出来る限りガンヘッドを知らない方でも楽しめるように善処致しますのでお楽しみいただけると幸いです!
それでは本編をどうぞ!
かつて、この世界は滅びるはずだった。人類によって生み出されたコンピューター「カイロン5」が宣戦布告したからだ。政府はとち狂った奴隷にどちらが主が教えるために局地戦用可変装甲戦闘車両「ガンヘッド 」部隊を戦いの地「8jo」に送り込んだ、後に「ロボット大戦」と呼ばれるものである。しかし教えられたのはコンピューターではなく人類の方であった…
8joは閉鎖され人類は己の作ったものにより恐怖に怯えた
それから13年後、トレジャーハンターである「Bバンカー」がカイロンのCPUを奪取するためにこの地を訪ねた、しかしメンバーの大半は上陸した直後カイロンの手下である「バイオロイド」により1人を残して全滅、生き残ったのは「ブルックリン」…ただそれだけであった。
1人残されたブルックリンは同じく1人になってしまった軍人ニム、そしてカイロンが支配するカイロンタワーでたくましく生きていた「セヴン」「イレヴン」と運命の出会いを果たす。カイロン、そしてカイロンの守護者「エアロボット」の打倒を目指す彼らに更なる出会いが起きる。ロボット墓場と呼ばれる先の大戦で破壊されたロボットの残骸が集まる場所に奇跡的にレストア可能なガンヘッドを見つけたのだ。
メカニックが得意なブルックリンはこれを修理、本来無人機のものを有人機に変えた。そしてここに新たな仲間「ガンヘッド507」が加わるのであった
507は自己判断が可能なコンピューターが積まれておりこれが野球好きでユーモアを交えた会話をすると言う風変わりなコンピューターだった
507とブルックリンは互いに強力しあいエアロボットを撃破する為に前進する彼らであったがいくつかのトラブルを重ねとうとう燃料が尽きてしまう。途方に暮れ単身で吶喊しようとするブルックリンを背に507は野球になぞらえこう言った
<確かに9回裏ツーアウトで、確率からいけば勝ち目はない。でも、そんなものクソくらえでしょう?」>
確率を重んじるコンピューターとは到底思えない発言にブルックリンは苦笑するも勇気づけられる、そしてウイスキーを燃料代わりにしたガンヘッドは最終決戦前彼にこうお願いした
「最後に1つだけ、死ぬときはスタンディングモードでお願いします」
変形出来るガンヘッドにとって立った状態であるスタンディングモードで死ぬ事は誇りなのだ、死というものを理解し死に方すら指定する人間臭い相棒にブルックリンは叫ぶ
「You got it baddy!」
遂にエアロボットと対峙した彼らは度胸や兄弟機である508の力を借りて弱点部位を次々と破壊する。だが3つの弱点が残り1つになったときは敵も彼らも満身創痍であった、残った力を振り絞りブルックリンはガンヘッド の主武装であるチェーンガンを、1t以上はあると見られるその鉄の塊を持ち上げ己の肉体の危険など恐れず最後の弱点部位に叩き込む。機械と人間、彼らの友情はとうとうエアロボットの破壊に成功することが出来たのである
そして同時刻カイロン破壊に向かってたニムもその任務を終えた
これで人類は救われた、そう安堵したのも束の間、カイロンが自爆プログラムを作動させた、残り時間はたったの10秒。諦めるしかないと思われたが507が自らの命を投げ捨て自爆を妨害、ブルックリンらは無事に8joから脱出する事が出来た…
______
時代は流れ数十年以上が経つ、月明かりに照らされているエンジン音がやかましい輸送機の中に1人の老人が座っていた。若い操縦士が老人に語りかける
「…なるほど、貴方があのカイロンの騒ぎを止めたんですか。信じられないなぁ、僕たちは政府軍によって治められたって習いましたから」
「そりゃそうだろう、人類の危機を救ったのが政府ではなく探検家と軍人とガキ2人に野球好きなロボット1輌だなんて誰も信じやしないさ」
「でもお話を聞かせてもらった限り貴方が嘘を付いてるとは到底思えません、どうです?私こう見えても副業でルポライターをやってるんですよ、記事にさせて頂きませんかねぇ、勿論その分のお代は払いますんで」
「好きにしな、だがよ、そんなの書いたらお前が頭がおかしいと思われるだけだぞ」
操縦士はため息を吐き操縦桿を傾ける
「しかしなんだってこんな所に行くんですか?“8jo”だなんて…」
「俺はよ、そろそろお迎えが来るんだ」
老人は1週間前街中で突如倒れたところを医者に見てもらったところ末期癌が見つかったのである、余命は僅か1か月だ。座席にもたれながら老人はケースから取り出して何かを咥えながら話を続ける
「あの戦いの後別に変わった事だなんて一つもありゃしなかった。誰からも知られなかったし話す相手もいなかったから当然だわな。だが不幸な人生だったと言う訳じゃない、程々には楽しい人生だったとは思う…でもよ最期ぐらいは思い出に浸かりたいんだ、人生で最も派手なパーティをしたあの場所で思い出に包まれながら幕を降したいんだ」
操縦士は何も言わない。下手な言葉をかけ同情したり励ましたりなんかしたらこの老人に対して失礼だと思ったからだ
輸送機はいよいよ着陸体制になった。揺れが一層激しくなり老人の体には酷なものである。
「兄ちゃんよ、この機体、垂直離着陸輸送機なんだよな」
「ええそうですよ、だからこんなボロボロな島でも着陸出来るわけです。それが何か?」
「いや…あの時もこんな機体だったからな。ノスタルジーを感じてたんだよ」
車輪が地面に着きガコン、と機体が激しく揺れる。と同時にエンジンの音が静かになり辺り一面が静けさに包まれる、老人は立ち上がり腰を外らせる。長時間座ってたせいで骨がパキポキと鳴る。ドアの方に行くと操縦士が既に開けてくれており老人を待っていた
「着きましたよ、かつて機械が支配してた島、8joに…ところで先ほどから口に咥えてるそれは?」
「あぁ、こいつはな生の人参だ」
「人参?」
「俺が世話になってた人の真似さ、いつまで経ってもガキ臭さが抜けねぇんだよ」
自嘲しながらそう言うと老人はボリボリと音を鳴らして人参を食べた
