このオヨビでない少年に祝福を! (タイラー二等兵)
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無責任学生、異世界転生する

植木等主演映画「無責任シリーズ」、高橋良明主演ドラマ「オヨビでない奴!」、吉岡平作「宇宙一の無責任男シリーズ」をごっちゃにして、能力アゲアゲにしたのが主人公です。
……って「無責任シリーズ」や「オヨビでない奴!」知ってる人はマニアックだと思う。


「……ん? ここは?」

 

学生服を着た少年、植草均は気がつくと、昏くて明るい所で椅子に座っていた。正面の椅子には、背中から翼の生えた綺麗な女性が座ってこちらを見ている。

 

「あぁ、ナルホド。(ボカ)ァ死んじゃったのかぁ」

 

「植く…ええ!?」

 

女性が何かを言おうとしてから思わず驚いた。それを見て一瞬キョトンとするものの、均は直ぐにその理由を理解した。

 

「もしかして、『植草均さん、ようこそ死後の世界へ!』とか言おうとしてたん?」

 

「わ、私のセリフを取らないで下さい!」

 

図星を突かれた女性が恨みがましく言う。

 

「ブワーッハッハッハ! イヤー、気にしない気にしない!」

 

「気にしますっ!」

 

思わずきつく返す女性に、しかし均は相好を崩さない。

 

「そもそもアンタ、その翼と現状から見て天使ってヤツでしょ? そしたらここに来る直前のこと思い出して、ああ、死んじゃったのかぁって思ったワケ」

 

いい加減な言動とは裏腹に、結構まともな理由を述べる均。

 

「マッ、後はラノベのテンプレだからネ!」

 

と、要らんことまで付け足す。それが植草均という男である。

 

「……わかりました。貴方の言動を気にしてもしょうがないという事が。

それでは改めまして、植草均さん。ようこそ死後の世界へ。貴方は先程、不幸にもお亡くなりになりました」

 

……この天使も、このセリフを言わずにはいられなかったようだ。

 

「貴方には三つの選択肢があります。一つは……」

 

「あ、それはいいや。どうせ生まれ変わるか、天国に行くかってトコでしょ? 三つ目も特典もらって異世界転生とか、そんなんじゃない?」

 

「……そのとおりです。三つ目は魔王が猛威を奮う世界への転生です」

 

「いやぁヤッパリ? まさにお約束ってヤツだねぇ。

……あ、僕、異世界転生でお願いネ?」

 

均の軽いセリフに、天使は軽く唇を噛む。しかし直ぐに気を取り直し。

 

「それでは転生に当たり、今までの転生者の現状について……」

 

「ああ、それもいいや。今のセリフであんまり芳しくないのはわかったから」

 

「え……」

 

「イヤ、だって今のセリフじゃあ、今まで何人も異世界転生させてたんでしょ? それなのにまだ送りたがるってコタァ、魔王討伐も出来ず、お亡くなりになった方もさぞかし多かったのでは?」

 

「その、とおり…です……」

 

天使は顔を俯かせ、肩を振るわせる。

 

「そんだったら具体的な数字は聞かない方がいいでしょ? そんなの聞いたらさすがに僕でも、ヤル気が殺がれちゃうかも知んないしねぇ」

 

均は腕を組み、うんうんと頷いてみせる。すると。

 

「う……」

 

「うん?」

 

「うわあああああん…、そんなに私を虐めないで下さあああい……!!」

 

天使の心は、ポッキリと折れてしまった。さすがにこれには、均も困ってしまう。均も別に、悪気があって言っていたわけではない。ただ、均の先を読む性質が悪い方に働いてしまっただけなのだ。

 

「え、ええっと、そろそろ泣き止んでくんないかなぁ。ほら、いつまでも泣いてると、そのかわいい顔が台無しだョ?」

 

「……え。かわ、いい?」

 

「うん、そりゃあもう! 僕が今まで会った人達の中でも、トップクラスだョ!」

 

言っておこう。均のこのセリフに、嘘偽りは一切無い。生前均が惚れていた()も、勿論かわいかった。だが、見た目の年齢相応のかわいさである天使とは違い、その娘は小柄で幼顔の、いわゆるロリっぽいかわいさであり、世間一般の嗜好性としては天使の方が大多数と言えるだろう。まあ、均はロリ顔の方が好みなのだが。

 

「えっと、あの、ありがとうございます……」

 

天使は顔を真っ赤にして、再び俯いた。

さて、均は一つミスをした。そう。この天使、この手の言葉に免疫のない、至って純粋な子だった。

 

(……あれ? もしかして僕、やっちゃった?)

 

実は均、何の因果か女性に好かれやすく、いわゆる天然ジゴロ状態。均本人は奥手なのに、周りの女性がほっとかないのだ。テメエ、どこのエロゲの主人公だ!

 

「えーっとォ、そろそろ話の続き、いいかな?」

 

とりあえず均は、話の流れを修正すると同時に話を逸らそうと努力してみる。

 

「ああ、はい。そうでした。それでは転生特典を選んでください」

 

意外にも普通の対応をする天使は、分厚いカタログを手渡した。受け取った均は1ページずつ特典を吟味していく。武器、防具、魔道具、能力など様々な特典があるものの、しかしどうにも均にはしっくりとこない。

 

「うーん、どうも僕には、今イチ合いそうな特典が無いなぁ」

 

均が呟く。実は均、一見優男に見えて、結構強かったりする。ただ、彼の持つ信念の関係で、特典の武具・道具の様な一芸に秀でた能力は使い勝手が悪く、オマケに元々持っているある特殊能力のために、能力系の特典にはあまり興味がないのだ。

 

「……あの、それでしたら私が特典をお選びしましょうか?」

 

「えっ? 構わないの?」

 

「はい。特典を決めきれない方にこちらで選んだ特典をお薦めする事も、偶にですがありますので」

 

「うん、じゃあ任せた」

 

彼は、あるパラメーターが非常に高かった。それはとある先輩転生者どころか、ある女神をも凌いでいるくらいの。

 

「貴方の転生特典は、私です」

 

「……え?」

 

ただし、女性絡みではそれが発揮されることは滅多になかった。たとえ周りから見て羨ましい状況だとしても、だ。

 

「えーっと、それって問題ないの?」

 

「はい。私は、死者を導く仕事をしていた女神の代理としてここにいるのですが、その方はある転生者の特典として、転生先の世界に連れて行かれました。この事に関しては、以降の禁止事項に指定されていません。なので、転生特典を私にしても問題はありません」

 

そうハッキリと言い切られてしまうと、これに関して何も言えなくなる。とはいえ、これ以上巻き込まれたくはないし巻き込みたくもない均は、何とか断るための口実を考え口にしようとするも、それよりも早く天使が続きを語り始めた。

 

「それに、これは本当に、貴方に向いた特典だと思いますよ?

植草均さんのあちらでの行動から考えて、特典に不満を持つのは、貴方の信念からすれば()()()()()()()ではないのですか? なら、状況に応じて支援が行える私が役に立ちます。

さすがに地上に降りれば力も弱まりますし、先に地上に降りた女神ほどの力もありませんが、それでも貴方のお役には立てると思いますよ」

 

ナルホド、と思う。均は無益な殺生は嫌いだ。話し合い、……均の場合は口八丁の丸め込みだが、それで済むならそれに越したことはないし、闘うにしても相手を制することが出来るなら、命を奪う必要はないと思っている。

しかし生きていくため、生き残るため、そして彼にとっての身内を護るためなら、非情になることも出来た。幸いにしてその様な経験は一度もなかったが、均にはそういった資質を秘めている。

均自身もその事には気づいており、また、たとえ異世界だろうと、そのスタンスを変えるつもりはなかった。

だからこそ、強力すぎる力では駄目なのだ。もし戦闘の最中、その残忍性が目覚めたとき、その力に引っぱられ(酔っ)て歯止めが利かなくなるかも知れないからだ。

無責任でいい加減な均とて、こんな事を「気にしない」で済ませられなかった。基本、いい奴なのである。

 

ハァ……

 

覚悟を決めた均は、一つため息を吐き。

 

「わかった。僕の特典はアンタだ。言いたかァないけど、面倒見よう!」

 

そう言って、ドン! と胸を叩いた。

 

 

 

 

 

「それでは異世界への転生を始めます」

 

そう言ったのは、均を案内していたのとは別の天使。均が転生特典を決めた直後に現れて、仕事を引き継いだのだ。因みに彼女曰く、神々(うえ)は今回の事で、以降、神や天使を特典にするのを原則禁止とすることに決定したそうだ。

 

「その魔法陣から出ないよう気をつけてください」

 

そう注意されても、均は飄々としている。やがて世界との境界が曖昧になってゆき。

 

「植草均さん。ノエル先輩のこと、お願いします……」

 

その言葉を最後に、均達は世界を越えた。

 

 

 

 

 

気がつくとそこは、中世ヨーロッパ風の町並が見通せる大通りだった。

 

「おおう、こいつァ素晴らしい!」

 

均が興奮気味に声を上げる。その様子に天使、……ノエルは軽く微笑み言った。

 

「ここは駆け出し冒険者の街[アクセル]です。魔王の城からは最も遠いので、比較的穏やかな所らしいですよ」

 

ノエルはこの世界の担当ではないのだが、異世界転生の説明をする関係で多少の知識は有していた。少しは某女神様にも見習ってもらいたい物である。

 

「へぇ、そーなん、だ……?」

 

ノエルを見た均は違和感を感じ、そしてすぐに気がついた。

 

「ええと、ノエルちゃん、だっけ? その、翼はどうしたの?」

 

そう、彼女の背中の翼が、いつの間にか消えていたのだ。

 

「この世界には亜人や獣人も暮らしてますが、さすがに天使の見た目だと騒ぎが起きてしまいます。なのでここにいる間は、神の力によって翼は消されています」

 

「ナルホドねぇ、さすがは神様。凄い! 凄すぎます!!」

 

と、褒め称えているものの、翼を消さなくてはならない理由は大体予想が出来ていた均。

 

「さて、それでは冒険者の登録に行きましょう。登録さえ済ませればギルドのクエストも請けられるようになりますし、冒険者カードが身分証明書にもなりますから」

 

「……何よりも魔王を倒すためには、冒険者にならなきゃいけない、ってか?」

 

「そういう事になりますね。

……確か冒険者ギルドはあちらの方だったと思います。行きましょう、植草均さん」

 

そう促すノエルに、しかし均は動こうとしない。

 

「……どうかしましたか?」

 

「あのさ、他人行儀にフルネームで呼ぶのは()めてくんないかなぁ。僕達、一応パートナーなんだし、苗字でも名前でもいいから、どっちか片方で呼んでほしいんだよネ」

 

言われて、成る程と頷くノエル。

 

「それでは、均さんと呼ばせていただきます。

では改めて、行きましょうか均さん」

 

「りょーかい! さあ、行ってみようかぁ!!」

 

そう言ってノエルと共に歩き出す均。彼らの冒険は、まだ始まったばかりだ。

……いや、まだ続くからね? ジャ○プの打ち切り作品みたいにしたのは冗談だからね?




