悪をなぞる (NY15)
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さよなら 太陽のあたる場所

 あれは3歳の頃だ それ以前の私は恐らくごく普通の幼稚園生であり抱いていた夢も恐らくはこの年代の男の子が抱く普通のものであった。

 

 

 ヒーローという職業を目指すことについてはもはや普遍的と言って差し支えないくらいであったのだ もう少し成長し小学生、中学生、高校生...と成長していけばそうではないのかもしれないが幼稚園生の男の子でヒーローを目指していない者などいないのではなかったのであろうか? 無論私もその中の一人であった あの時...そうあの3歳のあの時 この私の個性が発現するまでは

 

 

 あの時 深夜にいきなり目を覚ました私は耐え難い衝動に襲われた

 

 血を吸いたい なぜそんなことを思ったのか 私はなぜこんなことを思ったのか その時は自分自身がとても恐ろしくなったのだ

 

 そしてその後すぐに異様な頭痛に襲われることになった それからの数十分についてのことは詳しく説明するのはとても難しい だが簡単に言えば自分自身が知りもしないこと つまりは記憶が流れ込んできたのだった。これは前世の記憶なのだろうか 完ぺきではないにせよ膨大な記憶がまるで忘れていたことを思い出したかのように私の脳内を駆け巡った。

 

 

 私のこの個性 これについて理解したのはその時であろう 前世の記憶で読んだ漫画にこの個性のルーツを解き明かすカギがあったのだ。 だが確信を持ったのはやはりこれだろう。 なぜなら私の背後に出現した金色の影こそまさに見覚えのあるものだったからである。

 

 「これは...スタンド!」

 

 この時の私は前世の記憶もしくは人格と今現在の人格が合わさったような不安定な状態であり錯乱状態にあると言ってもよかった それゆえなぜスタンドというものを知っていたのか またこのスタンドがどんなものなのかまるで自問自答するようであったのだ しかしその状態も直ぐに終わりを告げる 3歳のこの私の人格が消えていくのを感じたからである もちろんその記憶は私が持っている だからそれまでの友達だとか今の親とか幼稚園の事などの記憶は無くなりはしなかったが人格はそうでは無かった。

 

 

 3歳の私の人格は消えてしまったのだろうか?死んだのか?いや、私は私だ 

 

 私はただ一人 この私だけが私だ

 

 

 いや私などはどうでもいい 現に今までの名前 鈴木速人という名前だったがもはや私はその名前を使う気にはなれなかった。

 

 この個性 いや違うな これは個性などではない 吸血鬼になった私とスタンド...ザ・ワールドを授かったのだ ならば、もはや速人などと名乗るのは適切ではない

 

 私などのような者が名乗るのはかなりおこがましい 器としてはかなり不適切であり力不足なのは間違いない しかし私はその名を名乗ることに決めた

 

 この世界では誰もその名前を知らないだろう あの御方の名前を

 

 ならば私が広める必要がある なぜそう思うのかは分からないが運命や使命のようなものを私は感じていた。

 

 

 




主人公はDIO様ではありません
ただ一人のファンというかそんな感じですね


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悪に染まる

 さてこの私の個性についてだが スタンドは違うにしても吸血鬼としての能力は個性と言えるのではないのだろうか?

 

 この世界の特殊な能力 個性について その始まりは中国・軽慶市から発信された「発光する赤児」が生まれたというニュース 以後各地で「超常」が発見されるようになったという 今では人間 地球人類の総人口の8割は何かしらの個性を保有しているという。 もちろんそのような能力を人間が授かれば起こることは容易に想像できた。

 

 個性を悪用する犯罪者 ヴィランが生まれ それに対応するように同じく個性を用いた善側の人間 ヒーローが誕生するのは自然的な流れであろう。

 

 今現在は個性というものが発生してからかなりの月日がたち私たちの世代は第四世代もしくは第五世代に該当するらしい

 

 何事にも例外はつきものだろうがこの個性についてその種類は大きく分けて種類に分けられるようだ 「発動型」「変形型」「異形型」の三種類  その中でも細かく分ければさらに細分できるだろうがとにかくこの三種類に分けられるらしい。

 

 私のこの個性は「異形型」に分類されるのではないのだろうか?

 

 しかし「異形型」という個性は生まれた時から常時個性が発現しているものを指すらしい...私はそうではなかったのだが例外という事か、もしくは「異形型」ではないのだろうか...それについては結局判明はしなかった。

 

 

 しかし確実に言えることがある それはこの私の個性によって普通の日常生活を送ることが不可能になったということだ。私は太陽の元に出ることがもう出来なくなってしまったからである。

 

 

 本能的にそう感じていたのだが実験は一応行ってはみた 何事も試してみなくては分からないというものだ。

 

 私は試しに一般的に販売されている出力の低い紫外線ライトを指に照射してみたのだ。 結果溶けはしなかったものの指はひどく焼けただれたのである。恐らくこれでは太陽の元に晒された場合消滅してしまうであろう。

 

 

 不便であると思わなかったと言えば嘘になるだろう しかし私は幸福感に包まれていた あの御方と同じ体 体質になったのである。それに身体能力については人間の時とは比べ物にならない。 3歳の今現在の体ですら成人男性のそれを遥かに凌ぐ身体能力を私は身に着けていた。私は一夜にしてこの世のどんな超人をも超えた...いやこの世界では吸血鬼の能力だけではそうとはいかないか...

 

 

まあいいさ、今からゆっくり体の、能力の限界を実験すればいい それに吸血鬼とはいえある程度の年齢までは体も成長するだろう。それまでは我慢 耐えるときだ。

 

 時間は腐るほどあるのだから 

 

 

 

 しかし体が成長するまでの間 潜伏する必要がある もし私が太陽が弱点でなければ普通に幼稚園、そして学校に行き成長するまでの間普通に生活すれば一番楽なのかもしれないがそれは不可能である それに太陽以外にもエネルギーの供給方法にも問題がある。また個性届を出すのも避けたい。

 

 今のところ私の両親(と言っても私はもう両親とは思っていない。私にとっての両親とは前世の両親だけである。)に肉の芽を埋め込み私の意のままに操っている。肉の芽を埋め込まれた人間は数年のうちに脳を食らいつくされ死亡するという...良心の呵責が無いわけではない だがこの程度の事を実行できずにあの御方と同じ生き方は出来ないであろう。 

 

 

 私は両親を操り警察に捜索願を出させた つまりは私がいなくなったことにしたのである。それで暫く私が見つからなければ失踪届が出されることになりその後死亡扱いになるであろう。

 

 

 日常からの決別 生き方は決めた この時点をもって私は鈴木速人という名を捨てあの偉大なる御方と同じ名前を名乗る

 

 そう これからの私の名は ディオ・ブランドー

 



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日曜日の太陽

この男の子を捜しています

M市S町〇丁目×番地

鈴木 速人くん(3)

〇×幼稚園

身長 99.6cm
体重 14.96kg

お心当たりの方は下記警察署までご連絡ください
〇×警察署 

0xx-xxx-xxx




ある夏の日 昼下がりの公園

 

※緑谷出久視点

 

 「ひどいよかっちゃん…! 泣いてるだろ…!? これ以上は僕が許さゃなへぞ!」

 

 怯えながら強がって 啖呵を切ってみる これでかっこよくいけばいいのだけれど現実はそうじゃない。

 

 人は生まれながらに平等じゃない ズタボロになりながら公園の地面に倒れこんで空を見上げる 嫌になるくらいきれいな青空が広がって太陽がやけに強くまぶしく感じた。

 

 そう、世の中は平等ではない これがよわい4歳にして知った社会の現実

 

 そんなことを考えていると公園の隅の風化した張り紙が目に飛び込んできた。

 

 それは今から一年前くらいだったか 忽然と消えた同じ幼稚園の速人という男の子の行方不明者の情報提供を呼び掛ける張り紙だった。

 

 当時けっこう大きいニュースになってテレビでも報道されていたくらいだった。

 

 当時世間ではやれ親が犯人で山に埋めたんじゃないかとか某外国の国に拉致されたんじゃないかとかヴィランが関わっているなどの憶測が飛んでいたが一年もたてば皆の興味も消え失せてしまったようだ。あの張り紙のように事件そのものが風化して忘れ去られてしまうのだろうか...

 

 結局今でもあの子は見つかっておらずどこで何をしているのか そもそも生きているのか不明なままである。

 

 

 幼稚園の皆も彼のことなど忘れ去ってしまったようだ かっちゃんは彼のことを覚えているのだろうか?

 

 

 いつも遊ぶグループが一緒じゃなかったから たぶんかっちゃんは彼のことなど忘れてしまっているのかもしれない。

 

 

 僕も彼のことを忘れてしまうのだろうか?かっちゃんや他の幼稚園の子や世間の人々と同じように...

 

 

 悲しすぎる現実だ 

 

 あの子とは仲が良かったわけじゃないけれど悪かったわけでもない

 

 

 確かちょっと前にあの子とヒーローについて一緒に話し合ったことがあった

 

 もちろんお互いに将来の夢はヒーローで、好きなヒーローについて話したり将来どんなヒーローになりたいかとか自分たちにどんな個性が発現するかとか、はたまたどんな個性が欲しいだとか...

 

 もし彼が生きていればどんな個性が発現しただろうか?

 

 彼に比べれば僕はまだ恵まれているのかもしれない いやそんな考えは良くないか...

 

 僕はたとえ無個性でも夢をあきらめる気にはならなかった そうさ、周りの言う事なんて気にして自分に嘘をつくのは嫌だ そして彼のことも...

 

 

 たとえ皆が忘れても 僕だけは彼のことを覚えていよう

 

 再び空を見上げる 先ほどと同じように太陽が強く照り付け 雲は淡々と流れていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ボディ・スナッチャー

個性発現から11年後 某所 雑居ビル地下 

 

 あれから暫くの月日が経過した この私のこの世界での両親は数年前ついに肉の芽が脳を食らいつくし帰らぬ人となった。もっとも表向きには彼らも失踪という扱いになっている。(ネット上のアングラ系サイトでこの一家全員が失踪した扱いになったことからある種の都市伝説のような噂になっているようだ もっとも気にするほど大きな噂になっているわけではない 私にとっての障害にはなりえないだろう)

 

 

 さて 機は熟した 体はまだ成長段階だがもういいだろう いや体などどうでもよいのだ。顔さえこの年齢にまで成長すれば私の計画にとって問題はない。

 

 

 

 私がDIO様の名を名乗るにあたって大きな障害が一つ存在した...それは両親の体格からしてDIO様と同じような身長や体格にならないということだ。

 

 お世辞にも両親の体格は恵まれているとは言えなかった だがそれに不満を言うのは酷な話かもしれない。人種の違いというのはもちろんのこと、あのジョナサン・ジョースターという西洋人の中でも屈強な体格に匹敵するDIO様...その体に匹敵する日本人は中々お目にかかれないであろう。(もっともこの世界 個性によっては人外じみた外見の者も存在する。そういえばあのオールマイトもその強さはもちろん体格も平均を大幅に上回っている)

 

 ならばどうするか? 答えは簡単 DIO様と同じことをすればいいだけの話だ。

 

 

 私の頭の中に世にも残酷な計画が組みあがっていく。 

 

 だがそれがどうしたというのだ?私は既に食事をしている。 ふと部屋の隅に転がる死体に目をやる まるで干からびたミイラのような死体がそこに存在していた その姿は生前の面影など微塵も感じさせない かろうじてその死体が身に着けている衣服で女性であったと判別できるくらいであろう。

 

 もはや躊躇う物事など私には存在しない。

 

 食べたパンの枚数を記憶している人間はいないように いや例えるならこれから私のやろうとしていることは動物の皮で衣服を作りそれを着るようなことであろう。

 

 私は地上へと続く階段をゆっくりと上がっていく 今までは目立たぬよう手下も作らず 食事も出来るだけ目立たぬよう心掛けてきた 警察やヒーローどもを侮って私の存在が露見する恐れがあったからだがこれからはそうではない。

 

 

 DIO様が目指したようにこの私もこの世の頂点を目指す その先にあるのは天国か はたまた地獄か

 

 ネオン煌めく東京の街 正義と欲望がぶつかる街 

 

 私は階段を上り終えるとビルの出入り口の前に立つ

 

 そして第一歩を踏み出したのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ボディ・スナッチャー2

登場人物紹介
ジョディ・ジョンストーン
14歳
イギリス人

個性 Thorn

自分自身の腕や足から茨を伸ばす個性 射程約5m 伸縮自在




東京

 

 あの冬 日本の東京で起こったあのおぞましい出来事

 

 忘れることは出来ない いや忘れてはいけない 私の運命 それに対する決着を着けなくてはならない それは私の使命

 

 

 

 

 

 あの年 私は両親と兄と姉 そして妹の家族全員で日本に訪れていた。(四兄弟である)

 

 理由 それは両親の仕事の都合である...それとそのついでに家族旅行 兄は日本のアニメなどが好きで日本行きを楽しみにしていたようだが私にはあいにくそのような趣味はない。(昔兄のすすめで少しだけコミックを読んだことがあるけど)

 正直に言って面倒くさいだけであった。それにこの年齢だと家族旅行よりも国に残って友達と過ごしたほうがいいと思うのが普通だと思う。

 

 だからこの旅行を楽しみにしていたのは兄と妹 姉と私はあまり乗り気ではなかった。おまけにホテルの部屋は兄弟で一緒ときている これでは乗り気になれないのも仕方がないと言わざる負えない。

 

 でもパパとママを悲しませるのもどうかと思ったので表面上は楽しそうに私は振舞っていた。恐らく姉も同じであろう。

 

 

 年甲斐もなくはしゃぐ兄を冷ややかな目線で眺めながら一応この東京の街の観光を楽しむ努力をしてみる。あれで将来ヒーロー志望だと言うのだから呆れる。

 

 でもこの時の私たち家族は確かに浮かれていたのだろう 初めてくる異国 自分たちの国とは明らかに異なる雰囲気 そして世界でも安全と言われる日本で完全に気は緩み切っていたのかもしれない。

 

 平和の象徴 オールマイト 彼の登場以降 日本は世界で最も安全な国と言われておりその名声は私の国 イギリスにも届いていた。

 

 なんといったってあまりヒーローに興味のない私ですら知っているのだから

 

 

 だから私たちの後をつける悪意の視線を 悪の気配を感じることは出来なかった 

 

 あの背筋が凍り 鳥肌が立つ 体中の毛が逆立つようなあの視線に

 

 今は冬だから日が落ちるのも早い しかし現代社会というのはたとえ日が落ちてもその明るさ 煌めきは消えることは無い。

 

 眠らない街 東京 むしろその煌めきは日が落ちてからが本領発揮と言えるだろう。

 

 

 だから暗闇の恐ろしさなど現代人にとっては記憶の片隅に追いやられているのだろうか

 

 

 そもそもなぜ人は暗闇を恐れるのだろう?原初の記憶?

 

 まだ人間がこの地球で頂点ではなかった時代の恐怖だろうか?闇に潜む獣を恐れる恐怖なのだろうか?

 

 

 しかしもしかしたら獣以外の何かが太古の昔存在しており その存在への恐怖 遺伝子に刻み付けられた恐怖の因子が存在しているのではないのだろうか?

