英雄伝説 光の剣神 (八葉と黒神の剣聖)
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序章
第1話


ーほぅ……これが金の騎神か……

 

 

 目の前で片膝を付き凄まじい存在感を放っている黄金の騎士人形。彼の名前はエル・プラドーと言うらしい。聞けば帝国に伝わる七つの騎士人形の1つで、俺はその起動者に選ばれた。

 しかし腑に落ちない点が1つ。どうして俺なのだろう?俺はただ幼なじみを超える為に剣に人生を捧げた男。決してこの様な存在に認められるはずがないのだが……うん。彼に直接聞けばいいのだろうがここは仕組んだ張本人に尋ねるとしよう。

 

「俺が彼の担い手でいいのか?ローゼリア?」

 

 背後にいた緋色の魔女ローゼリアに聞く。この騎神に導いたのは彼女だ。

 

「当然じゃ。ヌシの光の剣に相応しいじゃろ帝国最強の剣士。ヴィクトリア・アルゼイド」

「買いかぶり過ぎだ。俺の故郷に俺より強い槍使いの女がいるだろう?」

 

 俺の故郷レグラムに、リアンヌという幼馴染がいる。子供の頃から仲が良く、互いに鍛錬を積んでいたのだが、ある時、お互いの得意な獲物で戦ったのだが惨敗。それがあまりにも悔しく半泣きで故郷を飛び出し剣を極める旅に出た。無論弟や父親に黙ってだが。

 

「しかし……今思えば、俺がレグラムを飛び出したのと同時に君と出会ったのは、俺が彼の起動者候補と知っていたからか。何かと俺の旅に付いて来たがってたのもこの為か」

「ま、そういう事じゃの」

「やれやれ……」

 

 自慢げに言うローゼリア。今更だから何も言わないが、彼女との2年の旅を振りかえると、やや怪しい所が浮かび上がってくる。露骨に行き先を変えたり、俺が行きたいと言った場所を却下したり。変な魔獣と戦ったり。最初の二つはいいとして、最後の魔獣については色々と文句を言いたいのだが。

 

「それで俺はどうすればいい?剣を極める旅は続けていいのか?」

「勿論じゃ。妾とも暫く会う事は無かろう。ヌシの言った女は気になるが」

「だったら一緒に来るか?そろそろ顔を見せに行く頃合いだし」

「それはまたの機会じゃな。妾も長としての使命もあるからの」

「残念。リアンヌに頼んで美味しい郷土料理を作って貰おうと思ったのだが」

「なぬ!?」

「来ないなら仕方ない。珍しい友が出来たと紹介たかったが君も色々と忙しいだろうし、またの機会にするよ。世話になったな」

 

 左手に持っていた王剣ガランシャールを背中に担ぎ霊窟から出ようとすると、ローゼリアが右手を力強く掴んでくる。

 

「ちょっと待て。折角だからもう少し付き合う事にする」

「結局来るのかよ。言っておくが徒歩だぞ」

「分かっておる。レグラムまで転移で飛べぬからな」

「なら行こう。ここから一月はかかるからな」

「ま、気長に行くとするかの」

 

 紅い杖をしまうローゼリア。霊窟を出ると強い日差しが差し込んでくる。暫く霊窟にいた影響かとても眩しく感じる。確か試練とやらで2日程籠っていたか。少し腹も減っていることだし、近くの街に寄って食べるか。

 

「さて、パルムで腹ごしらえでもするか」

「よいぞ。近くにあれもあるし」

 

 あれとは何だ?凄く気になるのだが聞かないで置こう。聞いたところで答えない。この二年旅をして、彼女の事は大体分かっている。なんせ色々と苦労したからな。

 

「パルムまでは1時間程か。エル・プラドーは放置でいいか?」

「出る前に里に転移させておる。必要ならば呼ぶといい」

「了解。それじゃあ行こう」

 

 街道に出てパルムへと向かう。途中で魔獣を討伐しながら進んで行くと、5アージュ程ある大猿と遭遇。ガランシャールを抜き距離を詰めると、大猿が雄たけびを上げながら近づいてくる。ローゼリアは後ろで呆れながら言ってくる。

 

「放置しても良かろうに」

「そういう訳にもいかん。君は下がっていろ」

 

 迫ってくる大猿に剣先を向け闘気を開放。ガランシャールに光を纏い振り下ろす。

 

「奥義・光凰剣」

 

 光の剣が大猿を飲み込み跡形もなく消し去る。旅の途中で編み出した我が剣の総集。とはいっても精度も威力も満足していない。近いうちに宝剣と共に弟に託そうと思っているが……それまでにもう少し鍛えておかねば。

 

「相変らずの威力じゃの。敵にまわすと恐ろしいわ」

「安心しろ。君に剣を向ける事はない。先に進むぞ」

 

 ガランシャールを背中に担ぎ足を進める。この後は魔獣と遭遇することなくパルムに到着。ここに来るのは試練の前に寄った以来か。2日振りとはいえ少し懐かしく感じる。

 

「折角だから土産でも買って帰るか。一応手紙は出していたがかなり迷惑をかけたし」

「妾も里の皆に買って帰るとするかの。また後で合流じゃ」

「分かった。出口で合流だ」

 

 ローゼリアと別れまずは腹ごしらえを済ませる。その後に土産屋に入り何かいい品が無いか物色。リアンヌや弟のシオン。家族の分を考えるとかなりの量を買わないといけないのだが……

 

「うーん……リアンヌの場合は何がいい?その前に弟には技と宝剣があるからいいか。だとすると……ん?」

 

 視界の端で銀色の腕輪が写る。リアンヌがこういった品を気に入るか分からないがいいだろう。

 

「さて、そろそろ出口に向かうか」

 

 土産屋を出て出口に向かう。暫く待っていると上機嫌のローゼリアが来る。こういった時の彼女は宜しくない事を考えていることが多い。嫌な予感がするがあまり気にしない方向で行こう。

 

「では行くとしよう。近くの精霊窟じゃ」

「またか。今度は何をする?」

「行ってからのお楽しみじゃ」

 

 凄く怪しい。笑っているから尚の事怪しい。以前にも同じようなことがあり痛い目を見たことがある。その時は『これもヌシの為』と言われたことがある。まぁその事はいいだろう。どのみち俺には拒否権は無いからな。

 

「なら早く行こう。日が暮れるまでに済ませたい。案内は任せるぞ」

「心得た。期待しておるぞ」

 

 俺とローゼリアはパルムを出て精霊窟へと向かう。

 

 

 この時の俺はまだ思っていなかった。些細なきっかけで始めた剣を極める旅が、まさか250年以上続くとは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









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第2話

 ローゼリアの案内でパルムの近くにある精霊窟に到着。中に入り最奥に行くと、見覚えのある紋様が描かれた扉が現れる。この紋様は確か騎神が眠っていた扉にも描かれていたな。まだ詳しい事は分からないが関係はあるだろう。  

 

「で。この先に行くのか?」

「うむ。この先に求めている物がある。ヌシの王剣に使われたゼムリアストーン……その結晶がな」

「へぇ……って結晶?」

 

 耳を疑ってしまった。俺の持っている王剣ガランシャールと対となる宝剣ガランシャールは旅の途中で入手したゼムリアストーンを使用して作られた物。それもかなり苦労して見つけた。その結晶が精霊窟にあるとは……まだまだ知らないことが多いな。

 

「では開けるとしよう」

 

 呪文を唱え扉を開けるローゼリア。その奥へと進むと神秘的な雰囲気を放った空間が現れ、その奥からわずかに力を感じる。視界を上げると、光を放ったゼムリアストーンの結晶があった。

 

「あれが結晶……大きいな」

「じゃがその前にアレをどうにかせぬとな」

「ん?あれは……」

 

 目の前に淡い光が現れ四足歩行の幻獣が現れる。全長は4アージュ程か。周囲に雷が漂っている所を見ると雷獣とローゼリアが呼んでいた奴だな。

 

「さて……我が剣の錆にしてくれる。友を超えるべく為にも」

 

 ガランシャールを抜き一歩踏み出すと雷獣が雄たけびを放ちながら雷を周囲に放つ。襲ってくる雷を受け流しつつ接近。足に斬撃を放って体勢を崩し刃に光を纏う。

 

「行くぞ。秘剣・光覇連閃」

 

 高速で切り抜け背後に回り斬撃を放つ。斬撃が雷獣を一刀両断し雷獣は光を放ちながら消えていく。

 

「ふぅ。こんな所か」

「見事じゃ。良いものを見せて貰った」

「それは良かった。それじゃ回収するか」

 

 ゼムリアストーンの結晶を回収すると、ローゼリアが結晶を里に転移させ俺達は精霊窟を出る。そこで俺はどうしてゼムリアストーンの結晶が必要なのか聞く。

 

「騎神用の武器じゃ。以前見つけた欠片と合わせれば1つで大丈夫じゃろう」

「騎神に武器が必要なのか。てっきり素手だと思ったよ」

「そんな訳あるか。そもそもヌシは剣士じゃろ」

 

 少し怒られる。そもそもローゼリアは騎神に武器が必要だと言ってない。なので剣の修行の合間にある程度素手で戦えるように鍛えておかないと思っていた。鍛えておいて損はない訳だし。

 

「で、騎神用の武器は何処で作るんだ?」

「ヌシの王剣を作った鍛冶職人に頼もうと思っておる。この件は妾に任せておけ。完成したらエル・プラドーに渡しておく」

「了解。それじゃレグラムに向かうか」

 

 レグラムへと向かい始める。途中でバリアハートに立ち寄り幾つかの土産品を購入したり困っている人を助けたり。何回かはローゼリアに呆れられたりしたが、いつかは巡り巡って自分のためになる。それはいつになるかは分からないがやって置いて損はない。

 

 そんな感じで3週間ほどバリアハートに滞在し1週間かけてレグラムに向かう。2年振りに帰って来た故郷。出た時と変わらない様子で良かった。故郷はあまり大きくないがとてもいい場所。郷土料理はおいしいしローエングリン城もある。ひとまずその辺りは置いて置き、まずは実家に顔を出さないといけないのだが……

 

「おや……ヴィクトリア?」

「……リアンヌ?」

 

 金髪の令嬢と遭遇。彼女こそ、2年前完膚なきまで叩きのめされた相手。レグラムを治めるサンドロット家の長女であるリアンヌ・サンドロット。まさか帰って来ていきなり遭遇するとは思っておらず、何を言われるか考えていると、彼女は優しく微笑みながら言った。

 

「お帰りなさいヴィクトリア。そちらの方はご友人ですか?」

「あぁ……ただいま。彼女はローゼリア。レグラムを飛び出してすぐに会ってな。この2年の旅に付き添ってくれた」

「そうでしたか。私はリアンヌ・サンドロット。私の大切な親友がお世話になりました」

「ローゼリア・ミルスティンじゃ。こやつの事は気にせんでいい」

 

 自己紹介する2人。その最中でローゼリアがリアンヌを見て何かを確信した様な表情を一瞬浮かべる。嫌な感じをした俺は2人の間に入り聞きたかった事を聞く。

 

「父上と弟は元気にしているか?」

「えぇ。飛び出した理由を聞いた時は呆れていましたが、貴方から送られてくる手紙を見て安心していますよ。少しお説教はあると思いますが」

「その辺りは覚悟している。それと少しいいか?」

「少し行く場所があるので後程私の屋敷でよければ」

「構わない。いつも済まないな。埋め合わせは必ずする」

 

 軽く頭を下げる。幼馴染の影響か子供の頃から何かと迷惑をかけているので頭が上がらない。彼女は『気にしなくてもいいですよ』と言ってはくれるがそうはいかない。土産品と一緒に改めて謝っておかないと。

 

「行くぞローゼリア。また後で訪ねるよリアンヌ」

「はい。美味しい料理を作って待ってます」

 

 リアンヌと別れまずは実家に向かう。その途中でローゼリアから彼女との関係を探られるが『ただの幼馴染』と誤魔化す。俺とリアンヌは決してローゼリアが思っているような関係ではない。まぁ……俺達の両親がどう思っているかは分からないが。

 

 そんなことを話している間にも実家に到着。ゆっくりと息を整えて扉を開けてはいると、丁度掃除をしていた使用人と目が合ってしまう。

 

「えっと……若様?」

「えぇ……その……お疲れ様です」

「は、はい。そのお帰りなさいませ。旦那様は書斎の方に。その後ろの方は……」

「私の友人です。お茶とお菓子をお願いします」

「かしこまりました。ではこちらに」

 

 使用人がローゼリアを客間に案内する。すれ違う時に『あまり虐めないように』と釘を刺してから書斎に向かう。2回ほど扉を叩くと中から父の声が聞こえ扉を開けて中に入ると、あまり宜しくない雰囲気を纏った父が椅子に座っていた。

 

「ただいま父上」

「……その前に言う事があるだろう?」

 

 低く冷たい声で言ってくる。これは相当お怒りだ。父の隣に剣が立てかけてる時点でそういう事だろう。返答次第ではこの場で親子喧嘩もあり得る。ここは慎重に。

 

「無断でレグラムを飛び出し済まなかった。ですが元よりこの家を継ぐつもりはありませんし、そこまでお怒りにならなくても宜しいかと」

「ほぅ……」

「家を継ぐなら弟に。それにふさわしい物を持ち帰っています」

 

 右手を上げ宝剣ガランシャールを顕現させ父に見せる。その輝きに一瞬目を奪われる所を見逃さなかった俺は言葉を続ける。

 

「この剣を弟のシオンに。それとこの2年で編み出した技を。それでご勘弁を」

「その技とは?」

「それは明日にでもリアンヌとの模擬戦で。まだ約束はしていませんがこの後会う予定ですし」

「この後会うのか?なら丁度いい。私と彼である話(・・・)を進めていてな。その話の答え次第では此度の件は許そう」

(話ってなんだ?嫌な予感しかしないんだが……)

 

 まさかこの人に限ってないだろうと思う。しかし、昔から事ある度に俺とリアンヌの事を話している事を知っている身からすれば嫌な予感しかしない。

 

「ひとまずは分かりました。その話が気になりますがその剣は弟に渡してください」

「承知した。技の事も伝えておこう」

「はい。では失礼します」

 

 会釈をしてから部屋を出る。大きく息を吐いていると屋敷の一階からリアンヌの気配を感じ降りる。どうやら用事を済ませ料理の準備も出来たらしい。使用人に声を掛けてから屋敷を出て彼女の屋敷に向かう。気が付けば陽が沈んでおり空は暗い。その代わりに星と月が輝いている。

 

「いい月ですね。風が心地いいです」

「ま、自然豊かだからな。霊力も満ちているし。そういえばリアンヌ。俺の父とサンドロット伯で何かの話を進めているようだが知っているか?」

「話ですか?私は存じ上げませんが……思い当たるとすると……」

「その思い当たるはあまり考えないようにしよう。俺の年齢を考えるとあり得るからな」

「ふふ……私は構いませんよ?」

「冗談きつい」

 

 もし考えている通りだとすれば今すぐにでもこの場を去りたい。その場合2度とレグラムに帰ってこれなくなるがそれもいいだろう。誰かに縛られ先の人生を決められるのは嫌だからな。

 

「しかし……腕を上げましたね。その剣といい半泣きして飛び出した2年前とは大違いです」

「さり気に傷を抉らないでくれる?」

「いいじゃないですか。多少の黒歴史はあった方がいいですよ」

 

 もはや黒歴史を超えると俺は思うのだが?レグラム全域に伝わっているので既に遅いかもしれないがこの事は一生残るだろう。どうか後世に伝わらない事だけを祈ろうか。

 

「さて……到着しましたよ」

 

 サンドロット家に到着。一緒に客間に行くと、リアンヌが作った郷土料理が机に並べられており、美味しそうな匂いが漂っている。それだけならまだよかったのだが、客間にはサンドロット伯が座って待っており、俺の顔を見た瞬間、素晴らしい笑みを浮かべて前に座るように誘導する。

 

「取り合えず座りなさいヴィクトリア」

「……失礼します」

 

 逆らわない方が良いと判断した俺は素直に座り、隣にリアンヌが座る。何を言われるのか待っていると、サンドロット伯は小さく息を吐いてから口を開く。

 

「この2年で大きくなったな。レグラムを飛び出した件は娘から聞いている。そして旅先で何をしていたのかも」

「そうですか……」

「そこでだが……君は今年で何歳だ?」

「先月で18歳ですね……」

「ふむ。なら頃合いか」

(あぁ……やっぱりか……予想通りだな。なら……)

 

 それだけは避けないといけない。この時点で俺の先の人生を決められるわけにはいかない。さっきも言ったが、俺の人生は俺が決める。縛られるのは嫌だ。

 

「サンドロット伯。申し訳ありませんがお断りします」

「む……まだ何も言ってないが……」

「大体分かります。子供の頃から陰で聞いていますから。その上でキッパリと申し上げます」

「そうか……出来ればと思ったが……」

「そもそも誰かと結ばれるつもりはありません。どうかご了承を」

 

 サンドロット伯は納得していないようだが納得してもらわないと困る。父にも啖呵を切っている以上は是が非でも引き下がって貰おう。

 

「さて……取り合えず食べましょう。話しもそれだけでしょう?」

「あぁ……そうだな。折角リアンヌが腕を振るった事だ。冷めぬうちに頂こう」

「ではいただきましょう」

 

 3人揃って手を合わせる。久しぶりにリアンヌの料理を食べながらこの2年の話を2人にするのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて……そろそろいいか」

 

 日付が変わる頃。こっそりとサンドロット家を抜け出した俺は、気配を消してレグラムを出ようとした。しかし、その事を気付いていたのかリアンヌが先回りをしていた。

 

「もう行かれるのですか?」

「あぁ……暫く帰ってこない。やるべきことと調べたいことがある」

「そうですか……もう少し滞在してもいいのに」

 

 少し寂しそうな表情を浮かべるリアンヌ。その気持ちは痛いほど分かるが止めないで欲しい。俺には騎神の事や調べたい事が沢山ある。足を止める訳にはいかない。

 

「何かあれば家に置いてきたフクロウに頼んでくれ。ローゼリアから譲り受けた特殊なフクロウだ。一通りの事は出来る」

「分かりました。ですが旅立つ前に1つ頼みがあります」

「いいぞ。少し開けた場所に行こう」

 

 レグラムを出て開けた場所に移動する。周囲が木々に囲まれており、ここなら多少騒いでも大丈夫だろう。ガランシャールを左手で抜き、リアンヌはランスを構える。

 

「さぁ……尋常に勝負です。互いに死力を尽くしましょう」

「望むところだ。この2年で磨いた光の剣。とくと味わうがいい!!」

 

 互いに黄金の闘気を解き放つ。2年振りの手合わせは騒ぎに気付いたローゼリアが止めに入るまで続くのであった。

 

 

 

 




現時点で主人公18歳 リアンヌ16歳です。


  


手合わせ後の話し。


リアンヌ「決着はまた今度ですね」


ヴィクトリア「ちっ……引き分けか」


ローゼリア(やれやれ恐ろしい2人じゃの……)


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第3話

 旅を再開して半年。相変らず人助けしながら鍛錬を積んでいる。因みに家の方だが、あの後フクロウ経由でお怒りの手紙が届き、一応謝りの手紙は出している。それで許してもらえるかは分からないが暫く戻るつもりが無いので、戻る頃には怒りが冷めている……だろう。

 

 さて……この半年で少しずつだが現在の帝国が見えてきた。その上で立ち回りを考えないといけないのだが、まずはローゼリアのいるエリンの里に向かわないといけない。何でも騎神の武器が完成したと連絡が来た。ので、今はエリンの里に通じる転移石を目指しミストリア大森林へと向かっていた。

 

「ん?あれは……」

 

 少し先に人影を見える。1人の少女が重い荷馬車を引っ張っている。それに関しては問題ない。大抵は後ろから誰かが押している。だが彼女の場合は1人で引っ張っている。少し違和感がした俺は気配を消して近づくと、違和感に気付く。

 少女は泥だらけで傷だらけ。服もボロボロで裸足。髪も汚れている。その近くには鞭を持った1人の男。そこから出る答えは一つだ。

 

「奴隷か……度し難い」

 

 近づき声を掛ける。男は少し警戒したが、俺の身なりを見て警戒を解く。その隙を逃さず、男の鳩尾に痛い一発を入れ意識を落とす。近くに寝かせてから少女の前に立ち塞がる。

 

「ちょっと待ってくれる?」

「……え?」

 

 少女は困惑しながら立ち止まり視線を向けてくる。近くで見るとさらにひどい有様。所々怪我もしている。蛆が沸いていないのが幸いだがこのままだと危ないだろう。

 

「その荷馬車は引っ張らなくてもいい。君に怖い思いをさせていた人は懲らしめたからね」

「懲らしめた……?引っ張らなくていい……?どうして?」

「君がそんなことをする必要がないからだ。俺と一緒に行こう」

 

 少女を抱き上げミストリア大森林へと走る。森に入り周囲の気配を探っていると、普段感じない気配に気付きその場所に向かう。その場所には淡く光っている石柱が立っていてその隣にはローゼリアがいた。

 

「遅いぞヴィクトリア……ってどうしたその子は?」

「すまないローゼリア。ここに来る前に保護してな。見てくれるか?」

「任せておけ。すぐに転移するぞ」

 

 ローゼリアが石柱に手を触れると光が俺達を包み込み里の中へと転移。魔女の里……エリンの里に来るのは1年振りか。相変らず不思議な場所だ。

 

「妾のアトリエに連れていく。その方がいいじゃろう」

「頼む。ほら、このお姉さんに捕まって」

「……」

「ん?どうした?」

 

 少女が俺の顔とローゼリアの顔を交互に見る。何かついているかと思い俺達も見合わせるが何も付いていない。何かあったのかと考えていると、少女がローゼリアを見ながら言った。

 

「お母さんに……似てる」

「え……?」

「む。ヌシの母と似ているのか?」

 

 ローゼリアが問い返すと少女は頷く。そういえば半分誘拐に近い形で連れてきたけど家族の事を聞いていなかったな。仮に一家揃って奴隷なら他に誰かいても良いと思うのだが……もしかして。

 

「お父さんやお母さんは?」

「……分からない。気が付けばあの怖い人と一緒だった」

「ふむ……あまり考えたくないのじゃが……」

「取り合えず頼む。後で考えよう」

「そうじゃな。ヌシは食事の用意を頼む」

「任された」

 

 ローゼリアに少女を頼み、俺は宿屋に向かって女将さん(と言っても魔女だが)に食べやすい料理をお願いして作ってもらう。出来上がった料理を持ちローゼリアのアトリエに向かう。

 

「持ってきたぞローゼリア……ってまだいないのか」

 

 2人はまだ来ていない。待っているうちに来るだろうと思い、料理を机の上に置いて椅子に座って待っていると、奥の部屋からローゼリアが姿を現す。

 

「あの子は?」

「そろそろ出て来るぞ。きっと驚くじゃろう」

 

 ローゼリアが部屋の方を向くと、部屋からすっかり綺麗になり、ローゼリアと色違いの服を着た銀髪の少女が恥ずかしそうに姿を現す。

 

「うぅ……恥ずかしいですローゼリア様。こんな服私にはもったいないです……」

「そんなことは無い。ヴィクトリアもそう思うじゃろ?」

「あぁ……綺麗になった。良かったな」

 

 少女の頭を優しく撫でると頬が真っ赤に染まり蹲る。自分で撫でておきながら相当恥ずかしいだろうな……ローゼリアもにやけてるし……。

 

「所で名前は?」

「名前は……ありません」

「それは困ったな……どうするローゼリア?」

「折角だし名付けるかの。そうじゃな……」

 

 どんな名前がいいか考える。しかし名前を考えたことの無い身とすればどんな名がいいのか分からない。ここは600年近く生きているローゼリアに期待しようとしたのだが……。

 

「折角だしヴィクトリアが考えろ。良い名を期待しているぞ」

「だよな。俺が保護したわけだし。うーん……」

「……」

 

 少女が何かを期待している目で見てくる。これは責任重大だぞ。何かいい言葉があればいいのだが……。暫く考えているとある言葉が出て来る。うん、これで行こう。

 

「ルーチェでどうだ?」

「ほぅ……良い名じゃな」

「どうかな?」

「……ルーチェ……はい。嬉しいです」

 

 嬉しそうに笑う少女……いやルーチェ。気に入ってくれて良かった。性はまた考えるとしてこの子のこれからを考えよう。個人的にはローゼリアに見て欲しいが、彼女も使命があって忙しい。かといって俺の旅に連れて行くのは危険だし……ルーチェに聞いてみようか。

 

「ルーチェはどうする?君は自由だ。君のやりたい事をやって言い」

「やりたい事……その、ヴィクトリア様に付いて行っていいですか?ローゼリア様に治療していただいている時に教えて頂きました。ヴィクトリア様は剣を極め乍ら旅をなさっていると。そして私の様な人を救っていると」

「そうだけど……危ないよ?危険な魔獣と戦うし。出来る限りは君を守ることは出来る。でもついてくるなら最低限自分の身は守れないといけない。それでも?」

「はい。それでも付いて行きたいです。足は引っ張りません。助けて頂いたご恩をお返したいです」

 

真剣な眼差しで伝えてくる。個人的には反対だがルーチェの決意を斬る事も出来ない。しかし、1人で旅をするのも中々寂しい。ローゼリアと一緒に旅をしている時は楽しかった。色々振り回されて大変だったけど。

 

「いいよ。その代わりローゼリア。この子に色々と教えてやって欲しい。弟子にしろとまでは言わない。必要最低限自分の身を守れるぐらいには」

「別に構わんが教えるのはヌシの方がうまいじゃろ」

「まだ俺の剣を託す気はない。まだ未完成だし至っていない。暫く滞在する予定だし使命の片手間でいい」

「仕方ないのぅ。ま、妾も丁度暇だしルーチェがよいなら」

 

 ローゼリアがルーチェに視線を送ると、ルーチェは小さく頷く。ローゼリアも頷いて答え一安心。ローゼリアが真面目に教えるか分からないが里に長期滞在する理由は出来た。エル・プラドーとも色々話してみたいし。

 

「では明日から始めるとしよう。ヴィクトリアも休むといい」

「そうさせてもらう。温泉に入ってみたいし、ここ数日は野宿だったからな」

「野宿……ですか。大変ですよね?」

 

 ルーチェが心配そうに聞いてくる。彼女の言う通り野宿は大変だ。寝ている所に魔獣が襲ってきたり、食事を持っていかれたり。まぁこの辺はあまり気にしないが一番きつかったのはローゼリアとの旅で起きたある事だ。

 

「野宿と言えば、ローゼリアが寝ぼけて川に落ちたことがあったな」

「そんなこともあったの。しかも真冬だったから死ぬかと思ったわい。ヌシに裸体まで見られるし」

「自業自得だ。他にも色々あるぞ?酒を飲み過ぎて次の日二日酔いで死んでる日もあったな」

「な、何の事かの……」

 

 目を逸らすローゼリア。言っておくがこれだけではない。他にも色々あるのだが上げるとキリがない。その辺はまた後程話すとして、旅の過酷さに付いてもローゼリアに教わって貰おう。

 

「取り合えずルーチェ。ローゼリアに魔術を教わるんだ。厳しくても音を上げないように」

「はい。ローゼリア様、ご指導お願いします」

「ふふ……厳しくするから覚悟するのじゃ」

 

 とても嬉しそうな表情を浮かべるローゼリア。明日からルーチェの指導が始まる。俺も少し休んでからこの地で剣とは別の修業を始めよう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 晩食を食べた後、俺は里にある温泉に来ていた。温泉に入る機会は殆ど無いのでこういった時に入ってきちんと疲れを取って置かないといけない。しかし……ローゼリアから聞いていたがこれは凄いな。この半年の疲れが抜けていく。毎日入れば万全の状態で旅を再開出来そうだ。

 

「それにしても……霊力が満ちてるな。この霊力を利用し技に加えれば……どうなると思う?」

 

 背後から感じる気配に声を掛ける。温泉には俺以外にもう1人、ローゼリアも居た。

 

「ま、技の威力は上がるじゃろ。他にも色々と出来る事は増える。ヌシに必要か分からんが」

「出来る事は増やしたい。というかこっち来たら?その方が話しやすい」

「おヌシな……まぁ良い。今更だからの」

 

 呆れながらローゼリアが隣に座り、俺は視界をそちらに向ける事無く話を続ける。

 

「それにしても珍しいな。外から来た人間に魔術を教えるなんて」

「本来は宜しくないが、ヌシの為じゃ。それに……」

「それに?」

「……ふむ……」

(ん……?今一瞬……」

 

 とても深刻そうな表情を浮かべる。この顔は何かを隠している証拠。それも後になって大きな騒ぎが起こる。俺が騎神の起動者候補である事を隠していたように。

 

「ローゼリア。君が秘密主義なのは分かる。だが隠しすぎるのは良くない。たまには話すのもいいだろう。何でも1人でやろうとしない事だ」

「それが出来たらいいの。少なくとも今は(・・)話す気になれん」

「なら近い内に話すんだな?」

「……考えておく」

 

 あぁ……これは話さない流れだな。旅をしている間も考えると言っておきながら結局言わなかった事が多い。これからの事も考えると、彼女の秘密主義はどうにかしないといけないのだが……。今はあまり強く言わない方が良いだろう。

 

「何かあったら頼れよ。君の事はリアンヌと同じぐらい信用してる。君からしたら俺は頼りないかもしれないが」

 

 言いながら左手でローゼリアの頭を鷲掴みすると、ローゼリアは黙り込んでしまう。すこしやってしまっただろうか?沈黙の時間が少し続き、どうしようかと思っているとローゼリアがゆっくりと口を開く。

 

「本当にどうしようも無かったら頼る。ヌシの光の心と剣に」

「了解だ……って光の剣は分かるが心はどうしてだ?」

「なんじゃ分からんのか?ヌシの強さの秘密じゃろう」

 

 そう言われても実感がない。自分の強さを支えているならまだ分かるが強さの1つなら話は別だ。俺が知らずローゼリアが知っているのも気になる。ここは聞いてみるか。

 

「光の心ってなんだ?」

「そのままじゃ。ヌシの心が光のように輝いている。それも日に日に増しておる」

「成程。自覚ないが……心に止めておく」

「それがいいじゃろう(ま、その異能が花開くのはまだ先じゃろうが)」

「分かった。さて……そろそろ上がるよ。ルーチェの事はよろしく頼む」

「任された。ヌシも程々にな」

「あぁ……」

 

 湯船から上がり温泉から出る。脱衣所で軽い服装に着替えてローゼリアのアトリエへと戻って行った。

 

 

 

 




暫く里で修業。主人公の異能は後程で。


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第4話

 エリンの里滞在2日目。朝早くからエル・プラドーの元へと来ていた。彼とは半年振りに会う。何か変化があると思っていたが大して変わっていない。変わったことと言えば、流暢に話していることだろうか。これに関してはかなり驚いてしまった。最初に言葉を交わした時は少し棒読みだったのに、この半年で人と同じ様に話せるようになるとは……ちょっと聞いてみるか。

 

「この半年で流暢に話せるようになったけどどうしてだ?」

『そなたの力が強いからだろう。試しの時よりも力が向上している。内に秘めた異能に関しても』

「異能……?」

 

 異能って確か産まれた時から持っている特殊な能力だったか。少なくとも身近にはいない。エル・プラドーは俺がその異能を持っていると言ったが初耳だ。持っていることすら今まで知らなかった。どんな異能なのだろう。気になるが異能が発動した感覚は一度もない。子供の頃から今まで大した変化もだ。

 

「その異能とやらは日に日に力が増しているのか?」

『あぁ。輝きが増している。そなたの心に宿った光が』

「と言われても……そういえば昨日ローゼリアも言ってたな。どうしようもない時は俺の光の剣と心に頼るって。その光の心ってなんだ?」

 

 エル・プラドーに訪ねると、彼は俺の心臓辺りを注視する。1分程経つとエル・プラドーは小さく頷き言った。

 

『今はまだ言えない。だが、そなたや仲間が窮地に陥った際に覚醒するだろう」

「窮地……な。そうなった時はまず君に頼るよ。それに旅を再開したらレイヤと合流するしルーチェも加わる。大きな壁が立ち塞がってもみんなで乗り越えるさ」

『うむ。頼りにするといい。我もそなたの事を頼りにしている』

「おぅ。それじゃまた明日来るよ」

 

 エル・プラドーと別れ里りアトリエに入る。ローゼリアの話ではここでルーチェに魔術を教えると言っていたが……。

 

「誰もいない……気配すらしないのだが」

 

 アトリエには誰にもいない。外に出ているのかと考えたが修行初日からそれは……いや、ローゼリアの性格を考えるとあり得そうだぞ。俺の時も修行の一環と言ってえげつない魔獣や理不尽な枷を掛けての手合わせもあったし……。探しに行くか。

 

 アトリエを出て向かったのは転移石。それに触れて外界に繋がる空間に転移。この場所から帝都やミストリア大森林、他の場所にも転移できる転移石がある。それと魔女を鍛える迷宮もあるらしいがそちらには行った事がない。まずはそっちから行くべきか。しかし、この場所には魔物が沢山いる。稀に幻獣なども出て来るらしいが……。

 

「この場合両方か。まずは周囲を探って……とはいかないか」

 

 背後から感じる強い霊圧。振り返った先にいたのは植物の球根に触手が生えた大きな幻獣。毒やら痺れやらを付与してくる厄介な奴だな。では討伐するとしよう。

 

「来いガランシャール」

 

 ガランシャールを顕現させ左手で掴む。いつものように構えて闘気を放つと、幻獣が触手で左右から同時に叩きつけてくる。一歩踏み出し横なぎに一撃。触手を斬り落としそのまま斬撃を放つ。

 

「光覇斬」 

 

 斬撃が幻獣を真っ二つに切り裂くが幻獣は消えない。どうやら耐えたようで周囲の霊力を吸収し回復。傷も完全に癒えてしまう。ふむ、久しぶりに手応えの有る奴だな。

 

「なら少し本気を出そう。我が光凰剣の進化をここに」

 

 剣をゆっくりと上げ周囲から霊力を集め光に変換し剣に集約。時間にして1秒ほど。幻獣からすればほんの一瞬だろう。ぶっつけ本番でやってみたが変換と集約の速度を上げれば高威力の斬撃を常に維持できそうだ。

 

「終わりだ。奥義・光凰神剣」

 

 剣を振り下ろし光を放つ。光凰剣より遥に威力の高い斬撃が幻獣を飲み込み塵と化す。少しやり過ぎたか。もう少し加減を出来るようにならないとな。

 

「さて。2人を探すか」

 

