱を発声できる口は一つしか無く、“鍵”を明ける作業はなにをしたって一個ずつしかできないのだ。それを鬼美はやってのけていた。内容こそ把握できないが、刻印が違う魔方陣を六つ同時に展開して、それを同時に発動したのを確かにグレイは見た。

 

――だが、それだけだったのならば『固有魔法』あるいは単なる曲芸技術ではないのかと考えて、グレイもそこまで驚かなかったかもしれない。魔法そのものに干渉する自分と同じ『固有魔法』を疑うが、魔法というものに頭ひとつ飛び抜けて理解がある彼女だからこそ気がついた。

 

鬼美がいま使った魔法は、私たちが使う魔法とは文字通り“なにもかも”違うのだと。

 

諛舌°縺励>(なつかしい)

「なに言ってんのか分からないけど、大体察せられるさね。こいつはバリバリ現役だよ……古いからと言って嘗めたら承知しないさね」

縺ァ縺阪k縺(できるか)

 

鬼美は身体の調子を確認する。魔装追加による支障は問題なし、魔法の出力操作も行える。問題があるとすればまだまだ鍛え不足なため魔力量も考慮すれば、この姿で無茶をできるのは動き出してから一分ほどであろう、それを過ぎれば魔法が解除され戦う余力すら無くなることを把握する。

 

「――(しめ)の時間がやってきた。さっさと語りきってやるから寝ちまいな」

鬯シ鄒弱ぅ繧」繧」繧」繧」繧」繧」繧」(鬼美ィィィィィィィィ)!!」

 

――結末を締めくくる怪物(大蜘蛛)妖怪()の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

≪ごめん! 魔法のことは試合終わってから解説してね! さあ戦闘が再開されたね!≫

≪恐らくこれが最終ラウンドになりますわね。果たしてどっちに軍配が上がるか……≫

 

鬼美が一歩を踏みしめると魔方陣が勢いよく回り始めて魔力が大量に消費されはじめる。すると“ロケットエンジン化”している魔装は甲冑の繋ぎ目から円錐形の炎が噴出されて鬼美は加速する。カオスは迫り来る鬼美に向かって口から糸の影を排出する。それに対して鬼美は炎を真下に向けることで急激な軌道変更を行い上空へと鳥の如く飛翔。カオスもすかさず糸の影を吐き出しながら、それを足場に鬼美を人を超えたスピードで追いかける。そもそも逃げる気が無い鬼美はUターンして、自分の真下に位置付いたカオスに向かってさらに加速、突撃せん勢いで向かう。カオスはタイミングを見計らって、その場をグラウンド端に向かって跳躍、見えないバリア()を利用して三角跳びの要領で、ちょうど鬼美が通り過ぎるであろう位置に向かって弾丸の如く跳び出した。鬼美は咄嗟に炎を逆噴射し急ブレーキを掛ける。身体に強いGがかかるが魔装少女の身体は便利で苦しみや痛みは感じるが肉体がおシャカになることもブラックアウトする心配もない。4tトラック並の巨大砲弾と化したカオスがギリギリの所で止まった鬼美を通り過ぎる。鬼美は背中からまるで鳥の骨翼のような炎を放出、一瞬にして最大速度へと持っていき巣に着地して伸縮性を利用し速度を殺しているため動きが止まっているカオスへと急接近、そして胴体に音速の拳を食らわせた。

 

――半分に抉れた胴体から“数十本の黒い人の腕”が伸びて鬼美を掴んで捉える。

 

謐輔∪縺医◆」(捕まえた)

「馬鹿が! 鬼相手に捕まえるだけじゃあねぇ! 首を斬らなきゃダメだろうが!! あっはっは!!」

 

六つのうち五つの魔方陣が尋常ではない速度で回転しはじめる。魔装から危険な輝きは発せられる。鬼美が行っているのは残存魔力の99%を消費させながら、排出率を最小にするといったものだった。排出と延焼のバランスが崩れたことで追加魔装に炎と熱が蓄積され続けて“自壊”が始まり、甲冑たちがひび割れていく。

 

「――結末さね!」

 

罅から光が漏れ出す甲冑がパージされ、そして――

 

 

 

 

 

 

スーパーノヴァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

――大爆発が起こった。

 

≪うるせっ!? ノイズキャンセルしてもこれっていうか自爆したよね!? いま自爆したよね!?≫

≪わ、分かりませんが鬼美の魔装が光って大爆発しましたですわ!?≫

≪ああもう、土埃がまって全然見えない! どうなったのさ!?≫

 

轟音とグラウンドの土とカオスの影と思われる黒い液体が飛び散りそこら中から悲鳴が上がる。

 

「――はっ、あっはっはっはっは! あっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

土煙の中から痛快な大笑いが聞こえてきて不自然な影が土埃を払う。クレーターの中心には半分土に埋もれながら倒れている変身が解けた混沌が居て、手甲具足も無い着物姿だけとなった鬼美がとびっきりの笑顔で立っていた。

 

「いやぁ、やっぱ戦いは楽しいね。さらに勝つともっと楽しいねぇ? ブレイダー・カオス」

「……ああ、私の負けだ鬼美」

 

ブレイダー・スーツの耐久値を超えたダメージを受けたため変身が解除されて『B.S.F』の電源が落ちた。再起動するまで24時間、混沌は変身する事ができなくなり、もはや戦うことは出来ない。

 

――聞きたいことが山ほどあった。聞いて欲しいことが山ほどあった。だが負けたためにその願いは叶わない。そう思ったら年甲斐もなく瞼から忘れていた“なにか”が零れそうになる。

 

「ああ……やっとあんたの正体が分かったよ。泣き虫は相変わらずかい?」

「……分からない」

「仕方ないね。正直言うとあの爆発で魔力の99%を使っちまってね。あんたが負けを認めてなかったら最悪引き分けになるところだったさね。――強くなったじゃないか、坊や」

 

――強くなるさね、坊や。

 

髪と瞳の色以外、まったく違う魔装少女の幻影と被り、混沌は堪えることができず一粒の涙を流した。

 

「あんたの成長に免じて、この子が起きる少しだけの時間、話を聞いてやるさね」

 

カオスにだけ聞こえるような小声でそう伝えたあと、鬼美はご機嫌な様子で自分が出てきた入場口から帰っていった。そして少しだけ時間をおいた混沌がふらつきながら立ち上がり、覚束ない足取りで同じように会場を後にする。

 

≪――お、終わりましたわね……?≫

≪そうだねー。……あんなカオス初めて見たよ≫

 

――『戦争決闘五番勝負、第三回戦勝者。鬼美』

 

一勝二敗、『アーマード』側が負け越す結果となった。




鬼美が使った魔法は『炎属性付与(魔装追加)』『ロケットエンジン原理付与(魔装追加)』『耐久力極大強化(本体付与)』『炎操作(方向)』『熱操作(放出)』『火力変換(STR)』となってはいます。細かい所はぶん投げたので、本編に記載する勇気はありませんでした(  ̄▽ ̄)終わらなかったんだ……。

次回は二人のやりとり&スレ回となっていますので、お待ちになって頂けたら幸いです。それでは。


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一般人スレ③&鬼と坊やの昔話

感想、お気に入り登録、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます!
気がついたら半年……八ヶ月も目前です!( ̄▽ ̄)中途半端。
本当にありがとうございます。これからも楽しんで頂けたら幸いです。

今回、予定していたブレイダー側のスレですが話のテンポ的に無くなりました。それでも楽しんで頂けたら幸いです。


777:名無しの観客

三回戦、どうなるかと思ったけどめっちゃ派手で凄かったわ。

なんか普通に楽しめた。

 

778:名無しの観客

というか、結局代わりに出てきた魔装少女って誰なんだ? 協会のページにも乗ってないぞ?

 

779:名無しの観客

ブレイダーに関して考察するスレとかカオスを語るスレとかずっと流れっぱなしで避難してきた。

 

780:名無しの観客

そんな酷いんか?

 

781:名無しの観客

あまりにも早すぎて纏めが追いついていない。

 

782:名無しの観客

>>778 協会のサイトは引退した魔装少女は消されるから、まとめサイト見たほうがいいぞ。多分口振りからしても大先輩っぽいし。

 

783:名無しの観客

いや、そっちも見たけどそれっぽいのマジで居ない。漢字名なんて滅多にないし。モグリか?

 

784:名無しの観客

最初期時代だったら可能性が高いけど、あんな強かったらガチで名前ぐらい聞きそうなんだけどな。名前変えている可能性はある。

 

785:名無しの観客

にしては、カオスが名前にしっかり反応していたのが気になるな。突然バスター・クイーンの代わりに出場した理由も語られてないし、きな臭いっていうか謎が謎を呼びすぎる三回戦。

 

786:名無しの観客

休憩終わりの雑談タイムで、アンギルが突然「はぁ!?」って驚いた声上げたあとしばらく黙っていたやろ? そん時になんかバスター・クイーンがやらかしたらしいのが有力らしい。観客襲っていた可能性が高いって。

 

787:名無しの観客

試合始まる直前、多分なんらかミュートミスって「――とりあえず○ちゃんは無事なんだね!?」って誰か個人の安否を確認してたから可能性は高い。考察スレの方で検索かけたら音弄ってハッキリ聞こえてるやつあるから聞いてきてもいいわ。スレ検索で幾らでも出てくる。

 

788:名無しの観客

雑談タイムで視聴者に調子悪いのって心配されるほど黙る場面が多かったのメールとかで連絡取り合っていたってのも言われてるな、よく聞くとやたら機械を操作している音が他の試合間と比べて聞こえるんだとさ。

 

789:名無しの観客

音勢本気出しすぎぃ!!

 

790:名無しの観客

つまりバスター・クイーンが裏で一般人に危害加えようとして、それをブレイダーが止めたってことでFA?

 

791:名無しの観客

噂考えれば充分にありえそうだよな。本当だったらマジでクソ。

 

792:名無しの観客

現場組から新情報。秋葉ドーム内で戦った痕跡があるってよ。ドーム内の一部エリアが突然進入禁止になって、そのエリアを外から見ると二階フロアの下ぐらいに大きな穴が開いてるって。

 

793:名無しの観客

うわぁ。マジ感が増してきたな。本当だったら普通に犯罪やんけ。

 

794:名無しの観客

アンギル、バスター・クイーンの質問全部ガチ無視なの草、草じゃないが。

 

795:名無しの観客

これ普通にドーム危なくないか? ここまで普通に試合やってきたけど場外で戦闘が起きちまってるし、下手すると本当の殺し合いに巻き込まれないかマジで不安なんだが?

 

796:名無しの観客

二回戦の時はあんだけ対応が早かったヴァイオレットもだんまりなの絶対なにかあったやろ? この人割と何でも情報すぐに発信してくれるのに、呟きが止まったの怖すぎなんだけど。

 

797:名無しの観客

バスター・クイーンに関してどこも情報カットしてるし答え見つからないだろこれ。代打で出てきた魔装少女に話変えんか?

 

798:名無しの観客

アレはもっとわかんねぇよ。協会にもwikiにも乗ってない魔装少女だぞ。情報そのものがどこにもない。

 

799:名無しの観客

魔装少女板の方でなんか情報でてない?

 

800:名無しの観客

魔装少女っていうか、魔法を語るスレ民が全員発狂している。

 

801:名無しの観客

グレイ・プライドも発狂してたけど、そんなにか?

 

802:名無しの観客

まず別々の魔方陣を同時展開できるだけでいみふ。まじで人間業じゃない。たとえ別々の魔方陣を正確に且つ同時に思い浮かべられたとしても、それはもう違う魔方陣として処理されるんだよ。なんでそれで発動できるんだ?

 

803:名無しの観客

>>802 なるほどわからん

 

804:名無しの観客

>>803 魔方陣=なんでも良いから建物。

たとえば一軒家を絵に描いたとする。すると絵は「一軒家の絵」になるだろ。頭のなかに同時に魔方陣を思い浮かべるのは同じ絵に違う建物を描くってことなんだよ。魔法を発動するために必要なのは「一軒家の絵」であって、二つ、三つ違う建物が描かれた絵は「住宅街の絵」になっちまう、そうしたらその絵はまったく別ものだから魔法が発動できないないし、できたとしても別の魔法。

 

805:名無しの観客

微妙にわかりそうで分からんがなんとなく分かった神例え。

 

806:名無しの観客

ていうかアレって六つの魔方陣に見えるだけであって、実際はひとつなんじゃねぇの?

 

807:名無しの観客

>>806 魔方を語るスレでもそこらへんで喧嘩してるわ。自称魔装少女や自称魔法職人たちは六つの魔法による同時展開派が多い。ていうか関係者はみんなそっちよりっぽい。あれ六つに見えるだけのひとつって言うには個々の魔方陣のデザインが違いすぎるって。

 

808:名無しの観客

使ってる人だけが分かる違いってやつなんかね?

 

809:名無しの観客

そもそもグレイ・プライドが叫んでいたようになにもかも違うんよ。まず詠唱そのものがまるっきり違う。詠唱が完了しているのが魔法が発動しきってからとか、魔方陣が魔法発動した後でも消えないし、なんなら起動するためだけの物であるはずなのに魔法効果の出力調整も兼ねているっぽいし。『固有魔法』の関係を疑っているけど、だとしても魔方陣が誰も見たことがないのが分からん。詳しく語ると長いから興味ある奴は魔方を語るスレのほうへいってくれ。

 

810:名無しの観客

なんかあれだな、鬼美の魔法はガワだけ一緒で全く別物のOSが積まれたパソコンみたい。

 

811:名無しの観客

>>811 言い得て間違ってない。なんなら鬼美って魔装少女が一から汲み上げたプログラムで作られた魔法って言われたほうが納得する。

 

812:名無しの観客

そういえば本人なんかそれっぽいこと言ってなかったっけ? 古いからって嘗めたら承知しないって。まさか規格整理される大昔の魔法とか?

 

813:名無しの観客

いや、それはないんじゃないか? だって最初期から魔法ってあんなんだっただろ?

 

814:名無しの観客

あのさ、まじめな質問なんだけど、今の魔法ってどうやって作られたんだ?

 

815:名無しの観客

フェアリーが教えたんじゃねぇの?

 

816:名無しの観客

いや、フェアリーの魔法は精神生命体が使うもの前提みたいだから、物質生命体である人間は使えないらしい。だから魔装少女か魔法職人の誰かが規格整理をしたってずっと思ってたけど、このスレ見る限り違うんか?

 

817:名無しの観客

>>814だけど、その規格整理した魔法使いって誰って話。魔装少女でも魔法職人でもそんな偉業成し遂げていたら名前ぐらい普通に聞きそうだけど、聞いた事がないって思って。

 

818:名無しの観客

今でも魔装少女続けてる最初期勢って言えばキュートズムとヒカリソウじゃない? 引退勢って誰居たっけ? 

 

819:名無しの観客

いや、言っても二人脳筋だし……、それにおっさん魔装少女のことそれこそ最初期から追ってるけど、魔法を開発したって話は聞かないな。

 

820:名無しの観客

あのさ。すごい怖いこと思ったんだけど、カオスが蜘蛛化するまえに二人で会話してたよな? あの時、鬼美が四人って魔装少女の人数のことだよね?  そんで、その後カオスが「五人だったのか」って返したの。これって魔法に関係しない?

 

821:名無しの観客

そういえば魔装少女塾の学長って世代で言えばいつだったっけ? 大分古かったような。

 

822:名無しの観客

>>820 ぞっとした。

 

823:名無しの観客

>>820 まって、ほんとまって

 

824:名無しの観客

>>820 現代の魔法を作り上げた誰も知らない謎の存在。カオスの発言からして忘れられていた鬼美の同世代と思われる四人の魔装少女。

なにかが繋がっちまったな……ええ、これマジでなに? じわじわと恐怖が広がってくるんだけど。

 

825:名無しの観客

>>820 こわいこわいこわいこわい

 

826:名無しの観客

気がついたら怖い話みたいになってるの草枯れる。

 

827:名無しの観客

鬼美も含めて正体不明の魔装少女が五人いるってこと?

 

828:名無しの観客

居るだけなら別になんでもないんだよ。問題なのは鬼美以外の四人の魔装少女らしき人物を鬼美がカオスが知っている前提で話しているのに、カオスが忘れていたような発言をしたこと。

 

829:名無しの観客

ワイ等もあんな鬼美を含めてガチ濃い魔装少女五人なんて記憶にございません。ちなみにワイも最初期から魔装少女を追っているおじさん。そのままブレイダーに流れてきたものです。

 

830:名無しの観客

カオスは大変なものを盗んでいきました。それは俺等のSAN値です。

 

831:名無しの観客

最初期のことは誰も知っているのに、黎明期の話になると途端に誰も知らないっていうの怖い。

 

832:名無しの観客

そもそも鬼美って存在が正体不明すぎてなんも分からん。

 

833:名無しの観客

その鬼美さん試合中にめっちゃ不穏な会話してませんでした? なんか今の身体は自分のものじゃないって。

 

834:名無しの観客

>>832 言ってたわ。だから傷つけたら殺す的な理不尽なこと言ってたわ。えぇてことはあの人、別の魔装少女の身体使ってるの?

 

835:名無しの観客

ああまで、はっきり発言してたら確定事項でいいんじゃなかね。

 

836:名無しの観客

仮に別の魔装少女の身体を借りている存在が鬼美だとして、魔装少女の姿はその魔装少女のものではないよな。認識阻害の魔法が掛かってるとは言え、見たことある魔装少女だったら分かるし。

てことは肉体に乗り移っているのは魔装少女じゃない普通の女の子で、乗り移って初めて魔装少女になれるナニカって考えられんか?

 

837:名無しの観客

パラサイト系魔装少女

 

838:名無しの観客

カオスの驚き具合からして死んでるって言われても驚かんぞ。

 

839:名無しの観客

憑依幽霊系魔装少女

 

840:名無しの観客

>>837

>>839

どっちも不穏過ぎる。

 

841:名無しの観客

情報量に沈みそう。

 

842:名無しの観客

色んなスレの情報をかき集めて話し合ってるのマジで場が混沌としてんな。

 

843:名無しの観客

というかこの手の考察スレのほうでやってどうぞ。試合そのものについて話そうぜ。

カオスって、普段はあんな風に戦うんやな。敵トラウマもんだろあれ。

 

844:名無しの観客

ヒーローと魔装少女の戦いを見ていたと思ったら妖怪大決戦になっていた(rk

 

845:名無しの観客

人の目で追いつける速度だったので楽しかったです。

 

846:名無しの観客

三回戦の戦いカオス、戦い方が技巧タイプだから、これはこれで考察しがいがあるんだよな。四刀流になった理由とか、蜘蛛化したのがどんな狙いだったのか。

 

847:名無しの観客

アイビー・ゴールドも言ってたけど、鬼美の動き魔装少女にしては怖すぎん? 思いっきり殺しに行ってたよね?

 

848:名無しの観客

単なる的じゃんと思ったけど、チーターなみの加速力を誇る大きな蜘蛛ってめっちゃ怖いし蜘蛛の糸使って、あんな無差別攻撃できるなら、対処できた鬼美の方がおかしいんだよな。というか身体ぶっ壊したら沢山手が生えて掴んでくるのSAN値チェックです。

 

849:名無しの観客

最後の自爆っていうか、あれ魔法をワザと暴走させて爆破させたんか? にしたって本人にダメージいっさい入ってないのなんかやったんかな?

 

850:名無しの観客

>>849 よくみると高速回転してない魔方陣があるから、それで自分の身まもったんじゃね?

 

851:名無しの観客

また考察してるよ……。

 

852:名無しの観客

這い寄れ。考察の足下に!

 

853:名無しの観客

>>852 草

 

854:名無しの観客

ま さ に カ オ ス

 

855:名無しの観客

というか、ぼちぼち四回戦のことも話さないか?

 

856:名無しの観客

いやです。

 

857:名無しの観客

おいおまえぇ。現実逃避も兼ねて考察してたんだぞこちとらぁ、思い出させんなよ!

 

858:名無しの観客

もうお前の勝ちでいいから帰って欲しい

 

859:名無しの観客

正義のお時間です(無慈悲)

 

 

 

+++。

 

――昔々、まだ魔装少女協会もブレイダーも存在しなかった時代。自分の嫌なものを消して、自分の都合のいいものだけを残そうとした『組織』が居ました。『組織』の活動によって大切な生き甲斐などを存在ごと消されてしまった十人の若者は、自分の大切なものを守る為に戦いました。

 

「よっ。体の調子はどうだい?」

「汝から与えられた痛みが疼く」

「そうか、それは災難だったね」

 

試合が終わって、鬼美はすぐにカオスの楽屋に来た。軽い感じで手を上げて挨拶する鬼美に、混沌は怪我こそないものの身体のそこら中から発する筋肉痛と打撲痛に似た痛みを正直に言うも、痛みの原因である張本人に簡単にあしらわれる。

 

「さて、この子のお昼寝タイムが終わる前に話を始めようじゃないか」

「その依り代の子は……」

「この子に関してはなにも聞くな。あたしは亡霊のままで居るつもりだった。なのにこの子はそういう星の下に生まれてくるのか、ヤバイことに巻き込まれやすくってね。仕方ないから地獄から出張さ……本当なら魔装少女になんてならずに、普通の子として幸せに生きて欲しかったよ」

 

小さな身体。その本来の持ち主である子に慈愛の感情を見せる鬼美に、混沌は目を見開くほど驚いた。

 

「……お、お前本当に鬼美か!?」

「だからそう言っているじゃないさね、このおバカ! というかこのタイミングで疑いだした訳を聞こうじゃないか、えぇっ!?」

「私を地面に埋めて凶悪な面で高笑いしていた奴が、そんな顔をすれば仕方なかろう!?」

「五月蠅いさね! というかあんたこの子にあたしの過去告げ口したら、トイレに流してやるからそのつもりでいな!」

 

なんとも理不尽なと思いながら、混沌はあまりの懐かしさにまた涙腺が緩みかけていた。

 

「……最後に会ったのはいつだったか」

「大雑把に言えば、あたしが魔装少女になったのは“20年前”で、その二年後にあんたたちが現れて、そこから暫く色んなことがあって……おおよそ17年ぶりくらいかね」

「そんなに経つのか……死んだかと思っていた」

「実際、死んださね。童話のままにあたしは退治されたのさ」

「あいつらに……『組織』に殺されたのか?」

「正確には殺されかけた。だからあたしは自分の魂に記憶と自我を結びつけて、たまたま通りかかった“とある人物”の中に入った。まっ自害したのさ。あたしは」

「なぜだ!?」

「忘れられたら負けると思ったから」

 

その答えに混沌は冷静になり、彼女の話を聞くことにする。

 

「『世界改変魔法』はまさに神の御業そのものだったが対象を選んで初めて魔法が成立するという“欠陥”があった。発動される前に“あたしという対象”をこの世から無くした。当たり外れが分からない博打だったからね気になってはいたんだ。結果を聞こうじゃないか」

「……私……たちは逆転の芽すら摘まれるほどの劣勢だった。それが汝の……君の死を切っ掛けに状況が変わった」

「そうかい。あたしのおかげで勝てたってことかい。それなら死んだかいがあったってものさ」

「そんなのあってたまるか!」

 

自分の死が無駄にならなかったと純粋に喜ぶ鬼美に、カオスは悲痛の声を上げる。

 

「私は……私“たち”は確かに『世界改変魔法』を消滅させて、『組織』を壊滅させた! だけど、大事なものはなにも取り戻せなかったんだ!! それどころか、きっと私は……私は……大事なものを全部忘れてしまって、のうのうと生きているっ!」

 

頭を抱えて、今にも泣きそうな声で混沌が語るのは懺悔。誰かに言ったとして真実だと理解を得たとしても、起こりえるだろう疎外感に脅えて言えなかった気持ちが吐き出される。

 

「……仕方ないさね。戦い始めの時にはすでにあんたたちは『世界改変魔法』の対象となっていた。それでも無事にすんでいたのは、記憶が存在する理由と同じ枯らされた『生命の樹』の核。『セフィロトの核』を保有していたからに過ぎない。だから死んで核が魂の外に出てしまえば、後になって魔法の効果が働いて、あんたたちの存在は世界から抹消されることになる。元から死んだら全てを失う戦いだったんだ。何も覚えてなくてもあんたは悪くないよ」

「棚の中身は今でも空っぽなんだよ鬼美。空っぽなんだ。それをどうにかするために戦っていたのに、新しく棚に置かれていったものも無くしてしまったんだ……」

 

吐き出される泣き言に、鬼美は黙って聞く。

 

「片隅にこびり付き残った大切なものであっただろう最後の(よすが)に縋っても、このザマだ……どうして私は今ここにいるんだ……どうして私なんだ……」

「やっぱり、あんたは“混ぜもの”なんだね。死に体だった数人を魔法かなんだかで繋ぎ合わせた存在。そんなことができる“フェアリー”が居たことも、その変な話し方をした奴も、やたら顔文字を多用するやつも、泣き虫だったやつもあたしは覚えている。なんせ喧嘩売ってきたのをぶちのめしたことがあるからね」

 

――混沌になる前、まだ普通の人間だったころの記憶。それは敵の攻撃を食らって体の半分を失った光景。そのあと気がつけばこの姿になっていて、その手には『B.S.F』が握られていた。

 

独特の話し方も、書き込みも混沌は意識してやっているわけではない。忘れたなにかが無意識的にそうさせるのだ。そしてそれを嫌とは思わなかった。消失してしまった大事なものが“確かにあった”という証明であり、そんな“誰か”の残留に身を任せることで“自分”というものを考え無くていいから。

 

――魔装少女を守りたい気持ちだって、本当は。

 

「……よく生き残ったよ。坊やにしては上出来じゃないか」

 

二度と会えないと思っていた鬼美と再会して話を聞いて貰っただけなのに、混沌はほんの少しだけ救われた気がした。

 

「……時間さね。そろそろこの子が起きる時間だ」

「鬼美……また話せないか」

 

桃川の意識が覚醒し始めているのを感じて、鬼美は話を切り上げに入る。混沌は引き留めたい気持ちをぐっと堪えて尋ねる。

 

「約束は出来ないが、その“お洒落になった『セフィロトの核』”についてなにも聞けなかったしね。機会に恵まれたら、今度は茶でもしばきながらゆっくりと話そうさね。年寄り同士らしく」

 

鬼美はそういいながら電源の切れた『B.S.F』に、次に混沌の腰あたりに視線を向けた。

 

「……ふっ、合計すれば100越えの汝に比べればまだまだ私など――」

「すでに没ってるんだから今のあたしは実質0歳児だよ!!」

自分で年寄りって言ったじゃん(; ◉∆◉)(言葉を振り返ろ!?)

「年齢のことを言ったあんたが悪いさね。ったく、茶と団子の代金はあんた持ちだからね。いい店探しときな」

 

そう言って鬼美は、混沌の返事を待たずに出て行った。嵐のように過ぎ去っていった彼女に、本当に変わりないと混沌は心を持ち直す。いまだ自分の始めた戦争途中ではあるが、それでも彼女との再会は純粋に喜びたかった。

 

「ほんの一時だけ解放される私を許してくれ……また会おう。鬼美よ」

 

閉じた扉に向かって混沌は過去、彼女に言えなかった再会の誓いを口にした。

 

――枯らされてしまった世界の法則を司る大樹、その核の力を使い若者たちは懸命に戦い続けて、そして最後に世界を守ることができました――大切なものをなにひとつ取り戻せぬままに。

 

+++

 

「ブレイダー・カオスとの話は終わった?」

「さーて、桃川が意識を覚醒させるまえに蜜柑のところに戻らないとね」

「ちょっと~。さすがに完全に無視は酷いんじゃないの?」

「五月蠅い。文句なら癇癪持ちの年寄りを選んだ自分にいいな」

「地球に来たばかりで人間の老若なんて分からなかったからね~……でも、後悔はしてないよ。モググの最初の魔装少女が君でよかった」

「はっ。随分と人間臭いこと言うようになったじゃないか」

「20年も地球に居るからね。朱に交わるだっけ? 人に近くもなるよ。だから君と再会できたことが本当に嬉しいんだ」

「……ほんと変わったね」

「鬼美もね。随分と優しくなった。だんごの中に居るからかな?」

「はっ。褒め言葉として受け取っておいてやるさね……。あんたはカオスに会わないのかい?」

「……正直言ってブレイダーは苦手だからね~。『セフィロトの核』の保有者たちの活動の結果、きみが死ぬことに……ぶへ!?」

「あたしを選んだフェアリーのくせに考えることがみみっちいさね!!」

「だからってモググのことを蠅みたいに叩き落として踏んづけないでよ!? 中身出るってば!?」

「あんたが根暗なこと……あ」

「ん? どうしたの?」

「根暗で思い出したけどブレイダー・アビスのこと伝えるの忘れてたさね」

「ブレイダー・アビスのこと?」

「……桃川が迷子になった時、あたしの存在がバレていてね。聞かれたんだよ――魂の魔法についてね」

 




情報量多すぎて、なんか書き足りないものありそうな不安に襲われています。それでもようやっとブレイダーの情報を最低限だせたことに感無量となっています。あくまで最低限なんですけどね()

混沌の物語は、とりあえずこれにて一旦終わりとなります。言ってしまうと彼がメインになるのは結構後の予定なので、そこまで書き続けられるように頑張りたいと思います。

自分事になりますハーメルン内で新作を出しました。ジャンルはあべこべ異世界ハーレム無双。略して“ギャグ”作品となっていますので、ご興味のあるかたは見て頂けると幸いです。

よろしければ評価や感想、お気に入り登録をしてくれると喜びます( ̄▽ ̄)タマニハイットコ←

次回は奈落回となるので、よろしくお願いします。それでは


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奈落Ⅲ

感想、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここすきありがとうございます。

あっちの作品と同時投稿を目指してなんとか上げることが出来ました。天国と地獄を同時に書いている気分でした( ̄▽ ̄)

ここから2章は終盤になっていきますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。


借金漬けのあげくに浮気をして家族を捨てようとした父親を刺し殺した母。そんな母も、私が声を掛けたらアパートの十階であった部屋の窓から飛び降りた。それが、後にサイレント・オルクスという魔装少女となる女の子が孤児になった理由。

 

孤児院での生活は地獄だった。どこからか情報を仕入れてきた同年代の子供たちからは差別的扱いをされる毎日で、あだ名は人殺し、殺人鬼、シリアルキラー、少しでも感情的になれば派手に殺されると大人たちに突然襲いかかってきたと訴え始め、常に私達の世話を面倒そうにしていた大人たちはたいして調べもせず、声の大きいほうの意見を鵜呑みにして悪いこと全て私の所為にした。

 

だから、悪い魔装少女を殺して世界を平和にするというお仕事は私にぴったりだと思った。魔装少女というものに憧れていたというのもある。世界平和のために働けるというものは生きる免罪符となり、教育によって与えられた使命感は自分という存在そのものを肯定してくれる気がして。また訓練を共にする同年代の女の子との生活は普通に楽しかった。

 

私にとって暗殺者として育てられる環境は充実していたんだと思う。でも、時間が経つにつれて本当に魔装少女を、人を殺さないと行けないんだと自覚し始めると、恵まれていると思っていた環境もまた違う地獄でしかなかったと気付いた。そんな私たちの不安を察知した大人たちは教育方針を切り替えた。恐怖や痛みによってトラウマを刻み込み逃げられなくなるようにと、飴を全て取り上げられて何度も何度も暴力を振るわれた。

 

私たちは辛いって言葉を口にすることが多くなった。逃げ出したいって思うようになった。だけど、そんな力は無くて、どんな大人たちよりも怖い魔装少女が居たこともあって、次第に私たちは諦めていった。地獄で生きて、地獄の使者となり、地獄に送り、最後には地獄で朽ち果てる。それが祝福されずに生まれてしまった私たちにはお似合いなのだと受け入れた。

 

眼を背け、耳を塞ぎ、口を押さえて静かにする毎日。父を刺し殺した母親の顔が自分に見える。そんな夢ばかりを見るようになって、最後はきっと十階の窓から飛び降りるんだろうなって何度も自分の末路を考えて母を羨む。人殺しの子供なんだ、せめて手を汚すのは自分だけにしようと言う潔癖な誓いだけが、この時の生きる唯一の理由だった。

 

救いはないと絶望の淵に居た私たち。そんな私たちを救ってくれたのは、また違う地獄(奈落)だった。

 

膝を震わせて、強い吐き気に襲われながらも、目標となった魔装少女を殺そうとしたその手を黒い手が止めた。

 

――ダメだよ。そんなことしちゃ。

 

当たり前を論じるように優しく叱られた。それがあまりにも悲しくて嬉しくて理不尽で全てがどうでもよくなるもので、私は赤ん坊のように泣いた。

 

自分たち『元懲罰部隊』を保護してくれたブレイダー・アビスは、色んなことをさせてくれた。美味しいご飯を食べさせてくれた。色んなゲームを遊ばせてくれた、それ以外にも沢山数え切れない普遍的な幸せというものを経験させてくれた。四人で過ごしたクリスマスは今でも私の一番の思い出だ。

 

そんな幸せに満ちあふれている日常にちょっと耐えきれなくなって。私たちはアビス様の手伝いをさせて欲しいと頼み込んだ。少し困った様子で承諾してくれたアビス様、絶対に無茶はしないでと言ってくれた事が嬉しかった。魔装少女の力を燃やして普通の人間として罪を償わせるというのは、植え付けられた使命感を満たすのに充分であり、なによりも恩人であり大切な人であるアビス様の役に立てている。その事実がただただ幸せだった。

 

自分の人生を幸せに変えてくれたアビス様の傍にずっと居たい。夢と呼ばれる私欲が生まれたことに浮かれた私はアビス様本人に、恥ずかしいから内容は隠しながらも夢ができたと報告した。

 

――夢を持てたのはいいことだね。

 

そう喜んでくれるアビス様に私はなにも考えずに、アビス様にも夢があるんですかと問い掛けた。

 

――あるよ。それがボクの生きる意味だ。

 

それ以降、私は怖くなって夢の話をしなくなった。

 

+++

 

アビスたちはスレプトに教えられた立ち入り禁止と書かれた扉の前まで到着した。アビスは扉のノブを掴みながら、暫く棒立ちで考え事をしており、その様子にオルクスは先ほどのスレプトとのやりとりを思い出して不安を募らせていた。

 

――モニカさんに会ってきて。

 

オルクスはアビスの過去を殆ど知らない。自分たちの過去が碌でもないことも起因し、他人の過去を聞く行為は『元懲罰部隊』ではある種の禁忌みたいなものになっていた。ただそれを踏まえてもアビスの過去を聞くのがみんな怖かった。今でもそれは変わらずオルクスは聞きたいことを口から出せず不安になって腹の底に溜め込み続ける。

 

「アビス様」

「……オルクス」

「どこまでも付いていきます」

 

ここからは一人で行くと言われるのを察知したオルクスは、ハッキリと自分の意志を伝える。

 

「……困ったな。どちらにしても力を貸して貰えないと進めなさそうだ。頼めるかい?」

「……っ! はい!」

 

扉には厳重な電子ロックが掛かっており、アビスは困ったように言う。オルクスは否定されなかった安堵と、役に立てる喜びに不安が中和されて自分でも意外と思うほどハキハキとした声で返事をする。

 

本当ならアビスの腕力で強引に破壊することは可能である。ここまで来たのならば穏便に動く必要もないだろうと扉を殴りかかろうとした直前、オルクスに名前を呼ばれたことで考えを改めることになる。その理由はアビス本人にも分からなかった。

 

「では、行きます〈魔法展開(スペル):新月遊泳〉」

 

物体を通り抜ける魔法を使い扉の奥へと進んだ先は、汚れひとつ無い白壁が目立つ円形空間だった。宙に幾つもの光の玉が浮かび上がっており、オルクスはここが普通の部屋ではないことを理解する。

 

「ここは……」

「オルクス。ここにいる間は変身を絶対解除しないで」

「え? は、はい……アビス様、この部屋はいったい?」

「簡単に言えば物質生命体にとっては宇宙空間に等しい、擬似的に作られた“巣”だね」

 

だれ?

daredaredaredaredaredaredaredareだれ?

daededaredaredareだれ?

だれ?

だれ?daredaredaredaredare

daredarededdaredareareだれ?

 

「――っ!? アビス様!?」

「落ち着いて」

 

室内全体から反響した幼い声が魔法の念話のように直接頭の中に入り込んでくる。敵かと戦闘態勢に入るオルクスを、アビスが静止させる。

 

因子?

daredaredaredaredaredaredaredareふたり?

daededaredaredareちがう

こわい

しらないdaredaredaredaredare

daredarededdaredareareねむい……

 

「アビス様。ここはなんです?」

「フェアリーだよ。肉体すら捨てて食べることだけを選んだ彼らの“巣”だ」

「“巣”ですか?」

 

フェアリーは感情を生きる糧とする。それは自他問わず、菓子を食べた時の“甘くて美味い”という感情。あるいは人が美味しいものを食べて満たされる気持ちを感じることが彼らの食事となるのだ。そんな感情を得るためにフェアリーたちは物質世界で活動するために魔装少女と正反対。つまり擬似的な物質生命体となって活動する。それが彼らがデフォルメされた着ぐるみ姿の理由である。そして、この室内に漂う光る玉こそ、宇宙服に等しい着ぐるみを脱ぎ捨てたフェアリーである。

 

「うん。彼らは魔装少女の因子を無条件で与える代わりに、ありのままこの空間だけで生きることを選んだんだ。多分、ここに居るフェアリーは信仰の類いが好物なんだと思う」

「……人の子飼いになったフェアリーですか」

「はっきり言っちゃえばそうだね。彼らは自らの意志で“蚕”になって生きる道を選んだんだ」

 

常に宇宙服を着る生活というのは人間にとっても苦痛でしかない。地球には美味しいご馳走が山ほどあるが、同時にフェアリーにとって命に関わる“恐怖”を感じてしまうリスクもある。そんな地球での生活を苦痛と感じるようになり、また半恒久的に自分の好物である感情が得られるとだけあって、この空間にいる数十体のフェアリーたちのように着ぐるみも思考性も捨てて人に飼われるペットに降るものも少なくない。

 

「他の協会でも時折、こういった施設はあるんだ。まあ違う形の共存だね」

「フェアリーたちをこのように扱っていいんです?」

「そこは人もフェアリーも同じでね。十人十色ってやつだよ」

 

あれ?

daredaredarededaredaredaredareうごかない

daededararedareだれなの?

ひと?

ねえdaredaredaredaredare

daredarededdaredaarezzz……

 

「スレプト・シェパーデスはどうしてこの部屋に行くようにと?」

「あっちに扉がある……シスターはきっとその奥だ」

 

フェアリーの“巣”は通過点に過ぎず。シスター・イースターは反対側に存在する扉の先に居るのだとアビスは確信していた。

 

「擬似的に作られた精神世界だから酸素も無ければ、入り込んだ物質を分解排除する魔法が組み込まれている。普通の人間が入れば即座に分解されて消滅しまう空間。それを利用して第3支部は無断でシスター・イースターに会うような不届き者対策として、このような配置にしたんだ」

 

アビスはブレイダースーツを着用しており、オルクスは魔装少女であるため無事であり、普通の人間は入るだけでほぼ即死する凶悪な罠と言ってもいい。それを通路扱いするのはあまりにも過剰防衛だとアビスから話を聞いたオルクスは呆れた。

 

ちょっと

daredaredarededaredaredaredareそっちはだめ

daededararedareほんとだれ?

こらー

侵入者?daredaredaredaredare

daredarededdaredaare侵入者?

 

声も匂いも音も聞こえないフェアリーたちであるが、触感のようなものはあるらしく奥の扉へと進むアビスたちに反応してざわつきだす。

 

侵入者だ

daredaredarededaredaredaredare侵入者

daededararedare侵入者

侵入者
侵入者daredaredaredaredare
daredaare侵入者
daredarededdare侵入者

侵入者daredaredarededaredaredaredare

dararedare侵入者

侵入者
侵入者daredaredaredaredare
daredarededdaredaare侵入者

 

侵入者

 

 

奥の扉の前に到着するあたりには、フェアリーたちはアビスたちを完全に侵入者だと断定して、排除しようと動く。フェアリーではないのに巣の中で活動できていることから相手を魔装少女だと判断して、魔法を発動しようとする。その効果は『魔力放出』。対象者の魔力を強制的に外へと放出することによって、魔装を強制解除させようとするものだ。本来であれば魔装少女を無力化するだけのものだが、物質は全て分解霧散する“巣”と合わせると、抵抗するヒマも与えず魔装少女を即死させる凶悪なものへと変わる。

 

そんなフェアリーたちに対して、ブレイダー・アビスは魔法が発動される前に背を仰け反らせるように後ろを振り向いた。

 

 

 

ダ マ レ

 

 

ほんの刹那、室内に炎を散らすと光の玉であるフェアリーたちは幼い悲鳴を上げて、アビスとは反対方向の天井の隅へと避難する。

 

こわい!

daredaredarededaredaredaredareいやだ!

daededararedareやめて!

しにくたない!

ごめんなさい!daredaredaredaredare

daredarededdaredaareたすけて!

 

すぐに修復はされたが“巣”の一部が焼却されたのを感じ取ったフェアリーたちは、アビスが自分たちを殺せる存在だと気づき戦意を消失させる。フェアリーたちは安寧を手に入れた代償に、この“巣”の中でしか生きていけない。必要最低限の思考以外を忘却してしまった結果、着ぐるみを纏う魔法も忘れてしまい。この“巣”が燃やされてもフェアリーたちに逃げ場所はなく、ただ死を待つしかできなくなる。

 

「――行こうか」

 

脅えて徐々に静かになっていくフェアリーを余所に、アビスはそれだけ言って扉の奥へと進み。オルクスは静かにその後ろをついていった。

 

+++

 

「またエレベーターです」

「きっとこれが最後だろうね」

 

扉の先にあったのは質素なエレベーター。アビスとオルクスはここまで来たら迷う必要はないだろうと、下矢印が表示されているボタンを押して中へと乗り込んだ。エレベーターの中にはボタンはなく時間と共に扉が閉じて動き出す。

 

「……これだけの施設があるなんて、協会はすごいです」

 

まだまだ目的地に到着する気配のないエレベーター内。気まずい沈黙に耐えきれなくなったオルクスが呟く。

 

「そうだね。作れるだけの人材も資金もありそうだけど……きっとここは協会自体が作ったわけじゃないと思う」

「この施設を作ったのは協会ではないのです?」

「第8支部もそうだけど『裏案件』では、幾つかこういった地下施設を何度も見たことがあってね。いるんだよ。こういう秘密基地を作るのに長けて『協会』と繋がりを持っている『秘密大工(シークレットカーペンター)』が」

 

アビスは第8及び第3のような地下施設或いは秘密基地を見るのは、なにも協会関係だけではなく『裏案件』で何度も見かけた。

 

「短期間で痕跡を残さず誰にも気付かれずに、ひと目を避けたところに気がつけば出来上がっている。そんな人間業じゃない建築を行う個人なのか集団なのかも分からない人外。正義がずっと正体を探ってるんだけど芳しくないみたい……きっと、この戦争に乗った理由も『秘密大工』の尻尾を掴むためなんじゃないかな」

「ブレイダー・ジャスティスが追うほどの相手」

 

アビスの言うことだから信じはしたが、そんな人物が本当に居るという実感のようなものが沸かなかった。しかし、あの正義が追っていて尻尾すら掴んでいないという情報に一気に現実感が増して、オルクスは背筋が寒くなった。

 

「まあ正義の場合、色んな考えの目的のひとつに過ぎないとは思うけどね。なんだかんだで仲間思いな人だから、ボクたちの手伝いがメインっていうのも本当だろうし」

「……皆さんはどうして『戦争決闘五番勝負』をしようと?」

「『協会』が手遅れなほどの罪を犯していたからね。感情、打算、将来の不安から無理にでもその罪を清算させるためなのは間違いないよ。ただ、それぞれ思惑があるのも確かだね」

「……アビス様は、どうして戦争に参加したんです……いえ…………どうして第3支部に来たのですか?」

 

オルクスは禁忌に触れてしまった恐怖と後悔に身体が震え上がりそうになる。アビスは言っていた。個人的な理由でシスター・イースターとの接触を避けていたと、スレプトはモニカという人物に会ってきてと言いシスター・イースターの道を指し示した。つまりアビスには死んでしまった大切な人が居ることは明白で、その人物がアビスにとってどれだけ重要な存在なのか察するのは簡単だった。

 

「……モ、モニカさんに会いに来たんですか?」

 

それでもオルクスは改めて問い掛けた。今のアビスはどこか危うくて、このままなにもせずに傍にいるだけでは、なにか取り返しの付かない事になりそうだったから。

 

「――昔、魔装少女になりたいって夢を持った人がいたんだ」

 

アビスは静かに語り始める。エレベーターはまだ止まる気配はない。

 

「でも、その夢を叶える前に亡くなってね……。ボクはこの“目”を手に入れて、人の魂は死後、天に還り、また地上へと降りるのを知った。生まれ変わった彼女が別人でしかないのは分かってるんだけどね……でももし、彼女が生まれ変わって、また魔装少女になりたいと言うならば……たとえ千年後、万年後になっても」

 

到着を知らせる鐘がなり、エレベーターのドアが開かれる。

 

「もう誰にも――夢の邪魔はさせないのさ」

 

いつもの決め台詞。悪い魔装少女を燃やしたり、自分たちを助けたのはアビス自身の夢に関係する行動だと思っていたが、今ここで初めてオルクスはアビスの言う夢が“彼女”の物だと知った。悪い魔装少女を燃やすのも、きっとそれが関係しているのだろう。もしかしたら千年後、万年後になっても彼女が魔装少女になれる環境を維持することが目的なのかもしれないと考える。だが、そんなことは今はどうでもいい。

 

――昔、夢が生きている理由だと私に聞かせてくれました……じゃあ、あなたの夢はなんですか!?

 

エレベーターの外に出るアビス。その背中に向かってオルクスはそう声を張り上げようとした。しかし、奥の方から聞こえてきた音楽に意識が逸れてしまう。

 

「これは……歌?」

 

舞台のような段差の先に居たのは小さな女の子と一体の人形。アビスたちが来る前に歌われていたのか、女の子は、もの悲しい旋律に会わせて一節を強く高く気持ちを込めて歌い上げる。

 

――DearMySister

 

「君の炎が、そのまま現れているような、とても悲しい歌だね――アルテメット・アイドル」

 

歌いきった小さな女の子――惹彼琉ひとみ(アルテメット・アイドル)は静かにアビスを睨み付けた。

 

「――ここは絶対に通さない」

 

 





次は四回戦……さあどうしよう(  ̄▽ ̄)。

四回戦は、いつもよりも投稿が遅れるかもしれないのでお待ちいただけると幸いです。



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四回戦 試合前

※申し訳ありません。少しもたついてしまい遅れてしまいましたが、小説タイトルを変更しました。

感想、評価、お気に入り登録、誤字報告、いつもありがとうございます( ̄▽ ̄)!

どこまで予定通りにするか悩みましたが、不器用なのでこのまま行きます。

長かった2章も、ゴールが見えてきました。頑張りたいと思うので楽しんでいただけたら幸いです。


アーマード側の楽屋にて、すでに変身した姿であるブレイダー・ジャスティスはパイプ椅子に座り、己が持つ特別な銃。『バックルピストル』の側面にでている『B.S.F』の画面を見ながら、キーを操作していた。

 

 

DAMAGE OPERATION
→→→→→→→→→
OBJECT/ETHERIC
DEAD SAVE
→→→→→→→→→
1%/50%/100%/OFF
WEAPON SOUND
→→→→→→→→→
.45%.
GIFT METHOD
→→→→→→→→→
THINKING/VOICE/INPUT
GIFT RESTRICTIONS
→→→→→→→
WORLD/COUNTRY/ARMY
EQUIPPED WITH AI
→→→→→→→→→
YES/NO
RANGE LIMIT
→→→→→→→→→
.100M.
RADIO
→→→→→→→→→
ON/OFF
NEWSPAPER
→→→→→→→→→
ON/OFF
LANDMINE INSTALLATION
→→→→→→→→→
Auto-A/Auto-B/Semi-auto
SENTRY GUN DEPLOYMENT
→→→→→→→→→
auto-A/auto-B
B.C.N WEAPONS
→→→→→→→→→
APPROVAL/REJECT
第一確認 CAUTION!!!
→→→→→→→→→
承認/拒否
第二確認 DANGER!!!
→→→→→→→→→
承認/拒否
最終確認 滅ぼしても後悔しませんか?
→→→→→→→→→
承認/拒否

 

ジャスティスのスキル『正義の現実』にて千を超えている“自作した設定(オプション)”の中から、四回戦の戦いを想定して変更が必要だと判断したものを変えていく。

 

「――うわ。それ許可出しちゃうわけ? ついに世界滅ぼしちゃう系?」

「ナハハ。なんか世界が滅びる前にやりたいことあるか?」

「そりゃもちろん結婚っしょ。好きな人とフォーリンラブって乙るって最高じゃねー!」

「ありかもしれないが、世界は滅びないので、その話は夢終いだな」

 

ジャスティスに背後から抱きつき作業を見ていたすみれ色のバンギャ系魔装少女。第十支部の代表兼リーダー、ヴァイオレットだった。いつものように遇われた彼女は唇を尖らせて、わかりやすく不満を露わにする。

 

「ぶー。現実主義な男はモテ期がダッシュで逃げるっシュ。ってモテないほうがあーし的には有り難かったわ。これからも面倒っちぃ性格でよろしゃすー」

「俺ほど非現実的なやつも早々いないと思うがね。つーかよ。あっちに居なくていいのか?」

「もう今更って感じー。バスター・クイーンの件は、あーしがフォローしても手遅れ残念お疲れ様っす。なので避難も兼ねてお邪魔しました」

 

バスター・クイーンが一般人に脅迫、誘拐未遂、殺人未遂を行なったことは飼い主である協会本部の上層部にも予想外だった。ジャスティス経由で状況を知ったヴァイオレットは慌てて探すも結果は最悪の事態にはならなかったが手遅れであり、その代償として第三試合にてヴァイオレットは、正体不明の魔装少女を代打で試合に出すという無理に付き合わされることとなる。

 

『自分たち』(協会)の未来が掛かっているとして、上層部を言いくるめるのは苦労した。なにせ鬼美という魔装少女をこれっぽっちも知らないのだ。説得に使う材料そのものが存在しないので『アーマード』と交渉したのは自分だという実績を全面に押し出して、強引に行くしか無かった。

 

「あーしが推薦したって言っても、あの鬼美って魔装少女まじわからんてぃんぬ。だから変に絡まれるまえにどろんさせて貰いましたわー。最終局面だし監視オフったんだけど、ジャスティス的にはあり?」

「そうだな。残り二試合にて『協会』は勝ち越しているんだ。たとえ次俺が勝ったとしても、あと一試合チャンスが残っていると終わるまであいつらはテコでも動かんくなっただろうよ」

 

――賭け事において中途半端な勝利を目の前にした時がもっとも足を止めて、さらに手を動かしてしまう瞬間である。それをよく理解しているジャスティスは、これで大人たちは最後の最後まで希望を幻視して自分が王手を打ったとしても逃げないだろうと確信する。

 

「んじゃ。あーしがやる事って戦争中は無いっぽいから、監視は最低限にして後片付けの準備にうつんねー」

「頼むぜ。ならあとは俺がいい感じに勝つだけだな」

「ほんと――冷たいね」

 

抱きしめる力を強めて顔を首元に埋めるヴァイオレットに、ジャスティスはそっと頭に手を置いた。

 

「どうした? やっぱり“ここ”に居るのは辛いか?」

「……うん、本当なら頭を擦りつけて謝りたいけど、それしちゃったらお終いっしょ?」

「お前の好きなようにしてもいいんだぜ?」

「してるし。その結果がコレだし……ほんと優しいね。まさよしは」

「だから本名で呼ぶんじゃねぇよ」

 

ギャル風の軽快なノリの裏側でヴァイオレットは将来の不安や責任の重圧、そしてこの土地にある“過去の因縁”によって疲労を積み重ねていた。多少計画が狂うリスクを取ってジャスティスの所に来たのも心を整理するためでもあった。

 

――過去は変えられないのならば、彼女は決して止まらない。

 

「そういや『アーマード』はいまどんな感じー?」

「『塾』の魔装少女が危害にあったとあって空気を切り替えた。ごっこ遊びと言い張れなくなった以上、アンギルには余分に働いてもらわないとな」

 

『戦争決闘五番勝負』は単なるイベント。不安を生み出して余計な問題を生まないためにも、そんな空気を作ってきたアンギルであったが、これからは誤魔化しが効かなくなると、現在進行形で目に見えてわかるほどヒリついたドーム内の環境に合わせるため場の空気を変える作業に追われていた。

 

直接的な言及は避けて、ほんの少しの不安を煽ることでこれから始まることへの覚悟を持たせる。また、味方するわけでもなく、むしろ敵意をわざとらしく剥き出しにして“ジャスティスだから”という価値観を改めて視聴者に植え付ける。そして隠してきた裏事情をぼかしながら小出しすることで考察する余地を与え、そうやって正しくも曖昧な情報を他人が考察ありきでSNSに広めることで、理解するための都合のいい判断材料を適当にばら撒く。

 

――それは焼け石に水なのかもしれないが、これらのアンギルの努力によって、ジャスティスが四回戦である程度の無茶をやったとしても、それを理解しようとする者が一定数現われる。これらは戦争が終わった後に最も効力を発揮するもので、勝敗は別にして戦後処理を行なう身としてアンギルの行ないはジャスティスにしろ、ヴァイオレットにしろ素直にありがたかった。

 

「相変わらず教えを広めるのが上手んだよなあいつ。流石は天使様だぜ」

 

――誰にも理解されない“正義”をギリギリ理解できる“なにか”へと転がり落とす。アンギルは過去『アーマードchannel』にてジャスティスという存在の社会評価を、僅か一ヶ月にして変えたのだ。あの時、自分のことながら正義は、偉業とも呼べるものを達成した貧弱なアルビノ少年を心の底から賞賛した。

 

「一緒に仕事できるの、あーしもガチ楽しみしてるから、よろしく言っておいてっちょ」

「まっ、明日から何度も話すことになるだろ。体のデキに比べて無茶が過ぎるからな。面倒みてやってくれ」

「あいあいさー」

 

――配信最中のアンギル。くしゃみがでてしまい。無茶しすぎたかなと持ってきた錠剤を服用するか悩む。

 

「第3支部のほうは?」

「中途報告がねぇからな。どうなってるかは分からん。だが『B.S.F』の動きを見る限りは順調に進んでいるみたいだぜ。今んところこちらで分かるのは第3支部も他と同じく『秘密大工』が関わっていることが確定したぐらいだな」

 

GPS機能によってアビスの『B.S.F』の場所をリアルタイムで確認している正義。その『B.S.F』の“ありえない”動きを見て、第3支部は自分が追っている『秘密大工』の存在が関与していることを把握する。とはいうものの、あくまで建設に関わった以上の関係性は無く正体不明を暴ける痕跡は見つからないだろうなと判断する。

 

『秘密大工』。協会支部や『裏案件』で使用された非合法の建物建築に関わっている超常的な建築技術を持つ個人か組織かも分かっていない謎の存在。放っておくと碌なことが無いとジャスティスが追っている存在であり、彼が『戦争決闘五番勝負』を始めた理由の中には、派手なアクションを起こすことによって『秘密大工』が表に出てその正体を掴めないかという事情もあった。

 

しかし、結果は空振り、逃げたのかそもそも傍観しているのかまでは分からないが、戦争中、『秘密大工』は動く気配を見せなかった。

 

「そんなわけでだ。めぼしいもの消されちまうのは百も承知だが、『協会』本部に保管されている資料は見たいからな。この戦争、俺は真面目に勝ちに行くつもりだぜ」

「ちょーやばたにえん……こんなこと言うのまじマンジなんだけどさ、このタイミングで戦争したの、あり寄りのありだったかもしれんね」

「ああ。戦争始まってからだが、俺も心の底からしてよかったと思ってるぜ」

「なにかあんの?」

「明日になったら教えてやるよ。超弩級の世界の秘密ってやつをな」

 

