やはりこの世界は間違っている。 (フラットテスト)
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やはりこの世界は間違っている。
一話
現在俺は大人の女性と腕を組んでCCGの本局を歩いている。
今羨ましいとか思った奴は変わってやってもいいぞ。肘関節決められてるが......
「痛いっ、痛いですよ平塚上等!」
「それは君が初っ端で仕事から逃げようとするからだろう」
この人はアカデミーの元教官で俺も教わった事があり、今日から俺のパートナーになった平塚独身捜査官だ。
「比企谷、貴様何か妙な事を考えなかったか?」
平塚上等の腕が首に回される。
なんでわかんだよこの人。
「捜査官の勘と言うやつだ」
捜査官怖ぇ、なんでわかんだよも口に出して無かったのに。捜査官になったらエスパーになれるとかアカデミーで習わなかったんですが?どういうことか説明してもらおう。
なんて偉そうな事を言う余裕も無い。ほら周囲の目を気にしましょうよ、そんなだから結婚出来な
「ぐぇ」
その瞬間首を締める力が増した。無言でこちらを見もしない辺りが怖い。表情を確認しようと首を捻って上を向こうとする。Mt.Fujiで表情は見えなかった。ヘイ!マイク、Mt.Fujiはいつから二つに増えたんだい?
マイクっで誰だよ。
そんなやりとりを頭の中でしているうちにオフィスのような所へと着いた。そのまま、俺は引きずられ端のデスクの方へと向かっていく。そのデスクで俺は解放され、暫く周りを見回していると、平塚上等が何かを差し出してきた。
「これが君のクインケだ」
平塚上等からサバイバルナイフのような物を受けとる。え、俺無人島に行かされるの?
「オブシ1/3、尾赫のBレートだ。貸してやる」
「こんなので大丈夫なんですかね?」
ナイフ一本ではさすがに心配だ。これじゃ無人島で生活は出来そうもない。
「安心しろ大した喰種の捜査ではないし、私が付いている」
ですよね。無人島に行く訳がなかった。だが、無人島に行くよりも危険かも知れない。
それにしてもマジでかっこいいなこの人。男を寄せ付けない男らしさを持ってるよ。取り敢えず頷いておこう。
「では捜査に行くぞ」
俺はクインケを握りしめて後を追った。
✕ ✕ ✕
数日間捜査を続けていると、ついに例の喰種を路地裏に追い詰める事ができた。
「死ねぇぇぇ!!」
俺のすぐ近くの壁に赫子によって大きな傷ができる。人間と喰種の力の差がとても感じられた。超怖い。これで大したこと無いのかよ。
「っぶなっ!」
「下がってろ比企谷!」
俺はすぐにバックステップで喰種と距離をとる。
「うるぁ!!」
「はっ!」
平塚上等のクインケと喰種の赫子が激しくぶつかる。
あそこに混ざれる気はしないので後ろで適度に距離をとって見守る。もちろん逃げ出す準備はバッチしだ。
平塚上等は大したこと無いと言っていたのは本当らしい華麗な動きで的確に当てていく。本当はすぐに殺せるのだろう。俺に見せるためにあえて受けに回っているのだ。
しばらく見ていると喰種に焦りが見え始めた。全て上手くいなされている事に気がついたのだろう。
「糞っ死ねっ死ねっ!」
「死ぬのは君の方だろう?」
喰種の動きが雑になった一瞬の隙に平塚上等が一太刀浴びせると、次の瞬間喰種の首が赤い雨を降らせて舞う。グロい。
「よし、仕事終了だな。取り敢えず回収班に連絡してくれ」
俺は少しの間動けなかった。それほどまでに衝撃的な光景だった。
「比企谷?」
「は、はい分かりました」
返事をして直ぐに回収班に連絡を入れた。
✕ ✕ ✕
回収班が来てもあの光景が離れない。それでも、これに馴れなくちゃいけないのだ。あまり衝撃を受けてないように振る舞う。
「やっぱ直に見るのはキツいですね」
「そうだな。私もそうだったよ、でもこれから馴れなくちゃならないよ」
それは当然だと思うがこんなことに馴れる事ができるなんて想像が全くできなかった。
「今度君も戦って見るかね?」
そう言って平塚上等は微笑みかけてきた。
とても先程命を奪っていたとは思えない優しい笑顔だった。
これがこの世界での正しい事なのだ。
初めての投稿です。無印の時点ではあまり比企谷は強くしないつもりです。俺ガイルの他のキャラも出そうと思ってます。それと、あまり20区には関わりません。関わるとして梟戦ぐらいかと。
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二話
「お兄ちゃん起きて、朝ごはんできたよ」
天使の声がする。たった数日の仕事で俺に限界が来てしまったのだろうか?まさかここまで労働が俺に向いていないとは。ハチマンよ死んでしまうとは情けない。
「遅いっ」
下らないことを考えていると天使ではなく妹の小町が部屋に入ってきた。
「天使より尊い者が来たか」
「はぁ?なにいってんの?キモいよ?目が腐ってるよ?喰種と間違われて駆逐されるよ?」
朝から酷すぎませんかね?
「朝ごはん冷めちゃうし、今日も仕事でしょ?」
そうだった。今日も仕事があるのだ。むしろ死事があるのだ。
「わかったよ。すぐに行く」
「ノロノロしてると先食べちゃうよ」
「はいはい」
小町が部屋から出ていくとすぐにベットから立ち上がり朝飯に向かった。
✕ ✕ ✕
「どう?捜査官の仕事は」
食べ始めると小町が聞いてきた。
「結構グロいな、まだ自分で戦った訳じゃないが見てるだけでもな」
「でもあいつらお父さんとお母さんの仇じゃん?早く殺したいと思わないの?」
そうだ、俺の両親は喰種に殺された。そして喰種孤児として俺はアカデミーに入り捜査官になった。当時俺は小六、小町は小四だった。親を殺した喰種を恨みはしたがそれ以上にどうやって生きていけばいいのか全く分からなかった。事件の後、CCGの人に進められ生活するために捜査官を目指す事になった。小町の方は喰種を凄く恨んでいるようで早く捜査官になりたいと思っているらしい。
今さら親を殺した喰種がどこにいるかなんて分かりもしない。もう駆逐されてるかもしれないし、他の喰種に殺されてるかも知れない。喰種という生き物全体を仇として良いのだろうか。
「お兄ちゃん聞いてる?」
「ああ、まあもう少しなれてきたらな」
「小町だったらもっとバンバン殺っちゃうのに」
「バンバン殺れるほど喰種は見つかるもんじゃないぞ。組織でも作ってて殲滅するなら別だが」
「早く捜査官になりたいな。きっと楽しいのに」
正直俺は小町にあまり危険な目にあってほしく無いのだが止める事もできそうにない。きっとコイツは捜査官になる。
「ごちそうさま。そろそろ行ってくるぞ」
「行ってらっしゃいお兄ちゃん」
✕ ✕ ✕
またCCGに着いてしまった。ここへ入れば仕事をしなくてはならない。嫌だよぉ。俺がロビーの検査ゲート前で突っ立っていると後ろから声が聞こえた。
「邪魔だから退いてもらって良いかしら。検査ゲートの前で躊躇うなんて貴方喰種なの?」
こいつは雪ノ下雪乃だ。俺と同期で局員捜査官となった。喰種捜査官程の実力があるが家の事情で局員捜査官になったと噂がある。
「なんで局員捜査官のあんたがここにいるんだ?」
「姉に呼ばれたの」
「なるほどな」
こいつの姉は雪ノ下陽乃一等捜査官だ。とても優秀で上等になる日も遠くないと言われている。そして気まぐれだとも。優秀で気まぐれな姉とか欲しくねぇな。玩具にされそう。
「それは大変だな」
「貴方の方が大変そうよ。目が限界に達しているわ」
澄ました顔で酷い奴だ。それにしてもフレンドリーなやつだな。初対面なのに失礼すぎるだろ。
そして、雪ノ下雪乃は通りすぎていった。
雪ノ下雪乃の背を追い俺もゲートを通った。ストーキングとかじゃねぇからな?
雪乃を局員捜査官にしてみました。小町も無印開始辺りで捜査官にします。
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三話
捜査ゲートをくぐり、すぐに平塚上等のデスクへ向かった。随分と素直に行くじゃないかって?初日ので学んだんだ、奴からは逃げられぬと。部屋に入るとすぐに平塚上等が話しかけてきた。
「比企谷、お前が戦闘馴れするのにちょうど良い喰種が見つかったぞ。ラッキーだな」
マジかよ......早すぎだろ。デスクワークするふりして、睡眠しようと思ってたのに......この人の前だと無理だろうなー。講義中眠れた試しがない。
「レートはB-の尾赫だよ、先輩の上等がな、新人を馴れさせるのに使うと良いと譲ってくれたよ」
譲ってくれるなんて事もあるのか。大抵は自分の功績を優先するもんだと思ってたんだが。......ということは大体の場所とか分かってるからすぐに戦闘に行くんだろうか?
「比企谷、準備運動をしておけ」
やっぱりかよ......
「いきなり戦うなんて大丈夫ですかね?めっちゃ怖いんですけど......」
「安心したまえ、危なくなったらすぐに助ける。相性も良いしすぐに対応出来る羽赫を持っていくしな」
これからこの仕事をしていく以上心配してもキリがない気がするし、やるしか無いんだろうなぁ。やだなぁ。怖いなぁ。
「オブシをもう一本やろう。この方が良いだろう。」
そして二本になった手元のオブシを見る。やはり二本でもこの短さがものすごい不安だ。
「オブシは三本とも性能を少し変えてある。最初に渡したのは固さ重視、今渡したのは軽さ重視、もう一本はギミックがあるが慣れないと難しいだろうな」
最後の一本のギミックが気になるが恐らく俺にはまだ扱えないだろう。かっけえよなーギミックって。
「では、早く準備体操をしたまえ、三分間だけ待ってやる」
この仕事してたらジブリ祭り見れないだろうな、とか思いながら準備体操を始めた。
✕ ✕ ✕
「よし準備体操も終わっただろ?行くぞ」
まだ首を回して無いです、とは言えず俺は支度をする。移動中に首回したら変な目で見られないかな?あ、俺を見るやつ居ねえじゃんと脳内で下らない事を考えながら平塚上等に着いていった。首を回しながら。
「あれ?」
「ん、どうした比企谷?」
平塚上等は持つべき物を持っていなかった。誰だお前もだろって思った奴、友達は必ずしも持つべきものじゃねえぞ!
「クインケはどうしたんです?」
平塚上等は手ぶらで服にもクインケを忍ばせている様子は無かった。
「ああ、私のクインケはこれだよ」
そう言って平塚上等は自身の左腕を指差した。
「私がなぜアカデミーの教官をやっていたと思う?」
「怪我の療養ついでとは聞きましたが......」
まさか......俺の表情で察したのか平塚上等は頷いた。
「私の腕は喰種に落とされてね。普段は義手なんだが今回はクインケを着けてみたんだよ。少し前に完成してね」
平塚上等が義手だった事に全く気付かなかった。というか義手の武器とかカッコよすぎでしょ。自分で言い出したのかな?言い出したんだろうなぁ......
「だから手ぶらという訳ではないから安心しなさい」
「なら良いですよ。カッコイイすね」
「そうだろ?」
やっぱこの人の笑顔は少年だろ。
✕ ✕ ✕
そして俺達はその喰種の出没するという場所に到着した。
「ここが奴の喰場のようだな。ここに女を誘って喰っているらしい。二週に一回のペースらしいが、今日がその日に当たるらしい」
ナンパ野郎の喰種かよ。やる気出てきた気がする。
「比企谷、待ち伏せするぞ」
こうして俺は大人な女性(中身は少年)と息を潜めて隠れる事になった。声は女性なのでドキがムネムネする。
「ここに何があるのー?」
甘ったるい女性の声がする。今回の喰種のターゲットだろう。
「ああ、良いもんがあるんだ」
喰種らしき声も聞こえる。
「比企谷、喰種と確認出来たら私が喰種を撃つ。奴が動揺しているすきに女性を喰種から離して喰種と戦え」
「はい」
小声で打ち合わせわ済ませると彼らの動きを用心深く見る。
「こんな良いものが有るんだよぉ!」
男に赫眼が現れ赫子が生えてくる。途端に平塚上等の左腕から弾が放たれ、喰種に辺り奴は仰け反る。女性の叫び声も響くなか俺は飛び出して女性を後ろに下がらせつつクインケを構える。
「早く逃げて下さい!」
女性に声を掛けつつ喰種を警戒する。平塚上等は俺の後ろに回り女性を気にしながらも左腕を喰種に向ける。
「なんだテメェらは!人の食事邪魔しやがって死ねよぉぉぉぉ!!」
喰種の赫子がこちらに飛んでくる。単純なので弾きつつ攻撃を与えるために距離を詰めていく。相手は一本だが近づくほどに防ぐのが精一杯になっていく。このリーチではキツそうだ。
「アァッ!死ね!」
喰種うるせぇな。だがやはり人と喰種の差は大きい。攻撃が激しくて当てれそうにない。そこで平塚上等から声が掛かる。
「下がれ比企谷、後は私がやろう」
俺が下がるとすぐに平塚上等は連射し始めた。喰種に穴が空いていく。
「グッ、アァッ!」
喰種は叫ぶが尚も攻撃は止まらない。
しばらくすると叫び声が止み喰種は倒れた。平塚上等が左腕を下ろす。
「比企谷、回収班を呼べ。それと、この後反省会をする、飯を食べに行こう、奢ってやる」
反省会か......嫌な響きなので断っておこう。
「俺には大事な妹の作ったディナーが待っているので」
家族愛を表現しつつ断るという素晴らしい技法で鮮やかに俺が誘いを断ろうとすると、
「安心しろ、反省会はもとよりするつもりだったからもう小町君には連絡している」
先回りされている......だと。そういや小町の事も知ってたなこの人。
「では、問題ないな?」
俺の逃げ道はないようだ。そして俺達は回収班が来た後に反省会へと向かった。
オブシ三本目の事もすぐに出そうと思います。それと、義手とかのギミックは凄いカッコイイと思います。
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四話
俺は現在、平塚上等と居酒屋に来ている。反省会ってやつだ。ものすごくめんどい。帰りてぇ。
「比企谷、実際に戦ってみてどうだった?」
平塚上等がジョッキを傾けながら聞いてきた。
「そりゃ、凄い怖かったですよ。一歩間違えたら体に穴空いてたでしょ......」
「だが君は自分を守るだけではなく距離を詰めていたな」
平塚上等がジョッキを置き感心したように言ってきた。だが、別に勇気とかそんなカッコイイもんじゃない。
「まあ、倒さなきゃ終わらないとは思ってたんで」
恐怖を終わらせたかっただけなのだから。
「そう思えるなら十分だな。だが、君は短いクインケでは守りに行きすぎる、踏み込みが足りない」
そう言われてもあそこで踏み込めば死んでいたかも知れない。あれ以上踏み込む事は今の俺には出来ないだろう。俺は強くないのだから。
「クインケの改良でもしてみるか」
「クインケの改良ですか?」
確かにこれを使い続けるよりも良いものがあるかもしれない。
「朝オブシは三本だと言ったろ?全部合わせてフルサイズにしても良いかもしれんな」
そうすれば長くなるのか?でもギミックがあるとか言ってたような。
「ギミックを気にしてるのなら問題ないぞ。あれは起動してからが問題であって起動しなければ普通のものとは変わらん。ただし本格的に使うとなれば練習の必要があるだろう」
「ギミックとはどんなギミックなんですか?」
素直に気になる事は上司に聞いてみろと平塚教官に言われたので聞いてみることにする。教えて、平塚教官!
「比企谷は尾赫の鞭のクインケを知っているか?」
ドM喰種がいたら喜びそうなクインケだ。平塚上等が使うなら喜ぶ奴いそうだな。この人見た目は良いし。
「知ってますけど」
扱いが難しいと聞いたことがある。クインケは喰種を傷付ける為の武器だ。喰種は普通の武器を通さないからクインケで対抗するのだ。つまりクインケは半端ない威力な訳でミスって人に当てようものなら簡単に死んでしまう。故に扱いが難しいクインケはそれなりの危険が伴う。だから使う人間にはある程度余裕があるほどの技量が求められる。
「実は三本目は鞭として使えるんだ」
「こんな短いので鞭として使えるんですか?」
正直そんなイメージが出来ない。これでは大したしなりかたもしないだろう。
「三本目は延びるからな。フルサイズにしたときもそうするつもりだ」
つまり延びる剣みたいになるのか。カッコよさそうだが良く考えると滅茶苦茶使いづらい。フニャフニャな訳だろ?
「そんなの俺には使えなそうです。」
「馬鹿者、最初から諦めるな。先ずは挑戦してみろ。君なら扱えるようになるさ。とりあえず作っている間は甲赫を使うといい。ギミックを使わない時の感覚は尾赫というよりは甲赫に近くなりそうだからな。真戸さんにも意見を貰うか」
真戸さんてあれだろ......クインケマニアのおっさん。あの人、人間の俺から見ても不気味だぞ。話した事無いけど。隣にいたデカイ人は真面目そうだったな。肛門太郎とかそんな名前だった気がする。
「完成したら真戸さんに使い方を聞くと良い」
マジかよ......会うことになるかも知れないのか。肛門太郎さんの名前間違って無いよな?後で確認しとこう。確認出来る知り合いはいないが......平塚上等に聞いたら呆れられそうだがな。
だが、こう見えて喰種対策法は9割は暗記してる自信がある。決して記憶力が残念な訳では無いのだ。ただ興味が無さすぎただけなのだ。だからノープロブレム。やっぱ問題だらけだな。
「明日からは普通に捜査だから急に喰種が現れるかも知れない。だから、私が捜査以外の時にも稽古を付けてやろう。休日も空けとけよ」
そう言って平塚上等はジョッキの中身を飲み干した。日曜日も朝からじゃねぇよな?プリキュア見れなくならんよな?俺の心配はそれだけだ。
「ちなみに日曜あ......」
「土曜、日曜朝から稽古だ」
「......さも行くんですね......了解しました」
俺のテンションが無事下がったところで反省会は終了した。録画しとこう......録画機能って素晴らしいわホント。開発した方は神だ。祈っておこう。そうして俺は手を合わせながら帰宅した。
一つの話が短すぎますかね?もう少しうまく書けるようになりたいです。亜門さん好きな人にはごめんなさい。
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五話
翌朝俺は喰種と戦った事を小町に話した。
「えー、お兄ちゃん一撃も入れれなかったの?」
小町がつまらなそうに聞いてくる。このままでは情けないお兄ちゃんなので反論をする。情けないお兄ちゃんのままじゃいられん。
「でも、ノーダメだぜ?」
キメ顔で言ってやると小町はじとーっと見てくる、
「そういうのは、ちゃんと倒してから誇るものだよ、ごみいちゃん。投げたりとか出来なかった訳?」
「投擲なんてしたら一本になっちまうだろ?」
一本だと逃げる事しかできそうにない。流石に無茶だ。しかし、小町はご不満なようで、
「そんなのその隙に一気に攻撃すれば良いじゃん。攻撃は最大の防御って言うでしょ?」
妹が物凄い脳筋な事を言っているが、平塚上等の言っていた、踏み込みとはこういう事なのだろうと察せられる。だから、小町の言っている事は正しいのかも知れない。俺も倒さねば俺だけでなく小町が殺されるとなれば踏み込んで戦う事が出来たのだろう。生活していくためなんてそんな弱い理由では踏み込めるはずも無かった。もしかしたら、理由なんてほとんど無いのかも知れない。
しかし、そんな事を言ってしまえば小町に呆れられ見捨てられるかも知れないので、やる気があることはアピールしておこう。面接はやる気が大事って言うしね。CCGの採用面接ではアピール出来てた気があまりしないけど。ただでさえやる気の無い目だからな。最終的な面接なんてほとんど落ちないけど。
「頑張って攻撃入れれるようにはするよ」
「しっかり仕事しなよ?餌になっちゃうよ?」
小町は頷くと食べ終わったのか食器を片付け始めた。
「俺も準備しますかね」
俺はそう言って食パンを口に含んでコーヒーを流し入れた。糖分足りねぇ......砂糖入れ忘れた......
