マリオと奇妙な館 (スダチ)
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ピーチ城に現れたクッパ

「やっぱりさあ、高すぎないか? あそこ」

 

「そうね……今度キノじいに何とかしてもらうよう頼んでみるわ」

 

カップをすすり、ふう、と一息つくのは城の主、ピーチ。今日は自らマリオとルイージをお茶会に誘った所だった。

 

「しかし美味しいねこのお茶。ハーブティーだよね?」

 

「それ、うちの庭で育てたハーブを使ったのよ」

 

「どうりで美味いわけだな!」

 

ニッと笑って持ち上げるマリオにピーチは少し照れる。時刻は午後2時過ぎ。この熱い夏の中、3人はクーラーの効いたピーチの部屋で優雅に一時を楽しんでいた。

 

本来一国の姫の部屋など入れるものではないが、マリオとルイージはこれまで幾度となく攫われたピーチを救って来た。それだけでも偉業であるが、攫われ騒動やスポーツなどで顔を合わせる内に仲良くなった為、最早両者は友達感覚で会うような関係になっていた。

 

「そうだわ。台所に私が作ったクッキーがあるのだけど、食べない?」

 

「食べます」

 

「おークッキー、おねがいするよ」

 

ピーチの提案に即答するマリオとそれに苦笑いしながら答えるルイージ。ニコッと笑って席を立ち、台所へ向かった。

 

「……」

 

ピーチが居なくなったら否や、マリオは身体を後ろにやり、椅子にもたれかかる。ルイージはカップを置き、髪をかき上げる。

 

──クッキー、チョコクッキーだったらいいなぁ。

 

──明日晴れるかな。商店街行きたいし……。

 

無言ではあったが、二人はそんな事を思いながら、ピーチがくるまでの時間を潰した。

 

 

 

 

一方ピーチは、台所へ向かって足を進めていた。──が、妙に騒がしい気がする。音が聞こえる方向はマリオ達のいる方角ではなく、城の入り口の方だ。

 

「何かしら……?」

 

気になって入り口の方へ向かってみることにする。近づくにつれて、段々大きく聞こえる声に、ピーチは違和感を感じた。

 

──この声は聞いたことがある……。低めの声でガラガラした……。もしかして。

 

ピーチの中にある人物の顔が浮かんだ。その人物はピーチにとってあまり好ましくないものであったので、足取りは重くなる。それでもどんな状況になっているのかが気になっていたので、歩みを止めずに進む。

 

入り口に着き、扉を開ける。

 

「だから! ピーチ姫の部屋はどこだと聞いているのだ!」

 

「ですから! 貴方みたいなすぐ攫おうとするバカには教えませんよ!」

 

「なんだと! ワガハイもキノコ王国の国民なんだぞ! ウガー!」

 

「ギャー! アチアチアチアチ!」

 

ピーチの眼前には、頭が燃えているキノピオ兵と、炎を吐いているクッパが映った。

 

「クッパ 、やっぱり貴方だったのね」

 

「ん? おお! ピーチ姫ではないか。探したぞ!」

 

キノピオ兵が慌てて近くの噴水に頭を突っ込む中、二人は向かい合う。

 

「一人で来るなんて、珍しいのね」

 

「ああ、本当はいつものように攻め入る予定だったのだが、今は部下に夏季休暇を取っていてな。ワガハイ一人で攫いに来たという訳だ」

 

ピーチは少しでも攫い目的で来たのではないと期待した事を後悔した。

 

「という訳で攫われてくれ!」

 

「冗談じゃないわ!」

 

クッパは二階のドアにいるピーチの方へ向かって階段を登りだす。その行動を見てピーチはマリオ達の元に逃げようと振り返る。幸い距離はまだ空いており、クッパはその図体のせいか、階段を登る事に時間がかかっている。ピーチはドレスが引っかからないように少し手で持ち上げながら、来た道を走って戻り始めた。

 

 

 

 

「いや、あいつはクリボーじゃなくてクリボンだ」

 

「へぇー、どうりで丸くてちょっと違うなーって思ったんだよね」

 

舞台は戻ってピーチの部屋、マリオとルイージは椅子をカタカタ動かしながら、ピーチとクッキーを待っていた。

 

「まぁ間違えるのも無理はないな。いつものクリボーポジションがあいつだったからな」

 

「そっか。そういえばあの冒険の時クリボー見かけなかったね」

 

そんな他愛もない話をしながら待っていると、ドアががちゃ、と開き、ピーチが現れる。二人は振り返るが、ピーチが息を切らしている事に驚く。

 

「マリオ……ルイージ……一大事よ」

 

ピーチはクッパが来たことを話そうとすると、ピーチの後ろにドアに入りきらない程大きな身体が現れる。そして、ピーチの頭にポン、と手を置くと話し出す。

 

「ゼェ……ゼェ……マリオ、ルイージ……。いたのか……」

 

「おいおい、マジか!」

 

「というか、クッパも息切れしてるじゃん……」

 

ピーチは置かれた手を払い除けて部屋に入る。

 

「また攫いに来たなクッパ!」

 

「おうともよ。だが、マリオ! お前がピーチ城でお茶会してるのは計算外だ! 忌々しい……」

 

クッパは単独でピーチ城に乗り込んだので、わざわざマリオの相手までするつもりでは無かったのだ。ドアからマリオが見えるように覗き込むクッパとマリオは睨み合う……。ピーチとルイージはそれを見守るが、そこに緊張感は無い。──両者ともこのままでは埒が明かないので、話し合いで無いような話し合いをした結果、城の庭で決着をつける事になった。



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決闘

ピーチ城の庭はマリオ64みたいなイメージです。


20m程離れて対峙する二人。拳を握り締めながら、睨み合う。

 

「これはもうどちらが勝つにしろ、庭の整備は免れないわね……」

 

頬杖をついてはぁ、とため息をつくピーチ。ピーチはルイージと一緒に城の正門の所で見守っていた。

 

「ふん! マリオ。どうだ、先に地面に倒れた方の負けって事にしないか?」

 

「おう、いいぜ」

 

少しばかりの静寂が訪れる。そして──

 

「そんじゃ行くぞ!」

 

「こい!」

 

戦いの幕が切って落とされる。マリオはクッパに向かって一直線に走り出し、スピードを上げていく。

 

「ウガー!」

 

それに対し、妨害するようにクッパはマリオの顔ぐらいの大きさの火の玉を吐き出す!

 

「よっ」

 

火の玉を見たマリオは足に力を入れ、クルッと一回転しながらジャンプをして避ける。クッパは目と鼻の先だ。マリオは渾身の右ストレートをクッパに向かって放つ!

 

「ふん!」

 

クッパも拳を握りしめ、マリオの拳に合わせるようにぶつける!

 

「ク……ク……」

 

両者、歯を食い縛りながら拳を押し合う。

 

「ワガハイに力で叶うと思うなーー!!」

 

クッパがより力を入れ、マリオが押される。このままでは吹っ飛ばされる──

 

マリオは拳を引き、左に重心を移しつつクッパの拳を避ける。それと同時に足を踏み込み、クッパの懐へ──

 

「チィッ」

 

右足の蹴りを叩き込む……!

 

「ぐ……お……ぉおーー!!」

 

クッパも負けじと蹴りを入れているマリオに至近距離で火炎放射をする。

 

「ク……あ……ちい……」

 

マリオは急いでクッパから退く。

 

「はぁ……はぁ……いきなり全開じゃねぇか……」

 

「それはお前が全開で来たからだろうが……ゼェ……」

 

両者戦闘体制を維持しながら、荒れた息を整える。ピーチとルイージも手に汗握りながら、見守る。

 

「ねぇ、ルイージ」

 

「? なんだい」

 

「ルイージは一緒に戦わないの? 二人で戦えばほぼ確実に勝てると思うのだけど……」

 

ピーチはルイージにふと思った疑問をぶつける。確かにそうだ。折角マリオブラザーズが揃っていて、クッパも部下を引き連れていないのだから、二人でかかれば勝てるのに、と。しかし、ルイージは首を横に振った。

 

「あぁそれはね、兄さんのプライドなんだ」

 

ルイージは前にクッパと対峙した時の事を話し始めた。なんと、前に二人で戦う事を試みたのだという。──が、それに対しクッパはこう言った。『今回は弟を連れてきたのか。マリオ、お前が考えている事を当ててやろうか! 数年の時を経て、さらにスーパーにパワーアップしたワガハイに勝てる自信が無いから! お前一人じゃワガハイに勝てないから! 弟に頼ろう──』と。

 

「それが兄さんの頭に来たみたいで、兄さんはクッパとはサシでやる事にしたんだって。兄さんこういう挑発に弱いからなあ……」

 

「そう……。でもそれで私が攫われるか攫われないか決まるのに、迷惑な話よね……」

 

はぁ、ともう一度ため息を吐くピーチにルイージは『ははは……』と苦笑いする。

 

「今度はワガハイから行くぞ!」

 

クッパはマリオに向かってドスドスと歩みを進める。どうやら息が整ったらしい。マリオは小刻みに移動し、クッパとの間合いを保とうとする。

 

「ウガー!」

 

勿論クッパも簡単にそれを許すことはせず、火の玉をマリオに連発する。

 

「あっ、火が!」

 