「…さてと、若いの。ここまで世話になったな、死に行く老いぼれの話を黙って聞いてくれてありがとよ。もう二度と会うことはないが…そうだ」
老人はズボンのポケットから財布を取り出して操縦士の手に握らせる
「そんな、頂けませんよ!こんなの!」
「いいんだよ、どうせ俺にはいらないもんなんだ。これで旨いものでも食ってくれや」
「しかし…」
「いいから」
老人は操縦士の手を強引に固く握らせポケットにしまわせた、そうなると操縦士も困り果て仕方がないので受け取ることにした。
「じゃあ俺、こっから先は1人でいくからよ。ここまで送ってくれてありがとうな」
そう言うと背を向け森の中へと入っていった。操縦士はこの老人に敬意を覚え自然に敬礼をしていた、老人が見えなくなるまでずっと、瞬きもせず
「安らかな死を、かつての英雄…いや、“ブルックリン”さん」
崩壊しきったカイロンドームの中を森の中で拾った枝を杖代わりにし懐中電灯を頼りに進んでいく、一歩一歩踏み込むたびかつての思い出が蘇ってくる。しばらく歩くと座るのに適した鉄骨を見つけ腰掛ける。やはりただでさえ歩くのが辛い体にこんな悪路を進ませると言うのは苦行と言うものか、と座りながらブルックリンは思う。ふと思い出しバックを漁り を取り出す
「バンチョー…俺、いつの間にかあんたより歳とっちまったよ」
ジッと見たそれはバンチョー、彼がかつて世話になってた人の形見であり彼はそれを被って戦いに挑んだ。バンチョーが、Bバンカーのみんなが力を貸してくれる、そんな気がして。
おもむろにそれを被ってみると懐かしさのあまり体が震える。こう言う心から溢れ出る感情を求めて今日彼はここにやってきたのだ。不思議とこの震えは彼の体にほんの少しばかりの精機を与えてくれる、まるでまだ命の蝋燭を消させまいとでも言ってるようである
鉄骨から腰を上げてブルックリンは再び奥へと進む、と言っても明確に目的地があるわけじゃない。ただ命のある限り歩き続けるだけが目的だからだ
杖代わりの枝だけを頼りにしどんどん奥へと進んでいく、第三者から見れば崩壊しきった廃虚でそこらへんに鉄骨が乱雑してて廃墟として何も楽しむ要素がないと思うかもしれないが彼にとってはそこに存在する無数の鉄骨や油の匂いが彼がここで戦った証であり思い出のピースでもあるのだ。
しかし、道というのはいつか終わりが訪れるものである
「ん…?行き止まりか、こっから先に行くにはエレベーターを使わなきゃならなかった筈だけど、んなものとっくに無いだろうしはてどうしたものか…」
暫く辺りを懐中電灯で照らし上に行く手段がないか探してると階段らしきものがポォっと浮かんできた、ブルックリンはそれに近づきながら
「あれか、壊れかけで危ないが…どうせ死ぬんだ、関係ねぇや」
と言い階段に足をかけた瞬間後ろから凄まじい轟音が聞こえた
「何だ何だ…!?」
振り向くと土埃が舞っており状況が判断できない、明けるまで暫く待つこと数十秒ようやく分かった
「何か鉄の塊が落ちてきたんだな…脅かせやがって」
悪態を吐きながら塊をジッとみる、数mぐらいの大きいもので色は灰色である。これだけなら天井の板でも外れたのか、と思うが何処かが引っかかる。もっと注意深く見ると塊の先っぽに何やらトングのようなものが3本付いてるのが見えた。その時ブルックリンの頭の中に稲妻が落ちた
「…ま、まさかコレ…嘘だよな?」
目を擦りもう一度見る
「やっぱりそうだ…これはお前の腕か!“ガンヘッド” !」
突然の戦友の残骸に思わず涙を流す、ほんの少しの出会いだったが何十年間も彼の心に居続けた戦友が目の前に、現実にいるのだ
「しかしよくこんな所まで来たもんだ、カイロンの自爆ってそんな凄かったのかよ…」
愛おしそうに戦友を撫でながらここが俺の死に場所だ、最高じゃないか。と考えてたその時、頭が猛烈に痛くなった。何も考えられないほど痛く呼吸すらままならない、尋常ではない心臓の鼓動が耳の奥に聞こえる
足の力がなくなりブルックリンの体は重力に従い後ろに傾いていく、意識が段々と薄れていく
(あぁ…これが死ってやつか、いきなり来るんだな…でもいいタイミングだったぜ。神様って奴は最期の時だけ気を利かせてくれるんだな…)
そしてそれを最後に彼の意識は無くなった…
____小鳥のさえずりが聞こえる、眩しい…日の光だろうか?しかし俺は死んだはず、そうか、ここが天国なのか。てっきり俺は地獄に行くもんだと思ってたぜ…しかし天国って場所は塩くさいんだな海が近いのか?おまけに何かブロロロって音が聞こえたぞ、まるで何かのエンジン音の様な…
ん?エンジン音!?全然分からん…!とにかく目を覚さなくては…!
目を勢いよく開くと光が容赦なく入ってくる、眩しくて何も見えない。
その内ジワジワと断片的に見えるようになってきた
青い…これは空か…?
そして完全に見えるようになり彼はひとまずの状況を把握できた
結論から言えばどうやら彼がいる場所は天国ではない
と言うのも意識が覚醒した瞬間に体の重みを感じ体を起こして地面を見るとどうやらここは歩道らしい、キチンとと整備されている。左右を見ると住宅に道路と明らかに現世の物にしか見えないと判断したこと、そして何よりも
上を見上げた時ガードミラーに移った人物に激しく既視感があったからだ
「…まさか、まさか、まさか…!この顔は“高校時代“の俺!?」
そう、ガンヘッドのパイロットことブルックリンは何と高校生に若返るだけでなく得体の知れない場所にワープしてしまったのだ
…転生ってムズイですね、何分この手の分野は初めてなものでして…まだまだ修行じゃな。次回からはいよいよガルパンキャラが絡んできかすのでお楽しみに
それではここまでのご視聴ありがとうございました!
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戦車道やろうか、ガンヘッド part1
さて、そろそろ寒くなって来ましたが皆様いかがお過ごしでしょうか、季節の変わり目は風邪を引きやすくなると言われます。こんなご時世なので皆様十分お気をつけ下さい
それでは本編をどうぞ!