天使の名前はノエルに決めました。……今後、外伝小説で名前が出たらどうしよう。


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黙って僕についてこい!

リーン、誕生日おめでとう!

(……このファンのイベント見るまで忘れてたなんて、口が裂けても言えない……)


やって来た冒険者ギルドは酒場も併設された場所だった。

 

「何だか[ルイーダの酒場]みたいだねぇ」

 

「……なんですか、それ?」

 

ノエルはルイーダの酒場を知らなかった。某女神様だったら以下略。

 

「日本の大人気ゲームシリーズに登場するんだヨ。まだ日本でギルドって概念が低かった頃だから、酒場って形にしたんだろうけど。ま、ギルドってより出会いと別れの場って感じかな? あくまで雰囲気が似てるってだけだネ」

 

「ふぅん……」

 

ノエルは感心したように頷いた。彼女は前任者と違って真面目な性格だったため、日本のカルチャーには詳しいものの、サブカルチャーには非情に弱いのだ。

 

「さてと。ギルドの窓口は……、オヤ、ガラガラじゃん」

 

そう。酒場の喧騒とは打って変わって、現在のギルド窓口は閑散としている。

 

「うーん、なぁんかイヤーな予感がすんだけど」

 

「嫌な予感ですか?」

 

「うん。……んー、ん! ま、いっかぁ! こんなん気にしたってしょうがない!」

 

一瞬悩んだかと思えば、コロッと態度を変えた。

 

「随分と余裕ですね?」

 

「人間、余裕を持って生きなくちゃ! 余裕がありゃこそツキも来るってモンだよ!」

 

「……何だか、アクア様と話してるような気分になってきました」

 

ノエルは少し遠い目をして呟く。

 

「ん? なんか言った?」

 

「あ、いいえ何も」

 

「あっ、そ」

 

均も深くは追求せずに、窓口に向かって歩き出した。ノエルは慌ててそのあとを追う。

 

「イヤ、どーも! 冒険者の登録に来ました!」

 

「はい。登録ですね。登録料は一人千エリスになります」

 

「登録料……」

 

受付嬢に言われてノエルを見る。

 

「勿論用意してあります。これ、二人分二千エリスです」

 

登録料を差し出すノエル。某女神様とは略。

 

「……はい、確かに。それでは既にご存じかも知れませんが、これから冒険者についての説明させていただきます」

 

そう前置きをして受付嬢が説明を始めたが、この小説を読む読者諸兄の大多数は【この素晴らしい世界に祝福を!】の読者でもあるだろう。また、この小説投稿サイトの【このすば】を原作とした作品でも、同様の説明がなされているはずだ。なので誠に勝手ながら、説明については割愛させていただく。とりあえず、

 

「まんまRPGと同じだネ」

 

という均の感想に集約されていると思っていただければ、ほぼ間違いはない。

 

「それでは、こちらに手をかざして下さい」

 

そう促された先には、大きな水晶玉のようなオーブが取り付けられた装置があった。言われるままに均が手をかざすとオーブは輝きだし、下に設置されたカードに文字が刻まれていく。

 

「ええと、ウエクサヒトシさんですね。ステータスは……、意外と筋力が高いんですね?」

 

均の今の姿は学生服、所謂ブレザーではなく学ランというヤツだ。その上細マッチョ系で着痩せもするため、優男に見られることが多い。もっともそのお陰で、相手が勝手に舐めてくれるのだが。

 

「あとは、……え? 知力と魔力がかなり高いですよ? ウエクサヒトシさんの瞳が紅ければ、紅魔族と言われても納得で来るほどで……、ええっ!?」

 

受付嬢は話の途中で、更に驚きの声をあげる。

 

「何ですか、この幸運値は!? これってサトウカズマさんより高い、……と言うか、測定不能って一体何なんですか!? いくら冒険者にはあまり関係がない能力とはいえ、ちょっと異常です!!」

 

ああ、やっぱり、と均は思う。そもそも生前、知り合いからは「無責任学生」と称されていたが、それとは別に「日本一の幸運男」などとも呼ばれていたのだ。それは均自身にも覚えがあることだったが、数値に出されたうえにこうもハッキリ言われると、さすがに驚きを感じずにはいられなかった。

……もっとも均の場合、普段通り飄々としているので、それに気づく人はごく僅かなのだが。

 

「……コホン。失礼しました。それではウエクサヒトシさん。職業は何になさいますか?」

 

「ああ、僕ァちょっとその辺に疎いから、選択可能な職業を一通り教えてくんないかな? 面倒だとは思うけど、お願いするよ」

 

均のその提案に、受付嬢は嫌な顔ひとつ見せずに頷いた。

 

「わかりました。それでは……」

 

そう応えて一つずつ、懇切丁寧に教えてくれる。そして。

 

「……以上になります。それでは改めまして、職業は何になさいますか?」

 

「冒険者」

 

「「……え?」」

 

これには受付嬢のみならず、ノエルも驚きを隠せない。だが、それも致し方のない事だろう。何しろ冒険者は、基本職にして最弱職。全てのスキルを覚えることが出来るが、その能力は本職には及ばず、職業補正もかからない。しかもスキル修得にかかるポイントも本職よりも割り増しになり、ものによっては倍以上かかってしまうのだ。

 

「ええと、せっかく知力と魔力が高いのですから、アークウィザードを選ばれた方がよろしいのではないでしょうか?」

 

「そうですよ、均さん。アークウィザードなら高火力の上級魔ほ……、あ」

 

そこでノエルは、均がカタログのチート武器を選ばなかった理由を思い出す。均は無言で、ただ優しい笑みを浮かべてそれに応えた。

 

「……どうやら訳ありのようですね。わかりました。それでは冒険者で登録いたします。転職したいときは、いつでも仰ってくださいね?」

 

そう言って受付嬢は、均に冒険者カードを手渡した。

 

「それでは私の番ですね」

 

そう言ってノエルが手をかざし……。

 

「ノエルさんですね。……ええっ!? 何ですか、このパラメーターは! 運が人並みな以外は、全てのステータスが軒並み高いですよ!?」

 

さすがは天使、である。因みに、ほとんどのステータスが某女神様よりも一割前後低いのだが、知力と幸運に関しては遥かに高い。

 

「これなら全ての上級職に就けます! ノエルさん、どの職業をお選びになりますか?」

 

「それではアークプリーストでお願いします」

 

ノエルは均の特典としての自分の意義を鑑みて、各種支援魔法を扱えるアークプリーストを選んだ。某女神略。

 

「アークプリーストですね。

……はい。それではウエクサヒトシ様、ノエル様。ギルド職員一同、お二人の今後の活躍を期待してます」

 

 

 

 

 

「……どうしましょうか?」

 

受付嬢……ルナと言うらしい……に送り出されてすぐ、二人はあることに気がついた。

 

「まさか、武器を買うお金が無いたぁねぇ」

 

「すみません。通常は転生特典で何とかなるものなのですが、その、私が特典だったもので……」

 

そう。普段なら登録料さえ用意してあれば、あとはチートでどうとでもなるのだが、今回はノエル自ら転生特典としたことに加え、ある理由によりノエル自身は初めてこの世界に転生者を送ったため、武器、防具を揃えるための(エリス)を用意するのを忘れていたのだ。

 

「なぁに、気にしない気にしない! 金なんて、僕も無いけど心配すんな! 黙って僕についてこい!」

 

そう言ってぐるりと辺りを見渡し、テーブルに着く三人組に目をつけ近づいていく。

 

「イヤ、どうも。ちょっといいかな?」

 

「え、何?」

 

均は三人組の紅一点、年下と思われる女の子に声をかけた。

 

「エート、冒険者の登録をしたのはいいんだけど、武器を買うお金が無くてネ。悪いんだけど、お金貸してくんない?」

 

「はあ!? ちょっと、何言ってんの? 大体、なんであたしに!?」

 

その少女は、怒りと呆れをない交ぜにしたような表情で均を睨む。が、しかし、均は相変わらず、どこ吹く風の笑顔だ。

 

「イヤー、だってキミ、ついついお金貸しちゃうタイプでしょ?」

 

「クッ、ハハハハ……」

 

均の発言を聞いた三人組の一人が、思わず笑い出した。

 

「リーン、見透かされてんじゃないか!」

 

「うるさい、キース!」

 

リーンと呼ばれた少女は、顔を赤くして怒鳴る。もっとも顔が赤いのは、怒りよりも恥ずかしさのためのようだが。

 

「しかし、よくわかったな。ええと……」

 

「ああ、自己紹介が遅れて、コリャまた失礼。僕ァ植草均。本日冒険者になったばかりの若輩者です。ドーゾお見知りおきを」

 

最後の一人が少しだけ感心した様に言うと、均がへつらい、へりくだって自己紹介をする。

 

「ハハハ、変わった奴だな。俺はクルセイダーのテイラー。このパーティーのリーダーだ」

 

「俺はアーチャーのキース」

 

「あたしはリーン。ウィザードよ」

 

リーダーのテイラーが自己紹介をしたことで、後の二人も自己紹介をした。そしてリーンは嫌な顔を作り。

 