マリオは火の玉を一つずつ避けていくが、大量に放たれたせいか、運悪く草がある場所に着火し、燃える。

 

「おい! 燃えてんぞ! その攻撃はやめろ!」

 

「うるさい! つべこべ言うな! 炎はワガハイの象徴だぞ! そんな事いって吐くのをやめたら、攻撃してくるだろう!」

 

口論するマリオとクッパ。

 

「ああ……場所が悪かったよ……」

 

「ちょっと! ほっといたら火事になりかねないわ!」

 

頭を抱えるルイージと、慌てるピーチ。

 

「ルイージ! 消火頼む!」

 

「わ、わかった!」

 

マリオは何処からか取り出したポンプをルイージに投げ渡す。

 

「全く、本当好き勝手やりやがる……!」

 

マリオとクッパは戦いを続ける。そしてルイージは、二人の戦いに巻き込まれないように気をつけながら──

 

「ウガー!」

 

「当たらねえよ!」

 

「あっ……。うわー! 僕も燃えた!」

 

──気を、つけながら、水を撒いて消火をした。

 

 

 

 

暫くの時が経つ。マリオとクッパ、そしてルイージもボロボロになっていた。

 

「はぁ……くそ……中々決着がつかねえ……」

 

「ワガハイも……腕を上げたつもりだったが……これでも互角か……いや……お前も腕を上げたのか……」

 

「ヘッ……そうだ……何もいっつも……ピーチとルイージと……のほほんとしてる訳じゃ……ないんだぜ……」

 

やっとの思いで喋る。最早二人に戦う気力は殆ど残っていなかった。

 

「少し、休憩だ……」

 

マリオはそう言い、地面に座る。クッパも無言で了承し、後ろにへたり込む。一方ルイージも度重なる消火活動で既に疲れ切っていた。

 

「もう嫌だ……。やめにして欲しい……」

 

ルイージがボソッとそう言う。もう日が傾き、夜になりかけていた。正直マリオ達も当の目的など忘れて戦っていた。家に帰って寝たい気分だった。ずっと見ていたピーチも疲れている。

 

 

──そんな時を狙ったかのように、何者かがピーチの脇を掴んで持つ。

 

「きゃあっ!」

 

「……! ピーチ姫!」

 

ピーチの悲鳴に気づく三人。マリオは立ち上がろうとするが、上手く立てない。ピーチは持ち上げられたまま、どんどん上昇する。

 

「ギャハハハハ!」

 

ピーチの後ろから不気味な笑い声が聞こえる。

 

「誰だ!」

 

クッパが大声で言う。その声に反応したように、白い物体がもやもやと現れる。ピーチの後ろにいて見えにくいが、白くて丸っこい体、青白く出した舌。そして黒みがかった目元に、光る目。

 

「あ……アイツは……キングテレサ!」

 

ルイージは指を刺す。キングテレサ。以前マリオとルイージを騙し、お化け屋敷騒動を引き起こしたオバケだ。ルイージは額縁に入れられたマリオを助けるため、屋敷内を駆け巡ったのだ。キングテレサはルイージを見て、また笑う。

 

「随分とお疲れのようだなァ! このお姫様は貰ってくぜ」

 

「おい、待て!」

 

キングテレサはそそくさとピーチ城から離れようとする。すぐにでも引き止めたいが、皆力が出ずに動けない。

 

「返して欲しけりゃ、北の洋館に来な!」

 

「こらーっ! ピーチ姫はワガハイのものだぞーっ!」

 

クッパの雄叫びも無視して、キングテレサは消えていった。

 

ピーチ城には、ただ虚しく風が吹き抜けるのであった。




マリオのポンプはサンシャインのアレです。いきなり出したのは、スマブラの↓Bみたいなノリです。


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森に潜む奇妙な館

ピーチ城に残された三人。辺りはすっかり暗くなっていた。すぐに助けに行かなければいけない、という事はわかっているのだが、体が思うように動かない。

 

「くそ……ここにきて疲れが一気に押し寄せて来たのだ……」

 

地面をドン、と叩きながらクッパは言う。しかしそれに力強さは無い。

 

「キングテレサ……俺たちが消耗した所を狙いやがって、卑怯な奴め」

 

「でも……なぜキングテレサはピーチ姫を? クッパはともかく、攫う理由が無いと思うんだけど……」

 

ルイージは疑問を口にする。マリオとクッパも確かに、と頷く。一体何のために攫ったのか、到底思いつかなかった。

 

しかし、このまま考えていてもあまり意味がないので話題を移す。

 

「確か、北の洋館って言ってたよな」

 

北の洋館、と言われても皆見当がつかない。距離も近いのか遠いのかわからず、情報はその名の通り『北』にあるという事だけだ。もし今の状態で洋館を探すにしても、もしそれが遠くに存在する場合、辿り着く前に三人の体力が無くなるだろう。

 

マリオ達は今の状況と自身の体の状態を考えた結果、休んで回復を待ってから出発することが得策だと考えた。

 

「取り敢えず中で休もうか」

 

ルイージはそう言い、城内に入る。その後にマリオとクッパも続く。幸いピーチ城も夏季休暇中で、一部の者以外の多くの兵士が居ない。ピーチ姫が攫われた事が知られると騒がれて面倒だったので、マリオ達はクッパを見て驚くキノピオ兵を無視して奥に進んだ。

 

「ぐ、ピーチ城のドアは小さくて入りにくい……」

 

ピーチの部屋に三人は入り、鍵を閉める。ここならより見つかりにくいからだ。

 

「ふぁ〜あ。それじゃ、お休み」

 

マリオはおもむろにカーペットに寝転がる。クッパは壁に寄りかかって、ルイージはピーチのベッドと壁の隙間に入って寝た。

 

 

 

 

「きろ……ルイージ……起きろ……」

 

「うう……ん……」

 

マリオの声に気づき、ルイージは目を擦る。

 

「兄さん」

 

「目が覚めたな」

 

ルイージは体を起こす。マリオは少し笑うと、クッパの方を起こしに行く。ふと時計を見ると、午前0時12分を指していた。

 

──夜中じゃないか。

 

ルイージはこの時間に起こされたことを不満に思いつつも、身体の調子を確認する。──どうやら疲れは取れているようだ。続いて起きたクッパも寝ぼけ眼で立ち上がり、ストレッチをする。

 

「二人とも回復したようだな」

 

マリオは冷蔵庫から飲み物を取り出す。

 

「これ飲んで、まずは目を覚そうぜ」

 

ルイージとクッパに手渡す。

 

──兄さんが一番元気そうだな……。流石の体力だよ。

 

ルイージはそう思いながら貰った麦茶を飲む。

 

「……ふう。しかし、ピーチ姫のものを勝手に飲んでしまって良いのか」

 

「あー、まぁ無断で部屋を借りてる時点であまり変わらないだろうよ」

 

それにピーチ姫なら許してくれるだろうしな──とマリオは言う。そんなこんなで適当な話をしながら、飲み終わった三人は、よし、と気合いを入れ直す。

 

「じゃあ行くか」

 

外は暗いので、懐中電灯を持ってピーチの部屋を出る。監視員に見つからないようにこっそり移動しながらピーチ城を脱出する。

 

辺りはまだ街灯や一部の家の明かりで見えない程に暗くは無かった。が、北に進むにつれキノコ王国のはずれに向かうため、明かりが少なくなっていく。マリオ達は懐中電灯をつけ、さらに進んだ。

 

「思ったんだけどさ、これ朝になってからじゃダメなの?」

 

「いや、今じゃないとダメだ。キングテレサは光が苦手だ。朝になってどこか別の場所に隠れられちゃさらに面倒だしな」

 

それにあまり待たせすぎるとピーチ姫に悪いしな、とマリオは少し笑って言う。

 

先に進む。家が立ち並んでいた景色が段々と木の生い茂った景色に変わる。森だ。

 

「この辺が怪しいな……」

 

クッパは辺りを見回しながら言う。ここならば洋館の存在を自分達が知らなくてもおかしくない、そう考えた。

 

その考えは的中し、暫くすすむと、何やら薄紫色の大きな建物が木々の奥に見える。

 

マリオ達は近づいてみると、より大きく感じられた。窓の位置と高さからして2階建てのようだ。

 

「これ……だな……」

 

キングテレサがいるであろう、洋館を見つけた。クッパはドアを開けようとする。

 

「鍵はかかっていないようだな」

 

クッパに続き、マリオとルイージも入る。まずは電気をつけよう──

 

懐中電灯を移動させて探していると、声が聞こえて来た。

 

「ギャハハハハ! よく辿りつけたな」

 

「この声はまたキングテレサだよ!」

 

「ああ。おいキングテレサ! ピーチ姫をどこにやったんだ」

 

マリオが尋ねるとキングテレサは高笑いしてから答える。

 

「ちゃーんとオレの所にいるぜ。返して欲しけりゃこの館を探してみな! だがドアには鍵がかかってて鍵を探さないと進めないからな! じゃあ、楽しみに待ってるぜ。ギャハハハハ……」

 

そういうと、声はしなくなった。マリオが呼んでみても、反応は無い。妙に説明口調だった事に若干の違和感を覚えながら、状況を整理する。

 

「つまり、この洋館に辿りついた僕達は、ピーチ姫を助ける為に鍵を探さないといけないと」

 

