【完】ベン10 CROSS 〜ボクのエイリアンヒーローアカデミア!〜 (レッドファイル)
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キャラ・設定集

ベン10を知らない方やこの作品の世界観などを知りたい方に向けて作りました。

ベンやオムニトリックス、エイリアンヒーローのイラスト募集中です!


〈ヒーローside〉

 

『ベン=テニスン』 「無個性」

 

 

無個性の少年。アメリカ生まれだが、育ちは基本的に日本。

 

中学3年生のとき、10タイプのエイリアンに変身することができる時計「オムニトリックス」を手に入れ、その後雄英へ入学。

 

オムニトリックスのことは機密事項だが、祖父と緑谷、オールマイトには教えている。周囲の者には、「自分の個性は変身能力で、オムニトリックスはサポートアイテム」ということにしてる。

 

性格は生意気で敬語も使わない。困っている人がいればすぐに手を差し伸べるが、自分が人を困らせることは気にしない。いたずら好きでおっちょこちょいな面が目立ち、子ども。なぜか10歳のころから成長しないため低身長。

 

【オム二トリックス】

 

宇宙から降ってきた謎の時計。ベンが装着すると外れなくなった。

 

ダイヤルを回すと様々なエイリアンが投影され、ボタンを押すと10分間だけ変身できる。制限時間が来ると解除され、5分ほどインターバルが必要となる。その間は赤く光る。

 

ダイヤルでの選出はたまに失敗し、選んでない異形に変身することもある。また、制限時間も割とまちまち。

 

変身した異形には全てひし形の印がつく。

 

 

『マックス=テニスン』 「身体強化」

 

ベンの祖父。ヒーロー名、「マクスウェル」で20年以上戦ってきたアメリカのトップヒーロー。様々なアイテムを使用し幾多の敵を倒してきた。その道具は現代では開発不可能なレベル。出所は不明。

 

アメリカにオールマイトがいたとき、またマックスの日本での活動の際、オールマイトとともに戦ったことがある。オールマイトからすれば二人目の恩師。

なぜかオムニトリックスのことを知っていた。

 

『グウェン=テニスン』「マナ顕現」

 

ベンの従妹。ベンと同じく10歳から体の成長は止まったが、ベン以外の人間に対しては年相応に大人。

 

個性は【マナ顕現】自然に存在するエネルギーを薄紅色の液晶体と変換し操る能力。そのピンク色のガラスは球にすればエネルギー弾。周りに張ればシールドに、足元で作り浮かせばホバーボード代わりにもなる。

 

ハイスクールに通いながら、マックスの元で、史上最年少サイドキックとして働いている。ベンと違い聡明。会ったこともないが、論文を読み、パラドクス博士に憧れる。また、サポートアイテム開発を金髪の女の子と協力して行っているらしい。

 

 

〈エイリアン〉

 

 

【ヒートブラスト】「炎」

 

 

ベンが初めて変身した異形。溶岩の体を持つ。腕や口から火炎や熱線を放ち、また吸収することもできる。炎を集めて雲を作り、筋斗雲のように飛行することも可能。必殺技はパイロナイトブースト。変身時間に使える炎を一遍に放出する大技。

 

【グレイマター】「知性」

 

 

ゴムのような体をしたグレイ型の異形。

戦闘に向かない12センチの体。だがどんなことでも推理して理解できる知能になる。

雄英筆記試験では、グレイマターで問題を予想しそこだけを勉強して受かった。

 

【リップジョーズ】「泳」

 

魚人型の異形。水中でも呼吸ができ、鋭い牙と爪、強力な顎が武器。水の中ではほぼ無敵だが、体が濡れていないと呼吸ができず陸に上がると長くはもたない。泳ぐときは下半身が尾びれになる。

 

【XLR8】「速」

 

手に鋭利な指を持つ、ディノサウロイド型の異形。そのスピードはオールマイトをも超える速さ。しかし体重が軽くパワーがないので大ダメージを相手に与えることができない。

 

【フォーアームズ】「力」

 

赤い体毛で巨体に四本の腕を持つ。怪力で弾丸をも跳ね返す。筋力があるので高く跳ぶことはできるが、巨体が災いして俊敏性は弱く不器用。必殺技はテトラマッドパンチ。4本腕すべてを使い殴る。

 

【アップグレード】「機械」

 

液体金属の皮膚を持つ、スライム型の異形。機械と同化することができ、その機械の改良が可能。体内のプラズマエネルギーを顔から光線にして放つこともできる。

 

【ワイルドマット】「獣」

 

眼のない四足獣型の異形。変身中は唸り声を上げるだけで、言葉を話すことができない。マークの位置は左肩。

野生本能による優れた身体能力を発揮する。反響定位や鋭い嗅覚と聴覚によって周囲を探知する。口がくさい。

 

 

【スティンクフライ】「蟲」

 

昆虫型の異形。

薄い羽根で空を高速で飛ぶことができ、顔の側面から管状に伸びた四つの目や口から、嫌な臭いがする粘液を発射して敵の身動きを封じる。粘性のそれは引火する。外骨格が非常に硬く、尾の先端は刃物状になっている。くさい。

 

【ゴーストフリーク】「霊」

 

体のひび割れを不気味に動き回る単眼を持つ、幽霊型の異形。

透明化や物体のすり抜けが可能。変身するたびに違和感がある。

 

【ダイヤモンドヘッド】「硬」

 

頑丈な結晶の体をした異形。

ほぼ完全な防御力を誇り、光線を反射させることもできる。腕を剣や盾のように変形させたり、破片をダガーのように飛ばして戦う他、地面から結晶体を隆起させての攻撃や防御も可能。轟の氷結と似てるが形成速度は向こうが上で硬度はこちらが勝る。

 

【ベンノーム (リーバック)】「肉」

 

敵連合の脳無の個性因子がオムニトリックスに入りこんだ結果、ベンが変身した姿。

特徴的な脳みそは半透明なアーマーでカバーされておりその隙間からは緑色の瞳がのぞく。服もオリジナルとは違いベンが来ている服。

初めてベンが変身した時には途中で自我がなくなり暴走した。

 

【キャノンボルト】「球」

 

黄色いアーマーが体中にあり、アルマジロのように丸まり攻撃する肉弾戦が得意なエイリアン。アズマスによるオムニトリックスのシステム変更で変身できるようになった。首が無く、胴体の部分に口や目がある特殊なフォルム。ベンが使用した感想としては「戦ってて一番たのしいエイリアン」

 

〈敵side〉

 

『ケビン=レビン』「吸」

 

 

敵連合の一人。その個性は【吸収】。「力」や「性質」を吸収するもので、電気などを体にため込んで攻撃できる。ベンのオムニトリックスの力を吸収したことで10タイプの異形全てに制限なしで変身できるようになった。

 

『ケビン11』「混」

 

ベンから吸収した力を使いすぎたことで10タイプと自らの姿がまじりあった姿に。元に戻ることもできなくなってしまった。

 




なにか質問があればなんでもいいので作者まで!出してほしいエイリアン等も待ってます!

少しでもベン10 に興味を持ってもらえたらこれ幸いです!


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プロローグ
1話 宙からの贈り物


ベン10 を久しぶりに見て書いてみました!とりあえず何話が書いて、好評で有れば続きを書きたいと思います!


「あーあ、今日で夏休みもおわりかぁ。明日からまた日本だよ…」

 

アメリカの人里離れた森。物好きしか立ち入らない、とあるキャンプ場。

 

薄いエメラルドカラーの瞳を曇らせ、パチパチと燃える焚火を前に、ベンは呟く。

 

彼の愚痴に返答するのは祖父のマックス。

 

「この夏休みは楽しかったか?ベン」

 

「そりゃもちろん!!キャンプに博物館に、化石堀り!!サイコーだったよ!…このジャジャ馬従姉妹がいなければもっとよかったけどね!」

 

ベンの視線の先にはオレンジ髪の女の子。その顔立ちはどことなくベンに似ている。

 

名はグウェン。彼女はベンの悪態に反論する。

 

「誰がジャジャ馬よ。あたしはおじいちゃんと二人で旅行だと思っていたのに。あんたみたいなチビが一緒で大変だったわよ!」

 

「誰がチビだ!!」

 

「どー見たってチビじゃないの。15歳で身長150㎝もないなんて?ねー、おじいちゃん」

 

「これこれ、やめなさいグウェン」

 

祖父に止められるも、まだ溜飲が下りないグウェン。思わず、刺々しい口調で言い放つ。

 

彼に現実を突きつけるように。

 

「あんたみたいなやつは、やっぱりヒーローになれないのよ」

 

急な言葉にベンはもう反論。

 

「はぁ?!意味わかんないよ!ボクはヒーローになるんだ!じいちゃんみたいに、めっちゃくちゃ強いヒーローに!!」

 

「"無個性"のあんたが?」

 

「うっ…」

 

「いい加減現実みなよ。無個性でヒーローになった人なんていないんだよ?」

 

「そ、そんなもん知るかよ!このヘンテコ魔術師くそ女!!」

 

逃走する様に、ベンは森に走る。

 

口論になると大体はグウェンが勝つ。 

 

喧嘩しようにも、相手は"個性"という特殊能力を持っており敗北は自明。

 

こうして無個性のベンはいつも捨て台詞を吐きながら場を離れるのだ。

 

森へ消えていく彼をマックスが制止するも聞かない。そのまま闇に溶けていく。

 

「ベン!!…グウェン、言いすぎだぞ?」

 

「…けど、アイツももう高校生だよ?これ以上夢見るのはみんなに迷惑がかかるよ」

 

「…」

 

マックスは言葉を返さない。その真意はグウェンと同じなのか、それとも異なるのか。それは本人にしかわからない。

 

「くそう、グウェンのやつ。言いたい放題いいやがって…ちょっと自分が強個性だからって調子に乗ってるよ絶対…」

 

グウェンに悪態をつくベン。しかし彼女の言葉が何一つ間違っていないことはベンがよくわかっていた。

 

この世界の人間の8割は、個性と呼ばれる、何らかの特異体質を持って生まれる。そんな超人社会で、個性を行使して人々を救うことを生業としたのがヒーロー。

 

ベンの祖父であるマックスは、その身体強化系個性と多彩なサポートアイテムを駆使し、アメリカでもトップクラスのヒーローとなった。

 

「あーあ、僕もじいちゃんみたいに個性があったらなぁ」

 

そんな祖父に憧れたベンだが、彼は世界総人口の2割に入る非超人、つまり"無個性"であった。

 

無個性でヒーローになったものはいない。この事実は、ベンがヒーローになれないことを指し示すものであった。

 

今は中学3年生の夏休み。もう進路は決めなければならない。

 

「あーあ、日本に戻ったら進路考えなきゃ…ヒーロー科も諦めなきゃいけないかなぁ。けど、グウェンの言うこと聞くようでなんかヤダな…」

 

ブツブツと愚痴を溢す。止めどなく溢れるネガティブは頭の中をグルグルと巡る。

 

終いには、こんなことを宣う始末。

 

「はぁ、なんか空から個性でも降ってこないかなぁ」

 

中学生ならば誰しもが考える、空から何か降ってくる妄想。ベンの場合、その何かは"個性"だった。

 

もちろん現実の世界ではそのようなファンタジーではない。中学生がこんな妄想を口にしていたら、アメコミの読みすぎだと一蹴されるだろう。

 

ただ、この世界は、夢が現実となった世界である。

 

「あ、流れ星だ。なんかおっきいな…」

 

きらりと光る流れ星。赤い尾を伸ばして空を駆ける。

 

流れ星の進路の先にはマックスたちがいる方角。

(こんな近い距離の隕石なんて拝めないぞ!)

 

そう思って、一歩踏み出した矢先だった。

 

キュイン

 

「え、なんか方向変えて‥!!うわぁぁ!!!」 DOMMMMM!!!!

 

 

【突然空から降ってきた】

 

「何だ、なんなんだ。隕石が落ちた?急に曲がって?もう少しずれたら死んじゃうところだったよ!!」

 

驚愕しながらも、墜落した隕石の元へ駆け寄るベン。

 

「…うわぁぁ。初めて隕石なんて見たよ。しかも発見者第一号!…ん?なんか隕石の中に入っている?ってうわぁ!」

 

地面が揺れ、不本意にもクレーターへと降る。お尻をさすりながらも、隕石の中を見る。

 

そこには大型のダンゴムシを模したような機械が。ベンが見たことに反応するように、カシャリとその機械は開封される。

 

さらに中には、見たこともない時計が入っていた。

 

「かっこいい…」

 

奇抜なデザインの時計。緑と黒の幾何学模様。その色合いに心が惹かれる。

 

光に吸い寄せられる虫のように、ふわっと手を近づける。それが、始まりだった。

 

GYWAA!!!

 

まるで生きているかのように、その時計はベンの手首に飛びかかる。そしてそのまま皮膚と結合し外れなくなる。

 

必死に腕を振るも、ぴったりとくっつき離れない時計。

 

「うわぁっ!!なんだこれ!!急に、う、腕にくっついて!!んー!!取れない!なんで」

 

【腕に巻き付いた不思議なウォッチ】

 

「何だよこれ…変な時計だな…時計なのか?」

 

手首のそれは、時計にしては少々大きい。不思議な形だ、と思いながら観察する。

 

「あ、ボタンがある」ポチ

 

小さなボタンを押すと、キュイーンと起動音が鳴り時計が光る。瞳と同じ黄緑色に光る時計にベンは感動する。

 

この時計は神様がくれた特別な何かだと思い込む。

 

光を放ったまま時計の中央が盛り上がっている。黒で縁取られた菱形の中には、人型のシルエットが映されていた。

 

「おお、かっこいい…」

 

まだ精神が年齢に追いついていないベン。吸い寄せられるように中央ボタンを押す。人差し指で、そっと。

 

ポチッ

QBAAN!!!

 

大きな緑光がベンを包む。

 

ベンは錯覚する。一瞬だが、体が自分のものじゃなくなるような感覚。それはすぐ収まる。

 

ドクンドクンと心臓が脈打つ。

 

皮膚が、骨が、内臓が。全てが変わっていく。

 

偶然曲がった隕石、勝手にくっついた時計、ボタンをしたベン。その行き着いた先は、

 

「…う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!体が、も、燃えてる!!!!!」

 

体中から炎を出すロウソク人間だった。

 

【スーパーパワーを僕は手に入れた】

 

【ベン10】

 

 

 

 

 




・中学3年の夏、炎を司る異形に変身したベン。彼の人生はここから大きく変わる。
・原作である「ベン10」はYouTubeで1話目を見ることが出来ます!



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2話 山火事騒動

意外とベン10を知っている人がいてうれしいです。この話まではほとんど原作一話からもってきてます。次回からはオリジナル展開に入ります


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!体が、も、燃えてる!!!!!」

 

驚くのも無理はない。実年齢15歳だが、彼の精神年齢は10歳レベル。体が急に異形化して平静を保てるわけがない。

 

「熱い暑い熱い暑…い?いや、アツくない?俺の体が燃えてるのに?」

 

ベンの変身した姿。それは言ってしまえば炎人間。身長は180㎝ほどで、声も重厚なハスキーボイス。一人称までも変化している。何と言ってもその特徴は燃える体。メラメラと太陽を模したかのように手、頭、足が燃え、体には炎の道線が通っていた。

 

「何だか知らないけど、夢にまで見た個性か?でも…なんで?あの時計のせいか…?」

 

手首にあった時計はベンの変身と同時に消え、それに似たマークが胸のあたりについている。時計を押した瞬間に変身したことから、この姿の原因が時計であることには間違いなかった。

 

だか、そんなことはどうでもいい。夢にまで見た異能。これを試さずにはいられない。

 

「炎の能力者、ベン テニスン!!悪よ、成敗してくれる!!なんちゃって」

 

 BOAAA!!

 

手からエネルギー弾を出すポーズをとる。一般人がすれば、【ああ、かめは〇波ね】と失笑されるベンの行動。しかし今は違う。なぜなら彼の手からは炎の弾が放出されたからだ。小さな炎の弾は樹木にぶつかり、その表面を焦がして消える。

 

「おお!!すごい!次は…」

 

手のひらに集中し先ほどの弾よりも大きな炎球体を作る。それこそ太陽のミニチュア版だ。ベンは力を籠め投げつける。

 

バキッバキッバキ!!

 

放たれた火球は先ほどとは違い、並んだ樹木を三本も貫通した。

 

「イエイ!!!ストライク!!!」

 

その威力とコントロールに喜ぶベン。だがしかしすぐに我に返る。ここはキャンプ地。そして、森である。そして彼が出したのは、炎の弾。そのため、

 

「や、やばい!!完全に山火事になっちゃてるよ!!ちょっとポーズとっただけなのに!!」

必然的に、辺りは火の海と化す。

あわてて手で火元を消そうとするベン。しかし傍から見れば異形の放火犯である。燃えているベンが触れれば触れるほど炎は大きくなっていく。

 

「じいちゃー―――ん!!!!」

ベンの奇行から数分。

 

「ベーン!!どこー!!!っ!!」

 

どこからともなく自分を呼ぶ声がする。声を聞きつけたベンは発信源へと歩を進める。

 

ベンと相対したのは消化器を持ったグウェン。彼女のことは正直嫌いだが、今のベンはそれでもグウェンが天使に見えた。

だがその天使は、目の前にいる炎の悪魔をにらみつけていた。その目に気づき誤解を解こうとする。

 

「グウェン!!俺だよ俺!!ベンだよ!!」

 

「はぁ?どっからどう見ても炎の異形型でしょうが。食らいなさい!!」

 

ブシュ――――!!!

 

さすがは来年からサイドキックのグウェン。個性など使わずとも消火器による粉噴射でベンを圧倒する。顔面に大量の粉を食らったベンは思わずよろける。

 

「ぐへぇぇ!!ぺっぺ!!何すんだよ!!俺だってわからないのか?!」

 

「あんたベンをどこやったの!早く白状しないと、おじいちゃんが来て痛い目見るわよ!それともあたしが見せてあげようか?!」

 

「…ほんとにひどいな、このじゃじゃ馬いとこ!!ちょっと個性が強くてちょっと才能があって、来年から最年少サイドキックだからって調子に乗るなよ!!」

 

「…」

 

「オレンジ髪!このタコ!」

 

「こっちが悲しくなるくらいにアホな喋り…あんた…ほんとにベンなの?!」

 

「だからそういってるだろ。実は…」

 

不可思議な時計と山火事の説明を入れる。そして、策を仰ぐベン。

 

「ここからどうすればいい?!」

 

「それは…」

 

「グウェン!!大丈夫か!!そこのお前、痛い目を見たくなかったらわしの孫から離れろ!!」

 

2人が解決策を思案していると、祖父のマックスが孫を守ろうと走ってくる。確かに、孫が炎の人間と対峙していたら、”襲われている”と思うのも無理はない。憤る彼にグウェンが説明を入れる。

 

「おじいちゃん違うの。こいつ、確かに身長も声も違うけど、間違いなくベンなの。アホさ加減でわかったわ!」

 

「お前、燃やしてやろうか?…じいちゃん!!なんか空から降ってきた時計を付けたら変身したんだ!ホントだよ!」

 

「時計…変身…まさか!?…わかった。お前はベンなんだな?信じるよ」

 

「ありがとうじいちゃん。で、どうすればいいかなこの状況」

 

先程よりもひどくなっている山火事。もう普通の人間では太刀打ちできないほどの火災となっていた。

 

そんな状況下でヒーローのマックスは打開策を思いつく。

 

「うむ…ベン、出せる炎は温度調整できるのか?」

 

「ああ、たぶんだけどできる。なんとなくわかるんだ」

 

「よし、ならば最高温まで達した炎で今ある炎を包み込め。そしてそのまま河川にまで追い込むんだ。いけるか?」

 

「やってみる。てゆーかできなかったら俺捕まっちまうよ」

 

「今の時点で捕まっちゃうんじゃない?」

 

「はは、まあそうならんようにわしが何とかする。じゃあ、頼んだぞ!」

 

「おう!」

 

ベンの体中の炎が両手に集まる。そして集約された炎はその拳から飛び出す。

 

「おらぁぁぁ!!!!!」

 

BAAAAMM!!

 

 

先ほどまで森の中央で燃え盛っていた炎は、ベンの放つ青白い焔に飲み込まれていく。二種類の炎が森を覆うその姿はまるで地獄。個性で宙に浮かんだグウェンはそう思う。しかしマックスは異なることを案じていた。

 

(もし、ウォッチが敵に回っていたら、この災害が町にまで降りかかっていたのか…だがこの騒ぎでばれてしまったかもしれん)

 

「おじいちゃん、終わったっぽいよ」

 

「ん、ああ」

 

「ふー、何とか終わったぜ、じいちゃん。さすが俺だぜ」

 

「…まあ後の処理はわしに任せろ」

 

パチパチと焚き火が心地いい音を立てる。

ことが終わり、三人で焚き火を囲っている。幸い、周辺にはベン達三人しかいなかったのでベンが放火した姿は見られずに済んだ。だが当のベンは未だに変身したままであった。

 

「事の始まりも終わりも、あんたせいなんだからね!」

 

お小言は止まらない。ただでさえうるさいのに、こちらが悪いことをしたらもう手がつけられない。ので、

 

「…!!」ニヤッ

 

BO!

 

「キャアッ!!」ブシュ―!!

 

グウェンの言い方にむかついたベンは、彼女のつま先を少しあぶる。驚いたグウェンは消火器で消すが、その噴出の勢いでこけてしまう。

 

「あははどうしたんだよ優等生!!」

 

「ベン!!あんたねぇ…」

 

「辞めんか全く…」

 

「もう無個性の俺じゃないんだぜ?これからは口のきき方に気を付けるんだな、グウェン!」

 

「はぁ?!あんたやってやろうか?!…それより、あんたずっとそのまんまなの?暑苦しいんだけど」

 

「別に俺はこのままでもいいぜ。やっともらった個性みたいなもんだ」

 

「それじゃあ飛行機にも乗れないし、日常生活にも困るわよ。それに」

 

グウェンがベンに棒アイスを渡す

 

「アイスも食べれないわよ」

 

渡した瞬間アイスは溶ける。というかほとんどの食べ物はベンの近くにいるだけで焦げる。

 

「…やっぱりイヤダ!!元の体に戻りたい!!も」

 

pi pi pi pi pi pi QBANNN

 

胸のマークが点滅し、その音とともに炎人間は赤い光に包まれ、元のベンに戻る。

 

「やったぁ!!元の姿、元の僕だぁ!!!」

 

「何だ、元にも戻るんだ」

 

「時間制なのかもしれんな。ベン、変身してどのくらい経った」

 

「大体10分くらいかな?よーし、これでボクもヒーローになれるぞ!!!明日ママにいって」

 

「ベンよ、そのことだがな」

 

「何?じいちゃん。もし目指すなってことならお断りだよ?」

 

ベンは生意気に口を利く。もう変身するなと言われると思ったのだろう。ベンはそれに反対である。ずっと願っていた特別な、自分だけの能力。それを行使したがるのは無理もないことだ。だがマックスの言おうとしたことはそのことではなかった。

 

「日本の高校で雄英高校というところがあるだろう?」

 

「うん、偏差値70越えの頭がおかしいところだよね」

 

「あんたも十分おかしいわよ。反対側に」

 

「うるっさいな!ボクは普通高校からそいつらを追い越すんだよ!!」

 

「ベン、聞きなさい」

 

「あ、うん」

 

「ベン、お前はな、雄英高校へ行くんだ」

 

「はい?」

 

ここから、無個性である少年ベンは様々な出会いを介し、ヒーローとなっていく。

何の力もなく、学校でもヒーローとなれなかった、いわゆるナードだった彼は、どんなヒーロ―になるのか。それは神のみぞ知る。

 




よく考えたらベンとデクって立場似てません?力はないけどヒーローに憧れて、人助けもしようとするし。まあ10歳のベンはクソガキ要素も満載ですけど(笑)

お気づきかもしれませんが今のところベンは10歳の頃のベンを想定して書いてます。
エイリアンフォースのベンの性格とかって10歳で世界を救うヒーローを経験してるからこその性格だと思うし…どうですかね?



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受験期
3話 出会い


さあオリジナル展開。ここで無理ってなる人が出てくるかも…まあそれが創作ってやつですよね!応援よろしくです!


山火事騒動を収めた後、ベンは2人に見送られ、帰りの飛行機に乗っていた。揺れる機内で考えるのはウォッチのこと。

 

「この時計…一体なんなんだろうなぁ。また変身できるかなぁ」

 

ベンが不安がるのも仕方がない。喉から手が出るほど欲しくて、だけど絶対手に入らない力。この時計は自身に希望をもたらしてくれたからだ。騒動以降は変身していないので、また変身できるという確信はない。

 

「ここで使っちゃおっかな。けと流石にここで昨日みたいな炎人間になるのは危ないし…日本に帰ってからかな!」

 

そう1人でぶつぶつと呟くと、愛読書である『アメリカヒーロー名鑑』を取り出し読み始めた。

 

「はぁ、この時計もだけど、じーちゃん、なんであんなこと言ったんだろ。まあ言われた通りやるけどさぁ」

 

日本に帰ってきたが時差ボケで寝れなかったベンは、朝6時に海浜公園をうろつく。そのつぶやきの内容は昨日のマックスの発言である。

 

【雄英へ行け】。これまでのベンには、超有名ヒーローを輩出する雄英は関りのないものであった。仕方ない。彼は無個性で成績も下の上なのだから。

 

「雄英ねぇ。ボクの学力じゃ厳しいんだよね。実技試験はまだ、この時計、いや、オムニトリックスがあるから何とかなりそうだけど」

 

そうにやつきながら左手首のウォッチ、いや、オムニトリックスを見る。オムニトリックスという命名はマックスから。

 

「とりあえず学校まで時間あるし、この海浜公園で色々試してみよう!炎人間以外も変身できそうだったし!いや、炎人間だと味気ないな。うーん…そうだ!ヒートブラストって呼ぶことにしよう!」

 

自分の異形型の名前を決めたところで、ベンは周りを見渡す。比喩なしでここら一帯にはゴミの山が連なっており、少し苦笑いをする。

 

「…久しぶりにここに来たけど、ここまで汚かったっけ?まあ隠れやすくていいけど。っさ、試してみるか!確か、ここのボタンを押すと…」 ポチッ

 

ボタンを押すとその真ん中が円柱型に盛り上がる。

 

「で、えーと、昨日はすぐ押しちゃったけど…あ、やっぱりだ!この盛り上がった所は回せるんだ!このダイヤルを回したら…うん、いろいろなシルエットがある。これを押したら変身か…えーと、全部で、10種類!頼むから変身してくれよ?よーし、まずはこの宇宙人っぽいやつ!!」

 

QBANN!!

 

勢いよくボタンを押すベン。そこにあるのはただの好奇心。まるで10歳の子がクリスマスプレゼントをもらい、包みを破く時のよう。緑色の光とともに彼の体は変異していく。しかし、その姿は、ベンが思ったものとは違った。

 

「んん?目の前の土管が大きくなった?いや、僕以外のすべてが大きく見えるということは僕が小さくなったということか?僕の目の前にある土管が160㎝くらいだとして、今の僕は…12センチくらい?なんてこった!!まさかリンゴ一つ分の体になるなんて!こいつは、何ができるんだ?ビームが出せる?いやでもそんな射出機構はない。それにこの小さい体ではそこまでの効果はなさそうだ。であるならば毒などの個体防御性能が高いはず…んー!?僕はなにをいってるんだ!?!」

 

甲高い声でペラペラと喋る。自分で思考し喋っているはずなのだが、その思考に自分が追い付かない。少しの頭痛を伴いながら近くに落ちている手鏡で自分の姿を確認する。

 

その姿の最大の特徴は体長。12センチとかなり小さめである。そしてその小さい体の5分の1を占める大きな目。その姿は宇通人のグレイ型を想起させた。

 

「とりあえずこの体で何ができるか試さなきゃ。時間は10分しかないし…っ!?」

 

 

身を隠し、呼吸を小さくする。ゴミ山の向こうから、ザッザと足音がしたからだ。幸い、ここは身を隠すには最適な場所。12㎝の小人を誰がここから見つけられるだろうか。

 

歩いてきたのは二人の男性。と言って一人は服のサイズが合ってないガリガリの中年。もう一人はもじゃもじゃ頭の中学生であった。

 

ぼそぼそ声がだんだんとはっきりしたものに変わっていく。

 

(親子かな?でもあまりにも似てないし。こんな朝からゴミ山に何の用だ?怪しいな?敵か?!)

 

自分を棚に上げ疑うベン。二人の会話が思わず気になり耳を傾ける。

 

「…うだい?緑谷少年。だいぶ筋トレには慣れてきたかい?」

 

「はい!!さすがオールマイトが作ってくれたメニューです!!一か月だけだけど、それでも筋肉がついてきてるのがわかります!!」

 

(オールマイト?何を言ってるんだあいつ。一緒なのは金髪なだけじゃないか)

 

オールマイト。アメリカヒーローオタクで日本のヒーローをあまり知らないベンでも知っている。彼の体はシルエットでも一目でわかるほどムキムキ。目の前にいる細い中年がオールマイトであるはずない。

 

そんなことを考えながら、なお耳を傾ける。

 

「ハハハ!!そりゃよかった!!私の後継者になるならあのくらい平気でこなせるようにならなきゃな!!」

 

「うっ!わ、分かってます。平和の象徴、オールマイトの個性を引き継ぐなら、それ相応の力が必要、ですよね!!!」

 

「うむ!皆が繋いできたワン・フォー・オール。その器はそれ相応のものじゃないとな!!ハーハッハッハ!!」

 

ムキィィン!!!

 

バルクアップするオールマイト。キラキラした目の緑谷。そして

 

それをみて愕然とするベン。

 

(ちょっとまて!!なんだ今の!!ガリガリが急にオールマイトに!?それに発言の節々が現代の常識じゃ考えられない言葉だったぞ?!いやおちつけ。僕はオムニトリックスを得て個性持ちみたいになってる。常識を、固定観念を捨てろ。後継者、個性の引継ぎ、ワンフォーオール。これらを総合して判断すると)

 

普段より頭が冴えるベン。おそらくこの思考力は今変身している異形型の力なのだろう。

 

「あの緑髪が次のオールマイト役になるってことか!?」

 

…ただそれでもおっちょこちょいの子供っぽい性格はそのままであるが。

 

「っむ!!誰かいるのか?!」

 

(まずい!!つい大声を!だけどこの体ならいくらでも隠れることは可能…)

 

pi pi pi pi pi pi QBANNN

 

残酷なタイムアップの音とともに危険を告げる赤光が行き渡る。近くのドラム缶の陰に隠れていたベンは、元に戻ったことで丸見えとなる。

 

「あ」

 

「君は、いつからそこに‥?」

 

「いや、その、じゃ、僕はこれで!!」

 

「待ちたまえ少年!!」

 

BUOON!!

 

超速で回り込まれたじろぐ。

 

「…平和の象徴が子供相手に本気出してなんなの!?いくら日本で一番すごいヒーローだろうとじーちゃんにはかなわないんだぞ!!」

 

「じーちゃん?いやそれより君はどこまで聞いてた?」

 

「後継だとか個性の引継ぎだとかは聞こえてたけど何のことかはさっぱりだよ」

 

これは真意である。先ほどまであんなに回っていた頭も今ではさっぱり。先のことも、まるで夢の記憶のように断片的にしか思い出せないのだ。

 

「そうか…少年。できれば今日のことは黙っていてほしい。それが君のためでもあるんだ」

 

「まあ…言いふらす友達もいないからいいけどさ。二人は何してたの?」

 

ベンの質問にしどろもどろ答えようとする子ども。そんな彼を制すかのようにオールマイトは答える。

 

「えっと…その」

 

「彼は個性がうまく使えなくてね。私と個性が似ているようだから一緒に特訓しているのさ!」

 

「へー。特訓かぁ…そうだ、僕の個性も見てよ!」

 

新しく得た力を誰かに見せずにはいられない。これは10代の少年ならば誰にでも覚えがある心境であろう。

 

「個性?」

 

「そう。僕はこのオムニトリックスのおかげで個性をゲットしたんだ!」

 

「オムニトリックス?どこかで…それになんだって?個性を得た?」

(まさか…奴がかかわってるのか?)

 

「そう!まあ見ててよ。このボタンを押すと…あれ、なんで変身できないんだ?!さっきまで出来たのに!?」

 

先ほどまで緑色に光っていたオムニトリックスは、まるで何かを警告するかのように赤く光っていた。ベンがどのボタンを押そうともキュイーーンと間抜けな音を出すばかりで反応がない。

 

「ふむ、まあ気になることも多いからね。緑谷少年とともに見てあげようじゃないか!少年の名は?」

 

「僕の名前はベン。ベン=テニスンさ!!」

 

「テニスン少年か。ん?テニスン…もしかして君のおじいさんはマックスさんか!?」

 

「え、そうだけど」

 

「ええ!!君、あのマックスの孫なの?!」

 

「誰だよお前。それに人のじーちゃんを呼び捨てして」

 

「ああ、ごめん。僕は緑谷出久。君のおじいちゃんはヒーローマニアなら誰でも知ってるよ!!万能ヒーローマックス!!30年以上前から活躍する、アメリカントップヒーローじゃないか!!」

 

急に会話に入ってくる少年、緑谷に驚くも、祖父を褒められ機嫌を直すベン。

 

「お、よく知ってるんじゃん!じーちゃんはすごいのさ!!だから僕は、無個性だろうと何だろうと、じーちゃんみたいになりたかったんだ。そして今その力が手に入った。僕の夢は必ずかなえるんだ!」

 

無個性、という言葉に反応する緑谷。

 

「…その気持ち、僕もすごい分かるよ!一緒に頑張ろう!!」

 

「うむ、二人とも馬が合いそうだ何よりだ。じゃあ、テニスン少年!明日からこの時間、場所に来てくれ!」

 

「ぅげ、早起きしなきゃじゃん…」

 

「マックスさんみたいになるんだろ?」

 

「…わかったよ、オールマイト」

 

「お、オールマイトにため口…」

 

こうしてひょんな出会いから、無個性の少年そして平和の象徴の特訓が始まった。

家に帰り、学校へ行く支度をするベン。

 

プルルル   ガチャッ

 

 

「誰だ?こんな朝早くから…はいもしもし、テニスンですけど」

 

「おお、ベンか」

 

「あ、じいちゃん。なにか用?」

 

「昨日言い忘れたんだがな…オムニトリックスのことは誰にも言っちゃいかんぞ。あくまでベンの個性をサポートする道具、ということにするんだ」

 

「あ…」

 

もう一度いうが、少年は新しく得た力を誰かに見せずにはいられない。

 

 




三人称で小説書くって慣れてないんですよね…なんか悪かった点とかよかった点があったらよろしくお願いします!


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4話 10タイプのエイリアン

さあ、間接的?にですが10タイプすべて出てきます!


夏も終わった9月。朝の半そでは寒くなってくる季節。そんな季節に早朝から大声を出す者がいる。

 

屈強な男が乗る冷蔵庫を牽引する、ボサボサ緑髪の少年。そしてそれを眺めるのは小柄な茶髪の少年。

 

「へいへい緑谷少年!!もうそろそろ冷蔵庫くらい片手で運べなきゃ!!!」

 

「オールマイトが乗ってるから無理です…!!274キロあるんでしょ…」

 

「え、オールマイトってそんなに太ってんの?」

 

「これは筋肉さ、テニスン少年!!」

 

そう言いバルクアップするオールマイト。これは個性なのだろうか…

 

「てゆーか特訓するんじゃなかったの?ゴミ処理ばっかしてるけど」

 

ベンの質問も最も。

 

今三人がいる場所は海浜公園。とはいっても公園とは名ばかりで、粗大ごみであふれかえっている。

 

「これは私と緑谷少年が4月からやっていることさ!トレーニングだけじゃなく、奉仕活動も欠かさない。ヒーローっていうのはそもそもボランティアだからね」

 

ボランティアと聞き嫌そうに舌を出す茶髪の少年改め、ベン=テニスン。

 

「うへぇ、ボクの目指すヒーローは悪党を倒すヒーローなんだけど…」

 

「まあそれは人それぞれさ。さ、緑谷少年は少しだけ休憩だ」

 

「は、はい。はぁーー…」

 

荷を下ろし、その場にへたり込む緑谷。5か月の筋トレでそれなりの体にはなったものの、未だオールマイトには及ばない。

 

息を吐く緑谷を微笑ましく思った後、オールマイトはベンに尋ねる。

 

「さて、テニスン少年だが…君の個性はなんなんだい?」

 

「それなんだけど…昨日話した話とこれからする話、内緒にしといてくれない?じーちゃんに言うなって言われてさ」

 

「ふむ…まあマックスさんの言うことだ。わかったよ」

 

「昨日も話したけど、ボクは無個性なんだ。で、この前までアメリカのじーちゃんのところに遊びに行ってたんだけど、この時計が落ちてきて、これを使ったら変身できたんだ」

 

「変身…というと?」

 

「まあ見てて…えっと、こいつでいくか!!」

 

QBAANN!!

 

ダイヤルを回し、ボタンを押すと緑光がベンを包む。光が晴れ、現れたのは不気味な半魚人だった。

 

「よしできた!こいつは…そうだなリップジョーズって名前はどうだ!?」

 

自分の手足を見て名付けるベン。大きな顎から発せられる声は、ベンのそれとは違い低く重厚なものであった。チョウチンアンコウのような突起が頭部から生え、鋭く尖った爪と牙は野生を感じさせる。

 

急な変身を遂げたベンを見て、休憩を止めこちらに来る緑谷。

 

「…それが君の個性、いや時計の力なの?明らかに元の外見からかけ離れているのを見るに異形系?でも異形系なら普段からこの姿なはず…は!だからこの時計なのか!?」

 

「おいおいイズク。時計じゃなくてオムニトリックス!それに異形系ってなんか味気ないじゃん。そうだな…エイリアンっていうことにしよう!」

 

「テニスン少年はこの異形…じゃなかった。このエイリアンになる個性を得たのかい?」

 

「だからオムニトリックスの力だって。こいつだけじゃないよ。たぶんだけど10タイプに変身できるんだ」

 

「10タイプも!?」

 

「ああ、だから…あ、あれ?息が、苦しい…」カヒュー、カヒュー

 

まるで溺れるかのようにもだえるベン。酸素が足りない人間のように、息を荒くして首を掻く。

 

「どうしたんだテニスン少年!」

 

「み、水。水が…ほしい」

 

ヨタヨタと力なく海へ向かう。その姿は海に帰る男版人魚。いや実際には顔もほぼ魚なので、全体としても8対2で魚なのだが…

 

バシャ―ン!!!

 

倒れこむように海に入り息を吹き返す。海にプカプカと浮き幸せをかみしめるベン。

 

「ああ、水って最高…」

 

「もしかして水がないと力が出ないとか?思いっきり魚っぽいし…」

 

「ていうか息が出来なかった」

 

「それってやばくない?!」

 

「でも水の中ではこんなに速いぜ!!息もできる!」

 

水を得た魚人は高速で浅瀬を泳ぐ。先ほどまで足だった部位はひれの形となり、泳ぐスピードは優に車のスピードを超える。

 

「ヒャッハー!!!」

 

「こ、これはすごいな‥‥状況は限られるがその力は強大なものだな」

 

pi pi pi pi pi pi QBANNN

 

赤い光と音がベンを包むと、元の姿に戻ったベンが現れる。初めて他人にエイリアンを見せたベンは、その評価を聞く。

 

「どうだった?ボクのエイリアンは?」

 

「うむ。素晴らしい力だな。確認しておきたいんだが、その時計は宙からおちてきたものなんだよな?」

 

「そうだよ」

 

(アメリカで宇宙から…奴は関係なさそうだな…)

「わかった。テニスン少年には今日から変身して、緑谷少年を手伝ってもらおう!」

 

「ええー嫌だよボク。掃除なんてめんどくさいし」

 

「そう言わずに!緑谷少年とともに体の使い方を覚えていこう!!!」

 

「ちぇ~」

 

それからは二人の特訓が始まった。緑谷は筋トレも兼ねたゴミ掃除。ベンはオムニトリックスを試していく。

 

【10月】

QBAANN!!

 

「何この毛むくじゃら!!犬!?でかっ!?」

 

「ブワァァン!!!」

 

 

QBAANN!!

 

「オールマイト。このメニューはまだ改善の余地があるよ。それにイズク。栄養素の配分も考えてみろよ。鍛練終了後どんな体になりたいかによってとるべき栄養も変わってくる。もしオールマイトを目指しているなら…」

 

「めちゃくちゃ喋るじゃん、ベン君」

 

「体は10㎝にも満たないのにな!!ハーッハッハッハ!!」

 

 

【11月】

 

QBAANN!!

 

「おお…ダイヤのような結晶で出来た体…私のデトロイトスマッシュでも耐えきれるかも」

 

「おおおオールマイト?!さすがにそれはやりすぎですよ!」

 

「よっしゃ、バッチコイ!オールマイト!!」

 

「ベン君!!それは無謀だよ!?」

 

 

QBAANN!!

 

「イズク!見てみろよ!」

 

「な、なにしてるの…ていうか…なにその青い恐竜みたいな姿!」

 

「見ての通りさ!こいつのスピードなら一人テニスだってお茶の子さいさいさ!」

 

「ふむ、私もやってみようかな…」

 

「オールマイトまで?!」

 

【12月】

 

 

QBAANN!!

 

「…冬はずっとこのエイリアンでいないかい?テニスン少年」

 

「人の体で暖をとるのはやめろよ!」

 

「炎が体から出るって…エンデヴァーみたいだ。どっちが高温なんだろう。そもそも炎の種類は一緒なのか?」ブツブツ

 

 

QBAANN!!

 

「オールマイトぉ!!俺と腕相撲しようぜ!!!」

 

「ほお、なかなかいい筋肉だ」

 

「俺は腕4本全部使うぜ!よーいドン!!」

 

【1月】

 

QBAANN!!

 

「緑谷少年!!よく達成した!!はい、これ食べて!!」

 

「へぁ?こ、これ髪の毛…」

 

「ガ、ガンバレーイズク―」

 

「そんな巨大蟲みたいな姿でいわれても!!てゆーかなんか匂う!」

 

「私の髪の毛…臭う?」ズーン

 

「お、オールマイトじゃないです!!」

 

 

QBAANN!!

 

「何だ…こいつ…」

 

「なんか…白黒緑の…なんだろうな?」

 

「作業着っぽいけど…」

 

【2月】

 

QBAANN!!

 

「くらえ!!3%デトロイトスマッシュ!!!!」

 

「残ねーん」

 

「ベン君!!そいつずるいよ!幽霊なんて!僕が攻撃当てる方法ないじゃん!」

 

「ははっ…」

 

(なんかこいつに変身したら変な気分になるな…)

 

 

【3月】

 

「二人ともお疲れさん!」

 

「はい」

「ホント、疲れたよ」

 

「明日は待ちに待った雄英入試。緑谷少年も少しは個性を使えるようになったし、テニスン少年もだいぶオムニトリックスに慣れただろう」

 

「まあね。けどさ。質問なんだけど。なんでオールマイトの髪の毛をイズクは食べたの?いまだに疑問なんだよね」

 

「…私の個性は彼に似てるといっただろう!私のDNAを彼が摂取すれば個性因子が活性化すると思ってね!実際その後個性が使えるようになっただろう!」

 

もちろん大ウソである。前にも言ったが、オールマイトの個性であるOFA(ワンフォーオール)。譲渡型の個性。その譲渡方法はDNA情報の摂取なので、緑谷はオールマイトの髪を食べたのだ。字面にすると中々にきつい。

 

個性が譲渡できる、ということを公にできない理由があったため、オールマイトはベンに嘘を吐く。

 

「まあ確かに。あんまり強くなかったけどね」

 

「うう、まだ僕は出力を強くできないから…」

 

「なあに、すぐに体が追い付くさ。とにかく!!二人とも!明日は頑張れよ!!」

 

「は、はい!!!」

「うん!!」

 

明日、二人の人生が決まる。

 




どれがどのエイリアンかわかりましたでしょうか?
作者的にリップジョーズはギャグ感強いと思ってます。陸地で間違えてリップジョーズになったときのやっちまった感がけっこー好きです(笑)


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雄英受験
5話 試験開始


ベンの性格がいいのか悪いのか原作見てもわからん…それがこどもってやつなのか?


「ま、間に合った…」

 

「急ぎすぎだってイズク。まだ時間あるってのに」

 

この言葉だけでベン、緑谷の性格がわかる。今日は雄英入学試験 実技の部。心配性な緑谷は、いつまでたっても準備しないベンをここまで引きずってきた。

 

会場に着き、いざ受験が目の前になると緊張する。人という字を手に書き込みながら緑谷は呟く。

 

「うう、実技の訓練もしたけど、やっぱり不安だなぁ」

 

「大丈夫だって。イズクならなんとかなるって。個性も使えるようになったじゃん。ま、ボクにはかなわないけど」

 

「…ベン君だって10分過ぎたらなんにもできないでしょ」

 

「そ、それは」

 

「うるせぇぞ!!くそデク…とクソチビ!!」

 

2人が門の前で言い合いをしているとツンツン髪の少年が罵声を浴びせてくる。当然、その言葉にベンは言い返す。

 

「はぁ!?あんた誰!?てゆうかチビって言った!?」

 

「此処は高校受験の場だぞ?ガキはかえって死ね!!」

 

「…ボクを子供扱いしたな?…いいよ。見せてやるよ!」

 

チビと呼ばれ子供扱いされたことにより頭に血が上ったベン。カチャカチャとオムニトリックスに手をかける。

 

「ちょちょ、ベン君?!絶対だめだよ!!まだ試験があるのに」

 

「大丈夫だって。時間はあるでしょ」

 

「でも…ここで問題起こしたら受かるものも受からないよ!!」

 

「…そうか。おいそこのウニ頭!」

 

「ああん?!」

 

「せいぜい落ちないようにな!同級生になったらボクの力を思い知らせてやる!!」

 

「っは!!てめーが受かるとも思わねぇがなぁ!くそデクと絡んでるクソチビが!!」

 

その言葉を残しスタスタ歩いていく少年。

 

「…てゆーかあいつ誰だったんだ?」

 

「えっと、僕の幼馴染というか…かっちゃんっていうんだけど」

 

「かっちゃん、ねぇ。あの口の悪さといい、幼馴染といい、誰かに似てるな…」

 

ベンが従弟のグウェンを思い出そうとしたとき、背後から高い声色が聞こえる。

 

「ねぇ、大丈夫だった?」

 

「へぁっ!?」

 

振り向くとそこには丸顔で麗らかな女の子。

急に女の子から喋りかけられテンパる緑谷。

 

「なんか、もめてそうだったから声かけたけど…知り合いやったんやね!」

 

「そ、っそそそそそうです、はい」

 

「なんか馬鹿にされとったけど…」

 

「い、いやいつも通りだから」

 

「そっか!じゃ、お互い試験頑張ろうね!そっちの君も!!」

 

「ああ!!」

 

親切に声をかけてくれた女の子もまた、試験会場に歩いていく。

 

「…」

 

「どーしたのイズク?」

 

「女子と喋っちゃった!!!!」

 

「いや喋れてないでしょ」

 

 

会場へ入り、試験の説明を待つ二人。ベンと緑谷は中学校が違うためか、席はかなり離れていた。

 

【レディースアーンドジェントルメーン!!アーユーレディ!!】

 

雄英出身 超有名ヒーロー、プレゼントマイクによる試験説明が始まる。

 

「君らが受ける試験はいたってシンプル!ステージに現れるロボ!試験時間内にそいつらをぶっ倒せばポイントゲットだ!そんでポイントが高かったやつが実技試験合格者ってわけだ!!ちなみにロボにはポイントが振り分…」

 

(なるほど、ロボを倒せばいいのか。試験時間は15分だし…なら誰にする?…)

 

試験の説明を途中まで聞き、あとは誰に変身するかを考えるベン。こういう場合は説明すべてを聞いたうえで作戦なりを立てるべきだが、彼はまだまだ幼稚であった。

 

 

実技試験ステージはオフィス街を模した場所。このような場所が校内にいくつもあることから、雄英の予算は潤沢だと分かる。ベン達受験者はその街の一角で待機していた。

 

「さてさて、どいつにするかな…」

 

ベンが今変身できるエイリアンは計10体。トンガリ メラメラ 快足 怪力 変幻自在なのである。弱点といえば変身時間が10分であること、インターバルが必要なこと、そしてなにより、

 

「よし、こいつに決めた!!ふふ、もうここで変身して皆を驚かせちゃおうかな…」

 

使用者の精神的未熟さである。

 

「…でも試験時間を考えたらまだ変身すべきじゃないかなぁ?うーん…けど周りのやつらの度肝を抜きたい!!」

 

1人でボソボソと呟きながら、オムニトリックスを撫でまわす。すでにダイヤルはセットしてあり、後は押すだけ。

 

にしたのが不幸であった。

 

「あ、君もここやったんだね」

 

「うひゃっ!!!?」

 

後ろから肩を叩かれたベンは、驚いた拍子でウォッチの変身ボタンを押してしまう。

 

QBAANN!!

 

緑色の光が周囲を眩く照らす。

 

「…」

 

「!!そ、それが君の個性?」

 

目の前にいたベンが異形に変わったことで、目を丸くする麗らかな女の子。

同様に周囲は驚き、ざわつく。

 

「何だあの姿。あんな奴いたか?」

「発動型か?にしちゃ体全体が変化してるしな」

 

その姿はまるでトカゲ。いや恐竜といったところか。体色は黒を主として腕や足はスカイブルー。青と黒の縞々模様の尻尾が生えてはいる姿は”恐竜人間”と評するのが適当かもしれない。

 

このエイリアンの名は

 

「XLR8(エクセラレート)?!ベン君なんでもう変身してるの!?」

 

変身の光を見て駆け寄ってきた緑谷。ちなみに緑谷はベンのエイリアン全ての名前、姿を覚えている。ヒーロー好きな彼にとっては、異形系の名前を覚えることなど朝飯前。

 

「いや、こいつが話しかけてきてびっくりしちゃってさ」

 

「ご、ごめんね」

 

「…いーよ。どうせすぐ始まるだろ」

 

「君たち!!もっと周りのことを考えてくれたまえ!!今は静かにするべきところだろう!!」

 

三人のワチャワチャした様子に痺れを切らしたのか、眼鏡の男の子から注意が入る。眼鏡に加え規律を守るこの姿勢。間違いなく委員長を経験した風貌だ。

 

「ご、ごめん」

 

「はぁ?実技試験の前なんて緊張ほぐすための時間だろ?静かにしちゃ余計緊張しちゃうよ」

 

素直に謝る緑谷と違い反発するベン。注意された内容は正しいと分かっていたが、その言い方にむかついたのだ。

 

 

「なに!?」

 

「ちょ、やめ」

 

【ハイスタート―】

 

「「「は?」」」

 

【ほらほらもう始まっちゃってるぜーー!!!】

 

プレゼントマイクによる適当なコール。さらりと賽は投げられた。周囲の者は戸惑いながらも走り始めている。

 

「ほら、はじまっちゃっ、てもういないし…」

 

「ベン君!僕らも早く出ないと!!」

 

「頑張ろうね!!」

 

女の子1人と友達1人に励まされボルテージが上がる。正直雄英にどうしても行きたい、というわけではない。祖父の一言で決めた受験。だがそれでもやる気は充分であった。

 

「オムニトリックスがある限りボクは失敗しない!!この試験も楽に合格だ!」

 

…楽観的な性格は生来のものだから仕方がない

 

 

 

 

 

 




XLR8(エクセラレート)は accelerate(加速する)からきてるんだろうけどこいつだけネーミングオサレすぎません?


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6話 XLR8と緑谷5%

考えとけよって話だけど、エイリアンの造形を描写するの難しい笑


雄英高校ヒーロー科実技試験は、覇気のないコールによりスタートした。皆が我先にと走り出すなかで2人、いや、1人と1匹で話しているものがいる。

 

「ベン君!とりあえず僕らは離れよう!」

 

()()緑谷に合わせて()()()()()ベンはその言葉に疑問を持つ。

 

「なんで?」

 

「この試験は基本的にロボを倒した数のはず。それなら僕らで奪い合いになることは避けるべきだと思うんだ」

 

「なるほどね。わかった。じゃ、僕は向こうで戦ぅょ」

 

いい終える前にベンの顔をバイザーが覆う。今ベンが変身しているのはXLR8。ディノサウルスに似た造形でありながら、体の各部には人工的パーツが多々見える。今覆ったバイザーはXLR8が本気で走ることを意味していた。

 

「うん、わかった、ってもういない…あの速さ、オールマイトとどっちが速いんだろう。僕から見たらほとんど変わらないし…っは、集中集中!」

 

青い残像を残したまま走り去ったベンのことを忘れ、気合いを入れる緑谷。彼はオールマイトに憧れこの高校を受験している。その憧れは10年以上に及ぶ。そしてそのオールマイトの出身校を受験する彼の覚悟は生半可なものではなかった。

 

「1か月だけど個性の訓練もしたんだ…オールマイトは5%が今は僕の限度だって言ってた。まだまだ遠い、けどここはクリアしなきゃならない壁!!やるぞ!!」

 

 

 

決意を新たにする緑谷。その反対に軽い気持ちで受験したベン。とりあえず緑谷から離れて走っていたが、その動きが止まる。

 

「おっとっと、アブナイアブナイ。此処がステージの端か。案外狭いな。いや、僕が速すぎたのかな?」

 

試験中にもかかわらず鼻高々になる。だがそうなるのも仕方がない。たった数十秒でこの広大なステージの端まで移動できるスピード。このスピードこそがXLR8の最大の長所だった。

オールマイトに挑んだところ、スピードでは大きな差はなかったが、その弱点により簡単にひねられてしまっていた。

 

「 さあ、この辺で狩っていこうか。お、ロボ発見!」

 

言い終わるや否やロボに突撃する。かなりの助走と驚異的なスピードから放たれるキックに1ポイントロボは破壊される。

 

「やりぃ!!一体撃破!次は…いた!!」

 

5メートルほど離れたところにロボ発見。すぐさま撃墜に向かいキック。見事相手の側部に蹴りを入れダメージを与える。

 

「よし、二体目撃破!ってうわっ!!」

 

壊れたと思った2ポイントロボがベンのしっぽを持ちぐるぐるとぶん回す。

 

「ちょっ、やめろ、きつ、酔うっ、うわっ!!ぐえっ!!」

 

さんざん回されたのちそのまま30メートルほど投げ飛ばされ壁に激突する。カエルがつぶされたような音を出すも、その意識は明瞭。

 

 

「あいったたた。よくもやったなぁ。くらえ!!!」

 

 離れた場所にいる先のロボを狙う。助走をつけ、ローラー状になっている足で高速移動、その勢いのままロボの頭部へ連続蹴りを放つ。時速何百キロで走る足による連続蹴りの威力はロボにはたまらない。

 

あえなく撃墜される2ポイントロボ。

 

「ふんっ、思い知ったか!!…けどやっぱりXLR8はパワーがないなぁ。重さも足りないからオールマイトにも捕まえられたら何にもできなかったし…こっからは注意しよう!」

 

一度やられ気を引き締めるベン。やられるまでわからないがやられたらしっかりと対策を練り考えるベン。訓練ではそれでもオールマイトにはかなわなかったが、彼の、そしてオムニトリックスの力であれば、この試験は余裕クリアできるであろう。何も、なければ…。

 

所変わって緑谷。

(開始5分くらいたったか?試験時間は15分。まだ制限を超える時じゃないな。もしまたヒビが入ったら試験に集中できなくなる。やるならラストの敵だ!)

 

緑谷は2月に修行を終え、オールマイトから個性を譲り受けていた。その個性はOFA。ありていに言えば強化型。しかし自身の許容を超えるパワーを引き出した場合その部位が故障する。以前緑谷は許容上限を超え左腕の肘から下にひびを入れたのだ。

 

「っきた!5%DETROIT SMASH(デトロイト スマッシュ)!!」

 

先ほどから緑谷はあまり位置取りを変えていない。序盤に2,3体倒すとロボから寄ってきていることに気づけたからだ。なお同じ時間のベンもかなりの数を倒しているが、そんな法則には気づかずステージを縦横無尽に走り回っている。

 

「今は30ポイント…これなら合格圏内か…?いやでもここ以外の試験会場の成績によってはまだわからない。それなら近くに来るロボを狩りつつ場所移動をするべき?それか…」

 

戦闘中にも拘わらずブツブツと考察していく緑谷。その考察力は褒められるものなのだが時と場合を考えるべきである。ただでさえ今はロボに囲まれている状況。そんななか一人の世界に入っていると…

 

「っしまった!!腕を…!」

 

こうなる。一体のロボが彼の腕をつかむと他のロボも我も我もとつかんでくる。右腕、左足、左手を取られ、なおしがみつかれる。

 

(ま、まずい!動けないこのままじゃ…いや落ち着け。思い出せ、オールマイトとの訓練を)

 

平静を取り戻しつつある技を思いつく緑谷。それは憧れのオールマイト直伝の技。

 

「この状態だからこそ、この技は生きる!」

 

身をよじり唯一地についていた足に力を籠める。

さらには対の位置にある右腕にも個性を使う。

 

「5、いや7%OKLAHOMA SMASH(オクラホマ スマッシュ)!!!!」

 

その場で力任せに体を回転させ相手をふるい投げるオールマイトの技。それを見事に再現ししがみついていたロボ全員を機能不全にする。

 

「っ!!腕は…内出血で済んでる…よかった。けどこれ以上は危険な気がする。動けなくなるのだけは避けよう…」

 

許容上限オーバーは試験中には命取り。それを再確認した緑谷はステージ中央にさらなるロボを狩りに行く。

さらに数分後。ステージ中央部にはそれはもうイケイケノリノリなベンがいた。

 

「これで31体目ぇ!!!ははは、天下の雄英もこいつにかかれば形無しだね!!」

 

生意気言いながら胸のオムニトリックスマークをトントンとつく。

 

「おっ!!32体目発見!!」

 

中央の開けた場所に一体でポツンといるロボを見つける。

 

 

「よぉし!!くらえ!!ウルトラベンキック!!!!!」

 

幼稚な必殺技で襲おうとするベン。だが彼は忘れていた。もう直、試験開始から8分経つことを。試験開始前から彼は変身していたことを。

 

pi pi pi pi pi pi QBANNN!!!

 

マークが赤く点滅したかと思うと、胸から紅光が広がり跳蹴り中だったベンを包む。その光から出てくるのは外見10歳の少年ベンだった。

 

ガンッ!!!っと、金属と肉がぶつかる音がする。

 

「あいったたたた。なんで!?まだ試験開始から10分経ってないはずじゃ…!!」

 

ハッとして上を見ると、ロボは冷たいまなざしでベンを見下げていた。

 

「…えーと、最近どう?君いいオイル使ってるね」

 

ロボは腕を振り下ろした。

 

 




やっと、戦闘っぽいシーンが書けたと思ったらデクのシーンの方が筆が乗ってしまった(笑)。XLR8の超速攻撃って重さとかどうなってるんだろう…


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7話 立ち向かう理由

立ち向かう理由。そんなの決まってる。


前回のあらすじ

調子乗る→元に戻る→殴られ

 

「てたまるか!!」

 

振り下ろされた拳を既のところで避ける。ころころと転がり虎口を脱するも、ロボとの位置関係は変わらず劣勢。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!ロボだろうと何だろうと同じ地球に住んでる仲間じゃん?!平和に行こう!」

 

ロボを見上げながら説得を試みるベン。人間体の彼にとってロボの一撃は一発ダウンの可能性がある。

 

運動神経は悪くない。が小学生並みの体躯のベン。その身体能力は並の高校生を下回る。

 

【ギギギ、‥ゲン、‥サツ】

 

「え?なんて!?」

 

【ニンゲン、マッサツ!!】

 

重い腕を振り上げベンへの攻撃を開始するロボ。

 

1ポイントロボなので戦闘力はそれほどでもない。それでもベンからすればヘビーな一撃だ。

 

「うわっ!!」

 

頭部への攻撃を腕でガードする。

 

「いったいなぁ!!!!」

 

【ガハハ、ホロボス!!】

 

「っく!!」

 

三度の攻撃を耐え忍ぶ。しかしこれ以上食らっては体が保たない。そう判断したベンはロボの足元をすり抜ける。

 

【ニガサン!!】

 

すぐに方向転換しベンを追うロボ。機械と人間。その両者がマラソンをしたときに勝つのは10歳の少年でもわかる。

 

「このままじゃ…あ!!いいとこ見っけ!!」

 

神の思し召しか、ビルとビルの隙間を見つける。体を入れ込み路地裏へ。

 

小学生の頃から身体的成長があまり無いベンだからこそ通れる道。ロボはズイズイと進むベンを眺めることしかできなかった。

 

【コレダカラニンゲンハ!!セイセイドウドウトホロベ!!!】

 

ロボは文句を言い残し去っていく。その姿を確認し汗をぬぐうベン。

 

「はあ、はあ、危なかった。てゆうかロボのやつ、どんだけ人間嫌いなんだよ。システム開発者イカレてんのか?」

 

「取り合えず、あと2、3分はここにいるか」

 

赤くなったオムニトリックスを見ながら今後の動きを決めるベン。

彼は表に出ることより、待機し隠れることを選択する。その理由は明白。今は変身することができないからだ。正確なわけではないが、オムニトリックスによる変身は大体10分が目安。そして一度変身が解けると最低5分程度、ひどい時は20分ほど変身できなくなる。その逆に長時間変身できる時もあるのだが…

 

「適当にいじって壊れでもしたら大変だし…この時間が一番いやだなぁ…」

 

変身できないときにはオムニトリックスの中央部は赤く染まる。このインターバルは無個性の小学生並みのフィジカルのベンにはかなりの弱点であった。

 

「ま、試験終了ギリギリにはもう一回変身できるかな?」

 

何に変身しよう…そう考えながら隠れるベンであった。

ベンが路地裏に隠れているとき、緑谷はステージ中央にいた。今ベンはその近くにいるのだがお互い気づかない。

 

今のところの緑谷は65ポイント。このテストではトップの成績。オールマイトもここまで彼ができるとは思っていなかった。それほどまでにこの試験で緑谷は伸びていた。

 

「あと残り2分くらいか。周りも見る限りでは僕は上位に位置してるはず…相手がロボだからか動きが読めてやりやすい!!ベン君が相手だとエイリアンによって戦闘変えるしオールマイトだと加減が…その…あれだし…」

 

自身の手加減がいまいちなオールマイト。それにより緑谷は自分の何倍もの力による鉄拳を食らっていた。オールマイトはそのたびに謝るが、それを見たベンは大笑いする。そのことを思い出し苦笑いする緑谷。

 

「…そういえばベン君はどうだろう。試験開始前から変身しちゃってたし。解除の時に敵が近くにいたら危ないんじゃないかな?」

 

まるで先ほどの出来事を見たかのように話す緑谷。さすがである。

 

「まあベン君避けたり逃げたりするの異様にうまかったし大丈夫か…っ!!」

 

空気の揺れを感じ取り何かを察する緑谷。

地響きが鳴り、周囲の建造物が音を立てて崩れてゆく。高層ビルが軒並み壊れたその後ろには、超巨大なロボが出現していた。名をインフェルノ。その名に恥じぬ、地獄の番人でもしているかのような様相に、受験生たちは恐怖する。

 

「あ、あれが0ポイントロボ…」

 

そう、この30メートルあろうロボはポイント0。これはこのロボを倒しても意味がない、ということである。それは逆に倒せるものがいないだろうから、得点対象にはしないでやろう、という学校側のやさしさでもあった。

 

硬化の個性を持ちヒーローを目指したもの。俊足の個性を持ち、先ほどベン達に注意をしたもの。その他大勢がこのロボから逃げていく。御多分もれず、緑谷もそのうちの一人になろうとしていた。

 

「さ、すがにシャレにならない!!僕も早く逃げ」

 

るために後方を確認した緑谷の目に映ったのは倒れた少女。今にもロボに踏まんとされている。そのとき、デクの頭に浮かんだのは彼女の会話。

 

【君たち、大丈夫だった?】

【頑張ろうね!!】  

 

それ以外は頭になかった。そして、彼は跳んだ。

 

インフェルノが出現し、皆が逃げていた時ベンは走っていた。その方向はもちろんインフェルノ。

考えていることは緑谷と同じ、なわけがなかった。

 

「うわぁ!!あんなでっかいロボまでいるのか!!やっぱり雄英はすごいな!!アイツ倒せば絶対合格でしょ!!」

 

インフェルノは0ポイント。これは試験の説明時にきちんと話されていたのだが彼はきいていなかった。この勘違いを正す人が今は誰もいなかった。

 

「なのに…まだなの?!!このポンコツウォッチ!!」

 

走りながら、喋りながらオムニトリックスをいじるベン。未だ赤く染まるオムニトリックスはキュー―――ン⤵と間抜けな音のみを立てる。

 

「君はなぜこっちに!向こうが見えてないのか!!」

 

向かいから、つまりインフェルノから逃げてきてた1人がベンに声をかける。この非常時に声をかけるあたり彼は親切なのだろう。

 

「あ、お前は…さっきの委員長眼鏡!」

 

「メガ・・!!そんなことはどうでもいい!なぜ君はあちらに行こうとしてるんだ!!」

 

他者から見れば今のベンの行動は自殺行為。ただでさえ小さいベンの行動は傍から見れば無知な少年のそれだった。

 

「はぁ!?きまってるだろ!?僕はスーパーヒーローになるんだぞ!!ならここで逃げるわけないじゃん」

 

 

そう言われて眼鏡の少年は思い出す。先ほどインフェルノのせいで転んでいた少女を。試験であるため、そこまでの大けがを負わないと踏んで逃げてきた。が、今自分の目の前にいる小さなこの者はそれすら救おうとしている。

 

「なっ!!君は!!」

 

(あと残り1分もない!誰かに取られるか時間切れになる。早く!!)

 

実際ベンは自分のことしか考えていない。だがその行動は他者からは自己犠牲に見えた。

 

「いや、危険だ!!君みたいな小さな体では…」

 

QRUUUNN

 

赤色から緑色に変化し、煌々と輝くオムニトリックス。

「よし、復活した!!」

 

眼鏡をした少年、飯田の言葉を聞かないべン。

災害に向かい走り出し、大きく腕を上げ

 

「さあ、ヒーロータイムだ!!!」

 

強く叫ぶ。

 

 

QBAANN!!

 

「な、なんだあの姿…」

 

目の前にいた少年は消え、いるのは赤い体毛で覆われた巨漢。人間とは思えない。その理由は明白。腕が4本あるからだ。

 

「おらっ!!!!!」

 

先ほどまでとは違う、乱暴な口調で踏ん張ったかとおもうと、その巨漢はインフェルノの目の前に跳んでいった。

 

「か、彼は一体…」

 

「おーおーでけぇな!!!こんくらいでかいと壊しがいあるぜぇ!!」

 

野太い声で評価するベン。いやフォーアームズ。そのパワーはオールマイトにも勝るとも劣らない。遠くからの跳躍でロボの目の前に来て今、腕を振りかぶる。

 

「さあくらえ!!一本でビルを壊せるこの腕、を4本同時に使ってやる」

 

この瞬間、少し下で同じく腕を振りかぶるものがいる。

 

(今までとは違う、全身全霊で!!!!)

 

足を壊し、しかしそれには気づかない狂気の少年、デク。下にいる少女を助けるためにその一撃を放つ。

 

DETROIT SMAAAASH(デトロイト スマァァッシュ)!!!」

テトラマッド パンチ!!

 

 

2つの超パワーによりぶん殴られたロボは、悲鳴に似た音を立てながら沈んでいく。

 

そのまま重力に従い落下していく二人。

 

 

「っは!!やっぱり俺の力は最高だぜ!!ってイズク!?」

 

落下していくなかで自らの下に緑谷がいたことに気づく。腕、足を紫に染め、涙を流す緑谷を見て驚く。が、すぐに緑谷を抱える。

 

「どうしたんたイズク!そんな怪我して!」

 

「ッベン君!実は」

 

説明をする前にドシン!と音を立て着地するベン。その瞬間

 

【終了――――!!!】

 

試験が終わる。

 

「お、終わったぜイズク!って、顔隠してどうした!」

 

「た、助けてくれてうれしいんだけど…お姫様抱っこで終わっちゃった…」

 

ヒロイン系主人公にはなりたくない緑谷だった。

 

 

 

 

 




緑谷、デク、イズク、緑谷君、緑谷少年…たくさんあるなぁ…

デクとベンが一緒に殴る描写、分かりましたか?なにぶん不慣れなもので。

テトラマッド パンチの由来。コレわかる人は正直怖いレベルです…


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8話 ボクアカ

まだじーちゃんやグウェンは本筋に絡んできませんが近いうちに入れようと思います。


都内のマンションに住むある家族。その家族の一員であり唯一の子供である彼はソファ―に寝転がりニヤニヤしていた。

 

「ふぁぁ、今日は楽しかったな。あんなでっかい敵初めて倒したし。最強ヒーロー、ベン=テニスン様が日の目を浴びる日を近いかもな…」

 

と、鬼が笑うどころか慰めてくれるレベルの未来の話をするベン。試験終了後、緑谷は治療を受け、ベンは治療を受けた彼とともに帰路を共にした。その道中はベンは明るく、対照的に緑谷は暗かった。その理由は0ポイントロボを倒したこと。しなくてもいいことをしてしまった、という事実に彼は苛まれているようだった。試験のことを思い出すベン。

 

「…僕はあのでかいの0ポイントだって知らなかったしなぁ。ま、あんだけ力見せればあっちから来てくれっていうでしょ!!さてと…相撲スラマーの続きでもしようか…」

 

プルルルル

 

大人気和格闘ゲーム、相撲スラマーに始めようとしたとき、ベンの家の電話が鳴る。

 

「…」

 

ベンは一瞥してゲームを起動する。彼にとっては電話より相撲スラマーが重要である。

だがそうは問屋が卸さない。

 

「ベンーー!!電話とってー!!」

 

母親からの指示は絶対。思春期に入ってはいるものの母親に逆らう、という愚行をするほどベンは馬鹿ではなかった。

 

「ちぇっ、はいもしもし?テニスンですけど」

 

少しイライラしながらの電話対応。しかしその態度はコロリと変わる。

 

【おお、ベンか。今日試験だったろ?どうだった?】

 

電話をかけてきたのはアメリカに在住の祖父、マックス。有名ヒーローである為多忙な彼だったが孫の試験が気になり仕事場から電話をかけていた。

 

「じいちゃん!!もちろん完璧だったよ!!」

 

【そうか。あの炎の異形型だけでよく頑張ったな】

 

「炎…ヒートブラストのこと?ちっちっち、オムニトリックスの力はそんなもんじゃないよ!」

 

【?まあ大丈夫ならよかった。この前あった筆記の方はどうだったんだ?】

 

「う…いやもちろんできたよ?うん」

 

【どーせベンのことだから真っ白回答用紙だったんでしょ。猫の額ほどのおつむじゃ日本屈指の高校試験なんて解けないでしょ】

 

きつい言い方で入ってきたのはいとこのグウェン。ベンとは犬猿の仲であり会うたびに喧嘩している。今回に関しては会ってないのに喧嘩している。

 

「なんだとグウェン!!」

 

【そうでしょ?あんたクラスでも下から数えたほうが早いくらい成績悪いらしいじゃん?】

 

その通りである。勉強そっちのけでヒーローになったときのことやアメリカンヒーローのことを考えていたベンはそこまで成績は良くなかった。グウェンはその逆にアメリカで飛び級しておりもうすでにサイドキックとして働いている。

 

いつもならここでぐぅ、といって逃げるところだが今回は違う。今回の入試に至ってはできているのだ。その解答に関しては…

 

「本当にテストはできたんだよ。なんなら賭けるか?」

 

【あらいいじゃない。もしあんたが受かったなら三回回っ】

【よさんかグウェン。とにかくお疲れさんベン。今度の休みにそっちにもいくから楽しみにしてるんだぞ。じゃあな】

 

ピッ

 

「じーちゃん今度来るのか!びっくりするぞぉ。オムニトリックスは10タイプのエイリアンに変身できるなんて知ったら!!ああ、早く休み来ないかなぁ!」

 

今は春休みなのにもう次の休みのことを考えワクワクする。ある意味最高に贅沢な休日の使い方なのかもしれない。

時は試験から1週間後。運命の結果発表日。雄英からのビデオレターが届く。さすものベンもドキドキしながら開封する。

円盤型のビデオレターはその場に映像を流す。そこに映されたのは

 

【やあ!!テニスン少年!!】

 

「オールマイト ?!なんで?雄英の先生だったっけ?!」

 

【いよいよ待ちに待った結果発表だ!!だがその前に…君は試験前にいろいろと揉めていたらしいね!ハッハッハ!若いっていうのはこ

 

そこでベンは動画の進行バーを押しスキップする。さながらYouTubeの広告スキップだ。

 

「まったく、ここまで来てお小言は勘弁してよ。本当に先生みたいだ。えっと、結果発表はっと、ここだここだ」

 

【…ということでテニスン少年!!これからは注意するように!!さてまず君の得点についてだが…】

 

ふんふんと鼻息を立て興奮するベン。自分の出来は完璧だったと思う。ただ他者と比較して優れていたかどうかは結果を見るまでわからない。

 

【まず筆記試験。これについては問題ない。ただ書いているところは全問正解なのに何問か白紙で出てたから試験官が不思議がってたよ、中々君もエンターテイナーじゃないか!】

 

へへ、と苦笑いをするベン。もちろん、彼のこの解答には秘密がある。といっても個性、いやオムニトリックスを有効活用しただけだが。

 

【そして実技試験だが…君の敵ポイントは61点!!これはトップ3に入る成績だ!!】

 

「よっしゃ!!!やっぱり僕ってすごいじゃん!!ん?まだ続きがある?」

 

【さらに今回の試験、評価されていたのは敵ポイントのみにあらず!我々は君たちのヒーロー性も見ていたのさ!ヒーロー性って何、だって?そんなもん決まってる!!知ってるだろ!ボランティア、見返り無き救いさ!!】

 

身振り手振りで先の得点形式を伝えるオールマイト。だがベンはいまいちわからない。早く結論を喋ってくれ、とまで思ってしまう。

 

「…つまりどういうこと?」

 

ベンの質問が聞こえたかのようにオールマイトは続ける。

 

【救助活動ポイント!我々が見ていたもう一つの基礎能力!ベン=テニスン!君の救いは55ポイントに値する!!総合二位!おめでとう!】

 

「っ!!やりぃ!!!」

 

グッとガッツポーズをしその身で喜びを表す。祖父に言われて受けたとはいえ高校受験、それも最高峰のものを受かった喜びは今までの味わったそれを凌駕する。

 

残りの動画は5秒。手を差し伸べオールマイトが指し示す。これからのベンの学び舎を。

 

【来いよテニスン少年!!ここが】

 

「僕のヒーロー、ボクのエイリアンヒーローアカデミアってことか!!!」

 

 

 

4月。小鳥がのびやかに歌った後、風が爽やかに春を呼んだ季節。芽吹いたばかりの小さな緑は花となり少年達の門出を祝っていた。

 

「ベンーー!!お友達が迎えに来てるわよ!」

 

「わかってるってー!!…またせちゃったなイズク」

 

「ううん!いこっか!!」

 

「ああ、ここからベン10ハイスクール編スタートだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なおベンの身長体重性格メンタルは10歳のころからほとんど変わっていない。逆に10歳でこの胆力(インフェルノに立ち向かう)ならすごいのかもしれない(笑)


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入学
9話 入学式() 


エイリアンヒーロー不登上回は書いてて違和感あり


平和の象徴 オールマイト

事件解決数史上最多 エンデヴァー

ベストジーニスト賞8年連続受賞 ベストジーニスト

 

数々の英雄たちを送り出してきた日本最高峰育成機関、雄英高等学校。そんな偉大な学校に二人の少年が足を踏み入れ、

 

「ここどこだよ!!!」

「ここら辺のはずなんだけど…」

 

迷っていた。

 

自分で突き進んだにもかかわらず迷っていることに憤慨する少年、ベン。その横には案内書を持った緑谷少年。

 

「ったく、この学校デカすぎるんだよ。ヒーロー科は2クラスしかないのにさ」

 

「あらゆるものがユニバーサルデザインだからね。ほらここの扉も3メートルはあるよ」

 

超常が現実となった今、人間の規格はこれまでとは異なるようになった。異形型、と呼ばれるものの中にはその体躯が既存のものとは相いれない者もいる。そういった事情を考慮し、学校のデザインからあらゆるものに使いやすいようにしている雄英はさすが、というほかない。

 

「でっかいなぁ…ん?てゆうかそこボクらのクラスじゃない?」

 

「あ!!ほんとだ!」

 

「よし、せっかくでかい扉なんだからいっちょ度肝抜いてやるか」

 

悪い顔をしながらオムニトリックスのダイヤルを回す。無計画、無意味は発案に驚きとめる緑谷。

 

「ちょ、だからダメだって!なんでベン君は必要以上に使おうとするの!!」

 

「せっかく手に入った力なんだぞ?逆に2月にやっと個性使えるようになったイズクが使わない方がおかしいっつーの」

 

「ぼ、僕は、この力は、なんていうか」

自らの個性について考える緑谷。その個性はある意味でベンと同じく、他者からの授かりものであったがベンの考えとは異なる。この個性は特別なもの。そう思っていた。

 

そんな彼に後ろから来た女子が声をかける。

 

「あ、そのモサモサ頭は!地味目の!!」

 

若干失礼な物言いのこの子は、緑谷とベンが受験会場で喋った子だった。

 

(受験の時の!!制服可愛い!!)

(…誰だっけ?)

 

双方で彼女に対する感想は異なる。

 

「よかった!!受かってたんだね!!」

 

「う、うん。あ、あなたも受かってよかったです。そ、そのあのときは…」

 

しどろもどろになってしまう慣れない女子との会話。もともと中学でも女子と全く喋らず、教室の隅でぶつぶつとヒーロー研究をしていた緑谷にとって彼女はまぶしすぎた。

 

一方会話に入れないベンはというと、

 

「なんだよ、盛り上がっちゃってさ」

 

楽しそうに喋る二人をおいて教室に入る。

教室では眼鏡の少年と金髪の少年が言い合いをしている。奇しくもその二人はベンが受験の際に揉めた二人だった。1人は会場に入る前、もう一人は試験中。

そのことを覚えていないベンだったが、他人が揉めているならばそこに入るしかない。そこには諫める、という目的もあったが、やじうま根性の方が強かったかもしれない。

 

「おいおい、何喧嘩してんの?」

 

「これは喧嘩ではない!同じ教室で…って君は」

 

そこでベンは気づく。

「あ、お前は…試験の時ボクを注意した…」

 

眼鏡の少年のことを思い出すベン。そんなベンに自己紹介から入る眼鏡少年。

「俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

 

「ぼくはベン。ベン=テニスン」

互いに自己紹介をし握手する。意外といいやつなのか、そう考えているさなか、飯田は喋りだす。

 

「テニスン君。君は…あの試験の構造に気づいていたのだな。俺は救助ポイントがあることなど気付けなかった…!俺より君の方が一枚上手だったようだ!!」

 

歯をきしませながらもベンを褒める飯田。実技試験での救助ポイントなどベンはオールマイトに言われるまでは全く気づかなかった。巨大ロボに向かったのもほとんどは好奇心であった。しかし、そちらが褒めるのならば乗っかろう。

 

「まああれに気づくのは難しいよね?ボクだからこそ気づけたのさ!」

 

調子に乗るベン。しかしその顔は目の前にいる金髪の少年をイラつかせた。

 

「人の机の前でぺちゃくちゃ喋ってんじゃねーぞ!!」

 

先ほどから黙っていた金髪の少年はベンに食って掛かる。

 

「む、お前は…かっちゃん?」

 

「だれがかっちゃんだぁ!!」

 

「ウニ?」

 

「待て言いやがったなクソチビがぁ……てめーがモブだってこと教えてやろうかァ!?」

 

「…!!ボクはヒーローになるんだぞ!主人公に決まってだろ!!」

 

「止めないか君たち!!」

 

入学早々から損な役回りになる飯田。そんな彼をかわいそうにおもったからか、それとも予定時間なのか。鶴の一声がかかる。

 

「おい」

 

緑谷達の後方から聞こえた声。明らかに10代の声とは違うと分かる年季の入った声。声がする方を皆が見ると寝袋に入ったひげ面が寝そべっていた。

その光景の異様さに黙り込むクラス。

 

「…はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

 

ヌ―、と寝袋からでてきたのはくたびれた青年。いや青年に見えるかは人による。おそらく10人中8人は中年、浮浪者、危険人物、と言うような風体であった。

 

「担任の相澤翔太だ。よろしくね」

 

「「「担任!!??」」」

 

皆が口をそろえてツッコむ。お構いなしに続ける相澤。

 

「さっそくだが、体操着を着てグラウンドに出ろ」

 

いわれた通りに着替えグラウンドに出る。その目的は

 

【個性把握テストォ!!??】

 

相澤が説明する。曰く、今までの体力テストは文部科学省の怠慢であると。個性を使った体力テスト。それにより自らの最大限を知れと。

 

説明の一環で爆豪がソフトボール投げをする。その記録は705メートル。規格外の数値だ。

 

「個性フルでつかえんのか!!」

「どれにしよう!!!」

「面白そう!!」

 

教育にもゲーム性、面白さは必要である。生徒たちにとって面白そうとは授業に対するほめ言葉。だがしかし、プロヒーローである相澤はよく思わない。

 

「面白そう…ね。よしわかった。トータル成績最下位の者は見込みなしとし、除籍処分とする」

 

ちなみに先ほどの発言のうち、3分の2は1人の少年である。

 

【はああ!!??】

 

「この学校の校風は自由。そしてそれは教師にも当てはまる。俺は君たちに理不尽を与え続ける。頑張って乗り越えてくれ。この学校の校訓は知ってるだろ?」

 

Plus Ultra(さらに向こうへ)

 

 

 




入学式に来た保護者様、本日はお暑い中ご足労いただきありがとうございます。なお、1年A組は入学式には参加しません


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10話 ポンコニトリックス

この回は書いてて楽しかった。やっぱりヒーローは変身してナンボ。


「よし、じゃあ出席番号順にならべ。最初は50メートル走だ」

 

担任の気まぐれで急遽始まった【チキチキ!だれが除籍処分になるでしょーか】。最下位は学校から去る、という特殊すぎる体力テストに困惑しながらも皆は準備をする。

 

「まずは蛙吹、飯田だ」

 

クラスメイト二人が走り出す。待機中のベン、緑谷、麗日は手持無沙汰となり喋りだす。

 

「えっと、ベン君?だっけ?あたしは麗日お茶子!よろしくね」

 

「ああ、よろしく」

 

「ベン君の個性は…あのトカゲ見たいな奴に変身する能力?」

 

麗日は試験開始の際ベンがXLR8に変身するところを見ている。フォーアームズになっているときのも会ったが、変身解除を見られていなかった。ゆえに麗日はベンが単一の変身型だと予想する。

 

「トカゲって…XLR8のこと?あいつはトカゲじゃなくて恐竜!!」

 

その違いは大してないのだがベンは気にする。ヒーローは何よりもかっこよさが重要なのだ。ちなみにそれはお子様にも言える。

 

「そういえば君は2種類の姿に変身していたな。複合型なのか?」

 

麗日とは違う考察で会話に入るのは飯田。50メートルを走ったにも拘わらずその息は乱れていない。それは全力疾走をしていない、いや出来なかった。ことを意味していた。

 

「ああ、お前はXLR8とフォーアームズを見てたのか。ふっふっふ、君たち、ボクの力はそんなもんじゃない!このオムニトリックスで僕は10タイプのエイリアンに変身できるんだ!!!」

 

ペラペラしゃべるベン。そんな彼に対し小声で突っ込む緑谷

 

「ちょっとベン君!!それ言っちゃ駄目な奴じゃなかったの!!?」

 

ハッとするベン。オムニトリックスによって変身能力を得たことは日本ではベン、緑谷、そしてオールマイトのみが知っている事実であり、また口外禁止であった。

 

「10も!?オムニトリックスとはその時計のことか!?」

「エイリアンって何!!」

 

矢継ぎ早に質問を投げ返る二人に対し当のベンは、

 

「えと…」

 

困っていた。いつもならばよく回る舌だがこういう時に限って油が乗ってない。

あたふたするベンに緑谷が助け舟を入れる。

 

「ベン君は変身型の個性持ちなんだ。けどその個性に体が追い付かなくて制御しきれなったんだって。その時計はそのためのサポートアイテムなんだよ。ベン君は10の変身体のことをエイリアンって言ってるんだ」

 

ベン、緑谷、オールマイトで考えた外向けのオムニトリックス概要を二人に説明する。考えたのは春休みよりも前だが完璧に回答する緑谷。偏差値70を超える雄英に入れただけはある記憶力である。ベンも入っていたが、ベンはベンの力、といえるのかはわからない。

 

「へー、そーなん!」

「なるほど、だから2種類の姿に変身でき、変身の瞬間には時計を押していたのか」

 

「そういうこと。10タイプなんだよ?今回の体力テストもバッチリさ!!」

 

QBAANN!!

 

得意げに話したかと思うとウォッチを起動し変身するベン。変身したのは

 

「じゃ、行ってくるよ!」

 

50メートル走には適役のXLR8であった。

 

「なっ!!ベン君」

 

驚き何かを伝えようとする緑谷。しかしスタートラインに立ったベンには伝わらない。

 

「位置について、よーい、どん」

 

【ピッ】

 

相澤の覇気のない掛け声とほぼ同時にゴールする。

 

「…テニスン 記録 0.22秒」

 

【す、すげぇ!!!】

【今ほとんど見えなったぞ!!】

【あんな奴いたか!?】

 

クラスメイトからは驚嘆、そして賞賛の声が飛びかう。その言葉を聞き最高にハイってやつになりながら緑谷たちの元へ行くベン。XLR8のまま、ウキウキと自慢げに話す。

 

「どーよ。これがボクの力さ!!」

 

「すごいな!俺もスピードには自信があったが…まるで見えなかったよ…!」

「私もこんな速い移動初めて見たよ!!」

 

「ふふふ、今ならサインもしてあげるよ…ん?どうしたイズク。そんな、やっちゃったみたいな顔して」

 

ベンからの質問に対し、深刻な顔をして問う緑谷。

 

「…ベン君。今体力測定してるのは僕ら1-Aだけだね」

 

「そうだな」

 

「一つの競技10分、いや、ものによっては5分かからないものもあるよね」

 

「だろうな」

 

「最後に…ベン君は残り7種目どうするの!!!??」

 

「…?アッ!!!!」

 

一様に小首をかしげる飯田、麗日。その反対に元々青い顔を更に青くするベン、いやXLR8。

 

「XLR8の能力は快足だけどパワーが全然ないじゃないか!!次の種目は握力!!超記録なんか出せっこないよ!それに」

 

「インターバルがある…」

 

そう、今の変身が解けても5分は変身できない。つまりベンは今から少なくとも2種目、下手をすれば3種目超記録が出せないのだ。

 

「…イズク、ちょっとその辺で暴れてくんない?そんで時間稼いでよ」

 

「いやだよそんなの!!」

 

エイリアンヒーローのモラルはそんじょそこらのヒーローとは異なるようだ。悪い意味で…

皆で移動しての握力測定が終了し、次は立ち幅跳び。ギリギリXLR8の変身を保っているベンは自分の番をまだかまだかと急いていた。

 

「先生!!まだ!?ボクはやくしていい!?」

 

「何を言ってんだ。順番は守れ。これ小学生で習うことだぞ」

 

ディノサウルス型のエイリアンの姿であろうと中身はあくまでベン。XLR8であればまだその脚力で記録が出せるかもしれない。そう思い無茶な談判を試みるも失敗。

 

順番を待つ。

「…次はテニスン、常闇だ」

 

「よしきた!!」

 

待ってましたと言わんばかり位置につくベン。1、2の3で飛ぶ2の状態に入る。腕を後方に跳ぶタメを作る。

 

前にも言ったがこの世界は夢が現実となった世界。そう、どんなにファンタジーだろうと、夢物語が成ろうと、現実である。そして現実は残酷だ。

 

死神が歩いてくる音。のちにベンはこの音をそう呼称するようになる。

 

Pipipipipi QBAANN!!

 

ジャンプが先か解除が先か。空中に跳んだ瞬間のベンは赤い光に包まれ、人間体の姿で着地する。その記録は

 

「…テニスン 記録 1.22メートル」

 

無残であった。まだ最初から人間体であった方が記録は出せていた。飛ぶ瞬間に解除されたため力の入れ具合を失敗にこの記録となったのだ。

 

「マジかよ…!!このポンコツ!!どうせならあと5秒遅れろよ!!」

 

オムニトリックスに悪態をつくベン。傍から見れば時計に何の文句を言ってるのだろう、といったところだ。

 

そんなベンをじっと見つめるものが1人、いや2人いた。

 

最悪のタイミングで変身が解けたことでその後の上体起こし、反復横跳びもクラス最下位になるベン。

 

「こんなのおかしいって!!何でボクが!!」

 

「ふむ、テニスン君は身体の力はそれほどなのか。いや、身長の割にはかなりの能力なのだろうが…」

 

まじめに考察する飯田だったが、その言葉はベンの心へのボディーブローとなる。

 

「…うるさい!ボクに身長のことを言うな!!いいんだよ!もうウォッチも復活したし」

 

腕を掲げ緑光を放つオムニトリックスを見せつける。

 

「なんとかなりそうだね」

 

緑谷が声をかける。ちなみに彼の成績はクラスでもトップ5に入る。そもそも増強系の彼にとっては最も有利なテストであったのだ。

 

「ああ、残るはソフトボール投げ、持久走、長座体前屈だ。前2つは変身したまま受けられるから最下位にはならないよ!」

 

「ソフトボール投げ、持久走、となると…」

 

「ああ、フォーアームズだ!!」

 

次なるエイリアンヒーローを決める。その言葉に飯田もうなずく。

 

「フォーアームズ、というとあの4本腕…やつか!確かにすごいパワーだったしな。クラストップも狙えるだろう」

 

「え?!あの赤い人ベン君だったの!?じゃあデク君お姫様抱っこしてたのは…」

 

「麗日さん!?」

 

緑谷にとっては忘れたい出来事を平気で思い出させる麗日。

 

「そうさ。じゃあそろそろ順番だしやりますか!」

 

キュイン、キュインとダイヤルを回しフォーアームズにシルエットを合わせる。

 

「さあ!ヒーロータイムだ!!!」

 

勢いよくボタンを押す。

 

QBAAANN!!

 

ウォッチから放たれる光に緑谷達は目を細める。

 

光が消え、変身したベンが現れる。その姿を見て最初に口を開いたのは麗日だった。

 

「ち、がうよね?」

 

その体は黒と白が大半を占め、頭部周辺には緑色のラインが入っていた。凹凸はなく、その姿を表するならば、“生きた作業着”だった。

 

 

 

 




何気にオムニトリックスはドラえもんと同じで、ポンコツなんですよね。しれっと解除時間早めたり、別にエイリアンに変身したりして。まあそういうときの方も好き。なんならそういうときの方が面白い(笑)

もしよろしければアンケート、お願いします!


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11話 NAMED

皆様からの感想めちゃくちゃ励みになっています!!感想が一話来るたびよっしゃ、書くぞ、となるのでこれからもどんどんよろしくお願いします!


生き物ではない。最初に飯田が目の前のものへの感想はそれだった。確かにその通りなのかもしれない。手足はあるが関節はなく。目、鼻、口すらない。顔と思わしき部分にあるのはただの円。黄緑色で縁取られた円はぼんやりと光っている。

 

「そ、その姿はなんなんだいテニスン君」

 

思わず質問する飯田。しかしそこに緑谷がかぶせる

 

「何やってんのベン君!!フォーアームズじゃないよ!!」

 

「確かにフォーアームズに設定したのに…」

 

ここにきて初めてのオムニトリックスの誤作動。さらには名前すらつけていないエイリアンへの誤変身。

 

「声は…その円から出てるん?なんかマイクを通したみたいな声やね。ちょっとかわいい!」

 

さすがは現役女子高生。目の前の意味不明生物?に対してもかわいい、の一言で済ます。奇怪な姿のベンに対して、躊躇なく疑問をぶつける麗日。

 

「そのエイリアンはどんな能力なん?」

 

「…ない」

 

「え?」

 

「わかんないだよ…ボクとイズクで特訓してた時もこいつだけは能力はわかんなかった。強いていえば体が少し伸びるくらい…」

 

すっかり意気消沈したベン。対して焦る緑谷。

 

「と、とにかくそいつで何とかやりきらなきゃ!!いまからでも能力を探すか…?でもオールマイトとの特訓で耐久性くらいしか特に秀でていなかった。それが特性?いや今までのエイリアンとの差が激しすぎる。ならあのときでは発揮できなかった理由がある…」

 

友達を助けようと頭をフル回転する。そんな緑谷をみて決心するベン。

 

「サンキュー、イズク。僕も何とかするさ…!!」

 

その後数分だが4人で特性を探す。しかし見つからない。

 

「テニスン、準備しろ。つぎだぞ」

 

瀬呂の順番が終わろうとし、ベンに準備を促す相澤。

 

「やばいやばいやばい!!!結局なんなんだよこいつ!!」

 

「仕方ないよ!!けどこのエイリアンは手が大きい。もしかしたら超記録が出せるかも!!」

 

珍しく非論理的なこと言う緑谷。それほどまでに追い詰められているのだろう。友のためにここまでなれることは彼の美点である。

 

同様に焦りまくるベン。あまりに不安になり、きょろきょろしだす始末。そんな彼の目に飛び込んできたのは八百万。いや正確に言えば彼女の創造したソフトボール射出機であった。

 

彼女の個性は創造。自らの理解の範疇にあるものならすべてを作り出せる。作ろうと思えば核レベルのものまで作ることが可能な彼女だが、このソフトボール投げ、という至極原始的な競技には原始的な造りの機械で対応しようとしていた。

 

その機械をみた瞬間ベンの、否、それの本能がはたらく。

相澤は瀬呂の投球を見ている。それを確認し八百万のもとへ。

 

「なあ、それ、貸してもらえない?」

 

「え、かまいませんけど…私が出したものだとばれたらあなたが除籍処分になる可能性がありますわ」

 

あくまでこちらの心配をする八百万。前世は心優しき貴族だったのかもしれない。

その答えにニヤリ、とするベン。

 

「大丈夫、これ、は使わないから」

 

言い終えると腕を伸ばし機械に触れる。瞬間、溶ける。

 

「次、テニスン…テニスン、どこ行った」

 

「はい、はーい」

 

声がした方向を見て言葉を失う相澤。そこにはガシャコン、ガシャコン、と無機質な音を立てて歩いてくるなにかがいた。それは原始的なボール射出機、に足が生えたものだった。

八百万オリジナルものとは違い、先ほどまでベンが変身していたエイリアンの色彩となってる。真っ黒の体表を通る緑色の線。先ほどよりもより機械らしくなっている。

 

「テ、テニスンか?」

 

「そーだよ?さっさと始めちゃっていい?」

 

「…ああ」

 

訝し気にベンを見つめる目も許可をする。道具の使用は認められてないが道具になることは禁止されていない。ベンの理屈はこれだった。

 

 

重機か、はたまた虫か。そのどちらともいえる今のベン。サークル内に入り、ボールをもらう。

 

そんなベンを見て考察を始める緑谷。

(機械との同化が個性か?確かに強力だ。町にいる車と合体するだけでも意思を持った車ができる)

 

ほとんど正解を導く。しかし変身したベンは違う。正解を彼の本能が導いてくれる。

 

(合体した今なら…わかる!こいつの力が!!)

 

甲高い音を立て、ベンが、いやその機械は変わっていく。先ほどまで手持ちサイズだったそれは、重々しい音を立てて内部から組み替えられる。少しの間、静寂の中を闊歩した音が消えると、大人でも持ちきれないほど黒緑色の銃が完成する。Ziziziz、と何かをチャージした後、その銃は叫ぶ。

 

「いっけぇぇぇ!!!!」

 

ドウン!!!いかつい音が鳴ったのが先か、ボールが飛んで行ったのが先か。ほかの者にはわからなかった。視認すらできない速さでボールが射出されたからだ。

八百万がポツンと言った。

 

「レ、レールガン…」

 

「記録…5000メートル以上、そこから先はボールが消失した」

 

相澤が記録を伝え、それを聞き喜ぶベン。

 

「やったぁ!!」

 

心の底から喜んでいるのだがそれは伝わらない。なんせ手も口もなく、何ならレールガンに擬態する虫の様相だからである。

 

カサカサカサカサとあれを彷彿とさせる動きで八百万の元へ。

 

「ありがとう。たすかったよ」

 

「ひぃっ!!い、いえとんでもないですわ」

 

すごく、気持ち悪がられていた。

 

「ベン君すごいや!!」

 

駆けて喜んでくれるは緑谷。

 

「先に無限の記録を出したオチャコには敵わなかったけど…まあなんとかなったよ。それに発見できた。こいつの能力は」

 

「機械機能改良、だね」

 

「…さすがイズク。よくわかったな」

 

「そうでもなきゃあの威力は説明できないからね。名前は決めたの?そいつだけ決めてなったでしょ?」

 

「ああ、機械を改良して戦う、こいつの名は、アップグレードだ!!」

 

そうしてベンのエイリアン全てに名が与えられた。

 

 

その後持久走、長座体前屈を終えた一同は記録発表に身構える。

 

「大丈夫かな…」

 

「大丈夫だよ!ベン君はXLR8とアップグレードで超記録を出してるんだから」

 

「でも他がダメダメだったんだぞ?正直こわいよ」

 

「どうしたの、珍しく弱気じゃないか」

 

ベンが弱気になっている理由。それは、クラスメイトの個性であった。

ベンはオムニトリックスを得たことで自分は特別である、と思っていた。選ばれしヒーロー、ヒーローになるのが運命だと。しかしそれは違った。この社会では個性は合って当然。自分はそれを手に入れただけ。その証拠に皆超記録をいくつも出すものもいれば、全てでかなりの記録を出すものもいた。

 

「ボクは先の二つ以外ダメだった。ボクはスタートラインに立っただけなんだ」

 

「そんなこと‥」

 

言葉を詰まらせる。緑谷も同じことを考えていたからだ。皆が持っているものをこの前やっともらった。それを自覚しているからこそ努力ができた。そんな緑谷だからこそベンにいう。

 

「それに気づいたなら大丈夫だよ!!僕らは一緒に頑張るんだろ?」

 

その言葉に顔を上げるベン。

 

「ああ、こっからがボ」

 

「では結果発表に入る」

 

ベンの決意はむなしくも相沢に遮られる。

 

「じゃ、トータル成績を一斉に開示する」」

 

モニターに順位が映る。ベンの順位は…

身構えた瞬間。予想外の言葉が

 

「ちなみに除籍はウソな。」

 

「!?」

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

ハッと乾いた笑いで子のように言う相澤。当然生徒の反応は

 

「はーーーーー!!!!???」

 

これである。中にはそれを予想していたものもいるが、大半の者は驚きと安堵でへたり込んでいた。

 

とくに、除籍対象だったものは腰が抜けていた。

 

「あ、危なかった」

 

腰を抜かしたのはベン。その順位は最下位であった。

 

「だ、大丈夫?」

 

手を差し伸べる麗日。

「オチャコ…ありがとう…とりあえず命拾いしたよ」

 

「よかったね」

 

「じゃあこれで1-A歓迎会を終了する。解散」

 

「いやどんな歓迎会だよ!!」

 

レクリエ―ションが終わり1人職員室へ向かう相澤。そこに現れるは

「相澤君の嘘つき!!」

 

「オールマイトさん…」

 

オールマイトが話す内容はこうだった。相澤は去年一クラスを実際に除籍している。君は最下位だったテニスン少年に可能性を感じたから取り消したのだと。

 

「…違いますよ。あいつは…異質すぎる。個性が個性の範疇を越している。さらにあの精神性。なにかあれば敵に落ちてもおかしくない無邪気さ。学校で見ている方が世のためだと思ったんです。あいつの個性は…あなたみたいなものだ。その使用者が偶然正義の心を持っているから我々は助かっている」

 

「う、うん?つ、つまり、どういうこと?」

 

「…あなたはすばらしいヒーローだってことです」

 

「ちょ、素晴らしいだなんて…ってもういない!?」

オールマイトを振りぬき一人思案する。

(そう、アイツの個性は…まるで、個性じゃないみたいだ)

 

 

 

 

 




ふおんかな
ふおんじゃないよ
ふおんだよ

入学編終了!!
ちなみに体力テスト編の誤変身はもう1パターンありました。そっちにしようかと思ったんですが今回の話より無理やりなので没に(笑)


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戦闘訓練
12話 コンビ結成


ベンくんの好物はなんでしょう?


入学初日から除籍のかかった体力測定を受け、度肝を抜かれた少年少女。

 

しかし彼らには休む暇などない。最高のヒーローとなるには一秒たりとも無駄にはできないのだ。

 

ただ…トップヒーローには優れた素養も必要なのである。つまり、彼らには超高校級の授業が待っていた。

 

なんとか数学の授業が終わり、食堂で昼食をとる4人。

「なんなんだよ数学って…算数のままでいいじゃんかよ…」

 

「どうしたのベン君?揚げられたマグロみたいな顔をして」

「口に物を入れている時は喋らないようにしよう!!!」

「飯田君、声が大きいよ…」

 

ベンを気に掛けるのは麗日お茶子。口がいささか悪いが裏表がない証拠なのだろう。麗日の質問に対してベンは答える。

 

「だってさ、なんであんな難しいことをやらなきゃいけないんだよ。因数分解なんてヒーローなっても使わないじゃん」

 

「今日のは中学校の復習だったぞ?テニスン君、君もこの雄英高校に受かっているのだから、あのくらいはできていたんじゃないのかい?」

 

そう、偏差値70を超えるここでは皆が天才レベルに頭が良い。一見アホに見えるものでも偏差値は65は超える。

 

しかしながら、筆記をズルで通ったベンに、今日の授業は難しすぎた。

 

「そ、それは…」

 

「まあまあ、これからできるようになるよ、ね、ベン君。さあ食べよう!!」

 

助け舟を出しつつサラリと話題を変えてくれる緑谷。そんな彼に、さすが親友!と念を送りつつ食事に手を付けるベン。

 

「そうだ!せっかくおいしい昼食だもんな。特にこの…チリフライ!!いままで食べた中で一番おいしいよ!」

 

「こんだけおかずがあってなんでチリフライなん?」

 

好物が最高のシェフによって作られたことに感謝をするベン。傍から見ればサイドメニューが大好物?といった感想を抱くかもしれない。

 

ベンがチリフライを好きになった理由は、祖父マックスが出すゲテモノ料理の合間に出されていたのがチリフライだったからだ。相対的にチリフライがおいしく感じたことが最大の要因である。

 

談笑を交えた食事を楽しんだベン達。次の授業の準備のため席を立とうとする。

 

学食を使った者がいるならばわかると思うが、学食はとにかく狭い。そして狭いものだから後ろを通ろうとしたものとぶつかる。

 

「あ、ごめ」

 

「ああ?」

 

ぶつかった相手が悪かった。ベンがぶつかった相手は将来の【敵っぽいヒーローランキング】TOP10を狙える形相の少年、爆豪克己であった。

 

「ボーッとしてんじゃねぇぞ!!」

 

「なんだよ!謝ったんじゃん!」

 

「知るか!!食うのが遅ぇんだよ!さっさと食って出とけや!」

 

それだけ言い吐き去ろうとする爆豪。そんな彼に嫌味を言うベン。

 

「あーあー。あんなにキレちゃってさ。あーゆーやつって味とかわからないだろうね?特に僕が食べたチリフライとかさ」

 

安い挑発、にもならない呟きだが彼は反応する。言われたことをスルーする、このご時世必須スキルであるスルースキルを彼は持ち合わせていなかった。

 

「ああ?!わかるわ!!ここのチリフライに使われてるジャガイモも日本のそれじゃねぇ。濃いチーズに負けねぇためにアメリカ産ならではのジャガイモの味でチーズと戦わせてやがるんだよ!サイドメニューらしくするためにキドニービーンズを通常の倍近く煮込んであくまで量は抑えてる。これによって…」

 

そこでハッとする爆豪。言い忘れていたが彼は辛い物が大好物であり、学食のチリフライはもちろん食していた。

 

饒舌に説明していたが初めに突っ込んだのは彼とともに食事していた切島だった。

 

「なんだぁ!爆豪、お前めちゃくちゃ味分かるんだな!そういえば食べ方もきれいだったし、育ちが」

 

「うるっせぇ!!!」

 

恥ずかしくなり、切島の言葉を一蹴してズカズカと片づけに向かう彼。

そんな彼を見てベンが一言。

 

「…もしかしたらボク、あいつと仲良くなれるかもしれない…」

 

「ベン君!?いや良いことだろうけどそんなに!?」

 

余談だが、ともに時間を過ごす人を選ぶとき、食事の好みはとても大事だそうだ。

昼食もとり、眠気が襲ってくる午後の授業。だがしかしヒーロー科は違う。午後からはヒーロー科専門科目であり、しかも今日の授業は

 

「わーたーしーがー!!!普通にドアから来た!!!」

 

そう、オールマイトによるヒーロー基礎学である。憧れの彼による授業で眠くなるものなどいない。オールマイトにそこまで興味のないベンでさえウキウキしてしまっている。

 

「今日の内容は戦闘訓練!!さあ、みんな、ヒーロースーツに着替えてグラウンドβへ!!」

 

 

「もう戦闘訓練!?」

「戦闘服きれんのかよ!」

「やったぁ!!!」

 

 

戦闘服とは入学前に生徒たちがメーカーに要望を出していた、いわゆるコスチュームである。自分の描いたヒーロー像に近づいたことが目に見えてわかるのがヒーロースーツ。

それをもう着れると知り、クラスは喜びと驚嘆の声でいっぱいになる。

そんな彼らに師は言う。

 

 

「恰好から入るってのも重要だぜ?自覚するんだ少年少女!今日から自分は!ヒーローなのだと!!!」

皆が戦闘服に着替え、グラウンドβに集まる。グラウンドと言っても名ばかりで、実際はグラウンドではない。そういうとしょぼく聞こえてしまうがそっちの意味ではない。

 

グラウンドβは市街地を模したところ。入試の際にも使用された訓練場である。その予算、いったいどこから出ているのだろう…。

 

皆が並び、オールマイトはその壮観な景色に心を打たれる。

 

「いいじゃないか!さあ、はじめるぞ!有精卵ども!!」

 

と、言ったものの生徒はお互いの戦闘服で盛り上がる。

オールマイトをオマージュした戦闘服に麗日からおほめ言葉が。

 

「あ、デク君!かっこいいね!!地に足付いたって感じ!」

 

「そ、そういう麗日さんこそ…その」

 

「ああ、あんまり細かいこと指定しなかったから…パツパツスーツになっちゃった」

 

テレテレと話す麗日。彼女のコスチュームは黒と白を基調とした圧縮宇宙服であった。体のラインが出るその服は、見るものによっては直視できなくなる代物だった。そして直視できなくなっているものが1人、

 

「…その、あの…とても…」

 

見事その魅力にやられた緑谷。そんな彼の様子に気づかずベンに話しかける麗日。

 

「あれ?ベン君はなんか私服っぽいね?」

 

言われた通り、彼のヒーロースーツはオールマイトと特訓していた時と同じ服装、つまり見た目はほぼ私服だった。上は白生地にブラックラインが入ったTシャツ、下はカーキ色のダボダボズボンである。

 

「まあね?ボクの場合は変身して戦うからあんまりスーツの意味はないんだよ。けどギミックはあるよ?まず素材。これはじーちゃん特製のファイバー素材。ちょっとやそっとじゃ破れない。それにこれ、ジーちゃんが実際に使ってたのをもらったんだ」

 

そう言ってベルトに下げた光線銃を取り出す。

 

「へー!ベン君のおじいちゃんってヒーローやったん?」

 

「そう!ボクのじーちゃんは」

 

「先生!今日は市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

ベンがじーちゃん自慢をしようとするも飯田の質問により阻まれる。まあ授業中だしな、と考え素直にそちらに耳を傾けるベン。

 

「いいや、もう二歩踏み込む!屋内訓練!2対2の対人訓練さ!」 

 

カンペを出しながら説明をするオールマイト。

 

「状況設定は敵がアジトに核兵器を隠していて、ヒーローがそれを処理しようとする。ヒーローが制限時間内に敵を捕まえるか核兵器を回収すれば任務完了、ヒーローの勝利ってわけだ!」

 

「一人余るけどどーするの?」

 

「そこは敵3、ヒーロー2でやるよ!さあくじでコンビを決めよう!!」

 

オールマイトの説明がおわりくじを引く。

相手が決まり互いに挨拶をしていく。

 

「よろしく!」

「こちらこそ!麗日君!」

 

「足引っ張んじゃねぇぞ!」

「お前もな」

 

 

「続いて最初の対戦相手は…こいつらだ!!!」

 

A ヒーロー役…テニスン、緑谷チーム

D 敵役   …爆豪、轟チーム

 

くじを引いてもらい、さらに自分でも引いたオールマイトは内心呟く。

 

(これ、本当に偶然かなぁ…)

 

オールマイト、100%偶然です。他意はありません。

 




ベンくんの好物は、チリフライでしたぁ

作者はチリフライを生で見たころがありません。ちなみにチリフライが何なのかも知りませんでした。


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13話 犬か熊か虎か

とりあえず、当面の目標は基本エイリアン10体出すことです。今は…何体目だ?


雄英高校生活2日目。その午後の授業は2-2の対人戦闘訓練である。

 

ルールは、【1】建物のどこかにある核を触るか【2】敵を捕獲すれば、ヒーローチームの勝利。現在、敵チームは建物の中で、ヒーローチームがそのビルの前で作戦会議中。

 

「さーて、誰でいこうか?イズクとタッグならこっちの勝手がわかるだろうし、やりやすいね!」

 

キュルキュルとダイヤルを回しエイリアンを選択していくベン。

 

「うん、僕もベン君とならやりやすいよ。時間制限があっても、オムニトリックスの万能さはすごいからね…」

 

「へへ、そうだよね。そうなんだよね」

 

ニヤニヤしてしまうベン。もともと褒められ慣れていないせいか、どうしても褒められるとほくそ笑んでしまう。

 

そんな彼に対し、その気持ち、わかる…と思いつつ話す緑谷。

 

「…どのエイリアンを使うかなんだけど、轟君の個性ってわかる?」

 

「いや? ボク体力テストは自分で手一杯だったし」

 

「そっか…僕もよくわからないんだよね…少し見たけど、放出系だった気が…」

 

「まあわからないことはしょうがないよ。じゃあ、えっと、誰だっけ…“カッチャン"だ。カッチャンの個性はわかるんだろ?あいつ対策でボク変身しようか?」

 

「…確かにそれが合理的だけど…多分かっちゃんは僕単体を狙ってくると思うんだ。だからベン君には違う仕事をしてほしい」

 

「違う仕事?」

 

「うん。今回の訓練。あんまり強調されてなかったけど、一番大事なのは核を見つけ出すこと。1フロア5部屋近くある5階建ての建物のどこかにある核。これの早期発見ができなきゃどうしたって不利だ」

 

「索敵…か。アイツなら得意だけど、まず核の匂いがわからないと」

 

「大丈夫。核をたどらずに、有るものを辿れば核につくはずさ」

 

「…あっ!!なるほどね!さすがイズク!」

 

「はは…あ、それと、ヒーロースーツのギミックを麗日さんに説明してたけど他に何かある?」

 

「ああ、これがある」

 

右足の側面につけたポケットから手のひらサイズの板を出す。

 

「なに?この…淡い緑色の板」

 

「ふふ、これはだな…」

 

ベンが得意げにギミックを話しているとき、敵チームの轟、爆豪は核の前で話していた。その内容は作戦会議、とは言えない代物だ。

 

「おい、氷野郎。デクのやつは個性持ってんのか?」

 

「デク…緑谷のことか?そりゃあるんじゃねぇか?俺もよく見てねーが、無個性で体力テスト5位は無理だろ」

 

「…やっぱあの野郎…俺をだましてたのか…!!!!」

 

ビキビキと青筋を作り怒る爆豪。彼の中では緑谷は最下層の人間。そんな奴が自分の喉元まで来ている事実が彼をいらだたせる。

 

ちなみに入学試験では総合成績では緑谷、ベンががワン、ツーだが、敵ポイント、純然たる戦闘力においては爆豪がトップであった。

 

1人でブツブツイラついている彼を見かねて轟から作戦を立案する。が、

 

「…おい爆豪。開始と同時に俺が凍らせるからお前は下がっ」

 

「うるっせぇ!!俺に指図するな!!!」

 

DOMM

 

ここで話が聞けるような性格ならそもそも緑谷に怒らない。

 

「…」

 

爆豪が出ていった部屋で1人佇む、特待生 轟であった。

 

 

【よし、双方準備できたな?戦闘時間は20分それでは、屋内対人戦闘訓練開始!!】

 

オールマイトの声がアナウンスを通し聞こえる。

 

 

「よし、いこう!ベン君!」

 

「ああ、ヒーロータイムだ!!」

 

QBANN

 

胸が高鳴る初、戦闘訓練。入学試験の時同様の緊張感が彼を包んでいた。そんな中彼が変身したのは

 

「ヴァラォォォォウ!!!!」

 

クマも逃げ出す異次元の犬、ワイルドマットだった。オレンジ色の立髪を有し、全長4メートルにもなる超大型犬。

 

1匹と1人が建物に入る。もちろん、1匹の方は4足歩行だ。

 

「どう?ベン君。わかる?」

 

「ヴァル!!!」

 

その獣は人語を介すことができない。というよりも人語に合った発声器官が備わっていない。ついでに言うと目すらない。

 

左肩にオムニトリックスマークを掲げたベン。今の彼は、橙色の体毛を持ち、野生を感じさせる犬歯をむき出しにした化け物であった。

 

「…やっぱり言葉が通じないっていうのはやりにくいな…だいたいわかるけど!」

 

「ヴァラヴァル!!」

 

「え?なに?!」

 

聞き返す緑谷に対して腕で進行方向を指す。

 

「あ、そゆことか。ありがとう!!…提案したのは僕だけど、ワイルドマットの嗅覚はすごいね。敵チームの人たちの残り香まで完璧にかぎ分けられるなんて」

 

「ヴァル!!」

 

「あ、今のはなんとなくわかっ…くさっ!!こっちに口向けないでよ!!ワイルドマットの口は超臭いんだって!」

 

半泣きになりながら鼻をつまむ緑谷。に対して

 

「ヴァヴァヴァwww!!」

 

笑いながら口を緑谷の方に向けるベン。それでもきっちり敵チームの残り香を追跡する。

 

そう、緑谷が思いついた核の発見方法は、敵チームが通った道筋を進む、である。

 

そしてそれを可能にするのがワイルドマットの嗅覚。

 

このエイリアンは目が無いにも拘らず、索敵能力はベンの持つエイリアンの中で最も高い。そんな彼が、今、警告する。

 

「ヴァラァァ!!!!!」

 

獣が持つ反響定位能力を応用し、周囲を確認したベンは気づく。なにかが来ると。そしてそれを察知した緑谷も構える。

 

「…にやがれぇぇぇぇ!!!」

 

言葉の冒頭がわからなくても何を言ったかわかる叫び声。爆豪は現れると同時に緑谷を狙い爆ぜる。

 

しかし予測していた緑谷は見事に避ける。

 

「避けてんじゃねぇぞクソナードォ!!!」

 

「ベン君!!行って」

 

「ヴァラォウ!!」

 

()()()()に、ベンは単独行動に走る。一瞬犬と化していたベンに気を取られる爆豪だったがそんなことはどうでもいい。

 

今は、とにかく、緑谷をブン殴ることだけに集中する。

 

「なんだぁ?共闘しなくていいのかぁ?しなくて済むって考えてんのかぁ!?」

 

「かっちゃん…僕は、僕はもう“雑魚で出来損ないのデク”じゃないぞ…」

 

「ああ!?何言ってっかわかんねぇよ!!」

 

言い終える前に右腕を大きく振りかぶってからの爆破攻撃。しかしそれは

 

ガシッ

読まれている。腕一本に対し、両の腕でぎっちり掴む。

 

「ううぁぁぁ!!!!」

 

ダゴンッと痛々しい音を立て壁にぶつかる爆豪。緑谷は両腕にOFAを発動し投げ飛ばしたのだ。

 

「僕の“デク”は、“頑張れって感じのデク”なんだ!!!」

 

【でもデクって頑張れって感じで、なんか好きだ!私】

麗日の言葉で、自分の蔑称が誇りに変わった。それを蔑称をつけた彼に伝えることで、自分は変わったのだと示す。

 

先ほどの投げ。爆豪の動きを読み切らなければできない芸当。そのことがわかってしまっていた爆豪は吠える。

 

「ムカツクなァ!!!」

爆豪が吠えて数分。連絡に応答しない轟は暇をしていた。守るべきものがここにある以上離れるわけにはいかない。しかしやることもない。しかたがない、雪遊びでもするか、そう思いかけた時、大きな音がする。

 

「…やっとか?いや、しかし早すぎる。爆豪のやつ何してるんだ?」

 

相方の仕事ぶりに疑念を抱きつつ警戒する。相手はクラス1謎個性を持ったテニスン。そしてクラスでもトップを争う万能な強化型緑谷。警戒態勢、臨戦態勢をとり、いつでも氷結を出せるようにする。

 

しかし、ヒョコリ、と現れたのは

 

「犬、クマ…トラ…なんだ?」

 

正体不明の化け物だった。

 

ヴァラァァァル!!!!!

 




はい、今回のエイリアンはワイルドマットでした!しかし試験時間は20分。ということは…

この物語は3分の2ベン、3分の1デクが主人公って感じです。たまにデクの割合が大きくなるけど(笑)

追記
アンケート、お答えいただきありがとうございました。多くの方が「ちょうどいい」と答えてくださったので取り合ず今のまま行きます。と行っても書き海洋に欠いてるだけで市の出ペースがコロコロ変わる可能性は大いにあります。生ぬるーい目で見守っててくださるとこれ幸いです。


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14話 氷結爆破、強化に道具?

オリジナル技。いやぁそういうのだいすきなんですよね。ネーミングセンスはともかく。

ネーミングはただかっこいい名前にするか、規則性を重視するかめちゃくちゃ悩みます。


訓練開始から数分。たった数分で核のありかを発見しそこに至ったベン。そのすごさは伝わりづらい。すごさを理解できていたものは一部の生徒そしてオールマイトだった。

 

(さすがだな、テニスン少年。この訓練では核を見つけることにほとんど時間を使う。だからこそヒーローチームは触るだけでも勝利なのだが…こりゃテニスン少年たちが有利か?)

 

しかしオールマイトの思惑は外れる。ベンの目の前にいるのは学年で4人しかいない推薦入学者なのだ。

 

「…どうやらテニスン…みたいだな」

 

目の前の獣を見てそう判断する。あくまで消去法であるが、ベンの今までの行動で考えればないわけではない。

 

(あいつは今まで…たしか2種類のモンスターに変身していた。となるとこいつの能力は変身能力か?とにかく距離を保つ)

 

バキバキと音をたて氷が地を這いベンを襲う。しかし今のベンは俊敏なワイルドマット。難なく氷を避け距離を詰める。

 

「ヴァラォウ!!」

 

威嚇しながら飛び掛かる。その発達した牙でえぐられることを想像した轟は目の前に氷の壁を作りつつ、あわよくばそれでベンを捕まえようとする。

 

「グルッ!!!」

 

顔面まで伸びてきた氷を回転しながら蹴り、後方に避ける。

 

攻めと守り、お互いがそれを回したところでベンは相手の個性を想像する。

 

そう、まるであのエイリアンと似たような個性。違うのは出す物質。ならば距離をとっていれば自分に氷が届くのはかなり遅く、また的も絞りやすい。その隙を狙い喉笛を食らう。

 

そう思案している間に轟が仕込みを入れる。

 

「っふ!」

 

薄氷一枚だが、部屋全体を氷で覆う。ベンは何をしているのか?と疑問におもいつつ、今が隙だ!と駆ける。その姿は獲物を見つけ仕留めにかかる狼。

 

 

だが、

 

「…」

 

轟が自分の後方に目をやる。すると一拍おいてそこから氷が連なって刺しに来る。

 

「ヴァッ!!!」

 

エコーソナーで感知できるベンだからこそ紙一重で避ける。そんな彼を見て驚くも冷静な轟。

 

「…!まさかこれを避けるとはな…目が無い代わりに聴覚が発達してんのか?だが…ギリギリ避けたってことは有効だってことだな?」

 

部屋のいたるところからの氷結攻撃。捕まればワイルドマットでも壊せるかはわからない。四方八方からくる氷を避ける為、縦横無尽に駆け回るベン。

 

「ヴァル!ヴァラォウ!!!」

 

しかし徐々に氷がスペースを埋め、逃げ場がなくなる。

逃げ場のないところに追い詰められ、一瞬足を氷に取られる。  

そこを轟は見逃さない。

 

「…!」

 

まず後ろの片足を凍らせる。前足で氷を砕くベンだが、氷結のスピードにはかなわない。

 

削っても削っても迫りくる氷にじきに対応が遅れる。

 

「終わりだ」

 

そう言い放ち氷結の速度を上げる。パキパキパキという音の後に部屋に残ったのは、首だけ氷から出ている獣のオブジェ。

 

「…感知能力はそうとうなものだったし身体能力も人間の範疇を超えてた。だが場所、そんで相手が悪かったな」

 

そういって確保証明のテープを巻こうとする轟。だが…

 

「どこに巻くんだ?…顔しか出てねぇし…」

 

そう、今のベンの体は氷に包まれている。よってテープを巻くことがままならない。顔になら巻けないこともないが、既に敵は行動不能状態。このまま終了まで放っておくか…そう思い、ベンに背を向け核の元へ行く。しかし轟の、その考えは甘かった。

 

いつもなら、いつもなら最悪の音。なんせ大好きなヒーロータイムが終わる音なのだから。しかし今のベンには、天使の福音であった。

 

Pipipipi QBAAANN!!!

 

不可思議な音が、赤い光が後方から発生した。振りむくと、

 

「あっ!!くそ、凍らされてて開かねーじゃん!!!」

 

人間体のベンが、この部屋唯一の扉から逃げようとしていた。

 

「……ちっ!!自由に人間体に戻れたのか?!」

 

実際はただのタイムリミットが来ただけだったがそれは轟にはわからない。とにかくもう一度捕まえる。

 

確か人間体だったやつの身体能力は下の下、ならばと体から氷を出す安直な攻撃。

 

しかしそれは、ベンには当たらなかった。地を這う氷が当たらなかった理由は単純明快。

彼は今、緑色の板に乗り、空中に浮いていた。

 

「っっひゃっほーい!!!さあ…とど…豪…えーと…第二ラウンド開始だ!!」

 

光線銃を手にし空中を駆けるベンに一言、

 

「轟だ」

 

ベンの変身が切れたことを通信により知る緑谷。しかしまだそっちに構える余裕はない。目の前には自分をぼこぼこにすることだけを考えている悪鬼がいるのだから。

 

「ッラァ!!これならどうだぁ!!!」

 

右手で後方に爆破。そのターボにより加速した拳をそのまま緑谷にぶつける。

 

「ぐっ!!!」

 

両の手をクロスし、ガードする。しかしOFAを使う暇がなかったため、なかなかのダメージ。

 

戦況は爆豪よりの互角。局所局所は部位OFAで応戦していたが、5%では決定打にはならなかった。

 

「ベン君がやばい…轟の個性は氷?ならもう一回拘束されると詰みだ…早く向こうに行かないと…」

 

「俺の前で考え事か?ふざけんなよ…?オレのことそうやってなめ腐ってやがったんだろ?だから個性隠してたんだろうが!!」

 

「ち、ちがうよ!僕は」

 

「だがなぁ!そんな中途半端な強化は俺には通用しねーんだよ!!」

 

緑谷は100%OFAをまだ爆豪には見せていない。しかしなまじ5%は調整できるため、爆豪からは【中途半端な強化】と評される。

 

「お前は俺の下だぁ!!!」

 

爆音を鳴らしながらかっとんでくる爆豪。

 

(はやい!!けど合わせられる!)

 

「DETROIT SMASH!!」

 

渾身の殴打。しかしそれはかわされる。

目の前まで来て爆破により緑谷の後ろに回る。

 

(目くらまし!?まずい!!)

 

「らぁ!!!」

 

空いた手で背中への爆破。

さすがにこの攻撃は答える

 

「ぎっ!!」

 

痛みで歯を食いしばるも漏れ出る声。

 

爆轟の猛攻は続く。

 

「おら、お前の大好きな、右の大振り!!」

 

ブオンと風を切りながらの横薙ぎ。背後からの連打を躱すことができない。そう判断した緑谷は右腕にOFAを発動する。

 

バキッと嫌な音がするも、先ほどよりはダメージは軽減される。

そのことを察した爆豪は殴った腕をそのまま握る。

 

「お前は…」

 

左手で敵をつかみ、右手で小ぶりな爆破を連発し回転する。それはカタパルトを模したかのよう。

 

「俺より!」

 

回転の勢いをそのままに下に叩きつける

 

「下だ!!」

 

が、其れがうまくいくのは相手が無個性の者の時。今の緑谷は、9代目OFA継承者であり、5%まで、いや7%までは力を引き出せる。

 

叩きつけられるときに足を下に体制を変える。そして足が地面につき、一気に負荷がかかる瞬間、両足に発動する。

「ぐううぅぅ!!!」

 

地面が、足がビキビキとうなる。投げを足から着地したからと言ってダメージが0になる明けではない。確実に足に負荷はかかっている。だが、

 

「なっ!?」

 

自分の渾身の必殺技をうまくいなされた爆豪は動揺する。しかしそれがまずかった。今の体勢は爆豪が緑谷の腕を持ち、すぐ後ろにいる。言い換えれば、爆豪を背に、緑谷も彼の腕を持っているのだ。この体勢は

 

(今だ!!!)

 

絶好のチャンス

 

足にOFAを発動したまま、両腕にも発動する。初めて全身にOFAの力が流れ出た緑谷は、そのまま爆豪を背負い

 

MIKAGE SMASHH!!!」

 

ブン投げる。オールマイト、そしてベンとの修行で完成した、デクオリジナルの技。

要はただの投げ技であるが、その威力はOFAにより強化されている。

 

ドゴっという音を立て地面たたきつけられた爆豪。

霞んだ目で見上げるとそこには、勇ましい顔をした緑谷が

 

「かっちゃん。僕は、僕を信じてくれる人のため、そしてなにより君が凄い人だから勝ちたいんだ!!」

 

真っ直ぐした目で爆豪と目を合わせた後、上の階へ走っていく。

 

「…ざっけんな…ふざっけんな!!ずっとだ。ずっとその目で見てきやがる……そんなテメェが…気持ち悪ィんだよ!!!!」

 

爆破で体を起こして、ヒーローを追いかける。わからないものに対する恐怖、苛立ち。豪鬼はそれらを抱えて走る

 

 

 




デクつよ‥‥

ワイルドマットの活躍は微妙だったかもですねぇ。まあワイルドマットは万能性がなにが優秀で戦闘力はフォーアームズとかのがある、という解釈なので、あとは場所的なものも含め、轟さんには負けてもらいましたね。轟の氷結は何がワイルドマットに対しては相性良いし(笑)


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15話 ホバーボード

もう15話。一日一話書いていこうと思っていたら思ったより筆が進んじまった。
これも応援して下さる皆さまのおかげです。ありがとございます!!

今回で戦闘訓練編は多分終わりで(もしかしたら次回も?)、つぎからすこしだけオリジナル話入れます。


こちらは控室。緑谷達の戦闘を観戦しているクラスメイトがいる。彼らは全員が戦いにくぎ付けとなっている。

 

さきほどまで熱いバトルを繰り広げていた緑谷が追跡に入ったので、ベンと轟に視点を変える。

「おいおい、テニスンのやつ…」

「やばくないか?」

 

先ほど変身が解除され、実質無個性で戦っているベン。そんな彼を見てクラスメイトはざわつく。その理由はベンがやられていたから、

ではない。

 

「サポートアイテムだけで轟とわたりあってんぞ!!」

 

ざわつく生徒を後目にオールマイトだけが違う感想を持つ。

 

(実際は捕まらないようにけん制しているのだが…だがそれでも轟少年に決めさせないのはすごいな。さすがはマックスさんのお孫さん、といったところか!!)

 

 

「ほらほら!!自慢の氷はどうしたの!」

 

煽りに煽るは無個性少年のベン。彼は今ワイルドマットであったとき並みの、もしかしたらそれ以上の機動力も持って轟に挑んでいるのかもしれない。

 

一畳ほどの板に乗り、襲い来る氷をクールに避ける。下からの氷は上昇し、上からの氷は滑空しスレスレで躱していく。

 

「…ちっ!なんだそれは!」

 

見たこともない機械を乗りこなすベンに対し疑問をぶつける轟。

 

「ははっ!ボクのホバーボード技術は誰にも負けないよ!!」

 

格納式超飛行滑板、またの名をホバーボード。というか横文字の命名はベン。彼には、自分が無個性だとわかりすねていた時期があった。そんなベンに対してマックスから贈られてきたのが初号機ホバーボード。今は3代目である。

 

使用者の意図したように動く現代の科学力を上回る機械だが、空気抵抗などの関係で自転車ほどスピードでしか使用できない。

 

だが、

 

「おっと」

 

壁からの刺すような氷を滑らかにかわす。

 

「へっ、どこねらってんのぉ、トドロキ!」

 

自転車程度のスピードでも、ベンの体の小ささと相まって、かなりの軌道能力となっていた。

 

「…!」

 

耳に手を当てるベン。轟は好機と見、ベンの体の中心めがけて特大の氷塊をぶつける。

屈んでも上がっても当たる攻撃。しかしそれも

 

「ほっ!!」

 

当たらない。ホバーボードからジャンプして、ベンは氷の上を、ボードは下を通り、躱した後合流する。

そして躱した先にいる轟に対し光線銃を。

 

「っぐ」

エネルギー弾をもろに食らうも耐える轟。威力はただのパンチ程度。それはベンが威力を調整しているからであるが、轟には関係ない。

 

「大した威力じゃねぇ!これで終わりだ!!」

 

向かってくるベンに対し、氷の波で迎撃。防御も兼ね相当な氷壁を立てる。しかしそれは自身の視界を自分でふさいでしまう愚行。

 

「…」

 

手ごたえがない、そう思いベンの方を見る。なんと彼は扉の下で、扉に光線銃を打っていた。すぐに扉は壊れ、彼がくぐっていく。

 

(ここまでやって逃げるのか?!いや、もう一度変身するための時間稼ぎか!なら行かせねぇ…っ!!?)

 

氷を出そうとするも思うように出ない。今の轟の顔には霜が降りていた。それは彼の出力の限界が近いことを意味していた。出そうと思えば出せるが、自分で走った方が早い。

そう考え扉を抜けたベンを追い、壊された扉をくぐる。

 

 

 

 

 

 

瞬間、緑の閃光が轟の真上を走り去る。

 

(なっ!!しまった)

 

猛スピードで轟の上を通ったのは緑谷。

後悔しつつ緑谷への雹撃。だがその攻撃は遅く、OFAを発動している緑谷には追い付けない。

 

(くそ…!!)

 

緑谷が核にタッチする、その瞬間を眺めるしかない。そう思ってしまった後、

 

一筋の橙黒が彼の影を通り、それを食い止める。

 

「させっかクソデクゥ!!!!!!!」

 

「っ!しまっ…ウグッ!!!」

 

タッチの寸前、緑谷に追いついた爆豪。そうなると爆破というキーがある分彼が有利。対して手が届かなければ攻撃手段のない緑谷。

 

「死ねぇ!!!」

 

BOM!!という爆発音と黒煙の中から緑谷が吹っ飛んでくる。

 

「マジでか、かっちゃん…!!!」

 

「てめぇが俺を出し抜けるかよぉ!!!」

 

爆発音につられ、先ほど出て行ったベンが戻ってくる。

 

「イズク、だめだった!?」

 

「ごめん、あと少しだったのに」

 

通信で緑谷から聞いた作戦を実行したベン。轟を部屋から誘い出し、入れ替わりで緑谷が超速で入り、核に触れる。その作戦は成功していた。爆豪という執念の鬼さえいなければ…

 

「かっちゃんがあそこまで回復が早いなんて…完全に予想外だ…」

 

「やるじゃんカッチャン…で、ここからどうする?」

 

状況は最悪。前には爆豪、後ろには轟。しかも先ほどまで轟の顔に降りていた霜はすっかりなくなっていた。

 

「残り時間はあと3分くらい。立て直す時間は…ない。ベン君、ウォッチは?」

 

2人でオムニトリックスを見る。未だ赤いままのウォッチを見て舌打ちをしたくなる。

 

「そろそろ復活するはずだ。相手は氷と爆破。ヒートブラストで行く」

 

「うん、僕もそれがいいと思う。変身したら僕を気にせず一気に焼き払って!そして二人が引いたところに僕が突撃する…」

 

「おっけい。温度調整も慣れたもんよ」

 

「…作戦立ててんのかぁ…デクゥ。無駄なんだよ!何をしてようが何してこようがお前は俺の下なんだよ!」

 

「…何言ってんだカッチャン?」

 

緑谷と爆豪の因縁を知らないベンには、爆豪の言葉は陳腐なものに聞こえる。

轟はさきほどと違い、この距離間に優位性を覚える。

 

「爆豪!お前はそっちで緑谷の相手をしろ」

 

「…俺に指図すんじゃねぇ!!」

 

といいつつも緑谷に向かう。その意図はどうであれ轟の指示にこたえる爆豪であった。

 

「さあテニスン、今度こそ終わりだ」

 

轟がそういうのも不思議ではない。先ほどまでベンが逃げれていたのはこの部屋に二人きりだったからだ。ただでさえ狭い部屋に4人もいる状態となっては、いくらベンが小さくとも逃げ切れはしない。

 

そしてそれはベンもわかっていた。

じりじりと近づく轟に対し、はったりをかます。

 

「そ、それ以上近づいたら変身するぞ!!」

 

「今しないってことはできないってことだろ?」

 

即答される。知恵比べは負けのようだ。

 

「う、撃つぞ!!」

銃を構え、B級映画に出てくるようなビビり警官の真似事をする。しかし

 

「さっきガンガン打ってただろ」

 

通用しない。

 

(まずいまずいまずいよ!もう5分経ってるだろ!)

 

焦ってウォッチをいじるも、キュー―ン↷といつもの間抜けな音のみを出す。そしてあろうことか轟にばれてしまう。

 

「…その時計が変身の鍵か?…見たことないサポートアイテムばかり使うんだな」

 

「そ、そう!ボクにはまだ見せたことないアイ

 

言い終える前に轟の足から氷が這う。

 

「うわっ!!!」

 

右足が凍らされてからは速い。あっというまに氷が彼を襲う。

とっさにホバーボードに乗り、浮いたおかげで半身は無事だったが、もう半身は身動きがとれない。

 

「もう終了間近だが油断はしねぇ…きっちり拘束させてもらう」

 

そう言ってポシェットから確保テープを出す。さっきのように変身で氷を破られることを考えると、こちらで確実にアウトにした方が良いと思ったのだ。

氷を足から出し、少し上にいるベンの元へ。

 

「…」

 

無言で巻こうとする。

 

(頼む頼む頼む!!こいつがまく前に!!)

 

キュワン。その音がベンの左手首からし、少し驚く轟。対してパァッと明るい顔になるベン。

轟が見ると、さきほどまで赤かったはずのものが、緑色の光を放っていた。

 

「だれでもいい!!だから間に合え!!」

 

唯一自由に動く左手を壁にたたきつけ、無理やりウォッチを押す。そのしぐさは正に裏拳。

 

光がベンを包み、轟は腕で目を覆う。

「なっ!!??」

 

そして光から出てきたのは…

 

「しゃあ!!このウォッチは最高だぜぇ!!!!」

 

野太い声で歓喜の舞を踊るのは四本腕の赤き巨人。

変身した衝撃で拘束していた氷が決壊する。

 

「なっ!?」

 

一瞬うろたえる轟。対して離れて見ていた緑谷は思わず声に出す。

 

「フォーアームズ!?しめた!!」

 

「余所見すんな!!」

 

「ぐっ!」

 

ベンに気を取られた瞬間に爆豪に張り飛ばされる。

爆破を生かした殴打におもいっきり吹っとぶ緑谷。運がいいことにその先には

 

「おっと!大丈夫かイズク!!」

 

飛ぶ緑谷を上手いこと捕まえるベン。

 

「ベン君!そのまま投げて!!」

 

「お?おっしゃあ任せろぉ!!!!」

 

ハンマー投げの要領で、ブルンブルンと回転しベンを投げる。

 

ビュオン!!! ガン!!!!爆豪、轟は反応できなかった。

 

核の横を通り過ぎ、壁に激突しそのまま倒れるデク。

爆豪、轟は反応できなかった。観戦している生徒すらも緑谷が核に触れたのかどうかはわからなかった。

それはそうだ。フォーアームズというオールマイト並みの膂力の持ち主が力いっぱいぶん投げたのだから。

それが見えていたのはオールマイトだけであった

 

【核の確保完了!よって勝者、緑谷、テニスンチーム!!】

 

観戦している生徒すらも緑谷が核に触れたのかどうかはわからなかった。しかしオールマイトには、彼が核を通り過ぎる前にOFAを発動し、反応速度を限界まで高め核に触れたのが見えていた。

 

「は?!……俺が…デクに…?」

「くそっ…!」

 

呆然とする爆豪。対照的に壁を殴りつける轟。

そんな二人の合間を縫って、寝転んでいる緑谷の元へ駆け寄るベン。

フォーアームズのままなので、口調は荒い

 

「…おい、いつまで寝て…気絶してやがる!?」

 

その日、リカバリーガールは4本腕の化け物にあったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえば前回のMIKAGE SMASHの名前の由来ってわかった人いますでしょうか?割と気に入ってます笑

片手が使えなくなって、ウォッチを壁にぶつけて変身は絶対書きたかったところの一つです。めちゃくちゃかっこよくないですか?


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16話 久しぶりの再会

今回の訓練。読者の皆さんが講評するならどうします?よかったら感想お願いします!


戦闘訓練が終わりそしてベン、緑谷が保健室からモニタールームに帰ってきたところで、オールマイトが講評を始める。

 

「さ、今回のベストはだれだったかな!?わかる人!!」

 

小学生の授業でもするかのようなオールマイトの言い方。彼の授業自体はうまい、とは言い切れない。なんせ平和の象徴として長い間戦ってきており、教鞭をふるうのも実は今日が初なのだ。

 

しかしオールマイトが授業をしてくれている、という事実だけで生徒たちを熱くさせる。皆がハイ、ハイと手を挙げる中でオールマイトが選んだのはポニーテールの女の子

 

「では八百万少女!」

 

(まあ核のありかを見つけてさらには無個性状態でも応戦してたボクだろうな)

 

この心の声が誰だかは言うまでもない。腕を組み、さあ言ってくれと構えるベン。

 

「今回の戦闘訓練でもっとも適切な動きをしたのは緑谷さん、次いで轟さんです」

 

「はあっなんで!?ボクじゃないのかよ!!」

 

おもわず突っ込んでしまい、クラスメイトの視線を集める。

 

「…いや、その…ボクだってけっこうやったんじゃない?ほら、核発見とか」

 

皆の目線が痛いが自分の功績が認められないのは我慢ならない。スーパーパワーを手に入れようともこの辺の精神性はまだまだお子ちゃまだった。

 

ベンの抗議を受け止め、そして返す八百万。

 

「もちろんすばらしかったですわ。ではテニスンさん、お聞きしますがあなたの変身は時間制限付きなのではありませんか?」

 

「そうだけど?」

 

「それならば変身が解除する直前に轟さんから身を隠すべきだったのでは?」

 

「うぐ、そ、それでもボクはトドロキとやりあったんだぞ?」

 

「確かに元の姿でも応戦はできていましたが、それは必要な戦いだったのでしょうか?いったん隠れて緑谷さんとともに新たな姿で奇襲した方がよかったのでは?」

 

「っく…」

 

「爆豪さんは轟さんとの連携を取らず、暴走していたようにも見えました。それに対し冷静に対処し、さらにはテニスンさンへの指示出しまでしていた緑谷さんが今回のベストだと私は考えます」

 

「そう!!そして」

 

オールマイトの言葉は八百万に遮られる

 

「轟さんもほぼ完ぺきなように見えましたが、テニスンさんを相手にしていた時、油断していた部分が多々見えましたわ。それ以外のところはいうこと無しだったので素晴らしいと思いました」

 

気を遣わない評価。これは彼女が緑谷達を真に評価しているからこそ、そして心からヒーローを目指していることからこそのものである。

 

一番この評価でびっくりしていたのは

 

(ぜ、全部言われちゃった…!!!)

オールマイトである。

その後、皆の戦闘訓練も終わり一日の授業は終了する。

残るは教室での帰りの会。

担任である相澤はお疲れ様、と労ったあと何点か話す。

「今日の戦闘訓練。いくつは見せてもらった。まず爆豪。お前はもうガキみたいなことすんな。能力あるんだから」

 

「…」

 

爆豪がしおらしくなっているのは先ほどの出来事が原因だった。それは緑谷が【自分の個性はひとから授かったものだ。必ず使いこなして君を超える】と宣言してきたからだ。その言葉を受け、意味が分からなかった彼だが、心に誓った想いは一つ、【ここから一番になってやる!】である。

 

「わかったか爆豪」

 

「…ああ、分かってる」

 

「そんでテニスン。お前はもっと危険を感じ取れるようになれ。轟くらいの個性を持った敵にサポートアイテムだけじゃ危険すぎる」

 

「わかりましたよ…ヤオモモから言われたし」

 

ヤオモモとは八百万のことである。彼女が皆からそう呼ばれていたのをそのまま使わせてもらっている。

 

「…さて、明日からゴールデンウイークだ。うちでは2、3年では実質的にGWは無いに等しい。高校生活最後のGW、まあ羽目を外さない程度に楽しんでくれ」

 

「ええーー!!2年から無いのかよ!!」

「実家かえろうかなぁ…」

「皆遊ぼうぜ!!」

 

ラストGWと宣言され浮足立つクラスのみんな。そんな彼らに髪を逆立て注意する。

 

「静かに…ではこれでHRを終わる。さよなら」

 

【さよなら!!】

 

相澤が教室を出て、自分も帰ろうとするベンの元に暮らすの民が駆け寄る。

 

「なあなあお前!テニスンだっけ?テニスンの個性ってなんなんだ!?」

 

「な、なんだよ急に」

 

「あ、ごめんごめん、俺、切島英鋭次郎!個性は硬化!!」

 

「へー、地味だね」

 

「じっ…や、やっぱそうか…」

 

「いやそれでもその個性でここまで来れてるからいいじゃん?てゆーか逆に使い方うまいんじゃないの?」

 

「そ、そうか?ありがとな!!お前の個性もすごかったな!一体どういう個性なんだよ!!」

「それ私も気になる!あ、私は芦戸三奈よろしく!」

「俺!砂藤!!」

 

次から次に自分への質問をぶつけてくる彼らに当のベンは

 

「…しょうがないなぁ!ボクの個性は…」

 

デレデレだった。自分に興味を持ってくれる。それだけもうれしいのが無個性のヒーロ志望、ベンだった。

 

皆からの質問攻めを満喫し、帰路についたベン。

 

「はぁー!!いい1日だった!オムニトリックスがタイミング悪くて一時はどうなることかと思ったけど、アイテム操作も上手くいったし!このままだとマジでじーちゃん越えもあるかもな、いやもう既に超えてる?!」

 

そんなこと馬鹿なことを言ってる間にベン宅に到着。

 

「ただいまー…ん?」

 

玄関で靴を脱ごうとしたときに気づく。

 

(靴が多い。しかもこのサイズ、色は!!!)

 

音速で靴を脱ぎ、光速で扉を開き、超速で声を出す。

 

「じーちゃん!!こっちにきて…」

 

「ハロー、雄英高校一年、オマヌケいとこ君?。山火事起こしたことはちゃんと学校に言った?」

 

「なんでお前も来てるんだよ…」

 

開口一番、ベンへの悪態をついてきたのはソファで雑誌を読んでいたグウェンだった。

 




やってきましたいとこのグウェン!!グウェンはなんだかんだベンを助けてくれるけどそこに至るまでベンにはきついといういい感じのいとこですね。悪ガキ気質のベンとある意味相性よし?

次回から GW編。まあ3、4話くらいを目途にしてます


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GW(ゴールデンウィーク)
17話 初日はキャンプ場


さあ始まりました箸休めGW編。章の長さはまだ未定。イベントは考えてるけど書くと長くなってしまうかも


「なんだよ。なんでお前がこっちにいるんだよ」

 

ベンの家は町の中心から少し外れたところにある。それでも日本なかでは都な方だ。そんな場所に訪れているにもかかわらず、目の前の少女は文句を垂れる。

 

「あたしだって来たくて来たわけじゃないわよ。誰かさんがママに“海外に行くのもいい経験だ”って吹き込まなければね!」

 

グウェンはベンの向こう側に目線をやり、ベンもまたそちらを向く。

 

「おお、ベン。帰ってきたか」

 

そこには二人の祖父、マックスが立っていた。

 

「じーちゃん!何でこいつ連れてきたんだよ!絶対要らない奴じゃん!!」

 

「これこれ、そんなことを言うんじゃない。夏もなんだかんだ楽しかっただろう?」

 

そう、ベンがオムニトリックスを拾った日。実はその日までの3か月はベン、グウェン、マックスの三人でアメリカ旅をしていたのだ。

 

「楽しかったよ!?けどこいつがいなけりゃもっと楽しかったはずだよ!」

 

「こっちのセリフよ。余計な問題ばっかり持ち込んで。博物館の模型壊すわ、プールで迷子になるわ。挙句の果てにはキャンプ場で放火。よくそんなんでハイスクールに上がれたわね」

 

「なんだと…!!」

 

合って3秒持たずに喧嘩。これがベンとグウェンの距離間である

 

「まあいいじゃないか。ベン、明日はある場所に行くぞ!」

ベンの言葉を軽く流すマックス。

2人の喧嘩に慣れている彼は、さっそく明日の予定を話す。

 

「え?どこどこ!?」

 

「それは明日のお楽しみだ」

 

ワクワクが止まらない。じーちゃんはいつもボクの知らない世界も見せてくれる。そう思いながらその夜を過ごしたベンであった。

 

次の日。三人はいつものキャンピングカーに乗って移動する。

いつもの、とは夏休みの3か月に乗っていたものだ。

「やっぱりこれは良いね!旅って感じがして」

 

「そうか?そりゃよかった」

 

「それなのに…こいつは意味の分からんデータとにらめっこしてる」

 

「うるさいわね。休み明けには提出しなきゃいけないのよ」

 

「何だ?課題か?そんなの無視すりゃいいのに」

 

「そんなことできるわけないでしょ?あたしの沽券にかかわるわ」

 

「…お前本当にボクのいとこ?詰まんねぇ人生おくってんな」

 

「…あたしはどこかの誰かさんみたいにズルして入学してないのよ」

 

「なんだと!?ボクはちゃんとボクの力で雄英に受かったんだ!」

 

「じゃあ『現代のヒーロー社会における問題』について三つ挙げれる?中学生でも答えられるわよ?」

 

「ぐっ…ちょ、ちょっと待てよ?ど、ど忘れしちゃってるんだよ」

 

悲しい言い訳をするベンを見かねてか、それとも気にしていないのか、ベンに対し質問を投げるマックス。

 

「そういえばベン。友達はできたのか?」

 

親や祖父母が、新生活は始めた子供によくする残酷な質問。昔のベンなら【そんなの僕にはいらないね】と言っていただろう。しかし、今のベンは違う。

 

「できたよ!イズクっていうんだけど…すっごい頭がいいんだ!それに個性の使い方もうまいんだよ!」

 

嬉しそうに話すベンを見てほほえましく思うマックス。

 

「そうか。じゃあその子も誘えばよかったな」

 

「ああ、でも…」

 

GW前の緑谷との会話を思い出すベン。

【イズクはGWどーすんの?どっか行ったりすんの?】

 

【僕は山梨に行くよ】

 

【山梨!?なんで!?】

 

【なんか、オールマイトの先生がそこにいて、僕に修行をつけてくれるんだって!!】

 

【へ、へー。ど、どんまい。せっかくのGW。修行でほとんど終わるじゃん】

 

【最後に一日はこっちに帰ってくるけど…でも僕はうれしいよ!努力できる環境を作ってもらって僕は恵まれてる】

 

【…】

回想が終わり、グウェンを見る。

 

「お前とイズク、気が合いそうだな…」

「なに?」

 

「なのになんでお前はこんなにうざいんだろう…」

 

「もしかして喧嘩売ってる?」

 

車は進む。

 

「さあついたぞ…!」

 

マックスが車を止め、子供らは外に出る

 

「ここって…」

 

ベン、グウェンが顔をしかめながら声を出す。

 

「キャンプ場じゃん!!」

 

三人が今いるのは、とある県のとあるキャンプ場である。

せっせと夕飯の支度をするマックスに対し二人は抗議する。

 

「ちょっとおじいちゃん!!なんで日本まできてキャンプ場なの!?散々アメリカでいったじゃん!」

「そうだよ!!もっと楽しいとこがあったはずだよ!しかも移動に時間食ってもう夜になってるし!!」

 

2人の言葉を受け、サラダボールを運んできたマックスは笑う。

 

「ははは、まあわしらにとっては一番なじみ深い場所だろ?GW初日はここで過ごそうじゃないか。さあ、サニチゴ虫の生サラダ、そして羊のタンとラギュウの和え物だ。よく噛んで食べなさい」

 

マックスが出してきたのはいわゆるゲテモノ料理。見たことも聞いたこともない虫が皿でうねうねしている。

 

「…マジで言ってる?じーちゃん?ヒーローだよね?」

 

「食べたこと無いものを食す喜びを教えているのさ。これも立派なヒーロー活動だ」

 

一点の曇りのない笑顔のマックスを見てマジだと気付く二人。

 

「ああ、そういえばじーちゃんにはこれがあったんだ…!」

「だからキャンプ場は嫌だったのよ…」

 

マックスに聞こえないようコソコソ喋る。

 

「おい、お前何持ってきてる?ボクはチョコとチューイングキャンディー」

「おせんべいとポテチ」

「だめだ。そんなんじゃ腹を誤魔化せない…そうだ!」

 

仲良く話したかと思うとおもむろにベンは叫ぶ。

 

「おいグウェン!このウォッチの力見たくないか!?」

 

急なベンの言葉にすぐその意図を察するグウェン。

 

「う、うんうん。見たいみたい!!」

 

「よーし、まずはこいつだ!!」

 

QBAN!!

 

出てきたのはXLR8。快足のエイリアン。

 

「す、すごいじゃない!!この前の火吹き野郎とは違うじゃん!!」

「ほぉ、それでどういう能力を持ってるんだ?」

 

マックスが食いつく。

 

「それは!!…おいグウェン!財布かせ」

 

「え、はい」

ベンは財布をひったくるように彼女からとる。そしてピュオン、その音がしたときにはもう二人の前からベンは消えていた。とおもったら耳を裂くブレーキ音がする。

 

「これがこいつの能力、超スピード!!これはふもとのコンビニで買ってきたものさ!」

 

そう言ってグウェンに食料を渡す。

小声で賛辞を贈る彼女

「…ナイスベン!!」

 

彼らはこういう時には仲良くなれる。というよりはそれほどマックスのゲテモノ料理は人間の食事の域を超えているのだった。

それからマックスの要望で10タイプ全てのエイリアンを見せる。

パチパチと燃える焚き火の前でベンのヒーローショーが行われていた。

「すごいな。10種類の姿に変身できるとは…今のやつが…なんだっけ?」

 

「フォーアームズ!!」

 

バルクアップしながら答えるベン。赤い体毛が飛びグウェンの周りを舞う。

 

「けほけほ…にしても安直ね。4本腕だからフォーアームズ。弱そうじゃない?」

 

「っふ、じゃあやってみるか?」

フォーアームズメンタルゆえか、自分に自信しかないベン。

対するはそんなベンのいとこのグウェン。

「いいわよ?最年少サイドキックの力見せてあげるわ」

 

図らずもいとこ対決が始まる。止めようとも思ったが、まあいい機会だと静観するマックス。

 

「じゃあ行くわよ…」

 

グウェンの手のひらにピンク色の弾ができ始め、徐々に大きくなっていく。

 

彼女の個性は【マナ顕現】。自身の体、自然に存在するエネルギーを桃色のガラス体と変換し操る能力。その桃色のガラスは球にすればエネルギー弾。周りに張ればシールドに、足元で作り浮かせばホバーボード代わりにもなる万能なもの。

 

この個性と持って生まれた格闘センスで彼女はアメリカ最年少サイドキックとなっていた。

 

「手加減しないわよ!!」

 

そう言いつつ、威力は最低限のものに落とすグウェン。なんだかんだ言ってベン、グウェンはお互いのことが憎いわけではない。嫌いなだけ…である。

 

「それっ!」

 

スイカほどの大きさになったエネルギー弾を2発、ベンの元へ投げつける。しかし、手加減されたそれは、フォーアームズにはぬるすぎた。

 

「おらぁ!!!」

 

「うそぉ!!」

かまわず突進してくるベンに驚きつつシールドを展開。そのシールドも4本腕の前には薄氷のような者。

 

バリンと音がしてベンがグウェンとかを殴…らずに寸止めしたところで試合終了。

 

「よっしゃぁぁぁ!!!!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!!今のは本気じゃなかったのよ!!もう一回やりなさい!!」

 

「いいぜ!いくらでもぶち込んで来い!!」

 

「おい、それくらいで…」

 

マックスの声は届かない。躍起になったグウェンは最高密度のマナを放つ

ベンめがけて走るその玉。

 

「は、こんなもん

 

Pipipipi QBAANN

 

「へっ?」

お約束で変身が解けたベンにあたるのはグウェンの最強攻撃。

ドゴっと鈍い音がしたかとおもうとキュウッと言って倒れるベン。

 

「ちょっ…!!大丈夫?!ベン!!」

 

さすがに焦るグウェン。

朦朧とする意識の中で最後の言葉を空に放つ

 

「この…ポンコツ…ウォッ…」

 

GW初日は、ベンの気絶で締められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初日終了!!ちなみに今頃デクはボロカスにやられてます。

今更だけど地の文がむずい…三人称にまだ慣れない笑
二日目は…ある飲食店?多分変身しません



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18話 照れ隠しとサイン

この話ではキャラ崩壊にどうかご容赦を…

推敲してたら文字数が多くなってしまいました。ちなみエイリアンは出ません


昨日の夜の記憶がない。これは由々しき事態だ。昨今の社会は超人社会と呼ばれ、不可思議な能力を持つものがほとんど。もしかすると記憶干渉系の敵が…

 

「あんたは昨日気絶しただけでしょ」

 

ベンの1人ナレーションにグウェンからのツッコミが入る。

彼らは今、都内を車で走っていた。

 

「…なんのことだよ」

 

「ブツブツうっさいのよ。自分が負けたことを素直に認められないから子供のままなのよ」

 

負けた、とうのは昨日のこと。ベンがどーアームズでグウェンに挑んだのだ。過程はどうあれ、ベンは敗北を喫したのだ。

 

「おまえだって自分の負けを認めなかったじゃないか。僕はお前のために戦いに乗ってやったのに!」

 

「あのねぇ…」

 

絶えない言い合い。さすがのマックスも四六時中二人の喧嘩を聞いているのは飽きる。

話題を反らすことを考える。

 

「こらこら2人とも。今から行く場所のことでも話したらどうだ?」

 

マックスの言葉にグウェンが目をキラキラさせて返事をする。

 

「そうそうお爺ちゃん!今からあたしたちが行くのは【個性の進化展】!小学生でも楽しめるようなモニュメントからハルバード大学の研究論文まで置いてある夢の世界!特にパラドックス博士の【時空間干渉個性の破滅】!正体不明、どこの大学かもわからないのにその研究結果は現代の数歩先を行く!!今回の展覧会でしか読めないから楽しみだなぁ!」

 

もともと日本に来るのは乗り気じゃなかった彼女。そんな彼女に背中を押したのは東京で開かれるこれだった。

 

「なにその頭が痛くなるような名前の人と本。つまんなそ」

 

「あんたみたいなダンゴムシほどのおつむじゃ理解できないからね」

 

「別にそんな本なんか読まなくたってボクはオムニトリックスで強くなれるんだよ。うらやましいか?」

 

「別に強くなるために読むわけじゃないのよ。いーだ」

 

この2人の喧嘩を止めることは不可能。それは夏で気づいたはずなんだが…

そんなことを思っているのと、マックスの腹の虫が鳴る。

 

「おっと、すまんすまん。展覧会にはあと一時間ほどで着くから…どこかで腹ごしらえでもするか」

 

「「賛成!!」」

 

(こういう時は息が合うんだがなぁ)

マックスが選んだのは中華店。ボロイ、とまでは言わないがお世辞にもきれいとは言えない店構え。隣に小奇麗なイタリアンがあるせいか、その外観はほこりをかぶっているようだった。

 

「えー、あたしパスタがいい…ていうかもっときれいなところにしない?」

 

女の子であるグウェンが別案を出すも聞いてもらえない。

 

「馬鹿を言っちゃいかん。こういう店のがが案外いけるもんだ。じーちゃんを信じろ」

 

「…」

 

マックスが普段出す料理のせいでその言葉に説得力はない。そりゃ朝ごはんからタコを生で出してくる老人の味覚は正直当てにならない。

 

ガラッ

 

「いらっしゃい…」

 

「3人だが…入れるか?」

 

「お好きなところへ…」

 

頑固おやじ、というにふさわしい風体の店主。渋めの声でベン達を接客。

三人が選んだのは奥6人席。体の大きなマックスにはぴったりだった。

 

「ふぃー」

 

ベンが一息、そして席に着いたところで誰からか見られていることに気づく。

視線は店のカウンター席から。そちらをよく見てみると…

 

「おお!!やっぱりテニスンじゃねーか!!」

 

元気一番。ベンに声をかけたのは赤髪の少年。

「お前は…エイイチロウ?」

 

「鋭次郎だよ!!おしいけど俺はテニスしてねーよ!」

 

「ああそっか。あと後ろにいるのは…」

 

切島の後ろにはもう二人が並んでいる。二人とも金髪のようである。

 

「よおテニスン!俺だよ!上鳴だよ!そんで、ほら…」

 

上鳴がよけ、後ろにいる人物を見せる。

 

「あっカッチャンじゃん」

 

「誰がかっちゃんだこらぁ!!」

切島、上鳴とともに食事をしていたのは爆豪であった。あとで聞いたところ、無理やり爆豪の家に行って遊びに連れ出していたらしい。一か月でそこまで仲良くなれるのはA組きってのパリピ、上鳴がいたからかもしれない。

 

それはそうと、爆豪からキレられ困惑するベン。

(イズクはそういってるのに…何が嫌なんだ?)

人生の半分はアメリカで過ごしているベン。その影響か、呼び名に関しては普通の日本人と感覚が違う。あだ名、というのが関係性は作り、そして表すということをいまいち理解できていなかった。

 

「テニスンは…家族と来たのか?」

 

「そうだよ」

 

「じーちゃんと…じゃじゃ馬娘」

 

「誰がじゃじゃ馬よ」

 

知らない者たちもいるが自分が馬鹿にされているのは看過できない。思わず突っ込む。

そんな彼らを見てマックスからある提案が。

「そうだ。君たちも一緒に食べないか・食事は多いほうが楽しいだろう」

 

さすがアメリカンヒーロー。距離の詰め方がちがう。

 

「そうっすね…いいんですか?」

 

「ああ」

 

せっかく誘ってもらったのだからと席を移る切島と上鳴。しかし爆豪だけが店から出ようとする。

 

「おい爆豪ぉ…」

 

切島の言葉に耳を貸さずに歩みを止めない。

が、

「君も一緒に食べないか?おごるぞ?」

 

ピタッ

 

マックスのその言葉に足を止め、しばしの葛藤。そして

 

ドスッ

 

席に座る。

 

(マジかよ爆豪…)

(マジかよカッチャン…)

爆豪は外食で好きなだけ飲み食いできるほど小遣いをもらっていなかった…もしここにデクがいれば(マジでか、かっちゃん)だっただろう。

料理を注文し待機するする6人。そこに流れるのは無の音。軽い自己紹介はしたものの誰もしゃべらない。

マックスが気を遣いそうなものであったが、もう60にもなる彼には静かなことに違和感事態に違和感を覚えない。

 

責任感の強く、そして意外と繊細な切島が話しを振る。

 

「テ、テニスンはなんでヒーローになろうと思ったんだ?」

 

普通なら一発目に話す話題ではない、が、この場にいるものは全員ヒーロー関係者なので悪くない質問。

 

「そうだな…じーちゃんに憧れてたってのもあるけど…シンプルにかっこよくない?スーパーパワーで悪を倒す!それだけだよ」

 

「へー!!ベンのおじいさんってヒーローなんすか!!」

 

目の前にいる人がヒーロー。その事実に興奮する上鳴。

「そうだよ?まあ今はあんまり活動してないがね…このグウェンの方がよく働いてくれるんだ」

 

「ええ!?この子が?」

目の前のオレンジ髪の女の子がもうヒーローになっていることに驚く。

 

「…そーよ。おじいちゃんの事務所でサイドキックをしているの」

 

「おいおい、テニスン。お前のいとこすごいな!!」

 

グウェンが褒められ面白くないベン。

「そんなことないよ。じーちゃんのコネで働いてるだけさ。」

 

「そんなにすごいんすね!テニスンのおじいさん。俺、あんまり向こうのヒーローのこと知らなくて…」

 

「はは、しょうがないさ。日本にきていたのも昔のことだしなぁ」

 

「万能ヒーロー、マクスウェル」

 

誰かがボソッとマックスのヒーローネームを言う。

皆が声のした方を見る。

ここにきて初めて口を開いた爆豪。

 

「身体強化個性での救助活動、サポートアイテムを駆使した立ち回りで敵を制圧。専門分野を持たないトップヒーロー。向こうは圧倒的に敵制圧ヒーローが多いにも拘らず制圧力も群を抜いていた…確か…オールマイトとも組んだことがあるはずだ…」

 

マックスをにらむように見ながら喋る爆豪。その内心は彼にしかわからない。

 

「ほぉ。わしのこと知っとる子が日本にいるとはな。オールマイトと組んだのもかなり昔のことだったが…」

 

「オールマイトと組んだことあるんすか!?」

「すげぇ!!」

 

平和の象徴であり自分らの先生であるオールマイトと面識のあるマックスに驚く。

 

「本当に一時期、少し間だけだよ」

 

「てゆーか、なんで爆豪知ってるんだ?」

なぜ彼はマクスウェルというアメリカンヒーローを知っていたのか。

その理由は簡単。爆豪も緑谷に負けず劣らずのオールマイトオタクだからである。オールマイトが載っている雑誌はほとんど読んでいる。そしてマックスが、読んだ雑誌でオールマイトと肩を並べていた人間と姿が一致したからだ。

 

オールマイト愛はかなりものだが今まで絶対にそれを表に出すことはなかった。だが、昔のオールマイトを知っているマックスを見て内心は興奮していた。

 

「…別にヒーロー雑誌くらい見れば普通に載ってることだろうがぁ!!」

 

照れ隠しで叫ぶ。

載ってない。少なくとも切島らが普段見るような雑誌には載ってない。その界隈のオタクしか手に入らないような雑誌にしかこの情報はリークされていないのだ。

 

「まあまあいいじゃん。カッチャンもじーちゃんのファンだったんだな!サインもらっとけば?」

 

ベンは諫め、親切心で提案する。しかし爆豪は何よりも施しを嫌う。この流れでサインをもらうなど彼のプライドが許さない。だが…

 

「…っ…ぐっ…」

 

欲しい。正直欲しい。アメリカでトップだった、日本でオールマイトと組んだヒーローのサイン。その誘惑に彼は…

 

「誰がもらうかぁ!!!俺がやるわ!!!」

 

勝つ。

その場にあった割りばし袋にじぶんのサインを書く。自分でも何をしているのかはわからない。だがもう引き返せない。

 

カツキ、とサインが入った袋をたたきつけると、店の外に出る彼。

 

「ちょ、爆豪まてよ!!」

「すみませんでした!」

 

謝罪を入れ爆豪を追いかける二人。

 

「あんたのクラスメイト…変ね」

 

「…ボクがわるいのかなぁ」

 

マックスは袋を手に取り、微笑む。

 

「面白い少年じゃないか。それに…」

 

「それに」

 

言葉を待つ

 

「いつか一緒に仕事するかもしれんな」

 

マックスの勘はよく当たる。

 

後日、この話を聞いた緑谷は【マジでか…カッチャン…】とドン引きし、爆豪にぶっ飛ばされていた。

 




ギャグマンガ書いてる人ってすごいんだなァ…そう思って書いてました。

次回、やっとすこしエイリアン。そして、彼が出ます。誰かな?


