汗っかきの提督は嫌われる (語部創太)
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1.初雪

 夏が暑すぎてムカッとしたときに思い付いた設定で書きました。
 続きを書くかは未定なのでとりあえず短編での投稿になります。


 暑い。

 

 無性に暑い。ここ1週間の最高気温は35℃、36℃、34℃、35℃、37℃、35℃、38℃。

 

 殺す気か。こちとらボーボーに生えまくった雑草抜いてんだぞ。しかも大半がドクダミだ。なんだこの鼻が曲がるどころか脳髄まで腐らせてしまいそうな激臭は。

 

「精が出るねぇ」

「給料は出ませんけどね」

 

 こちとら休みのはずの日曜日に社長から呼び出されて会社の駐車場の雑草抜いとるんじゃい。

 

「汗は出てるじゃないか」

 

 アッハッハと笑うコンチキショウな社長はエアコンをガンガンにかけたハイエースの運転席の窓からこっちを眺めている。手伝えよ。

 

「出したくて出してるわけじゃないんスけどね」

 

 大雨にでも降られたのかってくらいビショビショになったシャツが身体に貼りついてくる感覚はいつまで経っても慣れない。かれこれ2時間は雑草抜きだ。もはや汗すら出ない。これ脱水症状になってませんかね社長。大丈夫大丈夫って笑うんじゃねえクソが。

 

「あぁ、そうそう」

 

 何かを思い出したように社長がポンと手を打つ。

 

「なんスか。これ以上の雑用はイヤですよ」

 

 社員とアルバイト含めて20に満たない小さな会社の新卒で入った俺にばっかり雑用押し付けやがって。労基署駆け込んだろうか。

 

「キミ、明日から海軍だってさ」

「は?」

 

 なんスか海軍って。兵隊さんにでもなれってんスか? いやそうそうって頷くんじゃなくてさ。

 

「この前、健康診断あったでしょ?」

「やりましたね」

 

 汗止まらないんスけどどうしたらいいスかって訊いたら「頑張れ!」って言いやがったあのヤブ医者の健康診断ね。

 

「アレで提督適性が出たらしいよ」

「誰に」

「キミに」

「ミーに」

「ユーに」

 

 ワッツァ、ファック。

 

「大変らしいけど、頑張ってね」

「えっじゃあ待ってくださいこの雑草抜きは」

「ボランティアだね。"元"社員の」

 

 もはや社員ですらないのかよ。

 

「今月の給料は」

「ナッシング」

「オーマイガッ」

 

 そんな馬鹿なことないスよ社長。

 

「これはボクからキミへの餞別」

 

 そう言って投げ渡されたのは300ml缶のスポーツドリンク。

 

「………………」

「………………(ニッコリ)」

「………………(ニッコリ)」

 

 ニッコリ笑いかけてきた社長に俺も満面の笑みで返して──

 

 

 

 全速力で労基署に駆け込んだ。おまわりさーん!!!

 

 

 

 

 

 それから1ヶ月後の日曜日。

 

 まだ暑い。昨日の気温は34℃。今日の温度は32℃。やったねちょっと涼しくなったよ!

 

「関係ないわぁ!」

 

 たかだか6℃気温が下がったくらいで許されると思うな! 30℃超えてることに変わりはないんだからな!

 あー、暑い。汗はダラダラ、シャツはグショグショ。これ普通に仕事してた時と大して変わりねえわ。

 

 なんならやってることも変わらねえ。何故なら俺の両手にはこの世のものとは思えない悪臭を放つドクダミブラザーズ。

 

「…………うわ」

 

 分厚いゴミ袋に何百本めかの雑草をスラムダンクしていると、後ろからドン引きしたような声が聞こえた。

 

「…………何やってんの」

「雑草抜いてんスよ」

 

 見りゃ分かるだろうが。振り返ればそこには気怠そうな面した初雪さん。

 

「初雪さんこそ何やってんスか」

 

 今日は非番でしょうに。いつもは部屋に引きこもって出てこないのに、こんのクソ暑い日に外出とかとうとう頭がおかしくなったか。

 

「…………ジャンケンで負けた」

 

 そう言って掲げた右手にはビニール袋。買い出しか。暑いのにご苦労なこって。

 

「俺も休憩するかなぁ」

 

 立ち上がって腰を伸ばす。めっちゃ痛い。腕時計見たらもうすぐ10時。かれこれ3時間はやってたのか。

 

「…………臭い」

「仕方ないじゃないスか」

 

 ドクダミってのは臭いもんなんだよ。むしろ臭いからドクダミなんだよ。臭くなかったらドクダミじゃねえんだ。

 

「…………違う」

 

 違うってなにが。

 

「…………臭い」

 

 そう言って指差してきたのは俺。そう、イッツァマイボディー。

 悪かったねぇ!? 臭くてすいませんねぇ!?