「そのようだな。だが、妙にのせられているような気がして腹が立つのだ!」

 

「おっ、電気みっけ」

 

マリオはスイッチを押すと、この部屋が明るくなった。まずは手当たり次第に家具を調べてみる事にした。



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館の鍵

ちょっと短め。


「おい、見つけたぞ!」

 

タンスを調べていたクッパが鍵を見つけた。引き出しの中にポツンと無造作に置かれていたようだ。クッパは鍵を持ち、ドアに向かう。

 

「よし、開いたようだな」

 

マリオ達は別の部屋に進む。

 

「ここは……居間か?」

 

テレビにテーブル。そしてその周りにはソファが並んでいる。後あるものはガラス棚、植物ぐらいなものだ。取り敢えずスイッチを探して電気をつける。

 

「次のドアは……まぁ閉まってるよな」

 

マリオはがちゃがちゃとドアノブを回して確認する。どうやらこの部屋でも鍵を探さないと進めないようだ。

 

「こっちも閉まってるよ」

 

もう一つのドアをルイージが試す。鍵が見つかった場合、行先は二つに増えるかもしれない。

 

「チッ、つかないか……」

 

「クッパは何やってるの」

 

ルイージはテレビの前でカチカチと音を立てるクッパを見る。どうやらテレビをつけようとしているみたいだ。

 

「ふん、こんなソファとテーブルを見たら、誰もが寛いでテレビでも見たくなるではないか」

 

「いや、それは無いよ! そもそもここ見知らぬ館だし……」

 

ルイージは否定する。

 

「わかるぞ〜クッパ! ちょっと休むか!」

 

「兄さん!?」

 

──が、マリオは乗り気のようだ。

 

「まぁルイージ。探し物をしてる時ってのは、結構心にくるんだ。さっきはすぐ見つかったから良いようなものの、考えてもみろ。何か物を無くした時、中々見つからないと焦ってくるだろ? そして次第に誰かがわざと隠したんじゃないか、神隠しにあってるんじゃないか、と自分でないものに責任転換し始める。こうなったらもうおしまい。心に余裕がなくなり、どんどん疲弊していくぞ」

 

ルイージはマリオの説明が理解は出来てしまう事がもやもやした。

 

「そうだぞルイージ。のんびり探せ。気負う必要はない」

 

──でも鍵って多分キングテレサがわざと隠してるよね……。もう、変な所で気が合うんだなぁ。この人達は……。

 

ルイージはそう思った。なんだか一人だけ探すのは馬鹿馬鹿しいと、ルイージもソファに座る。

 

──しかし、確かに気負わない事は大事だな……。兄さんとクッパの楽観的な所は正直羨ましいよ……。

 

ソファで休みながら考える。

 

──鍵、金属探知機なんかがあればすぐ見つかるんじゃね? 無いけど。

 

──ソファ……気持ち良いのだ……

 

一方楽観的な二人はボーッとしながらソファにもたれかかっていた。

 

 

 

 

「あいつら、ソファでゴロゴロしてるじゃねーか!」

 

何処からか見ているキングテレサが手をパタパタさせる。

 

「オレはあいつらを休ませる為に呼んだ訳じゃねーぞ!」

 

そう喚くキングテレサを横目にピーチ姫は悠々と窓から見える月を眺める。海水浴の砂浜にありそうな白く丸いテーブルと椅子に座る姿はやたら様になっている。とても囚われの姫とは思えない光景だ。

 

「ハァー。オマエ、随分と余裕なんだな」

 

「焦ってもしょうがないもの。どこかの大魔王さんのせいでこういうのは慣れているのよ」

 

「こ、これが『プロ』なのか……」

 

ピーチが放つ貫禄にキングテレサは怯んだ。

 

 

 

 

「さて、探そう……うわっ!」

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

ソファから起き上がろうとしたルイージは、体重の掛け方でソファとソファの間に落ちてしまう。

 

「ガハハハ! 以外と間抜けだな」

 

「う、うるさい! ……あっ」

 

「どうしたルイージ」

 

ルイージはふと自分が落ちた所を見ると──

 

「鍵だ! 鍵だよ兄さん」

 

「マジ?」

 

嬉々として拾った鍵を二人に見せる。

 

「よくやったルイージ!」

 

「うむ。探し物とは時にふとした拍子に見つかる事もあるのだ」

 

ルイージはドアの所に行き、鍵を開ける。そしてもう一つの方も試してみると、開いた。

 

「じゃあ俺とルイージはこっちを見てみるわ」

 

「よし、ではワガハイはこっちだ」

 

それぞれ二手に分かれる。マリオとルイージは入ってみると、その部屋は本が沢山並んでいた。書斎だ。

 

「うへー、これ、本の中に鍵が隠れていました、とかだと骨が折れるぞ」

 

マリオは頭を掻く。

 

これ、本にヒントとか無いかな。

 

ルイージはそう思いながら一冊本を手に取ってみる。パラパラとページを捲る。

 

特に、何も無い……。

 

ルイージは本を戻す。

 

どうするべきかなぁ。ただ一冊一冊見ていくのはなぁ。

 

困惑していると、マリオの声が聞こえる。

 

「おい、なんか紙が置いてあったぞ」

 

「えっ、キングテレサのかな」

 

紙を見てみると、こんな事が書いてあった。

 

『イギヒウヒキモドイレ』

 

二人はさっぱり分からなかった。寧ろ不可解な文字がこの館にあった事に気持ち悪さを感じた。



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謎の文字群

イギヒウヒキモドイレ。

 

「きもいトイレ?」

 

「えぇ……」

 

マリオとルイージは書斎で見つけた謎の文字群の解読を試みていたが、うまくいかないようだ。

 

「全くわからん」

 

マリオは諦めて紙を置く。

 

「本でも読むか」

 

「そうだね」

 

マリオはルイージが思いの外素直な事に驚いた。いつもなら『えぇ、兄さん!?』などと常識人のような振る舞いをしてツッコミをしてくれるからだ。

 

もしかして、俺に影響された?

 

マリオは嬉しくなった。……が、それが顔に気持ち悪い形で出た為、ルイージは一歩引いてしまった。

 

本棚を見る。マリオは本があいうえお順に並べられている事に今気づいた。この館の以前の所有者は随分とマメらしい。

 

あ行から順に見ていく。い。『イスの上のコイン』。これは主人公のキノコ族が無くしたコインを求めて見当違いな場所を探し回る話だ。あらかさまにコインが置いてあるのに気づかないのが面白いんだよな。く。『クリボーの流れ星』。これはキノコ王国の一人の女性に恋をしたクリボーがどうにか関係を作ろうと切磋琢磨する話だ。最後のシーンは泣けたな。さ。『ササニシキ』。ん、これは知らんな。

 

マリオはタイトルが気になったので、その本を取ってみた。あらすじを読んでみると、帝国軍ササニシキが思想の違いにより分裂した新勢力コシヒカリと土地を巡って争う話らしい。面白そうなので読んでみる事にした。

 

一方ルイージの方も、何か本を手に取って読んでいる。タイトルは『エレクトーンヘイホー』。

 

椅子に座り、二人は黙々と本を読むのだった。

 

 

 

 

場面は変わってもう一つの部屋にいるクッパ。ここはキッチン。

 

腹が減ってきたから、何か食べ物はないか。

 

クッパは冷蔵庫をふと見つめる。──が流石にやめた。この館は長く使われていない以上、食べ物が入っていたとしてもまず腐っている。

 

諦めて辺りを見渡す。鍵は見当たらない。では何か面白いものはあるか。

 

適当に食器棚を開けてみたり、調理器具を手に取ってみたりした。が、クッパは料理が出来ないので、あまり面白くはなかった。

 

ワガハイがもし料理が上手かったら、ガスコンロの代わりにワガハイの強力な炎を使ってパフォーマンスなんてのも楽しいのだが……。そういえば前に料理人の所へ行ってやってみた事があるな。その時は食材も料理人もまる焦げになってしまった。料理とは難しいものなのだ。

 

そんな事を考えていると、壁にポツンと存在するボタンを見つける。

 

「なんだこれは……」

 

反射的にボタンを押す。すると……

 

 

ガタッ

 

「なっ……!」

 

ボタン周辺の床が抜けて、クッパは落下する──

 

 

 

 

時は10分程経ち、マリオ・ルイージサイド。静寂に包まれていた中、本を読んでいたルイージがいきなり声を出した。

 

「これだっ!」

 

「なんだ、どうした」

 

マリオはルイージの元に駆け寄る。

 

「わかったかもしれないよ、兄さん」

 

「何が?」

 

「謎の文字群! イギヒウヒキモドイレの秘密が」

 

ルイージは嬉々として話す。『エレクトーンヘイホー』を読んでいた所、ある場面で主人公のヘイホーが謎を解いている所があった。ルイージはその方法を謎の文字群に当てはめてみて、ピンときたのだ。

 

「いやー、割とありがちなトリックだったけど思いつかなかったよ」

 

「どうやるんだ? 早く教えろよー」

 

マリオは期待する。

 

「この文字群をそれぞれ一つ前のカタカナに戻してみてよ」

 

「一つ前?」

 

「例えば『オ』だってら『エ』にするみたいな」

 

「そういうことか」

 

マリオは一つずつ当てはめていく。

 