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19話 ケビン=レビン

ベン10時空に入ります。小学生のとき見ていたやつを思い出しながら書いてるので原作とは少し違うかも…?まあその辺もクロスということでご愛敬…です。


「くっそぉ、あんなのありかよ。ボクが捕まえたのに…」

 

GW3日目。移動中の車内でベンが愚痴るのは先ほどの出来事。

 

偶然出くわした銀行強盗を見事倒したベン。しかし他のヒーローが来る前に変身が解け、お手柄どころか【遊びじゃないんだよ】と注意される始末。だれもベンが変身解除したところを見ていなかったため、子供が茶化しにきたのだと勘違いしたのだろう。

 

「遅れてきた奴らが何で威張ってたんだ?。僕の手柄だったんだぞ」

 

「ベン。止める暇がなかったが、お前がしたことは本当はダメなことなんだぞ?」

 

運転しながらもベンに注意を入れるマックス。

彼の言う通り、【人間】の定義が変わるほどの超人社会では、公で個性を使用することは基本的に禁止されている。たとえ正当防衛だろうとも、免許を受けたヒーロー以外は個性を行使してはならないのだ。

 

逆にヒーローであれば、倒した敵の数が多ければ多いほど褒めたたえられ、報酬も発生する。

 

「あいつらは僕の手柄で給料もらうんだよ!?倒した僕は何か得した?ぜんぜん!ヒーローになるまでこれなんて考えられないよ」

 

日本ではヒーローは国家公務員に準じた扱いである。しかしその給料は歩合。資本主義にヒーローの制度を組みこんだ結果、【救ける】ことより、【自分が活躍する】【自分の手柄にする】ことが重要とされることも多々ある。

 

そんな社会に見事影響されているベン。アメリカはまた違った制度ゆえにマックスはベンを嗜める。

 

「ベン。ヒーローは見返りを求めちゃいかん。助けたひとからお礼をもらうのは構わん。だがお礼が無いと助けない、なんてのはヒーローじゃないだろう」

 

「…」

 

マックスの言葉を聞くも心には響かない。

 

「あんたヒーロー向いてないのかもね。昔っから自分のことばっかりだし」

 

グウェンの言葉がベンをいらだたせる。

 

「ボクの力見ただろ?ボクは強いんだ!せっかく手に入れたスーパーパワーなんだから使わないと損じゃん!!」

 

「強さがヒーローの条件じゃないんだぞ、ベン。知人から聞いたらお前はだいぶウォッチを過信しているようだな?」

お前の力、自信は空虚なものだと指摘されているように感じるベン。

強さ、それは無個性であったベンにとってもっとも足りないと思っていたもの。それを埋めてくれたのがオムニトリックス。にも拘わらず、二人は認めてくれない。

 

「もういいよ!!ボクの気持ちなんて誰もわからないんだ!」

 

そう吐き捨て、赤信号で止まっていた車の扉を開く。

 

「…?ベン!!」

 

マックスが呼び止めたころにはもう遅く、ベンは車から降り走り去っていた。

 

「グウェン。ベンを追いかけてくれないか?」

 

車をほっぽって追いかけるわけにもいかない。

走り去るベンを目で追っていたグウェンに頼む。

「でもあいつ、もう変身してどっか行っちゃったよ?」

 

「頼む」

 

おじいちゃんの珍しい懇願。

肩をすくめながらヤレヤレ、とジェスチャーし、面倒ないとこを持ったものだと思いながら車から出る。

 

グウェンが車を降りてから1人、マックスはつぶやく。

「全くベンのやつ…俊典から聞いてた通りじゃないか…」

 

こちらはベン。先ほど通った町に戻ってきていた。

XLR8でここまで来たベンは人の少なさに少し驚く。銀行強盗があったばかりだからか、人どおりは減っていた。

 

特に目的もなくここにきてしまったため、やることがない。とりあえず目の前のゲームセンターに入る。

店内はガラガラ。1人2人は客はいるが、その者たちも帰ろうとしていた。

 

「親父ぃ…!!さっきあっちの方で銀行強盗があったらしいばい」

「なんね…俺は眠いとよ。寝かせてくれんね」

 

唯一の店員と客のうちの一人がしゃべっているのをしり目に奥へと進む。

「はぁ…」

 

格闘ゲーム台の前に座り、ため息をつく。

(せっかくスーパーパワーを手に入れたのに、免許が無きゃ力も使えない、助けても見返りは求めちゃダメなんてバカみたいだ。こんなことならヒーローなんて目指さないほうがいいかもしれない…)

 

暗い気持ちとは逆に騒がしいゲーム画面。気晴らしにプレイしようにも財布を車においてきたため叶わない。

もう一度ため息をつこうとすると声を掛けられる。

 

「おい、やらないのか?」

 

声をかけてきたのは黒髪の少年。ベンと同じくらいの背丈だが、体は細い。目つき、そして顔色も良いとは言えない。

同じくらい顔色が良くないベンは彼の問いに答え宇。

「お金がないんだ。財布忘れて…」

 

「そうか…」

少年はチラリと振り返る。後方には店員が1人。先ほどの客が帰ったためか、ぐっすり寝ている。

 

「面白いもん見せてやるよ」

そう言って両替機に手を着く。すると彼の腕に電気が走り、その電気は機械を細かく震えさせる。震えた機械が吐き出したのは何千枚とあるコイン。

 

「これで好きなだけやれるぜ?」

 

「うわぁすごい!!」

 

「裏技みたいなもんさ」

 

「ありがとう…!えっと…」

お礼を言おうとするも名前を知らないため詰まるベン。それを察して名乗る少年。

 

「俺はケビン レビン。ケビンでいいぜ」

 

「ケビン、ありがとう…そうだ、空飛んでみたくない?」

 

ウォッチを見せつけながら、コインのお礼に空の旅に誘う。

 

 

「ひゃっほぉい!!!なんだこれ!?気持ちいい!!」

 

「そりゃよかった!!」

 

彼が今立っているのは塔のてっぺん。空の塔のてっぺんは一般的には建物内だが彼らがいるのは外。正真正銘、塔の頂点に座していた。

その偉業を成し遂げられるのはこの異形のおかげだった。

 

「最高だぜベン!!お前、いったいどんな個性してるんだ??!」

 

虫が巨大化したような姿のベンに物おじせず喋りかけるケビン。

 

「オレは10種類のエイリアンに変身できる個性さ!!こいつの名前はスティンクフライ!」

 

「バタフライ?」

 

「スティンクフライ!!…ケビンはどんな個性なの?」

顔から伸びた4つの管は目の役割を果たす。其の4つ目でジロリとケビンを見つめながら質問する。

 

「俺は…エネルギーを吸収、放出する個性だ。だけど、俺の親は反個性派だったらしくてな。物心ついたときに捨てられてたよ。忌子だってな」

 

反個性派。これまでの人間の仕来りやルールを一変してしまった個性。そんな個性を「呪い」と呼び、無個性手術を推奨する半ば宗教団体。個性のことを「異能」と呼ぶ異能解放軍、という団体もどこかにあるらしいが、今は関係ない。

 

「ヒーローも目指したんだけどな?この力を発揮するのに免許やら法律やらに縛られるのは馬鹿らしいと思ったんだ!」

 

ケビンの意見に賛同するベン。少なからずこのような思想の持主はいるが、ヒーローを目指すものには少ないだろう。

 

「わかるよ…!こうやって個性を使って遊ぶのも、人助けをするにも許可がいるなんておかしいよ!」

 

社会のルールに文句を垂れるベン。そんな彼をみて目をキランとさせるケビン。

 

「なあ、俺らの仲間にならないか?自由に個性を使っていい社会を目指そうぜ!」

 

手を差し出す。

自由に個性を使える社会。現代の8割の人間が恩恵を受けるような提案にベンは共感する。

「…いいね!」

 

差し出された手をつかみケビンと目を合わせる。仲間ができた喜びながらさっそく行動するケビン。

 

「よし、手始めに資金稼ぎだ。ついてこいよ!」

 

 

2人が来たのは地下鉄のある駅。人はほとんどいないが、手前の線路には電車が一台止まっている。

これからの行動の説明をするケビン。

「ここはさ、無人駅なんだ。使う人もいなければ操縦もコンピューター。そして目の前の電車には現金が大量に置いてある。これは確かな筋からの情報だ」

 

「…」

何やら不穏な提案にベンの顔が曇る。まだすべての話を聞いたわけではないがよくない話であると分かる。

そんなベンに構わず話す。

 

「電車の中に侵入してかっぱらってきたいんだがセキュリティは固くて無理だ。だがな、今からもう一台、奥の線路を通って電車が来る」

 

そう言いながら歩くケビン。彼を歩みを止めた場所には線路の切り替えスイッチが。

 

「本当ならこれを動かすのには相当の電力が必要らしいが…よっ!!…俺にかかれば簡単だ」

ガコンッと音を立て、ポイントが切り替わる。これによりあと10分ほどで到着する電車は、手前にある現金輸送電車と衝突することとなる。

 

「そんで衝突して金が出てきたところをお前のエイリアンで回収。どうだ?完璧だろ?」

 

10タイプも変身できるのだから当然闘争に適したエイリアンもいると踏むケビン。実際にXLR8ならばその移動に気づかれないレベルの速さで逃げることも可能だろう。

だが、ベンが計画に乗るとは限らない。

 

「ふざけるな。それじゃ電車に乗ってる人が危険な目に合うじゃないか!」

 

一台は止まってるとは言え、電車と電車がぶつかれば間違いなく死人が出る。その事実を看過できないベン。

 

「しょうがないだろ?俺たちの目指す社会の実現に必要な犠牲だ」

 

さも当然、といった態度のケビン。奪う金と他人の命。その二つを天秤にかけてすらいない彼に静かに憤慨する。

 

「…ボクはその話には乗れない」

 

そう言い放ち、自らの左手首に手をやる。

提案を断られたケビン。舌打ちをして自論を語る。

 

「…残念だよ。仲間に慣れると思ったんだけどな。せっかく持って生まれた強個性。好きに使わなきゃ損だっての!」

 

どこかで聞いたような言葉。自分だけよければ他人なんてどうでもいい。何したっていい。それが強者の権利。その考えの愚かさを思い知る。

 

ダイヤルを回しながら、下を向きながら小さくつぶやくベン。

 

「…ほんと、馬鹿だよ」

 

「ああ!?誰のこと言ってんだ!!」

 

顔を上げる

 

「ボクのことだ」

 

ケビンをにらみ、そして時計を叩く。

 




ということで今回はケビン登場回でした!

けどまた長くなりましたね…けどこの回の締めはベンの変身でどうしても終わりたかったのでお許しを‥

この作品のあらすじが正直自分でも下手だなと思ってまして…誰か感想欄にじゃなくてもいいのでいいあらすじ考えてくれませんか?(笑)


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20話 ここは福岡

ヒートブラストって炎の吸収できたんですね…こりゃ轟勝ち目なくないか?


誰もいない地下鉄に現れたのは焔人、ヒートブラスト。少しの間だが友達になったケビンを討つことは心苦しい。できれば戦いたくない。

 

「ケビン、痛い目見たくなきゃ抵抗するな。丸焦げになりたくないだろ?」

 

脅しをかけ、なんとか収めようとする。しかし、それは叶わない

 

「オレのことなめてるのか?」

 

言い終えると一瞬でベンとの距離を詰める。急な接近に驚くベン。振り払おうとするもかわされる。流れた腕をつかみ電気を流すケビン。

 

「うぉああ!!!」

びりびりと体全体を電流が回る。

たまらず炎を出すがうまく後ろに回るケビン。

 

「はっはぁ。そんななりでも電気は効くんだな!!さっきのゲーセンで貯めた分だよ!痛い目見たくなかったら降参しなっ」

 

ベンからは見えないが、ケビンのその声からは彼が笑っているのがよくわかる。

背後にいるアドバンテージを生かし、ベンの横腹に避けきれない中段蹴りをぶちこむ。

「ぐはっ!!」

 

思わずよろめき壁にもたれかかる。容赦ないケビンは休ませんとばかりに攻撃する。

 

「おらおらおら!どうだ!俺はお前らみたいに強個性にかまけて格闘さぼってるやつらとは違うんだよ!個性に頼らずとも人間1人殺すことは簡単だ!!」

 

その言葉に怒りを表すベン。ケビンの攻撃の隙間を見抜き、炎の弾をぶつける

 

「あっつ!!」

 

「そんなでもないだろ。皮膚が焼ける程度に抑えてるんだから。死ぬ暑さはこんなもんじゃないぞ」

 

「何だよ…急にいきってんじゃねーぞ!!」

 

「…!」

 

3メートルほど離れたケビンに対し、次は手から熱線を放つ。が、

 

「ちょっと挑発したらこれだよ!もらうぜ、この力!」

 

迫りくる炎に両手を伸ばす。するとケビンを襲っていた熱線は全てが吸収される。吸収した力より、彼の顔、体の半分はヒートブラストへと変貌する。

「…っ!!」

 

「ほら、仕返しだ!!!」

 

ゴウッと音を立てて今度はベンに炎が向かう。さらにベンの時とは異なり、その温度に手加減は一切ない。常人ならば焼け死ぬレベルの火炎。そう、常人ならば

 

「な、なんできかないんだよ!!??」

 

炎を食らっても何事もなかったようにふるまうベン。確かに炎はベンに当たった。しかし、ヒートブラストの能力は炎を出すことだけではない。体を覆う溶岩のような肌が炎を吸収していた。

 

「くそがぁ!!」

 

やけくそになり、残りの電気を全てぶちまける。それに対し炎で相殺するベン。

電気を散らした後、両手を後ろに向け起爆。

 

ボッと両手から爆炎が噴射されあっという間にケビンの前へ。

燃え盛る手でケビンの首をつかみ、掲げる。

 

「く、苦しいぃ…」

 

「もう悪いことはしないと誓うんだ」

 

「何だよ…お前性格変わってんじゃないか…」

 

「…」

 

無言のベンに対し恐怖を感じるケビン。

 

「ご、ごめん、俺が悪かった、もう何もしない…許してくれ…」

 

命乞いをするかのように懇願するケビン。そこでベンの変身は解ける。

掴まれていたケビンは、ドサッとしりもちをつく。

ベンはケビンに諭すように喋る。

 

「こんだけ騒いだらヒーローが来るよ。一緒に謝ろう」

 

そう言ってにっこりと笑う。

 

「ボクも悪ノリしすぎたよ。やっぱり個性は、力は誰かのために使わなきゃ」

 

「ベン…」

 

膝をつき顔を上げるケビン。その目にはうっすらと涙が伺える。

 

「ああ、すまねぇ…そんでありがとう…俺は調子に乗ってたよ」

 

「っはは、ボクもだよ」

 

そう言ってケビンに手を差し出すベン。差し出したのは、左手だった。

 

ガシッ!!!

 

「な、なにを!!?」

 

「本当に…ありがとうなぁ!!!馬鹿でいてくれて!!見てないと思ったか?!お前が変身するときこの時計を使ってたろ!?力を…よこせぇ!!!」

 

個性を発動させ、オムニトリックスから力を吸収していく。バチバチとひどい音を立てるもなお離さないケビン。

 

「ははっ!!!すげー力だ!!底がねぇ!!」

 

「や、止めろ!!どうなるかわからないんだぞ!!」

 

「あせってんなぁ!!力を奪われるのが怖いかよぉ!!!」

 

バチバチバチバチ バリィ!!!

 

「ぐわっ!!」

 

破けるような音とともにはじけ飛ぶケビン。自らの両手を眺め…

 

「…ちっくしょぉ!!!失敗かよ!!」

 

そう言って地下鉄の闇へと消えていく。

 

ベンは急いでオムニトリックスを確認。先ほどまで赤色だったのが緑に戻り、いつもと変わらない様子であることに安堵する。しかしその安堵も次の瞬間には消える。

 

地面が揺れ、電車がもう来ることに気づくベン。ポインターの変更には…大電力が要る。

 

「くっそぉ!!」

 

QBAANN!!!

 

ダイヤルを回さずに変身したことで再びヒートブラストへと変身。

走ってくる電車の元へ向かい、両の手で押し返す。

電車との押し合いになり、歯を食いしばる。

「グギギギ」

 

手からは炎を出し電車を押し、その他の炎は後方に噴射し推進力とする。

少しづつ電車は止まり始めるも、もうひと踏ん張り足りない。

 

「頼む…あと少し、あと少し頑張ってくれオムニトリックス…ヒートブラスト!!」

 

藁にも縋るような気持ちで願う。すると、その願いがかなったかのように推進力が増す。

まるで何もかが背中を押してくれるように

 

「今だ…パイロナイトブースト!!」

 

変身時間に使える炎全てを出し切るヒートブラストの大技、パイロナイトブースト。温度は電車が溶けないくらいにはしてあるが、それでも電車の表面は焼きこげる。

 

「おおおおおおお!!!」

ギリギリギリ!ギリギリ! ギリギ…ギ

 

徐々に、徐々にスピードを緩めながら電車は衝突寸前で止まる

 

「はぁ、はぁ、危なかった…」

なんとか乗客の命は守られた。そう思いながら電車の中を覗くと、誰一人いなかった。もぬけの殻とはまさにこのこと

 

「は!?無人?!じゃあ俺が体張った意味は!?」

 

自らの行いは無駄だったと嘆く彼に声をかけるものが一人。

 

「大丈夫でしたか?」

 

振り返ると、金色の髪に、金色のゴーグル。そして赤き羽根をはやした青年が子供を抱えていた。

 

「いやぁ、俺が列車を押し返すよりも乗客全員外に出す方がいいと思って。一応加勢はしたんですけどあんまり意味なかったみたいですね」

 

ベンの背中を押していたのはこの男の羽の一部だったのだ。

 

時速何80キロで走行する電車から乗客全員を怪我させることなく下ろす。ヒーローでも成し遂げられるものは限られる絶技。それを難なくこなしたこの男はあっけらんかとベンに説明する。

 

「最初エンデヴァーさんかと思ったんですけど…あ、俺はホークスです。よろしく」

 

差し出された手に応じるベン。

 

「あなたは…見たことないですね。どこの事務所ですか?」

 

社交辞令的に所属事務所を聞くホークス。だがしかし、所属事務所どころか免許すらもたないベンは、この状況はやばい、と思っていた。

 

「…俺は火炎ヒーロー、ヒートブラスト。東京のほうで活動してる。今日は非番だったんだが緊急事態だったんでな!」

 

「そうですか…よかったらこの後食事をご一緒しても構いませんか?」

 

「え、いや…」

 

Pipipi

 

変身解除の音に焦るベン。

 

「ま、またこんどな!それじゃ!」

 

炎を塊にし足元へ。その姿はまるで筋斗雲に乗る孫悟空。急いで地下鉄を抜けたところで変身が解ける

 

QBAANN!!

 

「あ、危なかった…て、謝るの、わすれてた…!!」

この後、しっかりとマックスに怒られたベン。

彼のGW三日目はとんだ災難で終わった。その災難はほぼベンのせいだが…

 

 

「…どうも、ひっかかるな…あのヒーロー…」

 

 

 

 




GW編。どうですかね。あと二日あることはあるんですけど…早くUSJ編に行きたい(笑)
一応いまのGW編はこれからの展開のための伏線みたいなもんです

とりあえず後はダイヤモンドと幽霊さん!


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21話 緑谷とグラントリノ 前編 

この話と次のは緑谷の話です。我らが主人公、ベン君は登場しませんが、デク君の応援よろしくお願いします!


時は遡りGW初日。ベン達がキャンピングカーで喧嘩しているころ。

緑谷はとあるボロボロの事務所の前に立っていた。ここまでくるのに新幹線で45分。初めての一人新幹線のついた先は山梨の片田舎。

 

「ここの…はずだよな…」

 

緑谷がこんな辺鄙なところに来た理由。それはオールマイトからの紹介だった。なぜ師匠の紹介を?と尋ねる緑谷に彼は「急に思い出したから」と説明。実際には、知人に育成の相談をした時に提案されて初めて思い出したのだが…わりと体裁を気にするオールマイトであった。

 

そんなことは梅雨知らず、ただただオールマイトの恩師に興味を持つ緑谷。

 

「オールマイトの先生…ってことは強化系の個性なのか?有名だったらすぐにわかったんだけど…【グラントリノ】なんて知らないし…」

 

ブツブツ言いながら戸を開く。

 

「ごめんくださーい。オールマイトから紹介を受けた緑谷いずくぁぁぁぁ!!!??」

 

思わず叫ぶ。それもそのはず、目の前には腸をばらまき、出血して地に伏せている老人がいたのだから

 

「死んでる!?」

「生きとる!!」

「生きてる!?」

 

3ターンで生存確認が行われる。老人はやっちゃったぜ、という風に語る。

「いやぁぁ斬ってないソーセージにケチャップアぶっかけたやつを運んでたらコケたぁぁ! 誰だ君は!?」

 

「は、はい!雄英から来た緑谷出久です!」

「なんて!?」

「緑谷出久です!」

 

「…誰だ君は!!??」

 

(や、やべぇ…!!)

 

一連の流れに思わず不安を覚える。オールマイトの先生なので相当な年齢であることは理解していた。が、ここまでとは思っていなかった。目の前の小さな老人の事理弁識能力について考えてしまう。そんな緑谷に構うこと無くボケる老人。

 

「俊典!!」

「誰ですか!!…あの、僕ちょっと外に出てきますね…」

 

彼の仕上がりっぷりをオールマイトに報告しようと外に出ようとする。が、

「撃ってきなさいよOFA」

 

急に核心をついてくる老人に思わず振り向く。OFA。確かにそういった。

 

「どの程度使えるか知っときたい」

 

「そ、そんな急に」

 

「いいから…誰だ君は!!??」

 

「っ!?あの…僕は、早く力をつけたいんです…!オールマイトには…もう時間が残されてない…この社会から平和の象徴が絶えないように僕は早く…!!だから、おじいさんに付き合ってる時間はないんです!」

 

めったに人を突き放さない性格ゆえにこの言い方は自分が傷つく。老人への冷たい言い方に後ろめたさも覚えるが仕方ない。オールマイトのOFAの残り火が消えた時、自分が未熟であれば世が混乱する。そうならないため一刻も早く力をつけねばならない。こんなところで油を売ってる場合ではない。

 

意志を固く持ち、帰りのドアに向かう。その時、

 

WAM! WAAM! WARASH!!!

 

背後から、天井から音がしたかと思うと、出ようとした扉の上に先の老人が張り付いていた。

目を細め、しわがれた声で一言。

「だったらなおさら…打ってこいや。受精卵小僧!」

(オールマイトと同じ言い回し…本当に…この人が、オールマイトの先生…!)

 

「久しぶりに連絡が来たかと思えば弟子を見てくれって…全く恩も礼儀も知らん野郎だ。しかも一年近く見ててまだ100%が扱えねぇってんだから。オールマイトは【教育】に関しちゃ素人だな。自分の孫をサイドキックにしたアイツとは大違いだ」

 

身長は1メートルちょっと、しかも相当な老体であるにも拘わらず視認できるかどうかの動き。そんな彼を見て教えを請いたいと思う緑谷。目を輝かせSMASHの構えに。しかしグラントリノは跳ねる。

 

「まずは一発俺に入れてみろ!!」

 

WAM!!

 

稲妻のように飛び、デクの背後から蹴りを入れるグラントリノ

 

「ええ!?撃つだけじゃ!?実戦形式?!」

 

「ひゃひゃひゃ、当たり前だろう!敵は止まったままお前に殴らせてくれんのかい!」

 

軽口を言いながらも再び飛び回る。スーパーボールを部屋ではじいたかのような動きに困惑する。

 

(は、速すぎる!360度注意するのは無理だ、から!)

 

「ふっ!!」

 

足にOFA発動しジャンプし天井に張り付く。天井を背にすることで狭い視野でも部屋を一望できる

 

跳んだ緑谷を補足するため一瞬止まるグラントリノ。

作戦通り、と再びOFAを発動。

バキィ!

 

天井を踏みしめ、止まったグラントリノめがけて

 

DETROIT SMASH!!

 

しかし、その一撃は簡単に避けられ、そのまま顔面に蹴りを入れられる

老人の蹴りではあるものの、空中でくらった緑谷は壁に激突し、倒れる。

倒れた緑谷は見ながら自らの見解を述べるグラントリノ。

 

「悪くはない。使える上限値の中でOFAを足に、手に発動できている」

 

「そう、ですけど…足りないんですよね?」

 

思っていたより感触は良いものの、求められているものには届いていない。それがわかる緑谷は項垂れる。下を向く彼を一瞥し、顎に手をやり上を向くグラントリノ。言う内容は決まっているが言い方を考える。

 

「そうじゃな…オールマイトの戦い方を考えろ…奴はOFAをなんだと思って戦っているようだった?」

 

「…どういう…」

 

「あとは自分で考えろ。俺ぁ飯を買ってくる。そうじよろしく」

 

質問には答えず出ていく。自分で答えを探す、ということは往々にして師匠の出す課題になりがちである。

 

 




今の原作の緑谷ってプロの中でもトップ100には入りそうですよね。30%常時発動だし。3年になるときのクラスメイトと壁ができそうで怖い。

地の文ふやそうと思ってるんですけど、原作準拠だと難しい…というか地の文

GW編はあと二話です。


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22話 緑谷とグラントリノ 後編

OFAフルカウルってアニメではひかってるじゃないですか。あれってリアルに光ってるのか、演出なのか微妙なんですよね。暗闇でも戦闘できるのかわからん‥


掃除を緑谷に任せ、朝ごはんを買いに出かけてたグラントリノ。ほとんどは自分が壊し散らかしたにもかかわらず緑谷に任せるあたりマイペースだといわざるを得ない

素直な緑谷は箒を吐きながら先ほど言われたことを考える。

 

「オールマイトの戦い方…ネットに上がってるものはほとんど見てきた。けど…オールマイトの戦い方はOFAをフルに生かした肉弾戦。僕はまだ5、6%しか使えないから真似できない。どうすれば…」

 

オールマイト についての知識は誰よりもあると自負している。生の戦いすら見たことあるのだ。思い返せ、と言われてすぐに新しい発見が見つかるほど柔なファンではない。

 

「おいおい、まだ終わってないのかよ。もう飯にするぞ!」

 

3分もせずに帰ってきたグラントリノ。買ってきた冷凍たい焼きを緑谷に渡しさっさと席に座る。当然掃除も片づけも終わってないので焦る。しかし焦らず急げとはよく言ったもので、焦った緑谷はやらかす。

 

「す、すみません。すぐにかたづけってうわぁあ!!」

 

ドンガラガッシャン、いささか古いがその擬音が一番似合う状況。

 

「おい!俺の電子レンジが壊れるじゃねぇーか!」

 

「す、すみません!」

 

「ったく、そういうドジなところは師弟そっくりだな…」

 

「オールマイトも昔はドジだったんですか?!」

 

目を輝かせてきくオールマイトオタク。手はたい焼きを解凍するために動かしながらも意識はそちらへ。

 

「ああ、あいつは昔っから要領は悪かった。今じゃ平和の象徴って言われてるが、OFAを引き継いだころは酷かった」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ただ、お前と違って初めから100%は使えてたがな。その使い方が悪かった。ひたすら実践訓練では吐かせたったわ」

 

(そ、それで紹介するとき妙に恐れてたのか。それにしても)

「初めからオールマイトは、100%つかえてたんですね…僕と違って、やっぱりナチュラルボーンヒーローだ」

 

下を向き弱音を吐く。緑谷はオールマイトを神格化するあまりその後継者でありながら力不足の自分を卑下していた。

 

「馬鹿言うな。言ったろう。使い方が悪かったと。あいつはOFAを切り札であるかのように使ってたからな。まあOFA継承者にはありがちらしいが…そういえばお前はそんなことなかったな。なにかいいきっかけでもあったのか?」

 

そう、緑谷はOFAを様々な瞬間に使う。攻撃、防御。瞬間に反射神経をあげたりもした。この使い方はかつてのオールマイト とは異なるものらしい。

質問に対し苦笑いしながら答える。

チンッ

 

「その、僕と似たようなな境遇の友達がいて…その子は自分の個性をすごい自由に使うんです」

(お菓子の付録を見る為とか、ひとりテニスをするためとか…)

「だから、僕もOFAを出来るだけ柔軟に使ってみようとおもったんです」

 

解凍されたたい焼きをまだかまだかと待ちわびているグラントリノ。そんな彼に友達のことを話しつつたい焼きを差し出す。

 

「そうか…ならあと一息だな。まあこの熱々のたい焼きでも食べて…って冷たい!!」

 

ガキン!と歯が砕けそうな音がグラントリノの口内に響く。かぶりついたたい焼きが解凍されていなかったのだ。確かにチンしたはず。そう思う緑谷に対しまくし立てる。

「バッ、お前!でかい皿のままチンしたな!?無理入れると中で回転しねぇから一部しか熱くならんのだ!チンしたことないのか!」

大好きなたい焼きタイムがお預けされ年甲斐もなくブチギレるれるグラントリノ。緑谷はすぐさま謝りチンしなおす。

 

「うちのは回らないタイプだったので…ごめんなさ」

 

一部しか熱くならない、全体、たい焼き…様々な単語が思考を巡り、やがて一筋のアイディアが浮かぶ。

 

「…そうか!!そうかそうか!!わかった!グラントリノさん!このたい焼きが、僕です!!」

「違うぞ、ダイジョブか!?」

 

いきなりたい焼き宣言する緑谷を心配する。正論、というか事実を言われ説明しなおす。

「いや、そのちがくて…」

 

たい焼きを皿に置き直す。今思いついたことは、劇的な変化を自分にもたらす。、そう確信した緑谷は構える。そして、OFAの引き金を引く。

 

まずは手に

「今までは必要なときに、必要な個所に発動してた」

 

腕に

 

「違った。オールマイのパワーは腕だけに発動された威力じゃ説明できない。」

 

足に

 

「常に、全体に、OFAを!!」

胴に。

 

OFAが体をめぐる。頭からつま先までOFAの光に包まれたデクからは緑の火花が放出される。パチパチと迸る火花は緑谷の進化を表していた。

 

「全身…!常時!身体許容上限…!!」

 

今までの瞬間部位強化ではなく、全身強化の常態化。体全体を満遍なく鍛えていたことでどの部位も5%までなら発動できる。あとは意識して発動したままに。スイッチをつけたり消したりするのではなく、つけたままにしておく感覚。

 

プルプルと震える緑谷。その姿は体からあふれ出る力を抑えつけるかのよう。

 

「その状態で、動けるのか?」

 

「わかり、ません…」

少しの不安、そしてそれを上回るワクワクをを宿した目をした彼に尋ねる。

 

「試してみるか?」

 

もちろん答えは

「お願いします!!」

 

挨拶と同時に試合開始。天井を使っての移動で先手を打つグラントリノ。しかし全身にOFAを使い反応速度が向上している緑谷にはギリギリ見える。

 

後ろを取られるも振り返りざまにSMASH。

 

が交わされる。なおも飛び跳ね続けるグラントリノ。

攻撃のタイミングをうかがいながら緑谷を煽る。

 

「ほらほらどうしたぁ!見えたところで反撃できないと意味がないぞ!!」

「この程度の壁トトンと越えれねぇやつぁ平和の象徴になんて慣れんぜ!」

その言葉にピクリと反応する。それでも心は乱さない冷静な緑谷。静かに集中し、音、景色、振動を意識しただ目の前を見つめる。

 

「来ないならこっちから行くぞ!」

 

緑谷の目の前の壁で切り返し、ジェット噴射で突撃しに来る。

 

(今だ!)

 

向かってくるグラントリノを見ながらそのまま後ろに倒れこむ。その避け方ばさながらマトリックス。グラントリノの拳は彼の腹部を狙っていたためスカす。そして倒れこむ緑谷とグラントリノは地面と平行に並ぶ。

 

(ギリギリのタイミング、そして僕がよけてるとしか思ってない今なら!)

体をのけぞらせながらの、回避をしながらのアッパーカット。5%とはいえその威力は侮れない。全身のバネの力をその拳に乗せる

 

OREGON SMASH(オレゴン スマッシュ)!!」

 

 

「むぅ!」

 

進行方向を変えたことで、緑のパンチはマントだけをとらえることとなる。。

 

「うそ!!?」

 

避けられるとは思ってなかったデク。もともと捨て身のこのアッパー。そのまま倒れこみ背中を打つ。

急いで体制を整えるも既にソファに座っているグラントリノ

ゆっくりたい焼きを食べながら頬を拭う。

 

「なかなかいい動きになったじゃないか」

 

破かれたマントをたなびかせ素直にほめる

その言葉を受けうれしそうにする緑谷。今までには攻撃防御など一定の瞬間しか強くなれなかったかが、これからは常に個性を発動した状態で戦える。この成長の喜びに打ち震えていた。

 

そんな彼を見て教え子を思い出すグラントリノ。やつに追いつくまでそう遠くないかもしれない。そんなことを思う。

 

「ようし…あとは慣れだ。無意識化でも制御できること目指せ!!」

 

「はい!!」

 

「幸いあと4日ある。ちと短いが…まあいいだろう‥‥!」

 

しわしわの顔を更にしわくちゃにして笑うグラントリノ。対するはまだ高校1年になったばかり子供。思わず返事をするがすぐに気づく。ここからが地獄なのだと

 

「はい!!‥‥え、いや、あの」

 

それから4日間、緑谷がしごかれまくったのは言うまでもない。

 

 




GW編あと一話。今後の展開のためにGW編を入れたんですがオリジナルの難しさを痛感しました。ほんと、原作者はもちろん、人気二次創作作者さんたちもすごいっす!


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23話 しばらくのお別れ

平均文字数3000くらいなんですけど長いですかね?好みによるか?


五月晴れ、とはよく言ったもので、5月に入ると春の華々しい晴れから夏を匂わせる晴天が多くなる。とうとうGWも今日で終わり。孫とともに休暇を楽しんだマックスが最後に選んだ場所。それはさざ波の音が心を落ち着かせ、我らに原始を想起させる、そんな場所。

 

彼らは今、ベンの家から近い浜辺に来ていた。あまり海に行ったことのないグウェンは心躍る。そんな彼女に比べ、この場所によく来るベンは大した感想はない。この場所に来た理由を祖父に問う。

 

「ん?ここに着た理由か?そうだな…そろそろ来る頃なんだが

 

はっきりとは答えないマックス。ただ人に合うようであることがわかる。

 

「…お、きたきた」

手を振り場所を示す。そちらの方向からは筋骨隆々の金発と細マッチョで何故かボロボロになっている緑髪の少年が走ってきていた。思わず名前を叫ぶベン。なぜ彼らが?とマックスを見る。

 

「イズクとオールマイト!?なんで?!」

 

「ふふふ、オールマイトとは知り合いだといったろう?久しぶりに話そうと思ってな」

 

ベンにこの会合の説明をしていると直に2人が。

 

「お久しぶりです!テニスンさん」

「あわわわわ…マクスウェル…だ…!」

 

対称的な師弟を見て顔をほころばせるマックス。

「久しぶりだなとし…オールマイト。その子が例の子か?」

 

「はい。先日まで先生の元へ行っておりまして、今朝かえって来たところです」

 

「こここんにちは…!ネットごしですがあなたの活躍はみてました…!」

 

「そうか…ありがとうな。ベンと仲良くしてくれてるんだって?今後もよろしく頼むよ」

 

「い、いえ、僕の方こそよろしくされてまして…」

 

これだけのやり取りでどんだけ緊張してるんだ、と思うベン。しかしここまで緊張される自分の祖父を誇らしく思う。それだけ、祖父は人を助け、ヒーローをしていたのだと、再確認する。

 

「して、テニスンさん。話したいこととは…」

 

「そうそう、じーちゃん。オールマイトと何話すの?」

 

オールマイトからの質問に顔が曇るマックス。そしてチラリ、と子供たちを見る。見られたことを気にも留めないベンと違い、空気の読める緑谷とグウェンは席をはずそうとする。

 

「ちょ、お前らどこ行くんだよ」

 

「いいから、あんたも来なさい!」

 

「何だよぉ…」

 

 

2人から少し離れたところにベン、グウェン、緑谷は移動する。引きずられたベンはむくれているがそんなことは気にしない彼女であった。

 

「えーと、あんたがイズクって人?あたしはグウェン。よろしくね」

 

初めて緑谷と会ったグウェンは自分から名乗る。笑顔で手を差し出す態度は普段のベンに対するそれとは異なる。

 

「あ、ぼ、ぼっくは緑谷出久です。よ、よろしくお願いします」

 

「何緊張してんだよ。こんなの猫被ってるだけだぞ?どころか被ってもこの程度の猫にしかならないやつなんだぜ?緊張する必要なんてないよ」

 

自分のいとこを見て固くなる緑谷が変に思え軽口をたたく。そんな軽口にももう慣れたグウェン。特にムキになることもない。が、何もしないとは言ってない。緑谷に気づかれないほどの速さでエネルギー弾をベンのつま先へ。

たまらず叫ぶベン。

 

「いったぁ!!なにすんだよ!!」

 

「なにが?」

 

「おい、あんまりふざけるとボクのオムニトリックスで泣く羽目になるぞ?」

 

「何が泣くはめよ。一昨日勝手に使っておじいちゃんに怒られてたくせに!」

 

「…!!!」

 

痛いところをつかれ歯ぎしりするベン。

流れるように喧嘩する2人だが緑谷は未だ状況を飲み込めない。いとこを持たない彼にとってこれが普通なのかはわからなかったが、とにかく諫める

 

「ちょっと…!やめようよこんなところで…」

 

今すぐにでも自分が戦いたいがさすがに昨日の今日で変身はダメだと判断するベン。自分が戦わずにグウェンを懲らしめる方法を思いつく。

 

「…そうだ!イズク!こいつと戦ってみろよ!」

 

謎の提案に驚く緑谷。そしてそれは彼女もいっしょ。

 

「なにいってるのよベン!あんたまだ懲りてなかったの!?それにあたしがこの人と戦う理由はひとっつもないっての!」

 

 

「じーちゃんたちに許可をもらえばいいだろ?それにイズクがお前に勝つだろ?そしてボクはイズクに負けたことがない。つまりボクが一番って寸法さ!」

 

「あんたねぇ…」

「僕も、その、…」

 

こんなアホなことを言っているベンを遠巻きに見ていた2人。常に笑顔のオールマイトと異なり呆れた表情のマックス。

 

「全く…ベンのやつ全く反省しとらんじゃないか」

 

「はは…しかしあれがテニスン少年のいいところだと思いますよ!緑谷少年も新技で彼を参考にしたって言ってましたからね」

 

年下のオールマイトにフォローを入れられため息をつく。

 

こうして孫たちを見ることがどれだけ幸運なことだろうか。願わくば彼らがヒーローになるのをこの目で見たい。そう思いながら本題へと入る。

 

「俊典…奴がおそらく動いている」

 

「…!!」

 

「アメリカでずいぶん前に不可解な事件が起きていてな。その事件の発生場所が…」

 

「やつを倒した湖、ですね?たしかに検挙には至らなかったが…あの傷でまだ復活したのですか」

 

危機への察しはよいオールマイト。

 

かつて、オールマイトはアメリカで活動していた。まだ半人前であったが、それでも実力は他のヒーローと頭一つ、いや二つ抜けていた。そんな彼を見込んで力を貸してほしいとマックスから言われ、共に倒した敵がいた。いあy、たった今、倒したと思っていた敵へと変わってしまった。

 

「まだ確定はしていない。だが注意をしてほしいと思ってな。奴は力のためなら何でもする。もし、OFA、AFOの話をかぎつけたなら奴は間違いなく日本へ来る。それに…」

 

「…わかりました…そのためにわざわざ日本へお越しいただいたのですね」

 

半分はこのため。しかしもう半分はベンの様子を見る為であった。実はマックスはオムニトリックスの存在を元々知っていた。しかし詳細については知らなかったためすぐにはそれがオムニトリックスだとは気づけなかった。なんせその力は思っていた、文字通り10倍の力を有していたのだから。

 

強大な力を手にしたとき人は変わってしまう。それがいい方向か悪い方向かはそれぞれだ。あるものは傲慢に。またある者は己をいとわなくなった。どちらにせよ、ベンが心配であった。自分が近くにいてやれない今、誰かに見守ってほしいと思っていた。

 

「俊典…ベンを頼む」

 

「…わかりました。私の2人目の恩師、からの頼みですからね!!」

 

その言葉を聞き一安心する。平和の象徴が引きうけた。その頼もしさは何物にも勝るだろう。マックス彼の笑顔と信頼し託すこととした。

 

 

「結局じーちゃんたち何話してたの?」

 

海浜公園を出てベンの家への帰宅中。最後のキャンピングカーでの会話である。

 

「おまえさんがウォッチを悪用しないように見張っててくれとたのんだのさ」

 

「うぇーー…そんなことしないって。ボクはヒーローになるんだぜ?」

 

正直ベンのこの言葉に全く説得力はない。私利私欲のためになかなか力を行使してきたのだから。そのことを知っているグウェンも呆れた顔でベンを見る。

 

「まあ…?さっさと退学になるのもいいんじゃない?いい薬になりそう?」

 

「はっ!言ってろよ!ボクはすぐにこの名を世にとどろかせてやるから」

 

「手錠掛けられた姿がテレビに映って?そりゃたしかに轟くわね!」

 

2人の言い合いで締めるのもいいか。そんなことを考えていると自宅についてしまう。

ベンを下ろし、カーウインドウを開ける。

 

「ベン!体育祭はテレビから応援するからな!頑張るんだぞ!」

 

「まだ先のことだよじーちゃん」

 

「頼むからあたしたちに迷惑かかるような捕まり方はしないでよね!」

 

「お前こそ敵にやられてじーちゃんからクビにされないようにな!」

 

ニシシ、と笑う2人。そろそろ出発しないと飛行機に間に合わなくなる。車を発進させ、

窓を締めながら徐々にスピードを上げていく彼らにベンは手を振る。

 

「今度会うときはもうボクはヒーローになってるからーー!!!」

 

聞こえたかどうかはわからない。ただ、キャンピングカーのテールランプが二度光ったことだけははっきりとわかった。

 

 

 

 




GW終わったぁ…オールマイトは昔アメリカ修行してましたよね。この設定を生かさずどうする…!!

自己犠牲って日本人は好きらしいんですけどベン10ではそこあんまり強調されなかった気がする。大いなる力ももったものの責任、みたいなのはあるけど。

次回はUSJ!に入りたい…


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USJ編(ケビン=レビン)
24話 幽霊?


久しぶりに原作に戻ってきました!ここからはUSJ編なのでお楽しみに!


GWが終わり学校が始まる。その事実は学生にとって楽なのか哀なのか。たとえ哀だとしても、今日学校に行かねばならないということは変わらないのでどうでもいいことだが…

 

5日ぶりの登校。久しぶりの顔ブレに皆が沸き立つ。

そんな中のHR。相澤は必要事項の連絡のあと、不穏な空気をまとう。なにかまたテストが?生徒たちが身構えた中彼が言ったのは

 

「君たちには学級委員長を決めてもらう」

学校っぽいのきたアァァ!!!

 

そう、係決めである。いかに特殊なヒーロー科であろうともあくまで高校。委員長はもちろん、学習係、放送係などは必要なのである。

 

学級委員長、というと雑用係のようなイメージを持たれるが、そこはさすがヒーロー科。人々をまとめるリーダー職への人気は高い。自分が自分が、と皆が手を挙げる。面倒くさがりの爆豪でさえ【やらせろ!】と息巻いている。

 

「うわぁ…良い子ちゃんばっかじゃん。そんなに雑用したいの?わけわかんないよ」

 

委員長をあくまで雑用係だと認識しているベンは興味がない。

 

騒がしい中で唯一このクラスの眼鏡である飯田がある提案をする。。

 

「静粛にしたまえ!他を牽引する責任重大な仕事だぞ…!周囲からの信頼によって務まるこの聖職。民主主義に則り…投票で決めるべきだ!!」

 

いいことを言う。まだ知り合って少ししか経っていない中での選挙ならば、皆が自分に入れる。そのなかでも複数票獲ったものこそが確かに長にはふさわしい。本当にいい提案である。

 

その右腕がそびえたっていなければ…

午前の授業が終わり、緑谷、飯田、麗日、ベンの4人はいつものように昼食をとる。会話の種はさきほどの委員長決め。栄えある長の座を手にしたのは

 

「僕に委員長が務まるかな…」

 

緑谷だった。緑谷は自分、麗日、飯田から票を獲得し見事1位に。ちなみに2位は八百万である。

 

「ツトマル!」

お米をほおばりながらの麗日。今は緑谷よりも飯。対して飯田は自分の票を緑谷に入れた理由を赤裸々に話す。

 

「大丈夫さ。入試や訓練でも思ったが緑谷君の“ここぞ”という時の能力や判断力には目を見張るものがある。僕も負けてられない、そう思えた君だからこそ票を託したのさ」

 

ジーンと感動する緑谷の横で異議を申し立てるベン。

 

「おいおい、ボクはどうなんだよ。その2つともボク一緒だったろ?」

 

「ベン君も委員長なりたかったん?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど…」

 

飯田に質問する理由は簡単。選挙でベンに一票も入らなかったからだ。つまり0票。圧倒的0票。委員長には興味ないものの、選挙で誰も選んでくれなかった事実は誠に遺憾である。

 

「その…テニスン君にも能力はあると思うし見習いたいと思っている」

 

「うんうん」

 

「けれど…委員長にふさわしいかどうかといわれると…」

 

「ちょ、なんだよそれ!おかしいだろ!な、ふたりとも」

その理由は筋が通ってないのではないか。麗日、緑谷に同意を求めるも二人とも苦笑いで流す。正直なところ飯田と同じ考えである。というかクラス全員が同じ思考をしていた【テニスンだけはない】と。

 

話題を流すため麗日が飯田に振る。

「でも飯田君も委員長やりたかったんじゃないの?眼鏡だし」

 

パスが雑である。

 

「…やりたいと相応しいかは別…そういえば僕に一票入ってたな、いったいだれな」

 

「ああ、それボク」

 

「!!テニスン君か!?なぜ僕に!?」

しばし目をつぶり考えた後、こう言う。

「眼鏡だから?」

 

「なんだそれは!!」

 

実際にはまじめなところがグウェンと似ており、口うるさい学級委員長ぽいから、なのだがさすがにそれは直接言えない。その程度の気は使える彼であった。まあ気を遣った先が【眼鏡】であったわけだが…

 

ウウーーーー!!

 

「!なんだ!?」

 

突然の警報に皆が席を立つ。放送では侵入者が出たとのこと。初めての侵入者。今いるのは学食。となると

 

【いてぇいてぇ!】

【押すな!】

【ちょっと!!倒れるじゃない!!】

 

こうなる。

3学年全員が1か所に集まっていたため入り口は一気に混雑、パニック状態に。それも仕方がない。いくらヒーロー志望だからと言って彼らはまだ15そこらなのである。予想外の侵入者にパニックになるのは必然的である。

 

人並にもまれ、緑谷麗日、飯田ベンに分かれてしまう。

 

 

「っく、いったい何が侵入したん…あれは、報道陣!?」

 

ちょうど飯田が押され着いた窓際からは報道陣が相澤らを囲んでる画が見えた。めったに校内に入れないマスコミは我先にとインタビューを求め先生たちもその対応に追われている。

 

(先生型は対応できない!僕らで“大丈夫“なことを皆に伝えなければ!)

「テニスン君!侵入者はただのマスコミだ!向こうにも伝えてくれ!」

 

言われたが身動きがうまく取れないベン。

密集地帯では身長150もないベンにとっては満員電車の比ではない苦しさなのである。それでも、起動ボタンは押す。

「大丈夫!?伝えろ!?…おっけい任せろ!!」

QBAAANN!!

 

「!?」

 

急に変身したベンに驚く飯田。

 

この混雑の中で移動するためか、それとも皆の気を引くためか。変身した理由はベンのみぞ知るところ。だが、その変身は

 

【………うわぁぁぁぁ!!敵だ!!】

 

この場で取りうる最悪の手段であった。変身したのは単眼の幽霊。ベンが変身するエイリアンの中でももっともグロテスクなエイリアンなのである。一見シンプルなデザインだが、その身は内包するおぞましい何かを隠しきれない。

 

おどろおどろした声で皆に教える。

皆ぁ…侵入者はマス

 

【お化けが急に現れたぞ!!】

【さっきまであそこにいた子供が食べられた!?】

 

先ほどのよりもひどいパニックとなる。ベンは頑張って伝えようとするも誰も聞かない。それが理由なのかはわからないが異常にいら立つベン

 

おい…!聞けよぉ。有象無象どもがぁ…!!

 

「テニスン君口が悪いぞ!!?(く、どうすれば…)そうだ!麗日君!俺を浮かせろ!」

 

麗日に指示に自分を浮かせる。無重力人間となった彼は自らの個性で空中を移動し大きな音を立てて非常口上部に張り付く。そして

 

「大丈―夫!!!ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません!!ここは雄英!最高峰の人間にふさわしい行動をとりましょう!」

・・・・・・・

その後、事態は沈静化し何とか午後の授業には間に合った。授業の前には緑谷は飯田を委員長に推薦した。委員長である緑谷が推薦したことや食堂での出来事もあり異論を唱える者もいなかったようで、晴れて飯田は委員長の役に付いた。

 

余談だが、食堂ではヒーローに成れなかった者の幽霊が出るとの噂が広まり、事情をきいた1-A生徒は【やっぱりテニスンに票を入れなくてよかった】と思ったそうだ。

 

その騒動があった1週間後、彼らは初の救助訓練に取り組むこととなった。

場所は、U S J(嘘の災害や事故ルーム)。あらゆる事故を想定して作られた演習場である。作ったのは救助専門のヒーロー、【13号】

 

ヒーロースーツを着て皆が広場に集まる。ワクワクする彼らに対し、13号から大事なお話が。その内容は、個性について。

 

「ボクの個性はブラックホール。吸い込んだものをチリにする個性です。この個性は…簡単に人を殺せる力です」

 

さきほどまでの緩んだ空気が一気に張り詰める。【殺す】という言葉でベンは思いだす。福岡での電車の出来事を。プロヒーローのおかげで大事故は免れたが、下手をすれば幾人もの人生を奪う羽目になっていた。

 

「この超人社会は1人1人が力を持っています。その力を暴力とするか誰かの助とするか皆さん次第です。この授業では自分の力は後者のためにあると確認して帰ってください。ご清聴、ありがとうございました!」

 

ペコリとお辞儀する先生。被り物をしているその表情からは何も読み取れないが話を聞いた皆の顔を見て何を思っただろうか。

 

「助ける力…ね」

 

私利私欲じゃなく、自分のためではなく皆の為に。オムニトリックスに選ばれた自分はそうあるべきなのだろう。柄にもなくそんなことを考えたその時、

 

「ああ…いっぱいじゃないか…なのに本命がいない…ガキを殺せば来るのかな?」

 

途方もない悪意が彼らを襲う。

 




今回は書いてて楽しかったです。
やっぱりベンはピエロ的扱いが一番映える、(笑)力を持つ子供ってそんなものですよね?
次回は誰が出るかな?

エイリアンによってフォントを変えようかなと思うんですけど、このエイリアンにはこれがいい!という方はぜひ作者まで!


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25話 ダイヤモンドは砕けない

タイトルに深い意味はありません。あしからず…


鉄壁のセキュリティを誇る雄英高校。ヒーロー育成機関、という特殊な設立目的故に敵からの憎悪の対象となりやすい。だからこその高度なセキュリティ技術で設立以来敵の侵入は一度たりとも許してこなかった。しかし、その不侵入神話はたった今崩れ去る。

 

救助演習を行うための施設、USJ。その広場に、黒き渦霧が立ち込める。はい出てきたのは、ただただ純粋な悪。

 

手首から先を顔にはり付けた不気味な敵と黒い靄が話す。

 

「おいおい、オールマイトがいないじゃんか」

 

「どうやらカリキュラムに手違いがあったようですね…」

 

前線に出ている相澤のみが聞こえた会話。それはこちら側に内通者がいることを表していた。が、今はそれどころではない。

 

「…!全員、13号の指示に従い避難!戦闘に出るな!」

 

ウォッチの準備をしていたベン。我先にと跳びだそうとしていた爆豪は動きが止まる。

此処での生徒は守るべき対象。いくらヒーロー志望だからと言ってただの子供には変わりなくこの場面で戦わせるべきではない。というイレイザーヘッドの判断。教育者として、ヒーローとして限りなく正解に近いその判断は、今回ばかりは裏目に出た。

 

「隙あり、ですね」

 

生徒が固まった瞬間、黒い靄が彼らの前に現れる。ワープの個性を持った黒霧からすれば生徒は一塊になってくれて幸いだった。一瞬隙が出来ればよく、其の隙を先生自らが作ってくれるとは好都合。生かさない手を無い。

 

「生徒とはいえ優秀な金の卵。集まれば厄介、油断すればやられてしまう。なので」

 

瞬間、生徒たちの周りに多数の霧ができる。黒はそのまま彼らを飲み込んでいく。

 

「散らして、嬲り、殺す」

 

 

「なんだこの靄!!」

「皆!!」

 

「ブハッ!!なんなんだ今のは!?死ぬかと思ったよ!って、あっつ!!」

 

ダイヤルも回したままベンがワープしたのは火災ゾーン。火事や爆発などが起きたときの救助演習で使われる場所。オフィス街を模したような場所で、隙間なく連なるビルに、広い一本道。ベンが降り立った場所はちょうど後方が大火事となっていた。

 

「へっへぇ!ガキが2人きやがった!!」

「一人は小学生か!?おうちに帰りたいでちゅねぇ~!?」

 

ワープしてきたベンを取り巻くのはガラの悪いチンピラたち。ベンの体を見て馬鹿にする。青筋を浮かべながら目じりをピクピクさせるベン。

 

「っはっはぁ…言ってはいけないことをいったなお前たち…ん?2人?」

 

1人のはずじゃ?一応と横を見ると遠慮がちに笑うクラスメイト。尻尾の生えたその姿はまさに“個性”があるのだが、名を思い出せない。名は…

 

「…しっぽ!」

 

「尾白だよ!!」

 

「ごめんごめん。あんまり覚えてなくって、オシロね」

 

謝るがそこに陳謝の意はない。基本的にノリが軽いベンには名前を憶えていないことは大したことではない。だが普段から影が薄いことを気にする尾白にとっては大したことあった。一か月たっても名前を覚えてもらえてなかったのはやはりショックである。しかも言い直した名前すら間違ってる、

 

だが今はそれどころではない。前方には敵の集団。後ろには火事。前門の虎、後門の狼とはまさにこのこと。

 

「…いいよ。それよりテニスン。敵もだけど火事のせいで後ろに回れないのが痛い。この状況にあったやつに変身できるか?」

 

戦闘訓練でベンの変身能力を知っている尾白。ベンの個性をあらゆる異形に変身できる個性と勘違いし相談する。間違ってはいないがあくまで変身できるのは10タイプ。全ての場面に対応できるわけではない。しかし

 

「ああ、いるよ!てゆうかこのくらいの火事なんてあの時に比べればどうってことないさ!」

 

「本当か!」

(あの時?)

 

「ああ!まだ見せたことない、炎のエイリアン、ヒートブラストだ!」

 

QBAAANN!!

 

火事の赤い光とオムニトリックスから放出される緑の光で目がちかちかする尾白。慣れて見えてくると、目の前には

 

…だからなんでこいつなんだよぉ!!!!

 

光沢をもった体で嘆く鉱石人間がいた。。薄い青緑色の結晶体で出来たそれは、プロレスラーが着るような服を着ており、その服にはベンの面影があった。

 

「そ、そいつがヒートブラストっってやつなのか…?」

 

…ちがう!オレはダイヤモンドヘッド!ったく、本当にこのウォッチはポンコツだぜ

 

 

「ははっ…」

(口調変わってるし…)

プンスカ文句を言うベンに付き合う尾白。その場に似使わない緩い雰囲気になったことにいら立つ敵。2人がしゃべっているに拘わらず戦闘に持ち込む。不意打ちの斬撃がベンを襲う。

 

「…!しまっ…テニスン!!危ない!」

 

注意した時には時すでに遅し。腕を刀に変化させた敵の斬撃は見事にベンの頭部をとらえる。が、その音は斬れた音ではなく、折れた音だった。

 

「…お、俺の刀が折れたぁ!?」

 

後頭部をさすりながら太い声で喋るベン。

 

おいおい、人がしゃべってるときに攻撃するのは敵だけだぞ。あ、敵だったっけ

 

自分の個性がただの頭部に負けた事実に震える敵。再生可能な腕をもう一度変化させ斬りかかる。

 

「おらぁぁ!!」

 

右から左から。縦、横、斜め。さまざな角度から数を重ね振り回す。しかしただ突っ立っているだけのベンに文字通り刃が立たない。

 

もう終わり?じゃあくらえ!!

 

拳を硬め鳩尾に一発。この硬め、というのは握りしめる、という意味ではない。もともと拳の形をしていた手をブロックのように成型してぶん殴ったのだ。ただただ硬いパンチをくらった刀の敵は泡を吹いて気絶する。

 

やっぱりダイヤモンドヘッドはパワーもあるなぁ。固くて強いパンチ。んーー男らしいぜ!

 

自分のパワーに惚れ惚れするベン。そんな彼を見て恐れる敵たち。個では太刀打ちできないとみて群れで勝負を挑む。

 

うおっ、たくさんきやがったぜ。オシロ、お前は火にだけ気をつけろ!

 

「お、オッケイ」

 

忘れそうだがここは火災ゾーン。本来ならばベンが立っている場所は常人ならば肺に異常が出る熱さ。敵たちはそれに対応できるものがここの担当になっているので平気だが、ベンが平気なのは敵たちにとって予想外だった。

 

暑さも寒さ感じない。耐久力はフォーアームズ以上。今ベンが変身しているのは対災害に関してはNo1のエイリアンであった。

 

群れて攻める敵たちには硬度を増したその腕で対処する。どんなパンチもどんなキックもどんな斬撃も通じない。どころか自分が攻撃すればするほどダメージを負う敵たち。疲弊していく彼らを1人1人気絶させていくベン。

 

その状態に焦りだす後方部隊。

 

「や、やつに近接はダメだ!後方部隊!全員射撃だ!」

 

個性や道具やらで強化された銃で弾幕を張る敵集。それでもダイヤモンドヘッドにはかなわない。

 

オレが近距離しかない男だと思ってないか?ふっ!

 

ベンが腕を振るとつららとなったダイヤモンドが射撃する敵に降りかかる。自らの体の破片をダガーのように飛ばしたのだ。予想外の遠距離攻撃になす術なくやられる敵たち。

「ぎゃあっ!!」

「なんだあいつ!!」

 

完全に実力を上回る高校生にひるむ敵。其の隙を待っていた。

両手を地面につける。この技は中学の時には完成していなかった。しかし、類似技を見た今ならできるはず

 

「ペトロールソリッド!」

 

掌から広がった結晶はスピードをつけ敵のもとへ。何が起きてるかわからず戸惑う敵たちを結晶は包んでいく。イメージは轟の氷結。直に食らっただけのことはありその再現度は高い。最後にできたのは中に敵が埋もれている巨大な緑水晶の花であった。

 

イェイ!!、敵の包み結晶の出来上がりぃ!

 

黄色く染まったその目は笑っているかどうかの判断がつかない。しかし満足げな声からは気持ちよかったことが伺える。

 

圧倒的トンガリによって力を見せつけたベン。そんな彼を見ておびえ逃げようとする敵が2人ほどいた。

 

おっと、まだ取り残しがいたのか

 

「ひ、ひぃ!」

 

後ろを向いて手を着け

 

言われるがままに壁に手を着ける敵。敵の矜持どころか大人の矜持もあったものではない

 

悪事を働くには敵が、いやヒーローが悪かったなぁ

 

Pipipipi QBAANN!!!

 

お前ら!」

 

腕を腰に当て自信満々にいう。その言葉を聞きおかしく思う敵たち。いや、言葉ではなく声。野太い声から高い少年の声に戻っている。振りむくと送られてきたときと同じ姿のガキが偉そうにしていた。

 

敵の目を見て自分が元に戻ったことに気づく。汗を垂らしながら言葉を回す

「…楽しい時間って時間が経つのが早いね!今日のところは逃がしてやってもいいよ?」

 

焦る彼をみて、しめた、と思う敵ら。

「なんだこのガキ!、やっちま…」

 

言い終える前にドサっと倒れる。何者かによって気絶させられたのだ。思わず目をつぶったベンだったが開けると尾白が立っていた

 

「オシロ!!ナイス!!」

 

「尾白だってば!!…テニスンの方が凄いよ。こんだけいたのを一人で倒すなんて」

 

「まあね?でもオシロも倒したじゃん。胸張っていいんじゃない?」

 

「そ、そうかな‥!」

 

「ああ、じゃ、ボクは広場に急いで戻るよ!」

 

右ポケットからホバーボードを出し、1人で乗っていくベン。残された彼は口を開けて突っ立っていた。

 

「ま、まじかよ…」

 

ほめて放置。それがテニスン流。

 

 

 

 

 

 




とりあえず全員出た!!若干二名微妙だけど…基本的に変身=戦闘だから全員バランス良く出すのはあきらめかけてます。今日だって…ダイヤモンドヘッド強すぎ時じゃね?切島と轟のミックスかな?ってレベル


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26話 緑谷vs脳無

1話が5000文字近くになったので二部に分けました。どっちが読みやすいですかね?5000文字を1話分と2500文字を2話分。


その幹部の個性、ワープにより1年A組は施設内のあちこちに転移させられてしまっていた。ベンは尾白とともに火災ゾーンへ飛ばされ無事脱出。そして緑谷はというと

 

「大丈夫?緑谷ちゃん」

「うん、すこし腕がしびれるくらい」

 

蛙吹、峰田とともに窮地を脱していた。

水難ゾーンに飛ばされ、水系個性の敵に囲まれたが、プールに浮かぶ敵たちを3人で協力して見事撃退。初戦闘にして初勝利をおさめていた。OFAの調整をオーバーしたため腕が痛む緑谷だが入試の時ほどではない。すぐに状況の整理をする。

 

「ここから広場までは100メートルくらい。相澤先生の戦闘スタイルからしてあの数に集団戦闘は厳しい。なら僕たちが行くべき?いやでもその分先生が僕たちに気を取られるか?なら最初から出口に向かった方が…」

 

「オイオイ緑谷…まさか戦闘に加わろうってのか!?バカかよ!!明らかにボスみたいなやつがいたじゃんか!俺たちが行ったって足手まといになるだけだよ!」

 

弱気な発言をする峰田。ヒーロー候補生としては情けない発言にも思えるが仕方ない。彼の個性は捕縛や妨害などにはピッタリだが正面戦闘には不向きであり、機動力のある敵にはなすすべがなくなるからだ。

 

それを理解している緑谷は折衷案を出す。

 

「…峰田君と蛙すっっ…梅雨ちゃんはここから広場を避けて出口に向かって。まず皆と合流してから動いてほしい」

 

「緑谷ちゃんはどうするの?」

 

「僕は先生のところに向かう。僕なら最悪逃げる足がある。梅雨ちゃんは峰田くんの機動力を補って出口に向かってほしい」

 

その言葉を聞き一応の了承をする二人。しかしわかりにくいが蛙吹は不穏な表情を浮かべる。緑谷1人で敵の元へ行かせるのが心配なのであろう。訓練や先ほどの戦闘でも彼の能力は知ってるがそれでも未知の敵相手では不安だ。

 

蛙吹の表情を見て察する緑谷。

 

「だい、じょうぶ!僕の個性なら何とかなるよ!」

 

似合わない言葉。ただ二人の心配を和らげようと無理してひねり出した言葉である。目標である平和の象徴はどんな人でも言葉と行動でみんなを笑顔にしてきた。ここで心配させてたら最高のヒーローなんかには成れない。その思いは伝わったのか、蛙吹は緑谷を送り出す。

 

「無茶しないでね、緑谷ちゃん」

 

「うん!」

 

2人を背にしOFAフルカウルを発動。走っていく緑谷を見た後二人は水辺に沿って出口に向かう。

 

「緑谷…大丈夫かよ…あいつ、顔引きつってたぞ」

「…とにかく合流するしかないわ、ケロ」

 

憧れの人、オールマイトから力を授かり、その先生のグラントリノから使い方を教えてもらい彼は成長していた。極端な話だが、彼はオールマイトの20分の1の力を発揮できる。そして初めての敵闘でも力は通じた。その事実が、成長が、彼を勘違いさせていた。自分は戦えるのだと。

 

訓練でも、救助でもない、殺し合いの恐ろしさを彼は知らなかった

 

「…先生!!!?」

 

先ほどまで多勢に対応していた相澤は無様に虐げられていた。その相手はただ一人。いや、人と認識してよいかわからない様相。漆黒の顔には耳まで裂けた口がついており、頭部には脳が丸ごと露出している。オールマイトを彷彿とさせるその筋肉は、相澤でも消せないことから素であることがわかった。

 

「お、なんか1人生徒がきたぞ?イレイザーヘッド」

「なんか弱っちいな」

 

ボスと思われる手顔の男とすこし年下の少年が緑谷を評する。しかし、それは緑谷には聞こえなかった。フルカウル状態のまま怒りに身を任せて突っ込む。

 

「先生を…離せ!!!」

 

SMASH!!

 

許容上限超過気味の攻撃。頭に血が上ってはいるが腕は壊れない。彼の拳は相澤をつかむ怪人の腕を殴打する。だがその反応は無に等しい。一ミリも動かない敵。こんなやつ初めてだ。不気味に思い距離をとる。

 

「ああ…強化型?SMASHってことは…オールマイトのフォロワーか?だったらなおさらこいつには勝てないよ。対平和の象徴、怪人脳無。こいつはオールマイトを殺すために作られたものだ」

 

饒舌になって喋るボス。攻撃が効かずに困惑している緑谷に対しその怪物の説明をする。

其の隙をついて相澤は抜け出そうとするが脳無は許さない。動かした右腕をつかむと小枝を折るかのように握りつぶす。

 

「っっ!!!!!」

 

「個性を消す個性、素敵な個性だけどなんてとないね。圧倒的力の前ではただ無個性だもの」

 

それを見て黙っていられる緑谷ではない。なんとか相澤を救うため策を弄す。

 

(SMASHが効かなかった。それに先生の腕を軽々通るパワー。まともに戦ったら勝てない…速さでかく乱して、隙を作る!!思い出せ、グラントリノの動きを!)

 

イメージするのはグラントリノ。彼の動きを真似、脳無を周囲を駆け回る。脳無は動き回る緑谷とビタリと目を合わせているが、それでも走り回る。徐々にスピードが増す緑谷にボス達は目がついていかなくなる。

 

「おいおい、犬みたいに走り回ったって脳無にはかなわないぜ」

 

視界の端から端。グラントリノと違い三次元的な動きは不可能だがその分早く切り返せる。脳無が首を忙しく動き始める。彼の切り替えしについてこられなくなっているのだ。

 

緑谷は少しづつ距離を詰め背後を狙う。後ろをとることさえできれば放てる。敵の予想を超える、最強の一発。緑谷の反対方向を脳無が見た。その瞬間、敵の背中に回り彼は撃つ

(OFA100%!!)

DETROIT SMAAAASH!!!!

 




今の緑谷はシュートスタイルにならなかった時の、爆豪と喧嘩した時の緑谷って感じです。基本5%で8%も行ける。なぜここまで原作と差があるかですが、筋トレのメニューやらその他の事項まで、グレイマターになったベンがもアドバイスしてるからです。ちなみにアドバイスしたベンは内容は全く覚えていません。オリジナル技はベンに感化されて作るようになりました。
 


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27話 ヒーロー

今回はこの展開にするか迷いました。


渾身の100%デトロイトスマッシュ。

小さな拳から放たれた技で爆風が起きる。近くにいた敵のボスが風圧であとずさりし、もう一人の黒髪の少年は転げる。対して技を放った緑谷もタダでは済まない。

 

「うっ!!!」

 

通算2度目の100%。敵の想定を上回るために出した奥の手であるが、その力はまだ緑谷に扱えるものではない。反動で右腕の骨を砕け、血管は破裂する。茶色く染まったその右腕からはシュウシュウと音を立て煙までている。

 

ここまでの犠牲を払った一打は…

 

「そ、そんな!!」

 

化け物をよろけさせる、いや、反応させることもできなかった。ただただイレイザーヘッドにまたがり、緑谷を見向きもしない。

 

(100%だぞ!?オールマイトの力だぞ!!??)

 

驚愕と絶望が入り混じった顔の緑谷をみて土を払いながら彼らは述べる。1人は馬鹿にし、1人は品定めするかのようだ。

 

「言っただろ?対オールマイトだって…お前の力なんて脳無には効かないんだよ」

「…相当なパワーだったな。あの個性、いいかもな…」

「いや、見ろよ。あのガキの腕。バッキバキだぞ。あんなにならなきゃ使えない個性なんているかよ」

 

「っ!」

自分の、オールマイトの個性が馬鹿にされていることに怒りを覚える。受け継がれてきたこの力はこのような悪を滅ぼすためにある。そう考えるも、右腕は使い物にならない。

 

とにかく脳無を先生からはがさなけば…頭に上った血をゆっくりと思考のリソースに回していく。

 

「おい、脳無。さっさとイレイザーを気絶させろ。」

「そうそう、じゃないと俺らが個性使えないっつーの」

「そして…ガキを殺せ」

 

殺す、という単語よりも先生を気絶させるという言葉に反応する。自分が傷つくのは構わない。だが、他人が、先生が傷つくのだけは許せない。なんとしてでも先生を助けないと。

 

自己犠牲の精神が、自分の足と引き換えに先生を助けると決める。破滅の力を右足に力を込める。瞬間、もう1人の選ばれしものが来る。左腕に緑色の時計を巻いた少年が。

 

「先生に何してんだよ!!」

 

ホバーボードから威力最大で光線銃を放つベン。その威力は轟の時とは桁違いのものであり、脳無の腕を削る。ベンを見て驚く敵の1人。

 

「あいつ…ここの生徒だったのか!」

 

ベンはボードから降り立ち緑谷に状況を確認。

 

「皆は?此処はイズクだけ?」

 

「う、うん。出口の方になんにんか集まっ…!!」

 

そこで変身不能のオムニトリックスに気づく。未だ赤い光を放つウォッチを見て顔が歪む。

歯を食いしばりながら苦渋の決断する。

「…ベン君!!今すぐボードで逃げて!」

 

「はあ?!なんで?」

 

「変身できない今は危険すぎる!!みんなのところで時間を待つんだ!ここは…僕が何とかする…!」

 

折れている拳を握りしめ戦闘態勢に入る緑谷。敵たちの方を見据える。

勝算はない。先程の全力も意に解されなかった。だかやるしかない。ビクビクと動き、各所からは血を吹き出す腕を構える。

 

そんな痛々しい右腕を見てベンは反論する。

 

「いやだね。そんな怪我を負うやつにここを任せられるかよ」

 

「っ!!こいつ相手じゃ君を守り切れない!今の君は無個性だろ!」

 

激情にかられ、ついキツい言葉を放つ。緑谷の言うことは何一つ間違っていない。変身できないベンはただの無個性少年。多少のアイテムがあるとはいえ、その事実は変わらない。

 

だが、ベンにはそんなこと関係ない。

 

「困ってる人がいたら助ける。それがスーパーヒーローだろ?友達だったら尚更さ」

 

「…!」

 

「今のボクにはじーちゃん謹製のアイテムもあるしね」

 

「っけ、けど…!!‥‥ベン君は距離をとって射撃で援護して。ウォッチが起動できるようになったらダイヤモンドヘッドかヒートブラストに。削るか焼くかなら、なんとかなるかもしれない。相澤先生はギリギリ意識があるみたいだけど、巻き込まないようにしないと」

 

納得はしないが言い争いをしても仕方ないと判断。脳無への有効手段を考えながら指示する。

「おっけい!!さすがイズク!」

 

さっそく離れて銃撃に入る。連射するその弾はほとんどが脳無の体をとらえその肉体を削り取っていく。しかし削られた先からウネウネと肉体を修復する脳無。

 

「あいつ再生してる!?」

「かまわない!ベン君はそのまま相手をけん制してて!」

 

再生に気を取られてくれれば御の字。今のうちに前へ。

フルカウルを駆使し距離を詰める緑谷。さっき効かなかった以上、むやみに100%は放てない。走りながら作戦を考えるが…

 

「無駄だよお前ら…そいつには超再生とショック吸収の個性を持たせてある。あはは、どんなに頑張ってもお前らには希望のかけらもないよ」

 

楽しそうに語る掌を顔につけたボス。その掌の奥の笑みは子供が虫を無邪気に殺すときの顔。残酷な行為が、弱者の無駄なあがきを面白おかしく感じる。そんな顔。

 

だが今の言葉を聞き、緑谷は思いつく。脳無を倒せないまでもこの場をしのぐ方法を。

 

(ショック吸収…だからスマッシュが効かなかったのか。まてよ?ショック吸収って打撃無効化ってことだよな。なら…掴んで投げられること自体は防げない!!)

 

打撃ではなく、掴んで敵を放り投げる。放り投げる際にOFAを使えばその距離は相当なものになる。先生も助けられるし時間も稼げる唯一の突破口。両腕が壊れるが仕方ない。この方法しかない、と腹を決める緑谷。

 

幸いベンの射撃で相手は全くこちらを気にしてない。

 

さきほどから緑谷にも攻撃を加えなかった点から攻撃性は低いのかも、と予測する。

フルカウルで懐に潜り込み、腕をつかむ。こちらを見向きもしない敵には容易なこと。ブン投げるためにOFAを発動。

 

が、その発動は意味をなくす。

 

「めんどくさいな…脳無、向こうのガキからやれ」

ボスの一声で、緑谷ははじき飛ばされる。

緑谷は勘違いしていた。敵は攻撃してこないと。少なくともこれまではしてこなかった。しかし今ハッキリとした。攻撃するしないは脳無ではなくボスが決めていたのだ。先ほどまでは先生を捕縛する命令が出ていたから自分に攻撃しなかったのだ。

 

気づいたときにはもう遅い。ギョロギョロした目の先には光線銃で応対するベン。

 

「」

 

無言でベンの銃撃を振り払うと同時に、彼の左腕を握り、彼ごと持ちあげる。宙ぶらりんにつるされるベン。反抗しようにも手も足も届かない。

 

怪人に握りしめられた手首はメキメキと音を立てる。

 

「う“う”う“あ”あ“!痛ったい!!!離せ!!!離せよこの化け物!!!」

 

ベンの嘆きも聞き入れない。後ろでは緑谷が叫びこちらに向かってくる。

身長がベンの3倍もあるような怪物はただただ無言でベンの手首を砕こうとする。オムニトリクッスも一緒に握っているが関係ない。ただボスの命令に従いころすのみ。ピシピシと壊れる音がする。ウォッチも限界が近いのかもしれない。

 

脳無はそのまま

 

「あ“あ”“っ!!!」

 

その手首を握りしめた。

 

悲痛な声とともにバキっと嫌な音とともに聞こえる。と同時に聞こえたのはQBANという音。敵には聴き慣れない人工音。音とともに出た不気味な黒い光はベンの体を包んでいく。    

 

 

「なんだよ、ありゃ…」

「ベン、君?」

 

敵と味方、両者が1人の少年の能力に戸惑う。唯一動揺していないのは心を、脳を無くしたものだけ。ただ目の前現れた者を見つめる。

 

自分から掴んでいた少年は消えていた。目の前にいるのは、鈍い黒光から出てきたのは、自分のと同じ姿をした者。

 

脳無の前には、先ほどまでいた緑色の瞳の少年ではなく、緑色の目をした脳無がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オムニトリックスの仕様をしっている人にとってはまあお馴染み?ですよね。今回のは脳無の個性因子がウォッチに入り込んだって感じです。



今後こいつを使うかはわからないんですが、脳無のエイリアンネーム一応募集です。


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28話 脳無攻略

感想欄や個人メッセージでエイリアン脳無ネームがたくさん来てうれしい悲鳴です。今のところリーバックとベンノーム、ギガヒューム、ブレインボーグの4択ってかんじになりました。USJ編が終わった後、作中で決めようと思います。


人間とは思えない烏色の肌、改造人間にふさわしいその筋肉は白黒の服に覆われている。体のいたるところにある赤い傷跡は緑に。特徴的なおっぴろげの脳は半透明のアーマーに覆われ、その隙間からは緑色に輝く瞳が伺える。

 

自分の手のひらを見て何に変身しているかを理解するベン。反対に敵のボス、死柄木は爪を噛み、その横にいる少年は口を開けて驚いている。

 

「オイオイ…どうなってんだよ…なんであのガキが脳無になってんだ?」

「ベンのやつ…あんな力を隠してやがったのか」

 

驚く2人を気にせずベンの元に駆け寄る緑谷。

 

「ベン君…だよね?どうしたの?なんで君が…!?」

 

駆け寄ったものの混乱している緑谷。それも仕方がない。自分の友人が腕を折られたかと思うと、その相手に変身していたのだから。最初はベンがなにかしらの能力で逃げたのではないかと思ったが、すぐにベン本人だと気付く。その理由は二つ。ひとつは現れた脳無のアーマーにはオムニトリックスのマークがあったから。そしてもう一つは腕。

 

ベンの代わりに現れたその脳無は腕が反対方向に曲がっていた。その腕は変身前に砕かれたベンの腕と同じ方向を向いていたのだ。

 

腕の折れる痛みは充分なほどわかっている。もうベンに戦わせるわけにはいかない。ベンに気遣い下がらせようとしたそのとき、その腕ギュルギュルと音を立て、元の形に戻ってしまった。

 

不気味に再生した腕を見て辟易する死柄木

 

「はぁ…!?超再生まで持ってんじゃねーか…完全にうちの脳無といっしょかよ…」

 

「ベン君…今意識はある?」

 

心配するのはベンの自意識。変身するエイリアンによっては性格の変わっていたベン。脳無に変身したことでの精神影響は予想できない。

 

その脳無の目はキランと緑に輝く。そしてその黒い指である方向を指し示す。その方向には倒れているイレイザーヘッド。

 

 

イズウ…センエイ…アノム

 

発声器官の問題か、それとも大きなギザ歯が原因か、うまく喋れないベン。だがその意図は緑谷に伝わる。なんだかんだいって一年。その間共に修行した仲の二人には十分だった。

 

「わかった…!」

 

地面を蹴り相澤の元へ走る緑谷。せっかく倒したイレイザーを回収されるのは敵にとって好ましくない。しかし敵連合が注目するのはその異形。対平和の象徴をコピーしたかのような容貌。とにかくここで殺すか回収せねば。我らの大敵となる。そう死柄木の勘が告げていた。

 

「おい脳無!さっさとその化け物を殺せ!!」

 

自分らの仲間と同じ姿の者を化け物と呼ぶ。彼らの間に絆などないのだ。主と従者、その関係であった。だがその関係にも利点はある。

 

オリジナルの脳無はただ命令に従うのみ。たとえ目の前の子供が自分に変身しても動揺はない。相澤を嬲ったそのパワーでベンを打つ。

 

しかし微動だにしない。全く効かない。

 

「…っち、やっぱりショック吸収もか…!」

(俺が行けば…だがあのパワーに巻き込まれたらただじゃすまない。こっちには回復役がいないからな…とりあえず脳無に任せるか…)

 

死柄木は“見”を選択。その間にイレイザーを緑谷が回収に来るが関係ない。今はあの化け物たちの戦いに集中する。

 

「」

無言でパンチを食らわせるオリジナル。同じようにベンも拳で返す。もちろんのことだがダメージは一切ない。ショック吸収という個性の性質上、吸収を超えるパワーなら破れるかもしれないがお互いにそんな力を無い。

 

個性もくそもない、ただただシンプルな殴り合いが起きる。その様子はまるで普通ではない。互いが10発、100発、1000発撃とうが、一歩も動かないのだ。スタミナも無尽蔵なうえダメージを入らない。こうなってくると我慢比べ…なのだがベンは焦る。

(まずい…ッこのままじゃ‥)

 

対照的に敵の2人はニヤリとしだす。

 

「うちの脳無が勝つな」

「はぁ…?なんでだよ」

「ベンの変身は10分しかもたない。このまま膠着状態がつづけばいずれ時間切れ。あとはただ無個性のガキが残るってことさ」

「何だ…ヌルゲーじゃんか」

 

ニヤァっと、口角を上げる死柄木。その通り、イレギュラーで変身したもののベンはせいぜい10分弱しか変身できない。今回もそうかはわからないがその可能性は大いにある。

 

そのことを十二分に理解していたベン。変身した瞬間に自分の力は理解できた。だからこそわかる。このままでは打つ手がないと…なんとかして脳無を退けなければ…パンチを打ちながら考える。徐々にスピードを上げる敵にこちらも対応するが時間は刻刻と迫る。考えようとすると急に思考にノイズがかかる。身に覚えのない記憶が流れる。少しづつ、少しづつ、それはベンを侵食していく。

 

オリジナルの渾身の一発がベンが捉えた瞬間。なにか途切れる。

 

グチャッ、ガリィ!!

 

肉が裂け、骨が削れる音がする。食らった方は構わずパンチを打つ。かまう必要もない。痛みはなく、再生もある。無意味な一撃だ。今自分がすべきことは相手を殴ること。そう判断し腕を動かす。だが…

 

()()は再生を上回る速度で敵の肉を削いでいく。爪を立て、一本一本の指を力を籠め。

敵の左足をちぎる。右腕をえぐる。左足が再生するがその肉面を握りつぶす。敵の左拳が顔めがけて飛んでくる。それを大きな口で食いちぎる。グチャグチャと音をたて血は飛び散るも気にしない。

 

破壊、再生、破壊、再生、破壊、破壊、再生、破壊、破壊、破壊。

 

破壊に再生が追いつけなくなったとき、脳無の体は胴体に左足のみがついている状態になる。

そしてベンが左足の付け根を手刀で貫きえぐると、胴体のみが空中に浮く。

 

そこでタイミングを計っていた緑谷は合図する。

「先生!今です!」

 

緑谷に背負われた彼は気絶寸前。教え子の合図で最後の力を振り絞り目を見開く。対象は敵脳無。その目に射抜かれたものは個性を発動できなくなる。手も足も腕も何もかもなくなった脳無。再生しようにも発動できない。そして頼みの綱であるショック吸収さえも。

 

アーマーを被った意思ある脳無は腕を引く。そして改造によって施された異次元のパワーで、敵を、殴る。

 

DOOMMM!!!

 




今のベンの姿はフォーアームズみたいな服を着てます。脳みそをアームで覆い、目だけ出てる感じです。オリジナルみたいな目じゃなくて理性的な、人間体のベンみたいな緑色の瞳です。

絵で表せたらいいんですが、作者の画力が血を吐くレベルなので、誰かお願いします(笑)。デザインもこういう感じがいい!と思うのがあったら是非作者まで!!

まだまだUSJ編は終わりません


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29話 暴走

やっぱりUSJ編は書いてて楽しい。GW編は大変だった。だが、今回の話を書くことでGW編に意味が生まれる…


脳無へと変身したベンが放つ全力のパンチを、無個性状態で胴体に食らったオリジナル。殴られた瞬間その場から消え、一拍おいた後には肉と壁の激突音。この広いUSJの端から端まで吹っ飛んだのだ。

 

超再生、ショック吸収のおかげで未だ無傷のベン。そんな彼に緑谷がまず抱くのは"様子がおかしい"という感想。緊急事態での敵との戦闘。確かにいつも通りの戦い方は難しい。しかしそれを差し引いても普段のベンとは戦い方が違いすぎる。相手を引きちぎるなど、そんな残酷な戦法見たことがない。さっきは咄嗟に合わせたが…

 

「…すごいよベン君!!」

 

しかしそのおかげでとりあえずの危機は去った。緑谷はベンをねぎらう。

今すぐ駆け寄りたいが相澤を背負っている。最後の力を振り絞った彼は気絶しており、放ってはおけない。とにかくここから離れることを提案しようとする。

 

が…様子がおかしい。

敵を倒してからベンに動きがない。ダラン、と腕を垂らし俯いてる。大きな口からはポトリ、ポトリと涎が垂れ始め、こちらを見向きもしない。あの、ベンが、敵を倒したらすぐに自慢するベンが、どんなときでも楽しそうにしているベンが。

 

 

さすがに不審に思い駆け寄ったその時、

 

グギャギャググルギャァァァァl!!!!!

 

奇声を発したかと思うとベンは、いや、その怪物は緑谷をめがけて突進してくる。相澤を抱えていたせいで避けることもできずまともに食らう。

なんとか体勢はこらえるが胃液がこみ上げてくる。

 

「がっ!!っっベ、ベン君!?」

 

ギャァァァァ!!!!

 

緑谷を意に介しないベン。先ほどまで理性的であった緑色の瞳はどす黒く染まっている。ただただ自分の目前にあるものを壊す。それだけのために動く。まずは目の前の子供から

 

諸手を挙げ、緑谷に襲い掛かる。相手がベンゆえに対応が遅れる緑谷。対オールマイト の膂力をもつ今のベンに対し、なす術はない。そのままつぶされる、

 

 

かと思ったとき、彼は来た。

 

襲い来るベンを両手で阻み、口から発せられるのはいつもの口上

「もう大丈夫。なぜって?私が来た!!!」

 

「お、オールマイト!!!」

 

暴走するベンを止めたのは平和の象徴、オールマイト。掴んでいるのはベンだとは知らない。敵だと勘違いしているオールマイトに緑谷が経緯と個性を手早く説明する。

 

「なるほど…とすると君はテニスン少年なのか…とりあえず、眠っておこうか!!」

 

掴んだ両手を上に振りぬきベンを上空へと放り投げる。空中での身動きが取れない彼はただもがく。が、オールマイトは違う。長年の戦闘で空中での動きすらパワーで解決できるようにしていた。空を見上げるベンに正対し距離を置いて放つのは80%の

 

TEXAS SMASH!!

 

背後をとって撃った緑谷とは違い正面からのスマッシュ。さらに違うのは拳をぶつけないこと。風圧のみでの攻撃にベンは地面にたたきつけられる。

 

直接打撃で吸収されるのなら風圧で動きを制限する。オールマイトの力とスタミナがあってこその選択。

暴風を食らい、地面にめり込むベン。だがダメージはない。すぐさま標的を変える。狙うはあの筋骨隆々の男。手を上げ、地獄からの使者のように底から這い出ようとした瞬間に、

 

pipipi QBAANN!

 

変身が解ける。解けた瞬間倒れるベンを彼は優しくは抱える。

 

「むう…時間が来て助かったな…まさか80%でもダメージが皆無とは…」

 

呟きながら緑谷の元へ向かうオールマイト。ベンに気遣い80%を打ったが思ってたスペックを超えていたため驚く。意図せず出てきた冷や汗を拭ったとき、後方から何かを感じた。振りむいたときには先程相手をしていたベンに似た何かが飛び掛かっており、オールマイトにグラウンドポジションをとる。

 

一分前に倒したはずの脳無は完全復活していた。四肢はもがれ肉体は削られていたはずの脳無はもう元の姿に戻っている。先程の死闘を見ていた緑谷は驚愕する。。

 

「なっ!!さっき倒したばかりなのに!!」

 

「大丈夫だ緑谷少年!とにかく二人を安全な場所へ!」

 

脳無を押し返しながら指示を出す。緑谷は、右腕が折れた自分がここにいても邪魔だと判断。相澤とベンをなんとか抱え出口に向かう。

 

一連の流れを見ていた敵2人は安心する。

 

「はっ、さすがドクターの傑作品だ。さっきのガキの頑張りはまるまる無駄だったじゃねーか」

 

「ああ、イレイザーヘッドも気絶したみたいだし、やっと暴れられるぜ」

 

「本当だよ…お前はずっと突っ立ってるだけだったからな」

 

「そういうなよ、まあ出口で安心してるやつらを嬲ってくるぜ」

 

その言葉の後、体を変形させていくその少年。

 

「…いつ見ても気持ち悪いぜ」

 

「行ってくる」

 

その瞬間、オールマイトの横を何かが通りすぎる。止めようにも脳無が自分を押さえつけている。普通なら視認することも難しいが彼だからこそはっきりと顔が見えた。その顔は一年前から見知った顔だった。

「な、なぜ!?」

USJの出口付近には麗日、砂藤、障子、そしてさきほど着いた尾白達がいた。敵はただ一人、黒霧。10分ほど前に飯田が本校に向かったので総合戦闘力は落ちていたが、黒霧も直接的な攻撃手段はなく膠着状態だった。

 

麗日が脅す。少しでも先生たちがくる時間稼ぎをと。

「飯田君が先生たちを呼びいったからあんたらはもう終わりや!」

 

「…」

 

黒霧は喋らずに何かを待つ。互いに睨み合った後、急に黒霧は薄れていく。

 

「なんだ?逃げ…た?」

 

敵の幹部の後退。その事実は一応の勝利のように感じる。初戦闘初勝利。生徒らも気が緩む

安心したそのとき、猛スピードで彼らの目の間に到着した者がいた。その姿に始めに気づいたの麗日。

 

「あ、ベン君!!戻って来たんやね!」

 

その姿が特徴的なXLR8。ディノサウルス型の姿は敵のようにも思えるが、入試で見たことがあったため麗日は笑顔で語りかける。そんな彼女につられ他の者も集まる。

ベンの戦闘力を知っているゆえに、安心するクラスメイト。

 

「なんだテニスンか。そういや50メートル走はそいつだったな!」

 

ワイワイと集まる彼らを無言で一瞥する。皆は気にせず喋りかけるが、ある違和感に麗日は気づく。

一言もベンがしゃべらないのだ。普段はもちろん、エイリアンに変身しているときにも良くしゃべるベンがまったく口を開かない。

 

「ベン…君?」

 

彼女の笑顔が消えた瞬間、XLR8の尾が麗日を打つ。

横薙ぎのしっぽを食らった麗日は倒れこむ。目の前でベン裏切る姿を見て混乱するクラスメイトら。

 

「…え?」

「お、おい!テニスン!何してんだよ!」

 

瀬呂の詰問に応えず、XLR8は変身していく。グニョグニョと姿を変えた先はフォーアームズ。

クラスメイトはその力を知っている。何物も破壊できる怪力。

 

脳裏には13号の言葉過る。容易に、人を殺せる力

 

この場で対応できるのは自分しかいない。拳を振り上げたフォーアームズに突っ込むのは砂藤。個性、シュガードープを発動し身体を強化。赤い拳を両手で何とか受け取める。

 

だが、両の手で止めたのはたった1つの拳。残る拳は3つもある。残った拳は砂藤を襲う。

 

「ぐぁっ!!」

 

麗日の時よりも吹き飛ぶ砂藤。この中で一番のパワー個性である砂藤がやられたことでなすすべがなくなる彼ら。

 

四つ目を光らせ、ただ真顔で皆を殺そうとする化け物に皆が恐怖する。

フォーアームズが構えた時、

 

PAKKIINN

 

 

その体は涼しげな結晶に包まれる。

足元から迫った氷に気を取られたところを、

 

BOOMMM!!!

 

爆撃が襲う。煙幕が立ち、其の隙にクラスメイト達は後方へ下がる。

 

多少のダメージを負ったフォーアームズは煙を払うと目の前には子供が2人。1人は二色の髪を持ち、もう一人は殺意を宿した目をしていた。

 

「何してんだ、テニスン」

「とりあえず死ねぇ!!!!」

 

 




オムニトリックスの仕様は原作通りじゃないかもしれません。まあしょうがない。だって原作はエイリアンだけどこれでは異形型って設定だし…

暴走理由もちゃんとあります。この作品でオムニトリックスの仕様が語られるのは職業体験くらいです、多分。


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30話 変幻自在

今回は役者がそろいますよぉ。オールマイト?彼は脳無と戦っております…


ここ、USJ入り口付近に来る前に轟、爆豪はそれぞれ別の場所に転送されていた。

初めての敵、初めての殺意。それらを肌で感じつつも勝利を収めた彼ら。とにかく敵のボスがいるところへ、その一心でたどり着いた出入り口では、見知った姿の者がクラスメイトを襲っていた。どういう経緯でこの状況になったのか、それは気になる。

麗日が彼らに説明を

「急に来たんよそいつ!多分ベンくんじゃn」

 

が、それは拘束した後でよい。今はただの襲撃者であるテニスン。容赦する必要はない。話を聞かない轟の氷がフォーアームズに張り付いていく。。

 

「テニスン、何があったか知らねぇが固まったといてもらうぞ」

 

パキパキと音を立ててフォーアームズの四肢は凍らされていく。そのまま全身を覆えば息すらできない。顔のみを避け凍結。出来上がったのは4本腕の巨漢の氷像。普通の人間ならば身動き一つできず諦める状況。

 

しかし、フォーアームズに凍結は効かない。いや、効きはするのだが効果的ではない。所詮は氷。パワーのみならオールマイトに匹敵する彼には飴細工に等しいのだ。4つの内の1本の腕を振るえば。その衝撃だけで氷は砕け散る。轟は予備動作なしの氷破壊にたじろぐ。

 

「っ!」

 

驚いている暇はない。その巨体を支える足は大地を踏みしめ彼へと向かう。ドスドスと鈍間な足を氷で迎撃するが意に介されない。

 

先ほどまで真顔だったフォーアームズは口の端を吊り上げ腕を引く。ただ、その背後には

 

「食らえやぁ!!」

BOOMM!!

 

迫りくるフォーアームズに後ろから爆破が入る。轟の方しか向いていなかった敵には視界外からの攻撃。その衝撃に思わず足を止め爆豪をにらみつける。怨恨、とまではいわないが恨めしい顔だ。

 

「んだその面ぁ!そっちがその気ならこっちも殺るきでいくぞコラァ!!」

 

ピンッ

 

最初からその気であったが敵意を向けられたことで正当防衛を主張する爆豪。装備している籠手のピンを外す。籠手には彼の個性由来の汗がため込まれている。その性質は爆発。普段自然分泌される()()を爆破するだけであの高威力。なら籠手一杯にためたものの威力は

 

BBOOOOOOOOOOMMMM!!!!!

 

計り知れない。内臓に響く轟音を鳴らしながらその爆撃はフォーアームズを飲み込む。

 

腕を交差してガードするも後方へと吹き飛ばされるフォーアームズ。出入り口前の階段を転げ落ち、その標的(1-A)は遠ざかる。

 

「うっしゃぁぁ!!」

「…行くぞ」

「俺に命令すんじゃんねー!!」

 

何メートルもの階段を落ちた敵を追いかける爆豪と轟。轟は敵を上らせないため、爆豪は殺るため。その意図はちがうが共に降りる。

 

転げ落ちた()()は、面倒だ、と考える。XLR8に変身すれば簡単に撒けるがそれでは殺傷性に欠ける。かといってこの2人を放って上に行っても邪魔される。2人が目の前に現れるまで思案した後、一つの結論に至る。“殺してから上がればいい”と

最悪の結論を導き出したそれは再び体を変形させ行く。

 

不気味な相手に轟は冷静に対処する。

 

「おい、爆豪。テニスンのやつ、制限なしで変身してるぞ」

 

「ああ!?制限だぁ!?」

 

「あいつの変身能力は10分が限度。そんで途中変化はできなかったはずだ。なのに」

 

「少なくとも異形体を好きなように変えれるようになってるってか?」

 

「ああ、さっきまで4本腕のやつだったのに、もう変わりやがった。あれは…」

 

「知るか!殴りゃぁわかる!!」

 

単騎で突っ込む爆豪。相手はあらゆる攻撃を跳ね返すダイヤモンドヘッドに変身。

 

堅物はダイヤのダガーを飛ばしてくるが、爆豪も交わしながら近づく。ダイヤモンドヘッドを知らない彼らは警戒レベルを引き上げている。爆豪が至近距離で放つのは様子見の小爆破。しかし相手を後手に回すために数で上回る。

 

敵はちょこちょこ飛び道具(ダガー)を出してくるが全てよけれるほどのスピード。気にせずに攻撃。数十発を打ち終え、いったん下がる。これでどれだけダメージが入ったかによって相手の強さがわかるが…

 

下がった彼の前に立つのは傷一つついていないダイヤモンドヘッド。爆破の後すらない。さすがの爆豪もこれには息をのむ。が、その発言で堪忍袋の緒が切れる。

 

「はー雑っ魚」

 

「ああん!!!?…いーぜ、お望み通りぶっ殺してやる!!!」

 

冷静さを欠いたかのように見える、がそんなことはない。距離をとっている状態からの最大火力、残り一発の籠手による大爆破。さらに轟は氷結を合わせる。氷で視界をふさがれたダイヤモンドヘッドは再び大爆撃をくらう。周囲のコンクリ―トは削られ、場内には大きな揺れまで起きる。氷が割れる音と煙が晴れる音も重なり状況は混沌とする

 

「どォだ!!!これで終わり‥‥だ!!??」

 

煙から現れたのは技を打つ前とは何も変わらない敵。いくら距離があったとは言え最大火力。効かないなんてことはあり得ない。

 

爆豪の火力は自分以上だと知っている轟も驚きを隠せない。彼の氷も敵から出てきた結晶にすべて砕かれていた。まるで自分の氷結の上位互換。

 

2人の頬に汗が垂れる。その汗はいやに体温を奪う。敵は肩を回し、準備運動完了っといったようにで一歩踏み出す。

いざ、敵が攻勢に出ようとしたとき、彼が到着する。

 

敵の後ろに来たのは相澤とベンを抱えている緑谷。

 

「な、なんでダイヤモンドヘッドが…!?」

ベンの変身能力は一年前から知っている。ゆえに敵の姿に愕然とする緑谷。

さらにその叫びで背中のベンが起きる。

 

「う…うん?ボクがなんだって…?」

 

「ベン君!起きた!体は!?」

 

「だ、大丈夫だけど…てなんでダイヤモンドヘッドが!!」

 

緑谷と同じ言葉で感情を表す。自分だけのエイリアン、自分だけの能力。その能力の一端である異形体が目の前にあるのだ。驚くのも当然である。目を見開くベンを見て敵は舌打ち。

 

「っち、結局こっちに来たのかよ…せっかく全部お前のせいにしようかと思ったのによぉ…」

 

その声には聞き覚えがある。それは…GWの時出会った友達()()()人の声。

 

「お前…ケビンか!?」

 

ダイヤモンドヘッドの首から上が変形していく。その顔は、ベンと地下鉄で戦った黒髪の少年だった。しかしおかしい。確かに一時の間、ヒートブラストの力を吸収していたが、ダイヤモンドヘッドの力は吸収してなかった。もしや、と思いオムニトリックスに目をやる。

 

「そうだよ…それのおかげでこんな力を手に入れられたよ。10種類もの異形型を自由自在に操れる。この力があればなんだって手に入る、なんだってぶっ壊せる!!」

 

その会話について行けるのはベンそしてかろうじて緑谷のみ。あとの2人は何を言ってるのかがわからない。個性は文字通りその人の“個性”。他人と全く一緒になることはないのだ。ましてや異形型や、ベンのような特殊な個性は…

 

「そんなことさせない。ここでお前は終わりだ。ボクが、お前を倒す!あの時みたいにな!!」

 

「はっ!どうやって、10分しか、しかも1体にしか変身できないその雑魚個性で!お前は俺の下位互換になったんだよ!!」

 

そう言って変身していくケビン。対象はスティンクフライ。初めてベンとあったときに見せたエイリアン。思い出であったそのエイリアンでベンを討つ気である。高く飛びあがり、彼らを見下げるケビン。

 

「イズク、トドロキ、カッチャン。力を貸してほしい」

「…」

「ああっ!?」

 

うん、とは言わないものの否定もしない2人。先ほどの大技が全く効かなかったことで協力しなけれが倒せないことを悟っていた。

 

唯一返事のない緑谷。彼はベンの体を案じていた。その理由は脳無へと変身した後の暴走。オムニトリックスを使うことで再び暴走するのではないかと伝える。

「ベ、ベン君。さっきの影響はないの?」

 

「え…?そういえば、ボクは敵に変身したんだっけ?記憶はぼんやりしてるけど…まあウォッチもいつも通りだし大丈夫さ!」

 

ダイヤルを回し、ボタンを押す。その瞬間、左手首から彼の体は変化していく。溶岩石のような赤みがかった茶色の肌が彼を覆う。顔まで覆われたかと思えば体中に火線が入る。その線を通り送られた炎が顔を燃やした時、彼はヒートブラストへと変貌する。

 

無事に変身できたベンを確認する緑谷。少し心配だが致し方ない。今は戦いに集中しよう。先ほどの会話と轟からの情報でケビンの能力を知った。その恐ろしさをこの中で一番わかっていた。オムニトリックスで変身できる全員を自由に扱う。それはプロヒーローが束になっても勝てないかもしれない。願うのは使用者の力量不足だが…

 

「こっからならお前らは何もできない。死ね!!」

 

甲高い声で殺人宣言。その虫は管のような目から緑色のヘドロを出す。上空から襲う粘性の高いそれは食らえば動くこともままならなくなる。

 

「みんな、これには触れないで!!」

 

緑谷の指示を聞く彼ら。爆豪は無視してるがしっかりとよける。この中で唯一の空中戦ができる爆豪は敵の懐に潜り込む。だが、空中で分があるのはスティンクフライ。姿勢制御に片手を使う爆豪とは違いその羽で自由に空を舞う。

 

「お前は落ちてろ!!」

 

至近距離でのヘドロ攻撃。しかも4連射。悪臭は放ち迫る4発。うち3発は避けれたが1発は食らってしまう。

爆豪の左手をグジョグジョが覆う。

「くっせんだよくそ虫が!!」

悪態をつきながら、グジョグジョを爆破で払おうとする。

 

「ダメだ!かっちゃ」

 

BOBAAAMMM!!

 

緑谷の忠告は間に合わず、圧縮された爆破が彼の左手を襲う。彼の爆破にヘドロが引火したのだ。手元での爆発をまともにくらった左手は使い物にならなくなる。

 

10メートルの高さからまっさかさ間に落ちる爆豪。爆破で飛ぼうにも

 

(っく、右手だけじゃ…火力がたりねぇ!!)

 

「かっちゃん!!」

 

墜落寸前で爆豪キャッチに成功する緑谷。頭から落ちるとなるとさすがの爆豪でも死んでしまう。ギリギリで助けられ安心する緑谷と対照的に爆豪は目を吊り上げ憤慨する。

 

「何してんだてめぇ!!別にてめぇがいなくてもなんとかできたわボケが死ねカスコラ!!!」

 

「ちょ、暴れないでよ!!」

 

そんな二人を見つつ防御に回っている轟。上空に位置どられるとその攻撃方法は限られる。戦闘で火を使わない、という制限を設けている以上動けなくなるのは避けたい。氷は防御に回し隙を伺う。

 

その横からは熱線が飛ぶ。その熱さには覚えがある。そちらに目を向けると、己の父を想起させる姿の者が炎球を放っている。忌々しい、この火傷の元凶が脳裏をかすめる。

初めてヒートブラストを見た轟は思わず凝視してしまう。

「おまえ、その姿…」

「なんだよトドロキっ…っ前…!!」

振りむくと先ほどまで虫だった敵がダイヤモンドヘッドとなり振ってきていた。スティンクフライによる加速と重力がそのままパワーとなり、轟の氷が破る。

 

「ぐあっ!!」

「やめろ!!」

 

轟に馬乗りになるケビンに渾身の炎塊。なんとかどけさせるもダメージはない。

「はっはぁ。こんなもんだよベン。お前らヒーローの力なんてさ。所詮制限された中で育てられた力は本物にはかなわない。お前らは偽物なんだよ」

 

3人の攻撃をいなした彼は自信たっぷりに言う。油断した彼の隙をつくのは緑谷。後ろには忍び寄り狙うのは一発KO。

(ダイヤモンドヘッドの硬さは知ってる…!なら、これしか!!)

正真正銘、全身、全霊、全力の一撃。

 

DETROIT SMASH!!!!(デトロイトスマッシュ)

 

残った左腕での100%。ビキビキと音を立て折れていく骨たち。ブチブチとキレていく血管。もうしばらくは使い物にならないことを覚悟する。ボロボロになっていていく拳はダイヤモンドにひびを入れる。

 

何人も、何十年もの力が込められたその拳はダイヤモンドを押していく。ガチャリと音を立てその甲肌ははがれていく。

 

だが、それでも、それでもまだ、ダイヤモンドは砕けなかった。

 




感想にもあったんですけど今のケビン強すぎますよね。リミッター付きのオムニトリックスでもその辺のヒーローより強いのにこれは…

OFA100%きかないやつ多すぎワロタ


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31話 4人vs10+1

全員が奥義を出してかなわないっていい感じに絶望しますよね。そういうシーン大好き


「…あっぶねーなー。手ぇ挟むのが遅れたらやばかったぜ…」

 

無防備な背中へのOFA100%。緑谷は決まったと思ったがギリギリ反応され腕でガードされていた。

 

多少のひびが入ったが少し痛い程度。しかし、初めて割れた腕を見て驚くケビン。

 

「おいおい、脳無の時もだがお前のパワーは良いな‥‥って、もうボロボロじゃねーか。ったく。使えねぇ個性かよっ!」

 

腕を振り緑谷を薙ぎ払う。その腕は硬化しており刃物にもなりうる腕。ざっくりと緑谷の腕に傷を刻む。

 

「ぐぅっ!!!」

 

「もう終わりか?お前ら」

 

「まだに決まってんだろコラァ!!!」

「こちとらヒーローだぞ!!」

 

利き手のみの爆破で敵を翻弄する爆豪。戦闘センスはクラストップ。なんとかヒット&アウェイで爆破を当てる。それに合わせてベンも遠距離からの熱線で動きを制限する。その意図はただひとつ。自分の信じる者の作戦待ち。

 

両腕が折れた緑谷は痛みを我慢し思考する。

 

「…今のやつはなんにでも変身できる。だけどそのなかで実際に変身するのは限られてるはず。この場で変身するならフォーアームズ、ダイヤモンドヘッド、XLR8、ワイルドマット、ゴーストフリーク。そのほかは今は適さない。そんで今はベン君かっちゃんで攻撃を浴びせてるからXLR8はない…となると…これしか…ない!

…轟君、君に頼みたいことがある」

 

「…ああ」

 

小爆破で立ち回る爆豪。この3分、一発も攻撃を食らうこと無く飛び回った。しかし攻撃、移動の両方を片手に強いているため限界が来る。

 

そのケビンを挟んだ向こうのベンも焦り始める。残りの変身時間は5分とない。相手は時間無制限。解除された瞬間自分が足手まといになることはわかる。

 

2人の焦りを感じ取ってたケビンはその固い性質を生かし完全に防御に回る。

 

「あと何分だ~?ベン。金髪も顔見りゃ限界が近いことがわかるぜぇ?」

 

「っち!!んなら食らってみろや!!片榴弾砲着弾ォォ!!(シングルハウザーインパクト)!」

 

始めは小さく、だんだんと大きくなる爆裂音。片手での連続爆破で体を回転させ、最大火力をぶつける。それは0距離での爆豪の奥義。片手のみの爆破なので威力は落ちるがそれでも破壊力は抜群。

 

「どうだぁ!!」

 

空中で放った爆豪はその反動で距離をとり、相手は黒煙で包まれる。が、

 

「はっはぁ!きかねぇよ!」

 

それでもダメージが入っていない。爆豪にとってはこれが本命。だが彼らには違う。爆豪が距離をとったのを見計らい緑谷は合図する。轟、ケビン、ベンが一直線になったのだ。

 

「轟君!!いまだ!!」

 

「ふっ!!」

 

その足から連なるのは全てを凍てつかせる大氷結。そのまま行けばドームを突き破りそうなほどの進撃を見せる氷。それを阻むのは、

 

「なるほどな!!」

 

向かいにいる、味方のはずのベン。緑谷の目を見て確信する。今自分がなすべきことを。爆豪と同じく最大火力。この変身時間使える炎をすべてを氷にぶつける。

 

「パイロナイトブーストォォォ!!!」

 

奇しくもその技はケビンと戦った日の技。大氷結により行く手を挟まれたケビンは炎をよけるすべはない。巨大獄炎と絶対零度に挟まれたケビン。だがどこか余裕の表情。

 

「はっ!!氷と炎をぶつけるとはな!!やっぱり馬鹿だぜ!相殺するじゃねーか!」

「そんなん知るかよ!オレはイズクを信じる!!」

ケビンを挟撃する青と赤の攻撃。その二つはぶつかった瞬間光を放ち、

 

「っなっ」

先ほどの爆破とは火にならないほどの爆発を起こす。黒煙まき散らす爆破と違い、ただただ周囲を無に帰す白き爆発。大氷結により急激に冷やされた空気や物質がヒートブラストの炎によって気化し大爆発を起こしたのだ。ダイヤモンドヘッドの耐久力を知るベンにはわかる。

この威力は耐えきれない。そして彼も行動に移す。

 

奥義と奥義の掛け合わせで手ごたえを感じたベン

「やったか!!?」

 

その声とは対称的に危険を察知する爆豪。

彼は未だ空を舞っている。体勢のせいでいまいち様子が見えない。ただ、爆破を持つものとして違和感があったのだ。2人の起こした爆発に、手ごたえがなかった…

白煙からうっすらと見えるのは、誰もが知る、霊の形をした異形だった。

 

「あぶねぇあぶねぇ…」

 

その名はゴーストフリーク。その名に恥じない能力を持ち、物理攻撃を一切無効化することができる。ベンのエイリアンの中でも特殊な異形。今、ベン達の前には無傷のそれが浮いていた。

少し苦しそうだが身体的ダメージは0。大技を放った三人には絶望の二文字が頭に浮かび上がる。

「っち、無理して変身したからか?違和感が凄いな…まあ、こっから殺戮ショーの始まりだぁ…」

 

怨霊のような声で殺害予告。ゆっくりと、ゆっくりとその形を変えていき、赤い肌が見え始める。フォーアームズに変身しようとするのが見て取れる。今の3人にとってフォーアームズと戦うことは蹂躙されることと同義だ。

 

「おいおい、もう諦めたか?まあしょうがねーよなぁ。戦える奴がいないんだから。へばったベン、動けない氷野郎、手を痛めた金髪…あ?あと1人は」

 

気づいた。先ほどの爆発から1人が欠けていることに。だがやつは脳無そしてこの戦いで両手を破損していた。もうできることなどないはず。

 

おかしい、なぜ、自分の目の前に徐々に大きくなる影が。バッと真上を見上げる。はるか上空には右手、右足、左手を紫に染めた緑谷がいた。

 

天高く踵を振り上げ、急降下してくる。

 

「なっ!!いつの間に…!!!???」

 

轟とヒートブラストの爆破の瞬間、その右足でのみの大ジャンプ。自分の姿を消し、さらに攻撃につなげられる最善手。

 

このまま勝負を決めに行く。

 

(お前はベン君のエイリアン全員に変身できる!けど使っていたのは強力なわかりやすい能力をもった者ばかり!3人の攻撃を免れるためにゴーストフリークに、その後トドメにフォーアームズに変身するのは読めた!変身するのに1秒弱!その前に!決める!!)

 

「OFA100%!!!」

 

「まだ半分は幽霊なんだよぉ!!!もとに戻ればこっちのも…どれない!!戻れない!体が…なんだ!?」

いつもなら意識すればすぐに思った通りの姿になれる。しかし急速な変身を繰り返したからか、2、3種類の変身が同時に起こる。生えかけていた4つの腕はダイヤ化、獣化していく。

 

「脳天一撃!!」

 

目の前に迫るのはデクの足。意識すればするほど体が戻らない。どころか尻尾は生え、瞼はなくなる。背中を切り破り羽が生えてくる。技が入る直前にはケビンは10のエイリアン、そして人間の姿を掛け合わせたおぞましい化け物となる

 

だよこの体はぁぁ!!!」

 

MANCHESTER SMAAAASH(マンチェスター スマァァァシュ)!!!!」

ズゴンッと一発の重い音。その後にはさきほどの爆風に引けを取らない衝撃。大気は振るえ、地面は割れる。出口付近で待機している生徒らをも吹き飛ばす風圧が巻き起こる。

最強の力により繰り出される踵落とし。それは異形、いや、化け物となったケビンの脳天を見事に打ち抜く。

 

「がっっはっ」

 

意味も分からず変身した瞬間に頭部への重大なダメージ。予想外が重なり合い、脳はショートする。グルンと目が周りケビンはそのまま気絶する。気絶しても、その体は依然化け物。

 

「っ…」

 

同じく倒れる緑谷。それもそのはず。今の彼は四肢全てを粉砕骨折しているのだから。此処にいる4人がすべてを出し切り、ギリギリ収めた勝利。全員が満身創痍であるが、窮地を脱したことで安心し、勝利の余韻に浸る。しかし、すぐにその余韻は消え去る。

 

彼らの中央には黒い渦が巻き起こる。横たわるケビンの前に現れたのは黒霧。鋭く光る眼は彼を見つめている。

 

「ケビン=レビン…恐ろしい姿となりましたね…ですが…我が敵連合には、死柄木弔と共にする姿にはふさわしい」

 

超異形となったケビンを回収し消えようとする。当然それを許す彼らではない

 

「待ちやがれやぁ!!」

 

「おや、あなた達…まだ戦うというのでしょうか?満身創痍もいいとこなのに?…やめときましょう。さすがに…プロヒーロー数人相手は分が悪い」

 

首のみが動く緑谷。振りむくと雄英のプロヒーローが勢ぞろいしていた。そこにはボイスヒーロープレゼントマイク。セメントス、エクトプラズム、スナイプ。名だたるヒーローを委員長である飯田が連れてきてくれたのだ。

 

「時期にまたお会いするでしょう。そのときには」

「お前たちを殺す」

 

黒霧のなかから聞こえてきたのは死柄木の声。殺意と悪意に満ちた声は彼らの体へ駆け巡る。だが、言われたままの性格のものはここにはいない。

 

「オレたちは

「…お前らが来ようと

「なんどでも!

「ブっ殺す!!!」

 

爆豪が言い終えた後には、既に敵連合の姿はなかった。

ヒートブラストの姿で緑谷に歩み寄る。

「あいつらが帰ったってことはオールマイトが勝ったってことだよな。どうやってあれに勝ったんだ?イズクのパワーでもダメージ入らなかったのに」

「た、確かにコピーしたベン君でも倒しきれなかったあの化け物をどうやって…」

 

そこでガン!と顔面をうち気絶する緑谷。

 

「お、おい大丈夫かよイズク!」

 

脳内麻薬が切れ、痛みで緑谷は気絶する。そんな彼を再び保健室へ運ぶベン。

こうして、彼らの初、敵戦闘は勝利で収められた。

 

 

 

 

 

 

 

 




USJ編終了!作者の中ですごい盛り上がってました。マンチェスタースマッシュは原作で不発だから入れました。え?シュートスタイルじゃないのにって?やだぁ。緑谷はスタイルを変える前から手が使えないときには足で攻撃してたんですよ?具体的には合宿の時…まあただマンチェスターを入れたかっただけです、はい。

ヒートブラストになってるベンは性格も熱くなってますね。まあ一人称変わるくらいだし

vsケビン11はいつになるでしょう


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体育祭編(ウォッチの故障)
32話 体育祭


さあ体育祭。USJ編より盛り上がるかはわからんが頑張ります!!トーナメントの組み合わせまだ決めてないんだよなぁ・・・

お気に入り100突破!!ありがとうございます!投票してくれた方にもめちゃくちゃ感謝です! ポイントの仕組みはわかりませんが…点が入ってるとうれしいです!


救助訓練中突如として現れた敵連合。脳無やケビンなど規格外の敵に襲われた1-Aだったが先生、生徒らの奮闘により死亡者を出すこともなく撃退に成功。襲撃翌日は臨時休校となったが次の日には登校。大けがを負った相澤も全身に包帯を巻きながら仕事に努めていた。

 

朝のHR。彼が真っ先に伝えてたこと、それは

 

「雄英体育祭が迫っている」

クソ学校ぽいやつきたアァァ!!!

 

である。

 

昨日の今日で体育祭をすることに不安を覚えるものもいる。

 

「おいおい、敵襲撃の後に開催するのかよ…中止にしようよ‥‥」

 

「峰田君!雄英体育祭見たことない!?」

 

「あるけどよ…」

 

 

 

雄英体育祭。それは普通の学校運動会とはもはや次元の違う催し物。かつてのオリンピックに変わる東京屈指、いや日本屈指の祭典。身内だけではなく校外のヒーローまでもが観戦しテレビ中継もされるほどもの。

 

ヒーローを目指す彼らにとっては自らをアピールするチャンス。そこで見込まれればスカウト、インターンを経てそのままサイドキックにも成れる。

 

「緑谷の言うとおりだ。これは敵ごときで中止していいもんじゃねぇ。君たちにとって年に一回。計三回だけのチャンス。ヒーローを目指すなら絶対に外せないイベントだ。心してかかるように」

 

朝の朝礼は相澤の激励で終わった。

【昼休み】

皆の話題は当然体育祭。そもそも小さいころから見ていた催し物に自分が出られること自体がうれしい。全員が優勝を目指し燃えるのは当然のことだった。

 

学食への道中、彼らの話題もそれで持ち切りだった。

 

「体育祭か!雄英でヒーローに成る過程では外せないイベントだな!僕も燃える!」

 

飯田は肩を内側に入れ手を握る。独特の燃え方。普段は冷静な彼でも熱くなるのが雄英体育祭である。

 

「す、すごい燃えてるね…」

 

「そりゃそうさ!君は違うのかい?緑谷君」

 

「い、いやもちろん僕もだけど…

(オールマイトの見てもらってる時点で環境については満足ではあるし…)

麗日さんはどうっ…て顔がアレだよ麗日さん!!」

 

普段の緩くホンワカな雰囲気の彼女とはかけ離れた様子。眉間にしわを寄せまるで爆豪のような顔。

 

聞けば、彼女のヒーローに成る理由は両親を楽してあげたいから。この国でもっとも稼いでいるのはオールマイト。そう、人気職であるヒーローは稼ぎも一般人のそれとは一線を画す。

 

彼女は憧れではなく、現実的な動機でヒーローを目指している。だからヒーローに成る為の雄英体育祭を前に、顔がこわばるのも仕方ないのだ。

 

そんな決意を持った麗日とは違い、動機自体は軽いベン。

 

「ボクはヒーローになりたい理由ってそんなにはっきりしてないからなぁ。体育祭では優勝目指すけど」

 

彼が優勝を目指す理由はただ一つ。今までの雪辱を果たすためだ。小、中学の運動会は個性禁止だった。シンプルなフィジカル勝負は無個性のベンにありがたかったのだが、成長が10歳で止まっている彼が同年代に勝てるわけがない。毎年毎年びりっけつで涙を呑んできたのだ。

 

今年は違う。オムニトリックスを手にしさらに個性の使用も解禁の体育祭。これは是が非でも優勝を狙うほかないだろう。

 

「君はあの強さで動機がそんなものなのか。逆にすごいな…」

 

飯田が褒めた?ところで、廊下からオールマイト、相澤が出てくる。オールマイトは小箱を握りしめている、

 

「あ、緑谷少年いた!…ご飯、一緒に食べよ?」

 

「乙女や!!」

 

かわいらしい弁当箱を手に誘ったオールマイトを冷たい目で流しながら、相澤もベンを呼ぶ。

 

「おい、テニスン。ちょっと指導室まで来い」

 

オールマイトが緑谷を誘ったときに、麗日、飯田は【オールマイトに気に入られたのかな?】と考えた。個性が似ていることも相まってそう考えてたのだろう。だが、ベンが相澤に呼ばれたときにはその場にいた三人は皆の思考が一致した

【なにやらかしたんだろう、ベン(テニスン)君…】

ベンはこの一か月でそこそこ問題児のように思われるようになっていた。なにをやらかした、というよりも普段の言動の問題なのだろう。 

「なに?先生。ボクご飯まだなんだけど」

 

「ああ、すまんな。すぐに終わらせる」

 

指導室に入り、イスに深く座るベン。お腹がすいているのに呼び出しを食らい機嫌はよくはない。そんなベンを一瞥し相澤は聞く。

 

「単刀直入にきく。テニスン、お前の個性はなんだ?」

 

「!!??」

 

「お前の個性は【エイリアンへの変身】。そう個性届には書いてある。だがこの前の襲撃でお前は脳無に変身していたな。あれはなんだ」

 

「い、いやボクにもあれは…」

 

「お前の個性は中3に発言したらしいな。そういうやつは他にもいたが個性に前例があるんだ。動物に変身、とか超パワー、とかな。お前の個性には前例がない。そもそもエイリアンってなんだ」

 

「そ、それはボクが変身してるやつのことで」

 

「つまりお前の異形体のことをエイリアンと呼んでるわけだな?それは良いがそいつらに変身できるのはなぜだ?お前が想像したものになっているのか。それともお前は見たことのあるやつに変身できるのか、どうなんだ?」

 

「…ボクが想像したやつになれるって思ってた。だけどこの前は…よくわからないけど変身してたんだ」

 

目を反らすベンをじっと見て相澤は手元のペンを回す。しばしの沈黙の後、やっと相澤が口を開ける。

 

「まあいいんだ。お前が体を張って戦ったことは聞いている。よく戦ってくれた。だが…自分の個性をよく知らないままだとそのうち痛い目を見る。はやく調べとくんだな…それと、お前が変身できるやつを資料にして渡せ。こっちもお前の個性を把握する必要がある」

 

「えー、めんどくさいんだけど」

 

ベンを睨む相澤。

 

「…わかったよ。やればいいんでしょやれば。もう行っていい?」

 

「ああ」

席を立つベン。話が終わったと思いそそくさと帰ろうとする。

そんなベンを呼び止める

 

「あ、ちょっと待てテニスン。その時計は…なんなんだっけ?」

オムニトリックスを指さし問う。

「これ?これは…ボクの変身をサポートしてくれるアイテム。これがないと勝手に変身したりするんだ」

 

自ら考えたオムニトリックスと個性の仕様を語る。

 

「そうか…なら上に申請しとく。体育祭では本来アイテムは禁止だがそれは認められるだろう」

 

「マジ!?先生サンキュー!!」

 

そう言って出ていくベン。彼が出ていった後も相沢は1人部屋に残る。

 

(脳無に変身した後、アイツは暴走していた。はっきりと監視カメラに写ってる。明らかに個性が役所のものとは違う。怪しいが…)

自らの体を見る。痛々しい傷を負った彼が思うのは生徒がこれを負わずに済んでよかった、ということ。

 

(まあ…あんだけ戦ったやつを疑うのも悪いか…)

 

こうして相澤の半尋問をベンは切り抜けた。

 

放課後、緑谷とともに帰り時を共にする。

 

「ええ!?オムニトリックスについて聞かれた!?」

 

「うん、なんかすっげーボクの個性のこととかも聞いてきたし。ほらボク、ベンノームに変身したじゃん」

 

「ベンノーム?」

 

「ああ、この前の脳無ってやつ。あいつの名前はベンノームにした!ヴェノムみたいでかっこいいだろ?」

 

「ちょ、脳無は止めなよ…」

 

「え、そう…?じゃあ他のを考えるか…」

 

「そもそもアイツにまた変身できるの?制御できなかったらあんなの最凶の敵だよ…」 

 

「さすがに危なくて試せないんだよな…あ、そう言えばオールマイトはどうやってオリジナルを倒したんだ?」

 

「それが…相手の吸収を上回るパワーをぶち込んで勝利!らしい!さすがオールマイト!」

 

「…いやいやいや、そんなの無理だろ!?それをさせないための吸収と再生なのに!?」

 

「僕も早くあんなふうにならなきゃ…!」

 

「まあイズクにはイズクのやり方があるんじゃね?オールマイトと同じ個性ってわけでもないし」

 

実際は同じ個性、継承者なのだがベンはそれを知らない。あくまで類似個性故オールマイトが気に入ってる、ということになっている。その言葉をきき若干表情を曇らせる緑谷。

 

「…でも、彼を目指すならやらなきゃ!トップを狙わなきゃ、だめなんだ。それが…平和の象徴を目指すことだってわかったんだ」

 

昼休みオールマイトに言われた言葉。【君が来たってことを世間に知らしめてほしい】憧れの人にそこまで言われて燃えないわけがない。他を蹴落としてでも頂点に!その野心が今、彼の心にともった。

 

「なんかやる気だしてんじゃん。ボクも負けないぜ!!」

 

「うん!」

【雄英体育祭・開催!!!】

 




まあ説明会というか幕間って感じでしたね。

次回エイリアン脳無がでる時は名前が変わってるでしょう!「凧の糸」さん、ありがとうございました!

あくまでベンは学校には「自分個性は変身能力」オムニトリックスはサポートアイテムで通してます。ばれるかどうかはわからん。けど‥原作も結局世間バレしたしなァ…


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33話 障害物競走

この回は書いてて楽しかった。作者は王道が好きなので割と緑谷優遇してます。嫌いなキャラはいないんで皆活躍してほしいけどいかんせん…技術が私にない(笑)

10000UA突破!!マジで感謝!しゃんらんらんら!です。

なんか今日からUAとお気に入りが伸びてる気がする。読者の方が推薦とかしてくれたんですかね?どうやったらわかるんだろう…?


夏、というにはさわやかすぎる空。雲一つなくまさに快晴なのだが心地よい風のおかげで汗をかくこともない。外で遊ぶにはもってこいの天気。そんな体育祭日和の今日、日本のオリンピック、雄英体育祭が、始まろうとしていた。

 

体育祭一年主審は、あふれ出る色香で少年たちを誘惑するヒーロー、ミッドナイトである。

そのヒーローコスは与党に“戦闘服についての露出“法律案を提出させたほどのどエロイ衣装だ。そんな18禁ヒーローが教鞭を持つ時代なのである。

【じゃあ選手宣誓!1-A緑谷出久!!】

 

「え、ええ!?ボぼぼぼ僕!?」

 

意外な選出に驚くのは緑谷本人。だが1-Aの皆は彼の実力的に“ああ、緑谷ね”っとなっていた。

 

「なんで…あのくそナードが…!!!?」

 

訂正。1人を除いた1-Aだ。この宣誓はヒーロー科入試一位の者が行う仕来り。そのことをもし爆豪が知っていたら発狂していただろう。彼は自分が3位であることは知っていたがその上を知らない。まさか自分のクラスのベンと緑谷だとは。

 

目を吊り上げる爆豪を背に登壇する緑谷。緊張で震える体を落ち着けるように目一杯息を吸う。

 

「ごほっっがほっ!!」

 

「ぷぷっ、何してんだよイズク!」

 

何万人の前で醜態をさらす友達に笑ってしまうベン。人の失敗は笑いの種。基本スタンスが子供の彼だった。

 

気を取り直し宣誓。

 

「宣誓!我々選手一同は、日ごろの練習成果を、十二分に発揮し、正々堂々…」

 

途中で止まる緑谷。まさかここで止まる?ミッドナイトは彼の表情を覗き見る。その顔は…思いを決めた、青春の相。

 

緑谷が思い出していたのはオールマイト、そして控室での言葉

・・・・・・・・・・・・

開会式の直前。轟は宣言した。クラスの皆が見ている前で堂々と。

 

「緑谷、お前、オールマイトに目ぇかけてもらってるよな?USJでの力といい、お前は強い。だからこそ今日、はっきりさせてもらう。どっちが上かをな。お前には勝つ」

 

真っ直ぐ見据えるその目。整った顔立ちゆえに真顔だとさらに冷たい目となる轟。そんな目に射抜かれ一瞬たじろぐがすぐに見返す。まっすぐに、ただまっすぐに…

 

「…客観的に見たら轟君の方が強いと思うよ。君が何を思って僕に勝つって言ってるのかはわからない。でも‥!君だけじゃない、皆がトップを狙ってるんだ。後れを取るわけにはいかない。僕も本気で取りに行く!」

・・・・・・・・・・・・

(最高のヒーローに成るために。オールマイト、グラントリノ、お母さん。此処までしてくれた人たちのために。僕は)

 

「僕が!一位になることを誓います!!!!」

 

ブワッ

 

周囲が静かになる。選手宣誓の私物化。決して褒められるものではない。だが…周囲の人間にはそれを否定することができなかった。登壇し宣言した彼には、そのカリスマ性は、あの人を想起させたからだ。

 

反応したものはこの会場で3人のみ。

 

「いい度胸だ…!デク!お前は俺の踏み台だろがぁぁぁ!!!」

「…お前に勝って、クソ親父に示してやる‥」

「イズクってあんなことするやつだっけ?」

 

緊張で汗が噴き出た。競技前にも拘らず汗でびっしょりな彼は降壇する。列に戻ったあと、一泊してミッドナイトが説明を始める。

【ふふふ、なかなか面白い宣誓だったわね!さーてじゃあさっそく第一種目に行きましょう!!第一種目は…これ!障害物競争!】

 

雄英体育祭にしてはシンプル、というかどこにでもあるかのような競技に首を傾げるベン。

 

「障害物競走?」

 

「計11クラスの総当たりレース!コースは4キロ。コースさえ守れば何したっていいわ!さあさあ位置につきまくりなさい!」

 

選手宣誓から一分もたたないうちに始まりそうな競技。並ぼうにも一年生全員が前へ前へ進もうとするので入口付近はぎゅうぎゅう詰め。

 

小さな体を生かし前へ滑り込んだベンも結局挟まれオムニトリックスに触れることすらできない。

 

「ぐ、グぇ…苦しい…」

(スタートして散ってから変身しよう…)

 

【位置について、よーい、スタート!!!】

 

アナウンス共に銃声が響き渡る。その硝煙が鼻を刺すのは体育祭が始まった証拠

アナウンスにより我先にと皆が走る。待っているときでさえ寿司詰めなのだから皆が走りだせば当然動き辛い。つまりスタート地点が

 

「最初のふるいってことか」

 

PAKPAKI

 

呟きながら地面に氷を張っていく轟。その氷波につかまったものはその時点でランクイン不可能。初見殺しの戦法をスタート地点で、しかも皆が足元が見えない状況で使う様はまさに冷徹。個性に恥じない行動である。

 

【さぁ~!!こっから解説して行くのはこの俺プレゼントマイク!ゲストはイレイザーヘッド!!】

【勝手に呼んだんだろが…】

【轟はいきなり氷結をかましたな!だがそれでも…!!】

 

「甘いですわ轟さん!!」

「そううまくいかせねぇよ半分野郎!!」

 

1-Aのほとんどは氷を交わしている。それもそのはず。彼の個性は演習でも見た通り拘束技として汎用性に長けている。それを警戒するのは当然のこと。

 

爆破で上を行くもの。氷が来る瞬間ジャンプする者。氷を酸で溶かすもの。

各々が各々のやり方で轟攻略をしていた。

 

「あんまり1-Aのやつはくらわねぇか」

 

さすがヒーロー科か、そんなことを思いながら走る轟。彼にとっては第一の手が破られただけ。すこしでも手間取れば御の字なのだ。実際、今トップを走っている彼を見ればその作戦は成功だといえるだろう。

 

だがそんな彼の横を走るものが1人、緑谷出久だ。オールマイトから受け継ぎ、グラントリノから仕込まれた力OFAフルカウルで差を詰める。

 

「勝負だ、轟君!!」

 

「…!」

 

無言でスピードを上げる。フルカウルを発動している緑谷にはかなわないものの、かなりの速さである。

 

が、動きが止まる。彼を阻んだものは…

 

【さあいきなりの障害物だぁ!!まずは手始め、ロボ・インフェルノだぁ!!】

 

入試の際のロボたち。一ポイントのものから巨大な0ポイントロボまでいる。

 

5%フルカウルではさすがに倒せない。そう判断し緑谷はスピードで隙間を迂回しようとする。フォーアームや100%緑谷なら単独で倒せるが普通の人間にはどうしようもない災害がインフェルノ。

しかし

 

「…せっかくならもっとすごいの用意してほしいもんだな…クソ親父が見てるんだから」

 

そう、普通の人間にはキツかろうと彼には関係ない。彼もまた、ヒーローの血を受け継ぐ天才だった。

右の手を地面スレスレにさらう。その手に呼応するように冷気はロボを纏っていき、何十メートルもあるロボは置物化する。

 

其れだけではない。不安定な体勢で凍らされたそれは揺れながら倒れ、後続が利を得ないようにする。

 

【1-A轟!!攻略と妨害を一度に!こいつぁシヴィー!!さっきまで競ってた緑谷を置いて一抜け!もうなんか…ズリィな!!】

 

(さすが轟くん…!!けど…僕も!)

 

轟のすごさを再確認する緑谷。

後方から忍び寄る等身大ロボ。これさえも一般人からすれば十分な脅威だ。もしかしたら、違う世界線の緑谷なら初見で倒すことはできなかったかもしれない。

 

「負けてられない!!」

 

SMASH!!

 

今の彼には、敵ではない。

他の者も同じだ。ほかの者と比べて1-A は立ち止まる時間が短い。

 

【USJで上の世界を感じたもの、恐怖を植え付けられたもの、対処ししのいだもの。各々が経験を糧とし迷いを打ち消してる】

 

【おうおう!!そんなこと言ってる間に轟、つづいて緑谷、爆豪が第二関門へ着いたぞ!…イレイザーよぉ…いいこと言ってるが‥あいつはどうなんだ?】

 

【あいつは…規格外だ…】

 

あいつ、読者の皆さんはお分かりだろう。我らが主人公、ベン=テニスンである。USJでは敵撃退の一役買い、入試は二位。そんな輝かしい功績を持つ彼は…

 

「やばいって!!これはやばいって!!」

 

スタート地点でせっせと壊していた。

 

自らの足と左手を覆う、最悪の氷を

 

 

 

 

 

 

 




…やっぱり、ベンは子どもポジからの最強が似合うかなって。実際、オムニトリックス封じられたらアイテムなしじゃ積んじゃうよね!


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34話 終良全良

この回も楽しかった。やっぱりこう…オムニトリックスはすごいぜって感じです(笑)

タイトルの意味わかりましたかね?


緑谷、轟、爆豪。ともにUSJで戦い抜いたものが第二関門に差し掛かったころ、ベンは入り口でまごついていた。その理由はただ一つ。足や手を凍らされ動けないからだ。スタートは一番前にいたため逆に氷の餌食になってしまった。なんとか擦って溶かそうとするが、なかなかウォッチは見えてこない。

 

「くそう…!なんだってんだよ!!とにかく、ウォッチを…!!」

 

腕全体を解凍するのは諦めオムニトリックスを露見させることに集中する。ベンの周りには彼同様凍結された者が集まっている。

 

「あーあ。体育祭なんてヒーロー科が勝つに決まってるよ」

「そうそう、ほんと、ひどい目見たわよ。ねぇ、あんたもそう思うでしょ?」

 

足を凍らされ愚痴るのは普通科の1年。この体育祭へのモチベーションは低い。それもそのはず。普通科にとって雄英は偏差値の高い進学校なだけで、一部を除きそこにヒーロー云々は関係ない。

 

そのため、身体能力で劣るヒーロー科とのガチンコ勝負である体育祭は適当に終わらせる。だが…普通科の彼女が話しかけたのはヒーロー科入試二位のベン テニスン。

 

「ボクは勝ちにいってるよ!!お前らとは違う!!」

 

「あんたねぇ、ここで捕まってる時点でヒーロー科には勝てないでしょ」

 

妄言のたまわないでよ、というように嘲る。まあただでさえ小さなベンがこんなとこで捕まっていてはそう思われるのも仕方がない。だが…ベンに仕方がない、という理屈は通用しない。

 

必死に氷を砕く。

ガキンッ

 

「よしっ見えた!!」

 

人差し指だけが入るほどの穴が開く。ダイヤルは押せないが変身はできる。願わくばその衝撃で凍りが破壊されてほしい。できればXLR8が…

 

手こずりながらもそのボタンを押す。

 

「ぐ…頼んだぞ…ボクのオムニトリックス!!」

 

QBAAANN!!

 

「…」

 

「あ、あんた…なによその姿…」

 

隣の普通科の者は驚く。何やら時計をいじったかと思えば身長150もないベンの姿が2メートルにもなる幾何学的ななにかに変身していたからだ。それは顔に唯一ついている緑の円から声を発する。

 

「…今アップグレードはないだろ!!!」

 

変身したのはアップグレード。少なくとも普通の障害物競走には向かない変身。体は大きくそれなりに軟体ではあるもののそれ以外の身体的能力は低い。大きく変身したおかげで手の氷は砕けたが足にはまだ氷が張り付いている。はがそうにもパワーが足りずなし得ない。

 

「んんっ!!ン――!!!ああもう、トドロキのやつ…!!絶対やり返してやる!」

 

足を引っこ抜く、回す、多数の動きを試すが一向状況は変わらない。ベンのイライラは最高潮に達する。言い忘れていたが、彼の体は金属でできている。金属なのに軟体、というのもおかしな話だがとにかく金属。そして、その金属は電気をため込める。

何が言いたいのかというと…

 

BYAAMM!!

 

 

こういうことだ。

氷は破壊される。その原因はビーム。彼の顔からでた緑のレーザービームにより氷は砕けたのだ。

 

「わぉ…なんか出た…けど…ラッキー!!」

 

ピュンピュンとレーザーを飛ばし体に張り付いていた氷をはがす。

 

「よし、こっから追いつくぞ!!ってロボいるじゃん!!邪魔!」

 

そう、彼が抜けたのはあくまでスタート地点。第一関門にはロボ集団がいる。

経った今習得したビームで撃退していくベン。体に備わる電気を変換したビームにロボは真っ二つ。だが、通用するのは小さなロボたちにのみ。

 

ノシノシと歩を進めるアップグレードの前に現れたのは最後のインフェルノ。数体いたインフェルノもヒーロー科に壊されあと一体。その一体は自分が最後の一体であることを理解し使命を全うする。その使命とは、敵対者の排除。

 

ベンから放たれたビームはいとも簡単にはじかれる。その何十メートルもあるその巨体には直径10センチ程度のビームなど水滴同然。飛んでくる緑の光線を気にせずにその手を下す。

 

ロボ手でアップグレードをつまみ上げる。

「げっ!!ちょっ、ちょっと待って!!うわぁあ!」

 

その歪な手につかまれ身動きが取れなくなるベン。がっしり掴まれ、ビームも通用しない。その姿は大ざるにつかまれた時の某主人公の様。テレビで見ていた観客も終わりだ、そう思う。

 

違うのは、2人。それをある場所で見ていた老人と、掴まれているエイリアン。

 

「…良いこと思いついた!」

第一関門で手こずるベンとは異なり、第二関門【ザ フォール】すらを軽々と抜けた面々。彼らはその次にある第三関門、【怒りのアフガン】についていた。一面地雷原。音と見た目は本物級の地雷。威力はないがそれでも食らうとよろけてしまうレベル。

 

一番に轟。遅れて爆豪が到着。

 

地雷をよけながらの轟。それに引き換え空中を爆破で進む爆豪。今までの遅れを取り戻し轟に迫る。敵視していたのは緑谷とは言えほかのやつに抜かれてもいい、というわけではない。舌打ちしながら妨害。

 

「ちっ!!」

 

空中を飛ぶ爆豪に向けての氷撃。爆豪の正面に氷壁を立てる。爆豪は一回転しながら見事交わす。

 

「あっぶねぇ!!…やることやるじゃねーか半分野郎!!!」

 

【おおっとぉ!!たしかに妨害はありだがここで初めての攻撃!!空中を飛びながらでは爆豪も反撃しにくい!!こいつはシヴィー!!】

【おまえそれしかないのか】

 

前で邪魔し合う爆豪、轟。彼らを後方で見据えるのは緑谷。単純移動手段しかない彼はここに来るのに時間がかかってしまった。今のまま走っても追いつけない。

 

地雷原直前で止まり、考えるのは方法。そして精神統一。

 

(地雷地帯の全域は100メートルくらい。僕の前にいるのは二人だけだから地雷もそんなに減ってない…なら、目の前にあるやつだけは踏まないで…うん、行ける。あとは、僕の集中次第…)

 

息を落ち着け体の力を抜く。意識するのはレンジ。そしてそこに入れた卵。0からワット数を上げる。

まずは5%。卵は爆発しない。大丈夫。ただ…これじゃ足りない。もう少し熱を。もう少し、力を…

 

「今だ!!」

 

目を見開き心で叫ぶ。

 

(OFA10%!!!)

 

一歩で20メートル。次の一歩で30メートル。さらに一歩で40メートル。驚異のパワー立幅、走り肌跳びのプロもびっくりの記録。今の彼では一瞬だけしか出せないパワー。しかもそこに至るまで長い精神集中。だが…今回は成功。

 

たった3歩で地雷原を超えトップに躍りでる緑谷。

 

一瞬でトップを塗り替えられ焦るのは元トップたち

 

「なっ…!!?っクソデクゥゥ!!俺の前を…いくんじゃねぇ!!!」

 

「後続に道作っちまうが…言ってる場合じゃねぇな」

 

片方は爆破の出力を上げ、もう片方は氷で自らを押し出す。各々が取れる最善の方法で緑谷を追いかける。

 

一方地雷原を抜けた緑谷。あとはただの直線500メートル。だが…

 

(っ!!痛ったい!足が…!)

 

足をつるような感覚。まだ走れるが痛みで顔が歪む。

減速。普段なら5%を無意識化で使えるようになったが、今は10%の反動で、意識しての3%。せっかく抜いた彼らに追いつかれてしまう。

 

「おらおら!!邪魔だ!」

 

爆豪はその右手で緑谷を、左手で轟への妨害。轟は氷で防御するもスピードは落ちる。大してギリギリで避けた緑谷は彼らについていくのに必死。

 

負けるわけにはいかない。優勝宣言までした。オールマイトと約束もした。あの人見たいに。その憧憬心で彼は駆ける。

 

その横につく轟にも負けられない事情がある。オールマイトを超える為に父は自分を作った。だからこそ自分が母の力のみでトップになれると証明しなければならない。オールマイトに似た緑谷に勝てば、憎き父への復讐になる。その復讐心で彼は氷を創る。

 

彼らの上を飛ぶ爆豪は単純。自分が一番にならなければ。俺以外のやつでも強い奴はいる。だがそれが負ける理由になどなりはしない。ましてや無個性だったデクなんかに。その自尊心で彼は爆ぜる。

 

【さあラストトンネルまであと20メートル!!トンネルを抜ければゴールイン!つまり実質このトンネル入りの順番が順位だぜぇ!!!】

 

アナウンスで盛り上げるプレゼントマイク。その声を聴き三者は力を這うどうする。今自分が出せる最高をと。

 

「「「うおおおおお!!」」」

 

トンネルまで、5メートル

       4メートル

       3メートル

       2メートル

       1メートル

競る三人。トンネルに入る直前、彼らの影は一瞬、上空の巨大な何かで覆われた。

トップ三人がほぼ同時にトンネルに入る。その差はほぼない。ならだ一位は最初に見えたもの。そのワクワクを演出していく実況マイク。

 

【さあ三人がトンネルに入ったぁぁ!!もう誰が来るか予想不可能だぜぇ!!!】

 

そう、予想不可能なのだ。誰が一位になるのかは。ちなみにだが…ルールにトンネルをくぐるとは書いてない。コースを守れ、その一つが守るべき条項。

 

【最初に出てくる…の…は…】

 

もう三人がトンネルから出てくる時間。

勝負が佳境に入ったにも拘わらず言葉を失うマイク。実況の役目を放棄している。それも仕方ないのかもしれない。目をぱちぱち、口をパクパクしながら窓の外のそれを指さす。それはアナウンス席から見ても巨大な何か。グラウンドギリギリに収まる其れは、急に現れ、もはや敵襲とも思えるほどの恐怖を植え付ける。

 

【…おい、実況はどうした…】

 

【いや、それどころじゃねって…なんで…あんなのがうちに?】

 

当残の疑問をぶつけるマイクに。頭をガシガシとかきながら相澤は答える。

 

【…あれは、おそらく元、インフェルノだ】

 

ゴールであるグラウンド。それはあらゆる競技を行えるよう広く設計してある。また、競技の性質上危険な場合があるので、グラウンド中央からかなり離れて客席が置いてある。

 

それでも、客席には目を開けられないくらい暴風が巻き起こっていた。その原因は、突如グラウンドに降り立った超巨大戦闘機。その色、黒と緑の電子的な色には、相澤は見覚えがあった。

 

【あれは…】

Pipipi QBAANN!!

 

【テニスンだ】

 

相澤が小さく名を告げた瞬間、その戦闘機からベンが分離される。その姿はまんま少年。観客には意味がわからない。というかマイクにだって意味がわからない。

 

続々と選手たちがゴールしているにもかかわらずいまだにコールはない。

見かねた相澤が解説を講じる。

 

【テニスンはさまざま異形に変身できる。そのうちの一体には機械を改良する能力の者がいるんだが…今回やつはインフェルノを改良して巨大ジェット機にしたんだろう。まあ…多分コースの上を飛んでるだろうからルール上もセーフだ】

 

【い、いや改良って…全然デザインも性能も変わって…】

 

【…知るか】

 

【ま、まあいい!起こったことをそのまま話す!それが実況ってもんだぜ!!第一種目 障害物競走。栄えある一位は…ベン テニスンだ!!!!】

 

「ま、これがボクの実力だよ」

 

腕を組み偉そうにする少年。スタートの失態は彼の頭にない。

 

 

 





今回のゴール方法は実は第2案なんですよ。最初はゴーストフリークで、ゴールまで直線透過してデク達のゴール直前で変身解けて「い、いつの間にいたんだ!」みたいにする予定でした。ですがモロコースに違反してるし、「ばれなきゃいいだろ」で一位になるのもあれだなって思って変えました。それでも第2案は我ながらおもしろいと思いました。(笑)まあせこいと言われれば場其れまでですけど…

次は騎馬戦!


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35話 チーム決め

さあチーム決め。しょうがないけど、ここで友達に断られたらその後の関係に響きそうだなと思う小心者の作者でした。


雄英体育祭第一競技。その勝負は一位ベン、二位緑谷続いて爆豪、轟という結果に終わった。彼ら含め、予選通過は上位42名。それ以外の者はいったん観客席に戻る。

 

いよいよ本戦。スカウトたちも本腰を入れダイヤモンドの原石を探し始める。此処からは一挙一側がプロに品定めされる。そんな中行われるその競技は

 

【騎馬戦よ!!】

 

騎馬戦。2~4人で騎馬を組み、頭に巻いたハチマキを奪い合う競技。フィジカルのみでなく、戦略立案力、視野の広さなど多彩な能力が必要とされる。ただ、雄英騎馬戦と普通のそれとの相違点が二つある。一つ目は騎馬が崩されても会場に残ったまま戦う。つまり試合時間15分間は常にフィールドに42名が走り取っ組み合う。

 

【さらに、ハチマキにはそれぞれポイントを割り振るわ!タイムアップ時に所有するポイント合計数で最終種目出場者を選出するのよ】

 

ミッドナイトの説明で各々はルールを理解していく。

「入試みたいなP稼ぎ方式か。わかりやすいな」

「組み合わせによって騎馬のポイントも違ってくるぜ」

 

【そういうことよ!!ポイントは42位が5P。41位が10P…といった具合よ。そして…1位、ベン=テニスン君に与えられるPは…1000万よ!!】

 

瞬間、会場は凍り付く。そしてそこにいる競技者41人の視線がベンを貫く。1人だけ圧倒的高得点。それは彼が全員から狙われることを意味していた。

 

【上に行くものへはさらなる受難を。さらに向こうへ、Plus Ultra!雄英にいる以上何度でも耳にする言葉よ】

 

ご丁寧な説明。さながらベン獲物。多少の牙をは持っている。だが大勢に狙われた時点でその牙は役に立たない。まさに多勢に無勢。彼は今獲物としてフィールドに立っているようなものだ。。

41人の狩人たちに睨まれた彼は、笑顔でこう言った。

 

「1000万P!やった!!めちゃくちゃ点高いじゃん!!」

 

ミッドナイトによる協議説明が終わると15分間の交渉、作戦決めの時間に入る。1000万Pを有する、いや有してしまったベンはお気楽に仲間を探す。

 

「…そうだな…ボク入れて4人だし…イズク、カッチャン、トドロキ誘うか。まずはイズク…と。いたいた。おーい、イズk、痛ったい!誰だよ!」

 

誰かに頭を押されたベン。注意しようかと思ったがそれは不可能だった。なぜなら緑谷の周囲には多数の人間が押し寄せていたからだ。そのうちの1人によって緑谷の近くから弾き飛ばされてしまった。

 

緑谷の周囲に人が集まるのも仕方ない。彼の予選は二位通過。さらにその実力は折り紙付き。安定した身体強化である程度のことは水準以上にできる。人気があるのも当然だった。ベンも実績はあるのだが、普段の態度、そして1-Aは何となく知っていた。彼の変身には時間制限があると。そのため緑谷の下にいるものはベンに目もくれない。理由はそれだけではないのだが…

 

人だかりができている緑谷には近づけそうもなく、また声も聞こえていない。

話かけようにも声が届かないのなら仕方がない。轟を探す。キョロキョロと首を動かすとフィールドの中央に佇んでいる轟を発見。

 

「あ、トドロキ。ボクとチーム組まない?ボクは1000万P持ってるよ!」

 

その言葉に怪訝そうな顔をした後ハッとする轟。

 

「俺はもう誰と組むかは決めてる。それにテニスン…1000万もってるのはメリットじゃねーぞ」

 

「はぁ?」

 

「これ以上はいいだろ。はやくさがさねぇとお前と組むやつもいなくなるぞ」

 

そう忠告して飯田らの下へ去っていく轟。

 

「…どういう意味だ…?1000万Pがメリットじゃないって…カッチャンは…人いっぱいいるし…やめとこ。まあ1000万Pあれば誰か来るだろ!」

【10分後】

 

着々チーム作りはなされていく。緑谷は麗日、常闇、耳郎。轟は飯田、上鳴、八百万。皆が作戦に応じたチームを作っていく。そんななか1位のベンは

 

「お、おかしい。なんで誰も来ないんだ。それどころか皆ボクを避けてる気がするぞ!?一体なんで…」

 

「そりゃそうでしょ。1000万なんて足かせ同然。ほしいなら後半に取りに行く方が合理的でしょ」

 

1人疑問をつぶやく彼に話しかけたのは橙色の髪をもつサイドテール女子。

 

「誰だよお前」

 

「せっかく話しかけてあげたのにその言い草はないんじゃない?あたしは拳藤一佳。騎馬戦の人手、足んないんでしょ?あたしが入ったげるよ」

 

B組をまとめる姉御肌、拳藤一佳。そんな彼女があろうことかA組に助力する。その行為を見たB組の物間は抗議する。

 

「おいおい拳藤。なんでA組なんかに手を貸すんだい?しかもそいつは一位。お荷物だぜ?」

 

「別にいいでしょ。別にあたしが勝てばそれはB組の勝ちってことにもなるでしょうが」

 

そう言って物間を追い返す。まるでめんどくさい人間でもおい払うかのようだ。拳藤からすれば“まるで“ではないのだが。そんな彼女をなにしてんだ?という顔で見ているベン。面倒な人間関係にわざわざ入り込みたくないため確認する。

 

「なんか揉めてるけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫。ほら、まだ足りないんだから探す!」

 

未だ危機感の足りないベンの頭をポンと叩く拳藤。

 

「ちょやめろよ」

 

煩わしい、そう伝えながら手を払う。

 

拳藤がベンに手を貸すには理由があった。それは…

(…本当はB組で組むつもりだったのよね。だけど…こいつを見てるとほっとけない!なんか…弟たちに似てるし…この小ささと態度…高校生じゃないでしょ…あたしが守ってやんないと!)

 

庇護欲。それに尽きる。もし1000万P持ちが緑谷で、困っていたとしても彼女は手を差し伸べなかっただろう。そもそも一位とは実力があって勝ち取ったものであるし騎馬戦も勝負。ましてやライバル視してるA組にわざわざ情けをかける必要もない。

 

だが、その身長、性格、態度。全てが合致したことで彼女の姉御スイッチがオンになる。

ベンにとって、何気に初めて成長が止まったことが役に立った瞬間であった。まあそんなことに1欠片も気づいていない彼だったが…

 

「あと2人か…」

 

それでも仲間はまだ一人。2人でも成立するのが雄英騎馬戦だがさすがに不利。視野も狭まり戦力も浅くなる。なんとかあと2人…そう悩むところにズイっと入りこんでくる女子が1人。

 

「あなたが一位の人ですね!!探しましたよ!!」

 

「そうだけど…お前は?」

 

ゴーグルをつけ、体中至る所に機械を装着している彼女を不審に思い問う。ゴーグルの彼女はハキハキと己が目的を語る。

「あたしは発目 明!!サポート科です。あなた、一位だったので目立ちますよね!あなたの立場、利用させて下さい!!」

 

あけすけな態度。人によっては不快かもしれない。だが嘘のつけない彼女にはこの言い方しかない。サポート科の彼女はとにかく目立ち自分のアイテムをスカウトに売り込みたい。自分が目立つには1位の者といればいい。単純明快にして最適解。だが…

 

「やだよ。利用されるのなんてまっぴらだ」

 

ベンは断る。自分がいいように使われるのなんて嫌だ。そこに理由などない。嫌なものは嫌なのである。稚拙であるその理由、感情的な判断にベンの姉貴役となっていた拳藤が待ったをかける。

 

「ちょい待ちテニスン。早とちりしすぎ。確か…サポート科ってアイテムの使用オッケーだよね?何がある?」

 

「はい!!待ってましたその質問。私のどっ可愛いベイビーたちをご覧に入れましょう!!第54子のパワードスーツに32子のジェットパック。末っ子のどこでも吸ちゃ君。ほかにも…」

 

「おっけーわかった。テニスン。こいつは入れたがいいよ」

 

「ええーなんでー!!」

 

「周りを見ても強力な個性持ちはもう残ってない。それに発目のアイテムは騎馬に恩恵をもたらしてくれる。入ってもらった方がいいって」

 

周囲の状況と自分らへのメリットを計算した結果導かれた答え。そんな理論的な回答にベンが答えるのは

 

「でもボクのこと利用するって言ったし」

 

反抗。拳藤は姉っぽくふるまう度に煩わしく思い反抗してしまう。しかしそれは完全に弟の図。

「いーの!あんたも勝ちたいんでしょ!ならお互いさま!」

 

ビシッとベンにチョップを入れる。それを見て猛るのはB組男子。

 

「姉御のチョップをいとも簡単に受けてる!うらやましい!」

「だが…あんなに姉御らしい姉御も珍しいぜ!」

 

彼らも拳藤によく怒られていたためか、ある一定の何かに目覚めていた。

 

とにもかくにも3人集まったベンチーム。ここで相談するのは彼の個性について。ベンは声を小さくして話す。

 

「4人目を探しながらでいいんだけど…ボクの個性は変身。色々な種類のエイリアンに変身できる」

 

「エイリアン?」

 

「そう!…まあ異形のことなんだけど…1回戦は機械に同化して改良するエイリアンに変身したんだ。スタート付近にいたロボをジェット機に変えて」

 

「む、むちゃくちゃね」

 

「そのエイリアン、あとで見せてもらっていいですか!?私のベイビーたちと合体したらどうなるんでしょう!」

 

興奮する発目を制し、拳藤が提案する。

「じゃあ試合始まる前からソイツに変身して発目の機械をジェットに変えて浮かんでればいいんじゃない?あたしら1000万あるし」

 

えぐい。無慈悲とはこのことだろう。実際それをやられたら他の者は何一つすることができない。しかしベンは否定する。

 

「うーん、そこまで大きな変化したことないからなぁ…三人乗せれるくらいにサイズを変えれるかはわからない…それに…もう一つ問題がある」

 

「なに?いってみて」

 

困り顔のベンに先を促す拳藤。少し渋った後ベンは打ち明ける。

 

「10分しか変身できないんだ。それ以降は5分のインターバルが入る」

 

その言葉を聞き苦虫をつぶしたような顔の拳藤。完全無欠と思っていたベンの個性にはとんでもない弱点が隠されていたのだから仕方がない。大して発目は上機嫌。そう、彼女にとって被検体は弱ければ弱いほどいいのだ。

 

「大丈夫です!私のベイビーたちであなたをサポートします。ふふふ、無個性状態の小学生をどこまで強化できるか、それを企業の方に見せつけるいいチャンスです!」

 

「おい、誰が小学生だ!」

 

「はいはい、落ち着く。そうねぇ…変身解除してるときはそれでいいとして…変身後の作戦よね。一番いいのは誰にも触られないこと。2番目は…機動力の底上げなんだけど…3人抱えられそうな異形はいるの?」

 

「エイリアンね。3人…いることにはいる。けど、あんまり使いたくないんだよねぇ」

 

「なんで?」

 

「それはボクのコ」

 

「おい、そこのおチビさん」

 

その時、ベンの喋りを遮るものが現れる。頭髪は紫で目元にはクマが染みついている。オールバックにもかかわらず伸びた頭髪は彼の心根を表しているのかもしれない。彼はベンにいきなり悪態をつく。対するベンはもちろん激昂。

 

「誰がチビだtt」

 

【さあ!15分の時を経て12組のチームはフィールドに並び立った!上げろテンション、上げてけ鬨の声、挙げていけ拳!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!雄英騎馬戦、開始ィィィ!!!】

 

目の前にいるのは11組の敵。そこには友人である緑谷も入っている。だが関係ない。今までの人生、一度も日の目を見なかった体育祭。だからこそ、オムニトリックスを手にした今回は優勝を目指す。それを阻むものはイズクだろうとトドロキだろうとカッチャンだろうと許さない。

 

己を、また仲間を鼓舞して戦いに臨む。

 

騎馬の先頭となったベンは彼らの名を呼ぶ。

「イツカ!!」

騎手の彼女は大拳で全てを薙ぎ払ってくれるだろう。

「おう!」

 

「メイ!」

騎馬の左後ろの彼女はそのアイテムで能力を底上げしてくれるだろう。

「フフフ!!」

 

「ヒトシ!!!」

騎馬の右後ろの彼はその能力で敵を無効化してくれるだろう。

「ああ」

 

集まった仲間はA組、B組、サポート科、普通科。それぞれ思惑は違えど目標はただ一つ。

「勝つぞ!!!!」

 

本選、雄英騎馬戦、開幕!

 

 

 

 

 

 

 

   

 




我ながら予想不可能なチームになったと思います。原作でも合意で他クラスとチームくんでたやつはいなかったから面白いかと思いました。しれっと最初にベンが構想してたチーム殺意高すぎません?逆に書きたくなった笑

拳藤さんかわいいですよね。気の強い女の子かっこカワイイ。性格が原作とズレてるかもしれませんが、姉御肌な彼女ならベンが(子供)困ってたら助けるんじゃないかと思ってこうなりました。変なスイッチ入ったかもだけど…


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36話 騎馬戦開始

短めです


【試合開始前】

「おい、そこのおチビさん」

 

「誰がチビだtt」

 

ベンの瞳からハイライトが消える。喋ろうとしたベンは動かない。口も開かない。かかしのごとくただ佇むその姿に拳藤は困惑する。そんな彼女から返答を引き出そうと言葉を紡ぐ紫髪の少年。

 

「なぁ、俺の個性、気にな」

 

「何ボーっとしてんのテニスン!」

 

が、今はベンの相手。

ベンの頭からペシッという音がなる。すぐに手が出るのは彼女の悪癖。実際には需要があるようなのでいいのだが…一般常識的に良くはない癖。だが今回はそれに救われる。焦点の定まらないベンの目はその手刀により元に戻る。

 

少々の頭の痛みも気になるがそれよりも何が起こったかだ。

「な、なんだったんだ今の…頭ん中にモヤがかかったというか…動けない感覚」

 

先ほどの状態でも自我は合ったようだ。いまいち記憶ははっきりしない。夢の記憶の様らしい。

 

少年は叩かれてに元に戻ったベンを見てため息をする。最初は全員乗っ取るろうかと思ったが取り入った方が良いと判断。正直の自分の能力を明かす。

 

「それが俺の個性だよ。【洗脳】。話しかけて答えた相手をコントロールできる」

 

「なっ!!?」

 

拳藤は驚き口をふさぐ。間違っても口を利かないためだ。優秀な彼女だけあって間違いない対処法。

 

「心配しなくても今は発動してないよ。俺は心操人使。どうだ?俺を仲間に入れないか?」

 

したり顔でアピールする心操。返事しようにも個性をかけられたらたまったもんじゃない。

とにかく今は身の安全。

「テニスン、とりあえずこいつから離れるよ。こいつと常にいる方が危険すぎる」

 

冷静な判断で門を言う彼女。個性は強力だがそれを自分らが食らわない保証がない。今は離れるが吉である。

そんな彼女の忠告をベンは無視。子供は強い個性に興味津々だった。

「すごいな。ボクにはかなわないけどめちゃくちゃ強いじゃん!」

 

正直に答えるベンに作り笑いが消え俯く心操。その真っ直ぐな目の輝きがまぶしく感じたようだ。

「…そういわれると嬉しいよ」

 

「相手に何でもさせられるの?」

 

「いや、単純な行動だけ。逆に何もさせないことは簡単だ。指示しなければいい」

 

「そっか…ならいけるか…?」

 

心操との会話に夢中で拳藤らのことをすっかり忘れているベン。そんな彼に呆れると同時に作戦を立て直す拳藤。

 

「ったく…もっと他人を疑いなよ…でも、もしアンタの個性が今説明した通りならかなり強い。話しかけるだけで敵を無効化するみたいなもんだもんね…」

 

心操の加入を考え始めた拳藤に、彼は自らの個性の詳細を述べる。

 

「洗脳っていっても強い衝撃で解けるよ。人によるけど…そうだな、もしテニスンだっけか?お前に掛けたら足を小指に打つくらいで解ける」

 

「それあんまり参考にならなくない!?」

 

箪笥を小指に。シンプルかつ誰でもわかる痛みのレベル。だが衝撃レベルとしてはわかりづらい。大体のひとは死を願うほどの一瞬の痛み。客観的には強い衝撃ではないのだが当事者からすると悶絶ものである。

 

微妙な説明を受けてベンは聞く。

 

「もしオールマイトにかけたら?」

 

「そうだね…試したことないけどちょっとやそっとで解けないと思うよ」

 

その言葉をきき喜ぶベン。自ら立案した作戦を彼らに告げる。

 

「えっと…ヒトシ!騎馬戦が始まって5分経ったらこう言って!…‥‥おっけい?2人も合わせて!」

 

「わかったけど…あんたそれ大丈夫なの?」

 

「平気さ!何とかなるって!」

 

前向き、ポジティブ。悪く言えばリスクを考えていないベンに対し発目は好感を持つ。

「ふふふ、挑戦は大事ですよね。たとえ失敗してとしても次につなげればそれは失敗じゃありません。それに…!前半戦はベイビーたちの出番のようですねぇ!」

【さあ!15分の時を経て12組のチームはフィールドに並び立った!上げろテンション、上げてけ鬨の声、挙げていけ拳!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!雄英騎馬戦、開始ィィィ!!!】

 

運命のゴングが鳴り、戦いは始まる。男も女もない、ただハチマキを奪い合う騎馬戦。

 

開始の合図と同時に狙われるのは当然

 

「拳藤チームを狙え!実質1000万の奪い合いだ!!」

 

ベン達である。グラウンドの隅から隅までほとんどのチームが彼らを目指す。それに対応するのは騎手、拳藤。

 

「前方から二騎。左右に一ずつ、後方から三!右斜めに抜けるよ!」

 

「わかった!!」

「了解です!」

「ああ」

 

右斜め前に行くには右馬である心操と前方のベンに負担がかかる。心操の体格は高校生男子としては平均的であり、拳藤1人を運ぶのもつらくはない。だが、小学生並みの体格のベンにとっては騎馬を組むのも一苦労。本来動けるような状態ではない…が

 

「よし、うまくすり抜けた!!あんたら良い感じだよ!」

 

その動きはスムーズ。迫りくる敵をうまいこといなしグラウンド中央から抜ける。

 

「やっぱりこれいいよ!メイ!これ今度ボクにちょーだい!」

 

「ふふふ、もちろんですとも!あなたがつけているのは私の第32子です!装着しているもの体が小さいほどそのパワーを上乗せする超高性能パワードスーツ!個性が強化系じゃなく、体格にも恵まれないヒーロ―の能力を底上げすることでパフォーマンスを飛躍的にアップさせられます!」

 

止まらない説明。止まらない発目。そう、今のベンは彼女の発明したアイテムをこれでもかと装着している。体の各所にパワードスーツ。背中にはバックパック。そのほかにも多数。今のベンは普段の無個性ベンとは比較できないほどの力になっていた。

 

が、それでもやっと並の身体能力。油断できるほど優れているわけではない。

「ちょっと!話している余裕はないよ!左から3騎来てる!発目!」

 

「了解です!!どっカワイイベイビー!!スイッチオ~ン!!」

 

拳藤の合図とともに発目は手元に控えたボタンを押す。すると、4人が背中につけたバックパックが音を立てだす。シュウシュウと煙を出しながらそれはエネルギーをためる。

チャンスと見た敵は距離をつめ獲物を狩りに来る。。

 

「もらった!!」」

 

DWOON!!