もっと早くいいやがれよ、あの野郎。とジャスティスは内心で失楽園に愚痴る。結果論であるがカオスがぶち切れて、戦争を始めたのは正に神がかったタイミングであり、ジャスティスは、こういう奇妙なかみ合わせがあるから人間ってのは賭け事やめられねぇんだよなと冗談混じりに口にした。

 

「マジで不安なワンフレ。そんなこと言われたらリポりまくっても働くしかないっしょ」

「無茶するんじゃねぇぞ」

「どっちにしても戦争終わったら『協会』の改革で鬼忙しくなるし。活ヲ入れどき一本釣りってね。応援よろしゃす」

 

『戦争決闘五番勝負』の本腰が達成されてしまえば勝敗関係無く、明日から『協会』はあり方を変えざる負えない。そんな『協会』の変革を先頭に立って行なう手筈となっているヴァイオレットは、魔装少女のため人々のため、そしてなにより自分やジャスティスのために己の時間を全て捧げる覚悟だった。

 

「……でも、たまには一緒にランチでもいってくんない?」

「カラオケ付きのディナーに連れてってやるよ」

「それマ? じゃあモーニングもあり?」

「悪いな。俺は朝は寝ているタイプなんだ」

「それ嘘でしょ、もう」

 

本当に優しいんだからとヴァイオレットは静かに暴れる切なさを胸の奥底に仕舞い込み。そっとジャスティスのマスクに唇を当てて離れる。

 

「……まさよし」

「なんだ?」

「すきだよ」

「――ああ」

 

素っ気ない答えに満足したヴァイオレットは外へと出て行く、静かになった室内でジャスティスはバックルガンをベルトに装着しなおす。準備はとっくの昔に終わっていた。

 

「いい女だよ、ほんとによ」

 

誰にも聞かせるわけではないひと言は元から存在していなかったように溶けて消えてしまう。それからジャスティスはなにをするわけでも無く、自分の出番を待った。

 

「――ブレイダー・ジャスティス様。お時間となりました」

「ああ。ならいくかね。戦争しによ」

 

+++

 

「応援してます。頑張ってください!!」

「怪我には気を付けてくださいね」

「女神様が勝つって信じてます!」

「もう女神様はやめてっていつも言ってるでしょ? 私のことは普通に呼んで」

「そんな、恐れ多いです……」

 

スタッフから同じ第7支部に属する魔装少女たちが無断で入ってきたと言う報告を受けたフスティシアは彼女たちの元へとやってきた。用を尋ねれば直接フスティシアのことを応援したくてと言う彼女たち、スタッフからも散々注意されたとあってフスティシアは軽く注意したあと彼女たちの激励をしっかり受けとめた。

 

「でも、次からはちゃんとスタッフに許可をとってから来て頂戴ね」

「「「「は~い」」」」

 

観客席に戻る第7支部の魔装少女たちを見送ったあと、フスティシアは表情を暗くする

 

「――私は必ず正義であると証明して、彼女たちと……」

「あれー。ふっしーじゃーん。もうすぐ出番なのに元気なさそうだけどどしたん? マジヤバ鬼緊張で虹ってる系?」

「ヴァイオレット先輩!?」

 

第十支部のリーダーにて魔装少女の身で支部を運営管理する代表にもなった女傑。ヴァイオレットに話しかけられたフスティシアは思わず驚きの声を上げた。なにせ彼女はヴァイオレットを同じ魔装少女として尊敬していた。

 

彼女は現場で戦う魔装少女を第一に考えながら、一般職員たちも常に気に掛けており、情報の発信能力や運営センスの高さから組織内外問わず高い評価を得ている。またフスティシアからすれば『協会』の不正を決して許さず。他の支部の魔装少女たちの悩みにも真摯に対応して、時にはひどい無茶な要求から自分の立場を賭けてでも魔装少女たちを守る、まさに目指す理想の体現者だった。

 

ブレイダーとの戦いにて“なぜか”一方的に『協会』が悪いとされた事件にて、信用を失い『協会』が傾き掛けたさいには支援者(スポンサー)たちに一人ひとり頭を下げ続けて『協会』を持ち直したのは、第7支部では一時期話題を独占したほどであり、フスティシアもこれが切っ掛けで彼女のファンになった。

 

「それでふっしー、もうすぐ出番なのにここでなにしてんの?」

「後輩の魔装少女が無断で入って来ちゃってね、その対応をしていたのよ。というかふっしーってなに?」

「そりゃフスティシアの愛称っしょ。嫌だった?」

「いえ。驚いただけよ。全然ふっしーで良いわ」

 

女神様など愛称というものには慣れているが、まるで友達みたいな呼ばれ方は初めてで、それも尊敬している先輩に呼ばれるなんてと、フスティシアは嬉しくなる。

 

「それでヴァイオレット先輩はどうしてここに?」

「あーしはバスター・クイーンのことで『アーマード』の方におじゃまーした帰りなんよ」

 

フスティシアは分かりやすく顔を歪める。バスター・クイーンが一般客に危害を加えたとして拘束されたことは、すでに『協会』側に通達されており、それを聞いた時フスティシアは真っ先に上層部に確認しにいったのだが、明確な回答を得られず終いとなった。だから事件が起こった事は知っているが、その詳細をフスティシアは知らない。

 

「……バスター・クイーンの事は聞き及んでいるわ。でもどうして『アーマード』に?」

「バスター・クイーンが襲った一般客がブレイダーの知り合い系でさ。それでブレイダー激おこぷんぷん丸カム着火インフェルノーになっていたから、それ沈めるために頭下げに行ったわけよ」

「そうだったの……」

「この件に関しては完全に『協会』が悪いからね。とりあえず無かったことでオールオケーってなったわー。まーじ焦ったー」

「な……ま、まってちょうだい!? 無かったことにって……ヴァイオレット先輩。あなた犯罪を隠蔽したの!?」

 

フスティシアはショックを受けた。正義の魔装少女だと認識しているヴァイオレットが魔装少女の犯罪行為を無かった事にしたと言うとは思わなかったからだ。

 

「あー、めんご。とりあえずこの戦争の間てきなー。終わったらちゃんとするから、そこまでがまんおなしゃす」

「未遂とはいえ傷害事件が起こった以上、然るべき対処を行なわないと!」

「ちょいまち! ふっしーの気持ちはヤバイほどわかりみが深いけどね。もしここで騒動を大きくしたら、いちばん秋葉の人たちに迷惑かかるじゃん」

「それはそうだけど、少しの間だけでも隠蔽するなんて間違ってるわ」

「最悪、続けられなくなってチケットの払い戻しになったら。発生する負債は鬼すぎてマジつらたん。外との関係復興の足がかりになるならって過去を飲み込んで貸してくれたってのにさ。あーしたち『協会』や魔装少女が二度も“ここ”を滅ぼす事になったら、もうどこにも顔向けできなさすぎてマジヤバよ」

「滅ぼすって、そんな言い方をしては誤解を招くわ。秋葉原内に魔装少女の進入制限を掛けたのは、被害にあった魔装少女、そしてこれから被害にあう可能性がある子たちを守るために仕方なくの判断よ。……あれは当然の結果よ」

 

秋葉原の歩行者天国において千人におよぶ観光客などに囲まれた魔装少女が恐怖によって魔法を発動してしまい。複数の重傷者を出すことになった。この事件を理由に『協会』は秋葉原に半永続的に支部の撤退及び魔装少女が秋葉原区画内に入ることを禁止した。その事で秋葉原は都市としての機能を完全に停止、無法地帯にまで陥ったことをヴァイオレットは『協会』と魔装少女が秋葉原を滅ぼしたと言い、フスティシアは間違えていると訂正する。

 

「――ふーん」

 

ヴァイオレットの纏わり付く空気が変わったが、フスティシアは全く気がつかない。真っ直ぐに強固な彼女の瞳。真面目、若さ、正義感。色んな気持ちが宿っているが、ヴァイオレットにはそれがまるで他人のモノに見えた。

 

「あ、そいやさ。今からジャスティスとガチンコするじゃん? なにか作戦とかはある系?」

「作戦というものは無いけど、ヴァイオレット先輩は私の『固有魔法』をなにかご存じ?」

「あーね。それ言っちゃうってことは、もしかしてすごいこと考えとる?」

「察しの通りよ。私の『固有魔法』――〈執行者〉は必ずジャスティスを打倒して、世界に平和をもたらすわ」

「あーし的には無茶やめちーなんだけど、そこんとこどうよ?」

「ごめんなさい。でもこれだけは譲れないわ。これは第7支部のみんな、ひいては“被害者”たちの願いであり、私の宿願よ」

 

 

ブレイダー・ジャスティスを完全なる悪だと断言して覚悟を露わにするフスティシア。彼女の属する第7支部は規律と誠意を重んじて、グレムリンを倒し人々を守ることを掲げる。同時にアンチブレイダー集団という側面を持つ。そのため第7支部に集まるのはブレイダーに嫌悪感を持っているもの、あるいは“被害者”たちである。

 

――どうかあの悪を倒してくれ。

 

彼らの思いを一身に背負い、フスティシアは自ら手を上げたのだ。

 

「――そろそろ時間ね。ヴァイオレット先輩、私はこれにて失礼するわ」

「呼び止めてめんご」

「いえ。こちらこそ貴重な時間を貰えて嬉しかったわ。ありがとう」

 

体内時計で分刻みに正確に時間を把握しているフスティシアは、待機時間が来たと美しさすら感じるお辞儀の後、綺麗な姿勢で反転して歩き出した。

 

「当然の結果? ……んなわけあるかよ」

 

背中を見送ったヴァイオレットが苛立ちを吐き出した。その後、ほんの一瞬でも激情を露わにしてしまったことに反省しながら、その場を後にする。

 

ヴァイオレットは、このまま戦わせるのは不憫だと思って声を掛けた。でも、彼女の話を聞いて考えを改めて、そのまま送り出した。結局、彼女は最初から舞台の配役としてこれ以上ない適切な人材だったから目を付けられたのだった。

 

――計画は計画のままに進む。もはや情が正義に入り込む余地はない。

 

+++

 

今までの戦いと比べて会場の空気はあまりにも重苦しかった。ざわつきを形成している言葉は棘があるものばかりで、両手を合わせて本気で祈る者。唇を噛みしめて憎悪を瞳に宿す者。その手には自作の横断幕やプラカードを持っているものが多数、そこに書かれている言葉が彼らが抱く気持ちを物語っていた。

 

 

 

 

死んでよ滅びろ化け物

!!

ジ ゴ 

オ ち

ク に

ろ !

平 和 な 世 界 を か え し て

キ エ ロ ヒ ト ゴ ロ シ

 

 

――これらは全て、ある一人の正義(人間)に向けるために作られたものだ。彼らは願う。この日をもって自分たちに降り注いだ不幸よ終わりになれと、まだか、まだか、まだか。そう待ち続けた気持ちが、耳にこびり付いて離れない機械音声を聞き爆発する。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽

◇◇◇〔START〕◇◇◇

▽△△▽△▽△▽△▽△

 

 

「しねぇえええええ!!」「きえろ!!」「かえせ! 俺の全部かえせ!!」「お前のせいで人生めちゃくちゃだ!!」「報いを受けろゴミやろう!」「なにが正義だよ極悪人がよ!」「一秒でも早くくたばりやがれ!」「あんたのせいで仕事もお金もなくなったじゃない!」「殺されろ化け物ぉおお!」「お前に撃たれた場所がまだ痛くて仕方ないんだ!」「社会の癌がよ!」

 

罵倒の嵐。まだ本人が現われていないのにも関わらずこれである。秋葉ドームで購入した缶やペットボトル、中には食べ残しごとグラウンドに向かってぶん投げる奴が後を絶たず。それらは全てブレイダー・ナイトの無色透明のバリアによって阻まれている。コントロールが悪くて他の観客にものが当たろうがお構いなし、その客ですら怒りに我を忘れて頭に当たったスチール缶を改めて投げ入れようとする始末。まともな観客もいるのだが、あまりの怨念振りまかれる光景に縮こまることしかできない。

 

そんな罵詈雑言に、軽快で機械的なチップチューン音楽が他者の感情を全てはね除けるが如く鳴り響き、問題無く続いていく。

 

 

 

 

 

◆△▽△▽△▽△▽△▽◆

◇〔WHO are YOU?〕◇

◆▽△▽△▽△▽△▽△◆

 

「変身」

 

 

顔を出せよ卑怯ものと誰かが叫んだ。確かにジャスティスはブレイダーで初めて変身する様子を表に出してない。事実、会場に流れているこれらは全て先に録音していた音声でしかなく、本人はすでに変身済みである。そんな事も気付かず騒ぎ続ける観客たちにジャスティスは満足そうに笑みを零した。

 

 

 

〔PRESENT〕

 

変身音声が終わったタイミングで、観客席からでは丁度見えないあたりで待機していたジャスティスが悠々閑々とした態度でグラウンド入りを果たす。

 

≪ある日。正義は無慈悲にも執行された。たったひとりによって世界は変わり果ててしまう、たくさんの犠牲を払って……それが神が選んだ道とでもいうのかお前は!?≫

 

声はより大きく、恨み辛みはより強く、そんなものに揺れ動いていたら正義(ジャスティス)なんてやってないと言わんばかりに、歩みがブレること無かった。プロが声の大きさで負けてなるものかと司会者が声を張り上げる。

 

≪正義は必ず勝つと誰かが言った。勝ち続けるお前はまさしく正義であろう! 人間は悪だと評される。ならばお前を止められるやつは人の中に居るのだろうか!? 今日とて無慈悲の弾丸が悪になる命を打ち貫く!!≫

 

ちょっとだけ遊び心が沸いたジャスティスは反対側の出入り口に向かって、拳銃を模した手を突き出して撃つジャスチャーをした。その事によって観客たちはより盛り上がり、さらに罵る声を大きくする。

 

≪ノーヒーロー。敵を撃つだけの正義! ブレイダアアアア! ジャスティィィスッ!!≫

「――盛り上がってるようでなによりだぜ。ナハハ」

≪――そんな正義の化身に待ったを掛けた魔装少女が現われた!≫

 

ジャスティスの登場が完了しても観客は興奮冷め非ず。そのまま続いて魔装少女の登場に移る。入場曲として用意された雅で静かな音楽は人々の感情の渦によって呆気も無くかき消されてしまう。

 

嫌悪の対象とされながらも決して隠すことはなく何時しか特別であると認識された黒色の長髪を靡かせた魔装少女。儀礼服を模した魔装と、それにデザインを合わせた無骨なロングソードを片手に狂い無き歩幅で前に進む。

 

≪天から全てを与えられた彼女を人々は女神と称える。そんな彼女は事実とでも言うように語って見せた。私が本物の正義であると。ならば貴女は世界を変えた男を打倒するために現われたとでも言うのか!? 人々よ、禁じられた名を持つ女神たる(おの)が覚悟を見よ!≫

 

予定よりも早めに指定された定位置に寸分狂い無く立ち止まると、彼女はロングソードを天に掲げた。

 

≪悪を倒す正義の魔装少女。その名は――フスティィィシアアアアアアアア!!≫

 

 

†-†-†-†-†-†-†-†-†-†-†

L e a d e r  o f  t h e   7   t h b r a n c h

 

justicia

 

†-†-†-†-†-†-†-†-†-†-†

h i t o n o m e g a m i

 

 

「寂しいものだな。誰もきいちゃいねぇ」

 

フスティシアの登場を歓迎する声は無く、結局はじまりから現在までジャスティスに対する怨嗟で会場は埋まり続けている。

 

「……あなたは、これだけの数の訴えを聞いてなんとも思わないの?」

「訴えね。単なる鬱憤晴らしの下品なものに見えるが、文化の違いってやつか?」

「っ! やはり貴方のような心がない人間が正義を掲げた存在だなんて間違っている!」

 

――フスティシアは直接話して、ジャスティスはやはり討ち滅ぼすべき敵だと認識する。

 

「必ず貴方を倒して、真の正義を取り戻してみせる!」

≪ブレイダー・ジャスティスVSフスティシア! 両者揃った所でお待たせしました! 戦争決闘五番勝負、第四回戦≫

「気合い入れているところ悪いけどよ」

≪開始ィィィィィ!!≫

「〈魔法展開(スペル):キャットウォーク〉!」

 

試合開始の始まりとともにフスティシアは魔法による加速を行ない、ジャスティス目がけて突進。

 

「はあああああああ!」

「俺は悪魔みたいに真っ向勝負なんて出来ないぜ? それに――」

 

かなりの速度で向かってくるフスティシア、ジャスティスはその進路に金属の筒を生成して軽く前に投げた。それを手榴弾の類いだと判断したフスティシアは、例えダメージを受ける事になったとしても、自分の『固有魔法』で解決できると、そのまま距離を詰めることを選択する

 

――彼女は、人が作った兵器というものに疎かった。嫌悪のしすぎで調べることを怠ったからというのもある。だから筒に描かれていたマークが、どんな意味を含んでいるか知らなかった。

 

筒の蓋が勝手に開きカシュっと空気が外に吐き出される音が鳴る。爆発物ではないと気付いた彼女が、筒の正体を探ろうとするが、なにもかも手遅れだった。

 

「――ごほっ……?」

 

突然、喉に水が溜まり呼吸ができなくなる。何事だと足を止めれば力が入らなくなり膝から崩れ落ちる。とりあえず呼吸をしなければと水を吐き出す。地面はこんなにも赤黒い色をしていただろうか? 足だけでは無く全身に力が入らなくなって震えるほどに寒い。そして地面だけではなく景色が赤く染まっていることにも気付いた。

 

「な……にがー」

 

痛みが無く、ただ感覚が無くなっていくためフスティシアは己の状況を遅れて気付いた。口から、目から、鼻から耳から毛穴から、あらゆる場所から大量の血を吐き出している自分が居る。なにをされたのだと顔を上げようとするまえに、強引に髪の毛を掴まれて無理矢理立たされる。

 

「これは戦争なんだよ。正義同士がぶつかりあう戦争ってのはな、いつだって汚ったねぇ恥知らずの殺し合いでしかない……なあ、そうだろ。それとも綺麗なものだと思っていたのか?」

 

メカメカしく人間らしさをそぎ落としたジャスティスのマスク。間近で目にしたフスティシアはそれがヤケに恐ろしく見えた。

 

「夢見がちが過ぎる正義の魔装少女(フスティシア)――お前は俺の敵だ」

 




Q:話の展開が被るということで参加を止めたハーメルンのイベントはなに?
A:心折杯

ジャスティスの設定図の詳細な説明は試合が終わった後に後書きにでも記載したいと思います。次回はいつも通りぐらいになると思うのでお待ちになってください次回。


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四回戦 本番

感想、評価、お気に入り登録、ここすき、誤字報告いつも本当にありがとうございます。

お気に入り3000件達成しました。3000件記念にイラスト依頼でもしようかなと思いましたが、今ちょっと生活があれなのでいつかできたら良いなと思います( ̄▽ ̄)色々ありました。

作者的には三割しか出し切れなかった気もしますが、それで丁度良かったのかなという想いもあります。こんな感じですが楽しんでいただけたら幸いです。




試合が始まる前からあれほど五月蠅かった会場の音が死んだ。たとえ戦車の砲弾を受けても怪我をしない魔装少女が全身から血を吹き出した。さらにジャスティスに乱暴に髪を掴まれて倒れることすら許されない凄惨な光景に、抱いた感想は多種多様であれど全員が共通して言葉を詰まらせたのだ。

 

≪――というわけで四回戦始まって早々、自己紹介する暇もなくフスティシアは全身血塗れになっちゃったねー。これは秒速KOかなー? あ、四回戦の実況はブレイダー・アンギルだけでやっていくよー。といっても今回はあまり話せることは少ないかもね。あと遅いかもだけどグロ注意ね。というか見ないことをオススメするよ≫

 

試合が始まってからのアンギルは、先ほどまでの暖かさや軽快さが嘘であったかのように、冷たさを感じられる声で淡々と話し始めた。そんなアンギルの話を聞いた視聴者たちは状況が変わった事を明確に感じ取り、怖がるものは言うとおりにブラウザを閉じて、視聴し続けるものは覚悟を決めて目を向ける。

 

――これから始まるのはあのブレイダー・ジャスティスの戦いだ。

 

「――ごほっ!」

 

再度大量の血を吐き出したフスティシアは混乱から復帰できないでいた。自分は一体何をされたのか皆目見当が付かないからだ。渇いた空気音が聞こえて、気付けば全身血塗れになる。どうすればこんな惨い状況になるのか、思いつく限りの兵器を頭の中に浮かべても該当するものが判らない。

 

「考えるのは結構だが、いいのか? このままじゃ死ぬぜ?」

 

そう言いながらジャスティスは、フスティシアの事を前に向かって放り投げた。三回ほど転がり数メートル先へとうつ伏せで止まる。

 

「う……あ……えほっ!……〈固有魔、法展開(エクス、トラ)――:執行、者〉――!」

 

迫り来る死をようやく自覚したフスティシアは口に溜まる血を吐き出しながら『固有魔法』を唱えた。するとフスティシアの身体に劇的な変化が訪れた。全身に纏わり付いていた血が綺麗さっぱり無くなった。それだけではなく、いまにも魂が『三途の川』へと還りそうだった魔装少女は元気に立ち上がり剣を構えた。

 

「こうやって直接目にすると便利な『固有魔法』で羨ましくなるな。しかし、体に入り込んだ“細菌”にも適応されるか心配だったが、元に戻ったようで安心したぜ」

 

フスティシアの〈執行者〉は、フスティシアという個に対して完全なる健常な状態へと“リセット”する『固有魔法』である。彼女は己が受けたダメージやデバフ、果ては消費した体力から“魔力”を無かったことに出来るのだ。つまり、消費した魔力もまた〈執行者〉が発動した時点で元に戻るともはやバグと言いたくなる仕様となっているため、彼女は精神が擦り切れるまで半永久的に戦い続けることが可能な魔法少女である。

 

「細菌……? まさか今のは!?」

「ご明察。BC兵器ってやつだ。ちなみにBCは(B)カみたいに(C)ルってる兵器の略だぜ? もちろん嘘だがな」

 

筒に描かれていたマークだけでは気付かないほど知識に疎いフスティシアであったが、細菌という単語で自分の身に起きたことを理解した。

 

この世には、あまりにも非人道的が過ぎると禁止された兵器が幾つも存在する。そんな禁じられた兵器、その一種をジャスティスは躊躇いなく魔装少女相手に使ったのだ。固まる張本人を差し置いて会場がざわつき始める。自分もフスティシアのようになるのか? でもなにも起きていないぞ? そんな無意味な問答が繰り返される様子に、下手にパニックにならないってのは平和ぼけの良いところだなとジャスティスは内心で有り難がる。

 

「安心しろ。拡散能力は高いが十秒外気に触れただけで完全に死滅するやつだ。射程範囲は精々3メートルほどかね、だから観客席にまで届くことはないぜ」

≪だからって使うなよバカ≫

 

そんな風に軽く語るジャスティス。自分たちの命が脅かされないと分かった観客たちは感情を爆発させる。ふざけるな。そんなもの使うな、人の命をなんだと思ってやがる。罵倒の嵐は再度吹き荒れるが、ジャスティスはその全てを受け流す。

 

「どうして!? そんな残酷なことができるの!?」

「俺もそう思うよ。ブレイダー・ジャスティスを殺すつもりにしてもやりすぎじゃないか?」

「ジャスティスを殺す? なにを言っているの?」

「俺のスキルはな、我ながらチートだなと思わず笑っちまうが世界に存在する“兵器”を自由に生成できるものだ。逆に言えばこの世のどこかに、“それ”が作られなければ生成することは出来ない」

 

ジャスティスが生み出せるのは、実用段階にまで到った現存する兵器だけである。つまり先ほどフスティシアに使った兵器は、この世のどこかにオリジナルが存在しているという証明である。そして問題は一体なにが目的で作られたかということ。

 

「これはな俺を殺すために開発された兵器なんだよ。出来たてほやほや、実用段階に到ったのは僅か二週間前だぜ。コンセプトは必要最小限の犠牲なら目を瞑るだ。チャンスがあれば都会の交差点でも使っていただろうな」

 

ブレイダー・ジャスティスに対する大国たちの評価は最優先抹殺対象である。彼は世界の全てを狂わせた個人であり、培ってきた立場を全てひっくり返した忌むべき存在である。故に多少の犠牲はあっても、彼を殺傷できれば日本を除いた世界にとって御の字なのである。

 

「そ、そんなのあなたの勝手な妄想じゃない!」

「すでに計画書は発行されて、国同士の話し合いは終わっていた。俺の正体が露見してチャンスがあったら躊躇いなく使う。投げる人員も選出済み。さらに作戦の結果は別にして報道機関と協力して全責任を俺になすりつける話も済んでいる。流石は長い間国を運営してきた政治家様たちだ。そういう所はマジで尊敬しているぜ――なあ?」

 

ジャスティスは会場の外。この戦いを見ているであろう偉い人たちに向けて語りかける。そこに含まれている感情は失望。自分を殺すための兵器を開発するのはいい。むしろ歓迎していた。開発される兵器はなんにせよ自分の力になるのだから。

 

≪ほんと(たち)が悪いんだから。あ、ちなみにジャスティスの話は事実で、明日にでもどうにかする予定だったよ――あんまり賢くない選択だった、ね?≫

 

それにしたって最近は安価且つ暗殺紛いのものしか作られておらず、対処や管理などの面倒ばかりが増えるだけで、これといって使えるものが無いに等しかった。逆上心を失わせないために見逃していた“半分”も、そろそろ不必要かとジャスティスはつい戦いとは関係のない思考を挟む。

 

「……っ! 仮にそれが本当だとしても。あなたに非があるのは揺るぎの無い事実よ! そんなおぞましい兵器を使われる自覚が無いなんて言わせないわ!」

「おいおい。作った側に批判は無しか?」

「作ってしまうほど追い詰めたのはあなたよ」

 

そもそもこういったものを作らせるために過分に追い詰めたのは事実なので、ジャスティスはそう言われるのも仕方ないなと肩をすくめた。

 

「先に始めたのあっちなんだがね。あいつら俺だけ狙えばいいものを俺が住んでいるってだけでついでに日本も焼こうとしたからな。さすがに俺のせいで日本に住まう無辜の命が失われるのは申し訳ねぇって頑張ったんだぜ?」

 

ジャスティスの言うことは本当であるが、全てではない。過去、数種類の不幸と理由、そして“正義”が絡み合い。結果的に世界相手に単身で戦争を起こして勝利した。敗北した世界は正義の名の下に多大な代償を支払う事となり心の底から後悔する事になる。

 

――思い出せば、パイプで人を殴るのも厭わないチンピラを撃ったのが始まりだったか、随分と戦火が広がっちまったものだな。“正義”になるって簡単に言えたあの時が懐かしいぜ。

 

「……あなたは正義の名を持つには危険すぎる」

 

お喋りはお終いだと、フスティシアは剣を水平に構えなおした。

 

「世界を脅かす諸悪の根源。私が今日をもって引導を渡してあげるわ!」

「魔装少女はいつから人殺しOKになったんだ? それとも正義を名乗ってればなにをしても許されるのか?」

「どこまでも人を馬鹿にして! 〈魔法展開(スペル):スラッシュ・オブ・クレセント〉!」

 

ジャスティスの挑発に、分かりやすく感情的になるフスティシアは魔法を唱えて剣を横薙ぎに振るう。すると三日月状の物体化した斬撃がジャスティスに向かって飛翔する。

 

――〈スラッシュ・オブ・クレセント〉にて発生した魔法における斬撃物体。幅全長およそ108センチ、厚みは7センチ。モース硬度推定7以上。空気抵抗を完全に無視した時速57キロにて消費魔力コストに比例した距離を飛ぶ。完全なる直線軌道を維持して進むが強力な衝撃による軌道変更は容易い。

 

ジャスティスは極めて冷静にごついリボルバー拳銃を生成して即座に発砲。マグナム弾は斬撃物体の中心よりも右側に命中する。その事により左右の前に進む力のバランスが崩れて軌道が狂い、あらぬ方向へと飛んでいく。

 

「始まったばかりよ!」

 

フスティシアはジャスティスを中心に弧を描くように走りながら、何度も剣を振るい斬撃を飛ばす。決して魔力消費が少ない技ではないのに、後先考えずに連射するのはひとえに〈執行者〉による魔力リセットがあるからだ。

 

横、縦、斜めと角度を変えて襲いかかってくる〈スラッシュ・オブ・クレセント〉を、ジャスティスは人から逸脱した百発百中の射撃によって軌道を変え続ける。リロードの代わりにリボルバー拳銃そのものを捨てて、新しく弾丸が込められたリボルバー拳銃を生成。手数が足りないと判断すれば二丁持ちとなり連射力を補う。その様は曲芸染みており、余裕綽々な態度と相まってフスティシアを苛立たせた。

 

されとて彼女の剣筋は鈍ることなく、時々こちらに向かってくる銃弾も冷静に対処していた。埒が明かないとフスティシアは見計らった再び距離を詰める決断をする。先ほどは呆然としてしまい対処が遅れたが、また同じことをされたら〈執行者〉でリセットすればいいという考えだ。

 

「行くわよ! 〈魔法展開(スペル):ラピットステップ〉!」

 

――地面を足で蹴った際に起こる作用・反作用の数値に干渉して加速力を上げる魔法。

 

弾切れになったリボルバー、トリガーから人差し指を離して手を開いて地面に落とす。そして人差し指以外の指を閉じる挙動の間に新たなリボルバーを生成して握るとトリガーに指を掛ける。一秒にも満たないリロードの瞬間を狙い。フスティシアは魔法を唱えて急接近する。

 

ジャスティスが体の向きを変えること無く側面に位置するフスティシアに向かって発砲。銃弾が眉間に向かう。フスティシアは次の一歩目を踏みしめる足を反対側の方へと出した。足が交差した体制となったことで体の位置が横へとずれる。銃弾は何もない空間を通り過ぎた。

 

クロスオーバーステップと呼ばれるスポーツで使われる足さばきによって銃弾を回避したフスティシアは、2発目が来る前に地面を強く蹴ってさらに加速する。

 

「獲った!」

 

この距離では銃のトリガーが引かれるよりも剣が速い。間合いへと到る一歩を踏み出したフスティシア――地面からカチリと音が鳴った。爆発した。フスティシアは吹き飛ばされた。

 

「――っと、ちと近すぎたな」

 

ジャスティスは予め地雷を幾つか地面の中に生成していた。『ブレイダースーツ』の頑丈さ込みで、ほぼ間近に設置したのは良かったが、それでももう少し距離を離せばよかったかと爆風と飛び散る土と、それに混じる血に当てられながらぼやく。

 

「……っ! 〈固有魔法展開(エクストラ):執行者〉」

 

宙を舞っているフスティシア、その足は失われたが意識はきちんと保たれており、今度はすぐさま『固有魔法』を発動、肉体は元に戻り、飛び散った血は跡形も無く消え、ついでに消費した魔力がリセットされる。

 

「地雷だなんて!」

 

フスティシアはしっかりと着地し、反射的に叫んだ。

 

「気を付けろよ。他にもたくさん埋まってるぜー」

「その程度でっ!」

「なら、程度を増やそうか?」

 

ジャスティスは、自分を中心に自動機関銃(セントリーガン)、アサルトライフルや小型爆弾などが取り付けられているドローンなど複数生成。AIが搭載された兵器にて防衛陣を構築する。

 

「地味に見えるが、簡単に百回は殺せる陣だぜ? 殺す気は無いけどな」

「例え百回、千回でも、足をもがれようが胸を撃たれようが〈執行者〉があるかぎり私は負けないわ!」

 

フスティシアは恐怖することなく果敢に攻めの姿勢でジャスティスに斬り掛かる。

 

+++

 

少女は生まれた時から天才で、真面目だった。物覚えがよかったために五才の頃には漢字を覚えて、小学生になる前にはすでに社会のルールというものを身につけていた。また容姿も秀でており、悪感情を抱かれやすい黒髪ではあったが、その美貌と合わせて見ればなんと綺麗な髪を持つ日本美人だと特別視された。

 

そんな特別な少女を両親たちは褒め称えた。トンビがタカを産むどころでは無い、まるで神の子そのものを授かったような幸福感を娘本人に毎日に伝えた。

 

――まるで自分たちの子じゃないみたい。

 

少女は天才であると同時に真面目だった。経験が足りなさすぎて、なにごとも真正面から受け止めることしか出来ない少女は毎日聞かされる褒め言葉を真摯に受け止め続けた。

 

――じゃあ、私は人間じゃないの?

 

+++

 

≪試合が始まって五分が経過したけど、凄惨な場面が繰り返されるだけで進展ないねー≫

 

アンギルの言うように、ジャスティスの兵器たちが攻撃し、フスティシアが〈執行者〉を発動して突っ込んで、またジャスティスの兵器が攻撃するいたちごっことなっており、この五分間変化が無かった。せいぜいジャスティスが途中から椅子に座りラジオで音楽を流して新聞を見ると寛ぎだしたぐらいだろう。

 

一方フスティシアは果敢に攻め続けていた。剣を強く握りしめて足を止めずに攻撃を加え続けるも脚が地雷によって吹き飛ばされる。

 

「〈固有魔法展開(エクストラ):執行者〉」

 

女の子らしい細い身体が機関銃から放たれる弾丸の雨によって蜂の巣へと変わり果てる。

 

「〈固有魔法展開(エクストラ):執行者〉」

 

空へ跳べば浮遊するドローンたちの猛攻によって撃ち落とされてしまう。

 

「〈固有魔法展開(エクストラ):執行者〉」

 

フスティシアは見るも無惨な死に体となるが〈執行者〉を唱えればすぐに元通り、そしてまた死に体となり、元通りになるを五分間ずっと繰り返していた。エンターテイメントの欠片はなく、先に進むわけでもなく残酷なシーンを延々と見せ続けられる状況にまともな視聴者たちは気持ち悪さに負けて視聴するのを止める。

 

「……そろそろか」

 

フスティシアは足を止めない。搦め手も策略も一切行わず、ただ愚直に攻め続ける彼女を見ながら、ジャスティスは無機質に判断する。

 

する必要はないがジャスティスは立ち上がると指を鳴らした。すると猛攻を加えていた兵器たちが粒子となって消えて無くなる。

 

「なんのつもり!?」

「いやなに。いたいけな子供にトラウマ植え付けるのは心苦しくてな」

≪優しさが遅い≫

「殺されそうになってたんだ。仕方ないだろ?」

≪配信聞いてんじゃないよ≫

 

戦いに集中しろと冷たく言い放つアンギルに、ジャスティスはいつもの調子で笑う。

 

「んでだ。フスティシア」

「……なに?」

 

わざわざ名前を呼んだということは何かあるのかと、フスティシアは兵器たちを片付けた真意を探る意味も込めて反応する。

 

「お前が脳筋で、夏休みの宿題をサボってでも勝つまでやるのはよく分かったぜ。だからこそ聞きたいんだが、お前なんでそんなに俺を負かせたいんだ? 俺はお前に何かしたか?」

「……いいえ。私は直接あなたに何かされたことはない……だけど! 正義の名を語り、法を守らず私刑し続けるあなたを決して見過ごすことはできないわ!」

「耳が痛い話だな。なるほど市民を護る魔装少女として、人々を恐怖に陥れる俺は確かに悪そのものだなぁ。だがそれだけか?」

「なにが言いたいの?」

「いやなに。今の言葉――本気ではあるが本命に聞こえなくてな。他に理由があるんじゃねぇのか? そんな誰もが口にしてそうなやつじゃなくてよ?」

「な……にを……」

 

――フスティシアは動揺して言葉を詰まらせる。次に逆鱗に触れられた如く激情に頭が真っ白になるが、残された理性がそれを口にしたらお終いだと体ごと停止させる。

 

「なあ、フスティシア。お前はどうして俺を倒しにきた? 『協会』のためか? 国のためか? それとも世界のためか? あるいは観客たち(こいつら)の安寧のためか? もしそうだとしたらフスティシア。勝利の栄光を掴んだとしてもお前の望みは叶えられないぜ」

 

たたみかけるように断言されたことに、フスティシアは意味が分からないと何時のように拒絶しようと思ったが言葉が出なかった。

 

――それほどまでに“図星”を突かれたことが、あまりにも衝撃的だったのだ。

 

「第7支部では女神様と慕われているみたいだな。いや支部だけじゃない。学校でも家でも、どこへ言ってもお前は“女神様”なんだってな。フスティシア?」

 

+++

 

あまりにもはやく早熟してしまった少女は、学校生活において孤独であったが充実していた。

 

彼女は真面目すぎる所があったが、文武両道で品行方正、そして嫌悪の対象となりやすい黒髪であるにも関わらず、その美貌から特別視扱いされて、むしろ憧れの対象となった。

 

――同じ人間とは思えない。

 

少女に酔いしれるクラスメイトが無意識に発した評価は本人を除いた全員の総意となった。少女の学校生活は対等な友達がおらず年相応に遊ぶチャンスに恵まれないものであったが、自己肯定感に満ち溢れているものであり、少女は確かに充実していた。

 

孤高。それが自分の運命であると本人も受け入れていた。

 

それが変わってしまったのは珍しい、ほぼ初めての失敗によるものだった。その内容自体は落ちていたボールペンを間違った人に渡してしまったというものだが、明らかに女子が好むデザインであるはずなのに近くに落ちていたからと男子に渡してしまった事にある。

 

男子もすぐに間違いを正せばなにも問題無かったのだが、落とし物は偶然にも好きな女子のペンであったことから男子は思わず嘘を付いてしまう。そして嘘がバレてしまった時。女子たちは男子を批判するも少女が躊躇わず、自分のミスから始まった事だと謝罪すると場は収まる事となった。

 

本来の持ち主である女子生徒と嘘をついてしまった男子も和解し、むしろ良い雰囲気になったことで些細なミスから発展した事件は大団円で終わった。

 

少女にとって問題はこの後である。女子トイレにて事件となんら関係の無いクラスメイトの女子数人が集まりこの事件を題材に、少女の悪口を言っていたのだ。完璧である少女が初めてと言っていいほど見せた隙。気に入らない彼女たちからすれば格好のネタになるのは当然だった。

 

一目で女子の物と分かるのに男子に渡したの絶対わざとだと、性格が悪すぎると、あんなの普通じゃ考えつかないと悪口はエスカレートしていく。

 

真面目な少女は決して陰口をとうてい看破できず、彼女たちの前に出ようとしたが。

 

――同じ人間とは思えないね。

 

少女の足が止まった。

 

+++。

 

「――適当なこと言わないで!?」

「“適当”だから言ったんだぜ?」

 

フスティシアの声は震えていた。ジャスティスはゆっくりと前に歩み始める。

 

「俺に勝った所でお前の望むものはなにも手に入らない。むしろ遠ざかるに決まっている。なあ? 正義の“味方”の女神様?」

 

それを急所を的確に貫いた皮肉だと知っているのは本人だけだった。これ以上は聞いてはいけないと思うも、どうしても無視することは出来なかった。

 

「世界はお前のことを俺を倒した英雄じゃなくて、第二の正義としか認識しないだろうよ。ここぞとばかりに俺に積み上げられた恨み辛み、責任を全て押しつけてくるぜ? 日本も巻き込まれるだろうな。その先で不幸になった奴は、いったい誰を悪にしたてあげることやら」

「……っ!」

 

――正義の言葉は、鋭い針となって心臓に突き刺さる。

 

「フスティシア。真面目なお前の行き着く先は正義の味方じゃない。単なるはた迷惑な悪だぜ」

「違う!」

 

防衛本能が働き、考えるよりも先に強く否定する。そのあと人生で一度も出した事のない己の叫声に戸惑い、その様子を見られてしまった事がなによりも失態だったのではないかと言う恐怖が体を蝕み震え出す。

 

「フスティシア」

 

目の前まで来たジャスティスはゆっくりと浸透させるように名前を呼ぶ。それが最も嫌う行為だと知っているから。

 

「俺を倒すのは、本当にお前の意志か?」

「……」

 

真面目で融通の効かないフスティシアは答えられない。確かに己の意志であることは間違いない。なにせ最終的に手を上げて戦うと言ったのは自分自身であるのだから彼女は肯定するのが当然である。しかし、ジャスティスの問い掛けは、表面上の理由ではなく、深く奥底の誰も知らない意志を探るものであるため答えられない。

 

誤魔化しも嘘もできない。かといっても真実を口にすることも出来ない。逃げ道も進む道も閉ざされた少女は思考を停止させる。

 

「なにしてんだ!」「はやくたおせえええ!」「とまってんじゃねぇよ!!」

 

観客たちの声がグラウンドまでに届き、フスティシアの耳に入ったことで彼女の意識は現実に戻る。そうだと彼女は思い出す、自分にはブレイダー・ジャスティスに勝たなければいけない理由があるんだと、こちらを見つめるメカメカしいマスクを睨み返す。

 

「私が貴方と戦うのは私自身の意志よ! 私は私を頼ってきてくれた彼らのために戦い、貴方に勝利して救ってみせるわ!」

「へぇ」

「約束しなさいブレイダー・ジャスティス! 私が勝ったら。彼らを苦しみから解放すると!」

「それは別に良いがな……具体的にはどうすればいいんだ? “痛み”を消せばいいのか?」

 

『正義の現実』にて生成された兵器は、その設定から肉体を傷つけず痛みのみを与えることが出来る。また与えた痛みを半永久的に残すことも出来れば、一定時間経てば消すことも出来る。無論、タッチひとつで現存する痛みを無くすことも可能だ。

 

「それとも賠償でもすればいいのか?」

「彼らの平穏だったものに関わるすべてよ。あなたが奪った全てを返して頂戴!」

「すべてね……どんなものでもか?」

「どんなものでもよ」

「――そうか」

 

ジャスティスは観客達に目を向ける。フスティシアを応援、というよりかはジャスティスを飽きずに罵倒し続けている彼らを見渡す。そして一万以上の中のひとりに向かって指をさした。

 

「――多仲廣斗(たなかひろと)

 

会場のスピーカーから人物の名前が呼ばれる。観客たちはいきなりなんだと苛立つなかで“ひとり”分かりやすく違う反応をしたものが居た。その人物こそジャスティスが指をさしている男性である。

 

「青のニット帽と紙マスクを被って黒字で死ねって書いた看板持っているやつ。お前だよ。十四ヶ月ぶりだな。振り込め詐欺からは足を洗ったのか? お前が行なった詐欺が原因で三人が自殺したが、その家族には頭を下げにいったか?」

「――え?」

 

間の抜けた声は誰のものか、それが分からないほど会場は分かりやすく静まり返った。

 

名前を呼ばれた男性は上手く呼吸ができない。あいつの所為で普通に働いている馬鹿なサラリーマンたちよりも大金持ちになってこれからだって言う時に、仲間もろとも何発も銃弾を浴びせられて、集めた金を元の持ち主へと返金させられた。幸いその行動のおかげで証拠が無く、ジャスティス本人も警察に連絡などはしないので罪が表沙汰にでることは無かったが、未だに撃たれた腹部が動く度に激痛に見舞われて生活すらまともにできず、第7支部の支援を頼りに生きて居た。だから男性は全てを台無しにしたジャスティスを恨む。日に日に恨みを強くする。恨んでいるが――まさか“覚えられている”とは夢にも思わなかった。

 

過去の記憶がぶり返し、忘れていたトラウマが再び熱を取り戻して喉を焼く。そんなのどうでもいいとばかりにジャスティスは、次は反対方向に指をさす。そこに居たのはふくよかな中年女性。

 

「元教祖の錫樹英子(すずきえいこ)。今でも第7支部の集会でゴミを高値で売りつけているみたいだな。俺を出汁にしているそうだが、そろそろ肖像権料を貰いたいものだ。ああ、それと元信者たちがお前のこと今でも探していたぞ」

 

それだけ言ってまた別の人物に指を向ける。

 

「転売屋の細頭勇太(さとうゆうた)。ネットで売れなくなったからって中古ショップに行ってプラスにならないからと店員に暴行を加えたらしいな。学校中退者の衣投(いとう)なおみ、大人になっても虐めは楽しいか? 止められないか? さすが反省しますって手紙を嗤いながら送っただけはあるな。元部長の岵口健吾(やまぐちけんご)。今度は奥さんにパワハラして病院送りにしたそうじゃないか、意識不明を良いことに階段から落ちたことにしたのはあまりにも酷いんじゃあないか?」

 

ゆっくりと、されど即答で名前を呼び、職業を呼び、過去と現在を読み上げるジャスティス。

 

≪……そこの頭おかしいのはね。どこかにメモしているのか、本当に全部記憶しているのか知らないけど、自分の行なった事全部覚えているし、ちゃんとその後どうなったとか定期的に調べたりするよ。責任感に満ちあふれてるねー≫

 

誰が聞いても碌でもない観客たちは青ざめる。ふとこの戦いが全世界に生中継されていることを思い出した。よく見ればドームの大画面に映っているのは自分たちではないか、それに気付いた誰かがパーカーのフードで顔を隠した。すると伝播するように横の人間から真似をしてフードが無ければ上着でそれが無ければ服を上げて行った。

 

――そして、数十人を除き、一万人の観客たちは様々な方法で顔を隠した様子が映し出される。

 

「……な、なんで……」

 

そう口にするが頭では理解していた、彼らはタダ自分の悪行から来た罪の清算を踏み倒すために自分を利用していたのだと、だが心が拒否する。そうしなければ今までギリギリのバランスで積み上がってきたものが崩れ落ちるから。フスティシアは膝から崩れ落ちそうになるのをなんとか耐える。

 

「ま、まって!? まってよ!!」

 

顔を隠した人たちは次々と観客席から出て行く、それを必死に手を伸ばして静止するも誰も聞こうともしない。

 

――誰もが私に背を向けて去って行く、こうなりたくないから私は――私は“こう”なったのにっ!!

 

「――正義の味方が過ぎたなフスティシア」

 

とことん無機質なジャスティスのひと言が、乱れるフスティシアの心を抉る。剣と共に正義(フスティシア)は剥がれ落ちる。

 

+++

 

より完璧でなければならない。より正しく生きなければならない。より誰かのために生きなければならない。

 

そうでなければ人は逸脱した私を拒絶する。高い崖の上でしか生きていけない私を誰も見上げてくれなくなる。孤立は孤高から孤独へと変わる。私は強くひとりぼっちを怖れた。社会から外れた存在だと認めたくなかった。

 

どれだけ輪に入ることを望もうとも普通の人たちにとって、私は女神なのだ、人外なのだ。些細なミスでも、私にとっては人の失敗ではなく女神の失態となるのだ。

 

だから、私は都合の良い人になることにした。困っている人に力を貸したり、悩んでいる人の話を聞いて解決したり、誰かのために献身的に動き続けた。そんな私は何時しか正義の味方と呼ばれるようになった。自分の居場所を見つけられたようで嬉しかった。

 

そして流れるように魔装少女になることを産まれてきた理由だと言わんばかりに強く勧められた。だから私は魔装少女になることを決めた。皆が言ったからなると決めたんだ。

 

開催日が近くバスで行ける範囲にあったことで第7支部主催の交流会にて、黒髪でありながらもその日に魔装少女になるのが決まった。自分を選んでくれたフェアリーの好物は『憧憬』。曰く色の嫌悪感が完全に消失するほど私から得られる感情がとても豊富だったらしい。

 

あまりにも呆気なく私は魔装少女になった。取っ手を引けば扉が開くようなほど当然に。黒髪であるのにも関わらず。私は魔装少女になれてしまったのだ。

 

第7支部での魔装少女としての生活は礼儀と規律を重んじる事が絶対で日本を守る正義の味方として模範的な生活をしなければならなかったが、それが自我が芽生えた時から生きてきた私の世界とたいした違いは無く、すぐに馴染んだ。

 

学校生活と社会福祉活動、そしてグレムリンの討伐を望まれるままに熟す私は、いつしか理想的な魔装少女と称えられるようになり、憧れる者として、疎まれる者としてその両方からもやはり特別扱いされた。

 

だからより完璧に、より正しく、より誰かのために生きる。周りに人は増えたが彼、彼女たちは放つ光を求めて近くに居てくれるだけで、明かりが澱めば離れてしまうことが嫌でもわかってしまうから私は魔装少女として完璧に振る舞いつづけた。

 

そんな生活を暫く続けていると、リーダーにならないかと推薦されて、そのまま名乗りを上げた。リーダー選挙において他の先輩に大差をつけて勝利した。対抗馬であった先輩にすら当然の結果だったと心からの賞賛を贈られる。私がリーダーになるのは皆にとって定められたものに見えたらしい。

 

諦めに近しくも全く違う感情を抱いた私は、上に立つものであることは仕方ないと甘んじたが周囲はそれ以上に私を押し上げた。それが当然だと周りが持て囃す。

 

ブレイダーが現われた時、私は批判した。だってそうじゃない。彼らは法律や社会のルールを無視して力を行使しているのだ。そんな彼らを許容することは第7支部のリーダーとして許されない行いだ。逆に言えばそれだけだったのに、私が言ったからと第7支部の方針は反対者を出さず、反ブレイダーを掲げることとなった。もうこうなったら仕方ないと、私は周りが言うブレイダーが居てはいけない理由をそのまま飲み込んで、別の誰かへと吐き出すことを繰り返した。そうやっていくうちにブレイダーに被害にあったという人たちが次々と集まってきた。

 

みんなが助けてくれと言う。どうにかしてくれと言ったんだ。断わることなんて出来なかった。私の行動によって作り上げたものを一度でも拒絶してしまえば、私が()として保ってきたものが全て台無しになってしまう。だから、もしもの未来を見ない振りをし始めて、誰かに言われたから付けた魔装少女名を口にしながら、私は剣を頭上に掲げたのだ。

 

――正義の魔装少女(フスティシア)の名に誓って、私は正義を名乗る悪を倒して見せるわ!

 

 

 

「――女神様!」「頑張って、女神様!」「負けないで!!」

 

 

――観客席から声援が聞こえてきた。それは観客だった人たちがいなくなった事によって届くようになった、フスティシアを尊敬する第7支部の魔装少女たちの声だった。

 

空っぽになりかけた心に想いが注ぎ込まれる。彼女たちの声が力になる。

 

「……私は第7支部の魔装少女、みんなのリーダー。そうよ! 私にはまだ戦う理由がある!」

 

彼女たちのために戦う。もう迷わないと、自分を呼び覚ましてくれた彼女たちに礼を込めて改めて宣言するために、後輩の魔装少女がいる観客席へと目を向けた。

 

「私は――」

 

 

 

 

き え ろ

 

ひ と で な し

 

 

 

 

 

――目に入った看板の文字の羅列はジャスティスに向けられたものである。そのことをフスティシアは判っている。

 

判っているが、持ち直しかけた少女にそれはあまりにもタイミングが良すぎて、残酷なほど現実を見ろと叩き付けられたようで、恐れが妄想を生み出し、過去の出来事が元となり勘違いを呼び起こす。

 

実の親から自分たちの子ではないと言われた、生徒たちからは同じ人間とは思えないと言われた。魔装少女になることが当たり前のようだった。そして私は常に人では無く――。

 

「――女神様!」

 

――なら、今までの言葉はジャスティスにではなく、私に向けられていたものだった?

 

自我に目覚めてから、なんであれ人として扱われなかった少女は、縋り付くようにジャスティスに目を向ける。その瞳は絶望に溢れていて、どこにも焦点が合っていなかった。

 

「……私は…………なんなのよ? 教えてよ……ねえ」

「――人間は愚かってよく言うだろ? 逆にいえば愚かじゃないと人間じゃあないらしいぜ? 女神様」

 

ただ孤独を嫌い、人の輪の中に生きたかったか弱い少女は、今までの努力が無駄であったと突きつけられて、あまりにも呆気なく膝から崩れ落ちて蹲る。

 

――『戦争決闘五番勝負、第四回戦勝者。ブレイダー・ジャスティス』

 

試合終了の宣言が静まり返った会場に響き渡る。ジャスティスが何事もないようにグラウンドを去って、ひとりぼっちの少女が泣き続ける。

 

 

――正義はもういない。元から正義ではない、真面目に夢を見ていた少女は現実を知り消え去った。ここにあるのはその名残である。そうでなければ、あまりにも痛ましい。

 

 




この話を書いていて、自分の執筆能力の足り無さに改めて悔しく思いました。同時に、ずっと書きたいものを書けて嬉しい気持ちになりました。これも見てくれている皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

次回はスレ回となります。すでに半分は書き上げているので数日中に出せると思うのでよろしくです。それは暫くお待ちになってください次回!

↓前話のジャスティスの設定欄の解説です。かなり簡易的なものなのでアレな所が沢山あると思いますので、おまけ程度に見ていただけると幸いです。



『DAMAGE OPERATION』
生成した兵器における与えるダメージ先を選択することが出来ます。
OBJECT=物体 物質生物を殺傷することができるため注意。
ETHERIC=精神 物質生命体の場合肉体には影響を与えず痛みのみ与えることが出来ます。別の設定と合わせる事で痛みを付与し続けることが可能。

『DEAD SAVE』
物質生命体の肉体の具合を数値化して、設定した%を超えるダメージをカットします。また心臓や脳など生命が即死する箇所へのダメージは完全にカットします。
1%=瀕死、生命活動が停止する直前までダメージを与えることが出来ます。ダメージ箇所によっては数秒間、放っておけば死に到るでしょう。
50%=半殺し、急所及び内臓のダメージは殆どカットされます。
100%=訓練、どんな兵器であれ生命を脅かすことが無くなります。痛みも発生しません。
OFF

『WEAPON SOUND』
オリジナルの音を100として発生する音を調整することが出来ます。0-300まで変更することが可能です。数値を0にすると完全な無音になります。

『GIFT METHOD』
兵器を生成するさいの方法を変更することができます。
THINKING=操作パネルにて手押し入力による選択
VOICE=使用者の声による音声入力
INPUT=思考入力。

『GIFT RESTRICTIONS』
生成できる兵器をクラスごとに制限することができます。
WORLD=世界と戦うことができるレベルの兵器です。
COUNTRY=国と戦うことができるレベルの兵器です。
ARMY=軍隊と戦うことができるレベルの兵器です。

『EQUIPPED WITH AI』
一部の兵器にAIを搭載することができます。

『RANGE LIMIT』
自身を中心として兵器を呼び出せる範囲を決めることができます。

『RADIO』
ラジオを生成することが出来ます。兵器ではないのでバグが発生する可能性大。

『NEWSPAPER』
新聞紙を生成することが出来ます、内容は生成した時の日付に投稿されたネット記事を引用します。兵器ではないのでバグが発生する可能性大。

『LANDMINE INSTALLATION』
地雷を生成設置するさいの配置を決められます。視覚に配置予測ヴィジョンが表示されます。
Auto-A=円形をベースに配置することが出来ます。
Auto-B=直線をベースに配置することが出来ます。
Semi-auto=ひとつずつ配置することが出来ます。

『SENTRY GUN DEPLOYMENT』
セントリーガンを生成配置するさいの並びを決められます。視覚に配置予測ヴィジョンが表示されます。生成数を変更したい場合は別途の設定で行なってください。
auto-A=自身を中心として、その周辺に円状に配置します。
auto-B=自信を開始地点として直線上に配置します。

『B.C.N WEAPONS』
危険な兵器使用を許可しますか? よく考えてください。承認する場合は幾つかの確認を行うことをご了承ください。
APPROVAL=承認
REJECT=拒否




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一般人スレ④&戦争決闘五番勝負スレパート11

感想、評価、お気に入り登録、ここすき本当にありがとうございます。
みんな正義すきなんだなと嬉しくなりました( ̄▽ ̄)不安でもある←。

感想などは言えないこともありまして、感覚強めで返信しているので、なにか変なことになっていたらごめんなさい( ̄▽ ̄:)

それでは本編を楽しんでいただけたら幸いです。


※正義の言葉使いあたりをいくつか訂正しました。




122:名無しの観客

だからよ。俺は言ったんだ……ジャスティスと戦うこと自体狂ってるって……なんで戦ったんだよ。

 

123:名無しの観客

最初から最後まで本当に酷かった。なんていうかジャスティスだけじゃなくて、フスティシアもそうだし、観客も愚かすぎるだろ。

 

124:名無しの観客

戦争って言っていた理由をようやく分かったけど分かりたくなかった。

 

125:名無しの観客

ほんまクソ。ブレイダーのやる事じゃない。魔装少女不必要に虐めて笑ってるのはマジで幻滅したわ。二度とブレイダーを名乗らないで欲しい。

 

126:名無しの観客

流石はジャスティスだぜ! 俺たちの期待を裏切らない! 裏切って欲しかったなぁ!

