戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ (ブネーネ)
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簡易的な設定集
設定集 組織編<20/12/19更新>


このSSだけの設定です、後々追加されたりこっそり修正される事もありますのでご了承ください。


FAF フェアリィ空軍

21年前に表れたジャムと超空間通路を発端とするジャム戦争、地球がジャムの侵攻を受ける事を防ぐ為に誕生した超国家組織。

フェアリイ星は地球ではない惑星として認められた為に宇宙天体条約*1の対象となり、地球勢力はフェアリィ星にいかなる国であろうとも軍隊を派遣する事が出来なかった。

その為国という枠を超えた組織の誕生が望まれ、国連から独立した超国家組織フェアリィ空軍が誕生した。

空軍しか存在しない理由として当時のフェアリィ星の列強諸国及び人類連合軍と結ばれた地球国際防衛条約においてFAFが占領や侵攻を行わない事を示す為にそう定めたからである、またこの条約を結ぶためにフェアリイ星も人類連合軍を立ち上げた経緯がある。

FAFの任務は【フェアリィ星におけるジャム戦争への過干渉を行わず、フェアリィ星人、ジャム、ともに相手の実態を探る事】と【超空間通路を通って地球へ攻め込む敵性勢力の排除】である。

 

 

 

 

SAF 特殊戦

司令:ライトゥーム中将

副司令:クーリィ准将(実質的なトップ)

 

ジャムの実態を探るべく誕生した電子偵察部隊、正式名称は戦術空軍団所属基地戦術戦闘航空団 特殊戦である。

任務はジャムの戦闘やそこから得られる情報を偵察して取得し、これを確実に持ち帰り分析する事である。

至上命令は『対ジャム戦において戦闘情報の収集に努め、友軍に対して一切の援護は行わない』『そうして得られた情報を例え友軍が犠牲になり、全滅しようとも確実に持ち帰る事』の二つ。

FAF影の参謀と言われる程の対ジャム戦に貢献する部隊であり、実際に独立した司令部と指揮系統を持つ軍団レベルの存在である。

 

 

SAF-V 特殊戦五番隊

戦隊指揮官:ブッカー少佐

 

フェアリイ星の各地に存在するジャムの巣、その傍に確実に存在する特殊戦の戦隊の一つ。

五番隊はベネツィア付近のジャムの巣に対する偵察任務を受けている、現在はFAFロマーニャ基地を拠点としている。

所有戦力はFAF最強の戦闘機であるスーパーシルフ13機、これは他の特殊戦戦隊と比べても異例の数であり、それだけベネツィア戦線の苛烈さを示している。

後にスーパーシルフと入れ替えでFRX-99一機、FRX-00一機が特殊戦五番隊に配属された。

 

 

 

特殊戦五番隊 レコンウィッチ隊 ミラージュ

隊長:深井零大尉

隊員:天津風少尉 etc...

 

正式名称はは特殊戦五番隊所属、特殊偵察ウィッチ隊*2

苛烈なベネツェア戦線において501JFWの戦力増強等を図る為に行われたプロジェクトマリッジにて誕生した部隊。

FRX-00メイヴ、FRX-99レイフ、そしてFRX-00の改造機であるフリップナイトを三機擁するFAFにおいても最高戦力の一角とも言える部隊でもある。

特殊戦の任務に加えて威力偵察等の特殊な任務を請け負う。

 

 

 

 

 

 

人類連合軍

トップ:不明

構成員:明確には不明、大半は各国の将軍を含む将校である。

    501JFW司令、ミーナ中佐。

 

フェアリイ星の勢力の意見を一つにまとめる為に生まれた仲介を目的とする組織、FAFと地球国際防衛条約を結ぶ際に本格的に結成された。

本来は各方面の統合軍や国同士での協力を円滑に行う為の組織であり、戦力や発言力を持つことは無く、そして政治に干渉しない組織の筈だった。

しかしいつの頃からか徐々に力を持つようになり、世界最高峰の戦力とも言える統合航空戦闘団(JFW)を所有するまでに至った。

また統合航空戦闘団を立ち上げる背景には501JFW司令のミーナ中佐の尽力があったと言われているが、これは本当にミーナ中佐が主導として行われたのかは疑問に残る。

何故なら彼女一人がこの構想を実現するのは不可能と言われているからだ、実際には人類連合軍の何かしらの思惑がありミーナ中佐の統合航空戦闘団の構想を利用したのではと言われている。

 

 

501JFW 第501統合航空戦闘団

総司令:ミーナ中佐→後に大佐

戦闘隊長:坂本少佐→バルクホルン少佐

 

各国のスペシャルを集めた人類連合軍直属のエースウィッチ部隊、現在は西方統合方面軍に合流しそのままロマーニャ防衛、航空型ネウロイの迎撃の任務を受ける。

その性質上各国の思惑に左右されやすい組織であり、プロパガンダや人類の希望の象徴ともされる為に常に結果と実績を求められている。

後にプロジェクトマリッジによって特殊戦の協力を得る事となりフェアリィ星においても無二の戦力と規模を擁する組織となった。

 

 

 

協同技術開発センター

人類連合軍直属のFAFとの技術交流とそこで得た知識を元に新兵器を開発する組織、その内の一つはノイエカールスラントに存在する。

なお組織名には人類連合軍とFAFの名前は入らず、立ち上げたのは人類連合軍とは関係ない人物という事になっている。

FRX-99を製造したのはFAFだがFRX-00、フリップナイト、ファーンST-W型等の航空機を製造したのがこの組織である。

また現在は501JFWのジェットストライカー用の装備を優先的に開発し、有効であるものが各国に技術を公開して量産されることとなる。

*1
月その他の天体を含む宇宙間の探査および利用における国家活動を律する基本原則に関する条約

*2
Special Reconnaissance Witches Force



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設定集 戦闘機・ユニット集

このSSだけの設定です、後々追加されたりこっそり修正される事もありますのでご了承ください。


FA-1 ファーン

ジャム戦争開始以来から使用されている単座の主力制空戦闘機、またジャムを始めて撃墜した戦闘機としても有名である。

ただし21年にも及ぶ戦争にジャム戦争においては旧式もいいところであり次世代型戦闘機の繋ぎか数合わせとしての運用が正直なところである。

 

 

FA-1 ST-W ファーンST-W型

FAFが製造した戦闘機であるファーンを参考にした協同技術開発センターによって製造されたジェットストライカー。

速度は初の正式採用されるジェットストライカーと言う事もあり初心者でも扱いやすいようにマッハ0.8に抑えられているが、リミッターを解除すればエース用の機体としても運用する事が可能である。。

特徴としてはストライカーユニットの各所にハードポイントを設けており航続距離を延ばす為の増槽やブースター、ロケットランチャー、ガトリング等を装備可能。

更には疑似魔導針なども搭載されている為訓練すれば夜間哨戒ウィッチとして活動する事も可能。

 

現在は主に501JFWにのみ配備されている。

 

 

FFR-31 シルフィード

通称ノーマルシルフ、ファーンと同じくFAFの主力制空戦闘機である。

ファーンを超える戦闘機として開発されたが製造コストが遥かに高騰してしまった為に生産数が大分少なくなっている。

実際100機に満たないこの機体の中で実戦部隊に配備される数は更に少なく、有名なシルフィード部隊「グール・スコードロン」などに配備されるている事が知られているのみである。

ただし性能は申し分ないものなので追加生産を望まれているのだが第二次生産によって製造されたシルフィードは性能は同一であるのだが部品の寿命などの信頼性が大分低くなっておりフライトパイロットから不満の声が上がっている。ブッカー少佐とクーリィ准将が言っていたシルフィードの損耗が激しくなっているという会話はこの辺りが原因であるとされている。

以来初期生産型のシルフィードはオリジナル・シルフとも言われ、それ以降に生産されたシルフィードはあくまで新機体までの繋ぎとして扱われている。

 

 

FFR-31MR スーパーシルフ

シルフィードを偵察用に改造した機体、という事になっているが実際は設計も性能も段違いのスペシャルモデルである。

本来であればシルフィードの改造機ではなく別個の機体と扱われるべきだが予算確保の為の方便と、地球国際防衛条約によって戦闘機の保有数を制限されている為シルフィードと同じ型式番号を与える事でそれを誤魔化している。

FAFにおいて最強の一角を占めており、格闘性能こそファーンⅡやシルフィードには及ばないものの長距離戦略偵察機としてごく単純な直線加速性能と電子偵察能力においては最高峰の能力を占めている。

ただしその分ノーマルシルフとは比べ物にならない程の製造コストがかかる為にその生産数はかなり少なく、その殆どが特殊戦に配属されている。



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番外編 1904年1月1日午前0時
ジャムの正体とその考察 A


 

―――1904年1月1日午前0時 記録開始。

 

 

 

「本日はお集まり頂きありがとうございます」

俺達はウルスラ中尉に呼ばれて戦術コンピューターが置かれているシェルター区画に集まっていた。

シェルターの中には俺と深井中尉、クーリィ准将、ミーナ中佐、そしてウルスラ中尉の計五人のみ、あえて言うのであれば機械知性体である戦術コンピューターがいるが入室と同時に細工をされてこの部屋の記録は一切保存れないようになっていた。

「俺達を集めて何の用だ。それもこんな場所で、態々細工までして」

「お時間を取らせてしまい誠に申し訳ございません深井中尉、しかしこれは我々の今後に必要な話なのです」

「必要とは一体何の話なんだ?」

「ブッカー少佐、あなたが以前501JFWと特殊戦が協力体制を取れるようにしたいという話についてよ」

それはこんなところでなければできない話なのだろうか、しかもその上で明らかに場違いなのがウルスラ中尉だ。

確かに彼女はフェアリィ星人の中でもFAFに深く関わっている人間と言えるだろうがさすがに部署が違う、准将が連れて来たのだから意味はあるとは思うのだが。

「その件ですが、准将はもし深井中尉とミーナ中佐が目覚めたなら、そして貴方に覚悟があるなら准将がなんとかして見せると言っていましたがもしやこの事ですか?」

「そうよ、少佐の覚悟は決まったのか?」

「覚悟と言われましても……何に対して覚悟をすればいいのか分からず終いでして」

「それじゃあ改めて聞くわ、『ブッカー少佐は今後、ジャムを打ち倒す為に己の全てを捧げるか否か』」

「もし否であれば?」

「あなたは今からここを去る事になりスオムス*1辺りで働く事になるでしょう、そして深井中尉達とはお別れよ」

「事実上の左遷と島流しですか、深井中尉とお別れとは?」

「深井中尉とミーナ中佐は既に無関係ではないのよ。だから二人は強制参加よ、言ったでしょう?貴方に覚悟があるのであればと」

深井中尉とミーナ中佐に共通点があるとすれば深くジャムと関わりその実態の一部を目撃した事だろう、それに引き換え俺はただ見ているだけ―――いやそれすら出来ていなかった、当事者ですらなかったのだ。

もう置いてきぼりは御免だ、俺にもまだ出来る事があると信じてこの道を歩んできた、これはつまり又と無いチャンスなのだ。

「……俺が言いだした事です、今更無しとは言いませんよ」

「いいだろう、その言葉忘れるなよ」

「話は終わりましたか?そろそろ話を進めたいのですが」

「准将、今更ですが何故ここにウルスラ中尉が居るのですか?」

「お前も調べて分かっただろう、この問題を解決する為には人類連合軍の上層部に掛け合う必要があると」

「改めましてブッカー少佐、私が少佐が言うところの人類連合軍の上層部です」

「ウルスラ中尉が人類連合軍の上層部なの!?」

「正確には人類連合軍の窓口や代理人と言うべきですが、概ねその通りです」

相応しくないと思える程の笑みでウルスラ中尉が応える、今まで自分を利用していた組織の一人が目の前に居ると知れば彼女にも思うところはあるだろう。

「君が人類連合軍の上層部との間に立って執成してくれるというのか?」

「執成すというより、もういつでも実行に移せる段階にありますよ」

「准将から頼まれたのか?」

「違うわ、あなたが私に話を持ちかけるより前に既に計画が進んでいたの」

「ウルスラ中尉、これはどういう事だ?」

ミーナ中佐のようにその思惑を利用して自分達の計画を進める前例があるが今回の件は俺と准将、そして特殊戦のネットワークを調査しなければ分からない筈の情報だ。

「今日は皆さんの疑問にお答えしようと思ってきたので丁度いいですね。人類連合軍は元々人類の為に色々な事をしているのですが表立って動けないので代わりにやってくれる人を探しているんです、今回も元々は501JFWを補助しようと計画していたんですが特殊戦が丁度よく協力して下さるようなのでお任せしようかと思ったのです」

「何故人類連合軍は表立って動かないんだ、それに加えてフェアリィ星人の中で最高峰の戦力を抱え、各国に発言権を持ち、FAFとの関係も深い。そもそも人類連合軍は一体何なんだ」

「それを話すには長くなりますよ、そしてジャムの正体についても話す必要が出てきます」

「ジャムの正体だと?お前はジャムを知っているのか?」

「その通りです、我々はネウロイが一体何者で何処から来たのかを知っています」

「それじゃあ、ジャムとは一体何なんだ」

 

 

「ジャムは、ネウロイは神様なんです」

 

 

 

昔々、西暦よりももっと昔の話です、そこには現代よりもエーテルに満ちた時代がありました。

我々の文明以上に魔法を使いこなすその時代では一部の人間が男女関係なく、そして動物も魔法を使う事が出来ました、もしかしたら植物や無機物も魔法を使えたのかもしれません。

その過去の文明をここでは古代文明と仮称しますが古代文明は豊かで満たされていて、それでいて厳しい時代でした。

必要は発明の母といいますから優れた魔法技術はその時代を人類が生きていくために必要な能力だった、古代の人類は魔法を用いた独特な価値観と概念で人類の繁栄を遂げたのです。

魔法が使える一部の人類は魔法使いと呼ばれ、魔力を通して空を飛び、病を跳ねのけ、その身に余る膂力を振るい、未来を見通し、それ以外にも様々な奇跡を起こしました。

それでも未だ科学の存在しない厳しい時代です、しかし古代人はあらゆる現象と対話し、恐れ、崇める事で『神』との遭遇を果たします。

これによって天と地が齎す災害であったり避けられぬ運命であったり、様々な艱難辛苦を神と共に乗り越える事が出来ました。

そしてある時古代人の前に異形の怪物である『怪異』*2が現れました、何処より現れ人を襲い国を滅ぼすそれは人類にとって明確な脅威でした。

人類は怪異に対抗する術を求めました、そして怪異に襲われながらも時は流れて新たな神が誕生し、神は怪異の正体を伝えました。

怪異とは悪神であると、人類に益を齎す善神が在れば人類に災禍を齎す悪神もまた存在するのだと。

神に対抗できるのは神の力だけ、人類は最も新しく優れた神に信仰を集めその巫女に神の力を降ろしました。

そして奇跡を起こす力と神の力を得た巫女は鑑の助けを受けながら怪異との長く厳しい戦いの末に怪異を退治する事に成功し人類は生き残る事が出来ました。

 

 

 

「この怪異、つまり古代に表れたジャムは一度駆逐されているのです。そして神の力を下ろし怪異を退治した巫女が現代のウィッチの祖先と言われています」

「色々聞きたい事が増えたが…まずその怪異とジャムは同じ存在なのか?」

「ほぼ同じ存在だと人類連合軍は考えています」

「その人類連合軍と古代文明に一体なんの関係があるんだ?」

「それがですね……」

 

 

 

怪異と巫女の激しい戦いの末、理由は不明ですが一度古代文明は滅びてしまいました。

恐らくは再び新たな神が現れた事でそれまで存在した神が駆逐されたことで文明が滅ぼされたのでしょう、旧き神は名前も姿も忘れ去られてしまいました。

そして時代が変わると同時に起こるそれは人類が神との契約を打ち切るまでに発展し、人間と神の蜜月のような関係はいつしか終わってしまった。

しかしそれを快く思わない人類も存在した、それはかつての古代文明の知識を受け継ぐ人類であり怪異の再誕を確信していました。

そのグループは神の存在についてある程度の知識があり、少しばかりの奇跡と神秘を保ち続け、いつか訪れる怪異を滅ぼすべく動き続ける秘密結社のようなグループでした。

『我々』はネウロイに対抗する為には神の力が必要であることは分かっていました、しかしその為には消えてしまった神との対話を果たす事もまた必要でした。

だから私達は古代の神を探して、探して、探して、探して、探して、探して、探して、探して、探して、探し続けました。

壁画や書物、古代の建造物や土器や神器を時に買い漁り、時に掘り返し、そして押収や強盗などの犯罪行為であっても繰り返し行いました。

神秘の薄れた現代で過去の神を探すという事が何よりも滑稽な事と知っていながらも止まる事なく続け、そして秘密結社は内部で派閥が分かれる事になりました。

一つは過去の英知と神秘を探し続ける懐古派を、もう一つは過去に見切りを付けて現代においての神を探し出す革新派を。

再び時は流れて我々は一つの結論に辿り着きました、悪神である怪異が新たに生まれるならば、善神たる神を新たに生み出す必要があるのだと。

ここで秘密結社はアプローチを変えて各派閥が持ち寄った情報を基に神というシステムを解剖する事を決定しました、そしてそれを通して人間を知る事もまた並行して行われました。