「あと一人、ダストっていう戦士もいるんだけど……。今、ちょっと、留置場のお世話になっててね。まあ、あいつはクズだから、別に忘れてもらって構わないよ?」

 

それを聞いた均はああ、と頷き。

 

「その人がお金を貢いでる相手かぁ」

 

「貢ぐとか言わないで! 腐れ縁で、どうしても断り切れないだけだから! ……というか、本当にどうしてわかったの!?」

 

「いやぁ、昔の知り合いに、そういう面倒見がよすぎて断り切れない子がいてねぇ。雰囲気が似てたから多分そうじゃないかってネ!」

 

右手の人差し指をビッと立てて言う均。

 

「あー、それでお金を貸してくれそうだと思われた挙げ句にからかわれたわけだ、あたしは」

 

「ブワッハッハ! ゴメンゴメン!」

 

半ば落ち込むリーンに、軽い口調で謝る均。

 

「あの、均さん?」

 

そんな彼の元にノエルがやって来る。

 

「ああ、ゴメン。待たせちゃったね」

 

均はリーンに対してよりも、幾分真面目に謝った。

 

「その人は? ヒトシの彼女さん?」

 

「か、かの……っ」

 

ノエルの顔が真っ赤になるのを見て、均の笑顔が苦笑いに変わる。

 

「イヤ、彼女はここに来る途中で知り合ったノエルちゃん。どうせだからってパーティーを組むことになったんだけど、さっき言ったとおりの状況でねぇ。

……あ、ノエルちゃんは恋愛関係には免疫ないみたいだから、そーいう話題は軽めなとこからお願いネ!」

 

「止めないんだ?」

 

女の子に幻想を抱く男性なら、そういった話を振らないようにする。リーンはそんなことを思ったのかも知れない。

 

「イヤね? 免疫無さ過ぎて、ヘンなオトコに引っかかられてもイヤじゃん?」

 

「あー、なるほどねー」

 

真面目で恋愛経験のない子程、嵌まったときはどっぷりと。これとて想像の産物に過ぎないのかも知れないが、ノエルの反応を見てると思わず納得してしまうリーンだった。




次回はいい加減、クエストに行かせたい。


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アクセル一の男の中の男

このファン×リゼロ、いつ始まるんでしょうね?
でもそれよりも、スレイヤーズとコラボして欲しい。Web版のネタ的に。


ギルドの掲示板。その前に立つ均とノエル。その間には均達に背を向けて依頼を吟味している、一人の少女。アライグマの様な尻尾をゆらゆらと揺らしながら、一枚の依頼書を引っ剥がす。

 

「やっぱりこの依頼が一番いいんじゃないかな?」

 

そう言って少女……、リーンが均の目の前に依頼書を突き出した。

 

「エート、[ジャイアントトードの討伐]……?」

 

「そう。初心者向けの討伐依頼だよ。

……あなた達、ハッキリ言ってめちゃくちゃ運がいいよ? 冬の今時分は弱いモンスターは冬眠して、難易度の高いクエストばかりになっちゃうんだから」

 

二人は成る程と頷く。

 

「けれど、ならば何故、そのジャイアントトードは活動しているのでしょうか」

 

「謎の大発生だって。……まあ、理由は判ってるんだけどねー……」

 

最後の方は目を逸らしながらリーンは言った。聞いた均はフムと頷き。

 

「もしかして……」

 

「言わないで。ヒトシの推測って、なんか当たりそう」

 

「……今回のはただの勘なんだケド」

 

「……因みに、なんて言おうとしたの?」

 

勘と言われて好奇心が湧いてきたのか、リーンは思わず尋ねてしまう。

 

「リーンちゃんの知り合いが、なんかやらかした?」

 

「やっぱり聞かなきゃよかった」

 

「正解なんですね……」

 

一瞬、気まずい雰囲気に包まれたのだった。

 

 

 

 

 

依頼を請け、均達は武器屋へとやって来た。一緒にリーンも着いてきている。

 

「お金借りようと思っただけなのに、なんか悪いねぇ」

 

「別に構わないわよ。どうせ武器屋の場所もわからなかったんでしょ?」

 

「……はい。実はそのとおりなんです」

 

ノエルが申し訳なさそうに頷いた。

 

「いやぁ、ホントに有難い! 神様仏様リーン様! ってネ」

 

「そ、そんな大層なもんじゃないって!」

 

均の煽てに、リーンの頬が赤くなる。しかし満更でもなさそうだ。

 

「ほ、ほら、さっさと装備を整えてクエストに行かないと!」

 

リーンは誤魔化すように、武器を揃えるよう催促をする。均も、そりゃあもっともだ、と自分に合った武器を物色し始めた。

そして十数分後。均は安物のショートソードを、ノエルはショートスピアを購入した。

 

「ホントにそれでいいの? 特にヒトシなんて、ショートソードの中じゃ一番安物じゃない」

 

「いーのいーの。弘法筆を選ばず、……ってネ」

 

「コウボウ……?」

 

「あー……」

 

ここは異世界。弘法大師(空海)など、当然知る由もなし。

 

「僕の故郷の、有名な昔の僧侶だヨ。凄い達筆で、筆を選ばずとも素晴らしい書を書き上げたって逸話があるんだ」

 

勿論、最高の書を書き上げるために、道具の手入れは欠かしてはいなかったのだが。

 

「つまりヒトシは剣の達人なんだー」

 

「サァ、どうだろうねぇ」

 

リーンがからかうように言うと、均はとぼけて返す。

ノエルは、均が強いとわかっているものの、達人と呼ぶには程遠いことも知っている。ただ、彼がそれだけでないことも知っていて、どう反応していいのかわからず、二人のやり取りを黙って見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「……それで、結局リーンさんも着いてこられたと」

 

クエストのポイントへ向かいながら、ノエルがリーンに尋ねる。リーンは少し困ったという表情を作り。

 

「まあね。ヒトシって、自信があるのか無いのか、よくわからないのよ。だから気になっちゃって……」

 

「それは、わかる気がします」

 

ノエルは軽く頷き話を続ける。

 

「彼は大口を叩いたかと思えば、妙に腰が低くへりくだって接してきたりします。かといって二面性があるのかと言えば、それも違う気がしますし、よくわかりません」

 

「……ねぇ。そーいう話題って、本人が聞いてないトコでするモンじゃないかなァ」

 

聞き耳を立てずとも、二人の会話を聞くとは無しに聞いてしまう均。それで気分を害したりはしないが、さすがにちょっと、肩身が狭い。無責任男と言われていても、少女同士……片方は怪しいが……の会話を聞き流せるほど超人ではない。というか、やっぱり年頃の男子ではあった。

 

「それでは直接伺いますが、均さんはどういった方なのですか?」

 

「それは、……ムズカシイ問題だァ」

 

ノエルの問いに茶化すように返しているが、しかしその笑顔に少しだけ、本当に困ったという表情が隠されているのが見て取れた。

 

「そうだねぇ、自他共に認めているトコじゃ、無責任でC調で日和見主義でいい加減。だけどお節介焼きで困ってる人をつい助けたくなっちゃう。まぁ、我ながら矛盾してるたァ思ってるけどね?」

 

その答えはけれど、均の表面的な部分しか言い表されていない。だが均自身も、自分の内面がどうなのか理解不能で、上手く説明が出来ないのである。

女神程の力はないが、自身に備わる見通す目で均の複雑な心情に気がついたノエルは、軽く息をつき。

 

「自分の内面を理解できないのは、珍しいことではありませんよ」

 

そう優しく説く。

 

「……ま、そうだよネ」

 

やはり軽く、だけど優しい笑顔をノエルに向けて均は言った。

……均とノエルの、口に出していないやり取りに気づいていないリーンは、二人の会話の不自然さに首を捻っているが。そして。

 

「ところでC調って何?」

 

リーンは、現代日本でも既に死語となっている単語を尋ねるのだった。

 

 

 

 

 

「ちょっと、この二人何なのよ!」

 

リーンが思わず声をあげる。

アクセルの街の正門から少し離れたクエストのポイントに到着すると、そこには二つの大きなクレーターがあり、その周りに人の身の丈を遥かに超えた、巨大なカエルが群がっていた。ハッキリ言ってリーンでさえ、この数のジャイアントトードには怖じ気づく。

しかし均は、ノエルから各種支援魔法を受けるとジャイアントトードの群れに突っ込んでいった。いや、彼だけではない。ノエルも共にジャイアントトードへと向かっていったのだ。

それからおよそ二十分。一帯のカエルはほぼ殲滅されていた。本日冒険者になったばかり、すなわちレベル1の二人が、いくら初心者向けのクエスト対象であるジャイアントトードとはいえ、無双状態で退治しまくったのだ。リーンが声をあげるのも致し方ない。

 

「うーん、いくら害獣とはいえ、流石に良心が咎めるなぁ」

 

「これだけ倒しまくってから言う事ですか?」

 

均の発言に、槍を振り、血糊を落としながら突っ込むノエル。

 

「いや、先に言って覚悟が鈍ってもイヤだったから」

 

ジャイアントトードの討伐には害獣駆除と食肉の確保という二つの目的があり、そういった大義名分があれば均にも討伐クエストを行う覚悟は持てる。とは言え、どんな綺麗事やお題目を並べようとも、命を奪う所業には変わりがない。均の信条からすれば、あくまでギリギリのラインだったのだ。

そんな均の信条など知らないリーンは、それを謙遜と捉えた。

 

「これだったら、あたしが心配してまで着いてくる必要無かったわね」

 

少し拗ねたように言うリーン。しかし。

 

「イヤー、そんなコタァないヨ。先輩冒険者がいてくれたからこそ、思い切って行けたんだから」

 

「その通りです。私も、途中で支援を忘れてしまいましたし、パーティーでの戦闘にはまだ慣れてはいませんから」

 

均もノエルも、個対個、もしくは個対多が本来の戦闘スタイルだ。誰かからの指示を受けて複数で戦うことはあっても、戦闘中の連携に関しては素人同然なのだった。……だからこそ均は、一つ気をつけていることがあるのだが。

 

「……さてと。カエルも粗方狩り終わったし、正門前のは他のパーティーがやることになってるんだったよね? それじゃあギルドに行って、クエストの終了を……」

 

そこまで口にしたとき。

 

ドゴオォォォォン!

