とある戦姫の翳裂閃光 (ドナルド・カーネル)
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その物語はここから始まった

どうもドナルド・カーネルという者です。
本作は概要欄にもあるとうりグレ響が学園都市に来たらというお話です。あらかじめご了承ください。
それではどうぞ。


歩いているだけで汗が流れる時期は本当に辛い。

東京都西部に位置する完全独立教育研究機関もしくは、科学の最先端都市等の名前で呼ばれているここ『学園都市』はジャングルの木々のように高層建築物やコンクリート製の建物が建ち並んでいる。その有様は比喩抜きでコンクリートジャングルと言っての過言ではないほどのものである。

 

(暑い・・・)

 

ただその最先端の技術は夏場のクソ暑いアスファルトを冷したりすることはなく、食料、医療、軍事、さらには()()()等のの技術開発に振られているのがこの街の現状であった。

そんな不可思議な街を夏用のパーカーに身を包み歩く少女がいた。少女の名は立花響。総人口約230万人、その約八割を閉める学生達の中の一人である。

明るめの茶髪と黄色に近い琥珀色の瞳、美しいという言葉よりかわいいの方が似合う顔たちではあるが、気怠そうな表情と無口な性格からか、少し誤解を受けやすい女の子である。だが彼女を知る人物からすれば思いやりがあり、人助けをする姿が度々目撃される優しい女の子なのだ。

さてあと少しで終わる夏休みため学生達は、楽しい思い出を作りに励もうと繁華街の方へ行く中、彼女はそれとは逆の方向にある学生寮の方へ向かっていた。

 

 

 

そうこう歩いていていると目的の場所に着いた。そこは古い男子の学生寮であった。オートロックはついてあるが、寮生の許可した相手にだけ送ることが出来るQRコードを見せれば誰でも入ることが出来る、すこしだけセキュリティが弱い安物の寮である。

ちなみに立花が住んでいる寮はここのオートロックよりもきちんとした物であり、男子が入った時点で警報が鳴り、寮の管理人がいる完璧な場所であった。

閑話休題。備え付けられてエレベーターに乗り込み目的の階層のボタンをおす。夏のエレベーターはサウナのように蒸し暑く万が一にでも壊れれば、修理業者が来る前に確実に脱水症状になってしまうレベルのものであった。

チーン、という音が鳴り目的階層に着く。エレベータを出て、端の方まで歩いたところが目的の部屋であった。インターホンを鳴らし、来たことをしらせる。そして、ドタバタ!と騒がしい音がこちらに近づき、鍵が外された音が聞こえた。扉を開けたのは男子専用の寮にはふさわしくない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ!ひびきなんだよ。いらっしゃーーーい!」

 

「・・・インデックス、前にも言ったけどインターホンならしたらここの穴で誰が来たか確認でしょ。全部覚えられる記憶力あるのに何やってんだか・・・・・」

 

「今日はひびきが遊びに来てくれるってとうまが言ってたからつい・・・」

 

えへへ、と可愛らしい笑顔を向けてくるせいこれ以上お説教はできないなと諦める。

少女の名はインデックス。和名で表すと禁書目録になるらしく、初見、というか今でも偽名ではないかと疑うが、本人曰くれっきとした本名(?)との事である。イギリスにある魔術結社(!?)『必要悪の教会(ネセサリウス)』にて、103000冊もの魔導書を覚えており、その特異性から『歩く魔導図書館』と、他の魔術師から呼ばれているようだ。

ただ、現在はとある事情により、魔術からは1番離れている学園都市(この街)に在籍する『とうま』と呼ばれる無能力者の少年の家にて居候中なのであった。

そして本来の家主は、一学期の遅れを取り戻すため、夏休み返上の補習中であった。

そんな彼の代わりにインデックスは、まるでおもちゃ屋に来た子供のように立花の手を引っ張り家へ招き始めた。

立花を適当な場所に座らせ、ここの家主から『お客さんが来たら冷蔵庫のお茶出すんだぞ』と言われたので、彼の言う通り冷蔵庫の中にあるキンキンに冷えたお茶ポットとコップを持ち出し彼女にお茶を注いであげた。

基本的に表に表情をださない彼女でも、さすがにこの暑さには堪えたのか、コップに入ったお茶を一気飲みし、至福の表情になっていた。

 

「すごく気持ちよさそうな顔になってるよ、ひびき」

 

「それだけこの冷えた部屋と冷たいお茶が居心地いい場所になってるって事だよ・・・。それで今日は何するの?」

 

彼女がここに来る理由の一つとして、彼女に家事や電化製品の使い方を教えることが挙げられる。

とある事情で、社会的常識がかなり欠如しているため、本来なら家主の少年が教えるべきだが、補習や怪我による入院のせいで一日中家にいることが少ないため、代わりに彼女が教えにやってくることがあるのだ。

ただし、今日はそう言った内容ではなかったようだ。

インデックスはイイ笑顔で立花を見て、

 

「あのね、とうまとひびきが出会ったときの話が聞きたい!」

 

ブブーーーッッ!!思わず口にしていた二杯目のお茶を口から噴き出してしまった。茶色なのに虹色のアーチがかかる。

 

「は、はぁっ!?何で急に・・・!?」

 

「ひびきっていつからとうまの友達になったのかなって聞いたら、『あいつから聞いた方がいいぞ』って言われたから聞いてみたんだよ」

 

(・・・あの馬鹿、こっちに面倒事押しつけたな・・・!?)

 

「ねえ教えて、教えて!!」

 

立花の服を引っ張り駄々をこねるインデックス。自身の魅力を最大限利用した交渉は成功したようで、立花は心の中でヤレヤレと思いながら話す決心をした。

 

「分かった、分かったから服引っ張るの止めて。やめないと、私と上条の話しないよ」

 

「うん、分かった!」

 

服を引っ張るのをやめたインデックスは、立花の膝の上に乗り、自分膝の上には飼い猫のスフィンクスを乗せていた。

 

「・・・あのさぁ・・・・」

 

「ここで聞いちゃだめ?」

 

目を潤ませて再度おねだり交渉に持ち込み、またしても立花はインデックスのおねだりに負けてたのであった。

スフィンクスも一緒に聞こうねー、と話しかけるが、ニャーという返事が返ってくるだけだった。

 

「それじゃあ、始めるよ」

 

「うん!」

 

元気な返事と共に、一度聞いたことを忘れない記憶力を持つ少女は話を聞く体勢になっていた。

少女は去年の起きた出来事を思いだしながら話を始めた。

 

 

 

 

今日みたいな暑い夏の日に起きた、とある少女のお話を。




誤字、脱字、感想等お願いいたします。


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あり得ない出会い/First days

どうも作者です。
この話は戦姫絶唱シンフォギアIBに載せていたとある戦姫の翳裂閃光の加筆修正版となっております。読んだことのある方も、初めての方もどうぞご覧下さい。
それではどうぞ。


1

 

 

 

『この人殺し!』

 

『沢山の人を見殺しにて、自分だけ生き残ったそうよ』

 

・・・やめて。

 

『ねえ知ってる。ノイズに襲われるて怪我をするとお金がもらえるんだって』

 

 

『それって、パパやママが払っている税金だよね。あんなのに渡すのって本当に無駄遣いじゃん』

 

・・・うるさい。

 

『響が生きてるだけで、おばあちゃんもお母さんも嬉しいんだよ』

 

『だから笑って、響』

 

・・・嘘だ。

 

 

 

そんなの嘘だ。

 

 

 

本当に嬉しいって感じているのなら、

 

 

 

何で、お父さんは私をおいて出て行ったの?

 

 

 

何で、周りのみんなは私に酷いことをしてくるの?

 

 

 

何で、お母さん達が辛い目に遭うの?

 

 

 

私は、本当に生きていていいの?

 

 

 

そんな疑問が少女の中から湧き上がる。でもこの疑問を誰かには打ち明けることは出来なかった。だってこんなことを尋ねれば余計に迷惑をかけるに決まってる。なら私一人で抱え込めば良いんだ。そう思い、少女は我慢した。

 

でも、言葉の暴力による傷は癒えるまもなく増えていき、体の傷も少しづつ増えていく。それを隠すために長袖の服を着る。そうすれば、お母さんやおばあちゃんにバレたりしない。それでも、少女や少女の家族に対する陰惨な行いは終わらなかった。そして少女は一つの事を考えを動いた。

 

「・・・・・そうだ、ここから出て行こう」

 

そうすれば、お母さん達に迷惑が掛からない。そう思い少女は少しのお金を持ち、家を出た。行き先も決めずただただ、街を彷徨う。だがそんな生活は、どこにでも居る少女に耐えられるものではなかった。辛い、苦しい、寂しいそんな感情が湧き上がる。でも、その気持ちにしたがって、家に帰る訳にはいかない。これ以上、最後の味方に迷惑をかけるわけにはいかない。だがら少女はそれを無視して、今日も一人当てもなく彷徨う。

 

 

 

ああもし、一つ願いが叶うのなら。

 

 

 

(・・・・・私を、一人にして。もう誰にも、迷惑をかけたくない)

 

 

 

そう思い少女は今日も公園のベンチで一人眠る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

8月もあと10日すれば終わるというのに、真夏の都会はとても暑い。天気予報のお姉さんが言うには、熱を貯めやすいアスファルトが原因で熱が籠もりやすいとかなんとか言っていた

 

「あ、暑い。溶ける・・・」

 

 そしてこんなクソ暑い中、ツンツン頭の少年上条当麻は腕や頭に包帯を巻いたまま、家路に就いていた。包帯で巻いた部分に熱や汗がこもってとても辛い。なぜまだ病院で安静にしなければならない見た目のまま家に帰っているのか。それは、少年の持つ残金が原因であった。

 

無能力者(LEVEL0)に支給される奨学金は少なく、またお盆に入ったと同時にキャッシュカードを踏み砕きお金を下ろすことが出来ず、さらにそのまま()()()()()()()()()()()()()。そんなこんなで少年が持つ現金は少なく、このままでは支払うことも出来ないため、早めの退院となったのであった。

 

・・・実際はその事故はとある少女をかばったことが原因で起きたことで、その少女が彼の入院費を支払ったのだが、少年からすれば見ず知らずの誰かに入院費を支払ってもらうなんて言語道断であるため、自分で支払うと言い、その少女にお金を返すよう医者に言ったのであった。

 

(・・・医者(せんせい)は俺が誰かをかばって入院したって言ってたけど、あの事故は俺の不幸で巻き込まれたものなんだけどなぁ)

 

そんなことを思いながら上条は炎天下の街を歩く。こんな腕じゃ料理もまともに作れないため、帰る途中で激安スーパーに寄り、数日分のカップ麺等を買う。片手しか使え内のことを不便に思いながら少し妄想に耽る。

 

(・・・こんな時、寮の管理人のお姉さんとか彼女がいたら『もう、しょうがないんだから』って言われながらご飯とか作ってもらいたいな~)

 

だが、そんなものは少年の妄想であり、現実は一人寂しいカップ麺生活なのであった。余計なことを考えていたら辛くなってきたのでさっさと帰ろう、そう思っていた上条の目に異様な物が映った。

 

 

それは、公園で眠っている少女であった。

 

 

何度も言うが、今日は本当に暑い。それなのに家にも帰らず、こんな日の当たる公園で眠るなんてはっきり言って異常としか言い様がない。さらに彼女が着ている服装は、夏物の服装ではなく、長袖のしかもどう見ても季節外れの物であった。

 

(何やってんだ、あの子。まさか、熱中症で倒れてるとかじゃ・・・っ!?)

 

 

そんなことを考えながら上条はいつの間にかその女の子に近づいていた。少女の格好は、長袖の灰色パーカーに長ズボン。髪の色は茶髪でショートヘアー。年は自分と同じか一つ上だと予測する。

 

「おいあんた、大丈夫か!?返事しろ!!」

 

そう言って上条は片手で少女の肩を揺らす。もし返事がないのなら急いで救急車を呼ばなくてはならない。そんなことを考えながら肩を揺らしていると少女から声が聞こえてきた。苦しそうな、辛そうな呻き声だった。

 

「う、うう・・・」

 

「おい聞こえてんのか、おい!?」

 

「・・・・・誰、なの?」

 

苦しそうな呻き声から、一転、気怠そうな声が少女から少女の口から漏れる。

 

「・・・あんた、何なの。勝手に人の体にベタベタ触って」

 

「ああ、それは悪い。こんな()()()()()の外で、しかも苦しそうに寝てたから、熱中症かと心配してさ」

 

「・・・暑い、ってあんた何言ってんの」

 

少女は今が冬の寒い日だと思っていた。だが事実は違う。太陽はさんさんと輝き、湿度や気温は冬のものではなく、その真逆の季節のものであった。

 

(・・・どういうこと、ていうかここどこ?)

 

少女は今自分が置かれている状況が理解できていなかった。季節は反転し、自分がいる場所はいつも寝ている公園ではなかった。視界に映るのは風車や見たことない高いビル、そしてその目に映る人の多くは自分と同じくらいの年齢の人たちであった。まるで長期休暇で学校を休んでいる位の学生の姿が目に映る。少女は学校には行っていない。だから自分の曜日感覚がズレているのは知っていたが、少なくとも今が土日や祝日ではないのは知っていた。だから、この学生の量が異常なほど多い事に違和感を覚えた。

 

「・・・・・本当に何処なの・・・っ!?」

 

突然頭を締め付けらるような痛みが走る。めまいや吐き気がして気持ち悪い。思わず少女はその場に蹲ってしまう。そんな彼女を見て少年は焦り始めた。

 

「おい、やっぱ熱中症になってんじゃねえか!取り敢えずこれ飲め!」

 

「・・・・・そんなのいらな「強がってんじゃねえよ!金なんか取らねえから、さっさと飲め!」・・・・」

 

怪しいものを見るような目つきのまま少女は少年から飲み物をもらう。それはよくあるスポーツ飲料であった。恐る恐る口に運ぶ。だが、体は正直なようで自身の乾きを癒やすかのように一気に飲み干してしまった。そんな少女のようすをみて上条は呆れていた。

 

「たく、何やってんだよお前。このクソ暑い中冬物のパーカー着てるとか、マゾなのですか」

 

「・・・・・別にどうでもいいでしょ」

 

愛想なんて感じない様子で、少女は答える。

 

「はぁ、無愛想なヤツ。とりあえずさっさと家帰って水分とれ。こんなアホなことして病院運ばれるとか、笑えねえぞ」

 

「・・・・・家なんて、ない」

 

そんな言葉が少女の口から聞こえた。聞き間違いかと思ったが、そうではなかった。

 

「・・・・・私に、帰る家なんてない」

 

「・・・・・・、」

 

呆然としてしまった。誰もが当たり前に持つそれを目の前の少女はないと言いはったことに。そして上条はこんなことを考える。目の前の少女はどこかの研究施設から逃げ、多分着の身着のまま出てきたのではないかと。だが、それだと少女の服装に違和感を覚える。その服装は、まるで自分とは時間の進み具合がずれているかのように感じ取れた。

 

「・・・・・分かったならほっといてくれない。私は一人の方がいいの」

 

そう言って少女は上条から背を向け、どこかへ行こうとした。だがその足取りはおぼつかない。今度こそ本当に、倒れてしまいそうな足取りだった。

 

上条当麻には、この少女に何が起きたのか分からない。今日会った赤の他人で、自分はもう大丈夫だと言った。だからここでお別れしてもいいと思った。でも。

 

(・・・ダメだ、やっぱりほっとけない。俺の家で無理にでも休ませた方が・・・)

 

勝手ニ関ワッテ、助ケヨウトシタ誰カヲマタ傷ツケルノカ?

 

自分ノ『えご』デ、マタ人ヲ殺スノカ?

 

 

 

コノ人殺シ。

 

 

 

そんな声が頭の中に響く。上条には念話能力テレパスのような能力は通じない。それでも、この声は自分にしか聞こえないものだと理解した。だって自分は、とある少女を助けられず、死なせてしまった。自分のわがままで勝手に介入して、なのに最悪の形で事件を終わらせた。

 

泣い苦しんでる女の子を救うことが出来なかったのに、また同じことを繰り返すのか。伸ばそうとした手が少しづつ引っ込められていく感覚に陥る。別の何かから力を加えられたのか、それが自分の意思なのか、分からない。

 

でも。だとしても。

 

それらを無視して上条は無理やり体を動かし少女の腕を引っ張る。先程よりも嫌そうな顔で少女がこちらを見る。

 

「・・・・・ほっといてって言ったよね」

 

「・・・ああ言ったな。でもな」

 

少女の腕び先程よりも力を込めていることにすら気づかずに少年は言葉を紡いだ。

 

「やっぱり見過ごすことなんかできない」

 

少年は少女の腕を掴んだまま歩き始める。ここではないどこかへ向かうために。少女は一瞬困惑したがすぐに思考を切り替え、掴まれた腕を振り払い、やめるように言う。

 

「ちょっ、何す・・・」

 

「うるせぇ。体調崩してる女の子ほっといてって、家になんか帰れるかっ!!」

 

「っ!?」

 

びくっ!っと少女の体が震える。だが上条はそんな様子を無視して、話を続ける。

 

「とりあえず、俺の家ここから近いからそこで休めよ。それにお前の服、汗でびっしょりじゃねえか。シャワーと洗濯機も貸してやるから、さっぱりしていけ」

 

「・・・・・・」

 

「無言は肯定とみなすぞ」

 

そう言って上条はもう一度少女の腕を掴んで家へと歩み始める。少女も観念したのか、それ以上何も言わなかった。

 

上条は掴んでいない右手を見る。自分が誰かを守ることが出来ず、その命を繋げなかったことがトラウマになったとしても、偽善使いフォックスワードですらない人殺しでも、それでも。

 

(目の前の誰かを、見捨てる理由にはならない)

 

それが少年の、上条当麻の決意の表れであった。

 

 

 

 

 

 

3

家についてすぐ、自分の服を貸し立花を風呂場に放り出した。ただ、男一人暮らしの寮に女性物の服や下着があるわけもなく、取り敢えず着ても違和感のないスウェットを貸し出した。

頭を拭き、上がったばかりで頬も少し赤くなった立花がリビングに来た。

 

「・・・お風呂、貸してくれてありがと」

 

「別に構わねえよ。それと悪いな、男物の服しかなくて」

 

「・・・借りてる身で文句が言えるわけないでしょ」

 

「それとノーパンだけどだいじょ、グフッ!?」

 

「・・・・・ふざけたこと言ってんじゃないよ」

 