 

 私はあの出来事以来 そんな奇妙な考えに取りつかれている 

 

 

 

 



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ボディ・スナッチャー3

東京 ホテル

 

 ついに見つけた 特に当てがあったわけではない だからこんなにも直ぐに目当ての体を見つけられるなんてやはり私は運命に愛されているのだろうか 

 

 東京という街はアジア屈指の歓楽街 外国からの観光客も多い 無論別に日本人の体でも良かったのだがあれほどの優良物件はそうそう現れまい。

 

 

 その体格はもちろん おそらくあの男の隣は妻として近くにいる四人は子供で間違いないだろう。

 

 そう子供だ それが一番重要な要素 血のつながった子供の存在がだ

 

 

 私はあの家族の後をつけ 宿泊していると思われるホテルまでたどり着いた。

 

 あとはホテルのボーイなり受付なりで連中の泊っている部屋を確かめればいいだけ

 

 なに 私にとっては朝飯前の仕事よ

 

 「あの 少しいいかな受付のお嬢さん ああ、何でもないことなのだよ ちょいと今エレベーターに乗っていった6人組の西洋人の親子...あの家族の宿泊している部屋の番号を知りたいだけさ 教えてくれるかな?」

 

 さりげなく私は彼女に手を差し出しそれをプレゼントする。

 

 私の手を離れたそれは常人には対応不可能なスピードで受付嬢の脳を捉え確実に侵食していった。

 

 「あっ...ああ!!」

 

 数秒の間をおいて肉の芽は彼女にその効力を発揮した 

 

 「あのお客様は... ジョンストーン様は...」

 

 

 若干意識は朦朧としていたが受付嬢はなんの抵抗もなくこの私に部屋を教えてくれた。当然だ たとえどんな規則や法律があろうと今彼女が一番優先するのはこの私 このDIOよ

 

 

 「いいかい 今の出来事は全て他言無用だよ たとえ警察やヒーローにもね...私と君の 二人だけの秘密さ」

 

 私はエレベーターを使わず階段を使用して目的の階層に向かう これで彼女はたとえどんな拷問を受けようが決して口を割ることは無い。

 

 

 まず初めに子供たちを始末しその後あの男の(ボディー )を頂く

 

 先に体を奪ってしまいたいところだが馴染まない体では逃げられる可能性も高い たとえザ・ワールドがあったとしても細心の注意を払わなければ 傲慢が綻びを生むということもある。

 

 ジョナサン・ジョースターの体を馴染ませるのに孫のジョセフ・ジョースターの血であの馴染み具合だったのだ それがその体の直系の子供4人の血があれば十分すぎるであろう。

 

 ホテルの6階 そこが家族の宿泊している部屋 まずは子供たちの部屋に向かう 親の部屋も同じ階層だ。

 

 廊下には誰もいなかった 監視カメラは存在しているわけだが...問題はない 

 

 要するに監視カメラの映る範囲は時間を止めて移動すればよい

 

 今現在の私の能力...スタンド能力 ザ・ワールドの時間停止は5秒 ここまで停止させるのに10年の時間を要した。そして吸血鬼としての能力ももちろん試した 気化冷凍法や空裂眼刺驚は今では問題なく使用可能である。冷凍法を身に着けるのにはちと苦労しがな... それ以外にもいろいろ試しておりいくつかは中々に使えるものも存在した。

 

 さて子供たちの部屋の前に到着した 私は扉をノックする 

 

 彼らにはそれが終末の音となるであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ボディ・スナッチャー4

東京 とあるホテルの一室

 

 

 ジョージ・ジョンストーン 彼は一家の主であり4人の子供を持つ父親である。

 

 

 仕事はまじめでそつなくこなす 誰が見ても幸せな家庭を持つ 部下からも慕われ順風満帆な人生を送っている。 だれがこの男のこれから起きる悲劇を予想出来ただろうか

 

 そして一つ 説明しておかなければならないことがある。彼の一族には奇妙な身体的特徴があるのだ。首の付け根に中々の大きさの痣が存在するのである。それもきれいな星型の痣が 

 

 その特徴は子供たち全員に遺伝しており恐らくはこれからも続いていくことであろう。

 

 しかし彼にはその星型の痣が世界を 次元すら超越した因縁の因子であることを理解しているはずもなかった。

 

 

 

 そしてホテルのドアをノックする音が一室に響いた それこそまさに彼ら一族にとっての運命の転がる音であった。

 

 

 

 

 その運命の音が響いたちょうどその時 夫婦は自分たちの宿泊する部屋に行く前に子供たちの部屋に立ち寄っており一部屋に家族が集まっている状況だった。

 

 

 なぜだかは分からない 首元の痣が妙に疼く こんなことは今まで初めての体験である。

 

 ジョージがその痣に手を伸ばした時、娘のジョディがいつも首からぶら下げている彼女にとっての幸運のコインを繋いでいるチェーンが千切れベッドの下に転がっていくのが確認できた。

 

 ジョディはそれを取ろうとしてベッドの下に潜り込む ちょうどその時にドアをノックする音が聞こえてきたのだ。

 

 

 何だろうか?思い当たる節は無いので恐らくはホテルのボーイだろう...

 

 

 ジョージは警戒することなく扉を開けてしまったのだ ドアアイを覗くことはしなかった。 だが覗いていたところで結局扉は開けただろう。

 

 なぜならその扉の前にいたのはどう見てもジョディと同年代の日本人の子供だったからである。

 

 しかしジョージはその子供の瞳を覗いた瞬間 背筋が凍り付いた 理由は分からない しかし自らの生存本能が危険を知らせていた。

 

 彼の意識はそこで途切れることになる 最後に目に入ってきた光景はその子供が高く跳躍しその手が私の首に迫る光景だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

                

運命の奴隷

 

 

 

 

 

 私の幸運のコイン 幸運の25セント硬貨 イギリス人の私が何でこんなものを身に着けているのか不思議に思う人もいると思う。実際のところ自分でも理由はよくわかっていない。 いつの時からかこのコインを私は持っていて 幼い私はこれが幸運をよぶコインだと思い込んでいたのだ。笑っちゃう話かもしれないけど私は今でもこのコインを肌身離さず身に着けている。

 

 

 だからこのコインのチェーンが千切れたときは何か嫌な予感がした。コインがベッドの下に転がるのがなぜかスローに見えた。

 

 

 コインの転がった先 ベッドの下に私は潜り込むとコインがキラリと輝きを放った

 

 

 それに私は手を伸ばそうとしたその時 コインの近くに何かあるのが確認できた

 

 それは球体 異質な雰囲気を放つ球状の石

 

 

 「ッッッ!!!」

 

 その石は彫刻のようであった 彫ってあったのは私のパパ 首から血を流しているようなパパの彫刻

 

 私は反射的に腕から個性を Thornは出現させ彫刻に絡みつかせる こいつは危険だ 破壊しなくてはならないという考えが私を突き動かした。

 

 

 絡みつかせた私の茨は容易くその彫刻は引きちぎる 私のこの個性Thornはその気になれば鋼鉄すら引き裂く力がある。

 

  

  その石は脆くも崩れ去り砂状になってしまった。これは一体...

 

 

  しかし私の意識は石から離れてしまうことになる それはこの部屋に起きた異変 それをベッドの下から目撃することになるからだ。だからその後 石が変化して 私を除いた家族全員の顔の彫刻に変化していることなど気が付きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その煌びやかなホテルに似つかわしくないサイレンの音が辺りに鳴り響く ホテルには規制線が張られ野次馬とマスコミ、それを静止する警察官で溢れていた。

 

 

 部屋には既に鑑識が入っており現場のゲソコンや写真を撮り始めていた頃であった。

 

 刑事である塚内直正警部はまだその現場には踏み入れることは出来ないが部屋の外からでも今回の事件の異様さは感じ取ることが出来た。

 

 「一人だけ生存者がいます...しかし錯乱状態にあるようで...ひとまずは病院に送ってありますがあの分だとすぐに事情聴取は不可能だと思われます。」

 

 外見は猫そのもの 玉川三茶から生存者の報告を受ける 錯乱状態...それも仕方がないだろう。

 

 被害者 死亡した4人のうち母親以外の3人は全身から全ての血を抜かれていたのである。

 

 

 被害者一家はイギリスから来た旅行者 そして死亡したのは母親とその子供3人 生存者はベッドの下に隠れていた次女で父親は行方をくらませている。

 

 

 思い当たる節といえば数年前から取り沙汰されている吸血鬼事件 その件に関しては情報統制が敷かれており一般には公表されていない(しかし一件だけは第一発見者がマスコミ関係者であり血が抜かれた死体の怪事件として報道されてしまっている)

 

 

 しかし今回の事件はそれら事件群とは決定的に異なっているように思われた。

 

 例の吸血鬼事件 被害者は路地裏のチンピラや娼婦のような存在でありその全身から血を抜かれ路地裏で発見されることが多かった 数年前からポツポツとそのような死体が発見されることがあり捜査がなされていたがいまだに犯人の手がかりを掴むことは出来ていなかった。

 

 被害者は大抵裏の人間であり恐らくは死体が発見されていないケースも多いだろう 実際の被害者は警察が掴んでいるよりも多い可能性は高い。

 

 自警団のような組織 非合法のヒーロー活動をしている組織の犯行ではないかと警察内部で囁かれたこともあったが今回の事件と今までの吸血鬼事件が同一犯であるとするならば...そうではないことになる。

 

 

 今回の被害者ジョンストーン家はそういった裏社会の人間ではない もちろん犯罪歴も存在しない 一応裏付け捜査を行われるであろうが今までの被害者達とは明らかに異なっている。

 

 

 それに父親が行方不明...この時点で一番怪しいのが彼だろうが...

 

 

この事件現場となった部屋の前の監視カメラは恐らく犯人によって破壊されていた。

 

 その他の廊下やホテルのフロントの監視カメラにはその父親と同じ服装 背丈の人間がキャリーケースを引きずりながらホテルから出ていく姿が確認されてはいたのでまず彼が犯人の可能性は高い。深く帽子を被っていたので顔は確認できなかったのだが...

 

 しかしそれ以外にも怪しい人間が存在していた。 まずホテルの周りをウロウロしていたこれまた外国人風の男が一人目撃されており監視カメラにもその姿が捉えられていた。

 

 

 そしてもう一人 ホテルの受付で何やら中学生くらいの男の子が受付嬢と話をして階段を上がっていく姿も確認されたのだ。 それだけなら怪しくもなんともないのだが...その男の子が階段を上った後が問題なのである。 階段を上ったのだからどこか上の階層に向かったのだろうがその姿がどのフロアの監視カメラにも映っていなかったのである。ホテルの宿泊客にそのような人物は存在しなかった...つまり彼は忽然と姿を消してしまったことになる。

 

 

 考えられるとすれば彼が自らの個性を使用して何らかの方法でホテルから消えたということである...

 

 さらに彼の対応をしていたホテルの受付嬢すらも姿を消している 聴取を行おうとしたときには既に行方が分からなくなっていた。

 

 

 今の時代 オールマイト以後であっても個性を使用した凶悪犯罪というものはそこまで珍しくはない しかし今回の事件は何もかもが異質 塚内警部にはそう感じられたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   

 

 

 

 

 

 

 



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ヒーロー殺しステインの路地裏の奇妙な遭遇

ホテルの事件から数日後 東京某所の路地裏

 

 ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない。しかし今の世の中 今のヒーローはどこもかしこも偽物だらけ

 

 贋物が跋扈する世の中でこの俺がそれを正す。

 

 

 ヒーローとは偉業を成し遂げた者のみが許される称号 

 

 

 その名前に泥を塗り自らの名声と地位 金に執着する拝金主義者の偽物どもを粛清する。この世が自らの過ちに気が付くその時まで 俺は現れ続ける。

 

 

 彼 ヒーロー殺し ステインは次のターゲットをこの街に定めていた。

 

 日は既に落ち この薄暗い路地裏を僅かな照明だけが照らしていた。

 

 

 ターゲットを捜しに路地裏を後にしようとしたその瞬間 路地裏の奥 ゴミ溜めしかないようなその場所に何かが蠢いているのを彼は感じた。

 

 

 「んっ こいつは!!」

 

 それはまるで獣が獲物を貪るような咀嚼音 肉を貪り骨すら砕いているような音であった。

 

 目を凝らすとそこには地面に血だまり 倒れこんだ人間に覆いかぶさるようにもう一人 異様な雰囲気の人物が存在したのだ。

 

 

 その見た目はまるで映画に出てくるアンデッドそのもののようだった。

 

 こいつ...人間を食っているのか 

 

 

 ステインは自らの得物である日本刀を構え戦闘態勢に入った 奴は危険だと彼の今までの戦闘経験がそれを知らせていた。

 

 「貴様ァ この俺の食事を見たな 貴様の脳みそと軟骨もしゃぶらせろ 軟骨がうめんだよ 軟骨があ!」

 

 いきり立ったアンデッドのような男がその場から高く跳躍 こちらに飛び掛かってくる

 

 その見た目に反して奴の動きは軽快 予想以上に素早かったが反応できないほどではない

 

 すれ違いざまに胴体を斬りつけさらに奴の足の腱を切断する これで奴は動けなくなるはずだ。

 

 奴はその衝撃でゴミ溜めに突っ込むが平然と起き上がる。

 

 「ッ!!馬鹿な!?」

 

 「ウッシャシャ 貴様の脳みそを食べさせろぉ!」

 

 こいつ 痛みを感じていない...?  

 

 俺は日本刀に付着した奴の血液をなめ個性を発動させようとする しかし舌を日本刀に近づけたその瞬間 俺の体に電撃が走ったような感覚 この血液を舐めてはいけないという直感が働いた。

 

 何だというんだ...なぜ俺は今 奴の血液を舐めるのを躊躇った?

 

 

 しかしならば奴のその頭 斬り落とすまで

 

 

 狙いを頭部に定め 日本刀を奴の首になぞるように斬りかかる。

 

 

 いとも簡単に奴の頭部は切断され嫌な音とともに地面に落下した。

 

 

 「ウリィリィ...ウギャギャ」

 

 頭部だけになっても奴は生きていた 俺はその脳天に日本刀を突き刺し頭部を破壊する。こいつが映画に出てくるゾンビやアンデッドの類だとしても頭部を破壊すれば死亡するはずだ。

 

 

 今度こそ奴は沈黙したようだが頭部を失った体のほうはまだピクピクと動いているようだった。

 

 

 

 こいつは一体何なんだ?異形型の個性か?

 

 しかしこいつがもしゾンビのような存在だとしたら...

 

 ステインのその予感は見事に的中することになる

 

 あのアンデッド男が貪っていた死体 それがおもむろに起き上がったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 



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刺客

東京某所 ホテルでの外国人一家惨殺事件から数日後

 

 私が想像していたよりも体の馴染み具合は遅かった。やはり一人取り逃がしたのが不味かったか...いや、そうではないな 血はもう十分だろう 馴染むまでには血だけではなくある程度の時間が必要か だが私には体の馴染み具合よりも注視しなければならない問題がある この体の痣のことだ

 

 

 なるほど出来すぎているとは思っていた 運命というやつがあるとするならばやはりこの血脈に刻まれた因縁は あの御方の名前を名乗った時点で どこまでもついて回るということなのだろうか

 

 私は首の付け根の裏の星型の痣を手でなぞる。

 

 いいだろう 宿命ともいうべきか 始末すべき宿命 抹消すべき因縁

 

 

 「DIO様 既に生き残りの小娘が入院している病院を特定してあります、今すぐにでも始末いたしましょうか?」

 

 

 少し思考する しかしそうだな いかにこの痣を持つ一族とはいえ偶然ということもありうる ならば我が運命に立ちふさがる資格があるかどうか 試してみても悪くはない。

 

 私は黙ったまま手で指図をする 

 

 「ウエッへへへッ では奴を差し向けます。なに所詮はただの小娘、DIO様が気にするほどの存在ではございませぬ。我等にお任せを ヒャヒヒヒ」

 

 さてどうなるか 

 

 

 

 

 

   

 

 東京 某病院

 

 

 私は地獄の底に突き落とされた感覚に陥っていた

 

 今でもあの時 何が起こったか正確なことは分からない 警察はパパのことを疑っているみたいだけれどあれはパパじゃなかった

 

 

 ベッドの下から目撃したあれ いきなり家族全員がバタバタとなぎ倒され その後パパの姿をしたあれは私の兄と姉 そして妹の首筋に手を...

