機動戦士ガンダムSEED C.E.の軌跡 (明星さん)
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評論家、機動戦士と立つ。

 人類は宇宙で可能性に満ちていた。

 もっと遠くへ、もっと新しい場所へ。だが、その希望という新天地は人々が定住する事になれば、地球の一部と認識されて悪意も染み込むものだった。

 優れた人種を生み出す事を目的に“コーディネーター”という遺伝子を改造して作り出した。肉体的にも精神的にも、頭脳でさえ今までの人を超える素晴らしい生き物であった。しかしそれは同時に今までの人類をナチュラルとして固定し、差別し、コーディネーター至上主義という優生思想を生み出すことにも繋がった。

 そして、それが幾たびの大戦を行うことになった。その中で生まれた兵器、モビルスーツ。語り継がれている中では、ストライク、フリーダム、ジャスティス、プロヴィデンス……色々あるな。それらは古来の戦争のように、個々の威厳を示す_______

 ああ、また話が脱線してしまった。私は兵器分野で研究して世の中に論文を投げているMS評論家、ウィンチェスター・ベルナッツだ。今はモビルスーツ博物館において、ちょっとして講演をしているんだ。

 そろそろ始まる。PCを調整してから、マイクを前に持ってきて話を始める。

 

「皆さま、今日はこの大講堂にお集まり頂きありがとうございます。私はウィンチェスター・ベルナッツ、MS評論家でございます。処女作“人の意味”から長らく読んでらっしゃる方はもちろんのこと、今日たまたまやっていたから入ってみようと言う方までわりかし楽しめるようにしてみましたので、本日はよろしくお願いします」

 

 一歩下がってお辞儀をすると拍手が起こる。私もそれを貰えるほどにはやっていけてるという事だろうか。

 

「今回はオーブの機体をメインに話していこうと思います。最初から製造がオーブではないのですが……ええ、まずはみんな大好きフリーダムガンダムから_______」

 

 話そうと思ったその時だ。

 

 

 

 天井が緑色に光ったと思えば弾けて、瓦礫の嵐が吹き荒れる。

 

「んん!?」

 

 急いでテーブルの下に隠れて、安全を待つ。

 轟音と衝撃が凄く、耳を塞いで口を開けて腹を地面につけないようにする。

 それらが収まったら周りを見る。

 

 瓦礫の山で、土煙から光が垣間見える。

 

「なんだこれ……」

 

 まるで戦争の世界に放り込まれたような世界。

 

「ベルナッツ先生!」

「君は案内係の……」

 

 案内係がこちらを見ている。

 

「大丈夫ですか!?」

「まあ。しかし困ったものだな、戦闘の真っ最中に巻き込まれたようだ」

「こちらへ来てください、脱出口があります」

 

 生きてるだけ儲けもの、急いで出口に向かうとしよう。

 案内係と一緒に走って、館内を駆け巡る。

 

「はぁ、はぁ……あとどのくらいかかるのかね?」

「もうすぐですよ、もうす、ぐ______」

「そこで絶句しないでくれたま……なんだ!?」

 

 出口直前で外を見る。

 そこには死体の山の数々、血も流れ肌は焼けただれ。見た事がある場面だ、まるである国に特殊な爆弾が落とされた時の_______

 もっと最悪な状態があるとするなら、そこにザフトと思わしきモビルスーツがある事だ。ザクに色々をくっつけた新型……見た事ないな。

 

「このままではまずいな……そうだ、お嬢さんはここにいてくれ」

「え……?」

「まずいと思ったら中に引き返すんだ」

 

 そのまま看板の案内を頼りにMS展示格納庫へ向かう。

 あそこには確か今日、別の講演で使うはずの機体があったんだ。

 

 

 格納庫に入ると、やはり充電ケーブルが挿されたままガンダムがあった。

 

「パーフェクトストライク……!頼んだは良いがこうなる事を想定してないからとんでもなく状況に合わないな!」

 

 愚痴を言っている暇はない。

 急いで乗り込んで、レバーの遊びやペダルを確認する。

 

「よし、いけるぞ。どこも不備はない」

 

 最後に起動して確認する。

 装甲はフェイズシフトだから無論色づき、こちらの操作どおりに動いてくれる。優秀だ、あの准将が使った機体と言うのも頷ける。シュベルトゲーベルにアグニ、ビームライフル……あとは色々。やはりパーフェクトと言われるだけはある。

 格納庫の出口付近へガンダムを持ってきて、音をあまり立てないように狙いをつける。

 

「此処はド派手にやってしまおう。狙いは外の三機のザクだ」

 

 アグニを持ってからもう片方の腕でビームライフルを構える。腕についてたパンツァーアイゼンが相手の装甲をくりぬけるかどうかは知らないけど、ある武装全部使い切って身軽になろう。

 

「よく狙って……沈め!」

 

 相手が停止しているのを確認して、トリガーを押して一斉射撃。

 120mm対艦バルカン、350ミリガンランチャーも同時に撃つ。

 

 こちらの音を聞いて、闊歩する機体はこちらを向く。

 しかし顔を向けても、機械と言うのはそう簡単に動くものではない。外のザクが気付いたとしてもう遅い。アグニは機体に穴を開け、ビームライフルは装甲を焼き溶かし、パンツァーアイゼンを弾いた機体は対艦武器に曝される。

 三機が爆ぜ、残されたモビルスーツはこのパーフェクトストライクだけとなった。

 

「壮観だな、乗っているのは一般人だが」

『そこの機体、返答しなさい!』

「はい?」

 

 通信が入ってきている。こんな20年前の機体に通信を入れるとはとんでもないが、それでも入ってきたものにはしょうがない。ボタンを押して答える。

 

「こちらパーフェクトストライク、其方は?」

『アークエンジェルよ。貴方は誰?』

「ウィンチェスター・ベルナッツです、そちらの所属と名前を聞かせていただきたい」

『地球連合軍所属、マリア・グルーヴィだ』

 

 そういえばなんか暗くなってるな。地面を見れば、自分の周りだけが影になっていることに気づく。

 上に何かあるのか?見上げたら_______

 

 大きな戦艦が飛んでいた。



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再現されているような光景

「ミス・グルーヴィ、生憎私は今三人殺めてしまってね。気分で落ち込んでるから長い話は後にしてもらえると助かる」

『その事については後でじっくり指示をする。それよりも、だ。今此処らの民間人を収容したから脱出する寸前だが、お前以外にも居るか?」

「えっとね……博物館案内係のお嬢さんが一人。それ以外はご覧の有様だ」

『わかった、では少しずつ進むから早く連れてきてくれると助かる』

 

 巡航モードだがこのコロニーだと狭いのでやっぱり早く感じる。

 そうだ、早く連れて行かなければ。ハッチを開いて紐を掴んでから降りる。

 

「お嬢さん、お嬢さん!」

「はい……」

 

 彼女は泣いたまま立ち上がっている。

 

「お迎えが来たんだ、早く乗ろう。多分君が大事にしてる人にも会えるはずだから」

「ええ……」

 

 支えるようにして歩いて、ガンダムの目の前に立つ。

 まずワイヤーで自分が上がって、次に上がってくる彼女を受け止めるようにしてコクピットの中に入れる。

 

「サブシートがあったから、此処に座って待っててくれ。ではいくぞ」

 

 思い切りブーストをかけて上昇する。パイロットスーツを着ていないからか、思い切り椅子に吸い寄せられているような感覚に身体が困り果てている。

 

「うぐ……大丈夫かお嬢さん……!」

「だい、じょ、ぶ……」

 

 お互いに加速による圧に苦しみ喘ぐ。アークエンジェルが段々近づくにつれて安心感が増してくる。

 

『格納スペースは前から入ってくれ、出来るか?』

「頑張っては見ますよ」

 

 勢いをつけて艦の前に出る。カタパルトが開いているから、そこから入るのだろう。

 