絶対零度の目と共に上条の頭に拳が降りかかった。怪我をしている身ではさすがに避けることが出来ず、まともに喰らってしまう。

 

「ちょ、ちょっとした冗談じゃねえか・・・っ!?」

 

「・・・言っていいことと悪いことがあるって知らないのかな、この変態」

 

「す、すみません・・・」

 

「・・・ハァ、まあいいよ。名前もまだ知らないヤツからセクハラされるなんて予想外だったけどね」

 

「ああ、そっかまだ自己紹介してなかったか」

 

立花をベッドに座るように促し自分は床に座る。少し濡れている髪のせいか目の前の彼女が色っぽく見える。

少し咳払いをして上条はあらためて立花を見た。

 

「俺は上条当麻。改めてよろしくな」

 

「・・・立花響。よろしく」

 

やっぱり愛想なんて感じない短い言い方で答えた。上条も慣れたのかその無愛想さには突っ込まなかった。冷たいお茶を渡し、改めてあんなところで眠っていたのかを尋ねた。

 

「なあ、なんでお前あんなとこで眠ってたんだよ。それに家がないってどういうことだ?」

 

「・・・だから、あんたには関係のないことだって言ってるでしょ。何、人助けが趣味だとでも言うの?」

 

すこし馬鹿にしたように立花は返事をする。そんな挑発じみた返しには乗らずに、

 

「いや、だってあんなとこで寝てたら熱中症になってたかもしれないだろ。てか、普通になってたじゃねえかお前」

 

「・・・なってない」

 

「いや、なんでそこで強がってんだよ。何なの、青髪ピアスみたいに被虐趣味(マゾヒスト)なのですか」

 

「・・・なんでそうなんのよ、ていうか誰、青髪ピアスって・・・・・?」

 

明らか人の名前ではない言葉に疑問を持つが、古い付き合いの上条ですら彼の本名を知らず、ずっとそう呼んでたためそういうヤツなんだよとしか言いようがなかった。

 

「まあいいや、何か言いたくなさそうだし・・・。そんで、お前は今日どこで寝る気なんだ?まさか、またベンチで寝るとか言うんじゃねえだろうな」

 

「・・・仕方ないじゃん、それ以外に寝床なんてないし・・・・」

 

実際家出をしたときに持っていたお金はもうなく、野宿生活をしていたのもそれが原因であった。ネットカフェにも行けず、体を洗うことも出来ない、女の子の生活としては最悪な生活環境でいきていたのであった。

そんなふうにもじもじしている立花を見て、上条はある提案をする。普通に考えればあり得ない提案を。

 

「なあ、もしお前が良ければなんだけどさ。しばらく俺の家に泊まるか」

 

「・・・・・・・はあ!?あんた何言ってんの!?」

 

初めて彼女の口から感情的な言葉が出てきた。それもそうだろ。、今日始めて会った男からお泊まり宣言をするなんて、少女漫画でしかありえない展開だったのだから。だがそんな彼女を気にせず上条は話を続ける。

 

学園都市(ここで)野宿なんてしててたら警備員(アンチスキル)に捕まって補導されるか、不良共(バカ共)に見つかってグへへへ、な展開の二択だろ。前者ならお前は無理矢理家に帰らされて、後者なら下手したら二度と何処にも行けない可能性がある。外で寝るメリットなんて皆無だろ」

 

「・・・そう言って、あんたが私を襲わないって信じられると思うの?」

 

「一緒に寝るわけないだろ。俺は風呂場で寝て、お前はベッドで寝ればいい。それに、ちゃんと鍵も閉めるしさ」

 

「・・・あんたが寝てる間に私がこの家の物を盗んで出て行くかもしれないんだよ」

 

「そんなこと言う奴はやらない奴だよ。で、どうするんだ」

 

立花は考える。この家に来るまで、清掃ロボットや飛行船等からここが自分の知る場所ではないことは理解した。つまり、自分が望んでいた一人ぼっちの世界にいるのだ。だから、それでいいのだと思っていた。自分が願ったことが起ったのに、なのに。

 

 

何故か今になって、自分が一人ぼっちなってしまったことがとても怖くなってきたのだ。

 

 

だからなのか、今日始めてあった少年の言葉が心に沁みる。優しくて裏なんてない、善意だけの言葉がとても魅力的に感じる。信じていいのか、考え考え、そして、

 

「・・・・・分かった。じゃあよろしく、上条」

 

「おう、よろしくな立花」

 

こうして立花響はしばらくの間上条の家の居候になるのであった。すると寝床が決まったことに安心したのか、ぐーー、と立花のお腹から音が聞こえ、年相応の女の子のように顔が真っ赤になった。

 

「腹減ったのか。飯のことなんだけどさ、この手じゃ料理できないからカップ麺でもいいか?それとも弁当のほうがいいのなら買ってくるけど」

 

「・・・うん、カップ麺でいいよ。ていうか、その怪我どうしたの?」

 

「あーこれか。ちょっとバイクと事故っただけだ」

 

「・・・怪我してるのなら上条がベッド使いなよ。私が風呂場で寝れば・・・・・」

 

「バカ言え。女の子をあんなとこで眠らせる訳にはいかないだろ。それに、見た目ほど酷い怪我じゃねえよ」

 

・・・ならば何故、料理が出来ない等と言ったのか?そんな疑問を口にしようとしたが、この少年の頑固っぷりはここ数時間で分かったためもう何も言わなかった。

それから二人は食事を取り、早めに寝ることにした。上条は本当に鍵を閉め風呂場に布団を敷きねむりだした。

立花にとっては久しぶりの布団での睡眠、高級な素材が使われてたりや受注生産(オーダーメイド)の特別な物でもない普通の布団はとても柔らかく、ぐっすりと眠れる物であった。




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認めたくない事実と最悪の体験/Second days

どうも作者です。
さてさてグレ響と上条さんのお話です。息抜きの筈が一万字越えの小説になるなんて・・・。
それではどうぞ。


1

風呂場で人が寝るのは色々間違っている気がする。

 

「・・・うだー」

 

謎の声をあげながら上条当麻は目を覚ます。狭く硬いバスユニットで眠っていたために、体全身に事故で追ったけがとは違う痛みを発している。体のあちこちを回すとバキバキ、と人体からなっていいものかと疑問が出てくる音が聞こえるのが、妙に怖い。

本来ならベッドで眠るはずだったが、路地裏や夜になると活発に動き出し始める不良達が結構いる学園都市。この治安最悪の街にて、野宿を決行しようとした少女、立花響を家に泊めさせた事により、自分のベッド眠ることはできないのだった。

(・・・・・アイツぐっすり眠れたかな)

 

今も多分ベッドで眠っている少女の顔を思い浮かべながら洗面台に移動する。まだボーッとする頭をフル覚醒させるために顔でも洗おうかと扉を開けると目の前に昨日貸したスウェットを着ていた立花響がいた。

 

「うおっ!?」

 

いるとは思ってもいなかった少女がいたため後ろにコケてしまう。

硬い床に腰をぶつけたせいで、すぐに立つことはできなかった。

腰を擦りながら上条は話しかける。

 

「お、おはよう立花」

 

「・・・おはよう上条。なんかすごい音立ててコケたけど大丈夫なの?」

 

「ああ。腰痛むけどちょっと休めば大丈夫だ。てか、こんな朝早くからどしたんだ」

 

「・・・朝早くって言うけど、もう9時回ってるんだけど・・・・・」

 

「まじか!?ってことはお前もしかて、朝早くからここにいたのか・・・」

 

「いや、私もさっき起きたこと。起きてること確認しなきゃ、あんたがこっちに来れないかなって思ってさ・・・」

 

「ああそうだったのか、ありがとな」

 

痛みも引きはじめ、壁に手をつきながら立ちあがることができた。時間の確認をしたためか、急に空腹感が襲い始めてきた。

 

「じゃあ飯にでもするか」

 

「うん分かった」

 

そう言って立花はリビングの方にあるベッドの上に座りぼーっとし始め、上条はキッチンの方で昨日買った惣菜パンを温め始めた。

パンが温まるまで手持ち無沙汰なので、冷蔵庫の中の牛乳を出そうとするが、明らかにヤバい匂いがしていたので流し台へ全て叩き込む。

仕方なくポットにお湯を沸かしつつ、今飲むものを考えるとベッドの上で暇そうな顔をしている彼女をみて、

 

「なあ、悪いけどテレビつけてくれないか。リモコンは机の下のある筈なんだけど」

 

「・・・・・、」

 

彼女はリモコンを拾い上げ、言われたとおりに電源をつける。

真っ黒だった画面が、色鮮やかに変わる。

テレビに写ったのは、去年の『大覇星祭』の映像だった。土は盛り上がり、雲一つない空から雷が降り注ぎ、火や氷が飛び交う、SFアクション映画のような光景だが、上条からすればもう何年も見慣れた光景であった。

 

(確か去年は、運悪く常盤台の連中とやり合うハメになったんだよな・・・)

 

それはもう、一方的な虐殺と言っても差し支えないものだった。向こうは強能力者(LEVEL3)以上が絶対のエリート校、対するこちらは良くて異能力者(LEVEL2)な平凡な中学校なので相手になるはずもなく、ギッタンギッタンのボコボコにされたのであった。

朝っぱらからイヤなことを思い出してしまい、テンションが急降下してしまう。ネガティブな雰囲気を変えようとすると、視界にはいった立花に注目してしまった。

 

彼女は先程から食いつくようにテレビ画面から目を離さず、まるでとてもよく出来たCGを見て、驚いているようにも見えた。

まだ会って一日も立っていないが多分、とても珍しい物なんだろうとさえ思えるほどの顔であった。

 

チーーン!パンを温めていたトースターが温め終わった音をが狭い部屋に鳴り響く。その音を聞いて立花は、ビクンっ!とベッドから跳ね上がりそうになった。そんな彼女を見て、テレビでよく見る動物の可愛いシーンみたいなにある、猫の動きにそっくりで思わず笑ってしまった。

上条の笑い声を聞いた立花は、頬を赤く染め睨みつけて来たが、怖くはなく逆に可愛い仕草にしか見えなかったので、余計に笑ってしまった。

彼女はそっぽを向き、またテレビに集中しだした。

 

ポットのお湯が沸騰し、今日はオシャレに紅茶とパンな朝食にしようと安物のティーパックを見つけると、ふと違和感が湧いて出てきた。

ティーパックが入っている袋の横に、入っているのは精々2,3人前なのに横に置いてある袋詰めの何倍もの値をはりそうな高級な紅茶の缶を見つけた。

 

(え、何これ・・・?)

 

当然そんなのものを買った記憶はないし、親が仕送り(カップ麺やお米、たまにどこかの国の魔よけ)として送ってきてくれたということ有り得るが、ここ最近の記憶には全く身に覚えのないものだった。

 

(・・・まあ、危なそうなものじゃないし後で調べることにするか)

 

そう考え、缶の茶葉ではなく横にある袋詰めのティーパックを取り出し急須に入れ、温め終わったパンと共にテーブルまで持っていた。

 

「おまたせ。冷めないうちに食べちまおうぜ」

 

「・・・・・・・・、」

 

声をかけるが、立花はまだ先程の事を引きづってるのか黙りを決め込む。

 

「あの姫、もしかしてまだ怒っていらしゃるのでせうか・・・?」

 

「・・・別に、怒ってない」

 

「いやそれ怒っている人が言う言葉じゃん・・・。先にパン選んだいいから、機嫌直してくれよ〜。焼きそばパンとカレーパン、どっちがいい?」

 

「・・・・・カレーパン」

 

「ほいよっと」

 

カレーパンを食べ始めた立花のために、氷の入ったコップに紅茶を淹れる。いつもの香りが鼻を通る。カレーパンを食べながら立花は、まだテレビから流れている大覇星祭の様子を先程と同じ珍しそうな表情で見ていた。

そんな彼女の反応を不思議に思った上条は、

 

「・・・さっきから喰いつくように見てるけどさ、学園都市(この町)じゃ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・ちょっと待って。今なんて言ったの?」

 

だーーから、と何処か呆れたような声で、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()人の脳や体に、薬やら電気送り込んで『開発』したものを、お前はさっきから何とんでもないもの見てるような顔してるんだよ・・・」

 

はぁー、と説明することは面倒くさかったために、だるそうなため息をついていた。

だが、立花は自分の耳に入った言葉を飲み込むことは出来なかった。

彼女が知っている超能力とは、物をうごかしたり、遠くの物を写真で撮ったり、人の心を読んだりするものであり、そしてそれらは蓋を開ければ種も仕掛けもある奇術であると、彼女の常識ではそう言った物なんだと理解していた。

 

しかし、いま自分それを教えてくれた少年の言葉が本当ならば、明らかに倫理観を完全に無視したやり方をすれば、そう言った力が出来る物だと、それは今自分がいる世界では当り前の物であると言っていたのだ。

昨日の時点で、今自分が知る場所ではない事を理解していたが、だがまさか、()()が違う物になっているなんて事は想像もつかなかった。

だから、立花は自分が知っている常識を上条に尋ねる。自分の居た世界なら、誰もが答えられる質問をぶつける。

 

「・・・ねえ上条、『ツヴァイウィング』って、知ってる?」

 

「ん?知らねえよ、そんな名前」

 

「っ!?・・・じゃあ、ノイズって聞くと何を思い浮かべる?」

 

「・・・雑音じゃね」

 

「・・・・・・・そっか」

 

それだけの質問で彼女は理解てしまった。

ここは、本当に自分がいる世界ではないのだと。そして、自分は一生、元の世界には戻れないかもしれない、と。

残酷な真実がひとりぼっちの少女の心をグサリ、と刺しに来る。だからなのだろう。先程から食べていたカレーパンから急に、味を感じることが出来なくなってしまったのは。

 

 

 

 

 

 

2

朝食後、上条は自身のキャッシュカードがないことを思い出し、再発行ついでに金を下ろすことを考え、出かける準備をし始めた。それを見た立花も一緒に行くと言い出した。だが彼女が着ていた冬服を着させるわけにはいかないので、上条が持っていた夏用の服と、彼女からのお願いで水色の夏用パーカーを貸し一緒に出て行くことにした。ちなみに上条の服装は白色のTシャツとカーキ色のズボンといったシンプルなものだった。

まだ日が高く登っている時間だが、早く行かないともっと暑くなりそうなので準備ができしだい二人とも家をでた。

 

「あちー。やっぱまだまだ暑くてしんどいよなー」

 

「・・・・・うん」

 

「なあ、貸した服暑くないか?夏用の薄いヤツだけど長袖だし、脱いでも構わねえぞ」

 

「・・・・・大丈夫」

 

「そうか・・・。あのさ無理して俺にも着いてこなくても良かったんだぜ。こんな炎天下、涼しい部屋に居るほうが楽だろ?」

 

「・・・・・別に、目的の場所までいけば、また冷房の効いた部屋にいられるから大丈夫」

 

「ああ。ならいいんだけど・・・」

 

(さっきから会話が続かねぇ・・・)

 

別段沈黙が苦手な方ではないが、先程から暗い顔をしている立花の事を気にかけるように、上条は積極的に会話の種を植え咲かせよううとするが、うまい具合にはいかず会話は途切れ途切れになっていた。

 

本当なら立花は上条について行く気はなかった。家で上条の帰りを待とうとしたが、あの真実を知ったあと。あれだけ一人がいい、一人になりたいという望みが叶ったはずのに、昨日から少しずつ出てきていた寂しさと不安が急に成長してきて、今まで感じたことがない恐怖となって襲ってきた。

ただただ今起きていることが分からなくそれを感じだすと余計に怖くて苦しくなってくる。そんな悪循環(ループ)が彼女の中に巻き起っていた。

すると、今度は今まで望んでいたものとは反対の、()()()()()()という思いが芽生えてきた。あれだけ必要がないと言い聞かせていた(感じていた)のに、どうしてまたこうも感じ始めてしまったのか・・・。

そして、そんな事を考えないようにするために、立花は上条と共に出かけることにしたのだ。

 

 

 

目的地である銀行にたどり着き、やっとのこさ冷えた建物に入ったときは上条はまるで天国に居るような気分であった。汗を含んだシャツのせいで多少冷たく感じるが、今だけは逆にそれが心地よく、自身を癒やしてくれていた。

だが、立花はそうは思っていないのか、パーカーのファスナーを閉めきり椅子の上で体を丸める座り方をしながら、軽く震えていた。

 

「だいじょぶかー、立花」

 

「・・・べ、別に平気だし(ガクブルガクブル)」

 

「そんだけ震えてても説得力ねーよ。さっさと用事終わらせてくるから、ちょっとまってろ」

 

「・・・うん。わかった」

 

そう言って上条はカウンターの方へ向かい、立花は上条を待つこととなった。

 

上条が離れた後、暇なので周りにいる人たちを見ると、自分より下の『子供』が目に映る。

自分の目の前を先程からウロチョロしている、黒髪ロングに花の形をしたヘアピンを身につけた少女と、黒髪ショートヘアーに花の冠のようなヘアアクセサリーを身につけた少女。見た目から察するに小学生の高学年か中学1年生と推測される。

だけど彼女たちの周りには親の姿は見えず、それどころか彼女達よりも小さい年頃の『子供』の姿すら見えた。

 

(・・・この子達も涼みに来た、って感じじゃないね。まさかあの子達の親がお使いで銀行に行かせてる・・・ってそんな訳ないか)

 

手続きどころかATMからお金を下ろす事だって、あんな小さな子供が行おうとすれば見ればお手伝いする筈だ。だけど、見守ってはいるが近づこうとはせず、何時もの様子とでも言いたげに仕事をしていた。

 

もう一度先程の少女達を見るとロングヘアーの少女がショートヘアーの少女にちょっかいをかけて、かけられた少女は顔を真っ赤にしてポカポカ、とうい音が似合う位の勢いでロングヘアの娘を叩いておた。

どちらもその一連の行為を、いつものじゃれあいとでも言える微笑ましものである

 

ふと、そんな彼女達の姿を見ていると昔のことを思い出す。自分にまだ親友と呼びあえる少女がいて、今の彼女達のように仲良く遊んでいた時の事を。

その日々のことを思い出すと、また苦しさと寂しさが襲ってきた。

ゆっくりと、しかし確実に少女の心を蝕んでいく。泣きたくないに、少しでも顔を緩ませると本当に泣いてしまいそうになってくる。

だからそんな顔をしないために歯を食いしばろうとすると、

 

「あの、どこか具合が悪いところでもありますか?」

 

「お姉さん、さっきから顔色悪いけど大丈夫?」

 

先程からうろちょろしていた女の子達が、立花に声をかけていた。

鏡やカメラで自分の顔を確認することは出来ないが、見ず知らずの女の子に言われるという事は、よっぽど酷い表情をしていたのだろう。

しかしこんな小さい娘達に心配をかけたくないので、泣きたい衝動をかき消すために小さく息を吸い、

 

「・・・・・大丈夫。ちょっとここの冷房が寒いから顔色悪く見えただけだよ」

 

「そうですか。良かったーー」

 

心の底からの心配事が消えたかのようなため息をショートヘアの女子がつく。

 

「ほら私言ったじゃん。ここ絶っっ対に冷房効きすぎだって」

 

「さ、佐天さん!そんなこと大声で言っちゃダメですよ!」

 

「でも、お姉さんも寒いって言ってたじゃん。やっぱり寒いですよね〜ここ」

 

「・・・そうだね」

 

こんな風に女の子同士で話すのは何時ぶりだろう、そんな事を思ってしまうくらい自分は誰かと会話をしていなかったと考えてしまう。

それでも、そんなマイナスな考えを吹き飛ばしてくれる程、自分より年下ではあるが同性の人との会話は自分の心を癒やしてくれていた。

彼が戻ってきたらこの会話は終わってしまう、だけどもう少しだけ彼女たち、いや彼も交えて話ていたい。そう願った瞬間、

 

「手を上げて、全員動くなァッ!!!!?」

 

最悪の事態が彼女たちに襲いかかろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

3

「さっさと金を詰めろ!死にてえのか!?」

 

 

黒い鉄の塊を突きつけながら、強盗に来た男達は叫び散らす。銀行員はそんな彼にビビってしまい動くことが出来なかった。そんな銀行員に対し、男は募る苛立ちを隠すつもりはなかった。そしてもし仮に、その苛立ちをいさめようとする者が居れば、男はその相手に向かって、小さな鉄の塊を撃ち込みにかかるだろう。

だが、驚異的存在は一人ではない。

 

(銃を持ったヤツが一人と、ナイフを持った奴が一人、そんで凶器っぽいものは持ってはいねぇが偉そうにしているヤツが一人、か・・・)

 

強盗犯はマスクをかぶっており、その人数は一人ではなく複数によるものである。また、ナイフの男は出口の確保に務めてる事から計画的なものかと、上条は推測する。

状況は最悪。運良く警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)がいる様子もない。

では、今その様子を観察している少年、上条当麻ならどうにかできるか。その答えはNoだ。彼はどこにでもいる平凡な中学生であり、この場をどうにか出来る能力も持ってはいない。()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

しかし彼が今一番気になっているのは、

 

(立花のヤツ、大丈夫か・・・?)