「アガハイハカメデアル。ん? なんか変だな」

 

「最初のアをワにして。このイはワイウエヲのイだよ」

 

「じゃあワガハイハカメデアルか。我輩は亀である……うおおっ!」

 

「ねっ! わかったでしょ!」

 

マリオはピッタリとはまって気持ち良くなった。

 

「でもよ、ワ行ってこうじゃねぇの?」

 

マリオは空中で指をなぞり、『ワヰウヱヲ』と書く。

 

「あー。それって確か昔がそうなんじゃなかったっけ。今はワイウエオでも良かったような……」

 

「そうだっけ」

 

「まあ、もし違ったとしても、書いたのキングテレサだろうし、対して気にしなくていいんじゃない」

 

「そうだな!」

 

我輩は亀である。これはクッパ軍内で有名な小説のタイトルだ。書籍化され、少数ではあるが、キノコ王国でも流通しているらしい。それでクッパ軍に入る者がいるとかいないとか……。執筆者はカメック。自らのボスクッパの素晴らしさを伝える為に書いたらしい。マリオとルイージは以前クッパ城に訪れた時、無理矢理布教されそうになったので印象に残っていた。

 

「ワ……は下の方だよね」

 

ルイージは本棚を確認する。キングテレサが用意したと思われる『我輩は亀である』の紙。おおよそここの本棚にそのタイトルの本が存在して、そこに鍵があるだろう……。ルイージはそう考える。

 

これだ。ルイージは本を見つける。タイトルはしっかり『我輩は亀である』だ。横から見ると、ページとページの間に隙間がある場所がある。そこを開くと、鍵が見つかった。

 

「あったよ兄さん!」

 

「よーし、でかしたルイージ!」

 

二人は肩をポンと叩きあい、喜び合う。

 

「クッパにも知らせよう」

 

鍵が見つかったと教えるため、書斎を出て、もう一つの部屋、キッチンに入る。

 

「あれ……?」

 

──が、そこにクッパはいなかった。

 

「クッパは?」

 

辺りを見渡すが、どこにもいないようだ。

 

「どこいったんだ……?」

 

二人はクッパの行方を考える。まさか隠れんぼをしているわけでもあるまいし、まさかこの館を出ていった訳でもあるまいし……。どこに行ったのかさっぱりわからなかった。

 

その時、どこからか音が聞こえる。音がこもっているので二人はしっかりと聞き取れないが、何者かが喋っているような音だ。

 

「なんかさ、声聞こえない?」

 

「本当だな」

 

何やら低めの声だ。

 

「……クッパ?」

 

ルイージが小声で言う。もしかしたらこの声がクッパかもしれない。いや、きっとそうだ。二人はそういう事にした。何しろ鍵を見つけたので早く先に進みたいのだ。

 

クッパはきっと新たな道を見つけて進んでいるのだろう。僕達も先に進まなきゃ。

 

二人はクッパの事は置いといて、キッチンを出た。



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地下のキノピオ

クッパPartです。


「いたた。腰をうったぞ……」

 

突然床が抜けて、下に落ちてきてしまったクッパ。落下時の衝撃で腰をうってしまった。

 

周りを見渡す。見たところ先に進める所は無い。鉄で出来てるような灰色の壁。ポタポタと水滴が垂れている天井。ガレキで塞がれている道。白と赤色の蓋がついたゴミ箱。広さは縦長で8畳くらいであった。

 

……白と赤色の蓋だと?

 

クッパは違和感を感じる。こんな不思議な色合いの蓋が存在するのかと。何やら怪しく思い、ゴミ箱をまじまじと見つめる。

 

カタッ

 

「……!」

 

今蓋が動いたような……と思うのも束の間。

 

「すみません。誰かいらっしゃるんですかー?」

 

「ぬあー! 蓋が喋ったぞ!?」

 

クッパは驚きで口をあんぐり開ける。

 

「蓋じゃないですよっ! キノピオです!」

 

「ピノキオ?」

 

「キノピオですっ!」

 

キノピオか。

 

ふとクッパは城であったキノピオの事を思い出して腹が立ったが、このキノピオは関係ないのでひとまずおいておく事にした。

 

「なんでこんな所にいる」

 

「すみません、それは後から話しますので、どなたか存じ上げませんがボクをこのゴミ箱から抜いて貰えないでしょうか……」

 

なんとキノピオはゴミ箱に挟まっていたのだ。大きな頭が中途半端に嵌ったせいで、ゴミ箱の底に足もつかず、どうしようもない状態であった。

 

「おう、良いぞ」

 

クッパは了承し、ゴミ箱を持つと、大きな手でキノピオの頭をしっかり掴む。

 

「ぎゃー! イタタタタ!」

 

「少し我慢しろ!」

 

クッパはゴミ箱とキノピオを力任せに引き離す。

 

「うう……乱暴ですよ。でも助かりました」

 

「うむ」

 

「ありがとうございます。お名前は……って」

 

キノピオは埃を手で払い、クッパの方を向く。──と、途端に震えだす。

 

「ク……ク……クッパだー! うわあああああ襲われる!」

 

「馬鹿を言うな! ワガハイはお前を助けてやっただろうが」

 

「た、確かに……」

 

キノピオの震えは少し止まるが、まだ怯えているようだ。

 

「まあ、最も今のような態度を取ったなら襲うかもしれんがな……」

 

不適に笑うクッパにゴクリと唾を飲むキノピオ。

 

「とにかく人……亀をイメージだけで判断するな」

 

「はい、すみません……」

 

でもクッパは何回もキノコ王国にやってきてピーチ姫を攫っているからそのイメージは仕方ないんじゃないかとキノピオは思ったが、そんな事を言うと八つ裂きにされそうなので考えない事にした。

 

「で、なんの話だったか。おお、そうだ。お前は何故こんな所にいる」

 

キノピオはゴミ箱をひっくり返してその上にちょこんと座ると、話し出した。

 

「はい……ボクはこの館にガールフレンドのキノピコと一緒に肝試し感覚で遊びに来てたんです……。キノピコと別れて行動していた時に急に辺りが紫色になって……。これまで自由に行き来出来ていたドアも開かなくなって……。キッチンに閉じ込められたボクは途方にくれていたんです。それでキッチンの壁についていたボタンを押してみたら、ここに落ちて……運悪くこのゴミ箱に嵌ってしまったんです」

 

「とんだ災難だな……」

 

「はい。もしかしてクッパさんもボタンを押してしまったんですか?」

 

「うむ、そうだ。おのれ、どうせキングテレサの仕業だろう」

 

クッパは拳を握りしめる。

 

「えっ、キングテレサがいるんですか?」

 

「ああ。今度はワガハイが知っている事を話してやる」

 

情報共有は基本。クッパはそう考え、腕を組む。

 

「はい……お願いします」

 

「まずこの館はキングテレサによって支配されていると言っていいだろう。ワガハイはマリオとピーチ姫を争ってピーチ城で決闘をしていた。戦いは長引いて、二人とも疲弊したのだ。そんな時奴が現れ、ピーチ姫を攫っていった。おそらくキングテレサもピーチ姫もこの館のどこかに隠れている。ワガハイとマリオはピーチ姫を取り返しにここへ来たと言うわけだ。あぁ、あとルイージも」

 

「そ、そんな事が……。マリオさんとルイージさんも来ていたなんて」

 

キノピオはクッパの話を頭の中で整理する。なにやら大変な事に巻き込まれてしまったと感じた。

 

後はキノピコの事が不安だ。彼女に何かあったら──

 

「あの、館でキノピコを見ませんでしたか? 頭がピンクと白のおさげの可愛い女の子なんです」

 

「いや……見てないぞ」

 

クッパは首を横に振る。どうしよう、彼女、大丈夫かなぁ……。もしもの事があったら……。キノピオは不安でいっぱいになる。

 

「あまり情けない顔をするな。そいつの事を心配するなら、まずここを脱出する方法を考えないといかんぞ」

 

そういってクッパは立ち上がろうとするが、立ち上がれない。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「うぐ……さっき腰をうった場所が痛む……」

 

クッパは腰をさする。打ち所が悪かったのだろう。キノピオは心配そうに見つめる。

 

「ここままでは脱出も出来んな……」

 

二人は暫くここに閉じ込められる事になりそうだ。



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上の階へ

マリオとルイージは書斎に戻る。この部屋にはまだ二つ空いていないドアが残っている。ルイージは鍵を差し込んでみる。

 

「……あれ」

 

しかし、開かない。もう一つのドアも試してみる。

 

──空いた。しかし、ドアの先は二人にとって期待外れの場所だった。

 

「便所じゃん」

 

狭い便所の個室。妙に臭う。ここにまた鍵があるというのか。あるにしても探したくない。二人は入るのを躊躇った。

 

「どうする? 兄さん」

 

「見たところ鍵はないよな……」

 

便所を前に立ち竦んでいると、ルイージは誰かにいきなり背中をドンと押される。そのはずみで前にいたマリオごと便所に押し込まれてしまう。

 

「誰だ!?」

 

振り返ると、キングテレサが笑っていた。

 

「ギャハハハハ! 二名様、ごあんなーい!」

 

そういうと、ドアを乱暴に閉められる。そして、便所の床が上昇していく!