「今から入るぞ」

『了解した』

 

 ゆっくり後ろに下がって、艦内に入る。

 中の格納庫までは少し距離があるため、ホバーしながら振り向いて着地して歩く。

 しばらく進むと、モビルスーツが他にも入っている格納庫にたどり着いた。下にはいかにも偉そうな女性兵士がいる。

 足を止めてから、コクピット近くの足場に自分らは降りる。

 ただ、降りた直後によろめいて、手と膝をつきそうになる。

 

「大丈夫ですか……!?」

 

 と案内係に支えられて、ようやく立っている状態。

 

「私にもどうやら身体の限界というのがあるらしいな……!」

「あんなに動いたのですから当然でしょう!?ただでさえ作業用モビルスーツの資格しかないのに、あんなものを動かしたら!」

「とんでもない評論家が居たものだ……ほれ」

 

 指揮官と思わしき女性に軽々しくお姫様抱っこされる。

 普段だったら恥ずかしすぎて文句が言えるが、この状態では何も言い様が無い。

 

「よく頑張ったよ、お前は」

「そりゃどうも……」

 

 上を向いて、少し微笑む。

 身体は未だに言うことを聞いてくれずうなだれている為何もできない。畜生、情けない。そろそろ眠たくなってきた、女性の腕なら光栄だ_______

 

  ◇

 

 光が突然現れる。

 しかし見覚えのない天井。やっぱり、私はアークエンジェルに乗っているのか。

 

「目が覚めましたか、先生」

「……案内役のお嬢さん」

 

 ふふっ、と笑って紅茶を差し出してくる。いいものだ、戦艦はやはり娯楽施設が無いと辛いもの。

 

「私の名前はお嬢さんじゃなくて、ファニー・ミュルグレスですよ」

「ミス・ミュルグレス。私達は安全区域に行けるのだろうか」

 

 窓から見れば星々が八方に輝いている。

 コロニーからは出たのか……しかし、此処にはあまり補給出来るようなコロニーも小惑星も無い。

 この戦艦を守れる機体もそう多くはない。一応私が勝手に持ち込んだものを含めれば六体は居るが、それでこのローテク艦は守れはしないだろう。

 

「聞けばこの艦、練習艦として利用されているのがメインだそうで。機体もあまり効果は期待できないかと……最悪、先生のガンダムが一番扱えるらしいですよ。火力面では代替が効かないんだとか」

「最悪じゃないか」

「おや、一般人が想像力働かせて絶望しているじゃないか」

 

 開いた扉をみると、グルーヴィ艦長がこちらを見ている。

 

「だって、聞いた話じゃ……!」

「今ザフトに連絡を取ったが、どうやら襲ってきた三機は関係のない機体らしいな。証拠がわりにデータも提出してきやがるってことは、少しぐらいは疑いを晴らしてくれって事だろう」

 

 流石に20年経っても汚名は払拭出来ないでいるザフトだから、こうもなるのか。正直デスティニーなんてどっちつかずな機体に託してる時点でまともな集団ではないのは確かだ。

 艦長は話を続ける。

 

「とは言えデュートリオンビーム送電システムが発達した今となってはPSかTP装甲は普通の事でもあるからね、アグニはともかく対艦装備でくたばる程度ではザフトの名誉に傷は付くだろう。だとしても、そんなオンボロ機体でテロなんて起こすものかね」 

「古い機体でも民間人からすればMS、命を奪う兵器の一つに過ぎないんです。ビームだろうが実弾だろうが、人からすれば大きすぎる」

『まもなくコロニーに着きます、総員着艦準備をお願いします』

 

 通信が聞こえてくる。そうか、もうすぐで着くのか。

 コロニーは地球の景色を以って回って燦々と輝いている……さて、私は無事に地球へ帰れるのだろうか。



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暇なのでデスティニーを解く

 外に出る。

 コロニー内とはいえ外は外、艦内も心地良いものだが解放感はそうそう味わえるものではない。

 

「そこのお方」

「なんでしょうか?」

 

 振り返ると、長い髪の女性が居る。こちらを見ながら微笑んでいるが、赤服だ。という事はエリートか、困ったものだな。

 

「アークエンジェルにはまともなMSは居ないのは知ってますが、一応身分を確認させていただきたい」

「良いですよ。えっとね……」

 

 相手に見えるように荷物を漁って、自分の市民証を見せつけるように前に出す。

 

「ウィンチェスター・ベルナッツだ。アークエンジェルに助けてもらっただけで、一般人なのには変わりない」

「提示ありがとうございます。班長、全員確認終わりました〜!」

 

 後ろにいる大柄な男性に手を振って声をかける。彼もまた此方に近寄ってきて、詳細確認をしている。

 

「ほほう、モビルスーツ評論家とはお暇そうな仕事だこと」

「恐縮です。歴史を食い扶持にできるだけの才能があるもので」

 

 たまに言われる苦言なので、軽く受け流す。

 実際モビルスーツ評論家は兵器を解しメディアで堂々と発言するという性質上、嫌われやすい傾向にある。

 それが軍人であったら尚更だ。自分達抜きで安全圏からずっと視認しているだけの癖に、テレビで立派に自分らの道具について色々言われているのだから小言を言いたくなるのもわかる。

 民主主義の軍隊という矛盾構造にあっては起こり得る事だが、市民が軍人という護身用具を表現する以上、彼らにも守る対象を見定める自由がある。

 

「宇宙にも出れるようになったオーブはさぞ光栄だろうが、上層部が使えず何もなし得なかった我々を嘲笑うかのように佇むあの戦艦は気に食わないな」

「愚痴で良ければ聞く方に回りたいものですな」

 

 持ってきた水筒の紅茶を飲みながら相手を見る。

 

「……先ほど悪口を言った相手に対して、なんとも優しい行動を取るのだな」

「一般人には機体やパイロットは人殺しかそれ以外かしかありませんからね。もっとも、それを最適化して伝える役目を持っているのが私ですから」

「訂正させてもらおう、すまなかったな」

「いえいえ、こういう事は良くありますから」

 

 遠くで赤服の女性は微笑んでいる。

 そういえば、ここはプラントの中心とも言うべき場所だったな。じゃあ、歴史館の一つもあるはずで……あった。あの羽付きの像がある、あそこがそうではないか?

 三人で近くまで寄って、像をまじまじと見つめる。

 

「お、デスティニーガンダムに夢中ですな?」

「ザフトの取り柄機体と言えばそうですからね。これを扱って生き残ったシン・アスカは凄いものですな」

 

 敵陣だったまず機嫌を取る事が重要だが、今の台詞は別にお世辞と言う訳でもない。

 

「シン・アスカの事まで知っているとは」

「ザフトのモビルスーツ偏重主義の生贄に選ばれたと言っても過言ではないですからね」

 

 思い切りあくびをして、彼を見る。少し驚いた顔をしているが、ついでだからなんか教えておこうか。

 

「ザフトはモビルスーツ開発からずっと、この兵器には無限の可能性があると妄信していました。だから、神様にように全てを使えるガンダムだって作ろうなんて思えるんです。一機に様々な機能を載せる発想は素晴らしいですし、実際その技術が確立されていたのも評価するべき点だとは思います。

 しかしそのような機体の弱点は機体性能ではなくその運用論で“この兵器では代替不能と言えるような突出した能力がない事”に尽きるのです。たとえ全てにおいて最高のポテンシャルを持っていても、まず扱い切れるとは思えません」

「と、言うと?」

「例えばデスティニーには高エネルギー長射程ビーム砲という武装がありますよね」

 

 デスティニーの像を指差して、後ろの折り畳まれたビーム砲に指先を移す。

 

「エネルギーの効率が非常に良く、要塞にも対応出来るという利点があります。しかし、一つのモビルスーツに多く高機能を詰め込む以上は物理的面積は縮小しないといけません。

