【黒子のバスケ】に転生しただけの簡単な二次創作です (騎士貴紫綺子規)
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case.1 原作キャラの場合
第1Q ……やっぱり


 本来短編だったんですがなんやかんやあって長編になった。「めだかボックス」の方が主なので更新は非常に遅いです。ただ、続きがあるのは確実。それは胸を張って言える。
 書きたいことつらつらと書いただけの話です。ご注意を。

 BLは入れるつもりなかったんだが……。皆様は虹灰派? 灰虹派?←


 気付いたら死んでいたらしい。

 

 な、何を(ry。神様転生などの創作小説は一次・二次問わず読む派――というより作る派だったが、実際に自分がその状況にやられてみると意外と戸惑うものである。

 

 ましてや現在進行形でその神らしき存在が目の前にいると、現実逃避位したくなる。

 

『ひどいなァ。せっかく僕様がわざわざ、わざわざ君の前に現れてあげているというのに。現実逃避は可哀想だよ、僕様が下賤な下等民族の前に現れてあげたというのに』

 

 初っ端から罵倒されたんだがどうすればいいんだろうか。笑えばいいのか?

 

『勝手に笑えば? 僕様は関係ないから』

 

 この神様酷過ぎるだろう。そう言うセリフは根っからのマゾヒストに行ってほしい。あいにく自分はノーマルだ。いや性癖的にはアブノーマルな気はするんだけど。

 

『とりあえず要件を伝えるよ。一、君は死んだ。二、君には転生のチャンスが与えられた。三、転生しろ。拒否権はない』

「思ったより要約されてた!」

 

 死んだ過程とか死んだ理由とか一切の説明がなかった! しかも逃げ道が用意されてないんですけど。え、これ決定なの? あくまで確認事項に過ぎなかったの?

 

『というわけで……逝ってらっしゃい』

 

 にこやかな笑みとともに手を振られると、ふと自分に影が差した。嫌な予感がして見上げると一面に広がる丸模様。

 

 それが金盥の底の模様だと気付いた時には、もう眼前に迫っていた。そしてそれに当たったかと思いきや。

 

 

 

「オギャー!」

 

 転生していたというね。普通こういう時は底が抜けるんじゃなかろうか。もしくは神様にぼこられるんじゃないだろうか。まあぼこられたいわけじゃないからいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生を自覚して数年、今の名前は灰崎(はいざき) 祥吾(しょうご)という。……そう、不良キャラで有名な「キセキの世代」の一人になり損ねた、「強奪」の持ち主である。いや確かに「黒子のバスケ」は好きだったよ? 一巻から始まってアイテムとかも買い漁っていたよ? 「何この派手な髪」とかってバカにもしたよ? 灰崎祥吾は好きなキャラだったよ? だからと言ってこの仕打ちはないんじゃないかな!

 

 とりあえず自覚してからは身体を鍛えることから始めてる。前世大学まで行ったとはいえバリバリのアナログっ子ですからね。文化部に所属していたモヤシですし。運動音痴ですし。無冠とは別の領域でキセキに一番近いところまでいった一人なのだから、灰崎もそれなりにすごい身体能力を持っていたんだと思う。いやこの世界の身体能力値が異常なのかな? そうでもないと説明できないんだけど。

 

 何で究極的に影が薄いの? 何で他人の技をコピーできるの? 何でオールコートからスリーポイントシュートが打てるの? 何で目から光が出るの? 何で日本人が二メートル越え出来るの? 何で未来が分かるの?

 

 いつからバヌケになったんでしょうか。いや始めからか。

 

 まあかく言うそんな俺も自分の身体能力が怖いよ! 黄瀬(きせ)クンじゃないけど灰崎も異常だね! 他人のスキルを奪えるとかパナイよ。っていうかもう全体的に異常だよね!

 

 もう納得した。ここが元はマンガの世界だったんだと理解してるし。何が起こっても許容できる気がする。死んで転生なんて体験してたら達観するよね、人間。

 

 とりあえず原作のように不良街道まっしぐら突っ走ってみました。授業はサボるわ喧嘩はするわ、女をとっかえひっかえなんて当たり前……という表の俺。

 

 真実というのは捻じ曲げて伝えられるものだと俺は強く理解した。

 

 いや人生二回目だし授業でなくてもテストは点取れるしさ。どうせならサボってみたいじゃん。学校生活なんてやり直せないんだよ、転生とかでもしない限りさと思いつつ一回サボってみるとあら不思議。コレくせになる! 先生の長くてだるい話を聞き流す作業もいらないんだよ! 学校で皆が授業を受けている間に自分の好きなことに時間を使えるんだよ! 何このパラダイス。サボり素晴らしい。

 

 喧嘩も男なら強くないとね、と思って腕っぷしを鍛えてみた。この世界の選手が異常なのかは知らないけど、鍛えれば鍛えるだけ筋肉がつくのはありがたい。おかげで丸々一個のリンゴも中身の入った缶ジュースも簡単に握りつぶせます! わーすごーい。

 身長高くて目つき悪くて、おまけに髪は染めたレベルの色だしね。まあ不良扱いされても仕方ないでしょうや。でも決して自分からは喧嘩を売ってませんよ! 売られた喧嘩は買うけど。灰色の髪がなんやかんやあったのか知らないけど「銀獅子」なんて中二臭いあだ名が付けられてますよ。原作の灰崎くんもそうだったのかな。だとしたら同情します。

 

 女とっかえひっかえね。まあ中学入る前に近所の女子大生に童貞奪われたし。元が女だから女性の感じる場所は良く知ってますよ。見た目がいいのか不良っぽいところに惹かれるのか分からないけど「抱いて!」って向こうから来るんだもん。俺はちゃんと「身体だけなら」って言ってから抱いてるよ? ちゃんとコンドームもしてるし。人の彼女とったとか言われても知らん。女が俺を誘ってきて仕方なく抱いてんのに俺が寝取ったみたいな言い方やめてほしい。イケメン補正? 二次元の顔なんて全員偏差値高いだろ。モブキャラでも現実よりははるかにカッコいいんだ。サブキャラの灰崎がブスメンなわけないだろ。

 

 

 

 俺は一応原作をなぞって帝光中学に通い、バスケ部にも入っている。入部テストで初っ端やらかしたキセキ共と同じく一軍に所属しているけど、やっぱり上級生の妬みや嫉妬の目線が素晴らしい。見なくてもわかるレベル。男の嫉妬は無様だぞ。

 

 なぜわざわざ帝光中学に通い、しかもバスケ部にまで所属しているかというと、ただ単にミーハー心を出してみただけである。

 

 せっかくマンガの世界(二次元)に来たんだぜ? しかも原作キャラなんだぜ?

 

 楽しまなきゃ損じゃん!

 

 そんな理由で入ってみた――んだが。

 

 

 あれ? キセキの世代ってあんなに弱かったっけ?

 

 黒子はともかく、黄瀬はまだ入部前、それを抜きにしても。

 

 

 俺が青峰に勝てるレベルだったっけ?

 

 

 いや確かにまだ中一だし体ができてないのはあると思うけどさ、それでもキセキの世代のエースに楽勝で勝っちゃっていいの? コート内全範囲(オールレンジ)から型のない(フォームレス)シュートって撃てていいの? 青峰にも緑間にもできなかったんだよ? 黄瀬クンが完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)の合わせ技でようやっとできるレベルじゃないのかな、それがキセキでもない俺ができていいの?

 

 それからしばらくしてからようやく分かった。

 

 

 俺、無敵キャラになってる。

 

 

 転生チートなのか鍛えすぎたのかは知らないけど最強補正がなぜかある。え、ちょっと待ってよ。俺何にも頼んでないよ? 灰崎になるのすら躊躇われた俺にさらに最強補正までつける? 普通。

 

 それ以来何事にも無気力になった。どうやら最強補正のみならず万能補正まであるらしい。いや確かに前世それなりの大学出てたけどさ、かと言ってノーミスでテスト満点ってそれなりに難しいことだよね? 何で赤司にまで勝っちゃってんのさ、俺。天才補正まであんのとかちょっと考えたけど、それからは見事に白紙で出してる。あ、いや訂正。クラスと出席番号と名前、あと裏面に盛大な落書きをして提出している。テスト自体は零点で、一方で裏面の絵は芸術の天才レベルである。無気力になっていろいろ手出ししてみてから気づいた万能補正。最強補正と相まって完璧な無敵キャラの完成である。俺Yabeeee!

 

 チート・最強・俺Tueeee!でハーレム作り……いやまあありだろうけどさ。黒バス世界で女の子って相田ちゃんとか桃井ちゃんとかアレックス位しかいないしさ、結局ハーレム作っても最終的にヤることは同じなわけで。まあ結論としては「何が楽しいの?」ってことだ。ハーレムセックスなんぞ夢のままの方がいい。いや俺としては憧れすら全くないけど。

 

 別に()が灰崎祥吾な時点で原作は崩壊しているんだろうし、ましてや成り代わり主な俺がチート万能最強キャラな時点でおかしいんだしさ。もうべつにどうなってもいいよね。

 

 よし、歪んだ原作がどこまで行くのか見てみよう!

 

 

 

 あれから原作に沿って行動してみた。学食のミートボールって甘ったるいね。別に好んでもらうほどじゃないわ。黒子ももうちょっと食べろよ、そんなんだから見捨てられるんじゃねえの? 黄瀬クンと馬が合わないのは事実だった。いやイケメンで万能なチートキャラって時点で被ってるしね、まあ同族嫌悪ってやつなんだろうけど。いや俺はモデルしてないよ? 誘われたことはあるけど断るに決まってんじゃん。所詮アイドルなんてイケメンが勝つんだし。銀髪の俺より金髪の方がいいんだろうしさ。

 

 黄瀬に勝ってぼろぼろのアイツを見下ろすのはすんごく楽しい。ヤバイ、今俺新世界の神ってない? みたいなこと考えている俺は絶対にオタクだ。

 

 

 そんなこんなで(不可抗力で)暴力事件とか起こしちゃってたら見事に赤司から退部しろ宣言をされました。おお、本当に言うんだね。将来的に自分の黒歴史に苦しまないといいけど。青峰の「俺に勝てるのは俺だけだ(ドヤア」も生で聞いたけど笑い堪えるのに必死だったからね? やばいよ、帝光中学バスケ部。黒歴史編纂部だよ、絶対。

 

 ちなみに緑間君は意外とバカにできません。……というよりあは朝がすごいのかな。

 おは朝占いたまたま見ててたまたまラッキーアイテムもって出かけてみたらアタッシュケース拾ったからね。中身は福沢さんがギッシリと詰まってました。オイこれ絶対にヤバイ代物だろとか思いながら悩んでたら強面スーツ姿のグラサンかけたおっさんたちが来て「それをよこせ」だからね。え、どうしようこれ渡していいのと考えてたらもう一組ヤーさんがきて「絶対に渡すな」とかってなった。結局は双方がドンパチ始めて両方お縄になって。俺は警察から表彰されたけどあの衝撃は今でも覚えてる。お金? 結局もらいましたが何か。だって俺のスキルは「強奪」だし。ちなみにその日のラッキーアイテムは「サバイバルナイフ」でした。よくあったな、家に。

 

 その感動()エピソードが何をどう歪曲されたのか知らないけど「俺が警察に捕まった」って話になったのは驚いたが。警察に行ったのは間違いないけど内容が全く違う。学校にも連絡はいってるのに生徒に広まっているエピソードは俺が悪者の内容だしね。それが俺が退部になった理由の一つらしいから余計に笑える。灰崎くんってとことん不幸の星に生まれてるんだね。運的には最強なんだけど。宝くじ必ず三等以上当たるし。いやこれは転生による最強補正のせいかな。

 

 

 強制退部というか自主退部というか、よく分からないものをしてからは自分に時間を使えている。母も兄も俺が清廉潔白だと知っているから憤慨しているが、俺としては原作になぞろうとしていただけでバスケにはこれっぽっちも興味がない。ストリートバスケの数に驚いたとかマジバーガーのバニラシェイクに感動したとかはあるが、正直青春を灰にしたとしか思えなかった。灰崎だけに。

 

 身の潔白は一応訴えてみたものの学園内での俺の評判自体がそもそも芳しくないため、信じられるものがごく少数という罠。かろうじて黒子と桃井、そして我らが主将の虹村さん。

 

 マンガでも思ってたけどイケメンだね! 俺虹村さんに信じてもらえただけでもういいやと思うほどに一番好きなキャラだった。直に見るとか感動もの。これだけで帝光中に来たかいがある。

 

「……灰崎」

「なんスか? 虹村サン」

「……本当に辞めるのか」

「そんなこと言っても、俺もう退部しましたし」

 

 心配してくれてるの? 俺なんかのことを? ヤバいです。プまいです。その眉を下げた顔おいしいです、ゴチです。

 

「……やっぱり」

「いいんですよ。なんだかんだ言って、俺の行動が悪かったのが原因なんですから」

 

 続けようとするのを遮って全面的に俺に非があるように見せる。今俺演技者じゃね? いけ! ここで涙を流すんだ、灰崎祥吾!

 

「虹村サンに……信じてもらえてよかった……っ」

 

 ここで振り返って退散。いやー、笑いそうになって口元抑えたけどかえってよかったんじゃないかな、嗚咽が漏れるのを押さえる感じになって。

 

「灰崎!」

 

 後ろで呼ぶ声が聞こえるけど全部無視して駆ける。さーて、中学生活も終わったし、次は高校生活かな! 原作どうしよう……。

 

 

 

 




 灰崎祥吾成り代わり最強モノ。こういう話が現実にあるといいですね。本来支部にのせるはずだったけど別にいいや、ってことで。

 原作どうしよう……。原作通りなら福田総合学園高校なんですけどね。誠凛にも行かせたいような。まあバスケ部に関わるような主人公じゃないと思うけど。


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第2Q IN誠凛高校 楽しませてよ――黒子テツヤ

 思ったよりも需要があった……と考えていいのだろうか。自惚れじゃない、よ、な? お気に入り登録ありがとうございます!

 とりあえず誠凛高校に行かせた場合の話。これはこれで終わり。

 この話には以下の要素を含みます。
・玄サク(丹公房) 90g
・オレトク 5g
・ムソー 5g
・シリアル 少々
・ゴッツゴーン酒:義 小さじ1杯
 お好みによりプギャーを添えてお召し上がりください。微量ですがソースにカンチ貝が使用されています。ベーコンとレタスはサラダで使用しております。


 ……何て、料理番組風に(笑)。何が言いたいかって? 作者にもわからない。


 晴れて中学卒業した俺こと灰崎祥吾は、原作と違って誠凛高校に進学した。何か進路指導の先生方は秀徳とか進学校進めてきたけど全部拒否った。いやだって秀徳って緑間が行くとこだろ? あのハイスペックな高尾もいるんだろ? やだよそんなとこ。絶対俺のSAN値削れんじゃん。

 

 水戸部先輩と木吉先輩は好きなキャラだったから誠凛高校には興味があったし、黒子も誘ってくれたってのもある。ギリギリまで福田総合学園高校と迷ったけど新設二年目ってこともあって結局誠凛にした。はい、原作崩壊バンザーイ。

 

 当然ながらバスケ部にはかかわらない方向で文化部に所属した。写真部と新聞部の掛け持ち。だったら堂々とキセキたちをプギャーできるし。ちなみに黒子には誘われたけど一旦は断ったので俺が進学していることを知らなかったりする。取材しているうちに絶好のサボリポイントとか限定パンの確実な入手方法とか、持ち前のチートも相まって学校内一情報に詳しくなってきたころ。

 

 

 

「君が灰崎くんね?」

 

 面白おかしく過ごしていたからから罰が当たったんだろうか、バスケ部がカントクサン直々に勧誘に来た件について。え、ちょっと待って。後ろで黒子がすごいキラキラした目で見てるんですけど。俺進学先教えてないよね? クラス違うよね? 合同体育でもあわないよね? テスト成績でもランキングにのってなかったよね? 何でバレたの!? 日向センパイ若干クラッチ入った眼でみてくるんですけど!?

 

「灰崎くんが進学していると聞いた時は驚きました。進学先教えてくれませんでしたから」

 

 うん、やっぱり教えてない。でもだったら何でバレたの? あらゆる痕跡消したはずなんだけど。持ち前の万能チートで。……ん? 聞いた?

 

「……桃井か」

「はい。教えてもらいました」

 

 あの原作のプールの邂逅ね。桃井には隠し通せなかったか。せめて口止めしておくんだった。教えないと俄然燃えるタイプだってわかってたはずなのに。いやあれは萌えるタイプか? 私と同じく腐食系だったし。

 

「黒子君から聞いたんだけど、貴方も帝光バスケ部だったって?」

「――何のことでしょう?」

 

 にこやかな笑顔できっぱりと拒絶する。ばれていると分かっているのに否定する俺を見てカントクと日向センパイの米神に青筋が浮かぶ。

 

「ちょっと来てくれない?」

 

 来いやオラ、という副音声が聞こえてきたが当然俺の答えは。

 

「お断りします」

 

 音符でも付きそうな軽やかな声で言ってやる。傍から見ると爽やかな笑顔なんだろうけどカントクたちの後ろの数人や火神は怯えている。あっはっは、何で怯えているんだ?

 

「へええ……いい度胸ね」

「いえいえそんな。生徒会副会長様に言われるなんて光栄です」

 

 仰々しく頭を垂らすとそろそろ限界なのが分かる。ヤベー、超楽しい何コレ。

 

「では失礼しますね」

 

 颯爽と退散。後どうなろうが俺の知ったこっちゃない。例え練習三倍になって死にかけようが。

 

 

 

 それ以来追っかけまわされるようになったのは当然のことだと思う。毎日放課後に俺の教室まで押しかけてきて俺を体育館に連れて行こうとするバスケ部……とてもシュールです、はい。まあ三階位ならすぐ飛び降りられるし逃げるのは苦じゃない。面倒なのは日を追うごとに必死になってくることだ。

 

「待てー! 灰崎ー!」

「逃がすな! 逃がしたら練習二倍だぞ!」

 

 ……まあ必死になる理由もわかるのだが。だからと言って譲歩はしない。体育館に行ったなら次はシャツを脱がされたり1on1させられたり入部させられたりするだろうし。絶対に譲歩は鬼門である。

 

 

 

 IHへの切符入手ならず、やっぱり誠凛は負けて。ああ、原作の力って強いんだなと思った。それにしてもやっぱり青峰はグレ峰なんだね。アイツ俺に勝ったことないのに。黒子の絶望した顔もあれはあれでおもしろかった~、なんて。あれ俺ゲス属性入ってたっけ?

 

 

 

 夏と言えば海! ということで親戚の旅館に来て海を楽しんでいた――所に。

 

「灰崎くん?」

「灰崎?」

 

 何この遭遇率。俺神様に呪われてんの? お好み焼き屋でも笠松先輩たちとエンカウントしたし海では誠凛と秀徳に遭うし。これキセキの呪いだよね、絶対。

 

 「私」は緑間は好きなキャラに入っていたが「俺」は苦手だったりする。電波ツンデレ系美人って誰得? おまけに眼鏡優等生キャラだよ? 不良系とは合いません、絶対。

 

「……お前らも来てたのか」

「それはこっちの台詞なのだよ」

「合宿なんですが……奇遇ですね」

 

 見るからに嫌悪を示している緑間と相変わらず表情の変わらない黒子。そしておまけに。

 

「なになに。真ちゃん、黒子も。知り合い?」

「……知ってはいるのだよ」

「中学時代のチームメイトです」

「でした、な」

 

 黒子の答えに強調して追加すると緑間の眉間のしわが増えた。そうだね~、一番――ではないけど仲結構悪かったよね~。

 

 でも俺としてはそれなりに好きなんだよ? 緑間が俺を嫌っていただけで。

 

 俺としてのキセキの中の順位は黒子と桃井も入れると、

 

  黒子=桃井>紫原>青峰>>緑間>(越えられない壁)>>赤司>黄瀬

 

だったりする。紫原はあれはあれでそれなりに仲がいいし、青峰はとりあえずバスケしてればいい。黄瀬は論外だし、赤司は生理的に受け付けない。

 

 かろうじて緑間が壁を越えているのはおは朝の恩恵である。決して緑間本人の影響ではない。

 

「へー。あ、俺高尾和成! よろしく!」

「灰場 翔です、よろしく」

「……何を言っているのだよ」

「灰崎くん、嘘はダメです」

 

 いやそこはスルーしようよ! 人がせっかく乗り切ろうとしているのに!