 

自分と一緒に来ていたもう一人の少女。彼女が居たはずの位置には強盗はいないが、いつ来るか分かったもんではないため、焦りが生じてくる。

 

(無事で居てくれよな・・・ッ!?)

 

彼女の無事を祈りながらこの場をどうにかできないか、よく巻き込まれてきた荒事の経験や知識をフル回転させていく打開策があるかを考え出した。

 

 

 

 

「お姉さん。怖いよ、怖いよ・・・っ!?」

 

「大丈夫、大丈夫だから・・・」

 

この状況に怯えてしまったために、黒髪ロングヘアー少女、佐天涙子は立花に抱きついていた。そんな彼女に今の光景を見せないために立花は自身の体で覆い隠していた。

普通ならありえない状況下であるのに、立花響は冷静にいることが出来た。それは今も恐怖で怯えている少女がいるためもあるが、二年前に起きたあの事故よりかはまだ無事でいられるかもしれないと感じていたからだ。

いくら激昂しているとはいえ、こちらから仕掛けなければ向こうも襲っては来ないだろう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(・・・・・どうする?警察に通報しようにも携帯なんて持ってないし。というか、そんな事銀行員(あの人達)がやってる筈だし・・・。とりあえずおとなしく)

 

「あれ、初春がいない!?」

 

「!?」

 

おどろいた声で佐天が小さく叫ぶ。

初春と言った名前に聞き覚えはないが、あのショートヘアーの少女が見当たらない。

 

(何処に・・・!?)

 

「そ、そこまでです!」

 

大きな声が男達に向かって浴びせられる。声が聞こえた方を向くとあのショートヘアーの少女、初春飾利が叫んでいた。

 

「わ、私は風紀委員(ジャッジメント)です!貴方たちは完全に包囲されてます。大人しく投降して下さい!!」

 

「ああ!?舐めてんのかテメェ!!?」

 

少女の叫び声をかき消すような怒声がにより、ショートヘアーの女の子の勇気が消え怯んで(ひる)でしまう。

男は銃を銀行員から少女へと向きを変え、

 

「それ以上ふざけたことを抜かせばぶっ殺すぞ!!?」

 

そう言って今度は少女に脅しをかけ始めた。

この時少女は一つの嘘をついていた。少女は風紀委員(ジャッジメント)ではない。彼女はこの夏の募集に志願したが候補から落ちてしまった。その気分転換もかねて、親友と遊びに行くためのお金を下ろしに来たのだ。なのに、こんな事になるなんて。踏んだり蹴ったりもいいとこだ。

自分の能力()はこの状況下じゃ役には立たない。喧嘩もしたことはなく、体育の成績だっていつも下の方だ。

自分には何も出来ない。この状況をひっくり返すことは出来ない。資格も、力もない普通以下の人間。

でも、それでも。

 

「それでも、これ以上こんな事をさせるわけにはいきませんッ!!!!??」

 

まっすぐな正義の灯火を宿した目をしたまま啖呵を切り返す。

その言葉を聞いた男は、

 

「そうかよ、じゃあ死ね」

 

冷徹で底冷えするような言葉と共に、男は撃鉄をおろして、撃ちぬく準備をする。

邪魔者を消し、二度と自分には向かわせないようにするために。

 

佐天涙子には能力()なんてものはない。

無能力者(LEVEL0)。能力開発を行ったのにめぼしい成果は生えられない子供達に植え付けられた烙印。

だからこそ、少女は願うしかなかった。自分ではない力を持っている誰かに、縋り、頼り、望みを託すしかなかった。

 

(お願い。誰か、誰か初春を助けて!?)

 

だけど現実は少女の願いに応えず、男の指にかけている引き金に少しずつ力がこもる。

その光景を見た少女は、いつの間にか自分を守るように抱えていた女の人の腕を振り払い、叫ぶ。

 

「やめて、お願いだから、やめてぇぇええええええッッ!!!!」

 

男は一度だけ佐天涙子の方を向くが、すぐに初春飾利の方に視線を戻す。

そのままもう一度引き金に力を込める。

 

そして、そして。

 

 

 

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失へのカウントダウン)

 

 

 

聞いたこのない歌声と共に、橙色(とうしょく)の閃光が、一瞬少女の目に映る。

すると、いつの間にか初春飾利の前にオレンジをベースとしたインナーを纏い、長いマフラーを巻いた、まるでアニメに出てくる変身ヒロインが登場する。

男はそれに驚き、思わず引き金を引いてしまう。

初春飾利は、音共に目をつぶってしまう。それに対して女はまるでゆっくりと投げてきたボールを見るように、なんてことのない顔で()()()()()()()()

男は、いや、その状況を見たいた人たちは驚きの顔をしていた。

そして、その女は、立花響は言った。

 

「・・・人に向かって、そんなもん撃とうとしてんじゃないよ・・・・・ッ!?」

 

怒りの炎を纏った、シンフォギア装者(戦姫)科学の総本山(学園都市)に舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

4

 

(さて、どうしよう?勢い余って何も考えずに飛び出しちゃったけど・・・)

 

シンフォギアという力を纏った立花響は強い。その強さは、かるく力を込めた拳をぶつけただけで大きな大木をへし折るほどの威力だ。

だけど、その力強さは少女にとって『縛り』になってしまう。今までぶつけてきた相手はそんな事を気にする必要はなかったが今回は違う。そんな力を全力で人にぶつけてしまうと、スプラッタ映画のような光景になってしまう。そんな事は立花だって望んではいない。

だから彼女が今やることは、全力の力を使わずに、全力でこの場をどうにかしなくてはならないのだ。

そんな考え事をしていると銃を持った男は、

 

「何なんだよ、テメェはッ!?」

 

目の前の光景に理解が出来ないまま、今度は立花に狙いを定め、もう一度引き金に力を込める。

相手の行為に対して、立花は怯えることなく次の行動にうつす。確かに大木をへし折るその強力は人のは向けることは出来ない。

だけど、男が持つその凶器になら、全力で振るうことができる。立花は胸に沸いてくる歌を歌いながら、男が持つ銃を掴む。

メキメキメキッ!そんな音を立てながら、鉄の塊は粘土のようにへしゃげてしまう。

男はそんな目の前でおきた現状に、今度こそ思考が停止する。

その隙をみて立花は、今度は全力で力を抜き、男の鳩尾に掌底を叩き込む。

 

「ごっ・・・!?」

 

肺の中にある空気と、腹にたまっていた消化物が無理矢理吐き出されながら、男は倒れた。殴ったのは自分だが、少しばかりその姿を見て同情してしまう。

 

「テメェ、よくもケンちゃんをッ!!?」

 

今度はナイフを持った男が立花に向かって刺しに来る。ナイフは立花の腹をめがけて襲いに来るが、立花は慌てることなく男が持つナイフの刃先を掴み。

 

「ハァ!?」

 

驚きの声を出した男を無視して、立花はシャープペンシルの芯を折るようにポキッと、へし折った。無論立花の掌は傷一つ付いてはいなかった。

ナイフを持った男は思わず、自分の武器を持つ手から力が抜けてしまう。カラン、っと音立てた落ちたナイフを立花は思いっきり踏み潰す。

ドンッ!!まるで大地震が起きたかのような揺れと音響き渡る。その近くにいた男は思わず腰を抜かしてしまい、座り込んでしまう。

そんな男を見ながら立花は、

 

「・・・あんたもこうしてやろうか・・・ッ!?」

 

静かだが、それでも分かる位の怒りと殺意をぶつけながら相手を睨む。その怒気と殺気を目の前浴びた男は思わず失神してしまった。

立花はさきほどから偉そうにしていたマスクの男の方を見ながら、

 

「・・・お友達は全員気絶したけど、あんたはどうするの?」

 

「んなもん、テメェをぶちのめして仇を取るに決まってんだろ!?」

 

「あっそ。じゃあやってみなよ」

 

挑発じみた受け答えをするが、立花は興味をなんてはじめからないような雰囲気のまま地面を踏みしめ男めがけて飛びかかろうとした。

瞬間、男はいつの間にか手にしていた1Lのペットボトルが入った水を投げる。水はそのまま立花にかかり、信じられないことに張り付いてきた。

 

「!?ゴホ・・・ッ!?」

 

息をしようにも水が口や鼻から入り呼吸が出来ず、溺れたような感覚に陥る。

 

(一体何が・・・!?)

 

あきらかに物理現象を無視した動きをした水に対して、何が起きたか理解することが出来ない。

すると、その答えは男の方から教えてくれた。

 

「どうだ!俺の水流操作(ハイドロハンド)は苦しいだろ!?そのまま溺死しろや、イカレ女ッ!!」

 

(はいどろ、はんど?それって、上条が言っていた超能力のこと!?)

 

少しずつ減っていく酸素の残量に初めて焦りが生じてきた。それに立花は知らないが、シンフォギアの力は歌によって作られていく。だからこそこうして歌うことが出来ない状況は彼女にとってはかなり最悪の展開なのだ。

 

 

(まず、い。い、しきが・・・)

 

 

「おらッ!さっさと死ねやッ!!」

 

目の前が暗くなってくる。手足に力が消えて、倒れ込む。どれだけ持つかは分からないが、あと十数秒も持たないのは分かる。暴れ回る力もなくなり、目をつむってしまう。その手前で。

 

パリンッ!とガラスの割れるような音が響く。その瞬間立花を覆い被さっていた水は重力に逆らわず落ちていく。

 

「!?ゲホゲホッ・・・、なに、が・・・!?」

 

「お前、何をした!?」

 

男は立ちな場の方を見てはいない。男の視線は立花の目の前にいる男に向けられていた。

ツンツン頭に、白色のTシャツとカーキ色のズボン。その少年を立花響は知っている。

 

「かみ、じょう・・・?」

 

立花の声に答えることなく、上条はダンッ!と勢いよく男に向かって走り出す。距離にしておよそ10M。歩いてでも数秒でたどり着く距離だが、今の上条は目の前の男を1秒での早くぶちのめすことしか考えてなかった。

男は上条の表情を見る。その顔はまさに修羅と言っても過言ではないものだった。その迫力を見たけっか、男はもう一度水を操ろうとは考えることは出来なかった。

そして、男と上条の距離が数センチにも満たない距離もまで近づくと、上条は右の拳を本気で握りしめ、

 

「人の知り合いに、手だしてんじゃねえぞッッ!!!!??」

 

ガンッ!!上条は男の頬めがけて思いっきり殴りかかった。殴られた男は一回転し、頭から落ちた。そして、男はそのまま気絶した。

 

「はぁ、はぁ。上条、あんた一体・・・?」

 

「大丈夫か、立花?」

 

先程までの恐ろしい表情から一変し、優しい顔で微笑みかける。その顔を見て立花も少しだけ肩の力が抜けた。

息を整えていると、強化された聴力によって人や警察が来たことに気がつく。

なんとなくであるが、今この場を見られるのはまずい気がする。そんな事を思うと立花は上条の服を掴み、

 

「上条、さっさと逃げるよ!?」

 

「え、ちょ・・・!?」

 

上条の声を無視して、立花は窓をぶち破りそのまま逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

5

「初春、大丈夫!?」

 

「佐天、さん・・・」

 

「初春・・・ッ!?」

 

親友の呼びかけに答えた瞬間、佐天涙子はおもいっきり親友を抱きしめた。今自分がだせる全ての力で。そして苦しかったのか初春飾利は親友の肩を叩きながら力を緩めるようお願いする。

 

「佐天さん、苦しいですよ・・・」

 

「初春ごめん!あたし何も出来なかった。初春が勇気を出してあの人達の所へ行ったのに、あたし、何も・・・っ!?」

 

「・・・私も、何も出来ませんでした。あの人が助けてくれなきゃ、私も、死んでいたかもしれません。・・・やっぱり私なんかがあんなことするべきじゃなか・・・」

 

「そんなことない!」

 

初春の言葉を大声で遮る。

 

「あの時の初春凄くかっこよかったよ。あたしはあの時震えて動くことが出来なかった。でもッ!初春は勇気を出してあの人達に立ち向かっていった!あの時の初春は本物の風紀委員(ジャッジメント)だったよ・・・!」

 

「佐天さん・・・」

 

「だからさ、そんなに自分を責めないでよ。初春は強くて勇気ある私の自慢の親友だよ」

 

「さてん、さん。・・・ふぇ」

 

こうして、彼女たちは一つの決心をした。

初春飾利はもう一度、いや何度だって風紀委員(ジャッジメント)の資格が取れるまで諦めないと。

佐天涙子は助けてくれたあの人を何が何でも探し出し、お礼を言うと。それから彼女は学園都市の都市伝説について調べるようになったのだ

 

 

 

 

「あばばばばばばばばばばばばばばッッッ!!!!??」

 

まさか能力を使わずに空を飛ぶことになるとは、上条はジェットコースターに乗った事を思い出しながら風を感じていた。正直そろそろあまりの息苦しさに失神してしまいそうだ。

 

「・・・そろそろ着地するよ」

 

だが立花は息苦しさなんて感じていないように話しかけていた。

どうやら上条の寮近くまで跳んできたようだ。屋上に着地すると上条はやっとの思いで大きく呼吸をし始めた。

 

「・・・大丈夫?」

 

「あ、ああ。なんとか、ぶじ、だ・・・」

 

やつれた顔だがなんとか笑って元気全快なアピールをした。

そしてある程度息を整えてから、

 

「ありがとな立花。お前があの時、あの娘の前に立たなかったら今頃どうなっていたか・・・。本当にありがとう」

 

頭を深く下げ謝意を述べる。上条では肉盾になってもあの男達全員を倒すことは出来なかった。でもあの時は、自分よりも強く何とか出来た存在、立花響がいたことが本当に救いであった。

立花はこの時自分の力によってお礼を言われたのは初めてであった。だからなのだろうか?胸の奥が先程から温かくなってきたのは。

 

「・・・どういたしまして。上条」

 

そのお礼に対して、はにかみながら言葉を返した。

そんな彼女の笑顔は太陽とかぶっていたためなのか、まぶしくとても似合うものだった。

立花も落ち着いてきたため、先程から気になっていた質問をぶつける。

 

「・・・そう言えば、あんたのあの力。一体何なの・・・・・?」

 

「ああこれか。幻想殺し(イマジンブレイカー)って言ってああいう超能力なら何か打ち消すことが出来るみたいなんだ」

 

「・・・なにそれ滅茶苦茶じゃん・・・・・。あといつまでそこに座ってんの?」

 

「ごめん。まだ脚に力が入らなくて・・・」

 

「そっか・・・。じゃあ、はい。掴みなよ」

 

そう言って立花は手を伸ばす。どうやら立つのを手伝ってくれるようだ。

ならばその優しさに甘えることにしよう、そう思いながら上条は差しのばされた手を、()()()()()()()

そして、

 

パキンッ!とあの時聞こえたガラスが割れる音が響いた。

 

「あ」

 

間抜けな声が上条の口から漏れた。少年は自身の力を超能力だけを消せるものだと感じていた。でも今ので分かった。触れた感じは違うがどうやら立花が纏っている力もまたそれに類するもののようで、それが示すものはというのは・・・。

 

「?どうしたのさ、いった

 

立花は何かを言い終わる前に、彼女の纏っていた衣装は光になって消え去った。

つまり、今の彼女は生まれたままの姿になってしまった。

素っ裸になってしまって2秒後、自身の今の姿に気が付いた彼女は、

 

「・・・!?なにすんだ、この変態がぁああああああああッッッ!!!!??」

 

「ぎぃやぁぁあああああああああああ!!!!??」

 

不幸だーー!!といった少年の叫び声とドカバギッ!なんてバイオレンスな打撃音が、学園都市のおんぼろ寮の屋上から鳴り響いた。




誤字、脱字、感想等ご報告お願いいたします。


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不安定な子供達/ Third day

どうも作者です。
IBが詰まったからちょっとこっちの方の更新をしました。IBの続きはもう少しお待ちください。
それではどうぞ。


1

『蜜蟻!返事をしてくれ、蜜蟻ッ!?』

 

森の中を叫びながら、少年はとある少女を探す。彼女を探している途中に携帯電話をなくしたせいで、連絡を取ることが出来ないため、最後に目撃情報があった場所『グラウンド・ジオ』に向かっていた。だが、この広い山の中を一人で探し見つけ出すのは、自分とは縁のない『幸運』が必要な程である。

 

(どこだっ、どこにいるんだよ・・・ッ!?)