 このビーム砲はただでさえ高威力で負荷を掛ける上に複雑化された変形機構ですから、少なくとも武装耐久性は脆いと考えた方がいいでしょう。整備士泣かせの武装と言っても過言ではありません。どう見ても中近距離で扱えるような代物とは思えないし、挙句長距離狙撃用のオプションパーツも無いと来ました。これではただの持ち腐れでしょう」

「他の武装に関しては?」

「アロンダイトだってそう、大振りだから初速付けないと真っ当に扱えないような武装ですよ。その他の武装でまともに扱えそうなのはビームライフルくらいしか無いんですから」

 

 説明をしていくうちに、嫌そうな顔から何か考えている顔になっていくのがわかる。

 

「ギルバート・デュランダルは全てにおいて最高のモビルスーツを頼んだ訳ですが、それが逆に足枷となってしまったとも言えます。言い換えれば汎用性が皆無、どんな状況でも使える武器が無いのは戦闘では相当なデメリットになり得ます」

「使い分けが出来ると言えば聞こえは良いが、言ってしまえばどの射程でも使える武器が限られる……か?」

「その通りです」

 

 像を仰ぎながら、話を続ける。

 

「そういやお相手さんは射撃特化のストライクフリーダム、そして格闘特化のインフィニットジャスティス。ミーティアなんて単独戦艦出来るような代物まであるなら、まずそれらを相手せず母艦に奇襲を行える機体を作るべきだったと思う」

「敵情知っても現実を見れない上層部には何言っても無駄でしょう」

 

 つくづくプラントという組織は頭がおかしい奴が多いな、振り返ってみると頭が痛くなる。そもそもこんな話から使えない奴って分かる辺り相当だ、確かに市民の苦悩も頷ける気がする。

 さて、時間を過ごせば昼の3時。そういえば嗜好品ばかりだったので単純に肉が食べたい。外を見れば、三つの光が消えずに走り回っている。戦艦だ、安心して食べられるだろう。



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ザフトの今

 ティータイムにお肉とは贅沢だとは思うが、何もまともな食糧を頂いてなかったから致し方あるまい。

 そういえば、話しかけてきた軍人の名はノルチェ・メイガスと言うらしい。

 

「ノルチェさん、そういえば今のザフトってどんな感じなんですか?」

「今のザフト?それはもう平和なものさ」

 

 意外、平和なんて単語が出るとは思ってもなかった。

 

「地球連合と戦争する必要が無くなって、ただはちょっと強い警察みたいな立ち位置に止まってる。まあ、コロニー内の災害とかあったらそっちにも手を貸すんだが」

「穴が開いたり、コロニー周辺の小惑星やデブリの撤去作業だったり」

「軍用でも使えるバックパックがあるからな。作業用モビルスーツもあるけれど、あれはあれでカッコいいぞ」

 

 それはちょっと見てみたいな……戦争分野に強くてもそっちはからっきしだから考えただけでもワクワクしてくる。日常作業用機体というのは、男であればいつになっても心が踊って仕方がない。

 

「モビルスーツ評論家なら、是非オーブの機体についてもご解説を頂きたいものだな」

「それは軍人としてですか?」

「個人的な趣味だよ、口外にしたところで今戦争しないなら意味はないじゃないか。だって俺が聞きたいのは18年前の機体だ、それこそデスティニーと戦った機体だからな」

 

 という事はジャスティスとフリーダム、そして発展機の話か。場合によっては他の機体にも話が移るだろうな。

 

「あれの二機か……どんな話ですか。基礎概要ならすっ飛ばしたいんですが」

「どう思うかって話だよ。まさか、あっちはパーフェクトとか言うわけ無いよな」

「当たり前でしょう。デスティニーとは別であれも問題抱えてるんですから。運用論で言えばそもそもあんなもの作るなって話なんです」

 

 こちらの象徴より厳しく無いか?と大笑いするノルチェ。デスティニーはそもそも兵器にもなり得ないクソ機体……というのはさておき、問題点を挙げる。

 

「ストライクフリーダムは持っている武器の火力が凄く、射撃特化と方向性が固まっているのがいいんです。また、運動性も高い為機体そのものはあまり言うべきところが無いんですね。

 “一度も被弾しなかった機体”と謳われている通りではあるんですが、其処こそが大きな問題点とも言えますね」

「まさかの名誉にケチを付けるとは」

 

 笑いが止まらないノルチェを見ながら、話を続ける。

 

「それって要はパイロットの腕が大きく関わってくるという事なんです。つまりキラ・ヤマト以外扱えない機体と言えるわけですが……それがダメなんですよ」

「専用機そのものがまず不合理と言いたそうな感じだな」

「そうです、戦争において強力故に代替不能な戦力は賭け要素が強すぎるんです。

 それに戦いというのは数で決まります。能力なんていうのは互いの戦力が拮抗、もしくは誤差という状態でしか必要とされません。そんなもの、大体は数で埋めれてしまいます」

「能力があれば数をひっくり返せるなんて戯言は言わない主義か」

「ご存じで」

 

 ウェイトレスに手を振って紅茶を注文、忙しくさがる彼を横目に改めて目の前の軍人の言に頷く。

 

「状況に応じて特化させる能力を変化させる、もしくは特定の状況下で過大な力を発揮する機体が一番好ましいんですよ。それこそインパルスやストライクは時代背景と運用方法を考えれば最高傑作と言えるでしょう」

「じゃあザフトもザクよりも柔軟なモビルスーツを作るべきだったのか……確かに俺もザクよりはガンダム派だな。強いし複眼カッコいいし」

「話聞いてました?」

 

 なんだかおかしくなってきてこっちが腹抱えて笑えそう、でも言えては居るからさらにおかしくなる。

 

「そういえばガンダムに乗って来たそうだな、乗り心地は如何だったんだ?」

「着の身着のままで乗ったからそりゃあ最悪でしたよ。ザフトはコーディネーターが多いからいいかも知れないんですが、生憎私は生粋のナチュラルでね。幾ら20年前の機体とはいえ推進力があれば身体が持つかどうかもわからない」

「そんな中ザクを三機倒してこっちに入ってくるなんざ見上げたやつだよ」

「軍人に言われると素直に喜べるな」

 

 笑いながら、来た紅茶を飲む。

 互いのステーキは既に尽きた、あとは優雅なティータイムを楽しみたいが……と思った瞬間、彼の持っていた端末が鳴っている。

 

『ノルチェ大佐、至急帰還してください!敵機急速接近中!』

「早めに言えや馬鹿野郎!」

 

 大きな声を出すものだから危うく持っていた紅茶を落としそうになった。確かに地面は揺れている、どうやら何かが来ている合図と見える。

 

『ウィンチェスター・ベルナッツ!聞こえているか、ウィンチェスター・ベルナッツ!』

「はいはいはいはい!?」

 

 こっちの端末も鳴っていて急いで取って話しかける。

 

『所属不明機急速接近中、ザフトともオーブとも認識できず挙句にこのコロニーを攻撃している。早く戻ってこい』

「了解しました」

 

 通信を切ってからノルチェの方を向く。

 

「急いで離れましょうか」

「ああ、死ぬなよ!」

「勿論」

 

 お互いに走って互いの艦に戻る。

 26の体にはキツいものだがそうでもしないとビームに焼かれたり、落ちて来た薬莢に当たったり、挙句にはコロニーの穴に吸い込まれてしまうかも知れない。

 生身で安置と言える場所がない中、微かに吹く硝煙を突き抜けて進む。



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襲撃

 砲弾雨を掻い潜って急いで帰って来た私は悲鳴と罵倒の二名のみでまともなものが降りかからなかった。

 

「何をしていたんだ、研究家たるもの自分の身すら守れないのか!」

「ジャーナリストと研究家じゃ活動範囲に差があるんですよ、私みたいな研究家ってのは基本安全圏にしか居ないんですから」

 