しかしその手は空を切る。自らが標的とした騎馬が、頭を飛び越えたからだ。はるか高く、とまでは言わないまでも4,5メートルは跳んだ。

 

こうなってくると問題は着地。4人が一斉に地面に着地するがその反動はすさまじい。中央からさらに離れ敵は減ったものの動けない。

 

「ちょ…メイ…強すぎるんだけど…」

 

「確かにですね!チャージをしたことでかなり飛べました!!チャージなしだと2メートルほどしか飛べないので!」

 

「十分よ!!明らかに弊害の方が大きいじゃない!次からはって…まずい!」

 

拳藤が発目を注意している隙に一騎が忍び寄る。気づいたときにはもう遅い。拳藤は体勢が悪く、敵の手を阻めない。1000万Pを奪い取ろうとするその者は笑いながら手を伸ばす

 

「よっし!!これで」

 

「勝手に取っていいの?」

 

「はぁ!?それがこの競技d…」

 

それがこの競技だ。ルールに則っている。負け惜しみのように質問をしてくる敵に答えたその騎手。瞬間、彼は案山子となる。

仲間の者が呼び掛けるも反応はない。ただの屍のようだ。

 

「拳藤さん。とって」

 

「お、おう」

 

騎手が巻いているハチマキをあっさりとって首にかける。未だ謎のストップをしている仲間に言葉で訴える彼ら。そんな彼らを見ながら心操は一言。

 

「俺がいてよかっただろ?」

 

ニヤリとした顔の心操に初めて興味を持った発目。

「やりますねぇ!…えっと」

 

「心操」

 

「さん!!」

 

言葉のみで敵の無効化。其れは防御だけでなくもちろん攻撃にも転じられる。動かない相手からハチマキを奪うなど赤子の手をひねるよりも簡単。

 

サポートアイテムの発目。統率力の拳藤。初見殺しの心操。未だ役に立っていないベンを除いてこのチームは相当な曲者集まりとなっていた。

ベンはこのまま前半戦を乗り切りたいところ。だが、彼らの前に現れるのは、後に雄英の負の面と言われる男。

 

B組の仲間を従え挑んでくるのは整った顔の金髪。

「拳藤…敵となったからには容赦はしないよ」

 

「物間…!!!」

 

 




先の展開読まれてそうで怖い(笑)。


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37話 解禁

まあちょうどいい文の長さになりました!

わりとマジで感想欄からアイデアとかエイリアン思いついたりするんで助かってます!(笑)これからもどんどんお願いします!


開始3分で混戦となった騎馬戦。その中央にいたのは1000万Pを有するベン達。幾千の手をかいくぐったが未だ狙うものは多い。そんな中、彼らの目の前に立ったのは物間 寧人率いるB組騎馬。

 

同じクラスである拳藤は注意を促す。

「皆、気を付けて!こいつの個性は」

 

「おっと、まだ言わせないよ!」

 

騎馬を近づけ物間は騎手である拳藤を攻撃。その攻撃は特殊。物間の拳は当たる瞬間に螺旋回転を始める。そのまま削りとるような拳をなんとか受け流す拳藤。が、ダメージは多少受ける。

 

苦悶の表情の拳藤。そんな彼女と敵の攻撃を見た心操は敵個性を推理し口にだす。もちろん、洗脳スイッチは入れている。

「回転?腕や拳を回す個性か?」

 

その問いに答えない物間。あくまで仲間への注意喚起で喋る。

 

「皆、やつの質問には答えたらだめだ。どうやら敵を行動不能にするらしい」

 

その効果に若干の違いはあるものの、ほぼ心操の個性を当てる。物間は個性の性質上、他人の個性には敏感なのだ。

 

即座に対応され舌打ちをする。心操の個性は知られていると役に立たないのでこの場では無個性と同じ。

 

心操を無効化した物間は再び接近する。しかしそれは騎手にではなく前方騎馬のベンに向かって。

 

「まずい!テニスン!避けて!」

 

「大丈夫!この距離なら当たんない!」

 

そう。ただでさえ身長差のある物間とベン。それに物間は騎馬に乗っているため本来ならその手は届くはずがない。少し身を下げるだけで確実にセーフ。

 

 

のはずが、物間の掌はベンを顔をとらえ、脳を揺らす。その手はまるで巨人の手のように大きくなっていた。

予想外の一撃に動揺するベン。

 

「っぐうぇっ!!!な、なんで!?あいつの個性は回転じゃないの!?」

 

「…やられた!!物間の個性はコピー!触った相手の個性をコピーできるの!」

(テニスンの個性をコピーってことは…やばすぎる!!)

 

「はぁ!!?ズルでしょそんなん!!」

 

驚くベンを見下しながら饒舌に喋る物間。“ズル”の発言に“こっちが言いたい”という表情。

 

「もちろん制限はあるさ。それに君の方が”ズルい”個性だろう?知ってるよ?一人でいくつもの異形になれる。スーパーヒーローじゃないか。そんな君が…コピーに負けるのはどう感じるんだろうね!!」

 

拳藤は発動前ならと、大拳を振り回し物間を狙う。が、遅い。

煽りとともに物間は個性を発動する。

 

しかし、

何も起きない。

「な…!?スカ!?いやそれ以前に僕は」

 

「シメた!!」

 

拳藤の平手打ちが物間に迫る。寸前で敵騎馬の個性【空気凝固】によりバリアが張られ、事なきを得る。だが彼らは手の内を知られた今、わざわざベン達を狙う必要はない。

敵騎馬たちは移動し始める。

 

「物間!!ほかに行くぞ」

 

「あ、ああ」

(確かに触れた。あとは僕が意識すれば発動できたはず。けど…スカの感覚すらなかった。まるで個性そのものがコピーできてないみたいな…)

 

一方離れていく物間たちを追わないベン達。Pは充分であるので追う必要性はないのだ。頭を押さえているベンを心配しながら鼓舞する拳藤。

 

「テニスン大丈夫?大丈夫よね!?まだいけるわね!」

 

「あいつ…絶対にやり返してやる…!」

 

「お、その意気だ!!」

 

物間は爆豪の次に“恨みを買うとめんどくさいやつ”に喧嘩を売ってしまっていた。

 

時は遡り試合開始直後。中央に群れる者たちを冷静に俯瞰しているチームがいた。そう、緑谷チームである。

 

「デク君。ベン君たちのところいかないの?」

 

「うん、あそこで1000万Pを獲ってもそれから防御することはかなり難しい。獲るなら終盤。それに…」

(ベン君がいつ変身するかを、何に変身するかを見といた方がいい)

 

「それに…なんだって?」

 

「あ…!な、何でもないよ耳郎さん」

 

「孤独の呟々」

 

「何言ってるのかわからへんよ常闇君」

 

緑谷チームは、騎手に緑谷を置き、騎馬を麗日、常闇、耳郎で組んでいた。常闇の黒影、耳郎の聴覚により感知能力の優れたチームである。

 

「とにかく今は、様子見。向かってきたら迎撃って感じで行こう。迎撃を繰り返していればポイントも得てさらに近づかれなくなる…」

 

緑谷の比較的消極的作戦。その作戦に彼らは従う。

「りょうか…緑谷、左後方から敵1!」

「右からも1騎来ているぞ」

 

自身の個性によりいち早く敵を見つけた耳郎、常闇。それを踏まえ緑谷は指示する。

 

「…右側は黒影で牽制してほしい。相手の頭部に攻撃するそぶりを見せればひるむはず…!」

 

「了解した。黒影、分かったな」

「アイヨ!」

 

気持ちのいい返事をしたかと思うと常闇の背中から黒紫のモンスターが現れる。名を黒影。伸縮自在。パワーもある常闇の相棒かつ個性。知能をも有すのである程度の命令なら理解し実行できる。放たれた黒影は敵への遊撃を開始。素早い攻撃に敵騎馬の一体は動きが止まる。

 

「よし、これで左後方だけ…麗日さん!!」

「はい!!」

 

支えている緑谷の足に個性を発動させる麗日。その個性は無重力。その名の通り触れたものを無重力状態にする稀有な個性。それを受けた緑谷今、体重が0になり体は浮く。

そのまま前を向いたまま放つのはオールマイトの技。

 

NEW HAMPSHIRE  SMASH(ニュー ハンプシャー スマッシュ) !!

 

「なっ!?」

 

ビュオン!と音を立て移動する緑谷。

パンチを前に撃った反動で無重力状態の緑谷の体は後方の敵の元へ、そしてその横を通り過ぎる。

かなりのスピードでよぎった緑谷に騎手は反応できない。気づいたことはハチマキがなくなっていること。そしてそのハチマキは緑谷が握りしめていること。

 

未だ猛スピードで後方へ進む緑谷は逆方向へスマッシュ。

「もういっちょ!」

 

同じように空気を殴り元の騎馬に戻ってくる。そこで麗日は個性を解除。先程まで同様の体制に戻る。見事、敵ハチマキを奪って帰ってきた緑谷に対し味方は称賛する。対してその行為に文句をいう敵。

 

「今のありかよ!!」

 

抗議を受けたミッドナイトは

 

【…テクニカルだからあり!!騎馬から落ちたりずっと空中にいるのはなしだけどね!!】

 

軽いノリでその行為を受け入れる。なお爆豪も同様に飛び回り許可をもらっていたので緑谷はこの許可を予想していた。

 

だがその行為の危険性は変わらない。ヒヤヒヤするのは緑谷チームの面々。

 

「デク君これ危ないよ!!無重力状態だから相手に触れられたら飛んでっちゃうし!」

 

「うん、だから多用しないようにしよう。何回か見せれば僕らを襲う人も少なくなるだろうし…」

 

「…まだやる気なの?」

 

「剣呑の遊戯」ソワッ

 

ベンの影響を受けてか、それとも元々の性格なのか、無茶をする緑谷だった。

【さぁ試合開始から5分が経過するぜぇ!!現在の一位は…おお!未だに持ってる1000万P!拳藤チーム!他のやつはそんなに差がついてないぜぇ!!こっからならまだどこも優勝も狙える!皆頑張れぇ!!】

 

【拳藤チームを狙うやつが少なくなったな…】

 

【そういえば確かに…1000万Pもあるのになんでだ?】

 

【まあ開始直後に皆が一斉に狙ったからな。その反動だ。駆け込み需要の後みたいなもんだ】

 

【なるほど!じゃあ少しは休憩できるのか拳藤チーム!?】

 

【…まあ、どうなるかはわからんがな…】

(テニスン、残り10分になったぞ。どうする…?)

 

 

アナウンスは彼らに聞こえていない。だが、試合開始から5分経ったことは時計でわかる。残り10分。それは彼の活動時間だ。

 

グラウンドの隅に移動していたベン達。あまり端にいると狙われたときに不利なのだがベンの要望でここに来た。

 

「…よし、こっからはヒーロータイムだ」

 

「で、テニスン。本当にあたしたち3人抱えるの?けっこうキツんじゃない?」

 

「大丈夫。3人抱えられるほどでかいやつが一人いる」

此処で指すのはフォーアームズではない。もちろん彼も巨漢なのだが3人を背中に乗せられるほどの巨体ではない。もしフォーアームズになるなら3人を腕で持たなければならなくなるが、それはこの騎馬戦において得策ではない。

 

「俺がなんていうんだっけ?」

 

心操が確認する。試合開始前から何となく作戦は聞いていたものの、未だに不安だ。なぜなら自分から洗脳して、と頼むものは今までいなかったからだ。

 

「変身してすぐに洗脳してくれたら何でもいいよ、。ただパワーが強いから注意して」

 

「良いけど…洗脳する必要、本当にあるのか?」

 

「じゃないと危ないんだよ。ほら、皆準備してよ」

 

ベンが急かすと皆は自分が装着している胸元の機械を見る。

1人1人に装着されたその機械はもちろん発目作のサポートアイテムだ。

 

「ふふふ、この子の名前は吸ちゃ君!名前の通りなんにでも吸着することができる優秀な子です!その仕組みはイモリの分子結合能力を参考にしており…」

 

「ああもう長い!!発目、これを押せばいいんだね」

 

「はい!スイッチを入れている間はくっついたものから離れることはありません」

 

「ボクが変身したら皆背中に引っ付いててよ」

 

「はいはい…って!やばい!敵来た!」

 

「テニスンーー!!!逃げようったってそうはいかねーぜ!!オイラたちが優勝するにはそれを獲るのが手っ取り早いんだよー!!」

 

迫りくるのは峰田達。峰田、蛙吹を体の大きい障子が背中にのせる、という荒業をなしていた。よだれを垂らしながら襲う峰田。大きな獲物が目の前にいるので致し方ないのかもしれないが、なかなか醜い。そんな峰田を叩きながらも攻撃準備を整える蛙吹。

 

「ごめんねテニスンちゃん。これも勝負よ。ケロ」

 

そんな峰田らを見てベンは大声で対抗する。負けるわけない、という意思表示だ。

なぜなら今からするのは、彼らがしていることなのだから。

「はん!!ボクたちはお前らの上を行く!!ヒトシ!」

 

「オッケー」

 

洗脳準備を確認し、オムニトリックスのダイヤルを回し標準を合わせる。変身するのは黒い悪魔。

 

「さあ、ヒーロータイムだ、リーバック!!」

 

QBAANN

 

時計が緑に発光する。周囲から見ればただの緑光だが、その中では変身が始まっている。

 

左手首から始まる筋肉の黒化、膨張。はちきれんばかりビキビキと筋張っていく黒筋肉は、頭に達したところではじけ飛ぶ。脳が露出するとともにベンの口は耳元まで裂け牙が生える。彼のトレードマークである緑色の瞳はそのままに、露出した脳をアーマーが包んでいく。体の各所に緑色の傷が刻み込まれ、最後にアーマーにオムニトリックスマークが付いたとき、それは雄英グラウンドに出現する。

 

あふれ出る力を制御するために一つ、雄たけびを上げる。

「グァアァァギャァァ!!!」

 

現れたベンのエイリアン、リーバック。その姿は峰田の涙腺を刺激する。心からの恐怖が極限に達したとき、彼は絶叫する。

 

「な、なんで脳無がここにいるんだよぉぉぉ!!!」

 

 

 




・と、いうわけでベンノーム改めリーバックとなりました!朔羅さん、名前提供ありがとうございました!

・ベンが脳…リーバックに変身するシーン、イメージできましたか?

・当たり前ですけど今はベンは雄英体操服を着てるので、変身したエイリアンの造形もそれに依存してます。

・この作品の緑谷は応用力に長けています。ベンの影響ってことにしとこう…


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38話 リーバック

お待たせしてしまい申し訳ありません!就活で一週間ほど忙しかったので更新が遅れてしまいました。あと2,3日は更新ができないかもしれませんがどうぞよろしくお願いします!

P.S疲れた時は感想見て二へ二へしてます!


約一か月前、1-Aを襲ったのは敵連合という巨悪。その中にはオールマイトをも殺さんとした化け物がいた。遠くで見たもの、近くで見たもの。各々が“今の自分では勝てない”と、自覚し恐怖した。

 

それも仕方ないのだ。対オールマイト。一学生が勝てるわけもない。USJでの事件の際脳無が生徒を狙わなかった。それだけの理由で彼らは今生存できているのだ。

 

そんな悪意の塊が今、目の前のクラスメイトを消して現れた。

 

「な、なんで脳無がここにいんだよぉぉぉ!!!」

 

泣き叫ぶ峰田。他の1-Aの生徒たちも差はあれど一部を除き全員が恐怖と驚きで固まっていた。唯一違う理由で固まるのは緑谷。

 

(あ、あれは間違いなくベン君…マークが着いてるし…けどなんで脳無に!?制御が出来なかったらただの殺戮マシンだぞ!?)

 

「ちょっ!!緑谷何黙ってんの!脳無!脳無が出たよ!!」

 

恐怖のあまりに沈黙したのかと案じ耳郎が危険を伝える。常闇も顔には出さないものの脳無の出現に驚いているようだった。

 

そんな中で、緑谷の次にベンと関わっていた麗日は告げる。

 

「デク君!あれって…」

 

「うん、あれはベン君だよ」

気づけた理由はマーク。ベンが変身していたエイリアンに必ずついているマークが脳無のアーマーについていたからだ。しかしその発言は耳郎の勘違いを招く。

「はぁ!?テニスン!?じゃあ何?!脳無の正体はテニスンってこと!?」

 

「いや違くて…!!えっと、よく見たら色々と違わない?あの…顔とか傷とか服とか」

 

そう、ベンの脳無、リーバックはオリジナルと所々デザインが異なる。極めつけは其のアーマー。最大の特徴である脳を露出していない。皮膚や体格などは同じなので間違えてしまうのも無理はないのだが…。

緑谷の発言に合点がいく常闇。

「確かに…言われてみれば造形が異なっているな…あのアーマー…悪くない」

 

「じゃああれは、テニスンの個性で変身したってこと…?」

 

「多分…僕も詳しくはわからない…けど今のところはもんだ」

 

その瞬間空気が爆ぜる音がした。咄嗟に交わすも右肩はやられる。その攻撃の正体は…

 

「かっちゃん…!!」

 

脳無?だからなんだ?試合中止の合図はなっていない。そう言わんばかりに手を爆ぜ吠える爆豪。

「クソデクゥ…!!てめぇは0Pにして落としてやるよぉ!!!」

 

幼馴染でありながら決して対等でなかった彼ら。個性を得て彼の背中を捕まえているデクと、気持ち悪い路傍の石をこんどこそ沈めるためと奮起する爆豪。その勝負が、今、

 

「単細胞だねぇ」

パッ

 

…始まらなかった。

 

彼の後ろを通ったのはB組物間。コピーできないベンをあきらめ標的を爆豪に変えていたのだ。全てのポイントを奪われ一気に最下位に急降下する爆豪チーム。騎馬の切島は何してんだと叫ぶ

「おい、爆豪!!取られたぞ!!?」

 

予想外の不意打ち。しかし目の前にいるのは憎きデク。

 

「ぐ…」

 

だが…それでも…

 

「…なにてめぇ勝手にとってんだぁぁ!!!はよ行けやお前らぁぁ!」

 

自分をなめる者は許せない。後ろから卑怯にハチマキをとっていった物間たちを追いかける。

 

そんな彼をポカンとして見送るデク達だった。

「何だったの…」

超再生を持ち(re)サンドバック(Punching bag)の役割をもこなせる改造人間。その名もリーバック。パワーもオールマイト級のその怪物は名前を得てベンのエイリアンの一体となっていた。

 

変身した後、その広い背中に拳藤、発目、心操は張り付く。胸元に装着しているアイテムの効果で手を使わずにくっつける。ペタリと張り付いたその姿は子を三人抱えるプロレスラー。

 

三人が乗ったことを確認した後、ベンは心操に合図する。特に今精神に異常はないが、いつ暴走するかはわからない。早めに洗脳を受けるに限るのだ。

 

「イトシ…タノム…」

 

「…勝つぞ、テニスン」

 

「オ・・オ」

 

カチッ。その音がベンの頭の中で鳴り響く。その瞬間、リーバックは脱力する。手をブランと垂らし全く身動きを取らない。

 

心操の個性が発動したのだ。洗脳により、リーバックの動きは心操の操縦次第となる。

 

此処までに少し手間取ったベン達だったが攻めて来る者はいなかった。近くにいるA組は距離をとり、そんな彼らを見てほかの騎馬も躊躇していたからだ。だが、観客席の者にとっては関係ない。時間が過ぎていくことをヤジる。

 

【どうしたー!時間もう半分きっているぞー!!】

【攻めろ攻めろー!】

 

その声を聞き我に帰るのはB組騎馬。A組の者は何やら固まっているが気にしてはいられない。目の前にあるのは一攫千金のチャンス。多数の騎馬がベン達を狙い特攻を仕掛ける。

 

自分より能力があるものが死に物狂いで狙ってくる。心操にとっては初めての戦闘。

残り7分、このまま1000万Pを守り切らなければならない。早く支持を出さなければ。だが…戦闘に慣れていない心操は指示にある言葉をわすれる。

 

「く、来るやつを追い払え」

 

その言葉を聞きリーバックは動き出す。1番近くにいた騎手目掛けて腕を振るう。

 

偶然、本当に偶然にそのチームは体勢を崩した。

 

頭を下げた騎手の頭上を通るのは丸太の様な黒腕。それが空気を裂いたとき、近くにいた騎馬は全てその場から消えていた。

 

ドカッという音を立て騎馬は後方に待機していた他騎馬にぶつかる。組まれたまま吹っ飛んだ騎馬。騎手の頭にあるのは自分めがけて襲い来る黒き掌。

 

ギリギリ意識を保っていた彼らは化け物を見たかの様な顔で呟く。

 

「ふ、風圧だけで俺ら全員吹っ飛ばしたのかよ…」

「ち、近づけるわけねぇよ…」

 

幸い直撃ではなかったため大怪我はない。だがその心にはA組同様恐怖が刷り込まれる。

 

周りのものも一連の流れを見て一気に警戒レベルを高める。

そして各々が考える。彼らを避けるか、それとも1000万を狙うか。背中に張り付いている拳藤から鉢巻きを獲るにはリーバックを倒さなければならない。それは確かにきつい…

 

が、それでも“皆でかかれば”との発想に至る。彼らは雄英生。一歩先へ、の精神はそんじょそこらの大人にも勝る。

 

「おい!囲んで時間差で行くぞ!」

「お、おう」

「そ、それならオイラ達も!」

 

驚異的な身体能力のリーバッグにより、奇しくも部隊が編成される。確かにベン達が1000万を持ち続けるより、他のものが持っている方が自分らに回ってくる確率は高い。

 

12チームが敵同士であるこの騎馬戦で、異例の多数共同チーム。先程の倍、6チームが迫る。

 

それらを見ていた拳藤チーム。司令塔である拳藤は冷静に判断を下す。が、その指示は心操に届かない。

 

「…一歩間違えれば人を殺させる、いや殺すところだった…だからテニスンも加減する様に言ってたんだ…俺が…」

 

先の行為の重大さを真摯に受け止めている心操。ヒーロー科ならば自らの力が命を奪う物だと理解し行使することを習うが普通科はそうではない。初めての個性で人を殺しかけた。その事実が心操を襲う。

 

嫌な汗がにじみ出る。心臓がせりあがってくるような息苦しさ。喉が閉まる。今の心操は平常では真逆の精神状態となっていた。

 

しかし、それを放っておく姉御ではない。

 

「心操!!落ち着け!あんたは人を殺してない!!失敗したならすぐ取り返す!!」

 

背中に張り手を打ちながら叱咤する拳藤。その言葉で我に帰る。今動揺しても何にもならない。自分のヒーローへの道も自然と閉ざされる。ヒーローは、失敗をそのままにしない。息を目いっぱい吸い込み体に酸素を行き届かせる。

 

「…ごめん、もう大丈夫」

 

「よし!!敵は6。均等にあたしらを囲んでる。さっき見たいに曖昧な指示は危ない。人を当てないことを前提とした指示にして!」

 

「わかった…テニスン、両手で軽めに地面を割れ」

 

言葉の後からワンテンポ遅れて腕をバンザイするリーバック。そして拳を握った後、その間抜けな姿からは想像できないほどの事象が発生。

 

フィールド全体が震えるほどの鉄槌により地割れが起きる。バリバリと地面を破れ瞬く間に災害があったかのごとき状態に。

 

地割れは彼らの周囲1メートルほどで起き、敵には届かない。しかし、その揺れは違う。マグニチュードいくらの揺れが彼らを襲う。立っていられるかそうではないか。その威力に全員が足を止める。

 

「そのまま中央に跳べ」

 

今はグラウンドの端。このままではラインアウトで反則を取られる可能性があり、リーバックの身体能力なら中央で逃げ回るほうがいいと判断。

 

心操の指示に従い跳躍する。メキメキと足の筋肉はうねり、締まり、そして解放される。

さきほどの発目のアイテムによる跳躍とは違う純粋な筋肉によるジャンプ。その高度は優に50メートルを超す。

 

ぐんぐんと上昇する彼ら。

そのまま着地すれば背に乗る3人の体は壊れる。それを見越しての発目。

 

「ふふふ、こんな上空から着地すれば普通死んでしまいますよね?ですが!このバックパックによるジェット噴射はチャージによってはこのジャンプ以上の力を発揮できます!今は満タンなので準備を万端です!」

 

「発目!タイミングは着地寸前!!落下のエネルギーを0にする感じで!」

 

「了解しました!!」

 

上昇は終わり、徐々に高度は下がる。それに反比例しスピードは上がり、地面が近づいてくる。空気を頬を打ち観客の目線はこちらにくぎ付け。黒い塊が地面とぶつかる瞬間、彼らの背中から空気が押し出される

 

「スイッチオン!!!」

 

BSSSUUU!!

 

バックバックの最大チャージ噴射。その勢いと落下のエネルギーは五分。発目は噴射の方が強いと推測していたがその予測は大きく外れた。一瞬ふわりと浮いた後そのまま着地する。

 

「はて?なぜでしょう?最大チャージならあの高さからの落下エネルギーは超すはず…そうか!わかりました!!テニスンさんが姿を変えたことで計算があわなくなっていたのですね!ふむ…今後は変身タイプの個性にも合わせられるよう…」

 

ブツブツと自分の世界に入ってしまった発目。これまでなら拳藤が突っ込んだのだが今の彼女にその余裕はない。というのも彼女は高所恐怖症。先ほどのリーバックのジャンプはそんな彼女にとって下手なジェットコースターよりも怖かったのだ。

 

「何って高さだよ…さっきはとっさに指示できたけど今になって…」

 

がくがくと歯を鳴らす彼女を見てB組男子は口々にいう。

 

「姉御…怖いの無理なんだな…」

「お、女の子らしい一面もいいな…」

 

残り時間は3分。中央に移動したベン達と異なり、フィールドの臨界を背にポイントを稼いできた緑谷チーム。そのポイントは350ポイントで現状3位。このまま死守すればトーナメントに出られる。

 

「緑谷。どうする?テニスン達は中央に行ったけど」

 

「…ここからはさらにベン君たちは狙われる可能性がある。今はやめておこう。ベン君の行動も予想がつかないし」

 

「確かにそうだな。眠れる獅子をわざわざ起こす必要もない」

 

「じゃあ残り3分はガン逃げでええの?」

 

チーム4人で今後の戦法を決める。確かにこのまま逃げ続ければ次に進める。だが、そんなに勝負は甘くはない。

 

PAKIIIIINNN!!!

 

「!?」

 

空気が冷える。彼らの前に現れたのは氷の障壁。フィールドの端にいた彼らは完全に氷に包囲された。氷の内側にいるのはたったの2チーム。一つは緑谷達。そして

 

「…最後はお前に勝って本選に行く」

 

推薦で入学し、トップを走ってきた彼は目の前の緑谷に宣戦布告。

 

「轟か…緑谷…ずいぶん買われたな」

 

「…うん。皆!あとひと踏ん張り頑張ろう!」

 

「「「おう(うん)!!」」」

 

緑谷vs轟。クラスでも上位の二人が開戦した時、ベン達は中央で戦っていた。残り時間も少ないので一か八かで特攻を仕掛けてくるものが多いのだ。それでも腕を振るうだけで風を発生させるリーバックになすすべもなく倒されていく。

 

「よし…あと3分。このまま行けそうだな…」

 

「心操!油断しないでよね!こっから引き締めるよ!」

 

「ああ…!?」

 

BOOOOOMMM!!!

 

「なんだっ!!??」

 

目の前にいた多くの騎馬。それらのすべてがその場から消し飛ぶ。数にすれば25、6人をを一気に吹き飛ばすほどの個性。そんな生徒は5人といない。

 

目の前の黒煙が晴れて見えてきたのはたった一騎の騎馬。切島、瀬呂、芦戸を下に彼は現れる。

 

「とりあえず…死ね!!」

 

BOMMM!!!

 

「っ!!軽く腕を払え!!」

正面からの爆撃。そしてそれに対応するための指示。しかしその指示はミス。相殺どころか爆発の方が強く敵は全くたじろがない。距離を詰められ接近戦に持ち込まれる。

 

最後の戦いにリーバックを選んだ彼は雄たけびを上げる。

 

「ああん?俺に対して手加減とはふざけてんじゃねーぞモブどもがぁぁ!!!」

 

「…最後の正念場ってやつか」

 

「爆豪か…頼んだわよテニスン!!」

 

「…」

 

審判が時計を見た。

 

 

 




・今のベンは全部心操の指示で動いているので動きは単純です。しかしそれでも問題ないリーバックやべぇ…

・心操は力の責任みたいなのは人一倍知ってはいると思うんですよ。個性が個性だし。ただそれ故に人に暴力をふるうことそのものに慣れていないので今回は焦ったてきな

・次回騎馬戦終了

・アンケートについてですが、基本的に今後、無印、エイリアンフォースの基本10体は出すつもりです。そんでアンケートのやつらも多分全員出ます。ただタイミングをどうしようかって感じでアンケートしてます。投票された方。安心して待っていてください!


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39話 勝者は

やった騎馬戦終了!予定からどんどん伸びてくる!次回はトーナメント相手決定ですが、どんなふうにするかは大体決めてます。割と飛ばし飛ばしに成るかもです


残り時間は3分。周りの騎馬は全て爆豪が吹っ飛ばした。つまり爆豪チームとのタイマン。幾多のチームを警戒しながら戦うのと1チームに集中するの。難易度でいえば後者が圧倒的に楽なのだが、如何せん、その相手が悪い。

 

「デクんところもぶっ殺してぇがなァ…圧倒的一位にはその面にひっさげたポイントが必要なんだよぉ…」

 

「あいにくだけどこれは渡せないよ?あたしたちの生命線何でね」

 

「じゃあ無理やり奪うだけだぁ!!黒目、しょうゆ顔!!」

 

「だから芦戸!」

「瀬呂な!!」

 

呼ばれた2人は各々の個性を生かす。

芦戸はその手から弱酸性の粘液を放ちリーバックの足元に酸溜まりを作る。それと同時に瀬呂は肘からのテープをリーバックの手に巻き付ける。

 

その意図を読んだ拳藤は指示を出す。

「ここに固定する気だ!すぐに離れて!」

 

「後ろに飛びのけ!」

 

心操の声に連動し左足で後方に跳ぼうとする。が、左手を固定され、さらには足元に酸。つるつると滑るその足場ではリーバックの脚力は生かされずクルンっとこけてしまう。

 

お忘れではないだろうか。今のリーバックは3人を背負っている。そんな彼が背中からこけた場合、

 

「ふぐぐぅぅ!!」

 

つぶれる、はずだった。とっさに個性を発動し大拳で支える拳藤が圧死することを防ぐ。拳を大きくする個性で何とか押しつぶされるのを防ぐが時間の問題。

すぐさま心操が立て直す。

 

立て、という指示ですっくと立ち上がるリーバック。逆に言えば命令しない限りは動かなかった。完全なる指示待ち人形になることが洗脳のメリットでありデメリットでもある。

 

圧死をギリギリ免れた心操は敵を確認。

 

が、そこには騎手の姿はなかった。

 

「爆豪がっいない!?」

 

「死ねやこらぁぁ!!」

 

BOOMM!!

 

爆豪単騎での視野外攻撃。その爆破は上から。

 

「舐めないでよね!!」

 

またも拳藤は掌を重ね防御する。おかげでハチマキを取られることにはならないがそのダメージは甚大。

 

「っ!!!」

 

赤く焦げるその両手を隠す拳藤。敵にも味方にも弱みを見せるのは得策ではない。そう考えすぐにでもさすりたい手を隠す。心操はそんな彼女を見てどうにかこの状況を打開する方法はないかと考える

 

(…駄目だ…爆豪はこっちの隙を隙を作り、動きを見てから行動してる。どんなにテニスンのフィジカルが強くてもそれを操縦するのが俺じゃ間に合わない。じゃあ…どうする…)

 

この試合中、2度目の動揺。不安そうな顔の心操に言葉をかけるのは意外な人物。

「ふふふ、迷ってますね心操さん。簡単です!迷うならやるんです!」

 

「は、発目?」

 

「失敗は成功の母ですよ!たとえ失敗しても次に生かせばそれは失敗ではありません!ただの過程なんです!」

 

「そうだよ心操。それにここにいるのはヒーローの卵48人だよ?それにヒーローだってこんなにいる。あんたがどうこうしようと大したことにはならないって!なにビビってんの!!」

 

バシン!!

 

発目、拳藤に激励され思いっきり背中を叩かれた心操。

…ビビるに決まっている。5分も前に失敗をして危うく大けがさせるところだったのだから。だが、何かを成し遂げるためのリスクに、毎度毎度おびえていてはヒーローには成れない。それに、

 

(俺が憧れたものは、そんな安い物じゃない)

「…痛いんだけど…」

 

強張る口角を上げなんとも言えない表情で突っ込む心操。

 

「っは!いい顔になったじゃないの!」

 

「…皆を信じるよ…」

(洗脳…解除)

 

心操が個性のスイッチを切る。その瞬間。虚ろだったリーバックの目に光がともる。指示前には常に棒立ちだったリーバックはピクッと動く。そして、ベンが目を覚ます。首を振り辺りを見回すも思い出せない。

 

「ココア…」

 

「テニスン!お前の作戦は終わりだ!残り2分!行けるか!?」

 

その言葉で徐々に思い出す。次第に状況を把握してきた。今は体育祭騎馬戦。残り時間は2分。ここまで発目、心操、拳藤の力で乗り切ってきたのだ。虚ろな夢を思い出すかのように「今」を理解する。

 

「マカセオ!」

 

役者は完全に揃う。以前、司令塔は拳藤。ベンが自我を取り戻そうと、指揮能力は拳藤の方が上。全体のポイントなどを加味しての指示は

 

「テニスン!とにかくこっから離れて!爆豪達が予想以上に動ける!なるべく端っこに移動してやり過ごす!」

 

背中からの妥当な指示。ベンは振り返り、光る緑の目で拳藤をじっと見る。

 

「な、なに…?」

 

一時眺めたあとベンの言葉は

「イアダ!!」

 

そう言い切り爆豪騎馬と対峙する。この時のベンがなぜ戦いを選んだか。それは、この状況では逃げることが難しいから、というようなものではなく、"まだボクかっちゃんと勝負してない"というひどく利己的なものだった。

 

「ちょ…!!?あんた何してんのよ?」

 

「拳藤、テニスンの好きにさせよう。ここまで俺らが使ってきてたんだしさ」

 

「だからって……あぁ、もう!わかったわよ。テニスン!やるなら絶対に負けるな!」

 

拳藤の激励にうなづくと再び爆豪を見つめる。

一連の流れを見ていた爆豪。もちろん、ただ眺めていたわけではない。

 

今ベンが変身しているのは脳無。その性能、恐ろしさは爆豪の耳にも入っている。

 

(衝撃吸収、超再生、超パワー。完全な肉弾戦タイプ。ハチマキを取らねぇといけねぇ以上近づかなきゃならねぇ。起動戦にしたいがあんまり浮かんでると審判に注意を受ける…なら)

 

「爆豪!来てるぞ!」

リーバック対策と今後の作戦を考えてる最中、切島の声が聞こえる。

「ああ!?」

 

顔を上げるとそこにはこちらに駆けてくるベン。本来ベンは防衛線であるので攻める必要はない。しかしそのことを理解していないベンは【爆豪を倒す】という目的のみを掲げハチマキを狙いに行っている。

 

「よーわからんが来るならちょうどいいわ!クソ髪!しっかり踏ん張っとけよぉ!」

 

「任せろ!!」

 

構える爆豪騎馬。爆豪の強みである爆発を生かすため最大限のサポートに徹している。

それに向かうはベン。リーバックに変身しているが精神は普段のベンのままである。

 

(こいつの力で思いっきり殴ったらさすがに危ないよな…ならこの距離で!)

まだ爆豪達には距離がある。この距離ならば力加減を間違えてもなんとかなる。そう踏んで、60%ほどの力で虚空を殴る。

DOWWNN!!

 

走りながら拳を振るベン。そのしぐさに違和感を覚えるもすぐさま襲い来る風圧に爆破で対応する。

「っ!!」

 

BOOMM!

 

(遠距離からの空気砲!?単純な力でンなことできんのかよ!だけどなぁ)

「俺だってできんだよ!!」

BOOMM!BOOMM!

 

右手左手。交互に爆破をしてその風圧で敵を狙う。実はこの方法は対リーバックには最適解。彼の個性では風圧までは吸収しきれないのだ。この対策はオールマイトも行ったもので、それをとっさに実行できる爆豪は、さすがの戦闘センスであると言わざるを得ない。

 

爆豪とベンの打ち合い。パワータイプでない限りそこに入ることはできない。だがすこしでも妨害になればと、芦戸はベンの足元に酸を噴射。しかし

 

(ボクだってオールマイトと半年は修行してるんだよ!)

「オアッ!!」

 

拳を地面に向け撃つ。たったそれだけで酸は吹き飛び、どころか地面まで割れる。己の個性は全く意味をなさないという事実が芦戸の心にひびを入れる。

 

「そ、そんな……」

「大丈夫だ芦戸!お前の一手で少しは爆豪への攻撃が減った!効いてる!!」

 

切島が励ます。彼の言う通り、ベンは酸を蹴散らすときには片手を必要とする。そのおかげで爆豪が一瞬優勢となり距離を詰める。

 

「…オッケー!!瀬呂!あんたも!」

「任せろ!!」

 

テープ。酸。爆破。その三つが同時に自分を攻めてくる。振り払おうとかき消そうとも徐々に距離を詰められていく。元々は距離を詰めようとしたが、詰めるのと詰められるのでは勝手が違う。少しづつ、少しづつ距離を詰めてくる爆豪チームに、背中の拳藤らもなすすべがない。

 

だが、

 

「テニスン!!残り30秒だ!!出し切れ!!」

 

時間はもうない。あとたったの30秒。そんな短時間守り切れないで何がヒーローか。その想いで必死に耐える。

だが…頭によぎるのは、誰かの記憶。

 

【次勝てなきゃバラバラにして売るぞ!】

【うひょひょ、これは良い素体じゃ!ハイエンドが完成する日も近いじゃろて!】

 

【残り30秒だぁ!!全員!特攻仕掛けろいぃ!!】

 

残り30秒ですべてのチームが奮起し混戦となる。爆豪に吹っ飛ばされたチームも近くのチームを狙い状況はカオス。しかし、ここだけは違う。氷で他と区切られた中では2チームが決闘。

 

「左からくる!」

「黒影!」

 

轟チーム対緑谷チーム。片や索敵主体。片や戦闘力重視チーム。その勝負は轟チームの圧勝かと思われたが、実際にはいまだ点数は動いていなかった。

 

「耳郎さんの感知でいち早く氷を予測してガードは常闇君。騎馬の動き自体は麗日さんのおかげでスムーズに!あと30秒、いけるよ!」

 

騎手である緑谷は状況を確認しながら仲間の士気を高める。たいして、圧倒的戦力にも拘わらずそのハチマキが取れない轟チーム。その先頭騎馬である飯田は覚悟する。

 

「轟君、いまから最後の特攻を仕掛ける。絶対にとってくれよ!」

 

DRRRNNNN!!!!

飯田のエンジンがうなる。限界を超えたエンジンは煙を上げ熱を放つ。そしてそのエネルギーは全て彼の移動速度へ変換される。

 

【レシプロターボ】。エンジンの回数を無理に高め、向こう10分動けなくなる代わりに理外のスピードを出す飯田のとっておき。これを知らないものはまず単体では防げないだろう。視認することですら普通の人間には無理なのだから。

 

が…この戦いはチーム戦でその相手は普通の人間ではない。

「緑谷!なんか来る!!」

 

異常なエンジン音。それにいち早く気づけたのは耳郎。普段聞いている飯田のエンジン音とは明らかに別。そのことを騎手である緑谷に伝える。

そして

 

(ラスト何秒かで仕掛けてくると思ってた。圧倒的スピードを誇る飯田くんが先頭なんだから当然だ。あとは…僕が成功させるだけ…!!)

 

今一度おさらいすると緑谷の個性はOFA。要は超パワーの発揮。その発揮の際、発揮した部位は人外の力を見せる。では、その力とは、単純なパンチなどだけなのだろうか。

 

発想はベンとの特訓時。許容限界を超えるOFAを発動してもあまり痛くないときがあった。

 

考えたのはグラントリノとの闘い。パワーは足りてるのに相手のスピードについていけない。それでは宝の持ち腐れだ。

 

そして今初めて行う。新しいスタイル。

 

(OFA20%、センススタイル!)

 

体全体の20%。未だその力は緑谷の体を壊す力。だが、それでも、ここまで鍛えていた彼にとって20%は、【動かなければ耐えられる力】となっていた。

 

「見えた!!」

 

高速で近づいてくる騎馬。おそらく騎手である轟もほぼ勘で取りに来ている。だが、センススタイルの緑谷にはその動きがはっきりと見えていた。世界が普段の何倍も遅くなる。あとは、その世界に5%で答えるだけ!!

 

ZZZAAAZAZAZA1!

 

横を通りすぎ、急ブレーキをかける轟チーム。その手には…ハチマキが握られては、いなかった。

 

「なっ!!?」

「…あの野郎…よけやがった…!!」

 

体全体が少し痛む。だが、それでも、

 

「この勝負は、僕らの勝ちだ!」

 

それだけは明確であった。

【残り10秒!!!】

 

緑谷と轟の決戦が終わったときには、もう時間はほんの10秒。当然焦る、かと思われたが違う。爆豪の頭の中では今から勝負なのだ。

 

「しゃあ!ここだ!黒目は足元に酸!しょうゆ顔は腕!」

 

その指示はベンにも聞こえる。ギリギリ自我を保つベンは乱れる頭でカウンターの準備をする。だが、酸が出されたのは爆豪チームの足元。予想外の行動にベンは動きが止まり、瀬呂のテープが右腕に絡まる。

 

BOBOBOBOBOB!!!!

 

爆豪は掌を右に向け連続爆破。その勢いでベンの腕を軸として、彼らは大回りを始める。足元の酸は移動速度を上げ、瀬呂はテープを巻き取りさらに加速。グルンと半円を描くと、5メートルほどの距離を一瞬で詰めさらには背後をとる。

 

だが、それに対応できるのがリーバック。回り込まれたことを理解し一瞬で体勢を変える。が、

 

閃光弾(スタングレネード)!!」

 

爆破を応用し発光弾を食らわせる。振り向きざまのベンの目を赤い光が穿つ。目の前が真っ暗、あるいは真っ白になったリーバックはたまらず本気で腕を振る。しかし其れは空振りに終わる。

 

 

「全部読み通りだクソ筋肉!!!」

 

テクニカル爆破で単体、背後に回る。もう試合も終わる。このタイミングなら注意もできない。背中にいる拳藤の頭めがけてその手を伸ばす

 

「これで終いだァァァ!!!」

 

p

【試合終了!!雄英体育祭騎馬戦、、トップチームは…!!】

 




・さあ誰が勝ったでしょうか。

・今回は描写が微妙だっかもしれません。またセンススタイルのことなど質問があれば是非!

・センススタイル名前のセンスのなさよ…募集します笑そのままにするかは作者次第ですが


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40話 トーナメント決定

今回は幕間って感じです。会話分多め。


【さあ騎馬戦終了!トップ4チームが本選トーナメントに出場できるぜ!!】

 

長かった15分は終了し、各チームは動きを止める。力を出しきれなかったもの。または練習以上の力を発揮したもの。それぞれ異なるが全員が奮闘した事実だけ変わらない。彼らを労い、プレゼント・マイクは結果発表へと移る。

 

【皆お疲れぇ!どいつもこいつも熱い戦いを繰り広げてたなぁ!そんな中、映えある一位に輝いたのは…………………………拳藤チーーーーム!!!テニスンの1000万Pを見事守り切った!その防衛力はプロになってからも大事になってくるぜ!】

【チーム全員の能力を余す事無く使ったな。特によかったのは拳藤。視野を広げて全員に指示を出していた】

 

相澤の講評は珍しく絶賛。組が違うのであまりかかわることはないが、先生から褒められ嬉しくないものはいない。照れ臭そうに頰を染める拳藤。

 

歓声も沸き、辺りは一層熱を増す。その熱に、彼が目覚める。

 

「ん、ん…」

 

「あ、テニ…ベン、起きた?」

 

「グ、グウェン…?って、なんだよこの状況!?」

 

ベンが驚くのも無理はない。騎馬戦がいつの間にか終わり、自分は拳藤にお姫様抱っこされていたからだ。

 

「お、下ろせよ!」

 

「…グウェンって誰よ。一佳おねーさんだっての」

 

「良いから下ろせ!」

 

ぎゃいぎゃいと騒ぐベン達を置き、どんどん順位が発表されていく。

 

【第二位…爆豪チーム!B組のPを根こそぎ奪ってこの順位まで上り詰めた!最後の1000万Pは惜しかったぜ!!】

【全体的に爆豪のサポートに徹してたな。そのおかげで爆豪も動きやすかっただろう。最後の攻防は…まあテニスンの運が良かったな】

 

「クッソがぁぁ!!!!」

 

「ば、爆豪…!ほら、先生もこういってくれてんじゃん!最後のはお前のが一枚上手だったッて」

 

「うっせぇ!結果出さなきゃ意味ねぇだろうが…!!!」

 

最後の攻防。幾重にも策を重ね、小細工を弄し、完全にベンの背後をとった。残り1秒でのハチマキ奪還。あと1秒早ければ奪えていただろう。だが、

 

Pippipipi QBBAAN

 

その音と赤い光がリーバックからした瞬間、ベンの体は元に戻っていた。その時ベンは気絶しており、騎馬は崩壊。もし残り時間があれば容易にハチマキを奪えていただろう。だが、リーバックの巨体を見越して拳藤のハチマキをとろうとした爆豪の手は空を切ったのだった。

 

そのまま試合終了。気絶して倒れるベンを拳藤が大拳で支え、今に至る。

 

結果として、ベンはオムニトリックスの時間制限に助けられたのだ。普段は文句ばかり言っているが、今回は、元に戻る、というデメリットが功を奏したのだ。

 

爆豪は、怒りで震える拳を固く握りしめ決意する。

「…次だ…!次で完膚なきまでにぶっ殺したる!!」

「その意気だ爆豪!!殺すのはダメだけどな!」

 

決意を新たにする爆豪とそれを応援する切島たち。彼らも騎馬戦を経て、言い表せない何かを築き上げたのだろう。

 

【おいおい!まだ発表は終わってないぜ!!第三位…緑谷チーム!!最後は轟にタイマンを申し込まれたが見事に逃げ切ったぞ!】

【MVPは耳郎だったな。音による感知。騎馬が近づいてくるのにも役立つが、飯田の仕掛けにもいち早く気づけた。あいつの能力はプロになっても役立つよ】

 

「う、うちがMVP?!」

 

「先生の言う通りだよ!耳郎さんのおかげで麗日さんや常闇の個性も早く発動できた!発動と敵の攻めのタイムラグを最小限に抑えられたから僕らは一度もハチマキを獲られなかったんだよ!」

 

「影の功労者」

 

「そうだよ耳郎ちゃん!!」

 

ホンワカする緑谷チーム。元々好戦的ではない者たちが集まってたが、そのおかげで無駄な戦いも避けることができたのだろう。突出した戦闘力は緑谷しかいなかったが、それでも協力しここにたどり着けたのだろう。

 

【第4位!ここまでが本選出場者だぜ!ギリギリ滑り込めたのは…轟チーム!!】

【もっと上に行けたチームだな。最後に緑谷たちに固執するのではなく無難に多数のチームを狙えば2位は行けただろう】

 

「…っち」

「轟くん、すまない。僕のスピードが足りなかった」

「けど4位ってすごくね?トーナメントにも出れるし」

「わたくしはあまり力になれませんでしたわ…次はもっと頑張らないと…」

 

約一名を除きその雰囲気は暗い。成績だけでみれば入試上位陣に推薦2人。このような結果になったのはひとえに緑谷への固執。そして…

 

(右だけじゃ…足りねぇってのか…!だが、クソ親父の力は…)

 

【トーナメントに出場できないやつも安心しろ!まだまだレクリエーションや借り物競争とか用意してるぜ!…さあそして、たった今、厳正なるくじによりトーナメントが決定した!!!その組み合わせは…これだあぁぁぁ!!】

 

第一試合 麗日vs爆豪

第二試合 切島vs芦戸

 

第三試合 緑谷vs心操

第四試合 拳藤vs耳郎

・・・・・・・・・・・

第五試合 テニスンvs発目

第六試合 飯田vs常闇

 

第七試合 上鳴vs八百万 

第八試合 轟vs瀬呂

 

トーナメント表を確認するベン。その相手は…先程まで仲間だった発目。

「えっと…ボクは一回戦…メイか!」

「テニスンさん!よろしくお願いします!ひいてはお話があるのですが…」

「なに?ってゆーか早く下ろせよイツカ!」

 

さらっとこの状態だったが未だにベンは拳藤にだっこされていたのだ。10歳の子供だったら高校生のお姉さんにだっこされるのは微笑ましいがベンは一応15歳。それなりの羞恥心は持っている、

 

「はいはい、でもあんた大丈夫なの?変身解けた瞬間気絶したし」

 

「…今は何ともない。ただなんか、知らないじーさんが頭に浮かんだんだよ」

 

「…よくわからないけど無茶しなさんなよ」

 

「わかってるって。そういえばヒトシは…もういないし」

 

「こっから昼休みだからね。各々すごすんじゃない?そうだ、あんたご飯食べる人いるの?」

 

「え?ボクは…」

 

「よかったら一緒に食べない?」

 

「いやだからボクは」

 

「いいからいいから」

 

そう言って拳藤はベンを抱えたまま食堂に向かう。

 

「だから降ろせってぇ!!」

昼休み。皆は食事、精神集中などに取り組んでいる時間。そんな中、グラウンド入口Bで、少年二人は話す。

 

「なんだ緑谷、話って」

 

問いかけるのは轟。さっきの今で自分に話しかけてくる緑谷に違和感を持つも、律儀に話に応じる。

 

「ご、ごめん。もうご飯時だってのに…でもどうしても聞きたいことがあって…」

 

「…なんだ」

 

「轟君…騎馬戦で左を使えば有利に運べる場面あったよね?どうして使わなかったの?」

 

先ほどのように遠慮しながらではなく、目を合わせストレートに聞く緑谷。真っ直ぐに、目を離さない。

 

いつもの雰囲気とは異なる緑谷に毛がぞわつくが、その理由を答える。

 

「左は…戦闘において使わねぇ…」

 

「…どうして?」

 

「…個性婚って知ってるか?…」

 

そこから轟の口から出た話はまるでフィクションの出来事だった。父、エンデヴァーは自分が超えられないオールマイトに勝つため、氷の個性である轟の母と無理やり結婚した。生まれた兄弟の中で唯一の完全複合個性となった自分は訓練という名の暴力を振るわれたと。母はその父から物のように扱われていたと。耐えきれなくなった母は自分に煮え湯を浴びせたと。

 

「記憶の中の母さんはいつも泣いている。あのくそ親父と結婚したせいで。俺なんか生んだせいで…」

 

左手で火傷の痕をさする。手に隠された左目には憎き父の虚像が映る。

 

「だから俺は証明する。クソ親父の力なんかなくてもトップに成れると。そのための踏み台として緑谷、そしてテニスン、お前らを倒す」

 

オールマイトに目をかけられ、なおかつ同様の個性を持つ緑谷。

父と同じ、炎を操る個性を持つベン。

その両者を葬ることで父に証明することができる。“お前の力は、お前はいらない”ということを。

 

「…」

 

轟の身の上話に何も言えない緑谷。当然だ。彼自身の不幸なエピソードは無個性だった、というだけ。個性を受けついだのもグラントリノからの修行もただ自分が恵まれていただけだから。言葉を考え、たたない言葉で想いを伝える。

 

「正直、ビビってる。まるで漫画の主人公みたいな人生。僕なんかが軽々しくわかる、なんて言えない」

 

弱気な台詞を吐く。その言葉でも表情を変えない轟。自分に臆したのだろうか。だとしたら勝負するまでもない。そう思ったとき、緑谷は言葉を紡ぐ。

 

「けど、それと力を使わないっていうのは関係ない」

 

「ああ?」

 

緑谷の予想外の言葉に眉を顰め、思わず威圧する。今こいつは自分を否定した。その事実が彼の目を血走らせる。

 

「お母さんの話は…その…僕にはわからない。だけど…!皆てっぺん目指して本気で頑張ってるんだ!それを半分の力で勝とうなんて、ふざけるな…!と思ってる」

 

弱弱しかった緑谷の言葉は語気を強める。キッと前を向き、轟を睨む。

 

「そんな君に!、僕やベン君は負けない!!」

 

「…それだけか?言いたいことは」

 

「うん…」

 

「まあ、どうせ今日には結果が出るんだ。俺とお前、どっちが正しいか…」

 

そう言い終えると、轟は奥の角を曲がっていく。

 

「フゥぅ…威圧感凄すぎるよ…途中で逃げようかと思ったし…」

 

普段はこんな挑発じみたことはしない。だか、自分や麗日、他のものの体育祭にかかる思いを考えると、轟の行為は"舐めてる"としか言いようがない。どうしても、そんな彼を変えたかったのだ。

 

そんな慣れないことをしたので、力が抜ける。そうして壁にもたれかかる。すると、角から爆豪が出てくる。

 

「邪魔だくそデク」

 

振り返れば爆豪。

 

「か、かっちゃん!?もしかして今の話…」

 

「んなこたどうでもいいんだよ!…つーかてめぇ…俺に勝つ前提で話てやがったな?」

 

「…あっ!?そ、それは」

 

「いいか!?俺は今日!お前も、変身のチビも、半分野郎も、全員倒してからトップに成る!まずはてめぇが一番先だからな!!」

 

言いたいことだけ吐き捨てると、ズカズカと通っていく爆豪。そんな彼を見て緑谷も決意しなおす。

 

「…僕だって負けるわけにはいかない。オールマイトとの約束があるんだ。トップに、そして世間に知らしめるんだ。“僕が来た”って」

緑谷、爆豪、轟。上位三人がシリアスな雰囲気の頃、ベンはというと

 

「だーかーらー!!自分で食べれるっていってるだろ!!」

 

「…超かわいいんですけど…」

「でしょ!弟感すごいんだよ!」

「ワターシモ、あめーりかウマレでーす」

 

「ボクはイズクとご飯食べる予定だって…!」

 

B組女子とランチをしていた。未だベンにモテたいという欲求はないので、この状況はただ煩わしいだけ。だが、そんな彼を見て殺意を抱くものが一人…

 

「テニスンのやつ…!!オイラと背格好そんなに変わらないのに!!!アイツだけ何で!!」

 

ベンはお姉さん受けがいいらしい。

【さあ昼休むも満喫したか?それとも気力を高めてきたか?こっからは一挙一足が将来にかかわるぜ?さあ、一回戦第一試合、開始ィ!!!】

 

「おお、久しぶりだな」

 

「それどころじゃない!なんであんな子供が持ってるんじゃ!すぐに連れてこい!」

 

「いや、実は…って、もう消しとる…はぁ、近いうちに会わせなきゃならんなぁ」

 

 

 

 

 

 

 




・次回から個人戦。ぶっちゃけデクとベン以外の戦いは飛ばそうと思ってます。想定ではもう職場体験終わってるくらいだったし笑

・ベンって、お姉さん受け良さそうですよね。ちょうどいいクソガキというか笑



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41話 緑谷vs心操

今回は結果だけ見れば全部原作まんまです。ただ、流れは「作者が洗脳を使うならこうする」って内容です。我ながらせこいなと思いました。


【ヘイガイズ、アァユゥレディィ!?いろいろやってきましたが!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!一回戦!スタァァァト!!】

 

ルールはシンプル。相手を場外に落とすか行動不能、または戦意喪失させるのみ。命に係わるものは別だがそれ以外にルールはない。己の身一つの何でもあり対決。そんな過酷な戦いに挑むのは若きヒーローの卵。

 

現在は麗日vs爆豪。圧倒的反射神経と火力の爆豪に果敢に攻める麗日をベン達は観客席から応援していた。

 

「オチャコ、どんだけ攻めるんだよ…もうボロボロじゃん…」

 

「けど、着実に準備はできてるよ。多分、あの方法しかないんだと思う…」

 

麗日の作戦は巻き上げられた瓦礫を空中に留め、一気に爆豪へと降らせるというもの。そのためには爆豪に地面を削らせなければならず、それは自分が爆破を食らうことを意味していた。

 

彼女の戦う理由を知っている2人は神妙な顔で見守っていた。だが、時期に試合も終わる。

 

「…僕は次の次だからもう行くよ」

 

「え、あ、そう。相手は…ヒトシだっけ?」

 

「えっと…そうそう。心操君。個性は何となくわかるから。油断せずに決めに行く」

 

「ボクに個性効かなくていいの?」

 

「…うん、自分の分析だけで行くよ」

 

そう言って階段を上っていく緑谷。

 

心操の個性は【洗脳】。自分の問いに答えたものを操るという個性だが、緑谷は自力でほぼ正解までたどり着いていた。

 

緑谷の予想では、

・相手に話しかけられることがトリガー

・発動すると相手の動きを止めることができる

というのが心操の個性だと踏んでいた。これに対する対策は簡単。自分から話しかけなければいいだけ

 

(とにかく試合中は口を開かないようにしないと…挑発とか乗っちゃう方だし…)

 

万全な対策をしながら試合会場へと向かう。

 

観客席からは階段を降り、控室を通り入場口へ向かう。緊張しながら舞台へと向かう。すると、入場口の手前にはオールマイトが佇んでいた。

 

「や!緑谷少年!順調じゃないか!あとは優勝するだけだな!」

 

「オールマイト!…いやまだ油断はできません。というか今から始まるっていうか…その…轟君たちもいるし…まだOFAを使いこなせてないし…」

 

「そんなことないさ!君は確かに100%を引き出せてはいない。大体今は5%~8%だしね。だが、その使い方は素晴らしい。其れこそ先生も認めてくれているくらいさ!」

 

先生とはグラントリノのこと。フルカウル、センススタイルなど、OFAを細分化して使う緑谷のことを、直接ではないが褒めてくれているらしい。褒められ慣れていない緑谷はベン同様心の底から喜ぶ。

 

「ほんとですか!!」

 

「ああ!まあそれでもまだ私を追いかけすぎているところもあるが、いずれそこも変えていこう!」

 

「…?は、はい!!」

 

憧れの人からの激励。これで燃えない人間がいようか。まずは一回戦の心操戦。そこでどう戦うかを考えていく。

 

 

一回戦は麗日の奮闘もむなしく、順当に爆豪の勝利。続く二回戦は切島対芦戸だったが、酸の痛みを耐え、切島のごり押し勝利。着実に試合が消化されていく。

 

【さあ続いて第三試合!2位、3位とかなり優秀だぁ!!やはり強化系は安定した強さが武器だ、この試合も堅実にいくか!?緑谷出久!!

 対するは…騎馬戦で1位だったが何をしたかと言われればいまいち覚えない!すまん!この試合では本領発揮してくれるか!?心操人使!!

  互いに全力で勝負しろよ!?レディィィ、ファイト!!!!】

 

ゴングが鳴る。そのフィールドは長方形のコンクリが床となっている。障害物競争のようなギミックもない。ならば勝負は純粋な力で決まる。となると緑谷が圧倒的優勢。

 

だが緑谷は心操を警戒している。不確定事項の多い相手に有効なのは当然遠距離攻撃。緑谷は指一本の犠牲を選択し、先手を、そして王手をかける。親指に中指をひっかけ攻撃態勢に入る、

 

DELAWALE SMA(デラウェア スマ)…ん?」

 

が、緑谷のデコピンの前に心操の行動の方が早い。彼は試合開始と同時に…手を挙げていた。右手を挙げ何かを抗議するかのようだ。緑谷の動きが止まったのを確認すると、フィールドの端に行き、ミッドナイトに話しかける。

 

試合開始と同時のその行為に周囲はざわつく。

【なんだなんだ!?今更ルール確認か!?この試合にタイムはないんだぜ!?】

【…】

 

何やらミッドナイトと話している心操。少しヒートアップしているようだ。手をコネ、身振り手振りで何かを伝えようとしている。途中途中で緑谷を指さす動作もある。

 

そしてこちらを見て驚く様子

(一体何なんだ?)

 

「おい、あんた、サポートアイテムつけてないよな?」

 

「えっ。そりゃつけてないk」

 

カチッ。緑谷の脳内でその音がした。

【おいおいどうした!!心操が抗議してたかと思えば急に緑谷も動かなくなったぞ!!】

【お前…まだきづかないのか?緑谷はもう心操の個性食らってるんだよ…】

 

そう、今の緑谷は先ほどまでのベンと同じ、被洗脳状態なのである。試合中は話しかけに応じない。そう心に決めていた。緑谷。だが、

 

【心操がミッドナイトさんに話しかけてたからな。“試合中”という意識が抜けてきてたんだろう。いうなればタイム中、だな。】

 

だが、この試合にはプレゼント・マイクが言ったようにタイムはない。全てはインプレ―内での出来事となる。ルールで審判に話しかけることは禁止されていない。暗黙のルールで入場まで個性の使用禁止というものはあるがそれも破っていない。完全に

 

【心操の作戦勝ちだな…ルールに則り敵の制圧。まさしくヒーローだ】

 

(だ、だめだ!体が動かない。髪の毛を動かそうとするみたいに…自分の体なのに…動かせない!!)

 

被洗脳状態の緑谷。思考そのものはできるが意識とがとリンクしていない。

 

「そのまま場外まで歩け」

 

心操の非情な命令にも逆らえない。くるりと体を回転させ、外へと足を踏み出す。止まれ、止まれ、と心で叫ぶも体は全くいうことを聞かない。

 

「悪いな…こんなだまし討ちみたいな勝ち方で…ただ…テニスン達と戦ってわかっちゃったんだ。もう差がついてるって。はやく取り返さなきゃって」

 

全体への指示だし、防衛力を発揮していた拳藤。圧倒的パワーを見せたベン。様々なアイテムでチームに貢献した発目。各々が自分の力で1位をつかみ取った。

 

じゃあ自分はどうだ。洗脳しても焦る。その後も拳藤のいうことを繰り返しただけ…こんなんじゃヒーローには慣れない。早く結果を出してヒーロー科への転入を果たさなければ、どんどん差は開く。

 

「こんな個性だけど…夢見ちゃうんだよ…さぁ、負けてくれ」

 

目は虚ろになり力も入っていない。ただ場外へと歩く人形となり果てた緑谷は当然焦る。

(注意してたのに…!こんなあっさり!オールマイト!ベン君!約束したのに…!!こんなところで!!)

 

あと一歩。あと一歩踏み出せば場外。そんな崖っぷちの彼が見つめる先は入場口。オールマイトが隠れて応援しているが、彼に見えたのはそれじゃない。なにかが、いや、誰かが見えた。

 

〈だめだよ…こっちに来ちゃ…君は、勝ちたいんだろう?〉

 

暗がりに見えたのは1人の白髪の青年。そして7人の影。一つの影に見覚えはあるが今はそれどころじゃない。景色が、情報が脳内にあふれるような感覚に襲われる。まるで誰かに体を乗っ取られるかのよう。その感覚は心操の個性とは似て非なるもの。

 

(!?なっっっっっっだこれ!?!誰!?知らない!)

 

〈痛いけど…我慢しなよ〉

 

その瞬間、緑谷の指に電流が走る。OFAが呼応し、力を暴発させる

 

BOOFFOOO!!

 

洗脳状態からの行動。前例のない事実に目を見開く心操。息を切らしながら折れた指をさする緑谷を見て驚く。

 

「なっ!?体の自由は効かないはずなのに…!!」

 

(さっきのは…!?確かに…8人いた。それに、オールマイトに似た人も…!!もしかして、今までの継承者!?そんなことがあるのか!?喋りかけてきたぞ!?…いや、今はいい。今は、試合に集中しろ!)

 

「…すげぇ個性だよな…ほんと、テニスンと言い、お前と言い、うらやましいよ!俺だってなぁ…!!」

 

なんとか口を割らせようとする心操。だが、もう緑谷には効かない。そもそも彼の個性は初見殺し。知られているなかでの使用はただの問いかけにしかならない。

 

だが、もう油断しない。相手の声が聞こえないほどの距離で勝負を終わらせに行く。

(ここから決める。残った人差し指で…若干狙いは反らして…)

DELAWALE SMASH(デラウェア スマッシュ)!!!

 

緑谷が指をはじくと暴風が起きる。ただのデコピンもOFA100%にかかれば爆風を巻き起こす。その風は心操を襲い、体を浮かせる。距離があり狙いもそれているため大けがはないが、彼の背中は場外へと着く。

 

【心操君、場外!勝者、緑谷君!!二回戦進出!】

 

第4試合は拳藤対耳朗だったが、その戦闘力は火を見るより明らかだった。サポートアイテムなしでは耳郎は攻撃手段に乏しく、大拳を操る拳藤に敗れていた。

 

そして第5試合が直に始まる。準備のため控室にいるベンの元に、忘れ物を取りに来た心操が現れる。

 

「あっ…」

 

気まずそうに荷物獲り、そそくさと帰る心操を呼び止める。

 

「ヒトシ!」

 

ビクっと肩を震わせる。友人をだまして勝とうとしたのだ。いくらルールの範囲内だからと言ってそれが気持ちのいいこととは限らない。ヒーローを目指すものとして卑怯である自覚はあった。多少の罵倒を覚悟する。

だが、口から出た言葉は

「惜しかったじゃん。まあイズクのパワーはボクでもすこし、すこーしやっかいだから仕方ないって!」

 

予想外の言葉だった。

 

「…結構卑怯な手を使った自覚はあるんだけど…」

 

「…勝てばいいんじゃない?結局負けてるけど…ヒーローだって人を助ければ方法なんて本当はなんでもいいんだろうし」

 

特に深いことは考えていない。そもそもベンの考え方はその生い立ちのせいで日本的ではないのだ。だが、その言葉は心操に響く。

 

「そう、か」

 

「そーだって。じゃ、ボクは試合があるから」

 

「ああ…頑張れ…」

 

ベンを見送る。心操からすればその背中はまるで子供。だが、たしかに彼はヒーローとしての仕事を果たしたのだった。

 

 

 

 




・実際、タイム中と思ってたらインプレ―で地獄を味わったことがある作者です。監督に死ぬほど怒られた…

・テンポが…テンポが…まあ次は緑谷対拳藤を目指す
・結果

第一試合 ×麗日vs爆豪〇  
第二試合 〇切島vs芦戸×

第三試合 〇緑谷vs心操×
第四試合 〇拳藤vs耳郎×
・・・・・・・・・・・
第五試合 テニスンvs発目
第六試合 飯田vs常闇

第七試合 上鳴vs八百万 
第八試合 轟vs瀬呂


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42話 発目vsベン 拳藤vs緑谷

長いです。分割しようと思ったけど、この話は繋いだ方が面白いと思ってそのままにしました。最後まで読んでください!

前話もそうだけど…この作品をデクが侵食してきている…まずいぜ!

・アンケート回答してくださった方、ありがとうございました!!今後出す順番の参考にしようかと思います!予想外だったのはアップチャックがいまいちな人気だったことかな・作者は割と好き。


【さあどんどん続けていくぜぇ!!次の試合はテニスン対…ってテニスンどうしたーー!!??】

 

雄英体育祭最終種目、1対1のガチンコ勝負。トーナメントの第5試合が始まろうとし、ベンがステージに上がる。そんな彼を見てマイクがなぜ驚いたのかというと…

 

「…テ、テニスン君?その装備は駄目よ?」

 

審判であるミッドナイトも動揺しながら注意する。今ベンは背中にガジェット。関節にはスリーブ。他にもありとあらゆる場所にサポートアイテムを装着していた。ヒーロー科では原則アイテムは禁止。だが、彼は発目から装着を懇願されたのだという。

 

「まあ…合意なら…いいでしょ!!では、試合、開始!!」

 

微妙は空気で試合はぬるっと開始する。観客席の者たちは全員がベンに注目する。過程はどうあろうと一位を取り続けているのだから。それに大体個性もわかってきた。手首につけているアイテムをトリガーとし、さまざまな姿に変身できる。そんな強力な個性を持った彼は次にどんな変身をするのか。

 

幾多もの視線を浴びているベンの行動は、皆の予想に反するものだった。

 

「ウリャアアーー!!」

 

変身せずに、まさかの生身での特攻。明らかに普段しない雄たけびは違和感しかない。走りながら腕を振り回す。また、そのスピードもすごい。彼の貧弱な体からは想像できないスピードで発目に迫る。

 

が、

 

「すごいスピードですねテニスンさん!!それもそのレッグパーツによる部位強化が施されているからでしょう!!」

 

 

「タ、タシカニ!!コンナ動き始めテダ!!」

 

「この速さで挑まれては普通の人間には太刀打ちできない!!がしかし!」ポチッ

 

発目の背中からはバーが伸び、地面をたたく。その反動で軽く横に跳び、難なくベンを躱す。

躱されたベンは目を見開く。

 

「ナ、ナンダソノキカイハーー」

アナウンス席では相澤が項垂れる。ベンの行動に違和感に気づいたからだ。

【…あのバカ‥】

さかのぼること一時間前

対戦相手が決まってから、すぐに発目はベンに提案。

「テニスンさん!!協力してくれませんか!?」

 

「なにに?」

 

発目が言うには、この体育祭ではとにかく自分のサポートアイテムを目立たせたいとのこと。それには体格の劣るベンに実演してもらうのが一番効果的だという。

 

「けどそれじゃすぐ終わらない?第一ボク変身するけど」

 

「そこなんですが…!始めの方は変身しないでほしいんです!そして私との闘いを演じた後、あなたの…に変身して~~~」

 

「…ああ、なるほど…いいんじゃない?それに面白そう!!それにボク、この機械もっと使いたかったし!!」

 

親指を立て“名案だ!!”とでもいうように笑う。その顔は完全に悪だくみをする子供だ。

「ふふふ、お互い良い試合(ショー)になりそうですね」

つまり、今ベンが変身しないのは発目のアイテムの実演をするため。さらには試合を終わらせないため、戦いすらも演技。

 

攻撃を躱され続けるベンは次の手を打つ。もちろん、発目との打ち合わせ通りである。

「クッソ―!!ゼンゼンツカマラナイ!!コウナッタラ!!」

 

右腕に装着した筒を発目に向ける。そしてスイッチを押すと何重もの縄が発射され発目を縛る。

自分のアイテムに捕縛された発目はその解説に入る。

 

「なるほど!!相手が躱すのならまずは動きを封じる。確かにシンリンカムイなども得意とする手ですね!!それを可能にするのはその収納式ワイヤバインド!どんな相手でもすぐさま拘束できます!」

 

縛られながら解説するという風景に観客は戸惑うも、そのキャラに高揚感を覚えてくる。

【いいぞー!!もっとやれぇー!!】

【次はどうするんだー!!】

 

拘束されている発目は次のアイテムの実演に入る。

「もし逆に捕縛系の敵が現れたらどうするか!それは!!」

 

シャキ――ンと金属がこすれる音が聞こえたかと思えば縄が切られている。発目の体からは小型のナイフがいくつも飛び出ていた。

 

「1人に1つ、ナイフアラウンド!隠しスイッチ一つでどこにでも跳びだすナイフはどんなときにも役立ちます!!」

 

大根演技で諸手を挙げベンは言う。

「ナ、ナンテコッター!!コレハカウシカナイヨ――!」

 

こんな茶番が三分と続く。そろそろ宴もたけなわ。残るアイテムはたった一つ。それは初めて発目が開発したアイテム、太陽光充電式光線銃。それを最後に残したのには理由がある。

 

発目はベンに目配せをする。その意図を理解し、ベンは動きを止め、ウォッチをいじる

 

「こうなったら!変身だ!」

QBAANN!

 

【おお…!!確かあいつは…】

 

見覚えのある姿に観客たち歓喜する。それも仕方ない。障害物競争をあり得ない方法で1位になった姿なのだから。

 

黒緑白ののっそりとしたベンをなぜか発目が説明する。

 

「彼はアップグレード!その能力は機械の改良です。そんな力を持った彼に渡すのはこれ!なんでも破壊一号!!」

 

取り出した銃を投げて渡す、かと思いきや丁寧に両手でベンに渡しに行く。それを“どうもどうも”と言わんばかり受け取るベン。

 

「では、これで最後です!!彼に渡したのは一号!そしていま私が手にしているのは5号機!彼の改良力と私の改良力!どちらが強いか勝負です!!」

 

そう言い終えるとエネルギーの充填を始める発目。対するベンも銃に入り込みアップデート開始。グニャグニャガシャガシャと形容しがたい変形をしていく。

 

「準備オッケー!!」

 

「では、皆さまご覧ください!!3,2,1ファイヤー――!!」

 

DOUUUUUUNNN!!!!

 

 

ベンにより改良された一号。そして発目の改良を重ねた5号。両者の銃からは其のサイズに見合わない光線が発射。互いをとらえてから2秒ほど拮抗する。赤と黒の光線は互いを飲み込まんとし、次元をも歪める。ほどなくして光線は互いに相殺し完全に消えてなくなる。

 

アップグレードと発目。勝敗は…引き分けに終わる。

満足げな顔をして彼女は観客に語り掛ける

 

「皆さんどうでしょう!!彼の改良力は障害物競走でも見た通り!しかし個性なしで私はそこに到達したのです!!この開発力は誰にも負けないことでしょう!!どうか!この私、発目明をよろしくお願いします!!」

 

深々と礼をして場外へと飛び降りる。こうして、前代未聞の実演個人戦は幕を閉じた。

【しょ、勝者、テニスン君】

「やったぁ!!」

 

その後、試合は順当に進んでいった。8試合の轟vs瀬呂ではいら立っていた轟によりコールド負けを喫した瀬呂。会場の者からドンマイコールを受けたが、そんなものでは彼の心は温まらないだろう。

 

二回戦が始まる。二回戦一試合目の爆豪vs切島。こちらは同じ騎馬同士、互いのことをかなり知っている仲での勝負。切島の思惑を見抜き、持久戦に持ち込んだ爆豪が危なげなく勝利した。

 

そして、

 

【さあ2回戦第2試合!このまま優勝目指して突っ走るか?緑谷!

 対するは騎馬戦では見事なリーダーシップを発揮!個人戦はどうだ?拳藤!!互いに 武闘派!楽しみな試合だ!!READY STTAAAART!!】

 

OFAにより全身が強化される緑谷。対するは拳のみを巨大化できる拳藤。その戦いはおそらく緑谷有利。そのことを理解している拳藤は自分から攻める。

 

そんな彼女に対して遠距離で行くか近距離でいくか考える。

(デラウェアスマッシュで決まらなかったら骨折した指で戦うことになる。そうなったらパフォーマンスが落ちて動きも鈍る。ここは、勝負に乗る!!)

 

向かってくる彼女に対して放つのは

 

デトロイトスマッシュ!!

 

もちろん5%。だがそれでも常人には十分な威力。敵が巨拳化する前に懐に潜りこみ撃つ。相手が女性だろうと関係ない。此処に立っている時点で皆等しく敵なのだ。

 

その認識は拳藤にも伝わる。

 

「うれしいね!本気で相手してくれるなんてさ!!」

 

GAASHHII!!

 

「っ!」

 

緑谷のパンチはその巨大な手に阻まれていた。

(なんで!?確かにとらえて…!?そうか!!ガードの直前まで普通の手で、インパクトの瞬間に巨大化したのか!)

 

「正解!!それに、防御だけじゃないよ!!」

 

体ほどある大拳をふるう。たったそれだけで緑谷の体は吹き飛ぶ。フルカウル発動中とはいえ、攻撃そのものが大きいため躱しきれない。相手の動きをいなしながらも状態を確認する緑谷。

 

「ぐっ!」

(拳藤さんへのダメージは…くそ、入ってない…少なくとも拳が大きくなってるときにはガードも固くなるみたいだ…!じゃあどうする…100%?さすがに危なすぎる…)

 

次の手を考える緑谷。なまじ100%が打ててしまうため、威力をどの程度にするか考え込んでしまう。

 

「ほらほら!考えてる暇ないよ!!」

 

今度は掌を大きくしたままはたく。ただ振り回すだけでも脅威な攻撃は、一発一発が文字通り重く、ガードしていてもダメージは蓄積していく。5%で応戦するも大拳にはかなわない。

 

【おおっとぉ!!これは予想外!!まさかの拳藤優勢!!そのパワーは緑谷まで防ぐのかぁ!!??イレイザーはどうっ…ていないし…まあいいや!このまま行っちまえ拳藤!!女子が優勝は今までもあんまりなかったからな!正直応援しちゃうぜ!!】

 

実に偏向な放送。普段なら相澤が止めるが今は席を外している。

 

だが緑谷もこのまま終わるような人間ではない。

 

彼女が振り終えたところに特攻を仕掛ける。いまからじゃ巨拳は間に合わない。其の隙を狙っていく。がその考えの緑谷の頭を拳藤の足が捉える。

 

「かっ…!!?」

 

「手だけと思った?あたしは拳法ヒーロー目指してんだっての!!」

 

拳藤のハイキックは緑谷のこめかみを打ち抜き、大ダメージ。足がふらついたところを再び大拳で乱打。徐々にフィールドの端に追いやられていく。

 

(どうする…!!このままじゃジリ貧…!!どうにかしてまずは抜け出さないと…!この拳の大きさなら僕が見えにくいはず…ハッ!!)

 

防御しながら頭を回す。先ほどの攻撃で普通の人間は思考することもかなわないのだが、誰よりも“考える”ことに時間を割いた彼は違う。

思い出したのはUSJでの出来事。悪魔のごとき力を持ったケビンに対して勝てたのはなぜか。それはひとえに…不意をつけたから

 

(一瞬でいい…!!攻撃の隙間に仕掛ける…!!…今だ!!)

 

足からOFAの光があふれる。

拳藤が大きく振りかぶり、そして振り下ろした瞬間、緑谷はそのビンタ地獄から脱出する。脱出先は…上。

 

10%での跳躍。オールマイトのごとく上空、とまではいかないまでも建物3階分ほどの高さまではいく。ケビンの時とは違い、飛ぶ瞬間は見られてしまった。だが、問題ない。

 

「見えてるっての!!‥っ!?」

 

上から落ちてくる緑谷に合わせて迎撃を目論んだ拳藤。がそれは叶わない。大きくした拳を振り上げることにはそれなりの時間を食う。もし上空からの攻撃ならば持ちあげる時間の取れたが如何せん、緑谷はもうすぐそこにいる。

 

そうなると普通のサイズで頭に持ってきて、そこで巨大化し防御するしかない。それは騎馬戦のとき、爆豪からの攻撃を防いだ時に見せた型。

 

だが、それが通用するのは己が耐えられる威力の攻撃のみ。

 

(OFA8%!!!!)

ワイオミングスマッシュ!!

 

拳を固め、肩、ひじ、手首の順に振り下ろしていく。

左手に落下エネルギーをのせてからの鉄槌。おそらく腕での攻撃では一番力が乗る形の攻撃。多少耐えるも…その防御は破られ、拳藤はもろに食らう。

 

「ぐっ…ハッ…」

 

最大ガードを破られ、足がふらつきしりもちをつく。その場所は

 

【拳藤さん、場外!勝者、緑谷君!!】

 

勝負が決まる。

 

「よしっ!!」

 

ガッツポーズ。右手を握りしめる。3回戦進出。あと2回勝てば優勝。それに気づいた彼はある観客席を見据える。その先には爆豪。こちらを一瞥しすぐに目をそらした爆豪だったが、その意図は伝わっただろう。

(かっちゃん…)

 

試合場を下りた緑谷は、後ろから声を掛けられる。その声主は

「あーあー負けちゃった…!」

 

拳藤。先ほどのダメージは残っているようで少し足つきはおぼつかない。少しふらつきながらも緑谷とともに会場を出る。拳藤の顔からは悔しさがにじみ出ていた。が、すぐに切り替え、笑顔で話す。

 

「悔しいなぁ!格闘系で負けたくなかったんだンけど…それに、ベンが見てただろうし…!!」

 

「ベン君?」

 

意味深な言葉に思わず聞き返す。

 

「そう、アイツに負けるとこのみられたくなかったんだけどなぁ…」

 

(そそそそそれって…もしかして‥!?)

色恋に疎い緑谷でもわかる拳藤の発言。が、それは恋愛ではなく兄弟愛。いや、兄弟ではないのだが…姉たるもの弱みは見せたくないのだろう。

 

「あれ?そういえばベンは?観客席にいなさそうなんだけど…」

 

「あれ?確かに…そう言えば相澤先生も…」

 

「「あ!?」」

2人は気づく。今ベンがどのような状況なのかを…

「いいかテニスン。お前がやったことは八百長といってな?りっぱなルール違反だ」

 

「ルールには違反してないだろ!?それにヒトシだって似たようなもんでしょ!」

 

「あいつはグレーゾーン。お前は真っ黒だ。次からはしないように」

 

「…」

 

「…返事は?」

 

ギリギリ

 

「そ、それ(捕縛布)で首絞めるのだけは勘弁…してよ」

 

こってり絞られ、縛られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・何気にアップグレードめちゃくちゃ出てるな…なんでもできるし便利なんだよなぁ…

・前回とベンのギャップはすごい気がする。まあ基本は悪ガキなんですよ。悪知恵もはたらくし。

・試合結果はまじで端折ってますね。試合内容は考えているんですが、それも書くと体育祭編で100話とか言っちゃうんで(笑)。あと作者の技量の問題もある。なんならそっち方が大きい。

   一回戦     二回戦
 ×麗日vs爆豪〇   〇爆豪vs切島×
 〇切島vs芦戸×  
           〇緑谷vs拳藤×
 〇緑谷vs心操×  
 〇拳藤vs耳郎×
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 〇テニスンvs発目×  テニスンvs飯田
 〇飯田vs常闇×

 ×上鳴vs八百万〇   轟vs八百万 
 〇轟vs瀬呂×


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43話 ベンvs飯田

試合内容考えるのが難しい(笑)。ベンのエイリアンは能力そのものは単純かつ鬼つよなんで生徒と拮抗させにくい。かといって全部圧倒的勝利は味気ないし…今回はまあ、うんしょうがない。

ということで更新が若干遅れてしまうかもですが、よろしくお願いします!!



雄英体育祭会場の一階、選手入場口は、試合を控えた者、または試合を終えた者だけが通る。第一回戦を勝利で終えたのに相澤から指導を受けたベンは、首を擦りながらフィールドへと向かっていた。

 

その道中、廊下で彼に話しかけてくるものが一人。ゴーグルを頭につけ背後から声をかける。

 

「テニスンさん!!!」

 

「うわっっ!!??って…メイか…そういえばお前のせいで先生にめちゃくちゃ怒られたんだぞ!!」

 

「そうですか!まあそれはおいといて…あなたのサポートアイテムの予備ってないんですか!?」

 

指導によりクビが赤くなっているベンの様子には気にも留めないで、自分の用事だけを伝える。その態度にベンは良い思いをしないが、質問の方が気になる。

 

「どういうこと?なんでオムニトリックスが?」

 

「ああ、オムニトリックスというのですね!それはですね…あなたのその時計は今までにはないタイプのサポートアイテムだからです!ぜひ一度ぶんか…調べさせてほしいともいまして!」

 

「今分解って言ったよね!?絶対だめだよ!これは一つしかないし!」

 

周囲には“ベンの個性をサポートする時計”ということにしているが、実際にはオムニトリックスの力でベンは変身している。さらに時計の出自は不明。おいそれと貸せるものではない。

 

「そうですか…でもでも、体育祭が終わった後!少しだけでも研究させてもらえませんか!もしかしたら性能を上げることもできるかもしれません!!考えておいてくださいねーー!!」

 

手を振りながら観客席に戻っていく発目。もちろんベンは貸す気はない。だが、発目の言葉で気になる点があった。【性能アップ】。今までオムニトリックスは変にいじったりはしてこなかった。それは変身機能が壊れてしまうことを恐れていたから。だが…あの夏からほぼ1年経ち、その意識は薄れてきた。

 

「…なんか変身以外の機能もあるのかなぁ…」

 

キュルキュル、ガチャガチャとウォッチをいじる。次が試合の為と歩きながら様々な動作を確認していく。どうやらオムニトリックスは、ダイヤルと変身ボタンは別パーツで出来ているよう。ならば、ダイヤルに何かほかに機能があるかもしれない。

 

前も見ずに時計に夢中になっているベンは、角を曲がったとき誰かにぶつかる。

体格が不利なベンは当然しりもちをつく。相手はあわてて謝る。

 

「あ、ごめん!って…ベンか!」

 

「痛ったた…なんだよイツカ。それにイズクも」

 

ベンにぶつかったのは拳藤。そして彼女に勝利した緑谷だった。ちょうど試合を終え、帰っている途中だったらしい。

 

「大丈夫?ほら手貸しな?」

 

倒れているベンにやさしく手を差し伸べる彼女。だがその態度がベンの勘に触ったらしい。

手を払いながらスックと立ち上がる。

 

「いいよ、そういえばどっちが勝ったの?」

 

「…あたしの右にいるやつ」

 

「あはは…」

 

遠慮がちに笑う緑谷。対照的に大笑いするベン。

 

「何だよイツカ!イズクに負けたのかよ!!」

 

指をさして大笑いするベンにさすがの拳藤も青筋が浮かび上がる。指さすベンの背後に回りそのままヘッドロックをかける。

その様子をみて慌てる緑谷。

 

「ちょ…!きょ、距離が…!!??」

 

「ほら、ベン!!謝りなさい!!」

 

「痛い痛い!!さっきクビやられてんだよ!!ごめんなさい!!」

 

すぐに謝るベンをかわいく思いながら技を止める拳藤。

 

「まったく、あんたは…」

 

「…うるさいな筋肉女…」

 

「なんて!?」

 

とにかく拳藤に反抗するベン。まあ同級生なので反抗も何もないのだが…

 

緑谷は話題を変えようと、先に気づいたことを言及する。

 

「そういえばさっきオムニ…時計をいじってたよね?どうしたの?」

 

「ああ。なんか新しい機能とかないかなって思って」

 

オムニトリックスの内情を知っている緑谷。その行為はベンが能力を失う可能性を孕んでいることに気づく。しかし…拳藤がいる為伝えることができない。

 

ウォッチが個性の役割を果たしていることを知らない拳藤は率直な意見を言う。

 

「アイテム作った会社の人に聞けばいいじゃない…って、あんた次試合でしょ!早くいかないと!」

 

ベンの背中を押し急かす。ハイハイと言いながらも未だウォッチをいじるベン。そんな彼を見ながら緑谷は心配する。

 

(あんまりいじらないほうがいいと思うんだけど…ウォッチの出どころもわからないんだし…)

 

【第2回戦はテニスンvs飯田!!両者ともに家系にヒーローがいる試合だぁ!!アメリカンヒーロ―の血を担うテニスンか、それとも日本で代々ヒーローを務める飯田家。どっちが勝つかは見当がつかないぜ!!】

 

紹介に預かり、フィールドに上がるも未だウォッチをいじるベン。対してベンの対策を考える飯田。

(テニスン君の弱点…それは時計を介さなければ変身できないところ。どういう個性なのか具体的にはわからないが…変身する前に場外に出せば勝てる!)

 

「あ~なんか全然わっかんないなァ…そもそもボク機械とかいじったこと無いし…グレイマターならわかるんだろうけど…変身したらオムニトリックスはなくなるし…」

 

【レディィィスタ―――ト!!】

 

「へ?」

 

(一瞬で決める!)

「レシプロターボ!!!」

DRRRNNNN!!!!

 

長期戦ではなく短期決戦。恒常的な高速より10秒の超速を選択した飯田。一瞬で間合いを詰めベンへと蹴りを打ち込む。もちろん避けることは不可能。そして防御もできない、のだが、もともとウォッチをいじっていたベンの手は胸元にあり、飯田はそこに蹴りこんでしまう。

 

「うわっ!!」

飯田の足がオムニトリックスを捉え、

 

GQBAANN!!

 

フィールドギリギリまでXLR8が吹っ飛ぶ。

 

「痛ったいなぁぁ!!テンヤ!こっちも容赦しないぞ!!」

 

偶然にもXLR8への変身を遂げたベン。その姿を見て苦虫をつぶした顔になる飯田。

 

(っく!変身させてしまったか!だが、あの姿は確かスピードタイプ!不幸中の幸い!その分野なら今の僕は、負けない!!)

 

【おおっとぉ!!テニスンは新しい姿に変身!!アイツは…!!なんだ?】

 

XLR8は初めて見るマイク。その説明は相澤に任せる。資料と己の記憶を頼りに説明する相澤。

 

【奴は…XLR8…てっ名前らしい。その能力は超スピード。まあ走るのが速いな】

 

【ってぇことは飯田と同じタイプか!?こりゃおもしろい試合になりそうだ!ヒィィィィヤ!!!】

 

【…】

 

アナウンスが解説を終える前に飯田は再び仕掛ける。エンジンは不規則を音を立て己を動かす。自分でも制御しきれないその速さでベンを討つ。

 

もう一度近づき右足を振り上げたその時、XLR8の姿が消える。

 

「なっ!!?」

 

「こっちだよ!」

 

背後から聞こえる聞きなれない声。急いで振り向くとそこには人型の青い恐竜。どうやら躱されたらしい。ならばと先ほどの蹴りをもう一度狙う。今度は確実にあたる。が、彼の足はその青き姿を通り抜ける。

 

「ざ、残像…だと!?」

 

「ほらほら、どこ蹴ってんだよ。せっかく止まってやってるのに!」

「ぐっ!」

 

ぶんぶんと足を振り回す。その場にとどまり蹴りを放ち続ける姿は滑稽なものに見えるかもしれない。だが、観客はそう思わない。なぜなら観客からも、XLR8を捉えているように見えるからだ。

 

何度も残像に蹴りを入れる飯田。そんな飯田の後ろに常に回り続けるベン。超スピードで移動し続けているXLR8は観客からは幾人にも見えているのだ。テレビで体育祭を見ているもののなかには【残像を出す個性】と勘違いした者さえいる。それほどXLR8の速さは驚異的であった。

 

無残にも10秒が立ち、レシプロが切れる。自身の必殺技を見事に破られ焦る飯田。だが、まだ勝負は終わっていない。フィールドの中央に立ち、ベンへのカウンターを狙う

 

(確かに彼のスピードは僕を上回っていた。だが!!彼のパワーでは僕を場外に追いやることは難しいはず!姿を見せたところをつかんでパワー勝負に切り替える!)

 

飯田の読み通り。XLR8にはパワーがなく体重も軽いため、制圧力そのものは高くないように思える。だが…1年もオムニトリックスでオールマイトらと遊んできたベンにはその対策もできている。

 

「テンヤ!!攻めてこないのか!!」

 

「…君はそうやって僕を動かせ場外にしたいんだろう?僕はこの中央からは動かない!」

 

超スピードで駆け回ることで目視できないXLR8。そんな見えない彼からの言葉を挑発と受け取り、それには乗らない飯田。ここで、ベンは仕掛ける

 

「テンヤは遊園地好き?」

 

「は、はぁ?な、何を言ってるんだ君は」

 

「今からテンヤが味わうのはエクセラレータイフーンさ!!」

試合中にもかかわらず上機嫌なベン。その言葉に疑問を持ちながらも警戒する。

 

徐々にXLR8の姿が見えてくる。それはスピードを落としたのではなく、走るルートが一定化したため。

 

飯田を中心として半径5メートルの円を描き、猛スピードで駆け回る。

 

観客は彼の見え方に首を傾げる。はじめはXLR8が走る姿。次は2体、3体と徐々に分身しているように見えてきた。そして最後には飯田を取り囲む青い円壁が出来たからだ。

 

【な、なにしてるんだぁテニスン!!飯田の周りをぐるぐると回っている…のか?ただ青い円壁ができたように見えるからぶっちゃけわかんないぜ!!】

 

その壁の中にいる飯田ももっと混乱する。自分に近づいてくるわけでもなく、ただただグルグルと回るベンに苛々する。

 

「テニスン君!!一体何をして…」

 

そこで気がつく。徐々に自分の体は軽くなっていることに。いや、そうではない。

 

(浮いている!!?)

 

飯田の体が浮き始めたとき、青い円壁は縦に伸び、あるものの似た形となっていく

 

「言っただろ?タイフーンだって!!これが俺の必殺技、ケネットサイクロンさ!!」

 

XLR8が超スピードで円を描くことで青い竜巻が完成する。そして飯田は竜巻の中心に位置している。最初は浮いていただけだったが、もうそれどころではない。乱れに乱れる風の中で、ただ風に飲まれる彼は身動きが取れない。自慢のエンジンはエンストを起こしており、たとえ起こしていなくても足場のない彼には手も足も出ない。

 

BBRROOOWW!!!

 

最後にベンが加速すると飯田は竜巻から放り出され、場外へと墜落。その場外先は…

 

「あっぶな…」

 

「…すまない、麗日君」

 

観客席であった。幸い吹っ飛ばされた先には麗日がおり、彼女の個性で衝撃は0に抑えられた。そして

 

【飯田君場外!!テニスン君、3回戦進出!!】

 

「へーい!!最強のヒーローは

 

Pi GQBBAANN!!

この僕だぁ!!」

 

その後、轟vs八百万戦では危なげなく轟が勝利を収めた。そしてベスト4は爆豪、緑谷、ベン、轟の4人に決定した。

ベンが観客席に戻ると、飯田、麗日がともに観戦していた。ベンの姿を見ると飯田は顔を挙げ笑顔で手を差し出す。

 

「さっきはありがとう。正直悔しいが、スピードだけに甘んじてはいけない、ということがわかったよ。僕より速い奴なんでたくさんいる。そう思えた」

 

「あったりまえじゃん。まあXLR8より速いやつはいないけど。オールマイトよりも速いし」

 

実際は勝負したことが無いのでわからないが、ベンは本気で勝てると思っている。ベンの発言を真に受けた麗日は口に手を当て驚く。

 

「そうなん!?だとしたらベン君の個性やばいね!速いしパワーもあるし、それに脳無にも変身できるし」

 

「そう言えばそうだったな。君の個性は一体どんな個性なんだい?変身と言っても幅と深さが尋常じゃないと思うんだが…」

 

飯田からの問いかけに、返答に困るベン。言われてみればオムニトリックスの力は【個性】の範疇を超えている。おそらく今のベンの万能さはトップヒーローをもしのぐだろう。陸海空、力、速さ、硬さ、感覚、意外性。どれをとっても一番である自信はある。

 

そんなものがなぜ空から。らしくない考察に耽り、ふとウォッチを見る。そして異変に気付く。

 

「ああああーーーー!!!」

 

【さあついに準決勝!!残すところあと3試合!!まだまだやっていたいが仕方ない!何事にも終わりは付きもんだぁ!!】

 

選手が入場する。

 

【優秀なのは間違いなし!!今回も圧倒的な力でここまで来た!だがその素行に問題ありか!?個性、爆破、爆豪勝己!!!】

 

「誰が素行不良だぁ!!ちゃんと注意してるわ!!」

 

【対するはチーム戦では全員の力を引き出して勝利!己を力と他人の力、その両方をしっかり調べる分析家!今回は爆豪のデータを取れてんのか?!個性、超パワー、緑谷出久!!】

 

「分析家だなんて…」

 

紹介が終わり登壇する。そして互いの目をじっと見つめる。幼馴染であるのも拘わらず【話し合い】をしたことがない彼ら。無個性ゆえに自信も力も持てなかった緑谷とその反対の爆豪。彼らが分かり合えることはおそらくなかったのだろう。

 

だが、

 

「デクゥ…本当にここまで来るとはなぁ」

 

予想はしていた。高校生になり急に開花した個性。それを携え授業では自分にも勝ったのだ。有象無象に負けることはあり得ない。だが、15年の蓄積が彼にその事実を認めさせてくれない。

 

「お前は…なんでかしらねぇけど力を持ったらしいな…」

 

「かっちゃん…」

 

「周りにはなんもねぇ…完全な1対1…自分の力だけの勝負…ここで証明してやるよ」

 

「…なにをさ」

 

「俺が…!!お前より!上だってことをだよぉぉぉ!!!!」

 

【レディィィ!!!ファイト!!!!】

 

 

 

 

 

 




・オムニトリックスの異変。まあすぐに治る予定ではありますが…轟戦までには治らないでしょうねぇ…

・オムニトリックスマジ兵器やん…よく原作のベンいじりまわしてたな。

・次回は緑谷vs爆豪です


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44話 幼馴染対決

今回は緑谷vs爆豪!割と中身は悩みました。展開速い!…かもしれませんが長すぎるのもなァ、と思い、一話でまとめました。

長くてすみません!


マイクのアナウンスをもって戦いの火ぶたは斬って落とされる。

 

フィールドには何もなく、ただコンクリートの地面が広がっている。天性の“個性”と継承せれた“個性”のぶつかり合い。緑谷にはその個性がないと思っていた爆豪も、ここまでの彼を見てその認識を改め分析する。

 

そして先手必勝。作戦を一瞬で思いつき仕掛ける。

 

彼の個性は【爆破】。手からニトロのような汗を出しそれを爆破させる。もちろん直接当てればその威力は倍増する。だが、当てなくとも強いのが爆破。少しだけ移動してからの片手爆破。

 

「おらおらおら!!」

 

BOMBOOMM!!!

 

其の予想に反し、緑谷に近づかない爆豪。緑谷の間合いを外し、己の攻撃のみが通る距離から狩る。近距離と中距離の間からの爆破に緑谷は驚く。

 

(かっちゃんが距離を詰めない!?今までのかっちゃんなら直接僕を殴りに来るのに…!!このままじゃ…)

 

【おおっとぉ!!!爆豪!!緑谷に何もさせずに一方的な攻撃ぃ!!】

【緑谷は基本的に近距離専門だろうからな。個性上仕方がない。それに対して近、中、遠、全てのレンジで戦闘できる爆豪は自分でその間合いを選べる。相手の苦手を着くのが本当に上手だよ、アイツは】

 

文字通り手も足も出ない緑谷。そんな彼がとる手を爆豪は予想している。爆破の嵐の中中指を親指で抑え、

 

SSMAASSHHH!!!

「ちっ!!!」

 

強風が爆豪を襲う。風と反対方向に爆破を打ち場外を免れるが多少後ずさる。風圧の発生源を辿るとそこには指を痛めた緑谷の姿。

 

「ぐっ…!!」

 

「そうだよなぁ…この距離でお前ができる攻撃はそれしかないよなぁ!!」

 

腕を前に構えて両手を爆ぜる爆豪。続けて中距離攻撃を続ける。直接攻撃ができない緑谷には自損攻撃のデラウェアスマッシュしかない。そのことを爆豪は心操戦で察していた。歯を食いしばりながらも迎撃する緑谷と安全圏からの攻撃を繰り返す爆豪。どちらが優勢かは火を見るより明らかである。

 

観客席で見ている切島、飯田、麗日はその戦いを評す。

 

「うお!!爆豪のやつ容赦ないな…!」

「ああ、緑谷くんはあの強力なデコピンでしか対応できない。しかし、その残弾はまだ無事な指の数だけ。すぐに撃ち切ってしまう…」

「デクくんは何で距離を詰めんの?足の速さは爆豪君にも負けんのやろ?」

 

そう。今の緑谷はフルカウル5%、集中して一瞬ならば10%まで出力できる。だが、距離を詰めようとするたびに強爆破を打ち込んでくるため、近づくに近づけないのであった。騎馬戦で見せた、反射神経のみを向上させる“OFAセンススタイル”もこの状態では役に立たない。

 

「このままじゃ緑谷はジリ貧だぜ…ところでテニスンはどこ行ったんだ?さっきまでここにいただろ?」

 

「ああ、彼は何かを探しに行ってたよ。何やら大切なものを落としたらしいが…」

 

「マジかよ…って、もう緑谷の指が…!!」

 

彼らが話している間も続いていた爆豪の猛攻。それら全てに対応していた緑谷の指は、もれなく折れていた。茶色く痛々しい傷を負ったその指を見てニヤリとする爆豪。その額には汗がにじみ出ている。

 

「っはぁ、はぁ。打ち止めらしいなぁデク!所詮お前の個性はその程度なんだよ!!ちょっとばかし動けようが、オールマイトみてぇな皆を助けるヒーローなんざ成れねぇんだよ!」

 

ピクっ

 

「ずぅぅっとわかってたことだろ!?てめぇじゃ俺を超えられねってことを!!!」

 

なにもできない緑谷には十分の爆破。その爆破が緑谷に到達する直前、緑谷から怒気があふれ得る。静かだが、確かな怒り。

 

「だからなんだよ」

 

SMMMAAASSHH!!!

 

有り得ないはずの一撃。緑谷の指は間違いなくデラウェアスマッシュにより折れていたはず。飯田らはそう考える。そう、間違っていない。緑谷の指は全て折れ曲がっている。間違いだったのは観客や先生含めた緑谷への理解。

 

左目には涙を浮かべ激痛に顔をゆがめる。それでも、その痛みに耐え、緑谷は一度使った指でデラウェアスマッシュを打っていた。その代償は、骨折では済まない指の損傷。

 

痛む指を握り締める。ギシキシと嫌な音を立てる。骨が砕けていく音だ。それでもデクは語る。

 

「君がどう思っていようと関係ない。僕だけじゃない…お母さんやベン君そして」

 

頭に浮かぶのはあの日の出来事。心の底で諦めかけていた夢を、憧れの人から認めてもらった。自分の、原点

【君は、ヒーローに成れる】

 

「言ってもらったんだ…!!僕はヒーローに成れるって!!その人たちのためにも、勝ちたいんだ…!!」

 

涙を浮かべながら切れるその顔。知っていた。こいつは誰がために動く時に力を発揮すると。その時に自分のことは勘定に入れていないと。だからこそそんな緑谷が、デクが、

 

「気持ち悪いんだよぉォォォ!!!!!」

(遠距離を続けても試合が終わんねぇ…!どころか俺の爆破が先に限界を迎える可能性もある!こうなったら…)

 

爆速ターボで間合いを一瞬で詰める。懐に入ると同時に点火。緑谷のみぞ落ちを狙い殴打。爆発を伴うパンチは、痛みで対応が遅れた緑谷を浮かせる。

 

「っぐは…!」

 

一瞬白目をむき意識が飛びかける。胃液が逆流しそうになる。だがそれでも目に据えるのは幼馴染。フルカウルで踏ん張りを利かせ、カウンターを狙う。

 

「デトロイトスマッシュ!!」

 

顔面を狙った一発。顔を反らし直撃は避ける。が、通った右腕は自分の頬に切り傷を入れる。その力は下手をしたら自分をも超えているかもしれない。そう考え一瞬たじろぐ。其の隙を見逃さない。

 

後ろを引いた爆豪を待っていたのはパンチの嵐。右、左、右、左。交互に繰り出させるパンチは体勢を整えるどころではない。何十発ものOFAの拳が彼を撃つ。何発かは顔に食らい鼻血を出す爆豪。それでも攻撃の手は緩めない。

 

RASHRASHRASH!!

 

「ぐっっかっ‥‥くそがぁぁ!!」

 

爆豪は理性を欠き攻撃を仕掛ける。その攻撃は右の大振り。あいにくその対策は数か月前にされていた。

 

爆豪の腕を腕を取り、叩きつけるのではなく思いっきりぶん投げる

「ランクシャースマッシュ!!!」

 

場外を狙ったその放り投げ。だが、爆豪には場外負けはほとんどない。空中へ放り出された彼は騎馬戦同様、爆破による身体制御でフィールドへ戻る。

 

フィールドに戻った彼は、緑谷の攻撃にいら立つ。

 

「…最初っからてめぇはよ…場外ばっか狙ってんじゃねーか…手加減してるつもりかぁ!!?本気で攻撃したら危ないってかぁ!!?なめてんじゃ…ねぇぞぉぉ!!!」

 

右手と左手。その両方を順に爆破させ自らを回転させていく爆豪。ホイールを彷彿とさせるその動きはまさに火炎車。フィールドの端から緑谷に突っ込んでくる爆豪。緑谷は真正面から迎撃しようとする。

 

「デトロイ…」

 

が、爆豪は最後の爆破を下に向け空中へと移行。そしてすぐさま下降し緑谷の背後を獲る。

(まずい!?防御を…!)

 

BOMB!BOMMBOMM!!

「お!せぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

《b》《SMACK!!/b》

 

爆破で加速させた腕での強烈な鎌拳。遠心力も相まって緑谷の横腹を見事に穿つ。痛みに顔をゆがめる緑谷だが、爆豪は攻撃の手を緩めない。吹っ飛んでいく緑谷に追撃。両の手を紅く染め上げ放つのは

 

「最大火力…!!だぁぁぁぁ!!!」

 

「負けるかよぉォォォ!!!!!!」

 

爆豪の必殺技に対して打つのは100%デトロイトスマッシュ。体勢は悪いが今の自分の最強の攻撃。その威力は爆豪の奥義に引けを取らない。互いの最高の技はせめぎ合ったのち相殺し、両者はフィールドの端へと転ぶ。ダメージは築盛しており、2人は足ることすらままならない。

 

所変わって、探し物をしているベン。自分が通った道をたどっていくうちには試合入場口付近へとたどり着く。そこは本来、選手のみが立ち入れる場所。であるにも拘わらず、試合にかじりついている中年を見つけた。

 

「何してんの?オールマイト」

 

「いやこれは…t、ってテニスン少年か…君こそどうしたんだい?」

 

「いや、ボクはちょっと…それより、こんなところでなに見てんの」

 

「…爆豪と緑谷少年の戦いさ」

 

「カッチャンとイズク?どっちが勝ちそうなの?」

 

「わからない…少し前の爆豪少年なら、あるいは少し前の緑谷少年なら結末は予想できたんだが…今の二人は全く予想できないよ」

 

「はぁ?何いってるか全然わかんないよ。試合はっと…うわっ!?イズクのやつどんだけ怪我してんだよ!?カッチャンも鼻血出してるし…なんでここまでやんの?意味わかんないんだけど。2人とも頭おかしいんじゃないの?」

 

「テニスン少年、口が悪いぞ?…2人の因縁は私も少ししか知らない。だが、その戦う理由はわかる。爆豪少年はその自尊心のため、緑谷少年は…私や君の為…な気がする」

 

それを聞いてさらに不可解な顔をするベン。自分のために爆豪と戦い血を流す。その行動を理解できるほどベンは大人ではなかった。そして、そういった関係の者もいなかった。

 

「ボクよくわかんないや」

 

「君もライバルが出来たらわかるさ…とは言ってもあの二人はもっと歪な関係だがね…」

 

ふーん、と興味がなさそうに答えるベン。この2人と戦う可能性があるにも拘わらず、あくまで他人事だ。緑谷とも去年からの付き合いだが、ここまでの戦い、そして緑谷の激昂はない。初めて見る緑谷の顔にはなにか言い知れない悪寒がした。

 

「あ、イズクが先に動いた!」

フィールドの端で息を切らし倒れていた2人。先に立ったのは攻撃を受けていた方の緑谷。

役に立たない腕を引きずりながら爆豪へと走り、そして跳びあがる。

 

(今日、優勝して…みせるんだ!そして世間に叫ぶ…!“僕が来た”ってことを!!)

 

地面を蹴る音がする。先にデクが立った。その事実が彼の心を揺るがす。だが、心が揺れたおかげで炎はともる。

 

節々が悲鳴を上げるも手を着いて立つ。

 

(お前は…昔っから変わらねぇ…!!だから気持ち悪い!だから勝たなきゃならねぇ!だから…)

 

「てめぇは俺より下だぁァァ!!!」

 

緑谷に負けないよう爆豪も個性で飛ぶ。空中戦。それに慣れているのはもちろん爆豪。4歳で個性を発現して、長い間使い続けた個性はもう呼吸と同じように、意識せずとも使える。

 

 

両手を壊しもうまともな攻撃ができない緑谷への一撃を画策する。跳びあがった緑谷のさらに上。最大威力が出るように自分の手が届く距離。握りしめようとも握れない拳を携えた緑谷へ、掌底を叩きつけながらの爆破。

「そんな個性よりも、俺のがずっとつぇぇんだよ!!!」

 

爆豪が覆いかぶさるように攻撃してくる。手を暑さを感じられるほどの距離の緑谷。肝心の拳は動かない、握れない。爆豪もそれに気づいている。だが爆豪が気づいていることに、緑谷は気づいていた。

 

『まあそれでもまだ私を追いかけすぎているところもあるが、いずれそこも変えていこう!』

『手だけと思った?あたしは拳法ヒーロー目指してんだっての!!』

 

(ただ意味もなく飛んだわけじゃない…!使えない手を使い続けたのだって!すべては…!この一撃のために!!)

 

爆豪の手からニトロが噴射される。真上からの0距離爆破。その攻撃は緑谷の頭部へ。もちろん痛い。だがその攻撃しているときならば、どんな反射神経の爆豪でも反撃不能なはず。イメージするのは前の試合に食らった拳藤の蹴り。

 

今の自分に最適な形にカスタマイズして放つのは新しい技。

 

「セントルイス…スマッシュ!!!」

 

上に覆いかぶさる爆豪へのオーバーヘッドキック。オールマイトのフォロワーである緑谷からは予想外の蹴り。彼は思い出す。ケビンの時での緑谷を。だが彼の体をメキメキと言わせるその足技を止めることは叶わない緑谷の足は爆豪のガードを破り、その勢いのまま爆豪を墜落させる。

 

そして両手を痛めた緑谷も受け身を獲れずそのまま地面にぶつかる。骨の折れる感覚が頭に刻み込まれる。

 

動かせる首を上げるとそこには目をつぶった爆豪がいる。彼のためにも、自分のためにも立たなければ。額から流れる液体は血か汗か。その確認をする体力すらないが…目を霞ませながら、彼は勝利のスタンディング。

 

【爆豪君戦闘不能!緑谷君、決勝進出!!!】

 

幼馴染の戦いは、ここでいったんの決着はついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・今回は原作の轟vs緑谷、緑谷vs爆豪(14巻)を組み合わせて書いた感じです。読者さんからみて作者は爆豪嫌いに見える?どうですかね?

・次回、ベンvs轟。どんな展開にするかまだ決めてない…まずいぜ!唯一決めてるのは…オムニトリックスが…ってこと

・TSUTAYAの動画見放題でベン10無印とオムニバースを見てます。無印の方はところどころ知らないから楽しみ(ベンビクターらへんとかちゃんとみたことない)。オムニバースはまじで見たこと無かったから新鮮


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45話 虫×巨漢=?

久しぶりにベン10見返してるんですが、思ったよりベンは悪ガキで、思ったよりグウェンは口悪くて、思ったより二人は仲がいいです(笑)


緑谷vs爆豪。その勝負の熱は未だ冷めず、観客は声を上げている。が当の爆豪は気絶し、緑谷も立っているのがやっと。すぐさま救急ロボが現れ2人を保健室に運ぶ。そんな2人を見て拍手し見送るプロたち。

 

「緑谷ってやつすごいな!パワーもあるし頭もいい!それに指揮官もできるぞ!」

「爆豪のほうもヒーロー向きだな。近距離から遠距離まで対応できる。なによりあの上昇志向。彼は伸びるぞ!」

 

プロたちの講評はやまない。雄英体育祭トーナメント準決勝は二人の株を大いに上げた。

そして、轟との試合を控えたベンは、試合会場に向かいながらもダイヤルを探していた。先ほどの試合の前に気づいたが、オムニトリックスの選出ダイヤルが外れていたのだ。とどめは飯田の蹴りだが、元はと言えばベンがいじくりまわしていたせいだ。誰かが拾ったかそれとも…とにかく探さなければ。だが、次の試合はベンだ

 

「もう時間がないよ!とりあえず会場にむかッアイタッ!」

 

急いでいたベンは前方不注意。見知らぬ大人にぶつかる。その人は倒れたベンに手を差し伸べる。

 

「おお、すまないな…君は…」

 

「なに?あんた誰?ボク急いでるんだけど」

 

ベンに話しかけたのは炎を体に宿す№2ヒーロー、エンデヴァー。オールマイトに次ぐ実力者であり轟の実の父に当たる。だが、ベンはそのことを知らない。彼の話を無視して進もうとする。そんなベンに後ろから声をかける

 

「ちょっといいかい?君は…変身能力を持っていたね。いい個性だ」

 

その言葉で動きを止める。ニヘラニヘラとしながら振り向く。

 

「そう?まあこのベン=テニスンだからね!じーちゃんの孫だし当然さ!」

 

「?…ああ、息子(ショート)の力を図るにはもってこいだ。焦凍には(オールマイト)を超える義務がある。それにはどんな相手にも勝てないといけないからな」

 

ショート‥その言葉はベンの脳内で轟とつながる。どうやら目の前の男はトドロキの父らしい。だがなぜに自分にそんなことを?

「…どういうこと?」

 

「別に君が何か考える必要はない。ただくれぐれも、みっともない試合だけはしないでくれよ?」

 

それだけ言って去ろうとするエンデヴァー。自分の息子の踏み台としか思ってないその発言。さらにその心中では息子すら己の道具と考えている。そんなことはベンが察せるはずもないが、伝わったことは一つだけ。自分をこいつは見ていない。

 

「ボクが負けるわけないだろ?相手が誰であろうと、ボクはヒーローなんだから」

 

エンデヴァーは一瞬立ち止まるが、振り向かない。ただ一言。目をぎらつかせ

「そんなに甘い物じゃあない」

 

怒気を含んだ言葉は空気を張り詰めさせる。ベンの目を一度も見ないまま観客席へと戻っていく。

 

「なんだよあいつ!感じ悪!一人でバーベキューでもしてろってんだ!ベェェ!!!」

 

唾を吐き散らしながら舌を出すベン。今のベンにできる最大限の反抗だった。

【よっしゃ!残すところあと二試合!前の試合の熱はまだ冷めちゃいねぇぜ!だけどお前にかかれば一瞬でヒエヒエか!?轟焦凍!!!

 対するお前は何を見してくれる!?11の姿を駆使して戦うのは世界広しと言えどお前だけだぜ!ベン=テニスン!!】

 

静かに壇上に上がる轟と、対照的に焦りながらひたすらにウォッチをいじくるベン。選出ダ

イヤルが無いためエイリアンを選ぶことができない。できるのは返信ボタンを押すことだ

け…なのだが、

 

「うわぁぁ…なんかやばそうな感じがする…」

 

ダイヤルの外れたウォッチからは、緑色のプラズマがビリビリと流れる。もしこれが他の生

物に当たれば恐ろしいことが起こる。そう考えさせるほど異常な状態。しかし、時間は無情にも訪れる。

 

【準決勝、試合、開始!!!】

 

「頼むぞぉ!オムニトリックス!!」

 

GGQBBAANN!!

 

「ふっ!」

 

開始と同時に変身。対して轟は氷結。瀬呂戦の時に見せた大氷結ではなくベンを包む程度の大きさの氷。瞬く間にベンのいた場所は氷で覆われる。足から連なったそれは、決めてしまえばもう手も足も出ない代物。だが、

 

「おらぁぁ!!」

 

BAKINN!!

 

厳つい言葉と裏腹に高い声を出すその異形は、轟の氷を殴り壊す。

その姿は、4本の赤き腕を生やしながらも顔からは4つの管が生え、羽の生えた異形。比較的長く時間を共にした麗日や、資料を持っている相澤でもその姿は知らない。どころか、ベンですらその姿は初めてだった。

 

「スティンク…アームズ!?なんじゃこりゃ…!」

「また見たこと無い姿になりやがって…いや、あれは確か…」

 

思い出す。初めての戦闘訓練で最後にベンが変身したエイリアン。フォーアームズ。若干は異なるがその原型は似ている。とくに特徴的は赤い4本腕は忘れようもない。自分の氷を攻略したエイリアンが出てきたことにいら立つも、続けて氷結。

 

対して、予想外の変身をしたベン。周りと同様驚くが、その事実はすんなり受け止め、なんなら喜ぶ。

 

「これはつまり…怪力で空も飛べるってこと!?最高じゃん!!」

本来なら1人1つのスーパーパワーを二つ一辺に使えることに喜ぶ。戦闘時とは思えないウキウキな表情で迫りくる氷に対処する。この氷は以前破った。そのときの氷のもろさなら覚えている。

 

4つの腕を駆使して氷を破壊できるはず、とおもったのだが…

 

BAKI! PAKI…! PARI…

「あれ…?この氷ってこんなに硬かったっけ?!うわっ!!」

 

目の前に来た氷を拳で攻略しようとしたが、その氷量に追いつかない。連続パンチで瞬殺は避けるが氷はどんどんベンに迫ってくる。氷結が刺さる寸前で飛びのき、間一髪で氷漬けは免れる。が、その事実は轟への情報となる。

 

(避けた…?つまり奴はあの時みてぇなパワーはないのか?なら…!)

 

ベンの状態を確認してさらに氷結。試合開始から一歩も動かずに優勢に運んでいる。この圧倒的範囲攻撃が轟の強み。此処が決め時とベンを追い詰める。

 

「ぐうぅ…!全部壊しきれない…こんなの馬鹿正直に付き合ってられないよ!」

 

今のベンには羽がある。スティンクフライの羽。そのスピードはXLR8に次ぐ速さで、プロ含めても10本指に入るかもしれない速さ。だが、その速さはあくまでスティンクフライの体で発揮される。

 

フォーアームズの体格である今、その絹のような薄さの羽では、体を持ち上げることで精一杯。幸い轟の氷結が地面から生えてくるような軌道であったため避けきれるが、すぐに降り立つ。

 

「「はぁ、はぁ、はぁ。ちょっとダイエットした方がいいのかな…?ってうわ!」

 

早くも息切れし始めたベンに対して轟は攻撃の手を休めない。容赦ない追撃にただひたすら拳で対応する。だが、戦闘訓練で見せた時の氷とは比べ物にならないその物量に徐々に後退していくベン。場外を気にし始めたベンに対して轟は勝負を終わらせに行く。

 

「はぁぁっ!!!」

 

PAKIPAKIPAKIPAKI!!

 

轟の足から伸びる氷は氷波となりベンを襲う。一切の逃げ場のない攻撃にベンは目を丸くする。足に張り付いてくる氷をはがしたかと思えばもう腕が捉えられている。

 

「うぇぇぇ!!!?こ、こんなの無」

 

最後まで言い終えることはなくベンは氷に覆われる。彼一人を捕縛するのに不必要かと思われるその巨大な氷結。それはいかに轟がベンを脅威に思っているかがわかる。

 

「ッはぁ、はぁ」

 

白い息が出る。体に霜が降りている。ベンをも覆う氷の代償は多大な身体機能、氷結能力の低下であった。だが、もう試合は終わった。あとは審判がコールするだけ。

 

【テ、テニスン君…?動ける?】

 

体全体を覆われたベン。その返事ができるはずもない。返答なし、というのは降参ということに言い換えられる。そう考えミッドナイトが試合を終わらせようとしたとき、その音が聞こえた。

 

BTYAAA

 

嫌な音。まるで何か汚いものが吐かれたような音。

 

音は小さい。だが確かにしたのだ。その音はスティンクアームズの氷像からした。氷漬けの彼を目を凝らしてみると、その顔の管から緑色の粘液を出していた。

 

じわじわと顔周りの氷が溶けだしている。顔面付近に余裕ができてくればもうベンの勝ち。反動をつけ頭突きを繰り返す。

 

もちろんそれを見ているだけの轟ではない。急いで次の氷で拘束しようとする。しかし目がかすむ。思い出すのは戦闘訓練。人間体のベンに対して氷を出しすぎて限界が来たあの時。

 

(…!?また…か!なんで気付かなかった!?)

 

「「おりゃぁぁ!!!」

 

バリンと音を立て出てくるのは、歯をカチカチと鳴らしながら震えるスティンクアームズ。

 

「「おい!トドロキ!風邪ひいたらどうしてくれるんだ!まだボクは試合が残ってるんだぞ!

 

轟には勝つ前提のその言い方。どころかまるで眼中にない。普段は冷静な轟でもさすがに憤る。寒さで痺れる手を地面につけ、凍結を狙う。だが、

 

BBTYA!!BTYAA!!

「そのぐらいの氷ならこのねばねばでへっちゃらさ!」

 

ねばねばした緑色の粘液。スティンクフライの唯一の技である。ひどいにおいを放ち相手を絡めとるその粘液は、相手に精神的なダメージも負わせることができる。そもそもスティンクフライすら知らなかった轟には、その粘液が氷を溶かすことなど予想できるはずもない。

 

限界を迎え轟が攻撃が止めると“今度はこちらの番”とでもいうようにダッシュ。走りながら轟に粘液を放つ。

 

「っく!」

 

氷を盾に何とか回避するも、ベン本人への対応ができない。なんなく距離を詰められ氷の竪ごと吹っ飛ばされる。

 

「これはさっきの氷の分だぁ!!」

 

いつもなら避けきれた拳のスピード。だが氷の出しすぎで身体機能は低下し、動くこともままならなかった。ふわっと浮かんだ体は地面に打ち付けられる。氷を出そうにも意識が飛びそうだ。

 

だがそんな事情はベンには関係ない。スティンクアームズは這いつくばる轟の下へと闊歩する。

 

「はっはぁ!トドロキ!お前のパパはボクのことをテスト…なんとかっていってたけど逆になったな!!ボクは誰にも負けないのさ!」

今の轟は氷を出すことができない。ただ目の前に腕を組んでいる彼をにらむ。が、気になるのはその言葉。父が?なんて?

 

「さあもう降参だろ!それともあれか?じっくりやられるコースがいいか?それとも」

 

GGQBBAANN!!!

「…ほんと、最悪のタイミングだよ、この駄目ウォッチ…!!」

 




・スティンクアームズはスティンクフライの声です。球に喋り方がフォーアームズになるけど…
・わりとベンがヒール的役割なのかな?
・ベンはパパ、ママ呼びだけど日本での高校生としては違和感すごい(笑)


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46話 そんなヒーローに

ベンは交渉役というか、説得役は向いてないな、うん。


「オイオイ嘘だろ?!まだ5分もたってないのに…うわっ!!」

 

自分の手を見て変身解除を悟るベン。轟は“今だ”といわんばかりに氷を這わせる。しかし、体を動かすことすらままならない状態での氷結は、ベンに避けられる。

 

氷をよけ、転がるもすぐに立て直すベン。対して攻撃を仕掛けた轟は

 

「…はぁ…はぁ…」

 

悪態をつくことすらできない。息は白く体は凍る。そんな状態でもなおベンを狙う。人間体であり道具のないベンなら、今の自分でも止められると判断したのだろう。だが

 

「おっと…!ほっ!!なんだ!避けられるじゃん!ボクって天才!?」

 

なんなく氷を躱すベン。彼の身体能力が戦闘訓練のころから伸びたのか。正解はNO。

 

階段を上ってきた緑谷は的確に分析する。

「…轟君の氷が遅くなってるんだ…」

 

「デク君!!もういいの!?」

 

観客席に行き、麗日の隣に腰を据える緑谷。爆豪戦での治癒を終え戻ってきたのだ。治癒が終わったといってもすぐさま治る怪我ではなかったらしく、右拳はグルグル巻きで固定されている。

 

「もう今日は腕は使っちゃいけないって…でもそれより試合だよ!ベン君はいつ変身解除したの?」

 

「さっき!でもおかしいんよ。変身したのも変な姿だったし、解除も早かった」

 

また新しいエイリアンにでも変身したのだろうか。だとすれば危険な可能性もある。とにかく、今はベンと轟を観察し次に備えなければ。そう考え試合に集中するが…

 

「なんで轟君、氷があんまりでらんのやろ?」

 

「多分、使用制限があるんだ。一気に出せる限界の体積量がね。それを超えたら自分でも冷気に耐えられなくなる。でも…」

(それは炎を出せば解決する。それをしないのは…)

 

思い出すのは試合前の轟との会話。()は戦闘において使わない。家族間でのトラブル故に深くは立ち入れない問題ではある。それでも

 

「こんな形で負けるのかよ、轟君…」

 

必死に振り絞った氷結も身軽なベンには躱される。とうとう限界を迎え、もう風前の灯火。氷どころか冷気すら出るか怪しい。

 

その状態を見たベンは“しめた”と、落ちていた氷の破片を投げつける。いくら氷を出せるからと言って、氷による物理攻撃が無効化するわけではない。鋭くとがった氷柱は轟の顔に迫り来る。

 

「くっ!」

身をよじりギリギリ避けるも、そのまま倒れてしまう。再び轟がベンを見上げる構図になる。

 

「おいおい、トドロキ。もうおねんねの時間か?まだ太陽はそこにあるぜ?」

 

轟の限界を目の当たりにし調子に乗るベン。太陽を指さし馬鹿にする。自分が優勢となるとすぐに調子に乗るのが彼の悪いところ。

 

ほんの少しだけ回復した轟は、少量の氷でベンの足を拘束する。少なくとも、これで攻撃はされない。

 

「おい、ずるいぞ!こんなのありかよ!!」

 

んー!!んー!!と唸るも足は動かない。どころかひっくり返ってしまうベン。

互いにその場から動くことが叶わなくなり、膠着状態となる。先に口撃を仕掛けたのは元気いっぱいのベン。

 

「なぁトドロキ?お前エンデヴァーの子どもなんだよな?ならボクのこと焼いたりできるんじゃない?ほら、撃って来いよ!!」

 

安っぽい挑発。その真意は轟の炎で足元の氷を溶かすことなのだか逆効果。轟は冷たく言葉を返す。

 

「…戦闘において左は使わねぇ…」

 

「はぁ?なんでさ?」

純粋な疑問。なぜ己の力を目いっぱい使わないのか。無垢な少年の問いに、また少年は返す。

 

理想の個性をもって生まれさせられたせいで、母と別ってしまったことを。全ては父の歪んだ思想のせいでおかしくなった。だからこそ、父の個性なしで頂点に立ち、父を完全否定すると。

 

緑谷はこの話を聞いたときに、少し震えた。なんて境遇だろうと。そして彼の信念を理解しつつ否定した。同じ15歳なのにその境遇は全くの逆。納得はしないまでも理解はした。

 

対するベンは、

 

「お前何言ってんの?ボクに負けそうなのにさ」

 

軽く笑い飛ばした。

 

「…あ?」

 

「ばっかじゃないの?詰まんないことにこだわってさ。グウェンでもそこまで気にしないての」

 

相手の境遇に、信念に寄り添うこと無く一蹴。肩を竦め、ヤレヤレといった動作までとる。その態度は轟の心を沸騰させる。

 

「…!!歪んだ思想で家族がめちゃくちゃにされたんだ!俺が持ってるのはそいつの個性なんだぞ!お前にわかるか?!この気持ちが!」

 

怒る轟。そんな彼にベンは目を明後日の方向に向けて答える。まるで興味なさげだ。自分で聞いたのに…

 

「さあ?ボクにはぜんっぜん理解できないね」

 

「お前のその個性だって血だろうが…!」

 

個性は親から授かるもの。それはこの世界の基本知識だ。確かに突然変異という稀有な例はある。だが世代を経たことで個性は複雑化し、逆にその突然変異すら少なくなっている。

 

もし親から個性を引き継いでいなければ、それは化け物か無個性くらいのものだ。

 

そのような一般常識を頭に控え轟は申したのだ。“お前だって遺伝で、親から個性をもらっている。その個性が望まない物だったらどう思う?”そう、伝えたかったのだろう。だがしかし、無個性のベンにはその言葉は意味をなさない物だった。

 

「知るかよ。ボクのこの力はボクの物だ。誰が何と言おうとな!!」

 

腕を掲げウォッチを轟の方に向ける。その行為自体は轟は理解できない。だがしかし、彼の言葉にある一つの記憶を思い出す。

「もうヤダ…僕はお父さんみたいになりたくない…お母さんを傷つけたくない…」

 

父親との訓練で嫌気がさしていた。

 

「…」

ピッ

まだ母さんが元気だったころだ。訓練は嫌だったけど、そのテレビを母さんと見てるときは確かに幸せだった。

 

テレビにはオールマイトが映っている。

【個性、というのは確かに親から子へ受け継がれています。しかし、本当に大事なのはそのつながりではなく…自分の血肉、自分である!と認識すること。そういう意味もあって私はこういうのさ。“私が来た”ってね!!】

 

オールマイトが言い終える。誰に向かってのメッセージだったのかはわからない。ただ、その笑顔に母は照らされていた。彼の言葉を受けてか、それともずっと思っていたことなのか、母は言った。

「焦凍??…いいのよお前は。血に囚われることなんかない。なりたい自分に、なっていいのよ?」

 

いつの間にか忘れてしまっていた。なりたい自分。

(俺は、俺は…!)

 

左の目は火傷に覆われている。ヒーロースーツでは左を丸ごと隠し、この傷は見えないようにしている。今、その痕からは、火傷を隠すように焔が舞い始める。高ぶる心が抑えられない。だがまだ、父の呪いが頭から離れない。

 

【お前は奴を越える最高傑作なのだ】

 

そんな轟に気づかないベン。轟の動きが止まっているため言葉を続ける。

 

「ボクはこの力で、じーちゃんみたいな、いや、じーちゃんを超えるスーパーヒーローに成るんだ!!」

 

「俺だって…ヒーローに!!!!」

 

WWHAAMMM!!!

 

「まあもう成ってるかのしれ…うわっ!!な、なに!?」

 

突然の熱。体を包む熱さに驚き前を向く。そこには笑っているかのような…泣いているかのような轟がいた。どうやら、涙が蒸発してしまったらしい。熱の発生源は轟の左半身。

 

似合わない笑い顔を作りながら轟はつぶやく。

 

「思い出したよ…テニスン。俺がなりたかったのは…」

(親父じゃない。母さんだけの力しか使わないヒーローでもない。ただ、)

「誰かを救けるヒーローだ」

 

決意した。自分は彼のようなヒーローになると。気づいた。この力は自分の力なのだと。

 

ベンからすれば自分が喋っている間に急に笑い出した轟。そんな彼にただ驚く。だが、そのままでは居られない。

「意味わかんないよ…!なんで急にやる気出してんだよ!!ああもう…早く動いてくれよ!!」

 

轟が動けるとなると話が変わってくる。人間体のままで轟に挑むのは自殺行為だ。焦りながらポチポチとウォッチを押すも未だに赤いまま。

 

対する轟の体からは霜が消え、全快。そもそもべンは轟にダメージを一切与えていなかったため、形成は一気に逆転。

 

「もう終わりだ…テニスン」

 

左手を突き出しベンの方に構える。左の掌はオレンジ色に変色していく。ベンは人間体のままである為火力はもちろん落とす。だが、食らえば間違いなく場外には吹っ飛ぶほどの威力。

 

「…ありがとな」

 

QWAANN

小さくつぶやき放つ。エンデヴァーを彷彿とさせる赤く燃ゆる炎。揺らぎながらベンに向かい、食らおうとする。

 

BBOOOWW!!

 

氷で足をつかまれていたベンはまともにくらってしまう。拘束していた氷は溶け、白煙がモクモクと彼を包む。

 

あの炎ならば場外は必須。その確認を取る為目を凝らす審判。煙が晴れて来て見えたのは吹っ飛んだベン、ではなくダイヤモンドの壁だった。

 

「出て来やがったか」

キラキラと光る壁。それは自分の能力と性質が似通っている。

飛び出た壁を見て炎を防がれたことを悟る轟。だがもう驚かない。ケビン戦でも見たことがあるその壁。おそらくあの歩くシャンデリアだろう。ならば攻撃速度は己の方が速い。制限なしの自分ならば互角以上に戦える。

 

そう判断した次の瞬間、壁の後ろから放射軌道で炎弾が攻めてくる。

BOWW

 

何発もの炎をすぐさま氷でガードする。なんとか守り切るがすぐに氷は溶けてしまう。

 

轟はそこで気づく。先程の四本腕の虫は、ベンのエイリアン2種類を掛け合わせたものでないかと。そして、いま見た二つ能力も知っている。

 

炎×ダイヤモンド

 

全員が注目する中、壁の向こうから出てきたのは、歩く、()()シャンデリア。

 

「さあ、第二ラウンドと行こうぜ!!」




・冷静に考えると轟の個性レベルで弱点なしってやばいな…
・ベンを無個性なのか、実は…!!なのか、悩んでいる…
・ベンはデリカシー0だから、こんな物言いになっちゃうんだなぁ…


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47話 ダイヤモンドブラスト

ヒーローネーム考えるのって面白いですよね、ベン10に限らず。今回は安易な感じなんですけど、もしかしたらまた皆さんに案を出してもらうことがあるかもしれません(笑)


ここはアメリカのベルウッド。水道修理道具やトイレ詰まりを直すための道具がズラッと並ぶマックス配管店。ヒーローがやっている店にも拘わらず客は0。まあヒーローがなぜ配管工なんかを…という話ではあるが。店の裏には生活領域が存在しており、今、1人の少女と1人の老人がテレビを見ていた。

 

「またベンが変な変身してるよ?なんか…炎と硬化能力っぽいね…」

 

「ふむ…もしかしたらウォッチが故障しているのかもしれん。前の試合でもベンに戻るのが早かったからなぁ」

 

「あのおバカは…無個性ベンにとってあの時計はヒーローに成る為に絶対必要なものでしょ!?ホント、何考えてんのか…いや、何も考えてなかったんだっけ?」

 

「はっは…確かに謎が多すぎるからなぁ。あんまりいじらないほうがいいんだが、ベンは」

 

「お間抜けだからわかんないって!!自分の靴下とアタシの靴下も間違えるようなトンチンカンなんだから…!!…そういえばさっき誰かと話してたよね?誰か来たの?」

 

「ああ、いや…大丈夫だ…」

「ハックション…!!おお、こいつの唾はクリスタルと炎で出来てる…!」

体のメインパーツはダイヤモンドヘッド。しかし、両の手は朱色にともり、体中に炎の線が引かれている。そしてダイヤモンドヘッドの頭にはヒートブラストの鬣のような火がメラメラと燃えていた。

 

燃えて固まる己の手を見つめながらベンは昂る。

「んんー炎とダイヤモンド、最強じゃん!…ダイヤ‥ヒートヘッド…いや、ダイヤモンドブラストだ!!」

 

「またおかしな変身しやがって…!!」

 

悪態をつくも先ほどまでの轟とは違う。どこか、笑っているように思える。

 

「おかしなとはなんだ!見せてやる!俺の力を…!」

 

BAKIBAKIBAKI!!

 

ベンが吠えると地面からクリスタルが隆起しながら轟に向かう。

 

「はぁッ!!」

 

その攻撃に轟も氷で反撃。クリスタルと氷結が正面からぶつかる。さきほどまで少量も出すことができなかったが、左の熱により回復していた。出したのは視界を遮らない程度の氷結。その威力は絶大。なはずが、ベンのクリスタルは徐々に氷を押し切る。

 

それをみてその場から離れる轟

(やっぱり向こうの方が硬度はあるか…なら!!)

 

BOOHHW!!

 

次は左。氷と火を同時に使うことができないので氷結を止めてからの炎。ダイヤモンドヘッドが熱に強いかどうかを確かめる。

 

「そんな炎じゃ何も焼けないぜ!おらっ!!」

 

轟の炎に自らの掌を向けベンも炎を放つ。轟の炎より赤く、辺りのコンクリートは熱で溶ける。放たれた炎は、轟の焔を飲み込みながら彼の左手を焼く。

 

幸い熱をつかさどる手であったため、大したダメージにはならないがそれでも熱い。

「っ‥!」

 

状況は完全に最悪。炎は向こうが上。氷も固さはあっち。敗色濃厚であるこの状況に、轟の口角は上がる。その理由は自分でもわからない。引きつっているのかにやけているのかわからない。上がる口角を気にせずなんとか己の勝ち筋を見出す。

 

(氷と結晶じゃあ向こうが硬ぇ。だが、その量はどうだ?…意識して出せ…左が使えるこの状況を飲み込め)

 

ベンから伝ってきていたクリスタル。轟の氷と違い自然消滅することはない。轟は右手でクリスタルに触れ放つ。今まではその限界量を気にして撃ってきた。だが今は違う。左が使えるんだ。無制限に使えることを念頭に置き、最大氷力、瀬呂戦で見せた驚異の大氷結を放つ。

 

PAKKIINN!!!

 

「はっはぁ。こっちの方が硬いってわかんないのかぁ!?」

 

猛スピードで向かってくる氷をあえてベンは受けて立つ。クリスタルで遠隔攻撃するのではなく、己の腕を鋭利に研ぐ。指が固まり、肘から下が一つの武器となる。

「さらにぃ!!」

 

両腕をダイヤモンドの剣と変化させた後、そこに炎を流し込む。今の自分しかできない方法で轟の氷に挑む。

 

「おおおおおお!!」

 

次々と来る氷をヒートダイヤモンドで切り溶かす。ザクザクバリバリとまるで料理のように氷を破壊していくベンの姿は他の者はどう見たのだろう。

 

もしダイヤモンドヘッドの力のみならベンは破れていた。無制限に氷を出せる今の轟には、スピード、放出量が限られるダイヤモンドヘッドは意外と相性が悪い。轟は硬さという点でなくそのほかの要素で勝ちをもぎ取ろうとしていた。

 

しかし、今のベンには炎熱を操れるヒートブラストの力もある。二つの能力を掛け合わせデメリットもない今のベン相手に、炎に慣れていない轟が優勢となることは不可能に近い。

 

「こんなのもできるぜぇ!は!!」

SHURINN!!

 

腕を振りダガーを放つ。普段ならクリスタルのダガーだが今はフレイムダガー。轟は防御のため氷を張るも、ダガーはそれを溶かし穿つ。

 

腕に刺さるダガーを引き抜きながら考える。

(完全に後手に回ってる。どうする?氷もダメで火力は奴の方が上。このままじゃじり貧。奴の変身が溶けるまでもたねぇ!やつの能力はあのケビンとかいうやつに似ている。いや、逆なのか?とにか)

 

そこで気づく。一か八かだが、まだ賭ける可能性がある一手を。

観客席では1人の男が悦に浸っている。

 

ふふふ、やっとだ。やっと左を使うようになったか!まだベタ踏みでしか使えないようだが問題ない!お前は俺を超えそして奴をも超えるのだ…!!

 

だが…あの顔はなんだ…劣勢にも拘わらず笑っているのか?戦いの時には感情を見せるなと教えたはず…そもそも焦凍のあんな顔は…

 

それに…あの小僧。俺以上の火力を持っているんじゃないか?俺どころか、とう…いや、関係ない。焦凍が両方使えた時点でもう道は決まったようなものだ。どんな障害があろうと必ずお前を最高のヒーロー(作品)にしてやる…!!

 

 

BOOOWWW!!

 

轟から炎が上がる。先ほどまでのベンを狙った焔とは違い、自らに纏わせるような炎。その不思議さに思わず手を止めるベン。

 

この炎は準備。今までにない大氷結のための。轟は語りかける

「テニスン…どうやらお前は俺より強いらしい」

 

「え、急にどうしたんだよ?ま、まあその通りなんだけどな」

 

強面堅物のその顔からはわかりづらいが、赤面するベン。

 

「俺より硬い結晶。俺より高温の炎。確かに上位互換かもしれねぇ」

 

轟はチラリと客席を見る。その視線の先には憎き父。

 

「だがな…俺は、この氷を誇りに思ってるんだ」

 

PAKKIIIIIIINN!!!

 

氷結を発動。その矛先はベン、ではなく会場全体。フィールドを氷で覆い、さらには観客席に至るまで氷を張り巡らす。

 

「オレはここにいるけど?なにしてんの?」

 

「前回はお前の手を借りた。だが、今の俺なら一人でできる…!!」

 

客席にいる緑谷と爆豪だけが気づく。轟のやろうとしていることに

(まさか轟くん‥!?)

(あんときの‥!?)

 

周囲は冷えつき、皆が歯をガチガチ振るわす。観客席でこれなら、フィールドの人間ならば身体機能の低下どころでは済まないだろう。ある種この時点で轟の必殺技にもなり得る。

 

だが、今のベンはダイヤモンドブラスト。温度は彼に何の影響もない。

 

「ヒュー!皆寒そう!俺の近くに来れば温まるぜ?あ、間違えてバーべーキューにしちゃうかもしれないけど」

「余裕だな…テニスン。まだ思い出さねぇか?この技」

 

「ああ?

 

「あのケビンとかいう化け物を倒すとしたとき、俺とお前で協力した技だ…!!」

 

そこでベンも気づく。轟が何をしようとしているのかを。狙うのは膨冷熱波。炎と氷の相互作用で爆発を起こす技。

 

だが、ベンは気づいたうえで挑戦する。

 

「なるほどな!じゃあオレも今のオレの最強技で勝負してやるよ!」

 

両手を前に突き出す。手を重ね、クリスタルを結合させる。両手分の大きさのクリスタルはだんだん大きくなり、ベンの体を超えるほどの大きさとなる。体を構成しているクリスタルを削るほどの結晶体。それはまさに巨大結晶弾丸。

 

「さあ!お前の力とオレの力、こっちが上だって教えてやるよ!!」

 

BOWW!!

 

大結晶に炎がともる。ボウボウと燃える荒々しい炎は、轟の静かな焔とは対照的だ。炎、結晶、炎、結晶。順番に物質を重ね肥大化させていく。

 

「これが、最後だ…テニスン!!」

 

「おお!!!」

 

互いの手が赤から青に変わる。その変化は熱が極限に達したことを意味する。そして

 

「はあぁぁぁぁぁ!!!」

 

「オオオォォォ-!!」

 

轟から大焔がうねりを挙げベンの向かう。反対にベンのクリスタル弾丸はただただ真っ直ぐに轟を穿ちに行く。ゴウゴウと音を立て、またボウボウと燃え互いを目指す。

 

轟きの焔がクリスタルの弾頭にぶつかった時、一瞬音が消える。そして瞬き一つすると、会場を吹き飛ばすかのような大爆発が起きる。

 

BBOOOHHAAMM!!!

 

白煙が舞う。ケビン戦で轟とベンが協力した時よりも遥かに巨大な規模の爆発。下手をすれば死人が出るレベルである。

 

煙は二つの場所から出ている。一つはフィールド、もう一つは壁からだ。なぜならばその煙は1人が壁に激突した衝撃で発生した煙だからだ。

 

【おいおい!どっちが残ってるんだ!?煙が濃すぎてさっぱりだぜ!!さらに言えばさっきの爆発はなんだったんだ!?】

【轟の氷で散々冷やされた大気が熱で膨張したんだろう。しかも…轟は狙ってやってたな。テニスンは…まあ炎を推進力に巨大なクリスタルを押し出したんだな…】

 

会場全体にはまだ煙が立っている。おそらく誰もまだ勝者がわからないだろう。わかるのは当人のみ。だが、勝利を知らせる音が、勝者を判別する音が、フィールドの中央からした。

 

GGQBANN!!!

 

赤い光が黒煙の中でしたかと思うと、1人のしょうね、いや、子供が出てくる。

 

「けほっけほっ!!…あー…しばらくヒートブラストにはならなくていいや…」

 

【勝者…テニスン君!決勝進出!!】

 

残るは決勝。中学3年から付き合いのある、緑谷とベン。互いに同時期に力を得て、今ここにいる。そんな2人の戦いがもうじき始まろうとしていた。

 




・さあさあ決勝戦。取り合えず決勝ではミックスエイリアンは使わない予定です(あくまで予定)。ただ、ある故障をさせようかなと…本当にちょっとした、オムニバースであった故障。

・この次の章は思いっきりベン10の世界って感じです。そこに緑谷か拳藤どっちか連れて生きたんだけど、どっちがいいですかね?

・作者への個人メッセージで、ベン10×ヒロアカの世界観や、オムニトリックスの仕様の設定を考えて送ってくださった方がいました。採用できるかはわからないんですが、作者は他人の設定を見るのが大好きなので、我こそは!という方は遠慮なくどうぞ!!


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48話 轟・爆豪 リスタート

あと少しで体育祭編も終了です。今秋までに追われたらいいけど…微妙ですね(笑)
今回と次回は会話多めです。


此処は出張保健室。体育祭で怪我したものがリカバリーガールに治癒される場所。

「…っは」

 

視界に広がるのは知らない天井。それもそのはず。轟はこれまで一度も保健室に来たことがなかった。その事実からもいかに彼が強者なのかがわかる。

 

その強者は痛む体を起こし、あたりを見回す。そこには1人、不機嫌極まりないクラスメイトがいた。

 

「っち、やっと起きやがったか…おっせぇんだよクソが」

 

意識を回復したばかりの人間に対しての発言とは思えない言葉。だが轟は、その少年の人と成りはこの2か月で多少なりとも知っていた。

 

「爆豪…なんでお前が?ああ、お前、緑谷に負けたんだっけか…?」

 

「ああん!?うっせぇわ!!ばーさんに見とけって言われたんだよ!」

 

「お前が…?なんか…意外だな…」

 

この意外、というのは“お前が人の頼みを聞くとは”という意味である。無意識に失礼な言葉をかます轟に爆豪は吠える。

 

「こっちだって見たくなかったわ!っち!」

 

緑谷戦の傷がそれなりに癒えたかと思えば、気絶した轟が運ばれてきた。リカバリーガールは食事をとりに外に出る際、爆豪に轟の様子を見るよう頼んだのだ。もちろん断ろうと思ったが傷を治してもらったという、借りがあるため断れない。彼は例え相手が大人だろうとも先生だろうとも狩りは作らない主義なのだ。

 

意外な看病人に驚きながらも、試合を思い出し自分の手を見つめる轟。そんな彼を一瞥した後、爆豪は部屋を出ようとする。

 

「意識はっきりしてんならおらぁ行くぞ。あとは勝手にしやがれ」

 

ドアに手をかけた時、轟がつぶやく。

 

「両方使ったんだ」

 

「ああ?」

 

その言葉では普通の人間は理解できない。だが、緑谷と轟の話を聞いていた爆豪には伝わる。

「テニスンは別に俺の為に言ったんじゃないと思う…だけど…何となく、いや、紛れもなく…これは“俺”の個性なんだって思えたんだ」

 

「…知らんわ」

 

「緑谷に片方じゃ勝てないって言われたが…両方でも負けちまった…あいつらは…悔しいけど俺らより上にいる」

 

「…」

 

見る人から見れば弱気な轟。だが爆豪ほどの実力者、また緑谷達の実力を肌で感じた者にとって、それはただの冷静な分析であった。

 

戦闘訓練、ケビンとの闘い、そして体育祭序盤。幾度も幾度も自分より強いかもしれない、と思わせられ、ついには負けてしまった。その事実は覆らない。

 

だが、このまま折れる人間が、雄英に入れるだろうか。№1ヒーローに成れるだろうか。手にまかれた包帯は爆破により宙を舞う。

BOM!!

「…“今は”だ…!!今はアイツらの方がトップに近いかも知んねぇが、すぐに追い抜いてやる!!オールマイトをも超える、№1ヒーローになるのはこの俺だ!!!」

 

「…俺も、俺が、ヒーローに成りたい」

 

「何当たり前のこと言っとんだ半分野郎!」

 

「轟だ。名前、憶えてないのか?」

 

「覚えとるわぁぁ!!!」

 

BOMM!!!

決勝戦まで残り5分を切った。緑谷とベンは決勝戦までの時間を各々の控室で潰す。まあ潰すといっても、片方は緊張で一瞬に感じただろう。人の字を飲み込んでは書く緑谷。だがもうそんなことをしている時ではない。

 

「もう試合始まっちゃうよ…僕が決勝だなんて…いや、駄目だ駄目だ!!かっちゃんにまで勝ってここまで来たんだ。もう優勝するしかない!!」

 

バチンと己の頬を打ち、気合いを入れる。その音共に戸が開く。両頬に紅葉が着いた緑谷を拝みに来たのはオールマイト。

 

「やあ緑谷少年」

 

「オールマイト!!」

 

「ついにここまで来たな…!正直、轟少年と爆豪少年の決勝戦もあり得たのに、全く!きみというやつは、本当に大したやつだ!」

 

「ええ!?オールマイトが優勝しろって!?」

 

「下馬評ってやつさ!教師陣もそれなり予想しててね。私はもちろん君が優勝すると信じているさ!ただ、今年は優秀な生徒が多いからね。テニスン少年もまさか決勝に来るとは…!」

 

意外な発言に質問する緑谷。

 

「ベン君はオムニトリックスがあるし本命じゃなかったんですか?」

 

「ああ、教師陣の間でも彼は強力な個性で通ってるよ。だが…彼の場合個性意外に問題が多くてね…」

 

「ああ…」

 

ベンが周囲に優勝すると思われていない理由に納得する。実際にベンは障害物競走、騎馬戦、そして個人戦。全てにおいてある意味紙一重で勝ってきた。油断して氷漬け、心操頼りのリーバック、そして

 

「そういえばベン君の変身おかしくありませんでした?ダイヤモンドヘッドとヒートブラストが合体してたし…」

 

その質問にオールマイトは予想を含みながら回答する。

 

「おそらくだが…オムニトリックスが故障していたんだろう。試合が終わった後、何やら部品を探していたからね」

 

「や、やっぱり故障だったんだ…あの時いじらないほうがいいって言った方が…けどあのミックスエイリアンは強かったし…あれが出来たことを踏まえればよかったのか…?」

 

思考モードに入りブツブツ言いだす緑谷。オールマイトを放って自分の世界に入り込もうとする彼を引き戻す。

「おいおい、シンキングタイムは後に回そう!君も人の心配できるほど万全ではないだろう!?」

 

オールマイトの言う通り。爆豪戦で無理をしてしまったため、左手が使えない。無理をしようにも麻酔のせいでほとんど感覚がないため、拳を握れないのだ。使えるのは右手と

 

「…大丈夫です‥!まだ僕には、足がある!!」

 

そう、拳藤との闘いと爆豪との闘いで編み出された蹴り技。以前ケビン戦でも使ったが、スタイルとして組み込めると気付いたのはさっきだ。

 

オールマイトも次々と技を編み出していく緑谷に舌を巻いている。そして彼に影響を与えたベンにも、感謝の念を抱く。しかし、もちろん試合は別。

 

「よし…!!少年!あと一勝だ!あの砂浜での決着をつけてこい!」

 

「はい!絶対に優勝してきます!!」

 

時間になったので会場に向かう緑谷。オールマイトから見たその背中は、OFA9代目継承者としてふさわしいものであった。

 

「…頑張れ、少年!!」

 




・明日のお昼くらいには次話出せると思います。短いですよね。

・比較的、爆豪、轟の性格が丸くなってると思うんですよ原作より。それは、ケビン戦や入試などで既に緑谷、ベンが強いことを知っていたからです。だから、体育祭における負けた時のショックがひどくはない、という設定です。

・緑谷を強くしすぎな気がしてきた…だが、そうじゃないとベンと渡りあえない…!


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49話 緑谷vsベン=テニスン

やっとこさはじまりました決勝戦。開始一分までですけど…


決勝戦を控えオールマイトと緑谷が師弟関係を深めていた時、ベンはというと…

 

ガチャガチャ‥カシャン!!

 

「やったぁ!!なんとかはまったぞ!」

 

オムニトリックスの修理をしていた。フィールドの端にあったダイヤルを見つけ、何とかはめ込むことに成功したのだ。まだ若干緑のプラズマは出ているが外見上問題ない。試合に備え準備をしておく。

 

「さて…誰にしようかな…ん?」

 

コンコンとノックの音が控室に響く。誰だよと思いながらドアを開けると、そこには1人の少女、いやお姉ちゃん?が立っていた。

 

「よっ!」

 

「何だよ、イツカかよ…」

 

「何だよとは何よ!せっかく励ましに来てやったのに!」

 

「別にそんなの要らないね。ボクは1人で戦える。ましてやイズクに負けたへなちょこイツカなんかの励ましなんかねぇ…」

 

「…ベン、あたしが騎馬戦でどんだけ苦労したと思ってんのよ…」

 

ベンの心ない発言に、青筋を額に浮かべながら彼をを睨む。

 

「はんっ!お前なんかいなくてもリーバックなんとかできたさ!」

 

「…」

 

別にベンは拳藤が嫌いなわけではない。だが、その背格好が嫌いなアイツに似てるし、世話を焼いてくるのが鬱陶しいのだ。しかしそんなことは拳藤には関係ない。

 

無言でヘッドロックをかける。あまり思春期の男女がしてよい技ではない。ただ、体勢は密着しているのだがお互いに異性として意識していないため、ただのプロレスとなる。一方的にベンがやられるプロレスなのだが…

 

「イタイイタイ…!!!こんなことグウェンだってしないぞ!」

 

「だからグウェンって誰よ…」

 

Prrrr

 

拳藤の技掛け途中でベンの携帯電話が鳴る。急な着信音に意識を取られた拳藤からスルリと抜け、電話を取る。

 

「はいもしもし。今世紀最強ヒーローのベン=テニスンです!」

 

勢いよく調子に乗った発言に突っ込むものが2()()

 

「「まだヒーローじゃないでしょあんた!!…え?」」

 

電話の主と拳藤の言葉が重なる。ビデオ電話が通じ、電話の主の顔が映る。それはベンにとっての天敵。そして拳藤と髪の色が同じ少女。

 

「なんだよグウェンかよ。ボク忙しいんだけど」

 

「なに?あんた誰かと一緒にいるの?」

 

「ああ…なんか知らないけどいるね」

 

ズイっと拳藤の方に携帯に拳藤の姿を映す。ベンより身長が高く、容姿の整った拳藤が画面に映る。それを見たグウェンは、ここぞとばかりにいじる。そこには嫉妬など一ミリもない。紛れもなく、本当に、ただただベンをいじりたいだけ。

 

「へぇ…あんたそういう子がタイプなんだ…いーんじゃない?あんた初恋まだだったでしょ?」

 

「な、何言ってんだよ!!!」

 

グウェンのイジリに乗る拳藤。

 

「なに?ベン、あたしのことそういう相手だと思ってんの?」

 

「違うよ!!あーもー!!なんなんだよお前ら!?」

 

慣れないイジリにいら立つベン。そもそも拳藤とグウェンは立ち姿が似ており、その二人からいじられベンは混乱する。

 

癇癪を起こしたベンに対し、さらりと本題を伝えるグウェン。

 

「そんなことより!あんたオムニトリックス壊したでしょ!おじいちゃんも呆れてたよ!」

 

「ベ、別に壊してなんかないよ…それにもう治ったし…」

 

「治った?ダンゴムシくらいの大きさしかないあんたのおつむに治せるわけないでしょ!?」

 

グウェンは強い口調でベンを叱る。その言い方に拳藤は驚くも口は挟まない。

 

「治ったもんは治ったんだもんねー。そっちこそ本の読みすぎで頭が固くなってるんじゃないの?フォーアームズにマッサージしてもらうか?そのままつぶれちゃうかもしれないけど!」

 

「こっちが心配してやってんのに…って、おじいちゃん!やっと来た!早くこのおバカを注意してやって!」

 

テレビ電話から映し出される景色が、グウェンの顔から部屋全体となる。その部屋には多くの修理品が置いてある。なぜこの部屋が映し出されたのかというと…

 

「おじいちゃん、そっちじゃない!逆逆!」

 

「おおそうか…いやぁ、最近の機械はよくわからん」

 

「…ボクもう試合なんだけど。用がないなら切るよ」

 

「おいベン、冷たいじゃないか。せっかくの家族との交流なのに…おや、そちらにいるのはベンの友人かな?」

 

マックスはベンの横にいる、背格好がグウェンに似た拳藤を見て質問する。ベンが違う、と言おうとする口をふさぎ、拳藤はあいさつする。

 

「はい、そうです!ベンにはお世話になっ…てて…!!」

 

自分でもお世話になってるとは思わないが一応取り繕う。その態度を見て察したのかマックスも笑いながら話す。

 

「はは、多分ベンの方がお世話になってるだろう…今後もよろしく頼むよ…そしてベン…」

 

拳藤へのあいさつを終え、急に真顔になるマックス。その空気を察したのか、拳藤どころかベンまで黙ってしまう。たっぷりと間を取るマックス。そして口から出た言葉は、激励だった。

 

「…決勝頑張れよ!儂とグウェンもテレビで応援しとるからなぁ!」

「あたしは緑谷君を応援するけどね」

 

意外と安直な言葉に肩を透かしたようなベン。だが、2人の、実質1人の応援はしかと受け止める。

 

「ああ、ボクが№1ヒーローだって教えてやる!」

 

そのセリフとともに電話が切れる。拳藤は、電話が切れたことを確認すると、ベンに汗を垂らしながら質問する。

 

「ちょ、ちょっと…あんたのおじいちゃんってマクスウェルだったの…!?」

 

「そうだよ?名前聞いたらわかるでしょ?いや、本名はヒーローネームと違ったんだっけ?」

 

ニューヨークへの憧れのある拳藤。その流れでヒーローを調べていた時、マックスを見つけたのだ。今ではそこまで活動していないが、それこそ20年ほど前にはアメリカのトップヒーローだった。

 

「あんたの強さの要因がわかった気がするわ…」

 

「ま、ヒーローの血はボクに流れてるね!」

 

自信満々に己の血筋を誇るベン。ベンの親は違うが、マックス、そして従妹のグウェンもしゃくだがトップヒーローなのだ。自らも彼ら同じ、いや、それ以上だと信じている、

 

これから試合だというのに緊張する様子は一切ない。むしろ遊びに行くような顔だ。拳藤は、そんなベンを微笑みながら見ている。そして、拳をベンの背中にぶつけ鼓舞する。

 

バシン!!

「ベン!あたしの仇、とってきてね!頑張れ!」

 

「いった!!!もっと力考えろよ!!」

【さあ泣いても笑ってもこの試合が最後!!何分後かはわからねぇが今日、一年生最強が決定するぜぇ!!同じA組で訓練でも同じ組だったこいつら、緑谷とテニスン!超パワーというシンプルな個性でここまで来た緑谷、対照的に様々なエイリアンを駆使して上り詰めたテニスン。どっちが勝っても恨みっこなしだぜ!!】

 

いつも通りのマイクのアナウンス。これが最後かとおもうと観客まで名残惜しくなる。紹介を受け先に登壇するのは緑谷。向かい側からは続いてベンが階段を上がる。

 

互いに“個性(オムニトリックス)”を与えられたもの同士。その力は1人の人間には持て余すほどの力。実際に2人はその力を使いこなせてはいない。だが、それでもここまで来たことは誇るべきことである。

 

「ベン君…あの時以来だね…本気で戦うのは」

 

「そうだっけ?よく覚えてないや」

 

とぼけたベンの態度に緑谷は笑う。まるでそう答えることがわかっていたかのように。

今の緑谷は片腕が使えない。対してベンのオムニトリックスも何やら不調。その条件は五分と言ってもいい。緑谷は決意を口にする。そしてベンもオムニトリックスを掲げる。

 

「僕は勝って、トップに成る…!それが、平和の象徴への第一歩だ!」

「ボクは負けない。こいつの力がある限り、誰にも!!」

 

【ファイナルラウンド!レディィィィ、ゴーーーー!!】

 

「ヒーロータイムだ!フォーアームズ!!」

 

PPBBANN!!!

 

ベンが選択したのは4つ腕の巨漢。パワータイプである緑谷にパワータイプ。傍から見れば意外な選択であるかもしれない。例えば爆豪が変身するならば、緑谷には対処不能のゴーストフリークを選択しただろう。相手の弱点を突くことは戦いの基本である。だが、ベンは違う。常に己の指針で動く。そのおかげで意外性のある戦法取れるのだが、ベンとの付き合いも一年になる緑谷には読めていた。

 

(やっぱりフォーアームズ…!なら彼が届かないこっから…!!)

デラウェア…スマァァァッシュ!!!

 

まだ死んでいない右手での究極のデコピン。暴風を巻き起こしその風はベンへと向かう。

 

「はっはぁ、甘いぜ!こっちもこんなことできるんだぜ!?おらぁ!!」

4つの腕の内、対となる2本の腕を叩き合わせる。パァン!!という破裂音がその拍手から鳴ると同時に、空気が塊となって緑谷へと向かう。幸い先制攻撃としてのデラウェアスマッシュがその空気砲を打ち消すも、焦る緑谷。

 

(こんなことができたのか!?いや、フォーアームズのパワーなら予測しとくべきだった…!これじゃあ遠距離は分が悪い…)

 

緑谷の考える通り、今遠距離勝負を持ち込んだ場合、100%負ける。一発で指一本へし折る緑谷の攻撃は打ち合いにはめっぽう弱い。

 

緑谷が考え込む。

(こっからもベン君は今のを打ってくる。どう対応すれば…!っは!?)

 

緑谷が驚いだ理由。それはフォーアームズが突撃してきていたからだ。どこかのタックルを匂わせる肉体破壊のタックル。

 

「そっちが来ないならこっちから行くぜぇ!」

 

予想外の攻撃。そして思い出す。ベンにはセオリーが通じないことを。迎撃態勢が整っていないため、フルカウルを発動し回避する。ジャんプでベンの後ろに回るが4つ目のフォーアームズは見逃さない。急ブレーキをかけ、再び緑谷に迫る。

 

「おらおら逃げてばかりじゃ

 

PPBBANN!!!

 

勝てない…はぁ!?嘘だろ!?」

 

何が起きたのか一瞬で理解はするも納得をしないベン。彼の左手首のオムニトリックスの光は、()()だった。

 

 

 

 

 

 

 




・拳藤とグウェンは割と気が合いそう。まじめだし、オレンジ髪だし。どうかな?「あたししかベンをいじっちゃダメ!」とかグウェン言うかな?

・ラスト、ポイントでっせ

・ああーー早く5つの宇宙で最高の頭脳を持つ人と、助手で最悪のあいつを出したい!


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50話 知・硬・速・獣・蟲・ki

PPBBAANN!!は変身音。
pi PBAN!! は解除音です。表現が難しい。音なしでもいいかな…?

タイトルの一文字は設定集でエイリアン名の横に書いてる文字です。まあ一文字でそいつを表したら?的な感じ


有英体育祭最終種目決勝。ここに来れただけ十分だろう、と思う人もいるかもしれない。しかし、ここに“来た”者たちはそう考えない。頭にあるのはただ目の前の人間を破り優勝。

 

緑谷、ベンもご多分に漏れず相手を負かすことだけを考えている。空気が張り詰める決勝。互いに全力を尽くす試合。にもかかわらず、ベンの変身は開始1分と持たずに解けてしまった。

 

「はぁ!?どういうことだよこの駄目ウォッチ!まだちょっとし…か…!?」

 

怒りをぶつけるように自らの手首を睨みつける。そこで気づく。変身が解除されたばかりなのに、オムニトリックスが緑の光を放っている。普段ならば中央が赤くともっているのに…

 

ベンの目の前にいる緑谷も驚いていた。普段のベンなら10分は持つ。なのに急に変身が解けた。だがこれはチャンス。人間体である今のベンは自分には着いてこれない。OFA5%フルカウルを維持したまま、地面を踏みしめ跳び蹴りを狙う。

 

DAANN!!

 

個性を利用した跳び蹴り。ベンの目前に緑谷の足はもう来ている。迷う余地はない。ダイヤルを回さずにその時計を押す。

PPBBAANN!!

 

観客たちは戸惑う。確かに今緑谷は跳び蹴りをした。回避できるタイミングでもない。なのに…

 

【おおっとぉ!!テニスン!どこに行ったぁ!?】

 

その場からベンが消えたのだ。戸惑うのは観客だけではない。緑谷も然り。当たると思った跳び蹴りが不発に終わったのだ。だが相手はベン。戸惑うよりも冷静になれ。…考えられるのは2パターン。

 

「ゴーストフリーク…もしくは」

 

キッとベンがいたはずの場所に目をやる。そこには人間のベンではなく、言っちゃぁ悪いが、気色の悪い小人がいた。

 

「グレイマターだ!」

 

「正解だよ…!!ああもう…こんな時にわざわざグレイマターを出さなくっても…!!」

 

グレイマター。驚異的な知能を持つ変わりにその体はリンゴ一つ分の大きさのエイリアン。現代の機械工学どころか未知の宇宙科学まで理解しているグレイマターだが…遮るものが何もなく、道具もないこのフィールドでは最悪の変身と言えるだろう。

 

緑谷に気づかれ、とにかく走るベン。今は逃げるしかない。ウォッチの時間切れまで…そう考えスタコラと逃げるが、

 

「逃がっ…さない!!」

 

フルカウル状態の緑谷から逃れられるわけもなく、すぐさま捕まる。地面にいるグレイマターに蹴りを入れれば場外勝ちできる。が、さすが忍びなかったのか、手で捕まえる緑谷。非常に紳士的なのだが…その選択はミス。

 

PiBAN!!

 

「うわっ!!」

 

捕まえていたグレイマターがベンに戻る。急な体格変化で緑谷の手から逃れたベン。急いで緑谷から距離をとる。そしてもう一度ウォッチを見る。先ほど同様、解除したばかりなのにウォッチはチャージ完了状態

 

「…そうか!!チャージが要らなくなったんだ!!なら…変身し放題じゃん!!」

 

PPBBAANN!!

変身先はダイヤモンドヘッド。前の試合のミックスと違い、純粋な変身。体の内からあふれ出る鉱石を放つ。

「いよぉぉし!!オレの力、見せてやるぜ!!」

 

ダガーを射出しながらも、緑谷への結晶塊攻撃。轟の氷結よりも硬い攻撃が緑谷を襲う。

だが、そのスピードはお世辞にも速いとは言えないため、対応は可能。

 

SSMMAASSH!!!

 

ダガーは吹き飛び、繰り出した結晶も半分以上が割れる。あたりにクリスタルが散らばるもダイヤモンドヘッドは気にしない。

 

「はは!!こんなこともできるんだぜ…!?」

 

地面に手を振れる。すると先ほど散らばったクリスタルが一つとなり巨大な結晶体を作り上げる。そしてそれが緑谷を

 

Pi PBAN!!

 

襲う前に動きを止める。いつもと違う音に気付かないままベンは自分の体を確認する。

 

「…そうだった…変身時間は30秒くらいなんだっけ…てっ!わぁ!!」

 

人間体に戻りぼんやりしているベンに、容赦なく蹴りをかます。インターバルがない以上、人間体のベンはほんの何秒かしかない。それに気づき攻める。が、ダイヤモンドヘッドが出していたクリスタルを盾にされる。

 

(そうか…轟君の氷は溶けてなくなるけどダイヤモンドヘッドの結晶はなくならないんだった。もう一度変身して囲いでも作られたら厄介だ…なら…ダイヤルを回させなきゃいい!)