 周囲を索敵。気配を飛ばして探ると、思ったより近くから戦闘の気配を感じてその場所へと向かう。そこは少し開けた場所で、ローゼリアが見守る中ルーチェが小型の魔物と戦っていた。いきなり実戦とはよくやるよ。ある程度基礎は教えているとは思うが……。

 

「いきなり実戦は早いだろ」

「ん?あ奴なら問題ない。基礎を教えたら30分程で覚えた。見た時から気になっておったが中々の才じゃぞ」

 

 嬉しそうに話すローゼリア。そういえば以前言ってたがエリンの里も才能がある人物しか見つけられないって言ってたか。後は騎神の起動者とその関係者。色々と知りたい所だがローゼリアが話す訳が無いので自分で調べるか。

 

「しかし魔術ってのはあまり分からないな。魔女の過去は知ったけど原理が分からん。霊力を利用している事は分かるが」

「その魔術を正面から粉砕したのは何処のどいつじゃ?危うく本当の意味で(・・・・・・)本気を出すところだったわ」

「良く言うよ。あの終極魔法は死ぬかと思ったわ」

 

 騎神の試しの前でローゼリアと手合わせした時の話し。軽い運動のつもりだったが、互いに熱くなってしまい気付けば周辺が悲惨な状態になっていた。まぁ……彼女の終極魔法は正面から粉砕してやったが。

 

「妾の魔術を正面から粉砕する奴はヌシが初めてじゃ。次やるときは妾がヌシの剣を粉砕するから覚悟しておけ」

「やれるものならやって見ろ……と、どうやら終わったみたいだな」

 

 話をしている間にもルーチェが魔物を倒す。周囲を見渡し魔物がいないのを確認してからルーチェは近づいてくる。

 

「討伐出来ましたロゼ様」

「うむ。中々じゃったぞ。ヴィクトリアも褒めておった」

「本当ですかお父さん?」

「うん。まだまだ甘い所はあるが上出来だ……て(やっぱりお父さん呼びか)」

 

 この事に関してはあまり言わないで欲しい。ローゼリアと話しあった結果だ。彼女が養母で俺が養父。別に嫌では無いし保護したからには責任を持たないといけないのだが……これはレグラムに帰ったら親父に色々言われるな。

 

「えと、お父さんはどうしてこちらに?」

「あぁ。そろそろ昼時だから呼びに来たんだ。休むのも鍛錬の1つだからな」

「そうじゃの。後は自主的にこなすがいい」

「はい!ではまた明日お願いします」

 

 礼儀正しくお辞儀をするルーチェ。ローゼリアが少しこそばゆそうにしているのを見届けてから里へと戻った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ふぅ……見回りはこれぐらいでいいか」

 

 里周辺の見回りを行っていた夜。ミストリア大森林に違和感を感じ足を運んでいた。幸いにも特に何もなく一安心。森も静かなので良かった。しかし……流石に11月ともなると寒いな。いつもは白亜の甲冑を身に纏っているが今は整備中。分厚いコートを羽織っているが少し寒い。

 

「ま、それもまたいい。夜空も綺麗だしな」

 

 空には星が輝いている。決して陰ることの無い輝き。まるでエル・プラドーみたいだな。輝いていると言えば俺の心も輝いているとローゼリアとエル・プラドーが言ってた。それが俺の異能であると。うん……気にはなるがあまり考えないようにしよう。沼に嵌まる事になるだろうし。

 

「帰るか。ミネルヴァもいないし今日は手紙が来ないのだろう」

 

 ローゼリアから譲り受けたフクロウの使い魔・ミネルヴァ(命名リアンヌ)。近くにいれば感じ取れるのだが、気配が無いという事はリアンヌかレイヤの所か。元気だといいが……。

 

「ま、あの2人なら大丈夫だろう。レイヤが面倒事に巻き込まれていないといいが……あのボクっ娘なら大丈夫か。お家の追っても二度と来ないし。うん、その辺も考えないとな」

 

 本当にやる事多いな。レイヤの事もそうだが多すぎる。一つ一つ片付けて行くか。先はまだまだ長い訳だし。その辺の相談も改めてローゼリアにしよう。特にレイヤの件は念入りに。

 

「しかし……結構冷えるな。早めに帰って熱いお茶でも入れるか」

 

 駆け足で里へ戻る。屋敷に入りお茶を淹れるために台所へ向かおうとすると、アトリエの電気が付いている事に気付く。中からローゼリアの気配と魔力を感じる。

 

「まだ起きてるのか。ついでに淹れるか」

 

 俺とローゼリアの分のお茶を淹れてアトリエに入る。中ではローゼリアが本を読みながら魔術の開発をしている。気付かれないように湯飲みを置き、壁にもたれてお茶を飲んで見ていると、ローゼリアは本を閉じ軽く息を吐いて言った。

 

「まだ起きておったのか」

「それは君もだろ?徹夜すると体に悪いぞ」

「要らぬ心配だ。ヌシこそ休んでおけ……ふわぁ……」

 

 大きな欠伸をするローゼリア。疲れているのはどっちだと言いたくなってくる。私生活もそうだが放って置くと絶対に倒れるのが見えている。誰かが歯止めをかける必要があるのだが……言っても聞かないだろうな。

 

「あまり無理をするなよ。いくら不死だからって倒れる時は倒れるからな」

「分かっておる。区切りをつけて休むから気にするな」

「……そうか。冷えるから風邪ひくなよ。お休み」

「お休みヴィクト。良い夢を期待しておる」

「……あぁ(珍しいな。愛称で呼ぶなんて)」

 

 珍しいと感じつつ、屋敷内にある俺の部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 




エル・プラドーとの会話。里での話はここまでです。どこかで騎神に乗せないと……



では次の話で。


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第5話

 ルーチェの修業が始まり半年。彼女の成長速度は俺達の予想を上回り、気付けば幻獣クラスを1人で倒せるようになっていた。流石に俺やローゼリアから一本取るまでには至っていないが一人前と言っても過言ではない。本当に6歳なのかと疑いたくなるが……その辺りは言わない方が良いだろう。リアンヌも幼少期の頃から才能を開花していたし。

 

 そんな訳でルーチェはローゼリアの最後の試練も難なく突破。彼女から杖も授かる。ルーチェは『私には木の棒で十分です』と全力で杖を受け取ろうとしなかったが、ローゼリアが囁いた一言で素直に受け取った。何を言ったのか気になったが放って置こう。

 

 そして次の日に旅を再開することになり、ローゼリアから赤い宝石が付いた首飾りをお守り代わりに受け取って再開を約束し、色々と(・・・)釘を刺してから、俺達はある人物と会う約束をしているセントアークへと来ていた。

 

「さて……あのボクっ娘は何処にいる?」

「レイヤさん……でしたか。ローゼリア様から愉快な方と伺っています」

「愉快というより面倒事に巻き込まれる体質だな。リアンヌ並みの容姿に箱入り娘だったから巻き込まれるし首を突っ込む」

「確か貴族のご令嬢ですよね。お父さんと一緒に居る前提で外に出る事を許されたと。どうしてです?」

 

 出来れば答えたくない。ルーチェにはまだ早い話だし俺としてもちょっとした黒歴史だ。初めて会って早々にあんな事を言われるとは予想もしていなかったしな。

 

「その辺りはまた今度だ。聞きたかったら本人に聞いてみろ。嬉しそうに話すさ」

「どうしてですか?」

「それは……」

 

 と言いかけた時だった。

 

「だーれだ?」

「……」

 

 いきなり視界が暗転し背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。加えて背中に体を押し付けながら耳元で囁いてくる。

 

「ふふ……誰か分かるかな?」

「……」

「ちょっと、反応してよ聞こえてる?」

「……ルーチェ」

「はいお父さん。一発殴ります」

「えぇ!?」

 

 慌てて距離を取る誰か。余程殴られるのが嫌なのだろう。だったら初めからしなければいいのだが彼女に言っても意味がない。言った所で辞めないし。だが今回は良かった。お陰で探す手間がなくなったし、久しぶりの再会だし多めに見よう。

 

「久しぶりだなレイ」

 

 振り返りながら名前を呼ぶ。赤色のショートヘアに銀色の瞳、彼女の名はレイヤ・ヘヴン。ある有名な貴族の一人娘。彼女については先ほどルーチェに話した通りだ。出会いについてはまた後程。

 

「久しぶりだね愛しの君。とても会いたかったよ」

「元気そうだな。相変らずみたいだけど」

「いいじゃないさ。君とボクの仲だろう?これでも控えたつもりさ」

 

 右人差し指を唇に当て右目を閉じ微笑む。性格さえ良かったら普通にいい女なのだが……。家事も一通り出来るし、面倒見もいいし。その辺りの男ならすぐに落とせると思うのだが。

 

「また男前になったね。どうかな?そろそろボクと……」

「それはまた今度な。まさかと思わないが親父さんに変な事言ってないよな?」

「ん?近い内にいい報告出来るって言ったけど?」

「おい!」

 

 何言ってんだこの女は!と思わず言いたくなるがぐっとこらえる。彼女との出会いを考えるとあまり強く言えないから上手く流そう。

 

「立ち話もあれだし近くの店に入ろう」

「いいよ。その子と話をしてみたいし」

「よし。行こうかルーチェ」

「……はい。(もしかしてこの人って……)」

(ん……?)

 

 ルーチェが少し不満そうな表情を浮かべている事に気付く。心配して聞くと、『大丈夫ですよ。ちょっと問いただしたい事があるだけで』と6歳とは思えない笑みで言った。この半年で色々と立派になったな。今では私生活がだらしないローゼリアを説教するぐらいだし……我ながら恐ろしい子を保護したな。

 

 そんな事を思いながら近くの酒場に移動し、3人揃って紅茶を頼み一息付くと、隣に座っていたルーチェが真剣な顔でレイヤに聞いた。

 

「レイヤさんとお父さんはどういった関係ですか?」

「っ!?どうしたんだいきなり!?」

「おや?興味あるのかな?」

 

 予想外の事を言い驚く俺に対してレイヤは嬉しそうに笑う。これは嫌な気配がする。あられも無い事やルーチェにはまだ早い事を言う可能性が高い。ここは慎重に……。

 

「俺とレイは親友だよ。決してルーチェが思っているような関係ではない」

「そんなことは無いさ。ボクを誘拐して貰ってくれたじゃないか」

「誘拐?貰った?どういうことですか?」

「それに関しては俺は悪くない!」

 

 全力で批判。この事に関してとても長くなる。あのローゼリアですら心の底から呆れて無視しようと言ったほどだ。かといって当時の俺は色々と抱えていたレイヤを放置するわけにもいかず、彼女の言葉に乗ったのだが運の尽き。後から恐ろしい事になり悩みの種になるのだが。

 

「ルーチェ。あの件は俺も悪いし詳しく言わなかったレイも悪い。最初から話してくれていたらあんなことにはならなかったんだ」

「それは悪かったって謝ったじゃないか。流石のボクも悪いと感じているよ」

「その割には俺と親父さんの話をニヤニヤしながら見てたよな?」

「ふふ。中々愉快だったからね。でも結果的には良かったさ。こうして外に出られて君と一緒に居れる。後は口説くだけ」

 

 出来れば辞めて欲しいのだが彼女は本気だ。どうしても自分の物にしたいらしく、隙あらばあの手この手で攻めて来る。それは一時期一緒に旅をしていた時も同じでローゼリアの目が無い時は距離感が殆ど無かった。一体俺のどこがいいのやら。

 

「所でロゼは元気?どこかで会いたいと思ってるけど」

「暫く寄る予定はないな。色々と頼まれてるし」

「はい。お母さんに各地に回って調査して欲しい事があると。まずはオスギリアス盆地ですね」

「盆地ってミルサンテの近くだよね。最近行ったよ。妙な空気が漂っていた。少し寒いというか何かでそうと言うか」

 

 少し気になるな。オスギリアス盆地と言えば古代遺物が度々発掘される場所だ。ローゼリアと一度行った事があるが、その時も妙な箱を見つけてローゼリアが教会の知り合いに渡していたな。

 

「急いだ方がよさそうだな。すぐにでも行こう」

「ですね。レイヤさんもいいですか?」

「勿論。会計はボクがするから先に出てて」

「了解だ。ご馳走様」

 

 会計をレイヤに任せて店を出ると、ルーチェが服の袖を掴んでくる。何かあったのか思っていると、彼女は何か言いたそうな目を向けてくる。これはまずいな。うん……。

 

「もう一度言うけどレイヤとは何もないよ?」

「そう見えません。レイヤさんはお父さんに惚れています。お父さんにはロゼ様がいるのに……」

 

 ん?今可笑しい事を言わなかったな?俺の気のせいだよな?ローゼリアがどうこうと言っていた気がするが……気のせいだよね?

 

「もしかして浮気ですか?」

「は……?浮気?何で?」

「それは……私のお母さんはロゼ様でお父さんはヴィクトリア様。すなわちお二人は夫婦ですよね?」

「………は?」

 

 いや……どうしてそうなる?確かに俺とローゼリアは仲が良いけどそんな関係ではない。父と母に関しても彼女と話し合って決めた事。もしかすると俺とローゼリアが仲良くしている所を見て勘違いしたのかもしれない。しかし……俺とロゼが夫婦ではない事を言うのはちょっと応えるが……きちんと言わないと。

 

「ルーチェ。俺とローゼリアは仲いいけどまだ夫婦ではないんだ。でも俺もお母さんもルーチェの事は本当の娘と思ってるよ」

「……あぅ」

 

 優しく頭を撫でると、ルーチェはとても恥ずかしそうに照れて顔を隠す。我ながら恥ずかしい事をしているな。周りに人がいないのが幸いだ。それにしても本当に可愛いな。本当に奴隷だったのかと疑いたくなる。

 

「そういう事だから心配するな。レイヤの想いは嬉しいけど俺には重すぎる。それに……まだ結婚する気はないしね」

「ではいつかご結婚なさるのですか?」

「どうだろな。でも……」

 

 いつかは所帯を持つ日が来るのだろう。それがいつになるかは分からないが今は置いておこう。少なくとも暫くは独り身だ。まだ考える必要もないだろうし。

 

「今はない。暫く自分のやりたい事をやって自分の剣を極めたい」

 

 俺はまだ18歳。人生もまだまだこれからだ。剣を極めた先にある物を見たいし、エル・プラドーと共に帝国を見て周りたい。彼に選ばれた人間として誇れるようにならないといけない。

 

「そんな訳だから宜しく頼むよルーチェ」

「はい。ロゼ様以上に支えて見せます。編み出した光の魔術で」

「あぁ!それじゃあレイが来たら行こう」

 

 レイヤが出て来るまでオスギリアス盆地までの道を確認し、彼女が出てきてからオスギリアス盆地に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 




声のイメージ


ヴィクトリア  2代目ブライト艦長 (ガンダムUC) 


ルーチェ    シノンを少し高くした感じ (SAO)


レイヤ     プロトマーリン (FGO)



あくまでもイメージです。


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第6話

 セントアークを立ち数日。俺達はオスギリアス盆地へと到着した。レイヤの話ではあまりよくない空気が漂っていると言っていたがどうやら本当の様だ。予想以上に霊脈は狂い、妙な気配が肌を刺す。ちょっとでも妙な事をするとヤバい奴が出てきそうだ。

 

 このままにするとミルサンテや周囲広範囲に被害が出そうなので、その原因を調べるために俺達は一旦分かれて調べ始める。ルーチェは霊脈の安定、レイヤは異変の原因。俺はもしもの事を備えて『彼』を呼ぶことにした。

 

「来い!エル・プラドー!」

 

 手を上げて『彼』の名を呼ぶ。背後に淡い光が現れエル・プラドーが空間転移してくる。エル・プラドーのことはレイヤに話しているので問題はない。他に目撃者がいたらまずいがその時はルーチェに記憶を消してもらおう。

 

「呼んで済まないな」

『気にするな起動者よ。ここは……オスギリアス盆地か。かなり霊脈が狂っているようだが』

「その原因を探っている。俺達の手で負えない奴が出て来たら力を借りる」

『あぁ。我も周囲を警戒しよう』

 

 それは助かる。俺達では気付かない事に気付いてくれる。この周囲は任せてよさそうだ。俺も周囲を調べ始め異変を調査するが特に何もない。絶対に何かあるはずだが……

 

「ちょっと荒業でもするか?いや、そうすると後が怖いが……」

「お父さん。こちらでしたか」

「ルーチェか。何か見つけたか?」

「はい。指輪を見つけました。調べたところ何も問題はありません」

 

 銀色の指輪を見せてくる。形は見慣れた物でルーチェの言った通り問題はなさそうだ。だが古代遺物の1つであるのは変わらない。これはローゼリアに渡して教会に報告してもらおうか。

 

「ローゼリアに渡そう。何かあったら危険だ」

「……大丈夫です。この指輪から禍々しい気配は感じません。ですのでお父さんが嵌めて下さい。私には大きいので」

「そうか。なら受け取ろう。だがローゼリアには伝えるぞ」

「はい。では……」

 

 ルーチェは俺の右手を掴み薬指に指輪を嵌める。指輪は恐ろしいほどきちんと嵌まり少し恐怖を感じるが体に異常は無い。うん……後でミネルヴァ経由でローゼリアに伝えよう。

 

「次はレイだな。何もないといいが……」

「そうですね。ここに来るまで色々とありましたから」

「急いで探そう。ルーチェは東側だ」

「はい」

 

 東側をルーチェに頼み西側を探す。周囲を警戒しながらレイを探していると一瞬冷たい風が通り抜け、その後に禍々しい殺気が襲ってくる。すぐにその場に向かうと、そこでは真紅に輝く大剣を持ったレイヤの姿。彼女の持っている大剣から感じたことの無い気配を放っており、オスギリアス盆地を纏っている気配と同じだった。

 

「やれやれ……気をつけろと言っただろうレイ?」

「……」

 

 声を掛けるが反応がない。古代遺物に飲み込まれたのか?彼女程の心の持ち主なら大丈夫だと思うが……そうはいかないか。

 

「少し痛いが我慢しろよ」

 

 王剣と取り出し殺気を放つ。その殺気に反応したレイヤが振り返る。目に光は灯っておらず、剣と同じ気配を全身に纏っている。これは簡単にはいかないか。それに獲物も騎士剣ではなく大剣だ。

 

「来いレイ。目を覚ましてやろう」

 

 ガランシャールに光を纏い高速で間合いに入る。横なぎに一撃を振るうがレイヤは後ろに下がり回避。すかさず接近すると、レイヤは大剣を振り下ろし赤い斬撃を放つ。その斬撃を斬り伏せ、速度を上げて接近。レイヤとの距離はほぼない。この間合いなら確実に剣を落とせる。

 

「絶技・光凰剣」  

 

 光の一撃を振り下ろす、。レイヤは避ける事無く正面から受け止めた。剣に操られているとはいえ正面から受け止めるか!

 

「だが甘い!」

 

 一歩踏み込み上半身を回して大剣を弾く。レイヤの上半身は大きく後ろに流され直ぐには立て直せない。そこを逃すことなく一撃を入れてレイヤの手から大剣を落とす。大剣は3アージュ程先で地面に突き刺さり、倒れていくレイヤの手を掴み抱き寄せる。

 

「ふぅ……何とかなったか」

「……んっ?ヴィクト?」

「目が覚めたか」

 

 意識が戻ったか。特に外傷もなさそうだし良かった。あの剣が纏い放っていた気配もない。だが……オスギリアス盆地の霊脈は狂ったまま。原因は他にあるのか?その前にあの剣を回収だな。

 

「……ねぇヴィクト。そろそろ離してくれるかい?ボクはとても嬉しけど……さっきからルーチェ凄い睨んでる」

「ん?そうだな。問題はなさそうだし悪かったな」

「ん……(別に謝らなくてもいいのに……)」

 

 レイヤを離し振り返る。背後にはとても不機嫌そうにしているルーチェがいたがきちんと事情を説明。あまり信じて貰えていないようだが一部始終は見ていたそうで軽くレイヤに説教をする。

 

「気を付けて下さいと言いましたよね?」

「その……何と言うか凄い剣だったから……」

「だからといって安易に触れないでください。いいですね?」

「うぅ……気を付けます」

 

 こうなったルーチェは止まらない。ローゼリアですら逃れられていないからな。レイヤはすっかり委縮してしまい泣きそうなので少しそのままにしておこう。

 

「で。この異変の原因だと思われる剣は地面に突き刺さっているが……あまり変わらないな」

「恐らくあの剣を媒介にしていると思われます」

「なら他に原因があるって事?」

「はい。その原因を探さないといけませんね。一度エル・プラドーに聞いてみましょう」

 

 エル・プラドーの元に向かいさっき起きた事を説明。その上で異変の原因を尋ねるとエル・プラドーは少し考えて言った。

 

『もしかすると我が目覚めたからかも知れん。ルーチェは魔女殿から聞いたと思うが、我々に対抗して作られた存在がある』

「魔煌兵ですね。ですが今は起動していない筈……」

「レイ。オスギリアス盆地に来たのは何時だ?」

「確か一年ぐらい前かな?近くを通りかかった時に凄い悪寒に襲われて」

「俺が起動者になったのもその頃だな。だとすると……」

 

 偶然ではないだろう。魔煌兵がどういった存在かは知らないが、エル・プラドーに惹かれてこの場に現れる可能性は高い。だとすると周囲に被害が出ないうちに異変を解決しないと。

 

「ルーチェ。霊脈を安定出来るか?」

「やってみます。少し離れてください」

 

 俺とレイヤは少し離れる。ルーチェは杖を上げて魔力を解き放ち術を唱えて霊脈の安定を試みる。少しだけ気配が変わったが大した変化はない。暫くしてルーチェは杖を降ろし息を整える。今のルーチェではこれが限界か。

 

「お疲れ様。少しだが落ち着いたみたいだ」

「ですが解決したわけではありません。少し休憩したらもう一度……」

「ダメだよ。汗が酷いし息も荒い。ここはヴィクトに任せよう」

「あぁ。ここは俺にーーーん!?」

 

 背後から強い霊圧を感じる。ルーチェとレイヤ、エル・プラドーも感じ取ったようだ。俺は息を整えてから振り返る。背後にいたのは4アージュを超える鋼鉄を纏った人型のゴーレム。感じたことの無い霊圧を放ち威圧してくる。

 

「な、なにこれ!?大きすぎないかな!?」

「っぅ!これは……」

「……これが魔煌兵か(これは手に負えない。だがエル・プラドーの力を借りるのは……)」

 

 出来れば避けたい。切り札である彼の力を借りるのは最終手段だ。だが……下手をすれば全滅をあり得る。ならばーーー。

 

「行くぞエル・プラドー。力を貸して欲しい」

『勿論だ。ゆくぞ起動者よ!』

 

 エル・プラドーの座席に転移し白亜の王剣を顕現させる。左手で掴み構えて魔煌兵と向き合う。何故だろう。エル・プラドーに乗るのは初めてなのに妙に一体感がある。動かし方も手に取るように分かるし……。少し怖いのだが置いておこう。

 

「初戦闘だから宜しく頼む。足は引っ張らない」

『そなたなら心配いらぬ。思う存分我が力を奮うといい』

「なら遠慮なく行こう!」 

 

 高鳴る心臓を落ち着け闘気を解き放つ。闘気に反応しエル・プラドーが輝く。体の内側から力が湧いてくる。これが騎神の力か。成程、確かに尋常ではない。振るい方を間違えれば神にも悪魔にもなる。『銀』の担い手になったリアンヌが封印するわけだ。

 

(だからこそ気になる。騎神はどういった目的で作られたんだ?≪巨イナル一≫を制御するためと聞いたが……そもそも≪巨イイナル一≫ってなんだ?)

 

 色々と疑問が浮かび上がるが今は考えないでおこう。目の前にいる魔煌兵に集中だ。レイヤとルーチェを守るために。

 

 

 

 




魔煌兵登場!






魔煌兵が出現したときのローゼリア。



ローゼリア「うむ。今日もいい天気……ぬ!?この気配は魔煌兵か!どうして起動しておる!」

慌てて杖を取り出し里の中心へ移動するローゼリア。


ローゼリア「えぇい!あ奴はいつも面倒事に巻き込まれよって!」

そのまま転移するが彼女はまだ知らない。転移と同時に魔煌兵が討伐されている事に……



続く。


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第7話

 単刀直入に今目の前で起きた事を言おう。エル・プラドーに乗り魔煌兵に挑んだのだがまさかの一撃で消滅。あまりにもあっけなく終わってしまい驚きを隠せない。これなら生身でも十分倒せたぞ。騎神に乗っての初戦闘だったから出来る限り乗り慣らして置きたかったのだが……まぁいい。あまり被害も出なかったからな。

 

「降りるぞエル・プラドー」

『承知。素晴らしい剣だった』

「ありがとう」

 

 エル・プラドーに褒められながら操縦席を降りる。魔煌兵を倒したのでオスギリアス盆地を纏っていた異様な気配が消え霊脈も安定。どうやら当たりの様だ。

 

「お疲れヴィクト。いやぁ見事な一撃だったね。もしかして生身でも行けたとか?」

「恐らく問題なかったかと。3人で連携すればエル・プラドーの力を借りずに済んだかもしれません」

「まぁ、次からは気を付けよう。ひとまず安心ーーー」

 

 と言いかけた時だった。何処からともなく聞き覚えのある声が脳内に響き渡ったのは。

 

『何が安心じゃぁぁ!!!魔煌兵が起動している時点で大問題に決まっているじゃろうがぁぁぁ!!!』

「「「!!!」」」

 

 頭が割れそうになるほど大きいローゼリアの怒鳴り声。どうやら相当お怒りの様だ。彼女は俺達の目の前に姿を現すと米神に青筋を立てなかが詰め寄ってくる。

 

「どういう状況じゃ?どうしてエル・プラドーがいる?というか魔煌兵如きおヌシ1人で事足りるじゃろう」

「おいおい。そんなに一気に聞くな。最初から説明する」

 

 この場であった事を一通り説明。ローゼリアは聞き終えると最初にレイヤに説教。後にルーチェにも軽く雷を落とし俺も少し怒られる。俺もレイヤもこの年で説教されるとは……今回ばかりは俺も悪いしな。

 

「して。どうしてこうなる前に妾に言わない?」

「俺達で大丈夫だと判断したから」

「……結果は?」

「……魔煌兵の力を甘く見て不要な力を奮ったな」

「その割にが一撃だったようじゃが?」

「まぁ……意外と脆かったからな」

 

 いい意味で甘く見ていたかもしれない。最初の霊圧で怯みさえしなければ3人の力で乗り越えられただろう。

 

「まぁ良いわ。3人が無事だったことを確認できたし。次からは気を付けるのじゃぞ」

「了解。ついでに色々頼まれてくれるか?」

「指輪と剣じゃな。剣の方は暗黒時代の遺物じゃからヌシが持っておけ。指輪の方は調べておく」

 

 それは助かるな。しかし暗黒時代の遺物か。あの大剣は中々の代物。いつか弟子を取った時に託すとしよう。そうだ。せっかくローゼリア態々出向いた事だし、今日はここで野宿する予定だがら誘ってみるか。

 

「ローゼリア。今日はここで野宿する予定だがどうする?久しぶりにレイに会ったから話ぐらいあるだろう?」

「まぁ色々あるが……ってここで野宿か?」

「ん?この後何も起きないか調べる為だが?念の為エル・プラドーに結界を張って貰って誰にも入れないようにする」

「いや……まぁ良い。何かあっても対処できるじゃろ。折角だから妾も付き合う」

 

 それじゃあ準備するか。背後にいるレイヤは嫌な顔をしているが既に日は沈んでいる。今からミルサンテに戻るのもあれだし、この後何も起きないか確認する必要もある。お化けの類が出ても大丈夫だろう。

 

「よし。レイは火を焚いて。俺とルーチェで晩食を作ろう」

「了解です。お母さんはどうします?」

「ふむ。妾は指輪について調べる。ちと付き合えヴィクトリア」

「分かった……と言いたいが、この指輪外れない」

「「「え……?」」」

 

 3人は『嘘だろ?』と言わんばかりの視線を向けてくる。実はローゼリアが来た時に外そうと試みている。しかし外れなかった。ローゼリアは再び青筋を立てながら近づいてきて右腕を掴む。

 

「ルーチェよ。晩食が出来たら呼んでくれ」

「は、はい。その優しくお願いしますね」

「それはこやつ次第じゃな。ほれ行くぞ」

「……おぅ」

 

 素直に引っ張られルーチェ達とは少し離れた場所に行く。近くにあった石に座らされ、右手に嵌めてある指輪に触れる。魔力を流したり、擦ったり、色々と調べたりするが何も反応が無かった。

 

「反応なしだな」

「そうじゃの。じゃが何かあったらすぐに言え。強引にでも引き抜く」

「了解だ。それと……迷惑かけたな」

「今更じゃ。それに妾も色々と苦労を掛けている。だから気にするな」

「そうだな……っと。良い匂いだ。そろそろ戻ろうか」

「うむ。久しぶりに楽しむとしようか」

 

 ローゼリアと共にルーチェ達の元へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 焚火を囲って晩食を済ませた後。俺はぐっすり眠ったルーチェを膝に乗せて火の番をしていた。他の2人……レイヤとローゼリアはお酒を飲み騒いだ後プツリと切れ爆睡。ルーチェがとても呆れていたが……今日は完徹だな。1人寂しいが背後にいるエル・プラドーが起きているのでまだましだ。

 

「済まないな付き合わせて」

『気にするな。あれだけ騒げば仕方なかろう。それにそなたと魔煌兵との戦いを復習したいと思っていたからな』

「復習って……何かあったか?」

『うむ。そなたの異能が少し目覚め我と同調した。あの光はその証。加えて我を蝕んでいた呪い(・・)の枷も解除された』

「……呪い?」

 

 呪いとはなんだ?聞いたことないぞ。それにエル・プラドーが呪われている事を始めて聞いた。それに呪われている感じも無かった。聞くべきか悩むが今まで黙っていたという事は知らなかったのか?今は置いておこう。

 

「で……あの光がまずいのか?」

『案ずるがいい。むしろ力となる。問題はまだ目覚めたばかりで開花した時にどう扱うかだ』

「それは一緒に考えよう。その目覚めた異能を自在に引き出せないといけないし」

『そうだな。その指輪も含めて我も考えよう』

 

 指輪か……結局ローゼリアでも分からなかったし……でも騎神なら分かる可能性が出て来るか。期待し過ぎないようにしよう。

 

「ん……お父さん?」

「おっと……起こしたか」

 

 ルーチェが起きる。少し声が大きかったかもしれないな。優しく頭を撫でると、ルーチェは嬉しそうに微笑みながら瞼を閉じ眠りにつく。

 

(やれやれ。ここまで懐かれるとはな。レグラムに帰りにくい)

 

 リアンヌやシオンなら察してくれるだろうが親父は怖い。この年で6歳の娘がいるとなると……あぁ、あまり考えないようにしよう。

 

「でもそろそろ戻らないとな……銀の騎神も見てみたいし」

『ふむ。銀が目覚めているのか。我も起動者に会ってみたいものだな』

「……じゃあ帰るか。流石に君は里だけど」

『心配いらぬ。そなたとつながっている以上は共有出来る』

「それ初耳だけど?」

 

 それってこの半年の事も知っているんだよな?レイヤが余計な事に首を突っ込んだ事や、山中で魔獣の群れと鬼ごっこした事とか。恥ずかしいのだが……エル・プラドーは全部知っているのか。

 

「今更だよな。一緒に旅をする以上は隠し事出来ないし」

『そなたが隠し事などあり得ぬだろう。レイヤもルーチェもだが』

「そうだな。さて……俺も休むよ。レイとローゼリアを起こして置いてくれ」

『承知。ゆっくりと休むといい』

 

 エル・プラドーに後を頼み、薪を足してから眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。夜が明けると同時に起き、結局起きる事の無かったレイヤとローゼリアを叩き起こす。2人に不満そうな視線を向けられるが、2人より早くに起きていたルーチェが雷を落とす。久しぶりに見た光景だな。この事についてはいつもの事なので置いておこう。

 

 俺達は片づけを済ませ次の目的地を決めようとしていた。元より宛ての無い旅だが目的はある。起動者になる前は剣を極める旅だったが、帝国を巡り少しずつ変化していくのを見てその原因を突き止めようと思った。その為には様々な人と繋がりを持つ必要がある。その為の人助け。俺が好きなのもあるが……。それは置いて置き。

 

 オスギリアス盆地に来たのもローゼリアから聞いたから。その結果魔煌兵が出現。他の場所もあり得るならば向かわないといけない。だが今は異変が起きている場所はないらしい。そうなると暫くブラブラしないといけないのだが……。

 

「レグラムに帰るのは嫌だなぁ……」

「何かあるのですか?」

「ふふっ!修羅場だよね?おじ様がルーチェの事を聞いたらどう思うのかな?」

「修羅場とは?」

「ルーチェはまだ知る必要はない。知らないでくれ」

 

 余計な知識をつけて悪い子に育って貰う訳にはいかない。ルーチェは真面目なのでレイヤが余計な事を教えても問題ないと思うが……父親としては非常に困る。

 

「どのみち戻らないという選択肢はない。出来る限り遠回りし帰ろう。言い訳は考える」

「大丈夫。ボクも協力するから」

「(それが一番怖いのだが……言わないでおこう)期待しないでおこう。ローゼリアは里に帰るのか?」

「うん。エル・プラドーと戻る。指輪を調べておく。近い内に顔を出せ。定期的に見ておかんと心配じゃからの」

「分かった。元気でな」

「必ず顔を出します。お体に気を付けて下さいお母さん」

 

 ルーチェはローゼリアに抱きつき、ローゼリアは優しく受け止め頭を撫でる。それからローゼリアは里に帰って行き俺達もレグラムへと向かうに出会った。

 

 

 




次回がルーチェ視点です。




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第8話

今回はルーチェ視点です。


 私の名前はルーチェ。ルーチェ・ミルスティン。今はヴィクトリア様と帝国各地を周り人助けをしながら異変の調査をしています。ヴィクトリア様とローゼリア様……お父さんとお母さんと会ってから早くも一年が経ち、奴隷だった頃とは大違いの生活を送っています。あの頃は何も考えず、ただ雇い主の指示のまま動いていたけど今は自分の意思でやりたい事をやっています。

 

 それがとても楽しくて充実している。時々レイヤさんの無茶に振り回されているけど……。その度に説教するのも疲れるので旅の醍醐味だと思っています。そんなある日の事。オスギリアス盆地の一件から数日経ちレグラムへと向かっていた私達ですが、途中バリアハートに寄ることになりました。唐突だったのでお父さんに訪ねるとただ一言言いました。

 

「ちょっと買い物。後で合流しよう」

「え?何処に行くのですか?」

「大丈夫。すぐ戻るから」

 

 行き先を告げずに何処かに行ってしまう。後をつけようとすると背後からレイヤさんに止められてしまう。レイヤさんは何処に行ったか察している様子。けど聞いても答えないので戻ってくるのを待ちましょう。

 

「私たちはどうします?」

「そうだね……適当に回ろうか。行きたい所はある?バリアハートは初めてだよね?」

「はい。レイヤさんは……確か何度か訪れたことがあると伺っています」

「うん。お家の都合とヴィクトとロゼと一緒に。あの時は必要最低限しか滞在していないな。それに追いかけられていたし」

 

 追いかけられていた……話によればレイヤさんは幼少期の頃からの箱入り娘で外に出る事を許されなかったと。そんな時にお父さんの噂を聞き念入りに計画していた脱走計画で屋敷から脱走。そしてお父さんとお母さんを見つけて一緒に行動したらしい。その時の事をお父さんは『頭が痛くなるから話したくない』と言っていたのを覚えている。折角だから聞いてみよう。

 

「あの。お父さんと初めてお会いした時に何と仰ったのですか?」

「ん?あの時かい?あの時はこういったんだよ」

 

ーボクを誘拐してくれないか!