結論から言えば神を生み出すシステムの基礎となったのは人間が持つ、現象を捉える認識能力の一つであるという事でした。

人間の言う世界とは自分の外にあるのではなく、外から与えられた外部刺激によって自分の内側に世界を作るというものでした。

古代の人類は無明の世界で生きているも同然でした、だからこそあらゆる現象や理屈に名前と形を与えて対象を理解しようと神と呼ばれる存在を作り上げました。

雷を裁きや豊穣の象徴ととらえる事で雷は恐れだけではなく必要とされ人類からの信仰を集めるに至り神となった、こういった自然や現象が形になった神を外の神と暫定的に呼びます。

一方で内なる神とは人間が正しい行いをする為に生まれる神です、俗に言えば風習、慣習、ルール、法律、宗教等です、これらは人類の正しさを支える信仰を得ています。

神とは、人間の罪や恐れ等の負や闇から生まれる。

神とは、人間が望み生まれた試練と罰与える者である。

神とは、人間が優れた人間性を保つ為に生まれる「正しい」指標である。

神は人間がそれを信じる事で生まれた世界のルールと法則である。

神が人間を救うのではない、人間が神の代行者として人類という種族を繁栄させる。

つまり神とは人間が『正しく』ある為に人間が生み出したアバターだった。

そして人類の善意から生み出される善神と違い、怪異やネウロイは人間が人間を滅ぼす悪意から生まれる人類悪だったのです。

よって改めて過去の神を探す行為は最も愚かである事が分かりました、過去と現代では文化や常識、宗教などが別物なのだから古代文明の神は生まれないのです。

それは悪神であるネウロイも同じこと、彼等は現代の負の側面から生まれ出る新たな人類悪である事が予想されました。

では秘密結社は善神を生み出すには何が必要なのかを考える必要がありましたがここで問題が発生します、現代では『科学』と呼ばれる神が急速に信仰を集めていました。

神秘を隠し、あらゆる現象や物に名前と理屈を与え一部の人間にしか制御できない奇跡や能力を出来る限り封印する事を求められた現代の最高神の御業。

この神が存在する限りエーテルを利用する事は可能でもかつての魔法や神秘を操る事は出来ませんでした。

そこで秘密結社は常識を捻じ曲げ、科学の世界にパラダイムシフトを起こし科学の神と魔法の神の融合を図り新たな神を生み出す事にしました。

そして選ばれたのが現代では絶滅危惧種となっていたウィッチでした、ちなみに彼女達が箒を用いるのは悪を『祓う』という意味があり、それは正に過去に悪神を駆逐した魔法使いの系譜でした。

現代では精々が空を飛び、人よりも力持ちであった程度のウィッチ*3を基に信仰を集めて善神を生み出しネウロイを駆逐する事が秘密結社の新たな指標となりました。

ここで初めて人類連合軍の基礎となる組織が結成され、ウィッチの有用性と存在意義を大々的にアピールする事で信仰を集める事にしました、それでもオラーシャ帝国の様にウィッチの存在を嫌う国*4もありましたが利益で黙らせました。

こうしてウィッチの存在は科学の世界から『承認』される事となり、神秘と奇跡を振るう善神の巫女が生まれネウロイと戦う事が出来る様になりました。

そして遂に怪異の再来となるネウロイが生まれます、秘密結社の人間は人類が存続する為に動き出し、表で活動出来るように一つの組織を立ち上げました。

その名を人類連合軍、その組織は人類の希望と成るべく誕生した組織だったのです。

 

 

「本当は鑑についてとか名の無い神についてとかジャムの汚染とか色々あるのですが、大まかに言えばこういう事です」

「……つまり人類連合軍とは元々ジャムと戦う為に過去から存在した組織だったと」

「そうです、そして我々が撒いた種を育てて収穫したのがストライクウィッチーズです」

「つまり私の思惑を利用した訳じゃなくて、どのような形であれストライクウィッチーズは誕生したのね?」

「その通りです」

「そしてFAFとストライクウィッチーズが結託する事もかなり初期から考えられていた」

「概ねその通りです」

「では改めて聞くがジャムに勝つためにはどうすればいい」

「そうですね―――では問題です、ここにマッチがあります、世界からマッチを消す方法を考えて下さい」

「マッチじゃなくて、ライターを使えばいい」

「深井中尉、いい答えですね。でもそれだけでは駄目です」

「マッチのネガティブキャンペーンを打つとかどうかしら」

「ミーナ中佐も素晴らしいです、便利な道具があって、更にマッチを使う事をナンセンスにしてしまえばいい、でもまだ足りません」

「マッチを回収し、マッチを見つけ次第処分する」

「ブッカー少佐も流石ですね。つまりはジャムを上回る戦力を持ち、ジャムを生み出す悪意や狂信を削ぎ、最終的に悪意が生まれる源を断つ必要があります」

「出来るのか?そんな事が」

「その為の我々であり、人類連合軍であり、ストライクウィッチーズです」

長々と語られた真実の話はかなり荒唐無稽であった、しかしウルスラ中尉があくまで一介の中尉に収まらない存在である事は確かだった。

「それでは皆さん、これから記憶を封印します」

「何だと?それは一体どういう事だ」

「ジャムに関する知識は精神を汚染されます、フェアリィ星における感染拡大を防ぐ為にご協力をお願いいたします」

「ちょっと待て、ならば何故説明した!」

「これは保険です少佐、無知は時に罪ともなり得るのです。大丈夫です、必要な時が来れば自ずと思い出す事も出来るでしょう」

そう言うとウルスラ中尉の手が光初め、それが振るわれた時俺達は倒れた。

成程、ウィッチの固有魔法だけで説明出来ない力、これがウルスラ中尉が言っていた神秘と呼ばれる技術なのだろう。

彼女の言葉を信じるのであれば今倒れた三人はともかく、未だ立っているウルスラ中尉とクーリィ准将は記憶を失わないのであれば二人は彼女の言うところのジャムの汚染を受けている。

そもそも二人が本人であるという確証もないのだ、零の言っていたジャムが製造した人型のコピーの可能性がある。

考えてみれば俺は誰から呼ばれてどうやってここまで来たのかすら記憶がない、それに気付けなかったのは重大なミスだ。

つまりこれはジャムそのものによる攻撃なのか?ジャムが己の意志で俺達にコンタクトを取って来た?

しかし何であれ俺達の記憶が無くなってしまうのであればもう意味はない、しかし思い出す事が出来るのであれば最後までこの光景を目に焼き付けよう。

 

 

 

―――忘れるな、ウルスラ中尉とクーリィ准将を疑え、忘れるな。

 

 

 

 

 

―――1904年1月1日午前0時 記録終了。

 

*1
地球でのフィンランドに相当する

*2
SW一話等を参照

*3
本能寺の魔女等を参考

*4
ブレイブウィッチーズのサーシャ大尉の様な状態




零「話が長い」
ウルスラ「ジャムは悪い神、私達は良い神、ジャムは神で殴って殺せ」
零「OK」

ちなみにジャムの全貌まで書くとかなり長くなるのでここまでです、あとは本編やジャクスン女史が解明してくれるでしょう。

評価バーも赤く染まった上に埋まって感無量です。あとは推薦だけですね!!(強欲)
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ジャムの正体とその考察 B

かつてこの星では大昔からウィッチの存在はとても大きかった、ウィッチはとても貴重でウィッチを多く抱える事は権威の表れであり、権力者は天下を取れると言われる程の吉兆の存在であった。

『彼女達』は元々戦災孤児であった、そして大人に引き取られて孤児院から出ていった―――それが地獄の日々が始まりとも知らずに。

秘密結社の派閥の一つである『狂信者達』はネウロイに対抗する為に一つのアプローチを試してみる事にした。

一言で言えば『ウィッチの構造を解き明かし、神への道を開く為の研究』である、そして偶然でしか見つけ出せないウィッチを何とかして量産化出来れば戦局を変えられると信じていた。

人類の歴史において人体実験とは珍しくはない、むしろエビデンス*1を向上させる為に人体実験は当然のように行われる。

エビデンスレベルが高ければ信頼性の向上や安定した結果を出しやすくなるのだが例えば無知な専門家の意見や動物実験はエビデンスで言えばほぼ信用に足らない信頼度だ、信頼度を高めて結果を出しやすくする為には人を使った実験が現状では必然である。

人体実験に嫌悪感を持つのはそれが被験者を省みない残忍で加虐的な内容であったり、安全性を確認せずに雑多な実験で後遺症を遺す事になったりと非人道的な実験の前例があるからだ。

そして狂信者達はそれを行った、何人もの少女達を使って消耗品の様に実験を繰り返した。

狂信者達の実験は幾つかのケースに分けて行われたがその根底にある研究目的は一つである、それはつまりウィッチの力の根源は何処にあるかの探求。

まず普遍的な少女達を攫い拷問に等しい外的影響を与える事でウィッチへの覚醒を促す実験が始まった、魔法力はウィッチの感情の大きさに比例するという前例があったからだった。

脳波などのバイタルを記録しながら単純に痛めつけたり、発狂前提の拷問をしてみたり、子供同士の関係性を悪化させて互いに罵り争うように仕向けたり、家族を人質にとってみたり。

結果から言えば被験者の中からウィッチは現れた、そしてそのウィッチは収穫されて残った普通の少女たちは拷問を続けられた、そのウィッチが天性のものか偶発的によるものかを確かめる為に。

そして現れたウィッチもまた実験と称した虐待を受けていた、魔力を扱える少女の秘密を暴く為に、最終的には臓器や体液に至るまで解体して保管されたこも居た。

そうして出来上がった一つのレポートである『神の根源に至る魔女の証明』が書き上げられた、これは狂信者達が焼き払われるまでに行われた実験の纏めでありその神秘を解き明かすものではなかったが今でもその一部はウィッチ研究の貴重な資料として利用されている。

このレポートのエビデンスは例外を除いて比較的低い、何故なら再現性があいまいで推察にも根拠のない考察が大分含まれているからだ。

では例外とはなんだったのか、それは酷くおぞましいレポートの最終章に記されている。

 

 

 

 

 

 

この実験における理想とは通常の人間を例外なくウィッチへと進化させる事である。

それは性別、年齢、人種、体質、既往歴を問わず、ウィッチに進化させる為の極端な制限を受けないものを理想とする。

十数年に渡る実験において完全なる理想例も成功例も現れなかった、これは後述する神への根源に挑む我々の当時における限界であり、その証明を困難にさせるものであった。

数々の実験においてウィッチが魔法を使用できるかどうかを確認できた状態は次の通りである。

 

1.被験者となる少女達に極限までのストレスを与えた場合にウィッチへの覚醒を確認出来たが法則性や共通点は不明である。

2.ウィッチの胸腹部の臓器を摘出したり四肢を失っても魔法の使用は可能であった。

3.頸部骨折や中枢神経の断絶によって全身不随になった場合、魔法の使用は不可能であった。

4.そして脳の一部を切除した場合に魔法の使用に成功する場合と失敗する場合があった、一方で切除した事により魔法の使用に失敗する同部位を二人のウィッチへ互いに移植しあう事で使用に成功する例もあった。

 

結果、我々はウィッチが使う魔法は中枢神経、末梢神経を含めた神経系を介する事で使用できる能力と判断した。

 

しかし前述した理想も成功も言ってしまえば全て失敗と言えるだろう。我々は数多の少女達を甚振り切り刻んできたが、その結果は芳しいものでは無かったのだ。

結局のところウィッチが持つであろう魔力の発生源は特定できなかった、例えば脳の辺縁系の一部と太陽神経叢が魔法を使用する際に必要だとは分かってもウィッチではない人間に移植しても魔法は使えない。そもそもウィッチもある年齢を超えると魔力が減衰していくメカニズムも不明のままである。

そして最終的な結論として、魔力の根源は別の何処かにあってウィッチとは神経系をアンテナにしてそれを引き出し魔力に変換する能力を持つ者であるという可能性に辿り着く。

例えば貴方がラジオに対して知識のない状態でラジオを聞いているとする、この時流れている音楽はラジオのアンテナを以て情報を受信して音楽を外部へ出力する事が出来る。

その上で音が出る箱を不思議に思ったあなたはラジオを解体する、アンテナを壊したり、スピーカーを壊したり、電源を落としてしまえば起きる現象は同じである。

『これで音が出なくなるという事は、やはり音楽はこの箱が流していた』と思うだろう。しかし実際には音楽は放送局が発信源である。ラジオをどれだけ解体しようともラジオ自体に音楽は保存されていないのだ。

つまりウィッチとは魔力を受信し、変換してそれを魔法として外部に出力できる人間の事だ。

それは人間の脳自体にいても同じことを言えるかもしれない、人間の自意識とされる部分は別の場所に格納されていて人間の体はあくまでセンサーの集合体であり命令を受け取るロボットという事である。

魂や心と似たような考えかもしれない。その形のないモノは何処にあるのか、そして何処にあろうとも身体というマシンが無くなってしまえば自意識が別の場所に保存されていたとしても傍から見れば誰にも違いは分からないだろう。

彼女達に魔力を保存する容器は存在しない、神経系を損傷させる事で魔法が使えなくなるがこれはアンテナとしての機能を失ったことによる魔力の受信不良と考えられる。

逆に言えばアンテナとしての能力とそれを操作する能力があれば魔法は誰でも使える筈なのだ、残念なのは現状ではそのメカニズムが不明のままであった事だ。

しかし神経系も言ってしまえば電気系統である、いずれ人類の技術によって魔力の源泉の扉を開け放つことが出来る事を祈るばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この研究成果を秘密裏に回収して読み進めた我々は恐るべき想像をした。

 

 

 

―――人型のジャムとは、造られた器に隔離された自意識のリンクを結びなおした者。

 

 

―――つまり本当の意味で死者の蘇生を行ったのではないのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
科学的根拠、主にその分野の信頼度を示す為に使われる




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一章 地球にそっくりな星 【再編集済み】
1話


地球の南極に突如として現れた超空間通路の先、もう一つの地球でも人類は呼吸の様に争いを繰り返しながら進化と成長を続ける事で地球上の各地で繫栄していった。

もう一つの地球をフェアリィ星と俺達の世界の人間は呼んでいる。

そしてフェアリィ星における1914年に突如として現れた謎の生命体【ジャム】はフェアリィ星人に牙を剥き、大地を貪り、踏み荒らし、汚染しながら彼等を迫害しその版図を大きく広げていった。

フェアリィ星に再び争いの歴史が刻まれ、安寧の時から叩き起こされたフェアリィ星人は武器を手に立ち上がる事になった。

 

一方で俺達の地球では南極にて21年前に突如として現れた異なる星を結ぶ超空間通路、そこから正体不明の異星体ジャムが現れた。

これに対して人類は地球防衛機構を結成して押し返し、超空間通路を越えた先に見たのは地球にそっくりな星であった。

フェアリィ星と俺達の世界の人間は呼んでいる、ウィッチと呼ばれる人間が箒に跨らずに飛ぶ姿を誰かが妖精と例えた事から通称として根付くことになった。

こちらではジャムと呼ぶ異星体をフェアリィ星ではネウロイと呼び、人類の生存をかけて戦争を続けていたらしい。

これを地球ではフェアリィ星を新たなフロンティアとして歓迎する者もいた、特にアメリカ等の大国は超空間通路を独占し、フェアリィ星に自国の軍を派遣しようとしたがここで一つの問題が発生した。

地球にはある条約が存在する、宇宙法と呼ばれる国際法の元となった宇宙天体条約である。

これは「月その他の天体を含む宇宙間の探査および利用における国家活動を律する基本原則に関する条約」であり、この条約がある限り地球はフェアリィ星にいかなる国であろうとも軍隊を派遣する事が出来なかった。