✕ ✕ ✕
CCGの平塚上等のデスクに着くとアタッシュケースを渡された。
「これが君の訓練に使う甲赫だ。君を鍛えるという意味でキタエという名前にしておいたぞ」
ネーミングセンスがひでぇ......
すると、その表情を察されたのか、
「文句あるかね?なら君が考えたまえ」
と、言われたが何も思い浮かばないので、
「いえ、文句ありませんよ」
と、答えておいた。
「なら結構。早速起動してみろ。」
局内で良いのか?と思いながらもクインケを起動する。アタッシュケースが形を変えTHE日本刀の形を作っていく。
「一般的で特に癖も無い甲赫だ。これで慣れたまえ」
これでも捜査官なのである程度体は鍛えてある、重いとはいえ何とか扱えそうだ。
「では行くぞ比企谷、先ずは聴き込みだ。」
俺はクインケを戻して平塚上等の後を追った。
✕ ✕ ✕
複数の事件を調べていたが、目撃証言にはいくつか共通点があった。
「喰場が一定では無さそうだな。いくつかの補食事件は同一犯だろう。赫子痕が分かりにくいかったが、これである程度確定したな。周期が一定ではないから待ち伏せといったところだろう。喰場になりそうなところへ行ってみるか」
そうして俺達は1ヶ月半ほどいろんな路地裏を通ってった。その間の休みも稽古をされ甲赫にも慣れてきたころに目当ての喰種にたどり着いた。
「テメェらは鳩だったのかぁ!コロスコロス」
喰種が切れて叫ぶ。話していない間もコロスコロスと呟いている。相当狂ってんな。
「テメェらが弟を殺して!それから四年経った!復讐をしようと思ったがさすがに俺もバカじゃねぇ。だから俺は鍛えてきたんだよ!この日テメェらをぶっ殺す為になぁ!コロスコロス」
俺のもとに赫子が伸びてくる。発動が間に合わない。その時銃声が響いた。喰種の赫子が俺の前で切り落とされる。
「比企谷!怪しいと思ったらすぐにクインケを起動しろ!」
平塚上等が喰種の赫子を撃ち抜きながら叫ぶ。俺もクインケを起動して構えた。
「鳩がコロスコロス二人程度コロスコロス大したことねぇなあ!コロスコロス」
奴から日本目の赫子が出てきて、平塚上等に襲い掛かる。
「比企谷!一本頼む!」
俺は言われた通りに一本の赫子を受け止める。喰種のもう一本の赫子は平塚上等の攻撃で消滅し、俺の受け止めている一本だけになった。
「今度はリーチが足りる!踏み込め!比企谷!」
「うぉりゃあ!」
俺は赫子を一気にいなして喰種に近づき止めを差した。喰種の血が顔に掛かる。
「畜舎......鳩がぁ!みんな死ねぇコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
喰種の断末魔は路地裏で響き渡った後も俺の耳で響き続けた。喰種の呟き続けた言葉はいつまでも耳に残り続けるだろう。きっとふとした事で思い出す。
「比企谷、良くやった。回収班は呼んだから局に戻ったらシャワーを浴びろ。手続きはまた明日やればいい。今日は休んでおけ」
そう言われたが上の空で局に戻ってシャワーを浴びつつも考え続けた。
生き物を殺す感覚はこんな物だっただろうか。蟻を踏んでも蚊を叩いてもこんな感じでは無かった。見た目が人とあまり変わらないからだろうか。それとも家族を殺されていたからだろうか。俺も小町が殺されればああなってしまうのだろう。そういった確信だけは持っていた。
喰種の台詞が読みにくくなってしまいました。そろそろオブシ完成です。
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六話
翌朝小町に最近の捜査の顛末を話した。
「どうだった?気持ち良かった?」
小町は喰種を殺した感想を聞いてきた。
「気持ち悪かった」
「汚い血を浴びるのは気持ち悪いかも知んないけどさーでも内心最高でしょ?いいなー小町も早く捜査官したいなー」
ここで反論するとめんどくさそうなので肯定しておく。最高とはとても言えない。あの声がまた頭に響いて来そうになる。
「そうだな。俺も早く小町と働きてぇぜ。」
「そういえば、お兄ちゃんのクインケってどんなのなの?」
小町が興味津々といった様子で聞いてくる。話が変わるのはありがたい。
「今は甲赫の日本刀みたいなのを使ってる。前は尾赫のサバイバルナイフみたいなのを使ってたけどそれを改良して鞭にもなる剣を使うつもりだ。そろそろ完成するんじゃないか?」
「なにそれカッコイイじゃん。完成したら写メ送ってよ!」
「ああ、分かった」
そんな話をしているとメールが届いた。
[クインケが完成したので先ずはラボに来て下さい。]
差出人は平塚上等だった。めっちゃメール丁寧だな。こんなに丁寧だとネットで知り合って現実であった瞬間に幻滅されそうだな。
なんか寒気が......
小町が携帯を覗き込んでくる。
「完成したの!早く行ってみなよ!写メ頼んだからねー」
そう急かされて俺は朝食を食べるスピードを上げた。やべっ、喉に詰まるっ!
✕ ✕ ✕
ラボに着くと地行博士と平塚上等、そして真戸上等と肛門太郎?さんがいた。なんでいるの......
そういえばアドバイス貰うとか言っていたような。肛門太郎さんが正しいか調べてねぇのに!不味い。
「比企谷、やっと来たか」
平塚上等が話しかけてくると、真戸上等も話しかけてくる。まるで亡霊のようだ。
「君が平塚君とパートナーを組んでいる比企谷君だね?私は真戸呉緒、上等捜査官だ。よろしく」
怖いよ怖い目が怖い俺の目よりも不気味といっても過言ではない。
肛門太郎(仮)さんも挨拶をしてくる。
「亜門鋼太郎二等捜査官だ。よろしく比企谷」
名前間違ってた事が判明したよ!アブねぇ名乗ってくれ無きゃ失礼な名前で呼んでたところだったぜ。ごめんなさい亜門二等。さようなら肛門捜査官。
「よろしくお願いします」
俺は二人に挨拶を済ませて地行博士のもとに向かう。
「比企谷君、これが君のクインケだよ」
「私が構造を考えておいた。素晴らしい出来だと思うよ。ギミックについては私が稽古を付けてやろう」
真戸上等が嬉しそうにいう。お手柔らかに頼みたいなぁ。
「比企谷、起動してみたまえ」
平塚上等に言われ俺はスイッチを押し込んだ。
アタッシュケースは今まで使っていた甲赫に近い形に変わっていく。甲赫よりも少し軽いような気がする。暫く眺めていると持ち手の少し上、親指を動かせばすぐに押せそうな位置にボタンらしきものを見つけた。
「比企谷君、誰も居ないところにクインケを向けてボタンを押してみなさい」
真戸上等にそう言われ俺はボタンを押した。
「うわっ」
ボタンを押すと刀身が伸びて垂れ下がる。驚いた拍子にボタンを話してしまうと刀身がもとの形に戻った。
「それがギミックだよ」
俺はボタンを押したり話したりして何度か振ってみる。まさにボタンを押さないときは刀、押したときは鞭というクインケだった。
「比企谷、気に入ったかね」
「ええ、凄いギミックですね。ですが、こんなの扱えますかね?」
そんな事を聞くと真戸上等が答えてくれた。
「平塚君、比企谷君、これから一緒に捜査をしないかね?亜門君も良いだろう?」
「ええ私は問題ありません」
「私も是非お願いしたいです」
俺も返事しなきゃダメ?
「あ、お願いしたいです」
単数形にしてしまった......
「では行こうか」
こうして俺は一年ほど真戸上等と亜門二等とともに捜査をすることになった。
この後は時間の進みを早めて原作の時間まで持っていきます。
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七話
俺が捜査官となって一年以上が過ぎた。ずいぶんとこのクインケにも慣れてきて、真戸上等らとの共同捜査はしなくなったが、まだ食事も一緒に行くことがある。なかなか親しくなったと思う。真戸上等の娘さんも俺の一つ下で今年CCGに入ったそうだ。主席らしい。流石真戸上等の娘だ。真戸上等の奥さんの微さんも凄い人だったと聞いている。仇はかの隻眼の梟だとも。それはそうとついに喰種集団との戦闘に俺は駆り出される事となった。そこまで大規模ではないものの遺書は書く決まりだ。家で遺書を書いていると
「は?お兄ちゃんなんで自殺しようとしてるの?バカなの?死ぬの?あ、死ぬから書いてるのか」
とか言われた。遺書書くことはアカデミーで習ったよね?うちの妹大丈夫かしら?三十分ほど説得してやっと誤解が解けた。
「つまり、お兄ちゃんはついに殺し捲れる訳だね!」
小町が嬉しそうに言う。来年からは小町も捜査官だ。突っ走らないといいが......
「そういうことだ。お兄ちゃん頑張るぞ!」
意気込んで見せるもののあまり行きたくは無い。
「頑張ってきてね!」
俺は遺書を書き終えると鞄の中に突っ込んだ。この遺書がこのままラ・フランス......じゃねえや用無しになることを祈りながら。
✕ ✕ ✕
「これより黒十字掃討作戦の計画を説明する」
今回の指揮官である丸手特等が宣言する。黒十字と言うのは喰種組織の名前で構成員のマスクには黒い十字が書かれていたからだ。結構安直なんだよな。
「黒十字は戦闘に長けた喰種集団で組織のトップはSレートだ。Aレートも複数体確認されている。13区の白スーツなんかに近いと思ってくれていい。アジトは廃工場であり、広い駐車場があるためそこに陣をしく。羽赫とQバレットで距離をつめて射撃役以外が工場内に突撃、殲滅してもらう。事務所側にも何人か行って貰おう。」
ながったらしい説明だが資料を後で見ればいいだろう。
そうしてぼーっとしたまま会議は終わり。五日後に作戦は開始された。
✕ ✕ ✕
「撃てっ!撃てっ!」
Qバレットや双方の羽赫の放たれる音が響く。
「比企谷、我々は重要な役割だ。しっかりしろよ」
重要な役割、それは事務所側への突撃だった。事務所側は狭いため大人数では行けないのだ。そしてこのチームには......
「よろしくねー。静ちゃん」
「陽乃、ちゃんはよせ。上等とよべ上等と」
「固いなー静ちゃん上等はー」
「姉さん、緊張感を持ちなさい」
「雪乃ちゃんも固いー」
雪ノ下姉妹がいる。姉の方がうるさい。
「ねぇねぇ、君が静ちゃんのパートナー?」
怖いほど満面の笑みを張り付けて雪ノ下姉が聴いてくる。
「はい、比企谷八幡二等捜査官です。」
「よろしくね比企谷君」
「はあ」
この人うさんくさそうで苦手だ。しかも近いしいい匂いするし、ホントに苦手。
その時通信機がなる。
「陽乃をこっちによこせ!火力不足だ!」
丸手特等からだ。
「あらら、残念せっかく一緒に戦えると思ったのに」
口を尖らせてそう言いながら陽乃上等は工場側へ向かった。
「陽乃が居ないとキツくなるかもしれん」
そう平塚上等が呟いた。
暫くすると突入準備の指示がでる。俺達はクインケやQバレットを構える。そして突入を開始した。
✕ ✕ ✕
事務所側には大したことのない喰種ばかりだった。報告されていたAレートは向こうに行っているのだろう。ここは、特に重要な場所では無いのか。
そして俺達は会議室らしき場所にたどり着いた。そのとき、大きな音と共に天井が崩れた。
「ようこそパーティー会場へ!」
少年のような少女よような声が響くと同時に何人かの捜査官の首が宙を舞った。
「こんにちは皆さんっ」
「アイツはダーククロス、黒十字の首領だ!」
平塚上等が叫ぶ。
「下がれ比企谷!君にはまだ勝てん!」
俺は下がると同時に周囲を確認する。雪ノ下も生きているようだ。アイツはSレートだ。俺にはどうしようもない。
「比企谷二等クインケを貸しなさい」
そう雪ノ下に言われた。局員捜査官がクインケを使う事など無いはずだ。
「お前なに言ってんの?」
「いいから早く」
困惑しつつも言われるがままにクインケを渡す。その時、平塚上等の体を喰種のクインケが貫いた。
「ガッ!アッ!」
「平塚上等!」
俺が叫んだのと同時に雪ノ下が飛び出し喰種を切り付けようとする。
「うわぁ。危ない娘だなぁ。この人もだけど女の子はもっとお淑やかにしないと」
喰種は平塚上等から赫子を抜いて応戦した。俺は平塚上等に駆け寄る。
「平塚上等無事ですか!」
平塚上等は絶え絶えの声で
「比企、谷もう、私は、死ぬ、すま、ん、生き残れ、よ」
そう笑いかけて平塚上等はぐったりとした。
未だに雪ノ下は戦い続けている。いつまでもぼうっとしてる訳にはいかない。
「雪ノ下!そのボタンを押せば刀身が伸びてしなり鞭になる!」
「分かったわ」
そうして雪ノ下は鞭としても使いつつ戦う。
「面白い玩具だね。それ」
喰種は愉しそうに笑っている。
雪ノ下の攻撃はどんどん鋭くなっていきついに喰種の仮面を叩き割った。
「少女......いや少年か?」
そこには美しい少女かはたまた美しい少年のような顔があった。その顔が歪んだかと思えば、
「面白いなぁ。当ててくるのか」
そういってもう二本赫子を生やして雪ノ下を弾き飛ばした。
「きゃっ」
雪ノ下は壁に激突して意識を失う。喰種は俺に話しかけて来た。
「君はこの二人より弱そうだけど生きてはいるし、運がいいのかな?名前でも聴いておこうかな?」
俺は精一杯に虚勢を張る。ナメられてたまるか。
「人に名前を聴く時は自分から名乗るものだろ?」
すると喰種は笑いだした。
「アハハッ、面白いね。僕は黒十字首領ダーククロスって呼ばれてるけどね。本名はトツカサイカ。男だよ?」
「俺は比企谷八幡だ。いつかお前を殺してやるよ」
「フフッ面白いなぁ。じゃあそれまでたくさん殺して待ってるよ。じゃあね八幡」
そうしてトツカサイカと名乗る喰種は穴の空いた天井から出ていった。俺は救護班に連絡し気を失った雪ノ下に駆け寄る。どうやら生きてはいるようだ。
すると天井の穴からからパラパラ粉が落ちてくる。
「不味い崩れるな」
柱もひび割れている。建物も老朽化しているらしいしすぐにでも崩れてしまいそうだ。
平塚上等の体が傷ついてしまうかもしれんが俺は雪ノ下を優先し、両手で抱えて事務所から脱出した。俺達が出て一分も経たぬうちに事務所は崩れてしまった。
すると腕の中で雪ノ下が目を冷ましたようだ。
「うっ」
「やっと起きたか」
「貴方は......比企谷二等。なぜ貴方の腕の中に私はいるのかしら」
そう聴いてくる。
「喰種には逃げられてな。建物が崩れそうだったからお前を運んで逃げてきたんだ」
「そう......ありがとう」
そうして気まずそうに礼を言う姿はとても可愛らしかった。美少女はずるい。
「その......腰の骨が折れてしまっているみたいで立てそうにないからその......医療班が来るまでお願いできるかしら?」
「わ......分かった」
そうして俺は医療班の担架に雪ノ下を乗せるまで抱え続ける事になった。妙な光景だろう。
医療班がきて、俺は雪ノ下を引き渡した。平塚上等含む遺体が事務所に残っている事を伝え、その後俺の傷も見ると言われ体を見られている時にアナウンスが入る。
こうして黒十字掃討作戦は終わった。首領含め何人か取り逃がしたもののほとんどの構成員を殲滅した。しかし、事務所側で多くの犠牲を出したことは大きな失敗と言えるだろう。犠牲者の葬儀まで俺は休暇を命じられた。上司を失った者へのケアのような物だろうか。俺はその休暇を雪ノ下の見舞いと読書に費やした。雪ノ下とは本などの事である程度話すようにはなった。亜門さんからのメールも簡単に返しておいた。同情されてもうまく返せる気がしなかった。
平塚上等は亡くなってしまいました。好きな方はすいません。戸塚は悪役というか喰種として出しました。これからも関わると思います。
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八話
平塚上等の葬儀の日がやってきた。参列者には捜査官だけでなく平塚上等の教え子だった者も参列していた。おそらく俺の同級生もいるだろう。亜門さんや真戸上等の姿もあった。小町も俺に着いてきている。
「ホントに死んじゃったんだね」
小町は悲しそうに目を伏せている。
雪ノ下姉妹も参列しておりこちらに近付いて来た。妹の方は車椅子だ。
「ごめんね。比企谷君。私が工場側に行ったせいで......」
雪ノ下上等も明るさはなくとても落ち込んでいた。
「いえ、あれは命令でしたし、仕方無いと思います」
こんな励ましはなんの意味も持たないと思いながらも励まそうとしてみる。
「比企谷君も平塚上等と挨拶を済ませてきたら?この後人がどんどん来るからゆっくり出来なさそうだし」
雪ノ下が空気を察してなんとかしようとしている。今はありがたい。
「では俺も平塚上等に挨拶してきます。小町行くぞ」
こうして俺は平塚上等のもとへ向かった。
平塚上等の顔はきれいだったが崩れた時にずいぶんと汚れていて大変だっただろう。俺にとって平塚上等は初めてのパートナーだ。他の先輩方もパートナーを失った人が多く励ましてくれた。いつか俺もパートナーを失ったやつを励ます事が出来るだろうか。
平塚上等はとても優しくて厳しい人だった。俺をしっかりと見てくれて、的確にアドバイスをくれたしミスをフォローしてくれた。下らない口答えをしては何度も殴られり、関節をキメられたりした。そんな風にずっとやっていくものだと、死んでしまうなんて考えてもいなかった。俺は助ける事どころか助けようとする事も出来なかった。
動いたのは雪ノ下だった。俺が飛び出しても犠牲者が増えていただけなのは分かっているが、それでも何かしないより何かしたかった。そんな事を思いながら俺は手を合わせ続けた。誰かの死を乗り越えて強くなるなんて現実では起きない。悲しむ事しか出来ないのだ。少なくとも俺は。
平塚上等のもとを離れると亜門さんが近いて来た。
「比企谷、本当に残念だったな。平塚上等は俺にとっても理想の先輩だった」
亜門さんは怒りと悔しさの混じった表情でそう言った。
「亜門さん、この後真戸上等も一緒に食べに行きませんか?4人で捜査した時の話をしましょう」
そんな提案を俺はしてみた。
「比企谷は平気なのか?」
心配そうに亜門さんが聞いてくる。
「こうやってしっかりと区切りを付けたいので」
そう答えると、
「そうか分かった。俺から真戸さんに声をかけておこう」
そう言って真戸さんのもとへと向かって行った。
その後は真戸上等も含め三人で食べに行く事になった。小町には悪いが先に帰って食べていてもらう事にした。小町もそれは分かるようで
「しっかり区切り付けてくるんだよ?引き摺りすぎないようにね?」
と言われた。
わかったと返事をしたが、約束は出来そうもない。
そうして俺達三人は三時間はずっと語り続けた。そろそろ時間も遅くなる。真戸さんが娘のためにそろそろ帰らねばと言ったためお開きとなった。語っても語っても、キリがなかったから、助かった。俺は本当にこんなことだけで区切りを付けられたのだろうか。そんな疑問を頭から追い出すように俺は駆け足で帰宅した。帰ると小町にどうだったか聞かれたがどう答えたかも覚えていない。区切りを付ける事の出来ない弱い自分を認めたく無かった。だからすぐにシャワーを浴びて眠りに付いた。一瞬でも早く思考を止める為に。
八幡が雪乃を雪ノ下と呼んでいて雪乃が八幡を比企谷君と呼んでいるのは見舞いである程度仲良くなったからです。それと、もうそろそろで原作開始の時間にたどり着けそうです。
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九話
翌日、命じられていた休暇も終わり、俺は久しぶりにCCGへ足を踏み入れる。久しぶりと言えど一週間ほどだが。俺のパートナーは新しい人になるのだろうか。平塚上等はアカデミーでも知っていたからああしてやってこれたのだと思う。知っていたから、だけではないのかも知れない。知っているとて俺と上手くやっていける人間など殆ど存在しないだろう。そんな事を考えながら歩いていたが、ふと気が付いた。平塚上等はもう居ないならデスクへ向かっても意味がない、と。あまりにも当たり前だったその行為は一瞬にして意味を成さなくなる。俺が呆然と立っていると後ろから話しかけられた。
「お葬式ぶりだね。比企谷君」
その声の主は雪ノ下陽乃上等だった。平塚上等の葬儀の時より随分と明るくなっている。
「おはようございます。雪ノ下上等」
俺は何か話題に触れる訳でもなく、挨拶をする。
「うん、おはよう比企谷君。早速だけど付いてきてもらっていいかな?」
何の用なのだろうか、仕事モードらしい顔になる。お叱りを受ける訳でも無さそうだが重要そうな雰囲気がある。
「何処へ行くんです?」
行き先だけは知っておきたい。変な事をするとは思わないがそんなに信用している訳でもない。
「局長室だよ、比企谷君の新しいパートナーについて」
なるほど、しかしなぜ雪ノ下上等に連れていかれなくてはならないのだろうか?そんな疑問を浮かべつつもついて行く。
「ほら着いたよ比企谷君」
俺はノックをして部屋へと入る。
「し、失礼します」
局長とはほとんど会話をしたことが無いためとても緊張する。何せ古来から喰種と渡りあって来たというあの和修家の人間だ。
「君が比企谷八幡君だね?」
「はい。私が、比企谷八幡二等捜査官です」
俺は失礼の無いよう丁寧に挨拶をする。
「先ずは、平塚上等捜査官の事は残念だったね」
「はい、とても良い上司で私の目標でした。私の力が無いばかりに上司を失ってしまいました」
「そうか、励ましという訳では無いがあの喰種のレートを見直す事が決まった。あの強さでは仕方ないと言える。そして、彼女は君が入局すると聞いた時真っ先に志願していた。アカデミーの時から気に入った生徒だったんだろうね。彼女にとって君は特別な生徒だったのだろう。君はこれから期待に答えて行けばいい」
それを聞いて俺は泣きそうになる。あの人にとって俺は何度も経験したような問題児の一人に過ぎないと思っていた。誰かが元生徒だからと勧めたと思っていた。あの人は話さなかった、もし話されていたら今よりもさらに憎しみは大きくなっていただろうか。
「はい...」
その声はきっと掠れてしまっていただろう。
局長が腕を組み換え、不意に空気が変わる。
「君には新しいパートナーが必要なのは分かっているだろう?入って来なさい」
局長室の扉が開く。その扉から入ってきたのは美しく妖しい女性だった。
「さっきぶりだね、比企谷君」
そういって笑いかけてくる。さっきまでの雰囲気を無かったようにするような明るい雰囲気を持ってきた。
「彼女が君のパートナーとなる雪ノ下陽乃上等捜査官だ。」
何となく感づいていた。なんで、俺を呼んだのが彼女だったのかとか。この人は平塚上等と仲の良い様子であったがそこまで話した事がない。ただ何度も噂を聞くほどに強いらしい。
妹ですら、初見の俺のクインケを俺より上手く扱っていた。その姉とあらばそれ以上の実力は間違いない。実力としては上等も低いのではと思ってしまった程だ。
「分かりました。よろしくお願いします。雪ノ下上等」
俺は丁寧に挨拶をする。あまり関わっていない美人の前で緊張した訳では決して無い。
「比企谷君固いなー。陽乃でいいんだよ。陽乃で」
「いえ、そういう訳にはいきません。雪ノ下上等」
「強情だなー比企谷君は」
ぶーぶー言っているが気にしなくて良いだろう。それを無視しながら俺は局長に挨拶を済ませ局長室を出ていく。
「待ってよ。比企谷君」
雪ノ下上等は慌てて付いてくる。
「君、私のデスク分からないでしょ?付いてきて」
そう言われ俺は付いていく事にした。
「比企谷君、そういえば言ってなかったけどね。私にはもう一人パートナーが居るんだ」
なにそれ聞いてねぇよ......もっと早く言ってくれれば丁重にお断りしましたよ?ぜってぇ上手くやってける訳ないじゃん。
そして、俺は雪ノ下上等のデスクらしい所に来た。
横には知ってるイケメンが立っている。なんであいつが居るんだ......