 

「って」

「……」

 

 この人は何を言っているのだろう?会っていきなり誘拐して欲しいって……。普通は言わない。あぁ、この人は普通とちょっと違うから言うのかな。でも……。

 

「それでよくお父さんは誘拐……連れて行ってくれましたね」

「ヴィクトは優しいから。それに何となく察してくれたみたいだし」

「それって背後からの追っ手に気付いていたのでは?」

「……ふふ」

 

 わざとらしく笑うレイヤさん。これは全部計算した上でお父さんに接触しましたね。その計算をもっと別の場所に使って欲しい。出来ればいい方向で。

 

「ですがどうしてヴィクトリア様を選んだのですか?他の方でも良かったと思いますけど」

「確かにそうだね。でも……会って見たかった。帝国各地を周り人助けをしている物好きな男に」

「会ってみてどうでしたか?」

「一目惚れ。噂以上にいい男だった。誰にでも手を差し出し悪を斬る。この時代にはあまりいない人間だ。ルーチェもそれは知っているだろう?」

 

 確かに。帝国各地を巡って私の知らない事を沢山知る事が出来た。中には私のような奴隷を見たり、飢餓に苦しんでいる人がいたり。けど、その殆どは見て見ぬふりをされ視界に入っていない。まるで私には関係ないと言っている様に。

 

 でもヴィクトリア様は見捨てなかった。手を差し出して話を聞き、出来る限り協力する。食べ物を分けたり多少のお金を渡したこともあった。奴隷を雇っている人には容赦ない一撃を与えて開放。盗賊団は捉えて詰め所に放り投げている事も。レイヤさんの言う通りヴィクトリア様の様な方はほとんど見なかった。

 

「だから惹かれた。彼になら全部捧げていいって。でも……ヴィクトの視界にはボクは入っていない。彼の瞳にはロゼが写っている。ボクは……ロゼに及ばないのかな?」

「レイヤさん……」

 

 寂しそうに、悔しそうに俯くレイヤさん。彼女もローゼリア様も素晴らしい女性。決してレイヤさんがローゼリア様に及んでいなかったり劣っていたりしていない。それぞれに素晴らしい所がある。それをヴィクトリア様が見ていない筈がないけど……。

 

「ちょっと後をつけてみますか?」

「後をつけるって……ヴィクトの?」

「はい。気配を消して光魔法を応用すれば姿も消せます」

「ちょっと万能過ぎない?ボクは構わないけど……」

「では行きましょう」

 

 杖を取り出し術を唱える。光を纏って反射させ姿を消し気配も消す。ヴィクトリア様が向かった方へと向かうと意外と早く見つかった。ヴィクトリア様は小物を売っている小さなお店で商品を見て悩んでいる。

 

「何か買うのかな?」

「レグラムに向かうのでリアンヌ様への贈り物かもしれません」

「リアンヌか……確か見合い話をしたって聞いたけど……」

「その話は無くなったと聞いています。おや?何か買って移動しますね」

 

 小さな袋を受け取り歩き始めるヴィクトリア様。気付かれないように後をつけると、今度は宝石店へと入って行く。

 

「あれ?ヴィクトって宝石に興味あったかな?ルーチェなら分かるけど」

「確かに私は魔術で使いますが……はっ!もしかしてお母さんと遂にーーー」

「それは無いと思うよ。ヴィクトもロゼも今は互いを信頼している仲だと思うし」

「……分かってますよ」

 

 ちょっとぐらい期待してもいいじゃないですか!娘としてはお二人の距離をもっと縮めたいと思っているんです!とは言えないので心の中で叫びます。でもどうして宝石店に入ったんだろう?

 

「お。出て来たよ」

「本当だ。こっちに来ますね……ってもしかして」

「うん逃げよう!絶対気付いてるよ!」

 

 レイヤさんが私の腕を掴み全力でその場から逃げるけど一瞬でヴィクトリア様に追いつかれ先回り。私達の前に立ち塞がります。

 

「全く……何でついて来たんだ?」

「それは……その……ルーチェ!」

「私に振らないでください」

「……まぁいい。2人共宿屋に向かうぞ。今日はここで一晩過ごす」

「「え?」」

 

 予定ではすぐに発つ予定のはず……何かあったのかな?取りあえず付いて行こう。私達は宿屋に向かい3人同じ部屋を取り荷物を置く。するとヴィクトリア様がレイヤさんに小物店で受け取っていた小さな袋を渡す。

 

「……どうしたの?」

「贈り物。来週誕生日だろ?ちょっと早いが渡しておく」

「……マジ?」

「マジだ。君に似合うかは分からんが」

「……ありがと」

 

 少し照れながら受け取り中から細長い箱を取り出すレイヤさん。箱を開けると中には星を形どった耳飾りが入っていた。

 

「耳飾り……しかも星型……」

「何時も見てるだろ。好きだと思って」

「うん……好きだよ。ありがとう」

 

 今度は嬉しそうに微笑んで耳飾りを付ける。それを見たヴィクトリア様は別の箱を取りだし中に入っていた髪飾りを私に見せてくる。沢山の宝石がついているとても高そうな髪飾り。もしかしてこれは……。

 

「後ろ向いて。付けるから」

「……私には勿体ないです。これこそお母さんに渡してください」

「いいんだよ。この髪飾りはタダだし。だから後ろ向く。怒るぞ?」

「うっ……分かりました」

 

 素直に振り返り髪飾りを付けて貰う。その後に両肩に何かを乗せられその何かを確認。両肩に乗っているのは魔力が込められている白亜のロープだった。

 

「この魔力は……」

「ローゼリアから。今日は俺達と君が出会って一年。記念すべき日だからね」

 

 そっか。だから寄ったんだ。もしかすると事前に準備をしていたのかもしれない。だとするととてもズルい親だ。私は血の繋がらない娘。それに元奴隷であまりいい人間とは言えない。なのにどうしてここまでしてくれるのだろう?この答えは出ている。それはヴィクトリア様とローゼリア様はとても優しくて慈悲深い方だから。だから私も会ってすぐに心を開けたのかもしれない。

 

「ありがとうございます。ずっと大事にします」

「おぅ。大事にして欲しい。それじゃあ休むか」

「そうだね。明日は早いし。また明日ロビーで」

「はい。お休みなさいレイヤさん」

 

 隣の部屋に移動するレイヤさん。私達も明日の準備を済ませてから就寝する。そしてお父さんに抱きつき甘えて寝たのは秘密です。




次回はレグラム。リアンヌとの手合わせとお説教です。


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第9話

 レグラムへと帰って来た。そして早速弟のシオンに連行されて父上のいる書斎に放り投げられる。書斎には一年前以上に怒っている父上の姿が。これは恐ろしい。久しく背筋が凍りそうだ。さてどう言い訳するか……。まずは挨拶しよう。

 

「ただいま父上。お元気そうで良かったです」

「どこぞの馬鹿息子のお陰でな。この一年の事はリアンヌから聞いている。その上で述べる事は?」

「……色々と知れましたよ?表も裏の事も」

「それだけか?」

 

 これはまずい。去年以上に選択肢を間違えると大変な事になりそうだ。いや、絶対になる。うん……素直に謝ろう。

 

「申し訳ございませんでした」

「……最初から言え。この馬鹿息子は……」

 

 そう言われてもあれだけ圧を放たれると素直に話せないだろう。まぁ俺が悪いからな。それにしても今回もあまり言われなかった。何か在りそうだが……。

 

「許す代わりにそなたの娘とその母に会わせてもらおうか」

「………え?ルーチェは大丈夫だがローゼリアは……って!!俺は彼女と結婚してないから!あくまでも形だけだ!」

「その割には親しいとリアンヌから聞いている。ルーチェとやらもそなたとの間のーーー」

「えぇいリアンヌめ!余計な事を!」

 

 部屋を飛び出し屋敷を出る。向かうはリアンヌの元。レグラムを走り回り探していると、酒場の前でレイヤとルーチェと談笑しているリアンヌを発見。すぐにリアンヌの右手を掴む。

 

「おや?話は終わったのですか?」

「それは後だ!ローゼリアとのことを何て言った!?」

「ロゼですか?あぁ……普通に親しい仲と言いましたが……」

「ルーチェの事は?」

「彼女の事はヴィクトリアとロゼの子と……あ!」

「あ!じゃない!お陰で父上が変な捉え方をしていたぞ!」

 

 お陰で話がおかしい所に行きそうだったわ!彼女と親しい事は変わらないがせめてルーチェの事はきちんと言って貰わないと困る。ローゼリアの事は確かに気になって……いや、放って置けないから傍に居てやりたいが決してそれは恋心では……待て。そう考えるとあの半年も含めてローゼリアの伝え方によればそう捉えられるのか?だとしてもだ!

 

「決して俺とローゼリアはそう言う関係ではないから!ただ放って置けないだけだから!」

「私はお似合いだと思いますよ。思いがあれば年の差なんて越えられる」

「話聞いてるか!?」

「私は心の底から応援しますよ。何かあれば相談してください」

「だから違うって!ローゼリアは何を話したんだ!?」

 

 リアンヌに聞くが彼女はただ微笑むだけで答えようとしない。ならルーチェとレイヤは?と思い聞こうとするが2人はいない。あの2人逃げたな。まぁいい。恐らく知らないだろうし2人に罪はないからな。

 

「その話はまた今度だ。今暇か?」

「そうですね。後程ルーチェに色々お話を伺うまでは時間はありますが……折角ですし手合わせしますか」

「おぅ。以前と同じ様に街道でやるか。今度はローゼリアがいないし決着つけれる」

「では先に向かっててください。騎乗槍を持ってきますので」

「了解」

 

 一旦分かれて俺は街道に。軽く準備運動をしているとリアンヌが騎乗槍を持ってくる。リアンヌも準備運動を済ませてから互いの間合いに入り獲物を当てる。

 

「さて、胸を借りるとしよう」

「こちらこそ。では……」

 

 一呼吸置いたのち、同時に後ろに下がる。間合いを維持しつつリアンヌの出方を伺う。一年前より隙が無い。これはどっちが先に動き崩すかで勝敗が決まりそうだな。

 

(だが我慢比べは好まない。先に仕掛ける!)

 

 剣に光を纏う。リアンヌが一瞬身構えた所を逃さず斬撃を放ち、その間に背後に回る。斬撃と背後の奇襲、ほぼ同時の攻撃をどう防ぐ?

 

「っ!アルティウムセイバー」

「むっ!回転斬りか!」

 

 成程、それなら防げるか。リアンヌの回転斬りを防ぎつつ槍を弾き返すが体勢が崩れない。それどころかそのまま勢いを利用して振り下ろしてくる。

 

「はっ!」

「ふっ!」

 

 負けじと受け止める。力はややこちらが上。ならば押し切る。初見ならリアンヌでも見切れないだろう。

 

「走れ光よ!」

「っ!?」

 

 ガランシャールから光が溢れリアンヌを飲み込む。そのまま剣を振りリアンヌを飲み込んだ光を光速の斬撃として放つ。リアンヌは背後にあった木に背中を強く打ち付ける。

 

「っぅ……今のは流石に見切れませんね。魔力を光に変換しての集約と解放……光凰剣の簡易型ですか」

「まだ未完だがな。それに集約と開放速度は光凰剣と光凰神剣の方が早い。あっちは技として完成している。まだまだ詰めれるがな。簡易型だからこそ0.01秒未満で出来るようになりたいものだ」

「成程……では私の技を受けて貰いましょうか」

「いいぜ。来いよ」

 

 ガランシャールを構える。どんな技か気になる所。この一年で新たな技を生み出したか、もしくは強化したか。どちらにしろ楽しみだ。

 

「さぁ……耐えてみなさい!」

「ん……?はっ!」

 

 一瞬空気が変わった。それと同時にリアンヌは金色の闘気を開放し竜巻となって周囲を覆う。しまった!これでは逃げ場がないし受け流す事も出来ない。正面から受け止めるしかない。いいだろう。ならば俺も全力で答えよう。黄金の闘気を解き放ち、リアンヌが放つ闘気と接触。周囲に衝撃波が伝わり大地が揺れる。

 

「ガランシャールよ。我が光を解き放て!」

 

 剣に光を纏い空に向けるとリアンヌは超速度で向かってくる。それを向かい打つべくガランシャールを振り下ろす。

 

「奥技・グランドクロス!」

「奥技・光凰神剣!」

 

 リアンヌと俺の全力の一撃。それがぶつかる瞬間だった。赤い結界が俺達を覆う。まて……このタイミングで結界?しかもこの色はーーーいや、もう遅い。どのみち今から技を止める事は出来ない。なら一緒に痛い目を見るべきだろう。

 

「はぁぁっ!」

「せぇぇぃ!」

 

 技がぶつかり凄まじい衝撃波と余波が周囲を襲う。だがそれらは結界が反射し俺達が直撃を受け爆発。赤い結界は砕け散り、俺達は揃って膝を付いた。

 

「いたたたた……大丈夫かリアンヌ?」

「えぇ何とか……それにしても今の結界は……もう少し早く気付けば止めれたのですが」

「逆に止めない方が良かっただろう。グギっと腰とか逝くかもしれんし」

 

 そうなれば暫く動けん。この年でぎっくり腰とか洒落にならんからな。しかし今の結界はルーチェでは無いな。だとすると……

 

「ローゼリアか。また邪魔をして……」

「もしかすると別の理由……ヴィクトリア。後ろをご覧なさい」

「後ろって……おぅ……」

 

 背後には杖を持ちとても怒っているローゼリアの姿。あぁ……今の陰口聞いてたか。だとするとこの後は……。というかやっぱり君の仕業か。しかしどうしてそこまで怒っている?俺とリアンヌとの手合わせの間を割った理由が分からないのだが?

 

「久しぶりだなローゼリア。何かあったか?」

「……ほぅ。分からんかこの阿保」

「思い当たるところはないが……もしかして俺とリアンヌが本気で仕合いをしたことか?」

「分かってるではないか。一年前に言っただろう?本気で手合わせするなと」

 

 そういえば言ってたな。その時も今みたいにいい所で割って入られたのだが……改めて聞いてみようか。

 

「何で本気でやったらいけないんだ?俺とリアンヌが起動者だからか?」

「それは関係ない。ヌシとリアンヌが本気でやると周囲の霊脈が乱れる。それに甚大な被害が出るじゃろうが!馬鹿者!」

 

 ガツンと持っていた杖で殴られる。ちょっと待て。俺だけ殴られるのはおかしいぞ。リアンヌも同罪だろう。地味に痛いし。

 

「だからといってわざわざ里から出向かなくてもいいだろう」

「ルーチェが慌てて伝えに来たわい『お父さんとリアンヌさんが本気で戦ってる』とな。もう少し父親として自覚を持たんかい」

「私生活で怒られているローゼリアに言われたくないけど?それとその事で色々とややこしい話になってる。リアンヌに何て話したんだ?俺と君の関係について」

「ん?何かあったか?妾はただ放って置けない馬鹿者と言ったが……」

「……実はな」

 

 親父との話をすべて話す。聞いたローゼリアは渋い顔をしたが半分合っているので特に言わない。出来れば否定して欲しい所もあるのだがまぁいいだろう。

 

「で。ヌシの父は妾とルーチェに会わせろと。そしてヌシと妾が結婚していると勘違いしている……成程、暗示でその記憶消すか」

「それは待った。ともかくすぐに里に戻れ。親父が来る前に」

「……ふむ」

 

 何故か考えるローゼリア。俺としてはすぐに帰って欲しいのだが。何か作戦があるのか?だがローゼリアの考える作戦はいい事がない。決まって俺が損な役回りをするに決まっている。

 

「まぁ……あながち事実じゃからの。結婚云々は置いて置き。ルーチェの母替わりとなった以上は避けられぬか」

「まさか……」

「リアンヌ。ちと付き合ってくれぬか?」

「構いませんよ。その方が良いでしょう」

(何が良いんだよ……まぁいいか。腹を括ろう)

 

 腹を括り覚悟を決める。胃が痛くなりそうだが2人を信じよう。うん……ルーチェの事も俺が選んだことだ。今更言うことは無い。ローゼリアとの関係もこの際いいだろう。否定する気も無いからな。

 

「じゃ戻るか。親父の所に案内する」

「頼むぞヴィクト」

「あぁ。リアンヌも済まない。それとありがとう。良い手合わせだった」

「こちらこそありがとう。またお願いしますね」

 

 次の約束をリアンヌと交わしてからレグラムへと戻るのであった。

 

 

 そしてルーチェに小一時間説教されるのは別の話し。

 

 

 

 

 




再び帰郷とリアンヌとの手合わせ。現時点で2人は互角です。主人公の影響で原作よりも強いですが……


レグラムでの話はまだ続きます。


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第10話

 次の日。俺は朝早くから部屋の片付けをしている。片付けば屋敷の使用人に任せていたので綺麗だが、旅先で見つけた本等を収納する必要があった。その傍らで、部屋で魔術を練っているローゼリアの相手……何故いるかは聞かないでほしい。昨晩親父と話をしていたみたいだが内容は聞いていない。せめて部屋に泊まるなら言って欲しかったのだが。

 

「まさか部屋に泊まるとはな。どうしてだ?」

「ヌシの父が部屋を用意せんなんだ。別にヌシの部屋で寝ることぐらい何も感じんが」

「野宿の時に寄り添って寝るのは普通だったからな」

 

 なので一緒に寝るぐらいは抵抗がない。と言っても昨晩は俺はソファで寝たけど。因みにローゼリアは10時頃まで起きなかったのでルーチェがのしかかりで起こしていた。中々いい悲鳴をあげていたぞ。

 

「昼飯どうする?家で食べるか外行くか?」

「そうじゃの。久しぶりに皆で食べたいしヴィクトの奢りで外で食べるか」

「俺の奢りかよ……」

 

 俺の残金を知ってて言っているのか?そもそも俺の財布は何故かルーチェが持ってて管理してるし……そのお陰で俺達の無駄遣いは減ったからいいのかもしれんが……。

 

「時にヴィクトリア。気になっている女子はいるのか?」

「それならこの部屋にいるだろう?」

「……妾?」

 

 不思議そうに自分を指さす。この部屋にはローゼリア以外いないはず。他に誰かいたら怖いぞ。

 

「妾は長であり聖獣。ヌシに気に入られるような奴ではない」

「……そうだな。だが俺が知っている君は聖獣でもなければ長でもない。ローゼリア・ミルスティンという名の1人の女だ」

「……そうじゃの。すまぬ忘れてくれ。妾と旅をしている時も同じ事を言ったな」

「あぁ。それに君の笑った顔は好きだからな。君を悲しませる奴は俺が斬る」

(……こやつは……全く変わらぬのぅ)

「……ん?」

 

 笑みを零すローゼリア。うん……良い顔だ。ルーチェとレイヤ。リアンヌもいいがローゼリアは特に良い。いつまでも絶やさないでいて欲しい。

 

「さて……行くか。確か屋敷にいたはずだから声をかけよう」

「任せた。妾は後で向かう」

「りょーかい」

 

 リアンヌ達を呼びに屋敷へと向かう。久し振りに皆で食べた昼食は中々楽しかったが色々と暴露されるのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 日付が変わる少し前。屋敷の広間で弟のシオンと酒を飲んでいた。その近くではルーチェが光魔法をローゼリアに見せている。ルーチェが編み出した光魔法を魔女の魔法に加えるらしい。理由は聞いていないが娘の魔術を後世に伝えたいのだろう。その光景を見ていると、シオンが微笑みながら言った。

 

「それにしても出来た子ですね兄上」

「あれでまだ7歳だぞ。絶対に旦那を尻に敷く奴だわ」

「いいじゃないですか。母上も似たような方でしたよ」

「親父は頭上がらなかったからな……」

 

 懐かしい話だ。母は既に他界しているが親父はあの人の尻に敷かれていた。1番記憶に残っているのはサンドロット伯と朝まで飲んだ次の日。広間で正座していたり閉め出されていたのを覚えている。その度に泣きながら何か言っていたのを覚えているが……どうなったかはあまり考えないようにしよう。

 

「……で。次はどちらに向かわれるのですか?西と南は回られたと話していましたが」

「今度は北だ。これから寒くなるし俺とレイとリアンヌで行ってくる」

「リアンヌもですか?ならルーチェは留守番……雪山を登るのは大変ですからね」

「アイゼンガルド連峰方面も行くから尚の事だな」

 

 ルーチェには相当駄々を捏ねられたが仕方が無い。この時期は天候も変わりやすく雪崩も起きやすい。魔獣も手強いので守れない可能性が出て来る。リアンヌが同行するのは予想外だが彼女も色々と見てみたいのだろう。

 

「そんな訳だから2か月は連絡出来そうにない。家の事は頼むぞ」

「はい。無事をお祈りします。兄上ならいらぬ心配だと思いますが」

「分かってるじゃないか。その為にも今日は早く寝る。ルーチェ。そろそろ寝るぞ」

「分かりました。お母さんはどうします?」

「妾はもう少し……」

「折角なので川の字で寝ましょう」

「いやだからもう少し……」

 

 どうやらルーチェは3人揃って寝たいようだがローゼリアは全力で断ろうとしている。諦めろローゼリア。一度言い出したらルーチェは止まらない。素直に従うべきだぞ。俺は断るが。

 

「ここはルーチェの頼みを聞いたらどうだ?母親だろ?」

「ぬぐぅ……じゃが流石に男と寝るのは……」

「あぁ。俺はソファで……」

「お父さんは私の隣です」

「……くそ」

「諦めましょう兄上。逃げ場はありません」

 

 シオンの言う通りの様だな……くそ。どうにかならないのか……こういう時にレイヤがいたら助かるのだが彼女はリアンヌの所。諦めるしかないか……。

 

「……ま、一晩だけだしいいか」

「正気かおヌシ?野宿とは訳が違うぞ?」

「君と寝たって何も起きない。どのみち間にはルーチェがいる訳だし背を向けて寝るさ。諦めろ」

「むぅ……しょうがないの。これも可愛い娘の頼みじゃ」

「じゃお休みシオン。良い夢を」

「兄上も。しっかり休んでください」

 

 軽く拳を当ててから部屋に戻る。俺が一番右端に寝てその間にルーチェ。その隣にローゼリア。約束通り背中を向け瞼を閉じると、背後からとてつもない視線を感じる。これはそっちに向けと伝えているのか。どうする?向いてもいいがローゼリアと相当近いな……。

 

「こっち向かんかヴィクト。距離が近いのは仕方なかろう」

「そうですよ。こっち向いてください」

「……分かったよ」

 

 180度向きを変えローゼリアとルーチェと向かい合う。それと同時にルーチェが抱き付いてきて胸に顔を埋めて瞼を閉じる。ローゼリアが優しく頭を撫でているとあっという間に寝てしまった。それにしても可愛い寝顔だな。少し頬を突きたくなるが起こすとまずいので抑えよう。

 

「相変らず甘えん坊じゃの」

「年相応だろう。親の愛を受けずに育っているから尚の事だ。正直自信なかったけど」

「ん?あの時の事か?」

「あぁ……」

 

 それはルーチェの事をどうするか決めた時。旅に連れて行き自分で身を護る手段を教えることまでは良かったがその後。ルーチェの親の事だ。話しから分かっていたが改めて聞くと両親の事は知らない。気付けば奴隷として働かされていた。素直に心を開いたのは良かったがどのように接すればいいか分からなかった。そこでローゼリアは言った。

 

 

ー妾とおヌシがこの子の親代わりになろう。その方が良かろうて。

 

ーおいおい。俺はまだ18だぞ。親代わりは務まらない。

 

ー大丈夫じゃ。おヌシもいつか結婚し所帯を持つ。その予行練習と思え。

 

 

 とローゼリアに言われた。一晩ゆっくり考え、思ったよりルーチェに懐かれたので決めた。あの子の父親になると。出来ればお父さんと呼ぶのは控えて欲しかったがいいだろう。この辺りは以前に少し話しているし。

 

「いつか……本当に子供が出来たらルーチェはお姉ちゃんになるのか」

「どうしたんじゃいきなり?」

「いや……子供の頃言われてな。『お前は兄になる。弟か妹の模範となれ』って。今の俺はシオンの模範になっているか怪しいが……いや、どう考えてもなっていないな。それどころか俺は誰に似たんだろうな?」

 

 本当に誰に似たのか。父でも母でもない。顔の知らない祖父母でもないだろうし……もしかして俺はシオンと血が繋がっていないのか?それはないか、髪色は一緒だし。

 

「その辺は考えない方が良かろう。おヌシはおヌシ。それでよいじゃろう」

「そうだな。……なら尚の事。俺はこの帝国で何が出来るか見つけないと。騎神に選ばれた人間として。選んでくれたエル・プラドーやローゼリア……ロゼ(・・)に恥をかかせないように」

「……」

「ん?どうした?」

「いや……何でもない(むぅ……こやつにロゼと呼ばれるとくすぐったいのぅ)」

 

 どこか恥ずかしそうにしているローゼリア。少し頬が赤い気がするが……あぁ寒いのか。恥ずかしいがもう少し寄って貰おうか。

 

「ロゼ。もう少しこっち来い。少し冷えるからな」

「あ、あぁ……」

 

 ローゼリアの背中に右手を回し抱き寄せる。ルーチェが苦しくない程度に。さらに距離が縮まるが大丈夫。心臓の鼓動が早いが大丈夫……だ。

 

「「……」」

 

 途端に喋らなくなる俺達。ただ心臓の鼓動だけが大きく聞こえる。どうすればいい。こういった時は何を話せばいいんだ。寝ようにもローゼリアの顔が近いから寝れない。どうしよう……いやここは何とか話題を作ろう。

 

「ロゼは……使命を継いでからずっと一人か?」

「そんなことはない。とは言い切れんな。里の皆と一緒だが殆どは1人。親代わりは何度も務めたが誰かと一緒はヌシが初めてだ」

「寂しくないのか?ずっと一人で。俺なら耐えれない」

「慣れたからの。550年も生きれば自然と。寂しくないといえば嘘じゃが」

 

 普通はそうだな。ローゼリアの事情や魔女の過去は知ってるが不死とはいえ精神は老いる。俺には分からないがとても辛いだろう。俺は耐えれる自信がない。

 

「俺の前では素直でいろよ。何かあったら駆け付けるからなロゼ。君は1人じゃない。里の外には君の力になる人がいる。忘れるなよ」

「……おヌシ」

「ん?どうした?」

 

 何かを言いたそうな視線を向けてくる。何かまずい事でも言ったか。そんなことは無いと思うが……一応誤って置こう。

 

「悪い」

「何故謝る?」

「いや……何か癪に障る事言ったと思って。ロゼの視線が怖い」

「どこがじゃ。妾はただ思っただだけ。妾を口説こうとする男がいるとはと」

 

 ……口説く?俺はそんなつもりないのだが……。ローゼリアから見ればそう感じるのか。だとすると事ある度にローゼリアに言っている事って……今更だけど恥ずかしい事ばかり言ってないか?

 

「なんか……すまん。結構色々と踏みいっているな」

「別に謝らんでいいわい。それがヌシの言い所。妾の事を1人の女として見ているのじゃろ?」

「あぁ……見ている。放って置けない。それは恐らく……止めておこう。俺と君では違うからな」

 

 この高鳴る鼓動の正体が俺の予想通りだとしても、それを伝える時は来ないだろう。俺と彼女の道が交わることは絶対に来ないから。

 

「という訳だしもう寝るよ、明日は朝早いから。ルーチェの事は頼むよ」

「……分かった。無理はするな」

(ん?今悲しそうな顔した様な……)

「お休みヴィクトリア。無事を祈っている」

「うん。お休み」

 

 瞼を閉じるローゼリア。ちょっと気になるがいいだろう。俺も瞼を閉じる。しかしやっぱり気になって眠れない。

 

(考えないようにしよう。気のせいだ……) 

 

 自分に言い聞かせていると、額に何かが触れる。これは手か?大きさ的にローゼリア。どうかしたのか?そう思い瞼を開けようとすると、ローゼリアの小さな声が聞こえてくる。

 

「っぅ……妾は絶対に嫌じゃ……絶対に変えて見せる……」

「ロゼ?」

「はっ!起きておったのか!?」

 

 慌てて離れるローゼリア。触れていたのは手ではなく額。それに少し目が赤い。泣いていたのか?

 

「……どうした?泣いてたのか?」

「気にするな。もう寝る」

 

 瞼を閉じ寝息を立てる。今は聞いても答えてくれそうにないな。頭の片隅に置き、俺も何とか眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 




ヴィクトリア達は北へ。季節は冬。簡単にはいかなさそうですね……

今更ですがヒロインはロゼです。


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第11話

 季節は冬。俺達はアイゼンガルド連邦の麓に来ていた。今からユミル村に向かいたいのだが、途中の鉱山都市ルーレで話を聞くと、最近雪崩が起きたらしく道が塞がっているらしい。どうするかリアンヌと考え、あることを思いついた俺達は取り敢えず塞がっている道の入口まで来て状況を確認していた。

 

「どうするの2人共?」

「そうですね。グランドクロスと光凰神剣で切り開くのもいいですが……」

「雪崩が起きる可能性もある。慎重に作業しないといけない。ここは彼の力を借りる。頼むリアンヌ」

「了解です」

 

 リアンヌが周囲に気を放つ。これで誰も来る事が出来ない。なので『彼』を呼ぶことが出来る。

 

「来てくれエル・プラドー」

『承知!』

 

 背後にエル・プラドーが現れ乗り込む。事情を説明し、大剣を顕現させて雪の除去を始める。レイヤに地図を元にルートを作成してもらい、リアンヌには雪崩が起きないように見張ってもらう。だが中々進まない。これは長丁場になりそうだ。

 

「済まないな。こんな事で力を借りて」

『気にするな。いつもの事だからな。遠慮なく使うといい』

「でもロゼに怒られそうだよね。『こんな事で使いおって!諦めることを知らんのか!って」

「ふふ……彼女ならいいそうですね。そこ、危ないですよレイ」

「ん?おわ!?」

 

 ずるっと滑り尻餅を着くレイヤ。リアンヌが手を差し出し立ち上がるがとても痛そうにしている。そろそろ一旦休むか。エル・プラドーもずっと動ける訳では無いし。

 

「距離的な後どれぐらいだ?」

「今で3分の1かな。今日中に着くのは難しそう」

「ではどこかでかまくらを作りましょう」

「かまくらって……もしかしてここで野宿か?」

「はい。一度作ってみたかった」

「左様ですか……」

 

 テンション高いなリアンヌ。そんなに楽しいのか。何事も楽しまないといけないが……1度言ったら止まらないしいいか。

 

「じゃ作ってしまうか。エル・プラドーは周りを警戒」

『うむ。任せるといい。楽しみにしているぞ』

「早速始めましょう」

(どれだけ大きいの作るんだろ……)

 

 かまくらを作り始める。1時間程で大きなかまくらが完成。これなら1晩は過ごせそうだ。俺レイヤは外から具合を見ていると、リアンヌが薪を持って中に入って行く。

 

「テンション高いねリアンヌ」

「楽しいんだろ。あまり経験出来ない事だし」

「うん。それに居てくれると頼りになるし。それに加えてボクは……」

「大丈夫だ。頼りにしてるよ相棒(・・)

「……珍しいね。君が言うなんて」

「事実だからな」

 

 レイヤの知識と頭の回転は俺やルーチェには無い。対応能力も随一だし本当に頼りになる。それこそローゼリアと同等に信頼している。

 

「順調に旅が出来るのもレイがいるおかげ。俺たちに無いのを補ってくれる。頼りにしてるからな」

「ありがと。それならロゼの分まで支えないとね。えい!」

「おっと!」

 

 抱き付いてくるレイヤ。優しく受け止めると、レイヤはググっと体を押し付けてくる。この子も変わらないな。惚れられた以上はきちんと受け止めるが程々にして欲しい。無理だろうけど。

 

「……レイ?」

「ちょっと位いいじゃない。ボクは君に『大好きだ!』って言ったから。ま、君は異性としてではなく仲間としてって勘違いしたけど」

「悪かったな。出会って数日で言ってきたから尚の事だ」

 

 これに関してはローゼリアもルーチェも知っている。そのお陰でルーチェの目が厳しくなってレイヤのスキンシップは減ったが。

 

「で?今のボクはどう?魅力的?」

「その辺の男なら落とせそうだな」

「ボクは目の前にいる君を落としたいの。ロゼに負けないから」

 

 何を競っているんだが。そこは女同士の争いだから首を突っ込ないが過激な争いに発展しないことを祈ろう。その原因が俺だとルーチェが知ったら雷が落ちる。

 

「あまり競うのは良くないぞ。競うより磨こう」

「勿論磨くよ。いつか振り向いてもらいたいから」

「……頑張れよ。それと……いや、これは言わない方が良いか。変に誤解しそうだし」

「……?」

 

 ローゼリアとルーチェには一度言った事がある。同じことをレイヤに言うわけにはいかないだろう。俺がそう思っていても彼女はそう思っていないかもしれないから。

 

「さて、そろそろリアンヌが戻ってくる。作業を始めよう」

「了解。大好きだよヴィクト。父様……いやそれ以上に。君の事は家族のように思ってるから」

「……そうか。そこにはローゼリアやルーチェも含まれてるか?」

「勿論。皆大好きだ。一番は君だけど」

「ありがとう。さ、離れて」

「むーもうちょっと……って。リアンヌの気配が近い。続きは寝る時にするかな」

 