自身に起きた不可解な現象を夢だと信じたくて頬をつねるがしっかりと痛む
やはり自分は高校生に若返ると共によく分からない場所へワープしたのだ。
仕方がなく現実だと受け止めてため息をつく
「しかしここ何処だよ…潮の匂いがするから海付近なんだろうけどさ。いや、そもそもここは何処の国だ?建物は日本っぽいが…」
場所がわからなければ行動のしようがない、もっとも仮に人に聞いたとしてもここはブルックリンがいた世界とは別の世界なので周囲を見渡しても何一つ手掛かりになるようなものはない、一応看板は目に入ったのだがこの先にコンビニがあると言うお知らせだけで情報にはならない
「しかし文字が読めると言うことはやっぱここは日本なのか…じゃあここの住民とも会話しようと思えば出来るってわけか」
うんうん唸りこの状況を打開する策が出ないか考えてるうちに腹の虫が鳴る
「そういや何も食べてないんだった…何か食うものねぇかな」
身に付けていたカバンを漁る、この鞄は前の世界に持っていた物と同じだ
加えておくと格好なども同様だ
コツンと何かに当たる感触がして取り出してみる。握られていたのはペンケースの様な形をしたプラスチックの容器だ
「これはシガレットケース…いやキャロットケースと言うべきか、まぁこの際人参でもいいか」
そう嬉々として開けるも中には1本も入ってなかった。どうやら飛行機の中で食べたのが最後の一本だったらしい
ぬか喜びに思わずへたり込む、腹の虫は益々泣くばかりだ
何でもいい、食い物はないのか
辺り一面をキョロキョロと見回すと妙に明るいテンションで歩いてくる女子高生が目に入った、彼女の先には電柱がありこのまま行くとぶつかってしまうのだが周りの景色が見えてない様で真っ直ぐ突っ込んでいく。そしてそのままゴン、と鈍い音を立て電柱にぶつかり尻餅をついてしまった。
(言わんこっちゃない…)
電柱にまで行くと尻餅をつき額をさすっているのが見えた。
「あんた、大丈夫か?」
と手を差し伸べる、驚いた顔をしてこちらを向いたが彼女はブルの手を掴んだ。起こしてあげると顔を真っ赤にしながらも彼女はお礼を言ってきた
「すいません、ありがとうございます。全然前を見てなかったものですから」
「あんた変なステップ踏みながら歩いてたもんな…」
ブルックリンが苦言すると彼女は更に顔を赤らめた、普通ならばここでお別れだが何せ彼女は彼が別世界で会った初めての人間だ、出来る限り会話を引き伸ばして何かしらの情報を聞き出せないか模索する。
「あんな歩き方するだなんて何か良いことでもあったのか?」
「私この先にある学校に転校してきたんです、それで今日が初めての登校日で…そのせいか何か妙にテンションが上がっちゃたんです」
参った、よりにもよって転校生か。それならばここの場所とかはよく知らないだろう、何か引き出せないかと思ったがこれは無理そうだな…
そう思いブルックリンは挨拶をして別れようとしたが目の前にいる彼女の変わった人物でも見るようかの目が気になった
「…俺の顔に何かついてるかい?」
「いえ、どうしてこの先は女子校なのに男子がいるのかなっって気になっちゃって…それに服もボロボロだし貴方は一体…?」
この先は女子校だったのか、通りで周りを見渡しても女子高生ばかりなわけだ。不味いな、このままだと『女子校を覗きにきた変態男子高校生』と誤解されて警察呼ばれちまうかもしれねぇ。見た感じ文明が俺らと同じくらいの世界だからきっとそう言う組織もあるだろう…そんなのに世話になったらどうなるか分かったもんじゃねぇぞ…
心臓をバクバクにさせてなんとかごまかし方を考えるが妙案が出てこない
どうしたものかと考えると彼女がポン、と手を叩いた
「あ、分かりました!貴方はこの学校の先生なんですね!」
「先…生?」
突然先生と呼ばれて一瞬困惑するもハッ、と気づく。これは救いの糸だ、乗っかるしかない
「そうだ、俺は教師だよ!…化学の教師だよ!ブルックリン先生さ!」
とっさに嘘をつき、何とかごまかす。
「ブルックリン先生、ですか。私は西住みほって言います」
「みほ…さんか、宜しく頼むよ。…ところで」
「?」
「学校まで案内してくれるかな?」
と言うとみほはクスッと笑った
「すいません、先生なのに場所が分からないってのが面白くて」
「いやぁ〜面目ない」
ブルックリンは何故学校に行こうとしたか、一言で言えば情報収集だ。学校に潜入すれば図書館がある、そこでこの世界のことについて知ることができるブルックリンはそれを目論んだのだ
案内されること数分、建物が見えてきた、それも同じようなものが数棟ある。
「ここが学校?団地みたいだな…」
「そうですよ、ここが“大洗女子学園”です!」
「これが学校か…マンマス校って奴か?」
「それじゃ、私教室に行きます。先生さっきはありがとうございました!それじゃ!」
そう言うとみほはスタスタと校門に入って言った、それに続きブルックリンも校門を潜る。多数の生徒にジロジロ見られたがここまで堂々と入ると怪しさと言うものは無くなるもので誰にも咎められる事はなかった。
そのまま校舎に入り図書室を探し出す、本物の教師に会ってしまっては大変なことになる。それ故に慎重に捜索する。学校の図書室ぐらいすぐ見つかるだろうとブルは思っていた、しかしそれはすぐに誤りであることを思い知らされる…
20分くらいが経過しただろうか、賢明な捜索にも関わらず図書室の「と」の自体も見つからない始末であった。
「何処にあるんだよ…アホみたいに広すぎるだろこの学校」
ガックリと項垂れると腹の虫が大きく鳴いた、これまで気力で耐えてきたが空腹の限界である
「あぁ、そうだ腹減ってたんだった…せっかく若返ったと言うのにこのまま餓死か…」
足の力が抜けてその場にへたり込み壁にもたれる腹が減りすぎて体が鉛のように重たい。何もやる気が起きずその内考えることが億劫になってきた、同時に眠気が襲ってくる。もうこの際バレても良い、ここで寝ちまえと思い目を瞑ったその時
「ねぇ、君何してんのさ」
と声をかけられる、顔を上げるとツインテールの生徒が居た、だがそんなことは今の彼にはどうでもいい。だが助けを求めるかのようにポツリと呟いた
「腹が…減った」
「お腹が!?…何かどうか分からないけど取り敢えず中入る?」
「…中?」