 

二人はその超常的な現象に到底対応できなかった。

 

そして床が止まる。二人は恐る恐るドアを開ける。すると、書斎とは違う部屋が二人の前に映し出された。

 

「おい、マジか……」

 

急な出来事に驚きを隠せない二人。どうやら便所の中だけ上の階に移動してしまったようだ。

 

「イテテ……冗談じゃないよ……」

 

「あの野郎!」

 

キングテレサの行動に怒りを覚えるマリオ。アイツの元に辿り着いたら懐中電灯を目の前でつけてやろうと思った。

 

しかし、先に進めたのは二人にとって好都合であった。これもキングテレサに仕組まれてるのではないかと思ったが、この際無視する事にした。

 

この部屋はベッドが二つ並んでいる。間には木製の引き出し、その上に電灯が置いてあった。まるでホテルの一室だった。

 

「わぁ、気持ち良さようなベッドだね」

 

「ヤッフー!」

 

マリオはベッドに飛び込む。その姿を見てルイージは笑う。

 

「いやー。ピーチ姫の部屋では気を遣ってベッドでは寝なかったからな! 気持ち良いぜ」

 

ベッドで体をうねうねと動かすマリオ。ルイージも開いている方のベッドに寝転がる。

 

「ふわぁー、本当だ。柔らかい……」

 

「ところで、ここにも鍵はあるのかねルイージ君」

 

うつ伏せのまま尋ねるマリオ。気分はすっかり快楽モードだ。

 

「どうだろう……あそこの鍵が閉まってたらあるんじゃない」

 

ベッドルームの端にあるドアを指差す。

 

「ああ。そうかもネ。ルイージ確認してよ」

 

自分がまた起き上がって確認する事が嫌なマリオ。ルイージに頼もうとする。

 

ルイージも動きたくは無かったが、ここで嫌がってよくある言い合いになるのは面倒臭かったので、渋々立って確認する。

 

ルイージはドアの前に立つ。

 

──すると何やら音が聞こえてくる。何かを打つような音。誰かいるのか、とルイージは思ったが、早く寝転がりたい気分だったので構わずドアノブを捻る。動かない。

 

「閉まってるよ」

 

「そっかあ」

 

気の抜けた返事が返ってくる。ルイージはもう一度ベッドに寝転がる。

 

ボーッとする二人。何気なく天井を見つめるルイージと、ごろごろとベッドの上を転がるマリオ。このまま暫くの時が過ぎそうになったが、それはある小さな奴の出現によって止められる。

 

「……ん?」

 

マリオは床を動く黒い物体が一瞬見える。虫か? 一瞬だったので、よくわからない。

 

マリオは何者か確認しようとベッドの端に這って移動する。しかし……いない。

 

その黒い物体はマリオの死角であるベッドの横を移動する。床をキョロキョロ見渡すマリオに、少しずつ上昇してマリオへと近づく。

 

「おかしいなぁ……」

 

何か不穏な者がこの部屋の中にいる事が落ち着かないマリオ。

 

そこへ。

 

黒い物体が突如マリオの眼前に現れる。

 

「ぎゃー! Gだ!」

 

驚いて後ろに飛び上がってベッドから転げ落ちるマリオ。その大声と衝撃にルイージも飛び起きる。

 

「えっ? えっ?」

 

G……つまりゴキブリはルイージの方にも飛んで向かってくる。

 

「う、くるな! くるなぁー!」

 

ルイージは恐怖のあまり顔を手で塞ぐ。Gはルイージの目の前で上に迂回する。

 

その後は部屋を飛び回るG。マリオとルイージは起き上がり、部屋の隅に移動して怯えながら臨戦態勢を取る。

 

「さ、さぁ。くるならこい!」

 

マリオは強がる。それに反応したかのようにさっきまで部屋をグルングルンと飛び回っていたGは二人めがけて一直線にスピードを上げる。

 

「う、うわあ。やっぱりくるなっ!」

 

二人共慌てて体勢を崩してしまう。Gはそのまま二人の頭上を通過し、迂回する。

 

そして二人から離れていき、途中で何かを落とす。その現象に二人は戸惑う。

 

そのままGは便所に開いていた窓から居なくなってしまった。

 

「……ふう」

 

二人は肩を撫で下ろす。この一連の流れで凄く疲れた気がした。

 

「何か……落としていったよ」

 

「やめとけ! あいつの卵かもしれんぞ!」

 

「いやいや、あんな産み方はしないよ!」

 

ルイージは落とし物を手に取る。鍵だ。

 

「鍵? どういう事だ?」

 

「多分、またキングテレサの仕業だ」

 

鍵を見ながらルイージは言う。冷静になって考えてみると、Gにしては色々とおかしな動きをしていた。

 

「くそ……キングテレサ許せねえ。Gは駄目だろ……Gは」

 

わなわなと手を震わせ、怒りをあらわにするマリオ。

 

「もしオバキュームがあればまた吸い取ってやるのに……」

 

こればかりはルイージも堪えたようだ。

 

「早くあいつをぶっ飛ばしたくて仕方ねぇ、行こうぜ」

 

マリオはルイージが持っていた鍵を手に取り、ドアに挿し込む。案の定開いたようだ。次の部屋に進む。

 

──すると、今までの部屋とはうって変わった光景が二人に映る。

 

広い部屋に卓球台、ビリヤード台、アーケードゲームが置かれている。

 

そしてそこには、キューを持っているピンク色に白い斑点模様の頭をしたおさげの女の子が立っていた。




キューはビリヤードで使うあの棒です。


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遊技場のキノピコ

「あっ。さっきの大きな声はマリオさんとルイージさんだったのね!」

 

入ってきたマリオとルイージに、手を振って呼びかける女の子はキノピコ。

 

「キノピコじゃないか!」

 

意外な子の登場だ。僕達とクッパ、ピーチ姫とキングテレサ以外にこの館に来ている者がいるとは。ルイージは彼女の姿を見て、まず思った一番の疑問を投げかける。

 

「キノピコちゃんはなぜ、ここに?」

 

「うーん。なんて言えばいいかな」

 

少々複雑な事情なので、キノピコは手を頭に当てて考える。

 

キノピコがここにいる理由は、キノピオと大体同じだ。キノピオがキッチンに閉じ込められたように、キノピコはここに閉じ込められていた。

 

キノピコは頭の中の整理がつくと指をピン、と鳴らし、マリオ達にこうなってしまった経緯を説明する。

 

「そんなことが……」

 

「じゃあキノピオもどっかにいるのか?」

 

マリオの問いかけにキノピコはコクリと頷く。

 

「そうか。キノピオはまだ見てないから、まだいくつか部屋があるのか」

 

「エート。どうしてこんなことになっちゃってるの? マリオさん達が来てるってことは、何か事件とか?」

 

マリオはキノピコにこの館で起こってる事を話す。キングテレサ、ピーチ、そして鍵の事を。

 

「それで、多分鍵がこの部屋にもあると思うんだが……」

 

「もしかして、鍵ってコレかな?」

 

「何っ!」

 

マリオの言葉を聞いたキノピコはポケットから鍵を取り出す。

 

「ビリヤードで遊んでる時に偶然見つけたの」

 

「おおっ! ソレだソレ! キノピコマジナイス!」

 

「探す手間が省けたね! 兄さん」

 

褒められると少し照れるキノピコ。鍵をマリオに渡す。

 

「じゃあ、あのドアを試してみるか」

 

マリオは奥にあるドアを指差す。──と、キノピコが二人に尋ねる。

 

「あの、ワタシついていっても良いですか? キノピオに会えるかもしれないし……」

 

「おう」

 

「全然大丈夫。キノピコちゃんもおいでよ」

 

「うん!」

 

マリオは鍵を挿し込む。開いたようだ。こうしてマリオ、ルイージにキノピコを加え、次の部屋へと進んでいく。

 

「うおぉ……」

 

部屋に入ったマリオは目の前の光景に魅了される。見渡すと、ピアノ、ドラム、トランペット。その他諸々の楽器。どうやら音楽室のようだ。

 

 

 

 

「ふぅ」

 

そう一息をつくのはクッパ。隣には何を考えているのか、ゴミ箱の上に座り、パタパタと足を動かしているキノピオがいる。

 

「……腰は大分落ち着いた。さて、行くとするか」

 

クッパはすっくと立ち上がる。その姿は、堂々としており、いつもの大魔王に戻っていた。

 

キノピオもそれに気づき、ぴょんとゴミ箱を降りる。

 

──どうやってここを脱出するか。

 

休んでいる時に、クッパとキノピオは取る行動を決めた。

 

ガレキで塞がれたような場所。そこをかきわけて進む。他は鉄の壁なので、壊すのは難しい。かきわけて進んで、外に出れる事を祈るのだ。

 

「行くぞキノピオ! お前はガレキが当たらんように、ワガハイの真後ろにくっついてろよ!」

 

「はいっ! クッパさん!」

 

「うぉぉぉおおお!」

 

クッパはガレキを両手でガッシガッシと掴み、横にかきわけて行く。キノピオはその後ろにしっかりと位置取り、クッパを見守る。

 

そのクッパの姿はキノピオにとって頼もしく、力強く感じた。

 

お願いします……! クッパさん……!

