お子様談義 (belgdol)
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お子様談義

 これはモモンガが定めたナザリック大墳墓における。

守護者の休日でのある日の女子会のお話。

 

 

 

 

 第六階層の大森林の中に並べられた簡素だが高級感あふれる艶のあるテーブルセットに座り、アルベドの淹れた紅茶を前にさあお茶会といった風情の中。

アルベドがシャルティアとアウラに対して口火を切る。

 

「シャルティア、アウラ。今日のお茶会の話題なのだけれど、私から一つ提案があるの」

「なんでありんすか。話したい話題があるならそれに乗るのもわるくありんせんが」

「一つ確認するけどそれって真面目な話?」

 

 特に話題を思いつかなかったのか、流れに乗ろうとするシャルティア。

それとは反対にアルベドが斜め上の方向に話題を展開するのではという思いからまず真面目な話か、というのを確認するアウラ。

アルベドは警戒もあらわに、というか、変な話題になってめんどくさいことにならなければいいな、という感じを若干匂わせているアウラに微笑みながら言った。

 

「ある意味真面目な話よ。なぜならこれからの話題はアインズ・ウール・ゴウンの将来的な展望の話でもあるのですから」

「アインズ・ウール・ゴウンの将来?なんなんでありんすか、その話題って」

「……嫌な予感がするなぁ……アインズ様の御前で話さないようなアインズ・ウール・ゴウンの将来に関する話って絶対あっち方面の話だよね……」

 

 怪しく微笑むアルベドにきょとんとした顔を向けるシャルティア。

アウラは眉を八の字にして目をつぶりため息を付く。

 

「む。おちびは解ってるでありんすか」

「デミウルゴスのいない所で、女三人で話すアインズ・ウール・ゴウンの将来にかかわる話ってつまりあれでしょ。誰がアインズ様の正妃になるかっていう」

 

 わかんない?と続けて思い切り椅子の背もたれに体重を掛ける面倒そうなアウラに対して、シャルティアは正妃問題!それは重要でありんす!と言ってから闘志に満ちた顔をアルベドに向ける。

しかしアルベドはそんなシャルティアとアウラに対して、当たらずとも遠からず、といったところね、といって軽く受け流す。

 

「当たらずとも遠からず?正妃問題に近いけど、違う問題でありんすか?」

「ええ、そういうことよ。今回のお茶会で話し合いたいのは……アインズ様に吾子を授けて頂くとしたら、どんな子供がいいか!よ!」

 

 自分で言っていてその幸せな予想図に酔ったのか。

目を潤ませ、手を胸の前で組んで体をくねらせるアルベド。

その姿にシャルティアもアウラも衝撃を受けた。

 

 もし自分が御方の寵愛を受けたら……というのは考えたことがないではない。

しかし!

その先の寵愛を受けた結果について考えたことはついぞなかった。

このサキュバス、未来に生きている!と。

 

「まず第一に意識のすり合わせをしたいのだけれど、いいかしら?シャルティア、アウラ」

「意識のすり合わせでありんすかえ?」

「どういうこと?」

 

 シャルティアとアウラ、二人そろって小首を傾げて疑問をあらわにする。

それに対してアルベドは仕方のない子達ね、と言わんばかりに慈愛のこもった笑顔で話を進める。

 

「まず、アインズ様はアンデッド。本来なら子を成すことはできない種族……」

「アインズ様はスーパーウルティメットアンデッドだから平気でありんす!」

「落ち着きなよシャルティア。本来ならって言ってるでしょ。まあアインズ様はアンデッドだけどなんかこう、上手い具合に考えてお子様をおつくりになるんだろうね。角度とか」

 

 主に子供を作れないの辺りに反発してアルベドに噛みつこうとするシャルティアを、アウラが止める。

だがアウラの瞳にも若干のアルベドに対する「不敬じゃない?」という光が見える。

しかしアルベドはそれを気にすることもなく話を進める。

 

「ええ、その通りよアウラ。ナザリックの者にとってアインズ様がなんかいい感じの砂糖とスパイスと素敵な物で吾子をおつくりになられることは周知の事実です」

「そうでありんす。そんな基本的な事をすり合わせる意味がありんしょうか」

「まあシャルティアの言う通りだよね。これは大前提っていう部分で合意ができてるから合わせようがなくない?」

 

 話は進んだがなぜいまさらそんなことを?という疑問を抱くシャルティアとアウラに、アルベドは次の一手を指し示す。

 

「これは大前提となるアインズ様の吾子の創造能力に対してのちょっとしたプラスアルファの解釈と思って貰って構わないわ」

「ぷらす、あるふぁ?」

 

 ぽかんとするシャルティアと、無言で先を促すアウラにアルベドは再び想像の中の理想に対して思いを馳せながら話しているのか。

瞳を潤ませて続ける。

 