 

強烈な爆裂音が響き渡る。

 

「今のは……」

 

「どうやら正門の方みたいだねぇ」

 

緊張した面持ちのノエルに対し、相変わらず気の抜けた表情の均。そして。

 

(あれって、爆裂魔法……だよね?)

 

リーンは爆裂音の正体に気がつき、額に右手を添えてため息をついた。

 

 

 

 

 

均達が駆けつけるとそこでは、三人の女性がそれぞれカエルに飲み込まれかけていて、一人の少年がカエルの餌食になろうかという所だった。

 

「あの方は……!」

 

ノエルは何やら驚いているが、今はそれどころではない。

 

「ノエルちゃんは青い髪の人、リーンちゃんは制服姿の人をお願い!」

 

「ふぇ!? あ、はい!」

 

「わかった!」

 

二人の返事を聞きながら、均は少年の元に向かってスピードを上げた。

そしてあと少しで少年の元に辿り着くというところで、カエルの気配の変化に気づき。

 

「伏せろっ!」

 

何時もとは違う強い口調で指示を飛ばす。その声に咄嗟に反応して地面に伏した少年の上を、長く伸びたカエルの舌が通り過ぎた。

カエルの舌が引き戻されるよりも速く、跳躍した均がその舌を蹴り、弾力を利用してカエルに向かって更に高く跳躍。落下しながら、逆手に持ち替えたショートソードを振り下ろし、カエルの頭に突き刺した。

その一突きでカエルは絶命、剣を引き抜かれると同時に力なく地面に伏した。

 

「すげえ……」

 

少年はぼそりと呟く。見ればノエルとリーンが任されたカエルも退治され、飲み込まれかけた二人も助け出されていた。

しかし、まだ終わりではない。均は残りの一匹に向かって走り出そうとし、たたらを踏む。その、次の瞬間。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 

その声と共に一條の光が刃となって、最後のカエルを切り裂いていた。




C調。音楽用語でハ調の事。軽快な音階から、転じて(言葉や行動などが)調子いいという(主に悪い)意味で使われる。
よくお調子者と説明されている場合があるが、その場合はC調な奴となる。


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あんた誰?

リーンと制服の女性(笑)が空気気味。


均の目の前でジャイアントトードは切り裂かれ、飲み込まれかけていた少女は、放り出されるような形で救出された。

だが均は、一瞬だけ険しい表情を浮かべる。と。

 

「ちょっと! 何で貴女がここにいるのよ!?」

 

突然、青髪の少女が甲高い声を上げて、ノエルに詰め寄る姿が目に入った。

 

「おい、どうしたアクア?」

 

均が助けた少年が、青髪の少女、アクアに声をかける。

 

「カズマ、見なさいよ!この子までこっちに来ちゃったのよ!」

 

「ああん? この子って……?」

 

そう言いながらノエルの顔を見る、カズマと呼ばれた少年。しばらく見つめていると、確かにどこかで会った気がするのだが、カズマは中々思い出せない。

 

「ええと、あの……、お久しぶりです。佐藤和真さん」

 

「……ああ! 思い出した!! あんた、アクアの後任の……!!」

 

「はい。ノエルと言います」

 

ノエルは簡単な自己紹介とともに軽く会釈をする。

 

「それで、何で貴女がここにいるのよ! 神や天使は、理由もなく下界には降りらんないでしょ!?」

 

「……アクア様は時々、お菓子とか手に入れるために、日本に降りてましたよね?」

 

「なんか言った?」

 

「い、いえ! あの、私は植草均さんの特……、均さんに選ばれてこちらに来ました」

 

リーンや助けた制服姿の女性のことを気にして、[特典]という言葉を慎むノエル。

 

「ウエクサ…ヒトシ……って、もしかして」

 

カズマが振り返った先にいたのは。

 

「……どーも。只今ご紹介に与りました、植草均と申します。どうぞ今後ともお見知りおきを」

 

何時ものように笑顔を湛え、腰の低い自己紹介と挨拶をする均。ノエルは、均の返答に少しの間があったことが気にかかったが、カズマもハッキリと尋ねたわけではなかったので、こういうもんかも知れないと自己完結させた。

 

「ええと、学ラン姿って事はやっぱり……?」

 

「そのとーり! キミと(おんな)じ、ニッポンから来たんだヨ!」

 

均が右手の人差し指を立てて語る。

 

「つまり、俺がアクアを特典に選んだのと同じって事か」

 

「ああ、いや……。僕が特典を選べなくって、ノエルちゃんが立候補したんだけどネ」

 

「「えっ!?」」

 

均の説明にカズマとアクアが目を丸くする。特にアクアの驚き様は半端ではない。

 

「エリスよりも生真面目なあんたが、どういう心の移り変わり?」

 

「ええと、それは……」

 

先程の均にかけた言葉ではないが、自分自身、その心の変化がわからないので、ノエルはただ、言葉を濁すしかなかった。

 

「……あのー、話が盛り上がっているところ申し訳ありませんが、そろそろ私をどうにかしてください」

 

その声に一同が振り向くと、三角帽子にローブ姿、黒髪で赤い瞳が特徴の少女が、粘液まみれでうつ伏せに横たわっていた。

 

「お、おう。すまない、めぐみん」

 

カズマはめぐみんと呼ばれた子の元へ慌てて駆け寄ると、その首筋に手を当て。

 

「『ドレインタッチ』!」

 

と口ずさむ。

 

(ドレインタッチ……。普通に考えれば生命力の吸収だケド、どうやら分け与えることも出来るみたいだねぇ)

 

均はそんな考察をする。が、そんな思考も僅かな事。均はめぐみんの近くに立つ、彼女と同じ黒髪で赤い瞳の女の子に向かって歩いていく。

 

「……え、あの」

 

「キミがさっきの、光の刃を放った子だね?」

 

「は、はい……」

 

均はやはり、何時もと変わらない笑顔を湛えている。しかしそれとは裏腹に、途轍もない威圧感を放っていた。それを敏感に感じ取った少女は萎縮してしまう。

 

「キミのお陰であの子は助かった。それは大変有難い事だと思うよ。でも、あの技を使ったのはどうしてなんだい?」

 

何時もの飄々とした言葉とは違う。丁寧な言葉遣いだが、やはり威圧感がある。

 

「あの、ライト・オブ・セイバーなら、剣を振る感覚でコントロールしやすかったので……」

 

「なるほど」

 

均は軽く頷く。

 

「でも、もし手元が狂って、僅かに切り裂く位置がズレていたら、とは思わなかったの? 下手をしたら、あの子もカエルと一緒に切り裂かれていたかも知れないんだよ?」

 

「あ……」

 

少女はようやく、事の重大さに気がついた。一歩間違えたら今頃、と考えた途端、身体中にイヤな汗が流れる。

すると均が、普段より優しい笑顔になって、優しく少女の頭を撫でる。

 

「うん。わかってもらえたらいいんだよ。今回は何事も無かったんだし、これから気をつけてもらえれば」

 

「はい」

 

少女は素直に頷いた。

 

「……さっきはキツいこと言ってごめんネ?」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

少女も、均が心配して言ってくれた事を理解していた。それを感じ取った均は「聡い子だな」と感心する。

一方、それを見ていたカズマは。

 

(あいつの特典、本当はナデポやニコポじゃないのか?)

 

などと内心思っていた。

 

 

 

 

 

「我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法を操る者! やがては紅魔族の長となる者!」

 

少女……、ゆんゆんがポーズを決め、声高らかに名乗りを上げる。まるで厨二病の痛々しいそれは、見ているこちらが恥ずかしくなってくる。

一体どうしてそんなことになったのか。その発端はめぐみんとのやり取りだった。

ゆんゆんが言うには、めぐみんとはライバル関係にあるらしい。今日こそ決着を付けようと言うゆんゆんに対し、めぐみんは「どちら様でしょう?」と知らないフリをした。それだけではなく、カズマから聞いた『オレオレ何とか(詐欺)』扱いまでする。それを真に受けたゆんゆんは恥ずかしがりながらも、紅魔族流の名乗り上げ(自己紹介)をした、というわけだ。

 

「というわけで、彼女ははゆんゆん。紅魔族の長の娘で、自称私のライバルです」

 

「ちゃんと覚えてるじゃないっ!」

 

何事も無かったかのように平然と言うめぐみんに、突っ込むゆんゆん。ライバルというより、友達をからかい、からかわれてるようにしか見えない。実際、均の認識もそうだった。そして均のそれは、探偵の推理よりも的中率が高い。

 

「なるほど。俺はこいつの冒険仲間のカズマ。よろしくな、ゆんゆん」

 

「ゆんゆんちゃんだネ。どーぞヨロシク」

 

カズマと均がそう言うと、ゆんゆんが驚いた目を二人に向ける。

 

「二人は、私の名前を笑ったりしないんですか?」

 

「いいか、ゆんゆん。世の中にはな、変わった名前にも関わらず、頭のおかしい爆裂娘なんて呼ばれているヤツもいるんだよ」

 

「それは私のことですか!?」

 

カズマの発言に食ってかかるめぐみん。

 

「僕は理由が違うよ? 地域や風習で、人の感性なんて違うモンだかんね。こちらからしたら変わってても、親が子供を思って付けた名前を笑ったりなんて、出来やしないヨ!」

 

「あ……、ありがとうございます! ……あ、ええと」

 

お礼を言ったゆんゆんが、名前を呼ぼうとして言葉に詰まる。

 

「ああ。そう言や、キミには自己紹介してなかったね。それじゃあキミ達に合わせて……。

我が名は植草均! 最弱職の冒険者にして無責任男と呼ばれし者! 誰にも負けない幸運を持つ者!」

 

『ええーーーっ!?』

 

ノエルと制服の女性以外が驚きの声をあげる。いや、制服の女性も声をあげなかっただけで、その表情には驚きの色を滲ませている。

 