 

「ブッ」

 

 見ると高尾は、吹き出しておなかを抱えるレベルで笑っている。コイツ原作でも思ったが笑いの沸点低いな。

 

「ヤベー! 真ちゃんの友達おもしれー!」

「な!? 友達じゃないのだよ!」

「僕にとっては友達ですけど」

 

 そして気に入られた俺。何なんだ一体。俺が何したって言うんだ。嘘ついたせいか? というか二次創作とか支部とか見てて思ったけどさ。高尾に気に入られないようにするにはどんな選択肢とればいいわけ? いやもう遅いのはわかってるんだよ、ちくせう!

 

 

 そして引きずられるようにして体育館へ。あれ、今日俺おは朝三位じゃなかった? 一位プラスラッキーアイテムのチートには勝てないわけ? 最強チートと万能チートよ、こういう時に仕事しろ。

 

 そして始まる俺無双――はどうでもいいや。この世界で俺にバスケで勝てる奴いんのか心配になってきた――けどやっぱ関係ないな。俺別にバスケ無双する気はねえし。

 

 火神も足の特訓してるし緑間たちも秘密兵器の準備を着々と進めているようで結構です、はい。

 

 

 海はしっかり楽しみました。ナンパ? 成功率百パーセントですが何か? ドヤア。……森山先輩に嫉妬で殺されるかもしれん。

 

 

 

「……で、何だかんだで原作は気になるよね」

 

 バスケには興味ないしキセキの世代のなんやかんやにも興味はないが、二次元で一番大切なのは原作だ。オリ主介入によるド派手な原作崩壊――も好きではあるが。

 

「やーっぱ黄瀬VS青峰は見とかないと損だよね」

 

 夏のIH。結末に変わりはないだろうが見ることに意味がある。プレイする気はないし熱気がウザい――が。一番の目的は全く違う所にある。

 

「えーと、あっちが海常のゴールだから、こっちであってるよね」

 

 桐皇のゴール側の正面向かって右側。確かここらへんだったと思うんだけど……。ま、いっか。最悪出来なくても。

 

 第三クォーター終盤、残り十秒を切った時。アレ(・・)は来た。

 

「ぶちこめ黄瀬――!!」

 

 ――きた。

 

「なっ!?」

 

 黄瀬の得点を青峰が弾き飛ばして――うん、ナイスポジション、さすが俺!

 

 ちゃんとパーカーも来て来たしサングラスもしてる。傍から見ると変人以外の何者でもないけどこの方が都合がいい。

 

 

 青峰がブロックしたことにより飛んできたボールを――黒子お得意のイグナイトでぶっ放す!

 

「――!?」

 

 実際見てみると分かるんだけどマジでレーザービームだよ、これ。見事吹っ飛んだボールは海常側のゴールに飛んでいきナイスシュート! うん、誰も怪我しないでよかったね。特に隣の男性、あなたあれ絶対左腕折れてるレベルだったんじゃないかな。感謝してくれ。

 

 ふと気が付くと静まり返った会場――はい、俺のせいですね、分かります。観客席に飛んだボールをあろうことかその観客がぶっ放して遠距離にあったゴールに見事入れちゃったんだから。

 

 周りの観客も選手も全員自分の方見てる。いやブザー鳴ってんだからさ、何か言ったげなよ。とりあえず俺は一時退散。あー着替えもってきてよかった。

 

 ……ちなみに俺はこのためだけに来てたりする。今のところ結果は変わんないしもう見る必要もないような……うん、やっぱ予定変更。かーえろ!

 

 

 

 さて、原作順にいくと次のイベントはなんだったか――ああ、そうだ。2号だね。

 

「……」(じ――)

「(ヘッヘッ)」

「「「……」」」

 

「…………」(じ――――)

「(ハフハフ)」

「「「…………」」」

 

「………………」(じ――――――)

「(ハッハッ)」

「「「………………いや何かしゃべれよ!!」」」

 

 数十分くらいずっと2号とにらめっこしてたらもうツッコミされた。解せぬ。

 でもよくよく考えるとワイルド不良と可愛いワンコがにらめっこしていたらシュール以外の何物でもないな、うん。

 

 黒子が儚い系美少年で無表情なせいか表情が変わりやすい2号が余計にかわいく見える。ヤバイ欲しい。え、どうしよう。超可愛いんだけど。

 

「さて、灰崎くん。バスケ部に入ったら2号をモフりほうだいよ~?」

「……くっ」

 

 正直に言おう、ちょっと揺れてる。

 

 不良扱いされている俺だが精神的には女性なわけで。可愛いものは正義だと思う。緑間のクマのぬいぐるみとかも愛でたかった。

 

「どうする、灰崎くん?」

 

 ニヤニヤして見てくるバスケ部員たち。くそう、何か負けた気がする。――でもあいにく、バスケ部に関わることはあってもバスケに関わる気は全くない!

 

「2号、家来るか?」

「(ワフ?)」

 

 そう尋ねると首を傾げる2号と驚いた顔をする部員たち。いや別にモフるだけなら部員にならなくてもできるしね。2号は特に自由だし。

 

「(フルフル)」

「……そっか」

 

 首を振られてしまった。仕方ない、諦めるか。

 

「じゃあ僕はこれで。お誘い、ありがとうございました」

「あ、ちょっ」

 

 秘技、シカトを発動! して退散。……あーあ、ちょっと残念だったような。

 

 

 

 ウィンターカップ予選、誠凛対丞成高校。俺が思う予選で見る価値がある試合の一つだ。その理由は第一Q終了間近の火神の――。

 

「たっ…、高い――!!!」

 

 ――ゴールへの頭突き。

 

 ごっっ・・・

 

「高すぎ――!!」

 

 ……ヤバイ、超面白い。見てて腹よじれる位に面白い。

 

 うん、いいねいいね。来たかいがあるってもんだ。さーて、これからどうなるのかなァ。

 

 

 

 原作終了前に死んだ私は結末を知らない。かろうじて誠凛対洛山のそれなりのところまで行ったけどどっちが勝ったかは私は知らない。

 

 だから予選も見に来ているのだ。「私」の記憶と少しでも誤差が違えば未来は変わる。

 

 すでに「私」が「俺」になっている上に俺は誠凛高校に通っている。原作はとっくに壊れているのだ。

 

 誠凛高校が洛山高校と戦う前に負ける可能性も――否定できない。

 

「楽しませてよ――主人公(黒子テツヤ)

 

 結末を知らない私に教えてくれ。「黒子のバスケ」の最終回(エンディング)を。

 

 




 主人公はいわゆる「原作終了前」に死んだOL(貴腐人)です。誠凛編では。
 洛山高校との試合で黒子のミスディレクションが効かないと分かったあたりですかね、死んだのは。だから余計に結末が気になるという。「黒子の絶望した顔が心残りだ!」という気持ちでいっぱいです。……という設定。


 誠凛に行った時のメリットとデメリットは同じく「原作」ですね。二次創作にありがちな「オリ主がいてしかも原作に関わっているのにもかかわらず原作崩壊が起きない」という謎現象。あれにイマイチ納得が行かない。原作通りにいくわけないじゃん、というね。
 これはいわゆる「マネージャー」でも「選手」でも「お手伝い」でもない話です。所謂「傍観」。まあでも原作に関わらせました。一切バスケにはかかわってないです。「バスケ部員」と関わっただけ。いくら傍観傍観、といっても原作はやっぱり気になると思う。そして2号は正義だ、間違いなく。

 次は福田総合かな、それとも中学時代の他者視点かな。

 この作品を勘違いだと勘違いした人が多くて困るんだがどうすればいいんだろうか……。まあ勘違いっちゃあ勘違い、なの、か、な? 他者視点だと勘違いがよく分かると思うけど……。


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第2Q IN福田総合学園高校 ――実に楽しみだ

 長くなった。しかも最後無理矢理感が半端ない。福田総合に行った時はこんな感じですかね。

 さて、恒例? の今回の材料は!
・玄サク 5g
・ムソー 90g
・ネータ 5g
・プギャー 大さじ2杯

 お好みでベーコンとレタスを添えてお召し上がりください(笑)



 桜は舞い散り校舎に吹く風により制服のスカートが舞いあがり……なんて。おっ、あの子スパッツはいてねえ!

 

 どうも。転生して15年、このたびめでたく高校生になった灰崎祥吾です。とりあえず原作通り福田総合に進学しました。誠凛と迷ったんだけどね、やっぱり可能な限り原作に忠実でいきましょう! ということで。まあバスケ部には入りませんが。

 

 前世OLで死んだ私は原作終了を知らない。一応洛山と誠凛の試合が始まり――というところでお陀仏になった。死んだときはすごい後悔したね。待って、最終回読んでない! みたいな。鴎くんは正しかった。私にとってジャンプは聖書(バイブル)です。必需品です。

 

 曲がりなりにも二度目の人生を歩いている私だけど、とりあえず今世ではやりたい放題(ただしnot原作崩壊)して第二の人生を謳歌している。

 

 せっかく男になってるんだしね。最強の不良(的なもの)を目指した結果が都内一の不良「銀獅子」という中二臭いあだ名だった。いや~今世で黒歴史ができるとは思ってなかった。いや不良になるつもりなんざ一ミクロンもなかったんだけどね。授業サボってたら不良なの? 女遊び激しかったら不良なの? 不良の定義って何よ、教えろ下さい。

 

 まあそんな名声()から離れるために東京近辺から離れたかった、というのもあり静岡に来ました。京都に憧れはあったし無冠の方々にも会いたかった――けどやっぱり赤司がね。あの厨二病患者ェ……。

 

 あ、コーンロウにしたと思った? 残念! 銀染みた灰色の髪を首の後ろ辺りで一つ結びにしてあります。いやさすがにコーンロウは嫌だった。兄貴がしつこいくらいに進めてきたんだけどね。「お前には絶対似合うから!」とか言われたけど断固拒否です。原作でもアレはアレでありとは思うけどそれとこれとは話が別。自分はしない、絶対に。兄には魔法の言葉「兄貴が『綺麗』って言ってくれたから伸ばしているんだぜ……?」を(俺が椅子に座って兄貴は立ったまま=必然的になった)上目使いで言ってやりました。ついでに涙目のオプション付きで。いや鳥肌立ったけど。二度としないけど。兄貴の顔真っ赤になってたけどなんでだろうね。「ヤバイ何この天使この子本当に俺の弟なのどうしよう何処にもいかせたくない一生手元において可愛がりたいああどうしよう舐め回したいぐちゃぐちゃにしたい今すぐにでも縛りつけて組み敷いて裸に(ry」何て俺は聞いてない。聞いてないからな!

 

 とりあえず高校では「広報部」なる部活に所属している。廃部寸前だった三つの部活、新聞部と放送部、写真部が合併してできた部活らしい。なんだそれ、ちゃんぽん部? 混ぜ合わせたの?

 この部活を選んだ理由は、合法的に他校の試合を見に行けるから。いややっぱりキセキプギャーはしたいじゃん。せっかく黒バス世界にいるんだし、誠凛無双は見てみたい。いや途中で負けるけど。無双は厳密には違うけど。

 

 この世界の生きる第一目標は「楽しむため」である。夜展示物が動き出す博物館映画二作目の女性の台詞にあったアレ。楽しくなかったら生きている意味はない。

 

 だって前世ではいっぱいいっぱいだったし、楽しむ余裕なんかなかった。ちょっとでも勉強しないとすぐ成績は落ちるわ公式や単語は頭から抜けるわ。せっかく転生強くてニューゲーム(ただしリアル無双状態)なんだから全力で楽しまなくちゃ。

 

 一応将来の夢は決めてある。「スポーツトレーナー」。

 

 誠凛の女カントクこと相田リコの家は原作でも描写があった通りスポーツジムをしている。彼女の父親、相田景虎さんは現役時代凄腕のバスケットボールプレイヤーだった――と書かれていた通り。実際見てみると分かるんだけど、キセキの高校の監督たちは全員すごい。試合ビデオ見て俺は感動した。キセキの世代みたいな圧倒的なポテンシャルやテクニックがあるわけでもなし、ただ「努力」一本を極めているんだから感動以外の何物でもない。「凄い」の一言に尽きる。

 

 一度ストバスで練習している時に景虎さんに会ったことがある。その時俺はもうすでに持ち前の最強補正と万能補正を使いこなしていたせいだろう、彼はその圧倒的なプレイに感動したそうだ。

 

「俺は長年いろんな選手を見てきたが、お前さんは異常だ。既に人間の限界を超えているにもかかわらずまだ伸びしろが見えん」

 

 と褒められたのだ! その後ぶつくさと「アイツも同じような感じだったよな……いやアイツより異常か? アイツは伸びしろが伸びてたし……」なんて零してたけど誰のことだったんだろうか。……あれ。そもそもこれ褒め言葉だったんだよね? 今から考えるとちょっとアレな気もする。でもその時は褒められたと考えてそれ以来メル友になっていたりする。キャラの父親でキャラの一人とメル友……あれこれ原作介入フラグ?

 

 まあそれは置いといて結構やり取りはしている。俺はいつもしているトレーニングを教えたりとか逆に俺に適したトレーニング量とかを教えてくれるのですごく助かっている。せっかく最強チートな神様ボディがあるんだから限界は知りたいよね! ……人間やめてるって? それは言わないでほしい。定期連絡で全身写メ送るんだけどそのたびに急成長してるらしいし。誠凛に通ってたら絶対毎日バスケ部に追いかけられてたな。特にカントクに。あの人筋肉フェチじゃね? もしくは筋肉育成フェチ。育てることがイイらしいし。

 

 そのお礼として人間の限界の身体を作る――というジムトレーナーには夢物語の計画を進行中だったりする。人間サイボーグ化計画に近いような……ああ、逃走中のハンターに似てるかも。まあ俺が出たら絶対に逃げ切れないだろうけど。それにハンターはアンドロイドだけど。

 

 

 学園生活はそれなりに楽しんでる。意外と福田総合って頭いいんだね。授業進度も早いし内容が濃い。前世の脳じゃ絶対に劣等生だったね。当然今世では赤点なんて一つもない。と言っても満点もなかったりする。小テストはギリギリ合格点をとって定期テストは全教科七十七点を目指して回答欄を埋める。実力テストは一教科だけ全力を出して他は平均点ジャストを狙うという遊びっぷり。たまに七十六点とかってなるからすごく悔しい。……本気でやってる人に殴り殺されそうなレベルだよね。でもしょうがないんじゃない? 人は生まれながらにして優劣が付けられてるんだしさ! ……なんかチートに振り回されているような気がしないでもないけど。……まあいいや。例え強制的に与えられたチート(スキル)だとしても全力でその力を使ってやるさ。だって俺の実力だもん! ――なんて、学校では自重していたチートを将来の夢には全力を注いでエンジン全開で行動した。後悔はしていない。

 

 

 

 でもさすがにさ。

 

「ノーベル生理学・医学賞受賞、灰崎祥吾殿」

「はい」

 

 これはやりすぎたよね。

 

 

 人体の限界のリミッターの外し方やコントロール、身長の伸ばし方に筋肉成長、肉体美完成のための思いつく限りの方法を論理的・人道的・倫理的に生体学と医学からアプローチして論文を作成。景虎さんに渡してみた――ら。なんということでしょう。驚愕に目を剝いていました。そしてなんやかんやでそれが大学教授のところに行ったり発表されたりでノーベル賞受賞に至った、と。……どういうことなの。俺にはさっぱり分からない。なにがどうしてこうなった。

 

 チートなしの一般人にも可能な限界範囲を見極めて作ったから地獄のような苦しみを味わえば百パーセント完成身体になれる素晴らしい技術のはずだ。それこそ俺には遠く及ばないにしても、その人一人だけでオリンピック全競技優勝確実なレベルにまで引き上げられるはず。世のためだしチート全開でいきまっしょい! とハイになってしまった。……うん、分かってる。あの時の自分を殴ってでもやめさせたい。あれは間違いなく深夜テンションだった。でもしょうがないじゃんか! 男なら一度ははっちゃけたい時があるんだよ! 前世女だったし男になって興奮してたんだよ! ……はい、嘘です。反省してます。

 

 高校一年生、すなわち十六歳でノーベル賞受賞なんて最年少だから注目も集まっている。あれここ「黒バス」世界じゃなかったっけ? 俺「灰崎祥吾」じゃなかったっけ? バスケ一切してないけどいいのかなコレ、なんて思ったが。もともとバスケをしてたのは「帝光中学」にレギュラーとして入ればそれでよかったですし最強補正に気付いてからは一切興味もなくなったですしおすし。「私」にとってはここは二度目の人生を生きるためだけの世界なんだから漫画の世界とか関係ない。事故で死んだ無念を晴らすレベルで今世を楽しむって決めたんだ。ノーベル賞受賞とか絶対チートないと俺じゃ不可能なんだから。俺に与えられたものじゃない気がしても仕方がない。もっと嬉しそうにしろとか言われても困る。ああ、母と兄が涙を流しながら写真を撮ってるのが見えるよ。これ絶対今世での黒歴史一位だ……と若干死んだ目をしている写真が新聞に掲載されました、まる

 

 

 授賞式が終わって日本に帰ってくると、やけに煩い大学教授やら口髭たくわえた白衣着たおっさんとかと話をさせられて気が付いたらもうクリスマス。酷いよ、とりたくてノーベル賞とったわけじゃないのに。むしろいらなかったのに。景虎さん絶対絞める。

 

 そう意気込んで観戦に来たウィンターカップ。秀徳さんはどこかな~、お、いた!

 

 運よく彼らの後ろの通路側一番端の席が空いていたのでそこに座る。今の俺は不本意ながら、不本意ながら超有名人。今を時めく最年少ノーベル賞受賞者だぜイエイ! ……すみません、また調子に乗りました。まあそんなわけでやむを得ず帽子とサングラス、あとマフラーで口元を隠している。ちょっと怪しい感じの人だな。

 

 あ、景虎さん来た。

 

 ちょうど前に座って秀徳の監督さんと仲良さ気に話しているところを――後ろから蹴る!