 

そう。オムニトリックスはただ押すだけでも変身は可能。しかし、エイリアンを選ぶにはダイヤルを回す必要がある。緑谷はそれを阻止し、自分に有利なエイリアンを出させようとした。

 

そうとは知らないベン。間合いを詰められ慌てて変身する。

変身したのは…

 

「ラッキー!XLR8だ!」

 

「っく!」

 

対人においてもっとも厄介なXLR8.視認不可の速さでの攻撃は非常に厄介。以前戦った時も何もできずに負けた。

 

(…今のXLR8なら…!!)

 

まずは身をかがめる。すると緑谷の頭があった場所に、青黒色の足が通過する。

 

自分のスピードについてきたのか驚くベンだが、違う。緑谷はベンの蹴りを予測して、蹴りが出される前から避け始めたのだ。また、避けた動作にも意味がある。

 

「食らえ!X踵落とし!」

 

蹴りを躱されたXLR8はその足を高く振り上げる。

 

緑谷はXLR8の足が自らの脳天を貫く前に、高く跳びあがる。避けた動作はこのジャンプのタメでもあったのだ。XLR8の弱点。それは空。今のベンでは空中にいる相手に決定打は与えられない。しかし、緑谷にはある。

 

「デラウェア…スマァァァァッシュ!!」

 

指を犠牲に放つ暴風がXRLを襲う。

(XLR8の耐久力はそんなに高くないはず…!なら今のでダメージが…!)

 

入ったと思う緑谷。しかしXLR8はそんなに甘くない。緑谷がデコピンの準備をした瞬間、XLR8はその場で回転し、ミニ竜巻を起こしたのだ。攻撃にはならないが、風圧攻撃に対する防御にはなる。

 

Pi PBAN!!

 

「…おえっ…目が、目が回る~~」

 

XLR8の回転の影響でふらふらと千鳥足になるベン。対して空中から降りてきた緑谷。リカバリーガールから固定された左手を見て、己の状況を確認する。

 

(左指は使えない…右手は今3本使った…元々かっちゃんとの試合で壊してたからもう限界に近い…けど…まだ動く…)

 

緑谷の判断基準は感覚があるかどうか。感覚さえあれば無理できる。たとえ指が使えなくてもデトロイトスマッシュなど腕全体の攻撃ならば撃てる。そう考えている。

 

そんなギリギリの戦いをしている緑谷に対し、様々なエイリアンに変身できることがうれしいベン。無邪気にオムニトリックスの力を楽しむ。

 

「はぁ、ハァ…やっと収まってきた…よし、次は…お前だ、ワイルドマット!!」

 

PPBBAANN!!

 

目のない巨大な犬。ワイルドマットを一言で表せばこんなところだろう。犬と言っても弱点はほぼない。力もあり知能もベンのまま。索敵能力はこの場では必要ないがかなりオールマイティなエイリアンと言える。

 

そんなエイリアンを前に緑谷が取る手は距離を置くこと。遠距離攻撃を持たないワイルドマットに対してかなりの有効手段である。

 

さっと下がる緑谷を4足歩行で追いかけるベン。傍から見ればカワイイ追いかけっこがはじまったが、すぐに緑谷は捕まる。それも仕方がない。5%の力でワイルドマットを引き離せるわけがないのだから。

 

「ブルガォォウ!!」

 

吠えたワイルドマットは緑谷の右手をガブリ。もちろん本気ではないがそれなりの痛みが緑谷に走る。腕にかみついたまま緑谷を振り回す。

 

「がぁっ!!!」

 

「ブラァゥ!」

Pi PBANN!

 

「グルル…はれ…?いた!」

 

がすぐに人間体に戻るベン。一瞬緑谷の腕にぶら下がったが、咬合力が足りず、腕を離し尻もちを搗く。

 

「…あー…全国で放送してたよね今の…」

 

己の恥部が全国ネットに映ることを恥ずかしがる。戦いの真っ最中にも拘わらずその意識は散漫。

 

対する緑谷の腕からは血が出ている。それは先ほどの噛撃のせいもあるが、無理をしてデラウェアスマッシュを撃っているせいでもある。痛々しいが勝負であるがゆえに仕方のないもの。当の本人は何も気にしておらず、ただ次の手を考える。

 

「5%デトロイトスマッシュ!!」

 

「うわっ!!」

ビリッ!!

 

人間体のベンをとらえた…かと思いきや空ぶる。捉えていたのはベンの体操服。サイズが合わず、ぶかぶかに着ていたおかげでギリギリ躱せたのだ。

 

「おいイズク!よくも破いてくれたな?こうなったらお前の服もドロドロに汚してやる!」

 

そう言って変身し空中へと上昇する。彼のエイリアンで純粋な飛行ができるものはただ1人。

 

「このスティンクフライのネバネバでね!!」

BTYA!!BTYA

 

ひとたび浴びればお風呂なんかじゃ落とせないネバネバ。スティンクフライの顔管から出る緑粘液は緑谷を襲う。

 

「くっ!!」

 

フルカウルを駆使し避ける。右に左に足を動かし攻撃が当たらないように努める。そして弾数が多くなってきたとき、ダイヤモンドヘッドが作った結晶に隠れる。ベンの変身が溶けても消えないクリスタルを有効活用したのだ。

 

「あ、ずるいぞ!それなんなんだよ!!

 

Pi PBAN!

 

「ってボクがつくったんだっけ…うわぁぁぁぁ!!」

 

上空20メートルからの落下。見ていた観客も息をのむ。無個性のベンが墜落すれば文字通り必死。急いでウォッチをいじる。視界に地面が入った。

 

「誰でもいいから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グチャッ

 




・とまあラストにふさわしく?エイリアン祭り。1人1人の出番が短いのはご勘弁を!

・ベンの心の声はあんまり入らないんですよね。何も考えてないか、思ったことを口にだすから。

・次回、決着。優勝はどっちかなぁ。


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51話 kai・泳・炎・肉・霊・?

・決着!!

・緑谷が包帯で固定している手は左手です。今デコピンしてるのは右手。

・予想以上にグープを読者様が予想してて焦った…エイリアンフォース組は出番まだです!(いつ出るかは決めてる)

・タイトルは50話と繋げて読んでください!


変身が解除され、上空で人間体となったベン。そのまま風をきり落下していく。

「誰でもいいから!!」

グチャッ!!!!

 

嫌な音がする。なにかが潰れた音。当然だ。高さ20メートルから落下したのだ。テレビを見ていた子どもは目を伏せ、観客も口に手を当てる。

 

この高さから落ちればいくらベンのエイリアンでもただでは済まない…彼でなければ

 

「ヒュ~~怖かったぁ…」

 

床に張り付いた白と黒の液体が一つに纏まる。その名はアップグレード。着地と同時に体はひしゃげたが、元々スライムに近い性質の彼はノーダメージ。まさに“オムニトリックス様様、アップグレード様様”である。

 

スティンクフライの粘液を避けるため、ダイヤモンドヘッドの残した結晶塊に隠れている緑谷。アップグレードはそんな彼をここから狙う。

 

「食らえ!!」

 

顔にある唯一の文様であるグリーンサークルから、緑のレーザーが放たれる。加減を間違えば人をも焼き尽くすレーザー。

 

しかし、ダイヤモンドヘッドのクリスタルの性質上、ビームは跳ね返され己が食らう。

 

バチン!!

 

「あ痛った!!…このビームよわっちぃな…!!」

 

PiPBAN!!

 

変身が解ける。が緑谷が攻めてくる前にすぐさま変身。魚に足が生えたかのようなエイリアンが、緑谷が盾にしているクリスタルを、バキバキと食い破る。

 

「ほら…そんなのじゃ守れないぜイズク!!」

 

海から這い出て来たようなデザインのエイリアン。その口は顔の大きさまで開いていた。このエイリアン、リップジョーズの姿はとくに異形、である。

 

緑谷を隠していた結晶がいとも簡単に破られた。だがしかし

「まってたよ、(リップジョーズ)に変身するのを!」

SSMMAASSH!!!

緑谷はクリスタルごとスマッシュで吹き飛ばす。残った一本の指を犠牲にして。

 

リップジョーズの陸での特徴は、先ほどの咬合力と鋭くとがった爪。その足の爪で地面をとらえ、場外は防ぐ。だが、緑谷の狙いはそこではない。デラウェアスマッシュの風圧で、ほんの少し湿っていたリップジョーズの体は完全に乾いてしまう。バタリと倒れ水を求めるベン。

 

「体が乾いて…カヒュー…み、水…」

「…ハァ…ッハァ…そう、だよね‥‥リップジョーズは今君が1番変身しちゃいけないやつだったんだ…」

 

リップジョーズはそもそも水生生物。水が無くては生きていけない。少しなら陸での活動もできるが、緑谷が体のぬめりを吹き飛ばすことで急な水分不足となったのだ。

対する緑谷も息を切らしフラフラだ。だが、感覚のなくなる足をつねり、痛みで覚醒させる。

 

緑谷が痛みに耐えているとき、倒れたリップジョーズはベンに戻る。が、まだリップジョーズの時のダメージが残っている。

 

横たわったまま首を傾けると、唇から血を垂らし走ってくる緑谷が。ベンは鉛のように重い腕を動かし、変身ボタンを押す。

 

PPBBAANN!!

「…おらぁぁ!魚人の次は炎人だ!!はぁぁ!!」

 

あおむけの状態で変身したのはヒートブラスト。これ幸いと寝たままで炎を体から発す。体全体から熱を放射し緑谷を遠ざける作戦。その技はエンデヴァーのプロミネンスバーンそっくりだった。

 

さすがの熱に緑谷もたじろぐ。

 

「よっしゃ、このままバーベキューにして」

 

Pi PBAN!

「やるのは無理みたいだ…」

 

ダイヤルを回し次なるエイリアンを選択する。誰か…今の緑谷に最も効果的なエイリアンを。そして、一体のエイリアンが選出される…なるべきか悩むが、背に腹はかけられない。

 

「ちょっとだけならいいよな…!!リーバック!!」

 

PPBBAANN!!

 

「…オシ…イケウ…」

 

暴走が危ぶまれたが意識に問題なし。かつてUSJを襲った脳無は、今やベンのエイリアン。

 

ノシノシと緑谷の下へ向かうリーバック。観客席からは悲鳴が上がっている。おそらくだが峰田。ベンとわかっていてもトラウマは甦る。もしくはベンがトラウマを植え付けたか…

 

緑谷対策に選出されたリーバック。だが、緑谷はあえて突っ込む。

 

「君の弱点は…知ってる…!!」

 

全ての指は折れている。骨がきしむ。だが、これしかない。リーバックの胸倉をつかみ、そして

 

ミカゲスマッシュ!!!!

 

一本背負い。リーバックの能力はショック吸収と超再生、そして超パワー。普通ならタイマンで勝てる相手ではない。しかし短時間の変身という制限がかかっている今なら、投げ技で時間が稼げる。

 

背中を打ち受けたリーバックの変身は解ける。

 

ダメージは無い。しかし、いけると思った最強の異形が倒され不機嫌になるベン。まさかリーバックがやられるとは…その事実がベンを苛立たせる。

 

「…出動だ!ゴーストフリーク!」

 

ボタンを押した瞬間、ベンの頬はこけ、骨がなくなる。目にはクマができそのクマが目、全体を覆ったとき、ベンではなくそこには単眼の幽霊がいた。

 

「ああ…」

幽霊は消え、スーと緑谷のへ行き、そして体に入る。緑谷はしまった!と顔を歪ませるがもう遅い。ゴーストフリークの能力は透明化、そして体の乗っ取り。しかも、相手の意識を残したまま体を動かせる。

 

緑谷はゴーストフリークの操り人形と化す。そして緑谷がとった行動は…個性未使用で地面殴打。何度も何度も地面を殴りつける。

 

「ぐぁぁっ!」

 

【どうした緑谷ぁ!!急に地面を殴りだしたぞぉ!!何か作戦なのかぁ?!】

【…】

 

傍から見れば、緑谷が地面を叩いているだけ。変身したベンが消えたこともあり、“地面にいるベンを見つける為”と観客は誤解する。

 

ゴツッ!ゴツッ!ゴツッ!!

 

緑谷の右手からは血がしたたり落ちる。その異様な光景に観客が違和感を覚え始めた時、緑谷の脳内で声が聞こえる。

 

「ああ…まだ早いかぁ…戻りたくないがぁ…今は…仕方がないぃ・・・・」

 

Pi PBAN!!

 

元に戻ったベン。だが意識がぼんやりする。

「な、なんだったんだ今の…」

 

リーバックの時とは違う、記憶の混濁が起こる。今自分は試合中。にも拘わらず…なぜか宇宙の景色が頭によぎる。誰かの記憶と声。恨みがましい、ねばつくようなその声には“誰か”の怨念がはっきりと感じられた。

 

だがそんなことは緑谷には関係ない。変身が解除されふらついているベンを捕まえる。ベンの手首をぐっと握りしめるその手は、血で真っ赤に染まっており狂気以外の何物でもない。そして

 

「さっきの…お返しだだぁぁ!!」

 

ベンを思いっきり投げ飛ばす。100%での投げは、殺す危険もある為5%。だが10歳の体を持つベンにはそれだけでも地獄の痛みだった。水切り石のようにコンクリートを滑る。

 

「ぐっ、がっ、ぐぇぇっ!」

 

フィールドギリギリまで投げ飛ばされたベン。

 

「もう完全に怒ったぞ…!もう一回フォーアームズに…て何だこれ?!」

 

ベンは起動ボタンを押す。いつもならここで選出エイリアンが映し出される。しかし、変身ボタンは出ているが、表記は何もなくただ黄色く光るだけ。このような状態は初めてだ。だがそれ以外の反応がないので諦め、変身ボタンを押し込む。

 

「あーもー!誰か知らないけど頼むぞ!!」

 

BAANN!!

 

変身した姿は…

 

「…何も変わらないじゃん!!??何がしたいんだよこのポンコツ!!」

 

変身音は確かにした。しかし、ベンの姿かたちは一切変わらない。ウォッチは依然として黄色く光っている。何度押しても変化がない。

 

もう完全にキレるベン。子供が癇癪を起こしたように怒鳴る。ベンを見ながら息を切らす緑谷に向かってパンチ予告。

 

「もういいよ…!イズク、腹減ってない?!ボクのナックルサンド、お見舞いしてやるよ!!たぁぁ!!」

 

もう半分やけで緑谷に突っ込む。傍から見ればただの突撃。それも無個性の10歳の。

 

だがしかし、そのときこの会場でただ二人だけ感じた。今のベンに何が起きてるのかを肌で。

 

オールマイトと緑谷出久。彼らだけが、確かに感じ取ったのだ。今のベンの力を

 

((ワン・フォー・オール!!??))

 

考える暇はない。もうベンがすぐそこまで来ている。確証はない。理由もない。しかし確かに感じたのだ。自分が継承した時に宿った(OFA)が、目の前のベンにあることを。

 

半端な力では押し負ける。緑谷は全身全霊の本気で迎え撃つ。血と痣で黒く染まる右手を引き、構える。パンチをすると予測されてもすべてを覆せる、最高のヒーローの技。

デトロイトォォォ…

 

「げ!イズク!!本気かよ!いいよ、やってやる!!!!」

2人の腕に力が流れる。しかしベンは気づいていない。ただ力一杯拳を振るう。

 

スマァァァッシュ!!!

やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

BOOOHHAAAMMMM!!!

 

二つの強大な力。それらがぶつかり合ったとき、ステージは砕け、観客は強風で吹き飛びそうになる。重厚な煙がフィールドどころか会場を覆い、誰にも結果がわからない。

 

 

時間が経ち、煙が晴れてきてのマイクの一言目は

 

【ステージに誰もいねーぞ!!?】

【ああ…あそこだ】

 

相澤が二か所を指さす。そこには観客席まで吹っ飛んだベンと緑谷がいた。西側と東側。パワーとパワーのぶつかり合いは互いを観客席まで吹っ飛ばす結果となったのだ。

 

【おいおい!!二人とも場外かよ!!なら再試合ってことか!!】

【いや、その必要はない。先に場外に出たほうが、着いた方が負けだ】

 

相澤は解説を始める。

 

【何故かは知らんが最後の一撃はほとんど同威力のようだった。そして真正面から打ち合って吹っ飛んだんだ。なら当然、体重の軽いほうがよく飛ぶ】

 

【ほうほう…ん?てことはつまり】

 

【そういうことだ…】

 

緑谷の体重は65キロ。対してベンは37キロ。約半分の体重である。ミッドナイトが確認する。緑谷は観客席の下段まで吹っ飛んだが、ベンは上段まで吹っ飛ばされていた。

 

つまり……………先に場外に出たのは緑谷。

【雄英体育祭!栄えある優勝者は…ベン=テニスン君!!!!!!】




・王道の主人公優勝!!!いやぁ長かった。だが終わってみればベンは全競技トップ。内容はともかく

・ゴーストフリークの反乱はまだ先です…

・体育祭編で20話使っちゃったYO!!ぶっちゃけラストだけは元々考えていたやつで、他のは(ウォッチ故障とか)ノリで書きました…まあ拳藤との繋がりが出来たのはうれしい誤算。


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52話 表彰式、そして

・左手を怪我していた緑谷は、右手でベンの左手首をつかんでぶん投げた。その後ウォッチが黄色く光った。

・ベンは左腕にオムニトリックスをつけてます

これが前回の話!!


緑谷のデトロイトスマッシュvsベンのパンチ。変身が出来ず、ただ人間のままパンチを繰り出したベン。ただし、なぜかその拳にはOFA相当の力が宿っていた。互いを観客席まで吹っ飛ばしたそのパワー勝負の軍配は、ベンに上がった。

 

【第42回雄英体育祭優勝は、ベン=テニスンに決定だぁァァ!!1】

 

アナウンスが会場に響きわたる。幾多の戦いを超え優勝したのは無個性のベン。観客はその事実を知らないが、彼の力をほめたたえる

 

「すごいな、防御力も攻撃力もあり、範囲攻撃もできる。スピードだって!」

「それだけじゃあない。障害物競争の時や一回戦で見せた、あの黒と白のやつだって相当使えるぞ!サポートアイテムを持たせればどんなことだって可能になる!」

 

観客は口々にベンを褒める。当のベンはというと‥‥観客席まで吹っ飛んだ後、そのまま気絶していた。それは緑谷の一撃のせいだけでなく、なぜか紫色に至るまで痛んだ腕が原因。あまりの痛さに気絶してしまったのだ。

 

異様な力を発揮したベンを怪しく思う相澤は黙り、マイクは式の進行を図る。

【テニスンは…気絶してんな…テニスンの治療が終了しだい、表彰式に入るぜぇぇ!!!】

辺りには何もない。ただ緑色のヘドロが充満しているような空間。ただその無重力空間でふわふわと浮いているベン。

 

「どこだ?此処…」

 

異様な空間に戸惑っていると、徐々に目の前にヘドロがかき集まり、何かができる。それは、ベンの体よリも何倍も大きい。顎から触手が生え、タコが人間と同じような進化をした造形の化け物だった。

 

空中にいるベンを捕まえてこう述べる。

 

「恐れよ…逃げることも隠れることもできない。私自らの手で、必ずオムニトリックスを取り返してやる」

 

そう述べると手の中のベンを握りつぶす…

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

ドシン!!と大きな音を立てベッドから転げ落ちる。頭を摩りながら首を振ると、驚いた顔をした緑谷とリカバリーガールがいた。どうやら今見たのは夢らしい…冷や汗を拭いながら今の自分の状態を確認する。

 

2人から説明を受け、自分がここにいる経緯を聞く。どうやらここは保健室らしい。決勝戦で、互いを観客席まで吹き飛ばすほど拳を打ち合わせた2人は、気絶しその治癒を受けたのだと。

 

自分の左手を見る。もう痛みはないが、徐々に思い出す。最後に変身が出来ず、ただ力いっぱいパンチしただけなのに、なぜあそこまでパワーが出たのか。わからない。

 

「なんで、ボクはあんな超パワーを出せたんだろう…もしかしてボクの個性が目覚めたとか!?」

 

考察を始めるベンに対し、それは違うと否定したい緑谷。なぜならベンが超パワーを発揮したとき、なぜか己の力と同様のものをベンから感じ取れたから。今はそんなことないが、その時の感覚に間違いはない。ならなぜ…

 

そこで緑谷はある一つの仮説を立てる。

OFAのことを話さずに見解を話していく。

「ベン君、オムニトリックスを見せて」

 

そう言ってベンのウォッチをまじまじと見る。ウォッチは緑色の状態でいつも通り。だが見たかったのはそこじゃない。

 

「…やっぱり僕の血ついてる…試合の最後、僕はベン君を手首掴んで投げたじゃない?」

 

「ああ、めちゃくちゃ痛かったよ…でなに?それ思い出させて?」

 

「ご、ごめんって…でその時、オムニトリックスごと掴んでたんだよ。その時に僕の血がオムニトリックスに入ったと思うんだ…」

 

試合の動きを説明する緑谷。だがいまいち理解のできないベン。理解の追い付かないベンにはっきりと言おうとしたその時、

 

「つまり、緑谷少年の個性をコピーしたんじゃないかってことだね?」

 

後ろから声をかけてきたのはオールマイト。表彰式を控えているため、コスチュームを着ているが、トゥルーフォームのためダボダボだ。皆には隠している姿だが、ベンはその姿を知っているので遠慮なく話しかけてくる。

 

オールマイトの言葉に緑谷はうなずく。

 

「…はい。脳無のときだって、オムニトリックスごとベン君は掴まれててその後リーバックに変身した。ってことはやっぱり、DNAを取り入れることでオムニトリックスはそれを再現できるんだと思います」

 

緑谷は脳無にベンが変身した時のことも踏まえ以上の結論を出す。確かに緑谷の理論には筋が通っているように思える。だがしかし…ベンはオムニトリックスの選出ダイヤルを回し、確認する。脳無の時には、リーバックが新しく選出画面に映るようになった。だが

 

「…新しいやつはいないよ?そもそもあの時変身できなかったし!リーバックは…元々似たようなエイリアンがいて、そいつをあの脳無とかいうやつがパクったんじゃない?」

 

「そうかな…?けどたしかに変身できなかったわけだし…うーん…どうなんだろう…」

 

 

緑谷の推理を一蹴したベン。その気持ちもわかる。なぜならオムニトリックスは“エイリアンに変身する”装置なのだ。それ以外の機能があるとは思っていない。もちろん、エイリアンは今の11体より多いとは思っているが…

 

「ははっ、まあそれだけ複雑な機械だ。今我々が考えても仕方ないさ!それより、もう表情式だ。2人とも早く会場へ行かなきゃ!」

 

オールマイトが明るい声で急かす。すっかり忘れていた。まだ体育祭は終わっていないのだ。彼の言葉で急いで着替えてフィールドへ向かう。

 

2人に遅れて出るオールマイト

「…」

彼には二つの懸念があった。一つはベンのOFA。確かにあの時ベンからOFAを感じ取れたのだ。もしあれが本物なら、その秘密を話すべきかもしれない。もう一つは、ゴーストフリークになった時のベンの非情さ。緑谷の体を乗っ取り、ただその拳を壊すためにひたすら地面を殴るなど、ベンがするとは思えない。

 

「杞憂だといいが…」

 

表彰式が始まる。壇上には3位の爆豪、轟、準優勝の緑谷、優勝者のベンが立っている。ベンはこの眺めを初めて経験し、ご満悦な様子。

「それではこれより表彰式に映ります。まずはメダル授与!今年の贈呈者はもちろんこの人!」

 

「私が…メダルをもって

 

【我らがヒーロー、オールマイトォ!!!】

 

「…」

 

渾身の登場文句を皆に遮られたオールマイト。悲しそうな顔でミッドナイトを見つめるも、すぐに気を取り直し、メダルを選手に掛けていく。まず初めに第三位から。

 

「第三位、おめでとう!と言いたいところだが、そんな顔じゃあないな!爆豪少年!!」

 

「…足りめぇだ!!…一位にならなきゃ意味がねぇんだ!」

 

悔しそうに歯を食いしばる爆豪。路傍の石と思っていた緑谷は自分を追いかけており、追いつき、追い越した。その事実で彼の腸が煮えくり返りそうになる。ここから追い抜くと決めたものの、ショックなものはショックだ。下を向く爆豪をオールマイトは諭す。

 

「その上昇思考は良いことだよ。これまでのその志のおかげで君は強くなっていったんだろう。しかし!!これからは偶に振り返ってごらん?上に進んでいるのは君だけじゃないと分かっただろう?自分を追うものの姿を見れば必ず君の力になる!」

 

返事はしない爆豪。しかしオールマイトのいうことは、この大会で身にしみてわかった。強くなるに、もう負けないために。個のメダルは傷として受け取る。

 

「よし!次は同じく第三位轟少年!おめでとう。準決勝では左を使ってたね。なにかきっかけがあったのかい?」

 

「…ただ…この力には特別な意味なんてないって思えました。ただの俺の“個性”なんだと。ただあなたのようなヒーローになりたかったんだって…それを…テニスンに教えてもらいました」

 

傍で聞いているベンは“そんなこといったっけ?”という顔をしている。オールマイトは色々な言葉を飲み込み、ぎゅっと抱きしめる。

 

「…ああ、そうさ。個性とは単に“個性”でしかない。君の、個性なのさ…」

 

轟は小さく頷く。暗いとも明るいとも言い難い轟を見つめた後、オールマイトは次に移る。

 

「緑谷少年!決勝戦は惜しかったな!あと少しの差だったに!」

 

「はい…けどベン君の力を読めなかったのが敗因なんです。そもそもベン君が人間体のときに一気に決めるべきだったのかも。それに蹴り技ができることももっと早くきづうべきだった。そうすれば練習ができて決勝でもやれることが増え…」

 

いつものブツブツ。オールマイトを差し置いてこのような舞台に立っても自分の世界に入れる彼はメンタル強者であろう。

 

「おいおい!反省は後にしようぜ!今はこの順位を喜び、あるいは悔しがる時間さ!選手宣誓の通り優勝、とまではいかなかった。が、この成績は誇っていいものだ!」

 

「…はい。けど、次は僕が勝ちます!そして、あなたみたいなヒーローになります!!」

 

昔っからの夢。オールマイトのような、最高のヒーロー。その決意を全世界に表明した緑谷。その目は真っ直ぐ未来を見ている。目指すは平和の象徴。この国の柱。

 

「うむ!頑張ろうな、少年!」

 

緑谷へのメダル授与を終え、いよいよ優勝者へ。その優勝者は緑谷の次に付き合いの長い生徒。さらに、思えばベンが家族以外に変身を見せたのはオールマイト。

 

「テニスン少年!優勝おめでとう!」

 

「まあね?このベン=テニスン様にかかればこんなもん楽ショーだったよ!!」

 

「こりゃすごい!確かに君は優勝した!それは素晴らしいことさ!しかし、君は多くの人に助けられてここまで来てるだろう?直接的にせよ、間接的にせよ。そのことを忘れちゃいけないよ?」

 

「でもボクは優勝したからね。このウォッチのおかげで!!」

 

自慢げにオムニトリックスをオールマイトに見せるベン。明らかに増長しているが、念願の優勝を果たしたのだ。ベンが本当は無個性で、不遇だったことを知っているオールマイトは責めるに責めきれない。また自分も無個性だったこともあり、まあ仕方のないことだろうと割り切る。

 

「ははっ!確かにそのサポートアイテムの力もあっただろう!だがそれも誰かが作ってくれたものさ!他者の助けがあるからこそ君は力を存分に発揮できた!そのことを、このメダルを見るたびに思い出してくれよ!」

 

オールマイトがベンの首にメダルを授ける。オールマイトの言葉を説教と捉えていたベンも、このメダル授与はうれしい。小学生のころか無個性だとバカにされ、ヒーローに成れないといわれていた。そんな自分が雄英でトップに成れたのだ。その嬉しさは計り知れない。

 

ニマニマするベンを見て、ニッコリと笑うと、オールマイトは会場全体に呼びかける。

 

「今回は彼らの勝ちだった!しかし、この場の誰にもここに立つ可能性はあった!競い、高めあい、さらに先へと昇っていくその姿!次代のヒーローは確実にその目を伸ばしている!てな感じで最後に一言!!」

 

「プルス…」「プル」【お疲れ様でした!!!!!!】「…ウルトラ!」

 

最後は締まらない、オールマイトのお疲れさまと、皆のプルスウルトラで体育祭は終わった。

 

好敵手と書いて“とも”と呼ぶ。歯が浮くセリフのようだが、この場にいる誰もが今日実感した言葉だ。

 

そして物語はここから動き出す。

 

 

「ああ…はやく手に入れなければ…私が全宇宙を支配するために…」

「もうちょっと待つんだ!あと一週間もすればやつがこっちに来る!!」

 

賢しい悪は、いつも見えないところで画策する。己の欲を満たし、世界を滅ぼさんとする野望を叶えるため。

 

 

 




・体育祭編終了!!!次からは職業体験編!!ベン10時空の登場人物がちょっと出てきます。ヒロアカ要素がこの章よりも薄くはなります…

・ベン君、調子に乗ってますな

・ベンが継続的にはOFAを使えるようにはなりません…

・ラストの悪2人は、1人はあのタコさん。もう一人は…


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職場体験編(オムニトリックスの秘密編)
53話 海外型職場体験


今回は会話メイン!
始まりました職場体験編!異例の海外型職場体験!独自設定が火を噴くぜ!



皆が死力を尽くした体育祭から二日。土曜、日曜と休暇を挟み、すっかり体力も回復した。そんな月曜の朝。

 

「まずいよ!!なんでママ起こしてくれなかったんだよ!!!」

 

ベンは寝坊をしていた。もう始業まで10分を切っている。ここから学校まで電車で30分。家から駅の距離を考えれば間に合うはずもない。だが…

 

ベンはダイヤルを回す

「…行ってきまーす!!」

 

PQBBAN!!

 

「へへっ!5分もあれば十分だもんね!!」

 

スピード自慢のXLR8へと変身、そのまま学校へ向かう。

その日の朝、町には謎のかまいたちが起きたとか…

「で、なんで遅刻しちゃったのさ…!!」

 

「だからぁ!急に変身が解けちゃったんだって。XLR8が1分くらいで変身が解けて、しかもそれから30分は使用不可だったんだぜ?やんなっちゃうよ」

 

「そもそもベン君が寝坊したんが悪いんやない?」

 

緑谷、麗日、ベンは一限と二限の休み時間、遅刻の経緯を話す。緑谷の言う通り、ベンは遅刻した。

 

ヒーローという公務員を目指す学校なだけあって、雄英は遅刻に厳しい。昼休みに相澤に呼ばれたベンは陰鬱な気分だ。気分を変える為話題を反らす。

 

「まあいいんだよそんなことは。それより、HRはスカウトの話だったんだろ?どうだった?」

 

「ああ、えっと…」

 

スカウトとは、体育祭を見て、プロヒーローが生徒を指名することだ。指名されたものはそこから自分の職場体験場所を選ぶことができる。今年票が集中したのは順に、緑谷、轟、爆豪、そしてベンだったらしい。

 

「はぁ!?なんでボクがその3人に負けてんの!?どういうことだよ!」

 

予想していたものと異なる結果に不服なベン。麗日がそれに答えようとすると、

「えっとたぶ」

 

「戦闘力以外の全てだよ」

 

後ろから相澤、そしてミッドナイトが入ってくる。馬鹿にされたと感じたベンは相澤にくってかかる。

 

「はぁ?ボク優勝したじゃん。何が問題なんだよ!」

 

「まず口調…はまあギリギリ認めてやるとしても、障害物競走ではスタートに失敗し、騎馬戦での序盤の立ち回り、そして発目との八百長。今日の遅刻もそうだが、お前は戦い以外の面で問題が多すぎる。さらに言えば今日お前、個性使って登校したらしいな?」

 

「そ、それがなんだよ」

 

「本来、公の場での個性使用は禁止。お前は体育祭で目立って、さらに変身も目立つんだから控えろ」

 

「なんでだよ!これはボクの力だぞ!」

 

「んなこたぁわかってる。モラルの問題だ」

 

そこまで話すと相澤は教壇に立つ、ベンは納得していないが、緑谷と麗日になだめられ席に着く。

 

2限目が始まる。

「さて、先ほども話した通り、今日はヒーローネームを考えてもらう。ま、細かいことはさっき言ったとおりだ。じゃあミッドナイトさん、あとは頼みます」

 

「わかったわ!!」

 

相澤に代わり、ミッドナイトはヒーローネームについての重要性を話す。ヒーローネーム。自分がヒーロー活動する際に名乗るもの。この時つけたヒーローネームは世間に認知され、そのままプロ名になっているものが多いそう。適当につけてしまうと後悔してしまうというわけだ。

 

先ほどまで相澤にぶー垂れてたベンも、この授業には思わずワクワクしてしまう。祖父のマックスはマクスウェル、従妹のグウェンはラッキーガール。その由来をベンは知らないが、ヒーローネームがあるだけで羨ましいと思っていた。

 

なんにしようか考えている時、1人目の蛙吹が発表する。

「小学生の時から決めてたの。フロッピー」

 

「かわいい!親しみやすくていいわ!」

 

蛙吹のお手本のようなヒーローネームを皮切りに、皆が発表していく。

 

切島「んじゃ俺、漢気ヒーロー 烈怒頼雄斗!!」

耳朗「ヒアヒーロー イヤホン=ジャック!」

障子「触手ヒーロー テンタコル」

瀬呂「テーピングヒーロー セロファン」

上鳴「スタンガンヒーロー チャージズマ!!!」

 

「いいわいいわ!!皆よくできてるじゃない!!ジャン行くわよ!!」

 

八百万「この名に恥じぬ行いを クリエティ!」

轟「焦凍」

 

「そのままだけど!?」

 

爆豪「爆殺王」

 

「そういうのはやめた方がいいわね」

 

良い流れだった名前発表を爆豪が止める。初めて“待った”がかかった。爆豪にはいかにもな名前ではあるが、ヒーローを名乗るものが、“殺”という字を入れるのはいかがなものか。

 

そんな爆豪を見ながら“やれやれ”というものが一人。ベンだ。爆豪を押しのけ壇上に上がる。

「はぁ…わかってないねぇカッチャン」

 

「ああ!?んだとチビ!」

 

「ヒーローネームっていうのは自分の想いとかそういうのを詰め込んだよ?つまり…これだ!!変身ヒーロー ウルトラベン!!!」

 

【…‥‥…】

 

教室全体が静まりかえる。予想に反し反応が良くない。皆が自分から目を反らす。

 

「あれ?どしたの皆。あまりのよさにびっくりしちゃった?」

 

ミッドナイトだけが目を合わせる。

先生、という立場に故に指摘しなければならない。しかしこの時期の子供は繊細、ということも加味して遠回しに却下するミッドナイト。

 

「…ヒーローネームは大人になっても使うものだから…その辺も考えて方がいいわね。うん、一応、やり直しね…」

 

いつもなら言い返し反抗するベン。しかし相澤と違って、ミッドナイトが気を遣っているため、強く反論することが出来ず席に戻る。

 

その後、再考の爆豪とベン以外が発表していき、最後は緑谷となった。ベンは緑谷のヒーローネームを推察する。

(多分、オールマイトJrかスーパーマイトだな…)

 

登壇して、皆にボードを見せる緑谷。その名を見たクラスメイトはざわつく。なかでも麗日、爆豪は表情を変える。

 

クラスメイトは緑谷にそれでいいのかと問う。

 

「…うん、今まで好きじゃなかった。けど…ある人に意味を変えられて…僕には衝撃で…嬉しかったんだ…」

【いつまでも出来損ないの“デク”じゃないぞ…「頑張れ!!」って感じの“デク”だ!!】

「これが、僕のヒーロー名です」

 

ボードには、カタカナで大きく、“デク”と書いてあった。

 

・・・・・「爆殺卿!!」「スモウスラマー ベン!!!」

     「違う、そうじゃない」

4限が終わり、ベンは相澤に生徒指導室で絞られていた。遅刻の件、そして街中で変身した件。ベンは目立つ個性らしいので控えるようにとのこと。

 

「そしてこれが反省文。今日中にちゃんと提出すること」

 

「うへぇぇ…勘弁してよ…ただでさえ宿題でヒ―ヒ―なのに…」

 

「嘘つけ。お前、課題あんまり出してないんだろ。そっち方面でも先生方おこってらっしゃったぞ」

 

「げ…」

 

「テストの点ばっかりよくても駄目だからな」

 

そう、宿題は提出しないがテストの点はベンは良い。なぜなら知能の高いグレイマターになり、テストの出題を予測して臨んでいるから。宿題もグレイマターとなってやればいいのだが、小学生の頃からの癖で、宿題を提出することそのものを忘れるのだ。

 

「はいはい分かってますよ。もう行っていい?」

 

「いや、今からが本題だ…そろそろ来る頃だが…」

 

相澤がチラリと時計を見ると、ノックの音が聞こえ、先生と生徒が入ってくる。

「ああ、やっと来たかブラド」

そう呼ばれたのはブラッドヒーロー ブラドキング。ヒーロー科一年B組の担任。彼に連れられてきたのは

 

「あんたも呼ばれたの?ベン」

「イツカ。おまえもどうしたんだよ」

 

拳藤。体育祭で仲良くなったB組の姉御肌だ。

 

拳藤 ベン、ブラド 相澤が向かい合って座る。ブラドがお茶を用意した後、相澤が要件を切り出す。

 

「お前たちを呼んだのは、ほかでもない。“海外型職場体験”についてだ」

 

「「海外職場体験?」」

 

「ああ、と言っても難しい話じゃあない。その名の通り、海外、今回の場合アメリカで職場体験をしてもらうってことだ」

 

そこからはブラドキングが解説した。

 

雄英の職場体験はこれまで日本に限ったものだけだった。しかし、昨今の敵多様化により、より幅拾いヒーローを育てるべきだと国が判断。そこで、まず日本一ヒーロー校の雄英で海外型職場体験を始めよう、というわけだ。

 

「雄英、または雄英所属のヒーローと所縁のあるアメリカンヒーローに、今回のことを打診、その後向こうさんが許可した生徒について薦めるってわけだ。試験的なもので1クラス1名。それぞれ違う事務所に行ってもらうんだが…どうだ」

 

相澤本人はあまり薦めたくない。この前敵襲来で生徒は危険にさらされたのだ。たとえアメリンヒーローが近くにいたとしても、職場体験という要素に加え、海外という危険オプションがついてくる。

 

だが、相澤の心配はベンには届かない。

 

「もちろん行くに決まってるよ!!で、事務所はどこ!」

 

ベンはそもそも日本よりもアメリカのヒーローの方が詳しい。当然乗り気である。隣の拳藤は…

 

「そうですね…貴重な体験でしょうし、行かせてもらいたいです」

 

少し考えたが、隣ではしゃぐ陽気なベンにつられ許諾する。

 

「そうか…わかった…じゃあ、その方向で行く。此処に書いてある中で好きなところを選べ」

と、2人にヒーロー事務所の候補リストを渡す。

 

「えーーと…あった!!!」

 

ベンはさっそく自分が行きたい場所を決める。対する拳藤もベンとは違う事務所に決める。

少し不安そうな拳藤と、対称的なベンであった。その日が待ち遠しくて仕方がない。

 

「ああ…楽しみだな!!」

相澤達との話を終え、学食で緑谷達と合流する。食事を口に運びながら先の件を彼らに話す。

 

「ええ!?じゃあベン君アメリカで職場体験!?」

 

「そうだよ。どんだけ驚いてんだよ」

 

「…いくらなんでもそれは危険なんじゃないか…?アメリカはヒーローの本場と言っても日本と法律が違うし…それこそ自警団が日本より全然認められてる…いや、でも日本と能率が似ている州なら大丈夫なのか?それで」

 

「確かにアメリカはすげぇな…俺も行ったたことねぇし…」

 

緑谷のブツブツを無視して轟が入る。ちなみに飯田は今日は休みだ。いつもの飯田のポジションには轟が座って、そばを食べている。

 

ベンが轟にどこの事務所かを問うとエンデヴァー事務所と言う。意外な答えにベンは素直に返す。

 

「ええ?トドロキって父さんのこと嫌いじゃなかったっけ?」

 

デリカシーのない発言に緑谷、麗日はヒヤヒヤする。ベンの言葉に顔いろ一つ変えずに轟は答える。

 

「…ああ。それは今でも変わらねぇ。ただ…あいつをヒーローとして見たことがなかったからな。まずは見てみようって思ってんだ」

 

以前と雰囲気の違う轟に麗日と緑は何かを察する。察せてないのは子供だけ

 

「まあいいや。で、イズクは前のところ、オチャコは…なんだっけ?」

 

「ガンヘッドだよ!!格闘系!!」

 

「へー…似合わないね…オチャコは戦うの下手そうだし」

 

「ぐ…ベン君結構いうよね…確かに私はそういうの苦手やったけど…経験してみんとって思ったんよ!!」

 

「はぁーん。皆、挑戦してるんだな。ボクはよくわかんないや」

 

ベンの発言に緑谷が突っ込む。そして小声でベンに注意する。

「ベン君が一番の挑戦じゃない?!(あと絶対オムニトリックス壊さないようにね!ていうか下手にイジらないほうがいいよ!)」

 

「(わかってるって!!)」

 

分かってない…

【職場体験 当日】

 

他の者は新幹線や国内線飛行機に乗っている。しかし、ベンと拳藤は2人でアメリカ行きの飛行機に乗っていた。ゲームをピコピコやるベンに拳藤は説教をかます。

 

「はぁ…ベン。ほんっとギリギリだったんだからね?!あたしが電話しなきゃあんた飛行機乗れてなかったんだだから!」

 

「うるさいなぁ。乗れたんだからそれでいいじゃん。しつこいんだよ!」

 

「あのねぇ!」

 

「そもそもボクは何回もアメリカ行ったことあるし大丈夫なんだよ!なんで隣に座ってんだよ!」

 

「先生が手配してくれたんでしょ!それにあんた空港で手続き失敗してたじゃん」

 

「…ハァ…この後似たようなのも相手しなくちゃいけないのか…」

 

「何か言った?」

 

「何でもないよ!」

 

パタン、とゲーム機を閉じ、毛布を頭からかぶる。

 

アメリカのとある空港につく。ベンは熟睡しており、拳藤は2人分の荷物を取る。

 

「ほら、もう着いたよ!」

 

ベンをゆさゆさと揺するが、もう少し、とばかりしか言わない。置いていくという選択肢は拳藤にはない。もし従妹だったら置いていっただろう…

 

むにゃむにゃと目をこするベンの視界に入ったのは、オレンジ色の髪。意識がはっきりしてくると、自分が拳藤に背負われていることに気づく。

 

「な、何してんだよ!」

 

「あ、やっと起きた」

 

優しくベンを下ろす。さすがのベンも、同級生の女の子におんぶされることは恥ずかしいらしい。顔を真っ赤にしてキーキーと喚く。そんなベンを見て満足したのか、拳藤は笑顔で

 

「ふふふ。じゃ、あたしこっちだから。お互い頑張ろうね!!!」

 

拳をぐっと前に出し、ベンに突き出す。ベンは恥ずかしいのでプイっと向こうを見る。そして

 

「イツカもヘマしないようにね?イズクに負けるくらいなんだから」

 

ぶっきらぼうなベン。拳藤は慈愛に満ちた、姉のような笑顔で見つめた後…

 

「あんたもね!!!」

「アイタタタ!!!」

頭を両こぶしでぐりぐりして去る。ベンとは反対の道。まだ見ぬヒーロー、国に胸を高鳴らせ、拳藤は空港を出る。

 

ベンはというと、まだ空港。というのも人を探している。空港の待合所にいるとの話だったが、見当たらない。暇つぶしにゲームをし始めたその時、後ろから女性の声がした

 

「高校生にもなってスモウスラマーははずかしいんじゃない?お間抜けさん」

 

「…高校生にもなって人のこと馬鹿にするのはどうなんだ?がり勉」

 

後ろには、従妹のグウェンと、職場体験先である、万能ヒーロー マクスウェルがいた。

 

「じーちゃん!!!」

 




・今のオムニトリックスは変身時間1分、インターバル30分とクソ使用です。先の戦いで大分いかれてしまいました。

・ベンは、先生たちからなぜ成績がいいのかと不思議がられています。授業中の態度も最悪です。原作の一話でも、ベンは先生に対して結構態度悪いです。これはYouTubeに乗ってるのでぜひ!

・幸運ヒーロー ラッキーガール。グウェンのヒーローネームはアナダイトにしようか迷ったんですけど、後で使うかもしれないと思ってこっちにしました。


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54話 初めての宇宙

この章のストーリーはだいぶ固めてます。ぶっちゃけ緑谷たちの出番がないです(今のところ)。今緑谷はグラントリノのところで実践練習(吐いては戦い、戦っては吐いて)をしてます。


ここはアメリカはベルウッド。小さな町であり、アメリカでもっとも普通の町と言われる。もともとは犯罪率の高い町だった。なぜそれがこんなのどかな街になったのかというと、過去に英雄とされたヒーローがいるからかもしれない。

 

マクスウェルヒーロー事務所。

40年前はアメリカの至る所にあったこの事務所は、今やベルウッドにポツンと佇んでいるだけだ。

 

「はぁ。じーちゃんはすごいヒーローなのに、なんで事務所はこんなオンボロなわけ?」

 

今にも崩れそうなん柱をコンコンと叩きながら、ベンは文句を垂れる。マクスウェル、とはベンの祖父 マックス=テニスンのヒーロー名。昔は名のあるヒーローでUSABW(ビルボードランキング)と呼ばれるヒーロー番付でトップにも選ばれた。確かに今は引退している…が、にしてもボロボロすぎる。

 

「はは…ベンよ。この事務所はわしがヒーローを始めた時からお世話になってるんだ。もう家族と言ってもいい」

 

「そーいう理由でまだあのオンボロ車も使ってるんだろ?じーちゃんは家族が多いんだねっ」

 

ベンがマックスに茶々を入れる。すぐさま従妹であり、ここをヒーローとしての活動拠点としているグウェンが叱るが…

 

「ベン!!おじいちゃんにとってあれは思い出の車なのよ!

…けどこの事務所はリフォームしない?ほら、今はあたしだって住んでるわけだし…せめてウォシュレットくらいは…」

 

「はっはっは!馬鹿言っちゃいかん。別に風情のある事務所でいいだろう?」

 

そう言って部屋の奥に入っていくマックス。軽くあしらわれたグウェンをベンは声真似をして嘲る。

 

「セメテウォシュレットクライはイイデショ?ははは!!!お前なんか今のくっさいトイレで十分だっての!!」

 

「うるさいわね!あんたは一週間いるだけかもしれないけど、あたしはずっとここにいるのよ!?クーラーだって冷蔵庫だって壊れてるし‥!ハイスクールに行ってる時だけよ!あたしが快適に過ごせるのは…」

 

「いいんじゃない?最年少サイドキックにはお似合いですよぉ?」

 

 

「んん!!」

 

グウェンは近くにあったクッションをベンに投げつける。ボフッと音を立てベンの顔面に当たる。

 

「やったな!?XLR8で高速お尻ぺんぺんでもやってやろうか?!」

 

手を振り上げウォッチを押そうとする。だがその手はマックスにつかまれる。

 

「仲が良いのは良いことだがベンよ。ウォッチを私的に使うのはいかん。そもそも壊れとるんだろう?」

 

ベンのウォッチは今故障中。変身できないこともないが勝手が悪すぎるのだ。そのことはマックスにも電話で伝えた。オムニトリックス関連のためにもベンは海外型職場体験を志願したのだ。

 

が、なぜかオムニトリックスを見るマックスの目は、憐憫の意が感じ取れる。

 

「さあ、そろそろ来るころだ…」

 

「来るって何…が‥‥!!??」

ベンが尋ねると同時に、彼らの目の前のソファーが歪み始める。ギュルギュルと渦巻き状になってあたりの空間も歪む。すると、そこには半径2メートルほどの穴が開く。中は黄色いエネルギーで渦巻いている。

 

目の前に漂うサークルにベンとグウェンは驚く。そんな二人を連れ、マックスはそのサークルに入っていく。

 

まるでどこでもドアのごとく、その円を潜ると、彼らは緑と黒色で配色された廊下に立っていた。閉鎖的で、緑色の光で照らされている。

 

円を潜っただけでここにたどり着いたことにはしゃぐベン。

「すっげぇぇ!!!今の何!?ワープの個性!?」

 

「まあ似たようなものだな…最近完成したらしい機械を応用しとるらしいが…予想以上だな…」

 

マックスでも驚くようなものらしい。グウェンもこの移動のことは聞かされてなかったようで驚いている。柱を触り、その材質が地球にないものだと感覚で気づく。

 

三人がその場に立ち止まっていると、ビービーと警報が鳴りだす。光源は真っ赤に染まりわかりやすく危険を知らせる。

 

【侵入者!!侵入者!!今すぐ撃撃せよ!!】

「ちょっとぉ!!おじいちゃん!?あたしたちお呼ばれされてない感じなの!?」

 

「いやそんなはずは

 

DDGGAANNN!!!

 

建物内に轟音が響き渡る。ベン達の廊下の先から聞こえた。

 

「…どうやらわしら以外のやつらが来たようだな」

 

「じゃあボクの出番だね?ヒーロータイムだ!!」

「ベン!よせっ!!」

 

PPQBBAANN!!

 

「楽勝だぜじいちゃん。俺はどんなものでも跳ね返す、ダイヤモンドヘッドだ!」

 

それだけを言い、ガシャガシャと音を立てながら隣のフロアへ走る。

あきれ顔のグウェンは祖父に問う。

 

「で?おじいちゃん。あのバカ行っちゃったけど」

「ベンを援護するんだ。ベンが対処できる敵かわからん」

 

マックスは指をポキリと鳴らし、グウェンは桃色のマナを両手に纏わせる。

 

彼らより一足先に敵に行きついたベン。その敵は黄土色をしたロボだった。

「おいおい、ロボじゃねーか!入学試験のやつよりは高性能っぽいが…」

 

上半身は人型に近く、下半身はカニをモデルにしたようなロボ。その手は、ベンの頭三つはいるくらいのハサミとなっている。カメのように胴体に引っ込めていた頭を出し、ベンを脅す。

 

「なんだ、ペトロサピエンか。ここにオムニトリックスが来ることは知ってい…いや、ちょうどお前がそうなのか…よし、オムニトリックスを渡せ。素直に渡せば苦痛なく殺してやろう。そうでなければ痛い思いをして死ぬぞ?」

 

「なんだ?お前ウォッチを狙ってるのか?あいにく外れないし、その渡す予定もない!」

 

腕を硬化し刀の形に形成する。そのまま距離を詰め敵を切り裂こうとする。しかし、敵も単純ではない。足を回転させたかと思えば、床に潜りそのまま期を狙う。

 

「隠れていても俺を倒せないぜ?!それに、無駄だぁ!」

 

地面に手を着き、クリスタルを発生させる。敵が隠れている場所を発見すると、そのままクリスタルで地表に押し上げる。

 

「ぬぉぉぉ!!?」

 

「ほら!カニはカニらしく横歩きしてろ!!」

 

クリスタルで動きを止めた後、ベンは敵の前足を二本とも切り裂く。敵はロボのため、当然痛みはないが、動きに支障が出る。

 

上手く歩けず、その場から動かない敵に対し、ベンは結晶ダガーを放つ。グサグサと神経電線に刺さり、バチバチ火花を散らせる。満足げなベンはロボに近づく。

 

Pi OBANN!!

人間体に戻ったベンは、そんなロボの前に立ち、勝利の宣言。

「はっは!ベン=テニスンにかかればこんなもんさ!お前みたいな不細工、さっさとスクラップにでもなっちまえ!!」

 

唾を吐きかけるような勢いで罵倒する。ロボの方が大きいので自然とベンが見上げる形となってしまうが、その態度はとても大きい。

 

ベンがその場から去ろうとしたとき、、動けないと思ったロボは、その大きなハサミでベンを挟み込む。

「うわぁぁっぁ!!」

「‥コレ…デ…ガクス…ノネ」

 

言語電線が焼き切れているので満足に話せないロボ。だが任務を全うするためベンの命を刈り取ろうとする。

 

「ストップストップ!!不細工って言ったこときにしてるんだよね!?ごめんって!うわぁぁ!!」

 

次の瞬間、光球がハサミにあたり、ベンが解放される。ドシンとしりもちをついたあと、アワアワとその場から離れる。

 

ベンが離れた後、ロボの後ろからマックスが近づき、

「ぬうん!!」

 

両手でそのロボの首をひねると、ブシュっと黒煙を出しロボは完全に動かなくなる。

 

「フィー…危なかった…」

「あんたねぇ!何も考えずに出てくなんて馬鹿なの!?学校で何も習ってないわけ?」

「別にいいだろ?実際倒せたんだし」

「やられそうだったじゃないの!」

 

グウェンの正論にぐうの音も出ないベン。

 

「そうだぞベン。お前はまだ半人前なんだ。一人では難しいことの方が多いんだ。プロだって1人じゃ危険なんだぞ?」

 

「これさえ有れば助けなんかいらないね」

 

そう言ってウォッチを2人に見せるベン。グウェンは、そんなベンにさらにお小言を続けるが、マックスは1人考えに耽る。

 

(ここが襲撃されるとは…一体どうなっとるんだ?)

 

その時、

 

【お前たち、真っ直ぐ歩け…】

 

またも場内アナウンスが入る。ベン、グウェンは警戒するも、マックスの意向によりいう通りにする。しばらく廊下を歩いていくと、重厚なドアにたどり着く。マックスが側面にある機械にコードを打ち込むと、自動で戸が開いていく。

 

そこは、大学のホールほどの大きさの部屋で、わけのわからぬ機械で埋め尽くされていた。

おそらく、地球の科学では追いつけな類のもの。

 

もちろん、それらにも興味はあるが、ベンの興味は窓から見えるその景色だった。

 

「うわぁぁ!ここ、宇宙じゃん!!!」

 

窓にべったりと顔をつけ外を眺めるベン。そこから見えるのは数々の星、そして底知れない闇。徐々に景色が動いている。そう、彼らが今いるのは宇宙船だったのだ。

 

興奮するベンの後ろから声が聞こえる。

 

「騒ぐな劣等種族よ!!これはガルバン1の超高度迷彩宇宙船なのだぞ!!」

 

声がして振りぬく。そこには、人間ではなく、かつベンの見たことのある生物が二匹いた。口の悪いのは背が高く、まだ若い方だろう。もう一体はベンから見ても年を取っているのがわかる。

 

身長はベンの膝下ほどもない。顔の幅を大きく上回る巨大な目。宇宙人らしいその姿は、ひげが生えているもの、ベンのよく知るそれだった。

彼らをみたベンは指をさし、大声で叫ぶ

 

「グレイマター!!??」

 

「やっと来たか…テニスン」

 

 




・地球出ちゃったよ…それに、ガルバン星人も二体出ちゃったよ

・敵は、原作でベンを始めて襲った、ヴィルガクスの刺客の内の一体です。カニがモチーフになってるやつ。不細工の件も原作で軽く言ってた。

・ナウ、宇宙船

・マックスとグウェンのヒーロー活動について質問があればどうぞ!!ちょこちょこ設定が変わってる気もする…(笑)


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55話 オムニトリックスの秘密

この話はあくまで作者が読者様からの情報や小耳にはさんだ内容、そして妄想の入った話です。原作のオムニトリックスの扱いと合っているかは保証できませんのでよろしくです!!


宇宙。無限の可能性に満ちている、光と闇の世界。人類の祖先である霊長類が誕生して一億年たっても、今なお宇宙がなんたるかはわかっていない。どんなに発展しようと、どんなに個性で知能を得ても、宇宙のすべてを知ることができない。

 

だが、それは人類に限った話。人類ではなく、地球生物でもなく、太陽系生物ですらない者ならはどうだろう。彼らは既に、宇宙が何たるかを知っているのかもしれない。

 

そして、宇宙を知り尽くしたものが、ベンの目の前に立っていた。

「グレイマター?!え、なんでボクの目の前にいるの?!」

 

ベンは混乱する。目の前にいるのは自分の変身エイリアンの一人。多少姿は異なるが、足元にいるその二人は紛れもなく同種だった。2人のうち、細身で身長の高いほうが憤慨する。

 

「お前!何という口の利き方だ!貴様のような劣等種族が我々に口を利けると思うなよ!」

 

そんな彼を制すように、老体と思わしき方が指を指し、外を示す。

 

「…アルビード…」

 

「…さっきのロボの侵入経路を調べてくる…」

 

そう言って口がきつい方はスタスタと部屋を出ていく。残った方はまじまじとベンを見つめている。空気を読んでかマックスが紹介を始める。

 

「やあアズマス。この子は孫のベン。こっちはグウェンだ」

 

「…」

 

紹介を受けても何もしゃべらない、アズマス。そんな態度に業を煮やしたベン

 

「なに?あんたボクのことじっと見て。確かに一瞬で宇宙まで来れる個性はすごいかもしれないけど、ボクの方がもっとすごいからな?」

 

その言葉を受けようやくアズマスは口を開く。

 

「個性…?ああ、異能のことか。今はそういう呼び方をしとるんじゃったな。個性なんぞという出来損ないの能力といっしょにするんじゃない。先のワープはこの“ナルボイドプロジェクター”を応用しただけじゃ」

 

そう言うと、自分の体ほどもある、巨大な懐中電灯のような銃を出す。その銃を見てマックスは声を上げる。

 

「おお、ついに出来たのか!」

 

「ああ…ワープ機能はまだ不完全だがな。実験的にお前たちに使ったんじゃ」

 

何気ないアズマスの発言。モルモット扱いされたグウェンは恐る恐る聞いてみる。

「そ、それって失敗してたら…」

 

「ただ異世界に迷い込むだけじゃ。マックスなら生き延びれるだろう」

 

勘定にベンとグウェンが入っていない。倫理観が人間の常人のそれとは異なる。いや、そもそも人間なのだろうか。宇宙にいて、仲間も同じような異形。となると…

 

グウェンは自ら仮説を立てていく。が、すぐにその正解は本人から出てくる。

 

「…わしらはガルヴァン星人。お前ら地球人とは別の宇宙からやってきた」

 

「う、宇宙人!?ってことは…本物のエイリアン!!??」

 

ベンは目を丸くして大声を出す。それも当然。今までベンが“エイリアン”と呼んでいたのはあくまでも、自分が変身する異形のこと。個性の延長線上のものであり、宇宙人のことを指していたわけではない。

 

ガルヴァン星人。小さな体と超頭脳が特徴のグレイ型エイリアン。その知能は宇宙でももっとも高いと言われている。一部の種族を除き。

 

目の前に本物のエイリアンが現れた。宇宙船に乗っており、内部の機械からも本当だということが伺える。固まっている2人を置いてマックスは、アズマスに修理を願う。

 

「アズマス。オムニトリックスを見てやってくれ。どうやら壊れとるらしいんだ」

 

「…」

 

無言でベンの腕に飛び乗る。小さな体には、ベンの細い腕でも足場になる。道具もなしに、手首にあるウォッチをいじり始める。手首でちょこまかとされ、くすぐったいベン。思わず笑ってしまう。

 

「く、くすぐったいなぁ!それに、お前、治せるの?確かにグレイマターは頭いいけどさ」

 

無礼な物言いのベン。その口の利き方は高校生とは思えないが、容姿は10歳前後のため違和感はない。とはいえアルビードがいれば注意を受けただろうが…

 

ベンの失礼な質問にアズマスは作業しながら答える。

「何を言っとるんじゃ。これは儂が作ったんじゃぞ」

 

「ええ!!?」

 

ベンが驚き腕を挙げ、アズマスは振り払われてしまう。シュタッと着地した後、オムニトリックスの現状を語る。

 

「ふむ…システムθが作動している状態か。それに…不完全DNAを吸収しているな。まあ時期になくなるだろう…」

 

「あ、そう?じゃあ早く治してよ!そのシステムなんたらってやつ、使いにくくてしょうがないよ」

 

ベンの言葉を腰に手を当てて聞くアズマス。横に閉じる瞼をパチパチとさせた後、ベンに言い放つ。

 

「…やはり、駄目だな」

 

「え」

 

「オムニトリックスを返してもらおう」

 

ただ無感情に言い放つアズマス。彼にとっては予定していたことなのかもしれない。製作者が拾い主にが返せという。それは当然と言えば当然だ。

 

だがベンにとっては予想外の一言。自分のアイデンティティともいえるそれを返せと言うのだ。当然。ベンは反抗する。

 

「はあ!?ふざけんな!なんで返さなきゃいけないんだよ!」

 

「お前じゃ使いこなせない、まだ未熟じゃ。オムニトリックスが無ければ何もできない、非力なお前にこれを使う資格はない」

 

「やだね!これはボクのものだ。そもそもボクに送ったのはそっちだろ!?」

 

「違う。お前に送ったんじゃない。見つけられてしまったんじゃ。本来送る相手が見つける前にな」

 

アズマスはマックスに目をやる。

 

ベンは思い出す。オムニトリックスが空から落ちてくるとき、急に起動が変わった。もし、そのまま真っ直ぐ落ちていれば、マックスの元についていただろう。振り上げた拳は徐々に下げられ、声のトーンも同様に下がる。

 

「…じゃあ、ボクが間違って手に入れたってこと…?」

 

「当然じゃ。オムニトリックスは宇宙最強の武器じゃ。なぜそんなものをお前のような子供に送る必要がある」

 

ベンは返事をしない。ただ自分の装着しているオムニトリックスを見ている。言葉を返さないベンに対し、アズマスは宇宙のいきさつを話す。

 

宇宙は誕生以来、種族間戦争が絶えなかったらしい。それこそ星々が互いに滅ぼしあうほどに。アズマスは宇宙の全種族の繁栄を願っているらしく、そのことを憂いていた。

 

どんなに道理を説いても文明を発達させても戦争はなくならない。何かいい方法はないかと思っていた時、地球でマックスと、そしてもう一人の男に出会ったらしい

 

「その者は自分が国の柱となれば平和になる、と話していた。そこで儂は思いついた。儂の信用にたる人物を宇宙の柱とすれば、全種族が争いを止めるのではないかと。そうして24年かけ造りあげたのが、端末型多種族変身時計 オムニトリックスじゃ」

 

なぜアズマスは、多様なエイリアンに変身できる武器にしたのか。それは、柱となる者があらゆる種族になることが出来れば、種族間の意思疎通が図れるからだ。元々宇宙全体の友好関係のため、エイリアンのDNAを集めていたアズマスは、そのDNAを装着者が自由に引き出せる武器を作った。その武器こそが、オムニトリックスなのだ。

 

「調べたところ、オムニトリックスはお前のDNAと深く融合しとる。外すには専用の機械と時間が必要じゃ。じゃから、ナルボイドプロジェクターを使い、わざわざここに呼んだのじゃ」

 

「…嫌だ…これは、ボクが見つけたんだ」

 

「オムニトリックスは子どもの遊び道具じゃないんだ。ましてや100年前にあの事件が起きた地球などで使われてはな」

 

アズマスの言葉は間違っていない。しかし、無個性で、ヒーローに成りたくても周囲から否定されてきた。どんなことだって下から数えたほうが早かった。しかしその境遇をウォッチは変えてくれたのだ。普通の人間じゃできない人助けだって出来た。なのに…

 

「…!!!」

 

その場から逃げるように、ベンは走って部屋から出る。

 

「ベン!!」

 

ずっと話を聞いていたグウェンも彼を追いかける。

 

部屋に残ったマックスは何とも言えない表情でアズマスに提案する。

 

「アズマス…儂じゃなく、あの子に持たせたままでいいと思うんだが…」

 

「ダメだ。中継を見ていたが、あやつはオムニトリックスを遊び道具や自己顕示欲を満たすだけに使っている。そんな精神では宇宙を平和にすることなどできん。お前か、あるいは…とにかく未熟者にはオムニトリックスは任せられん」

 

 

部屋を出てベンを追いかけていたグウェン。宇宙船は広かったが構造はシンプルであり、すぐにベンを見つけられた。

 

膝を抱え俯いているベンの隣に座る。

 

「…しょうがないよ。おじいちゃん、すごいヒーローなんだもん」

 

「…」

 

「…けどあんただって使いこなせてたし…別にあんたが持ってていいと思うけどね」

 

いつものような軽口ではなく、励言を口にするグウェン。ずっと無個性で、そのことを悩んでいた従弟が、ようやく力を得たのだ。口には出さないが、それ自体はよかったと思っていた。しかし、残酷な真実を知ったベンには彼女の言葉は届かない。

 

俯いたまま、ベンがぽつりといった。

 

「ボクじゃなかったんだ…」

 

「え?」

 

「ボクは選ばれたと思ってた…無個性だったボクに神様がくれた“ギフト”だって…でもちがった。本当はじーちゃんのもので、ボクはヒーローじゃなかったんだ」

 

「…何言ってんのよ!あんた九州でも皆のこと守ったじゃん!」

 

初めてのケビンとの闘いの時、ベンは列車の暴走を止めた。あれは、無個性だったころのベンにはできないことだ。このことはアズマスは知らないんだよ、とグウェンはベンを元気づける。が、

 

「ああ…けどこれが無かったらただの無個性だよ」

 

めったにない弱気なベン。失敗することは合っても弱音を吐くことはあまりない。そんな彼がここまで困憊するほど、オムニトリックスを取り上げられることは悲痛なことであった。

 

2人とも黙ってしまう。未だにウォッチは赤いまま。それはまるで、オムニトリックスをベンは使う資格がないことを自ら言っているようだった。

 

…n

 

「…今何か揺れなかった?」

「え

ZZGGAANNN!!!

 

「きゃあぁ!!」

「うわぁぁぁ!!」

 

座っていた2人が一瞬ふわりと浮き上がる。強い衝撃と轟音の後には、先ほどの侵入の時は比べ物にならないほどの警報が鳴る。周囲は赤くなるどころか暗く停電を起こす。すぐに非常電源が作動するがどう考えても異常事態。

 

「ちょっ!!??なんなのこれ!!」

「さっきとおなじだ!誰か侵入してきたんだ…じーちゃんたちの方から音がした!!」

 

祖父たちが気になり、急いで部屋へと走る。いくらスーパーヒーローだったとはいえ、今は60歳を超えている。その能力は全盛期の頃より衰えてしまっている。もし侵入者が先ほどのカニロボットほどの力を持っていれば危険だ。そう判断して足を速める。

 

ドアが破壊されている。研究場所を保護するための扉だ。頑丈でないはずがない。しかし扉は皮をむかれたかのようにベロンと裂かれている。

 

最悪の状況を考えながら急いで入ると、そこには、臨戦態勢のマックスとそれを離れたところで見ているアズマス。そして、夢でみた、おぞましいヴィジュアルのエイリアンが佇んでいた。顔からは触手が生え、体躯はベンの3倍。筋肉はオールマイトをも超えるほど。そのエイリアンは、ベンを見て低い声で笑う。

 

「ふふふ、前の金髪男の代わりに、今度は孫でも連れてきたのか?テニスン」

 

「どうやってここに来た!ヴィルガクス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




・地球で個性が発見されたのは…100年ほど前…ということにしてます…

・ベンが子供っぽいし、グウェンが優しい。けど、わりとこんな感じだと思う。ベンは絶対にオムニトリックスを渡さないし(家族との引き換え以外)、グウェンはベンがガチへこみしてたら励ましてくれる、かな?

・ラスト、やっと登場!誰が手引きしたのかな?



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56話 裏切りと危機

・オールマイトの年齢がわからないから、いまいち”〇年前~”とかやりにくい。マックスの年齢は60にしてます。





20年前、ある異形の敵がアメリカのスペリオル湖で討伐された。この事件はヒーロー、自警団(ヴィジランテ)、ヒーロー見習いが駆り出されたが、彼らには箝口令が敷かれていた。その理由は単純。その敵は地球外生命体であり、その事実は社会を大きく揺るがすものだったからだ。その敵の名は、VILLGAX

 

マックスは困惑する。確かに以前からスペリオル湖周辺で事件が多発しており、その予感はしていた。ヴィルガクスがまだ生きているのではないかという。だがしかし…なぜ宇宙に?どうやって宇宙に?

 

「なぜおまえがここにいる、ヴィルガクス!!」

 

「くくく、おかしな質問だな。私はお前らでいうところの宇宙人(エイリアン)。むしろお前がここにいることの方が不思議ではないか?テニスン…私は、私のものを取り返しに来たのだ…」

 

紅く染まる目を細めるヴィルガクス。その目はベンのオムニトリックスから離れない。声色からは余裕が感じられる。明らかに彼らがここに来ることを知っていた口ぶりだ。

 

マックスはアズマスの宇宙船に来ることを誰にも言っていない。

(情報を漏らしたのはアズマスか?しかし宇宙の平和を誰よりも望む彼がそんなことをするとは思えん…いや、今はそれを考えている場合じゃあない!)

 

目の前のヴィルガクスを睨みながらも、壁面に掛けてある武器を取りに行く。もちろんヴィルガクスが阻もうとするが、

 

「させんよ」

 

とアズマスが手元のボタンを押す。その瞬間、床からあふれ出るように何かが出てくる。ドプドプと液体か固体かもわからないそれは、数で敵を上回る。彼らをベンは知っていた。

 

「アップグレードがたくさん…!!?」

 

「ガルバニックメカモルフじゃ。お前たち、侵入者を排除しろ!!」

 

元々アズマスの手で生み出された半機械生命体、ガルバニックメカモルフ。

黒と白で作られた体の彼らは、思い思いに機械に取り付いていく。近くにあった光線銃から小型のUFOまで、全てがグレードアップされていく。そして一体がヴィルガクスを攻撃したかと思うと、全員がレーザーを集中砲火する。さすがのヴィルガクスもそれには対処せざるを得ない。

 

その様子をみてのアズマス。念には念をと策を弄す。

 

「よし、いったんお前たちの出発点にゆくぞ」

 

「え!?もう倒せそうだけど…」

 

「それはわからん…とにかくオムニトリックスを安全地帯まで運ぶんじゃ」

 

ベンを一瞥すると、アズマスは手にした異次元転移装置“ナルボイドプロジェクター”を使う。ナルボイドと呼ばれる空間への転移、又はその次元の好きな場所への転移を可能とする機械銃。トリガーを引くと、空中に黄色の渦が巻き起こる。その渦が消えないうちにベン、グウェン、マックス、アズマスは輪を潜る。

 

ブツン!!とその輪が消えたころには、ヴィルガクスはメカモルフたちを打ち倒し始めていた。電流が漏れ出、ノイズを出しながらメカモルフたちは倒れていく。

 

アズマスの手腕に舌を巻く彼。

「さすがオムニトリックスの開発者だ…その重要性を鑑み、すぐに私から距離を取らせるとは…確かにここから再び地球に戻るには、さすがの私でも時間がかかるからな…」

 

「だからボクがいるんだろう?」

 

「ふふふ、そうだったな…」

 

ヴィルガクスの影から出てくるのは、アルビードと呼ばれていたガルヴァン星人。そう、ヴィルガクスを地球からここに呼んだのも、オムニトリックスを付けたベンがここに来ることを教えたのもこのアズマスの助手である。その地位は極めて崇高なものであり、実際彼も高い知能を有している。だが、だからこそ、アズマスの下にいることが許せないなかったのかもしれない。

 

「ふふふ、私につくとはさすがガルヴァン星人。宇宙で最も賢い種族というのは本当らしいな。」

 

「ふん。ボクはずっとアズマスの隣では働いてきた。それもすべては…オムニトリックスのためだ。だがやつはボクに渡す気はないらしい…それなら…奴の発明品全てを奪うまでだ!それにはまず、この宇宙船から乗っ取る必要があった。そこでボクは君を利用したのさ!」

 

諸手を挙げ尊大に喋るアルビード。その手には、アズマスのものと99%同一のナルボイドプロジェクターが握られている。そんな彼の胸倉をつかみ、むりくり持ち上げるヴィルガクス。首がしまり、息が出来ない。そんな彼を虫けらのように思うヴィルガクス。

 

「勘違いするな。私がオムニトリックスを手に入れるためお前を利用しているのだ。さあ、分かったらはやく私を奴らの下へ送り込め!やっと、やっと私はオムニトリックスを手に入れるのだ!!」

 

「ぐぐ…わ、わかったよ…」

 

苦しくなる息を我慢し、ナルボイドプロジェクターを起動すると、先ほどのように黄円が次元に穴をあける。作動したことを確認すると、ヴィルガクスはプロジェクターを奪う。

 

「これも今後は私が使わせてもらう…ふふふ、オムニトリックスも、これも、全てを私が手入れる。なぜなら私が宇宙の支配者なのだからな…!!フハハハ!!!」

 

ボオウンと次元の先に消えていく。その先には先ほど逃げたアズマスやベン達がいる。

彼が消え去った後、アルビードは小さくつぶやく。

 

「まあいい…あれよりいい物を…ボクは手にするのだからな…」

「うわぁぁ!!!」

 

アズマスが開いたワープ先は、ベン達のベルウッドから少し離れた、ワイオミング州の片田舎。ベンはワープゲートから出た拍子にずっこけて、グウェンはベンを下敷きにする。

 

「おい、どけろよ」

 

「あらやだ、ちょうどいいマットがあると思ったらベンじゃない」

 

いつも通りの軽口。先の騒動で逆に元気になったようだ。

 

そんな二人を置き去りに、マックスとアズマスが話しこむ。

 

「アズマス。なぜ宇宙船にいるのがバレた。明らかにヴィルガクスはベンを狙っていた」

 

「小僧ではない。オムニトリックスじゃ……犯人は1人しかおらん。じゃが今はそれどころではない。とにかくどこかでオムニトリックスを外し、機能を停止させなければ奴に気づかれる」

 

どうやらヴィルガクス一派はオムニトリックスを探知できるらしい。それを聞いてもなおウォッチを外したくはないベン。そんな彼にアズマスが迫ろうとしたとき、

 

BOON

 

と低い音ととも次元が裂ける。まさか、という顔でその穴を見るマックスたち。出てきたのはもちろん、最悪の敵、ヴィルガクス。その手にはアズマスが手にしているものと同様のもの(ナルボイドプロジェクター)が握りしめられている。

 

アズマスは推理する。自分の手元にもナルボイドプロジェクターはある。ならば奴が持っているのはその複製品。それを作ったのは…

 

考え込むアズマスと対照的に、臨戦態勢に入るマックス。そんな彼をみてヴィルガクスは上機嫌な口調。

 

「くくく、早い再会だな、テニスン」

 

「わしはもうお前の顔なんてみたくなかったがな」

 

「奇遇だな、私もそうだ。だから、さっさと返してもらおうか」

 

ベンの手首を指さし返還請求。狙うはオムニトリックスただ一つ。

 

大きく鋭い爪がこちらを向くも、一向にひかずに目を見据える。だが、その言葉は、うまく出ない。

 

「これは、お前のじゃない…ボク…のだ」

 

いまいち歯切れが悪いベン。それはまだウォッチが赤く変身できないからか、さきほどのアズマスの言葉のせいか、あるいは両方か。

 

だがそんなこと言っている場合ではない。迷いが生じているベンを差し置き、ヴィルガクスは戦闘を開始する。肩に装着されている杭を打ち込むことで筋肉が肥大化する。その丸太のような腕で地面を叩き壊す。大地が揺れ、地割れがベンに迫る。

 

「ふっ!!!」

 

 

グウェンが手をかざすと、ピンク色のシールドがベンを守る。が、衝撃波までは耐えきれず、バリンと割れ2人は吹き飛ぶ。

 

孫2人がやられる様を見て憤慨するとともに、アズマスに指示、いや頼みこむ。

 

「アズマス!!ベンとグウェンをどこかへ!!」

 

「ならん!!もうこれは後一度しか使えん!そうなるとお前とオムニトリックスの移動が最優…ぎゃっ!!」

 

地割れの余波でアズマスも近くの廃家にたたきつけられる。こぼれたナルボイドプロジェクターをマックスは拾い上げ、ベン達に打ち込む。

 

(だめだ!!今じーちゃんはまともにアイテムを持ってない!!)

「じーちゃn

 

BASHUNN!!

ベンとグウェンはその場から消える。

 

少しだけ、肩の荷が下りるマックス。最悪の結末は避けたと考えたからだ。そんな彼に対し、いら立ちを隠さないヴィルガクス。

 

「また面倒な…まあいい。すぐに発見できる。あの小僧がオムニトリックスをはめている限りな」

 

「そうや問屋が卸さんぞ。ここでお前は終わりだ、ヴィルガクス!!」

 

「どうやってだ?私の体は全盛期、いや、それどころかパワーアップしている。それに比べてお前は置いた。もうただの老いぼれの配管工、いや、ヒーローだったかな?」

 

「…それは、どうかな?くらえ!!!」

 

BASUNN!!

ドシンとしりもちをつくベン。その下にはグウェンが。

 

「ここは…」

 

「あんた、早くどきなさいよ…」

 

「ああ、ごめん。どおりで座り心地が悪いなと」

 

ワープしてきた2人。マックスが位置を設定することはできなかったため、その位置は先ほどの戦いの場から10キロほど先。もしここでベンが変身すればレーダーで気づかれてしまう距離。だが、不幸中の幸いだが、2人はヒーロー事務所の目の前にワープしていた。

 

土を払い、立ってどこの事務所を確認するグウェン。

 

先ほどの不幸中の幸いと訂正しよう。不幸中の幸い、と見せかけて、不幸だった。

 

「ここグレイクロングスじゃない!!!!??此処のヒーロー事務所は1人しかいないのよ!??」

 

グウェンの言う通り、グレイクロングスという町は、ワイオミング州でもさらに奥地にあり、住民も数100人。ヒーロー事務所は立った一つ。犯罪などほとんど起きないし、もし逮捕したとしても、拘置所まで2、3時間かけていかなければならない。

 

だが、ベンにとっては

「そんなのどうでもいいよ!早くじーちゃんを助けに行かないと!」

 

ベンの言葉にうなづくグウェン。今のマックスをグウェンを知っている。あのイカ型のエイリアン相手では不安だ。トップヒーローではあったがそれも40年前。やはり体の衰えは孫である自分でもわかる。

 

「あたしは今からあそこに戻る。あんたは残って、ここの人に応援頼んどいて」

 

ベンを置いて戻ろうとするグウェン。当然だ。今のベンは変身できない。私服代わりのヒーローコスゆえ、アイテムも多少はあるがそれだけ。未だウォッチが回復しない以上、ただの無個性なのだ。危険に決まってる。だがベンには関係ない。家族がピンチなのだ。自分が助けに行かなくてはどうする。

 

「はぁ!?何言ってんだよ!ボクだって」

 

「今あんたは戦えないでしょ!!」

 

少年少女の言葉がアメリカの片田舎を飛び交う。2人がいるのはヒーロー事務所の目の前。当然、ここまで大声で話していれば目の前のヒーロー事務所の人間が出てくる。

 

騒ぎが起きたのか、昼間っからの酔っぱらいか、それとも痴話げんかか。なんにせよヒーローはその争いを止める責務がある。その責任を果たすため、その、事務所から出てきた人物は…グウェンと同じくらいの身長で、同じ髪色をした女の子だった。

 

「あのー…何か問題でも…って、ベン!!??」

 

「…誰??」

 

問うたのはベン。この時、グウェンは誰かわかった。

ベシン!!

 

シリアスな雰囲気に似使わぬツッコミを入れる女の子。青のチャイナドレスをベースとしたコスチュームに身を包み、目元を覆う黒のアイマスクでヒーローらしさを出している。が、そのせいでベンには誰なのかわからなかったようだ。

 

アイマスクを外して笑顔を見せる女の子。はつらつと爽やかなその顔は、周りを引っ張るリーダー気質だと分かる。

【ヒーロー名 バトルフィスト】

「これでわかった?」

 

「イツカ!!??」

 

ヒーロー事務所から出てきたのは、ベンと同じく、海外型職場体験中の、雄英高校ヒーロー科一年B組拳藤一佳だった。

 

 

 

 

 




・この小説のタグ付けで、いいのがありましたら作者まで!

・アルビードはなかなかの邪悪。オムニトリックスが欲しいからとアズマスに近づき、それが無理ならば平気で裏切る。アズマスと同じ種族なので.ナルボイドプロジェクターも複製できるほど頭はいい。そして、いま彼が新しく作ろうとしているのは…

・田舎ってヒーローほとんどおらなそうだし、居ても年配の方とかっぽいですよね

・さあ拳藤出てきました!!あとは既定路線ですね!!


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57話 ヒーロー名「   」

ベンはヒーローの素質の備えてるんですよね。それこそ緑谷同様。ただ緑谷よりも子供なので、自分の利益も大事にしてる。


グレイクロングス町。犯罪率、なんと今年は0%。これだけの紹介でこの町がどれだけ平和かがわかるだろう。当然、ヒーローの仕事は少なく、ほぼほぼ某万事屋のような立ち位置である。

 

グレイクロングスに唯一存在するヒーロー事務所、ファイトマッスル事務所。昔はその体術で名を馳せたヒーローだったが、寄る歳には勝てず、今はこの町でほぼ隠居状態。

 

そんな彼に、異国のヒーローとの交流を求め、海を渡りやってきたのがヒーロー名バトルフィスト、拳藤一佳である。今朝はここから二つ隣の町に出て、二日目にして早くも敵確保をして見せた。町の者からは褒め称えられ、ファイトマッスルが事後処理をしている間、彼女は事務所に戻っていたのだが…

 

事務所で休憩していた彼女の前に現れたのは、ベンと、その従妹のグウェン。何やら揉めているようだった。

 

「どーしたの?すっごい揉めてるみたいだけど…」

 

拳藤が尋ねると騒いでいた2人が急に口を閉ざす。ここまでの経緯全てを話している余裕はない。かいつまんで話す。

 

どうやら、ベンが変身できない状態で、祖父のマックスを助けに行くか、ということで揉めているらしい。その敵は見るからに極悪非道だそうだ。

 

グウェンの説明を聞き、あまりいい顔をしない拳藤。そんな彼女に対しベンは、“こいつも自分を止めるのではないか”と思ったのだろう。興奮して自らのできることを主張する。そんなベンに対しやはり危険だというグウェン。

 

「ベン、あんたはここにいなさい!あなた、この子を見張っといて!!」

 

それだけを言い残し1人で現場に戻るグウェン。ベンの言い分もまともに聞かずに行ってしまった。だが、ベンにも考えがある。彼女が気がついていなかったのだが、ベンはホバーボードを持っているのだ。多少無理すればグウェンにも追いつき追いつける。

 

ポケットからボードを出し、すぐに追いかけようとするベン。そんなベンを拳藤は止める。腕をつかみ決して離さない。

 

「ちょ、あんた残ってろっていわれたじゃん!!」

 

「ボクがアイツのいうことを聞くと思うか?」

 

「今のベンは変身できないんでしょ?その時計も赤くなってるし…危険すぎるって!グウェンの話だけでも分かったけど、敵はやばい奴なんでしょ!?」

 

既にプロヒーローとなっているだけあってグウェンの信用度は高い。そんな彼女がベンを置いていくという判断をしたのだ。おいそれとベンを行かせるわけにはいかない。

 

「だからなんだってんだ。イツカには関係ないだろ」

 

「関係あるわよ!あんたは…と、とにかく行かせられない。訓練でも体育祭でもないんだよ?下手したら死ぬ。それをあたしも昨日知ったの」

 

職場体験で学んだのは、敵は本当の悪だということ。訓練では体験したことのない、自分らとは人種が違う悪。それは、ヒーローである自分を傷つけることをためらわない。そしてヴィルガクス、という敵はその比にならない悪だという。どうしてベンを行かせられようか

 

「あんたのおじいさんはマクスウェルでしょ?それにグウェンも行ったし、うちの事務所のヒーローも急行してる。だから」

 

「そんなの関係ない。家族が、戦ってるんだ。ヒーローだからじゃない。当たり前のことをしに行くだけだ」

 

いつものようなおちゃらけた雰囲気でなく、まじめな顔のベン。こどもの目のはずなのに思わず拳藤は圧倒される。

 

「け、けど

 

「イツカが止めても僕は行く。ウォッチがあろうとなかろうと、僕は戦うんだ」

 

たとえ力がなくても、ベンはヒーローの行いを昔からしてきた。誰かがいじめられてたら助けにいった。その結果木につるされようと、馬鹿にされようと関係ない。力があるからヒーローじゃない。救けるからヒーローなのだ。彼はそれに本能的に気づいていた。

 

真っ直ぐ彼女を見つめるベンには打算も計算も何もない。そんなベンに根負けしたように、拳藤は手を離す。ベンが危険だというならば…

「わかった…あたしも行く」

 

「はぁ!?」

 

「すこしでも人がいたほうが時間も稼げるでしょ?」

(それにベンがあんまり戦わないで済むかもしれない)

 

「…ハァ…勘弁してよ…」

 

「よし、決まり!!じゃあ行くよ!えっと…あんたのヒーロー名なに?」

 

「?そんなのどうでもいいじゃん」

 

「あのね、あたしたちはコスを着た瞬間からヒーロー!ヒーローらしく、家族を救けるんでしょ?」

 

家族で助け合うのは当たり前。しかしヒーローコスを着て活動する以上、それはヒーローのふるまいなのだ。そのことをベンに教え、ベンもまた頷く。

 

「‥‥そうだね…ここからは、ボクの、“ベン10”のヒーロータイムだ!!!」

拳藤の事務所から10、いや20キロほど離れた町。その町にもう名は無く、、家々はボロボロ、ガラスは割れてしまっている。

 

そんなゴーストタウンで、宇宙最悪の侵略者、ヴィルガクスがマックスと戦っていた。戦うといっても片方は丸腰である。家で身を隠しながら戦っていたが、ついにマックスは捕まる。

 

「ふははは、テニスン。ようやく貴様の悪運も尽きるようだな」

 

「ヴィルガクス…どうやって、あの傷を…」

 

確かに20年前大勢で人間で葬った。体はバラバラとなり、その残骸は確かに湖の底に沈んだのだ。しかし現に復活し、その時よりも力が増している。

 

「簡単なことだ。私に味方する者は大勢いるということだ。エイリアンも、お前ら地球じ

 

BAKIIN!!

 

「んん?」

 

ヴィルガクスの手に桃色の球体がぶつかり割れる。普通の敵ならこれでノックアウトだが彼にとっては蚊が止まったくらいのもの。全く効かないことに驚くグウェンだが、狙いは成功する。

 

一瞬グウェンに気を取られた隙に目一杯蹴りを入れるマックス。

 

鳩尾にキックを食らったヴィルガクスは思わずマックスを振り投げる

 

そのままの勢いで壁に衝突し穴を開ける。受け身を取ろうにも、戦いの疲労でうまくいなせず、もろに衝撃を受けてしまう。

 

「ぐぅ!!!」

 

「おじいちゃん!」

祖父に駆け寄る。周囲に人気はなく、まだ応援は到着する気配もない。まあしばらくは己と祖父で時間を稼がなければならない状態に辟易する。

 

そんな彼女の心を読んだかのように、余裕たっぷりなヴィルガクス。

 

「くくく、孫に助けられるとは老いたなテニスン。それに、その怪我ではもうまともに動けないだろう。さあ、オムニトリックスを持った子どもを早く呼べ」

 

ジワリジワリとマックスに近づく。グウェンも応戦するも攻撃力が足りない。その巨悪な爪がグウェンを引き裂こうとしたとき、

 

「そんなにボクが恋しかったか!?じゃあこれをくれてやるよ!!!」

 

BAQNN!!

 

真上からの銃撃。上を見ても誰もいない。なら誰が

 

「おそい!!」

 

お次はドシン!!と背中に強い衝撃!まるで巨人の張り手を食らったよう…滅多によろけない彼も、その攻撃にはさすがに驚く。

 

がより驚いていたのはピンチだったグウェン。

 

ヴィルガクスに攻撃した2人を見て驚愕と疑問の声をぶつける。

 

「なんでベンとあなたがって…ベン!!それ持ってきてたの!?」

 

「ああ、常にポケットに入れてるからねっ!!」

 

ベンと拳藤が載っているのはホバーボード。先ほどの攻撃はベンの光線銃と、ホバーボードのスピードを生かした拳藤の攻撃だったのだ。

 

なぜここに!なぜあなたまで!?

多くの疑問が頭に浮かぶが来てしまったものは仕方がない。今咎めたとしても状況は変わらないすぐさま優先順位をつけ注意を促す。軽口で返すベンに、さらに注意する拳藤。

「ベン、あんたが捕まったら終わりだからね」

 

「ああ、だからしっかりボクを守れよ?」

 

「人の注意はちゃんと聞く!!」

 

数でいえば3対1。ヒーロー優勢に思える。だが、ヴィルガクスにとって雑魚はいくら集まろうとも雑魚だ。

「ふふふ、子供が3人…テニスン!20年前の仲間はもういないようだな!!この程度の雑魚どもに何ができる!!」

 

「雑魚かどうかは戦って言いな!!」

 

まず仕掛けるのは拳藤。その異形に臆せず立ち向かう。両の拳を巨大化し防御力と攻撃力を高め走りこむ。間合いを詰めとにかく自分の型にはめ込む。それが昨日ファイトマッスルから習ったこと。

 

そんな彼女と援護するようにベンとグウェンが遠隔攻撃。特にベンはヴィルガクスから遠くから援護。しかしその判断がミス。

 

ヴィルガクスの目的はあくまでオムニトリックスの奪取。

両足の筋肉をうねらせる。その緑の表皮に血管が浮かび上がると、地面を踏み割りベンの裏に一瞬で回る。

 

そして

 

「さあ、渡してもらおう…」

 

ベンのウォッチを無理に外そうとする。大きな爪でウォッチつまみ引っ張る。バチバチと火花を挙げ、ベンの皮膚もそれに伴い焼け始める。が、オムニトリックスは緑のエネルギー波を放出し、彼を吹き飛ばす。と同時にベンも吹き飛ぶ。

 

家にめり込むヴィルガクス

「ぐぁ!!!…なるほど…貴様のDNAと深く結びついているのか…ならば…その腕ごと切り取ってしまおう」

 

残酷な宣言。アズマスはあくまでベンに負担のかからないように外そうとしたが、悪の中の悪にはそんなの関係ない。ただ、自分がそれを手に入れる結果さえあれば良い。

 

ヴィルガクスの異常さに気づく拳藤。やはりベンを置いてくれべきだったという発想になるが、己をビンタして喝を入れる

(ばか!!今それを考えても意味ない!それに、心配なら、自分で守れ!!!)

 

「はぁぁ!!!」

ヴィルガクスの座標めがけて猛ダッシュ。最後の一歩で大きくジャンプし、そのまま落ちながら大拳化。落下エネルギーと巨大化の勢いで敵を鎮めようとする。

 

「だぁぁ!!!」

「あいっててて…」

 

ヴィルガクスと反対方向にぶっ飛んだベン。廃家屋に頭から突っ込み意識がもうろうとする。首の痛みを我慢しながら頭をフルフルと振り、意識を覚醒させる。はっきりしてきた視界の端には小人がいた。

 

「アズマス!!??」

 

「なんじゃ、負けたのか?何という役立たずだ」

 

ヴィルガクスとの戦闘のはじめ、ここに吹っ飛ばされそのまま身を潜めていたアズマス。自分を棚に上げベンをけなす。アズマスの中では戦闘は己の仕事ではないため仕方ないが、この言い方にベンはカチンとくる。

「だれかさんがこれを直さないからだろ?」

 

「なるほど…確かにそれはそうだ…」

一本取られたと思ったのか、それとも素直なのか、すぐさま修理を始める。オムニトリックスに飛び乗り、キュルキュルとダイヤル回す。以前、ウォッチは赤いままだ。アズマスは作業をしながらベンに問う。

 

「とりあえず再起動した後、システムβに変更しておく。これでまた変身できるだろう。じゃが…この戦いが終われば返す、というのが条件だ」

 

残酷な条件。ここでヴィルガクスを倒さなければアズマスも危険なのだが、それでもウォッチの所有者問題は譲れないのだろう。厳しい条件にベンがうなるのも考えられた。だが、

「わかったから!早く!!」

 

ベンの返答は一瞬だった。

「ほぉ……よし…できたぞ」

 

ベンの意思確認が最後の項目だったらしい。作業が終了し、ウォッチが緑色に光る。選出ボタンに見たこともないエイリアンが浮かんだ気がした。

 

カシャンと変身ボタンが盛り上がる。アズマスはその小さな体の全体重をのせ、ボタンを踏み込む。

 

QBAANN!!!

 

緑の光が周囲を照らす。その中心部にいるのはベン。

 

彼の左腕が肥大化したかと思えば、その肥大化は体全体に広がる。ブワン!体が膨らみきり、その体が球体になったかと思えば、肩、背中、肘、膝、至るところにゴム状のアーマーが形成される。体の半分が黄色の鎧に包まれたとき、完全にベンはそのエイリアンに変身する。

 

「うわぁ‥わぁぁ!?」

ドシンッ!!

 

体の重心に慣れず倒れる。当然だ。足は人間体のベンより短く、クビもなく胸のあたりに目と口がついている。

「な、なんだこいつ!?」

 

純粋な、第11のエイリアンヒーローの誕生である

 

 

 




・まあ予想通りのヒーロー名。そのうちベン10000になるのかな?

・やっと出てきました。アンケート第一位の追加エイリアン!!

・次回からちょっと更新遅れるかもです…


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58話 キャノンボルト

更新遅くてすいません…キャノンボルトの描写頑張ろうと思います!


アズマスによるオムニトリックスのシステム変更。変身したのは今までベンが見たこともないエイリアン。

 

体の至る所に黄色の甲羅がついている。手足は短く首もない。ベンが変身してきたエイリアンの中でもひときわ目立つその異形。システム変更されたウォッチが導き出したエイリアンは、何が特技かわからないエイリアンだった。

 

最悪の敵、ヴィルガクスとの闘いで起死回生の一手だと思った変身はベンの予想したものとは違った。一手どころか、そのエイリアンの重心に慣れずこけてばかりである。

 

「アイタタタ…こいつは一体何ができるんだ?」

 

疑問をアズマスに問うも、彼はとうの昔に離脱している。戦闘タイプでないガルヴァン星人なので仕方ないのだが…

 

まあ考えていてもしょうがない。今なお拳藤、グウェンがヴィルガクスと戦闘中なのだ。早く助けに行かなければ。ベンはニューエイリアンの力を信じ、敵であるヴィルガクスの元へ。

 

抜けた声で迫力なく雄たけびを上げながら、ドスドスと敵に近づく。

 

「おおおおお」

「ふん!!」

 

が、あっさりと動きを見切られ、己の拳よりも先に、敵の拳がベンを弾き飛ばす。ヒーローであるベンが、家々に二つ三つと風穴を開けて吹き飛ぶ。土塀まで貫通していったためそのダメージは計り知れない。

 

痛々しい音を立て後方へと倒れたベンを、バトルフィストこと拳藤が介抱しに行く。仰向けに寝そべり、空を見上げているベンをペシペシと叩いて意識確認をする。

 

「ベン!!大丈夫!?意識は!?」

 

「う~~ん…思ったよりは痛くないけど…とりあえず超パワーは持ってないみたいだ…なら炎とか氷を口から出すとか…!!」

寝そべったまま、そのおちょぼ口から放出を試みる。しかし出てきたのは柔らかな風のみ。どうやらこのエイリアンは轟のような力もないらしい…ただ醜態をさらしたベン。

 

それどころか、どうやらこのエイリアンは一人で立ち上がれないらしい。拳藤の介護を受けやっとのことで立ち上がるが、その心持は芳しくない。

 

「アズマスのやつ…なんでこいつに変身させたんだ…?何の力もないし…これじゃ銃だって打てない…弱くなったんじゃないか?」

 

初めてのエイリアンに慣れず、ぶー垂れるベン。普段ならグウェンが叱るもしくはアイデアを出してくれる。だが彼女は今ヴィルガクスと交戦中である。吹っ飛ばされたベンの元に敵が接近しないよう何とか足止めをしてくれている。

 

そんな彼女に代わって喝を入れてくれるのが、日本でベンの姉代わりの拳藤である。俯き文句を言うベンの背中をバチンと叩く。

 

「シャキっとする!!あんたには力があるってこと知ってるから!!初めての変身だか何だか知らないけど今までもなんとかしてきたでしょ?あんたならできる!!!」

 

姉御の心強い言葉。無条件に信じてくれる、というのは現代社会においてあまりあることではない。同級生でありながらここまでの庇護欲をぶつけてくれる拳藤にベンは感謝すべきなのかもしれない。

 

だが彼女の言葉の半分もベンは聞いてなかった。否、聞けなかった。その理由は単純明快。今のベンは体幹が無に等しいのだ。そんな状態で背中を叩かれれば前に転ぶ。だけで済めばよかったのだが、

 

「うわぁわぁぁっぁ!!!」

頭から地面にぶつかりそうになったベンは手を添える。その手は自然と体に丸め込まれ、体全体がボールのような形になる。背中、肩、肘、にあるイエローアーマーは球状となったベンを守る甲皮となり、彼は叩かれた勢いを加速し転がっていく。

もうじき太陽がてっぺんに上る。そんな時間から外で暴れるのは巨悪ヴィルガクス。さきほどベンが吹っ飛ばされ、拳藤が介抱に行ったせいで一人で敵を対処するグウェン。天才と呼ばれる最年少サイドキックでも、宇宙最恐の敵には1,2分しか持たない。最後のあがきと距離を縮め懐に潜り込む。が、

 

「所詮下等な人間。私に歯向かうなど100年早いわ」

 

片足を握られ宙ぶらりんになる。屈辱的な体勢になるも、その心まで屈指はしない。

 

「レディーにこんな格好させるなってママに習わなかった?!」

 

「ふふふ、あいにく人間はその対象に当たらないのでなっ!!」

 

そのままグウェンを地面にたたきつけようとする。このまま地面にぶつかれば必死。マナで衝撃を緩めようと考えるが、気休めにもならない。思わず目をつぶってしまうが…

 

予想した衝撃はグウェンを襲わなかった。

 

「ぁぁああああ!!」

 

BWAMMM!!

 

転がってきた黄色の物体が、ヴィルガクスを文字通り弾き飛ばしたのだ。その衝撃でグウェンを離し、彼女は腰を地面に打つ程度で済む。

 

先ほどのベンと反対方向に飛ばされたヴィルガクス。今度は家を壊さずそのまま中央通りの噴水にぶち当たる。

 

ブロックでできた噴水は半壊し、シトシトと水は彼に降りかかる。

 

体当たりに成功したベンは球体から通常体に戻る。目を見開いたグウェンにか、それとも独り言か、喜びの声を上げる。

 

「ああ…これがこいつの力か…!!よおっし!!!」

 

くるりんっと再び球状になる。その場にいるのは巨大黄色ダンゴムシ。その場で回転し始めたかと思えば、ヴィルガクスの元へ転がっていく。

 

しかしそこは悪の帝王。

 

「ぬぅぅぅん!!」

 

転がってくるベンを片手で止めようとする。赤く染まった狂爪はその摩擦で火花を散らす。噴水は壊れ、さらにベンチも破壊しながらも交代する。が、じりじりとベンは押し返しされていく。回転が弱まってきたところを見計らってヴィルガクスは蹴り飛ばす

 

球状のまま吹っ飛ばされたベンは壁にぶつかる。セメントで固められた壁にはひびが入るも、ベンには0ダメージ。だが、時間差で壁が崩れて周囲には煙が舞う。ヴィルガクスからは視認されない状態となったこの時、グウェンと拳藤が駆け寄る。

 

「あんたねぇ!もうちょっと考えなさいよ!同じ攻撃があのレベルに通用するわけないでしょ!」

 

「グウェン、言いすぎよ!今のは攻めたベンを褒めるべき!」

 

「あのねぇ…この子は何の考えなしに行ったの!!ったく…とにかく…今のベンでもあいつに致命傷は与えられない…考えがある。とにかく気を引いてて。あとはあたしと」

 

「わしがなんとかしよう…」

 

脇腹を抑えながら会話に参加したのはマックス。ベン達が到着するまでに受けた傷を我慢しここに立つ。

 

気を引く、というやや抽象的、というかかなりぶん投げた提案。格上と戦う時にはその気を引くことも命懸けだ。拳藤は反対しようとするが、ベンは逡巡せず承諾する。

 

「いーよ。どーせガリ勉が考えたことだ。ボクにはわからないしわかりたくない。最後は任せてそれまでボクとイツカで気を引いておけばいいんでしょ?」

 

「あんたの単細胞が初めてありがたいと思ったわ」

 

「はっ。なんならボクがとどめを刺してやろうか?」

 

互いに悪口を含みながらも信頼している2人。そんな彼らの関係を少し羨ましくおもう拳藤。だが、ベンへの信頼については負けてはいない。

 

「…おっけい!ベン、準備は出来てる!?」

 

「なに準備って?それよりこいつ、キャノンボルトって名前にしようと思うんだけど、どう?」

 

悠長なベンに呆れる拳藤。甲羅に覆われているにも拘わらずベンを叩く。個性を使っていないので痛いのは拳藤なのだが、どこか嬉しそうだ。それはベンとのこのやり取りからくるものなのだろう。

 

先ほどのベンの攻撃、そしてキャノンボルトを触って感じたことをもとに、作戦を立てる…

 

ようやく煙が晴れ、ヴィルガクスがベンを追ってくる。当然だ。彼の目的はオムニトリックス。今は変身しているが、その変身を解くことすらも彼には可能なのだ。そのためにはある程度行動不能にしなければ。

 

だがヴィルガクスが突っ込んでくることを予測していたベン。手足をしまい球状になり、攻撃態勢に入る。

 

一本道が家にはさまれているこの状況。車1台半通る程度の幅の一本道では、ベンの攻撃は予測されてしまう。さきほどの真っ直ぐな攻撃は避けるどころか簡単に止められてしまうだろう。しかしこのエイリアンは転がることが能力。どうすれば…

 

そう悩んだベンだったが、拳藤が解をだしてくれた。その解、キャノンボルトの真の強みは。

 

「さあ、くらえ!ドッジボールの始まりだ」

 

BWANN!!BWAMM!!BWAMM!!

BWANM!!BWANN!!

 

キャノンボルトの甲羅は弾性に優れ、どのような場所でも跳ねることができ、ベンにダメージが来ない。つまり、壁と壁をベンは跳ねまわり、縦横無尽の軌道攻撃を仕掛けることができる。

 

そう、キャノンボルトの本領は【転がる】ではなく【跳ねる】ことにあった。キャノンボルトを素手で叩いた拳藤だから至った境地。

 

さすがのヴィルガクスも、この重さ、早さの攻撃を受けるのは初めてだ。ゴスゴスと何度も体に衝撃が入る。捕まえようにもその動きは不規則で厄介極まりない。

 

ちょこまか、とはまた違った動き。右からきたかと思えば左から。角度のついた攻撃かと思えば地面からのホイール攻撃。

「ぐぅ!!」

 

さすものヴィルガクスもひるむ。此処がチャンス。

最後の一撃。ベンが重いっきり助走をつけ、直線体当たりを試みる。一本道を王道と言わんばかりにヴィルガクスを轢きに行く。

 

だがその軌道は先ほどまでの攻撃と異なり、読みやすい。ヴィルガクスは受けることも考えるが、先ほどからのダメージを大きい。全快状態ならいざ知らず、なんどもベンの攻撃を受けた体では、キャノンボルトの体当たりは受けきれない。回避を選択する。マタドールさながら難なく躱すヴィルガクス。

 

結果としてヴィルガクスの横数センチを通過していくベン。

「そうくると、思ったよ!!」

 

 

避けられたキャノンボルトが向かう先には拳藤。青いコスチュームを見に纏い、果たすのはヒーローの責務。

 

巨拳化をし、両手を合わせおもいっきり振りぬく。その拳は、向かってくるベンの方へ。

 

「「いっけぇっぇぇ!!!」」

 

BBWHHAMMM!!

 

ゴルフか、はたまたバッティングか。腰の回転を生かしフルスイングした拳藤の拳は、球状のキャノンボルトをはじき返す。

元々のパワー、スピードに拳藤の力が上乗せされたベン。その向かう先は回避したばかりのヴィルガクス。

 

ドゴンッ!!と鈍い音がする。その後には鎧が砕ける高い音。

黒紅に染まる鎧はビキビキと割れていき、ベンの体当たりを生身で受けることとなる。

 

ただでさえ硬く、重く、スピードの乗った攻撃ができるキャノンボルト。それに拳藤のパワーが乗っかっているのだ。耐えられるはずもない。真正面からの攻撃にいなすこともできない。

 

「がっは‥‥!!??」

 

またもや家をぶち抜きふっとぶ。崩落していく屋根瓦がヴィルガクスにさらなる追い打ちをかける。

 

生き埋めになることを避けるため、力をふりしぼり立ち上がる。が、すぐに膝をつき、手を着く。ただ痛みを和らぐように意識する。はぁはぁ、と息を切らすもさすがは宇宙最強。すぐに体は回復していく。

 

ただ、その内心は焦っている。修復しているとはいえ、ここまで自分をボロボロにできる敵。時間が経てば応援がうじゃうじゃと来ることも何年も前から知っている。

 

この星の生物とオムニトリックスの厄介さを再認識したヴィルガクスは、次の手に出ようとする。このようなときの為に、これがあるのだ。

(これ以上は面倒だ。だが、私に歯向かうものはぜったいに許さ…っ!!??)

 

道具を隠しているポケットをまさぐる。ない、協力者であるアルビードからもぎとったナルボイドプロジェクターが!!あれさえあれば、この場にいる者すべてを容易に葬ることができるのに!?

 

「探し物はこれ?」

 

上空から声がする。ガバっと見上げると、浮遊した状態で銃を構えるグウェンが。その銃口はヴィルガクスの目に向いている。

 

そこで怒りが爆発する。

「…どいつもこいつも…!!それも、オムニトリックスも、私のものだぁぁっぁ!!」

 

怒気で周囲の鳥が逃げ去る。足に最後の杭を打ち込み、筋肉を膨張させる。そして蒸気を上げ怒りを放つように跳躍し、グウェンに近づく。年端も行かぬ小娘がなめた真似をと。その銃を奪い取って嬲り殺してくれるわと。

 

BQUUN!!

 

グウェンから撃たれた光線を首を動かしなんなく避ける。もしナルボイドプロジェクターのレーザーに当たってしまえば異空間に飛ばされてしまう。空中での動きは制限されるが、もう避けた。次弾には時間がかかる、これで

(私の勝ちだ!!)

 

だが、グウェンが持っているはよく見ると小さい。

(サイズが違う!!?)

 

グウェンの持っているのはただの光線銃。ベンが人間体であるときに使うものである。

 

下から声がする。忌々しい、にっくきテニスンの声が。

「残念だったな、ヴィルガクス」

 

BASHUNN!!

 

下で構えているのはマックスが持つのはナルボイドプロジェクター。グウェンがヴィルガクスから盗んだものをマックスに預けていたのだ。空中にいるヴィルガクスに照準を合わせ、痛む手で引き金を引く。銃口から放たれるのは異世界への入り口。ヴィルガクスに黄色の光線が当たる。当たった部位から、黄色の光が彼を覆っていく。

 

「テニスンーーーー!!!」

 

ブツンッとヴィルガクスの姿が消える。最後の断末魔を残して彼は異空間へと放り込まれていった。この瞬間、テニスンイツカとヴィルガクスの戦いは終わった。

 

「とりあえずだがな」

 

物陰からひょこっと出てきたのは、5つの宇宙でもっとも賢い科学者だった。

 




・とりあえず、とりあえずヴィルガクス退治成功!!やっぱり奴を倒すにはナルボイドプロジェクターですよね(笑)ただ、やつはびっくりするぐらいベンの前に何度も現れるので今後も注意です!

・次回はこの章のまとめをやって、その次から期末試験編ですね。無印の追加エイリアンをメインにするつもりです。誰にするかはまだ決めてないっす



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59話 ”個性”の始まり

今回はバリバリにオリジナル設定です。だが、この設定は気に入っている!


pi pi pi QBBAANN!!

 

久しぶりの「QBAN」と赤光。バウンドボールのような風体のキャノンボルトから、生意気小僧のベンに戻る。その顔は実にすがすがしい。

 

「はっ!!あのイカ野郎!!テニスン一家に喧嘩を売るなら艦隊でも連れて来いってんだ!!」

 

ベンは空に向かって拳を掲げる。アメリカらしい雄大な空には雲一つない。否、今のベンには見えていない。それは、祖父が倒せなかった宿敵を倒せたから、という理由なのか、それともただ勝てたからなのか…

 

ヴィルガクスは異空間【ナルボイド】に送られた。誰もその空間の場所を知らず、また独自の生態系を作る世界。たとえヴィルガクスだろうとその世界を単独で抜け出すことは不可能であろう。

 

比喩ではなく、彼らは地球を救った。ヴィルガクスという巨悪を排除したことはそれほどの偉業。その功績はベン、グウェン、マックス、そして

 

「ベン。儂たちの力だけではないだろう?」

 

マックスがベンの肩に手を置く。その目線の先にはバトルフィスト。緑谷の次にベンと関係が深いクラスメイト。

 

「わかってるよ…イツカ、ありがとう。お前のおかげで…何とか倒せたよ」

 

いつになく素直なベン。普段の不遜な態度ではなく、なにか反省したかのように手を差し出す。その態度に驚くも、拳藤はニコッと頷く。先の戦いで痛む手を隠しながらも。

 

「お礼なんているわけないでしょ?あたしたちの仲なんだから!!」

 

晴れやかな笑顔。その笑顔を見て、マックスはあばらの痛みを忘れ感動する。緑谷とはまた違った友情。はみ出し者であったベンに、また一人友達が出来たことに嬉しく思う。

 

そんな和やかな雰囲気の中、空気を割るように現れたのは、小さな小さな宇宙人。

 

オムニトリックスの開発者、アズマスはスタスタと歩いて彼らの下へ寄る。予想される要件はひとつ。そのことをベンはわかっているからこそ、抵抗する。

 

「ほ、ほらさっきもヴィルガクス倒せたじゃん…だから返さないでもいいってのは…」

 

それでも進んでくるアズマス。ベンは一歩後ずさるが、覚悟を決めたように腕を差し出す。

約束は守る。しょうがない。ベンはウォッチより家族を選んだ。この戦いが終わればオムニトリックスを返す。その条件で修理してもらったのだ。

 

アズマスは、差し出された腕にひょいっと乗ると、ウォッチをいじり始める。

 

その様子を拳藤は不思議そうに見る。ただのアイテムの補修。なのになぜこれほどまでに神妙な空気なのか。まるで自分よりも大事なものをなくすような雰囲気。

 

アメリカの田舎町で、ただ無機質な音だけが響く。ガチャガチャ、カシャンカシャンとウォッチが回される。

 

ベンは思い出す。オムニトリックスに出会えてたくさんの経験をした。おそらく、無個性のままではできなかった経験だ。火を噴いたり幽霊になったり。だが、それらの経験でベンは逆に思えた。オムニトリックスが無くたってヒーローに成れると。

 

ウォッチが故障していても何と乗り切れることもあった。人間体の時でも戦える。大事なのは、道具ではなく自分だと気づけた。

 

まるで走馬灯のを見るかのような時間。そのわずかな時間も、アズマスの一声で終わる。

 

「よし、できたぞ」

 

「え…?」

 

手首の感覚は変わらない。思わず手首を目元まで近づける

 

ある…確かにある…

 

ベンの腕にはまだオムニトリックスがはめられていた。

 

ベンに振り落とされたアズマスは何事もなかったように話し始める。

 

「まだ使いこなせないエイリアンがいただろう?そいつをチューニングしておいた。なに?なんのことだって?そうじゃな…変身中に知らない映像が頭に流れ込んできたことはないか?」

 

ベンはリーバックのことを思い出す。使用時間が長引いたときに、確かに知らない記憶が再生される感覚に襲われる。まるで自分が違う誰かになるような感覚。アズマスはベンにオムニトリックスの説明をしていく。

 

「オムニトリックスはDNAサンプルを元に、そのエイリアンを再現する。だが、その再現度が高すぎれば使用者の自我がサンプル主と同質化してしまうんじゃ。だから基本的には6,7割の力しか発揮できんようにしとる」

 

そこでグウェンは驚愕する。今までのベンのエイリアンは一体一体がプロヒーローレベルの力だった。それがオリジナルの半分程度の力だなんて。もし…オリジナルが地球を襲ってくれば…なぜそこまで力の差があるのか…いや、そもそもあたしたちの力は…

 

そこまで考えたところでアズマスが答える。まるでグウェンの思考を読んだかのように。

 

「そもそも、お前たちの“個性”というのはエイリアンDNAがきっかけじゃ」

 

「アズマス…そこまで喋るのか?」

 

「かまわん…そこの娘のことを気にしとるんじゃろうが、もう遅い。ここまできたら全てを知った方が早い」

 

マックスは躊躇する。だがすぐに思いなおす。ベンと拳藤の関係性は先の戦いで見た。それにもうヴィルガクスのことも知ってしまった。彼女には知る権利があると考え、事細かに今までのことを話す。

 

拳藤はそこで初めて知る。ベンが無個性であること。先の敵は異形型などではなく、エイリアン(宇宙人)であること。そしてオムニトリックスのこと。

 

マックスが拳藤に説明を終えたところを見計らって、アズマスが続ける。ここからの話は、個性社会の原点だと前置きをして。

 

「100年ほど前、セレスティアルサピエンという種族の赤子が誘拐された。其の種族の力は“想像したことを実現させる力”。強力な力じゃ」

 

ベンは面食らう。今までエイリアンもすごかったが、【想像実現】が能力のエイリアンなど規格外だ。もし変身出来たらさぞかし無敵だろう。そう考えすぐにウォッチをいじり始める。

 

アズマスは続けた。誘拐犯はその赤子の力を利用しようとし失敗したらしい。存在すらも、その宇宙からは消し去られた。

 

「だが、ここからが問題だ。赤子故に、自らの力に耐えきれなかったセレスティアルサ…名前が長いのう…ふむ、そうだな…其の種族をエイリアンXとしよう…エイリアンXの赤子は、己の身をも崩壊させてしまった。残念なことにその骸は宇宙のチリと化したんじゃ。じゃがその塵と化した場所が、あそこじゃ」

 

そう言って真上を指さす。そう、赤子が崩壊したのは地球のすぐそば。赤子の骸は地球へと降り注いだのだ。隕石としてではなく、誰にも気づかれないまま…

 

「ただのエイリアンだったらば問題はなかった。じゃが!!全てを可能にする種族のDNAとこの星の人間のDNAが結合してしまった」

 

考えを巡らせるグウェンと拳藤。秀才2人は己の頭を駆使して正解にたどり着く。

 

「「そのDNAっていうのが」」

 

「そう、お前たち“個性”の源じゃ」

 

驚愕の事実。未だ個性については謎が多い。確かなのは、中国慶慶市の発光する赤子。事の始まりはそこであるとされていた。しかし、今、全ての始まりは明らかとなった。

 

アズマス曰はく、エイリアンXの体は“宇宙”で構成されているらしい。そのDNAが人間と合わさった結果、宇宙中のエイリアンの力が人間に宿ることとなった

 

「異形型、と呼ばれるもの達はエイリアンの姿が色濃く出とる。そしてお前たちは繁殖を経て、さらに力が複雑化していきおる。ヴィルガクスが地球に来たのも、元はと言えば人間たちで兵器を作るためだ」

 

発動系は、エイリアンの力の一部を引き出す形。ゆえにその姿は人間の規格らしい。

 

人類が長い間正解に辿りつけばかった真実は、どうやら宇宙では常識以下のことらしい。事実、これからもエイリアンによる侵略は増えるのだろうとアズマスは予測している。

 

此処までの話は難しい話でない。ただの100年前の真実。悪の台頭、自警団、ヒーローの台頭。それらの歴史に比べればシンプルな事実。

 

 

なまじ勉強ができる拳藤とグウェンはうまく状況を飲み込めない。理解はしているが、納得はしていないのだ。拳藤に至っては宇宙についても未だ半信半疑である。

 

だが、こういった場合、単細胞のベンは何も気にしない。今、彼にとって大事なのは

 

「結局…ボクがもってていいの?」

 

オムニトリックスの処遇。おそるおそるウォッチを見せる。しばし逡巡した後、アズマスはこう答える。

 

「…マックスが思った以上に衰えていたからな。しょうがない。それに…」

 

オムニトリックスは宇宙最強の武器。その開発者であるアズマスはこう考える。

 

オムニトリックス保持者に必要な能力は“救けられる力”。1人で全てをこなそうとする人間はふさわしくない。完全無敵、仲間も持たない者は実はもろい。そうではなく、人と協力し敵を倒すことができるものこそふさわしい。

 

(この小僧は…自分のことしか考えてないと思ったが…)

 

急に沈黙したアズマスを、ベンが急かす。

「それに何?」

 

「まあいい。くれぐれも、奪われることだけは無いように」

 

 

そう言って、落ちているナルボイドプロジェクターを拾う。弟子が自分のを模倣して作ったもの。“さすが”というのもしゃくだが、99%再現されている。アズマスは舌打ちをしながらプロジェクターを起動する。

 

帰還することを見届けようとするマックスだったが、思い出したかのように尋ねる。

 

「一人で戻って大丈夫か?裏切り者がいるんじゃ…」

 

「問題ない。誰が裏切ったのかはわかっておるし、やつはもうにげとるじゃろう」

(あれをもって…)

 

研究成果を盗まれることは腹立たしいが、今回はオムニトリックスが奪われなかったことに感謝するとしよう。

 

プロジェクターに投影された歪んだ空間先には宇宙船がある。

 

4人の地球人は、1人のガルヴァン人を見送る。特に会話は必要ないと判断したのだろう。アズマスは一歩を踏み出す。

「ありがとう、アズマス」

 

少年の声が聞こえた。おそらくこの少年は、これから世界を、宇宙を救うだろう。5つ宇宙で最も賢いものはそう予測する・

 

アズマスは見向きもせずに戻っていく。彼が転移サークルを通ると、次元のゆがみは消え、町にはベン達のみが残った。その町は、考えられないくらいボロボロである…

 

ここは太陽系α帯。ある宇宙船ポッドが、地球に向けて移動していた。1人用のその船には一匹のガルヴァン星人が載っている。名は、アルビード。アズマスの船からベン達の戦いを覗いていた。が、ヴィルガクスが負けると同時に、アズマスの船を脱出したのだ。

 

「ちっ、ヴィルガクスのやつ…簡単にナルボイドに飛ばされて…協力した僕の身になれっていうんだ…」

 

利害の一致で手を組んだものの、思ったほど役に立たなかったヴィルガクス。だが、アルビードは最大の目標は達成していた。

 

「まあいい。目当てのものは奪えたからな…」

 

アルビードは両手に抱えた赤いガントレットを見てつぶやく。

 

アズマスが説明していた。オムニトリックスはオリジナルの6、7割の力しか発揮できないと。ならば、其の100%を、いや120%を引き出せたのなら…それはオムニトリックスをも超える武器となるだろう。その武器が、今、彼の腕にはめ込まれた。

 

カシャンッ

 

その装置の名は…【アルティマトリックス】

 

 

 




・個性の要約は”エイリアンXという何でもありのエイリアンのDNAが人間と結合した結果、人間が異能に目覚めるようになった”ということです。原作では個性の原因ははっきりしてないので独自設定です

・次回、職場体験編終了。これからのベンは、一段階進化したオムニトリックスで頑張ります!

・アルヴィィィドォォ!!


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60話 拳藤とベン

拳藤がベンを気にした理由は、子どもっぽくて弟たちみたいだから…だが、その思いも徐々に変化していく…?


アズマスの帰還後、拳藤の職場体験先の【ファイトマッスル】が現着した。全てが終わった後だったので正直遅いのだが、まあ街から何十キロと離れていたためしかたがない。どうやら彼はマックスと旧友らしく、ヴィルガクスのことや、今後のことを話しているらしい。

 

ゴーストタウンとはいえ、その家々は割と綺麗ではあった。だが、今は見るも無残な姿に。見る影もなしに壊しまくったのはヴィルガクス、そしてベン。

 

グウェン、ベン、拳藤は3人で街の片づけをしている。文句を垂らすベンを2人が嗜める。その度合いは2人で変わるのだが…

 

「ハァ…なんでボクがこんなことしなきゃならないんだよ!!片付けなんて警察の仕事だろ!?」

 

「ベン?口じゃなくて手を動かしな」

 

「そーよ。ただでさえあんたチビで役に立たないのに」

 

2人からの圧が強い。ウォッチを見ても、未だ使用不可状態。この状況ならいくらでも有能なエイリアンはいるのに…とぼとぼと瓦礫を運ぶ。が、足元への意識が薄かったため、おもいっきりずっこけてしまう。

 

「うぎゃっ!!あいった!!!」

 

その拍子に抱えていた角材を右足に打ち付ける。小指を強く打ち、片足を抱えぴょんこぴょんこ跳ねまわる。

 

そんな彼を見かねた姉御はため息をつく。

 

「…なにしてんの…!ほら、肩貸して」

 

やさしく肩を取ると、近くの階段に案内し座らせる。軽く処置をした後、拳藤はベンに背を向ける。そのままベンと顔を会わせず尋ねる。

 

「ねぇベン…」

 

「何?」

 

「あんた、無個性なんだよね…?」

 

「それが?」

 

拳藤は今日初めて、ベンの真実を知った。変身の力はベンの個性ではなく、オムニトリックスという人知を超えた道具によるものだった。

 

体育祭の時も、今日の戦闘も、全てはオムニトリックスの力。人によってはそう言うだろう。だが拳藤が言いたいのはそういうことではない。騎馬戦やトーナメント、今までの功績はベン自身によるもの。もちろんそう思っている。

 

だが、変身の力がベンに依存するものでないなら、変身がオムニトリックスのおかげならば、其れ目当てでベンを狙う敵は増えるだろう。事実、今日の敵だってそれでベンを狙っていた。

 

彼女は振り向かない。体育祭からの付き合いで、時間にすればほんの少しの関わり。おそらく傍から見れば何の関係性もない人間だろう。

 

しかし、どうしてもベンを心配してしまう。理屈ではない。はじめは弟と重ねていたが、もう違う。ただ、ただ前を向き続けるゆえに、茨の道と知らずに進もうとするベンを止めたいのだ。

 

今日は勝てた。だがそれもギリギリだった。プロヒーローの力を借りてもなお…

もし今日以上の敵が現れて、ベンが勝てなかったら。自分や仲間が近くにいなかったら…不安要素は絶えることはない。

 

正直なところ…ウォッチを外してほしい、という思いはある。敵の狙いは“ベン”ではなく、オムニトリックスなのだ。オムニトリックスさえ外せば…

 

だが…

「ベンはさ…ヒーローに成りたいんだよね?」

 

「はぁ?いまさらなにいってんの。」

 

心配、危険だ、あんたである必要はない。

 

案ずる想いは多くの言葉に変換され、拳藤の口をついて出そうになる。話を聞けば、オムニトリックスだってベンが持っている義務はないのだ。なんなら代わりに自分が…

 

 

その思いを訴えようと振り向いた拳藤の前には、ベンの顔があった。一点の曇りもない笑顔。その顔からは、いつか救世主となるような風格と覚悟がビシビシと伝わってくる。挑発的な、それでいて無邪気で、“何か”を見たような…そんな顔。親指をぐっと突き出したベンは大きく答える。

 

「言っただろ?ウォッチが有ろうと無かろうと、ボクはヒーローなんだ!ボクが誰かを救ける限り!!」

 

ブワッと風が吹いたような気がした。

 

何を勘違いしてたんだろう。あたしはウォッチも外してもらいたい。だが、たとえ外しても、ベンは立ち向かうだろう。それこそ、ウォッチを付けた他の誰かが襲われていたら躊躇なく。普段の姿からは考えられないが、彼は誰かが困っていたら、自分を犠牲にしてでも助けてしまうのだ。

 

なら、自分も隣で戦えばいい。それができずして何がヒーローか。

 

「…」

 

拳藤はベンの頭に手をかざす。

 

いつものようなヘッドロックか、それとも叩いてくるか。身構えるベン。

 

そんな彼に対し、拳藤は優しくベンの頭に手をのせる。そして叩くのではなくゆっくりと撫でる。慈愛と、励ましと、決意と…いくつもの意味を込めて

 

「…頑張ろうぜ!ベン!!」

 

「…なんだよ…恥ずかしいんだけど…」

 

普段だったらその手を弾く。姉のような振る舞いの拳藤には鬱陶しさと羞恥心を抱いていたからだ。だが今回のそれは、いつものお節介ではない気がした。自分を子どもとして扱うのではなく、1人の“仲間”として見てくれたような。

アメリカのとある州で、2人の男女は一つ、互いの距離を近づけた

 

その後、ファイトマッスルと拳藤は事務所に帰っていた。事後処理を終え、マックスたちもキャラバンに乗り込む。

 

足を机に乗せゲームにいそしむベンと対照的に、顔を机に突っ伏しているグウェン。眉をひそめて彼女はマックスに尋ねる。

 

「ハァ…おじいちゃん…今日のことって」

 

「もちろん、他言無用だぞ?世界がひっくり返ってしまう」

 

そう聞いて項垂れる。学校でも個性史を習っている彼女にとって、今日の話はその核心、答えだった。宇宙人は存在していて、個性はエイリアンDNAが原因。そのことを誰にも話せないのは10代にとっては地味につらい。ため息をつく彼女をベンはけなす。

 

「はんっ、ガリ勉さんは皆に言いたいんでちゅか~子どもだねっ」

 

「あんたは理解できてないだけでしょうが!!」

 

いくらヒーローと候補生とは言えまだ子ども。世界を知らないし理解をすることも難しい。彼らに今日の経験を重すぎただろう。だが、そんなことを言ってられない。この世界に入ったからには近い将来、共に地球を救うことにもなるだろう。

 

「はっはっは、まだまだこんなもんじゃないぞ?宇宙は、わしたちが想像できないくらい広いんだ」

 

「…んもう!!あたしは地球でヒーローやってるだけなのに!!」

 

愚痴るグウェンを視界の端で見たベンはゲームを置く。グウェンと彼の性格は反対だ。彼女が調べて動くなら、ベンは動いて調べる。彼女が良い子ならベンは悪い子。

 

だからだろう、今回の騒動で、ベンはグウェンと違う感想を抱いている。今まではヒーローに成ることが目的だった。それも日本の。だがそれでは足りない。目指すは地球、いや

 

「地球だけじゃなくて、宇宙のヒーロー!ボクが目指すのはこれだ!!宇宙の救世主【エイリアンヒーロー ベン10】!!」

 

「はっはっは、良い目標じゃないか…!!」

 

「ほんっと…馬鹿で考えなしのアンポン…あっ!!おじいちゃん!!何か起きてるよ!!??」

 

窓から見える景色には人だかり。

 

どうやら銀行強盗が暴れているらしい。中の銀行員は赤い髪の女に縛られている。金庫を猫背の男の腐臭で溶かし、筋骨隆々の大男が警察をちぎっては投げ、ちぎっては投げ…

 

人々が口々に言う。

【なぜこんな田舎で銀行強盗が!】

【警察は所詮、敵受け取り係か!!】

【誰かヒーローは!!!】

 

そんな声を聴き、彼は車から飛び出す。時計を回しながら、こう叫ぶ

 

「さあ、ヒーロータイムだ!!」

 




・最終回感強くないですか?(笑)とりあえず職場体験編終了です

・読者の皆さん、こんな駄文作品を読んでくださり、あまつさえ感想までいただきありがとうございます。更新頻度も最近は落ちていますが、土日で一話は更新できるようにします。応援よろしくお願いします!

・エイリアン人気ランキングとかしたいですね(笑)正直次にだすやつまだ決めてないので…


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IF・番外編
たとえば、こんな話


原作通りのヒロアカです。普通のヒロアカ時空。職場体験クライマックス。そんな時空に…彼が来た


どんな人生にも物語があり、良いことも悪いことおかしなこともそれから恐ろしく怖いこともある。物語を語る時、同じ語り口は二度とない。これからお話しするのは、もう一つのベン=テニスンの物語である。

 

ヒーロー職場体験。クラス20人全員が各々望むヒーロー事務所を訪ね、寝食を共にする。自身の夢を形にするための大事な活動である。にも拘らず、飯田天哉は己の復讐心に薪をくべ、【ヒーロー殺し ステイン】を探していた。その結果発見に成功したが、私欲を優先した飯田に対し、ステインはヒーローの本旨を説き、殺そうとする。間一髪で緑谷が救けに入るも、ステインの個性により行動不能となってしまう。

 

(ぐっ…!!?血を舐めて体の自由を奪ったのか!?まずいまずいまずい!ここの位置情報を送ってまだ1分もたってない…!!これじゃ助けも期待できない…動け‥動け!!)

 

足から血を流しながら力む緑谷。力もうともその足の感覚がほとんどないのだ。ステインの斬撃は深くには至っていないが、その個性により完全にデクの棒状態。唯一理決めた口元からは、たらりを血が出る。そんな緑谷をステインは称賛する。が、そこに慈悲はない。

 

「ハァ…友のため、そこまで血を流せるか…悪くない…だが…この場においては、力が足りない…ハァ…偽物の死をその目に焼き付け、本物となってくれ…」

 

緑谷に背を向け、倒れている飯田の元へ歩み寄るステイン。その足取りはいたって普通。緑谷の攻撃も大して効いていなかったのだろう。

どうにかクビのみを持ちあげる緑谷。その時、路地裏に入ってくる男性が緑谷の目に留まる。

(っ!!)

「来ちゃだめだ!!逃げて!!」

 

歳は同じくらいだろうか。頭身はスラっとしており、外国人のように思えた。緑色のジャケットを着たその男性は、緑谷達の惨劇を目に入れる。一瞬驚くが、すぐに彼は路地裏から走り去る。当然だ。子どもやプロヒーローの流血。それを見た一般人が平気でいられるはずがない。

 

安堵する緑谷。だが、問題は解決していない。

 

「ハァ…邪魔が入ってきそうだな…さっさと片づけるか…」

 

ため息をつきながらを抜刀するステイン。摩擦音でシュリンシュリンという日本刀。飯田を真っ二つにすることは、わけない代物と予想される。

 

「っ!!やめろ!!!やめるんだ!!!」

 

「ハァ…あの世で、英雄とは何たるかを学ぶんだな」

 

刀を振り上げ、飯田を突き刺そうとする。が、その動きは止まる。

(おかしい。今日は月がよく出ていた。事実、街灯が無くてもこの路地裏は明るかった。なのに、急に暗くなっ)

 

「ヒューーモンガソー!!!」

 

DDGGAAANN!!

 

あたりに地響きが鳴り渡る。土埃が舞い、五里霧中。咄嗟に交わしたステインは状況を確認する。なにかが落ちてきたのだ。彼の頭上から。

 

コンクリートに体の半分を埋めたそれを観察する。のそのそと這い上がるその巨体を評するなら“恐竜”。上半身が体のほとんどを占め、足は短い。体から尻尾まで土色をした肌だ。そのためか、緑色の瞳が目立つ。見たことのない異形に戸惑うが、その胸元にある奇怪なマークでステインは察する。

 

「ハァ…貴様は…エイリアンヒーローを名乗る自警団(ヴィジランテ)か…」

 

地面に這いつくばったまま緑谷はハッとする。

(そういえば聞いたことある…ひし形のマークを体のどこかにつけた自警団(ヴィジランテ)チームがいるって…全国にあちこち現れるからかなり大所帯なんだろうけど…ここにもいたのか!?っ!!やつの個性を教えなくちゃ!!)

「…っ!!!そいつの個性に気をつけてください!!そいつは!」

 

「大丈夫だって!皆まで言わなくてもわかるさ!!なんたって俺は…ヒーローだからな!!」

 

根拠にならない解答をしたヒューモンガソーと名乗る恐竜型異形。そのままステインの元までドスドスと詰め寄る。

 

対するステインは長物の長所を生かし、その距離のまま攻撃してくる。手入れ抜群の日本刀がヒューモンガソーを襲う。がしかし刀が彼を襲うことはない。彼はその強靭な握力でマンホールの蓋を取り防御。一度、二度の斬撃でマンホールは砕けてしまうが問題ない。その間に十分間合いを詰め切れた。

 

ステインにとってはまだ遠い間合い。しかしヒューモンガソーにとってはもう十分なのだ。彼はもともと大きかった体をさらに巨大化していく。ズンズンと大きくなる体躯に比例してその皮膚にも甲殻が備わっていく。18メートルほどの体になった時には尾にもスパイクが形成され、その勢いでステインを殴りとばす。

 

「っぐ・・・・っが!!!」

 

飯田達とは反対方向に吹っ飛んだステイン。そんな彼を見て異形は諸手を挙げ歓喜する。

 

「どうだ!!参ったか!フー!」

 

拘束することもなく喜ぶ彼。その状態を人は油断というのだろう。

 

這いつくばったままステイン腕を伸ばす。きしむ腕が手に取ったのは日本刀。その刃にはヒューモンガソーの血液がこびりついている。その刃を口元に当て、ひとなめ。

 

KKIIIINN!!

 

「うおっぉ!!」

ガクンっ!!と足の力が抜ける。巨大化が解け3メートルほどの元の状態に戻ったヒューモンガソー。彼はは煙を巻き上げながら倒れこむ。今の彼には何がおきたのかわからない。ただただ体の自由が奪われており、指一本動かせないのだ。

 

刀を杖のようにして立つボロボロのステイン。ここまでの騒ぎになってしまった以上逃げるのが得策。もうじきヒーローも来る。だが、

 

「…貴様は俺の道を阻む…ここで淘汰するべき…か…」

 

ゆらり、ゆらりと近づいてくる。ヒューモンガソーは、いや、彼は焦る。やっと理解したのだ。相手の個性は“血の経口摂取で行動不能にする”。倒れているやつのいうことちゃんと聞いとけばよかったのに。そう後悔する。対策はもう考えた。だがもう遅い。ここには従姉も相棒もいない。自分がなんとかしなければ

 

ステインの剣が目の前に来る。振り上げた時思わず目をつぶる。その剣が自らを貫こうとした時、緑色の髪の少年が拳がステインをどかす。

 

SSMMAASSH!!」

 

空ぶったものの、ステインは飛大きくとびのいた。ステインの個性がいち早く解けた緑谷は何とかヒューモンガソーを守り切ったのだ。

 

倒れているヒューモンガソーは刹那、思考する。正体は極力バレてはいけない。それが自警団であるための約束。だが…人命がかかっているときに、己を優先させるもののがヒーローであれるのか。答えはノー。

 

「君、君」

 

「は、はい!?」

 

「俺の胸のマークを押してくれ。【オムニトリックス】使用許可申請 コード1010」

 

言われるがまま緑谷は、彼の奇怪なマークを押す。するとそのマークからは緑色の光が発せられ、周囲を照らす。まばゆい緑光が収まると、そこには緑谷より10センチは高い身長の青年が立っていた。その人物は、先ほど逃げた一般人。

 

「あ、あなたは!!」

 

「よし、やっぱりだ!!人間に戻れば血は別になるから動ける!」

 

青年が腕時計を触る。ダイヤルを回すと、緑色のスマートな腕時計は立体映像を映し出す。それらを緑谷は驚愕する。映し出されたそれらは、もれなく今世間を騒がしている自警団だったからだ。

 

青年はある異形が映し出されると、目を光らせ動きを止める。そして

「今日はほんっと、いろんな悪党に出会うな!!!」

 

強く時計を叩く。

 

QBAN!!

 

叩かれた時計は先ほど同様緑色の光を放つ。その中央では、彼の変化が始まる。

 

DNAがオムニトリックスから彼の体へ運ばれる。一つ一つの細胞が分裂し、またそれらは縮小化していく。やたらと小さくなった細胞は分裂機能を更に高める。青年の自然な肌の色は漂白剤を使ったかのような白へと変化していく。骨骨が圧縮されていき頭身が小さくなり、頭蓋骨が平たくなった時、緑色の光はやむ。

 

「エコーエコー!!」

 

「そ、その姿は…!!」

 

「まあ見てなって!!」

 

機械機械した声で応答するベン。緑谷の質問に、行動で答えて見せようとステインに突撃する。もともと狭い道で、さらには夜戦闘のプロフェッショナルであるステインには無謀な攻撃。

 

「ッはぁ…直線的すぎる…」

 

ZZAASH!!

容赦ない日本刀による斬撃。脳天から始まり、正中線をなぞるかのように、見事エコーエコーを切り裂いていく。

 

緑谷は息をのむ。まさか、こんなあっさりと!?

 

ステインは落胆する。もうすこし切れるものだと思っていたと。

 

青年は笑う。

 

「計算通りだ!」

 

ギョッとするステイン。確かに切り裂いたはずの異形は、そこに平然と立っていたからだ。それも、2体となって。

 

「驚いた、顔をしているな」

「当然だろう、ボクがふたりなんだから」

 

「はぁ‥なるほど、分裂か。だが2人になったところでその体では俺に勝てない…」

 

その言葉にエコーエコーは口角を上げる。

 

「ふたりじゃダメなのか…」

「なら4人ならどうだ」

 

WHAM WHAM

 

 

二体のエコーエコーは分裂し、4体となる。それどころか

 

「さらに、これならどうだ」

 

WHAM WHAM  WHAM WHAM

 

4体が分裂し8体に。裏路地に所狭しと並ぶエコーエコー。その異様さにさすがのステインも動揺する。其の隙を、ヒーローは見逃さない。自らの名前を叫ぶ彼ら。その口から出る音波は狙ったものの精神を狂わせるほどの暴音。

 

「エコーエコー」

「「エコ―エコー」」

「「「「「エコーエコー」」」」」

 

元よりヒューモンガソーによりダメ―ジを追っていたステインは、その轟音に耐えられない。なんとかきり抜けようと、エコーエコーから距離を取った瞬間

 

SSMMAASSH!!

無事にステイン戦を乗り切り、変身を解く青年。特徴的な腕時計の彼に、緑谷は駆け寄る。

 

「あ、あの、あなたは一体‥」

 

「あー…多分君と同じくらいの年齢なんだけど…半年くらい前かな?こっちの世界に迷い込んじゃって…多分パラドックス博士が原因だな。まったく、いやになっちゃうよ!こっちじゃヒーローたくさんいるし、皆へんな力もってるし、一体なんなんだ!?」

 

「…?」

 

「ああ、ごめんごめん、こっちの話。とりあえず、ボクの正体は内緒で頼むよ?」

 

「わ、わかりました。その、お名前だけでも…!」

 

「ああ…僕はベン=テニスン!!宇宙を何度も救った、エイリアンヒーローさ!!」

 

そう言って夜の闇に溶けていくベン=テニスン。彼の言ったことは本当なのだろうか。もし彼が真実を語っていたのなら、こことは違う世界があるということ。だが、分からない。何の痕跡も残さず彼は行ってしまった。もう、会うことはな

 

「ねぇ、ごめん。この辺にMrスムージーってお店ない?」

 

「…いったいなんなんですか!?」

 

彼の名はベン=テニスン。とある世界で宇宙の危機を救った、本物のヒーロー。そして、今この世界では、日本全国在地自警集団(ヴィジランティーズ)【ベン10】の正体である。

 

 




・いかがだったでしょうか。。アンケート終了の金曜日まで本編書けないから、番外編書いてみました。ヒューモンガソーとエコーエコーの要望があったので採用。内容はまあ突貫ですので…許してください!

・一応の捕捉。普通のヒロアカ世界に、エイリアンフォースのベンが迷い込んだって感じです。なにか質問があればどうぞ!好評なら続くかも!

・活動報告アンケートで【期末試験に出すエイリアンアンケート】、やってます!ぜひ投票お願いします!!!金曜日までです!あなたの好きなエイリアンをなるべく出したいです!!もし通らなくても、やってほしい展開とかが書いてあったら今回のIF見たいなので出るかも?


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期末試験編(ゴーストフリークの反乱)
61話 ボクがいっぱい


さあ期末試験編突入!!この章も独自展開をつっぱしります!


おびただしい数のジェット機が並ぶカルフォルニア空港。ビジネスを終え帰還する者もいれば、観光に心躍る若者もいる。

 

七日間の海外型職場体験を終え、ベンはゲート前に立っていた。見送りに来たのはマックスとグウェン。いつもの風景だ。大荷物を抱えたベンにマックスは尋ねる。その答えは知っている。が、あえてベンの口からききたい。

 

「ベン、どうだった?いい職場体験だったか?」

 

「そうだね。狂気の動物博士やサーカスピエロ、変な仮面つけたやつらや魔法使い。正直去年の夏休みよりもすごい7日間だったよ」

 

マックスはにこやかに頷く。

 

会話自体は去年の夏にしたものと似ている。だがその質は違う。その全ては宙からの贈り物と、それを作ってくれた人のおかげだ。珍しく感謝を念を抱くベン。そんな彼にグウェンが茶々を入れる。

 

「あんたは7日間、失敗ばっかだったけどね?変身だって狙ったやつ出てなかったし、あたしが持ってたほうがいいんじゃないの?」

 

「はん!!お前なんかに使えるわけないだろ?オムニトリックスは複雑なんだぞ?それに…」

 

彼はグウェンが大事そうに抱えている本を指さす。

 

「魔導書まで手にいれたんだからいいだろ…?エイリアンテクノロジーなのか個性関係なのか微妙だけど、お宝じゃん」

 

そう、グウェンはひょんなことから魔導書を手にすることが出来たのだ。最初はベンが使おうとしたの。しかし適性が無かったのか、少しも本の力を引き出すことが出来なかった。恨みがましくグウェンを睨むベンに対し、これ見よがしに本を見せびらかすグウェン。

 

「あ~ら?お子様のあんたには早すぎたのよ?もっと知性を身につけてから出直しなさい」

 

「何だと!?」

 

必ずと言っていい。必ず彼らは喧嘩をする。もう止める気もないマックス。彼らの喧嘩を止めたのは空港のアナウンス。日本行きの飛行機はもう直出発する。荷物を背負いなおして振り向くベン。。

 

「じーちゃん、ありがとう。ボクはこの戦いでわかったよ。ヒーローっていうのは【救ける】からヒーローなんだって」

 

「そうか…うむ…!」

 

成長した孫の姿に涙ぐむマックス。そんな彼を大げさだと思いつつ、グウェンにも別れの挨拶。

「じゃーなグウェン…そのうちまた」

 

「「会いたくないけどね!」」

 

言葉が重なる。ベンが次の言葉を放つ前にグウェンが続ける。

「さみしくなるって言いたいけど」

 

「「嘘つきたくないし!!」」

 

互いに示し合わせたかのような話し方。ある意味は通じあった仲の2人だ。拳藤とは異なる、家族故の絆。それを確認した後、ベンはアメリカを発ったのだった。

ベンが日本に帰った翌日。職場体験を終え各々が感想を言い合う。現実を知った者、テレビに出た者、実際に活動した者。様々な意見が飛び交っていた中で、上鳴から【ヒーロー殺し】の単語が出る。何も知らないベンは、近くにいた緑谷から話を聞く。

 

【ヒーロー殺し ステイン】。その名の通り、ヒーローを殺害、又は重傷を負わせていた思想犯。彼の行いのすべては“英雄回帰”のため。曰はく、「ヒーローとは見返りを求めてはならず、自己犠牲の果てに得うる称号でなくてはならない」と。現代にはびこる偽物のヒーロー、力を徒に振りまく敵を粛正して回っていたらしいが、緑谷等とエンデヴァーにより逮捕に至ったらしい。

 

その行為に世間は、賛否両論だという。事実、その行いはともかく、上鳴などヒーローを志ているものでもその姿を“クール”と評した。

 

兄が被害を受け、自分も相まみえた飯田。当時は兄を傷つけられ、ステインの考え方そのものを否定したが、緑谷や轟のおかげで我に返れた。冷静になった今でもステインの考えに賛否をつけ難い彼は、友人であり、自分と違う価値観を持つベンに思わず聞く。ヒーロー殺しをどう思うか。

 

ベンはさも当たり前のように答える。両手を頭にやり興味がなさそうに。

 

「いや駄目に決まってるでしょ」

一蹴する。

「確かにヒーローは見返り求めちゃいけないかもしれないよ?(じーちゃんも似たようなこと言ってたし…)だけど、だからって殺したら駄目でしょ。どんな信念があったって、そこを超えたらそいつは敵だよ」

 

あっけらかんと喋るベン。ベンの意見にハッとした飯田は、手を振り上げ宣言する

 

「そうだ…!!奴は…信念の果てに粛正という手段を選んでしまった…それだけは間違いなんだ。第2第3のやつを生み出さないためにも、俺は改めてヒーローの道を歩む!!」

 

普段のような奇怪な動きの飯田ハンド。その姿に周囲は安堵する。

 

ベンの言葉を聞いて、少し変わったのかな?と思う緑谷だった。

 

「私がきたっ…て感じでやっていくわけだけどもね。ハイ、ヒーロー基礎学ね!久しぶりだ少年少女!元気か!?」

 

「ぬるっと入ったな…」

「パターンがなくなったのか…」

 

 

久しぶりのオールマイトの授業。座学ではなくヒーローに必要な行動を実践するヒーロー基礎学。その内容は多岐にわたり、教師に裁量にゆだねられている。

 

この一週間で顔つきを変わった者もそうでないものもいる。成長度合いは人それぞれ。重要なのは今、自分がどのくらいの力をを見定めることである。

 

「ということで今日は救助訓練レースだ!!この複雑に入り組んだ迷路のような工業地帯。この中を誰が私を助けに来てくれるのかを競争する!」

 

運動場γ。タンクや廃水場などがあり、工事も現行している町を模した場所。そのどこかでオールマイトが救難信号を出し、5人が探す。それを4回行うといった段取りだ。

 

ベンは2組目。相手は切島、蛙吹、八百万、障子だ。切島はともかく、機動力に優れたものが多い。蛙吹の身体能力はもちろん、想像でアイテムを自由に扱える八百万、腕を複製し登れない場所でもすいすい進める障子。そのレースは白熱しそうだ。

 

一組目を緑谷がトップで終える。職場体験でフルカウルを磨き、さらにはセンスタイル、シュートスタイルなどOFAの使用を上達させた彼は、クラスでも上位の力を有していた。クラスメイトらも、安定性では緑谷が実力トップではないかと考えるほどだ。

 

そんな緑谷を見て燃えるベン。位置についた後、オムニトリックスに触れる選出ダイヤルを回し、適任のエイリアンを選び出す。スピード勝負のこの訓練、選ぶのはもちろん、

 

【STTAARATT!!】

 

「一番をかっさらうのはこいつだ!XRL8 !!」

QBAAN!!!

 

変身したのは、緑色の目を持つ、人型エイリアン。額にオムニトリックスマークを付けた、かわいい子ども。

「…なーんでこいつなんだよう!!!」

 

 

 

実習者以外の者はモニターで観戦する。ヒーロー基礎学は観戦時間の方が長いので、こういった時間をいかに有意義なものにするかで成績は決まる。

 

が、彼らはレースの予想に熱中していた。しょうがない、レースだもの。

 

レースを終えた緑谷、飯田、順番待ちの麗日は互いの予想を話す。

「やっぱりベン君かな?あの青い速いやつになったら誰も勝てんやろ!!」

 

「確かにXRL8 の速さはオールマイトの折り紙付きだし…けどベン君は変身ミスもあるから、それを考えたら安定してないかもしれない。今回は特にはずれを引いたらまき返すのは難しいだろうし‥」

 

「なるほど、安定という意味では八百万君がトップを狙える!それこそあらゆる道具を創造できるという点で彼女は万能だろう!!」

 

予想中の彼らの会話に峰田も参加する。

「いやでも蛙吹もすごいぜ!?あいつ何気に身体能力高いしオールマイティだしよぉ!!それに、顔と個性に似合わずおpp」

 

【STTAARATT!!】

 

いつもの通りセクハラに興じようとしたとき、始まりの合図がなる。

まずクラスメイトが集中するのはベン。

(硬い奴か?)

(…あの炎がくるか…)

「わんちゃんくるかなぁ!!?」

 

各々の予想がよぎる中、緑の光がモニターに映る。光から出てきたのは変身したベン。なにやら嘆いているようだ。なぜ嘆いているのかはわからない。それは、変身したエイリアンを始めてみるから。

 

「デ、デク君。あんなんにも変身できたん?か、かわいいけど」

 

(し、知らないぞ?!あんなエイリアンは初めて見る!!)

1人、高らかにベンを馬鹿にするのは、もちろんカッチャン。

「ハッ!!クソチビが変身してクソチビになりやがった!!」

 

観戦の彼らが騒ぐ中、レース中の八百万はちゃくちゃくとオールマイトに近づいていた。今最も救助が速いのは彼女。オールマイトへの距離は一位八百万、二位蛙吹だ。

 

彼女が一位なのは、体育祭以降練習していたワイヤー術のおかげ。巻き取り型ワイヤー【リールキトラ】。銃の射出機能を応用し、ワイヤーを建物に刺し巻き取ることで高速移動を可能にする。使いこなすのは難しい道具だが、身体能力の劣る自分にとっては移動のハンデを帳消しにしてくれる優れもの。

 

「…見えましたわ!!」

 

オールマイトの姿が目視できた。もう20メートルもない。

…体育祭ではいいところが無かった。職場体験でも自らを向上させたとも言い難い。だから苦手な移動術などを克服しようとした。やっと…恵まれた環境に見合った成果が出せる…!!

 

 

思考が緩む八百万。そんな彼女の目の前に、急に影できる。細く、縦に伸びている影。はじめは遠くに小さかった影は、だんだん大きくなり自分の影を飲み込む。背後になにかある。それも近くではない。遠く、そう、グラウンドの端の方。

 

「?」

 

その異様な光景に振り向いてしまう八百万。そこには、授業の始めには無かったはずのタワーが出来ていた。ゆらゆらと不安定な動きをするタワー。黒と白、たまに緑色が見える。そのタワーがこちらに倒れてきている。

 

「な、なんですの!!?」

 

倒れてくるその物質を見極めようと目を凝らす。そこで初めて理解する。タワーなどではない。なにかだ。人間ではない何かの集合体だと。一体一体は自分の半分のサイズ。だが、その数はいくらだろう。数えることも億劫になるほどの圧倒的物量。

 

 

それは、スタート地点から自分たちを肩車して、ひたすらに高さを出した後、オールマイトの元へ下ろされた。

 

DDGGAANNNNN!!

 

何千人ものエイリアンで構成されたタワーは轟音を響かせ、倒れ崩れる。そのまま雪崩を起こすかのように、わらわらと人型のエイリアンがオールマイトの元へ向かう。全員が同じ顔、同じ体だ。なんのちがいもない。まるで細胞分裂をしたかのよう。

 

工業地帯からあふれんばかりのそのエイリアン。幾千者の彼らはギャーギャーと騒ぐ。

やれ足を踏んだだの、お前がやっただの、ボクはお前だだの。

 

喧噪の仲、彼らのうちの一人がオールマイトにタッチする。その様子をみて喧嘩を止める彼ら。任務達成と全員が口を合わせて叫ぶ。

 

「「「「「「イェェーイ!」」」」」」」」

 

「「「「「「ボクらが一番!!!」」」」」」」」

 

そのエイリアンの名はディトー。力もない。体も小さい。炎を噴けるわけでも肉弾戦が得意なわけでもない。その特性はたった一つ。【分裂増殖】。1人から2人に。2人から4人に。4人から…

 

ディトーを選出されたベンは、何十、何百もの自分に分裂した。そして自分を頂点としてピラミッドタワーを、文字通り人でつくり挙げた。あとは簡単。居場所がわかっているオールマイトの元へ崩れるのみ。

 

「楽ショーだね!やっぱりボクってサイコーォだなぁ!!」

「全くだ!!」

「いや違う!」

「何がだ!?」

「ボクじゃない、ボクたちだ!!」

「「「「「「「「フ――――――!!!」」」」」」」

 

1人でも面倒くさいベン。それが何十人もいたら…実際、グウェンの中ではディトーが一番嫌だったらしい。彼女の名言を添えておこう

 

【ベン=テニスンのエイリアン一体より嫌なことってなにかわかる!?二体いることよ!!】

 




活動報告で、「期末試験に出すエイリアンアンケート」を取ってます。あなたが出してほしいエイリアンが出てくるかも?ていうかアンケート1,2,3を出します!ぜひ、投票お願いします!!1


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62話 ふわふわふわり

ディトーはかなり強いんですよね。救助とかでもやっぱり数の力が必要な場面は多いだろうし…


救助訓練レース。“5人のうちだれがいち早くオールマイトを見つけられるか”というオールマイトらしいゲーム形式の授業。今回の一位はベン。だがオールマイトはまず彼に問う。いや、彼らに

 

「え、えーと、テニスン少年であってるのかい?」

 

「「「「そうだよ!!」」」

 

オールマイトが確認した理由はただ一つ。一位と思わしき人間が複数人いたからだ。だがその複数というのは二名という意味ではない。同じ姿の異形が何千人といたからだ。そのうちの一人がオールマイトに触れたため一位ではあるのだが…

 

「ウーム…テニスン少年…達。私の話を聞いていたかい?建造物への被害は極力なしといったはずだ。見たまえ」

 

オールマイトが示す方向を見ると、人雪崩によっていくつもの工場やプラントが崩壊していた。それはそうだ。何トンという負荷がかかることを想定していない建物に、5000人がなだれ込んだのだ。屋根や機材などが耐えられるはずもない。

 

結局、ベンの一位は取消に。その結果を聞いたベン達は互いに責任をなすりつけ合い、喧嘩をし始める。

 

「おい!誰が考えたんだよこの作戦!!」

「お前が言い出したんだろ!」

「なにをぉ!!ボクのくせに!!」

GOS!!

 

「アイタ!!やったな!!」

「今殴ったの誰だ!!ボクも痛かったぞ!!」

「痛みがつながってるんだ!!やめろよ!!馬鹿なのか!?」

「ボクが馬鹿なら君もバカだ!ボクだからな!!」

 

非常に醜い争いを始めた彼ら。その喧嘩はベンの変身が解けるまで終わらなかった…

 

 

訓練が終了し、一同は食堂でランチラッシュの馳走に舌鼓を打つ。何度味わっても飽きることのない美味に皆々は感謝し箸を動かす。

 

緑谷は授業後オールマイトに呼ばれ、また飯田も用事があったため、珍しいメンツでの食事となる。豪快にジェスチャーを取りながらベンを褒める芦戸。

 

「しっかしテニスンすごかったねぇ!!!変身っていう個性にしても限界ないんじゃない?体育祭で見せたやつ以外にもまだ変身できたんだ!!」

 

「まったくだぜ!!俺とか芦戸は一物質を出すだけだってのによぉ…もしかして…電気を出す奴に変身できるとか言わないよな!?」

 

普段会話しない芦戸と上鳴。二人は、あまりにも多様なベンの個性に疑問をぶつける。ハンバーガーを口に運びつつ答えるベン。

 

「そうだな…今変身できるのは全部で22、3くらいだね。電気のやつもいるよ?」

 

その解答を聞き項垂れる上鳴。チートチートとをうらやましがる。だが、ベンからすれば元々の個性で電気である上鳴も十分なはず。そう伝えると、

 

「だってよぉ…俺の個性とかは対人だと調整が難しいし…そういやもうすぐ試験じゃん?どんな感じなんだろうな…不安で仕方ねぇよ!!」

 

不安を吐露する上鳴。中間試験において実技はなかったが、期末試験は別。これまでの授業の総合的内容が出るらしいが皆目見当がつかない。そしてこの不安は上鳴だけではない。麗日や飯田も不透明な試験内容には懸案している。対して楽観的なベン。

 

皆がうなっていようと関係なく食事を進める。最後の人口を口に運ぼうとしたとき、誰かの肘が後頭部に直撃する

 

「アイタっ!!」

 

キッと振りむくと、トレーを抱えたまま薄ら笑いを浮かべる金髪が手を課をに当てていた。

 

「ああごめんよA組。あまりにも小さくて気づかなかったよ!!そもそも君みたいな小さなものはこちらに配慮してもっとわかりやすくし

 

「どんな絡み方だ」

PASSHIN!!

 

ちくちくとベンを馬鹿にしてきたのはB組の物間。さらに彼にツッコミをいれたのはその姉御分の拳藤。海外型職場体験でベンと戦い、オムニトリックスの秘密の共有者。物間の歯止め役でもある彼女は彼の肩を引く。

 

「ったく…ごめんねベン、A組」

 

さらりと謝る拳藤。その詫びにと期末試験の情報を提供してくれた。

 

先輩からの情報らしいが、どうやら試験は対ロボらしい。おそらく入試や体育祭で対戦した雄英ロボ。

 

その情報に上鳴や芦戸は歓喜する。その理由は先の通り、調整する必要が無いからだ。筆記試験が危ういので、実技が簡単ならば非常に助かる。そう考えたのだろう。喜ぶ彼らの姿を見て顔をゆがめる物間。

 

「オイオイ…いつの間に仲良くなってるんだい拳藤?敵に塩を送って…君はB組だろう!?」

 

「誰が敵じゃ。そういえば…ベン、あんた座学は大丈夫なの?あたし的にはそっちが心配なんだけど…」

 

この前の戦いで、ベンを心配し過保護にすることより、共に戦うことを決意した拳藤。その思いは本当なのだが、心配しないわけではない。それに、電話番号を交換したグウェンから聞いたのが、ベンはアメリカンスクールにいる際、留年しそうになったこともあるらしい…そりゃ心配になる。

 

だが、心配を一蹴するかのように、ベンは自慢げに語る

 

「心配ないって!ボクには秘策があるんだよ」

 

「そういえば、テニスンって授業では答えられないけど、試験になると点数出すよな!あれ何でなんだ?」

 

「企業秘密ってやつだよ」

 

その仕組みは簡単。テスト前日にグレイマターに変身し試験問題を予想。あとはその解答を覚えるだけ、という戦法である。オムニトリックスを私欲のために使う、アズマスが見たら憤慨しそうな使い方である…

 

ベンの答えを聞いて心配する拳藤。結局、拳藤とベンの勉強合宿が開かれたのは別の話…

 

【期末試験当日】

 

グラウンドに皆が集まる。狼狽している彼ら。偏差値70を超える高校の試験。簡単なわけがない。それでなんとか乗り切ったのだ。後は実技試験を終え、皆で楽しい林間合宿。

 

 

そう意気込む彼らに、悲報が入る。それは、試験形式の変更。はじめは対ロボだと思って楽勝と思っていたが、敵狂暴化に備え、対人となってしまった。そのルールは

 

「先生と戦う!!??」

 

「そうさ!ここにいる教師は全員君たちをつぶしに行くのさ!!」

 

元気よく語る根津校長。確かにその景色は異様だった。なぜかグランウンドには多くの雄英教師が召集されているのだ。対ロボならここまで集まる必要はない。

 

悲しむ者を無視し、根津校長はそのまま試験相手を発表していく。

 

緑谷・爆豪vsオールマイト

飯田・尾白vsパワーローダー

麗日・青山vs13号

瀬呂・峰田vsミッドナイト

 

着々と発表されていく。各々の課題や能力が総合的に勘案され組まれた布陣。対戦相手が決まったものから、順にバスでフィールドに向かっていく。ほとんどの者が呼ばれ最後にベンだけが残ってしまった。他にいる者は、教師一人のみ。皆と違った扱いに、質問するベン。

 

「あれ?ボクは1人?まあいいけど?ボクがプロより強いってこと教えてやるよ!!」

 

同じく余っている教師の方を見て生意気にのたまう。ベンの相手は【ブラッドヒーロー ブラドキング】。B組担任であり、血を操る個性のプロヒーロー。生徒想いの彼だが、試験を控えているためか、あまり多くは語らない。顔をしかめたまま、ベンの言葉を否定する。

 

「ちがう。お前にはパートナーを用意した。そろそろ来る頃だが…」

 

チラリと目を忍ばせるブラド。どうやらそのパートナーとやらは時間になってもこないらしい。待てど暮らせど入り口はピクリとも動かない。が、その方向とは逆の方から声がした。

 

入り口と反対の方向に2人が目をやると、女の子が宙を舞い寄ってくる。ふわりふわりと妖精のように漂いながら降り立った彼女は、まじまじとベンを見つめる。

 

大きなグルグルの目をぱちくりとさせ、顔を近づける。そして、首をひねる。

「ねーねー、ポケットに入れてるボードって日本のものじゃないよね?その銃って自作なの?君は小さいけどそれは個性なの?それに時計大きいね、不自然なくらい!?不思議!!」

 

幼稚園児のように思ったことを口にだす彼女。そんな彼女にため息をつきながらブラドは紹介する。

「…3年生、波動ねじれ。お前のパートナーは彼女だ、テニスン」

 

 




と、いうことで、ベンは波動先輩とともにブラドキングと戦います!!戦う際のエイリアンはまだ決まってないです!!活動報告アンケートで要望の多いエイリアンを出すのでぜひ投票お願いします!!!金曜日までです!あなたの好きなエイリアンをなるべく出したいです!!


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63話 良いことを教えてやろう!!

更新が遅れて申し訳ございません…年末忙しさをこの身で体感しております…皆さまもこの時期と時勢はお忙しいは思います。そんな中でもこの作品をお読みになっていただき本当に感謝しております!では、どうぞ!!


雄英高校は三年制。当然だがベン達ヒーロー科の先輩も存在する。最高峰ヒーロー育成機関である雄英は、入るだけでもその有用性は担保される。そんな頂点学校のさらに頂点に座するもの。圧倒的な天性たちがしのぎを削った先のトっプに居続ける者たち。人は彼らを【雄英ビッグスリー】と呼ぶ。神童と呼ばれた者、個性は恵まれたが己の性格に悩んだもの、没個性をチート個性にするほど努力した者。その出で立ちは三者三様ではあるが、ベンの目の前にいる波動ねじれは、俗にいう天才であった。雄英に入ってからは敵なし。プロを含めその戦闘力は上から数えた方が早いほどだ。

 

そんなことは知らないベン。自分の試験に入り込む異物に対して食ってかかる。

 

「なに?こいつがボクのパートナーだって?大丈夫なの?見たところすっごい子どもっぽいけど」

 

ベンが抗議するのも頷ける。波動のスタイルそのものは大人顔負けなのだが、いかんせんその態度が幼稚。疑問に思ったことは聞かないとしょうがない性質ゆえに、あどけなさが抜けないのだ。ベン抗議に顔を膨らませ反論する波動。

 

「むー、私は強いよ?ね、先生」

 

「その通りだテニスン。波動は雄英で3本指に入る実力者。インターンも1年生から続けているセミプロだ。テニスン、相澤からお前のことはよく聞いている!今日の試験を通じてその波動からヒーローとは何たるかを学ぶんだぞ!!」

 

「はぁ?ヒーローとしての姿勢ってこと?そんなもん十分知ってるのっての!!」

 

生意気なことをほざくベンにため息をつき、ブラドはバスに乗車。どうやら試験会場まではここから30分以上かかるらしい。3人で乗るにはあまりにも大きなバスにベンと波動も乗り込む

バスの中では、波動による質問ぜめ。空席は腐るほどあるのに、ベンの隣に座り顔を近づける。通常の男子なら卒倒もののシチュエーションなのだが、彼の倒錯した性癖の前には波動の魅力は通じない。

 

「ねぇねぇ、あなたっていろんな姿に変身できるんだよね?」

 

「そうだけど?」

 

「例えばどんなのに変身できるの?」

 

「そりゃあたくさんだよ。ダイヤモンドヘッドにXRL8 、アップグレードにワイルドマット…20種類以上のエイリアンに変身できるんだ!」

 

「そうなんだ!!不思議!!インターンで色んな個性を見たきたけどテニスン君見たいな個性はいなかった!!ねぇ、変身した時はどんな気持ちなの?今のままなの?それともなにか違うの?」

 

「うーん…エイリアンによって少し変わるね。例えばフォーアームズだったらテンションが常にハイになるけど、グレイマターはすごく落ち着くんだ。まあ?普段のボクもクールだけどね?」

 

「そーなんだ!!そういえばどうしてエイリアンっていうの?変じゃないの?」

 

「そりゃ・・・ボクの変身した姿は…モンスターってよりも、エイリアンって感じだからだよ」

 

「そーなんだ!!ベン君って変だね!」

 

「ボクのどこが変なんだよ!!」

 

急にけなされたことで不満をあらわにするベン。まあ仕方ない。今日会った人に“変”だと言われて喜ぶものはそういない。不機嫌そうに口を尖らせるベンだが、波動はお構いなしに質問を続ける。

 

「その時計だって不思議なデザイン!時間読めなさそうだけどどうしてつけてるの?」

 

「これはオムニトリックス!えっと…サポートアイテムなんだ」

 

「時計型のサポートアイテムっておしゃれ!!そのデザインは自分で考えたの?それともデザイナー?」

 

「そうだね…目が大きくて頭でっかちなやつが作ったんだよ」

30分以上バスに揺られた彼ら。さらにその時間常に質問攻めだったベンは、試験前だというのにげんなりしていた。外の空気を目いっぱいに吸い込もうと、目的地に着いた瞬間一目散に外に出たベン。深呼吸する彼の目の前にあるのは巨大な施設だった。

 

「今日の試験のルールを説明する」

 

そういうとブラドは建物に入っていく。横に広がるその建物には多くの装飾がなされている。あたりを見回しながらベンはブラドに習い中に入る。大型の人にも配慮されたユニバーサルデザインの自動ドアが彼らを歓迎する。

 

その建物を一言で表すならば、超大型イ〇ン。さまざまな店舗が乱立し、フードコートや休憩コーナーなども完備された、田舎にありがちな大型ショッピングモールだ。内装はほどほどだが、飲食店などの席や、空調、明かりなどは見事に再現されている。ヒーロー科施設一つとっても雄英予算の潤沢さが伺える。

 

「うわぁぁ。すっげぇぇ…あ、ゲームセンターまで再現されてる!!」

 

「テニスン!話を聞け!…お前たちのクリア条件は俺にこのハンドカフスをかける。もしくは脱出だ。脱出に関してだが、ここには多くの出入り口が存在するため、一回正面入り口からの脱出のみ認める」

 

つまり今ベン達が入ってきた出入り口だ。すぐそばにはパン屋とカフェが隣接されており、天井からは太陽の光が降り注いでいる。建物は立体的な構造だが、中央は吹き抜けになっているようだ。天井にあるステンドグラスからは赤や青に変色した光がユ地面を鮮やかに彩っていた。

 

「正面入り口だけからの脱出ってことは…壁を壊しての脱出もダメってこと?」

 

「そうだ波動。お前が参加することが決まった時から突貫でここの壁面工事をさせてもらった。波動の100%の力でも破壊することは叶わないぞ」

 

つまりベン達が脱出する場所が決まっているため、ブラドはそこを待ち構えればいい。どういう戦法を取ろうとブラドとの交戦は避けられない。

 

他の生徒たちは既に試験開始20分は経っている。各々教師との交戦に悪戦苦闘している。できるならば避けたいはずの教師との交戦。ベンはその戦闘を余儀なくされているのも拘わらず、自信に満ちた笑顔。

 

「いいね、先生をぶっ倒せばそれで勝ちなんでしょ?見せてやるよ!新生オムニトリックスの力!!」

 

啖呵をきるベンをクスクスとはにかむ波動。ブラドは相澤の言葉を思い出しながらため息をつく。

 

ベンと波動はスタート地点につく。このショッピングモールは3階建てで、超楕円形の箱である。ベン達は3階の東ブティックににいる。正面入り口はやや西側。つまり彼らは正面入り口からかなり遠い場所で待機していた。

 

オムニトリックスをいじるベン。波動は時計に夢中になる彼にまたも質問する。その距離感はバグっており、顔と顔が触れそうになるほど。

 

「ねぇねぇ、どうして時計を回してるの?」

 

「ああん?これで変身するエイリアンを決めてるの!」

 

「ふーん…まるで、その時計で変身するみたいだね!!」

 

ギョッとするベン。さらりと核心を着かれ一瞬びくつく。確かに変身できるのはベンの個性などではなく、オムニトリックスのおかげ。初めてオムニトリックスを見たにも拘わらず、その秘密にたどり着きかけている波動をベンは警戒する。

 

「どうしたの?あ、そういえば私の個性言ってなかったね!私の個性はね

 

が、楽観的なベンはすぐに平常心を取り戻す。つまり、いつもの人の話を聞かない彼だ。

「別にいーよ。ボクがいれば勝てるって!!よし、最初はお前だ!!」

 

QBAN!!