 

『みつ・・・っ!?』

 

放とうとした言葉は最後まで出なかった。

視線の先にあるのは大きな人工湖、綺麗にそろえられた靴と封筒。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ッ!?』

 

それを見た瞬間、頭の中はグチャグチャになった。たくさんの感情が一斉に脳に叩き込まれまともな思考が出来ない。でも急がないと、自身が思っている最悪の事態になってしまう、そう感じた少年は直感に身を任せ、湖に向かって走り出し、その勢いのまま湖の中に飛び込む。

時刻は夕焼けが沈み始め、太陽の代わりに湖の周りに設置されている街灯の光がともり始める頃。人工の光のおかげで周囲は明るいが、さすがに水中までは照らせないようで、どれだけ必死にさがしても深く暗い水が邪魔をする。

 

けれども少年は、必死に探し出す。少女に生きて欲しいと、この世界は残酷なもんじゃないと伝えるために。

すると暗い湖の中ではあるが、見覚えのあるものを見つけだす。

チョコレート色の髪を持ち、常盤台中学の学生服を着ている少女。その少女こそ、上条当麻が探していた蜜蟻愛愉本人であった。

 

(蜜蟻ッ!?)

 

やっとの思いで見つけた少女の元へ向かうために、急いで泳ぎだす。

そして、近いづいてくる少年に気がついた少女もまた、泳いで少年の方

へと近づき。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『が、ゴホッ!!』

 

(みつ、あり。なんで・・・ッ!?)

 

少女の手を振り払おうとするが、信じられない程の力で掴んできために振り払うことはできなかった。

肺の中にある空気一気に消えていき、酸素が脳に届かなくなったせいで目の前が暗くなってくる。どうにかしないとと考えるも、何も出来なずに意識を保つことが出来るのもほんの十数秒だけだと、本能が悟った。

水の中ではあるため聞けるはずがないには分かっていたが、それでも少女に辞めるよう、最後の力を振り絞り、言葉を放とうとしたその瞬間。

 

『・・ドウシテ、キテクレナカッタノ』

 

『ゴホッ!?(え・・・?)』

 

『マッタテイタノニ、ズットヒトリデ、マッテイタノニ。ドウシテ、キテクレナカッタノヨ、コノヒトゴロシ。ダカラシネ。シネ、シネ、シネ、シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネぇぇぇエエエエエエッッッ!!!!!!!???』

 

鬼気迫る表情で息を止めるのではなく、首を折りにかかり始めた。

そして、少年の首から、パキッっと折れる音が聞こえ、その音が聞こえたと同時に、少年の意識は暗闇に沈む。

そして、そして、そして・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああぁぁぁああああああああああああああああッッッ!!!!!!??」

 

バスユニットから跳ね上がるように、上条当麻は目を覚ました。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・・・・」

 

息を整えながら自身の首が折れてないことを確認する。そして、傷を負っていないことを確認すると、ゆっくりと自分の心臓を落ち着かせようと試み始めた。

 

(・・・夢、か)

 

そう、あれは夢なのだ。あの日、結局少年は探している少女を見つけ出すことはできなかった。今もなお、あの少女は暗く深い水の中に沈んでいると事を、少年は知っている。

だからこそ、たまにあんな夢を見ては、自分が人殺しであることを再認識するのだ。どれだけ困っている人を助けようとも、善行を重ねようと、自分が犯した罪は、刺青の如く剥がすことは決して出来ない。

それでも、少年は生き続ける。自殺なんて方法で自分を罰しようとは思わない。生きて、生き続けて、必死に償い続ける事だけが、上条当麻に与えられた罰なのである。

ある程度息が整ってき出すと、寝汗ですっかり重くなったシャツを脱ぎ、ベタついた体を洗おうと思った。

 

あいつ(立花)、起こしちまったかな・・・)

 

あんなうるさい叫び声のせいで起こしてしまったと思うと、昨日からの罪悪感がさらに積み重なった気がした。

こうして今日も、少年の1日(償い)が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

2

立花響は朝っぱらか不機嫌であった。それは昨日とある少年が起こしたハプニング(ラッキースケベ)が原因である。嫁入り前の少女の裸を見たという、完全にケジメもののやらかしをしてしまったために上条は、朝から許して貰えるように行動していた。

 

「あの、姫。そろそろ機嫌を治して頂きたいと、爺は切に願っているのでせうよ・・・」

 

「・・・別に怒ってなんかいないよ、この変態バカが」

 

「白い目で睨み付けながら罵声を浴びせてる時点でまだキレていますよね」

 

「ならもう少し真面目に謝りなよ・・・」

 

ベッドの上で足を組み、ある一定層の人からすればご褒美ものの視線をぶつける立花。だがその一定層の人間ではない上条からすれば、ただただ辛いものであった。

 

「・・・私、男に裸を見られたのって初めてだったんだけど・・・・・」

 

「じゃ、じゃあお互いハジメテという事に「脳ミソブチマケラレタイノカ・・・・・」本当すんませんでしたぁあああ!!?」

 

さっきまで赤い顔をして照れていたと思いきや、急にとてつもないプレッシャーを放ちながら物騒なことを言い出すとは、『女心と秋の空』と言われるほどに女の人の心は変わりやすいらしいが、そうだとしてもここまで真逆の反応をするとは昔の人も思わなかったであろう。

そして、彼女の性格は人の土下座を見てゾクソクする女王様タイプではないので、さっさと頭を上げろ的なことを言った。

 

「あの、ひとまずは許していただけたという事でせうか?」

 

「・・・まあ、一応は許してあげる」

 

「ありがとうございます!立花様っっ!!」

 

「まじでそういうのやめて・・・」

 

めんどくさそうな顔してはいるが、それでも先程よりもましな雰囲気になっている。

顔を上げた上条は時計を見ると、出かける支度をし始めた。

元々一人で食べる事を前提で買ってきた食材も、立花と一緒に暮らす事になったため予定が狂い、買い物と一緒に今日こそキャッシュカードの再発行をしに行こうと考え動いていた。

 

「どうする?今日も着いてくるか、それとも家にいるか」

 

「・・・今日は家にいるよ。まだちょっと疲れてるし」

 

「分かった。じゃあ鍵は置いてくから、もし出かけるなら鍵閉めたあとに郵便受けにでも入れといてくれ。あと、家の物は勝手に使って構わねえからな」

 

じゃあ行ってきまーす、言いながら出かけた上条を見送った後、先程まで座っていたベッドに倒れ込んだ。

 

(・・・ダメだ、やっぱり疲れが溜まったままだ。あいつが帰ってくるまで寝とこう・・・・)

 

ここ最近、あの不思議な力を纏った後は、風邪をひいたときみたいに体が熱くなって気怠くなる。何故そうなるのかはよく分かっていないが、眠ればある程度回復していた。ただ今までは公園のベンチかお金があったときならネットカフェで寝泊まりしていたので、完全に体の調子が戻るのに時間がかかっていた。

自分の物ではないが、ベッドで眠れるのでグッスリと眠れば明日には元に戻るだろう。そう考えながら目をつむると、意識は完全に夢の世界へと向かっていた。

 

 

 

 

夢を見るのは好きじゃない。

だって、夢を見るといつも嫌なことを思い出す。

陰口を叩いてくる同級生。死ねや消えろといった悪口が書かれた張り紙。唐突に投げられる石やバケツの入った水。

そういうのが嫌になって逃げるけど、逃げ場なんて何処にもない。それでもいつかたどり着ける、そう思いここではない何処かへと思い、走り続ける。

そして、何時も最後は決まって、真っ暗で自分の位置すら分からない暗闇で一人、胸から黄色宝石のような欠片が生えてくる。痛いのに、苦しいのに、叫んでも誰にも気づかれないまま、体全身が欠片となり、立花響は人ではない何かに変ってしまう・・・・・・。

 

 

「やだ、イヤだッッッ!!!!!!??」

 

叫びながら目を覚ます。浅く早い呼吸をしながら、体中汗でびっしょりであることに気がついた。汗はベッドにまで染み渡っており、借り物のベッドを汚してしまったと後悔する。

 

(・・・洗わなきゃ)

 

布団のシーツを外し、ベッド脇に置いてあったスプレー型消臭剤をマットと布団に使った後、それらを外に干す。そしてシーツと汗でびしょ濡れのスウェットを洗濯機に入れる。家のものは使っても構わないと言われていたことを思い出し、それに甘える形で浴槽も借りることにした。

 

 

 

 

「あいつ、しんどそうだったけど一人にさせて大丈夫だったかな」

 

買い物袋を肩にかけ、上条当麻は炎天下の中を歩いていた。なんとかキャッシュカードを再発行することができ、当分の食材と女の子のご機嫌取りにとアイスクリームを買い、溶けないうちにと急いで家に帰っていた。

額に汗をかき、やっとの思いで寮に着くが、行くときは壊れてなかったエレベーターがまさかの故障のため、7階までやっとの思いで階段を上り家に着いた。

鍵を開けよと鍵を探すが、家においてきたことを思い出しそのままドアノブを回す。

 

「ただいま・・・・・」

 

玄関に入るとそこにいたのは昨日と同様一糸纏わぬ姿の立花響であった。

何故裸なのか!?と驚くが彼女の髪が濡れ、頬がほんのり赤くなっているのを見ると、シャワーを使っていたのだと予想づけた。

そして昨日同様確実にキレた様子のまま、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・何か言うことは?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・お仕置きの前にこれを冷凍庫に入れたいのですが」

 

「フンッ!!」

 

上条の顔面に拳がクリーンヒットした。

 

 

 

 

 

 

 

3

「本ッッッッッッ当に申し訳ございませんでしたぁぁぁあああああああああッッッ!!!!!」

 

「分かったから顔上げて・・・」

 

本日二度目の土下座なんて誰が予想しただろうか。でもここ2、3日ずっと土下座ばかりしているので、こう土下座の価値がガクっと下がっりっぱなしであることに気がついてはいない上条だった。

 

「・・・今回の件は私にも原因があるし、それに勝手にお風呂や洗濯機使ってたからどっちかと言うと私の方が怒られるべきだよ・・・・・」

 

「いや、使っていいって言ったんだからそこは気にしなくていいぞ。ところで、なんで布団を干してあったり、シーツを洗濯してたんだ?」

 

「・・・ちょっと寝汗が酷くて、それで汚しちゃって」

 

「ああそうか・・・」

 

(確か女の子って男よりも体温が高いんだっけ。それとも汗っかきなのかな・・・)

 

汚したことに対してばつ悪そうな顔をする立花に、変な考察をしだす上条。別段汗っかきな女の子が好きな訳でもないし、そうやって自分の身だしなみを気にすることが出来る点を見るに上条の立花に対する好感度は地味に上向きだったりする。

 

「あ、そういえばお前、今朝怠そうだったけど今は大丈夫か?」

 

「うん。寝たらだいぶマシになった・・・」

 

「うーん・・・・・・」

 

どっちかといえばまだ気だるげな印象を持つので、本当かどうか確かめるために上条は彼立花に近づき彼女のおでこに手を当て、

 

「!?!?」

 

「熱っぽさはないな。・・・って、あれ?さっきより熱くなって・・・・・」

 

「ほ、ほんとに大丈夫だからっ!ちょっとお風呂上がったあとで熱く感じるだけだからっ!?」

 

「お、おう。そっか、なら良かったよ」

 

顔を真っ赤にしながらうろたえる立花の姿を見て、本当に大丈夫そうだなと確信した。まだ調子が悪いのなら晩御飯を雑炊にでもしようかと考えていたが、この調子だと今日もカップ麺で問題は無さそうだ。

 

「じゃあ今日も昼晩共にカップ麺だな。本当ならちゃんとしたの作りたいんだけど、まだ左手の包帯外せなくてな。でも、明日にはやっと包帯外せれるからさ、ちゃんとした美味しいの作ってやるよ!」

 

「・・・いいよ。無理しなくても」

 

「いやいや、俺本当に飯作れるんだって!なんなら簡単な1品ものくらいは作ろう」

 

「そうじゃなくて・・・」

 

立花はちょっとだけ暗い顔をして、何かを言い淀みそうになったが、少しだけ時間を置いてから口をゆっくりと開き、

 

「・・・私みたいな怪しいヤツをいつまでも置いておこうなんて思わなくていいよ。今日で3日もここにいるけど、私は1度もアンタに何かを返すことはできてない。そんな恩知らずな人間を、いつまでも置いてたらお荷物になるのは見えてるからさ」

 

これは嘘だ。本当の気持ちは、ずっととは言えなくともまだここに居たいと思っていた。世界でたった一人ぼっちになってしまった自分の前に現れた暖かい光。その暖かさを知ってしまえば、もう一度あの冷たく暗い場所に戻りたいなんて思わない。でも、これ以上彼に迷惑をかけたくはない。ならば、まだ離れられるうちに出ていくべきなのだ。

少年の方は、鳩が豆鉄砲喰らったようにポカーンとした顔をしていたが、言われた内容をちゃんと理解してから少年は、

 

「いや、別にお荷物だなんて思っていないぞ。それに俺は、お前に何かして欲しいからここに置いている訳じゃねえし」

 

「じゃあ、なんで・・・・・?」

 

「初めにあった時も言ったけど、俺がやりたいからやってるだけだ。恩返しを望んでもいないし、報酬が欲しいからやってるわけじゃねえよ」

 

自分は人殺しだ。手を伸ばしていた少女を助けられなかった。でもだからって、それを理由に別の誰かを助けなくていいなんて通りは無い。偽善使い(フォックスワード)を自称する人間だからこそ、自分がやりたいと思うことは全力でやり通さなくてはならない。もしそれが出来ないのなら、ここにいる資格なんてない。だが履き違えるな。少年は資格を持ち続けるために人を助けるんじゃない。いつだって悲劇を見たくないからこの少年は助けるのだ。

 

「・・・・・、」

 

「まあお前が俺の家に居たくないって思うのなら、他の誰かに頼むけ「そんなことないっ!!」そうか、じゃあここにいろよ立花」

 

「!?・・・・・本当に、いいの?」

 

「ああ、男に二言はないっ!!」

 

ニカッと笑う上条を見て、涙が込み上げそうになった。自分はここに居ていいのだと面と向かって言ってくれた人がいたのだ。

ならば、今は、今だけは、それに甘えてもいいだろう。

 

「よし!じゃあ昼にしようか。立花、醤油とカレー、どっちがいい?」

 

「・・・じゃあカレー」

 

「了解。じゃあ腕によりをかけますか!!」

 

「・・・お湯注ぐだけじゃん」

 

「うっせ。こういうのはノリだよノリ」

 

「ハイハイ分かったから・・・」

 

少年のノリは今も苦手なところがあるが、それでも彼とのやり取りは少しだけ、楽しいと感じ始めだした。




誤字、脱字、感想等ご報告お願いいたします。


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買い物日和な回復記念日/forth days

どうも作者です。
こちらの方も今年最後の投稿です。
本編前にちょっとした小ネタを入れてみます

題名:見た目で判断するのは早計である。
上条「何か明らか迷子です的なオーラを発しているちびっ子がいる・・・」
ロリマリア「子供じゃないわよッ!私は立派な大人よ!ほら、ちゃんとここに年齢も書いてあるでしょッ!!」
上条「え、うわまじだ。すんません子供扱いしちゃって・・・」
ロリマリア(あれ、すんなりと年上だって分かって貰えた!やっぱり私は大人なのよ、セレナ!!)
上条(あー、小萌先生と同じ見た目で誤解されるタイプの人か・・・。きっとビールや煙まみれになるまでたばことか吸ってんだろな・・・・・・)

それではどうぞ。


1

「やっと包帯が外れた!もうこのうざったい暑さともおさらばだぁ!!」

 

「・・・はいはい良かったねー」

 

もうこんな会話を何回もしているので正直なところちょっと飽き飽きしている。でも、ものすごくうれしそうな彼の顔を見ると、そんな事を言えなくなってしまうので、さっきから同じような返事を立花は繰り返していた。

 

(・・・弟がいるって、こんな感じなのかな?)

 

昨日知ったことであるが立花の方が上条よりも一つ年上である。だが中学三年から学校に行くのをやめ、家出をしていたために高校も行ってはおらず、どちらかと言えば同級生的な存在に感じていた。

一方上条はと言うと、

 

(立花がまさか俺より年上だなんて、ちょっと驚きだったな)

 

昨日までの時点で彼女について分かったことは、自分よりも年上であり、家事能力は高く、頭も良く上条が悩んでいた宿題の答えをわかりやすく解説してくれたことから、自分よりも優等生であるは明らかである。

そして、以外と力が強くなんというかごr

 

「・・・上条、今なんか変なこと考えなかった?」

 

「イエ、ナニモカンガエテマセンヨ」

 

「・・・なら良いけど」

 

(こいつ、もしかして心が読めるんじゃ?いやそんなことないよな・・・)

 

ハハハと笑って誤魔化しにかかる。昨日までで3発くらい殴られているが、その威力は同じ年頃の少女の威力ではなく、同級生のおでこ委員長のヘッドバッドよりも重い一撃を何発も喰らいたくはない。

怪しげな笑い方をしている彼をジト目で見ながら歩いていると、病院から家に帰っていると思っていたが、どうやら違う道を歩いていることに気がつき、彼に何処へ向かっているか尋ねてみた。

 

「・・・ねえ上条。私たち何処へ行ってるの?」

 

「あー、セブンスミストで買い物でも行こうかなって思ってるけど」

 

「せぶんす、みすと・・・?」

 

第七学区(ここ)の商業施設のことだよ。行ったことないのか」

 

「・・・うん、初めてかな。でも何でそんなところに・・・・・」

 

「お前の服を買いに行こうかなと思ってな。ほら、いつまでも俺の服でいるのもあれだし、それにお前下着の類が・・・」

 

「それ以上余計なことを言うなっ!?」

 

顔を真っ赤にして上条の首を絞め黙らせにかかる。上条からすれば命の危機だが端から見れば痴話喧嘩にしか見えず、つまりは・・・

 

「カミやん、お取り込みの所申し訳ないんやけどな。今カミやんの首を絞めにかかっている美少女は誰なん?」

 

後ろから世界三大テノールもびっくりな野太い驚きの声だって出てくるものだ。立花はその声を聞いてから一呼吸もしない間に首から手を離し、上条はこの聞き覚えの相手の顔を思い浮かべながら振り返る。その先にいたのは身長180CMを超す長身で青色の髪に耳にピアスを付けた男が立っていた。

 

「げっ!青髪ピアス・・・」

 

「なんやその反応は。まさか貴様、我ら信頼と実績の負け犬組(モテない)から足洗おうとしとんちゃうやろなっ!?」

 

「人をそんなふざけた組に入れたんじゃねえ!あと、立花と俺はそういう関係じゃねぇよ!?」

 

「ほーん、じゃあどういったご関係なん?」

 

うっ、と喉から出てきそうな言葉が詰まってしまう。ここで正直に言えば確実に()られた後、登校日に魔女裁判的なものにかけられる事を想像するのは容易だ。

勿論そんな目に遭いたくはないので、顔色を変えないようにしながら弁明を行う。

 

「こいつは学園都市の外にいる従姉妹だよ。学園都市のツアー抽選に当たって、今はフリーの時間だから俺の所に来たって訳だよ。()()()

 

「!?」

 

(顔に出さないで立花さん!ここは俺の嘘にのってくれ、頼む!)