 

「イッ!」

 

 ちょっと前のめりになり危うく落ちるところだったのが快感。ヤバイ、目覚めそう。

 

「あ゛ぁ゛、誰だ!? ……って、ショウか!?」

「声がでかいんだよバカ!」

 

 「祥吾」だから「ショウ」と安直に呼ばれているがそれでも分かる奴にはわかる。まあ持ち前の万能補正のおかげで素顔でない限り周りの人間に気付かれることは絶対にないが。……最近思うんだよな。これ、「最強補正」じゃなくて「主人公補正」なんじゃないか、「万能補正」じゃなくて「御都合主義」なんじゃないか、って。だったらこの世界は何よ。何の世界よ。「黒バスの二次創作」の世界? 何だよそれ、誰の創作小説の中にINしちまってんだよ。ワロエねえ。

 

「……誰だ?」

 

 わーお、マー坊監督の睨みこっわーい、なんて。まあいきなり前の席の奴蹴り飛ばしたら不審者以外の何者でもないよな。

 

「はじめまして。景虎さんのジムでお世話になっています、灰崎祥吾です」

「灰崎……まさかあの(・・)?」

「ええ、その(・・)です」

 

 さすが、単純バカな景虎さんと違って聡明だ。HUNTER世界だと操作系? 理屈屋マイペース? ……よくわからんからいいや。

 

「これは初めまして。秀徳高校でバスケ部の監督をしている中谷 仁亮(まさあき)です。あなたの論文は読ませていただきました。お若いのに素晴らしい。我が部でもぜひ取り入れていきたいと思っております」

「ご丁寧にどうも、灰崎祥吾です。いや嬉しいですね」

 

 まあほとんどの奴には無理だろうけどな、と心の中で付け足す。にしても監督世代にはやっぱり出会いたいよねー。髪染めたレベルのおかしいイケメンチートなキセキの世代とは違う純粋な努力だけで全日本まで進んだっていうのは称賛に値する……と上から目線で言ってみる。だって俺チートだし? 最強だし? 無敵だし? ……どんなに足掻いたって俺にはできないことだ。俺はなんでも簡単にこなせてしまうため「努力」や「苦悩」を一切必要としない今世を生きている。転生強くてニューゲーム、憧れたことだけど実際はツライ。望めば何でもできる万能補正と極める限界の存在になる最強補正、相乗効果で俺はこの世界最凶最悪の人物ということだ。ファンタジー世界で言う「魔王」レベル。まあ俺自体はサブキャラなんだけども。万能チートな最強人間ただし村人Hみたいなっ!

 

 

 自己紹介するととなりに座っていた大坪先輩や緑間くんも驚いた表情をしている。まあ今話題の有名人がこんな近くに座っていたら驚くよね。それに緑間は複雑な気分だろうね、中学時代に強制退部させられた元チームメイトが今や世界の人となってるんだから。あらゆる意味でキセキプギャーできたな、こりゃ。赤司にNDKしたいわ。強奪した時のあのあくどい笑み浮かべてしてやりたいわ。中学時代は強奪しまくってたけどそれはあくまでバスケの中だけだし。他人の論文なんか盗んでねえし。むしろ俺の理論の方が土台しっかりしてますけど?

 

 

 

 今のところは原作通りに来てるけど……さて、これからどうなることやら。俺が魔改造してるから福田総合は強いぞ~、実質全員がキセキ一歩手前レベルになっているはずだ。俺は別次元だから構わないけどチート魔王もいつかは負ける時が来るんじゃないかなァ、と俺は踏んでいる。主人公は負けて強くなるからどうでもいいけど。

 

「まあ赤司が負けた顔を写真に収めたいってのもあるけど……」

 

 黄瀬・緑間・青峰はコンプ。紫原はどうでもいいし、後は赤司だけなのだ。

 

「頑張ってくれよ~、テツヤ」

 

 影が薄い異例の週刊少年ジャンプ主人公がチート魔王を凌駕する、最っ高のシナリオじゃないか。

 

「――実に楽しみだ」

 

 さあ、俺に「黒子のバスケ」のエンディングを教えてくれ、主人公。

 

 

 

 ……あ、その前に福田総合(俺のところ)に負けるなんてやめてよ、黄瀬。俺は黄瀬(オマエ)と黒子が戦う所、この目で見たいんだからサ。

 




 原作要素がほとんどない。無双要素が半端ない。ノーベル賞とか誰得だよ、作者得です。
 福田総合無双になったかもしれませんね、この場合だと。でも主人公はバスケなんかしないしバスケ描写もありません。何故なら主人公(=灰崎くん)はバスケに一切興味がないから。

 この場合の灰崎くんは福田総合の全運動部のマネージャー主任を務めてたりします。それだけに学園中の運動能力が高まっているという。福田総合最強説です。……それでも赤司には勝てないだろうけど。

 誠凛編よりも早く死んでます、福田総合編だと。「洛山との試合スタート」→「お、白熱すんじゃね!?」→OUT\(^O^)/みたいな。

 あと他人視点を入れて終わりですかね。もうしばらくおつきあいください。





 ……やっぱり恋愛ルート的なのも作ろうかな(ボソッ


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番外編 彼に対する気持ちとは1

 とりあえずこの二人から。ストックがないので続きはまたあくだろうけど。


  【黒色の驚愕】

 

 灰崎くんですか? ……そうですね。

 見た目は不良ですね、間違いなく。彼は――というより彼ら全員が、なんですけど――帝光中学入学当初から目立ってましたね。一年のころは僕も緊張していたのであまり良く覚えていないんですが……。分かりました。ちょっと思い出してみます。

 

 

 キセキの世代と言っても、全員始めは当然普通の中学生と何ら変わりありませんでした。……まあ、あの身長は今でも縮めとか思いますけど。昔から体格はよかったですよ。友人との約束を守るためにバスケを続けていた僕とは違い、昔からバスケ一筋でしたね。ただバスケ馬鹿の青峰くんと違うのは、「バスケが一番ではなかった」ことでしょうか。それでも僕が一軍に入って出会ったころから、彼は一番強かったです。それこそ――

 

 ――青峰くんを赤子の手を捻るように簡単に倒すくらいには。

 

 え? あ、はい。バスケ界最強の選手といわれている青峰くんも勝てなかった相手くらいいますよ。赤司くんがその例じゃないですかね。……まあ青峰くんは昔から赤司くんのあの威圧――というか威嚇というか――に怯えていた点もありますけど。青峰くんの強さはPFというポジションからも分かるとおり、「絶対的な強さ(フィジカル)」です。桃井さんから聞いたところ、昔からバスケ一本に絞ってきたようですね。……少しは頭にも回せばよかったのに。あ、すみません。

 

 そんな青峰くんが得意なバスケで勝てなかった相手、それが灰崎くんです。

 

 

 灰崎くんは子供のころ、それこそすでに父親がいなかった頃からバスケを始めていたそうです。具体的には知りませんが、お兄さんの影響があったようですね。中学一年で腹筋が割れているなんて知った時には思わず青筋が浮かびました。クラスが離れていたこともあり、合同体育でも接点はありませんでしたから、必然的に会うのは部活ぐらいでしたね。すでに百七十超えだった身長やその体格からも有名でしたし、容姿や人柄、性格もあったでしょう。一点の曇りもない澄んだキラキラと光る髪にキレ長のキツめの目、どこからどう見ても不良でした。……え? ああ、僕が初めて彼と会ったのは――

 

 

 

「借りまーす」

 

 カウンターに置かれている椅子に座って文庫本を開いているところにかけられた声に反射的に顔を上げる。しかしそこに見えたのは胸で、もう少し顔を上げてようやく顔がうかがえた。

 

「……なあ、聞いてんの?」

「え。あ、はい。すみません」

 

 気だるげな表情をして続けられた言葉に本を置いて立ち上がる。カードを取り出そうとして彼の名前を知らないのに気付いて振り返った。

 

「あの……学年とクラス、それから出席番号をお願いします」

「んあ? ……ああ、灰崎祥吾、一年三組、三十一番」

「……すみません」

「? 何が?」

 

 そこでようやく彼が同級生だと知った。失礼な話、はじめは先輩だと思っていたのだ。主にその身長と体格から判断したため、独断と偏見と主観の集まりだったが。

 

「お待たせしました。貸出期間は二週間です」

「ん」

 

 

 

 ――最初の邂逅はそんな些細なことだったんです。彼が去ってすぐ後に、「彼が僕を見つけた」という事実に若干の驚きがあったので、頭の端には残っていたんでしょうね。

 

 一軍に上がってしばらくしてから灰崎くんと会いました。それまでも結構な回数すれ違ったりはしていたんですが、僕と彼はやはりそれほど親しい間柄ではありませんでしたから。「あ、灰崎くん」とくらいしか思いませんでしたね。バスケ部一軍だと知ったのは三軍にいるころからですが。

 

 ご存じのとおり、僕には体力がありません。三軍の練習ですら倒れるぐらいです、一軍の、しかも白金監督の練習メニューをこなせるはずもなく、ほとんど毎日倒れていましたね。

 

 そんなときに決まって介抱してくれるのが灰崎くんでした。

 

「おい黒子、大丈夫か?」

「うぷっ、……はい、なんと、か……」

「無理するな、とは言わねえけどよ、無茶はするなよ。お前なんか抱え込むタイプっぽいし」

 

 そう言ってそっとドリンクとタオルを置いて、練習に戻って行ったんです。その時からでしょうか、「灰崎祥吾」という人物を観察対象にし始めたのは。

 

 

 一年の頃から「不良」「ヤリチン」などとよくない噂ばかり飛び交っていた灰崎くんですが、観察してみるとその本質が若干見えてきました。

 

「わっ!」

「……っぶねえな、気を付けろ」

「ゴ、ゴメン……」

 

 階段ではしゃいでいた女生徒二人の片方が落ちそうになったところをさりげなく助けてたのもそうです。髪色や体格、その言動も相まって不良呼ばわりされていたことに気が付いたんです。他にも授業はサボっているのに成績はいいとか、人のミートボールをとったりと何かと行動自体見れば人間として最低な人種にしか見えません。ですが。

 

「……ったくババアも考えろよ、定食にご飯のミニ作るとかさ」

 

 奪ったミートボールを食べた後にボソッと呟いたのを聞きのがしませんでした。その後、食堂に意見箱が置かれるようになったのも灰崎くんの影響があると思います。

 

 まあキセキたちの中では仲のいい部類に入るでしょうね。……シャララワンコやおは朝電波と違って。

 

 え? 青峰くんとではですか? ……どうでしょう。ベクトルが違いますから。青峰くんは僕にとっては「光」です。灰崎くんは……そうですね。「希望」、といったところですか? ちょっとクサイですけどね。

 

 彼が退部命令を出されたときは「嘘だ」と思いました。追いかけて焼却炉にたどり着いた時、もうすでに遅かったんです。

 

「世の中いい奴ばっかじゃねーんだよ」

「残ったお前らの方がかわいそうな目にあわねーとは限らねーんだぜ」

 

 彼の言葉は、それを予期していたのかもしれません。誰よりもキセキ(僕たち)に近かったからこそ気づけたのでしょう。キセキだった僕でも気づかなかったことにいち早く気づいたことも相まって退部したんです。いえ、させられた(・・・・・)んです。

 

 彼が去ってから、一段と彼の悪評は増しました。ストッパーがなくなったこともあるんでしょうが、僕には「切り捨てた」ように思ったんです。

 

 「灰崎祥吾」という人間が「バスケ」という事柄を。

 

 それでも校内で会った僕や桃井さんと話をすることから、それなりに踏ん切りは付けていたようですけど。それでも心の中までは分かりません。念のためというか、一応僕の進学先である誠凛高校も勧めたんですが……断られてしまいました。

 

 

 同じ学校に進んでいたらですか? ……そうですね。彼のことですから、全力で身を隠すと思いますよ。全力で隠れたら僕よりすごい人ですから。ですがそうですね……。桃井さんにバレてそれが広まって、カントク直々に勧誘しそうです。僕も彼のことは気に入っているので入部してほしいですが……たぶん無理でしょうね。一度決めたことは曲げない主義の人なので。

 

 学校が違っても、それなりに連絡は取り合うと思います。都内からは離れると思いますから……それで、何かしら凄いことやらかしてそうですね。オリンピック出場とか、ノーベル賞受賞とか。……まさか。彼ならできるかもしれないと思っているだけです。本心ですよ。在学中はテストで遊んでたくらいですから。成績はいいんですよ、彼。全教科一度は百点でしたから。その後に七十五点というのはふざけているとしか思えませんでし。副教科満点は僕も素直にすごいと思いましたけど。

 

 ……まあ結局のところ、どうなっても僕は彼とは縁は切らないでしょう。濃い中学生活で、親しかった部類に入る人です。

 

 はい? 最後に「彼を一言で表すなら」ですか? そうですね……。

 

 「凄い人」もしくは「尊敬できる人」といったところでしょうか。はい。大丈夫です。ありがとうございました。

 

 

(まさかその予想が当たるなんて。思ってもみませんでしたけど)

 

 

 

   ★   ★   ★

 

 

 

  【黄色の焦燥】

 

 ショーゴくんのことっスかぁ? しょーじき思い出したくないんスけど。……分かったっス! 分かったっスから!

 

 ……話を聞いたのは一年の……夏位っスかね。女とっかえひっかえしてる男がいるって聞いて気になったんス。とっかえひっかえできるほどの男ってことは美形でしょ? それで興味を持ったんスよ。……まさかそれがショーゴくんとは思わなかったっスけど。

 

 

 

 オレがバスケ始めたのは青峰っちに憧れたからっス! 青峰っちのプレイに感動したんスよね!

 

 入部してから、オレと同じ二年が、一年のころからスタメン扱いされてたっていうのは正直驚いたっすねー。ま、でも「青峰っちだし」ってことで納得したんス。……けど。

 

 

「ショーゴ! 1 on 1しようぜ!」

「いやだから――」

「あ?」

「――ああ、もう! 分かったっつーの!」

 

 

 オレが青峰っちに憧れているのと同じく、青峰っちもショーゴくんに憧れてたんス。

 

 

 え? ……まあ、分かってるっスよ、この感情が嫉妬ってこと位。でもしょうがないじゃないっスか、嫌なもんは嫌なんスよ。

 

 

 校内で良い噂は聞かないのにバスケのセンスはピカイチ、それってなんなんスか? しかも本人はその自分の誇るべき実力を忌み嫌ってる節があったんスよね。訳分かんないっス。

 

 

 それもあって何となく避けてたんスよ。もちろんそれだけじゃないっスけど。初対面の挨拶の時に思ったっスよ。

 

「……灰崎祥吾」

「……黄瀬、涼太っス」

 

 直感的に思ったんス。「あ、コイツとは合わない」って。ショーゴくんもそう思ったんじゃないっスか? だからお互いに「よろしく」なんて言わなかったんスよ。よろしくなんてしたくないから。子供っぽいって思われてもいいっスよ、でも心の底から「嫌い」だなんて感情が俺から出るなんて思わなかったっス。

 

 

 はい、明らかにこの感情は「嫌い」だったっス。オレがっスよ? 「気に入らない」って思う奴なんて何人もいたけど明確に嫌悪を感じたのは初めてだったんで、正直オレも驚いたっス。

 

 

 ……だから余計に思ったっス。「コイツをブッ潰したい」って。

 

 

 まあそれは叶わなかったっスけどね。オレが入部してしばらくしてから退部したっス。いやさせられた? まあどっちでもいいっスけど。オレには関係ないし。むしろショーゴくんが退部してくれてよかったんスよ、オレがスタメンになれたのもそのおかげだし。赤司っちも素行がひどいってこぼしてたから、まあ自業自得なんじゃないんスか? ……どうせならバスケでボコボコニしてから無様な顔さらしてから退部してほしかったっスけど。

 

 ……だからっスかね。W(ウィンター)C(カップ)で再会した時にチャンスだって思ったのは。

 

 「キセキの世代」と言われているのは赤司っち、青峰っち、緑間っち、紫原っち、そしてオレの五人、そして黒子っちは「幻の6人目(シックスマン)」なんて呼ばれてるのは知ってるっスよね? でも厳密に「キセキの世代」なんて呼ばれ始めたのはオレが一年の冬、オレが入部する前なんスよ。……つまり、オレが入部した時にはもう「キセキの世代」は確立されていた、そしてオレはある意味でその座を奪ったんスよ。ショーゴくんが退部して似てるスタイルを持つオレにその座が流れ込んできた(・・・・・・・)ってことっスね。

 

 それがオレには許せなかった。おざなりだったなんて耐えられなかった。だから思ったんス。「ここでショーゴくんをブッ潰す」って。

 

 ……結果は知っての通りっスけどね。あれはズルくないスか? 勝ち逃げなんて許さねえっス。絶対に次こそは叩きのめしてやるんスよ!

 

 

 え? 最後に「彼を一言で表すなら」? ……「ムカツク奴」っス。それ以外にはないっスよ!

 

 

 

(……本当は心のどこかでは憧れてたなんて。絶対に言わないっス!)

 

 

 




 黒子とは仲は良いけど黄瀬とは最悪。まあとりえず原作通り、かな? 成り代わり主は「キャラ」としての「黄瀬涼太」は好きだったけど、リアルだと完璧に一目で嫌悪した。たぶん波長が合わなかったんだと思う。……にしても、黒子様になった気がする。どうしようか。

 誰が質問しているのかは作者にも不明。たぶん読者のみなさんだよ、きっと! ←

 って言うか黄瀬の「~っス」入力超面倒。そして黒子と黄瀬で長さが違うという……ま、いっか!

 どちらの学校に進学してても大丈夫にした、はずです。はい。

 書いてて分かった。これは「勘違い」のジャンルじゃない。というか私に勘違いジャンルは不可能だ。
























































 どうでもいいことなんですけど、仮に恋愛ルートだったら誰と結ばれるのがいいんでしょうか? 虹色と?


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番外編 彼に対する気持ちとは2

 時間がかかってしまい申し訳ありません。口調難しいなあ……。


  【緑の驚嘆】

 

 ……灰崎について、だと? そうだな、正直驚いたのだよ。中学時代から不真面目ではあったが、まさかバスケを止めるとはな。

 

 俺がアイツを意識したのは入学式の次の日だったな。入学してまだ間もないというのも当然あったが……正直なところ、オレは自分の頭の良さを自覚している。……なっ! 自惚れではない! オレは人事を尽くしているのだ。当然だろう! ……まあ、小学校では一番を譲ったことはなかったな。だがオレが帝光中学に入学した時だな、自分より上の存在にあったのは。そう、入学テストでオレを抜いて新入生代表の挨拶をした――赤司征十郎という存在を認識した、翌日だ。

 

 

 

「…………zzz」

「……何なのだよ」

 

 人事を尽くすオレは毎朝S(ショート)H(ホーム)R(ルーム)が始まる三十分以上前には教室に入る。これは小学校から変わらない習慣の一つだ。いつも通りオレが教室に入ると、そこにはすでに先客――本来ならば同じクラスの生徒なのだからこういう表現は相応しくないのだろうが――がいた。そういえば一人休んでいたなと昨日を思い出しながら寝ている少年の二つ後ろに座った。

 

「………………zzz」

「…………」

 

 なぜ教室で寝ているのか疑問に思いながらも教科書を取り出して鉛筆を持つ。中間テストこそは赤司に勝ってやるのだよ! と強く決意しながら。

 

 チャイムが鳴り担任が来てSHRが始まる。ふと思い出して前の席を見ると未だに寝入っている……何しに学校に来ているのだよ、お前は。

 

「今日は自己紹介から始めるぞー! まず先生からだな。俺は――」

 

 他人など正直言ってどうでもいいのだよ。そう思いながら聞き流しているとあの生徒の番になった。

 

「灰崎ー! おーい!」

「……あ゛?」

「自己紹介だぞー! 起きろー!」

「あー……灰崎祥吾」

 

 それだけ言ってすぐにまた机に伏せた。担任もいい顔はしなかったものの、時間が押していたのかすぐに次の生徒に回した。

 

「緑間真太郎。――」

 

 これが出会い――というか意識し始めた時だな。第一印象は『変な奴』だったのだよ。おそらく絶対にかかわらないタイプだと思っていたのだが――灰崎は目立っていた。いい意味でも、悪い意味でも。

 

 

 

「……zzz」

「またか……」

 

 本当にこいつは一体何しに学校に来ているんだ? ほとんどの授業――副教科を除く――ではいつも寝ている、そのくせして学校に来るのはオレより早い。噂によると、朝用務員の人が来るよりも早く来ているらしいが……。

 

 しかし、灰崎は成績は良い。一体いつ勉強しているんだと問い詰めたくなるレベルで成績がいい。

 

「ゲッ、灰崎また満点かよ!? くっそ~! 今度こそ一点は落とすと思ってたのに!」

「マジか!」

「悪ぃな。……っー訳で一週間昼飯お前らの奢りな」

「「チクショ~~!」」

 