 

ドクン、ドクンと心臓が脈打つ。オムニトリックスからエイリアンDNAが排出され、ベンのそれと結合していく。小柄なベンの骨格はメキメキと膨れて変化していく。2メートルほどの大男になったかと思えば、その体はオレンジ色の獣毛に覆われる。さらに変身が進んでいき、体のつくりはネコ科を模したものとなる。二足歩行である今の彼はいうなれば人型の虎。背中には黒の縞模様が入り、手の甲からは鎌のような巨爪が生える。

 

ベンの変身を生で初めて見た波動は目を輝かせ、キャッキャッとふわつきながら彼を撫でまわす。執拗になでなでしてくる彼女に、ベンは強めの語気で返す。

 

「うわぁ!!すごい!まるで猫ちゃんみたい!」

 

「いいことを教えてやろう!!ふわふわ髪の天然お姉ちゃん!!俺の名前はラス!動くものすべてを狩る宇宙虎だ!!ひゃっほう!!」

 

吹き抜けとなっている中央口をラスは飛び降りる。2階を飛ばして一階に降り立った彼を見降ろして、波動はますますワクワクする。

 

「本当に性格変わったみたい!!不思議!!」

 




・まず一体目はラス!!まあワイルドマットの毛色で、キレ性な猫ちゃんです‥‥
・次の回は予想を上回るために頑張って書いてます!!お楽しみに!


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64話 反乱

さあ、期末試験が始まりました!!もちろん、ただ無難に終わることなんてありませんよ?


体育館γ。体育館といっても名ばかりで、実際は超大型のショッピングモール。

此処は屋内でありながらも開放感あふれる施設だ。例えば一階モニュメント広場。砲撃なども使用可能な広域休憩場。対面にある店と店は10メートルほど離れており、屋内と言えるのは天井があるから、という理由だけだ。

 

ブラドは自分が守るべき正面入り口から少し離れた中央広場で彼らを待っていた。ベンのパートナーが3年波動のため、ハンデの錘はつけていない。ほとんど本気のブラドがそこにはいた。

「む、来たか」

 

正面入り口には必ずここを通る。ゆえに待ち伏せをしていた彼の目の前に現れたのは、二足歩行で走ってくる朱虎。

 

「よぉぉし!!この爪の餌食になりたくなかったらそこをどくんだな!!」

 

ネコ科ゆえの俊敏さでブラドに迫るラス。その口の利き方は教師に対するものではないのだが、いかんせんラスのDNA提供者の性格が少し出てしまっている。叫びながらブラドを裂きに行く。

 

「りゃあっ!!」

 

ベンは二足歩行で距離を詰める。今のベンは、人間体であった時の筋肉量とは比にならないほどの猛筋。虎の俊敏性と脚力をフルに生かしながら踏み込む。鋭く尖った手の甲の爪はブラドを目指している。

 

が、さすがプロヒーロー。個性を使わずともベンの攻撃を軽くいなす。あえて紙一重で避けることでその実力差を目の当たりにさせる。

 

渾身の一撃を余裕で躱されたベンは頭に血が上る。今はベンの方が体は大きい。なのにその攻撃が全然当たらないことに苛々する。ブンブンと両手を振り回す姿はまるで子どものようだ。

 

そんな彼に、ブラドは未だ攻撃を加えない。未だ拳を振り回すベンを彼は挑発する。

「どうした、その程度かテニスン!!」

 

「良いことを教えてやろう!!よく個性がわからない先生よ!オレの力はこんなもんじゃないんぜ!?どりゃっ!!」

WHAMM!! 

WHAMM!!  WHAMM!!

WHAMM!!  WHAMM!!  WHAMM!!

 

 

横にかッ跳び柱を足場にする。と思えばすぐに跳ね隣の柱を伝う。人間にはできない、柱を使った3次元的な動き。ラスになってベンが一番楽しかったのはこの動きだ。四方八方に飛び跳ねて相手をかく乱するこの技は緑谷でも反応できなかったほど。つまりその速度はグラントリノ以上だ。

 

さすがのブラドも視認できず、背後を取られる。ブラドの背中を一望したベンは爪をしまい掌底をはなつ。

 

「食らいやがれ!!」

BBSHHAA!!

 

ベンの肉球と物体がぶつかる音がする。一瞬ベンは焦る。貫かないために爪をしまったにも拘らず、ブラドの背中からは赤い液体が流れている。もしかして大けがをさせてしまったかもしれない。そう困惑した彼だったが、すぐに手ごたえが無いことに気づく。捉えたと思ったその背中には傷一つ入っていないのだ。確かに血は出ているのに。

 

ネコ科の第六感がベンに気づかせる。これこそが奴の個性だと。

 

〈個性【操血】。血を自由自在に操り、攻撃、防御、拘束手段にできる!!タンクに先をためておくことで操れる量を多くできるぞ!!硬質化することで刃物だってへっちゃらな万能個性だ!!〉

 

ブラドは血を背中から噴出、硬質化することでベンの一撃を受け止めたのだ。

 

「な!!俺様のパンチがガードされたぁ!!!??」

 

「ふんっ!!」

 

ブラドは体をぐるりと回し、そのままでベンを蹴り飛ばす。咄嗟に左腕で受け止めるもこらえきれない。ギリギリ頭部直撃は防げたが、このままでは左腕へのダメージは大きい。メキメキときしむ腕を折らないためにあえて後方に吹っ飛ぶベン。ガシャガランと大音が店内に鳴り響く。店内の備品を壊しながら吹っ飛んだベンをブラドは逃さない。

 

急いで離脱を試みるベン。しかし雑貨店に突っ込んでしまったため、棚々が邪魔でその俊敏性が生かせない。対して操血のブラド。死角から血液を這わせベンの足を拘束する。

 

「ぐっ!!」

 

いったん動きを止めてしまえばもう終わり。プロヒーローがその隙を見逃してくれるはずがない。抜け出そうとするラスを、あっという間に血液が壁に貼り付ける。四肢に張り付き硬質化することでラスは力を籠めることすらできない。

 

「ぐうう!!くっそぉぉお!!」

声を張り上げるも脱出は叶わない。むしろ時間が経てばたつほどその拘束は強固なものになっていく。

 

拘束されるラスを見ながらブラドは会議を思い出す。

これは試験2週間前の話。1年A組担任である相澤は期末試験での生徒の相手を決めていく。

 

「えー…緑谷と爆豪はオールマイトさんがお願いします。最近は少しマシになりましたが、まだこの2人の関係は歪です。試験を通して互いの理解を深めてやってください」

 

「そうだね。ヒーローは誰とでも最高のパフォーマンスを発揮させなければならないからね」

 

「まああなたは誰かと協力した経験は少なそうですが…」

 

「あ、相澤君!?」

 

「で、他の生徒ですが、轟と八百万を…」

 

会議は進む。ほとんどの者がその相手が決まった後、最後にベン。相澤はその相手でブラドを指名。指名されたブラドはその理由を問う。

 

「そうだな…理由は2つ。1つ目はお前の対人戦闘力を見込んでだ。テニスンの変身能力は極めて超人的。それこそスペックだけならオールマイトさん並だ。だが体の使い方等が未熟。まるで変身体に振り回されているかのようだ。特にパワータイプのエイリアンになったときはその傾向が如実に現れる。だから武術の心得もあるお前が適任だ」

 

ブラドとの闘いを通して戦闘技術の重要さを学ぶのと、テクニカルな敵の対策を考えてほしいとのこと。1つ目の理由がわかったところで、ブラドはもう一つの理由を聞く。

 

「それで、二つ目の理由とやらは?」

 

「ああ…お前の継戦能力を見込んでのことだ。テニスンの変身時間はおおむね10分程度。その時間、お前は個性を使い続けられるよな?」

 

「あ、ああ。それはそうだが…」

 

そして相澤は一つの指示を出した。ベンにとっては死活問題。しかし、もしベンがヒーローになれば必ず狙われる弱点。それは…

 

「ふんっ!!ふんん!!!」

なんとか血牢から抜け出そうとするも、ただいたずらに時間が過ぎるのみ。戦闘場所を教える前にベンが飛び出したため、波動の支援もまだ期待できない。そして、音が鳴る。

pipipi  QBBAANN!!

 

巨体は縮み、自慢げな毛並みはつるつる産毛に成り代わる。己を包む赤い閃光を恨みながらベンは叫ぶ。

 

「あーもー!!ほんっと!!このウォッチはタイミング悪いな!!」

 

足をばたつかせるベン。以前、彼は捕まったまま。ブラドの拘束は人間体に戻ったベンに合わせて、ぴっちりと張り付いている。

 

そして、ブラドは相澤からの指示を遂行する。その指示とは、

 

【テニスンのサポートアイテムを封じる】

 

残酷すぎる指示。しかし、ヒーローを目指すには避けられない。もしベンがヒーローに成れば、時計を介して変身している事はすぐにばれる。そうなった場合に狙われるのが“オムニトリックスの破壊“。実際、相澤も捕縛布対策をした敵と戦ったこともある。いかなる時でもヒーローは敵に弱みを見せてはいけない。相澤は自身の経験と知識からベンに壁を用意したのだ。

 

相澤の指示通りに、ブラドはオムニトリックスを血液で覆う。そして硬質化することでオムニトリックスの無効化を試みる。

 

その意図に気づいたベン。何としてもさせまいと暴れるが、無個性の彼はあまりにも非力すぎる。オムニトリックスは完全にブラドの血に覆われ、押すことも回すこともできなくなる。

 

自身の能力を奪われたに等しいベン。思わず項垂れるベン。そんな彼にブラドは喝を入れる。

 

「テニスン!!サポートアイテムの無効化を狙う敵はごまんといる!特定のヒーローを対策する敵は特にだ!!そんな中でも戦うのがヒーローだ!!違うか!!」

 

「…!!別に諦めてなんかないよ!!!ボクはオムニトリックスだけじゃないんだからな!!」

 

先のヴィルガクス戦で学んだことだ。たとえオムニトリックスが無くても自分はヒーロー。そのこと思いだしたベンは力強く答える。

 

沈んだ表情から一変。ベンは不敵に笑う。そんな彼を見てニヤリとするブラド。教師をするくらいだ。子どもが嫌いなわけない。ましてや挑戦心にあふれる若者を応援しないなど、師であるはずがない。拘束は解かないがベンを鼓舞する。

 

「よし!!その意気だ!!我がB組生徒たちにも負けない目になっ…」

 

だが、急に言葉が途切れる。体に違和感が生じたのだ。感じたことのない症状。長くヒーロー活動をしてきたが初めての感覚。まるで体の中に異物がはいりこんでくるかのような…

(テニスンか?!いや、何か仕掛けている様子はない…この時計から俺の血を伝って何かが…!!一体なん)

 

その時、ブラドの脳内にどす黒い声が流れる。かすれ声で、しかしはっきりと嬉しそうに。

 

「やっとだ‥‥やっと出られる…!!お前には感謝してやる!!!」

BASHNN!!

ブラドの拘束が解ける。血がべちゃりと床に落ち、赤いシミを作る。持ち上げられていたベンはしりもちをつくが、すぐに体制を整える。腰に入っている銃を片手にブラドの方を見ると、何やら俯いている。ベンはこれを個性の副作用だと判断。この隙にと、攻撃を仕掛けようとしたとき、バッとブラドが顔を上げる。

 

目を閉じており、不気味に笑うブラド。先ほどの間での教師然とした態度ではなく、生気がない。その閉じていた目を開くと、その目は白であるべき部分は闇色に、瞳は不気味な紫色に仕上がっていた。明らかに様子がおかしい先生を見て戸惑うベン。そんな彼に、ブラドが、いや奴が口を開く。

 

「ヤァ…やっと会えたな…ベン…」

 

聞きなれた声。しかし先生は自分のことをテニスンと呼んでいた。急に呼び方を変えるなんておかしい。困惑していると、奴は高らかに笑う。

 

「ハッハッハ…ひどいじゃないか…俺のことがわからないなんて…親友だと思っていたのになぁ…?」

 

その言葉とともに、ブラドから何かが出てくる。黒いガスのようなものがブラドから出てきて、一つの形に集まり白き霊体を形作っていく。そのなじみのあるその姿を見たとき、ベンは気づく。何が起きているかはわからないが、誰が敵なのかはわかった。

 

「ついに顔と顔を会わせられたな…うれしいよ…ベン…!!」

 

「なんでお前が…!!ゴーストフリーク!!」

 

 




この章のタイトルは期末試験編(ゴーストフリークの反乱)でした!!正直迷ったんですが、ここ以外にうまくゴーストフリークを絡ませることができなかったので、入れちゃいました!ブラドファンの方々、お許しを…


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65話 波動ねじれ

明けましておめでとうございます。今年も本作をよろしくお願いいたします。
遅くなってごめんなさい!!ねじれちゃんとゴーストフリークの口調に迷ってました!


教師を敵と見立て、勝利条件を逃走または戦闘とし行われていた雄英期末試験。学内での試験故、【敵】の介入は想定されていない。だが、【敵】と呼んでいいかわからない、しかし紛れもない敵がベンの前に存在していた。

 

ふわふわと浮いている見慣れた化け物にベンは声を荒げる。

「ゴーストフリーク…!!どうして出られたんだ!!だって…お前は僕なのに!」

 

「俺がお前になったことはなぁい!エクトノライト族の自我はDNA数本になってもなくならないのだぁ…!!俺はオムニトリックスのためのサンプルを取られた時、中に閉じ込められたのだ‥!!」

 

エイリアン変身を可能にするオムニトリックス。この装置は、何十万ものエイリアンDNAを元にして作られている。開発者のアズマスは、被採取者には害のないようDNA採取を行った。しかし彼の計算を上回るほどのエゴを持ったゴーストフリークは、その採取したDNAに自我が宿り、オムニトリックスの中に何十年も閉じ込められていた。ゆえに彼は、ウォッチから脱出する機会を闇の中で虎視眈々と狙っていたのだった。

 

しかし、そのことを今だ理解できていないベンは困惑する。

 

「い、意味がわかんないっての!!大体、どうやって出てきたんだよ、ゴーストフリーク!!」

 

「俺の名はそんな名ではない!!俺の名はジィスケアーだ…!!ようやく外に出られたのだ…俺の真の姿を見せてやる!!」

 

ゴーストフリークが吠える。と同時に自らの体のヒビを、自分の手で大きく裂く。ビリビリと皮膚が破れ、出てくるのは黒と白で彩られた触手。ウネウネと7、8本の触手がブラドを指す。

 

「この男がウォッチと接触していたからな…こいつを媒介にして抜け出せたのだ!!」

 

ブラドは意識をなくしており、その顔は真っ青だ。一方で、ゴーストフリークの白かった皮膚は紫に染まり、元の姿は見る影もなくなる。どくろ顔を逆さにした単眼の幽霊がベンの前に現れる。

 

「うわっ…また一段とグロくなったな…」

 

「ふふははは!!あとはお前と一体化するだけだ!!」

 

「はぁ?どういうことだよ!!」

 

「言ってもわからないさ…さあ、体をよこせ!!」

 

鋭く尖った黒爪をベンに伸ばす。ひきつらせたベンの顔に彼の指がかかる。しかしその爪は太陽の光を浴びると同時に灰へと変わる。焼傷は腕全体に広がり、シュウシュウと彼を蝕んでいく。その姿はまるで光を浴びたヴァンパイアの様。

 

「ウグァァァァ!!」

 

太陽の光から逃げるように後方へ下がるゴーストフリーク。その様子を見て得意げに言うベン。

 

「はん!!太陽の元に出られないならボクに触れることすらできないよ!!」

 

天井には二つ三つのステンドガラス。この建物は三階構造で、中央スペースは吹き抜けとなっているため、そこには太陽の光がこれでもかと通ってくる。

 

「…ああ…そうかもしれないな…だから…こいつがいるのだ!」

 

ベンの言葉に全く動じない彼は、その一つ目を細める。そしてすぐ傍に寝転がるブラドキングの体に入り込んだ。周囲の空気は依然うすら寒い。

 

ゴーストフリークの気配がベンの前から一瞬で消える。すると、うつぶせに倒れているブラドからはうめき声が上がる。今にもよだれが垂れそうに口を開け、手を使わず不気味な動きで立ち上がる。

 

ニギニギと試運転するかのように両手を動かす。前を向き、口角を上げたブラド。彼の瞳は黒く染まっており、ブラドの意識はまだ無いことが予測された。立っているのは…ゴーストフリーク。

 

「これなら…太陽の光は関係ない…」

 

「…まっずい‥!!」

 

ブラドの体を乗っとったゴーストフリーク。そんな彼にウォッチ無しで挑むほどベンは間抜けではない。逃げるが勝ちと言わんばかりに敵に背を向け逃亡する。が、子どものダッシュ力などたかが知れている。

 

すぐさま回り込まれ抱えられる。ラスの変身が解けた後と似たような状況。違うのは、彼を捕まえているのは、先生ではなく自分を乗っ取ろうとするエイリアンだということ。

 

先ほど変身が解除されたばかりなので当然ウォッチは赤いまま。ゴーストフリークはそのことを知っている。じたばたするベンを気にせず、ベンを食らおうと口をかっぴろげる。そのとき、まぶしい波動が足元を襲った。

 

TTWWIINN!!!!

回転しながらも地面をえぐる光線。常人ならば立つこともままならないほどの振動が周囲を走る。ゴーストフリークは謎の攻撃から身を守るために、思わずベンを放してしまう。放り投げられたベンを上手くキャッチしたのはパートナーの

 

「ねじれ!!」

 

「もー。テニスン君勝手に跳びだしたから探しちゃった!どうしてここに来れたと思う?それはね、ここからおっきい音がしたから!!」

 

「…なるほどね!!てゆーかやばいんだ!!敵が…」

 

「敵?」

 

「…先生が乗っ取られてる!!ゴーストフリークだ!!幽霊!!」

 

懸命に事態を説明しようとするベン。もしこの言葉を聞いたのが、拳藤もしくはグウェン達であれば事態を把握できたのかもしれない。しかし、オムニトリックスのことを知らない波動にはゴーストフリークというベンの変身体が敵になったということを理解できるはずもない。

 

が、

 

「ムー…」

 

ベンを抱えたままブラドに目を向ける。長期インターンまで経験している波動。ベンの説明内容よりもその喋り方や態度から、なにやら異常事態であることを察した。

 

ブラドの体を奪っているゴーストフリークは、太陽の光を気にせず一歩を踏み出す。狙いは小娘が抱えているベン。ブラドの能力を瞬時に把握して、血の槍を創造。その有り余る筋肉に頼り、波動めがけて投擲。

 

波動はベンという錘を背負っている。ふわふわと浮いている波動だが40キロというハンデを今請け負っているのだ。

 

猛スピードで迫りくる槍にベンは反応すらできない。出来るのは目を瞑ることだけ。しかし、ビッグスリーは違う。

TWIIN!!!

 

軽やかに敵の攻撃をかわす。手から波動を発射にその反動で空中移動。ベンを抱えているのも拘わらずだ。

 

その動きに思わず感心するゴーストフリーク。

(地球人はここまで力を得ているのか…)

 

内心で地球の進歩に舌を巻きながらも、攻撃の手は緩めない。次は一本鎗の投擲ではなく、数での勝負。血を硬質化させ、人間を仕留めるには十分な殺傷力の血ナイフ。数十本生成した後、それらを彼女の周囲に浮かべる。

 

「これは避けられるかぁ?小娘が!!」

 

空気を切り裂きながら迫る血製短剣。360度くまなく取り囲んだ数十本ほナイフ。それがさきほどの槍のスピード以上で飛んでくる。

 

が、彼女は余裕の笑みを浮かべた後、こう述べる。

「…不思議…本当に先生じゃない…!スピードが全然違う!!」

 

彼女の個性は【波動】。自身の活力をエネルギー波にして放出することができる。その出力は自由で、敵への攻撃から自身の空中移動にまで使える。一本鎗の攻撃は小出力で自身を少し動かせばいい。なら範囲攻撃に対しては?

 

「出力50%!!ねじれる波動(クリングウェーブ)!!」

 

TTWWWWIINN!!!!

 

波動が放つねじれ光線は、ナイフをはじき返すどころか敵まで届く。危ういところで血壁を建て防御。周囲の店舗まで巻き込んだその光線は、状況を混沌化。電球は割れ、看板は削られ、周囲には白煙がもくもくと舞う。

 

煙が晴れるころにはベン達の姿は彼の前から消えていた。

「……隠れても無駄だぞ…小娘…ベン…」

 

防御と同時に撤退補助までをワンアクションでしてみせた波動。その動きの無駄のなさは正に頂点。雄英という最高峰のさらに上に立つ者の動きとしては申しない物だった。しかしながらそれがわかるのは一定水準に達した者のみ。基本的には力に頼るだけのベンには理解ができない。

 

二階のフードコートまで運んでくれた彼女に対し、ベンは抗議する。

 

「なんであのまま倒さなかったんだよ。お前ならいけそうだったのに!」

 

「あのね?テニスン君!まず事態の把握が必要なんだ!ねーどうしたの?私が来るまでの間何があったの?」

 

「それが…」

 

ベンは言葉に詰まる。オムニトリックスから出てきたゴーストフリークが先生を乗っとってボクの体を狙っている。この説明が通じるとは思えない。この話をするならば、オムニトリックスが何たるかを話さなくてはならない。それだけでなく、エイリアンの存在まで明らかにしなければ説明がつかないのだ。

 

押し黙るベンに対し、波動はさらに質問を繰り返す。顔を近づけてぐいぐい迫る彼女に、ベンは言葉を絞り出す。

 

「…幽霊が先生の体を乗っ取ったんだ…奴の狙いは…ボクだ…」

 

子どものようなベンから子供のような発言。この時代に、ましてや昼の学校に幽霊など…しかし波動は笑わない。

 

「わかった!じゃあどうする? 」

 

ベンの言葉を真摯に受け止め、その次を考える。しかしベンはそうもいかない。まさか信じるとは思わなかったのだ。思わず聞き返す。

 

「な、なんで信じるの?自分で言っててなんだけどかなりおかしいじゃん!」

 

「んー…えっとねぇ…なんとなく!!」

 

波動にも理由は言語化できない。だが彼女は直感的にわかるのだ。ベンが敵かどうかが。

 

学校の外で実際に働くことで得られるものは戦闘経験だけではない。リアルの【敵】を知ることで、敵とそうでないものがなんとなくわかるようになるのだ。また、元々の彼女の性格も、今の判断には関係したかもしれない。

 

「ベン君は戦えるの?」

 

拳藤とはまた違う、全てを包み込んでくれる姉のような雰囲気に、ベンは余裕を落ち着きを取り戻す。

 

「…うん。休憩も十分とれたし、問題ないね!!」

 

「じゃあ、一緒に戦おう!私たちの目的はアイツを倒すかここから出ること!あのね、結局試験と変わらないんだよ?」

 

「…そうか!!そうだよ!馬鹿正直に奴と戦わなくてもいいんだ。この建物を壊せればいい!なら…」

 

なにやらひらめいたベン。その作戦を託すエイリアンを考える。そしてキュルキュルとダイヤルを回し、そのシルエットをウォッチに浮かび上がらせる。選出先は

 

「お前の出番だ!フォーアームズ!!」

 

QBAN!!

波動の目に緑の光が飛び込む。目を開けると…

 

その体格は何と表せばいいのだろうか。少なくとも体長はかなりある。しかし、体格がいいかと言われれば微妙。なぜなら、手なのか足なのかもわからず、そもそも動物には見えないからだ。

 

「それがフォーアームズ?」

「…こいつは…」

 

その時、後方からガキンっと音がする。なにかと思えば、硬質化した血をフックとし、それを利用しゴーストフリークが上ってきたのだ。血の扱い方も先ほどのより手馴れている。

 

「この男の能力も中々いいなぁ・・・人間の体もずいぶん変わったものだな…確か…セレスティアルサピエンの遺骸が原因だったかぁ…?」

 

「何言ってるのか全然わかんない!」

 

「良いんだよわからなくて!!…ゴーストフリーク!!お前はここで終わりだ!」

 

「寂しいこと言ってくれるなぁベン…俺は、お前と一緒になりたいだけなんだぞぉ…?」

 

意図した変身ではない。しかし、第二ラウンドは、単眼エイリアンvs単眼エイリアン、さらに両者、動物系ではないものとなった。

 

「ねぇテニスン君!!それ誰!!??」

 

嬉々として問う波動に対し、こちらも答える。その植物エイリアンは、危機的状況を理解していないかのように、まるで、仮面ライダーの名乗りのように叫んだ。

 

「ワイルドバイン!!」

 




・実際、ねじれちゃんはすごいと思うんですよ…「波動」っていう個性は、いうほど万能じゃないだろうし。それでビッグスリーまで来れたのは努力か才能か…私的には本人は努力と思ってないタイプかなと(笑)

・次回、ワイルドバインvsブラドinゴーストフリーク!
・ゴーストフリークの個体名はジィスケアーらしいです。


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66話 ワイルドバイン

タッグバトルってやっぱり描写が難しいですね。マンガっぽくはイメージできるけどそれを表現するのが…




命名するならイオン雄英。全長300メートル、三階建て。多彩なショップからゲームセンター、はては映画館など、不必要と思える施設まで備えた体育館θ。その中でも再現性の高いフードコート。席数は400席を超え、実際に災害などが起きた時にはここを避難所、供給所となる所だ。

 

補給所ともなる、争いとは無縁のフードコートには今、人間、幽霊、植物が対峙していた。ゴーストフリークがブラドキングの体を乗っ取っているため、プロヒーロー相手とガチンコ勝負を強いられたベン達。その攻防は瞬きすらも隙となる戦いだった。

 

「そんな根っこエイリアンで俺に勝てるとでも思っているのかぁ?」

 

「はっ!!そのイカレタお目目でよく見とくんだなっ!」

 

ベンが今変身しているのはワイルドバイン。胴体は一本の太い茎のような植物型エイリアン。動物のような明確な足はなく、極太の根が自身の体を支えている。首回りには食虫植物の口が生えており、緑一色。

 

「ふっ!!」

 

先手必勝。まずはベンから仕掛ける。エイリアン然としたその腕は伸びる蔓。ゴム製に近い材質故、ほぼ無限に伸びる蔓は、ひゅるひゅると軽快な音を立ててゴーストフリークを目指す。

 

が、今のゴーストフリークはブラドの体を操る。安直なベンの攻撃は血のナイフで切り刻まれる。パラパラと緑色の葉が周囲に舞う。その葉が地に落ちる前に、手にブラドナイフをもった敵は距離を詰める。

 

その顔はまるで悪魔。生気をなくしたその瞳は、元々のブラドの目と異なり、黒と紫色に染まっている。人間と異なるその目からは、ブラドの意思がそこに介在しないことを表していた。

 

人としてのリミッターを意に介さないゴーストフリーク。筋肉が千切れる音がするが自分には関係ない。目の前のベンをいただく為に、個性を使いベンをとらえようとする。

 

その躊躇のなさにギョッとするベン。超スピードで目の前に現れた敵におののき、後ろに逃げようとする。がスピードが足りない。青い単眼にはブラドのナイフが迫る。

 

TWIN TWIN!!

「なんだぁ…!」

 

ベンが貫かれる前に、敵の動きが止まる。彼の背中を連続エネルギー波が捉えたからだ。大きなダメージはないが、無視できるほどの威力でもない。

 

ギロリと攻撃が飛んできた方向を見ると、ねじれが構えていた。ふわふわと宙に浮きながらも、その手からは黄色の波動がこぼれている。

 

「ハァ…お前から葬ってやろう…!!」

 

舌なめずりをしながら敵は地面を蹴る。コンクリートの地面はひび割れ、彼の体はねじれの元へ飛んでいく。

 

「…むーー!揺蕩う波動!!」

 

迎え撃つねじれは己の編み出した必殺技を惜しみなく使う。

 

高出力のエネルギー波を出すには一時のタメが必要である。しかし出力を下げれば連続波を打ち出すことが可能。右手打ったら左手、左手で撃ったら右から。数十もの黄色の波動は、揺らめく光となりゴーストフリークを床へと押し戻す。

 

「ぐっぅ!!」

 

背中を打ちつけるゴーストフリーク。キッと天井付近に浮くねじれを睨む。その瞬間、悪寒が走る。

 

本能的に危険を察知した彼。彼の視野外ではベンが攻撃準備をしていたのだ。

 

一本一本はただの蔓。しかしそれが集まれば?ベンは突き出した両手を絡め、一本の幹とする。細い腕腕はらせん状に絡まり、大綱となる。大きく振り上げたベンは容赦なく振り下ろす。

 

「おらあぁァァ!!!」

 

「ちぃ!」

 

VVAACHINN!!

 

済んでのところで躱す。ハンドスプリングとバク転を連続で行い、回避と退避を同時に進行したゴーストフリーク。先ほどまでの喧噪はやみ、戦場は一転して無音となる。

 

ゴーストフリークからすれば、ベンと波動は完璧なコンビネーション。しかしそれは違う。好き勝手に動いているベンに波動が合わせているのだ。ベンがピンチの時、また隙を作ってほしい時に求める動きをする。さすがインターン生といったところであった。

 

ゴートフリークが隙を伺っており、互いにけん制し合う中で、ふよふよと波動はベンの元に近づく。宙に浮いたまま、ベンの耳元で作戦会議。

 

「敵はかなり動けるみたいだね。けどこのままつかず離れずで時間を稼いでれば、先生達がそのうち来るよ!」

 

「それじゃだめだ…!」

 

ねじれの作戦は敵が【敵】ならば大正解。実際、格上相手やホームで戦うならば、撃退よりも見方を待つのが一番確実である。だが、今の敵は【敵】ではなく、【エイリアン】

 

事情を全て知っているベンは、ねじれの意見を強く否定する。波動が理由を問うと、その答えを明確に提示する。

 

「他の人が来たらソイツの体を乗っ取るだけだっ!!今ボク達で倒さないともうどこに行くかわからない!!それに…」

「それに?」

 

小首をかしげる波動。

 

「ボクの変身時間が解けたら…ボクを乗っ取る気なんだ。そしたら完全体になって地球は…」

 

そう。ゴーストフリークはベンが人間体の時に、ゴーストフリークの真の姿でなければ吸収できない。だからこそ、彼はベンの変身解除を“まだかまだか”と待ち続けているのだ。

 

植物状態(物理)のベンの背中は小さく丸まる。そんな彼にニッコリと笑うねじれは、作戦を考える。

 

「…わかった…!ベン君、なんとか隙を作って!!あとは私が何とかする!!」

「ありがとうございます…リカバリーガール…」

 

「…ッち!」

 

2人の少年がいるのは出張保健室。緑谷と爆豪はオールマイトとの試験を終え、リカバリーガールに治癒をしてもらっていた。歩けるかどうか微妙な容態だったのでオールマイトが彼らを運んだのだが、彼女の個性はその状態からでも一瞬で健常に戻すことも可能である。

 

「しかし、まさかあんたが負けるなんてねぇ…あたしゃ正直、時間切れ、良くて逃走勝ちだとおもってたよ」

 

「…少年たちの成長は目覚ましいものです。私も二人の猛攻には驚きました…」

 

ベン達よりだいぶ早めに始まった緑谷・爆豪VSオールマイト。始めこそ2人の連携がうまく取れなかったものの、爆豪は緑谷を否定することをやめ、緑谷は爆豪を畏怖することを辞めた結果、その勝利を手にすることができた。

 

試験では、逃走口ギリギリでオールマイトが彼らを追い込んだ。が、捕まった爆豪が目くらましも兼ねた最大火力爆破を放ち、そこに緑谷が上限を超えた20%SMASHを決めたことでオールマイト捕縛に至った。まあ捕縛と言ってもカフスをかけるだけではあるが、それでもオールマイトに勝ったこと自体が、彼らにとって大きな成果であった。

 

「まあ大分あんたらも消耗しただろう?とりあえず2人とも校舎内のベットで寝てな」

 

彼女の勧めを受け体を起こす緑谷、爆豪。が、目の前にあるモニターに目が留まる。そこにはまだ試験を突破していないクラスメイトの姿があった。

 

「あ、あの…リカバリーガール…僕…ここで見てちゃだめですか?」

 

「まあ…ダメとは言わないけれど…大丈夫なのかい?」

 

「はい!!プロや皆の戦い方をじっくり見る機会なんてあんまりないので…」

 

「…無理しなさんなよ?」

 

もはや病気と言ってもいいくらいの緑谷のヒーローへの執着。自身の体のケアもプロになるならば需要なのだが、緑谷の頭には、“自分”が勘定に入っていないらしい。

 

モニターを見る緑谷。半分近くのクラスメイトが合格している現状を見て、質問をぶつける。

 

「…あの…今回ってテストと言いつつも…意図的に各々の課題をぶつけてるんですよね?」

 

「そうさね。例えば常闇と蛙吹にはエクトプラズム。近接戦を弱点とする常闇には神出鬼没で間合いを一気に詰められる彼が適任さ」

 

「なるほど…じゃあ上鳴君と芦戸さんって…どうして校長先生なんですか?」

 

緑谷の問いに対して答えを出したのは、隣で鑑賞していた爆豪。

「んなもん決まってんだろ。アホ2人には頭脳戦を強いればヌルゲーだ」

 

あまりの静かさに爆豪がいたことを忘れていた緑谷。そして爆豪から話題に入ってきたことも相まって変な声がでる。

 

「ヒャッ…かっちゃん…!?…あ、そうか…校長先生の個性はハイスペック…」

 

「そうさ…今の根津の笑いは…素だね…昔人間にいろいろやられたからね…」

 

HAHAHAHAHAHAと紅茶を優雅にこぼしながら、狂気の笑いを周囲に響かせる根津。人間以上の頭脳という個性が発現した人外の彼は、闇深い過去があるのだろう。

 

「まあその他全員、何かしらの意図が合って対戦相手は組まれてる。がしかし…やっぱりあの子は異常だねぇ…」

 

「あの子って…?」

 

神妙な顔つきのリカバリーガール。そんな彼女の目線の先には、目まぐるしく血が飛び交う戦場。そしてその中で動き回る植物だった。

 

「あ!ベン君ですか!?」

 

「そうさ。あんたらも同じクラスならわかるでしょ?あの子の個性が異常だって…」

 

緑谷はオムニトリックスでベンが変身していること知っているため、そこには疑問を抱かない。が、そのことを知らない爆豪はリカバリーガールの言葉に内心頷く。10も20も姿を変え、それら一体一体にプロレベルの能力がある。恐ろしいのは変身体に一貫性が無いこと。炎系に変身したかと思えば怪力。かと思えば獣。一人称が変わることも含め、怪しすぎる。

 

この時点で、日本においてオムニトリックスのことを知っているのは緑谷とオールマイトのみ。だがしかし、彼に興味を持っているのは雄英だけではなかった。幾多もの変身。変身による弊害等はなく一体一体が最強。この個性に目を付けた(巨悪)がいた。そして今日、オムニトリックスを知るもの()が、その巨悪に接触を試みていた。

 

 




・さあ、林間合宿と神野編へのフラグを立てていきますぜ

・ワイルドバインの強さは次回、緑谷が説明してくれます!!


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67話 必殺技

クライマックスなのかそうでないのかわからない一話です!!ですがラストらへんは原作っぽいかな?


モニターでクラスメイトを観戦する爆豪と緑谷。その話題がベンの怪しさになった時、少しばかり緑谷は焦る。なんせこの時点で、ベンの変身は個性ではなくオムニトリックスによるものだと知っているのは緑谷のみ。故にあまりその話題を深堀りせずに話題を変える。

 

「ベン君の課題っていうのは…」

 

「変身時間の継続が不可なことだカス。みてりゃわかんだろうが」

 

「か、かっちゃん…」

(よ、よく見てるな…)

 

ベンの課題を言い当てた爆豪。そのまま観戦する。全ては己の力とするために。

モニターに映るのは悪戦苦闘を強いられているベンと波動。

 

その戦いはいやに実践的に見える。いや、自分達も実践的ではあったが、あくまでも定期試験だった。が、彼ら戦いの中には、殺意が紛れている。テレビ越しからでもそれを察知した爆豪は食い入るように画面を見る。

 

そんな彼に感心しながら、リカバリーガールは緑谷に問う。

 

「そういえは緑谷。あんたテニスンと仲良いのかい?今のテニスンが変身しているのをおしえてほしいんだけど…?」

 

「はい!!えと…あれはワイルドバインです!!一言で言えば植物人間!シンリンカムイの腕やB組茨さんの蔓みたいな植物で全身が構成されてるって感じなんです!!短時間なら硬化できるし、その蔓を伸ばしたりすることで中距離対応もできる万能なエイ…変身なです!!」

 

「はっ!!植物なんざ俺の爆破で木っ端みじんだ!!」

 

「そんなことないよ…!実際プロになってるシンリンカムイをみたら植物系の拘束は逃れにくいんだ。多分生物由来の微妙な動きがあるから、ただのワイヤーよりも…」

 

「だー!うるっせぇクソデクが!!いちいち長いんだよ!!」

 

先ほどの試験で多少彼らの関係が変わったかと思ったが、そう簡単には変わらないようだ。それをリカバリーガールも察し、話題を振る。

 

「ありゃ。どうしたんだろうね…攻撃を止めたよあの子…」

 

見ると、ベンは先ほどのような攻撃を一切やめ、動きを止めている。蔓や緑鞭も収納している。いつの間にか波動もいなくなっている。

 

それを隙だと判断したゴーストフリークは、おもいっきり間合いを詰める。血液を体に纏い防御、攻撃その両方に特化した形態。

 

モニタールームの者のうち、緑谷だけが気づく。ベンが何をしようとしているのか。

 

「…あ、あれは!!」

 

緑谷の驚きと同時に、モニターの中のベンが叫ぶ。この技は、緑谷との特訓で編み出したもの。ワイルドバインを初めて見た時、ベンはただ攻撃技しか考えなかった。しかし自作のヒーローノートまで作り研究していた緑谷は違う。ワイルドバインならばできる技を提案する。

 

その名も

 

「センセーキソク!!バインド鎖牢!!」

彼の二本腕はただの蔓。さきほどは束ねることで威力を増幅させたが今回は逆。一本一本を枝分かれさせることで、その表面積を増やしていく。そして伸び増えた蔓は敵に絡みついていく。此処までは、シンリンカムイのウルシ鎖牢と同じ。

 

ここからはコンビネーション。相手に絡みついた後、その蔓からはまるで茨のような棘が生え、敵の肉に食い込む。暴れれば暴れるほど食い込み、さらに拘束するその技からは脱出不可能。

 

「はー!!こりゃたまげたね!シンリンカムイと茨の個性を組み合わせたような技じゃないか!」

 

「そうなんです!!ワイルドバインの力を試してもらったら、僕が調べた植物系個性全ての要素を兼ね備えてたんですよ!!だから組み合わせて力を発揮できないかなってベン君と特訓してこの技が完成したんです!!」

 

爆豪は唇をかむ。思った以上にベンは上にいる。その事実を認めたくはないが、この技を自分が抜けきれるか正直怪しい。そもそも食らわなければいいが…どうだろう…例えばベンの背後に回って…

 

「それにワイルドバインの背中からは種子爆弾も放てるんです!!これなら背後を取られてもだいじょ」

 

「うるせぇっつってんだろくそナード!!」

 

自分の心を読んだかのような緑谷に憤慨する爆豪。いよいよベンが自分の上だということを認めざるを得ないのだろうか。

 

己のふがいなさに唇から血が垂れる。そんな彼に気づいていない緑谷はベンの解説を続ける。

 

「弱点があるとすれば、その技範囲が狭いことです…普段は伸ばして使ってる蔓を短くして、分岐させてるから、あまり遠くにこの技は使えないんです。それに、決定打にもならない。もし相手が戦闘を継続するなら攻撃力が足りな」

 

そこで緑谷は気づく。そうだ。この技では敵は倒せない。ワイルドバインの攻撃力、防御力、機動力、全てを拘束力に注力しているのだから。だがよく考えればそれは問題では無い。なぜなら、その攻撃力を補うにはあまりにオーバーキルのパートナーが、今のベンにはいるのだから。

 

突如モニターに映った少女は、その両手から溢れんばかりの生命力を波動に変え、奥義を放つ。

 

「100%!!ねじれる波動(クリングウェーブ)!!」

TTTWWWOONNNN!!!

隠れていたのはこのため。100%を打ちこむにはタメが必要。さらに技のスピードも遅いため、敵を拘束する必要があった。ベンは見事にその役目を果たし、また波動も己をの役割を全うした。

 

二階全域が崩落しそうな技を、その一身に食らったゴーストフリークは無残に一回に落ちていく。

 

ウネウネと茎を動かしねじれに近づくベン。正直不気味だ。

 

「ナイス…ねじれ!!これなら」

「まってテニスン君。あのね?下から音がしたの…」

 

勝ちを確信したベンと違い、まだ警戒を怠らないねじれ。それもそのはず。彼女が相手しているのは人の体を乗っ取る未知の敵。正体を知っているベンとは危機意識が違う。

 

ベンを置いて一回に降りるねじれ。先の崩落によりどこもかしこも瓦礫でいっぱいだ。

 

ガラリ…

 

崩落の音ではない。誰かが岩を押し上げた音。眉をひそめながら振り向く。その不安のままそこにはボロボロよろよろのブラドがいた。ダメージによるものなのか、足元がおぼつかないようだ。意識が途切れそうになりながらも、ブツブツとつぶやく。

 

「…今のはさすがに効いたぞ小娘…」

 

彼は、エネルギー波が当たる直前、使用限界一歩手前までの血液を硬質化し、自信を覆ったのだ。もしこれがブラド本人であれば、その熟練度故ダメージはあまり無かっただろうが、ゴーストフリークではそうはいかない。

 

ふらふらの彼を見たねじれは、まず二階のベンに現況を伝える。

「テニスン君!大丈夫!ブラド先生が使える分の血は使い切ったはずだよ!だからもう相手は動くこともままならないはず!!」

 

 

自身の操体を見抜かれ、限界を悟るゴーストフリーク。もし彼に人間の痛覚が適用されるならば、極貧血による頭痛等で動ける状態ではないだろう。しかし彼は幽霊エイリアン。痛みなど、太陽の光以外縁がない。

 

ならば今自分がすることは、この場から太陽を消すのみ。

 

致死量ギリギリの血を振り絞り、彼は血液を浮かべる。無重力状態の水のような血液が向かい先にはステンドガラス。ビチャっ!!と高い音を立ててガラスに鮮血がべたり。そのおかげで、一階フロアに届く太陽の光は、皆無となる。

 

二階からその様子を見ていたベン。思わず驚きの声を上げる。

「なっ!!」

 

「これで…俺はもう無敵だ!!」

 

どうだと言わんばかりのどや顔ゴースト。ヌッとブラドの体から抜けてくる。その単眼がギョロリと周囲を見回した後、次なる獲物の体めがけてもう突進。その獲物とは…

 

「ねじれ!!アブナイ!!」

 

助けようにも、ゴーストフリークは霊体化しており、二階から伸ばしたベンの腕をすり抜ける。

 

ゴーストフリークは次なる宿主をねじれに決めた。瓦礫などを気にせずに突っ込んでくる彼に対し、ねじれができることは無いと思われる。

 

が、この流れを呼んでいた波動。その対応策は…

 

「…!!」

その両手に波動がたまる。チャージは3秒程度なので、大し威力は無い。

 

ねじれの個性をおおよそ把握できているゴーストフリークは、ねじれを嘲る。

 

「おまえの力は今の俺には効かない‥‥!」

 

そう。どんなにねじれが打ち込んでも、霊状態になられては攻撃が通らない。が、そんなことはねじれも知っている。歯を苦縛り、己の手を自身に向ける。ゴーストフリークが体に入った瞬間、そのまま個性を発動し、ねじれは自身の心臓に波動を打ち込む。

 

「ぐ・・・・っ!!!」

 

あまりの痛みにゴーストフリークは侵入に失敗。入りかけたねじれの体から追い出される。

 

ゴーストフリークとの相打ちを狙ったねじれ。惜しくも彼女の試みは失敗してしまう。

自らの個性でダメージを負い、意識が飛ぶ。最後に残るのはベンへの懺悔。

(ごめん…テニスン君…)

 

ダメージを負ったブラドとねじれの中にゴーストフリークは入れない。もし今太陽の光が差したら死んでしまう。だがそのために先に血でガラスを覆ったのだ。この空間では自身は無敵だと考える。

 

あとは…ベンを見つけるだけ…

 

おぞましい異形の姿で二階を見上げる。そこには同様に単眼のワイルドバイン。

 

ベンは自分が狙われていることを知っている。だがさきほどのねじれの姿を見て、心を打たれた。あんな自己犠牲をボクのために…と。

「こいよお化け野郎!!!お前なんかもう一つのひss」

 

この世界は残酷である。もしオムニトリックスがベンに希望をもたらすものならば、この音は絶望を知らせる音だろうか。

pi pi pi

 

「ッおいマジかよ!!??」

「っ!!!その音を待っていたァァ!!!」

 

QBAN!!

そして、彼にとっては福音だったようだ。二階から赤い光を放ったベンを見上げる。ああもうすぐ、もうすぐ宇宙最強の生物となれる。

喜びを隠しきれない彼は、笑顔で

「さあ…ショーは終わりだ…ベン」

 

ねっとりとベンに声かける。その小さい体に宇宙と自身の命運を背負った少年は提案する。

 

「あー…その…もう10分待ってくんない?」

 




・「その音を待っていたぁァァ!!」はなんかきもちいいんですよね。多分アニメのゴーストフリークの声優さんがうまかったからだと思います。本当にうれしいんだなって思ってました。

・センセーキソク!バインド鎖牢!!これは、緑谷が先制覊束、バインド鎖牢をベンが考えました。鎖牢はなんとか理解できてるんですが、覊束については意味が分かってません。作者も適当につけました(笑)

・次回か次々回、期末試験編終了!


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68話 スワンプマン

・長らくお待たせいたしました。約3か月振りの更新です。リアルがやっと落ち着いたため更新を再開します!更新頻度については未定ですが、読者様の期待に応えられるように頑張りたいと思います!
・今話は少々は長いですが、お許しを…



太陽の光が強く感じてくる7月、雄英ヒーロー科では前期の総まとめとして期末試験が行われていた。

 

弱点を突かれながらも克服した者。はたまた策略に飲まれた者。環境に適応できなかった者。それぞれが目の前の困難に身も心も削っていたが、全ては“憧れを現実にする”ために壁に立ち向かう。が、唯一、ベン=テニスンの状況はそれとは大きく異なっていた。

 

オムニトリックスから脱出したゴーストフリークとの命の取り合い。パートナーである波動ねじれも気を失い、彼を守るものはこの場にはいない。頑丈なモール型体育館の中で、幽霊とのデスゲームが始まっていた。

 

紫色の化け物が触手を揺らしながら呪うような声で語りかける。

 

「ベェェン…変身が解けたお前はただの子供だ…抵抗せずにこちらに降りてこい…」

 

2階の手すりから顔を覗かせていたベン。先ほどまでは植物系エイリアン“ワイルドバイン”で敵を圧倒していた。が、変身が解除された今はただの無個性少年である。

 

内部が半倒壊しているショッピングモールで、幽霊と人間の勝負が繰り広げられる。

 

「っく!!」

 

ダッ!

 

目の端で倒れているねじれを後目に、場を離れる。ここで挑発に乗ってしまえば、ねじれが稼いだ時間が無駄になる。とにかく変身できるようになるまで身を隠さねば。

 

小さな体を生かして、脱兎のごとく岩盤や階段を潜り、隠れ場所を探す。息を切らしながら走るベンを1階から眺めていたゴーストフリーク。逃げる鼠を猫を泳がすようにニタニタしている。大きな一つ目を細くして

 

「どこへ逃げようと無駄だァ…!」

 

「っはぁっはぁっはぁ…」

ベンが隠れた場所は映画館。雄英がショッピングモールを模して作ったこの施設には、アパレル、フードコートの外にも、映画館やゲームセンターが備わっている。

 

映画館は薄暗闇であり死角も多い。この場所を選んだベンの判断は間違っていないといえよう。

 

さらに、此処までの道は先ほどの戦いにより、子どもでないと通れないほど荒れていた。

 

「ここならそう簡単には…」

 

だがしかし、それは通常の人間である場合の話だ。霊体化できる敵には、障害物という概念のない。

 

「ベン!!ここにいるのはわかってるぞぉ…早く出てこい!!」

 

正面のスクリーンから声が聞こえるが早いか、鼠色の単眼幽霊が透けて飛び出してくる。微弱なオムニトリックスの反応を追って、ここまで直進してきたのだ。心なしか先刻よりも体が大きく見える。母星の環境に近い暗闇であるからだろうか。

 

ベンの息遣いに耳を澄ますゴーストフリーク。ぬるりぬるりと映画館を浮遊する。ベンは口に小さな手を当て必死に息を押し殺す。その手からはじっとりとした嫌な汗が出てきている。

 

ゴーストフリークとベンのかくれんぼが始まった時、観覧していた緑谷達もさすがに異変を感じ始める。それもそのはず。教師であるブラドキングが急に倒れ、ビッグスリーの波動は自傷し気絶、ベンはそれを見て逃亡した。この状況は明らかにおかしい。

 

(いや、待て…ベン君は明らかに何かを見て逃げたように見えた。それに、ブラドキングだって明らかに生徒への対応を超えていたし…まるで何かに乗っ取られたような…)

「あッ!!??」

 

ブツブツと独り言を唱えた後、ハッと声をだす緑谷。隣にいた爆豪やリカバリーガールはその声に目を開く。

 

「んだクソカスゥ!急に叫びやがって!!」

「どうしたんだい緑谷」

 

「ゴース…いえ、なんでもありません…」

 

「はっきり言えやくそナードォ!!」

 

爆豪の怒号が彼の耳を貫くが、緑谷はガン無視。それにより爆豪はより怒り狂う。

 

(あのブラド先生から発せられてた狂気…思い出した…体育祭で、僕がベン君に操られたときだ。ゴーストフリークに変身して、僕の体に入って拳を地面にたたきつけていた…ベン君らしくないと思ったけど…)

 

「…まさか、ゴーストフリークが…でもベン君は普通に人間体だし…」

 

そう。緑谷はオムニトリックスの秘密を知らない。いくら分析力に長けた彼でも、無敵の変身道具が本物のエイリアンDNAを元にしていることにはたどり着けない。ましてや、ゴーストフリークのDNAがオムニトリックスの中でまだ生きており、それが表出したとは。

 

緑谷が一人で考えていると、リカバリーガールが方針を決める。

「基本的にこの試験は担当教師に一切を任せてるんだけど…さすがに様子がおかしいね。ブラドも倒れて、波動も気絶している。…そうさね…イレイザーを送ろうか。テニスンの担任だし、現状を把握してきてもらおう」

 

「リ、リカバリーガール!僕もついていっていいですか!?」

 

「あんたは休んどきな」

 

緑谷もオールマイトとの戦闘で満身創痍の状態である。安静にしているべきなのだ。諫める彼女に対して、緑谷は頑として譲らない。親友であるベンの身に異変が起きているかもしれない。じっとしていることは出来なかった。

「…どうしても、いきたいんです…」

 

「…はぁ。運動場Ωからイレイザーが帰ってきてるだろう、説明して一緒に行っといで」

 

「はい!!」

(何か、とても嫌な予感がする…)

 

収容人数は500人の雄英映画館。ベンがこのどこかにいることは確かなのだが、探すには手間取る広さである。ゴーストフリークは幽霊化を駆使して辺りを散策するも、まだ見つからない。

 

だが彼にはどこか余裕があった。パフォーマンスを行うかのように、スクリーンの目の前に戻り、諸手を上げる。まるで舞台挨拶をするかのような身振りだ。

 

「ベェン!!いつまで隠れているつもりだぁ!時間を稼いだって無駄だ!今お前を捕らえずとも俺にはいくらでもチャンスはある!ならばここで決着をつけたほうがお前にとって有利なんじゃないかぁ?」

 

館内に響くどす黒い声。脳内に鳴り響くその言葉に対し、冷静に頭を回転させるベン。

(確かにゴーストフリークがこの建物から逃げたら、僕ができることは無くなる…いや、ちがう…こいつは夜にしか動けない!この建物を壊して太陽の光さえ浴びせられれば僕の勝ちだ!!)

 

学校の成績は良くないが、頭の回転は速いベン。そして、彼の方針が定まるとともに、ウォッチが緑色に光る。キュワンと光る手首の時計はやはり頼りになる。ウォッチのほのかな光は、自身ありげなベンの顔を照らす。

 

機能が回復したことを確認したベン。映画館の中央席あたりで、ひらりと座席の上に立つ。逃げようと思えば逃げれる。だが、どうしても聞きたいことがあった。

 

器用に背もたれに立ったベンは、こちらに気づいたゴーストフリークに最後の問いかけをする。

 

「おいゴーストフリーク!!どうして僕を狙うんだ!」

 

「さっきも言っただろう…お前と同化することで俺は完全体となり、この地球を支配するのだぁ!」

 

「地球人の支配?」

 

「…お前もアズマスから聞いているだろう?地球は元々下等な生物しかいなかった。だが、100年前にエイリアンの形質を持った人間が生まれ、今では何千種類ものエイリアンの力がお前たちには備わっている。ああ、もちろん例外もいるがな?」

 

ニタリと笑う彼に、ベンは眉をピクリとさせる。自分が無個性であることを馬鹿にされたからだ。言い変えそうにも、無個性を理由にいじけていた時期がある為、反論は出来ない。

 

やけに饒舌なゴーストフリークは、ベンの反応を確かめたあと言葉を続ける。

 

「あらゆるエイリアンの力を持った地球人。それらを支配し兵隊とすれば、この宇宙をも支配することができる。俺が、俺こそが宇宙の支配者にふさわしいんだ!!」

 

どうやら敵の目的は地球、そして宇宙全体の支配らしい。そんなバカげたことはさせない。だが、彼の言葉を聞いていると、再び疑問が浮かび上がる。そもそも、なぜ支配をしたいのか、だ。

 

もちろんそれが本能だと言われればそれまでだが、ベンが彼に変身した時、始めの頃はそのような支配願望は湧かなかった。であるならばこの支配欲はジスケアーという個体そのものの願望である。

 

ウォッチの変身先を設定しながら訪ねる。

 

「お前は、なんで支配者になりたいんだ?別にウォッチから逃げられたんだからそのまま逃げればいいのに」

 

その言葉を聞いて、初めて愉悦以外の感情がゴーストフリークから見てとれる。さかさまの口を閉じ、ギリギリと歯ぎしり鳴らす。わなわなと爪を震わせ、その閉じた紫色の口かは再びゆっくりと開く。

 

「…俺の星では争いが絶えなかった。幾百年も内戦が続いていて、俺たちの種族は平和なんて言葉も知らなかった…そんなとき、俺の元に一人のガルバン星人が現れた。そう、アズマスだ」

 

アズマスとはオムニトリックスの開発者である。ガルバン星人という知能の優れた種族で、全宇宙の平和を願っていた。彼曰はく、オムニトリックスの創作理由もその悲願のためらしい。

 

「やつは言った。DNA提供と引き換えに、争いを辞めさせ、俺をトップにする知恵を授けると…その言葉を俺は信じた」

 

悲壮な顔で紡がれる物語に、ベンは続きを予測した。まさか、アズマスが裏切ったのか?そんな奴には見えなかったが…

 

「アズマスは何も教えてくれなかったのか?」

 

「いいや、俺は知恵を借り、わが星の王となった。諍いはあるが、殺し合うことの無い平和な国になったぁ…」

 

予想外の言葉に思わずに変な声を出す。

 

「へぁ!?な、ならどうしてこんなことを?今のままでいいじゃんか!」

 

俯いたまま喋るゴーストフリーク。

 

「‥レテタ…」

 

「え?」

 

「俺は、俺はずっと閉じ込められた!!」

 

強く訴える。細く醜い腕をこれでもかと振るい、己の不遇を訴える。

 

「俺は、オレなのに、オムニトリックスに閉じ込められた!同じ個体だからもう一人のオレの記憶は伝わってくる!なぜ奴だけが国の王に成って、俺は暗く狭いウォッチの中に閉じ込められていたんだ!!」

 

そう、今のゴーストフリークは採取されたDNAから生まれたもの。記憶も姿も何もかも一緒。ただ、採取され、ウォッチの中に入った後、彼に自我が芽生えた。今この時間帯にはジスケアーという個体が2体いるということだ。一体は母星に。一体はベンの目の前に。

 

「俺だけが閉じ込められるのはおかしいだろぉ?あいつは国を支配している。何とかしてその地位を奪い取らなければ…それには力がいる。その力が…お前ら地球人だ」

 

オムニトリックスが、というよりはエクトノライト族の強すぎる自我が生んだ悲劇。確かに見方によっては、かわいそうなのかもしれない。予期せぬ自我の発露により、少なくとも20年は暗く狭い世界に閉じ込められたのだか。人によっては彼を同情するかもしれない。

 

だが、ベンはまだ10歳そこらの子どもだ。先生や先輩を既に傷つけられたベンにとって、そんな事情は心打つものではない。長い話をくだらないと一蹴する。

 

「バッカじゃないの!?そんなことで地球を支配したいだって!?僕を乗っ取りたいだって!?考え方がアメリカのイカレ敵と一緒だよ!!」

 

海外職場体験中に出会った様々な敵。

 

マッドサイエンティストや虫を操る青年、仮面をつけた西洋風の騎士団。誰もかれも、自分のことだけを考えて、挙句世界を支配しようと考えていた。ベンとは相容れぬ敵だった。ゴーストフリークに彼らの影を見たベンは、もう飽きたよと言わんばかりに嫌悪した。

 

一寸の同情も得られなかったゴーストフリーク。しかし彼は落胆すること無く手を広げる。その顔からは先ほどの悲観さは見受けられない。

 

「ああ、大丈夫だベン。すぐにわかるさ…なにもなく、狭く薄暗い空間に閉じ込められる気分がなぁぁ!!」

 

GWANN!!

 

話は終わった。彼は行動でそれを示す。空中浮遊の状態から、最高スピードでベンを目指す。スクリーンの眼前から中央席のベンまで、その霊体をしゅるしゅると動かし迫る。

 

その距離あと数メートル。

 

しかしベンは焦らない。先ほどまでかいていた汗は不思議なほど引いていた。なんてことない。目の前のエイリアンは地球の敵と同じだ。いつもと同じ、自分のどおりで好き勝手町をめちゃくちゃにする(ヴィラン)。そう考えると恐怖はすっと消えていく。

 

既にウォッチをセットしていたベンは、ヒーローではなく、ベンとして決意する。この敵を倒すと。いつもの通り、右の掌でおもいっきりボタンを叩く。

 

「お前みたいなナヨナヨお化けは、こいつで目を覚まさせてやる!!」

 

ベンの意思に呼応するかの如く、ウォッチは音を響かせる。

 

QBAANN!!

 

館内を緑色の閃光が埋め尽くす。元々光が苦手なゴーストフリークは思わず手で顔を覆う。

 

 

光りに包まれたベンの体は、ペンキをかけられたように黒く変色していく。と同時に10歳の体はぐんぐんと縦にのみ伸びる。2メートルほどの体長。アンバランスな細身だ、次に頭部が変形し始める。カミキリムシのような触覚が突き出たかと思うと、背中にまで垂れる。尻尾、頭、両手それぞれにはコンセントのような2つの穴開き、”流動”を意識した姿となる。

 

光りが晴れ、ベンがいた場所には全く違う姿の生物がいた。その生物は自身の姿を確認し一言。

 

「ヒュー!!!!やっぱりオレ、イケてるぅ!!」

 




・今回のゴーストフリークの話はなんて言うか…想像で書いています。もし自分がゴーストフリークだったら、後から生まれた自我だったらきついなぁと。ベンには関係なかったですけど(笑)
・作品の感想、評価はどのようなものでも作者の力になるのでぜひ!!

※もし余裕のある方がいらっしゃったら、YouTubeの「ベン10オムニバース1話」の始めの10分だけ見て頂いてほしいです!エイリアンの描写、能力説明はもちろん致しますが、やっぱりアニメをちょっと見たほうがイメージできるかと思います!


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69話 フィードバック

一か月振りも間を開けて誠に申し訳ございません…もう少し頻度を上げる努力をしたいと思います!


薄暗い映画館の中で、ある時計からフラッシュが焚かれる。緑色の光は持ち主を包み込む。目の前の幽霊はその光に思わず目を細める。

 

光は霧が晴れるかのように徐々に薄れていき、やがて一人の人間を生み出す。いや、人間、ではないかもしれない。

 

すらりと伸びた手足は日本人の骨格とはまるで異なり、もはや不自然なほどスマートな体型となっていた。黒い頭とつながっている2本の触覚は足に届きそうなほど長い。ビニル質の黒い顔からキラリと光る白い歯は、どこかハンサムな雰囲気を醸し出す。

 

敵対する幽霊と同様に、彼もまた単眼。唯一元のベンと共通する点は、緑色に近い碧眼のみ。その目は真っ直ぐ敵を捕らえている。

 

まさしくエイリアンといった風貌を確認し、ゴーストフリークは舌打ちする。

 

「コンダクトイドか…」

 

「コンダ‥なんだって?オレの名前はフィードバック!!最高にクールな奴さ!」

 

低く、それでいて爽やかな声で昂るベン。力が有り余っているようで、喋りながら大げさに手足を動かす。自身の体に馴染もうともしているようだ。

 

「ベェン…そいつがどんな力を持っているかは知っているだろう。俺に敵うエイリアンではなぁい」

 

「それはどうかなっ!!!」

 

啖呵を切ると同時に、フィードバックの触覚は天井のライトに伸びる。ガシャリと触覚が突き刺さった。バリバリという音とともに、電気が視覚化される。見えないはずの電流は青白く光り、彼の体に流れ込んでくる。

 

「来た来た来たぁ!!」

 

吸収されたエネルギーはそのまま体内器官を周回し増幅。何倍にも膨れ上がったエネルギーはプラズマと化し、彼の体を周り続ける。

 

そして、準備が出来たように右手を突き出す。解析不明のプラズマは穴の開いた指先に集中し、そして放出される。

 

「喰らいな!!」

BBWWZZZZZZ!!!

狙われたゴーストフリークは思わず避ける。彼の体をかすめたプラズマは、うねりながらも後方のスクリーンに着弾する。

 

バチンという音を残し、プラズマは一瞬で掻き消える。と同時にスクリーン画面全体に亀裂が入る。制作費用幾億もの巨大画面は、蜘蛛の巣が張られたかのようにヒビが入り、豪快に破片を散らす。周囲には水晶がパラパラと落ちる。

 

このプラズマこそが、コンダクトイドを強者とする所以。周囲のエネルギーを吸収し、体内器官で増幅。何倍にもなった力は彼独自のプラズマとなり敵を襲う。

 

電流に半同化し移動もできるコンダクトイド。宇宙広しといえども、ここまで理不尽な強さを有する者はそういない。

 

スクリーンの様を見たゴーストフリークは思わず息をのむ。呼吸を整えようと前方を見たところ、そこにはもう一発構えるベン。

 

今度は両の手を突き出し、リズム良く放つ。

「…ほぉら!!」

 

BWZZZ!!BWZZ!!

 

浮遊していたゴーストフリークを狙った球状のプラズマ2撃。大きさはドッジボール程度ではあるが、これらもまた一発一発が必殺の威力。

 

だが、

 

「…ふはは!!」

 

FFUOO…

 

どんな攻撃もゴーストフリークには通用しない。強い弱い。そのような次元で彼らの種族は戦っていない。唯一の弱点は太陽の光。それ以外彼らを傷つけるものはいないのだ。

 

気の抜けた音とともに攻撃は彼を透過する。霊体化したゴーストフリークに単純な攻撃は通用しない。

 

外れたプラズマ映画館の支柱に激突。

 

「げッ!!」

 

GGANN!!GANN!!

 

当然、支柱がその攻撃に耐えることは出来ない。映画館を支える大黒柱ともいえるその柱は音を立てて崩れる。

 

振ってかかる瓦礫は、何十人でも生き埋めにできる量だ。

 

「よっ!!」

しかし、ベンは冷静だった。体を反電子化し、床に敷かれた電線を頼りに映画館を出る。逃げながら一瞬、この瓦礫で倒せないものかと考えるも、それほど甘い敵ではないと思いその思考を頭から消した。

 

ZZGGAANN!!

 

この広いショッピングモールの端で、映画館の倒壊音だけが建物に響いていた。

ベンが電線を伝い戻ってきたのは始めに戦闘した場所。つまり、ブラドとの戦闘で荒れ果てた1階の中央広場だ。2階の床材や1階の物品が散開しており、足場も悪い。二階に上がるエレベータやエスカレータは動かないし、階段も瓦礫でふさがれていた。

 

ベンがここに降りてきた理由はたった一つ。倒壊気味であるこの場所には彼女がいる。

ゴーストフリークを倒すには彼女の手助けが必要。そう判断した彼は、瓦礫に埋もれているであろう彼女を探すため一つ一つ石塊をどけていた。

 

二階に上がる中央階段があったところ。彼女がベンを逃がすため、自存した場所だ。

 

「っはぁ、はぁ、さすがに重いぜ…」

 

エイリアンといっても、重いものは重い。特別身体能力高いわけではないフィードバックからすれば、岩をどけるよりも破壊する方が楽だ。しかし、それは得策ではない。理由は3つある。

 

1つ目は無駄なエネルギーは使うべきではないということ。この建物の電力にも限界があるのだ。

2つ目は破壊行動により彼女が危険にさらされること。うっかり彼女を傷つけるわけにはいかない。

そして3つ目は…

 

と、ここまで考えた時、瓦礫の奥からガラリという物音がした。急いで瓦礫をのける。

 

数秒もしないうちに、青緑色のヒーロースーツが見えた。ピクリと動くその腕を見て、ベンは行動スピードを上げる。

 

やがて、額から紅色の汗を流した波動ねじれの姿が見える。薄っすら目を開けているが、いまいちはっきりしない。

 

流血に戸惑いながらもベンは呼び掛ける。

 

「大丈夫かねじれ!」

 

「…ううん…誰?」

 

「オレだ!」

 

今のベンはフィードバック。ねじれには初めて見せるエイリアン。加えて、一人称も別である。麗日や緑谷のように、オムニトリックスマークを知っているならまだしも、今日会った人間に“”自分はベンだ“と主張するのは愚の骨頂である。

 

しかし、ねじれは気づいてくれた。

 

「テニスン君…?ふふ、不思議。初めて見たのにすぐわかる」

 

小さな少女のように、クスクスと笑みを浮かべるねじれ。満身創痍血であるにも拘わらず、悲壮感は一切ない。

 

そんな彼女を見て自身も落ち着きを取り戻す。

 

周囲から緊張を取り除き、空気を緩和させ、安心させる。ねじれの笑顔はヒーローとしての才能を感じさせる表情だった。

 

「ねじれ、ゴーストフリークを倒す策だが…」

 

逃走中に思いついた作戦をねじれに告げる。ゴーストフリークは生きているだろう。ただの攻撃では、例えフィードバックのプラズマやねじれの波動をもってしても倒せない。この建物を壊すことも、どこかで大量のエネルギーを補給しなければ難しい。

 

淡々と、ベンは己の策を話していく。その姿は普段のお茶らけたベンではない。

 

ベンの説明に対し口をはさまずに最後まで聞いたねじれ。その顔には若干の緊張が見て取れる。

 

「…時間がかかるし、一発勝負だね」

「ああ…頼むぜねじれ!」

白い歯をむき出ししてサムズアップするフィードバック。この状況に似使わない爽やかな様子に、思わず吹き出す。

 

「っプ!性格がエイリアン毎に変わるのって面白いね!もっといろいろなベン君がいるのかな?!」

 

「?俺は俺!タフでクールなナイスガイ フィードバックさ!!」

 

そう言って、ねじれから離れるベン。所定の位置につく。

 

ベンの姿が見えなくなった。彼女はふらふらの体を起こす。巨大な密室となったこの建物。まだ助けは期待できない。敵は未知の幽霊。絶体絶命とはまさにこのこと。

 

しかし、彼女の心に闇はない。胸にあるのは校訓、“PLUS ULTRA(更に向こうへ)”。そして、

 

「後輩に、情けないところ、見せられないもんね!」

 

先輩としての誇り(プライド)

意を決した時、建物の明かりが消える。

 

 

静まり返った体育館Ω。命の奪い合いを強いられたベン達の緊張は計り知れない。が、その緊張をものともせず、フィードバックは笑う。

 

中央入り口前。彼が位置するのはこの建物で最も目立つ場所。腕を組み歯をむき出しにして笑う彼の前に、闇の支配者が現れる。

 

ゴーストフリークは骨同然のその顔で目一杯の笑顔を作る。相手を侮蔑するための笑顔だ。

 

「どうしたぁ?もう逃げるのはおしまいか…?」

 

「はっ誰が逃げただって?このフィードバック様がそんな真似するはずないだろっ!」

 

拳を強く握りしめ敵を睨みつけるベン。その様子を見てさらに口角を上げるゴーストフリーク。

 

「ッハッハッハ!!どうしたってお前は俺に勝てない!この建物の天窓はそこに転がる人間の血で覆っている。この建物も、万全のお前なら壊せたかもしれないが、既に供給源は絶った!これでもう忌々しい太陽の光は入ってこない!」

 

そう。ベン達が作戦会議をしている間、彼はただ散歩していたわけではない。彼らを探しながら、至る所に着けてある分電盤を破壊していたのだ。

 

これにより、フィードバックが使用できるエネルギーはほぼない。映画館、そして電線からチャージした分しか今彼の手元にはないのだ。

 

「さあ、直に変身も解けるだろう。おとなしく体を渡せ。そして俺と同化しよう!!この世界を、支配するのだあぁ!!」

 

FFOO!

 

醜悪な顔面をさらしながら、紫色の霊体はベンの元へと動き出す。もちろん、ブラドキングの体を借りていた時よりも速度は緩い。だが霊体を生かし、柱を、地面を、ベンの攻撃をすり抜けながらユラユラと迫る姿は正にホラー。

 

左右上下に浮遊するゴーストフリークに、ベンはプラズマを出しながらも後退。しかし、どこまでも後退できるわけではない。

 

逃げに逃げたどり着いた先は中央階段前。既に階段の下半分は無くなっており、周囲には瓦礫。黄色や灰色の混じった岩塊はベンの行く手を阻んでいる。

 

「さぁぁぁ、これで終わりだぁ!!」

 

ゴーストフリークは爪を硬質化させる。鋭く尖ったその爪は、命を刈り取るには十分な凶器となった。細長く伸びた黒爪は弧を描きながらベンを切り刻みにかかる。

 

BZZZ!

がしかし、フィードバックの動きは予想だにしないものだった。目の前から、彼が消えたのだ。

 

彼は最後に残しておいたプラズマを放つと、それに体を同化させ攻撃を躱していた。攻撃用エネルギーを使った奇策。これにより、ゴーストフリークとベンの立ち位置が入れ替わった。今度はゴーストフリークが岩に取り囲まれる。

 

Pi

 

ゴーストフリークの後ろには半電子化したフィードバックの姿。彼の顔には笑顔が張り付いていた。胸のマークは赤く点滅しているにも拘わらず、だ。

 

その理由はすぐにわかった。

 

「今だ!!ねじれ!!」

 

勇ましい掛け声とともに、地鳴りが起こる。

 

何ごとかとゴーストフリークは再び階段側を見る。地鳴りとともにあらわになったのは、瓦礫の中から手を突き出したねじれの姿。

 

体全体から集められたエネルギーが、彼女の両手に集中されていた。自身の活力を衝撃波に還元し、放つ。

「チャージ充填。出力100%。ねじれる波動!!!」

 

TTTWIINNN!!!

 

彼女の両手が一瞬目で捉えられなくなる。エネルギーの閃光に包まれたからだ。周囲を真っ白に染めたその光は床、壁を破壊しながらゴリゴリと突き進む。

 

速いとは言えない。しかし、膨大なエネルギーがそこにあることをゴーストフリークは察知する。

 

この攻撃は、喰らうと消滅する。そう、彼の体はベンへの攻撃のために霊体化を解いていた。半不死であるはずの彼でも、そのエネルギーからは死を感じ取る。

 

ねじれの手から放出された波動は、建物横幅目いっぱいに広がっている。上にも下にも回避することは不可能。

 

最後の力を振り絞ったねじれの攻撃は…

 

 

 

Pi

 

 

敵に当たること無く、壁面を削り取っていった。ゴーストフリークの霊体化の方が一瞬速かったのだ。

 

「うっ…!」

 

 

100%の反動と先ほどのダメージで、ねじれは膝を着く。もう立っていることともままならない。活力を出し来った彼女の視界、ぼんやりと霞んできた。そして、凝らす目には幽霊が自身を見下ろしているのが見える。

 

「ふははは!!残念だったなぁ人間!!どんなに力があろうとも俺には関係ない!!たかが人間が俺たちエイリアンを倒せると思ったか!!少しばかり異能があろうとも、それは俺たちの劣化、下位互換なのだ!!はははh…は?」

 

高笑いの途中に、異変に気付く。先ほどエネルギー波。威力は申し分ないものであり、その範囲もこの建物を崩壊させてもおかしくないものだ。この建物は頑丈である為、建物全体が壊れる事態を免れているが、内部はもう崩壊していてもおかしくない。にも拘わらず、地鳴りの音も、破壊の音もない…あるのは、後ろからバリバリという音のみ…

 

「ッ!!?」

 

彼は何度振り返ったことだろう。ベンへと攻撃し、よけられた時に一回。波動が攻撃をするときに一回。そして、今度は3回目だ。

 

グリンと体を向き変えるゴーストフリーク。そこには、

 

BWWZZZZZZZZZZZ!!

「よぉ…さんざん言ってくれたなぁ、ゴーストフリーク!!」

 

全てのエネルギーを吸収しているフィードバックが宙に浮いていた。まさしく建物の中央部分で、波動の撃ったエネルギーは彼を中心に渦巻いている。本来ならば至るところへばらけてもおかしくないエネルギー波は、吸い込まれるように彼の両の手、触覚、尻尾へと吸収されていく。

 

吸収されたエネルギーは、彼の体内を駆け巡る。初めて吸収したエネルギー故に彼の臓器もいくらか混乱しているようで、フィードバックの体からはパチバチとはじけるように波動が放出されている。

 

しかし、すぐに黄金の波動は、青白いプラズマへと変化していく。各部位から吸収されていった黄色のエネルギーは、幾分か漏れ出るも、青白いプラズマへと変化し彼の体を照らす。ねじれの放出した全てが今、彼のプラズマへと変化した。

 

周囲には熱が生じ始める。ゴム製の手すりは溶け始め、床に散らばったマネキンからは炎が出る。

 

生物が宿していいものかわからないほどのエネルギーが、今のフィードバックからは感じられた。

 

さすがのゴーストフリークも神経を尖らせ警戒するが、すぐに問題ないと判断する。

 

「確かに物凄い力だなぁベン!だが、俺には無駄だと言っただろう!!俺は‥っ!!?」

 

いかにエネルギーが強大であろうとも、自分には効かない。そう言いかけたところで気づく。ベンが何をしようとしているのかを。

 

「や、やめろベン!!それをッ!!」

 

「気づいたか陰湿幽霊め!!太陽の光でその性根を直すんだな!!」

 

 

Pi

 

もう変身時間は幾分もない。赤い点滅は3度目を終える。

 

だがそんなことには目もくれないフィードバック。諸手を天にかざす。プラズマに照らされたその黒い手はまぶしいほどの光を反射する。ツヤツヤとしたその皮膚からは絶えまなくプラズマが漏れ出ている。

 

そして、掲げられた手からは、稲妻のような音を発して打ち出される。ベンと波動、2人の力の結晶は、天翔ける龍のごとく天井に到達する。そして、何も遮るものはなかったかのように、易々と天井を食い破り空へと昇る。

 

BBBTTWWZZZZZ!!

 

薄暗いモールに一筋の光が差す。穴はほんの数メートル。しかしその穴を起点に、一瞬で屋根という屋根をプラズマは破壊していく。当然、崩壊した場所から入り込んでくるのは、宇宙でも最高峰のエネルギー、太陽光。

 

もちろんゴーストフリークは逃げる。少しでも影がある所へ。しかし、建物全体が崩壊し始めているのに、影がどこにあるのだろうか。

 

どこか、どこか安全な場所は…だが彼の思考は直ぐに止まることとなる。

「ギャァァッァァァ!!!」

 

光が当たった先から、ゴーストフリークの体は灰になっていく。黒く鋭利な爪、さかさまのしゃれこうべのような顔。部位関係なく、彼の体は燃え尽きていく。火傷の何千倍のもの痛みを伴いながら。

 

「いやだぁぁぁぁぁ!!死にたくないぃ!!!」

 

ただ切に泣き叫ぶゴーストフリーク。灰になっていく自身の姿を気にも留めず、その場でグルグルと旋回する。そして、徐々にそのスピードは緩くなっていく。

 

Pi

 

未だに空中にいるフィードバック。最後の赤の点滅がなる。

「ゴーストフリーク…!」

 

なにか言おうとするフィードバック。自分が何度か変身した姿が、今焼けて死んでいく。敵ではあるが、奇妙な因果のある彼に語りかけようとするも、

「ぐぁぁぁぁぁききゃぁぁぁぁ!!!」

 

正に断末魔。悪魔の最後の声。空中で灰になった彼の体は、地面に落ちて、ホロホロと崩れる。そして、跡形もなく消えていく。まるで、彼の存在そのものが無かったかのように。

 

QBAANN!

 

ゴーストフリークの消滅とともに、ベンの変身も解ける。彼がいたのも空中。つまり

 

「うわわぁぁぁ!!」

重力に逆らえず、落下していくベン。受け身を獲ることもままならない。コンクリ―トにキスすることを覚悟する。しかし、

 

ボスン!!

 

彼を受け止めたのは、コンクリートではなく、満身創痍のねじれだった。小さな体のベンを両手で抱える。俗な呼び方をするならば、お姫様抱っこだ。

 

「作戦成功!だね!」

 

「ふぃー…そうだね。まあ…仕方ないや…」

 

なにかを考えたようだが、カブリを振るベン。そして、すぐ別のことに気づき、質問する。

 

「あ、ねじれ。一つ教えてほしいんだけど」

 

「なに?」

 

痛みを堪えていることを悟らせず、ニコニコとねじれは答える。

 

「これって、弁償しなくていいよね?」

 

ベンが指をさすのは目の前にある山のような瓦礫。それは、先ほどまで存在していた雄英体育館Ω。今となっては見る影もなく、ただコンクリートと鉄の塊となっている。

 

彼らの後ろから、7月にしては涼しい風が吹いた。

 




・以上、期末試験編でした。ゴーストフリークの「太陽光以外効かない」という設定はやはり強すぎる…舞台設定がなkなか無理やりでしたね(笑)次は、まとめをかいた後、林間合宿編です。

・フィードバックはチート的扱いにしてます。ほぼ唯一のオムニバースからの参加なので。

・ブラド…

・この話の感想、展開や今後についての質問がありましたら是非!!




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70話 期末試験終了(1)

この話は長くなってしまったため2話に分けています。直ぐにアップするのでお待ちを!


試験終了の5分前、1人の教師と1人の生徒が屋根の上を走り現場に急行していた。1人は緑色の光を放ち、もう一人は布を使い器用に移動している。

 

「つまり…ブラドの様子がおかしく、試験が機能していないってことだな?」

 

「はい。あと、波動先輩、ベン君は明らかに何者かと戦闘していました」

 

不安そうな顔つきで相澤に状況を説明する緑谷。先の試験の影響で体は全快ではないが、ベン達が心配なためフルカウルで相澤についていく。

 

彼の話を聞き、眉を顰める相澤。話を聞き終えたが、あまり要領を得ない。情報がまだ足りていないのだ。

 

(…“ブラドが熱くなった”ってことで済めばいいが…もし敵が侵入してきていたら…しかし、テニスンの周りではいつも問題が起こるな。今回は…まあいい。とにかく無事でいてくれ…)

 

どんな個性でも無効化する相澤は、正体不明の敵に対しては最適なヒーロー。隣には身体強化中の緑谷を携え、急いで向かう。

「…なんだこの状況は」

 

「ッ!!!」

 

それなりに悲惨な状況を覚悟していた2人。それでも、目の前に広がる光景には動揺を隠せなかった。体育館Ωという名の雄英ショッピングモール。地方によくある巨大なモールを模していた体育館。

 

構造も、波動ねじれがフルパワーで戦っても壊れない仕様になっていた。にも拘らず、目の前には瓦礫が積み重なり、建物の外観をなしていなかった。

 

全長500メートル、高さ15メートルのモールは見る影もない。茶色や灰色の瓦礫の中にはカラフルな看板も混ざっている。モール内にあった飲食店などであろう。砂ぼこりが絶え間なく待っており、それらを覆ってきている。

 

(テニスンか?いやしかし、波動のパワーをも変える変身はなかったはず。あの赤い4本腕のやつにもここまでの破壊を無理だ。そもそもこのレベルの破壊はそれこそオールマイトさんしか…)

 

普段の相澤から考えると、珍しい顔つき。個性を使うわけでもないのに目を見開いている。目が乾きを訴えるが目薬を差す余裕もないようだ。

 

なにかとんでもないことが起こったのだと悟った時、緑谷が声を上げる。

 

「あッ!!」

 

彼の指さす方向を相澤も確認する。砂ぼこりの向こう側で、人影がゆらいでいる。急いで駆け寄ると、人影は見知った顔へと変わる。

 

3人は横並び、波動・ブラド・ベンの順に並んでいる。とはいっても、気を失ったブラドを2人で支えて歩いている様子。右の波動は肩を持ち、身長の低いベンは、ブラドの垂れた左腕を持っているだけだったが…

 

相澤と緑谷に気づいたベンは、少し驚いた様子。

 

「イズク?それに先生も!どうしてここに?」

 

「…まあ後で説明をきこう。緑谷、ブラド抱えてくれ。テニスンは大丈夫か?平気ならそのまま波動と本部まで戻ってくれ」

 

「別に大丈夫だけど、先生はどーすんの?」

 

「俺は残ってここらを調査する。敵の襲撃の可能性もある」

 

「いや、それは大丈夫だよ」

 

「なに?」

 

「僕が倒したからね!!」

 

相澤は、敵の襲撃があったかもしれない事実を問題視していたが、目の前のベンは違う。倒したんだから大丈夫、の精神だ。

 

普段なら注意し、すぐに詳細を尋ねるところだが、事態が事態である。まずは生徒の安全を確保する。

 

「…後で詳しく聞かせてもらう。とにかく、早く戻れ。お前も休息が必要だろう」

 

珍しくわかりやすい気遣いを見せる相澤。その言葉にベン達は違和感を覚えながらも、言われた通りに本部へと向かう。

 

彼らの撤退を確認した後、相澤は1人でモール跡地を探索する。

 

床材が散らばり鉄柱も全て無残に砕けている。ぐるりとあたりを一蹴するも特に怪しい点はない。

 

(ん?)

 

なにやら向こうで舞っているようだ。近づくと、足元には小さな炭が落ちていた。いや、炭かどうかはわからないが、黒いそれはさらさらと粒子化し空気に溶けている。回収しようとするも、拾い上げることは叶わず、その黒炭は消えていった。

 

(なんだったんだ…)

 

疑問に思うも、すぐに思考は状況推測に移る。

 

(ブラドは完全に気を失っていた。精神力ならば自分よりも強い彼が簡単に気絶するとは思えない。一体何が…)

 

考えが頭をぐるぐると駆け回るが、今はそれに頭を使う場面ではない。とにかく、敵、特に敵連合が今回の騒動に関係しているのかを調べるべきだ。

 

冷静に、合理的に彼は動く。

 

リカバリーガールの手当てを終え帰宅しようとしたところ、ベンは緑谷に声を掛けられる。そして、普段通り、駅まで同じ道をたどる。

 

周囲は既に薄暗くなり、夜が近いことを示していた。雄英は山の中に学校を構えており、最寄り駅で人通りは少ない。つまり、内緒の話をするにうってつけの通学路だ。

 

テクテクと歩くベンの表情を窺うように喋り出す。

 

「ベン君…期末試験をモニターで見てたんだけどさ…」

 

「なに?ボクの戦いっぷりに感動しちゃった?」

 

いつものように茶化すベンを無視し緑谷は自身の考えをぶつける。

 

「もしかして、ゴーストフリークに別人格が出来て、それがウォッチから出てきた?」

 

「へ…?」

 

頭の後ろで組んでいた両手を解き、目を丸くするベン。

 

オムニトリックスは実在するエイリアンDNAを元にしていること。そしてゴーストフリークにはDNAレベルで自我が芽生えていたこと。この2つの知識が無ければ今回の騒動について、正解にたどり着くのは不可能だろう。

 

緑谷が知っていたのはベンがオムニトリックスで変身しているという事実のみ。

 

それでも…緑谷はその頭でほぼ正解に近づいた。この分析力はさすがと言わざるを得ない。

 

ベンも思わずその理由を聞く。緑谷は手を口に当ててブツブツと答えだした。

 

「まず、ブラド先生の様子がおかしくなった。あの時、僕は心操君の洗脳を思い出したんだ。ブラド先生の動きは普段に比べて精彩を欠いてたし、何より“先生”としての動きじゃなかったからね」

 

“先生としての動き”にいまいちピント来ていないベンだが、とりあえず頷く。その様子を確認したように話を続ける緑谷。

 

「ワイルドバインになったベン君と波動先輩の協力でブラド先生は倒せた。だけど、すぐにベン君たちは何者かと戦いだした。僕たちから何も見えなかったのに。まるで、見えない相手と戦ってるみたいだった。そこで思い出したのは体育祭なんだ」

 

体育祭では、緑谷とベンは死闘を繰り広げた。故障したオムニトリックスにより、ベンは一時的に多くのエイリアンに素早く変身し、緑谷はその対応に四苦八苦した。

 

「ベン君がゴーストフリークになった時、僕の体を乗っ取ったでしょ?」

 

「え?そうだっけ?」

 

やはり、というふうな顔の緑谷。その時の記憶がないようなベンの態度に一人で納得する。

 

「あのときベン君は僕の拳を地面に叩きつけさせたんだ。ベン君にしては凶暴だと思ったんだ。まるで、ベン君じゃないみたいだった」

 

そこで、ベンもはっとする。もしや、ゴーストフリークが目覚めたのは、今日ではなく、体育祭で、オムニトリックスが故障した時では無いかと。

 

緑谷は止まらなくなったのか、ベンの様子を気にもとめず話し続ける。

 

「体育祭での、ゴーストフリークの人格の異常さ。そして今回の試験でのブラド先生の似たような症状。ベン君たちが戦っていた透明な相手。これらを総合すると、ゴーストフリークが人格を宿してウォッチから出てきたんじゃないかと思って…」

 

声は大きくはないが、その目には自信がある緑谷。そんな彼に対しベンは舌を巻く。ほとんど自力でウォッチの秘密に迫った緑谷。

 

しばし悩む。言ってしまっていいのだろうか。祖父にはなるだけ秘密にしておくべく打といわれた。自分の頭ではなぜ秘密するのかはいまいちわからない。が、これまで祖父の教えには従ってきた。だが…

 

彼にこのまま黙っておくことは難しいだろう。何より、

 

「イズクは友達、だからね」

 

実は…といつもと違い神妙は顔つきで、彼はオムニトリックスの秘密が明かす。

 

ベンの口から説かれたのは宇宙の話。彼は海外職場体験で見聞きした全てを緑谷に打ち明けるとともに、ゴーストフリークの反乱を説明した。

 

数分の間ベンは息継ぎも忘れるほど語った。そして、区切りがついたところでペットボトルの蓋を開けグビグビとお茶を飲む。

 

プハァと口を離し口を手で拭っているとき、緑谷の独り言だけが2人の間で聞こえる。

 

「この世界には宇宙人、いやエイリアンがいて、僕らの“個性”はエイリアンのDNAが原因?そしてオムニトリックスはそのエイリアンのDNAを参考にして作られた変身時計型兵器…確かに個性の出自はこの100年で全くわかっていない…いや、中国慶慶市の光る赤子が初めてとは言われているけど原因は不明。ベン君の説明なら全部に納得できる…のか‥?」

 

自身の中で言葉を咀嚼し、飲み込んでいく緑谷。手を口に当てブツブツと音を出すその姿はいささか不気味である。

 

「…大丈夫?頭おかしくなってない?」

 

「ッは!!う、うん。なんとなく理解は出来た、と思うけど…その…僕に話してよかったの?」

 

「いいよ?元々イズクはオムニトリックスのことも知ってるし」

 

軽い判断のように見えて、ベンなりに考えた結論。そう捉えた緑谷はこれ以上言及しなかった。あるいは、自分にもOFAという秘密があることも関係していたかもしれない。

 

少し間無言で帰路を辿る2人だったが、不意に緑谷が尋ねる。

 

「このことを知っているのは僕だけ?」

 

「いや、じいちゃんとグウェンは知ってる。ほら、あの従妹だよ」

 

オレンジ色の髪と聡明な顔つきを思い出す緑谷。GWに一度会っただけだが、珍しい顔つきであったためよく覚えている。

 

「あとは…」

 

残る秘密の共有者を教えようとしたとき、ベンは肩を叩かれる。ペシっという小気味いい音を鳴らした相手は、

 

「誰っ?て…お前か…」

 

「お前とは挨拶ね。せっかく心配して追いかけてやったのに」

 

グウェンと同じ髪色であり、快活な態度をとる少女。緑谷よりも身長は高いが、ベンと話すときは少し屈む。そんな気遣いができる彼女の名は

 

「なに?なんか用なの?イツカ」

 

雄英高校ヒーロー科一年B組、拳藤一佳である。

 

彼女がベンと関わり始めたのは体育祭の時だ。少しの同情心から声をかけた拳藤だったが、次第にベンの子どもらしさとそれに反したマインドに惹かれ今では好意を持っている。といっても、恋愛感情ではなく、母親、姉の持つ慈しみの情のようだが。

 

そして、彼女もまたオムニトリックスの秘密を知っているものである。成り行きではあるが、この地球で数えるほどしかいない、エイリアンの存在を認識している者でもある。

 

「その言い方は何よ。試験で何かあったって聞いて心配してたんだよ?」

 

ベンと違い、濃い緑色の瞳には口を尖らせたベンが映っている。まっすぐ見つめられ少し気まずくなるベン。プイっと首をひねり

 

「へんっ。別にお前に心配される筋合いはないね!そもそもイツカは僕の何なんだよ!」

 

「あんたねぇ…!」

 

「ちょちょ…!!や、止めようよ2人とも!ベン君言いすぎだよ。拳藤さんはベン君を心配してくれてたんだし…」

 

諫める緑谷だったが、それでもベンの態度は変わらない。従弟のグウェンと似て、お小言が多いところが気に食わない。

 

自分のことを想ってくれているのはわかる。しかし、誠実にその思いを受け止められるほど彼は大人びていない。

 

ベンの態度はそのまま。拳藤が緑谷に謝る。

「ああ、ごめんな緑谷。あ、そうだ。あんたは何があったか知ってるの?」

 

「え…!それは…」

 

チラリとベンを確認する。彼はため息をつきながらも、どうせ喋るまではグチグチ言われるだろうと半ばあきらめ、コクリと頷いた。

 

そして彼に代弁し緑谷は話す。この試験の一部始終を。

 



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70話 期末試験終了(2)

話を聞いた拳藤。ゴーストフリークがウォッチから抜け出すという異常事態を彼女はどう受け止めたのか。それは、すぐにわかった。

 

「ベン、やっぱりその時計は危険だって」

 

「はぁっ!!?なんでだよ!?」

 

「今回はなんとかなったけど、大変なことになってたかもしれないんだよ?オムニトリックスからあの4本腕のやつが出て暴れたら正直ヒーローでも対処できるかわからないでしょ?」

 

緑谷は拳藤の言い分も理解できた。話によると、“個性”はエイリアンの力の一部を引き出したものであるらしい。ならば、オリジナルであるエイリアンが地球人より強いのは自明の理であろう。OFAのように、何人かの力が一つになったものならわからないが…

 

緑谷が考えに耽っているときも、なおベンと拳藤の口論は続く。がすぐに終わることとなる。

 

「だーかーらー!ボクはヒーローになるんだぜ!?確かに今回は危なかったけど、結局勝てただろ!?イツカは何が不満なんだよ!」

 

「それだって、あんた一人じゃ、どうしようもなかったでしょ!?波動先輩がいたから…!!」

 

「ベン君もすごい戦ってくれたよ?」

 

「そうだそうだ!!‥‥って、え??」

 

彼らの口論に新たな女性の声が混じる。一体どこから…

 

2人はあたりを見回す。しかし見つからない。近くの木々に隠れているのか…しかし声は近くからした。首を左右に振りながら周囲を確認する彼ら。そんな彼を見て満足したのか、声の主は姿を見せる。

 

「ふふふ、2人ともおっかしい」

 

きゃっきゃと喜びながらベンと拳藤の後ろに降り立つ1人の少女。振り向くと、不可思議にまとめられたロングヘアーをなびかせた、波動ねじれがいた。

 

「波動先輩!?」「ねじれ」「…ブツブツブツ…」

 

緑谷以外はねじれの登場に驚く。

 

彼女は空中でベン達の様子をうかがっていたのだった。拳藤がおそるおそる尋ねる。

 

「あ、あのぉ、どこから聞いてたんですか…?」

 

「えっとね?あなたが合流するまえから!!」

 

つまり、ベンと緑谷が帰り始めてすぐに、彼女は彼らをつけていたのだ

 

「あー…そのぉ…聞いてた?」

 

頬をポリポリと掻きながらベンは尋ねる。その指には少しばかり汗が垂れる。

 

「うん!!ねぇねぇ!エイリアンって何!?なんでそれを知っているの!?ベン君の本当の個性はなんなの!?」

 

目をキラキラさせながらこれでもかと疑問をぶつけるねじれ。もうどうにでもなれ、その気持ちでベンは話す。隣の拳藤は、“このままじゃ学校全員にばれそうだな”と苦笑いを見せた

一通りの話を聞いたところで、ねじれは近くの切株に座る。それにつられて、一同はそこに体を落ち着ける。

 

「なるほどね!今日の敵はベン君の時計から出てきたんだね!道理でベン君が冷静だと思った!幽霊と対面した時、未知の敵と戦うって感じじゃなかったもんね!」

 

うんうんと独り言る。そんな彼女を後目に、緑谷がベンに尋ねる。他の2人には聞こえないように、こそりと耳元で。

 

(そういえば、発動型の個性はエイリアンの力の一部を引き出したもので、異形型が一番エイリアンに近いんだよね?)

 

「らしいけど」

 

(なら…もし地球にエイリアンがいても、気づけないかもしれないんだよね‥)

 

「…まあ、そんなことないでしょ。なに?地球にいるエイリアンが地球人と結婚でもしてるかもしれないっての?あり得ないって!!」

 

「…そうかなぁ…」

 

男同士での話に不信感を覚えたのか、はたまた独占欲が芽生えたのか、拳藤が割って入る。

 

「そんなことより…どうするの?明日先生達に説明するんでしょ?…さすがに“幽霊がでた!”じゃ先生達も納得しないよ?」

 

「そーかな?なんとかなりそうじゃね?」

 

両手を組んで頭の後ろに回すベン。此処にいる人間は秘密をすべて知っているという居心地の良さが、彼の楽観主義に拍車をかけていた。

 

「あのねベン。先生たちはプロヒーローだよ?敵連合のこともあるし、もしかしたらあんたが敵と疑われる可能性だってあるよ?」

 

「ボ、ボクが敵っ!!?そ、そんなわけないだろ!?」

 

「知ってるよ。だからこそあんたが疑われるのが嫌なの」

 

ベンを想う拳藤。彼の為を想うからこそ、嫌なことでも言わなければならない。

 

一同はうんうんと頭をひねらせる。そのとき、ぴょんっと立ち上がったねじれから名案が浮かぶ。

 

「…ベン君と拳藤が良いなら、こういえばいいと思うよ!」

広い広い校内の中で、ある会議室では1人の男が書類を見ながら語る。

「結論から言うと、敵連合は関係ないでしょう」

 

相澤の低い声で、会議が始まる。目的はただ一つ。先日の期末試験についてだ。その議題に早くも結論付けた相澤に、ボイスヒーロー プレゼントマイクは当然の疑問をぶつける。

 

「おいおい本当かよ!しっかり調べたのか?!」

 

「ああ、もちろん…」室内を見渡しながら相澤は言葉を置く。「詳しく説明します」

 

「今回の騒動は、ジスケアーという“幽霊化の個性”を持った敵でした。

 

手を組み、そこに顎を乗せている根津校長は確認する。

 

「ふむ、その結論に至った根拠は?」

 

「テニスン、波動、拳藤の3人と、向こうのヒーロー マックスからの証言です」

 

マックスという言葉に皆々が反応するも、相澤は無視して続ける。

 

「テニスンと拳藤は昨月、職場体験でアメリカへ行きました。その際、戦った敵の中に、幽霊化の個性をもった者がいたそうです。そして、テニスンは昨日、対敵した時すぐにそいつだと分かった」

 

「ちょっと…それってつまり…」

 

「はい。拳藤もその敵を知っていたようです。そこで、2人の職場体験先のヒーローに確認を取ったところ、その敵は捕まっていなかったことがわかりました。おそらく、テニスンを追いかけてきたのでしょう」

 

場が静まり返る。初めての海外型職場体験。間違いなく生徒にとって良い経験になった。しかし、その遺恨が今現れるとは。

 

雄英の方針を決める校長は頭を悩ませる。しかし、そのことをおくびにも出さずに話す。

 

「なるほど…一応、向こうの方々に確認を取っておいてくれ。他に彼らが接触した敵がどのくらいいるのかを」

 

「了解しました」

 

会議の目的は果たされた。しかし、教師陣の顔はあまり晴れていない。誰一人席を立たない中で、ミッドナイトが空気を破る。

 

「どうするんです?敵連合だけでなく海外の敵も視野に入れるとなると、林間合宿は中止した方がいいんじゃないでしょうか?」

 

少しばかり場が鎮まる。一拍おいて、相澤が反論する。

 

「いいえ、そもそも学生を狙って海を渡るという事態が稀有でしょう。職場体験先に確認したところ、テニスン達が接触した敵はほとんどその場で逮捕されています。注意すべきはやはり、敵連合でしょう」

 

うむ、と頷く根津校長は、会議のまとめに入る。

 

「我々はあくまで教育機関だ。生徒への壁を用意こそすれ、害をなされるようなことは合ってはならない。合宿先も、なるべく明かさないようにしよう」

 

会議終了後、西部劇のようなコスチュームをまとったヒーロー スナイプは、怪訝な顔つきでセメントスに愚痴る。。

「敵連合だけじゃなくて海外の敵もか。なかなか骨が折れるな」

 

「しかし生徒を外敵から守ることができず、何がヒーローでしょう」

 

「だな…」

 

後輩2人を見ながら、オールマイトは不穏な空気を感じた。もし、ビルガクスが、宿敵AFOが学校に攻めてきたら、皆を守れるのだろうか。残り火の力で。

 

少しネガティブな発想をしてしまったオールマイト。顔を振り、手で頬を打ち気合いを入れる。

 

皆を守るからこその、平和の象徴なのだと。

 




いやぁ、長かったですねぇ。期末試験編は難産でした…そして問題は、林間合宿編!まだ展開を決めてない!


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林間合宿編(ネガティブ10)
71話 チリフライ


ここから林間合宿編です。割とこの章と次の章で出しきる予定です!応援よろしくお願いします!


教室ではクーラーが解禁され、いよいよ本格的に夏が始まる。

 

期末試験から一週間、ついに結果発表の時が来た。どの時代でもテスト返却はワクワクドキドキなのだが、一部の生徒からは葬式のような雰囲気が垂れ流されていた。

 

それもそのはず。この期末試験で赤点を取ってしまえば夏休みに開催される林間合宿に参加できないのだ。実技試験をクリアすることができなかった切島、佐藤、芦戸、上鳴は俯いている。

 

半べそをかきながら、芦戸や上鳴が伝える。

 

「ひぐっ…皆、土産話楽しみにしているから…」

 

「ま、まだわかんないよ!どんでん返しがあるかもしれないよ!」

「緑谷それ口にしたらなくなるパターンだ…」

「あんなのもクリアできなかったの?お前ら、本当に雄英生?」

 

慰める緑谷と対極的に、追い打ちをかけるベン。元々子どもであるため、自分ができて、他人ができなかったことに対しては強く出る傾向が彼にはある。心無いベンの言葉に、上鳴はため息をつく。

 

「ハァ…テニスンは正直こっち側だと思ったのに…」

 

「!?なんでそうおもうわけ!?」

 

「だってお前作戦ミスばっかするじゃんか!単騎突撃ばっかりするし、自分の変身時間もわかってないときあるし。爆豪のみみっちさが無いバージョンって感じ」

 

「誰がみみっちいって!?殺すぞアホズラ!!」

 

「そーだよ!!ボクはこいつみたいに自己中じゃないし!」

 

「ああん!!?」

 

四方八方で戦争が起こる。実際、期末試験でベンも爆豪も単騎突撃しているので、どっちもどっちである。

 

ベンと爆豪が取っ組み合いをしようとしたところで、

 

「予冷がなったら席につけ」

ぬるっと教室に入った相澤の一声が入る。

「えー…今回の期末試験だが、残念ながら赤点が出た。従って」

 

神妙な顔つきでいる不合格4人。先ほど出し切ったはず涙が再び目じりに浮かぶ。まるで死刑宣告を待つ囚人である。だが、相澤の言葉は覚悟していたものとは違った。

 

「林間合宿は全員行きます」

 

「「「「どんでんがえしだぁ!!」」」」

つまるところ、“赤点者の参加禁止”は、相澤お得意の合理的虚偽だったのだ。そもそも、林間合宿は強化合宿。此処で赤点だった者こそがその対象となる。ゆえに、その補修内容は地獄であり、それを述べられた補習5人は苦虫をつぶしたような顔になっている。

 

ともあれ、全員が無事に強化合宿へと参加することとなった。しおり等を確認し、皆で盛り上がっているとき、葉隠が提案する。

「あ、そうだ!!明日休みだし、A組みんなで買い物行こうよ!」

 

ノリのいい上鳴、真逆の爆豪、協調を重んじる緑谷、それぞれの性格が見て取れる会話が起こる。

 

「お、いいじゃん!!何げにそういうの初じゃね?」

 

「おい、爆豪、お前も来いよ」

 

「行ってたまるか、ッかったりぃ」

 

「轟君は?」

 

「休日は見舞だ」

 

爆豪、轟が不参加を表明。そしてベンは、

 

「明日はスモウスラマーイベントなんだ!!」

 

周囲とのコミュニケーションよりも趣味を優先するのがテニスンクオリティ。皆がショッピングの計画を立てていることに目もくれず、颯爽と帰宅したベンであった。

圏内で最大の店舗数を誇る、ナウでヤングな最先端。それがここ、木椰区ショッピングモール。

 

個性社会になったことで、人々の体は以前とは異なるものとなった。腕が6本ある者、カマキリの姿を模した者、翼が生えている者。まさしく“個性”豊かな人々がそこら中に存在する。彼らのニーズに答えるように社会、特に商業施設は進化していった。

 

A組一向は互いに初めて教室外で会う。各々の私服を見て講評しあいながら、モールの中央部へと向かう。

 

このモールは先日ベンが戦った体育館Ωと似ている。というよりも、体育館Ωがこの木椰区ショッピングモールをまねたのだ。

 

敷地内にはイベントエリア、ショッピングエリア、フードエリアに分かれており、それらは正三角形の形に位置していた。

 

中央部につき、どこに行くかを決めようとするが、

 

「とりあえず大きめのキャリーバッグ買わなきゃ」

 

「アウトドア系の靴ないんだなよぁ。峰田、買い行こうぜ!」

 

「おいらはピッキング用品と小型ドリルを買わなきゃならないから」

 

「俺は徹夜ハチマキ買いたいんだよな!!」

 

それぞれの目的物が異なっているため、切島が別行動を提案する。皆が首を縦に振ったかと思うと、望む品を購入するために颯爽とその場から消えていった。

 

ポツネンと残されたのは緑谷と麗日。とりあえずと、ショッピングエリアの雑貨店へと向かう。

 

特に意識することなく二人は人ごみの中を歩く。休日であるからか、それともイベントエリアがあるからか、普段よりも人が多いようだ。

 

声が通るように顔を近づけながら緑谷は質問する。

「麗日さんはどうする?」

 

「あたしは虫よけスプレーを買わなんと」

 

「そっか、僕も一応買っておこうかな。どうしようかな。虫よけスプレーといっても、色々あるよな。疲労回復効果や日焼け止め効果も付随しているタイプもある。あ、環境に配慮したものがいいかなぁ…」

 

ブツブツモードに入ってしまった緑谷は麗らかを置いてけぼりにせんとする。彼を呼び戻すために彼女から話題を振る。

 

「えっと…あ!そういえば、ベン君来んかったね。なにか用事でもあったんかな?」

 

「スモウスラマーのイベントがあるからって…あ、スモウスラマーっていうのは日本出身のアメリカンヒーローなんだって。ゲームとかトレーディングカードも出てて、ベン君が向こういる時すごいハマったらしいんだ」

 

「そーなんや!やっぱりベン君はマイペースやね。」

 

「確かに…まあ」

 

“期末試験が終わったから、開放的になってるんだと思う”、そう口にしようとした緑谷だったが、自分でその言葉に引っかかる。

 

(ベン君は期末試験でゴーストフリークと戦った。オムニトリックスからエイリアンが出てきたっていうことは秘密されてるけど…明らかに先生たちはベン君を警戒していたような…うーん、確かにベン君の挙動は怪しく見られやすいからな。アメリカにいた期間が長いからかな…?)

 

「デク君?」

 

「あ!ごごごめん。えーと…そういえばさ、期末試験ことなんだけど…」

 

ん?と首を傾げる麗日。しかしすぐに顔が紅潮する。緑谷の言葉である出来事を思い出したからだ。それは期末試験での青山の一言。

 

(君、彼のこと好きなの?)

 

ポッ

 

「うひゃ―――!!」

 

「うう麗日さん!?」

 

顔を両手で覆い、人ごみをかき分けながら麗らかは逃げる。

 

ポツンと一人残された緑谷。初めて友人とモールに来たのに、開始10分で孤立してしまった。せっかく皆で来たのに、いつものようにソロショッピングとなってしまった…

 

まあそれならそれでと、マニアックなヒーローグッズストアに行くか、と決めた矢先、1人の男から声を掛けられる。

 

「オー、雄英の人じゃん!サインくれよ」

 

「へ?」

 

パーカーをまとったその人は、左手をポケットに突っこんだまま肩を組む。初対面にしては少々馴れ馴れしいが、そもそも人との距離感がいまいちわからない緑谷は振り払えない。

 

気まずそうな緑谷を気にせず男はニカニカしながら話しかける。

「確か体育祭でボロボロになったやつだよな!」

 

「…は、はい」

 

「んで、保栖事件の時はヒーロー殺しと遭遇したんだっけ?」

 

「よくご存じで…」

 

「USJ襲撃の時は足を折って突っ込んできたよな…」

 

「あはは…」

 

早くこの状態を脱したい緑谷。彼はこのような事態に慣れていないのだ。遠慮がちに愛想笑いをする。

 

が、2、3拍おいて、青年の言葉に違和感を覚える。

(なんでUSJのことを?あれは雄英内で起こったことだから詳細は知らないはず…っは!)

 

気づいたときにはもう遅い。振りむこうとした緑谷の喉に青年の手がかかる。年齢にしてはずいぶん乾いている手だと思った。

 

5本の指のうち1本を振れないようにしている様子は、傍から見れば独特のものであろう。

 

「ホント、こんなとこでまた会うとはな…」

 

「お、お前は‥」

 

「お茶でもしようか、緑谷出久」

 

「死柄木 弔…!!!」

 

青山の言葉を思い出し、風のように逃げた麗日。数十メートルほど全速力を出してしまった彼女は、見事モールの人ごみに迷ってしまっていた。彼女の胸中は未だ緑谷のことばかり。

 

緑谷への想いは未だ何なのかわからない。入試で自分を助けてくれた人。体育祭で励ましてくれた人。

 

(デク君はただのクラスメイト!青山君はなにいっとるんだ!)

 

そう自分に言い聞かせた時、少しばかり胸に痛みが走る。このモヤモヤはなんなのだろうか。いつから抱えていたのだろうか。それらの謎が彼女をさらに混乱させる。

 

しかし、このまま考えていてもらちが明かないと開き直る。

 

(別に同じヒーロー志望としてすごいなって思ってるだけだし…青山君のいうことちゃんちゃらおかしいわ!そうそう!一緒にお買い物とか違うもん!)

 

顔をピシピシとはたき、気分を入れ替える。そして、辺りを見回す。どうやら、ショッピングエリアを抜けて、フードエリアについていたようだ。

 

(あちゃ、ここどこや…!もどらんと!いや、デク君と買い物したいとかじゃなくて、ただ戻って謝らんと……ん?)

 

緑谷の元へ戻ろうとしていると、向いの店で何やら揉めているのを発見する。声色的に、大人と子どもが言い争いをしているようだ。

 

手刀で人ごみを切り分けながら、そのもめ事を収めようと向かう。フードエリアの中でも、露店コーナーで、店員とお客さんが揉めているらしい。彼女はその二人を見て、少しばかり驚く。

 

「…なんだよ!!早くチリフライをよこせ!」

 

「だから金がねぇんならさっさと帰りな!いくら子どもでも金がねぇと物は買えねぇっていうのは知ってるだろ!」

 

「ボクが子ども?はっ!痛い目を見たいのか?いいからチリフライをよこせ!!」

 

麗日は目を丸くする。半分カツアゲのようなことをしているのは自分よりも子どもであった。年齢的には10歳ほどに見える。だがしかし麗日が驚いたのはそれが理由ではない。

 

緑色の人に、茶色の髪の毛。白と黒のシンプルなTシャツにカーゴパンツ。強盗まがいのことをしているのは紛れもなくベン=テニスンだった。

 

「ベン君なにしてん!?」

 

「ん?誰だお前は!!」

 

声を聴いてもそっくりである。背格好から髪の色、目の色、声色。どこからどう見てもベンだ。

 

クラスメイトととして、友人としてこの状況はいただけない。一応店主にお金をわたし、事なきを得る。

 

ペコペコと頭を下げる麗らかに店主は嗜めるように、的外れの注意する。

 

「姉ちゃんよ!弟の面倒はちゃんと見なきゃだめだぜ?あと、お金っていうものを教えてあげな!」

 

店主からは見当違いの注意を受け、顔を赤くする麗日。クラスメイトの姉と勘違いされる辱めは、両者ともに多大なダメージを受けるだろう。

 

だが、当のベンは買ってもらったチリフライを素手で貪り食べていた。今にも顔を容器につっこみそうな勢いである。

 

「うーん…やっぱりまずい。どうしてこんな下劣な食べ物を僕の体は欲しているんだ!?」

 

良くわからない言葉を発しながらも、なお食べる手を止めないベン。その姿にさすがの麗日も呆れる。

 

確かにベンは子どもであると思う。しかし、この3か月ともに過ごしてきて、別に常識外れであるとまでは思わなかった。まして、店員から品物を奪い取ることなど、麗日の想定するベン=テニスンは決してしないだろう。

 

「あ!」

 

そこで彼女は思い出す。緑谷を置いてけぼりにしていることを。

急いで、緑谷の元へ戻らなければならない。“どうせなら一緒に“、そうベンに呼びかけようとしたとき、隣のベンは消えていた。

 

財布が少しだけ軽くなった彼女の頭には、?のマークが浮かび上がっていた。

「…なんやったん?」

 




・まあ、ぶっちゃけベンはウォッチを使って犯罪スレスレ行為(もしくは犯罪)はやってるしなァ…(笑)


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72話 真に賢しい敵

短いです!


フードエリアで喧嘩騒ぎが起きたころ、緑谷と死柄木は隣のエリアで簡素なベンチに座っていた。死柄木は文字通りベンの首に手をかけている。五指で触れると対象を分解する【崩壊】は、今の緑谷にとって脅威であった。捨て身の反撃も可能ではあるのだが、ここは日曜のショッピングモール。ヒーローが来るまでに何人が犠牲になるかわからない。

 

身動きの取れない緑谷に対し、死柄木は問う。しゃがれた声で早口に。

 

「なあ、なんでだ?俺もステインも一緒だろ?自分のために、自分の壊したいものを壊した。なのになんであいつの方が目を引くんだ?破壊行動だって俺やケビンの方がやってるだろ?俺たちとあいつ、何が違うと思う?緑谷」

 

分からなくもない質問。行動自体は敵連合も派手だ。しかし、世間の注目はステインに集中している。連合は食われたといってもいい。

 

緑谷もそのことについて考えたことがった。テレビやメディアでは、ヒーロー殺しは悪党と報道されている。しかし、少しアングラな場所、もしくは個々人では、ステインを支持している人間も多くいた。彼の持つカリスマ性というものだろうか…

 

ではなぜ皆が、ヒーロー殺しにカリスマを感じるのか。緑谷はその答えをゆっくりと紡ぐ。

 

「ヒーロー殺しには…理想があった。やり方は間違ってても、英雄回帰っていう理想に生きようとしてた…んだと思う」

 

あくまで自分の考察であるので、思うを後から付け足す。敵の考えを理解したくないという想いも半分あったのかもしれない。

 

そして、ゴクリと唾をのむ。喉を握られているので少し引っかかった。だが、その喉から考えを発する。

 

「ボクもヒーロー殺しも、始まりは…オールマイトだったから、理解は出来た…」

 

汗を垂らしながら死柄木を睨む。その時、言いようのない悪寒が緑谷を襲う。汗が止まる。冷や汗すら出ない。呼吸が止まる。瞬きすらできない。目の前の巨悪からは、鮮明な死のイメージがにじみ出る。

 

「そうか、分かったよ…」

 

その巨悪からは、不気味という概念が人になったかのように感じる。顔じゅうしわだらけにして、満面の笑を彼は浮かべる。

 

 

「全部…オールマイトだ」

 

1人納得した死神の手は徐々に彼の首を絞める。

 

「ッぐっ!!」

 

手をはがそうと力を籠める。が、「民衆が死ぬぞ?」という一言で身動きが取れない。

 

思考すらままならない緑谷と対極的に、自身の思想を固めていく死柄木。それとともに、首を絞める力を強める。

 

彼が笑みを浮かべて数秒たち、緑谷の呼吸が止まろうとしたとき、

 

「イズク?」

 

ソフトクリームをもった少年が2人に声をかける。キョトンとした顔の少年。一拍間が空いた後、後ろから麗日が来る。

 

「ベン君と…デク君?」

 

麗日とベンは状況を把握していなかったが、いち早く麗日が“異常“に気づく。眉をひそめながら尋ねる。

 

「お友達じゃないよね…?」

 

その質問は、疑問を問うものでなく、確認に近かった。そのニュアンスで、ベンも事態に気づく。

 

持っていたソフトクリームは地面に落ち、ベンのウォッチに手が添えられる。

 

「イズクから手を離せ!」

「何でもないから!大丈夫!だから!来ちゃだ…」

 

凄むベンに、強がる緑谷。互いに互いを想う状況で、場は緊迫するものとなる。しかし、その状況は間の抜けた声で打破される。

 

「連れがいたのか!ごめんごめん!」

 

先ほどまで不気味な笑みと異なり、爽やかな笑顔で対応する死柄木。民衆に紛れて帰る彼をベンが追おうとするが、緑谷により制止された。

 

麗日がすぐに警察に連絡して事態は収まった。

 

警察を待っている3人。まさか休日のショッピングモールで敵連合のボスと会合するとは思わなかった。彼らの顔からそのような考えが見て取れる。

 

しかし、今敵連合のことを考えても仕方がない。情報が無いのだ。

 

そこで、緑谷もだいぶ落ち着いてきたところで、話題を麗日が提供する。

 

「そういえばベン君はイベントだったんじゃないの?」

 

「そうだよ?1時間前にここでイシヤマのサイン会があったんだ!ホラ!!」

 

そう言って背中の洋服に記載された「ISHIYAMA」の文字を見せつけるベン。イシヤマとはスモウスラマーというヒーローの日本名である。麗日はいまいちその価値がわからないため愛想笑いで返す。そして、先ほどのことを思い出す。

 

「そういえばベン君、さっきひどかったんよ!チリフライをただでよこせって店員さんと揉めてて。あんなん駄目に決まっとるやん!!」

 

「何の話だよ?ボクがオチャコに合ったのは今さっきだよ?」

 

「え?でも…あ、さては私がおごった分ちょろまかすとしてるんやろ!?」

 

「はあ!?そんなことしないし!なあイズク!」

 

「えっと…あはは…」

 

お菓子の中に入っているレアカードを探すために、グレイマターに変身し、結局買い取りする羽目になったことを知っている緑谷。ベンがチリフライ好きなことも知っているため、なくはないなぁ、と思うのであった。

ここは日本のどこかにある地下施設。何人かはわからないが、背格好の異なるものが暗い研究室に集まっていた。

「先生、ドクター。決めたよ。俺は、この世界を…ぶっ壊す」

 

「よくぞ…」

「じゃあ準備するかのぅ。お前さんのおかげで研究は加速度的に進んだ!!実に助かったぞ!」

「ああ、感謝してくれよ?これも憎きベン=テニスンを葬るためだからね!」

「ふふふ、まあ我々の出番が先だがな」

「おい!俺がベンの野郎をぶっ殺すんだぞ!?」

 

大人と子ども、地球人と宇宙人。多種の悪意が水面下で準備する。ヒーロー ベン10を滅するための策を。

 




最後の会話はまあ、あえてわかりにくくしてます。すぐにばれるんですけどね(笑)


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73話 KY

ふと思ったんですが、今のこどもたちってKYの意味わかるんですかね…


死柄木との邂逅から数日、多少の予定変更はあったが、ついにその日が来た。

 

本日は林間合宿初日。合宿所はまだ伝えられていないが、どうやらバスで移動するらしい。

 

バス待ちの為、校門の前にヒーロー科1年が集まる。つまりA組とB組が顔を会わせるわけで、そうなるとこの男が黙っちゃいない。整っている顔に反して、歪んだ性格の物間がA組を煽り倒す。

 

「え?A組補習いるの?つまり赤点獲った人がいるってこと!?ええ?おかしくないおかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なはずなのに!あれれぇぇ!!?」

 

 ガッ

 

物間節が始まるや否や、すぐさま拳藤は手刀で彼の意識は刈り取る。ぐふっと息を漏らした物間を無視して、彼女は快活に挨拶する。

 

「ごめんな、A組…まあ、今日から一週間よろしくな!!」

 

「お、おお!!」

 

拳藤の言葉を皮切りに、両クラスが軽い挨拶を行う。互いの担任について話す女子を見て峰田が下舐めづりをし、切島が注意する日常の風景がみられる。これから地獄が始まる雰囲気とはとても思えない。

 

当然ソワソワしているベン。彼に対し拳藤は駆け寄る。

 

「よ!ちゃんと準備してきた?」

 

「イツカ!ああ、もちろんさ!!お菓子にトランプにUNOに…」

 

「ちょっとちょっと…!何しに行くのかわかってんの!?」

 

「お泊り会ってやつでしょ?ボク、友達とこーゆーのしたことないから楽しみなんだよね!」

 

目をキラキラさせてバッグの中身を拳藤に見せびらかすベン。その純粋無垢な顔を見て気が緩む拳藤。肩をすくめつつも、その顔には弟を見るような表情があった。

 

「ふふ、あんまり問題起こさないようにね?グウェンにも面倒見てやれって言われてるんだから」

 

「は?!お前グウェンと連絡とってるのか!?」

 

「前にアメリカで連絡先交換してさ。結構話が合うのよ。個性歴史学に関してはさすがにかなわないけど、ヒーロー社会学の話とかは盛り上がっちゃって」

 

「うぇぇ。何それ。最悪の繋がりなんだけど。勉強が好きだとか考えらんない。他にすることないのかよ」

 

「なにその言い草は!マックスさんからもベンのことよろしくって言われてるし、シャンとしなさいよ?」

 

「うるさいなぁ。お前はボクの母親かよ!」

 

「このぉ!」

 

わしゃわしゃとベンの髪をかき撫でる。普段なら振り払うが、合宿を控え上機嫌のベンはまんざらでもない様子。

 

全体的に空気が弛緩してきたころ、学校から相澤とブラドが出てくる。

 

「おい、いつまで遊んでる。さっさとバスに乗れ」

 

A組とB組のバスは別。ベンの肩に手を回していた拳藤もすぐに離れ、別れる。

 

「じゃ、合宿所でね!」

 

「…はいはい」

 

全員がバスに乗り込むと、雄英専用バスは黒い煙を出して山へと向かう。

1時間ほどバスに揺られて着いた場所は、見晴らしのいい高台であった。一同はパーキングエリアと思い、バスを降りる。しかし、よく見てみると店どころか駐車場もトイレもない。

 

なにかがおかしい。そうクラスメイトらの間で不穏な空気が流れるが、それらをぶった切るように名乗り声が聞こえる。

 

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「ワイルドワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

A組一同の前に妙齢の女性らが現れる。

 

決めポーズをとって姿を現した彼女らは、猫と魔法少女をモチーフとしたコスを身にまとっていた。

 

彼女らは4名1チームのヒーローチーム『プッシ―キャッツ』であった。

 

プロヒーローの登場にマニアの緑谷は当然興奮する。オタク特有の早口で彼女らの紹介を始める。

 

「すごいや!彼女らは山岳救助を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年手でもう12年目にもなる・・・」

 

思わず彼女らの年齢に関する情報を口走ったため、金髪のピクシーボブが口をふさぐ。顔から陰鬱なオーラと真剣な表情を出して、重要な一言。

 

「心は18!」

 

「モガッ!」

 

ヒーローではあるものの。彼女らも一人の女性なのだ。年齢について大っぴらにすることを嫌うのも頷ける。空気の読める者なら、ここで彼女らの年齢に触れるのはタブーだと分かるのだ。

 

だがしかし、お子様にその機微は理解できない。

 

「え、12年ってことは…30後半ってこと?!うわぁ…それでその恰好って…」

 

ベンの言葉で場が凍り付く。明らかにマズイことを言ったと全員が悟る。唯一気づいてないのは当の本人だけ。

 

ピクシーボブは、青筋を立てながら雑に説明を始める。

 

「…君たちはその山のふもとまでダッシュ。そこが宿泊施設ね。わかった?わかったよね?よし!」

 

ベンへの報復か、説明は明らかに不十分であった。それとも、これだけの説明で動けることがヒーローへの成長条件なのだろうか。

 

「ちょ、どういう」

 

FOOM!!

 

クラスメイトが説明を求めようとするももう遅い。

ピクシーボブの個性は【土流】。触れている泥土ならいくらでもコントロールできる。セメントスの個性と類似したものであり、フィールドによっては敵を完封することもできる。

 

A組が立っていた場所は高台。そこから見えるのは山、山、山だった。絶景だった。だが、彼らがもうその景色を見ることはできない。

 

彼女の個性により、その高台は巨大な津波へと変貌していた。

 

波打つ土雪崩は、A組一同を崖の下に運んでいく。

 

土が口に入る。体を泥が包む。不快な感情しか湧かない彼らは、全員で叫ぶ。

 

【テニスンふざけんなよぉぉ!!!】

見事全員が高台から落とされ、入り込んだのは魔獣の森。落とされる間際に聞こえたマンダレイの説明によると、ここは私有地により個性の使用は自由らしい。

 

 

口に入った泥を吐き出しながら、男子がやいやいとベンに文句を言う。が、緑谷や八百万が自身の推測を話す。

 

「多分、元々ここからは自力で向かせるつもりだったんじゃないかな?」

「そうですわ。森の名前、ここからの移動時間。全て計算されていたとしか思えませんわ」

 

「っちぇっ!わかったよぉ」

 

いの一番にベンに文句を言っていた上鳴も納得する。確かに雄英のやりそうなことだ。早速試練を与えられた彼らは、校訓である“PLUS ULTRA”を思い出す。

 

ベンへのヤジを止め、顔を張る。気合いを入れ、さあ進もうかという時、彼らの前に現れたのは化け物であった。目が無く4足歩行なところはワイルドマットにも見ている。

 

思わず腰を抜かす峰田。

「うわぁ!!なんだこいつ!!…こいつが魔獣か!!?」

 

その異形の姿に焦るものが大半だった。しかし、“何か”を経験した者は違う。冷静に分析しあるいは冷静に破壊を試みる。

 

(土くれ…そうか!)

「っだぁ!!」

「死にやがれぇぇ!!」

「…!」

「ふっ!」

 

SMASH! BOMM! PAKIPAKI! DURRR!

緑の火花、朱黄の閃光、透明な氷に青いエンジン。いち早く現状を把握し対処した者は其の4人だけだった。

 

彼らは自らの命を狙うものと間近に対峙したことがあった。一瞬の判断の遅れが誰かの命を落とすことになる。このことを身をもって知った彼らにとって、この試練は緩すぎた。

 

しかし、この4人意外にも、もう一人いた。自身の命を狙われ、そして生還した経験を持つものが。

 

「3時間以内にふもとに着くだって?はっ!楽勝さ!どっちが先につくか勝負だおばさんたち!」

 

今この場におらず、バスに乗っていったプシーキャッツらへ宣戦布告をかます。

 

バスと人間の競争。普通ならばバスが勝つ。これは例え個性もちであったとしてもだ。時速80キロを超えるスピードなど到底出せない。しかし

 

彼は変身できる。

 

QBANN!!

 

青と黒のしっぽが生えた彼は、思わず一言。

 

「今回はまともに作動したぜ!このウォッチ大好き!」

 




・何気にちゃんと作動することの方が少ないオムニトリックス。無印の時は”いやそこはお前じゃない!”みたいな変身が多かった印象です(笑)

・林間合宿編の前半は地味な展開になっちゃいます。本番はやっぱりあいつらが来てから何で(笑)


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74話 子どもと子ども

実際にオムニトリックスがあれば、どこにでも行けますよね。だって宇宙にだって行けるから!


生徒らが魔獣に対処している頃、イレイザーとマンダレイはバスに揺られていた。おもむろに携帯を取り出し、すぐに切ったイレイザーに、マンダレイは問いかける。

 

「どうしたのイレイザー。誰かから連絡?」

 

「いえ、生徒の職場体験先から連絡が学校に合ったようですが…」

 

「そう‥しっかし無茶なスケジュールだね、イレイザー。魔獣の森だって一年生に攻略できるかい?」

 

生徒たちは魔獣の森に放り出されたが、教師陣は違う。専用バスに乗りそのまま山のふもとまで向かう。生徒たちがたどり着くまでに夕食やその他雑務を済ませなくてはならないからだ。

 

舗装された道を危なげなく走るバスの中で、話題は合宿の意義へと向かう。

 

「まあ、通常2年生で“取得予定のモノ”を前倒しで取らせるつもりで来たので、どうしても無茶は出ます」

 

この個性社会では、例え正当防衛であろうとも個性の使用は許されない。人々は画一性を失ったため、“防衛のための力”もそれぞれ異なり、法で判断することが難しいからだ。

 

故に、個性を公で使用できるのは原則ヒーローのみ。このルールはベン達ヒーロー候補生にも当てはまる。

 

しかし、USJ襲撃、保栖ヒーロー殺し、そして木椰区ショッピングモールでの敵連合との邂逅。幾度も危険に晒される生徒に対し、個性の使用禁止を謳うのも酷である。

 

だからこそ

 

「緊急時における個性の限定許可証、通称“仮免”。敵が活性化した今、彼らにも、」

 

「自衛のすべが必要ってわけね」

 

雄英の意思をくみ取ったマンダレイ。

 

敵連合の動きは日に日に厄介になっている。彼らに細心の注意を払い、この合宿を企画した雄英には舌を巻いていた。

 

「ま、あの子たちがつくのは夕方になるかな。それまでイレイザーは何するの?」

 

「補習の準備をしたいんですが…夕方までに着きそうなやつが1人…」

 

バスはピクシーボブを拾い目的地に着く。彼女曰はく、「もう魔獣はありったけ作ったから、後は待つだけ」だそうだ。

 

プッシ―キャッツの二人はバスを降りて、合宿所へと入…

 

ろうとしたとき、扉の横にいる子どもを見つける。いや、背丈は子どもなのだが、雄英の制服を着ている。つまり、この短時間で、バスを超えるスピードでたどり着いたということだ。

 

「ちょ…君、もう着いたの!?」

 

冷静沈着なマンダレイも思わず驚く。

 

自分達でも3時間はかかるのに、この子は30分もかかっていない。いや、もしかしたらもっと早かったのかも…

 

“なにか不正をしたのでは”という疑念がわくも、そもそも不正のしようがないのがこの試練。

 

目の前の少年は壁に片手を預け、偉そうに

 

「おいおい、遅いんじゃないの?待ちくたびれちゃったよ」

 

その言葉に対し何の返答もできないプッシーキャッツ。

 

担任の相澤は手を頭に当ててため息をつく。

(あの青色のやつに変身したな。確かにアイツのスピードなら20、いや15分もかからない)

実際には5分とかかっていない。

(狙ったやつに変身出来たテニスンは“最強”といっても過言ではないかもしれん。だが、)

 

「おいテニスン」

 

「ん?何?速すぎるって?いやぁ、知ってるよそんなことは」

 

「他のやつらはどうした」

 

「へ?」

 

一体何のことだ、と言いたげなベン。ベンの返答が無いことを確認した相澤は、隣にいたピクシーボブに頼み込む。

 

もう一度森へ放り投げろと

 

「ピクシーボブさん。お願いします」

 

「うーん、いいのかにゃ?協力してゴールしろとは言ってないけど…」

 

「そ、そうだよ!良いこと言うねおばさん!!」

 

ベンの言葉が彼女の耳に入った瞬間、彼女の逡巡は消え去る。

「さあ行ってこい!!」

 

ベンが立っている地面が揺れ動く。顔を引きつらせながらも逃げようとするベン。しかし、泥土は無情にもベンを飲み込み、山下へと連れていく。

 

「な、なんでだよぉぉぉ!!」

 

再び森へと突き返されていくベンに対し、珍しく相澤が大声で諭す。

 

「テニスン―!お前はいい加減協調性を覚えろー!」

 

ベンの協調性は、成長したり退化したりする。それはオムニトリックスを得たことによるものではなく、元来の性質なのだった。

「やーーっときたにゃん」

 

1年A組全員が、ヘロヘロドロドロの状態で合宿所へと辿りつく。全員、個性の酷使により使用部位はボロボロとなっていた。ベンはというと、

 

「はぁっっ!!はぁっ!っおえ…」

 

誰よりもゲロゲロのボロボロだった。意外だなとマンダレイたちは思うが、この悲惨な結果は当然なのである。変身しているとき以外は実質10歳の肉体。付け加えて、いつもはお世話になっているサポートアイテムもここにはないのだ。必然的に、ベンはクラスメイトに助けられながらここまで来たのだ。

 

“助けてもらえる”これもある種の協調性である。しかし、ベンが助けられたのはあくまでもクラスメイトだからである。普段のベンでの態度であれば、もしプロになったとしても誰も助けてくれない。

 

変身できないときに1人ならば、ベンはたやすく死んでしまう。そう考えた相澤は協調性をベンに求めたのだった。それは、自身も一人では簡単に死んでしまう個性だからこその気づきだった。

 

ともあれ、ここまで全員がたどり着けたことは素晴らしいことであった。

 

「皆、思ったよりも強いね。特に、そこの4人。強さの秘訣は経験値、かしら?」

 

緑谷、爆豪、轟、飯田を指して褒めるピクシーボブ。確かに彼らには敵に襲われて戦った経験がある。

 

だが、この男もその経験はしこたまあるのだ。

 

「あれ!?ボクは?!」

 

「うーん、君は人間性に難ありだにゃ!」

 

自身の性格を愚弄されてベンは敵の急所を穿つ。

 

「ちぇっ!おばさんだって、人間性に問題あるからけっこ…グウェ!!」

 

肉球で口を塞がれるベン。クラスメイトは、“疲れているのに、よくそこまで口が回るな”、と思っていた。

 

なんとかしてこの空気を一新しようとし、緑谷が話題を変える。

 

マンダレイの後ろに隠れていた、男のへと目を向け、

 

「そ、そういえば、その子はどなたかのお子さんですか?」

 

角のついた赤い帽子を深くかぶった少年のことだ。黒めが小さく、帽子で影になった目からあまり好意的なものは感じ取れない。

 

「ああ、この子は私の従甥だよ。滉太!ホラあいさつしな!」

 

乗り気じゃないではないのが見て取れる。叔母に言われたからと渋々緑谷の前へと歩く。

 

「あ、えと、僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」

 

GOTINN!!

  

挨拶を終えると同時に、小気味よい音が緑谷の股から聞こえた。急所を右ストレートでえぐられたのだ。

 

金的をまともくらい「キュウ」と倒れる緑谷。滉太の突飛な行動に驚き、注意をする飯田。しかし彼は無視する。ベンはというと、その様子を笑っていた。

 

「あっはっは!イズク綺麗にやられたじゃん!」

 

指をさし笑う。滉太と精神年齢が近いからだろうか。1人仕切り腹を抱えた後、涙を脱ぎながら、滉太へ握手を求める。

 

「あはは、お前、おもしろいな。ボクはベン。将来は最強のヒーローに成る男だ」

 

「何言ってんだチビ」

白けた目で呟く。

 

当然、滉太の心は開かれない。むしろ、自分と同じ背丈の子どもが夢物語を語っていると思われる始末だった。

 

笑顔で差し出したベンの右手は生き場を失いきまずそうだ。だが、一拍おいた後、その手はウォッチへと向かう。

 

「誰がチビだって…?これ見てもそう言えるかな…?」

 

「バカやってないでさっさと準備しろ。夕食を済ませたら入浴、そして就寝だ。明日は地獄だぞ」

 

イレイザーの一言に、皆は安堵の笑みを浮かべた。

プッシ―キャッツの用意したご馳走をペロリと食べ、生徒は露天風呂へと向かう。

 

露天風呂からは星々がはっきり見える。それは周囲に禄に建物が無いことを示していた。

 

そして、この山にいるのは雄英生のみ。つまり圧倒的に観衆の目は少ないのだ。もし都会で行うと犯行がバレることも、ここでなら…

 

「やれるってわけですよ」

 

「ど、どうしたの峰田君。急に壁の方を向いて」

 

今はA組の入浴時間。男子女子が同じ時刻に、隣り合う露天風呂で疲れを癒している。

 

性欲の権化である峰田は、男風呂と女風呂を隔てる壁に耳を当てていた。彼の耳には女子たちの透き通った声が突き抜けてくる。

 

「わかるか緑谷?今日日男女の入浴時間をずらさないで、しかも隣に風呂を配置するなんて事故、事故なんすよ。つまり、今から俺がする行為は仕方のないことなんすよ」

 

男子生徒たちは峰田の行為にピンときて顔を赤らめる。といっても、上鳴はおもしろそうといった表情、爆豪は完全無視、そしてベンに至っては“なんのことだろう”と言った顔だ。

 

規律と道徳を重んじる飯田は当然注意する。

 

「峰田君やめたまえ!君のしていることは己も女性も貶める恥ずべき行為だ!!」

 

が、脳内がピンク色に染められた彼には何の抑止にもならなかった。

 

「やかましいんすよ…」

 

悟りを開いたかのような仏顔を見せたが早いか、峰田は猛スピードで壁をよじ登る。期末試験で学んだことを口走りながら。

 

「壁とは超えるためにあるんだ!プルスウルトラ!!」

 

MOGI MOGI JUMP  JUMP

 

「校訓を怪我すんじゃない!!」

 

彼の個性から想像もできないほど俊敏な動きを見せる峰田。一段上る度に息遣いは荒くなり、頭に血が上る。

 

(この時のために、この時のためにオイラは!!)

 

悲願の女体はすぐそこに。彼は欲望のままに壁をよじ登…

 

れなかった。

バッ!

壁の上には、棒切れを持った滉太が佇んでいた。その棒切れを峰田の頭に突きつけ、

 

「ヒーロー以前に人のあれこれから学びなおせ」

 

ドンっと慈悲なく突き落とす。真っ逆さまに男子風呂に落ちていく峰田。その様子を無感情に見届けた後、滉太はくるりと振り返る。

 

それが良くなかった

 

振り返った滉太の目に入ったのは、峰田が死んでも拝みたかった景色。歳がいくつ離れていようとも、男の子にとってそれは刺激の強いものである。

 

「わっ…!」

 

驚いた拍子に足を踏み外し、壁から落下していく。このままでは石畳の床にたたきつけられる。

 

ゴチン!!

 

だがそれは免れた。なぜなら

 

「…いったぁぁい!!!!」

 

湯船から上がり、脱衣所に向かっていたベンがクッションになったからだ。まあ両者ともに頭を強打したわけだったが…

 

「なに!?なになんなの!?」

 

状況がわからないベンはただ頭を摩る。ぷっくりと晴れ上がったたんこぶは、彼が初めて身を挺して誰かを助けた証となった。偶然に…

 

その後、滉太をマンダレイの元まで届けた緑谷とベン。彼らは彼女から滉太のヒーロー嫌いの話を聞いた。

 

両親は個性があったからヒーローに成って、そして敵に殺された。全部、個性が悪いんだ。ヒーローも敵も、個性を振り回して、そして振り回されてバカみたいだ。

 

滉太の考え方はおよそ10歳のものとは思えないものだった。

 

ベンも緑谷も無個性であり、ヒーローに憧れた者だったので理解は出来なかった。

しかし、ヒーローは死ぬということが頭に残っていた。

翌日。日の出とともに彼らの合宿二日目が始まった。まだ寝ぼけ眼の者もいるが、しっかりと体操着に着替えている。

 

普段から4時間睡眠のイレイザーはいつも通りに説明する。

 

「本日から本格的に強化合宿を始める。目的は個性の強化。お前たちが仮免を取得するには必須の訓練だ。と、言うわけテニ…爆豪、これを投げてみろ」

 

ベンでは思惑通りいかないと判断したのか、爆豪にソフトボ―ルを投げ渡す。それは以前体力テストで使用したものだった。

 

「前回の記録は705.2m…どれだけ伸びてるかな?」

 

挑発的な物言いの先生。爆豪は肩を回す。

 

周囲は期待する。入学から3か月。ヒーロー基礎学や体育祭、期末試験などを経て成長した実感はあった。今の自分たちは前とは比べ物にならない。そう信じて疑わない。

 

「おっしゃー爆豪!1キロいったれ!!」

「みせつけろ爆発さんたろう!!」

 

「誰がだクソ髪…ったく…んじゃよっこら‥」

 

【くたばれ!!】

 

FAABBOMM!!

 

物騒な言葉とともに白球は彼方へと飛んでいく。爆破の勢いを球に乗せることで記録は規格外のものとなる。しかしその記録、

 

「709.6メートル」

 

【!!??】

 

その差4メートル。彼の成長は数字で表すとたったそれだけ。当の爆豪は機器の故障を一瞬疑うがすぐにその考えを改める。

 

生徒のざわつきを収めるようにイレイザーは述べる。

 

「約3か月。様々な経験を経て確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも技術や精神面。個性そのものの成長は微々たるものだ」

 

そこで気づくものは気づく。この合宿の意義を

 

「これから君たちには“個性”伸ばしてもらう。死ぬほどきついがくれぐれも…死なないように」

 

全員に対して平等に刺さる言葉。個性は身体機能。ゆえに、鍛えようと思わなければ強くならない。これまでの人生で個性を強くするという考えに至らなかった彼らにとって、“個性を鍛える”ことは未知であり伸び代でもある。

 

しかし、個性のないものはどうすればよいのだろうか。

 

(オムニトリックスって鍛えられんの?)

 

1人、少年は首をひねった。

 

 




次回は個性伸ばし!!そして…


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75話 ヒーローの定義

オムニトリックスって、”使いこなすのが難しいもの”として描写されてましたかね?ベンは割と後半使いこなしてた印象なんですけど。もし誰かの手に渡っても、始めの方は大した使い方ができないのかなぁ。


【個性を伸ばす】現代社会でも良く言われる言葉。その人らしさを尊重する、多様性を重んじた教育。しかし、この世界の“個性”は普通の教育では伸びない。

 

ついてこいと言わんばかりに歩き始めたイレイザーに、切島は質問をぶつける。

「個性を伸ばすって具体的にどうするんですか?」

 

「“個性”は特殊能力であり、1人1人異なるものだ。だがあくまでも身体機能。筋繊維と同じく、酷使することで壊れ再生し強くなる。すなわちやるべきことは」

 

生徒は皆汗を垂らす。彼らの予感は正しかった

 

「限界突破だ」

 

相澤の口角が上がった。

A組に遅れて、B組も訓練所へ足を運ぶ。

 

そして、目に入ったのは地獄のような光景だった。

 

ひたすらに回転し込み上げる胃液を我慢する者。ショートするまで電気を出し続ける者。シンプルに殴り合うもの。洞窟からは悲鳴まで聞こえる。一体何が起きているのかわからなかった。

 

顔が青ざめていくB組生徒。その中で、唯一現状を理解出来た拳藤。どの地獄が一番自らの糧となるかを考え、周囲を見回す。すると、見慣れた茶髪がすぐ近くに突っ立っていた。

 

「ベン!…あんたは何してんの?」

 

「いや、ボクもわかんなくて」

 

要領を得ない答えを返すベン。質問を深堀しようとするも、のそりと歩いてきたイレイザーに阻まれる。

 

 

「テニスン…準備が出来たぞ。お前には他のやつと毛色が違った訓練をしてもらう」

 

「あれ、ボクだけ特殊訓練!?やりぃ!わかってるじゃんセン…ムグッ!」

 

無駄が嫌いなイレイザーはベンの口に捕縛府をまきつけ引きずる。連行されていくベンに対し、拳藤は苦笑い。

 

「大丈夫かなぁ?」

 

オムニトリックスの特殊性や強化訓練のハードさ。これらにベンが耐えられるか心配な拳藤。が、すぐにアメリカでのベンの活躍を思い出し、自らの訓練に務めた。

B組から離れたベンとイレイザー。捕縛府で引きずられてきたベンの前では、尾白と切島が互いに殴りあっていた。いや、正しくは尾白が切島を尻尾で叩いている。

 

これは、両者の硬度、強度の向上を狙っているとのこと。軽く説明したイレイザーは、ベンに指示を入れる。

 

「あの硬い奴になれ」

 

「硬い奴…?ああ、ダイヤモンドヘッドのこと?」

 

「ああ。早くしろ」

 

名前に頓着がないためぶっきらぼうに対応するイレイザー。ベンはというと楽しそうに変身する。

 

QBAAN!

 

「で、どうしろっていうんだ?」

 

「そのままそこに立っていろ。おい、切島、尾白そして…来たか…鉄哲。お前たちはテニスンに向かって攻撃をしろ」

 

つまり、ダイヤモンドヘッドを壁に見立てぶつけあうということ。現状最強の防御力を誇るダイヤモンドヘッドなら効率良く訓練できるだろう。

 

そして、

 

「テニスンは変身を維持し続けることを意識しろ。お前の最大の弱点は10分という短い変身時間とインターバルが必要なことだ。この合宿ではそれを克服してもらう」

 

確かに傍から見ればベンに弱点はその二つである。だがしかし、あくまでもそれはオムニトリックスの性能の問題であり、ベンにどうにかできることではない。

 

「あー…うん、わかったよ」

 

いまいちはっきりしないベンの返事を先生が聞いたところで訓練が開始した。

 

切島も尾白もさすがの攻撃力である。周囲には金属と金属がぶつかる音が鳴り響いていた。その重厚な音の間に鈍い音も聞こえる。これは尾白とベンの衝突音だろうか。もし生身の者がこの波状攻撃を食らっていたならばたちまちノックアウトされるだろう。

 

が、宇宙でも最高硬度を誇るのがダイヤモンドヘッド。傷一つつかず、逆に鉄哲の腕はへこみ、尾白の尾は青あざができ始め、切島の皮膚は剥がれかけていた。

 

(か、硬ぇぇ!!びくともしねぇし、かすり傷すらできねぇ…!俺は…この硬度まで達せられんのか…!?)

 

普段は明るく振る舞う切島だったが、あまりの実力差にネガティブな考えがチラついてくる。鉄哲、尾白も程度の差はあれ、ダイヤモンドヘッドの肉体強度に脅威を感じ始める。

 

依然動きは止めないが、3人の思考はネガティブなものなったとき、イレイザーの声がかかる。

 

「10分経った。さあテニスンここからが」

Pipipi

 

「あ、ちょ待」

 

QBAANN!

 

ボゴッ!!

 

「えッ!?」

「アッ!」

「げっ!!?

 

「…キュウ…」

 

体を急停止することができず、3人の攻撃は見事ベンにクリーンヒット。イレイザーは顔に手を当てて、ため息をつく。

 

(先は長いな…)

そこからのベンは、A組B組拘わらず、全員の個性強化を手伝う形で訓練をすることとなった。類似した能力同士を競わせることで、生徒たちはただ一人で訓練をこなすよりも能動的に挑めていた。以下はダイジェストである。

 

【爆豪・轟】

・出力最大の爆破及び炎を、ヒートブラストの火とぶつからせ続ける。出力と持続力を強化。

 

「なんで俺が半分野郎とセットなんだよぉ!!」

 

「テニスン。本気で来てくれ。俺も本気でやる」

 

「オーケー!!じゃ、頼むよヒートブラスト!!」QBANN!

「聞けやカスどもぉ!!」

 

「爆豪、俺もお前もテニスンより実力は下だぞ」

 

「急に喋りかけんじゃねー!!」

 

【麗日】

・キャノンボルトの中に入り、彼が転がることで自身の三半規管を鍛える。

GOROGOROGORO!!!

 

「だいじょうかオチャコ…」

 

「だ、大丈夫。予想以上に回るというかタイヤになった気分…よくベン君耐えれるね…」

 

「うーん。キャノンボルトは楽しいからなァ」

 

「さ、さすがベンk オロロロロロロ」

「うわぁっぁぁぁ!!?」

 

【飯田】

・XLR8と競争。山道を走ることで、足場が悪くてもフルスロットルに成れるよう強化。

 

「っはぁ、っはぁ、っはあ!!テニスン君さすがだな。俺が半分も走る前にゴールしているとは…」

 

両手を膝につき息を切らす飯田。その隣では余裕そうなXLR8が。

 

 

「そうだろ!」チュー

 

「ん?その容器は何だい?何を飲んでるんだい?」

 

「23スムージー!ゴールしてから暇だったから買ってきた」

 

「な!!それは明らかに校則違反だろう!合宿といえど、今は授業中だぞ!それは没収する!」

 

「やだね!どうしてもだめなら、捕まえてみな」BBYUNN!

 

「む…!いいだろう!インゲニウムの名を継ぐものとして、風紀を乱すものは許さん!」

 

【青山】

・アップグレードのレーザーと打ち合い。ビームの許容上限を増やすとともに、ビームがどのような攻撃なのかを身をもって体験することで、打ち出すイメージを再構築。

 

「テニスン君!君もサポートアイテムがないとだめなんだね!」

 

「えっ!あ、ああ。うん‥そうだけど…」

 

「…チーズあげる!!」

 

「なんで!?どっからだよ!?」

 

 

【小森、茨】

・ワイルドバインに対して個性を打ち続ける。植物の構成物質を参考にしあう。

 

「はっはっはぁ。そんな蔓じゃあ俺の蔓に敵わないぜぇ」

 

「何ということでしょう…聖なる鞭が野蛮なエイリアンに削がれてしまいました…」

 

「あたしのキノコで終わりノコ」

 

「…残念だったなァ。俺に胞子はきかないんだぁ。なぜなら俺は植物そのものだからなぁ!」

 

「ノコッ!?」

 

【緑谷、拳藤、佐藤、庄田その他増強系】

・フォーアームズVS全員で押し合い。彼を規定ラインまで押し込めば勝ち。プッシーキャッツの虎が監督。

 

「ほらほらぁ!!お前たちそんなもんかぁ!!オレの足はピクリとも動いてないぜぇ!!」

 

「お前たちぃぃ!!我―ズブートキャンプを思い出せぇ!!負けたらメニューは10倍だぁ!!」

 

(((この人たち暑苦しい!!無理だろ!この赤いの一ミリも動いてねぇよ!!)))

 

「心の中で弱音を吐いたなぁ!!メニュー20倍だぁ!!プルスウルトラだろぉ!!?しろよ!ウルトラ!!」

 

(この人だけジャンルも性別も違うんだよなぁ…)

 

全員が全員、ベンの能力を脅威に感じたところで一日目の訓練は終了した。

疲労困憊となった体を、皆で炊爨したカレーで癒す。

会話の中心は、もっぱらベンのエイリアンについてだった。

 

「テニスンさん。あなた、私なんかよりもよっぽど知識を蓄えていたのですね」

「へ?」

「あの小さなエイリアンに変身して、私の創作物を改造していたじゃありませんか。私の理解を超える道具もちらほらありましたし」

「あ…そう。まあ、ほら、ボクそういうところあるからさ。なんていうか…天才ってやつ?!」

 

鼻を伸ばしているベン。期末試験ではひどい目にあったし、自分のことを褒めてくれるのは波動だけだったので、今のこの状況は非常に心地の良いものだった。

 

がしかし、すぐにその夢見心地は瓦解する。

 

「そういえばテニスンの課題は変身時間だったよな?どうだったんだ?」

 

「うぐ‥」

 

上鳴の指摘に顔が崩れるベン。悲しいことに、今日一日の成果はなかった。オムニトリックスの変身時間は、“使えば使えば伸びる“という設定にはなっていないようだ。

 

ベンの表情を見て察したのか、すぐさま切島は話題をずらしてくれる。

 

「そ、そういや体育祭の時はなんかエイリアンが混ざった変身してたよな!あれにはもう成れねーの!?強さも2倍だしよ!」

 

妥当とも思える霧島の意見に、緑谷が割って入り見解を述べる。

「そうとも言えないよ。一体一体の力は弱まって見えたし…あ、ご馳走様」

 

緑谷の言葉の後、ベンは手首を持ち上げながら説明する。

「そもそもあの時はこれが壊れたからね」

 

「へー…なんか、その時計が無いと変身できないみたいだな!」

 

笑いながら切り返す上鳴。深く考えた発言ではなかったが、ベンは再び顔を歪ませる。

 

思わずぎくりとしたベンは、食事を追え離席した緑谷を追う。

 

「ふぃー…危なかったよ…オムニトリックスのことばれるかと思った…」

 

「皆、ベン君に注目してるからね。今日だっていろいろな人の特訓手伝ってたし」

 

そう言いながら、カレーをよそう緑谷。

 

「あれ?お代わり?」

 

「ううん。滉太君、ご飯食べてないだろうからさ。持って行ってあげようと思って。さっき、あの崖に向かうのを見たんだ」

 

「ふーん…ボクも行ってやるよ!一言二言文句あるし!」

 

「ええ…」

 

2人が向かったのは合宿所から少し離れた山崖。そこからは合宿所含め、山岳全域が俯瞰できる場所だ。

 

1人、体操座りをしていた滉太の元に、ベンと緑谷がやってくる。

 

「…なんだよ」

 

「あ、滉太君…お腹すいてると思って。カレー、皆で作ったんだ。よかったら」

 

「ふんッ…!」

 

緑谷達を見ようともせず、崖から遠くを眺める滉太。その姿に何を感じたのか、緑谷は声をかける。

 

「ウォーターホース…」

 

「っ!!?マンダレイか!?」

 

「ち、ちがうんだ!あの、時期とか、事件とかから考えて…その、すごく、かっこいいヒーローだった」

 

緑谷は年下相手にも拘わらずしどろもどろになる。滉太は背を向けて座っていたが、勢いよく立ち、地面を睨みつけながら捲し立てる。

 

「意味わかんねぇよ。パパたちも、敵も、お前らも!ただの人間がさ、ヒーローや敵を名乗って力を振りまいて!個性なんかがあるからこうなるんだ。ほんと、バカじゃねぇの!」

 

個性があるがゆえに、憎しみと救済の手段が実現し、負の連鎖が生まれる。滉太は超人社会そのものに嫌悪している様子だった。

 

緑谷の隣でおとなしく話を聞いていたベン。彼は、頭に回していた手をほどき、滉太の目の前へと歩く。

 

「なんだよ」

 

じりじりと滉太ににじり寄ったベンは、彼を指をさし、述べる。

「…あのさ、お前の言ってることは間違ってるよ」

 

「はぁ!?」

 

「力があろうとなかろうと、僕らは、ヒーローは誰かを救けるんだよ。力があるからヒーローじゃない。誰かを救おうとするからヒーローなんだ。」

 

思い出すのはヴィルガクスやゴーストフリークとの闘い。彼ら大悪党を前にしたとき、グウェンや拳藤、ねじれはたいした力の持主ではなかった。しかし、それでも彼女らは誰も見捨てなかった。

 

今まで戦いを経て、ベンは、ヒーローとはなにかを体で学んでいたのだ。

 

その言葉に、滉太は何も返事をしなかった。

ベンと緑谷が合宿所に戻ってきたとき、なにやら皆が広場に集まっていた。何事かと思ったが、

 

「お前らなにしてたんだよ!!もう始まってんぞ!!ポロリありの肝試し大会!!」

 

峰田から説明され、事態を把握するベン達。どうやら、合宿でのイベントの一つが行われているらしい。

 

ベン達がカレーを届けている間に一組目が森に入り、今中間地点だそうだ。

 

ペアが既に決められていたため、余ったもの同士のベンと緑谷は、再び森へと入る。

道中の会話は滉太についてだった。

 

「ベン君が滉太君にあんな言葉かけるなんて思わなかったよ」

 

「んー…ボクさ、無個性じゃん?小さいころ、じーちゃんに憧れてヒーローに成りたかったんだけど…グウェンに先行かれて、学校のやつらにも馬鹿にされて。それでも、本当に困ってる人を救けたいって思ったから、今ここにいる」

 

小学校の頃、自分や弱いものを虐めていたものを思い出す。彼らに対して、ベンは立ち向かいいつも負けていた。それでも、見て見ぬふりをすることはしなかった。

 

「今ならわかるんだ。これはただの時計。道具がヒーロー作るんじゃないって」

 

「そっか…」

 

緑谷は小さく相槌を打つ。自身もOFAを引き継ぐまでは無個性だった。緑谷にとってのオムニトリックス()である“OFA”も、誰かを救う為のものでしかない。それだけは揺るがないはずだ。

 

最近、不思議な夢を見た緑谷は、1人頷く

 

DOOOOOOOMMM!!

 

その時、地響きと、何かが焼げる匂いと、悲鳴がした。

 

「…っ!!?なんだ!!?」

 

疑問が浮かべると同時に周囲を警戒する。彼らの背中側から

 

「どうして敵がいるんだよぉ!!!」

 

という声が鮮明に聞こえる。

 

しかし、振り返る余裕はない。なぜなら、焦げる匂いがより濃くなってきたからだ。目の前から、なにかが近づいてきている。

 

2人は臨戦態勢に入る。一秒が何分にも感じられた。

 

数秒もすると、なぜか目の前の暗がりがほんのり明るくなり、敵が照らされる。

 

溶岩の左手にダイヤの右手。額から触覚が生え、その目は蛙のようにギョロギョロとうごめく。背中は黒と緑で機械的な皮膚で覆われ、昆虫のような羽が生えている。極め付けは、地球外生命体のような縞模様の尾。

 

一度見たら忘れそうもない、10種の異形を取り込んだ化け物は、緑谷とベンを確認し、にたりと笑う。

 

 

「よぉ、久しぶりだなぁ。ベン、ミドリヤイズク」

 

 




・訓練の組み合わせは「ストライクファルコン」さんの感想を参考にさせて頂きました!ありがとうございました!

・物語がやっと動きます!

・ベンは何気にヒーローの素養はあるんですよね。非常時とか、弱い者いじめを発見した時は(笑)


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76話 戦闘開始

よく考えたら、エイリアンごとに性格変わるってやばいんじゃ?と思う今日この頃。




陽はとっぷりと落ち、月明かりだけが彼らを照らす。

 

皆が楽しみにしていた林間合宿。彼らの夏休みの思い出は、一瞬にして、悪夢へと変わった。

 

【敵襲撃!敵襲撃!直ちに合宿所へ戻れ!雄英生ヒーロー科!直ちに合宿所へ戻れ!】

 

緑谷とベンの脳内に響くマンダレイのテレパス。撤退の指示が出されるが、2人にはもうその選択肢が残されていない。

 

その原因は目の前の敵。人とは思えない、異形系の個性とも思えないその姿。まさしく、エイリアン然とした化け物は、緑谷とベンの名を口にした。

 

「おいおい、さっそくお前らかよ!運がいいぜ全く!!」

 

「ケビン!?どうしてここに!?」

 

ベンの驚愕で緑谷は思い出す。

 

USJ襲撃時、爆豪、轟、ベンら4人でなんとか互角だった敵、ケビン=レビン。あの日、エイリアンDNAが暴走したケビンは、緑谷の踵落としを食らった後、エイリアン10体が入り混じった姿へと変貌した。

 

「どうしたもこうしたも、お前らをぶっ殺すために決まってんだろぉが!お前たちのせいで、俺はこの醜い姿から戻れなくなっちまった!!」

 

「そ、そんな!」

 

彼の言葉は緑谷にショックを与える。自分のせいで彼の異形化が解けなくなったかもしれない。全てを救うヒーローを目指す彼に、その事実は耐えがたかった。

 

だが、隣のベンは違う。

 

「そんなの知るかよ!そもそも元からお前は醜い奴だ!ただそれが表に出ただけさ!!」

 

ケビンを指さし、勇ましく敵を論破するベン。その片腹、緑谷の背中を叩き鼓舞する。

 

ベンの言葉に青筋を浮かべるケビン。左手の炎が燃え上がる。しかし、一息つくと、ニヤリと目を細める。

 

「まあ…いいさ。この体はこの体で悪くねぇからな…それに…ここにいるやつら全員、皆殺しにできると思えば安い代償さ!」

 

4本ある腕の一本で、自身の胸をドンと叩くケビン。

 

その言葉で、あることに気づく緑谷。

 

「…滉太君!!」

 

敵襲撃は、さきほど緑谷達がカレーを届けてからそれほど時間が経っていない。であるならば、今現在合宿所から離れた場所に、滉太が一人でいる可能性は高い。

 

「ああ‥?なんだってぇ?」

 

聞き返すケビン。

 

ケビンを睨みながら、頭をフル回転させる緑谷。

 

おそらく、簡単に逃がしてくれる敵ではない。また、この敵を、皆が集まっている場所にやるわけにもいかない。

 

口に手を当てブツブツとつぶやいた後、悔しそうに緑谷はベンに提案する。

 

「ベン君!滉太君を助けに行って!」

 

「えッ…あ!けど、それじゃイズクが…」

 

彼の言葉でベンも滉太を思い出す。しかし、緑谷を1人残して大丈夫だろうか心配する。USJの時にはクラストップ4人でなんとか倒せた敵。成長したとはいえ、倒せるとは思えない。

 

ベンの問いに、緑谷は覚悟を決めたようにケビンを睨みつける。

 

「大…丈夫…!!」

 

意を決した緑谷は、ベンに有無を言わせぬ迫力があった。笑顔、いや引き攣った顔といった方が正しいだろう。だが、それでも彼は笑った。憧れの人を思い出しながら・

 

体からバリバリと緑色の火花を散らす緑谷。既に両こぶしを握りしめ臨戦態勢。

 

「…頼んだぞ、イズク!!」

 

そう言葉を掛け、ベンは正面の道から反れ、獣道を走りだす。

 

「はっ!!逃がすわけねーだろ!!」

 

ケビンは左腕を突き出す。彼の左腕の一本はヒートブラストの性質を発現しており、炎の球を一瞬で作り出す。かつて森を燃やし尽くしたその炎は、ベンに向けて発射。

 

BOOHW!

 

しようとするも、その左手は緑谷により蹴り上げられ、炎球は夜空へと舞い上がる。

 

「お前の相手は、僕だ!!」

 

ケビンはめんどくさそうに後頭部を摩りながら、緑谷へと目を向ける。そして、一呼吸置くと、リップジョーズの歯をむき出しにして笑う。

 

「お前にも借りがあったからなぁ…ミドリヤ…いいぜ。まずはお前からぶっ殺す!!」

 

夏休みに似つかわしい、オレンジ色の花火が上がった。

「お、なんか花火が上がったぞ。此処の眺めはいいなぁ、坊主」

 

所変わって、合宿所から離れた断崖。

 

珍しいお面をかぶった大男は、滉太の元へにじり寄る。

 

身長は2メートルほど。全身の筋肉は軍人のように鍛えられているが、その言動から「規律」といったものは微塵も感じ取れない。

 

被っていたローブを脱ぎ去り、一歩、一歩とゆっくり滉太へと歩み寄る。滉太も当然後ずさるが、一歩の大きさの分、大男が徐々に近づく。

 

「あっちぃんだよ、このローブ。それによ、このお面ダセェだろ?それに比べて」

 

彼の右目が、滉太の帽子を射抜く。

 

「…お前の帽子、いいな!」

 

「ひっ!?」

 

目の前に来た男の髪は金色に染められている。その頭髪から、滉太は少しずつ思い出す。父と母が報道されていたテレビを。

 

【ウォーターホース…実に勇敢なヒーローでした。

ですが、彼らの尊い命は、1人の敵に奪われました】

 

【犯人は現在も逃走を続けており、

警察とヒーローは行方を追っています】

 

【身長は2m30㎝。大柄で、個性は増強型です】

 

【この顔を見かけたらすぐに110を】

 

背を向け走りだした滉太。が、男は難なく回り込む。

 

恐怖で足が止まる滉太に対し、腕に繊維を付けたしながらその男は腕を振り上げる。風でお面でカラリと落ち、滉太の目の前に来た顔には

 

【なお現在左眼には、ウォーターホースに受けた傷が残っていると思われ】

 

なにかで削られたような痛々しい傷と、禍々しい義眼が入っていた。

 

「景気づけに一発やらせろやぁ!!!」

 

「パパ…!ママ…!!」

 

DDGOOMMMM!!