 

いきなり名前で呼ばれたことに立花は驚いた顔をしてしまう。そんな彼女に、いつもの顔で芝居に乗るよう念を送りだす上条。そしてそんな彼の思いが届いたのか、今の状況を察したのか分からないが、

 

「・・・うん」

 

「なーんやそうやったんか。まあカミやんはボクらと同じ負け犬組(モテない)で影の住人やもんな!」

 

「さらっとマイナスな人格評価を追加してんじゃねえよ」

 

だが実際上条も自身のことを隅っこにいるオタク的な人物だと思っている節があり、放課後に映える目的でタピオカ専門店に行く人物を直視出来ない人間なのである。

 

「じゃあボクは用事があるから。ほなサイナラ」

 

「じゃあな青髪。また風紀委員(ジャッジメント)に職質される目的で不審なことするんじゃねえぞー」

 

「あはーっ!それはもうやった後やでーー!!」

 

「すでに手遅れだったか・・・っ!?」

 

もう後戻りできない所まで進んでいる友人と、一体どういう風に接すればよいのだろうかと上条は軽く頭を抱えていた。

一方立花はなんだか不機嫌なオーラを発しており、

 

「・・・私はあの人と同じだと思われていたのか」

 

「え?・・・ああそういやそんな事言ったっけな」

 

「・・・私ってそんなに変な子に見えたかな」

 

「この真夏に長袖着て寝てる奴なんて頭のおかしなへんtグヘっ」

 

脇腹あたりに鈍い痛みが付与されたツッコミがはいる。

 

「い、今はそんな事思ってねえから」

 

「ふーん、じゃあどう思ってるのさ」

 

うーんと少し悩んだ末に、

 

「ちょっと無愛想だけど、優しくて良い奴かな。俺が怪我してるからって洗い物とか手伝ってくれてるじゃん」

 

「・・・そ、それは泊めさせてもらってるしそれのお礼というか何というか」

 

「そういうのは気にしなくていいって言っただろ。だから今日は手伝ってたお礼ってのでお前の服を買わさせてくれよ」

 

「・・・・・、」

 

そう言われると立花はそっぽを向き、頬が緩まないよう顔を固定し始めていた。

久しぶりに褒められたからなのか嬉しかったのか、顔は中々戻る事はなかった。

 

「じゃあ涼みに行くのも目的でさっさと行こうぜ、()()

 

「・・・あのさ、上条。さっきは名前で呼んでくれたけど、また名字に戻すの?」

 

「え、名前で呼ばれるの嫌じゃねえのか」

 

「わ、私はどっちでも良いかなって。どっちかっていうと名前で呼ばれたいかな

 

「?ごめん最後のほう聞えなかったんだけど」

 

「き、気にしなくて良いから!」

 

ふと口から漏れた言葉に驚いたため誤魔化しはじめた。

 

「ほ、ほら!暑いの嫌だし、さっさと行くよっ!!」

 

「お、おい!そっちは逆だぞ!」

 

そんな言葉が出てしまうほど人肌が恋しくなっている事に気がついたが、何故かその感情は嫌だとはものだとは思うことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

2

「意外と服買ってないけど、良いのか?」

 

「良いの。何時までもあんたのとこに居るわけじゃないし、三着位あれば十分だよ」

 

「お前がそれでいいって言うなら別にいいけど」

 

セブンスミストにて、彼女の普段着を買い始めてまあまあ時間が経っている気がする。男物の服をあまり躊躇いなく着ていたので、そんなに気にしないタイプなのかと思っていたが、年頃の女の子らしく着る物をしっかり吟味しながら買い物をしていた。

買った物は短パンやホットパンツと言われる丈の短いズボンと、灰色と黄色、そして黒色のパーカー、それにあわせたTシャツであった。

 

「俺も冬場はパーカー着るけど、夏はなぁ・・・」

 

「結構便利だよ。急に雨が降ってきたときには傘の代わりになるし、寝るときは布団の変わりにもなるし」

 

「お前本当に壮絶な暮らしをしてたんだな・・・」

 

「・・・引いた?」

 

「いや、やっぱあの時お前を家に招いて正解だった、って思ってるよ」

 

あの時家に来るよう言わなければ本当に公園をキャンプ場として寝泊まりするつもりだったのかと思うと、過去の自分に良くやったと言いたくなってきた。

 

「・・・あとは下着だけだから、一人で探してくる」

 

「分かった。じゃああそこのベンチで座って待ってるわ」

 

立花が下着屋に行くの見送った後、ベンチに座りボーっとし始めた。

携帯のアプリゲームをいじって待つことも出来たが、何だがやる気が起きず昼寝でもしようかと考えていると、突然視界が真っ暗になり、

 

「だーれだ♪」

後ろから声と柔らかい物が頭に当たっていた。

色々と役得な状況だが、見えない周りの視線が気になるため答えようか口を動かす前にいたずらの主が先に仕掛けてきた。

 

「ふふふ、分からないか。ではヒントを上げよう。私の今日のブラはピンク色だ

 

「そのヒントで当てることが出来たらただの変態じゃないですか!?何やってんすか雲川先輩!」

 

「あはは!相変わらず君は()()()()がいがあるな」

 

けらけらと笑いながら上条の前に現れた少女の名前は雲川芹亜。ヘソ出し夏用セーラー服にカチューシャを身につけた上条の先輩である。

なんだかとてもからかい上手な大人のお姉さんの印象が強いが今の彼女の内心はというと、

 

(い、いろいろと凄まじいことをしてしまったっ!大丈夫だろうか。こう、痴女みたいな扱いをされないだろうか!?)

 

全然余裕なんてない感じであった。

だがそれを悟らせないようなポーカーフェイスのまま、上条の隣に座る。

 

「久しぶりッすね。先輩も買い物ですか?」

 

「いーや、私はウィンドウショッピングだから、買う事が目的ではないよ。そういう君こそ、女性ブランドの服なんか買ってどうしたんだい?」

 

「これは従姉妹が買った服で、俺はそれの荷物番をやってるだけですよ。てかよく俺が持っているのが女性物だって気がつきましたね」

 

「そこのブランドは私も利用していてね。だからすぐに分かったというわけさ」

 

「おおーさすが先輩!なんか探偵みたいですね」

 

「これくらい、初歩的なことだよ少年。あと私はてっきり女装の趣味にでも目覚めたのかと思ったのだが、いや失敬失敬」

 

「このガタイで女装してもネタ枠にしかならないですよ」

 

「いや、君小さいから結構イケるんじゃ・・・」

 

「イケようとイケまいと俺はやりませんからね!?」

 

彼女と会えばいつもこういったくだらない会話をしたり、上条が知らない雑学をひけらかしてはスゲーっす先輩と羨望の眼差しを送ることに楽しんだりしている雲川だったりする。

適当な会話をしていると、雲川から新しい話題が振られた。

 

「そういえば少年。一昨日この近くで銀行強盗があったのを知っているかな?」

 

「えっ!?い、いや知らないっすね・・・」

 

嘘である。いくら治安が悪いこの町といえど、この近くで一昨日に起きた銀行強盗といえば、あの銀行強盗のことに決まっている。

だがここで知っている的な反応をするのは面倒なので、知らない振りをする。

その反応に彼女もあまり深くは聞いてくることはなく、話を続けた。

 

「そうか。いやうちの学校の警備員(アンチスキル)の先生方がそんな話をしていたのでな、ちょっと盗みぎ・・・小耳に挟んだんだよ」

 

「なんか今ヤバいこと言いそうになっていた気がしてけど、とりあえず話が気になるんでスルーしますね」

 

「察しが良くて助かるよ。それで、話によると強盗三人は、自分たちが入ってきたときにはノビていたようでな。話を聞いたところによると、どうやら正義のヒーローがそいつらをボコボコにしたようだそうだ」

 

「そ、そうなんですか・・・。なんていうかそんな漫画みたいな人がいるんもんなんですね~」

 

君がそれを言うかね、全く・・・・・

 

「えっと、先輩?」

 

「ああすまない。それで話を戻すと、暴れまくった内の一人は奇妙な格好をしていてな。君が先程言っていた漫画やアニメに出てくる萌えヒロイン的な格好をしながら、それとは裏腹なやり方で強盗二人を退治したようだが・・・」

 

(間違いない。立花の事だ・・・・・)

 

あの暴れっぷりを見てた人達は多くいたはずだ。いつか彼女について色々と事情を聞かれるような事になるのかと思っていると、話は一転する。

 

「その萌えヒロインだがな、どうやら()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・え。それって一体?」

 

「いや、証言や防犯カメラから彼女がいたことは確かなようだが、書庫(バンク)で調べてみても、その女に関する検索件数は0だったらしい」

 

「0ってそんな事・・・」

 

「少なくともこの町に入ったのなら、生きていようと死んでいようとその情報は記録されるのに、一つも出てこないとは不可解だ。では不法侵入者なのかというと、この町でそんなたいそれた事を行うのなら用心深く行うに決まってる。なのにわざわざ目撃情報を残しているとなるといよいよ何の目的なのか分からなくなってくるものさ」

 

「・・・・・、」

 

雲川の話を聞きながら、初めて立花にあった日のことを思い出す。分厚い長袖長ズボンといった季節外れの衣服。だがその格好に対して何の疑問を持っておらず、着ているのが当り前だと言わんばかりな様子であった。

あの時はそういった趣味を持つ変わった少女なのかと考えていたが、この三日間一緒に暮らしてみてそんなことをするよな人物ではない事は容易に想像できる。

 

何故、立花響はそのような格好をしていたのか。何故、彼女のデータがこの街に一つとしてないのか。

足りない頭で考えるが、答えどころか仮説も思いつかない。

それでも考えて、考えぬいて。そして・・・・・。

 

「・・・おーい、聞えてないのかー少年ーー?」

 

「!あ、すみませんせんp・・・って何でそんなに近づいてるんですか!?」

 

「いや、君が先程から反応しないから近づいてみようかと思ってね」

 

上条の目と鼻の先まで近づいていた雲川に気がついていないほど、考えを巡らせていたのがよく分かる。

だが上条が気がついたからといって雲川は離れるどころか、余計に近づき、

 

「先輩、これ以上は・・・っ!?」

 

「そう固くなるな。一夏の過ち的なものだ・・・」

 

「あのでも、こういうのって家でするべきなのでは!?」

 

「そうか、ではこれから君の家にでもいk

 

 

「上条ッッッ!!!!??」

 

 

 

騒がしいショッピングモール内の中でひときわ大きな声が響き渡る。

声がする方向にいたのは、

 

鬼気迫った表情をした立花響だった。

 

 

 

 

 

 

3

「・・・これだけあったら充分でしょ」

 

下着選びが終わり、籠の中に入った下着をレジに持って行こうとする立花の目に、とあるブラジャーが見える。

上の谷間を隠せるタイプのブラジャー。だが真ん中には可愛らしい猫の形をしたあなから谷間が見える物のようだ。

 

「・・・最近の子ってこんなの着るんだ・・・・・」

 

学校にも行っておらず、会話もあの少年以外とはしていないから流行についていけてないのである。

 

(・・・こういうの着たら、あいつも喜ぶのかな・・・・・)

 

野宿をしていた時、たまに落ちてある男性向け雑誌の中にあるグラビア特集には、下着や派手な水着をきた女性が多くいた。

立花からすればどれも同じように見えていたが、男からすれば別物に見えていたのだから、毎週そういった雑誌を買っては盛り上がっていたのだろう。

一瞬、手に取って見てみようかと考えたが、包帯とれたからといってまだ完全回復したわけではない彼に負担をかけるわけにもいかないと思い、レジの方へ向かっていると。

 

 

知らない女に寄りそられていた、上条当麻が見えた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

自然と間抜けな声が出しながら、籠が手からスリ落ちていた。自分からすれば唯一の知り合いではあるが、あの人当たりのいい性格であれば沢山の人との付き合いもあれば、友達だって沢山いるだろう。

 

ああなのに、胸が痛くなる。近い距離で話をしているの見ているだけで、頭がグチャグチャになってくる。

 

(いやだ、何か分からないけど嫌だッッ!?)

 

そして女はあろうことかこんな事を言った。

 

「そう固くなるな。一夏の過ち的なものだ・・・」

 

ブチッ!その言葉を聞いた瞬間、頭の中にあった何かがぶち切れる音が聞えた。

それと同時に、周りの目など気にせず叫びちらしていた。

 

「上条ッッッ!!!!??」

 

 

 

 

「え!何、どうしたの立花!?」

 

いきなり名前を呼ばれたので驚きながら立花の名を呼ぶ。上条は驚いてはいるが、平然とした様子であったが、立花はその逆の雰囲気を纏いながら彼に近づき、そしていきなり彼の腕を組み始めた。

 

「ど、どうしたんだよいきなり・・・」

 

「・・・・・、」

 

「いやなんか反応して貰えませんかね・・・」

 

腕にがっしりっと力を入れたまま自分の胸の方へと寄せていく。なんなら胸を腕にひっつけそうな距離までとか付いていく。

それを見た雲川は面白くなさそうな表情をする。

 

「・・・少年、その娘が君の従姉妹か。ずいぶんと深い仲のようだなぁ」

 

「いや、そういうのじゃ「なに、あんたには関係ないでしょ?」なんでそんな敵意MAXな反応をしているのでせうか!!?」

 

「そうだな。私たちはただの先輩後輩関係であってそういった仲ではないよ。だがな・・・」

 

そう言って立花の耳元まで近づき上条にギリギリ聞えない位の声で、

 

あまり彼を、自分の全てのように扱うのはやめろ。重い女は嫌われるぞ

 

先程までの怒りとは違う、冷め切った感情を彼女にぶつける。

 

「ッ!?何を・・・ッ!?」

 

「すまない少年。少し用事を思い出してしまった。ではまたな」

 

「あ、はい。それじゃあまた」

 

そう言って雲川は人混みの中へ消えていった。

立花はそんな彼女が視界から消えるまで、ずっと睨み続けていた。

 

「なあ立花。お前先輩になんでそんなに敵意を抱いてんだよ。悪い人じゃないぜ」

 

「・・・分かんない。でも何か・・・・・」

 

「何かって、なんだよ?」

 

「・・・・・何でもない。下着買うから着いてきて」

 

「いや、それは「いいからっ!!」わ、分かったよ」

 

それから終始機嫌の悪いまま立花は買い物を終え、上条と共に家に帰った。

そして何故か、家に帰ってからずっと上条の元を離れようとはしなかった。

 

(・・・何も知らないくせに!私には上条しかいないのに、何でそんな事を・・・・・ッ!?)

 

雲川はどうしてそんな事を言ったのか、立花には理解出来なかった。




誤字、脱字、感想等ご報告お願いいたします。
来年もよろしくお願いいたします。


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催眠術なんて信じない/fifth days

どうも作者です。
活動報告にも書いたのですが、4月からこちらも更新が遅れます。
申し訳ございませんが、これからも応援よろしくお願いします。
そして小ネタです。
題名::黄色い炭酸と白い泡が繋ぐ絆
小萌・セレナ「「んぐんぐんぐ、プハーーーっっ!!!!!」」
小萌「ふはー、相変わらずいい飲みっぷりですねーセレナ先生〜」
セレナ「そちらもいい飲みっぷりですよ小萌先生〜」
小萌「本当、この1杯のために生きてるって感じですね〜」
セレナ「はぁ、どうしてこう仕事終わりのビールって格別なんですかねぇ」
小萌「それは、自分が今日1日頑張った証だからじゃないですかね〜」
セレナ「なるほど〜」
小萌「それでは〜、今日1日頑張った私達に!」
セレナ「はいっ!私達に!」
小萌・セレナ「「カンパーイっっ!!!!」」


1

「・・・本当にできちゃった・・・・・」

 

「ZZZ・・・・・・」

 

ベッドの上でぐーすかと眠っている上条当麻と、ノート片手に呆然と立ち尽くしていた立花響という状況が読めないシーンになっていた。

 

(こいつ、本当に催眠術にかかったよ!?)

 

何故こうなったのか、時間は少し前まで戻る!!

