この素晴らしいスケベに祝福を! (カスマさん)
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兵藤一誠は女神に会う!
「ようこそ、死後の世界へ。
――兵藤一誠さん、貴方はつい先ほど、不幸にもお亡くなりになられました。短い人生でしたが、あなたの人生は終わってしまったのです」
真っ暗な世界に一つの光明。
椅子に腰掛ける自分を見下げる、ありえないぐらい美人な青髪の女の人。
突然の言われように、むっとなって立ち上がった青年は腹部にある赤いシミに目をやって「……そう言えば、俺。あの子に殺されたんだな」と息を吐く。
容姿平凡、学力ちょい上。
性格に難あって万年彼女募集中の俺は、出会い頭にコクられた可愛い女の子とデートして――そして刺された。
この世に幽霊や化け物なんてモノがいるとは考えもしなかったけど、あの子の脊椎から突き出すように伸びた黒い翼と、漫画みたいなぶっとい槍を持つ彼女は……人間ではないのだろう。
女神のように美しい……いや、実際死んだ筈の俺にこうして人生終了宣言している時点でそれっぽい何かなんだろう女の人に向けて俺は問う。
「あの子は――
「――あれは堕天使。基本、自分さえよければどうだっていいと思ってる究極のクズニート野郎ね。この世界のあの子達の考えなんて分からないけど……大半は天界の仕事に嫌気がさして逃げ出した社会不適合者だもの。きっと貴方の命を奪ったのは暇潰しとかそう言った理由からじゃないかしら?」
……まじか、暇潰しで殺されたのかよ。
一誠は決して誉められた人生を生きてきた訳ではない。それでも、殺されるような恨みを買うような事はしなかったし、まだまだ人生これからの世代、こんな生涯に満足なんてしていない。
一人息子である自分を育ててくれた両親の事を思うと暗い気持ちになる。
「……貴方には三つの選択肢があります」
故にその言葉に俺が顔を上げるのも無理はない。
「一つは、人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。そしてもう一つは、魂の安置所である天国で永遠の平穏を享受するか。そして現在貴方の魂に干渉しようとする悪魔の僕となり数千年の時を奴隷のようにこき使われて過ごすか」
一つ目と二つ目は何となく理解出来た。
だけど、三つ目はなに?
「えっと……今俺ってもしかして凄いヤバい状況なんでしょうか?」
「そうね」
女の人は空中に手を翳して「うっ!?」
内蔵をぶちまけて血反吐吐く自分がいきなり映った。
あまりにショッキングな映像にえずく中、その俺の死体を見下ろして―――
「死にそうね。いや死んでるのね、傷は……へぇ、おもしろいことになっているじゃないの。そう、あなたがねぇ……。本当、おもしろいわ
――どうせ死ぬなら、私が拾ってあげるわ。あなたの命。私のために生きなさい」
紅色の長髪を風に揺らす美少女がチェスの駒を弄んでいた。
「……でも、この人も化け物なんですよね」
普段ならこんな美少女の奴隷になれるなんて聞いたら、下半身を熱くして叫んじまう自他共に認めるド変態な俺だが、一回死んだ身だ。
全身の熱が霧散して……ジワジワと感覚がなくなっていく恐怖はしかと心に刻まれている。
「そうよ。
美少女に化けていい感じのムードを作りホテルまで連れ込んで……残念、我でしたー!
……と、おっさんに変幻する、あなたみたいな青少年の心を弄て遊ぶのが大好きな害虫みたいな存在よ」
女の人の言葉を信じるに、堕天使や悪魔という連中はろくでもない存在らしい。
……あと、どうでもいいけど、まじでこんな可愛い子がおっさんなの?
ホテルまで行っておっさんになるとか……なにそれ怖い。
一誠は自分を殺した堕天使以上に悪魔を恐れた。
そして、おっさんの奴隷になるのはごめんだと速攻で選択肢から除外を求める。
「やっぱり、一つ目の選択肢を選ぶと記憶はリセットされる感じですかね?」
「そりゃあ記憶があれば色々と不都合が起こるから、一からいえ、ゼロから始めることになるわ」
……やっぱりそう上手い話はないか。
「じゃあ天国でお願いします!」
「……本当にいいの?
