鬼舞辻無惨の楽しい無限城建築 (じゅぺっと)
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鬼舞辻無惨の楽しい無限城建築

鬼の王、鬼舞辻無惨は牛車に乗って鳴女の元に向かっていた。潜伏していた人間の前でうっかり本性を現してしまい、そのまま殺してしまったからだ。

 

「人間のふりをしてて忘れていたが、建設中の無限城がもう完成している頃だったな。楽しみだ」

 

 しかし無限城があるはずの場所は殺風景極まりない更地だった。

 

 

「何をしている、鳴女ェ!!」

 

 

 どういうことだ。自分は確かに配下の鬼に無限城の建築を命じたはずだ。

 しかし、その問いに答えたのは鳴女ではなく何故か童磨だった。

 

「無限城ならまだまだですよ! だって無惨様、血をケチって琵琶の君一人にしか作らせてないではありませんか!」

 

 童磨はいつも通り無惨ですら読めない虚ろな心のまま、笑顔を浮かべている。

 

「お前は私の言うことを否定するのか?」

 

「いいえ、ですが後30年はかかります、誠に申し訳ございませぬ! 如何にしてお詫びいたしましょうか目玉をえぐりましょうかそれとも……」

 

「貴様の目玉など要らん。もう出来てると思って猗窩座に招集は出したのだ」

 

 

 

~猗窩座の家~

 

「ほげ~アホの無惨様からだ。なんだ一体」

 

『アホの猗窩座へ。

 

 無限城が完成した。土産を用意してこい。

 

 鬼狩りの首を持って来い。

 

 青い彼岸花を持って来い。

 

                 鬼舞辻無惨

 

 追伸。お風呂上がりに耳掃除をすると、湿っている』

 

「……頭に脳が入ってないのか? でも行かないと無惨様怒るだろうな。行ってちょっと見てすぐ帰ってこよう。二秒くらい見て」

 

 

 

 そんな反応をされていることも知らず、無惨は腹いせに腕で童磨を叩きながら命じる。

 

「とにかくもう小さい小屋でもいいから作るのだ!!」

 

「小屋でいいんですか?」

 

「にやにや笑うなうっとうしい! 急げ、明日までに作るでおま!!」

 

 

 

 翌日。猗窩座は林道を歩きながら呟く。

 

「無惨様に会うの久しぶりだな。あっ、まずい。お土産忘れた」

 

「ま、この辺の草でいいか。後サイコロステーキ形の鬼狩りも少々」

 

「……地図だとこの辺だよな無限城」

 

 しかしそこにあるのは更地に薄汚い小屋がぽつんと立っているのみだった。無限城の名には到底ふさわしくない。

 

「これじゃないよなまさか。なんか【むげんぢょう】とか書いてあるけど違うよな。これが無限城だなんて俺は信じないぞ。ここに無惨様がいたら信じるしかないが」

 

「鬼狩り~異常者の集まりうんざりする~♪」

 

 いた。なんか歌ってる。琵琶の位置低っ!!

 

「猗窩座、遅かったな待ってたぞ弾き語りしながら」

 

「弾いてませんでしたが」

 

「実は弾けんのだ今日始めたばっかで」

 

「それなのにそんなに誇らしげにぶらさげてたのか??」

 

「なんだその態度は! もういい、使えない琵琶は解体する!!」

 

「もうやめた!?」

 

 琵琶をたたき壊す無惨。というかその琵琶は無限城を作った女のものではないのか。しかしそれを口にすれば確実に首が飛ぶだろう。

 

「とにかく入れ、できたてほやほやの無限城だぞ。ちょっと変な匂いがするが早く入れ。いや待った。青い彼岸花と柱の首は持ってきたろうな?」

 

「やっぱ要ります?」

 

「要りまくるに決まっているだろう。ただで無限城に入ろうなど甚だ図々しい身の程を弁えろ、片腹痛いわ」

 

 土産袋を渡す猗窩座。

 

「こちとらこれだけが楽しみで……」

 

「お前……草ってお前、サイコロステーキってお前……」

 

 見たことないほどがっかりした顔の無惨。怒ることすら忘れているようだった。

 

「謝りますから無惨様、そんな凹まないでください。それより、いい部屋ですね無惨様、落ち着きがあって」

 

「そんなにいいか?」

 

 見え透いた世辞だったが機嫌は直ったらしい。

 

「お前、なかなか城を見る目があるな、猗窩座」

 

 城じゃない、そう思ったが口には出さなかった。

 

「あ、菓子があるぞ食べるか? ちょっと変な匂いがするが」

 

「要りませんそのああもう臭っ! 魚臭い!!」

 

「なんだ美味いのにむっしゃむっしゃまずっ!!」

 

「不味いの!?」

 

「昔飲まされた薬みたいな味がする。飲み込めないほど不味い。猗窩座、茶を入れてこい台所あるから」

 

「え~俺、客ですよ。無惨様が入れてくださいよ」

 

「ほざけ、私は鬼の王だぞ」

 

「まったく偉そうに……」

 