 

127:名無しの観客

第7支部ってブレイダーアンチの巣窟ってのは聞いていたけど、あんなのブレイダー側のワイ等だって引くわ。単なる犯罪者集団やんけ。ヤーさんよりたち悪いやろ。

 

128:名無しの観客

>>125 第7支部のフォロワーは帰ってどうぞ。ブレイダーをヒーロー視してるとかマジにわか。ヒーローだったらそもそも世界に喧嘩売ってないだろ。

 

129:名無しの観客

どこもお通夜うけないんですけどww ちなみにワイは途中で気分悪くなって吐いたので視聴止めた。

 

130:名無しの観客

>>125 むしろ第一世代だからブレイダー先に名乗ったのはジャスティスなんだよなぁ。

 

131:名無しの観客

正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強正義最強

 

132:名無しの観客

>>128 ヒーローじゃなかったら居る意味ないだろ。

 

133:名無しの観客

女版ジャスティスかって思ったけど、普通の女の子やったな。

 

134:名無しの観客

>>132 居る意味とかwww お前なに様だよwwwww

 

135:名無しの観客

当たり前だけど荒れてんね。というかこいつらはそのジャスティスに掲示板見張られてるの忘れてんのか?

 

136:名無しの観客

だめだ、魔装少女板の方とか炎上しすぎて第7支部の事とか分からん。ジャスティスの罵詈雑言を言うbotしか沸いてない。

 

137:名無しの観客

フスティシア、普通に期待外れ。固有魔法凄くてもあんなワンパターンカミカゼしか出来ないとは思わなかった。

 

138:名無しの観客

>>132 下手なことマジ書くなよ。むしろブレイダーからしたら俺たち邪魔だと思えば何時でも消せるゴミでしかないんだぞ。

 

139:名無しの観客

古参はこうなること予見して四回戦始まる前から引っ込んだ印象。今書き込んでるのは昔を知らないキッズばっかり。

 

140:名無しの観客

>>136 あんまり深掘りしないほうがいいよ。どこでジャスティスの地雷踏むかわからんし、なんなら、あれだけ酷いことした対戦相手の批判とかのほうが過激に反応してくる可能性が高い。

 

141:名無しの観客

というか戦っている最中だからなにを書き込んでもセーフとか思ってるんじゃないか? もう終わりましたけど? 帰れ魔女豚。

 

142:名無しの観客

これで荒れてるってブレイダー板も平和になったよな。

 

143:名無しの観客

魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ魔装少女を駆逐せよ

 

144:名無しの観客

『アーマードchannel』これからどうなるんだろう。アンギル四回戦終わってからなにも話さないし、俺の生き甲斐もしかして終了か?

 

145:名無しの観客

>>131

>>143

通報した。

 

146:名無しの観客

第7支部、周りの被害考えながらもグレムリンきっちり倒してくれるし、特別な許可をとって魔法によるボランティアで色んな所で活躍してくれるし、まじで正義の魔装少女集団って感じだったんだけど、なんか見てはいけないもの見てしまった気分。

 

147:名無しの観客

なにをしようとブレイダー・ジャスティスは爺さんが詐欺られたお金を取り戻してくれて、なおかつ国内農家の立場を底上げしてくれた張本人だ。畑でも焼きに来ない限り俺はこっそり支持するぜ。

 

148:名無しの観客

>>131

>>143

見つかる前に運営が消してくれたらいいね……。

 

149:名無しの観客

第7支部が主催の交流会に何度かおじゃました俺が通りますよ。

 

150:名無しの観客

>>147 日本農家さんのおかげで私達は飢えなくてすみました本当にありがとうございます。

 

151:名無しの観客

半年か1年で食料生産自給率十倍になったの聞いて、ジャスティス本人が嘘だろって驚いた話ほんと好き。

 

152:名無しの観客

日本「は」平和にした男

日本農家を(本人も知らないうちに)救った男。

密漁船を(他国の嫌がらせに)根絶やしにしたので猟師と海自から感謝されている男。

陸自と空自からは基地ごと半殺しにしたので軒並み嫌われている男

ネットの海に規律を作らせた男。

一人VS世界による第三次世界大戦に勝った男。

死んだら第四次世界大戦。

なぜか世界を支配しない男。

悪=死。

あれは魔王ですか? いいえ、あれはブレイダー・ジャスティスよ。

自分に関係する情報が大体嘘だからと報道機関に戦車か戦闘ヘリでお礼参りした男。

煙草も吸わない、酒も飲まない、女遊びもしない、でもミサイルは撃つ。

自分に使われる予定だった細菌兵器を自分が先に使う(NEW

不死身の魔装少女を相手にメンタルへし折って勝利した正義(NEW

 

153:名無しの観客

各国が日本との交易禁止にしたら、日本がアホみたいに食料作ったり、たまたま海底金属採掘の技術が確立したりで海外企業や海外の取引先のほうが根を挙げた話も好き。

 

154:名無しの観客

ジャスティスの所為で日本が孤立した時、戦後復興を成し遂げた国民の底力を見た。

本当に全国の農家や、農業組合、政府関係者に魔装少女まで協力して食糧自給率ぶっちぎりトップになるのあたまおかしい(褒め言葉)

 

155:名無しの観客

名前も悪行も一度狙われたらずっと覚えられてるの恐怖しかない。これからも真面目に生きよう。

 

156:名無しの観客

魔装少女が土地確保のために山を開拓して、重機を運んだりする姿は圧巻だったっすねぇ。

 

157:名無しの観客

>>149だけど、なんか流れ変わる前に言いたいこと書くだけ書いとくわ。第7支部自体は意識高い系だけど、関係者とかスタッフ優しかったけど。ただ集会に集まるやつらがほんとあんな感じで地獄だったぞ。

 

158:名無しの観客

>>156 そこで活躍したの、第7支部所属の魔装少女が多かったんだぞ。それなのにあれはあんまりだろ。

 

159:名無しの観客

>>152 なにかするたびに異名増やすの止めて貰っていいですか?

 

160:名無しの観客

二十倍っていっても農林水産省の雑な調べだけどな、海外と交易再開させた現政府の外交能力をほめないのが分からない。

 

161:名無しの観客

>>157 それブレイダーアンチの親に連れられて言った事あるけど、ほんまそんな感じでずっとフスティシアが話聞いていて大変やなって思った。あんな不憫なことになるとは想像できんかったな。

 

162:名無しの観客

いま、秋葉ドームにいるんだけど、やばいことになってる。あの逃げた観客の中の数人が秋葉のスタッフに絡んだと思ってたら暴れ出した。

 

163:名無しの観客

というかフスティシアって、なんで泣きだしたんだ? ジャスティスそんな酷いこと言っていたか?

 

164:名無しの観客

>>162

うわぁ。大丈夫か?

 

165:名無しの観客

>>162の続き。そしたら防弾チョッキと銃装備した人が沢山きて全員ボコボコにしてどこか連れて行かれた。さらに別の奴が警察呼ぶぞって騒ぎ出して、隊長格っぽい人が秋葉に警察こねぇんじゃあ!って叫んでそいつらもボコボコにしてどっか連れていった。

 

166:名無しの観客

>>165 えぇ……。

 

167:名無しの観客

>>165 どこに驚けばいいか分からん

 

168:名無しの観客

秋葉。復興した風に見えるけど警察とか行政機関無いから今でもヤーさんが管理してる無法地帯だぞ。

 

169:名無しの観客

魔装少女の所為で酷い目にあったから、ここぞとばかりに復讐してるんかもね。

 

170:名無しの観客

そういえば五回戦。アビスだけど対戦相手決まった?

 

171:名無しの観客

観客の奴らは因果応報、自業自得、それ以外無いですね。

 

172:名無しの観客

流れ変わったな。というかいつもの空気に戻ってきた?

 

173:名無しの観客

>>170

まだ、どうなるんか今から怖い。ジャスティスのようにはなってほしく無いけど……。

 

174:名無しの観客

>>172 いつものスレ民が戻ってきて、キッズが居なくなったんじゃね? 人が少なくなったとも言う。

>>173 アビスの場合は魔装少女側が確定で悪だから、ジャスティスのような胸糞悪さはないと思う。

 

175:名無しの観客

でも燃える様子を見ないといけないんだよなぁ。

 

176:名無しの観客

結局アーマードはどういった理由で戦争を始めたんだろうな。ジャスティスの『協会』への容赦の無さから、やっぱり『協会』がやばいことやったんかな。

 

177:名無しの観客

ここまで見た以上。わいは最後まで見守る。

 

178:名無しの観客

フスティシア。大丈夫かな? 

魔装少女って言っても普通の女の子なんだし心配。

 

 

 

 

+++

 

 

 

949:天使

本当に酷いって以外の感想が湧かないってのも珍しいよね。

 

950:正義

まっ、至極真っ当な意見だな。自分でやっておいてなんだが、あそこまで上手くいくとは思わなかったぜ。

 

951:天使

『固有魔法』があれなだけに、ああしないと勝てなかったのがわかるけどもっと他に方法はなかったの?

 

952:正義

殺していいんなら頭弾いて終わってたぜ。どれだけバグっている魔法でも詠唱できなきゃ意味はないからな。

といっても殺しは今のところ無しにしているからな。方法としてはヘリに括り付けて、今日が終わるまで海底に沈めるぐらいか。

 

953:天使

魔装少女はねー。水の中でも死にはしないよねー。死ぬほど苦しいけどー。

 

954:天使

でもそうしなかった。

今回の一戦で、どれだけ鳥を撃ち落としたの?

 

955:正義

そうだな。まずは俺の暗殺計画は心配しなくてもよさそうだ。計画は中止、今頃政治家共は暴力的に話し合っているだろうよ。それとだ。明日からの話になるがコレをネタにすれば面倒な偉い奴らを黙らせる大義名分になるだろうぜ。

 

956:天使

大義名分って今更じゃん。

 

957:正義

俺だけの問題なら別にいつも通りでも良かったんだがな。魔装少女協会という日本に無くてはならない組織に深く干渉することになるんだ。邪魔が入らないようにするには、これぐらいのネタが必要ってな。

 

958:天使

なんにせよ世間に正義をどうにかするためなら多少の犠牲は厭わないのが偉い人の考え方って世間に露見しちゃったからね。その混乱は長いこと続くよねー。

 

959:正義

鬼の居ぬ間に洗濯だぜ。

 

960:天使

どちらかと言えば、人が脅えている間に掃除なんだよなー。

でも別の問題がいっぱいでませんかね? 正義さんや。

 

961:正義

俺が動けば百も二百も問題が起きるから今更だぜ。

大事なのは自分の行動によって起こり得る問題を予測できるようにしパターン化すること、そんで迅速に対策を用意すること、災害と一緒だ。

 

962:天使

地震雷火事正義って現代災害の一種扱いされている人が言うとすっごいいわかーん。

まあ初手でアホみたいな兵器使った理由はわかったよ。次は本題の魔装少女虐めの理由だね。

 

963:正義

心外だな。虐められていたのはむしろ俺の方なんだぜ? 会場見てなかったのか? 罵倒に暴力、心苦しくも正当防衛せざるをえなかったぜ。

 

964:天使

うわぁ……。

 

965:正義

ナハハ。冗談だよ。

見ての通り第7支部はほとんど俺のではあるが、アンチブレイダーの根城になっていたからな。放置していれば改革の時に最大の敵対組織になるかもしれん。早急で無理があった自覚はあるが、する必要があったからやった。俺にとってはそれだけだな。

 

966:天使

リーダーを倒しただけで止まるものかなー?

 

967:正義

第7支部は代表も含めてリーダーのカリスマによって纏まっていたからな。あいつが機能しなくなれば自己中が集まる烏合の衆だ。不必要な派閥争いと善の押し売りと悪の押しつけがそこら中で始まって、俺たちどころじゃ無くなるだろうよ。

 

968:天使

そんなに凄い子だったの?

 

969:正義

天才であったが、それ以上に才能と性格が嵌まったって感じかね。自己中の天敵となっていた。あいつらは目に見えてわかる正義の味方……言葉を変えるか、“自分の味方”ってのには弱いんだ。そして悪い大人たちからすれば、とても利用しやすいってな。

 

970:天使

そうして気がつけば元犯罪集団の隠れ養に使われてたと。真っ当な正義感に溢れた魔装少女だったのに救われないねー。

 

971:正義

当然の結果ではあっただろうよ。言葉を全部飲み込んじまって、自分は人外の類いだと勘違いした。魔装少女も正義の味方もそして人間の奴隷である姿も、人の輪に生きていくための手段でしかなかった。あいつに元々、正義ってのは無かったんだよ。

 

972:天使

あー。うーん……化け物の子(人間)が人間の友達が欲しかっただけの話でおk?

 

973:正義

OKだ。女神様、神、仏様、天才、高嶺の花、正義の味方、フスティシア。ネガティブなのはどこでもそうだが、ポジティブな事でも一般常識から逸脱した者を人として扱わなくなるのは日本の楽なところだな。

 

974:天使

楽なんて感想が出るのは、君ぐらいなものだよ正義。

 

975:正義

進学校じゃなくて普通の学校行って、魔装少女でも第7支部以外に行っていれば真面目が過ぎるだけで面倒見の良い奴だ。友達でも出来てああは成らなかったかもしれないな。

 

976:天使

……正直さ。不憫だとは思うけど同情はしてないよ。

覚悟と言えばいいのかな? レベルが違うじゃん。善悪は別にしてどんな正義だって君の前では霞んじゃう。縋る場所の選択を間違えた以上、僕は残当としか思えない。

 

977:正義

残念ながら当然ってか?

 

978:天使

残酷だけど当然だね。

観客たちの様子を見た感じ、第7支部は腐った大人の根城になっていたと思うし、遅かれ早かれこうなってたのかなってねー。

 

979:正義

まあな。時間があったら丁寧にしたかったが、楽園失墜のことがある。お陰でリスクは承知で強引に収穫することになっちまったからには流石に失楽園に文句の一つでも言いたいぜ。

 

980:天使

それは僕も一緒。だから腹を完璧に括れたってのもあるけど……。

 

981:天使

そういえば四回戦の観客。よくよく考えたら殆ど第7支部の関係者だったよね。試合はランダム抽選で転売も禁止なはずだったのに。

 

982:正義

ああ。黙っていてまじで悪いと思っているが、四回戦のチケットに関してはちと俺のほうで操作した。下手に一般客を入れても不憫な目に遭うのは目に見えていたからな。前三つはちゃんとしたくじ引きだぜ。

 

983:天使

……正義。

どこから関わってたの?

 

984:正義

リーダーがブレイダーに否定的だから支部もアンチ組織になったとして、そう都合よく俺を殺したいほど憎んでる奴がああまで集まるってのは随分と奇跡も安っぽくなったな。

 

985:天使

やったなお前。

 

986:正義

全部がって言われると違うが、言い訳はしねぇよ。ブレイダーの存在が批判されだした時に、面倒な連中が集まりだしているのを知っていて放置した。なんなら、第7支部の魔装少女とかには、少し弱腰なそぶりを見せたりもした。逆に第7支部以外の反ブレイダー団体とかには厳しくしたな。殺しを無しにしている以上、反省しない奴らを一カ所に集めていたほうが監視しやすかったからな。

 

987:天使

聞いといてなんだけど、どうして言う気になったの?

混沌とか悪魔はこれ見たら確実にキレるし、僕は正直あんまりだけどみんなからしたら面白く無い話だよね。変に拗れるぐらいなら言い訳して誤魔化すのも厭わないのが正義じゃん。

 

988:正義

>>965 で言った通りだぜ。それに下手に嘘ついたほうがあいつら拗れるだろ? それに明日か明後日には分かることだ。なら大掃除をする前の自分が汚した部分だけでも先に整理整頓ってな。

 

989:天使

足し蟹。いや、納得しかけたけど余計に汚してんじゃん! たったひとつの掃除機ぶっ壊して汚物撒き散らすようにしたじゃん!!

 

990:正義

責任持って後で掃除してやるよ。

 

991:天使

全て跡形もなくなるやつー!

ああもう、とりあえず第7支部は今日は置いといてー。そう言えば奈落は今どうしてんの?

 

992:正義

第3支部。そのリーダーのところだな。

 

993:天使

お前まじいい加減にしなさいよ? 協会の中でもトップザ地雷が相手とかさー! せめて事前に報告ぐらいちゃんとしてよ!

 

994:正義

つってもこればっかりは奈落が決めたことだからな。

 

995:天使

奈落が? てことはシスターイースターの固有魔法ってやっぱり詐欺の類だったとか? 流石に魔法とは言え死者蘇生なんてファンタジーが過ぎるとは思っていたけども。

 

996:正義

いや、恐らくだが正真正銘の死者蘇生だからあいつは選んだんだろうよ。自分の夢を叶えるためにな。

 

997:天使

夢っ――てあのいつも言っている夢?

……それって大丈夫なの?

 

998:正義

そうであると願ってるよ。個人としてな。そんで、

畳み掛けるようで悪いがこれから用事があってな。先に秋葉を離れるぜ。

 

999:天使

……ふざけんな! 最初から最後までなにも言わなさすぎなんだよ! 僕だってブレイダーだろ!?

 

1000:正義

分かってるよ。だが詳しい話を俺が言うわけには行かないんだ。

だから、1000レスだったら奈落本人が次スレで事情を語る。

 

じゃあな。無理をするなよ。

 

 




二章も終盤です。

次回「悪魔」

ちょっといつも以上に遅くなるかも知れませんが、お待ちになって次回!


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悪魔

感想、評価、お気に入り登録、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます!
誤字りまくっていたらしくて前話はまじすいませんでした( ̄▽ ̄:)いつもの事ではありますが、こんな作品ですが楽しんでいただけたら幸いです。


――わたしはお姉ちゃんが好き。

 

優しいし頭が良いし、自分の事をなによりも理解してくれる。わたしの才能を分かってくれる。自分がアイドルになりたいと言ったら、母と父は賛同こそしてくれたが、あくまでも子供の戯言として可愛いと笑うだけだった。でも、お姉ちゃんはわたしが本気であることを分かってくれて、難しいことでもわたしなら理解してくれるって、丁寧に分かりやすく大事なことを全て教えてくれた。

 

それだけじゃない、お姉ちゃんは変わらなかった。有名になって動画の広告料が入るようになってからお母さんもお父さんも、私を放任したほうが良い結果になると思ったのか何も言わなくなった。でもお姉ちゃんだけは私を妹としてずっと見てくれていた。

 

駄目なことをすれば叱って、何でも買ってあげるって言えば妹に奢られるほど姉としてのプライドはへし折られていないと断わられて、どれだけ隠していても落ち込んでいればすぐにバレて慰めてくれた。そしてアイドルとして成功していく、わたしを家族としてちゃんと褒めてくれた。

 

みんなわたしのことをアイドルの頂点だと言う。それならお姉ちゃんは星だ。地球から遙か遠くに居るから目立たないけど、わたしをしっかりと照らしてくれてる。そんなお星様だ。

 

――〈コッペリア・レ・ステージ〉にて生成されたスピーカーから雨の音が聞こえてきて、それが徐々に強まっていく。

 

この曲が出来たのは些細な切っ掛けだった。『固有魔法』のための曲が必要という話になって、第五支部代表(マネージャー)に歌詞を書いてみてはどうかと言われたのだ。本人が作ったとあっては話題になるし、売れれば売れるほど印税を得られるからと、アイドルとしての延長活動として承諾した。

 

そうして初めて書いた歌詞は、一度はアイドルらしくないとお蔵入りになった。それが様々な思惑から『お姉ちゃん』という名と曲を与えられて、こうして誰も居ない舞台で歌っている。

 

リトルぽつり雨うたう

 

胸に詰まりきった切なさを出し切るように歌い出す。同時に静かで穏やかなヴァイオリンとピアノ、そして水たまりに落ちる雨をイメージした音に、静かに奏でられるギター、ベース、ドラムの音が重ねられ寂寥な世界が浸透するように広がっていく。

 

――あの日、雨が降っていた。学校の帰り、いつものようにお姉ちゃんに迎えに来てくれるように頼んだんだ。

 

三番目の路地を行かないでよ

 

雨合羽を着ているのにお姉ちゃんの傘に入って帰宅する。アイドル活動とは違う楽しさと充実感で満たされる時間だった。わたしの話を聞いてくれて、姉の学校の話を聞いて、笑い合ってちょっと不機嫌になって謝って謝られてまた笑う。きっと他愛もない、珍しくない仲良し姉妹の会話。それが長く続けばいいなって、私はわざと遠回りする道を選んだの。

 

マンホールの中には誰もいませんよ。気付くのはどうして?

 

知らない道、そこには見たことない絵が彫られていたマンホールがあって興味を持った私は姉を待つまでの暇潰しとして、しゃがみこんでマンホールを見ることにした。雨が強くなった、わたしは気がつかなかった、トラックがこちらに来ているのに。お姉ちゃんだけが気付いた。

 

長い長い逃げ水はどこ?

どうしてこうしてあっちへと……

 

――動かなくなったお姉ちゃんから水が、あっちこっちへと逃げていく。

 

伴奏が無くなり無音となった世界で、あの時のことを思い出す。泣き叫んで何度も何度も名前を呼んで。それでも未来は変わらなくて、だから曇天に向かって心の底から叫んだ。

 

……お願い神様!

 

他になにもいらない。だから!

 

この手を握って――

 

――エレベーターが開かれて、話に聞いていたとおりブレイダー・アビスと見たことのない眼を隠した魔装少女が現われる。

 

――DearMySister

 

――わたしはお姉ちゃんとずっとずっと暮らしていきたい。どれだけ大変でもお姉ちゃんが傍に居てくれればいい。だから。

 

「ここはぜったいに通さない!」

 

+++

 

 

「アルテメット・アイドル。第5支部のリーダーがどうしてここに……」

 

オルクスの言い分は尤もであるが、理由はここに居る時点で明白でもあった。彼女はシスター・イースターの門番としてブレイダー・アビスの前に立ちはだかっている。アビスは半球状の広大な座席無き地下劇場の壁や柱を見渡す。そこには無数のカメラが設置されていた。

 

アルテメット・アイドルの『固有魔法』である〈コッペリア・レ・ステージ〉はアルテメット・アイドルの歌を聞いた人を元に経験値を自動人形(コッペリア)に与えてレベルアップさせることが出来る魔法である。その事をアビスは知識として有しており、すでに準備が終わっていることを把握する。

 

――自分たちが来る前、彼女はカメラを通して第3支部の支持者(信者)に歌を届けた。

 

その人数、二百万を超える。『戦争決闘五番勝負』の時に比べれば少数ではあるが、その二百万人は、第3支部から送られてきた通知を見て、第3支部の聖歌として認定されている『お姉ちゃん』を聴きに来た者たちであるため、二百万という数が余すことなく、コッペリアの経験値として付与されていた。

 

――雷光に届くには全くもって足りない。しかし炎を蹴散らすには十分だ。

 

「大人しく退いてくれるなら、なにもしないから……」

「君が、どんな事を言われてここにいるかは知らない。でも引き返すわけには行かないんだ」

「動かないで!」

 

アビスは一歩進んで止まる。目の前に居るのはアルテメット・アイドルである。しかしアイドルという姿を捨てた人間の少女、惹彼琉ひとみであった。彼女を動かしているのは恐怖だ。幾つもの恐怖が彼女の思考を奪い、都合のいいように利用されていることを理解しながらも便利な偶像へと身を落としてアビスの前に立っていた。

 

彼女の精神は極めて危うい状況である。人を殺せる一歩手前だ。口ではああ言ったがアビスは彼女を象る炎からすでに境遇を察していた。そもそも噂は元からあったのだ。幾人の魔装少女を調べていくうちにアビスの耳にも入っており、真実だったというだけの話だ。

 

「君とは戦いたくない」

 

しかしと、アビスは烏滸がましい存在として目の前に立つ少女の境遇を知らないと言わんばかりに前へ一歩、足を動かした。アルテメット・アイドルはびくりと後ろに下がりかけるが耐える。

 

「だ、だったら帰ってよ!」

「それはできない」

「なんでっ……! シスター様の『固有魔法』は本物だよ? それに何も悪い事してないよ!?」

「そうだろうね――でも、直接会って確かめないといけないことがあるんだ」

 

なにを言っても刺激を与えるだけなのは承知していた。だけど奥に目的の人物が居ると確信してしまった以上、アビスはアルテメット・アイドルを言葉で説得して平和的に退いてもらうという選択肢を自ら放棄した。

 

と言ってもアビスはアルテメット・アイドルと戦いたいわけではない。信念として自身が悪と認定していない魔装少女に『奈落の炎』を使うのは躊躇われ、また戦うとなれば本気を出さなければ敗れる可能性が高いからだ。

 

アビスの本気というのは、コッペリアだけではなくアルテメット・アイドルを燃やし、普通の少女へと元に戻すことを言う。アビスにとってアルテメット・アイドルという魔装少女はそれほど厄介なのだ。

 

アビスは〈コッペリア・レ・ステージ〉は理論上、悪魔に匹敵することも可能である『固有魔法』のひとつとして覚えている。そして、コッペリアから見える数え切れないほどの炎による繋がりから、デビルまでとは言わないが、自分よりも遙かに強くなっていると、コッペリアのステータスを正確に把握していた。

 

そうなると魔力によって生成された魔道具などを綿毛のように一瞬で燃やし尽くせる『奈落の炎』であれど攻撃が届くよりも前に燃やし尽くせる保証はないのだ。事実、過去にアビスは魔法とは違えど炎が燃え移る速度よりも速く殴られたことで、デビルに敗北したことがある。

 

そして真っ向から戦わなくても、アビスを止める方法は幾らでもあった。それをアビス本人が自覚している。例えば無差別に暴れ回って瓦礫を作りだしアビスを生き埋めにする。またはオルクスを人質にとるなど、コッペリアの動きにアビスがついて行けない以上。動き出したら室内を炎の海にしない限り止められないのだ。そうなれば本人の意志関係無く炎は無差別に燃え広がり、アルテメット・アイドルも燃やすことになるだろう。

 

「アビス様」

「だめだよ。魔装少女とは戦わさせられない」

「ですが……!」

「それよりも、できるだけ遠くに離れて」 

 

サイレント・オルクスが自分が戦うと名乗りを上げるが、アルテメット・アイドルの今の精神状態を考えれば、手加減できるとは思えず。またオルクスも幾度も魔法を使っているためすでに限界に近い。それに本人が望んでいるが、彼女は魔装少女を殺すために育成された『元懲罰部隊』の魔装少女。戦わせるのは論外でしかなかった。

 

「――アルテメット・アイドル。君に語りかける資格をボクは持たない」

「だったら!」

「でも、君の想いを……君だけじゃ無い、彼女を信望し救われた人々の想いを踏みにじってでも、ボクは彼女に会いに行って――きっと燃やすだろう」

 

第3支部の様子をここまで見てきて、決して平和的に終われないだろうとアビスは正直に告げた。

 

「そんなの! 通せるわけないじゃん!」

「ならどれだけ烏滸がましい行ないをしてでも――通させて貰うよ」

 

進む理由は幾つもあって、帰る理由はひとつも無い。もしも本気で立ち塞がるというのならばアビスは戦うことを躊躇わない。アビスの気迫にアルテメット・アイドルは腰が引ける。アビスを相手にするということは魔装少女として全てを失うことを考え無ければ行けないのだ。

 

アビスに燃やされるというのは普通の女の子に戻るだけではない。断罪者として認識されている以上、燃やされた魔装少女の扱いは世間の眼から見れば犯罪者と同義である。そうなってしまえばアイドル活動もできなくなって、お金を稼げなくなる。

 

――あなた以外にも救いを求めている人はたくさん居ます。なのでおいそれと奇跡をあなただけに施し続けることはできません。ただし、あなたの“誠意”が本物であると示し続ければ、それにシスター・イースターは答えてくれるでしょう。

 

その“誠意”にはアビスの前に立つことも含まれていた。

 

「これから……これから仕事も増えて、お金ももっともっと稼ぐことができるの。だから、わたしの幸せを奪わないでよ!」

「そこを通してくれ、アルテメット・アイドル!」

 

アビスが右腕を前に出すと、その指先の黒い炎が灯る。

 

「――ッ! コッペリアッ!!」

 

自動人形が動き出し、奈落の三ツ目が開かんとする。舞台が揺れる。二人が引き起こしたものではない。

 

――ドォンドォンドォオオオン!。

 

外から小さくない破壊音が連続的に聞こえてきて、徐々にこちらに近づき大きくなっていく、そしてコッペリアとアビスが交戦するよりも速く、壁が爆発した。

 

ドォオオオオオオオオオオオオ!!

 

――偶像は灰すら残さず燃やされて結局は全てを失う。奈落も大切なものを砕かれて夢は永遠の果てに遠のく。そんな救われない未来をねじ曲げに“悪魔”がやってきた。

 

「デビル!?」

「悪魔のお兄さんッ!?」

 

ブレイダー・デビルが壁をぶち破って現われた。そのままコッペリアの横顔をぶん殴り吹き飛ばす。

 

「――ようアビス、それにアルテも、さっきぶりだな」

「どうして君が……」

「ちょっと約束が会ってな。お前がGPSを常時オンにしてくれていて助かった。まさか埼玉に居るなんてな」

「……単に地下に降りているわけではないと思っていたけど、まさか他県とはね」

「なんなら地下ですらねぇな。人気の居ない森の中、研究所みたいな建物の中だ」

 

アビスは『B.S.F』のGPSを常にオンにしており、どんな時でも他のブレイダーに居場所を分かるようにしてある。それを使いアビスの元へと来たのだ。目的の人物、アルテメット・アイドルに会うために。

 

「ど、どうしてここに!? お姉ちゃんとお見合いしていたはずでしょ!?」

「振られちまったんだよ」

「……え?」

 

デビルの発言は、アルテにとって状況を忘れるほど衝撃的であった。一回戦で戦った後、姉と同じ雰囲気をデビルから感じ取ったアルテは二人を出会わせた。その後、アルテは第3支部から要請を受けたことで、その場を後にした。関係を持っている業界人を何度も当ててきた観察眼が、二人なら自分が居なくても後は自然に仲良くなれると確信したから、デビルを義兄と言う日も近いと、そう思っていた。

 

――でも、そうはならなかった?

 

「振られたって、どうして?」

「……姉の元に帰るぞ。アルテ」

「――――どうして?」

 

迎えにきたとしか言わないデビルであるが、アルテは明らかにデビル本人の意志ではないことに嫌でも勘付いてしまっていた。そして先ほど言っていた約束という言葉からデビルは頼まれてここに来たのだ。そして頼んだ人物の当てをアルテは一人しか思い浮かばなかった。

 

「……想衣お姉ちゃんは、わたしよりも凄いんだよ? 優しくて賢くて、それに眼が曇っている奴らはみんな、わたしと比べて淀んでいるとか劣化版とか言うけど、ちゃんとおめかしをしたら美人なんだよ!」

「ああ」

「バラエティでのトークで参考にするほどお喋り上手なの! 機転も気遣いも凄くって何度も助けられた! 代表(マネージャー)も将来は自分の後を継いでほしいって言ったぐらいなんだよ!!」

「ああ」

「……ッ! 悪魔の……お兄さんだって、話してみて……お姉ちゃんの良さに気付いたよね!? “ちょっと人と違っても”……いい人だって分かったよね!?」

「ああ、そうだな」

「だったら! お姉ちゃんの恋人になってよ!」

 

想衣とデビルをくっ付けるのには、世界で最も強いとされるブレイダーが身内になれば姉を全力で守ってくれるだろうという打算も含まれていた。それを抜きにしても姉が自分を幸せにしてくれたように、デビルならお姉ちゃんを幸せにしてくれる。そんな理想の未来を見たからだ。

 

――しかし、そうはならなかった。

 

「無理だ。なんども言うけどな。振られちまったんだよ、俺は」

「どうしてっ!? どうしてどうしてどうしてっ!? どうしてっ!!?」

 

錯乱気味に何度も何度もどうしてと問い掛ける。デビルにではない、ここには居ない。ずっと傍にいてほしい大切な人に向けて

 

「どうして!? ――想衣お姉ちゃん!!」

 

アルテの激情に反応してコッペリアがだらりと起き上がる。表情を持たない人形であるが、デビルたちには泣いているように見えた。デビルが電気をスーツ表面に迸らせる。

 

「デビル」

「これは“約束”だ。アビス」

「……わかったよ」

 

干渉は許さないと拒絶するデビルに、アビスは大人しく後ろへと下がる。コッペリアが何時でも動けるように構えるもアルテは迷う。自分の大切な、願いなら何でも叶えたい大切な想衣お姉ちゃんの願いを踏みにじる気か?。でもここで引けばアビスはシスター・イースターと出会ってしまう。そうしたらお姉ちゃんとはもう――。

 

「う……え……」

 

どんな時でも切り抜けてきた会話術は機能せず。全員を納得させ続けてきた提案も思い浮かばない。ただ無情にも閉演の時間が迫ってきている。

 

――帰りたくないと瞳で駄々を捏ねる。しかし悪魔の契約(約束)は、なによりも優先されるべきものである。

 

「……お前を無理にでも連れて帰る」

「――嫌だ、嫌っ! お願いコッペリア! あの悪魔を倒してッ!」

 

大切で代えがたい日常を守る為に少女は覚悟を決める――しかし悪魔は容赦無く襲いかかる。バチッと音がしたと思えば、アルテの目の前からデビルとコッペリアが消えていた。

 

動き出したコッペリア。前に戦った時とは姿も挙動も違う。しかし、デビルにとっては関係の無い話であった。最初に戦った個体よりも遙かに遅いコッペリアを容易く掴み、そのままデビルは自分が来た道を戻る。

 

あっという間に外へと出て、そのまま施設がある場所から隣の山。そこに都合良く存在する採石場で足を止めて、コッペリアを力一杯ぶん殴り岩壁に強く打ち付けた。

 

壁がひび割れるほどの力でぶん殴られたコッペリアであったが、デビルの必殺技でようやく破壊できた頑丈さは“こっち”も持ち合わせているらしく、無傷で起き上がった。

 

コッペリアは動き出す。デビルと戦うのではなく背を向けて走り出した。自分が生み出された時に与えられた命令である施設内で侵入者の排除が命令としてまだ生きており、コッペリアは生みの親であるアルテの命令を忠実に実行するために施設内へと戻ろうとしているのだ。

 

「もう主の元には戻してやらねぇ。お前は、ここで終わらせる」

 

――コッペリアとの音越えの戦いは周囲に甚大な被害を及ぼす。ここで叩こうにもコッペリアは移動を優先するだろう。そのとき何かの拍子で街中に出るかもしれない、施設に戻ってしまえば、アビスたちに被害がおよぶかもしれない。今のアルテに戦うこと以外考えられる余裕は無く、見えないコッペリアを制御できるとは到底思えなかった。

 

だから、デビルはアルテの気持ちを躊躇無く踏みにじることに決めたのだ。彼女が破壊者にならないように――最後となる大切な者との時間を守るために。

 

「……行くぞ」

 

限界までスーツに溜め込んだ電気全てをバックルへと集中させる。するとベルトが黄金に輝きだして、金色に染め上げられた『B.S.F』がバックル真横の差し込み口から出てきた。デビルはそれを抜き出して画面に大文字で表示されている『SI・X』を押した。

 

――――――S U P E R ∞ T H U N D E R ∞ D E V I L  ――√ ̄\_/――

最高(VIXVI) 完璧(VIXVI) 

 

無敵(VIXVI) 絶対(VIXVI)

 

――√ ̄\_/ L I V E D ∞ R E D N U H T ∞ R E P U S ――――――

 

音が増えて重厚感と激しさ変身時の音楽が森の全域に響き渡り、黄金に輝く『B.S.F』から電気が飛び散る。

 

[DOU()!...DOU()!...DOU()!...DOUBLE(ダブル) SI・X(シックス)]

[DOU()!...DOU()!...DOU()!...DOUBLE(ダブル) SI・X(シックス)]

 

暴虐的な男性の声で謳われる。それは宣告である。

 

「変っ身!!」

 

デビルは『B.S.F』を再びバックルに差し込んで二度目の変身を行なう。するとベルトの形状が『X』へと変わると同時に、金色の雷光がバックルから周辺に拡散し、デビルは全身が黒に染まる。それから拡散したはずの雷光は直角に曲がり戻るようにデビルの元へと集まってきて、それらが黒を覆い隠すように新たな金色のアーマーに変化していく。

 

デビルの姿は、より鋭利的に禍々しく人間らしい部分が削り取られていく、特に変化が著しかったのはマスクだ。人の顔は完全に消え去り、鋭利的なひし形へと変貌していた。

 

 

シイイイイイイィィジョォォオオオオオ!!

 

 

ここに“至上”の存在となった悪魔が現界する。

 

その名も――『ブレイダー・デビル・ダブルシックスフォーム』。

 

デビルは踵を上げる程度の軽い力でコッペリアに追いつき、その腹部にアッパーを食らわせた。コッペリアは数十メートル上空へと飛ばされる。そして遅れて雷鳴が轟くと共にデビルを中心として大地がひび割れ、アーマーから発せられた電気がそこら中に飛び散り、地面を抉る。

 

「ちっ!」

 

精一杯“最小”を意識した動きでこれだけの被害が発生する。やっぱり地上では使えないなと何時ものようにデビルは浮き上がったコッペリアの真下から全力で跳んだ。正しく昇雷(しょうらい)。跳躍のエネルギーが無数に枝分かれする雷となっては岩壁などを抉り、大地は砕かれ轟音と共に揺れる。その揺れはアビスたちが居る施設にまで届いた。

 

「――やめて、やめてよ!」

 

アルテの懇願は届くことなく、デビルはコッペリアを下から押し上げる。そうして辿り着いた高度五千メートル超えの遙か上空。飛行能力がないコッペリアは逃げること叶わず、なされるがままの状態となる。

 

――ダブルシックスフォームはあまりにも強力すぎる。動くだけで生物の命が脅かされて、僅かに触れただけで物が粉々になる。歩くだけで雷が迸り都市機能を麻痺させることが出来る。だからデビルはダブルシックスフォームを使用するさいには生命や物体が存在しない遙か上空にて、相手を一撃で葬る事を信条としている。

 

――たとえそれが、少女のたったひとつの願いだったとしても。

 

 

絶望

 

 

=

 

 

暴悪

 

 

ll

 

 

×

 

 

ll

 

 

蹂躙

 

 

=

 

 

滅殺

 

 

全身からバチバチと黄金のイナズマが発生し、その全てが拳に収束する。最大まで電気が蓄積された両腕は神々しく黄金に輝いた。デビルは限界まで肘を後ろに引き――全力を持って両拳をコッペリアが存在する前に突き出した。

 

「ダブルシックスパンチ」

 

 

DOUBLE SIIIIIIIIIIII・X!!

 

 

――バチバチバチバチバチバチィィッ!

 

――関東の空がぴかりと光った。その後、連続的な静電気音が周辺に響き渡る。なにも知らない人々が雨が降るのかと気にして空を見上げれば、ちょっとの雲が漂う逢魔時。首を傾げて何だったのだろうかと考えると、ふと思い当たるは雷を操る優しい悪魔。きっとどこかで敵と戦い自分たちを守ってくれたのだろうかと納得して人々は日常に戻っていった。

 

――全てが収まったころ地上に墜ちるは悪魔が一体。人形はもうどこにも居ない。

 

+++

 

施設内にバチリと電気音がしたかと思えば、ノーマルフォームへと戻ったデビルがへたり込んだアルテの前に立っていた。じっとこちらを見るデビルに、アルテは涙目で恨みがましく睨みかえす。

 

「……あ、悪魔……悪魔! 悪魔ッ!!」

「――悪魔だよ」

「いや! 離して!! ……う、はなして……よ――!」

 

慟哭する少女を抱っこする。アルテが悪態をつき精一杯の抵抗をするが、落ちないように優しくも力強く抱えられており抜け出すことはできない。アルテは辛くて声を殺して泣き出した。

 

「アビス。お前はどうするつもりだ」

「……いつも通りだよ」

「そうか……平気か?」

「どうだろうね。きっと平気じゃなかったからここまで来たんだと思う」

「……全員、お前の事を待っている。なるべく早く帰ってこい」

 

それを最後にデビルはアルテを気遣いながら外へと出て行った。アビスは立ち止まり動こうとしない。オルクスが恐る恐る近づいた。

 

「アビス様……?」

「……なんでもないよ。行こう。この先にシスター・イースターが居る……いや。どうやら向こうから来てくれたみたいだ」

「え?」

 

――奥の扉が開かれる。足音を立てずにこちらに来るのは丁度成人になりたてほどの女性。プラチナヘアーの長い髪に白い肌、瞼に隠された細い瞳に映る碧色。その人物は、わざとらしく神々しい純銀のシスター服型の魔装に身を包んでいた。

 

「約束も無しに訪問したあげく騒騒しくした上に、こんなに汚しちゃってごめんね。シスター・イースター」

 

純銀の聖女。『シスター・イースター』は自分の身体半分の大きさはある純銀の本を生成する。本は宙に浮き手に触れずともページが捲られる。

 

――とあるページを開いたとき本の動きが止まる。シスター・イースターはアビスを見て、にこりと微笑んだ。

 

「お会いできるのを心待ちにしていました。『夢明(むめい)たま』様」

「……たま?」

 

それが人の名前であることをオルクスはすぐには認識できず聞き返してしまってから、アビスの本名だと気付く。

 

「そう呼ばれるのは随分と久しぶりだよ」

「愛するものと永遠の別れを経験し絶望して立ち上がれぬあなた。こうして顔を合わせたのも魔装の女神の思し召し。あなたに再臨の奇跡をお見せしましょう」

 

――奈落に潜む夢が、現世へと顔を出す。それは果たして許されるものだろうか?

 

+++

 

「ひとみ!」

「……お姉ちゃん」

 

『秋葉自警団』の本拠地。その中にある客室に強引に連れてこられたアルテメット・アイドル――惹彼琉ひとみと姉である想衣が再会する。

 

「――ありがとう」

「……外に居る」

 

自分のお願いを叶えてくれた悪魔に想衣は純粋に感謝する。それに対して悪魔は淡泊な態度で外へと出た。その背中へ想衣は最後まで優しいねと微笑みを向けた。

 

「どうして?」

「ひとみ……」

「わたしのこと嫌いになったの?」

「ううん。大好きだよ。本当ならずっと傍にいたいぐらい」

 

ひとみは最初から気付いている。ブレイダー・デビルにお願いして自分をここに連れ出したのは想衣だという事に。

 

「じゃあなんで! なんでっ! 嫌だよ!! わたしもっと頑張るから! お願いだからずっと傍にいてよ! ――死なないでよ!!」

 

大粒の涙を流しながら縋り付く妹を、想衣は優しく抱きしめた。

 

「――私はもう死んでるよ」

 

――惹彼琉想衣は故人である。ひとみが魔装少女アイドルになる前に車に跳ねられて命を落とした。しかし、シスター・イースターの『固有魔法』によって現世に蘇った、正真正銘の張本人である。

 

「大好きだから、私のために辛い生き方をして欲しくないの。お姉ちゃん賢いんだよ。だから、ひとみが私を蘇らせるために沢山の無理をしているの知っているんだからっ!」

 

天才的なアイドルとして、ひとみはどれだけ中身がガタついていても元気な姿を取り繕うのは得意中の得意だった。しかし想衣は妹がすでに限界を超えて活動していることを見抜いていた。

 

――ああ、お姉ちゃんは何時だってわたしを妹として見てくれているんだったね。

 

ひとみは、想衣を何度も現世に蘇らせるために日に日に増す寄付(料金)を、つまりアイドル稼業で得てきた収入の殆どを対価として払い続けてきた。それだけではない。相手側が設けた想衣が現世に居られる時間外では過密なアイドル業を熟しながら、姉をネタに、無理に入れられる第3支部の講演やイベントなどによる無償出演を行なうなどしていた。

 

全てはなによりも大切なお姉ちゃんと過ごす日々のために、アルテは正に馬車馬の如く働かされていたのだ。

 

「ごめんね。ひとみとの生活が楽しすぎて……無理させちゃって……こんなお姉ちゃんでごめんね!」

 

――謝る必要はないよ。全部わたしが望んだことだよとひとみは反論しようとしたが、想衣が泣いている事に気づき声が出なくなる。お姉ちゃんが泣いているところ初めて見た。泣かせてしまったのはわたし? 

 

ひとみは何が正解だったのかわからなくなって感情を爆発させる。

 

「……あ、う、あああああ――!」

「いままでありがとね。ひとみのお姉ちゃんとして生まれて来て本当に幸せだったよ。これからは自分のために生きて……」

 

泣き出した妹を姉は涙が止まらないながらも抱きしめながら頭を撫でるなどして宥めはじめる。シスター・イースターとアビスの会合の結果がどうであれ、“妹”離れをする決意した姉の、最期の触れ合いだからと思いつく限りの言葉を送りつづける。

 

「……ひでぇ話ですね」

「ああ、ほんとにな」

 

客室扉前で話を聞いていた悪魔と『秋葉自警団』の団長である霧升は、姉妹の傷と絆を利用して甘い蜜を啜っている大人たちに向けて怒りを露わにする。

 

「四回戦の時も思いましたが相も変わらず協会ってのは、つまらない物語を作っちまうのだけは得意なようですね。死者を利用するなんてあっちゃならねぇ!」

「落ち着いてくれ。霧升。お前ほどの大人が感情的になると……俺が我慢できなくなりそうだ」

「ですが、もし姐さんがっ! ……すみません」

 

そもそも死者を利用して金を稼ぐ第3支部の大人たちの蛮行は、誰であっても吐き気を催すものだ。さらに言えば『秋葉自警団』一同は、見捨てられた街で生活していく最中、時には仲間を目の前で失うことがあった。そしてそんな死者の中には霧升にとっても大切な人であった悪魔の義母親も居るのだ。竜の逆鱗に触れるどころの話ではない。

 

「しかし、若、知ってしまったからにはこのまま放っておくにはあまりにもご無体じゃありませんか?」

「別に放っておくって話じゃねぇ。五回戦、アビスの相手が第3支部のリーダー。シスター・イースターなんだよ」

「なんですって? ……ん? 若!? こちらをご覧ください」

 

霧升が震動したスマホをポケットから取り出し、通知を確認すると驚き、悪魔に画面を見せる。そこには先ほどの施設内にて、ブレイダー・アビスの視点で映し出されるシスター・イースターが映っていた。

 

――『戦争決闘五番勝負』、最後の戦いが始まる。

 

 

 




姉は死者である自分には妹を救える事ができないと諦めていました。そんな時、悪魔が目の前に現われたのです。

ダブルシックスの『SI・X』で点が付いてるとか意味はあるけど、ストーリーとかには全く(きっと)関わらない作者の遊び心程度のものなので悪しからずです。

残りあと一回戦。ここまで来れたこと感無量です。よろしければ最後まで楽しんでいただけると幸いです。

そして、よろしければお気に入り登録、感想、高評価などしていただけたら幸いですd( ̄▽ ̄)←。


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夢明たま

感想、評価、お気に入り登録、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

暗い話が続きますが最後まで楽しんでいただけたら幸いです。


吾輩(ボク)は『夢明(むめい)たま』である。

 

父の顔は知らない。母も父が誰だか知らない。金銭を得るために汗水垂らして働いていた時に、うっかり宿ってしまったもので皆目見当が付かないのだ。客の中には道具を嫌う人が多く母が断然薬派だったこと、また仕事を完遂するとボーナスが貰えるため張り切る悪癖があったことが原因なのだろう。事実、『三途の川』に出戻りした姉や兄がそれなりに居たと言う話だ。

 

ボクを産んだ理由は、最も愛していた猫の代わりだった。母は『たま』という名前の猫を飼っていた。母にのみ懐き、客が訪れている時は決して姿を現わさないが母だけになると、すぐに傍で甘えだす。そんな可愛らしい性格の猫だったらしい。赤ん坊のボクはそんな猫のたまに替われる存在だったようで、自我というものが芽生えるまではきっとちゃんと愛されて育ったようだ。

 

母は可哀想な人であった。どんな人生を歩んできたか知る気はまったく無いが仕事が辛いこともあって人を嫌っていた。そして憎んでいた。それは血の繋がったボクも同じであり、だうだうという舌っ足らずな鳴き声から、人の言葉を覚えて話すようになり、二足で立って歩くようになったボクはかなり可愛くなくなったのだろう。ハハかママか忘れてしまったが、そう呼んだらブランド物のバックで殴られたことが最も古い記憶だ。

 

そんな嫌われるだけのボクが息をしていたのは母と同じく顔はそれなりに整っており、母の手伝いを出来たからであった。正確に言えば仕事が終わった後の延長時間をボクが担うことになった。母に誘われてきて家へとやってきた大人たちは最初こそ戸惑っていたが、母の客とだけあってかすぐに無邪気な子供のように遊び始めた。子供のボクにとってはハードであり疲れて眠ってしまうことも多かったが、その度にまだ遊ぼうよと強めな力で起こされることも多く、あの時は窓を見ては、太陽がもっと早く昇ればいいのにと思っていた記憶がある。

 

無知であった母は無知なりにあくどい事を考えていたようで、大人が遊びに夢中になりすぎて壊してしまうのを期待し、もしそうなったら高額の弁償料金を請求するつもりだったらしい。それを使って3代目たまを手に入れることが母の夢だった。しかし、母の思惑なんぞ大人たちには筒抜けだったのか、大人たちはどれだけ夢中になっても全壊するようには遊ばなかった。大人たちは次第に年を重ねて不健康であった母の相手をしなくなってきてきたこともあり、プライドを酷く傷付けられた母の憎しみは過激的なものとなる。

 

正しく奈落のような場所で生きた。彼女を通して人としての常識を培う中でインスタントラーメンが酸っぱくないことを知った。白い物が苦くないと知った 風呂と言う物が水をぶっかけられる行為でないと知った、布団が暖かいものだと知った。親と子とは手を繋いで笑いながら歩くものだと知った。

 

小学校でもボクは家と同じ役割を与えられた。理由は先生の中に何時も遊んでいる大人がいて、そこからボクの仕事しているのが漏れたとされる。大人たちと違って学校での遊び相手は獣同然の子供であり手心というものが無かった。プールの授業で錨のものまねを強要された時は流石に死ぬかと思った。ボクの分の給食が常にじゃんけんの商品で、子供が嫌う不人気なメニューばかりが皿に盛られるためにあだ名がゴミ箱であった。学校帰りには遊ばれた痕が残ってしまうことも多かったが、多様の傷は寧ろロマンだと大人たちには寧ろ好評となることが多く、母との稼ぎの差はさらに開くこととなった。

 

母はできるかぎりボクを視界に入れたくなかった。だから平日は学校から二度と帰ってくるな仕事が入ったら帰ってこいと見送り、休日は二度と帰ってくるな仕事が入ったら帰ってこいと外へと追い出した。どこにも行く当てがないと扉の前で音を殺して座っていると母が外にも届くほどの声量でボクのことについて飽きずにひとり言を吐き出し続けていたのを聞いている内に、ボクはふらりと外へと出て行き、焼却炉があるゴミ捨て場に居座るようになった。

 

――猫にも劣る畜生。死者になることを望まれる命。それが“夢明たま”だった。

 

+++

 

ブレイダー・アビスの視点で世界中に配信されている映像。そこに映っているのは第3支部のリーダー魔装少女シスター・イースター。恐らくジャスティス経由で生中継が成されているものだ。何も知らされていなかったアンギルは怒りを押さえ込み、配信者としてのプロ根性を総動員して必要最低限の仕事を行なう。

 

『――ブレイダー・アビス対シスター・イースター。戦争五番勝負、最終戦。開始!』

 

アンギルの開始宣言によって視聴者達はこの映像が『戦争決闘五番勝負』に関係するものだというのは分かった。しかし、何が起きているのか全く理解できず、同じようにアンギルも殆ど何も知らされていないので説明できることはなく、とりあえずは無事に終わって欲しいと祈りながら様子を見守る。

 

――オルクスはシスター・イースターを見て気持ち悪さを抱く。アビスの手伝いで悪い魔装少女を何人も見てきたがそれらとは違う、彼女から発せられる得体のしれない何かが直接胃を刺激してくる。

 

事実、生物が炎に見えるアビスの瞳には彼女は異形そのものだった。感情を持つ生物であれば炎は必ず揺らめいている。しかし、彼女を象る炎はまるで無風の室内で灯る蝋燭のようだった。炎色から他人を想う献身性が見て取れるが、逆に言えばそれだけだった。己という自我を構成するべき感情がどこにも見当たらないのだ。

 

――彼女は人として既に壊れている。だからこそアビスは確認をするまでもなく、知りたかったこと全てが真実だと分かってしまった。

 

「――〈固有魔法展開(エクストラ):フロムバース〉」

 

シスター・イースターは粛々と『固有魔法』を発動した。彼女の前の床から魔方陣が現われて、そこからゆっくりと純銀の棺桶が出てくる。

 

「随分と展開が速いね。ボクがここに来た理由とか聞かないのかい?」

「全て分かっています。あなたに救済を」

 

シスター・イースターは定められた装置のように答える。しかし、アビスが来た理由を知っているわけではない、彼女はこの聖地に来た人間は全て自分に救済を求めに来ているという考えを固定化しているだけに過ぎない。

 

『三途の川』からひとつの()が引っ張られるように降る。純銀の棺桶の中へとするりと入り込んだのをアビスはじっと見つめていた。

 

「……ボクは君に聞きたいことがあってね。いくつか質問してもいいかい?」

「なんなりと」

 

救われることに不安があるのであれば、それを取り除くために惜しむことはないとシスター・イースターは即答した。

 

「ボクの眼には『三途の川』と呼んでいる魂が行き着く先が見える。だから君の『固有魔法』が発動した時に『三途の川』から魂が降りてきて、その棺桶に入り込んだのが見えた。ボクにしか見えない物を証拠にして保証するのは烏滸がましい行為だとは分かってるんだけどね。……君の魔法は誤魔化しなしの死者蘇生だ」

 

オリジナルを模したコピーではない。『三途の川』にて洗い流される前の魂を降臨させて行なわれる死者蘇生だと、アビスは確かにこの目で見た。そして魂が入り込んだ棺桶の中で、徐々に炎が人の形を作っていくのが現在進行形で見えている。

 

「――たま」

 

名を呼ぶ声が棺桶から聞こえた。懐かしい声だった。アビスは反応しない。

 

「はい。魔装の女神によって与えられた魔法(奇跡)に偽りはありません」

「死者蘇生は“本物”だ……。だからこそ君に尋ねなければならないことがある」

 

――奈落の門を開くとはこういう事を言うのかなと、アビスは自分が起こしてしまう天変地異の如く大混乱を他人事のように考えていた。そして次にこんな自分の事を仲間だと言ってくれる彼らに苦労をかけると心の中で謝罪する。

 

「君は復活させた人間を次の日には天に還している。そうしないといけない理由があるんだよね?」

「はい。ひどく悲しいことですが魂を宿す肉体は、あくまでも土人形(ゴーレム)なのです。五感は存在しますが、胃のような物はあれど消化器官がないため食べた物はそのまま体内に残ってしまいます。血管のようなものはありますが血は流れていません。崩れた肌などは再生することなく風化し、劣化が始まると共に痛みに苛まれることとなります。なのでそうやって苦しまれる前に一度天へと還すのです」

「――たま」

死者蘇生そのものは本物であるが完璧とは言えない。復活するさいに与えられる肉体は言わば土人形(ゴーレム)であり、それによって生物とは違う異常が多く発生する。五感はきちんと存在するが、内臓は象るだけの模造品であり、生物が持つ新陳代謝の機能も無いため日が経てば経つほど肉体は劣化していくばかりである。だから第3支部は最長で一日半を目処に〈フロムバース〉によって蘇生された人間は再び天に還すという決まりを作った。

 

「ひどく悲しい事です……出来ることならば、永遠の命を持って再臨させたいのですが、旧世代の神々はそれを許してくれません。ああ、魔装の女神よ。命を玩び死を与え続ける彼らから救われぬ者を救い給え」

「ああそうだ。君の魔法は死んだ人を蘇らせることができる神の奇跡そのものだ――でも、“蘇らせるだけ”なんじゃないかな?」

「…………」

 