よって地球防衛機構は国連から独立し、後の超国家組織フェアリイ空軍、通称FAFの前身となる組織を立ち上げる事で解決を図った。

一方でフェアリィ星側としても大騒動が起きた、ただでさえネウロイに侵攻されている中で異星人達との二正面作戦など無理難題であった。

FAFとしても設立こそしたがフェアリィ星での立ち位置を決めかねていた、前述の通り新たなフロンティアとしての占領を諦めていない派閥も無いわけでは無かったからだ。

最終的に、FAFとはつまり対ジャム戦を展開する組織である事を念頭に置きそれを継続する為の方策が提案された。

【フェアリィ星におけるジャム戦争への過干渉を行わず、フェアリィ星人、ジャム、ともに相手の実態を探る事】

幸いにもフェアリィ星人とはコミニュケーションを取る事が可能であり、交渉を行う事が可能であった。

FAFはフェアリィ星人との同盟を結び地球防衛国際条約を制定することなる。

占領や侵攻を行わない事を示す為、空軍のみを設置する事を決定しFAFは正式にフェアリイ空軍として運営される事になった。

 

 

 

 

 

―――ロマーニャジョルナーレ紙 1945年2月某日発行

 

 

人類連合軍総司令部直属の統合戦闘航空団(JFW)の一つ、ロマーニャ及び周辺国の防衛を任務とする第504JFW「アルダーウィッチーズ」及びヴェネツィア――現実のイタリア北東部に相当する国――軍により【ネウロイの巣】より発生した大規模侵攻から一帯の住人をヴェネツェアより避難させることに成功し、504JFWは最後まで殿を務め撤退の援護にあたった。

ネウロイによる更なる脅威に対して人類連合軍総司令部は人類初となるガリアを占領していたネウロイの巣の消滅を成し遂げた実績をもつ第501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」を再結成しこれを派遣することが決定した。

 

人類連合軍総司令部はこの件に関して――――――

 

 

ここまで読み進めていた新聞をブッカー少佐は丁寧に折り畳みデスクの上に放り投げた。

今回ヴェネツィアにて行われたトラヤヌス作戦決行に際してFAFも参加して行われた合同会議において説明されたのは以下の通り。

 

・501JFW所属のウィッチによって人類とのコミニュケーションが行えると思わしきネウロイ個体を確認したが、不慮の事故により相手の意図を確認する事が出来ぬままに撃墜してしまった。

・しかしネウロイの目的や行動指針を探る事が出来る可能性が浮上した為、ヴェネツィア公国付近に存在するネウロイの巣にアプローチをかけコンタクトを行うトラヤヌス作戦を決行する。

・作戦は人類連合軍主導で行われ、504JFWがその任務に就き総勢千人近くから構成される504JFW所属の三つの運営群がバックアップする。

・FAFは地球防衛国際条約に則り観察及び偵察行動を許可するが、人類連合軍からの要請を受けない限り作戦への介入は禁ずるものとする。

 

これを受けてFAFはFAFロマーニャ基地所属の特殊戦五番隊『ブーメラン戦隊』の派遣を決定する。戦隊指揮官のブッカー少佐によって選出された三機が高度25000mにて巣を囲うように旋回しつつ継続的な情報の収集を行う。

特殊戦用のスペシャルチューンを施されたスーパーシルフを使用し、装備はTARPS(戦術航空偵察ポッド)に加えてAAMを四発を装備し、自機に撃墜の恐れがある場合か、ジャムが超空間通路を越えて地球を襲撃する可能性が認められた場合にのみ使用が許可される。

 

結果は一部新聞でも触れられているがベネツィアのジャムの巣が新たに表れたジャムの巣に破壊されるという前代未聞のイレギュラーが発生、ジャムの大規模な侵攻を受けてベネツィアが戦場となった。504JFW及び運用群が交戦するも運用群は中破、504JFW所属のウィッチ隊に至っては半壊し総員撤退という凄惨な結果に終わった。

特殊戦は救出活動や援護は一切行わずに観測に徹底し、FAFとしては特に酷い重傷を負った一部の負傷者やウィッチの受け入れのみを行った。

そしてFAF側としても無傷とはいかず、むしろフェアリィ星やFAFを含む各方面を巻き込んだ重大な事件が発生した。

トラヤヌス作戦にイレギュラーが発生した際にFAFロマーニャ基地からは特殊戦の偵察機を追加で三機出撃を命じた。

ここでFAF側としてのイレギュラーが発生した。戦闘が一度終息し特殊戦機に帰投を命じたところ偵察に当たっていた特殊戦三番機【雪風】、つまり深井零少尉からの通信が入った。

 

―――所属不明のFAF機とのコンタクト、IFF――敵味方識別装置――に応答なし、雪風はアンノウン機を敵性と判断しこれを撃墜する。

 

結果から言えば雪風及び深井少尉は帰って来た、スーパーシルフはエンジンの片方を失い全身を至近距離で撃墜した敵機の破片によって切り刻まれ、パイロットの深井少尉はその余波でヘルメットのバイザーが割れて目の付近と右腕を負傷した姿で、フライトオフィサの収まっていた席はパイロットシートごと空で後部キャノピーは無くなっていた。

ここで問題だったのはFAF機同士で戦闘が起きた事もそうだが、結局撃墜したFAF機の所属が不明だった事だ。

FAF所属の戦闘機は保有数が制限されており、新しく一機製造するにも何重にも審査を必要とするほど厳しい管理が行われている。

その上でSAF-V以外にロマーニャ周辺を飛行する為のフライトプランは提出されておらず、各地に存在するFAF基地からはロマーニャへ向かう機が離陸した記録は見つからず機数の数も作戦前と同じであった。

そしてロマーニャ海軍がこの戦闘を捕捉しており、後日人類連合軍からFAFへの事実確認の問い合わせが行われる。

FAFにとっても寝耳に水の問題であり速やかな回答は行われておらず、現在雪風のパイロット深井零少尉は特殊戦副指令、クーリィ准将と共に取り調べと軍法会議にかけられている。

正しい事や事実だからといってそれが通るとは限らないのが組織や政治というもので、クーリィ准将も付いているから安心とも言い切れない。

そして俺の仕事も山積みだ。新しく最前線のベネツィアに設立される501JFWロマーニャ基地、俺はFAFロマーニャ基地特殊戦五番隊の実質的な責任者である為打ち合わせに出席することとなった、上辺だけだとしても人類連合軍との連携は必要となる。

俺は今日の分の偵察用フライトプランを纏め終えるとシフトに割り当てられた特殊戦隊員にブリーフィングを行い、手慰みにコンピュータ用のライトペンを弄りながら報告が来るのを待った。

 

 

 

フェアリィ星の南極、超空間通路を囲うように設立されたFAFの本部と言うべき六つの基地がある。その内の一つに設けられた第七小会議室にて深井零少尉は軍予審判事からの審理を受けていた。

「深井零少尉、何故シルフを撃墜した」

「あれはジャムだ、IFFも不明、緊急回線も使用して通信も試したが応答は無かった」

「IFFや通信機が故障していた可能性がある」

「そうだとして、俺は相手から攻撃を受けている。こちらが攻撃しなければ俺が死ぬ、敵でなかったとしても味方ではないなら、それは敵だ」

「しかし明らかにこの機体はシルフィードだ、自分でも見たのだろう」

「お前…貴方は自分の眼を信じられるのですか、俺は雪風の警告を信じた、雪風が敵と言うならそれは敵だ」

「―――弁護人として要求します、その撃墜されたシルフィードの所属は何処かを調べていただきたい」

リディア・クーリィ准将、フェアリイ空軍特殊戦副指令、事実上各国に配置されている俺達特殊戦のトップに当たる人物だ。

この人物が予審とは言え俺の軍法会議に出席するという事が、既に組織内での政治が行われている証拠に他なかった。

「そうだ、俺が見た限り戦隊マークもパーソナルマークも無かった」

「航空宇宙防衛軍団・防衛偵察航空団の機体と思われる」

「戦略偵察用のシルフなら高度40000メートルを飛んでるよ、25000メートルなんて高度を飛ぶわけがない、当然攻撃もしてくるはずがない」

「成程、そちらの要求は受け入れる、今日はこれで閉廷、深井零少尉は一切の作戦行動から離れて判決を待つ事」

そう言って軍予審判事が退席した後、腕を組んで不満げな表情を浮かべたクーリィ准将に呼び止められた。

「言葉遣いがなっていないな、深井零中尉、私の顔をつぶす気か?」

「待ってくれ、聞き間違いか?―――俺が中尉だと?」

「勿論無罪になればの話だがな、何よりよく無事に戻って来た中尉」

特殊戦のスーパーシルフは、通常使用されるスーパーシルフとは中身が別物の特注機だ、それが戻ってくればさぞ嬉しいだろう。

「准将、判決が下るまで私はどの様に扱われるのしょうか、軟禁でもされるのですか?」

「いや、お前にはブッカー少佐の補助を命じる」

「しかし私は地上勤務はともかく作戦行動を外されたはずでは」

「ブッカー少佐には今対ジャム戦とは関係ない仕事を任せている。特殊戦の仕事は何だ?深井中尉」

「…対ジャム戦において戦闘情報の収集に努め、友軍に対して一切の援護は行わない。そうして得られた情報を例え友軍が犠牲になり、全滅しようとも確実に持ち帰る事」

「よろしい、何より貴様には雪風に乗れない事が一番堪えるだろう」

ぐうの音の出ないまま俺はFAFロマーニャ基地へ戻っていった。




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2話

「深井中尉、これよりブッカー少佐の補佐を務めます。ヘイ、ジャック」

「おかえり、零―――中尉だって?それは目出度いな」

帰って来た零は体のあちこちに負傷こそあれどいつも通りの態度だった、そして階級が昇格すると言う事はやはり何かしらの意図によって例の案件が十中八九処理されるだろうと言う事も伝わった。

そんな中、零がハンガーに着いてからある一点から注視し続ける物があった。

「見つけたか零、雪風が戻ってきた、しかも以前のスーパーシルフよりも格段にパワーアップしている」

「あれ程破損した状態からよく数日でオーバーホールしたな、まるで新品みたいだ」

「みたいというよりほぼ新品だよ、雪風のコア以外はほぼ全部交換だ、FAFは地球防衛国際条約で戦闘機の保有数が決まっていてもパーツの保有数は触れられていないからな」

「俺が撃墜した奴も同じように作られた機体かもしれないな」

「どうした随分と引きずるじゃないか」

「ジャムだけでも精一杯なのに、また厄介事が増えるのは御免被りたいというだけだ」

「ふむん、しかし俺達は俺達の仕事をすればいい―――おっと雪風には乗せられないぞ、銃殺刑になっちまう、既に壁の前に立たせられている気分だ」

先程まで雪風のメンテナンスを行っていたPDAを作業台に戻すと雪風に未練のある零を俺のオフィスまで引きずっていく。

現代の地球と比べてフェアリィ星は未だ技術的に幼い部分もある、そしてフェアリィ星自体にも原始的な発電によって電気は通っているが限りもあるし安定しない。

よって戦術コンピューターや戦闘機に給電する為に原子力を利用した小型の発電施設も各基地に設置されている、これを緊急事態において核兵器へ転用できるのではという声も上がっているが少なくとも使用されたという発表は無い。

そして電力は優先的に戦闘機に搭載された機械知性体や基地の戦術コンピュータに回され、休む事なく情報のやり取りが行われる。

「クーリィ准将から聞いているかどうか分からないがベネツィアに新しく配属される501JFW司令との顔合わせに行く、日時は明日の1000時、お前は俺の補佐として随行しろ、こき使ってやる」

「501JFW?例のスペシャル部隊か」

「そうだ、ジャムの前線基地を滅ぼした唯一の部隊だよ、504JFWが実質機能不全に落ちたからその補填だ」

「俺が道化として見世物になっている内にまた随分と動いたな、負傷した504のウィッチ隊は後方へ下げられたのか」

「いやここの基地の病院に搬送された、治療後はロマーニャ政府が置かれているローマ防衛の任務に異動する事になるだろう」

「人類連合軍もよく認めたな、意地でも自分の管轄で治療するかと思ったが」

「ナイチンゲールは偉大だよ、それにこの世界では四肢を切り落とすにも十分に麻酔を使えない」

「ゾっとするな、とは言え麻酔は嫌いだ、脳を鈍らせたくない」

「そう思うならもっと静かに帰って来い、対地爆撃モードで戻ってきた上に死に体で基地は大騒ぎだった」

「ジャムとの闘いに絶対はない」

「その通りだ」

突如現れ人に害をなすもその生態、目的、文化や言語すら不明の異星体【ジャム】或いは【ネウロイ】、その名前すら人類が勝手につけた通称に過ぎない。

その理解の一端となる筈だったトラヤヌス作戦ですら結局はハチの巣をつついただけに終わった、ジャム戦争はフェアリィ星人との不和を抱えたままこれからも続くだろう。

敵の名前すら統一されないのが良い証拠だ、現実から目を反らして気付かぬふりをしたまま、握手をする筈の手には常に銃を握って向かい合っている。

「ブッカー少佐、1658時であります―――外に出ないか?ジャック」

「よかろう、許可する」

俺は作りかけのブーメランをもって二人で連れ合い外に出た、FAFロマーニャ基地の外縁の一部は海に面しているのだから投げる方向を、飛んでいく軌跡の予想を間違えればそのまま海を落ちていく、一度だけ偶々基地に寄ったウィッチに拾ってもらったこともある。

余り土の露出してない草むらの上に胡坐をかき、大きなナイフを抜き1メートル近い木製のブーメランの翼の形を測るように覗き込みながら削り始めた。

「俺の生まれた田舎とは違った雰囲気だが空気が美味い、少なくともここは工業ガスに汚染されていない。星の位置が少し違うのが気になるな、乙女座が歪んでいた」

「あんたはそこまでロマンチストだったか?あんたらしくないな」

そろそろ飛ばしてみろと零が視線で急かしてくるものだから、一度削り屑を吹いて飛ばしてから大振りに振りかぶった。

ブーメランが空を飛ぶ、その後ろで今日の午後からの哨戒任務に当たっているスーパーシルフが轟音を響かせながら編隊飛行で発進していく。

ブーメランに視線を戻すと10メートルは先の地面に落ちていくところだった。

「落ちた、風のせいか?」

「どんな強風でも、下手な投げ方でも戻ってくるのがブーメランだ、一度完璧なブーメランを作った事がある」

ブーメランを拾い上げると俺はまた翼の形を整える作業に戻る、零は退屈だったのか草むらの上で仰向けになった。

「壊れたのか、一度も見たことが無い」

「壊したんだよ、とは言え俺が一人で作った訳じゃなかった、FAFに入ってから何度もコンピュータと相談して人工知能を搭載したブーメランを作った、最後は―――」

そこで言葉を切ってナイフで頬を示した、零がほんの少しだけ驚いた顔をした。

「その頬の疵はブーメランで出来たのか」

「3針縫ったよ、その時の特殊戦の医師が不器用ですさまじく痛かった、医師に文句を言っても人員を監督しているのは俺だからその不始末の責任も俺が取る事になった」

整え終わったブーメランを俺は再び投げた、しばらくは水平に飛行していたが急上昇、しなやかに舞うように飛んでいたブーメランは軽やかに草むらに落ちた。

「機械は空を舞うには硬すぎる」

「それは皮肉か、それとも忠告か」

「俺がどう思おうと、俺の好き嫌いなんてお前にはどうでもいいことだろう」

一度は体を起こした零だが興味を無くしたように再び仰向けに戻った、もう何度かブーメランを投げた後に自然と解散して零に例の事件のレポート書く様に言い含めておくことも忘れない。

ジャム戦争は続くだろう、それでも俺はFAFロマーニャ基地の特殊戦五番隊、ブーメラン戦士達に必ず帰って来いと送り出し続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

異世界に存在するというもう一つの地球、見知らぬ装備と未知の技術の世界からやって来た異世界人、私は彼等の正体はネウロイなのではないかと疑っている。

ネウロイは黒雲に包まれた巣の中から現れるが、彼等は超空間通路と呼ばれる白雲の柱の中から現れた、怪しさで言えば同等だろう。

特に空を舞うあの風の妖精の名を冠する忌々しい戦闘機、奴らには凶鳥――フッケバイン――の名前がふさわしい。

歴史的な遺跡を大胆にも501JFWベネツィア基地に改造したこの場所は未だ手付かずの場所も残っている、全員が集まる頃には形になっているだろうが全体的に薄暗い。

その中でもマシな部屋にて私はもう一つの地球から来た人型異星人――エイリアン――と対峙していた。

「FAFロマーニャ基地所属特殊戦五番隊、ブーメラン戦隊戦隊指揮官ジェイムズ・ブッカー少佐であります。こちらは特殊戦パイロットの深井零少尉」

「連合軍第501統合戦闘航空団司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です、態々ここまでご苦労様です」

些細な嫌味に一瞬ブッカー少佐の眉がピクリと動くがその程度だった、エイリアンにも矜持はあるらしい。

特殊戦と呼ばれる彼等の口癖を知っているだろうか、俺には関係ないね、だ。

事実501がガリア防衛の任に当たっていた際に私の仲間が負傷し命の危機にあった際にも一切の援護も無かった、ただ彼等は見ていただけだった。

そんな彼等と一体何の連携が必要なのかと言えば、実質的には殆ど関係は無いに等しい。

地球防衛国際条約という条約があり、これはFAFと私達人類連合軍との関係性を示すものだ、その一部を抜粋すると

 