 主要五教科はともかく副教科では満点を叩き出したことしかないらしい。……なぜなのだよ、俺は人事を尽くしたし、テスト当日はラッキーアイテムの殺虫剤まで持ってきた。……なのに! なぜ! 五点も落としているのだ! ……次はもっと本数を増やすべきか。要検討なのだよ。

 

 

 灰崎は顔見知りが多い。生徒のみならず、教師に用務員、警備員に近所の老若男女問わず顔を覚えているらしい。

 

「あら~、祥吾くんじゃない。これ、作りすぎちゃったからおすそ分けね」

「おっ、サンキュー! ばあちゃん!」

 

「よう! ショーゴ! 今度またゲーセンで勝負しようぜ!」

「臨むところだ!」

 

「灰崎くん、握力計を握りつぶしてどうするんですか」

「いやだってさ、リンゴとか見ると握りつぶしたくなるじゃん? 手動でリンゴジュース作るみたいな」

「意味が違うと思いますけど」

 

「ショーゴくん! ソフトボール投げ、どっちが遠くまで飛ばせるか勝負っス!」

「黒子としろよ。加速する(イグナイト)パスなら飛ぶんじゃねえの?」

 

「ショーゴ! シャトルラン勝負だ!」

「却下。オレ去年成績十だったし今年はパス」

「灰崎ー! 青峰に勝ったら成績十やるぞー!」

「……言ったな? それサボっててもくれんの?」

「んなわけないだろうが」

「……じゃあいいや」

 

「灰崎くん! ちょっといい?」

「あ? ……ったく、またあいつらかよ……」

 

「灰崎ー! お前また授業で寝てただろ! 指導室まで来い!」

「ヤダね。行く必要性一切感じねえし」

 

 好意的にみられている部分は多く、普通に考えるならば嫌われることは少ない奴だ……った、のだが。

 

 

 ある時――そう、あれは一年の三学期頃だったか。前から不真面目ではあったし、授業や部活をサボることなどしょっちゅうだった灰崎が本格的にやる気をなくしたのは。

 

 ……いや、正確には「やる気をなくした」のではないな。「無気力になった」んだろう。

 

 今でこそ分かることだが、あの頃の灰崎は開花後の青峰と同じだった――そう、すなわち「自分の強さに絶望した」のだ。

 

 日頃の練習から灰崎が日常的にセーブしていることなどすぐわかった。汗は掻いていたし息切れもしていた、だが疲れていなかったのはオレにもわかった。ということは、虹村主将や赤司にはお見通しだったろう、だから灰崎は毎日のように罰則を受けていた。それでもなお力を抑えていたのはさすがに気になったが。

 

 灰崎と仲が良かった、よく1 on 1をしていたのは青峰だな。と言っても青峰が一方的に強制連行していて一方的にボコボコにされて一方的に言いがかりをつけていただけなのだが。あの時は青峰が負けていても些細な事としか思わなかったが、今ではそのありえなさがよくわかる。と同時に灰崎が力を抑えていた理由もよく分かった。

 

 灰崎祥吾は異常(てんさい)だ。キセキの世代(オレたち)とはベクトルが違う、圧倒的に、淘汰的に、排他的にまで差があるほどに。

 

 

 W(ウィンター)C(カップ)でそれがよく分かった。アイツはオレたちとは根本的に違ったのだ。

 

 

 ……む? 最後に、「彼を一言で表すなら」だと? ……赤司とはまた別の意味で「関わりたくない奴」だな。もしくは――ああ、これはいいか。

 

 以上か? ああ、ありがとう。

 

 

 (だが……オレも本当は心のどこかで思っていたのだろうな。もう一度、全力でアイツに臨みたいと)

 

 

 

   ★   ★   ★

 

  【桃の歓喜】

 

 あ、灰崎くん(はーちゃん)について? まかせて! 何でも答えるから!

 

 灰崎祥吾。11月2日3時56分生まれの蠍座、血液型はB型だよ。身長は中学一年時代は174センチ、体重67キロ、現在は190センチ81キロ。好きな食べ物は肉系で、特に唐揚げやミートボールっていった小物系、いわゆる「お弁当のおかず」が好きなんだって。お母さんの作るお弁当、たまに持ってきてるけど、その時のはーちゃんすごく幸せそうだったな。趣味はナンパ……成功率は百パーセントだって本人は言ってたけど。特技はカンニング、と言ってもほとんど必要ないけどね。百八式まであるとか聞いたことあるけど……カンニングなんかしなくてもテストの成績は良いから。

 

 私が初めて会ったのはバスケ部で、かな。大ちゃん――あ、青峰くんのことなんだけど――の面倒を見るようおばさんに頼まれて入ったバスケ部のマネージャーで、相手校の情報を集めてたら主将(キャプテン)――虹村さんにひかれて一軍のマネになったって感じかな。まあそれでなくとも入部当初から好き勝手やってたあのガングロエロスケの面倒を、先輩や他のマネたちが見きれなかったってのもあると思うんだけど……

 

「くそ! ショーゴ、もう一回だ!」

「ウゼエ。メンドい。却下」

「何でだよ!」

 

 一軍のマネになってからすぐだったと思う。はーちゃんを見たのは。ちょうど青峰くんがコテンパンにやられていたところだったんだけど、初めて会った時は驚いた。だって大ちゃんに勝ってたから。

 

 昔から大人たちにも混じってバスケしてた大ちゃんだからそれなりに力はあったし、中学に入るころには近場ではほとんど負けなしだった。

 

 その、大ちゃんを、地面に、這いつくばらせていた人、それがはーちゃんだった。

 

 それから何となく観察していると、はーちゃんがバスケ部の中でだれよりも強いってことがわかった。……え? いやですね。一軍のマネ舐めないで下さい。ただでさえ情報関連は得意なんだから。長所・短所に性格・クセ――分析する材料なんて山ほどあるんです。……ただ。

 

 大ちゃんは読みやすいけどテツ君は読めない。情報分析も完璧なんてないんです。でも灰崎くんは――そうですね、「底が知れない」んでしょうか。あ、もちろん伸びしろはあるんですよ? 誠凛のカントクさんみたいに読みとる眼(アナライザー・アイ)なんてなくてもわかります。はーちゃんは確かに「最強」です。……でも、「無敵」じゃないんですよ。

 

 ゾーン状態の青峰くんにも余裕で勝ってみせる、くせして性格や言動がキツイせいかよく敵を作る。彼のことを客観的に答えるなら「悪いヒト」なんです。主観的に答えるなら「良いヒト」なんですけどね。

 

 校内全体に広まっている噂自体は多いんだけど、その中でも一番多いのが「女遊びが激しい」、それに類する「彼女を取られた」ってやつかな? まあ確かに、バスげ部一軍だし身長高いし顔もいわゆる「美形」だけどさ。私たちまだ中学生だったんだよ? あの時。確かにはーちゃんは小学校で童貞卒業してるけど、それでも「遊んでる」ってわけじゃないし。まあ何人かは『告白→玉砕→「身体だけでも!」』って言って抱いてもらったらしいけど、それでもちゃんと避妊はしてたらしいし……それより! 絶対大ちゃんの方がおかしいよ! だって人のこと見て、……お、おっぱいが大きいとか言うんだよ!? はーちゃんの方が断然ましだよ! なんで皆、堂々とセクハラ発言かましている大ちゃんの方がいいの!? 絶対はーちゃんの方が分け隔てなく優しいし丁寧だし気も配れるし親切だしデリカシーあるし頭良いし空気読めるし多才だよ!? なんで大ちゃんはよくてはーちゃんはだめなの!?

 

 ……まあ多分そこ(・・)なんだろうけどね、好かれると同時に嫌われる理由は。

 

 はーちゃんは周りの機微には敏感だ。そして優しすぎる。

 

 私が気づいたときにはもうそう(・・)だった。だからはーちゃんがバスケ部を辞めたって聞いたとき驚いたと同時に納得もした。自分と似たスタイル、自分と同じポジション、そして――自分より日当りのいい彼。

 

 黄瀬涼太(きーちゃん)

 

 多分予感はしてたんだと思うよ。きーちゃんが入ってきてから灰崎くん、なんか難しそうに考えることが多くなったし、練習にも今まで以上に来なくなったし。来てもただひたすら基礎練ばっかりしてたし。大ちゃんの練習相手がはーちゃんばっかりだったのに嫉妬してか、よくはーちゃんに突っかかってたけど……そしてボロ負けしてたけど。

 

 きーちゃんははーちゃんと違って社交的で認知度・知名度ともに高い。だから今まで以上に「嫌われ始めた」んだと思う――まあ、もう今更なんだけどね。多分、もう関係は修復できないよ。あ、私たちの関係じゃなくて、あの二人の関係。多分あれは一生治らないんじゃないかなあ~……。まあはーちゃんが面白がってからかって弄んでる節もあるんだよね。それにきーちゃんは気づかないで琴線に触れて喧嘩になって……のエンドレス無限ループって感じ、かな? あの二人は一生相容れないと思うよ。それこそ、どっちかを性格矯正でもしない限り。

 

 ……まああの二人、お互いに不器用なんですよ。いうなら子供の喧嘩ってやつ? ……あ、これ、オフレコでお願いしますね? ……フフフ、はい。分かってますって。女はみんな大人なんですよ、男と違って。

 

 

 ……最後に、「彼を一言で表すなら」? ……やっぱり、「底が知れない人」ですかね。はい、ありがとうございました。

 

 (でもやっぱりはーちゃんはきーちゃんのこと、本心では嫌ってなかったと思う。精神的嫌悪感はあったとしても、なんて。今更だよね~。本当、男の子って単純なんだから)

 

 




 とりあえず原作で名前が出た順番? 的な。ストックある人すごく羨ましい。

 原作よりもチート、ってことで身長や体重に変化が見られます。些細な違い、ということでなにとぞ……。(黄瀬より身長高くしたかったとかそんなことではない、決して)

 ……あれ? 桃井ちゃんって灰崎のことなんて呼んでたっけ?
























  以下、おまけ

 あ、私的にははーちゃんは総攻めキャラか流され・淫乱受けだと思う! 普段が不良系だから基本的に誰とのCPも合うんだよね。虹村さんは根が優しい暴君系、しかも先輩っていうおいしいオプションがついてるし、暴君×流され不良は定番じゃない? はーちゃんって何気に面倒見良いタイプだから絆されやすいし。虹村さんがドSキャラで流されるままに……ってのもありだよね! あ、でも逆もありかも。その場合虹村さんは病みそうだよなあ~――

『なあ灰崎。オレもうダメだ、我慢できねェ。なんでお前はいつもアイツら(キセキ共)といるんだ? オレよりもアイツらの方がいいのか? なあ、そうなのか? だったらオレはどうすればいい? お前をオレだけのものにしたい、お前を誰にも触らせたくない。お前の目にオレ以外を映させたくない。なあ、オレはどうすればいい? お前の両手、両足を切り取って一生逃げられないようにしようか。それとも殺してその肉ごと食べて血肉を共にしようか。ああ、お前を氷漬けにして一生閉じ込めておくのもいいか。……なあ灰崎。灰崎? 灰崎、灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎灰崎!

 オレハドウスレバオ前ヲ手ニ入レラレル?』

 ……なんて。最近ヤンデレ物が増えてきているけどBLになるなら攻めでも受けでもおいしいよね! 人によっちゃ「ヤンデレは攻め」とかってポリシー持つ人がいるけど私は基本雑食だし! ヤンデレ攻めを手玉に取る小悪魔受けもヤンデレ受けを思いっきり甘やかせる天然包容力攻めとかいい! 虹村さんがヤンデレ攻めでもリードははーちゃんが持ってると思うし、ヤンデレ受けなら気づきながらも嫉妬させた後にドロドロに甘やかしてそうだよね……あ! ヤン(キー)デレ×()ンデレCPもありかも! よし、今度はこれで一冊書こうっと! フフ腐……。

 基本バスケ部って(どこの学校もそうだけど)皆「キャラ」が確立されてるでしょ?

  赤司くん→王様
  むっくん→高身長二面性
  大ちゃん→俺様傍若無人
  ミドリン→電波系ツンデレ
  きーちゃん→モデルワンコ

 、みたいな。しかも全員美形だからもうこれは本が厚くなるってもんだよね!



 ――なんてのも考えたけどカット。腐食系女子ってことは匂わせたけどそこまで描写をする気はない。作者的にも灰崎くんは攻めでも受けでもおいしいと思う。食種を広げることって大事じゃない?



 ……今年中には完結させたいなあ……。


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IF√ 七色が浮かぶ曇空

 なんか違う感が半端じゃない。私はあまり恋愛話に向いていないのだろうか……?

 後半BL注意だょ! 苦手な方はバックプリーズ。



 ――アメリカ、某州、某所にて。

 

『――と、このように、クレアチンは、グリシン、アルギニン、S-アデノシルメチオニンから合成されることがわかる。さらにここから――』

 

 広大な教室に並ぶ数多もの学生と前に立つ教師。客観的に見れば、何ら不思議に思うことはないだろう。しかしよくよく見てみると、明らかにおかしいところがある。

 教師と生徒、本来ならば年齢的には教師の方が上のはず、しかしこの教室、ひいては大学内において、前に立っている生徒が十六歳だということに誰も疑問を抱いていない。

 

『――アミノ基を2個以上もつ直鎖の脂肪族炭化水素のことをポリアミンという。p.178の図18-6を見てくれ。そこに、クレアチン及びクレアチニンの生合成について描かれている――』

 

 と、ここで授業終了を示すチャイムが鳴った。その音に反応して、生徒の多くが筆記用具を片づけたり首を回したりする。

 

『おっと、もう時間か。君たちが静かに聞いていてくれたおかげで、予定より早く進むことができた。ありがとう、感謝するよ』

 

 笑顔で生徒に向かって挨拶する教師――本来ならば、まだ少年と呼ぶべき年齢であろう人物。しかし生徒の方は苦笑いである。その理由とは――

 

『その親切心に答えて宿題だ。教科書p.175-183 の内容を、レポート用紙に纏めてくること。いつも通りボールペン書きで頼むよ。提出は一週間後に。それでは、授業は終了だ。お疲れ様』

 

 ――笑顔で鬼畜な量のレポート提出を命じるからだ。期限はギリギリ、他の教科から出る宿題も考えると、今から手を付けないと間に合わないかもしれない。

 しかし、アルバイトをしている生徒でもギリギリ間に合う量を出してくるあたり、青年も人の子といえるだろう。彼はそのあたりの裁量がとてもうまいのだ。

 See you again. と流暢な英語で締めくくった彼のもとに、質問を抱えた生徒たちが殺到する。これもいつものことだ、大学内において、彼が教授をしている科目ほど人気なものはない。

 艶やかな銀髪に逞しく堂々たる体躯、しかし若々しい外見に似合わず詰め込まれた膨大な知識量に、教授陣も唸るほどの思考力、そして極めつけはその実績である。

 

『教授! あの、この図のグリコシアミンについて質問が!』

『教授。前回のレポートについて少々疑問があるのですが』

『教授ー! 板書のことなんだけどよ』

 

 あちこちから教授(プロフェッサー)と呼ばれて、あっという間に囲まれてしまった青年。そのすべてに丁寧な断りを入れながらも、今日は用事があることを言い聞かせる。

 

『すまないね。今日はマサツーセッチュ医科大学の方で会合があるんだ。質問はまた、後日で頼むよ。もしくは、いつも通り、メールでね』

 

 軽やかにウインクを残して去っていく青年に、生徒たちは顔を赤らめてほうっ、と溜息をついていた。

 

『やっぱり、教授はカッコいいわねえ』

ウインク(ああいうこと)をサラリとやってのける男性って、尊敬するわ』

『やっぱ教授スゲーなあ』

『会合ってなんのだったっけ? 誰か聞いた?』

『あ、オレ知ってる。確か、ノーベル――』

 

 

 

 

 ――会合を終えた青年は、そのあとの食事会の誘いを「すみません、今日は先約が」と断り、まだ日が沈んで間もない時間に帰ってきた。

 扉を開けると薄暗い室内が目に入る。同居人はまだ帰っていないようだ。携帯電話を取り出してみると、メールが受信を告げていた。

 

《悪イ。今日は8時頃になりそう。出来れば、晩飯作ってくれ》

 

 今から考えると、およそ一時間半。買い物に行ってからでも造る時間は十分にあるだろう。そう考えた青年は、室内に入って自室で着替えると、ラフな格好で再び玄関から外に出る。

 

 今日のメニューは何にしようかを考えながら。

 

 

 

 

「ただいまー」

「お帰り、虹村サン」

「おう、灰崎。悪いな、今日は……おっ! 炒飯か!?」

「いいって、別に。……まあな、ちょうど卵が安かったし、この間届いた米もそろそろ使い切りたかったし」

「っしゃあ! 頑張ってきたかいがあったぜ」

「もうすぐできるから、とっとと着替えてこい」

「おう!」

 

 同居人、もとい青年――灰崎祥吾の中学時代の先輩である虹村修造がマッハで着替えようと自室に走るのを見て灰崎は苦笑を禁じ得ない。まったく、中学時代はあんなに凶暴な暴君だったのに、なぜ今ではあのような子供っぽさが窺えるのか。数分後、着替えや手洗いを済ませて椅子に座った修造は、目を輝かせながら、目の前の料理をかきこみ始めた。その様子にまた笑いながらも、灰崎も食事の手を再開する。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 灰崎が帝光中を卒業してからおよそ一年と半年後の現在、彼はアメリカのマサツーセッチュ医科大学に留学していた。それというのも、帝光中を卒業した二日後に全世界に緊急速報として発表された――正確にはされてしまった(・・・・・・・)のだが――ある一つの論文が世界を震撼させたことに始まる。

 

 

『正しい超人の造り方』

 

 そんなふざけたとしか思えないタイトルで発表された論文だが、少しでもその分野に携わったものならば、読んだだけで目を見開くだろう。今まで理論上、空想上、机上でしかなかった形のないモノを実践、証明して見せたのだ。数多ものスポーツ選手、医者を始めとした誰も歓喜したのも無理はないといえる。

 

 筋肉量増加、骨密度上昇、脳内伝達物質の意識操作、脂肪燃焼の促進、骨盤改善などなど。既存の理論改善から臨床医学の応用までをわかりやすくまとめ、また、まだ可能性段階の仮説の実証実験(・・・・・・・・・・・・・・・)、およびその結果(・・・・・・・)未発見物質の確認・証明(・・・・・・・・・・・)なども記載されていた――羅列された内容だけで時代が変わるとまで言われた論文である。

 

 それだけならまだしも、その――現在では『悪魔の論文』とも言われている――作成者。

 

 ――――それが、まだ中学校を卒業したばかりの、十五歳の少年だということが話題と問題を同時に呼び寄せた。

 

 もう分かるだろう、『悪魔の論文』を書いた少年、それこそが、帝光中時代、『強奪の悪魔』とも呼ばれた――灰崎祥吾なのである。

 

 書いていた人間がまだ少年ということもあり、また、少年と共同発表者の名前として「AIDA Kagetora」の文字もあったことから、表向きは彼の成果ということになっている。しかし、相田影虎本人にインタビューを仕掛けたところ、

 

『あの論文は灰崎(アイツ)のモンだ! 俺なんかが名前を並べていい存在じゃねえ!』

 

と豪語したことから、一気に灰崎祥吾()の名前が広がってしまった。マスコミも世間の目も、「わずか十五・六歳の日本の少年が名誉ある賞を受け取る」ということに、一気に注目した――それも、『全中三連覇』が霞むほどに。

 

 日本のとある高校を受験した灰崎だが、その願書を送った高校が狂乱するほどに名が売れてしまった灰崎は、「授業および授業料免除」に始まり、様々(あからさま)な『依怙贔屓』を受けてしまった。……無論、権利であって義務ではないそれは、学生生活を楽しもうとしていた灰崎にとってなんら意味をなさなかったのだが。

 