さっきまでとはうって変わって沈黙するシスター・イースター。そうした理由は第3支部代表()によって、決して漏らしては成らない秘密だと念入りに言いつけられている情報だからだった。だけど嘘も誤魔化しも出来ない彼女は沈黙こそが肯定になるとも知らずに微笑み続けている。

「――たまぁ……どこぉ?」

 

「君が再臨させて“殺した”後の魂を何度も見た――そこにあったのは苦痛だ。苦痛だけだ。人間らしい感情が全て鎮火し、喉があったら天地に響き渡るほどの絶叫を上げていたであろう苦痛しか残っていなかった」

「たまぁ――」

アビスは純銀の棺桶に眼を向ける。棺桶の中の炎は完全に人の形になっていた。

 

「――答えろシスター・イースター。君はどうやって蘇らせた人を天に還している?」

「こっちにきて……たま……」

――観客にしかなれないサイレント・オルクスが、まさかと正解を想像してしまい。強い吐き気に襲われる。

 

「――仕方のないことです」

 

シスター・イースターは、アビスを事情を知っている人間だと判断し、自分たちの会話が全世界に配信されていることなど頓着せず答えを語り出す。

 

「蘇った人の肉体は、あくまで土人形(ゴーレム)でしかありません。なので血は通っておらず、脳も心臓も模造品でしかありません。なので“普通の人よりも死ににくい”のです」

 

――〈フロムバース〉は確かに神の奇跡に等しい人間には過ぎた魔法である。その効果は死を迎えて『三途の川』に還った魂を土人形(ゴーレム)に宿して復活すると言ったものだ。しかし、逆に言えばそれだけだった。

 

「だから――」

 

〈フロムバース〉に死者を蘇生する以外の機能はない。製造する土人形(肉体)を改造することも出来ない。五感の有無を選ぶこともできない。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――“細切れ”にするのは仕方がないことなんです」

「――たまぁ こっちにきてよぉ、たまぁ……」

「夢明たま様。先ほどから“お母様”がお呼びです。なにか反応されては如何でしょうか?」

 

純銀の棺桶にて蘇生されたのは、夢明たま(アビス)の母親である事は聞き覚えがある声から分かっていた。

 

「母が呼んでいるのはボクが産まれる前に死んで、ボクが産まれる理由となった猫のことだよ」

 

だからこそ弱々しく呼び続ける声が、自分に向けたものではないことも知っている。

 

+++

 

――年月が経つと母親は次第に物事を考えられなくなった。認知症の類いに見えたが実際のところは分からない。なにせ人が嫌いな母は病院に行くことは無く、病名すら分かる機会が無かったのだ。それに不健康な母親の事だ。どんな病気を患っても不思議ではなかった。

 

段階的に感情をなくしていった母は怒り暴れるようになった。それが切っ掛けで客たちは完全に母を見限って去って行った。それから病気は進行してしまえば後は転げ落ちるものと聞いた通りに、対策も治療もしなかった母親はあっと言う間に寝たきり状態になった。

 

自分ひとりでは何も出来なくなった母は毎日譫言(うわごと)のように「たま」「たま」と呼ぶようになったが、ボクではなく猫のほうなのでうっかり返事を返してしまえば、「お前はたまじゃない」と叫び暴れる。なので呼びかけには一切答えずに居る事が正しい行ないだった。

 

反応さえしなければ乱暴をする事も罵倒を吐くこともしなくなった母。介護は大変であったが静かで穏やかな日々が始まった。正直言えば、もっと早くこうなって欲しかったとまで烏滸がましくも思った。

 

そんな母が死んだのは、ブレイダー・アビスになった時と同じ日であった。何時ものように母が買いあさっていたブランド物のバックや服を売りに行って、生活に必要なものを買いに行くために外へと出た。時間にして二十分ほどだったか、ボクの目に飛び込んできたのはアパートが勢いよく燃えている様子だった。

 

正義に調べて貰ったのだが自分が出掛けている間に同じ階に住む人が焼身自殺したらしい。さらにアパートにあった欠陥が幾つも重なって、火は燃え広がりアパートは全焼する事となった。

 

――こうしてボクと母の生活は終わりを告げた。

 

+++

 

――きっと、あの時も何度も何度も呼んでいたのだろう。唯一愛していた猫のたまを

 

どこまでも〈フロムバース〉は死者を蘇生することしかできない。そのため死ぬ前から記憶の殆どを失った人物を蘇らせたともしても健全な時の身体に戻るわけではない。忘却することは言わば魂に付着する記憶も減るのだ。なので蘇生された夢明たま(アビス)の母は自分で動くことができない。考えることもできない。ただあの頃と同じく、「たま」を呼び続けるだけしか出来ない。

 

「……そうですか。どうやら再臨する方を間違えたようですね」

 

感情こそ動いていないが、どこか残念そうに呟いた後。シスター・イースターは本を閉じて抱きしめるように抱えた。魔道具である純銀の本の中身には条件が当てはまり蘇生可能な人間が記載される。その内容には産まれてから死ぬまでを纏めた人物歴も載る。なので夢明たまをどんな扱いをしてきたのを知りながらシスター・イースターは、夢明たま(アビス)の母を蘇らせたのだ。理由はとてもシンプルなもので、死別した親との再会は彼にとって救いになるものだろうと言った具合である。人間特有の複雑な関係性を考慮する心はどこぞへと捨てられてしまったのだ。

 

「ああ、魔装の女神よ。再臨せし人を再び天へと還します」

 

天を見上げて祈りはじめるシスター・イースター。当然と言わんばかりに、当たり前だと言わんばかりに、仕方ないと言っていた通りに、どこまでも自然体な様子で言い慣れた風に“それ”を口にした。

 

「――〈魔法展開(スペル):ヘヴンズリターナ〉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァァぁア!アあアアあアアあ!アアアアアアアアあああアアアアア!アアアあアアアアアアアあアアア!アアあアア!アアアアアアア!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖職姿の怪物

SiStEr EaStEr

L e a d e r o f  t h e  3  t h b r a n c h

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「――魔装の女神のご加護を」

 

人の領域から完全にはみ出している狂信者を通り越した真性の怪物は眼を閉じて黙祷を行なう。

 

「うっ! おえっ――!?」

 

純銀の棺桶が消える。残ったのは色んなものが混ぜっ返した土の山。それが何だったのか理解したオルクスは吐くことを抑えられなかった。

 

アビスは静かに天に昇る魂を見る。今まで見てきた同じ苦痛に塗れた魂であった。

 

「――ああ、ほんと烏滸がましい」

 

母がこうなることを知りながらアビスは止めようとは思わなかった。“細切れ”になるのを止めたところで自分にできる事と言えば燃やすことぐらいで、苦しんで二度目の死を迎えるという意味では結果は変わらなかったと判断した。

 

そう思ったら理由なんてどうでもよくなって見送ったとアビスは訳も分からず笑いそうになった。これが恨みなのか怒りからか、それとも単に興味が持てないから来る反応なのかアビス本人も分からない。でも、母の叫びを聞いている時、心身が軽くなるような言いようのない気持ちになったのは確かだった。

 

そのあとアビスは『アーマード』のみんな。オルクスたち『元懲罰部隊』など親しい人物たちの顔が浮かびあがり、そして最後に彼女の顔が浮かんで、気持ちが底へと沈んだ。

 

「ボクは……所詮は畜生でしかなかったようだね」

「夢明たま様。先ほどは申し訳ありません。今度こそ再臨の奇跡によってあなたに救いを与えましょう」

 

変わらぬ態度でシスター・イースターは純銀の本を再び開いた。

 

「させない!」

 

オルクスが止めようと動き出す。“アレ”は生きていちゃだめな存在だとなけなしの魔力を振り絞って大鎌を生成する。オルクスはアビスの過去をよくは知らない。だけど大切な人が死んだ事だけは知っている。だから、今から行なわれるであろう非業を決して許すべきではないと、サイレント・オルクスは『懲罰部隊』とか関係無く、己の意志でシスター・イースターを殺す事を決意する。

 

「うっ!? ……そ、そんな!? どうしてですか奈落様!?」

 

黒い炎が壁となってオルクスの進路を塞ぐ、触れれば簡単に魔装が燃え尽きてしまう魔装少女にとって絶対的な壁に出現に、オルクスは信じられない気持ちを一杯に炎の壁を作ったアビスに問い掛ける。

 

「――ごめん」

 

それだけ言ってアビスは静かな歩調で歩き出す。

 

「〈固有魔法展開(エクストラ):フロムバース〉」

 

向かう先は純銀の棺桶。傍にはシスター・イースターがいるが彼女は微笑みを向けて見守るだけで動こうとしない。アビスはゆっくりとした動作で棺桶の蓋を奥へとずらした。その中には腕を組んで眠っている少女がいた。

 

「…………久しぶりだね。モニカ」

 

 

 

――夢を叶える時が来た。ゆっくりと瞼を開く少女をアビスはただじっと見続ける。

 

 

 





『三途の川』

『生命の樹』と同じく世界のシステムの一種。生物が生物としての存在を成り立たせるために必要な“魂”が循環する場所。死んだ生物の魂は、この“川”と呼ばれる循環装置にして魂に付着した生前の記憶や感情などの“情報”を削除していく。そして全ての情報を消した魂は改めて産まれてくる生物に宿るを繰り返す。

人の生は他の生物と比べても圧倒的に情報量が多いため、完全に削除しきるには50~100年は必要とされる。そんな魂の中には情報など削除しきれずに次の命に宿ることがあり、それらが前世の経験が、才能やトラウマ、あるいは記憶など何かしらに反映されることがある。

――全身を切り裂かれる痛みが削除しきれずに、来世へと共に降るのであれば必ず影響がでるだろう。

ちなみにアビスは魂に付着する炎を見て、自分なりに考察しているだけなので『三途の川』のシステムは三割ぐらいしか把握していなかったりします(何年かかる正確には分かっていないなど)

一周年前には2章を終わらせられるように頑張ります。


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ブレイダー・アビス

感想、お気に入り、評価、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

今回から最後まで物静かな展開になると思いますが楽しんでいただければ幸いです。


ボクは自分(ボク)を人と思ったことは無い。そもそも産まれた理由が猫の代わりだった。持論であるが産まれてくるものは等しく赤ん坊という生物で、それから親に愛され育てられて初めて人間という生物になるのだろう。なので愛されず、優しくされず、勝手に背が伸びた自分は人と成る機会を失った。

 

ただ、そんな生物が人になった気でいられた瞬間があった。それこそがモニカと一緒にいる時間だった。

 

出会ったのは学校に行く気すら完全に無くして焼却炉前でただ座っているだけの平日の昼だったか、切っ掛けと呼べるものはなく偶然にも何気なしに通り過ぎようとしていたモニカと目が合った。

 

――こんにちわ! と近づいてきた彼女は見たことのない明るい笑顔で挨拶をしてきた。でもボクは受け入れるわけでも拒絶するわけでもなく、ただぼーっと見ていた。それから彼女はボクの隣に座り、ぐいぐいと話しかけてきたのだ。その時の事を思い出す度に強引なのは最初からだったんだなと可笑しくなって笑ってしまう。

 

モニカのことについて知っていることは少ない。なにせ彼女は口数が少なく自分のことを話すことが希だったし、ボクの事を聞くこともしなかった。また感情が豊かだったため、意思疎通で困らなかったこと。ボク自身が人に聞くという能力がそもそも欠けていたと理由は多い。

 

それでも彼女との日々は幸せというものを与えてくれた。お土産と言って食べたアイスはとても美味しくて、半分こにしたアイスを食べている彼女の横顔を見るだけで、煙草やライターのとは違う、心地の良い暑さが全身を駆け巡った。

 

正直に話せば当時のボクは烏滸がましいながら、彼女を同類だと思っていたふしがある。なにせボクにとって同年代の人間というのは学校に行って感情的な振る舞いをしている人のことを言い。一方で彼女は平日でも休日でも関わらず昼になれば、ゴミ捨て場へと来て、帰るまで座って過ごすので自然とそう思うようになった。

 

だけど不幸な事は何もないと言った風に笑う彼女を見て、自分とは違い、ちゃんとした人間であるとすぐに認識を改めた。

 

だからボクは悪いことを考えてしまう。いずれは彼女はこんなゴミ捨て場(奈落)からボクを置いて地上(普通)へと戻って言ってしまうのではないかと。

 

どれだけ気のせいだと誤魔化そうとも、こんな所に永遠に来てくれるほうが不自然であることには気付いてしまっていた。だから孤独になるという恐怖と、モニカに会えなくなる日が来るという不安に強く支配された心に夢が芽生えた。

 

――ちゃんとした人となって、彼女とずっと居たい。

 

いま思えばこれこそ腹の底から吐き出したいほど烏滸がましく、到底赦されるべきではない他人からしたら悪夢同然の夢ですらない、自分勝手を極めた我が儘というべきものだったのだろう。

 

だけど当時のボクは初めてできた夢に浮かれまくって思い立ったら吉日と言わんばかりに、彼女にちゃんとした人になるにはどうしたらいいと尋ねると、少し驚きながらもちゃんと勉強する事かなと返事をしてくれた。

 

それを間に受けたというよりかは助言を貰うこと自体初めてで、まるで女神様からの地獄を抜け出すお告げのように、ボクはその日から知識を得ることに貪欲となる。学校にも通い出した。図書室でひたすら本を読み始めた。これも彼女から聞いた助言のひとつだった。

 

幸い咎める大人はいなかった。同年代たちもボクで遊ぶのは飽きたのか構わなくなってきたので、誰にも邪魔をされることなく色んな本をとにかく読んで、今まで無かった知識を次々と吸収していった。

 

教科書で常識を、絵本で技術を、図鑑で世界を、漫画で社会を。小説で他人を学んで昼の給食終わりに学校を飛び出しては彼女に会いに行って、一緒に動画を見て、時々話す。そんな生活を続けていくと次第に理解力が高まり、会話は無いにしろモニカの考えや思考を理解できることが増えて嬉しかった。

 

だから、彼女が夢を口にした時、ボクはなにも言えなかった。

 

小学校での生活ももうすぐ終わるそんな時だったと記憶している。彼女は唐突に魔装少女になりたいと夢を語った。理由は言わなかったし、聞く余裕も無かった。なぜなら自然とその夢を本気で叶えたいものだというのを理解できてしまったからだ。

 

魔装少女についてはこの時知っていた。逆に言えば当時は実物を見たことが無く知識だけとも言えた。今思えば要らぬ不安だったのかもしれない。でも当時のボクは図書館で見た魔装少女になるためにはという絵本の中身を鵜呑みにすることしかできなかった。

 

魔装少女になる条件は個人的に感じた印象を含めてひと言に纏めるなら“まともである”ことだった。まともは普通という意味だ。この時には蓄えた知識がある答えを出してしまっていた。ボクは生涯を犠牲にしたって普通になれないと言うことだ。ボクは彼女にとって“普通”の他人ではない。

 

まず父が分からない、もうこの時点でだめだ。普通じゃない家庭の子だ。母の仕事をしている。もはやメインはボクで母の2代目なんて呼ばれている。あってはならない、普通かどうか以前の問題だ。それ以外にも親から、大人から、同年代から与えられた七つを超える闇は手遅れなほどボクを犯している

 

つまり魔装少女に本気でなりたい彼女にとって産声を上げた時から人間失格なボクは夢を叶えるさいの邪魔者にしかならない。彼女はそんなこと考えていないのだろう。なにせ難しいことは結構適当なのだ。魔装少女になることを本格的に目指し始めたとしても、毎日とは行かなくてもボクに変わらず会いに来てくれる。そんな気がした。

 

――夢から覚める音がした。人の声か風の音に似ているそんな音だった気がする。理性がぶっ飛びそうなほどの悲哀というものを知る。辛いことは沢山あったけど、全てを忘れられるほどの衝撃を受けた。

 

確かに彼女はボクとの時間を捨てようとは欠片ほど思っていない。そう分かってしまったからこそボクという存在は必ず彼女を不幸にしてしまう、そんな答えへと辿り着いてしまう。具体的な理由は掃いて捨てるほど沢山あるが、ボクが夢を叶えてしまえば、ボク自身が彼女の“奈落”となってしまうであろう。

 

それだけは嫌だった。それだけは本当に嫌だった。烏滸がましいボクは彼女の夢を応援したい気持ちよりも遙かに強く、彼女に取ってボクが母のような存在になってしまうのが心の底から嫌だった。

 

――ボクは彼女と会うのを止めた。怖くてゴミ捨て場へと行けなくなったと言ってもいい。心の中で陳腐な言い訳を繰り返して本音を埋め、知識を得ることを現実逃避の道具にした。しかし、夢を失ったボクは生きる気力を削いでしまい。何事にも身が入らなくなる。

 

彼女に会いたい、彼女に遭いたい、モニカに逢いたい。

 

限界は割と早めに来た。気がつけば欲だけは人並みになってしまったボクは一ヶ月我慢したご褒美だと、とち狂った理由を付けて焼却炉に急いだ。あれだけ息を上げて走ったのは初めてだった。初めて無邪気になった瞬間だった。行けば居るなんて確信を持っていたわけじゃない。むしろもう居ないのが当然だと諦めていた。それでも、彼女との思い出の場所なんだ。そこに居るだけでボクは生きていける。もしも、なにかの拍子でもう一度モニカとであえるかもしれないという夢を持って一日を暮らせるんだと信じて疑わなかった。

 

 

 

――その日。ボクは彼女と再会しなかった。それから数年間ゴミ捨て場には近づくことはなかった。

 

 

 

+++

 

「……モニカ」

 

目が開かれる彼女を見てアビスは我慢できずに名前を呟いた。肩に掛かるほどの茶髪以外に特徴と呼べるものがない平凡的な少女。アビスがよく知っている彼女そのものであったが、その瞳には炎しか映っていない。

 

それでも棺桶の中の人物がモニカ本人であることをアビスは確信していた。なにせ炎の形が正しく想像通りのものだったからだ。それを無しにしても直感的なものが絶対彼女だと強く訴えていた。

 

「ふわぁ~……?」

 

よく寝たと盛大な欠伸をして背伸びをしようとするが棺桶に当たり、あれっ? と周辺を見てアビスに気付いた。モニカはギョッと目を見開き顔を青くする。そして全身を震わせて両腕でバッテンを作った。

 

「わたし、おいしくないよ?」

「――ふっ」

 

アビスのマスクは正面から見ると中々に恐怖を煽られる造形となっている。状況を把握出来ていないモニカは、そんなアビスのマスクを見て、化け物に捕まったと勘違いしてしまい、とにかく美味しくないアピールをする。

 

素っ頓狂な、だけど彼女らしい第一声と反応。そして仲間内からホラーゲームにそのまま出演できそうな見た目だよねと言われたのを思い出したアビスは思わず失笑してしまい、ビクッと余計にモニカを怖がらせてしまう。

 

「ごめんね。怖がらせるつもりは無かったんだ……“はじめまして”ボクの名前はブレイダー・アビスって言うんだ……その……」

 

喋り始めてすぐに感情が喉に引っかかり言葉を詰まらせる。それとは別の何かが膨らんで口から出てきそうになるのを我慢するだけで余裕がなくなってしまって次へと行けない。そんなアビスをモニカはじっと見つめた。

 

「……たま君?」

 

アビスは正体を見破られることを予想していなかったわけではない。妙に聡い彼女の事だ。もしかしたらという気持ちがあった。しかし、いざ言い当てられると筆舌しがたい幸福感に満たされる。その所為で最後まで隠し通すつもりだったのに、誤魔化す発想そのものがどこかへと行ってしまい静かに頷いた。

 

「久しぶり……一ヶ月ぶり?」

「そうだね。きっとそれぐらいだ」

「身長すごい伸びたね」

「そうだね。モニカが小さく感じるよ」

 

モニカはふくれっ面になった所で会話を終わらせる。ずっとこの日を待ち望んでいた。きっと話したいことも沢山あった。だけど変わらない必要最低限かも怪しい、会話量にアビスはどうしようもなく満足してしまった。

 

アビスが手を差し出すとモニカは機嫌良さそうに躊躇いなくその手を握って起き上がった。殆ど一緒だった身長は、今では平均的な男女の差ほど開きがあってアビスとの視線が会う角度が上であることに気付いたモニカはちょっと悔しそうにした。きっと自分のほうが年上なのにとか思って居るんだろうなと察してしまい、アビスはまた笑いそうになる。

 

――ああ、本当に烏滸がましい……。

 

アビスは視線をシスター・イースターに向ける。こちらを微笑んで見ているだけで動こうとしない。蘇らせた時点で彼女の役割は蘇生した人物を再び天に還す時まで不要になる。いつもであれば自分に指示を出す進行役の大人がいないこともあり、シスター・イースターは動くこと無く黙って見守り続ける。それがアビスにとっては純粋に有り難かった。

 

――ふと、背後の炎の壁の奥が気になったが、すぐに意識から無理にでも追いやる。

 

「ねえ。たま君」

 

意を決したように名前を呼ばれて、アビスは視線をモニカに戻した。とても緊張して、なにかを覚悟した初めてみる表情に、アビスは思わず面を食らって反応を返すことが出来なかった。

 

「私ね。魔装少女になったんだよ」

「……うん、知ってるよ」

 

――彼女は夢を叶えていた……はずだった。

 

「知ってたんだ……うん、魔装少女になったの、だからね……」

 

サプライズをしたかったモニカは、驚かせようとしたのが失敗となったことで少しだけ残念そうにした。だけど、それが本題ではないと立ち直り、何かを言おうとするも顔を赤らめて言葉が詰まっている。

 

「わっ」

 

彼女をずっと眺めていたいというのがアビスの偽りのない本心であったが、このまま時間が過ぎてしまえば烏滸がましい自分はまた余計な欲を生んでしまうと、強引に抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこというものだ。突然のことにモニカは慌てふためくが、どこか嬉しそうで、アビスは炎からモニカの感情の変化を正確に感じ取ったが気付かないふりをして歩き出した。

 

「あなたに救いを与えられたでしょうか?」

 

アビスたちが舞台から降りたことに反応して、シスター・イースターは定められていた問いかけを行なう。

 

「そうだね。……救われてしまったよ」

 

――シスター・イースターの所業は決して許されるものではない。でも彼女とこうして再会できたのは、彼女の『固有魔法』あってのもので、今まで穴が空いていた部分が確かに埋められたのだ。それが彼女の与える救済だというのなら、アビスは確かに心から救われてしまった。

 

アビスはモニカを気遣うように舞台から降りて、舞台と炎の壁のおおよそ中心部分で立ち止まった。すると周辺の床から炎が湧き出てきて、二人を囲った。

 

「たま君?」

「怖いと思うけど、もう少しだけ我慢してね」

 

不安そうにする彼女を下ろして、優しく抱きしめた。戸惑いながらゆっくりとモニカもまたアビスを抱きしめる。

 

――ボクは、最初にあった日、君を拒絶しなければならなかったんだ。

 

 

+++

 

 

彼女と最後にあって数年が経った。夢も無くし、生きる意味というものを完全に失ったボクであるが、どうしてか未だに息をしていた。もしかしたらもう一度だけ彼女に会える。そんな期待をしていたのかもしれない。幸いと言ったら皮肉にしかならないかもしれないが、母が寝たきりになったことでその介護や、人らしい生活をするための行為のおかげで時間を潰す術がなくなることは無かった。

 

――火事が起きて母が死んだ。家を失い行く当てもない。自由になったと言えば聞こえは良いが、ペット以下の扱いをされていた畜生が、いまさら首輪を外されたからといって、どうすればいいと言うのが正直な思いだった。

 

開放感はあったけどそれよりも、これから幸せに生きていけるという未来が存在しないという自覚による虚無感と絶望に勝っていて、思考はすぐに停止した。

 

そんなボクの身体は勝手に歩き出した。音もなくゆったりとして向かうのは例の焼却炉があるゴミ捨て場。ミスターに出会ったのはその道中だったと思う。他の皆と同じく明確な記憶が消されているのだ。誰かにあったことだけ覚えている。そして気がつけば『B.S.F』を手に持っており、その画面には手書きらしき文字で綴られた短文が映し出されていた。

 

 

 

------------------------------------------------

 

 

 

赦さないでくれ

 

己を奈落の化身にしたことを

 

忘れないで

 

奈落の底にも炎が灯ることを

 

 

 

Mr.

 

 

 

 

 

気がつけば変身方法が頭の中に情報として存在していたが、この時はどうでもいいとまったく気にしなかった。彼女が愛用していたために欲しくてたまらなかった『B.S.F』(スマホ)も、今更だと興味を無くし握りしめたまま存在を忘れてしまう。ただあの場所へ行きたい。彼女に会いたい。それだけだった。

 

――焼却炉前には人が居た。知っている女だった。小学校の時、ボクを虐めていた女性グループのリーダー。思い出せたのはあいつがボクのことを覚えていたからだ。視線があってすぐに顔を歪ませたあいつはヒステリックに罵倒を投げかけてきた。正確な内容は覚えていない。それほどに慣れきったくだらない内容だったとだけ記憶している。

 

――お前のせいだ!

 

それだけ言ってあいつは魔装少女に変身して、ボクを痛めつけ始めた。あいつはこうなるのが当然だと何度も何度も蹴り殴り絞めて壁に叩き付けた。何時ものように我慢しよう。そう最初は思って居た。そうすれば知らないうちに終わるから。

 

だけど、あいつの言葉を聞いて次第にボクは狂った。あいつがここにいる理由を知ってしまい怒り狂ってしまった。こんなのが魔装少女になっていたことで彼女を汚された気がしたのもある。腹の底から湧き上がる怨嗟の炎を燃料に肉体が動き出す。コイツに“同じ目に合わせたい”と立ち上がると、腰回りに異常な熱さが纏わり付き、自然と『B.S.F』を持つ腕が動いていた。

 

 

――――≪The abyss gate is opened≫――――

 

 

――これがボクの初めての変身。悪を倒すのでもなく、誰かを護るためでもない。ただ目の前の魔装少女(人間)を殺したくてたまらないという“殺意”によるものだった。

 

人々に救いを与える神聖な言葉だとは知らなくて、ボクは深い憎悪を込めて言い放った。

 

 

 

「変身」

 

 

 

――――≪Reach out!≫――――

 

 

 

感情()が制御できず己の身体を焼く、炎は全身に回り瞳は炭へと変化し、視界が炎に(まみ)れる。痛みが多い人生だったけど、それらとは比べものにならない熱さによる激痛に襲われて絶叫する。焼死体のように黒焦げとなったが意識ははっきりとしており、無理矢理片腕を前に出すと指先から黒ずんだ皮膚が剥がれていき、ブレイダー・スーツが露わになる。

 

――奈落でいい。炎でいい。いま目の前の魔装少女を燃やせるというのならば。ボクはボクたらしめた奴らと同じ存在でいい。明日という未来を黒焦げにする畜生でいい。

 

ボクは――ブレイダー・アビスだ

 

 

 

 

 

――――≪THE END≫――――

 

 

 

 

 

 

結局、ボクはあいつを殺すことが出来なかった。魔装少女としてのあいつを燃やして普通の女に戻した後、殴り殺そうか絞め殺そうか、それとももっと惨めに殺してやろうかとほんの少しだけ悩んでいると、突如として焼却炉の錆びた錠前が壊れて地面に落ちた。

 

奇跡的な偶然に意味を感じ取ってしまったボクは呆然になり、その間に彼女は逃げてしまった。自分から足取りを探す気は無いけど、どこかで死んで欲しいと心の底から思う。

 

――あの日。一ヶ月ぶりに訪れたゴミ捨て場の、使われていないはずの焼却炉の煙突から煙が上がっていた。錠前は付け直されていた、小さな血の跡があった。何が起きたのか知るには充分だった。だけど正解するのが怖くて答え合わせをすることができなかった。

 

――彼女がもうどこにも居ないことを知るのが怖かった。

 

とても幸せな夢を見ていた。一度は覚めたと思っていたけど、それも夢の中での事だったのだろう、ボクはまだ夢の中にいたんだ。モニカはどこかで立派な魔装少女になって、いつかもう一度再会できる。そんな夢だ。

 

――数年ぶりに彼女と再会したボクは夢から覚めて、きっと初めて泣いたんだ。

 

+++

 

「そういえば聞きたいことがあったんだけど」

「……?」

「ボクの事を探していた魔装少女と会わなかった?」

 

――モニカは気まずそうに笑って誤魔化した。その反応で自分の推理は正しかったと証明された。あいつがゴミ捨て場にいたのはボクが目的だった。魔装少女となったことでボクの存在は完全な汚点になったから消しに来たのかも知れない。モニカはそんなアイツに話しかけられて……。

 

「……怒ってくれたんだ」

「だって……たま君のこと悪く言ったから」

「……ごめん。ごめんね」

 

――たま君のせいじゃないと頭を撫でられる。悪いのはアイツだと顔を顰める彼女に違うと言いたかった。だけどアビスはこれ以上は烏滸がましい懺悔にしかならないと計画を実行に移す。

 

「あの日から、ボクが奪ってしまったものを……いま返すよ」

 

 

+++

 

 

459:奈落

望めばなんでもできる?

 

460:混沌

なんでもは言い過ぎたかな(^^;)

たとえば奈落の場合だと炎に関係しそうな事なら強く望めばできるようになると思う(≧◡≦)

 

461:悪魔

言い直してもらってもよくわからんな。

 

462:正義

これは悪魔、お前のスキルのほうがわかりやすいかもしれないぜ。電気でも雷でも、どっちでもいいが操れたとして肉体を強化できるとか、光の速度で移動できるだかは違う話ってな。

 

463:悪魔

そうなのか? 漫画じゃ大体そんな感じだったからあまり違和感なかったが。

 

464:正義

物理法則で真面目に考えるよりかは魔法の観点で考えたほうがわかりやすいかもな。雷属性を付与する魔法と身体強化の魔法は完全に別ものだろ? 

 

だが、デビルのスーツに電気を蓄積させると肉体機能が強化される能力は、雷ないし電気という元を基盤として行なわれている強化だ。まるでアシストスーツの概念だけを都合良く付け加えたようにも見える。にしたって限度知らずにも程があるがな。

 

465:奈落

その存在への解釈が、そのままスキルとして昇華する?

 

466:混沌

大体その考えであってると思う(^_^;)

ようは何事もイメージとそうであれと言う強い意志次第(╬•᷅д•᷄╬)

 

467:正義

俺の苦手な分野でまいっちまうぜ。まあすでに自分なりのものを完成させちまったし今更か。

 

468:奈落

ボクは炎に関係するものってことだよね。炎……どんなことができるんだろう?

 

469:悪魔

あー、炎といえば再生ってイメージもあるな。不死鳥だって炎の鳥っていうだろ? 傷とか癒せるようになるかもしれんな。

 

470:正義

昔っから神様扱いされている存在だ。命の干渉とかも普通にできちまったりしてな。それとも生命の創造とかか?

 

471:混沌

君たちいつも仲悪いのにこういう時だけ結構いうこと似るよね?

\(^ω^)/

 

472:悪魔

やめてくれ、なんか嫌だ。

 

473:正義

ナハハ、似てるってだけで全然違うぜ? まっ、あとは物体の加工から野菜炒めまで自由度だけで言えば混沌の次にはありそうだな。

 

474:奈落

命か……。

 

475:正義

念のために言っておくが冗談のつもりだったぜ?

 

476:奈落

ごめん。ちょっと考えてみたけどボクが操れるのはあくまで炎だけだから、加工はできても肉体を作る材料はどうするってなるし、魂を下ろす術も無いからね。生物の命をどうこうするのは無理だと思う。

 

477:混沌

逆に言えば、それさえクリアしたらいけそう´д` ;

 

478:奈落

そうだね……うん。理論上はできるのかな?

 

479:奈落

それさえどうにかすれば……できるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪THE END≫

 

 

 

 

 

 

 





かなり圧縮しました……。情報が抜けてないか心配です。

ミスターとの出会いは、みんなあんな感じで出会った時の記憶が殆どありません。なので独白だとどうしても淡泊になってしまっているといった感じです。

それではお待ちになってください次回。


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奈落の外

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ブレイダーの中で己が扱う『スキル』と言うものを十全に把握しているものは居ない。どんな感じのものが使えるかという基本的な情報が気がつけば頭の中に入っており、それ以外のことは感覚による手探りで何ができるのかを探さないと行けない。

 

使われている部品()がどういったものかを知っているカオスも、上手く口で説明することは出来ず。言い得てブレイダーの認識としてスキルは最初に定められた“概念”に沿っているものであれば、魔装少女が使う魔法以上、まるで神の権能の如く力を使えるという認識である。

 

ブレイダー・アビスの『奈落の炎』ができることは、大まかに分ければ精神を焼くことができる黒い炎を操ること、そして心を炎として見ることができる二つになる。しかし、誰にも秘密にしながら生み出した能力がひとつ存在していた。

 

炎に包まれるアビス。抱きしめられているモニカも一緒になって燃えるが熱さは感じず、寧ろ心地の良い暖かさに思考が微睡む。

 

一方で、全身を焼かれているアビスは常人であれば叫び続けてのた打ち回るほどの激痛に耐えながら、絶大な集中力で適切に作業を進めていた。

 

アーマーが、スーツが、そして中身が溶けていき、それらがモニカに被さっていく、まるで寝袋に入り込んだような暖かさにモニカは今にも寝そうになる。

 

炎を扱った加工には鋳造(ちゅうぞう)と呼ばれるものが存在する。それは金属を熱し、融解させて鋳型(いがた)に流し込み、最後に冷やすことで金属を望んだ形状へと固定するものだ。

 

アビスが行なうのは自分という存在を『奈落の炎』で溶かし溶湯(ようとう)化させ、モニカの土人形の身体(鋳型)に流し込む命の鋳造。つまりこれは己の命を贄にして行なわれる、不完全を完全とする死者蘇生の奇跡である。

 

アビスは溶けた命をモニカに流し込む。モニカの魂に付着している情報が細かな調整をアシストしてくれているため想像よりも簡単であるが、溶ける身体に、余分な己の精神()を燃やしつづけているアビスは、文字通り直接火に焼かれながらの作業となっている。

 

全身が焼かれる痛み。身体が溶ける痛み。心が燃える痛みに襲われ続ける。正しく奈落のような時間は永遠に感じられた。

 

それでも止める気は毛頭なかった。これこそがアビスの望んでいた事なのだ。自分の命を代償として、モニカを完全に復活させるのが今日、シスター・イースターに出会った真の目的だったから。

 

――自分がモニカの夢も命も奪ってしまったのだとずっと後悔していた。あそこは奈落だったんだ。彼女は本来いるべき場所じゃない。そこにしか生きることの出来ない畜生として、彼女を一刻でも早く突き放すべきだったんだ。それなのに初めて触れた光があまりにも心地よくて、その光ができるだけ傍で照らしてくれるように祈った。さらには同じ光となってずっと傍にいたいとまで考えた。

 

――夢を見た。目を開ければ覚めるような、そんな人の夢を。幸せで微睡みから抜け出せない、そんな夢に(うつつ)を抜かしたために、夢を叶えたはずの彼女は、その夢を命ごと奪われた。ボクの代わりに全てを失った。

 

――だから、命を、人生を、幸せな時間を、奪ってしまった全てを返す。

 

「リメンバー・オブ・アビス」

 

――――≪REMEMBER OF ABYSS≫――――

 

作業は最終段階へと入り、アビスはスキル名を宣言した。これにより残った細かな調整はモニカの魂に付着している記憶を頼りに行なわれることとなり、アビスの意識が途中で消えてしまっても作業が終わるまで止まることはなくなった。つまりアビスの死が確約されたという事でおある。

 

まるで竈門の中のように舞台も、天上も、壁も、その全てが炎に包まれるが、熱さを感じているのはアビスだけだった。

 

――体の感覚が消えていく、耳が焼かれて音は既に聞こえない、鼻も同じく。瞳は元からちゃんと機能していない。もはや熱さという痛みだけが自己がまだ存在している証明となっていた。そんな中でアビスは終わりを迎えられることに安堵していた。

 

アビスは『三途の川』の存在を知り、転生が実在するものだというのを知った。だから例え永劫の時を生きる事になっても転生してくるモニカが魔装少女となる夢を叶えるまで、もう二度と壊されないように悪い魔装少女を燃やし続けようと決意した。

 

――悪い魔装少女に恨みがあった。狂うほど激情と殺意を抱き続けた。復讐は中途半端に終わったことで心のそこら中に火種が残り、“黒い炎”を育て上げた。“彼ら”との出会いのおかげで多少はましになったけど、それでも消えることはなかった。

 

――あいつのような魔装少女を燃やすと心の温度が少しの間だけ低くなった。勝手我が儘なフェアリーを握り潰すと仄暗い感情と吐き気が込み上げてきた。

 

――誰かが善と言う、誰かが悪と言う、違う、ボクのは全て偽善悪()だ。ボクが燃やす根幹たる理由は、たった一人のための私情でしかない。それなのに好意的な目で見られることが、正直言えば苦痛に感じた。法の番人だと思われることに理不尽な気持ちになった。

 

――それが全て終わる。奪ったものを彼女に返してだ。まるで夢のようなこれ以上幸せな終わり方はないだろう。猫以下の畜生にしてはかなり長生きをした。これが天寿だと言われても笑って受け入れられる。

 

――ただ、贅沢を言うのなら最後にモニカを炎の塊ではなく、きちんとした人として見たかったな。

 

意識が途絶え徐々に考えられなくなる。痛みはとうの昔になくなっており、恐怖の感情も燃え尽きたのか死ぬと分かっていてもアビスの心はひどく穏やかだった。炎の塊にしか見えないモニカを惜しみつつアビスはゆっくりと瞼を閉じた。

 

――――――!

 

すでに音が聞こえないはずのアビスは確かに声のようなものを聞いた。すると二度と開くことのなかった筈の瞳が開き、ある一点に向いた。

 

アビスは見る。室内を埋め尽くす黒い炎、そして黒い炎の中にあった見覚えのある違う色の炎を。その炎の正体は――サイレント・オルクスだった。

 

+++

 

叫ぶ。叫ぶ。声が張り裂けて明日から二度と話せなくなってもいいとオルクスはアビスに向かって叫び続けた。しかし、既に耳が焼け溶けていたアビスにはもう届かない。

 

このままだと大切な人が死ぬと分かっていながらもオルクスにはどうすることもできなかった。ほんの僅かでも動いたら魔装少女としての力をあっと言う間に燃やす黒い炎に囲まれており身動きがとれない。

 

さらに、オルクスはアビスの目的を理解してしまったために足が動かなくなった。果たして邪魔をしてまで止めることが本当に彼の為になるのかと、このまま見送るのが正解ではないのかと。

 

だがオルクスはそれでも死んで欲しくなかった。大切な人なのだ。これが異性による好意なのか、親の様にと想う気持ちなのかは分からないが、オルクスにとってアビスこそ、モニカのような存在なのだ。“烏滸がましくも”生きていてほしかった。

 

だから、オルクスは己の夢とアビスの夢を天秤に掛けた。どちらに傾き落ちた所で結果がどうなるかわからない。それでもオルクスのしたいことは決まった。

 

――どうか届いて、私の夢は――あなたと一緒に居ることなんです!

 

「〈固有魔法展開ッ(エクストラッ)!!――リバーリーフ!〉」

 

なけなしの魔力を全て消費してオルクスは『固有魔法』を発動、他者の視覚への干渉を行ない認識力を操作する。アビスを対象に自分の存在感を限界までに引き上げた。

 

+++

 

オルクスに気付いたアビス。

 

思えば彼女たちとは奇妙な関係になったと思考が進む。アビスが『元懲罰部隊』の魔装少女たちを気に掛けたのは、自分とどことなく境遇が似ているからという同情心からである。心が壊れても仕方の無い日々を送ってきて、普通というものが欠けた人間と呼べるか怪しい女の子たち。

 

助けた責任をとってやれと言われて、行く当てのない彼女たちの保護者役となったアビスは、最初は戸惑うことしかできなかった。傷ついた子供の対応以前の問題であり、言うことは聞くが、少しでも目を離したら気配を殺して人目に付かない場所でじっと息するだけになる彼女たちにどう接すればいいのか分からなかったのだ。

 

――だから自然と過去を参考にするしかなかった。最初は動画を見ることから始めた。なにを話すわけでもなく、ただ四人で動画を見て、たまに言いたい事があったら口を開く時間を作った。最初は上手く行かなかった。オルクスたちの影響を気にしすぎて、つまらないものばかりを見せてしまったと思う。

 

それに気付いてから誰もが知っているような大手配信者や有名なゲーム実況者など、とにかくエンタメと呼べるものを手当たり次第見るようになった。その時間は過去を思い出すことが多くて辛いと思うことはあった。でも笑い声を出したり、感想を呟いたり、感情()が少しずつ活発になる彼女たちを見て、純粋に嬉しくなった。

 

それからアンギルに頼んでゲームやアニメなど娯楽を用意して貰って、一緒に色んなことをした。外にだって遊びに行った。水族館に動物園、遊園地とか思えば自分も初めてで戸惑うことが多かったけど……充実した日となった。

 

クリスマスはツリーを用意して、チョコレートケーキとターキーを食べて。炬燵に入ってゲーム大会になった。誰が言ったか日付が変わっても寝なければクリスマスは続くって話になって、皆が寝るのを我慢して色んなことをした。結局、まともに寝ることのできないボクが最後まで起きていて、慣れない後片付けを朝になるまでするはめになって、疲れ切ったあとの一杯のコーヒーは本当に美味しかった。

 

――コーヒーを好きになった。なんだか苦いけど美味しい黒い飲み物と聞いたのが切っ掛けで、香りが癖になって愛飲するようになった。銘柄とかに拘りはないけど、苦味と香りが強いのが好き、飲む度に、心にこびり付いた別の苦味が薄れていくような気がした。逆に砂糖とミルクを入れるのが嫌いだった。味とは別に苦いものを甘く装っているところが気に入らないってのはあったのかもしれない。

 

お気に入りの店に出会うと定期的に飲みに行くようになった。たまに正義にオススメだと教えられて飲みに行くけど、いつも癖が強いのが多くて感想に困ったりする。悪魔は苦手でなんでそんなもの飲めるのかって理解できない顔でパフェを食べる様子がなんだか面白くなかったので、わざわざ煙を吸うほうが理解できないと言い返したことがあった。混沌はカフェオレを飲んでいるところしか見たことがないので相容れない。そういえば失楽園も夜はコーヒー派だって言ってたっけ? 

 

第2世代の皆はどうなんだろう? こういったのを話したことなかったな。思えば随分と慕われていた気がする。()が見えるので困った事や悩み事があるとすぐに分かってしまう。それを放置するのも違うと感じ、それなりの対応をしてきたのが原因らしい。騎士や七色には頼れる先輩として見られてしまい。王様にも敬服される。希望には懐かれているのか、よく傍に来る。天使は正義たちと同じように接してくれているけど、とても気を遣ってくれているのが分かった。

 

そんな彼らの尊敬を裏切りたくなくて、ちょっとだけ格好付けたりもして、他愛もない書き込みが面白くて、気がつけば会話に入ることが日毎に増していって――

 

楽しかった?――――

 

アビスの肉体は既に溶けきっていた。しかし魂はまだ現世に留まっていた。夢に微睡んでいるはずのモニカの意識に問い掛けられて、正直に告げる。

 

――――うん、楽しかった

 

……君を時折、過去にしてしまうほどに気がつけばボクは楽しい“人”生を送ってしまっていた。

 

仲間が出来た、きっと友達とも言い換えられるそんな存在だ。保護するべき子たちがいる。家族と言ってもいいのかもしれない。こんな……こんなボクにだ! 君の死んだ理由になってしまったのに! こんなにも恵まれてしまった! 心のどこかで、こんな日がずっと続けばいいと思ってしまった! そんな資格があるはずないのに……っ!

 

よかった――――

 

――――モニカ……ボクは……

 

生きたい?――――

 

――――……君に生きて欲しい。

 

私もだよ――――

 

――――だけど……

 

私も、たま君に生きて欲しいよ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きだよ、たま君」

 

 

 

 

 

+++

 

炎は次第に小さくなっていき、最後には跡形もなく消えた。

 

「……そんな……いやぁ……!」

 

アビスは跡形もなく消えており、立っているのは一人の少女。オルクスは現実を直視できず悲鳴を漏らす。

 

「……素晴らしい」

 

シスター・イースターは、はっきりと己の感情による涙を流す。死者を蘇生する『固有魔法』を使えるからか、炎の中から出てきた少女が土人形の器ではなく、真っ当な人間として復活を果たしたのだと直感的に理解した。

 

「完全なる奇跡は実在したのですね。ああ、魔装の女神よ。いま個々に人類の悲願が現実のものとなった事に心からの感謝を!」

 

天に向かって微笑むシスター・イースター。床に涙を落とすサイレント・オルクス。

 

――歓喜と悲痛、相対的な感情に挟まれながら少女は目を覚まし(開い)た。

 

左目はまるで太陽のように輝く琥珀色。そして涙を流す右目の瞳孔は白く、黒い虹彩が炎のように揺らめいていた。

 

「……泣かないで」

【……ほんとうによかったのか?】

「……え? な、奈落様……?」

 

少女――モニカが持っている『B.S.F』から、死んだはずの奈落の声がした。ただし人の声というかは機械音声染みており、ブレイダー・ベルトから発せられる例の音声に酷似していた。

 

「うん」

 

元から口数の少ないモニカは首を縦に振るうだけでそれ以上の事は言わなかった。だけど“彼”にはきちんと心が伝わってきており、たま君と一緒に生きたいと“想”われてしまえば、なにも言えなかった。

 

モニカの腰にベルトが現われる。『B.S.F』を上から差し込んで倒す。パイプオルガンの二重奏が鳴り響く、低く遅く重々しい音、高く早く軽快な音が次第に合わさっていき完璧な一つの音楽として完成する。

 

――――来てくれるか?≫

≪墜ちるよ!――――

 

“彼”の――奈落の問い掛けに、ベルトに『B.S.F』がはめ込むとモニカは喉から声が出なくなり、代わりに奈落と同じ電子音声にて即答した。

 

 

 

――たとえ奈落の炎だとしても、()の周りには光がある。地獄(奈落)から抜け出せないというのならば、奈落でいいと言うのならば、せめて外側の存在となろう。

 

 

 

――――奈落の門が開かれる≫

≪天国の門がとじる!――――

――――蜘蛛の糸は不要≫

≪雲の上はむよう!――――

――――炎の外へと至り≫

≪ふたりで光となる!――――

 

――――ヘンシン――――

 

 

 

 

 

▥▥▥▥▥Each▥Other▥Abyss!▥▥▥▥
――――Each Other Abyss!――――

 

 

 

 

黒い炎が囲むように現われてモニカを照らす。炎の光が肉体に収束していき黒いスーツとアーマーに変化していく。

 

――モニカが変身した姿は紛うこと無きブレイダー・アビスだった。ただしフォルムは女性的になっており、ペンキを垂らしたような右目がなくなり、人間らしい両眼に変わっていた。そして背中には太陽色に輝く蝶の翅が靡いており、動く度に火粉が舞う。

 

「あなたは?」

「……そうだね。名前を付けるなら」

 

二人の魂が混じり合って再誕したモニカ(奈落)は人の声でシスター・イースターに咄嗟に考えた名前を告げる。

 

「――ブレイダー・アビス≒アウターライト」

【よろしく!】

 

 

 




アビス関連の特殊タグはあえてシンプルにしています。

次話はできるだけ早めに出そうと思って居るのでお待ちになってください次回! 
……言うて消化試合(ぼそ)


※謎のバグによってPC版だと後書きが中央揃いになっています。なにかエラーなどがあったらご報告ください。


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Happy Birthday to、

感想、評価、お気に入り登録、ここすき、誤字報告。本当にありがとうございます。



「――あとちょっとで終わりか、広い割にはすぐ終わってなによりだぜ」

 

四回戦が終わったあと、ブレイダー・ジャスティスは変身した姿のまま秋葉から魔装少女協会第3支部。最初に奈落が訪れた場所へと来ていた。

 

そんな第3支部の中でも上位の関係者のみが立ち入ることを許されるエリアにジャスティスは居た。彼の周辺には数十人の人間が倒れ伏しており、それぞれ違う体の部位を痛がりながら呻いていた。

 

そんな地獄絵図と言っても過言ではない場所で、ジャスティスは蹲って震えている中年女性に向かってショットガンの銃口を合わせ引き金に指を掛けていた。

 

「さて、なにか言いたい教えでもあるなら最後に聞いてやってもいいぜ? 教祖様」

 

――お高いスーツを着て宝石が付いた装身具を数多く身につける中年女性は第3支部の代表。シスター・イースターが主と呼ぶその人であった。

 

彼女をひと言で表わすならば正しく金の権化である。大金を手に入れる事こそが最重視するべきもの。大金を手に入れられるのであれば、それ以外は軽視する。そういった人間である。

 

代表に抜擢されるだけあって他者との付き合いは大得意であった彼女は、シスター・イースターの存在を知った時金になると判断して、紹介してきた“とある魔装少女”に言われるがままに管理を引き受けた。

 

元から精神が崩壊していた彼女を洗脳するのは容易く、経験と才能をフル活用した彼女は口先だけであっと言う間にシスター・イースターを首輪付きの怪物へと作り上げた。

 

「や、やめ……て……」

「はっ」

 

そんな元凶と言うほかない怪物クリエイターが震えて脅えている。どれだけの事をしでかしたとしても、彼女は普通の人間でしかない。それが分かる反応にジャスティスはわざとらしく鼻で笑った。

 

「仮に俺が引き金を引かないって言ったとして、お前はどうするつもりなんだ?」

「自首……自首する……警察に自首……するわ! ちゃんと国の法に基づいた罰を受ける!」

「――ふざけんな!」

 

第3支部代表の発言に待ったを掛けたのは、ばら撒かれる弾丸に偶々当たらず残骸化したテーブルに隠れ潜んでいた運営スタッフのひとりだった。

 

「こ、こうなってるのもお前が全部悪いんだろ!? なに一人だけ助かろうとしてるんだよ! そんなこと許されると思ってんのかよ!! ……な、なあ。俺は何も知らなかったんだ! 俺だってあれは無いだろって思ったんだ。だ、だから……」

「つってもな。シスター・イースターの件は本当に知らなかったとしても、それ以外ではかなり甘い蜜嘗めまくっていたんだろ?」

 

ここに居る時点で、命乞いしてきた運営スタッフは代表の側近である事は間違いなく、数多くの代表の行為に関して知らないことの方が多いのかも知れないが、ジャスティスの言うとおり、数え切れないほど手を貸して、その見返りとして沢山の礼を受け取ってきたのは間違いなかった。

 

彼が無傷なのは本当に運が良かっただけでしかない。隠れ潜んでいることはバレており、出てこなければテーブルごと撃ち貫いていた。

 

「ひっ! あ……た、たすけ――!!」

 

見逃されることはない事を察した運営スタッフは唯一の出入り口である扉に向かって駆け出した。愚かにも銃を持っている存在に無防備な背中を見せる形で。

 

左肩、脇腹、右太股(ドン! ドン! ドン!)と三発の銃声が鳴り響く。大きな悲鳴の後に呻き声がひとつ増えた。

 

「やめ……やめて……わ、私は人を救ってきたのよ。た、確かに“ちょっと”褒められないことをしたけども、みんなから感謝されたし、死人と再会できることに嘘はなかったわ!?」

 

恐怖のあまりパニックを引き起こした第3支部代表は、自分のやってきたのは正しい行ないだったと“正義(ジャスティス)”に語り始める。

 

「それに死人を殺しても罪にはならないわ!」

 

所詮は思考がまともではない状態、本音と言うべき持論が無自覚に漏れる。彼女は大金を手に入れることが最優先、道徳が欠けている事を除いても、犯罪者になって自由に浪費できない環境に身を置くのは嫌だった。

 

罪にならないと思ったからやった。死人を殺しても殺人にはならない。これこそが第3支部代表が絶対的に信じる免罪符。第3支部代表は死人を効率的に殺せる今の形態を考えついた時、虫を殺めたところで裁かれない、誰も見てないのならば赤信号で進んでも捕まらないという意識の下、躊躇いなく実行に移したのである。

 

「人を殺すのはなんであれ罪だから“殺人罪”なんだぜ? まっ、土塊の存在を人間として扱うかどうかは議論は必要になってくるとは思うが……もしかしたら、あれは単なるオリジナルに寄せたコピーでしたなんて言い張ればとりあえず殺人罪は回避できちまうかもな」

「でしょう!? そうでしょう!?」

 

ジャスティスの言葉に必死に同意する第3支部の代表。だからそんなごつい銃で撃たれるのは罪に比例して罰が重すぎると訴えようとする。相手が敵だからという理由で罪のない警察や自衛隊、果ては他国に対して攻撃を行なった人物(正義)である事を忘却して。

 

「俺は別にお前の事を敵とは思っていないからな。警察の手柄にしてやってもいいんだが――それだと都合が悪いんだよ」

「……は?」

「やりすぎたのさ。お前も『協会』も」

 

『戦争決闘五番勝負』によって露わになった『協会』の不義。トドメにシスター・イースターの倫理から外れた所業。これが教会だけに対する不信感になるのならばジャスティスにとって万々歳であったが、社会というのはそう器用にできていない。

 

一般人は魔装少女に強い恐怖心を抱くことになるだろう。それは確実に排斥思想を過激化させて、『協会』の大人たちだけではなく、それこそ罪のない普通の魔装少女を燃やしはじめる。それが原因で数多くの魔装少女が戦わなくなるのがジャスティスにとって最も避けたいことである。

 

だから国の司法に任せるなんて選択肢は初めからなかった。裁判は長い時間が掛けて行なわれる。その間に事件が風化してしまい魔装少女の恐怖だけが静かに根付いてしまう可能性が高いこと、また普通の人間同士と言うことで第3支部代表たちの発言を聞いて同情したものが、魔装少女を敵対視するなんてこともあり得ない話ではなく、刑務所送りにするよりも、口封じも兼ねて半永久的に続く痛みを与えて病院送りにしたほうが面倒な問題を起こしにくいというのがジャスティスの考えだった。

 

もはや『戦争決闘五番勝負』の勝敗関係無く、第3支部の大罪が露見した『協会』は、改革は確定事項であり、秋葉に居る有罪確定の上層部などは既に『落葉会』、『秋葉自警団』と連携したヴァイオレットによる“事情聴取”が行なわれているが、人々の溜飲を下げるには、それとは別に目立った生け贄が必要だった。

 

倫理に反した行ないの全ての元凶の一人であり、そうした理由は金を稼いで贅沢をすることだったと社会的な面からしても極刑を与えなければ法の存在意義が疑われるほどの罪人。それも変哲もない人間である。これ以上の適材は居ない。

 

それだけではなく、ジャスティスが派手に第3支部を強襲したのは自分が関与していることを大々的にアピールするためだ。こうすることでブレイダー・ジャスティスという存在は身勝手な憶測や感情的な行動に対する強い抑止力となる。

 

そして後にアンギルを通さずジャスティス本人から、シスター・イースターの一件に絡んでいる奴は全員撃ったと声明を出しつつ、代表や運営スタッフたちの後ろ暗いネタを報道陣営に流すことで、ヘイト管理をしやすい環境を作り、さらには『アーマード』が戦争を引き起こした明確な大義名分として宣伝してしまおうと計画を立てていた。

 

ーーだから、ジャスティスは撃つのだ。

 

「これを罰とは言わねぇよ。だが“夏休みを最後”にしないためにも、お前には地獄を味わってもらうぜ」

 

 

PAIN LOOP TIME
→→→→→→→→→
.10s.

 

 

「今から散弾を体内にぶち込む。それによって発生する痛みは十秒経てば消えて、また十秒後に発生する。それが死ぬまでループだ。痛みが発生した直後、誤認識によって心臓が一瞬、止まったりするらしいぜ?」

 

淡々と、これから自身の身に起きるであろう地獄に代表は、いっそ殺してと懇願するがジャスティスは無視する。

 

「医者は死なせないためにもお前をヒモか何かでベッドに括り付けるだろうよ。といっても肉体に強い負荷は掛かり、その分寿命は縮むだろうから想像よりかは早く終わるかもな」

 

檻の中だろうと、病院のベッドの上だろうと、永遠に続くと思われる激痛の中で自死を選ぶことは“社会”が許さない。

 

「最後になにか言いたいことはあるか?」

 

――最後の慈悲というわけでは無く、必ず“使える”から聞いた。なにせこういった人間の言う事なんて決まっているのだから。

 

「……わ、私は悪くない! 私は悪くない!! 私はわるく――」

 

 

――ドォン!