「君がもたれかかってるの生徒会室のドアなんだよね」
「そいつはすまない…今すぐ退く」
「待ちなよ、いいから入りなって」
ブルは立ち上がろうとした所を腕を掴まれそのまま生徒会室に無理やり連れてかれた
室内は豪華な作りでこれまた豪華なソファと机があった、ブルはツインテの彼女に座らせられた。ボーッとして机を眺めてるとジッパーを開ける音と共に三角形の物体が置かれた
「…これは、おにぎりか」
「腹減ってるんでしょ、食べなよ」
「…良いのか?」
「良いよ、遠慮なくおあがんな」
「すまない…!」
ブルは無我夢中でおにぎりを頬張った、味なんか気にしてないただ栄養を摂取するだけだ。
「うめぇ…うめぇ…!」
あっという間に食べ終えてしまう、まだ腹は減っているがそれでも気力の方はだいぶ回復した
食べ終えた口を服の袖で拭いお礼を言う
「すまない、本当に恩にきるよ。え〜と…」
「杏、角谷杏だよ」
「杏さん、お陰でマシになった。しかしどうして助けてくれたんだい?」
「生徒会室の前で生き倒れてるだけでも怪しいのにそのボロボロの服装だからさ、何か訳ありかと思ったのよ…さてここで質問だ」
「…?」
「ここは女子校だから男子は居ないはずだし仮に教師だとしても新任のお知らせなんかここ3年今日に至るまで聞いたことがない。かと言って餓死寸前の人が女子校を覗き来ただなんて思えない
…君は何者だい?」
杏の目は真剣そのものだ彼女になら自分に起きた出来事について打ち明けても信じてくれるかもしれない。そう考え重い口を開く
「これから話す内容はフィクションの様にしか思えないかもしれない。だがこれは確かな事実なんだ、出会ったばかりの人に言うのもおかしいが…どうか信じて欲しい」
「…分かった」
そしてブルックリンは話した
自分はこことは別世界でガンヘッドと言う巨大変形ロボットのパイロットであると言うこと
507と言う相棒と共に人類抹殺を阻止したこと
そして天寿を全うしたと思ったら若返ってこの世界に来てしまったことを
全てを話し終えた後杏は深く頷きこちらを向いた
「変形ロボットのパイロットが異世界転生か…本当にフィクションみたいな話だな。だけど君が話してる時の目、特に507だっけ?君の相棒について語ってる時の目は嘘をついてる様には見えなかったよ、君の正体はよく分かった。それで…これからどうするんだい?」
「取り敢えずここの図書室を使わせてもらってこの世界について調べる、その後は…分かんねぇや」
「…そっか」
「おにぎりありがとうございました、それでは」
ブルはゆっくり歩きドアノブに手をかけたその時
「待って」
と杏が声をかける、振り返ると何か企んでるような笑顔でこっちを見ている
「ブルックリンちゃん、もしとある条件でこの学校に入学出来て食堂の食券200日分、寮も与えちゃう…って言ったらどうする?」
ブルは自分の耳を疑った、杏の言ってることが正しければとある条件を飲めば食、住が確保でき安定した生活を送れると言うのだ。そんな美味しい話あるわけがない、あったとしてもロクでもない条件を結ばされるだろう。だが、今の自分が拒否することなんて出来るだろうか?持ち物なんてなく誰も知り合いなんかいない未知の世界で救いの糸が垂れ下がってるのにそれを手放すことなんて出来るはずがない。このチャンスを逃せばこんな機会は二度と訪れないだろう
ブルックリンは覚悟を決めドアノブから手を離し杏へと近づいていく
「…それは本当か?」
「勿論、嘘はつかないさ。ただし1つ条件を飲んでもらう…ただそれだけさ」
「その条件ってなんだ?」
「我が校には必修選択科目ってのがあるんだ、花道とか剣道とか茶道とかね。その事を覚えてこれを見てほしい」
杏は机の引き出しから1枚の紙を取り出した、紙にはいろんな漢字が書かれてるが中でも目を引くのは「戦車道」と言うものだ。戦車と言うワードを見てブルは瞬時に察した
「ひょっとして杏さん、条件ってのは…」
「話が早くて助かる、そう君には戦車道に参加してほしいんだ」
「…1つ質問させてくれ、戦車道ってのは何なんだ?まさか本気で戦車使うんじゃ…」
「そのまさかだよ、戦車道ってのは乙女の嗜みと呼ばれてる武道でね、戦車を使って戦うんだ」
「戦車で戦うのが乙女の嗜みぃ!?これまた凄いパワーワードだな…男が乗るなら分かるけどよ」
「男…?ひょっとして君の世界じゃ戦車ってのは男が乗るのかい?」
「当たり前だよ、戦車ってのは漢のロマンさ」
「逆だ」
「逆?」
「価値観が真逆さ、君がいた世界と私がいる世界じゃ、こっちの世界じゃ戦車を好きな男性は変わり者扱いだよ」
「マジか、とんでもねぇ世界だな…あ!大事な事を忘れてた!戦車戦なんかして大丈夫なのかよ!?まさか戦争紛いな事をするんじゃ…」
「ハハハ、そんなんじゃないよ。戦車道はこれでもかってくらい安全に配慮された武道だからね、大丈夫だよ」
そう言って杏が笑ったがブルは苦笑いしか出来なかった。安全に配慮された戦車戦と言うのもパワーワードで釈然としないが模擬戦の様なものと判断して無理やり飲み込んだ
しかしここでもう一つ疑問が残る
「でもよ、戦車道ってのは乙女の嗜みなんだろ?そんなのに野郎が出て良いのかよ?」
「一昔前は無理だったけど最近はいける様になったんだよ、これも男女平等って奴だね」
「なるほどねぇ…」
「確認するけど戦車動かしたことはあるんだよね?」
「あぁ、こう見えても前の世界じゃトレジャーハンターやる前は軍人やってたんだ。訓練の一環として戦車にはよく乗ったもんさ」
それを聞いて杏はにやけながら拳を握った
「よし、これでいける!」
「何がです?」
「いや何こっちの話さ、さてと…参加してくれると言う意思で間違いないんだね?」
「そうだ、逆にそれ以外に選択肢はないからな」
「うんうん、賢いのは長生きするよ〜」
「一回死んでるんだけどな」
「うまい!一本取られたわ」
お互い笑い合った。こんなに笑ったのは久しぶりかもしれないと感傷に浸っていると杏がペンを差し出してくる
「それじゃ、ここの場所に丸つけてちょうだい」
ペンを受け取りブルはじっと「戦車道」と書かれた欄を見つめる、これに丸をつけたら俺の第二の人生が始まる
そう思うと緊張してきたが意を決してゆっくりと円を描いた。描き終わりペンを手から離し机に転がし顔を上げる