 ミス・ミュルグレスは心配そうにこちらを見ている。走って来たので疲れてしまい、壁に背を当ててへたり込む。

 

「ベルナッツ先生、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃなかったらここに来れてない……いや、大丈夫かと言われれば少し休ませて欲しい。食後の運動というのは最後にものに口を運んでから最低15から30分は時間をおくべきなんだよ」

 

 疲れが少しずつ取れて、吐き気と息苦しさも収まって来た。グルーヴィ艦長はため息しつつも遠くを見ている。

 

「まあいい、帰って来たならあとはどうとでもなる。民間人どころか下手したら我々に出る幕は無いからな……」

 

 実際レーダーと外を交互に見れば戦っているのが見える。ザフトの軍と所属不明機、どうやら味方ではないらしい。

 遠くで火花を散らしているのにずっと視線が釘付けだが、そんな朦朧とした意識を打ち破るように通信が入る。

 

「艦長、ザフト戦艦からの通信です!」

「開けろ、私が出る」

『アークエンジェル、聞こえるか?』

「……ノルチェさん」

 

 通信の相手は先ほどまで話していたノルチェ大佐、艦長はどうとも動かず言葉を出す。

 

「聞こえている。用件は?」

『所属不明機が居るのはレーダー見ての通りだと思うが、コロニー外には輸送艦が3隻居る。長居は無用だ、今まだ発進していないようだから早めに退去する事を勧める。ここは戦場になるぞ』

「忠告ありがとう、そうさせてもらうことにしよう。

 諸君らも無事に切り抜ける事を祈っている」

『そちらも気をつけて』

 

 通信が終わって、操舵士に指示を出す艦長。

 

「すぐにここを出発する、あと何分で発進出来る?」

「今出れます!」

「よし、アークエンジェル発進!」

 

 アークエンジェルは急激に上昇して、揺れに揺られて思い切り転ぶ。腰を打って痛くて悶えていると、今度は上昇するときのGがかかってくる。地面で芋虫のように動きながら、ようやく安定してきた状況を徐々に身体を慣れさせる。

 

「もうすぐコロニーから出るぞ!」

「艦長、4時の方向から!」

 

 一息つこうとしたらまた大きく揺れる。全く、こっちには緊急シートが無いっていうのに。

 

「所属不明モビルスーツが接近中、同じ方向から4機!」

「くっ……どうしたものか」

 

 艦長が頭を悩ます中、ミス・ミュルグレスはヒステリックを起こして悲鳴を上げる。

 

「早くしてくださいよ!軍人でしょうに、守っていただけないんですか!」

「ミス・ミュルグレス!」

 

 慌てて彼女の身体を抑えて落ち着かせ、こっちの顔を見せる。

 

「ここに居るのは私や君みたいな民間人、そしてまともな軍人経験はグルーヴィ艦長ぐらいであとは全員練習生だ。そんな状態で出るなんて自殺行為にも程がある」

「私ここで死んじゃうの……?嫌ですよ!」

「それは俺らも同じだぜ〜」

 

 突如聞き慣れない声がして、後ろの出入り口を見る。

 連合軍のパイロットスーツに身を包んだ、橙色の髪をした少年。

 

「君は……?」

「俺はフリュヒルテゴット・メッゲンドルファー、連合軍の訓練兵だ。お前がハイエナ界の王様、モビルスーツの評論家ウィンチェスター・ベルナッツだろ?」

「フリュヒルテ!」

 

 艦長の怒号が飛んでくる。確かにこんな状況で人の悪口を言っている暇はないから、そうなるのも頷ける。

 しかし彼は、何か自信があるように見える。その情報を引き出すためにも、少しぐらいは気の利いた返しがしたい。

 

「随分言ってくれるじゃないか。だが、ハイエナ自体はカッコいいからな。気に入ったよ、フリュヒルテ君」

「それはなにより」

 

 紳士らしく振る舞っている彼をみて、ちょっとおかしさが込み上げてくる。だけどこの状態だったら少し気が楽になれる。

 

「そうだ評論家さん、一つ頼み事をして良いかな?」

「不意打ちかい?」

 

 ご名答!と指を鳴らしてこちらを指すフリュヒルテ君。しかし悲しきかな、動いている状態の相手を倒した事がない。

 

「折角だから不意打ちを生かしてくれよ」

「私は動かない敵を倒しただけだ、買いかぶりすぎても困るだけなんだが」

「足止めは俺たちがするさ」

 

 とりあえず準備しろよな、と急かす彼について行こうとして引っ張られる。

 

「ベルナッツ!」

「艦長!?」

 

 どうしてもあっちの方が力が強くて引き戻される。しかし、こっちは何か打開策があるかもしれないからやってはみたい。

 

「さっき君が民間人には無謀だと言っておいて、今出撃するのか!?」

「それはどうやら平時に限るようです。彼には考えがあるそうで、そうだろう?」

「え、えぇ」

 

 適当に話を振ってこちらから逸らす。そうして話す相手を変わったフリュヒルテは艦長に向かって作戦を説明する。内容は至極簡単、訓練兵が敵を引き寄せるから自分に狙撃兵をやって欲しい、と言うものだった。

 

「彼には砲台役をやって頂こうかなって。弾幕は厚くできるこの艦なら滅多に死ぬことはないでしょうし、囮役の我々も敵と戦う為の攻撃手段を持つつもりはないんです」

「この船は練習艦だぞ?あんな玩具を使うつもりか」

「玩具だからこそ良いんです、スタンライフルなら敵の動きを止められる。そこをアグニで倒して頂ければ、損傷も殆ど考えなくても良いでしょう。コロニーから今出たようですし、非難も受けないと思いますよ」

 

 コロニーから出た?言われて外を見てみてば、黒い空に星々が輝いている。そうか、今からこの広大な空に出るのか。

 

「……相当無茶な事を言うが、確かに一理あるな」

「でしょ?だから援護をお願いしても良いですかね、艦長」

 

 顎に指を当て少し考えて、彼女は答えを出す。

 

「分かった。とりあえず今はこれ以上破損しないうちに発進して欲しい」

 

 許可が出た事で有頂天になるフリュヒルテ、若者らしいな。

 

「そう来なきゃ!さあ、お着替えに行こうか」

「わかった」

 

 自分の為にパイロットスーツを取りに行く。

 あの機体相手に何処まで通じるかは不明だが、きっとなんとかする。人は、生きる為になら何処までだって強くなれるから。



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ルーキースナイパー

 意外とパイロットスーツは身体に馴染むらしい。

 初期の宇宙服みたいにフワッフワみたいなのが良かったが、どうもそれは古過ぎるらしい。

 

「キツくはないか?」

「ああ、ボディラインが見え易いのはあまり好みではないが」

 

 文句を言いつつも格納庫に入る。

 練習用のウィンダムlllが4機、その後ろに私が一回乗り回したストライクがある。

 

「ウィンダムlllはいつもの練習パックで頼むぜ。ほら、お前らも」

「フリューは何時もそうなのよねえ」

 

 後ろには女の子がいる。ツインアップで、端正だ。

 

「おお、この人が評論家さん?こんにちは〜」

「こんにちは、君の名前は?」

「ファン・ユーシェン。貴方がウィンチェスター・ベルナッツね?」

「いかにも。帰投前に今回限りの出撃になるよう、お互いに全力を尽くすとしよう」

 

 固い握手を交わしてから、二人ともう二人別の人がウィンダムlllに、自分は一気に上がってストライクに乗る。

 モニターにはG.U.N.D.A.Mの文字、その後にはエネルギー充電の画面からプログラム画面などが表示される。

 フリュヒルテやミス・ユーシェンは先に発進している。もうすぐなのだが、プログラムを見る度少し嫌になってくる。

 