 

 

「……その言葉、しっかりと皆に伝えてやるよ」

 

――事が終わり、外へと出るために出口に向かって歩き始めたジャスティス。来たときと同じ道には警備員などやスタッフが痛みによる統一性のない悲鳴を上げていた。その中には真実を知って力無くへたり込んでいる信者などもいる。

 

そんな自分も関与している阿鼻叫喚の光景が第3支部のそこら中で広がっているが、ジャスティスは無い者の如く扱い、歩きながら『バックルピストル』の側面、つまり『B.S.F』の画面を見始める。

 

ジャスティスは“作業”をしている間もアビスから送られてくる視点映像を中継して全世界に流しており、自身もマスクの裏に表示させて見ていた。現に今もアビスとモニカの二人が炎に包まれたのを最後に暗転したままの映像をそのまま流していた。

 

ジャスティスは『戦争決闘五番勝負』の話し合いの最中、当時はまだ確信はしていたがあくまで予測の段階であったシスター・イースターの所業をアビスから聞いていた。なので四回戦が終わった後、アビスとシスター・イースターの対決とは別に、ジャスティスが第3支部へ赴くのは決定事項となっていた。

 

――なのでアビスは自分の死後の諸々の後始末やモニカとオルクスの保護などを全部ジャスティスにやってもらおうと考えていた。本来の目的を伏せていたので約束などはしていなかったが、『アーマード』のみんななら必ずどうにかしてくれると信頼しており、その考えは正しいと言えるものだった。

 

「あん?」

 

状況把握のために監視カメラにハッキングしようした矢先、唐突に視点映像が復帰し、馴染みのある声が聞こえてきたことで足を止める。

 

「……生きてるじゃねぇか」

 

予想を外したジャスティスの声色は明らかに上機嫌と呼べるものだった。

 

+++

 

――肉体という器に入る魂は原則ひとつ……だったんだけどね。今や『セフィロト』が破壊された影響で、世界が定めた法則はかなり融通が効くようになっちまった。恐らくあたしのこの状態だって、『セフィロト』が無いからこそ成り立った結果さね。

 

七色のトラブルに巻き込まれてしまった魔装少女。サンシャイン・ピーチこと桃川暖子の中には鬼美という別の心が存在している。その事を彼女を直接目にしたことで知った奈落は、自分の魂を別の人間に移動させる魔法の詳細を尋ねた。

 

――別に原理だけで言えば難しいことはしてないさね。この子の中……正確には母親にだけど自分の魂を入れる器を作ってその中に自我と記憶をくっ付けた己の魂を入れたのさ。

 

それ以上は教えてやんないよと話を強引に閉じられてしまい詳しいことは聞けなかったが、この些細な知識こそが奈落を現世へと繋げる要因となった。

 

生きることに未練があった。家族を置いて逝きたくないと思った。なによりも好意を寄せている異性と両思いだと知ったのだ。死にたくないと純粋に思った。

 

だから奈落は咄嗟の判断で、一か八か鬼美から聞いた話を元に、己の魂に自我と記憶を“溶接”した後、心身と繋がりがある『B.S.F』を器にして現世に留まることを選んだ。

 

「オルクス」

 

アビス≓アウターライトに変身した姿はモニカの体であるため、女性的なフォルムなのだが、その口元から発せられた声は男性の、つまり奈落の声だった。

 

現在、変身した事で魂が入れ替わり、人の肉体に奈落の魂が、『B.S.F』の中にモニカの魂がある状態となっている。それによって身体の主導権も奈落に代わっていた。

 

「え……は、はい!」

「心配掛けてごめんね」

「……っ! そんな……簡単に言わないでください!」

「ご、ごめん」

 

オルクスに初めて大声で怒鳴られ、さらに心中ではモニカから、それはあんまりじゃないの? と批判され、奈落は恐縮するしか無かった。

 

だからといって気の利いた事が言えるわけでもなく、悩んでいるとモニカから提案される。最初は戸惑った奈落だったが、モニカに何かあった時は私も一緒だと言われて奈落は観念したかのように決意を込めてオルクスに告げた。

 

「――もう死のうとは思わないから」

「……はい! ……一緒に帰りましょう、妹たちも待っています」

「うん……。――そんな顔だったんだね」

「アビス=アウターライト様、もしかして目が?」

「そうだね。君の顔がはっきりと見える。あと、アビスか奈落でいいよ」

 

アビス≓アウターライトの視界は今までのとは全く違うものへと変わっていた。まず生物が炎に、空が火の海に、そして無機物などは色がない景色ではなくなり、炎がなく色がついた、いわゆる普通の人間が瞳に写す景色となっていた。

 

そして今まで見えていた()は、多少見づらくはなったものの全身から発せられるオーラとして視認できる仕様となった。

 

――大切な家族の顔が見れる。当たり前の事が奈落にとっては、とてつもなく嬉しかった。しかし素直に感動に打ち震えていられる状況ではなく、奈落は思考を切り替える。

 

「……モニカ。ボクはブレイダー・アビスとして、『アーマード』として、やらないと行けないことがあるんだ……いいかい?」

【いいよ】

 

――奈落とモニカの精神は繋がっている。その影響は様々な所で現われており、記憶の共有も、そのひとつである。奈落はモニカの気持ちや自分に会いに来てくれていた理由を知った。そしてモニカは奈落の気持ちとブレイダーとして行なってきた活動を知った。

 

モニカはそれを踏まえてアビスの行なってきたことを肯定し、それが罪と言われるものだとしても一緒に背負うと、迷い無く断言したのだ。奈落はもうちょっと考えて欲しかったとも思ったが、同時に即答してくれたことに嬉しくなった。

 

【一蓮托生だよ!】

「うん、そうだね……一蓮托生だ」

 

シスター・イースターを見やる。こちらを見る彼女の(オーラ)は本物の復活をこの目にして感動し揺らめいていたが、逆に言えばそれだけであり人と呼ぶには足りないものが多すぎる。

 

「君には心の底から感謝をしている。借りだと言わればそうだね。なんでも願いを叶えたい気分だ……でも、ボクはボクのやってきたことを否定しないと決めたよ」

 

シスター・イースターがそもそも存在しなければ、モニカを完全に復活させる手段はなく、どこかで転生を果たすかも分からない彼女のために永遠に魔装少女を燃やすだけの存在になり果てていたのかもしれない。

 

であれば、世間的にどれだけ許されないことをしてきた存在としても、奈落にとってシスター・イースターは正しく恩人と呼ぶべき存在だった。

 

それでもアビスは生きていくことを選んだ。それが誰にも望まれない、母と同じく自分勝手に他人の人生を踏みにじる行為だったとしても。自分が定めたブレイダー・アビスとしての役割を、モニカと共に最後まで全うする道を選んだのだ。

 

「ボクはこれからも魔装少女を燃やし続けるよ……ブレイダー・アビス=アウターライトとしてね」

 

アビスの背中に入る炎で出来た蝶の翅が広がり、淡くも優しい光が舞台を照らす。

 

「――烏滸がましい奈落の“使”者【と私が!】……全てを終わらせよう」

「――――残念です」

 

敵対の意志をハッキリと見せたアビス≓アウターライトに、シスター・イースターは心を動かして本当に残念がる。逆に言えばそれだけである。たとえ夢にまで見た完全なる復活の体現者であれど、明確に害してくる相手は処理しなければならない。それが第3支部代表()から与えられた絶対に護らなければいけない教えなのだ。

 

「魔装の神の信仰を疑う冒涜者よ。代弁者としてあなたに神罰を執行します。〈魔法展開(スペル):インタースパイラル〉」

 

シスター・イースターは躊躇いなく、相手を殺し得る魔法を唱えた。

 

敵対者と認識したアビス=アウターライトに切っ先を合わせた十にも及ぶ螺旋状の槍が空中に出現。高速で回転すると石突きが爆発、銃弾の如く加速した。

 

シスター・イースターは自分の身が危険に迫った時の対処法もしっかりと教え込まれていた。彼女が記憶している攻撃魔法の数々は魔装少女を殺すものであり、そして物理法則を利用する事で人間をも殺せるもので揃えられていた。

 

――しかし、相手が悪すぎた。アビスが仰々しく両手を広げると蝶の翅から炎色の光が帯状に広がっていき、光の壁を作る。螺旋状の槍は光の壁に触れた部分から瞬く間に灰となって焼失した。

 

「熱くない? ……それどころか魔力が回復してる?」

 

光に当たったオルクスは疲労が抜けていき、さらには微量にだが魔力も回復しつづけている感覚に見舞われる。

 

害になるものを燃やす炎と、慈しむべき存在に癒やしを与える光。二つの側面を持つ『スキル』こそアビス≓アウターライトとなったことで手に入れた新たなる力である。

 

内心で奈落はスキル名を『奈落の炎』改めて『奈落の光』と改名する。モニカから安直すぎない? と指摘されるが、悠長に議論している場合じゃないと話を打ち切った。再考する気は無い。

 

「〈魔法展開(スペル):コフィンフォール〉。〈魔法展開(スペル):クロウズランサー〉。〈魔法展開(スペル):フェザーチェーン〉。〈魔法展開(スペル):マッドプレス〉」

 

シスター・イースターに対策を行なう発想はなく、ただ教えられた通りに順番に殺傷性の高い魔法を唱えていく、しかしそのどれもが空しく翅から放たれる炎色の光によって等しく焼失する。

 

「――無間に墜ちた怪物よ」

 

アーマーの表面から湧き上がる炎が蝶の形となる。一匹、二匹と数え始める頃には無数へと膨れ上がり、空へと自由に羽ばたいていく。

 

「くるりと廻れ」

【コンテニューロード!】

 

蝶の大群がシスター・イースターに迫り来る。回避や防御を行なうという発想ができずあっと言う間に飲み込まれた。

 

「――――――きれい」

 

蝶の群れ、その中身はまるで炎の中のから見える景色にも思えて、シスター・イースターは思わず呟いた。熱く息が出来ない、心の芯が溶けていき、自分を確立するものが順番的に無くなっていく感覚に見舞われる。同時に居心地の良い懐かしさを抱き、微睡みに抵抗せず瞳を閉じた。

 

アビス≒アウターライトはゆっくりとした動作で手を開いた。手の平に灯されたのは楕円状の炎。それをじっと見つめ――。

 

 

 

「▥▥▥Butterfly Abyss▥▥▥」
【――バタフライ・アビス――】

 

 

――手の平を優しく閉じて炎を握り潰した。

 

+++

 

シスター・イースターは夢を見た。自分が魔装少女となる以前の掠れた記憶の断片を再生するだけの、そんな夢。父と母、そして自分だったであろう小さな女の子を客観的に見る。笑って怒って泣いて……そして幸せそうにする少女をただ見続ける。気がつけば少女たちは居なくなっており、見覚えがある道で三つの影を踏んでいた。

 

道と影は次第に燃えて消えていく、それが何だか嫌で燃える影にそっと触れたが変わらない。最後には“無”としか表現できない空間でひとりとなったシスター・イースター。己の腕を見ればいつの間にか燃えており、瞬く間に全身に燃え広がる。

 

シスター・イースターは静かにそれを受け入れて微笑んだ。そして瞳から一筋の雫を流しながら灰も残らず完全に消え去った。

 

――なにも存在しなくなった“無”の空間に、どこからともなく一匹の蝶が現われて、ひらひらと当てもなく飛び続ける。いずれ宿り木となるものが生まれるまで。

 

+++

 

魔装少女の力を失いシスター・イースターだった無地のワンピース姿の少女が瞼を開き、瞳を動かして左右を確認する。次第に顔を歪ませていき、両腕を伸ばす。その姿は誰かを探しているようだった。

 

「――あ、あう! あうあ~! あ~~!!」

 

誰かを求める“産声”に答えて、黒い手が彼女の頭を優しくなで始めた

 

「あい~」

「――元気だね」

 

なでられることがとても気に入ったのか、嬉しそうにはにかむ彼女に、アビス≓アウターライトはできるだけ優しく撫で続ける。

 

「……終わったんですか?」

「そうだね。シスター・イースターという怪物はボクが燃やした。ここに居るのはただの女の子だよ」

 

――魔装少女の力だけではなく記憶を、経験を、人格を全て燃やされきった少女の心は純粋無垢な赤子同然となった。怪物であったシスター・イースターは死に、『三途の川』へと還ることなく名前も定まらない少女に生まれ変わったのだ。

 

少女は無邪気な笑顔でアビスの手を握る。

 

【かわいいね】

「うん。そうだね」

 

心だけが赤ん坊となった少女がこれからどうなるかは分からないが、怪物になることなく出来る限り優しく幸せな人生を送れるようにと、奈落とモニカは静かに祈りを捧げた。

 

「ふぅ……」

 

――とても長い一日だった。身体を動かしたくないほど疲れるのは何時ぶりだろうかと考えて、こんなに清々しい気分で疲れたのは初めてかと思い至る。腰を下ろして天上を見る。

 

「……きっと外の世界は綺麗なんだろうね」

「――はい、とても綺麗です」

 

奈落の代わりに少女(赤子)をあやしはじめたオルクスは嬉しそうに肯定した。

 

「でも、正直な話……暫くはここに居たいかな……」

「え? どうしてです?」

「……いま疲れすぎて、事情を話したりするの色々と億劫で……」

「えぇ……」

 

夢を叶えた奈落にはこれからブレイダーや『アーマード』としての後始末という現実が待ち受けている。この件についても詳しい説明をしなければならないだろう。心配を掛けたのでみんなに怒られるのも想像難くなかった。

 

少女が目覚める前に視点映像を切ったのだが、それからというものの通話や通知などがガンガン掛かってきており、奈落は現実逃避気味にふかーいため息を吐いた。

 

「――なんて思うのは烏滸がましいかな?」

「はい、その通りです。みんな心配していますよ?」

「ちょっとだけ休憩したら頑張るからさ。それまで大目に見てよ」

「もう……仕方ないですね」

 

以前では考えられない奈落のちょっとした我が儘に、オルクスは困りながらも笑みを浮かべながらそう答えた。

 

――こうして最終戦はブレイダー・アビス≒アウターライトの勝利に終わり。『戦争決闘五番勝負』は三勝二敗にて『アーマード』の勝利で幕を下ろした。

 

【はい、もしもし?】

「あ……」

【――うん、わかった。アビス、代わってってー】

「……今から帰るのでちょっと待ってって伝えて……」

 

モニカが通話に出たことで観念した奈落は仕方ないと外へと歩き出したのだった。

 

 




いつも以上にアレな文章になっている気がするのですが楽しんでいただけたのならば幸いです。

次話で2章は終わります。その時活動報告で色んな余談や3章についてなど書いていきたいなと思いますので、それまで前書き後書きは控えめにいきます。一般のスレ回は番外編で書きたい……書けるかこれ……。



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おわり、そしてつづく

感想、お気に入り登録、評価、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。
総合評価が6000になっていました。二章の終わりにここまでこれたこと本当に感無量です。改めてありがとうございます。

これを機会に章タイトルを変更しました。よろしくお願いします。


今回はエピローグとなっており短いです。それでも楽しんでいただけたら幸いです。


『戦争決闘五番勝負』による全ての戦いが終わった後、秋葉自警団本部、その屋上にて悪魔は転落防止用に設置された鉄柵によりかかり、想衣はそんな悪魔の隣に立っていた。

 

屋上へと来ていたのは妹のひとみが泣き疲れて眠ってしまった後。剣呑な空気をまき散らしている悪魔を想衣が誰もいないところへと行きたいから連れて行ってと誘ったからである。屋上に来てからしばらくはどちらも喋らない居心地の悪い時間が過ぎて、耐えかねた悪魔は煙草に火を点けた。それを待っていたかのように想衣は口を開いた。

 

「……今日出会ったばかりの、私のお願いを聞いてくれてありがとね」

「……結局、迎えに行ったぐらいしか出来なかったけどな」

「ううん、一番して欲しいことをしてくれたよ」

 

彼女はシスター・イースターによって蘇生された人間である。奈落の視点映像から全世界にへと暴露された。本物であれど非道な死者蘇生の真実。復活した人間は細切れにして殺されるという結末を迎える。それは想衣とて例外ではなく、彼女も奈落の母と同じように“何度も”『三途の川』へと還った。

 

「お前は何回……」

「うーん。途中から数えないようにしたから正確な数字はわからないけど、多分二十回以上かな?」

 

それは彼女が無惨な方法で殺された数字でもある。想衣は殺される時の苦痛をハッキリと覚えている。どこを切り裂かれても決して即死する事ができず、自分が段階的に消えていくような感覚と同時に、全身をナイフで切り裂かれるような最後まで終わりのない激痛。それが肉体から魂が剥がれるまで続くのだ。運が悪い時は二十秒は意識が残っていた事があった。

 

「どうしてそこまで?」

「実は私も重度なシスコンなんですよ……。ほんと私ってバカだよね。妹に会いたいからって苦しい思いさせちゃうんだからさ……」

 

狂気としかいいようのない目に会い続けても想衣は姉である事を辞めなかった。それが妹が身を削る理由になったとしても、尊敬される姉で居続けることを選んだ。だから、誰かを恨む事は無い。想衣にとって細切れにされて殺される事なんて、愛する妹と過ごすために必要な代償ぐらいでしかなかったのだ。

 

(いだ)く想いは、そんな自分のちっぽけなプライドのために、ひとみを苦しめてしまったという一点のみである。

 

「結局、私は自分勝手な姉でしかないんですよ」

「んなことねぇよ……お前は良い女だ」

「……おや? もしかしてこれは世界的なヒーローである悪魔さんのハートを射止めちゃいましたか?」

「ああ、そうだな」

「あらら……え、ほんと?」

 

最初こそ冗談でしかないと思ってわざとらしく返事したが、悪魔の雰囲気から本気であることに気づき想衣は目を見開くほど驚いた。

 

「嘘言ってどうする」

「あー」

 

悪魔はずっと噛んでいるだけだった煙草を吸う。想衣は気恥ずかしそうに頬を掻いた――掻いた部分の皮膚がボロボロと零れ落ちる。悪魔は正面を見続けたまま静かに煙を吐いた。

 

「うー……因みに妹と比べてどうですかね?」

「お前の方が好みだな」

「……おかあさんを思い出せたから?」

「マザコンなものでな」

 

最初の蘇りの時、再会を記念して妹から貰った服の間からぽろぽろと砂土が断続的に零れ落ちはじめる。

 

「そっかぁ。ひとみよりも私がね……ふふっ、初めて言われちゃったなぁ」

「……そうか」

「あ、別にひとみはめっちゃ可愛いので、選ばれなくても嬉しいんですよ?」

「だろうな」

 

――アビス=アウターライトによってシスター・イースターは完全に焼失した。この事で彼女の『固有魔法』〈フロムバース〉も存在そのものが焼失した。それはつまり惹彼琉想衣という“死人”を現世に留まらせる魔法()が無くなった事を意味する。

 

「……妹の元に戻らなくていいのか?」

「うん。お別れはさっきしたし、もう死ぬところを見せたくないから」

 

最後の時間を、ひとみと過ごす事に使いたい気持ちはあったが、死に目をもう一度見せるほうが辛かった。それにようやく安眠できたひとみに、想衣は姉として今はただゆっくりと眠って欲しかった。

 

「――想衣。これは提案なんだが」

「うーん。それには同意しかねますねー」

「まだなんにも言ってねぇよ」

「これ以上誰かに迷惑を掛けるのは嫌だから、できたとしても惹彼琉想衣として生きたいとは思わないかな? といっても未練が無いって言ったら嘘になるんだけど」

 

――アビス≒アウターライトのスキルならばモニカの時と同様に彼女を人間として完全なる蘇生を行なうことは可能である。ただしアビスが己の命を材料としたように、誰かの犠牲に成り立つ復活となる。

 

想衣はそんな誰かを犠牲にした罪を背負ってまで生きたいとは思わなかった。ただもうひとみの姉は今日で本当にお終いになるんだと考えて、ちょっと嫌になった。

 

「怖くないのか?」

「死に慣れちゃったからあんまり? それに安心はしたから」

「……安心ってなんだよ」

 

悪魔は耐えきれず声を固くしてしまう。怒っているようにも聞こえるが、それは気遣いから色んな感情を我慢しているからだと想衣はちゃんと分かっていた。

 

「私に会えなくなった後の、ひとみがどうなるのか不安だったんだけど、もう大丈夫かなって思えたんだ」

「わかんねえな」

「んー。言葉で説明するよりも私を見てくれたほうが分かりやすいかも」

 

――悪魔は少し躊躇いながら想衣の方へと顔を向けた。彼女は顎を上げて瞳を閉じていた。悪魔は頭を乱暴に掻いたあと、ゆっくりと背中を丸めた。

 

「「――――」」

 

――死んだ時から成長していない少女と平均よりも遙かに高い男性の影が重なり合う。

 

「……煙草、私には合わないかも」

「そうか……残念だ」

 

そう言いながらも幸せそうにする想衣。劣化は止まることなく進行しており、顔には幾つもの罅があった。服で見えないが全身も似たようなもので、いつ崩れ落ちてもおかしくない状況だった。

 

「そういえば初めてだった。悪魔さんは?」

「……二人目」

「実は社会ではおかあさんはノーカンってルールなんだよ? あとほっぺとかだよね?」

「なんで分かるんだよ……」

「悪魔さんはマザコンだって知ってるので……ん」

 

想衣はもう立っているのも難しいと鉄柵を背中に預けて座る。その隣に悪魔が座ると肩にもたれ掛かった。もう煙草の匂いが分からない。

 

「……嫌な役押しつけてごめんね」

「べつにいい」

「ふふっ……正直そう言ってくれると思った……2回目の一生のお願いしていい? ひとみをこれからも助けてください」

「……ああ」

「えへへ、やっぱり……安心だ」

 

――ひとみも彼には心を開いている。自分以外に甘えられる存在ができたのだ。その彼が妹のことを見守ってくれると了承してくれたのだ。ちなみにそんな彼は世界で一番強いヒーロー。不安になる方が失礼と言うものだ。

 

「悪……魔さん……」

「なんだ?」

「……ううん……。呼んで……みた……だけ」

「……そうか」

 

忘れてくれればいいよ。あと数年したら妹は自分より絶対に美人になるよなどと言おうとしたが、想衣は寸前でやめた。悪魔は自分を決して忘れない。過去にしても思い出には絶対にしない。それを理解している想衣は、最後だからいっかと彼に素直に甘えることにした。

 

――ああでも、やっぱりお姉ちゃんは。

 

「悪……魔さん……」

「ああ、ここに居る」

「――――おやすみなさい」

 

――妹のことがちょっと心配だな。

 

 

 

 

 

 

「…………()げぇ」

 

隣にはもう誰も居ない。妹からのプレゼントである衣服だけが残された。好きなはずの煙の味が、このひと吸いに限ってはひどく不味かった。

 

 

+++

 

 

 

――第3支部の地下。そこには飼われる事を選んだフェアリーたちの巣が存在する。

 

 

だれ?

daredaredaredaredaredaredaredareまたきたの?

daededaredaredareごめんなさい!

ちがう?

だれ?daredaredaredaredare

daredarededdaredareareあれ?

 

 

外で生きることを止めて、巣の中でしか生きることが出来なくなったフェアリーたちは、巣の中にまた誰かが入ってきたとざわつきだす。物質世界で生きることを諦め、元居た世界と同じく光の玉の状態で生きていく事を選んだ彼らに、物質生命体のような五感は存在しない。

 

そんなフェアリーの中で、来客の“魔力波長”に覚えがあるものたちが複数居た。落魄れた思考を回し、誰だったかと思い出す。

 

――そうだ。彼女は自分たちにこの巣を提供してくれた魔装少女――――――。

 

 

「――屠殺の時間だよ。家畜共」

 

 

――それから数十分後。空っぽになった巣を後にして魔装少女は外を歩いていた。継ぎ接ぎだらけのポンチョで全身を隠しており、その手には機械的な筒が握られている。

 

「ちっ」

 

魔装少女は不機嫌そうにスマホを取り出して、あるところに通話を掛けた。

 

≪は、はい……≫

「ねぇ聞いてよ“カーペンター”! 一番でかく作った第3支部の巣! そこのフェアリー皆殺しにして『因子』を回収したんだけど、めっちゃ少なかったの! 他の全部合わせても千もないって予想外すぎる! あのババアどんだけ使ったんだよ!」

≪ひうっ!? と、突然大声で話さないでよ……≫

「イライラしてるから当然でしょ! まあもういいけど、はぁやっぱりストレスって相手にぶつけるのが一番の解消になるよね~」

≪えぇ……≫

 

そのストレスを押しつけられた通話先の相手――カーペンターは理不尽だと不満の声を漏らす。

 

「ンーアー。というかさ。“予言”外れたじゃん。なにもしなくてもアビス死すって聞いたのに、なんだあれ? 復活したの? 混ざったの? 気持ち悪すぎて理解の範囲超えるんだけど?」

≪で、でも元々、クリアちゃん50%ぐらいで、なんか違う事が起きるって言ってたよ?≫

「ほんと役に立たないなぁ。おかげでシスター・イースター殺されたじゃん! まあでも仕方ない。失敗は誰にもあるから今までの溜まった功績ポイント帳消しにして許してやんよ」

≪マ、マイナスが大きすぎる……≫

「せっかく無限コンテニューが出来るって思ってたのに、一回も使うことなく殺されちゃうのあんまりすぎ。それに『懲罰部隊』が絡んでるなんて、ほーら私の言った通り失敗作なんだし、さっさと処分しとけばよかったでしょ?」

≪……言ってないし、なんなら面倒だから忘れるって言ってたような……≫

「そんなこと忘れたね。私は今に生きてるんだ」

≪えぇ……≫

 

なにか裏があったわけではない。この魔装少女は『懲罰部隊』を結成するために集めたオルクスたちの育成に携わった時、途中で失敗作だなと計画そのものを見限って、嵌まらなかったゲームのように飽きたからと放り投げたのだ。それからは巻き込んだ奴らがどうなろうと知った事ではなく、忘れてはその場の思いつきで別の何かを初めての同じ事を繰り返していた。この魔法少女はそういう人間なのだ。

 

オルクスたちに関しては先ほどまで完全に忘れていたのだが、シスター・イースターは大当たりのガチャとして、しっかりと覚えており、管理こそ第3支部代表に放り投げたが、しっかりと覚えていた。

 

――死んだ人間が蘇って生活しているという噂を聞きつけて、とある家へと赴いた魔装少女が目にしたのは、あらゆる調理器具と二人分ほどの土塊で散乱した空間の中、心が壊れていた後にシスター・イースターになる彼女。

 

『固有魔法』がどんなものか知った魔装少女は、彼女がいれば例え死んでも無限に復活してやり直せると本気で思い。育てられそうな第3支部代表にマッチングしたのだ。その自分が考えたことがきちんと成立するかなんて、魔装少女からすればどうでもいいことだった。

 

「ンーアー。それにしても協会はもうオワコンだね。よし! ここは軽快に本部とか支部とか全部爆破しようか! カーペンター!」

 

明日から『アーマード』は本格的に『魔装少女協会』に深く関わってくる。こうなってしまったら協会はあるだけ邪魔になると、自分が積み上げてきた地位や立場など元から無かったかのように跡形もなく消し去ることを即断する。

 

≪……え?≫

「え?……もしかして爆弾設置してないの? ダイナマイトとかでもいいけど? ……まさか協会本部とか地下施設とかにもなんもしてない感じ?」

≪だ、だって聞いてなかったから≫

「お前は本当に馬鹿だなぁ! そういえば今まで『アーマード』に襲撃されて爆破しないなって思ったことあるけど、まさか用意すらしてないとは思わなかった! ロマン欠け過ぎてまじドン引きものだよ!」

≪ご、ごめんなさい……?≫

 

勢いに押されて謝ったが、なんで怒られてるんだろうとカーペンターは彼女の言うことをちっとも理解できなかった。

 

「んで。秋葉に沢山の『次元の狭間』を作ってしっちゃかめっちゃかにするって計画はどうなってるの? どこ見に行っても、大惨事のだの字もないんだけど?」

 

魔装少女は『戦争決闘五番勝負』で沢山の人間が来訪するということで、秋葉の『次元の狭間』を人為的に開いて、大混乱に陥れる計画を立てており、それが出来るカーペンターは現在、秋葉にてその作業を行なっていたのだが、結果を言ってしまえば計画が遂行される前に全て失敗に終わっていた。

 

≪そ、それが、狭間を開けたと思ったらいつの間にか閉じてるんだよ……≫

「はぁ? なんで?」

≪わ、わかんない……あ、で、でも……なんだか珍しい毛色をしたわんちゃんに何度も出会ったんだけど、可愛かったなぁ≫

「それなにか関係ある? 絶対ないよね? はーつっかえな。お前って本当に作ることしかできないよね」

≪あうぅ……≫

 

その“創作する”という一点においては、正に神技の技術を持つカーペンターであっても、この魔装少女にとっては、自分のやって欲しいこと“すら”出来ない時点で駄目な奴である。

 

≪あ、あの、アルメガはこれからどうするの?≫

「ンーアー。『協会』役にもクソにも立たなくなった以上、これからは私たちで独立して動かないと行けないよね。まっ、想定よりも少ないけど沢山の『フェアリーの因子』も手に入ったことだし? なんとかなるでしょ。方針はこのまま変えるつもりはないよ」

 

魔装少女――アルメガは笑う。最後に勝つのは自分だと信じて疑わない。そんな態度だ。

 

「経過なんて要らない。でも始まり(アルファ)終わり(オメガ)は全て私のものだよ……カーペンター。みんなを集めて」

≪う、うん。わかった≫

 

 

 

――敵が、今日をもって表舞台にあがった。

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【奈落】言われた通り事情を語るスレ【1000】

 

 

1:奈落

 

ただいま

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※このあとまずはじめにボコボコに責められたもよう。


これにて2章は完結です。ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございます。最後まで書き切ることができて本当によかったです。

よろしければ感想や評価などよろしくお願いします。
( ̄ ▽ ̄)kykyuukyuukuukyuukyuukyuu
ほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしい





――――


三章。『北陸支部告白編(騎士編)』&『北陸支部友愛編(天使編)


どっちも百合メインです。ブレイダーは添えるだけ(多分嘘です)



↓活動報告で余談や裏話、3章の予定などを書きました。よろしければ見てください。
十人ヒーロー2章完結。――余談――




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間話2
【鍵】戦争決闘五番勝負最終戦について語るスレ【閲覧注意】


感想、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここすき本当にいつもありがとうございます

章に入る準備や新作の準備がそれなりにすすんだので、とりあえずと思い投稿しました。

今回から暫く番外編となっており不定期更新が続きます( ̄▽ ̄)それでも楽しんでいただけたら幸いです。


1:スレ主

ここはSNSで募集をかけた戦争決闘五番勝負最終戦アビスVSシスター・イースターの戦いについて語る鍵スレです。

ここで話した内容をそのまま外部に流出することは絶対に止めてください。

場合によっては怖い人が干渉しに来ます【正義執行】

このスレは48時間経過、または1000レスに到達した時点で消滅します。

 

2:名無しの一般人

>>1 スレ立て乙

 

3:名無しの一般人

>>1 乙

 

4:名無しの一般人

>> 他人の意見を聞きたかったからたすかる。

 

5:名無しの一般人

念のために書くけど鍵スレとはいえジャスティスに見張られているつもりで書き込めよ?

 

6:スレ主

パスを送る相手は勝手ながら呟きやプロフィールなどを見て問題ないと判断した方に送らせて頂いています。それでも問題発言が目立つようなら遠慮無く追い出すので気を付けてください。

 

7:名無しの一般人

さすがに一人で抱えきれなかったので参加させて貰った。

 

8:名無しの一般人

吐き気が止まらないので参加させて貰いました。

 

9:名無しの一般人

糞を出せるトイレと聞いて、オレの腹を救ってくれ……。

 

10:名無しの一般人

胃が痛い……胃が痛い……正❍丸よ……オレを救ってくれ。

 

11:名無しの一般人

みんな腹壊しすぎww

ちなみにオレは吐き気が止まらなくて、まじでしんどい……。

 

12:名無しの一般人

誰も話を切り出さねぇな。

 

13:名無しの一般人

吐き出さないと辛いけど話して思い出すのも辛いジレンマ。

 

14:名無しの一般人

現実と創作って違うんだなって頭で分かっていたけど、本当に違うものってようやく理解した。グロ系割と好きで海外のスプラッタホラーとかよく見てたけど、あれらってちゃんと娯楽作品として楽しめるように出来ていたんだな……もう見れないよ。

 

15:名無しの一般人

未だに耳の奥でキーンって音がする。それがなんだか悲鳴にも聞こえる。

 

16:名無しの一般人

規制って邪魔にしか思っていなかったけど、どれだけ邪険に扱われてもワイらを護ってくれていたんだな……規制(トゥンク)。

 

17:名無しの一般人

こんなの(規制派に)墜ちちゃうぅううう♥♥♥ らめぇええええ♥♥♥

 

18:名無しの一般人

でもエロは規制しないでぇえなんでもするからぁああ!

 

19:名無しの一般人

創作のグロもほんとう規制しないでくださいマジでなんでもします。オレたちの酸素を奪わないでください。ちゃんとあれが人間のやることじゃないって分かってるんです。でもそれはそれとして、これが無いと生きて居ないって人間はいるんです。お願いしますお願いしますお願いします!!

 

20:名無しの一般人

>>19 必死の長文にオレが癒やされた。ありがとう

 

21:名無しの一般人

>>19 まじで強くいきて、応援してる。

 

22:名無しの一般人

あー、胃に染みわたりゅぅー。

 

23:名無しの一般人

どこのスレやSNSでもまず挨拶代わりにハバネロをねじ込まれて胃が休まらなかったからね。こういうノリってやっぱり大事よ。

 

24:名無しの一般人

三回戦まではマジで平和だったのにどうしてこうなった……。

 

25:名無しの一般人

第3支部? シスター・イースターがヤバイことをしたのは分かるんだけど、結局どういうことなんだ?

 

26:名無しの一般人

人間蘇らせておいてバラバラにしてコロコロしてたって事でしょ?

 

27:名無しの一般人

シスター・イースターはマジで死者蘇生できる。

でも、完全に人間として蘇生できるわけじゃなくて時間が経つと腐っていく

ゾンビになる前に処分しないといけないからミキサーで粉にしてた。

 

で合ってる?

 

28:名無しの一般人

ほんと畜生。

 

29:名無しの一般人

腐るっていうかは肉体がゴーレム(土で出来た人形みたいなもん)だからすぐに劣化するため、そのまま何もしないと死ぬまで苦しむことになるとかかな? だからその前にミンチにしてコロそうって話? 

 

いやそうはならんやろ。

 

30:名無しの一般人

会話を聞きたいけどあの一連のやり取り何回も見れない。

 

31:名無しの一般人

何がってシスター・イースター、真面目にその一連の行ない全て良いことだからやっているみたいな感じ出してたってこと。まじで人間味なくて怖かった。

 

32:名無しの一般人

ブレイダー板で、疑いの目で見てたワイらに噛み付いてきたシスター・イースター擁護派のお兄ちゃん心配でならんのやけど誰かあのあと知ってるやつおる?

 

33:名無しの一般人

早死にした大好きだった妹を復活してもらって立ち直ったってお兄ちゃんだろ。俺も気になっているがわかんねぇ。

 

34:名無しの一般人

みんな心配で声をかけていたけど書き込まなくなっちゃって本当にどうなったかわからない。早まってないといいな。

 

35:名無しの一般人

ブレイダー、もうちょっとこう……手加減というものを……。

 

36:名無しの一般人

流石にひどすぎるって思ってしまうけど戦争決闘を全体で見る限り、ああしないと行けないほど協会って組織そのものが手遅れだったのかな……。

 

37:名無しの一般人

協会に関してはまじでわからん。詳しい情報がなにも出なさすぎる。

 

38:名無しの一般人

第8支部から不穏なものは続いていたし、明確な理由は分からないけどカオスの宣戦布告文ってこういうことだったのかって納得した。

 

39:名無しの一般人

これからどうなるんかな? 魔装少女の子たち大丈夫かな?

 

40:名無しの一般人

分からんけど、流石にフォロー無しはないだろ。

 

41:名無しの一般人

匿名の書き込み程度の情報だけど第3支部に周辺に大量のドローンや銃を乗せた車が何台も目撃した人がいる見たい。その事から確実にジャスティスが関わっていると思う。色々と思うことはあるかもしれないが俺たちは何もせず静かにしていた方がいいだろ。

 

42:名無しの一般人

なんか魔装少女が関わっている組織だから悪いことはしないって特別視していた自分に気づいた。

 

43:名無しの一般人

わかるけど不安なんだよ。それこそ戦争に勝った負けたぐらいしか発表がないしさ。

 

44:名無しの一般人

アンギルも告知とかお知らせみたいなのはまめにしてくれる人だから、明日には何かしら出してくれると思う。

 

45:名無しの一般人

アーマードって裏でいつもこんなこと解決していたのかな? もしそうなら堪忍袋の緒が切れて宣戦布告したの納得しかない。

 

46:名無しの一般人

第七支部のフスティシアの扱いもそうだし、バスタークイーンの悪行も隠していたって話だろ? 協会クソすぎん? 

 

47:名無しの一般人

グレムリンという災害に唯一対処できる魔装少女を管理している組織で、警察も国も武力で太刀打ちできず、干渉する事ができないから本当に好き勝手してたんだろうな。

 

48:名無しの一般人

シスター・イースターも見る限り洗脳されてたっていっても信じるわ。

 

49:名無しの一般人

魔女教の信者じゃなかったけどスレシパ氏の安眠療養を受けていたワイ絶望。ほんま辛い。

 

50:名無しの一般人

スレシパパパもそうだけど、他の第3支部所属の魔装少女やスタッフが心配。あんなん絶対アンチや信者たちに攻撃されるやろ。

 

51:名無しの一般人

スレシパパパパパパもそうだけど善良な魔装少女やスタッフに被害が無いといいけど……。

 

52:名無しの一般人

スレプト・シェパーデスさんのパは一個だけだろ! いい加減にしろ!!

 

53:名無しの一般人

魔女教の信者の書き込みに普段はアンチ側の人たちがフォローしているの見て、本当にヤバいことが起きたんだなって察した(未視聴勢)

 

54:名無しの一般人

関係者になってしまった無関係な人々に幸あらんことを。

 

55:名無しの一般人

これからどうなるんだろう。

 

56:名無しの一般人

試合の内容そのものに話を変えたいんやけどええか?

 

57:名無しの一般人

勢い止まったしええよ。

 

58:名無しの一般人

アビスどうなったの? 死んだ? 俺死ぬ?? 時と場合によってはセミの幼虫になるぞ????

 

59:名無しの一般人

たま君の話をしたい。本当に考え込んでしまって寝れない……。

 

60:名無しの一般人

「むめいたま」ってアビスの本名で合ってるよな? なんかペンネームっていうか偽名みたいで本名って自信が持てない。

 

61:名無しの一般人

アビスが自分の生まれた理由は猫って言ってたな……この話やめにせんか(震え声)

 

62:名無しの一般人

あそこから話広げるしか無いけど。

猫が産まれた理由。

母に対する冷たさ。

実母蘇らせた、殺された際の反応。

を見る感じ虐待されていた可能性大っていう。

 

63:名無しの一般人

どこをみてもクソ!!

 

64:名無しの一般人

母親の名前を呼びかける声はアビス本人が猫の方って言ってた。つまりアビスと飼い猫の名前は同名。猫はたま君が生まれる前に死んだ。そしてたま君の生まれる理由になった。そこから導き出される答えはなに!?

 

65:名無しの一般人

飼い猫死んで寂しいから代わりに赤ちゃん産んで可愛がろうと思ったけど猫より可愛く無いのでネグレクトされた。

 

66:名無しの一般人

正解にしたくない。

 

67:名無しの一般人

ハズレであって欲しい。

 

68:名無しの一般人

同人誌の話だろ? だめじゃないかナマモノでそんな話作るなよ。そういえよ……。

 

69:名無しの一般人

猫は可愛いからねぇ。何も仕方なくねぇけど。

 

70:名無しの一般人

もしそれが本当だったら、そりゃ母親が目の前でミキサーされてもあんな反応になるわ。

 

71:名無しの一般人

ここでとんでもないことが発覚。たま君、小学校でやばいぐらい虐められていました。

 

72:名無しの一般人

なに?

 

73:名無しの一般人

別スレで暴露話があったのか。

 

74:名無しの一般人

……あのさぁ……あのさぁ!!

 

75:名無しの一般人

ワイのゲロこいつらにぶち撒けたい。

 

76:名無しの一般人

ジャスティスに撃たれてもいいから、どんな手段使っても地獄に叩き落としたい。

 

77:名無しの一般人

ひどいとしかいえない。

 

78:名無しの一般人

学校の話から家庭事情も垣間見れてしまってアビスが広がり続けてる。

 

79:名無しの一般人

というか最初の書き込みがアビスってゴミ箱君じゃねぇかwwwで当時のことを全く反省していないのがわかる。

 

80:名無しの一般人

死ね。ほんと死ね。

 

81:名無しの一般人

ここで言っても仕方ないけど、表だって言わないだけ自制が効いてる証拠か?

 

82:名無しの一般人

こういう奴らがいるからジャスティスのこと嫌いになれないんだ。

 

83:名無しの一般人

見る勇気でない。誰か教えてくれやんす。

 

84:名無しの一般人

子供だからって言い訳が世界に喧嘩売る個人たちに聞くはず無いだろって自覚して焦ってる所を見てもざまぁとかスッキリ感がなくただただ早く終わってくれという不快感がひどい。

 

85:名無しの一般人

学校のあだ名がゴミ箱。

理由が給食で嫌いなものだけ押し付けられて無理矢理食わされていた事から。

冬場で重りをつけてプールに沈めるのが流行ってた。

ドッヂボールは的にボールをぶつける遊びというか認識だったらしい。

教師が止めなかったのは親経由でお泊まり会(意味深)の常連だったからそれを生徒たちは知って脅していた。

つまりあのクソババアたま君にうりはる強要していた。

ついには不登校になってゴミ捨て場にいたのを遠くで笑っていつ捨てられるのか話し合っていたらしい。

 

ごめんもう無理重要なのだけ書き出したけどこれ以上は見るに耐えんわ。

 

86:名無しの一般人

これはアビス。

 

87:名無しの一般人

勘弁してください胃の中空っぽなんです。

 

88:名無しの一般人

まじで頭おかしい。この暴露した奴も直接虐めていたわけじゃないっていうだけで、どうしてこんな分厚い面ができるんだ?

 

89:名無しの一般人

お前ら人間じゃねぇ!!

 

90:名無しの一般人

なんでこんな目に遭って人類滅ぼそうと思わなかったんですかね?

 

91:名無しの一般人

ああもう掘っても掘っても奈落。

 

92:名無しの一般人

これが無間地獄ってやつか。

 

93:名無しの一般人

奈落の死者って地獄みたいな環境で生きてきた人間だったわけね。

 

94:名無しの一般人

それが最後にはTSしてアビスたんになっちゃうなんて(・ω・`)

 

95:名無しの一般人

>>94 事実だけど唐突なしょぼーんで吹いた。ありがとう。

 

96:名無しの一般人

草www。換気してくれて助かる。

 

97:名無しの一般人

何かふざけるたびに感謝される異常自体に枯草。

 

98:名無しの一般人

最初から枯れてるじゃねぇか。

 

99:名無しの一般人

あの現象ってアビスが女になったというより、モニカっていう女の人がブレイダーになったんじゃないの?

 

100:名無しの一般人

でも映像の会話を聞いている感じアビスも生きてるっぽい? 二重人格みたいになってる?

 

101:名無しの一般人

というかあれって結局何がどうでこうなってああなったの?

 

102:名無しの一般人

これがああでこうしてそうなっていんすうぶんかいしてそうしたから結論

 

分からん

 

103:名無しの一般人

シスター・イースターの反応から推理するに自分が蘇生したモニカって少女をアビスがなんらかの方法でちゃんとした人間に復活し直したってことか?

 

104:名無しの一般人

もしそうだとしたら神技じゃん。

 

105:名無しの一般人

神技でも間違ってないとは思うけど安っぽいのはなんでだろうな()

 

106:名無しの一般人

でもまともな物じゃないのは確か、それこそ禁術って言われるやつ。アビスの様子からして本来だったら自分の命を代償にして漸く発動できるやつだったんじゃない?

 

107:名無しの一般人

ああ、モニカさんの体にアビスの人格があるってのはそういう……。

 

108:名無しの一般人

それが本当ならモニカってアビスにとって命を代償にしてでも蘇らせたい大切な人だったんだろうね。

 

109:名無しの一般人

その大切な人が死んだままだと盾にされてもおかしくないから元からああする予定だった可能性はあるぞ。

 

110:名無しの一般人

誰よあの女!! イヤ本当に誰?

 

111:名無しの一般人

死んだ彼女とかじゃないの?

 

112:名無しの一般人

アビスの一人称視点だし、そもそも三人称だったとしても仮面で表情わからないかもだったけど、声色からしてモニカさんのことすごく好きなのは伝わってくる。

 

113:名無しの一般人

一瞬で正体見破られて声はずんでたの可愛すぎるんじゃー。

 

114:名無しの一般人

全員がシスター・イースターの真実に発狂する中、突如湧いたラブコメ波導に脳みそパーンした。

 

115:名無しの一般人

モニカさんとのやり取りから、たま君の唯一の癒しだったの分かって辛い。そんな彼女が故人だったってさぁ……。

 

116:名無しの一般人

二人がどういう関係かめっちゃ気になる!

 

117:名無しの一般人

考察スレからモニカさんの死因に魔装少女関わってる可能性が浮上した。これが本当ならアビスが魔装少女燃やすのすげー納得する。

 

118:名無しの一般人

もういや! 地雷しかない!!

 

119:名無しの一般人

彼女殺されたから魔装少女燃やしてるは流石にないんじゃないか? だってそんなことされたら力だけじゃなくて全部燃やす俺はそうする。

 

120:名無しの一般人

人間は愚か。

 

121:名無しの一般人

流石に一緒にされたくない。

 

122:名無しの一般人

神「とりあえず適当に不幸そうなの煮詰めたらなんかブレイダーできたわやったぞい」

 

○すぞ。

 

123:名無しの一般人

偶々会話したことあるけどさ。すげー紳士的な人だったんだよ。どんな奇跡起きたああなるの?

 

124:名無しの一般人

もうなんかただ静かに幸せになって欲しい。

 

125:名無しの一般人

モニカと一緒に、争いのないラブコメの世界に行って欲しい。

 

126:名無しの一般人

馬鹿野郎! モニカさんだろうが!

 

127:名無しの一般人

あまりにも失礼だぞ!! 敬意が足りねぇ!!

 

128:名無しの一般人

(いつのまにそんな決まりが……)

 

129:名無しの一般人

(単なるノリ)

 

130:名無しの一般人

(こいつ直接脳内に……!)

 

131:名無しの一般人

なんならちょくちょく呼び捨てとかしてる人もいるし、でもほんとどういう立場で見ればいいんだ? 名前って本名なのか? だとしたら書き込むのやばいか。

 

132:名無しの一般人

外国名っぽいからカタカナで書いてるけど、モニカってなんとなしに漢字でもいけそうだしな。

 

133:名無しの一般人

この掲示板でなら後で消えるしいいと思うけど、アビスの本名を普通に書き込んでるからまじ気をつけよう。

 

134:名無しの一般人

本当だわ、たま君ってアビスの本名だったわ。

 

135:名無しの一般人

名前が偽名っぽすぎて本名だって認識できない……。

 

136:名無しの一般人

同人作家でいそうなのは確か。

 

137:名無しの一般人

それほど人間味が薄い名前だし、たまなんてもうまんま猫。

 

138:名無しの一般人

アビス猫。SNS絵師で描くやつ絶対に出てくるだろ流石に受け入れられんわ。

 

139:名無しの一般人

すでにブレイダー猫化している夢女子いるんだよな。

 

140:名無しの一般人

その人、名前を「私はゴミにもならない畜生です」に変えて絵を全部消したから勘弁してやれよ。あれは誰だって予想できねぇよ。

 

141:名無しの一般人

アビス村燃えまくってるし、クリエイターがこぞって火炙りにされてるというか、罪の意識から自分から火炙りに行ってるというか。

 

142:名無しの一般人

「偽善悪」の元ネタの人。笑い事じゃないけど反応が面白すぎて草しか生えない。胃薬欲しい人は見るのおすすめする。

 

143:名無しの一般人

あ〜。投下され続ける地雷に荒らされた胃粘膜に沁みるんじゃ〜。

 

144:名無しの一般人

戦時下での芸人の必要性。芸人じゃねぇけど。

 

145:名無しの一般人

私を『推し幸せ過去捏造罪で逮捕してくれ』で駄目だった。

 

146:名無しの一般人

誰よりもダメージ高そう。

 

147:名無しの一般人

闇が深いタイプが好きな奴らがこぞってダメージ受けているの見ると、この人たちもまともな感性をした人の子なんだなって何だかほっとする。

 

148:名無しの一般人

つぶやき見ていて思い出したけど、オルクスって魔装少女結局なんであそこに居たん?

 

149:名無しの一般人

多分特徴と名前からしてサイレント・オルクスで間違いないと思う。魔装少女名鑑に載ってた。でも活躍を目にした事は無いな。支部のどこにも登録してない無所属みたいだし。

 

150:名無しの一般人

アーマードと関係ある魔装少女と言えば塾じゃねぇの?

 

151:名無しの一般人

どっちにしろあの反応を見る限り、アビスとは特別な関係なのは間違いないな……もしかして今カノだったとか?

 

152:名無しの一般人

そんなセブンスな事を早々あってたまるか。

 

153:名無しの一般人

なんだろう、セブンスをハーレムって同義語にするの止めてもらっていいですか?

 

154:名無しの一般人

アビスは死んだ前カノであるモニカさんの事ずっと意識していた筈だから、オルクスがアビス好きだったとしても報われない気がするんだよな。

 

155:名無しの一般人

そこはほら、モニカさんと(文字通り)合体したので、オルクスがモニカさんとイチャイチャすれば実質アビスとしてるってことになるじゃん。

 

156:名無しの一般人

まさかブレイダースレで百合に出会えるとはな。世の中わからないものだぜ。

 

157:名無しの一般人

いや、アビスの意識は別だし百合じゃないのでは?

 

158:名無しの一般人

どっちにしても失礼すぎるわ。

 

159:名無しの一般人

オルクス妹いるっぽい、図鑑見る感じ二人それっぽいのいるし。

そういえばオルクス、アビスに妹たちも待ってるって言ってなかったっけ?

 

君たちもしかして同棲してるの?

 

160:名無しの一般人

やっぱセブンスでは?

 

161:名無しの一般人

そこらへんも早めに教えてもろていいですかいアンギルさん。

 

162:名無しの一般人

早くしてくださいアンギルさん。僕たちは気になって夜八時間しか寝れません。

 

163:名無しの一般人

多分1番忙しくなるであろう天使にこれ以上負担をかけるのはやめて差し上げろ!

 

164:名無しの一般人

事後処理想像するだけで凄くやばい。頑張れアンギルさん。

 

165:名無しの一般人

後輩を虐める第一世代に失望しました。モニカさんのファンになります。

 

166:名無しの一般人

なんだか全部纏めると、幼少期周囲から虐待されていて恋人まで殺された少年がダークヒーローになって、恋人と再会を果たしたのエモすぎんだろ。

一番の問題がこれが全部リアルだっていうことだな……。

 

167:名無しの一般人

なんにせよ明日からこの国は大きく変わるんだろうな。

 

168:名無しの一般人

ああいったの見せられると本当にブレイダー勝ってよかったと思うわ。

 

169:名無しの一般人

アーマードやらかしている内容が内容だけに、絶対になぁなぁで終わらせない信頼と怖さと安心感はある。

 

170:名無しの一般人

魔装少女とブレイダーと関係者各員に幸あれ。

 

171:名無しの一般人

とりあえず昨日今日の話だし、様子見だな。課金する準備だけはしておこう。

 

172:協会勤め

よーしおじさん明日から死ぬ気で頑張るぞー!

 

大人のケツは大人がしっかりと拭いてやるよ。

 

173:協会支部スタッフ

ああ、ウォシュレットになる準備は出来ている

 

174:現役魔装少女。

大人たちだけにいい格好はさせませんよ!

 

175:引退魔装少女。

どうやら少女に戻る時が来たようね。

 

176:名無しの一般人

格好良いなぁ。おれも一般人として出来るだけ協力するよ。

 

177:名無しの一般人

というかこのスレ関係者多過ぎぃ!

 

178:名無しの一般人

うん億人単位で関係者ある組織だから、このスレにあと百人居ても不思議じゃない。

 

179:第3支部の下っ端スタッフ。

 

た す け て

 

 

180:協会本部所属幹部

 

生 き て

 

 

181:名無しの一般人

 

オマエモナー

 

 

 

――話は止むこと無く、48時間を待たずにスレは埋まることとなった。




今回は阿鼻叫喚となったネット界隈で比較的に落ち着いている場所をピックアップした形となっております。

……色々試しましたがちょっと無理でした(  ̄▽ ̄)

作者のツイッターでは先行して北陸の魔装少女のエンブレムなどを公開していたりします。興味があるかたは見ていただけると幸いです(これ投稿したらリツります←)

それでは、お待ちになってください次回!


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新米魔装少女の気苦労その3 前編

感想、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここすき何時もありがとうございます! 