 

 

 あれは何をしていたのか その瞬間は分からなかった だが首筋に手をあてられた兄の体が徐々に干からびていく様子から私は全てを察した あれは血を吸っていたのだと

 

 

 私は恐ろしくて 普段私は気が強い方だと言われることもあるけれど 戦おうだなんて考えすら起きなかった 体が凍てつき動かすことが出来なかった ベッドの下でガタガタ震えて ただ見つからないことを祈るしか出来なかったのだ。

 

 自分が情けなかった そして憎かった 家族を目の間で殺されて何もできなかった自分が ただあの時 自分だけが助かりたいと そう祈ってしまった自分が

 

 

 

 

  必ず 必ず奴を見つけ出す 何年かかっても そしてこの私が 必ず奴に報いを受けさせる

 

  

 私は一旦国に戻ることになる だけど直ぐにまたこの日本に戻ってくる まだ私は14歳 来年受験だけど何とか間に合うだろう いや間に合わせる。決して動機としては正しくない だけれど奴を見つけて裁きを受けさせるには私が日本でヒーローになる必要がある それが最善 たとえ誰にこの考えを否定されようが私はやめるつもりはない。

 

  これは私の使命

 

  病院のベッドから窓の外を眺める 嫌に月がキレイで そして嫌にむなしく 悲しくなる夜だった。

 

 

  その時だった 窓に何か液体のようなものが飛び散ったのは それは鮮血 生々しい血液が窓に飛び散り視界を遮断したのだった。

 

 

 「ウッッ!?」

 

 

 私はベッドから立ち上がり急いでドアの方に駆け寄り助けを呼びに行く 部屋の前には警察から委託されたプロヒーローが警護しているはずだったからである。

 

 扉を開けるとそこには壁にもたれかかり血だらけになったヒーローの姿が確認できた 私は脈に手を当てるが既に彼は事切れていた。

 

 だが異様なのはその死に方 傷口が体中に存在していた なにか尖ったもので全身を刺されたかのような傷口

 

 例えるなら中世 拷問道具に使われたというアイアン・メイデンを使えばこのような傷口になるだろうと私は推察した。

 

 「今度は一体何なの...助けを 助けを呼びに行かないと...」

 

  

  その瞬間 私は鋭い殺気を感じた これは...天井になにかいる!?

 

  「ウルルルルイィ!」

 

 

  私は個性を発現させる 茨を手にまとい防御姿勢で回避した。

 

 

  天井から伸びてきた手は私の茨に接触したおかげで腕には触れられなかったが 何か鋭い刃物で切り付けられたような感覚を味わった。

 

 「キイーッ その個性さえなければ 顔の皮をマスクをはぐようにそぎ取ってやったものを イッヒヒ」

 

 

 「お前は!?一体誰!?なんなのッ!?」

 

 

 「俺の名前は鋼線(ワイアード )のベック ズラ DIO様の命令によりお前を始末するズラ」

  

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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刺客2

吸血鬼の身体能力に関する研究レポート
1 屍生人について

 自らの体内にある吸血鬼のエキスを注入することで人間を屍生人化することが可能 大抵の場合はグロテスクな容姿に変化するが稀に知能や外見を比較的人間時のまま保った状態で屍生人化する場合有り 詳しい条件は不明だが悪人ほど生前の外見を保つようである。

2 石仮面の製作

 私は10年以上の潜伏期間中に人間を吸血鬼化させる石仮面の再現を試みた

 この世界でも人間を吸血鬼化させることが可能なのかどうか...それは私の疑問点の一つであった。


原理としては人間の脳を直接刺激して未使用領域を活性化させ、人間を不死身の吸血鬼にしてしまうというのは知っていたので人体実験を繰り返し何とかその再現に成功した。

 ただしオリジナルの石仮面よりも大型化してしまっておりもはや仮面というよりも装置に近い規模になってしまったが名称は便宜的に石仮面としてある。




東京 某病院

 

 「フンフンフフン♪ フンフンフフン♪」

 

 目の前のこの異様な男は陽気に鼻歌を歌いながらにもこちらとの距離を詰めてくる

 

 一見ふざけた態度をとってはいるがコイツ...一瞬でプロヒーローを惨殺しているのだ 恐らくは強い!

 

 「フフン まだ14のガキにしてはいい女ズラ マブいズラ 抱きしめてその白い肌から血を吸ってやるズラ」

 

 

 血を吸うだって!? 今のこの状況 そしてこいつがさっき出したDIOとかいう名前 間違いない こいつが特殊性癖の変態という以外にも私は理解したことがある。

 

 家族の仇 その名はDIO! 間違いない そして私が生き残っていることを知ったDIOとかいう奴は こいつを送り込んだのだ!

 

 私は立ち上がり再び個性 Thornを出現させる 今度は防御の為ではない

 

 

 「出来るものならやってみなさい!もう私は逃げない...あんたみたいなゲス野郎はこの私が地獄に送ってやるわ!」

 

 言葉で自分を奮い立たせる 強い言葉を使ってはいるがそれは自分を奮い立たせるため 本当はあんな出来事があった後だもの 逃げ出したいくらい怖い

 

 「なっ...ふん 小娘のくせに威勢だけはいいズラ   フォーフォフォッ!!」

 

 奴が奇声を発すると全身から長い針が一瞬にして出現した まさに全身凶器!

あのヒーローの傷口をつけた正体はこの奴の全身から生えた針!恐らく体毛が変化したらしい鋼針線( ワイヤー) が奴の個性!!

 

 「気の強い女は嫌いじゃねぇズラが...俺は女が俺に対して冗談を言うのは好まねぇズラ そういう場合はお仕置きだズラ」

 

 何と奴はその場で跳躍しながら空中で回転 そのまま私に突っ込んできたのだ!

 

 「ぎゅうっと抱きしめる! 抱きしめのお仕置きズラ!!」

 

 私の想像以上にこの変態は素早かった なるほど ヒーローを簡単に殺しただけはある...でも!

 

 「出ろ!Thorn!」

 

 私の腕から飛び出した茨が的確に奴を捉える 

 

 「よし!捕まえた! この最低のド変態!後悔しながら地獄に堕ちろ!くらえ熊胴断波!」

 

 それは兄に勧められて読んだ中で一番気に入ったコミックに出てきた技を私が自分の個性で再現したもの 鋼鉄すら引き裂く茨が奴の胴体を真っ二つに切断した。 

 

 「ヒェオォォウルリィィィ!」

 

 おぞましい断末魔 臓物が地面に撒き散らされ 奴は誰が見ても息絶えたかのように見えた。

 

 

 

 「ハァ...ハァ....やった!?」

 

 

 奴を倒した、戦いの後の高揚感を私は感じていた。 しかし直ぐにそのあまりのグロテスクな惨状に私は吐き気と罪悪感でいっぱいになる それがどんなにコイツがクズだとしても...

 

 分かっていたんだ 私の個性はその気になれば簡単に人を殺せる個性だって...

 

 

 手加減は本当に出来なかったのか...いや、奴はプロヒーローを倒すような相手...そんな余裕はあるはずがない 

 

 しかしその私の思いは杞憂に終わることになる 悪い意味で

 

 

 「!?奴がいない?そんな馬鹿な!!」

 

 

 目を離した一瞬 その一瞬で奴はこの場から消えていた ありえない 一体何が...

 

 

周りを見渡そうとした瞬間 奴の針だらけの蹴りが私に襲い掛かる。

 

 

 「ウゥグッ!!??」

 

 奴の最初の攻撃は掠っただけだからわからなかった しかし今はわかる コイツのパワーは人間のそれではないと

 

 

 私は一応ガードはした 茨をまとわせた腕で防御姿勢を取ったから上半身は直撃を受けたわけではない...しかし奴のその一撃は私の全身を砕くかと思うほどの衝撃 私は廊下から自分の病室まで吹き飛ばされてしまった。

 

体を真っ二つに切断したのになんで...まさかあいつの個性!? いやありえない あいつの個性はあの針なはず...まさか個性を複数持っているとでも言うの?

 

 

 「フフン!無駄ズラ この俺はDIO様の石仮面によって不死身になっているズラ! さあ!これから徹底的なお仕置きズラ!」

 

 不死身...そうか 今分かった こいつもDIOとかいうやつもあの伝説に出てくる本物の吸血鬼 私はなんてものを相手にしていたんだろう つまりホテルで血を吸っていたあれは個性じゃなくてただ食事をしていただけなんだ...

 

 もう駄目だ... 体に力が入らない たぶん骨が何本か折れていると思う。息が苦しい 

 

 

 みんな...ごめん 仇を取れなかった 私はなんて無力なんだ

 

 

 

 

 

 あいつの腕がこちらに迫る 

 

 

 

 私は目を閉じる 

 

 

 

 

 

 

  暫しの沈黙 いつまでたっても攻撃してこないので私は恐る恐る目を開ける

 

 

  その光景を目撃したとき まるで幻かと思った 部屋中にシャボン玉が溢れていたのだ あいつと私をまるで隔てるようにシャボン玉の壁が出来上がっていたのだ。

 

 「遅くなってすまないシニョリーナ 後はこのシーザー・ツェペリが引き受ける!」

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 



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イタリアから来た男

東京 某病院

 

 「遅くなってすまないシニョリーナ 後はこのシーザー・ツェペリが引き受ける!」

 

 頭にバンダナを巻いたブロンドヘアーの男性がいつの間にかそこに存在した。

 

 窓枠に腰かけ そのグリーンの瞳がとても頼もしく見えた

 

 彼がどこの誰なのか どうやってこの4階にある病室に来れたのか なんで助けに来てくれたのか 今の私にはそんなことを疑問に思う余裕なんてなかった。

 

 「ああ 何?このしゃぼん玉?ヒヤッハー!こんなもんで俺を封じたつもり?笑っちゃうズラ」

 

 「おっと待ちな そのシャボン玉に触らないようお前に警告するぜ お前にはまだいろいろと聞きたいことがあるんでな」

 

 「何を馬鹿なことを!ヘーン こんなもーんズラ!」

 

 確かにそうだ あんなシャボン玉であいつを封じ込めるわけがない そんなことは火を見るより明らか...しかし奴があのシャボン玉に触れた瞬間 目を疑うような出来事が起こったのだ!

 

 

 無数のシャボン玉が奴に触れ破裂!シャボンに触れた個所が破裂するように奴を削り取った!そしてその傷はまるで電撃が流れるように奴の体を駆け巡る!

 

 

 「ウアアア!オオォッ ノオオオオオッッー!!」

 

 

 今 何が起こった?奴は甲高い悲鳴を上げながら体が溶けるように消滅 奴の衣服を残してチリになってしまったようだ。

 

 「全く、折角の警告を無視して まだ奴には聞きたいことがあったが...いやそれよりも無事かい?シニョリーナ おお、なんてことだ 骨が何本か折れているじゃあないか。」

 

 「貴方は一体...」

 

 「それよりも怪我を治さなくては 本当は女性にこんな手荒なことをするのは俺の主義に反するんだが...少し苦しいが我慢してくれ」

 

 そういうと彼は小指を立て私の横隔膜付近に突き刺した

 

 「ングッ!?アッウッ...」

 

 「さあ肺の中の空気を1cc残らず吐き出すんだ しばらくは苦しいが...心配はない」

 

 

 一体何を...しかしそれは直ぐに起こった 体中の折れていた骨が瞬く間に治癒していくのが私には感じられた。ほとんど痛みもなかった。

 

 「今俺は君の横隔膜を突き特別な呼吸法にした...これが波紋エネルギー 波紋呼吸法」

 

 「波紋...呼吸法!?」

 

 「そうだ、そして波紋こそが石仮面が生み出した吸血鬼に対抗する術...いいかいジョディ、いやジョジョ!君は世界すら超えた因縁に既に巻き込まれてしまった 残酷だが逃れる術はない たとえ逃げても運命のほうが君を追いかけてくるだろう!」

 

 「そんな...いきなりそんなこと言われても何が何だか...それに因縁って何のこと!?わからない!分からないわ!あなたの言っていること全てが!!私は知らない...石仮面や吸血鬼...そしてDIOとかいうやつの存在も!」

 

 「DIO!?今君はDIOと言ったのか!?...やはり運命は変わらない たとえ世界が、次元が変わってもそれから逃れることは出来ないということなのか...」

 

 

 このシーザーという人はDIOという名前を聞いた途端顔の表情が変わった 彼はDIOのことを知っているのだろうか?それに世界や次元って一体どういう意味なのだろうか?

 

 「いいかい、よく聞いてくれ 俺の言うことを信じられないだろうが本当の話だ...俺の一族はあの石仮面の呪いと戦ってきた 代々受け継ぎあの石仮面の謎そして呪いと戦ってきた そしてその戦いの中で俺は命を落とした」

 

 「えっ!?それってどういう...」

 

 「そのままの意味だ、そして俺は気が付いたらこの世界で生まれて育っていた。これは前世の記憶...いやそうじゃあないのかもしれないがとにかく3歳の頃にかつての人生の記憶を全て思い出したのだ!流石にこの世界では名前や生い立ちは別人だったが...しかし俺には前の記憶を!人生を忘れることは出来ないのだ!」

 

 

 「そんなことって...いや私は信じる あなたの事を信じます 命の恩人だし...それに吸血鬼は存在する!!」

 

 「ありがとう、話を続ける それでだ...この世界には石仮面も吸血鬼も存在しないと思っていた だから俺はこの世界で新しい人生を送るつもりだった...しかし数年前日本で発見されたという全身から血を抜かれた死体の事件を俺はニュースで見てハッとした まさかと思った 俺の勘違いならどれだけよかったかと思った!実際それから暫くはそのようなニュースは続かなかった...しかし今回の事件を受けて俺は確信を持ったのだ!石仮面の呪いはこの世界に突如としてやってきた!このツェペリ一族の血脈に刻まれた因縁 そして君の一族の因縁に引かれ あの石仮面の呪いはこの世界にまでやってきていたのだ!」

 

 

 「ちょっと待って!私には前世の記憶なんて無いし...それに私の一族はそんな因縁なんて存在しない!」

 

 「いや、残念だが恐らく存在する 君のその名前こそ違うがジョディ・ジョンストーンという名前...俺が元いた世界ではジョースター家呼ばれる一族のその血を引いた者の因縁 そうジョジョと呼ばれる者たちへの因縁が!」

 

 「そういえば確かにさっき私のことをジョジョって...確かに私の名前をそう呼べないこともないけれど...」

 

 「そうだ...そして君はもう既に石仮面が生み出した呪いと戦う運命にある!波紋を学ばなければならない!そうでなければ君は恐らく命を落とす...いや君だけじゃない 君も この俺も そしてこの地球上の生命全てがあの石仮面が生み出した吸血鬼 DIOの手に落ちるだろう!」

 

 

 私は立ち眩みに襲われた もちろんこの話を聞いたという理由もある だけれどそれとは違う理由で私はその場に倒れこんだのだ。

 

 「大丈夫か?ジョジョ!?怪我は治ったはずだが...すごい熱だ!!これは...」

 

 薄れゆく意識の中で見たものは私の体に絡みつく紫の茨 私の個性とは似て非なる 紫の茨が私を覆っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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悪意の伝染 増大

 

 あのガキどものせいで あの糞野郎のせいで

 

 俺の邪魔ばかりしやがって なぜだ 自分の個性を自由に使って自由に生きて何が悪い それもこれもあの糞野郎 オールマイトの野郎が全て悪い

 

 あいつさえいなければ俺たちは自由に楽に生きられたんだ あんな奴が現れなければ

 

 彼 通称ヘドロヴィランはオールマイトのデトロイトスマッシュによりその体は四散 そのまま回収され警察に引き渡された。

 

 もはや自力では脱出は不可能だった 体をいくつかのポリ袋に入れられ分散にして護送されていく 俺は最終的にどこに送られるのだろう まさかあの程度の微罪でタルタロスに送られることは無いと思うが...