そこには今日だけで何回も見る杏の笑顔があった
「ようこそ、大洗女学園へ。歓迎するよブルックリン君」
「こちらこそ宜しく頼む、杏。…ところで女子校なのに男子が入って良いものなのか?」
「なぁにその辺は心配いらない。無理やりにでもねじ込んでみせるからさ」
「…出来んのかよそんなこと」
「出来るさ、私は生徒会長だからね」
「あんた生徒会長だったのかよ!てか生徒会長の権限強すぎないか…!?」
「まぁまぁ小さいことは気にしなさんな、ほんじゃ…」
そう言うと杏は机から鍵と2枚の紙切れを取り出してその内一枚の紙に何やら書いた
「ほい、これ鍵と君がこれから住む寮の地図と部屋番号ね」
「妙に手回しが良いな…」
「なぁに今年は何故か一部屋だけ余ったみたいでね、それで私が鍵を保管してたのよ。しかし一部屋だけ余るだなんてまるで君を待っていたみたいだねぇ」
「こうも自分にとって都合の良いことばかり起きるとなんだか怖いもんだな…」
「まぁまぁ甘んじて受け入れなよ、でねもう一つの紙は…」
「これは食券か?」
「そ、取り敢えず今日の昼ごはんの分ね。私からの奢りだ」
「え?本当に良いのか?」
「餓死寸前の人間がおにぎり一個じゃ足りないだろ?しっかり食いなよ」
「何から何まですまねぇな」
「良いってことよ、昼ごはん食ったら今日は帰りな。クラスとかの情報は今日の夜に寮のポストに入れとくから必ず見てね」
「ラジャー」
さてと、と言いながら杏は席を立つ
「これから授業なんだわ、3年生は変な時間に授業があって困るねぇ全く。それじゃブルックリン君、また明日」
「あぁまた“明日”な、杏」
杏が出て行った後ブルックリンはしばらく静けさ滲み入る生徒会室で佇んでいた
____女子高生が戦車に乗って戦う、かぁ…とんでもない世界に来ちまったぜガンヘッド、でもまぁロボットに天国があるかどうかなんて分からないけどよ上で見ててくれ、俺はこの世界で生きてくからよ。
世界に来ちまったぜガンヘッド、でもまぁロボットに天国があるかどうかなんて分からないけどよ上で見ててくれ、俺はこの世界で生きてくからよ。
戦車道…どんなのか見当がつかねぇがやってやるぜ
ブルックリンは天高く拳を振り上げる、と同時に思い出したかの様に腹の虫がなる
「流石におにぎり一個じゃ燃料切れか、食堂行くか…あっ!食堂の場所聞くの忘れてた…!」
その後再び20分近くかけてようやく食堂へ入れたと言う。尚食券の裏に地図が載ってるということに気がついたのは食券を使う寸前のことであった
う〜ん、個人的には私が出がけれる小説「ガールズ&レイバー」より心理描写を抑えめにして会話を増やしてみたのですが如何でしょうか?是非ご感想などを頂けると幸いです
次回はみほとブルックリンが大きく関わっていきます。そしてブルックリンはみほの心の闇に触れることになります。
それではガールズ&507、次パートもお楽しみに!
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戦車道やろうか、ガンヘッドpart2
ではお待たせしました、本編をお楽しみください!
「…やっぱうめぇわ」
食堂にてブルックリンはカレーを食べていた、その味は彼が慣れしたんだのと同じであった。やはりこの世界、少なくとも彼がいる場所は間違いなく日本であるのだ
ふと窓に目をやるとそこには一面海が広がっていた
「オーシャンビューの食堂、贅沢ってもんじゃないよな。こんな学校俺の世界にゃ無かったぞ…」
カレーも後半戦に差し掛かった頃彼は後ろから声をかけられた
「あれ、その服…先生じゃないですか!ブルックリン先生!」
いきなりその名前で呼ばれたものだから彼は飲んでた水を吹き出しそうになってしまった。背後の座席には見慣れた顔がいた
「西住さんじゃないか、君もここに来ていたんだ」
「はい、でも意外ですね。先生もこう言う場所を使うなんて」
「あぁ…その西住さん、先生ってのはな…」
彼は彼女にも杏に話したように自分自身の事を話そうと思った。と言うのもここに入学するのでいつまでも教師として偽るのは無理がある上彼女とクラスメートとなる事もあり得るのだ、もしそうなった場合説明は早い事して置かないと面倒な事になってしまうからだ
「俺実はさ…」
「あれ、みほ知り合い?」
「随分親しげに話されてますが…」
ブルックリンが話そうとした瞬間二人の少女が話す
どうやらみほの知り合いらしい、彼女らはブルックリンを不思議そうな目で見ている。当然だろう、何度も話すがここは女子校だ。ここに男性がいる事が不可解な事であるのだ
「取り敢えずそっちに座っていいか?」
人数は増えたがここで説明しなければ怪しまれたちまち人を呼ばれてしまうだろう。
息を短く吸い席を立ちみほ達が座ってる席へと移動する、彼はみほの隣に座った。
「始めまして俺はブルックリンだ」
「化学の先生なんですよね!」
「いや…俺は教師じゃないんだ」
「え…?」
彼は本日二度目の説明をした
「ブルックリンさん、その話本当なんですか?」
「…とても信じられない話ですね」
「変形ロボットってアニメの世界みたい…」
「信じられないのも無理はない、だけど本当のことなんだ」
「ですが不思議です、貴方の内容はとても現実的では無いのに嘘を言ってるようには見えないのです」
「…そりゃまた何故だ?」
「上手く申し上げにくいのですが貴方が話してる時の雰囲気や目などが嘘をついてる様には見えませんでした」
「確かにそう見えたかも、友達について話してる時とか真剣そのものでしたもんね」
「ねー、嘘だったらあんな目は出来ないもの」
「それに女子校に侵入して『俺は別世界から来たんだ』って嘘を言いふらしても何ら得が無いですもの、気が触れた人ならやりかねませんが貴方はそうは見えませんしね」
「…じゃあ俺が別世界から来たってこと信じれくれると言うのかい?」
「そうですね、余りにもSF染みた現象ですが…信じたいと思います」
「私もブルックリンさんのこと信じます、同じ新入生同士仲良くしましょうね」
「これから宜しくね、ブルックリン」
「あんたら…いいやつだだよな、こんな見ず知らずの男を信頼してくれるなんてよ。こちらこそ宜しく頼む、西住さん…え〜と」