ふるゆわ日常系を目指しました。半分嘘です。

なぜか文字数が多くなって前後編分けることになりましたが、それでも楽しんで頂けたら幸いです。



――戦争決闘五番勝負からそれなりの日数が経ち。七月に入った。

 

戦後、協会が関わってきた。もっと広く言えば魔装少女に関係する悪事が止むこと無く表に出てくることになった。

 

汚職や事件のもみ消し、政治的や企業的なあれやこれやと延べ百を呆気なく超える罪によって、協会関係者のみならず司法、立法、行政全機関に取締役から社長、幾人かの魔装少女を含めた何十人単位の人間が逮捕される事態となった。

 

犯罪に問われなくても責任を取る形で立場を失ったものが、少なくとも万単位存在するほどで、社会全体が改革せざるを得なくなった

 

テレビも連日連夜、協会の事を常に発信し続けている。特に第3支部や本部を中心とした上層部の悪事がメインであり、例の第3支部の代表を見ない日は無い。

 

一方で魔法少女などは巻き込まれただけと擁護する報道が多く、そのため最初の頃はシスター・イースターを中心に魔装少女に対する過激的な不安感を表に出す者が多かったが、気がつけば世間のヘイトは第3支部代表を筆頭とした邪悪でありながらただの大人だった者たちに向けられる事となった。

 

ネットの方では奇妙なほど大人しく、話題やニュースは飛び交っても協会や魔装少女に関して過激的な意見や批判を行なうものは殆ど見られない。自由の海と評されたネットの世界はもはや昔のこと、それが暴力による抑圧であることは間違いないが、無関係でありながら関係者となってしまった者たちにとって触れる悪意は確実に減っている。なので正直ありがたいと思うものは後を絶たない。

 

迅速に物事は進んでいき、解決されたものも多くある。それでもまだまだ熟さなければいけない問題は多く、混乱は冷める様子を見せなかった。

 

そんな新たな時代に到来した中、鬼美という太古の魔装少女の魂を身体に宿す桃川にも転機が訪れていた。

 

「――というわけで、このマンションの所有者さんは引き続き魔装少女の支援してくれるみたい。だから暖子はこのまま住んでも良いって」

 

5LDKの高級マンションの一室。そこに住んでいる暖子とセブンスガールズのひとりである黒稗天委が今後の事について話し合っていた。

 

魔装少女協会は、様々な分野に肥大化してはいたものの、名目上はあくまで支援団体という事もあって、魔装少女の助けとなるならと一般人から様々な多額の支援や援助を貰っていた。暖子が住む高級マンションもそんな支援のひとつであり、魔装少女が快適な暮らしをしてくれるようにと、家賃光熱費水道ガスなど生活関わる全てが無料となっていた。

 

しかし、戦争決闘五番勝負以降。支援者やスポンサーは協会との関係を考え直す必要が出てきた。

 

完全に打ち切るものも居れば、ほとぼりが冷めるまで様子見をするものなどが居る中、桃川が住むマンション所有者は、むしろ魔装少女にとって今が大変な時期だと支援を続行してくれる事となった。

 

「……わかった! えっと……ありがとう!」

「暖子が感謝してたって所有者さんに伝えておくよ」

――難しく考える必要は確かにないけど、もうちょっと頭を動かしてほしいもんさね

 

桃川は聞いた詳細な話を自分の脳みそで解釈できるまでかみ砕いた結果、大体が消化されてしまい、このままマンションに住んでいいという事だけ理解した。日本が大混乱の中、とくに変わった様子のない桃川に黒稗は苦笑して、鬼美は諦めた様子でため息を吐いた。

 

「とまぁ、暖子の生活についてはこんな所かな? なにか質問ある?」

「えっと、じゃあアイちゃん、最近休めてる?」

「あ、えっと……あんまりかな」

 

まさか自分の事を聞かれるなんてと戸惑い、心配してくれた事に嬉しくなりながら黒稗は答えた。弁金から習った化粧で隠してはいたが目元にはうっすらと隈があった。心なしか少し窶れている。

 

「大丈夫なの?」

「ちょっと無理しちゃって弁金先輩に怒られちゃった。明日から少しお休み貰うから大丈夫だよ」

「やっぱり大変?」

「うん。殆どはリモート通話とかですんでいるけど、どうしても直接足を運ばないと行けない所があったりするから、東京中を行ったり来たりしてるよ」

 

戦争決闘後、黒稗だけではなくセブンス・ガールの五人は『アーマード』の手伝いをしていた。彼らは裏で協会に関係する様々な戦後処理活動の最中であり、特に天使と正義は忙殺されていた。そんな二人を筆頭に他のブレイダーたちにも相応の仕事が割り振られており、七色に与えられたのは魔装少女名鑑に載っている魔装少女たちを上から順に現状の確認、それには協会側の意向説明及び相手がわの意向確認も含まれていた。

 

本来であれば協会側がする仕事なのだが人手がまったく足りず、また協会に対して魔装少女たちの強い不信感が目立つことから、“まじむりぽ”と現協会長から泣きが入った事。その他色んな理由から『アーマード』側が担う事となった。

 

「本当に大変じゃん」

「でも明日はセブンスとずっと一緒に居られるから頑張る」

「そうなんだ! よかったね!」

「うん! 動く元気は余ってないかもだから漫画喫茶に行こうと思って、オススメの漫画を一緒に読もうって、今から楽しみ……」

「いいね! 楽しんできてね!!」

「うん!!」

 

七色が与えられた仕事はセブンス・ガールの仕事。それが当然と言わんばかりに五人は手伝ってと言われるまでもなく動き出して仕事の全てを強奪。七色に残ったのはその仕事で疲れた彼女たちへの慰労行為だけとなってしまった。彼女たちにとって“七色本人が忙しくなって一緒に居られる時間を作れなくなるほうが大問題”なのである。

 

なお天使は元から手伝って貰う前提で仕事振ったけど、動き早すぎてちょっと引いた。

 

そんなわけでセブンスガールたちは時々七色と一緒に休暇を楽しむ事を除けば、魔装少女の力を使いながらフル稼働していた。魔力と体力を調整するため人間状態の黒稗であるが、ここに来るまでの丸一日、ずっと魔装少女に変身しぱなっしだったりする。

 

「……暖子。二つほどお願いがあるの」

 

黒稗は気まずそうに頭を下げて上目遣いで桃川を見る。お願いってなんだろうと桃川は首を傾げた。

 

「わかった、いいよー」

 

まあアイちゃんのお願いだし、なんでもいいかと桃川は話を聞く前に承諾した。

 

――暖子、ちょっとトイレ行くさね

「ア、ハイ……ゴメンチョットトイレー」

「う、うん……?」

 

ドナドナな様子でトイレへと行く桃川。もしかしてずっと我慢して話し聞いてくれたのかなと勘違いした黒稗は戻ったとき謝ろうと反省する。

 

――三分ほどトイレで鬼美の説教を受けた桃川は改めて、黒稗にどんなお願いか内容を尋ねた。

 

+++

 

翌日、桃川は東京都内にある田んぼ道に囲われた町へと来ていた。

 

「なんだか東京の中でもちょっと外れるだけで別世界だね」

――どの時代でも取り残された田舎ってのは減らないものさね

「はっきりいうじゃん……でも、本当にここが協会支部なの?」

――看板横の張り紙を見るに間違いないみたいだねぇ

 

桃川がナビに従い辿り着いたのは、築30年以上は経っているであろう町の住民達が集まる“公民館”。玄関横には公民館の名前が彫られた看板があり、その隣に『魔装少女協会第20支部』とえらく達筆な字で書かれた張り紙が貼られていた。

 

黒稗のお願いとは自分たちの手伝いだった。黒稗の疲労が限界に近づいてきたことに気付いた弁金はスケジュールを変更。その事により訪問するはずだった支部へ行けなくなったのだ。それを踏まえて流石に五人で回すのに限界を感じた弁金は、各々に手伝いが出来そうな信頼できる魔装少女や人物などに声を掛けるようにお願いしたのだ。

 

なので友達と呼べるものが一人しかいない黒稗は、その一人、桃川に手伝いをお願いするのは当然であり、改めて事情を聞いた桃川も友達のたのみだからと即OKを出した。

 

桃川が来た町の“公民館”は協会の第20支部として使われていた。桃川にとって協会支部は派手で大きい建物というイメージだったため、言ってしまえば年期が入った普通の建物が支部という事に純粋に驚き、廃校を使った『魔装少女塾』のようだと親近感を持った。

 

「不安だなー。うまく出来るかな?」

――やることは決まってるんだから、そう難しいものじゃないさね

「でも、アイちゃんから頼まれたことなんだし、ちゃんとやりたいよ」

――下手に意気込むよりかはいつも通りでいいさ。ただでさえドジが多いんだ。気を遣った所で失敗するのは目に見えてるよ

「それなにも言い返せないやつじゃん。でもそうだよね、よし!」

 

鬼美の言うことを単純思考で真に受けた桃川は気負っていた気持ちを放り投げて、いつもの調子に戻り、チャイムを鳴らした。

 

「こんにちわー! 誰か居ますかー!!」

――暖子。こういう時は叫ぶにしても名前と用事を言うものさね

 

やっぱり多少緊張を持たせたままのほうが良かっただろうかと、鬼美はちょっと後悔した。

 

しばらくすると支部内から小走りで廊下を歩く足音が近づいてきて扉が開いた。中から出てきたのはスーツを着た丸眼鏡の女性。

 

「――はい、こちら魔装少女協会第20支部です。なにかご用でしょうか?」

 

+++

 

第20支部は、下から二番目の数字を与えられている支部とあって振り分けられる予算はスズメの涙。在籍魔装少女は3名、スタッフは代表1名の計四人と地方支部と比べてもとても小さい支部であった。

 

地味で目立たない。コアなファンでも存在だけは知るものが多かった支部であるが、そこに在籍する20支部のリーダーであるエリアル・アイスは、戦争決闘五番勝負でブレイダー・エデンと戦った事で知名度が一気に上がった。

 

とは言うものの、彼女に対する世間の評価は“可哀想”である。何故なら本部から脅迫紛いな行為で渋々出場させられたあげく、エデンにセクハラ紛いな事をされて大敗。最終的には本当に巻き込まれただけだったと発覚したことがさらに同情を集めた。

 

「……あつい」

 

――そんなエリアル・アイスは20支部内にある大広間にて、畳の上に寝そべってアイスを堪能していた。細身で高身長な彼女に合わせるように、あえて裾が余分でぶかぶかな『エアコン全開!』と書かれたTシャツとハーフパンツを着て完全にだらけている。

 

「ストーム、エアコンの温度下げて」

「これ以上は寒いのでいやです。するにしてもせめて自分でやってくださいでーす」

「めんどくさい」

「私もそうでーす」

 

アイスと同じ20支部に所属する魔装少女――ストーム・アローは壁にもたれ掛かって動こうとしなかった。その傍にはおやつのチーカマが雑に置いてあり、包装フィルムを剥いては食べている。

 

アイスがロシア美人と呼ばれているならば、ストームは日本人が考える金髪碧眼のイギリス美人である。そして『寝ながら喰うチーカマは美味い』と書かれたTシャツとジャージ姿であることから、アイスと同類である事が一目で分かる。

 

「……いま思い出したんだけど、今日だれか来るんだったっけ?」

「そうですよー。たしか協会だか『アーマード』だかの人が私たちのこと見に来るとか」

「どうして?」

「さあ?」

 

アイスは少し考える。間違いなく戦争決闘五番勝負関係だ。なんだか代表が話していたのを思い出した――あたりで考えるのが面倒になって、思考を放棄した。

 

「ところで私たちせめて変身した方がいいじゃないです?」

 

流石にTシャツで客人の前に出るのは不味いのではと言うストーム。アイスも確かにと同意する……が、なんか別にいいような気がしたし、アイス食べてるし、魔装少女になると暑くもなければ涼しくもないから、あんまり落ち着かないと、ひと言ですむ変身が億劫となる。

 

「あー……いいんじゃない?」

「そうですね。これが私達の日常、つまりスタイル。なにも恥る事は無いですね!」

「イエス」

「いいわけないでしょ!?」

 

どこまでもマイペースな二人の鼓膜に怒鳴り声が突き抜ける。その声の主は丸眼鏡でスーツ姿の二十代後半の女性――20支部の代表である。ちなみにその隣には桃川も立っており怒声の被害にあっていた。

 

「おーう……」

――あっはっは! 大人しい子かと思ったら存外良い声だすさね

「……はっ!? す、すいません! と、とりあえず何もない場所ですが座ってください」

「五月蠅い……」

「もうお客さんを驚かすなんて、代表ってばドジですね」

「元はと言えば貴女たちの所為でしょ!? 今すぐ着替えるか変身しなさい!」

「「えー」」

「あ、わたしも魔装少女になったほうがいい?」

「あ、えと……お構いなく!」

「代表、それ客が言うやつでーす」

 

――それから少し経って、渋々と魔装少女になったエリアル・アイスとストーム・アローが部屋の隅っこで、そして何故か釣られて変身したサンシャイン・ピーチがチーカマとお茶を堪能していた。

 

「チーカマ美味しい~」

「私のおやつが……」

「何か?」

「ナンデモナイデス」

 

中世の狩人を思わせる魔装姿となったストーム・アローが次々と食べられるチーカマに切ない声を出すも、20支部代表の人睨みに顔を背ける。

 

代表がお茶請けを用意しようとしたところ、客用に別の場所に閉まっていた筈のお菓子たちが全滅していた。犯人はもちろん20支部の魔装少女たちである。なので20支部の代表は遠慮無くストームが備蓄しているチーカマをお茶請けとして出した。ピーチが望むならばエリアル・アイスの氷菓子(アイス)も出すつもりである。

 

――暖子、食べるのはいいけどやることやってからにしな

「んっ! っとそうだった! えっとアイち……じゃなくて約束していたパンチャー・ノワールの代わりに来たんだけど、えっとえっと……」

「大体の話は伺っています。改めてここ20支部の代表を務めさせて頂いています廿里(とどり)と言います」

「あ、どうもです」

 

テンパるピーチに、対面で綺麗な姿勢で正座の20支部代表こと廿里は名刺をピーチの前に出した。

 

「では事を急ぐようで申し訳ありませんが、今から私たち魔装少女協会20支部の意向についてご説明させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」

「は、はい」

「端的に申しあげれば、エリアル・アイス。ストーム・アロー。そして今はここに居ないマッハ・カームの協会第20支部に属する3名の魔装少女全員、今後とも協会の魔装少女として活動していきたいと意見が一致しました」

 

ピーチが反省中の二人を見れば、廿里の言葉に同意するように頷いていた。こっそり足を崩したりしてるのは見ないことにしてあげた。魔装少女でも慣れない正座は辛いものである。

 

「そして三人は引き続き20支部での活動を強く希望しています」

「わ、わかった……じゃなくて! な、なんだっけ……! わ、分かりました! 20支部のみなさんの意志はしっかりと確認しました! これからも協会の魔装少女及びスタッフとして健全な活動をお願いします!」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「ふぅ……ありがと~鬼美~

――まっ、元気いっぱいに言えたのは褒めてやるさね

 

話し合いは終わったと、廿里は雰囲気を柔らかくして、ピーチは無事に終わった事にほっとする。そしてとっさにカンペ役を担ってくれた鬼美に小声で感謝を伝えた。鬼美のほうは別に“下手でも言い切るだけでよかったこと”もあって、甘々に評価する。

 

言ってしまえば、この二人のやり取りは形式上のものである。廿里は既に代表として20支部に関わるもの全てを上に報告しており、意向確認や話し合い自体は既にネットを通して終わっていた。しかし20支部から正確に言えば廿里から、形だけでも直接的なやりとりは出来ないかとお願いされた事で、ピーチが来たのだった。

 

「私のためにわざわざ来てくれて本当にありがとね。協会の状況が状況だから、どうしても信用できなくて……。自分の我が儘でとても無駄な事をさせてるって自覚はあるけど……来て貰えて本当に嬉しかったわ」

 

廿里は代表という責任ある立場として、魔装少女たちを護らなければいけないという強い使命感を持っている。それを抜きにしても友達として、あるいは親友として三人のことが好きだった。そんな彼女たちの生活を不躾で荒らす協会上層部には強い嫌悪感を抱いていた。

 

そう思うようになった理由は幾らでも挙げられるほどであり、協会の様々な悪事が明るみになった事は言わずもなが、支援は常に最小限。改善を求めても適当にあしらわれるだけと元から待遇が酷く、極めつけは20支部の存続を盾に、エリアル・アイスを戦争決闘に参加させたこと等々。

 

なので新体制となった協会、および必ず関与しているであろう『アーマード』に対して、どうしても拭えない嫌悪感の緩和。そして信頼したいがゆえに誠意が欲しかったのだ。

 

「あの……代理なわたしでよかったんですか?」

「誰よりも忙しいのは分かっているわ。それなのにこんな良い子を送ってれたんだもの……。私も協会で働く大人として精一杯働くわ」

 

新体制の協会とはすでに話し合いの中で様々な事を約束してくれたが、それでもすぐには信じきることはできない。『アーマード』の干渉でどんな未来に進むのか不安もある。それでも誠意を見せてくれた以上。廿里の腹は決まった。

 

「って、ごめんなさい。お客様に、それも関係の無い魔装少女である貴女に愚痴を言うなんてひどく申し訳ないことを……」

「そうです。そういうこと言うなら私たちに言うべきです」

「私たちにも遠慮無く相談するべき」

「ストーム……アイスもありがとう……でもこっそり楽な姿勢で怠けようとしない!」

「「ちっ」」

 

年はそこまで離れていないが、二人に対する廿里はまるで母親のようであり、そんな彼女に二人は甘える子供のように見えた。

 

仲がいいなーと暖子は一仕事終えた充実感に浸りながらお茶を啜る。そんな和やかになったところで、ドタドタと騒騒しい足音が鳴り響き、襖が勢いよく開かれる。

 

「――おまたせ。用事を済ましてマッハ・カーム。マッハでカムりて参上」

 

中学一年生のピーチとほぼ同じ背丈で、くせっ毛が目立つ焦げ茶色の髪をした褐色肌。そして学校のジャージ姿である少女が決め台詞的なものを口に出してポーズをとっていた。

 

「あれ? お客さん居たんだ。ようこそなにもない支部ですがせめてお菓子でも……と思いましたが、このあいだ私たちで全部食べちゃったので、ストームのチーカマかアイスのアイスでもお食べください」

「すでにお出しましたでーす」

「あれ? 二人はどうして正座してるの? もしかしてお客さんの前であのだらけたTシャツ姿で出ました? まさか怠惰な二人と言えど、そんなこと……するよね」

「あれが私たちの正装」

「そんなわけないでしょ!」

 

――また癖が強い子が現われたねぇ

 

抑揚ない声色と無表情なマッハ・カームであるが、台詞と挙動が妙に五月蠅い。鬼美は今時の魔装少女は個性がないと務まらないのかと疑問に思ったが、よくよく思い出せばあたしたちの方が酷かった気がすると思考が遠いどこかへ旅立ちかける。

 

「これで20支部全員揃った」

「だから何かって言われるとなにもないでーす」

「手作りダサTをあげたらどうですか? 代表が書いたあの無駄に達筆のやつ」

「いや、流石にどうかと」

「え? くれるの!? 欲しい欲しい!」

「まさかの好印象」

 

マッハ・カームの言うとおり無駄に達筆な字で『ほどほどな労働』と書かれた手作りTシャツをお土産として貰ったピーチは純粋に喜んだ。今日早速パジャマに使う予定である。

 

「うむむ、都会住まいの魔装少女に気に入って貰えるなら、自作ダサTを20支部名物として売り出してみるのもありかも、善は急げ、段ボールの中に閉まってあるやつ全部だして吟味しますか」

「いやでーす。面白半分で作ったあれらが世間の目に晒されるのは流石に恥ずかしいです」

「めんどくさい。どっちでもいい」

「魔装少女投票賛成2で可決。では今すぐ押し入れから出してくるね」

「アイスのは別に賛成ではないです! ぐぬぬ、こうなったらお客様! お客様の中に魔装少女はいませんかー!」

「――わたしが魔装少女です」

 

20支部のやりとりにピーチノリノリで参戦。手を上げながらスッと立ち上がる。

 

「お客様! このままでは恥ずかしい自作ダサTが売られてしまうです! 助けてください!」

「はい! それ私も見たいし、ちょっと欲しいです!」

「私抜きにしても二票でストームの負け」

「墓穴掘ったでーす!」

 

ちなみにあたしを含めれば実質三票で完全敗北さねと言う鬼美に、ピーチは吹きかけたが気付かれることはなかった。

 

サンシャイン・ピーチも混ざって盛り上がる魔装少女たちに廿里はなにしてるのと呆れながらも、外部の人間がいても何時もの調子であるエリアル・アイスに安堵する。

 

エリアル・アイスは全世界中継の中でのセクハラ(あんなこと)があったのだ。魔装少女を止めてもおかしくないと身構えていたが、持ち前の怠惰な性格故かもう気にしている様子はなかった。

 

――とはいえ表面上は平気に振る舞っているかもしれない。私たちの前だけいつもの調子でいられるのかもしれない。悩みは人並みに溜め込んでいるかもしれない。

 

考えすぎかもしれないが、少しの変化も見逃さないように彼女たちを見守る大人として他20支部に所属する魔装少女たちを、改革期となった時代でもしっかりと護っていきたいと廿里はひとり静かに意気込む。

 

「あ、これなんてどうです? 『コーヒーよりも紅茶を飲める毎日になりたい』って中々の名言っぽくていいですね!」

「迷言の間違い。それよりこの『血と汗と丸眼鏡』のほうが売れそう」

「それもいいけど『仕事のデータが消えるぐらいなら世界が消えろ!』がインパクト高くて第一弾に適してるのでは?」

「全部字が綺麗! というかめっちゃあるじゃん」

――なんだか凄い気迫を感じるさね

「なんで全部、私の作品なんですかっ!?」

 

魔装少女達の手に持っているシャツが全て、自分の作品だと気付き顔を真っ赤に声を荒げる。ちなみにカームに誘われてやりだしたら、思いの外嵌まってしまい。今では月に理由を見つけては3~7枚作っており、作品数は誰よりも圧倒的に多いので、こうなるのは必然だったりする。

 

「ああもう。とにかくTシャツを販売するにしてももう少し落ち着いてから――グレムリン警報!」

 

スマホから独特の音楽が鳴り響く、それは魔装少女たちにも馴染みがあるものでグレムリンが現われた事を知らせるものだった。

 

「はぁ、めんどくさい」

 

ゆらりと立ち上がるエリアル・アイスに引き続きマッハ・カームとストーム・アロー、そしてサンシャイン・ピーチも続く。

 

「じゃあアイス。いつもの所に先に行ってるので早く来てね」

「……また違うやつ?」

「はい。そんな嫌そうな顔せずともご安心を、今回はすごく自信があります。それでは」

「いつもそう言って……はぁ」

 

忙しなく外へと出て行ったカーム。アイスは盛大にため息をついたあとゆっくりした歩調で追っていった。

 

「じゃあ、私は先に現場へと向かうです。ピーチちゃんはどうします?」

「私も一緒に行きますけど……あの二人はどうするの?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。……ピーチちゃんがよければ最近巷で噂の名物を見ますか?」

 

悪そうな顔でそう言うストームに、ピーチは何かと興味津々に瞳を輝かせて。廿里は馴染みすぎてピーチが外の魔装少女だと忘れていたため、ちゃんとするように言うタイミングを逃したと眉間に皺を寄せた。

 

 




金「みなさんどれぐらい集まりましたか? 因みにわたくしはゼロですわ」
銀「ゼロ」朱「ゼロ」灰「ゼロ」

黒「ひ、ひとり……」

みんなでめちゃくちゃ黒を褒めた。


この作品を描き始めて一周年が経ちました(9/19)。
本当に嬉しい限りです。ありがとうございます!
前話で語るの忘れてました!

そして2章終わりの活動報告にて失楽園を書くの忘れてました(気がついたの数日前)

……こんな作者ですが、作品を楽しんで頂けたら幸いです!

投稿した日はワクチン(一回目)なので、次第によっては更新に影響があると思いますが悪しからずです。それではお待ちになってください次回!


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新米魔装少女の気苦労その3 後編

感想、評価、お気に入り登録、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

本当ならもっと早めに出せる予定でしたが。コロナでもコロナワクチンでもなく、普通の風邪を引いて38度台の熱を出して四日~五日寝込んでいました( ̄▽ ̄)どうして……。熱が引いたいまでも咳だけは止まっていなかったり。

そんなわけで執筆に何かしらの影響が出ていると思いまして、もしかしたら後日大幅な修正があるかもしれませんが、それでも楽しんで頂けたら幸いです。




グレムリン。異世界から来たる精神生命体。『次元の狭間』を通って地球へと来たる彼らは、ただひたすらに暴れ、目についたものを壊し続ける。地球の物質兵器では傷付けることはできても、決して殺すことはできず。魔装少女の魔法によってしか殺すことの出来ない猛獣である。

 

そんなグレムリンたちはフェアリーたちと同じ精神世界出身であり、フェアリーとは進化の過程で袂を分かった起源を同じものとする精神生命体である。

 

精神世界において魔法を活用した現象や存在の変化を元に糧を得るフェアリーたちとは違い。グレムリンは他者を加虐したさいに発生する感情を糧にすることを選んだ。彼らが地球で暴れるのは食事行為以外のなにものでもなく、物を壊した時、命を傷付けた時に溢れ出る恐怖、怒り、嘆き、絶望などが彼らにとってご馳走だからだ。

 

つまるところグレムリンというのは餌を求める害獣でしかない。しかし地球産の兵器では死ぬことなく、ブレイダーや魔装少女の攻撃以外で受けた傷であるならば瞬時に回復してしまう。そしてフェアリーとは違い獣であるために交渉の余地はなく、己が生きるために必ず人間を襲う凶暴性。個体によっては一日放っておくだけで町ひとつを滅ぼしかけない危険性を持つことから、魔装少女が増え続けている現在であっても生物災害の評価は決して下がることはなかった。

 

 

――東京都内の自然豊かなキャンプ場。七月初め、夏の本格的な熱さがはじまる前にとキャンプに来ていた人は多く、手入れがされている芝の上には何十もののテントが設置されていた。キャンピングカーも少なくない台数停まっており、その周辺にはBBQコンロやクーラーボックス、焚き火用の薪などキャンプを楽しむ人たちのキャンプ道具で溢れかえっていた。

 

しかし、そんなキャンプ場は現在、放牧的では無い嫌な沈黙に支配されており、人がひとりも居なかった。その原因となったのは、CGで作られたかのような空間の亀裂。『次元の狭間』と呼ばれるものが出現しため、キャンプに来ていた人は全員、キャンプ場のスタッフたちに先導されて、遠く離れた場所に避難したからである。

 

グレムリンが地球へとやってくる前兆である『次元の狭間』であるが、これ自体は地球と精神世界が一時的に繋がった際に発生する自然現象でしかない。そんな偶々生まれた『次元の狭間』を使い、こちらも偶々近くに居たことで豊富な感情(食い物)の匂いを感じ取ったグレムリンが誘われるように地球に来る。というのが、グレムリンの地球来訪の原理である。

 

そのため『次元の狭間』が発生したとしても、精神世界の方でグレムリンが居ない場所に繋がり、そのまま時間が過ぎて何事もなく『次元の狭間』が消滅する場合も多い。しかしながら、何もない一方で“ありすぎる”というのもよく見られるものだった。

 

キャンプ場に現われたグレムリンは一体だけではなかった。巣に直結してしまったのか10体ほどのグレムリンが現われて、各々糧をえるために破壊のかぎりを尽くす。

 

グレムリンは地球の、物質世界の環境に触れた瞬間、生きていけるための“肉体”を本能的に魔法で作り出す。それはフェアリーの『着ぐるみ』と同じ、地球に存在する物質生命体の情報を取り込みんで肉体を作る魔法だった。

 

フェアリーの場合は燃費がよく魔力リソースを最低限にし、機能性に重視した『着ぐるみ』を作るが、グレムリンは魔力リソースを全て消費し、他者を攻撃するための頑強で性能のいい肉体、そして爪や牙などといった武器を得る。

 

10体のグレムリンは猪に人を足したような姿をしていた。その巨体、重量、大木を簡単にへし折る力、口横に生える鋭い角。どれをとっても人間に脅威にしかならない獣たちが、餓えを満たすために暴れ回る。

 

――ボロアアアアアアアアアア!

 

テントが壊され、キャンピングカーが粉砕される。遠くで見守っていた人たちが私物を破壊された事による感情(ショック)を大量に生み出す。それがあまりにも美味しくて、イノシシ型のグレムリンたちは歓喜のあまり雄叫びを上げる。

 

もっと、もっと食べたいと餓えるグレムリンたちは感情の発信源。つまり避難したキャンパーたちへと視線を向ける。

 

――あいつらが感情(食い物)を生み出す。直接危害を与えていないのにも関わらず今まで感じたことのない美味なる感情(食い物)を生み出す。であれば直接危害を加えればどうなるか? もっともっと美味しいものを生み出してくれるに違いない!

 

イノシシ型グレムリンたちが人間達を標的に選んだ。元とのなった生物特有の突進力を活かして突撃しようとする。全ては己の餓えを満たすために。

 

「――はいはいそこまででーす!」

 

しかし、その前にグレムリンの天敵と呼べる存在――魔装少女が空から現われた。声に反応したイノシシ型のグレムリンたちは足を止めて上を見上げる。

 

「〈魔法展開(スペル):マジックショット80〉!」

 

20支部に所属する魔装少女、ストーム・アローは自由落下するなかで生成した計80発の小さな魔力弾をグレムリンに射出。命中はおよそ半分程度で、ダメージも無いが元から注意を引くための攻撃であるため問題はなかった。

 

ストーム・アローが地面にある程度近づいた時、事前に発動していた魔法〈ウィンドパラシュート〉によってまるで開いたパラシュートを装備しているように落下スピードが急減速、ふわりと着地する。

 

「嵐のようにストームアロー推参でーす!」

 

名乗りをあげてノリノリでポーズを決めるストーム・アロー。これによってグレムリンたちの意識は完全にストーム・アローに固定される。

 

「いやぁ、今日は大量ですね。他の魔装少女はまだ来てないようで……あれ、私やばくないです?」

 

イノシシ型グレムリンが十体、一方で魔装少女は自分だけと人数不利は明らかである。

 

「めっちゃ怖いでーす!……なんてね!」

 

わざとらしい脅えた“ふり”をストーム・アローがすると、イノシシ型グレムリンたちは容易い相手だと認識したのか、彼女に向かって突進する。

 

自動車並みの速度且つ群れを成して突進してくるイノシシ型グレムリンたちに対してストーム・アローは跳躍。四体目と五体目の間ぐらいに移動。グレムリンたちはそのまま突撃するもの、振り向き再突進を行なうもの、足を止めて拳を振るうものなどに別れ、攻撃タイミングに大幅な時間差が発生した。

 

「〈魔法展開(スペル):フェンニングアーマー〉」

 

風の推進力を得ることができる魔法を唱え、魔装に風を纏わせたストーム・アローは、風に乗る木の葉のような動きで、ひらりひらりと舞い踊り、イノシシ型グレムリンの攻撃を避け続ける。

 

「嵐を捕まえるだなんて、命知らずですね!」

 

ストーム・アローは数が圧倒的に負けていること、明らかに見た目から防御値(DEF)が高そうな事から、すぐに自分がやるべきことを時間稼ぎへとシフトした。イノシシ型グレムリンの挙動は遅いために攻撃を避けること自体は簡単なのだが、不安があるとすれば他の魔装少女が何時来るかである。

 

「おっ、今回はいい感じでしたか」

 

今回は真面目に現場へ向かってねって言えばよかったですねと後悔していると、“大型スーパーで見かけるショッピングカート”を押しながら超高速でこちらへと走ってくる陸上選手が着るようなスポーツウェアにジャケットを着込むような魔装少女。マッハ・カームが見えた

 

「――おーまーたーせー。ストーム!」

 

自身と接触している物体に掛かる風圧を無にする『固有魔法』と、速度関係の魔法を駆使して自動車並みの速度で20支部からキャンプ場まで走ってきたマッハ・カームは、イノシシ型グレムリンの群れとストーム・アローよりも数メートル手前で停止。

 

「はいでーす。〈魔法展開(スペル):落葉風の術〉!」

 

魔力で生成された落ち葉のような物体が混じるつむじ風がイノシシ型グレムリンに襲いかかる。体中に纏わり付く葉に気を取られている隙にストーム・アローはマッハ・カーム“たち”の傍へと後退。ショッピングカートに中にいる“魔装少女”に声を掛ける。

 

「さあ! これ以上被害が広がらないうちに全部倒しちゃうです!」

「…………」

「行くですよ。エリアル・アイス!」

「…………おえ」

「だめそうでーす!」

 

エリアル・アイスは怠惰である事を別にしても、魔法の才能が『固有魔法』に振り切っているせいもあってか身体強化の魔法は殆ど効果が無く、魔装少女としてのステータスも素の状態とさほど変わらない上に運動音痴である。

 

なのでグレムリンが現われた際は、マッハ・カームに何かしらの手段で運んで貰うのだが、今回の“何かしら”であるショッピングカートの中でエリアル・アイスは顔を真っ青にしており、完全に重度の乗り物酔いを患っていた。

 

「乗り心地は酷かったみたいですね」

「さい、あくっ!」

「乗り心地も操作性もバツ。でもクッション入れたりタイヤを替えたりで改善できそう、次回もよろしくね」

「二度と乗らないっ!」

 

エリアル・アイスは最初こそまともな方だと評価したが、いざ乗ってみれば金属に直接座るだけあって動く前からちょっと痛い。タイヤではなく車輪は外で使うことを想定していないため道に少しの溝があったなら、浮くわズレるわ叩き付けられるわの大惨事。ちなみに二回ほど転倒して投げ出された。

 

「吐きそう……お尻痛い……というか全身痛い……吐きそう……うえ……」

「なんでもいいけど、魔法だーして、早くしないと被害が広がるです」

「鬼……」

 

現場に来た時点で満身創痍のエリアル・アイスに、ストーム・アローはいつものことだと遠慮無く要求する。イノシシ型のグレムリンたちはようやく落葉風から解放されており、その発生源であるストームに怒り心頭。十体全てが第20支部魔装少女に向かって突進する。

 

「鬼でもなんでも魔法発動してくれないと終わんないでーすよ」

「分かってるわよ。ああもう……〈固有魔法展開(エクストラ):凍る結晶〉」

 

〈凍る結晶〉は自らが生み出した“風”の中に氷の結晶を生み出す固有魔法。その氷の結晶に触れた物体は瞬間冷凍される。気分が悪いエリアルアイスが無気力に腕を仰いで発生した風でも条件は満たされており、複数のも氷の結晶が生まれる。

 

「これで終わりでーす! 〈魔法展開(スペル):ブリーズカプリーズ〉」

 

ストームの魔法によって生み出されたそよ風に乗り氷の結晶が飛んでいく。その行き先はイノシシ型グレムリン。

 

ボロアアアアアア――。

 

ストームがここに来て己の魔道具である弓を生成。氷の結晶がイノシシ型グレムリンに触れると、彼らは急速に熱を奪われて抵抗する暇もなく瞬間冷凍される。

 

「〈固有魔法展開(エクストラ):ストーム・アロー〉」

 

 

矢が装填されていない弓の弦を引き絞り、氷像と化したグレムリン達に狙いを付ける。すると風が弓に集まり矢の形へと固まっていく。

 

ストーム・アローは限界まで引き絞った弦を離した。放たれた風の矢は目標に命中する前に分裂していき、気がつけば百を超える風の矢がイノシシ型グレムリンに襲いかかる。

 

――イノシシ型グレムリンたちは氷像のまま命を終え、砕かれた氷たちから粒子が上がり、空へと溶けていった。

 

+++

 

「みんな凄かった!」

「ありがとでーす」

「というか間に合わなくてごめんね! 代わりに後片付け頑張るよ!」

 

それから少し時間が経ち、サンシャイン・ピーチと20支部の面々は壊されたキャンプ場に残っていた。

 

ピーチはマッハ・カームとエリアル・アイスに付いていく形で最近精度が上がった身体強化魔法を駆使して現場へと向かっていたのだが、途中転倒したために先に向かったのにも関わらず、マッハ・カームに追い抜かれて到着したのは全てが終わってからだった。

 

エリアル・アイスは今だ気分が回復しておらず日陰で休んでおり、ストーム・アローも小休憩。マッハ・カームはショッピングカートを活用してキャンパーたちの壊された道具などの後片付けの手伝いをしていた。ピーチはそんなマッハ・カームのお手伝いをしている。

 

「車は半壊の時点でグレムリン保険は満額でると思いますよ。民間の入ってません? じゃあ自動車保険のほうで請求したほうがいいですね。国民のほうだと最大でも車関係は百万しかでませんが自動車保険なら、これぐらい壊れていれば新品下ろして貰えますよ」

「保険のことめっちゃ詳しいんだね!」

「グレムリンが暴れた後って、やっぱり私物を壊される人が多いから知っておくと色々と助言が出来て便利なのです。あ、壊されたテントとかキャンプ用品は免許証とか保険証と一緒に纏めて写真撮っておくだけでいいですから――」

 

テキパキと身体も口もショッピングカートも動かすマッハ・カームのおかげで作業は滞りなく進んでいき、ピーチはグレムリンと戦うこと以外で活躍する彼女に尊敬の念を抱く。

 

「ああやって答えられたら格好良いよね! わたしも保険のこと覚えようかな?」

――何事も知識は武器になるから賛成さね。だけど保険関係は塾でやっていたはずなんだけど覚えていないのかい?

「……何回か聞かないと覚えれられないものってあるじゃん……」

――まずは予習復習って単語を覚えるところからかね

 

『魔装少女塾』、魔装少女のOGやフェアリーなどが在籍している、魔装少女になるため或いは魔装少女として役に立つ知識を学ぶ学習塾であり、桃川は魔装少女になる前から親に頼み込んで通っているのだが、難しい内容となると中々に覚えきれないのであった。

 

「お疲れでーす、はい差し入れ」

「うひゃ!?」

 

うなじに冷たい缶ジュースを当てられて変な声を出してしまうピーチ。予想通り良い反応だとストームは陽気に笑う。

 

「びっくりしたじゃん!」

「ごめんごめん。脅かしちゃった代わりにこれは私の奢りでーす」

「いいの? ありがとう!」

 

魔装少女とは言え夏の日照りに長時間晒されたため喉が渇いていたピーチは早速、貰ったジュースをグビグビと飲み出す。

 

「プハー! 染みる~!!」

――年寄りくさいねぇ

「だって喉渇いてたんだもん」

「ん?」

 

小声で鬼美に返事をするピーチだったが、距離が近かったこともあってストームに聞かれてしまう。

 

「あ、いや……そういえばっ! ストームさんすごく強くてすごい強いですね!」

――やっぱり何かを覚えるよりも先に語彙力という基礎をあげることから始めたほうがいいかもねぇ

「ありがとでーす。まっ、昔は第2支部に居たので、多少他の魔装少女よりかは動けないとってやつでーすね」

「え? 第2支部に!? 本当にすごいじゃん!」

 

――戦闘ガチ勢。武闘派魔装少女の根城などで名高い魔装少女としての戦闘能力を磨き上げることを何よりも優先する魔装少女第2支部。ピーチは強い魔装少女に憧れもあってか第2支部の事はよく調べており、元々はそこに在籍していたというストーム・アローに尊敬の念を送る。

 

「でものんびり好きな私としては毎日修行漬けの環境にあんまり馴染めなかったので。今は20支部でのんびりやらして貰ってるでーす」

「大変だって聞いたことあるけどやっぱり凄いんだ」

「そうですね。元の身体が強くないと魔装少女になっても弱いからって、魔装少女の力無しで富士山の天辺まで登らされたり、一日中ひたすらプールで泳がされたりする事があったです」

 

元の肉体を鍛えれば、魔装少女の基礎ステータスが向上する。第二支部はその基礎ステータスをあげる事を重点に置いており、結構ハードなメニューを魔装少女たちに与えていた。

 

ストームは当時の事を思い出して遠い目をする。実りのある日々ではあったが上から下まで体育会系を通り越した戦闘狂の集まりで年単位で在籍していたが最後まで馴染むことはできなかった。

 

「精神力を鍛えれば魔力も増えるからって滝行できる場所があったぐらいでーす」

「まじで!?」

「マジでーす。実際効果があったと言われると微妙ですけどね」

 

それはちょっと面白そうと思うピーチ。そんな内面で鬼美は精神力と魔力は違うものなんだけどねぇとぼやいた。

 

魔力とはフェアリーの因子を注入したさいに発生する体力、精神力とは違う第三のエネルギーである。なので精神力を鍛えたからといって、直接魔力が向上するかと言われればそうではなく、魔力は魔力としてあげるための訓練が必要である。

 

といっても、筋肉が増えれば精神に何かしらの影響が出るように、精神力を鍛えれば魔力に影響がでてくることで言えば間違ってはいないがと、民間医療に触れてしまった医者のようになんとも言えなくなる鬼美であった。

 

+++

 

作業が一段落したこともあり、ピーチは休憩がてらストームに頼まれて木陰で休んでいるエリアル・アイスの様子を見に行く。

 

「エリアルさん。体調のほうはどうですか?」

「吐き気も痛みもなくなったわ」

 

ただ移動しただけで、どうしてこんな目にと文句を言いながら地面に突っ伏していたアイスだったが、次第に回復していき今は木にもたれ掛かりジュースを飲みながら寛いでいた。

 

「それと呼び方も話し方も普通でいい」

「いいの? じゃあアイスちゃんって呼ぶね!」

「ちゃんはいらない」

「じゃあアイスだね。わたしの事もピーチって呼んでね!」

「ええ」

「あ、よかったらリライン交換しない? 後でストームさんとマッハにも聞くんだけど、アイスからも先輩の魔装少女として色んな話が聞きたいな!」

「別にいいわよ」

 

スマホを取り出してリラインのIDを交換しあう。その中で自分とは違い活力というものに溢れてるピーチであるが、苦手に思わないことに自分自身で不思議がる。しばらく彼女を観察したアイスは、その理由に思い当たり納得する。

 

「……あなたって兄さんたちにそっくり」

「アイスにはお兄ちゃんいるんだ! 私もお姉ちゃんが二人いるから同じ妹だね! どんなお兄ちゃんなの?」

「うるさい、うざい、めんどくさい」

「散々じゃん」

「でも、それが悪くない兄たちよ」

 

――自分とは違い太陽の化身と言われても信じてしまいそうな熱い兄たち。兄だけではなく自分を除いた家族がそうなのだが、働き者で休みでも何かしら動いていないと落ち着かない。そんな血筋に生まれた怠け者がエリアル・アイスだった。

 

そんな自分に熱く絡んでくるが、怠け者であることを否定しない家族の顔を思い出し、連鎖的に久しぶりに連絡をとった時の理由となってしまった戦争決闘の二回戦のことを思い出す。

 

「……あなたって『アーマード』側の魔装少女?」

「え? う、うーん。どうなんだろう?」

――まっ、黒稗天委と仲がいいんだ。『アーマード』派であることは間違いないさね

「えっと、多分そう!」

――多分は余計だけど……まあいいさね

 

自分の立場というものと全く分かっていないため曖昧にしか返答できなかったが、どこの支部にも属しておらず、『魔装少女塾』に通っている。またセブンスガールの一人とは友人関係であるサンシャイン・ピーチは間違いなく『アーマード』側の人間である。

 

「……………………」

「どうしたの?」

 

なにか言いたそうな雰囲気を全身に醸し出すアイスは、少し経ってから遠慮がちに口を開いた。

 

「……ブレイダー・エデンって知ってる?」

 

そう尋ねるアイスの頬が僅かに赤らんでいた事に気付いたのは鬼美だけだった。

 

「エデンって戦争決闘でアイスが戦った人?」

「…………うん」

 

恥ずかしそうに頷くアイスに、ピーチはどうしてそんな反応をするのか首を傾げる。

 

実は戦争決闘五番勝負でピーチがまともに見ているのは直接見た一回戦、後でアーカイブで見た三回戦のふたつだけである。他の試合を見ようとすると鬼美にお子様には刺激が強すぎると視界をジャックされたりなどして見れていない。

 

「うーん。あんまり知らないかな」

「そう……」

 

そもそもブレイダー・エデンを知ろうとすると、家族然り規制然りとよく邪魔が入るためピーチは殆ど知らない。また友達と会話をすることが多い分、一人SNSを眺めることは少なく周りが話題にしなければ流行に疎くなるのが桃川暖子という少女だった。

 

「……いま何処でなにしているか知ってる?」

「ううん。それも分かんない……アイスはブレイダー・エデンに会いたいの?」

「別に……別によ」

 

なにを聞いてるんだろうといった様子でため息を吐いたアイスはゆらりと立ち上がった。

 

――あの日、世間に醜態を晒したことで何かと周りに気を遣われたり、逆に卒業おめでとうとか抜かしてお祝いしてきた家族とか仲間がいたりしたが、最終的にはいつも通り考えるのがめんどくさくなって、割かしどうでもよくなっていた。

 

だが、エリアル・アイスはエデンが出した甘く蕩けるような女声を忘れられなかった。脳に刻まれたそれは発作的にリピートされてしまい、その度に心地の良い痒さが全身を襲うのだ。

 

「……ん」

「どうしたの?」

「な、なんでもないっ!」

 

ピーチに声を掛けられた事で“無意識に痒くなったところを掻こう”とした手を止める。

 

「なんなの……」

 

まるで変態みたいじゃないと自分の変化にめんどくさいといつものように零すが、自分でも吐いたため息が誤魔化すためのものでしかないと分かってしまう。これも全部あいつの所為だと鎮火することのないやきもきとした感情を、ここには居ない両生人類に向けた。

 

「……やっぱり一回会って文句言わないと気が済まない」

「どうしたんだろう?」

――年頃の女には色々あるのさ。放っておいてやりな

 

まだ子供には早いと話を打ち切ろうとする鬼美に、ピーチは余計に気になるが聞いても答えてくれそうにないと、当の本人であるアイスに視線を向ける。

 

「じーーーー」

「……ちょっと缶を捨ててくるわ」

 

アイスはそんな視線に耐えかねて、逃げるようにその場を後にした。

 

「――やはろー。サンシャイン・ピーチ」

「うわっ、びっくりした!?」

 

入れ替わるように、傍に来ていたマッハ・カームがピーチに話しかけた。近寄ってきたことにまったく気がついていなかったピーチは盛大に驚いた。因みに鬼美は気付いており、わざわざ教える必要はないかと無視していた。

 

「ど、どうしたの?」

「後始末手伝ってくれてありがとです」

「あ、いえ。こちらこそー」

 

見た目で言えば同年代、もしくは年下にしか見えないが、実際は年上であるマッハに頭を下げられたピーチは恐縮し、続くように自分も頭を下げる。

 

「活動記録は20支部のほうから送っておくよ。協会に口座登録していなかったら20支部での受け渡しになるけど、そのときはじぶんが持っていくからよろしく」

「え? いや、わたし戦わなかったし、受け取れないよ!」

 

グレムリンを討伐したり、魔装少女として活動したりするとそれに見合ったお金が『魔装少女協会』を通して支払われる。法律上の問題で給料ではなく、交通費や支援費などの名目で配られるものであるが報酬であることには変わらない。

 

グレムリン10体分となれば例え四等分にしても、中学一年生にとっては結構な値段になる。なにもしてないのにいいのかなと遠慮するピーチに、マッハは親指を突き立てた。

 

「無問題。お姉ちゃんからの奢り……ってのは冗談ですけど大人的社会系の事情で受け取らないほうが問題になるのであぶく銭だと思って遠慮無く焼肉か寿司でも食べてくださいね。そういえばピーチは他支部に登録してないんですよね?」

「う、うん」

「なら第20支部から支部褒賞出せたらよかったんですが、うちはあのとおり零細支部なので上げられるものといえばTシャツぐらい、あと数着ほど持っていきますか?」

 

所属する魔装少女に対して、支部からグレムリンの討伐数に応じてなんらかの報酬が還元されるシステムが存在する。内容は現金を直接渡さないこと以外、支部によって全く違うものとなっており、有名どころで言えば第2支部などはポイント制を導入していて、ポイントに応じて寮での生活環境の向上、支部内店舗での値引き、施設の優先使用権などを与えて競争率を煽っている。

 

ただし低予算な第20支部には報酬を用意できる余裕はなかった。それでも代表が代わりにと焼肉食べ放題を月一で奢ってくれるだけでマッハたちは十分だった。

 

「あ、それは普通に欲しい」

「あいあいさー。じゃあ最初にあげた奴とまとめて持っていくからよろしくです。あ、連絡するためにリライン交換しようか、いい?」

「もちろん!」

 

断る理由がないと二人は連絡先を交換。アイスとは先んじて交換していたのを知ったマッハは仲間はずれもアレだとストームの連絡先も教えた。

 

「ストームさんに聞かなくていいの?」

「実績と信用があるので無問題。後で適当にメッセージ送ってね」

「うん! なにからなにまでありがとう!」

「いえいえ。後輩魔装少女の面倒を見るのは先輩の勤めってやつです」

「そういえばマッハ・カームって幾つなの?」

「今年で21歳。お酒も煙草もエッチなこともしても大丈夫な立派な大人だよ。ちなみに魔装少女歴で言えば20支部で一番の先輩」

「うそぉ!?」

 

ピーチは自分よりも年上だとは知っていたが、想像よりも大分年上であることに驚愕する。

 

「驚くのも無理はない。じぶんでも鏡を見て中学生にしか見えないと思う日々、第二成長はまだ来ていない。これも魔装少女になった代償か」

「えっ!? 魔装少女になると身長止まるの!?」

「……そう、名前のとおりじぶんたちは永遠に少女である宿命を背負わされるのだ。嘘だけど」

「そ、そうなん……って嘘じゃん!?」

 

ナイスノリツッコミと親指を立てるマッハ。見事騙されたーと項垂れるピーチに流石に訂正を入れた方がいいかと鬼美は口を開いた。

 

――まるきり嘘ではないけどね。魔装少女に成っている間の肉体における物質活動は最小限になるから、その分細胞活動が鈍化になって成長も老化も遅くなるのさ。今の魔装少女がどういう仕組みかは知らないけど変わってないはずさね

「へー、そうなんだ」

「なにに感心したんです?」

「え!? えっと……タンナルヒトリゴトダヨー」

――おバカ

 

普通に感心してしまい声にだしてしまったピーチに、マッハはむむむっと顎に手をあてて何かを考える。

 

「ピーチちゃんって内なる自分と会話するタイプ?」

「そ、そう! 第二のわたしが呼びかけてくるの! 中学生なので!」

「なんだか嘘っぽいというか、私の予想が違う? サンシャイン・ピーチの固有魔法に関係しているのかな? それとも全く違うやつ? なんだかこういう話最近どっかで聞いたような……」

「ううっ……」

 

戦争決闘で派手に暴れてしまった鬼美は、この事が露見したら面倒にしかならないと、ピーチに改めて自分の事は誰にも知られないようにと言いつけた。ピーチは鬼美の存在を隠そうと努力してくれているが、ご覧の通り才能がなさすぎて時間の問題だねと鬼美本人、ちょっと諦め気味である。

 

「あれ? まだ帰ってなかったんです?」

 

好奇心が強いマッハは人に気を遣うことを忘れてピーチの謎の行動を暴こうと脳みそを回転しはじめる。もしかしてバレたかと焦るピーチ。そんな二人に合流したストームが声を掛けた。その側にはアイスもおり全員が集まった。

 

「マッハ。あんまり引き止めちゃダメでーすよ?」

「むっ、それもそうですね。でもこうやって一緒にいるので、予定がなければこのまま夜ご飯も一緒に食べませんか?」

「いいの? 食べる食べーーあああああああああああ!!」

「……うるさい」

「夕方には家に居ないといけないの忘れてた!」

 

黒稗の頼み事は第20支部に代理として訪問するほかに、もう一つあった。そのために約束の時間までにはマンションに帰らないといけなかったのだが、ピーチは今の今まですっかり忘れていた。ちなみに鬼美も普通に忘れてたのでだんまりを決め込む。

 

「やばい! 間に合うかな!?」

 

約束の時間まで後30分もなく、魔装少女の速度で急いでも間に合いそうになかった。焦るピーチの肩にポンっと手が置かれる。振り向くとマッハ・カームが親指を突き立てており、その親指を背後にあるショッピングカートに向けた。

 

「今ならタダですぜお客さん」

「……安全運転でお願いします」

 

――ジェットコースターって人が楽しめるように出来ている。後にサンシャイン・ピーチはそう語ったそうな。

 




ショッピングカート。星★★★

大型スーパーの古いものを頂いた。
流石の操作性。でも乗り心地は最悪らしく改良の余地あり。
アイスは投げ出された。アイスは投げ出された。
二回書き込んだのには意味がある。


今回の番外編では3章に必要な情報を事前提示も目的として書きました。こんなに長くなるとは思わなかったですはい()
そして、グレムリン周りなど一年近く出せなかった事になるとは( ̄▽ ̄)……出せた事を喜びます。

次回は体調次第となりますが、よろしければお待ちになってください次回!

( ̄▽ ̄)まっさおー……高評価よろしくね!


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【奈落】助けてほしい【個人相談】

感想、評価、お気に入り登録、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。
評価たくさん頂いて本当に嬉しいです( ̄▽ ̄)。

これで閑話は最後になります。書きたかったけど本編にねじ込めなかったものなので短いです。完全にコメディです。それでも楽しんで頂けたら幸いです。




1:奈落

忙しい時期なのは分かっているが知恵を貸して欲しい。誰かいるかい?

 

2:七色

いるっす!

 

3:王様

遠慮なく申すがいい。

 

4:希望

いるよ。

 

5:奈落

……すまないやっぱり自分でどうにかするよ。

 

6:七色

人選見て撤退しようとしないでくださいっす。

役に立てるかわかりませんけど話だけでも聞かせてくださいっす!

 

7:奈落

ごめん。反射的つい。

それにしても日が変わる前とはいえ深夜帯に王様と希望がいるのは珍しいね。

 

8:王様

王としての仕事の最中だ。日本の空を周回している。

 

9:奈落

お疲れさま。でも店のほうはいいのかい?

 

10:王様

先の混乱もあり夜の時間は魔装少女たちの手が足りぬと天使に進言されてな。故に暫くの間は我が城の運営は妹たちに任せてこちらに専念するつもりだ。

 

11:希望

混沌もとても忙しそう。

 

12:七色

みんな忙しい中、自分だけ何もしていないみたいで申し訳ないっす。

 

13:奈落

好きな人と一緒に居ることが何事にも代えがたい幸福なのはボクも一緒だ。だから彼女たちの気持ちが凄く分かるからこそ、七色には七色にしかできないことをちゃんとやっている事も分かっている。だからそう卑下しないでくれ。

 

14:七色

うっす。そう言ってもらえるとありがたいっす。

 

15:王様

ともあれだ。奈落よ。何か訴えたいものがあるのならば我らに遠慮なく語れ。……二度とあんな思いはごめんだ。

 

16:奈落

いや、第3支部では色々と勝手をして心配かけたのは本当にごめん。でも今回そんな真面目なものじゃないんだ……。

 

17:希望

いなくなっちゃやだ。

 

18:奈落

いや、うん。ごめん。

 

19:七色

奈落先輩、ここ数日謝り倒しっすね。

 

20:奈落

正義とか天使は揶揄い半分だからともかく、王様と希望は本気全部だからすごく堪えるね。

 

21:七色

それだけ心配したんすよ、俺もみんなも。やっぱり親しい人が死ぬのは辛いっすから。

 

22:奈落

……そうだね。もう死のうとは思わないよ。

違うか、今は家族が居る。愛する人が居る。だから意地でも死なないよ。

 

それはそれとして、この空気感で話すのアレだからやっぱり相談事は後日でいいかい?

 

23:七色

どうせモニカさんとのことっすよね? 

 

24:奈落

ああうん。そうなんだけど。

 

25:王様

ふむ? ひとつの体で生活することはやはり弊害が多いものか?

 

26:奈落

日常生活全体で言えばそこまで苦労している事はないよ。フォローしてくれる家族も居るし、モニカも気を使ってくれている。それにボク自身、元から自主的な趣味があったわけじゃないからね。今は家族と同じ空間を生きていけるというだけで幸せだよ。

 

27:七色

本当によかった。それしか言えないっす。

でも、それなら相談したいことってなんすか?

 

28:奈落

……その、ボクの魂の正確な居場所は『B.S.F』の中だ。だからひとつの肉体を共通して生きているとなると少しニュアンスが違うんだ。

 

29:希望

奈落の『B.S.F』は奈落。

 

30:奈落

まあそうだね。『B.S.F』のカメラはボクの目として、スピーカーとマイクが口と耳の代わりとして機能している。ふたつの魂がひとつの肉体に繋がり現世に留まっているけど、モニカはモニカの身体で、ボクはボクで『B.S.F』でと五感というものはきっちりと区別されている。

 

31:王様

ふむ? してだ。それが今回の悩み事にどう関係する?

 

32:奈落

その……せっかく五感が別れているなら……プライバシーが必要な場面ではきちんと別々の場所に居るべきだと思うんですよ……。

 

33:七色

あーーー。なんとなく分かったっす。

 

34:王様

曖昧な言葉だけでは話が進まん。はっきりと述べてくれ。

 

35:奈落

……彼女、お風呂にスマホを持っていくタイプだったみたいで、とても困っている。

 

と て も こ ま っ て い る 

 

36:七色

やっぱり。

 

37:希望

なんで困っているの?

 

38:七色

なんでって言われると……なんでなんっすかねぇ。

奈落先輩もモニカさんも好き同士なんだから別にいいような気がするっすけど

 

39:奈落

七色にだけは言われたくないよね? 昔スレで書き込んでいたよね? あの子たちが風呂入りに来たら抵抗していたよね?

 

40:七色

あれは全然違う話っすよ!? 一緒に風呂に入るとか生やさしいものじゃなくて、鴨鍋食いに来たとかそんな感じっすよ! 

 

41:奈落

同じ風呂の話なんだからそんなに違いはないよね。

 

42:七色

違うっすよ!?

 

43:王様

奈落よ。汝は結局のところなにを解決してほしいのだ?

 

44:奈落

言ってしまえばボクというか『B.S.F』を風呂に持ち込まないで欲しいんだけど。その説得のアドバイスが欲しい。

 

45:七色

無理っすね。諦めが肝心っす。

 

46:奈落

もうちょっと考えて欲しいな……。

 

47:七色

というか奈落先輩はなんで嫌なんっすか?

俺の時は一緒に風呂に入ったら喰われるって生存本能が働いたからなんすけど、モニカさんと一緒に風呂に入るのを奈落先輩が嫌がる理由が分からないっす。

 

48:希望

奈落、モニカと一緒にお風呂入るの嫌なの? 