「改めて見ると加速度だとか動きだとかが滅茶苦茶だな、これ人間に扱うように出来てないと言われるのも納得だ。ナチュラルには到底理解が追いつかないな」

『ストライク、発進準備をお願いします』

「了解」

 

 カタパルトに足を乗せて、解放された空間を見る。少し遠くの隙間から見える星々は、人々の争いなど関係しない。

 

『パーフェクトストライク、発進どうぞ』

 

 どうやら思考に耽る時間は終わりのようだ。操縦桿をしっかり握り、メーターを確認してから前を見る。

 

「ウィンチェスター・ベルナッツ、ストライク出るぞ!」

 

 レバーを思い切り前に押すと発進、急激な加速に椅子に埋め込まれるような感覚を覚える。うまく腕が動かない状態が続いたが、機体と身体の速度が合うようになって、ゆっくり加減速のレバーをこちらに引く。

 一回停止して見渡せば大海の中に居る。恒星の輝きは、昔空を見てときめいていた自分を思い出させる。

 

『ベルナッツ!所定位置についてるな?』

「ああ、大丈夫だ」

 

 任務の事を忘れそうになっていた。私は今大役を任されているんだ、後は彼らがやってくれる事を祈るしかない。

 

『ウィンダムlllエンゲージ!追尾接着弾が上手い具合に当たったぜ、モニターを確認しながら狙いを合わせてくれよ!』

「了解」

 

 止まってるところを狙い撃つのが基本だが、この場合拘束出来る時間に限りがある。ある程度狙いをつけておかないと、いざという時になって外すでは話にならない。

 彼らがまず一体のザクをおびき寄せ、ゆっくりとデブリがあるところまで誘導していく。

 

『適当なところでデブリにぶつけて、そこを狙い撃つんだ。外すなよ』

「ああ」

 

 アグニを動かしながら狙いを定める。そろそろだ、相手の動きが止まってこちらの射撃が通るはずだ。

 追尾接着弾の動きが止まった。拡大カメラで見たら各関節がショートして痺れている、今がチャンスだ。

 

「そこだ」

 

 もう一度軽く合わせて撃つ。

 赤を囲う青白い光、それがデブリの海へと飛んでいって動かないザクを貫く。

 機体に穴がいていて、パイロットの席がごっそり取られている。今彼処に人が居たのか、どういう気持ちで襲っていたのか……いいや、考えている暇はない。すぐに第二射を行うんだ、気を逸らしてはいけない。

 

『やったな評論家!次のやつも頼むぞ』

「ああ」

 

 数十秒移動して、岩石の裏に隠れて敵の様子を伺う。

 次はミス・ユーシェンが誘導しているザクを撃つ、バッテリーは沢山あっても乱射したらこちらの位置がバレてしまう。移動だって私の腕ではあまり上手くはいかないから、慎重にする必要がある。

 見ていたら2番のナンバーが止まった、確認するとやはり関節からショートしていて動いていない。

 

『今ですよ、ベルナッツさん!』

「了解」

 

 もう一回トリガーを押してアグニを放つ。隠れ蓑にしていた目の前に浮かんでいる岩石の群が壊れて溶け、その光は二人目の餌を穿つ。

 今回はクリーンヒットもいいところ、顔以外が消し飛んでいた。

 

『凄いですね、このままあと二機……』

『_____うわぁぁぁぁぁぁ!』

「どうしたフリュヒルテ!」

 

 急いでフリュヒルテ機周辺を見ると、何か高速で動く機体が居る。

 

『返事をしてよフリュヒルテ!』

『ああやってるさ!くそっ、右腕取られてやがる……ベルナッツ、上!』

「なんだって!?」

 

 言われてみると上に何か、一つ目の機体が居る。各種スラスターや増設されたアーマーが多く異形だが、自分には大まかな姿に見覚えがあった。あの造形、ショルダーの棘……間違いない。

 

「グフ!」

 

 アグニを戻して急いで旋回、ビームサーベルを一本引き抜いて相手に振り下ろす。相手の剣がどうしても押す力が強い、軽く足で蹴ってから離れる。

 岩石群の隙間から射す太陽とコロニーの光で照らし出される敵機。

 血のように暗い紅色、はっきりとこちらを見つめる目。

 モビルスーツという道具に対して殺人鬼という表現をせざるを得ない程の、深紅に染まったグフだった。



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評論家のストライク、血塗れのグフ

 グフはこちらを見ながら剣を構える。

 機体性能差はいかほどか、だが僚機の状況を見ればアークエンジェルに帰投して武装しているらしい。ウィンダムlllはああ見えて最新鋭に近い機体だ、持ち堪えればなんとかしてくれるはずだ。

 

「不幸なものだな」

 

 襲いかかってきた敵とビームサーベルを持ったまま鍔迫り合う。相手はビームライフルにビームソード、どうやら兵装は普通のようだ。腰にアックスがあるくらいだから、基本は近接特化か。

 武装をシンプルにするのは兵として良い傾向だが、それが自分達の敵対組織だと思うと悲しく思えてくる。

 さて、これを突破する方法は……ビームサーベルはあと一本ある、では二刀流の追加攻撃がいいだろう。相手の目をごまかすにはフラッシュバンがあると良いのだが、生憎そんなものこの機体には存在しない。

 

「鍔迫り合い……そうか!」

 

 思い切りブーストをかけて、力の限りビームサーベルを押し付ける。

 互いにぶつかり合う光は一層増し、大体が薄紅色の光に包まれていく。大振りになってバレないように、ゆっくりもう一本握る。

 そろそろだ、グフの剣先はもう少しで顔に当たる。この距離だ、これがベストだ!

 

「せりゃあっ!」

 

 右手に持ってるビームサーベルの出力をゼロにして、もう一本を引き抜き手首を曲げて出来るだけ横に、外側に向かって薙ぐ。

 グフは気付いても今まで力を込めて振り下ろしていた慣性には逆えず、後ろに下がる事ができない。そこに腕を狙った電流子の刃が食らい付く。

 シンプルな武装で、剣を振り下ろしたこの一瞬で構築できる防衛手段など有るはずもない、敵機の右腕は二の腕から外は容易く溶断された。そして、此処からが私の二手目。此方片腕が空いているからきっと下がれば此方のビームライフルに撃ち抜かれると踏んだであろうグフは、少し下がってヒートホークを取り出して対抗しようとしている。

 ここで対抗されては敵わない。真っ直ぐサーベルの剣先を向けて、思い切りレバーを上げて速度を出して突っ込む。

 

「逃すか!」

 

 敵機が持っていた得物の柄ごと、相手の下腹部を貫く。ザクの目から光はなくなり、その顔は八方に輝く恒星を映している。

 サーベルの出力をゼロにして後ろに戻し、その機体から離れる。500mまで離れたら、外に流れていた電気が大きくなり派手に爆発する。

 

「どうやら私は幸運のようだな……!あと一機!」

 

 と意気込んでみたが、最後の一機はどうやらこの宙域から全速力で離脱している。やっぱり不利になったからか、それとも怖気付いたのか。ともかく落ち着けるから深呼吸を……通信が入った、忙しいものだな。

 

『ストライク、応答してください』

「こちらストライク」

『所属不明機はこの空域から離脱中、他のエリアの機体も離脱していると報告が入っています。もう一回仕掛けてくるか、そのまま逃げるかは不明ですが、弾薬とエネルギー補給の為にも一度帰投してください』

「了解、ストライク帰投する」

 

 反転して、コロニーの方を向く。

 そのまま速度を上げて進んでいくと、カタパルトが空いているアークエンジェルが待ってくれていた。

 ああ、自分には戻れる場所がある。こんなに嬉しいことはない。

 ストライクを艦内に入れて、整備施設に格納してから下に降りる。先に戻っていたフリュヒルテやミス・ユーシェン、色々な人達が待っていた。

 