 

どんどんと進んでいく。何度もガレキをどかしていくクッパの手は次第に傷ついていく。それでも、手を緩めずに、天へ、月が見える景色へたどり着く為に。進む。

 

少し坂道になる。このまま進んでいけば、外に出られるはず。

 

怯まずにクッパは手を動かす。キノピオは自分が何も出来ない事を歯痒く思うが、クッパの邪魔だけはしないように、ピッタリと真後ろについていく。

 

 

 

 

スピードを緩めず、突き進む。

 

 

 

 

「おっ」

 

クッパは小さく声を上げる。そのままガレキをしっかり退けていく。空間が見える。ガレキが無くなる。そして──

 

生い茂る草の上に足をつけ──

 

「出たぞーっ!」

 

クッパは喜びの声をあげる。

 

「あぁ、ついに……脱出出来たんですねっ!」

 

キノピオとクッパは互いに手を取り合って喜び合う。そのクッパの顔の輝きは、普段は決して見せる事の無い程だった。

 

 

 

 

大分落ち着いたクッパとキノピオは、館に入り直す。幸い出た場所は館が見える位置だった。

 

そうして、二人はマリオ達に再会すべく、館内をひた走るのであった。



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オレの野望

キングテレサの過去の話。
キングテレサがピーチ姫を攫うまで……最終話の前に回想です。


「クソォォォオオオッ!」

 

オレは館に響き渡る程の大きな声で嘆いた。

 

クソッ! あの緑……ルイージの野郎! オレをあんな目に合わせやがって!

 

今のオレは昔の事を思い出して、絶賛怒り中だった。ルイージに対して。あの時起こった出来事は今でも鮮明に覚えている。

 

──今から数年前の事だ。オレはキノコ王国を支配しようとしていた。何故かって? クッパの真似事だよ。

 

クッパってさ、めっちゃでかい軍団持ってるじゃん。クッパが招集をかけると部下がワーって集まってくる。その数ったらすげぇよな。クリボー、ノコノコ、ボムへい、ハンマーブロス、カメックetc...

 

オレももともとクッパ軍団だったからよ、そういうのを間近で見てたんだ。んで、そういうのに憧れてたんだ。なんだか一つの国を動かしてるみたいでよ。

 

だってすげぇよな!? 一声かければ、サーっと集まって言うこときいてくれる。みんなでマリオを迎え撃つ時も、それぞれどこの位置についたりとか、作戦を大勢で決行したりだとか。そういうのを全部操作出来るんだぜ!?

 

オレもクッパになりてぇって思ったよ。でもよ、無理なんだよ。クッパ軍団にいる以上、ボスはクッパであって、それは不変だ。

 

このままクッパ軍団にいちゃ、オレの野望は叶わない。だからそれを叶える為に、クッパ軍団を抜けたんだ。その時に、オレについてきてくれたテレサ達が50匹ぐらいいたな。

 

さて、抜けたはいいが、どうするか。オレがボスのキングテレサ帝国をつくるには。今の人員では少なすぎて、到底国をつくれない。それに、折角オレについてきてくれた可愛いテレサ達を使いっ走りにするのは心が痛む。

 

オレは悩んだ。どうすれば国を作れる……? オレがボスで、テレサ達は幹部にでもしてやりたいな。

 

考える。考えて考えて、オレは思いついた。

 

もともとある国を乗っ取って、オレが王になれば良いんじゃないかと。そして、そこに居た住民は、全員部下にしてやろうと。ギャハハ、いいアイデアだ! で、次はどこを乗っとるか。

 

クッパ軍団。あそこは無理だ。全員が戦闘集団な上、ボスのクッパに勝てる気がしない。

 

それならキノコ王国はどうだ。王様はただの人間。ピーチ姫も、まぁ強くないだろう。住民もキノコ族だから怖くない。

 

……あ。でも二人厄介なのがいるな。マリオとルイージだ。あいつらをどうにかしないといけない。

 

どうする……。オレ、マリオに勝てる自信ねぇぞ。第一アイツ、誰かに服従するようなタマじゃねぇしな。

 

どうするどうする。不意打ちでもするか……? でもどうやって……?

 

オレは手で頭を抱えて懸命に考える。そして、ある事を思いつく。

 

それが、『偽マンションでマリオとルイージ騙して額縁計画』だ!

 

どこかではこれを『ルイージマンション』って呼んでる奴もいるらしいがな。

 

まぁ色々と細かい事をやったんだが、端的に言うと、不意打ちをしてマリオを絵の中に閉じ込めたって事だな。そして後から来たルイージも絵の中に閉じ込めてやるつもりだったんだ。

 

そう、つもりだった。オレはルイージの捕獲に失敗したんだ。正直油断していた。あいつがオバキュームなるものを背負ってスポスポスポスポスポスポスポスポスポやってくるなんて想定出来るわけねぇよ! 馬鹿か!

 

そうしてよ。ついにはオレの前に現れてよ。全力で戦ったよ。けどよ。負けたんだよ。

 

クソッ! 怖いのはルイージじゃねぇ。背中のオバキュームなんだよ!

 

あれさえ無けりゃ……

 

そう嘆くのも無意味で、ルイージじゃなくてオレが絵にされたよ。

 

これでオレの計画は完全に壊れた。仲間のテレサも吸い込まれたしな。悔しくてしょうがなかった。

 

長い間、オレは額縁に閉じ込められる事になった。

 

 

ここまでが昔話だ。そして、つい先日、オレの額縁を管理していた人物のミスによって、運良く脱出出来たんだ。久しぶりの外の空気は美味しかったぜ。生きてるって実感出来たからな。──あれ、オレってオバケだから生きてるのか?

 

……まぁ良い。晴れて自由の身になったオレは嬉しくて辺りを駆け回った! 昼は明るくて辛いから勿論夜にな。

 

でも次第に落ち着いてくると、ルイージの事を考えだすんだ。アイツにやられた事を思うと腹が立ってきてよ。それで今に至る。

 

何とか仕返しをしてやりたい……。けど、今のオレは仲間もいねぇし、やれる事が少ない。単身で突っ込んでも、マリオとルイージには勝てっこない。前回みたいな大がかりな不意打ちはもう出来ないし、第一バレる。オレは途方に暮れた。

 

考えても考えてもいいアイデアが浮かばない。このままでは時間だけが過ぎていくと思ったオレは、取り敢えずマリオとルイージを探して、観察してみる事にした。

 

時は夕暮れ。これぐらいの暗さなら、外に出ても平気だろう。オレはキノコ王国でマリオ達を探す。

 

そして、見つける。けど、どういう事だ? ピーチ城でマリオとクッパが戦ってやがる。ルイージはなんか水を撒いてるし、ついでにピーチ姫もいる。

 

オレはこの状況から事態を推測する。そうだな、マリオとクッパのピーチ姫の奪い合いって所か。

 

しかし、奴ら随分と息切れしてるな。そんなに長い間戦っているのか?

 

──そこでふと思った。これはチャンスでは無いかと。

 

でも、チャンスだと言ってもどうする? マリオとルイージを捕まえたとしても、そこからどうする? アイツらを絵にするのには、オレの魔力に加えて、王冠の魔力が必要だ。でもそれは以前ルイージに吸い込まれている。クソ、王冠を被ってないせいで、オレの威厳もイマイチだしな。

 

このままでは何も出来ない。かといってマリオとルイージを捕まえても、そこからどうしようも無い。

 

だが、何かしてやりたい。マリオとルイージをギャフンと言わせてやりたい。

 

ふと、何となくクッパを見る。そこでオレは一つの考えを思いついた。

 

イマイチインパクトに欠けるが、まぁこの際しょうがない。何かする事が大事だ。

 

思いっきりからかってやる。見てろよマリオ、ルイージ。

 

オレは頃合いを見て、そーっとピーチ姫に近寄る。そして、素早くピーチ姫を持ち上げる。

 

「きゃあっ!」

 

ピーチ姫が悲鳴を上げる。それに気づくマリオ達。ギャハハハハ! 覚悟しろよ。オレ様のショーの始まりダァッ!