 

 

 

 

 

 

 

2

「・・・しゅくだいもうやぁ」

 

「・・・幼児退行したところで気持ち悪いだけだからさっさと終わらせなよ」

 

「あまりのツッコミの辛辣さで余計やる気無くすわ!」

 

だが上条もまたあの態度は気持ち悪い反応だわな、と余計にやる気を無くしていた。

さて、中学生上条当麻が自宅の机に向かっていたのは夏休みの宿題(この世全ての○)を片付けるためだったが、そんなものは上条の経験則からいえばやる気を出してやるものではなく、尻に火がついてから終わらせるものなのでこうやってチマチマやるのは勝手が違いやる気がなくなっていた。

 

「・・・そもそもこういうのって、7月時点で終わらせとくものでしょ。しかもあんた、今受験生なんだから受験勉強とかやんないとヤバいんじゃないの?」

 

「うるせー!この優等生めっ!あれですか、やさぐれ不良娘感醸し出してるのに実は裏では人一倍勉強している的なギャップ萌えでも狙ってるのかっての!?」

 

「え、何で私怒られてるの・・・」

 

最近よく見るキレやすい少年の八つ当たりを受けても、立花は怯む様子もなく上条の隣にいた。正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にである。

 

上条の住んでいる寮はお世辞にも広い場所とは言えない。

元々一人暮らしのワンルーム部屋で食う寝ることさえ出来ればいい場所であるため、4人も集まれば歩くことすら少し難しいものだ。

しかし今は2人しか部屋にはおらず、ここまでくっつかなくても座るスペースはあるのにも関わらず、立花は上条の真横でたまに勉強を教えながら、彼のことを見ていた。

 

「・・・あの立花、もうちょっとスペース開けても「嫌」そ、そこを何とか「迷惑じゃないんならいいでしょ」は、はい・・・・・」

 

(嫌ではないんだけどさ、ちょっと勉強に集中するのが難しいんだよ!こう匂いとか感覚がリアルすぎてさ!!)

 

思春期少年にはあまりにも甘美で、少しでも触れてしまえば恐ろしいことになりそうな距離感。

嬉しいという気持ちよりも、焦りのほうを感じていた。

 

「・・・手、止まってるよ」

 

「わ、分かってるよ!」

 

全然集中なんて出来ないまま、目の前の問題に取り組み始めた。

そして、そんな彼を見ている立花はというと・・・。

 

(・・・ああ、なんだか落ち着くな)

 

そう思いながら、あと少しで彼に触れる距離まで近づこうとする。

近づく度に、少年の匂いや少年の体温が濃く、感じやすくなる。

 

(・・・未来がいたときも、こうやってくっついてたっけ)

 

まだ自分の世界にいたときも、幼馴染みであり、自分の親友だった少女に今以上にくっついっていたな、と思い出にふける。

それは楽しくて温もりを感じる記憶であり、思い出す度に心が締め付けられる記憶でもあった。もし彼が居なければ、泣いてしまいそうなくらい辛い記憶なのだ。ぽっかりと穴が空いたような感覚はとても辛かった。

 

そして、少女の心は気づいてはいないが、どこかでその少年のことを陽だまり(居場所)になって欲しいと思い始めていた。

だからこそもっと近づいて彼に触れたいと思いながら、心の何処かで彼に嫌われたらどうしようかと考え出すと、あと一歩が近づくことが出来ないままだった。

ただ今は、この微妙な距離感を噛みしめていた。

なんだか複雑そうな少女の顔を見た上条は、気をつかい暇つぶしなるようなものを探し出す。

 

「・・・なあ立花、暇だっておもうんなら本棚にある本読んで時間潰してても良いんだぜ」

 

「・・・・・、」

 

彼からの提案に乗ったのは、暇だと感じていたからなのだろうか。言われたとおり本棚から本を選び出すが、如何せん男子向けの漫画かライトノベルしか置いておらず、これが読みたいなと感じる物はなかった。

そうやって本棚を触っていると、一冊だけ、漫画ではなく大学ノートが挟まっていた。

ノートの題名部分には『雲川芹亜のさいみん☆ノート』といったふざけた文字が書かれていた。

 

「・・・何これ?」

 

「あ、それ先輩から借りたノートじゃん」

 

「先輩って・・・?」

 

「ほら、昨日会った頭にカチューシャ付けてた人だよ」

 

「・・・・・アイツか」

 

いつもより少しだけ低く、冷たい声が立花の口から漏れた。

あの女。上条の先輩であり、彼にベタベタとひっつき、まるで自分の所有物だと言わんばかりにその光景を見せつけた女。

彼は私のものではない。だからといってお前のものではないだろうが。そんな苛立ちを感じ始めていると、上条が何か思いついた顔をしていた。

 

「なあ立花。もしよかったら催眠術体験してみねえか?」

 

「・・・はぁ?なんでまた」

 

「さっきっから何か暇そうにしてたし、俺も休憩がてらに本当に効くか試してみたいんだよ。なあ頼むよ~」

 

「・・・分かった。ただし私も後であんたに催眠かけさせて貰うから」

 

(まあこうすれば、こいつもふざけた命令は出来ないでしょ)

 

そんな風に立花は考えながら上条にノートを手渡した。いくら超能力がざらなこの町だからこそ、催眠術で人を操れるなんて本気で信じてはいないであろう。

そして上条はノートの手はず通りに五円玉に糸を通し、いかにもといった振り子を作り出した。

 

「よーし、じゃあベッドに座ってくれ」

 

こくり、と頷いて立花はベッドに腰掛けた。上条はそんな彼女の目の前に立ち、彼女の顔ではなく、ノートを見ながら、

 

「じゃあ行くぞ。まずは・・・この振り子をきちんと凝視して下さい、っと・・・・・」

 

(・・・なんかこういかにも、ってやつだな。本当にこんなので催眠なんかにかかるのかな・・・・・)

 

少年の指示に従い、振り子の動きを目で追いかける。

と、

 

「見せかけてからのドーーンっ!!!!」

 

パァン!!と顔の前で手を叩いた。

急に耳の響いた音に驚いたが、顔に出さないよう気おつける。

テレビショーなんかだと、この後催眠にかかるのだはそんな感覚には陥っていない。

 

「あれ、成功した、のか・・・?あのー、リラックスしてくださーい」

 

「・・・・・、」

 

立花はベッドの座り込んだまま体をだらんとさせ沈黙を続ける。

もしかしたら今までのは準備運動で、ここからが本番なのではないのかと次の指示を待つ。

だが、少年は少女の顔の前で手を振ったり、明らかにもう最後の段階に進んでいるようにしか見えなかった。

 

「ちゃんとかかった・・・。すごい、『先輩』のノートはまじだったんだ!俺みたいな素人でも成功するって、やっぱり『先輩』はすごいなーっ!!」

 

(いやかかってないし!?てかなんで、私の演技力を褒めずにアイツのこと褒めるのよっ!!?)

 

イライラゲージが溜まり出すが、もうちょっとこのままの状態でいて、時を見計らって驚かしてやろう、とタイミングを見計らい始める。

それと、遠回しにふざけた命令はやめろと言った彼はどんな命令を出すのか気になり始めた。

 

「じゃあ最初の命令は・・・・」

 

と、ノートを見ながら上条当麻は言った。

言いやがった。

 

 

 

「じゃあ、服を脱いで下着を見せてください」

 

 

 

「・・・・・ッッッ!?!?!?!?」

 

思わず心臓と手が飛び出しそうになる。

手を出さなかった自分を本当に褒めてやりたい。

表情には出なかったが、身体は小刻みにプルプルと震えていた。

だがそんな様子に上条は気づいていない。

 

「アレ、上手くいかないな。まずこれを試さなきゃダメだって書いてあんのに・・・」

 

「・・・・?」

 

薄くまぶたを開け、ノートに書いてある文字を読んでいく。

 

「『恥』は人間の抵抗力を表す重要なパラメーター。相手を制御下に置いているのかを確認するため、まずは強い『恥』を与える命令でテストする必要あり。例えば自分の手で下着を見せるとか・・・」

 

(あの女・・・・・っ!全力で適当な事書いて・・・・・っっっ!!!!)

 

このインチキノート。少なくとも目に見える範囲では、卑猥なことに向かうように書かれてある。

一体誰に、やらせることを目的に書いたのか。まさか自分にやらせる事を前提でこれを作ったのではなかろうか。

どちらにせよ、こんなものを真に受けてやるのは本当のバカだけで、目の前の少年はそれに該当する事が分かった。

 

「で、でもまずいぞ・・・。催眠に失敗してるのにだらーんとしてるのってまずくないか!?確か催眠を解除するページ・・・っ!?」

 

(ちょっとまて。まさかこいつ、この馬鹿げた催眠を誰かにやったことあるのか・・・っ!!?)

 

「あった!・・・そうそう、緊急時の催眠解除方法。催眠の失敗は、場合によっては記憶や人格の破綻をもたらす恐れがあり」

 

(はぁっ!?そういった説明先にやるべきでしょっっっ!!!!??)

 

「緊急解除の際は躊躇しないこと。ただし強く呼びかけたり、頬を叩いても効果無し。命令を拒む力を生み出す最大の『恥』の感情を最大限膨らませること」

 

(え、それって・・・)

 

「例えば、パンツを脱がしたり、口づけをするなど・・・」

 

「それはだめでしょうがぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!??」

 

ついに感極まったか。

少女の拳が少年の腹に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

3

「・・・おい起きろ。バカ」

 

「ぐへぇ」

 

横腹に鈍い痛みが走った。どうやら足蹴りされたようであった。ゆっくりと息をしながら声のした方を見る。そこにはいつもの何倍も不機嫌そうでありながら頬を赤くしていた立花がいた。

 

「・・・あんたさぁ、それ一回やったことあるんだよね。じゃあその時どうなったかを憶えてないのかなぁ!?」

 

「い、いや俺これやったのも読んだのも初めてなもんで・・・」

 

「その割にはどのページに何が書いてあるか分かってたじゃん!」

 

そう言葉の追撃を受けるが上条の記憶にはこの催眠術を誰かに試した記憶(思い出)はなかった。

だがどのページに何が書いてあったかという記憶(知識)はあった。

それは、違和感としか言い様がなかった。そしてそんな違和感を、ここ最近も感じたのを思い出す。

四日前、銀行強盗があったあの日。銀行に行く前、朝食を作っていたときに見覚えのない紅茶缶があったのを思い出す。

今もあの紅茶缶を何時貰ったのか思い出すことも出来ない。

 

(やっぱり、俺なにか忘れてるのかな・・・)

 

「・・・ねえ上条、聞いてるの上条っ!!?」

 

「!ご、ごめん。聞いてなかった・・・」

 

「ハァ。聞いてないならもう一回言うよ、さっさとベッドの上で横になって」

 

「え、なんでまた「拒否権があると思ってんの、このセクハラ変態色魔め・・・」は、はい・・・・・」

 

言われたとおりベッドに横たわる。立花の手を見ると、催眠ノートが手にあった。

真剣な表情でノートを読み込んでいるようで声をかけるのを少し躊躇うほどの顔であった。

 

「・・・よし、じゃあ今か言うとおりにしてもらうから」

 

「お、おう。何でも来いやぁ!!」

 

 

 

数十分後。

 

 

 

「ZZZ・・・」

 

「なんで成功したのよ・・・っ!?」

 

小声で目の前の事態にツッコミを入れる。彼がノートから手を離したとき、どうやら自分にかけたのは女性のかける専用であり、男性はまた別の方法でかけるようだったのだ。

そして実際に成功するなんて思ってもおらず、彼の人の良さを鑑みるに自分と同じく催眠にかかった振りをする考え、先程の恨みを晴らすべく催眠をかけたのだったが、

 

「まじか・・・・・」

 

頭に手を当て、困った顔をしてしまう。完全に爆睡状態に入っており、こちらの指示を聞く様子はなかった。

グッスリと眠ってる彼を見て、ここ最近の彼の睡眠状態を思い出す。

明らかに眠る場所で寝ておらず、それを気にかける様子を見せずに生活していた。だけど身体は限界を迎えていたようで、眠るべき場所で眠っていると、グッスリと眠っていた。

 

「・・・・・、」

 

催眠ノートによると、この催眠をかけられた人物は人の言うことを聞くか、半日以上眠ったままになるかである。

彼は後者の方であったようで、もう彼が今日起きることはありえない、という状況。

 

「・・・今なら――」

 

今なら、自分の願いを叶えることが出来るのではないのだろうか。

そう思った彼女の行動は早いものだった。

幸か不幸か、彼の眠っているベッドには人が一人眠れるスペースがあった。

 

「ZZZ・・・・・」

 

「・・・・・いい、よね」

 

誰にも、少女の呟きは聞えず、彼女は少年のベッドの横に寝転がる。

眠っている彼の顔がとてもよく見える。呼吸が、体温が、匂いが、先程よりも鮮明に伝わってくる。

ゆっくりと、彼の寝顔に手を近づける。体温と感覚が、掌から伝わってくる。

 

(・・・当り前だけど、生きてる。今の私は、一人じゃない)

 

ここに、彼が居ることを示している。現実の存在することがはっきりと、分かってくる。

 

(・・・だめだ、眠く、なって・・・・・)

 

ゆっくりと、少しずつ眠くなってきた。

意識が少しずつ落ちていくが、それでも何か、彼との繋がりが欲しくて、少女は彼の服を掴みながら、眠りに入った。

その時の、少女の寝顔はとても嬉しそうな顔であった。

 

 

 

 

 

 

4

「でさー、そいつビビりながら俺に金渡してたんだぜ」

 

「相変わらず、小遣いの稼ぎ方が荒えなお前」

 

二人の男が話しながら、深い夜の公園を歩いていた。

会話の内容からして、彼らはスキルアウトと呼ばれる人間達であった。

彼らは無能力者ではあるが、いや無能力者であるがゆえに、彼らの懐にはナイフや拳銃といったものを何時も懐に忍ばせていた。

公園の真ん中あたりまで進むと、そこに『ナニカ』が立っていた。

 

「ん、なんだあれ?」

 

「新手のホログラム映像かバルーンじゃねえの」

 

男の一人が、見慣れぬそれに近づいた。

 

「なんか人みたいだな」

 

それは、人のような形を模しており、色は黒色であった。

男はゆっくりと、興味心から手を伸ばす。

そして、それに触れた瞬間、

 

()()()()()()()()()()()

 

 

「!?」

 

それを見た男は驚き叫びながら、懐に忍ばせていた拳銃を取り出し撃ち始めた。

パンパンッ!火薬が破裂する音と共に弾丸が『ナニカ』に襲いかかる。

男は完全に当たったと確信した。

そしてその自信は、数秒後に崩れ去った。

 

なぜなら、弾は『ナニカ』をすり抜けていった。

 

(なn

 

考えるより先に、人でいう手にあたる部分がのび、男に接触した。

それと同時にその男もまた炭と化した。

 

翌日、公園で謎の炭の山が見つかったとのニュースが報道された。




誤字、脱字、感想等ご報告お願いいたします。


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行間1

どうも作者です。
短い行間投稿です。
またロゴジェネレーターを作って題名を作ってみました。
下記のリンクから見ることが出来ます。
http://to-a.ru/xWC462/img1
それでは行間1どうぞ。


「分かった。引き続き何か分かったら連絡をくれ」

 

 

電気も付けず、雲川芹亜は自信のマンションにて自信の情報源と連絡を取っていた。

学園都市に住んでいる学生は、一回の給食に4万円も使うお嬢様学校の学生から、何処にでもある学校の学生まで、寮暮らしなのが当り前である。よほどの事情やが無い限りマンションを住居とすることは出来ない。普通の学生ではマンションを借りることは出来ない。

 

つまり、雲川芹亜は普通の学生ではないのだ。表向きは『とある高校』の1年生であるが、裏の顔、いや本当の素顔は、学園都市に12名しかいない統括理事の頭脳、『ブレイン』である。

その素性をによって学園都市の表や裏を知り、必要なことを調べ上げられるだけの情報網を持ち、さらに裏から操るだけの『掌握能力』を持っていた。その力は、超能力(LEVEL5)であり精神系能力者の頂点と渡り合えるほどの技術力である。

さて、そんな彼女が自身の持つ情報網をもって調べ上げていたのは、とある一人の少女についてであった。

 

(立花響・・・)

 

現在上条当麻の家に住んでいる少女。

先日、上条当麻と()()()()遭遇したときに、自分に対してかなりの敵意を放った少女について調べていたのであった。

なぜ、その少女について調べていたのか。それは彼の家でイチャイチャしながら過ごしているのかと思うと腸が煮えくりかえり、彼女の弱みを探す目的で調べているわけではない。ほんの少しそう言った思いがあるかもしれないが、それとはまた別の理由で彼女について調べていた。

だが・・・。

 

(情報については()()()()()()()()()()()()()()()()けど、それ以前の情報が出ないとは一体どういうことだ・・・?)