 ニコッと微笑みながら離れる。これは寝る時に俺の膝を枕にするな。本当に変わらない。レイヤの良い所だけど。さて、談笑もここまでにして作業を再開しよう。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 日が暮れる少し前。ユミルまであと半分のところで作業を中断。かまくらまで戻り体を休めることに。リアンヌの作った熱いスープで体を温めていると、ルーチェの使い魔となったミネルヴァが入ってくる。俺達の上を一周回ると俺の右肩に止まる。

 

「何かあったか?」

「……ホゥ」

 

 スリスリと頭を擦ってくる。もしかするとルーチェが魔術の修業をしてるから相手してもらっていないのか。可哀そうに。少し構ってやるか。

 

「ほら。膝に来いミネルヴァ」

「ホゥ!」

 

 肩から右膝に飛び降りる。頭を優しく撫で時折軽く掴んだり。暫く戯れていると、気付いたリアンヌが獣肉を持ってくる。

 

「良かったらミネルヴァに。ここまで飛んできたのならお腹もすいているでしょう」

「ありがとう。沢山食べな」

 

 お皿を前に置き、背中を擦るとミネルヴァはジーと見てからガツガツと食べ始める。どうやらご飯も上げていないよう。これは帰ったらお説教だな。

 

「そういえば1つ聞きたいのですが、弟子を取る予定は?」

「今は無いな。レイに教えたりしているが本格的に取ることは無い。君みたいにシオンを弟子にしたりしないな」

 

 教えるほど大層な剣技ではない。編み出した奥義は弟に託したがアレをどうするかはアイツ次第。後に継がせるのも捨てるのも。

 

「それに俺が弟子を取ると思うか?」

「いつかは取ると思っています。貴方が生きた証を残すためにも。折角です。貴方の剣に名前を付けてみたらどうでしょう?」

「名前か……」

 

 付けるなら名を取ってアルゼイド流……だが弟と被る。名付けるなら何がいいだろうか。変に付けると笑われそうだな。名を付ける時は慎重に考えよう。

 

「今はいいかな。まだ至っていないし誰かに継がせる事もないし」

「そうですか。その時が来ることを楽しみしていますよ。貴方の弟子なら立派な使い手になるでしょう。レイも日に日に成長していますし」

「筋がいいからな」

 

 頭脳タイプのレイヤだが彼女の宮廷剣術はかなりの物。相手の急所を突き一撃で仕留める。最近は俺と手合わせをしている。魔獣も手強くなり幻獣と戦う事も増えている。足手まといにならないために頑張っているのだろう。

 

「さて……そろそろ休め。火の当番は俺がする。霊力を利用しているから消えないと思うが」

「分かりました。お休みなさい」

「あぁ……」

 

 リアンヌが毛布に包まり就寝したのを確認し、レイヤも寝ている。俺は起こさないように外に出て空を見上げる。空には無数の星が輝いていた。

 

「いい光だ。俺の剣もあれだけ輝けば……」

 

 ガランシャールを出し空に向ける。鈍く輝くが星に比べたらもう一つ……いやもう百は足りない。それは俺も同じだと思い知らされた。

 

「俺もまだまだ。エル・プラドーに相応しい乗り手に、ロゼの隣に立つためにも」

「……ホゥ?」

「ん?ミネルヴァ?」

 

 レイヤの傍で寝ていたミネルヴァ頭に止まる。そのまま顔を覗かせてきたので優しく撫でると嬉しそうに瞼を閉じる。

 

「本当に人懐っこいな。最初は懐かなかったのに」

「懐かなかったってミネルヴァに?」

 

 背後からレイヤの声。振り返るとコートを着たレイヤが出て来たところだった。

 

「レイ……起きたのか?」

「外から君の気配に気づいたから。ふわぁ」

 

 大きな欠伸をするレイヤ。女だからもう少し控えようよ……と言えたらいいのだがそれも彼女の良い所だろう。それだけオープンにしてくれたら俺も接しやすいし。

 

「綺麗な星。君の心みたいに輝いているよ」

「俺より輝いてるって。アレに比べたらまだまだだ」

「そんな事ないよ。君は帝国で輝いている。いろんな人に知れ渡っているのがその証」

「なら帝国全土に俺達の名を轟かせるか?」

「いいね。楽しそう」

 

 きっと楽しいだろう。妙な連中に目を付けられるかもしれないが俺達なら軽く撃退出来るだろ。俺が前に出てレイヤが近中距離と指揮。ルーチェが後方支援。連携が完璧に出来れば無敵だ。

 

「もっと楽しい事がこれからもある。背中は頼むぞ相棒」

「任された。頼りにしているから。その為にももう休もう」

「了解だ。ミネルヴァはルーチェの所に戻るんだ」

「ホゥゥ!」

 

 ミネルヴァは羽根を広げて里へと向かう。それを見届けてから俺とレイヤはかまくらへと戻るのであった。

 

 




獅子戦役まであと四年です。


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第12話

「お?あれは……」

 

 エル・プラドーのモニターに小さな町が映る。あれはユミル村か。どうやら今いる場所からユミルまでは道が塞がっていないようだ。朝早くから作業して良かった。エル・プラドーから降り、別作業しているリアンヌとレイヤに知らせよう。

 

「シャインフレア」

 

 右手に光を集め炎に変換。空に向けて放つ。少し経つとリアンヌとレイヤが駆け足で来る。エル・プラドーは里に戻って貰い、2人にこの先を見せる。

 

「おぉ……道が塞がってない」

「村に被害もなさそうですね。行きましょう」

「おぅ」

 

 足元に注意しながらユミルに向かう。ここは小さな村だが温泉が有名。帝国でも温泉がある場所は少なく、観光客も多い。今は道が塞がった影響でいないようだが、道も繋がったし少しずつ戻っていくだろう。

 

「私は村長の元に。お二人は休んでいてください」

「了解だ。教会に行ってるよ」

「また後でね」

 

 リアンヌと別れて教会に。司祭に事の事情を伝えると深く頭を下げて感謝される。加えて薬も譲って頂いた。一度は断ろうと思っていたが、流石に申し訳ないと思い受け取る。それからアイゼンガルド連邦に向かうにあたって状況を確認する。

 

「アイゼンガルド連邦はどうですか?やはり雪で立ち入るのは難しいですか?」

「そうですね。ですが今は比較的大丈夫でしょう。ただ……」

「どうかしましたか?」

 

 深刻な表情を浮かべる司祭。これは何かあったな。話しを聞いた方がよさそうだが話してくれるだろうか。

 

「話してください司祭様。ボク達でよければ聞きましょう」

「レイ……」

「……ありがとうございます。実は……」

 

 司祭が話し始める。近頃アイゼンガルド連邦で魔獣の群れが来たらしい。その中心に巨大な狼がいるらしく現在は村長の判断で立ち入り禁止にしているらしい。話しを聞いた俺達はリアンヌと相談して決める事にし教会を出る。

 

「狼の群れか。それもリーダーは巨大らしいけど……」

「突然変異か幻獣か。どちらかといえば前者だろう」

「苦戦しそうだね。念入りに準備しないと。ボク行ってくるよ」

「任せた」

 

 準備をレイヤに任せて村長宅に。中ではリアンヌと村長であるシュバルツァーさんが話をしていた。村長に会釈してからリアンヌに事情を説明。彼女も村長から話を聞いたらしく、これから俺達と合流しようと思っていたらしい。

 

「では魔獣の件は任せてください。行きますよヴィクトリア」

「了解だ。では失礼します」

 

 村長宅を出て準備を済ませてきたレイヤと合流。アイゼンガルド連邦に向かい始めるがその途中で精霊窟の気配を感じ取る。周囲を見渡すと氷で出来た小さな道を発見する。

 

「おや?これって……」

「精霊窟……この気配は……」

「行った方がよさそうだな。行こう」

 

 氷の道を進む青い精霊窟が姿を現す。近づくにつれて寒さが増していく。精霊窟の周辺はとても寒く、甲冑を纏っているにも関わらず身が凍りそうだ。

 

「寒いな。大丈夫か?」

「鍛錬と思えば問題ありません。甲冑を纏っているのである程度は抑えられますが……大丈夫ですかレイ?」

「……無理」

「無理かぁ……」

 

 コートを着ているが一番薄着のレイヤはダメージが大きいようだ。この精霊窟は後回しにした方がよさそうだな。先に魔獣討伐をしよう。来た道を戻り山を登る。途中で魔獣が襲ってくるが完璧な連携で撃退する。

 

「ふぅ。寒いから少ないと思っていたが……」

「例の魔獣の影響でしょう。急いだほうがよさそうですね」

「でも何処にいるのかな?近くって言ってたけど」

「もう少し登ろう。近づけば分かるだろう」

 

 周囲を警戒しながら進む。様々な魔獣が襲ってくるがどれも聞いている種類と違う。一旦別行動するか?だがその隙を狙われる可能性がある。正体が分からない以上迂闊に行動するわけにはいかないが……ここはリアンヌに聞こうか。

 

「一旦別行動するか?」

「この状況では得策とは言えませんが……おや?」

「雪……?」

 

 雪が降ってくる。気付けば空は黒く禍々しい気配が漂っている。何かが近くにいるようだ。それぞれ獲物を構え警戒していると、急に吹雪になり視界が白く染まる。

 

「っぅ!?リアンヌ!レイ!」

「ボクは大丈夫!リアンヌは!?」

「問題ありません!ですがこれでは!」

 

 何かが近づいて来ても分からない。獣の類なら気配と足音を消してくる。これでは一網打尽だぞ。流石の俺でも不意打ちの対処には限界がある。冷静に状況を判断しないと。

 

(急に吹雪になったという事は幻獣の仕業か?可能性はあるが……ん?) 

 

 右から視線を感じそちらを見る。俺のすぐ右隣りには怪しく光る大きな目があり俺を見つめていた。

 

「………え?」

 

 その目を見た瞬間、横腹に激痛が走り飛ばされてしまう。飛ばされた方向は崖。そして俺は空中。すなわち崖の下に落ちる。だがせめて何かがいる事は伝えねば!

 

「近くに何かがいるぞ!済まないが宜しく頼んだぞーーー!」

「「ヴィクトリア!?」」

 

 俺は崖の下に落ちていく。このまま転落死したなど弟やローゼリアに知られたら笑いものだ。無論転落死などあり得ないが。

 

「済まないエル・プラドー!受け止めてくれ!」

『応ーーー』

 

 真下にエル・プラドーが現れやんわりと受け止めて貰う。そのままゆっくりと着地しエル・プラドーの手から飛び降りる。

 

「危ない危ない……助かったよエル・プラドー」

『これぐらいお安い御用だ。それにしてもそなたが崖から落ちるとは。珍しい事もある』

「笑うなよ。俺だってそういう時がある」

 

 完璧な人間ではないからな。多少のミスはするさ。大事なのは二度続けない事。これが大事だ。

 

「それよりエル・プラドー。上はどうだ?」

『ふむ。リアンヌとレイヤが戦っているようだが……妙だな』

「あの吹雪か?いきなり現れて魔獣に襲われたが。うん?あの雷は……」

 

 吹雪が発生している場所に雷が落ちる。あれはアングリアハンマーか。どうやらかなりの激戦みたいだが……。

 

「リアンヌに任せよう。俺は……っ!」

 

 背後からの殺気と同時に右に避ける。目の前を短剣が通り過ぎ木に刺さる。背後にいたのは黒装束を纏った小さな子供。ただならぬ殺気を向けてくる。一体何者だろうか。聞いたと所で答えないな。

 

「……殺す」

「物騒だな……っと!」

 

 素早い動きから一閃。鈍く光る剣が迫ってくるが避ける。連続で斬りかかってくるが軽い足取り避け乍ら一応正体を聞く。

 

「嫌なら答えなくていいが聞いておく。何者だ?」

「……答える必要はない」

 

 だろうと思った。なら無理矢理聞こう。少し痛いが勘弁してもらおうか。

 

「そこ!」

「!?」

 

 腕を掴み地面に叩きつけそのまま軽く締め木に押さえつける。子供は暴れる事無く剣を落とし大人しくなる。

 

「さて?どうして欲しい?」

「殺せ。失敗したからには組織に戻れない」

「へぇ。どこぞの組織に所属してるのか。道理でそこそこやると思ったよ。因みに、俺は無益な殺生はしないから選ばせてやる。詰め所に入れられるか俺と一緒に来るか」

「殺せと言ってーーー」

「黙れよ小僧」

「うぐぅ!」

 

 力を強める。折角の機会を潰そうとしたバツだ。見たところルーチェより少し年上ぐらいか。この年で殺し屋……いや暗殺者か。こういう奴は早めに更生させないと。

 

「どうする?人殺しより一緒に来た方が良い。ついでだからお前の組織も潰してやろうか?どんな境遇とかは知らんが子供に暗殺させるとか正気の定ではない。だから選べ」

「……分かった。お前と一緒にーーー」

「口の利き方がなってない。目上の人を敬わんか」

「痛い痛い!分かりました!」

「宜しい」

 

 拘束を解き装束を取る。中から黒髪に赤い瞳の少年が姿を現す。そこで少年の気配が特殊だと気付く。これは……相当ひどい事をされたようだな。

 

「名前は?」

「シリウス。ナンバーは8だ」

「ナンバー?組織の?」

「実験ナンバーだ。俺は教団の使い手。ある人物から光の剣士を殺せと言われた」

「教団?」

 

 どこかで聞いた気がするが……何処だ?確かローゼリアから聞いた気がするが……戻ったら聞いてみるか。

 

「所で誰に言われた?」

「知らない。ただ殺して来いと言われた」

「そうか。なら詳しくは聞かない。その代わりお前のいた教団とやらの場所を教えて貰おうか」

「聞いてどうする?あそこには俺より強い使い手がいるぞ」

「だから?俺はそんな連中より強い。いいからーーー」

 

 言わせようとした時だった。リアンヌたちがいる場所から大きな音が聞こえてくる。俺とシリウスは見上げると、リアンヌがレイヤを抱えて降りてきた。

 

「ふぅ。中々強き相手でした。大丈夫ですかヴィクトリア?」

「あぁ。そこの小僧に暗殺されかけたけど」

「えぇ!?暗殺!?」

 

 大きな声で驚くレイヤ。事情を説明するとシリウスに詰め寄りお説教。いつもは説教される側なのに……まぁいいか。それより魔獣の事を聞かないと。

 

「魔獣は?」

「グランドクロスで貫きました。もう大丈夫でしょう」

「流石。んじゃ説教終わったら戻るか」

 

 レイヤの説教風景を一時間程見てからユミルに戻る。その道中でシリウスが教団の場所を聞いたが、それがまた面倒な場所で一旦保留にし、暫くユミルに滞在してからリアンヌはレグラムに帰り、レイヤも故郷オルディスに顔を出さないといけないらしく別行動。それぞれと再会を約束し、俺はエリンの里へと向かうのであった。

  

 




ユミル編は終了し新たな仲間。主にルーチェとシリウス、レイヤと一緒に行動です。






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第13話

「なぁ先生。どこに行くんだ?」

「どこだと思う?」

 

 シリウスに行き先を聞かれた俺は、ニヤケながら聞き返す。当然ながらアイツは答えられない。というかいつの間に俺の事を先生って呼んでるんだ……まぁいいか。

 

「俺の第2の故郷。恐ろしい魔女のババアが住む里だ」

「ババア?魔女?」

「そうだ。そして俺が1番欲しいもの。そら行くぞ」

 

 足を早めミストリア大森林に入り転移柱へ。それに触れエリンの里にいるエル・プラドーの前に転移する。

 

「着いたぞ」

「………」

 

 シリウスは何が起きたのか理解出来ておらず呆然としている。これは放置した方が良さそうか。エル・プラドーに視線を送り放置して屋敷に向かう

 

「さて……1ヶ月振りだが元気に……ん?」

 

 ローゼリアの気配が屋敷の裏側。俺が作った農園の方から感じる。ルーチェは……里の外か。

 

「何してるんだか」

 

 そう思いながら農園に足を運ぶ。そこではローゼリアが魔術で収穫した野菜を浮かせて運んでいた。白菜やキャベツ。その他色々を。

 

「ただいまロゼ。元気にしてたか?」

「む。ヴィクトか。おかえり」

 

 作業をしながら笑顔で迎えてくれる。相変わらずいい顔だ。見るだけで疲れが飛んでいく。

 

「俺も手伝うよ」

「大丈夫だ。じきに終わるから屋敷で体を温めておけ」

「分かった。お茶淹れて待ってる」

 

 屋敷に入り厨房でお茶を淹れアトリエに。机に置いた時、小さな手帳が置いてあるのを見つける。 

 

「この手帳はルーチェか。何を書いているか気になるが……」

「『お父さん大嫌い』と言われたくなければ辞めておけ」

 

 背後からとても心に深い傷が残る事を言ってくるローゼリア。流石に無断で見たりはしない。ルーチェは怒らせると怖いからな。

 

「しかし君が農作業してるとはな。勝手に作って怒ってたろ」

「まぁの。だかやってみると以外と楽しくてな。いい運動なるし冬場は外に出る必要も無くなる。それに自分で栽培した野菜は美味しいからの」

「それじゃ今日は腕を振るわせて貰おうかな?」

「楽しみにしているぞ。さて……一緒に来た小僧も含めて話を聞かせてくれ」

「了解だ」

 

 お茶を淹れローゼリアに渡し隣に座る。一口飲んでからユミルであった事を話すと、ローゼリアは難しい表情を浮かべる。特にシリウスの言った教団は少し怒りや露わにしていた。

 

「よもや帝国にまで進出してるとは……」

「どんな集団だ?」

「……あまり言えんな。小僧を見れば分かるじゃろ」

「そうだな。見つけ次第潰しておく」

「うむ。それよりもっと楽しいーーー」

 

ードカァァァン!!

 

「「!!??」」

 

 とても大きい爆発音が聞こえてくる。俺とローゼリアは慌てて外に出ると里の魔女たちがぞろぞろ出て来る。周囲を探るとエル・プラドーがいる場所から煙が上がりルーチェの魔力を感じる。これは……あ、シリウスか。しまった放置したのが裏目に出たか。

 

「ヴィクトリア……」

「分かってる。急ぐぞ」

 

 急いで向かう。近づくにつれ戦闘音が大きくなり、かなりの激戦を繰り広げているようだった。里に被害が出る前に止めないと。

 

「ルーチェ!シリウス!今すぐ止めろ!」

「っ!お父さん!」

 

 動きを止めるルーチェ。それを逃さずシリウスが短剣で斬りかかる。

 

「許せ!」

「甘いですよ!」

 

 自身を覆うように結界を張り短剣を弾く。シリウスは体勢をすぐに立て直すが彼の背後に転移し杖を背中に当てる。

 

「さようなら。アルティウムカノン」

 

 杖から光が放たれる。シリウスが光に飲み込まれる瞬間に杖を斬り上げ防ぎ、シリウスを後ろに蹴り飛ばす。ルーチェは技を中途半端に防がれた反動で後ろに倒れそうになるがローゼリアが優しく受け止める。

 

「ふぅ……危ない」

「大丈夫かルーチェ?」

「うぅ……はい。大丈夫です」

 

 謝るルーチェだがそれは俺の方だろう。シリウスの事を言ってなかったからな。

 

「悪かったルーチェ。シリウスが茫然としてたから放置していってな」

「いえ。私も侵入者と勘違いしたので。それで彼は……」

「アイツは……っと」

 

 後ろを振り返る。シリウスは地面に倒れ全く動かない。しまった蹴り過ぎたか。気配はしているから気を失っているだけだろうが……後で謝って置こう。

 

「ルーチェ。アイツは新しい仲間。治療してやってくれ」

「……分かりました。その代わり後で甘えさせてください」

「了解だ。頼んだぞ」

「はい……」

 

 うーん……少し不機嫌そうだな。事前に伝えて置くべきだった。次から気をつけよう。

 

「俺も少し休むか。また後で起こしてくれロゼ」

「分かったと言いたいが丁度良い。ちと付き合ってくれ」

「それはいいが……どうした?」

「指輪の件。問題ないか調べて置く。ヌシの部屋に行くぞ」

 

 ローゼリアは足早に向かう。俺もその後を追い自身の部屋に。荷物を部屋の端に置きベットに横になるとローゼリアは横に座りジーと見てくる。

 

「どうかしたか?」

「いや……霊力がかなり消費していると思ってな」

「それは異能だろう。少しずつ引き出せるようになったが異能で消費した霊力はなかなか戻らないみたいだ。光凰神剣も制御して放たないと動けなくなる。現に眠いし」

「そうか。なら……」

 

 隣に寝て抱きついて額を当ててくる。ほぼゼロ距離。自然と鼓動が早くなる。少し顔を突き出せば唇を奪えそうだ。

 

「唇奪われても文句言えないぞ」

「おヌシに奪える度胸があるのか?」

「……言ったな?俺はやるときはやるぞ」

 

 右腕をローゼリアの頭に乗せる。ローゼリアは何も言わずに待っている。何も言わない、してこないなら遠慮なく奪わせてもらおう。ゆっくりと顔を近づけようとした時だった。

 

「お父さん。シリウスが目覚めて……あ」

「「……」」

 

 間が悪いとはこの事。ローゼリアは瞼を閉じてから離れて右手に触れる。俺も起き上がりルーチェの方を向くと彼女はとても申し訳なさそうにしていた。

 

「その……」

「いいさ。シリウスは?」

「彼なら扉の後ろにいます」

 

 ルーチェが言ってから姿を現すシリウス。あまり大きな傷を負っていないようで良かった。

 

「取り合えず温泉にでも入ってこい。傷も癒えるぞ」

「あぁ。これから行く予定だ。おっさん達は何を……」

「シリウス?」

「こほん。先生達は何をしてた?」

「ちょっと色々。これからの事だ。後で行くから休んでろ」

 

 『あっち行け』と手を振る。シリウスは足早に去り、ルーチェは頭を下げてから去って行く。気配が遠くなった所で小さく溜息を付く。

 

「残念だったの。妾の〝最初"を奪う機会だったのに」

「言い方」

「あながち間違ってはおらぬだろう」

「あのな……」

 

 そうだとしても誤解を招くような言い方は辞めて欲しい所だ。それにしても惜しかったな……くそ。

 

「はぁ……やっぱり寝る」

「そうか。なら妾の膝を枕にするといい。よく眠れるぞ」

「じゃ遠慮なく」

 

 ローゼリアの膝を枕にして横になる。そう言えば誰かに膝枕されるのは子供の頃以来か。よく弟と取り合いになっていたが……最近は逆にやる側だから少し新鮮だ。

 

「帝国最強と名高い剣士が妾の膝で寝てるとはな。意外な一面もあるものだ」

「誰が最強だ。俺なんか大した実力はない」

「知らぬのか?時折風の噂で聞くぞ」

 

 そんなこと聞いたことないのだが。どうせローゼリアが適当言ってるんだろ。俺が帝国最強なんてあり得ない。噂のロラン・ヴァンダールの方が上だろう。実際に会って手合わせしたことはないが。

 

「暫く里にいる。見たいものは見た。その上で起動者としてどうするかゆっくり考えるよ。シリウスも鍛えないといかん」

「そうか。妾は大歓迎じゃぞ。いっそのこと寿命が尽きる時まで居ても構わん」

「それは無理だな。昔の暗黒竜みたいなことが起きれば飛び出して斬りに行く。1人でも多くの幸福(笑顔)を守るために」

 

 今回の旅で決めた事。この時代において剣を振る理由。せめて手の届く範囲だけでも守って見せる。故に今は振るわなくても大丈夫だろう。皇帝陛下が健在である限りは。問題は……

 

(次の皇帝だな。それ次第で動き方が変わってくる。仮に独裁者がなれば……)

 

 どうなるか分かったのもではない。場合によっては穢れ役を演じる必要があるか……皇子達が同時に即位宣言する可能性がある。一番厄介なのは第二皇子。他の皇子は帝都外にいるし……ん?そう言えば昔会った第三皇子って何処にいるんだ?

 

「うーん……」

「どうした?悩みごとか?」

「まぁな。今は頭の片隅に置いておく。それにしても……」

 

 右手を伸ばしローゼリアの左頬に触れる。親指で優しく撫でると彼女は頭を撫でてくる。暫くはゆっくりしよう。先の事は誰にも分からないしな。

 

「さて、そろそろ晩食の用意しますか」

「期待してるぞヴィクトリア。じゃがもう少しこのままじゃ」

「はいはい」

 

 暫くローゼリアの膝で1時間程捕まり、解放されてから台所に向かった。 

 

 



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第14話

ルーチェ回パート2です。


「こんなものかシリウス?」

「まさか。まだまだいける!」

 

 私の目の前で熾烈な手合わせをしているヴィクトリア様とシリウス。シリウスが仲間に加わって早くも半年。毎日のように挑んでは返り討ち。その度に魔法で傷を癒しては再び挑む……それが朝から夜まで続き、下手すればローゼリア様が怒鳴るまで続いてる日もあります。

 

(はぁ……今のシリウスではお父さんに敵わないのに……どうしてそこまで強くなりたいのだろう?)

 

 彼についてはあまり知らない。ヴィクトリア様に聞いても『今は話せない』と言われ、ローゼリア様には『いつか知るときが来る』と言われた。恐らくとても深い事情があるのだろう。ローゼリア様は兎も角ヴィクトリア様が隠そうとするのは珍しいから。

 

「絶技・光凰剣」

(あ……)

 

 そんなことを考えている間にもヴィクトリア様の一撃がシリウスを直撃。シリウスは目をクルクル回して気絶。今日は思ったよりも早く終わりましたね。

 

「シリウスはどうしますか?」

「そのまま放置と行きたいが部屋に連れて行こう。頼む」

「はい」

 

 術を発動させてシリウスを家に転移。これも修行の一環。どうも私は編み出した光魔法以外は上手に扱えない。私が焔の眷属の末裔ではないから仕方ないかもしれないけど……もう少し頑張らないと!

 

「帰るかルーチェ。ロゼが寂しそうにしてるかもしれん」

「そうですね。怒られる前に帰りましょう」

 

 色々と話しながら屋敷に戻る。扉を開けて中に入った時でした。とても大きなローゼリア様の痛々しい叫び声が響き渡ったのは。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「「!!??」」

 

 何があったのかと思いアトリエに直行。中に入りローゼリア様の姿を探そうとしたけど思ったよりも早く見つかる。ローゼリア様は本棚の前で四つん這いになり体を震わせて何かを耐えていた。

 

「……どうしたロゼ?」

「お、おヌシらか……ちと腰が……」

「「……………」」

 

 いわゆるぎっくり腰と呼ばれる物ですね。その……魔女の長で聖獣であるお母さんでもギクッと逝くなんて。それ、同胞に知られたら笑われますよ。

 

「担ごうか?抱っこの方がいい?」

「ど、どっちでも構わん。痛くない方で」

「了解。よっと」

 

 ローゼリア様を軽々とお姫様抱っこするヴィクトリア様。思わず『おぉ……』と言ってしまいそうだったけどぐっと我慢。私は邪魔をしないために去ろうと思ったけど、ローゼリア様が石のように固まっていたのに気付き声を掛ける。

 

「どうかしましたかお母さん?」

「…………」

「ロゼ?どうした?」

 

 声を掛けても反応がない。どうやら今の状況が理解していないようだった。何度か目の前で手を振ると我に返り頬を真っ赤に染めながら言った。

 

「よりにもよってお姫様抱っこか!」

「……?まずかったか?」

「お、おヌシ……」

(お父さん……)

 

 ここで出ますかお父さんの悪い所……ここは見なかったことにしてシリウスの様子を見に行きましょう。気付かれないようにアトリエを出て向かうはヴィクトリア様の部屋。中では目を覚ましたシリウスが獲物を見ていた。

 

「どうかしましたか?」

「先生の技で根本から折れた。近い内に仕入れに行かないとな」

 

 そう言ってから服の内側にしまう。そう言えば彼は短剣を使っていましたか。きちんとした剣の方が良いと思うけど……。

 

「一度お父さんに相談してみたらどう?どのみち短剣だと限界があると思うし」

「そうだな……以前使っていた長刀に戻すか。どのみち材料が必要だが」

「材料……」

 

 生半可な材料ではすぐにダメになってしまう。私達に付いてくるなら最低でもゼムリアストーン製の……そうだ。確か騎神用の武器を作った時の余りがあったような。

 

「夜にでもお父さんに聞いてみよう」

「分かった。そう言えば聞きたかったけどルーチェって先生の娘だよな。それにしては年齢と合わない気がするけど」

「血は繋がっていません。私はあの2人の養女です」

「俺と同じ訳ありか……」

 

 同じにして欲しくないのですが……訳ありなのは認めましょう。ひとまずゼムリアストーンについては相談ですね。そろそろいいころ合いでしょうし。

 

「では失礼します。ゆっくり休んでくださいね」

「あぁ。少し休む」  

 

 シリウスが横になったのを確認してからローゼリア様の部屋に。ゆっくり中に入ると、ベットに寝ているローゼリア様とその隣で椅子に座り本を読んでいるヴィクトリア様の姿があった。

 

「お父さん。少しいいですか?」

「ん?どうかしたか?」

 

 先ほどのシリウスとの話をする。話を聞いたヴィクトリア様は寝ているローゼリア様に聞くと『確かアトリエのどこかに置いたはず』と返事が来る。

 

「……何処かとは何処です?」

「……忘れた」

「おいおい……」

 

 これは後でお説教ですね。ついでに腰も叩きましょう。この人は本当に適当というかガサツというか。少し前も大事な手紙を適当に放置して泣きながら探していたし……これから先の事を考えてきちんと整理しよう。

 

「では探してきますね」

「済まないが頼む」

「はい!」

 

 微笑みと一緒に返事をしてアトリエに向かう。改めて見ると散らかっている。以前片付けて置き場も決めたのに……まずは定位置に戻しましょう。

 

「浮遊!」

 

 術を唱えて床に置いてあるものを空中に浮かせる。引き出しや棚に入っている物もすべて取り出し決めた場所に収納していく。

 

「霊草はこの棚……禁書は上から3段目。後は……」

 

 収納していくにつれて気付く。いつの間には物が増えてる。ローゼリア様はまた無駄遣いしましたね。この辺りも抑えて頂かないと。だから同じものを2回買って置き場所を忘れるんです。

 

「一度本気で言った方がよさそうですね」

 

 ぎっくり腰が治れば絶対に言いましょう。お父さんのためにも。

 

「後は……おや?」

 

 ヴィクトリア様の気配が外に出る。何かあったのかな。あの人の事だからローゼリア様の元を離れないを思ってたけど……ちょっと後を追ってみよう。

 

「お父さん。何処に行くのですか?」

「ルーチェか。ちょっと散歩だ。付いてくるか?」

「散歩ですか……」

 

 気分転換にはいいかも知れない。ローゼリア様の事で相談したい事もありますし。私はミネルヴァはを呼んでヴィクトリア様の後を付いて行く。向かったのは里と外を繋ぐ回廊だった。

 

「さてと霊草探すか」

「もしかして腰痛に効く?」

「どうだろうな?」

 

 笑って誤魔化すお父さん。ですが私には通じませんよ。レグラムで一緒に寝た時の話は聞いていますし、先日口付けをしようとしたところもばっちり見ていますから。

 

「早く探そう。妙な魔物に襲われたら嫌だからな」

「その際は私が返り討ちにします」

 

 杖を取り出し魔力を流す。たまには娘として親孝行をしないと。ユミルの件は力になれていませんし、里に帰って来てからもあまり甘えていませんから。

 

「それじゃ探すぞ」

「はい」

 

 手分けして霊草を探す。話しによれば淡く光って少し違う霊力を纏っているらしい。なので意外と早く見つかると思っていた。けど実際はかなり苦戦して気付けば奥深くへと来ていた。

 

「見つかりませんね。かなり奥に来ましたけど」

「いや、そうでもないぞ」

 

 ヴィクトリア様はガランシャールを取り出し、近くの大木を一刀両断。すると大木の後ろから淡く光った霊草が姿を現す。話しの通り少し違った霊力を纏っていて神秘的だった。それにしてもどうして気付いたのだろう?

 

「そのお父さん。どうして気付いたのですか?」

「光だよ。俺の異能に反応したんだ。回収するぞ」

「は、はい」

 

 少し気になるけど置いておこう。私達は霊草を回収しアトリエに戻る。霊草をお茶にしてからローゼリア様の部屋に行き、ゆっくりと起こしてから湯飲みを渡すヴィクトリア様。

 

「ほら。言われて通りだぞ」

「助かる。本当に済まぬな」

「気にするな。今更だろう」

「そうじゃな……」

(これは……出ていった方がよさそうですね)

 

 気配を消し部屋を出る。音を立てないように扉を閉めてからアトリエに向かい片づけを再開するんであった。

 

 

 

 因みに夜中。ローゼリア様の痛々しい悲鳴で全員飛び起きたのは別の話しです。




次回はちょっと年数が飛びます。


では次の話で。


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第15話

 季節は夏。里でゆっくりと過ごし始めてから一年半程経った。シリウスに稽古をつけつつローゼリアとルーチェの修業を見ていたり少し馬鹿な事をしてローゼリアに怒られたりと何だかんだで楽しく過ごしていた。だが1つ気がかりなことがある。レイヤの実家……海都オルディスに帰ったレイヤから連絡がない。リアンヌに聞いたが彼女も知らないとのこと。少し心配だが大丈夫だろうと思っていたが……

 

「……はぁ。レイさん元気でしょうか?」

「大丈夫だろ。確かに心配だが」

 

 ルーチェが少し寂しそうにしている。溜息も日に日に増えていた。あれだけ敵意むき出しだったも関わらず。これは行動した方がよさそうだな。

 

「出かけるぞルーチェ。シリウスも連れていく」

「出かけるって……オルディスですか?」

「あぁ。俺はロゼに行ってくるからシリウスを呼んで来い」

「はい。すぐに」

 

 シリウスを呼んで来てもらい俺はローゼリアの元に。アトリエに居た彼女に事情を伝えると暫く考えた後『妾も付いて行く』と言う。

 

「別についてこなくてもいいぞ」

「そうはいかん。あそこには≪蒼の騎神≫が眠ってるからの」

「へぇ……(今のは聞かなかった事にするか)」

 

 軽く聞き流し準備を済ませて里の中央にある大型の転位陣に向かう。先に長刀を担いだシリウスと杖を持ち起動準備していたルーチェが来ていた。

 

「遅いぞ親父」

「悪かったな……っておい。誰が親父だ」

「別にいいじゃねぇか。付き合い長いんだし」

「たかが一年半だろ。長くない」

「それを言うなら妾とヴィクトリアもじゃな。約5年程。人生の150分の1しかないぞ」

「胸張ってどや顔で言う事か?」

 

 少し呆れてしまう。いつもの事だからいいが。そんなやり取りをしている間にも転位の準備は終わりオルディスから一番近い精霊窟に転位する。

 

「さてと、すぐにオルディスへと行きたいが」

「その前に一仕事じゃな」

「一仕事って……」

「……だな。親父と婆さんは下がってな」

 

 担いでいた長刀を抜く。それと同時に木の影から数人の野盗が出て来る。どうやら俺達がここに現れる事を知っていたようだ。野盗達はそれぞれ短剣や弓を構えて近づいてくる。

 

「悪いが覚悟してもらぜ」

「これも依頼だからな」

(依頼?)