みんなと銭湯に行ったときとても楽しかったよ?

またみんなと行きたいな。

 

49:奈落

……希望、そろそろおねむの時間じゃないかい?

 

50:七色

♯逃げるな奈落先輩

 

51:王様

♯撤退は許されないぞ奈落

 

52:奈落

……別に一緒に入るのは嫌いじゃないけど……生まれた姿を直視するというのは結構困る。

 

というかそもそもモニカは分かっていてやっている節があって動画を見るにしては不自然に『B.S.F』のカメラのアングルを変えたりしたりその後も動画の感想にしては何か違和感があるような質問をしてボクがほんの少しでも動揺しながら回答するとにんまりとした意味深な顔してくるんだあれは確信犯だよなんにせよ手に負えないのは変わらないんだけど。

 

53:七色

声には出してないと思うっすけど一息で喋ってそうっすね。

 

54:王様

風呂に入っている内はカメラ機能などオフにすればよかろう。

 

55:奈落

白いからって敬遠していた雑煮の良さを知りました。目の前にあるのに食べないのは恥だと漫画で学びました。そういうことです。

 

56:七色

なんというか、戦争決闘終わってから奈落先輩ずっと思考ふわっふわっすよね。

 

57:奈落

……ごめんちょっと落ち着く、コーヒーを自由に飲めなくなったことだけは本当に不便だね。

 

58:王様

望まぬ地獄の底で生き抜き報われたのだ。年末まで浮かれてしまってもおかしくあるまい。

 

59:七色

奈落先輩。何事も諦めが肝心っす。別にとって食おうという話じゃないんすよね? なら何事も楽しんだ方がいいっすよ。

別にとって食おうって話じゃないんならっすけど。

 

60:奈落

七色、君の環境と比べれば全然平和だとは思うけどね……。

ただ、ボクがいつでも見れるようにって自撮りをするのはやっぱりやめさせた方がいいと思うんだけどどうかな?

 

61:七色

いや、そもそもここで話していいやつっすかそれ?

モニカさんにお風呂でのやりとりを俺たちに話してるって知られたらやばくないっすか?

 

62:奈落

…………鍵をつけるのはどうしたらいい?

 

63:七色

スレ主である奈落先輩の『B.S.F』からなら鍵掛けても普通に見れちゃうっす。

ちなみにモニカさんってスレ見るんすか?

 

64:奈落

とてもよく見る。ボクや君たちがしてきたことをちゃんと知りたいからって。

いやぁ、気恥ずかしくなることが多いけど過去を遡ってモニカや三姉妹と話す時間はボクとしても楽しくてね。

みんなに言えることだけど閲覧許可を出してくれて本当にありがとう。

 

65:七色

奈落先輩……スレを消す機能はどこ探してもなかったって天使が言ってたっす。

 

66:奈落

……ボクの思考そんなに分かりやすいかい?

 

67:七色

気持ちは凄い分かるっすから。第8支部の事件以降みんなアーマードの活動を手伝ってくれていて、その時に必要な情報を過去スレで確認するために『B.S.F』を貸してるんっすけど……多分、関係無い情報もたくさん見られてるっす。

 

68:奈落

とても強い諦めと疲労のオーラが見える……。

 

69:七色

あ、と言ってもみんなが見ているのは俺が立ち上げたスレだけだと思うので安心してくださいっす!

 

70:王様

相も変わらずだな七色一同は、だが人のことは言えぬかもしれんな。

 

71:七色

王様が? もしかして妹たちのことっすか?

 

72:王様

ああ、元からアーマードに関する話を求めてくるが戦争決闘後は特に上の妹たちがな。様子からしてどうにも不信感を募らしているようだ。

 

73:希望

王様の家族、みんな王様の事心配している。

 

74:王様

分かっている。故にどう対応するのが正解か悩んでいる状態だ。

 

75:奈落

王様の妹たち、特に三女から上はボクたちブレイダーにとても複雑な感情を持ってるからね。

もしも答えを出せないならボクたちに遠慮無く相談してほしい。

 

76:王様

ああ、様子がこれ以上変化するならば頼らせてもらおう。して奈落の風呂の話に戻すが解決はしたか?

 

77:奈落

したというか、これ以上話題を広げる気持ちが持てないというか……なんかごめん。モニカとしっかり話し合うよ。

 

78:七色

全然いいっすよ。こんなこと言うのはおかしいかもっすけど奈落先輩とこういった話ができて嬉しいっす。

 

79:希望

ぼくも嬉しい。

 

80:奈落

そう……うん、そうだね。今は忙しいかもしれないけど、これからはもっとスレ立てして色んな話をしていきたい。その時はよろしく頼むね。

 

81:王様

応!

 

82:七色

こちらこそよろしくっす!

 

83:奈落

……やばい、わすれかけていた。

早々に申し訳ないけど、このスレをモニカから隠す方法を相談してもいいかな?

 

84:七色

なにごとも諦めが肝心っす!

 

85:奈落

七色にはちょっと言われたくないかな。

 

86:希望

奈落。このスレをモニカに見られたくないの?

 

87:奈落

そうだね。もしかして方法があるのかい?

 

88:希望

でも、さっきからずっとスレ見てるよ。

 

89:奈落

………………え?

 

90:奈落

た~ま~く~ん~!

 

91:奈落

まて話し合おう。確かに他人に話していい内容じゃなかったかもしれないけど、あくまで相談事として提示しただけであって、いや、だからあちょっとまっ

 

92:七色

まさかのホラースレだったっすねぇ。

 

93:王様

女は怖いということか。

 

94:希望

奈落もモニカも楽しそう。

 

95:七色

間違ってはいないっすね。

 

 




奈落は一日サンドウィッチ(辞典)の刑になりました。


次回から3章に入りますが内容について少しばかり。

話の進みかたとしては騎士と天使を主体としたストーリーが交互に展開される予定です。自分も初めての挑戦となっており、いつも以上に不器用な形になってしまったら申し訳ないです。

また話の長さは1章と2章の中間ぐらいになりそこまで長くはならないと思います(  ̄▽ ̄)たぶんきっとそうだといいな……。
ついでに雰囲気も結構変わるかも。

そんな作品ですが楽しんで頂けたら本当になによりです。それではお待ちになってください3章!


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北陸支部編
騎士というもの 前編〈騎士〉


感想、お気に入り登録、評価、ここすき、誤字報告いつもありがとうございます。

3章『北陸支部編』はじまります。騎士と天使の両サイドを交互に展開していく予定となっています。しょっぱなから前後分けるのは予定外です()はい。

※演出上の都合のため前回あったカラオケ演出は省略していますのでよろしくお願いします。




 

――なにをやっているんだろう。

 

与えられた役割が重要なものであることは理解している。だけどこんな風に地下にぽつんと立ち、指示されるとおりにしか動かない自分があまりにも滑稽で無様に思えた。

 

そもそも仲間に力を貸して欲しいと頭を下げさせてしまった時から、否定的な態度をとって距離を置いてしまった自分があまりにも惨めで辛かった。そしてそう考えてしまう自分が反吐が出るほど嫌いになりそうだった。

 

だから戦争の合間は何も知る気になれなくて、全てを知ったのは何もかも終わったあとだった。

 

尊敬する先輩の過去も誰よりも後になって知った。そんな先輩を皆が叱る中で何食わぬ顔を装い、とてもよくない事を考えてしまって吐きそうになるほどの自己嫌悪に陥っていた。

 

――ああ、なんでこんなに――。

 

 +++

 

「――奏汰、ちょっと奏汰?」

「……あ、えっと……どうしたの? エマ姉さん」

「最近ぼーっとしているけど、大丈夫なの?」

 

朝食を食べている最中にどうやら箸を止めてしまっていたようで、姉さんに心配をかけてしまった。

 

「大丈夫だよ。最近バイトや大学で色々立て込んじゃってるから少し疲れているだけ」

「私が言うのもなんだけど、あんまり無茶しないでよ」

「……本当に姉さんにだけは言われたくないな。俺と同じ歳の頃なんて毎日残業漬けだったって記憶があるんだけど?」

「あの時は会社設立してすぐの頃だったんだから仕方ないでしょ……まあ私たちの見積もりの甘さがすぐに出ちゃったってだけなんだけどね……。そんな訳で過労寸前まで休まなかった姉からの有り難い言葉よ。素直に受け取りなさい」

「はいはい、肝に銘じるよ」

 

言っていることはごもっともだが冗談交じりであることは分かっているため、適当に返事をして食事を再開する。

 

姉は二年生の時に大学を中退して、高校からの友達と共にアパレル会社を設立。いわゆるベンチャー企業の代表取締役となった姉は当時、寝る間も惜しんで仕事に明け暮れて過労で倒れそうだった事を覚えている。

 

しかし、そんな姉はとても楽しそうで、会社を立ち上げた友達たちもそんな姉と共に懸命に働いた。それが実を結んで今では姉さんたちがデザインした服が、雑誌の表紙で使われて若者たちに支持を受けている。

 

去年の確定申告時期に、もうちょっとで億いったのにーと少し悔しそうにぼやいていたのを見た感じ、稼ぎも相当なものらしい。

 

「というか姉さん。今日はリモートだけなの?」

「まあね。でも明日はコラボ先の会社に挨拶行くから大阪に一日中ってかな」

「大変だね」

「あっちの人は別にいいって言ってくれたんだけど、やっぱり直接商品を見てほしいし説明もしたいから自分からお願いしたの。だから全然よ」

 

リモートじゃあどうしても魅力は全部伝えられないからねと言う姉さん。今回の商品はいつも以上に自信があるらしく明日が楽しみといった様子で、とても輝いていた。

 

「あ、あと。母さんも父さんも今日は帰って来れないから昼と夜は自分でどうにかしてって」

 

母は会社員、父は公務員として現役で働いており、詳しくは聞いたことないが結構上の立場の人らしく今日みたいに帰れない日も多い。特に父親に関してはここ数年は出ずっぱりであり、泊まり込むことも少なくない。

 

だけど子供のことはちゃんと愛していると伝わるぐらい、自分たちとの交流も大切にしてくれている。母さんは忙しい日を合間縫って手料理を食べさせてくれたり、家事だってやってくれた。父さんもそうだ。少なくとも自分は親に関して寂しいとは一度も思ったことはない。

 

「わかったよ。姉さんはどうするつもり?」

「うーん。私としては弟の手料理を久しぶりに食べたい気分だけど……また今度みたいね」

「ごめん。俺もエマ姉さんのために久しぶりに腕を振るいたいけど今日は予定で詰まってるんだ」

 

結構本気で残念そうにする姉さんに申し訳ないと両手を合わせる。

 

「いいわよ。本当に頑張ってるの知っているんだもん。むしろ何か困ったことがあれば姉さんに相談しなさい」

「……いいよ。もう沢山貰ってるから」

「奏汰?」

「……ごちそうさま。姉さんもそろそろ時間じゃないの?」

 

自分がそう指摘すると、姉さんは時計を確認してやばっと言いながら私室へと向かった。

 

時間をちょっと忘れやすい所に助けられた。家族を第一に考えてくれる姉さんの事だ。自分に悩みがあるとバレれば踏み込んでくる……それが嫌じゃなくて、そんな姉さんに甘えてしまいそうな自分が嫌だった。

 

食器を洗うと外へと出るのに丁度いい時間となり、自分の部屋へと向かう。ふとリビングの窓から外を見る。十八階建てのマンション、上から三番目。そこから見渡す東京の街は子供のころやけに好きだった。

 

でも今は辛い。そして辛くなる自分が死ぬほどキライで何もかも嫌になる。

 

――生まれた時から与えられた自分の部屋。それをひと言で表現すれば“充実した空間”といった所だろう。十畳の床にはお洒落なカーペットが敷かれており、その上には様式の家具とテレビなどの電化製品が並べられている。

 

学年が上がるたびに買い換えられたベッド。今使っているのは姉のお下がりとはいえ一式で20万を超えるものだ。本棚やクローゼットも十万円はするもので、これらは親が自分のために買ってくれたものだ。

 

さらに言えばクローゼットの中にある服も自分で買ったものはない。中にあるものは全て姉が似合うからと買ってきてくれたものばかりである。アパレル会社の社長だけあってか弟の衣服にも手は抜かず。自社製品を含めて一着でクローゼット本体が買えるほどの高級品。それが十着以上、中でハンガーにぶら下げられている。

 

パソコンは高校入学の時に親が買ってくれた。少し前に調べて初めて知ったが当時の最新機器で30万の新品だった。さらには父親が使っていた高性能のスマホとタブレット端末も譲り受けた。

 

当時は自分が入学した私立高校の学費もあっただろうに、中学校を無事に卒業できたから、大会でいい成績を残せたから、第一希望の高校に合格できたから、良い子に育ってくれたからとプレゼントしてくれたんだ。

 

それを聞いた時、パソコンやタブレットが自分のものになった瞬間よりも嬉しくなって涙汲んだのを鮮明に覚えている。

 

犯罪の類いは一切してこなかったが、譲れないことがあったため同級生と喧嘩したことがあった。失敗も沢山あった。迷惑も沢山掛けた。でもそういったものを一切口には出さす。自分の事を信じて受け止め続けてくれた父さんと母さんには本当に感謝している……。

 

「……行ってきます」

 

なんだか黙って出て行くことに耐えられなくなって自分は、そう言いながら部屋を出た。

 

 +++

 

「はぁ……」

 

カフェのテラス席で深いため息を吐いてしまう。勿体ないと注文したものを口に入れるがサンドウィッチと抹茶ラテはすでに冷めてしまっていた。

 

プロを目指さないか?最近通い始めたボクシングジムにて、コーチからそう話を振られた。断わるもしつこく勧誘してくるので、殆ど逃げるようにジムを後にした。もう二度とあそこには行かないと退会申請をメールで送る。

 

「これで6回目か……」

 

“あの事件”からもっと強くなりたいと色んなジムや道場に通っては勧誘を受けて辞めるを繰り返していった。中には三日で辞めてしまった所もある……それでも、教えて貰った技術をほぼ完璧に会得する自分は確かに才能があるのだろう。

 

サッカー部のコーチから将来プロサッカー選手になれると言われたこともある。それだけじゃない。中学、高校ともに友達に誘われたり、先輩から言われて出た空手や柔道の大会で優勝こそしたことはないが好成績を残してきた。そこまで練習をしたことも無いのにだ。

 

気合い“だけ”が足りないと言われたことがある。それを聞いたとき正しいと思った。

 

なんでも出来るというのは楽しかったが、なにをしてもそこまで情熱的になれなかったのが自分という人間だった。それでも良いと思って両親や周りに甘えて“何も考えずに遊んでいた”自分は誰かにとって酷く滑稽に見えたのではないかと嫌なことを考えてしまう。

 

「――あの。少しよろしいでしょうか?」

「……はい、なんでしょうか?」

 

過去に思い耽っていると、身なりが整ったスーツ姿の男性に声を掛けられた。知らない人だったがどういった人物かは慣れすぎていてすぐに分かった。

 

予想通り、彼は芸能事務所の関係者で自分をスカウトしに来たとのことだ。彼が勤めている会社は自分でも聞いたことがある大手でテレビだけではなく動画投稿サイトでも人気のタレントを何百人単位で抱えている。

 

あなたは百年に一人の逸材だと、アイドル、役者、どの枠組みでも“輝ける”可能性を秘めた存在だと彼は言った。おべっかを言われているだけとは思えなかった。なぜなら彼の真っ直ぐな瞳から邪さは感じられず、心の底から本気で自分をそういう存在だという本気が伝わってきたからだ。

 

「――でもご覧の通り俺は黒髪ですよ?」

 

世界から人種差別がなくなった代わりに髪の色で差別する人間が増えたなんて言われるようになった時代。もっとも嫌悪される黒色の髪を見せる。といっても黒稗さんに比べれば薄く灰に近しいものであるがタレントとしては致命的だろう。

 

他の人と同じく髪を染めればいいなんて言ったら、適当に嫌がる素振りを見せて断わろうと身構えていると、スカウトマンはだからこそスカウトしたいとテンション高く宣言した。

 

彼は最近マシになったとは言え色差別が行なわれている現代社会に一石を投じたいとのこと。だから黒髪を持つあなたを輝かせれば世間の目を変えることができると熱く語った。

 

彼について少し興味が出てきて名刺に書いてあった名前をタブレットに打ち込んだ。すると彼の顔写真が出てきて、次に淡泊な文章で彼の簡易的な経歴、そして自らがスカウトし、なおかつ自分でプロデュースしたタレントやアイドルたちが出てくる。

 

そこに書かれているタレント名は自分でも名前を知っている人ばかりで、どうやら彼は凄腕のスカウトマンであると同時に敏腕プロデューサーだったらしい。そんな人に声を掛けられたという事実は驚きと共に嬉しく感じてしまい、気持ちが前向きになってしまう。

 

「――どうか私たちが用意するステージの上で輝いてくれませんか? お願いします」

 

頭を下げながら放たれた言葉に惹かれた自分が居た。彼はこうやって相手の本質を見抜き沢山の人を導いてきた人間なのだろう。もしかしたら自分の悩みをある程度読み取っているのかもしれない。

 

彼を改めて見る。“あの人”たちに比べてしまえば見劣りしてしまうが、彼には確かな強さを、一緒に働けば将来はよかったと思える人生を送らせてくれると、そう確信させる何かを感じた。

 

――ああ、なんでこんなに――。

 

「……あの……っ!?」

 

左のポケットの中に閉まっていたもの――『B.S.F』の画面にグレムリン出現の通知が届いていた。

 

「すいません!」

「あ、ちょっと!?」

 

放っておけないと財布から適当に金を抜き取って走り出した。後ろからせめてお金をっと彼が叫んでいるが無視して足を動かす。

 

――昼間の都会でも人気が無いところは探せばあるにはある。事前に調べていた通り誰もいない事を確認して、『B.S.F』の画面に向かって十字を切った。すると『B.S.F』が赤黄色のベルトへと変化して腰に巻き付く。

 

 

[覚醒せよ! 我らが守護者!!]

 

 

聞き慣れたテンポアップ気味に奏でられるファンファーレ。それに負けないぐらいの音量で機械音声がベルトから発せられる。

 

そしていつものように歌がはじまる。ほんの数ヶ月前までは聞くたびに心が弾んだ歌……それが今では聞くと心が軋む。

 

[お前が~いなきゃはっじっまっらない!]

 

 

本当にそうだろうか?

 

 

自分と同じ身長の機械的な十字架が背後に出現したのを見計らい両手を水平にして背中を預ける。

 

 

[世界を~照らすために~~!!]

 

 

こんな自分に照らせるとは思えない

 

 

「……変身」

 

 

[輝いてイカ~ナイト~~!!]

 

 

――っ! わかっている!

 

 

「…………行こう」

 

問題無く『ブレイダー・ナイト』に変身した自分は背中にある十字架――『クロスベル』を前に出して手を離す。地面に向かって倒れる『クロスベル』は重力から解き放たれたかのように水平に浮く。

 

そんな宙に浮いた『クロスベル』に乗って進みたい方向を念じると、『クロスベル』は太陽のように輝きだし空に向かって急加速した。

 

飛行中は足の裏がくっ付いているようでどれだけ急な角度になっても『クロスベル』から放り出される事は無く、緩い波に乗るサーフィンのような気軽さで空を飛ぶ。

 

――向かう先はグレムリンが現われた場所だ。

 

 +++

 

それから三分も掛からず現場へと到着する。上空から様子を伺えば既に『次元の狭間』は消えており、三体ほどグレムリンが街を壊しているのが見えた。

 

そんな最中、もっとも近くの支部から来たであろう数人で構成された魔装少女チームが現われてグレムリンと交戦を始める。

 

「――よし」

 

こんな所で悠長に観戦している理由はないので急降下を開始。魔装少女たちの後ろへと降り立つ。

 

「ブレイダー・ナイト!」

 

なんどか会ったことのある魔装少女が来てくれて助かると言ってくれた。その事に嬉しさと微かな辛さを感じながらも、今は戦いに集中する。

 

「街と人の守りは俺に任せて――フィルムバリア!」

[フィルムーバーリア!!]

 

自分が技名を叫び、それに続いて『クロスベル』が倍ほどの音量で謳うように叫ぶと半透明の膜のようなものが広がっていき道路からビル。標識に電線まであらゆる物体に被さっていく。

 

膜が被さった物たちは仄かに発光しており、まるで世界が輝きだしたように見える。そんな光景を初めて見るひとりの魔装少女が綺麗だと呟いているのが聞こえた。

 

ブレイダー・ナイトのスキル『騎士の盾』による技のひとつ『フィルムバリア』は膜状のバリアを生成して物体を守るものだ。これによって被害が最小限に留められるようになり、物を壊さないようにと普段は力をセーブしている魔装少女たちが本気で戦えるようになると利点が多いため、必ず最初に発動する技となっている。

 

「みんないくよ!」

「「「はい!!」」」

 

魔装少女たちは練度の高い連携によってグレムリンを倒していく。

 

「ライトシールド!」

[ラーイトシーールド!]

 

「わっ! ありがとう!」

 

時折、危ないと思ったら先んじて魔装少女の周辺に光輝く十字盾を出現させる。自分は守りに徹して魔装少女たちは攻撃に徹する。面白みの無いなんて嫌な批判も受けたこともある堅実な戦いの結果、だれも怪我することなくグレムリンを全て討伐することができた。

 

「来てくれて助かったわブレイダー・ナイト、おかげ周りを気にせず戦えて被害を最小限に抑えられた」

「こちらこそ、すぐに来てくれて助かったよ」

「あの、守ってくれてありがとうございます!」

「こちらこそ、戦ってくれてありがとね」

 

お互いがお礼を言い合う。いつものやりとりだが最近はどうしても魔装少女と話すと変な緊張をしてしまう。天使は仕事はまだまだ仕事は残っているが安定し始めたといっていた。だが『戦争決闘五番勝負』以降、魔装少女たちは否が応でも身の振り方を考え無いと行けなくなった。

 

そのことを意識すると何かブレイダーとしてやらないと行けないのではと色々と考え込んでしまう。このままいつものように立ち去っていいのだろうか? なにか労いの言葉でもかけたほうがいいのではないか?

 

そうやって少し悩んで、結局なにが最善か分からないまま口を開く。

 

「……生活はどう? なにか困っていることはない?」

「ん?」

「ああいや……。あれから少し経ったから気になってね」

 

中途半端な聞き方をする自分に内心で悪態を付く、幸いにも尋ねられた魔装少女は聞きたい事を察してくれたようで。苦笑しながらも話始めてくれた。

 

「私たちが二桁支部所属だからってのはあるかもだけど特に変わった感じはしないわね。いつも通りやらせてもらっているわ」

「そっか……それならよかったよ」

「……正直、変わってきてると分かっていても協会の事は少し怖いわ。でも貴方たちブレイダーやちゃんとした大人たちがいますごく頑張ってくれてるんでしょ? だったら私も魔装少女として頑張ろうって決めたの。可愛い後輩もいることだしね」

「先輩!」

「いま行くわ! じゃあね」

 

物足りなさそうにしていたのを気付かれたのか、少しだけ自分の意見を出してくれた。ちゃんと前を向いて大変な時期だからこそ魔装少女を頑張りたいと言う彼女はとても輝いていた。そんな彼女を慕う後輩の魔装少女たちもそうだ。

 

――自分が居なくても人はきちんと輝ける。そんなくだらない事が延々とループされる。

 

「――きゃああああああああああああ!!」

 

魔装少女たちがいる真反対。背後から甲高い悲鳴が聞こえた。振り向けばグレムリンが子を庇う母親の傍まで来ており、口を開き鋭い牙を突き立てる寸前だった。どこかに隠れていたのか!?

 

「しまっ――!?」

 

――しまったと言う暇があったら技の名を叫べ! と自分を罵倒するが、それが災いしてか脳の回転が止まり口が上手く回らない。体は動いているがナイトの移動速度では間に合わない。魔装少女たちも悲鳴に気付いて走り出しているがこちらも間に合わない!

 

――“あの日”の光景がフラッシュバックする。暴走した銀の弾丸が桃色の心臓を貫いた。あれが繰り返される。

 

あの時は訳の分からない奇跡が起きたがけど――今回は――!

 

「――だめだ!!」

 

子供を庇う母が噛まれる寸前、グレムリンが真横から伸びてきた足に蹴り飛ばされた。

 

「だ、誰が――もしかして!?」

 

ブレイダーの誰かが来てくれた。なぜだかそう思ってグレムリンを蹴飛ばした人物をしっかりと確認する。

 

――知らない男性だった。180はあろう高身長に紺色のスーツ。それと同じく紺色の髪を綺麗に整えており、臙脂色のネクタイとスクエア型の眼鏡を着用していて、その姿をサラリーマンのようだと簡単に評するにはあまりにも気品があった。

 

「あ、貴方は……」

「――ふむ, これなら行けそうだ」

 

そう言いながら男性はグレムリンに自分から急接近する。

 

「速い!? じゃなくて危ない!」

 

グレムリンは既に体制を立て直しており、接近してくる男性に向かって腕を振るった。それは人の命なんて容易く葬れる一撃だ。しかし男性は身を屈めて回避し、一瞬で懐に入るとグレムリンに殴り掛かった。

 

殴る、殴る、蹴る。避けて反撃する。大昔のカンフーアクションのような速度でグレムリンが攻撃を外せば、お返しにと言わんばかりに男性は何十発と打撃を繰り出す。

 

強化された視覚のおかげで男性の動きは分かる。だけど意味が分からない。掠ってしまうだけで死んでしまうかもしれない攻撃をあんな風に避けて、なおかつ反撃なんて出来るんだ!?

 

自分には出来るだろうか? いや、絶対に出来ない。自分が戦えるのはブレイダー・スーツという安全な(スーツ)があるからだ。生身で戦おうとすれば死ぬのが怖くて一歩も動けなくなる自分が容易く想像できた。

 

「やはり, 息の根は止められないか……魔装少女, トドメを任せたい」

「は、はい!?」

 

魔装少女たちは状況を把握しきれていないが、グレムリンを倒すのが先決だと動き出す。しかし男性は後退する気は無く、体は無事でも痛みは感じているのかグレムリンは苛立ちのあまりと言った風に大ぶりの攻撃を行なう。それが致命的な隙となり、男性は難なく回避したあと人で言う顎の部分に向かって強烈な掌底を繰り出した。

 

「今だ」

 

脳震盪を起こしたのかグレムリンはふらつき無防備となった。そこへ尽かさず魔装少女たちが魔道具で攻撃を加えてトドメを刺した。

 

――それから、グレムリンが完全に粒子化するのを確認した魔装少女たちは念には念を入れて周辺にグレムリンが残っていないか索敵を開始。あの男性はと探すと、いつの間にか被害に遭った親子の傍に居た。

 

「怪我はないか?」

「は、はい。ありがとうございますっ!」

「おじちゃん強かった! ブレイダーなの?」

「こ、こら!」

「ふっ, おじちゃんは少々武術を嗜んでいる一般人でしかない……今のところはな」

「あの……」

 

なんて声を掛けていいか分からず。言葉に詰まる。こちらを見た男性はじっと自分の顔を見つめる。マスク越しなのに、まるで奥の奥まで見透かされているようで怖かった。

 

この感覚に覚えがあった。さきほどブレイダーが来てくれたのだと勘違いした理由も分かった。この人は先輩たち――第一世代ブレイダーのようなんだ。

 

アビスの全てを見透かすような。

デビルの全てを惹き付けるような。

カオスの全てを抱えるような。

エデンの全てを受け入れるような。

ジャスティスの全てに重さを与えるような。

 

種類が違うけど、そんな先輩たちと同じ“凄み”をこの人から強く感じるんだ!

 

「……運が良かったな」

「っ!! 自分はっ! ……自分は……」

 

――心を読み取られた気がして、それがあまりにも情けなくて必死に言い訳を口にしようとするが、余計に無様になるだけだと自覚しているためか言葉が出ない。

 

「すまない, 軽率な発言だったようだ……ブレイダー・ナイト, 突然だが話せないだろうか?」

「え? なにを……ですか?」

「目的を話す前に自己紹介をしておこう, 私は『殻雲 徹(からくも とおる)』というものだ, そしてブレイダー・ナイト, 君に頼みがある」

 

――その瞳は昏かった。だけど無性に惹き付けられるなにかを感じた。

 

「――私はブレイダーになりたい, だから君の変身アイテムを譲って欲しいのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――理想と言える家族の元に生まれた。金にも自由にも困ったことがない環境で生きてきた。天才と呼ばれるだけの才能を持っている。容姿も完璧と評された。そして運もある。望めば今からでもプロのスポーツ選手、トップアイドル、スーパースター、だれもが羨むものに成れるというのは決して驕った考えではないのだろう。

 

そんな自分は何千万といる日本人の中でブレイダーに選ばれた。世界でたった十人しかいない男性のひとりに選ばれたんだ……どうして自分が選ばれたんだ。

 

 

 

――ああ、自分はなんでこんなにも――――恵まれているんだ。

 

 

 

 

 




装うのはそれなりに得意な男の子。


やっぱり色んな意味で騎士が一番難しいような気がします。

後編は早めに出せるように頑張るので、それではお待ちになってください次回!

作者事ですが性懲りもなく新作出しました。
https://syosetu.org/novel/272262/
今後暫くは新規作品と交互に投稿していきたいと思いますのでよろしくお願いします。


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騎士というもの 後編〈騎士〉

感想、お気に入り登録、評価、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

今回は会話中心ですが楽しんで頂ければ幸いです。

画像が挿入されており、右上のメニュー→閲覧設定→挿絵表示を有りにしてくれると助かります。




――突如現われてグレムリンを圧倒した男性――『殻雲徹(からくもとおる)』と騎士は、あれから一時間後。喫茶店へと赴いていた。

 

「――改めて, 名を殻雲徹と言う者だ, よろしく頼む」

 

殻雲は名刺を机の上に置き、騎士に向かって滑らせる。騎士が萎縮した様子で名刺を確認すると目に見えておかしい所があった。

 

「よ、よろしくおねがいします……あの、名刺の所々が塗り潰されているのは……」

「不格好で申し訳ない, これは前職のものでな, 恥ずかしながら今後、名刺を使わないと思い代わりを用意しなかったのだ, なので名刺入れの中に余っていたのを使わせて貰った」

 

雰囲気こそ硬いが厳格ではない。よく言えば柔軟、悪く言えば適当な、彼が見せた人間味に騎士は、やっぱり第一世代(先輩)たちに似ていると思った。

 

「前職……」

「ああ, 数日前に自己退職をした, いい職場ではあったが少し思う所があってな」

 

グレムリンを圧倒できる人が勤めた仕事がどんなものか気になった騎士だったが、今はそれを問い掛ける気分にはなれなかった。

 

「さて,名をなんと呼べばいい?」

「あ、騎士で……お願いします」

「わかった, では騎士, 突然言い出したのにも関わらず聞き届けてくれたばかりか, その素顔を見せてくれたことに感謝する」

「い、いえ。そんな礼を言われるほど大層なことじゃないです。自分もあなたと話をしたかっただけなんで……」

 

綺麗な姿勢で頭を下げる殻雲に騎士は戸惑い、つい卑下た発言をしてしまう。

 

騎士は自分の素性を完全に隠して活動している。自分がブレイダーであることを世間に周知されると、社会でそれなりの地位にある両親や姉に多大な迷惑をかけるからというのが理由だ。

 

自分の素性がブレイダーであることを絶対バレないようにする。それがブレイダーに成り立ての頃、第一世代たちや天使と相談して決めた絶対的な誓いだった。

 

なので話し合いたいと言う殻雲の願いに対して、自ら決めて忠実に守ってきた誓いを破ってまで叶えた重いものなのだ。なのに騎士は自らそれを軽んずる発言をしてしまう。

 

「いや, 私の考えが間違っていなければだが騎士, 君は素性を悟られないようにすることをブレイダーの誰よりも気にしているように見えた, それなのに今日初めて出会ったばかりの私に素顔を見せてくれた. 紛うこと無き大層なことだよ, 少なくとも私にとってはな」

「……あ、あのそれで変身アイテムを譲ってほしいってことなんですが……」

 

自分を尊重してくれる殻雲に、気恥ずかしさやら情けなさで気後れてしまった騎士は、話を逸らすように本題に入る。

 

「ああ, そうだ, 単刀直入に言おう――私はブレイダー・ナイトの変身アイテムを求めている, なので君と交渉するためにこの場を設けた」

「それは……殻雲さん本人がブレイダー・ナイトに成りたいという事で間違いないですか?」

「そうだ」

 

真剣の二文字のみが存在する肯定の返事。こちらを真っ直ぐ見てくる瞳に仰け反りそうになるのを耐えるが騎士は我慢ができずに喉を鳴らしてしまう。

 

ブレイダー・ナイトになる。それはつまり現在、ブレイダー・ナイトである騎士――錬岸(ねぎし)=クルス=蒼汰(そうた)からブレイダーという立場を譲って欲しいと口にしたのだ。

 

そもそも譲渡ができるかどうかはひとまず置いておくとしても、本来であれば即答で断わる内容だ。ブレイダーという立場は、どんな事情があるにしろ、おいそれと変わることなんてあってはならない。それが騎士の考えである。

 

「……理由を聞いてもいいですか?」

 

しかし、既に騎士の心は殻雲という個人に圧倒されてしまっており、一蹴することができなかった。先ほど親子の命を守ってくれた手前、蔑ろにするのは流石に……と自分を納得させる言い訳を立てて騎士は話を続ける。

 

「無論だ, とは言うものの……ふむ」

 

さっきから迷うことなく言いたい事を口にしてきた殻雲だが、ここにきて顎に手を当てて考え込む。もしかして複雑な事情がと緊張を強める騎士に対して、殻雲はどこまでも自然体に答えを口にする。

 

「……言葉に迷うところであるが, 言ってしまえば私は戦いたいのだ」

「戦いたい?」

「ああ、そうだ。私は――グレムリンのような怪物と戦いたいのだ」

 

理由は酷く単純なもので、だからこそ騎士は殻雲に対して理解を示してしまう。なぜならば彼の言う願いは大半の男性が抱える空虚で、ブレイダーになる前に騎士もまた抱えていたものの一人だったから。

 

だから復讐とか大義とか、仰々しいものを語られるよりも騎士の心に響いてしまう。

 

魔装少女とグレムリン。この二つの存在が現われたことで決定的に変わってしまったものがあった。それは“命を賭けて戦う者”が女性になってしまったことだ。

 

とはいっても警察や消防、山や海の救助隊や自衛隊に至るまで特別変わったことはない。ただ魔装少女に触発された事で、別の道を歩んだ女性たちが就くようになり、男女比率が少し近寄ったぐらいである。

 

もっとも過激的な女性保護を訴える団体が『協会』と連携を行ない、多少威張った時期があったものの、あまりにも派手に動き、あらゆる場所の尾を踏み続けたために組織だけに収まらず個人にまで被害が発展。魔装少女の反感を買うこととなり支援していた協会にすら見捨てられる。そして最終的には、某正義にまで噛みついてしまい完全に沈静化された。

 

そんな時代を通り抜けた現在では、女性だからと嘗められる事は少なくなったが、だからといって男性の立場が下がったというわけではなく、魔装少女が現われる前からそこまで変わっていなかった。それを言うならば髪色による差別の方が多いというのが現在の日本社会である。

 

――と、社会的観点からではそうだが、個人になるとまた話は違ってくる。

 

「もはや錆びて朽ちるべき感性なのかもしれないが私は男に生まれた以上, 戦いたいのだ, 一輪の歯車となる誇りを捨ててでも――私は男性としてブレイダーになりたい」

 

分かりやすい誰もが憧れるヒーローになれる資格。それが生まれた瞬間の性によって定められてしまう。蒼汰も子供ころテレビ番組に影響を受けて、グレムリンを倒し皆を守る。そんな自分を夢想するほどにヒーローに憧れていた時期も有ったが、男のだれもが通る現実に直面して、その夢を一旦諦めた。

 

――だから、ブレイダーの一人に選ばれて純粋に嬉しかったんだと、あの時は宝くじの一等賞が当たったかのように降って湧いた幸運に無邪気にもはしゃいだと、騎士は(から)い笑みが込み上げそうになったのを堪える。

 

「だから騎士よ, どうかその一席を私に譲ってくれないだろうか?」

 

――ここまでの本心を吐露するだけの時間は本格的な交渉を行なう前の牽制でしかない。それを騎士は重々承知している。だけど理由を聞いた。逆に言えばまだ理由だけしか聞いていないのに、騎士は殻雲という人間に対して男としての出来が違うと認めてしまっていた。

 

――もっと簡単に言ってしまえば、今日であったばかりの彼の方が自分よりもブレイダーに相応しい、という言葉が脳の溝に刺さって抜けなくなっていた。

 

「……その、譲る以前にそもそも人に譲れるものか分からないんです……それにどうしてブレイダー・ナイトなんですか?」

 

喋ることができたのはまだ殆ど彼の事を知らないという無知から来る意地であった。単に事実を口にしているだけなのだが、騎士は言い訳がましく言ってしまったと、なんだか恥ずかしくなり、続けざまに気になっていたことを質問する。

 

こうやって今日、喫茶店で話すことになった事態は偶然だろうが最初からブレイダー・ナイトに狙いを絞っていたように騎士は思えた。

 

「……デビル, カオス, エデン, アビス, ジャスティス, セブンス, キング, アンギル, そしてホープだったか?」

「は、はい」

 

まず殻雲は騎士を除くブレイダー九人全員の名前を挙げた。

 

「そしてナイト……騎士である君を含めて現存するブレイダーは全部で十人だ」

「そうですね。でもそれになんの関係が?」

 

なにが言いたいのか分からず、騎士は逸る気持ちを口に出してしまう。

 

「今から話すことは藁だと自覚しながらも掴んだような, 根拠など皆無に等しい話だ……悪魔(デビル)天使(アンギル)と人ならざる者の名が与えられたブレイダー, 混沌(カオス), 失楽園(エデン), 正義(ジャスティス), 七色(セブンス), 希望(ホープ)が概念の名を冠している, 王様(キング)は人の上に君臨する者の役職名と、ブレイダーの名前は“特別”である事を意識して名付けられていると感じた」

 

「……そんな他のブレイダーの名前に比べれば騎士(ナイト)だけ――単なる称号名」

「そうだ」

 

自分だけが違う、そんな疎外感を突きつけられたようで騎士の声は震えてしまう。

 

――“騎士”とは本来、王室などから与えられる名誉称号である。与えられること自体、特別なことであるが普通の人間でも辿り着けるチャンスがある頂きとも言える。

 

「時代によってあり方に差異はあるものの騎士と言う呼び名に注目し, 私は仮説を立てたのだ――騎士とは与えられて名乗れるものと考えれば、ブレイダー・ナイトは他人に譲渡できる機能を持ち得ているのではないのかと」

 

殻雲の主張は騎士とは“誰かに与えられた勲章”である。つまりはその勲章を与えさえすれば“騎士”になれるのではないかと。そしてその勲章に値するものこそ――変身アイテムである『B.S.F』と言うものではないのだろうかと。

 

殻雲が言うことは本人が言うとおり根拠もなにもない。名前だけで導きだした暴論も良いところだ。

 

しかしと、騎士は彼という人物が口にしているからか、短く自分の意見を纏めただけで、その裏には己には到底理解できない深い思考があったのではないかという気持ちに支配される。

 

騎士の頭の中に浮かんできたのは“なら、一回試して見ましょうか”という提案だった。確かにもっとも確実な方法であるが、自分の今の状況を鑑みてそれだけは決して言ってはいけない。言わしてはいけないと必死に飲み込む。

 

なぜならもし譲渡が成功したら、もうその時点で自分の心は折れる。そして失敗してしまった場合、彼のために方法を考えてしまう自分を騎士は容易く想像してしまった。

 

タイミングもすこぶる悪かったと言える。騎士の人生の中でもっとも運が悪い日。苦悩を抱え込む中で、自分と比べて、あらゆる面で強そうな人物が目の前に現われてブレイダーになりたいと言っている。だから騎士はドツボに嵌まる。

 

――これが物語の主人公であるならば、どれだけ強大な相手であっても断わるものだ。だけど同時に思うのだ。もしもここで自分が意地を張ってブレイダー・ナイトをやっていたら、今度こそ取り返しのつかない失敗をしてしまうのではという、不確定な未来を騎士は恐怖する。

 

――先ほどの親子だってそうだ。彼がいなければ少なくとも母親は最悪死んでいた。自分はあのときスキルも発動できずに、ただ立っていることしか出来なかった。そしてその親子を助けたのも、魔装少女にトドメこそ任せたもののグレムリンと戦うことで周囲の安全を確保したのは間違いなく、殻雲という男なのだ。

 

――自分はブレイダーになるのに相応しいのだろうか? 『アーマード』の一員として彼らと共に戦っていく人間なのだろうか? 最近ずっと湧いてくる単語の中に、ふとこれこそが自分の幸運なのではないかという言葉を見つけてしまう。

 

――彼が目の前に現われたのは、自分が望んだからではないのか?

 

「……すこし……考えさせてください」

 

ネガティブになっていく思考の中、騎士は絞り出すように答えた。断わるわけではなく承諾するわけでもなく、時間稼ぎのひと言。そんな煮え切らない返答に殻雲は静かに頷いた。

 

「当然だ, 急な話であることは重々承知している……しかし, にべもなく断わられると思って居たのだが意外だったな」

「……っ!」

「迷い, 悩み, 君からは様々なものが感じ取れる, それが戦いの足枷にも成ってしまっているようだ, 余計な世話かもしれないが早急に決着を付けたほうがいい, でなければ取り返しのできないミスを犯してしまうだろう」

 

全てを見透かす言葉に騎士は気がついたら口を動かしていた。

 

「自分は……正直、ブレイダーをやっていく自信がありません……今日の事だってそうですが……すでに自分は大きなミスをしました」

「ふむ」

「危うく友達の大切な人を不幸にして……関係のない少女を死なせかけたんです」

 

『戦争決闘五番勝負』、その三回戦でブレイダー・カオスに勝利をした魔装少女の正体を騎士は知っていた。あの日、七色たちが中心となった第8支部の『裏案件』で、騎士は相手の策略によって暴走状態となったシルバー・バレットと対峙する事となった。その場には不運にも巻き込まれた魔装少女であるサンシャイン・ピーチも居た。

 

――そして悲劇は起きた。判断を間違えてしまったと言えばそれまでである。状況把握を疎かにして咄嗟に自分の身を守ってしまったが故に、銃口がどこへと向いていたのか分からなかった。

 

銀弾が桃色の魔装少女の心臓を貫いた。騎士はスローモーションで倒れる少女を未だに思い出せる。しかしながらなんの奇跡が起きたのか桃色の魔装少女は白桃色の鬼となりナイトとシルバー・バレットを暴力で圧倒し、全てを強引に解決してしまった。

 

――時間が無いからこれぐらいで許してやるさね! だからこのことは誰にも言うんじゃ無いよ?

 

それから状況はまだ続いていたため考える暇が無く、何事もなくて良かったという安堵しかなかったが……。その日の夜、奇跡が起こりえなかったIFの映像が頭の中を占拠して、トイレで吐いた。

 

「あの日からずっと自分はブレイダーに成るべきではなかったのかと……みんなと比べてしまう自分が居て、そうやって考える自分にさらに嫌になって……」

 

段々と尻すぼみしていって、ついには言い切れずに口を閉ざしてしまう騎士。そんな彼に対して殻雲は遠慮無く自分の意見を語り出した。

 

「恐らく……苦労よりも幸せが多い人生を送ってきたのだろう, 食べることに困ることはなく, 学びたいものを干渉されること無く自由に学べ, 運も良かった, だからこそ大失敗から立ち直れないでいる, それだけではない, 自信を損失した君は自分の事を温暖な室内で不自由なく過ごしてきた犬だと思っている」

「……はい」

「対して横に並び立つブレイダーたちを, 厳しい自然を生き抜いてきた気高く強い狼だと, 憧れを抱いている」

「……はい」

 

殻雲の言う人物診断に、騎士は全て当たっていると首を縦に振るうことしかできない。

 

――自分が知る限り、七色は両親を無くし、奈落先輩は正に地獄の様な環境で生きてきた。悪魔先輩は見捨てられた秋葉原で生身でグレムリンと戦う日々を送り、王様は十人以上の妹たちを長男として面倒みていると言う。今だちゃんと過去を知り得ていないが、同等の気配を感じる事から間違いなく他のブレイダーたちも同じかそれ以上の厳しい人生を送ってきたはずだ。

 

――もしも自分が同じ立場だったら、あんな風にはなれないと断言できる。

 

――だから男としてどうしても思ってしまうのだ――なんて、格好いいのだろうと。

 

「本来誰しも羨まれる環境は, 逆転して望む姿を阻害する悪となっているか, なるほど, 難しいな……他のブレイダーに相談はしたか?」

「……こんなの言ったら、それこそ死にたくなりますよ。だって自分の悩みなんて言ってしまえば、恵まれすぎてるのが辛いとか、そんなんですよ? 無理に決まっているじゃないですか!」

 

思わず大声を放ってしまい周りの客を驚かせてしまう。しかし騎士にそれを気にする余裕が無く、代わりに殻雲が手を振ってなんでもないことを伝える。

 

「……最初は茶化してくるかもしれないけど、最後には真剣に話に乗ってくれる人たちなんです……だから……こんなこと口が裂けても言えませんよ」

 

例えば奈落は騎士の環境を理解できないなりに親身に接してくれるだろう。そして彼の地獄のような環境と比べて、恵まれているなら良いことじゃないかと心の底から優しい言葉を言ってくれると騎士は確信している。

 

――現に相手の感情が見えるのに、自分の心内(こころうち)が見えているはずなのに、なにも言わないでいてくれている。だから悩みを打ち明けるのは人として正解なのかもしれないが、男として余りにも情けなくて仕方が無い。

 

「確かに相手が持っていないものに関する悩みごととして話すのには礼に欠けていることだろう, 特に尊敬の念を抱いている者が相手ならば余計にな」

「バカみたいですよね? 分かってるんです。こんな事で悩むぐらいならブレイダーなんて……」

 

腹の中に押さえ込んでいた言葉が出かかり、ギリギリのところで飲み込む。

 

――ここに居続けてしまえば自分の全てを曝け出して、最後には『B.S.F』を渡してしまいそうだと騎士はポケットの中の財布を取り出そうとする。それを殻雲が手の平を見せて制した。

 

「無理を言ってこの場を設けたのは私だ, ここは持とう,……それと騎士, 良ければだが武術の手ほどきを受けてみないか?」

「え……?」

 

殻雲の突然の提案に騎士は思わず聞き返してしまう。

 

「ど、どうしてですか?」

「元よりブレイダーを一度の話し合いで諦めるつもりは無かった, だから交渉の一環と思ってくれればいい, それにこのまま君を放っておくのはな, どうやら余計に追い詰めてしまったという引け目もある, だからその贖罪と口にすれば大袈裟だが, 君が何かに納得できるように手助けがしたい」

 

都合の良いことを言って自分を諦めさせるつもりかと騎士は一瞬だけ疑ったが、ここまで話していてどうしても、そんな搦め手を使う人物には思えなかった。

 

「……お願いします……自分を強くしてください」

 

だから、他の悩みに比べれば簡単に答えをだせた騎士は深々と頭を下げた。

 

+++

 

――騎士と連絡先を交換したあと店を出た殻雲は帰路についていた。

 

角張った雰囲気は変わらないが、どこか機嫌が良さそうに歩いている彼のスマホが鳴る。連絡してきた人物の名前を見て、あちらから掛けてくるのは珍しいなと思い歩きながら通話をはじめる。

 

「――なにかあったのか?」

≪確認と悪い知らせがひとつずつ……どうだった? といっても声が弾んでるところから良いことがあったみたいだなぁ。お前のその分かりやすいところは好きだぜぇ≫

「……そうだな, クリアの予言に従いあの場に訪れたことで良いことがあった, 後で礼を言わなければなるまい, 甘い菓子は好きだろうか?」

≪しらねぇよ。でも年頃の女なんだし甘いものは何でも好きだろ≫

「そうか, それで悪い知らせとは?」

≪例のアレについてトラブルというかあのクソ。試しに最初に使ってみるねだとさ……ああもうっ! 思い出しただけでも殺したくなる!≫

「……止められなかったか, 予想出来ていたことだが無用な行動は控えてはくれないものだろうか」

≪脳みそ空っぽなんだから無理だろ……そういうことだ。どのタイミングでやりだすかは分からんが最悪『アーマード』の警戒が強くなる, 気付かれれば一瞬にして計画がぱぁだ。バレないように注意してくれ≫

「……承知した, 充分に注意しよう……君のほうで――アルメガの事を止められないか?」

≪無理というか殺してでも嫌だね。自分でやれ、お前のそういう所は嫌いだよ≫

 

乱暴に切られた通話に、殻雲は仕方ないかと静かにため息を吐いた。ふと後ろを振り向き、ぽつりと呟く。

 

「君はどうするかな――――騎士」

 

+++

 

「――来たわよ社長」

 

肩にエンブレムが刺繍されている黒い生地に赤色ラインロングパーカー。小さなツインテールが作られている癖が目立つ金色の長髪。外見こそまるで西洋人形のようだが鋭い目付きが彼女の人間らしさを確立させている。そんな童顔で144センチの身長から彼女が酒が飲める成人と見破れる人はどれくらいいるだろうか。

 

「よく来てくれた」

 

一番目上の上司に会うにしてはノックもせずに、気さくな感じで社長室へと入る小柄な女性に、中に居た“社長”も、彼女の態度に咎めることはせず向かい入れた。

 

成人男性の平均と同等の身長に、不揃い気味になった白髪に被さる瞳からダウナー系を印象付ける顔つき。グローブにスーツ、首から下を隠し喫煙する様は、どうにも堅気ではない気配を漂わせる。

 

一般人ならば脅えてしまい萎縮する社長を前にして、小柄の女性がまず行なったのは深く吸い込んでしまったため息を吐くことだった。

 

「――またこんなに吸い殻溜め込んで! 窓閉めっぱなしなのは仕方ないにしても、せめて換気扇付けてって何度言えばするのよ!」

「あ、うん。すまない」

 

毎日行っても直さないんだからと、ぷりぷり怒りだし山を築いている灰皿の煙草を、次捨てなかったら不格好でもなんでも社長室に入れるわよという宣言通り設置されたゴミ箱に入れる。

 

「というか煙草の灰、絨毯に落ちてるじゃない!? またうろうろしながら吸ったでしょ!?」

「あ、はい……あの。とりあえず話を聞いてくれないか、仕事の話なんだ」

 

掃除機を掛けようとする彼女を止めて、社長は萎縮した様子で言う。

 

「仕事って、もしかして『アーマード』のやつ?」

「そうだ。つい先ほど話し合いが全て完了した。目立った変更は無くこの間の会議で周知した通りになる」

「そう! それは良かったわ!」

 

うって変わって機嫌良く笑顔になる小柄の女性。

 

「変更がないって事は“彼”が来る手筈なのよね? これでもっと稼げるし、面倒も少なくなる。はぁほんと嬉しいわ~」

「ああ、先方はそのつもりで話を進めてくれるそうだ。それでだ……お前に彼の面倒を見て欲しいんだ」

「は?」

 

笑顔で固まる小柄の女性。先ほどからそうではあるが、決して上司に向かって放つべきではない怒気を醸し出しだす。それに対して社長は煙草を口に咥えて分かりやすく目を横に逸らす。

 

「なんで私? 社長、私がいまどれだけ忙しいか知ってるわよね? だって社長が直接、私に仕事ぶん投げてるんだものね? というか今一度なんで入社した順で下から二番目の私が現場リーダーみたいになっているか聞いていい?」

「本当にすまないと思っている……この会社でまともな奴がお前しかいないんだ」

「知ってるわよそんなの!? でもコロさんは……代わりに東京に行くんだったわね! セクスウェルは考えるまでもなく駄目に決まってるわよね! もうやっぱこの会社ほんと碌な奴いないわ!」

 

手を顔に当てて、ほんとなんなのこの会社と文句を吐き続ける入社三年目の小柄の女性に、社長は微妙な顔ですまないともう一度謝罪する。

 

「ああもう。分かったわよ。彼がちゃんと働いてくれれば負担は激減すると思うしね。ほかの奴に押しつけるのも可哀想と思うし」

 

よくよく考えれば同僚の面倒をみるよりかは楽だし、トラブルを起しそうにないからいいかと、小柄の女性は気持ちを切り替えて了承した。

 

「それじゃあ頼むぞ――デッド・キティ」

 

 

 

 

 

――異常なる者たちの指揮者――

RANK4 デッド・キティ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「というか掃除機かけるから、しばらく外で吸ってて」

「……分かった」

 

+++

 

「――あった」

 

寝る前にどうしても気になってしまい。念入りに『B.S.F』の機能を調べていく内にそれを見つけてしまった。

 

「……どうすればいいんだよ」

 

腕で瞳を隠し、今にも泣きそうな声で騎士は言う。

 

『B.S.F』の機能設定画面、一番下と思って居た項目のさらに下――“『B.S.F』と変身機能の譲渡”という項目があった。

 

 

 

 




男として――。





前話の感想で騎士や殻雲の全体評価を見てとてもにっこにこしてた作者( ̄▽ ̄)←。

※この作品に登場するエンブレムなどはゲーム【ARMORED CORE VERDICT DAY】のエンブレム作成機能によって作られたものです。問題が出てくればまた別の方法を考えたいとも思います。

次回は天使視点になります。それではお待ちになってください次回!