 

こう見えても情報網の広さにはそれなりの自信があった。本気を出せば、この街で死んだことになっている人間の現在やそれこそ統括理事全員の弱みを知ることが出来る程のモノであった。だがそんな雲川の情報網をもってしても、立花響に関するデータは新しいものばかりで、古いデータなどは一向に網には引っかからないのであった。

 

まるで、最初から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・うーーん」

 

(ここまで調べてもでないと言うことは。まさか本当に、あの女はこの世界に存在するはずのない異分子(イレギュラー)なのか。それとも・・・)

 

それとも、自分がいる場所よりももっと深い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()レベルの人物なのか。

もし後者だとすれば、なぜあの少年の手元に置いておくのか。すぐに回収作業を行わないのか。

 

(これ以上はやぶ蛇、か・・・)

 

あの少年のためなら、統括理事長が持つデータも探しぬくことはできるが。今それを行えば、最悪な展開になれば、自分はこの世からは消えて、あの少年を余計に悲しませることになるだろう。

 

()()()()があった後に、もう一度親しかった人物が死んだという事実を、彼に背負わせう訳にはいかないのだ。

 

 

 

 

 

『それで、君でもあの少女については分からないのかい、アレイスター?』

 

「・・・・・」

 

『窓のないビル』と呼ばれる建物内には、二人、いや、一人と一匹の存在が確認された。一人の方はビーカーに浮かんだ『人間』と称するいがいに表しようのない存在だった。『人間』は男にも女にも見えて、大人にも子供にも見えて、聖人にも囚人にも見えた。『人間』の名は『アレイスター・クロウリー』。この街の統括理事長である。

それと相対するのは一匹の方はふさふさの毛並みを持つゴールデンレトリバーであった。名を『木原脳幹』という。

脳幹の質問にたいして、『人間』は答える。男にも女にも聞え、大人にも子供にも聞え、聖人にも囚人にも聞えるような声で。

 

「――滞空回線(アンダーライン)で調べたところ、あの少女は()()普通の人間と同じ存在だよ」

 

()()、と言うには何か違う部分があるのだな』

 

その声を聞くと、ビーカー内のディスプレイが光り、人間のレントゲン写真が現れた。

無論、それは話し相手にも見える形であった。

 

『心臓のほうに影がかかっているな。これは・・・』

 

「彼女の心臓には、()()()()()()()()()()()()があることが確認された」

 

『それは、第二位(未元物質)が作り上げたものではないのか』

 

「いいや。どちらかと言えば、これは私の()()方面の存在だな。あの力や鎧のような存在も、私たちが作り上げれるものではない」

 

そういった『人間』の声は何処までも平坦であったが、逆にそれがどこか不気味に感じさせるようにも思える。

だが、脳幹はそんな『人間』の声に怯えることなく話し続ける。

 

『なるほど。なら、あの少年の右手で消せたのも、君の中では理由がつくのだな。それで、あの少女についてはどうするんだ?それに、先程起きた人を炭化させた存在もどう対処するつもりなのだ?』

 

『人間』はその問に笑って答える。男にも女にも、大人にも子供にも、聖人にも囚人にも見える笑みを浮かべて。

 

「例の存在のはあの少年にぶつけることにするよ。そうすることによって、『プラン』を大幅に短縮することが出来る。それに・・・」

 

この街の全てを知る『人間』は、立花響の顔を見ながら、嗤う。

 

 

 

 

 

「このまま放っておいても、彼女はいつか死ぬ。だから私たち自らが手を下す必要ないよ」




誤字、脱字、感想等ご報告お願いいたします。


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招かれざる繧、繝ャ繧ョ繝・繝ゥ繝シ/ sixth days

どうも作者です。
いやーシンエヴァが公開されて見に行ったり、エクバシリーズ最新作でフルクロスやV2、F91で遊んでいたり、引っ越しの準備したりと、色々とありましたが何とか書きました。
それではどうぞ。


1

「――――ん。あれ、俺いつの間に寝てたんだ・・・?」

 

「・・・昨日ベッドに寝転んでからずっとだよ」

 

「おうゎ!!?」

 

変な叫び声と共にベッドから転がり落ちる。自分の横に立花響が寝転んでいたためである。

 

「え、は!?なんで立花が隣で寝てんだよっ!?ま、まさか俺・・・ッ!?」

 

「・・・上条が寝たあと、寝られる場所がなかったから隣で寝てただけ。だからあんたが想像しているようなことは起きてないから安心して」

 

「そ、そっか・・・」

 

「じゃ、私顔洗ってくる」

 

立花はそう言って、上条をまたいで洗面所へと向かった。

男と一緒に寝たというのに、何時もの感じで特に緊張していない様子であったが、よーく見ると耳は赤色に染まっており、洗面所に入った途端。

 

(私、男と一緒に寝たんだよね。今になって恥ずかしくなってきた・・・///)

 

年相応な|初心(うぶ)い反応をしていたことを、上条は知らない。

 

 

 

「「いただきまーす」」

 

二人そろって食前の挨拶を済ませる。

五枚切り食パンのトーストと、サラダとスクランブルエッグのワンプレートといった普通の朝食。前までは二人きりでの光景に互いが戸惑いを覚えていたが、昨日からはそんなことを覚えることなく朝食を取っていた。

だが何かを話すわけではないため、無言に耐えられなくなった上条はテレビを付ける。

 

画面に映った番組は朝のニュースであった。このニュース番組学園都市内部だけのニュースを取り扱う番組であり、なにやら昨日起きた事件についてホログラムのニュースキャスターが話していた。

 

「なになに、『公園で謎の炭の塊を発見。炭の回りには服と財布などが落ちており、現在財布持ち主の現在の居場所を確認中』か。なんか変な事件だな・・・」

 

炭の塊の単語を見たときは、どこかの発火能力者(パイロキネシスト)が暴れた事件だと持ったが、現場の様子を見ると燃えたような跡は見られなかった。じゃああの炭は何が原因で発生したんだろうなー、と思いながらトーストを頬張っていた。

風紀委員(ジャッジメント)でもなければ、財布の持ち主達が映った顔写真に見覚えがあるわけでもないので、自分には関係がない事件だし、この後の予定でも立て始めていた。

一方立花はニュースを聞いてから、何か信じられないものを見た顔つきになっていた。

 

「・・・まさか、でもこれって・・・・・!?」

 

食べることを止めて、事件のことについて何か知っている雰囲気を醸し出していた。ボソボソと小声で何か言って、そして意を決したのか上条の方を見て、

 

「上条、お願いがあるの」

 

「ん、なんふぁ?」

 

サラダを口いっぱい頬張りながら返事をする。

 

「・・・この事件のあった場所に連れて行って」

 

そう言った時の立花はとても真剣な表情で、自分のやるべき事をなさねばといった様子であった。

こうして上条達の午前中の用事が決まったのだ。

 

 

 

 

 

2

約束どおり事件現場の公園に向かう上条達。上条の方は夏の暑さにうんざりとしながら重い足取りで動いていたが、立花の方は何処か余裕のない表情のまま現場へと早歩きで向かっていた。

 

「おい立花、そんなに急がなくても現場は逃げねえぞ」

 

「・・・・・」

 

上条の言葉に反応せず、黙々と速度を上げていく立花。そんな彼女について行くために汗をだらだらと流しながら上条も速度を上げていった。

 

そうしてたどり着いた公園は、立花には見覚えのある場所であった。

 

「・・・ここって」

 

「ああ、お前がベンチで寝ていた公園だよ」

 

そこは、本来自分がいる世界から転移したとでもいうのだろうか。ともかくこっちの世界で目を覚まして初めて目にした場所であった。

それは()()と自分が始めた来た場所がまたま同じ場所だったのか。それとも何か特別な事情があって、この場所へたどり着いてしまったのか。

自分では何一つ分からないままであるが、上条に相談するのも難しい。だから今はもしまだこの世界にいるかもしれない奴らのことについて対処すべきだと、頭を切り替えた。

そのまま今朝のニュース番組に映っていた場所にたどり着く。現場と思わしき場所に立ち入り禁止と書かれたコーンが立てられて、その周りを警備員(アンチスキル)達が囲っていた。

 

「ダメだ、警備員(アンチスキル)が邪魔ではっきり見えないな」

 

「・・・ねえ上条。学園都市(ここ)では人が炭になった事件って、今まで沢山あったの?」

 

うーん、と唸り声を出しながら顎に手を添えながら考えだす上条。

 

「・・・俺が知る限りはないと思うぞ。まあ、人体全部を炭に変えちまうだけなら、強能力者(LEVEL4)発火能力者(パイロキネシスト)・・・いや、道具さえ用意すれば俺たちみたいな無能力者(LEVEL0)だって出来るし、犯人の手口を考えるのは難しいと思うぜ」

 

「じゃあ、人を炭にする能力者っている?」

 

書庫(バンク)使えばわかると思うが。でも、人体の半分以上は水分で、炭素なんて数%で他にも別の物質があるっていうのに、物質全てを炭化させるって、それってもう超能力の域をこえてねえか?」

 

この街で開発されている『超能力』は、遠くのものを動かす『念動力(テレキネシス)』や人の心を読む『読心能力(サイコメトリー)』といったテレビ等でよく見るものや、『発火能力(パイロキネシス)』や『電気使い(エレクトロマスター)』といった自然の力を我が身のように使う能力だってある。

だがそれら全てに共通してるのは、どれだけトンチキな能力に見えても、科学の視点から説明がつくものばかりであり、物質事態を全く違うモノへと変換する能力なんて聞いたことがないし説明のつけようがないのだ。

だから上条は、そんな能力があるなんて思っていないし、今回の事件の手口も分からないままであった。

 

「何が気になった分かんねえけど、こんだけ見たら充分だろ。じゃあ帰ってアイスでも食おうぜー」

 

そう呼びかけて来た道とは反対の足取りを辿る上条と、まだ何か納得がいかないのか立花はその場所から動こうとせずまだ現場の方を見ていた。

まるで、何かを待っているかのように。

彼女が着いてきていないことに気がついた上条は、ため息をつきながら振り向いて。

 

「なぁ、立花さっさと帰・・・ッ!」

 

呼び止めようとした瞬間。目の前で理解出来ない光景が起った。

 

人が、一瞬にして炭の塊になったのだ。

 

「あ・・・」

 

思考がまとまらなかった。理解が出来なかった。

 

「ぁ・・・あ・・・」

 

そしてようやく、人が炭へと変わるのを目撃してしまったという事実がゆっくりと、恐怖とともに襲いかかってきた。

 

「――――うわァァァあああああああああああああああああッッッ!!!!??」

 

そこからは、ただただ叫んでいた。次々と流れる思考を止めるように、それらの理解を拒むように、叫んでいた。

だが、どれだけ叫んでも目の前の悪夢は消えることなく、それどころかもう一人の警備員(アンチスキル)も炭に変えてしまっていた。

 

(なんなんだよ。何で・・・、何でいきなり人があんなことに!?)

 

「上条ッ!ボーッとするんじゃないッ!!」

 

「ッ!?」

 

立花の叫び声を聞いて、ほんの少し冷静さを取り戻す。

彼女の方は、驚いてはいても上条のように取り乱してはいなかった。

上条当麻は、目の前の『何か』が分からない。だけど、立花響は目の前の『何か』を知っている。

 

「・・・上条は知らないって言ってたし、ニュース見た時も似たような事件かと思ったけど、やっぱりお前達の仕業か・・・ッ!!」

 

キッ、と相手の方を睨み見つけながら『何か』に向かって叫ぶ。

 

「ノイズッ!!!!??」

 

そう叫ぶと、灰色の怪物『ノイズ』は立花達の方を見た。

次の獲物を見つけ、狙いを定めたかのように、無機質な怪物はジリジリと詰め寄る。

 

「よく分かんねえけど、ここにいるのはマズいだろ。さっさと逃げようぜ立花ッ!?」」

 

アレの名前を聞いたところで、上条の情報はそこで止っている。アレの習性や弱点は分からないままだし、アレに対抗する策は何も思いつかないままであった。

唯一通じるかもしれない『右手』だって、もし通じなければ右手どころか体全体が炭に変わってしまう。

だから、逃げるという手段はこの場において最も正しい(賢い)選択なのだ。誰もその選択に対して攻めることはない。

それは立花も同じ考えであった。ただし、

 

「・・・そうだね。だから、()()()だけ先に逃げな。私は――」

 

その先の言葉を放つ前に、少女は歌を紡いでいた。

瞬間、橙色の光が少女を包みこむ。アニメに出てくるオレンジ色ベースとする戦闘ヒロインのような衣装と純白というには少し濁った白色の長マフラー。腕にはプロテクターとメリケンサックを兼ねたようなガントレット。頭部には、ヘッドフォンを模したヘッドギア。その姿は以前銀行で見た姿であった。

 

「こいつら全部、ぶっ潰すッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

3

「ハァアッッ!!」

 

ゴンッ!胸の中からあふれ出す歌詞にメロディーをつけながら、ノイズを殴りつける。

一体一体、確実に潰すために力を込めながら拳や足をふるう。殴り蹴られたノイズ達は炭へと変わっていく。

立花響の徒手格闘は、彼女自身のオリジナルである。師匠と呼べる人物はなく、暇な時間ばかりを過ごしていたため、森の中に入っては木を相手に見立て格闘練習というなの時間つぶしをしていた。だからこそ、その動きに中国拳法や空手といった『型』にはまったものではなく、上条のような路地裏の喧嘩のファイトスタイルを彷彿させるものであった。ただし、上条のような普通の中学生がやる動きとは違い、映画のワイヤーアクションやスタントマンさながらなものであり、自分の身体を全て使いこなしながら、普通の人間以上の、動きでノイズ達を圧倒する。

その強さは、現代の戦姫(ヴァルキリー)そのものであった。

 

「す、すげぇ・・・」

 

以前見たときも銃を粘土のようにひねり潰し、刃物を自身の手を傷つけずにへし折っていた時はかなり驚いたが、あれでもまだ全力で戦ってはいなかったという衝撃を覚えるしかなかった。

ノイズと呼ばれる怪物と立花達の戦いは一見互角のように見えるが、状況は立花が有利であった。

最初は数で勝っていたノイズ達であったが、その体は一撃入れられるだけで崩壊していく程脆いものであった為に、一撃必殺(ヒットアンドアウェイ)で的を屠り続け、増殖することのないノイズの数は一方的に減っていくのであった。

このまま見ているだけで何とかなると思っている上条だったが、その考えは一瞬にして消え去る。

残った4体のノイズは立花ではなく、突っ立ている上条の方へと狙いを定め動き出した。

 

「ヤバ・・・ッ!?」

 

「ッ!行かせるかぁッ!!」

 

上条とノイズの間に立花が割り込み、2体のノイズを潰すが残りは立花を無視して、上条の方へ向かう。

逃げようと考えているのに恐怖のせいか、コンクリートで固められたように足は動かず、立ち尽くしてしまう。

 

(ダメだ、動かねぇ・・・ッ!?)

 

「上条ッ!!?」

 

立花も急いで駆けつけようとするが、急にとてつもない高熱が身体を襲った。いつもなら『力』を解除した時に出てくるダルさと熱さのせいでワンテンポ遅れるどころか、その場倒れ込みそうになった。

 

「なんで、こんな時にッ!?」

 

(ダメ、このままじゃ上条が死んじゃう・・・ッ!?)

 

また、人が炭に変わってしまう。自分のせいで人が死ぬ。あの時と違って力がこの手にあるのに守れない。

嫌だ。それは嫌だ。

もうあんな光景を何度も見たくない。

なのに身体は言うことを聞かない。動けと命じても動かない。

 

「・・・や、めて・・・やめてぇぇえええええええええええええ!!!!」

 

どれだけ叫んでも怪物(ノイズ)に人の言葉は通じない。例え通じたとしても、動きを止めることは無い。怪物と人間が仲良くするお話があったとしても、現実は幻想(物語)のように優しくはない。

そして、一体のノイズが体を細く早く人にぶつける形をとり、上条目掛けて撃ち込んできた。

少女の目の前で、人が炭に変わる。

そのはずだった。

 

 

 

パキン。ガラスが割れるような音ともにノイズが消滅するその瞬間までは。

 

 

 

「え・・・・・」

 

立花響は人がノイズに触れると炭になるという事実を嫌という程知っている。だから、上条が狙われた時はもうダメだと思った。

なのに、目の前にいる少年は人の形を保ったままであった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

上条当麻の右手には、不思議な力が宿っている。幻想殺し(イマジンブレイカー)、それは超能力や立花が使う力が右手に触れた瞬間、問答無用で打ち消すものである。それがどういった原理で機能しているのか。なぜ自分右手に宿っていたのか。どうして、ノイズを消すことが出来たのか。

どの問いかけも上条には応えることが出来ない。だけど、一つだけ分かったことがある。

この右手を使えば、目の前にいるノイズ(脅威)をぶち壊すことが出来る。

それさえ分かれば良い。それが分かっただけで十分である。

動かなかった足も、今はリラックス状態になっており、もう一体のノイズが動くよりも前に駆けだしていた。

駆け上がるのと同時に、拳をグッと握る。幻想殺し(イマジンブレイカー)は右手首より上には力はなく、倒すには近づいて殴らなければ効果がない。

ノイズも上条の動きに気がついて、体の形を変えようとしたが一手遅く、

 

「邪魔だ」

 

大きく振りかぶった少年の右手がノイズに直撃する。触れた瞬間、立花が倒したときのように炭に変わるのではなく、そこにいた痕跡そのものを消しゴムによって消えた鉛筆のように綺麗にいなくなっていた。

まわりノイズが居ないことを確認してから、立花に近づく。

 

「立花、無事かッ!?怪我とかしてな、あっぶねえ!!なんでいきなり殴りかかろうとしてんの!?」

 

「・・・あれ見た後で、何でそんな命知らずな行動ができんのよッ!!というかさっさと逃げろって言ったのにこっちに向かって走るとかバカなのッ!!?」

 

「だって、お前が心配だったし。戦える人が増えるなら別にいいだろ」

 

「いいわけ、ない、でしょ・・・ッ」

 

悪態をつこうとするが、また体を熱と気怠さが襲いにかかり、上条のほうへと寄りかかった。

以前右手で触れたときとんでもにないことになってしまったので、左手で彼女を受け止める。すると左の手から信じられないほどの熱量を感じた。

 

「あっつ!?お前どうしたんだよこれ!?風邪引いたときみたいになってるぞ!」

 

「・・・分かんない。ここ最近、この力を使った後こうなってたんだけど、どうやら今日は解除する前からこんな感じみたい。取り敢えず、早く家に帰りたいからこのまま前みたいに跳んで帰るよ」

 

「え、ちょ・・・ッ!?」

 

上条の返答を待たずに、立花の足に備わっているジャッキの力を使い空にむかって跳びだした。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・繝溘ヤ繧ア繧ソ」

 

 

 

 

 

 

その様子を、()()()()()()が見ていたことに気がつかないまま。

 

 

 

 

 

 

4

立花のもはや空中歩行と差し支えない跳躍によって上条の寮に帰った彼らだったが、屋上に着いたと同時に彼女の力が解け、最初の方に着ていた服装に戻っていた。そこからは動くどころか気絶してしまった彼女を抱え、他の住人にバレないよう細心の注意を払いながらすぐ自分の部屋に戻っていった。

部屋に戻ってすぐに冷え枕を用意してから彼女をベッドに寝かし、冷蔵庫で冷していた冷却ジェルシートをおでこや首に貼り付けていた。だが体を冷ますよりも先に冷え枕と冷却ジェルシートは温くなってしまう。他の方法を考え、風呂桶に冰水をいれた後にタオルを冷してから彼女のおでこに乗せようとする。

だが行動を起こす前に、立花の手が自分の手を掴んでいた。

掌から感じる熱気に、火傷してしまったのではないかと勘違いしてしまう。

 

「どうした、立花?喉渇いたなら冷たい飲み物用意するけど。それともお腹すいたか?じゃあ今日は冷たい物でも作ろうか?」

 

「・・・私、助けられなかった」

 

彼女の話を聞くためベッド近くに座り、握っていた腕を掌へと変える。

 

「あの事件を聞いたときに、最初から力を使っていればあの人達は助かったかもしれないのに、違うって勝手に結論付けた結果あの人達のこと、助けられなかった」

 

「・・・でも、それはお前一人が背負うものじゃない「ううん、私が背負わなきゃダメなんだよ」なんでだよ・・・?」

 

「・・・信じられないかもしれないけど、私、どうやらこの世界の人間じゃないみたい。あの化け物は私の世界じゃ当り前に発生して、当り前に人を炭に変えていた。あれの事を知っていたのは私だけだから。だから私がちゃんとしていればこんな事にはならなかったのに、上条を危険な目に遭わせずに済んだのに・・・」

 

少しづつ声が泣きそうなものになっていた。しまいにはぐずついた声で、消えてしまった人に対して謝っていた。ごめんなさい、ごめんなさいと。

何時ものツンケンとダウナーな様子からは考えられない程の表情になってしまっていた。

そんな彼女の頭をなでながら、彼女を慰める言葉を考えるが思いつかなかった。

彼女が背負ってしまった『死』を肩代わりしたり、一緒に背負うことは出来ない。

だから少年は。

 

「それでも、お前は俺を助けてくれた。だから礼を言わせてくれよ命の恩人(立花)。ありがとな、俺を助けてくれて」

 

ただただ、感謝の言葉をつげる。彼女を慰めるためでもなく、助けて貰ったときにでる当り前の言葉を立場に贈った。

 

「・・・でも私、人を・・・・・」

 

「殺してなんかいない。あの人達もお前を恨んでなんかいないよ」

 

「・・・・・・・ふぇ」

 

そこから先、彼女から言葉は紡がれなかった。今まで堪えていた全てを吐き出すかのように泣き出していた。

体中の水分が全て抜け出してしまいそうなほど、涙が彼女の瞳をから流れていた。悲しみも、悔しさも、恐怖も、全て流すために泣いていた。

 

 

 

「・・・泣くだけ泣いたら寝るとかありかよ・・・」

 

あれから数時間泣いた後、涙声混じりの呼吸音はすややかな寝息へと変わっていた。

目元には泣いた後があり、赤く腫れていた。

だが眠りについても、上条の手を離すことはなく、お気に入りの人形を抱いて眠っている小さな女の子のようにぎゅっと握っていた。

 

「・・・まあ、あんなの見た後じゃ寝られないかもしれないけど、俺も寝るか・・・・・」

 

あの光景は立花だけでなく、上条にもトラウマレベルの物になっており、まぶたの裏ではそれが鮮明に思い出してしまうほどであった。

だから目をつむらず、ベッドの余っている部分にうつ伏せになり机の上で寝る態勢になって、彼女の言葉を想起していた。

 

(雲川先輩は立花がこの街に存在しない人物だって言ってたけど、立花の言葉からしてもそれは間違いなく本当のことだ)

 

それならあんな季節外れの格好をしていた事についても納得がいく。

立花のいた世界では季節は冬だったから、あんな厚着をしていた。それにあの服はかなり汚れており、少なくとも洗濯が出来る環境にはいなかったことや帰る家がないと言った発言からもそれを少しずつ裏付けていくことは出来る。

だけど、一番の謎が残っている。

 

(じゃあ立花は、どうやってこの世界に来たんだ・・・?)