・FAFはその先進たる知識、技術、施設、物資等の提供を行う事を対価に地球――彼等の呼称を使うならばフェアリィ星――の一部の土地や資源等をFAFに提供し、またある条件と制限の下において独自の武力を持ちこれを行使する事を認める。

・FAFは地球において侵攻と占領を行わない事を示す為に空軍としての組織と認め陸上及び海上の戦力を著しく制限する。

・FAFは対ネウロイ戦における偵察及び観察、戦闘行動において特権を持つものとする。

・上記における特権とは作戦行動中にのみ自己判断においての行動を許可するものである、ただし同時に対ネウロイ戦においては人類連合軍が主導である為その作戦や任務内容を順守する義務を負うものとする、これに著しく反する場合FAF及び人類連合軍合同の軍法会議において処罰するものとする。

・FAFはネウロイの巣及びネウロイが占領する警戒空域に独断での干渉を禁ずる。

・ネウロイの攻勢が各FAF基地及び超空間通路を防衛するFAF本部が定める防衛エリアを超えた際はこれをFAFの判断をもって撃墜を認める。

 

要約すればFAF本部に危機が及ばないかぎり、FAFは唯の傍観者に過ぎないのだ。

そんな彼等と一体何の連携が必要なのか―――それは彼等に背中を撃たれないようにする為だ。

条約が一体どのような信頼をもたらすというのか、そもそも軍というモノはそこまで甘くない、しかし人類連合軍においては幸いにも元ウィッチも上層部に比較的多い為にある程度融通は利くし理解もある。

だがそれが別の軍、しかも別世界の人間達となれば思想や主張が変わればどうなるのか、例えば私が休息中にビスケットを食べようとしただけで射殺するかもしれない、又はミルクに毒を入れる事だってするかもしれない。

だから私は彼等に一歩も譲るつもりはない、私の仲間に手を出せば私がお前達を殺す、人類連合軍直属の組織の長の権力は伊達ではない。

「この度ロマーニャ防衛の任を501JFWが受けました、貴方達SAF五番隊はこれまで通り私の指揮の下にネウロイ観察と偵察の任務に徹し活動してもらいます」

「SAFが指揮下に入るのは501JFWの作戦行動中のみです、それはご理解いただけるかと」

「当然です、その作戦行動中に身勝手な行動を起こされては困るという事です、私の命令は絶対と思ってください」

「了解しました、特殊戦の責務を果たしましょう、他に注意事項等はありますでしょうか」

「501JFW基地には基本的に立ち入りを禁じます、必要があれば基本的に私から許可を取るように」

「了解しました、徹底致しましょう」

その後は事務的な手続きを済ませて終了となった、二人のエイリアンはヘリコプターと呼ばれる特殊な航空機に乗って501JFWロマーニャ基地を後にした。

「―――死神め」

忌々しい思いを一言で吐き捨てる、絶対に忘れない、私の大切な人を見殺しにした―――特殊戦なんて皆滅んでしまえばいい。

1940年、カールスラント帝都陥落から始まる大小ビフレスト作戦、そしてダイナモ作戦と呼ばれる一大撤退作戦が発令された。

当時は宮藤式のストライカーユニットがまだ十分な数が揃っていなかった時期でもあり戦力は不足どころかネジの一本ですら回収を望まれていた。

最前線へ転属される直前の夜、私はJG3(カールスラント空軍第三戦闘航空団)の司令として、彼は一整備士として向かう事になった。

彼からの思いを拒み切れず、その癖彼の目の前でドレスを燃やして見せる事もした。

中途半端な思いを断ち切れない甘さがあの一日を迎えると知っていれば例え彼の手足を奪ってでもガリアから脱出させた筈なのだ。

しかしそうはならなかった、事実上のMIA、クルト・フラッハフェルトはパ・ド・カレーの基地で消息を絶った。

 

 




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3話

今回に至るまでに地理関係に齟齬があった為修正しました。
例えばに501JFWの基地がロマーニャにあると書きましたが本来であればベネツィアなので治しました。


「随分と嫌われたな、ジャック」

「一々そんな事を気にして特殊戦がやっていけるか」

そう言うと分かっていて口にしたのもなんとなく、自分がまるで迷子になったような気分だったからだ。

俺は今何をしている、ここにいるべきでない様に思う、俺の居場所はただ一つだけ―――。

「雪風が恋しいか、零」

「…そうだ、俺にはあんた以外には雪風しかないんだ、俺の処遇はまだ決まらないのか」

「安心しろ、向こうも証拠が見つからなくて焦っているらしい。あと数日もすれば無事中尉に昇格だ、昇格祝いもしないとな」

「階級なんてどうでもいい、どうせ扱いは変わらない」

「だが給料は増えるぞ、貰えるだけ貰っておけ、俺なんて別れた女の慰謝料を払うだけで酔っぱらう事も出来なかった」

ジャックの日本通はその女の影響だろうかと思いながらも、ふと脳裏に映るのはかつて愛して女の姿だった、とは言えども今では後ろ姿以外に思い出せる事も無かったのだが。

FAFではパイロットでなくても整備兵や清掃員、果ては男娼や女娼、電子機器の修理の為にフェアリィ星に来たサラリーマンであっても例外なく初めから少尉で任官される。

つまり例え将校クラスであろうと扱いは下士官と変わらず、むしろその階級に見合わない任務に就く事こともしばしばだった。

そもそもFAFロマーニャ基地の特殊戦五番隊を纏める戦隊指揮官のジャックが少佐の時点でおかしいのだ、だからなのかFAFの中では地上にいる内は階級に関係なく気楽にやろうという雰囲気があった。

しばらくの時間が過ぎると眼下にFAFロマーニャ基地が見えて来た、土地面積約200平方キロメートルの軍事施設とそれに付随する一般向けに開放された区画が作る最早小さい街と言っても過言でない基地だ。

504JFWのウィッチが入院している病院とは別の一般病棟や各種娯楽施設、地球から輸入している商品を扱う酒保代わりのマーケット、ここまではフェアリィ星の一般人にも開放している。

ただし風俗のような施設は常設されていない為、月に二回来る輸送戦団の輸送機に搭乗するようにこちらから申請を出さないといけない。

プライバシーは守られることになっているが一度、何処かの基地で一般隊員が自分の受け持つ戦闘機のコンピュータから申請を出した際に戦闘機の私的利用を問われて軍法会議にかけられたという話も聞いた。

ジャックと別れると軍病院に立ち寄り右腕の傷口が化膿していない事を確認すると医者は再度消毒しガーゼを当て清潔な包帯に巻きなおした、三角巾は一時的になら外しても良いと許可を得た。

どうせしばらくはデスクワークだ、音声入力だけで作業するのは只管面倒だったからそういった問題が解決した事に少し安堵した。

雪風と空を飛ぶ事が全ての俺にとってデスクワークは退屈だった、しかしもう一度雪風に乗れると思えばこそ憂鬱な日々を坦々とこなす事が出来た。

窓の向こうで空へと飛び去って行く特殊戦のスーパーシルフの姿にほんの少しだけ嫉妬を感じていた。

俺が負傷してFAFロマーニャ基地に戻ってから一週間後、クーリィ准将ことしわしわ婆さんから待ちに待った呼び出しを受けた。

「判決が下されるという時に浮かれるお前を羨ましく思うよ。准将いわく大丈夫だろうとの事だ、気楽に行ってこい」

「つまりあれはシルフじゃなかった、と」

「乙女じゃなければあばずれだ、ジャムだったんだろうさ」

それはそれで問題だろうと思った、かつてのジャムは地球の戦力だけで対応可能だったがジャムは日々進化し強くなっていく。

FAFにおいてスペシャルモデルである特殊戦のスーパーシルフでさえ対ジャム戦において絶対はない。

煮え切らない気持ちのままかつて俺が予審会を受けていた小会議室に赴くと―――俺は不起訴を言い渡された。

「違法である事を示す物的証拠が見つからなかった為である」

「何だと?元々俺は無実だ、撃墜地点をもう一度調べろ、あれがジャムが作ったシルフという証拠が残っている筈だ」

「これは決定事項である、不服なら控訴するか?受けて立ってもいいんだぞ」

「不服はありません」クーリィ准将が俺達の間に割って入る「少尉は現在不安定な部分があります」

「であれば、この書類に署名するかどうか自身の信念の下に決定せよ」

当然不服ではあったが、これ以上煩わしくなるのも面倒だったからサインした。

「結構、それではこれにて閉廷とする」

軍予審判事が退室した後、クーリィ准将は小会議室に備え付けられているコーヒーメーカーからコーヒーを紙コップに注ぎ適当な椅子に腰かけた。

「あれ程大人しくする様にと言った筈だがな、まったく」

「何故上層部は機体の捜索と検証を行わなかったのでしょうか、ジャムの様に砕け散ったわけでもないのに、一欠片でも残っていればそれを解析して」

「もう終わった事だ、おめでとう深井中尉、あなたは本日付けで中尉になる。退出して良し、これをもって通常の任務に戻る事を許可する、質問は」

「ありません」形だけの敬礼。

 

 

 

 

「上層部が何を考えているか俺にも分からんが、多分お前が言ったことが図星だったんだろうさ」

そう言ってジャックは俺に資料を見せた、俺の起こした例の件に関してFAFが人類連合軍に対しての公式回答が載せられていた。

「…私的に戦闘機を使用し脱柵した機体を俺が撃墜しただと?ふざけるな、だったらその失った機体やパイロットの情報が残ってるはずだろう。何処の機だ、誰だ」

「分からん、そこまで詳細な回答は俺でも見れなかった。しかしどうせ無駄だ、お前が中尉に昇格したのだって口封じみたいなものだろう。特殊戦には無用の長物と分かっていてもな」

俺は雪風に乗って飛んでいたいだけなのに、何故面倒事に巻き込まれねばならないのかと再燃しそうな怒りを既に過ぎた事だと自分を納得させ、溜息と共に鎮める。

「夜になったら俺の部屋に来い、約束通り昇格祝いをしよう」

敬礼してから退出、明日からの任務に向けて基地の戦術コンピュータに雪風の点検に入る旨を報告してからハンガーに向かった。

機体外見のチェックやオイル漏れの無いかの確認から始まり、雪風の機体に基地の発電施設と戦術コンピュータにつなげられている太いコードが確実に接続されている事確かめてからコックピットへ。

電子機器やセンサ、通信機類にキャノピーの開閉チェックなど100を超える検査項目を全て実行ししている間にも雪風は何かしらのタスクをこなし続けていた。

雪風はただの戦闘用補助OSではない、極めて高度な機械知性体を搭載し完全自律制御による高度な戦術判断や戦闘機動を可能とする。

恐らく今もこれまでに得られた対ジャム戦闘の情報を解析している最中だ、そしてその情報は基地の戦術コンピューターを介してFAF全体で共有される。

全ての点検を終えてコックピットの中で寛ぐ事が何よりも穏やかな時間を過ごす事が出来た。

フェアリィ星の主なジャムの巣の付近に必ず存在する各FAF基地に配属される特殊戦、任務は対ジャム戦において戦闘情報の収集に努め、友軍に対して一切の援護は行わない。そうして得られた情報を例え友軍が犠牲になり、全滅しようとも確実に持ち帰る事だ。俺の所属する特殊戦五番隊は五番目に結成したという意味でFAFロマーニャ基地に一から四番隊は存在しない。

その特性上情報を必ず持ち帰る為に自在にスーパーシルフを操る腕前と、友軍を見捨てる事が出来る「それがどうした」「俺には関係ない」と言える人間だけで構成される。

そこに配属された事については特に思う事はない、重要なのは俺は生き物から嫌われる事と俺にとって気兼ねなく過ごせる仲と言えるのはジャックを除けばコンピュータ、スーパーシルフ三番機に搭載された雪風だけという事だった。

後ろ髪を引かれる思いでPDAと接続しているコンソールからケーブルを引き抜くと移動式のステップを使って地面に降りた、俺のスケジュールや電子機器の操作等は電子的に記録され管理されているのだからただ寛ぐだけというのは許されなかった。

とは言え明日から復帰する自分に割り与えられた任務やノルマは特になかった為に夜までの時間を持て余してしまう、仕方なく俺は一度消耗品の補填をすべくマーケットに向かった。

地下のシェルターにあるとは言え替えの効かない戦術コンピューターを守る為に比較的ジャムの巣から離れた場所に設けられたFAFロマーニャ基地の周りにはまだ多くの現地住人が残っている。

FAFに関与する人間は全員軍属という扱いになる為FAFから給料をもらう事になるが、少なくとも基地内では現金のやり取りは行われない、まとめて給与から天引きという形になる。

書類に記入する為のボールペンや制服、コピー用紙はともかくコピー代までも自分持ちになるから余り金を使わない自分はともかく通常の隊員にとってはジャックの言う事も笑えないだろう。

FAF基地の一般区画はJFWやフェアリィ星人が勤める軍の周辺基地の買い出し先に含まれる程に外からの利用頻度が多い。

風俗と賭博場は無いが運動場やプール等のトレーニング施設も完備され、大浴場やマッサージ屋の様なリラクゼーション施設、バーや地球の各国の料理を味わえる各種レストランもある。

酒やたばこといった娯楽の品も現地よりも大分高価だが安定して手に入る上に治安も悪くない。

そもそも嫌われているのは特殊戦ぐらいなもので現地の軍人が似た境遇にあるFAF軍人と仲良くしている場面もしばしば見る。

そうしてマーケットを巡っていると一人の少女を見つけた、赤いズボン――ズボンか?――に赤地のシャツと黒い軍服、ロマーニャ軍人の中でも公室直属精鋭部隊に所属するエース集団、赤ズボン隊だろう。

「こんにちはFAF軍人さん、ちょっといいかしら」

「…何だ」

「隊員の見舞いに来たんだけど特別病棟の場所が分からなくて…何処に行けばいいかしら」

「あそこに総合受付がある、そこで一度見舞いに来た事を伝えろ、場所もそこで聞け」

「ありがとう、あなたお名前は?」

応える義理はなかったが目の前のウィッチは精鋭部隊の一人であり、少なくとも平隊員ではないだろうから面倒事を避ける為に名乗ってから立ち去るつもりでいた。

「深井零、中尉だ」

「フカイレイ、貴方もしかして特殊戦のパイロット?」

「…そうだ」

「そっか…私は504JFW隊長のドッリオ少佐よ、この前はありがとう」

俺は何故か目の前の女から感謝されていた、目の前の女がジャックと同じ少佐…それも504JFWの隊長という事も驚いたがこの世界ではよくある事だ、しかし何よりも俺の心を占めるのは困惑だった。

「俺には感謝される謂れはない」

「在るわよ、貴方特殊戦なのにウチの隊員守ってくれたでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

ヴェネツィアに存在するネウロイの巣に対してコンタクトを行うトラヤヌス作戦当日、504JFW戦闘隊長の竹井醇子大尉をエージェントとして行われた作戦は前代未聞のイレギュラーの発生により戦場は大混乱に陥っていた。

新たに表れたネウロイの巣がネウロイの巣を破壊するという異常事態、しかもその新たなネウロイの巣が以前の巣よりも巨大でありそこから放たれたネウロイのサイズと数、そしてその凶暴性は想像を絶する規模であった。

戦場は一瞬で拡大しベネツィア市だけではなくベネツィア公国全域に及ぶかと思われ、さらには明確に504JFW基地を狙うネウロイ集団もあったと特殊戦からの報告が上がった。

これを受けてベネツィア全市民の避難を速やかに決行、504JFW及びロマーニャ軍は殿として追撃の阻止に当たった。

FAFロマーニャ基地は人類連合軍の救援要請を受けて特例として戦術戦闘航空隊が全機スクランブル発進しロマーニャ方面へ向かうネウロイの駆除に当たった。

ここで問題だったのはトラヤヌス作戦に参加していたのは504JFWのみであり、前線に残っていたウィッチは竹井大尉を含めて五人だけだった。

他の隊員は退避するヴェネツィア市民を守る為、殿を務める為に残留している為救援は見込めない、燃料と弾薬が残り僅かとなった竹井大尉達は殿として残ると志願したアンジェラ・サラス・ララサーバル中尉を不服ながら前線に残したまま一度補給を受ける為に後方へ下がる。