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人にならざりけり〈天使〉

感想、評価、お気に入り登録、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

情報をとにかくぶちこみました……。

タイトルに書いてあるとおり、天使側の視点となります。楽しんで頂ければ幸いです。



――二十歳を超えたらいつ死んでもおかしくありません。そう医者に言われている体でここまで生きてきた。

 

「――ゼェ……ハァ……」

 

人の体に会わせて自動で形が変わる最新式ダブルベッドに仰向けで寝る天使はひどく弱々しい呼吸を繰り返していた。

 

ベッドに寝ているというよりも全身に力が入らなくて、もはや倒れていると言ったほうが正しく、体を起こすことすらできないでいる。34℃という体温からくるあまりの寒さに、軽くて暖かいと評判の羽毛布団を被っているが、その布団の“重さ”が、いまの天使にはあまりにもしんどかった。

 

頭がぼやけて、視界がゆらゆら揺れている。吐きたいほどの気持ち悪い胃腸の調子に、脳が一周回って空腹だと判断しているのか、なにかを口に入れたいという欲求(エラー)に襲われる。しかし、いま水を一口でも飲めば、どんな結果を招くのかは天使は過去の経験から理解しており、そもそも物を口にいれる元気そのものが無かった。

 

「――ヒュー……ヒュー……」

 

まさに虫の息状態であるが、天使には救急車を呼ぶという選択肢は最初から存在しない。なにせ後五分もしたら、『アーマード』が集まる大事な報告会を行なわなければならないのだ。というかそもそも病院で介護される暇なんてどこにも無かった。

 

『アーマード』に属するブレイダーには、ここまで大規模になってしまった組織の立て直しを行なえる人材はいない。天使を除いて。

 

正義はできるものの、その能力のリソースを全て“正義”と呼ばれる過激的な暴力へと割いている。なのでむしろ誰よりも論外でしかなく、それは本人も自覚しているため、いつも通り独断行動はやっているものの、彼にしては天使の指示に大人しく従っていた。

 

その中で『アーマードchannel』を設立し、個人での運営を開始。単なるブレイダーの集まりのような意味でしかなかった『アーマード』に、組織的な利益を発生させて、印象をプラスに操作。組織を明確化にしたからこそ首輪が付いたという安心感を錯覚させるなど、『アーマード』という言葉に意味を持たせた実績が天使にはあった。

 

それはつまり個性が強い、第一世代ブレイダーたち全員を話し合いの元、納得させて、妥協を受け入れさせたという他ならない。今回の『魔装少女協会』という外部組織に対する干渉、言わば“テコ入れ”行為は本来であれば、どれだけの理由があっても忌避すべきものであるが、天使の手腕を見た大人たち誰もが賞賛し、彼の手入れを納得するほどの調整能力を見せている。

 

新協会長の手腕によって落ち着きを見せているものの今だ組織単体では傾いており、漢字の“人”のように外部から支える組織や個人が必要な状態だ。それこそが『アーマード』であり“天使”だった。

 

そのため天使が倒れてしまえば、ようやく落ち着いてきた『協会』は呆気も無く瓦解する。それをもっとも自覚している天使本人は、だからこそどんなに瀕死となっても病院に運ばれるわけにはいかないと考えている。

 

それに、病院に運ばれたとしても、この症状が治らないは分かりきっているからというのもある。天使のコレは“病気による症状”ではなく“風邪ですらない単なる体調不良”でしかないのだから。意味がない事に時間を割いていられる余裕はないという考えもあった。

 

――だが、だからといって話し合いに参加できるような様子に見えないが、天使にはこの状況をどうにかできる“最終手段”があった。

 

「――ヒュー…………」

 

6種20錠、2粉、1液、3漢方。今日飲んだ大量の薬の効果はでる気配がない。他人が聞けば飲み過ぎだと言われる数だが、これは数人の医者が話し合いを行なって決められた正常な薬の数である。

 

むしろ天使からすればもっと増やして欲しいとも言ったが、医者がこれ以上は無理ですと首を横に振った。つまり、このばか見たいな数の薬は医者たちが慎重且つ入念な話し合いのもと許可を出した数である。

 

薬の効果が発揮できないほどの“弱い体”って意味が分からなすぎると生まれてからは、億は言ったであろう文句を、何度も何度も心内ではき続けて辛さ軽減の足しにする。

 

そうこう苦しんでいる間に約束の時間ギリギリとなった天使は、心底嫌な気持ちで仕方ないと『B.S.F』を手に持って思考する。

 

寝ている天使の腰にブレイダー・ベルトが装着される。力を振り絞って『B.S.F』を握った腕を頭上へと移動させる。

 

――――ʚéɪndʒəl tάɪm(エンジェル・タイム)ɞ――――

 

すると透き通る空気そのものみたいな女性の機械音声がベルトから発せられ、神聖あるいは電波系な音楽が流れる。

 

「――へん……しん……」

 

息も絶え絶えな様子で言ったあと天使は『B.S.F』から手を離す。すると天使が横になっているため水平線上にあるベルトに向かって、『B.S.F』は重力に逆らいベルトの方に向かって“真横に落ちていき”、画面とバックルの表面が重なった。

 

――――ʚædvent(アドベント)ɞ――――

 

『B.S.F』が無数の白羽へと変換して、天使を包み込む。羽たちは足から上に向かうように段階的にブレイダー・スーツへと変化していき。ブレイダー・アンギルが現界する。

 

「――スー……ハー……くそ」

 

先ほどまで死にかけといってもいいぐらい苦しんでいた天使は、ブレイダー・アンギルに変身すると、頭痛、目眩などあらゆる症状が落ち着き、呼吸も元通り、何事もなかったかのように体を起こした。

 

――最近、生身でいられる時間が極端に減った。

 

アンギル(天使)の体はもはや室内外関わらず生身で居るのはかなり危険な状態だったが、それでもブレイダーの姿で生活を送ることにアンギルは強い抵抗感を覚えていた。

 

なんと無しに『B.S.F』の内カメラを起動してブレイダー姿の自身を見る。まさに天使を象ったブレイダー・スーツは宇宙服のようだとアンギルは最近思うようになってしまった。

 

「……はぁ」

 

自分の健康を考えれば昔の奈落のようにブレイダーだけの姿で生きたほうがいいのは分かっている。もうブレイダー・スーツの強化機能が無ければ、まともに生きられないのも自覚している。それでも天使(アンギル)は納得できなかった。

 

――憎たらしいとまで思っている自分の不健康なアルビノ体と完全におさらばするのを躊躇う理由。それが踏ん切りをつける事ができないでいるだけの、単なる意地の話であるのは分かっている。

 

――それでも、その意地でここまで生きてきたのだ。理由もなく容易く捨てるには、この虚弱な体には色んなものが詰め込まれすぎた。

 

「って、バカみたいなこと考えてる時間じゃねー!」

 

気がついたら、もう時間が無い、天使は慌てて思考入力を行ない、ブレイダー専用の掲示板アプリを起動する。

 

+++

 

13:天使

終わった……終わってないけど、とりあえず最初にやらないと行けないことは全部終わった……終わってないけど……いったん終わったことにするっ!

 

14:七色

お疲れさまっす……。そんで終わってるのか終わってないのかどっちなんすか?

 

15:天使

どっちもかなー。協会のお掃除はある程度済んだけど、その穴埋めとか補填作業は今からってねー。まぁ、ここまで来れば、ある程度はあっちに丸投げしても良いとは思うけど。

 

16:悪魔

いいのか?

 

17:天使

大きな組織だからねー。しょせんは外部組織でしかない『アーマード』で管理なんてできないし、するつもりもないよ。幸いなんて口が裂けても言えないけど、まともな大人たちも沢山いたから、なんとかなりそう……まぁ、倒れる一歩手前まで働いてもらうことになるけど。

 

18:正義

今の協会に残った奴らは覚悟の上だろうぜ。面構えが違うってやつだ。

 

19:天使

ほんと有り難いことだよー。

さてと、定例報告会はじめようか、はい点呼ー。いーち

 

20:悪魔

2だ。

 

21:正義

3だぜ。

 

22:王様

我はここにいる! 4だ!

 

23:奈落

五だね。モニカたちもいるよ

 

24:希望

ろくだよ

 

25:七色

俺っす!(七) あ、それとみんなも集まってるっす。

 

26:天使

あれ騎士まだ来てないー? 珍しいね。いつもは約束の15分前には来るのに。

 

27:騎士

ごめん。ちょっと寝坊して遅れた。8ね。

 

28:天使

ありゃ、寝坊なんてほんと珍しい。

 

29:騎士

流石に疲れがね。出ちゃいましたよ……疲れがね……。

 

30:天使

あーうん、ほんとお疲れ。

ヨシ! 混沌は欠席、失楽園はいつも通り、というわけで八人全員集まったね。

そんじゃあ。まずは『協会』がなぁなぁですませやがりくださりました活動時間の見直しが済んだよ。(一旦区切る)

 

31:天使

問題になっていた11時から6時までの深夜帯は、成人組による夜間専門で活動するグループを結成。夜に活動する魔装少女(大人)ということで『深夜魔女』って呼称でやっていくみたい……まぁ多分僕たちは変わらず魔装少女って言っていくけどねー。

 

32:王様

そうか! まことに大義である!

 

33:天使

とりあえず東京は活動方法も決まってー、人材も集まってー、発表も終わったから数日中には活動始めるよー。

 

34:七色

あれ? 未成年魔装少女の深夜帯活動って確か県外の方が多いんすよね? 東京だけとなると問題は解決しないんじゃ?

 

35:天使

これからこれからー。大阪と愛知はもう公表の日程決めまで進んでてー。四国は四県共同で人集めは済んでいているよ。他にも全国に交付したマニュアル表を見ながら動いてくれているみたいだから、昼は魔装少女、夜は魔女の時間って言われるのも遠くない未来かもね。これでここ毎日、全国を夜間巡回で飛んでいてくれた王様の負担も減ると思う。

 

36:王様

うむ。無事に設立すれば魔装少女ひいては民たちも一安心するだろう。そうなれば我も城の業務に戻れるというものだ!

 

37:天使

休んで?? その妹たちのためにも。

 

38:悪魔

東京や大阪の都会以外の県は、北陸支部の縄張りでもあるはずだが、あいつらの反応はどうだ?

 

39:天使

流石に人手不足だから歓迎するってさ。金を払ってくれればきちんと働いてくれるとは言え……うん、負担を掛け過ぎちゃったね。

 

40:正義

ナハハ、金の亡者共が根を上げるか。うちの天使は随分な試練を与えたらしいな。

それで、交換出張の件はどうなってる?

 

41:天使

それも滞りなくー、いま一度みんなの前だから聞くけど行ってくれるんだよね? 騎士。

 

42:騎士

ああ。

 

43:天使

……騎士? 本当に大丈夫?

 

44:騎士

ごめん。ちょっとしんどいかも。北陸支部には俺がいくよ……ほんとにごめん、今から見る専になる。

 

45:天使

いいよ。本当にだめそうなら言ってねー。……他のみんなも過労で倒れるまえにマジで休暇申請して。多少無茶しないと駄目な時期だからこそ倒れる時間は無いからね。

 

46:奈落

君もだよ、天使。

 

47:天使

あー。努力します。

まぁ、というわけで北陸支部からの要望通り騎士が行ってくれることになって、代わりに数名北陸支部の魔装少女が東京で活動することになるから。

 

48:悪魔

東京での活動を解禁、そして協会と和解、『アーマード』との連携をアピールするためのブレイダーと北陸魔装少女による交換勤務か、俺には分からん世界だな。

 

49:正義

他にも理由はあるが一番は北陸支部の連中をどこでも戦えるようにするためだぜ。

 

50:天使

北陸支部の戦力は、これから絶対に必要になってくるからねー。夏休み終わり東京がやばいですー、でも色々あって遅れましたじゃ。だめでしょ?

 

それで、このまま話進めるけど、悪魔さん……あなたなにやってんの?

 

51:悪魔

……あれはヒカリソウの奴がいきなり襲ってきたから仕方なくだな……。

 

52:天使

第2支部半壊って悪魔さん?

 

53:悪魔

……アイツの強さ知ってるだろ……それに全力でやらなきゃ第2支部魔装少女全員でストライキ起こすとか言い出したんだぞ。

 

54:天使

ほんとあの脳筋たちは……それでも……なんというか……場所を移すとかできなかったんですかねー……。

 

55:悪魔

移動したほうが危ないんだよ。アイツの固有魔法は十文字槍の刃の線状にある物体切断だ。下手な場所で発動すればビルが斬れる。

 

56:奈落

確かに斬れてたね。第2支部が。

 

57:正義

固有魔法が強力ってのは良く聞くが、アイツの場合は強さも達人級だからなぁ。それに戦闘狂ときた。そいつと悪魔が本気で戦って被害が第2支部半壊ってのはコスパとして得したと思うぜ。

 

58:七色

えぇ……そんな人がよく戦争決闘に出なかったっすね……。

 

59:正義

元々は出場する予定だったみたいだが、悪魔と戦うにしては秋葉ドームは狭いし、観客がいるから本気も出せないしってにべもなく断わったみたいだぜ。

 

60:天使

そういう風に仕向けたどっかの誰かさんが居るみたいだけどねー。

 

61:正義

さて、誰だろうな。

 

62:天使

まったく……まぁ第2支部についてはいいや。どこもかしこもボロボロで改装しないと危ないって話だったし……うん、結果オーライということにしときますっ!

 

63:七色

無理矢理感がすごいっす。

 

64:正義

そんで悪魔。小さな歌姫との生活は謳歌できているか?

 

65:悪魔

このタイミングで聞いてくることかよ!

……なにかと面倒見てくるのが慣れない。このまま家事や飯をやらせていいんだろうか。

 

66:天使

今は好きにさせてあげなよ。アイドルも休止状態になって、お姉ちゃんも失って……いや、もう……そんな感じでさ。大変な時期だからね。正義、歌姫や第五支部周囲はどんなかんじ?

 

67:正義

ネットのほうは静かなもんだぜ。まあ俺が関わっているからだが。だが元関係者どもが第3支部との繋がりを手紙や電話、噂話を広めようと動いている。嘆かわしいものだな。ガキを道連れにしようってのが特に。次点で俺が手紙や口伝を辿れないと思っているってのがな。

 

68:天使

半分以上、正義が撒いた種なんだからちゃんと回収してよねー。

 

69:正義

過労死したら、天国連れてってくれよな天使。

 

70:奈落

……悪魔。

 

71:悪魔

何度も言うが気にするな。あの結末は姉が望んだものだ。

 

72:奈落

……歌姫が、あの事に気付いている様子は?

 

73:悪魔

分からん。ネットは完全に遮断しているみたいだが、とっくの昔に知っているかもしれん。あいつはアイドルとして本音を隠すのが得意らしいからな。本気で知らない振りされると気付けない自信がある。

 

74:奈落

ボクに役に立てるような事があったら何時でも言ってほしい。モニカもかなり気にしている。

 

75:悪魔

ああ。そんときは頼りにさせて貰う。

 

76:天使

歌姫について、いまは見守っていくしかないか。悪魔、しっかりね

 

それと話を進めるけど明日、悪魔は『アーマード』兼秋葉の代表として協会現トップのヴァイオレットと握手会だから忘れないでね。単なる仲良くやっていこうアピールだけどかなり大事な奴だから。

 

77:悪魔

代表扱いされるのはあんまり好かんがな、任せられたには真面目にやるさ。

しかし、切っ掛けの魔装少女とこうして直接対面するとはな。

 

78:七色

最初聞いた時はびっくりしたっす。なにより正義先輩と繋がっていたってことにマジでびびったっす。

 

79:正義

まっ、大人には色んな秘密があるってことだ。

 

80:天使

中二病の塊に、ぼくのかんがえたさいきょうなんたら~っていう小学生の発想を悪魔合体させたような奴がなにいってるんだか……。

 

81:悪魔

別に言う必要も無いし、それが正解だったと俺も思うが、途端にコイツがって成るとなんかハラタツ。

 

82:正義

ナハハ。ちなみに言っておくが出会いこそは本当にたまたまだからな。俺だってアイツがここまで成り上がるなんてのは結構驚いたんだぜ……いい女だよ。

 

83:奈落

君がそう評価するほどの女傑か、いちど直接会いたいものだね。

 

84:天使

なんでもいいけど、正義と長い付き合いがある魔装少女が、現協会のトップだって知られたマジで面倒になるから、ほんとマジで気を付けてよねー。

 

85:正義

わかってるぜ。だから少なくとも夏休みが終わるまでは直接会うことはないだろうよ。

 

86:天使

ならいいけど。それで正義。協会内部で何か見つかった? 幾つかの支部で巣のフェアリーたちが全滅した理由とかも。

 

87:正義

痕跡はあったと言うべきかね。データの上では何も見つからなかったが関係を持っていた上層部の連中が口を割った。『裏案件』もそうだが懲罰部隊とかも関わっていた魔装少女がいたらしい。そいつらから都合よく何かあったら助けるって話だったらしいが、見事に見捨てられたようでな。前々から警察に世話させていたやつも含めて、全員から同じ名前の個人が出てきた。

 

88:天使

そいつが『秘密大工』?

 

89:正義

いや違うやつだ。話を投合すると、そいつは与えるだけ与えてきたと思ったら、勝手に成果をパクって消えるタチの悪い投資家といったところか、『秘密大工』もそいつの下か仕事仲間と考えた方がいいかもな。

 

90:天使

必要なものって?

 

91:正義

金、技術、情報。まあ色々だな。中には何も持っていかずに消えたこともあるらしい。また別の人物の元に現れては碌でもないことを提案して、実行させての繰り返しで、やらかした連中の横繋がりは殆どなかったようだ。

 

92:天使

『裏案件』の大半が個人による主導ばかりだったのは、それが理由だったんだねー。

 

93:正義

口がうまいのか、それとも別の理由か、気がついたら転げ落ちたってのも多い。んで最初は一箇所だったのが様々な方向で別々に腐っていき、今に至るってな。

 

94:悪魔

そいつの素性はどれだけ分かってる?

 

95:正義

ちゃんとわかってるのは呼ばれ方ぐらいだな。アルメガ。それが件の魔装少女の名前だ。せめて顔がわかればいいが、魔装少女相手ですら認識阻害が発生して顔がわからないらしい。ステルス性能が高いってのはいつだって厄介だな。

 

96:七色

不気味っすね。

 

97:奈落

現場に居たのにも関わらずフェアリーの巣の異常に気づけなかった。単なるすれ違いが起きていただけならいいけど……暗殺とか気をつけないといけないね。

 

98:正義

そこら辺はあんまり心配しなくてもいいかもな。どうもこいつは自分の手を直接汚したくないタイプだ。

 

99:天使

正義の勘は当たるからねー。まあ気をつけてはいこう。

 

100:正義

それと天使。俺はそろそろ潜るぞ。

 

101:天使

え? 早くない? 行政や報道機関の対応はどうすんのさ?

 

102:正義

そいつらには俺のサイン入りの身内ネタを山盛りに送ったからな。暫くは動けんだろうさ。

 

103:天使

いや、それは知ってるけど。なんなら組織の人間が起こした不正や犯罪のデータをガチで山盛りに送りつけたの見てたけど、それで止まるものなの?

 

104:正義

この際、中身はどうでもいいんだぜ。正義がやれと言っているんだ。やらなきゃ正義の味方共としては格好が付かないだろう? 

 

105:天使

そんで、ちゃんとやらないと正義そのものが無差別に断罪するんですねー。鬼か。

 

106:正義

夏休み終わりのこともある。協会が管理していた幾つか不明な施設の探索は早いほうがいい。少なくとも七月末まで掛かりきりになると思うぜ。それまでは何があっても対応が遅れると思ってくれ。

 

107:悪魔

気を付けろよ。

 

108:正義

なんか会ったら助けに来てくれるのを願ってるぜ。悪魔。

 

109:悪魔

……はぁ。そんときは早めに呼べ。

 

110:正義

と言っても気をつけるのは地上のお前たちの方かもしれんがな。自分でいうのもなんだが俺の動きを察知して、活発化するかもしれん。気を付けとけよ。

 

111:天使

わかったよ。テロリストと言っていいかわかんないけど、関係各所に警戒するように伝えとく。

それで混沌について聞きたいことが幾つかあるんだけど……希望、いま混沌ってどんなかんじ?

 

112:希望

ずっと辛そう。

話しかけても、こっち見てくれない。

どうにかしたい。

 

113:天使

重傷だねー。

……ねぇ、本人が見ているかもを承知で聞くけど正義。本当に海外の魔装少女捜索は混沌にやらせるの?

本人がやるって言ってるけどさぁ……日に日に明らかに昏くなっていくのを見てるとトドメ刺しそうで怖いんだけど?

 

114:正義

いまのあいつに国内は辛すぎるだろ。どこに居ても協会と魔装少女で持ちきりだ。それぐらいなら外で働かせたほうがいいだろ? 

 

115:天使

でも流石にじゃない?

 

116:正義

これは混沌本人の意志でもある。

もっとも混沌に中途半端にうだうだしているぐらいなら、まずは全てを知ってから悩めって俺が言ったからかもしれんがな。

 

117:悪魔

てめぇ、いつもの事だが正気かよ?

 

118:正義

なんにせよとびきりの切っ掛けが必要なのさ。いまの混沌にはな。

 

119:奈落

危険な賭けと言わざるをえないね……。ボクの目で見える混沌の炎は……あんまり人に言うものじゃないけど、いつもと変わっていないのが不安になるよ。

 

120:天使

……どれだけ生きていると思う?

 

121:正義

半分だ。協会に残っていた資料を見る限り国や組織に直接人身売買された魔装少女のうち。確実に生きているのは四人。恐らく死んでるのが四人だな。それも碌でもない姿でっておまけ付きだ。

 

122:王様

正義よ。我の知能は貴方に遠く及ばない。故に我の想像するよりも遙かに深い考えがあって事であるのは理解している。

しかし、今回ばかりは、あまりにも度が過ぎると言わざるおえない。

 

123:正義

そうだな。俺もそう思うぜ。最初は第一世代の俺らでパパッとやっちまおうと思ったんだがな。これは混沌本人の望みでもある。

 

124:王様

だがっ!

 

125:正義

ここまで来ちまうと、どうすることもできないんだよ。奈落のように。

 

126:奈落

そこでボクを出すのはずるくないかい?

……君のことだ。フォローはしっかりとするつもりなんだろ?

 

127:正義

話し相手になるぐらいしかできんだろうがな。

 

128:天使

わかったよ。人手が足りているわけじゃないし混沌がやるって決めた以上、この話はこれでお終いにするよ。王様もそれでいい?

 

129:王様

ああ。もしもの時は我に遠慮無く申すといい。力に成ろう。

 

130:天使

さて、次は奈落かな。元聖女ちゃんの様子はどう?

 

131:奈落

前に報告した時とそこまで違いはないかな? でも体が大人だからか物覚えがとても早い。もう普通に歩けるし。平仮名、片仮名は全て覚えて、日常会話なら普通にこなせるようになった。

みんなの手伝いを率先してやってくれる。とてもいい子だよ。

 

132:悪魔

本当にただの女の子になったんだな

 

133:奈落

そうだね。そしてもう二度とああならないように見守っていくよ。

それで天使、この子に関しての進展は?

 

134:天使

無事って言えばいいかわかんないけど、あれやこれやして法律上正式に奈落の元で生活できるようにしたよー。元から両親は死んじゃって、親族も疎遠というか、まあ無理ってことで話が纏まるのも想定よりもだいぶん早く終わったねー

 

135:七色

あれやこれや……。

 

136:天使

内容は聞かないでねー。

というわけで元聖女ちゃんは、正式に奈落の家族になったよ。

でも、本当によかったの?

 

137:奈落

うん。ボクにとっては恩人でもあるのは間違いないし、優しいこの子をひとりぼっちにはさせたくないからね。

 

138:天使

わかった。

それと、第3支部の件だけどスレシパちゃんと話し合いはどうだった?

 

139:奈落

お互いの意見を正直に話せたと思う。結論から言えば彼女は心の底から本気だったよ。こんなことがあったからこそ、心が弱っている人々のために手を差し伸べたいってさ。だからボク……僕たち家族の力を少しだけ貸そうと思う。

 

140:天使

じゃあ、監視者として名乗りを上げるってことでいいんだね? あくまで名前貸しみたいなところはあるけど、なにか嫌なことがあったら奈落とモニカさんが前に立たないといけないよ?

 

141:奈落

承知の上だよ僕も彼女も。というかモニカはボクよりやる気だね。確かに第3支部の管理者は奈落に落ちるような犯罪を犯していたかもしれない。でも第3支部が行なってきたことで救われた人は沢山居るんだ。

気負うとは違うけど、巻き込まれて奈落に落ちてしまった人が道に迷わないための灯火になれたらいいと思う。

 

142:奈落

がんばるよー!

 

143:奈落

あの、モニカ。事前に言ったと思うけど大事な話し合いだから……書き込むのはちょっと……。

 

144:悪魔

なんかお前、日を追うごとに腰低くなってないか?

 

145:奈落

惚れた弱みだからね仕方ない、いやあの別にそれが悪いとは言ってないし、むしろ良いって……いや、君が言わせたんでしょ!?

 

146:天使

モニカさんや。お仕置きは大事な話終わってからにしてもらっていいですかね。

えーと、あとなんだっけ……そう、犯罪を行なった魔装少女を燃やすことに関しては『協会』と『アーマード』はノータッチ。つまり今までと同じく奈落の個人的な裁定でやっていくことで話が付いたから。

 

147:奈落

……意外だね。多少の制限は付くと思ったけど

 

148:天使

うん。本当なら『アーマード』と『協会』の両組織の承認を得て、奈落が燃やすって方がいいのかもしれないけど、組織を挟むと生じるタイムラグは逆に危なくなりそうだからってなって、ならもう、それならあくまで個人の意志による活動で押し通した方が良いって話になったよ。

 

149:正義

非公式の取り決めだからな、分かっているとは思うが両組織で公認しているって絶対にバレるような発言はしてくれるなよ。ここまで頑張ったのが全部水の泡になるからな。

 

150:奈落

……天使に正義なんか、余分に疲れさせたみたいでごめん。

 

151:七色

奈落先輩、ふたりに何を見たんっすか……

 

152:正義

話し合い自体は必要だったとは思うがな、どんな楽しい双六でも三回振り出しに戻ると削がれるものがあるぜ……。

 

153:奈落

そうなる前にボクに相談するとかできなかったの!?

 

154:天使

そもそも、こうなったの奈落が君たちの意見に従うよって先行サレンダーしたからだよ?

 

155:奈落

いまオルクスにも言われたよ……今度からちゃんと自分に関しての話し合いはきっちり参加します。

 

156:天使

そうしてねー。

そんで、奈落に関してもう一個。第3支部の監視者に任命するのも合わせて、『アーマードchannel』でちゃんとした生存報告するから、送った台本ちゃんと覚えておいてねー。

 

157:奈落

はい。ちゃんと覚えておきます……。

 

158:七色

奈落先輩、ほんとうに変わったっすね。良い方向にかはわからないっすけど。

 

159:正義

まっ、格好付けなくなったってだけで、これが素だったんだろうぜ。

 

160:天使

さて、『魔装少女協会』そのものの話はまた別の機会に違うスレでやるとして、結構時間も経ったし、今回はこれで終わりかな。

 

161:七色

あ、自分、報告がまだっす!

 

162:天使

ごめん、忘れてた。七色周辺の事はセブンスガールたちからもう全部聞いてるから大丈夫だよー。

 

163:七色

そっちの忘れてたっすか……いや、いいんすけど、ついに報告する役目すら無くなったんすね……。

あ、なら逆に質問いいっすか?

なんか先輩たちとか天使がちょくちょく夏休み終わりって言ってるっすけど、なにかあるのかそろそろ聞いていいっすか?

 

164:天使

あー。本当にごめん。秘密にしている訳じゃないんだけど、七色や騎士、王様には今は目先に集中してほしいんだ……八月初めには絶対に説明するから。

今は『協会』のことに集中してほしい……ごめん。

 

165:七色

天使がそこまで言うことなんっすね。

分かったっす。みんなにも言っておくっす。

 

166:天使

ありがとう。頼むねー。

それじゃ、解散! 

 

167:王様

応! ではな!

城に来るならば盛大に歓迎しよう!

 

168:希望

王様のお好み焼き食べたい。

混沌の分も持って帰っていい?

 

169:王様

無論だ!

 

170:奈落

ボクも王様の粉物久しぶりに食べたいな。こんど家族と一緒に行くよ。

それじゃあね。天使、体に気を付けて。

 

171:七色

また何かあるなら遠慮無く頼って欲しいっす!

たぶん、みんながやると思うっすけど!

 

172:正義

人に言うなら、本物の天使になる前に休めよ。

 

173:悪魔

言い方はクソだが正義の言うとおりだ。無理はするなよ。

 

174:天使

……僕、協会のことが全部終わったら、ハワイでバカンスするんだ。

 

175:七色

なんでわざわざ死亡フラグっぽいの建てて終わろうとするんっすか……

 

 

 

+++。

 

「……ふぅ」

 

報告会が終わったことで緊張から解放されるアンギル。ブレイダーの姿で背伸びしている様子は客観的にみたらシュールな光景なんだろうなとくだらないことを考えてしまう。

 

「ボロは出てない……はずなんだけどねー」

 

アンギルは変身したことにより体調は正常に戻った。だから普通に話せているはずだと報告会で自分の書き込んだレスを見直し、至って普通に話していることを確認して安堵する。

 

――もっとも奈落は(オーラ)を見て、正義は勘か何かで気付いているだろうが、今は僕の事を尊重して黙ってくれているらしい。

 

アンギルはそれが有り難く、もしもの時は無理強いしてでも休ませようとしてくるのを考えると少しだけ怖かった。そしてだからこそ、アンギルは最悪ブレイダー・スーツを身に纏っても体調が戻らなくなった日が来ても、掲示板でのノリを意地し続けなければならないと考える。あのノリが続いているうちは大丈夫だと判断してくれるから。

 

「……一番最初に掲示板でやりとりするって提案した僕天才すぎるねー」

 

『アーマード』に置いて、ブレイダー同士のやりとりは基本的に『B.S.F』内に元からあった専用の掲示板アプリを使った書き込みで行なわれる。

 

重要な会話や情報などをログを辿れば確認できる。主張が強い者同士が集まるので声での会話だと話が混雑する可能性が高いことなどを理由に天使が始めようと言ったのだが、その中で仲間には言っていない理由が幾つもあった。

 

天使にとって最大の理由、そして利点とも言うべきそれは声を出さない、多少会話にタイムラグがあっても問題無いと自身の不調を誤魔化しやすいからだった。

 

――なにかあっても最期までブレイダーとして活動仕切るために自身の体で心配をかけさせない。それがブレイダーになった時に決めた天使の覚悟だった。そんな自分の決めたことが、自身の末期を早めたというのならば。天使はそれでいいと思うのだが……。

 

「……はぁ」

 

こんな事を考えるのは、やっぱりメンタル的な疲れが溜まっているんだろうなと、アンギルはため息を吐く。

 

――つい数ヶ月前まではピザが食べられた。コーラが飲めた。元から小食であったがそれでも問題無く食べられた。しかし今ではチーズの匂いを嗅いだだけで体が拒絶反応を起こし、炭酸を飲めば5分はむせ続ける。健康補助食品のゼリー飲料ですら食べるのが酷く辛い。

 

ブレイダーになってから、今日(こんにち)までの無理が祟ったと言われればそれまでなのはアンギル(天使)本人が、もっとも自覚している。それを踏まえて覚悟の上だったが、それにしたってタイミングが微妙すぎると、どこにも吐き出す予定のない愚痴を内心で片付ける。

 

――“虚弱体質”という四文字で片付けられるのならば、どれだけいいか。

 

「……はぁ」

 

アンギルは連続してため息を吐いた。これからまだまだ仕事はある。『魔装少女協会』の件でもそうだが、少し放置気味にしていた『アーマードchannel』に関係する企画などを纏めなければならない。

 

これからの予定はもうデスクワークだけだが日を跨いでの作業になるのは確実で、今日は生身に戻ることはできない事が決まる。

 

どんどんと生身で居る時間が減っていく。もういっそブレイダーのままで過ごすって決められたのならば、どれだけ良かったかという毎日湧き出る愚痴についにアンギル(天使)は言葉に出して答えてしまう。

 

「天使として生きていくにはねー。人としての未練が多すぎるんだよ……」

 

アンギルはやっぱりメンタルの疲労がやばいかと思いながらも作業部屋へと向かう。今は作業に没頭することが、もっとも気が紛れる方法だと自分を誤魔化して。

 

 

+++

 

 

「――もしもし。お久しぶりです」

 

≪――――≫

 

「はい、またです。また同じ理由でお電話をさせて頂きました」

 

≪――――≫

 

「否定するのはご自由ですが仕方のないことです。何故ならあなたのご子息の問題なのですから」

 

≪――――≫

 

「本日13時。あなたのご子息がまたヤりました。またヤってしまいました。地方から上京してきた年下の女の子を親切と評して睡眠薬のジュースを飲ませて、そのままホテルに連れ込みました。いつもの三人で、そうあなたが入学させた大学で友達になった二人と一緒に行ないました。現在進行形であなたのご子息はその友達と食堂で今日連れ込んだ女の子はまぁまぁだったなと笑い合って楽しそうに定食のカレーを食べています」

 

≪――――≫

 

「これで三回目ですね。秘密が三つになりました。だからその分の上乗せをして貰わないといけませんね。というわけで今回のお値段は前回の三倍頂きたいと思います。3900万です。少し中途半端な気がしますが、値下げは受け付けません。代わりに値上げもいたしませんのでご安心ください」

 

≪――――≫

 

「前回のお支払いで銀行に預けたお金は全て無くなったのは承知しています。ですが家と保険の貯蓄、そして解約返戻金にてお支払い可能なはずです。多少時間は掛かることは承知なので支払い期限は前回よりも長く設定しましょう」

 

≪――――もう……勘弁してください……もう勘弁、してください……≫

 

「期限内に支払われなかったら、大事なご子息の所業は全ての情報を通して世間に明るみになるでしょう。私は所詮第三者でしかありません。なので私が持ちゆる情報を公開した場合に発生する被害者たちのさらなる被害に関してはどうでもよく、文字通りご子息が行なった非業なる行為の全てが白日の下に晒されます……その後どうなるのか、どういった末路を迎えたのか、他の方々を見て知っていることでしょう」

 

≪ううっ……勘弁……してください……≫

 

「もし、ここで止めてしまえば全てが無駄になります。それもいいかもしれません。ですが元より我が身の可愛さ、息子の愛おしさ故にお金を払うと決めたのはあなたです、前回も前々回もあなたです。ついでに言いますが、もしもお金が支払われないのであればあなたがお金でご子息の犯罪を隠蔽したことも晒します。あなたがご子息に注意したのは承知しています。それでも自分の不始末は親が付けてくれることを覚えたご子息は二度もヤりました。それによる親としてどう責任を取るのか、あるいはご子息に報復するのかは、あなたの自由です……でも、いま決めるのはそれじゃありません。息子の不始末を金で隠蔽しますか? しませんか? 私はどちらでも構いません。何故なら私の立ち位置はどこまでも第三者なのですから。ご子息が、あなたが、被害者が、被害者周辺の人々がどうなろうと私は一切関知しません。私がこの件に関して求めるのはお金だけです……3900万円、三度目の罪を犯した息子のために払いますか?」

 

≪……す、こしまって……くださいっ! ……用意します……用意しますので……息子の事を世間に公表することだけは……勘弁じで……ぐだざいっ!≫

 

「ありがとうございます。詳しい内容は今までと同じくメッセージでお送りいたします。それではお金が振り込まれることを心よりお待ちしております」

 

――晴天の中、鉛色のレインコートので全身を掻くし、フードを被る女性が通話を切る。

 

「ガザミ」

 

そんな女性――ガザミに声を掛けるたのは異形の巨人。二足歩行で歩く姿は人ではあるが、全長は3メートルまるで戦闘機のパイロット服を着込み、鉄バケツに見える兜を被り、人で言うところの目元の間にある穴からは仄暗い光が見える。

 

「ガザミ。殻雲から連絡きた。これからは集まって行動するって」

「予定してた日よりも早いですね。なにかトラブルがあったのでしょうか? ……分かりました。合流を優先して、それから話を聞きましょうか。ヨワワ」

 

名前を呼ばれた巨人ヨワワは、ガザミを優しく慎重に抱き上げた。

 

「ガザミ。しかり掴まって」

「はい。それではよろしくお願いします」

魔法生成(クリエイト):〈テレポート〉」

 

ヨワワはガザミを抱き上げると呪文を詠唱。すると周辺の空間が歪んだと思えば。一人と一体はその場から、元から居なかったかのように一瞬で消えた。

 

 

――数日後、彼女の元に3900万円という大金が振り込まれた。

 

 

+++

 

――北陸の大地にて、カラフルな彩りに塗れたドレスを着るマゼンタ色の長髪をした女性が、くるりくるりと回っている。

 

「燦々と輝く太陽、汚れのないピカピカな青い空。こんな日はとても爛々とした気持ちになって、毎日あなたの事を思い出す」

 

左手を胸に置き、右手を水平に伸ばして回る様は見えない誰かとダンスを踊っているようだ。

 

「ピカピカしていてとても幸せだった日の終わりから、私の気持ちはなにも変わっていないよ……。ねぇ、サンちゃん。もしも東京に行ってあなたに出会えたならば」

 

回るのを止めた女性は“あの日”から決めた事を空に向かって告げた。

 

「――コロはあなたを殺します」

 

 

 

――殺戮の魔装少女――

RANK2 コロ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




やることが多い天使。


殆ど台詞だけなのにかなり長くなってしまいました()

これからも北陸支部のエンブレムが沢山出てくると思いますが、気に入って頂けたら幸いです。

今後は14日単位での投稿でやっていきたいと思いますので。それではお待ちになってください次回!


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魔装少女北陸支部 前編<騎士>

感想、お気に入り登録、評価、誤字報告ほんとうにありがとうございます。

日付を間違えて遅れて投稿です( ; ̄▽ ̄)すいません。

3章は分け合って特殊タグなどは少なくなっていますが、それでも楽しんで頂けたら幸いです。




 

――数日後、騎士は結局のところブレイダーの譲渡について、そして自分の代わりにブレイダーになりたいという殻雲について、『協会』に関わって本当に忙しい時期だからと自分に言い訳をして、ブレイダーたちに相談することができないでいた。

 

そのままズルズルと日が経ってしまい。今は言わないほうがいいのかもしれないと思い始めた騎士は、約束通り殻雲と再会していた。

 

「――やはり, 君は恵まれているな」

 

挨拶もそこそこ殻雲に連れて行かれるまま、ダンスから武道までマルチで活用できる練習場ビルへと連れて行かれて、そこでまずは初日だからと武術の手解きを受けた。

 

「……ゼェ……ゼェ……!」

 

――もっとも、その“手解き”でオリンピックでメダルを獲得できるほどの才能を持つ騎士は、息も絶え絶えに地面へと突っ伏していた。

 

「改めて, 肉体そのものが才能の塊だな, 頭もいい, 私の動きをすぐに模倣してトレーニングの無駄な負担を無くしたか, これなら今からほんの少し努力を継続させるだけでメダルの栄光を掴むこともできるだろう」

「あ、……ありがとうございます」

 

正直に褒めてくれているだろうというのは分かるが、考える余裕がないことも有って、素直に受け取れなかった。

 

殻雲に言われて、騎士が行なったのはテストを兼ねた基礎トレーニングだった。どこまで出来るのかチェックも兼ねていると聞いた騎士は、少しでもできる所を見て欲しいと張り切って行なった。

 

――騎士は体が温まる程度で終わらせるつもりだったのだが、その隣で人間が出すべきではない、自分の三倍速で同じメニューを熟す殻雲に度肝を抜かれてしまい。そのまま釣られて、速度を上げたのが今の惨状である。つまり最初の時点で死にかけているのは騎士の自業自得であった。

 

ちなみに殻雲は限界を見極めたいと、むしろ煽り目的でさらに速度を速めたりしたのだが、単純に騎士よりも三倍の運動量にも関わらず、汗は掻いているものの息は全く乱れていなかった。

 

「これなら数年, 達人の元で山ごもりを行なえば私と同等になるかもしれないな」

「……殻雲さんが言う達人って、どれほどのものなんですか?」

「強さという意味で問われているなら人によるとしか答えられない, だがそうだな, あくまで私の基準の話になるが, エベレストの登頂と下山を単身且つ一日で行なえる者だ」

「……え? こ、高山病とかどうするんですか?」

「登っている間に肉体が環境に適応する, 達人とはそういう人種なのだよ」

 

創作のような話に騎士はあまり信じられなかった。魔装少女やブレイダーならともかく、変身できないただの人間が到達していい領域なのかと、だけど同時に騎士は殻雲が呼称する達人と呼ばれる人たちを確かに知っている。

 

その筆頭となるのが、たった一つの事件が起きただけで見捨てられる事となった秋葉で生きてきた男――同じブレイダーでありながらあらゆる面で次元が違うと羨望を抱く悪魔のことである。

 

エベレストを一日で登って下れる話の真偽は置いといて、殻雲のいう達人は生身でグレムリンと戦えるほど強い人物ということで騎士はとりあえず納得した。

 

「さて, 回復してきたところで再開しよう」

 

騎士が立ち上がれるぐらいに体力が戻った事を正確に読み取った殻雲は割と無慈悲に修行の再開を告げる。

 

「……ちなみに今日のメニューはどうなっているんですか?」

「今日は初日だ――」

 

本当に立ち上がれるぐらいの体力“しか”戻っていない騎士は、顔を引きつらせて問うと、殻雲は即答した。

 

「――壊れるようなことはしない」

 

――それから夕方になるまで、この言葉は絶対嘘だと何回思ったか騎士は覚えてなかった。

 

 

+++

 

――それからさらに数日。騎士は東京を出ていた。

 

日本に存在する魔装少女を管理する支援団体『魔装少女協会』には東京の全21支部だけではなく、日本全国に数多くの地方支部が存在する。

 

それは福井、石川、富山からなる北陸三県も例外ではなく、福井支部、石川第一支部、石川第二支部、金沢支部、富山支部の計五つ存在する。

 

――そう、北陸三県に存在する『協会』の支部は五つだけである。しかしながら関係者ですら時折、北陸三県にある協会支部は全部で六つと勘違いすることがある。

 

その理由となっているのが『魔装少女北陸支部』と言う名の、世界で唯一魔装少女の力を行使して事業を行なうことが許された協会とはなんら関わりの無い“会社”なのである。

 

「――予想通り冴えない顔しているわね」

 

新幹線で長時間移動。そこからさらに数時間タクシーを使って、田んぼ道を通り抜けた先にある山の中へと進み、半日以上の時間を掛けてようやくアスファルトで平らに舗装された敷地内に存在する、何かの工場用建物をむりやり改築した『魔装少女北陸支部』へと辿り着いた。

 

そして、インターホンを鳴らして素性を明かした後、事務所から出てきた小柄で金髪碧眼の赤黒いフード付きコートの魔装少女に早々罵倒染みたイメージを言われた騎士は、移動疲れも相まって思わず、着替えが入ったポストンバックを地面に落とした。

 

「……『アーマード』から交換出張で来ましたブレイダー・ナイトです。騎士と呼んでください」

「あら、パワハラで訴えるとか言わないの? まあしたらしたで私が先にセクハラされましたって訴えるけどね。示談金三百万は固いかしら?」

「詐欺だ!?」

「冗談よ。緊張は解けたかしら?」

 

そういって笑う魔装少女に、騎士はげんなりと肩を落とす。

 

「……社会人が口にする冗談とは思えませんね」

「そうね。でもこれがこの会社で毎日飛び交っている日常会話よ。だからこれからココでしばらく働くなら、それぐらい乱暴な気持ちでいなさい」

 

そういって作法もへったくれもなく片手で名刺を騎士に差し出す。

 

「知っているかもしれないけど、あなたのお世話役を任された、RANK4のデッド・キティよ。みんなからはキティと呼ばれているから、あなたもそう呼んで」

 

名刺は北陸支部の会社名、RANK 4という表記と魔装少女名であるデッド・キティの名前だけが印刷されただけの、とても質素なもので、彼女たちにとって形式的なものでしかないのが見て取れる。

 

「――北陸支部へようこそ、盛大に歓迎するわ」

 

+++

 

「うちの事務所は社長室と作業室、そして暇なときに使う待機所があるだけよ。無駄に広いからエアコンは効きにくいし、冬の時はストーブ焚いても中々暖かくならない。素の体では居るだけで辛い地獄みたいな場所だけど、まあ仕事がないときは寛いで頂戴」

 

事務所に入ってすぐに、三つほどの長方形のテーブルに二十ほどの椅子が置かれているだけで、スペースをかなり余らせており、キティの言うとおり魔装少女たちの待機所のぐらいしか使われていないように見えた。

 

――ふと、入り口からもっとも離れている場所に、見たことのない魔装少女らしき人物が座っていることに気付く。こちらを一切視ることなく、スマホを操作しているため、騎士は距離も離れていることだし、挨拶は後のほうがいいだろうと視線をキティに戻す。

 

適当に座って頂戴と言われて、ほぼ同時に簡素な作りの丸椅子に座る。騎士は元々高身長であるため人を見下ろすのに慣れている。なので立っている時はそこまで違和感を持たなかったのだが、座ったことにより全体像が見え、小学生でも通じそうな彼女の小柄さを実感する。

 

「こう見えてもお酒が飲める年齢よー。というかあなたと同じ歳(タメ)よ」

「……なんで分かったんですか?」

「子供扱いしてくるやつらと同じ視線を向ければ分かるわ」

「……すいません」

 

内心を当てられたあげく、失礼な態度をとってしまったと騎士は謝ることしかできなかった。

 

「別にいいわよ。というかこの程度で謝っていると、ここじゃやっていけないわよ。一日二日でどうにかしろとは言わないけど、うるせークソチビ! ぐらいは言えるようになるのをオススメするわ」

「それは普通に人として駄目では!?」

「ここの連中は何かしら人間失格だからいいのよ」

 

同僚に厳しすぎる発言に、天使たちが口を揃えて言う治安が悪い場所というのがどういったものか騎士は初めて実感した。

 

「さて、事前に聞いているとは思うけど、あなたがこれから二週間、『北陸支部』で何をしていくのか説明するわ」

 

ここでようやく騎士は、キティが『北陸支部』での生活や仕事について話すつもりだったことに気付く。

 

「生活については同じ敷地内にある寮で暮らしてくれればいいわ。女の園だけど、そこは我慢して頂戴ね」

「事前には聞いていましたが、女性だけの寮に男が住んでいいんですか?」

「あなたが嫌じゃなければね」

 

べつに男が住むこと自体はどうでもいいというキティの態度に、そちらが大丈夫ならと騎士は躊躇いがちに承諾する。

 

「キッチンとリビングは共同、風呂は時間割を事前に決めといたから入るさいには内側から絶対に鍵を掛けてね」

「はい……ん?」

 

確かに事故を防ぐという意味では施錠するのがいちばん効果的であるけど、それにしたって物々しいのではと騎士は思った。

 

「もしかして、うっかり入ってくる人が居るんですか?」

「むしろ貴方が入っているのを狙って突撃しそうな馬鹿がいるのよ」

「…………」

「あと、他の魔装少女の私室に入るのはやめたほうがいいわ――逃げられないから」

「……逃げ?」

「あ、どうしてもっていうなら、ブレイダーに変身するのをオススメするわよ」

「そんな魔窟に今日から二週間住めと言うんですか!?」

 

騎士が思わず立ち上がって叫ぶと、冗談よとカラカラとキティは笑う。

 

「だから社会人が言う冗談じゃないですよ!」

「北陸ジョークよ。北陸関係あるかは知らないけどね……まあ嘘でもないけど」

「いまなんて言いました!?」

「近くのコンビニ行くのに40分ぐらい掛かるから、基本的にはドローン配達で買い物するのをオススメするわ。日用品なら会社の経費で落としてもいいから、髭剃りとか欲しいなら私に頼んでくれてもいいわよ」

 

完全に無視されたと騎士は北陸支部での生活に、かなりの不安を抱きながらがくりと椅子に座り直した。

 

「仕事に関しては、難しい注文をするつもりはないわ。私たちが戦っている間。ブレイダー・ナイトの力を全力で使って街や人を絶対に守って」

「……絶対ですか?」

「ええ、私たちの稼ぎはグレムリンをどれだけ倒したかでプラス。そしてどれだけ周囲に被害を与えたかでマイナスになるわ。だからナイト。私たちが求めるのはたったひとつ。給料分、みんなを守って頂戴」

 

ここ最近、苦悩する日々を送っている騎士として“絶対”という単語はタブーに近く過敏に反応してしまう。明らかに調子が変わった騎士に、キティは目を細める。

 

「……変身姿と同じく堅物みたいね」

「え?」

「絶対なんて言って悪かったわ。仕事なんてミスするものだし、私たちもそれが理由であなたが来てくれることを強く希望したんだしね。まあ、いつも通りやってくれればいいから。よろしくね騎士様」

「よ、よろしくおねがいします」

 

立ち上がったキティは騎士に手を差し出した。座ったままでようやく同じぐらいの視線になる彼女が、どこか他のブレイダーたちを連想させた。

 

――彼女もまた“狼”だ。そういう風に考えながら騎士はキティの手を取って握手する。

 

「……あなたと身長差だと、親子でおてて繋いでるようにしか見えないわね」

「それ自分で言うんですか……」

「――ただいまッ! お腹空いたッ! あ、キティ! っと知らない人がいるッ!」

 

――小さな女の子が事務所にやってきた。キティよりも身長が低くギリギリ130センチ台といった所か、アホ毛のプラチナヘアー。見た目どおり小学生らしく学生服姿に学校鞄を担いでいる。

 

あーっと人差し指を騎士に向ける少女。ニカッと笑うと鋭く尖った前歯が見えた。

 

「おかえり。冷蔵庫におやつがあるけど手を洗う前に、この知らない人に挨拶しなさい」

「わかったッ! ヤエバは小学六年生のヤエバ! よろしくねお兄ちゃん!」

「今日からお世話になるブレイダー・ナイトです。騎士って呼んでください」

「きし? キシ!」

「完璧です」

 

舌っ足らずで発音が若干違うとは思ったが、指摘する必要性は無いと騎士は褒めた。

 

「というかキシお兄ちゃんがブレイダー・ナイトなんだッ! ヤエバ知ってるよッ! 世界をー照らすために~輝いて~イカーナイトー!」

 

ナイトの変身音を歌って、した覚えのないポーズを決めるヤイバに騎士は気恥ずかしさを覚えながら、そうそれと肯定する。

 

ブレイダー・ナイトの変身音は、テンポがよく揚々とした歌だからか子供の人気が高かった。そのため子供のごっこ遊びでも根強い人気を誇っており、騎士本人が使えないパンチやキック技がよく使われるほどである。

 

「……もしかしてブレイダー・ナイト好きなの?」

「好きー! ヤエバは魔装少女だけどブレイダーカッコいいから好きッ!」

 

面と向かってストレートに好きと言われた騎士は恥ずかしくなって頬を掻いた。

 

「ちなみに一番好きなブレイダーは?」

「デビル! ちょーカッコいい!」

「…………」

「悪かったから、首だけ回してこっちをガン見しないで」

 

――人気投票で好きだけど一番じゃないという理由で票が獲得できず下から三番目となった騎士の心は大きく傷ついた。

 

「どうしたッ? もしかしてお腹痛いのかッ!?」

「ああいや。こほん。自分もヤエバちゃんのことはちょっとだけだけど知っているよ。すごく強い魔装少女なんだよね?」

 

騎士は『北陸支部』の魔装少女の情報を頭に入れており、ヤエバ本人のことはともかく、『北陸支部』でもっとも若い魔装少女でありながら、その戦績を見た時驚いたのは記憶に新しい。

 

「そうだよッ! ヤエバはキティたちが居れば無敵なんだからッ!」

「キティたちが?」

「うん! ヤエバ、ひとりだとあんまり強くないッ!」

「ちゃんと自分の実力を把握できていて偉いわねー」

「ほんとッ!? えらいッ!?」

「偉い偉い。そんな偉いヤイバはおやつ食べる前に手洗いうがいできるよね?」

「もちろんッ! できるよッ!」

 

――じゃあ後でねーと、ヤエバはおやつを食べるために寮へと走って行った。

 

「……教育が行き届いていますね」

「そうねぇ。まだ子供だからってのもあるけど、素直で可愛い後輩だからね。さっき会社の連中全員ロクデナシのクズって言ったの訂正するわ。あの子だけは別よ」

「あの子以外の評価がさらに酷いことになっていますが?」

「ヤエバと比較しちゃうと仕方ないね」

 

同僚に対して、あんまりな言い草に騎士は流石に冗談かと考える。東京でいわゆるお行儀よく育った自分には慣れない環境なだけで、アニメや映画で見る戦士や兵士が憎まれ口を叩くのは、よくあるらしい。これも気心が知れた仲からこその、そういった類いの発言だと。

 

――そんな風に考えてなんとか環境に適応しようとする騎士。寮に案内すると移動しようとしたキティのポケットから着信音が鳴った。

 

キティは画面を確認することもなく、ワンコールで通話を取った。

 

「はい、『魔装少女北陸支部』所属のRANK4、デット・キティです。はい、お久しぶりです。先日はどうも……はい、そうですか。そちらの魔装少女は今? ……はい、分かりました。それでは今すぐ向かいます」

「仕事ですか?」

「ええ、香川県でグレムリン発生、二カ所同時に発生したものだから魔装少女が足りなくて、私たちはその片方の討伐依頼が入ったわ――あ、ヤエバ。おやつタイムは一旦中止。仕事よ。急いでこっちに来て。それじゃあね」

 

騎士に仕事を簡潔に説明しながら、ヤエバを呼び戻したあと、キティは端っこのほうで携帯ゲーム機で遊んでいる魔装少女らしき人物の元へと向かう。

 

「ロッカー! 仕事よ」

「……あ、キティ。帰っていたの?」

「ずっとそこに居て話していたわよ! いつも言っているけど画面の外にも多少は興味を持ちなさい!」

「はいはい、分かってるよキティママ」

「仕事って言ってるでしょ! ゲームを止めて話を聞け!」

 

ロッカーと呼ばれた魔装少女は仕方ないなと渋りながら、ゲームをスリープモードにする。フードをとって煤色の髪、ダウナー系と呼ばれる風貌を露わにする。

 

「あれ? キティの彼氏?」

「違うわよ。ブレイダー・ナイトの中身よ」

「ああ、ずっと社長に来て欲しいって強請ってた。キティの未来の彼氏か」

「ふざけたこと言って怠けるつもりならいい加減ぶっ飛ばすわよ!」

 

傍まで来た騎士を見て、冗談かどうか分からない事を言うロッカーに、騎士はここに来てから先ほどまでのキティの発言に、確かにコレは真面目に対応していたら心が持たないなとひどく納得していた。

 

「ほら、目的地はここよ……。サクッと紹介するわ。この子はトンネル・ロッカー。移動系の『固有魔法』持ちの魔装少女よ」

「適度によろしくね、見た目パリピ系リア充さん」

「……はい。よろしくおねがいします」

 

なんかもうツッコムだけ無駄そうな人だなと騎士は適当に流した。

 

 

 

――どこでもロッカー――

RANK9 トンネル・ロッカー

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「――キティ~! お待たせッ! 待ったッ!?」

「待ってないわよ。むしろ待たせてるのはロッカーよ。なんで『固有魔法』唱えるのに、こんなに時間食っているんでしょうね、この引き籠もり」

「仕方ない仕方ない。だって場所をしっかり見ないと分からないんだから」

「その前に明らかに無駄なプロセスがあったのよ! ……はぁ、さてヤエバ。私たちもさっさと変身しましょうか」

「わかったッ! 〈チェンジリング〉ッ!」

 

 

 

――小さな捕食者――

RANK11 ヤエバ

 

 

【挿絵表示】

 

 

ヤエバの魔装少女姿は、青、赤、黄色の三原色で構成された袖や裾が短いチャックパーカー。その内側には黒タイツを着込んでいるのか、首から下の肌の露出が両手だけとなっている。そして肩の部分には青色で体にチャックがあるネズミのエンブレムが貼られていた。

 

「〈チェンジリング〉」

 

 

 

――異常なる者たちの指揮者――

RANK4 デッド・キティ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

魔装少女に変身したデッド・キティだが、魔装の見た目は先ほどまでの素体時に着用していた服そのままだった。というか騎士は服のデザインからてっきり魔装少女状態かと勘違いしていたため、凄く驚いた。

 

「魔装と同じ服を着ていただけで、変身していなかったんですね」

「同じ格好のほうが何かと便利なのよ。実は色々と細かいところは違ったりするわよ。エンブレムの有無とかね」

 

北陸の魔装少女は、わざわざ特殊な技術を用いて魔装のどこかにエンブレムを貼り付けている。騎士がデッド・キティの魔装を見ると肩に、赤い“D”文字と可愛らしい三角耳が映えた饅頭系のマスコットのエンブレムがあった。

 

「……認識できた。出すよ――〈魔法展開(スペル):トンネル・ロッカー〉。

 

己の『固有魔法』を、そのまま魔装少女名にしている魔装少女は多く、トンネル・ロッカーもそういったタイプだった。『固有魔法』を唱えると、トンネル・ロッカーの背後に、数十年は使われたような痕跡がある長方形のロッカーが現われた。

 

「これって……?」

「さっきも言ったけど、移動系の『固有魔法』よ。このロッカーはこの子が思い浮かべた場所へ直接繋がっているわ。ただし、一方通行だから帰りは別の手段で帰ることだけは頭に入れておいて」

「あと、ロッカーより大きなものは無理。デブだと使えないよ」

「……ナイトに変身したら入れなさそうですね」

「そうね。だから騎士はロッカー移動の時は移動してからになるわ。身バレの可能性はあるから、それが嫌なら別の方法を考えるけどどうする?」

「いえ、大丈夫です」

 

身バレはしたくないが、自分だけ違う移動法で現地合流というのは明らかに非効率だと、騎士はロッカーを使用することにした。

 

「そう。ならグレムリンが暴れるまえに行くわよ」

「ヤエバ出発ッ!」

「いってらー」

 

キティ、ヤエバに続き、騎士もロッカーの中にはいる。自分の方が身長が高く身をかがまないとぶつかるが、元から締まった体をしているため、問題無くロッカーを潜り抜けることができた。

 

――来て早々の初仕事。吐きそうなほどの緊張感が湧き上がるが、同時に殻雲との数日間の修行の成果を見せられるかもしれないと意気込んだ。

 

――のだが、特に出番もなくグレムリンは倒されて、あまりの来た意味の無さに肩を落とした。

 

「こういう日もあるわよ」

 

キティの適当な励ましに、トドメをさされて社会って厳しいなと地面を見続ける。

 

 





戦闘がどういったのか後編で描写したいとおもいます。


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