 ――それでも、やはり。ノーベル賞を獲った天才少年なんか(・・・)たかが(・・・)一般高校に通うのをよく思わない輩も多く。入学式からおよそ一週間後、下駄箱に入っていた手紙には一文が添えられていた。

 

 《放課後 校舎裏》

「…………よし、」

 

 それを読んだ灰崎は、すぐに制服に入れていた携帯を取り出して、どこかに連絡する。その口調と表情から察するに、随分と親しい相手と推測できる。

 

「……ああ。まあ、元々長居するつもりはなかったし。ちょうど言いんじゃねえ?」

『――! …… ……?』

「そう。ついでにもう高校(ガッコウ)やめるし。もういいかなって」

『………―― ―……?』

「いいんだよ。もう決めたんだ」

 

「俺は――アメリカに行く」

 

 

 そう言って電話を切った灰崎はその足で職員室に向かう。担任にその旨を告げると案の定ポカンとアホ面を晒したが、「お世話になりました」と頭を下げると慌てて引き留めてくる。

 

「ま、まて、灰崎! 考え直せ!」

「もう決めたんで。お世話になりました」

「いや、待て! ……と、とりあえず、校長室に来い!」

 

 そうして連れていかれた校長室だが、やっぱり同じ言葉の応酬である。やめます。いや、考え直せ。いやいや、のループ。いや、もう、いい加減にしてくれ。

 

「何度言われても、もう決めたことです」

「……そこまで言うなら、仕方がない」

 

 溜息をついた校長は、引出しから紙を一枚取り出した。そこには、「留学届」の文字が。そこから意味することは一つである。

 

「灰崎くん――君には留学という形をとってもらう」

 

 

 そんなこんなで入学からわずか一カ月でアメリカに留学してきた灰崎は、下宿先に悩んでいるところをとある人物に発見された。

 

『……Oh()? What are you doing(アンタ、何やってんだ)?』

Ah(あー、と)……,あれ、どっかで……」

「何だ、日本人か?」

 

 そこにいたのは、眼鏡をかけた金髪ロングの巨乳美女ことアレクサンドラ=ガルシアであった。

 

 氷室辰也と火神大我、二人と同じ日本人ということもあり、またバスケをするのに向き過ぎている体格からもすぐに仲良くなった彼女は、下宿先のことを話すと「だったら、私のところに来いよ!」なんて言ってくれた。が、考えても見てほしい。

 

 見た目高校生以上にしか見えない中学生(中身は三十代後半)と、見た目も中身も極上のキス魔の気がある巨乳美女。……R-18的展開しか考えられない。年頃の男子とまだうら若き乙女が一つ屋根の元で一緒に暮らす……だめだ、絶対にダメだ。

 

 そう考えた灰崎が断ろうと口を開きかけた――瞬間、頭を強く叩かれた。

 

「――ダアッ!?」

「何やってんだ、ゴラ。灰崎!」

「……虹村さん?」

 

 …………最低最悪な再会であった。

 

 

 

   *   *   *

 

 

「――、つーわけで、最近なんとか回復に向かってきたって感じかな」

「良かった。虹村サンのお父さんにも応用できたんだな、あの方法」

「ああ。――本当、お前には感謝しかねえよ。ありがとうな、灰崎」

 

 灰崎がアメリカに来た、今から一年前のことである。虹村修造の父がアメリカ(コチラ)の病院に移されて経つが、あまり回復に向かっていなかった。手術は成功したのだが、如何せん体への負荷が大きすぎたせいか、以前にも増して寝たきりの生活を強いられていた。

 そんなときに発表されたあの論文。在学時代からその悪名を轟かせていた灰崎の名前を見つけた時、虹村修造は一抹の不安はあったものの、内容を四苦八苦しながら読み解いた。国際的に発表されているせいか原文は英語だ。英語が苦手な虹村にとっては鬼門であったが、少しでも可能性があるなら、と頑張って翻訳した。そうして書かれている病名の中には、まさに彼の父親が罹っている病気と同じものがあったのだ。――そして、その最善の回復方法も。

 

 まさか、と思った。確かに、父の病気のことを灰崎には話したような覚えがある――というか、溢した記憶はある気がする。しかしまさか、その症状から病名を当てるようなことをできるのだろうか。いくらあの鬼才の灰崎であっても……と、そこまで考えて、虹村は頭を振った。そうだ、誰でもいいのだ。今は、この状況さえ打破できるのならば。

 

 ――まさか、その数か月後にその後輩がやってくるとは思いもしなかったが。後ろ姿を見た瞬間に、思わず蹴り飛ばした自分は悪くない。

 

「……にしても、灰崎がノーベル賞ねえ……。あの灰崎がねえ……」

「どのことを言っているのかは知らねえけどよ、俺は変わらず俺だぜ」

「それは分かってる。その減らず口も相変わらずだ」

 

 ははは……、と笑いあう二人。しかし、その後は全く会話がなく、二人とも黙々と食事を再開する。話すことがないのではなく、お互いに言いたいことがあるのに、言えない、そんな状況である。

 

「「……あー、……」」

 

 同時に話そうとしたかと思えば、再び落ちる沈黙。何回か口を開いて、閉じるを繰り返していたが、意を決したのか膝を叩いた虹村がキッ、と灰崎の目を見る。

 

「……なあ、灰崎」

「……何ですか、虹村サン」

「……俺たちさあ、…………結構一緒に居る、よ、な?」

「……まあ、そうですね」

「……だったらさ……、ああ、もう!」

 

 激昂して机を叩いたかと思うと、次に自分の頬を両手で叩いた。そして、灰崎に人差し指を突きつけたかと思うと、

 

「灰崎! お前、俺のこと、名前で呼べ!」

 

そう宣った。

 

「…………」

 

 さて、どうしようか。普通に呼んでも構わないのだが、若干顔を赤らめている様子を見ると、自分でも相当に恥ずかしいのだろうということがわかる。かくいう自分も、若干顔が熱いのがわかる。

 

「……シュウちゃん?」

「……殺されてえのか、テメエ」

「修造?」

「……まあ、それでいいか――祥吾」

 

 からかってみると修羅が見えたので慌てて言い直すと、ニヒルな笑みとともに返された。全く、この先輩には敵わない。

 

 

 ――それから数年後、お互いの左手薬指に揃いのペアリングが嵌まることになろうとは――この時は二人とも知らなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数か月後のこと。

 

「祥吾」

「ん」

 

 ある昼のとあるレストランにて。修造がミネストローネを飲んでいると、ふと灰崎を呼んだ。それに対して灰崎は、自分の手の届く範囲にあったドレッシングを取り渡すことで答える。

 

 少し後。

 

「修造」

「ホラ」

 

 今度は灰崎が虹村を呼ぶ。それを聞いた虹村は、自分の横にあった紙ナフキンを手に取り、灰崎の方に寄せる。

 

 それを見ていたウェイトレスが口を引き攣らせた。お互いの名前しか口に出していないにもかかわらず、それぞれの望みを正確に読み取る図のせいであろう。

 同性愛にはそれなりに寛容で、数年前に同性結婚法が施行され始めた、比較的スキンシップが過激なアメリカでもあまり見ない。いくら寛容になったとはいえ、大衆の面前でする行為ではない。

 

 にもかかわらず、目の前の二人は仲睦まじい夫婦を演じている。しかし彼らの指を確認しても指輪が見られないことから、まだ二人はその関係にまでいっていないのだろうと考える。

 

「……で? 久しぶりに帰ろうって?」

「ああ。この間、ストバスであった二人に言われたんだ」

 

 

『ッハ、どーせお前みたいなバスケできるサルがうじゃうじゃいンだろォ? ちょーどいいや。全員遊んでヤるよ』

『面白そうだな。どこまで足掻くのか見てみたい』

 

 

「…………とても面白そうなセリフじゃねえか。バスケできるサルだァ? ふざけてんじゃねェぞ!」

「……まあ、俺には勝てないんだろうけどな。でも、それなりにはやると思うよ」

 

 数日前、いきなり夢枕に立ったとあるチャラ男が、自分の脳内に勝手にインストールしていったデータを思い出しながら灰崎は答える。

 ジェイソン・シルバーとナッシュ・ゴールド・Jr 。元WC決勝出場校の選手を軽々と叩き潰し、キセキの世代である彼らと互角に渡り合える存在――――海外の、キセキの世代(クラス)の化け物。

 もしかしたら(・・・・・・)、チート保持者の俺ともいい勝負ができるかもしれない。そんな気持ちを胸に隠し、上等だゴラア! と吠えている虹村を笑いながら眺める。

 

「じゃあ、行く方向で決めていいんだよな」

「当ったり前だ! ンな事いわれて黙ってる方がおかしいだろうが!」

 

 うがー、と怒り心頭に発している様子を見て苦笑しつつレタスを食べる。記憶の会話からして、夏のIHは終了しているだろう。ついでに見てもいい気もするが、久しぶりだし家でもゆっくりしたい。

 

 とりあえずは、まあ。二人っきりの今の時間を楽しもうか。彼らに会うのはそれからでいい。どうせ、向こうでは嫌というほど会話をするのだから。

 

 まだ見ぬ彼らに向かって怒りをあらわにしている虹村を温かい目で見つつ、灰崎をレタスにフォークを突き刺した。

 

 

 ――金と銀、そしてイレギュラーな灰と虹。彼らが邂逅するまで、あと――――

 

 

 




 ナチュラルな夫夫を書こうとしたら、ありきたりな「こそあど言葉で通じ合える」しか出てこなかった私。語彙力少なくて救えねえ……。虹灰か灰虹かは不明。どちらにも取れるように。
 虹村さんが行ったのはLA(ロサンゼルス)だけど、二人は同棲してると萌える。灰崎が白衣姿とか燃える。できれば後ろで紙を無造作にくくっているとなお良し。……いいじゃないか、灰崎に夢見たって。


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case.2 キャラの父親の場合
第0Q ……お前本当に人間か?


 半年ぶりぐらいでしょうか。お久しぶりです。

 短編で投稿してあるのと99.9999%同じものです。若干語尾を変更していたり。灰崎くんでなくてすみません。彼には彼なりの事情があるのです。←

 シリーズ化が難しそうなので一つにまとめてみました。この話を入れたのには当然理由がありますよ。続き(的なもの)はサンタさんが持ってきてくれるかも……?

 短編は短編で置いておく予定。ですが、ある条件(・・・・)が満たされると消去する予定です。ご了承ください。



 2014年12月5日 追記
 発売されたファンブックにて、ようやく監督たち親父世代の年齢が明かされました。それに伴い、本文を適当に修正させていただきましたことを報告します。言葉使いが荒い点については申し訳ありません。


 俺の状況を分かりやすく、簡潔に説明しよう。

 

 

 銀行に行ってお金をおろす

  ↓

 いざ帰ろうとしたら銀行強盗が乱入

  ↓

 勇敢(笑)な高校生が「止めろ! そんなことを(ry」

  ↓

 強盗が周りに銃乱射

  ↓

 俺氏含め銀行内にいたほとんど全員弾に当たり死亡

  ↓

 神「可哀想だから全員転生させよう!」

  ↓

 神からの説明←イマココ!

 

 

 ……こんなバカな死因があるだろうか。しかも話を聞くとその勇敢(笑)な高校生は生き延びて悲劇の勇者的扱いをされているらしい。絶対恨む。末代まで祟ってやる。

 

 

『よし、んじゃあそろそろいいかな?』

「……はあ」

『転生先はとりあえず皆バラバラに分けているけど、全員その世界の「原作」は最低でも一部は頭に入っているから……まあ大丈夫なんじゃないかな』

「え? 二次元なのですか?」

『あ、うん、そう。俗に言う「転生トリップ」』

 

 何ということでしょう。え、俺二次元で生まれ変わるの? ……妻や娘はどうなるの?

 

『とりあえず……あの高校生に運命を狂わされた者とその関係者は、全員これから先に永遠の幸福が約束されている。君の家族も例に漏れず、君が死んだということを抱えながらも幸せに生きていくはずだ』

「……そうですか」

 

 ……どうなるかは分からないがせめて俺のいないところでも幸せに生きてもらいたい。ああ、娘の結婚式で涙を流すのが夢だったのだけどなあ……。

 

『さて、君の行く世界は週刊少年ジャンプで絶賛連載中の漫画の一つだ。アニメ化され、第二期の放送も終わった――』

「『黒子のバスケ』ですか」

『正解!』

 

 確かに毎週同僚に貰って読んではいた。でもまだ最終回はされてなかったよな。

 

『一応君が行くのは「黒バス」のパラレルワールドだ。どんなに原作を壊しても構わないし、キャラと恋愛してもらってもいい。何をどうするかは完全に自由だよ』

「……何か特典はあるのですか?」

 

 俺も若いころは創作小説を書いたものだ。懐かしいなあ……お気に入り登録者数三桁いった喜びは今でも忘れられない。

 

『こちらのミス……厳密には違うけど、あの高校生が生まれたのはこちらの責任でもある。だからそのお詫び的なものはあるかな。全部は言わないけど「全員に何かしらの恩恵はある」とだけ言っておくよ。……僕様が言えるのはこれくらいかな』

「分かりました、ありがとうございます」

『いってらっしゃい。第二の人生を楽しんで』

 

 ――こうして俺は転生した。

 

 

 

 

「今夜のミュージックレボリューション、ゲストは――あの、鷹岡(たかおか) (いち)さんです! 鷹岡さん、よろしくお願いします!」

「お願いします」

 

≪キャーー!!≫

 

 司会者の後に一礼すると途端に湧き起こる黄色い声。その声に気分を良くしながらニッコリ笑う――と、余計に声が大きくなった。

 

 

鷹岡壱。今やその名を知らぬものはほとんどいないとまで言われるトップアーティスト。数十年前に彗星のように現れた彼は、その顔とトーク力、歌唱能力と身体能力でわずか一週間にしてアイドル界のトップにまで躍り出てしまった。一人で作詞と作曲を手掛け、初回アルバムは一時間で完売。その後も数々のバラエティに出演したり、ドラマに映画を務めたりと二十年以上たった今でも人気は留まるところを知らず、老若男女誰からも愛されている世界最高峰の人物である――

 

 

 

 ――まあそれが今の俺。Googleで検索してみ? ヒット数ヤバいから。俺もこの間ふと気になって検索してみたら目が飛び出たね。なんだよ「検索数八百二十万件」って。

 

 俺の転生特典は「顔」と「身体」、そして「アイドルとしての才能」だったようだ。まあこれは俺が勝手に思っているだけだけど。この世界に生まれた俺が現状を把握した時にはもうレールが敷かれていたといってもいいだろう。なんだよ、この美貌。まだ赤ん坊にもかかわらず黒い艶のあるサラサラのストレートヘアに黒水晶を埋め込んだかのような輝かしい瞳、ツンと高めの鼻に艶めかしい桃色の唇、左目に一つある泣きぼくろに毛も目立たず、日焼けもしにくい白く澄んだ肌……どこをとっても「完璧」としか言いようがない美形である。いや驚いたね。両親のみならず医者や看護師まで俺見て頬を赤く染めたりこの顔をベタ褒めしたりしてくるのだぜ? はじめはお世辞かと思ったけど鏡見て納得した。これは絶対世界にも勝る美貌だ。イケメンを通り越してド美形の領域だろう。顔面偏差値上の上だ。というか特上? この顔より上の顔俺見てみたいわ。

 

 まあそんなビスクドールのような美形の中身は残念ながら俺なのだけども!

 

 でも赤ん坊からこれって将来有望だよな、絶対~とか考えた俺は外見に伴わせるために内面も磨き上げた。「美形は成績が良くないと!」と考えて家にある本を片っ端から読んで知識を詰めた。勉強なんておよそ二十年ぶりなのだからさすがに忘れているところも多々あったが、この身体凄ェ! ってくらいに吸収するわ、吸収するわ。一度見たことや聞いたことは絶対に忘れないし、忘れたいことはスパッと忘れられる、これなんてチート。

 「イケメンは運動神経も抜群だよな!」と思った俺は片っ端から体を鍛えた。サッカー・野球・バスケ・テニス・水泳……。習い事にも手を出して習字やピアノ、算盤などもう全力を尽くしたね。「転生したら本気出す」? いや人間やる気ないと転生しても本気は出せないよ、絶対。俺は外見が完璧すぎたから内面も引き上げる必要があったけど、でも、やっぱり人間頑張ればできるものだね! まあこれは転生チートの影響なのだろうけどさ。

 

 そして成長するにつれ少年らしさが消え大人の色気が出てきた俺。十歳になる前に両親から言われた。

 

一哉(かずや)、貴方、アイドルに興味はない?」

「は?」

「この間応募した読者モデルの仕事が当たったのだ。先方も『ぜひ出演してください!』って言ってくださってな」

「貴方なら絶対に大丈夫だと思うの」

「……」

 

 いや俺もそう思いますけどね? 俺が落ちるなら他の奴どれだけ凄いのだよと思う。顔で選ぶ、とまでは言わないけど第一印象で決まるのが読モだ。俺ほどの顔ならまず間違いなく落ちることはない。趣味や特技も……まあ、うん、物は言いようだしね。何とかなるだろう。

 

「……俺、やってみる」

 

 今思うとあれが初めての分岐点だったなあ……。

 

 

 

「……まあそんなことがあってこの世界に入ったのですよ」

「読者モデルが原点だったのですか」

「ええ、まあ。一番の原点は両親なのですけど」

 

 まあ俺でも芸能界への道は勧めるよ、自分の息子がこんな顔しているのなら。自分の息子なのに自分たちと全く似てない人形のような美貌の俺。そんな俺を気味悪がらずに育ててくれた両親に、恩を返したいと思ったからこの世界に入ろうと思ったきっかけだったね。

 

 

 芸能界に足を踏み入れた俺は瞬く間に上り詰めた。まあ俺のこの顔と神様チートの実力を使えば怖いものは何もない。ちょっと笑うだけで性別問わずコロッと言うこと聞いてくれるって最高だね。しかも俺に好意を寄せるだけで絶対に恋愛感情を持たないっていうのがいい。ニコポ・ナデポは犯罪です。絶対にやめましょう。

 

 

 小学校途中から芸能界に入ったからか、友人とは若干離れてしまい悲しいまま入った中学校。そこで俺はようやくここが「黒子のバスケ」の世界だったと思いだした。

 

「俺、相田景虎。よろしくな!」

 

 ニッと笑った彼、原作時よりも大分若いが間違いなく誠凛高校のカントクのお父さんです、ありがとうございました。……うん、その時点で何となく想像はできていたのだ。

 

 

 そしてなし崩しのまま彼とは腐れ縁となって三年後、高校やその近所、果てには旅行先で出会った数人の少年少女たち。

 

「武内源太だ、よろしくな!」

「中谷仁亮、よろしく」

「原澤克徳と言います、よろしくお願いします」

「白金永治だ。よろしく」

「荒木雅子だ。よろしく頼む」

 

「……高尾、一哉です。よろしく……」

 

 

 マ ジ で か 。……え、いやそんなことってある? 今ってハリポタでいうところの「親世代」なわけ? いやこの場合は「親父世代」か。でもそれにしても白金監督と同世代って……! いや年齢的には結構離れているけれども。やばい、どうしよう。ちょっと嬉しい自分がいる。あ~、でも数十年後は彼ら全員監督業とかしているのか~。

 

 ……! あれ、これってチャンスじゃね? こいつらの秘密や黒歴史握るチャンスじゃね、コレ! 将来的に二次創作やピクシブであった合同合宿とかでネタになるのじゃね!?