 

仮に自分たちがいる世界とは別の世界、並行世界(パラレルワールド)があるとしても、科学の最先端であるこの街でも観測どころか発見にいたってないことからそれがどれだけ難しいことかはある程度想像につく。ではこの街以上の科学力があるであろう立花の世界はどうして一度も観測が出来なかったこの世界を選んで渡ってきたのか。それともたまたまこの世界だっただけど、確定して渡る技術はないのか。或いは・・・、

 

(・・・立花がこの世界に来たのは、必然ではなく事故(偶然)?」

 

考え出すが元々脳内CPUの出来は良くなく、これ以上考えていると眠気が誘ってくる。ただでさえ体は疲れ切っているのだから、すこしでも意識を保つことを止めれば眠りの世界へと誘われてしまう。

そしていよいよ限界が来てしまい、

 

「・・・もう、無理だ」

 

立花の手を握ったまま上条は眠りについた。

彼女の手を離さないよう、彼もまたしっかりと握っていた。




誤字、脱字、感想等ご報告お願いいたします。


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紫鏡(しきょう)の煌めきを纏う者/Seventh days

どうも作者です。
生きてます。短いですが生存報告も兼ねた投稿です。
それではどうぞ。


1

朝日のまぶしさを引き金に、上条の意識は覚醒していく。

 

「う、うう。体、痛い・・・」

 

体のあちこちからパキパキと悲鳴を上げているのが辛い。凝り固まった体をほぐすためラジオ体操のまねごとを20秒ほどすると体から鳴る異音は小さくなっていた。

 

「・・・はぁ」

 

携帯のディスプレイに表示されている時刻『7:55』は本来であれば遅刻確定を意味していたが、まだ学校は始まってはいないので今日のところはセーフといことにしておいた。そして自分がベッドを使うことができなかった原因に視線を移した。

そこには少し苦しそうな表情を浮かべた一人の少女が眠っている。立花響、現在訳あって上条の家に泊まり込んでいる少女である。

 

「熱はまだあんのか・・・?」

 

そういって彼女の額に手を当て体温を測ってみる。昨日帰ってきた時点でかなりの高温であり、本来なら病院に連れて行かなければならないほどであったが、今は普通よりも高い体温ではあるが昨日よりましなものになっていた。ただそれでも、この高温のままでいるのは不味いとものである。

 

(・・・風邪薬、いやこういう時は解熱剤のほうがいいのか?どっちにしても買いに行かないとダメだな)

 

病人を置いて出いくのは気が引けるがそれでもこのまま放置してくのもまずいと思い、服を着替え買い物に行こうと決意をした、その時。

 

「・・・ないで」

 

「え?」

 

「・・・行かないで、お父さん。おいてかないで、未来」

 

少女の口から声が漏れていたことに気が付いた。夢の中にる誰かに手を伸ばそうとしている少女は泣きそうな声とともに。

 

「・・・一人にしないで、上条」

 

自分のズボンを今にも途切れそうなほど弱い力で掴んでいた。離されないように、どこかへ行ってしまわれないように、無意識に少女の手は動いていた。だけど、力のこもっていない手ではつかみ続けることはできず、数秒もたたないうちに手はだらんとベッドに倒れていた。

その様子を見て少年は少女の手を握ろうとしたが、なぜか伸ばそうとした手を引っ込め、

 

「大丈夫、すぐ帰ってくるからちょっと待っててくれ」

 

今もなお眠りから目覚めることのない少女へ言葉と書置きを残し、財布と携帯だけを持って扉を開けた。

ゆっくりと扉を閉め、ドアノブから手を放す前にもう一度自分の手を見た。

なんてことのない普通の右手。異能の力を消す以外なんの役にも立たないが、伸ばされた手をつなぎとめることくらいはできる右手。

だけど今は。

 

「・・・俺みたいな汚れた手をつかんだら、お前はきっと後悔するぞ。立花」

 

伸ばしていた手を取ることもできないほど、ひどく汚れた手に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

2

朝早くに出かけたが、目的地であるドラッグストアについたのは自分が予想していた30分も後のことであった。バスにでも乗れば予定より早く着いたかもしれないが、急いで出てきたため定期の存在に気がついたときにはすぐ寮に取りに戻れる場所ではなかった。そこからテニスボールを踏んで転んだり、車に轢かれ欠けたり、財布を落としたりと、様々さな困難を経て、ようやくたどり着いたのであった。

 

「・・・不幸だ」

 

何時もの口癖を呟く。この言葉を聞かない日がないほど上条当麻の日常は不幸まみれなのだ。そう考えるとやや憂鬱になるが気持ちを入れ替え、薬とゼリーの入った袋を手に向かった先は寮ではなかった。

 

熱風と太陽による二重の暑さに、文明の利器達のありがたみを噛みしめながら上条がやってきたのは昨日怪物の襲撃にあった公園であった。

昨日の事件現場まで行くとそこには夏休みの暇を持て持て余した学生達とそんな彼らに早く帰るよう伝えている教師と兼任している警備員(アンチスキル)達による人だかりが出来ていた。警備員(アンチスキル)達の中には正体不明の怪物への対策として駆動鎧(パワードスーツ)を装備している者までいた。

だが、怪物《ノイズ》について知っている人間からすればそれは無駄なことだと感じるであろう。奴らには人間を炭の塊へと変える性質と、人間以外に対しては触れることすらできず、すり抜けてしまうという性質を持っているのだ。そのためノイズには現代技術を集結した鎧であろうと、核弾頭の攻撃も耐えられるシェルターであろうと、奴らのまえでは何の役にも立たない。まるで人と人が作ってきた叡智を嘲笑うかのように破壊していく厄災そのものである。

 

閑話休題。上条が暑さに耐えながら公園まで来たのは、事件現場の視察のためではない。そこから少し離れた人気の少なく、自動販売機とベンチ以外何もない場所であるが、上条にとっては事件現場と同じくらい重要な場所であった。

そう、そこは立花響と始めた出会った場所なのだ。ここに来れば彼女が元に戻る手がかりが見つかるのではないかと考え帰りに寄ったのであったが・・・。

 

(・・・それっぽいものはないよな)

 

辺りを見回しても怪物や立花が表れた形跡は見つからず、どこからどう見てもただの公園であった。

無駄骨であったと肩を落として帰ろうときびすを返し立ち去ろうとすると、自動販売機の手前で困っている少女の姿が目に入った。

黒い髪を大きなリボンで纏めた少女であった。

 

「あれ、お金入れたのに出てこない。何で・・・?」

 

どうやら自販機にお札を飲み込まれたいようで困惑している様子であった。あそこに置いてある自販機は何故かお札を入れると反応せず、そのポンコツぶりに常盤台中学のお嬢様も蹴りを入れるほどだという噂があるのだ。ちなみに上条も昔千円札(夏目漱石版)を飲み込まれた事があり、あの自販機では買わないことを誓ったことがあるほどの物であった。

では、そんな困っている少女を見て取るべき行動は何か。

見て見ぬ振りでこの場から立ち去るか、声をかけて手助けするか。人として正しい選択は後者であろう。困ってる人を助けるのは、平凡な人間なら当り前に出てくる行動である。

だけど、今は何故か。その当り前の行動を行うことに、足がすくんでしまう。いつものようにただ声をかけるという行動に、大勢の前でたった一人アカペラで歌う程の緊張感が体を包み込んでいた。

 

(――――ッ!)

 

暑さと緊張により噴き出る汗を拭い、息を整え少女の元へ向かう。顔色はいつも通りなのか、怪しまれないだろうか。いつもと違う感覚が体全体に伝わってくる。

少女との距離が1~2m程近づいて声をかける。

 

「なぁあんた。その自販機、札だけを飲み込む曰く付きの物なんだけど・・・」

 

「え・・・・・?」

 

少女はいきなり声をかけられたことに状況が飲み込めない様子だが、上条は財布から小銭を出しながら少女の隣に並ぶ。

 

「こいつ、何でかお札だけ飲み込むみたいだから、買うなら小銭じゃねえっと」

 

そう言って手本を見せるように小銭を自販機に入れてこの中だとまだましな『ヤシの実サイダー』のボタンを押す。そうすると自販機の口から缶ジュースが・・・。

 

「・・・あれ?」

 

「・・・出てこない、ですね」

 

「・・・おい、嘘だろ。ついに小銭まで飲み込む賽銭箱化したのか!?おい!俺のなけなしの金返せよ!!?」

 

「ちょっと!?自動販売機に殴りかかったらダメだよ!」

 

「止めんな!このクソ自販機、前に人の千円札(旧札)飲み込んだことも兼ねてぶち壊してやらぁッ!!」

 

声も感情もない無機物相手にマジギレする上条を、少女は抱きつくような形で止めていた。そうやって暴れていると、軽やかな電子音のあとに重い落下音が響いた。どうやら暴れてた時にボタンを押してしまったようだ。

 

「ほ、ほらな。こうやって小銭なら出てくるんだ・・・って熱っ!?」

 

出口に手を伸ばし出てきた物は夏場の暑さを和らげる喉元を冷やし潤す炭酸ジュースではなく、それと真逆な熱い缶。しかもそれは学園都市のゲテモノドリンクの中でも一番と言われている和風だしと果実でアクセントをつけた『いちごおでん』であった。

それを手にした上条の台詞は何時通りの台詞を吐こうとしたがこの程度のアクシデントで呟くほど弱くはない。

 

「この暑い時期におでんか・・・」

 

「あ、あははは・・・」

 

下手に同情されるより、愛想笑いで場を済ましてくれるほうが嬉しいことをこの15年で何度感じたことか。そう思いながらこのゲテモノの処分方法を考えていると、ガコンッ!とまた落下音が自販機の出口部分から聞えた。少女が音につられ出口をあさると彼女の手には上条が手に入れた缶ジュースとはまた別の清涼炭酸飲料であった。

 

「『ヤシの実サイダー』・・・?また別のヤツだね。本当に小銭だけ反応するんだね」

 

「あれ、俺一本分しか金入れてねーんだけど?」

 

「え・・・?」

 

その言葉を引き金に缶ジュースが落ちる音が連続して聞えてきた。一本拾えばまた一本ときりがないほどジュースが出てきてしまっている。自販機で連続して当たりを引き当てた母の自慢話を思い出したが、こんな風景ではないと思う。というかこんな事を考えてる暇などない。先程以上に自慢の不幸レーダーがアラートを鳴らし、毎度落第点な予知能力もこの時ばかりは数十秒後の未来が見えた。考えるよりも先に、少女の腕を掴み何か叫んでいたがそれを無視して走り出した。

 

「あぁ、ちくしょう!やっぱ不幸だぁぁああああ!!!」

 

叫ばなければやってられないほど不幸許容度がキャパオーバーしてしまったので、いつもの台詞を吐いてその場から逃げ出した。

そして上条の予想よりも早くいつも沈黙を貫いていた自販機はけたたましい警報音を流し異常を周りに知らせていた。

 

 

 

 

「・・・悪い、いきなり走り出したあげく巻き込んで」

 

「だ、大丈夫ですよ・・・」

 

結構な距離を走ったのだが息をあまり切らせておらず少女のスタミナに驚きを覚えながら何とか一息付けるとこまで逃げ切れた。近くのベンチに座り上条達は喉の渇きを潤すために自販機から拾った飲み物に手を出そうとすると少女から静止の声がかけられた。

 

「え、それ飲んじゃうの?さすがにお金払ってないのにダメだよ」

 

「いや、俺達金は払ったんだしジュース飲む権利はあるだろ。あんたは千円も払ったんだ、本当なら10本位持って帰っても問題ないだろ」

 

「そう言われればそうかもしれないけど・・・。でも君はおでんを買ったんじゃ」

 

「アレは事故みたいなもんだしその補填として貰ったって事で・・・ってうわぁ!?」

 

缶のプルタブを開けると炭酸飲料が噴き出し見事に上条の顔や服をべたつかせた。幸いなことか少女にはかかっておらず被害を被ったのは上条一人であった。

心配そうな表情でハンカチを手渡され、甘ったるい砂糖水を拭いでいくが、さっさとシャワーでも浴びたい気分であった。

 

「ハァ。ツイてねーな、俺・・・。あ、ハンカチありがとな」

 

「どういたしまして。ところで君はここの住人なの?」

 

「そうだけど・・・。そういや『ヤシの実ジュース』のこと知らなさそうだったけど、あんた外の人間なのか。この時期に来るなんて珍しけどなんでまた?」

 

「うん、そんなところかな。こっちに来たのはその、友達を探しにかな・・・・・」

 

少女が言い淀みながら曖昧な答え方をした。

 

「探しにって、ここ(学園都市)にいる事がハッキリしてないのになんでわざわざ・・・?」

 

「・・・確かに聞いた話で今も確信が持ててないよ。それでも一秒でも早く会いたいんだ。もし今も一人でいるって思うと心が苦しくて不安に押しつぶされそうなんだ。だから」

 

先程からの憂いを秘めた表情から一転して、元々決めていた覚悟をあらためて顔つきになって。

 

「たとえ一類の望みでもそれに賭けたいからここに来たんだ。世界で一番大切な友達を助けるために」

 

「・・・・・、」

 

「あ、ごめんね!急に熱く語っちゃて。だけど私は絶対に友達を探し出してみせるんだ」

 

その視線には嘘はなかった。

その言葉には誠実さしかなかった。

その思いには心を揺さぶるものがあった。

簡単でありきたりな表現。だけどそれが一番分かるものであった。

だからなのか、それとも元々ある人としての形なのか。

その言葉を聞いた上条の口から放たれた言葉は。

 

「あのさ。お前の友達探すの手伝おっか?」

 

「え、いいの・・・?」

 

その心に突き動かされた本心のものであった。

自分みたいな不幸な人間に見つけられるとは思わないが、それでもこの少女の力になりたいと思ってしまったのだ。

 

「ただ今知り合いが寝込んでるからずっとは出来ないけどさ、友達とかに頼んで探して貰えるよう頼んでみるよ。だって行方知れずの大切な友達なんだろ。なら見捨てるわけにもいかねえだろ」

 

「!ありがとう。正直二課の人達もいないのに二人だけで探すのはちょっと心細かったんだぁ」

 

「ん、ツレがいんのか」

 

「分かれて探すことになってあの自販機で落ち合う予定だったんだけど・・・」

 

「それは、すいませんした・・・・・」

 

「い、いえ気にしてないから大丈夫ですよ。ただ何処で落ち合えば良いのやら」

 

「あんたはそこにいてくれ。そのツレとあんたの友達の顔写真とかあるか?あとその人達の名前もって自己紹介まだだったな。俺は上条当麻」

 

「私は小日向未来で、ツレの人は風鳴翼って名前でね」

 

そのとき何か脳裏を掠った。どこかで聞いたことある名前、確か今自分の家で眠っている少女が言っていた。

 

「それで、この娘が私が探してる・・・」

 

「たち、ばな・・・?」

 

「え・・・、なんで響の名前知ってるの!?」

 

「だって、今俺の家で寝込んでのがこいつなんだよ!じゃああんた、立花と同じ違う世界の・・・!?」

 

「莠コ髢薙>縺溘?√>縺?」

 

「「!?」」

 

耳を貫く嫌な音。嫌悪感だけを感じる嫌な音で、自分の中の危険レベルを最大限にまで引き上げるノイズ。

人だけを襲い、炭に変える怪物。

本来この世界に存在しないノイズが上条達の目の前に現れた。

 

「まじか・・・!?立花いないのこのタイミングでかよッ!!?」

 

「上条君下がって!ここは私が・・・ッ!!」

 

ポケットに手を入れ何かを取り出そうとする小日向とその前に立って彼女をかばうように右手を構えようとするその瞬間。

ズドンッ!!!と黒い影がノイズを叩き潰した。

一目見ただけでノイズと同じかそれ以上の警戒心を発した。黒く、全てを破壊するような印象を叩きつける最悪の存在。だけどその謎の化身を見覚えがあった。特徴的なガントレット、ヘッドフォンのよなヘッドギア。そして()()()()()()()()()。その正体は二人のよく知る

 

「「立花(響)!?」」

 

いつもの立花響とは似ても似つかない、破壊の存在がそこにいた。




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