「くふふふ、アインズ様が自由に吾子をお授けになられるなら、その吾子がどのような存在になるかも自由なのではないかと思ったの!例えば目の色ですとか肌の色ですとか!もしかしたら性格すらも御方の創造通りになるのではないかしら?なにせアインズ・ウール・ゴウンの至高の41人の皆様は私達をおつくりになられたのだから!」

「そ、そういうことでありんすか……!」

「はー。言われてみればその通りだよねぇ。私達守護者をはじめ、ナザリックに属する者たちをお造りになられた御方なら当然、って感じだよね。で、もしアインズ様に子供を作っていただけるならどんな子がいいか話したいわけ?」

 

 アルベドの熱に浮かされた様に自らもアインズとの子供という夢に向かって羽ばたいていくシャルティアを見送って、アウラはアルベドに念を押す。

 

「くふふ。その通りよ。今日の所は私とシャルティア、どちらが正妃になるのかということはさておいて……理想の我が子を話し合いたいの」

「なるほどねー。私は細かい指定はないけど……私とマーレみたいな双子が欲しいかなー。顔の半分がアンデッドのエルフを鏡合わせにしたような双子」

 

 そう云い放って座っている椅子の上で足を組むアウラを、ちらりとみやってからアルベドが自分の希望を述べる。

 

「思い切り細かい指定が入っているような気がするけれど。私はそうねえ……私も最低二人は欲しいわね。それもアインズ様そっくりの男子と私そっくりの女の子。長じるにつれ両親であるアインズ様と私に似るようになっていく二人はいずれ禁断の……くふふー!二人の血筋は永遠なの!」

 

 自分の想像でヒートアップしたアルベドが見せられないよ!な顔をする。

そんな二人があれやこれやいっていると、シャルティアが控えめに手を挙げた。

 

「あら、どうしたのシャルティア」

「いつものあんたならもっと色々突っ走るかと思ったけどなんか大人しいね?大丈夫?」

「おちび、それはどういう意味でありんす。まあ、それはいいでありんす。それより、これは不敬かもしれないのでこの場だけの話にしてほしいんだけど」

「この場だけの話にしてほしいというなら考慮します。いってごらんなさい。シャルティア」

「アインズ様のお力で望みの子供を授かれるという話でありんすよね」

「ええ、そうよ」

 

 挙げた手を引っ込め、らしくなく両手のひとさし指とひとさし指を突き合わせて言いにくそうにしながらも、シャルティアはその言葉を発する。

 

「バードマンの子供が、できたら、いいなぁ、なんておもいんすの」

 

 その、らしくない様子と。

あまりに解りやすい理由に一瞬呆然として、しかし即座に理解の色を示してアウラが声を上げる。

 

「それ、いいよ!うん!それなら私もスライムの子供が……」

「やめなさい」

「「え?」」

 

 守護者であるはずのシャルティアとアウラ、その二人が思わず寒気を感じるほどの冷たい声がアルベドから漏れる。

何事か、とシャルティアとアウラは声の主であるアルベドに視線を向ける。

一瞬、ほんの一瞬、声に固まり顔を伺ったその一瞬。

深い闇を見たような気がしたのだが。

 

「……こほん。さすがにナザリックを去られた御方の似姿を我が子に望むのは不敬というものよ。それに、至高の御方に似せた存在を作られる気なら、アインズ様はとっくに作られていると思うわ。それをしないということの意味は解るわね?」

 

 そう語るアルベドは、あくまで守護者統括として二人に言い含めるという語調でそういっただけだった。

 

「そ、そうでありんすね。御方のうつしみを我が子にというのは少々不敬だったわ。許しておくれなんし」

「そういえばそうだよね。アインズ様が望まれるなら、とっくに作ってるよね。ごめんアルベド、軽率だった」

 

 謝罪を述べるシャルティアとアウラに、アルベドは気にしなくていいという風に首を振る。

そして場の雰囲気を一新するためか、ひときわ軽やかな語調でいった。

 

「それよりも、どんな子供が欲しいか。もっともっと話し合いましょう」

「うーん。御方と被らない姿となると……やっぱりアンデッド系なのは外せないとして選択肢が多くて悩むでありんす」

「そうなるとやっぱりダークエルフで双子かなー。私に似せて作っていただくと四つ子みたいになっちゃいそうだから顔は似せないほうがいいのかな……」

「ふふふ、思わず話題が弾むわね。ねえ二人とも、これを第一回にして実際に吾子を賜るまでこの話題を今日みたいな女子会の日に話し合わない?」

「あ、それいいね……といいたいところだけど」

「望むところでありんす!どちらがアインズ様との理想の家族を作れるか、勝負よアルベド!」

「ええいいですとも。私の完璧家族計画を見せて差し上げますわ」

「はー。アルベドもシャルティアも、ほどほどにね。やっぱそうなるよねー」

 

 テーブル越しに眼をつけ合うアルベドとシャルティアの姿を見て、やっぱり私が貧乏くじをひくんじゃないか、といいたげな顔をしたアウラだった。

 

 これは、ナザリック地下大墳墓のとある休日の物語。



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