ブルックリンは二人の方をチラリと見ると彼女達は自己紹介をしてくれた、長髪の彼女の名前は「五十鈴華」で茶髪の彼女の名は「武部沙織」とのことだ
「それじゃ改めて、西住さん、五十鈴さん、武部さん、宜しく頼む!」
「そう言えばブルックリンさん、先程の話の衝撃が強すぎて聞き忘れていましたが肝心のここに入学したのはどうしてなんですか?」
「それそれ!いくら別世界に来たと言えどうして女子校に入る事になったの?」
「あぁ…そいつはな」
そう言いかけた瞬間、天井から鐘の音が聞こえた
「あ!もうそろそろ授業じゃん!華、みほ戻ろ!」
「あらもうそんな時間でしたか」
「ブルックリンさんはこの後どうするんですか?」
「ん〜俺は授業とかは明日からだからこの後は図書室に行ってこの世界について調べるって感じかな」
「場所とかって分かりますか?」
「まぁ何とかなるさ、時間は腐るほどあるからな。さあさあ、あんたら授業なんだろ?行った行った」
みほ達は残り半分のカレーに手をつけるブルックリンを心配そうな目で見ながら帰るのであった
カレーを食べ終え食器を返すついでに食堂のおばちゃんに図書室の場所を聞いたおかげで図書室には難なく到着出来た。中は思ってた以上に広く様々な種類の本が所狭しに並んでいる、これならこの世界を知るのに十分な資料を読めるだろう。
(しかしここもオーシャンビューかよ、本当ここ海に近いんだな。いつか泳ぎにでも行くか)
そう思いながらブルックリンは取り敢えず日本史の本を選び椅子に腰掛けた、まずは日本史を読んでみたのだがこれが実に驚きでwwIIまでの歴史は彼がいた世界と同じだったのだ。
(wwII以降は全然違うな…当たり前だがカイロンなんか居ないし連邦政府なんかに支配されちゃいねぇ、ここから注意深く読んでみるか)
ページを更にめくると1枚の写真が目に止まった、それは巨大な空母の上に町が乗っかてる…いや存在している奇妙なものだった
(なんだこれ!?俺の世界にゃこんなの無かったぞ…!“学園艦”だと?この世界どうなってるんだ…)
ふと彼の頭の中でこれまでの海の景色が学園艦と言うワードと結びついた。もしや、と思い学園艦に関する本を見つけ索引から「お」の字を見つけようと目を走らせる
(…あった!「大洗女子学園」!てことは俺は今海の上にいるってことか…!やはりとんでもない世界に来ちまったぜガンヘッド )
そして彼は次に戦車道に関する本を手に取り読み始めた。そこには戦車道の歴史や試合形式だけでなく学校別で評価なども書かれていた
(なになに、戦車道で強い高校は“黒森峰”と“プラウダ高校”か…特にこの黒森峰は9年間全国大会で優勝してるのか。全国大会なんてあんのか…そりゃまぁ剣道とか柔道とかにはあるから可笑しくはないか、だがこの学校ドイツとソ連がモチーフらしいが変わった学校だなぁ、いずれはここと戦うことになるんだろうか。そう言えば俺の大洗はっと…)
だがいくらページを探しても彼が望むのは出てこなかった、つまりそれは大洗女子学園は本に載るほど有名では無いと言う事だ。本を閉じてブルックリンは目を瞑り考える
(しかし改めて考えると疑問だ、何故杏は俺を戦車道に参加させたかったんだ?男である俺を無理矢理入れてまで戦車道をしなきゃならない事情でもあるのか…?
いや今考えてもしょうがないか、それに事情がどうであれ拒否権なんてないしな)
そんなことを思ってると飢餓からの解放感に暖かな光が刺す図書室が彼を徐々に睡眠の世界へと誘っていた
(やばい…寝みぃ…でもこんな所で寝ちゃダメだ…)
しかし抵抗虚しく彼の意識はそこで途絶えた
彼が目を覚ましたのはもう夕方に差し掛かっていた午後3時30分だった。調べることもあらかた調べ終わりブルックリンは寮へと向かおうと思った、積み上げてた本を元の位置に戻し図書室を出る。図書室の外は冷房が効いてた内側とは違いほんの少し暑かった。じわりと出てくる汗を感じ彼は寮へ着いたらまずシャワーを浴びようと思った。
校門を出て振り返ると改めてその校舎の大きさに息を呑んだ、そして明日からこんな大きな場所に通うのかと言う不安に近い感覚と何十年ぶりのハイスクールライフに期待する、そんな複雑な心境が入り混じりながら彼は地図を頼りに寮へと向かう、道に迷うこともなく数十分歩けば目的地にたどり着くことが出来た。外見は至って普通のマンションだ、エントランスに入り服のポケットから鍵を出しオートロックを開ける。階段を上り2階へと進んでいく、そして数十歩歩けば彼の新たな住まいの入り口が見える
「…ここが207号室か、中はどうなってるんだ?場合によっちゃ家具とかを仕入れなきゃいけなくなるもんな、でもそうなったら金とかはどうするんだ…?」
しかしその心配は杞憂であるとすぐに分かる、鍵を回し勢いよくドアを開けるとすぐそこにベッドが見えたからだ
「お、ベッドがあんじゃねぇか!それに机とかもある!家具付きの寮とはまたまた運がついてるなぁ俺」
辺りを見回すとタンスもあり中身を確認するとバスタオルが1枚あった、早速彼はそれを手に取り洗面所へと行くとそこには鏡があった。改めて自身を確認すると若返っていた。だが服装は黒いジャケットは穴だらけ、ズボンは裾が綻び靴も泥だらけで爪先の部分に穴が空いてる始末だった
「服とか靴もいずれ買わないとな、だがそれも勿論金がかかるし…バイトでもするか?」
そう考えて風呂へと入る、勿論石鹸の類は無いが今の彼にとっては暖かいお湯を浴びれるだけでも十分な贅沢なのだ。
5分程度してシャワーが終わり体を拭きながらキッチンへと向かう、蛇口を捻りコップがないので自分の手を使って水を飲む。冷たい水が身体中に染み込んでくる
飲み終えると彼は安堵のため息を漏らすのであった
「ップッハー!一時はどうなるかと思ったがこれで一先ずは安心できたなぁ、戦車を動かす女子高生に町が乗っかってる船とおかしな世界だがそいつのおかげで助かったわけだ。これほど軍に入ってて良かったと思った日は無いぜ…」
風呂場でついでに洗ったシャツをベランダにある物干し竿に適当に乗っけてパンイチでベットへと倒れ込む。
「さ〜てと、確か夜ポストに学校の資料とか届くんだよな。それまですることもねぇし何も出来ないからもう一眠りするか!」