 

崖全体が震える。強風で草木がなびく。砂ぼこりが周囲に舞う。その強烈な破壊音は森全体に響き渡った。

 

砂ぼこりで何も見えない滉太。ただわかるのは…

 

自分になにも危害が加えられていないこと。

そして、殴られる寸前、()()()()が見えたこと。

 

砂ぼこりは、そいつに払われる。そいつはケホケホと咳ごみながらも、滉太へと視線をやる。

 

涙を浮かべた滉太に対し、4つ目の彼は、笑顔で

 

「大丈夫か、クソガキ」

 

悪態をつく。

緑谷と別れてから、ベンはすぐさまフォーアームズに変身した。敵襲撃という見通しが立たない状況では、何にでも対応できるパワー型が良いとの判断。

 

そして、滉太がいる崖の下部から、ジャンプ一つでここまで来た。結果は間一髪。滉太が拳を入れられる前に、彼が敵にパンチを打ち込んだ。

 

敵はギリギリガードに成功するも、勢いで後退する。足で砂をつかみながら、ようやく勢いが死んだところでクロスした腕を解く。彼の顔には、ウォーターホースのつけた傷がはっきりと入っていた。

 

「あっ、あいつが、血狂いの、ま、マスキュラ―だ!ウォーターホースを…ぼ、僕のパパとママを‥‥殺した奴だ!!!」

 

言葉を詰まらせながら、フォーアームズに訴える滉太。その言葉に先に反応したのは血狂いのマスキュラ―。

 

「ああ…?…ああ!お前、ヒーローの息子か!覚えてるぜぇ、なんせ俺の左眼を持っていきやがったやつらだ。

 

ああ、そうか、ヒーローの子どもに、フォーアームズ…おいおいおいおい!!運命的じゃねぇの!?」

 

1人興奮し始めるマスキュラ―。そんな彼になにか違和感を覚えるも、フォーアームズは冷静に返答する。

 

「勝手に運命感じるのは構わねーが、今のうちに尻尾巻いて逃げることをお勧めするぜ?次のパンチはさっきの比じゃないぞ」

 

「はっはぁ!そりゃお互い様だぜ!フォーアームズ!!オレの個性しってるか?知らないよな!教えてやるよ!!」

 

昂りながら、マスキュラ―は個性を発動させる。彼の腕に、わさわさと赤い繊維が纏わり始めた。その繊維は肩、首、背中、足へと浸食を始め、ついには赤い何かに覆われたマスキュラ―がベンの目の前に立っていた。

 

「うぉっと…えらく不細工になったもんだな。といっても、素の状態でも俺より不細工だが」

 

「ははっ!!言ってくれるじゃねーか!俺の個性は筋肉増強!自由自在に筋繊維を増殖させて、速さ、強さを底上げする!!」

 

今までの倍ほどの大きさになったマスキュラーは、息を荒げながら説明を始める。

 

「この姿で遊ぶのは初めてなんだよ!!なんせ、その前に簡単におっちんじまうからな」

 

高らかに笑いながら、マスキュラ―は拳を作る。フォーアームズは構えるも、マスキュラーから攻撃意思を感じない。彼は、何を思ったかその拳を地面へと叩きつける。

 

CCRAAAACK!!

 

拳は地面に叩きつけられ、その力は留まること無く崖下まで突き進む。ベン達の視点からは、わかりづらいが、側面から見れば一目瞭然。

 

数十メートルにもなる崖には、頂上から地面まで一筋の亀裂が入っていた。

 

自慢げなマスキュラーはベンの反応を伺うが、大したリアクションは見られない。すこしつまらなそうに舌打ちをした後、今度は嬉々としてベンに問う。

 

「楽しみにしてたぜ!?お前との力比べ!!」

 

「…そうか、謝るなら今のうちだったんだけどな!」

「へっ!とにかく…遊ぼうぜ!!!」

 

個性により筋肉を張り付けたマスキュラーは、4本腕のエイリアンにとびかかった。

 




・展開が遅いかもしれませんが、この辺は残り少ないクライマックスですので丁寧にやるつもりです!どうかお付き合いください!

・ベンと緑谷がタッグを組むのはもう少し先です…なにげにベンって、この小説内では色々な人と共闘してる気がする(笑)

・感想、評価がありましたら是非!


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77話 エイリアンDNA

・この章はこの作品でトップクラスの展開になると信じてます。
・緑谷は原作のクラス対抗戦くらいの力に成長してます。なぜかって?ベンの存在によるバタフライエフェクト!(適当)


過疎地に似つかわない衝撃音。プッシ―キャッツの所有する広大な森は敵と生徒が入り乱れる死地へとなり変わっていた。

 

森の中央では不審なガスが蔓延しており、生徒は1人、また1人倒れていく。敵の数はヒーローより多く、どうしても後手後手となる。

 

中央から少し外れたところ。肝試しができる程度には道が整備されている場所では、多種多様な暴音が鳴り響いていた。

多少身体能力を向上させたところで生身の人間。この異形にはかなわない。

 

ケビン=レビンはそう思っていた。しかし、ベンが彼らから離れて数分、状況は一向に面白くなかった。

 

その理由は、目の前の緑谷に他ならない。

 

「っちっ!!」

 

いら立ちを露わにしながらケビンは右手を構える。と同時に緑谷は道から外れ、後方に下がる。

 

ケビンの手からは結晶の礫が発射。それはダイヤモンドヘッドが得意とする遠距離攻撃。が、緑谷は身を大木に隠し、礫はその木の幹に刺さる。

 

続けざまに左手で炎球を作る。それを見るなり、緑谷は姿を現す。

 

「食らえ!!」

 

WWOOFFM!

 

速いとは言えないが、決して遅くないスピードで迫る炎。

 

緑谷は物おじせず、左足で、地面を踏みぬく。

 

DDOMM!

 

その左足の力は反作用の効果で、地面は割れ、土壁となり炎球を受け止める。いくら彼の炎だとて、土くれを燃やすことはできない。

 

(防御、逃走、防御!ちょこまかちょこまかしやがって…!!)

 

木々が密集しているこの場では、小回りが利く緑谷が有利か。そう判断したケビンは、背中を羽を羽ばたかせ、闘いの場を空へと変える。

 

風を切る羽音とともに、ケビンは上昇していく。が、緑谷の表情は好転していた。

その場で軽くジャンプし、空中のケビンに向かって、蹴りをいれるしぐさ。

 

その瞬間、彼の右足周りに風圧が発生し、ケビンの羽へと直撃する。

 

その影響で、空中での制御がぶれるケビン。その隙を彼は見逃さない。

 

今度は大きく跳びあがり、空中のケビンの元へとたどり着く。

 

(ダイヤモンドヘッドの左手を構えた!この距離でってことは…礫攻撃!)

 

常に10%OFAフルカウルを発動している緑谷。ケビンの仕草を見た瞬間、素早く木々に身を隠す。

 

トス!、トス!、トス!と盾にした木にダイヤのダガーが刺さる。その刺さり具合に違和感を覚えるも、気にしている場合ではない。

 

(次はヒートブラストの右手!このままじゃ木ごと焼かれる…だから!)

 

今度は前に出て、左足の出力を上げる。痛みはあるが、コントロールはできる出力。火花がバチバチと出る左足で、足元の地面を踏みぬく。

 

硬く乾燥した地面は、力が込められた部分のみが砕け宙に浮く。その土壁にケビンの炎は吸い込まれ、ジュっと音を立てて消えていく。

 

爬虫類のような目を見開いたケビンは、舌打ちをしながら羽を羽ばたかせる。その上昇スピードで、()()()()に気づいた緑谷。

 

(しめた!)

 

今度は右足の出力を高める。全部位の出力を上げることはまだ苦しいが、部分的にならば、普段の倍は力を出せる。

 

軋む右足を轢き、空中に漂うケビンに対して、

 

セントルイススマッシュ!!)

 

脚部による空気砲を放つ。オールマイトのニューハンプシャースマッシュから着想を得たこの技。許容上限出力が25%まで上がった今の緑谷だからこそ放てる技。

 

風圧は木の葉を散らせながらケビンを包む。強風で思わず羽の動きが散漫になる。ただ浮いているだけとなったケビンに対し、緑谷は跳びあがり、

 

15%デトロイトスマッシュ!!」

 

SMMASHH!!

 

ケビンの右頬に、正義の鉄拳が繰り出される。

 

そのままの勢いでケビンは地面へと急降下、墜落する。

 

頬に痛みはない。あの程度のパンチは大したダメージはない。が、この展開には鼻持ちならない。

 

目の前の緑谷は依然見せた、驚異的な超パワーも出していない。

 

にも拘わらず場をコントロールされている状況が腑に落ちなかった。

「なんで…!!」

 

思わず口をついて出た疑問。そんな彼に対し緑谷は律義に答える。

 

「お前は前より弱くなってるんだよ、ケビン=レビン」

 

「…ああ?!なわけねーだろうが!!オレはケビン11!

ベンのエイリアン10体に、俺自身の力が合わさった、最強の敵だ!」

 

そう言って高速起動に移り、緑谷の視界から姿を消すケビン。だが緑谷は焦らない。なぜならば、この能力は知っているから。

 

左足を軸にして、くるりと体をひねる。そして、回転の勢いを利用して、右脚蹴り。

 

右足の到達点には、ケビンのこめかみがあった。

 

「っがっ!!?」

 

背後を取ったはずなのに、緑谷に見えないスピードのはずなのに、なぜか攻撃が決まらない。まるで、何をするか読まれているかのように

 

こめかみをおどろおどろしい獣の手で抑えるケビンに、緑谷は言葉を掛ける。情けはなく、ただ、自分が気づいた事実を淡々と。

 

「お前はベン君の力を吸収したんだろ?でも、力が10倍になったわけじゃない。それぞれの力が10分の1になってるだけなんだ」

 

木に刺さったダイヤのダガーにチラリと目をやる。本来の硬度ならば、木にえぐりこんでいてもおかしくない代物だが、ケビンの礫はヒビは弱弱しく木に刺さっているだけだった。

 

「ああ!?」

 

反論しようにも、彼の体たらくがそれを証明していた。

 

「…だが…それでも…!ベンの野郎と同じ力を持ってるんだぞ!?なんで…お前みたいな普通の人間に、俺がやられるんだよ!!」

 

BETYAA!BETYAA!

 

悪態をつくとともに、喉から緑色のヘドロを吐き出す。

スティンクフライの粘着液は、2,3発が緑谷へと向かうが、緑谷は一瞬だけOFAの出力上げ、容易に回避する。

 

そして、出力を10%に戻し、ケビンとの間合いを詰める。

 

「決まってるだろ…!」

 

ジグザグに走ってくる緑谷に、再び炎の弾を繰り出す。しかし、予備動作が大きすぎて、軽く避けられてしまう。

 

互いの拳が届く距離になり、緑谷が右腕を引く。

 

緑谷も戦闘技術が未熟であるため、その挙動から何が打たれるかはケビンも予測できた。

ケビンは、ダイヤの右腕一本でガードを試みる。

 

が、それは、緑谷の思惑通りだった。

 

OFA100%でも、ダイヤモンドヘッドの装甲を破ることは不可能である。少なくとも、本人にダメージが入ることは無い。

 

それほどの鉄壁を誇るのだ。一時期ダイヤモンドヘッドに成れたケビンもその硬度に舌を巻いたものだ。

 

しかしながら、今のケビンは、ケビン11。そのダイヤの硬度も10分の1となり、無敵の盾は、それなりに硬い盾にしかならない。

 

そして、それなりの盾であれば、

 

(OFA100%!)

「DETOROIT…」

 

 

SMASSHHHHH!!

人類で最もエイリアンに近い個性であるOFAが、ぶち抜けないわけがない。

 

ケビンの左手は砕け散り、緑谷の拳はその先の顔面に届く。

 

渾身の拳は右頬をえぐり、ケビンはその勢いのまま木々を折りながら吹っ飛んでいく。

 

紅い皮膚は内出血でどす黒くなり、歯も数本飛んでいる。さすがのタフネスで意識までは飛んでいないが、これまで一度も経験していない痛みに打ち震える。

 

(こんなガキに…)

 

精神的にも、肉体的にもダメージを負った。ケビン。

目の前の緑谷が右腕を抑えている。おそらく反動が来たのだろう。

 

だが、まだ左腕も、両足も生きている。このまま戦っても勝ち目はないかもしれない。緑谷の読みに恐怖し、自身の弱さに悲観するケビン。

 

…そんな彼の視界の端にあるものが映った。それは、さきほど飛ばした、ヘドロと炎。

 

燃え盛る炎が地面に付着したヘドロに触れた瞬間、BOMM!と爆発を起こす。

 

ケビンの中の、10分の1のグレイマタ―が何かに気づいた。

一方、断崖のベンとマスキュラー。パワー型VSパワー型のド派手な勝負。えてしてこう言う戦いは実力が均衡しがちだが、今回は一方的なものとなっていた。

 

個性“筋肉増強”により溢れ出る筋繊維を全身に纏わせた彼は、防御力、攻撃力、機動力全てにかけて大幅にパワーアップしている。パワーだけならワンフォーオールに勝るとも劣らない。

 

がしかし、それでもその力は「人間」の範囲内であった。

 

地響きを立てて彼は肉迫する。右腕が空気を切り裂きながらフォーアームズの顔面に向かう。

 

パアン!!と筋肉と筋肉がぶつかる音。派手な音とは裏腹に、彼のパンチは難なく2つの左腕で受け止められた。

 

フォーアームズは受け止めた拳を離さず、マスキュラーの動きを封じる。そして、2つの右拳を容赦なく叩きつける。

 

DDOOMM!!!

 

筋肉の鎧があるため、致命傷にはならないものの、圧倒的パワーの差で崖に埋め込まれるマスキュラー。

 

「がっ!??」

 

この戦いを近くで見ていた滉太も口を開けて呆けている。先ほどまで浮かんでいた、恐怖による涙もすっかり引っ込んでいた。

 

滉太の目の前にいた殺人鬼は、紛れもなく人類トップクラスの力を持つ。このヒーロー飽和社会で殺人を犯し、なお逃げおおせた猛者である。

 

実際、彼の腕一本とフォーアームズの腕一本では、マスキュラー有利であろう。それほどの実力者だ。

 

だが、それでも、種族の壁を超えることは叶わない。たった一人の、エイリアンDNAの劣化版ともいえる“個性”で、宇宙トップクラスのテトラマッド(フォーアームズ)に敵うわけがない。

 

 

戦闘開始から、そろそろ7分が立つ。変身時間が10分に限られているベンにとって、ここまで粘られることは意外だった。しかし、瓦礫に埋もれたマスキュラーを見て時間の問題だと悟る。

 

「ほらほらどうしたぁ!?さっきまでの威勢は何だったんだよ!すっかりその偽筋も剥げてきてるじゃねぇか!」

 

酷使された筋肉はぽろぽろと千切れていく。マスキュラーの弱点はベンと同じく継戦能力。大概の相手は本気を出すまでもなく殺し、また本気を出せば瞬く間にチリになっていった。そのため、この弱点が彼のウィークポイントとなったことは一度もなかった。

 

初めて、己の人生で初めて、本気を出してなお惨敗寸前という状況に、彼は複雑な感情を抱えた。

 

なぜなら

 

「…あの野郎の言う通りじゃねぇか…」

 

「ああ?」

 

砕けた岩塊の中からぼそぼそと声が聞こえた。はっきりとは聞こえなかった。声からしても、筋肉からしても、マスキュラーは限界であろう。

 

フォーアームズはそう判断した。だが、今の彼は油断しない。後ろには守るべき対象がいる。今までのような、“自分だけ”の、“自分のため”の戦いとは違い、今回は頼まれた。

 

他でもない、友達に。

守ってくれ、と。

(イズクのやつ、だいじょうか…?)

 

目の端で森を伺うベン。4つの目のうち半分は遠方を確認していた。

 

だが、

 

ガラリ

 

と岩が崩れる音に反応して、再び注意を敵に戻す。

 

大小さまざまな瓦礫の中からは、軽く俯いたマスキュラーが出てくる。

 

「ほぉ。まだ向かってくるのか」

 

「ああ…まあ、もうちょい遊んでいたかったが…しょうがないよなぁ」

 

どこか悔しそうな、それでいて楽しそうなマスキュラー。

 

そしてその様子に違和感を抱くベン。しかしマスキュラ―は躊躇なく距離を詰める。先ほどの殴り合いで負けたことを忘れたかのように。

 

 

そもそもスピードではマスキュラーが同等かそれ以上。フォーアームズは集中して敵の動きを見る。

 

(両腕で…!)

 

ガシン!!

 

マスキュラーの両手とフォーアームズの4本腕が組まれる。ラグビーのスクラムのように、顔と顔がくっつきそうなほどの密着。

 

互いに正面を向き合い、目の前に来る顔を睨み合う。

 

先ほどと違い、ただ無感情に力を込めてくるマスキュラー。しかし、力比べは依然としてベンが有利。

 

グググとベンがすぐさま優勢になる。徐々に徐々に、敵は押しだされ、崖っぷちまで追いやられる。

 

そして、そのまま地面に叩きつけようとフォーアームズは4本腕の筋肉を強張らせる。

 

その時、彼の鳩尾に衝撃が走る。

 

DOM!!

 

「がはっっ!!?」

 

思わず唾が口から飛び出る。

 

(は!?)

 

息が乱れる。吐き出された唾が地面に着く前に、今度は顔面にパンチのラッシュ。

 

何発、何十発ものパンチがベンの顔を捕らえ、視界がかすむ。

 

そして、思わずたじろいだ瞬間、マスキュラーはベンの胴に腕を回し、

 

「うおらぁぁ!!」

 

先ほど自分が叩きつけられた崖壁に、意趣返しのようにぶん投げる。

 

DDGGDAANNN!!

 

頭から崖にぶつかり、脳が揺れるフォーアームズ。衝撃で崖は再び崩れ、岩塊が彼に降り注ぐ。

 

ふらつく足取りながらも、頭上の岩雪崩を4本腕で捌き、なんとか急を脱する。が、さすがに息がきれる。

 

「っはぁっはぁ!!」

 

顔を下に向け、酸素を取り込みながら一連の流れを脳内再生するベン。

 

お、おかしい…さっき俺は…確実に腕をつかんでた!なのに…急に鳩尾にパンチが!?そんなことありえないだろ!?そんな…)

 

もしかしたらパンチではなく蹴りを入れられたのかもしれない。そんな希望的観測をもって顔を上げたベン。彼の視界に入ったのは、予想だにしていない、いや、予想はしたが有り得ない、有り得てはならない光景だった。

 

「なあフォーアームズ…俺言ったよな?お前に会えて運命的だって!なあ…言ったよなあ!?」

 

首をコキリ、コキリと鳴らすマスキュラー。その首には左手が添えられている。

 

「最初は考えたよ…こんなもん、俺の力じゃねぇんじゃないかって…だけど今ので…わかっちまったよ…」

 

そして、もう()()()()()はズボンのポケットから何かを取り出す。

 

 

「俺はどうしようもなく、ただただ、圧倒的力で暴れたいだけなんだってなぁ!!」

 

失った左眼に、おぞましい紅の義眼をはめこんだマスキュラー。先ほどとまでとは打って変わって、冷静に、ただフォーアームズを見下ろす。そんな彼の脇腹からは、もう1組の腕が生えていた。

 

まるで

「お、俺の!!??」

フォーアームズのように。

 




・長くて申し訳ないです…

・この展開をやりたかった…!!原作では、アニモ博士がウォッチを利用して動物改造してましたが、今回のマスキュラー実験に関わったのは彼だけではありません。



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78話 ハイブリッド

一日遅れて更新!できれば金曜までに上げたかったんですが…


 

「血ィ…見せろやぁ!!」

 

マスキュラーは腕を振り上げ迫ってくる。スピード勝負では分が悪いフォーアームズ。足で地面をがっちりと噛み、握りしめた拳で敵を迎え撃つ。

 

GGANN!!

 

マスキュラーの腕は筋肉を纏い、胴体ほどの太さへと変貌している。その腕に右腕2本で対抗する。もちろん力勝負はフォーアームズに軍配が上がる。先ほどまでなら。

 

「はっはぁ!!」

 

BACHIN!!!

 

今は敵も4本の剛腕を携えている。空いていた方の右腕をマスキュラーは雑に振り回す。パンチにもなっていない粗雑な攻撃だが、予期していないベンには十分な威力。

 

横っ面にビンタを食らい、歯がガチャリと音を立てる。

 

アイデンティティでもある自慢の4本腕。それが今、自分に牙をむいている。

 

DDGGAA!!BBAKII!

 

「がっ!っぐ!!」

 

敵の攻撃を受け止めても、すぐにもう一方の腕が襲い掛かる。距離を取ろうにも、後ろに滉太がいるため大逃げはできない。そもそも俊敏性ではマスキュラー有利。時間切れも刻刻と迫ってきている。

 

なんとかして隙を…

 

そこでフォーアームズは閃く。

 

「滉太ぁ!耳塞げ!」

 

突然名を叫ばれ一瞬戸惑うも、すぐに両手を耳に当てる滉太。

 

「おらぁぁ!」

 

PAANN!!!

 

第一腕、第二腕、両者を完璧なタイミングですり合わせ叩く。マスキュラーに向けられたその手からは、轟音と豪風が飛び出す。予想外の遠距離攻撃に目が萎むマスキュラー。

 

その隙を見逃さず、壁を足場にしてベンは敵の視野外へと移動。

 

マスキュラーが正面を向く前に打ち込むのは

 

「TETORAMADD PANCHI!!」

 

4つの拳を一点に集約させる殴技。正真正銘、フォーアームズの最大火力だ。

 

暴風を巻き起こしながらパンチが繰り出される。そして拳が顔面を捕らえる時、

 

 

マスキュラーの2()()()()()()がきらりと光る。

 

「それを待ってたんだよぉ!!」

 

瞬間、マスキュラーの第一右腕から筋肉があふれ出す。そして、第一右腕と第二右腕と結んでいく。ぎちぎちと締め付けるように合体していく2つの腕。完成したのはもう腕ではなく、大筋肉塊であった。

 

その俊敏性で正面を向いたマスキュラー。その腕は先刻より何倍にも膨れ上がり、ミチミチと音を立てている。

 

4本腕、4つ目というフォーアームズの因子と、筋肉増強という自身の個性を最大限まで生かした形態。シルエットはもはや人間ではなく、

 

宇宙人(エイリアン)かよ…」

 

DDGGGOONN!!

QBANN!

 

その音で意識を取り戻す。だが、まだ目の前は真っ暗だ。

 

(岩…に…埋もれてる?)

 

なぜか全身が痛む。意識が朦朧としている中、目に汗が垂れてくる。

 

(…)

 

垂れる汗を拭うと、いやにねっとりとしている。そこで自分が血を流していることに気づく。

 

「はっ!!?」

 

右腕で瓦礫を退かそうとするも、上手く動かない。今度は左腕で瓦礫を退かす。

 

ガラリと岩塊が崩れ、視界が開ける。そこから見えるのは月と、森と、そして、

 

マスキュラーの巨腕に垂れ下がる滉太だった。

 

事態をすぐに理解し、止めに入ろうとするベン。しかし、

 

「やめっ…うぐっ!!?」

 

右腕を確認する。関節は逆方向に折れ曲がっており、肘から下の骨は砕け散っていた。律義に神経はその激痛を伝えてくれる。フォーアームズの姿で負った怪我がフィードバックしてきたのだ。

 

「お!起きたかベン!ちょうどいいとこだなぁ!今からこいつを殺すんだよ!」

 

「っや…やめろ!!お前の相手はボクだろうが!」

 

「で、お前は負けたんだろ?お互いに正々堂々力比べをして」

 

「な、なにが正々堂々だ!お前…フォーアームズをパクったんだろ!!」

 

「ははっ!まあ確かにそうかもなぁ!けど、お前がやったことだろ?」

 

「…なんだって…?」

 

「ああ…お前じゃないのか…ややこしいぜ、ったく…とにかく、俺は誰よりも早く適合したからここにいる。そんで、お前の中で一番のやつに勝った。じゃあもう…お前はなにもできねぇなぁ?」

 

ギリギリと手の力を強める。滉太は涙をポロポロ流しながら、ベンを見る。彼の口は、小さく、とても小さく、

 

た 

す 

け 

て 

 

そう動いた。

 

「!!う、うぁぁぁぁぁ!」

 

オムニトリックスも見ずに、ボロボロの右腕を振り上げマスキュラーに挑む。不格好に走り、ベンは目の前の敵へと立ち向かう。その時、

 

BAASSHHNN!!

 

背後から黒い何かがマスキュラーを襲った。

時はベンの変身が解ける3分前に遡る。

 

緑谷の全力をまともにくらったケビンの頬は、見るも無残に腫れあがっていた。まだ立てることは立てるが、そう何発も受け止められる威力ではない。

 

対して、緑谷の右手も故障していた。100%に耐えられる体ではないため、彼の腕は内部から爆発したように煙を出す。

 

しかし、緑谷は自身が優勢だと判断。

 

ケビンの攻撃スタイルは全てベンの劣化版。右腕はもう使えないが、まだ左腕と足がある。

 

自分の体を勘定に入れない緑谷にとって、1対1は最も得意する場面だった。目の前の敵に勝利すればよいだけ。それならば、OFAの力をフルに発揮すれば難しいことではない。

 

 

 

「おとなしく降参しろ!いくらお前でも今のは効いたはずだ!お前はベン君に遠く及ばない!」

 

最後の警告。だが、ケビンは不気味に笑っている。先ほどまでの苛立つ様子は見えず、妙に余裕な態度。

 

「?…なにがおかしい!」

 

「いや…?」

 

体を起こし、軽く伸びをするケビン。2メートルを超すその体躯は改めてみると化け物だ。

 

(ダイヤモンドヘッドとヒートブラストの腕。スティンクフライの羽にXLR8の尻尾…10分の1の力とは言え、それでも並の個性じゃ太刀打ちできない…やっぱり、こいつは僕が!)

 

警戒する緑谷を前に、ケビンはなにやら自分の体をじっと見ている。たまに手元で結晶や炎をパチパチと放出させている。爆豪が苛立った時、掌で爆発させるように。

 

(なにか…試している?なら…!)

 

緑の閃光を身に纏い、先手を取りに行く。と同時にケビンも動く。

 

「おし…行くぜ!!バッ!!」

 

BBUTYA!!

 

駆けだした緑谷に向かって吐き出されたのは、スティンクフライの粘着液。

 

スライム上のヘドロが地面に撒かれる。赤い靴の少し前方には緑のヘドロ。かすりもしなかったが、出鼻をくじかれた緑谷。

 

間を置かずケビンは左手を突き出す。

 

(…ヒートブラスト!!)

 

その挙動で次に何が来るかを予見する緑谷。炎が発射される前に地面を割り抜き、土の壁を表出させる。

 

「おら!」

 

先と違い真面目な顔で、ケビンは炎を打ち出す。その方向にはもちろん緑谷。しかし、今までとは弾道が違う。目線よりも下に打ち出された炎球は、地を這い、そして、地面の粘着液に着弾する

 

瞬間、

 

BOOOMM!!!!!

 

「がっ!!??」

 

爆発が起きる。発生した熱と風圧は、土壁を破り緑谷を襲う。思わぬ衝撃に踏ん張れず後退する。

 

(なにが起きた!?爆発!?まるでかっちゃんの!…けどなんで!?)

 

「おっしゃぁ!やっぱりなぁ!わかったぜ…()のことが!」

 

4つの腕で歓喜を表すケビン。ガッツポーズを見せつけるように腕々を振り上げる。

 

「次は…これでどうだぁ!」

 

結晶の右腕と炎の左腕を前に持っていき、掌を相手に向けて合わせる。エネルギー波を打つような姿勢から発射されるのは。

 

「おらぁっっ!!」

 

BASHHUN!!

 

ゴスン!とダイヤが大木に刺さる。

 

緑谷の頬は一拍おいてスパリと斬れる。一筋の傷跡からは、遅れるように血がダラリと流れていく。

 

(!?ダイヤモンドヘッドのダガーをヒートブラストの炎で押し出したのか!なら、さっきのは…粘着液に炎を引火させた!?そんな、まさか!?)

 

驚いた表情の緑谷。そんな彼を見て高らかに笑うケビン。

 

「おいおいおい!やべーな!俺は!俺はもっと強くなれる!これならベンの野郎も簡単にぶっ殺せる!」

 

DANN!!

 

その場から跳躍し、木々へと飛び移る。そして、縦横無尽に、木々と空をトビ回る。

 

(今度はワイルドマットの俊敏さに…スティンクフライの空中機動!?グラントリノ並の速さに…変則性まで…くっ!)

 

無理やりOFAの出力を上げ、反射能力を向上させる。さらに、木を背にすることで死角を極力無くす。

 

「ばぁっ!!!」

 

BBIITEE!!!

 

背からケビンの声。しかし振り向いている暇はない。前方へと身を投げ、お世辞にもかっこいいとは言えない回避方法でその場を脱する。

 

前回り受け身を取った後、素早く振り向き、息を飲む。そこにはケビンがいた。が、緑谷が驚いた理由はそこではない。

 

ドスンと重厚な音を立てて、大きな何かが倒れる。敵の足元に転がっているのは、先ほどまで自分の背にあった大木であった。

 

半径50㎝もある大樹を、ケビンは食いちぎったのだ。

 

ペッペと木片を吐き散らす彼の口には、鋭利に尖った歯、そしてそれをコーティングするダイヤが見えた。

 

「リップジョーズの咬合力に…ダイヤモンドヘッドの!」

 

「ああ!中々いい案だろ?今の俺にかみ砕けないものはねぇ!!」

 

自信満々に自画自賛するケビン。それも当然かもしれない。能力の組み合わせは、単体とは比べ物にならないほどの力を発揮する。

 

轟を知る緑谷はそのことに気づいていた。だからこそ、

 

(駄目だ…このままじゃ対応しきれなくて負ける!ただでさえOFAは出力オーバー。なら…意表を突いた一撃で決める!)

 

奇しくも、数100メートル先で戦うベンと同じ策を取る緑谷。

 

許容上限目一杯の力で、拳を地面に打ち付ける。大地が揺れたかと思うと、土煙が辺りを包み込む。

 

当然、鬱陶しい土埃を難なく払うケビン。前を向くと、そこには誰もいない。

 

辺りを見回すケビンも見つからない。緑谷は、4か月前にケビンを土に付したこの技で仕留めにかかる。

 

MANCHESTER!!(マンチェスター)

 

SMAAAASHH!!

 

空中からの踵落とし。今出せる最大火力を、視野外から。ヒーローらしからぬ攻撃だが、なりふり構って勝てる相手ではない。

 

その思いから繰り出された蹴りは、

 

 

無情にも空ぶっていた。あの頃と違い、今のケビンには大きな眼とそれなりの頭脳がある。

 

「そっ…!?」

 

その時、緑谷の脳天に痛みが走る。なんなのかはわからない。

その痛みで思わず振り向いた先には、腕を引いて待つケビン。

 

緑谷の頭脳は、最悪の想像をした。

(…フォーアームズのパワーに…XLR 8のスピードとダイヤモンドヘッドの硬さが上乗せされたら…!)

 

そしてその最悪は現実となる。

 

「めっちゃ強ぇパンチになるなぁ!!!」

 

GGOSHHHHUU!!

「っは…っが…」

ギリギリで身をよじった緑谷。しかし、ケビンの凶器は脇腹をえぐり取っていた。内臓には達していないが、ボロボロの緑谷は既に動けない。まさに満身創痍だった。

 

地面から顔を上げることすらもままならない緑谷。

 

そんな彼をつまみ上げ、唾を吐きかけるケビン。

 

「へっ!何が“ベン君に敵わない”だ!俺様はケビン11!最強最悪の敵なのさ!!はぁぁ!!!」

 

機嫌がいいからか、それとも木偶の棒とでも思っているのか。

 

血だらけの緑谷を放り投げ、そのまま奥に進もうとするケビン。

 

「さぁて…ベンの野郎を殺すか…それとも、クソガキどもを嬲りに行くか…」

 

殺害予定を口にしながら敵は森へと消えていく。

 

樹木に体を打ち付けられ、なすすべなく土を口にする緑谷。動かそうと思っても、左足に感覚がない。左腕も20%の反動で骨が軋む。右足は激痛で震えるだけ。

 

駄目だ…あいつを行かせちゃ‥‥

 

皆を守るために…

 

なんとか、僕が…

 

僕が…!!

 

(…止めなきゃ!!!!)

 

緑谷の想いに、受け継がれし力(OFA)は呼応する。

 

彼の全身から、緑と黒を織り交ぜたオーラが溢れ出した、

 




・緑谷とベンの戦いを同時に描写していた理由は、最後の展開につなげたかったからです。アニメ派の人には少しネタバレになってくるかも…

・ただいま一話から修正中です。少しでも読みやすくなれば幸いです。

・今まで誤字が多かったので、改善していこうと思います!それでも誤字る時は…ごめんなさい!


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79話 最強のエイリアン

タイトルから察せるかもしれませんが…出ます。後、長いかもです


全身が熱い。熱が体中を駆け回っている。

 

次第に、その熱さは痺れるような痛みへと変わっていく。稲妻が掛けるような、鋭い痛み。そして痛みは、徐々に右腕に集約されていく。

 

なにかが、体の奥底から飛び出る感覚。

 

あまりの痛みに顔を上げる緑谷。目に入るのは遠ざかったケビン11。

 

(く…そ…!逃がして…

 

?こっちを振り返って…なんだ…あの顔?…?)

 

ケビンの形相に疑問を抱くも、己の体は言うことを聞かない。今の痛みは反動によるもの。そう考えていた。

 

が、強烈な刺激が右腕に走る。と同時に、彼の体は空へと押し上げられる。

 

急な上昇に目を丸くする緑谷。眼下にはケビンが己を見上げている。そして、視界には揺れるなにか。そのなにかを目で追うと、たどり着いたのは自身の両腕。

 

そこからは、青黒いエネルギーが溢れ出ていた。エネルギーは、地面を押すようにして彼の体を持ち上げている。

 

「!?なんっ‥‥だこれ!!??」

 

眼を見開く。ユラユラと揺れるエネルギーは、今なお緑谷の両腕から漏れている。そして、彼が気づいたことを皮切りに、滝のように、帯状の…黒い鞭が暴れ出す。

 

そして、

 

「…!避けろ!!!!」

 

「!?」

 

BBAASSHHIMM!!!

 

黒鞭はケビンを果ての果てまで薙ぎ払った。

 

遠く見えないところまで伸びきった黒鞭。ケビンを押しやったかと思うと、ギュルンと緑谷の元へ帰ってくる。一瞬安堵する。

 

が、そう思うのも束の間。黒鞭は、意思を持ったかのように、四方に飛び出る。

 

GWOON!!BASHIIN!!

 

始めは一本だけだったが、徐々に本数が増え、またその太さ、強度も増していく黒鞭。何本もの縄を縒り合わせたような黒鞭は、周囲の木々を容赦なく薙ぎ倒す。。

 

突如暴走するOFAに驚きを隠せない緑谷。必死に制御を試みるが、その意図叶わず、森林は無残に荒野へと変貌していく。

 

 

手ごろな大樹を見つけたかと思うと、黒鞭はその身を絡ませ、主である緑谷の体を引っ張り、振り回す。

 

「やめろ!!止まれ!!止まってくれ!!!!」

 

何度も、何度も叫ぶ緑谷。縦横無尽に宙を舞う彼を、クラスメイトが発見する。しかし、そのスピードと凶暴さに何もできない。

 

「緑谷ちゃん!?…よね?」

 

「デク君!!敵に…!」

 

緑谷の状態を案じ、救助に向かおうとする麗日と蛙吹。しかし、黒鞭の弾性、遠心力による移動は目にも止まらぬ速度であり、彼女らが追いつけるはずもなかった。それに、

 

「どこ余所見してんのさ!!」

「あたしたちを無視するとは良い度胸だね!!」

 

彼らもまた、危険に晒されていた。

敵、味方、崖、森林。全てをお構いなしに破壊していく黒鞭。全身全霊をかけて止めようとするも、それは言うことを聞かない。

 

DWUNNNN!!

 

空中から今度は地面への落下。猛スピードの不時着により大地は割れる。骨が一つ二つと折れる音がする。が、緑谷はここしかないと自身の腕を押さえる。

 

彼の制止を振り切るかのように、腕はビタンビタンと暴れる。さらに両足で手を押さえつけるが、今度は背中からも黒鞭は溢れ始める。

 

また先の暴走状態になるのも時間の問題だった。

 

泣きそうになりながらも必死に食い止める緑谷。

 

そこに、誰かが近づいてくる。木々の影から、ザッザと軽い足音がする。

 

敵か、仲間か。暗くて視認は出来ないが、とにかく遠ざけなければ。命が危ない。

 

「…近づくな!」

 

珍しく強い口調。それほど緑谷は切羽詰まっていた。

 

林の影から、

 

カチリ

 

と音がした。

 

黄色い波動が緑谷を覆ったかと思うと、

 

「お前は…朝まで起きない…」

 

その声で、ストンと意識が落ちた。

数メートルの白床。後は真っ黒に染められた世界。在るのは自分。いや、その自分ですら、存在が危うい。

 

緑谷は、いつか見たこの世界に再び足を踏み入れた。

 

(ここは‥‥)

 

その時、

 

「おうおうおう!!わかってない!わかってないんだよ!おめぇぇぇよぉ!!」

 

スキンヘッドの、ファンキーな男が現れた。

 

「な、何だったんだ、さっきの…いや、助かったけどさ…」

 

体を小さくしながら、先ほどの事態を思い出すベン。

 

マスキュラーが滉太を殺そうとしたとき、突然黒色のエネルギーが彼を襲った。

 

黒いなにかは、マスキュラーの体を壁に押しやったかと思うと、今度は体を掴み、崖下へと叩きつけた。

 

その隙に、ベンと滉太は反対側から崖を降り、森へと身を隠したのだった。なんとか窮地を脱することは出来たものの、彼のダメージは生半可なものではなかった。

 

「あいたたた…右腕が…これじゃあダイヤルを回せないや…」

 

「おい…大丈夫かよ…」

 

腫れ上がった右腕を見て、滉太は心配する。自分のために此処までの怪我を負ってくれたのだ。出会ったときのような、生意気な態度はとても取れなかった。ベンを心配しつつ、親の仇の変貌を語る。

 

「あいつ…僕が知っている姿じゃなかった…」

 

「ああ…4本腕のことでしょ?あいつ絶対フォーアームズをパクってるよ…けど、どうやったんだ?」

 

「お、お前こそ、あの変身はなんなんだよ。合宿所に来るときは青色のトカゲだったのに!」

 

「XLR 8ね…とりあえず、ウォッチが回復したらXLR 8で逃げないと…!あ、それと」

 

DDOWNNN!!

 

ベンの言葉を遮るように大地が揺れる。

 

砂ぼこりが舞い、地面にはクレーターができる。煙から薄っすら見えるそのシルエットにうんざりする。

 

アイテムもウォッチも使えない今、息をひそめ、何とかこの場を乗りきろうとするベン達。

 

「おいベェェン!!!ここいらにいるんだろ!?どうせまだ変身できないみたいだし、わかってんだぜ!」

 

マスキュラーは声を張る。

 

(変身時間のこともバレてる。何としてもあと2、3分は時間を稼がなきゃ…)

 

幸い、今は20時を超え、月明かり以外光源はない。ベンと滉太の体格ならば、茂みに隠れて移動すれば脱出可能。

 

そう思った。

 

しかし、

 

「ったくよぉぉ!!出てこないんなら…しょうがねぇよなぁ!!」

 

メリメリ

 

と彼の脇腹から再び2本腕が生えてくる。先ほどのように、フォーアームズと同種の姿となったマスキュラー。

 

そして、思いっきり伸びをしたかと思うと、両腕を目一杯広げる。そして第一腕、第二腕を勢いよく擦り合わせる。

 

それは、ベンが先にしたクラップだった。

 

PPAANN!!

 

鼓膜を突き破るほどの轟音の後に、周囲の木を根っこから吹き飛ばす暴風が繰り出される。

 

拍手による風圧はある程度の指向性を有しており、衝撃はベン達の真横を通っていった。

その風が通った後には、先ほどまであった木の穴しか残っていなかった。

 

ゴクリと唾を飲み込む。まともにくらえば良くて大怪我。下手したら死すら有り得る。チラリと隣を覗くと、プルプルと振るえる滉太。がっしりとシャツの裾を掴み、ベンに(に・げ・よ・う)と口の形だけで訴える。

 

タラリと首筋を伝う汗が地面に落ちた時、ベンは決心する。滉太に逃げるよう伝えた後、茂みから数歩離れる。

 

マスキュラーがもう一発と腕を掲げた時、

 

「まて!!」

 

ベンは姿を見せる。

 

「お、出てきたか。ガキはどうした?」

 

「へん、お前があんまりにも遅いから楽々逃げれたよ!あとはお前をぶっ飛ばすだけだ!!」

 

「はーん。さすがの威勢だなぁ。で、次はお前、何に変身するんだ?」

 

「…っ」

 

まだウォッチは赤く光っている。そもそも、エイリアンの中で最も汎用性に長け、なおかつとびぬけた戦闘力を持つのがフォーアームズだった。その彼が倒された今、最善策はXLR 8やスティンクフライによる逃亡であった。

 

(ヒートブラストの火責め…いや、あいつのパワーにかき消されるだけだ…ダイヤモンドヘッドなら…馬鹿、フォーアームズを超えるパンチ力だぞ。壊されるに決まってる…ディトー、アップチャック、キャノンボルトなら…って、そもそもダイヤルを回せないんだから意味ない!!)

 

沈黙のベンに飽きたのか、マスキュラーは肩をすくめる。

 

「はぁ。もうネタ切れかよ…せっかく面白くなってきたのによぉ」

 

「じゃ、じゃあもう少し待ってみないか?そしたら絶対に面白いと思うんだけどなァ?」

 

「ははっ!そうか!じゃあ、といいたいところだが、もうやらなきゃいけねぇんだよ」

 

じりじりと距離を縮める。それに対し踵を返し逃亡を図るベン。滉太のいる茂みとは反対側へと駆けだす。

 

「おっと、逃がさねぇ!!」

 

GGOWWN!

 

回り込むマスキュラー。ベンに向かって拳を一振り。ただのパンチは、底上げされたパワーで空気砲と化す。

 

繰り出された風は、ベンと木々を捕らえ、数十メートル吹き飛ばす。ボールのように跳ねながら地面を転がるベン。土と砂利が体を擦る。

 

人間体のときに、彼は傷を負うことはほとんどなかった。しかし今、エイリアンを超える化け物により、彼は腕すら満足に上げられないほどの損傷を受けていた。

 

「お前を倒した後は…そうだなぁ。オールマイトともやってみてぇなァ!!今の俺ならやれるさ!!」

 

高らかに夢を語る敵。彼の声が耳をつんざくが、何もすることができない。

 

動かすことができるのは瞳のみ。ねじ曲がった腕に目をやると、ウォッチはチャージを回復していた。

 

(よし…!!…変身…しなきゃ…ボクが、負けたら駄目だ…オムニトリックスは、宇宙を平和するためのモノ。こんなところで負けてるやつが…そんなこと、できるわけないだろ!!)

 

アズマスの顔が頭に浮かぶ。身を鼓舞するも、体はいうことを聞かない。なんとか、ボタンを押すことはできないか。そう思案していると、

 

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

 

さきほど逃がしたはずの滉太が駆け寄ってきた。

 

「っ!!どうして!逃げろって言っただろ!!」

 

滉太はベンを背負おうとし、彼の腕を取る。

 

「逃げよう!無理だって!勝てない!」

 

滉太はベンより少し身長が低い。幼い彼に、ベンを背負うことは容易ではない。しかし、なんとか、なんとかベンを救けようと歯を食いしばる。上半身のみを背負い、ズリズリと引きずる。

 

「離せよ!!ボクはいいから逃げろ!!」

 

「い、嫌だ…!!お前が…殺される!!」

 

泣きながらもベンの腕を離さない滉太。そんな彼を見て、ベンは唇を噛みながら提案する。

 

「ぐ…滉太…」

 

「…ボクの時計を押して…くれ」

 

滉太は一瞬戸惑う。だが、すぐに彼の意図を察して抗議する。

 

「な、さっき負けたじゃんか!!ぎゃっ!!」

 

力の限界か、ベンを背負った滉太は躓く。

 

地面に投げ出され、ただうつ伏せになるベン。もう起き上がる力もない。しかし、その瞳で泣きじゃくる滉太に訴えかける。

 

「関…係…ない!」

 

「どうして…ヒーローでも何でもないだろ!お前!!」

 

「…言ったろ?ヒーローだから救けるんじゃない。救けるからヒーローなんだって!」

 

渾身の笑顔を見せつけるベン。

 

「だから、今お前もヒーローだったよ!ボクほどでも無いけど…ね!」

 

その言葉で、滉太は両親を思い出す。力及ばず、マスキュラーに虐殺された父と母。しかし、彼らは、紛れもないヒーローだったのだ。

 

「…!!」

 

泣きながら、ウォッチの小さなボタンを押す。あふれ出る涙で視界がぼやける。

 

キュワンという音と共に、中央部分が盛り上がる。そして、ひし形のマークの中にはシルエットが浮かぶ。

 

もう選出の余裕はない。

 

ただ、己の命運を信じるのみ。そうベンは覚悟する。

 

滉太は自身の両手をダイヤルに重ねる。そして、全体重をかけるように、ダイヤルを押し込む。

 

「あり…がと」

 

小さなベンのお礼とともに、なじみ深いあの音が耳元で響く。

 

QBANN!!

 

眩い緑光と同時に、ベンは意識を失う。

 

蛍色の明かりが周囲を照らす。その眩しさに思わずマスキュラーと滉太は目をつぶる。

 

オムニトリックスから放出されるエイリアンDNAは、ベンの体へと撃ち込まれる。初めて混入されるDNA。だが彼の体は何の拒否反応も起こさず受け入れる。ドクンドクンと脈打ち、彼の細胞は変化していく。

 

緑色の光が晴れ、細めた目をゆっくりと開けるマスキュラー。

 

変身衝撃で少し後退した滉太。

 

彼らの目に入ったのは赤と白だけ。

 

紅白というシンプルかつ明瞭に彩られた彼は、

 

ただ、ただただ、巨大だった。

 

 

 




・やっと出せました。この作品を書き始めた時からこいつの出番はどこにしようかと悩んでました。

・読者さんでもこいつを待ってた人はいるんじゃないでしょうか。

・しれっと色々出てますね、この話。


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80話 WAY BIG

ウェイビッグ!!


宇宙は広い。未だ1()()の宇宙さえ解明できていない人間には、想像もつかないほど。

 

しかし、その広い宇宙でも、覇者と呼ばれる種族は2種族しかいない。

 

1人目は、地球に個性をもたらしたエイリアンX。成体となり、本気を出した彼らに勝つ方法は()()。彼らは宇宙で「無敵」の種族と呼ばれる。

 

そして、彼らの対抗馬は、宇宙で「最強」と呼ばれる、だった。

 

体の9割は白色。といっても、純白ではなく、若干くすみがかった鼠色である。両腕の手首からは鋭利なひれが生えており、肘まで赤く伸びている。そして、彼の首から胸の中央に掛けて真っ赤な文様が入っており、心臓部にはオムニトリックスマークが刻み込まれている。

 

その特徴は巨大さ。マウントレディを優に超す、40メートルほどの体躯。銀河で最も希少種である彼らは、様々な星で神と崇められていた。

 

マスキュラーは、今まさに巨神を足元から見上げている。規格外の巨大さに驚きを隠せない。並の敵ならばここで戦意喪失しただろう。今までのマスキュラーでもさすがに逃走を選択しただろう。

 

しかし、エイリアンDNAを取り込んだ彼は、闘争を選ぶ。神にタイマンを挑めるのなら、喜んでその身を差し出そう。

 

「‥はは…ははは!!なんだよ!!そんな奥の手があったのかよ!!言ってくれよベン!!思わず殺しちまう所だったじゃねぇか!!」

 

頬の筋肉が吊り上がっていくのを彼は感じていた。止められない笑顔。その笑顔とともに、脳内麻薬が分泌されていくのがわかる。ワクワクどころではない。心臓は脈打ち、武者震いが全身を揺らす。

 

まだ見ぬ強敵と殺し合いができること。ただそれだけで彼の本能は呼び覚まされる。

 

対するウェイビッグは、事態が呑み込めていないのか、きょろきょろと周囲を見渡す。そしてマスキュラーにやっとのことで気づく。

 

が、彼を無視するように、再び首を横に振り、辺りを一望する。彼の目には、広大な山々が360度広がっている。その中に、ところどころ山火事が起きている部分があったため、指先でジュッとなんなく消化する。

 

その様子に立腹するマスキュラー。

 

「…は?おいおいおい…!!白けるぜぇそんなの…ここまで来て戦わないなんて、おかしいよなぁ!いいぜ!じゃあ無理やりにでも…!!」

 

ボコリと彼の両足が膨れ上がる。ズボンの膝下は、筋肉の膨張に耐えられずバツンと破れる。

 

バキリと地面にヒビが入ったかと思うと、マスキュラーは大跳躍。その様はまるで緑谷。一瞬で、体長40メートルのウェイビッグと眼を合わせる。

 

眼前で腕を引いて、

 

「第3ラウンドの始まりだぁぁぁ!!!」

 

ガツン!!とゴングが鳴る。ウェイビッグの鼻柱から、金属と肉のぶつかった音。個性をフル活用した、超パワーによるパンチが顔面に決まる。

 

しかし、ウェイビッグの顔は、1ミリ達とも動かなかった。

 

なにも感じないように、ただ眼前に来たマスキュラーに目線をやる。

 

その動じなさに少々焦る。が、それでもまだ楽しさが勝つマスキュラー。地面に降り立って、どうにかウェイビッグに本気を出させようと頭と舌を回す。

 

「頼むから!本気で相手してくれよぉ!その体!その大きさ!戦うために生まれてきたんだろ!?わかるさ!俺もそうだからな!?

 

…それともあれか?ヒーローなんてもの目指しているからには、守るものがいるのか?それなら…!!」

 

首をグリンと回し、隣にいる滉太を捕捉。ヒッとおびえる滉太めがけて地面を踏みしめる。

 

DOOSSUNN!!

 

だが、彼の殺しはウェイビッグの拳により阻まれる。

 

マスキュラーの体には、自分の体とほぼ同じ大きさの拳がのしかかっていた。ウェイビッグの体はハッタリなどではなく、純粋な力の塊であることを身をもって体感する。

 

若干押し込まれつつあるも、彼はその状況さえも楽しむ。なぜなら、勝つ算段があるから。

 

彼の中の、歪なエイリアンDNAが活性化される。今までよりもさらに太くなった4本腕が、相手の拳を押し返す。

 

「そうだそうだ!!ああ!脳汁がドバドバだぁ!!これだ!これを待ってたんだ!!本気を超えた俺と…!全力で戦えるイカレタやつをよぉ!」

 

彼には腕が2本追加されている。これはフォーアームズのDNAを彼の個性因子に組み合わせたため。

 

この提案をした人物はこういった。

 

「君の能力は筋肉を増やす能力。その増やせる上限は、元の君の筋肉量に比例する。つまりそもそもの筋肉量が鍵になるね。だったらテトラマッドの…ああ、あの赤色の4本腕さ。彼のDNAが最も効果的だ」

 

追加された2本腕。それによるパワー増加は2倍では利かない。追加された2本からさらなる筋肉が生み出され、彼のパワーを累乗倍させる。

 

元々、27人を殺し逃亡することができるほどの手練れ。4本の腕を、個性により1本の超特大アームにまとめ上げるなど、造作もなかった。

 

特徴的な4本腕の姿から、逆の極太1本腕の姿となるマスキュラー。

もはや人間ではないその力は、宇宙最強の拳を押し返し始める。

 

「ああああ!!どうしたどうしたぁ!!!俺が勝っちまうぜぇ!!」

 

「…」

 

だが…

 

「あ?」

 

ここは山から何十キロ離れた町。都会、とまでは言えないが、それなりにヒーローはいるし、それなりの人口、それなりの発展を遂げた町だ。

 

今日は花の金曜日。体を蝕む疲れを、気の置けない同僚たちと飲んで吹き飛ばす。

 

ビアガーデンで、仲の良い同僚とアルコールを楽しんでいた一人の男性。目の前の同僚がしょうもないギャグを飛ばす。ハハと笑いながらも、ふと後方の山に目をやる。なにか、白いものが見えた気がする。

 

眼を凝らしよく見る。が、すぐに目を凝らす必要がなくなった。なぜならば、それは現在進行形で、巨大化していたから。

 

「…おい、なんだあれ」

徐々に皆がそれに気づく。

 

「映画の撮影じゃね?」

「にしてもでかいだろ…」

「まだでかくなってない!?」

「個性にしてもでかすぎだろ!!一応ヒーロー呼べ!!」

 

最初に発見した男性が見た時は、40メートルほど。崖より少し高いくらい。だが、今のそれは、

 

「100メートルは…超えてる…」

 

「は…!い、いいぜぇ!!その巨体!!それがお前の真の力ってわけだ!!!全力で殺ってくれてぇ!!ありがとよぉ!!」

 

2倍近くに膨れ上がった目の前のエイリアン。力比べが無意味なほどパワーで負けている。だが、だからといって、戦いを辞める理由にはならない。彼の戦闘狂として血が、ブクブクと沸騰する。

 

個性の限界を超え、己を信じ、彼はそのエイリアンに挑む。その様はある種、緑谷の狂気に似たようななにかを感じさせる。

 

精神の個性への影響まだ解明されていない。だが、何らかの作用があることは明白であった。事実、押し込まれていた彼の体は徐々にその場に留まり始める。

 

踏ん張りを利かせ、

 

「おらぁぁぁぁぁ!!」

 

雄たけびが森に響く。そしてついに、全長100メートルのウェイビッグとパワーが拮抗する。

 

が、

 

「…」

ZZMMMUU

 

「…あ?」

 

彼をあざ笑うかのように、ウェイビッグは巨大化し続ける。

 

彼を宇宙最強と足ら占めるのは、この【無限巨大化】。何人の攻撃も受け付けないその鋼鉄の体と、無限巨大化によるパワーアップ。勝負を挑むことすら意味がないことをエイリアンたちは知っていた。

 

知らないのは、哀れな地球人だけ。

 

100メートルを超え、なおも留まることを知らないウェイビッグの体躯。足部は数十メートルにもなり、マスキュラーからは全体像すら見えない。

 

「…」

 

ただ、ただただ無言のウェイビッグ。それは、ベンの意思がほとんど働いていないことを示していた。

 

かろうじて残っているベンの想いは、マスキュラーに向けられるその拳のみ。

 

握りしめられた赤い拳は、マスキュラーをただ無情に押し込んでいく。

 

「ちょ…まて…!待ってくれ!?さすっ…がに…その大きさは!!??」

 

エビのように反った彼の背中。全身の筋肉をフル稼働してどうにか逃げようとする。己の誇りも、信念もかなぐり捨てて得た力。それすらも歯が立たない現実に、彼の心は折れた。

 

なんども見てきた命乞い。最も愉快だったそのパフォーマンスを彼自身がとったとき、

 

「…オオオォォォ!!」

DDGGGUUUNN!!

 

 

ウェイビッグは初めて叫び、マスキュラーを地面へと沈めた。

マスキュラーが意識を失うと、脇腹から生えていた腕はハラハラと筋繊維ごと散っていく。蜘蛛の巣上に割れた地面の中央には、ただ、少し大柄な金髪敵が横たわっていた。

 

その様子を一瞥した後、

 

Pipipi QBANN!!

 

巨神は少年に戻る。ヨタヨタとその場から上手く歩けないベン。

 

滉太は、足元がおぼつかない彼の肩を支えに行く。

 

「お、おい…!大丈夫か…?」

 

 

「あー…えっと…あんまり変身の記憶がないんだよね…気絶して変身したからかな…?まあ…いいや…とにかく宿に戻ろう」

 

勝利の快感も無く、ただ彼の中には滉太を守ることだけが浮かんでいた。

「はぁっ!はぁっ!はぁ!」

 

道なき道を揺れるのは橙色のサイドテール。B組の拳藤は、一心不乱に獣道を突っ切っていた。

 

腐乱ガスを撒き散らしていた敵を鉄哲と制圧に完了。鉄哲は敵を縛るためのロープを八百万に貰いに、彼女は森にいる生徒の把握のため奔走していた。

 

そしてさきほど、世界が壊れるか思えるほどの地鳴りとともに、巨大な人間が現れた。敵の襲撃かとも案じたが、その胸のマークからベンだと判断。

 

彼女はベン達のいる断崖へと向かっていた。本来、この状況でベン1人に固執することは最適解ではない。だが、

 

(…ベンのエイリアンなら、今の状況を変えられる。確か、あいつは山火事を消したことあるって言ってた…

 

それに、もう一回あの巨大エイリアンに変身すれば、全員の位置把握だって、先生を連れてくることも可能だ。だから、ベンの協力を仰ぐのが最善!)

 

頭の中で渦巻く不安。その不安を、これまでのベンの功績で塗りつぶす。

 

(大丈夫。ベンは無事だ。そして、今ベンの元へ行くことは最善なはず)

 

そう自分に言い聞かせ、木々を躱しながら進む。すると、

 

「…小さい…おじさん?」

 

金髪でサングラスをかけた妙齢の男が道に突っ立っている。敵かもしれないと影からのぞくと、彼の足元には緑谷。

 

「ふふふ、良く寝ているな…さっきの黒いやつには驚いたが‥こうなっては無力だ!さあ、次の催眠を…」

 

「ふん!!」

 

ガツン!!と彼女の大きな平手が後頭部を殴打。何がおきたかわからないという顔のまま、敵はズサリとその場に倒れる。

 

「敵…には間違いないよね。っと、緑谷、緑谷!」

 

頬をペチペチと叩く。巨大化したままでの平手なので、その威力は充分。腫れた顔つきとなった緑谷は目を覚ます。

 

「っは!!ここはっ!?って、拳藤さん!?…っうぐ…!」

 

すぐに気がつくも、ケビンとの戦闘によるダメージで顔を歪める緑谷。横たわっている状態から動けないのだ。紫に彩られた手足は、どれだけの痛みなのか想像に難くない。

 

「あんた…右腕と左足折れて…」

 

彼の怪我に気づいた拳藤。彼女の頭の中には2つのルートが見えていた。

 

緑谷を背負って合宿所まで

それとも

此処に緑谷を置いてベンのところに

 

悩む拳藤。今すぐにでもベンの元に走りたいが、目の前にいるのは明らかな重傷者。ヒーロー志望者として取るべき行動はどちらか。

 

今自分のなすべきことと、やりたいこと。

 

その2つを勘案する。目をつぶり唸る。そして、首を上げ下げした後、

 

「緑谷…!つかまっ」

 

彼を合宿所まで運ぼう。そう決めた彼女に対し、

 

「ベン君のところに行こう…あの崖付近にいる…はずなんだ」

 

緑谷は彼女が捨てた案を躊躇なく選ぶ。それは、彼自身が彼を勘定に入れていないから。

 

「行くって…あんた、左足が折れてんだから…」

 

「大っ…丈夫…」

 

スーハーと地面に突っ伏したまま、深呼吸する緑谷。精神を落ち着かせながら、思い出すのは先ほどの出来事。

 

(この力は…敵じゃない。先代が、先代たちが培ってきた力、OFAなんだ)

 

全身が痛む。頭も痛い。だが、考えることはできる。途切れそうになる思考を、なんとか保たせる緑谷。

 

(大丈夫。要領は…一緒のはずだ。僕が使えるOFAは10%…けど…それは、体に負担を掛けない方法…痛みさえ…無視すれば…)

 

「っっがぁぁぁぁ!!」

 

ゾワッ

 

緑谷の雄たけびとともに、ぶらんと垂れた両腕から再び黒のオーラがあふれ出す。シュウシュウと音をたて、消えそうではあるが、なんとか形を保っている。

 

さきほどまでと違い、暴れる様子もない。

 

(痛い…だけだ!!何としても、皆を助けるんだろ!だから…!!)

 

「撓れぇ!!黒鞭!!」

 

内側から電流が走るような痛み。両腕を襲うのは、骨粉砕とは違った刺激。おそらく、神経系に直接作用しているものだろう。

 

そして、その痛みと引き換えに、2本の黒鞭は前方の樹木に絡みつく。

 

OFA継承者5代目 万縄大五郎。個性【黒鞭】。先の夢で教えてもらったこの個性を、緑谷は無理やり使いこなす。

 

「拳藤さん!!捕まって!」

 

言われるがままに彼に腕を回す。

 

ギギギと大木が撓り、黒鞭も引きちぎれそうになる。緑谷の腕が先に壊れるか、木が引っこ抜けるか。その両方か。自身の体を玉に見立て、木をパチンコ代わりにする緑谷。

 

bashhuunn!!

 

限界まで張られた鞭は、彼らの体を空へと弾いた。

 

 

 

 

 

 

 




・ウェイビッグ強すぎだろ…と作者は思いました。
・よし!敵撃退完了…!完了…
追記…最近5000字近い投稿が多いですが、何卒最後までご拝読よろしくお願いします!


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81話 負の十

題名が題名ですね!


雄英ヒーロー科一年合宿所。その裏には緑一面の景色が広がり、避暑地として有名だった。

 

が、その森は、既に見る影もなかった。

 

森の一部が焦土と化し、まさに地獄絵図といった森林。ウェイビッグによる消火で多少はマシにはなったが、未だ赤い炎は揺ら揺ら燃えている。

 

敵の襲来から数十分経った。にもかかわらず、その全貌を雄英側は把握できていない。

 

その原因は合宿所への遊撃。相澤やブラドキングを含むプロヒーローは、合宿所を守ることに時間を取られ、森の中に進むことを阻まれていた。プロである彼らが、特に相澤がなぜそこまで手こずるのかというと、

 

蟲やアンドロイドという、相性最悪の戦法で攻め入られていたから。

暗闇が支配する森の中は、生徒と敵が入り混じった危険区域。各ポイントでは戦闘が開始されていた。当然、麗日達も。肝試しというレクリエーションが、女敵との戦闘に成り代わっていたのは不運と言いようがない。

 

が、その戦いは打ち切られる。

 

「おい、集合が入った!行くぞ!」

 

「なんであんたに命令されなきゃいけないのよ」

 

身体の各部に赤い装甲を纏う女は、隣の女性敵に撤退を指示する。命令を受けた女性も口では反抗するが、手に持った道具を紫色のポーチに戻す。

 

「待て!」

 

「ダメよお茶子ちゃん!ここは相手が引いてくれたと考えるべき。まずは相澤先生達のところに報告よ」

 

「けど!」

 

麗日が蛙吹に反論する間に、敵は背中のジェット機、又は不可思議な力で空を飛んでいく。やりきれない顔で麗日が宙を睨むと、銀髪の女性敵が吐き捨てる。

 

「じゃあね?子猫ちゃんたち。こんなぬるま湯の後進国で楽しいヒーロー生活を♪」

 

笑顔でひらひらと手を振って

 

所変わって断崖周辺。ベンと滉太は地面に埋まったマスキュラーを後目に歩き出す。

よろけながら足を上げるベンを滉太は心配する。肩を貸そうにも、彼はいらないと払いのける。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

「は、はん。こんくらいでヒーローが…くたばるかってんだ。僕は宇宙を救う…ベン=テニスン様だぞ?」

 

軽口を叩いているが、ベンの体は満身創痍。片腕は折れており、右腕はなんとか動かせる程度。昼から続く個性特訓と、フォーアームズを超える敵、そして未知のエイリアンへの変身と、彼の体力は限界に近かった。

 

(せめてホバーボードがあればなぁ…それか…グウェンに魔術教えてもらえばよかったかな…)

 

血が頭に回っていないのか、思考にいささか靄がかかる。そんな彼の目に、赤い光が飛び込んでくる。藪の中で、鈍く光る光点。

 

「…危ない!!」

 

滉太の手を取りその場に伏せる。

彼らの頭があった場所を光線が通過する。

そして林の中に吸い込まれると、一拍おいて爆ぜる。

 

BOOMM!!!

 

林の中で閃光が走ったかと思うと、木々はメラメラと炎を宿す。

 

急いで顔を挙げ周囲を警戒する。すると、足元にコロコロと泥団子が転がってくる。

 

何がなんだがわからない滉太。それは、足元の泥団子が、2匹の魔獣へと変貌したから。紫線が何本も入った魔獣は、バウバウと吠えながら彼らを襲う。

 

不意を突かれたベンは瞬く間にマウントを取られる。彼の視界は魔獣の顔で埋め尽くされ、自身の顔には涎ともいえる土くれが垂れてくる。

 

「くっそぉ!!どけ!きも泥ペット!」

 

足を相手の腹に当て、思いっきり蹴り飛ばす。

 

「グウェンがワイルドマット嫌いな理由ってこれかな!?くっさ!!」

 

涎代わりの土くれはなぜか異臭を放っている。すぐさま隣の滉太を引きつれて、銃器飛び出す藪とは反対方向へ逃げる。しかし、

 

BOYONN!!

 

「ぐえ!」

 

今度は、柔らかい何かにぶつかる。

 

それは異様にぬめりを帯びている。滉太が見上げると、そこには目の真っ赤な蛙の顔が。

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

全長3メートルもの巨大蛙を見て驚かないわけがない。ベンはフリーズする滉太の手を取り走る。なぜベンが冷静なのかというと理由は簡単。

 

会ったことがあるから。

 

「はぁ!はぁ!はぁ!」

 

ベンの頭の中は混乱で渦巻いていた。

 

なぜ?彼らが?

 

「いで!」

 

足がもつれ転んでしまう。すぐに立ち上がろうとするも、足になにかが絡みついて離れない。

足元を確認すると、オレンジ色の縄が彼の足に巻き付いている。

 

縄は意思を持っているかのように、彼の体を引っ張り上げ、投げ飛ばす。

 

「うわぁぁ!」

 

GGON!!

 

勢いよく背中を打ちつける。

 

地面に項垂れているベンの目に、黒い影がユラユラと伸びてくる。その数は1つではない。

朱色の縄は滉太を洲巻にする。ギリギリ見える彼の目は、驚愕と恐怖を訴える。

 

敵を確認して、ベンはいら立ちを口をにする。

 

「っ…!ったく…ほんと、今日は最悪の日だ…」

 

予想外。本当に予想外だった。ケビンの襲来。マスキュラーという、エイリアンDNAを駆使した敵。そして、

 

いつか自身が倒した敵たち。

 

無様に倒れ込むベンの前に現れたのは幾人の敵。

 

真ん中に陣取っているのは鋼鉄の鎧を着飾った男性だった。なびく赤いマントは正に騎士といった風貌。プラチナの仮面のせいで、表情を伺うことはできない。だが、その声色はどこか嬉しそうだ

 

「やあ、初めましてベン=テニスン」

 

「ああ…出来れば会いたくなかったね。イカレタ中世の騎士ごっこ集団には!」

 

「ずいぶんな言い草だ。

ふふふ。既にボロボロの君に対して、これ以上何かするつもりはないんだがね。私の仲間たちはそうではないようだ」

 

大げさに腕を振り、両側に並ぶ仲間を見せつける。

 

囚人服を着ている巨漢。

その彼と同じ肌色でありながら、オレンジ色髪の毛を携える女。

未知の技術が垣間見えるアーマーを身にまとう女性強盗。

巨大な牛蛙に乗ったマッドサイエンティスト。

紫色のローブに、鈍く光る銀髪の魔女。

 

騎士は諸手を上げ、高らかに紹介する。

「見るがいい!ネガティブ10だ!!」

 

数か月前、ベンはアメリカで職場体験を経た。祖父のマックス、従妹のグウェンともに、敵と戦い、悪事を働いた者たちに裁きを与えた。

 

サーカスで観衆の幸福感情を吸い取り、人々を鬱へと誘い金儲けをするもの。

 

偶然手にしたエイリアンテクノロジーを利用し、警察やヒーローに復讐していたもの。

 

狂気の実験の末、遺伝子改造動物たちで世に自分の有能さを理解させようとしたもの。

 

催眠術で民間人に盗みを働かせたもの。

 

“魔術”といわれる、個性とは異なる能力で永遠を手にしようとしたもの。

 

蟲を操る個性で、不法に土地を占拠していたもの。

 

多くの敵を一週間で退治した。その中で、最も異質だったのが永遠の騎士団と呼ばれるマフィアだった。

 

エイリアンテクノロジーの存在を知り、それらのために犠牲を惜しまない犯罪組織。元々マックスが捜査していたのだが、ベンの助力の元、その組織は反壊滅状態まで追い詰められた。

 

その復讐のため、彼らの長は海を渡った。ベンの破滅を願う者達を、監獄から引き連れて。

 

ネガティブ10という名前を聞き、すぐさまベンは噛みつく。

 

「なにがネガティブ10だよ!ボクらに負けたやつを並べてさ!それに、10人いないじゃないか!」

 

最もなツッコミだが、騎士は肩を揺らしながら答える。

 

「おっと。それは短絡的な言葉だ、テニスン。君の先生たちはなぜ助けてくれないと思う?」

 

「…!?そんな…まさか!」

 

「ああ。君の思う通りさ。今君たちの宿には、私の部下ともう一人が向かっている。それに、この森の要所にも幾人かね」

 

低く重厚な声が仮面の中から聞こえてくる。

 

ウォッチを見るが、当然赤いまま。時間を稼ごうにも、滉太と逃げることは不可能だろう。

 

「…」

 

「さあ、オムニトリックスを渡せ、ベン=テニスン」

 

滉太を人質に取られて、身動きが取れないベン。そんな彼に対し、巨漢は近づいて容赦なく拳を振るう。

 

「ぐう‥!」

 

いささか血色の悪い巨漢の名はサムスカル。“怪力”の個性の持ち主で、あっという間にベンを制圧。ベンの背中に自分の尻を乗せ、のしかかる。

 

「お前のせいで稼げなくなっちまった…ゾンボーゾのボスはまだ豚箱だ!お前には借りしかねぇ!」

 

「あ…そう?じゃあそのまま貸したまんまにしたげるからさ。とりあえずどけてくれない?」

 

「ムギ―!利子付きで…お返しだ!!」

 

怒りをあらわにし、厳つい拳を振り上げる。

 

余計なことを言ってしまった。さすものベンも後悔。思わず目をつぶる。

 

が、つぶる瞬間、敵の頭に影が降りる。それに気づいたサムスカルは顔を上げる。見上げた彼の頬には、2人の男女の靴がめり込んでいった。

 

そして、瞬きする間も無く、蹴り飛ばされる。

 

DSSIINN!

 

土埃がもうもうと立つ。けほけほとせき込むベン。

 

視界が晴れてきたとき目に見えたのは、半分白目をむいた緑髪の男の子と風圧で橙髪がぼさぼさになった女の子。

彼らは口を揃える。

 

「「ベン(君)!!救けに…来たよ!!」」

 

「イズク!イツカ!!…角度ミスったらボク死んでたよ!?」

 




出すか悩みました!無印ラストの敵たち!


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82話 魔術

ネガティブ10…人数が多すぎる!5、6人しか描写してないのにそれでも多い!(笑)


逆光のせいかサムスカルには、なにが眼前に迫ってきているのかわからなかった。頬の肉がえぐれ始めた時、初めて蹴られていることを認識。対応するまもなく、彼の巨体は吹き飛ばされる。

 

体の大きさが仇となったか、滉太を捕まえていた長髪の女性敵を巻き込みながら壁に激突する。

 

急いで滉太を保護するベン。彼の手をとりつつ、派手に登場した友人へと目を向ける。

 

「イズク、ありが…!?」

 

礼を言い終える前に、緑谷の体を見て驚き、

 

「大丈夫!?」

 

案じる。

 

千姿万態のオムニトリックスとは対極の、超パワーのみに頼る戦闘スタイル。そして傷を厭わぬ自己犠牲精神。

それらは容赦なく、彼に血を流させ、傷を負わせ、泥を纏わせる。

 

事実、今の緑谷は満身創痍。

 

ボロボロの袖から覗くのは痛々しい右腕。内部から破裂したようにプスプスと焦げる左足。そして外傷はないが常に痙攣している左腕。

 

その震えに合わせるように、腕からは黒いエネルギーが漏れ出ていた。

 

「イズク…!それ!」

 

マスキュラーを襲撃した謎のブラックエネルギー。その大元が緑谷であると知り言葉を失う。個性の複数もちなど、それこそオムニトリックスの様な規格外の道具が無い限り有り得ないのだ。

 

不安がるベンに対し、緑谷は息を切らしながら答える。

 

「大…丈夫。これは…問題ない…この力は…味方なんだ…」

 

自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

とはいえ、黒鞭の反動は大きい。痺れが両腕を駆けめぐる。それだけでない。頭痛が。頭を刺すような痛みが絶え間なく響く。

 

長期戦闘は耐えきれないと判断し、迅速に指示を出す。

 

「拳藤さんは巨大蛙と紫ローブを…!残りは僕がやる…!

 

「やるって…!緑谷!あんた足が…」

 

「いいから!」

 

「…でも!」

 

彼の右腕はぶらりと垂れている。もう上げることすらままならない。しかし、新たな力は、そんな彼でも戦闘を可能にさせてしまう。

 

「…黒鞭ぃ!!!」

 

緑谷の叫びとともに、闇に紛れる鞭がうねりを上げる。そして、前方に構える敵めがけて射出されていく。

 

リーダー格である騎士はなんなく避ける。が、武装した女性敵アンドロイド=ロジョと、復帰したばかりのサムスカル達は木の幹に磔られる。

 

多数人を一瞬で封じた緑谷を信じ、拳藤はベン達の元へ。

 

「ベン…!こいつらなんなの!?もしかしてさっきの金髪チビ爺さんもこいつらの仲間!?」

 

「金髪爺さん…っ!サブリミノもいたのか!?こいつらは‥アメリカの敵だ!ボクに復讐するために脱獄してきたんだよ!」

 

「アメリカ…!?そういえば、向こうのニュースで見た気が…」

 

「その通り!久々にあったなぁ!テニスゥン。寂しかっただろう!?」

 

彼らの会話を遮るように、巨大な蛙が前に佇む。3メートルは下らないその体躯は、自然に生まれたとは到底思えない。

 

声の発信源はその背中から。ベン達が見上げると、薄緑色の肌をした老人が乗っている。緑赤の角が特徴的なヘルメットを装着しており、バチバチとプラズマが見える。

 

「この光を浴びれば貴様もこの子のように大きくなれるぞ!」

 

「ゲコォ!」

 

飛び出た赤い目をギラギラさせ、ジャイアントフロッグは元気よく返事をする。

 

「アニモ博士!!…身長が伸びるはいいけど…そいつみたいに不細工になるのはごめんだね!」

 

「減らず愚痴を叩けるのも今のうちだぞぉ?なぜならこのトランスモジュレーターは貴様のっ…」

 

BANN!!

 

「ッ!」

 

力説するアニモを無視し、拳藤は掌底を蛙に叩きこむ。しかし、腹がブヨンと揺れただけで、蛙はじっと彼女を見つめるのみ。

 

「ふははは!!残念だな小娘よ!この子にはどんな物理攻撃も」DGAA!

 

発現の途中で、束になった黒鞭は彼らを飲み込んだかと思うと、すぐ背後の岩盤に叩きつける。

 

「緑谷!!サンキュ!!…確か…」

 

礼を言いつつ、口元に手を当てる拳藤。現状を冷静に分析する。前方の3人とアニモ博士は緑谷が抑えている。なぜか騎士風の男は攻撃してこない。

 

ベンと同様にアメリカでの職場体験を受けた拳藤。朧気ではあるが、目の前にいる敵の何人かは知っている。

 

「緑谷!今捕まえている奴!右から【操髪】【怪力】の個性!左端の短髪の武装女はレーザー系に注意!それとっ!?」

緑谷への助言は紫色の波動に阻まれる。

 

避けようにも後ろにはベン達がいるため避けられない。大拳でベン達を囲い、背中で攻撃を受ける拳藤。意識を刈り取るほどではないが、一瞬呼吸が止まる。

 

そんな彼女へ歩み寄るのは銀髪の魔女。

 

「あら。思ったより効いてないわね。やるじゃない!」

 

「かはっ…あんたは確か…パープ=ウィチル…敵名【チャームキャスター】!」

「なんだよ!ボクがヘックスをやっつけたから復讐に来たのか!」

 

アメリカ滞在での一週間で、ベンは二度、目の前の女と戦った。その際、彼女はヘックスという魔術師に仕えており、単独で相まみえるのは初めてだった。

 

菫色のローブをたなびかせるチャームキャスター。彼女の長い銀髪は月明かりに照らされ鈍く光っている。

 

「ああ…おじ様は関係ないわ。むしろ好都合って感じ。それにあなたへの恨みもそんなに強くないわ。どちらかといえば、隣の()に似た従妹の方(グウェン)を殺してやりたいわ?」

 

動じることもなく、淡々と話していたチャームキャスターだが、言葉の終わりに拳藤を睨む。

 

殺意を発する敵に危機を感じたのか、拳藤は駆けだす。

 

魔術という、個性とは異なる力を扱う敵。多様な術に対し彼女が対処することは難しい。()()()()()()()()()()がゆえに、先手を取りに行く。

 

距離を詰める彼女に対し、魔女は手をかざしながら優雅に呪文を唱える。

 

「ブロウ=アイド=ウィンドリア!」

 

詠唱が終わると、掌から小さな竜巻が生まれる。それは彼女の手から離れたと思うと、土埃を巻き込みながら暴風へと成る。

 

グルグルと渦を巻きながら突き進む風に、拳藤はなすすべなく捕らえられる。

 

風の刃に閉じ込められた彼女は、そのまま梢枝を折りながら林の奥へ。バキバキと折れた小枝は彼女の身を削り、刺さる。

 

DGOO!!

「がっ…!?」

 

そんな彼女を後目に、チャームキャスターはベンへと近づいていく。

 

「なんだ!やる気か!?所詮グウェンに負けた魔法使いじゃないか!」

 

「っ!!うるさい!私を侮辱するな!!」

 

激昂したチャームキャスターに気圧されるベン。動きを止めた彼を見て、深呼吸する。

 

「…ふう…テニスン。実は私にはやることがあってね」

 

スラリと伸びた足は一歩、一歩とまた踏み出される。

 

「トランスカ=アイデンティカ。トランスカ=アイデンティカ…トランスカ」

 

呪文が唱えられ始め、シャボン玉のような巨大な球体がベンへと向かい始める。

 

トランスカ=アイデンティカ。一生に3度しか使えない禁断の魔術。その効果は肉体の入れ替え。

 

チャームキャスターは、ベンの力を奪うのではなく、自分がベンに成り代わり、力を得ようとしていた。

 

半透明の球体がベンを包みこんでいく。

 

「なんだよこれ!!くそっ!出せよ!!」

 

内部からはガムのような質感で、押しても叩いても弾けない。

 

エイリアンの力を目前にし、彼女はチラリと雑木林を見る。

 

林は先ほど放った竜巻でボロボロ。木枝が折り重なっており、抜け出すのは困難だろう。その奥にいるはずの拳藤もこちらに来る様子もない。

 

個性を見る限り近接系。もう成すすべはないだろう。

 

再びベンへと視線を向ける。

 

「あんたの力と私の魔術が合わされば無敵よ!!トランスカ=アイデンティ

 

最後の詠唱を終える時、林奥から誰かの叫びが聞こえた。

 

何と言ったのかは聞こえなかった。

 

だが

 

何と詠唱したのかは分かった。

 

慣れ親しんだ力が、()()()から感じられたから。

 

「ブロウ=アイド=ウィンドリア!」

 

彼女以外の口から、この呪文が唱えられる。

 

すると、先ほど開けた林の穴から、自分が放ったものと同等、もしくはそれ以上の暴風が樹木を意に介さず突き進んでくる。

 

間一髪で避けきるも、呪文の効果は途切れる。球体がはじけ、しりもちをつくベン。そんな彼に目もくれず、チャームキャスターは声を荒げる。

 

(有り得ない!有り得ない!?なんで日本の小娘が!!)

 

彼女のプライドは、今この瞬間に砕けた。これで、2度目だ。

 

「私の術を!!」

 

両腕から、頭髪の同じ、橙色のオーラを出しながら、彼女は戻ってくる。

 

「身に覚えがない?初心者に負ける魔女さん?」

 

オレンジ色の髪を靡かせ、ビロードのような瞳を輝かせる拳藤。そのセリフは誰かを彷彿とさせた。

 

(性格まで似てきたよ)

 

こんな状況にも拘わらず、ベンは今度を憂いた。

 




ネガティブ10の動向!長いので飛ばしてもらっても大丈夫です!

・緑谷の目の前に

①【怪力】のサムスカル
②【操髪】のフライトウィッグ
③【武装】のアンドロイド=ロジョ

・拳藤たちの近くに

④アニモ博士
⑤チャームキャスター。

・⑥騎士風の男は静観。
・合宿所に

⑦【隷蟲】のクランシー
⑧騎士風の男の部下

森の中で気絶中
⑨【催眠】のサブリミノ
⑩【腐酸】のアシッドブレス



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83話 目的

・これにて林間合宿編終了!


時は梅雨が明け始めた7月。

 

体育祭や海外職場体験で顔見知りとなった拳藤とグウェンは、すっかりテレフォンフレンドとなっていた。

 

「つまり…【タイムマシンというのは個々人に内蔵されるものであり、誰しもが時間旅行を楽しめる可能性を持つ。宇宙には既に、タイムトラベルを自由に行える生物が存在するかもしれない】ここまでがパラドクス博士の見解ね!」

 

電話口からはグウェンの声。拳藤にとって彼女との会話は非常に有意義なものであった。日本ではあまり聞けない個性の話や個性歴史学など、自分も興味のある分野なので飽きることは無い。

 

とはいえ、もう生き物は寝静まる時間。そろそろ切り上げねば。

 

「グウェンってそのパラドクス博士好きだねぇ」

 

「当然!噂じゃ時間操作系の個性を持ってるんじゃないかって!」

 

「ふーん…とりあえず今日はこのくらいにしてもらおっかな。明日はベンと勉強会なんだ」

 

「イツカ…あなたベンに勉強教えているの?まだ猿に芸覚えさせた方が簡単だって」

 

「あはは…まあ確かに…今回の勉強会も無理やりだし…」

 

ポリポリと頬を掻く彼女を察したのか、グウェンは仕方なしに提案する。

 

「…ま、どーしても困ったら連絡して!あのおバカさんでもお尻ひっぱたかれたらやる気出すでしょ!」

 

「…なんだかんだ言って、グウェンもベンのことほっとけないんだね」

 

「はぁっ!?冗談辞めてよ!いい?あいつか敵、どっちか助けろって言われたら即決で敵を助けるわ!?もちろん、ベンに散々文句言ってからね!」

 

強い口調で否定するグウェン。

 

そんな彼女に対し、拳藤はなんも返さない。その間はまるで、彼女の本当の言葉を待っているようだった。

 

ついに観念してか、グウェンはため息をつきながら本音を吐露する。

 

「…けど…そうね。家族だもの。なにかあった時に頼れるのが、家族でしょ?あんなちんちくりんでもね。」

 

従弟ではあるが、小さいころからの付き合い。そんな彼女の言葉には、自分にはない重みと説得力があった。

 

グウェンと返答を聞いて、顔が曇る拳藤。力なく言葉を返す。

 

「うん…そうだね…」

 

「何よ、イツカ、暗いわね。」

 

「あのさ…あたしは…ベンが好きなんだ。まだ出会って数か月だけど、ベンが傷つくのは耐えられない。でも、あのとき…あたしはなにもできなかった。結局ベンが戦って、なんとかした」

 

ヴィルガクスとの闘いを思い出すと、胸の奥から悔しさと不甲斐なさがフツフツと湧き上がる。

 

守ると決めた。そのためには力が必要。オムニトリックスを有するベンを守る力。それは途方もないほどの努力が求められるだろう。だが、心に刻むため、彼女は言葉にする。

 

「あたしは、ベンを守りたい。そのために、強くならなきゃいけない。」

 

その想いが恋愛感情なのか親愛感情なのかはわからない。だが、彼女の想いの丈はグウェンにも感じ取れた。

 

「…誓いなのか告白なのか…恥ずかしげもなく、よく言えるわね…」

 

「あ、ごめん!なんか…その…グウェンに言ったって仕方ないよね!個性だって全然違うし!」

 

「あのね、イツカ。確証はないんだけど、あなたが強くなる方法は一つあるわ」

 

「え?」

 

「とりあえず、あたしの言葉を繰り替えして」

 

「言葉?」

 

「そう。あ、念のため外でね…これは、個性とは違うなにか。そいつ曰はく、センスがあるか無いからしいわ」

 

「…えっと…」

 

「ものは試しよ!よく聞いてね。頭の中で風をイメージして。えっと…竜巻が良いわ。それが自分の掌から出るイメージ。呪文は…」

 

「ブロウ=アイド=ウィンドリア!!」

 

オレンジ色の闘気とともに、彼女の掌からは小型の竜巻が放たれる。

 

荒れ狂う竜巻は、チャームキャスターめがけて地面をえぐり進む

 

すんでのところで回避するも、とらえていたベンにはまんまと逃げられてしまう。

 

「っなんであんたが!?」

 

「思い当たることはない!?」

 

彼女の言葉で記憶をたどる。

 

(この女とは会ったことは無い。一族にもいなかった!魔法は…あたしたちの血と呪文がないと…っ!!まさか!)

 

「あんた‥‥あの小娘にぃぃぃぃ!!!!」

 

「イツカ!どうしてお前も!」

 

「教えてもらった!!」

 

魔術を使える条件は、脳の神経系にとあるエイリアンのDNAがあるかないか。ただそれだけ。

 

魔術の本をチャームキャスターから奪い取ったグウェンと、彼女を師事する拳藤には、そのDNAに適合していた。

 

グウェンよりも出力は弱いが。それでも状況を変えるには十分な威力の竜巻。

小枝や砂利が吹き荒れ、かすり傷が絶え間なくできる。

 

たまらずチャームキャスターは腕で顔を防護。その隙が命取りだった。

 

DOMM!!

 

拳藤は右手を巨大化し、背中の樹木を思いっきり叩く。その反作用で、彼女の体は前へと弾かれる。

 

敵が呪文を唱える。だが彼女は怯まない。

 

爆発物が頬を霞める。だが、相手の懐に入ることはできた。

 

見上げるとそこには魔女の顔。額には汗をかき、その目じりには涙が溜まっている。

 

拳を目の前にした彼女の顔は、ひどく歪んでいた。

 

「双大拳!」

 

ただのアッパー気味の掌底。上げ切る寸前まで、拳は普通サイズ。しかし、インパクトの瞬間に巨大化することで、その威力を倍増させる。

 

TTAAANN!!

 

彼女の編み出した必殺技は、悪の魔女を宙へと舞わせる。月明かりが、彼女の銀髪に反射され、ベン達を照らした。

拳藤の奮闘の横では、別の戦いが終わろうとしていた。

 

「あああああああ!!!」

 

SMASHH!!

 

かろうじて動く右腕でのSMASH。拳を握ることもできないので、ゆらりと腕を横薙ぎに振っただけ。しかしリスク度外視の100%は、海を渡った敵を地に着かせる。

 

「こんなところで…私の研究が…ありえ…ん」

 

巨大化した蛙とともに、地に伏せるのはアニモ博士。

 

(これで…4人目…拳藤さんも…勝ってる…あとは…あいつだけだ…!)

 

息切れする緑谷。その体はここに到着した時よりもボロボロ。だが、その甲斐あってか状況は好転していた。

 

残るのは鎧を着た仮面の男のみ。

 

「イズク!大丈夫か!」

「緑谷!!」

 

林近くで戦っていた拳藤たちが戻ってくる。

 

「平気…だよ。ベン君はそのまま滉太君を…」

 

そして、笑顔を作る余裕もない彼は、キッと目を細める。

 

「…お前たちの…目的は…なんだ…!」

 

霞む目をこする力もない緑谷。気迫だけで立っているが、それももう限界。教師陣が来るまで時間を稼ごうと策を弄す。

 

足がおぼつく緑谷に対し、目の前の騎士は答える。

 

「彼らの目的は憎きベン=テニスンを倒すことだ」

 

指し示す方向には倒れている敵。

 

「しかし…私の目的は違う」

 

仮面の奥で笑みを浮かべる。緑谷からは見えないが、少なくとも彼はそう感じた。そして、優雅ともいえるその立ち振る舞いから、途方もない憎悪を感じ取る。

 

 

瞬間、こめかみに、刺すような痛みが走る。

 

「…!」

 

指示を出そうとする。が、間に合わないと判断。

 

一瞬、闇の中に一本の光筋が見える。かと思うと、その軌跡をたどるように仮面から薄紅色のレーザー射出。

 

光線は、一直線にベンに向かう。

 

SSMAASHH!!

 

ベンとレーザーの間に割って入った緑谷。残る力を振り絞った最後の一振り。しかし、レーザーは風圧をものともせず、彼の体を貫く。

 

「うがぁぁぁ!!」

 

骨をも溶かす熱帯びたレーザー。それは彼の上腕をいともたやすく焼き貫く。

 

膝から崩れ落ちてしまう緑谷。が、その思考は途切れない。

 

(がっ…今の…特徴的なピンクの光と…アメリカ…)

(5年前の…アメリカHBTで一位)

「「…フォーエバーキング…!?」」

 

「おや、私のことを知っているとは‥さすが日本人、勤勉だね」

 

緑谷と同時に答えたベン。困惑しながらも彼の情報を思い出す。

 

「なんでお前が…確か…捕まえた敵の武器とかを内緒で盗んでて…それでヒーローをクビになって…」

 

「違う!私は配管工の隊員だったのだ!表ではヒーロー活動を、裏ではエイリアンの駆除を。国からの要請を受け、私は多くの仲間とともに国に尽くした!」

 

配管工とは対地球外生命体ヒーロー部隊のことである。エイリアンの存在にいち早く気づいたアメリカは、その対応を一部のヒーローに任せていたのだ。

 

「しかし、私がとあるエイリアンテクノロジーを利用しようとしたとき、私は排斥された。“これは国が管理しなければ混乱を招く”とな」

 

エイリアンテクノロジー。その際たる例がオムニトリックス。人類の到達していない未知の領域。もしそれが国民に知られたら、間違いなく社会は混乱する。その事態を恐れたアメリカは、エイリアンの存在を隠すことにしていたのだ。

 

「私の様な優秀な人間にしか、エイリアンテクノロジーは扱えない。私が手にすることが!人類の進化に最も近づく手段なのだ!だがやつらは、“君は不安定すぎる”と一蹴した」

 

「だから…永遠の騎士団に入ったのか」

 

「ああ。この組織は私の思うように、願うままに動く。今度は、誰にも邪魔させない」

 

「そんなことさせるもんか!!」

 

敵の陰謀を阻止しようと意気込むベン。だが。前に出る彼に拳藤の制止が入る。

 

「駄目だよ、ベン。せめて、変身できるようになってからじゃないと…!」

 

「大丈夫だよ!ボクだってやれる!」

 

「駄目だって言ってんでしょ!!」

 

彼女の迫力がビリビリと伝わってくる。いつもと違い本気で怒りを露わにする彼女にベンは思わず息を飲む。

 

その様子を仲間割れだと思ったのか、フォーエバーキングは笑いながら拍手する。

 

「ははは、面白いじゃないかテニスン。最強の君も、それが機能しなければただの子どもというわけか」

 

「なんだと!?」

 

「挑発だよ、ベン。もう少し待てば先生も来るし、あんたも変身できる。だから、今は下がってて」

 

無理やりベンを後退させ、彼とフォーエバーキングの間に身を置く。

 

「ふむ…さすが雄英スクールの生徒だ。実に妥当な判断だ」

 

言い知れぬ不安感から、警戒心を高める拳藤。

含みのある言い方にある言い方。敵の余裕はどこから来るのか

彼女の疑問はすぐに解決された。

 

WHHOONN!!

 

敵の背中側は断崖。何もなかった。のに、背後に黒だか紫だかが混じった靄が発現していく。

瞬く間にその靄は人型となり、手から等身大のワープゲートを形成する。

 

(…これは‥A組から聞いた、ワープ機能を持つ黒い霧!てことは…!)

 

「敵連合!!」

 

叫ぶ彼女を一瞥するも、黒霧は任務へと意識を戻す。

 

「フォーエバーキング。時間が来ました」

 

「ああ、ありがとう。後は頼んだよ」

 

「わかりました。…彼らは?」

 

黒霧は寝転がり憔悴しているネガティブ10を伺う。一応、全員が敵連合に顔を出したため、仲間という認識が彼にはあった。

 

「そのままでいい。最初からこの予定だった」

 

しかし、敵の大将は何の気なしに彼らを捨て駒と評する

ひらりとマントを翻し、拳藤と正対する。

 

「先ほどの質問にまだ答えていなかったね」

 

「あら、教えてもらえるの?じゃあぜひご教授願いたいな!」

 

地べたに転がる緑谷をかばう為、前に勇出る拳藤。

嫌味を入れながらも、緑谷から視線を外さない。そんな彼女に対し、フォーエバーキングは勝ち誇る。

 

「私の目的は」

 

もったいぶるように口を閉ざす。まるで何かを仕掛けているように。

 

いつレーザーを打たれてもいいように気を張り詰める拳藤。目の前の騎士を穴が開くように観察する。

 

(仮面からのレーザーに注意…待って?なんで…逃走用の黒い靄の中に入らない…?なんで…片手だけ)

 

その違和感に気づいたときには、もう遅かった。

 

「うわっ!!」

 

後ろから悲鳴。振り返ると、ベンのすぐ後ろには黒い靄が完成していた。漆黒へと変わった靄からは、腕だけが伸びている。

 

すぐに事態に気づき、身を翻す。そして、地に伏せていた緑谷も、【最悪の事態】を目の前にして跳びあがる。

 

「「っっっ!!やめろ!!」」

 

闇の中の腕はベンの首を掴む。抵抗しようにも、素のベンの力では元ヒーローに敵うはずもない。じたばた暴れるほど、彼の体は闇に飲まれていく。

 

ゆっくりと引きずられるようにベンの半身は靄の中に。

 

「ベン(君)!!!」

 

無理を押す緑谷と拳藤。渾身の一撃を靄へと放つ。

顔が見えなくなりつつあるベン。彼の最後の一言は

 

「来ちゃ…駄目だ…イ」

 

SSMAASHH!!

BAASSINNN!!

 

2人の全力の攻撃で、周囲に砂ぼこりが立つ。その風圧は地に付す敵たちを吹き飛ばすほど。

 

視界が開けてきたとき、彼らの目に入ったのは大きなクレーター。ぽっかりと空いた大穴には彼らしかいなかった。

 

「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「ああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 




・雄英1年林間合宿

軽症者 12名
重傷者 4名(プロヒーロー含む)
行方不明者 2名




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神野編(ベン10 エイリアンフォース)
84話 人外


新章突入!原作でもこのへんは神展開でしたからね…頑張ります!


雄英高校1年林間合宿は、敵連合の襲撃により、雄英史上最悪の事件となった。ただでさえ、5月に侵入を許し、生徒に戦闘許可を出した前例のある雄英。当然、マスコミらの矛先は学校に向かう。

 

そして、そのネタを仕入れるために、報道陣は我先にと病院へと押し寄せる。当然、その騒ぎは入院している生徒らへと伝わる。

 

「…」

 

が、しかし、緑谷出久にとって、その騒音は思考の妨げとなるものではなかった。彼の頭の中は、この2日間の夢のことで一杯だった。

 

「僕が…」

 

覚えているのは、ベンが攫われたこと。それ以降の記憶がない。

 

一面に暗黒の暴風が荒れ狂う世界。現実ではあり得ない光景だが、緑谷は落ち着いている。なぜなら、この景色は、既に見た景色だったから。

 

自分の手足を見ると、うっすらと影が覆っており、感覚が無い。発声しようとすると、どもった声にしかならない。

 

現状を確認していると、背後から声を掛けられる。

 

「やあ」

 

振り返ると、そこには線の細い、白髪の男性。歳の割に、高く、とても印象的な声。合宿前に、夢で見た人だった。

 

「…あ、ああたは?」

 

誰か?と質問しようにも、言葉にならない。そんな彼を気遣うように、男は微笑む。

 

「大丈夫。心の中で話しかけて…」

 

その言葉の通り、緑谷は質問する。

 

(あ、あなたは?)

 

ゆっくりと、なだめるような声で青年は答える。

「僕は死柄木与一、初代ワンフォーオールだよ」

予想外の一言にたじろぐ緑谷。思わず後ずさると、ドンと誰かにぶつかる。

 

「大丈夫かい?」

 

これまた白髪の男性。端正な顔立ちだが、その額から頬にかけて、ヒビのような傷跡。

 

その男性の登場を皮切りに、次々とコスチュームを着たヒーローが現れ、いや、見えてくる。

その中には、いつかグラントリノが話していた、オールマイトの師匠と思わしき女性もいた。

 

与一と名乗る初代OFA、そしてオールマイトの師匠の姿から、彼らが誰なのかを察する緑谷。

 

(皆さんは…先代の、OFA継承者…ですか?)

 

「その通りさぁ!!さすが坊主!察しが良くて助かるぜぇ!!」

 

「先輩、声が大きすぎますって」

 

緑谷の問いに答えたのは、【黒鞭】の持主、OFA五代目 万縄大悟郎。ツッコミを入れたのは口元を襟で隠した少年だった。

 

「少年、先の戦いで、激しい頭痛に襲われなかったかい?」

 

万縄を後目に、白髪の男性が質問する。

 

フォーエバーキングが光線を打つ前の、刺すような痛みを思い出す。

 

その思考を汲み、男性は続ける。

 

「あれは私の個性だ。【危険感知】。害意や危機を捉え、知らせてくれる」

 

「びっくりしたぜぇ!確かに、これから坊主には俺たちの個性が発現する、とは言ったが、こんなに早く使えるとはよぉ!!」

 

「うん、それについての説明も、僕からしよう」

 

矢継ぎ早に継承者から話しかけられ、混乱していた緑谷。見かねた与一は、すッと前に出て、

 

「座ってくれ」

 

気づけば、彼らと自分の後ろに椅子が備わっていた。

「君は、万縄君から、OFAの覚醒について聞いているね?」

 

黒鞭の発現時、五代目から聞いたことを思い出す。

 

(は、はい。OFA継承者の個性がこれから発現していくって…)

 

「そう。あの時は時間が無くて万縄君も話せなかったんだけど、

本来なら有り得ないんだ。歴代の個性が発現するなんて。

八木君からも聞いている通り、この個性は【力をストックして個性ごと他人に渡す】個性。あくまで、その身体能力しか継承されないんだ」

 

両肘を膝につき、組んだ手で口元を隠しながら与一は説明する。心無しか、語気が強くなるのを感じた。

 

「確かに、ワンフォーオールの継承方法はDNAの摂取。各々の個性因子がつながっている可能性はある。だけど、それと個性が使えるかは関係無い。いや、無かったんだ」

 

(「だった」…?)

 

過去形に疑問を抱く緑谷。その顔を確認すると、与一は立ち上がる。

 

「ところが、ある日、OFAという個性()()()()の性質が変容する事態が起きた」

 

(…個性の変容‥?)

 

「君は、体育祭で、ベン=テニスンと戦ったときのことを覚えているかい?」

 

(は、はい)

 

彼らの頭上に、映像が浮かぶ。荒れた画面を見てみると、体育祭の決勝戦が流れていた。

 

「君や八木君を通じて大まかな事情は知っている。彼の力の源はオムニトリックスと呼ばれる時計。無数の宇宙生物に変身させる、コミックみたいな道具さ」

 

映像の中のベンを指さす与一。他の継承者も、口には出さないが、ベンの戦いぶりに感心している。

 

(た、確かに、改めて考えると有り得ない話というか…でも、どうして急に…)

 

首を傾け、再び映像に目線を移す。つられて緑谷も映像をみると、そこでは緑谷がベンの手首を掴んで投げ飛ばしていた。

 

「このとき、君の血液があの時計に混入したんだ」

 

(…!?そういえば!その後、少しだけだけど、ベン君はものすごい力を発揮して…まさか、ベン君にワンフォーオールが継承されて…!?)

 

「いいや、それは無い。現に今、彼からはOFAを感じないだろう。

でも、あの時、彼の中にOFAが芽生えたのも事実だ。あの瞬間、OFAという個性と、オムニトリックスという変身装置はつながった」

 

驚愕の事実に緑谷は振り返る。ロングヘア―の女性を始め、ほとんどの継承者ははっきりとした面持ちではない。

 

「皆、その時は意識が確立されていなかったからね。僕もほとんど存在しないものだった。

けど、朧げに覚えている。あの時計の中のことをね。

彼の中には、正確にはオムニトリックスの中には、何十、何百、いや、何千ものエイリアンがいた」

 

何千という数字に言葉を失う緑谷。変身できる数が増えているとは思っていた。しかし、まさか千を超えるとは。

 

与一は続ける。

 

「数えきれないほどのエイリアン。それらを制御するオムニトリックスに、ほんの一瞬、僕、つまりOFAが触れたんだ。」

 

(もしかして…)

 

「ああ。あくまで、【力をストックして渡す】個性であるOFAが、彼のオムニトリックスとつながったことで、変わってしまったんだ。」

 

(【継承者の個性を顕現する】個性へと…でも、どうして急に今)

 

「先日のケビン11との戦闘だよ」

 

(!)

 

「個性が変容したと言っても、君ではOFA自体の練度が足りなかった。だけど、オムニトリックスと密接な関係を持つケビン11と戦ったことで、ついに個性が解放されてしまったんだ。」

 

(確か、オムニトリックスの力を吸収したのがケビン11。OFAが変容した原因もオムニトリックス…)

 

ブツブツと独り言を始める緑谷。そんな彼を誰一人として留めなかった。それは、この後に続く彼への言葉を考えていたからだろう。

 

(そうか…これまで情報として継承者の個性因子がOFAに備わっていた。だけど、ベン君のオムニトリックスとつながったことで、【複数の能力が併存する、顕現する】ということを学習、もしくは影響されたんだ…)

 

ひとしきり考察した緑谷だったが、納得できたのか、与一を真正面から見る。

 

(…そういうことだったんですね。確かに、急に個性が発現したことには驚きました…)

 

手を握りしめ、傷だらけの腕を見つめる。そして、一拍おいた後、顔を上げて意気込む。

 

 

(でも、これまでの継承者さんたちの力と、

OFAの力が合わされば、どんな人だって救けられます!)

 

笑顔で人々を救う最高のヒーロー。その夢にまた一歩近づける。

そう思い、自らの志を示す緑谷。

 

だが、その発言を受けた与一の顔は暗い。

 

黙り込んだ与一を見かねたように、後ろから男性が彼に歩み寄る。鋭い目つきと、痛々しい傷跡がその空気を更に緊張させる。緑谷だけが、誰かに似ている、と思った。

 

「これで、俺たちの悲願、オールフォーワンを討つことだってかなうはずだ。与一。だから、これは悪いことじゃない。OFAを持つ(継承する)とは、そういうことのはずだ。」

 

後ろから与一の肩に手を置く。

 

励ましなのか、慰めなのか、諭しているのか。

 

彼の言葉で意を決した与一は、緑谷を見据える。

 

「…緑谷君。君に言わなきゃならないことがある」

 

(?はい)

 

「君は今、複数の個性を顕現し、しかも同時に使用することができる」

 

頷く緑谷。

 

「本来、個性を複数持つこともありえない。そして、個性を複数持ったとしても、同時に使用することは普通の人間には不可能なんだ。」

 

(え?)

 

「なのに君は、黒鞭、OFA、危険感知を何度も同時に使用した。」

 

続けざまの事実に再び困惑する。だが、与一は、つづけた。

 

「君の体は、君の個性因子は、もう個性の枠を超えているんだ」

 

緑谷の額に汗がにじむ。与一も、苦虫を潰したような顔つきとなっている。しかし、振り返り、2代目と目を合わせた後、息を吸い、

 

「君は、(オムニトリックス)の中で見た、エイリアン(人外)となってしまったんだ。」

 

その言葉で、緑谷の夢は終わった。おそらく、彼らが伝えるべきことは伝えたということなのだろう。

 

未だ、晩期のオールマイトにも及ばない自分が、複数個性を操れる人外となった。つまりOFAは、まるで宿敵AFOと同様の力であると。

 

人間であることを辞めてなお、OFAの使命を果たすことができるか。

 

初代、そして、歴代の継承者は、そう問いたかったんだと推測する。

 

「エイリアン…」

 

OFAがオムニトリックスと交わり、いわば個性の先祖がえりを起こしたことで、自身の体はエイリアンに近づいた。

 

【人間】から遠ざかることは普通耐えきれるものでもない。その重圧と嫌悪感をはねのけることができるのか。初代が心配していたのはそんなところであろう。

 

だが、

 

9代目 OFA継承者 緑谷出久には、関係の無いことだった。

 

「救けられるんだ…この力があれば」

 

緑谷にとって、自分の体のことなど、どうでもよかった。母を苦しめることになるかもしれない。だが、それでも、果たすべき使命と、救けたいという想いを否定することは出来なかった。

 

「なんとしても、ベン君とかっちゃんを取り戻さなきゃ…!」

 

力を発揮できていればベンを奪われることは無かった。責任は自分にある。だからこそ、身を滅ぼそうとも彼らを助けなければならない。

 

ベッドの背もたれから体を起こし、1人拳を握る。

 

そんな彼に、お誂え向きの来訪者が現れる。

 

「緑谷…話があるんだ」

病院の洗面所で、1人の少女が鏡を見ている。

 

(ああ…まただ…また、あたしは無力だった…)

 

拳藤一佳もまた、病院での治療を受けていた。リカバリーガールの治療により意識ははっきりしていた。ゆえに、その残痕もはっきりと彼女を襲う。

 

「おえぇぇ…」

 

もう出るものはない。にも拘らず、むかむかとした吐き気が収まらない。口元に垂れている涎を拭い、鏡を見る。

 

(ひっどい顔…)

 

丸二日は寝ていたはずだが、目元には隈。

 

二日間の夢の中に出てくるのはベンの最後の表情。

 

怖がっていることを隠し、強がる表情。彼女にはそう見えていた。そんな顔をさせた自分が情けなく感じる。

 

フォーエバーキングと名乗る敵。奴はエイリアンテクノロジーを知っていた。そしてケビン11の属する敵連合。

 

つまり、敵はベンがオムニトリックスで変身することを把握している。もしかするとベンには興味が無いのかもしれない。

 

用があるのはウォッチ。もし取り外しが可能となれば、敵にとってベンの価値は無くなる。悪の組織に用済みとされた人間の末路は容易に想像できた。

 

「くっそ…!絶対に…絶対に取り返す…!」

 

命に代えても。どんな手を使っても。

 

そう決意した時、先ほどの気持ち悪さは無くなっていた。

 

GANN!!

 

拳を壁に叩きつける。ポタリと床に染みが出来た。鏡には見たこともないような、鋭い目つきの自分がいた。

 

最低限、体を治す為に彼女はベッドに戻る。自分の企みを悟られないため、カーテンを閉める。

 

あれやこれやと、奪還作戦を考える。が、そもそも敵のアジトさえ知らない。

 

思いついたアイデアが、理性的な自分によって否定される。

 

何十分もその行為を繰り返していたとき、ふと気づくとカーテンの裏から声がした。

 

耳を澄ますと、同室の緑谷と、A組の声。

 

「だから…救けに行こうぜ…!爆豪もテニスンも、同じ仲間だ!確かに俺たちの出る幕じゃないかもしれないけど…でも、なにかできると思うんだよ!!」

 

病院内にしては大きな声を上げるのは切島。

 

「八百万が敵に追跡装置を付けてて、どこにいるかはわかるんだ。そこに爆豪達がいるとは限らねぇけど…」

 

八百万。創造の個性もちであることは知っているが、あまり交流はない。体育祭でも振るわなかった生徒だ。だが、この緊急時に、最善といえる行動をとれたことに、同学年の拳藤は感服する。

 

敵のアジトさえわかれば、なんとか子ども1人助けることはできるかもしれない。いや、可能性が低くてもやるしかない。

 

彼女の考えを読んだかのように、カーテンの向かうで緑谷が提案を受ける。

 

「うん、いこう。なにかできるなら、僕はやるべきだと思うんだ。今度こそ、」

 

そういうと思った。あのとき一緒にいたあんたなら。

 

シャっとカーテンを開ける。

予想外の登場に、切島は顔を引きつらせる。

 

「っ!拳藤!?い、今の話…」

 

発案者の切島は、止められると思ったのかあたふたしている。そんな彼に、拳藤は答える。

 

「あたしも連れて行ってくれ」

 

所変わって、とある地下の研究室。

 

電球は無く、ほのかに光る赤ランプや紫色に発光する液体で、その部屋は照らされている。

 

「ほっほっほ!!始めましてじゃなぁベン=テニスン!」

 

眼前に迫るのは、奇怪な眼鏡を付けた老人。その両隣には、フォーエバーキングと、よく見知った顔、ケビン11。

 

ベッドに胴体と左腕を固定されたベンは答える。

 

「…胡散臭い爺さんと、全身鉄仮面と…化け物…全く、全然、本っ当に!センスがないね…!!」

 




緑谷の件はわかりにくかったかもしれません。完全に独自設定です。もし質問があれば感想欄でお願いします!


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85話 個性の到達点

ゴリゴリに独自設定が飛び出します!!こういうの考えるのが好きです!


背中には鉄の感触。おそらく安物のベッドなのだろう。身を捩るが、胴体と左手に固定ベルトが装着されているため、上手く体が動かせない。

 

ガチャガチャと音を鳴らし、手首を自由にしようとするが、

 

「無駄じゃよ。君の力じゃ、ボルト一本緩まん」

 

「うるっさいなぁ。胡散臭いじーさんはアニモ博士で間に合ってるんだよ!」

 

「胡散臭いとはご挨拶じゃな!まあ間違ってもおらんが!わっほっほ!」

 

丸々と太った老人は一見すると無害そうだ。髭を撫でつけながらベンを見下ろす。

 

「儂の名前は殻木球大!まあ覚えても覚えなくともよい」

 

「あっそ。じゃあ覚えないよ。ボクはどうでもいいことは3秒で忘れる性質なんでね。そういや名前なんだっけ?!」

 

周囲にはケビン11とフォーエバーキング。不気味な研究施設で、敵に囲まれているにも拘わらず、ベンは減らず口を叩く。

 

「さすがじゃのう!極悪敵を前にそこまで勇めるとは!15歳とは思えぬその胆力!それともただお子様なだけかのぅ?」

 

部屋の広さは教室一個分ほど。至る所にパイプが繋がれており、シュウシュウと怪しげな気体が放出されている。

 

首を少し上げると、鋼鉄と電子盤で構成された扉が見える。その下部には、まるでペットが通る様な小穴。

 

「なんでもいいけどさ!これ解いてくんない?」

 

なんにせよ、時間を稼ぐほかない。そう考え話しかけるベン。

 

虚空に放たれた言葉に反応したのは、ケビンでも、フォーエバーキングでも、殻木でも無かった。

 

「そうはいかないよ。ベン=テニスン君」

 

コツンコツンと足音が響く。声からして男性だと推測される。

 

敵とは思えないほど穏やかな口調。渋く、それでいて老いを感じさせない声。

 

足元から徐々に照らされていく。革靴とスーツパンツという、大人な服装。中肉中背。特に評するような個性はない。

 

が、首から上が視界に入ったときに、その評価は反転する。目や口、耳すべてを覆い隠すような、真っ黒なマスクをかぶっていたからだ。

 

「そ、そのマスク…趣味わっる…」

 

「あはは。そう思うかい。僕は良いと思うんだがねぇ。こう、悪の帝王…魔王のような雰囲気が出ていないかい?」

 

パイプの繋がれたマスクの奥から、落ち着いた、優しくなでるような声。思わず警戒が緩む。

 

「じっくり君とお話しをしたいのだけれど、時間があまり無くてね。」

 

油断したベンの頭部をわしづかみするその男。

 

「わぷっ!何すんだよ!」

 

首を振り抵抗するベンだが、男は気に留めない。そのまま彼を押さえ、ひとつ頷く。

 

「ふむ…少なくともこの子から奪える個性はないね…」

 

「そうか。やはり奴のいうことは…」

 

再確認するかのような殻木に対して、両手を組んで佇むフォーエバーキングが声をかける。

 

「だから言っただろう。彼の力はすべてその時計のおかげだ。オムニトリックスという宇宙最強の武器。子供でもここまでのパワーを発揮できることから、その偉大さがわかるだろう」

 

「そうだね。彼の実験も一人は上手くいっていたし、真実であることに間違いはなさそうだねぇ。」

 

「ふむむ!これは研究し甲斐がありそうじゃのう!」

 

「これで研究は最終段階に入れるね。じゃあドクター。僕は行ってくる」

 

スーツ男が踵を返す。すると彼の周囲には黒いヘドロが出現する。グルグルと彼を包んだかと思うと、工場マスクの男を跡形もなく消す。

 

殻木は少し悲しそうな顔を見せる。

 

が、すぐに振りかえる。

 

「さあ、ワクワク実験タイムじゃ!!」

 

「これは…すごい…個性因子を何十倍にも濃縮したようなDNAが、体中に点在しとる!」

 

床に滴るのは暖かい液体。

手首から血を流すベンを放置し、殻木は興奮する。

 

顕微鏡に目を押し当てながら、ベンの血細胞を凝視。その様子に痺れを切らしたのか、ケビンは結論を求める。

 

「…つまりどういうことだよ!」

 

「ある種、お主と一緒ということじゃ。エイリアンDNAと完全に結合しとる。違うのはただ、DNAが暴走しているか否か。ケビン、お主も【個性】の範疇を超えているからの」

 

嬉々として解説する殻木に対し、フォーエバーキングが続ける。

 

「彼の体を利用すれば、最強の兵隊が出来上がるだろう」

 

「いったたた…ど、どういう意味だよ!」

 

痛む手首を摩ることもできないベン。なすすべもない彼の言葉に殻木は答える。

 

「ふむ…せっかくじゃ!教えてやろう!!」

 

研究者としての性か、学会を追い出された反動か。殻木は説明したがりなようだ。

 

「この世界を変革させた個性。この正体は」

 

「エイリアンのDNAだろ!?知ってるよ!」

 

頭に気が上っているベン。殻木がなぜ知っているか、ということに気づかない。

 

「なんじゃ…説明を受けていたのか…まあいい。君の知るように、個性の元はエイリアンDNA。儂もそれを知った時は驚いた。そして高揚した。人類が誰もたどり着けなかった領域に儂は足を踏み入れたのだから」

 

「はあ?」

 

「血狂いのマスキュラー。君は戦ったのだろう?」

 

「それがなんだよ」

 

「あれが一つの到達点じゃ。元々の個性持ちに、エイリアンDNAを融合させ、その力を飛躍的に伸ばす。事実、マスキュラーはオールマイトをも超える逸材となった。まあ、お主がそれを無に帰したのじゃが…」

 

人差し指をくるくると回しながら、ベンに背を向ける。

 

「この方法は彼が提案したもの。儂の個性研究と彼のエイリアンDNA情報によって到達した極地なんじゃ」

 

「彼…?」

 

「ああ…アルビード君じゃよ」

 

「…アルビー…あっ!!」

 

どこかで聞いたことのある名。其の5文字を必死に脳内で検索すると、ある一場面が思い浮かぶ。

 

それは、ベンの人生の転機となった、宇宙でのこと。

 

「ガルヴァン星人の…!!アズマスの部下か!!」

 

オムニトリックスの開発者、アズマスの弟子 アルビード。小型だが、宇宙でもトップクラスの頭脳であるガルヴァン星人。その特性ゆえか、宇宙船ではひどく地球人を見下した発言をしていた。

 

しかし、なぜそんな彼が地球に。

 

「あいつ、なにが目的なんだよ!」

 

「…彼にも色々と目的があるが…【ベン=テニスンへの復讐】は目下の目標らしいのう」

 

「はぁ!?なんで!?ヴィルガクスとの戦いでもあいついなかったのに…あんな小さい奴になにができるかってんだ!」

 

「…っふ」

 

「なにがおかしいんだ!」

 

「いや…うむ…その通りじゃな…ぐふっ、ははっは!」

 

笑いを押さえきれない殻木。おかしなことに他のものも同様に笑っている。一体何がおかしいのか。

 

少し間をおいた殻木。フーと息を吐き、再び拘束台の方を向いて話し出す。

 

「どこまで話したかの…ああ、そうだ。個性とエイリアンDNAの融合。これがアルビード君の考えた案。じゃが天才の儂は、もう二つ上の発想をしたのじゃ」

 

殻木の発言に首を傾げるケビン。

「なんだじーさん。俺らはそれを聞いてねーぞ」

 

「おお、そうじゃったのか?まあ最近思いついたことじゃしの。ちょうどいい。お主にも関係はある。」

 

大げさに腕を広げ、正規の大発明でも披露するかのような態度をとる。

 

「わしは個性の研究を重ねに重ね、個性終末論を導きだした。複雑怪奇に混合していく【個性】は、やがてその身を亡ぼすとな。じゃが、個性の原点、エイリアンDNAの知識まで手に入れた儂は、次のフェーズに至った。もはや地球に儂以上の個性研究者はおらん!!」

 

「地球で最も優れた研究者である儂は…【個性の先祖返り】を起こす!!」

 

「…?」

 

聞いたことの無い単語を聞かされ、理解が追い付かないベン。そもそも個性終末論自体も知らないベンに、殻木の話が通じるはずもなかった。不可解な顔をしているベンに、少々肩を落とす殻木。

 

「まあ…やはりわからんか。よし!じゃあじっくりと説」

 

「ドクターガラキ。その話もいいが、もっとなすべきことがあるのではないか?彼の腕時計はまだ未知の道具。用心に越したことは無い」

 

冷静沈着にドクターを諭すフォーエバーキング。その指摘にカチンとくるが、すぐに納得する殻木。

 

「ここからが面白いのにのぉ…まあ、そうじゃの。早速取り掛かるか」

 

スタスタと、寝そべるベンに近づく。

 

「ベン=テニスン君。知っての通り、わしらが興味あるのは君の体とその時計じゃ。君の心はいらん」

 

急な処刑宣告にさすがに肝を冷やすベン。唯一動く口を動かし反抗する。

 

「へ、へん!外そうとしても無駄だよ!どんなに頑張っても取れなかったんだ!!」

 

「らしいの。例え君の腕をちぎっても、その時計は離れない。アルビード君も言っておった。じゃ!か!ら!これを儂らに授けてくれた!!」

 

大きく右手を振り回し、後ろに待機しているケビンへと視線を誘導する。

 

彼の肩には、3メートルほどの筒が担がれていた。材質不明な円柱は、遠目からでも複雑精密だと思える様相。

 

青白い電線が側面に走っており、ほのかに光り、また消えていた。筒の先端には4つの爪がくの字になっている。

 

「U、UFOキャッチャーみたい…」

 

空気に似合わないベンの一言に、殻木は声を震わせて笑った。

 




もうすぐ最終章ですが、読者の皆さん的に、
・しばらく投稿が無くて、書き溜めが出来たら毎日投稿
・今のまま週一投稿
どちらが良いでしょうか。アンケートで回答して頂けたら幸いです。


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86話 この手で

すごくポジティブに見えるタイトル…


ケビンの肩に担がれているのは鉄柱…いや、先端にアームがついているので、何かを掴む装置なのだろう。

 

おもわず、感想を漏らすベンと、ゲラゲラと笑う殻木。

 

「U、UFOキャッチャーみたい…」

 

「ファッファッファッ!!!言い得て妙じゃ!確かにUFOキャッチャーかもしれんの!ただし、景品は、その手首にある宝じゃ!

 

「高次元反物質別離反装置か。さすがに永遠の騎士団でもこれほどのものは作れなかった。さすがアルビード君だな」

 

ここにいない人間を褒めるフォーエバーキング。そんな彼に頷くと、殻木はケビンに指示を入れる。

 

「ではこれから!端末型多種族変身時計 オムニトリックスを引っぺがす。準備は良いか、ケビンよ!」

 

「ああ、もちろんだぜ…!」

 

ケビンはこれ以上ないほど口角を挙げる。化け物じみた様相の中で、唯一人間と同じ形を保っていた口。それが裂けているにも拘わらず、彼はウキウキと歩く。悪魔の笑みとはまさにこのことだ。

 

ベンの左腕は台上に固定されている。その手首を狙い、ケビンは装置を構える。そして、4本アームの中心にオムニトリックスが来るように、機器を突き立てる。

 

すると、それぞれのアームからプラズマを発され、繋がり、青白いひし形が浮かび上がる。

 

IIIVVVWWWWW!!

 

その青色のプラズマに反応するように、オムニトリックスは高周波を出し始める。泣き叫ぶような声がオムニトリックスからは鳴り響く。

 

と、ともに、緑とも青ともとれない電磁波が辺りに飛び散る。床は削られ、壁には穴が。だが誰もそのことを気にしない。全員が衝撃の発生地点に目を奪われている。

 

高周波はやがて低く鈍い音と甲高い音を行き来する。

 

BBBBEEEEUUUUUU!!

 

と、おぞましい鳴き声が響いたとき、ついにオムニトリックスに変化が出始める。

 

どんなに振り回しても、どんな工具でいじろうとも、決して手首から外れなかったオムニトリックス。

 

愛着すら湧いていた時計は、徐々に筒へと吸い込まれ始める。

 

「ぁぁああぎぎぁあああ!!!!」

 

まるで腕ごともげるような激痛がベンを襲う。

 

ウォッチのベルトは伸縮し始め、彼の手首からほんの少しづつ浮いてくる。ミチミチと、ベンの体細胞とともに。

 

皮が、肉が引っ張られ剥げる。それでもオムニトリックスはベンからまだ離れていない。

 

「うあぁあぁっ!!ぐぁ!あああああ!!」

 

苦痛に歪んだベンの顔には涙。涙は頬を伝うのではなく、ふわり浮かび上がる。その雫が顔に付着するも、気にしないケビン。ただ、分離の反動を押さえつける。

 

「あうああっ!!うぎぃぃぃ!!!があああああ!!!」

 

悲鳴を上げるベンだが、ケビンがやめる様子はない。どころか、嬉しそうに筒を押し込む。

 

「言いざまだぁ!!このまま…!」

 

吸収の衝撃波は部屋全体へと波及している。もうこの研究所は持たないかもしれない。

 

バキバキという音が左右、そして目の前から聞こえる。

 

「取れちまえぇぇぇぇ!」

ケビンの叫びとともに、ベリべリとウォッチのベルト部分が切れていく。

 

オムニトリックスの使用者の意図以外では離れない、という原則が今、書き換えられていく。

 

BARIBARI!!

 

ベルトの切れ目が目視できた時、

 

「うわぁぁぁあああっ!!」

 

BAQNN!!

 

小さな音を最後に、オムニトリックスは筒へ吸い込まれる。スポンと筒を通った後、アームと逆側に備え付けてあるカプセルに収納される。そのカプセルは、オムニトリックスと出会ったときと同質のものだった。

 

装置からカプセルを出し、手中に収めるケビン。天高く掲げ、勝利宣言を下す。

 

「やったぜ!!これでお前も無個性だ!!俺を馬鹿にした報いだ!!」

 

ゲラゲラと声高に笑うケビン。彼の頭の中にあるのは復讐心と嗜虐心のみ。

 

それとは逆に、ただただ研究心だけでベンを見定めるのはドクター。

 

「おほほ!思いのほかすぐに終わったの!!では、次の施術に入るか!」

 

ベンはウォッチをはがされた衝撃で息を切らしている。そんな彼の容態を気にすることなく、殻木は実験に移ろうとする。

 

余韻に浸ることができなかったケビンは殻木を睨む。

 

「ああん!?次?」

 

「うむ。儂の実験には彼のDNAが必要なのじゃ。といっても脳無にするわけじゃないから、自律思考能力は必要ない。じゃから…この薬で仮死状態にする」

 

いつの間にか手に持っていたのは注射針。濁った翡翠色の液体が針から漏れ出ている。

 

「や、やめろ!ほら、ボクを殺したらウォッチの使い方わかんなくなっちゃうぞ!」

 

「アルビード君がおれば大丈夫じゃろう。君の価値は、人間でありながら、エイリアンDNAと適合しているということじゃ…」

 

ブスリ、針が静脈へと刺される。顔を歪めるベン。

 

満面の笑みのドクターが押し込もうとしたとき、

 

GANN!!

 

「っ!!??」

 

ドクターの体は壁に打ち付けられる。

 

わけがわからない。なぜ、先ほどまで自分を手伝っていた者が手を挙げるのか。

 

「な、何じゃケビン!」

 

ケビンは装置を殻木へと放り投げる。放物線を描いた装置は、尻もちをついている殻木へと落下。その重みで動きが取れなくなる殻木。

 

まるで憐れむように彼を見下すケビン。

「じーさん。ここまでありがとよ」

 

誰しもが予想外の出来事。フォーエバーキングもどう対応するか考えている。この場で唯一彼の声をかけたのは、

 

「ケビン…」

 

助けられたベンだった。

 

ゆっくりとベンに近づくケビン。

 

「なあベン。なんで俺がお前を助けたかわかるか?」

 

さきほどの笑みと反対に、真顔で質問するケビン。

 

その意図を考えるベン。思い出すのは初めてであった時のこと。

 

確かに、彼とは友達だった。もしかすると、オムニトリックスが無ければ彼とはそのままの関係だったかもしれない。

 

「…」

 

無言のベンに対し、ケビンは笑いかける。

「ベン…俺は…お前を」

 

呟いたかと思うと、ケビンのダイヤの腕はパキパキと音を立て始める。

 

「この手で…ぶっ殺してやりたいんだよ!」

 

「そうだよな…!期待した僕が馬鹿だった!!」

 

ケビンの左腕は硬化していく。ほんの少し尖らせることで、彼の拳は鋼鉄の壁をも貫く矛となる。

 

「さあ。お前の大好きな…キラキラ石で…」

 

「ふんっ!ふんっ!!」

GTYANN!!GATYANN!!

 

左腕を必死に引き上げるベン。なんとか、なんとか抜け出そうとする。

 

「あの世へ行きな!!」

 

 

gasDGGANN!!

 

宇宙で最も硬いダイヤモンドヘッド。そのDNAを10分の1引き継いだ彼の腕は…拘束台に穴を開ける。

 

何者の血も流さずに

 

「はっ!?躱され…!?なんでだ!?

 

ケビンの攻撃に耐えられなかったベッド。ガシャンと音をたて崩れ落ちる。

 

その横で、コロリと転がった少年は満面の笑みで立ちあがる。

 

「いい加減名前覚えろよ!ダイヤモンドヘッドだ!!」

(あっぶな!!ウォッチが外されたときの衝撃で、留め具が外れかけてたんだ!!)

 

「っち!悪運の強い野郎だ!!」

 

ケビンがベンめがけて走る。

 

が、彼の股ぐらをスライディングで潜り、後ろから彼が掌握するカプセルに蹴りを入れる。

なんとも間抜けな絵面だが、その人蹴りでカプセルは投げ出される。

 

ふわりと宙を舞った後、床を2、3回バウンドする。

「くそが!!」

 

悪態をつくケビンに目もくれず、ベンは駆けだす。床に転がるのはカプセル。その中には起死回生のアイテム、オムニトリックス。

 

もう一歩踏み出せばカプセルに手が届く。

 

といったところで、

 

PYYUNN!!

 

薄紅色のレーザーが足元へ。穴の空いた床に、おもわずたじろぐ。

 

「ショーはここまでだ。ベン=テニスン」

 

「…ああ、本当だよ!お前たちの遊びはここで終わりさ!」

 

どんな状況でも冗談を飛ばすベン。その精神性に感服しながらも、しょせん子供か、と一蹴するフォーエバーキング。

 

鼻で笑ったかと思うと、今度は出力を上げ、ベンの喉を狙いビームを射出。

 

緑谷をも貫いたビームに、思わず恐怖する。

 

眼をつぶるベンをレーザーが打ち抜く。子どもの体などたやすく壊れる。

 

はずだった。

 

KAANN!!

 

と小気味良い音がきこえた。

 

その代わりにといってはなんだが、体になにも異常はない。確かに敵はレーザーを打った。なのにどうして?

 

不可解な事象を疑問に思い、薄っすら目を開けると、

 

そこには、半透明な碧障壁。

 

続いて敵に視線を戻す。すると、彼の目線は自分の後ろにあった。驚くような、落胆するような、目つき。

 

振り返ればそこには、空間歪み。

 

だが、この歪み、いや、ゲートを自分は知っている。思い出すのは職場体験。

 

揺らめく黄波紋からは一本の腕が出ていた。水色のオーラを纏っている。

 

スラリとゲートを潜ってきたのは、大好きな家族だった。

 

「ほんっと、問題しか起こさないわね」

 

「孫は返してもらうぞ!」

 

「っっ!!!グウェン!!じーちゃん!!」

 




・やっぱりベン10はこの2人がいないと!とのことで久しぶりのグウェンとマックスじーちゃんです!
・アニメでウォッチを取り外すシーン、めちゃくちゃ痛そうなんですよね


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87話 ベン=テニスン:ライジング

タイトルが強い…


ゆっくりと渦を巻く正体不明のエネルギー。謎の現象を目の前にして、この場のほとんどの者が動けないでいた。

 

だが、ベンだけは違う。その渦を見たことがあった。数か月前、宇宙へ行く際に潜ったワープゲート。

 

「じーちゃん!グウェン!!」

 

ゲートから出てきたのは2人のヒーロー。彼らを見て思わず涙腺が緩む。そんな情けない顔を見せまいと少し顔をそらすベン。

 

1人はエイリアン工学をふんだんに取り入れたパワードスーツを。もう1人は暗闇に溶けるスーツとマスクを装着している。

 

思わぬ登場に感激しながらもベンは尋ねる。

 

「けど、なんでここが?ここがどこかもわからないのに…」

 

常に両アームから駆動音が漏れ出るマックス。その音に負けないよう、声を張る。

 

「わしも知らん!ナルボイドプロジェクターの設定を、オムニトリックスの在処にしたらしい!」

 

ナルボイドプロジェクターとは、アズマスが開発した、異世界への繋続機。それを応用することで現実世界でのワープも可能になる。

 

そして、オムニトリックスのDNA波を感知することで、ここへたどり着いたのだ。

 

最も、

 

「あんた、ウォッチはどうしたの!?」

 

グウェンが指摘したことでマックスも気づく。ベンの左手首からオムニトリックスが消えているのだ。その取り外しをアズマス以外ができたことに驚く。

 

「あのカプセルの中にある!」

 

ベンが指で示した先にはフォーエバーキング。彼の腕元にはバスケットボールサイズのカプセル。初めてベンがウォッチと出会ったときと同じカプセルのようだ。

 

そんな彼に託すように、殻木は告げる。

 

「フォーエバーキング!逃げるぞ!」

 

「逃げる?馬鹿を言うな。テニスン一家が揃っているんだぞ?」

 

予想外の一言に憤慨する殻木。悪趣味な眼鏡には並々と涙が溜まっている。

 

「んぬぅぅぅ!!どいつもこいつも!!だから人間は信じられんのじゃ!!ジョンちゃん!!」

 

その声とともに、どこからともなく現れた小さな脳無。小型犬ほどの大きさの脳に、足がくっついているだけ。

 

非常に不気味な出で立ちの彼は、口からヘドロを出し殻木を包んでいく。

 

ヘドロが全て床に撒きちる頃には、殻木と脳無の姿は跡形もなく消え去っていた。

 

 

奇妙な生物と異常な科学者。彼らの行動に呆気に取られたグウェンとマックスだったが、すぐに切り替えフォーエバーキングへと標的を決める。

 

「グウェン、援…」

 

が、その時

 

「どぉっりゃ!!!」

 

グウェンをめがけてケビンが猛突進。その巨体に似合わない速度でパンチを放つ。

 

「ふっ!!」

すんでのところで回避に成功。その身軽さを活かし、バク転を決め後方に下がる。

 

GUWANNN!!

 

彼女の立っていた場所には大きなクレーターが。少しばかりだが、プスプスと焦げ臭い匂いも残っている。

 

「お前…ベンの従妹か!はっ!面が似てるだけあって虫唾が走るぜ!」

 

「…次同じこといったら、そのおでこの提灯引きちぎるわよ!!ベン!下がってて!!」

 

10代の少年少女が戦闘を開始するのを眺めるフォーエバーキング。そんな彼にマックスは挑発ともとれる言葉をかける。もしかすると、かつての先輩への哀れみかもしれない。

 

「やあドリスコル。会えて嬉しい、といいたいところだが、それは嘘になってしまう」

 

「そうか、マックス。私は…嬉しいがな!」

 

右手を掲げ、胸のコアからエネルギーを集中。ボディの中心からあふれ出るエネルギーは、煌々と光る薄紅色の光線へと変化し、マックスへと向かう。

 

PYUUNN!!

 

抱えていた電磁巨砲でガードするも、銃は真っ二つ。電子回路がやられたのか、銃身からはモクモクと白煙が立つ。

 

視界が遮られるも、その奥からガチャンと銃を落とす音を聞くフォーエバーキング。

 

ふっ、と仮面の奥で笑う。しかし、すぐに彼の表情はこわばる。

 

煙の中から、小型のレーザーガンを抱えてマックスが突っ込んできたからだ。

 

「忘れたか!この銃を!」

 

配管工部隊でトップクラスの使用頻度を誇る電磁巨砲。その最大の特徴は銃の構造にあった。2つのレーザー銃を電磁力でつなぐことで威力を増強。

 

さらに、場面に応じて分解し、2丁拳銃にもなるのは、ドリスコル考案の武器であった。

 

(片方を落として油断を誘ったのか!?)

「忘れていたよ!過去の忌まわしき記憶など!」

 

マックスは鍔迫り合いに持ち込む。

 

パワードスーツを着たマックスと、全身を鎧で覆うフォーエバーキング。押されているのはマックス。

 

敵の力の源を悟ったマックスは驚愕する。

 

「ドリスコル。さっきのレーザー…まさか、サブエネルギーを!」

「ああそうだ。そして、私の名はフォーエバーキング。その名は捨てた!!」

 

 

人類とエイリアンの技術を限界まで折り合わせた配管工たち。その隣では、彼らの肉弾戦とはまた違った戦いが繰り広げられていた。

 

「チョコマカとうぜぇぞ!!」

 

ケビンはその4本腕でグウェンを執拗に狙う。炎が、ダイヤがグウェンを仕留めにかかる。

しかし、グウェンはあらゆる手を使ってすいすいと躱す。

 

「だりゃあっ!!」

 

ケビンの右ストレート。炎を纏ったそれは、ガードすれば一瞬で焼けこげるものだ。

 

グウェンは彼の挙動を見て冷静に対処する。

 

軽く跳躍をしたかと思うと、上方に紫色のパネルを設置。そのパネルを両手で掴み、反動をつけケビンを軽々と越す。そして、無防備な背中に手を伸ばす。

 

「バーン=エクスプロイド!!

 

設置型の爆発魔法。両腕がほのかに光ると、その光はケビンの背中の羽に移る。そして、オレンジ色の閃光が周囲を照らし、

 

BO!BOMM!

 

黒煙を撒き散らす。敵の視界を奪ったところで、今度は側面から空中後ろ回し蹴りを決める。

 

PANN!!

 

幼少のころから習う【空手】

エネルギーを実体化させる個性【マナ顕現】

そしてつい最近取得した【魔法】

 

3つのスキルを使いこなすグウェンは、もはやサイドキックの次元を超えており、日本でもトップランカーを張れるほどの実力に達していた。

 

惜しむらくは、

 

「チクチクかゆいんだよぉ!」

 

敵が、プロヒーローをも超えた化け物であること。

 

幸いというべきか、頭に血が上ったケビンは、ベンではなくグウェンに標的を変えていた。グウェンは周囲を掛ける一方で、ベンのいる場所には近づかないようにしていたからだ。

 

しかし、それも時間の問題。ケビンの気分次第でベンは再び狙われる。ウォッチも、サポートアイテムもない今、自分が一番無力なことを自覚しているベン。

 

(ケビンかフォーエバーキング、どっちかの隙を作れば2人がなんとかしてくれる。けど、どうやっ…!)。

身体能力を飛躍的に向上させるパワードスーツ。その防御力もただのヒーロースーツとは一線を画す代物だったが、敵が使うのは異次元のエネルギー。時間が経てば経つほど、マックスの体はボロボロになってゆく。

 

「どうしたマックス。もう終わりか?」

 

しかも敵は片手しか使っていない。抱えられたカプセルは一度も彼の腕から離れることが無かったからだ。

 

呼吸を荒げながら、マックスは忠告する。

 

「っはぁ、っはぁ、ッド、ドリスコル。サブエネルギーを使うのはよせ!。それは不安定すぎる!」

 

「不安定か…私も隊を止めるときに言われたよ。

 

【お前は不安定すぎる】とな。ヒーロー免許も剥奪され、私は全てを失った。何年も国に尽くしたのにだ!」

 

「なぜ、今になってこんなことを!。半年前、基地のラシュモア山にサブエネルギーが移されたが…それを狙ったのか!?」

 

「いいや、全ては、この装置だ」

 

カプセルを見せびらかすようにマックスに突き出す。

 

「すぐにわかったよ。日本での雄英体育祭。そこで間抜けに力を誇示するお前の孫を見てね。これさえあれば、この最強のエイリアンテクノロジーがあれば、世界をも手中に収めることができる!!」

 

自らに陶酔するフォーエバーキング。彼の中に、国民のために尽くしたドリスコルはもういなかった。

 

目の前にいるのは、ただ我が欲望に従う半機械人。それを悟ったマックスは、オムニトリックスの開発者の意思を伝える。

 

「それは、宇宙を平和に導くためのものだ。私利私欲のために使うものじゃあない」

 

「はっ!これが平和のため?笑わせるな!この世のすべてを凝縮したような力の塊。それがこの時計だ!誰でも使える、誰でも無敵になれるこの時計が、平和をもたらすものか!」

 

どれも事実。その設計の意図は【平和】であっても、用途が【戦争】のためになったものはいくつもある。長く生き、長く戦ってきたマックスは思わず口をつぐむ。

 

しかし、

 

「違うね!」

 

「なに?」

 

幼少のころからヒーローに憧れ、そして1年以上ウォッチと付き合い続けた彼は、違った。

 

「オムニトリックスは、戦争のためのものなんかじゃあない!宇宙で最高で、最強の!」

 

いつの間にか元気を取り戻していたベンは一気に距離を縮める。

 

レーザーを出していたのはいつも右腕。直観的に気づいていたベンは、彼の左後ろを取る。

 

そして、左腕に抱えられたカプセルへと腕を伸ばす。

 

「ボクの宝物だ!!」

 

ガン!

 

骨と金属の衝突音。

 

フォーエバーキングの鉄腕がベンの顎に入る。カプセルを持ったままの一振りだったが、それでもベンの体は壁まで吹っ飛んだ。

そのまま無言でカクリと首を下に向ける。

 

「ふっ。所詮こどもか。」

 

孫を殴られ、頭に血が上るマックス。

 

激昂したかと思わせるその唇の震え。

 

しかし、思いのほか冷静であった。

 

「…ベ…?!ふっ!!」

 

ベンの攻め方を参考にし、敵の左側に回りながら弾丸を飛ばす。

 

当然、ただ攻撃を受け入れるフォーエバーキングではない。レーザーを放ち相殺する。

が、左からくる弾を右手で止めることを強いられているため、少々苛立ってくる。

 

「っち!さすがにしつこいぞ。もう諦めどきかと思わないかね?マックス!!」

 

PYYUUUNN!!

 

さきほどよりタメを長くして出力を上げたレーザー。弾丸を弾き飛ばしたながら、向かう先はマックス。

 

「ぐあっ!」

 

正真正銘、銃は空中に放り出され無防備になる。地面に転がったマックスに対し、右手を向け、見下ろす。

 

「これで終わりだ。まったくいつもお前は余計なことをする…っがはっ!!?」

 

BATTIN!!

 

セリフを締めくくる前に、彼の左腕に衝撃が走る。とともに空中にカプセルが投げ出される。

 

振り返ると、そこには、レーザー銃を構えたベンの姿が。

 

「そのじーちゃんの、孫なんでね!!」

 

彼の手に持つ銃には見覚えがあった。なぜなら、始めに自分が真っ二つにした銃だったからだ。

 

落とした銃を拾い、隠し持っていたベン。

 

(一度倒されることで私を油断させたのか!?)

「ぬおぉぉぉぉ!!」

 

宙を舞うカプセルに手を伸ばす。

 

先の衝撃で、ダンゴムシのように丸まっていたカプセルはカシャリと開く。

 

空中で、その中身は飛び出す。

 

自由落下していくのは戦争を招く兵器か、それとも平和をもたらす宝物か。

 

その行く末は、

 

一人の少年に託された。

 

CAPTURE!!

 

あの時(出会い)と同じく、左腕にぴったりとくっつくオムニトリックス。自身の瞳と同じ色の光が周囲を照らしていく。

 

気のせいか、10何種類ものエイリアンの影が、朧気に見えた気がした。

 

「ふざけるなァぁぁぁ!!」

 

怒り狂いとびかかろうとするも、マックスが許さない。故障しかけのアームで、敵の体を取り押さえる。

 

「ベン!!こっちは大丈夫だ!!グウェンの方へ!」

 

祖父の声に、ベンはこくりと頷き、走る。

「ったく!そろそろ疲れなさいよ!!」

 

狭い室内を駆け回るグウェン。数分間のヒット&アウェイで時間を稼ぎ、あわよくば敵の消耗を狙っていた。

 

が、無尽蔵のスタミナを有するケビンにそれは愚策だった。どころか、

「だんだんお前の動きもわかってきたぜぇ!!」

 

魔法にもマナにも適応し始めたケビンは、彼女の動きを先読みする。左腕を地面におき、ダイヤを走らせ着地を狙う。

 

「きゃっ!」

 

体を回転させ避けるも、足に痛手を負う。先の様な動きはもう望めない。歯を食いしばりながら見上げると、そこには異形が立ちはだかる。

 

「だいぶ面白かったが…これで終わりだぁ!!」

 

「ケビン!!」

 

拳を振り終える前に、彼の名を呼ぶものがいる。

 

振り向くとそこには少年。出会って数か月だが、もう自分との因縁は誰よりも深い。

 

初めてエイリアンの力を吸収した時から、無性にベンにいら立ちを覚えていた。だが今、やっとその縁を断ち切ることができる。

 

「お、自分から死にに来てくれたのか?」

 

拳を打ち鳴らし、ケビンは近づく。2組の腕はメキメキとその強度、硬度を上げ、殺意を具現化したような形となる。

 

そんな狂嬉する化け物に対し、ベンは真っ向から挑む。

 

「ほんっとに…さっきは散々やってくれたな!?今度は…こっちの番だ!!」

 

もう怖いものはない。なぜなら宝物は我が手にあるのだから。

 

変身先は、朧気だが記憶に残っている、ウェイビッグ。全ての悪を打ち滅ぼさんと、ベンは全身全霊でウォッチを叩く。

 

「ヒーロータイムだ!!」

 

BASSHI!!

 

 

「あ、あれ?」

 

ウォッチは返事をしない。ただ、彼の思いとは無関係に、仄かに青く光るのみ。

 



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88話

実は今日で本作品は一周年となります。
始めは思い付きで書いた本作品ですが、多くの人の応援でここまで執筆することができました!このままラストまで書ききるつもりですので、引き続き応援よろしくお願いします!


「おいおいおい!!うそだろ!!こんなときに!頼むから、誰でもいいから!!」

 

何度も何度も、懇願するようにウォッチを叩く。しかし、うんともすんとも言わないオムニトリックス。変身の光の代わりに、ただただ青色の光を灯しているだけ。

 

「はっ!残念だったなぁ!」

 

焦るベンを見て嬉しそうに近づくケビン。巨大な足で地面を踏みしめ、ズンズンと迫る。

 

まさかウォッチが使えないとは。

 

頼みの綱の裏切りに動揺するも、すぐに心を落ち着かせるベン。

 

なにか打開策はないかと視線を左右に振る。すると、部屋の隅に、大きな扉が。

 

「ラッキー!!」

 

一目散に扉に向かい、目一杯に叩く、押す、引く。が、一ミリたりとも譲らない扉。

 

表面の手触りはゴツゴツしており、材質は不明。鈍い鼠色の光を反射していることと、自分には壊せないことだけは分かる。

 

鼻息を荒げながら両手で引っ張るも、無情にその場に佇む門。何人たりとも通す気はなさそうだ。

 

諦めかけたそのとき、

「くそっ!!…あっ!」

 

足元に小さな穴が開いていることに気づく。まるでペットが通るような穴。なぜこの扉にそれがあるかはわからないが、ベンなら何とか通れるほどの大きさであることは確認できた。

 

しめた!と内心で叫びながら身を屈める。

 

膝をつき、這いつくばりながら潜っていくベン。

 

体感だが1mほどの長さだろうか。その長さから、外部からの侵入をひどく拒んでいることが分かる。それだけこのフロアは神聖、もしくは禁断の間なのだろう。

 

やっとのことで潜り終え、2本の足で立つと、予想外の景色が視界に入ってくる。思わず声を上げてしまうほど。

 

「でっけぇ…!!!地下…だよな…?」

 

さきほどの研究室が教室程度だとしたら、この部屋は体育館ほどある。天井は20メートルほどで、常に赤錆がパラパラと降っている。

 

壁は先ほどのドアと同質の物が使われているようだ。グレーの壁で取り囲まれたこの部屋は正に禁足領域だろう。

 

だが、なにより驚いたのは、その部屋の状態。さきほどベンがいた部屋も大概であったが、この部屋には明らかに人体実験の跡がある。

 

拘束台とは違い、理解不能の機材をこさえたベッド。ガラス張りに保管されている何百もの試験管。

 

極めつけは壁際の8つのカプセル。半透明の液体の中には人型のなにかが確認できた。コポコポと空気が漏れ出ており、まだ生きていることを示している。

 

思わずカプセルの元へ足を運ぶ。内一つのカプセルは開かれており、中身は空っぽ。そこには小さな文字で

 

MUSCULAR+TETRAMADDと書かれている。

 

「マス…キュラー…+…テト…!」

GAN!DUN!!WAHHOMM!!!!

 

彼の呟きは、後方扉からの轟音でかき消された。

 

「開けやがれ!!!」

 

鋼鉄同士がぶつかる音、かと思えば肉と鉄。さらに何かが焼ける音までもが聞こえてくる。だんだん鮮明になってきている破壊音。

 

この1mの重厚な鉄壁は、直に破られると容易に予測できた。

 

こうしちゃいられないと、急いでウォッチをいじくる。

 

「なんだよ…!一回外れたらもうおしまいなのか!?そんな冷たい奴なのかよ、お前!!」

 

物に対して感情的になるのは馬鹿らしいと分かっている。それでも、この危機的状況、理不尽な扱いには、文句を言わずにはいられなかったベン。

 

当然、オムニトリックスの機嫌は変わらない。ただ群青色に灯るだけ

 

のはずだったが、

 

【オムニトリックスの使用者を更新。並びに、再起動による、オムニトリックスシステムの変更を行います】

 

突然聞こえる男性の声。

 

「うわっ!!?な、だれ!!?」

 

思わず振り返るベン。カプセルの中の実験体が話しかけてきたのか?しかしそばにいる彼らに意識はなさそうだ。

 

ベン以外誰もいないこの空間で、ベンに語りかけたのは、

 

いや、“返事”をしたのは、

 

誰でもない、オムニトリックス自身だった。

 

「オ、オムニトリックスって喋れたの!?」

 

ベンは困惑する。当然だ。これでもオムニトリックスとの付き合いは一年以上。その間一度もこんなことは無かったのだ。

 

ベンの質問には答えず、ただ事務的に喋るオムニトリックス。

 

【再起動に当たり、マスターコードの設定をお願いします】

「ま、ますたぁこーど…?」

 

【マスターコードの設定をお願いします】

人格はないようで、システムチックに続けるウォッチ。何度も同じ要求を請われたベンは意味がわからないまま答える。

 

「あーもー!!コード…コード…ってわっかんないよ!」

 

【マスターコードの設定をお願いします】

 

「っ!!じゃあ…“0 0 0 10(ゼロ ゼロ ゼロ テン)”!!」

 

【マスターコード“0 0 0 10(ゼロ ゼロ ゼロ テン)”を受理しました。続いて“version AF”へのファンクションコードを入力してください】

 

半ば投げやりになってきたベン。愛機からの目まぐるしい質問に混乱した彼は、考えなしに

0を3回、10を1回叫ぶ。

 

「ふぁ‥?もう何でもいいから!【0 0 0 10(ゼロ ゼロ ゼロ テン)】」

 

その声がオムニトリックスに届き、入力が完了する。

 

キュインという音とともに、ウォッチは涼しげな発光を止める。

 

と同時に、ベンの脳内に電流が走る。

 

視界が暗転し、世界は無となる。

 

左手首から脳天に駆け抜ける何か。その何かが神経系に到達した時、直接理解させられる。

 

新しい力を。

 

「ぷはっ!!?い、今の!!…って!?」

 

視界が開けると元の景色。ウォッチに異常が起きていると踏んで手首に目をやる。

 

すると、ウォッチはその身を黒と緑に光らせる。普段の様な、選出画面に緑に、といった具合ではない。

 

普段黒色の部分は緑に、緑色の部分は黒色に。

 

ウォッチ全体がグニャグニャと歪み発光する。

 

Qwooooonn!!

 

そして、けたたましい唸り声をあげると、己を変形し始める。

 

腕時計にしては大きめだったウォッチ。剛健なその見た目は、一回り小さくなり、スマートな形へと変わっていく。

 

カチャカチャと自己変形を進めるオムニトリックス。

 

ベルトからダイヤルまで、全てが薄い緑へと変わると、もう腕時計と言ってもおかしくはない様相に。普通の時計と違うのは、針が無いということだった。

 

よりコンパクトになったオムニトリックスが、そこにはあった。

 

「オムニトリックスが…進化した…」

 

GANN!!

 

余韻に浸る暇は無かった。もう正面の扉からは赤く燃える腕が見えている。もうひと殴りすれば奴は現れるだろう。

 

慣れないなどと言っている場合ではないと、ダイヤルを回す。

 

これまでの様に、画面の中にシルエットは表示されない。なぜなら、ウォッチからはエイリアンの3Dモデルが浮かび上がるから。

 

立体映像に思わず見入ってしまうベン。明らかに地球の技術ではない()()に陶酔してしまう。

 

「か、かっこいい‥って、そんな場合じゃない!」

 

すぐに状況を思い出し、ダイヤルを回す。さきほど脳内で見えたエイリアンたち。その力を理解できたといっても、あくまでなんとなくだ。

 

だからこそ、今自分が一番かっこいいと思えるエイリアンを選出する。

 

「頼むぞ!!今度こそ!!」

 

ダイヤルを確定し、エイリアンを選ぶ。すると今度はこれまでのように、ガシャリと中央部分が盛り上がる。そこには人型のエイリアンが投影されている。

 

新オムニトリックスに選ばれたのは果たして誰なのか。

 

「ヒーロータイムだ!!!」

QWANNN!!

扉を破ったケビン。後ろではグウェンがキャンキャンとうるさい。

 

が気にしない。なぜなら、扉の向こうには憎きベン=テニスンがいるから。

 

彼が人間であったときなら違和感を覚えていただろう。なぜここまでベンに執着するのか。

 

自分を邪魔したから?自分をこんな姿にしたから?

 

どれもしっくりこない。だが、どうでもいい。

 

エイリアンの力に溺れた彼には、些末なことだった。

 

重厚な扉は見る影もなく、ペチャンコになり地に伏せていた。鉄の絨毯を闊歩するケビン。

 

最初に目に入ったのは知らない異形だった。だが、その本能ですぐに敵と認識する。

 

炎を模した頭部に、植物の体をもつエイリアンだった。

 

吹けば飛ぶような線の細い体。沼のような緑色の体からは、うっすらとガスが噴出している。

 

彼は、ケビンを前にしてこう叫ぶ。

 

「スワンプファイヤー!!」

 

【88話 ベン10 エイリアンフォース】




さあ、新たなヒーロータイムへ


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89話 異星人の力

さあ、新生オムニトリックスの力、とくとご覧あれ!


自身の体にエイリアンDNAが運ばれて来る。その感覚は旧仕様よりも鋭敏になっている。

 

小さな細胞は分裂を始め、ベンの体を侵食し始める。

 

皮膚は葉に、骨格は茎束へと変化。心臓がポンプとなり水を押し上げ、その気化熱でメタンガスが発生。濃密なガスにより体を覆っていた枝葉は腐りゆき、腐葉土と化す。

 

発光を終えたところで、この世界に顕現した自身の名を、高らかに叫ぶ。

 

「スワンプファイヤー!!…んん、いい名前だ!!」

 

殻木研究所地下β。その広間の中央に現れたのは植物型エイリアン。初めてみる彼に、ケビン11は舌打ちをする。

 

「ちっ…俺の知らないエイリアンなら勝てると思ったか!?」

 

「ふん!もうお前なんて(どのエイリアン)でも勝てるさ!」

 

低く伸びる声で意気込むと、スワンプファイヤーは掌をケビンに向ける。

 

すると、掌のガスは燃え盛る炎となって射出。

 

火球は対面のケビンめがけて一直線。猛スピードの攻撃をケビンは体を反らして避ける。

 

後方の壁面に着弾すると、

 

BGGONN!!

 

と気持ちのいい音を立てて爆発。一瞬で周囲を白煙で包む。

 

爆煙が晴れると、そこにはドッジボール大の穴が。

 

自分が時間をかけて壊した扉。それと同材質の壁面をあっさりと破る相手の炎に、ケビンは恐れ苛立つ。

 

「おぁぁぁ!!!」

 

ドスドスと重量感溢れる足音。赤い豪脚を活かし、跳ねるように前進し距離を詰めるケビン。“10種類の性質を持つ自分でなら勝てる“と肉弾戦へと持ち込む。

 

わずか3歩で互いの間を無かったことにするケビン。駆ける間に形成したダイヤの矛が、ベンを貫く。心臓部分を、直径50センチの槍で一刺しだ。

 

ZZUSHAA!!

 

「はっはぁぁ!!」

 

体中を快感が突き抜ける。憎きベン=テニスンを殺し悦に浸る。これで終わりだ。そう思った。

 

が、

 

「残念!!!」

 

なにかやったのかと言わんばかりの平気な顔のベン。未だにケビンの腕が貫通しているにも拘らず、まるで痛がる素振りを見せない。

 

「なっ!!?」

 

動揺したケビンの顔面に手を置き、

 

「はああっ!」

 

スワンプファイヤーは思いっきり爆破。

 

吹き飛んだケビンは、炎で焼け焦げる顔面を押さえ悶える。

 

「あぁぁっ!?!?がっ…!?なんで‥!」

 

手の隙間から相手を覗くとそこには平然と立って入るベン。

 

穴の空いた胸には、シュルシュルと、植物の繊維が群がっていく。数秒後には何事もなかったように修復していた。

 

「くっそぉぉぉ!!」

 

理不尽という文字が彼の頭をよぎった。

初めて物が体を貫通した。しかし大して驚かない。すぐに体を修復し始める。蔦や蔓がみるみる増殖し、空洞になった胸に集まっていく。

 

そこからは、シュウシュウと煙が。

ふと気になって匂いを嗅ぐと、鼻がもげるような悪臭。

 

「オオウ…!強烈ぅ…」

 

 

不思議な感覚だ。以前までの変身は、エイリアンの使い方は手探りだった。試行錯誤を重ねようやくそのエイリアンの力を引き出していたのだ。

 

だが、今は違う。変身する前から、誰がどんな力を持っているのかがわかる。

 

今のベンには、これまでにはない余裕があった。

 

(すっげぇ…これが…新しいウォッチ!!)

 

歓喜の姿を隠さない彼を見てケビンは息を荒くする。が、グレイマターのDNAか、至って冷静であった。

すぐに次の策を考える。

 

遠距離ならば。

 

今度は結晶のダガーを放つ。先の矛とは異なり、炎を纏わせ射出速度と火力を上昇。一発一発に速さと重さを両立させる。

 

炎に覆われたダガーは五月雨のようにベンを襲う。

 

BSH!!BSHH! BUSH!!

 

何本も、何本も、ベンの体に刺さる。50本ものダイヤが突き刺さり燃えるその姿は歩くシャンデリア。

 

しかし、煌々と輝いていた焔はあっさりと掻き消える。

 

ダガーもズブズブと体内に飲み込まれ、口からペッと吐き出される始末。煌めいた結晶と緑色の種が地面に撒きちる。

 

ダメージは一切入っていないようだ。伸びをするベンに対し少しづつ恐怖を抱き始める。

 

それは、クラスメイトがベンに思っていることでもあった。

 

“もしかすると、こいつには勝てないのではないか”

 

頭をよぎる考えを、振り払い、次の作戦に移る。

 

「なら…速さはどうだぁ!!」

 

XLR8とワイルドマットの脚力を存分に生かし、広間を目いっぱいに駆け回る。

 

緑谷との闘いで思いついた動き。ワイルドマットの適応力に、XLR8の単純加速が加われば、目にもとまらぬ、というより目で捉えられない動きが可能になる。

 

まるでキャノンボルトのように、天井、壁をお構いなしに移動するケビン。スティンクフライの羽で、3次元的動きにまで昇華。

 

さすがのベンも目で追えないようで、首をフルフルと動かしている。

絶好の機会を見出し、彼の背後に回る。

 

今度は頭を!!

 

踏み込みを強く、容赦のない一撃。

 

を繰り出そうとするも、次の一歩が踏み出せなかった。

 

それは、彼に残った良心の呵責、

 

 

 

 

 

 

 

 

などではなく、足を絡めとるツタのせい。目線を下げると、コンクリートの床から、植物が無尽臓に生えてきている。

 

目の前のスワンプファイヤーは得意げに語る。

 

「お前が少―しだけ速いのは知ってるからな!仕掛けさせてもらったぜ!!」

 

先に吐いていたのはダイヤだけにあらず。それに気づいたときにはもう遅かった。

 

瞬きする間もなくツタは成長し、すぐにケビンの体を締め付ける。人体発火を試みるも、燃えた先から分離して、すぐに新しい芽が生えてくる。

 

植物系のエイリアンの絡め手と、炎系の爆発力。今のベンはその両者を使いこなせていた。

 

思うに、これは一年間の親友との特訓、そして、雄英での試練を乗り越えてきたからこそのものだろう。

 

巡る思い出を集約させるように、両手に力を籠める。両の掌が0距離で顔面に向けられるケビン。その掌からはひどい匂いだ。眼前に構えられた腕からはオレンジ色の発光。

 

「ぬんっ!!!」

 

BOOMMMNN!!!

 

研究室全体が震えるほどの大爆発。爆豪のハウザーインパクトを優に超す威力。部屋の中は煙で一寸先も見えない状態に。

 

紫煙はただ悪臭を蔓延らせる。

 

その匂いに辟易しながらも、ベンは考える。

 

この爆発を直接撃ち込まれて平気な人間はいない。

 

実際、切島など、硬化持ちの人間であったとしてもこれは耐えきれないだろう。それほどの威力だった。

 

だが、敵は人間を捨てたエイリアンである。

 

「ふー…危なかったぜぇぇぇ…」

 

煙の中で目を凝らすと、肌を焦がしながらも直立するケビンがいた。パキパキと体中からダイヤが剥がれている。

 

打ち込まれる寸前、薄氷のようなダイヤで体を覆い、また右の炎手で熱の幾分かを吸収。その甲斐あってか、ケビンは自分へのダメージを最小限に抑えていたのだ。

 

次第に煙が晴れ、互いの姿が視認できたとき、響いたのは機械音。ベンには悪魔の声、ケビンには福音だった。

pi

pi

pi

 

QWANN!

 

そこに立っているのは非力なベン。

 

「ひゃひゃひゃ!!元に戻っちまったぁ!?なんにもできない人間に!!」

 

炎で焦げた蔓をなんなく弾き飛ばす。先の爆発のせいか、それとも変身が解けたせいか蔦蔓はハラハラと灰になっていく。

 

形勢逆転とはまさにこのこと。隣の部屋のやつらも仮面の男との戦闘で手一杯。もう、勝機はないはず。

 

(なのに、なんだよその面はよぉぉぉ!!)

 

余裕な顔つきの、無個性の少年は勇を見せる

 

「残念だったなケビン…もう、さっきまでのボクじゃない!!」

 

オムニトリックスを掲げる。普段ならば、あの音の後は赤色のウォッチ。

 

だが、今のそれは、鮮やかな緑色だった。

 

ダイヤルを回し、彼は再びボタンを叩いた。

緑の光がベンを包んでいく。DNAが活性化されるのを感じる。それも感じたことの無いDNAが。

 

骨格はそのまま大きくなり、大人と同等の身長となる。かと思えば、両足は圧縮を始め、鳥類の足に類する形に。

 

逆に眼は何倍にも膨れて上がり、瞳の色をそのままに、複眼となる。

 

全身は凍えるような藍色とノーザンブルーに染められていく。

 

体が何かに包まれている。その謎の部位が羽であることに気づくと、ベンは大きく開き、自らが蝶であることを示す。

 

光りが自身に吸い込まれ、この世界に顕現した時、彼は呟く。

 

「ビィィィッグ…チルゥゥ…」

 

低く、ドスの利いた声で。

 

「な!?!?インターバルはねぇのかよ!!」

 

予想外の変身に戸惑うケビン。そんな彼に対し、ただ冷たく言い放つベン。

 

「…残念だったなぁぁ…」

 

ゴーストフリークを髣髴とさせる喋り方。そんな彼から一抹の不安を抱くケビンだが、有り得ないと割り切り攻撃する。

 

「くらえぇぇぇ!!」

 

右手からは炎を、左手からはダイヤの雨を降らせる。マシンガンのような炎球と鉱石は真っ直ぐにビッグチルへと飛んでいく。

 

その攻撃に対しベンがとった行動はいたってシンプル。

 

ゆらりと空中に浮くと、一直線にケビンの元へ。当然、目の前に来るのは波状攻撃。

 

「よっしゃぁぁ!!!!」

 

直撃に喜ぶケビン。

 

が、すぐに口をゆがめる。

 

ベンを捉えたかのように見えた攻撃。しかし、彼がスゥっと半透明になったかと思うと、炎とダイヤはあっけなくすり抜けたのだ。

 

どころか、すり抜けた先から、それらは凍り、連なっていく。ビッグチルが通った軌道には、炎とダイヤの美しい氷柱が形成されていた。

 

「‥!?くっそ、くそぉ…!クソがァァァァ!!」

 

もう止めることはできないケビン。脳死ともいえる攻撃。

 

アップグレードのビーム、スティンクフライのネバネバ、ヒートブラストの炎。

 

出せる物全てをひねり出す。

 

しかし、無情にもそれらはベンに傷一つ付けられない。ただ、氷の礎になっていくだけ。

 

そして、ビッグチルはケビンの目の前に来る。

 

汗をだらだらと流す歪んだ顔のケビン。彼を一瞥した後、

 

FWWWUUO…

 

ビッグチルは彼の体をすり抜けた。

 

「あが…」

 

まるで心臓が掴まれた感覚。悪寒がする。

 

体が震えていることに気づいたときには、すでに彼の体の7割は凍っていた。先ほどの蔓と違い、一ミリも動けぬ堅牢さ。

 

地球の氷ではなく、ビッグチルの故郷 惑星カリマイース製の氷。それは宇宙でもトップクラスの硬度を誇る。

 

首元まで迫る氷を見て、恐怖し、そして嘆くケビン。

 

「やめろぉ!!やめてくれぇ!俺は…!!おま」

 

最後の言葉を、無機質な氷は許さなかった。彼の呻き声すらも飲み込んで、全身を氷漬けにする。

 

全身が氷に包まれたそれは、精巧なオブジェクトにしか見えなかった。

 

ビッグチルはすたりと空中から降り、羽を折りたたむ。羽は背中に収納されるとともに、漆黒の頭巾となる。

 

暗殺者のような雰囲気を醸し出す、闇の頭巾を被る。氷の吐息を地面に吹きかけると、変身が解ける。

 

QWANN!!

 

「…」

 

彼はただ、友達だった敵を見上げていた。

 

 




書きながら思ったんですけど…強すぎません?


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90話 神野事変

長いです…



隣の部屋から伝わる振動。たったそれだけで戦況は大方予測できる。この研修室の隣にいるのはケビン11とベン=テニスン。

 

(複合能力の使い方を覚えたケビン11なら、10歳の子供などたやすく捻ることだろう)

 

冷静沈着なフォーエバーキングはビームサーベルを喉元に突きつける。容赦なく、かつての仲間であったマックスへと。

 

「配管工で40年エイリアンと闘い、アメリカントップヒーローだと持て囃されても、所詮は老いぼれ爺だな」

 

「ぐっ…」

 

「おじいちゃん!!」

 

グウェンが援護へ入ろうとするも、マックスは制止する。

 

「儂はいい!ベンを助けるんだ!」

 

「けど!!」

 

さきほど、地下全体が大きく震えた。

 

ベン達の戦闘によるものか、それともあのドクターの仕業なのか。正解はわからないが、ともかく長居は危険。ベンを助け出せればそれで御の字なのだ。

 

そう考え指示を出すも、グウェンは迷っている様子。

 

当然だ。たとえ強大な力を持ち、サイドキックになろうとも、まだ15歳の少女。従弟と祖父、どちらかを切り捨てる選択をするには酷な年齢であった。

 

(なにか、打開策は…)

 

喉元の剣を必死に押しのけようとするも、あっけなくパワードスーツは切り捨てられる。

 

ZANN!!