 中学生くらいの少女から発せられた辛辣な言葉にガックリ項垂れる。そういえば俺、めっちゃ汗かいてたわ。

 

「…………手袋とかしないの」

「売ってくれなかったんスよ!」

 

 明石さんがやってる酒保に顔出した瞬間に「出禁!」って言われて追い出された。もう悲しいとかのレベルじゃない。心がバキバキ、腹筋もバキバキ。やったねこれで俺もシックスパックだ!

 

「…………ドンマイ」

「アザス…………」

 

 憐れみの目で見られた……。10近く違う少女から憐れまれた…………。

 

「……………………ほれ」

「へぶぅっ!?」

 

 いってえ!? なんだ? 項垂れてたら頭になんか固いものがぶつかったぞ!?

 ゴスッと鈍い音を立てて地面に落下したのは300ml缶のスポーツドリンク。

 

「…………頑張れ」

 

 ヒラヒラと手を振りながら去っていく初雪さん。

 

「は、初雪さん!」

「…………?」

「ありがとうございます!」

「!!!」

 

 あ、あれ?

 振り返った初雪さんに満面の笑みでお礼を言ったら、気怠そうな顔が驚きの表情で凍りついた。

 

「あ、あの……?」

「! ぅ、ぅくさい!」

「ぐふぅっ!?」

 

 こ、心がぁ!? 俺のガラスのハートがブロゥクン!

 初雪さんは捨て台詞と共に疾走していった。いつも怠そうにゆっくり歩いてる姿からは想像できないくらいの速度だった。今ならあの島風さんにも勝てると思う。なんて話はさておいて。

 

 俺、そんなに臭かったのか……。お礼言っただけなのに残酷な現実を突き付けられるとは思わなかった。

 初雪さんからもらったスポーツドリンクのプルタブを開けて中身を一気に飲み干す。

 

「………………しょっぺ」

 

 心なしか、頬を伝う塩水のような味がした。

 




 よくある勘違いものを書きたい。書けない。ジレンマジオラマジークジオン。


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2.初雪(ガチ嫌われ)

 TWITTERで勘違いものとガチ嫌われものどっちがいいかアンケート取ったら同数だったので、どっちも書いてみることにしました。

 あと仕事で投稿忘れてて出る出る詐欺してしまったことをお詫び申し上げ給わりあげ奉り候う。


「うげっ…………」

「初雪の負けー!」

 

 ゲラゲラ笑う深雪をジッと睨む。いくら睨んでもじゃんけんの結果が変わるわけじゃないけれど。

 

「それじゃあ罰ゲームを決めましょうか」

「あんまりキツいのはやめてあげてね?」

 

 白雪がこういう罰ゲームにノリノリだったのは意外だった。何回も繰り返してるうちに楽しくなってきたのかもしれないけど。吹雪の苦笑に頷く辺りはまだ良い。深雪なんてたまにとんでもない罰ゲームを考えてくるんだから。こういう場面で一歩引いて自制を促してくれる吹雪はやっぱり天使だ。

 

「でも、どうしましょう。定番はだいたいやり尽くしちゃいましたし」

「無難に買い出しとかで良いんじゃない?」

「…………地獄」

 

 訂正、やっぱり天使じゃない。この猛暑の中を買い出しとかどんな苦行だろうか。

 

「思い付いたぁ!」

 

 さらにドギツいのをひらめいたというのか深雪。

 

「買い出しの帰り、『アイツ』に話しかけてこいよ!」

 

 悪魔かキサマ。

 吹雪と、ノリノリだったはずの白雪でさえも引き攣った顔をしていた。

 

 

 

 

 

「あれ? 珍しい、初雪じゃない」

「…………どうも」

 

 暑い中をフラフラになりながら酒保へ辿り着くと、レジカウンターで暇そうに欠伸してる明石さんがいた。

 

「…………日曜日なのに、暇?」

 

 非番の多い日曜日は、酒保にそれなりの客がいるはずだけど。

 

「みんな外出してるわよ。アイツが来てから商売あがったり」

「…………ドンマイ」

 