 

 誰からの依頼か気になるな。大体の予測は付きそうだが……深くは考えないようにしよう。

 

「シリウス。程々にな」

「了解。んじゃ行くか」

 

 シリウスは一瞬で野盗達と間合いを詰め峰で野盗達を斬る。ゴツ!と痛々しい音が聞こえるがシリウスは容赦することなく全員の意識を奪う。

 

「終わりだな。この程度で親父の命狙うとは馬鹿げてるぜ」

「ほぅ。中々やるではないか。それと小僧。後で覚えておけ。妾を婆さん呼びとは生意気じゃぞ」

「何でだよ!事実だろ!550歳のババァじゃねぇか」

「……小僧。余程死にたいようじゃな?よかろう。以前のヴィクトリアのように霊力を枯らしてやるわ」

 

 まさしく魔女を言わんばかりの笑みを浮かべながらシリウスに近づく。こうなったら俺は知らん。どうなるかもな。

 

「その……助けます?」

「放って置け。どうせ頸動脈辺りに噛みついて霊力を吸い取るだけだろ。慣れれば問題ない」

「慣れればって……」

 

 最初はきついが大丈夫。俺の教え子なら耐えられるさ。その日と次の日は動けないけどね。因みに俺は大丈夫。慣れたからな。

 

「よし行くぞ」

「いいんですか?流石に助けた方が……」

 

 

ーぎゃぁぁぁぁぁ!

 

 

「……行きましょうか」

「おぅ」

 

 背後から聞こえてくる悲鳴を無視してオルディスに向かう。途中で魔獣と戦闘し勝利を収めた後に上機嫌のローゼリアとゲッソリしたシリウスが合流。どうやら相当搾られたようだな。今日一日は使い物にならんしルーチェに任せよう。

 

 そんな感じで魔獣を討伐しながら進むとオルディスに到着。多くの人で賑わっていた。平和な証だな。

 

「ここに来るのも久しいの。レイヤと出会った以来か」

「その時も夏だったか」

「妾と初めて会ったのも夏じゃ。懐かしいの」

「だな」

「「……」」

 

 確かに懐かしい。昨日の事のように覚えている。しかしローゼリアが懐かしいと感じるとはな。僅か3年半程。生きた年齢からすればほんの僅かだろうに。

 

「よし、レイに会いに行くか。2人もいいな?」

「いえ、私達は買い出しに行きます」

「2人でゆっくり」

 

 ルーチェとシリウスは去って行く。うーん……何か気を使われたような気がするがいいか。どのみちすぐに会えるか分からんしあの2人の事だから情報を得てくるだろ。なら俺達は彼女の住む屋敷に向かうか。

 

「行くぞロゼ。屋敷の衛兵に聞いてみよう」

「その前に少し街を見て周るぞ。ほれ」

 

 右手を出すローゼリア。俺は何も言わずにその手を握り歩き始める。レイヤの住む屋敷はオルディスの一番端。出来る限り遠回りしていると、ローゼリアがある店の前で足を止める。その店は宝石店。指輪や首飾りが売っていた。

 

「いいのがあったのか?」

「いや……そういう訳ではないのだが。うむ……」

 

 ローゼリアは赤い鉱石が付いた指輪から視線が離れない。珍しいな。指輪とかに興味ないと思ってたが……。思えばローゼリアと出会い早くも4年半。何かと迷惑をかけているしここは……。

 

「嵌まるか調べて貰うか?」

「本気で言っておるのか?指輪じゃぞ?」

「俺はいつも本気だぞ?欲しい物は全力で取りに行く」

「……そうか。ならダメ元で調べて貰うかの」

 

 店の中に入り店主に頼んでサイズを調べて貰う。ローゼリアは殆ど期待していなかったが結果は彼女の薬指と同じサイズ。だがローゼリアは指輪を外し店主に返し店を出る。俺も後を追い聞く。

 

「いいのか?」

「あぁ。妾には似合わん。それに今欲しいのはあの指輪ではない。もっと大きな物が欲しい」

「手に入るといいな。それ」

「そうじゃの。そいつが死ぬ前に手に入れて見せる。ほれ行くぞ」

 

 レイヤの住む屋敷に向かい始めるローゼリア。欲しい物は気になるが今はいいだろう。ひとまず置いて置き俺達は屋敷の前まで来る。そこで衛兵に話しを聞くが『お嬢様とは会えません』とバッサリ斬られ諦める事に。中々固い防御だが何処か崩せる場所はある。取り合えずルーチェとシリウスと合流するか。

 

「ルーチェ達と合流しよう。構わないな?」

「……いや宿に戻ろう。今日はここに泊まっていく」

「いいのか?」

「うむ。おヌシと色々話したいからの」

「分かった合流して宿を取ろうか」

 

 指笛でミネルヴァを呼び、ルーチェ達の所に移動した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 日付が変わる少し前。一足先にベットに寝ていたが中々寝付けそうになかった。それに気づいたローゼリアが俺の隣に来て優しく抱きしめてくる。珍しいと思いつつ右腕を背中に回して抱き寄せる。

 

「眠れんのか?」

「まぁな。助かるよ」

「気にするな。妾も最近眠れん」

 

 それは昼寝のしすぎたろうと言いたいが今日は寝てなかったな。何か悩みでもあるのだろうか?いや、彼女に限ってそれはないな絶対に。

 

「そういやルーチェとシリウスは仲良くやってるな」

「いい事じゃろ。流石に嫁にやるつもりはないが」

「まだそういう年じゃないだろ。この親バカ」

「そのまま言い返す。そういうおヌシこそどうするのじゃ?そろそろ考える頃じゃろ」

「何をかね……」

 

 視線を逸らし誤魔化す。確かに年齢を考えたらそろそろいい頃だろう。親父を安心させるためにも。でも俺にはルーチェやシリウス。ローゼリアがいる。それだけでいいのだが。

 

「俺にはロゼ達がいる。それだけで十分だ」

「……そうか。ならいい」

 

 瞼を閉じるローゼリア。やっぱりちょっとおかしいぞ。俺の気のせいかもしれないが。

 

(ま、何かあったら言ってくるだろ。俺もそろそろ覚悟決めるか。いつかは伝えないといけないし)

 

 胸に秘めた思い。いつか伝える時が来ると願ってゆっくりと瞼を閉じた。

 

 




獅子戦役まであと2年。


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第16話

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


 オルディスに来て2日目。今日こそレイヤに会おうと思ったが朝早くからローゼリアに捕まってしまい昨日と同じ様に街をブラブラしていた。手を繋ぎ腕をがっつり組んで。

 

「今日はどうしたんた?今日こそレイに会いたいところだが?」

「……妾は会いたくないの」

「どうしてだ?事情を知っているからついて来たと思ったが?」

「……」

 

 足を止め離れるローゼリア。そして俺の方に向き珍しく真剣な表情で言った。

 

「おヌシは妾よりレイヤの方が好みか?」

「いきなりなんだよ」

「真剣に聞いておる。答えんか」

 

 力強い声。目の前にいるローゼリアはいつもと違う。あの時と同じだ。騎神の試しを受ける時に選択肢を迫られたあの時と。

 

「俺は……レイはダチとして信頼してる。どっちかって聞かれたらローゼリアだな。魔女でも聖獣でもない目の前にいる君だ」

「……そうか」

「でも……俺では駄目だ。後50年もすれば死ぬし。君が欲しくても(・・・・・・・)俺は今のままの関係でいい。君を手に入れてもすぐに1人にするからな」

「そんな事、妾が気にするとでも?」

「俺が気にする。以前言ったろ。俺達の命は限りがある。だからこそ星のように輝き、全力で駆け抜けると。逆に不老不死である君は見届けないといけない。時代が変わる度にその時代の人間がどのように輝くか」

 

 それを示すように右手に光を集める。あれからまた異能を自在に操れるようになり、今では光を纏って一時的な身体能力の強化も可能にした。

 

「綺麗な光じゃ。かの黄金に引けを取らん」

「まだまだ至らぬ身。もっと精進しないと」

「至境に至りまだ先を求めるか?今でも十分じゃろ」

「人の身で何処まで高みに辿り着くか。行ける所まで行きたい。剣が不要となるその時まで」

 

 少なくとも今はその時ではない。その前に俺が剣を置く時が来ることはないだろう。来たら大惨事だ。きっと死んでもあの世で剣を振るっているだろうな。

 

「そういう訳だ。お互いいい関係(・・・・)を築こう」

「そのいい関係とは……」

 

 

ーホホォゥ!!

 

 

「ぐはっ!」

「ヴィ、ヴィトリア!?」

 

 背後からミネルヴァが凄まじい勢いで頭に降りてくる。め、めっちゃ痛いんだけど?それに今はルーチェ達の所にいたはずだが。

 

「どうした?」

「ホォゥ!ホォゥ!」

「む……異常事態みたいじゃな」

 

 翼をバサバサさせて伝えてくる。ローゼリアの言う通り異常事態だな。ミネルヴァに案内してもらい後を付いて行くと多くの人が集まっていた。その中央にから男性の罵声が聞こえてくる。

 

「貴様!貴族である私に無礼を働くとはな!覚悟はいいか?」

「っ……貴方こそ罪のない子に手を上げていた。私はその間に入っただけです」

「それが無礼だと言っている。その子は私の所有物だ」

「暴力で従えている人が何を!」

 

 こいつは相当やばいぞ。貴族もそうだがルーチェも頭に血が上ってる。どうにか間に入るか!

 

「ルーチェ!」

「む、何奴だ?」

「あ……お父さん」

 

 何とか中に入る。中ではルーチェが傷だらけの子供を抱きかかえ、その前には鞭を持った貴族。それを見て大体の事情が分かった。そこで俺はルーチェの頭を撫でてから貴族に謝罪する。

 

「私の娘が済まなかった。この子供を以前の自分と重ねたのでしょう」

「だから何だ!?その小娘はあろうことか私をーーー」

「ですが少々やり過ぎでしょう。貴方の家に使えているとはいえ鞭で叩くなどの行為は宜しくないかと?」

「貴様が口を出す必要はない。それより貴様たちへの罰をだな……」

 

 穏便に済みそうにないな。どうにかして乗り切りたいのだが……。こういう時は……。

 

「手を貸そうかヴィクトリア?」

「ロゼ……だが……」

「おや?そこの女……」

(あ……)

 

 貴族がこちらに近づきローゼリアの右腕を掴みニヤニヤしながらローゼリアの体を見る。まるで品定めをしているようだ。

 

「よし貴様。一晩付き合って貰おうか?」

「なっ!」

「……ほぅ?」

「……」

 

 聞き捨てならないな。ここまで今の貴族が落ちぶれているとは。こちらに非があったのは事実だが彼も同じだろ。その前にやる事はやらないとな。

 

「触れるなよ下種。俺の女に(・・・・)

「……え?」

「……」

 

 ローゼリアの右腕を掴んでいる貴族の腕を掴む。そのまま折れない程度に力を入れると、貴族は喚きながらローゼリアの腕を離す。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!貴様ぁ!」

 

 俺の腕を払い右腰に携えている騎士剣を抜き脳天めがけて突いてくる。その突きを指で受け止め光を騎士剣に流し真っ二つにへし折る。

 

「なっ!指で……折られた?」

「まだやるか?続けるならヘヴン伯に突き出すぞ?」

 

 殺気を放ち威圧。その圧に貴族は押され走り去って行く。やれやれ何とかなったか。だけどこの状況どうしたらいいんだろう。

 

「事後処理が……」

 

 

ーうんうん。事後処理大変だね。

 

 

「本当だよ……え?」

「ん?この声は……」

「もしかして……」

 

 声が聞こえた方を揃って向く。そこにいたのはいつもと変わらないレイヤの姿。恐らく騒ぎを聞いて出て来たのだろう。あぁ、こういう時は本当に頼りになるが……。

 

「ここはボクに任せて。その子の事もさっきの彼についても」

「お、おぅ(あれ?何か貫禄出てるような……気配も大分違うし)」

「ルーチェとロゼも。会いに来てくれてありがとう。後で使いの者を出すから」

「は、はい」

「ではまた後での」

 

 この場をレイヤに任せて離れる。出来る限り屋敷に近い場所に移動していると、途中でローゼリアが背後から抱きついてくる。そしてルーチェも正面から抱きついてくる。

 

「どうした?2人とも?」

「その……ごめんなさい」

 

 やや涙目で謝ってくるルーチェ。別に謝る程では無いのだが彼女なりに責任を感じているのだろう。

 

「謝らなくていい。もう少し落ち着いて行動しような」

「……はい」

「よし、それじゃシリウスを呼んでこい」

「分かりました。また後で」

 

 シリウスを探しに行くルーチェ。姿が消えた所で未だに抱きついてるローゼリアの方を向き、優しく頭を撫でる。

 

「どうしたんだ?」

「……何でもないわ」

 

 とか言いつつ胸に顔を埋めてくる。これは暫くこのままだな。レイヤたちが来るのを待とう。しかし……。

 

(本当にどうしたんだろうか?)

 

 いつもと違うローゼリアにドキドキしているのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ふぅ……いい夜風だな」

 

 体を通り抜ける夜風を感じながらベランダでワインを飲んでいる。昼の件の後はレイヤの案内の元屋敷に案内されヘヴン伯と話をした後一晩泊まらせていただくことに。それとレイヤが音信不通だった理由も聞いた。何でも彼女が実家に帰ると弟が出来ていたらしい。流石のレイヤも驚き問いただし暫く家の事を手伝う事に。道理で貫禄が出てたわけだ。

 

「流石にあり得ないだろう21歳下の弟って……」

 

 もし俺に21歳下の弟や妹が出来たら……あぁ親父やっちまったなと言ってしまいそうだ。シオンが何を言うか気になるが考えないようにしよう。

 

「やっと見つけたよ愛しの君」

「ん。レイか」

 

 まだ空いていないワインを持って来るレイヤ。彼女はワインを開け空いていたグラスに注ぐ。自身のグラスにも注ぎ乾杯する。

 

「君とお酒を飲むのは初めてだね」

「互いに成人して会うのは初めてだからな。折角だし飲もうよ」

「成程。そのままお酒の勢いに任せてボクを……」

「襲う訳ないだろ」

 

 釘を刺しておく。油断も隙も無いからな。レイヤがいい女って事は認めるが彼女は仲間であり家族。それに俺は欲しい女がいる手前、そんなことは絶対にしない。

 

「ロゼと順調?少しは進展した?」

「……どうだろうな。俺と彼女では生きる世界が違う。彼女の隣にいるだけで十分だ」

「本当にそれでいいの?」

 

 レイヤはグラスを置き真剣な表情で言った。彼女の言いたい事は分かる。ローゼリアにも言われた事だからな。

 

「いいんだよ今のままで」

「……ボクは嫌だな。自分の想いを伝えないのは」

 

 そう言って抱きしめてくるレイヤ。いつもと変わらないスキンシップとは違い、何時もルーチェやローゼリアが抱きついてくる時と同じだった。

 

「どうしたんだよ」

「君の事が大好きって伝えてる。ルーチェやロゼだって。それに気付かない程鈍感かな?」

「そんなことは無いが……」

「だったら答えないと。君の想いがロゼに向けられてもボクは気にしないし。まぁ……ちょっとは構ってくれると嬉しいけど」

 

 頬を赤め照れながら離れる。暫く会わなかったが全く変わっていない。だが彼女の言う通りだろう。

 

「ありがとう。もう少し気持ちを整理伝えるよ」

「うん。それとは別に1ついい?」

「ん?どうした?」

「一つだけ頼みがあってね」

 

 レイヤはゆっくりと近づき耳元で囁く。彼女が小さな声で言った言葉に一瞬固まるが、レイヤが軽く頬に口づけをした事で我に返る。

 

「お、おい!流石にそれは……」

「少し悪戯が過ぎたかな?でもボクは本気。考えておいてね。明日からはボクも一緒だから。お休み」

「……あぁ。お休み」

 

 屋敷の中に戻って行くレイヤ。昼間のローゼリアと言い心臓に悪いな。明日から旅を再開するし色々と気持ちを整理しないと。

 

「寝るか。明日は早いし」

 

 グラスに残っていたワインを一気に飲み部屋へと戻った。

 

 

 

 



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獅子戦役
第17話


 旅を再開して早くも2年。月に一度は里に戻りつつ帝国各地を巡っている。そして俺とローゼリアの関係は少しずつ縮まり、レイヤとも変わらず相棒として背中を任せている。また最近ルーチェとシリウスの仲が良く、事ある度にローゼリアが『娘はやらんぞ!』とシリウスに言っていた。

 そんな中、俺達は里の住民から『ローゼリア様と連絡が取れなくなった』と聞き、エリンの里へと帰っていた。

 

「やっと着いたか。大丈夫かルーチェ?」

「大丈夫です。長距離転移は慣れてますから。それより急ぎましょう」

「アトリエだね。何か残っているといいけど」

「あの婆さんの事だ。期待薄だろ」

「それでもだ。急ぐぞ」

 

 急ぎアトリエに向かい何か残っていないか調べる。彼女が隠しそうな場所を調べるが何もない。台所や他の場所も最低1週間は動いていない。となるとローゼリアが姿を消したのは1週間前か。

 

「どう思う?私や里の皆は兎も角、君達に何も伝えないのはおかしい」

「どうだろうな。だが最近の以上多発を考えると自分でどうにかなると判断したうえかもしれん」

 

 ここ一月。帝国の見えない部分で異常が多発している。霊脈が狂い異界化している場所がある。嫌な事に普通の人間(・・・・・)には見えない。俺の様に騎神の起動者やルーチェ達準起動者にしか気づかない。出来る範囲で解決はしているが……。

 

「探しに行きましょう。得体のしれない何かが動いているのかもしれない」

「だな。すぐに準備する。手伝ってくれ姉貴」

「いいよ。後で転移石に集合だ」

 

 準備を始めるレイヤとシリウス。ルーチェも準備を始め、俺も準備を始めようと思った時だった。

 

 

ードクン!!!」

 

 

「ぐっぅ!!!」

 

 心臓が強く高鳴る。あまりの痛みに左胸を抑えながら片膝を付く。今までに感じたことの無い痛み。まるで中から心臓を鷲掴みにされた感じだった。

 

(何だこれは……この痛みは……)

『聞こえるか起動者よ』

「エル・プラドー?」

『すぐに来て欲しい。そなたに伝えねばならないことがある」

「分かった。すぐに行こう」

 

 ルーチェ達に一言伝えてからエル・プラドーの場所に向かう。どうやら彼は事情が分かっているようだ。ローゼリアからの伝言も預かっているらしく初めに言った。

 

『『妾の事は気にするな。おヌシ達は里かレグラムで待っていろ』だそうだ。恐らく今の状況を見越していたのだろう』

「……どういう意味だ?それに今の状況って……」

『≪緋≫と≪紫紺≫が目覚めた。何か感じなかったか?』

「さっき心臓が高鳴ったが……その前に≪緋≫ってまさか……」

 

 ローゼリアから聞いたことがある。600年前≪暗黒竜≫を討伐したヘクトル帝が搭乗した騎神。だが返り血を浴び呪われた存在となったと。その後にローゼリアと地精の長がバルフレイム宮の地下に封印したらしいが……。

 

「一体誰が起動者になった?まさか……」

『それはないだろう。恐らくは≪地精≫の長。そしてロゼは最悪の事態を防ぐべく行動しているのだろう』

(だとしても……)

 

 気になる事が多すぎる。誰が騎神の起動者か。≪緋≫の眠っていた場所を考えると王家の人間だろう。出来ればオルトロスでないことを祈りたい。≪紫紺≫は……見て見ないと分からないな。

 

「エル……」

『分かっている。共に行こう』

 

 右拳を突き出すエル・プラドー。俺も左拳で答える。まずは状況判断だ。目覚めた騎神の起動者とローゼリアの行方。少しずつ進めよう。

 

「何かあったら呼ぶ。準備していてくれ」

『承知した。無茶はしないでくれ』

「おぅ」

 

 エル・プラドーの元を去りルーチェ達の所に戻る。丁度準備が終わった所で俺は事情を説明。ルーチェの米神に青筋が立つがシリウスが優しく宥め、レイヤも険しい顔を浮かべていた。

 

「ねぇヴィクト。1つ聞いていい?」

「どうした?」

「その……他に騎神が目覚めたって事は戦う事になるよね。もし騎神に乗って死んだら起動者はどうなるのかな?」

「どうだろうな。考えたことないが……それと俺が死ぬと思うか?」

 

 少なくとも帝国で俺を殺せる使い手は居ないと思うが。以前手合わせしたロラン・ヴァンダールの双剣術は中々だったが。

 

「死なないと思ってるけど……ごめん」

「気にしない。行くぞ。頼むルーチェ」

「はい。ミストリア大森林の外に転移します」

 

 転移術でミストリア大森林前に転移。ひとまずセントアークへ移動しようとした時だった。何かが接近してきている事に気付き、ルーチェ達を背後に下がらせる。そして程なくして、俺達の前に現れたのは≪紫紺の騎神≫その肩に見覚えのある人物。第六皇子であるルキウスがいた。

 

「久しいなヴィクトリア」

「そうだなルキウス。大層なおもちゃを手に入れたようだが何様だ?」

「決まっているだろう≪光の剣士≫一緒に来ないか?他の即位を宣言した皇子に対抗すべく、君の剣が必要だ。兄上にも許可をもらっている」

「兄上……どの兄上だ?その前に即位を宣言した他の皇子とは?」

「……父上とマンフレートが何者かに暗殺され私と兄上は帝都を掌握。それと同時に他の皇子が即位宣言をした。ドライケルス兄様を除き」

「は……?」

 

 ちょっと待て。今父上とマンフレートが暗殺されたって言ったか?それと同時に兄上と帝都を掌握……他の皇子も同様ってどういうことだ?流石に理解が追いつかないぞ。

 

「力を貸して欲しいヴィクトリア。後ろの大切な家族も含め。レグラムにも手を出さないと誓おう」

「断れば?」

「命は無いな。そなた達の噂が聞いている。それぞれが卓越した使い手だと。野放しには出来ない」

「だろうな。そいつ……ゼクトールが一緒なのもそういう事か?」

「何!?騎神の名前を知っているのか!?」

「知っているとも。だって……俺も持ってる(・・・・・・)からな」

「……」

 

 やや険しい表情を浮かべるルキウス。そして残念そうにゼクトールの肩から降り右手を上げる。どうやら俺達を始末するらしい。それもそうだろうな。

 

「やれヘルガー。一人残らず始末しろ」

『了解だ皇子さん』

 

 異形の大剣を振り上げるゼクトール。生身の人間にその大きな力を奮うとは。それだけ俺達が危険なのだろう。どうにかしてこの場を斬り抜けないと。だがアレに一矢報いるなら光凰剣では駄目だ。もっと威力が高くて精密な一撃。それなら可能だが時間がない。2秒程あればいいが……。

 

『悪いな光の剣士さん。せめて楽に殺してやる』

「っ……ヴィクト。どうする?」

「俺達は何時でも大丈夫だが……」

「お父さん。ここは……」

「……仕方ないか」

 

 出来れば呼びたくはない。でも大切な家族を守るためなら『彼』も許してくれるだろう。

 

「行くぞ!エルーーー」

 

 

ー呼ぶ暇があるなら力を貯めんかいヴィクトリア!

 

 

「はっ!」

「この声は!?」

 

 ローゼリアの声と同時に俺達を赤い結界が覆う。それにルキウスとゼクトールの起動者は気を取られる。俺はそこを逃すことなく力を開放。全身を黄金の光で覆いガランシャールに集約させる。

 

「な、なんだ……?光……か?」

『っちぃ。アレはヤバいーーー』

 

 光を見たゼクトールの起動者は本能的に危険と判断してルキウスの前に立ち塞がる。

 

「さぁ耐えてみろ!奥義・光凰神剣!!!」

 

 奥義を薙ぎ払うように解き放ちゼクトールの体勢を崩す。それと同時にローゼリアが俺達の前に現れ、レグラムの実家の庭へ瞬間転移させる。

 

「ここは……親父の実家か」

「そうみたいですね。皆さん大丈夫ですか?」

「ボクは大丈夫。ヴィクトは?」

「……すまん。ちょっと無理っぽい」

 

 技を全力放った影響か身体がすごく重い。まだまだ俺も未熟ということか。

 しかしあの騎神の起動者、中々の使い手だったな。気配からして傭兵か。ともあれあの場を乗り切れて良かったが……

 

「っぅ……」

「親父!?」

「お父さん!?」

「大丈夫!?」

 

 力が抜けガランシャールが地面に刺さり倒れそうになるが、ギリギリの所でローゼリアが受け止めてくれる。

 

「この馬鹿者。あの技を全力で放つからじゃ」

「悪い。助かった……って、お前、今までどこに居たんだ?」

「それについては今晩にでも話す。付き合ってくれ」

「了解だ。皆も今は休んでくれ」

 

 言ったのはいいが1番やばいのは俺だよな。丁度いいしいつもローゼリアには心配かけさせられてるしこのまま落ちるか。

 

「ロゼ。このまま落ちる。部屋に運んでくれ」

「分かった。妾の腕の中と休め」

「助かる」

 

 このまま俺は瞼を閉じ、ローゼリアに身を任せるのであった。

 

 

 

 

 




今回から獅子戦役です。


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第18話

 朝早く目覚め、最初に視界に映ったのはローゼリアの顔。後頭部に柔らかい感触を感じるって事は膝枕か。一種の公開処刑だろうか。まぁいい、朝の挨拶ぐらいはしよう。

 

「おはようロゼ。朝から君の顔を見れるとは幸運だろうか」

「分かってるのヴィクトリア。おはよう」

 

 優しく頭を撫でてくるローゼリア。そう言えば昨日殆ど消費した霊力が戻っている。もしかしてローゼリアの奴変なことしていないだろうな?

 

「霊力は戻っておる。妾に感謝するのじゃ」

「何した?」

「ん?なーにも?」

 

 怪しい。絶対何かしてる。だってそう言った笑みを浮かべてるから。問い質したいが答える訳ないか。それより聞きたいことが沢山ある。

 

「これからどうするんだ?帝都が掌握され2騎の騎神が目覚めた。何か知っているだろう?」

「残念だがそれをこれから知りに行く。妾と2人でな。他の3人にはリアンヌと共にレグラムで備えて貰う」

「君でも知らないのか。そうなると地精の仕業か」

「恐らくは。それと問題がもう一つ」

「緋の騎神……」

 

 ローゼリアから聞いた通りだとすると一番放って置く訳にはいかない。状況からしてまだ魔王に昇華はしていないだろうが、仮に昇華した場合の事を考えると命を懸けて止めに行かないといけない。俺とリアンヌで何とかなればいいが……。

 

「まだ魔王には昇華しておらん。最悪の事態になる前に帝都に行き起動者を特定し倒す。その為にもおヌシやリアンヌ以上の心と魂を持った皇子を探す」

「……それなら心当たりがある。今は何処にいるか分からないが」

「本当か?」

「あぁ。昔リアンヌやサンドロット伯と一緒に皇帝陛下が主催した舞踏会に参加して事があってな。その時リアンヌが気にしていた皇子がいる。アイツは結局声を掛けなかったが俺は少し話してな」

「成程。ではそ奴を探しに行こう。今日は一日ゆっくり休め。出発は明日じゃ」

「分かった。なら暫く甘えさせてもらう」

 

 心を落ち着かせ全身の力を抜く。霊力は戻っているが体は本調子ではない。特に左腕は完全に回復するまで時間が掛かりそうだ。

 

「騎神相手に生身で挑むのは自殺行為か」

「何当たり前の事を言っておる。目覚めたばかりで良かったが、完全に扱えていたら死んでおったぞ」

「生きてるからいいだろう?」

「そういう問題ではないわ」

「むぐっ」

 

 左頬を全力で抓ってくる。全力でしてくるという事は相当怒ってるな。次からは気を付けよう。普段怒らない女程怒ると怖いからな。ルーチェがいい例だ。

 

「失礼します……あら?」

「ん?リアンヌか」

 

 部屋に入ってくるリアンヌだが、膝枕をされている俺の姿を見るなり扉を閉めようとする。俺はすぐに起き上がろうと試みるがローゼリアに肘で鳩尾を抑えられ起き上がれず、代わりに彼女がリアンヌを止め、この状態でこれからの事を話すことに。

 

「ではお二人は第三皇子を探しに向かわれるのですね」

「うむ。その間は娘たちを頼むぞ。あ奴らも渋々了承しておる」

「渋々って……ルーチェ辺りが苦戦したか?」

「まぁの。じゃがシリウスが上手く言ってくれた。よもやルーチェが素直に聞くとは思わなかったが……全くいつの間に……」

 

 また始まったか。少し前にも言った気がするが、最近はルーチェとシリウスの仲が良い。俺は良いと思うのだがローゼリアは良く思っていないらしい。以前2人が温泉で遭遇した時なんて魔術でシリウスを殺しに行ってたほどだ。

 

「ロゼ。別に2人の仲が良いぐらいいいだろう?母親なら見守ってやれ」

「無理じゃ」

「ふふ。ヴィクトリアの言う通りです。ルーチェに『お母さん大嫌い』と言われたら嫌でしょう?」

「安心せい。妾の可愛い娘がそんな事……」

「そうだ。ロゼが姿を消したって聞いた時に『何も言わずにどこかに行くお母さんは嫌いです』って言ってたぞ」

「な、なんじゃとぅ!?」

 

 何か大きなものが突き刺さったのだろう。本気で傷ついているのが顔を見て分かる。まぁ……俺はいつも一緒に居るし何かと縛られているから何も言われないが。

 

「うぅ。妾は育て方を間違えたか……」

「いえ、貴女がだらしない……こほん。抜けている所があるのでしょう」

「だらしない……じゃと」

「自覚ないのか?倉庫や書庫がヤバいのはそういう事だろ」

「そ、それならヴィクトリアにも責任があるじゃろ。暗黒時代の遺物を大量に手に入れて倉庫に放り込んでおる」

「きちんと仕分けしてルーチェに呪いの類が無いかを確認してからな。ヤバい奴はきちんと我が異能で浄化している」

「べ、便利な異能じゃの……」

 

 羨ましそうな視線を向けてくる。本当に俺も思ってる。光を纏う事で身体能力や霊力の大幅上昇。騎神との同化による騎神の進化。加えて封印指定されている古代遺物の呪い除去……完全に扱えている訳ではないが末恐ろしい異能だ。

 

「ではシオンと話をしてきますね。お二人とも羽目を外さないように」

 

 釘を刺してから出ていくリアンヌ。羽目を外す以前に何もしないし起きないぞ。

 

「ったく。何を期待してるのか。自分の事だけを心配しとけよ」

「友として言っておる。素直に聞いておけ」

「俺は素直じゃないみたいに言うな」

「事実じゃろ。もっと自分の気持ちに素直になれ」

 

 そう言ってから顔を近づけてくるローゼリア。彼女の神秘的な瞳が目の前に迫る。ローゼリアから誘ってくるのはかなり珍しい。

 

「綺麗な瞳だ。とても愛おしいよ」

 

 そっと頬に触れ指で撫でる。ローゼリアは何も言わずに瞼を閉じ更に近づけてくる。俺は何もせずそのまま唇を重ね、確かな温もりを感じてから離れる。

 ローゼリアの頬は思ったより赤く染まっており、恥ずかしそうにしていた。

 

「初心だな」

「……慣れてないだけじゃ」

「そういう事にしておく。ちょっと外出るよ」

「分かった。ルーチェ達は湖畔に居るぞ」

「了解」

 

 重い体をゆっくりと起こし、赤いコートを着てから外に出る。朝早いのにも関わらず、レグラムは住民で賑わい、所々に甲冑を纏い得物を持っている戦士がいる。

 ローゼリアの話ではリアンヌがレグラムの精鋭を集め部隊を結成したらしい。その名も≪鉄騎隊≫。リアンヌを筆頭に副隊長にシオンと斧技の使い手であるアデク。他にもリアンヌの教え子などが数人。そして俺がかつて詰め所に放り込んだ傭兵崩れも居るらしい。この辺りはローゼリアが集めたらしいが。

 

(大きな力は争いを生むが……)

 

 リアンヌ達なら大丈夫。窮地になればアルグレオンを呼ぶだろう。俺は俺のやるべきことをやるだけだ。

 

(その為にも光凰神剣を完成させないと。帰る場所と家族を守り抜くためにも)

「……お父さん?」

「ん?」

 

 背後から聞こえたのはルーチェの声。振り返った先にはルーチェとシリウス。レイヤは……近くにはいないか。

 

「揃ってどうした?」

「姿を見かけたので声を掛けました。体は大丈夫ですか?」

「あぁ。優しい魔女のお陰でな。それと話は聞いた。ルーチェを頼むぞシリウス」

「分かってる。親父の代わりにリアンヌの姉貴達と一緒に全部守る」

 

 ギュッと握りこぶしを作るシリウス。あぁ……本当に立派になったな。もしものことがあっても心配なさそうだ。

 

「ふっ……」

「気持ち悪いぞ親父」

「こ、こら!」

 

 ガツンと杖でシリウスの頭を殴るルーチェ。痛々しい音が響き渡り頭を抑えるシリウス。

 

「痛いなおい!事実だろ!」

「それでもですよ!」

(おいおい……)

 

 本当に仲が良いな。お互いに似た境遇だからだろうが。うん、本当に大丈夫そうだ。

 

「おや?ヴィクト達?」

「お。レイか」

 

 今度はレイヤが来る。そして仲良く喧嘩しているルーチェを姉のように微笑みながら見守りながら言った。

 

「数年後にはお爺ちゃんかな?」

「あり得そうで怖いわ」

「アルゼイドのおじ様より早い孫?」

「さり気無く痛い事を言わないでくれ……」

 

 本当にあり得そうで怖いわその話。ま、その辺りは可愛い弟に任せたから俺は知らないが。

 

「で?ヴィクトはこれからどうするの?ロゼと二人旅だけど」

「当面の目標はドライケルスだな。何処にいるか分からんからまずはロランに接触する」

「あの双剣術の使い手だよね。行方をくらましているらしいけど」

「だったら尚の事だ。過酷な旅になる。もしかすると俺は帰ってこないかもな」

「冗談きついよ」

 

 レイヤは溜息を付くが俺は冗談で言ったつもりはない。もしもの事は本当に来る。騎神に選ばれた時点で碌な死に方はしないと感じている。

 

「さて、俺も準備するか。アイツらの事は任せたぞ相棒」

「任されました。無茶しないで」

 

 拳を突き出してくるレイヤ。俺も拳を出し軽く当てた後旅の準備を始める。そして次の日の朝早く。俺とローゼリアはドライケルスを探す旅を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 




ドライケルスを探しに!