 

ゴトリと音を立て転がるアームを見て、フォーエバーキングは得意げに笑う。

 

「いいだろう?私の個性とサブエネルギー。これが至高の組み合わせというやつだ」

 

個性【エネルギーコミット】。電力、熱、運動エネルギー。エネルギーと呼ばれるあらゆる力を、実体化し思うままに操る個性。

 

太陽20個分のパワーを持つとされる『サブエネルギー』と彼の個性の相性はよかった。

 

何人たりとも防げない光線とサーベルを形成できる彼に敵はいなかった。

 

「たとえベン=テニスンがオムニトリックスを使おうとも、この力を受け止められるエイリアンはいない」

 

「…ドリスコルッ!考え直せ!誰もそれを扱えないからこそ、ラシュモア山に封印していたんだ!」

 

「…ふう。もうその問答も飽きた。死んでいった仲間の元へ送ってやろう」

 

ビームサーベルを閉じ、逆の手に集中する。胸の中心に添えてある『サブエネルギー』が煌めく。

 

すると、ピンク色の光が発され、鋼の腕が熱を帯びていく。

 

いざ、射出というとき、

 

「待て!!」

 

ベンの声が、トドメを阻んだ。

予想外の登場に攻撃を止めるフォーエバーキング。が、すぐに標的をベンに変える。

 

「まさかケビン11が負けたのか…!?いや、それでも関係ない。私の計画が狂うことは無い!ここで貴様を殺し、その腕の時計を手に入れる。」

 

「へん!できるものならやってみろ!!」

 

走りながら、新オムニトリックスでの3度目の変身を試みる。

 

QWANN!!!

 

ウォッチから溢れる緑の光。その光りの中から現れたのは、

 

一つ目の鉱石型エイリアン。縦に細長く、触れれば砕けそうな体。紫、ピンクの石で体は構成されており、その外見は汎用型ロボのようだ。

 

「クロマストーン!!!」

 

未知のエイリアンにギョッとするフォーエバーキング。

 

元々のエイリアンの知識と、半年渡る調査でも、目の前のエイリアンに見覚えは無かった。

 

が、関係ない。サブエネルギーを超えるエイリアンなどいるはずもない。

 

「ふん!!」

 

さきほどチャージしたばかりのサブエネルギー波。左腕にこれでもかと充填された光の圧力を、惜しみなく敵に注ぐ。

 

美しい軌跡を描き、光線はクロマストーンへ向かい、そして

 

BATTUNNN!!

 

直撃する。

 

「ふんっ…所詮、一エイリアンにすぎないのだ…ん?」

 

正対しているエイリアンの様子に違和感を抱く。

 

今射出したのは貫通力に特化したビーム。そう設定したはず。

 

なのに、ビームを受けた敵は、無傷で、ただ体から七色の光を放っている。

 

「ウルァ!!」

 

鉱石エイリアンは叫ぶと同時に、体を目いっぱいに伸ばす。

 

大きく大の字に開かれた四肢からは、油膜の様な色の光があちこちに飛散する。

 

BATYUN!! BATYN! BATYUUNN!

 

彼の体から飛び出した光は壁面をえぐる。

 

「ま、まさか光線を吸収したのか…!!」

 

その壁面を見て、わなわなと振るえる騎士。

 

苦労して、地位を失ってまで手に入れたサブエネルギー。それを10代の若造に無碍にされたことは、彼にとって死よりも残酷な事実だった。

 

「ふ、ふざけるなァ!!」

 

今度は、貫通力だけでなく、炸裂、爆発範囲、ビーム圧力すべてに力を振る。

 

鎧の両腕はピシピシと割れ行くが関係ない。ここで力を証明しなければ自分の人生を否定してしまう。

 

両の手を重ね、己の限界までエネルギーを溜める。鋼鉄の仮面からはドロリと赤い液体が漏れ出るほど彼の体は蝕まれている。

 

PPAHHN!!!

 

そんな人生をかけた一撃は、さきほどの比ではないスピードでベンへと向かう。

 

音速をも超える攻撃。周囲の人間はもちろん、ベンにも視認することもできなかった。直撃したことにもまだ気づいていない。

 

しかし、クロマストーンには関係ない。

 

その身に受けた光線すべてを吸収、自己分解し、再放出できるから。

 

その能力はフィードバックと酷似するが、全身の鉱石自体が光線を吸収できるクロマストーンは、吸収という点において、宇宙最強といえるだろう。

 

太陽よりも熱をもったビームをなんなく吸収。そして、

 

「自分の行いは…」

 

「っひ!!」

 

もはや、威厳すらも失ったフォーエバーキング。ただみじめにマントを翻して逃亡を図る。そんな彼の背中めがけて、

 

「自分に返ってくるんだ!!」

 

BATTYUUNN!!

 

クロマストーンのビームは、フォーエバーキングを眠らせた。

QWANN!!

 

「ふぃー…うん、こいつも強い!」

 

「ベン!あんた…ケビンは…?」

 

「倒したよ…ま、楽勝だったね!なぜなら、この、ニュー オムニトリックスがあったから!!」

 

白い歯をむき出ししながら、ベンは腕を掲げる。そこには以前の様なメカメカしいものではなく、スマートな腕時計があった。

 

「なんか普通の時計っぽくなってるわね…」

 

「おしゃれってやつだね!前のもゴツクて好きだけど、こっちのもクール!」

 

ご機嫌なベン。彼に対して、マックスは質問する。

 

「ベン、ケビンはどこに…」

 

「ああ、向こう…」

 

ベンは少し憂鬱になりながら隣の部屋へ2人を案内する。

 

「こ、氷漬けになってるわね」

 

「あー…加減ができなくて…」

 

「どうしたベン?なにやら歯切れが悪いな」

 

「いやさ、こいつ、最初は友達だったんだけどさ…あの時から急にボクの命を狙うようになって…ボクも戦ってる時は“なんだこいつ!”って感じだったんだけど、いざこうなるとさ…」

 

そう、初めてであった時、ベンとケビンは友達だった。少なくともベンはそう思っていた。しかし、オムニトリックスの力を吸収したケビンは、いつの間にか彼を目の敵にするようになった。

 

そのことを自覚しているベン。しんみりとした空気の中で、再びあの声がする。

 

【DNA異常を感知。DNA異常を感知】

 

「キャアッ!!?」

「うわぁッ!!ってオムニトリックスか…なんだってん…」

 

ウォッチの声に驚いた2人をマックスが制止する。それは、初めてウォッチが喋ったから、ではない。

 

「静かに…!!」

 

幾年もの修羅場を乗り越えてきた祖父は、天井を見上げている。2人もつられて首を上げると、さきほどよりも錆が落ちる量が増えていた。

 

すぐに、地面が震えだす。

 

「いかん!おそらくさっきの科学者がここの自爆シークエンスを起動したんだ!」

 

「げ、まじかよ!あの髭だるまぁぁ!!!ていうか、じーちゃん、どうしよう!!」

 

「今すぐこれを作動する。ベンは念のためダイヤモンドヘッドで守ってくれ!」

 

そう言って取り出すのはナルボイドプロジェクター。起動すると、次元の歪みが発生する。もはや見慣れた黄色の渦巻き。

 

この施設が崩れ落ちる前に空間移動を試みる。が、成功するかはわからない。なぜなら来るときはウォッチを辿ってきたが、帰りに関しての設定はなにもしていないから。

 

故に、ベンに予防策を取らせるマックス。彼の提案を受け、よしと変身しようとするベン。しかし、その顔は曇っている。

 

「え、()()()()…いや、やってみるよ!!」

 

QWANN!!

 

DDDDGGGOOMMMM!!

『次は、君だ』

 

ビルの巨大液晶画面の中で、英雄は告げる。

 

警鐘のために。次に捕まるのはお前だ、と。

 

だけど、僕には違う意味に聞こえた。ボロボロと不細工に涙を流す僕には。

 

私は燃え尽きてしまった、と。次は、君が平和の象徴を継承するんだと。

 

ベン君とかっちゃんの救出に向かった、僕、切島君、飯田君、八百万さん、轟君、そして拳藤さん。

 

神野で見つけたのは脳無倉庫。プロヒーローがそれらを確保すると同時にAFOが出現。一瞬で彼らを制圧した後、オールマイトとの戦闘を開始。

 

僕らはその間になんとかかっちゃんを救出することができた。だけど、

 

「ベンはどこなんだよッ!!」

 

俯きながら、唇を噛む拳藤さん。手からは血が滲んでいる。

 

ベン君はかっちゃんと一緒にはいなかった。おそらく連れていかれた場所が違ったのだろう。

 

隣の彼女を見て、僕も唇を噛む。もちろん悔しい。

 

だけど、出発前よりは幾分か楽になったのも事実だ。

 

なぜなら、かっちゃんが無傷だったことで、少なくとも誘拐した生徒に危害を加えるつもりはないと考えられるから。

 

テレビの向こう側には名だたるヒーロー。

 

シンリンカムイにエンデヴァー、エッジショットまで。

 

彼らがきっとベン君を救い出してくれる。ここからはもう、僕らが出ても迷惑になるだけだ。

 

それを理解しているからこそ、拳藤さんもこれ以上動かないのだろう。

 

周囲の祝勝ムードと乖離した、なんとも言えない空気。

 

俯く拳藤さんに声をかけようとしたそのとき、

 

大型ディスプレイの映像がぶれる。電波が混在したのかと思ったけど、違った。

 

BAANNNNN!!

 

建物が爆発した衝撃で、ヘリが姿勢を崩したのだ。空中から報道しているアナウンサーの人たちは、すぐに映像をそちらに向ける。

 

倒壊した建物は幾層もの山を形成していた。オールマイトとオールフォーワンの戦闘によるものだ。それらが不意に爆発、霧散したのだ。

 

まだ敵がいたのか、と皆が息を飲む。

 

が、すぐに安心する。主に雄英生徒が。

 

そこから出てきたのは、ダイヤモンドヘッド、いや、ベン君だったから。急いで俯いている拳藤さんに伝える。

 

「拳藤さん!!ほら!ダイヤモンドヘッド!ベン君だよ!地下にいたんだ!かっちゃんとは別で!なんとか変身して凌いでたんだよ!!」

 

ガバリと顔を挙げる。そして、彼女の目元には涙が溜まっていく。

 

「ッベン…」

 

決壊したように、ぽろぽろとこぼれる涙。まるでさっきの僕みたいに。

 

幸い、周囲は歓喜狂乱の嵐で、涙を流す人も少なくないから、あまり目立っていなかった。

 

『テニスン…少年…』

 

ボロボロのオールマイトが、ベン君に近づいていく。もう、歩くことすら難しいはずの体で、生徒を労りにいく。ベン君もそんなオールマイトに手を伸ばす。

 

その姿は、まさに平和の象徴。皆が、彼を褒め称え、平和の象徴コールをする。

 

【オールマイッ!!】

【オールマイッ!!】

【オールマイッ!!】

【オールマイッ!!】

【オールマイッ!!】

 

なんども動画で見た景色。1人のヒーロが何万もの笑顔を生み出す。右隣のかっちゃんも鼻水を啜っている。

 

その景色に感動し、僕も続こうとしたとき、テレビに映るベン君に、ほんの少し違和感を覚える。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしようもないほどの、頭痛が僕を襲った。

GUSHHAA

 

私の名前は特田 種男。個性【全身レンズ】という、パパラッチにはもってこいの個性を持ち、スクープを取る矮小な男だ。

 

だが、そんな私でも、この戦いは茶化せない、いや茶化してはならないと思った。

 

都市伝説レベルの存在であった

【悪の帝王】オール・フォー・ワンと【平和の象徴】オールマイトの戦い。

 

知人がヘリからリポートするとのことで、私も無理を言って乗せてもらった。

 

雄英生徒誘拐から始まったこの戦いは、ここ、神野で決着。勝者は平和の象徴。

 

やはり正義は勝つのか、と柄にも無いことを考え微笑んでいた矢先、倒壊した建物の中から異形が出てきた。

 

隣のアナウンサーは敵かと思っているが、雄英へのインタビューを考えていた私は知っている。

 

彼の名はベン=テニスン。10タイプの異形へと姿形を変え戦う、雄英の生徒。誘拐された張本人でもある。

 

今は其の10体のうち、だいやもんどへっど、という名の異形に変身しているようだ。

 

瓦礫の山から這い出てきた瞬間には警戒する人も多かったが、オールマイトが手を差し伸べるのを見て安心したようだ。

 

私はカメラを構える。平和の象徴が、おそらく最後に救った人間。そんな彼とオールマイトの2ショットを取れるのは自分だけだった。

 

なのに、なぜだろう。

 

私が覗いたレンズの中では、

 

オールマイトはその身を貫かれていた。

 

【えっ】

 

皆が、息を漏らした。まだ理解できていない。

 

電波不良?盛大なドッキリ?実はドラマ?

 

誰もが脳内に、甘露な妄想を浮かびあげる。だが、1人、また1人震えることで、現実に引き戻される。

 

先のお祝いムードが覚めていく。感情は歓喜から無へ。そして、困惑。最後に、恐怖。

 

怒号や悲鳴が町を包んだ。

 

『し、信じられません…え、オールマイトが…オール…うッ』

 

アナウンサー魂で必死で現場の状況を伝えようとするが、彼女は口を押さえ膝をつく。揺れるヘリコプターに酔ったのではない。

 

目下のオールマイトの腹部を見たからだ。彼の体の中央には空洞ができていた。あるべきはずの内臓や骨、全てがえぐり取られていた。

 

なぜなら、たった今彼の腹部はベン=テニスンに…

 

引き抜かれたダイヤの矛には、ポタポタと血が滴っている。

 

私のレンズは曇り、なにも映さなくなった。

 

「貴様…何をしている…何をしている―――!!!!」

 

一番に早くに動いたのはエンデヴァ―だ。轟君の父であり、No.2にまで上り詰めた人。

 

その迅速さはずば抜けており、オールマイトが地面に倒れてから、一秒もせずダイヤモンドヘッドへと突進する。

 

それに続いて、シンリンカムイ、エッジショット、虎が交わる。その他にも大勢のヒーローがオールマイトを助けようと、敵を倒そうと加勢する。

 

が、

 

その全員が、瓦礫の山に顔を埋めることとなった。誰一人として、目の前のエイリアンに敵わなかったんだ。

 

多分、ヒーロー達は全員、雄英体育祭を見て、彼の強さ自体は知っていたはずだ。

 

だが、まさか数人がかりでも歯が立たないとは夢にも思わなかったはずだ。

 

なにより、10代の子どもにこんな冷酷なことができるなんて。

 

ヒーローたちが力なく倒れていくのを見て、一番に発声したのは、意外にもかっちゃんだった。

 

「チビじゃねぇ…ケビンってやつだ…!あいつぁ一度チビの異形に変身してやがる!!」

 

テレビの向こう側でエンデヴァーが散っていく。そのことに動揺しながらも、轟くんはかっちゃんに同意する。

 

「そうか。USJのとき…確かにアイツは色んな異形に変身していた…なら今から俺らがいって倒」

 

「ち、違う…」

彼の言葉を否定するのは僕だ。

 

僕は知っている。ケビン11は10体のエイリアンのごちゃ混ぜにしたような風貌になっている。

 

USJの時とは違う。

 

頭が痛い。立っていられないほどだ。だけど、そんなこと気にしている場合じゃない。

 

「なに?」

 

「ケビン11じゃ‥ない」

 

その言葉と同時に、画面の向こうでは小さな閃光。

 

ああ…何度も、何度もみた色だ。

 

自分で否定しながらも、それでも望まずにはいられなかった。あれはケビン11なんだと。ベン君なんかじゃないと。

 

だけど、胸のマークの

 

赤色の点滅は、紛れもない彼の証明だった。

 

QBANN!!

 

光がやんだ後、アナウンサーが無情にも伝える。異形から、少年へと姿を戻した彼のことを。

 

全国に、全世界に電波を通して。

 

『…ンです。ベン=テニスンです!今の異形の正体は、攫われた生徒、雄英高校ヒーロー科1年A組 ベン=テニスン君です!!』

 

ヘリの上から情報を伝える記者。そんな彼女らは気づく。少年がなにか喋っていると。

 

ヘリをできる限り近づけ、マイクで音を拾う。

 

彼の言葉は、耳を疑うような演説だった。ヒーローたちを足蹴にし、まるで神にでもなったかのごとく、宣う。腕を広げ、全世界に、彼の言葉は届いた。

 

【ボクの名前はベン=テニスン!!人間に化けた、エイリアンだ!ボクが変身していたのはその能力さ!】

 

【いいか、地球人ども!宇宙人は存在する!そして、この地球はボクに支配されるのだ!!】

 




以上で神野編終了!
来週から最終章です!!週一更新をしていきます!
これからラストスパートをかけていくので感想ドシドシお願いします!


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終章
91話 兆し


麗日、グラントリノ視点です。


「以上でホームルームは終わり。すぐに寮に帰り、出歩かないこと。わかったな」

 

書類をまとめ、足早に教室を出ていく相澤先生。隣の教室から出てきたブラドキング先生と合流し、階段を下りていく。

 

久しぶりの学校であるにも拘わらず、先生達は常にせわしく動いている。だけどそれも、しょうがないことかもしれない。

 

【神野事変】から一週間が経った。私たちを含めた雄英生徒に出された指示は、“学生寮に入り、雄英敷地内から出ない”こと。

 

あの日、エイリアンを名乗るベン君がオールマイトを殺傷。駆け付けたヒーロー達も、彼の圧倒的な力にはなすすべもなく敗北を喫した。

 

多数のヒーローを死に追いやった彼は、地球を支配するという言葉を残し、どこかへ消えた。

そのとき、私は思わずホッとした。少なくとも、もうテレビの中で誰かの血が流れることは無かったから。

 

だけど、本当の地獄はここからだった。

 

現代ヒーローが束になっても勝てない敵。その敵は誘拐されたヒーロー育成校の生徒。

 

この事実はマスコミこれでもかと刺激した。

 

人を叩く大義名分が出来たから。平和の象徴を失った不安だから。エイリアン、なんて意味不明な言葉が横行しているから。

 

聴衆は我も我もと雄英に責任を問うた。

 

マスコミと敵連合。両者から生徒を守るために雄英は寮を建設し、生徒を守ろうとした。その先生達はマスコミへの対応でまともに授業もできない。

 

私たちの日常はもう戻ってこないのだろうか。

 

「麗日ぁー。なにか言ったぁ?」

 

「ううん、なんでもない…」

 

突貫工事で作られた雄英生徒寮。工程日数は3日と短期間であるが、プロヒーローが個性をフル活用して作られただけあって、設備はしっかりしていた。

 

1人小部屋で、お昼に考えていたことがぐるぐると頭をめぐる。

 

ベン君は一体、何者なんだろうか。それに…

 

陰鬱な空気が部屋に充満している気がして、部屋を出た。少しでも新鮮な空気を吸いに、ロビーへと向かう。

 

エレベーターを降りて、廊下を抜ける。

 

すると、クラスの皆がロビーに集まっていた。

 

何を話すわけでもなく、ソファーに腰を掛ける皆。いや、話したいことは一致している。だけど、切り出すに切り出せない。

 

そのまま徒に時間が過ぎていく。その沈黙を破ったのは峰田くんだった。

 

「…ほんとに…テニスンがやったのかな…?」

 

ぼそり、となるべく否定してほしそうに呟く。彼の言葉を皮切りに皆が話し始める。

 

「いや、そんなわけねーだろ!!普段はチャランポランだけど、あいつはヒーローに憧れてた、漢気溢れるやつだ!」

 

反射に等しい速度で切島君が否定する。彼に同意するように、飯田君が続く。

 

「うむ。テニスン君があんなことをできるとは思えない。確かに力はあるが、誰かをむやみに傷つける人間ではなかったはずだ」

 

両手を振りながら力説する。

 

私もそう思う。

 

頷く私の対面で、八百万さんも追随する。

 

「林間合宿では私の訓練を手伝っていただきましたわ!もし敵ならあんなことする必要ないと思いますわ!」

 

八百万さんの言う通り、私たちはベン君に協力してもらった。其の甲斐あってか、あの短期間でレベルアップを果たしてる。

 

だけど、彼女の意見は逆効果だったからもしれない。

 

「確かに…でも、だからこそわかるんだよ…テニスンの強さ…あれは、姿形だけ真似しても到達出来ない強さだ…」

 

林間合宿でダイヤモンドヘッドと訓練した尾白君。

 

「いや!!でもッッ…確かに…あの硬さは…」

 

尾白君と同様にベン君と訓練した切島君。先ほどのように反論できず歯切れが悪い。

 

彼らの言葉で押し黙る八百万さん。皆も思い出す。あの夜、オールマイトをはじめとするプロヒーロを蹂躙したダイヤモンドヘッドを。

 

そう。このクラスの皆はベン君の力を認めてた。とくに、林間合宿ではそれぞれが感じたんだ。彼のレベルが、自分らでは理解できないほどの領域に到達しているのを。

 

だから、テレビに映ったベン君が、姿をコピーする個性の類ではないと判ってしまう。

間違いなく、あの強さは本人ではあると。

 

「洗脳…されたんじゃないか?」

 

皆が沈黙したところで、常闇君が初めて口を開く。

 

「…どういうことだ?」

 

「敵連合の中に干渉系の個性持ちがいたとして…奸計千手。そいつに操られているかもしれない。」

 

「確かに…テニスンのやつ、妙に精神が幼かったし…有り得る!!」

 

操られたか、体を乗っ取られたか。

いずれにせよ、あの行為はベン君の意思ではないのかもしれない。

 

そんな淡い希望が見え隠れし始めたところで、後ろから水を差す一言。

 

「ねーよ」

 

割って入ったのは爆豪君だ。タオルで頭を拭きながら、彼は近づいてくる。そして、ポケットに手を突っ込んだまま、ドッカと中央に座る。

 

「敵連合の中に、んな個性を持ってるやつはいなかった。いたんなら俺にも掛けてくるはずだ」

 

ベン君と同様に誘拐されていた爆豪君。頭の切れる彼の言葉は皆の淡い希望を打ち砕くには十分だった。

 

「じゃあ…テニスンの意思であんなことやったてのか?ってことはあいつ…最初からおいらたちを!?」

 

動揺する峰田君に爆豪君は、

 

「知るかよ」

 

と、身もふたもないこと言葉。押し黙る峰田君に気を遣ったのか、轟君が諫める。

 

「爆豪。じゃあお前はどう思うんだ?」

 

彼もベン君と本気で戦った一人だ。

 

多分、このクラスの皆はベン君を信じたいんだろう。だけど、見聞きした情報と、自身の体験。其の2つが

 

“彼は本物だ”と告げている。

 

轟君の問いに、爆豪君はさらりと答える。

 

「少なくとも俺らが何か話し合っても無駄だってのはわからぁ。大体、あのチビが何者だろうと、何を思っていようと知ったこっちゃねぇわ。」

 

無責任ともいえる言葉を言い終え、彼は席を立つ。しかし、去り際に彼は首元を親指でかっきり、

 

「ただ…ぶっ飛ばすだけだ」

 

そう言い残し、彼は部屋に戻る。爆豪君は“自分たちが考えても仕方がないから、他にできることをしろ”ということを伝えたかったのかもしれない。それを察した皆は次第に席を外していった。

部屋に戻るために階段を上ると、なにやら手荷物を持ったデク君と鉢合わせた。

 

「デク君。」

 

デク君の目元には隈ができていた。あまり寝れていないのかもしれない。当然だ。

 

親友と憧れの人。その二人が同時にいなくなってしまったから。

 

あの日から…デク君はあまり笑わなくなった。表情は無機質なものになって、だんだん近寄りがたくなっている。皆ベン君とは別に、一番に彼を心配している。

 

こんなときこそ私たちが支えにならなきゃ。

 

頬に力を籠め、無理やり口角を上げる。

 

「こんな夜にどうしたん?今からどこに?」

 

私は上手く笑えているだろうか。

 

「…ちょっと外に…」

 

「外って…駄目だよ…相澤先生にも言われたやん…」

 

「…ごめん。内緒にしててもらえると助かるな…」

 

そう言って背を向ける彼。この暑いのに、長袖の体操服を着ている。

 

多分、なにかしらの特訓だと思う。そのための服。

 

ベン君を助けるためなのか、それとも敵連合と…

不思議だけど、彼は何でもできるほどの力を持っている気がする。それこそ、オールマイトみたいに。

 

だけど、だけど、だからといって、彼が戦線に出ていいわけじゃない。もう、ここから先はヒーローに任せるべきなんだ。

 

そう思い、彼を止めようとする私。

 

その目に、一瞬黒い何かが映った。階段を降りるデク君の腕からだ。見間違いかもしれない。だけど私はどうしようもないほど不安になった。

 

まるで、デク君が人ならざるものになっていく気がして。

 

「…デク君…」

 

病院の待合室で1人、グラントリノは弟子を思う。

 

(俊典…)

 

AFOの護送に付き合っていた為、建物から誰か出てきたことを彼は知らなかった。

 

しかし、すぐに連絡が車に飛んできて、テレビをつけた。すると、弟子のオールマイトは腹に穴を開けられ突っ伏しており、多くのヒーローが一人の敵と戦っていた。

 

その敵とは、オールマイトの教え子であるベン=テニスン。

彼のことは体育祭で知っていた。なにやら、特別な力を持っているとも聞いていた。

 

だが、まさかその“特別”がこのような結果に至るとは…

 

(誰より悪に敏感である俊典が、一年も一緒に過ごして気づけなかったのか…?)

 

そんな疑念が頭に浮かぶ。OFA9代目継承者 緑谷出久とともに訓練をしたというベン=テニスン。正直、未だに彼が教え子にやられたということを飲み込めていない。

 

ふと顔を上げると、目の前には新聞記事がいくつも並んでいた。

 

事件から一か月がたつが、未だに記事はあの日のことだ。

 

【オールマイトは死んでしまったのか!?それともどこかでまだ生きているのか!?】

【ベン=テニスンの祖父はあのアメリカンヒーロー、マックス=テニスン!従妹も含め、彼の親族は雲隠れ!?】

【個性の正体はエイリアン!?異形型はエイリアンそのものなのか徹底検証!!】

 

(馬鹿げたことを…)

 

内容が真実かどうかわからない。だが、少なくとも誰かを傷つける内容であることは確かであり、それを堂々と紙面に書き表す記者に、柄にもなく苛立ったグラントリノ。

 

これも、オールマイトが未だ意識不明であることからくる焦燥、苛立ちからだろうか。

 

小さな手で温くなった緑茶を一飲み。くしゃくしゃになった紙コップを捨てるために入口付近へ向かうと、男性とぶつかる。

 

「おっと、わりぃな」

 

「いえいえ。こちらこそ、グラントリノ」

 

スマートな口ぶりで謝ったかと思うと、自身の名を呼ぶ男。視線を挙げ確認する。

 

「…ホークスか」

 

「初めまして。お噂はかねがね。」

 

正対していたのは、№3、いや、№2ヒーロー ホークス。ペコリと挨拶するとともに、相手の警戒を解くような笑顔を見せる。

 

「…こっちも小耳に挟んでるぜ。公安の根暗野郎どもから色々やらされてるんだってな」

 

「さすがヒーロー界の生き字引。なんでも知っていますね。ご一緒にお座りしてもよろしいでしょうか?」

 

「…好きにしな」

 

部屋にいるヒーローが2人となった。

「オールマイトさん。未だに意識が戻らないそうですね」

 

「ああ。なんでも“なぜ死んでいないのかがわからない”だそうだ。」

 

2杯目のお茶をすすりながら、管に繋がれ目を瞑るオールマイトを思い出す。

 

「けれど、平和の象徴がそんな状態であることを世間に晒すわけにもいかない」

 

「ああ、だからこのセントラルの秘匿救室で世話してもらっている。雄英の生徒らも知らねぇことだ」

 

「そうですか…確かにその判断は正しいと思いますが…すぐに限界が来てしまいます」

 

「なんだって?」

 

要領を得ない言葉に、思わず聞き返すグラントリノ。

 

「雄英生徒とは言え、すくなくともたった一人の子どもに、トップヒーローらがやられた。この事実はあまりにもこのヒーロー社会を揺るがす」

 

「それは大げさだろう。確かに俊典のやつが活動できなくなれば犯罪率は増加するだろう。だがもう轟のやつらは活動再開している。ヒーロー飽和社会だぞ?対抗する敵組織なんて…」

 

「俺もそう思います。が、公安はそうは思ってないようです。」

 

「何?」

 

「敵連合は保栖でのテロで求心力を高めました。そして今回の神野事変。悪意のよりどころとしての核が完成しています。」

 

「つまり…組織犯罪が増えることを懸念しているのか?」

 

「いえ、もちろんそれもですが…問題は、テニスン君の発言です」

 

「発言?」

 

「【僕はエイリアン】【宇宙人は存在する】…」

 

「はッ。子どもの戯言だ」

 

「ですが、その戯言を受け、公安は動き始めた」

 

「…心配性なやつらだからな」

 

「確かにそうなんですが…俺はそれだけではないと思うんです」

 

ホークスはおもむろに立ち上がると、正面に広げられていた新聞を手に取る。そこにはエイリアンのことが長々と書かれていた。

 

「思えば、“個性”そのものが何なのかは未だに結論が着いていませんでした。もし、これが、エイリアンのせいだとしたら…」

 

「馬鹿馬鹿しい。」

 

「…テニスン君ですが、彼の戸籍を調べたところ、彼は無個性と登録されていました。」

 

「…ッ!?」

 

「そう。彼のあの変身は個性なんかじゃないんですよ。実際、イレイザーヘッドや他の人間にも確認を取ったところ、およそ個性だと思える証拠はなかったんです」

 

「だがあいつは多くの変身をしていたろう。それこそが個性の…」

 

ハッ!

 

「そうです。彼の変身こそ、エイリアンの力によるものだとしたら…」

 

真剣な顔のホークス。赤いサングラスの奥で、彼の瞳は静かに語る。

 

「先に言った問題とは、この考えがマスコミたちによって徐々に浸透していることです。それこそ、世間は混乱に陥り、一部の人間は敵連合といった“自由派”犯罪組織に迎合してしまう。なにより、エイリアンという言葉を利用し、一昔前のような差別が横行してしまう。」

 

「異形狩り…か。」

 

「はい。ですので今、公安はそのようなことが起きないように根回しを行うとともに、テニスン君の力の源、敵連合について調査していくようです。」

 

「そうか…思ったよりも、事が複雑になってきてやがるな」

 

長居溜息をつくグラントリノ。ほぼほぼ引退した身であった彼には堪える社会変革。いや、まだ起きてはいないが、公安が予想しているのならば、十二分に起こる可能性はある。

 

(ようやく、志村達の悲願は達成されたのになァ)

 

そんな彼の想いを察し、ホークスは笑顔で話す。始めは苦笑だったが、次第にその顔は屈託のない笑顔になっていく。

「まあ…悪の帝王 AFOを倒した矢先にこれですからね。面倒ですが…まあ…しょうがないです」

 

「何がだ?」

 

立ち上がるホークス。

 

「ヒーローが暇を持て余す社会のためにはってことです。」

 

手をヒラヒラと仰ぎながら、ホークスは自動ドアを潜っていった。

 




今までと異なり、一人称での語りでした。
社会が少しずつ狂っていきます。


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92話 敵飽和社会

神野事変から3か月…物間君の心の声です。


「拳藤!早くしないと遅れてしまうよ!!」

 

「ごめんごめん!準備に手間取っちゃって!」

 

まったく、準備は昨日のうちにしとかないと。B組委員長がそんなザマじゃあA組に負けてしまうだろう。

 

靴をつっかけてリュックを背負う拳藤。その顔は普段通り、溌溂と照らすような笑顔だ。

 

だけど、僕にはわかる。その顔が作ったものだと。

 

…まあ気持ちはわからないでもない。

 

3か月前に起きた神野事変。そこではA組のベン=テニスンがヒーローを襲った。

 

そして、自らをエイリアンだと称し、地球を支配すると宣言した。

 

テレビやネットでは、【洗脳された】【敵の個性による影響】なんて言われている。

 

だけど僕は…おおぴっらには言えないが、正直納得している。

 

なににだって?

 

決まってる。

 

ベン=テニスンがエイリアンだということさ。

 

理由はいくつかあるよ。

まず“エイリアン”という単語。

 

元々、彼は自分の異形体のことをエイリアンと呼んでいたらしい。これはヒーロー科でも有名なことさ。始めは幼稚だなと思っていたが、彼自身がエイリアンであるならば、この呼称もおかしくない。

 

そして二つ目の理由。むしろこっちがメインの理由だね。

 

僕が彼をエイリアンだと思う理由。それは、

 

彼が無個性であること。

 

これは、先生たちも気づいてないことだ。多分、この学校で知っているのは僕だけだろう。

 

彼の変身は個性によるもの。そして、あの時計はあくまでもサポートアイテムだと本人は言う。

 

だけど、それなら()()はおかしいんだ。

 

僕は体育祭での騎馬戦を思い出す。

 

体育祭で彼の個性をコピーしようとしてもできなかった。

 

確かに、個性操作センスに優れた僕でも、上手く相手の個性を発揮できないときがある。

 

スカといってね。蓄積系の個性の場合、その蓄積の結果は得られないんだ。

 

もし、【力をストックする】個性があったとしよう。僕がその個性をコピーしたとしても、僕は持ち主並みのパワーを発揮できない。なにせ、僕自身がストックしていないからね。

 

うん、話がそれた。つまり、僕が言いたいことは、スカであろうとも、個性自体はコピーして、そして相手の個性を大まかに理解できるんだよ。どんな個性でもね。

 

だけど、彼に触れた時、個性そのものを感じ取れなかったんだ。

 

だけど彼が変身していたのも事実。おかしいよね。個性がないのに異形に変身できる。

 

この不可解な現象は、“彼がエイリアンだから”で解決することができるんだ。

 

だから、僕は彼がエイリアンだとしても大して驚かない。というか、やっぱりねという感想になる。

 

地球を支配する、なんてのは予想外だったけど。

 

塗装が剥げ道を歩きながら、僕はそんなことを考える。うっかり、拳藤の話を無視してしまうくらうに。

 

「物間、聞いてる?」

 

「ああ、ごめんごめん。なんだっけ?」

 

「ったく。人には早くしろっていう癖に。目的地についてだよ。今から電車で行くんでしょ?」

 

「ああ、京都の片田舎さ。大きな病院が近くにあるらしいけど…しっかし、なんで僕たちB組は地方で、A組は雄英担当なんだ?審議を申し出たいね」

 

「言っても仕方ないわよ。今はどこもヒーロー不足だし‥」

 

「…まあね」

 

そう。このヒーロー飽和社会で、今日本はなぜかヒーロー不足に陥っている。

 

 

今から1か月前。つまり、神野事変から2か月。

 

その頃から、急に行方不明者が増えた。だんだんと、なんかじゃなくて、明らかな急増。A組の中にも家族が攫われた者もいるらしい。

 

そして、それに伴いとある敵が現れるようになった。

 

体型は様々。だが、全員に共通して脳が露出している。手足の指は三本ずつ、血の色に染まり、顔にはギョロギョロと蠢く単眼が付いている。

 

ギィギィと鳴くその姿は生理的な嫌悪感を感じさせる。スーツなのか肌なのかわからないが、とにかく全身が全身は腐った卵のような色をしていて気持ちが悪い。

 

彼らは神出鬼没で、3~4人のグループで現れる。そして、誰彼構わず民間人をさらっていくんだ。

 

もちろんヒーローが応戦する。

 

脳無と思しき敵なので、複数個性持ちなのかと怪しまれたが、そんなことはなかった。使える能力は一つ。

 

電気を出したり、炎を吐いたり、と一個体の能力は異なるが、単一能力しか持っていない。

 

だけど、その火力は想定を遥かに上回るものだった。

 

彼らはいわゆる雑兵なのだろう。ショッカーみたいなね。

 

にも拘らず、1人1人の火力は、現トップヒーロ― エンデヴァーと同等かそれ以上だ

った。

 

誰が言い出したのかわからないが、そんな彼らは

 

DNAリアン(ディー・エヌ・エイリアン)と呼ばれた。

 

1体倒すのに、ヒーローが10人ほど必要とされる。そのうち7人は死傷するのだ。

 

一体一体が未曽有の火力を持つDNAリアン。

常にチームを組まねばならず、その中の誰かが犠牲にならなきゃならないヒーロー。

守るべき対象は、日本に偏在にする“一般人”。

 

歪な戦力関係の結果、ヒーロー飽和社会で、ヒーロー不足に陥ってしまった。一般人をヒーロー育成施設に避難させているが、それも焼け石に水。

 

そして、この危機的状況を少しでも緩和するため、パトロールや雑用係として駆り出されたのが僕たちヒーロー候補生だ。

 

基準としては一度でもヒーローとして働いたことのある人間。職場体験をしたことのある僕らはギリギリその基準を上回り、緊急特別ヒーロー免許を渡されることとなった。

 

まさに超法規的措置。それだけ日本が狂ってきているということだね。その狂った余波で、僕らB組は地方ヒーローの援助をしに行くこととなったわけだ。

 

不満げな態度の僕を優等生の拳藤は嗜める。

 

「田舎だろうとどこだろうと関係ないよ。皆、学校とか病院に避難してるんだから。恐怖に震える人を救けるのが私たちヒーローでしょ?」

 

「知っているさ。だからこそ、我が雄英高校に避難してきた市民の皆様を守りたかったね」

 

「まったく!あんたはホントに!」

 

あきれ顔の拳藤。

 

一時期は部屋に籠ったきりだった拳藤。近頃やっと元気を取り戻してはいるが、それでも僕にはわかる。彼女が無理をしているのだと。

 

確かに、弟のようにかわいがっていたベンテニスンが指名手配となっては穏やかにはいられないだろう。

 

全国民、いや、全世界に彼はその顔を知られてしまっている。

【エイリアン】【地球を支配する】という言葉とともに、彼の顔はネットに、テレビに出回った。

 

しまいには彼に便乗して好き勝手する奴らも出てくる始末。確か…異星概観信仰派、だっけな?

 

まあ、そんな下衆達から市民を守るのも僕らなわけだが…

 

「そういえば拳藤。最近緑谷とよく喋っていたね。あれはなんだったんだい?」

 

「えーと…いや、何でもないよ」

 

彼女は再び作り笑いをする。

 

まったく、最近秘密主義が過ぎるよ…

はぁっ!はぁッ!はぁッ!どうして…!!

 

薄暗く、雨の降る夜。私の後ろからはバシャバシャと何人もの足音が聞こえる。

 

「キャッ!!」

 

ズシャッ!!

 

「さあ捕まえたぜ!!その姿、お前、エイリアンだろ!!」

 

武器を身に着けた男たちが私を囲む。夜の雨の中では私の助け声など誰も聞いてくれない。それとも、聞こえてるけど、助けてくれないのだろうか。

 

「私はエイリアンなんかじゃないの…ただ、避難所に行こうとしているだけで…」

 

「うそつけぇ!!その図体!その顔!どう見ても人間じゃねぇ!!」

 

2mを超える体躯。【狐】の個性の影響で人間には見えない顔。まさに異形といった風体の私は土曜の夜、暴漢たちに襲われていた。

 

この前までは普通に生活してたのに…

 

あの日、ヒーローが負けた日、地球を支配すると宣言した少年がいた。その子は異形系で、自らをエイリアンだと言い放った。

 

それ以降、周囲の異形系を見る目が変わった。DNAリアンと呼ばれる化け物たちが出てきて、行方不明者も増えた。

 

世間は、異形系に対する偏見を持ち始めたの。

 

異星概観信仰派と呼ばれる、“自分達がエイリアンであることを受け入れ、個性を自由に使うこと”を主張する異形団体が出てきたせいで、余計に異形系は肩身が狭くなった。

 

水たまりに映る私の顔。確かに、普通の人間には見えないかもしれない。

けど…

「私はただの人間!人間なの!信じて!」

 

だけど、社会は思い出した差別意識を簡単には手放さない。

 

「うるせぇぇぇ!!」

 

GATYAN!!

 

改造の施されたネイルガンが目の前に構えられる。

 

「ヒッ!!」

 

ぎゅっと目をつむる。ただ、私は無抵抗でいるしかなかった。それが、私が無害だという唯一の証明だから。

 

ただ、そのまま目を瞑ったまま。雨の降る音だけが私には聞こえる。

 

だけど、いつまで経っても私の大きな耳に銃声は届かなかった。おかしいなと思って、恐る恐る目を開けると、彼らは震えていた。

 

「お、お前もこいつの仲間か!?トカゲ野郎!エイリアンか!?」

 

その質問は私じゃなくて、後ろに来ていた誰かに聞いているようだった。だけど、不思議だ。私もかなりの身長なのに、彼らはさらに上を見ている。

 

「あー…とりあえず、この人は無関係そうだし、止めてくれない?」

 

野太い声が後ろから聞こえる。だけど私は震えて振り返れない。

 

「知る…」

 

銃を構えなおした暴漢だったけど、語尾が萎んでいく。

 

「か…よ…」

 

闘いのことは分からないけど、目の前の男は見るからに戦意を喪失しているようだった。暴漢は徐々に目線を上げながら、最後には銃も手放す。

 

身震いをした後、彼は背中を向ける。

 

「んな姿で出歩くんじゃねぇよ!!ま、紛らわしぃんだよ!!」

 

そう言葉をぶつけ、逃げていく暴漢達。

 

息を吐き、胸に手を当てる。恐怖が徐々に解けゆき、安堵の感情が心に染みわたる。

 

よかった…

 

だけど…まさか、自分がこんな目に会うなんて。

 

「あっ」

 

ホッとしながらも、思い出す。私を助けてくれた人を。

 

私は振り替えってお礼を述べようとする。暴漢たちを立ち姿だけで震え上がらせた人。そう思いつつ瞳に入れたその姿は、傘を差した少年だった。

 

「あ、あれ?あなたが救けてくれたの?」

 

私より年下っぽいし、ヒーローでもなさそう。それに、身長もそこまで高くない。

キョロキョロとあたりを見回すも、この辺りにいるのは私と彼だけ。

 

どうしてあの人たちは逃げていったのかしら…

 

「んー…まあ、そうだね」

 

さっきみたいな野太い声じゃない。別人なのかしら。それとも…いえ、とにかくお礼を。

 

「あ、ありがとう」

 

「別に。大丈夫だよ。お姉さんも気を付けてね。まだもう少しかかるからさ!」

 

「かかる…?」

 

「ああ、いや、こっちの話!じゃ、ボク行くよ」

 

私に傘を差しだし、タッと駆けだす。その瞳と顔つきは外国の血を引くことを如実に露わした顔つき。

 

えっと…

 

「そ、其の…お名前は…」

 

私が尋ねると、足を止める彼。顎に手を当て、ポリポリと掻き、

 

「名前…えーと…ジャミン…ジャミン=カービィってことで!」

 

そう言うと、少年は再び駆けて行った。雨は少しだけ止み始めていた。

 




次回から物語が動きます。


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93話 再会(ハジメマシテ)

神野事変から半年ほど…
世間はエイリアンの存在を信じているのか…


時は3月。秋も冬も超え、春はすぐそこに来ている。

 

しかし、新たな命の芽吹きは未だ感じられない。

 

退廃。

 

現状を一言で表すならこれだろう。

 

道路の塗装は禿げ、建物は倒壊状態。瓦礫は積み重なり巨大なオブジェクトの様に。これらを修復するはずの業者は避難所にいるため、壊れた分だけ街は荒んでいく。

 

一度街が荒廃すると、それと同時に治安も悪化していく。当然だ。誰しもがその身に“個性”という暴力装置を備えているのだから。

 

混沌とした情勢は避難所に悪影響を及ぼす。

 

「おいおい、なんでエイリアンがいるんだよ…!」

「さっさと星に帰れや!」

 

異形系をエイリアンだと揶揄し排除する流れ。何人もの異形は避難所をたらい回しにされる。

 

国民でエイリアンを信じる者は5割程度。

 

彼らの中でも、異星人を排除するという考えの者と自分たちがエイリアンであることを受け入れるべきだという者に分かれていた。が、後者の人間は避難所の外で自衛を選択。必然的に、異形系を嫌うものが避難所の中に集中する。

 

ゆえに、避難所の異形系は肩身を狭くしていた。

 

彼らを保護するのはヒーロー。だが、人気商売から、命を天秤にかけるお死事となったお陰で、ヒーローは引退者が続出。

 

公安は苦肉の策で学徒動員とばかりに学生を徴兵する。

 

が、プロでさえ忌避する状況に10代そこらの子どもが耐えきれるはずもなく、高校を辞める者が大半であった。

 

当然、残留するヒーローと学生の負担は増し、避難所周りの警護にしか人員を避けなくなった。そのせいでDNAリアンの元凶や敵連合の捜索は遅々として進まない。

 

起こること、成すこと。全てが狂い、裏目に出て、社会の歯車は一つ、また一つ壊れていく。

 

全ては、半年前の【神野事変】から。

 

ただ、そんな中でも懸命に職務を全うするものもいる。

 

神野事変でダイヤモンドヘッドと戦ったエンデヴァー。

AFOに腹を開けられたベストジーニスト。

ルーキーながらも着実に実績を積んでいたシンリンカムイ、マウントレデイ、そして彼らの先輩であるデステゴロ。

 

彼らを筆頭に、富も、名声も、命すらも投げ打って戦う。そんなヒーローはまだ日本に残っていた。

 

いや、ヒーローでなくとも、命を燃やす者も、ごくわずかだが…いた。

「この辺りもほとんど避難は完了しているな。反対地区では異星概観信仰派が居座り、ヒーロー達と戦闘に及んだそうだ。」

 

「うん…」

 

飯田天哉は壊れたビルを後目に歩く。ヒーロースーツを身に纏い、学校周辺のパトロールに精を出す。

 

彼の隣で返事をしたのはマスクをかぶった緑谷出久。

 

彼ら雄英生は、近辺のパトロール及び避難誘導が任されていた。原則戦闘は禁止。あくまでもヒーロー達の眼の役割に徹する。

 

インゲニウムの名を継ぐ者として、恥じないよう、彼は懸命に走った。一匹の鼠も逃さないように目を光らせ、どんな小さな声も拾えるように耳を傾けた。

 

しかし、隣を歩く友人は、まだ救けを求めない。

 

「緑谷君…」

 

「…どうしたの…?」

 

「いや、なんでもない…」

 

雨が緑谷のコスチュームを濡らす。水滴に打たれたスーツはじっとりと黒く染まる。そのせいかわからないが、緑谷からは不穏な空気が漂っているのだ。

 

横目で彼を見ると、コスチュームは初期のモノとは大きく異なっていた。

 

足にはアイアンソール。空気砲のコントロールを可能にする籠手。未だ目を覚まさない、オールマイトの紅のマント。

 

これらはまだいい。戦闘力を強化する物だと理解できる。だが、その他の変更が気がかりなのだ。

 

緑谷は常にマスクをかぶり、決してその素肌を見せない。

 

緑谷は寮でもその顔を隠している。

 

常に帽子をかぶっており、皆と風呂の時間もずらしている。パトロールは2~3人で行動するのだが、聞いた話によると緑谷はちょくちょく単独行動をとるらしい。

 

夜になるとふらりと外に出ていくとも聞いた。隣室の青山や友人の麗日は心配していた。

 

(緑谷君…君は…)

 

彼が気を落とす理由は理解しているつもりだ。親友のベンや憧れのオールマイトのこと。そして…

 

飯田が思考に耽っているとき、緑谷から声がかかる。

 

「飯田くん…」

 

「どうし…なっ!!?」

 

何事かと思い顔を上げると、積み重なった瓦礫の中に物影が見える。

 

警戒し、連絡用の携帯を取り出す。片手にデバイスを持ちながら回り込み、その姿を確認。、

 

「DNAリアン…!!?」

 

のそのそと歩くのは、ヒーロー不足を招いた元凶のDNAリアン。

 

単眼で、脳みそを露出させたおぞましい姿。ふいに、ギィギィと鳴く姿をみるに、誰からと交信しているようにも見える。

 

2足歩行という点を除き、全てが人間とは違う様相。正にエイリアンといった風体は生理的嫌悪感を抱かせる。初めてその姿を間近で見た飯田は、思わず携帯を落としてしまう。

 

「しまっ」

 

「ギ!!ギィッィィィィ!!」

 

BZZZZZZ!!

 

「なっ!?」

 

物音に気付いたDNAリアン。飯田が携帯を拾い上げる前に、周囲にプラズマが放つ。

 

高速起動で回避する飯田。少々掠りはしたが、特製のアーマーのおかげで大したダメージはない。

 

だが…

 

「携帯がやられた…!!くそっ…攻撃というより、辺りの電子機器を狙ったのか!?」

 

狼狽える飯田だったが敵は待ってくれない。声に反応し周囲にいたもう一体のDNAリアンが駆けてくる。

 

以上にガタイのよい()()は、腕を地面に突き刺し大地をたたき割る。

 

迫りくる地割れを跳びあがり回避するも、衝撃で飛び散った破片が彼を襲う。

 

「くっ!」

 

危うく顔面直撃の石。衝撃で眼鏡にはヒビが入る。

 

通信手段を失い、1体でヒーローを5、6人殺せる敵が2体目の前にいる。絶望的状況下で、割れた眼鏡を掛けなおしながら策を考える飯田。

 

そんな彼に、隣の緑谷は提案する。

 

「…飯田君。今から走ってプロヒーローを呼んでくれないかな…」

 

「…!?」

 

「ここは…僕が引き受ける」

 

「なっ!!駄目だ!!!死んでしまうぞ!何人のプロが彼らに殺されたと思っているんだ?!」

 

「大丈夫。見たところ機動力はそこまでじゃあない。飯田君1人なら追いつかれないし、僕でも上手くやれば時間を稼げる」

 

「しかし…」

 

あまりに危険すぎる。そう言いかけたが言葉を飲み込む。

 

目の前の、緑色の瞳に気圧されたからだ。マスクのせいか、緑色の瞳は黒く濁ったようにも見えた。

 

(確かに、今の緑谷くんからは…負ける気配がしない…しかし…)

 

悩む飯田。しかし、もう時間もない。追撃のために電力をチャージするDNAリアン。

もし、やつらが避難所まで押し寄せたとしたら、被害は数十人では済まない。

 

今の緑谷が何を考えているかはわからない。だが、これまでの緑谷の行動を思い出して決心する。

 

入学試験でも、保栖でも、彼の行動は一貫している。

 

“救けるために”

 

ともに信じた一年間を信じて、飯田はエンジンを回す。

 

「絶対に無理しないでくれ!たとえ追いかけられたとしても、プロと一緒なら何とか対処できる!」

 

DRRRRRR!!

 

一瞬で点となる飯田。未曽有の社会混乱の中でも鍛錬を怠らなかった彼は、瓦礫の上をなんなく走っていく。

 

そんな彼を無表情で眺める緑谷。少しだけ溜息をつくと、くるりと振り返る。

 

荒れ狂い、退廃した街。瓦礫の山には、その元凶たる化け物が2体。

 

怪電波を垂れ流し、筋肉を膨張させる化け物

 

「ギィィィィ!!」

「ギュクゥィィキ!」

 

しかし緑谷の意識は彼らに無かった。周囲を見渡し、人がいないかを確認する。

 

誰もいないことを確認すると、またひとつ溜息をついて、顔にマスクに手をかける。

 

そして、雨に濡れるマスクを取り、小さくつぶやく。

 

「DNAリアン…エイリアンか…」

 

自身の頬をペタリと触れ、自嘲気味に顔を歪ませる。

 

「同じだな…」

 

「こ、これは…」

 

目の前に広がる景色に絶句する飯田。同様に連れてきたプレゼントマイクも眉をひそめている。

 

「先生…運がいいことに、彼らは弱個体でした。」

 

緑谷が説明する。彼の足元には、伏したDNAリアンが2体。緑谷に血液の付着がないことから、緑谷が完全勝利したということが容易に想像できた。

 

「お、おう…ナイスだぜ…」

 

一応の返事はするが、内心では納得のいかないマイク。

 

確かにDNAリアンは個体ごとに能力が変わる。ゆえに彼らの強さにはランクがある。それこそ、黒い脳無、緑の脳無、白の脳無のように。

 

だが、それはあくまでもDNAリアン内での話。普通のヒーローからすれば、最低ランクでも手に負えないものだ。

 

だが、目の前の自分の生徒は2体を同時に討伐したという。

 

手足を縛られ、気絶した敵を確かめるように見下ろす。

 

(間違いなく本物だ。一体どうやって)

 

「…HEY緑谷。とりあえz」

 

雄英に戻ろう。そう言いかけた時、急に緑谷が頭を押さえる。偏頭痛でも起こしたかのようなリアクション。

 

「どうした!緑谷君!」

 

「…ごめん飯田君。すみません、先生。行きます」

 

「HA!?」

 

「北北東に…何キロか。多分、帝国ホテルの方です。とにかく、とんでもない敵が来ます。すみません。できるだけ多くのヒーローをお願いします。」

 

「何言ってんだ!!説明を…」

 

「すみません…」

 

マイクの注意を遮るように、緑谷は謝罪。そして、一瞬で消える。

 

いや、消えたように見えた。すなわち、マイクには目で追うことすらできなかったということ。

 

眼で追えないほどのスピードを出せる身体能力強化。そんな個性。マイクは今まで1人しか見たことがなかった。

 

緑谷の異常な成長に、驚きと困惑で大口を開けるマイクとは対極に、飯田は真一文字に口を閉ざしている。

 

“速さ”に慣れのある飯田はその目でとらえた。一瞬彼の左腕が黒く発光するのを。

 

「先生…!!」

 

「っとにかく本部に連絡だ!!」

 

【浮遊】【黒鞭】【OFA】を駆使しての高速移動。そのスピードは全盛期のオールマイトを凌ぐほど。一瞬で数十キロ先のホテルまでたどり着く。

 

屋上に降り立ち、状況を確認する。

 

帝国ホテル。一世代前までは各国の重鎮がこぞって泊りに来た名ホテル。しかし、時代の変化に取り残され、今ではただ大きな箱となっていた。

 

駐車場周りには建造物が多く、見渡せばビルしかないような土地。

 

広々とした駐車場には廃車と瓦礫の山で一杯だ。

 

屋上の緑谷が視線を下げると、そのスクラップを隔てて、脳を露出した化け物と住民が戦闘を開始していた。

 

「脳無…!!」

 

敵連合の象徴とも言え、半年前までは活動的だった脳無。DNAリアンの登場により鳴りを潜めていたが、なぜ急に。

 

一瞬そう考えるも、これはチャンスだと考え直す緑谷。

 

なぜなら、脳無は確実に、敵連合とつながっているから。

 

ビルの屋上から身を投げ、右足に力を籠める。黒鞭で顕現させ、ライフルの銃口のように形成。

 

振り上げた足から繰り出せるのは、特大の蹴空砲。

 

セントルイス スマッシュ エアフォース

 

雨風をものともせず、空気弾は脳無たちに着弾。コンクリートを抉るその一撃に思わず後退する黒い脳無たち。

 

ドシン!!と着地して、戦っていた市民の元へ。

 

「大丈夫ですか…?」

 

「お、おまえヒーローか!?なんでもいい!助けろ!!脳無が出た!!」

「それが仕事だろ!!?」

 

男たちの背中や腕には非合法のサポートアイテム。

 

(確か…デトネラットの…)

 

彼らの背後の看板には【我々はエイリアンの子孫だ!】と大きく書かれている。

 

その看板を無視し、

 

「下がっていてください。ホテルの中にいる人たちとバリケードを。」

 

それだけを伝え、視線を前へ。

 

目の前には数体の脳無。【危機感知】によりその強さはUSJを襲った者と同等だと分かる。

 

だが、おかしい。先ほど感じた頭痛は、こんなやつら程度では説明がつかない。もっと…

おぞましいなにか…

 

その予知は正しかった。

 

荒ぶる脳無たちが急に静かになる。彼らの後ろからは雨に打たれて歩いてくる人物がいた。

 

脳無たちに手を置くと、まるでペットを手なずけるように撫でる。

 

白と黒を基調としたTシャツ。軍服を思わせるカーキ色のダボダボズボン。そして、手首には奇怪な装置を巻いている。

 

その人物は、何か月も緑谷が探している人間だった。

 

「やっと…見つけた」

 

そう低くつぶやく緑谷に対し、軽い口調で答える彼。

 

高飛車な声は紛れもない彼だった。

 

「こんにちは…えーと…ミドリヤイズク」

 

その姿はまごうことなく、ベン=テニスンだった。

 




・本編と似てる展開ですねぇ。正直、あの展開が大好きなので真似てます…もちろん、こっからガンガン変えていきますが!


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94話 適合者たち

前々回のタイトルをここで持ってくるべきだった…


「やっと見つけたぞ…」

 

温厚な彼からは想像もつかないようなどす黒い声。

 

 

冷静に、されど煮えたぎる怒りを隠さない緑谷。そんな彼に一切怯えずに少年は言い返す。

 

「…僕も君を探していた。ホントに会いたかったよ!」

 

陽気に返事をする少年。その笑顔は紛れもなくベン=テニスン。だが、緑谷は動揺せずに答える。

 

「今すぐその()()を解け。そしてベン君がどこにいるか教えろ」

 

「はぁ…?ボクがベン=テニスンだってのに。何を言ってるんだ?」

 

「お前と言い合いする気はない…もうすぐ増援も来る。そうなればお前の力があっても逃げきれない。」

 

「ははっ!増援ね…果たしてどうかな?」

 

「…!?」

 

同時刻

 

【雄英高校】

 

避難所となっていた雄英高校は、シェルターを下ろし臨戦厳戒体制を取っていた。外にいるのはプロヒーローと、今しがた現れた敵連合のみ。

 

敵方の編成は至極単純。

 

数十のDNAリアンと黒い脳無 通称ハイエンド。そして彼らを束ねる一人の青年。

 

好戦的な爆豪はエンデヴァー陣営としてその戦いに参戦しようとしていた。

 

が、宙を飛んできた轟から指示が入る。

 

「爆豪!緑谷の方に行くぞ!プレゼントマイクからの連絡があった。麗日や他のやつらも連れていく!」

 

目の前の敵を放ってわざわざ緑谷の元へ。その意図が合理的でないと感じる爆豪は反論する。

 

「命令すんじゃねぇ!!そもそもこの敵の数!エンデヴァーやミルコでもきちぃはずだ!!」

 

度重なる誘拐やDNAリアンの出現で、ヒーロー達も疲弊していた。ここで戦力を分散することは得策ではない。

 

そう判断する爆豪に対し、轟はいたって冷静に説明する。

 

「大丈夫だ。見た限り、敵のリーダーは炎熱系。少なくとも親父やサイドキックで完封できるはずだ」

 

(…あの燃えカス敵はそんなもんじゃ…けど…クソデク1人にするほうが…)

「っち…いいか!?俺はお前の指示に従うわけじゃねぇ!くそデクがバカみたいに突っ走ったからぶん殴りに行くだけだ!」

 

「ああ…麗日、蛙吹、着いてきてくれ!」

 

「う、うん!」

「わかったわ」

 

数人が戦場から飛び出す。轟は去るときに、赫い炎と蒼い炎がぶつかり合うのが見えた。周囲には熱波が降り注いでいる。

 

(敵の名前…荼毘…だったか?かなりの力を持ってるみたいだが…親父、大丈夫か?)

 

その轟の不安は、悲しいかな的中していた。

 

数回技を交えた敵のリーダーとエンデヴァー。互角か、敵の方が火力は上。しかし、この程度の差なら技術で埋められる。そう思っていた矢先のことだった。

 

「そうだよ、その顔が見たかったんだよ!!」

 

下卑た笑みを浮かべながら荼毘は踊る。手足をフラリフラリと、勝手に動くように舞う。

 

轟燈矢。エンデヴァーの実の息子。轟家の長男にして、焦凍の兄。

 

炎の個性を受け継いだにも拘わらず、その熱に耐えられない体を持って生まれた子。

 

小学生だったある日、山火事で跡形もなく焼け死んだ、今は亡き長男。

 

目の前の荼毘は言う。

 

【俺こそが、轟燈矢だと】

 

陽気にダンスを披露する彼に、エンデヴァーは嘆くように反論する。

 

「有り得ない…燈矢は死んだ…許されない嘘だ」

 

「俺は生きてる! 許されない真実だ、お父さん!!」

 

荼毘と名乗っていた男はシャカシャカと缶を振り、頭にぶっかける。すると、みるみるうちにその黒髪は純白へと変貌する。その髪色は、

 

「どうだ?この髪。間違いなく母さんのモノだろ!?ああ、いや、最高傑作の焦凍と同じって言った方がわかりやすいか?」

 

だんだんと息が荒くなるエンデヴァー。熱が体に籠ったからではない。

 

むしろその逆に、血の温度が下がるのを感じた。

 

目の前に広がる景色は揺れ出し、今にも瓦解しそうだ。

 

瞳孔を広げたエンデヴァーを見て、さも満足そうに荼毘、いや燈矢は告げる。

 

「ああ、その顔だ。その顔を見るために俺はここまで来た!血反吐を吐くような手術もその一心で乗り越えてきた!」

 

感情の昂りからか、左手からは蒼い炎が常に燃え上がっている。

 

ここでエンデヴァーは気づく。彼の体に変化が全くないことに。

 

(おかしい。本当に燈矢ならば自身の炎に耐えきれないはず。やはり偽物…なのか…!?)

 

希望的観測を抱くエンデヴァー。そんな彼を地獄に叩き落とすように、燈矢は新事実を突きつける。

 

「ああお父さん。今の俺は昔とは違う。もう俺の体はあんたみたいな欠陥品じゃないんだ!!」

 

言い終えたと思うと、彼の体から火花が散る。

 

WHHOMM!!

 

曇り空をバックに花火が上がったかと思うと、彼の全身に青白い炎の線が入る。

 

さらに、掌、頭髪、足首から、炎が舞い上がり、それらの部位そのものが蒼炎と化す。

 

本来なら焦げるはずの肌は、岩石のように固くなり、もはや原型はなくなっていた。

 

例えるなら蝋燭人間。炎を扱うのに最も適した身体組織。

 

唯一元の姿との類似点である青色の眼は、炎々と燃えていた。

 

復讐に身を焦がす彼は、言い放つ。

 

「さあ!一緒に地獄で踊ろうぜ!!」

【士傑高校】

「はよぉシェルターの()()!!」

 

神野事変から半年。他都市よりもヒーローと市民の距離が近い大阪は、ほとんどの住民は避難を終えていた。その避難先の多くはヒーロー育成校。

 

とくに雄英と同等の施設を保有する士傑高校の収容人数は他校と比べ物にならない。

 

これはつまり、大都市何百万人が、この一か所に集まっているということだ。

 

もし、ここに巨大敵が仕掛けてきたら大惨事。

 

そしてその災いは、すぐ目の前に来ていた。

 

「ちょっ!!マジ驚愕!!」

「ケミィ!言ってる場合か!早く非難を!!」

 

【幻惑】の個性を持つ士傑生は思わず口と目を見開く。

 

その大きさは、全長20メートル。体は黄色と白で、ところどころ堅牢な甲殻に包まれている。

 

ゴツゴツと武骨なその体は丸まり転がっている。彼の通った道には犬小屋一つ残っていない。

 

容赦なく、住民の家々を踏みつぶしながら避難所へと向かう怪物。

 

その怪物に対抗するのは、同じく怪物級の巨体を持つ、マウントレディ。加えて、大阪のヒーロー達が何十人もその化け物を止めるために体を張る。

 

「こんの…!!!私は蟲と臭い男が一番嫌いなんだってのぉォォォ!!」

「俺たちが捕まえとる間に!!はよぉ逃げぇ!!!」

 

ヒーローの中でも巨体であるファットガムは、奥の手である“脂肪燃焼”によりパワーを底上げ。それでも全く止まる気配の無いダンゴムシ。

 

 

化け物は、低く唸る。

「全ては主のためにぃい!!!」

大阪中に響き渡る声は、避難民を恐怖に陥れる。錯乱状態に陥った市民は我先にと避難所を抜け出そうとする。

 

が、伝播した恐怖で冷静に逃げ出せるわけもなく、当然大渋滞を起こす。外に出たとしても、瓦礫の山で足場は悪いため、老人や子どもは禄に走ることもできなかった。

 

その中でもとくに歳をとった老婆が足をひっかけ躓く。杖が無いと歩けないのに、その杖は誰かが蹴ってしまった。

 

このパニック状態の中で、誰が自分なんかを助けるだろう。

 

そう絶望した時、

「大丈夫ですか!!俺に乗ってください!!」

 

オールマイトパーカーを来た少年が転んでいたお年寄りに手を伸ばす。そして、自身の背に乗せ、狭く荒れた道を滑走する。

 

「あ、ありがとう。ヒーローさん」

 

かっこいい姿とは言えないが、この緊急時にでも人助けを優先する心意気は正にヒーロー。

 

だが、彼はヒーローではなかった。

 

「ふふふ!偶然大阪に来ていたナイスガイな清掃社員、しかしその正体は鳴羽田で正義の味方をやっている、その名も!」

 

ゴツン!

 

名乗りを終える前に彼がぶつかったのは、顔の半分を黒いマスクで覆った男。まるで浮浪者のような姿の彼に対し、

 

「あいった!!…って師匠!」

 

「いらんこと喋ってないでその婆さんを下ろせ。で、あっちのヒーローに任せてこい。お前よりも彼の方が適した個性を持っている」

 

「わ、わかりました…っていうか、あれなんなんですか!!地面から出てきて、めっちゃでかくて、硬くて…」

 

「しらん…!!だが、殴りがいがありそうだな!」

 

無精ひげを生やした男はニヤリと笑い、巨体へと向かっていく。

 

「うぇぇぇ!!?マジですか師匠!無理ですって!」

 

「言っても無駄でしょ…とにかく今は避難でしょ?あっちの道は瓦礫が少なかったわ!」

 

ぴょんぴょんと跳ねながらアナウンスしてくれるのはアイドル風のコスプレ少女。派手は髪色と服装だが、彼女もヒーローではない。

 

彼らの目的は富でも、地位でも、名声でもない。ただ、誰がために。

 

人は彼らを自警団(ヴィジランテ)という。

 

【岩手…鈴樹市】

 

岩手ヒーロー育成大学。トップヒーローはあまり輩出していないが、ヒーロー排出率は国内トップを誇る有名大学。

 

当然避難所となっており、防衛のためのヒーローも多い。

 

が、その彼らの目の前に広がるのは異様な光景だった。

 

はしゃいでいるのはただの女子高生と、全身に黒タイツを纏った男。

 

なのだが、

 

「仁君…私がいっぱいです!楽しいです!」

 

「そうかトガちゃん、良かったな!!」「最悪だよ!!」

 

情緒不安定に思える発言をしたのは男。彼が手をかざすと、女子高生が2人が形成される。

 

「さあトガちゃん!君たちは自由だ!」「はやく分身しろ!!」

 

男の命令を受けた少女。乱れる金髪を2つの団子にまとめると、ブスッと答える。

 

「命令されるのは嫌いです!ですが…ブツッて切れる時の感覚はたまらないです…!」

 

ナイフを舌で舐める少女。恍惚とした表情でナイフを舐める彼女は、その身をセーラー服で包んでいる。

 

そんな彼女が“えい”と気合を入れると、

 

BWAANN

 

プラナリアのごとく、分裂する。

 

「あの手術は気持ち悪いものでしたが…私が∞に増える。色んな人に成れる…こんな楽しいことは初めてです!」

「ほんとだねぇ。これで血が出たらもっと楽しいのにねぇ」

 

キャッキャと喜ぶ彼女ら。

 

ヒーロー×300人。

 

対するのは、連続失血死事件犯人の女子高生×∞

 

「さあ、自由な世界を作るのです」

 

【京都】

 

「もう俺はただのトカゲ野郎じゃない!数種類のDNAに選ばれた最強の紡ぐもの(スピナー)!ステインの意思を継ぎ、俺は正義を執行する!」

 

ヘドロを吐き、巨大化し、高速で移動するトカゲ。人型を保って入るが、常に興奮状態であり、目に入るものすべてを破壊している。

 

そんな彼を煽るように物間は指を刺す。

 

「どう考えても君のやっていることは正義じゃなくて自己欲求の解消だよねぇ。あ、トカゲ頭だからわっかんないか!」

 

「言ってる場合か!!あんたじゃあの手のやつはコピーできないんでしょ!」

 

京都の片田舎で、拳藤含むヒーローはスピナーに挑む。

 

 

【福岡】

 

「ホークス君…残念だったよ…君がスパイだったなんてね」

 

大男がホークスへと話しかける。悔しそうに唇をかみしめると、彼の額には黒い痣が発現していく。

 

「そうですか、デストロさん。ところで、今から投降する気はありませんか?」

 

「投降?私が?面白い冗談だ。宮下には負けるがな」

 

40代後半の男はデトネラット社 社長 リ・デストロ。一代で国内有数のサポートアイテム業者にまで成りあがったのはひとえに彼の手腕だろう。

 

だが、彼には裏の顔があった。それは、10万人の泥花市民からなる異能解放軍のリーダーであること。

 

プロヒーローのホークスは、3か月前に異能解放軍が敵連合の傘下に入ったことを耳に入れ潜入捜査をしていた。

 

公安からの指示であり、 “エイリアン”と関わりのあると思われる敵連合敵の実態を把握するのが彼の仕事だった。

 

事実、彼のおかげでヒーロー公安部と一部のヒーローだけが、今の敵連合について正確に把握していた。

 

羽で剣を形成し、構えるホークス。彼に失望するように、リ・デストロはため息をつく。

 

「まったく…また一つ、私の額が広くなる…!!」

 

何を言ったのかと思うと、彼の背中から2つの小型電磁塔が形成される。同時に彼の体は肥大化、変色していき、まるで物語のフランケンシュタインの怪物のような姿に。

 

服を突き破ったタワーからは、黒色の電気がパチパチと弾けている。

 

そして、叫び声を上げるとともに、黒紫のプラズマを弾け飛ばす。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

BZWWNN!!

 

ビルへ、道路へ、川へ。

 

彼の攻撃は広範囲に飛び散り、そのすべてを腐食、燃焼、枯死させていく。不快(ストレス)が付与された電気は生物・無生物問わずに負の影響を与える。

 

「っ…」

(ここまでとは…これが…地球外生命体のDNAを人体に埋め込んだ結果か…)

 

敵連合の中枢から聞き出したこの情報。

 

彼らの幹部は地球外生命体融合手術を受けている。

 

本当に地球外生命体なのかは不明だ。

 

だが、DNAリアンから検出された正体不明の染色体。そして、敵連合の幹部が皆、長期間手術を受けていたこと。

 

そして、たった今見せつけられた個性を超えた力。

 

これらを総合するに、現代科学では説明のつかない方法で力を得たのだと考えられる。

 

(そういえば…去年にも理外のパワーが発揮されるのを見たな…あれは、地下鉄だっけ)

 

なぜか去年のゴールデンウィークに見かけた炎男を思い出す。

 

すぐに頭を切り替え、目の前の人体発電機に問う。

 

「あんた、その…個性はどうやって手に入れた?」

 

「これは個性ではない。異能だ!!」

 

【アナウンサー】

 

「この放送がいつまで続けられるかわかりません!しかし、私の個性が使える限り、真実をお届けしようと思います!

現在、全国で敵組織が出現。彼らのほとんどが、脳無とDNAリアンを引きつれております!」

 




誰にどのエイリアンDNAが付与されてるかわかりましたか?
これら以外にも、「あいつにはあのエイリアンが合う!」みたいなのが有れば教えてください!(笑)


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95話 One for All

単行本32巻要素入ってます。


【帝国ホテル前】

 

茶髪で緑色の瞳の少年は思わせぶりな笑い方。

 

「まさか…」

 

「ああ、そのまさかさ。今、5都市を起点としてこの国全域に敵が発生している。3月31日、今日、日本という国はその姿を変えるのさ」

 

意気揚々と話す少年の姿は紛うこと無きことなくベン=テニスン。敵連合に誘拐され、その後オールマイトを意識不明に追いやった雄英生徒。

 

謎のエイリアン宣言をしたこともあり、世間の大多数は「敵連合に洗脳されたんだろう」と考えていた。

 

だが、時が経ち、DNAリアンが増えていく中で、エイリアンの存在を認めるべきだとする異星概観信仰派もまた明らかにその数を増やしていた。

 

そんな渦中の少年は今、緑谷出久の前で脳無たちを従えている。

 

彼らを盾にして、悦に浸るベン=テニスンに対し、緑谷はマスクを被ったまま答える。

 

「そんなことにはならない。」

 

「ふぅん。なぜ?」

 

「この国には、決して諦めないヒーローがいるからだ」

 

「そのヒーロー達は半年前に僕に倒されてたけどね。」

 

彼の言う通り、エンデヴァーを始めとするトップヒーローは彼に敗北を喫していた。それも、ダイヤモンドヘッドただ一人に。

 

それを思い出させるかごとく、自身を指さし語る。

 

「この、ベン=テニスンに」

 

「お前がその名を騙るな」

 

思わず語気が強くなる緑谷。

 

「はぁ?」

 

耳に手をかざし聞こえないふりをする少年。

 

ラチが空かないと思ったのか、緑谷はカブリを振り、

 

「…お前のホラ話に付き合うつもりはない。何がなんでも、ベン君の居場所を吐いてもらう。」

 

腕を構え、臨戦態勢へと入る緑谷。

 

顔を覆うフードは解れ、口元を隠すマスクにはヒビが入っている。修理をする者がいないため、両手のグローブも血と泥に塗れ。半壊している。

 

みすぼらしいとまで言えるその姿を鼻で笑う少年。トントンと脳無の背中を叩く。

 

「はは。まあまずは、この脳無たちを倒してから言ってほしいね。確か…ハイエンドとか言ったか?」

 

彼の目の前にいるのは3体の黒い脳無。それぞれ、フードの様なものを被ったり、アーマーを身に着けていたり、髪を伸ばしている。

 

その6つの渇いた目が緑谷に向く。

 

「ア…アァ…お、マエ、つヨい…か!!?」

 

3体のうち、最も体の大きな個体が緑谷めがけて突っ込んでくる。

 

「ガガガキキィィ!」

 

怪音波を鳴らしながら腕を撓らせる。丸太のような分厚さのそれは筋肉の鞭。肘部のジェットを点火し速度を上昇。筋鞭の先端はマッハ2を超える速度に。

 

【筋肉増強】【伸縮】【剛硬化】【ジェット】。

 

複数の個性を使う万能感がハイエンドの脳を満たす。彼らにしかできない業。戦いだけを求め生きていた彼は、圧倒的強者の立場に酔いしれる。

 

(ああ…きも…ちい)

 

が、

 

SMASH

 

気づいたときには、脳幹は彼から吹き飛んでいた。

 

「ア、 ガ…」

 

ドサリ、と萎んで倒れる。黒い肉塊となった哀れな一体のハイエンド。その一歩前には、ただ拳を突き出した緑谷がいた。

 

その場にいるハイエンドたちには何が起こったかわからなかった。

 

仲間の頭部が急に消えた。

 

不可思議な自体に理解が追い付かないが、緑谷の厚手のグローブがじっとりと血に染まっているのを見て、

 

【やられた】のだと気付いた。

依然状況は多対1。恐怖の感情を持たない彼らは冷静に動く。

 

ただ、機械のように学習し、自身の快楽と命令に従うのみ。

 

(あの子ども…目でとらえられぬほどの拳…なら、範囲攻撃で…)

 

思考能力に長けた女型のハイエンドは、最適行動に映る。

 

【炸裂】+【液状化】

 

体の関節が風船のように膨らむ。かと思うと

 

パン!!

 

と破裂し、彼女の体液が大概に放出される。

 

液体は周囲へ飛散。積んであったトラックや瓦礫に着弾すると、それらを粉々にせんと破裂する。

 

広範囲かつ殺傷力の高い攻撃。身体強化を有する敵に対しては最適な行動。

 

しかし、緑谷は既に後方へ飛んでおり無傷。どころか、空中で手足を動かす様子もなく、上下左右に動いている。

 

まるで、相手が何をするかわかっていたかのような彼の眼に、一瞬彼女はあり得ない感情を抱いた。

【煙幕】の出力を調整しつつ、彼はハイエンドたちを白い霧に包んでいく。濃密な煙のなかで、彼らの視界は一面煙景色。強化した視力は意味をなさなくなる。

 

(だが、それはやつも同じ。)

 

そう考える女型ハイエンド。その考えは間違っていなかった。

 

敵が緑谷出久でなければ。

 

自身の腕すら見えないほどの濃密な煙。その中で、まるでどこに誰がいるのかわかったように動ける者がいた。

 

GRAAAP!

 

「エギャッ…!!」

 

女型のハイエンドは、突如眼前に現れた緑谷に喉元を潰された。

 

気管系統をやられ、すぐに気を失うハイエンド。いかに人外だろうと、個性を複数持とうと、酸素が必要なのは変わらないらしい。

 

残されたのはアーマー持ち。

 

恐怖という感情を持たない彼。なのに、先から悪寒が収まらない。

 

(敵の…思い通り…煙を)

 

BOWWWW!!

 

【器官創造】により巨翼を生み出し、羽ばたかせる。自身を囲っていた煙幕は晴れ、視界の確保に成功する。

 

開けた視界の端に、緑谷を確認。網のように分裂した腕で敵の左腕を握ることに成功。

 

その万力の握力で握り潰す。

 

はずが、なぜかすり抜けてしまう。

 

再び空中へと逃げる緑谷を訝し気に思う。

 

(確かに…つかんだはずだが…)

 

疑問に思うのも束の間。

 

体に違和感を覚えると、すぐにメキメキと骨が悲鳴を上げる。

 

見ると、謎の黒い縄に縛られ、身動きが取れない。その出発点を見ると、緑谷の左腕から伸びている。

 

空中に浮遊して、悠々と見下ろす緑谷。

 

縄は何重にもなり、溢れるパワーをもってしても千切れない。骨を何本も何本も生成するが、骨の膜を作る端から破壊されていく。

 

どころか、時間が経つごとに縛る力が強まり、最後には

 

「ギュエッ!!」

 

体中の骨が砕かれ、ただ、這いつくばる蛸となる。

 

(こ、個性を…複数…)

 

皮肉にも、複数個性を持つために改造され、最高進化したハイエンドたちは、

純正の複数個性持ちによって地に伏すこととなった。

赤黒く変色したスーツに、さらに返り血を浴びる緑谷。しかし彼は払う様子もなく、ただ目の前の敵を見据える。

 

「さあ、次はお前だ」

 

自身を守る盾がなくなったベン=テニスンは、意気揚々と宣う。

 

「やるじゃないか。ハイエンド3体を1分もかけずに! 僕みたいなエイリアンでもないのにね」

 

「…ベン君はエイリアンじゃない。オムニトリックスで変身してる、ただの…人間だ。」

 

「へぇ…そんなに信じてたんだ僕のこと。」

 

まるで、これまでのベンとの時間を馬鹿にするようなベン=テニスン。その顔にいら立ちを覚える。

 

「…お前はベン君じゃない」

 

「あっそ。じゃあこれを見ても」

 

腕に嵌めているガントレットを操作し、彼は変身する。

 

QBAANN!!

 

「同じことが言えるかな?」

 

その身を赤くした、4本腕の大男へと。

 

何度も、何度も見たその姿。紛れもなく、ベンが変身したエイリアンだった。

 

動かない緑谷に対し、彼は容赦なく攻撃を開始する。

 

「おらぁっ!!!」

 

種族としての格の差を見せつけるように、至近距離から正拳突き。

 

当然、緑谷は避けるが、その風圧だけでマスクは吹き飛ぶ。

 

「っ…」

 

そんな彼の様子を気にも留めず、4本腕は嘲り笑う。

 

「拳一振りでこの威力!!これがテトラマッドの力だ!お前みたいな地球人が叶うとでも?劣等種族め!」

 

拳を握りしめる緑谷。

 

言葉での説得は不可能だと踏んだ緑谷。あるいは、始めから諦めていたのかもしれない。

 

ただ、敵を制圧することだけに集中する。

 

左手をかざすと、保護プロテクトがはじけ、黒鞭が射出される。さきほどのハイエンドたちを捕まえていた時とは比べ物にならない物量。

 

初めて黒鞭が顕現した時よりも、黒く、圧倒的なエネルギーだった。

 

下手に扱えば、周囲の建物すべてを飲み込む程の黒鞭。

 

それら全ては、目の前の赤いエイリアンへと向かい、縛り上げる。

 

何百本の黒鞭は、ちぎられては再生し、拘束を繰り返す。物量を活かした、∞拘束術。

 

4本腕だろうとも抜け出せない。なぜなら、一本一本の腕に力が入らないような縛り方をしているから。

 

それすなわち、緑谷が4本腕との対戦を想定していたことを表す。

 

「んっ!!っぐッ!!」

 

さすものテトラマッドも全てを断ち切るには苦労する。それに、無理な拘束力を見せる黒いこれが長く保つとは思えない。

 

そうふんであえて拘束される。

 

そんな彼に、緑谷は淡々と話す。

 

「お前はベン君じゃない。」

 

何度も、何度も聞いたその言葉に辟易するエイリアン。

 

「はぁ。それしか言わな…」

 

「まず、合宿前日、麗日さんがお前を見ている。ベン君そのものといえる容姿だったけど、どこかおかしかった、と」

 

ギコッ

 

小さくつぶやく緑谷。

 

思い当たる所があるのか、エイリアンは舌打ちをする。

「…あの醜悪な食べ物のせいだ…」

 

「それに、オムニトリックスも、ベン君のものとは異なっている。もし、ウォッチが変わったのなら、ベン君はいの一番に教えてくれる」

 

ギコッ

 

ベンの性格を知る緑谷だからこその視点。

 

「はっ。確かにこれはオムニトリックスよりも優れたものだがね」

 

「そして最後に、」

 

ギコッ

 

「そいつの名前はテトラマッドじゃない」

 

ギコッ

 

「フォーアームズだ」

 

誰よりもエイリアンの名前に拘っていたベン。そんな彼が名前を忘れるわけがない。

いくつもの証拠を提示され、ため息をつく敵。すぐに緑谷へと反論する。

 

「…で、俺をどうする気だ?このよくわからない縄ももうすぐ千切れる。そうすれば、お前なんか一撃だ。テトラマッドのタフさは宇宙でもトップクラス。お前ら地球人にダメージが与えられる…か…?」

 

そこで、初めて疑問を浮かべる敵。

 

なぜ、目の前の緑谷は、

 

喋りながら右手を曲げ伸ばししているんだ、と。

 

何か月前だったかもう思い出せない。それほど日が立ったような気がする。

 

あの日、継承者が顕現する空間で言われた言葉。衝撃だったが、悪くはないと思えた。それだけ、自分が強くなれるから。

 

本来、緑谷が使えた能力は全ての能力の20%まで。これを超せば、身体に異常をきたす。

 

だが、初代が警告、注意、宣告したことが現実になり始めてから、この上限は意味をなさなくなった。

 

【君の体は、人間からかけ離れたものとなる】

 

体の変化はただ姿形が変わるだけではなかったのだ。異形化するだけ、個性が適合する体へと進化していったのだ。

 

 

【危険感知】は害意や危険を教えるだけでなく、敵の居場所や攻撃を正確に予知するものに。

【浮遊】は自身への重力干渉方向を変えられる個性に。

【黒鞭】や【煙幕】も【発頚】もその使用許容量は100%を優に超す。

そして、力の源流である【OFA】も、とうに100%を超えていた。

 

彼はOFAの全てを引き出すことに成功していた。

人間の尊厳を捨てることで。

 

どんな存在であろうとも、どんな姿になろうとも、やるべきことは変わらない。

 

困っている人を救ける。

 

あの日、隣で見た拳藤さんの涙。病院で目を覚まさないオールマイト。そして…

 

 

背中のマントからは熱い何かが伝わってくる。

ただ、平和の象徴になるため。

今を変え、また皆が笑えるように。

親友が、また馬鹿をできるような。

そんな社会にするために。

 

敵を討つ。

 

敵を縛る黒鞭は何重にもなる。その全てを収縮させる。

 

テトラマッドの方が重いため、引き寄せられるのは緑谷。猛烈な勢いで敵に向かっていく。

【浮遊の重力移動】

   +

【黒鞭の限界張力】

   +

【発頚の超過蓄積】

   +

【OFA・100%】

 

今の緑谷ができる、最高、最適の個性で、

 

偽物を殴る。

 

「OFA・Puls Chaos-」

 

SMMAASHH!!!!!

 

8人の想いを乗せた緑谷の拳はテトラマッドを撃ち抜く。

 

周囲の水たまりは衝撃で残らず吹き飛ぶ。降りしきる雨ですら、一瞬彼らの周りから消え去る。

 

ただ、静かに、倒れ込むテトラマッド。

 

(…ただの人間のパンチ…で、だと?)

 

しかも貰ったのは腹部への一発。たった一発である。たったそれだけで、無敵のエイリアンは地に伏せる。

 

「お前は“エイリアンには敵わない”といったな」

 

偽物が見上げると、緑谷が見下ろしていた。先ほどの衝撃で、マスクが取れているため、その素顔を始めて偽物は拝む。

 

写真では見ていた。緑色の髪にそばかす。憎たらしいほど屈託のない笑顔。それが緑谷出久だった。

 

が、目の前の様相は大きく異なっている。

 

緑色の髪の毛はフワフワと白髪に、というよりも、まるで煙の様な形状に代わっていた。

 

袖の破けた左腕はもうなく、ただ黒いエネルギーが腕状に束ねられているだけ。

 

彼の眼球結膜を黒く変色していた。

 

全身の筋肉繊維は何倍にも増殖しており、常人のそれとはまったく異なるものとなっていた。

 

彼の体は、今まで彼が使った個性そのもののように変貌していた。

 

唯一、変わっていなかった緑色の瞳で、偽物を見下ろし、彼は吐き捨てる。

 

「僕はもう、()()()側だ」

 




主人公誰だっけ…


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96話 DNAリアン

DNAリアンの正体とは…


(オールマイトは最後の残り火で僕らを守ってくれた。例えその身が朽ち果てようとも。)

 

右頬にピシリと亀裂が走る。

 

複数個性どころではない、複数エイリアン化の代償。

 

痛みもなく、歴代個性をフルパワーで発揮する代わりに、彼の体は少しずつ壊れている。

 

(だけど、関係ない。)

 

オールマイトは言ってくれた。

 

【次は君だ】と。

 

その通りだ。

 

彼のように、魂が尽きるまで戦う。

 

次は、僕の番だから。

 

緑谷出久は目の前にはフォーアームズ。

 

ベン=テニスンしか変身できない異形を見てなお、緑谷は奴が親友ではないと信じ切っていた。

 

偽物は膝をつき、ただ地面を見る。そして、悔しそうに息を漏らしたかと思うと、光を放ち、元の姿に戻る。

 

よく知った、少年の姿に。だが、その顔には悍ましいほどの憎悪が刻まれている。

 

「くそッ…まさか地球人がここまで進化しているとは…」

 

悔恨の表情を浮かべ緑谷を見上げる。目の上には歪な体のヒーロー。そんな彼を見て偽物は、

 

「ん?」

と、ひとつ首をひねった。

 

悔恨の表情から、徐々に驚きの表情へと変わる偽物。ベン=テニスンの皮を被った少年は訝しむ。

 

「お前…2つとも…」

 

意味不明な言葉を口走る偽物を冷ややかな目で見降ろす緑谷。すぐにでも倒してしまいたいが、まだベンの居場所を聞いていない。

 

それに、

 

「…なんだ?」

 

敵の言葉が気になった。

 

返答する緑谷に対し、偽物は答えない。ただ、彼を見るだけ。

 

そして、頭からつま先までなめるように観察した後、クスクスと笑い、最後には大笑い。

無邪気とは言えない、不気味な笑いに気味の悪さを覚える。

 

「…何がおかしい」

 

「っは…いやいや、お前すごいな!後天DNAと先祖返り、両方をコントロールしているのか!?」

 

謎の2単語。いや、実をいえば片方は聞いたことがある。初代からだ。

 

個性の先祖返り。個性因子が、オリジナルであるエイリアンDNAレベルにまで達すること。

 

だが、後天DNAとは…

 

「マスクの奥からでも伝わってくる。何のことだ?って顔だ。いいだろう。特別に教えてやるよ!」

 

ベン=テニスンであるならば有り得ない知識量。身振り手振りからも、彼がベンではないことは明白であった。というよりも、誤魔化すことを辞めた様子。

 

「僕は宇宙から来た…お前らでいうところのエイリアンだ」

 

「っ…やっぱり…」

 

「まあ目的な多々あったが、中でもベン=テニスンへの復讐は最も達成するべきものだった。」

 

「なんで…」

 

「…この姿をみてもわからないならわからないね。とにかく、僕はこの地球で、最も悪党だと言える人間を探し、そして尋ねた。奴らはまあ、地球の遅れた科学文明の中で、少しは骨のあるやつだ」

 

「…AFO一派か」

 

「ああ。そして、奴の相棒ともいえる殻木。あいつは“個性”と呼ばれる力について研究していた。そこで僕は知識を授けたのさ。そのデモンストレーションとして行ったのが、エイリアンのDNAを人間に埋め込むこと」

 

その先は聞くのもおぞましい話だった。

 

個性持ちの人間に、エイリアンのDNAを埋め込む。それにより、エイリアンの力と、元々の個性を活性化し、人知を超えた力を生み出す。手術には長い期間が本来かかるが、その効果は絶大。事実、マスキュラーもオールマイト並みの力を得ていた。

 

そして、もう一つが、

 

「“個性”の先祖返り。殻木は、僕とは逆のアプローチで人外を生み出そうとしたんだよ。なるほど、さすがに地球人にしては優秀だ、と思ったね」

 

1人、頷きながら語る。

 

「“個性”がセレスティアルサピエンのDNAから派生したことは知っているだろ?」

 

期末試験が終わった後、ベンから聞いた。“個性”は約100年前、ある宇宙人の遺骸が地球に降り注いだことが原因だと。

 

「ああ」

 

「地球の個性全ては実在するエイリアンが元となっている。そのことを伝えると奴は嬉々としたよ。人間の可能性は無限だとね。」

 

殻木は真なるマッドサイエンティスト。自身の研究の為なら人の命などうでもいい。

 

人類の限界を試す為なら、人間など…そんな破綻思想だった。

そして語るのは、個性の先祖返りの引き起こし方。

 

「個性因子そのものをα波γ波で負荷をかけ増殖。そしてゼノサイト…多元宇宙寄生生物を装着させることで、それらを安定させる。その結果、個性持ちの人間は、元のエイリアンの力を最大限引き出すことができるのさ」

 

まるで会社のプレゼンをするかのように、自信満々に、誇らしげに語る偽物。

 

「もちろん、寿命は縮まり、人格は破綻し、生ける屍となるがね。お前は…人格に影響は出てないようだけど…」

 

その後に続く言葉を緑谷は容易に想像できた。

 

力を使えば使うほど、体を酷使すればするほど、体が自分のモノではなくなっていく感覚がある。

 

それこそ、おそらく最後は、個性そのものになって消え果てるのだろう。

 

だが、

「僕のことなんてどうでもいい。個性の先祖返り…そんな人を弄ぶような真似は…絶対にさせない…!!」

 

エネルギー体となっている黒い拳を握り、再び戦意を露わにする緑谷。

 

そんな彼をあざ笑うように、偽物は指を鳴らす。

 

「いいや?もうしてる」

 

得意げな笑みを浮かべたと思うと、紫色のオーラが周囲に点々と発生。うち3つからは、DNAリアンがぬるりと這い出てくる。

 

【もうしてる】【出てきたDNAリアン】【個性の先祖返り】…3つのキーワードが緑谷の頭を巡り、一つの結論に至る。

 

「…まさかっ!!」

 

「ああ、お前らが倒された、倒してきたこいつらが、それだ」

一刻前同様、3体のDNAリアンが緑谷の前に現れる。

 

顔の構成パーツは緑色の眼だけ。脳みそは薄い膜に覆われてはいるがクッキリと視認できる。

 

立ち姿は似たものだが、体形だけはそれぞれ異なっていた。中肉中背の者もいれば、ずんぐりむっくりとした低身長の者も。

 

(こいつらが…彼らが…民間人!?)

 

緑谷が躊躇している間に、一体のDNAリアンが空に手を掲げる。

 

すると、紫色のグローブからドプっと大量の液体が吐き出される。

 

空を覆うかのような液体は、すぐに春雨となって降ってくる。その液体がなんなのかわからないが、

 

「っ!」

 

危機を感じた緑谷は後方に下がりながらスマッシュ。

 

繰り出された技は一帯の雨を空中へとはじき返す。と同時に液体は橙色の閃光とともに爆発する。

 

BOOMMM!!

 

「可爆性の液体か…!」

 

その攻撃を皮切りに、操り人形は動き出す。

OFAを継承し、エイリアン化までした緑谷。地球上で最強だと言える彼は、たった3体のDNAリアンに手こずっていた

 

その理由は、

3体の能力と、

目の前の敵は救うべき人間だということ。

 

DNAリアンを無視し、偽物に突進しようとするも、コンビネーションを駆使した哀れな人形に阻まれる。

 

相手は3体。

爆液を撒き散らし、攻防を計る敵。

身体が金属の様に硬く、重く、一撃を狙ってくる敵。

そして、特に厄介なのは、

 

「ギぃッ!!」

 

「ぐッ!?」

 

彼らの中でも特にこじんまりとした個体。

 

おそらく、定めた対象を自身の元に引き寄せる力。

緑谷が行動しようとするたびに仕掛けてくるため、迂闊に飛ぶことすらできない。緑谷が対象となった時点で引き寄せられるので、危機感知も意味をなさない。

 

降りしきる雨を吸って、コスチュームが重くなってきた頃、偽物は愉快そうに喋り出す。

 

「ははっ。楽しそうだな。それだけの力で鬼ごっこするのは」

 

「っく…」

 

すぐにでもその口を閉じさせたいが、爆液と引力により動きが制限される。

 

「あ、それと…言い忘れていたよ」

 

偽物は唐突に、

 

「AFOからの言伝さ。確か…【師の追体験を大いに楽しんでくれ。】だったかな」

 

意味の分からないことをいう。

 

「…は?」

 

「【僕も君の気持ちは分かるさ。家族と戦うのは本当、心苦しいよなぁ】だってさ。奴もいい性格してる」

 

「…あ」

 

闘いの場に相応しくない、呆けた表情。

全てに気づいた彼は、足を一瞬止めてしまう。

 

目の前にいる、低身長のDNAリアン。

 

その能力は“”引き寄せ“。距離に関係なく、視界に入ったものを引き寄せる力。

 

(だけど…DNAリアン化していてこの能力なら、本来の個性はもっと弱い…)

 

例えば、

 

【ちょっとしたものを引き寄せる】個性。

 

わなわなと震えながら、考える。

 

『考えるべきではない。もう君の心が持たない。』

 

優しい、少し高い声で、初代が警告する。

 

脳内で警鐘は最大レベル。それこそ頭痛では済まない。それほど歴代は、緑谷が思考することを防ごうとした。

 

知っていたからだ。

 

彼の母親が、3か月前から行方不明になったことを。

 

「こ、こいつは…この人は…」

 

その問いに、偽物は答える。

 

「いやぁ、念動力系のエイリアンが元だったのかな?だけど、その女は一部の力しか使えなかったから参ったよ。」

 

そして、DNAリアンを指さし、

 

「さ、やってみなよ、ヒーロー?」

「――――――!!!」

 

その言葉を聞き終える前に、緑谷は叫んでいた。

 

言葉にならない、激昂。何も考えられない。思考ができない。人間としての尊厳も、なにもかもが彼の中から消えた。

 

ただ、目の前の偽物を消すために動く獣になっていた。

 

飛びだし、敵意も殺意も悪意も全てを右手に込める。

 

空気を切り裂き、敵を屠る拳。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、彼の拳は寸前で止まる。なぜなら、

 

体が、後ろに引っ張られたから。

 

彼の意思に反して体が向かう先は敵。いや、DNAリアン化した

 

緑谷引子。

 

無感情に手を翳す 元 緑谷引子に対し、緑谷は一瞬意識を奪われる。そして、作動したはずの危機感知に従わなかった彼は、爆液と、鉛のように重たい蹴りをまともに受ける。

 

BOMM!!

DGOO!!

「ッが…!!?」

 

敵の動きは俊敏で、一瞬で拘束される。拘束者は引子。他2体のDNAリアン達は容赦なく、彼を攻撃する。

 

1人は並々と爆裂する液体を被せ、もう一体は重厚で残虐な体を駆使して骨を砕く。

 

「カハッ…ぎっ…あぐぁッ…ッ」

 

そこに意思は介在しない。ただ、主の命令で動く動物のような存在。

 

普通の人間であればとっくに生を終えているほどのダメージが緑谷に募る。

 

だが、それでも彼は、偽物を見据え、喉からどす黒い声を絞り出す。

 

「戻‥せ…!!戻しやがれ…!!」

 

普段の緑谷からは考えられない口ぶり。当然だろう。母親が化け物にされたのだから。

 

そんな彼に対し、馬鹿にするように偽物は宣う。

 

「無理に決まってるだろ?腐りきった果実を元に戻せるか?ゼノサイトで細胞を安定させているだけで、それを取れば朽ちて消えるだけさ。それでいいならその顔についている眼を剥がせばいい」

 

「っがぁっぁぁが!!!」

 

フゥッ、ハッ、ハッ、と乱れた息。正常な呼吸でないことは一目瞭然。

黒く染まった彼の眼には、もはや正義の光は無かった。ただ、呪うように言葉を繰り返す。

 

「…ふざ…けんな…戻し…やがれ…クソ野郎…!!!」

 

誰かが乗り移ったかのような緑谷。もしかすると、OFAに蓄積された怒りの感情が、彼に呼応して発現したのかもしれない。

 

「すっごい顔だ!この星のヒーローとは、“英雄”って意味じゃなかったかい?」

 

羽交い絞めにされた緑谷。偽物を射殺さんとする今も、敵の拳は緑谷の顔面をえぐっている。

 

それでも、その憎しみだけで、彼は意識を保っている。

 

そんな彼に飽きたように、偽物は手首を摩る。

 

「まあ、奴との契約も履行したし、そろそろトドメかな」

 

その言葉とともに、緑色のガントレットを設定し、変身する。緑色の光を放って。

 

QBAANN!!

 

「どうだ?。」

 

と、反応を伺うのは巨大なトカゲ。いや、恐竜。5、6メートルはある其の体躯は正に太古の王者。二足歩行の巨竜は、地面に溶け込める茶色だ。

 

土色のエイリアンは、緑色の瞳で緑谷を見据える。

 

「お前も知らないエイリアンだろう?俺がベン=テニスンではないと知られたからには、生かして置くわけにはいかない」

 

「くそ…クソ…こ、こ、ころ」

怒り渦巻く彼の中で、初代は策を考える。

 

「いけない。これ以上暴走すると、九代目そのものがいなくなってしまう…!」

 

「だけど初代様…俺たちの干渉も今の小僧は聞き入れないぜ!」

 

「そもそも、憎しみ自体は俺たちのも影響している。奴がここまで切れているのは仕方がないし、その言葉を発するのも仕方ない…」

 

「…ぐ、だけど、絶対だめなんだ。ヒーローが、彼がその言葉を発しちゃダメなんだ!」

「…ころ…」

 

ヒーローとして、最高のヒーローを目指す者としてあるまじき言葉。

 

最後のトリガーとなるその言葉を言おうとしたとき、

 

 

 

 

 

突如、偽物と緑谷の間に小さな光が発生する。

 

 

蛍のような光がその場に留まると、小さな爆発と大量の煙幕を発生させる。

 

POOOOM!!!

 

「!?」

 

突然のことに意識を奪われる緑谷。煙幕の影響か、それとも偽物がその場から吹き飛んだことが影響しているのか、DNAリアン達も動きが止まっている。

 

「ケホケホッ…煙の設定おかしいよ!」

 

煙幕の中で、せき込む誰か。

煙のせいでよく見えない。

 

(いや、この声は確か…)

 

優しく、すこしだけ高い声。

 

声の主を推測する一瞬で煙が少し晴れ、背格好が見えてくる。

 

身長は、自分より少し高い。170㎝ほど。細身の体で、戦う者にしては覇気がない。。

緑色のジャケットを着ており、茶髪の青年は年上のようだ。

 

髪色は違うが、背格好、そしてなにより、声色から、誰かが判別する。

 

「し、初代様…?」

 

疑問符を付けた緑谷の問いに、青年は答える。この緊迫した場に似つかわぬ、子どものような喋り方で。

 

「はぁ?何言ってんだよ?それより見てよ!新しいオムニトリックス!」

 

青年はジャケットの手首時計を差し出してくる。

 

彼の胸元には、【10】と小さなマークが縫い付けられてあった。

 

 

 




・緑谷が個性の先祖帰りと後天DNAを引き起こしている理由…実際には、OFAにより、複数の個性を使用可能に。そして、それらがオムニトリックスとの干渉で先祖がえりを起こし、複数のエイリアンの力を使えるように。偽物から見ると、2つの手術を行ったように見える。
・声優ネタァ!!
・やっと主人公のターン!!


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97話 ベン

もう、タイトル通りです(笑)ワチャワチャ!


「あ、あなたは…」

 

「何だよその反応!?ボクだよ!ベン=テニスン!」

 

親友の名を自称するのは、緑色のジャケットを羽織った青年。歳は自分と同じか、それ以上だと思える顔立ち。身長も170を超えており、10歳の体躯であったベンとは全く異なる姿。

 

そう、間違いなく、ベンではないのだ。なのに、その男の空気は、どこか懐かしい雰囲気を醸しだす。

 

だが、まだ信用ならない。現に声も姿もそっくりな偽物がこの半年間潜伏していたのだ。簡単に信用していては後ろから刺されてしまう。

 

そう考える緑谷に対し、ベン=テニスンを自称する青年は手首を掲げ、

 

「見てよ!ボクのニュー ウォッチ!!前のよりもアップグレードされてるんだぜ!」

 

この、急を要する危険な状態にも拘わらず、

 

自慢する。

 

場違いな自慢と、誇らしげな顔。ニヒヒと笑うその顔はまさしく、中学3年生からの親友、ベン=テニスンだった。

 

「ほ、ほんとに…」

 

「だからそう言ってるじゃん!って…ああ、そっか。この姿ね」

 

自身の体を見つめるベン。

 

「ほら、今僕指名手配されてたでしょ?だから、色んな場所にいってもばれないように、アズマスにやってもらったんだ!まあこの姿がほんら」

 

「やっぱりアズマスか…」

 

ベンの言葉を遮ったのは、さきほど吹っ飛ばされた偽物。彼の姿は先ほどまでとは異なるものとなっている。いや、ベンそっくりではあるのだが、茶色の髪は白に、緑色の服装は赤色に。

つまり、補完色となっているのだ。

 

 

「うわ…変な色!けど、これでもうお前はボクに化けれないぞ!アルビード!」

 

名を呼ばれたのは、アズマスの助手、アルビード。

 

「…ああそうか。構わないさ!もう、タネは十分に仕込んだからな!」

 

開き直るように宣言する。

 

「お前のせいで日本にいられなかったんぞ!お陰でスモウスラマーカード ニューシリーズだって買えなかった!!」

 

「それならこちらも同じだ!貴様の体と同期してしまったせいで、あの異臭を放つ揚げ物(チリフライ)を摂取し続ける羽目になった!」

 

アルビードとベンの言い合いはまるで子供の喧嘩。

イマイチ話が飲み込めない緑谷の為にベンは説明する。

 

「あいつ、アズマスからオムニトリックスの試作品を奪ったんだよ。でも、ウォッチ自体はボクを(あるじ)としているから、装着したとたん、ボクの体に“同期”してしまったんだろうって…ほんと、いい迷惑だよ!」

 

そこで全ての謎が解ける。

 

ベンしか使えないエイリアンを使用できた理由。

ウォッチと類似した装置。

ベンと同じ姿。

 

親友がこの大惨事を引き起こしたわけではないと確証を得られ、多少は心が軽くなる緑谷。

だが、それでも彼の気は休まらない。

なぜなら、

 

「…イズク…ボロボロじゃん…こいつらのせいか」

 

先の衝撃でDNAリアンの拘束は逃れたが、以前彼らはこちらを睨んでいる。主人の指示がないためか動きはしないが、いつ、先の波状攻撃が繰り出されるかはわからない。

 

だが、緑谷は彼らを憎むのではなく、心配する。

 

「待って…彼らは…元人間なんだ…もう戻らないって言われたけど…だけど…僕は!!」

 

なんとかしなければ…割れた頭を押さえながら、思考を巡らせる。

再び力を振り絞り、立ち上がろうとする緑谷。だが、ヒビが入り続ける彼の体は、もうどう頑張っても立てない。

 

地に這いつくばる緑谷の肩に手を置くベン。何かつぶやくと、スタスタとDNAリアンの方へ歩いていく。

 

「あぶな…!」

 

「大丈夫だって!…オムニトリックス!」

 

不意にベンが呼び掛けると、ウォッチが作動する。

 

【DNA異常を感知。DNA情報を書き戻しますか】

 

「頼んだ」

 

淡々と事務をこなすようにベンは命令する。

その声に反応し、オムニトリックスからは緑色の光が。

 

「ギィィイ!!?」

 

ドラキュラが太陽の光を浴びるように、DNAリアンは叫び声を上げる。体中をグリーンライトに照らされ、彼らはドサリと倒れる。

 

すると、顔に付着していた紫色のヒトデ、ゼノサイトがポロリと外れる。

 

体を覆っていた黄土色の皮膚はぺろりと捲れ、中からは人間が出てくる。

 

そのうちの一人は、

 

「お母さん!!」

 

緑谷の母だった。意識はまだ取り戻せていないが、息はある。その確認をした緑谷は、先ほどとは反対の、安堵の涙を流す。

 

と同時に、緊張の糸が切れたのか、蓄積されたダメージが一気に彼を襲う。もう意識も保てない。

 

意識が途絶えそうになる中で、視界の中央にはベン。

 

「てゆーかイズクもやばいじゃん…なんだよその目。カラコン?」

 

そんな彼に軽口をたたきながらも、ベンは先と同様に光を当てる。

 

すると、黒鞭状の左腕はシュウシュウと煙を上げる。

白煙と化した頭髪は深緑色のくせっ毛に。

そして、体中に入っていた亀裂は見る影もなくなる。

 

「ベ、ベンく…」

 

「これで大丈夫!あ、それとこれを渡そうと…って」

 

ベンの言葉を聞く前に緑谷はその目を閉じていた。それもそのはず。エイリアン化していたため感じられなかった疲労が一気に襲ってきたからだ。

 

そんな緑谷に対し相変わらず変な奴だとおもいながら、ベンは彼を横たえる。

 

その様子を見ていたアルビード。赤色の瞳を輝かせ彼はベンを挑発する。

 

「オムニトリックスにそんな機能があったとはなぁ。まあ、所詮副次的なもの。これはあくまでこの宇宙を支配するための力なんだよ」

 

「ったく…どいつもこいつもウォッチをなんだと思ってるんだよ!アズマスもブチ切れてたぞ!」

 

「ふん。もはやあいつなんぞ僕の敵じゃない。この地球に僕の部下が何人いると思っているんだ」

 

彼が示すのは日本全国に配置されたハイエンド、DNAリアン。そして、適合者たち。

例えベンがウォッチを使おうとも、日本全国に散らばる配下を止めることは不可能。

 

アルビードの言葉に、ベンは

「はんっ!お前なんかボクがワンパンさ!そもそも、誰が1人なんていった?」

 

悪だくみをするように、ニヤリと口角を上げた。

 

【雄英高校】

 

ヒートブラストの力を宿した荼毘、いや、轟燈矢。その圧倒的な力に成す術なく敗北したエンデヴァー。彼の前に現れたのは、中年と少年の2人組だった。

 

中年は自分と同じくらいの年。だが、少年の方は知っている。なぜなら、

 

「お前は!!ベン=テニスン!!」

 

オールマイトを葬った、息子の同級生。その名を口にだし昂るエンデヴァー。そんな彼を諫めるのは、茶髪で筋骨隆々な中年。

 

「大丈夫。彼はあなたが知っている彼じゃない…しかし、お互い、息子の教育には困りますね…」

 

この状況に似つかわしくない、余裕なセリフ。中年は顎髭を触りながらエンデヴァーに語り掛ける。その顔付きは、体育祭で見ていたベン=テニスンの面影がある。

 

ベン=テニスンの父か?

 

疑問が顔に出たのか、中年は答える。

 

「ああ、オレは彼の父親ではないですよ。とにかく、後は任せてください」

 

あまりにも穏やかな声に、言い返すことができなかったエンデヴァー。中年は,

隣ではしゃぐベン=テニスンに声をかける。

 

「Amazing!!!! All the humans in this world are like aliens!!」

 

「ベェン!翻訳機能をつけ忘れてるぞ」

 

「Oh!aa…ああ…うん。オッケ!!にしてもすごいや!人間全員が火を噴いたり、空を飛んだり!ボクもこっちの世界で生まれたかったよ!」

 

「はは。それだと、オムニトリックスと出会わなかったかもだぜ?」

 

中年は少年の手首の時計と、己の両手首に視線を送る。

 

「あー…そういやそっか!じゃあ、何に変身すんの!?」

 

「とりあえず、今はこいつがベストかな」

 

中年が少年のオムニトリックスに触れる。すると、少年のベンは水色の両生類に変身する。半2足歩行の彼は、冷気をこぼしながら、野太い声で喋る。

 

「あ、これって!」

 

「そう。あの時君が名付けた、アークティッグイグアナさ。そして俺は…」

 

中年は両腕をクロスさせる。すると、両手首に装着してある装置が互いにふれあい、緑色に発光。

 

気づいたときには4本腕の、巨大な恐竜に変貌していた。

 

「フォーモンガソー!!…しかし、こうして戦うのもマックス爺ちゃんの誕生日以来だな」

 

「そうだね!今回も、ボクらしく勝とうぜ!」

 

「ああ!」

 

エンデヴァーを助けた少年と中年。その正体は、

原初のベンである【ベン10】と、その【未来のベン10000】だった。

【福岡】

 

「君たちは一体…誰なんだね?」

 

厳かな雰囲気で尋ねるリ・デストロ。背中には柱を生やし、会話している今でも紫色の電気を放っている。

 

予想外の出来事にいら立ちを隠せない彼。その目の前にいるのは、15、6の少年と、藍色のスーツにセーバー銃を携帯したスタイリッシュなエイリアン。

 

「うわぁ…こっちの世界は…エイリアンと人間が混ざっちゃってんのか…」

 

「ベン。それは違います。正確に言えばエイリアンDNAを起源とした能力を有する人間とエイリアンDNAが融合しているのです」

 

「エイリアンDNAを起源って?…んん?…あーもー!!そんなのどうだっていいっての!どっちにしろ、こんなやつら、ボクに係ればお茶の子さいさいだっての!」

 

「オチャの子?オチャ…というのは誰のことですか?それとも、目の前にいる彼がオチャさんの息子だとか…?」

 

トンチンカンな言葉に、ベンはジト目でパートナーを見つめる。

ジト目でパートナーを見つめるベン。

 

「ルーク…」

 

呆れたように名前を呼ばれた配管工は、ため息をつきながら学習する。

 

「そうですか、なるほど。地球の言い回しですね」

 

「そういうこと。じゃ、いっちょやりますか!!もちろん、こいつでね!!」

 

お気に入りのエイリアン、フィードバックに変身したのは16歳のベン。その隣にいるのは惑星ラバンナ出身のパートナー ルーク=ブランコ。

 

様々な時空を飛び越え、色々なエイリアンと戦う彼らは、【ベン10オムニバース】と呼ばれた。

 

 

 

【岩手…鈴樹市】

 

「…どんだけ敵居るんだよ…」

 

「なんでも、∞増殖系の能力を持っているそうよ」

 

青みがかかった瞳の少年は、目の前に広がる景色にうんざりする。

ディトーのDNAに適合したトガヒミコとトゥワイスは、今なおその数を増やしている。

 

そんな彼らを一瞬で後退させたのは、1人の少年と1人の少女。少年は少女の言葉を聞いて舌なめずり。

 

「∞増殖…すごいね。まるでラスボスじゃん…映画化したら500億は下らないぞ!」

 

彼の頭の中ではすでにそろばんが打たれている。

この現状をも商売だと考えられるほど図太い少年。髪の色も瞳同様青みがかっており、体中に着けたアクセサリーもクールブルーだ。

 

「馬鹿なこと言ってないでやるわよ」

 

そんな彼を嗜める少女の髪色は、対極であるオレンジ色。瞳は緑色であり、どこもかしも違うのだが、どこかこの2人は血のつながりを感じる。

 

そして、明らかな共通点は、手首のオムニトリックス。

 

「わかってるって!この、“ヒーローウォッチ”さえあればなんだってできる!」

 

QBAANN!!

QBAANN!!

 

「ローラーウェイ!!」

 

少年はキャノンボルトに変身したにも拘わらず、そう叫ぶ。彼にとっては、このずんぐりむっくりとしたドッジボールは、キャノンボルトではなく、“ローラーウェイ“なのだ

 

「あんた、エイリアンに名前なんて付けてるの!?」

 

「なんだよ。ファン投票で決めた名前だぞ?人気投票だって常に上位さ!」

 

マックスが早くに亡くなり、強敵もあまり存在しない次元。

 

その孤独を紛らわすため、オムニトリックスによる戦闘を商業化し、世界一の人気者、大金持ちとなった少年。人々は彼を、【ベン23】と呼ぶ。

 

そんな彼に厳しいツッコミを入れる少女は、ほんの少しのズレで主人公が交代した次元の少女。彼女の物語の題名は、【グウェン10】。

【京都】

 

 

爬虫類系のエイリアン全ての能力を有するスピナー。京都の町は軒並み崩壊した。ヒーローもほとんど逃げて、残ったのは動けない市民と一握りの英雄。

 

その英雄には、雄英から派遣されたB組ヒーローも含まれている。

 

絶望的状況下で、スピナーを吹き飛ばし、拳藤達を救ったのは2人の男女。

 

「あ、あなたは」

 

「あら。意外とわかんないもんなのね、イツカ。あたしよ、グウェン」

 

赤みがかった髪色と、スラリと伸びた手足。大人びた服装の彼女は、自分の名前を呼ぶ。

 

「!?」

 

「その、色んな事情があってね…けど、間違いなく、」

 

ふわりと拳藤を浮かせる。

 

「あなたに魔法を教えた、グウェンドリンよ」

 

空手と、個性と、魔法を使う最強のサイドキック。

拳藤を助けたのは彼女だ。

 

では、目の前の化け物を吹き飛ばしたのは?

 

その疑問は直ぐに解決される。なぜなら土埃の向こう側には、男性の立ち姿が確認できたから。黒のTシャツにグレーのパンツ。加えて黒髪であるため、一見地味。

 

しかし、彼は地面に触れた瞬間、その体色をコンクリート色に変化させていく。まるで【吸収】したかのように。

 

アメリカのヒーローでも見たことがない顔つき。グウェンに尋ねると、なぜか歯切れが悪い。

 

「あの人は…?」

 

「あぁ…その…いや、一応正気には戻ってるし…そのうち監獄にぶち込むわよ?今だけ協力してるんだけど…」

 

口早に説明する彼女に対し、男性は大声で訊く。

 

「グウェェン!こいつ、やってもいいのか!?」

 

「ケビン!!もうそいつはダウンしてるでしょ!!」

 

 

【士傑高校】

 

キャノンボルトと融合したギガントマキア。暴走車と化した彼をなんとか食い止めようとした関西ヒーロー達。

 

だが、相手は歩く、いや、転がる天災。

 

人間が如何にして止められようか。そんな諦めがファットガムの脳内をよぎった時、少年2人が不意に現れる。

 

「なんや!!はよ逃げぃ!!」

 

彼の言葉は2人に届いていない。緑色のモジャモジャわかめ頭と、どこかで見た茶髪の少年。

 

茶髪の少年は、緑髪の、手首に時計をつけた少年に語り掛ける。

 

「まさかもう一回こいつと戦うなんて」

 

「うん。一応訊くけど、鈍ってないよね?ベン君」

 

「当たり前だろ?」

 

自慢げに、鍛えられたその筋肉を見せつける少年。

 

「僕は、OFA10代目継承者 ベン10だぞ!イズクこそ、ちゃんと使えてるのか?それ!」

 

「もちろん。今は、999体目の使い方をマスターしてるところだよ!」

 

緑髪の少年は、手首の時計を操作する。キュワンと音をたて、エイリアンのシルエットを見せる時計。

 

それは、紛れもなく、オムニトリックス。

 

「じゃ、行こうか!」

「ヒーローとしてね!」

 

彼らは、この物語から1つズレた世界、

【ボクのヒーローアカデミア】と【デク10】の世界から来た、

ベン=テニスンと緑谷出久。

 




ベン10名物、多次元のベンとの協力です。
基本的に無印とオムニバースから登場してもらってますね。
なお、今のベン達の姿については、
ベン、グウェン、ケビン…エイリアンフォースの頃の姿
アルビード…15歳のベンの姿だが、その色は補完色に。装置のハウリングが起きたから。


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98話 究極

究極=


赤いジャケットを羽織り、赤い瞳で睨みつけるアルビード。

その対象は、

緑色のジャケットを羽織り、緑色の瞳で笑うベン=テニスン。

 

各地からの連絡を脳内で受け、その細部を把握するアルビード。

 

「他次元から仲間を呼んできたのか…」

 

「そういうこと。タイム…じゃなくて次元トラベルさ!」

 

とある博士に協力してもらい、様々な世界線に飛んだベン一向。数か月かけて、ようやく仲間がそろったのだ。

 

「なんか変な感じだったよ。特に、ボクが日本語を話せない世界線だと、“個性”が存在しなかったし!けど、まあ楽しかったよ、色んなボクに会えて。」

 

余裕の笑みを浮かべながらウォッチに手をかける。

その余裕の根拠は、

 

「もちろんその中には、お前を倒したボクだっていたさ!」

 

多次元の自分が目の前の敵に打ち勝った事実。

 

対するはアルビード。

ベンの登場自体には驚きを隠せなかったが、計画自体は終わっていない。

 

そう考えながらガントレットに手を添える。

「その次元の僕は事の運びが下手だったんだろうさ。」

 

「いいや?お前も同じだ!」

 

両者はそのセリフを言い終えた後、装置を押し込む。

 

QBANN!

QWANN!

 

彼らの体にエイリアンDNAが注入される。

 

ドクンドクンと心臓は脈打ち、血液は全身をエイリアン細胞に変化させていく。

 

細胞が分裂・変異したかと思うと、胸骨格は膨れ上がり、体中の皮膚はゴツゴツと剛質に。

 

土色をした尾が尾骨から伸びて、地面に垂れる。

 

2本脚で歩く恐竜といえば想像は容易だろうか。古代の生物を思わせるその様相。

 

クリクリとした大きなベンの瞳が、爬虫類のようなつぶらな瞳になった所で変化を終える。

 

「ヒューモンガソー!!!」

 

変身した勢いでその名を叫ぶベン。ウォッチが新しくなった時から、彼は変身時にその名を叫ぶようにしていた。

 

まるで、自分はここにいるぞと表明するかのように。

 

対するのもヒューモンガソー。瞳が赤いこと以外は瓜二つ。

 

この戦いを観戦しているのはホテルに籠る異星概観信仰派のみ。彼らはこぞってガラスの内から両者をじっと見る。

 

どちらが正義の味方で、どちらが世界の混乱を招いたのか。彼らには区別がつかなかった。

 

仕掛けたのはアルビード。その巨体は周囲のアスファルトに足跡を作りながら突き進む。

「ぬぅぅぅぅん!!」

 

一挙手一投足が大地を揺らす敵に対し、ベンは真っ向から迎え撃つ。体長10メートルの化け物2体が、両手を合わせがっしりと組み合う。

 

「おおおお!!」

「っぐぐぐ!!」

 

同じ変身であるため、力は拮抗。このまま長期戦になる、

 

かと思われたが、其の予想は外れる。

 

手首を返し、足元を蹴り弾くベン。

 

アルビードは、その巨体が仇となったのか、直ぐに体勢を直せない。

 

その間にベンは相手の背後に回り、尻尾をギュムっと掴む。

「なっ!?」

 

力任せにブンブンと回す衝撃波で、周囲の廃車は粉々に。それでも気にも留めず回す回す。

 

「おおおおおおおお!!」

 

千切れんばかりに尻尾を振り回したかと思うと、ビルと同じ体躯のアルビードを、

 

廃屋となった住宅街へぶん投げる。

 

BWOOOMM!

 

「おらぁぁぁぁ!!」

 

 

ガラガラとブロックを押しのけ、アルビードは立ち上がる。しかし、その顔は苦虫を潰したように歪んでいた。

「っち…」

 

「残念だったなアルビード。お前じゃオレには勝てない!」

 

ヒューモンガソーVSヒューモンガソー。本来決着がつかないように思えたその勝敗は、ベンの圧勝だった。

 

その理由は、練度。

 

ベンはウォッチを手にして約2年経つ。

雄英での訓練を経て、そしてこの半年間の次元トラベルにより、彼は新オムニトリックスの使い方をマスターしていた。

 

対するアルビードはここ半年しかその装置を使用していない。それに、ベンであることを疑わせないために、フォーアームズやダイヤモンドヘッドといった初期エイリアンにしか変身していなかった。

 

もちろんアルビードもある程度は戦える。それこそ、この国のヒーローが束になっても勝てないほどに。

 

だが、ウォッチの力を持ったベンは別。

 

闘いのセンスではベンに後れを取っているアルビード。そのことを自覚し、やや感情が乱れる。思い出すのはアズマスの声。

 

【お前は直ぐに争い優劣を決めようとする。だからこそ愚か者なんじゃ】

 

脳内の師はいつでも自分を認めない。その事実に辟易しながらも、彼は冷静になる。

 

いまこそ、優劣を決める時が来た、と。

 

「…オムニトリックスの機能を知っているか?」

 

まだ勝算は大いにある。むしろ、自分が負ける道理が無い。

 

「え?」

 

突然、会話を始めるアルビード。その姿は未だ恐竜型エイリアンのまま。

 

「アズマスは使用者の負担を考え、オリジナルよりも弱体化させている。もしオリジナルを再現してしまえば記憶の混合が起こってしまうからな。」

 

その話を聞き、思い出すのはリーバック。脳無から直接DNAを採取、変身したとき、脳無の記憶がベンに流れてきた。

 

だが、ベンもそのことはアズマスから聞いている。

 

「知っているさ。ウォッチはあくまでも種族間の橋渡し役。無理して戦闘力を上げるべきじゃない」

 

次元トラベルでこれまでとは日にならないほどの人間と出会って来たベン。多種多様な考え方に触れ少しばかりは大人になったのだろう。

 

アズマスの意図を汲み、その説明をなす。

 

その言葉を聞き、アルビードは嘲笑を浮かべる。

 

「はっ。何のためのオムニトリックスだ。全知全能たるエイリアンにまで変身できるのに、戦闘に使うべきでない?お前だって私欲を優先し、戦闘に使っていただろう!?」

 

「うっ!」

 

痛いところを突かれて押し黙るベン。

 

「だが、やつはお前を認めた…ふざけるな…」

 

“全ては僕のために”

 

アズマスの助手だったにも拘わらず、その思想は正反対。

全宇宙を支配し、自身の優秀さを理解させたい彼は、力に溺れ始めていた。

 

ゴツゴツとした冷たい右手を、アルビードは胸のマークに宛がう。

 

「オムニトリックスはオリジナルより弱体化させて変身している。」

 

では、その逆に、オリジナルより強化したならば。そしてその強化個体を制御できたならば。

 

「オムニトリックスを超える装置。それがこの、アルティマトリックスだ!!」

 

その巨大な手は、オムニトリックスマークをパチンと叩く。まるでウォッチを押すように。

 

ZQAANN!!

 

すると、マークは赤く発光。そして、マークを起点として、彼の体に変化の波が波及していく。

 

体は一回り大きく。皮膚の色は土色から苔色に。背中からは棘が生えて、尾の先端には棘のついた球体が。

 

先までのニュートラルな恐竜人間とは異なり、アンキロサウルスが二足歩行しているかのような様相。

 

ややメカチックな装飾が施された手には筒のようなものが4つずつある。

 

変身を完了した時、まるで意趣返しのように、彼は叫ぶ。

 

「アルティメット ヒューモンガソー!!!」

 

戦闘に長けたヒューモンガソー。そんなエイリアンの力を200%引き出した形が、アルティメット ヒューモンガソー。

 

さきほど同様、ズンズンと迫りくる緑色の恐竜。

 

ベンはもちろん背中を向けない。押し負けないよう巨大化しながら、拳を振るう。

 

DGOONN!!

 

が、相手の拳で吹っ飛んだのはベンのみ

 

ホテルを囲うように建っていたビルに倒れ込む。

さきほどまでの拮抗は嘘のように、簡単に力負けする。

 

「いってぇ…くそぉ!」

 

壊れた建物に手をつき起き上がるベン。正面を見ると、猛然とタックルを仕掛けるアルビード。

 

「おわっ!」

 

寸でのところで飛び避けるベン。手つきにしていたビルはそのタックル一撃で粉々に。

 

(完全にパワー負けしてる…これがアルティマトリックスか‥!!)

 

ベンは避けた先にあった廃棄された車を、

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

THROW!!

 

 

思いっきり蹴り飛ばす。近接が駄目なら遠距離から。

 

ヒューモンガソーのことは一番理解している。彼の苦手は遠距離攻撃。

 

(これなら…!)

 

そんな甘い考えは、簡単に吹き飛ぶ。

 

GATYANN!

 

何かが装填された音。ツンと鼻を刺す火薬の匂い。向けられた敵の手。

 

本能の“逃げろ”という声。

 

それらすべては、U.ヒューモンガソーによるもの。

 

さきほどまでの巨大な手は収納され、手首の4つの穴がこちらを睨んでいる。まるで、銃口を突きつけるように。

 

「まさか!!」

 

DDDDOOO!!

 

耳を塞ぎたくなるような連射音。それに合わせてグルグルと回る両手。マシンガンと化した両腕からは、夥しい数の銃弾が撃ち込まれる。

 

避けようにも、後ろには避難民集まるホテル。一発でも当たれば倒壊してしまうだろう。

 

BANBABABANNN!!!

 

「ぐうううううう!!」

 

守るために、何百発もの銃撃を、その身一つで受ける。一発一発が必殺の威力。生物兵器の本領発揮とばかりに乱射する敵。

 

懸命に踏ん張り、これ以上後退しないように堪える。

 

一瞬クラリと来るが、それでも膝をつかないベン。

 

永遠とも思える地獄が、カラカラカラという音とともに止まる。それは、敵のバレットが空になったことを表す。

 

ワンセットを打ち終えたのか、アルビードの猛攻は休止する。

ベンは確認と挑発を兼ね、

 

「…もう終わりか?」

 

「いいや?まだまだこれからだ」

 

答えるアルビードの手からは硝煙が。

 

まだまだ攻撃が続くことは確からしい。そのことを理解しつつも、希望を見出すベン。

 

(確かに強い…これがアルティマトリックス…だけど…)

「そのぐらいなら全然勝て…」

 

QWANN!!

 

啖呵を切ろうとした瞬間、光り輝く体。光の中からは人間のベンが。

 

「はぁ!?なんで!?解除するほどダメージはくらって…ハッ」

(もしかしてさっきのDNA解析!?まさかそれでエネルギーを!?)

「なんだよ!!!そう言う大事なことは教えろよ!」

 

1人地団太を踏むベンに対し、アルビードは容赦なく構える。

 

「お前が死ねば僕の体も戻るだろう…哀れな人間体のまま、死ぬがいい」

 

ガチャリと次弾が装填、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

されるより先に訪れたのは、彼の顔面を捉える爆発。

BOOMM!!

 

「っ?」

 

爆発は攻撃と目くらましを兼ねたもの。濛々と立つ鼠色の煙のせいで視界は不明瞭。その中で、アルビードは聞いたことの無い声を聴く。

 

「一般人はさっさと逃げやがれ!!」

 

登場してすぐに切れ散らかすのは若い声。急に現れた人間に対し。排除対象のベンはこう叫ぶ。

 

「カッチャン!!」

 

「誰がカッチャンじゃぼけぇ!!!!」

ベンのピンチを救ったのは、緑谷の幼馴染、爆豪克己。

 

続いて、轟焦凍、蛙吹梅雨、麗日お茶子が到着する。

 

「大丈夫ですか?早く非難を!」

 

麗日がすぐさまベンを保護する。どうやらまだ彼がベンだと気付いていないようだ。

 

一般人への対応を見せる彼女に対し、青年姿のベンは名を呼ぶ。

 

「オチャコ!!」

 

「へっ?なんであたしの名前を…」

 

「ボクだよ!ベン!ほら!」

 

そう言ってオムニトリックスを見せる。

 

だが、元々のウォッチと変わっており、そもそも偽物も類似品を所持しているため、いまいち信用できない彼女ら。

 

「んでてめぇがあのクソチビなんだ!?どうせ愉快犯か模倣犯だろうが!!」

 

「あーもー!なんでそんなに怒鳴るかな!?だからイズクとも仲悪いんだよ!バカッチャン!!」

 

「んだてめぇ!!!」

 

再会早々口喧嘩をおっぱじめるベンと爆豪。

2人を収める麗日と轟。

 

「ちょ、そんなことやってる暇ないやろ!!

「お前がテニスンだとしたら、なんでお前はあんなことを」

 

そう。ベン=テニスンは世間的にはオールマイトを葬った人間である。クラスメイトである彼らも、それを覆す根拠はなかった。

 

轟は至極まっとうな質問を返す。

 

「だからぁ!アイツはボクの偽物!ウォッチを…あ、これは言っちゃ…あーもーいいや!とにかく、アイツはボクと同じ変身をできる装置をゲットしたの!そしてボクに変身してるんだよ!」

 

支離滅裂になりながらも懸命に説明するベン。これまでの経緯をとにかく話す。

 

そして最後に、

 

「とりあえず、イズクを安全な場所に。DNA異常は治したけど、ケガはまだ治ってないんだ」

 

彼の後ろには眼を閉じた緑谷。そして緑谷の母や、その他DNAリアンから元に戻った市民。

 

「デク君!!」

 

麗日は緑谷の元へ駆ける。そして、苦しそうではあるが、元に戻っている緑谷を見て、こう思う。

 

(例えこの人が偽物だろうと、デク君を助けたのは、間違いなくこの人だ)

 

市民にも気づいた爆豪は少し驚き、そして指示を出す。

 

「っ!?…おい蛙女!丸顔!」

 

「つゆちゃんよ」

「その言い方どうなん!?」

 

「うっせぇ!!丸顔がバ‥モブども、デク、蛙を浮かせ!で、蛙女はモブ3人、丸顔がデクを掴んどけ!!!」

 

緊急事態ゆえに、即座に個性を発動する麗日と蛙吹。

爆豪は説明しながら、両手をBONBOMと爆裂させる

 

「もうどこにも安全な場所なんてねぇ…だが、少なくとも雄英に行けばシェルターもあるしリカバリーガールがいる…」

 

「ちょ、まさか…」

 

何度も見てきた光景。爆豪が何かを投げるシーン。だが、今度は物ではない。

 

「だから…死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

BOOOOOMM!!

 

一瞬で彼方まで消える計6人。その様子を見て少しばかり引いているベンと冷静な轟。

 

「うわぁぁ…カッチャン、今のはやばいね…」

「爆豪。人を投げるのはよくないんだぞ」

 

「黙れクソども!!!そもそも、お前があのチビだって認めたわけじゃねぇ!さっさと隠れてろ!」

 

爆豪の指示に対し、ベンはこくりと頷きながらも、

 

「大丈夫!少し時間を稼いでくれればすぐに回復するから!」

 

そうウォッチを見せる。

 

「確かに…テニスンっぽいな…」

 

ここで初めて轟がベンに肯定的な意見を口にする。

 

「とにかく、少しでいいから!!」

 

人間体の時には素直に人に頼るベン。彼らを信じ、身を隠しに走る。

 

そんなベンを目で追う轟に、爆豪は呼びかける。

 

「半分野郎…!」

 

舌打ちしながらも、

 

前に集中しろ、

 

と顎で伝える爆豪。

 

「ああ…わかってる…あいつ、強いぞ」

 

ようやく煙が晴れ、こちらを凝視するアルビード

 

いや、U.ヒューモンガソーが見える。

 

不意打ちだったにも拘わらず、ほとんどダメージが入っていない。

 

まさに、未知の敵。

 

「爆豪。行くぞ」

「命令すんじゃねぇ!!」

 




・無理ゲーだ…
・アルティマトリックスやオムニトリックスの仕様は、59話 個性の始まり でチョロっと書いてます。


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99話 轟豪

頑張ってくれ、人間代表!!


小ぶりな雨で濡れる装備。雨の日や冬は、エンジンがかかるのに時間がかかる。それでも、市民が目の前にいるのに、言い訳するのは、ヒーローじゃない。

 

オールマイトを憧れとする爆豪は、未知なる敵と対峙する。

 

巨大な宇宙恐竜、U.ヒューモンガソー。

 

アルビードがアズマスから盗んだアルティマトリックスは、強力なエイリアンをさらなる化け物へと仕立て上げる。

 

互いに動かない。が、爆豪らが動かなかったのは警戒の為。アルビードが動かなかったのは、走り去っていくベンを見ていたから。

 

自分に注意を払わない敵に対し、爆豪は憤る。

「どこ見てんだクソ敵がぁぁ!」

 

BOMM!

 

先手必勝と言わんばかりに猛る。

爆破による飛行で空へと浮く。そして、冬服の防・発熱機能により、爆ぜる汗腺を刺激する。

 

徹甲弾機関銃!(A・Pショット=オートカノン)

 

BOMBOMM!! BOMBOMM!

 

掌全体の爆破を一点に集め起爆。これにより爆破は銃撃化し、貫通力も増す。一発でも敵を退ける銃爆撃を容赦なく連射。

 

が、

 

「邪魔だ」

 

BBWOON!

 

ただ腕を振るだけ。

たったそれだけで、渾身の徹甲弾はかき消され、爆豪もろとも吹き飛ばされる。

 

「ガッ!?」

 

ホテルのガラス戸を突き破り、壁にめり込む。ホテルに張られていたバリケードは、ボウリングのピンのように弾きとぶ。

 

「爆豪っ!!」

 

敵の様子見と爆豪のサポートに回ろうとしていた轟。建物内から戻らない爆豪を心配するも、すぐにその余裕はなくなる。

 

 

「…っち!」

 

 

ノッシノッシと5メートルはあろう足裏で、車を踏み潰しながら進むアルビード。

背中側にいる爆豪を守るため、轟は防壁兼攻撃を試みる。

 

「穿天氷壁!!」

 

PAKIPAKKIII!!

 

右手を地面スレスレにさらい、氷を出現させる。

 

普段は広域制圧、多人数への攻撃だが、今回は違う。

 

ただ巨大な一体のための、巨大な氷壁。

 

体育祭で見せた最高出力氷壁をいとも簡単に顕現させる轟。それは、この半年間での成長を示す。

 

美しい半透明の結晶が敵を襲う。飲み込まんとする氷は、10キロ先からでも判別可能なほど巨大だ。

 

しかしそれも、

 

「ふんっ!」

 

CRASHH!!

 

アルビードの拳で容易に砕かれる。敵を襲ったはずの氷塊。一瞬で粉々になった結晶は、氷柱となって轟に降りかかる。

 

「一発かよ…」

WHHOMM!

 

左腕からは赤く燃ゆる炎。

 

火炎放射で、氷を溶かしつつ、敵に牽制を入れる。自身と敵の間にある炎の壁は生物すべてが恐れるはずだ。

 

彼の考えのとおり、炎の向こう側で、アルビードの動きは止まる。

 

功を奏したのかと一瞬気を抜く轟。

 

しかし、その揺らめく炎の先から見えたのは、敵の銃口。さきほど、遠目から見た銃撃を思い出す。

 

「っ膨冷…」

(いや、駄目だ!威力が足りねえ…!!)

 

氷で冷やした空気を熱で膨張させ爆発を起こす“膨冷熱波”。

通常の敵には十分すぎる火力なのだが、これでは足りないと判断。

 

すぐに、奥義へと移行する。

 

(体中の熱を、引き上げろ!!)

 

瞬間、彼の周囲には陽炎が発生する。地面は焦げ、周囲の車は溶けだす。

熱が体に籠り、蕩けそうな脳を制し、放つのは

 

「赫約熱拳!」

 

父であるエンデヴァーから教授され、この半年で身に着けた究極奥義の一つ。

 

轟の左半身からは勢いよく焔が舞う。そしてそれらは左腕に集約し、さらに、拳一点に集中する。

 

「噴流熾炎!!!」

 

WHHOOMMM!!!

 

荒ぶる炎は炎塊となり、吹き出すマグマのように轟から放出される。

数発の弾丸を、圧倒的高熱、高圧の炎が飲み込む。

 

そこまでして、ようやく、

 

銃撃は弱まる。

 

轟の体を吹き飛ばす程度に。

 

DOM!DOMDOM!!

 

「ぐあっ!!」

 

爆豪同様、体をビルの壁に叩きつけられた。その時思い出すのは、神野での父の戦い。

 

アルビード扮するダイヤモンドヘッドに、勝てないながらも追いすがった父。

 

(あいつも…こんな気持ちだったのか?)

額から血を流す轟。少しずつ意識が薄まるのを感じる…彼の眼は、徐々に閉じていく

ホテル一階内部。周囲にはバリケードが張られていた。過去形なのは、さきほど自分が破壊したから。

 

爆豪は、背中に刺さるガラスを気にも留めず、思考を巡らせる。

 

(くそがぁぁ!!オレの攻撃も、半分野郎のも、全く効いてねぇ!あり得ねぇ耐久力、パワー!遠距離にも対応できるマシンガン…それこそ…)

 

脳裏に浮かぶのはオールマイト、そして、イカれた幼馴染。

 

先のベンを自称する青年は逃げれたのだろうか。いや、普通の人間の足ではそう遠くにいってないだろう。

 

ならば、まだ時間を稼ぐ必要がある。

 

“勝つこと”のみに執着する爆豪

 

だったが、小さいころから隣で、

 

“救けること”にのみに執着する人間が隣にいたためか、今、彼は、無意識にその身を動かす。

 

(救けて…勝つ…!!)

 

ホテルの瓦礫を押しのけ、壁にめり込んだ轟を鼓舞する。

「…轟ぃ!!何寝てんだこの天然半分がぁ!!」

 

「…爆豪」

 

本当はやりたくない。だが、救けて勝つためにはこれしかない。

 

「耳貸せや!!」

 

 

チャンスは一度。何度も使える手ではない。

 

「お前が知ってたとはな…」

 

「ああ!?勝手に俺の特訓場にいたんだろうが!!」

 

「ああ、わりぃ。お前も使ってたんだな。今度から声をかける」

 

「うぜぇ!!そういうことじゃねぇわ!!」

 

(ベン=テニスンは逃げたか…所詮、こんな辺境の星でオムニトリックスを遊びに使っていたガキだ。僕には敵わない。)

 

アルティマトリックスの性能に十二分に満足するアルビード。ベンとの戦闘、爆豪らとの戦闘であまりダメージが入っていないため、変身時間にも不安はない。

 

「さて、そろそろ、…?」

 

背後からの気配を察し振り向く。

 

すると、建物から2人の少年が出てくる。

 

「たった一発で足を引きずり、血を吐くとはなんて脆い種族だ」

 

そう見下した彼に、雄英生は吠える。

 

「おめぇは絶対ぇぇ、ぶっ殺す!!」

 

BOM!と爆ぜ、勇猛果敢に突っ込んでいく爆豪。

 

さきほど同様、腕で振り払おうとするアルビード。

 

しかし、敵のパワーを学習した爆豪は、ギリギリのところで避け、今度は彼の眼前に迫る。手を伸ばせば彼の眉間に触れるほどの位置。

 

「こんだけ近づけば…どっちかは食らうだろうが!!」

 

左手の爆液は圧縮し、右手の爆液は拡散。それぞれ爆発の温度を調整することで、

 

閃光盲爆(スタン・ブラインド)!!」

 

周囲を真っ白に照らす閃光とともに、周囲を包むのは黒煙。敵の視界を奪うことに特化した、嫌らしい一手。

 

その意図に気づき、咄嗟に目を瞑ったアルビードだが、どちらにせよ煙幕で視界は真っ黒。

 

アルビードは一瞬爆豪と轟を見失う。

 

「っち、面倒な…フッ!!」

 

目を押さえながら、息を吹く。それだけで周囲の煙は彼方へと霧散。

 

開けた視界には、

 

誰もいなかった。

 

「遅せぇ!!」

 

代わりに聞こえるのは懐からの罵倒。

 

(どんなに強くても、どんなに踏ん張りがきく奴でも、真下からの攻撃で浮かないわけがねぇ!!)

 

爆豪の考える通り、生物が地面に足を付けたまま、下からの力に耐えることは難しい。

 

というのも、そもそも重力という地球の作用がその機能を果たしてくれるから。

 

逆に言えば、ヒューモンガソーの体重何千トンを浮かばせるパワーさえあれば、

 

彼を空中へ運ぶことはできる。

 

「とりあえず…死にやがれぇぇ!!!」

 

カチャンと外れる籠手。この籠手は本来、リスクなしで最大火力を撃つ道具。

 

だが今回は、本来とは異なる用法で敵を討つ。

 

両籠手を外し、敵の懐へ投げる。これで普段の最大火力2発分。

 

さらに、籠手めがけて放つのは、反動有り最大火力。

 

二重榴弾砲着弾(ダブル・ハウザーインパクト)!!!!!」

BOOOMM!!

 

オレンジ色の閃光は、敵の体を爆破していく。

そして、籠手に溜められた爆液に攻撃が到達したとき、さらに爆発は激化する。

 

「ふっっっっ飛べ!!!」

 

BBBBOOMM!!

 

今爆豪が出せる、最高最大火力の爆撃により、ヒューモンガソーの巨体は宙へと舞う。

 

「っ?!」

 

予想外の一撃に空中での姿勢制御が崩れるアルビード。いくら彼とて、空中で自在に動けるわけではない。むしろ、その体躯が仇となって、身動きがとれない。

 

そんな苦手な空中で待っていたのは、体中に霜を下ろした轟。

 

(赫約熱拳は体中の熱を引き上げ、集約し放つ技。これを、右に応用する!!)

 

「蒼零凍拳!!!」

 

本来、彼の右は氷を顕現させる力。地面から氷を出現させ、もしくは地面を伝わせて敵を氷で覆う。

 

どちらも、あくまで“氷”で攻防していることには変わりない。

 

だが、限界まで熱を引き下げ、敵に触れるこの技は、

 

「玉塵零度!!!」

 

内部からの凍結を引き起こす。

 

PAKIPAKIPAKI!!

 

冷気が轟の右手から伝わり、敵の心臓部へ到達。その瞬間から臓器、体液、骨格全てが凍り始める。

 

FRFEEZEEEE!!!!

 

アルビードの体は、轟とともに落下したときには、体中が固まっていた。

 

「っはぁ、はぁ…」

 

轟は白い息を吐きながら、左の炎で体温を戻そうとする。しかし、まだ慣れていない技であったため、意識がぼんやりする。

 

まるで雪山に何十時間もいたかのように、震えが止まらない。

 

隣の爆豪も、容量超過爆撃により、両腕が痺れ、軋む。しかし、その痛みと、

()()()()()()()()()()という、自分にとって最も屈辱的な手段のおかげで、なんとか敵を拘束することができた。

 

「…へっ!!俺に勝てるやつなんざ!!どこに…」

 

もいない。そう言おうとしたとき、聞こえた。

 

GANN

 

小さな起動音が。

 

ガシン、ガシンという、まるで兵器が運ばれるような。

 

DOOMMM!!!

 

凍っているはずの敵からミサイルが飛び出す。それらは周囲の建物に着弾し、爆発。瓦礫の山と大火災を発生させる。

 

その衝撃と熱で、彼の体中の体液は煮沸し、体は最高潮の状態へと変化する。

 

「所詮この程度だろ?僻星のサルめ」

 

生物兵器は宣った。

 

正直、予想していなかったわけではない。自分達の最大火力で仕留めきれないことは。

 

しかし、まさか、10秒も持たないとは…

 

「…く‥そが」

「…ハァッハァ…な…んかいでも、…ぶちこむぞ」

 

ふらふらと立ち上がる2人の英雄。もう意識を保つことさえ一苦労。

そんな彼らに容赦なく、撃ち込まれるミサイル。

 

轟が氷を展開しようとするも、もはやそれすら敵わない。

爆豪も手足が痺れ、爆破がおきない。

 

それでも、前から目を背けなかったとき、

 

ECHOOOOO!!

 

横入りした超音波がミサイルを暴発させる。

 

雨雲まで吹き飛ばす爆発で、仰け反る爆豪たち。

 

「…な…んだ?」

 

彼らの前に出てきたのは、

 

「「「「エコーエコー!!」」」

 

白く、小さな、4()()の宇宙人たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・なんというか、ドラゴンボールでいうピッコロ的立ち位置な感じですね。強いけど、相手が理外の化け物という…
・最後のエイリアンは、番外編に出てきた彼です!


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100話 チート

100話目にふさわしい、ワッチャワッチャの回です!


エコーエコー。

 

3頭身の体はまるでアニメキャラクター。体はホワイトシリコン製で、およそ生き物とは思えない風体。

 

薄緑色の眼と真一文字に伸びる口は宇宙人にふさわしい不気味さを醸し出す。

 

彼の特徴の一つは音波攻撃。アルビードの極爆ミサイルを、この超音波で起爆することができた。

 

そして、もう一つ。語らなければならない特徴が。

 

「もう大丈夫だよ!カッチャン!トドロキ!」

「なぜかって!?」

「ボクラがいる…」

「ってことだ、わかったかよ!!」

 

この、分裂能力である。

 

瓜二つ、どころか完全な分身をみせるエコーエコーを見て、轟は思い出す。

 

「そういや…救難訓練でも似たような分身してたな…」

 

「あれはディトーだけどね!」

「あっちの方がいっぱい分裂できるのよ」

 

「ああ、なるほど…」

 

それだけを言って黙る轟。思わず爆豪が突っ込む。

 

「んなことどーでもいいだろうがモブども!!そもそもクソチビが4人に増えたって意味ないだろうが!」

 

その言葉を聞いて聞き捨てならないと1人のエコーエコーが反論する。

 

「はぁ!?元のオレはもうチビじゃないぞ!」

「なんならボクの方がスマートなんじゃないかしら?」

「ああん!?」

 

緊迫した場面のはずなのに、やいのやいの騒ぐ雄英生たち。彼らを見て、

 

「仲間割れか?これだから低知能種族どもは」

 

腹に響く声でアルビードは笑う。

 

「ソノロシアンは戦闘に特化した種族ではない。加えて、今の俺はU.ヒューモンガソー。負ける道理がまるでない!!」

彼の言う通り、ヒューモンガソーは戦闘特化の恐竜型エイリアン。さらにアルティメット化により200%の能力が引き出せる。

 

ただのオムニトリックスしか持たないベンは圧倒的に不利。

 

「確かに…ちょーーとは認めてやるよ!アルティマトリックスのこと!!そもそもアズマスが試作してたやつだしね!」

 

正対するアルビードを指さす。

正直、ずるい!という想いが無いわけではない。オムニトリックスの進化系であるアルティマトリックス。できることなら自分が使ってみたかった。

 

…もしアルビードがもっと早くそれを手にしていたら、あるいはベンがウォッチを手にするのがもっと遅かったら。

 

ベンは負けていただろう。

だが、彼がウォッチと出会ってから、もうすぐ2年がたつ。

 

エコーエコーの一人が、背中を向けながら話す。

「だけど、さっき言ったろうが?」

おもむろに、胸のマークに小さな手を当てる。

 

「…ボクの方が」

マークを45度回転させる。砂時計型のマークが水平に。

 

「ずっと手馴れてるのよ!!」

一列に並んだ4人のエコーエコー。それぞれが喋り切った後、

主人格であるベンは、呼びかける。

 

「10数えてからな!1、2、

 

「「「「10!!」」」」

 

QWANN!!

QWANN!!

QWANN!!

QWANN!!

 

アルビードがしたように、胸のマークを叩く。

 

彼らを包むのは緑色の光。

 

ここで、ベンの変身体についての話をしておく。

 

【分身】の性質を有するエイリアン。例えば先に挙げられたディトー。

 

彼の場合、分身しても人格は同期しており、痛覚なども共有している。ゆえに、変身を解除するときも、全員が一体に集合していなければならない。もし集合していないのならば変身は解除できず、ただエネルギーが吸われていくだけだ。

 

だが、このエコーエコーはちがう。全員がそもそも異なる人格を持っているのだ。

例えば粗雑な人格、例えばはんなりと女性的に、例えば冷静沈着な者もいる。

 

この特徴に加え、新オムニトリックスにより、変身解除を好きなタイミングでできるようになった。

 

なにが言いたいのかというと、

 

「さあ、ボクらのヒーロータイムだ!」

「そうねぇ」

「いいから早くやっちまうぞ!」

「じゃ、先にボクが変身するよ…」

 

人間体のベンが4人になるということだ。

その光景に驚きを隠せない轟と爆豪。当然だ。さきほどまでエイリアンに変身して戦っていたベン。

 

彼が異形に変身し超パワーを発揮することは知っている。だが、人間体の時はただの子供だった。まるで無個性のように。

 

なのに今は、その人間体までもが増えているのだ。

 

そして彼らでなく、アルビードまで目を丸くしていた。

 

(まさか分身したまま変身を解除するだと?!そんなのアズマスでも知らなかったはず…!!)

 

当然だ。これは、オムニトリックスAFになってから、ベンが発案した新戦法なのだから。自由で型破りな発想。それこそマックスにさえできないことをベンはやってのけるのだ。

 

幾分か冷や汗をかいたアルビード。しかし、一呼吸すると、すぐさま冷静に。そして状況を的確に判断する。

 

「…だが、人間体の貴様が何人いようとも、意味はないぞ!!」

彼の言う通り、人間体のベンに戦闘能力はない。ただ徒に数を増やそうとも、死体が増えるだけ。

 

そう思うが、ふと気づく。分身した彼ら全員に、

 

ウォッチが備わっていることを。

 

「ふーん、じゃあ、これならどう?」

普段のベンよりも冷静に語るベン。無感情にポチリとウォッチを押す。

 

QWANN!!

 

「ブレインストーム」

 

変身したのはカニ型エイリアン。足が3本胴体から出ており、手は小さなハサミのよう。そして、頭が体の50%を占める特異な形態をしていた。

 

その頭の中央に亀裂が入ると、カパリと開き、黄色の光線が他のベン達に注がれる。

 

注がれたベン達の脳内に、彼の思考が流れ込む。

 

「これで大体の作戦わかりましたか?それじゃ変身してください」

 

敬語で命令するブレインストーム。彼に対し主人格のベンは反論するが、他のベンは気にしない。

 

「ちょっと、本物はボクなんだから。リーダー取らないでよ!」

 

「誰でもいいわぁ、そんなの!」

 

QWANN!!

 

「スワンプ~ファイヤー♪」

 

オペラのように名乗るが早いか、首元から種子を掴み、敵に投げつける。

 

頭から足元まで不規則に降りかかる種子にアルビードは対応できない。幾らかははじき返すも、その巨体が災いしたか、太もも辺りに着弾してしまう。

 

触れるが早いか、種子は彼からエネルギーを吸収し、根を張り、蔦を伸ばし、体中に巻き付き始める。

 

「ちっ!!‥っ!?」

 

舌打ちしながら蔓を引きちぎろうとした瞬間、

 

QWANN!!

 

顔面にネパネパした塊を受ける。

 

NETTT!!

 

「っうがっ!」

 

「キキッ!!どうだい!?ボクの特性粘糸は!!」

 

嬉しそうに跳ねるのはスパイダーモンキー

 

主人格であるベンが変身していたのは、名が表す通り、猿と蜘蛛が合わさったエイリアン。

 

青い体毛の生えたサルで、骨格は比較的地球の猿に似ている。腕が4本あること以外は。

 

猿の身軽さと蜘蛛の粘糸で敵を翻弄する彼は、イタズラ好きのベンと相性は抜群だった。

 

尻尾から蜘蛛の巣状の糸を吐き出し、敵へと付着させる。

スワンプファイヤーの蔓縛に加え、粘着糸の猛撃を受けさらに苛立つアルビード。

 

ベンへの復讐は彼の重大目標。対象が目の前にいるのに目標が遠ざかるのを感じ、ついに爆発する。

 

「…くそおおぉぉお!!チマチマ足止めしかできない劣等種族が!!」

 

ガチャン!という音で、さきほどの爆撃を思い出す爆豪達。

すぐさま迎撃態勢をとる。

 

 

 

「この、極超音速ミサイルで…!!?なっ…」

 

「どうしたの?まるで、体内の発射機構が湿気た顔してさ!」

 

迎撃態勢をとった爆豪らの隣で、3()()()ふふんと自慢げな顔だ。スパイダーモンキーに変身したベンが挑発する。

彼らの言葉で、アルビードはハッとし銃口を見返す。

 

ドロリ

 

と彼の銃口から出てきたのは、

 

「グープ!!」

 

緑色のスライムエイリアン グープ。

 

半液体の体を持つ、ウォッチの中でも奇怪なエイリアン。制限はあるが、細く狭い場所にも容易に入り込める。

 

「お前の体内のミサイルたちは皆ベットベトにしてきたよ!!」

 

U.ヒューモンガソーで最も厄介だったミサイルマシンガン。それを防ぐことがベン達にとっての勝利条件だった。

だからこそ、敵の動きを制限し、注意を引き行動を皆がとり、その間にグープが起爆不能にしたのだ。

 

思わぬ伏兵に気を取られるアルビード。

 

その隙に、ブレインストームは光線を当てる。

 

PZZZZZZ!

 

その効果は知識の強制伝達。ブレインストームの種族は、グレイマターに勝るとも劣らない知能の持ち主なのだ。

 

圧倒的量の情報を敵に()()()()ことでその動きをさらに拘束する。

 

もしアルビードがガルヴァンの姿であれば、この攻撃はいとも簡単に抜け出せただろう。

 

しかし、オムニトリックスを使用した際の頭脳は変身先に依存するため、ヒューモンガソーへ変身している彼にこの情報量は酷だった。

 

「今です」

 

あくまで冷静沈着に指示するブレインストーム。彼に従い、その他の3人は姿を変える。

 

怒れる彼は燃える草木に。

柔らかな心を持つ彼は凍える藍蝶に。

そして、主人公は古代の支配者に。

 

「スワンプファイヤー!!」

「ビィィグチィィィル!!」

「ヒューモンガソー!!」

 

作戦はもう決まっている。後は実行するのみ。

 

今から繰り出す技を思い、ヒューモンガソーは語る。

 

「…ケビンから教えてもらったんだ。力の組み合わせってやつを…そしたら…」

 

チラリと見るのは轟の方。

 

「よく考えたら、何回も見てるんだよね」

 

初めてはUSJ 

2回目は体育祭で。

 

焔と凍。その2つを掛け合わせることで超常的なエネルギーを生み出せる。

 

GASSIN!!

 

ヒューモンガソーの背中にスワンプファイヤ―が根を張る。蔦で体を押さえると同時に、ビッグチルも括り付ける。背中にはスワンプファイヤーとビッグチルの両者が。

 

敵を拘束したのは、避けられないようにするため。

 

メキメキと巨大化したベンは、その筋肉に任せて大ジャンプ。

 

空中から愚か者(アルビード)を見下ろす。

 

やっとのことで知識光線が解除されたアルビード。しかし、彼の体はまだ植物と蜘蛛の巣でがんじがらめだ。

 

「…!!この体は!!ヒューモンガソー数体分の頑丈さを持つんだ!素体のお前なんかに…!」

 

藻掻き乍ら、自身の強さをひけらかす。

 

そんな彼に()()()は上空に繰り出す。

 

FOOOOO!!

 

ビッグチルが超冷気を。

 

WHHOM!!

スワンプファイヤーが暴炎を。

 

轟は気づく。彼らが何をしようとしているのかを。

 

…半燃半冷という人間の“個性”でもこの技は大爆発を起こす。

 

もし、この技がエイリアンレベルで行われれば、

 

BBWWOOMMM!!

 

究極の変身をしたヒューモンガソーの装甲も、

ぶち破ることができよう。

 

核爆発でも起きたかのような爆炎が、空中のヒューモンガソーを地上へと押し出す。その勢いを全て、拳に乗せる。

 

彼の体重×超爆発によるスピード。

暗雲、春雨すべてを吹き飛ばすよう爆発エネルギーをパンチに変換。

 

「フリーズメタン・ディノパンチ!!!」

 

DOOOOOMMM!!!

 

全体重が敵に伸し掛かる。地面が彼を中心に沈降する。

3体のエイリアンを駆使した拳は、何層にも及ぶU.ヒューモンガソーの装甲を

 

「ガッ…」

 

QWANN!!

 

ぶち破る。

その言葉を残し、アルビードの変身は解け、ただの人間の姿に戻る。

 

ベン達4人が、人間の姿、エコーエコーの姿を経由した後1人に戻り、そしてまた人間の姿に戻る。

 

1人、空を見上げるベンは笑顔。

 

「やぁっと雨やんだ!」

 




今回出たエイリアン
・エコーエコー(全員)
・ブレインストーム(冷静なベン)
・スワンプファイヤー(乙女なベン)
・スパイダーモンキー(主人格)
・グープ(怒りベン)

・ビッグチル(乙女)
・ヒューモンガソー(主人格)って感じです!わっちゃわっちゃ。
・エコーエコーのこの技は、一応デメリットはあります。それはまた次回!


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101話 楔

短いです!


日本全土に広がっていた暗雲。

皆の心に蓋をする春雨だったが、帝国ホテル前だけが、快晴模様となっていた。

 

久しぶりに顔を出した太陽に照らされ、ベン=テニスンは振り返る。そこには全身を負傷した爆豪と轟。

 

時間を稼いでくれた彼らにお礼を言わなければ。その想いから駆け寄ろうとすると、ホテルに影が見える。

 

よく見ると、ぞろぞろとホテルから出てくる避難民だった。亀のような様相だったり、鋭利な牙が顎から目元まで伸びている者も。

 

ほとんど全員が、異形だった。

 

その中の一人が、恐る恐るベンに尋ねる。

 

「き、君は…」

 

「ん?ああ、ボクの名前は…まいっか。ベン=テニスン!最強のヒーローだよ!」

 

「ベン=テニスン?!ってことは…エイリアン…!」

 

彼の名前を聞くと、平伏し手を合わせる人々。

 

「うわわわ‥な、なにしてんの?」

 

「あなたはエイリアンなんですよね。あなたが我々のルーツを教授して下さったおかげで目が覚めたのです…」

 

その言葉でベンは思い出す。アルビードがベンに化けていた時、エイリアンが存在することを宣言した。そして、異星概観信仰派と呼ばれる、エイリアンの存在を信じ、自由に力を行使する集団が形成された。

 

(うわっちゃぁ…しかもエイリアンに関していえば間違ってないし…けど)

「あのさ、あれを言ったのはボクじゃないよ。単なる偽物の言葉。エイリアンなんていないよ」

 

「そのような言葉で誤魔化さずとも…忌々しいことに、この国はあなたを捕らえようとしています。しかし、我々はあなた様を歓迎いたします、テニスン様」

 

まるで純粋無垢な少年のように、ベンを見つめる男。若干の気味悪さを覚えるベンだったが、受け入れられていること自体は嬉しい。

 

それこそ、今後自分がトレーディングカードになったりするのではないか。

 

少しだけ浮かれた時、避難民のなかにいる、10歳ほどの少年が水を差すように

 

「なにがテニスン様だよ、馬鹿らしい」

 

その言葉で、全員の視線が少年に集まる。

 

「何を言ってるんだ君は!」

「我々の在り方を教えてくれた御方だぞ!」

 

母親と思わしき獣人が少年の口を押え、平謝り。

 

「すみません!すみません!この子はまだこの状況をわかっていないんです!!」

 

「やめろよ母さん!だっておかしいじゃん!こいつのおかげで目が覚めたって言ってるけど、逆だよ!家が壊れたのも、お母さんが馬鹿にされたのも…全部こいつが悪いんじゃん!!」

 

「テニスン様に対して‥!!」

 

鬼の形相になったリーダー格。今にも手を出しそうな彼をベンは止める。

 

「ちょちょちょ!ずっとこんな状況だったんだし、気が立つのも仕方ないって!とにかく、ここから離れて。できれば雄英とかシェルターがある場所に」

 

「は、はい…」

 

救世主の言葉だからか、彼の言う通り、すごすごと避難を始める。

ベンの頭の中では、

【全部お前のせいだ】

この言葉がループしていた。

 

「…カッチャン、トドロキ!ありがと!変身までの時間稼ぎ!」

 

倒れている2人の元に向かい、礼を言うベン。

 

あまり己のプライドに頓着の無い轟は、差し出された手を掴む。

 

「ああ…その喋り方と…顔。やっぱりテニスンなんだな…」

 

「そう言ってるだろ?」

 

「…見たことねぇ変身だった。前より断然強ぇ。」

 

「でしょ!?めちゃくちゃパワー使っちゃうからあんまり使わないんだけど、すごいだろ!どんな敵でも一発さ!でも…まあ?2人のおかげでもあるかな?」

 

陽気にはしゃぐベン。実はこの戦い以前から、さきほどの分裂変身を訓練していたのだが、どれも失敗していたのだ。

 

というのも、性格の異なるベン達が連携を合わせることが難しいのだ。自分のはずなのに、考えることがまるで違う為か、狙ったエイリアンに変身するのでさえうまくいかなかった。

 

中にはベン自身に反旗を翻す者も。

 

今回は結果オーライだったが、内心ドギマギしていたベンであった。

 

そんな彼から差し出された手をふり払う、不機嫌な爆豪。

 

「けっ!所詮俺の爆破の真似事だ!近いうちにぜってぇ追い抜いてやるわ!」

 

そのセリフから、青年をベンと認めているようだ。

 

「えー。カッチャンには無理でしょ!」

 

「ああん!?」

 

「こんな事態なのに何してるんだ。それにしてもテニスン。お前、この半年間何をしてたんだ?」

 

「それも今話すことじゃねぇだろが!」

 

「えっと」

 

「答えるんじゃねぇ!!」

 

ベンは爆豪を無視して、神野事変以降の動向を語る。

 

「敵連合のアジトをじーちゃんたちと脱出したはいいけど、ボク、指名手配犯になってたでしょ?今はこの変身バッジがあるから誤魔化せるけど、その時はなかったし」

 

そう言って胸元の「10」と書かれたワッペンを指す。どうやらこの装置で体を装っているらしい。

 

「だから、これができるまでの2か月間はアメリカでヒーローやってたんだ!」

 

「はぁ?密入国したんか?それに、てめぇは免許なしだろうが」

 

「あー…その辺は…まあいいじゃん!」

 

「よかねぇわ!」

 

ベンの予想に反し、爆豪はモラルある人間らしい。

 

「それに、アメリカではすっごい人と友達になったんだ!まあ、あっちはエイリアンの方しか知らないけど…」

 

「で、装置が完成して今の僕の体になった後は世界中を回ってたんだ。あ、世界っていうのは、違う次元のことだよ?いろんな世界で仲間を探してたってわけ」

 

「じ、次元トラベルだぁ?」

 

突飛な話に理解が追いつけない爆豪と轟。個性の範疇を超えた者達の旅なので仕方ないのかもしれない。

 

「まあ、あれもこれもぜーんぶ、アルビードを倒す為だったってわけ。あ!そういえばアルビードは!」

 

さきほど討ち破ったアルビード。U.ヒューモンガソーから変身が解除されたのは見たが、まだ捕獲していない。

 

急いで3人で駆け寄ると、そこには目を瞑ったアルビードがいた。

 

「しかし…こいつとテニスン、そっくりだな。」

 

その姿は青年のベンと同じ顔、同じ体格をしている。頭髪や服装が反転しているため、完全に一致はしないが、それでも似てる。

 

「ほんとだよ。半年前は子どものボクの姿まんまだったし、最悪さ。なんでも、これとウォッチが同期してて、ボクが使用者設定になってるから、こいつもこの体になったらしいんだ」

 

アルビードの手首のアルティマトリックスを指さし、ベンは愚痴る。

 

「…そういや、お前のそれと似てるな…テニスン。お前一体、なんなんだ?エイリアンじゃないにしろ、この時計にしろ、普通じゃない」

 

轟の質問にギクリと反応するベン。彼が答えるか悩んでいると、爆豪が横入りする。

 

「んなことどうでもいいわ。それより…」

 

その時、アルビードの左手が動く。

 

彼らが反応する早く、ポケットの装置を起動させ、ボタンを押す。

 

BEEEEEE!!