「彼が私のパートナー第1号、葉山隼人二等捜査官だよ」
こいつは、俺と同じアカデミーの同期で主席だった奴だ。一番に昇進するのはほぼ間違いなくこいつだろう。イケメンで優秀とか舐めとんのか。とか思っているので俺はこいつが苦手だ。一方的に嫌って悪いなイケメン君。へっ。
「ヒキタニ君が新しいパートナーかい?陽乃さん」
このイケメン俺の名前間違えやがった。でも覚えられてるから良しか?いや、やっぱ許さん、俺が喰種だったら間違いなく襲い掛かって駆逐されてるぞ。駆逐されちゃうのかよ......俺弱ぇ。
「今日から雪ノ下上等のパートナーとなります。比企谷八幡二等捜査官です」
さりげなく名前の訂正をする。
「ああ、同じアカデミーだから分かると思うが、葉山隼人二等捜査官だ。よろしくな。ヒキタニ君。」
わかったこいつわざとやってる。わざと名前間違えていいのは迷子の小学生の幽霊だけだぞ。
「二人とも挨拶済んだならこれからの捜査について説明するよ」
そうして俺は説明を聞いた。葉山の方が今のところ強いため俺はアシストに回るらしい。これは事実なので納得の采配だ。コイツを助けるとか嫌だが仕方あるまい。仕事だからな。嫌な事は仕事だからって理由で飲み込めちゃうあたり俺の社畜適正の高さが伺える。
こうして新たな上司のもとで俺の捜査官生活が再開した。大丈夫かな?俺。
葉山も入れて三人での捜査となりますが捜査中の出来事はほぼカットになるかと思います。次からは原作の時間に入っていきます。と言っても亜門さんや真戸さん、噂なんかを通してしかしばらくは原作喰種キャラは出てきません。
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十話
俺達は三人で順調に捜査をしていき、葉山は一等捜査官になった。俺も強くなりBレートなら難なく倒せるようになってきた。だが、そんな事はどうでもいいのだ、重大なニュースがある。小町がCCGへと入局したのだ。小町はなんか良く知らんおっさん上等と組まされていたので、そのおっさん上等には睨みをきかせてやった。なんかしやがったらただじゃおかん。そんな事を話してやると、
「過保護だなー。お兄ちゃんは。あんまりしつこいと怒るよ?」
とか言われた。保護はしてもし過ぎることは無いと思ったんだけどな......
何はともあれ小町の念願の捜査官デビューだ。お祝いとして今まで駆った喰種の中で一番良い物をクインケにした。真戸上等のお墨付きだ。四対のナイフ型の尾赫プラグ4/4だ。その喰種は尾赫の先に四本の突起があり、死体にコンセントのような痕を付けるのでプラグと呼ばれていてそれをそのまま名前とした。俺にとっては短いが小町なら上手く使えるはずだ。このプレゼントに小町は、とても喜んでくれた。そうして俺達は家でも喰種の捜査のそれぞれの進捗を話すようになっていった。
しばらくして真戸上等と亜門さんは20区に行くということを聞いた。この前駆逐した、フエグチの妻や娘がいる可能性があるそうだ。クインケとなったフエグチを見せて貰ったが、扱いがとても難しそうだった。何あれどうなってんの?使徒なの?さすが真戸さんだ。しかもそれで妻を殺しに行くとかホント良い性格してんな......まぁ20区は落ち着いた区ではあるらしいし心配する必要も無いだろう。それよりも俺は自分の仕事に集中しなくては、妹に追い越されるのはさすがに恥ずかしいものがある。妹には常に大きな背中を見せて歩むのが兄と言うものだ。
こうして俺はいつものように変わらず捜査を続けた。
✕ ✕ ✕
しばらくして亜門さんから連絡があり、一緒に捜査をしていた捜査官が亡くなった事を聞いた。フエグチの妻の方を駆逐したばかりだから、復讐だろうか?亜門さんも右目を負傷したらしい。クインケを持っていなかったようだから仕方無いだろう。しかし、捜査官を襲うような好戦的な喰種が20区にいるとは......少し嫌な予感がした。亜門さんもさらに鍛練すると言っていたし俺も頑張らないといけないな。
そう決心したのだが、しばらくして衝撃的な事が起こった。真戸さんが喰種に殺されたという。少し前に亜門さん達を襲った喰種らしい。信じられなかった。一緒に捜査をしていたからこそ分かる、あの人は強いのだ。フエグチのようなクインケは普通の人にはまず扱えないし、動体視力も恐ろしかった。これにより、20区はさらに警戒が大きくなるだろう。もうすぐ告別式をやるそうだ。俺ももちろん行く。
✕ ✕ ✕
告別式で久しぶりに亜門さんと直接会話をした。
「比企谷、俺は上司を失うのが初めてだ。比企谷もこんな気持ちだったんだな。比企谷、お前も俺も上司の最期に助ける事が出来なかったんだな」
辛そうに亜門さんが言う。ただ、俺達は一緒なんかじゃない。
「いえ、亜門さんは近くにいたら助けられたかも知れません。でも、俺は動けなかったんです、近くにいたにも関わらず......」
「比企谷......すまない。そういう意味じゃ無いんだ......」
申し訳無さそうに亜門さんは呟く。
「いえ、気にしないで下さい。俺の力不足ですから」
俺の両親の仇は分からないが、俺には今明確な仇がある。
「互いに仇を討ちましょうね」
「ああ」
そうして俺達は少し話をしていった。真戸さんを殺した喰種の事や、亜門さんを足止めした眼帯の喰種の事を聞いた。あの雰囲気では暫く亜門さんは仕事にのめり込んで捜査だろう。無理はしないように言っておいたが返事は社交辞令のようなものだった。俺は平塚上等の時あそこまで落ち込めていただろうか......仕事にのめり込んで力に変えられないのはやはり薄情なのだろうか。
思ったより捜査官側の書く所無いですね。アオギリ戦行かせるつもり無かったんですが、行かせようかなとか思うくらいには書く所が無いです。
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十一話
CCGは特定の区に本局の捜査官を送るという話を聞いた。亜門さんのいる20区には法寺準特等や不屈の篠原と言われている篠原特等が送られたらしい。真戸さんの元パートナーだそうだ。鈴屋什造とか言う曲者もいるようだが......それと滝澤政道という奴だ去年入ったアカデミー次席だそうだ。真戸さんの娘さんの同期って訳か。
ちなみに俺は何処かに所属させられる訳でもなく雪ノ下上等の下本局で捜査をしていた。
「比企谷君、隼人、面白い事が起きるかもよ!」
俺と葉山が書類に目を通していると雪ノ下上等がハイテンションで入ってきた。騒がしいやっちゃな。
「何なんですか、局内ではお静かに」
「陽乃さん、落ち着いてくれ、何があったんだ」
俺達が呆れたような視線を向けても意にも介さず楽しそうにしている。
「近くにアオギリって組織と全面的に戦うらしいのよ!もしかしたら参加出来るかもよ!」
雪ノ下上等の性格だから喜ぶのは分かるが、俺には迷惑でしかない。絶対危ないヤツいるじゃん......怖いなぁ。言い訳用意しないとな。
そんな情けない事を俺が考えていると雪ノ下上等が近付いてきて耳もとで囁いてきた。
「アオギリには黒十字の残党も合流しているらしいよ......比企谷君はこの意味分かるよね?」
その言葉に俺は一瞬固まった。黒十字......あの日以来頭から離れない言葉だ。中にはダーククロス......トツカサイカと名乗ったアイツもいるのだろう。今、戦いに行って仇を討てるなんて事を思っちゃいない。そこまで自分の力に慢心してはいない。俺は確かに強くはなっているだろう。しかし、まだ平塚上等にまで届いちゃいない。あの人よりも強くならなくてはならないのだ。
だが俺は、それを聞いて放っておけるような冷静な人間でも無かった。もし、声が掛かったのならば俺はきっと行くだろう。仇を討つ訳でもなく、何か俺を動かす物のために。奴と戦うどころか会うことすら無くても何かが動くのかも知れない。今度こそしっかり喰種を憎めるのでは無いか。平塚上等の事を亜門さんにとっての真戸さんのように力に変えられるのでは無いかと思っていた。その戦いは俺に理由をくれるのではないかと期待していた。
✕ ✕ ✕
そして、正式にアオギリの樹との対決におけるメンバー、11区特別対策班が発表された。なんと、俺達もその班に入っていた。陽乃さんが推したのだろうか。名簿には亜門さんの名前もあった。きっと亜門さんは、活躍するだろう。あの人の強さは異常だ。そのうち上等になるのではないだろうか。他にも目を止める名前がある、雪ノ下雪乃と比企谷小町だ。小町に関しては初めての喰種組織との戦闘だ、とても嬉しそうにしていた。黒十字殲滅に参加すると言った時も羨ましそうだったからな。雪ノ下の名前をみると、あの時の雪ノ下より俺は強くなれたのだろうか、今度は何か出来るのだろうか。ただ他人にクインケをわたし任せるだけで終わらないだろうか。そんな事ばかりが、頭に浮かんできた。あいつとはあいつが退院して以来会っていない。特に連絡する理由と無かった。そんな物だろう。
そんな時に雪ノ下上等から声がかかる。
「比企谷君、今回は多分君が経験する中で一番の規模の作戦になると思うよ。黒十字ばかりに気を取られると殺されちゃうから気を付けてね」
自分が焚き付けといて何を言ってるんだ。そう思ったが彼女は笑みを浮かべていた。何で楽しそうなのこの人......もしやサイコパス?いや、違うか......もしやじゃなくて普通にサイコパスだろ。危ない人なんで関わらんとこ。上司だから無理だけどな。
「ヒキタニ君、気楽に行こう」
葉山が爽やかな笑顔で話しかけてくる。長い間一緒に捜査してるのになんで名前間違えてんだよ。実は馬鹿だろコイツ。こんなヤツが主席のはずがない。さては女の教官口説いて成績上げたな。そんなバカな事を考えながらこれからやってくる戦いへの震えを打ち消していく。
「そうだな。気楽にゆっくり行くとするか。ゆっくり過ぎて何もしてなくても人が多くちゃ分からないだろ」
そんな事を言ってみると、
「なら比企谷君は何もしなくて良いから喰種を誘き寄せる餌にでもなってもらおうかな」
恐ろしい事を言われたので、即土下座で訂正する。
「ごめんなさい。ふざけました。普通に戦います。」
そう言うと雪ノ下上等はニコニコして、
「じゃハイペースで行っちゃおうか」
とか宣った。この人ヤバイわ、俺は普通にやるって言っただけなのに。この人の人生、ハイペースが普通なのかしら、人生焦っても良いこと無いって誰かが言ってたぞ。もっと焦らず行こうよ......そんな俺の願いも彼女の表情から察するに届きそうに無かった。
「はぁ......」
キツい戦いになりそうだ。頼むからイレギュラーとか起きないでほしい。やべえフラグ立ったかも。神様、このフラグ無かった事になりませんか?