天国なんて名ばかりで肉体なんてないから三大欲求も満たせないし、永遠に日向ごっこしながら世間話する退屈な世界なのに」
「俺、生きてる間は両親に迷惑ばかりかけて……どうしても最後に謝りたいんです」
「あら、現代の若者にしては出来たこと。
……でも、そんな貴方にとっても良い話があるの」
女の人は見惚れるほど綺麗な笑みを浮かべて言った。
――貴方、異世界転生って言葉を知らない?」
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戻ってきた、ついてきた
「よしゃっ戻ってきたー!!!!」
夕方の空。少しだけ人里離れた山の頂上。
黒髪茶髪寄りの少年は雄叫びを上げる。
「ここが、カズマ達の故郷ですか…」
「正確にはカズマの世界とよく似た並行世界と言うことだが、凄いな……我がダスティネス家が総力を上げたとしてもあれほどの建造物は再現不可能であろう」
「今日はイッセーさんの奢りで飲むわよー!」
ちんまい眼帯ローブの女の子。金髪の姫騎士風の女性。青髪の女神さま。
未知の世界へ降り立ち、彼女達が第一声を溢す中で
「……えっ、何でいるの?」
俺、兵藤一誠は困惑したように頬をひきつらせた。
「そりゃあ、転移登録よ」
これって人体でも出来るんだなー、と悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべる少年――佐藤カズマは俺が《あの世界》でパーティーを組んでいたパーティーリーダーだ。
名前から分かるように俺と同じく死して異世界転生を選んだ日本人であり、致命的なバグ?のせいで冒険者登録も出来ずにバイトで細々と食い繋いでいた俺を拾い上げて、見事魔王討伐まで導いてくれた恩人であり親友である。
魔王を討伐した功績として何でも叶えてくれるという女神の話で彼はあの世界への永住を、そして魔王を瀕死まで追い詰めた功績として俺は元の世界への帰還を望み――少し湿っぽい別れの挨拶を挟んでお土産まで抱え戻ってきたのだが、この男。
「ま、暫くしたら帰るから」
「そうかいぃ」
何とも締まりの悪い展開に一誠は声低く言葉を返した。
「しっかし、見渡す限りガラケーとはお前って俺よりも年上だったんだな……」
帰宅への道中、佐藤カズマが横を歩く。
ちんまい眼帯ローブの女の子――めぐみん
金髪の姫騎士風の女性――ダクネス。
青髪の女神さま――アクア。カズマと同じくパーティーメンバーである彼女たちは服装のこともをあって一先ずはあっちの世界に帰って貰い、何故か一誠が自腹で彼女達用の服を用意し、改めて日本観光を楽しむという流れになった。
……三人分となると俺の財布事情がかなり苦しいことになりそうなので、古着屋で適当に見繕おうと思う。
『いやよ!折角日本にきたんだから日本酒の一本ぐらい用意しなさいよー!』
約一名うるさいのがいたが、カズマは俺が買って帰るから大人しく待っていろと縛って転移魔法陣の中へと蹴り込んでいた。
「前から思ってたけど、お前のジャージって全然痛まないよな?何年ぐらい着てるんだ?」
「まぁ、裁縫スキルで小まめに直してるから」
どうやら隣街に召喚された俺たちは適当に会話しながら道草を踏む。
「……二年ぶりか。なんか改めて親父達に会うと思うと緊張するわ」
「でも、こっちの時間軸では五分後なんだろ?