「え、ヒトシって冒険者なの!?」

 

「アレ? リーンちゃんに言ってなかったっけ?」

 

「聞いてないわよ!」

 

自己紹介の時に、「冒険者になった」とは言っているが、これはあくまでも広義での冒険者。確かに言ってはいない。というか、レベル1(既に上がっているが)であの強さだ。冒険者(最弱職)だとは、夢にも思わないだろう。

 

「でも、ジャイアントトードをあんなにあっさり……」

 

「アクアちゃんだっけ? 僕はちょっとは剣術の心得があるし、ノエルちゃんの支援魔法も受けてたかんね」

 

「……アクアちゃん?」

 

アクアは均の説明よりも、自分を女神だと知りつつも馴れ馴れしくちゃん付けで呼ぶそのことに、引っかかったようだ。

 

「お、おい! 誰にも負けない幸運って、どんだけなんだよ! 言っとくが、俺だって幸運値は高いんだからな!」

 

「ん? ルナさんは測定不能って言ってたケド?」

 

「測定……不能……」

 

カズマは、冒険者としてのアイデンティティを支える幸運値を軽く超されたことで、かなりのショックを受けていた。

 

「紅魔族の私としては、ものすごくテンションが上がるのですが、その……。紅魔族ではないのに、恥ずかしくはないのですか?」

 

「うん、恥ずかしいヨ? そしてめぐみんちゃんはその恥ずかしいことを、感性がこちら寄りのゆんゆんちゃんに、遠回しとはいえ強要したわけだネ?」

 

「うぐっ」

 

紅魔族流の名乗りを均が行ったことに、感動と同時に疑問を感じためぐみんが尋ねたが、それが為にやり込められる形となってしまう。

 

「……最弱職に窘められたんですね、私」

 

「ゆんゆんちゃん。最弱職だからって舐めちゃあ駄目だヨ。違う職業だからこそ見えてくるモンだってあるんだからネ!」

 

「あ、そ、そうですよね」

 

上級職が最弱職に注意されたことに、自己嫌悪するゆんゆん。しかしこれもまた、均に窘められてしまった。

この様に、一通りの意見の受け応えをする均。その流れが一旦途切れたところで。

 

「んんっ! サトウカズマさん。今日は何とかなりましたが、これが私の目を欺くための演技だという可能性も、捨ててはいませんよ」

 

そう言い放つ、制服の女性。均はうーんと唸り、額に右手の人差し指を当てて考え込み、そして一言。

 

「あんた誰?」

 

『あっ!』

 

みんなが一斉に呟いた。



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無責任男、少女を愛でる

今回、一話目で書いた均の特殊能力の一端が明かされます(説明はされない)。

※一部内容を修正


「それじゃあ私は、ギルドにカエル肉を運んでもらう手続きしてくるわね…」

 

制服の女性……監察官のセナが立ち去ったところで、粘液まみれのアクアが言った。

 

「アァ、それじゃあ僕達も一緒に行くョ」

 

「早く報酬を受け取って、リーンさんにお返ししないといけませんし」

 

「……ハハ、ダストにも見習ってほしいわ」

 

リーンは自虐染みた笑いを浮かべながら言った。

 

「リーンちゃん、そんな時化た顔してると、幸せが逃げちゃうョ?」

 

そう声をかけた均は、リーンの頭を手で軽くポンポン、と叩く。するとリーンは一瞬驚いた顔をし、やがて薄らと頬を染める。

 

「なっ、ヒトシ!? あなたちょっと馴れ馴れしいわよっ!」

 

リーンは手を払いのけながら言った。しかしリーンは怒ってはいるが、それは子供っぽく扱われた気恥ずかしさから来るもの。むしろ余りにも自然だったため、それがさも当たり前のことのように錯覚してしまったほどだ。

そしてそれを見たカズマは思う。

 

(やっぱりコイツの特典、ナデポとニコポじゃないのか!?)

 

彼がそう思ったとしても、仕方がないことだが。

 

 

 

 

 

ぬちゃっ、ぬちゃっ、ぬちゃっ……

 

街の中を歩いて行く、アクアと均達。

 

ぬちゃっ、ぬちゃっ、ぬちゃっ……

 

均達は先を歩くアクアから、少し距離を取ってついて行く。

 

ぬちゃっ、ぬちゃっ、ぬちゃっ……

 

そしてノエルは、遂に耐えきれなくなって、アクアに声をかける。

 

「あの、アクア様。先にお風呂に行かれた方がよろしいのでは?」

 

ぬちゃっ!

 

「お金が、無いの……」

 

「え?」

 

「お金が無いのよおおおお! みいんな借金のカタに差し押さえられて、暖炉の薪代すら無いのおおおお!!」

 

アクアは目に涙を浮かべて絶叫をした。

 

「えーっと、リーンちゃん?」

 

状況が今イチ掴めない均は、説明を乞うためリーンを見る。

 

「えっとね、冬に入る少し前くらいなんだけど、この街の近くの廃城に魔王軍幹部のデュラハンが来たのよ」

 

「アンデッド……!」

 

一瞬、ノエルが苦渋の表情を浮かべる。

 

「それで何だかんだあって、さっきカズマ達がジャイアントトードと戦ってた辺りで、戦闘になったらしいの」

 

「らしい?」

 

「あたし達のパーティー、クエスト受けてていなかったから」

 

なる程、と頷く二人。リーンは話を続ける。

 

「それでカズマが、デュラハンの弱点が水だって気づいて、アクアが水を呼び出したんだけど。……それが洪水クラスの水で、門と入り口付近の家がね……」

 

「賠償金、ですか」

 

ノエルは呆れた表情でアクアを見る。

 

「実はそれだけじゃないのよ」

 

「まだあるんですか!?」

 

アクアの性格を知っているノエルだが、更にその上があると聞いて驚いた。けれどさすがにそれは早計である。

 

「ああ、こっちはアクアのせいじゃないわよ。

カズマ達が家を手に入れた後なんだけど、この街に向かって[機動要塞デストロイヤー]がやって来たんだ」

 

「ゴメン、リーンちゃん。デストロイヤーって、ナニ?」

 

この世界に転生したばかりの均は、聞き慣れない名詞に質問をする。しかしそれに答えたのは、ノエルだった。

 

「[機動要塞デストロイヤー]は、古代文明が作り出した兵器です。移動型の要塞で、四対の足を動かして移動します。

ただ、デストロイヤーは破壊されたと、エ……、私の上司の一人が仰ってましたが」

 

「それって話の流れからすると、やっぱりカズマ達が……?」

 

「うん、そう。こっちも色々あって、最後はめぐみんの爆裂魔法で破壊されたんだけどね?

実は、デストロイヤーの動力源になってた[コロナタイト]をテレポートを使って飛ばしたらしいんだけど、テレポート先がたまたま領主のお屋敷の上で、爆発したコロナタイトに巻き込まれてお屋敷も……」

 

「ボンッ! ……ってか?」

 

均は握った右手を、目の前で勢いよく開きながら言った。

 

「ま、まあね。

それで、お屋敷の人達は無事だったらしいんだけど、テレポートを指示したカズマに国家転覆罪の容疑がかけられて。今は一時保留で仮釈放中なんだけど、お屋敷の修理費を請求されて、家中の物が差し押さえられちゃったってわけ」

 

「「なる程……」」

 

均とノエルは、哀れんだ目でアクアを見るのだった。

 

 

 

 

 

「ジャイアントトードの討伐報酬と買い取り料金、借金の返済分を差し引いて3万エリスです」

 

ギルドの窓口で、ルナがアクアにエリスを手渡す。が、アクアは。

 

「ちょっと、あれだけ苦労して3万エリスって、少なすぎると思うんですけどー?」

 

見事なクレーマーと化していた。けれどルナも慣れたもので。

 

「失礼ですが、回収予定のジャイアントトードの数に、他の方が倒したものが混ざっている疑惑があるのですが?」

 

「ぎくっ!」

 

「そもそもカズマさん達は、ギルドのクエストとしては受けていらっしゃらなかったはずです」

 

「うっ!?」

 

「それを踏まえた上で特別に、ギルドから手当として報酬をお渡ししました。それでも何か、不満がお有りですか?」

 

「いいえ……、ありません……」

 

見事にアクアを黙らせるのだった。

 

「それでは次に、ウエクサヒトシさんのパーティーですが……。

ジャイアントトード36匹分72万エリスに、()()()()()()()()()カエル肉の引き取り料金16万5千エリス、占めて88万5千エリスのお渡しになります」

 

「はちっ……!?」

 

余りにもの金額に、アクアは二の句が告げずにいる。

 

「それにしても、基本職の方が初めてのクエストでこんな成果を出すだなんて……」

 

「ブワーッハッハッハァ! いやァ、よくある事よくある事!」

 

「いえ、滅多にないと思いますが……」

 

ルナは若干引きながら、呟くように言った。

 

「……さてと。それじゃあ、……はい。僕のショートソード1万エリスと、ノエルちゃんのショートスピア5万エリス、合わせて6万エリス。

あと、リーンちゃんが倒したジャイアントトードの分、2万5千エリスだョ」

 

そう言ってお金を差し出す均。そういえば、と思いながら、リーンはお金を受け取った。

 

「えーと、次は……。あァ、そうだ。今晩の宿を探さないと」

 

「え、あんた達、まだ宿も取ってないの?」

 

「うん、取ってないケド。なんか問題あった?」

 

呆れたように言うアクアに、均が聞き返す。それに答えたのは、リーンだったが。

 

「ヒトシ、ちょっと言いづらいんだけど。今の時期って駆け出し冒険者御用達の馬小屋だと、最悪凍死しちゃうでしょ? だからみんな宿を取ってるのよ。

だから……、もし空いてるとしても高い宿になっちゃうと思う」

 

「そ、それは……。均さん、どうしましょう?」

 

アクアほど図太い性格をしていないノエルは、馬小屋を借りるのは避けたいし、凍死なんて以ての外。というか、天使が馬小屋で凍死だなんていい笑い種である。

かといって、幾らそこそこ稼いだとはいっても、高い宿に数日泊まればあっという間にお金が底をつくだろう。

 