比企谷もアオギリ戦に参加させます。俺ガイルキャラももうちょいだそうかと思っています。
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十二話
この日が来てしまった。ついにアオギリとの戦いが始まる。
「テメェらァちゃんと玩具は持ってきたか」
「オオ」
「よーし良い子だ!」
丸手特等が音頭をとっている。
「P.O.D!P.O.D!」
周りがうるせぇな。こういうノリホント止めてほしい。これで俺も混ざったら変な目で見られるじゃん。どうなってんのホント。日常に張り巡らされた罠を躱す俺は天才だと思う。
「比企谷、緊張してるのか?」
葉山が黙っている俺を見て話しかけてくる。
「いや、こんなノリは好かないだけだ」
正直に答える。嘘は言ってない。緊張なんてしてねぇし。足全然震えてなんかねぇし。
「ノリに乗る事も大事だぞ。チームワークに関係してくるからな。アカデミーで習っただろ?」
そんな事を葉山が言ってくる。アカデミーと言われれば、あの人の事を思い出してしまう。奴は居るのだろうか?もし、出てきたとして俺に何が出来るだろう。いや、本当は分かりきってる。何も出来やしないんだと。
音頭の声も収まってきた。
「比企谷君、隼人、今回は私と隼人で前衛を行くわ」
陽乃さんが、今回の戦い方の説明を始めた。
「比企谷君は私達の後ろで警戒しておいて。今回は手柄をあげるわよ!」
いつにも増して楽しそうだ。俺が前衛ではないだけ良しとしよう。キツそうだからな。
「了解です」
俺達は準備体操などをしつつ突撃の時を待っている。
小町や雪ノ下、亜門さんも何処かに居るのだろう。小町がどれだけ強くなったか兄として楽しみだ。俺より強かったりして。それは兄としては、成長を喜べば良いのか、不味いと焦るべきなのか。
そんな事を考えながら待っているが一向に突撃する気配がないまま、三時間程たった
。銃声が聴こえてはくる。というか、雪ノ下上等が露骨にイライラしてるから早くしてほしい。
「ねぇ二人共、もう良いよね?私突撃しちゃっても。もう待てないしさ、仕方無いよね?」
「陽乃さん待って、ダメだよ」
葉山が必死に止めている。俺は知らないフリして星を見ていた。綺麗だなー。
雪ノ下上等が足で地面を叩く回数が増えてきた。頑張れ葉山。負けるな葉山。禿げるな葉山。あの人とずっと組んでるとマジで禿げるんじゃね?葉山。俺は雪ノ下上等に関しては諦めてるから良いけど葉山は何とかしようとするからな。スキンヘッドの葉山を想像していると緊張が解れてきた。葉山のスキンヘッドは緊張を解す効果があるようだ。今度からスキンヘッドで来てもらおう。禿げろよ葉山。
突然どこからかバイクの音が聞こえてくる。おいおい、今何時だと思ってんだ。今東京で一番騒がしいことをしようとしている自分を棚にあげて文句を言ってみるが、どうやらこの音も俺達CCGの誰かが出してるらしい。アオギリのアジトの方をみるとバイクが宙を走っていた。なんだありゃ......バイクから白い頭のが飛び出してなんかやってるかと思えば丸手特等が突撃とさけんだ。泣き叫んでいるようにも聞こえる。
「行くよ!隼人、比企谷君!」
俺達も後に続き突撃した。あのバイク誰のだろう......持ち主には合掌だな。なむなむ。
✕ ✕ ✕
そして戦闘が始まった。悲鳴や銃声、クインケと赫子のぶつかる音が聞こえてくる。ふと左を見れば亜門さんが無双している。あの人ゲーム世界からから来たんじゃね?戦国か三國だな。
小町はどこかなー?と探してみるとすぐに見つかった。あいつクインケ自分で持たずに喰種にぶっ刺してやがる。しかも抜く時に同時に結構切ってるし。めっちゃ笑ってるけど笑顔が返り血で赤いし。あいつすげぇな。ぼくのいもうとこわい。あんな美少女に殺されるなら喰種に産まれても良いかもとか思っちまったし。それは無いなやっぱ喰種に産まれたくは無い。
そして俺達も雪ノ下上等を先陣に進んで行く。凄いスピードで。
「姉さん、流石にペースが速すぎるわ」
いつの間にか雪ノ下が付いてきていた。何でいるんだと思ったが、言ってる事は正しい。後ろの隊と離れすぎてしまった。
「分かったわ、少し待つわよ」
不満そうに雪ノ下上等が足を止めた。
「なんでいんだよお前」
俺は気になった事を聞いてみる。
「あんな無鉄砲に突っ込んで行く人がいたら止めようとするのが普通では無くて?」
全くその通りですね。なら、コイツは止めるために着いて来たのか。
「すまんな」
「いえ、悪いのは姉さんなのだし、貴方が謝る必要は無いわ。むしろ私の方こそ姉さんがごめんなさい」
雪ノ下が謝ってくる。
「あー二人とも酷いぞー」
そう雪ノ下上等が怒る。
その時天井が崩れた。あの時のように。あの時の記憶がフラッシュバックして動きが一瞬止まってしまう。しかし、雪ノ下が俺の腕を引っ張り崩落には巻き込まれずにすんだ。だが、上の方から崩れているのか、瓦礫が高く積み上がり雪ノ下上等と葉山とは別になってしまう。
「おーい比企谷くーん!雪乃ちゃーん!無事ー?」
瓦礫の向こうから雪ノ下上等の声がする。
「はい、俺達は無事です!」
聞こえるように大きな声で返事をする。
「二人は安全な所で後の隊を待ってて。私達は先に行った隊に合流するから!」
「分かりました!」
そうして俺達は後続の隊を待つことになった。
雪ノ下上等と葉山が走っていく音がきこえた。
その後すぐに天井の穴から声が聞こえる。
「久しぶりだね。八幡」
あの声だ。
「あの時と同じような登場とは粋な演出だな、ダーククロス......」
「はちまーん、僕は戸塚彩加だよ。そんな名前で呼ばないでよ」
少し怒ったように言ってくるが、俺としては恐怖でしかなかった。また、俺と関わった人が殺されてしまうのでは無いかと考えてしまう。
「安心してよ。今日のは挨拶だから、攻撃する気は無いよ」
まるで心を読んでいるかのように返してくる。
「しかもあの時の女の子も居るなんて奇遇だね!」
そう言って奴は俺達の前に下りてきた。俺はクインケを構え、雪ノ下もQバレットを向ける。
「だから、攻撃しないってば」
そう言って両手を挙げているが、赫子は手を使わずとも出せるし、全く意味が無い。警戒を解くことは出来ない。
「攻撃しないのなら何しにきたのかしら。挨拶なんて下らない事だけ?」
雪ノ下が奴に問う。
「下らなく無いよ、挨拶大事だよー。まあ、言うことがあるとしたら、八幡強くなったねーとか。八幡の妹さんの戦い方凄いねーとか。そんな感じの世間話しか無いけどさ。そんなに警戒しないでよ」
俺は再び固まった。俺が強くなったかは今日何処かで見ていれば分かることだ。しかし、小町の事は知らないはずだ。警戒なんて解けるはずがない。
俺が固まっていると奴はまた上へと跳んでいった。
「じゃあね、八幡。今回は偉い人に怒られちゃうから無理だけど、次は戦おうね」
そんな言葉を残して。
「本当に攻撃してこなかったわね。何なのかしら」
雪ノ下がそう言ってくるが、俺はまだ固まっていた。俺は奴に監視されていたのかと、いつか小町に危害が及ぶのではとそう恐怖した。
アオギリ戦はまだ続きます。
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十三話
トツカサイカが襲来してから十分経ったが後続の隊が来ない。戦闘中なのだろうか。体力も回復してきたので、俺達は戻って様子を見てみる事にした。
しばらく戻ると後続の隊らしき人達が二体の喰種と戦っていた。片方の喰種は大きな怪我を負っていてもう一体の喰種は庇いながら戦っているように見える。戦い方を見ると高くてAレート程度だとは思うので上等が居れば倒せそうだが、多分横たわって血を流してるおっさんがその上等だろう。他は高くて一等捜査官に見える。少し厳しいかも知れない。
「雪ノ下は怪我人を見ておいてくれ、俺は加勢に行く」
「分かったわ」
俺は喰種と戦っている捜査官の元へ向かった。
「比企谷二等捜査官です。加勢します」
「助かるよ。」
戦っている捜査官の人にお礼を言われる。俺は頷きつつ手負いの喰種に向かって攻撃を仕掛けてみる。
「大志に手ェ出すなァー!」
庇っていた喰種は予想通りこちらを攻撃してくる。と言うか女の喰種か、庇ってるのは彼氏か何かか?だとしたらタイシって奴は情けねぇな。俺はクインケを切り返して赫子を受け止める。出せる赫子は1本だったようで隙が生まれる。その隙に他の捜査官が女の喰種を切り付けた。
「ガハッ!」
「姉ちゃんっ!」
タイシとか呼ばれた喰種が叫ぶ。姉弟だったのか。なら守るのも納得だ。俺も小町が襲われていれば全力で守るだろう。喰種にだって家族は居るのだ。真戸上等なら下らないとか言いそうだけどな。でも、俺は下らない事とは思えなかった。
そんな事を考えてしまったからだろうか、体制を立て直されてしまう。ただ傷は深そうでもう少しで倒せそうだ。
その時部屋の壁が割れて羽赫が飛んできた。真っ赤なルビーのような羽赫だった。
「あっぶねぇ」
俺はクインケで防げたが何人かは食らってしまったようだ。これ以上戦うのは不味いだろう。このままでは死人が出るかもしれない。引こうかと後退りしたところ向こうも女の喰種がもう一人を抱えて壁に出来た穴から逃げていった。攻撃してくる様子もないため、羽赫を出した喰種も離れていったようだ。あの羽赫の量ならA+ほどはありそうだ。不意打ちを食らったこの部隊なら向こうの勝率も高そうだし、襲ってくる可能性も高かった。アオギリにいながらあまり、戦闘を好まない喰種だったのだろうか。
考えを巡らせていると雪ノ下が労いの言葉を掛けてくる。
「比企谷君、お疲れ様」
「ああ、この数の負傷者で先に進む訳にもいかないし戻ろうかと思うんだが」
俺は現状を見て提案する。その意見には雪ノ下も同意なようだ。
「ええ、引き返しましょう。比企谷君も怪我をしている人に手を貸してあげて」
「言われなくとも」
そうして俺は近くの負傷した捜査官に肩を貸しつつ来た道を戻っていく。
本陣へ戻ると騒がしくなっている。なんと、隻眼の梟が出たようだ。隻眼の梟の話は真戸さんに何度も聞いた事がある。レートはSSSで最高レートで羽赫の赫者だと言う。特等が多く集まっても勝てず、未だ脅威であり続けている。十年前、有馬特等が両腕を奪い、姿を消していたそうだが、また現れたと言うことか。今回は有馬特等は来ていないはずだ。大丈夫なのだろうか。確か雪ノ下上等と葉山もそちらに向かっていた。
しばらく俺達は待機をしていた。すると、制圧が完了した、と聞こえた。終わったのだろう。
五分ほど後に丸手特等の声が響いた。
「23区の収容所がアオギリに襲撃された!この後余力のある者は応援に行ってもらう!」
マジかよ。こっちだけじゃなかった訳か。羽赫もうちょい食らっとけば良かったぜ。
その後俺は雪ノ下上等達と合流した。二人とも無事だった。雪ノ下は、上司に呼ばれたためここで別れる事になった。
そして俺達は23区へと向かった。やっと終わったと思ったのに......
移動中は雪ノ下上等や葉山の話を聞いていた。
「比企谷君はダーククロスと会ったんだね。戦わないって妙だけど」
「ええ、そうですね」
確かに妙だ。まるで積み木を壊すために積む子供のようで恐ろしかった。
「私は、せっかく梟が出たのに私参加させて貰えなくてさー。しかも尾赫兄弟は亜門君が倒しちゃうし、ジェイソンは什造君が貰っちゃったって言うしさ、何のために速く行ったんだか」
ほとんど愚痴ばかり聞かされてめんどくさくなった俺は意識を飛ばそうとするが、葉山に叩かれる。
「お前だけ夢に逃げるのはずるいぞ。俺なんて作戦終了後からずっと聞かされてるんだからな」
葉山がいかにも疲れたように耳打ちしてくる。流石に叩かれながらは眠れないので、俺は雪ノ下上等の愚痴を聞き続ける羽目になった。最悪だ。葉山よ、お前だけ犠牲になれば良かったものを......
「禿げろよ葉山」
「急に酷くないかい?」
おっと声に出ていたようだ。
「ちょっと?聞いてる?」
雪ノ下上等が不機嫌そうに言う。
この愚痴はいつ終わるんだろうか。そう思いながら、俺は車に揺られていた。
アオギリ戦は終わりです。23区の戦闘は正確な描写も無いため書きません。
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十四話
アオギリと戦って半年が過ぎた。そして、今昇任式が行われている。今回、亜門さんは上等捜査官になった。俺はまだ昇進した事が無いが年齢的にはそれが普通なのだ。やはり、あの人は凄い人だったのだと改めて感じる。
そして、鈴屋什造も二等捜査官になった。有馬特等の他にはこんなに早い昇進は無いらしい。ヤバイ奴にしか見えないが天才ってやつだろう。
数日後、亜門さんと久しぶりに夕食を共にする事になった。亜門さんは上等になって部下を持つこととなったらしいのだが......
「真戸上等の娘さんが新しい部下ですか」
「ああ、優秀だが俺は信頼されてないように感じる。篠原さんにアドバイスを貰いメシにも誘ったが断られた」
「ぷっ」
落ち込んでいる亜門さんが面白く少し吹き出してしまう。そのせいで少し睨まれてしまった。
「比企谷......」
「あっすいませ......ぷふっ」
イケメンがフラれるのはやっぱ面白いな。でも、そろそろマジで怒られそうなので深呼吸をする。すーはー。
「すいません。でも、心配する事無いのでは?実力や人格は申し分無いですし徐々に信頼してくれますよ」
「だと良いが......」
俺も教官だったからといえ最初から平塚上等を信頼出来ていたかは微妙だ。だが、捜査を共にしてきて信頼していたと言えるだろう。命の懸かる仕事だ、普通の仕事の何倍も信頼が必要になる。中途半端な信条や大したこと無い実力ではなかなか信頼出来ない。その点、亜門さんは信頼出来る人間だと言える。
そうして、互いの近況報告をして俺達は別れた。
✕ ✕ ✕
その後も俺は捜査をしていた。いつも通り、ではなかった。
「なぜ私とあなたの二人だけなのかしら」
「知らねぇよ、自分の姉に聞けよ」
「「はぁ」」
二人してため息が漏れる。なぜか俺は雪ノ下と二人で捜査をする事になっていた。
俺達が捜査しているのはアオギリの構成員だ。あの日俺達が戦った喰種は11区のアジトで見つかっていない。マスクで判断しているからマスクが紛失した可能性もあるし、見逃しているかも知れないが、生き延びた可能性があるという。そのため、俺や雪ノ下が捜査するのは分かる。直接戦っているからな。だが、なんで二人だけなんだよ!「私達はもっと良いの追うから頑張ってね」じゃないだろ!ウインクされたって俺の心は揺れないからな。不動の八幡だ。むしろ不働の八幡になるまである。そんな事を言えば隣の美少女に殺されそうだが......
「ここら辺が喰場の可能性がある所ね、自殺者が多くリスクが低い場所のようよ」
そうして俺達は物陰へと隠れた。こうしていると平塚上等との捜査を思い出す。
暫くすると喰種らしきやつがやってきた。あのマスクだ。間違いない、奴らは生きていた。あれから半年経つ、弟の方も怪我は治っているようだ。上等が重症を負うくらいだ。俺達二人だけではきついだろう。そう思い雪ノ下にアイコンタクトをしようとした。
その時
「誰かいるのか?」
気配を察されたのか?クインケをいつでも出せるよう、スイッチに指をかざす。
するともう一つ足音が聞こえてきた。
見たことの無い喰種だ。もしかしたらあの時の羽赫かも知れないという考えがよぎる。これでは勝機がほとんど無いだろう。しかし、逃げようにも逃げられない。すると姉の方がこちらに近づいて来てしまった。
頼む、こっちを見るな。
「鳩か!」
そんな願いは届かずすぐバレてしまう。俺はクインケを起動し、構える。
「雪ノ下!撤退を優先する。援護頼む」
「ええ、任せてちょうだい」
すると喰種も赫子を出す。弟の方も赫子を出して近づいてくる。もう一人は赫子を出さず後ろで見ている。そして、俺達は戦闘を始めた。どちらも強く二人相手ではすぐに限界が来そうだ。雪ノ下のQバレットでは相手をしきれないだろう。俺は防戦一方で押されていく。すると後ろからナイフが飛んできた。それは喰種の体に刺さる。クインケのようだ。
「姉さんから渡されていたのよ。万が一に備えてとか言われてね」
雪ノ下が持っていたようだ。違法では無いのかとかそんな事はどうでもいい。これで勝てるかも知れないとそう思った。
俺達は押されていた分押し返し、浅いが傷を付けられるようになる。
すると、後ろの喰種が動いた。羽赫だ。俺達は防御体制を取る。ルビーの様な赫子、あの時の羽赫だ。そして、それに混じって姉弟喰種の赫子の攻撃がくる。防ぎきれず、俺達のクインケは飛ばされ。羽赫を喰らってしまい跪く。
殺されるのだろう。平塚上等や真戸上等、両親の仇も討てず、大したこともしていない、そんなまま殺されてしまうのかと思った。最初に殺した喰種の声が聞こえる。狂いそうだ。今まで殺した喰種が蘇る。
俺は普通の人間だ。物語の主人公でも登場人物でもない。特別な力なんて与えられてなんか無いから、ここで強くなることもない。翼も生えないし武器も作り出せない。魔法も超能力も何もかもなく、拳で喰種と戦えるような力も持っていない。クインケを使うことでやっとの事で喰種と戦ってきたのだ。俺は物に頼っていただけだ。もうすぐ俺は赫子に貫かれるだろう。雪ノ下も殺されてしまう。そうはさせない。
「くっ、うう」
俺は立ち上がる。喰種達の声ももう聞こえない。俺が攻撃を受ければ雪ノ下は助かるかも知れない、と淡い希望を持ちながら雪ノ下の前に立つ。
「何を......やって......いるの」
「雪ノ下......逃げてくれ」
俺が喰らったところでどのくらい稼げるのだろう。神様がもしいるなら、こんな間違った世界を作った奴だろうがせめてこいつだけでも助けてほしい。
喰種の赫子がこちらへと向けられる。
「待って!お願い」
羽赫の喰種が叫ぶ。その声はとても優しい声だった。なぜ止めたのか俺にも分からない。
「何でだよ!コイツらはあたしらを殺そうとしたんだ!死んで当たり前だろ!」
「そうだ、仲間が何人も殺されてるっていうのに何でだよ!」
喰種からしたら最もだろう。俺が殺される理由は殺そうとしたから、当然だ。
「ここで殺したら仲間がもっと殺されるよ、恨みの怖さは二人も分かってるでしょ?向こうも同じだと思う。なんのためにここを確保したか忘れちゃった?」
諭すように優しく、それでも厳しく羽赫の喰種が言う。
その時、後ろから足音がした。
「雪乃ちゃん、比企谷君、大丈夫?」
雪ノ下上等と葉山だ。
「ほら早く逃げないと」
そうして喰種は逃げていった。姉弟の喰種はこちらを睨んでいた。マスク越しでも恨みの深さを感じた、
「あーあ、逃がしちゃったか」
「やっぱ無茶ですよ、二人だけなんて」
「そうよ、姉さんこの男と二人なんて危険だわ」
「なんか、違う意味混ざってませんかね?」
「あら、邪な考えがあるからそう感じるのでは無くて?」
そうして雪ノ下は胸もとを隠すようにする。
別にお前の胸は平塚上等と比べて隠れやすそうとか一緒に隠れる時余裕があるとか思ってねぇからな。
すると雪ノ下から睨まれる。この子もエスパーなの?
「二人とも怪我してるから見てもらって来てね。私達はまだ捜査してくるから」
そういって二人は去っていった。このタイミングでくるなんてあり得るのか?まさか、監視されてたり?案外有り得るのかも知れない。怖いので考えないよえにしよう。
あの喰種は俺達を殺そうとしなかった。諭していた台詞から察するに自殺者を喰って生活していたのだろう。喰種にも色々な奴がいるんだな。アカデミーで習った、ただ残酷な生き物だという事とのズレを感じる。
そう思っていると雪ノ下が話しかけてくる。
「あなたは何であの時立ち上がったの?」
「逃げるには立ってた方が速いだろ?」
「なら、何で私の前に立ったのよ逃げるなら後ろに行くべきでは無いの?」
「混乱してたんだよ」
「素直じゃないわね。でも、ありがとう私なんかのために......」
「そんなんじゃねぇよ」
なんだか物語の主人公のような事をしようとした自分が恥ずかしくなってくる。俺が主人公だったら今のコイツは......頭によぎったカタカナ四文字を否定するように首を振った。そんな事は有り得ないのだ。
原作で関われそうな所が無いと難しいです。そろそろ梟戦です。
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十五話
亜門さんから最近の捜査の事を聞いた。黒ラビットという奴が捜査官を襲ったそうだ。そいつが真戸さんを殺した、ラビットと同一なのだろうか?そんな事を聞くと
「捜査官補佐として俺達のサポートをしてくれている永近という奴が居るんだが、そいつが違う喰種では無いかと言っていた。その説明は筋が通っている」
との答えが来た。その説明を聞いて俺も感心した。そんな奴が一般にも居るのかと。
そして大喰いに関しても聞いた。大喰いが消息を絶った頃にある少女から少年に臓器移植が行われた事。それを嘉納という元CCGの解剖医が行った事。そして同時期に消息を絶った金木研という大学生。喰種の臓器なんて移植されたらどうなるのだろう。人間と喰種は見た目こそ普段は判別出来ないが、作りは全く違う。食べる物も身体能力も。
亜門さん達は嘉納の持つ物件に突入するそうだ。何も起こらないといいが、無事を祈るしかないだろう。
✕ ✕ ✕
亜門さんが突入した次の日、連絡があった。真戸さんが殺された時にいた、眼帯の喰種が半赫者になっていて現れたらしい。あの篠原特等もやられたそうで、SSレートとなったそうだ。しかし、奴は人を喰べないようにしていたらしく。アラタだけが喰われ篠原さんは無事だった。そんな喰種がいる事に俺は驚いた。喰種が人を喰らうのは当然だ。なのにそれを嫌がっていた。俺の出会った羽赫の喰種でさえ殺しはしないものの人を喰うのだ。それに半赫者という事は喰種を喰っていたのだ。もし、喰種を喰って人を喰わないようにしていたとしたら、飢える事はないだろう。しかし、それを続けて居るのなら半赫者よりも成長してるのでは無いか?心理的な何かで喰種しか喰わなくなって、以前は人を普通に喰っていたのだろうか?とにかく恐ろしい喰種が現れてしまった。嘉納の屋敷にいたなら嘉納との関わりもあるのだろうか。他にもRC細胞壁や人体実験もしているらしい。嘉納は何を考えているんだ。何かが起こるのかも知れない。
✕ ✕ ✕
「遅いわよ。比企谷君。約束の時間まで5分しか無いわ」
雪ノ下が不機嫌そうに言う。
「間に合ってんじゃねぇか」
流石にそれは酷くないですか?