 

 

 その時だった ポリ袋越しでもわかる衝撃が伝わってきたのは 恐らくは護送車が事故か何かにあったのだろうと彼は推察した もしかしたらまだ俺の運は尽きていなかったのかもしれない もし脱出出来たら俺は人生で初めて神ってやつを信じてもいい

 

 

 なんたってあのオールマイトの糞野郎から二回も逃げ延びたヴィランなんてそうそうはいないだろうしな いやそんなことより何とか今は逃げ出すことを考えなければ...

 

 

 しかしポリ袋は破れていないか

 

 

 それもそうだろう まさかただのポリ袋に保管はしないだろうか きっとこれはかなり強力な素材で作られている俺のような不定形 流動的なヴィラン用の特殊な何かであろうということは予想できた。

 

 これでは直ぐに警察かヒーローが駆けつけてしまう 折角のチャンスを俺はまたものに出来ないのか...

 

 

 しかしそのすぐ後 何か刃物のようなもので袋は引き裂かれることになる 俺の体が収められたポリ袋は全て飛んできたナイフによって破かれていた。

 

 

 とにかく外に 体を集合させなくては...

 

 

 外に脱出すると見事に護送車は横転 周りの車を巻き込んで派手に事故を起こしていた。

 

 そして俺の前に誰かがいた それは月あかりに照らされ 静かに俺の前に立っていた

 

 

 警察には見えなった ではヒーローか?違う...この雰囲気 ヒーローのそれではない むしろ...

 

 

 まるで心の中心に忍び込んでくるような凍り付くような眼差し その瞳を見ているとまるで吸い込まれそうで恐ろしくて落ち着くようでもあった。

 

 矛盾した言い方かもしれないが俺は恐怖と安心感を同時に抱いているようであった。 こんな気持ちになったのは生まれて初めてである 一体これは...

 

 

 「君は中々いい個性を持っているようだな さあ恐れることは無いんだよ 友達になろう」

 

 

 彼がその手を私に突き出す 抵抗しようとは思わなかった 既に恐怖は消えており安心感だけが俺を支配していた そして彼の力を俺は受け入れた。

 

 

 力が湧いてくるのが感じた それと同時に俺の個性が変化していくのを感じた

 

 

 「さあヘドロのヴィランよ...いやもはやその名前は適切ではない 生まれ変わった君の名前は 黄の節制(イエローテンパランス ) 私のために力になってもらおう」

 

 




3話の地名を修正いたしました

申し訳ございません


 そういえば雄英高校の所在地はどこなのか判明してないみたいですね

 東京説 静岡説は見たんですが実際にはどこにあるのでしょうか?


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僕たちの道のり

多古場海浜公園 PM19:15

 

※緑谷出久視点

 

 僕はオールマイト考案トレーニング 通称アメリカンドリームプランのメニューの中にあるこの海浜公園のゴミ掃除の今日の分を終え家路に着いてた。

 

 確かにこのメニューを毎日こなすのはきつい でも僕は他の人よりも何倍も頑張らないと それにこの僕 緑谷出久には夢がある だからこの10か月は本当に死ぬ気で頑張らないと  

 

 

 それでも最初の頃よりはまだマシで段々と成長してきたのを何となく感じるようになっていた。前までは動かせなかった大きな粗大ごみも今では何とか動かすことが出来るようになっていたのだ。

 

 でもまだまだこの程度じゃあ駄目だ 雄英合格のためには...いや合格だけじゃない 入るだけじゃダメなんだ オールマイトみたいなNo1ヒーローになるためには

 

 その時だった オールマイトほどではないけれど背の高い...190cmはありそうな全身黄色の服装に黒のインナー 頭にハートのサークレットをつけた人物とすれ違ったのは

 

 服装が目立ったというのもある だけれどその雰囲気に圧倒された なぜか体中が震えて動けなくなるような圧 胃液が逆流するような感覚に陥り体中の毛が逆立つような気さえした...だけれどなぜか その人の顔に見覚えのあるような とても懐かしいような感覚もしたのである。 

 

 

 あの人は...まさか...

 

 

ありえない もう10年以上も時間が経っている だから僕の勘違いか思い過ごしだと思うけど...

 

 

しかし僕は口が動いてしまった 確かめずにはいられなかった

 

 「あの!...もしかして速人くん!?」

 

 彼が立ち止まりこちらを振り返る その時間がやけに長く感じた そして彼と目が合った時僕はまるで蛇に睨まれた蛙のようであった。

 

 2秒か3秒だったと思う 彼が口を開くまでかかった時間は だけれど僕にとってその時間はまるで永遠のように長く感じた。

 

 「そういう君は 緑谷出久」

 

  衝撃だった まさかそんな 聞きたいことは山ほどあった でも今は昔の友達が生きていたことがとてつもなく嬉しかった だから彼の放つ異様な雰囲気なんて僕は見ないことにしてしまった。

 

 「本当に速人くんなんだ...僕のこと覚えていてくれたんだ...」

 

 「ああ しかし懐かしい えらく懐かしい名だな そんな名前もあったな」

 

 

 「えっ!?」

 

 

 その時だった 海浜公園の方からオールマイトの声が聞こえてきたのは 何か言い忘れたことか何かがあったらしく僕を追いかけてきたのだ。

 

 「おーい!緑谷少年!ん?そこにいる彼は緑谷少年のお知り合い...」

 

 速人君を見てからオールマイトの表情が一気に変わったのが僕にはわかった 

 

 「今すぐそいつから離れるんだ緑谷少年!」

 

 「オールマイト!?」

 

 「ほお これはこれは 有名人が出てきたものだ 平和の象徴オールマイト」

 

 

 僕からでも二人が既に戦闘態勢に入っていることは一目瞭然であった 

 

 

 「待ってオールマイト!彼は!!」

 

 「緑谷少年...奴はヴィランだ 間違いない それにあの雰囲気 私がこれまで相対してきた中でも一位二位を争うほどの!!」

 

 「...まあ、トップヒーロー相手にこの傷の回復具合を確かめても悪くあるまい」

 

 何でこんなことに...速人くんがヴィラン!? そんなはず...

 

 「下がっているんだ 緑谷少年!奴は危険だ!... そして貴様!何者かは知らんが今貴様をここで倒しておかねばならない気がする そう私の本能が告げている!」

 

 

 

 

 「フッ...なら よかろう やってみろ このDIOに対してッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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僕たちの道のり2

 「行くぞ!DIOとかいう奴!貴様からはあいつと同じようなものを感じるのでな!」

 

 

 「何の話だ?...同じと言えば貴様はこのDIOの古い友人と声が似ている...その友人は占い師をしていてな...フッ 貴様とは殺しあう運命だったのかもしれんな」

 

 「戯言を...時間をかけるつもりはない!カロライナSMASH!」

 

 

 「なるほど テレビで見たことはがあるが...人間というものは修行や個性次第でそのような力を発揮できるのか  だがな このDIOは一夜にしてこの世のどんな超人をも超えたのよ!」

 

 「こいつッ!?」

 

 DIO...? 速人君は一体何を言っているんだ? いやそれよりも今のって...あのオールマイトの攻撃を受け止めた!?

 

 「まだちと左半身の動きが鈍いが...WRYYY 貴様以前よりもその力が衰えているのではないか?過去の映像で見たときより力が劣って見えるぞ」

 

 その時だった 速人くんの姿が一瞬のうちに消えたのは 

 

 

 「なにッ!?奴めどこに行った?まさか逃げたのでは...」

 

 見えなかった...僕だけじゃない オールマイトにも速人くんが移動した瞬間が見えなかったみたいだ なんていうスピードなんだ!?いや...全く見えないってそれ速いとか遅いとかの次元の問題じゃない!!

 

 そして僕は見た あの信じられない光景を

 

 

 「ッああ!?オールマイト!!うえ!!」

 

 

 「なっ!?こいつマジか!?」

 

  一体あんなものどこから持ってきたのか それは速人くんが建設機械 重機であるロードローラーを上空からオールマイトに向けて叩きつけたのだ 

 

 

 「ロードローラーだッ!!WRYYYぶっつれよォォッ!」

 

 「テキサス SMASH!」

 

 

 その後 ものすごい爆風 恐らく恐ろしいほどの力と力がぶつかり合ったであろう風圧で僕は吹き飛ばされそうになった。

 

 

 「さすがはNo1ヒーロー 平和の象徴と言われるだけあるな この程度では倒せんか だが貧弱貧弱ゥ!」

 

 あの攻撃で視界が悪くなったのを利用して速人くんはオールマイトに手を突き刺していたのだ つまりあのロードローラーは囮だったっていうのか!?あんな大規模な攻撃が!?

 

 「今貴様のコリコリ弾力のある頸動脈に触っているぞ オールマイト!そしてこのまま!...ッッッ!?」

 

 「グッ しかしこうなれば貴様は逃げられんな!」

 

 速人くんはオールマイトに手を突き刺していた...それはつまり手が突き刺さって速人くんのほうも自由に身動きが出来ないということ...

 

 

 「チッ 腕が動かん!さすがに戦いなれているか この馴染んでいない体では冷凍法も間に合わん!」

 

 

 勝負は一瞬で決まる オールマイトが再び攻撃態勢に入りもはや速人くんにはそれを避けられるようにはとても見えなかった 完全に決まったと思った。

 

 「さあ これで終わらせるぞ デトロイトSMASH!」

 

 

 その攻撃の余波で土埃がたち視界が遮られる 

 

 「一体どうなって...速人君は...オールマイトが勝った!?」

 

 

 

 

  「違うね このマヌケどもが」

 

 

  「えっ...」

 

 

 視界が晴れて僕の目に飛び込んできたのは全く無傷の速人くんとあの古傷の辺りを手で押さえていたオールマイトだった。

 

 

 「貴様!!」

 

 「このDIOを少しでもヒヤッとさせたのは褒めてやりたいところだがな さすがは平和の象徴 その名は伊達ではなかったということか...まあいい 今日はこの程度で引き際だな まだ貴様には存在してもらっていたほうがこのDIOにとっても都合がいいのでな」

 

 

 「なんだと!?貴様逃げるつもりか?」

 

 

 「速人くん!!?どうしてこんなことを!?それにDIOって名前は...」

 

 

 「緑谷出久 彼、鈴木速人は死んだ もうそのような人間は存在しない。」

 

 「なにを言っているんだ君は!!だって現に...」

 

 

 「我が名前はDIO それだけが我が名よ もし君が今でもヒーロー志望なら...いつかまたどこかで会うことになるだろう この名前を覚えておくがいい。」

 

 

 彼はそう言うと消えてしまった その場から消えるように一瞬で まるであの時行方不明になったように一瞬で彼は僕の前から消えてしまった 

 

 DIO... でも僕に彼が告げた「鈴木速人は死んだ 」という言葉...その発言に反して その箇所だけは速人君の素の言葉だったような気がする なぜかは分からないけど 僕にはそう感じられたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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僕たちの道のり3

 「オールマイト!!大丈夫!?」

 

 

 「ああ、大したことは無い それよりも奴 DIOとか名乗っていたが...君は彼のことを知っていたのか?」

 

 「はい...と言っても会うのは幼稚園以来だったけど.... 彼 行方不明になっていたんですよ 10年以上前の話ですけど...結局見つからなくて...確か両親も同じく行方不明になっていたはずです。」

 

「そうだったのか...」

 

 

 一体この10年の間に彼に何があったのだろうか それは僕には想像もできない ただ彼はヴィランになってしまっていた それにあのオールマイトと互角...いやもしかしたら彼はそれ以上の力 個性を持っているかもしれないのだ

 

 

 しかしその個性の正体は謎だ 一応見当はつけているけど...

 

 

 「それにしても彼の個性...一体何だったのでしょうか?オールマイトとぶつかり合う力を持ちなおかつ瞬間移動のようでもあり...いやでもそれだと個性を複数持っていることになるし...複合型の個性と考えてもその二つの能力は違いすぎて一つの個性と捉えるには...」

 

 「緑谷少年!?全く君は個性の分析をし始めると一人の世界に入ってしまうな...だが直接戦った私にも正直分からないことが多い 最後の攻撃の件もある。」

 

 「最後?」

 

 

 「それなんだが...確かに奴は最後ピクリとも動かなかった しかし私の攻撃を避けなおかつ古傷に蹴りまで仕掛けてきてな 奴の足は全く動いてなかったのは確認してある...まるで透明な別の第三者が存在してそいつに攻撃されたような感覚だった...」

 

 「それってあの場に誰か透明になれる個性を持った人がいてDIO...いや速人くんを援護してたってことなんでしょうか?」

 

 「そこまでは私にも分からん しかしあのDIOとかいう奴の名前は速人というのかい?」

 

 

 「はい...彼は鈴木速人 それが本名です もっとも彼は最後死んだと言っていたけれど...」

 

 「しかしDIOか...どこかでその名前を聞いたような聞かなかったような...ああそうだ!塚内君からそのような名前を聞いた気がしたな 後で連絡してみたほうがいいかもしれん」

 

 「塚内...誰ですかそれ?」

 

 

 「警察にいる友達でね...まあいろいろと世話になっているのさ」 

 

 「そうですか...警察も大変そうですよね ほら、そういえばこの前のヘドロヴィランがまた脱走したってニュースもあったし...」

 

 「ああ、そうだったな 全く運のいい奴め...いや最初逃げられたのは私の責任だった 面目無い」

 

 

 「あれはオールマイトのせいじゃありませんよ!無理やりしがみついた僕の責任です...」

 

 

 

 

 

  

  イタリア ヴェネツィア

 

 ※ジョディ視点

 

 私はここベニス...もといヴェネツィアで波紋の修行に励んでいた そういえばシーザー先生はヴェネツィアのことをベニスと言うとあまりいい顔をしない 別に怒りはしないのだがどうもベニスという言い方をされるのが嫌みたいだ だから私はヴェネツィアと言う時に間違えてベニスと言わないように気を付けている。

 

 

 ここ最近私の生活ははっきり言ってハードである 波紋の修行と並行して受験勉強もこなさなくてはならないからだ 最も勉強の方は別に成績が悪かったわけじゃない 少なくとも波紋の修行に比べれば楽なものである。

 

 

 波紋エネルギーは精神の統一 その乱れは呼吸の乱れにつながる リズムが大切らしい...