しかしネウロイの破片が左肩に直撃して負傷していたアンジェラ中尉に簡易的な応急処置を施した状態での長時間の戦闘は見込めなかった。

ウィッチはその体に宿る魔力を用いて飛行し、実弾やネウロイのビームから身を守るシールドと呼ばれる魔法を使う事が出来る。

しかしそれは無敵ではないし魔力は有限だ、使い過ぎれば飛行出来なくなり海に墜落するかその前にネウロイのビームの餌食になる。

そして遂に魔力まで枯渇しかけた際にそれは起きた、数機の大型ネウロイが動きの鈍ったアンジェラ中尉に照準を合わせ薄紅色の太いビームの集中砲火を浴びせようとしていた。

基地から補給を受けて全速力で戻って来た竹井大尉もその光景を目にしていたが、距離が未だ離れており救出は間に合わなかった。

しかしビームが放たれることは無かった、今まさに放たんとばかりにビームの光が最大まで輝いた瞬間にそれまで囲んでいた大型ネウロイが突如として全て爆発し砕け散ったからだ。

離れた場所で見ていた竹井大尉は何が起こったか分かったが理解は出来なかった、それはFAFの戦闘機が使用する対空ミサイルという兵器。

 

―――特殊戦機が、アンジェラ中尉を守る為に武装を使用しネウロイを撃墜したのだった。

 

 

 

 

 

「後でお礼を言おうと思ってFAFに尋ねたらその後負傷したと聞いて驚いたわ、軍法会議にかけられたとも聞いて私達のせいかと思って連絡を取ろうと思ったけどFAF本部から門前払いされちゃって」

「あれはあんたには関係ない、それにもう一応解決した」

「それでもありがとう、おかげでアンジー…アンジェラ中尉の治療も順調なの、本人も感謝してたわ」

「そうか、次は気を付けるんだな」

そう確かに俺はネウロイを撃墜した、ただしそれは雪風がその時は名前を知らないアンジェラ中尉とやらの生存が対ジャム戦において有益であると指示があったから撃っただけに過ぎない。

「ねえ、もし良かったら一緒にお見舞いに来てくれないかしら、アンジェラ中尉も直接お礼が言いたいと思うし」

「すまないがこの後やる事がある」

勿論嘘だった、感謝される事はどうでもいいしこの馴れ馴れしい女から一秒でも早くおさらばしたい気持ちの方が強かった。

そもそも助けたくて助けたわけでもない、本来ならありえない事で次も同じようにする訳でもないのに関わるなんて無駄な事はしたくなかった。

「そっかぁ、残念。でも本当に感謝してる、大切な仲間が帰って来て本当に嬉しかったの」

「だったら早く顔でも見に行けばいい、俺はもう行かせて貰う」

「ごめんなさいね、引き留めて!機会があればまた会いましょう!」

そう言って去っていく少佐殿の姿を少しうんざりした気分で見送った後、そもそも買い物すら終えていない事に倦怠感を感じながら再び足を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 




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4話 終

ジャックの執務室は他の隊員と比べて広く作られている、戦隊指揮官の待遇として当然だが壁に飾られたブーメランと様々なジャンルの本が詰まった本棚以外にあまり私物は見当たらなかった。

「これは…よく用意したな、炊事兵に作らせたのか?」

「最近料理にハマっていてな、食材も新鮮なものを選んで俺が買い付けた、味見もしたぞ」

「新鮮なものだと?まさか外から直接買い付けて来たのか」

片づけられたテーブルの上には未だ湯気の上がるイタリア料理が、それも恐らく二人でも食い切れない程の数が並んでいた。

生鮮食品、特に肉や魚介類は鮮度を保ったままフェアリィ星に運ぶコストの問題から、生鮮食品は最低限食堂で出される分のみ冷凍状態で輸入しており、FAF基地のマーケットでは販売されていない。

であれば入手する為に基地の外に出て買う以外に手段はない、いつの間にか外出していたジャックは人に任せるのではなく自分で直接出向いたと言うが余程今日の祝いに手を掛けているようだ。

「偶には俺も気晴らしがしたくなる、こうして良い酒も手に入った事だしな」

そう言ってシャンパンのコルクを捻り開けようとした瞬間、中の膨張した圧力に押されコルクが飛び出し天井のライトカバーに穴を開けた。

「始末書ものだな、ジャック」

「始末書が怖くてこんな仕事が出来るか、まあいい、深井零中尉昇格を祝って―――乾杯」

「乾杯」

今更二人で騒ぐ様な仲でも無かったから一先ずジャックの手料理に舌鼓を打つことにした、テーブルの上の料理が残り半分を過ぎた所でなんとなくさっきの事を口に出した。

「そういえばジャック、夕方位に504JFWの隊長と会ったよ」

「……何?そりゃあまた何でお前が」

「マーケットを歩いていたら偶然会った、確か隊員の見舞いと言っていた」

「お前何か失礼を……いやお前には無理か、後々問題になる事を起こさなかっただろうな」

「むしろ例の生かしたウィッチの件で感謝されたよ、面倒だからすぐに分かれたが」

「報告ご苦労深井中尉、ドッリオ少佐殿には俺からも連絡を入れておく、返事の手紙を待っていたまえ」

これはジャックの故郷の方言で『お前はよくもまあそんな平気そうな顔をしやがって、後でどうなってもしらねえぞ悪ガキが』を意味するらしい。

とはいえこれでも特殊戦上がりの男だ、それで俺が反省する事はないのも分かっているだろう。

俺と関わる生き物は大体何故か不機嫌になるのだ、黙っていれば怒られ、何かを話そうとすれば考えている内に俺はいつの間にか置いてきぼりにされている。

結局俺という人間と我慢強くコミュニケーションを取れるのはコンピューターだけだったのだ。

その後は雪風のコックピット以外で久しぶりの穏やかな時間が流れた、美味い酒と美味い料理をつまみ代わりに交互に運びながらジャックがブーメランを整えているのを見つめていた。

互いに言葉を発する事もなくナイフがブーメランを削る音だけが部屋に響いていた、ただそれだけでこれまでの怒りや焦燥感が失せていくような感じがしていた。

 

―――明日、俺は再びフェアリィ星の空を飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

久しぶりのフライトスーツを身に着けると新たにフライトオフィサになった男と共にブリーフィングルームへ向かう。

偵察用のフライトプランの最終確認を行い、ミッションナンバーや通信チャンネル、天候や搭載武装の確認を終えるとハンガーにてB-3(特殊戦三番機)雪風の機体点検を行う。

Gスーツに着替えて雪風に乗り込みそこでもインテリア等のチェック、それが終わるとキャノピーを閉じエンジンを始動させ点火、雪風に搭載されたミサイルのセイフティピンが引き抜かれ安全装置が解除される。

【グッドラック】

ジャックがそれを伝えてコックピットへの通信用ジャックからケーブルを抜いたのを最後に機体から離れる、雪風のブレーキを離し滑走路へ向かう、発進位置に付くと発進許可の合図。

再びブレーキを離しスロットルをMAXアフターバーナーの位置へ、次の瞬間雪風は放たれたように加速し離陸する。

特殊戦はネウロイの巣の観察と対ジャム戦の記録の為にフェアリィ星の軍隊のスクランブルと同時に発進するのではなく、ネウロイが居なくても先に発進しベネツィア周辺を巡航速度で飛びながら偵察を行う。

FAFの早期警戒管制機も飛んでいるが地球防衛国際条約がある為通常の部隊はネウロイの巣に近づく行為を禁止している、よって特殊戦だけが直接ネウロイの観察と偵察を許される。

ただし特殊戦は敵機を発見しても自らの所属基地以外に報告する義務はない、FAFがフェアリィ星人ひいては人類連合軍の仕事を奪う事は侵略行為に当たるとされるからだ。

「敵機発見、ジャムだ。一時方向、低空を高速で飛行中」

フライトオフィサの報告を受けレーダーのモードを変更、雪風は自動的に目標を捕捉しデータをディスプレイに弾き出す、雪風がパルスドップラーレーダーで捕まえたボギーは四機、赤く表示されたアイコンからラインが伸び高度、速度、サイズ、加速度と言った情報が付け加えて表示される。

「TARPSを起動しろ、501のウィッチ隊は」

「ベネツィア基地からの警報は無し、501JFWの哨戒飛行隊は現在七時の方向、後方70キロメートルを飛行中、間もなくヘッドオン」

レシプロ戦闘機で構成された哨戒飛行隊は数分後、アウトレンジからネウロイのビームによって狙撃され一瞬で全滅した。

「ベネツィアの観測隊は何故気付かない、間もなくヴェネツィア基地の目視圏内に侵入するぞ」

「中尉、このジャムだがレーダーの反応がこれまでと違う、端的に言えば何かしらのステルス策が施されている」

「ジャムがステルスだと?前例はあったのか」

「俺は聞いた事がない、雪風のデータベースにも照合したが登録されていない」

「であれば新種か、高度を維持したまま情報収集行動を継続する、ロマーニャ基地にも報告を」

「ラジャー」

そのまま観察を続けているとマルチタスクで情報を処理していた雪風からディスプレイにメッセージが表示される。

<SEARCH END / There is related information on the new type of JAM>

データベースに新種のジャムを対象とした関連情報の発見、ディスプレイにオーバーレイ表示。

「DH.98モスキート、確かにあのジャムはWWⅡに存在したこの爆撃機の外見に酷似している」

「機体の殆どが木製の為レーダーに捕捉されにくい性質を持つ…バーガディッシュ少尉、ジャム機の構成物質を調べられるか」

「鹵獲しないと何とも言えないがどう見てもステルス性のある形状ではない、こちらのECCMが有効に作用していない事から通常用いられる金属製ではない事が推察される」

「ベネツィア基地に再度連絡、ウィッチに出来る限りコアを直接攻撃せず可能なら本体を鹵獲するように伝えろ」

「要請した、後は到着を待つだけだ」

数分後に501JFWのウィッチが五人のウィッチが出撃―――十分後にエンゲージ。

両足に装着したユニット以外を生身で晒したフェアリィ星人のウィッチ達、フェアリィ歴の20世紀、フェアリィ星人がジャムに立ち向かう為に手に入れた唯一の力、現代ウィッチの新たな魔法の箒がストライカーユニットだ。

双発のレシプロ戦闘機に似た特性に加えて脚部の向けた方向と出力の調整で柔軟に軌道を変える事が出来る特性を持ち、それを活かす為にウィッチの戦闘ドクトリンはドッグファイトに持ち込みながら包囲しジャムの急所であるコアの位置を特定して破壊するというものだ。

つまりコアをどれだけ早く見つけ破壊する事が出来るかが戦場においての全体の生死を分ける。

雪風を含む一部のスーパーシルフには極低温下でのみ作動する空間受動レーダー、凍った眼――フローズン・アイ――が搭載されているがこれはジャムのコアを捜索する事は出来ない。

よって魔眼と呼ばれる数キロ先を見通しジャムのコアすらレントゲンの様に探し出す稀少な能力を持つウィッチは特に重宝される。

その貴重な魔眼を持っているのが今回出撃している501JFW戦闘隊長の坂本美緒少佐である、先ほどの要請を汲んでくれたようで安堵した、正直ヴィルケ中佐に無視される可能性もあったからだ。

ジャム四機とウィッチ五人が戦闘を繰り広げる姿を高度2500メートルから観測し続ける、新型のジャム四機はミサイル装備型、外装の素材は違えどビーム兵器も搭載の模様。

ウィッチの戦闘はFAFの戦闘機とは違う、ウィッチ達にはジャムのビームすら防ぐ魔導シールドを扱う事が出来るからだ、それがウィッチの標準ドクトリンである一撃離脱戦法と合わせて生存率を大きく高めている。

見事な連携によりジャムがミサイルの照準を合わせる前にウィッチ達は散らばりながら攪乱と強襲を繰り返しジャムが一機、また一機と落ちていく。

残った最後の一機を慎重に包囲して攻撃、コアを破壊すればジャムの機体は爆散してしまう為、坂本少佐が日本刀を抜いて

ジャムを解体しようとしたその時それは起こった。

 

「強電磁シャワーを確認―――核爆発だ!!」

 

牽制の為にウィッチの放った銃弾が運悪く爆撃機型ジャムの搭載していたミサイルに直撃したらしく、最悪な事にそのジャムは核武装をしていた、極小規模とは言え無視できない高熱と衝撃、放射能がウィッチ達を襲う。

ウィッチは高高度かつ高速での戦闘の中で生身を晒して飛行できる事から分かる通り、彼女達は全身に魔力の膜を纏い過酷な環境をクリアしている、さらに全員が包囲の為に距離を開けていた事と反射的にシールドを張っていた事により速やかな死は免れた、例外は坂本少佐だけだった。

「至急ウィッチに破片の回収を指示した後に速やかに帰投するように指示、ベネツィア基地にFAFの消防隊を派遣して対汚染洗浄の準備をさせろ」

「…了解した、まさか核を搭載しているとはな、何処から持ってきた」

「原因究明は俺達の仕事じゃない、全周囲の警戒を怠るなよ」

無線から一方的に指示を投げたFOの声とウィッチの何か喚きたてる様な声とが聞こえて来るが俺は無視した、これが俺達の任務だからだ、ウィッチの生存は任務の概要に収められていない。

それよりもこの核爆発で被害状況は不明であるが軽微であってもベネツィアの海は汚染された、俺の昇格祝いで食べた料理が気兼ねなく食べられる最後の現地の食材となった。

今回の任務に参加したウィッチも恐らく汚染物質の洗浄を受けたのちに三週間は隔離室に閉じ込められるだろう。

ウィッチが基地に帰投を始めた事を確認すると、しばらく戦闘領域に変化がない事を確かめた後に針路を基地に向ける。

「B-3雪風、情報収集行動を終了、これより基地へ帰投する―――RTB」

 

 

 

 

 

 

 

「―――美緒!美緒!!」

「近づかないで!危険です!!」

501JFWベネツィア基地の滑走路上で五人は消防車の伸びたホースから乱暴に洗浄され、そのまま五人とも隔離用のコンテナに詰め込まれた。

私には彼女達がどういう状態に置かれているか分からないが、少ないともFAFの人間からすれば油断できない状態らしい。

しかもその内の一人、美緒は特に重症であると聞いて目の前が暗くなった。

魔力は歳若い女にのみ与えられる力だ、そしてそれは徐々に衰えていき二十歳を超える頃には戦闘に参加できないレベルまで低下する。

そして美緒は二十歳だ、彼女は既に濡れた紙の様なシールドしか使えないほどに魔力が弱り切っていた。

直前で反転し回避行動をとったようだがそれでも至近距離で爆発に巻き込まれたのだ、制服は焼き焦げ隙間から見える肌は酷く火傷の様な傷を負っていた。

私の大切な、家族同然の仲間が突然半分も負傷した姿を目の当たりした私は頭を抱えて膝を付く事しか出来なかった。

 

 

――――何故、何故、何故!!何故彼女達がこんな目に合わなければならない!