「女性を待たした分だけ遅刻よ」
そんな理論聞いた事が無い。乙女心は意味が分かりませんね。だって男の子だもん。
俺は雪ノ下と高槻泉先生のサイン会に来ていた。昨日本局ですれ違った時に誘われたのだ。付き合ってくれないかなんて言ってくるから相当俺は動揺していたような気がする。
俺も雪ノ下も高槻作品は読む。あの発想はどこから来ているのか、とても面白い作品だと思う。
そうして会場についたところで髪のボサボサな女性が後ろから走ってきた。
「あれ、高槻先生じゃないかしら」
「マジかよ」
まさかのメインの人物が焦って会場に駆け込んでくるとは......彼女席が奥に行きサイン会が始まった。
それにしても、色んな人が来ている。少女を連れた白髪の眼帯の人もいる。やべぇ奴だな。関わったら不味そうだ。もしかしたらこの中にも喰種が居るかもしれないなんて、有り得ない事も無い想像をしていると俺達の番が来た。
「ほら、比企谷君行くわよ。」
雪ノ下に声を掛けられ俺はついて行く。
そして高槻先生の前へと来た。
「あら、カップル?夫婦?」
「「違います」」
俺達の否定の声が重なる。
「息ピッタリじゃない。なら、二人ともどんな関係?」
「職場の同僚です」
これは何一つ間違っていない。
「ほうほう、ちなみにご職業は?」
「喰種捜査官です」
あまり言いたくは無かった。人を喰らう怪物とはいえ、殺すだけの仕事だ。
「それはカッコイイですな。喰種を題材にした作品も書いてみたいと思っていまして」
喰種わ題材か、どんな作品になるのだろう。
すると編集者らしき人から声が掛けられる。
「不味い不味い、ではお名前を」
「比企谷八幡です。比べて企む谷の八幡宮です」
「ぷふっ、雪ノ下雪乃です。雪はどちらも振る方で苗字のノはカタカナ名前の乃は乃ちです」
雪ノ下は吹き出しつつも名乗る。いや、自分でもあの漢字の伝え方はどうかと思うよ。うん。高槻先生も笑っちゃってるし。
「フフっ、八幡君に雪乃ちゃんね」
そう言ってサインを書き出した。
「はい、こちら八幡君の分」
そして俺に手渡して来るが、雪ノ下の分を書く時ニヤッとしている気がした。陽乃さんの笑顔に重なる。嫌な予感だ。
「はい、雪乃ちゃんの分」
そうして手渡された後、俺達は会場を後にした。
その後、サインを見てみようと二人で本を開いた瞬間、雪ノ下の動きが止まった。顔が紅い。どうしたのかと雪ノ下の本を覗き見る。
そこには[比企谷雪乃]と書かれていた。やりやがったな。嫌な予感はしていたんだ。あのニヤケ顔は覚えがあった。その後、俺と雪ノ下は話す事も、目を合わせる事も出来ず暫く固まっていた。
雪ノ下がヒロインみたいになってきましたね。次の次くらいに梟戦でしょうか。
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十六話
数日後、局に着くと随分と騒がしかった。何があったのだろうか?取り敢えず近くの人間に話を聞いた。その答えに俺は声を失った。
あの、梟を討つだなんて。そんな事が急に起こるとは信じられなかった。確かにアオギリ戦で、梟が出たらしいから、捜査はしていると思った。しかし、こんなに早く戦う事になるとは。
梟は20区の[あんていく]という喫茶店にいるらしい。おかしな事では無い。喰種は人間に紛れて生活している者も多いのだ。そこら辺の通りですれ違う人はもしかしたら、喰種かも知れない。しかも、喰種は珈琲が飲める。珈琲を提供する喫茶店は恰好の隠れ家なのかもしれない。
それにしても梟か、真戸上等から何度も話を聞いた事がある。真戸上等は亡くなってしまったが、悲願の時がやって来たのだろう。これで梟を倒せるかもしれない。
そして、俺が一番気になるのは俺が参加するかどうかだ。参加、するんだろうなぁ。
雪ノ下上等の事だ、必ず参加しようとするだろう。梟単体と戦うとは限らない。梟の仲間がいる可能性もある。そいつらだって相当強いだろう。俺は参加して生きて帰って来れるのだろうか?
そんな事を考えつつ雪ノ下上等の所へ向かう。
部屋の前へと着いて扉を開ける。すると、雪ノ下上等がこちらを見てニコニコ笑っていた。なにあれこわい。
「比企谷君も聞いたでしょ?梟討伐戦、もちろん参加するからね」
予想通りだ。雪ノ下上等は遊園地に遊びに行く子供のようにはしゃいでいる。
「ヒキタニ君、これ書いとけってよ」
葉山から紙を手渡される。
「なんだ葉山、借金の保証人にでもする気か?その顔なら何でも許されると思うなよ」
「遺書だよ。ヒキタニ君わざと言ってるだろ」
ヒキタニ君とか言ってるお前が言うなとツッコミたくなってしまったが、その言葉を飲み込む。時間の無駄だろう。俺は時間の大切さの分かる尊い人間なのだ。だから、残業で調べ物とか勘弁して欲しい。
「それじゃあ、梟戦前にある程度仕事に区切り付けちゃおっか」
うぇぇ......ペース上がるじゃん。
そうして俺達は仕事を片付けた。あー働いた。社畜レベルがどんどん上がっていくぜ。
すると、雪ノ下上等が何かを取り出した。
「はい、これ梟戦の資料ね」
雪ノ下上等から紙の束が渡される。そこには、今回の作戦の参加者と概要が書かれていた。俺達は第十八体だそうだ。雪ノ下は今回本部との連絡用にうちの班に来るようだ。どうせ雪ノ下上等がなんか言ったんだろう。流石シスコン魔王だ。妹に発信機付けてる可能性も捨てきれないからな。
小町や亜門さんの名前を探していると二人の名前は近くに書いてあった。小町と亜門さんは同じ班のようだ。亜門さんがいるなら小町は安心だな。あの人の強さは何度も目にしている。信頼は十分すぎる程だ。
一通り目を通した所で雪ノ下上等が声を掛けてくる。
「今日はもう帰ろっか。遺書、しっかり書いてくるんだよ」
「はい、お疲れ様です」
今回の喰種はSSSレートだ。生きて帰れる保証は常より無いが相手が相手だ。本当にこの遺書を使う事になるかも知れない。遺産は全て小町に与えるとは書くとして、俺は何を書き残せば良いのだろう。
✕ ✕ ✕
家二帰ると小町が先にいた。
「お兄ちゃんも、梟戦行くんだね!」
小町は楽しそうだ。しかし、今回ばかりは簡単に倒せるような喰種では無い。
「お前は、亜門さんと一緒の班だろ?しっかり見とけよ凄いから」
せっかく亜門さんの戦闘が近くで学べる機会だ。是非活かして欲しい。
「うん!亜門さんって強いんでしょ?楽しみ!」
この笑顔は幼い頃ころから変わらない。きっと喰種を殺す事に罪悪感など無いのだ。だが、親が喰種に殺されているならむしろこの方が正しいのだ。きっとこの世界にとって俺が異常なんだ。
亜門さんには電話をしておこう。小町をよろしくお願いしますとか、小町を頼みますとか。......小町の事ばっかだな。どんな事を話そうかと携帯を持ちながら悩んでいると、電話が掛かってきた。亜門さんから任せろと電話をする前から来たのかと思ったが、どうやら違うらしい。
電話の主は雪ノ下だった。
「もしもし、比企谷八幡ですが」
「比企谷君?雪ノ下雪乃よ」
「どうしたんだ?」
弱々しい声だった。少し沈黙が生まれる。
「怖いの。死にたくないわ」
泣きそうで消え入りそうな声だった。名前の通りの雪を俺はイメージした。
「どうして俺に......」
そんなことを?と続けようとすると
「遺書を書いていたら急に怖くなってしまって。ふと貴方の事が浮かんできて、電話を掛けていたの。迷惑だったかしら。あまり気にしないで」
「まぁ、俺が死んだらお前も殺されちまうだろうが、俺が生きてて戦ってるうちは多分大丈夫だろ。俺は死ぬつもりはないしな」
そう死ぬつもりはない。生きている自信も無いが。
「なら、私を守ってくれるということ?」
雪ノ下を守ること、そんな事が出来るのだろうか?あの時は、何も考えずただ前に出ただけだ。喰種にとって俺が少し動いた事など関係ない。羽赫の喰種が止めなければ雪ノ下ごと普通にやられていた。あの行為はほとんど意味が無い。あんなものは到底守るとは言えないだろう。ただ、それ以上に俺に何が出来たとも思えない。俺には守る力など無いのだ。肯定は出来ないが、否定もしたくなかった。だから、俺は何も答えられなかった。
俺が答えないのを察したのか雪ノ下の息を吐く音が聞こえる。
「次会うのは梟戦かしら?お互い頑張りましょう」
雪ノ下はそのまま電話を切ってしまった。何か答えた方が良かったのだろうか?いくら考えても正解なんて思い付く気がしなかった。正解は無いのかも知れない。答え合わせなんてものは学生のうちしかして貰えないなんてそんな当たり前の事を改めて認識した。
次から梟戦に入ります。
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十七話
俺は遺書を提出するため、CCGへと来ていた。小町と一緒に行こうと思い、誘ったのだが
「小町はもう局内で書いて提出したよ」
と言われたので、1人で来ることになってしまった。お兄ちゃんは寂しいよ。雪ノ下上等や葉山も今日提出する予定なので、もう来ているかも知れない。俺は急いで雪ノ下上等のデスクへと向かった。
「遅いぞー。比企谷君」
雪ノ下上等が頬を膨らましている。
「すいません」
既に二人は来ていて、俺が最後だったようだ。
俺は鞄から遺書を取り出して、雪ノ下上等に手渡した。
「うん、これでOKだね。じゃあ提出して来るよ」
そう言って雪ノ下上等は、部屋から出ていった。
「いよいよだな。緊張してるか?」
葉山が話し掛けてくる。
「するに決まってんだろ。死ぬかも知れないんだぞ。怖くない奴いんの?」
「まあ、そうだな。俺も怖いさ」
そう言いつつもすました顔のコイツは遺書にどんな事を書いたのだろう。家族へ向けてのメッセージなのだろうか?もしかしたら友人や恋人へかも知れない。だが、俺はその答えを知ることは無いだろう。葉山とはアカデミーが同じ同期なだけだ、俺は飛び抜けて優秀という訳では無かったから毎回トップのコイツと関わりなんぞ無かった。
今は仲間として捜査を共にやってきた身だ。これでも少しは信用している。背中を任せる事はあまりしたくないが、背中を任されたらある程度は守ってやれる
「まぁ雪ノ下上等がいるし大丈夫だろ」
もちろん、雪ノ下上等が。俺にはキツい。
「あの人だって勝てない喰種はいるさ」
軽く言ったつもりだったのだが葉山の表情は険しくなる。俺は雪ノ下上等が負けた所を見た事が無い。何時も返り血を浴びている事はあれど自らの血を流している所を見た事が無い。俺の中じゃ無敗だ。だが、今回はSSSレートとその手下だ。俺は彼女の敗北を初めて目にする事になるやも知れない。
「そうだな。どんな奴がいるかなんて分からない」
この戦いは何一つ約束されていない。生きるも死ぬも、勝つも負けるも。
✕ ✕ ✕
そしてついに俺達は20区の喫茶店へと来た。相当な人数がここに来ている。俺達の班の人数は局員捜査官も合わせて50人程だ。その中には雪ノ下もいる。未だ雪ノ下とは会話をしていない。
正面にいる訳では無いが、何が起こるかわからない。周りの緊張感も伝わって来る。
そして、作戦が開始された。
暫くして突入の命令が出されると、中から二体の猿と犬の面を付けた喰種が出てきた。その二体が攻撃を仕掛けてくる。次々と、捜査官が殺されていく。動揺が捜査官に広がる中、建物の屋上からも喰種が現れ、暴れ出す。
その中でも局長から冷静な指示があり、俺達も封鎖のために動き出した。
指定の位置まで行くと喰種も追って来ていた。俺達は、それに応戦する。
「比企谷君は左警戒、隼人は右、私は正面から行く」
雪ノ下上等からの指示があり、俺達は戦う。俺達の所へ来た喰種はそう多くは無いようだ。このくらいなら対応し切れるだろう。しかし、何が起こるか分からない。
少し落ち着いたあたりで連絡が入ったようだ。第二隊、第三隊が何者かにやられたようで、第四隊が向かうそうだ。第二隊には特等が居たはず、そんな相手に亜門さんや小町達は勝てるのだろうか。
だが、そんな心配をしている場合でも無かった。後方で悲鳴が聞こえた。
「比企谷君、隼人行くよ」
俺達は急いで後方へと向かう。その時、雪ノ下と目が合った気がした。
後方へ向かうと三体の喰種がいた。
「マジかよ......」
奴らは俺と雪ノ下が遭遇した喰種だった。
「姉ちゃん、随分前にいた奴らじゃない?」
「ああ、そうだね。今回はコイツもやる気だし行けるよ」
そう言って親指であの羽赫の喰種を指さしている。
どういう事だ。あの喰種は戦いを好んでいたようには見えなかった。わざわざこんな所に来るなんて。
「比企谷君、隼人やるよ」
そうして俺達は戦闘を始めた。
羽赫の喰種が打ってくる。容赦なく殺しに来ている。他の捜査官ももう何人も殺されている。この短い間に何が起きたんだ。そう思いつつ姉弟喰種の相手をしている。
このまま行けば勝てそうだ。雪ノ下上等や葉山の力はやはり大きい。前に俺と戦っていた時と比べて余裕があると思っていたのだろうか。案外簡単に勝てそうだ。羽赫の喰種が増えても、それを遥かに二人は上回っていた。そして、順調に追い詰め、捜査官の一人が弟の方を切ろうとするとその捜査官と周囲にいた捜査官の首が飛んだ。あの飛ばし方は......
「久しぶりだね、八幡。今日は戦おうね!」
トツカサイカだ。
俺は奴を睨めつける。
「そんな怒んないでよ、この子達が八幡と戦った事は聞いたから、説得して一緒に戦おうと思って。梟なんて奴、直接は知らないけど利用させて貰おうと思って」
羽赫の喰種が戦っているのはコイツのせいなのだろう。梟は関係ないと言うが信用する必要もないだろう。
「あなたは私の大事な仲間を奪おうとした。奪われない為には先に奪っちゃえばいいって、全部奪えば恨みも無くなるって分かったの。だから、あなたとそこの仲間も奪うね」
あの時と変わらない優しい声で羽赫の喰種が宣言をすると、羽赫が俺に向かって飛んできた。防ぎきれる量では無い。
「はあ、まだまだだね」
そう言って俺の前に立ったのは雪ノ下上等だ。
「ダメだよ邪魔しちゃあー」
トツカサイカは不満そうに言って雪ノ下上等に突っ込む。そして、雪ノ下上等とトツカサイカの戦闘が始まった。
「比企谷君、隼人コイツは任せて、二人でそこの三体はお願い!」
そうして俺と葉山は目の前の喰種に対峙する。
「ヒキタニ君は、サポートお願い」
そうして葉山と共に戦う事になった。雪ノ下上等から連携の練習と言われ二人で何度も戦った事がある。何となくお互いに動きは予想できる。そうして俺達は追い詰めて行く。他の捜査官の協力もあり、姉の方に強力な一撃が入り、トドメを刺すだけだ。俺はクインケを振り下ろす。
「姉ちゃん!」
弟の方が突っ込んで来るが葉山がそれを阻止して、俺は首を撥ねた。
「アァァアァァァァ!」
首が飛ぶと同時に弟が暴れ出すが葉山は冷静にかぐねを切り落とす。
弟の方もトドメを刺そうとした所で、羽赫の喰種が接近し弟の方を抱え、距離をとった。
「姉ちゃんが!殺された!仇討ちしないと!殺さないと!なんで?なんで?殺さないの?ねぇ!」
弟の方は抱えられてさわいでいる。
「今は無理みたい。でも、いつかは奪い切れるよ」
いつかのように諭すような声で言っている。
「嫌だ!今殺す!」
すると、羽赫の喰種の赫子が弟の方を貫いた。
「ガゥアァァァ!」
「もう、そんなんだと簡単に奪われちゃうよ。君まで奪われたくない」
先程と変わらぬ声で羽赫の喰種は言いそのまま逃げていった。
すると、近くで大きな音が鳴る雪ノ下上等達のようだ。ふと見ると雪ノ下上等が弾き飛ばされている。
「雪ノ下上等!」
「陽乃さん!」
俺達は叫んだ。そのまま雪ノ下上等は近くのビルの2階の窓を突き破った。あれで、生きていられるのだろうか?
「アハハハハ!惜しいなぁ」
トツカサイカの笑い声が響く。負けたのか、雪ノ下上等が、アイツに。そのビルの2階からは音がしない。雪ノ下がビルに駆けていく。何かを持っている。応急処置用のキットだろうか?
とにかく俺達は雪ノ下上等も 負けたトツカサイカと戦わなくてはならないのだ。勝率がゼロにほぼ等しくても。
原作の流れを少し狂わすような展開になってきたと思います。
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十八話
「赫包一つ持ってかれちゃったよ。あの人強かったなぁ」
奴を見ると確かに先程とは違う今まで見たことの無い、赫子が生えていた。
「赫包がひとつじゃ無かったってことかよ......」
もしかしたら他にも持っているかも知れない。現時点で二つあったのだ。もしかしたら、まだあるかもしれない。厄介な奴だ。
そう思いつつ相手の出方を見る。未だに赫子を揺らしながら雪ノ下上等の飛ばされた方を見ている。その視線がふっ、とこちらを向いた。俺達はクインケやQバレットをしっかりと掴み固く構える。
「さっきの見てたけど八幡はまだまだだねぇ。上司が殺されても、次は戦おうって宣言しても、そこまで強くなってくれなかったよねぇ。正直、期待はずれだなぁ。強くなきゃ奪われるだけなのに甘すぎるよね。今日は途中経過を見るつもりだったけどもう終わりにしよっかな?今ので強くなる訳でも無さそうだしっ」
そう言って赫子の一本が俺に向かってくる。俺はクインケで受け止めたが、少し後ろに下げられる。威力が強すぎる。すると悲鳴が聞こえる。
「うわぁぁぁ!」
俺が下げられた隙に葉山が弾き飛ばされた。地面に叩きつけられてはいたが生きてはいるようだ。必死に立ち上がろうとしている。
「なかなかやるねぇ。内臓飛び出しコースだったはずなのに。八幡もこのくらい出来ないと」
奴は笑いながら葉山に近付いていく。葉山が殺されてしまう。俺は駆け出して奴を切り付けようとするが、一本の赫子で俺は止められ、葉山は貫かれる。
「ガハァッ!」
葉山が口から血を吐いたかと思うと暫く手足を動かしていたが、動かなくなってしまった。一瞬だった。俺はまた、何も出来なかった。普段から捜査を共にしてきて、先程も共に戦った仲間が死んでしまった。俺なんかよりも才能があって、出世して期待されていたはずだ。アイツは強い。
......いや、強い奴が負けるなんて、今まででもあった。アイツの言う通り俺は甘すぎたのだ。あの人は強いから大丈夫だとそう思っていたのだ。それでも俺は狂ったように鍛えた訳でもなかった。当然捜査のスピードは上げたし練習量も筋トレの回数も増やした。それでもきっと勝手に限界を決めてきていた。必要以上に強くなろうとは思っていなかったが必要な分も強くなかった。俺は弱いのだ。
「ねぇ八幡、今のでやる気出た?」
葉山から赫子を抜きながら問うてくる。その顔は微笑んでいて不気味だ。
「なんで、返事しないの。じゃあこれで最後ね。これでやる気出さなかったら普通に殺すから」
奴から表情が消え奴は雪ノ下上等の飛ばされたビルへと飛んだ。あそこにはあの二人ががいるはずだ。あのジャンプの高さではギミックでも届かない。だが、俺が生きて戦ってるうちは守れると言ったのだ。そんなことも守れそうにない、何も起こらないとは分かりつつも俺はクインケを奴に投げつけた。
当然、クインケは弾かれる。他の局員捜査官のQバレットも意に介さず、そのまま割れた窓へと入っていく。
かと思いきや、奴は何者かの攻撃で窓から落とされる。切りつけられたようだ。雪ノ下上等がまだ動けたのだろうか?