 

 

 「だからと言ってこのマスクをずっとつけていなくてはならないなんて...」

 

  呼吸法矯正マスク このマスクは呼吸のリズムが乱れると呼吸が出来なくなるのだ つまりリズムよい呼吸に矯正するためのマスク これをつけてさらに波紋の修行をしなくてはならないのだから慣れるまではまさに地獄の日々であった。

 

 

 シーザー先生曰くこのマスクをつけたまま100km走っても平気になれるようにならなければならないという 最初聞いたときは正気かと思った マスクを着けてなくったって100km走るのなんて...しかし今は違う まだ初歩とは言え波紋エネルギーの力を私は理解した つまりマスクを着けたまま100km走ることなんて波紋をマスターすれば造作もないことなのだと私は理解したのだ。

 

 

 私の今の訓練は1秒間に10回の呼吸が出来るようになることだ さらに10分間息を吸い続けて 10分間息を吐き続けなければならないとも言う

 

 

 そしてこの私の進化した個性 私の今までのThornとは似ているようで異なる力

 

 

 この紫の茨の射程距離は実に10mと今までの2倍 ただし5mを超えるとパワーが落ち始めるということが分かっている しかもこの個性は波紋を伝達することが可能であった この力があれば吸血鬼との戦いに大いに役に立つはずである。他にも何か隠された能力がありそうだと私は直感しているが今は試している時間は無い 波紋の修行が今一番の最優先事項である。

 

 目指すは日本の雄英高校 

 

 ヒーローになるのが目的ではない 手段だ 

 

 

 石仮面が生み出した吸血鬼DIO 必ず私が見つけ出す そして家族の仇を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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DIOの影

某警察署

※オールマイト視点

 

 「鈴木速人 3歳の時に突如として失踪 その後届け出から7年立っても結局は発見されず既に死亡届が出されている...つまり彼は公的には既に死人と言うことになる。その彼が実は今も生きていてDIOと名乗っていると...そう君は言うんだね?オールマイト」

 

 私はあの後塚内君に連絡をし直接話す機会を設けた もちろんDIOなる人物について情報を確認 今分かっていることを整理するためである。

 

 「ああ、彼の幼稚園時代の友人が間違いなくDIOという人物を見て鈴木速人だと断言した 間違いないと思う」

 

 「なるほど...これは極秘事項だが君には話しておいた方がいいだろう 君はあのホテルで発生した外国人一家惨殺事件を覚えているかい?」

 

 「ああ、かなり大きなニュースになっていたな 何でも父親が今も行方不明で怪しいとかテレビのニュースでやっていたと思ったが...」

 

 「その件なんだがな...容疑者の中にそのDIOという人物が含まれているんだよ もちろんまだ確定したわけじゃない 容疑者は複数存在しているからね。」

 

 

 「なんだって!?それは一体どういうことだ?」

 

 

 「あの事件の一家には生存者がいてね...次女が生き残っており目撃者でもあるというのは報道されているから君も知っていると思うが...その次女があの事件の数日後に入院している病院で襲撃されたんだ」

 

 

 「なに!?そんなニュースは報道されていなかった気がしたが...」

 

 

 「いや報道はされたさ ただ襲われた被害者がその数日前に発生した惨殺事件の被害者だとは伏せられてね だから両事件は無関係なものとして報道されたのさ これも被害者を守る為 報道の自由がどうとか言う連中もいるがね 人命第一ということさ」

 

 「そうだったのか...」

 

 「それでだ その被害者 本当なら名前を君に教えるのは不味いんだが仕方あるまい その事件の被害者 ジョディ・ジョンストーンのことを襲撃した人物は確かにDIOという名の人物に命令されたと発言したらしいのさ もっともその襲撃者は衣服を残して消えてしまったのでこの情報自体が被害者の証言だけ...なので警察では依然としてホンボシは父親というのが有力なんだが...」

 

 

 「...なんだかあまり釈然としない話だな そのDIOに命令された人物とやらは一体どこに消えたのだ?」

 

 

 「一切不明だ それにその場には偶然居合わせたと主張しているイタリア人の男性もいてね 彼はイタリアのプロヒーローらしいが...今回のことに関してその被害者たるジョディ・ジョンストーンもそのイタリアのプロヒーローもあまり詳しくは知らなかったようだ...いやあれは知っていたけど話さなかったというのが正しいのかもしれん ジョディの方はともかくイタリア人ヒーローの方はこちらをかなり警戒している様子だった。警察を信用していないのかもしれん」

 

 

 「...でそのまま彼等は帰国してしまったのか。」

 

 「ああ、そういう事になる 特に証拠もないのに彼を拘束でもしたらイタリアとの国際問題に発展しかねないしね 慎重にもなるさ」

 

 「そうだったのか...しかしやはりDIO 奴は危険だ。」

 

 「君がそう言うなら相当なんだろうな...既にDIOは少なくとも誰かを命じることが出来る立場にあるのだろう 規模は不明だが何らかの組織を保有している可能性は高い 厄介な相手になりそうだ。」

 

 

 「ああそうだな...しかしそのイタリア人のヒーローとやら気になるな 一度彼に会って話をしてみたいが...」

 

 「ああ、それなら大丈夫だと思うよ 今証拠も無しに拘束したら問題になると言ったと思うけどそれ以外にも彼を簡単に開放した理由があってだな...彼はまた日本に来るらしいよ それも来年度からあの雄英で教鞭を執るらしい 君と同じだな 時が来れば話は聞けるはずさ」

 

 

 



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Back door

時系列は戻り 冬 雄英高校

 

 

 「単刀直入に言わせていただきます この俺が雄英で教鞭を取る条件は一つ 来年度の入学生として俺の提示した生徒を一人 合格させること それだけです」

 

 

 

 国立雄英高等学校の校長を務める根津校長はこのイタリアから来たヒーロー シーザー・A・ツェペリの提案を受け入れるかどうか苦慮していた 彼の提案 すなわち不正入学 裏口入学をまさかこの雄英がしていたことが世間に露呈でもすればスクープどころの話ではない 常識的にはあり得ない提案だった 普通であれば間違いなく断る案件であろう。

 

 

 しかしこの彼の個性...いや技術は雄英としては喉から手が出るほど欲しいものであった。

 

 彼の持つ技術 波紋呼吸法 世間一般にはまず知られていないこの技術はどうやら彼が編み出した技術であるそうだ 攻撃の手段としてはもちろん極めれば老化を遅らせたり身体能力の一時的な向上...さらには人体に対する治癒効果もあるというのだ。

 

 そんな技術を持っている男を しかも生徒の中に素質がある者にはこの技術を教えてもいいと言っているこの男をこのまま手放すという選択肢はあり得ない

 

 実際回復系の個性は貴重だ 雄英ですらリカバリーガール一人に頼り切っていることを考えれば波紋法の技術は絶対に手に入れたいところである。

 

 「君の話は分かった ...で君が提示するその生徒ってどんな人なのさ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・よかったんですか校長 あまり合理的な判断とは思えませんが」

 

 

  相澤消太...ヒーロー名 イレイザー・ヘッドがそう問いかけてきた 

 

 

 「しょうがないさ あの彼の持っている技術はどうしても欲しいものなのさ だからと言って雄英が裏口入学という不正に手を染めるわけにもいかない これは折衷案なのさ」

 

 

 結局のところあの提案 裏口入学に対してはYesと返事することは出来なかった その代わり提示された人物 ジョディ・ジョンストーンを特待生枠として受験させることで彼に納得してもらった形になった。

 

 

 無論これ自体問題ではあるのだが裏口入学よりは数倍マシな選択であろう 金銭受け取りなどは発生していないため収賄罪に当てはまるかどうかは微妙なところだがまず間違いなく背任罪には当てはまる事案

 

 厳密にいえば今回の件ももしかしたら当てはまるかもしれない だが彼の言うことを信じるなら彼女、ジョディ・ジョンストーンも波紋の技術を持っているらしい

 

 

 そうであるならば有資格者もしくは特殊な技術を持っているものを特待生枠として扱うのは何とか可能である もちろん波紋呼吸法などと言う国家資格は現状無いのだから彼女を特待生枠として扱うのに全く問題がないわけではない。しかし裏口よりは遥かにマシな選択肢 これが折衷案

 

 最もこのグレーゾーンのせいで1人 来年度の受験で本来合格になっていた人物が落ちてしまうことも意味していた 

 

 来年度は例外的に1-Aか1-Bのクラス人員を21名にする必要があるかもしれない 例外的な特待生合格者の拡大 あるいは留学生枠の拡大 

 

 

 しかしシーザー・A・ツェペリとジョディ・ジョンストーン...彼等には、いや厳密にはジョディの方にはまだ会っていないのだが...とにかく彼等には何か別の目的があるのではないか そんな考えが根津校長の頭に過っていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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悪の救済

死穢八斎會本拠地 組長の屋敷

 

 カチコミだッッ!!  

 

 

 いきなりの怒号 まさかと思った 

 

 このご時世 ヒーローの隆盛によりヤクザ組織は次々と摘発・解体され既に時代を終えていた 生き残ったのは極少数 死穢八斎會もその中の一つだった

 

 ヴィラン組織自体の抗争ですら珍しい そのご時世にだ...まさかこの組長の屋敷が襲撃を受けるなど誰が想像できたことか 例の計画が本格的に始動した後ならばまだ襲撃されるのも分からないでもない しかしそれはまだ 今は準備段階なのだ...まさか外部に例の情報が漏れたのか?しかし奴は一体...

 

 地下通路への道など瞬時に見破られた 奴を止めるために戦いを挑んだ組員はほとんど抵抗も出来ず瞬殺されている ひどい有様であった。

 

 本部長のミミック 入中常衣がブースト薬を使用して足止めを試みたが数分すら奴を止めることは叶わなかった 

 

 なんとしてでも奴を止めなくては そのために例の未完成の試作品である弾丸を装填した回転式拳銃を音本に装備させている 本来なら今ここで使うのは避けたいがもしここが落ちるようでは元も子もない 

 

 彼 クロノスタシスこと玄野針は焦っていた 奴の目的には見当がついている...いや十中八九間違いない

 

 しかし奴の個性は一体...監視カメラの映像を見た限りではあれは肉体強化系ではあるらしいというのは直ぐに分かった...下っ端の組員が奴に触れられただけでまるでバターをナイフで切るように千切れて人間だったものに変えられていくのがハッキリと確認できたからだ だが不可思議なのは奴が超能力のような個性も使用しているということだ。

 

 いや そんなものは関係ない あの銃弾さえ命中させればいかに強力な個性であろうとも...

 

 

 しかしその希望も無に帰した 酒木と音本のコンビなら奴にあの個性を一時的に消すことが出来る銃弾を命中させられるはずだと思っていた 酒木泥泥の個性『泥酔』なら奴に銃弾を命中させることのできる隙を生み出すことが出来る筈であった。

 

 しかし奴 あの全身黄色の服装に黒のインナーの男はまるで『泥酔』の影響を受けていないように見えたのだ。

 

 目の前の二人がやはり他の組員と同じ運命をたどる だが奴があの二人を殺った瞬間 玄野は妙な感覚に襲われていた 

 

 まるでこの場にいる奴以外の全員の動きが止まったような感覚 自分も体を動かせず声すら出せない...それは恐怖などから来る精神的なものとはハッキリと異なっており本当に...物理的に体を動かせなかったのだ。 しかし意識はある その止まった世界の中 奴だけが動いていて酒木と音本の胴体に風穴を開けたのだ。

 

 奴の個性はまさか...

 

 

 その時だった 致命傷かと思われた音本が最後の力を振り絞り銃を奴に向けて発砲した

 

 「まだだ...私はこんなところで 私は若に必要とされている!!こんなところで!!」

 

 しかし命中したはずの弾丸はその効果を発揮することは無かった 奴の超パワーもあの能力も消えることは無かった。 

 

 

 ありえない...完成品ではないとはいえ一時的になら完全に個性を消失させることが出来る弾丸 実験では間違いなくその効力を発揮した弾丸は奴には全く効かなかった。

 

 奴は蚊に刺された程度の反応しか起こさなかった いやそれ以下かもしれない

 

 そして再びまるで世界が停止するような感覚が私を襲う 奴は音本に止めを刺し私に迫ってくる 私がやられるわけにはいかない...この後ろには壊理の部屋があるのだから 

 

   だがこの奴の能力には...

 

 奴がこちらにナイフを投げつけてくる そしてそれは私の目の前で完全に静止した まるで空間に固定されているように

 

 そして次の瞬間 世界は再び動き出す ナイフに与えられていた運動エネルギーは再びその活動を再開して無慈悲に襲い掛かってきた 

 

 

 その時に私の疑念は確信に変わった 奴の能力の正体が分かってしまった なぜ私にだけあの時に意識があるのか...いやもはやそんなことはどうでもいい

 

 いつの間にかこの場に若も駆けつけていた 警告しなくては...奴にはたとえ若であっても...

 

 

 

 

 「若!...廻...来ないでくだせぇ 奴に近づいては...距離を取って...離れてくだせぇ...」

 

 

 

 「玄野!?」

 

 

 せめてヒントを 私は懐から拳銃を取り出し壁に掛けてある時計を撃つ

 

 奴に勝てないとしても若になんとか知らせなくては...せめてこの場は逃げてなんとか...

 

 「奴には...か...かなわ...な...い...」

 

 最後の力を振り絞っての警告 しかしそこまでだった そこで私の意識は途切れた 永遠に 

 

 

 

 

 

 

 

 



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悪の救済2

死穢八斎會本拠地 組長の屋敷 地下

 

 目の前のこいつは一体何なんだ 少なくともあの英雄症候群の病人どもでは無い こんなたった一人に俺の計画を台無しにされてたまるか

 

 まさかこいつが例のオール・フォー・ワンか?死亡説が流れていたがやはり生きていたのか!?

 

 既にこの屋敷にいた組員の殆どがこいつに殺されている 玄野もやられてしまった...だがあの最後に時計を撃ったのは一体どういうつもりだ...

 

「なるほど 今のそいつ中々に優秀な奴よ この短時間で我が能力の正体を見破ったのは称賛に値する だが理解したところで我が世界(ザ・ワールド ) の前には無力よ」

 

 

 世界(ザ・ワールド )...それが奴の個性...世界...だと!?

 

 

 「お前が例のオール・フォー・ワンか?」

 

 

 「フン...そんな奴は知らんな 我が名はDIO、それだけが我が名よ」

 

 DIO...!?オール・フォー・ワンでは無い...

 

 いや名前などどうでもいい 今この場をどうするかである

 

 玄野はあの能力の正体を見破っていた そしてあの最後の行動 まさかこんな時に無意味な行動をするとは思えない 奴の発言からしてもあれは玄野が残した最後のヒント... 直接聞ければいいのだが目の前の奴がおいそれと俺が個性で玄野を回復させるのを待ってくれるとは思えない。

 

 最後の発砲 わざわざ奴を狙わずに時計を狙って撃った...時計を撃ったことで何が言いたかった?

 

 

 

 間違いなく何か大切な意味があるはず...

 

 

 銃で時計を撃った...時計を破壊した...?

 

 

 時計を破壊...時計を...止める...!?

 

 

 いや...まさか...そんなことが...

 

 

 奴の個性 能力の正体が分かりかけたその時 俺は自分の腹に風穴が空いていることに気が付いた その衝撃で扉をぶち破り壊理の部屋まで吹き飛ばされてしまった。

 

 

 「ウグッッ...馬鹿な お前はまさか時を...」

 

 

 玄野が残してくれたヒント そして今の攻撃 俺はいつ自分の腹に穴が開いたのか気が付きすらしなかった...がそのおかげで奴の個性の謎が解けた 

 

 

 なるほど、とんでもない能力 個性だ 世界などと言う名を冠しているだけあるという事か...