「すげえよベルナッツさん、三機も落としちゃうなんてさ!」

「君達の誘導が素晴らしかったよ。動けなくするタイミングもベストで、見やすいところにしてくれたからさ」

「生きてるんですよね!?」

「ミス・ミュルグレス……」

 

 勢いよく飛び込んできた彼女を受け止めて、くるくる回る。

 

「生きてるよ、大丈夫。私だって勝つ為にやってるわけじゃない」

「ベルナッツ、いいか?」

 

 いろんな人たちに埋れながら、遠くにいる艦長に手を振って応える。

 

「ノルチェ大佐って知ってるよな?あの人からお前に話があるそうだ、着替えてからすぐに向かってくれるか」

「了解しました、艦長」

 

 急いで更衣室に向かって、スーツを着る。

 やはり、茶色の少し探偵じみた服が落ち着きが出るな。これこそ私が私たる証拠だろう。

 

『ベルナッツ!居るか?』

「ただいま帰りましたよ」

 

 元気そうにしているノルチェ大佐は、もうワインを手に持って飲んでいる。

 

『聞いたぜ、ザクを二機にグフを一機デブリに変えちゃったそうじゃないか』

「ええ、色々な人達の援護ありきで。良い人たちに恵まれましたよ」

『それは喜ばしい事だな。

 そうだ、そっちの期待状況はどうだ?場合によってはMSの一つ二つ工面しても良いぞ』機体状況

 

 どうやら、今までの戦闘を踏まえて何か良いのをくれる様子。しかし、C.E.もあと少しで100年という程度、20年しか歩みを共にしてない国にプレゼントなんかくれても良いのだろうか。

 そもそもこういう話はトップ同士で話し合うべきだ。何故グルーヴィ艦長が居ない時に……と思ったが、後ろにその人が来ていた。

 

「ウィンダムlllが片腕損失した。もし良ければ一機工面してくれると助かるが、上は了承するのか?不祥事扱いになれば余計な戦いを生むぞ」

『最高評議会のお偉いさんに証拠付き文書を送りつけたら大丈夫だ。ただ、渡せるとしても一昔のワンオフか今の量産機だけどな。どうだ、渡せるデータを送るから、吟味してくれよ』

 

 どうやら良い人と仲良くなれたようだ。くれると口にした、つまりはザフトのモビルスーツが100%オフで手に入ると言うことだ。進言通り、軍備品をよく見ていくことにしよう。



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ザフトからの報酬

 軍備バーゲンセールだが。

 大戦や戦争や紛争も無ければそれはもレパートリーは平和なもので。だが、折角だから良いのを貰って行きたいな。インパルスlllやアロンダイト……ふむ、悩むな。

 

「どれも良いものが故に悩むな。これからどの戦い方を軸にしていくか、それによるんだが」

『戦闘報告は貰ったが、大体は不意打ちが多いな。あんなお古のアグニで良く二機も葬ってくれちゃったもんだ。あれでもコロニーに当たったら大惨事なのに』

「狙撃と的当ては違いますからね。そうだ、二機頂いてもいいかな」

『メッゲンドルファー訓練生のウィンダムlllが損傷したと言っていたな。こちらでは直せないから、もう一機確かに必要だろう。呼んできてくれるか?』

 

 目の前に居るので、声をかける。

 

「なんです?」

『ザフトから二機モビルスーツをくれると言うんだ。君達好みのものをそちらに渡すつもりでいるが』

「やったね。じゃあ遠慮なく」

 

 互いにモニターを見ているが、どうやら彼はずっと可変機を見ている模様。

 

「どうやら高飛車のようだな」

「まあまあ、そう仰らないで。まともに戦って勝ち目がないなら、やっぱり闇討ちこそ至高でしょ?」

「武器は5年前、一世代前の陽子破壊砲を頂こう。評論家さんには、こっちの方が扱いやすいと思う」

「え?」

 

 どうやら自分のではなく、私のを探していた様子。しかし、それこそ高望みではないか?目の前の訓練生よりモビルスーツの操縦経験が無い私がよりにもよってワンオフの可変機を扱うなど論外だと思うが。

 

「いかにも“私には不相応だ”って顔してるけど、むしろこっちが良いんだよ。現実の世界にはタンクなんて役割は存在しない、あって囮と言うものだけ」

「確かに……スナイパーを担ってわかったが、一回撃つごとに場所をもっと違う場所に変えないとまずいな。それこそ、移動力が無かったからこそ母艦から離れたところにも行けずにグフと交戦する事になってしまった。あれに勝てたのは最早奇跡の産物たるものだ」

「パーフェクトストライクはデスティニーよりは高性能汎用性があるけれど、いくらプロペラントタンクとかを新しくしてつないだとしてもまず保たないだろうし。それにあれはオンボロだから、ここで新しくしておけばずっと緊張しなくて済むし、何よりアグニよりいい狙撃砲が使えるのも利点だ」

 

 フリュヒルテ君の言う事は最もだと言える。先制攻撃を仕掛ければ余程の兵数差が無ければ先に削られた方が立て直す時間に攻撃を行えて、勝率が高いのは言うまでもない。

 それに彼の言葉で一つ気づいたことがある。もし自分がこの部隊と反対の立場にいた場合、モビルスーツ……いや、戦闘機一つが戦艦並みの威力を持つ武器を持っているとは万が一にも思うまい。ストライクフリーダムでも無ければまず不可能、他のMSでも出来なくはないがそれにはミーティアみたいなのが必要。それも大きく発見されやすい事を考えれば、キャノン一つで大隊の中心を貫けるのであれば隠密性と破壊力を両立出来るのは魅力的だな。

 

「上手いこと戦闘機に擬装できれば相手はそもそも警戒しない可能性だって出てくる。あとはドッグファイトしなければ操作が簡単なのも特徴的だな……お勧めいたしますが、どうするかはお任せしますよ。ただ、モビルスーツのアップデートは是非しておいた方が良いかと」

「そうだな。では、君のアドバイスを信じよう」

 

 端末を見て欲しい物資を決めた私を、ずっと会話を聞いていたノルチェさんは面白そうに見ていたらしい。

 

『メッゲンドルファー訓練生への信頼は軍人としてか?』

「ノルチェさん……えぇ、今回の作戦は彼が立案したものです。私もそれに従って動いただけ、囮も立案者の彼が引き受けてくれたのです。少なくとも敬意は表するべきでしょう」

『奇跡の産物と言うよりは、天才達の初陣という表現をしても良さそうだな』

「軍備が揃ってなさすぎて戦闘力は雀の涙もない、後世で例えどう脚色されようとも情けなさは拭えないでしょう。きっと最大限形を整えたとしても形骸化された内容、タイトルはそうだな……“コロニー漂流伝説”でしょうかね」

「身も蓋もないタイトルだなぁ。さて、じゃあお次は俺の機体ちゃんを選ぼうか」

 

 なんてゆっくりに言っているがもう決まっている様子。インパルスlllに電流子ミサイルポッド、カスタムビームライフルなど射撃に寄った装備になっている。

 その他にも欲しいものは艦長にも選んでもらって、決まったところでデータをノルチェ大佐に渡す。

 

『了解した。今から用意するから、もう一回コロニーに入ってきてくれ。折角だからアークエンジェルも修理したいし、何より拝んでみたいのさ』

「ああ。ではそのように」

 

 通信を切った艦長は、一息ついてから椅子に座る。

 その後は各自状況を確認して報告を貰っている。それが済み次第、彼女は勢いよく指示を飛ばした。安全を確保し、更に敵まで追い払った我々の凱旋が始まる。

 