その窓の前に立っていたのは長い綺麗な黒髪の女性だった。雪ノ下だ。
「比企谷君!これも使えるわよね?」
そう言って彼女は日本刀のようなクインケをこちらに投げてくる。そいつには見覚えがあった。それを拾うとあの頃の記憶が蘇る。それは平塚上等から貰った訓練用のクインケ、キタエだった。あの人から毎日毎日鍛えられた日々が蘇る。オブシのメンテナンス中にも使う事があったが、久しぶりだ。暫く仕舞いっぱなしだった。
そして俺は先程弾き飛ばされたオブシも手に取る。二刀流という奴だ。真戸上等にオブシの扱いを教わっている時に同時に教わっていたのだ。亜門さんからも何度か教わっている。こうして戦うのは両手をより鍛えるためだったが、ある程度は戦いで行けるはずだ。あちらも赫子が何本かある以上、こちらも手数を増やしたい。平塚上等、真戸上等、亜門さんから教わった事をここで発揮するしかない。奴は、トツカサイカはここで本気にならなければ普通に殺すと言った。本気を出しても殺す気かも知れない。どちらにせの死ぬのなら俺は足掻いてやる。そこらの虫けらなんかよりもしつこく。そして、死ぬまでならアイツを守ってやろう。もし、生きてたら小町も守れるように。そうして、俺は覚悟を固めトツカサイカの前に立った。あの窓までは行かせるつもりは無い。俺は二つのクインケを構える。
「トツカサイカ!俺は戦う、そして仇を討つ!」
つい、熱くなってしまった。これが俺の決心だ。
「おお、いい目だね。しかも二刀流かぁ。期待通りになるかな?」
そうして俺達はぶつかりあった。明らかな力量差や実力差だ、周りのQバレットの援護も大した効果は無いし、他のクインケを持った捜査官もどう援護したら良いのか分からないのか戸惑っている。ただ、その様子も俺の視界には入らなくなってくる。その代わり平塚上等と真戸上等の声が聴こえる。あの鍛えられた日々のアドバイスが聴こえてくる。それを戦いに活かして戦っている。今だけは実力差がほとんどないかも知れない。そのうち慣れてくると、トツカサイカの圧倒的な力の中にも綻びが見えてきた。クインケと赫子がぶつかる音が心地よい。でも、その音を俺が止めるのだ。
「ここだっ!」
そうして俺はオブシのギミックでトツカサイカの右肩から足まで切り落とす。
「うがァァァァ!」
右半身の大部分を失ったトツカサイカは倒れ込む。そこにトドメを指す為キタエを突き出した。これで仇が討てる......
その時、羽赫が飛んでくる。俺は弾きつつ回避する。周りの捜査官はトツカサイカが倒れた事で油断していたのか、被弾した者も多い。誰だと思って、羽赫の飛んでくる方向を見る。
「この色はっ......」
赤いルビーのような羽赫だ。アイツが戻ってきた。そして、トツカサイカに近寄ると奴を支える。
「僕は大丈夫だよ」
トツカサイカがそう言う。
強がりなのかと思ったが、トツカサイカの体の欠けた部分が赫子の様なもので置き変わって補完されていく。
「だって僕、半赫者だからね」
奴の失った箇所以外、顔なども赫子に覆われていく。全て覆われた訳では無さそうだが、覆われるのが収まるとこちらを向いた。
「八幡には僕に勝ったご褒美をあげないと」
そう言うと奴が目の前から消え、後ろから声がする。
「これで上司とお揃いだね」
瞬間、左腕の先に激痛が走る。俺の左手は平塚上等と同じように無くなっていた。
「アァァァァ!」
痛い、頭がおかしくなりそうだ。この痛みを表現する言葉も出てきそうにない。平塚上等から切られた時の話を聞いた事はあるが、その時の予想の何倍も痛かった。
「気に入ってくれた?流石に疲れたから、すぐには会えないけどまた会おうね、八幡」
そして、トツカサイカは羽赫の喰種と共に去っていった。俺の左手を抱えて。
すると、後ろから足音がする。誰かが近寄ってくるようだ。
「比企谷君!早く止血しないと!」
雪ノ下だ。すぐに包帯を巻いてくれる。
「ありがとよ」
それにしてもいつ応急処置キットを持ってきたのだろう。雪ノ下上等の所に持っていったのはクインケだったし。それで、思い出す。
「雪ノ下上等は無事なのか?」
雪ノ下は複雑そうな顔をする。
「その、分からないの。とても危険な状態だけれどまだ、生きてはいるわ。もうすぐ救急車が来るそうよ。本隊の方もそろそろ終わるそうだし」
「そうか......」
もうすぐ、この戦いも終わるらしい。
そして、気になった事を聞く。
「応急処置キットはどこから?」
「比企谷君が怪我したのを見て近くの医療係からひったくったわ」
マジかコイツ。
「すました顔で言う事じゃないだろ」
「だって心配だったのだもの」
「......そうか、ありがとな」
「ええ、どういたしまして」
なんだか俺は恥ずかしくなってしまい、下に視線を落とす。救急車の音が聴こえてくる。
「では、私は救急隊員の方に怪我人の場所を伝えて来るわ」
と、雪ノ下は離れていった。
戸塚が凄い強くなってしまいました。次で無印の部分は終わると思います。
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十九話
暫くすると救急隊員が来た。俺の方にも救急隊員が向かって来る。雪ノ下は姉の方へ向かったのだろうか?俺は救急隊員の担架に乗るのを断り救急車の方へ歩く。腕がめちゃくちゃ痛いが、慣れてきた。この腕では亜門さん達の増援にも行けないだろう。
「比企谷君、梟を倒したと先程連絡が入ったのだけれど、その途中でもう一体梟が現れたと聞いたわ。この作戦はもう少し続きそうよ」
は?梟を倒したけど、梟が来た?分身でも出来んのかよ。NINJA?意味が分からず、俺が呆然としていると雪ノ下が補足してくれる。
「どうやら、梟は二体いるようよ」
あんなヤバいの二体とかどうなってるんだよ。というか、何処から入ってきたんだ。他にも援軍が来るかも知れない。
......小町、大丈夫か?
俺は走り出した。病院なんて言ってる場合じゃない。ここから行くなら第一隊がいる。所を通るのが一番近いか。梟と特等方が戦っているが、巻き込まれずに行くしかない。
「比企谷君待ちなさい!どこへ向かう気なの!」
雪ノ下が俺の右腕を掴む。左手で離そうと思ったが、左手は俺に無い。右腕を振り雪ノ下を突き飛ばす。
「痛っ」
雪ノ下が尻もちをつくが、俺は振り向かずに再び走り出す。雪ノ下すまん。雪ノ下から俺を止める声は聞こえて来なかった。
第一隊のもとへ着くと、喰種は梟しか居ないようだった。多くの捜査官がいるが、辺りを血の匂いが包んでいて気持ちが悪い。今まで嗅いだ中で一番強い匂いだ。その匂いで、少し減速してしまう。
「そこの人、どこへ行く?」
近くにいた、女性の捜査官が聞いてくる。一刻も早く向かいたいのに。
「第三隊の援護に行く!」
俺がそう言うと、彼女は驚いた顔をして頭を下げた
「滝澤が、同期の仲間が向かっている。私の上司が戦っていて、その援護に向かったのだ。どうか頼む」
そうか、彼女が真戸上等の娘で、亜門さんの部下か。しかし、そんな事を言われても俺には助けられる力などない。だから、期待などしないで欲しい。そんなに頭を下げられても俺の力は増えたりしない。
そして、俺は返事をせずにそのまま走り出した。足下は血が溜まっており、走れば血がはねる。だが、そんな事も気にならない。勝てなくても行くしか無いのだ。また、間に合わないなんてもう、嫌だ。
右も左も捜査官と喰種の死体ばかりだ。だが、音がしなくなってきた。怖いくらいに静かだ。第一隊のところからも離れ、第三隊がいるはずの場はすぐそこだと言うのに、戦闘が終わって休憩なのだろうか。そして俺は角を曲がる。亜門さん......小町......無事か?
そこには人が居なかった。ただ、喰種と捜査官の死体は今まで通った道と同じように転がっている。小町や亜門さんの死体は見当たらない。安心して息を吐こうとして目線を下げる。そこで俺の息が止まった。俺の足下には小町に俺が与えたクインケ、プラグが落ちている。俺は数を数える。1、2、3、4、全部ある。クインケを持たずに他の場所へ向かったのだろうか?まさか、欠片も残さずに......そう思うと、俺の体は動かなくなった。
暫くすると、人が周りにいた。どのくらい経った?俺は第三隊がどこに行ったのか聞いてみる。
「第三隊はずっと、ここに居たはずです。恐らく全滅でしょう」
嘘だ......ろ?小町も亜門さんももう居ないのか?亜門さんが勝てない相手が来ていたのか......また、戦う前に奪われたのか。また、間に合わなかったのか。仇の顔を見ることも叶わなかった。先程の真戸上等の娘さんが言っていた、滝澤という捜査官はどうなったのだろうか?
「ここへ向かったという滝澤捜査官は?」
「恐らく彼も死亡でしょう。破損したクインケが見つかっています」
彼女の願いは返事をしなかったと言え1パーセントも叶えられなかった。
すると、その捜査官は俺の腕を見て騒ぎ出す。
「というか、あなた左腕が!早く病院へ!」
確かに俺はここに居たってどうしようもない。言われるがままに俺は救急車へと乗せられ病院へと運ばれた。
俺はいつの間にか意識を手放していたようだ。俺の部屋でも、CCGでもない。ここは病院のベッドの上らしい。
「う」
随分眠っていたようで体も重い。点滴も付けられているようだ。一体どのくらい眠っていたのかと時計を見ようと体を起こそうとすると、倒れかける。
「......左手ねぇじゃん」
傷が塞がっていて、痛みも無かったので忘れていた。しかたがないので右手だけで体を何とか起こし首を傾けると、ベッドの隣のイスで雪ノ下が眠っていた。
「はぇ?」
思わず間抜けな声がでる。その声で雪ノ下が起きたようだ。
「ん、比企......谷君?起きたのね?」
雪ノ下が涙を浮かべて前のめりに顔を覗き込んでくる。めっちゃドキドキするからやめて欲しい。
「あなた三日も眠ってたのよ。医師を呼んでくるわ」
そう言って部屋を出ていく。おーいナースコールで良くない?それにも気付かない程だったのだろうか?それにしても三日とは、随分眠ったものだ。
暫くすると、医師がやってきた。体調はどうだの、痛みは無いかだのと、俺は一通り医師に聞かれた後、医師は部屋を出ていき、雪ノ下と二人きりになる。その時、雪ノ下と最後に別れた時の事を思い出す。
「すまん。突き飛ばしたりして」
俺は深く頭を下げて謝罪した。雪ノ下が起きた時に思い出して謝るべきだっただろう。
「いえ、あなたが小町さんの心配をしていたのは分かるから。気にしないで、尻もちをついただけで怪我もしていないから」
まだ俺は謝り足りないとは思ったものの聞くべき事がある。俺の上司にしてこいつの姉、雪ノ下上等のことだ。
「雪ノ下上等の容態は?」
「一命は取り留めたわ」
俺は安堵の息を吐く。しかし、雪ノ下の顔は嬉しくなさそうだ。どうしたのだろうと、怪訝な顔をすると、それを見て雪ノ下が話し出した。
「でも......もう意識が戻らないかも知れないわ」
それでは本当に一命を取り留めただけでは無いか。
「私、アカデミーに行くわ」
雪ノ下が唐突にそんなことを言った。
「なんでだ?」
「もう決まってたの。私は姉さんのスペア。姉さんが使えなくなれば私の番。私が全線で戦う事になる」
雪ノ下の説明は悲しいものだった。雪ノ下姉妹の父は千葉の県議だ。千葉は東京で生活している者も多く住む。本来大事な筈の娘をその東京を守る為に戦わせる。それが雪ノ下姉妹の父の売りだ。娘ですら票の為の駒でしかないのだという。
「だから、比企谷君。私が喰種捜査官になるまで待っていてね」
そう言い残して雪ノ下は俺の病室を去った。
その後局員がやって来て、姉弟喰種の姉の方の所有権があるがどうするか聞いてきた。俺は雪ノ下のクインケをこれで作ることに決めたため。とっておいてくれと伝えた。
暫くして退院出来るようになった。安静にするように言われているので、俺の仕事はデスクワークだ。暫くは雪ノ下上等のデスクを使うように言われた。しかし、まだ雪ノ下上等の私物も残っている。下手に動かすのもと思うと、何となく使いずらく俺はいつもの席で誰も居ない部屋で仕事をした。
帰る時二真戸上等の娘さんとあった。
「すまない。間に合わなかった。誰一人助けられなかった」
「いや、いいんだ。もとより無理難題だとは思っていた。きっと有馬特等でも無ければ同じ結果だろう」
そう言って目を逸らしてしまった。
「すまない」
俺はもう一度謝るとCCGを後にした。
誰も向こうには居ない扉を開きただいまと呟く。電気を付け、何も無い食卓に鞄を置き、その中から自分の使わなかった遺書取り出してを見つめる。俺はいつも間に合わない。失ってばかりだ。失っても失っても再び失わないように力をつけるが、俺は強くなりきれない。強くなっていない訳ではないのだ。しかし、俺から大切なものを奪う力はいつも俺の遥か上を行く。もし、喰種がいなかったら......なんて何度も考えてきた。親のときも小町がおかしくなっても、平塚上等や真戸上等が殺されても、そして今回も。何度も何度も。でも、原因はきっと喰種だけじゃない、人も同じだ。喰種も人も恨み合いそれは終わることがない。互いに自分だけでなく、家族や仲間を守る為に強くなり、相手を殺す。そして、奪われれば奪い返そうとする。俺たち人も、奴ら喰種も間違いを生み出し続ける。喰種が間違っているだけでも、人が間違っているだけでもない。全てが間違いだらけだ。だから、俺は何度でもこう思うのだろう。大切なものを失い、後悔する度に。
やはりこの世界は間違っている。
と。
無印は終わりです。Reの前にReとの間の話とちょっとした話を入れようかと思います。
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番外編
番外:尾武士
「平塚上等、このオブシの元になった喰種っていつ手に入れたんですか?」
俺は前から気になっていた事を聞いた。これだけの便利なギミックを持っていながらもBレートである理由も知りたい。
「オブシはな、私の左手を奪いやがった喰種なんだよ」
まるでその左手がまだ、痛んでいるかのように顔を顰めた後、平塚上等はオブシの事を語ってくれた。
✕ ✕ ✕
あれは、私が一等捜査官だった頃だ。私の所属していた区では、奇妙な事件が起きていたのだ。喰種捜査官を狙って襲う、それ自体は珍しい事でもない。家族や友人を殺された喰種もいるだろう。また、自分の力を誇示する事によって区の中での存在感を増し喰種間の権力を握るなんて事もある。
その喰種も後者に近かったのだが、毎度毎度攻撃を仕掛けてくる癖に寸止めしかしない。そして、こちらがクインケを発動すれば逃げていく。
その刀のような尾赫やその、がっしりとした体格から当初からは、尾武士と呼ばれていたが、人を殺す勇気も無く、加えてすぐ逃げるので次第にヘタレという名でよばれるようになった。
いくらヘタレの喰種だからって、人を喰わない喰種は居ない。そして、奴の駆逐は我が班に任された。
「はぁ、ヘタレなんて、ハズレ引かされるとかツイてないですね、班長」
「寸止めではあるが殺す実力は十分にある。Bレートではあるが油断するなよ、平塚。油断は禁物だぞ、まだ若いと思っていてもどんどん結婚から遠ざかってしまうぞ」
「ええ、分かってますよ。って後半関係ないでしょ!」
「はっはっは」
あの時の私はそこそこの年齢で昇進していた事もあって、油断していたのだ。結婚の事じゃないぞ。というか、結婚しない捜査官も多いからな?
尾武士自体は、遭遇は難しい訳ではないため、いかに逃げ道を塞ぐのかが肝であるとして、作戦を立てた。
その作戦は単純に路地裏を通る際、本隊とは反対から別の捜査官がこっそり近付くというものだった。こんなのは仮の案で、どうせ掛からないと思っていた。
しかし、奴は引っかかり見事挟み撃ちに成功してしまった。
「引っかかりましたね、班長」
「ああ、正直予想外だ」
私達はクインケを構える。
「これより、Bレート尾武士を駆逐する」
「ヤバっこれ我ヤバくない?ねぇ」
なんか喰種が言っているが、気にすることもあるまい。
そして、班長は尾赫に有効な、羽赫のクインケを放った。避けた様子も無く。こんなに簡単に終わるものなのかと、誰もが思った。
しかし、奴は全ての羽赫を赫子で防ぎきった。
「尾赫の癖に硬すぎるだぉ」
そして、班長の首が舞う。奴が殺しを始めた。
「はっはっはっ。そんな攻撃じゃ我を倒せんよ」
そうして乱戦が始まった。レートを上げるべきであったが誰もが必死でそこまで手が回らない。奴は強かった。
「そんな、あぶねっ攻撃じゃ痛ってぇ、当たるのね」
そして、無駄にうるさかった。
「黙れこの糞喰種が!」
私も全力で応戦する。どちらも傷だらけでそろそろ決着が決まるという時、私は飛び込んだ。
ここで決めなければこちらが全滅だ。そして、切り込んだ。しかし、奴の赫子の方が速く、私の眼前まで来た。もう殺されると思い、死んでも殺してやる、と降る力を更に込める。すると、奴は何故か左に赫子を逸らし、私のクインケは奴の首を切った。私は意味が分からなかった。そのうち左手が切れている事を仲間に指摘され、気付いた。止血された後、気付いたら病院にいた。気を失っていたのだろう。
その後、私はどうするか聞かれたので臨時講師として休日にやっていた、アカデミーの教官をやることにした。オブシの討伐により私は上等捜査官となった。書類上はレートBだが、操作資料からそれ以上という判断だそうだ。私は喰種捜査官で無ければ教師になってみたかったからだ。そこでやる気の無さそうだが、面白い生徒に出会ったのだよ。
✕ ✕ ✕
平塚上等の話は俺に微笑みかけた事で終わった。
「なあ比企谷、なんで尾武士は私を殺さなかったと思う」
この質問の正しい答えはきっとその喰種本人しか知りえないのだろう。
「平塚上等の顔を見て惚れたんじゃないですかね」
そう言うと頭を小突かれる。
「上司を揶揄うな、馬鹿者」
そんな話をした後も俺達は大したことない。話をしていて、そのうち解散となった。
✕ ✕ ✕
「八幡っ!次回作の素晴らしい設定を思いついたぞ!」
「うるせぇ、どうせ駄作だろ。俺のサイドエフェクトが、そう言ってる」
「お主、つまらない嘘つくな。今回は傑作だぞ!」
どうせ今回もパクリとか色んな作品の要素ごちゃ混ぜにした話だろう。
「主人公は孤高の武士でな、だが心優し過ぎて人を殺せないのだ。だが、追い詰められた彼は人を殺しその後も殺しに走る。しかし、敵の中にいた女性の美しい巨乳な武士に惚れ殺しを留まるのだ」
やっぱどっかにありそうなんだよな。
「で、その展開に持っていく経緯は?」
すると材木座は馬鹿にしたように笑う。
「はっ、我は設定だと言ったであろう。細かい事は後回しだ!」
「それ永遠に後回しにするやつだろ。設定だけで終わりそうだな」
なんであんなに偉そうにできるんだ、コイツ。
「大ヒット間違いなしだな。遂に我の時代だ!ではな、八幡、我が同志よ。サラダバー」
聞いてねぇのかよ。材木座はナルトのような走り方で出口へ向かう。遅せぇよ。そして、足音がうるせぇ。片手を上げ部屋を出ていき、部屋の扉が閉められる。
その音で俺は目が覚めた。さっきまでのは夢だったようだ。俺はあんな場所に行った事がないし、あんな奴に会ったこともない。だが、とてもあの夢は心地良かったと言えるだろう。
「風で閉まったのか」
閉まったのは俺の部屋の扉のようだ。小町を起こしてしまっていないかしんぱいだ。時計を見るとまだ午前四時前だ。まだ眠れる。俺は再び眠りについた。さっきまで見ていた夢は頭の中からすっかりと消えていた。
次の日、俺は案の定寝坊し、平塚上等に殴られた。小町になんで起こしてくれなかったか聞くと、夜中に起こした罰だそうだ。そして、俺は今日も働いた。喰種を殺す為に。
オブシ=材木座というのは、前から考えていました。この後はReの部分を書きますが、八幡以外の視点も書こうと思っています。
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やはりこの世界は間違っている。Re
一話
俺が誰もいないデスクで作業をしていると、CCGの研究員が尋ねてきた。
「君が、比企谷八幡二等捜査官だね?その腕を取り戻したくは無いかい?」
「は?」
俺は耳を疑った。一度切れた腕が戻るなんて、そんなの喰種で無ければ不可能だろう。悪魔と契約でもするのか?