 まあ仕方ない。日曜日は鎮守府内の色んな所を掃除してるからな。神出鬼没の歩く公害。そんな奴がいる敷地内だと羽が伸ばせないだろうし。

 私は出不精だから外出とか無理だけど。この暑い中でよく外に出ようって気になるな。

 そういえば。深雪から告げられた罰ゲームだけど、今日はアイツどこにいるんだろうな。分からないままこの炎天下の中を歩き回るのは勘弁してほしい。

 

「そうそう、聞いてよー!」

 

 話し相手がいなかったのか、明石さんがずっと話しかけてくれる。

 

「今朝アイツが酒保に来やがってさー」

「…………ほう?」

 

 どうやら居場所が簡単に分かりそうだ。

 

「雑草抜きするからゴム手袋欲しいなんてほざくから、とうとう出禁にしてやったわ!」

 

 ケラケラ笑う明石さんに合わせて下手くそな愛想笑いをしつつ、雑草が多い場所はどこだっけと考える。

 ……………………ダメだ。最近ほとんど部屋から出てなかったから分からん。

 

「だから、今日の裏庭には近づかない方がいいわよー」

 

 何から何まで教えてくれてありがとう明石さん。

 

 

 

 

 

「…………うわ」

 

 酒保の帰り道、明石さんに言われた通り裏庭を覗くと、いた。全身ビッチャビチャの汚いアイツだ。すでにここからでも匂ってくる汗の臭いに逃げ出したくなるが、これが失敗したら深雪になにされるか分からない。やるしかない。

 

「…………何やってんの」

「雑草抜いてんスよ」

 

 見りゃ分かるよ。うわ、こっち向いた。全身汗でビショビショ、ヌルヌルテカりまくってて深海棲艦みたい。気色悪いからそのまま雑草抜いててくれないかな。

 

「初雪さんこそ何やってんスか」

「…………じゃんけんで負けた」

 

 そう言って右手にぶら下げたビニール袋を持ち上げると納得したような表情になった。

 

「俺も休憩するかなぁ」

 

 おいなんで立ち上がったんだコイツ。くっさ! とにかく汗くさい! なんかイカと貝が夏の砂浜に打ち上げられて干からびた臭いがする!

 

「…………臭い」

 

 思わず声が漏れる。面と向かって言っちゃったよ。大丈夫だよね? 逆ギレして襲いかかってきたりしないよね?

 

「仕方ないじゃないスか」

 

 は? なに開き直ってんだコイツは。

 ああ、もしかしてドクダミの事だと勘違いしてるのか。自分は臭くないとでも思い上がってるのか?

 

 自分がどんな悪臭を振り撒いてるのか自覚していないバカ野郎にムカついた私は、やめとけばいいのについつい余計な一言を漏らしてしまった。

 

「…………違う」

 

 キョトンとしてるその顔にまっすぐ人差し指を突き付ける。

 

「…………臭い」

 

 なに「ですよねー」みたいな顔してんだコイツ。無駄に不遜な態度しやがって。ドクダミの悪臭と相まって鼻が曲がりそうなんだけど。

 

「…………手袋とかしないの」

「売ってくれなかったんスよ!」

 

 ああ、そういえば明石さんも出禁にしたって言ってたな。その体臭が原因だから自業自得とはいえ、素手でドクダミ抜くのはさぞかし辛いだろう。コイツが来る前、雑草抜きは私たち駆逐艦の仕事だったからよく分かる。

 

「…………ドンマイ」

「アザス…………」

 

 すっかり落ち込んでる。さすがにちょっと可哀想に思えてきた。

 …………そうだ。お詫びにこのスポーツドリンクをやろう。別にこれが深雪から頼まれたやつだからとかそういうわけじゃないぞ? ちょっとした仕返しになるとか思ったりはしてない。

 

「……………………ほれ」

「へぶぅっ!?」

 

 ダッサ。頭でヘディングしてるし。

 

「…………頑張れ」

 

 倒れられたりしたら困るし。私たちが雑草抜かないといけなくなる。それはイヤだ。

 

「は、初雪さん!」

「…………?」

 

 うるさいな。さっさと帰りたいんだよ。わざわざ呼び止めないでくれる?

 

「ありがとうございます!」

「!!!」

 

 うっわ! お辞儀した瞬間、髪の毛から汗が舞い上がったの見えた!

 

「あの……?」

「! ぅ、ぅくさい!」

 

 空気中を舞うコイツの汗を吸い込みたくない。私はとにかく全力でその場から逃げ出した。

 可哀想とか思って飲み物を恵むんじゃなかった。ほんと最悪、戻ったらすぐ風呂に入ろう。




勘違いルートは執筆中なのでしばらくお待ちを


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