 

 よーし、我が全力で貴様らの黒歴史集めに没頭してやろうぞ! フハハハハ……。

 

 

 

 ……まあそんな上手くいくわけないよな、とか考えながらも面白おかしく過ごした高校時代。学校行事のほとんどが芸能活動で潰れてしまったせいか彼ら以外の友人は全くできなかったが、そのお蔭というのもあり彼らとの絆は強固なものとなった。できる限り試合は見に行ったし、見られなかった場合は録画してでも見たり、そして試合が終わってすぐに「おめでとう」のサプライズ電話をしたり……あれ、これ俺が恥ずかしくなるのじゃね? 俺の黒歴史じゃね? ま、いっか。友人を見守るのは当然のことだよな!

 

 

 そして彼らが全日本の選手になったときは一緒に喜んだ。丁度撮影もなく俺も現地に一緒に行けてマネージャー的お手伝いさんしていたから感動も倍増。思わず素で涙流しそうになったわ。いや泣いてないけど。泣いたら絶対からかわれるの目に見えているし。

 

 あ、ちなみに「黒子のバスケ」の小説版第四巻カラー絵にあったあの写真、あれね、俺が撮ったの。……いやマジで。あいつらの一番の友達は俺だったってこともあるけど、やっぱりちょっとは原作にかかわりたいじゃん? バスケはお遊び程度でいいのだけどさ。お遊び程度でもそれなりにできるし……嘘です。キセキレベルの選手になれます。俳優とかやっているといやでも体は鍛えられるからその恩恵もあってとりあえず景虎たちと1 on 1していいレベルまではできる。そのお蔭かしょっちゅうバスケ部に顔出ししていたから部員や監督たちと顔なじみです。だから写真撮らせてくれたのかな。ちなみにこの後俺も一緒に入って撮ってもらいました。この写真は今でも手帳に入っている。

 

 そしてトラたちと1 on 1している最中にあいつの監督としての才能(的なもの)が目覚めたらしい……中二臭いがまあいいや。誠凛のカントクこと相田リコにあった「身体能力値が全て数値で見える」という特殊能力が、父親であるトラにも備わってしまった。そのせいというかなんというか。選手指導はもっぱらあいつがやっていたな。俺もたまに見てもらったけど、なんかバグってるらしい。

 

「……お前本当に人間か?」

 

 なんて怯えた表情されてしまった。まあこんな人間を超えたような顔していたら自分に納得がいかないのもわかるような気がする。でもそこまで言うか!? 俺結構傷ついたぞ!? だが話を聞くに、俺の身体能力値の伸びしろがおかしいらしい。キセキや火神たちのように発展途上のせいで伸びしろが見えないのじゃない。俺の場合は伸びしろが伸びる(・・・・・・・・)らしい。何よ、それ。無限に体を鍛えられるってことか? どんなチートだよ。もうこれ以上無駄な設定いらねえよ。

 

 

 高校卒業後は海外で主な活動をしていた。いわゆるあれだね。「ハリウッド映画」。大物俳優と生で会ったときは超感動ものだったわ。サイン帳の著名者が増えるわ増えるわ。まあ俺もあっちでは有名らしくて大勢の人にサイン書いたり握手したり。歌ったり演技したりで大変だった。パーティーとかもう嫌だ。礼儀作法とか堅苦しいだけじゃんか。

 

 

 そして数年後、帰国して久しぶりに行ったストバスで――彼女に出会った。

 

「はじめまして、葉山 (ともえ)です。鷹岡壱さん、お会いできて光栄です」

 

 出会った瞬間、恋に落ちた音が聞こえるとか聞こえないとか。そんなことを言った人がいたような気もするが、はっきり言おう。俺は聞いた。

 

 もうドストライクだった。好みとか仕草とかそういうことじゃなくて、本当に初めて出会った、初めて声を聞いた人だった。でも俺には分かった。「この人だ」って。そして同時に思った。「この人しかいない」って。

 

 そこからすぐに友人になり出会って半年で結婚。報道した時はどの新聞も一大トップニュースだった。「あのトップアイドル鷹岡壱、一般人女性と電撃結婚!!」みたいな。急な話だったかもしれない。でも後悔はしていない。

 

 結婚式には友人たち集めて盛大に祝った。「あの高尾がなあ~」なんて、案の定トラにはからかわれた。でも「お前ももうすぐ結婚すんだろ?」って言ってやったら一瞬で顔を真っ赤にしやがった。ザマア。俺に勝とうなんざ百年早ェんだよ。

 

 

 

 そして数年後、巴が一人の男の子を生んだ。

 

「オギャー!」

 

「巴、よくやった!」

「ええ……、ありがとう……! 一哉さん」

 

 どんな名前にしようか二人で悩んでいると、俺の父さんが言った。

 

「お前が《一哉(かずや)》なんだから、《かずなり》はどうだ」

「いいと思うわ。高尾かずなり、どんな漢字にしましょうか」

 

「…………え゛」

 

 た か お か ず な り だ と ! ?

 

 巴の母親も乗り気で名前の漢字を考えているが、俺は気が気でなかった。

 

 ……俺、もしかしてあのHSTの父親になっちゃったの!? ……だとしたらここは絶対に譲れない!

 

「……《和成》なんて、どう、かな? 平和の《和》に成功の《成》で、《和成》」

「あら、いいじゃない!」

「うむ、いいと思うぞ」

「一哉さん、私もいいと思うわ」

 

 全員の賛同を得られたのでめでたく名前は《高尾和成》になった。ああ、これからこいつは緑間を振り回すのか……。スマン、緑間。

 

 

 

 

「……さて、ではそろそろ行きましょうか。スタンバイお願いします!」

「よろしくお願いします」

 

 回想しているともう歌う時間になった。いったん退場、さーて。全力を出しますかね~。

 

 

 

《では歌っていただきましょう。鷹岡壱さんで『Be Dashman』と『Re:ぷれいず』、二曲続けてお聞きください》

 

 イヤホンから流れる曲に合わせてギターを弾きながら声を震わせる。いくら声を張っても息切れしないし、低温から重音、高音まで出せるし絶対に潰れない喉。それに俺が「心」をのせて歌うだけで客は感動せずにはいられない。気が付いたら笑っている、泣いている、故郷を思い出している、子どものころの記憶が蘇る。一種の催眠効果に近いような気もするがどうせ「俺」の実力じゃないし。神様チートは半端ないね。

 

 『Be Dashman』はロック調の曲、一方の『Re:ぷれいず』はバラード調。対極――対曲?――と言っていいこの二曲を続けて歌うのはあまり乗らないが、番組から言われているので仕方ない。出来るだけ聴衆に負担(・・)がかからないように歌おう。

 

 俺は歌には文字通り「心を乗せて」歌っている。それゆえに俺の気持ちは聞いている人にも伝わるらしく、俺のCDやアルバム全般に「長時間の視聴はお止めください」の注意書きが会社から付けられたほどに感情を揺さぶってしまう。連続で、しかも曲調が全く違う二曲を何でよりにもよって選曲したのだか。まあ理由は不明だが俺は聞いている人に向かって歌うだけだ。

 

 響け音! 嘶け雷!! ……的な?

 

 

 

 ライブが終わって控室。スマホを弄りながら届いたメールを流し読みしていると、ふと気になるメールを見つけた。

 

《From 雷獣》

 

 ……察しが良い方ならもうお気づきだろう。そう、俺の――

 

《内容 おじさんスゲー! かっこよかった! 今度生で歌いに来てくんない!? っていうか来て! 主に俺のために!!》

 

「……は?」

 

 ふとタイトルを見てみた。

 

《件名:赤司たちにバレた!》

 

「……何ィ!?」

 

 突如告げられた新事実に大声を上げるとマネージャーが驚いた。いやそれより俺のほうが驚いているのだ。

 

 あ か し た ち に バ レ た だ と ! ?

 

 転生して幾十年、どうやら俺、最大の危機らしいです。

 

 ……どうしようか。

 

 




 以下、コピペです。記憶のいい人なら編集場所がわかるかも。


  スペック
高尾(たかお) 一哉(かずや)
 身長:188cm
 体重:78kg
 誕生日:11月22日
 星座:いて座
 血液型:B型

 座右の銘:天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず
 好きな食べ物:鍋
 趣味:チートの限界調べ
 特技:歌

 転生した元一般人現逸般人。顔面偏差値は最上級とまで言われるほどのド美形。本人が内面も鍛えたがためにもっぱら強キャラになっている。中学・高校と景虎に引っ張られてなし崩しのまま腐れ縁に。そのまま親父世代全員と親しくなった。彼らが全日本の選手になった時は一緒になって喜んだほどで、その後のバラエティで彼がその時の話を興奮して語った時の顔は視聴率が四十パーセントを超えたほどである。高尾和成の実父兼(原作知識からの)名付け親。
 原作知識は小金井が実渕に反応した(いわゆるヤマネコのシーン)時まで。

 ・鷹岡(たかおか) (いち)
 高尾一哉のアナザーネーム。仕事で使うのはもっぱらこっち。顔面偏差値最上級の世界が誇るトップアーティストの一人。歌に感情を込めるとまで言われており、聞いてリアクションを取らなかった人間はいない。その凄さから会社から「長時間の視聴はお止めください」の危険タグをつけられている。既婚者。

葉山(はやま) (ともえ)→高尾巴
 葉山小太郎の実の伯母。結婚後は主に主人公の家を守る良妻賢母。昔から鷹岡のファンだった。




 ちなみに、高尾の次の日を誕生日にした結果、原澤監督と誕生日がかぶってしまった……っ!


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番外編 父なる彼の有我な日常 前篇

「ホッホッホッ。メリークリスマス! 良い子の皆にサンタさんがプレゼントを持ってきたよ」

 ……なんて。最後にクリスマスプレゼントもらったのって、いつだったか……ヤバイ。泣けてきた。

 タイトル通り前篇です。続きはいつになるだろうか……。今年中にもう一話位は更新したいですな。

 視点切り替え過多! ご注意を!




 「続かない」といったとおり、続きません。なぜならこれは番外編だから!



 

『――一位はいて座! おめでとう、友達との再会があなたに幸運を呼び寄せるかも。懐かしのあの人に連絡を取ってみよう! ラッキーアイテムはバスケットボール!』

 

「……ん~……」

 

 テレビから聞こえてくる声に耳を寄せていた男性は、ふとテーブルの上に置いてあるスマホを手に取る。そしてアドレス帳を開いて――

 

 

   ★   ★   ★

 

 

「おっはよ! 真ちゃん!」

 

 八分音符でもつきそうなほど高揚している高尾に肩を叩かれながらユニフォームに着替える。痛いのだよ。

 

「遅いのだよ、高尾。もう五分前だ」

(かて)ーこと言うなよ、真ちゃん」

 

 けらけらと笑いながらも着替える手を休めないあたりはさすがだと思うが、それでも眉間に皺が寄るのは仕方のないことだろう。

 

 

「おっはようございまーす!」

(おせ)ーんだよ、テメエら! 先輩より後に来るとかいい度胸してんな、轢くぞ!」

 

 開口一番罵倒してきた宮地先輩に目礼をしつつ――持ってきたトランプを組み立てる。

 

「…………オイ。何だ、それ」

「トランプです」

「見りゃ分かんだよ。んなこと聞いてんじゃねえ」

「あ、宮地サーン。それ、今日のかに座のラッキーアイテムっス。トランプタワー」

「……よーし、ナメてんだな? ナメてんだろ?」

 

 青筋を浮かべつつも笑顔な宮地先輩に否定しつつも作る手はやめない。……初めて作ったが、意外と難しいな。

 

 トランプの枚数はジョーカーを含めて全部で53枚、それらを使ってできるトランプタワーの最段数は5段。人事を尽くすオレに不可能はない。

 ……と、三段目まで作り上げたところでふと思い出した。宮地先輩には聞きたいことがあったのだ。

 

「先輩」

「あ゛あ゛? つかお前さっさと練習――」

「サイン入りCD、持っていませんか」

 

 今日のかに座のラッキーアイテムはトランプタワーだ。作るのには苦労するが問題はないだろう。家にもトランプくらいはある、基本娯楽は少ないが。

 しかし明日は――

 

「あ? 明日のラッキーアイテムか?」

「はい。『有名アーティストの直筆サイン入りCD』でした」

 

 あいにくとオレはテレビで見るのはニュースとおは朝くらいだ。歌番組などはほとんど見ないので、当然持っているCDはゼロ枚である。親にも尋ねてはみたものの、サイン入りはなかった。

 

「有名アーティスト? それって――」

「それって! あの(・・)鷹岡壱じゃないっすか!?」

「何途中で入ってきてんだよ、刺すぞ」

 

 ドリブル練習をしていたはずの高尾がいきなり話に加わってきたことで思わず体を仰け反らせてしまう。先輩も憎らし気に見ている。

 

「だって! あの(・・)鷹岡壱ですよ!? 『美しすぎる男性』としてギネス登録されたり販売()したCDすべてが同率売り上げトップワンだったり! どんなにつまらない原作のドラマでも彼が主演男優を務めるだけで視聴率が激増すると噂の! 老若男女どの世代からも愛される不動のNo.1アーティスト、鷹岡壱の話なんですよ!?」

「引くわ」

 

 目を血走らせてマシンガントークをかました相棒に、物理的にも精神的にも距離を取りつつも、その内容には驚いた。「万人から愛される存在」。そんなものが現実に存在するのかと考えたほどだ。

 

「……そこまで有名なのか?」

「お前知らねえの? マジで?」

 

 意外にも宮地先輩は知っているらしい。詳しく聞くと、

 

「お袋と姉さんが大ファンなんだよ。オレは男のアイドルなんて微塵も興味ねーんだけど、みゆみゆが『尊敬する人』で推していたからそこから興味は持ったな。……サイン入りCDなら確か姉さんが前抽選で当てていたような……ちょっと聞いてみるわ」

 

 と言って連絡を取り始めた。……話の節々で高尾が「アイドルじゃなくてアーティストっすよ!」とか何とか言っていたが、宮地さんは全無視だった。というか――

 

「宮地サンお姉さんいたんだ。弟いるのは知ってっけど」

「同感なのだよ」

 

 後ろを振り返るとその弟が今まさに怒鳴り声を上げていた。相変わらずあの兄弟は二人とも喧しいし言葉使いが荒い。

 

 さて。ようやく四段目が終わった。残る最後の二枚だ、人事を尽くすのだよ、オレ――と思っていると、ふと高尾が「し、真ちゃん……」と震えながら声をかけてきた。何なのだよ、一体。

 

「あ、あれ……」

 

 高尾が指差した方を見たオレも同じく固まって目を見開いた。なぜなら――

 

 

「――ああ、そうだ。風邪ひいてないか? 最近涼しくなってきたからな。冬休みはこっちに戻ってくるんだろう、楽しみにしている。……ああ、あと、この間はありがとう、おかげで助かった。後輩も喜んでいたよ。それから――」

 

 ――オレは夢でも見ているのだろうか。

 

 あの(・・)宮地先輩が。

 

 これまでかというほどに目尻を下げた笑顔で。

 

 電話の相手を気遣っている。

 

「ヤベェ。気持ち悪い……」

 

 真っ青な顔で呟いてしまった高尾に内心激しく同意する。俺たちが見たことのある彼の笑顔というものは、いつも目元に陰が差していて見た者全てを縮め上がらせるものばかりだ。そんなオレ達が、今の彼の笑顔を見て不気味に思うなという方が無理というものだろう。

 

「オイお前らとっとと練習…………って! 兄キ!」

 

 固まっているオレ達に見かねたのか件の男の弟である宮地裕也先輩が視線の先のおぞましいモノを見て大声で駆けていった。

 

「兄キ! それ姉キからの電話だろ!? オレにも替われ!」

「バッカ、誰が渡すかよ! それにオレから掛けてんだ!」

 

 いつも通りの表情に戻った宮地先輩とその弟。突然始まった兄弟喧嘩にほかの部員たちも何事かとこちらを向いてきて――あ。

 

「緑間、高尾。お前ら外周十周だ。宮地両人、お前らは練習3倍。四人とも、朝練中に終わらせるように」

 

 ……今日は厄日なのだよ……。

 

 

 

   ★   ★   ★

 

 

 朝っぱらから外周十周という鬼畜所業をやらされて帰ってきたらもう授業始まる時間ギリギリという散々な目にあわされて始まった本日。今日は真ちゃんの調子がどうも悪い。まあラッキーアイテムがトランプタワーな時点で持ち運びが不可能な状況に追い込まれているのは分かっていたのだけれど。もうボンドや接着剤でくっつければいいんじゃねえ? 形が残ってさえいれば問題はないだろうと言うと「そういう問題じゃないのだよ」と怒られた。つーか真ちゃんも、タワー造るだけなら二枚でいいじゃん、何も1デッキ丸々持ってくることはないだろうに。

 

 放課後、体育館に行く途中で、ふと今朝の事件(と言っても差支えないだろう事柄)を思い出していると同時に恐怖映像が浮かんできて慌てて頭を振り払った。ということで、道中に出会った大坪サンに聞いてみることにする。

 

「大坪サーン! お供しまッス!」

「高尾か」

 

 ちらりとこちらを一瞥してまた何事もなかったかのように歩き出す大坪サン……ちょっとは面白い反応を期待したい。真ちゃん程とは言わないにしても。まあでも、あの厳格そうな表情は滅多なことでは崩れない気もするが。

 

「朝の宮地サンのことなんスけど、」

「あれか……」

 

 話しをふるとあからさまに顔を歪められた。「あいつもアレ(・・)さえなけりゃあ……」とため息までつく始末だ。まあ気持ちは大いにわかるけれども。

 

「宮地サンにお姉さんがいたなんて話、初めて聞きました」

「ああ、お前らは知らないか。中学時代は有名だったんだがな」

 

 そういって携帯を取り出して何やら操作したかと思うと、画面をこちらに向けてきた――写真?

 

 そこには制服を着た三人の少年少女たちが写っていた。二人並んで立っている男女のうち、男の方は今よりずっと若いが大坪さんだろう、そして彼の隣にいる金髪の美少女の持っている筒のようなもので殴打されて地面に倒れているのが、金髪具合から見ても宮地サンで――え? ちょっと待って。

 

「え゛、この女の子がまさか…………」

「そのまさかだ。宮地直美、れっきとした宮地清志の双子の姉だ」

「双子!?」

 

 嘘だろ、と思わず溢してしまう。だって見えない。まだ妹や、近所の子供と言われる方が納得できる。なぜなら――

 

「だってこの子、どう見ても小学生ですよ!?」

 

 そう、制服こそ着ているが、彼女の身長は大坪先輩の腰ほどしかない。卒業式の写真のようだから時期的にはおよそ三年前、今でこそおよそ二メートルという身長はこのころだとまだ百七十後半くらいしかないらしいし。……そんな先輩の、胸と腹の間くらいしかない身長の双子って一体……?