ふと寝る前に考え込んでしまう、戦車道って乙女の嗜みとは言われてるが果たして選ぶ人物が居るんだろうか。いくら乙女の嗜みだからって別なのもあるのだ、その中には花道や茶道もある、それらの方が人気が出そうな気がしてしょうがない。下手をすれば自分とあと2、3にばかりだけ…そんな事態もあり得なくはない、もしそうなれば自分はどうなるのだろうか。
(まぁ後は神のみぞ知るって奴だな、そんときゃそん時でまた別の食い扶持を探すか)
そしてそこで再び彼の意識は途絶えた
外を走ってる車のクラクション音で目を覚ます、壁時計を見ると時刻は午後7時であった。人間と言うのは現金なもので夜と分かった瞬間ブルックリンの腹の虫が鳴り響いた
「腹減ったなぁ…と言っても食えるものと言ったら水しかねぇけどな」
そう言いながら大きなあくびをすると寝ぼけた脳が覚醒した
「あ、そうだ。ポスト見に行かなきゃ」
ベランダに行きシャツを手に取る、まだ若干湿っていたが我慢出来ない程ではない。早速着替えてエントランスへと向かう。ポストを開けるとそこには分厚い封筒が入っていた
「なんだこのデカさ…俺資料って言うからもっとペラペラだと思ったんだが」
部屋に持ち運び中身をひっくり返すとクラス表や食券の束、町内、学校の地図があった。他にも様々な資料があったのだが中でも目を引いたのが分厚い白い封筒である、期待を込めて開封すると中身は現金であった
「現生か…凄いなこりゃ10万はあるぞ、助かるけど貰っていいものなのか?」
封筒には折り畳まれた紙も入っており中身を開いてみると
ブルックリン君へ
これはささやかな入学祝いだ、無一文じゃ辛いだろうしね
…ん?このお金はどうしたかって?そりゃまぁ生徒会にゃ裏金庫っての
があるんだよ…
まぁ細かいことは気にせず使ってちょーだいな
杏
と書かれてあった。ブルックリンは読みながら苦笑するもここまで自分に優してくれる杏に多大なる恩義を感じていた
「この恩は戦車道で返さねぇとな、しっかりと」
と決意した瞬間腹の音が再び盛大に鳴った
「取り敢えず飯だな…確か近くにコンビニがあったはず、そこで弁当でも買うか。あ、ついでに日用品も揃えるとしようか」
早速彼は諭吉を握りしめコンビニへいそいそと向かうのであった。
✳︎
「買い過ぎたな…これは」
30分くらいコンビニに立て篭って吟味した結果、レジ袋を両手で持つことになった。家に戻り鍵を開け様としたがふと隣の部屋の表札が目に入った
「西住って、みほの部屋か!こりゃいいや、知り合いが隣にいるだけでも随分ありがたいもんだ」
ちょうど今弁当買ったから願わくば一緒にご飯でも食べようかと思いインターフォンを押す、電子音が鳴り数秒後
「…はい」
と力が無い返事が返ってきた。
「やぁ、西住さん。俺だよ、ブルックリン」
「ブルックリン…さんですか?」
「そう、隣に越してきたから挨拶にでもと思ってね」
「少し…待ってください」
ペタペタと弱々しい足音がドア越しに聞こえる、朝出会った時の元気はつらつだった彼女とは到底思えなかった、何か分からないが彼は胸騒ぎを覚えた
ガチャ、とドアが開けられみほの姿が見えた。その姿は妙に縮こまっていて顔も暗かった、一目で彼女の身に何かが起きたことを察した。だが彼には彼女が何で落ち込んでいるまでは分からんかった
「やぁ西住さん…その顔どうしたんだ?」
「ブルックリンさん…ブルックリンさん…!」
みほの名前を読んだ瞬間彼女の頬から水が垂れ玄関の明かりに反射する。
「西住さん、何があったんだ?昼間はあんな元気だったのに」
しかし尋ねても彼女は嗚咽を漏らすだけだった。
「取り敢えずお邪魔してもいいかな…?」
自分自身でもとんでもない発言をしてるのは理解している、だがこのまま帰るのも胸糞が悪い、しっかりと理由を聞いて自分に出来ることがあればそれ上げたい。何故なら彼女は知り合ったばかりとは言えこの世界で数少ない知り合いの一人なのだから
✳︎
部屋に入り二人は食卓へ向かい合う様にして座った。
まだ涙を流すみほにブルックリンは先程購入したポケットティッシュの中身を取り出し渡す。涙を拭き終えるのを見て彼は改めて訪ねた
「西住さん、一体何があったんだ?」
「…戦車道」
「戦車道…!?まさか西住さん…あんた…!」
「私、戦車道を取らなくちゃいけなくなったんです…」
驚いた、まさか彼女が戦車道を取るとは。人は見かけで判断してはいけないと思いつつも明るいが少しおしとやかな所がある彼女がそれを選択するとは余りにも意外であった。だが彼女の発言には引っかかる部分があった
「取らなくちゃ“いけなく”なった、でどう言うことだい?自分の意思で選んだと言うわけじゃないってことか?」
「はい…強制的に選ばされたんです、私は…私は…戦車道から逃げたくてここまで来たのに…!!」
「落ち着け西住さん、ゆっくりで良いから何が起こったか教えてくれるか?」
そう言いながら彼はもう一枚ティッシュを渡す、気持ちを落ち着かせようとレジ袋からペットボトルのお茶も渡す。彼女は涙を拭き終わると辿々しい手でペットボトルの蓋を開けてゆっくりと飲む。ふ〜っと言う息を吐くのが聞こえ声をかける
「どうだ?少しは落ち着いたか?」
彼女はこくんと頷く、そして息を吸うと話し始めた
「私…実は西住流って言う戦車道の有名な家出身で…昔からずっと戦車道一筋で生きてきたんです。でもさっきも言いましたが私、戦車道から逃げたくてこの学校に入ってきたんです…でも実際はこの学校にも戦車道はあったんです。いいえ、正確に言えば復活したと言う表現が正しいです」
彼はみほが逃げ出した理由が何らかのトラウマを負ったからと言うのが何処と無く察する事ができた。何故なら彼自身もトラウマを追って逃げ出した経験があるからだ、だから彼にはトラウマをほじくり返される怖さがよく分かる。故に彼は彼女が逃げ出した理由を聞かなかった。
「復活、か。それで強制的に選ばれたって言ってたがどう言う意味なんだ?」
「はい、昼休みに生徒会長さんが私のクラスに来て…」
「杏が!?」
「えぇ、それで『必修選択科目は戦車道にしてくれ』って言われて…私気分が悪くなって保健室に行ったんです」
「大丈夫か…いや大丈夫ないからこうなってるんだよな…ん?杏に言われたことは友達には言ったのか?」
「はい、保健室に行く時華さんと沙織さんに付き添って貰えたんです。そこで無理しなくていいって、もし生徒会長に断りを入れるなら付き添ってくれるって言われて私安心したんです…でも…でも…!」