「近々アカデミーでQs(クインクス)適性テストを行う予定なんだが、特別に君もどうかという話が出ていてね。腕を取り戻すチャンスだ。やってみないかね?」
「待て、Qsだと?そりゃなんだ?」
クインと付いている辺りクインケと関係がありそうだが、適性検査?アカデミー生に受けさせる辺り、経験がものを言う適性では無さそうだ。体質的な問題か?
「Qs、簡単に言えば体内にクインケを埋め込む事で喰種のような能力を手に入れた人間の事だよ」
「それは、喰種と何が違う?」
人造喰種を作ろうってのか?
「喰種とQs、その大きな違いは人間の肉を必要とせず、通常の食事を摂取できるという事だ」
つまり、人を襲う恐れも無いと。
「デメリットは?」
「まだ、人間には試していなくてね。君が承諾するなら君が最初のQsだよ」
なるほど俺は名誉あるモルモット候補って訳か。
「いや、辞めておこう。俺は普通の人間のままで戦う」
「そうか、残念だよ。まあ、まだ時間はある。やってみたくなったら言いにきたまえ」
そう言って名刺を渡された。そして、その人は去っていく。俺は扉が閉まる音を聞いた後、名刺をゴミ箱に投げ入れた。よし、一発成功。
その後、ある程度仕事を片付け、俺は20区へと向かった。
俺は扉を叩く。
「はい、どなたですか」
「比企谷八幡二等捜査官です」
すると、声の主は扉を開けてくれた。
「どうしたんですか?」
声の主、法寺準特等が聞いてくる。
「真戸暁二等捜査官に用があります」
「彼女なら奥にいますが、どのような件で?」
「コイツです」
俺はバックから取り出したものを見せる。
「なるほど、確かに彼女ならどうにか出来そうですね」
そして、俺は真戸暁二等のデスクへとついた。
「比企谷八幡二等捜査官だ。真戸二等捜査官、コイツの改良をお願いしたい」
そして、俺が取り出したのはオブシではなく、平塚上等の使っていた、義手の羽赫だ。平塚上等は名前をつけていなかった。書類も左手って書いたあった筈だ。クインケの欄に左手って異常だろ......ティーチャーとでも呼ぼうかな?俺の教官だったし。だせぇ。
「なぜ私に?」
そう真戸暁二等は聞いてくる。
「真戸上等や亜門さんからクインケの構成に関する事を聞いていたからな。俺も是非頼もうと思ってな」
「そうか、これは義手のようだから採寸もしなくては。ラボへ向かおう」
これはOKという事か。断られるかもしれないという心配は杞憂だったようだ。俺達はラボへと向かった。
「あれ、比企谷君と真戸ちゃん?珍しい組み合わせだね」
地行博士が言う。まあ、当然の感想だ。
「コイツを改良しに来た」
真戸暁二等が簡潔に説明する。
「懐かしいな、平塚さんの義手か、比企谷君が使うんだね」
「ええ、この通り左手が亡くなったので」
「なるほどね、じゃあ採寸からかな?」
そうして俺は腕のサイズを計られる。
「比企谷君、思ったより筋肉あるね」
「捜査官ですから」
俺も捜査官として筋トレは欠かしていない。
やっぱ嘘、たまにめんどくさい。
「比企谷二等、普段使っているクインケは?」
「そっちに置いてある」
俺は持ってきていたオブシを指差す。
「このギミックは父が考えたものだそうだな」
やはり真戸上等から話は聞いていたのか。
「こちらを手に取り付けるのは......無理か」
真面目な顔で凄いこといいやがった。そんな事したら海賊王を目指す事になってしまう。しかもソロで。
「取り敢えずコイツを扱えるよう、義手の操作性を上げよう」
そう言ってノートパソコンを取り出し、何かを打ち込み始めた。俺は採寸が終わり覗き込んでみるが何がなんだが分からない。Rcのエネルギーがうんたらかんたらで出力がどうたらこうたらでぇーと見つめていると、
「比企谷二等、もう戻っていいぞ」
と言われ俺はデスクに戻った。クインケの仕組みは専門外だ。
取り敢えずあれが完成するまで、ずっとデスクワークをしている訳にもいかない。片手でクインケを扱うのにも慣れないとな。そうして俺はオブシではなく、キタエを手に取る。暫く素振りをしていると、考える事もなく、暇になってくる。ふと、雪ノ下はどうしているだろう。と思った。一度気になってくると、どんどん気になっていく。いつの間にか、俺は電話を手にしていた。
「はい、雪ノ下雪乃ですが」
相手はすぐに出る。
「もしもし比企谷だ」
「比企谷君?どうしたの?」
どうしたと言われても特に何か話したい事があった訳では無い。取り敢えず今日の事を話す。
「平塚上等の義手を引き継ぐ事にした」
「そう、貴方はそれで戦うのね。見てみたいわ」
「そうだな、捜査官になったら見せてやる」
「それは、楽しみね。それまでは絶対死なないでね」
「ああ」
今まででも嘘をついてきた、これが嘘になったとしても大したことじゃない。だが、出来るだけ嘘にならないようにするつもりだ。
「ふふっ、聴いたわよ」
そうして電話は切られた。
嘘にしないためにはもっと強くならなくては、そう思い、俺は更に集中して素振りを続けていると、いつの間にか日が落ちていた。
「暗っ、マジかよ」
俺は家に帰る事にした。それにしても、俺の上司はどうなるのだろう。今まではなんだかんだ上司に恵まれていた。また、良い上司に出逢えるのだろうか。そして、今度こそは、殺されてしまう前に共に戦いたい。俺は右手を握りしめた。
八幡には平塚先生のクインケを引き継いで貰いました。
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二話
どこだ?どこへ行った。
「くそっ」
俺は今焦っている。俺は常に小町があの戦いで遺した唯一のもの、プラグを探している。
だが、明らかに2本足りない。元より4本なのだから、半分無くなっているのだ。気付かない筈もない。俺はあれをいつも机の横に置いている。昨日までは土、日と休みを貰っていた。金曜の帰り際に眺めた記憶があるから、無くなったのはこの二日間だ。サソリの前科があり、盗みそうなのは鈴屋だが最近は大人しい。そもそも盗まれたかも分からず、俺の不注意がもしれないので大事にしたくもない。
すると、電話が掛かってくる。
「こんな時に誰だ?」
電話の主を確認すると真戸二等だった。クインケが遂に完成したのだろうか?だが、そんな事よりも優先すべき事がある。しかし、鳴っているのが分かっていて出ないのも失礼だろう。取り敢えず電話に出てみる。
「もしもし、比企谷ですが」
「比企谷二等か。クインケが完成した。見てみるといい」
「そんな場合じゃないんだ。プラグが小町のクインケが」
クインケは後でも見れるだろう。それより、プラグが先だ。
「早くラボに来い。では」
聞いて無かったのかよ。これ行くしか無いやつじゃん。すまん小町、すぐに見つける。そう思いながら足早にラボへと向かった。
ラボに到着すると、真戸二等と地行博士がいた。
「比企谷君、遂に完成したよ」
そうしてクインケが運ばれてくる。
平塚上等の時と変わった事は見た目では良く分からない。厚くなったような感じはする。
よく見るとボタンがあった。
「このボタンは新しいギミックですか?」
「ああ、押してみたまえ」
真戸二等に言われ、ボタンを押す。
すると、コードのようなものが伸びてきた。
「なんだこれ、攻撃に使えそうでもないし」
「これとセットで使うものだからな」
そう言われて渡されたのは電化製品のプラグを大きくしたようなものだった。
てか、
「小町のプラグじゃねぇか!」
「サプライズだ。いつまでも眺めてないで使った方が妹も喜ぶと思うが」
ホントこの娘は父親に似てるな。
一緒に捜査していた頃の話だ。俺は真戸上等から試作のクインケを見て欲しいと頼まれた。その日は亜門さんも平塚上等も忙しいからと俺一人で行ったのだ。
そこには、銃型のクインケを持った、真戸上等がいた。そして、それを俺に向けて撃ってきたのだ。俺は死んだなと思ったが痛くない。死んだら痛みも感じないのかと自己完結していると、誕生日の歌が聞こえてきた。亜門さんと平塚上等だった。走馬灯かと思ったが、こんな経験はない。
比企谷誕生日おめでとうという声が聴こえた。そうか、今日は俺の誕生日か、と思いやっと気が付いた。真戸上等が撃ったのはクラッカーだと。誕生日のサプライズだそうだ。俺はその場にへたりこんでしまい、笑われてしまった。
後から聞けば真戸上等が考えたらしい。
真戸父娘はなんだかんだ優しいサプライズをしてくれるのだ。だから、これも優しさなんだろう。そう思うと、真戸上等の事を思い出してしまったことも合わさり、勝手に持ち出したことも怒れなかった。
「で、これはどう使う?」
使用方法を聞いてみる。
「このコードとプラグを繋げる。コンセントは喰種だ。弾の補充が出来る。喰種ならば、死んでいても使える」
悪趣味なギミックだな......父親は賞賛しそうだが。
「そもそも、この義手のクインケはサイズ的に弾数があまり多くなく、短期決戦にしか向かない。そこをカバーする為だから、短期決戦なら使わなくとも良い。いざと言う時はプラグをナイフ型の時の様に取り外して使えるようになっている」
なるほど。なかなか便利だな。これならいい感じに使えそうだ。
「ありがとう。これなら真戸上等も認めそうだな」
素直に言ってみるが、
「父なら、まだここが甘いだのあそこが甘いだのと言われそうだ」
確かにな。当然だがさすがに娘の方が良く分かっている。
「じゃあ」
そうして、新しいクインケを手に入れ俺はラボを後にした。
雪ノ下にも報告しておこうと思い、電話をかける。
「はい、雪ノ下です」
「比企谷だ」
「比企谷君?どうしたの?」
「新しいクインケが完成した」
「それは良かったわね。どうも、女性に頼んだみたいじゃない」
なんで空気が冷たくなっているのだろう。
「いや、それはほら知り合いに勧められたからで」
やべぇなんでか言い訳みたいに。
「そう、別に良いけれど」
「ホントに何もないからな?尊敬してる人の部下だから変な事をすると怒られちまう」
本当に怒ってくれたら良いんだけどな。
「あら、誰も変な事してるかなんて聞いてないのだけれど」
うっわやべぇめんどくせぇ。何とかして電話を切る理由
を探さねぇと。
「あ、性能試したいからもう切るわ」
そうして切った訳だが、良く考えたら性能なんていつでも試せる。切る理由になってないのではないか。不味い、怒ってそうだなー。くわばらくわばら。
まあ、一応試してみるか。いい感じの的はないかなー。そう言えば射撃訓練のとこがあった気がする。Qバレット用だろうが大丈夫だろうか?
俺は訓練所で左手を構える。
「ちょっと!何してるんですか!クインケ使用禁止ですよ!」
「はい、すいませんでした」
やっぱクインケはだめか。いい的になると思ったんだが。やっぱ実践じゃないとか。早く上司がつくとやりやすいんだがな。早く仕事しろよ。とは、言えない。局内でも、まだ梟戦の事後処理は続いていて混乱状態にあるのだから。
そう思っていると、近くの局員から連絡があった。俺の上司が決まったようだ。今まで聞いた事のない名前だ。その後すぐに会って話したが悪い人でも無さそうだ。
リハビリ感覚ではあるが、俺の通常の捜査が始まった。
上司はモブにしました。原作のどこかの班に入れるのも崩し過ぎかと思ったので。
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三話
俺が新たな上司と共にした捜査は、大した喰種ではない。高くてB+だ。戦闘はすぐに終わってしまうし、集団の喰種相手でもないため、プラグを使う機会など無かった。
せっかく小町のも使って捜査をする気分であったのに期待外れであった。
そんな時に都合のいい報せが入った。モグラ叩きに参加しないか、という話だ。雪ノ下上等と捜査していた頃から雪ノ下班の参加の話がでていたが、話が出た頃に梟戦が決まったそうだ。そして、今回雪ノ下班で戦闘が可能な状態で残っている俺に声がかかったそうだ。
俺は参加しようと思い、上司に相談した。彼は反対をした訳ではないが、薦めるようでは無かった。部下を失うかも知れないのだから、おかしな反応でもない。だが、俺は行くといった。連携の訓練もするため、上司もついてくるようだ。
やっと、小町と戦える。小町だけじゃない、居なくなってしまった人達と共に戦える。そう思って本当に良いのだろうか。
喰種捜査官の戦う理由でも多いのが、殺された人のため、そしてこれから殺されるかも知れない誰かのため、だろう。俺には喰種を殺して、殺された人のためになるかは分からない。だから、きっとこれは俺のためだ。俺は、気付かないうちに喰種を恨んでいたんだ。喰種にだって家族や仲間がいる。でも、俺にだって、家族や仲間がいるんだ。多くの喰種は、俺の家族にも仲間にも関係ない奴だろう。だけど、もしかしたらという事がある。
だから、俺のために殺す、全部俺の責任だ。もう居ないやつや、親しいやつに押し付けるつもりは無い。俺だけが、俺のために戦うのだ。
✕ ✕ ✕
次の休日、俺は雪ノ下上等に報告に行った。モグラ叩きに参加するなんて言ったら自分も参加するなんて言って起きたりするんじゃないかとか下らない、願っても叶わない妄想を浮かべながら。
病室には、雪ノ下がいた。飾っている花を変えているようだ。こまめに取り替えているのだろう。取り替えた花の方も古いようにはみえない。
雪ノ下もこちらに気が付いたようだ。
「あら、比企谷君。珍しいわね」
「ああ、モグラ叩きに参加するのを報告しようかと思ってな」
「モグラ叩き、ね。姉さんが聞いたら羨ましがりそうね」
俺は先程の妄想を言いかけたがやめた。馬鹿な妄想は俺だけが持っていればいい。
「比企谷君、気を付けるのよ」
「お前がCCGに来るまで死ぬ気はねぇよ」
死ぬ気はない、死ぬために戦うやつなんていない。居なくなったやつに会うのはまだ先だ。
「そう、では私が行くのをやめればあなたは不死身ね。普通に生きてみようかしら」
「勘弁してくれよ。多分ゾンビみたいになるぞ。それ死んでね?」
「似合ってるんじゃないかしら。既になりかけてるかも」
「おい」
「ふふっ」
雪ノ下はそう楽しそうに笑った。
その後、俺は雪ノ下上等に報告を済ませた。結局妄想は妄想だった。
「それじゃあな。雪ノ下」
「ええ、また」
雪ノ下が小さく手を振っている。また、があるかは知らないが、俺は手を振り病室を後にした。
✕ ✕ ✕
そして、モグラ叩きの日がやって来た。周りは準特等や上等が多くいる。俺と同年代らしい者もいるが、将来は準特等以上になるような期待をされているのだろう。
俺は雪ノ下上等のお零れでここにいる。あまり、出しゃばるつもりもない。突っ込んで来たのを対処する程度で良いだろう。
そうして俺達は地下道を進んで行く。今出ている喰種は強くてAレートだろうか?こんな所にいる喰種にいちいちレートを付けるのも馬鹿らしい。すぐに殺されてしまうのだから。俺は後ろから援護射撃をしつつ進んでいた。そろそろ充電をしようと思い、プラグを喰種の死体に刺す。
「君?なにをやっているんだい?」
顔も知らないがベテランらしい捜査官のおじさんが問うてくる。このクインケのギミックを知らない人からすれば、当然の疑問と言える。何せ死体に攻撃しているようにしか見えない。
「このクインケのギミックで、羽赫の補給を喰種から行う事が出来るんですよ」
「なるほど面白いな。誰の発案だい?」
「真戸二等です」
「ああ、あの人の娘さんか、父娘でクインケマニアだなぁ」
どうやら彼は真戸上等の事も知っているようだ。
俺はプラグを抜いて立ち上がる。充電完了だ。
「では、私も少し狩ってくるよ」
俺が立ち上がるとその人は前方へと向かった。
暫くして、喰種の集団が現れたらしく、前の陣形が崩れ、こちらにも喰種が向かってくる。Sレートぐらいも居るのだろうか?有馬特等は、こんなミスはしないだろうから訓練のためにわざとやったのだろう。あの人は多分Sだ。だが、せっかくある程度強い喰種と戦えそうだ。感謝しなければ。なんか、Sの人に感謝って俺がMみたいで嫌だ......
俺に近か付こうとする喰種を撃ちつつ距離を詰められたら、オブシで防ぐ。周りの協力もありつつ、Aレート程の喰種を4体倒せた。しかし、周りの動きが凄すぎる。実力のある喰種相手に触れさせず確実に倒して行く。もし、俺ではなく葉山ならあそこまで出来ていたのだろう。
ある程度片付いたところで、俺達は地上に戻ることとなった。地上が近付くと気が抜けて、血の匂いが気になってくる。早くシャワーが浴びたい。
俺は局に戻りシャワーを浴びていた。今回の反省はクインケの切り替えだろう。接近された時の切り替えがまだ遅いために、他の捜査官の人から庇って貰う事が多かった。モグラ叩きは一回では無いそうだし、これから慣れていくしかないだろう。
そうして、俺は定期的にモグラ叩きに参加しながら普通に捜査もしていた。暫くして、真戸二等が一等捜査官になった。上等になったらなんて呼べばいいんだろう。
まどむす上等?真戸上等A?まあ、その時に決めれば良いだろう。そして、ある捜査官の指導を任されたようだ。佐々木琲世というそうだが、普通では無いらしい。
写真を見た限りでは変な髪の色だな、としか思えなかった。
時間が経ち佐々木琲世は驚くようなスピードで一等捜査官となった。俺抜かされてね?あっけねぇな。そして、恐れていた事が起きた。真戸一等が上等になっている。まどむすはアレなので、真戸上等Aにしよう。
そして、俺も誘われたQsがついに配備された。佐々木琲世が指導をするようだ。佐々木琲世は元人間で赫子を移植された半喰種だそうで、暴走した際はSSレート喰種として駆逐するらしい。Qsと半喰種は近いものを感じる。理にかなっているだろう。
そして、雪ノ下も入局した。もちろん首席だった。俺は雪ノ下のために取っておいた例の赫包をクインケにするため、真戸上等Aに頼みに行った、のだが......
「交換条件として、比企谷二等には佐々木とQsに協力してもらう」
なんですと......
「そちらの捜査もあるだろうからたまにで良い」
俺が出来ることなんて多分無いと思うが、アイツのクインケのためだ。
「分かった。何とかやってみる」
「助かる」
何だか母性が出てるな、と思いながら俺は真戸上等Aのもとを後にした。もう、真戸暁上等で良くね?
「待ちたまえ、比企谷二等。これは君のクインケか?」
そう呼び止められる。
「いや、新しく入った知り合いのやつだ」
「ならその人を連れて来てくれ」
俺は雪ノ下に電話をして、明日は空いている事を聞いた。明日は俺は要らないだろうから、二人で会えば良いだろう。
そう、思ったのだが......
「あなたも来なさい、比企谷君」
俺も行く事になったらしい。二日もまともな捜査してねえじゃん。いや、サボれる事を喜ぶべきか?......良く考えなくてもやらない分溜まる一方なんだよな。
少し憂鬱になりながらも俺は雪ノ下のクインケを作る為について行ったのだが、案の定俺は空気だった。いや、空気超大事だけどね?居なきゃみんな困るでしょ?
雪ノ下のクインケは俺のオブシと似ていた。剣道をやっていた経験から、刀型が扱いやすいらしい。完成するまでは支給されたクインケを使うそうだ。当然違う班で捜査をする。俺すぐに階級抜かされそうだな。アイツは間違いなく活躍するだろう。そして、流石に二日休むのは不味いと思い、戻って仕事をしようとすると、雪ノ下が呼び止める。
「比企谷君、お待たせ」
それは、彼女が喰種捜査官になったことだろう。
「ああ」
俺は右手を振りながら答えた。
琲世やクインクス達に絡ませたいと思いましたが、考えるのが難しくなりそうです。
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四話
俺はクインクス達の暮らすシャトーという建物の前に来ていた。真戸暁上等が挨拶をしてきたらいいと言うので来たのだが、誰かの家を訪ねるのは聞き込み以外で初めてなんですけど......