「いやぁ、こいつァ全く参ったねェ」

 

どうやら均も、いい案を持ち合わせていないらしい。しかしそこは、日本改めアクセル一の幸運男、である。

 

「それじゃあ、ウチ来なさいよ。ベッドはないけど、馬小屋よりかは幾分マシでしょ。助けてもらったし、久しぶりに天界の話も聞きたいもの」

 

「……天界?」

 

「なあああああっ! 何でもありませんよ、リーンさん!!」

 

珍しく、めちゃくちゃ慌てるノエルだった。

 

 

 

 

 

均達はアクアの、というかカズマ達の家へと向かい、歩いて行く。均は両手で、大量の食材を抱えながら。そしてノエルは、料理に必要な道具の入った袋と薪を手に提げながら。しかも二人とも、簡単な寝具を背負っていた。中々のパワフルっぷりである。

 

「……ねえ、ヒトシ。ホントに、あたしも一緒で構わないの?」

 

そう尋ねたのはリーン。実は彼女も、カズマ達の家について行くことになったのだ。その理由は。

 

「だからさっきも言ったじゃん。お礼の意味で料理を振る舞うって。

泊めてくれるアクアちゃん達はもちろん、あーだこーだで世話を焼いてくれたリーンちゃんにも感謝してんだからサ!」

 

という訳であった。

 

「そうですよ。均さんの口八丁に、訝しみながらもお金を貸してくれたお陰で、これだけの報酬を手にすることが出来たのですから」

 

「口八丁って……。いや、否定も出来んケド」

 

流石に均の笑顔も、やや苦笑いになっている。

 

「何だか、そんな素直に感謝されると小っ恥ずかしいんだけど」

 

リーンは照れて、頬を染めて呟いた。

そんな感じで歩いて行くと、やがて行く手に屋敷が姿を現した。

 

「初めて来たけど、中々立派なお屋敷じゃない。どうやって手に入れたの!?」

 

駆け出し冒険者が屋敷を手に入れるなんて、普通では有り得ないことだ。だからこそリーンは、素直に手に入れられた理由を尋ねたのだ。

 

「……それってもしかして、瑕疵(かし)物件だからじゃないかな?」

 

「かしぶっけん?」

 

均が放った耳慣れない言葉に、リーンは首を傾げる。

 

「何か問題を抱えた物件、所謂、訳あり物件って奴だョ」

 

そう言って均は一人、つかつかと歩を進めて門の前まで来ると、荷物を地面に置き、腰を屈めて。

 

「キミ、なんて名前なの? ……そう、アンナちゃんって言うんだ。え、僕? 僕の名前は植草均。均でいいよ」

 

そう言って虚空に手を延ばすと、撫でるような仕草をする。

 

「ちょ、嘘でしょ?」

 

「そんな、ありえません」

 

アクアとノエルが驚き、リーンが訝しむ。

 

「ねえ、何がどうしたのよ?」

 

「ヒトシって言ったっけ? 彼、幽霊に触れてるの」

 

「……は?」

 

「聖職者やそれに準ずる職業なら、霊を視たり会話が出来る方もいます。けれど、物質干渉状態にない霊に触れられるという人間は、私の知る限りでは初めてです」

 

ノエルの説明で、均の異常性がようやく理解できたリーン。

 

「……あの子も驚いた顔してたわね。でも今は、凄く気持ち良さそうに撫でられてるわ」

 

「はい。本当に嬉しいのでしょうね」

 

この場にカズマがいたら、きっとこう叫んだことだろう。

 

『お前の特典、やっぱニコポとナデポだろっ!!』

 

と。

 

 

 

 

 

「ただまー」

 

屋敷の扉を開けてアクアが声をかける。しかし、中からの返事はない。

 

「ちょっと、誰もいないのー? 『おかり』って言ってほしいのだけどー?」

 

そう言って奥へと進んでいくアクア。その様子を見ていたノエルは、苦笑いを浮かべる。

 

「アクア様は、やっぱりアクア様ですね」

 

「アクアちゃんって、昔からあーだったん?」

 

「はい。しょっちゅう周りに迷惑をかけて……。でも、どうしても憎めない方なんですよね」

 

などと会話をしていた所で。

 

「助けてくれーっ! ロリッ子に襲われるうううう!!」

 

屋敷の奥から、カズマが叫ぶ声が聞こえてきたのだった。




均の特殊能力・幽霊に触れられる。ただしこれは、本来の特殊能力の副産物です。また、幽霊が視える人は偶にいるという設定なので、特殊の付かない能力です。

所で今回均は、アクア以外、リーンにも特別な待遇をしています。もちろんノエルも了承済みで、リーンはまだ気づいてません。


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色々あるよ、色々ね?

久しぶりに続きです。

※一部内容を修正


カズマは、テーブル代わりの木箱の前に着いて縮みあがっている。表情は強張り、顔色が悪い。その前には同じく木箱をテーブル代わりにして、中央にアクア、向かって右にめぐみん、左にはリーンが座っている。三人は醒めた眼差しでカズマを見つめ。

 

「……ロリマ」

 

アクアが呟くように言うと、カズマはビクリと震える。

実はカズマ、めぐみんと売り言葉に買い言葉で一緒にお風呂に入ることになり、その最中にアクアが帰宅。バレるとマズいと、カズマは全力で『フリーズ』の魔法を放ち、扉を凍らせたものの魔力切れでぶっ倒れた。

その後不用意な言葉でめぐみんの怒りを買い、彼女はカズマの体に馬乗りに。恐怖でカズマが叫び、みんなに発見されることとなったのだ。

 

「まァまァ。挑発に乗ったっていうめぐみんちゃんにだって非はあるんだし、半分は事故みたいなモンなんだから。……まァ、レディと呼べる年頃の子とお風呂に入るのは、如何なモンかとは思うケド」

 

配膳をしながら均は、カズマのフォローを入れる。もっとも、言うべき事もちゃんと言ってはいるが。

 

「待ってください。今私をレディと言いましたか?」

 

「ん? 言ったケド?」

 

それが? という表情でめぐみんを見る均。

 

「聞きましたか、カズマ! わかる人にはちゃんとわかるものなのですよ!」

 

「あー、はいはい。めぐみんは立派なレディデスネー」

 

「ほほう。言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」

 

カズマの投げやりなセリフに、切れかかるめぐみん。と、そこで均が。

 

「ハイ、それま~でぇよ!」

 

変な拍子を取りながら止めに入った。

 

「まったく。これから食事なんだから、険悪なムードはここまでだョ」

 

「「あ、ハイ」」

 

カズマとめぐみんは首を竦め、すごすごと引き下がる。

 

「ねえヒトシ。ノエルはいいの?」

 

「あー……、どーやらさっきの場面が、余程ショックだったらしくてねぇ。横になって、ウンウン唸ってるョ。まァ意識はあるから、落ち着いたらこっち来るでショ」

 

「……ホントに弱かったんだね、こういうの」

 

リーンは半ば呆れたように呟いた。

 

「ねえねえ、そんな事よりこれって、炒飯と鶏ガラスープよね?」

 

部下とも言える存在が寝込んでいるのを、そんな事呼ばわり。駄女神様は絶好調デス。

 

「ウン。チャーシューが無いからカエル肉を挽肉にして、しょう油や砂糖、酒で味付けして炒ったものを合わせて、黄金炒飯風に仕上げたんだ。

スープは鶏ガラの代わりに、カエルガラって言うのかな? それでダシを取った、鶏ガラスープ風だネ。

カエル肉とガラは、ギルドで頼んで安く仕入れたんだョ!」

 

「貴方は主夫ですか!?」

 

「ヒトシって生活力あるんだね……」

 

「そこにシビれる、憧れるゥッ!!」

 

「ロリマ、うるさいわよ」

 

なんだかまた騒がしくなってきたが、均としては人様に迷惑がかからない程度なら、少しくらい騒がしくてもいいと思っているし、やっぱりその方が楽しく食べられるというものだ。

 

「さあ、おあがりよ!」

 

「そこは新しめのネタなのな。……じゃなくて、戴きます」

 

『戴きます』

 

「あ、えーと、いただきます?」

 

食材への感謝の言葉を述べ(リーンはイマイチ意味がわかってなかったが)、カズマは炒飯を口へと運び……。

 

「こっ、これはっ!

うーまーいーぞー!!

 

今にも口から光線を吐きそうな勢いで、叫び声をあげる。

 

「こ、このスープは、濃厚なダシに香辛料を利かせて、塩味(えんみ)を抑えつつも決して薄味ではないわ。

……ああ、落ちてゆく~、ど~こまでもど~こまでも、落ちてゆく~」

 

スープを口に含んだアクアも、暗い闇の底へ落ちていくかのような発言で、均の料理を称えている。

 

「えーっとォ、キミ達幾つ? ……イヤ、このネタわかる僕も大概だけどさァ」

 

因みに、1980年代後半の料理アニメネタである。

 

「ネタというのはよくわかりませんが、ヒトシの作ったこの料理、確かに大変美味しいですよ」

 

「ヒトシ、料理スキル取ってなかったよね? それでこれだけの料理が作れるなんて、凄いじゃない」

 

めぐみんとリーンも、均の料理を褒め称えた。

 

「まァ僕の場合、両親は共働きで帰りが遅かったし、姉ちゃんは留学して家に居なかったから、必然的に料理の腕が上がっただけなんだけどネ」

 

「……寂しい家庭だったのですか?」

 

気にかけためぐみんが訊ねたが。

 

「いんや。放任主義ではあったけど、どちらかっていや家族仲のいい、明るい家庭だったと思うよ?」

 

そう言った均の表情が、ほんの一瞬だけ歪む。それに気づいたのはカズマだけで、その理由も何となく察していた。

 

 

 

 

 

食後、遅くなったリーンはお風呂を戴くことになり、めぐみんが湯冷めしたのでもう一度、と二人揃ってお風呂場へ。それと入れ替わるようにノエルがやって来て、現在避けておいた食事を食べている。アクアは均から受け取った毛布を暖炉の前に敷き、だらけている。因みに薪は、憐れに思ったノエルが自腹で提供したものだ。