再びみほは泣き出してしまう、どうやらこの涙にはあの2人が原因だとブルックリンは判断する
「その後何かあったんだな?あの2人になんか言われたのか?」
「放課後戦車道についての説明があったんです、その後2人とも掌返した様に私に戦車道を選択するのを勧めてきて…私せっかく味方が出来たと思ったら裏切られた様な気分になったんです…」
良いところだけ取り上げた宣伝に釣られて選んでしまう人が居るのは世の常だ、彼女らはそうだったのだ。だから悪気はないのだろう、彼はそう考えた
「なぁ西住さんよ。確かにアイツらが裏切った様に見えるのはしょうがないさ、でも本当はアンタを裏切るつもりだなんて微塵もなかったんだと思うよ」
「え…?」
「俺にはさ西住さんがどれほど深いトラウマを追ったか分かるのよ、俺自身そうだったからさ。多少のトラウマじゃ逃避だなんてしやしないさ、逃げ出したくなると言うのはそれ程だってことよ。でもアイツらには恐らくそれが分からなかったんだな、だからアンタを誘ったんだ。悪気があったわけじゃないんだよ」
「そうなんです…か…なら、良かった…!2人は初めてここで知り合った友達…いや生まれて初めての友達なんです。その2人に裏切られたと思うと私耐えられなくて…!」
みほはブルックリンの前にも関わらず大きな声で泣き出した。辛かったのだろう、誰にも頼れることも出来ず戦車道から逃げたと思ったら逃げた先にも戦車道が待ち受けていたのだ。おまけに初めて出来た友達から裏切りとしか思えない言葉を浴びせられ彼女のメンタルはボロボロである。
だから彼女はドア越しにブルックリンに会った時安堵して涙を流したのだ。彼女にとっては彼が唯一の裏切られていない知り合いなのだから
✴︎
ブルックリンはただじっと泣く姿を眺めていた、黙って泣きたいだけ泣くのを見守ることが自分にできる最善の方法だと思ったからだ
暫くして落ち着いてくると彼女はこんなことを聞いてきた
「…ねぇブルックリンさん、ブルックリンさんもトラウマから逃げたって仰いましたよね?ブルックリンさんは、トラウマから逃げるのっていけない事だと思いますか…?」
「ん〜、“時と場合による”だな」
「それじゃあブルックリンさんは逃げ出したけど立ち向かったんですか?」
「…あぁそうさ、俺はコクピット恐怖症だったんだ。そんな時俺はガンヘッドに乗らなくちゃいけなくなった、でもその場にいた中で操縦出来るのは俺だけだった。俺がやらなきゃこの場にいる全員も人類もみな死んじまうって分かると逃げるだなんて言ってもいられなくなったんだ。だから立ち向かってガンヘッドのコクピットへと乗り込んで戦った…その結果はまぁ話した通りだな」
「それじゃあブルックリンさん、貴方はトラウマには立ち向かって行かなきゃいけないと思いますか?」
「さっきも言ったろ?“時と場合による”ってさ。確かにトラウマに立ち向かわなきゃいけない時は逃げちゃいけない、だがそんな時はごく稀だ。西住さんは今はその時じゃ無いと思う、逃げる事は恥なんかじゃ無いさ。だからそう自分を責めないでくれ」
「…ありがとうございますブルックリンさん」
そう言うと彼女は1枚の紙を取り出した。それはブルックリンも記入した必修選択科目の用紙である、彼女は意を決したようにスゥッと息を吸い「香道」と書かれた場所の横に丸をつけた
「私はやっぱり戦車道をやりたくないんです、その一心でここまで来たんですから。だから私、逃げるために生徒会に立ち向かいます。…おかしな話ですけどね」
みほはクスリと笑いながら言った、その顔は初めてあった時と同じ弾ける様な笑顔であった。
「よし、その意気だ、頑張れよ。もし明日生徒会に行くなら俺がついて行くよ」
その時彼の腹の虫がみたたび鳴った。照れ臭く頭を掻く、彼女がその光景を笑っていると彼女もまた腹の虫が鳴った。一瞬2人は見つめ合いドッと大笑いした
「飯でも食べようぜ、俺弁当買ってきたからさ」
「いいですね、じゃあ私インスタントの味噌汁があるのでお湯沸かしてきますね」
その晩彼らは楽しく食事を共にした。転移してから初日、こんな風にご飯にありつけるとはブルックリンには予想が出来なかった。だが友となった人物と食事を共にする幸せは確かに現在そこに存在してる。彼はこの当たり前の光景を噛みしめながらご飯を頬張るのであった。
食事を食べ終わった頃にはもう9時となっていた。そろそろ自室へと戻り寝支度を整えるべきだとブルックリンは思った、そろそろ帰ると言い出した彼にもうちょっとゆっくりしても良いんですよと言う彼女に今日はもう疲れてるからアンタも早く寝たほうがいいと言って玄関まで来た。靴を履き振り返る
「じゃあな西住さん」
「うん、じゃあねブルックリンさん」
「…あ、そうだ。帰る前に一つだけ」
「?」
「俺のことはさん付けしなくていいからな、それにもうちょい砕けた話し方でいいからな。…だって俺ら明日からクラスメートになるんだからさ」
「…!はい!ブルックリンさん!」
彼は思わずこけそうになる
「さん付けしなくていいっちゅーの!」
「あ、ごめんなさい。つい癖で…」
「丁寧語も使わなくてもいいんだって…」
「本当ごめんなさ…いえ、ごめん」
「うんうん、それでいいんだよ。改めてじゃあな西住さん」
ドアを開けて外へと出ようとする、だが待って、と声をかけられる
「…ブルックリンさん、ブルックリンさんも私のことを西住さん、じゃなくて“みほ”って呼んでくれて…いいからね?」
女性の下の名を読む、顔が熱くなってくのを覚えたがせっかく彼女がそれで呼んでくれと頼んでいるのだそれを無下にする事は残酷な事である。そう思い勇気を出して声を捻り出した
「じゃ…じゃあな。み…みほ!」
そう言うと彼女の顔がパアッと見る見るうちに明るくなった。
「うん!じゃあね!」
ドアがパタンと閉じられる、彼は自分の顔が今猛烈に赤くなってる事を体温で自覚した。
「こりゃ…ちょっと涼んだ方が良さそうだな…」
彼は部屋に入る事なくその日は夜中まで近所の公園でぼーっと過ごすのであった。
う〜んキャラの動かし方って難しい…早く慣れなきゃ(使命感)
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