 

「それ本人に言うと、死ぬぞ? 三重の意味で」

「三重?」

「まず本人に殺されて、その後運よく生き残ったとしても宮地――ああ、弟二人に殺される。それこそ、息の根が止まるまでな」

「あー……」

 

 宮地兄は言わずもがなだし、あの反応から見るに、弟の方も相当なシスター・コンプレックスを患っていそうだ。

 

「でもこれ、三年前の写真じゃないっすか?」

「…………そうだな。ちなみに先日本人から電話が来たんだが……」

「だが?」

「『女性の価値は見た目じゃないよね! ちょっと、ちょっと小柄の方が「守ってあげたい」オーラ出しているよね!』と、言っていた――――泣きながら」

 

 あ。

 

 察してしまった。

 

 オレはすべてを理解した。

 

「そのせいで中学時代は良い意味でも悪い意味でも有名だったんだ。この容姿だからな。告白されることも少なくなかったんだが――」

「弟たちもそうですけど、外聞的にですよね」

「ああ」

 

 好きで告白して付き合う、のは別に問題ないだろう。当人たちが納得しているのであれば、それは微笑ましいカップルになるはずだ――――通常ならば。

 

 しかし、彼女を恋人にした場合、まず間違いなくその彼氏のあだ名は「ロリコン」になるだろう。遊園地で仲睦まじく手をつないでデート、という光景も、傍から見ると、『高校生ぐらいの男が幼女の手を引いて様々な食べ物を買い与え遊園地のアトラクションに乗っている』となってしまう。被りたくもない汚名を着せられることになるのだ。なにその援助交際(エンコー)ェ……。

 

 そこでオレはふと思い至った。なぜそこまでの存在を今まで気づかなかったのだろうか。

 

「…………弟二人がアレ(・・)だからなあ……。アイツは中学卒業すると同時に親戚のいる地方に行ったんだ――もちろん、弟たちには黙ってな。今は別の高校に行っているんだと」

 

 それに気づいた宮地――この場合は、兄である清志サンの方だ――が、入学式に大暴れしたらしい。それを大坪サンが直美サンにこっそり知らせたところ、

 

 

 ***

 

 From ストッパー

 

 あ、じゃあ、やっぱりしばらく帰るの止めとくわ。

 

 あとヨロ (人°∀° ) ♡

 

 ***

 

 

 と、返信が来たらしい…………さすがにそこまでは宮地兄には教えなかったそうだが。

 

 

 

 ――――と、そこで、ちょうど体育館に着いた。大坪サンと一緒に部室に入ると、物珍しげに真ちゃんが目を見張る。

 

「意外なのだよ。高尾と大坪先輩が一緒だなんて」

「真ちゃん酷いー!」

「うっせえよ、高尾! 刺すぞ!」

 

 

 真ちゃんをからかい宮地先輩に怒鳴られつつ着替えて部室から出る。しばらく練習していると監督が来、いつも通りミーティングをしてから練習を再開するはず、だった。

 

「――あと、今日の練習には特別コーチを呼んである。入ってくれ」

 

 その言葉を聞いたオレの全身になぜか鳥肌が立った。あれ、今日おは朝何位だったっけ……?

 

 ――そして聞こえてきた声と見えた顔に、オレは今すぐに気絶したくなった。

 

 




「む? 投稿してから六時間以内で見られただと? 今はもう、もしくはまだ、寝ている時間じゃないのかね? 良い子の皆。……まさか! 君は良い子じゃないというのかね!? それはいかんな。そんな君には――」

「この私! サンタクロがプレゼントだ! 喰らえ! 千載一遇の聖夜(プレジ エンド)!」
『ぐわああぁぁぁぁ……!』


 ……お目汚し失礼。今年はほとんど更新できなかった……。なお、質問は一切受け付けません。ファンブック第二弾を読んだ方なら答えは分かるので。読み返して思ったけど、主人公がほとんど出ていないという罠。


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番外編 父なる彼の有我な日常 後篇

 続きー。

 10時までに投稿するはずが爆睡……久しぶりだ、こんなの。


 ――仮に今の俺の気持ちを、記号や文字を用いて表すとこうなるだろう。1.2.3。

 

『ヤwwベwwエww。高尾メッチャ驚いとるwwww。ワロスwwww』

 

 ……そんな感情をおくびにも出さず、「自分が出来うる限りの最高の愛想笑い」をしながら自己紹介してみる。

 

「鷹岡壱です。秀徳高校監督 中谷仁亮とは学生時代からの……友人? チームメイト? 悪友? みたいなもので、今日はその伝手でこの学校に見学、指導させてもらいに来ました。経験者ではありますが、選手というよりもむしろマネに近かったので、お手柔らかにお願いします」

『…………』

 

 全員、口をポカーンとあほみたいに開けて固まっている。うん、こうなるって思ってたし分かってた! 俺も多分同じ反応するし、君たちの立場だと。

 

「……オイ。ニヤニヤするな」

 

 内心で悶えていたらマー坊に窘められた。すごいね、よく気づくね、俺のニヤケ顔。

 

「失礼な奴だな。この類稀なる美しさを誇る顔に」

「このナルシストが。相変わらず自分の顔が大好きな奴だ」

「『絶世の美形』(って設定)らしいし? それに俺、忘れてねえぞ? 初対面で俺の顔見て顔真っ赤に染めた後大声で叫んで気絶した奴だーれだ?」

「……悪かった。オレが悪かったから!」

 

 ガラにもなく焦っているのを見て驚いているバスケ部員たち。プークスクス。まあ、大声で「愛を」叫んでって言わなかった俺マジ紳士。テープに録ってたりもするけど、それはまた数十年後の思い出にでもしまっておいてやろう。せいぜい悶え後悔しやがれ。

 

 

 ――そして一方で。生まれた時から見慣れているせいで立ち直りが一番早かったバカ息子が、今にも泣きそうなほど目を潤ませて顔を羞恥の所為か真っ赤に染めて、詰め寄ってきた。

 

「~~ッ! 何でいるんだよ!」

「お前、話聞いてた? オレ監督とオトモダチ、だから久しぶりに会いに来た、マー坊にコーチするよう言われた、イマココ。OK?」

「そこまでカントク言ってねえし!」

「聞いてんじゃん」

「~~~~~~ッ! こンの――――バカ親父!!」

 

 普段の姿からは見ることのない高尾の姿に驚いているのかはたまた俺の美貌に固まっているのかは知らないが、未だに回復から立ち直らないメンバーが、高尾のこの言葉で石化した。

 

「違うだろう? 心の底から御父様と敬いなさい。なんなら、メイド服プラス猫耳・尻尾プラス上目づかい・涙目のオプション付きでもいいぞ? ん?」

 

 いつかの超チートインフレキャラと転生させたチャラ男神を足して二乗したレベルでからかうと目に見えて怒りが増す。ああ、楽しい。今俺、史上稀に見るゲス顔しているんじゃねえ? もしくは変態親父顔。後者は否定しないけど。だって高尾可愛い……あ、俺も今は「高尾」か。

 

『親父!?』

「はい。改めまして。鷹岡壱こと高尾一哉です。いつもバカ息子がお世話になっています」

 

 若干眉を下げて「申し訳ありません」という顔をすると、途端に焦った顔になる部員たち。それでも、共学に目をかっ開いていることに変わりはない。マー坊も苗字からもしやとは思ってはいたが、さすがにそうと確信に至りはしなかったのか、目を見開いている。……フッ、さすが俺(の顔)。憂い顔は武器の一つだ。まあ、どんな顔でも凶器なのだけれども。顔面凶器とはまさにこのことである。良い意味かつ悪い意味で。

 

「もう帰りたい……」

 

 はっはっはっ。それは無理というものだよ、和成(ワトソン)君。

 

 

 そして始まった練習。さすがというかやっぱりと言うべきか、始まる前はあんなに「gdgd」だったのにいざ始まるとキッチリするね。これも秀徳高校ゆえか。とりあえずいつも通りの基礎練(からの)試合(ゲーム)の流れをいつもより短めにして見せてもらった、が。

 

「……キセキの世代ってマジキチートなんだな」

「お前も似たようなモンだったろうが。この『魔王』が」

「……人の黒歴史、蒸し返さないでくれる?」

 

 

 試合でラフプレーをしたり試合前後に奇襲をかけて棄権させたりという手段を用いる、いわゆる「卑怯な手段を用いる輩」。そういう奴らの超恥ずかしいプライベートな情報を偶然(・・)大声で口を滑らせてしまったりたまたま(・・・・)こけて写真をばらまいてしまったりうっかり(・・・・)彼らの学校や親に連絡してしまっただけなのに。そしてついたあだ名が「魔王」。はい、間違いなく黒歴史新聞のトップニュースを飾りました。別にいいじゃないか、俺はまだ健全なほうだったよ。大学で出会った(しょー)ちゃんとか(まこ)ちゃんとかの方がよっぽどゲスいと思うよ。俺はまだ健全に常識はあると自負している。

 

 しかし、こう見ると――

 

「やっぱりミドリンがネックになってくるよねえ」

「その考えには同意する。ところでなぜいきなりウチのエースをあだ名呼びしたんだ」

「公式ネームだよ?」

「は?」

 

 ただし、桃井の、という枕詞がつくが。紫原の「ミドチン」じゃないだけまだマシと思うけど。あれ、イントネーション変えるだけで外では絶対に言えなくなるからね。

 

「やっぱりワンマンプレーが目立つよね……スキルが特出しているから仕方ないっちゃあ、仕方ないのだけど」

 

 他のレギュラーのスキルも決して低くはない。低くはないが、それどまりだ。やはり「キセキの世代」という本物の天才には敵わない。一方で緑間は、お得意のシュート力は置いておくとして、ドリブルのキレやパス回しのスムーズさにやはりムラがある……まあそれは本人が原因でもあるが。

 

 強豪校の帝光中出身とはいえ、彼はまだ数か月前までは中学生だった。例え中学生にいては異常な身長を見せていたり、コートのハーフコート以上からの驚異的シュート力を見せていたとしても、まだ入学して間もない一年生なのだ。一方でレギュラーメンバーは全員高校三年生。スキルの高さの違いを経験値で補いつつある彼らとは、緑間は圧倒的に練習量と試合数が違う。それがお互いに足を引っ張っているから、このような状況が生まれているのだ。一言でいうと「中途半端」だ。

 

「惜しいね。緑間に足りないのは協調性かな」

「それは分かっている。そのために相棒はいるんだ」

「相棒、ね」

 

 相棒――高尾和成。俺の愛すべき息子。父親としては溺愛していると言ってもいい、が、コーチとしては厳しい目で見させてもらおう。一応全日本のマネージャー()だったわけだし。

 

「個人としてのスキルは決して低くはない。鷹の目なんてある種のチートスキル持ちだし、それぞれのポテンシャルも高い。だが、それでもメンバー内で最弱なのには変わりないな」

 

 鷹の目を持っているというアドバンテージはあるというものの、それどまりだと言ってもいい。身体能力を始めとした能力値は先輩に一歩及ばず、P(ポイント)G(ガード)としてもまだまだ未熟だと言えるだろう。

 

 P(ポイント)G(ガード)に要求されるのは広い視野とゲームメイク能力である。広い視野は目でクリアしている。しかし。

 バスケ歴はキセキと同等の十数年ではあるが、その個体能力値と経験の差から、まだ試合をうまく運ぶことができないのだ。まだ一年ということもあるが、それはプロの世界では言い訳にならない。勝者に求められるのは、年上でも捻じ伏せられる力なのだ。高尾にはそれがない――まあ、これからもそんなものは持てないだろうが。

 

「アイツは俺とは違う――秀才なんだよ、せいぜいがな」

 

 神様チートの俺とは違い、高尾は生まれ持った能力が違う。アイツの力はアイツが自分で手に入れたものだ。例え俺と1 on 1するたびに「ぜってー親父超えてやる!」なんて言われたとしても無理なのだ。秀才は天才に勝てない。その天才でも化け物には敵わない。

 

 秀才(バカ息子)化け物()に立ち向かう方が馬鹿らしいのだ。

 

「……なんだかんだで、お前も父親なんだな」

「どこをどう捉えてそんな結論に至ったのかさっぱり分からないのだが」

 

 今そんな話してたっけ? 高尾がまだ未熟だって話じゃなかった?

 

「違うのか? 未だに『遊んでくれー』と言って寄ってくる息子を大人げなくボロカスにした話だったろ」

「違うからな!?」

 

 人聞き悪いことを言うな!

 

 

   ★   ★   ★

 

 

 なんか超の付く有名人が現れたかと思うとそれが監督の知り合いで、おまけにチャリアを引く方のゲラの父親だったと判明して驚いて。今日一日で何回叫んだかってくらいに喉が痛い。くそ、朝は気分が良かったのによ。

 

 まあでも、そんな有名人に練習を見てもらえたのはよかったとは思う。

 

「カズくんはドリブルの切り替えが遅いね。両手・両足にパワーアンクルつけながら往復二十回練習。両手と交互とランダムね。それから――」

「カズくん言うな! つかお前、そんな呼び方したこと、今までに一度もねーだろ!」

 

「緑間くんはシュートの貯めが長い。せっかくいい武器持ってんだから、それは有効に使わなきゃね。君も両手に重りつけながらのシュート錬。それに加えて、五回に一回は目をつむってやってみようか。空間把握が勝敗を分けるだろうし」

「……承知したのだよ」

 

「大坪くんは、全体的に見て実力が万遍なく伸びているね。その調子で頑張ってくれて大丈夫だ。ただ、もう少しその体格を理解しようか。筋肉の付き方も問題ないんだから、リバウンドやダンクの正確さ、もっと上げられるはずだよ。プレイの豪快さもいい。あと、周りと自分の違いをよく知っておくこと」

「分かりました」

 

「宮地くんもまあオッケー。ドリブルが得意そうだし力強いから、腕の筋力もっと上げた方がいいね。今よりずっと少ない力でプレーできるはずだ……参考にしている選手がいるみたいだけど、その人と自分が決定的に違う点を見つけられたら、爆発的に伸びると思う」

「……はい」

 

「木村くんは――ダンクが苦手っぽいね。踏み込みが甘いせいだけど、無理して伸ばせとは言わないよ。ただ、シャトルランを続けるといい。踏み込みが変わるだけで、切り替えも早くなるから。下半身を重点的に伸ばすと、今までよりはスムーズに動けるはずだ」

「うっ、……すみません」

 

 

 たった数分見ただけでオレの目標としている人がばれてしまった。「今度会わせてあげるね」と、こっそり言われたが、できればみゆみゆに会わせてほしい。握手したい。サイン欲しい。

 そう思っているのがばれたのかは知らないが、苦笑交じりに「事務所が違うからね」と言われてしまった。何だよあの人、エスパー?

 

 

「――そこまで!」

『――ハッ!』

 

 いつもとは違う環境でやっていたせいか緊張もあったのだろう、オレを含めて皆疲れ果てているようだ。特に高尾。アイツ、扱かれまくってた。

 

「とりあえず俺のアドバイスはさっき言ったとおりだけど、それで練習してみてどうだった? まあ、短時間で何かを得るってことはほとんどないだろうし、ポッと出の俺なんかに指導されたところで、むしろ『余計なお世話だ』『いい迷惑だ』と感じる奴もいるかもしれない。ただ、これだけは覚えてもらいたい」

 

 そこで一回区切ると、全員を見回してから言った。

 

「俺はバスケが好きだ。そして、秀徳が好きだ――まあこれは、元チームメイトと息子がいるからなんだが――そして、俺はお前らも好きだ」

 

 だから安心しろ。そう言って――おそらく全力で――笑った鷹岡さん。そして、その笑顔を直視していた俺たち全員、一人残らず赤面した。

 

 高尾が「だからその笑顔やめろって言ってんだろ!」と詰め寄っているし、監督も「お前、相変わらずのタラシだな……」と呆れつつも顔が赤い。反則だろう! あの顔で笑うとか!

 

 周りの幾人かが、前かがみになっていたりポケットに手を入れてゴソゴソとしていたのには見なかったふりをしておいた。気持ちは分かる。下手な女よりも色気あるし。

 

 

 

 部活を終えて家に帰ると、ふと懐かしい匂いがして大急ぎで鍵を開ける。そこに見慣れたサイズの靴が置いてあって、大急ぎで居間に上がった。

 

「あら、お帰り清志」

「ただいま。なあ、姉貴は!?」

 

 そう言いつつも探すのはやめずに視線を行き来させる。くそっ、どこ行った!

 

「直美ならお風呂に――」

 

 そう聞くや否や洗面所に走る。姉貴が風呂!? くうっ! なんておいしいときに帰ってきたんだ、俺!

 

 洗面所に入ると、風呂場からいまだにシャワーを出しっぱなしにしている音がする。いよっしゃあ! 姉貴の裸! 数年ぶりに拝ませてもらうぜ!

 

「姉さん! おかえり――」

「入ってくんな! バカ兄キ!」

 

 ――なんで裕也が入ってんだよ!

 

 

「信じられねえ! 弟の裸除きにくる兄とか!」

「誰がお前の裸なんか見てえかよ! 姉さんのに決まってんだろ」

「そっちの方が信じられないわよ! いくら健全な男子高校生だからって、姉の裸まで覗きにくる? 普通」

 

 あ、姉に欲情する時点で健全じゃなかったか……、とため息をつきながらも晩飯を食べている姉貴。ああ、可愛い。抱きしめたい髪弄りたい匂い嗅ぎたい嘗め回したい×××したい――」

 

「死にさらせ!」

 

 ――フゴブッ!

 

 目に飛んできた箸をもろに食らい、目をおさえて地面に転がる。目が! 目がぁぁ! ……あ、でもこれ姉さんの箸だ。姉さんの唾液つきの箸が俺に……イイ。

 

「あらあら、仲がいいわねえ」

「母さん、よく見てよ。どう考えても近親相姦予告だったよ? 私、清志に犯されるかもしれないんだよ? そこんところ、分かってる?」

「ふふふ」

「いや笑い事じゃなくて」

 

 ああ、あんな姉さんも大好きだ。――おっと、そうだ。

 

「はい、姉さん」

「何よこれ――!? これって!」

 

 そう、今日現れたあの人の――

 

「これ! 鷹岡壱の直筆サイン入りCD!? なんでこんなもの、清志が持ってんのよ!」

「何ですって!?」

 

 普段滅多に顔を崩さないお袋までもが顔を驚愕に変えている。珍しいもん見たな。

 

「後輩の父親がソイツだった」

「後輩って――あ、高尾和成くん?」

「……そうだけど。何で知ってんの、姉キ?」

 

 急に反応を変えた姉さんに不思議がる愚弟。確かにそうだよな。

 

「いや、別に何でもないけどね……」

 

 目を逸らして言葉を濁しつつもしっかりとCDを確保しているマイエンジェル。……チッ。高尾の奴、明日大坪に頼んで練習三倍にしてもらおう。

 

「代わりにさ、姉さん。今日、一緒に寝てくれ」

「…………………………いいわよ」

「凄い葛藤したな」

「ただし! 何もしないこと。いいわね?」

「ああ、もちろん」

 

 偶然を装えばいいんだしな。よし。これで、抱き付き放題頬擦りし放題舐め放題……グフフ。

 

 

 そう思っていたオレが、翌朝廊下で、布団でグルグル巻きになって目が覚め、もうその頃には姉さんは京都に帰ってしまったことに気づくまであと――

 

 




 別に高尾が嫌いなわけじゃないんですけどね。親バカだけど息子には厳しい描写が書きたかったからこうなった。でも、そこまでバスケに詳しいわけでもないから書くのは大変。

 あと一話ストックはあるんですけどねえ……逆にいうと、あと一話しかストックがない。


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case.3 キャラの**の場合
第276Q いや私のだし


 これで本当に今年は最後!