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第19話

 帝国全土を脅かす戦争が始まった。≪紫紺≫と≪緋≫を要するオルトロス・ルキウス陣営。第二皇子・アルベルトと第五皇子グンナル。それぞれが力を結集し激戦を繰り広げている。

 そんな中で俺とローゼリアは、それぞれの戦力を確認しつつドライケルスを探し早2年。何も進捗が無い日々が続いたある日の事だった。

 第二皇子の軍勢に追われている傷だらけのロランを見つけた俺達は、彼を救うべく両者の間に割って入った。

 

「大丈夫かロラン!」

「ヴィクトリアか!」

「ここは俺に任せておけ。頼むぞロゼ!」

「うむ!こっちじゃ小僧!」

「済まないローゼリア殿。お前も無茶はするな!」

「分かってる!適当な所で撤退するから自分の事だけを考えておけ」

 

 ガランシャールを取り出し光の剣を薙ぎ払う。第二皇子の軍勢の一部は直撃し倒れていく。その中で1人、大柄な男が飛び出し、大剣を振り下ろしてくる。

 

「ふん!」

「ふっ!」

 

 迫りくる一撃を受け止める。中々重く鋭い、強者か。

 

「ほぅ。俺の一撃を受け止めるか。何者だ?」

「偶然近くにいた剣士だ。ロランはやらせんぞ」

「嘘をつくな!」

 

 男は一歩踏み出し力任せに剣を振る。俺は後ろに下がりつつ力を受け流し距離を取る。その間に20人程通り過ぎたが問題ないだろう。ロランはローゼリアに任せておけばいい。

 

「俺はドワーフ。お前の名を聞いておこう。その上で聞く。何故彼を庇う?」

「俺はヴィクトリア・アルゼイド。アイツを庇うのは≪彼≫へ俺達がたどり着くため。済まないが付き合って貰うぞ」

 

 ガランシャールを握り直し黄金の闘気を解き放つ。ドワーフという名の男はその闘気に当てられ一歩二歩と後ろに下がる。

 

「っ……なんだお前は?」

「ただの剣士だ。しかし……少し期待したが残念だ」

 

 高速で斬り抜け一撃で仕留める。ドワーフはゆっくりと倒れ、それと同時に後ろの方が紅く光りローゼリアの魔力を感じ取る。どうやら派手に吹っ飛ばしたようだ。

 

「やり過ぎだって……」

 

 呆れつつ彼女たちの元に向かうと、先程通り過ぎていった兵士達が焦げている。その近くで不機嫌そうなローゼリアと傷の治療を受けている最中のロランがいた。

 

「大丈夫か?」

「この程度にやられる妾ではない」

「そ、そうか。ロランは?」

「俺も大丈夫だ。それと……」

 

 ロランは近づいて来て耳元で小さな声で言った。

 

「お前の奥さん何者だ?」

「外見はリアンヌ並みだが中身が残念な魔女だ……って俺は結婚してないぞ」

「だが以前会った時は2人子供がいただろ?」

「あれは養子だ。勘違いするなよっと!」

 

 お返しに傷を思いっきり叩く。油断していたロランは激痛で大きな叫び声を上げるが気にせず話を続ける。

 

「ともあれ無事でよかった」

「叩いておきながらよく言うな!」

「悪かった。それより何処に行くんだ?アルベルトの軍勢に追いかけられてたが」

 

 少し気になっていた。ドライケルスが挙兵しているなら分かるが彼の居場所は分からない。聞き出すために追いかけられていたなら分かるがそうでもなさそうだ。

 

「今からドライケルスのいるノルドに向かう」

「ノルド?北か……盲点だったな」

「好き好んであの場所には行かんが……そう来たか。どうするヴィクトリアよ」

 

 一緒に付いて行くべきだろうか。一旦レグラムに戻るか。リスクが低いのは後者だが前者の方がいい。状況を考えても彼が早く挙兵して欲しい所だ。

 

「ロゼ。ここは一緒に……はっ!」

「むっ。ヴァンダールの小僧動くな!」

「え!?」

 

 周囲に結界を張るローゼリア。それと同時に紅い一撃が結界に襲い掛かり砕け散る。ローゼリア結界を一撃で粉砕する威力という事は……。

 

『見つけたぞ光の剣士に緋色の魔女』

 

 俺達の頭上に現れた≪緋の騎神≫と≪紫の騎神≫。最悪にも程があるだろう。加えて少し酷くないか?いくら何でもやり過ぎだろう。

 

「あれは……噂の騎神か。どうしてここに……」

「俺を消しに来たに決まってるだろ。お前は眼中にないみたいだからノルドに行け」

「行けるわけないだろう。ここは協力して……」

「ロゼ。ロランを飛ばせ」

「うむ。許せ小僧。出来る限りノルドの近くに飛ばす」

「なっ!」

 

 転移術でロランを飛ばす。これで邪魔者は居ない。さてどうするか。俺が起動者と知っている以上は避けて通れない道だが。

 

「降りて来いよオルトロスに紫紺の」

『ほぅ。我が軍勢に……』

「誰が加わるか」

『貴様……』

(おいおい……相変わらずじゃねぇか光の剣士さんはよぉ……)

 

 降りてきたところに一撃喰らわせてやる。一瞬でも隙を作れば逃げられる。今は彼らと戦うのは得策ではない。

 

「降りてはいけませんよ兄上。彼の光の剣が来ます。直撃すれば騎神もただでは済まないかと」

『ゼクトールも暫く動けんかったからな』

『それは厄介だな……だがそれがなんだ。させなければいい!』

 

 緋き魔剣を取り出し急接近してくる。すぐにローゼリアを抱き上げ空高く跳躍し回避。いくら何でも生身相手にそれはないだろう!

 

「生身の人間に騎神で攻撃する馬鹿がどこにいる!?」

「目と鼻の先にいるじゃろ!妾が許可するから呼ばんかい!」

「それは最終手段だ。君は転移の準備を……」

『そんな事はさせん。貴様らはここで死ぬ』

 

 赤い魔弾が高速で迫りくる。今度は魔弓か。≪千の武具を持つ魔人≫とはよく言う。彼ほどの武具を扱うにはかなりの技量がいるだろう。現にオルトロスは完全に扱えるわけではなく攻撃に正確性はない。この魔弾も避ける必要はない。

 

「捕まってろ」

 

 ローゼリアを抱き寄せると、その真横を魔弾は通り過ぎる。その時テスタロッサの動きが一瞬止まる。そこを俺は逃さない。

 

「絶技・光凰剣」

『おっと。そうはいかねぇぞ』

 

 テスタロッサの間にゼクトールは割り込み光の剣を受け止める。流石に決めさせてもらえないか。

 

『ヴィクトリアよ。私は何時でも大丈夫だ』

「エル・プラドー……気持ちは嬉しいがまだその時ではない」

 

 彼の力を借りればこの状況を乗り切る事は出来るだろう。だがそれではオルトロスと変わらない。力はただ力だ。振るい方を間違えれば神にも悪魔にもなる。

 

「大丈夫だエル・プラドー。俺は一人ではない。そうだろロゼ?」

「……!やるのか?」

「あぁ!上手く合わせろよ!」

 

 テスタロッサの攻撃を避けつつ着地。ローゼリアを降ろしてから光を解き放つ。

 

『これは……』

「兄上!」

「遅いーーー」

 

 テスタロッサの着地点に瞬間転移。距離と速度を確認してから絶妙なタイミングで光凰剣を放ち、テスタロッサの体勢を空中で崩す。当然ゼクトールは守りに入るがそれこそ俺の狙いだ。

 

「今だロゼ!」

「完璧な間合いじゃ!」

 

 杖を高く上げ呪文を唱えると、テスタロッサとゼクトールを無数の緋い月と上空に巨大な緋い月が現れ、灼熱で2体の騎神を焼く。

 

『ぐっ!小癪な!』

『このっ!』

 

 何とか逃れようとしているが防御に霊力を回すので手がいっぱいで逃げられない。加えて灼熱の量も増えている。ローゼリアの終局魔法を正面から喰らうと簡単には逃げられないぞ。

 

「ゆくぞヴィクトリア!」

「おぅ」

 

 ガランシャールに光を集約。光の剣がガランシャールを覆いゆっくりと振り上げる。

 

「全ての闇を払う光の剣と!」

「全てを焼き尽くす緋き月の一撃を受けてみろ!」

 

 緋き月が輝くと同時に剣を振り下ろす。緋と黄金の光が混ざり合い柱になって空を貫く。これぞ俺とローゼリアの合わせ技だ。

 

「良し。今のうちに撤退だ!」

「セントアークに飛ぶぞ!」

 

 ローゼリアが転移術を唱え、俺達はセントアークへと転移するのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 2体の騎神との戦闘から数時間後。外はすっかり暗くなり妙な気配もない。2体の騎神の追撃がある可能性があったが中立であるセントアークには手出しが出来いようで追っ手は無かった。

 流石に俺達がセントアークを拠点にしている事には気付かないだろう。

 

「ふぅ……今日は疲れた」

「本当じゃい。この年になって2体の騎神と戦う事になるとは……はぁ」

 

 大きな溜息を吐いてからベットに寝るローゼリア。年寄りには少し厳しかったか。こんなこと言ったら殺されるが。

 

「お疲れ様」

 

 隣に座り優しく頬を撫でるとローゼリアは不満そうな表情を浮かべながら手首を掴んでくる。

 

「やれやれ。俺はもう少し起きておきたいのだが?」

「ダメじゃ」

「全く……」

 

 彼女の誘いに乗り隣に寝る。布団を肩まで被せると、ローゼリアは思いっきり抱きついてくる。両腕を首に回し体を押し付けてくる。

 

「本当に死ぬかと思ったわい」

「それは俺も同じだ」

 

 流石に2体の騎神の同時相手はきつい。正直生きている事が奇跡だろう。ゼクトールは兎も角、テスタロッサは力の半分ほどしか引き出せてなかった。そこを今回は突けたが次は上手くいかないだろう。

 

「一旦レグラムに帰るか」

「じゃの。いい加減ルーチェ達に顔を出さんといかん」

「帰ったら説教の1つは覚悟しておくか」

 

 実の所2年レグラムに帰っていない。連絡は入れているがこちらからの一方的な物だ。帰ったらどうなる事か。

 

「その為にも寝よう。明日は早めに行動だ」

「了解だ。お休みヴィクトリア」

「うん。ゆっくり休めよ」

「分かっておる。明日に影響出ない程度に貰うがの」

 

 そう言ってから瞼を閉じるローゼリア。俺も小さく息を吐いてから瞼を閉じるのであった。

 

 

 

 



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第20話

 ≪緋≫と≪紫紺≫からの戦いから1週間。俺達は2年振りにレグラムへと帰って来たのだが……。

 

「お帰りなさいヴィクトリア様」

「あぁ……ただいまルーチェ」

 

 出迎えたルーチェの笑みの向こうにどす黒い何かが見える。これは相当怒ってる。隣にいるシリウスも一歩下がったところで引いてるし。

 

「その……元気そうで良かった」

 

 いつものように頭を優しく撫でる。いつもならこれで大丈夫だが今回はそうはいかなかった。

 

「今回は簡単には許しませんよ」

「……うん。説教はまた後で聞くよ。取り合えずリアンヌと話をしてくる。レイのも伝えて置いてくれ」

「りょーかい。ま、ルーチェの事は任せておけよ」

 

 頼もしい一言を聞いてからローゼリアと共にローエングリン城に。その途中だろか。視界が黒く染まり、頭に声が響く。

 

 

ーキエロ。メザワリナヒカリメ。

 

 

「っぅ!」

 

 何か思念の様な物が襲ってくる。思わずその場で膝を付いてしまい、額から血が流れてくる。

 

「ヴィクトリア?どうかしたか?」

「いや……大丈夫だ」

 

 気付かれないように血を拭う。とても強い悪意に満ちた思念。どこかで感じたことがあるような気がする。一体どこだったか。

 

「お帰りなさいヴィクトリア。ロゼ」

「ただいまじゃリアンヌ」

「……」

「ヴィクトリア?」

 

 気になって仕方が無い。なんせ今まで感じたことが無い事だ。誰かに恨まれたり等は……ない筈。だとするとさっきの悪意に満ちた思念の正体は何だろう。

 

「どうかしましたかヴィクトリア?」

「……あ。済まない。少し考え事をな。取り合えず報告だ」

 

 切り替えてこの二年の事を報告。その上でこれからの事を考えるが、先程の思念が頭から離れない。

 

「では暫くはレグラムで待機ですね」

「あぁ。ルーチェ達とゆっくりさせてもらう。ヴィクトリアもそれでよいな?」

「……構わない。その辺りは任せる。済まないが少し里に行ってくる」

「……そうか。早めに帰ってこい」

「あぁ」

 

 転移術を唱えて里に移動。そのままエル・プラドーの元へと足を運び声を掛ける。

 

「久しぶりだなエル・プラドー。少しいいか?」

『どうした我が友』

「うむ。どうしたものか……少し話しづらい事でな。ロゼ達には話さないでもらえるか?」

『承知した。私とそなたの秘密話だな』

「頼む。実はーーー」

 

 先ほど襲ってきた悪意の事を話す。エル・プラドーは何も言わずに聞いてくれた。こういう時にローゼリア達に話す事が出来ればいいのだが……男として情けない。

 

「と言った事情だ」

『そうか……(ふむ。やはり干渉してきたか。早々に私の呪いを除去したのが切っ掛けだろうが……話すべきか。呪いとイシュメルガの悪意について)』

「本当に情けないな。支えてくれる人が近くにいるのに俺は頼れない。最低な男だよ。ある意味ではローゼリア達を信頼してない証だ」

『……(ヴィクトリアの悪い所が出ているな。1人で抱え込む悪い癖が)』

「どうしたらいいと思う?」

『ふむ……』

 

 エル・プラドーは俺の顔を見つめてくる。暫く視線を合わせた後に後ろに視線を向ける。そこで背後に誰かがいる事に気付き振り返る。背後にいたのは大切な人(ローゼリア)だった。

 

「どうかしたか?」

「リアンヌに背中を押されての。しかし珍しいな。エル・プラドーに相談とは」

「彼より自分にして欲しいって言ってるよな?」

「分かっておるではないか」

 

 さーてどうしようか。素直に話すべきか否か。そもそもローゼリアが知っているはずがない……とは言い切れないのが悔しい。この秘密主義は絶対何か知ってる。

 

「ルーチェの反抗期。どう接しようか考えてる」

「今回ばかりはお互い様じゃろ」

「だな。シリウスがいてくれて助かったよ」

 

 上手く誤魔化す。あぁ、これが俺の短所か。分かっていても変える事が出来ない。

 

「だから大丈夫だ。気にするな」

「分かった。折角だしこのまま散歩でもするか。気が晴れるぞ」

「え?」

 

 ローゼリアが右腕に抱き付きそのまま回廊へと転移。ズルズルと引きずられて向かったのは一本の幻想的な樹。高さは15アージュ程だろうか。

 

「これは……霊力を吸って成長しているのか」

「そうじゃ。ルーチェが植えた物での。僅か3年でここまで成長しよった」

 

 それは凄いな。それにしては成長し過ぎな気がする。大丈夫だと思いたいが何かあればローゼリアが何とかするだろう。

 

「ちなみにこの樹に込められた霊力は使用可能じゃぞ。いざとなれば騎神に使う……というか定期的に使わんと周りに影響が出る」

「おいおい……」

 

 そんな危ない物を植えさせるなよ。全力で言いたいのだがルーチェも何か考えがあっての事だろう。しかしこの樹。随分霊力を溜め込んでいるな。

 

「少し貰うとかアリか?」

「まぁ。少しぐらいなら」

 

 ガランシャールを取り出し樹に向けると、ガランシャールと樹が淡く光る。そして樹から光が溢れ出てガランシャールに吸収され、刀身が黄金色に変化する。

 

「……なんか変わったな」

「……じゃの」

 

 2人揃って変化に驚くが樹に変化はない。ガランシャールに吸収された霊力は本の一部の様だ。それでも途轍もない力が宿っている訳だが。

 

「シリウス相手に試し斬りするか」

「その前にもう少し歩くぞ」

「お、おい」

 

 再び引っ張られる。今日のローゼリアはいつもより積極的な気がする。何だろう。少し懐かしいというか久しぶりの感覚だ。この感覚はローゼリアと旅をしていた時以来か。

 

「ふむ。この辺りでよいか」

「ん?」

 

 ローゼリアは草原に座り、自身の膝を2回叩く。俺はその場から逃げようと試みるが、ローゼリアは呪文を唱えてゆっくりと引き寄せてくる。

 

「ちょ!」

「こっちに来い!」

 

 そのまま何も出来ず強制的に膝枕をされる。この状況下でよくこんなことが出来る。彼女なりの気遣いなのかもしれないが、出来れば今は控えて欲しい。

 

「あまり気負うな。貯め過ぎは良くない」

「何も貯めてない。この二年が濃かったのは認めるが」

「ふふ。思ったよりヌシの名が広まっておったの。妾としてはとても嬉しい」

 

 嬉しそうに微笑むローゼリア。とても眩しい彼女の笑顔。喜んでいるのが良く分かる。彼女の言う通り、俺の剣を求めて接触してくる連中が多かった。大半が他の軍勢を打倒するために。

 

「所でヴィクトリアよ。妾は何時まで待てばよい?」

「待てばって……あぁ。えっと……」

 

 意味に気付いた俺は口ごもってしまう。その代わりに心臓の鼓動が早まっていく。さてどうするか。

 

「妾から色んな初めてを奪っておきながら証を示さんのか?」

「……いつになく積極的だな」

「悪いか?」

「いや……まぁ」

 

 答えにくい質問を。完璧に主導権を握られている。男としてどうするべきか。俺とローゼリアの生きる年数を考えると待たせすぎるのは良くないか。

 

「この戦争が終わったらでいいか?」

「……遅い。死んだらどうする?」

「死なない。誰が俺を殺す?例え≪緋≫が魔王に昇華しても負けない。俺は≪光の剣士≫闇には負けないさ」

 

 右腕を伸ばしローゼリアの頬に触れる。優しく撫でていると、彼女は瞼を閉じて顔を近づけてくる。俺は右腕を頭に回し顔を近づけて唇を重ねる。

 

「あれ?ちょっと甘い?」

「むっ。甘い物を食べたからか」

「甘い物ね……太るぞ」

「……ほぅ。女にそのような事を言うとはな。後で覚悟しておけ。簡単には寝かさん」

「明日に影響出ないように。起こさないからな」

 

 釘を刺してからもう一度唇を重ね、1時間程話をしてからアトリエへと戻るのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「今日も問題は無いか……」

 

 右薬指に嵌めている指輪に光を送る。特に異常はなく安堵の息を漏らすと、隣で寝ていたローゼリアが目を覚ます。

 

「んっ……どうした?」

「済まない。起こしたか」

 

 掛け布団で体を隠しながら状態を起こし、体を預けてくる。俺は優しく頭を撫でつつ指輪に異常が無いかを調べていたと説明。それを聞いたローゼリアは指輪に触れて霊力を流す。

 

「確かに問題は無さそうじゃの。せめて正体さえ分かればよいのだが」

「そうだな」

 

 この指輪の正体はまだ分かっていない。教会に聞けたらいいのだが、色々と事情があるらしく聞けずじまい。危険な物では無い事だけでも分かっているからいいか。

 

「しかし、おヌシは色んな存在に好かれるの。妾を含めアーティファクトに騎神。一体何に惹かれているのやら」

「本当だよ。こんな剣しか取り柄の無い男の何処に惹かれたか」

「それ以外にも良い所はあるじゃろうが!」

「おっと!」

 

 体に抱き着き寝かしてくるローゼリア。互いの体が密着し、体温と感触を強く感じ、心臓が強く高鳴る。それはローゼリアも同じなのか、数分前より頬が赤く体が熱かった。

 

「さっきより熱くないか?」

「まだ足りんのかもな?体は正直と言うじゃろう?」

「流石に無理。あれだけ霊力……等吸い取ったら十分だろう」

 

 優しく頬を撫でて唇を重ねる。少しずつだが今の関係にも慣れてきている。色々と他にもやる事はあるが、それはこの戦いが終わってから。その為にも……。

 

(この帝国の闇を黄金の光で照らしてみせる。それが俺のやるべきことだ)

 

 心の中で誓い、改めて覚悟を決めた。

 

 



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第21話

ー絶技・光凰剣!

 

ー光の太刀・光翼!

 

 光の翼を纏った一撃がぶつかる。その衝撃波が周囲に響き渡り旋風を巻き起こす。暫く鍔迫り合いと闘気による読み合いを続けた後、シリウスから先に動く。

 

「ふっ!」

「……!」

 

 一瞬力が入り押し返そうとしてきたのを体が勝手に動いて、刀を受け流しつつ背中を蹴り飛ばす。シリウスは空中で回転し着地。

 

「いい受け身だ」

「よく言うぜ」

 

 長刀を両手で握り急接近するシリウス。俺は様子見でガランシャールを横振りするとシリウスは急停止してから跳躍。剣先を向け乍ら重力を生かした高速の剣撃を放つ。

 

「光閃牙!」

 

 剣撃を避けシリウスを一刀両断するが、ガランシャールがすり抜ける。その直後に背後から殺気を感じ反転して、背後にいたシリウスを斬るが、再びすり抜ける。

 

(これは……)

 

 迫ってくるシリウスは全て実態のある残像。気配の類がきちんとある。これは厄介だな。さて、どう対処するか。

 

(本物を見切る方が早いが……)

「行け!」

 

 今度は斬撃。右に避けて、先にいたもう1人のシリウスに斬撃を放つ。その隙を狙ってか、死角から長刀が迫ってくる。それを右腕で止めて上空へ投げ飛ばす。

 

「ここだ!」

「ん?」

 

 シリウスの表情が変わった瞬間。周りから複数の殺気に襲われる。周囲を見ると、8人のシリウスが俺を囲んでいた。

 

「ほぅ……」

「行くぞ!奥義・光翼連斬!」

 

 上空にいるシリウスを含めて同時に迫ってくる。タイミングはほぼ同時。避けるのは至難だろう。ならば……

 

「いい技だシリウス。だが詰めが甘い」

 

 光をガランシャールに纏い地面に突き刺して周囲に衝撃波を放つ。迫っていたシリウスは皆消え去り、本体は片膝を付く。そこで立ち合いを務めていたリアンヌが手を上げる。

 

「そこまで!」

「……くそぅ。駄目だったか」

 

 悔しそうに長刀を鞘に戻すシリウス。その彼にルーチェが近づいて手を差し出す。以前はあのような事を全くしなかったのに。良いぞ、その調子で親交を深めて欲しい所だと俺は思っている。ローゼリアは思っていないみたいだが。

 

「あの小僧……妾の可愛い娘に手を出しよって……」

(またか……)

 

 禍々しい炎を纏うローゼリア。見慣れた光景だから何も言わない。リアンヌも微笑みながら見ているしいいか。このまま何事も無ければいいのだが……

 

「ヴィクトリア!」

「ん?」

「おや?」

 

 走りながら大きな声で呼んでくるレイヤ。どこか様子がおかしい。焦っていて慌てている。まずは落ち着かせよう。

 

「落ち着入れレイ。深呼吸」

「っ。ごめん。ふぅぅぅ」

 

 大きく深呼吸をし、自身を落ち着かせるレイヤ。左胸に手を置いて確認をしてから言った。

 

「オルディスがグンナルとアルベルト達に占領された。お父様は人質に、お母様と弟は地下道に幽閉されて、どうしよう」

「……あの2人は≪在野の魔女≫と共に魔煌兵を従えていたな。街の状況は?」

「分からない。だから……行こうと思う」

「……1人は無謀だ。少し待ってろ」

 

 ルーチェ達の元に向かい事情を説明。2人は小さく頷きレイヤの元に向かう。その後にリアンヌに視線を送り、彼女は城の方へと向かっていく。

 

「妾も行こう。協力している魔女達に話がある」

「君は残れ。俺達だけで十分だ」

「何を言っておる。魔煌兵の中には厄介な物もいるのじゃぞ。下手をすれば騎神より強い奴が」

「だからこそだ。俺達だけでいい。人が起こした問題は人の手で蹴りを付ける」

「じゃが……」

 

 腕を組み不満そうな表情を浮かべるローゼリア。こうなったら引き下がらないな。長年の付き合いか大体分かる。だが今回ばかりは我々に任せて貰おう。

 

「今回は折れてくれ。大丈夫」

「……分かった。その代わり」

 

 人差し指を俺の左胸に当てる。少し嫌な感じがした瞬間に、何かが撃ち込まれる。

 

「これでよい。おヌシの身に何かがあれば妾にも伝わるようにしている。無茶はするな」

「……おぅ」

 

 色々と縛られてしまった。女の尻に敷かれるとはこの事か。まぁいい。ひとまず準備をしてオルディスに向かおう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 準備を済ませてオルディスの近くに来た俺達。ここからだと街の様子は伺えそうになく、街の中に入るしかなさそうだ。なので俺とレイヤ。ルーチェとシリウスのペアで行動することに。俺とレイヤはヘブン伯の救出。ルーチェ達はおば様とレイヤの弟の救出だ。

 先にルーチェ達が行き、30分程経ってから俺達はオルディスへと潜入。オルディス内は出入りこそ制限しているが、目立った民家の崩壊はなく、人も多い。魔煌兵が在住している訳でもなく、帰って不気味だった。

 

「どう思う?」

「冗談抜きで罠。そして俺達は罠に掛かりに行く」

「覚悟決めるかぁ……」

 

 覚悟を決めて向かうのはオルディスの地下水道に続く扉。鍵を開けて中に入り地下へと降りていく。中は薄暗いが魔獣はいない。先に行ったルーチェ達が一網打尽にした様だ。

 

「屋敷への地下はこの先か」

「うん。行き止まりを右。牢屋は左だね」

 

 レイヤの案内通りに進んで行くと広い空間に出る。その先に、上へと続く階段がある。周囲を警戒しながら進もうとしていると、目の前に転移陣が現れ、巨漢の男が姿を現す。

 

「やっぱり来たな≪光の剣士≫」

「……」

「ん?分かってたんだろ?罠だって事ぐらいは。因みに向こうは協力してくれてる魔女が魔煌兵と共に待ってるぜ」

「ま、魔煌兵!?ヴィクト、すぐに戻ろう」

「無理だな。この位置は奴の間合いだ」

 

 距離にして10アージュ程。獲物は持っていない所を見ると素手……東方の体術使いか?。分からないがこいつは厄介だな。

 

「間合いって……素手みたいだけど」

「気付くか。なら分かるよな?」

「……下がってろ。アイツの相手は俺だ」

 

 ガランシャールを取り出すと同時に、男は炎の如き闘気を纏う。周囲の空気が揺れ振動。目の前にいる男は間違いなく、リアンヌを除いて一番強い使い手だ。

 

「拳闘士ドリュー。いざ参る!」

 

 地面に拳を突き出すと同時に、足元から炎をが飛び出してくる。すぐに後ろに回避し次撃に備えていると、目の前にいたはずのドリューがいなかった。

 

(何処に行った。気配も……はっ!)

「後ろ。空いてるぜ」

 

 背後からの殺気と同時に振り返るが、彼の右拳が目と鼻の先。右腕を割り込ませて防いだ瞬間だった。

 

 

ーボキッ!

 

 

「ぐっぅ!」

 

 痛々しい音と同時に激痛が走る。鎧の上から完璧に右腕をへし折られてしまった。距離を取るべくガランシャールを振り、後ろに引かせて距離を取る。その後に右腕を見ると、肘から下がぶら下がっている。これは粉砕しているな。

 

「まずは右腕。貰ったぞ」

「やるじゃないか。だが……」

 

 纏っていた鎧を転位させ、異能で光の棒を生み出し右腕を固定。上から光で覆い応急処置。と言ってもこの戦いでは使い物にならないが。

 

「へぇ。面白い能力だな」

「便利だろ?次はこっちからだ」

 

 黄金の闘気を開放。ガランシャールにも纏い、間合いを詰めつつ剣を振るう。彼もまた右拳を繰り出し激突。その際の衝撃波が周囲に響き渡る。

 

「重い剣だな。んなもんよく片腕で扱える」

「知り合いにはランスを片腕で扱う女がいるぞ」

 

 一歩踏み出して薙ぎ払い、ドリューはすぐに反撃。互いに譲らず、隙を伺う攻防を続ける事数十手。少し距離が離れた時に、ドリューは拳を突き出し気弾の様な物を放ってくる。

 

「飛び技か」

 

 それを斬り伏せると、死角から蹴りが迫ってくる。ガランシャールを逆手に持ち替え柄で叩き落としつつ蹴り飛ばすが、ドリューは体勢を立て直し、炎を纏った一撃を繰り出してくる。

 

「フレイムインパクト!」

「ちぃっ!」

 

 下に受け流し、彼の拳は地面に突き刺さる。好機だと判断し、大技を放とうとするが、足元から炎の波が噴出して襲ってくる。

 

「またか!(だが間合いとカラクリは分かって来た。これは東方の体術。確か気を操る武術があると聞いた。これは……)」

 

 噂で聞いた体術に当てはまる。気を操るなどをして体の内側を破壊する。一発一発は大した事がないように見えても、破壊力は凄まじい。それこそ上限が無いだろう。右腕を鎧ごと粉砕したのがその証だ。

 

(ならばやりようはある)

「っ!」

 

 ほんの一瞬ドリューが停まる。何かを感じ取ったようだが、すぐに切り替え怒涛の連撃を放ってくる。このまま長期戦は厳しい。次の一撃で決めて見せる。その為にも……。

 

「心気開放。我が光によって打ち砕く!」

(何だ……?)

 

 異能を開放し、黄金の光を身とガランシャールに纏い、至境の一撃を解き放つ!

 

「神技・光凰剣!」

「なっーーー!」

 

 俺の光に目を奪われていたドリューは、我が一撃を避けることが出来ず飲み込まれる。背後の壁に全身を強く打ち付けた彼は、少し笑ってから気を失った。

 

「ふぅ……。きっつー……」

 

 ゆっくりと後ろに倒れ光が四散していく。霊力の4割ほど消耗。右腕の事も含めて帰ったらローゼリアの説教だな……。

 

「よっと……」

「おぅ……?」

 

 地面に倒れる手前でレイヤが受け止めてくれる。後頭部に柔らかい物が当たっているが気にしないでおこう。今はそんな事を考えている余裕はない。

 

「お疲れ様、愛しの君。腕は大丈夫?ブラブラしてるけど?」

「大丈夫に見えるか?めっちゃ痛い」

「だろうね。少し休もう」

 

 ゆっくりと座り、膝枕をしながら右腕の治療を始めるレイヤ。ほんの少しだけ今は休もう。だが……この時俺達はまだ知らない。先に向かったルーチェ達が絶体絶命の窮地に陥っている事を……。



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第22話

前半ヴィクトリア。後半レイヤ視点です。


 ドリューとの戦いの後、少し休憩した後に俺達は屋敷へと潜入。屋敷の中には誰も居らず、どうぞ自由にお通り下さいと言っているようだった。そのため俺達は誰にも邪魔されずにヘヴン伯のいる部屋の前へとたどり着いた。

 

「気配は二つ。その内の1つはグンナルか」

「……行くよ相棒」

 

 右腰に携えている騎士剣を抜き勢いよく扉を開けて中に入るレイヤ。遅れて中に入り状況を確認。部屋の中ではヘヴン伯は椅子に座り、グンナルは紅茶を飲みながら窓の外を見ていた。

 

「……随分余裕だな皇子」

「ふっ……」

 

 笑いながら振り返るグンナル。随分と余裕な笑みが気になるが今は良いだろう。正直何も無いのは不気味だ。

 

「久しいな。君の名は耳に入っている」

「そうか。ヘヴン伯は……成程。ルキウスたちと一緒か」

「それって……父様?」

 

 ヘヴン伯を見るレイヤ。ヘヴン伯は何も言わずに目を閉じる。その瞬間にレイヤは彼の首元を掴み、声を荒げて言った。

 

「ヴィクトを売ったね父様!!」

「……オルディスを守るためだ」

「だからと言ってヴィクトは関係ない!ボクならまだしも!」

「……関係ないか。2体の騎神を退けるほどの力があるのにか?」

「それは……」

 

 あの話はもう耳に入っているのか。この人も俺の力を欲する。何の為かは……この状況だ、大体は察する。

 

「さて、こちらも話をしようヴィクトリア。まずは……」

「ん?」

 

 グンナルが指を鳴らすと、壁に結界が現れ何かが映し出される。これはローゼリアも使う転写か。しかしどうして……ん?

 

「あれは……青い魔煌兵……?その前にいるのは……っ!」

「ルーチェに……シリウス?」

 

 青い魔煌兵の前にいるのは、傷だらけのルーチェとシリウス。その背後にはレイヤの母と弟がいた。あの2人が苦戦する魔煌兵。アレは確か……イスラ・ザミエルか。

 

「ヴィクトリア・アルゼイド。帝都解放のために力を貸せ。あの2人の命が惜しければな」

「……脅しか?あまり俺の子を舐めるなよ」

「大した自信だな。どうだ魔女殿?」

 

 イスラ・ザミエルの傍にいた魔女に訪ねるグンナル。魔女はルーチェ達を交互に見てから、こちらに振り向き、俺の顔を見ながら言った。

 

『グンナル様。そちらの≪光の剣士≫様は金の起動者です。この2人は準起動者。恐らくレイヤ様も』

「なん……だと?それは真か?」

『はい。2人から黄金の加護を感じます。特にローゼリア様の教え子からは特に強く』

「……」

 

 俺の秘密を簡単にばらされてしまう。≪在野の魔女≫だからと言って甘く見過ぎたか。さて……どうしようか。

 

「ふっ……好都合だ。選べヴィクトリア。子を見殺しにするか騎神を渡すか」

「……そう来るよな」

 

 その2択は分かっていた。どちらかを捨てなければならない選択肢。ルーチェとシリウスを見殺しに出来ないし相棒も渡すことは出来ない。この状況を乗り切るにはどうすればいいんだ。

 

(くそ。出来れば両方守りたい。けど今の俺には……)

 

 

ー力ならある。今はまだ目覚めていないだけだエレボスの守護者。

 

 

(え……?)