 

 

確かに戦争で犠牲は付き物だ、しかし何度経験しても慣れるモノではない。

それに『彼』を失った時に誓ったのだ、全てでなくとも、身の回りの人間だけでも守るのだと。

私が美緒を前線に送らなければ、そんな後悔ばかりが心を占めていた。

その時だ、私の中に闇が広がっていったのは。

 

 

――――何故私は美緒を前線に送ってしまったのか。

 

 

そう今回のプランを独断で決めたわけではない、理由があってそれを認めた上で私が許可を出したのだ。

 

 

その理由とは―――特殊戦機からの要請があったからだ。

 

 

死神がまた私から大切なモノを奪おうとする。特殊戦、凶事を引き起こす死神、高みの見物だけしかしない人格破綻者共。

心が冷えていくのが感じられた、ほんの少しだけ残った理性が、これが私の八つ当たりだと分かっていても――――。

 

 

 

 

 

 

            

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィルケ中佐、坂本少佐の外傷は治癒出来ました。

 

しかし、依然として放射能汚染と全身火傷の後遺症が残っており体を蝕み続けています。

 

状況を確認する限り全身を被曝しており、手術や投薬だけでは対応しきれない可能性があります。

 

幸いと言えるかどうか分かりませんが魔力の影響か病状の進行は微々たる速度で収まっています。

 

 

 

 

 

 

――――誠に申し訳ございませんが、前線への復帰は困難である事をご理解ください。

 

 

 

 




第一章 完

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二章 過速――ハイパー・スピード――【再編集済み】
5話


俺は再びFAF本部フェアリィ基地に召喚されていた、不名誉な話だが最近のイレギュラーに巻き込まれるスパンが周りと比較してもかなり短く、遂に情報軍団から半ば強制の事情聴取を受けさせられていた。

何を見て何を聞いたのか聞かれたら答えるだけ、俺は雪風の戦闘記録を見ろとしか言えなかった、少なくとも俺よりも確実だ。

「協力感謝するよ深井中尉、最近は随分愉快な事ばかり目撃しているようだな」

「不本意だし不愉快だ、どいつもこいつも自分勝手に俺を巻き込む、いい加減にしてほしい位だ」

俺の態度にも肩をすくめるだけの男、情報軍解析部司令のアンセル・ロンバート大佐は資料の束をデスクに置いた。

「君のおかげで無事にジャムのサンプルを回収する事が出来た、君達の予想通り例のジャムは炭化させた木材を材料に作られていた」

「それで何かが分かるのでしょうか」

「ジャムは元々占領した土地の鉱物等の資源を利用してジャム機に転用しているという説があったが、それがより真実味を帯びて来たという事だ」

「ロンバート大佐殿、退室の許可を頂けないでしょうか」

「不許可だ、落ち着き給えよ、先ほどの話はあくまでオマケに過ぎない、特殊戦はそれよりも重要な情報を持ち帰って来てくれた」

「それは何でしょう」

「彼らが資材等を現地調達するのであれば、ジャムが核兵器を使用したというなら彼等はそれを何処で手に入れたのだろうか」

微かに自分が抱いていた疑問がより大きな問題に直撃する時、俺はすぐに言葉を発する事が出来なかった。

「ジャムに与する裏切り者がいるとでも?」

「それは早計だよ、幸いにも彼らは流石に無から生み出す力がないようだ、まあ未だに輸送経路は不明なのだがね。ああそうだ、クーリィ准将が呼んでいたから顔を出していきなさい、退出してよし」

「失礼します」

俺は退室すると空調の効いた基地の廊下を歩き始めた、システム軍団が本拠地とする基地と特殊戦本部が所属する戦術戦闘航空団が詰めている基地は別にある為一度外に出てから陸路を使って移動する必要がある。

「ここまで本部と前線基地を行き来している特殊戦パイロットはお前位だな、気分はどうだ?」

「はい准将、非光栄であります」

「であればブッカー少佐が管理部で働ける人間を探していたぞ?お前の年齢もそろそろ限界が近づいているだろう、少しは考えてみてはどうだ?」

「俺はまだ飛べる、俺に数年後があるのならその時考えればいい」

分かって聞いているだけ性質の悪い人間だ、もしやここでも事情聴取をされると思ったのだが用件が違うらしい。

「お前はこのフェアリイ戦争をどのように考える」

「俺にはそんな事どうでもいい、ただ雪風と一緒に空を飛べれば」

「聞き方が悪かった、ではFAFはこの先フェアリイ星でどのように活動を継続していくか知っているか?」

「知った事か、俺には関係ない」

FAFが初めフェアリイ星に来た時は正規の従軍経験のある人間で構成された正統な軍隊だった。

しかし時が経つにつれて志願して来た人間以外では何かしらの犯罪歴を持っている島流しの人間だけになった、裁判を受けた重犯罪者やFAF送りに都合がいい将来的に収穫できそうな人材が半ば強制的に送られるのだ。

そもそも勘違いされる事もあるがFAFは正義の味方でもなければ植民地にする為の軍隊でもない、地球を守る為の軍隊ではあるがあくまで戦闘の為ではなく観察がメインの組織なのだ。

「なら覚えておきなさい、この先FAFが向かうのは現状維持かフェアリイ星を乗っ取るかのどちらかよ」

「フェアリイ星を乗っ取る?我々が第二のジャムとなってフェアリイ星に宣戦布告でもするのか」

「もっと静かに、そして狡猾に話しは進むでしょうね、フェアリィ星人やウィッチとやらがジャムと戦っている内にFAFがフェアリイ星にいくつの空中要塞と衛星を打ち上げたと思う?」

「そうだとして、そんな事が許されるのか」

「フェアリイ星に対してはありったけの爆薬を放り込めば一瞬でしょう、その気になれば戦闘機はいくらでも組めるし核だってある。この前深井中尉がFAF機を撃墜した件で向こうがあれ程騒いだのはFAFからの侵略を恐れての事よ、FAFは裏切り者を粛清したという有益な隣人だと示す為の回答を発表した」

俺が噛みつこうとしたのは見えざる獣の四肢の一本ですらなかったという事らしい。

正直に言ってうんざりした気分だった、俺はパイロットだ、俺の役職の領分を遥かに超えている。

「それに地球側が文句を言うとは思えないわね、大事なのはジャムの脅威を払う事、それさえ達成出来れば何も問題はない」

「特殊戦は、クーリィ准将はこれからどうされるのですか」

「これまで通りよ、あえて言うなら穏健派になるのかしらね。しかし急進派がいてこそこそと動いているのも事実、特にロンバート大佐には気を付けなさい」

クーリィ准将はデスクの引き出しの中から数枚のFAF軍人のプロフィール用紙を取り出した。

「俺にこの書類を見せるのが本題か?」

「そうだ中尉、彼女達の現在の所属は情報軍の情報収集団、そして――――彼女達はウィッチだ」

「何だと?フェアリイ星人がFAFに入隊したのか?」

「違う、彼女達の親はFAF軍人だったのだがフェアリイ星人との間に子をもうけた、地球に送る事も出来ずにFAFで過ごしていた際にウィッチとしての才を示したというのが彼女達の大まかなプロフィールだ」

「年齢は…10~16才、若すぎる」

「それでもシミュレーションフライト、実践飛行共に過程を修了しストライカーも各種扱う事が出来る。確かに()()()()、少なくとも数年ではこの計画は成り立たない」

「これもロンバート大佐が関わっているのか」

「そうだ、キナ臭い動きをしていたから探ったらロンバート大佐が直々に特殊戦に押し付けて来た、本人は何かのデモンストレーションとでも思っているのだろう」

「受け入れるのですか」

「特殊戦は何時でも人手不足だ、都合がいい事に彼女は特殊戦の求める要綱をクリアしているから今後は各基地の特殊戦に配属される事になる、何かと世話を焼いてやれ。中尉は退出して良し」

「失礼いたします」

少なくとも管理部よりパイロットの方が飛んで逃げるには有利だなと頭の片隅で考えながら退室、憂鬱な気分のままロマーニャ基地へ帰投した。

 

 




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6話

ジャムとはもう既に21年も戦争している、気づけばいつの間にかジャムが居て地球防衛軍もいた。

そして俺はジャムと無縁に育ち、裁判にかけられフェアリイ星でジャムと戦争する事になってもその意味を考えた事は無かった。

それはこうして雪風と空を飛んでいても同じだった、地球にそっくりな星ではあるが地球ではなかったし、何だかんだでジャムが現有戦力に対して突出しているわけでも無かったから緊張感も感じられない。

戦う意味を考えた事は一度も無かった。ジャムが居る、だから倒す、それ以外に何の理由が必要なのか。

例えジャムが地球を侵略し全てを焼き払おうとも答えは決まっている、俺には関係ない、だ。

深井零という男はFAFで最強の戦闘機を操る戦士だった、しかし彼の眼から通してみたジャム戦争は書類の文字を追いかける様な現実感のない光景でしかなかった。

しかしそれは現実逃避ではなく、ジャムがそれを考える暇を与えてくれなかった。

戦いを終えて帰ればデスクワークか雪風ジャムとはもう既に二十年以上も戦争している、俺が物心着いた頃にはいつの間にかジャムが居て地球防衛軍もいた。

そして俺はジャムと無縁に育ち、そこそこの罪状で裁判にかけられフェアリイ星でジャムと戦争する事になってもその意味を考えた事は無かった。

それはこうして雪風と空を飛んでいても同じだった、戦う意味を考えた事は一度も無かった。ジャムが居る、だから倒す、それ以外に何の理由が必要なのか。

地球にそっくりな星ではあるが地球ではなかったし、例えジャムが地球を侵略し全てを焼き払おうとも答えは決まっている、俺には関係ない、だ。

深井零という男はFAFで最強の戦闘機を操る戦士だった、しかし彼の眼から通してみたジャム戦争は書類の文字を追いかける様な現実感のない光景でしかなかった。

しかしそれは現実逃避ではなく、ジャムがそれを考える暇を与えてくれなかった。

戦いを終えて帰ればデスクワークか雪風の整備、或いはロマーニャ基地のバーで黒ビールを一杯飲む位だった、誰も話しかけないし俺も話さない。

いつもの同じ様にバーのカウンターで立ちながらグラスを傾けている時に隣に男が馴れ馴れしく声をかけた。

「ジャムとの闘いに人間等必要ない、機械のほうが優秀だ、そう思わないか?」彼は同意を求めた。「君は戦闘機乗りだろう、雰囲気で分かるよ」

「戦術空軍団、ロマーニャ基地戦術戦闘航空団、特殊戦第五飛行隊」

「これは驚いた、君はあの帰還率100%を誇るかのブーメラン戦隊の戦士、最強の戦闘機であるスーパーシルフを駆るシルフドライバー」

彼はシステム軍団、ノイエカールスラント――地球のアルゼンチンに相当する――共同技術開発センターのカール・グノー大佐と名乗った、彼は俺に握手を求めたが取り合わなかった。

「さすが特殊戦の人間だ、非社交的な人種だな」

グノー大佐は上げていた手を下げると店員に酒を注文した、店員がグラスを持ってくるまで二人の間に会話は無かった。

「君はこの戦争をどう考える」

こいつもかと零は内心頭を抱えた、そして届いた黒ビールで口内を湿らせると思ったままの言葉を口に出した。

「馬鹿馬鹿しいと思っている、どいつもこいつもジャムを殺すだけの戦争に何故皆余計な事を考えてるんだ」

「そうだな、流石に正気を疑うような光景だ、特に未成年の少女を飛ばして戦争させるなんてな」

「あんたは随分ウィッチに肩入れしてるんだな」

「そんなつもりは無いが私にも娘がいればこの様な気分にもなるのだろうなと思うよ」

「あんたはこの戦争を無人化して、このジャム戦争で何をしたいんだ」

「無駄な血が流れなければいいとは思ったことはあるかね。そもそも君は疑問に思わないのか、今の高性能な戦闘知性体さえいれば無人化は容易だ、人間が戦う必要なんてない」

超高性能なコンピュータである雪風と空を飛ぶことを全てと言っていい深井零としてその考えはナンセンスだったが、そう言われてもフェアリイ星から人間が居なくなる姿を想像できなかった。

「戦いには人間が必要だ」口に出してからその考えを吟味する。「多分、予算獲得の為だろう、戦場に人が居なくては遠くの人間がその脅威を測る事が出来ない、人が無言の死体になればその時地球の人間は恐怖を覚えて自分を守る為に金をつぎ込む」

「なら君は死ぬために飛んでいるようなものだ、少なくとも君はそれを求められている事になる、悲しい事とは思わないかね」

そうなのだろうか、しかしこれ以上考える事は自分の首を絞める事になるだろうから頭を振って思考を止めた。

「すまないな中尉、酒の味を悪くさせてしまったかもしれない。貴重な意見をありがとう、ここは奢らせてくれ」

そう言ってIDカードで二人分の支払いを済ませると彼は去っていった、俺もグラスを空にするとそのままバーを出て行った。

 

 

 

 

 

 

―――敵機多数接近中。

FAFロマーニャ基地の敵はベネツェアのネウロイだけではない、戦いを挑まれれば例えアフリカ方面から侵略するネウロイとでも戦わなければならなかった。

むしろ特殊戦を除くベネツェア方面に出撃を制限されるFAFロマーニャ基地の主な相手はこのアフリカ方面から襲来するネウロイだった。

早期警戒機からの警報を受けFAFロマーニャ基地戦術戦闘航空隊第502ndTFS(飛行隊)、FAFの制空戦闘機である単座の格闘機ファーン、二十四機がスクランブル発進。

早期管制機のタクティカルデータリンクに誘導され502ndTFSは一編隊六機の四編隊に分かれる、一編隊の内の三機がジャム一機に対してトリプルアタック、他三機は警戒と援護に当たる。

重要なのはこの三機で攻撃を仕掛ける所で、ジャムの二機目が来たときは攻撃を中止して防御に徹し味方の他三機が優位を取って攻撃する。

この戦闘を特殊戦三番機雪風と俺はディスプレイの上で消えていく敵と味方のシンボルが消滅していくのを眺めていた。

FAFの戦術思想においては勝利は二の次、まずは絶対に負けるなだった、常に正体不明のジャムに対して勝利を勝ち取る戦略と兵器を持たないFAFにとっては地球をジャムから守る事が任務であり限界だった。

上空からその光景を眺め続ける深井零もFAFは上手くやっているなと思った、502ndTFSの連中は負けない戦い方をしていた、例えそれでどのような被害を受けたとしても彼等は負けないのだ。

「深井中尉、ジャムの動きに意図を感じる」

後席に収まる新任のFO、バーガディッシュ少尉がディスプレイの長距離レーダーを確認しろと促す。

「捕まえた、ジャムの第二波だ、今502ndと戦っているのは囮だ。来るぞ、高速熱源、ジャムはアウトレンジからミサイルを発射したようだ、502ndに急速接近」

雪風は戦場に向かって増速した、雪風はミサイルの種類をTDB(戦術データバンク)を参照し『未知』であると回答を示す。

「TARPSを作動、味方機に回避しろと伝えろ、PAN、コードU」

「了解した、こちらB-3、502ndリーダー応答せよ、PAN、PAN、PAN。コードU、ユニフォーム、ユニフォーム」

ジャムが放った未知のミサイルは通常のAAMの三倍以上の速度で502ndに接近する。

502ndは警報を受けて編隊を組みなおし五機のファーンが速やかに中距離AAMを発射し、ジャムのミサイル迎撃を試みるその隙の残りの502nd機が緊急退避を開始する。

「間に合わない……」

呟いたのはどちらだったのか、迎撃に失敗したジャムの放ったミサイルが地面に命中すると同時に大規模な爆発を起こす。

時間にして数秒の出来事だった、その余波に巻き込まれた502nd機は全滅した。

「502ndの全滅を確認、あれは数キロトン規模の核爆発だぞ」

雪風のブザー音と共にディスプレイにIFF不明機との編隊飛行用データリンクが繋がる、一基のスーパーシルフがいつの間にか編隊を組むかのように並列で飛行する、やめろ雪風と呟く様に深井零は雪風に声をかける。

「ECMか?編隊飛行用データリンクを使った通信だ―――中尉、三時方向にアンノウンを確認、IFFは反応なし、中尉の報告にあったスーパーシルフか」

戦隊マークもパーソナルマークも無いスーパーシルフが飛んでいる、しかしキャノピーの中、そこに収まっている筈のパイロットの姿を認識する事が出来ない。

「あれは――――」

 

 

<IFF ENEMY>

「ジャムだ!!!」

 

 

深井零はマスターアームスイッチを押し込みB-3雪風はエンゲージ、敵のスーパーシルフを敵機として戦術コンピューターにインプット、戦術コンピューターはレーダーの周波数や出力を最適な設定にして目標を追跡する。

ジャム機はこちらのレーダー波を受けたのを感じたのか急降下、奴をここで逃がす訳にはいかない。

「中尉、深追いをするな、俺達はこの情報を持ちかえればいい」

「奴は…誘ってるんだ!」

深井零にとってこれ以上に無い挑発だった、スロットルをMAXアフターバーナーの位置へ、スーパーシルフの全力を以て二機は雲を突き抜けドッグファイトを開始する。

敵機からはこちらに攻撃する動きは見られなかった、しかし敵機の目的はこちらの撃墜では無かった。

「敵不明機からECM、こっちの情報を探ってるぞ」

「ECCMを全力で作動、D3ウイルス起動、サブストラクチャを解放しろ」

「ラジャー」

時間にして十分に満たない追跡の最中、こちらのレーダー照準波が遂にジャムを捉えた。

深井中尉はコントロールスティックのミサイルレリーズを押してミサイルの発射を戦術コンピューターに要求、戦術コンピューターはこれを承認し短距離AAMを発射。

AAMがジャム機を捉えんとばかりに襲い掛かろうとした瞬間ジャム機が()()()()()()()()()()()()、元々敵機が居た場所をミサイルがすり抜け目標を失なったミサイルをFOがマニュアルに乗っ取り自爆処理する。

「……消えた?」

「深井中尉、六時方向に高速熱源が二個接近。ジャムの大型巡行ミサイルだ、先ほどのミサイルだ、追いつかれる」

「雪風は旧式のファーンとは違う」

雪風が秒速1000メートルで飛ぶ中、ジャムの大型巡航ミサイルは秒速5000メートルで雪風に襲い掛かる。

深井中尉はTARポッドを非常投棄しVmaxスイッチをオン、Gリミッタも解除されスーパーシルフの双発フィーニクスエンジンが安全限界値を超えた出力を絞り出す。

オートマニューバ・スイッチをオン、これでこのスーパーシルフの機体制御は全て雪風の手に渡り、高速ミサイルから自機を守る為の最適な機動方法を高速で導き出す。

警告もなく雪風は突如として右へスライド、パイロット二人は身構える間もなく狭いコックピットの中を右から左へと大きく揺さぶられる。

ジャムのミサイルが雪風の側方をかすめたミサイルの爆発による衝撃波でスーパーシルフは再び大きく揺さぶられパイロット二人はブラックアウト、意識を手放した。

後続の大型巡航ミサイルが接近、パイロットが気絶していても雪風は思考を止めない。爆発の余波から機体を立て直すのに一秒、ミサイルが雪風に直撃するまで残り二秒、回避は望めない。