「全ての決定権は私にあり、私が正しいと言ったことが正しいのだ」

 

 

 

「臭かった……台所がなんかカメムシみたいな匂いした。床ギシギシ言うし大丈夫なのかこの無限城」

 

「あ、風呂まである。なんで台所とか風呂があるんだ無限城に、中はどうなってるんだ?」

 

 猗窩座が扉を開けると、そこには壺の中から幽霊のような気持ち悪い男が人を魚に変えていた。

 

「キョキョキョ……アカン様……」

 

「無惨様! 風呂に変な奴が!!」

 

「ああ、フィッシュ玉壺だ。玉壺にはお前のことを教えてあるぞ」

 

「名前間違えられましたよ俺、アカンって呼ばれましたけど!?」

 

「お前の名前が覚えにくいのが悪い、私は何も間違えない!!」

 

「漢字はともかく読みやすさでも十二鬼月で上弦の参に入ると自負してますよ!」

 

「ふん、なら後で訂正しておいてやろう赤身とかそんなんでいいだろう」

 

「いいわけないだろ!」

 

「ああもううるさいいいから早くお茶くれお茶! この御茶座」

 

「誰が御茶座だ……!」

 

 しかし無惨の命令には逆らえない。

 

「はい、茶です」

 

 猗窩座は自分の指を切り落とし茶に入れて無惨に渡した。

 

「猛烈に指が入っているが!? さすが私が十二鬼月に選んだ男……露骨に地味な嫌がらせをする……」

 

「じゃ、俺帰りますんで」

 

「えっ、もう帰るのか? 泊まっていけ。ちゃんと布団もあるぞ変な匂いするが」

 

「なんで何もかも変な匂いするんだ。泊まりませんよ!!」

 

「私は枕投げを楽しみにしていたのだが? 命令だ。一生のお願い」

 

「……わかりました。じゃあその枕、ちょっと貸してください」

 

「わかればいい。はい」

 

「はい。じゃあそういうことで。俺はこれで失礼します」

 

 渡された枕をそのまま突き返し、猗窩座は無限城を出ようとする。

 

 

「待てーーーーーーーー!! どこの世界にこんな悲しい枕投げがあるんだ!! ワンスローのみってお前!! こちとら一生のお願い使っているんだ。もっと本気でガンガンこい。私より強くなるのではなかったのか? お前はここで終わりなのか?」

 

 

 ポップコーンのように体を四散させてから一瞬で再生、猗窩座の前に立ちはだかる無惨。

 

「ですが無惨様、本気でやると枕でも痛いかと」

 

「見くびるな! 枕だろうが血鬼術だろうが華麗に避けてやる!!」

 

「そうですか、じゃあ遠慮なく。──破壊殺・滅式」

 

 

「ポピッーーーーーーー!!」

 

 

 鬼の王とは思えない無惨な声がした。

 

「直撃じゃないですか無惨様、避けてくださいよ」

 

「滅式はやめろ……滅式は……」

 

「だって避けるっていうから……」

 

「わかった……なんでもありのルールでいいんだな? 知らんぞお前……」

 

「もう帰っていいですか?」

 

「それならこっちにも考えがあるんだぞ!思い知れ、黒血枳棘!!」

 

「危なっ!!」

 

「タマヨーーーーーーーー!?」

 

 またも響く無惨な悲鳴。猗窩座が羅針で回避したことで壁に当たった棘が反射し無惨の額に突き刺さったのだ。

 

「もう、許さん……マジで許さん猗窩座……」

 

「え~今のは無惨様の自業自得じゃないですか」

 

「黙れ! 私の辞書に自業自得なんて言葉はないんだ!!」

 

「なんて自分勝手な辞書なんだ。そんなだから自滅の刃とか言われるんですよ?」

 

「自分勝手なんて言葉もない!!食らいやがれ、超必殺・平安文化アタックー!!」

 

「暴れないでくださいこんな狭い部屋でー!!」

 

「平安貴族の重みを知れーー!!」

 

 しかしまたも羅針で回避する猗窩座。表情が無惨を嘲っていたのは丸まっていた無惨にはわからない。

 

「背中痛っーーーーーーーーー!!」

 

 無限城の壁に激突する無惨。次の瞬間、無限城が激しい地鳴りを起こす。

 

「じ、地震?」

 

「あっ、やばい。今の衝撃で無限城が崩れそうだ!」

 

「崩れそうなの!?」

 

「この無限城急いで適当に作ったから柱とか結構ゆるゆるなのだ」

 

「ゆるゆるなの!?」

 

「くっ、こんなことなら猗窩座なんかに伝説の技使わなきゃよかった!!」

 

「それより無惨様、早く外に逃げm」

 

 

 無限城、崩壊。二人そろって体が潰れたが鬼なので問題なく再生した。

 二人で月を眺めながら、無惨はぽつりと呟いた。

 

 

「私は諦めないぞ、猗窩座」

 

 

 青い彼岸花のことか。無限城の再建か。どんな無茶ぶりをされるかと猗窩座は身構えた。

 

 

「頑張って琵琶、続けてみようと思う」

 



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