そしてカズマは。

 

「ヒトシ、手伝うよ」

 

食器を洗っている均に声をかけた。

 

「いや、泊めてもらうんだし、ここはお礼の意味でも……」

 

「あー、いや、俺もヒトシに聞きたいことがあるから、そのついでって事で」

 

「うん?」

 

キョトンとした表情でカズマを見る均。やや童顔気味なので、その表情が少し子供っぽく見える。

 

「ウン、それじゃ洗い終わった食器、拭いてくれる?」

 

「ああ、任された」

 

カズマは手渡された食器を手早く拭いていく。

 

「……なあ、仲のいい家族だったんだよな?」

 

「ウン、そうだネ」

 

「友人だっていたんだろ?」

 

「まァ、それなりに」

 

カズマは少しだけ間をとり、そして。

 

「やっぱ辛いよな。親しい人達に、もう会えないってのは」

 

最後の器を洗う均の手がピタリと止まる。

 

「……バレた?」

 

「ああ。ほんの一瞬だが、辛そうな、寂しそうな、そんな表情をしてたからな。

あ、安心していいぞ。他の連中は食事の方に集中してたから、ヒトシの表情は見てなかったはずだ」

 

カズマの説明を聞き、均はひとつため息を洩らす。

 

「まったく、『無責任男』の名が廃るよねェ、これじゃ」

 

困り顔で言う均。しかしカズマは。

 

「別にいいんじゃねえか? 何でもかんでも無責任に切って捨てる様な奴だったら、むしろ引くわ。

ゆんゆん相手に本気で窘めたり、お礼と言って俺達に晩飯を振る舞ったり、そういう所があるから人間味があっていいんだろ?」

 

かなり肯定的に受け止めてくれる。そして均は、日本である少女がかけてくれた言葉を思い出す。

 

── 植草くんは、無責任なだけじゃないから、植草くんなんだよ。私だって、植草くんのお節介に助けられたから……

 

(美里ちゃん……。うん、そうだよね)

 

らしくなく思い悩んでいた均の肩が、荷が下りたかのように軽くなる。

 

「サンキュー、カズマ。随分気持ちが楽になったョ」

 

「そいつはどういたしまして」

 

いつものような笑みを浮かべる均に釣られ、カズマもまた笑顔を浮かべた。

 

「話はまとまったようですね」

 

不意に背後から声をかけられ、ビクリとするカズマ。均は何事も無かったかのように振り返る。

 

「ああ、ノエルちゃん、食べ終わったんだね。それじゃあ食器を……」

 

「いえ、これは私が洗います。それよりも、今日扱った武器の手入れをお願いできますか? 私がお借りした部屋に入っても構いませんので。

佐藤和真さんは引き続き、食器を拭くのを手伝ってください」

 

「え? あ、うん。りょーかい」

 

「ま、任された」

 

どうやらカズマと話がしたいらしい事に気づき、すんなりと引き下がる均。そして、断るきっかけを掴めなかったカズマだった。

 

 

 

 

 

均が風呂場の前を通りかかると。

 

「コラッ!」

 

急に叱りだした。そこには誰もいないが、ビクリとした気配と、風呂の入り口にかけられた「入浴中」の札がゆらゆらと揺れている。

 

「ちょっとしたイタズラなら大目に見るけど、これはシャレになんないかんね?……コラッ逃げない!」

 

均は何も無い空間をむんずと掴むと、ゆんゆんにしたのと同じ様な、有無を言わせぬ気配を発する。

 

「うん、アンナちゃんの身の上は同情に値するよ? でも、それとこれとは別だかんね。しっかりとお説教はさせてもらうよ?」

 

にっこりと笑う均。この日アンナは、自らが死んでから初めての恐怖を味わった。

それをリビングから顔を出して覗いていたアクアは一言。

 

「……オカンね」

 

いつの頃からか、「アクセルのオカン」と呼ばれるようになる均。しかし、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

一方のノエルとカズマ。

 

「……佐藤和真さん」

 

「和真でいいよ。それでなんの用だ?」

 

「では和真さん。実は均さんの事なのですが」

 

ノエルは洗い物の手を止めてカズマを見る。

 

「結果は違えど、彼は和真さんと同じ行為をして亡くなられました」

 

「結果は違えど、ってのが引っかかるが。つまり誰かを庇って死んだって事か?」

 

佐藤和真は、トラック(ではなく、実際はトラクター)に轢かれそうだった(と錯覚して)女性を突き飛ばし、自分が轢かれ(たと思い込んで、ショックで心臓麻痺を起こし)死んだのだ。

 

「はい。暴漢から少女を身を挺して守り、その凶刃によって命を落としました」

 

「……俺より断然重いじゃねえか」

 

自分との違いに落ち込むが、すぐに気を取り直してノエルに尋ねる。

 

「それで、なんでわざわざ俺に? 同じ転生者だからってのもあるだろうけど」

 

「それはひとつ目の理由です。もうひとつは、……一緒にいるときだけで構わないので、彼の様子を窺っていて欲しいのです」

 

「は?」

 

カズマにはノエルの意図がわからなかった。彼女の言い方はまるで、均を信用していないかのように聞こえるのだから。ノエルもその事に気がつき。

 

「すみません。誤解を招くような言い方でしたね。

……均さんは、命というものに敏感な方です。敏感過ぎて咄嗟の時には、必ずと言っていいくらい相手を庇ってしまう程に。

人は誰しも、ある瞬間に身を挺して庇ってしまうときがあります。ですが、均さんのそれは行き過ぎてると言っても過言ではありません」

 

カズマにとってそれは、驚きであると共に納得のいくものであった。

先程の、ゆんゆんの「ライト・オブ・セイバー」の時もそうだ。普通ならゆんゆんの上級魔法と、それをコントロールする能力に目を奪われるだろう。だが均は、下手をしたらめぐみんも一緒に死なせていたかも知れないと指摘した。

確かに後から冷静に考えれば、そういう事もあると気づく者もいるだろう。また、ある程度卓越した冒険者なら、すぐにそういう事に気づくかも知れない。

だが均は、ある程度戦いの心得があるとはいえ、あくまでも初心者なのだ。

 

「言われてみれば、確かにちょっと異常だな。わかった、俺の方も注意しとくよ。

だけどあまり期待するなよ? なんてったってウチのパーティーは、問題児ばかりで目が行き届かないかもしんないからな。その筆頭はアクアだが」

 

そう言われてノエルは苦笑いを浮かべる。

 

「ええ、それで構いません。ありがとうございます、和真さん」

 

「まあ、俺もアイツのことは嫌いじゃないからな」

 

そして二人は、視線を合わせて笑い合うのだった。




均の設定が当初思ってたより重めになった。ただし死因は、当初からの予定どおり。


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デタトコ勝負

いやっ、ドーモ。お久しぶりです。

この話を上げる前に、前回と前々回の話を一部修正しました。


一夜が明けた翌日。カズマはいい香りによって目覚める。

 

(……何だ?)

 

均から支給された毛布から出ると、軽く身震いをしてから部屋を出る。そして居間までやって来ると。

 

「なっ、これは!?」

 

木箱の上に、トースト、目玉焼き、温かなスープ、野菜サラダが置かれていた。

 

「あァ、おはよう。よく眠れた?」

 

均が笑顔で訊ねてくる。

 

「あ、ああ、前の日よかマシだったけど。……ところでこれは?」

 

「うん。どうせだから朝ご飯もって思ってネ? イヤァ、まさかキャベツに襲われるとは思わなかったケド」

 

「至れり尽くせりだな、オイ!?」

 

暖炉の薪に夕食に、毛布の支給。そしてここに来て朝食までも、だ。しかもキャベツと格闘してまで。有難すぎて、逆に怖くなってくるカズマである。

 

「イヤ、まあ、少しは自分のためでもあるし。僕だって、寒い部屋で我慢してるのは()だかんネ!」

 

「だが、晩飯はまだしも朝飯まで。それに毛布だって……」

 

「まあ、ご飯はみんなで食べた方が楽しいし、自分達だけ毛布にくるまって眠ってても気が引けちゃうでショ?」

 

目頭が熱くなるのを感じるカズマ。

 

「お前、いい奴だなっ!」

 

こっちに来てから久々に感じた、人の優しさであった。

 

「おはよー、……ってこれは!?」

 

「ああ、均さん!? 言っていただければお手伝いしましたのに!」

 

「おお、久しぶりに立派な朝食ですね!」

 

ほぼ同じタイミングで、アクア、ノエル、めぐみんがやって来て、口々に思ったことを言ってくる。

 

「なぁに、気にしない気にしない! 黙って僕に、ついてこーい! っときたモンだ」

 

「……いや、マジでここに居て欲しいんだけど」

 

カズマはぼそりと呟くのだった。

 

 

 

 

 

朝食と後片付けを済ませ、均とノエルが屋敷を出ようとすると。

 

「あ、ちょっと待て。俺達も一緒に出るから」

 

そう言ってカズマ達も家を出る準備を始める。

 

「お待たせ」

 

「……あの、私達を待たせた理由があるのでしょうか?」

 

ふと感じた疑問を、カズマに投げかけるノエル。

 

「まあ、たいしたことじゃないけど。昨日めぐみんがゆんゆんとの勝負に勝って、この魔法の球を戦利品として貰ってきたから、魔道具店に売りに行くんだ。

それで均達にも紹介しとこうと思ってな」

 

「なるほど、そういう事ですか」

 

納得のいったノエルが頷く。その様子を見ていたカズマは、しばらく黙った後こう付け足した。

 

「……ノエルは、お店に入っても暴れるなよ?」

 

「どういう意味ですか? 人をならず者みたいに……」

 

そう返した彼女を、少し遠い目で見てから。

 

「……ヒトシ。もしもの時は止めてくれ」

 

「え? ああ、ウン。わかった」

 

均にしては珍しく、要領を得ないまま返事をするのだった。

 

 

 

 

 

カズマと共に魔道具店へ向かっていると。

 