 

―――突如スーパーシルフはその場で独楽の様に回転し1()8()0()()()()()、雪風は敵ミサイルの撃ち落とす事を選択。

 

<RDY GUN>

 

雪風は独断で自動発砲、内蔵されたガトリングがおよそ1.4秒射撃、雪風に命中まで残り0.2秒、ミサイルに八十数発目が当たった瞬間に爆発。

爆発に大きく煽られた雪風は全身を大きく痛めつけられたが自動操縦で帰投コースを進む、高度を下げFAFロマーニャ基地へ帰っていく。

<MISSION CMPL / RTB>

結局FAFのその後の調査であの不明機やミサイルキャリアーのジャムは見つかる事はなかった。

 

 




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その他疑問などがあれば感想やメッセージにて受け付けております。

多分次は501JFW編です。


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7話

「これは一体どういう事でしょうか」

「不服かね?君の上司、アドルフィーネ・ガランド中将からの許可も頂いているのだが」

501JFWベネツィア基地、ミーナ中佐の執務室には一人のFAF軍人と白衣を纏ったウィッチがヴィルケ中佐の下を訪れていた。

男はノイエカールスラント共同技術開発センターのカール・グノー大佐。

そして少女は同じくノイエ・カールスラント技術省及び共同技術開発センター所属のウルスラ・ハルトマン中尉だ、ハルトマン中尉の妹でもある。

「501は現在五名が負傷しており504JFWから三名の援助を受けてなんとか運営している状態です、この上で新型ストライカーの評価試験を行うような余裕はありません」

501JFWは予想以上に大打撃を受けている、先ほども話があったように人員の不足、兵站の限界、そしてネウロイの強さ。

重症を負った坂本少佐を初め、宮藤軍曹、リネット曹長、クロステルマン中尉、ハルトマン中尉が現在もFAFロマーニャ基地にて治療中、経過は不明。

ベネツィア戦線において最前線である501JFWが非稼働状態になる事を避ける為に504JFWから赤ズボン隊の三人を徴用し何とか運用できている状態だ。

「ではガランド中将の命令を拒否しますか?私としてはオススメしません」

「後方に下がった504JFW本隊やアフリカでもいいでしょう、そもそも何故飛行試験を共同技術開発センターで行わないのです」

「もうやってますよ、そして歴戦のエースパイロットのデータがあれば完成により近づくのです」

「501JFWが使用したという実績が欲しいだけでしょう?予算取りの為に501JFWを巻き込まないで、ガランド中将には私から報告します」

「ミーナ中佐、あなたは現状を理解していますか?」

ミーナは机の下で拳を握りしめた、少なくとも前線に立っているのは自分達だ、言い方は悪いが後ろで引き籠っている人間に何が分かると言うのか。

「ミーナ中佐、最近FAFの戦闘機がかなりの頻度で損傷しているのを知っていますか?この星で一番強いと言える戦力ですらネウロイに絶対はないのです」

「この前もFAFロマーニャ基地で最強の特殊戦機が何度も撃墜されかけている、これがもし君達だったら任務の達成すら果たせなくなるだろう、どうか未来のウィッチ達を思って協力してくれないだろうか」

このカール・グノー大佐という男は軍人と言うよりもセールスマンを思わせた、こうして軍の上層部も丸め込まれたのだろう。

「FAFがどうなろうと私の知った事ではない、少なくともFAFにシールドは無いのだから生存率などたかが知れているでしょう」

壁面に映し出されているそれは真紅のストライカーであった。しかし現在主流のストライカーと比べて別の系譜から来る洗練された印象を与えられる。

中尉は私の態度に気にする素振りも無く話を続ける、「ユニット名はMe262V1。噴流型ストライカーユニット、通称ジェットストライカー。これがその試作品です、カタログスペックでも速度は950km/hを超えます」

「950キロ?それは…確かに破格の性能ね」

ストライカーユニットは地球でいう所のレシプロ戦闘機と似た性質を持っている、ただしフェアリイ星ではストライカーユニットを参考にして同じ名を冠したレシプロ戦闘機が作られるのだが。

単純に技術力の問題からストライカーユニットの速度は出せてもおおよそ700km/hが限界、固有魔法と呼ばれる個人の性質を特化した魔法、シャーロット・イェーガー大尉の『超加速』ですら音速に及ばない遠い世界だ。

「ジェットストライカーの利点は運動性能だけではありません。柔軟な機動こそ失われますが魔力の増幅量はレシプロの比ではなくシールドの強化による防御力の向上、膂力の向上により大型の武装を搭載する事も可能で火力の向上、あるいは多くの弾薬を搭載し継戦能力向上も見込めます」

「そしてジェット機のノウハウはFAFに一日の長がある、提供は惜しまないつもりだよ」

「ジェットの運用で魅力的なのは一撃離脱戦法が新兵に限らずウィッチ達の損耗を大きく減らす事が言えるからです、実際突出した才能がなくともロッテを組み一撃離脱で成果を出す事が出来るのはエディータ・ロスマン曹長が証明しています」

「これからはエースだけが戦場を支配するのではなく、より効果的な戦術がネウロイを殲滅する、501JFWの協力は世界に無駄な出血を強いなくても済むようになるのだ」

「お断りします……何度も言うように501JFWには余裕がありません、これ以上貴重な部下を失う訳にはいきません」

「成程、しかし勿論それ相応の支援もご用意してあります、501JFWの予算や兵站等の物資、人員の不足は聞いていますよ。ノイエカールスラント協同技術センターから食料や基地の備品、食料等の提供も行いましょう。これでも人類連合軍の上層部に掛け合ってなんとか手に入れた分です、これでもダメと言うなら…残念ながら私達は別の場所に向かわなくてはなりません」

今度は表情にも出た、奥歯を噛みしめ不似合いな政治を持ち出す二人を睨みつける。

確かにその通りだ、ベネツィアのネウロイの巣から現れるネウロイは他の地域と比べて強さも数も段違いで基地戦力の損耗が激しいのは事実だった。

ウィッチではない通常の哨戒機やそれに見合うパイロットの被害も決して少なくない、輸入軽路はネウロイに破壊され支援物資の搬入が滞りストライカーの整備もままならない、新たに設立された新504JFW基地とロマーニャ政府に援助を行わなければならなかった分在庫が底を尽きかけていた。

「分かりました、ここまで手を尽くしていただいたのであれば私としても異論はありません」

「ありがとうございます、ミーナ中佐!!それでは後日ストライカー等の物資等をご用意致しますのでよろしくお願いいたします」

一刻も早く二人を追い出したかったミーナ中佐が遂に折れた、資料を片付けて二人が執務室から出ていくと後には静寂だけが取り残されていた。

エースが多くいれば強いわけではない、そうであればカールスラントは失われなかった。

全ウィッチが常に全員出撃出来るわけではなく、夜間哨戒にも戦力を裂かなければならない為にシフトを組んで一回に付き三から五人しか派遣できない状態である、二面作戦は不可能で不意打ちには対応できない。

それでも打ち漏らした際にはFAFに救援要請をいれなければならない、強気で交渉したように見えて実の所落ち目の501JFWは実績というものを残さなければならないから受ける以外に選択肢は無かったのである。

もしメンバーの更迭や異動があれば本当の最前線に送り込まれる事もあるだろう、人の死が数字でのみ管理される地獄のような戦場に。

全ての歯車が狂ったような環境はミーナの精神を摩耗させた、誰も味方が居ない状態で彼女は一人で戦っていた。

心が冷えていくのが自分でも分かる、藻掻いても藁すら掴めない状況で一人で職務を果たす。間違っていない、それが責任だから。

仲間には恵まれた、信頼できる戦友も、そして管理された501JFWという恵まれた環境も。しかし彼女を支えてくれた彼はもういない、彼女の心を暖める事が出来る絶対の味方が彼女には欠けていた。

 

 

「助けてなんて……もう誰にも言えないのよ、ミーナ」

 

 

 

 

 

一週間後、ジェットストライカーの概要を記した書類一式と現物が501JFWに届くとブリーフィングルームにて試験飛行の説明が行われた。

「これがジェットストライカーかぁ、へー!いいなー!!」

「さすがカールスラントの技術力だ、コイツがあればネウロイなど容易く葬ってくれよう」

「ふーん、これがウルスラの新作ねぇ、誰が履くの?」

「それは勿論、私だ!!」

リベリオン合衆国――地球のアメリカに相当する――出身のシャーロット・E・イェーガー大尉が我先にと手を挙げる。

自他ともに認めるスピード狂、そして彼女はバイクレーサー畑の出身だ、入隊の切っ掛けもストライカーを以て更なる速度を求めての事だというのだから筋金入りだ。

「いーや、粗雑なリベリアンに渡すストライカーはない、カールスラントのストライカーはカールスラント軍人が使うべきだ」

世界四強に数えられるカールスラント出身のスーパーエース、ゲルトルート・バルクホルン大尉がこれに対抗した。

元々折り合いの悪い二人だったがここでも衝突した、しかしそれも分かっていた事だったから早急に互いの矛を納めさせることにした。

「ジェットストライカーはバルクホルン大尉に使用してもらいます」

「えぇー!!!そんなー!!」

「本当は未来予測の固有魔法が使えるエイラさんに頼みたかったのですが…」

「私はシールド張らないからナ!」

スオムス――地球ではフィンランドに相当する――出身の彼女は自慢げに胸を張った、彼女の固有魔法、未来予知の力で防御よりも回避に重点を置いている為に今回彼女の出番はないだろう。

「それに、イェーガー大尉の固有魔法は一般的なデータを取る為の試験飛行に向いていません、そしてバルクホルン大尉の固有魔法なら新武装の試験にも向いています」

ストライカーと共に運び込まれて来たのはMK108 2連装30mm機関砲、新型の長砲身50mmカノン砲。いずれもこれまでの中型ネウロイであれば一撃で中破以上を見込める分、精々重機関銃の携行が限界だったウィッチにとって一人では過積載になる武装だ。

「ちぇー……でも私にも使わせてくれよな!」

「ええ、その時はお願いするわ。イエーガー大尉はジェットストライカーの比較試験に参加してもらいます、貴女の全力を見せてちょうだい」

「へぇー、いいのかい中佐」

「構いません、事故の無い範囲であれば」

イエーガー大尉はかつて培ってきた知識で魔改造と言えるほど自らのストライカーをスピード一辺倒にチューニングしている事はミーナ中佐も黙認していた。

しかし今回に至ってサンプルとしてなら彼女の個性は有効な物になる、早くウルスラ中尉を満足させて元の勤務に戻りたい思いが彼女に許可を出させた。

「いつ試験は始めるんだ?」

「三日後の1400時に各種飛行試験を開始します、なお今回の技術試験も任務に含まれる為特殊戦が試験を監視します」

「えぇー覗き見ー?」

「いざと言う時は、特殊戦にネウロイを押し付けてしまえばいいだろ?」

「私達の仕事を忘れないで、ネウロイを倒すのはウィッチの使命です。説明は以上です、質問が無ければ解散」

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャムの放った核弾頭を搭載した対地ミサイルは502ndTFSごとロマーニャの補給拠点であったFAF基地を根こそぎ焼き尽くし、生存者は雪風のパイロット以外に居なかった。

雪風は戦闘後に自動でFAFロマーニャ基地まで帰投、TARポッドに内蔵されていたカメラやセンサ等は失ったが観測データは全て雪風の内部メモリに収められていた。

深井零中尉は無傷でこそ無かったが、であればこそ戦闘データの分析の場に立ち会わされた。

「信じられないな、遂にジャムにしてやられたわけね」

非常事態を受けてクーリィ准将は特殊戦のスーパーシルフに乗ってやって来た、フェアリィ星で一番速い乗り物だ、彼女をエスコートしたのは当然特殊戦の隊員である。

「このデータは貴重ですよ、このロマーニャ基地も危なかった。深井中尉、よくやった」

「やったのは雪風だ、俺は失神していた」

「お前と雪風だから出来た事だ、誇っていいぞ。しかしスーパーシルフがこの様な機動が出来るとは思わなかった、よく空中分解しなかったものだ、Vmaxまで使ってお前の身体は大丈夫なのか」

「生きてるよ、肋骨にヒビが入っただけだ。むしろ相方の方が重症だ、内臓破裂、脾臓が潰れた」

「お前は確か以前脾臓を摘出していたか」

「だからかもな、軽傷で済んだのは」

「フムン、准将、至急対抗手段を用意する必要があります」

「この情報をまとめなさい、戦術空軍緊急作戦参謀会議に提出する、会議は二時間後、以上」

「分かりました、准将」

クーリィ准将はブリーフィングルームを慌ただしく後にする、ブッカー少佐は敬礼、深井中尉は座ったまま見送る、クーリィ准将は後ろに目を付けていない。

「もうこれまでと同じ空中戦は出来ないな、戦法を見直す必要がある、ゆっくり飛んでいては撃墜される」

「旧式のファーンじゃ無理だ、ジャム戦争が始まってからのロートルだろ?アレ」

「FAFにも高速ミサイルはあるんだ、ただ弾頭が高熱になるのと熱雑音がな。ジャムはそれをどうにかして解決している、しかもそれが移動目標に対してホーミングするんだからな」

「アクティブホーミングじゃなさそうだ、ECMが効かなかった」

「その内分かるさ、少なくとも速度では劣るが精度は互角のミサイルの試射には成功している」

「それを積むのがファーンじゃ話にならないよ、アウトレンジでドカン」

「それがあるんだ、ファーン・ザ・セカンド、単座の高機動格闘戦闘機、テストフライトは既に済んでる」

「新型機か」

「そうだ、名前こそ継いでいるが別物だ、エンジン出力はシルフィードの六割程だが機体重量は六割以下、可動する前進翼とベントラルフィン、小さくて軽い高機動戦闘機。雪風が逆向きで飛んだのは奇跡だがファーンⅡは当然の様にやってのけるさ」

「そいつは何で空を飛ばない、欠陥でもあるのか?」

「ファーンⅡはまだ生まれたてだ、戦闘機動に対して翼を最適条件に合わせて動かす為のソフトがまだ出来上がってない。雪風の様な高性能のコンピューターはファーンⅡには収まらない、もっと安価で、省電力で、大容量のコンピューターが必要だ」

「だが飛んだんだろう?」

「飛べばいいわけじゃない、回避と攻撃も出来なければならないんだ。本来なら複座にしてエラーを少なくすればいいという案もあったんだが―――」

「無人化しろって言われたんだろう、システム軍団辺りにな」

「……嫌に勘が働くじゃないか。そうだ、戦闘コンピューター任せればいいとFAFは信じている、人間よりも情報処理速度の早いコンピューターを用いれば少なくとも消耗品であるパイロットが要らなくなるからな」しかし、とジャックは一言置いた。

「ファーンⅡは雪風の様な判断能力を要求されているんだ、逆に言えばファーンⅡに出来る事が雪風に出来ないわけがない、雪風の潜在能力は既に俺達の予想をはるかに超えている」

「あんたが開発したんじゃないのか」

「俺はあくまで纏めただけだ、中身も分からない必要なシステムをつぎ込んだ後、お前の戦術を学習し、対ジャム戦を経験して学習した雪風の中身はもう誰にも理解出来ないほど複雑になっている。雪風は将来お前を必要としなくなる、いや既に雪風は人間を必要としていない」

雪風から降りる時が近づいて来た、そう言外に語るジャックに対して語気が荒くなる、それは俺の逆鱗だった。

「雪風と一緒に、今までやって来た、他に何もない、雪風には俺が必要だ」

「それでもいい、だが覚悟をしておけ。雪風は娘としてもう成長したんだ、無理解の面倒な親父等なんて邪魔者になる」

「斬り捨てたいなら、そう言えよ」

「斬り捨てるだと?したか俺が!たったの一度でも!!」

 

 

「――――他に何も無いんだ!!!」

 

 

息を切らして俺は椅子を押し退けて立ち上がる、だからと言って何かをする訳では無かったが空気は重かった、ジャックは溜息一つ。

「俺がお前やブーメラン隊員を正体不明のジャムの前に送りだす気持ちが分かるか、人間なんて視界にも入ってないかもしれない、だとしたら人間の死は無意味だ」

「だから機械に全て任せてしまえとでも言うのか、人が死のうと、地球が滅ぼうとも―――俺には関係ない」

「……深井中尉、もう行っていい、精密検査を受けて来い」

「もう手当は受けた」

「診断書の提出を命ずる、退出して良し」

ジャックに敬礼して退出、そのままハンガーに移動して人の身よりも巨大な戦闘偵察機を見つめた。

俺はいつも雪風の事を考えてるのに、俺は雪風のことが分からない。

俺は確かにマシンが好きだ。しかしそれは俺自身がマシンになりたかったわけじゃないし、人間を見下していたわけでもなかった。

俺は人から嫌われる事は結構あったが望んで嫌われた事は無かった、そして俺が安心して心を開く事が出来たのがマシンだけであったという事だ。

だがフェアリィ星で出会った『俺が求めていたマシン』は雪風なのか?一言では語りきれない何かが俺と雪風を繋いでいる。―――繋いでいるのか?本当に?