感極まるのも分かるが、変に取り乱さすなよ」
「そうだな……、俺たちの冒険がたった五分だもんな」
学園の校舎が見えてきて、本当なら就職していた筈なのに……そう考えると不思議な気持ちだ。
「本当に戻ってきたんだな、俺」
場所は冥界。グレモリー領にあるとある屋敷。
現魔王の一人にして超越者の異名を持つサーゼクス・ルシファーは、現代の人間ではすっかり廃れてしまった王政政治の……王としての責務を全うし、書類整理に取り組む最中、ふと数時間前に連絡があった妹からの奇妙な話を思い出していた。
「死後間もない肉体の眷属化に失敗したか……駒の欠陥か?」
悪魔の駒を用いて、瀕死か既に死んでいるであろうの人間を眷属化しようと試みた所、その肉体はまるで悪魔が聖水や聖剣で殺されたように綺麗さっぱりと消滅してしまったという話。
単に眷属化に失敗したというなら、魂が冥界の神に回収された後だったり、神器が反発するなどの原因も考えられるが、それでも死体は残る筈だ。
「まさか、悪魔の駒に副作用があった……いや、それならもっと早くに出ていなければ辻褄があわない」
念のため、妹の駒を全て回収し新しいものを与えようと考えながら、出来上がった書類の束を横へ移した。
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堕天使はヒロインなのかもしれない
駒王町の駒王学園。
兵藤一誠の母校であるその学校であるが、満月の照らす深夜の刻。
全ての部屋に施錠の施された筈の旧校舎の一室にほんのりと灯りが点っていた。
「……そう。犠牲者がでましたのね」
艶やかな髪をシュンと垂らし、何処か悲しげな瞳で下を見る女の顏を中央の蝋燭がほんのりと朱く照らし出す。
「だから朱乃には彼の家族の記憶を改変してきてほしいの。不可解な猟奇殺人の被害者遺族としてではなく、不幸な事故の被害者遺族として……お願い出来るかしら?」
「分かりましたわ」
彼女の手元には一枚の家族写真があった。裏を返すとそこには住所が書かれてあり、彼女はぎゅっと胸元にだき寄せる。
それは悪魔となってまだ浅くない彼女が、これから為そうとする……まさに悪魔的所業に人としての残滓が酷い罪悪感を覚えているからか、それとも兵藤一誠という青年の不幸と自らの過去を重ねているからか。
「……堕天使」
憎々しげにそう呟く。
女はせめて写真の青年が憂いなく旅立てるように、
その少し前のこと。
イッセーとカズマはアクアに頼まれた日本酒を調達するべく夕焼けの照らす街並みを歩いていた。
「しっかし、俺たちって当たり前のように飲酒してたけど未成年だよな。どこで買えばいいんだ?」
「……それもそうだな。お前んちに置いてればそれを貰おうかと考えてたけど、う~ん。
ま、アイツのことだし料理酒でも気付かないんじゃね?」
つい先程、三年ぶりの帰省を終えたイッセーには高校二年生という身分に相応しい寝食を共にするには心もとない財布を手に入れた。
両親を前にしたイッセーはその時感極まって号泣してしまったのだが、ここにあのトイレの女神が居なくてよかったと安堵するほど落ち着きを取り戻し、懐かしい街並みを感嘆の思いで脳裏に焼き付けつつ、カズマの言葉に耳を傾けていた。
「問題はお前を殺したっていう堕天使の事だけど……まさか同郷だと思っていたお前が現代ファンタジー出身とは思わなかったな。
案外、主人公みたいなやつとかが、日夜悪魔や堕天使と戦ってたりして」
俺とカズマはこの世界のあらましをアクアから聞いていた。
当初は俺もカズマと同じ平和な日本生まれだと思っていたが、どうやらそれは勘違いであり、俺の世界は悪魔や堕天使が人間をモルモットや奴隷のように従える……現代ファンタジーも真っ青なダークファンタジー的な世界で、それを止めようとする対抗勢力はなく、人類はいいようにされるしかないと言われた時には、初めて悪魔滅殺を掲げるアクシズ教が偉大なものに感じられた。
「お袋達だけは守らねぇとな」
「ま、いざとなったらアクアやエリス様にでも掛け合って駒王町を丸ごと結界で包んで貰えばいいさ」
魔王に出来たのだから女神に出来ないとは言うまい。そう煽ててやれば勝手に頑張ってくれるだろうとカズマは笑う。
…確かにエリス様なら兎も角、アクアならやりかねない。
最悪カズマに頼んで両親とあっちで暮らすことも考えていたイッセーだったが、何とかなりそうだと肩の力を抜いた。
次回「聖女は妹枠」
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