時系列は、ルイージマンション(無印)〜その後で、ルイージマンション2・3がまだor存在しない世界線だと思ってください(ルイージマンションに至る経緯とか独自設定モリモリなのです)。


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テレサインフィニティ

最終話なので長め。


「全く、あいつらはどこにいるというのだ」

 

クッパは館を走りながら、愚痴をこぼす。

 

「ここが怪しいと思うんですがね……」

 

キノピオはドアを指差す。クッパとキノピオの二人はマリオに再会すべく、館内を回っている。

 

今は書斎に来ている。次の道が見つからないのだ。キノピオが指しているドアの先には、何も無い狭い空間があるだけだ。

 

二人がわからないのも仕方ないだろう。なぜなら、マリオ達が二階に上がった手段である便所は、今二階に存在しているからだ。この状態ではクッパ達は上に行くことすら出来ない。

 

「はぁ……。ちょっと座るのだ」

 

流石に同じ所をグルグルと回って疲れたクッパは、本棚にもたれかかる。

 

キノピオは元々便所があった空間をまじまじと見つめて、悩む。こんな空間が無意味に存在するのか? それともただ何も置かれていないだけの、物置だとか? わからない。

 

「……キングテレサの奴。まさかミスってるんじゃないか」

 

ふとクッパが口にする。クッパはキングテレサのまるで誘導するようなやり方から、自分らにゲームをやらせているのではないかと薄々感じていた。

 

それは、キングテレサがピーチ姫を攫う時にわざわざ『北の洋館』と場所を教えたこと。館についた時、鍵を探せ、と伝えたこと。そして、都合よく部屋に進む為の鍵をばら撒いていること。極め付けに、キッチンのボタントラップだ。このことから、十分キングテレサは自分らを使って遊んでいることは裏付けできる。

 

だから、進めないというのは変なのだ。クッパはそれならば、とあることをする。

 

「オイ! キングテレサ! 聞こえるか!」

 

クッパは大声で叫ぶ。

 

「うわぁ、耳ががんがんする。どうしたんですか一体!?」

 

「耳を塞いでおけ。ワガハイに先に進めるいい考えがある」

 

迷惑そうにクッパを見つめるキノピオに、そう悟す。

 

「聞こえてるんだろう! ワガハイ達先に進めなくなったぞ! いわば『詰んだ』のだ。おぉい!」

 

クッパは大声で訴える事を続けると、モワモワと白い煙が出てきて、そこにキングテレサが現れる。

 

「あぁもううるさいな! 忘れてたんだよ! ちょっと待ってやがれ」

 

キングテレサはそう言うと、姿を消す。それから少しすると、さっきまでただの狭い空間だった場所に便所がスーっと降りて来た。

 

「さぁ入れ」

 

キングテレサの声がする。

 

ここに……?

 

クッパもキノピオも狭い便所に入るのに抵抗はあったが、上から降りて来た所を見て、辛うじて理解する。しかし本当にここから……?

 

疑問を捨てきれなかったが、便所に入る。妙に臭い。

 

「いくゼェ!」

 

キングテレサの声が再度聞こえる。束の間、便所はかなりのスピードで急上昇する!

 

「ぬおぉっ!」

 

「あばばばばば」

 

二階へ到着。

 

「ギャハハ! ご利用ありがとございましたァ!」

 

「うぅ、おのれ……わざと速くしたな……」

 

クッパとキノピオは少々の気持ち悪さとともに、便所の外に出る。ベッドルームだ。

 

「マリオさん達もこうやって進んだんですかね?」

 

「うむ、恐らくな」

 

クッパは頭を掻きながら、正面を向く。すると、なんだか楽器の音が聞こえてくる。位置はそう遠くない。

 

この曲は、スーパーマリオブラザーズの『地上BGM』か? うぅむ、ピアノの旋律が気持ち良い……。

 

……待て。もしやマリオ達か?

 

クッパはこんな事をしているのはマリオに違いないと思った。マリオはゲームのBGMが大好きであるからだ。

 

「ぐぬぬ。マリオめ。ふざけおって!」

 

クッパはドスドスと足音を立てながら進む。キノピオはその後ろをちょこちょことついていく。

 

マリオとの再会はもうすぐそこだ。

 

 

 

 

「テレッテッテレッテ〜」

 

そう鼻歌を歌いながら、ドラムを叩くのはマリオ。その横でピアノを奏でるのはルイージ。そして、トランペットを持って楽しそうに吹くのはキノピコ。その様子は完全に音楽会であった。

 

マリオはこの部屋にある楽器の数々を見て、演奏せずにはいられなくなった。しかし、ルイージに鍵を探してから、と止められる。

 

そして鍵を見つけ、晴れて音楽会をしていたという訳だ。

 

夜中にとある洋館で好きな曲を演奏するというのは、ある種独特の感覚であった。

 

謎の開放感。ピーチ姫を助けにここに来たものの、意外な楽しみをマリオ達は見つけていた。

 

バタン!

 

突然ドアが開く。そこにクッパが現れる。

 

「全く。ワガハイ抜きで楽しそうにしてるではないか!」

 

「あ、クッパ」

 

「やっと来たか」

 

クッパの登場にマリオ達は手を止める。ついに再会だ。

 

「クッパ、どこいってたんだよ」

 

「それはこっちのセリフだ。色々大変だったのだぞ」

 

そういってクッパはまだ少し怒りつつ、前へ進む。

 

「かせ」

 

「やだ」

 

「ワガハイはドラム特化型なのだ。マリオ、お前は他の楽器でも出来るだろう」

 

「しゃーないな」

 

マリオはそう言うと、ドラムの席を立ち、代わりにクッパが座る。マリオはドラムをクッパに取られてしまったので、別の楽器を見て、どれを演奏しようか悩む。フラフラとしていると、ドアからキノピオがそっと出て来る。

 

「あ、あのー」

 

その声に皆は気づく。マリオやルイージが視線をやる中、キノピコは持っていたトランペットを落としてしまった。

 

「キノピオ……?」

 

呆然と立ち尽くす。それにキノピオも気づき、キノピコの方を見る。

 

「あ……」

 

見つめ合う二人。キノピオがいる。キノピコがいる。その事実を心にしっかり刻みこまれる時、二人は共に駆け寄る。

 

「キノピオっ! 無事だったのねっ!」

 

「うん……! 会えて良かった……! 大丈夫? 怪我とかしてない?」

 

「うん、ワタシは大丈夫。キノピオは?」

 

「ボクも大丈夫。クッパさんが居たお陰でね……」

 

キノピコはクッパの方に視線をやると、クッパはプイっと視線を逸らす。

 

「そっか、良かった」

 

「とにかく、会えて嬉しいよ」

 

「私もよ」

 

手を取り合って再会を喜ぶ二人。マリオとルイージはそんなやりとりを黙って見守っていた。

 

「さーて。再会を喜ぶ演奏といくか! キノピオ、こっちこいよ」

 

「あっ、はい!」

 

キノピオは周りを見渡し、自分が出来る楽器を探す。

 

「俺はこれにするか!」

 

マリオは机に置いてあるカスタネットを手にし、景気良くカチカチッ、と音を鳴らす。

 

キノピオはどれを取るか悩んだが、ロッカーに置いてあるバイオリンを見つけた。これだ、と思った。

 

手に取って、キノピコに目をやると、彼女はニッと笑ってくれる。実はバイオリンは二人を出会うきっかけになった思い出の楽器であるのだ。

 

「皆、準備おーけーかい?」

 

ルイージは呼びかける。皆は頷く。

 

「ふん! ワガハイのビートにしっかりついて来いよ!」

 

「アホ! 全員で合わせるんだよ!」

 

マリオとクッパがいがみ合う中、ルイージはもう一度声をあげる。

 

「ではいきます! 『ルイージマンション スタッフロール』」

 

「自分の曲かよ!」

 

マリオはツッコミを入れつつも、カスタネットで合わせ始める。『ルイージマンション スタッフロール』。低音調から始まり、ルイージメインのマリオブラザーズの曲だ。特徴は途中で口笛が入る所。ルイージは自分の曲にノリに乗りつつ、ピアノを奏でていく。

 

マリオは足でリズムを取りながらカスタネットを鳴らし、クッパはその性格とは裏腹に、弱めにドラムを叩き、曲の背景をカバーする。

 

キノピオは背の関係で、椅子の上に乗り、バイオリンを奏でていく。キノピコはクルッと回ったりしながら、トランペットを軽快に吹く。

 

夜中の音楽会。この館の周りに家は無いので、迷惑もかけない。月明かりの綺麗な夜空。その光が奥まで届くか届かないかの森に響き渡る陽気な演奏は、森の動物達を何やら楽しげな場所に連れて行ってくれるような、このまま夜がずっと続いたら良いと思わせるような。そういうものだった。

 

 

 

 

「ケッ! 勝手に楽しみやがって! しかもその曲はオレへの当てつけか!」

 

浮きもせず、床をゴロゴロと転がり、自意識過剰にプリプリと怒るキングテレサ。ピーチはため息をつく。

 

「貴方もこんな事しなければ良かったのに。すっかりマリオ達はアトラクション気分ね」

 

「うるさいぞ! オレが完全に蚊帳の外だ。オレが直接イタズラすれば良かったか。でもアイツらと顔合わせるの苦手なんだよ。……あぁ、リソウとゲンジツってもんは違ってくるもんだな! ほんとヨォ!」

 

キングテレサが嘆くのも無視し、『あら、結構良い曲ね』と気持ち良く聞くピーチ。それに腹が立ったのか、モニターの電源を切るキングテレサ。

 

「ちょっと、これじゃよく聞こえないじゃないの」

 

「聞かなくて良い! アイツらもさっさと鍵持ってこの部屋に入って来やがれってんだ」

 

椅子から立って不満を言うピーチに構わず、キングテレサはそっぽを向く。

 

その姿を見て、キングテレサも本当は仲間になりたいのでは無いか、とピーチは思った。

 

けれど、前に敵対した時、かなりの事をやらかしたみたいだし、相容れない存在なのかしら。クッパも前はそんな感じだったけど、今は敵対はしておれど、結構緩んでるし……。貴方もいずれ和解し合う時が来るのかしらね……。

 

キングテレサの背中に哀愁を感じたピーチ。しかし、キングテレサの実際の心中は不明なはものであった。

 

 

 

 

それから30分程、マリオ達5人は楽しい音楽会を終え、鍵を持って、目的地のドアに向かっていた。話し合った所、まだ開いていないドアで心当たりがあるのは、一階の書斎のもう一つのドアだけだったからだ。皆はベッドルームに集まる。