 

 

 しかしだからと言って俺の計画は...壊理を奴に渡してなるものか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 何やら外が騒がしかった、だからなのだろうか 幸い今日はあの人は来ていない 

 

 

 逃げ出したい もう嫌だ あの想像を絶する痛み だけど逃げようとすればそのせいで誰かが死ぬ

 

 だから自分が我慢すれば誰も死なずに済むと自分に言い聞かせる そうすれば誰も死なない

 

 

 ただ私が我慢さえすれば 

 

 

 このいつ終わるとも知れない地獄の日々 

 

 

 もしかしたら永遠に続くのではないかと...自分の死すら許されないこの地獄は...

 

 

 

 だが唐突に その終わりは突然やってきた

 

 

 あいつがいきなりこの部屋に吹き飛ばされてきたのだ 一体何が...

 

 

 そして部屋に入ってくるもう一人の人影 全身黄色の服装 頭にハートのサークレット 

 

 

 「ほう そいつが例の個性の持ち主か...なるほど、さあこのDIOの元に来るのだ 君をここから解放してあげよう」

 

 

その声は恐ろしく私は感じた だけれどそれと同時にその声にはあの人とは違いやさしさも含まれているようでもあった 

 

 「ダメ...私が逃げたらまた誰かが死んじゃう あなただってあの人に...」

 

 

 「そんな心配はない...とは言ってもこのDIOは友情を押し付けるたぐいの輩とは違うのでね...君の自由意志 このDIOについてくるかどうか 君の運命は自分で選ぶんだ だが一つ言っておこう もちろんこのDIOについてきたとしてもこれから誰も死なないということは無い いやむしろ多くなるかもしれんな だがそれは君の責任ではない」

 

 

 「えっ...?」

 

 

 「いいかい?もう君は誰の死にも責任を持つ必要はない 運命というやつは自分自身で決めるものだ この私も もちろん君も」

 

 

 彼が手を差し伸べてくる その時だった 倒れていたあの人が再び起き上がったのは!

 

 

 「壊理はお前に渡さん!壊理!!お前は人を壊す!そう生まれついた お前の行動一つ一つが人を殺す!それが嫌なら壊理!戻ってくるんだ!」

 

 

 しかし起き上がったあの人を彼が超能力のようなもので吹き飛ばす 壁にたたきつけられ今度こそ気を失ったか...あるいは...

 

 

 「フン あのような輩に君の運命は縛ることはできん さあ選択するんだ 君自身の意志で」

 

 

 なぜだかその声を聴いていると安心感を感じた 体では恐怖を感じているのに 安心してしまっていたのだ だから彼が差し出した手を私は取った 

 

 

何故だろう...もう体の震えは完全に消え去っていた

 

彼の手を取った瞬間にこの世の全ての恐怖や不安が私の中から消え去ったような気さえしていた 

 

今まで感じたことのない安心感だけが私を支配していた

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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新生活

4月 高校生活の始まり

 

※緑谷出久視点

 

 

 始まりの日、新しい出会いの始まりであり恐らくはこれから多くの困難にぶつかると思う。だけれど僕は新しい日々に期待に胸を膨らませていた。思えばあのヘドロヴィラン事件でのオールマイトとの出会いから今まで長かったような短かったような...それにしてもまるで夢みたいな話だと思う。あのオールマイトから僕が後継者として指名されるなんて...最初にワン・フォー・オールのことを聞いたときには信じられないような気分だった...でも確かに僕の中にあの力が、個性が宿っているのを実感している。(引継ぎの方法については想像とかなり違ったけど...)そしてあの雄英に合格したんだ...もちろん合格しただけで満足してはいけない。オールマイトみたいなヒーローになるためにはそれだけじゃあ駄目で雄英の中でも...いやヒーローの中でもトップにならなければ到底オールマイトの後継者なんて名乗れないだろう。

 

 家の玄関の扉を開けると太陽の光が差し込んできた。とてもすがすがしい...気持ちの良い光に感じた。

 

 

 雄英高ヒーロー科への入学倍率が毎年300を超える訳 

 

 推薦入学4名を除く一般入試定員は36名

 

 つまり18人ずつでなんと2クラスしかない

 

 

 僕は雄英高校に向かう並木道を早足で駆け抜けていた。入学の時期と言えば桜のイメージがあるが残念ながらこの時期には既に散っていることが多い...今年も既に桜は散っているので桜並木の中を通学とはならなかった。しかしなぜ入学式には桜のイメージがあるのだろうか?これが関東ではなく東北であるならばもしかしたらまだ咲いているのかもしれないが...

 

 

 そんなことを考えると横断歩道の真ん中で誰か妙な人が立ち往生しているのが目に入ってきた...

 

 異形型の個性もあるのだから見た目だけで人を判断してはいけないのだろうけど僕はその人物がなぜか奇妙に感じたのだ...と言っても見た目は普通の男性であるようだ...ピンクの長髪に上半身網のような奇抜な服装でなぜか横断歩道の真ん中で立ち尽くしていることを除けば...もしかしたら何か困っているのかもしれない...ヒーロー志望として放っておけない

 

 「あの...大丈夫ですか?ひどく顔色が悪いみたいですけど...」

 

 「ハッ??!今度は何だ?どこから襲ってくるんだ!!?」

 

 「えっ!?誰かに襲われているんですか?直ぐに警察とヒーローを...」

 

 「ひっ く...来るな!!俺に...」

 

 なんだかとてもその人は混乱しているように見受けられた...いくら横断歩道とはいえ道路の真ん中にいるのは危険なので安全な場所に誘導しないと...僕は彼に手を差し伸べたが...

 

 「オレのそばに近寄るなああーーーーーーーッ

 

 その人は奇声を発しながらこの場から走り去ってしまった...まるで何かを恐れているように...一体あの人に何があったのだろうか?とても普通の精神状態には見えなかった...まあもしかしたらただの不審者なのかもしれないが...どちらにしても後で警察に連絡しておいた方がいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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新生活2

雄英高校 

 

 

 朝から謎の不審者に遭遇したりと初日から何か波乱を予感させるような気もするが無事雄英高校にたどり着くことが出来た。しかしそれにしてもこの学校は広い...校舎そのものもそうだが何より広大な敷地...一体どれくらいあるのだろうか、何でも学校内の移動でバスを使うこともあるというのだからその広さは半端ではない。

 

 「1-A...1-A...広すぎる、あっあった!」

 

 ようやく見つけた自分のクラス1ーA

 

 ちなみに1-Aと1-Bがヒーロー科でありそれ以外には普通科とサポート課や経営科が存在している。最もヒーロー科以外...特に経営科の人たちとは恐らくあまり関わらないだろうけど...

 

 

 1-Aの前に到着するとそこには見上げるほどに大きいドアが存在した そういえば確かにこの廊下も天井がかなり高いようだ...

 

 

 「ドアでか...バリアフリーか?」

 

 確かに個性によっては人間の形や大きさとはかなり異なる人達も存在する...このドアはつまりそういった人達でも大丈夫なようにというわけか...流石は雄英、日本トップクラスのヒーロー養成学科...恐らく国内で雄英に匹敵するのは士傑高校くらいであろう。

 

 さあドアを開けよう、この先には他の合格者たちが存在している

 

 「あの受験者数から選ばれたエリートたち...」

 

 僕の頭に例の2人の顔が思い浮かぶ...

 

 「怖い人たち...クラス違うとありがたい」

 

 恐る恐るドアを開けるとそこに飛び込んできた光景は...

 

 「机に脚を掛けるな!」

 

 「あ~?」

 

 「雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

 

 「思わねえよ!てめえどこ中だよ、端役が!」

 

 例の今僕が脳内で思い浮かべた2人がまさに目の前で言い争っている光景が目に飛び込んできた...

 

 かっちゃん初日から...言い争ってるあの人も確か受験の時かなりすごい個性だった気がする...あの人から注意を受けたことばかり頭に残っていたけど個性の方も確かすごいスピードを出せる強力なものだったと記憶している。

 

 受験ではいろいろあった...あの巨大ロボとの戦い、レスキューポイントが無ければ間違いなく僕は落ちていたと思うと...しかしそれにしてもあの実技試験は内容的にどうしても戦闘向きの個性の人が有利な内容...たとえレスキューポイントと言う制度があったとしても戦闘向きの個性が有利な事に変わりはない。それでいいのだろうか?例えば戦闘向きではなくても相手を無力化できるような個性だって存在するわけだし...そういう直接の戦闘を行わない(行えない)強力な個性を持った人間を不合格にしてしまうのはどうなんだろうと思う...合格した僕が言うのもなんだけれど。...まあそういう人達は普通科で合格させてから見込みがあればヒーロー科に転入させるっていう考えなのかもしれないけど...まあ僕がそんな雄英の方針を気にしても仕方ないけれど。

 

 「ぼ...俺は私立聡明中学出身 飯田天哉だ」

 

 「聡明~?くそエリートじゃねぇか、ぶっ殺しがいがありそうだな」

 

 そんな会話を聞いているとかっちゃんが僕の方に視線を合わせてきた...僕の存在に気が付いてしまったようだ。

 

 「ん?君は...」

 

 そのせいだろうか、眼鏡の人、飯田くんの方も僕の方を見て話しかけてきた...ていうかクラス中の全員がこっちを見てきたのだ。

 

 「あっ!...えっと...」

 

 「おはよう!俺は私立聡明中学の...」

 

 「聞いてたよ...っと僕、緑谷...よろしく飯田君。」

 

 「緑谷君...君はあの実技試験の構造に気付いていたのだな?」

 

 「えっ...」

 

 「俺は気付けなかった...君を見誤っていたよ...悔しいが君の方がうわてだったようだ...」

 

 ごめん、気付いてなかったよ...ていうかこれ飯田君って怖いんじゃなくてすごい真面目なだけっぽい...なんか安心したようなしないような...このちょっとの会話だけでも飯田君がすごい委員長タイプの人間って僕は実感できた。

 

 「あっ!そのもさもさ頭は!地味めの!」

 

 「あっ!」

 

 いきなり後ろから話しかけられてものすごくびっくりしてしまった 声が裏返ってしまったかもしれない...

 

 「プレゼント・マイクの言ってたとおりに受かったんだね!そりゃそうだ、パンチすごかったもん!」

 

 「いや...あの...ホント...」

 

 何かいろいろ話しかけられたけどそのほとんどが頭に入ってこなかった

 

 

 「お友達ごっこしたいならよそへ行け」

 

 なんだかとてもやる気のなさそうな声が後ろから聞こえてくる...振り返ると黄色の寝袋に入ったまま廊下に寝そべった無精髭を生やしたままの謎の人物が存在していた...

 

 「ここはヒーロー科だぞ」

 

 その人物はエネルギー補給ゼリーを手に持ちながらなんだかとてもだるそうに寝袋から出てきた

 

 「はい、静かになるまで8秒かかりました 時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 この人が先生、と言うことはプロヒーローの筈であるが...でも見たことないぞ...こんなくたびれた人

 

 「担任の相澤消太だ よろしくね...早速だがこれに着替えてグラウンドに出ろ...とその前に初日だが転入生と言うか留学生を紹介する。さあ入っていいぞ」

 

 えっ!?グラウンドに出ろ?留学生?まだ初日だぞ!?一体どういう...

 

 

 相澤先生に促されて教室に入ってきた女性 嫌でも目立つ肩まで掛かったウェーブしたブロンドヘアー、透き通るようなブルーの瞳...顔立ちからしても間違いなく外国人のようであった。

 

 「すげー!本物のブロンド外国人!お近づきになりてぇ~」

 

 なんだか席の後ろの方から嬉しそうな声が聞こえる...声の主は頭に紫の玉をいくつかつけている...あの玉はあれ個性なのだろうか?一体どんな個性なんだ?

 

 まだクラスメイトの全員の顔を把握していない、それなのにいきなり留学生だなんて...

 

 「イングランドから来ました、ジョディ・ジョンストーンです。」

 

 それにしてもあの留学生の子...なんだか顔つきがちょっと険しいような...何かあったのかな?

 

 ...いや初対面なのにそんなこと分かるわけないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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新生活3

雄英高校 職員室

※オールマイト視点

 

 1-Aの担任は相澤君か...こりゃいきなりどでかい受難...

 

 彼は去年の1年生1クラス全員除籍処分にしている...見込みゼロと判断すれば迷わず切り捨てる...緑谷少年にいきなり乗り越えなくてはならない試練が襲い掛かるかもしれない。...確か直ぐにでも個性把握テストが行われるはず...この後時間が空いているので見に行った方がいいかもしれない。

 

 

 そんなことを考えていると職員室の扉が開く音が聞こえていた、入ってきた人物...それはイタリアから来たヒーロー シーザー・A・ツェペリ先生その人であった。

 

 彼と実際に会うのは今日が初めてである...新学期が始まる前は彼は何やら忙しかったらしく学校で顔を合わせる機会には恵まれなかったのだ。何やら彼はいきなり生徒の授業を受け持つわけではないようだ...人から聞いた話ではリカバリーガールと何かよく話をしていたらしい。

 

 そこのところも含めて一度彼から話を聞かなければならないと思っていた...そしてもちろんあの留学生として雄英に来たジョディ・ジョンストーンにも...

 

 まさか彼女までここに来るとは思ってもいなかった...間違いなくあの2人には何か関係があるのだろう...もしかしたら私と緑谷少年のような何かが...

 

 「君がイタリアから来たシーザー・A・ツェペリ先生...で間違いないかな?」

 

 「ええ、そういう貴方は日本のトップヒーローであるSignoreオールマイト、挨拶が遅れて申し訳ない、以後お見知りおきを。」

 

 「ああ、こちらこそよろしく...でいきなりなんだがいくつか君に聞きたいことがあるんだが...今時間の方大丈夫かい?」

 

 「少しだけなら大丈夫ですよ...でこの俺に何が聞きたいんですか?」

 

 「もしかしたら君はあまり話したくは無いのかもしれないが...例のジョディ少女と君の関係についてなんだが...」

 

 「...ただの弟子ですよ。波紋呼吸法についてはご存じで?」

 

 「ああ、話だけなら。なんでも人体の治癒や攻撃に使用できるとてつもなく便利な呼吸法だとか...」

 

 波紋呼吸法...まだ自分の目で確かめたわけではないがそんな技術が身につけられたらかなり戦闘の幅が広がることは間違いない...特に自らの体を回復させることが出来るのならばワン・フォー・オールとの相性は抜群...もし緑谷少年がその呼吸法を習得できれば私よりもワン・フォー・オールを上手く使いこなすことが出来るかもしれない。

 

 「ええ、そうです。彼女には才能が有ったのでこの俺が波紋の技術を教えました...それだけです。」

 

 「ではDIOという名前については何か知っているのではないか?」

 

 「ッッ!!」

 

 DIOと言う名前を出した瞬間明らかに彼の雰囲気が変わるのを私は感じ取った...やはり彼等とDIOには事件の被害者と加害者以上の何かがあると私は確信した。

 

 「...失礼ですがその名前をどこで?」

 

 「数か月前に私はそのDIOと戦ったのですよ...最も向こうは小手調べのつもりだったのか直ぐに立ち去ってしまいましたがね...」

 

 実際DIOはあの時気になることを言っていた...傷の回復具合がどうとかまだこの私に存在してもらったほうが都合がいいだとか...傷の方は分からないが最後の言葉は負け惜しみの言葉とは思えない...まだまだDIOは余力を残しているように私は感じている。それに彼の個性に関しても断片的にしか分かっておらず殆ど不明なのだ。

 

 しかしこの私にまだ存在してもらっていた方が都合がいいという言葉が本心だとしたら一体どういうつもりなのだろうか?自画自賛になってしまうがこの私は今まで平和の象徴として君臨してきた...その私に存在してもらったほうが都合の良いヴィランとは一体...