「只今より、コロニーへ帰投する!」



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救助

 一日で二回も気持ちのいい艦の降り方ができるとは。

 しかもお仲間がいるから心地も良いときた。階段を降りたら待っていたのは、コロニーに住んでいるみんなだ。歓声やら花束やらをくれている。

 ただ、完成はもちろん悪い奴らを全員やっつけてくれてありがとうってものだ。軍人としては勲章が付くだろうが、民間人の身では人殺しの感覚だけを身につけたも同然だ。

 

「人を3人も殺しておいて気が気ではないな」

「それが正しいかも、俺だってベルナッツさんに人殺しを押しつけて落ち着いてはいられないな」

 

 渋い顔をする私とフリュヒルテに、ミス・ユーシェンは少し明るい顔で自分達を元気付けている。

 

「軍人は殺人を生業とするから、こうでもしてくれないとやってられないでしょ。暴力機関をこうも受け入れてるのは気に入らないのは私も一緒よ」

「レディの前で失礼したな」

 

 降り切って進むと、ノルチェ大佐とその部下達が待っていた。

 

「よっ、コロニーの救世主!お前は立派な戦士になったんだぞ、ウィンチェスター・ベルナッツ!」

「おまけにアークエンジェルの不沈艦という名誉も守り切ってね。しかし、一緒にお肉を頂いたというのに私とした事が腹を空かせてしまった」

「休養を兼ねて宿泊施設に案内しよう」

「後ろの英雄達も連れてね」

 

 そう思ったが、先程からミス・ユーシェンがずっとある一定方向を見ている。同じ視線を追うと、少女が走ってこちらに近づいてきているようだ。

 

「お姉ちゃん!助けて!」

「どうしたの?」

「お母さんが、お母さんが……!いまお家に身体を挟んで苦しんでるの、わたしじゃどうにも出来なくて」

 

 どうやら瓦礫に身を挟んで困窮している事がわかる。このままだともっと酷い状況にもなりそうだ、何より生きてるんなら問題はない。さっさと助けにいこう。

 

「わかったわ。休憩はもうちょっとあとね、ウィンダム取ってくるわ。ついてらっしゃい」

「うん!」

 

 彼女は女の子を連れて、格納庫の方へ向かっていく。

 私も彼女を拒むことはない、むしろ人殺ししかしてないから手助けしたい。後を追うように走ってついていき、フリュヒルテ君もついていく。

 レスキューなら喜んで行おう。こうやって人を軽く助けられる事こそが、モビルスーツの存在意義を善なる物にするのだ。

 

 ミス・ユーシェンのウィンダムlllを先頭に目的地へと向かう。同僚から機体を借りて、フリュヒルテ君も続いていく。生体反応を見るコンピュータも、二度のヤキン・ドゥーエの大戦以降のMSに搭載されているのは知っている。私は相変わらずストライクのままだが、これは護衛で来ているからあまり救助に関係はない。

 

『あの、お花屋さんの近く』

『分かったわ……うん、居るみたいだね。これだったらすぐに救助すれば絶対に助かるわ』

 

 ウィンダムlllは近くに降りて、家にある瓦礫を道の邪魔にならないように退かしてお目当ての命を探す。薄紅色のスカートがあるなら、それが同乗した娘の母親なのは分かるようで、急いで細かな部分も別の場所へ置いて、自身はコクピットを開いて降りて容体を確認している。

 

『聞こえる?二人とも』

「ああ、聞こえているぞ」

『命に別状は無いけど、腕を脱臼しているわ。医療班の用意をしてくれると助かるのだけど』

『りょーかい!グルーヴィ艦長によろしく言っとくぜ』

 

 そういえば他にも犠牲者はいるのだろうか。出来れば私も手を貸したいところだが、下手が出ても事態が悪化するだけだ。

 だが、そんなのすら杞憂のようだ。娘の母親を救助したミス・ユーシェンは周りを見て『他に死体とか見られないわ』と言って、かつ下の救助隊が死体を運んでいるのを見ていない。全部瓦礫撤去作業だし、更地に血の痕跡も見当たらない。

 

『ベルナッツさんやい、俺らって結構凄いよな。完全に倒壊した家屋は両手で数えれるくらいだってさ』

「死人が確認出来ないあたり、先手必勝は大事な掟だと気付かされたと思う」

『ところで下を見てみなよ』

 

 手を振っている人達で賑わっている。コロニーを守った上で救助もしているんだからいい宣伝にはなっているだろうか。

 でも、こんなに目立つところまでして来て本当に良いのだろうか。ザフトの軍人や上層部は煮湯を飲まされた顔をしていないか、心配してはいる。

 

『兵器オタクは情勢にも口を出すのは相場だが、今は余計な心配をしているんじゃないかい?評論家さん』

「いかにも……20年ちょっとで信頼度が回復するほど国家という仕組みは単純じゃ無いのは、君も知ってはいるだろう?」

『それは違うぜ』

 

 笑いながらも、話をしているフリュヒルテ君。

 

『いつの時代も“自身に利益を与える物こそが正義”なんだ。それこそ評論家を差し置いて言うことではないが、これはどの状況でも変わらないルール。でも自分達がこうやって謳われるのは、ここの人達が心穏やかであることの証じゃないかな』

「どうしてそう思うんだい?」

『ノルチェ大佐をはじめとした軍人は、住民と必ず話しているだろう。そこにお互いの信頼が生まれる、これが良い傾向なのは言うこともない。

 で、その信頼されている軍の危機を助けたのが俺達。住民からすれば自分達自身と信じている人達も信用しているとのダブルパンチで好感度が急上昇するのも納得いく話だよ』

「そういうものかな」

『そういうもんですよ』

 

 何故だか嬉しい気分になってくる。

 コロニーはいつも晴天だが、今日はいつにも増して明るく爽やかな気がして来た。



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静かに眠る

 流石に三回目だとアークエンジェルから出る体力はない。

 与えられた部屋で横になり、ただ天井を見上げる。

 

「私は何をやっているんだか」

 

 人を殺して人を救う。軍人というのは命が平気で行き来する世界で、精神をもろともせずに動いていくのだからとんでもない存在だろう。彼らの精神に敬意を表さなければならない。

 1日で戦闘して、戻ってきて、人を救って。これではなんとでもならない、ただの評論家には耐え切れるかどうか分からないほどの経験だ。

 

「先生、紅茶をお持ちしましたよ」

「ミス・ミュルグレス……」

 

 彼女が入ってきて、隣に座っている。ずっと見ていると罪悪感が頭の中を駆け巡って、少しずつ項垂れてくる。

 

「そろそろ何かダメージを受けて辛くなっている頃だろうと思っていましたので。大丈夫ですか?」

「あはは、まさか。未成年とは違うんだ、私がそんなことで気に病むような人間でもないさ」

「立場的には逆ですよ、先生」

 

 髪を整えてから、私を見る。貴婦人とも言えるであろうその姿に、心なしか心臓が高まる。

 

「軍人さんは、人を殺すという禁忌を職業としてやるんです。あの子達は人に手を差し伸べたりもしていますが、本質的な事を理解しているんだと思います。そうでなければ、ベルナッツ先生にスナイパーを任せるなんてしませんよ」

「どうしてそう思うんだい?そりゃあウィンダムlllでは使えなかっただろうけど、彼らがやった方が……まさか、君は自分から囮になったからってだけで判断してないか?」

「いいえ、そうではありません。むしろ貴方に人殺しを頼むからこそ、先頭に立ったような気もします」

 

 言っている意味が分からない。私が囮になったとして相手の足を止める事ができるか、そもそも相手の攻撃を避けれる自信はない。アレは合理的判断のうちと自分は思っているのだが。

 

「軍人もどきの考えは二つ……“死にたくない”か“手柄が欲しい”の二つです。

 死にたくないならまず敵の目の前に出ずに、ストライクを借りてスナイパーになればいい。手柄が欲しいなら、やはり貴方に囮を任せてストライクで不意打ちすればいい。

 パイロット練度などを考えて、現実的な判断ができるのは軍人として出来る奴という証拠でしょう」

 