 来年はもっと更新できるといいなあ……。


 とあるビルの最上階、展望レストラン「HUJI」の個室スペースに男性二人がいた。片方は一見およそ三十代前半で若々しさ溢れる美形の男、そしてもう一人は青年と呼ぶには幼い――まだ高校生くらいの少年だ。

 

 二人はそれぞれメニューを広げたまま何も話さない、とそこへ。

 

「ごめーん! 遅くなっちゃった!」

 

 一人の少女が入ってきた――否、「少女」と呼ぶにはあまりにも幼すぎるだろう。身長は百二十程しかなく顔立ちも子供っぽい――外見は間違いなく小学生前後だ。外見は。

 

 しかし男性二人はその少女を見て口を開いた。

 

「やあ、先に座ってるよ」

「ったく、おせーんだよ」

「ごめんごめん。それで? もう何か頼んだ?」

「いや。全員そろってからのほうがいいだろうと思ってね」

「こっちは腹減ってんのにさ」

「じゃあさっさと頼んじゃおっか」

 

 そして少女も交えてメニューを見、それぞれ好きなものを選んで注文する。

 

 店員が去ったのを見て――男性が口を開いた。

 

「――じゃあ、始めようか。『第一回 「黒バス」転生の会』を」

 

 

   ★   ★   ★

 

 

 思えば、今回の邂逅はほんの一通のメールから始まった。ある朝、いつも通り高校に出かけようとしていた時に携帯が着信を知らせたのだ。

 

  《From 神》

 

「……は、」

 

 一瞬止まってから慌ててメール内容を確認する。するとそこに書かれていたことに、私は固まった。

 

  《タイトル 君たちを転生させた神様です。心の底からアガミネ様と崇めなさい》

  《内容 今回メールしたのは君たちに朗報を知らせるためだよ。実はその世界に転生したのは君たちだけではない。ほかにあと二人いる。》

 

「……嘘、でしょ……」

 

 銀行強盗に殺されて。神と話したら転生していた。漫画的夢物語がいざ自分に起こると腹が立つと理解したのだ。

 

 しかし――ほかにも転生者がいる、ときたか。これは予想外の事実だ。まさか自分と同じ境遇のものだろうか、それとも別の理由で転生させられたのだろうか、と少しばかり気になってしまう。

 

  《もし会いたかったら、今日の夕方、五時に駅前の展望レストラン「HUJI」までおいで。なお、これは強制ではないのでご自由にどうぞ。万が一来られない時のために下に転生者の情報を載せとくね☆ レッツ、スクロール!》

 

 ……どことなく――限りなくうさん臭かったが「アガミネ」と名乗っていることからあの神であることは間違いないだろう。気にはなったのでスクロールしてみて――絶句した。

 

 そこにはいま世界をまたにかける有名人二人の情報が書かれていたのだから――しかもそのうち一人はサブとはいえ「キャラクター」である。なんてことだ。

 

「……どうしよう」

 

 結局放課後まで悩みに悩んで――私は行くことにした。

 

 

 

 

「まずは自己紹介から行こうか。私は高尾(たかお) 一哉(かずや)という。世間的には鷹岡(たかおか) (いち)で通ってる。職業は……アイドル、というよりはアーティストだな。転生者だよ。前世も男、五十七歳で死んだんだ。……これくらいかな。順番は来た順で良いだろう」

「んじゃあ俺か……。灰崎(はいざき) 祥吾(しょうご)だ。名前で分かるがキャラに成り代わっちまった。当然転生者で……職業は――学生、か? まあノーベル賞なんてけったいなモンもらっちまったが。前世は……貴腐人だった。三十八歳で死んだ」

 

 ……次は私か。そう思って喉を潤してから口を開いた。

 

「――宮地(みやじ) 直美(なおみ)。一般的に『都島(みやこじま) (なお)』の方が有名だと思う……学生小説家だよ。だから職業は高校生兼小説家かな。私も転生してる、前世は三十六歳。私も貴腐人だった」

 

 ふむ……と高尾さんが水を飲んでから話し始めた。

 

「ちなみに全員『原作』は知ってるよね。どこまで知ってる? 俺は第255Qだったけど」

「俺は第231Qってとこだな。洛山との試合開始で死んだ」

「だったらこの中じゃ私が一番遅いね。私第274Qだったから」

 

 ……あれ、でもこれっておかしくない? 死んだのは全員あの銀行強盗だって言ってるのに原作知識にバラつきがあるなんて。

 

「そういやそうだな。何でだ?」

「さすがにそれは俺もわからないな。知ってるのは神くらいじゃないか?」

「だったら仕方ないか」

 

 そんな風に本題に入る前に雑談をした、そして料理が運ばれてきてからが本番である。……どうやら二人ともオタってて腐っているようだ。

 

「俺なんてあのH(ハイ)S(スペック)K(彼氏)の異名を持つ高尾の父親だぞ!? どんな成り代わりだよこれ! しかも監督たちと世代同じだし!」

「嘘マジで? 親父世代? テラワロス! まあ俺なんかキャラに成り代わりましたが何か。コーンロウじゃありませんが何か」

「それは私もマジでビビった。『うお! 灰崎の髪がコーンロウじゃない! めっちゃ貴重!』とか思ったもん」

 

 「女三人寄れば姦しい」とかっていうけどオタク三人寄った方が絶対姦しいよね。次々と平らげていく中で話もヒートアップしていく。

 

「大体さ、灰崎に成り代わったってだけで問題なのに最強キャラって何よ? 万能補正って何よ? チートの大判振る舞いとかすんなよ! ゾーン状態の青峰にも手抜きで勝てるってなんだよ! しかもバスケ好きでもないのにゾーンに入れちまうし! おまけにノーベル賞!? ふざけんな!」

「荒れてるね~、灰崎くん」

「あんたらはないのか!? 神への不満が!」

「あるに決まってるじゃないか。別に俺は転生だけで十分だったんだよ。それが何さ、この顔。『顔面偏差値最上級』なんて言われてるんだよ? 一般人から逸般人への華麗なる転生――フザケンナヨって感じだよね。しかもキャラの父親だよ? 親父世代だよ? 監督たちと知りあいってもう何よこれ、どんな過剰設定だよ笑えねえ」

 

 私たちの中で唯一身体年齢が二十歳を超えているためお酒が飲める高尾さんは、もう既にワインをボトルで三本目に入っている……う、羨ましい。私も飲みたい。前世では成人してたのに。くう、精神年齢ならとっくに五十代突入してるんだぞ。

 しかも顔を赤くしているのは興奮と怒りと空気に酔っているだけでワイン自体では全く酔っていないようだ。さすがチートボディ、ザル体質だな。私もあと二年で飲めるんだ……あと二年もかかるのか。二十歳になったらがぶ飲みしてやる。

 

「宮地さんは何かないの? 現世への不満とか」

「……ないと思うの? 普通見ただけで分かるんじゃない?」

 

 睨みを利かせて高尾さんの方を見ると若干顔を引き攣らせた。分かってくれたようで何よりだ。美形が残念な顔になってるけど……ま、中身は私と同じオタクだし仕方ないか。

 

「……私に与えられたのは『二次元チートスペック』。……だからこんなロリ体型なんだよ!」

 

 身長は小学生並み、どんなに食べても絶対に太らない身体、微乳、頭脳、身体能力、音楽や料理の才能、果てには運のよさまで。ありとあらゆる「二次元のみに許されたスペック」が私に与えられている――そのせいで。

 

「お前らに判るか!? 未だに小学生に間違われる気持ちが! R15指定の本の購入や映画の鑑賞に学生証見せても信じてもらえないやつの気持ちが! 分かるか!?」

「……それはツライ」

「心の底から悪かった」

 

 分かればいいんだよ、分かれば。まあこの体質のせいで絶対に太らないし運チートだし。助かってることもあるんだけどね。どんなに学生証見せても信じてもらえないんだもん、もう小学生料金で見てるよ。アニメ見放題だよ。改札通るときピヨピヨ鳴るよ……良い子は真似しちゃいけません。一応犯罪だし。

 

「……まあその才能とオタク知識から中学生から小説書き始めてるしね。その点では悪くはないと思う。……でもさ、絶叫系アトラクションで未だに身長測られる高校三年生ってどうよ? 確かに怪しい感じだけどさ、私一応百二十は超してるからね?」

 

 百二十五はどうって? ……なに、殴られたい? それともケンカ売ってる? だったら買うよ? こんな見た目でも握力はやばいからね。その気になったら握力計ぶっ壊せるし。

 

「……まあ、美味い転生はないってことかな」

「だな。俺も実感した。所詮は創作小説の中だけなんだよ、『強くてニューゲーム』って」

「リアル『こんな人生は嫌だ』を絶賛体験中だもんね、私たち」

 

 もう本当に勘弁してほしいよね。私もう既に黒歴史量産してるし。これからも増えるだろうし。

 

「……若干神には感謝したいかな。ちょっとスッキリした」

「俺も。やっぱ同じ境遇の奴がいるっていいわ。これからもちょくちょく連絡交換しねえ?」

「賛成。こんなこと愚痴れんの他にいないし」

 

 恋人でも言えないよね、こんなこと。

 

 そう付け加えると、納得したような表情の二人――しかし一拍おいて、灰崎くんが勢いよくこっちを向いた。

 

「え、ちょっと待って。高尾さんはわかるけど、え、なに。もしかして宮地さんもリア充系腐女子?」

「そうだけど」

 

 いまさら何を言ってるんだ、そういう目をして見ると頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

 

「うわー! 仲間二人に裏切られたような気分」

「何言ってんのよ」

「だって俺精神的GLか肉体的BLだぜ? 簡単に考えて恋愛とかしにくいじゃん」

「ああそうか。灰崎くんは転性転生だもんね」

「……ご愁傷様」

 

 くそおおぉぉ! と大声を上げる灰崎くんだが、そこまで同郷の好とはいえ面倒は見きれない。

 

「……いいもんいいもん。こうなったらこの身体で攻めてやる。キセキも先輩も全員攻めてやる」

「あ、千尋だけはやめてね」

「え?」

「いや私のだし」

「え、宮地さんの彼氏ってキャラなの?」

 

 あ、そっか。灰崎くんは()知らないんだっけ。出てくる前に死んじゃったんだ。

 

「ほら、洛山の試合にいたでしょ? 黒子くん並みに影が薄い子。アレ私の彼氏。黛千尋」

「へえ。黛くんか」

「うん」

「何、だと……」

 

 テーブルがなかったらリアルにorzになってるであろう灰崎くんを放って二人で盛り上がる。まあでもこんなに楽しいのは久しぶりだ。その所だけは神には感謝してもいいかもしれない。その所だけは。

 

 

 

 お腹いっぱい食べた後はデザートを食す……超美味いんだけど。やっぱり一度は来たいって言われるレストランなだけあるな、マジで美味い。

 

「あ、そういえば」

 

 抹茶ゼリーを食べながら灰崎くんが口を開いた……そっちも美味そう。

 

「『神ちゃんねる』あるじゃん? そこの『くろちゃんねる』見てたんだけどさ」

「あ、それ私もみた。確か……今吉さんに成り代わり転生しちゃった人がいたんだよね、確か」

「そうそう」

 

 そういえば忘れてた……と記憶を掘り返した。

 

 「神ちゃんねる」。前世で言う「2ちゃんねる」のことで、想像通り娯楽の神アガミネが転生者の交流のために作った脳内ちゃんねるのことだ。ただし書き込みやレス中はそちらに意識が持っていかれやすいため、傍から見ると変人以外の何物でもないという鬼畜仕様である。ジャンルは実に様々なものがあり、「黒子のバスケ」世界用に「くろちゃんねる」、「ONE PIECE」用に「海賊ちゃんねる」などなど。そしてすべての世界との交流ができるという素晴らしいちゃんねるである。

 

 実はこの邂逅の神からのメールにはおまけがついていたのだ。

 

  《P.S. 下のURLにアクセスしたら面白いかもよwww》

 

 そのURLをクリックしたら――脳内にちゃんねるが浮かんだのだ。あの時はマジで焦った。思わず叫んだ。恥ずかしかった。

 

「ああ、それ、俺まだ見てないんだ」

「結構面白いですよ? ネット環境がイマイチな今でも脳内ちゃんねるですから」

「そうそう、しかも本家のくろちゃんにも繋がるしな」

 

 さすが神様だと思う。そういうところは感動する。そういうところは。

 

「そこで話を聞いてみると、俺らとは別に、『黒バス』世界のパラレルワールドに転生した奴らがいるみたいなんですけど」

「灰崎くんみたいに成り代わってる人もいるみたいなんです」

 

 あの(・・)サトリ妖怪に成り代わりとか可哀想ですねテラワロス。……他人事だよ? 私もなりたくないし。

 

「おまけにどうもそこの無冠たちの様子がおかしいらしいんですよ」

「なんか全員記憶アリみたいで」

「それどういうこと?」

「まあ要するにあれですよ。Pixivでよくあった――」

 

 

「「――逆行、じゃないですかね」」

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

「……今日はありがとうございました」

「いやこちらこそ。楽しかったよ」

「いやー美味い料理は食えたし話は面白いし。本当に楽しかったよな」

 

 全員が全員楽しんで帰ることができた今日の出会い。高尾さんが車で来たので私たちは送ってもらうことになった。……当然のことだけど高尾さんが運転しているわけじゃない。運転手がいるなんて、それなんてVIP待遇? まあ、日本が世界に誇るトップアーティストだけれども。

 

「じゃあね、宮地さん。お休み」

「はい、お休みなさい」

 

 今日は楽しかったし早めに寝ようかな……と考えながらドアを開ける、と。

 

「ただいまー」

「お帰り我が(マイ)最愛の(スウィート)女神! ああ大丈夫か。どこも悪くしてないか!?」

 

 食事に行っただけで何をどう悪くするのか問い詰めてやりたくなる、がとりあえずは。

 

「……清志、痛い」

「どうしたんだ清美! どこが痛いんだ!? ああ、今すぐ病院に連れて行ってあげるからな。万が一入院なんてことになっても大丈夫だ、オレが四六時中付き添ってあげるからな」

「は な せ !」

 

 目の前の巨体の腹に思いっきりグーパンを決めてやる。床に倒れた金髪長身男子を見て思わずため息をついた。

 

 この男こそが私の(認めたくないことに、認めたくないことに実の)弟である、秀徳高校のS(スモール)F(フォワード)、宮地清志である。

 

 私とこの愚弟は双子である。初対面の人間には絶対「親戚の小父さんと姪」くらいにしか見えない私の見た目。絶対身長の全部を清志に奪われたに違いないと今でも本気で考えている。……まあそれ以外の才能のほとんどを私がもらってしまっているせいかどうかは知らないが、清志の頭の螺子は数本母さんの腹の中に忘れてきてしまっているようだ。だって考えてもみてほしい。実の姉(ロリ体型)に全力でセクハラかますなんてどこの二次元だ? ここは「週刊少年ジャンプ 黒子のバスケ」の世界であって決して「(逆)ハーレムラノベ」世界ではない。変態兄弟なんて二次元だけで十分……ああ、元はここも二次元だったな。だが私にとっては二次元と転生者仲間、そして時々彼氏だけで生きていけるんだ。Z軸のある世界には若干絶望しかけている。主にこの弟のせいで。

 ちなみに一つ下にまだいるんだけども。そちらはまだ希望がある、はずだ。多分。ある、といいなあ……。

 

「ああさすがは俺の姉さんだ。変わらず可愛い。ああもう一生閉じ込めてぐちゃぐちゃにして全力で愛でてやりた――」

「死にさらせこの変態が!」

 

 回し蹴りがきれいに決まり今度こそ鳩尾に入って意識を奪うことができた。ああ、掴まれたところが赤くなってる。くそう、実の弟に貞操の危機とか笑えないんだけど。さすがの私もそこまでは許容できない……抱き疲れて頬ずりされてキスされて匂いを嗅がれるのが許容できるかって? ……携帯にGPS発信機ならまだしも盗聴器つけられてみ? 絶対に許容できるから。スマホになったら監視系アプリとか知らない間につけてきそうで怖い……発信機や盗聴器? すでに所持を義務付けられていますが何か。私のことを盲目的に愛してる清志のことだから、何とかする気がして怖い。第一私彼氏いるし。

 

 ……ちなみに勿論清志に彼氏がいるなんて伝えてない。父さんと母さんには言ったけど、こんな弟たちに――勿論、裕也にすら――言えるはずもなく。増してや――

 

「(清志たちに比べて)身長低いし(学校は違うけど)同じバスケ部だし、でも清志と違って得意・不得意がなくてそんなどこにでもいる平々凡々そうなオタクラノベ系男子が彼氏だって知ったら……ねえ」

 

 絶対張り合う、そして絶対千尋が負ける。結末(エンディング)がわかってるんだから言わなくてもいい。

 

「……大学も京都行くし、それまで黙っておけばいいんだし」

 

 両親の許可は取ってるし同棲は何とかなるだろうし成績も問題なし。つまり清志さえ誤魔化せれば問題ない、はず。多分大丈夫。うん。

 

 

 ――だから私は気づかなかった。もう清志が起きていて、私の独り言を聞いてたなんて。私のこの考えがフラグになっていたなんて。それが清志から裕也に伝わるなんて。

 

 

 

 

 

 そして不幸なことにこの一週間後、私は彼ら(キャラたち)に会うことになる――彼らとともに。

 

 

   【合同合宿のご案内】

 

 

 そこで再会した私たちが始めに思ったことが全員同じだったのは言うまでもないだろう。

 

(((どこのテンプレ小説だ!?)))

 

 

 

 

   ~~「【黒バス】世界に転生しただけの簡単な物語です」 fin. ~~

 

 




 ラストをオリキャラ&転生者で〆るって作者の感性を疑うよねっ! でも後悔はしていない。作者にしては珍しく女性キャラ。
 これを書いて作者が思ったこと
  ↓
・「宮地君には変態が合う」
・「私は貧乳派?」
・「さて、灰崎くんは攻められるのか?」

 タイトルの「**」にはご自由にお入れください。「〇〇の××に転生した場合」でもよかったんですけどね。



  スペック
宮地(みやじ) 直美(なおみ)
 身長:123.4cm
 体重:34.5kg
 誕生日:11月11日
 星座:さそり座
 血液型:AB型

 座右の銘:石に漱ぎ流れに枕す
 好きな食べ物:カニクリームコロッケ
 趣味:写真(主に人物)
 特技:ラフ画


 他二人と同じく銀行強盗に殺されて転生した元貴腐人現腐女子。
 臨んでいないにもかかわらず、いわゆる「二次元チートスペック」を与えられた。当初の予定では巨乳ロリにするはずだったのだが、統計的にロリはロリでいいよねってことで微乳に。スマン。
 リアルロリータ・コンプレックス(この場合は自分の少女(ロリータ)体型にコンプレックスを抱く、という意)である。小学生時代から一向に成長せず、ある意味では人気を博しているのが彼女である。ちなみにスリーサイズはB【ピ―――― ※しばらくお待ちください】で、あり、ます……ガク。弟に、身長や体格、その他すべてを奪われたと今でも思っている。
 宮地清志の双子の姉として生まれたが、彼が物心つく前から溺愛されていた。物心ついた後は溺愛の域を超えてしまい、ストー化ー&変態に。実の弟相手に本気で貞操の危機を感じている。

 (当初、全く予定になかったが)黛千尋の彼女である。彼との出会いもいつか書きたいが、今回は割愛。初め、黛くんは腐ってはいなかったが、彼女が腐らせたという裏話も。

 原作知識は最終回の一話前まで。ネタバレなどは読まなかったので、次話が最終回だとは知らない(という設定)。

 彼女には何になってもらおうかな~……と考えた結果、オタクだし小説家ということに。ラノベではないです。幅広いジャンルを手掛けており、いくつかは映像化された作品も。作家としての名前は「都島尚」。こちらは特に由来はなし。

 一応補足ですが、宮地清志の弟、「宮地裕也」は公式キャラですので悪しからず。また、展望レストランの名前は作者から。


 ――設定はここまで。ご愛読、ありがとうございました!





















 ――さて、とりあえずの言い訳&後書きをば。

 当初の予定では、ここまで話が続くことはありませんでした。というより、灰崎くん以外をするはずがなかった。

 しかしなぜか、ネタがよぎってしまい、それを書き切るまではイライラする、という衝動にかられたので書き上げることにしたのです。

 そもそも、灰崎くんがノーベル賞だとか高尾の父親が世界的有名なアーティストだとか。「ありえない」「ふざけている」設定だと、書いている本人が思いました。でもなぜか、文字を打っている間に手が勝手に動いてしまったんですよ。後悔はしていません……いや、やっぱり、ちょっとだけ……いやいや……

 なかなか中途半端なところで終わったとは思っていますが、原作も終わったし、書きたいところはすべて書いた「はず」なので、とりあえずはキリもいいので完結タグをつけさせていただきます。

 勿論、まだまだ書けていないところはございますので、その時は「番外編」や「IF√~」もしくは「その後」として書かせていただきます。(そもそも、灰崎くんの番外編は終わっていないので)



 長々と失礼いたしましたが、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。またお会いできることを願っています。それでは皆様、よい御年を!


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