 

予想外の警告音だったが、すぐさま臨戦態勢に入る爆豪ら。

 

「!?なんだぁ!」

 

だが、アルビードは変身しない。ふらふらと立ち上がろうとするが、上手くバランスを保てない。意識も曖昧のようだ。

 

まるで捨て台詞を吐き捨てるように、

 

「…もう、この国は滅亡するのみ…全て、お前のせいだ」

 

彼の言葉で頭によぎるのは依然助けた狐型の女性。そして、先ほどの少年。

 

言葉がよどむ。

 

「どう…いう…ことだ」

ベンの質問に答えることなく、アルビードは倒れる。脈があることを確かめながら、轟は呟く。

 

「負け惜しみか?」

 

「いいや。さっきクソみてぇなボタンを押しやがった。なにか、あるにちがいねぇ」

 

彼らの反応に同意し、すぐさま行動に移すベン。

 

「確かに。すぐさまこの世界が崩壊しないと見るに、次元破壊爆弾とかでもなさそう。ボク、見てくる」

 

「見てくるって‥どこを」

 

「全部!」

 

QBANN!!

 

「ジェットレイ!!」

 

赤く、人間大の蝙蝠が爆豪らの前に現れる。

エイリアンは甲高い声で、彼らに伝える。

 

「アルビードの確保はお願いね!じゃ!」

 

見えないスピードでその場を離脱するジェットレイ。

彼の狙いは、超スピードによる、日本縦断だった。

 

世界の崩壊が、近づいていた。

 




完全に明るい展開は前回やったので、今回は少し暗め?


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102話 THE DAY

今日、歴史が動く!


殻木球大。

京都の片田舎、亜羅須町に蛇腔総合病院を構える、無個性の外科医。病院経営の傍ら、児童養護施設や介護施設の開設を行い、人々からは敬意とともに受け入れられている。

 

そんな、温和で寛容な彼は、

 

BEEEE!!

 

「早い!早い!?早ぁあああぁぁい!!!」

 

崩れ壊れる病院を見て発狂していた。

 

GUUHGGGGGG!!!

 

彼の身柄を取り押さえ、崩壊から逃れたB組の物間。幾多ものプロヒーローが破壊に飲み込まれるなかで、脳無の個性をコピーすることで病院からの脱出に成功していた。

 

難を逃れ、浮遊状態の彼の眼下には、異様な光景。先ほどまで病院だった場所には、ただ瓦礫と砂が積み重なっている。

 

「なんだってんだい!?あの巨大トカゲ(スピナー)を倒して、その元凶を叩きにきたら突然…」

 

「くぅぅぅぅう!!!!なぜじゃ!なぜ今起こしたアルビード!!」

 

知らぬ名を叫ぶ殻木。

 

DNAリアンと脳無を製造しており、敵連合の核だと推測された彼は、鼻水を垂らしながら物間の手元で騒ぐ。

 

「まだ、たった50%!!完璧には程遠いのに!」

 

その言葉を聞いて、物間は推測する。おそらく、製作途中の脳無のことだろうと。

彼は、犠牲となったプロヒーローたちを称えるように殻木を煽る。

 

「…脳無のことかい?残念だったね。最後には、僕らヒーローが勝つってことさ。」

 

 

【勝つ】。その言葉に反応するように、殻木は藻掻くことを止める。そして答える。

懐疑的に。それでいて断定的に。

 

「…なーにを言っとるんじゃ?たとえ50%でも、今の死柄木は、オールマイトをも超えておる。だからこそ…惜しいのじゃ!!」

 

悍ましい笑みを浮かべるドクター。

彼が見つめる先には、なにかがいる。瓦礫の中だ。ギョロリと赤い瞳が、こちらを覗いている。

 

白髪の…人型の…なにか。

 

()()は、こちらを一瞥すると、くるりと向きを変え、

「…あっちか」

 

WHHOMM!!

 

ボソリと呟くと、跳躍でその場から消えた。

 

「!?…死柄木?敵連合…確か、USJを襲った首謀者…」

 

「誰を狙いに行ったんじゃろうなぁ…OFAかそれとも…さあ、羽化の時は来たぞ!!マスターピース!!」

こちらは亜羅須町の住宅街。緊急事態の為民間人はいないが、そこら中にはのどかな街並みの()が残る。

 

夕方には子どもの声が聞こえるその街は、スピナーによって破壊された。暴虐の限りを尽くす敵。そんな彼を討ち取ったのが、拳藤、グウェン、ケビンの3人。

 

DNAが暴走し意識の混迷を起こしているスピナーに、エイリアンテクノロジー搭載の手錠をかける。

 

「こいつら、オムニトリックスからDNAをコピーしてるわね」

「ベン大丈夫かな…」

 

グウェンと拳藤が分析をしてる最中に、

 

BOWMMM!!

 

脈絡も、前兆もなく、誰かが墜落する。煙がもうもうと立ち込め、仔細は確認できない。

 

が、敵であることは明白。ファイティングポーズをとり、警戒するケビン。

 

「っ、急に現れて、ナニモンだてめぇ!!」

 

真っ白な頭髪が風に揺られている。

体には紫色の液体が滴っている。

 

「…!?」

 

体つきは変わっている。だが、

ケビンは気づく。かつては仲間だった者だと。

 

「…死柄木!?」

 

「誰だ、お前」

 

数か月前と異なり、成長したケビンの姿のせいで、死柄木は気づかない。

 

「ケビンだよ。今はこんなナイスな大人になっちまってるけどな」

 

「…ああ?意味わかんねぇ‥俺が寝起きだからか?」

 

死柄木の疑問も当然である。

 

敵連合に所属していた時のケビンは、10歳の体か、10体のエイリアンが入り混じった体のどちらかだったから。

 

15歳の、筋骨隆々の今の体では気づかれないのも仕方ない。

 

呆けているような顔の死柄木に、ケビンは諭すように話しかける。

 

「なあ死柄木。こいつら、お前らの差し金だろ?」

 

指し示すのは、寝転がるDNAリアン、ハイエンド、スピナー。

 

「…」

 

「さすがにやりすぎだぜ?俺も犯罪に手を染めまくってるけど、文明崩壊レベルはなぁ…俺の愛車がもう手に入らなくなっちまうだろ?」

 

肩をすくめながら説得するケビン。この言葉は、彼の本心だろう。

ベンに体の異常を治療され、多次元を見て回ったケビン。

 

そこには、ベン達と協力している彼と、敵対している彼がいた。

 

どちらも性格の悪い彼に変わりはなかったが、楽しそうなのは断然、前者だった。

 

そんな経験を経て改心した、

というわけではないが、彼は力の振るい方を考えるようになったのだ。

 

自嘲的に笑う彼に対して、死柄木は少しだけ表情を変える。

「お前がケビンだとして…変わったな」

 

「いや、だから」

 

否定しようとする前に、死柄木は不意に、手を伸ばす。

 

「まあ、俺を理解しなくてもいい。」

 

その言葉とともに、

 

「全部壊すから」

 

顔に手を添える。

 

BAKIBAKIBAKI

 

が、実際に振れたのは薄紅色のバリア。

 

「ったく、ケビン!!油断してるんじゃないわよ!!」

 

崩れ落ちるバリアを見て、冷や汗をかく。

 

「っ!?サンキュー、グウェン!」

 

近くに転がる鉄骨に彼が触れると、同化するように、体が鉄へと変化する。

 

【吸収】の個性。電気や炎、果てはウォッチの力をも吸収できるこの個性はある種エイリアンレベルの個性かもしれない。

 

だが、体が個性に追いついていない彼は、オムニトリックスという強大な力を吸収した結果、凶暴な性格に。

 

そこでケビンは、触れた物質の素材を吸収し反映させることにしていた。これならば力が暴走することもない。

 

鉄そのものとなったケビンは、死柄木に拳を放る。

 

BASSHHIN!!

 

が、容易に受け止められる。

 

「お前…弱くなったな」

 

死柄木の肉体強度は、素でオールマイト並。ケビンもかなりのものだが、それでもマスターピースにはかなわない。

 

崩壊で、鉄の体が一瞬で崩れる。急いで個性を解除して、鉄と体を分離させる。

 

「うぉっ!!あっぶねぇ!気を付けろ!」

 

「わかってるわ!!」

ブロウ=アイド=ウィンドリア!!

 

死柄木の背後から、グウェンと拳藤のダブル魔術。

 

STOOOMM!!

 

台風を出現させる魔法を同時に出すことで、大地を削る竜巻を敵にぶつける。

 

それでも、

 

「…ああ…まるで、生まれた時から備わってたみたいだ」

 

先生の個性…

 

【突風】【押し出す】【かまいたち】【嵐】

個性の発動とともに、彼の体は変幻する。恐竜の様な姿でもあり、金剛像のようにたくましく、あるいは風を纏うしなやかな幻獣。

 

強奪した個性。其の1つ1つが強化されている。個性の行使ごとに、体が変形する。

 

遠くで、殻木が呟く。

 

「まだ…【個性の先祖返り】しか定着しておらんのに…」

 

ただでさえ強力な【個性の先祖返り】。事実、DNAリアンにプロヒーローは手も足も出なかった。

 

加えて、AFOがため込んだ個性の数は100では効かない。その数の個性が、全て先祖がえりを起こしているのだ。

 

「きゃっ!!」

 

攻撃を打ち消され、バリアを張ってもなお、グウェンらはダメージを負う。

 

「なんでかわからないけど、お前たちヒーローを見てると、腹の奥で煮えたぎる…」

 

自分でもわからない、憎悪が。

 

「だから、まずは、お前だ」

 

彼の目線の先には、ヒーローの卵。死柄木の風圧攻撃で体制を崩された拳藤に防御の術はない。

 

無防備の彼女を死柄木が捉える。

 

瞬間、空中で光が。

 

BEEMM!!!

 

その光は直進し、レーザー光線へと変わる。

 

死柄木が【反射】で撃ち返すも、なんなく避けられる。

 

敵を全うする死柄木。彼の歩みを止めるべく、

 

「海も山も谷も探したよ、全く!!チームベン10、集合だ!」

 

ベン=テニスンは現れる。

【雄英】

 

ヒートブラストの力を宿した荼毘。復讐の炎にエイリアンDNAをくべた彼は、間違いなく地球上で最強の炎使いだった。

 

が、それは所詮地球上、それもこの次元での話であり、宇宙の救世主たちには敵わない。

 

ウォッチ内のエイリアン2体を融合させる力を持ったベン10,000。荼毘と同じヒートブラスト、そして、水を自在に操るウォーターハザードを融合させることで、一方的に荼毘を封じていた。

 

焔を出し尽くし、息切れする荼毘に対して、ベンはウォッチを翳す。

 

「悪いが、その力は危険なんだ…オムニトリックス」

 

【DNA異常を感知。DNAの書き換えを行いますか?】

 

「ああ」

 

SCANN!!!

 

返答と同時に、ウォッチは荼毘の体に緑色の光線を直射。

すると、青く燃え盛る四肢は、元の火傷だらけの体に。

 

「っっっ!?てめぇ!!何しやがる!!」

 

当然激昂する荼毘。殺意を込めた彼の瞳に対し、ベンは諭すように語る。

 

「これは君自身の力じゃあない。そんな戦い方ばかりしていると、自分を見失うぜ?」

 

一瞬遠くを見る、ベン10,000。これは、教えてもらったことだ。自分自身に。

 

だが、怒り狂う荼毘に彼の言葉は届かない。

 

「ふざけるな…俺は…そこにいるクソ親父を殺すために敵になった!死柄木も、この社会も、俺の体すら…どうでもいいんだよ…全部、あいつに復讐するためだ!!この感情こそが俺自身だ!!この想いを否定するのは…」

 

荼毘は火傷が広がることを気にせず、蒼炎を繰り出す。

 

「俺の存在否定と同義だ!!」

 

しかし、

 

PAKIIIIIINN!!

 

コバルトブルーの爬虫類から、青白い光が。

彼の冷凍光線で、炎もろとも荼毘は氷漬けに。彼の炎では、その氷は溶かせないようだった。ただ、氷像の眼は、怒り狂ったまま止まっている。

 

QBAANN!!

 

アークティックイグアナから戻ったのは少年のベン。

 

「なんか、 ボクらの世界にはあんまりいないタイプの敵だったね」

 

荼毘はとにかく父を消すことに終始していた。復讐のための復讐に命を燃やす敵。10歳のベンには、彼の心情は理解することができなかった

 

未熟なベンに対して、酸いも甘いも嚙み分けた彼は、自身の考察を語る。

 

「ああ…“個性”という、この世界特有の因子のせいかもしれないな。もしかすると、この世界のオレ…」

 

その言葉を言い終える前に、目の前の空間が歪む。ねじれた空間から顔を出したのは、ウォッチを付けたグウェン。少年のベンを見るなり声をかける。

 

「終わった?!皆待ってるから早く来てよね!」

 

「む…!なんだよその言い方!調子に乗るなよ!」

 

「なんですって?!」

 

「なんでウォッチを持ってるかは知らないけど、絶対お前なんかよりボクの方が強いからな!?」

 

「なんかあんた…向こうのベンよりも…バカそうね…」

 

「なにぃ!?」

 

顔を合わせるなり喧嘩し始める2人。彼らを嬉しそうに仲裁する大人のベン。

「はっはっは。勘弁してくれよ、グウェン?」

 

「あなたは…逆に本当にベン?」

 

グウェン10が空間から顔を引っ込めると、ベン10とベン10,000もそこに向かう。

だがゲートの一歩手前で、未だ荼毘を細めた目で見ているエンデヴァ―に、

 

「お互いに、息子のことを信じてあげましょう。」

 

その一言をかけて消えていく。

ここは次元の間。周囲には絶え間なくエネルギーの渦が取り巻いており、安定しているのはこの足場だけ。

 

ベン10,000 達が戻ってきたとき、パラドクス博士とデク10と話していた。

 

「それにしても、僕の世界以外のベン君は皆オムニトリックスを付けているんですね」

 

多次元を自由に行動できるパラドクス博士。彼だからこそ、次のような事実を知っている。

 

「ああ。それどころか、オムニトリックスが存在していた世界で、テニスン家以外がウォッチを手にしたことはほとんどない。」

 

「そ、そんなにですか!?」

 

「ああ。そもそも君と私たちは、本来違う宇宙に住んでいるからな。」

 

【私たち】とは、その場にいるベン達のこと。そして君とは緑谷のこと。戦友を仲間外れにされたベンは博士に食って掛かる。

 

「どーゆ―ことだよパラドクス博士!」

彼は筋骨隆々の18歳でプロヒーロー。15歳の時、OFAを継いで以来、雄英ではデクとトップ争いを繰り広げていた。

 

「言葉のとおりだが‥うむ…そうだな」

 

博士は顎に手を当てると、緑谷とベン達の顔をじっと見て、

 

「画風が違うだろう?」

 

至極当然、と言わんばかりに教える。

 

「はぁ?意味わかんないって。ほんと、パラドクス博士はいつもわかりにくいんだから」

 

OFA継承者である彼が文句を言い放ったところで、ベン23が戻ってくる。軽い挨拶を博士が放る。

 

「やぁ、終わったかい?」

 

「うん!敵を倒した後、近くのヒーローにさっきの世界のことを聞いてきたんだよ!“個性”の話とかね!この世界を元にした異世界と、ベン23が転生する話…!!これは歴代興行収入ぶっちぎり1位の映画になるよ!」

 

そろばんをはじく動作を見て、10歳のベンは呟く。

 

「…ねぇ、こいつ本当にボク?めちゃくちゃがめついんだけど…」

 

「失礼な。ボクはアメリカⅠの人気者なんだよ?サインだっていっつも求められる。ま、プライべートは断ってるけど」

 

彼が著名人として扱われていることを羨ましがるのは、声が少し低いベン。

 

「…いいよなぁ…ボクなんて一回地球追放されたってのに…」

 

追放されたのは16歳のベンだ。通称ベン10オムニバース。

彼が恨めしそうにしたところで、パラドクス博士は手を鳴らす。

 

「さて、全員集まったね。各々手伝ってくれてありがとう。こちらの世界のベンも感謝しているだろう」

 

「だろうね。ボクらがそろえば負けることなんてあり得ないからね!そういえばこの世界のボクは?」

 

「まだ戦っているよ」

 

「じゃあ手伝ってあげないと!」

 

ベン達が顔を見合わせたところで、パラドクス博士が制する。

 

「それはやめてほしいところだ」

 

「え、なんで!?」

 

「それは、彼の戦いが、この世界の分岐点に位置しているからだ」

 

「「「分岐点?」」」

 

およそ3名ほどのベンが声を合わせる。

 

「ああ。彼が勝つか負けるか。それでこの世界の動向は大きく変わる。それこそ、宇宙規模で。君たちでいえば…ヴィルガクス、ハイブリード、U.ケビン11,マルウェア…」

 

博士は多時空の強敵たちを挙げていく

 

「彼らと戦うとき、君たちは他の次元と干渉せずに戦っただろう?」

 

ベン達全員がかつての激戦を思い出し、この世界の彼を心配する。

 

「全員ラスボスみたいなもんじゃん!さっきの敵もそこそこ手ごわかったから、この世界のラスボスはとんでもないんじゃ…!?」

 

「そうかもしれないな」

 

軽い口調で肯定する博士の言葉で項垂れる少年ベン。

 

「ええ!無責任だよそんなの…」

 

彼に合わせて、16歳のベンや、OFA継承者のベンも落胆する。顔には出さないが、グウェンや大人のベンも同様のことを想っているだろう。

 

それだけ、誰かを救けたいという想いが強いのだ。

 

ヒーローである彼らに対し、博士は慰めととれるかもわからない言葉を与える。

 

「仕方ない。物語がどう転がるかは、」

 

誰にも判らないのだから。

 




・最後らへんはまたワチャワチャでしたね…ベン達を集めるのは大変だ!
・今年の更新はこれでおしまいです。皆さん、良いお年を!


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103話 熱戦・接戦・大激戦

更新が遅れて申し訳ございません!最後の構想を練っていました!
ここからは、どんどん更新していきますので、今年もよろしくお願いします!!


海、山、河、谷。

 

たった数分で日本を縦断してきたのはジェットレイ。万能な飛行性能を有するエイリアンは、倒壊した街に降り立つと緑色の光を放つ。

 

QWANN!!

 

光が収まると中からは青年が。

 

「ちょっと!!空からでもわかるくらい地面割れてんだけど!?誰だよ!これやったの!」

 

状況を理解できていない彼に対し、グウェンは問いかける。

 

「ベン!そんなことよりアルビードは!?まさか見つからなかったの!?」

 

「まさか!ちゃんと倒してきたよ!」

 

彼女の問い、ベンは快活にサムズアップを決める。

だが、その返答は彼女の求めるものではなかった。

 

「じゃなくて!アルティマトリックスの回収は!?あれがあったら何回でも襲撃してくるじゃない!!」

 

そこで自分の任務を思い出す。

緑谷や爆豪、轟らとの再会で、アズマスの頼み事である【アルティマトリックスの回収】をすっかり失念していたのだ。

 

「あ…いや、ほら…僕たちヒーローじゃん?人の物勝手に盗るのは…」

 

「あんたのそ!れ!も!似たようなもんでしょ!」

 

と、ベンの手首を握り、オムニトリックスを指し示す。

 

「いや…あはは…あっ!イツカじゃん!久しぶり!!」

 

話題を変えるためか、白々しく隣にいた拳藤に声をかける。

 

呼びかけられた拳藤は一瞬戸惑う。

 

当然だ。

彼女の知るベンは小学生程度の体躯。目の前にいる好青年とはかけ離れている。

 

だが、

 

「なんだよイツカ…そんな変な顔して。あ、もしかして怒ってる?やめてよね、こんなところで癇癪起こすのはさ!」

 

「…誰が癇癪起こすだって?このおバカさん!」

 

同じ目線となったベンに対し、彼女はヘッドロックをかける。

 

「あいたたたたたた!!ちょ、やめろっての!!」

 

彼女の腕をタップするベン。よく見れば、少年ベンの面影はある。

 

なにかしら、おそらくオムニトリックス関連で成長したのだろう。

 

拳藤は推測する。そして同時に、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。

 

「ったく…半年もどこに行ってたのよ!」

 

「別にいいだろ?イツカには関係ないよ!!」

「ほんっとに…後でじっくりきかせてもらうからね!!」

 

面倒見の良い姉と手のかかる弟のような関係。その様子を静観していたグウェンだったが、一応の注意を入れる。

 

「ベン、気を付けて。あのシガラキってやつは、今までの敵とは別格よ」

 

「シガラキ?」

 

DZAAAA!!

ベンが聞き返すと、彼女との間になにかが滑り込んでくる。

 

「俺と一緒に雄英襲ったやつだよ。確か、木椰のモールでもあったんだろ?」

 

その何かは、死柄木に吹っ飛ばされたケビンだった。眼下に寝転がるケビンに、ベンは、

 

「ああそうだったっけ。足元からの解説、ありがとう、ケビン。それにしても君、ボロボロじゃん」

 

「ああ?そりゃ、誰かさんが俺の力を奪っていったからな」

 

「あれは元々オムニトリックスの力だよ」

 

「へーへー。じゃあ、とっととそのポンコツトリックスの力を見せてくれよ」

 

「わかってるさ!」

 

互いに悪態をつくも、どこか信頼が見える。

 

以前の憎しみ合っていた彼らからは想像もつかない会話。この半年で、彼らがどんな旅路を歩んだかが、手に取るようにわかる。

 

ケビンに煽られたベンは、ウォッチを叩く。

 

QWANN!

 

「スワンプファイヤー!」

 

変身したのは燃え盛る植物エイリアン。新オムニトリックスの中では最も変身頻度の高いエイリアンだ。

 

彼が見据えるのは、ドロリとした視線を向ける死柄木。

 

およそ初めて、ベンと死柄木は対峙する。

 

白髪を靡かせる死柄木と、黄炎を揺らすベン。異質な空気を纏う死柄木に、第六感がはたらく。

 

グウェンの警告は、冗談でも、大げさでもない。そう確信するベン。

 

だが、だからこそ、普段通り軽口を叩く。

 

「お前がラスボスか?にしちゃあまりにも細くねぇか?」

 

そんな彼に対し、死柄木は自問自答するかのように答える。

 

「…ラスボス…俺は…魔王…いや…」

 

そして、ぼんやりとした目つきのまま、右手を構え、自身の存在を称する。

 

(ヴィラン)だ」

 

WHOOMM!!

 

【気流操作】【業火】【竜巻】

 

エイリアン並に強化された個性を従え、ベンに対し炎の竜巻を放つ。

 

「いきなりかよ!!」

 

WHOMM!!

 

これに対し、両手から熱光線で相殺を計る。

 

寝起きの崩壊で、周囲の建物は軒並み塵芥となり果てていた。

そして、彼らの熱で大地は焦げ、地獄の焦土と化す。

 

オレンジ色の熱光線は、竜巻にぶつかると赤く爆ぜ、霧散する。それと同時に敵の攻撃も弱まり消える。

 

攻撃の相殺に成功し口角を上げるスワンプファイヤー。

 

しかし、油断している場合ではない。

 

躰を限界まで改造した死柄木は、素でオールマイト並の身体能力になっている。

 

彼を髣髴とさせるスピードで、地面をえぐりベンに迫る。

 

エイリアンでしか視認できないスピード。

マズイと感じたベンは、胸のマークを叩く。

 

QWANN!

 

緑色の光が彼を包むか包まないか。それほどギリギリの瞬間、死柄木の手刀は彼を貫く。

 

【金剛】で固められた手槍。貫いたその手で、さらに個性を発動させる。

一つは【AFO】。

一つは【崩壊】。

1つでも致命に至る攻撃達。それらすべてを一身に受けるベン。今度は死柄木が笑みを浮かべる。

 

が、

 

「グープ!」

 

その笑みをあざ笑うかのように、液体となるベン。

緑色のスライムとなったベンには、手槍も【崩壊】も効かない。そもそもエイリアンは個性を持たないので、【AFO】も発動しない。

 

自身を貫く手を意に介さず、ドロリと溶けるグープ。地面にトプンと染みると、死柄木の背後に回る。

 

そしてすぐさまマークを叩く。

 

QWANN!

 

変身したのはビッグチル。肺を膨らませた彼は、

 

FOOOO!!!

 

と、氷の吐息を吹きかける。

宇宙一の超極固冷凍息吹きは、さしもの死柄木でも凍り付く。

 

ケビン11との闘いではこれが決め手だった。ただ凍り付かせるだけでなく、臓器や身体機能まで停止させる氷。

 

もし死柄木が彼と同程度の敵ならこれで終わりだっただろう。

 

だが、複数個性が【先祖返り】を起こす彼は、ケビン11を優に超すスーパー敵。

 

BRAIIIIINN!!

 

掌周辺の氷に亀裂が入ったかと思うと、氷のオブジェクトは無数の破片となっていく。

 

冷やされ劣化した身体機能も、【超再生】によりすぐ元通りだ。

 

少し離れたビッグチルへ、両手を翳す。

 

「【空気を押し出す】【刀化】」

 

BRROOWWW!!

 

目の前の大気は、無数の刃となり相手を襲う。その勢いに押され、空中へと舞うベン。傷からは藍色の液体が滴る。

 

「いっったい!!」

QWANN!

しかしベンは怯まず、攻撃を仕掛ける。

 

「ジェットレイだ!!食らえ」

 

BYYEEM!!

 

敵に打ち上げられたことを利用し、空中からのレーザー攻撃。緑色の瞳から放たれるビームは、もれなく死柄木へ。

 

もちろん、その攻撃をただで受ける死柄木ではない。

 

「【反射】…と【拡散】」

 

自身の中から探すように個性を選択。

レーザーを体にため込んだかと思えば、全てを打ち返してくる。

 

BYEMM!!BYYEEM!!BYYEEM!!

 

「うわっぷ!!」

 

得意の高速起動で避けきるも、死柄木から目を離す。

 

その瞬の間に、死柄木は跳躍し、彼の頭上に。

ベンの上を取り、見下ろしながら個性を選択。

(【崩壊】は触れる必要がある…から、こっちのがいいな)

 

【空気を押し出す】【筋骨発条化】【瞬発力】×4【膂力増強】×3

 

かつて、オールマイトとの戦闘でAFOが見せたこの技。AFOが使用した時は、オールマイトのパンチ並みの威力だった。

 

それ等の個性全てが強化されている。数倍では効かないこのパンチに、

 

QWANN!

 

「ヒューモンガソー!!」

 

ベンはヒューモンガソーで対抗する。

 

相手に上を取られているが、拳を突き上げ相殺狙い。

手は届かないが、彼の力で拳を振るだけで相応の威力は出る。

 

「ぬぅぅん!!!」

 

BWWOOM!

 

巨大生物と、複数強化個性のぶつかり合いは、上空50メートルで勃発。

 

その余波は大気を震わせ、残る建物を揺らすほど。グウェンは倒れているヒーロー達をバリアで守り、拳藤は魔法でなんとか吹き飛ばされないように踏ん張る。

 

最新、最強の力を持つ者の力比べは、

 

DOOWWNN!!

DOOGGOOONN!!

 

どちらにも軍配が上がった。

 

不利な体勢だったベンは、勢いよく地面に叩きつけられる。その場には、巨大隕石が落ちたかのようなクレーターが出来上がる。

 

しかし死柄木も、ベンのパンチを完全に相殺できなかったのだろう。さらに上空にうちあげられ、まだ地面に降りてこない。

 

その確認をした後、ヒューモンガソーはプルプルと顔を震わせ、クレーターから這い出て、グウェン、拳藤に対し愚痴る。

 

「おいおい…ほんとに人間か、あいつ?オレのパンチを相殺したぞ?」

 

「【個性】が【個性】の範疇を超えてるわね…まるでDNAリアンみたい。」

 

「うん。それに加えて、たくさんの個性を持ってる…神野でみたAFOみたいだ」

 

拳藤は、さきほどの攻撃を思い出しながら、相槌を打つ。

 

ベンを救出に出た際、生で目にした巨悪AFO。オールマイトが奮闘し勝利してくれたが、彼でなかったらどうなっていたのだろう。

 

そんな敵が、今、自分たちに牙をむいている。怖くない、はずがない。

 

「どうするよ、ヒーローさんたち」

 

両手を頭の後ろに回し、半分投げやりなケビン。

 

彼に対し、

 

QWANN!

 

ベンは変身を解いて、伝える。

「さっきも言ったろ?こっから、チームベン10の時間だってね」

高く高く、空へと打ち上げられた死柄木は考えていた。

 

(…っち。あんまり効いてないな…)

 

ヒーロー1人に対して、大したダメージを負わせることができなかった。どころか、それなりに【超再生】を使う羽目となっている。

 

その事実が彼を苛立たせる。

 

(…くそが…確かドクターたちは…)

 

【この手術が完遂すれば、OFAなんて目じゃないぞい】

【そして、オムニトリックスさえもね】

 

ステイン事件の後、彼は急にAFOから打診された。

手術を受けないかと。この世のすべてを思い通りにする力を与えると。

 

その覚悟が緑谷とのエンカウントで決まり、地獄の苦しみを味わった。

それなのに、まだ勝てない相手がいる。

 

(OFAも、オムニトリックスも…なんなんだ…俺は、誰にも負けないんじゃないのか?ああ、駄目だ…また痒くなってきた…)

 

圧倒的力を持てば消えるかと思った渇きと痒み。

それは、幼少期のトラウマが原因だったが、思い出せない彼に知る由もない。

 

全部、オールマイトが悪い。その一心で手術を受けた。痛みに耐えた。

 

なのに、満たされない。まるで、原点(オリジン)が見つからないように。

 

首元を掻く左の掌には、小さな穴が開いている。

 

底が無いかのような、黒い黒い穴からは、か細い声が聞こえた。

 

「…とうとを‥・・OF‥をウバ…為」

 

(ああ、幻聴まで聞こえるようになっちまった。この一年で俺の体はどうなっちまったんだ)

 

この手術に必要な時間は約1年。しかし、アルビードの独断により、その期間を得ることなく彼は起こされてしまった。

 

そのズレに、彼はまだ、気づいていない。

 

空の旅を終え、ヒュルリと着地する死柄木。彼の顔に、さきほどのような恍惚さはない。むしろ、何かに苛々しているようだった。

 

不機嫌な彼に対し、ベンは人間体のまま語る。

 

「あのさ、一応聞いておくけど、ここでやめるって言う選択肢はない?」

 

その言葉に、キョトンとする死柄木。

 

「ああ…?」

 

「いやさ、このままじゃ、ボクか君、どっちかが倒れるまでやんなきゃじゃん。で、もし君が改心するようなら、何もしないっていうのもありだよ?」

 

チラリと後ろを見るベン。そこには、少しだけ変われたケビン。

譲歩を学び、人を知ったベンは相手の理解を図ろうとする。

 

しかし、その成長が、その言葉が、死柄木の逆鱗に触れる。自分でも理解していない、心の奥底の逆鱗を。

 

「改心…?…そうやって…自分たちが唯一の正解だと信じて…正解以外は見ないように、無いもののように扱ってきたのが、お前らだろ…?」

 

「え?」

 

「お前らの!その生きざまが!この(ヴィラン)を生み出したんだ!!!!」

 

理由は分からない。なぜ自分がここまで滾るかわからない。

ただ、俺の中のだれかが叫ぶ。どうしようもないほど。

 

憎しみを絶やすなと。

 

 




・能力合戦ですね(笑)
・残り10話もないです!ラストスパート!


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104話 アップデート

アップデート!誰のことだろう!


ぼんやりとだが覚えている。小さな庭の一軒家。

老夫婦と、父と、お母さん。ハナちゃんにモンちゃん…

 

「…?思い出せない…思い出せないのに…!!」

 

フツフツと、グツグツと、ただ、怒りだけが煮えたぎる。

「お前たちの、自分が正しいと信じてやまないその顔が…嫌いだ!!!!」

激昂する死柄木。ベンの説得むなしく、戦闘態勢をとる。

 

【分裂】×【増殖】×【金剛】×【膂力増強】

 

彼の細腕は分裂を繰り返し、さらに体の側面から生え続ける。幾百本にもなるその腕を、【金剛】により一まとめに。一塊となった腕は、鋼鉄よりも硬い豪腕となる。

 

「お前らも!この世界も!」

 

血走る目を見て、ベンは急いでヒューモンガソーに変身する。

 

QWANN

 

死柄木は、ベンが変身したことにも気づいていない。それは、冷静さを失っているから、だけではない。

今の自分が負けるわけない。そう思い込んでいるから。

 

GAUNNN!!

 

と打ち合う拳。

 

死柄木の身体能力は脳無以上。個性もエイリアンの領域まで到達している。

 

対するは銀河でも指折りの膂力を有する、ヒューモンガソー。

 

まさに、頂点の力比べだったが、拮抗の末、勝利の女神は死柄木に微笑む。

限界を超えた複数個性使いに、ベンは仰け反らされる。

 

「ぜんぶ…ぶっ壊す!」

 

ベンが吹き飛んだ分空いた間合いを、即座に詰める死柄木。またも拳を握る。

 

しかし、そのパンチは先とは異なる。

 

さきほどまでの超重量に加え、【崩壊】を乗せる。

 

「この戦いは…どっちかが、消えるまで終わらないんだよ!!」

 

ガチン!と、掌が触れ、【崩壊】が発動する。触れた物全てを崩れ壊す、災いが如き個性。

 

「…あ?」

 

しかし、手ごたえが無い。いや、あるのだが、一向に目の前の恐竜は壊れない。

 

見ると、彼の体には紅色のバリアが薄く、なおかつ何十層も張られていた。バリンバリンと次々に破壊されては、無限に復活するバリア。

 

そのため、後数センチでベンに届くのだが、その一寸が届かない。

 

崩壊と再生を繰り返す薄紅色の膜はベンを守る。その出どころは、後ろに構えている赤みがかった髪の女(グウェン)だ。

 

彼女に気を取られた死柄木。その隙を逃さず。ベンは死柄木を上から押さえつける。彼の体はグウェンが保護しているため、心おきなく肉弾戦に移行できたのだ。

 

力比べは拮抗する。が、複数個性発動に神経を使う死柄木に、この拮抗状態は喜ばしいものではない。

 

「っぐ…」

 

自身の怒りを飲み込むほどの、敵の圧力。さしもの死柄木も不利を悟り、跳躍でこの場を離れんとする。

 

が、

 

GRUUUPP!

 

踏みしめるはずの大地はなぜかドロドロにぬかるんでいた。

 

今度は、少し離れたところから、カンフー胴着の女がなにか叫んでいた。

 

「スワンプ=ドロー=マッドネス!」

少し離れて、拳藤が地面に触れていた。彼女の手から、オレンジ色のオーラが地面に注がれ、辺り一帯を沼地に変えていた。

 

「…なんだよ。クソ個性が…!!」

 

悪態をつく死柄木を、そのまま地面に溺れさせようと、ベンは押し込む。

 

「ぬぉぉぉぉ!!!!」

 

踏ん張ろうにも、足場がない。触れているのに【崩壊】は意味をなさない。

ベンを起点としたコンビネーションに、彼は昂る。

 

「…うざいんだよ…!!チマチマちまちま!!」

 

叫びながら、怒りをぶつけるように、拳を地面に振るう。超人的パワーを持つ彼の拳は、触れずとも泥沼を全て吹き飛ばす。さらに、その反動で彼の体は再び上空へと回避。

 

「っはぁッ、はぁっ…!!?」

 

下にいる蟻たちを眺めようとしたとき、

 

GUOONN!!

 

鉄塊が眼前に迫ってくる。体を仰け反らせ、寸でのところで回避。

ヒューモンガソーの投擲なのだろう。彼のパワーを考えると、大きなダメージを負っていたかもしれない。

 

眼下ではヒューモンガソーが舌打ちしている。その様子を見て、少しだけ落ち着きを取り戻す死柄木。

 

「ははは。おまえじゃ、ここまで届かないだろ?じゃあ…喰らえ!!」

 

BWAANN!

 

死柄木の腕が膨張する。

【空気を押し出す】【火炎】【加圧】。さらに増強系の個性を発動。それだけではない。多数の個性に加え、オールマイト並みの腕力を乗せる。

 

大地を削る暴炎を、ただ1人をめがけて放

 

DONN!!

 

「…っが」

 

とうとしたとき、首元に強い衝撃が。

 

この空中で、急に、なぜ?

 

困惑する死柄木が振り返れば、ケビンが両こぶしを握り、振り終えた後だった。

 

「てめぇが…どうやって…」

 

「あのバカが投げてくれたからなぁ!さぁ、一緒に堕ちようぜ!!」

 

ガシッ

 

さきほど死柄木が鉄塊だと思っていたのは、ベンが投げたケビンだったのだ。全身に鉄を纏ったケビンは、ベンの弾となり、死柄木に一撃を決めた。

 

常人ならば頸椎損傷の打撃だったが、死柄木の持つ【超再生】の前には、一瞬の隙を作る程度のものだ。

 

しかし、その一瞬でケビンは敵に組み付き、離さない。空中で固められた死柄木は、姿勢制御もままならず、そのまま不安定な体勢で地面へと

 

DGAAAAAA!!!!

 

激突。

 

「ぐっ…!?」

 

【硬質化】【金属化】で体を重く、硬くしたため、大したダメージにはなっていない。だが、その個性の弊害で、動きは先ほどより緩慢に。

 

その隙を見計らったように、

 

FFODDD!!

 

拳藤とグウェンが魔術で拘束する。

 

「「グラヴィティ・アウト・カラミティ!!」」

指定範囲の重力をコントロールする高等魔法。エネルギー効率が悪く、あまり長く使えない術だが、その甲斐あってか死柄木の拘束に成功する。

 

死柄木は急いで【金属化】の個性を解除しようとする。

 

だが、動きを止め、クレーターにうずくまる死柄木に加えられるのは、

 

「うぉぉぉ!!!」

 

 

PANCHI!! PANCHI!!PANCHI!!

PANCHI!!PANCHI!!PANCHI!!

宇宙でも指折りの巨大種族、ヒューモンガソーの連続パンチ。

 

上限値まで巨大化したヒューモンガソー。そんな彼の攻撃は、一発一発が必殺。

さらに、手骨がメリケンサック代わりとなる彼のパンチは、さすがの死柄木でも堪えていた。

 

潰れ、千切れ、壊れる体。

拳が振るわれるごとに再生する死柄木。

 

だが、

 

(…【超再生】が間に合ってない!?こんな、ただのパンチで…!)

 

超再生に集中しなければすぐに崩れ落ちてしまいそうな体。ゆえに、個性を放出して逃げることも難しい。【崩壊】させようにも、自分の体周りに薄紅色のバリアが何十層に広げられており、敵に届かせることは不可能。

 

重力の磁場が解け、やっとのことで抜け出せた死柄木。

だが、彼の体は全身にヒビが入り、まるで継ぎはぎ人形。

その異常な損傷は、ベン達の攻撃に加え、体が完成していないことを示す。

 

だが、そのことを知らない死柄木は血を吐きながら憤る。

 

「俺が…俺が…なんでだ、なんでだぁぁぁっぁぁ!!!」

効率よくオムニトリックスを使用し、適切な変身を選択するベン。

 

死柄木の最も恐ろしい崩壊を、【マナ顕現】で防ぐグウェン。

 

後方にいるときは魔法術、敵が近づいたときには【大拳】で応戦する拳藤。

 

グウェンに守られつつも、勇ましく特攻するケビン。

 

拳藤とグウェンは互いの魔術を知り尽くしている。頭脳明晰な彼女らは、どの場面でどんな魔法を使うかが、完全に一致していた。

 

ケビンとベンは、互いに戦闘を重ねた経験から、不本意ながら攻撃と回避のタイミングをお互いに図ることができた。

 

そして、全員がベンのことを良く知っている。

必然的に彼らは、ベンを中心として、最高最適に機能するチームとなっていた。

 

対するは、孤独に戦う死柄木。彼にも協力者はいた。あの手術を受けたのも、ドクターやアルビードが、そしてなにより先生がいたからだ。

 

だが、もう彼の近くには誰もいない。

 

4対1という構図。

地獄の苦しみを越えて得た力。

それをもってしても劣勢な自分。

 

全てにいら立ち、憤怒する死柄木。

 

(おれは…俺は…全部ぶっこわさなきゃいけないのに…!!なんで!!)

 

幾多もの、幾種類もの攻撃を受け、体はもうボロボロ。

【超再生】が追い付かず、体の亀裂は今にも彼を分裂させんとす。

いや、【超再生】の効きが悪いわけではない。体に何度もマナが侵入してきているのだ。

 

敵の内部に侵入し、その機能を劣化させるグウェンの奥の手。自身の体すら理解していない死柄木は、これを対処する術を持たない。

 

心まで壊れそうな死柄木に対し、ベンは変身を解いて、そっと近寄る。

甘い彼が不意打ちを食らわないように、ケビンはさり気なく横に立つ。

 

「…なぁ、シガラキ。お前も、その…変われると思うよ?ほら、ケビンだって、ちょっとだけマシにはなったし」

 

「誰がだ。俺は始めから終わりまで悪どい敵だっての」

 

手を差し伸べるベン。この構図に、隣のケビンはなんとなく既視感を覚える。

 

(どっかで、なんかこんなこと…)

 

死柄木には、もう彼らの声は聞こえていない。ただ、体が壊れないように踏ん張るので精いっぱいだ。

 

「こんな…ところで、終われるか…」

 

そして、最後の声を振り絞った時、

 

彼の中の人が囁く。

 

(どうした弔。すぐそこにあるだろう?もう50%が)

 

おさらいすると、死柄木は予定よりも半年早く起きた。つまり、彼の体はまだ50%しか完成していない。

 

そう、もう半分の【後天エイリアンDNA手術】は、定着率0%なのだ。

 

そのことに誰も気づいていなかった。

 

死柄木さえも。

だが、彼の中の人は気づいていた。

 

「誰…だ…なんだ…いや、この声は…)

 

(貸してごらん?)

 

ああ、やさしい、優しい声だ…

 

過去を持たない(死柄木)は、確固たる意志を持たない青年(志村転孤)は、原点(オリジン)を知らない死柄木は、その身を預けてしまう。

さきほどまで震えていた死柄木が、突然動きを止める。

それを正面から見ていたのはベン。

 

「ちょ、死んで…」

 

彼が一瞬、案じたそのタイミングで

 

死柄木、いや、だれかわからない者が、手を伸ばす。

 

ベンの伸ばした左腕へ。

 

ケビンは思い出す。

この構図は、福岡で、自分が初めてベンと敵対した時と同じだと。

 

「ベン!!いますぐ退っ」

 

死柄木の手がウォッチに触れる。

 

「レビン君。この個性は、とても優秀だ。これからも重宝しそうだよ」

 

誰かが、ケビンを称賛する。と同時に、

オムニトリックスからは緑色のプラズマが発生する。

 

殻木の研究により、敵連合は個性のコピーが可能となっていた。その数には制限があり、2倍やワープなど、希少個性がその対象だった。

 

そしてもちろん、元敵連合であり、希少であるケビンの個性も、その対象だった。

 

個性【AFO】では、エイリアンの力を奪うことはできない。

 

だが、

 

「【吸収】。とてもいい個性じゃないか」

 

AFOは笑った。

 

 

 

 

 

 

 




・正真正銘、ラスボスです!
・このAFO(個性の先祖返り×オムニトリックス吸収)の名前、何にしよう…いいアイデアがあればぜひ感想で!!


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105話 元凶

そこそこ最悪なタイトルですね(笑)


酷く閉ざされた世界だ。

 

世界は闇に包まれ、耳に入るのはザラザラとした砂あらし。存在するのは、自分が立っている、今にも割れそうな地面のみ

 

「ここは…」

 

「やあ、久しぶりだね。」

 

戸惑うベンに挨拶したのは能面の男。初めて拝む顔だったが、そのスーツ姿と陰湿な声にはかすかに覚えがあった。

 

「…敵連合の!!」

 

「半年ぶりかな?いやぁ…まさかこんなところで会うなんてね」

 

「ここはどこなんだよ!ボクの体だって元に戻ってるし!」

 

彼の姿は青年期のものではなく、10歳の頃に戻っていた。これは、この世界が現実世界とは乖離していることを示す。

 

荒れ果てた戦場から無の世界に移動したベンとAFO。

AFOは質問に答えるように手を広げる。

 

「ここは、いわば個性の中さ」

 

「個性の中…?」

 

「そう。個性に干渉する僕の【個性(AFO)】を弔が取り込んだ結果、僕という人格が再構成されたのさ。君は、臓器に意思が宿るという話を知っているかい?」

 

臓器移植を受けたもの、特に脳移植などでは、被術者の性格が手術前後で変化することがある。これは、移植された脳にドナーの意志が反映されているのではないかと言われている。

 

そして、他人の個性を奪い、他者に個性を与える【AFO】という個性。その性質故に、個性そのものに彼の意志が宿ったのだと推測される。

 

「本来、この世界に来れる人間は限られているんだ。だけど、その装置は【個性】の由来であるエイリアンに深く関係している。だからこそ君は、ここに来れたんだろうねぇ」

 

「いや、ボクを触ったのはお前じゃなくて…あれ、シガラキは…?」

 

「まあいいじゃないか。それより、ベン=テニスン君。君は本当にすごいね」

 

話題を切り替えたかと思えば急な称賛。

思わず声を漏らすベン。

 

「へ?」

 

「君に触れたことで、ある程度君の過去が伝わってきたよ。君は実に勇敢だ。」

 

ゆっくりと、偉大なる戦士を褒めるAFO。

 

「…へへ」

 

「勇敢で、正義感に溢れ、そして、」

 

ニコリと笑って、AFOは言葉を放る。

 

「実に無能だ」

 

「…なに?」

 

「君はオムニトリックスという、強大な力を使って正義を全うしている。そのことはドクターやアルビード君から聞いていたんだよ」

 

能面の顔にくっついている口は、次々とその想いを綴る。

 

「どれだけ才能を以てして、君は選ばれたんだろう。どんな優秀な人間が平和を導こうとしているのだろう。僕は気になって夜も眠れなかったさ。だって僕の夢の最大の障壁になるかもしれないのだから。だけど、君の半生を見て、あっけにとられたよ。」

 

彼は、ベンを指さし、

 

「まさか、君がここにいるのは、ただの偶然だなんてね」

 

ベンが思い出すのはあの日。祖父のマックスに届けられようとしたウォッチ。ほんの少し、軌道がずれたことでウォッチを手にしたのは自分だった。

 

彼の言う通り、今ベンがここに立っているのは、ただの偶然。ほんの少し、グウェンよりも先に見つけたから。それだけに過ぎない。

 

だが、

 

「だからなんだよ!ボクはとっくにアズマスに認められてる!ボクはヒーローとして一人前…」

 

「本当にそう思うかい?」

 

ベンの言葉を遮るとともに、指を鳴らす。すると、空間が歪み、そこには数枚の画像が浮かぶ。

 

それは、病院と、壊れ果てた建造物と、怪物化した緑谷だった。

 

「オールマイトは床に臥せ、社会は崩壊し、親友はエイリアンに成り果てた。」

 

(確かに…イズクは体を…)

「だけどそれはボクが治し…」

 

歪み始めたベンの顔を確認すると、AFOはDNAリアンを映し出す。

 

「それだけじゃない。君がいたから、守るべき大勢の人間は、DNAリアンに変貌させられた。」

 

「ち、ちが」

 

「いいや、違わない。もし君じゃなくて、例えば緑谷出久がそれを手に入れていたならば、今頃敵連合は大人しく牢獄にいただろうねぇ。それに、アルビード君の侵略もないはずだ。誰も、傷つかない。万事解決、平穏安泰な世の中になっていただろうねぇ」

 

その時、帝国ホテルで救けた少年の言葉を思い出す。

【全部、お前のせいだ】という、鉛の様な重い言葉を。

 

3か月前、異形の女性を助けた。自分はヒーローとして当然のことをしたはずだ。だが、あの女性があんな目にあったのは、もしかしたら自分のせいかもしれない。

 

もし自分がいなかったら。そんな世界線は知らない。多くの宇宙を見てきたが、そんな世界は無かった。

 

だからこそ考えてしまう。

 

【もし自分がいなかったら。】

 

彼の言葉に耳を貸すな。本能がそう叫ぶが、彼の体は動かない。なぜならば、彼の言葉は多少なりとも、心の中に芽吹いていたものだったから。

 

ベンの動揺を引き出したAFOは、喉をクックと鳴らした後、声色をさらに優しく変える。

 

「とはいえ、僕は君に感謝しているんだぜ?」

 

これまでの侮蔑的態度とは打って変わって、感謝を表明するAFO。

最後の言葉を残して、彼は闇の中に消えていく。

 

「…え?」

 

「君のおかげで、僕は…」

「ベン!大丈夫!?ベン!」

 

「…ッ」

 

瞼を開くと、そこには拳藤がいた。傍らにはケビンやグウェンもいる。

 

「急に変身解いて気を失ったから…心配したよ」

 

「ウップ…大丈夫。ハァッ、それより、ハッ、シガラキは?」

 

ベンの容体が明らかにおかしい。衰弱したように、息は切れ、目元に隈までできている。この一瞬で何が起きたのか。

 

心配する拳藤をよそに、グウェンがベンの質問に答える。

 

「あそこ…あんたと一緒で…急に静かに…ッ!?」

 

ZUGOOOOOOO!!

 

彼女が言い切る前に、地鳴りが起こる。

大気は震え、砂ぼこりが舞い始める。

 

それは、何かの厄災を暗示していた。

 

一連の震源は、俯いた、白髪の男。

 

「さっきの続きさ」

 

死柄木の体の中から、マグマが煮えたぎる音がする。

グツグツ、ドロドロと。

それは彼の体が急速に変化していることを表す。

 

「僕は本当に君に感謝しているんだぜ?」

 

BOGO!

 

右腕が膨れ上がり、みるみる硬化していく。青く蝶のような羽が生え、腕は脇腹から無数の腕が追加される。

 

尾骨の部分にはプラグが、両足にはそれぞれ小さな車輪や炎が。

 

左腕部は関節が無くなり触手のように撓る。わき腹から生えた腕には赤い体毛と磁力を発する蟹手。背中の羽からは常に怪音波と冷気を垂れ流す。

 

 

唯一、変化しなかったのは白き頭髪のみ。

死柄木の顔のはずなのに、彼の面影は消え、悪の帝王がそこに君臨していた。

 

「僕を魔王にしてくれて、ありがとう。」

 

歪なAFOを目にし、真っ先に驚いたのはグウェンと拳藤。

「あいつ…オムニトリックスを吸収したの!?」

「そんなのまるで…」

 

驚く彼らに対し、ケビンは渋い顔で答える。

 

「俺じゃねぇかよ…」

 

10タイプのエイリアンと融合していたケビン。あのときの、力を、忘れたわけではない。無尽蔵に溢れる活力と憎悪。

 

その脅威は理解している。

 

尻込みしている彼らの中で、唯一ベンが立ち上がる。

 

「ハァッ、ハァッ…って…ことは…所詮ボク1人の力ってことだろ?」

 

鈍る体を無理やり動かして、ベンは変身する。

 

QWANN!!

 

万能さを考え、スワンプファイヤーへ。種子爆弾を投擲しつつ、炎で牽制。

 

状況に適した攻撃を放った彼は、

 

DOWUUUUNN!!

 

「ッぁぁぁぁぁああ!!?」

触れる間もなく、なにかで吹き飛ばされる。

 

手首をコキリと鳴らしながら、AFOは先のケビンの発言に対し不満を漏らす。

 

「うーん…すこし違うかなぁ。レビン君は、この力を10分の1しか発揮できなかったろう?それはなぜか。ひとえに、体が個性に追いついていなかったからさ。」

 

全てのモノを「吸収」できる個性。エイリアンに近いその力に、人間であるケビンは振り回されていた。

 

「ただ、僕は違う。」

 

オールマイト並みの身体能力と数多の個性を操る技量。これら2つが噛み合うことで、多種多様なエイリアンの力を余すことなく使いこなせる。

 

「個性遡及手術と後天DNAとの融合。これで、100%さ」

 

AFOの所有していた幾多もの個性はエイリアン並に強化されている。

そして、オムニトリックスから吸収したエイリアンたちの力も、彼は引き出せる。

 

膂力も、捕捉力も、知力も、火力も、適応力も、

全てが完全上位の存在。

 

【フルマスターピース】となったAFO・Omnireversionはニタリと笑う。

 

「まずは…【崩壊】に邪魔な、君だね」

 

瞬きの合間に、彼はグウェンの前へ移動していた。

 

《ダイヤモンドヘッド》

      ×

【回転】【振動】【衝撃集中】【膂力増強】

 

多数の個性と後天性のDNAをあわせ、グウェンを屠る。

 

ZUSYHAA!

 

が、

 

「ッぐふっ…」

 

腕を交差して受け止めたのはケビン。隣にいたグウェンを守らんと、その身を盾に。なんとか、グウェンに攻撃が行くことを阻止したのだ。

 

軽い腕慣らしとはいえ、自分の一撃を止めたことに驚くAFO。

 

「ほぉ…咄嗟に僕の体を吸収して耐えたか…それでも…」

 

ダイヤモンドヘッドの性質を映し、咄嗟に硬化したケビン。これにより死は回避できた。が、敵の攻撃は両腕を貫通し、腹を抉っていた。

 

ドロドロと血を流すケビンを、まるでごみでも捨てるかのように放り投げる。

 

「もう戦えないね」

 

「ケビン!…よくも!!」

 

ベンとケビンの負傷。その事実に彼女は冷静に激昂し、思考を巡らせ、

 

(ベンが戻るまで、少しでも時間を!)

 

現時点の個性限界点を解放する。

 

「はぁぁぁぁぁあ!!」

 

オレンジ色の髪はピンク色に発光し、体内からは無限にマナが溢れる。それだけではない。自然物から、そして目の前のAFOからもマナを吸収し、可能な限り己を強化する。

 

さらに、高難易度の魔術。

 

「グラヴィティ・アウト・カラミティ!!!!」

 

重力魔法と極超過マナの同時行使。

 

高い集中力を要する代わり、擬似的に極硬の檻を作り出す。薄紅色の拘束具で敵を縛り、重力の何倍もの過負荷をかける。

 

何人たりとも指一本動かすことも叶わない。何人たりともこの檻は壊せない。

 

が、

 

「はは、面白いぁ。個性じゃない、超常なんて。」

 

《フォーアームズ》

    ×

【崩壊】【巨大化】

 

敵は既に人間ではない。

 

巨大化した4腕、それぞれが檻を崩壊させる。その破壊に満ちた腕がグウェンに伸びたとき、

 

「クリエイト=スパイク=パワード!」

 

【大拳】に、魔法で腕力、硬化、棘を付与する拳藤。グウェン同様、個性と魔術の同時行使で敵をノックアウトしようと試みる。

 

ただ、彼女の力では、

 

「勝てない相手とも戦わなきゃならないなんて、本当にヒーローは不憫だ」

ただ立っているだけのAFOに、ダメージ一つ通らない。

 

逆に彼が撫でるように肩に触れるだけで、彼女は肩から肘までが砕ける。

 

「あ”ッ!?」

 

右腕で肩を押さえる拳藤。膝をつき、死を覚悟する。

 

そんな彼女の首元を掴み、AFOは持ち上げる。まるで、今から殺すぞ、とでも言いたげな体勢。

 

そのアピールはベンに届く。

 

DWOONN!

 

遠くからジャンプしてきたのはヒューモンガソー。

 

「やめろ!!」

 

彼が戻ってくるのを待っていたかのように、AFOは語り掛ける。

 

「従妹も、友達も、君を想ってくれる人も、皆君のせいで死んでしまう。どうだい?今の心境は。」

 

「ぐ…」

 

拳藤を人質に取られて、身動きが取れない。そうでなくとも、力比べで勝てるかどうかもわからない。それほど強大な力を敵は有している。

 

(ウェイビッグに…いや、そもそもあの手をどうにかしないとバラバラにされる…なら…)

 

打開策は…

一つだけ。

 

だが、

(時間が…かかる。そもそも本当にこれでいいのか?ボクが考えた方法で合ってるのか?)

 

さきほどの会話が今になって彼を追い詰める。

決断することへの恐怖。

子どもながらも、鋼のメンタルを持つベンには久しくなかった弱気。

 

それは、自分のせいで誰かが傷ついたという事実からくるものだった。

 

少年の一途な正義の心に、毒を盛るかのように付け入る魔王。

 

「ところで、提案があるんだ。君のその、悪夢の元凶である装置を僕にくれないかい?」

 

拳藤は捕まりながらも、抵抗する。肩の激痛を押し殺し、必死にベンを止める。

 

「…ベン!駄目!ベンッ!!!ガッ!?!」

 

「オムニトリックスを…」

 

「そうだ。全ては()()が原因なんだ。」

 

優しく、諭すようにベンに語り掛けるAFO。それはまるで教師のようだった。

 

「本当はね、君は悪くないんだよ。ただ、()()()それを手にしたせいで、こんな惨劇を引き起こしてしまっただけなんだ。大丈夫。」

 

「君は悪くない」

 

畳みかけるAFO。

 

いつもベンを励ましていた拳藤。言葉をかけようにも、喉を押さえられ呼吸すら困難。

いつもならベンに火を付けてくれるグウェンも、瓦礫の下で気絶している。

 

「もし、君が渡してくれれば、今までのことを全て水に流そうじゃないか」

 

おおらかに休戦を申し出るAFO。

 

ベンは理解している。たとえ、ウォッチを預けたとしても、彼は自分を殺すだろう。それほど、敵の悪意は確たるものだ。

 

だが、

 

それでも、

 

拳藤が、皆が救かる確率は、1%上がるかもしれない。

 

それに

 

「ボクのせいで…」

 

よぎった諦観が、【全て自分のせいだ】という罪悪感が、体を埋め尽くす。

 

そして、

 

カシャン、

 

という音とともに、オムニトリックスが彼の腕から外れる。

ベンは初めて、自分の意思でウォッチを切り離した。

 

「…本当に、皆に手を出さないんだな?」

 

「本当さ。僕は、隠し事はするが嘘はつかないんだぜ?」

 

ニタニタと笑いながら、嘘ぶくAFO。

 

嘯く彼を、睨み、俯き、歯を食いしばりながら、

 

FWOON

 

ベンはウォッチを放り投げる。

 

宙を舞う宝物。

 

それを見るなり、AFOは拳藤を宙へ放り投げる。

 

その目にはもう、拳藤も、ベンも、なにも映っていない。ただ、クルリと宙を回転するウォッチのみが眼中にある。

 

(これさえあれば、もう地球を支配するのだって容易だ!OFAだって目じゃない。それに、それだけじゃない。最高のゲーム(最悪の地獄)だって思うがままだ!!)

 

彼に似合わず、夢を膨らませ、注意を怠ったそのとき、

 

時計は、空中から流れてきた緑の閃光が手にする。

 

そして、その閃光は、AFOを蹴りつける。

 

SMAAAAASSH!!!

 

理外のパワーに何百メートルも地面を抉りながら後退するAFO。

 

彼が立っていた場所には、一人の少年が立っていた。

 

明るい笑顔で、皆を救う、最高の親友が。

 

もう大丈夫

なぜって?

 

「僕が来た!!」

 

 




・AFOが「例えば緑谷出久なら…」と緑谷を褒めていますが、これはベンのメンタルをより揺さぶるためであって、心の中では2人とも同じくらい軽蔑しています。
・ヒーローを救けるのはヒーローなんですね


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106話 足跡

なんというか、もう終わるんだなと書いてて思いました…


AFOに放られた拳藤は重力に従い落下していく。受け身をとることすらままならない彼女を、

 

CATCH!!

 

ベンは両腕で支える。

 

ズシンと腕にもたれる彼女は酷く弱っている。当然だ。体を張ってベンを守ろうとしたのだ。あの化け物と対峙して、なお彼女は引かなかった。

 

その代償として右半身の自由を失った彼女。ギリギリ意識は保っているようだが、呼吸は浅く、目は半開きだ。

 

彼女を心配するベン。そんな彼に声をかけたのは、

 

「大丈夫!?ベン君!」

 

一刻前ベンが救った緑谷出久だった。フェイスマスクを被っているが、その声は間違いなく彼だ。

 

ボロボロのコスチュームを纏った緑谷は、AFOを彼方へと蹴り飛ばした。

 

一刻前まではDNAの暴走を起こしていたのに。麗日達が雄英に届けたはずなのに。

 

疑問顔のベンに、彼は手を開き閉じしながら答える。

 

「リカバリーガールに治してもらったんだ!まだ少し違和感はあるけど、大丈夫!」

 

マスクをつけていても、その顔つきは、先ほどまでとは打って変わって爽やかだと分かる。

まるで、憑き物が取れたかのように。精悍な顔つきだ。

 

左手を差し出し、

 

「あいつがAFOなのは()()()。さあベン君、ここから反撃だ!」

 

オムニトリックスを渡そうとする緑谷。そんな彼を前にしても、ベンは動かない。

拳藤を抱えたまま、俯いている

 

いつもの明朗快活なベンとの差に、違和感を覚える。

 

「ベン…君?」

 

緑谷が顔を覗きこむと、そこには見たこともない表情。まるで、何か絶望したかのような、そんな顔だった。

 

「ボクが…ボクが…いなければ、こんなことにはならなかったかもしれない…」

 

AFOから吹き込まれた原因論。

 

この惨事は全て、ベン=テニスンがオムニトリックスを手に入れたから起こった。

 

アルビードとの戦闘から、ほんの少しだけ考えていた。そして、避難民の言葉で芽吹き、AFOの言葉で咲いた悪夢の華。

 

 

”もし、自分がいなければ、オールマイトも、イズクも、こんな目に合ってなかったかもしれない。

 

皆平和に暮らしていたかもしれない。

 

ボクが倒さなくても、平和の象徴達が倒してくれていたかもしれない。”

 

 

(ボクは…みんなを救けるために、この力を手にしたと思ってた‥だけど、)

「ボクが余計なことをしたから…皆が悲しむ羽目になったんだ…」

 

ヒーローだから救けるのではない。困っている人を救けるから、その者はヒーローなのだ。

 

祖父の教え。彼の根底にあるヒーロー観。

 

今の彼にとって、自分は、ベン=テニスンは、その定義に当てはまらない。

 

「ボクは…ヒーローじゃなかったんだ」

 

自分のせいで自分以外が傷つけられる。

 

分かりにくいが、緑谷同様の自己犠牲精神を持つベンにとって、それは最も堪えることだった。

 

ベンの頬を涙が伝う。

 

「ベン君…」

 

地面は水玉模様に色を変える。

ポタリと流れた涙が染みると、すぐに次の水滴が零れ落ちる。

 

オムニトリックスを受け取ろうとしないベン。まるで、生きる意味を失ったかのように、ベンはただ、絶望を垂れ流す。

 

俯き続けるベンの前で、緑谷は膝をつく。

そして、語り掛ける。

 

「ベン君…ベン君はヒーローだよ」

 

「いや、ボクは…」

 

「だって…僕らを救けてくれたじゃないか」

 

「え?」

 

予想外の言葉に顔を上げるベン。

緑谷を助けた覚えはない。それこそ、一刻前が初めてだと思っている。

 

虚を突かれたベンに対し、緑谷は想いを綴る。

 

それは、懐かしさすら感じる、雄英での日々だった。

 

「USJの時は、身を呈して脳無と戦ってくれた。」

 

雄英を襲った怪人脳無。対オールマイトの性能を誇る化け物に、緑谷は成す術が無かった。しかし、ベンが脳無のDNAを吸収し、暴走しながらも撃破に成功した。

 

「ゴーストフリークの反乱も、誰にも気づかれずに抑え込んだ」

 

突如オムニトリックスから抜け出したゴーストフリーク。人の体に入りこみ、幽体化も可能な彼が世に解き放たれれば、被害は想定できないものだ。そんなエイリアンを、試験会場から逃がさずに、ねじれとともに倒した。

 

「さっきはボクのお母さんを助けてくれた」

「それに、」

「僕を救ってくれた」

 

そう言って、マスクを外す緑谷。ヒビが入っていたはずの彼の顔は、元の、そばかすの目立つ少年の顔に戻っていた。

 

これまでのベンの軌跡。

AFOとの会話では、この地獄の元凶に思えた彼の行動は、緑谷との話では不思議と間違っていなかったと感じられる。

 

「滉太君のこと、覚えてる?」

 

「…林間合宿の…」

 

「そう。彼も雄英に避難しててね。ベン君がいないって悲しんでたけど、こう言ってたよ」

 

【オールマイトを刺したのはベン兄ちゃんじゃない!ベン兄ちゃんがそんなことするわけない!!】って。」

 

フォーアームズマスキュラーと戦闘し、気を失ってまで守った滉太。

 

彼は、自分をこうも信頼してくれている。

 

光りが灯り始めたベンの瞳。その目をみて、緑谷は頷く。

 

「そして、こうも言ってた。【僕も、ベン兄ちゃんみたいな、かっこいいヒーローになりたいんだ!】って。

 

今、この世界はヒーローが非難されてる。それでも、彼はこう言った。ベン君は、彼を心から救ったんだよ!」

 

両親をマスキュラーに殺害され、ヒーローへの嫌悪感を隠さなかった滉太。

そんな彼が、ヒーローになりたいと言ってくれている。

 

「だから…うん」

 

言葉をためて、緑谷は伝える。

かつて己が鼓舞された言葉を。

 

「ベン君は、ヒーローに成れる」

 

ベンの涙は止まらない。ひたすら地面を濡らし続ける。

しかし、その涙はさきほどとは違う。

 

心のどこかで刺さっていた棘や楔がほどけていくのを感じる。

 

その涙を頬に受け、彼女が目を覚ます。

 

「ベン…ゲホッゲホッ!」

 

優しく声をかけたのは拳藤。彼女の顔には、ベンの涙が何粒も、何粒も伝っていた。

 

「イツカ…!」

 

「あたしは…正直あんたに…」

 

「喋っちゃ…」

 

彼女の損傷を考えると、一言発するだけで身を切り裂くような痛みだろう。それを慮り、ベンは制止する。

が、それでも彼女は続ける。

 

「あんたに…ヒーローに成ってほしくない。傷ついて…ほしくない」

 

(だって、ヒーローは、誰かのために自分を犠牲にするものだから。)

 

「だからこそ、ッグ…あたしは…強くなろうと思えた。あんたを守るために。あんたはあたしの大切な人だから。」

 

理屈ではない。初めて会ったときから感じていた。

 

この子は私が守ると。この子が笑えるように、自分が強くなって、救けようと。

 

「イツカ…」

 

初めて拳藤の想いを知り、胸が苦しくなる。自分が、弱いせいで、彼女はここまで戦ったのだ。もしかしたら、自分がヒーローに成ると言わなければ、彼女は倒れていなかったかもしれない。

 

再び顔を曇らせるベン。そんな彼の頬に拳藤は触れる。

 

「だから…本当は…嫌、だけどさ‥」

 

ここで、ベンが立ち上がらないと、彼自身が彼を貶めてしまう。

 

ここで、ベンが戦わなければ、ベンが不幸になるだろう。

 

ここで、ベンが笑顔になるための言葉は。

 

ここで、ベンが立ち上がるための言葉は。

 

今のベンの姿は拳藤より年上。しかし、彼女にとって大事なのは外面ではない。

 

「お姉ちゃんらしくないけど…ハハッ」

 

ニカッ!!

 

痛み、痺れ、熱い。体中が激痛を律義に伝える。だが、それでも彼女は笑った。

 

ベンの中にいる、小さなヒーローに呼びかけるために。

今までの自分を否定し、ベンを肯定するその言葉で。

 

「…皆を、また、皆を守って…ヒーロー!」

 

その言葉を最後に、拳藤の首が擡げる。彼女の涙と、頬に落ちたベンの涙が交じり合う。

 

「イツカッッッ!!?」

 

呼吸はしている。が、重体には間違いない。彼女の頬は涙と血で濡れている。

 

「…」

 

ベンの口が小さく動いたかと思うと、そっと彼女を岩陰に寄りかからせる。

 

そして、グシグシと涙を拭き、

 

ガシッ!!

 

「…ほんっと…こども扱いすんなっての!!」

 

緑谷の持つオムニトリックスを荒々しく奪い取る。

 

もう迷いはない。

ただ、立ち上がり、目の前の敵を穿つのみ。全ては、皆の為に。自分を信じる彼女のために。

 

決心したベンの前方から、笑い声が聞こえる。

 

「ハハハッ。まるで、いつか見た喜劇のようだね。」

 

数百メートル先から浮いて移動してきたのはAFO。心なしか、さきほどよりも肥大化しているように思える。

 

時間が経つごとに、彼は強くなっている。それは、吸収したエイリアンDNAが馴染んできた証拠。

 

正真正銘のラスボス。これ以上の敵はいないだろう。

受けたことの無い精神攻撃まで彼は用意していた。

 

これは、目一杯の仕返しが必要だ。

 

 

「イズク…!」

「ベン君…!」

 

オムニトリックス装着者とAFO継承者。

彼らは同時に叫ぶ。

 

自分達は何者かを宣言する言葉。

悪に屈さない言葉。

己を奮い立たせ、動き出すための言葉。

 

「「さあ、ヒーロータイムだ!!」」

 

いざ、英雄の鬨。

 




僕と僕になれと叫ぶ


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107話 ユニトリックス

最終局面!


一時間前までは、簡素で、静かな町だった。DNAリアンが都に出ても、この田舎町には関係のない話だった。

 

京都市から遠く離れた、大きすぎず、小さすぎない地方街。

 

だが、今となっては、日本で唯一、建造物の無い場所。

 

家屋は崩れ、数少ない高層ビルは瓦礫となり果てている。

岩盤が露出し、人が住んでいた痕跡は全て無くなっている。

ヒーローさえも、ほとんどが死亡するか地に伏している。

 

この惨状はたった一人の敵によって引き起こされた。

【個性の先祖返り】と【後天DNAの移植】に成功したAFO・Omnireversion。

 

フォーアームズのように四肢が生え、飛行生物のような羽は常に振動している。常にその体は変容を繰り返し、一定の姿を保たない。

空も、海も、陸も、全てに対応したその体。

 

心と体の双方がまさしく化け物、いや、エイリアンとなった彼は、まさに魔王と言えるだろう。

 

そんなラスボスに対抗するのは、

たった2人の少年。

 

「AFO…お前は、何としてでも…ここで終わらせる‥!!」

「へー…こいつはそういう名前なのか‥おい!AFO!さっきはよくもいってくれたな!!そのヘンテコな顔面をさらに不細工にしてやる!!」

 

さきほどの陰鬱さは嘘のようにベンは猛る。

 

悪を滅ぼさんとする彼らに、AFOは喉を鳴らし笑う。

 

「はっは。最強の武器(オムニトリックス)と、全てを無に帰す力の結晶(OFA)。僕に対抗するための切り札は…こんな冴えない高校生たちに託されているんだねぇ」

 

ニタニタと、死柄木の顔で挑発する。

相変わらず、人を逆なでする喋り。だが、彼のセリフの中に、すこしだけひっかかる部分があった。

 

「わん…なんて??」

 

初めて聞く単語。彼の不可解な表情をAFOは見逃さない。

 

彼は好機と見たのか、ベンを煽る。

 

少しでも、心が揺れるように。場を盛り上げるために。

 

「おやぁ?知らなかったのかい?緑谷出久の個性のことさ。こんなことを知らせないなんて、本当に親友かい?」

 

AFOの告発に、緑谷は顔を歪ませる。

 

これまで公表してこなかった事実。今それを敵は暴露した。

 

誤魔化すことも可能だろう。しかし、緑谷は告白する。

 

「僕は…オールマイトから力を、個性を授かったんだ。」

 

個性の移譲。

オムニトリックスと同等の、有り得ない話だ。

 

「僕は、君と同じ無個性だったんだ…」

 

AFOから派生し、義勇の心で力を紡がれたのが、OFA。

 

彼の脳裏に過るのは、オールマイトとの約束。

OFAを知るものは、彼の戦いに巻き込まれることを示す。だから今まで教えなかった。

 

しかし、親友なのに秘密にしていたことは事実。

 

正直者で、愚直な心を持つ緑谷の、ほんのわずかな罪。

 

その隙を容赦なく突いたAFO。

 

中学3年生からの付き合いであるベンに、ずっと隠し続けた秘密。

 

「っくっくく…本当に背中を任せられるのかい?2年に渡り己を欺いた人間なんかに!」

 

AFOは愉快そうに待つ。ベンの反応を。

 

緑谷の説明を受け、

 

「あ…あ…あー!!」

 

ベンの中で点と点がつながる。

 

身体強化個性。

初めて会った時、海浜公園での言葉

無個性である自分への寛容的な態度。

 

それら全てを理解したベンは、

 

「そーなのかよ!!えー!!いいなぁ!!!」

 

この期に及んで羨ましがる。

 

「平和の象徴から個性をもらうって…めっちゃチートじゃん!!いや、でも…ボクも似たようなもんだし、負けてないけどね!」

 

1人でうんうんと頷く。

 

そんな彼に、緑谷は少しあっけにとられる。しかし、こうも思う。

 

(そういえば、君はこういう人だった…)

 

ひとしきり呟いた後、ベンは懐を探りながら、

 

「…うん…じゃあ、やっぱりイズクで大丈夫だ!」

 

胸の多次元ポケットから取り出すのは、ドッジボールくらいのカプセル。

 

それは、ベンがウォッチと出会ったときと同一の物。

 

「これ、アズマスが【地球で一番強い者に】って言ってたんだけどさ。これってオールマイトに向けてってことでしょ。だからイズクに渡してもらおうと思ってたんだけど」

 

「…オールマイトの個性を継いだイズクなら…大丈夫っしょ!!」

確信した彼は、ヒョイと投げる。

 

カプセルは開き、中からは小さな時計が宙に舞う。

 

すると、緑谷の手首に吸い込まれるように、装着される。

 

CAPTURE!!

 

「うわぁぁ!?」

 

「あはは!ボクも初めてはそうなったよ!!…ってイズク?」

 

一瞬、目から光を失う緑谷。だが、すぐ元に戻る。

 

「‥いや、うん…」

 

「大丈夫?それはユニトリックスって名前だって。使い方はボクも知らな‥」

 

「大丈夫。教えてもらった」

 

「?あ、そう‥じゃ、大丈夫だ!」

 

緑谷の言葉がどういうことかはわからない。

だが、親友が大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。

 

ベンは家族と同じくらい、彼に信用を置いている。それは、初めてできた友達だからかもしれない。

 

そんな親友を信頼し、ベンは託す。

 

「イズク…今からボクはあるエイリアンに変身する。…んだけど、もしかしたら戦えないかも知れない」

 

ゴクリと生唾を飲む緑谷。緊張が走る。2人で戦っても勝てるか判らない相手。そんな敵に、自分だけでどこまで通用するのか。

 

しかし、同時に嬉しくもある。こんな自分を頼ってくれて。

 

互いに無個性で生まれ、小さなころから非力故にいじめられていた。

そして、半ば偶然強大な力を得て、巨悪と戦った彼ら。

 

見えない絆で結ばれた彼らは、互いを、最高の親友だと認めていた。

 

勇ましく、緑谷は。

 

「だから、僕がいる」

 

「ああ、頼んだよ!!」

 

ベンは、最後の変身に臨む。

ダイヤルをセットする。

キュインキュインという音とともに、3Dホログラムが投影される。

目当てのエイリアンが来たとき、右手を大きく掲げ、オムニトリックスを叩く。

 

QWANN!!

 

姿を現したのは、ただ、黒く、それでいて煌びやかな人型エイリアン。

緑谷の隣に現れたのは、身長2m前後の人形。

(初めて見るエイリアンだ…だけど、やっぱり)

 

「少しも動かない、いや、動けないのかな?」

緑谷と同時に、AFOは悟る。

変身したベンはピクリとも動かない。

 

彼がこの瞬間まで緑谷を攻撃しなかった理由。

それは、

 

 

最高の力でぶつかり合いたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて理由じゃない。

 

「OFAを持つ君には、(オールマイト)と同じくむごたらしく死んでほしいんだよ…ああ、そういえば、僕のサプライズプレゼント、喜んでもらえたかい?」

 

サプライズプレゼント。その言葉で緑谷は思い出す。

 

「オールマイトは、自身の師の孫と戦ったけど、君は実の母親と戦った。あはは、師匠超えじゃあないか!」

 

マグマのように、煮えたぎる憎悪。それらを抑え込み、冷静に、AFOを見据える。

 

「なんで、なんで、そんなことができるんだ…!」

 

「上質なワインと同じさ。踏みにじれば踏みにじるほど、純粋な憎悪と悔恨がブレンドされていく。それをこの目で見るのが、なによりの快楽でね。あはは。君に分かるかな?」

 

分からない。分かりたくもない。理解してはいけない。あらゆる嫌悪感が自身の中に渦巻く。

そして、なんとか言語化できた想いを吐き出す。

 

「お前のせいで…皆の日常は壊れた。誰も、笑えなくなった。」

 

緑谷の頭髪が碧色に輝き、逆立つ。

 

「オールマイトや先代が教えてくれた」

 

全身の筋肉は引き締まり、プラズマが走る。

 

【OFAフルカウル100%】

 

一刻前までは、エイリアン化のおかげで反動は無かった。その余韻で、短時間なら反動はない…はず。

 

「お前は、自分の為に、人を欺き、壊し、奪い、弄ぶ…」

 

衝撃で破れかけたスーツを纏い、全身から青い光を放つ彼は、

 

手首の時計を

 

「皆の想いを踏みにじるお前を、僕は絶対に許さない!!」

 

叩く。

 

BQAANN!!

 

オムニトリックスの光よりも薄い青緑。

それに包まれる彼の身体。

 

ベンならば、この後光から出てくるときにはエイリアンの姿であろう。

 

しかし、光の中から出てきたのは、OFA100%の緑谷。

 

つまり、変化はなかった。

 

「皆の想い?そんなものは取るに足らない、雑味さ。なぜなら、」

(こけおどし…いや、僕の予測が及ばない者が多くいる。まずは2、3振り…)

 

エイリアンの力と、強化された個性をふんだんに使用する。

 

【ヒューモンガソー】の巨大化

        ×

【伸縮】で腕を伸ばし、【筋骨発条化】でパワーを底上げ。そして【追尾】で敵を追う。

 

敵への接触に特化したパンチが、緑谷へと向かう。

 

「全ては、僕のためにあるからさ!!」

 

迫りくる拳に対して、緑谷は一歩も引かない。

 

スゥっと息を吸い、腰を落とし、構える。

そして、腕を引き、パンチを繰り出す。

 

「だぁぁ!!!!」

 

DGAAAAANNN!!

 

巨大な拳と、ただの人間の拳。対極ともいえる力がぶつかり合う。

 

互いの拳が触れあった瞬間、AFOは個性を発動する。

 

(終わりだ…【崩壊】!)

 

緑谷のグローブにヒビが入る。

 

そう、AFOの目的は、始めからこれ。真っ向勝負と見せかけて、崩壊による一発KOだ。

 

強化された【崩壊】は、触れ合うもの全てを破壊する。つまり、グローブに触れようとも、崩壊したグローブが緑谷に触れることで、

 

BKIBKI!!

 

押し合っていた拳は、崩壊を開始する。その時点で、彼の勝利は確定する。

 

「さあ、もう壊れ朽ちるだけだよ」

 

「…!!」

 

「分析に長けた君にしては、安易だったようだねぇ…ん?」

 

なにかおかしい。

 

確かな違和感を覚えるAFO。

 

彼の手は崩壊し始めている。それは間違いない。

 

なのに、

 

なぜ、崩れ落ちないのか。

 

なぜ灰になり朽ちないのか。

 

なぜ、自分の拳が押され始めているのか。

 

せめぎ合う、AFOの拳と緑谷の拳。不可解な現状を見極めるため、AFOは彼の拳を凝視する。

 

ひ弱な彼の拳には亀裂が入っている。今にも崩れそうな勢いで。

 

そして、その勢いと同様のスピードで、ヒビは修復されていた。

 

(…超再生…!?しかも…)

 

ここで初めて、緑谷の拳の感触に異変を感じる。

(異様に硬い‥?)

 

緑谷は思い出す、あの一瞬の出来事を…

 

「ほう、お前がトシノリの弟子か」

 

砂色の空と、浮いた岩々。急な景色に驚く緑谷の前に現れたのは、

 

「グレイマター!?」

 

「それはベン=テニスンが名付けた名じゃ!儂はアズマス。オムニトリックスと、それの開発者じゃ!」

 

彼が指さすのは、緑谷の手首の装置(ユニトリックス)

 

「え、ここ、は…」

 

緑谷の疑問に答えず、アズマスは続ける。

 

「トシノリが来ると思っとったんじゃが、まあいい。お前にも適正はあるみたいじゃしの。まずは開発趣旨からじゃ…あのバカが盗んだアルティマトリックス…」

 

語りだしたアズマスに、緑谷は現状を伝えようと話を遮る。

 

「す、すみません!友達が戦ってて、すぐに…」

 

「急ぐんじゃぁない、愚か者め。この空間は儂が作った空間。こちらと向こうの時間は流れ方が異なる。安心しろ。」

 

この老人は簡単に空間を作り出したという。グレイマターの頭脳ならば、その領域まで達することができるのかと驚く。

 

動揺した緑谷を気にせず、アズマスは続ける。

 

「アルティマトリックスは、エイリアンの力を200%引き出す。しかし、あれは変身にエネルギーを割かねばならず、また、未熟者が使えば人格が狂ってしまう」

 

アルビードの性格を思い出す。今となっては、彼の素なのか、アルティマトリックスに侵されたものなのか判別がつかない。

 

「この宇宙の危機が迫るとマックスから聞いて、儂はU・マトリックスを超える装置の開発を試みた。あれよりも出力を増幅させ、さらに安定的な装置をな。」

 

後ろに腕を組んだまま、小さな宇宙人は語る。

 

「普通の者ならばお手上げだ。だが儂は思いついた。それらすべてを解決する方法を。」

 

背中を向けたアズマスに、緑谷は尋ねる。

 

「その方法って…」

 

彼は振り向くと、指を緑谷に向けた。

 

「使用者を限定すればいいんじゃよ。

 

オムニトリックスは誰が使っても一定の性能を発揮する。そのように作ったからの。

 

では逆にじゃ、使用者を先に決めて、その者に合わせれば、余計な性能にリソースを食わずに済む。だから…」

 

(人間体のまま、エイリアンの力を引き出す…これで、人格が元のエイリアンに乗っ取られることは無い。)

(そして、使用時間を数十秒にすることで、使えるパワーを何十倍にも凝縮)

(アズマス博士のユニトリックスは、シンプルな素体である人間、かつ人間以上の身体能力を有する者が使う時に、その真価を発揮する!)

 

ユニトリックスは、いわば、OFA継承者に向けて作られたオムニトリックス。

 

緑谷がセットしたのはダイヤモンドヘッド。

今の彼は、人間体のまま、ダイヤモンドヘッドの力を引き出せる。

 

例えば、圧倒的な硬化。

例えば、崩壊された部分からの再生。

 

これが、アズマス博士と、緑谷のたどり着いた答え。

 

DIAMOND SMASHH!!(ダイヤモンド・スマッシュ)

 

ダイヤモンドヘッドの硬化に、OFAのパワーが上乗せされたパンチ。

 

AFOが複数の個性を発揮するのと同様に、今の緑谷は凝縮された2つの力をぶつけた。

 

その結果、

 

PAAAAANN!!

 

AFOの片腕がはじけ飛ぶ。

 

もちろん、距離を置いていた為、本体にはノーダメージ。そして【超再生】によりその腕もすぐに元通りに。

 

だが、

 

動揺は隠しきれない。

 

「…まさか、この力に張り合えるなんてね…本当に、どこまでいっても、僕の夢を阻む…」

 

忌々しく語るAFOに、

 

緑谷は左腕を突き出し、

 

「…そのための、力だ」

周囲には星々が煌めく。足場もなく、ただフワフワと。

 

そして、左には雄大な憤怒の仮面、右には巨大な慈愛の仮面が。

 

「何しに来た、ベン!」

 

「よろしくね、ベン?」

 

「まぁた…わけわかんない所に来たよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 




・ユニトリックスの性能は独自設定です。名前はエイリアンフォースに出てきたっぽいんですけど、よく覚えてないんですよね…
・緑谷のウォッチ使用はやりたかった展開の一つです!


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108話 無敵のエイリアン

人気投票でトップだった彼ですね!


ベンの前に広がる景色は、一面の黒と、遠くに光る星々。美しく、また、どこか荒々しい世界。胸がざわつくようで、どこか落ち着く。

 

宇宙はこんな感じだったな。

 

そうベンが思い出した時、彼らは現れる。

 

「何しに来た、ベン!!」

「歓迎するわよぉ、ベン?」

 

左手に位置するのは、憤怒の仮面。

右手に位置するのは、慈愛の仮面。

 

数十メートルもの仮面だけが宙に浮き、喋りかけてくる。

 

「ここは…ていうか、なんでボクの名前を?」

 

「お前がここに来るのは3度目だからだ!」

「とはいっても、違う世界のあなただけどね?」

 

「違う世界って…パラレルワールドのこと!?知ってるんだ!」

 

「そんな次元の話ではない。この空間は全ての世界において共通する座標なのだ。この説明も3度目だ!!」

 

「ちょ、そんなに怒らないでよ…まあ、いいや。とにかく、力を貸してほしいんだ。」

 

ベンには何となくわかっていた。

この世界の主は彼らなのだろう。

 

ここは、エイリアンⅩの内。エイリアンⅩの力を統べるのは彼らだと。

 

それらを見越して懇願するベンだったが、憤怒の仮面は断り、慈愛の仮面は続ける。

 

「ならん。お前は前回こう言った。【お願い!これが最後の願いだから】と」

「確か、アナイアラーグで宇宙が崩壊した時だったわねぇ。その時は、もう一回作り直してあげたわ。」

 

「なんて?アナ…アニャ…なんでもいいよ!!とにかく、それはボクじゃない!違う世界のボクだって!あっちのボクだけお願い聞いて、ボクのお願いは聞かないなんて不公平だよ!!あーもぉ!何言ってんだボクは!」

 

駄々っ子のようにねだるベン。感情のままに訴えるが、エイリアンⅩの父であり母である彼らが絆されるとは思えない。

 

が、

 

「ふむ…確かに間違っていないように思える。わかった。お前に力を貸してやろう…」

「いいと思うわ。」

 

彼の頼みをするりと飲む彼ら。予想以上の好感触に拍子抜けするベン。

 

一息つき、彼らの名を問う。

 

「あ、ありがとう。そういえば、君たちの名前は?」

 

「私の名はベリカス。エイリアンXの有する、2つの自我の内の1つだ」

「ワタシの名前はセレナよ。」

 

怒髪天を衝いたような怒顔と、母星を感じさせる甘美な笑顔。それぞれの表情を変えずに自己紹介。

彼らの名を知り、それじゃあ、とばかりにベンは指を差す。

 

「そっか!よろしく!じゃあ、すぐにイズクを助けよう!そんで、あの憎たらしいAFOをやっつけるんだ!!」

 

指を差した先は世界が少し透過され、外の戦いが投影される。

 

ユニトリックスを駆使する緑谷とAFOは、五分五分の戦闘に見えた。が、再生力と持久力はAFOに分があるため、その均衡は直に破られるはず。急いで援護に向かわねば。

 

そう考えたベンに対し、ベリカスは頷き、

「ふむ…わかった…、あの者の存在を消せばいいんだな?」

 

「へ?」

 

殺人以上の行為、存在消滅を提案する。

過激な発言にあっけにとられるベンに、優しくセレナが囁く。

 

「野蛮ねぇ。本当に。これだからベリカスは…。いい、ベン?消したり殺すなんて、知性ある者の行う行為ではないわ」

 

「え、う、うん」

 

母の様な懐の深さ。彼女の言葉から慈愛を感じ、ベンは賛成しようとする。が、彼女の続けた言葉に絶句する。

 

「全てを許すのよ。AFOがああなったのには理由があるの。だから、彼を傷つけちゃ駄目だわ。」

 

「…は、はぁ!!?」

 

「馬鹿を抜かすなセレナ!全ての元凶はあの者にあるんだろう!憤怒に身を任せ、残虐非道に敵を消滅させることがベンにとっての最善だろう!」

 

「いいえ!あなたみたいな考えを持つものがいるから宇宙から争いは絶えないのよ!」

 

偉大なるエイリアンⅩの父母が見せるのはお粗末な口論。

まるで父と母の夫婦喧嘩を見ているようで呆れるベン。

 

「あー‥どっちでもいいから、ボクに力を貸してよ。そしたらボクのしたいようにするからさ」

 

【いいから早く】とでも言いたげなベンに、ベリカスは冷たく言い放つ。

 

「それは無理だ。エイリアンⅩは、私とセレナ、2人の意志が合致した時にのみ行動できる。」

 

瞬間、背筋に悪寒が走る。

(こんな気の合わない2人が意志の合致?!)

「あ、あのさ…本当は仲が良いんだよね…?」

 

願うように確認すると、

 

「最後に合意したのは、800年前だったか?」

「いいえ?それは結局間に合わなかったから4000年前よ。」

返ってきたのは最悪の答えだった。

「ちょ、ちょっと、シャレにならないって!!今!そこで!親友が戦ってるんだ!」

 

「そうだな。だが、私たちには関係ない。」

「そうね。あ、そうだわベン?あなたに提案があるの?」

 

「て、提案?」

 

「そう。ここで、私たちの議論を終わらせてもらえない?いつまで経っても、2人だけじゃどっちが正しいのか決まらないのよ」

 

「ど、どういうこと?」

 

要領を得ない質問を聞き返すベン。返す答えは、恐ろしい拷問。

 

「未来永劫、エイリアンⅩの心となってほしいの」

 

恐怖の提案に当然反対する。

 

「嫌だよ!ずっとここにいるなんて!いいから出してよ!」

 

「ならん。お前はもう足を踏み入れた。」

「エイリアンⅩは私たちが合意しないと動けないの。だから、いつまでたっても眠ったまま」

 

「そんな…」

絶望的状況。

 

が、ベンは思いつく。

 

まず、AFOをどうするかについての議論を終わらせる。そうすれば、この変身時間くらいなら体の自由は利くだろう。AFOをどうにかした後、後は変身を解除すればいいだけ。

 

この作戦のために話題を蒸し返す。

 

「わかった。とにかく議論の決着だね!AFOをどうするかだ!」

 

「ふむ、よし。さきほども言ったが、AFOは滅するべきだ。存在を消し、奴が今後回復するような余地も与えない」

 

「あまりにもひどいわ!それに今AFOは、シガラキトムラの体を奪っているのよ!彼に傷をつけることは、責任の無い者を傷つけるのと同義だわ!」

 

「いいや!シガラキは奴を受け入れている。そのための手術だったはずだ!全て奴らに原因があるのだから、奴らごと消すべきだ!」

 

全知全能の彼ら。人間の言葉で、神と言われる存在と同様の彼ら。

ゆえに、議論は終わらない。

決することの無い議論。果てなき討議。

 

巨大な仮面の言い合いに、人間のベンは当然の疑問をぶつける。

 

「倒すのじゃダメなの?そんな殺したり、なにもしない、なんていわないでさ…」

 

「馬鹿をいうな!そのような愚行、このベリタスは絶対に許さん!」

「ごめんなさい、ベン。全てを許す為には、その意見を許すわけにはいかないのよ…」

 

(なんだよ!意味わかんないよ…!!こいつら極端すぎるっての!もっとふわっと適当にやればいいのに!!)

心中で毒づく

 

外では今でも緑谷が血を流し戦っている。先ほどまでは五分だった戦いも、既にAFO優勢となっている。

 

どうすれば…なんとしても、

 

(イズクを…あっ)

 

そのとき思い出す。緑谷との会話を。そして、…のことを。

 

「2人とも…こういうのはどう?」

 

思いついた、起死回生の一手。

その内容を聞いた後、

 

ベリカスは、

 

「なるほど、残虐非道とはまさにこのことだ!!」

 

セレナは

 

「すばらしいわ!これなら誰も傷つかずに収まるわ!」

 

議論を終え、覚悟を決めたベンは、2人に背を向ける。

 

「よし…じゃあ、行こう」

DOGGAA!!

 

「どうしたんだい?出来損ないの緑谷出久」

 

「ぐっ…」

 

状況は見るからに劣勢。宙に浮いた緑谷は右腕と額から血を流し、太腿はえぐれていた。

対するAFOは、ほぼほぼ無傷。

 

「その機械と、OFAをもってしても僕に勝てないなんてね。本当に君は平和の象徴の後継者かい?」

 

「うる…さい…!」

 

気を強く保つ緑谷だったが、彼自身も不利なことは理解していた。

 

黒鞭による捕縛で、敵を宙に拘束することには成功している。

 

が、逆をいえば黒鞭と浮遊に神経を使わざるを得ない。

 

【煙幕】で隠れながら攻撃しようにも、AFOは視覚以外の捕捉手段に慣れている。

 

さらに【崩壊】対策で、要所ではダイヤモンドヘッドにしか変身できない。

 

そしてなにより、

 

「超再生…この体になって、この力のすごさが分かるよ…」

 

再生力の差。緑谷もダイヤモンドヘッドによる部位補修は可能だが、敵は与えたダメージ全てを無に帰す。

 

そのため、いくら超越した力を発揮できるユニトリックスでも、完全には抑えられないのだ。

 

それでも

 

BAQQNN!!

 

「どんな逆境でも…ヒーローは…」

 

全身に、炎を灯す。

 

「負けないんだぁぁぁぁ!!」

 

引き出した力はヒートブラスト。宇宙でも随一の火力を、何十倍にも高める。

(放出は轟君やエンデヴァーをイメージ!全身から噴き出る焔を、右足に!!)

 

BLAST SMAAAASHH!!!!(ブラスト スマッシュ)

 

ヒートブラストの火力による、空中きりもみ回転蹴り。

 

烈火の推進力に加え、業火の熱で、敵の防御を破る狙い。

 

だが、

 

「【ヒートブラスト】×【衝撃反転】」!!

 

狙っていたかのように、彼は力を行使する。

 

焔はヒートブラストの力で吸収。蹴りそのものは衝撃反転。

 

「グアッッッ!!!」

 

全てをつぎ込んだ一撃は、己に牙をむく。バラバラになりそうな衝撃を受け、意識が飛びそうになる。

 

その一瞬、黒鞭が緩む。

 

好機と言わんばかりに、AFOは自由に動く副左腕で、進化した【崩壊】を発動。

 

エネルギー体であり、本来触れられない黒鞭が崩壊する。

 

縛るものが無くなった彼は、溢れる膂力で、地面へと向かう。

 

「っ!!!やめろぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「もう遅い!」

 

緑谷がAFOを空中に留めていた理由。

 

それは、地面から連鎖崩壊を出させないため。

 

自身が崩壊を食らう分には、ダイヤモンドヘッドの再生力で相殺できる。

 

だが、地面から崩壊が伝播した時、

 

周囲に転がる、拳藤、ケビン、グウェン、親友を助けることは不可能に近い。

 

(誰が適している!?無理だ間に合わない!僕が止めないと!もう地に着く!!?)

 

半分パニックになりながらも、必死に敵を止める手立てを考える。

 

が、

 

無情にも

AFOの掌は地面に触れる。

 

GGGGGGOOOO!!

 

崩壊が始まる。

伝播する崩壊は、瓦礫に触れるだけで崩れ壊れる。

 

全てを平らにしていく崩壊。その全てにはもちろん、拳藤、グウェン、ケビンも入っている。

今、この世界を守るヒーロー達は、灰になり、朽ち果てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩壊が始まる。

 

伝播する崩壊は、瓦礫に触れるだけで崩れ壊れる。

 

全てを平らにしていく崩壊。その全てにはもちろん、拳藤、グウェン、ケビンも入っている。

今、この世界を守るヒーロー達は、灰になり、朽ち果てた。

 

 

確かに個性は発動した。なのに、世界が壊れない。

 

「…今、確かにここら一帯を【崩壊】させたはず」

 

一瞬、地面に白い輪っかが飛んできた気がする。まさか、その影響?

 

目の前に広がるのは、きれいな大地と、グウェン達。

そして、

 

黒いエイリアン。

散々な目に合った。

 

ベンは心から思う。

 

(もう2度と変身しない…)

 

だからこそ、最初で最後に、この名を叫ぶ。

 

「エイリアンⅩ」

 

 

 

 

 

 




残り2話!!終わらせられるのか!!?


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109話 ピースサイン

ついに決着!!長いです!長かったです!


真っ黒な躰には、キラキラと光る星々。赤く、あるいは白く光るそれらは、ほんの少しだけ揺らめいている。

 

彼を構成しているのは宇宙。地球の概念ではそう表現するしかない存在。

 

人型でありながら、鬼のような2本の角を持つ、エイリアン。

 

ウェイビッグに並ぶ、いや、それ以上の最強種。宇宙を作り上げた無敵の存在。

それが、エイリアンX。

 

その規格外の能力により、AFOによる崩壊は、“無かった”こととされた。

 

「すっげ…ほんとにできるんだ…」

 

自分で驚いているエイリアンX。いや、ベン。

 

彼自身もこれほどだとは予想してなかったようだ。

 

【リングを通った箇所の時間を巻き戻す】。

 

その願いが一縷も逃さず完遂されたのだ。驚くのも無理はない。

 

そして、彼同様驚いているのは、能力をかき消されたAFO。

 

「馬鹿な…」

 

老獪な彼は、その事象に驚きながらも冷静に分析する。

 

(確かに【崩壊】は発動した。なのに、彼の手から放たれた輪っかによって、まるで崩壊そのものが無かったかのように地面が整えられている。死穢八斎會若頭(オーバーホール)のように、物質構築に関係する個性か?)

 

もちろん、彼の体に眠る数多の個性の中にも、類似するものはある。

 

【金属操縦】【無機物創造】…

(いや…)

 

チラリと地面を見る。

 

(ただ壊れた地面を接合しただけではない。輪っかが通った個所だけ、コンクリート舗装までされている。そう、まるで()()()()()()()()()()()かのように。)

 

100年に渡る彼の人生は、エイリアンXの特殊性を直観で気づかせた。

 

これまで多くの(ヒーロー)と戦ってきた彼も、さすがに今のベンには躊躇する。

 

足を止めた敵に対し、エイリアンⅩは手を翳す。

 

「こんどは…これ!」

 

QRUINN!!

という音とともに、手元に白いリングが発現。

 

半径30㎝ほど、小さな輪っか。

 

ふわりと空中へ放ると、それはベンの頭上に固定される。

すると、

 

GYUWANNN!!

 

空を飲み込むほどの黒い渦が出現。それらは人間の手を形作り、幾万本の悪魔の手に変形していく。

 

豪雨のように降り注ぐ魔手は、うねりながら猛スピードでAFOを狙う。

 

「っ!!?」

 

(【スティンクフライ】【ジェットレイ】

         ×

【エアウォーク】【器官生成;翼】【膂力増強】…)

 

自身の中で、空中機動に長けた個性、エイリアンを選択。

音速をも超える空中機動で、魔手から逃れようとする。

 

直角、反転、あるいはホバリング。まるで生まれた頃からそうであったかのように、彼は空中を自在に飛び回る。それこそ、数十秒で地球を一周できるほどの速度で。

 

が、それを上回るスピードで、魔手は追跡。

AFOの無茶無理無謀の移動軌跡を、寸分も違わずなぞり、

 

そして、ついには、文字通りの()()は、

 

GASHIINN!!

 

「っぐっ!?」

 

AFOの捕縛に成功する。

 

彼がどれだけ力を籠めようとも抜け出せない。体をひねることも、指一本動かすことも叶わない。

 

空中で捕縛された彼に対し、ベンは地面から攻撃を試みる。

 

QRUINN!!

 

再びリングを生成。

今度は等身大の大きさ。

 

それなりに大きなリングを作り上げると、AFOめがけて打ち出す。

 

その瞬間、触手の力が弱まる。

 

AFOは【崩壊】で壊し千切ると、寸でのところでリングを躱す。

 

すると、

 

HOOLLLL!!

 

聞いたこともないような悍ましい轟音。その音が止んだ時には、彼の一歩右の空間は()()()()()

 

まるで空間が圧縮したようにねじ曲がったと思えば、自身がさきほどまで縛られていた場所は、ただ黒い空間に置き換わっていた。

 

空中にポッカリと空いた空間には何もない。どこまで深いか、そもそも存在するかが分からない穴だけが見て取れる。

 

「っち…」

(防御に徹している場合ではない…か)

 

出来れば保有していることをばらしたくなかった個性

【ワープホール】。

 

躰の一部を黒い靄へと切り替えると、その靄はベンの背後に現れる。

 

その靄を通して、彼の腕がエイリアンXの背中に触れる。

 

(どんなに強固だろうと、どんなに戦闘力に長けていようと、)

「【崩壊】してしまえば終わりだ!!」

 

全てを無に帰す崩壊の手が触れる。

 

が、当のベンには、何も変化は起きない。

ただ、黒ずんだ手が彼の背中に触れただけ。

 

「何!?」

 

驚くAFOを差し置き、ベンは靄から彼を引きずり出す。

かと思えば、グルグルと振り回し、思いっきりぶん投げる。

 

「おりゃっっ!!」

 

BOONN!!

 

地面をバウンドし、はじけ飛ぶ敵。

ベンは容赦なく追撃を試みる。

 

が、AFOもただではやられない。

 

【ベクトル変更】で投げられた方向を修正し、グウェンや拳藤たちが倒れている元へ着地。

 

がっしりと、先ほどのように拳藤を盾にする。

 

「そのまま打てば彼女らは死んでしまうよ?」

ニタリと下卑た笑みを浮かべる。たったこれだけでヒーローは足を止め、拳を下ろす。

 

守るものが多いから負ける。彼の中で、ヒーローはそんな存在だった。

 

「はんっ!」

 

だがベンは軽く笑い飛ばす。

拳藤が人質に取られたことを把握したベンは、生み出したリングを放つのではなく、自身の拳に通す

 

QRUINN!!

 

そして、人質を意に介さず、拳を振るう。

 

DOOOONN!!

 

「なっ!?」

 

彼の拳圧で、風が生まれる。地面を抉り、空気を切り裂き、拳大の風は暴風へ。

竜巻は、一直線にAFOへと向かう。もちろん、その直線状には拳藤がいる。

 

BROOWWWW!!

 

「なにっ!!?」

 

にも拘らず、その攻撃はAFOのみを討つ。

すぐに超再生で回復を図る。まるで、オールマイトの全力を受けたかのようなパンチ。いや、今現在の自身の力を考えると、その何倍もの威力だったはず。

 

ダメージ自体は大したことはない。現にもう回復した。傷も負っていない。

 

 

が、驚きは隠せない。自分にしか当たらなかったのだ。災害級の攻撃が、人質(拳藤ら)をすり抜け、自分だけに。

 

さしもの彼も動揺しながら、空を見上げる。

 

そこには、未だ黒い空間がぽっかりと空いていた。

(さっきの攻撃は‥指定箇所を無にするものか。そして、今までの攻撃を総合すると、

…)

 

「…まさに人智を越した力だ…」

 

…欲しい。

 

そう小さくつぶやいた。

 

進化したAFOと戦闘し、互角以上に拳を振るっていた緑谷。そんな彼はもう手足も動かない。ただ、地面に倒れているだけ。

 

だが、唯一動くその目で戦いを見ていた。エイリアンXがAFOを圧倒する様を。

 

(と、とんでもない力だ…多分だけど…【AFOを捕まえる触手】【対象座標を無にする】【対象以外を傷つけない攻撃】…どれも個性や他のエイリアンの規格を超えている。

 

複数の能力を持っているように見えるけどそうじゃない…【好きな能力を具現化させる】【想像を実現させる】そんな能力な気がする。彼さえいれば勝てる…)

 

想像実現。あり得ない力。この能力を持っているならば、負ける方が難しい。誰でもそう思うだろう。

 

だが、誰よりも個性や能力を分析し、強大な力を持たされた彼は、異なる結論を出す。

 

(でも、待てよ?もしそんな能力なら、【AFOを倒す】ことを実現させればいいはず…わざわざ戦う必要はない。それに…)

 

ノートは持っていない。だが、彼の脳内には、全てが記憶されている。色んなヒーロー。クラスメイトの個性。そして、

 

エイリアンヒーローも。

 

考えた末、

 

(うん、そうだ。今僕がやるべきことは…)

 

BQANN!!

 

(分析して、予測することだ!)

 

彼の目は少しだけギョロリと大きくなる。

 

もう人質は意味をなさないと理解し、拳藤たちから離れるAFO。

そんな彼に、ベンは語り掛ける。

 

「AFO…もう降参したらどうだ?ボクに勝てっこないでしょ」

 

「そうかい?僕はそう思わないけどね。」

 

「見ただろ?ボクの力を。お前がどんな個性を持っていたって、今のボクは文字通り無敵なんだ。諦めて降参しちゃえよ」

 

「面白いことをいうねぇ。君は僕に傷一つ付けていないのに」

 

自身の体を見せつけるように、AFOは語る。

鋭い指摘に、ギクリと顔を歪ませるベン。

 

「例えば、さっきの黒い触手。おおかた、【AFOを捕まえる手】といったものだろう?その名のとおり、僕を捕まえた。本当に面白い個性だ。創造を実現する力。震えるよ」

 

すでに自分の能力は割れている。だが、割れたところで、どうしようもないはず。

 

「あれぇ?おかしいよなぁ。【僕を捕まえること】を実現できるなら、始めから【僕を殺す黒手】にすればいいはずだ。なのに、君は一向にその類の能力を使わない。」

 

まるで、答え合わせをするように、ウキウキと語るAFO。

 

「多少ダメージはおっても、傷に至るほどの攻撃は皆無。これらから推測するに…」

 

何本もある腕の一本を、ベンに突きつける。

 

「君のその能力は、僕を傷つけることができないんじゃないかい?」

 

ほんの少しだけ、背筋に悪寒が走る。

 

AFOの答えは、ほぼほぼ正解だった。圧倒的強者を前にしてもこの冷静さ。

 

恐ろしく周到で、冷静で、明晰な頭脳を持った彼だからこそ出せた答え。

 

本来、エイリアンⅩの能力は、過不足なく【想像を実現させる力】。

極端に言えば、今この瞬間、宇宙を消すことも、造ることも可能だ。

 

だが、今のベンは違う。ベリカスとセレナの合意を逸脱することはできない。

 

とくに、セレナの【すべてを許す】という制約が強く、AFOを拘束することまではできても、彼の能力で直接殺したり、外傷を負わせることが難しいのだ。

 

また、初めての変身ということで、彼は()()()を通ったものにしか能力を反映できない。

 

自身の能力値を見抜かれたベンは、鼻をこすりながら勇む。

 

「へん。関係ないね!」

 

エイリアンⅩの能力でAFOを倒すことができずとも、例えば肉弾戦だったり、攻撃の余波でならダメージを与えることができる

 

それをベンが狙っているかはともかく。

 

そんな彼に対し、呆れたように笑うと、AFOは問う。

 

「ふぅん…まあいいよ。それより、これが君の最後の戦いになるわけだが、教えてほしいことがあるんだ」

 

「はぁ?」

突然の質問に、ベンは首を傾げる。

 

「君は、なぜ、ヒーローに成るんだい?」

 

まるで、教師が生徒に聞くかのような態度。

だが、次の言葉はベンの根幹を覆さんとするものだった。

 

「君は、ただその時計を手に入れたから、ヒーローになったんだろ?なにもできない子どもが、強大な力でヒーローごっこをする。ありふれた話だ」

 

「何が言いたいんだよ」

 

「簡単なことさ。君は、敵側に来る人間だよ、ということさ。君の半生を見た時、幾らか私欲のためにその時計を使っていたね。君の祖父や、オールマイトとは大違いだ」

 

たった一回揺さぶっただけで、先ほどは変身できないほどのダメージだった。だからこそ、今ここで、AFOはベンを潰しにかかる。

 

俯き、返事をしないベン。

 

「…」

 

「そんな君がヒーローになる?あははぁ。笑わせないでくれよ。君は、ただ偶然力を手にして、偶然そっち側に近かった人間なのさ!」

 

スーパー敵の演説を無言で訊いていたベン。

 

敵の言葉が途絶えた時、スッと首を挙げる。

 

そこに見える彼の表情は、非常に軽い、まるで相手を馬鹿にしたような笑顔だった。

 

「いいや?ボクはヒーローになってたよ。例えこれ(オムニトリックス)が無くてもね」

 

胸にある、オムニトリックスマークに触れる。

 

緑谷の話を聞いて思い出した。

 

滉太に話していた自分の心情。ヒーロー観。忘れてはいけない、祖父の言葉。

 

「スーパーパワーを持ってるからヒーローなんじゃない。」

 

オムニトリックスを失った世界線(グウェン10)の自分にもあった。

彼は、いじけずに、ただ必死にグウェンとじーちゃんとともに、世界を救っていた。

 

そうだ。これはただの時計なんだ。重要なことは、

 

「誰かを救けるからヒーローなんだよ!」

 

もう忘れない、己の原点。誰かを救けたいという想い。

 

そのために、いじめっこにも立ち向かった。困ってる人を助けた。

 

そう、憧れのじーちゃんのように。

 

「ボクは、じーちゃんみたいに、困ってる人を救けるヒーローになるんだ。小さいころから、っそしてこれからも、それだけは変わんないね!」

 

強く、もうブレないであろうベンの顔つき。

体だけではなく、その精神までもが大人になったベン。

 

揺さぶりが効かないと分かるや否や、AFOは戦闘態勢へと移る。

 

「そうか。じゃあ僕は」

 

「世界に仇なす、魔王になるとしよう。君も、OFAも、全てがそのためだけに存在する!!」

 

空中浮遊からの、ジェット噴射。瞬きの間に世界を壊せるスピードで彼は駆ける。

 

そのコンマmm秒でAFOは出来得る限りの攻撃を噴射。

 

視界を覆うような超多種極限攻撃。

 

BOMM!

WHOON!

BROOOWW!!

 

その全てが、ベンの体に触れて、消えていく。

 

「ボクには効かないよ!!」

 

「ああそうだろう!」

(【崩壊】は効かない。炎や水、精神干渉、次元変化。どれも、彼に変化を起こすことは叶わないだろう。そんな不条理な身体組成だ。)

 

「でも、」

 

弾幕攻撃で視界が悪くなったベン。

その隙にAFOが彼の胸に手を置く。

 

ペタリ

「これならどうだろう」

 

 

その瞬間、AFOの右手が、じわじわと黒く染まっていく。まるで、エイリアンXのように。

 

「!!??」

 

「君は、外部からの干渉を受けない体なんだろう!?だけど、この【吸収】は、君の体の性質を僕に反映させるだけだ。

!だから、」

 

QWANNNNNNN!!

 

「君は、僕の糧となるんだよ!!」

 

「ッさせるか!!」

 

懐に潜り込んだAFOを引きはがそうと、薙ぎ払う。

一振りで街をいかようにもできる彼の腕は、

 

AFOを透過する。

 

(【ゴーストフリーク】。【ビッグチル】!)

宇宙でも稀有な、幽体となれるエイリアン。

 

「本当に便利な力だ!!」

 

ビッグチルの透過は、敵が触れると凍る。もちろん、エイリアンⅩには干渉できないため、彼が凍ることは無い。

 

が、

 

彼もまた、AFOに触れることができない。

 

触れるには、リングにより、自身を【幽体に触れられる体】に変化させなければならない。

 

その、わずかな時間をAFOは与えない。

 

「君はまだ未熟なんだろう!?所詮は高校生だ!!」

 

「救うことも、壊すことも知らない、ただの無知な子どもさ」

 

ここだと判断したのか、AFOは複製腕を増殖させ、それらで彼をコピーし始める。

包み込むような触手は、全てがエイリアンXと同色となっていく。

 

「伝わってくるよ!この力のすばらしさが!君のやっていたことは本来の力とは程遠い!!見せてやる、本当の‥」

 

GASHHIIINN!!!

 

「力を…ん?」

 

そのとき彼が動きを止めたのは、何かが体を拘束しているから。

 

(別に、拘束がきついわけではない。すぐ引きちぎればいい。

 

だが、おかしい。

 

なぜなら、今僕は透過中だ。

 

触れることなど誰にも、)

 

疑問を解決するため視線を落とすと、そこには自身を縛る黒鞭が見えた。

その出発点は、空中に浮遊する緑谷。

 

「っっっっなぜ貴様が!!」

 

焦るAFOとは対照的にただただ冷静に跳びあがる緑谷。

 

(ベン君は、AFOを殺傷する以外の方法で倒そうとしている。エイリアンⅩならそれが可能なんだ!だけどやつの能力を考慮した時、そのタメに間に合わない可能性が出てくる。

 

そして、奴の性格上、必ずベン君の力を吸収しようとするはず!それは先代様達の記憶から間違いない!

 

なら、奴がベン君に近づく方法は、ゴーストフリークの透過だ!)

 

「そして、ゴーストフリークの幽体には、ゴーストフリークの幽体のみが触れられる!!」

 

そう。緑谷がさきほど発現させたのは、グレイマター。その知力と知識。加えて彼の分析力でAFOとベンの行動を全て先読み。

 

そして、グレイマターの知識から得た、ゴーストフリークの性質。

 

ベンの一撃を確実に当てるために、彼は動く。

 

(動かない手足は黒鞭と浮遊で何とかできる!そして、敵を拘束した一瞬で、)

 

彼の左腕は白黒模様に変化している。

 

アップグレードにより、ユニトリックスそのものをその場で改良したのだ。短時間だけ、複数のエイリアンの力を行使する仕様へと。

 

これは、全身を変身させるオムニトリックスにはできない手法。

 

親友との思い出のエイリアンたち。それら全ての力を拳に込める。

 

BAQWANN!!

 

グレイマターの知力

ワイルドマットの感知

フォーアームズの膂力

ダイヤモンドヘッドの硬化

リップジョーズの鋭刃

アップグレードの改良

スティンクフライの飛翔

ゴーストフリークの幽体化

XLR8の加速

ヒートブラストの熱爆破

 

10タイプのエイリアンの力が、一瞬だけ、彼の拳に灯る。

 

 

AFOは吸収のためベンにへばりついていた。それに加え、黒鞭による捕縛。

彼は攻撃を避ける必要が無かったのだ。だからこそ、吸収に全神経を注げた。

 

しかし今、当たるはずのない攻撃を当てる者が、眼前に迫る。

 

黒鞭を縮ませた反動で、AFOの真上に来た緑谷。

 

彼が放つのは、全身全霊の、未来のための一撃。

 

その拳に、神野でのオールマイトの影が見える。

血を吐き散らしながら、皆の期待に応える、憎きヒーローの影が。

 

「この…オールマイトの…亡霊がぁぁぁ!!」

 

しかしそのセリフは間違っている。今の緑谷は、この瞬間だけ、オールマイトを超していた。

 

師匠の力と、親友の力。最も信頼できる者達に託されたその拳を、振りぬく。

 

OMNIVERSE SMAAASSH!!!!(オムニバス スマッシュ)!!!!!

 

DGOOOOOOOOOONN!!!

 

超高出力、超多数能力を乗せた拳を顔面に叩きつけられたAFO。

 

ベンにまとわりつく複製椀は全て引きはがされ、地面へと墜落。

 

パンチそのものは、自身のエイリアンDNAで相殺することで致命傷には至らなかった。

 

が、その処理が、その数秒が命取り。

ゴーストフリークの幽体化が一瞬解ける。

 

上空には3本のリングを、重ねたベン。

 

「ほんっと!!イズクは最高の親友だよ!!!」

過去と、未来と、今。

 

全てのオムニトリックスが彼に共鳴する。

 

黒、白、緑のリング。最も大きな黒色のリングに、それぞれ白と緑色のリングが重なっていく。

 

エイリアンXによる想像実現能力を、3重に合わせた技。

 

その名も、

 

10(テン)TEN(テン)!!(テン)!!!」

 

FRASSHHHHHH!!!!

 

太陽のような熱と、月夜のような冷たさを持つ、ただ美しい白光が、AFOを包む。

屋根のない小部屋のような世界。周囲には黒嵐が吹き荒れ、不安定な世界。

そこに立つのは、

「今度は、イズクも来たね」

 

「こ、ここは確か…OFAのせか」

 

「いいや、ここは僕の世界だ!!」

 

ベンと、緑谷と、異形のAFOだった。今度は、全員が外での世界と同じ姿。

悍ましい姿のAFOに、ベンは尋ねる。

 

「なぁ、AFO。お前は一体、何がしたかったんだ?」

 

緑谷の質問と似て非なるもの。”なぜそんなひどいことができる”という趣旨ではなく、純粋な疑問だ。

子どものような質問に、苛立ちながらAFOは答える。

 

「またその質問か。ヒーローはすぐに自分を基準に考える。君らと同じだ。ただ、憧れたんだ。魔王にね」

 

落ち込むようなAFOに、緑谷は憤る。

 

「ふざけるな…どれだけの人が犠牲になったんだと思ってる!!」

 

「仕方ないさ。僕だって心苦しいんだぜ。だけど、僕の夢のために、彼らには散ってもらった」

 

「その中には、死柄木だっている」

 

「ああ。弔か。彼は、僕の器になってもらうためだけに作ったんだ。」

 

「…ッ!!」

 

憤る緑谷を、ベンは腕で制止する。それを見て嬉しそうに、AFOは吐き出す。

 

「君らがヒーローに憧れたように、僕は魔王に憧れた。残虐非道で、世界を転がすことができる、最高の魔王にね。だのに、オールマイトは、それを阻んだ。自分の理解出来ない価値観を悪と断罪する。君らこそ紛れもない敵じゃないのかい?」

 

愉快に笑うAFOに、ベンは冷静に答える。

「むやみやたらに他人を傷つける。だからお前は敵なんだよ。」

 

「そうかい…じゃあ仕方がないね。だがそれでどうする?確かに緑谷出久の攻撃はきいたよ。まだ頬が痺れてる。」

 

痛がるように頬を摩る。

 

「だが、それだけだ。二度はない。そしてテニスン君。君は僕に傷一つ付けられない。力が足りず、あるいは使いこなせない君たちじゃ、もう僕には勝てない!!」

 

体の異形化を進行させようと力むAFOを、哀れに思うベン。

 

「あっそ…」

 

「…あ?」

 

ベンの言葉と同時に、彼の異形の右腕が灰になる。

その化け物の殻から出てきたのは、死柄木の右腕だった。

 

異空間とはいえあり得ぬ事態。ここまできてようやく気づく。ベンが最後に放った白い光の効果に。

「ま、まて!まさか!!」

 

「確かにボクはお前を傷つけることはできない。セレナとの約束だから。だけど、2人はこれで納得してくれた」

 

その瞬間、その空間に2つの仮面が現れる。突然の介入者に焦るAFO。

 

「誰だ貴様らは!」

 

「我が名はベリカス。エイリアンXの自我だ」

「私はセレナ。エイリアンXの自我よ。だけど、ベン。」

 

「本当にお前は残虐だ。」

「本当にあなたは寛容だわ。」

2人は声をそろえる。

 

「「【AFOから個性を奪う】とはね!」」

 

その憤怒の顔は、悪の魔王のように、低く笑う。

 

「個性やエイリアンの力で未来永劫世界を支配しようとしたものから、個性のみを奪う。そして、その個性に根付いたその意識まで抹消するとは!」

 

その逆に、セレナは慈愛の女神のように微笑む。

 

「人間なんて、元々【個性】を持たない存在。幾多もの命を奪ったAFOを、普通の人間に戻してあげるだけなんて!」

再び、2つの自我は声をあげる。

 

「なんて酷いんだベンは!」

「なんて優しいのかしらベンは!」

 

たったそれだけを言って仮面たちは消えていった。

 

たったそれだけを言うために彼らはこの世界に介入してきた。その力に、緑谷は少し恐怖した。

 

同様にベンも彼らを好ましくは思っていないが、力を貸してもらった身。軽く手を振る。

 

そして、頭の後ろに手をもってきて、軽く。

 

「ってことで、君の夢は終わりだよ、AFO。」

 

「ふざけるな、ふざけるな!!僕は、僕の力は僕のものだ!誰にも奪われることのない!」

 

彼の左半身が灰となり、ただの人間の体が見える。

 

「その体まで奪っておいて、よくいうよ。タルタロスには本体までいる癖に!!しっかりそこで反省しろ!!」

 

ベンの言葉を契機に、彼の全身は灰になっていく。

 

「僕の、僕の夢がぁぁぁっぁぁぁぁ!!」

 

山のような灰だけがそこに残る。かと思えば、

白髪の、蕁麻疹の出た青年が埋もれていた。

 

それが誰か確認した緑谷は、

 

「…終わったんだね」

緑谷は小さくつぶやく。ようやく、その宿命を果たせたのだ。【AFOを討つ】というOFAの宿命。

 

9代に渡る宿願が、今、叶えられた。安堵と感謝の気持ちをベンに伝えようとする。

 

が、ベンの顔は浮かない。

 

「いやー…それがさ…ボクが戻れるかわかんないんだよね」

 

「え?」

 

意味が分からない。戻れるとは、現実世界のことだろう。この世界は今にも崩壊寸前。すぐに戻れるはずなのに…

?顔の緑谷に、バツが悪そうに説明するベン。

 

「さっきのお面のやつらにさ、【お前は自分達(エイリアンⅩ)の世界に残れ】って言われてさ。なんとか逃げたいんだけど、できるかわっかんないんだよね…」

 

珍しく弱気なベン。それだけ彼らの力が脅威なのだろう。その力は緑谷も目の当たりにしたから知っている。

 

だが、それでも、

 

「せっかく倒したのに!ベン君の無実だって…!!」

 

「ま、とりあえず、じゃあね」

 

手をふらりと振ると、ベンは闇に消えていく。

 

「ベンく…!!!!」

 

「ん…!!?」

 

意識が覚醒する。視界にはきれいな青空。

 

あの意識の世界から戻ってきたのだ。

体が痛い。起き上がることすらできない。

 

「ベン君!!!!」

 

しかしそれでも呼びかける。激痛など忘れ、ただ、親友の名を。

 

彼の眼前にはエイリアンXが仁王立ちしていた。

彼は直立したまま一歩動かない。

 

もしかしたら、あれが最後の…

 

最悪を想起した時、

 

QWANN!!

 

いつもの音と、光が発される。

 

変身が解かれたかと思うと、

少年の姿が見える。

 

彼は、バタリと、あおむけに倒れる。

 

未だ返事がない。

 

「べ…!」

 

駆け寄ろうとしたとき、

 

仰向けに倒れた彼は、

 

首をこちらに向け、

 

ニカッと笑いながら、

 

ピースサインを掲げていた。

 

 




・色々とわかりづらい展開、描写があったかもしれないので、そこは感想欄で!
・次回、最終話!!


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最終話 ボクのエイリアンヒーローアカデミア!

「っっっっつっかれたー!!!!!」

 

グインと伸びをするベン。変装は解除されており、元の10歳の姿に。

 

寝そべるのは瓦礫であり、本来ならば落ち着けるような場所ではない。

 

が、今の彼にとっては最高の布団だろう。

 

最凶最悪の敵であり、日本をこのような惨状に陥れた元凶を叩いたのだから。精神的安寧を手に入れた彼には、どのような悪状況も天国に思えるだろう。

 

そしてそれは緑谷も同じ。

ベンに追従するように、彼もほっと息を入れる。ジャリ、と音を立てて、ゆっくり歩き、手を差し出す。

 

「ほんと…よかった…ベン君も戻ってこれて…そういえばさっきはなんであんなことを?」

 

あんなこと、とは、OFAの世界でベンが発した言葉である。

 

”もしかしたら自分は帰れないかもしれない。”

 

その言葉の真意を尋ねると、ベンはあっけらかんと答える。

 

「ああ、さっき変なお面のおじさんとおばさん居たじゃん?」

 

「う、うん」

 

「あいつらがさ、ボクをエイリアンXの中に閉じ込めようとしたんだよ。自分らの議論を終わらせるには、お前が必要だって」

 

「ええ!?」

 

「ま、なんとか抜け出してきたけどね。もうあいつらには頼らない。ほんと、こりごりだよ。」

 

肩をすくめるベンは珍しく辟易している。自由を制限されることを何よりも嫌う彼からすると、当然かもしれない。

 

そして、差し出された手を取り、ベンは立ち上がる。そこであることに気づく。

「そういやイズク、ユニトリックスは…」

 

そう。緑谷の左手に巻き付いている変身端末。

アズマスからの贈り物。

 

時計に目を向けると、緑谷の顔は少し暗くなる。

 

「うん…」

 

ガチャリ、と地面に落ちるユニトリックス。

ダイヤルは外れ、画面は真っ二つに割れている。

見るまでもなく、使用不可能な状態。

 

たった一回で壊れたユニトリックス。その原因は、緑谷の使用方法にある。

 

彼は、多数のエイリアンの力を引き出すために、アップグレードで改良、いや改造を施した。

 

装置自体がギリギリのバランスで成り立っていた為、彼の無茶な使用法で、その天秤が崩れたのだろう。

 

無残に地に落ちたそれは、最新鋭の兵器ではなく、もはやただのガラクタだった。

 

「これ…どうしよう…」

 

「あははっ!アズマスに怒られるね!」

 

「そ、そんな…!確かに僕も無茶な使い方したけど!!」

 

「アズマスは面倒くさいぞぉ。この半年の間で何回『愚か者』って言われたか」

 

「僕も言われたよ…そういえば、()()()()では明らかにオールマイトを待ってたな…オールマイトとアズマス博士がなんで知り合いなんだ…」

 

「そんなの知らな…いや、待てよ?じーちゃんがなんかそれっぽいことを…そういえばアズマスがオムニトリックスを作ったきっかけって確か…」

 

思い出そうにも夏休みより前の話。すぐには思い出せない。

 

記憶力が良いとはお世辞にも言えないベンが、必死にその思い出を掘り起こそうとしたとき、

 

BOOOOONN!!

 

「…生存者発見!!君は確か…!!」

 

空から現れたのは、エンデヴァー率いるヒーロー達だった。

 

「エンデヴァー!!!」

 

「…緑谷君か。」

 

体育祭以来の再会に、緑谷はかしこまる。

 

「は、はい!!覚えて頂いて光栄です!!」

 

「そして、そこにいるのは…」

 

エンデヴァーは当然、緑谷の隣にいたベンに反応する。

緑谷は彼が指名手配されていることを思い出し、弁解しようとする。

 

「ちがうんです!彼は敵ではありません!!」

 

慌てる緑谷と対照的に、冷静な面持ちのエンデヴァー。

 

「うむ…そうか…」

 

予想外の反応に緑谷は拍子抜けする。

 

エンデヴァーがすぐにベンを受け入れたのには2つの理由がある。

 

一つ目は、彼と同じ姿の者が、雄英その他危険区域で戦ってくれたから。

二つ目は、

 

「緑谷!テニスン!!」

 

ベンのクラスメイトである息子が、潔白を訴えていたから。

 

エンデヴァーに遅れて到着したのは轟。そして、

 

「はっ!!ボロボロじゃねぇかくそナードども!!!敵の親玉は本当に倒せたんか!?」

 

現着するなり悪態をつく爆豪だった。

 

「轟君!かっちゃん!!!!」

 

クラスメイトの登場に、緑谷は顔を綻ばせる。当然、ベンも。

 

「おっそいんだけど!特にカッチャン!アルビード監獄に入れたらすぐに来てくれると思ったのに!!」

 

「ああ!?場所も教えねぇで勝手に飛びやがって!分かるわけねぇだろが!」

 

「ふぅん…まあ?カッチャンのスピードじゃあ、日本全国を飛び回るなんて無理だもんねぇ。ごめんごめん」

 

「ぶっ殺すぞくそチビがぁ!!」

 

まるで子どもの喧嘩。

A組で最も煽り耐性の低い2人。当然、売り言葉に買い言葉で喧嘩になる。

彼らの言い合いは、周囲を呆れさせるほど続く。

 

さすがにと、エンデヴァーの仲裁が入る。そして、拳藤やその他の人間に目を向け、

 

「おい。ガキじゃあないんだ。負傷者も多い。直ちにセントラルへ運ぶぞ。」

 

「はい!」

「わかった」

「っっち!!!」

 

緑谷、爆豪、轟。3人がそれぞれ返事をして、エンデヴァーの元へ歩く。

 

が、1人だけ足を動かさない。

 

「ベン君?」

 

立ち止まったベンを不思議に思い、緑谷が尋ねた瞬間、

 

ZBUUUUUMM!!

 

次元に亀裂が入る。

 

「うわぁっ!?」

 

と声を出す緑谷に比べ、エンデヴァーはそこまで驚かない。

なぜなら先ほども見たから。

 

この次元の渦は、間違いなく、()()()()()だ。

 

「お、来た来た」

 

エンデヴァー同様、落ち着いているベン。

渦巻く次元が開くと、中からは複数の人間が姿を現す。

 

「終わったみたいね」

「エイリアンX使えたの!?すごいね」

「エイリアンX?誰それ?新しいエイリアン?」

 

思うがままに発言するのは、パラレルワールドのベン達。

 

緑谷は雄英で治療を受けた後、AFOの復活を知って直ぐに駆け付けた。そのため、多次元のベン達が戦っていたことを知らない。

 

“ベン”が何人もいることに驚く緑谷だったが、さらに渦の中から出てきた()()()に、彼は目を丸くする。

 

「ぼ、僕?」

 

緑色の天然パーマ。印象的なそばかす。そして、平時は自身なさげな顔。

それは紛れもなく、緑谷出久だった。

 

「こ、こんにちは。僕、緑谷出久っていいます」

 

「あ、いや、こ、こちらこそ…僕も緑谷出久です…」

 

ワープゲートの中にいる彼。その体の線は自分よりも幾分か細い。初めて自分を目の前にして驚いている緑谷だったが、観察力に長けた彼は()()に気づく。

 

「そ、それ!」

 

緑谷が指さしたのは、手首の時計だった。

 

「う、うん。僕は、オムニトリックスを持ってるんだ。君みたいに、OFAは持ってないけどね」

 

「ええ!?な、なのになんでOFAを知ってるの…」

 

「そりゃぁ、ボクが教えたからさ!」

 

彼らの間に割って入ったのは、筋骨隆々の高校生。こちらの()とは似ても似つかない。

 

が、その瞳で正体が分かった。

 

「もしかして、ベン君?」

 

「大正解!なんていうか、この世界とボクの世界、逆転してるっぽいんだよね!だから、()()O()F()A()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ま、色々新鮮だったよ!」

 

意気揚々と話す向こうのベン。

 

緑谷もユニトリックスを使いはしたが、あれはあくまでエイリアンの力を引き出すもの。エイリアンそのものに変身できるわけではない。

 

どんな感じなんだろう。

向こうの緑谷が少しだけ羨ましく感じ、

そう質問しようとしたとき、

 

「おしゃべりはそれくらいでよろしいかな?」

 

彼らの話を遮るのはパラドクス博士だった。

 

「そろそろ次元トラベルも幕引きだ。なすべきことを為した今、次にやるべきは己の爪を研ぐことだ。」

 

彼の言葉で、こちらの世界のベンはため息をつく。

そして、ワープゲートの元へ歩を進める。

 

彼の動きにギョッとしたのは

 

「ベン君!?」

「テニスン…?」

「何してんだクソチビ!」

 

クラスメイトの緑谷、轟、爆豪。

 

ワープゲートに半身を入れたベンはくるりと振り返る。

物憂げな顔。だが、すぐに切り替えて、笑顔で彼は話す。

 

「まだ、やることがあるんだよね。ま、皆によろしく!」

 

それだけを言い残して、彼はゲートに飲まれていった。

「皆さんこんばんは。()()()()()()、ニュースサンデーの時間となりました。司会は私、報瀬 全子(しらせ ぜんこ)が担当いたします。当番組では、昨今のニュースを私が一通り触れた後、パネラーの皆様で意見を交えると言った形式をとっております。パネラーの松田さん、ヴィーラさん、新多さん、よろしくお願いします。」

 

「よろしゅうな!」

「よろしくお願い致しますわ」

「よろしくお願いします」

 

 

「なお、昨今のニュースと述べましたが、今週は先の敵襲撃関連のものに限られますが、ご理解願います。

 

まず第1のニュースですが、約2か月前に起きた【超常異形戦争】。黎明期を含め、日本で最も死者を出したこの戦い。

 

戦火により、日本全土は壊滅状況に至りましたが、本日付けで、その復興率は85%を上回りました。大変喜ばしいことですね。

 

この復興率の要因は、ヒーロー、市民の方々の助力はもちろんですが、謎の異形系が常に被災地に現れ、瞬く間に現地を回復させていったことが大きなものであるとのことです」

 

「そして第2のニュースです。全国指名手配されていた、雄英高校ヒーロー科 1年A組ベン=テニスン君ですが、昨日、その解除がなされました。

 

これについて警察は、“私たちの不徳の致すところでありました。本人には早急の謝罪に向かう予定です。”とコメントしています。

 

神野区でオールマイトを殺傷し、エイリアンであると発言した人物については、敵連合の人員であり、コピー個性を有した者の犯行であると警察は発表しました。その者については身柄を拘束し、敵連合やAFOとともに、対個性最高警備拘置所 通称タルタロスに収監されているとのことです。」

 

「以上、この半年でのニュースでした。それでは皆さん、どうぞ」

 

「おおきにな。全子ちゃん!にしても…見とったで!あんたが戦争を中継しよるの!よく生きて帰ってこれたなぁ!」

 

「それが私の仕事ですので」

 

「いやいや!仕事に命を懸けるなんて、そうできることちゃうで!」

 

「確かに彼女はすごいわ。けれど、早く本題に入るべきでなくて?時間は有限なのよ?」

 

「ったく、おまえさんはほんまコミュニケーションをわかっとらんな!まあええわ。どう考えても今回のお題は一つや」

 

「ええそうね。」

 

「「エイリアンは実在したのかや」ですわ」

 

「というと?」

 

「ええか?神野区でテニスン君が“エイリアンは居る!”と発言したやろ。これだけやったら、ただのイカれたクソ野郎で済む。ただ、その後、DNAリアンっちゅう()()()()()()()()が出てきたやろ?そして、なんといっても敵連合の異形化。これらんことから、エイリアンは存在して、その力を敵連合は借りてたんじゃないかって思えるんや!」

 

「話を聞いていましたの?テニスン君はコピー元であっただけ。犯罪者の名はアルビードよ。それに、DNAリアンの正体は我々一般人。もう少し口に気をつけてくださらないかしら」

 

「そりゃすんまへん。ほな、あんたはエイリアンが存在しないと思とるんか?」

 

「いいえ。わたくしも存在すると思いますわ。ですが、これはあなたのような憶測ではなくて、科学に基づいた話です。」

 

「科学ぅ?」

 

「ええ。私は個性研究チームを携えておりますが、先日の戦争で、偶然敵連合のDNAを採取できましたの。血液からは、その人物の個性が分かりますわね?検査をした結果、個性因子ともうひとつ、別の因子が発見されましたの。」

「別の因子?」

 

「ええ。個性因子と似ており、身体組成を構築する設計図のようなもの。ですが、個性因子よりも遥かに活性的で、なおかつその規模がケタ違いのDNAですわ。

 

普通の個性因子は、とある器官、例えば“ふくらはぎ”や“脳”などに特殊能力を発現させるもの。しかしそれは、体全身に特殊能力を開花させるものでした。我々のチームはこの因子をA‐因子と呼ぶことにしました。」

 

「なんや…難しい話やなァ。兄ちゃんはどう思う?」

 

「そうですね。僕は…エイリアンなんていないと思っているので。」

 

「ほぉん。それはなんで」

 

「なんでと言われましても…そもそも信じているあなたたちが珍しいというか。政府だって公言してるじゃないですか。“敵連合やDNAリアンは、違法薬物による長期的、超過的なドーピングをした結果、その体質が変化したものである”って。なのに、エイリアンがエイリアンがって、陰謀論を信じるなんて、どうかしてますよ。」

 

「あら、こちらには血液検査による証明もあるのよ?」

 

「それだって、違法薬物で個性因子が混線、変質しただけなんじゃないですか?実際、ヒューマライズと呼ばれる団体はそれっぽい(違法薬物)ものを持ってますし。」

 

「なんやて!?…そういえば、ヒューマライズと異星概観…なんやっけ?まあそいつらがぶつかった!みたいな噂を聞いたなぁ…」

 

「異星概観信仰派ですわ。まあ、当然と言えば当然でしょう。

 

『自身らはエイリアンなのだから、個性や異形系を認め、力を自由に使うべき』だと主張するのが彼ら。

 

その逆に、『人間らしさを取り戻すため、個性そのものをなくそう』としているのがヒューマライズ。戦争を起こすのも時間の問題と思っていますわ」

 

「せやなぁ…って何の話や。それより兄ちゃん!あんた、本当にエイリアンがおらんと思っているんか!?」

「だから、それが普通ですって」

 

「じゃあ、復興の時全国に現れた()()!あれはどう思ってるんや!」

 

「“あれ”とは、全国各地に現れた異形系のことですね。」

 

「そ、それは…別に、ただの自警団なんじゃぁないですか?」

 

「あんな自警団おるか!異形系ちゅうことは常にあの体ってことや。それならどこのだれで、どこで生まれ育ったのかは、調べればすぐわかる。やのに、あの自警団は一切素性が割れんかった!もうこれは、宇宙から来た、善意のエイリアンに決まっとる!」

 

「いや、けど、それじゃあ‥!!!」

「失礼します。議論も白熱してきたところですが、番組終了のお時間です。今日は皆さんに“エイリアンが存在するのか”というお話をして頂きました。」

 

「全子ちゃん!全子ちゃんはどうなんや!?」

 

「私は司会ですので…ですが、私個人の意見としては…いたら嬉しいかもしれません」

 

小さく笑いながらこそっと話す。そして、咳を一つ入れると、

 

「コホン。最後に、嬉しいお知らせで当番組を締めくくろうと思います。明日6月1日。ヒーロー育成機関最高峰 雄英高校が復校します。

 

ヒーローを目指す皆、頑張って!!」

「やっと学校が始まるぜウェイ!!!」

 

教室内ではしゃぐ上鳴。普段ならば誰かしらが“うるさい”と注意するのだが、今日に限っては誰も咎めない。それもそうだろう。

 

決戦から約2か月。戦場となったここ雄英も、ようやく授業が始められる体制となった。

寮では顔を合わせていたが、教室でゆるっと雑談するのとはやはり違う。どこかこう、普通の高校生活らしさがあるのだ。

 

「にしても、あの演説していたのが偽物だったなんてよ!コピー個性…だっけ?」

 

「昨日のサンデー見たんだろ!?報瀬アナ最高だったよな!ラストは特に可愛かったし!もしオイラがコピーするなら報瀬アナに変身して…・グフフフ」

 

「あんたの場合、コピーされて入れ替わった方がいいかもね。」

 

峰田が身を捩らせると、耳朗が肘をつきながら軽口を飛ばす。

 

いつものA組の会話。

のようだったが、その話題の中心は、自然とこの場にいない者に集約される。

 

「そういえば、エイリアンって、結局のところいたのかなぁ?」

 

「どっちだろうな。まあ、政府や公安は“有り得ない”って言ってるけど‥」

 

峰田の素朴な疑問に、切島が答える。

 

「まあそうだけどよ…じゃあテニスンがどうだって話だよ」

 

「…」

 

「敵連合の襲撃から一か月までさ、全国に異形系がめちゃくちゃ出たじゃん。全部が全部、姿かたちが違ったけど、復興を手伝う善良な異形。あれ…絶対テニスンだろ?」

 

峰田の同意を誘うような言葉にうなづく尾白。

 

「まあ、()()()()()着いてたしな。あと、インタビューでの答え方も間違いなくあいつだよ」

 

彼らが思い出すのは、寮で見ていたニュース。

 

見たこともない、狼型の異形や、ミイラ型、あるいは…それらが日に一度はニュースに取り上げられていた。それぞれ、体躯も口調もまるで異なるが、そのうちの一体がこう言っていた。

 

【俺がエイリアンかって?そうだな…ただのエイリアンじゃあない。エイリアンヒーローだ。そこんとこ、よろしく!】

 

「エイリアンでもあたしは気にしないけど…テニスン…帰ってこないもんね。ここ一か月はエイリアンの方も見ないし…」

 

芦戸の言う通り、決戦から1か月は被災地に現れていたエイリアンだったが、ここ一か月は鳴りを潜めている。

 

ベンを心配するセリフを、隣の席で聞いた爆豪はあることを思い出す。

 

そして同様に思い出した轟はそのことを口にだす。

 

「そういや、テニスンのやつ、しばらくアメリカに居たって言ってたな。」

 

「「「「アメリカぁ!!!?」」」」

 

唐突な情報に驚くクラスメイト。だが、葉隠がポツリと、

 

「でも仕方ないよ。テニスン君のこと、まだ敵だって思っている人だっているし…」

 

彼女の言う通り、ベンのことを目の敵にするものは少なくない。

 

報道では、エイリアンの宣言をなした人物は、コピーすることに長けた脳無であり、ベン=テニスンは敵連合に誘拐された際にコピーされた、とされている。

 

しかし、国民は“なぁんだ”では済まさなかった。

 

同じ教室で半年過ごした者ならともかく、ただの高校一年生としか知らない者達からすると、やはり彼を疑ってしまう。

 

顔が見えるところでは、“ベン=テニスンは被害者”だと皆が言う。が、その裏では、

【元々敵気質だった】

【洗脳されている】

あるいは

【エイリアンである】

と主張する者は、後を絶たない。

 

「こんな中、日本にいるのは確かにきついもんなァ」

 

湿っぽい空気になる中で、峰田は少しでもポジティブな情報を出させようと、緑谷に話を振る。

 

「緑谷!お前何か知らないのか!?最後、死柄木を倒したのってお前とテニスンなんだろ!?」

 

「え!?いや、っっ確かに…うん…」

 

緑谷は思い出す。

 

最後の“皆によろしく”という言葉。

 

あの言葉には、もう戻らないから、という意図が含まれていたのではないか。

 

だが、これを伝えるのは気が引ける。なぜならば、皆の気持ちが分かるから。

 

ベンは日本を救ってくれた。そんな彼が、姿も見せず消えることは皆望んでない。

 

自身の願望を混ぜながら、言葉を紡ぐ。

丁寧に、それでいて、明るく。元気に。

 

「だ、大丈夫!絶対にベン君は帰ってくるよ!!ぜっ」

 

ガラリ

 

瞬間、教室が鎮まる。

 

「あっぶな。ふぃ~。遅刻ギリギリセーフ」

 

なぜなら、渦中のベンが、何事もなかったように教室の扉を開けたから。

 

【えええええええええ!!!!???】

 

「ちょ、皆うるさいっての!何!?」

 

「テテテテテテテテニスン!?なんで!」

「アメリカに行ったんじゃ!!!」

 

目を丸く、そして飛びださせながら前に出てくるクラスメイト。

彼らに対し、あっけらかんとベンは答える。

 

「へ?ああ、まあね。そうだ。聞く?ボクの()()()でのヒーロー話!」

 

「はぁ?!」

 

「アメリカのヒーローでさ、トクベツジュヨケンゲンってのを持ってる人がいてさ。その人から、アメリカでのヒーロー活動許してもらってたんだよ。ほら、ボクじーちゃん向こうにいるし。それに…」

 

胸を張り、ふふんと

 

「ボク、世界で一番強いみたいだから!」

 

「こ、こいつ!前よりもうざくなってる!」

「アメリカでヒーロー活動ってすごーい!」

 

クラスメイトごとに異なる反応を受けながら、ベンは詰め寄られる。

 

彼らの熱い視線をうけ、

さあ、土産話だと言わんばかりに異国での活躍を語ろうとしたところで、

 

「うるさいぞ。席に着けお前ら。」

 

相澤登場。林間合宿、雄英襲撃。両方の戦闘で重傷を負った彼だったが、その傷もだいぶ癒えたようだ。

 

「「先生!!」」

 

ぬるりと登場した相澤は、ベンを一瞥した後、

「とりあえず、全員席に着け。全員だ」

「えー。先の敵侵攻。みんな、良く戦ってくれた。直接戦闘に及んだ者、そうでない者。いずれにしても、君たちのおかげでこの国は守られたと言っても過言ではない。まず、一ヒーローとして感謝する。ありがとう」

 

深々と頭を下げる担任。その姿にギョッとする。生徒。なかでも驚いたベンは、

 

「どうしたの先生。めちゃくちゃ褒めるじゃん。」

 

と、あえて茶化す。

 

するとすかさず、捕縛布が彼を襲う。

 

ギリギリ!!

 

「アイタタタ!ジョーダン!ジョーダンじゃん!」

 

「次やったら除籍するぞ…まあ、そんな頑張ってくれた君たちに朗報です。」

 

スッと扉に目線をやる。と、

 

OPENN!!

 

「私がァァァァケガから復帰して来た!!!」

 

壊れんばかりに扉をスライドさせたのはオールマイトだった。その姿は、痩せこけて、全身に包帯を巻いている。

 

が、それでも、杖も持たず、他者の力も借りず、自分の足で立っていた

 

「「「オオ――ルマイトォォォォ!!!」」」

 

彼の登場に、ベンが帰ってきたことと同じくらい驚くクラスメイト。口をパクパクさせるものもいれば、万歳三唱する者。

 

なかには、涙する者もいた。

 

「はぁーーはぁっはっは!!!皆、聞いたぞ!私が眠りこけている間に、日本を救ったと!!本当に、君たちは、最高のヒーローだ!!!!」

 

オールマイトの視線は、唯一彼の登場に驚いていないベンに向かう。

 

そして、小さくウインクする。まるで、何かにお礼するように。

 

2人の様子を見て、緑谷は涙をこぼす。彼を治したのはベンだと、そう確信して。

 

嬉しさのあまり涙する親友を見て、ベンまで少し照れてしまう。

 

ポリポリと頭を掻きながら、

 

「大げさだなァ…」

 

と小さくつぶやいた。

 

オールマイトの復帰に喜ぶ皆々。

その騒ぎ具合を確認して、オールマイトは提案する。

「よしっ!!!じゃあ、みんなで今からお花見に…!!!」

 

「さて、色々と言うべきことは言ったし、授業に移る。」

 

が、至極冷静、超合理主義の彼に遮られる。

 

「あ、相澤君…」

 

「ただでさえ遅れているんです。合理的に行きます。えー…それでは」

 

オールマイトがシュンとしたのを無視して、相澤が黒板に何か書き始めた。

 

そのとき、

 

ZBUUUUUMM!!

 

空間が渦巻く。

 

「「「「!!!!???」」」」

 

得体のしれない渦に、生徒は恐怖する。

 

もしや敵の襲撃?

まだ戦争は終わってない!?

 

さきほどまでの騒ぎが嘘のように静まり返る。

が、皆と違い、緑谷だけは落ち着いていた。

 

なぜなら、知っているから。このゲートは誰のものなのか。そして、誰を呼ぶものなのか。

 

そして同様に、相澤とオールマイトは表情を変えない。

 

渦巻くゲートから見えたのは、赤い髪の女性。

 

「ベン!早く来て!アニモ博士が古代生物を復活させたわ!ケビンが今戦っ…やられたわ!」

 

同年代かそれ以上に見えた女性は、チョークを持った相澤に気づく。

 

「…あ、先生ごめんなさい…多分、すぐ終わるので…とにかくベン!早く来て!!」

 

それだけを言い残し、すぐにゲートの向こう側へ戻る。当然、未だ黄色のゲートは渦巻いている。

 

少しばかり溜息をつく相澤。

 

彼は、自分に視線を送るベンに、一言。

 

「早めの休み時間をやる。すぐに終わらせて来い。」

 

「はいはい。」

(ま、最初の数学はサボるけど)

 

「授業をサボってみろ。一発除籍と、USA.ヒーロー活動権限の剥奪を申請するからな。あくまで、お前の学びの場はここだ」

 

「げっ!?…わかってるよ…まあここが、ボクのエイリアンヒーローアカデミア、だからね!」

 

目を煌めかせ、、彼は左手首の時計を起動する。

 

QUIINN!

 

オムニトリックスは主の瞳色に光っている。

 

机の合間を歩き、ベンはゲートの前までくる。

 

その時、彼と同様の瞳を持つ緑谷は、ベンを呼び止める。

 

「ベン君!!」

 

ベン君は戦うのだろう。もう、彼は先へ行っている。だが、だからこそ、

(僕も追いついて見せる!)

 

その想いを込めて、拳を突き出す。

 

彼の応援に応えるように、ベンは口角を挙げ、得意げに笑う。

 

そして、少年の掌は、ボタンを強くたたく。

 

 

 

 

 

困っている人を救けるために。

 

 

 

 

ヒーローに成るために。

 

 

 

 

「さぁ!ヒーロータイムだ!!」

 

QBANN!!

 




・あとがきですが、近いうちに別のモノを挙げようと思います。
番外編の内容とか、本編でこれはこういうものだったとか‥
もし質問や番外編の要望があればぜひ感想欄で!

・とにかく、本当に、長い間、ありがとうございました!!!!!!


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あとがき、今後の展開

みなさまこんにちは。作者です。

 

本日に至るまで本作品をお読みくださってありがとうございました。皆様の感想や評価があったお陰で、最終話まで書ききることができました。今一度、お礼の言葉を述べさせていただきます。

 

本当にありがとうございました!

 

と、堅苦しい感じはさっさと終わり、今回のあとがきでは何を書くのかを述べようと思います。

 

ズバリ、今後の展開です。

 

今後の展開としては何パターン化あるんですよね。厚かましいのですが、それを読者様に決めて頂こうと思います。

 

1.今のルートのまま2年生篇(クラス替えあり)

2.今のベンが、本当のヒロアカ原作ルートへ介入しに行く。ちょうど、番外編でのベン的な立ち回り。

3.林間合宿でベンが攫われなかった世界線。

4.ヒロアカでの映画(3作いずれか)にベンを放り込む。

 

それぞれ説明していきます。といっても全部そのままではあるのですが(笑)

 

1.今のルートのまま2年生篇(クラス替えあり)

 

これは、エイリアン騒動を終えた本編のベンが2年生となる話です。始めに書くのはクラス対抗戦。原作のA組vs B組ではなく、クラス替えを行ったうえでおこないます。ぶっちゃけると、ベンVS緑谷です。チーム分けももう考えてます。その後は、オリジナル要素と原作ヒロアカイベントをつまんで進めていきます。ラスボスは…うん。よく考えるといくらでもいますね。

 

2.本編のベンが、本当のヒロアカ原作ルートへ介入しに行く。番外編でのベン的な立ち回り

 

こちらは本編のベンがマジのヒロアカ原作に放り込まれる話です。もちろんベンのことを知っている人はその世界に1人もいません。設定としては、人間のベンが変身していることを世間に知られてはならないということになります。つまり、立ち回りとしてはベン10原作のように、正体を隠して自警団として緑谷達を救けるといった感じです。スタートは番外編に繋がっており、ステイン戦終了後から始まります。物語の進め方的には、キーポイントを終えたら次に進む、つまり、飛び飛びになります。

 

3.林間合宿でベンが攫われなかった場合の世界線。

 

本編ではベンが攫われて、エイリアンDNAを採取されて、あるいはアルビードのせいで社会崩壊が早まりました。そこで、この世界線ではベンは誘拐されず、ウォッチもエイリアンフォース仕様にならないまま、仮免篇に突入といったものになります。基本的にヒロアカ原作を準えるつもりです。2との違いは、ベンが雄英メンバーとクラスメイトであるか否かですね。

 

4.ヒロアカでの映画(3作いずれか)にベンを放り込む。

 

そのままですね。ベンが誘拐された世界線か、それとも誘拐されなかった世界線でやるかは決めてません。

 

以上、4つの構想を練っています。後は読者さまがどれをお読みになりたいかです!アンケートもしくは感想欄で、どれを読みたいか是非お聞かせください!

 

 

…後、今後の参考にしたいので、本編の何章が面白かったかもできればお聞かせ願いたいです。よろしくお願いします!!

 

(A)雄英受験、入学

(B)戦闘訓練(緑谷、ベンVS轟、爆豪)

(C)GW

(D)USJ(ケビン戦)

(E)体育祭(ウォッチの故障)

(F)職業体験(オムニトリックスの秘密)

(G)期末試験(ゴーストフリーク、ねじれちゃん)

(H)林間合宿(ネガティブ10、フォーアームズマスキュラー)

(I)神野編(エイリアンフォース)

(J)終章

 

 



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新たな春

長らくお待たせいたしました。
ついに、やっと、1話目を書き終えました!!



ピピピピッ!!ピピピピッ!!ピピピピッ!!

 

「んも~…うるさいなぁ…」

 

けたたましく唸る目覚ましを寝ぼけ眼で止める少年。

 

が、

 

【08:25】

 

その針が指し示す時刻を理解すると、

 

「うげぇっっっ!!」

 

ベッドから跳ねあがる。

口を大きく開けたまま動かない彼に対し、部屋に入ってきた母は冷たく言い払う。

 

「何回起こしても起きなかったんだから。おとなしく怒られてきなさい」

 

今日は4月1日。

これまで長期休みだった学校もその門を開ける。

 

彼の家から学校までは電車で一時間。

今日から2年生というめでたい日に、彼は遅刻することが確定してしまう

 

普通ならば。

 

「…行ってきます」

 

バタン!

 

掃除機をかける母親を確認して玄関の戸を閉める。

 

彼の目の前には住宅街が広がっている。

 

扉を背に少年は辺りを見まわす。幸いと言っていいのか、周囲に人影は見当たらない。

 

キョロキョロと、まるでこれからイタズラするかのように、念入りに周囲を確認する。

 

そして、

 

「よし…これなら…」

 

そう呟いたかと思うと、少年は左手首に目をやる。

そこには、小さな緑色の腕時計が。

 

ニヤリと笑うと腕時計、

 

いや、

 

【ウォッチ】のダイヤルを回し始める。

 

すると、

 

QWAN

 

と音を立てて、ウォッチは3Dホログラムを映し出す。

そこに投影されていたのは、人型寄りだが、決して人ではない何か。

 

「遅刻することは悪いことだから、これは仕方ないよね!!」

 

言い訳するかのように叫んだかと思うと、

 

少年は右手を振り上げ、

 

そのダイヤルを

 

強くたたく。

 

QBANN!!!!!

 

緑色の光と、奇妙な音が、住宅街に広まった。

キーンコーンカーンコーン

 

ここは雄英高校。

4月1日の今日、ついに学校が再開する。

 

その始業のチャイムが鳴り響いているわけだが、

 

教壇に立っている浮浪者のような男はため息をつく。

 

「さて…今日から新しいクラスなわけだが…はぁ。一人いないな…」

 

おそらく教師だと思われる男の発言に、橙色の髪をサイドに束ねた女生徒が答える。

 

「あの…多分…」

 

「いや、誰かはわかっている。ただ、予想通り過ぎて驚いているだけだ。…遅刻者は放っておいて、はじめ…」

 

STOOPPPPPP!!!!

 

彼の言葉が終わる寸前、

ブレーキ音がしたかと思うと、

 

「セーフ!!!!!」

 

小型の恐竜が扉を開けた。

 

体の至る箇所に人工的な機器が付随している、青と黒に彩られた恐竜。

 

人語を解するディノサウルス?古代生物の改造?

 

いいや、ちがう。

 

「アウトだ、テニスン。色々とな」

 

QBANN!!!!!

 

さきほど同様、その音と緑色の光が周囲に広がると、

 

「…うそでしょ!?」

 

数か月前世界を救った、

そして、

たった今始業式に遅刻した少年、

 

ベン=テニスンが立っていた。

世界総人口の約8割が超常的な力:「個性」を持つ超人社会。

 

この世界では一般市民の他に、2種類の人間がいた。

 

まずはヒーロー。

超常的な力を駆使し、人々を救う、コミックさながらの存在。

 

その反対の存在、(ヴィラン)

超常的な力を、悪意あるいは本能に従って乱用し、社会に仇なす存在。

 

 

 

ここ、雄英高校はヒーロー育成校として日本トップクラスの教育機関である。ゆえに、敵に狙われる危険も少なくはない。

 

5月にはUSJへ、8月には林間合宿先への襲撃を受けたほどだ。

 

そして数か月前、その総仕上げと言わんばかりに、日本全土を揺るがす敵集団が現れた。

 

 

彼らはその身体に謎の改造を施し、個性を強化、あるいは複数の個性を保持していた。

 

当然、ヒーロー達も苦戦し、多くの者はその職を捨てた。

 

が、それでも諦めなかった者たちにより、敵連合のボス 死柄木弔の撃退に成功。

 

 

 

社会に再び安寧を保たらし、平和を取り戻した人物。

 

それが、

 

「ベン=テニスン。個性を公共の場で使うことは法律で禁止されている。つまりだ。遅刻するからといって己の個性をつかうなんて、その場しのぎにもならない愚行なんだ。分かるな?」

 

「けど他の人はガンガン使ってるじゃん…あと、いい加減この布…解いてくれない?首がしま…グエッ!」

 

担任から折檻を受けているこの少年 ベン=テニスンである。

 

隣のクラスに在籍する緑谷出久とともに、彼はAFOに支配された死柄木を救うことに成功。

 

そのまま死柄木率いる敵連合を監獄へと送った。

 

「お前の個性出力は一歩間違えれば周囲に迷惑がかかる。それすらわからないならとっとと辞めるんだな。」

 

ベン=テニスンの個性は【変身】。

 

自身の想像する変身体(エイリアン)に変身することができる。

その力は様々で、硬くなることも、速くなることも、強くなることもできる。

制限時間があるのがデメリット。

 

ということにしている。表向きには…

 

ベンを締め上げるのを止めると、男はだるそうに挨拶。

 

「さて…今日からこの2年A組の担任となった相澤消太です。よろしくね。」

抹消ヒーロー イレイザーヘッド。個性【抹消】を駆使し、裏で暗躍する犯罪者を取り締まるアングラ系ヒーロー。

 

現在は雄英高校で教鞭をとっており、去年までは1年A組の担任であった。

 

そんな彼は今現在、2年A組内で、今後の展望を話している。

 

「さて…今日から君たちは2年生になるわけだが…今後の課題は…」

 

「はい!!緊急時における個性使用許可証:通称仮免の取得です!!」

 

相澤の話を遮り元気よく答えるのは眼鏡を掛けた少年、飯田天哉。

 

「まだ話している途中だ。」

 

「も、申し訳ございません!!つい…」

 

「今飯田が言った通り、本来なら君たちには仮免取得のため、必殺技を学んでもらう予定だった。だが、」

 

前置きを入れる彼の言葉を生徒たちは反芻する。

 

【だが?】

 

「特例により、隣のB組含め、君たち全員に仮免が交付されることとなった。」

 

【…ええええええええ!!!???】

 

クラス中が目を見開き驚く。

 

無理もないだろう。

 

仮免取得試験は例年50%は落ちる。訓練されたものでさえ、半分は涙するのだ。

そんな貴重な仮免を、たかが高校2年生に交付するのは普通ではありえない。

 

「理由はだな…」

 

説明を入れようとする相澤に横やりを入れるのはベン。

 

「そんなの、ボクらが天才だからに決まってるじゃん!!まあ?ボクはもうUSAヒーロー免許は持ってるけどね!」

 

「ベン!!あんたは黙ってなさい!!」

 

ペシン!

 

調子に乗った彼を、姉御肌の拳藤は平手で諫める。

 

「あいた!なんだよ!」

 

「今はまじめな話してんの…先生…もしかして、ヒーローの不足…のせいですか?」

 

拳藤の指摘は鋭かった。

 

先の戦争により、ヒーローは激減していた。

 

一時期は避難所でしか息が出来ない生活を強いられた日本。

皆の怒りは日に日に溜まっていき、その矛先はヒーローに向かうこともままあった。

 

それだけではない。

 

これまでは命が係わるような事件はそうなかった。

 

一定の能力ある者なら、楽に、効率よく、自尊心を満たしながら高所得をめざせる職業。それがヒーローだった。

 

 

が、敵連合の傀儡である脳無や他の化け物(DNAリアン)が町を闊歩するようになってからは、常に死と隣り合わせの職となった。

 

そのため、ランキングの上位下位にかからわず、ヒーローを辞める者が続出したのだ。

 

 

 

現在は戦争以前の生活レベルに回帰してはいるが、辞めたヒーローが戻ってくることはほとんどなかった。

 

ゆえに、拳藤の【仮免交付はヒーロー候補生を少しでも早くヒーローにするため】という予想は、公安の意図をほぼほぼ当てていた。

 

彼女の指摘に対し、

 

「ま…大体あっていると思う。」

 

頭をポリポリと掻きながら首肯する相澤に皆は落胆する。

 

 

自分達の実力が認められたわけではない。ただ、早くヒーローにするための特別な措置。

この仮免は、本来の意味での仮免ではないと言われた気がしたのだ。

 

若干項垂れるクラスの者。まじめなものほどこの事実を重く受け止めていた。

彼らの憂いた表情を見て、相澤は目を細める。

 

そして、前髪を掻き上げながら、

 

「だが、それだけじゃあない。」

 

鼓舞する。

 

「君たちはこの半年で、それこそ何年分もの経験値を得たと思う。死と隣り合わせの状況下でも、よく俺たちをサポートしてくれた」

 

いや、彼にとっては鼓舞ではないのだろう。ただ、事実を述べているだけなのだ。

 

「だから、この仮免交付は」

 

ニヤリと笑い彼は、

 

「合理的だ」

 

そう言った

 

珍しく笑った相澤に元A組は感動を覚える。彼が自分たちを真っ向から認めてくれるのは珍しい。思わず胸を震わせた。

 

しかしその逆に、元B組である宍田はやや冷静に尋ねる。

 

「イレイザーヘッド!それではこれからの我々の目標はなんでしょうか!」

 

「ああ…君たちは仮免を取得したわけだが…

未だ組織化されている敵に対して、君たち一人で挑むには早すぎる。

そこでだ…」

ここは運動場γ。運動場、といっても普通のそれではない。

 

一つの町を覆えるほどの広大な土地。その一角を担う、工場地帯を模した戦闘訓練場。

それが運動場γである

 

「で、結局今から何するんだっけ?」

 

まるで話を聞いていなかったと思える発言をしたのはまたもやベン。

時計をいじりながら呟く彼に対し、

 

「あんた、さっきまで何聞いてたの。チーム戦よチーム戦。」

 

彼の姉役となっている拳藤が答える。

 

今後ベン達が目標とするのは【インターン活動】。

 

プロヒーローの事務所に赴き、実際のサイドキック同様就労するのだ

 

プロは常に複数人で動く。あらゆる事象に対応するために。

 

もちろん一人ですべてをこなせることは素晴らしいし、理想的である。

 

だが、万人がそうなれるとは限らない。誰もが引退したオールマイトのように、天才ではないのだ。

 

だからこそ組織で動き、より多くの人を救う。

それが現代のプロヒーローなのだ。

 

当然、インターンに参加する彼らも、その域に達さなければならない。

 

近年凶暴化する敵対策として戦闘力強化。

インターンのための連携力強化。

 

その両方を鍛えるためのチーム戦だった。

 

さらに、合理主義者である相澤の意図はそこに留まらない。

クラス対抗戦にすることで、学年全体の結束力を上げるとともに、クラス内の自己紹介をも兼ねるのだ。

 

その意図を全てくみ取り、事細かにベンに説明する拳藤。

 

体育祭からの短い付き合いだが、濃密な時間を送った彼らには、見えない絆が結ばれている。

 

主に矢印が出ているのは拳藤からだが。

 

「ふーん。で、相手は?」

 

拳藤の丁寧な説明に対し、まるで興味を示さないベン。彼の好奇心は未だ手首の時計だ。

 

「僕達だよ」

 

が、その声が聞こえたことで態度は一変する、

 

ベン達の前にいるのは、緑谷と心操。

 

「イズク!!とヒトシ!?」

 

「クラスは別れちゃったけど、授業は一緒みたいだね」

 

中学3年で出会い、秘密(OFAと???)を共有する彼らにもまた、見えない絆が結ばれている。

 

2人の直接対決は体育祭以来。

嫌でも燃えるベン。

 

「へへ、なんでもいいや。イズクと勝負なんていつぶりだよ!絶対ケチョンケチョンにしてやるもんね」

 

「僕らだって負けないよ!!!」

 

そう答えた緑谷が目線を送るのは隣の心操。

ヘラリと笑顔を作ると、

 

「俺だって負けられないよ。ただでさえ遅れてるんだから。」

 

「あれ…?そういえばいつの間にヒーロー科になったの?!」

 

目を丸くするベンに対し、冷静に拳藤は突っ込む。

 

「あんた、本当に他人に興味ないわね。自分のチームすら分かってないんじゃない?」

 

図星であった。

 

「えーと…誰だっけ?」

 

「私ですわ」

 

目を泳がせたベンの頭上から声が。

その正体は【創造】の個性を持つ八百万。

 

そして、もう一人、

 

「ぼーくのことを忘れるなんてなんて奴だ!!!さすがは元1年A組といったところかな!!?いいのかな!?そんなんで勝てるのかな!?不安だなぁ!!」

 

そうベンを煽るのは物間。彼の幼稚ともいえるその煽りを

 

「なにをぉ!!」

 

ベンは真っ向から受け止める…

 

「はぁ…頼むから問題児は1人にして…」

 

ベン、八百万、物間という個性的なメンバーを見て、拳藤はため息をついた。

 

このメンバーで挑むのは、

 

緑谷、吹出、心操、麗日という、これまた個性的なメンバーなのだから。

 

 




いかがだったでしょうか。
久しぶりの投稿でかなり内容がぶれているかもしれません。が、徐々に感を取り戻していくので応援よろしくお願いします!!

第2部については別作品としましたので、こちらの登録、評価をお願いします!!
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https://syosetu.org/novel/286471/


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