覚悟が決まらず、インターフォンを押すに押せず俺が戸惑っていると、後ろから話しかけられた。
「なんか用ッスか?」
後ろにはチャラそうなやつが立っていた。
「あんたはQsか?」
ここにいるって事は多分Qsだろう。
「そうッスけど。CCGの人ッスよね?」
「ああ、比企谷八幡二等捜査官だ。佐々木琲世一等はいらっしゃるか?」
こいつに言うよりも佐々木琲世一等に直接あった方が良いだろう。
そんな事より手汗がヤバい。ぜってえこのチャラそうなやつ苦手なタイプだな。悪いやつでも無さそうだが。
「サッサンなら中に居るッスけど」
「お邪魔しても?」
「ああ、いいと思うッス」
そして、俺はシャトーの中に入った。
「サッサン!お客さん来てるッスよ。引き出しナントカって人ッス」
俺を引っ張っても開いたりしねぇし、中にタイムマシーンもない。
「はーい」
奥から写真で見た通りの佐々木琲世一等が現れた。
「比企谷八幡二等捜査官です」
「真戸上等から、聞いてます。すみません、わざわざ来ていただいて」
「いえ、真戸暁上等に急かされたものですから。手伝うと言っても何をすれば良いんでしょうか」
ホント、俺に何が出来るんだか。
「アハハ、僕も真戸上等に手伝いが来ると言われましたが、良く分かってないんですよ」
マジかよ、もう何もしなくて良いんじゃね?
「これが、俺の番号です。何かあったら連絡ください。では」
取り敢えず番号だけ渡して、俺は帰ろうとする。
「もう行ってしまうんですか?お茶でも」
あまり親しくなったと思われると面倒事押し付けられそうだ。友達多いやつって大変なんだろうな。
「いえ、悪いので遠慮しておきます」
そうして、俺はシャトーを後にした。一軒家で共同生活か、俺には出来そうもねぇな。
暫くして、佐々木一等から連絡があった。トルソーとかいう喰種を部下が単独で追ってしまっているらしく、先回りをするつもりのようだ。包囲に参加して欲しいという。
トルソーと言うと、Aレートで下口班の担当だった気がするんだが......なんで追ってんの?
俺が指定された位置へ行くと、何人か捜査官が集まっている。佐々木上等はどこに居るのだろう。辺りには見当たらない。
暫くしてタクシーとバイクが走ってきた。タクシーの中から人が出てくる。上半身裸で、頭にシャツを巻いている。恐らく、トルソーだろう。包囲していた人の首が次々に飛ばされる。流石Aレートだ、格好はアレだが強い。俺は避けるのがやっとで、車の影に隠れる事にした。受け止める事は出来るのだろうが、無駄にリスクも負いたくない。取り敢えず銃口だけでも向けとくか。
すると、先程までバイクに乗っていたやつが、羽赫の赫子らしき物を出して、トルソーに撃つ。良く見れば、この前のチャラいやつだ。本当に喰種と同じような能力なんだな。もう1人バイクにいたやつも、赫子を出してトルソーを切った。この速さで戦われるとあいつらに当てかねない。
二人が暫く戦っていると、トルソーの出てきたタクシーから、もう1人出てくるが、戦いに参加する様子もない。
突然俺の近くにあった、車が吹き飛ぶ。
「あっぶねぇ!」
トルソーや、Qsではない。
「その確保」
あれは......
「中止」
オロチかよ......
S~レートの喰種で、平子班の担当だ。
相当ヤバいな。
Qsも全く歯が立っていない状況だ。早く来いよ、佐々木一等。
そして、Qsにオロチの赫子が向かっていく。
その時、佐々木一等が現れ、赫子を防いだ。
おいおい、遅れてやってくるとか、お前はヒーローかよ。つーかどこにいたんだよ......
佐々木一等が攻撃をするが、オロチに反撃の蹴りを喰らい、吹き飛ばされる。流石にS~はキツいのか?
すると、立ち上がった佐々木一等が、赫子を出し、指を鳴らした。雰囲気も変わった気がする。
突然動きが速くなるが、すぐに反撃を、受けて吹き飛ばされる。
Qsが駆け寄って行くが、佐々木一等は待機を命じて、ストレッチを始める。
明らかに先程とは違う。さっきよりも更に強くなっている。すぐさま、オロチをボコボコにして追い詰めてしまった。後はトドメを刺すだけと言う時に、佐々木一等の動きが止まり、苦しみ出す。どうしたんだろうか。その隙に、オロチは逃げ出してしまった。
気付けば、後ろからは平子班が来ていた。オロチを追っていたのだろう。
「オロチの追跡は中止だ」
平子上等が命じる。
そして、それぞれがクインケを起動して戦う。
「当班は、SSレート喰種ハイセの対処に当たる」
暴走したって訳か、SSレート......
平子班が攻撃を与え佐々木一等、いや......ハイセが、止まると、何かが撃ち込まれ暴走は収まった。
どうやら真戸暁上等が、Rc鎮静剤を撃ち込んだようだ。
「真戸暁上等、すみません。佐々木一等を助ける事は出来ませんでした」
「いや、Aレートに、Sレートだ。仕方ないだろう」
そう言って、彼女は、佐々木一等の元へ向かった。
また、俺は期待外れだった。オロチが来た時、いや、トルソーが来た時に戦っていれば何か変わったとは思えない。死者か、せいぜい負傷者が増えるだけだ。
俺が戦えない理由はいつもそれだ。自分の力の無さを言い訳にするだけだ。
これでは、いつまでも意味が無いのも分かっている。ただ、今思いつくことはトレーニングしか無い。
俺はスポーツジムへと向かってみることにした。きっと、一番必要なものは体力では無いのだろうけれど。
やっとReの1巻の内容に入りました。原作のキャラとの絡みが原作ストーリー上で多くなると難しくなりそうです。
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五話
俺はある喫茶店に来ていた。少し前から気に入っている店だ。店の名前の読み方は分からんが、大して重要でもないだろう。
そういえばこの前のトルソーはアオギリと繋がっていたそうだ。アオギリは既に巨大な組織となっている。あそこには、トツカサイカや、あの羽赫の喰種と姉弟の喰種がいた。俺にとっても因縁がある。また、戦う事にもなるかもしれない。その時は誰が奪われるのだろう。
......違う。そうならないようにするんだ。今度こそ。
そんな事を考えていると、カップから湯気が既に昇っていない事に気付く。
すると、誰かが店に入ってきたようだ。
騒がしいな。そう思いちらと見ると佐々木一等とQsだった。お店ではもう少し静かにしてくれよ。
すると、佐々木一等の動きが止まった。念が通じたのか?俺って超能力者?な訳もない。
あの店員を見て止まったのか。もしや一目惚れか?確かに美人だなとは思う。
青春しやがって、リア充爆発しろ。
心の中で唱えながら一気にコーヒーを飲み干した。佐々木一等が来るよりも前に湯気が消えていたため、猫舌の俺も火傷する事はなかった。
まあ、誰が誰を好きになるかなんていちいち揶揄うのは、ジュニア生までだ。俺はそんな事する相手が居なかったが。
彼等は俺には気付いていないようだ。俺はステルス機能でも付いているらしい。
すると、男の店員が佐々木一等の隣りにどかっと座った。何をするかと思えば、注文を取りに来たようだ。
あの人、無口過ぎて前から来てる俺も恐い。何者なんだろうか。いや、店員なのは分かってるけどね?
コーヒーも飲んだし帰るとしよう。佐々木一等は、ウザイ絡み方をするタイプでは無さそうだが、わざわざ関わる必要もあるまい。
そうして、俺は喫茶店を後にした。
暫くして、佐々木一等から連絡があった。
「一緒に女になって下さい」
と。
最初は意味が分からなかったが、説明を聞いて理解した。
どうやら、佐々木一等達が捜査をしている、ナッツクラッカーと言う喰種は喰種達の間で行われる、人間オークションに出品する商品を探しているようだ。そして、その商品は10代から20代の女性らしい。ナッツクラッカーはクラブで品定めをしていて、そこで囮捜査をするそうだ。その為の女装らしい。
当然女装などした事はない。断ろうとすると、女装の用意は向こうですると言われた。逃げ道を探っても塞がれる。どうやらYESしか選べないようだ。どこの王様だよ。
そして、俺はシャトーに行く事になった。
シャトーに着くと、美人さんが出迎えてくれた。
しかし、残念な事にこれは佐々木一等らしい。なんでこんなに美人なんだよ。
「じゃあ始めるわよ」
コイツ、喋り方から入ってやがる。
そうして、俺はメイクをされた。
と言うか、目のとこ弄り過ぎだろ。なんでイマイチ納得していないような顔で目をいじり続けるんだよ。そんなに俺の目は酷いのか?
そして、最終的に伊達眼鏡で解決した。メイクじゃダメだったかー。
「よし、はっちゃんも完成ね」
俺は八刀流じゃねえよ。
鏡を見ればそこそこ整った顔の女性がいた。これが......私?試しに眼鏡を外すと一気に残念になった。マジかよ。俺が現実に打ちひしがれていると、佐々木一等が出発の号令を出した。
移動中はQs達とも話した。あの不良っぽいのは不知吟士と言うらしい。赫子は羽赫だそうで、今はQs班の班長らしい。
そして、この前のトルソーの時にいた、眼帯をしている子は、六月透と言うらしい。まだ、赫子は出せていないそうだ。
この前、居なかったこの丸っこいのは米林才子と言うらしい。オタク趣味らしく、結構話が合うかもしれない。
今は居ないが、もう1人瓜江久生というQsが居るらしく、アカデミー首席で優秀だったようだ。
それにしても、六月という子は女装が似合うが、不知はなぁ......無理あるだろこれ。
そして、クラブへと着いた。
クラブには俺は行った事がなく、人の多さや騒がしさに気分が悪くなってくる。
もう帰って良いのだろうか。まあ、無理だろうな。真戸暁上等に知られると面倒だ。いい性格してそうだし。
すると、ナッツクラッカーが一般の人を誘い始めた。そこを観察していると、佐々木一等と不知が話し始める。
米林の事のようだ。
米林は望んでQsになった訳では無く、親に勝手にやらされたようだ。そもそも、捜査官になる気も無かったようで、勝手な親も居るもんだと思った。
俺は親が小さい頃に居なくなっているから、親なんてどんなものかを良く知らないが、少なくとも俺の親が生きていたら、そういった人間では無かったと思いたい。
全てを親の都合で決められるのは御免だ。
そういえば、雪ノ下も似たような境遇だったと思う。親の決めた道しか選べないで親の勝手で決められているのだから。
ただ、雪ノ下は喰種捜査官にやり甲斐を感じてはいるようだ。そこは大きな違いだろう、
俺は別に喰種捜査官しか選択が無かった訳ではない。誰かに縛られている訳ではない。ただ、他の道もよく分からずに続けているだけだ。彼女達に選択権があったら彼女達はどんな選択をしていたのだろうか。
そう思いながらぼうっとしていると、笑い声が聞こえる。
その方向を見ると、六月がナッツクラッカーと接触していた。大胆だな、酔ってんのか?未成年じゃないっけ?
米林が言うにはマジで飲んだっぽい。大丈夫かよ、公務員。
警戒されないか心配だったが、六月が胸を張って戻ってきた。成功したらしい。
なかなかやるなと思うのと同時に、俺要らなくね?と思ってしまった。
六月は勝利の舞を踊るらしい。まだ、これからだろうに......
米林も何故か踊り始めるし......
それを見ていると米林が俺を呼ぶ。
「ゾンビズアイの人もカモーン」
失礼の呼び方だな。
「俺は踊らないぞ」
「ノリが悪いと友達出来んぞ?ゾンビさん」
「余計なお世話だ」
そうして、俺は壁にずっと寄りかかっていた。ふと、佐々木一等を見ると、まるで聖母子像のマリア様のような顔でQs達を見ていた。何を考えているのだろう。
ところで、もう帰っていい?
少しして、俺達は帰る事となった。目標は達成した。俺はなんにもして無いが佐々木一等にはお礼を言われた。なんにもしてないのでお礼を言われるのは変な感じだ。
ついでに、米林とはフレンドコードを交換した。
今回の作戦結果により、オークションに突入する事になるかも知れない。
今度も、何も失いたく無いと思っているが、いつもの事だ。きっと、俺の決意には何の力もない。
次はオークション戦に入ると思います。
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六話
また、佐々木一等から連絡があった。六月が先行で潜入させられるらしい。鈴屋準特等がいるから大丈夫だと思うが万が一が心配らしい。
しかし、今回は俺にはどうしようも出来ない、オークション掃討作戦には参加するのでその時に手伝うと伝え、電話を切った。
そして、オークション掃討作戦が始まった。ビックマダムが上の1番の目標だろう。アオギリの樹の介入の可能性もあるらしい。やつが来るのだろうか?
どうせ司令官である和修政の性格からして民間人より駆逐だろう。
待機中、雪ノ下が近くにいた。
「よう、雪ノ下」
「久しぶりね。比企谷君」
「クインケの使い勝手はどうだ?」
「とても使いやすいわね。真戸上等には感謝してるわ」
「え、俺は?」
「感謝は自分から求めるものでは無いと思うのだけれど。でも、感謝してるわよ」
綺麗な笑顔してんな。
「お、おう」
「自分で感謝を求めておいてなんで照れているのかしら」
「うるせぇ」
「もしかして〜、比企谷先輩ですか〜?」
甘ったるい声が聴こえる。
「この子は一色いろはさんよ。私と同じ時に局員捜査官からアカデミーに入ったの」
「初めましてっ、一色いろは二等捜査官ですっ」
あざとく敬礼してきやがるが本性は真っ黒そうだ。
「雪ノ下先輩のお姉さんと、葉山一等と組んでたってホントですか〜?」
「ああ」
「葉山一等と最期まで一緒にいられたんですね〜」
なんか嫌な言い方だな。もしかしたら恨んでいるのか?喰種捜査官になったのは仇討ちかも知れない。俺の弱さも罪に数えられているのだろうか?あまり関わりたくはない。
「ああ、最期までいたぞ。葉山を殺したやつはアオギリにいる。仇討ちがしたいなら止めておけ赫者だ」
「そうですか〜。強いから仕方ないって言いたいんですね〜」
「何か不満があるのか?」
「いえいえ〜、同意しますよ〜。なんせ葉山一等が勝てなかったんですから」
こいつ目が笑いきってねえ。
すると、作戦開始の号令がかかる。
俺達は正面から行くようだ。佐々木一等達もいる。
突撃した時に先陣を切っているのは佐々木一等達のようだ。
少し進むと目の前の捜査官が一人殺される。一人は佐々木一等が庇ったようだ。でかい甲赫を両腕に纏っている。
ここで和修政準特等から佐々木一等は直進しろとの命令が下る。
「比企谷二等、付いてきて下さい」
俺は佐々木一等に呼ばれ、ついて行く。何故か雪ノ下と一色も。
しばらく進むと六月が喰種と交戦中と言うか一方的にやられていたが、佐々木一等が間一髪で救い、Qs達も攻撃を仕掛ける。あと一歩でトドメといった所で、もう1人喰種が現れる。その喰種は赫子で壁を作って逃げてしまう。
和修政準特等から連絡が入ると佐々木一等は六月を戻らせたいと言っていた。当然の意見だろう。瓜江がついて行くようだが、大丈夫だろうか?
あいつも和修政と似たタイプな気がする。
『比企谷、雪ノ下、一色、お前らは佐々木についていけ』
和修政準特等から命令が入る。
六月と瓜江が気がかりだが仕方ない。
「了解しました」
俺達は取り敢えずついて行く。
俺達が進んでいると捜査官が一人いた。大芝班のメンバーで林村一等らしい。
佐々木一等が彼と話をしていると。
「あぶないッ!!!」
俺達の横を何かが通るとそれを佐々木一等が受け止めた。
が、佐々木一等は弾き飛ばされる。それは喰種だった。奴は佐々木一等と交戦する。明らかに今までの喰種とは違う。
佐々木一等が押されながらも撤退命令を出した。
あそこまでの強さでは俺達は足手まといにしかならない。
少し離れた所で和修政準特等に連絡を取る。不知が連絡するが、動揺しているのか下手くそだ。林村一等が連絡を変わる。奴はレートはSS~に設定された。そして、佐々木一等は単騎で対峙するという。
不知は文句を言うが指揮官の決定ではどうしようもない。上でナッツクラッカーと交戦する事になった。
俺達は上に向かう。
「待ってよ。八幡」
1番聞きたくない声だ。
「トツカサイカ...林村一等達は先に!俺はコイツの相手をします!」
「何を言ってる。比企谷二等」
コイツの相手は俺がしなくちゃならない。
「お願いします」
俺は林村一等に頭を深く下げた。
「ッ、分かった。死ぬなよ」
そうして、林村一等とQsは先へ進んだ。
「雪ノ下、一色、お前らはなんで残る」
「比企谷君1人ではどうしようもないでしょう」
まあその通りだが、正直2人でもどうしようもない。
「コイツが葉山先輩を殺したんですね」
「一色、気持ちは分かるが飛び込むなよ?」
「そんな馬鹿なことしませんよ〜。作戦始まる時にも言いましたが、葉山先輩が負けた奴に私が勝てるなんて思ってません」
それにしても向こうは動きが無い。
「ねえ八幡。死んじゃったと思ってた大切な人が、生きていたらどう思う?」
は?急になんなんだ?
「それは、嬉しいんじゃないか?」
そういったものの、もし平塚上等、真戸上等、亜門さん、小町が生きていたらどうだろう。
一度失ってその価値に気付いてしまったから、最初以上に失う事が怖くなるのかも知れない。
「僕も嬉しいかも」
トツカサイカにも大切な人が居たのだろうか?
優しい家族や友人、あるいは恋人なんかが。
「今回はオークションの護衛で来たんだ。八幡と遊ぶのも良いけど、僕はやる事あるから。これでも、組織へはある程度忠誠を誓ってるからね」
そう言って窓を割り飛び降りて行ったが、トツカサイカの後ろに喰種が居たらしい。
よく見れば姉弟喰種の弟だ。
「姉ちゃんを返せよ」
ゆっくりと歩いて来る。不味い、雪ノ下のクインケは奴の姉から作られている。
「一色!雪ノ下が奴のターゲットだ」
「あの姉ちゃんてのは雪ノ下先輩のクインケですか?」
なかなか飲み込みが速いな。
「ああ」
そして喰種は赫子を出して襲ってくる。
俺達はクインケで防ぐ。防ぎ切れるもののスピードもパワー以前より上がっている。
俺はオブシで受け止めつつもティーチャーで撃つ機会を伺う。
雪ノ下と一色も距離を詰めようとしている。
暫く戦っていると、3人相手は流石にキツかったのか隙が出来る。俺は隙を見逃さずに奴を撃ち抜いた。
そして、奴がよろめいて攻撃が弱まると雪ノ下と一色がトドメを刺しに行く。
その時、窓の外から赤い光が向かってくるのが見えた。
「危ねぇ!」
俺は2人の肩を押して、無理矢理伏せさせる。
この赤い羽赫...間違いない。
「大志君、ダメだよ。危ないよ」
窓から喰種が入ってくる。
「すいません」
その喰種はもう1人を抱えて、また窓から飛び出して行った。
「比企谷君、助かったわ」
「ありがとうございます、先輩」
「ああ」
向こうも殺す気では無く、仲間を助ける目的のみだったのだろう。他の喰種であれば伏せた後にトドメを刺されていた。
「そろそろどいてくれないかしら」
「重いんですけど」
「おお、すまん」
まだ2人に乗っかったままだった。
次でオークション戦終わりです。一色を出しました。
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