「あ、カズマくん!」

 

そう声をかけてくる者がいた。

 

「よう、クリスじゃないか」

 

カズマが挨拶を返した相手を見れば、短い銀髪で右頬には刀傷、スレンダーな体型の、均よりも少し年下と思われる少女がいた。

 

「キミ達、これからお出かけ? っていうか、そちらの人達は……!?」

 

クリスと呼ばれた少女はそう言いながら、均達に視線を移し、一瞬だが驚きの表情を浮かべる。

 

「ん? クリスちゃんだっけ? どうかしたん?」

 

「あ、知り合いに似てたからビックリしただけ!」

 

クリスは誤魔化すように、あははと笑う。とはいえ、嘘を吐いている風には見えなかったため、均もそれ以上は突っ込まない。

 

「あ、えっと、あたしは盗賊のクリス。それでキミ達は……?」

 

「ああ、申し遅れました。僕ァ植草均。昨日冒険者となったばかりの若輩者です。職業も最弱職の冒険者ですが、そこはまァ、知恵と勇気と希望と元気で乗り越えていく所存です、ハイ」

 

相変わらず、へりくだっているのか馬鹿にしているのかわからない調子で自己紹介をする均。そして。

 

「……私はノエル。均さんと同じく、昨日冒険者となったばかりの者です。職業はアークプリーストの槍使い。……クリスさん、今後ともよろしくお願いします」

 

「う、うん。よろしく」

 

最後にニッコリと笑うノエルから妙な圧を感じ、思わずどもってしまうクリス。

 

「ところで、ヒトシくんだっけ? キミ、冒険者だって言ってたけど、盗賊のスキルって興味ある?」

 

そう話を切り出したクリスが言うには、盗賊のスキルには攻撃向きのモノは少ないが便利なものが多く、冒険に役立つものばかりとのこと。

今ならシュワシュワ一杯で手を打つと言われ、「あ、こいつァありがたい」と均はその話に乗った。

 

 

 

 

 

一端路地裏に入るとカズマは、アクアとめぐみんを先に店に向かわせる。

 

「……えっと、ダクネスがいないから、カズマくん代わり頼めるかな?」

 

「え、俺かよ!? ったく、それならアクアを残しときゃよかった」

 

「え!? いや、さすがにそれは……」

 

アクアの名を聞き、少し言葉を濁すクリス。

 

「何だ、俺ならいいのかよ?」

 

「うーんと、やっぱり女性相手だと、ちょっとね」

 

「いや、ダクネスだって女性だろ?」

 

カズマが反論すると、急に真面目な顔をして。

 

「キミは、ダクネスにそれを求めるわけ?」

 

「…………確かに、あれは手遅れだったな」

 

カズマも思わず納得するのだった。

 

「……えーっと。そのダクネスって人は置いといて、そろそろそのスキルってやつ、教えてくんないかなァ」

 

所在なさげな均に言われ、ゴメンと謝るクリス。

その後クリスは、潜伏と敵感知を教えるためカズマに指示を出して、離れた場所に後ろを向かせて立たせると、近くにあった空いた大樽に身体を滑り込ませ、拾った石を投げつけてから自身はその中へと身を隠す。

石を当てられたカズマは頭を擦りながら、ぐるりと辺りを見渡して、大樽へと近づいていく。

 

「ビンビン感じるよ! カズマくんが怒りながら近づいてくるのが!

……ええと、カズマくんはわかってるよね? スキルを教えるために、仕方なくやってるって」

 

しかしカズマからの返答はない。

 

「……ふふん! カズマくんの力じゃダクネスみたいに、樽ごとあたしを転がすなんて出来ないよね?」

 

余裕を見せて、……あるいはそうであるように見せかけるために、クリスはやや挑発気味に言う。

それを聞き流し、悪い笑顔を浮かべながら、カズマは腰から鞘ごとショートソードを抜き放ち。

 

ゴンゴンゴン!

 

樽を思い切り叩き始めた。

 

「わひゃああっ!?」

 

「俺は真の男女平等主義者サトウカズマだ! 女だからって見逃してもらえると思うなよ!」

 

「わあぁ、ゴメン! あたしが悪かったからっ!」

 

ひゃははと嗤いながら樽を叩き続けるカズマに、たまらないとばかりに謝るクリス。

 

「……全く、何をしているのでしょうか」

 

「ホントにねぇ。とかくこの世は馬鹿ばかり、ってか?」

 

呆れ返ってその様子を見ている、ノエルと均だった。

 

 

 

 

 

「……あー酷い目にあった。ええと、それでだけど、これでヒトシくんの冒険者カードのスキル欄に、敵感知と潜伏が表示されたはずだよ」

 

「えーと、ウン。確かにあるねェ。後はこれを習得スキルとして選択すれば覚えることが出来る、ってぇワケだネ?」

 

「そういう事」

 

クリスが偉そうに、うんうんと頷いているが。

 

「うーん、……でも、この敵感知はイラネーや!」

 

「ええっ!?」

 

「要らないってどういうことだよ!?」

 

あまりにもと言えばあまりにもな発言にクリスとカズマは、クリビツテンギョウ(ビックリ仰天)イタオドロ(驚いた)

 

「いやぁ、だって僕、気配を読むのは得意だから」

 

「は?」

 

今度はカズマの目が点になる。

 

「ホラ、カズマと最初に会ったとき、カエルが舌伸ばすのに気付いて声かけたじゃん? あれだって、気配で攻撃を察知しただけだかんね?」

 

「……お前、どこの武人だよ」

 

作者としても色々くっつけすぎたとは思っているが、如何せん昔に創作し(つくっ)たキャラクターなのでご容赦願いたい。

 

「いや、でも気配を殺すコタァ出来ないから、潜伏は正直ありがたいよ?」

 

「そんな取って付けた様に言われても、ちっとも嬉しくないんだけど」

 

クリスは泣いてもいいかもしんない。

 

 

 

 

 

しばらくして、ようやくクリスも立ち直る。

 

「ええっと、それじゃああたしの一押しのスキル、いってみようか。

窃盗って言って、相手の持ち物を何でも一つ、ランダムに奪い取ることが出来るスキルなんだ。成功率は運のステータスに依存するよ」

 

「なるほど、そいつァ興味深い」

 

「じゃあやってみるよ。『スティール』!」

 

クリスが右手を突き出しスキルを発動させると、その手には均の財布が握られていた。

 

「お、当たりだって、重っ!?」

 

「あァ、まだ40万近くあるからねぇ」

 

「「40万!?」」

 

想定外の金額に、カズマとクリスは声を揃えて驚いた。

 

「あ。えっと、それじゃ……」

 

そう言って均に財布を返そうとすると。

 

「おやぁ? ヒトシとはスティール勝負しないのか?」

 

カズマのセリフに、クリスがびくりと震える。

 

「勝負、ですか?」

 

訊ねたのはノエル。何故だか知らないが、僅かながら剣呑な雰囲気を醸している。一瞬腰が引けたカズマだったが、自分がクリスからスキルを教わった時のことを説明した。

 

「……そういう事でしたか」

 

そう言ってクリスを見つめる目は、やや冷ややかである。一方の均は。

 

「へぇ、なかなか面白そうだネ」

 

「お、乗り気じゃないか。だったら決まりだな!」

 

「え、ちょっと!?」

 

クリスが抗議の声を上げたものの、どこ吹く風であった。

均は勝負のために覚えたスキルの習得するため、カズマに見守られながら冒険者カードを操作している。その間にノエルはクリスの横に立ち。

 

「……どういうつもりなんですか、エリス様」

 

小さく声をかけた。

 

「……やはり気付かれてしまいましたか」

 

エリスと呼ばれたクリスは頬を掻き、今までと違う落ち着いた口調で答える。そう。今の彼女の姿は、幸運の女神エリスが地上で活動するためのものなのだ。

 

「貴女の権能、偽りの姿を見抜く力は、神の能力すら凌いでますからね」

 

「誉めても何も出ませんし、アクア様の様に簡単に煙に巻けるとも思わないでください」

 

ノエルはなかなかに手厳しい。本来の生真面目な性分が強く出ているようだ。

 

「……今は時間がないので要点だけですが。神器の回収と気分転換、後は一人の女性の願いを叶えるために、です。詳しくはいずれ」

 

「……判りました」

 

ノエルが了承した直後、カズマとの会話を切り上げてクリスに向き直る均。しかし、スキル習得しただけにしては少し時間がかかっていたと、クリスとノエルは訝しむ。

すると。

 

「カズマの発案だケド、予告スティールしてみるョ」

 

「「予告スティール?」」

 

また妙なことをと、二人は複雑な表情で均を見る。しかしそういったノリが嫌いではないクリスは、すぐに不敵な笑みを浮かべて言い返す。

 

「へえ、なかなかの自信だね? いいよ、その勝負乗った!」

 

人間の姿を取っていようとも変わらぬ自身の幸運値に、絶対の自信があるクリスは了承する。

 

「オッケー。一丁ブワァーっといくかァ!

そんじゃあまずは、クリスちゃんご自慢の短剣から!」

 

「え、まずはって……」

 

「『スティール』!」

 

疑問の声を遮り発動させた窃盗スキル。その手には見事、クリスが所持する魔法のかかった短剣が握られていた。

 

「続いて僕の財布! 『スティール』!」

 

こちらも見事に取り返す。

 

「更にクリスちゃんの財布! 『スティール』!」

 

クリスの財布もゲットだぜ。

 

「マフラー! 『スティール』!」

 

首元がスッキリするクリス。

 

「右手のグローブ! 『スティール』!」

 

小石を数個握り込んだまま、右手の肌が顕わになる。

 

「左手の……」

 

「わあああ! 待った待った! もう降参! 降参だからああ!!」

 

たまらず音を上げるクリスだった。

 

 

 

 

 

なお、取り返した財布以外は、耳を揃えてクリスにお返ししましたとさ。

 

「うう~、ヒトシくんがまるで神様に見えるよう」

 

(……エリス様)

 

やや哀れんだ目でクリスを見る者が一人いたが、それに気付いた者は、幸いにして一人もいなかった。



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