 

 他のヴィラン達が今活動しにくい時期にDIOが裏の世界で勢力を拡大でもする腹積もりなのか...

 

 実際そうなのかもしれない...奴が倒れて以降、裏世界の主は不在...DIOはもしかしたらそんな裏世界を掌握するつもりで今も行動しているのだろうか?

 

 だがそれ以上に嫌な予感もする...本当にDIOが手に入れようとしているものは裏社会だけなのだろうか?

 

 

 「なら言わせてもらいますが...もうこれ以上DIOに関わるのは止めた方がいいと一応警告しておきます。平和の象徴に余計なお節介なのかもしれませんが...」

 

 「残念ながらそれは出来ない...君もヒーローなら分かるだろう?それにこのまま奴を放置しておけば嫌でも関わることになる。DIOは恐らく既に大規模な組織を保有している可能性が高い...何を企んでいるかはまだ憶測の段階だが...シーザー先生はもうDIOが何を考えているか見当がついているんじゃないですか?」

 

 「...ええ。しかしそれを今話すことは出来ません。失礼かもしれませんが私たちは誰も信用できない状態にあるのです...警察も他のヒーローも含めて信用できないのです。」

 

 彼の意志は固かった...どうやらこれ以上今は話を聞き出すことは出来ないようだった。だが何も収穫が無かったわけではない...まず彼らが自分たち以外の人間をかなり警戒しているという点だ...これは以前塚内君からも聞いてはいたがなぜそこまで警戒するのだろうか?考えられるとすれば既に警察やヒーローの中にDIOの協力者や仲間が存在しているという可能性だ。実際かつて存在したとある大物ヴィランの思想に感化されたヒーローや警察関係者が存在しているとの噂は聞いたことがある...内部にDIOの協力者がいないとは断言できない。だがDIOはその大物ヴィランとは違いまだ一般には知られていない存在なのだ、DIOの思想も現在は不明...これでは感化しようが無い...

 

 それなのに彼らは警察や他のヒーローを警戒している...もちろん慎重になっているだけなのかもしれないがそれ以上の理由、まるで内部に協力者が存在しているのが当たり前だと彼らが考えているとしたら?

 

 もしやDIOは何か人を操る術を持っているのではないのだろうか?それが彼の個性か...あるいは先ほど話題に出た波紋呼吸法のような技術なのかは分からない。だがそうだとしたら...

 

 あり得ない話ではない、現に洗脳と言う個性を持った生徒が1人普通科に入学していると聞く...

 

 少なくとも個性で人を限定的ながら操ることは可能なのだ。DIOの個性はもしかしたらそのようなものなのか...いやそれではあの時の戦いは説明できなくなってしまう。

 

 謎は深まるばかりであった...まさかDIOは個性の複数使用が出来る存在なのであろうか?奴と同じように...

 

 

 

 

 



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新生活4

雄英高校 保健室

 

 個性把握テスト...最下位の者は除籍処分にするという相澤先生の合理的嘘に僕はまんまと騙されてしまった。でも嘘でよかった...もし本当なら僕は今頃除籍になってしまっていた。

 

 指先にのみワン・フォー・オールを発動させ何とか最後の種目だけでも好記録を出すことが出来た...それがたぶんあの場での最善だったと思う。個性の調整が出来ない状態で行動不能にもならず記録も出さなくてはいけないという状況の中での最善策...早く調整が出来るようにならないと...

 

 そう、行動不能になってはいないというだけで指は怪我してしまっているのだ...個性を発動するたびにこのざまではこの先お話にならない。僕は今この怪我を治すために保健室を訪れていた...雄英高校を陰から支える存在であるリカバリーガールの元へ僕は訪れていた。

 

 保健室に入るとそこにはリカバリーガールともう一人外国人らしき人物が存在した...特徴的なバンダナをつけたブロンドの男性...生徒には見えなかったので恐らくこの人も先生か?少なくとも僕の記憶にはこんなヒーローはいなかったような...もっとも相澤先生ことイレイザー・ヘッドのこともついさっきまで忘れていたので単純に僕が忘れているか知らないだけなのかもしれないが。

 

 「おや、怪我人みたいだねぇ。さあ早速働いてもらおうかね。あんたが来てくれておかげで私はこれから楽が出来そうだね」

 

 「えっ!?って言うとこの先生も...」

 

 「シーザー・A・ツェペリだ」

 

 「シーザー先生...先生も回復系の個性なんですか?」

 

 「いや違うな、まあいいからとにかく怪我を見せてみろ...このまま治してもいいが君に才能があるかどうか試してみるか...」

 

 そういうと彼は僕の横隔膜付近に手を突き刺してきたのだ!

 

 「えっ!?ウアッッ...」

 

 いきなり何をしてくるんだこの先生は!!苦しい...息が出来ない...

 

 

 僕はリカバリーガールの方を見て助けを求めるが彼女の反応は珍しいものを見物するような態度でありとても助けてくれそうにはなかった。

 

 声も出せない...何が起こっているのか僕は理解できなかった、しかし数秒後...肺の中の空気をあらかた出してしまった頃合いにそれは起こった。

 

 「なにこれ...指が治っている!?」

 

 ほとんどそれ自体に痛みは無かった...先ほど怪我をした指がなぜ回復したのか...それは今この先生が僕にしたことに関係があるのだろうけど...

 

 「ほう、見込みはありのようだな。まあ校長との約束もあるしな...よし、もし君にやる気があるのなら波紋の技術を教えてもいいが...やってみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 今日は結局あの個性把握テストのみで授業は終了した、初日だからあの程度であろう。

 

 まああの合理的虚偽には少し驚いたけどもとより最下位を取るつもりもなかった。私の個性もそうだが波紋法によって身体能力を向上させることが可能...一つ一つの種目ではトップを取れなくてもトータルでは私の成績は上位に位置していたのだ。まあそれでもさすがは日本最高峰の学校...クラスメイトの何人かの個性はとても強力なように見受けられた。

 

 特にあの轟という生徒の個性は群を抜いて強力に見受けられた...あの生徒だけは戦っても勝てる自信は今の私にはない。...あとそれとは対照的だけれど最後の生徒...自分の体が耐えられないようなパワーの個性を出す緑谷...とかいう名前の生徒も印象には残った。今はともかく使いこなせればかなり強力な個性になりそうではある。

 

 まあでも結局人は人で私は私...他人の個性など関係ない。別に私はトップヒーローを目指しているわけではないのだ...誰かと競うためにここにいるわけでもない。

 

 私の新たな力、なぜいきなりあの時から個性が成長したのか分からないがこの紫の茨...私はハーミット・パープルと名付けたこの個性と波紋で必ずDIOを倒す...最も個性だけに頼り切るつもりはない。

 

 波紋はその性質上様々な伝導させることが可能なため他に武器を使用してもいいかもしれない...例えば今日担任の相澤という先生が使用していたマフラーのような布...ああいうものを個性と同時使用しても強力になるかもしれない。検討してみる価値はある。

 

 私はそんなことを考えながら家路についていた、手に持ったペットボトルのスポーツドリンクを飲みながら歩いているとなんだか虫の羽音のようなものが聞こえてきたのだ。

 

 上空を見上げると私の周りに数匹の大きな蜂が存在していた...その存在を私は以前ネットで見たことがある!!

 

 それはオオスズメバチ 日本や東南アジアに広く分布するという大型のスズメバチである。その黄色と黒のストライプ模様は人間に警戒感や威圧感を与えるに十分...その外見は見掛け倒しではなく非常に高い狂暴性や強力な毒針により多くの人々に恐れられている...日本では年間数十人の人間がこの毒針に掛かり命を落とすという凶悪な蜂なのだ。しかし今は春...確かに冬眠から覚めてはいるだろがまだ繁殖はしていないはず...それなのにこの数は一体...

 

 「やあ!ジョディさん!その蜂たちは僕が温室で去年から繁殖させたんだ!」

 

 後ろからの声で私は振り返る...後ろに広がっていた光景に私は戦慄が走った。

 

 なんと声の主を守るように周囲におびただしい数のオオスズメバチが滞空していたのだ!そしてその声の主に私は見覚えがあった...それはさっきまだ会ったばかりのクラスメイトの中の1人...

 

 「貴方は...確か口田君...だよね?これは一体...」

 

 「そう!覚えていてくれたんだ!嬉しいよ!...でも残念だけどジョディさんにはここで死んでもらわないといけないんだ。」

 

 「えっ!?」

 

 「本当はね...僕は虫が苦手なんだ。だけれどDIO様のおかげで僕は虫たちが好きになることが出来たんだ!友達になったんだよ!フフフッ...みんな可愛い僕の友達...この素晴らしい友達をくれたDIO様が君を殺せば褒めてくれるのさ!」

 

 今こいつはDIOの名前を出した!間違いない...あの変態以降刺客を送り込んでこなかったけど再び奴は動き出した!しかしまさか雄英高校の内部にまでDIOの手下が潜り込んでいるとは...

 

 

 

 「フフッ今の僕は口田甲司でありこの個性...生き物ボイスはDIO様に灰の塔( タワーオブグレー) の暗示を授かった!さあ!お行きなさい小さき者どもよ!DIO様に仇なす愚か者を討ち取るは今です。」

 

 

 

 

 

 

 

 



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灰の塔

ジョディ・ジョンストーン
個性/スタンド ハーミットパープルThorn
射程距離約10メートル
ただし今現在はジョディ本人がスタンドの概念を知らないため個性の一部と認識している。個性と一体化して発現したためかスタンド使い以外の人間にも見ることが可能。その他にも隠された能力が存在するが現在は不明。腕の他に脚からも伸ばすことが可能。

所属:雄英高校ヒーロー科1年A組
誕生日:9月27日
身長:165cm
血液型:A型
好きなもの:マーマイトを塗ったトースト


 凶悪なあの羽音が周囲を包む、それと同時にオオスズメバチが警告するときに出すというカチカチという音も私の耳には届いていた。

 

 それにしてもとんでもない数のスズメバチ...それを操っている口田は私から10メートル以上離れた距離に存在しているのだ。このタイミングで攻撃を仕掛けてきた訳...それは私の能力のネタが既に割れているからだろう。

 

 「フフッ、ジョディさんはさぁ...学校の体育祭とか運動会ですごい頑張っちゃうタイプでしょ?わかるんだぁ...しかしさっきの個性把握テストは驚いたなぁ...あんなに頑張ったから上位の成績だったんだよねぇ!?そのおかげで僕は君を安全に殺すことが出来るんだからあのテストに感謝しなきゃ!」

 

 彼が話を終えると空中で綺麗に隊列を組んだスズメバチの編隊が一斉に襲い掛かってきた。その光景はまるで航空ショーのようですらあった!自分が襲われている立場で無かったら、そして編隊を組んでいるのがおぞましい虫でなかったのなら見惚れるほどにその飛行は美しく整っていたのだ。

 

 「クッ!!ハーミットパープル!!」

 

 私の腕から紫の茨が出現し襲い来る無数のスズメバチを迎撃する、しかしこの私のハーミットパープルはスピードは別に遅いわけではないのだけれど特別速いわけでもない...数が多いので何匹かは始末できたが大半の蜂には攻撃を躱されてしまった。

 

 そして向こうはこちらのスピードや射程距離を知っているのだから当然有利になるように攻撃してくる...無数の数で多方向からヒット&アウェイで攻撃を仕掛けてくるのだ。一度こちらに接近して攻撃してきたらすぐに私の攻撃の射程限界である10メートル以降に飛んで行ってしまう...

 

 攻撃を回避しきれない!!何匹かのスズメバチの毒針が私の肌に突き刺さる!

 

 「やったぁ!刺しちゃった!刺しちゃった!」

 

 これであの本体が油断して近づいてくるような奴だったら楽に済んだのだろうけどそうはいかないようだ...あのはしゃぎようとは裏腹に奴はかなり慎重であるようだ。

 

 蜂に刺されたら直ぐにその毒を体外に出せば問題ない...そして波紋呼吸法は血液の流れをコントロールすることが可能!体内に入った毒をそのまますぐに私は排出した!

 

 

 しかしこれではジリ貧だ...結局体外に毒を排出したところでまた無数のスズメバチに襲われたらその全ての攻撃を防ぎきることは至難の業!やはり蜂たちに命令を出している口田君を何とかしないと...距離を詰めようにもスズメバチ達が全力で妨害してくるだろうことは容易に想像できる。

 

 では逃げるのはどうだろうか?...いやそれは論外であろう。

 

 確かに一旦引いて対策を考えるというのは戦う上で有効な戦法だろうが今この個性相手にはそれは悪手に思えた...理由は私はまだ相手の個性の全てを知っているわけではないということだ。正直今の状況はまだましな方でもし口田君が視界外から私を襲っていたのならもっとこちらが不利な状況に追い込まれていただろう。

 

 逃げたとしたら唯一の突破口である本体を私が見失うということ...それは今よりも状況の悪化を招くと私は判断する...

 

 「今君は逃げるかこのまま戦うか考えてるんだよね?でも僕から逃げても状況は好転するどころか不利になると思案している...僕の予想はビンゴでしょ!ねぇ!?」

 

 相手は既に私に勝ったつもりでいる、それこそが隙...相手が勝ったと思って油断したときこそ隙が生じるというもの!!

 

 私は地面に倒れこみ頭を押さえながらいまだに手に持っている中身の残っているスポーツドリンクのペットボトルにある細工を加える...そして私が倒れこめば最後のとどめを刺しに一斉攻撃してくるはずだ...奴は私が毒を体外に排出出来ることを知らないはず...個性はともかく波紋法の応用技全てまではテストで見せていないのだから。

 

 「止めを刺すよジョディさん!毒針で...」

 

 「貴方の次のセリフは毒針で君の顔をイギリス料理より醜い見た目にしてあげる...よ!」

 

 「毒針で君の顔をイギリス料理より醜い見た目にしてあげる!...はっ!?」

 

 私は手に持っていたペットボトルを空中に放り投げる...そこにはあえて効率の悪い手のひらから一気に放出した波紋を込めてある!

 

 「ペットボトル!?中身が噴き出る!?」

 

 そして私がペットボトルにした波紋以外の細工...自らの髪の毛1本に波紋を流し込み針のようになったそれでペットボトルに無数の穴を先ほど開けていた!

 

 「名付けて波紋スプリンクラー!!そしてこの水を浴びた虫たちの神経系を狂わせる!」

 

 ペットボトルに空いた穴からスプリンクラーのように水が放出される...これは液体に指の先だけからの一点集中の波紋ではなく手のひらから一気に放出した波紋により液体が爆発したためである。ペットボトルに開けた無数の穴から勢いよく水が飛び出し周囲に集まっていたオオスズメバチたちはその波紋を帯びた液体を浴びることになる。

 

 「あぁ...僕の蜂が...友達が...」

 

 蜂たちはとち狂った!人間とは違い虫と言うのは体の中に分散された神経節を使って情報を処理しているという...脳以外にも体の部位それぞれが独立した神経節により制御されておりそのため頭部を切断したとしても直ぐには死なずに動いたり羽ばたき続けたりすることが可能なのだ!