 あの一つでここまで考えるミス・ミュルグレスも凄いものだと感服。そしてその目に段々と、哀しみを見つめる光があった。

 

「本題に戻りますね。要はそんな出来る軍人であるあの子達に比べて、先生は民間人で人を殺すなんて知識として持っておらず、現実にあるなんて持っての他の世界に居ました。

 だったら、もし自分と同じ人間があっという間に肉と骨の固体になるなんて考えも出来ないでしょう。今意思があって動いていたそれが、何も言わなくなるなんて不気味だと思いませんか?」

「そりゃあ不気味だろうけど……私はそれでも6人は殺したんだ。今更、今更_______」

「先生」

 

 彼女の暖かい腕が、私の身体を包み込む。

 

「私は死刑になっても何も言えないことをした、だから何も思うこともなかった。

 それが他人によって正当化されるのもどうでもいいんだ、だったらなんでこんな苦しくなるんだろうな」

「先生、それは違うんです。慣れる慣れないの問題ではなく、そもそもの心構えの問題でもない。あまりにも非現実的で、命が消える瞬間に立ち会ったら誰にでもそうなるんです。

 そうで無い人は、そもそも相手を人間だと認識出来ていないに過ぎないんですから。貴方は命を見ている、それがどれだけ素晴らしい事なのでしょうか」

「ミュルグレス……私は酷い事をした。罵ってくれても構わないのに、なぜ私をここまで」

「先生はヒーローでも殺人でもない、私と同じ人間ですから」

 

 彼女の言葉を聞いて安心した。敬称すらつけるのを忘れて力もないが抱き返して、柔らかい全てに身体を預ける。

 

「寝てください、先生。明日からまた、帰る為の旅が始まるのですから」

「ありがとうミュルグレス、今日は君の胸を借りよう……」

 

 力が抜けてきた、もう何もかも投げ出して私は腕の中で果てることにする。

 26の青年がこんな事で耐え切れずに何をやっているのか、殺人鬼が何故こんな事をして甘えているのか自分自身を責める声が心の中から聞こえる。軍人とは言え6人の命を葬った奴が、のうのうと生きている方がおかしいんだと。

 どうだっていい、私も思っている事だけど自分の恐怖を想える人間がどうして甘えずに自立しなければならないんだ。歴史は、そういう逃げ場が沢山繋がっているからこそ人々が繋がって面白く成立してきたんだ。何が悪い、私だって歴史の本道を歩いてしまった以上は思い切り心の内を吐き出してやるんだ。

 

「おやすみなさい、ベルナッツ先生。いろいろ終わったときに起こしますから」

「本当にありがとう……おやすみ、ミュルグレス」

 

 彼女の胸を枕にして深い眠りにつく。

 私はいい人に恵まれている、こんな幸運どこでツケを払えばいいのだろうか。

 それとも、明日から一生を掛けて払うのだろうか。



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ステラ・マリス

 ノルチェ大佐は、私とフリュヒルテ君に『お前達の乗る機体ぐらい見学に来い』と言っていた。

 実際メカニック任せにしていては機体の把握なんて出来るわけないので、資料を持って無論見に行くつもりだった。確かにフリュヒルテ君の機体であるインパルスlllは資料通りだったが、私の機体は資料とは大きく違った形をしていた。

 全体的に紺色で色々な武装が取り付けられていて、推進器も増大している。カッコ良くはあるが、なんというかただの航空機にしか見えない感じになってる。

 

「変形機体なのは分かるが、もっとこう戦闘機に近い形じゃなかったか?これでは戦闘機というより、巡航機と言った方がいいかもしれないぞ。大きさといい、なんといい」

「これはお前が乗るから色々装備つけたらこうなったんだ。少なくとも初心者は止まることが多いから、バッテリーとか火器とかは大量に積んである」

 

 隣にいたノルチェ大佐は欠伸をしながら見ている。

 

「ステラ・マリス、一時期ザフトで変形機体ブームになった時に作られたものだ。こいつは旧式ではないが、少なくともインパルスやグフを作った方が利便はいいというのでそのままお蔵入りになったわけ。悪い機体ではないから、お前でも扱いやすいと思う」

「武器は……ビームスナイパーライフル、レーザー照射型狙撃ライフル、あとは電流子ミサイルポッドにビームライフル、高出力ビームサーベル。ビームキャノンもなんて、欲張りな機体だな」

「それでもバッテリーは最新式だから半日はフル稼働でも戦える。それに、一応これはデフォルトでの性能だ。実際のところは……」

 

 目の前に出された画面を見てみると、バッテリーも含め追加武装はかなり増えている。しかし、それは意外なもの。

 

「ソードシルエットに普通のミサイルに実弾の対艦ライフル……最初のはいいですけどなんで実弾武装が入っているんですか。今の時代全てが全てではないですけど、PS装甲が普及して来ているんですよ」

「それはな、ザフトが昔ある機体の攻略法として作られてそのまま放置されたのを改造したんだ。お前さんなら分かるだろう?」

 

 _____アカツキ。

 オーブの機体にして、ビームを悉く無効化するヤタノカガミという装甲を持った金色の機体。2種類のパックがあって、大気圏内外で分けられると聞くが、宇宙に出たこの機体が持つドラグーンにも特殊塗装されていてビーム兵器での処理が出来ず、なかなか厄介だと言われている。

 確かにPS装甲ではないので実弾は効くが、だとしても今積む意味は無いと思う。

 その意をノルチェ大佐に伝えれば、大笑いしながら返答が来た。

 

「なーに、こいつはいわゆる不意打ち用さ。対艦ライフルとなると威力は莫大、PS装甲でもダメージを受けるほどには火力は出る。なんてったってダメージは高い、おまけに狙撃用だから相手の反応より先に着弾する。

 それにだ、最近はヤタノカガミでさえ流出してしまってる。もしあの所属不明勢力が持っていたら、ビームじゃどうしようもないだろう?」

 

 言われてみればそうだ。確かに約20年前の技術なら、今頃は安く出されていてもおかしくはないだろう。あの勢力が昔の機体をそのまま流用しているとは思えないし、そう考えると妥当とも思える。

 

「お前が前線に立たないならこれ以上適当なガンダムも居ないとおもうが」

「……そうですね、ありがとうございます」

 

 御礼を言ってから、今度はインパルスlllを覗いてみる。

 

「結構武装が平均的だが、その平均が高水準だ。ザフトって結構技術力の塊なのを思い知らされるよ」

「そりゃあ光栄だ。君の手ならウィンダムより活躍出来ると思う」

「へへっ、ありがとさん」

 

 楽しそうにフリュヒルテ君は笑っている。整備士も褒められていたからか気分は上々のようだ。

 

 

 さて、ザフト製のMSを二つアークエンジェルに積んでから夕食を取る事にした。

 と言っても船内で、サンドイッチとホットドッグに紅茶である。食糧問題は、このコロニーに居る住民からのお礼で届いたものだが長々調理する時間もないのでささっと作って頬張っている。

 

「ベルナッツさんって結構料理得意だったんだ」

「これでも一人暮らしをしていたからね、それなりに知識と実力は蓄えているんだ。フリュヒルテ君も良ければ、自炊をしてみるといい。自分の力で美味しいものが食べられると言うのは幸福だぞ?」

「確かになあ、サンドイッチやステーキぐらいは作れるようにしようかな」

 

 呑気に男二人で食べている。

 外を見ると変わらず恒星が遠慮なく広がっていて、小さい岩石やデブリが縦横無尽に駆け巡っている。

 この艦はそろそろ地球へ向けて出発する。襲ってきた勢力は行方不明、そして地球から遠いこのコロニーでは道すがらの危険は免れないであろう。

 それでも帰るんだ、家族は地球に居るのだから。



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