 

 脳裏に響く声。気付けば見知らぬ空間にいて、目の前に淡い光がある。さっきの声はこの光からか?知らない筈なのに覚えがある。知っているのは俺の魂か。一体誰だろう?知らないのに何故か信用できる。

 

 

ー自分の思うがままに力を奮え。君は歩みを止めてはならない。≪彼≫とローゼリアは必ず力になってくれる。

 

 

(ローゼリア……だと?)

 

 声が言った事に驚きを隠せない。≪彼≫とローゼリア。どうしてこの二つが出て来たのか。そして、この二つの正体が分かる自分が分からない。

 

(君は……誰だ?)

 

 

ーん?ローゼリアから聞いてないのか?俺は……いや、こればかりは自分で目覚めて貰おうか。≪イシュメルガの悪意≫が君に干渉してきた以上は自然と目覚める。後は相棒が上手くやってくれるさ。

 

 

(相棒って誰!?それに悪意って……)

 

 

ー今に分かる。君は今のエレボスを守るために出来る事をするんだ。少しずつ自身の真実に近づいて行けばいい。

 

 

(真実って何だ!?君何を知っている!?)

 

 力強く問いかけるが返事はなく、周囲の景色が部屋に戻る。あの声が非常に気になるが今はいい。あの声を信じて、今は目の前で起きている事に集中だ。

 

「どうする≪光の剣士≫!」

「どうもしない!俺は、俺の心が命ずるままに、己が正義を貫くために力を奮う。だから!」

 

 力強く左手を握ると、淡い光が全身を包み、折れていた右腕が修復され、体の内側から力が沸き上がり満たしていく。これならこの状況を打破できる!

 

「行くぞエル・プラドー!」

『応っっっ!』

 

 力強い呼応と同時に、エル・プラドーがイスラ・ザミエル前に姿を現す。圧倒的な姿を見たグンナルは、思わず歓喜の声を上げると同時に、部屋の中に複数の兵士を呼ぶ。

 

「……行かせないつもりだろうが」

「甘いよグンナル皇子。ここは任せて行って相棒」

「あぁ!頼んだ!」

 

 この場をレイヤに任せてエル・プラドーの操縦席へと転移した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーレイヤsideー

 

 

「さてと、君達の相手はボク。これ以上オルディスで好きにはさせない」

 

 右腰に携えている騎士剣を抜き兵士に向ける。数は20人程。数は多いけど練度は大したことは無い。というか、リアンヌやヴィクトリアに鍛えられているからこの程度は簡単に蹴散らさないと。

 

「剣を降ろせレイヤ。お前をそんな風に育てた覚えはない。素直に降伏しろ」

「無理だね父様。ボクはヴィクトの味方だから」

「剣しか取り柄の無い男の何処がいい?あれほどの力を持った人間は危険だ。オルトロス皇子と変わらない」

「全然違う。彼は私欲で力を奮わない。エル・プラドーだって本当の窮地にならない限りは頼らなかった。頼っても殆どはボク達家族を守るため。むやみやたらに振るったりはしないさ」

 

 力強く父様に言う。でもあの人には届かないし、どうしてヴィクトリアを売ったのかも分かる。みんな、考えている事は同じ。それぞれ自分の正義と覚悟があるから譲れない。それでぶつかるのは仕方が無い事だ。でも……。

 

「残念だよ父様。家族を売って、ボクの大切な人達を売ってでもオルディスを守るなんて」

「お前に何が分かる!」

「ボクには分かる。どんな手を使ってでも大切な物を守りたい気持ちは。でも父様。貴方は心の中で自分さえ生き残ればいいと考えている。他の皇子もそうだ。だけどヴィクトリアは違う」

 

 ボクは知っている。いつも彼は自分よりも誰かを優先し、手を差し伸べる。もっと我儘言って振り回せばいいのに、何時も自分の事は後回し。最終的には貧乏くじ引く大馬鹿者。だからこそ彼の生き方に惚れて好きになったんだけど。2番目でもいいと思えるぐらいに。

 

「アイツはただの馬鹿。自分の事を後回しにしてボク達を優先する馬鹿。その馬鹿に惚れたボクも馬鹿だけど」

「なら縁を切ればいい。あのような男に付いて行く気が知れん」

「何時か分かるよ。彼はボクを変えてくれた。彼には何かを変える力がある」

「無理だな。1人の人間に出来ることは限られている。諦めるのも大事だ」

 

 父様の言う通りかも知れない。だけどあの時。ヴィクトリアと会って必死に頼んだあの時、彼は言った。

 

 

ーま。何とかなるだろ。ひとまず一緒に逃避行を楽しもうぜ。だけど追っ手が来るまでにきちんと言い訳考えろよ。

 

 

ー無理だよ!絶対に捕まって無理矢理連れ戻される!

 

 

ーだから諦めるのか?箱入り娘が嫌で俺に会いたいから飛び出したんだろ?初めて自分でやりたい事を見つけたんだ。だったら立ち止まるな。前だけ見てろ。最後まで貫け。あと弱音吐くな。俺の手の届く所にいる間は守ってやる。その代わり、さっき言った事を守らなかった時点で置いて行くからな。

 

 

 今でも覚えている。正直に言って最悪な出会いだっただろう。でも彼は何も言わずに話を聞いて、一緒に連れて行くと言ってくれて。諦めかけていたボクの背中を押してくれた。あの時に勇気を出して会いに行かなかったら今のボクはいなかったし、多くの大切な()とも出会わなかった。

 

(諦めの悪さは彼譲りかなぁ)

 

 自然とニヤケてしまう。最後まで諦めなければ光を見いだせる。どんな絶望的な状況でも。だから……。

 

「さぁ来い!諦めの悪さは相棒以上だよ!」

 

 

 

 

 




少し独自設定入れました。詳細は話の中で。


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第23話

「準備はいいなエル・プラドー」

『うむ。いつでも構わない』

 

 エル・プラドーの返事に小さく頷く。いつもながら頼りになる。相手は魔煌兵の中でも3本の指に入る強者。だが負ける気がしない。今ならば騎神のもう一段階進化させても問題なさそうだ。

 

「最初から全開で行く。状況によればアレも試すぞ」

『よかろう。ただし継続できる時間は……ん?』

「どうした?」

 

 何かに気が付いたエル・プラドー。そういえば今日は妙に一体感があるな。少し懐かしい気もする。内から湧き出てくる力と関係しているのか?

 

『ふふ……そうか。ようやくか……』

「何が?」

『あぁ気にするな。今は目の前の敵に集中だ』

「分かってる」

 

 心を落ち着かせて魔煌兵と向かい合う。リアンヌとの稽古で何度もこの場所に座っているがまだ慣れないが不安はない。やるべきことは体が分かっている。

 

「さぁ行くぞ」

 

 黄金の剣を強く握り一歩踏み出しながら振り下ろす。イスラ・ザミエルは右腕2本で受け止めてから左腕で反撃。こちらも左腕で受け流し、胴体に一撃。イスラ・ザミエルの体勢が崩れたのを逃さない。

 

「そこだ!」

 

 さらに体勢を崩すために剣の柄で胴体の中心を突き、一撃を叩きこむ。イスラ・ザミエルは3歩ほど下がるが膝は付かない。

 

「硬いな」

『在野の魔女の加護も受けているからだろう。油断は……そなたには不要か』

「当たり前だ。だが長期戦は場所の事もあるから出来ん。一気に決めるぞ」

 

 黄金の闘気を開放し、騎神と完全に同調させる。それにより一時的だがエル・プラドーはもう一段階上へと進化し姿が変わる。少し細身のフレームとなり、腰から白亜の翼が現れる。

 

「騎神一体。光の一撃にて斬り伏せる」

 

 剣に光を纏い十字に斬る。イスラ・ザミエルは淡い光を放ちながら消えていき、エル・プラドーは元の姿に戻る。俺は安堵の息を漏らしつつ操縦席から降りて片膝を付く。

 

「ふぅ……結構きついな。霊力の消費が多すぎる。俺もまだまだか」

『そんなことは無い。まだ目覚めた力に慣れていないだけだ』

「あー。あの淡い光か。そういえば妙な青年を見たな」

『……。(そうか。後もう少しで完全に目覚める。後は『彼』の魂と力を託すだけか)

 

 しかしあの青年は誰だろうか。妙に他人な気がしないのだが……と。今は考えないでおこう。まずは彼女達の無事を確かめないと。

 

「大丈夫か?」

「あぁ。俺は大丈夫だがルーチェが……」

「……ごめんなさい。私は……」

 

 少しだけ目に涙を浮かべるルーチェ。その理由は分かる。自分の力の無さを責めているのだろう。俺は優しくルーチェの頭を撫でて言った。

 

「泣くなルーチェ。俺が来るまで諦めなかった。大事な事は分かっている。だから二人を守れたんだ」

「でも。私達を信じて大きな役目を託して貰ったのに、結局はお父さんとエル・プラドーの力に助けられてしまった」

「それがどうした?俺は二人の父親だぞ。助けて当然だ。例え血が繋がっていなくても。だから泣かない。泣くのは嬉しい時だけにしてくれ」

「……はい」

 

 服の袖で涙を拭ってからシリウスの元へと向かい、傷の治療をしてからおば様の元へ。そちらの方は任せようか。問題はレイヤの方。急ぎ戻るとしようか。

 

「エル・プラドー。俺はレイの元に戻る。この場は任せたぞ」

『承知。後で連絡する』

 

 この場を任せてから部屋の前に転移。ガランシャールを取り出して戸を開けると、中は大量の兵士が倒れており、その中心にレイヤがいる。グンナルがいない所を見ると撤退したか。

 

「大丈夫かレイ?」

「うん。全員片付けた。グンナル皇子とその他はオルディスから完全に撤退。後は……」

 

 ヘブン伯に視線を向ける。俺は壁に背を預けて2人の会話に耳を傾ける。どうしてこうなったのか?俺達をおびき出した本当の理由。彼はゆっくりと話し始めた。

 

「思いは皆同じだ。オルディスを守るのにお前達の力が必要だった。そんな時に……」

「皇子達は来た」

「あぁ。そこでヴィクトリアとその友が2体の騎神を退けたと聞いた。人智を超え、魔煌兵を簡単に倒す騎士。それを人の身で簡単に退けてしまう」

「だからって……それに簡単にヴィクトリア達は退けていない。帰って来た時傷だらけだったんだから」

 

 それほど傷は負っていないのだが……。霊力の消費と言う意味では傷だらけだけど。しかし……ヘブン伯が俺達をおびき出したのは、あくまでもオルディスを守るため。気持ちは分かるが。

 

「だったら普通に頼めばいいでしょう?」

「時には必要なのだ」

「だからと言って!」

「レイヤ!」

「っ!」

 

 手を上げようとするレイヤを止める。ヒートアップするのは構わないが心は冷静でいて欲しい。

 

「人の家族問題に割って入るのは趣味ではないがヘヴン伯。貴方の想いは分かりました。グンナルが去りオルディスは中立。暫くは手を出してこないでしょう。貴方はこの地の中立を保ってください」

「無理だ。出来ればそうしている」

「……そうですか。なら私は何も言いません。あくまでもオルディスの問題ですから。行くぞレイ」

「ちょっと!」

 

 部屋を出て早足で屋敷を出る。そのままルーチェ達と合流しようとしたが、背後からレイヤに抱き着かれ足が止まる。

 

「どうした?」

「……怒ってる?父様の事?」

「怒っていない。彼の気持ちも分かるさ。けど……諦めたらそこで終わりだ。こんな状況だからこそ諦めて立ち止まるわけにはいかない。俺は……止まるわけにはいかない。彼女との約束(・・・・・・)を果たすためにも」

「彼女との約束ってロゼとの?」

「あぁ。ロゼと……ん?俺は今なんて言った?約束って言ったのか?」

「……言ったけど?」

 

 約束って何だ?ローゼリアと大事な約束をした記憶はない。なのに何でだろう?大切な何かを忘れている気がする。もしかして熱でもあるのか?どうもあの青年を見てからおかしいな。

 

「大丈夫ヴィクトリア?少し変だよ。ちょっといつもと違うというか……」

「いつもと違うか……なら」

「ふぇ!?」

 

 レイヤの方へと振り返り彼女の頬に手を添える。決して疚しい事をするつもりでは無いので誤解しないで欲しい。

 

「ど、どうしたのヴィクトリア?だ、ダメだよ?いくら私は2番目でも良いって思っていても、流石に一線超えるのは……せめて頬にして欲しいかなぁ……唇は日が沈んだ後で……」

「おいこら!」

 

 頬赤く染めながらさり気無く問題発言したレイヤにデコピンする。全く……油断も隙も無い。最近はマシだったのに。ま、酒を飲んで泥酔するよりマシか。

 

「で。どう違う?」

「んー……。中身かな?ロゼに近い気がする」

「あの不老不死の魔女聖獣にか?」

「……ねぇ、一応嫁さんだよね?そんなこと言ったら赤雷が落ちてくるよ?」

「まだ結婚してないぞー」

 

 レイヤの右頬を引っ張りながら反論。彼女とはまだそこまでの関係に行っていない(まだ勇気が出ないだけ)。いい加減そろそろ決めないとな。

 

「取り合えずレグラムに帰ろう。俺の身に何かあったのかも知れないし」

「……だね。その前に……ん」

 

 軽く触れるように右頬に口付けするレイヤ。あぁ……色んな意味でおかしいと思いつつルーチェ達と合流してレグラムに帰るのであった。

 

 



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第24話

 オルディスの一件の次の日。俺は屋敷の庭でガランシャールを磨いている。近くではローゼリアがルーチェと魔術の鍛錬をしており、新しく編み出した魔術を見せている。シリウスはリアンヌと鍛錬でレイヤはお菓子を作っていて、今日は珍しく何も無い日。近くで魔獣が現れたり、大きな戦闘も無いのでゆっくりと過ごしている。

 

「ふぅ。こんな所か」

 

 刀身が太陽の光で反射して金色の輝く。今日は天気もいい。日向ぼっこや散歩には丁度いい。後昼寝も。

 

「ふわぁ……眠い……」

「なら膝枕してあげるよっと」

「うぉっと」

 

 背後からレイヤが抱きしめてくる。完全に気を抜いていたので倒れそうになるが何とか耐える。ガランシャールを地面に突き刺してから拘束を解く。

 

「こーら。いきなり抱きしめない」

「いいじゃない。隙だらけだったから。で?どうする?」

「結構です」

 

 きっぱりと断ってから座ると、レイヤはプクっと頬を膨らます。それを遠目から見ていたのか、ローゼリアとルーチェが近づいてくる。

 

「妾の目を盗んで何をしようとしておる?」

「膝枕。ヴィクトが眠そうだったから」

「そうか。ならば妾が……」

「いえ。今日は私が」

「いやいやボクがするよ」

(ヤな予感……)

 

 目の前で女性3人の火花が散っている。嫌な予感がとてもするので去ろうとするが、ローゼリアが瞬時に結界を貼る。どうやら俺を逃がさないようで逆に入ってくることは出来るようだ。

 

「時にヴィクトリアよ。誰の膝枕がいい?」

「いや、俺は部屋に戻って……」

「それなら抱き枕になってあげる。最近はロゼに取られているし」

「む。それなら娘である私がなります。レイさんは下がっていてください」

「おい、人の話を……」

「おヌシは黙っておれ」

「は、はい……」

 

 あぁ。誰でもいいから助けに来て欲しい。リアンヌでもいいしシオンでもいい。誰か俺をこの修羅場から救い出して欲しい。

 

「なら決めようよ。誰がヴィクトリアを自分の物に出来るか!」

「ほぅ。既に一線を越えている妾に勝てるとでも?」

「私だって負けませんよ!レイさんは兎も角、お母さんと同じぐらいお父さんの傍に居ますから!」

(凄い醜い争いな気がする……)

 

 少し呆れていると、結界内にリアンヌとシオンが入ってくる。2人はローゼリアに声を掛けようとするが、火花を散らしている所を見て俺の方に来る。

 

「兄上?かなりの修羅場の様ですが……」

「俺に聞くな」

「ヴィクトリア。理由を説明してください」

「……実はな」

 

 一通り説明。2人は呆れつつも揃って『貴方が決めないから悪い』と言われる。それを聞いた俺は少し怒りながら言ってしまった。

 

「俺はローゼリアが一番好きだ。ルーチェは娘だしレイは相棒。きちんとけじめはつけている。俺の方から手は絶対に出してないし。家族なんだからある程度の甘えは仕方ないだろう?」

「なら早くロゼに指輪を渡しなさい」

「早く父上を安心させてください」

「それが出来たらやってるさ!優柔不断な男で悪かったな!」

 

 珍しく声を荒げて言ってしまう。それがローゼリア達にも聞こえて慌ててこちらに来る。そこでリアンヌ達が来ている事に気付き、何があったのか聞いた。

 

「……という訳です」

「……すまぬヴィクトリアよ。年甲斐も無く醜い争いをしてしもうた」

「ごめんヴィクト……」

「うぅ……ごめんなさい」

 

 揃って謝る女性3人。色々と燃え上がる前に止まってくれて良かった。これで少しはゆっくりできるはず……。

 

「それでヴィクトリアよ。先ほど言った件についてじゃが……」

「え?さっきって……」

「ほれ。指輪がどうこう言っておったじゃろ」

「あっ……そんな事言ってたかな?俺は覚えが……」

 

 

ードカッ!

 

 

「いてぇ!」

 

 背後から手痛い一撃。振り返ると、リアンヌが米神に青筋立てている。隣にいたシオンは距離を取っていた。その気持ちわかるぞ弟よ。

 

「あれ?親父達ここに居たのか」

「シリウス!」

 

 間が悪いのか良いのか。シリウスが結界内に入ってくる。それを見たルーチェは嬉しそうに傍に駆け付け腕を組む。それをローゼリアが見逃す筈が無く、目から光が消え、杖を取り出して近づいていく。

 

「おい小僧。妾の愛娘に何故触れている?」

「え?いや、ルーチェから来たんだけど……」

「知るか。覚悟は良いな?」

 

 魔力を杖に流し戦闘態勢。シリウスはあたふたしながら刀を抜こうとするが、利き腕をルーチェに取られていて抜くことが出来ない。あぁ、今日も平常運転だな。

 

「いつも通りだねヴィクト」

「そうだな。ずっと続けばいいのだが」

「続くと信じよう。だから早くこれ渡す」

 

 コートのポケットに入っている小さな箱に手を置くレイヤ。何が入っているかは想像に任せよう。いつ渡すかは……出来れば早めに決めたいな。

 

「さてと、俺は部屋に戻って昼寝でもするか。彼がここに来るのも近いし」

「1時間程で起こしに行くよ」

「助かる。それじゃ」

 

 屋敷に戻り俺はレイヤが起こしに来るまで昼寝を楽しんだ。起きた時シリウスが酷い有様だったのは別の話し。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーおーい。そろそろ起きなよ。

 

 

(ん……)

 

 聞き覚えのある声が聞こえてくる。ゆっくりと瞼を開けると、強い日差しが襲ってくる。少し眩まれながらも体を起こし周囲を確認。周りは一面木々が生い茂っている。ここは森の中か。おかしい、俺は自分の部屋にいたはず……。

 

「あぁ。やっと起きた。こんな所で寝てたら風邪引くよ」

(今の声は……)

 

 さっきと同じ声が背後から聞こえてくる。振り返った先にはローゼリアに似た女性が、芝生の上で横になっている見覚えのある青年に手を差し出していた。

 

「別にいいだろ?今日はいい天気で昼寝に持ってこいだから」

「良くない。今日こそ……の騎神を見つけるって言ってたじゃない」

「さて?記憶にないな」

「思い出させてあげる」

 

 ニコッと微笑みながら杖を取り出すローゼリア似の女性。青年は慌てて置き上がり身だしなみを整える。

 

「よし。探すぞロゼ。あのチビ猫は?」

「あの子は別行動。で?何処から探すの守護者様?」

「手あたり次第」

「貴方は馬鹿?力の大半と魂を既にエル・プラドーの核に移しているのにそんな事出来る訳?」

「私を誰だと思っている?女神に生み出されたエレボスを見守る存在だぞ」

(これは……)

 

 誰かの記憶か。守護者と言えば先日のオルディスでの出来事を思い出させるが……。それにローゼリアか。俺の知っている彼女ではないという事は先代。確か暗黒竜の時に亡くなったと聞いていたが。

 

「まぁ何とかなるだろう。女神の枷がある以上は安易に介入できないが次の私(・・・)は違う。人から産まれる私は」

「本当にごめんなさい。あんな争いをしたから貴方は……」

「気にするな。止められなかった私に責任がある。だからこそ君と協力しているのだろう?」

「だけど……」

 

 先代ローゼリアが顔を俯かせる。青年は優しく頬に触れて耳元で囁いた。何を言ったのだろう?とても気になって仕方が無い。どうしてだろう?

 

「ん?この気配は……ロゼ。今日はここまでだ」

「どうかした?」

「騎神の気配。こっちは任せておけ」

「分かった。無理はしないでね。何か分かったらすぐに言って頂戴」

「分かった必ず」

 

 小さく頷いてから、青年は姿を消し先代ローゼリアも転移術で去って行く。それと同時に意識が落ちるがすぐに戻る。視界には見慣れた天井が視界に映る。

 

「……俺の部屋」

 

 念のために周囲を見渡すが、案の定自分の部屋。隣にはローゼリアもいるし、両隣の部屋からルーチェ達の気配も感じ取れる。どうやらさっき見ていたのは誰かの記憶が夢になった物の様だ。

 

(今のは一体……?)

「ん……?どうした?」

「大丈夫。少し夢を見ていただけだ」

「ふむ。母に泣きつく夢でも見たか?どれ妾が慰めてやろう」

 

 包み込むように抱きしめてくるローゼリア。何処かとても懐かしい気がする。まるで以前に似たようなことがあったような感じだ。

 

「どうだ?大丈夫か?」

「大丈夫。それに母上に泣きついている夢を見ていたわけではない。君に瓜二つの女性が男性と話している夢を見ただけだ」

「……それは真か?」

「あぁ。オルディスで聞いた声と同じだ。確か君に似た女性から『守護者』と呼ばれていた。俺の事も彼はそう言っていたな」

「……」

 

 口を塞ぐローゼリア。夢で見た彼女と同じ悲しそうな表情だ。心臓の鼓動も何時もより早く、俺は彼女の頬に手を置き、優しく撫でて落ち着かせる。

 

「どうした?」

「何でもない。ただ……」

「ただ?」

「……」

 

 先を言わないローゼリア。もしかするとあまり話したくないのかもしれない。なら聞かないことにしよう。時が来れば話してくれるだろうし。

 

「ま、気にしても仕方ない。明日は早いし寝よう」

「……じゃの。お休み」

「お休み」

 

 優しく頭を撫でてから再び眠りについた。



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第25話

 今日のレグラムは朝から慌ただしかった。理由はいたって簡単。ついにドライケルス達がレグラムに来るからだ。出来る限り正常を保つように伝えているが、特にリアンヌはソワソワしている。何故か薬師の真似をしているし。俺としても彼に接触したいと思っているので、来るであろう酒場で仕事を手伝いながら待っている。

 

「しかしヴィクトリアよ。予想よりも早かったの」

「噂ではロランが死んだらしい。何でもドライケルスを庇ったらしいが」

 

 実に惜しい男を亡くしたものだ。彼の死はドライケルスや仲間達にも大きな影響を与えているだろう。そのタイミングでレグラムに来るの俺達にとっても好都合かもしれない。

 

「で?偉大なる魔女殿は何をしている?」

「おヌシからの贈り物を見ながら酒を飲んでおる」

 

 左手の薬指に嵌められている赤い宝石が付いた指輪を嬉しそうに見ながら酒を飲んでいるローゼリア。男として喜んでいるなら嬉しいが、ローゼリアは事ある度に見ている。理由を聞いても誤魔化され話してはくれない。渡したのは早計だったか。

 

「やっぱり早かったかもしれん。俺と君の関係は後50年程で終わるのに」

「どうじゃろうな。意外と長い付き合いになるかもしれんぞ?」

「その理由を説明してくれ」

「秘密じゃ我が夫」

 

 このようなやり取りを何度も繰り返している。最近になって増えたんだよなぁ秘密主義。ルーチェに怒られるぞこの魔女。

 

「まぁいいが。秘密主義も程々にな。少し出て来る」

 

 酒場の女将に声をかけて、俺はリアンヌのいる診療所へ向かう。彼女は今ここで薬師の1人としてドライケルスを待っている。少しそわそわしているが気にしないでおこう、緊張していないだけマシだ。

 

「リアンヌ。少しいいか?」

「……」

「リアンヌ?どうし……」

「っぅ!!!」

「うぉぅっ!」

 

 いきなり首元にランスを突き出してくる。慌てて後ろに下がり回避し、一大事にはならなかった。あぶねぇ。あと一歩遅かったら女神の元送りだ。

 

「こ、殺す気かリアンヌ?」

「背後に立つあなたが悪い」

「そうかよ……打ち合わせ通りに頼むぞ」

 

 念を押してから診療所を出ると、丁度こちらに向かってくる集団の気配。その一つはドライケルスの気配だ。

 

「んじゃ行くか」

 

 ガランシャールを取り出してレグラムの入口で待ち構える。少し待つと傷ついたドライエルスを筆頭に200人程レグラムに向かってくる。ある程度の距離で殺気を放つと、ドライケルス達は立ち止まる。

 

「何しに来たドライケルス?レグラムに攻め入ろうってか?」

「いや……少し休ませて貰いたいと思っただけだが……君は……ヴィクトリアか。久しいな」

「……ふっ。覚えていたようで何よりだ放蕩皇子。さっきのは冗談だ。お前が来ることは知っていた。準備はしてるからゆっくりしていけ。後お前は先にサンドロット伯の元に行けよ」

 

 一通り場所などを説明してから酒場へと戻ろうとするが、途中でルーチェとレイヤが談笑している所を見つけ、声を掛けようか考えていると、あの2人に気付かれ手を振ってくる。俺も混ざっていいのか分からないが、良い笑顔なので混ざる事にしよう。

 

「何を話してたんだ?」

「ボクの新しい剣。大分ボロボロだからどうしようか考えててね」

「そこでゼムリアストーンで作り直して、レイさんの特性を剣に込めようかと」

「成程。レイの特性となると光の炎を騎士剣に纏うのか。そうなれば刀身が細くても丈夫だ。闘気を纏うことが出来れば尚良い」

「闘気?あの拳闘士が纏っていた奴だよね。光の炎は君からの加護で大丈夫だけど闘気は……」

「修行あるのみ。今からやるか?」

「いいの?ドライケルスの事で大変だと思うけど?」

 

 確かに大変だか、あの様子の彼を俺には何も出来そうにない。今の所はリアンヌに任せよう。どう動くかはアイツに任せているし、俺はドライケルスの背中を蹴り飛ばすぐらいしか出来ないから。

 

「それに今は体を動かしたい。ルーチェはどうする?」

「そうですね。レイさん一人では荷が重そうですし」

「おや?ルーチェこそ追い詰められたら半泣き上目遣いで、ヴィクトを動揺させない?」

「レイさんこそワザと押し倒されてお母さんの目を盗むのでは?」

(……女って怖い)

 

 バチバチと目の前で火花が散っている。こうなったら俺は止められない。ローゼリアでもリアンヌでも。シリウスが来たらルーチェはそちらに惹かれるからいいが。

 

「2人共。いいから修業やるぞ」

「あ、はい」

「了解。今日こそ勝つよ」

 

 レグラム内にある小さな広場に向かう。ここでは毎年リアンヌが街の若者を鍛え上げ叩きのめしている場所。俺もその被害者の1人だ。

 

「さてと、まずは闘気の纏い方だがレイ。闘気を放つことは出来るな?」

「うん。それは簡単」

 

 小さく深呼吸し、真紅の闘気を全身に纏って俺に向けて放つ。ふむ、最近は手合わせしていなかったが、見ない内に腕が上がってる。理……いや、至境に入りつつあるか。

 

「そのまま騎士剣に纏ってみろ。全身に纏うと同じ。ルーチェはが魔法を唱える時に杖に集中させるのと同じだ」

「という事はこんな感じ……」

 

 全身を覆っていた闘気が騎士剣を中心に強くなる。言っただけで出来るとは、やっぱりレイヤは天才だ。潜在能力の底も見えないし、ルーチェと言いシリウスと言い、頼もしい。

 

「うし、その状態で一戦やるぞ。ルーチェはレイのサポート」

「はい。背中は任せて下さいね」

「任せた。それじゃ……」

 

 闘気の上から刀身に光の炎を纏う。ビリビリと空気が少し震える。危うく飲まれそうになるが、逆に闘志に火が付き、俺も闘気を纏う。

 

「さぁ来い」

「行くよ!」

 

 騎士剣を構えて距離と詰めてくるレイヤ。正面から受け止めようとするが、光炎の球体が目の前に現れ瞬時に交代。その先にレイヤが回り込んでおり、騎士剣を振り下ろしてくる。

 それを受け止めると、ガランシャールを光弾が弾き飛ばし体勢を崩してくる。そこをルーチェが逃すことなく、小さな光弾が周囲を覆い、雨のように降り注ぐ。

 

「フォトンスフィア」

 

 光弾を斬り伏せ攻撃に備えていると、光弾の隙間から赤い刀身が現れる。それを防ごうとするが、死角から怒涛の光弾が押し寄せてくる。

 

「ちぃ」

 

 ガランシャールを地面に突き刺し光弾もろとも周囲を吹き飛ばす。

 

「危ない危ないっと」

 

 少しヒヤリとしたがいい経験だ。何故かルーチェとレイヤから何か言いたそうな視線を向けられているが気にしない。

 

「ここまでにしようヴィクト。一旦休憩」

「そうですね。私もお腹すきましたし、お父さんの奢りで食べに行きましょう」

「分かった。行こうか」

 

 2人と共に宿へと戻るのであった。



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第26話

 暗く静けまった夜。皆が寝たのを確認してから湖畔へと足を運んでいた。

 

「少し冷えるか。それなのにあのバカは……」

 

 1人の男が先客出来ている。ドライケルスだ。背中を見てもかなり覇気がないのが分かる。背中蹴っ飛ばしてやろうか。頭が冷えたら少しは立ち直るだろう。

 

「湿気た面してる暇あるのかドライケルス」

「……ヴィクトリアか。こんな時間にどうした?」

「ロゼがやっと離してくれたから散歩。と行きたいが立て」

 

 ガランシャールを取り出してドライケルス向ける。背中を蹴るより剣の方が早い。向けられたドライケルスは、視線を外して湖畔に向ける。こいつは重症だな。

 

「ロランも報われない」

「……!」

 

 ドライケルスが反応する。やっぱりそこか。リアンヌと話をして少しはマシになったと思っていたのだが。これは荒療治が必要か。

 

「アイツはお前を信じて庇って散ったのに、今のお前を見たらどう思うだろうな?俺からすれば無駄死にだ。可哀そうすぎる」

「……何が分かる」

「分かんないな。俺は失いたくないから強くなる。ロランが死んだのはお前が弱いから。違うか?」

「ぐっ……」

 

 言葉が出ないドライケルス。そこは理解しているなら大丈夫だろう。荒療治はしなくても済むか。後は自分次第だろう。

 

「ドライケルス。弱いのが悪いとは言わない。人それぞれ強さは変わる。俺は剣、レイは戦術、リアンヌは武術。お前は自分の強さを磨け。それぐらいは分かるだろう?」

「自分の強さ……」

「そうだ。俺はリアンヌに惨敗し、妻と帝国を周りながら研鑽を積んで分かった。俺には剣しかない。剣を振るう事で皆を引っ張る事しか。お前にもあるだろう?今一度ノルドの民や他の者がついてきた本当の理由を考えてみろ。1人でなんでも抱え込むな」

 

 

 ガランシャールを肩に担ぐ。言いたい事は言った。後はドライケルス次第だろう。この内戦を本当に終わらせたいのなら立ち上がるはず。

 

「ヴィクトリア。1つ頼んでもいいか?」

「いいぜ。言って見ろ」

「もう一押し欲しい。胸を借りても良いか?」

「いいだろう。構えな」

 

 少し距離を取りガランシャールを構える。ドライケルスが構えるのは軍刀。さてどれ程の物か見せて貰おうか。

 

「来いドライケルス」

「あぁ。行くぞ光の剣士!」

 

 ドライケルスとの手合わせは夜が明けるまで続いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ふわぁ……眠い……」

 

 流石に明け方まで剣を交えるのはきついか。だってドライケルスの奴全然諦めないんだよ。しかも『俺でも使えそうな剣技を教えてくれ』って言ってくるし(後にロランから教わった剣術と共に研鑽を摘み百式軍刀術と呼ばれるのだが)。お陰で寝不足だわ。

 

「おはようヴィクト……うわ酷い顔。何?ロゼに食われた?」

「おい。朝から何言ってる」

「ごめんごめん。怒られた?慰めてあげるよ膝枕で」

「あー……マジで眠いのは事実だし……。いや、大丈夫。ありがとう」

「そっか。ボクはリアンヌの所にいるから何かあったら呼んでね」

 

 微笑みながらリアンヌの元に向かうレイヤ。さて俺は庭に行ってもう少し寝よう。いつ何が起きるか分からないし、体調は整えないと。

 

「ふぅ。ドライケルスも立ち直れたし、後はリアンヌがどう動くかだが……」

「あら?お父さん?」

「ん?」

 

 横になると同時にルーチェが顔を覗かせる。ミネルヴァが右肩に乗っているのを見ると、これから修業か、もしくは散歩。ルーチェの事だから前者だと思うが。

 

「どうした?鍛錬の相手ならシリウスに頼んだらいい」

「今日はお休みです。ミネルヴァが構って欲しいみたいで」

「珍しい。なら俺が遊んでやるぞ」

 

 ミネルヴァに右手を差し出すが思いっきり噛んでくる。この野郎、元主に何たる態度だ。これは後で説教だな。

 

「おや?我が息子にルーチェではないか」

「なんだよ中年親父」

「見かけたから声を掛けただけだ親不孝者」

「……(仲いいのか悪いのか……)」

 

 俺と親父は相変わらずだ。勿論ローゼリアに指輪を渡したことは話していない。魔術で嵌めている事を見えないようにしている。見えているのは俺とルーチェ達、家族だけだ。

 