 

「俺達はこの便所から上がってきたからな。降りる時もここだろう」

 

便所を指差して、マリオは言う。が、キノピコは困惑した表情を浮かべる。

 

「えっ、ここからですか? 階段は無くなってるし、どうなってるのかな……」

 

キノピコの記憶では、館には階段があった。しかし、今は見当たらない。

 

「何、前は階段があったのか。……でも無い方がおかしいよな……。さてはキングテレサ、館の構造も色々イジってるのか?」

 

どうやらキングテレサの仕業であると言って良いだろう。第一便所をエレベーターのように使う事がイレギュラーすぎる。マリオ達はそう結論づけ、便所を見る。

 

狭い。

 

5人は明らかに入れない。ならば分けて行くか、とクッパが提案する。

 

「じゃあ、ともかくキングテレサを呼ぶぞ」

 

ここの便所を動かしてもらうために、クッパがまた大声を出す。

 

「おぉい! キングテレサ! 進めないぞ! 便所を降ろせ!」

 

──返事は無い。

 

「聞こえているだろう! 返事をしろ!」

 

「うぅ、すごい声……」

 

「ルイージさん、耳塞いだほうが良いです!」

 

──返事は無い。ただの屍のよう……になってる筈がない。無視か、いないのか。いくら呼んでも反応はなかった。

 

「なぁ、これで来るのか?」

 

「さっきは確かに来たぞ! アイツ、何してるのだ……」

 

流石に大声をずっと出していたからか、クッパは首を手で押さえて喉を休める。

 

「くそ、どうする……」

 

途方に暮れていると、突然体が宙に浮くような感覚に見舞われる。

 

浮遊感。

 

宇宙空間?

 

フワッと……空に羽ばたいていけそうな……。

 

「えっ」

 

──床が抜けている。その事実を確認した時には、5人は1階の書斎に落下していた。

 

「いった……」

 

打ったお尻を触りながら立ち上がるマリオ。ルイージもお尻を打ったようだ。一方クッパは上手く受け身をとっている。キノコ組は頭が良いクッションになって無事のようだ。

 

あまりに唐突の出来事。周りを見ると、ベッドやら引き出しやら全て落ちてきている。ベッドルームの床がまるまる消えたようだ。

 

犯人は……おそらくキングテレサだろう。マリオはそう思う。キングテレサにまだこんな魔力が残っていたとは。あくまで敵という事か。

 

「く……、まぁともかく、書斎にこれたな」

 

衝撃で本棚が所々倒れている。5人は立ち上がる。

 

「うぅ。ビックリしました」

 

「キングテレサめ。だが今回は腰を打たなかったぞ。ガハハハ!」

 

「開いてないドアって、あそこ?」

 

皆が体制を立て直す中、キノピコが指をさす。

 

「そうだね」

 

開いていない唯一のドア。そこにマリオは鍵を取り出し、挿して、ひねる。

 

「行くぞ」

 

そして、そっと開ける。

 

「……ピーチ姫!」

 

と、開け始めてから1秒もしない内にマリオはそう言う。彼女の特徴的な容姿にすぐにマリオは反応したのだ。

 

「何っ、ピーチ姫だと!」

 

その言葉に反応したクッパはマリオを押しのけて入る。

 

「ぬおぉっ! ピーチ姫!」

 

マリオとクッパの視界に入ったのは、金髪にポニーテール、服はドレスとは違ったピンク色のミニスカート。そして顔を見るに、紛れもなくピーチ姫だ。この格好はスポーツ用であるが、夏は暑いので、城での行事の時以外ではピーチはこうしている。

 

「マリオ!」

 

マリオやクッパを見て、ピーチは答える。後ろからルイージ、キノピオ、キノピコも入る。

 

「あっ、ピーチ姫がいるよ!」

 

「ピーチ姫だ!」

 

「ピーチ姫をこんな間近で見たのは初めてです……」

 

「うふふ。やっと助けに来てくれたのね」

 

ピーチ姫との再会に喜ぶ皆。ついに目的の人物に会う事が出来た。後はピーチ姫を連れて帰るだけ……。しかし、その後ろから白い塊がモワモワと現れる。

 

「あーあ。つまんねぇ」

 

「あ、キングテレサ! これでもくらいやがれ」

 

白い塊、キングテレサが出てくるや否や、懐中電灯の光を当てるマリオ。

 

「うわぁ、あれがキングテレサ……」

 

「顔が怖い〜」

 

キノピオとキノピコはキングテレサを始めて見た。あまり印象は良くないようだ。キングテレサは光を当てられて、のたうち回る。

 

「クソッ! 出会い頭これかよ!」

 

「お前は光が大の苦手だからな。先制攻撃だ。さぁ、かかってこいよ」

 

ニヤリと笑い、構えるマリオ。キングテレサがいる事ぐらい想定済みだ、という所から来る笑いである。それを見て、クッパも同じように構える。二人には余裕の表情がある。しかし、キングテレサのどんな不意打ちにも対応できるように、目は、そらさない。

 

マリオとクッパの豊富な戦闘経験から来る絶対的な強さ。スーパーヒーローと大魔王の二人を一気に敵として迎えたキングテレサは流石のキングと言えども、恐怖を感じざるをえなかった。

 

「調子に乗るなよ! オマエラ。オバケを舐めるなよ!」

 

キングテレサは構える。マリオとクッパは一層と集中する。

 

5

 

4

 

3

 

キングのカウントダウン。何か、来る。

 

2

 

1

 

「行くぞっ! ……ドロン!」

 

──キングテレサはマリオ達に背を向け、一目散に逃げていった。

 

「え?」

 

完全に戦闘体制でいた二人は拍子抜けした。キングテレサは戦うフリをして逃げたようだ。

 

想像だにしていなかったキングテレサの行動。マリオとクッパ含め、その場にいた全員がフリーズしたように思考が停止した。

 

 

 

 

「どうやっても、二人には勝てないと判断したのね」

 

ピーチは言う。逃げるが勝ち、そう言う事だろうか。しかし、完全に最後は決着をつける予定であったマリオとクッパはどうも閉まらず、もやもやしていた。

 

「ふぅ。まずは脱出しないとね。この館から」

 

「ふぁ〜、眠いです」

 

「ワタシも……」

 

館を出ようとするルイージ、キノピオ、キノピコ、そしてピーチ姫。

 

完全に飲み会の帰りのような雰囲気だ。後は家に帰って寝る。こんなに気持ち良いことが他にあるか、と言わんばかりの空気だ。

 

「……兄さん? クッパ?」

 

この二人を除いては。

 

マリオとクッパは何やら向かい合ってバチバチと火花を散らしている。

 

「なぁ、クッパ。なんだかスッキリしねぇよな」

 

「ああ。元々力を奮う予定だった奴が逃げたのだから、当然だ」

 

二人は拳を突き合わせる。

 

「俺達、ピーチ姫を巡って戦ってたよな」

 

「……そうだな」

 

距離を取り、サッと構える。

 

「戦いの続き、やろうぜ」

 

「いいだろう」

 

言い終わると同時に、二人は飛びかかり、腕を掴んで、力み合う。

 

「うおおおっ」

 

「負けるか……!」

 

どうやら、戦う気だ。もう終わったのに。帰れば良いのに。夜中だというのに。

 

そんな姿を見た4人は、マリオとクッパの戦い好きに呆れてしまった。

 

「あぁ、どんな体力してるの。兄さんもクッパも……」

 

「冗談じゃないわ!」

 

「あの、すいません。ボク達帰らせてもらいますね……」

 

「ゴメンナサイ。……頑張ってね」

 

まだまだマリオとクッパはやる気なようだ。ルイージはこの疲れている状態で、また水撒きを頼まれたくがない故に、らしくない大声で伝える。

 

「もう、クッパもマリオも体術だけで戦ってよ! 炎とか吐かないでよ!」

 

ルイージの叫びは届いているのだろうか。

 

 

 

 

「ギャハハ! 最初からマリオとクッパの相手なんかする訳ねぇぜ! ……勝てねぇからな。今回は不愉快な事も多々あったが、一応驚かしたりとかで成果はあるからまぁ良いだろ。次はどうアイツらを陥れてやろうか! オレは無限にイタズラするぜぇ。ギャハハハハ! ハハハハ。はぁ……」

 

かつてのテレサのキングであったのに、ただのコソドロ程度になり下がってしまい、キングテレサはため息を隠せないのであった。

 

なんだかキノコ王国をキングテレサ帝国にする! と言っていた自分が遠い昔のようだった。何故こんなにも小さくなってしまったのか。キングテレサは感じた。

 

今のマリオやクッパ達は自分とは格が違うのか。王冠を取られて自分が落ちただけか。はたまたその両方か。……仲間が居ないからか。

 

「アイツらが楽しそうにしているのが腹立つのは、オレに仲間がいないからなのか?」

 

はぁ、ともう一度ため息をつく。

 

『このままじゃ嫌だ』

 

「あの時のオレに戻る……?」

 

──仲間を。王冠を。

 

 

 

 

 

 

 

 

取り戻す。

 

 

 

 

マリオと奇妙な館 終




読了ありがとうございました。(あっさり)

それはそうと、ルイージマンションのスタッフロールは隠れた名曲だと思う。


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