 

 それを私は狂わせた、今の攻撃でオオスズメバチたちは体中の神経節が狂いまともに飛行出来ず地面をのたうち回ったりあるいは明後日の方向に飛んで行ったりしてしまった...もうこの状態では口田君の命令を聞くことは出来ないであろう。

 

 その間に私は一気に距離を詰める!相手の10メートル以内に接近して私のハーミットパープルで拘束してコンクリートの地面に叩きつけたのだ!

 

 「うあッ!!?ウッ...」

 

 「貴方に教えておいてあげる...この私ジョディ・ジョンストーンにはどうしても許せない発言が世の中に二つある...それは家族の悪口、そしてもう一つは祖国の料理を悪く言われることよ。」

 

 

 

 

 

 

 



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灰の塔2

 コンクリートの地面に叩きつけたせいで口田君は意識を失ってしまったようだ...少し出血もしているようだし治療しなければならないだろう。

 

 ...しかし今冷静になって考えると不思議なことがある。それはまだ空に太陽が輝いている時間だということだ。

 

 DIOの手下であれば吸血鬼かもしくは彼の血を分け与えられたおぞましい眷属に成り果てているはず...しかしそういった者たちは太陽光の元に姿を現すことが出来ないはずなのだ。と言うことはこの口田君は少なくとも人間のまま自らの意志でDIOの命令に従っているという事だろうか?

 

 ...であるならば少々荒っぽいやり方になるだろうけれど情報を吐かせることが出来るかもしれない。

 

 私は個性を解除して口田君の元に近寄り顔を覗き込む...頭部から少し出血しているようだがこの程度なら問題は無いだろう。

 

 「とにかく口田君を連れてシーザー先生の元に行かないと...えっ!?これは...」

 

 それは口田君の額のちょうど真ん中あたりに存在していた...蜘蛛のような形をした肉片...それが口田君の額に張り付いておりうごめいていたのだ。

 

 まさかこれはDIOの細胞の一部か何かなのだろうか?これで口田君を操っているということなのだろうか?

 

 シーザー先生は他の誰も信用するなと言っていた...それはどこにDIOに通じている人間がいるか分からないから...DIOが何かしらの特殊な能力...恐らく個性ではなく吸血鬼としての能力で人を自分の思うがままに操れる可能性があるということはシーザー先生が最も懸念していたことの一つであった。

 

 恐らくシーザー先生も確信が有った訳ではない...ただ吸血鬼が何らかの手段で人を操ることが可能かもしれないと説明を受けたとき私はもしそうならこの世界は簡単にDIOの手に落ちるであろう思った...いやもしかしたら既にもうこの世界はDIOの物になっているのではないだろうか?

 

 もし私がDIOだったらどうするか?まず間違いなく世界中の国家中枢に自らの部下を送り込む...いや国家そのものを洗脳してしまうであろう。

 

 この日本だって...いや日本どころか私の祖国やあのアメリカ合衆国の内部ですらもしかしたら既にDIOに間接的に支配されてしまっているのではないのだろうか?

 

 既にもう手遅れの可能性だってある...しかしそうであっても私たちは諦めるわけにはいかない。

 

 このままDIOの思い通りにしてたまるものか...家族の仇...そして大げさでもなく全人類のために私たちはあの石仮面の吸血鬼と戦わなければならない。

 

 そうでなければ私たちは奴らの食糧と化す...もし私たちが負けたら人類は全て吸血鬼の家畜に成り果ててしまうだろう。

 

 人類を守る為に 人間としての尊厳を守る為に私たちは絶対にDIOに勝たなくてはならないのだ。

 



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正と負の波紋

雄英高校 保健室

※緑谷出久視点

 

 放課後...あれから僕はシーザー先生にこの波紋法についての説明を受けていた。

 

 波紋呼吸法、体を流れる血液をコントロールして生命エネルギーを生み出すというこの技術は本来は医療技術のようであるが攻撃にも転用可能というなんとも汎用性の高い技術であるらしい。特に自分の怪我を治癒させることが出来るのならこの僕にとっては願ってもない素晴らしい技術であることは間違いない。

 

 だけれどその修業は極めて過酷...だが波紋法の修行は同時に己の肉体の修行にもつながるらしくそれは僕にとってワン・フォー・オールを使いこなすためのトレーニングや調整にもなるはずだ...つまりは一石二鳥だと思う。

 

 しかしこの呼吸法矯正マスクを着けながら生活するのはとても苦労する...装着して何とか今は呼吸できるようになりはしたがこのまま授業を受けたり体を動かしたりするのはとても困難なように感じるの...しかしこのマスクを装着して修行するのが一番効率がいいらしいので仕方がない。

 

 「そうだ、リズムを整えろ。それが一番大事なことなのだ。たとえ戦闘中であろうと...いやだからこそ呼吸のリズムを整えることが重要なのだ。それが出来なければ波紋呼吸法は使えん。」

 

 矯正マスクとはその名の通りで少しでも呼吸を乱すと酸欠に苦しむことになる...つまりはこれから食事と歯を磨く時以外はずっと修行をしているということになる。

 

 そんな時だった、保健室の扉が勢いよく開き例の留学生であるジョディさんが入ってきたのは...いやジョディさんだけじゃない。もう一人この保健室に入ってきたのは...正確に言えばジョディさんがそのもう一人を背負ってきたのだけれど。

 

 その生徒は口田甲司という生徒だった、しかしジョディさんはすごいな...身長が180cm以上ある口田くんを背負って汗もかかずにいるのだ。その動きは自らより大柄の人間を背負っているとは思えないほどに軽やかであった。確かにあの時の個性把握テストでは好成績を残していた...自分の個性が有効ではない種目でも成績が良かったということは身体能力が高いということである...しかしこの状況は一体どういうことなのであろうか?

 

 「おや、また怪我人かね?...確かこの子はシーザー先生の弟子のひとりだったかね?」

 

 「ええそうです、どうしたジョジョ?何があった?」

 

 「...えっとすいません。シーザー先生...例の件です。二人だけで話せませんか?」

 

 何やらとても神妙な面持ちで話し始めたジョディさんと例の件という言葉を聞いて急に表情が鋭くなったシーザー先生...一気にこの場の雰囲気が重くなるのを僕は感じていた。

 

 「そうかい、どうやら私たちはお邪魔のようだねぇ...でもその伸びてる生徒はここに置いていってもらうよ。人に聞かれたくない話ならよそでしてもらおうかね。」

 

 「...しかしこの件には口田君も...正確には口田君の体が関わっています。」

 

 「一体どういう事なんだジョジョ?」

 

 「これなんです...」

 

 そういうとジョディさんは口田君のおでこの辺りを指さした...そこには何やら肉片のような謎の物体が存在していて動いているようであった...あれは何かの生き物なのだろうか?

 

 「これは...そうか、なるほど...これが洗脳の方法だったとは...出来るのでないかと思ってはいたが嫌な予想は当たるものか...」

 

 

 暫くの沈黙...何やらとても重い話だったようであり僕があまり関わってはいけない話題のような気がした。

 

 「しかしこれが洗脳の方法であるならば...少なくともこの緑谷は信用できることになる。あとは弱い波紋を流したことがあるリカバリーガールも信用できるだろう...ジョジョ、何があったか話してくれ。」

 

 「シーザー先生がいいなら分かりました...」

 

 その後ジョディさんから語られた事件のあらまし...放課後に口田君から襲撃を受けたこと...そしてその口田君を操っているであろう者の名前、その名はDIO...間違いなくその名はあの時速人君が名乗った名前であったのだ。その名前は聞いたとき僕は思わず反応してしまった。

 

 「DIO!?今ジョディさんは確かにDIOって言ったよね!?」

 

 「えっ!?...君は確か緑谷君だよね?...それより君はDIOを知っているの?」

 

 「いや待てジョジョ!それよりも今はこの生徒を何とかしなくては!この口田という生徒の脳天に植え付けられているのは恐らく吸血鬼の細胞のようだ...早急に除去しなくては...それには君の力が必要になる!」

 

 「...話がよくわかりませんシーザー先生。これが吸血鬼の...DIOの細胞の一部が変化したものであれば波紋を流せばそこだけ死滅するんじゃないんですか?」

 

 「いや、もしこのまま普通に波紋を流し込めば恐らくこの生徒の脳に重い障害が残る可能性が高い!...それだけで済むならまだマシかもしれんな。最悪の場合死亡することもありうる。」

 

 「...!!それじゃあ手術か何かで摘出するしかないってことですか?」

 

 「それも不可能であろう...大人しくこの吸血鬼の細胞が摘出されるとは思えない。そこでだジョジョ!!今からこの生徒に二種類の波紋を流し込む!君と俺とが協力してはじける正の波紋とくっつく負の波紋を流し込む!...俺の以前の経験から言えば恐らくはそれで人体のダメージ0で細胞だけを死滅させることが出来るはずだ。」

 

  ジョディさんとシーザー先生の会話の内容の殆どは今の僕には意味不明であった...黙って事の成り行きを見届けているリカバリーガールも僕よりは知識があるんだろうけど口を出さないということはやはり専門外の事案と言うことなのだろう。

 

 「いいかジョジョ!俺は今からこの生徒の脳に一点集中してくっつく波紋を流し込む!ジョジョは体全体にはじける波紋を!呼吸は俺に合わせろ!タイミングが肝心だ!」

 

 シーザー先生はそういうとジョディさんと呼吸を合わせ口田くんの頭部に手を当てる...それと同時にジョディさんも口田君に手をかざしたのだ!二人が口田くんに流し込んだのは正と負の二種類の波紋...後から聞いた話ではああすることで人体への波紋エネルギーのダメージを0にすることが可能らしい。

 

 

 波紋を流し込まれた口田君の頭部に取りついていた謎の肉片は一瞬にして砂状に変化して死滅したようだ...

 

 しかし今の僕には分からないことだらけである。今の一連の話の流れから推察するにDIOは...速人君はこの二人から吸血鬼扱いされていた。吸血鬼と言うワードが言葉通りの意味であるならば速人君は...

 

 

 

 

 

 

 

 



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オール・フォー・ワン

某所

 

 薄暗い部屋に電子機器と多数のモニターだけがその場所にわずかな光を灯していた。

 

 生命維持装置を取り付けモニターを眺めるその人物の顔は半分つぶれており常人が見れば発狂してしまいそうなほどのグロテスクさを醸し出していた。

 

 その怪我を彼が負った原因は先のオールマイトとの戦い...もっともオールマイトは彼のことを討ち取ったと思っていたが現実はそうではなかった。

 

 しかし彼は生き延びたとはいえ大幅な弱体化を余儀なくされていた...今の状態では全盛期の数分の一の力があるかどうかというような状態...最もそれでも大半のヒーローやヴィランよりも強力な存在であることには違いない。

 

 そんな彼、オール・フォー・ワンは自らは闇に潜伏し次の計画に向けて着々と準備を進めていた。だが少し前からその計画に若干の支障をきたしていたのだ。

 

 まず一つ、死柄木弔の成長のために使おうと思っていたヒーロー殺しステインがここ最近活動をしておらずオール・フォー・ワンにすらその所在が掴めずにいることだ。最も彼についてはまだ急ぎと言うわけではない...捕まったという情報は入っていないので生きているならばそのうち所在を掴むことは可能であろう。問題なのはもう一つの問題である。

 

 ヒーロー殺しが活動を停止した直後から裏社会で囁かれ始めた噂...もはや現在では表の社会にまで都市伝説として伝わるほど有名になっている人食い事件である。

 

 そして例の吸血鬼の噂と合わせて今では路地裏の小物ヴィラン達は確かにそれらを明確に恐れているようであった。

 

 噂ではないと彼は既に確信していた。

 

 オール・フォー・ワンの眺めているモニターには先日発生した八斎會襲撃事件の監視カメラの映像の一部始終が映し出されている...最も今の彼は生物的な能力としての視力は失われているため視覚情報を得るためには個性を用いる必要がある...つまりは正確に映し出されたモニターの情報を得ることは難しくなっている。それでもその画面に映し出された異常な光景を認識することは可能だった。

 

 この監視カメラ映像の録画は削除されていたものを警察が復元したものである。それを警察内部の協力者から手に入れたものであるのだがそれは完璧ではなかった。

 

 警察が削除された映像を完全に復元できなかったわけではない...どうやら警察内部にはこの僕と同じように例の吸血鬼がスパイを送り込んでいるらしい...

 

 不鮮明な監視カメラ映像からでもわかるあの威圧感...組員を謎の個性で次々と殺害して監禁されていたこれまた謎の少女を連れ去ったという例の吸血鬼と思われる男はその名前と派手な服装以外の情報をオール・フォー・ワンですら掴むことは出来ていなかったのだ。...不確かな情報としては10年以上前に行方不明になったある児童ではないかと言う疑いはあったのだがそれだけではあまり意味の無い情報である。しかし画面越しですらこの吸血鬼DIOはオール・フォー・ワンにその存在は警戒させるには十分な存在感であったのだ。

 

 彼の正体や個性は依然不明...いや個性に関しては不明と言うよりも個性を複数所持しているのではないかと言う疑いと言うべきであろうか。

 

 常識で言えばあり得ないことであるがオール・フォー・ワンには...いや彼だからこそと言えるかもしれない、それは不可能ではないかもしれないと思えてしまっていたのだ。

 

 「...でドクター。捕まえたアレから分かったことはあったのかい?」

 

 声をかけられたその人物、禿げ頭に白衣を纏った小太りの男は少し間を開けてから返答をした。

 

 「...こいつはどうやら太陽光...厳密にいえば紫外線に強い反応を示すようだ。また体内から自分自身とは別のDNAも検出された...どうやらこいつらは本当に吸血鬼かもしれん...もっともコイツは吸血鬼や食人鬼と言うよりもゾンビと言ったほうが正しいかもしれんが...」

 

 「なるほどドクター...でもゾンビにしては動きが随分俊敏なんじゃないか?」

 

 「あくまでたとえの話...そもそもゾンビなんて言う存在はこれまでは創作の中の存在に過ぎなかったからね先生。それにその創作の中には走るゾンビと言うものも存在してる。」

 

 どことなく楽しそうに話すドクターの話に耳を傾ける。

 

 その時ふと思い出す...そういえば有用な個性を探しているとき個性登録リストの中に他者をゾンビにしてしまう個性を持った子供が存在したのを思い出した。少し興味を持ったがその個性は制御できないようであり僕や弔そして脳無には合わないと判断して手を出さなかったのだ。

 

 いやしかし今回の件とその個性は無関係であろう。似ているだけで実際には今回の件とは全く異なっている事柄であることは一目瞭然だ。

 

 だが他者をゾンビにする個性...もしそれが制御できるものであったとしたら...具体的にはゾンビ化に制限時間などなくゾンビ化させた人物を自らが自由自在に操れる個性であったのならあのゾンビウィルスという個性を僕は自分のものにしたであろう。

 

 もし今回の件がその僕が欲した理想のゾンビ化の個性であったとしたら...そしてその個性以外にもDIOという人物が強力な個性を保有して何かしらを計画しているとしたら。

 

 

 もしそうなら仮初の平和は早く崩れるかもしれない。

 

 「いやもしかしたら既に平和は終わっているのかもしれないねぇ...オールマイト、僕達が思っているほどに世界は平和じゃなかった...これは苦労することになるかもねぇお互いに。」

 

 オール・フォー・ワンは虚空に呟く、目の前に存在しないオールマイトに語り掛けるように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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