「そろそろ血の繋がった孫が見て見たいものだ」

「ルーチェとシリウスでは不満か?いい子に育ってるぞ」

「不満なわけ無いだろう。だが跡継ぎは必要だ。シオンの身に何かあれば、アルゼイドを継ぐ者がいない」

「大丈夫だ。俺達が死なせない。アイツは強いから大丈夫だ」

 

 何度も手合わせしているからシオンの強さは知っている。伊達に俺の弟ではない、リアンヌにも鍛えられてるし簡単には死なないだろう。と言うか兄より先には死なせん。

 

「親父は心配し過ぎ。碌な年の取り方をしないぜ」

「余計なお世話だ。人の心配してる暇あるのなら私を安心させろ。レイヤ嬢と仲が良いんだろう?」

「当然。家族(相棒)だから」

「……そうか。お前が言うならいいが、それよりドライケルス帝は明後日にも出立するらしい。行くならその前に顔を出せ。いいな」

 

 そう言い残し去って行く親父殿。さてリアンヌはどう動くのやら。ローゼリアが集めた連中はリアンヌが鍛えて鉄騎隊に入れたし、俺達は隊とは言えないし。でも一個大隊に匹敵するのは事実か。

 

「あの……先ほどのおじ様の話ですが……」

「気にしなくてもいい。俺達の関係は家族間だけの秘密だ」

「……分かりました。お父さんが言うなら何も言いません。ではごゆっくり体を休めてください」

「あぁ。ルーチェもゆっくり」

「はい。では」

 

 軽く頭を下げてから街道の方へと向かうルーチェ。俺は暫く横になっていると、ローゼリアとシオンが姿を現す。手に書類を持っているのを見ると、会議でもしていたのだろうか。

 

「ここに居ましたか兄上。少し宜しいですか?」

「いいぞ。どうした?」

「先の予定を考えていてな。ドライケルスの出立と同時に行動を開始するが、どうやら周辺にグンナルの軍が展開している。で、リアンヌと話し、おヌシの意見を聞こうと思ってな」

「んー……。その辺はレイの専門だが……、お約束通りの展開で良いだろう。どのみち今のドライケルスの戦力では魔煌兵を倒せないし」

 

 ノルドの民の実力は見たら大体分かる。ドライケルスの剣も並み以上。それらを踏まえて魔煌兵には確実に勝てない。全滅は確実だ。

 

「気付かれないようにドライケルスを付けて危なくなったら助ける」

「簡単に言うがそれが難しい」

「大丈夫。待てばいい。タイミングは任せるさ」

「了解です。ではリアンヌにはそう伝えます。姉上はどうします?」

「こ奴といる。そちらは任せた」

「分かりました。体を休めてください兄上」

 

 リアンヌの元へと戻るシオン。姿が見えなくなった所で上体を起こそうとするが、ローゼリアが額に手を置き止めてくる。

 

「寝ておけ。昨晩派手に暴れたのじゃろ?」

「そこまで派手ではない。思ったより根性あるからきつくやっただけだ」

「同じじゃ。だから休んでおけ」

「はいはい」

 

 ローゼリアの膝を枕代わりにし、日が暮れるまで彼女と談笑した。そして三日後、ドライケルス出立したのを見送ってから俺達もリアンヌと共に彼の後を追った。

 



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第27話

ー神技・光凰剣。 

 

 

 

 それは唐突に現れた。ヴィクトリアやサンドロット伯に見送られレグラムの出立。直ぐにグンナル達が従えた魔煌兵と呼ばれる存在に囲まれて絶対絶命の窮地に陥る。

 それでも私は諦める事無く剣を取り戦ったが、戦力差は絶大。何も出来ぬまま撤退しようとした時だった。背後から強烈な光の一撃が魔煌兵を薙ぎ払い、甲冑を纏った見覚えのある女性をを筆頭に、武器を持った集団が背後から現れたのは。

 

「君は……薬師の……」

「ふふ……。薬師の女は最初からいません。私はリアンヌ・サンドロット。鉄騎隊(アイゼンブリッター)を率いる者。貴方と共に戦いましょう」

「という事だドライケルス」

 

 黄金の剣を持った甲冑を纏った剣士。レグラムの地で背中を押してくれたヴィクトリアが姿を現す。そこで全て分かった。

 

「私を嵌めたかヴィクトリア」

「んなわけ無いだろ。人聞き悪い事言うな。今回の件は全部リアンヌが……」

「おや?タイミングは貴方の指示ですが?」

「何のことかな?それよりやるぞリアンヌ。相手は魔煌兵、背後からくる連中はシオン達に任せておけばいい。ドライケルスとノルドの連中は下がってな」

 

 2人は私の横を通り過ぎ、黄金の闘気をその身に纏う。あの時……私と剣を交えた時とは雲泥の差だ。

 

「さて、良い所を見せるとしましょう」

「張り切り過ぎてやり過ぎるなよ!」

 

 これが、後に≪槍の聖女≫と呼ばれる帝国最強の武人と≪光の剣神≫と呼ばれる帝国最強の剣士との出会いだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ーヴィクトリアside

 

 

 

「数が多ければいいわけではないが!」

「もう音を上げましたか?」

「んなわけ無いだろ!」

 

 迫りくる魔煌兵を悉く斬り伏せる。それにリアンヌが合わせて止めを刺す完璧な連携。互いの癖や行動パターン。思考などを完全に分かっていないと出来ない芸当だ。

 

「後はあの青い魔煌兵だけですね」

「オルディスでも見たイスラ・ザミエルだ。ここは合わせ技で行くぞ」

「了解です」

 

 ガランシャールに黄金の闘気を纏い薙ぎ払う。イスラ・ザミエルの足を崩した後、リアンヌが竜巻を発生させて拘束。そこを逃す事無く斬撃を放ち、リアンヌは強烈な突きを繰り出す。

 

「「神技・ライトニングクロス!!」」

 

 閃光の一撃がイスラ・ザミエルを跡形も無く消滅させる。背後はシオン達に任せているし大丈夫だろう。後は周囲の兵士だが……。

 

「どーするドライケルス?全員斬るか?」

「その必要はないだろう。これだけの力の差が出ればこれ以上戦う必要が無い事が分かる」

 

 ドライケルスの言った通り撤退していく兵士達。ならこれ以上の追撃は必要ないだろう。ガランシャールを仕舞い、事の次第の説明をリアンヌに任せよう。

 

「説明は頼むぞリアンヌ」

「詳しい事はバリアハートで。宜しいですかドライケルス?」

「……あぁ。聞かせて貰おう」

「決まりだな。移動はシオンに任せてくる」

 

 後方に移動してシオンと合流の後、バリアハートへ移動することを伝える。俺は念の為に後から向かうと伝えてこの場に残る。

 

「さて……何が出るか。出来ればマシな奴が出てくれよ」

 

 そう祈りガランシャールを構えると、周囲を黒い瘴気が漂い始め、一か所に集まり大きな漆黒の魔獣へと姿を変える。この場に残ったのはこの魔獣……というより黒い瘴気。どうも妙な気配がして仕方が無かったのだが、どうやら当たりを引いたらしい。

 

「グルルルルル……」

「こいつは……幻獣とは比べ物にならないな」

 

 冷や汗が額を流れる。ここまで空気が張り詰めピリピリと痺れるのは久しぶりだ。最初から全力で行かないといけないな。

 

「さぁ行くぞ。ここから先はーーー」

「ヴィクトリア?どうしたのじゃこんな所で?」

「っ!来るなロゼ!」

 

 最悪なタイミングで姿を現すローゼリア。漆黒の魔獣はローゼリアにターゲットを変え超スピードで間合いを詰め襲い掛かる。

 

「え……?」

「くそ!」

 

 右腕でロゼを弾き飛ばす。それと同時に背中に激痛が走る。鋭い爪だろうが。鋭利な物で切り裂かれたような感覚だ。しかも一か所だけではなく三か所程だ。

 

「うっぐ……」

「ヴィクトリア!!」

 

 直ぐに駆け寄って倒れる手前で支えてくれるローゼリア。彼女の視線は背中に向けられ、顔が青ざめているのを見るとかなり重症の用だ。

 

「ロゼ……少し離れてろ。俺は……大丈夫」

「大丈夫な訳ないじゃろう!足元も見て見んか!」

 

 視線を下に向けると足元は血の海。あぁ……思ったよりヤバい一撃だったか。だけどこの程度では俺は死なない。死ぬわけにはいかないからな。

 

「いいから離れていろ……行くぞガランシャール。全開だ」

「ま、待て、あの魔獣は妾が」

 

 静止するローゼリアを軽く押しガランシャールに光を集約させ、振り返りながら薙ぎ払い、漆黒の魔獣を吹き飛ばす。消滅したのを確認してから両膝を着く。

 

「っぅ……はぁ……はぁ……」

「無茶をしよって馬鹿者!」

 

 優しく抱き寄せてくるローゼリア。彼女の言う通り相当無茶だったようだ。素直に頼めばよかったkも知れない。だけど彼女に任せるとルーチェ達に気付かれる可能性がある。いや、どちらにしても気付かれたか。

 

「悪い。いつも苦労を掛ける」

「気にするなヴィクトリア。ゆっくり休め」

「あぁ。すまねぇ……」

 

 彼女に抱きしめられながら意識が暗闇へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ー全くアンタは……。

 

 

(ん……?)

 

 聞き覚えの無い声が聞こえる。ゆっくりと瞼を開けると、視界に映ったのは小さな村……だろうか。見覚えの無い場所だが、妙な親近感を感じる。周囲を見渡すと、近くに大きな湖があるのを見つける。

 

 

(ここは……そうか……)

 

 ここが何処なのか気付く。あの湖を見間違えるはずが無いからだ。だとすると、俺はまた誰かの記憶を夢として見ているのか。

 

(なら……)

 

 きっと彼がいるはず。そう思って再び見渡すと、湖の近くに植えてある樹の根元で黒猫と話している青年を見つける。先代ローゼリアの姿は無かった。

 

「何で樹を植えたの?しかも勝手に」

「必要だからだ。次の私を見つけるために。頼むぞチビ猫」

「嫌よ。言っておくけどアンタが死ぬなんて信じてないから」

 

 やや怒りながらそっぽを向く黒猫。どうやら青年をかなり嫌っている様子。というかあの樹、実家の庭に植えてるのと似ているような……。確か子供の頃からあったけど、もしかして。

 

(俺の見てる夢って……。それにロゼは先代の使い魔で、先代の死後に使命を継いだって聞いたけど)

「それと、次のアンタも今と似たような物でしょ?仮に使命を継いでも面倒見ないから」

「酷いなおい。次の私は人の子だから親に似るに決まってるだろ。それに生まれ変わる私の事は知らないし、後を継いでも性格が変わる事も無い」

「どうかしら?」

 

 何と言うか……前回といい今回といい、思い当たる点がいくつかある。青年の生まれ変わりも。でもエル・プラドーは何も言わないしロゼも知らないふりをしている。問いつめてもいいのだが……。

 

「さて、私は行く。次の私の為に試練を残さないとね。どの精霊窟を巡るかは千里眼で分かってるし」

「それも女神からの恩寵?」

「まぁな。だからいつ死ぬのか分かる。その後は……まぁ暫くアイツが暴れるだろうが我慢しろ。それじゃあな」

 

 黒猫に手を振って立ち去る青年。黒猫は何か言いたそうな表情で彼を見送り、青年の姿が消えると、周囲が暗くなっていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「うぅ……重い……」

 

 何か重しが圧し掛かっている事に気付き目が覚める。どうやら俺は生きているようだ……って、夢を見ている時点で生きているのだが。今回で2回目の夢だが、気になる事が多すぎるが、その前に俺に圧し掛かっている犯人を動かして起きよう。

 布団を捲るとローゼリアが思いっきり抱きついて寝ていた。俺は起こさないように腕を動かして布団を掛けなおす。ゆっくりと立ち上がって軽く体を動かす。

 

「痛みはないか。流石は魔女の長にして聖獣。苦労を掛けてばかりだな」

 

 反省しつつローゼリアの右頬を優しく撫でる。少しこそばゆそうにしていたが起きる気配はない。朝もまだ早いし起こすのは後にしよう。

 コートを着て外に出る。俺達が居たのはバリアハートの宿。状況を確認するべく街を歩いていると、各所でノルドの民と鉄騎隊を見かけ、ここはドライケルスの占領地になっているのを確認した。

 

「お父さん。おはようございます」

「ふわぁ……おはよう親父」

「あぁ……おはよう……って(昨日は2人一緒だったのか)」

 

 ローゼリアが知ったら軽くキレそうだ。というか、手出してないだろうな?ルーチェはまだ14歳、出すならせめて後2……いや、6年は待って貰わないと。

 

「盛んなのは良いが程々にな」

「っ!何言ってんだオッサン!昨日の戦闘で軽く怪我をしたから治療して貰ただけだ!」

「そうですよ。私がこの馬鹿に抱かれるとでも?」

「誰が馬鹿だおい!」

(いつも通りだな)

 

 平常運転でなによりと安堵していると、背後からレイヤが抱きついてくる。そしてルーチェとシリウスを見て少し微笑んだ。彼女から見たら妹と弟がじゃれているような物なのだろう。

 

「お爺ちゃんも近いかもねヴィクト」

「26で爺とか嫌だわ。ロゼではあるまいし」

 

 孫見る前に孫を見せないといけないのだが。と言ってもローゼリアは子を成せないので、孫は弟に賭けるしかない。弟が戦死でもしない限り。

 

「で?大丈夫?」

「何の事だ?」

「あの2人は良いとしてボクには隠さないで」

 

 そっと背中に触れるレイヤ。相変らず鋭い女。昨日どうやってローゼリアが誤魔化したのかは知らない。恐らくは幻術でも使ったのだろう。リアンヌでも気づかないような幻術を。

 

「昨日ロゼの様子がおかしい気がしたからね。君は隣に居たけど妙だと思って。直ぐに宿に入って行ったし」

「バレバレじゃねぇか……」

 

 もう少し上手に誤魔化して欲しい所だ。妙な所で正直なローゼリアには無理だろうけど。しかい……正直に話したい所だが、昨日の黒い魔獣はどう考えても以上だ。レイヤ達を巻き込むわけにはいかない。

 

「大丈夫だ。何かあれば相談する」

「ん。直ぐに言ってね。それじゃあリアンヌ達の所に行こう。これからの事を考えないといけないし」

「了解した。行くぞ2人共」

 

 ルーチェに声をかけ、リアンヌ達の所に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 



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第28話

 ドライケルス陣営に加わり早くも一か月。怒涛の勢いで俺達は各地を解放し、多くの協力者を得て行った。その分各陣営との激しい戦闘を繰り広げる事になるも、レイヤの完璧な戦術で撃退に成功……したのだが、時々ドライケルスが言う事を聞かないことが度々あり俺とレイヤの胃が破れそうになった。

 そんなある日の事。オルトロス陣営からアルスターを解放し、数日滞在することになった。それだけならいいのだが、今はちょっとした問題が発生していた。

 

「ドライケルス様。お茶をどうぞ」

 

 ドライケルスにお茶を渡す1人の女性。彼女の名前はイヴリン。この地を治める伯爵家の娘なのだが、ドライケルスが助けてからずっと一緒に居る。俺としては別にいいのだが、その度にリアンヌが殺気立っている。見て見ぬふりをしたいのだが、イヴリンが付いてくると言っている以上はずっとこのままだ。これも全部女タラシのドライケルスが悪い。

 

「しかし……かなりの令嬢だなリアンヌ」

「……そうですね」

「敵増えるだろうけど頑張れよ」

「……そうですね」

「その……喧嘩売るなよ。リアンヌにはリアンヌの良い所あるんだから」

「……そうですね」

 

 これはダメだな。暫く放置するしかないだろう。ドライケルスが誰を選ぶのか気になるが、前皇帝のように複数の女に手を出すような事をしないと信じたい。まぁリアンヌを選ばなかったら説教だが。

 

「所で。ロゼにいつ指輪を渡したのですか?」

「ん?どうしたんだいきなり?」

「いえ。お互いに忙しいのであまり話せていないでしょう?いつの間にか指輪を嵌めていたので一言欲しかった。祝いの言葉と贈り物を贈ったのに」

 

 少し拗ねるリアンヌ。言われてみれば最近はあまり話せていない。というか部隊ごとに行動しているので、俺はローゼリア達と常に一緒に居るからリアンヌやシオンとは作戦会議の場でしか話さないし、他にも鍛錬の場でしか会わない。

 そう考えたら、最近はリアンヌと腹を割って話していない。俺にとっては可愛い妹の様な物だし、目の前で近い内に修羅場を繰り広げられる前に、リアンヌのストレスを晴らしておかないと。

 

「なぁリアンヌ。まだ夕方だけど一杯どうだ?ロゼやレイも呼んで」

「そうですね。たまには羽目を外すのもいいかもしれません。先に酒場に向かっていてください」

「了解」

 

 先に酒場に向かい席を取る。少し待っていると、リアンヌ達が酒場に入ってくる。ロゼが隣に座りレイヤとリアンヌが向かいに座ったのと同時に人数分のビールが置かれる。

 

「よしそれじゃあ久しぶりに!」

「「「乾杯!!!」」」 

 

 乾杯をし、まずはレイヤが一気に飲み干した。そして直ぐに女将さんにもう一杯頼み、結構なハイペースで飲み始める。それに対抗してか、珍しくリアンヌもそこそこ早いペースで飲み、俺とロゼは少し引いていた。

 

「おいヴィクトリアよ。止めなくてもよいのか?」

「もう無理だろ。因みにレイは結構大変だぞ」

「それを先に言わんか!」

 

 ロゼは怒るが時既に遅し。瞬く間にレイヤとリアンヌの前には空になった容器が置かれていき、僅か10分程で2人は出来上がってしまった。そして最初に口を開いたのはリアンヌである。

 

「どうして……どうしてドライケルスは私が居ながらイヴリンと!」

「お、おい。落ち着かんかリアンヌ。とりあえずは水を……」

「貴女は黙ってなさいロゼ」

「なぬ!?」

 

 反撃を喰らうロゼ。ひとまずリアンヌは任せよう。俺は……いつの間にか椅子と一緒に俺の隣に移動した相棒をどうにかしないといけない。俺の腕を掴んだまま何も言わないのが怖いから。

 

「何で……」

「ん?どうしたレイーーー」

「どうしてヴィクトはボクじゃなくてロゼを選んだんだい!?」

「うぉ!」

 

 少し泣きながら抱きついてくるレイヤ。こちらはある意味でリアンヌより大変そうだ。取り合えずロゼの目が怖いので引き剝がさないといけない。

 

「えぇい離れんかレイヤ!」

「嫌だよ!ボクの方がお嫁さんに相応しいもん!ロゼとは違って家事も出来るし、隠し事もしないし何より!」

 

 レイヤは俺から離れ、ロゼに対抗するように胸を張りながら言った。

 

「君とは違って子供産めるから」

「……」

(おいおい。それ言ったらダメだろ……)

 

 今一番ロゼが気にしている事を言ってしまう。あぁ、俺が取る行動はどれが正しいのだろうか。誰かに助けを求めるのが当然だろう。一番頼りになるのはルーチェだが、この場を見ると笑顔で見て見ぬふりをして、翌日ロゼとレイヤに雷を落とすだろう。そうなればシリウスが大変な事になるのだが。

 

「リアンヌ。済まないが手伝ってくれ。ロゼが出来上がる前に」

「……嫌です」

「は……?」

 

 小さな声で答えたリアンヌ。というかさっきから机にふっして顔を上げないのだが。えっと……こういう時はどうすればいい?暴走する気配しないから放置が正しいな。まずは2人を……。

 

「小娘!夫婦だからといって必ず子を残さないといけないわけではないじゃろう!」

「でもシオンに何かあったらどうするのさ!血の繋がらないシリウスに後を継がせる?」

「そ、それは……いや!問題ない!シオンを死なせなかったらいいだけだ!」

(関係ない弟巻き込むなよ……)

 

 あながち言っている事は間違っていない。まぁこのまま行くと家を継ぐのは弟だし、俺は元より家を継ぐつもりはないし、子供もルーチェ達が居るし……。多分レイヤも酒に酔った勢いで言っているんだよきっと。ロゼが怒涛の勢いでお酒を飲んでいる姿なんて俺の視界には映っていない。

 

「兄上……?この状況は……」

「おぅシオン。飲むか?」

「えぇ。ですが……」

 

 シオンの視線はロゼとレイヤに向き直ぐに外す。顔が引き攣っている所を見ると関わりたくないのだろう。その選択肢は正しいぞ弟よ。

 

「ほらバーボン」

「ありがとう兄上。では乾杯」

 

 カツンと器を当てて半分ほど飲む。因みに俺は程々しか飲めない。弟やリアンヌは結構な酒豪だ。上手に飲めばの話だが、今日はよろしくない飲み方だ。一応薬は用意してあるからヤバい時は飲ませよう。

 

「で。姉上とレイヤ嬢は放って置いても宜しいのですか?」

「大丈夫……多分。いつもならもう少しで寝る」

「あの。あれでですか?」

 

 再び視線を2人に視線を戻す。ロゼとレイヤの熾烈な争い?はどんどんヒートアップし、酒を飲む速度が上がっている。さて……明日も早い事だしそろそろ終わらせよう。

 

「2人共。そろそろお開きにするぞ」

「まだまだだよヴィクト!ボクはーーー」

「えぇい。おヌシは黙ってーーー」

 

 

―沈黙の光。

 

 

 2人の額に指を当てて意識奪う。2人は深い眠りに落ち、それとほぼ同時にリアンヌが顔をあげる。

 

「ようやく納まりましたか」

「すまんな。俺が悪い」

「いえ。そうなる事が分かって選んだ道でしょう?家族ですから喧嘩は当然です。まぁ私はレイの味方ですが」

「はいはい。悪いがレイを頼んでも?」

「えぇ。ロゼは頼みましたよ」

「分かってる。んじゃまたなシオン。例の令嬢と仲良く」

「余計なお世話です兄上」

「はいはい」

 

 リアンヌはレイヤを担いで、俺はロゼを担いで宿に戻る。ベットに寝かせて布団を被せてから近くの椅子に座ろうとしたが、ロゼが目を覚ます。どうやら事前に対処されていたようだ。

 

「妻に酷い事をするものよ」

「悪かったな。落ち着かせるには仕方ないだろう。取り合えず寝てろ。俺はシオンの所に……おっと」

 

 腕を掴んで引っ張ってくるロゼ。そのままベットに引きずり込まれて抱きしめられる。どうやら今晩は離してくれないようだ。

 

「ふふ……。久し振りに離さんぞ」

「はいはい。程々にね。ん……」

 

 優しく口付けをし、力強くロゼを抱きしめた。

 



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第29話

「ぬぅ……寒い、寒いぞヴィクトリア」

「分かってるよそれぐらい……」

 

 一面雪景色の中。俺とロゼは鉱山都市ルーレから200アージュ程離れた場所で待機していた。その理由はルーレ開放作戦に必要な情報を収集するため……だが。今日の天気は吹雪、今は落ち着いているがめっちゃ寒く、ロゼはさっきから俺を暖炉代わりに抱き着いて離れない。

 

「こんな季節にルーレを落とすとか正気かあの馬鹿皇子は」

「解放だ。気持ちは分かるがな。それともう一つあるだろ目的」

 

 ドライゲルスを灰へと導くための試練の地。精霊窟が近くにある。精霊窟と言えば彼も言ってたか。生まれ変わる自分の周る精霊窟に何かを残すと。それを含めて確認されている精霊窟は全部回る予定だ。

 

「さて、一旦戻るか。戦力含めて作戦会議しないといかん」

「そうじゃの。そして早急に済ませる」

 

 ドライケルス達のいる荒野に転移。皆寒いはいつ出陣してもいいように準備をしており、その中心にいるのは我らが軍師のレイヤで、各種確認を行っていた。邪魔をするのも悪いので俺達はドライケルスの元に向かったのだが……。

 

「さ、寒い。なぜこれほど寒いのだ……」

 

 焚火の前で暖を取っているドライケルスの姿があった。リアンヌは……あぁ、シリウスと何かを話している。近くにいるのはシオンと最近仲の良いメルト嬢だ。イヴリンは……む。ルーチェと一緒。成程、このドライケルスを見て放置することにしたのか。

 

「むぅ……このままでは士気にかかわる。ここはヴィクトリアに……」

「……俺に何を押し付ける?」

「っぅ!?」

 

 彼にとっての悪魔の声を聞かせる。ドライケルスは驚きながら勢いよく立ち上がる。まるで今の事がなかったように。まぁいいだろう。お仕置きはリアンヌに任せている。

 

「寒いなドライケルス。このままだと皆の士気にかかわりそうだ」

「その件で相談したくてな。いい案はないか?」

「いい案……温泉か」

「温泉……ユミルか。そう言えば楽しそうに話してたの」

 

 ジト目でこちらを見てくるロゼ。温泉なら里にもあるだろうに。効力もさほど変わらない……いや、風景等を考えるとユミルの方が一歩上回るかもしれない。

 

「温泉か……よしリアンヌに話をしてくる」

「え?お、おい待て……あぁ」

 

 決めたらすぐ行動は別に構わないが相手を考えてくれドライケルス。これから出陣もあり得る状況でリアンヌに『温泉に行こう』なんて言ってみろ。間違いなく雷落ちるぞ。

 

「ヴィクトリア。リアンヌが構わないと言っていた。直ぐに移動だ」

「……そうか」

 

 これは後でリアンヌに話を聞きに行く必要があるか。恐らく米神に青筋立ててるだろ。ともかく、決まったなら移動開始だ。軍団を幾つか分けつつ雪道を進む。流石に遅れる仲間はおらず、道も整っているので1時間程でユミルに到着した。

 

「ふぅ。流石に以前ほど時間はかからんか」

「じゃが年寄りには答える。もうちとマシな道を作れんのか」

「そう言われてもな。と、そうだロゼ。一緒に温泉入るか?」

「勿論よいぞ。時間を合わせて落ち合おう」

「了解。また後で」

 

 一旦ロゼと別れ、ドライケルスやリアンヌと共にシュバルツァー村長に挨拶に向かった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「んー……いいお湯……」

 

 夜空を見ながら温泉を堪能している。挨拶を済ませた後、2日程英気を養うために滞在することとなった。人が多いので迷惑かと思ったが、ドライケルスが戦が終わった後に必ずお礼をすると言っていたので、何かしら考えがあるのだろう。

 

「もう来ていたのかヴィクトリア」

「うん。お先に堪能してる」

「全く……」

 

 少し呆れながら温泉に入り、右肩に頭を乗せて体を密着させるロゼ。今は誰もいないから少しぐらいなら甘えてきてもいいだろう。

 

「しかし中々いい湯じゃのう。妾とルーチェに黙ってたとは」

「何時の話ししてんだよ。結果的に味わえたからいいだろ。ルーチェもさっきシリウスと入ってたみたいだし。ドライケルスやリアンヌはまだ……っと」

「む。この気配は……」

 

 戸が開き湯着を着たドライケルスが入ってくる。ドライケルスは俺達に気付くことなく向かいに座り、肩まで浸かった所で俺達と目が合う。

 

「……」

「よぅ。意外と遅かったな」

「暫く休めんから今のうちに休んでおけドライケルス」

「……」

 

 おや。返事が無いが何かあったか?俺達を見て固まってるし。あぁ、もしかしてロゼが俺に甘えているからか。俺達の関係もドライケルスには話してないし。

 

「……はぁ。居るなら気配を消さないでくれ2人共。それに……」

「ん?何じゃドライケルス?」

「いや。何でもない。そういった関係とは知らず驚いただけだ」

「言ってなくて悪かった。邪魔ならそろそろ上がるぞ。お前は休んでおけ。明日は朝早くから鍛錬と会議だろ」

「……そうだな」

 

 何か怖い事でも思い出したのだろう。温泉に浸かっているにもかかわらず冷や汗をかいている。まぁリアンヌの稽古は厳しい。でもこればかりはドライケルスが強くなってもらうには仕方が無い事。シオンが完成させたアルゼイドの剣とドライケルスが扱うヴァンダールの剣を合わせた軍刀術。これからの事を考えると早めに完成して欲しい物だ。

 

「完成したら俺とだぞ」

「お前とはやりたくない。アルゼイドの原点などと」

「それはならぬぞ。これからの事を考えてもな。加えてシオンの剣はヴィクトリアの光凰剣とリアンヌの教えを元に編み出したアルゼイドの剣。ヴィクトリアとは似ても似つかぬ」

「え?初耳何だが?」

 

 ギョっとした表情を浮かべつつ何処か興味深そうにしている。いずれ手合わせをするときが来る。その時まで期待して待って貰おう。

 

「上がろうかロゼ。明日も早いし」

「そうじゃの。ドライケルスはゆっくりしておけ」

「了解だ。お休み2人共」

 

 温泉から上がり、部屋へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「よし。これでいいか」

 

 鏡の前に立ち身だしなみを確認。今日は朝早くから近くの氷霊窟に向かう。向かうのは俺とロゼの2人。ドライケルスには別の精霊窟を当てるらしく、今回は前回俺が感じた妙な気配が気になるとの事で、2人で向かう。

 

「ん……もう起きたのか?」

「……ん。おはよう。まだゆっくりしてていいぞ」

「そうはいかぬ。リアンヌに気付かれぬようにいかねばならんからの」

「そうだな。はい」

 

 右手を出すとロゼはその手を掴んで起き上がって抱きついてくる。後ろに倒れそうになったがロゼが上手く腰に両腕を回して支えてくれるが、その代りかロゼに唇を塞がれる。

 

「こら。朝から何する」

「妾とは嫌か?」

「そんなこと言ってない。ほら準備」

 

 軽くロゼの頭を撫でてから離れる。椅子に掛けてあった分厚いコートをロゼに渡し、俺も真紅のコートを纏って宿を出る。まだ朝早いのか人はあまりいない。所々に雪かきをしてる町民や手伝っている鉄騎隊がいいるぐらいだ。

 

「行くぞヴィクトリア。手短に済ませる」

「了解」  

 

 気付かれ似ないようにユミルを出て山道を北上し、例の氷の抜け道の前まで来る。置くから強烈な冷気と以前感じなかった神気を感じ取るがどこか懐かしく感じた。

 

「うーん。妙な気配だな」

「今まで立ち寄った精霊窟とは違うからの。気合い入れてゆくぞ」

 

 抜け道を通り氷霊窟の中に入る。中は外よリも寒く、その名の通り凍っていたが魔物は周回している。時間をかけると体の内側から凍りそうだ。

 

「さ、寒すぎるじゃろ流石に!」

「文句言ってる余裕ないぞ。ほら進む」

 

 ガランシャールを顕現させて魔物を斬り伏せつつ奥に進む。ロゼは後を付いてくるだけで戦おうとしない。寒いなら体を温めるという面でも少しは戦って欲しい所だ。

 

「そろそろ最奥についてもいいのだが……っと!」

「ぬぉ!」

 

 ロゼの背後に魔獣がいたのでガランシャールを振る。ロゼが慌ててしゃがんだので彼女にかすり傷一つない。少しロゼは背後に気を付けた方がよさそうだ。

 

「よし進もう」

「おい待てヴィクトリア!今妾ごと斬ろうとしなかったか!?」

「さぁね?」

 

 笑って誤魔化すがロゼは怒っている。たまにはこういうのもいいだろう。そうでもしなければこの寒さを防げない。魔獣もこの先いないし少しぐらいならいいか。

 

「ロゼ。素手だと寒いだろ。そら」

「……む。気が利くの」

 

 左手を握るロゼ。そのまま先を進むと最奥に到着。ロゼが呪文を唱えて扉を開けると、中は更に寒く薄暗い。絶対に何か出そうな場所だった。

 

「ここに来るのは久しいの。しかしこの気配は……」

「……?(何だ?ここに入るのは初めてのはずなのに……)」

 

 妙な感覚だ。この氷霊窟来るのは初めてのはずなのに一度来た事がある気がする。いつだろう?ずっと昔な気がする。何か大事な物を残していった感じだ。

 

「おや?ロゼ。あそこに何かないか?」

「あれは……まさか!」

 

 手を離し走り出すロゼ。後を追うと結界に覆われた一本の剣が空中に浮いていた。その剣を見た瞬間にドクンと心臓が高鳴る。俺はこの剣を知っている。この究極の光の剣を。

 

「神剣・デュバインスワン。あ奴の剣がここにあったのか。しかも……」

「……剣だけではないな」

 

 剣の上には刻印の一部が浮遊している。あれからも凄まじい力を感じ惹かれる。剣も刻印も誰かを待っているようだ。

 

「あの刻印は噂の聖痕か?なんでこんなものがあるんだよ?」

「……あれは、星痕じゃ。女神が生み出しある人物達に託した物の一つ。剣もな」

 

 そんなものが存在するとは初耳だ。しかし"あ奴"か。誰の事かは置いておこう。ともあれアレに俺が惹かれているのは事実。試しに手を伸ばして見るか。

 

「よっと……」

「む!?ま、まてーーー!」

 

 ローゼリアが止めるが気にすることなく星刻とやらに手を伸ばすと、星刻に触れるギリギリの所である事に気付く。神剣の前に誰かがいた。その誰かが以前夢やオルディスで見たのと同じ青年だ。

 

 

『欠片は三つ。すべて集めるとお前はローゼリアと同じく永遠を生きる事になる。この地の守護者として永遠に。それでもいいのか?』

 

 

 青年は聞いてくる。俺は……答える事無く星刻に手を伸ばし触れると、星刻は光を放ちながら俺の体に吸い込まれていき、俺はそれから青年に答えた。

 

 

「それが俺の運命なら受け入れる。騎神に選ばれた時点で覚悟は決めている」

『そうか……なら奴の事も頼む。俺の罪も背負わせることになるがお前なら大丈夫だ。絶望せず、いつまでもこの世界に光を灯してくれ……。』

 

 青年はそう言ってから姿を消す。そして神剣・デュバインスワンが光り輝き、勝手に右腰に携えられた。

 

「えっとこれは……」

「……(あぁ…あ奴の言った事は本当だったのか……)」

「ロゼ?」

 

 少し悲しそうな顔を浮かべるローゼリア。心配して彼女の右頬に手を添えると、彼女は瞼を閉じ、小さく頷いてから抱きついてくる。

 

「ヴィクトリア。ドライケルスを灰に導くと同時進行で残り二つを探すぞ」

「あ、あぁ……。場所は知っているのか?」

「当然だ。事前に聞いておるからの。だがまずはルーレの解放だ。ユミルに戻るぞ」

「了解……」

 

 

 帰りも警戒しながらユミルへと戻り、ルーレ開放に備えるのであった。

 

 

 



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