俺と雪風は…一体何なんだ…?

 

「お前は俺を……裏切らないよな……?」

 

雪風の機体に手を当てるもひんやりとした体温を返すのみで、何も答えなかった。

 




皆さまの評価と感想のおかげで楽しくSSを書かせていただいております、特に感想はワクワクしながら読ませていただいております。
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8話

結局のところ、医務室にて精密検査を受けた深井零中尉は全治二週間の診断を受け、同期間の雪風の搭乗を禁じられた。

一方で戦術空軍作戦参謀会議では早急に戦線へファーンⅡを配備すべく戦技フライト試験を行う事が決定した。

会議に参加した発案者のジェイムズ・ブッカー少佐が責任者となり、彼が提案したアイデアはその場で認可された。

ファーンⅡのフライトに雪風を随伴させる事、その際に雪風は完全無人飛行でファーンⅡの光電子システムの挙動をモニタし必要があれば外部から遠隔で補助を行う。

雪風はこのフェアリイ星で優秀なパイロットの操縦や機動を学習し、最も危険な戦闘を経験し、ジャムの罠をかいくぐり、そして確実に帰還している。

今回のアイデアが上手くいけば戦技フライト中のファーンⅡをジャムから守る事も出来るし、また無人でも任務を遂行できる事が証明される。

ブッカー少佐は限られた期日の中、三日間ぶっ続けでソフトを組み続けながら戦技フライトプランを練り上げた。

それを眺めながら深井零中尉は不敵に笑った。

「無駄だよ、俺無しでは雪風は飛べない」

「やって見せるさ」

そうは言って見せたがあくまで雪風はパイロットの補助がメインの機械知性体であり、最高の性能を持つ雪風で不可能なのだからファーンⅡにだって不可能であり、システム軍団は認めないだろうが完全無人化というハードルは未だソフトハード共に高いものであると認めざるを得なかった。

結局戦技フライト試験においては戦術空軍団所属実験航空隊のテストパイロット、ヒュー・オドンネル大尉がファーンⅡに乗り込む事になる。

対して雪風は無人で自律飛行、それを電子戦闘管制機から遠隔でバックアップし有事の際は深井中尉からの指示を受けて雪風は動く。

「これならお前も飛べるぞ、とは言え管制機の遊覧飛行だがな、昼寝も出来る」

「俺は雪風をラジコンの様に飛ばす訳だ、結局ファーンⅡのコンピューターは完成したのか」

「高級な光回路だが、生まれたばかりで経験が足りない。何かあった時は雪風がファーンⅡのコンピューターとリンクして雪風の指揮下に置かれることになる」

「まどろっこしいな、乗るだけでもいい、雪風に乗せてくれ」

「駄目だ、今度は肋骨じゃすまないぞ。安心しろよ、今回飛ぶのは安全空域だ、お前は黙ってみているだけでいい、お前より上手く雪風は帰って来れるさ」

ブッカー少佐は親友の肩を叩く、深井中尉は胸の傷をさすりまるで失恋したかのように儚げに笑う。

しずく、雨だれ、ほんの少し―――ゼロ、ブッカー少佐は零の名前の意味を思い出す。

「お前……何でそこまで雪風の事を……」

「ジャック、俺にはあんた以外には……雪風しかないんだ、他には本当に何も…何もないんだ」

 

 

戦技フライト試験当日に初めて会ったオドンネル大尉は気さくで明るい男だった、いつもクールで排他的なブーメラン戦士を相手するブッカー少佐からすればその明るさがとても眩しかった。

とはいえブッカー少佐から見ればオドンネル大尉の姿は頼りなさげに思えた。当然だ、常に最前線へ仲間を送り出す少佐から見ればオドンネル大尉は戦いとは無縁のテストパイロットだ。

危険ではあるが特殊戦の戦いとは意味合いが違う、正体不明で理不尽なジャムとの闘いを経験していない人間とは意識が異なる。

そしてブーメラン戦士はその殆どが何かしらの犯罪歴や地球から追いやられてFAF軍人になっているが、オドンネル大尉は自らの意思で志願してフェアリィ星へやって来た。

地球と祖国を守る為にFAFの技術パイロットに自ら志願した、彼は祖国でも一級のパイロットだった。

つまり彼はまともな人間なのだ、重い傷を負った深井中尉やブッカー少佐の様な人間とは決定的に違う人間だった。

戦技フライト目前にしてオドンネル大尉は自分の秘書と話していた、秘書官が一人に人間に着くと言うのは本来将官クラスの待遇だった、ブッカー少佐にだって一人もいやしない。

表向きは航空電子機器に関する教育をオドンネル大尉が引き受けていて、彼が感じた異常などはシステム軍団の技師である彼女が専門の技師に伝えるという事になっていた。

しかし彼女、エイヴァ・エメリー中尉は有能な技師ではあるがそれ以外にもオドンネル大尉の雑務を引き受けていて実質彼の秘書とも言える立ち位置に居た。

彼女はオドンネル大尉を『大尉』としか呼ばなかったが、深井中尉がオドンネル大尉の呼び出しを頼まれ探しているとハンガーの陰で二人は甘い密会をしている所を見つけてしまった、中尉は名実共に女房役だった。

「ねぇヒュー、いつまでこんな事を繰り返すつもりなの?何故こんな飛行機に拘り続けるの?たかが機械じゃない」

「ジャムとやらと戦うには高性能の機体が必要なんだ」

「そういう意味じゃないの分かっている癖に、あなたはいつも誤魔化してばかり。ねぇ地球に帰りましょう、こんなのもううんざりだわ、あなたの帰りを待つことしかできないのはもう」

「逃げ帰るとでもいうのか?ジャムとの戦争は続いてるんだ、俺は―――」

「もう止めて、ヒュー、お願いだから」

「……そうだな、そろそろ任期も切れる頃だ。あと二か月、二か月したら地球に帰って結婚しよう、愛しているよエイヴァ」

そうして重なる唇、流石にこの空気に割って入る事を躊躇った深井中尉は足元の小石を蹴る事で自己主張をした。

「きみは?」

「特殊戦五番隊の深井中尉だ―――ブッカー少佐が待ってる、間もなく時間だ」

「成程、君がFAF最強の機体を操るエースパイロット。今日は君の相方に面倒をみて貰う事になっている、よろしく頼むよ」

用が済んだとばかりに零は引き返し、タキシングする無人の雪風を流し見て後ろ髪を引かれるような思いで管制機に乗り込み一番に発進。

戦技フライトの護衛機として特殊戦五番隊六番機"ミンクス"が次いで発進、そしてオドンネル大尉のファーンⅡのエンジンが始動する。

「エイヴァ、帰ったらプレゼントがある」

「プレゼント?」

「左薬指を磨いておけよ」

「ヒュー!本当なのね!?」

ファーンⅡが離陸開始、続いてオートマニューバ・スイッチの入った雪風が動き出す。

雪風のエンジン、スーパーフィーニクスエンジンが吠える様に急加速、凄まじい速度で垂直上昇加速を始めた。

「見ろよ零、あれが雪風の本当の姿だ、人の枷を外した姿だ」

ファーンⅡは雪風を伴って試験を開始、その性能を発揮せんとロマーニャ上空を二機が舞う。

深井中尉はその姿を管制機のモニターで眺めていた、結果から言えばファーンⅡはその要求されたジャムの高速ミサイルに対抗出来るその性能を遺憾なく発揮させた。

特に格闘戦においては雪風を追い詰める場面すらあったがこれは短距離ランナーと長距離ランナーの違いな様なものであって、スーパーシルフの存在が脅かされたわけでは無かった。

試験は終了、後は基地へ帰還という所で警報が鳴り響く。

「ミンクス、何があった」

「ジャムだ、管制機から見て七時方向から接近中、目標は恐らくここだ」

「ここは安全空域じゃなかったのか?」

「この星ではなんだって起こるさ、ミンクスは高度を維持して電子偵察任務を続けろ、ジャムの撃墜はファーンⅡがやる、聞こえているなオドンネル大尉」

「了解、俺が初めての男だ、乗りこなして見せますよ」

ジャムは四機、以前見かけたミサイルキャリアー型だ、501JFWのウィッチと相打ちになった奴。迎撃に動いたファーンⅡの存在に気が付くと二機のジャムの高出力ECMがファーンⅡに向けられる、高速ミサイルを六発発射。

「ジャムがこっちの動きを探ってるぞ、迎撃ミサイルを発射する」

ファーンⅡから四発の新型ミサイルを発射、管制機のディスプレイ上でミサイルを迎撃した事を確認、その前にファーンⅡは高機動回避に入る。

機首はネウロイに向けたままバレルロールで一発を回避、最後の一発は機関砲で撃ち落とした。

しかしジャムは新たに高速ミサイルを発射――――今度はファーンⅡと雪風の後方100キロメートル程で十二発のミサイルが多方向から高速で二機を襲う。

深井中尉はこれは避けられないな、と他人事のように思った、ミンクスは冷ややかに高高度から偵察任務を続けていた。

雪風を守る為に深井中尉は手元のリモートスティックを握る、しかし今回の任務で守るべきはファーンⅡだ、この状況でファーンⅡを守る為にはどうすればいいのか。

深井零の脳裏にオドンネル大尉とエイヴァ中尉の姿が思い浮かぶ、彼等の未来を守るには雪風を盾にするしか最早選択肢はないと思った。

自分でもおかしいと思う、自分には雪風しかないという思いに嘘偽りはない、雪風を盾にする?俺を置き去りにする雪風を恨んでいるとでも言うのか。

それでも深井中尉はオドンネル大尉を助ける為にリモートスティックを動かす――――エラー。

「おい、雪風……?」

雪風の挙動をモニタリングしているディスプレイにシステム言語で構成された思考プロセスが高速で流れ出す、雪風は独断でファーンⅡのコントロールを奪取。

「どうなってるんだ、止めろ雪風!!」

雪風はファーンⅡの残った四発のミサイルを全て発射、雪風を狙ったミサイルに対して優先的に誘導し撃墜に成功、残りの六発がファーンⅡを襲う。

「大尉逃げろ!雪風はファーンⅡを囮にするつもりだ!!」

深井中尉の酷く焦った声が管制機の中で響いた、特殊戦三番機、雪風に与えられた存在の根幹を成す至上命令は二つ、特殊戦の至上命令でもある「対ジャム戦の遂行」「味方を犠牲にしてでも必ず帰還せよ」だ。

雪風は己の存在意義を全うする為、深井中尉が雪風を犠牲にする命令をナンセンスなエラーとして処理する事で外部コントロールを無視した。

オドンネル大尉が緊急脱出用のレバーに手を伸ばす、しかしその手は突然襲い掛かる強烈なGが大尉をコックピットのシートに押し付けた事により引き離された。

雪風は自身の安全が確認できるとファーンⅡに急激な加速と回避機動を開始させる、ファーンⅡは二発のミサイルを間一髪で回避、後続のミサイルに搭載された近接信管が作動するが衝撃に対してファーンⅡは尾部を向けMAXアフターバーナーで脱出を試みる。

爆発の衝撃でブーメランの様に弾き飛ばされたファーンⅡは雪風の操作によって安定飛行を取り戻す、そのままファーンⅡは悠然とジャムに襲い掛かり機関砲で二機を撃墜、その隙に雪風は中距離AAMを以て二機のジャムを撃墜した。

<CAUTION LIGHT ALLCLEAR>―――全システム異常なし。

ディスプレイに雪風からのメッセージが表示されると同時に雪風は再加速、MAXアフターバーナー点火、放たれた矢のように戦線を離脱する。

「ジャック!今なら下ろせる!大尉のファーンを地面に下ろせ!」

「分かった…雪風は!?ミンクス、雪風は何処へ行った!!」

「こちらミンクス、B-3雪風は501JFW基地方面へと向かった」

「501JFWだと…?至急B-12、オニキスに繋げ!!」

「了解」

衛星回線を利用した緊急通信で"オニキス"に呼びかける、一秒がとても長く感じる中で約五秒後にようやく繋がる。

「こちらB-12、オニキス、非常事態か」

「ブッカーだ、自立制御状態の雪風が突如として暴走し501JFW方向へ向かった模様、そちらの状況を伝えよ」

「現在501JFWは対ジャム戦闘中、オニキスは任務内容を変更し対ジャム戦闘の電子偵察任務を継続している―――当空域に飛来する機体を確認、IFF照合、間違いない雪風がこっちに来たぞ、どうなっている」

 

 

 

 




最早ただの戦闘妖精雪風では…?(震え声)
もっとストライクウィッチーズ要素出せる様に頑張っていく所存でございますのでご容赦を…。

皆さまの評価と感想のおかげでお気に入り100件を超え、総合評価も300ptを達成しました!

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9話

ウィッチが魔法を用いたり、フェアリイ星の空を舞う事が出来るのはフェアリィ星の大気に『エーテル』と呼ばれる物質が満ちているからだ。

詳細は未だ不明ではあるがこのエーテルを利用して魔法を行使できるのはごく一部の例外を除いて女性のみ、それがウィッチと呼ばれる所以でもある。

ネウロイ戦争が始まった際にこのエーテルもとい魔力を纏わせた攻撃は質量に見合わない破壊力を発揮し、ネウロイの自己修復能力を阻害する事が分かると人類連合軍はウィッチを徴発しネウロイと戦わせることを選んだ。

しかし素人の少女に対ネウロイ戦での生存は見込めない、そんな中で魔力を研究していた研究所が一つの発明品を完成させた。

少女達が持つ魔力を増幅し、ストライカーに『攻撃』『シールド』『空中または陸上での高速機動』の魔法術式を標準搭載し、ウィッチの魔力操作を補助する事でウィッチの戦闘能力の向上と短期間での実戦投入を可能にした現代の魔法の箒、それがストライカーユニットである。

今回501JFW基地に運び込まれたジェットストライカーはまるで地球の航空機の歴史をなぞるかの様に生まれた新世代のストライカーだった。

ジェットストライカーに搭載された新型魔導エンジンによって使用者の魔力を通常のレシプロストライカー以上に増幅、さらに大気中のエーテルと増幅能された魔力を再度混合して魔法術式で圧縮し点火、これを継続的に繰り返す事で爆発的な推力を発生させる。

テストパイロットとして選ばれたバルクホルン大尉はジェットストライカーを装着すると己から発せられる絶対的な魔力量の違いに、そしてMK108 2連装30mm機関砲を二丁、背にBK-5 50mmカノン砲を所持しているにも拘わらず十分に保持が出来ている事に驚愕した。

あらかじめ話には聞いていたが、魔導エンジンをアイドリングさせただけでその性能が引き出される事に技術の進歩を大いに感じ取った。

「これは…すごいぞ」

静かに魔導ジェットエンジンの出力を上げていく、ストライカーを保持するSSPS(ストライカー発進促進システム)の外部補助を受け離陸に必要な出力と推力を外部から確保する。

「バルクホルン大尉、発進する、滑走路を開けろ!」

SSPSからパージされたバルクホルン大尉とジェットストライカーが離陸を開始、前を見据えながら脳裏に貯めた力を解き放ち地面を蹴り出すようなイメージをそのまま受信したジェットエンジンの出力が離陸に必要な出力まで上昇していく。

ジェットストライカーのエンジンの回転数が徐々に上昇し高音を発し始める、混合エーテルの圧縮が臨界に達し開放する。

それはまさに爆発ともいえる衝撃を放ちながらバルクホルン大尉は滑走路を十秒足らずで駆け抜け離陸、空に吸い込まれていくように上昇を開始。

「バルクホルン!離陸に成功した!これより試験を開始する!!」

武装を携行せず上昇試験を開始、先発していたイェーガー大尉は上昇限界の12000メートルで待機、ジェットストライカーを利用したバルクホルンは高度20000メートルまで上昇に成功。

次いで武装を全積載した状態での飛行テスト、試作品故か立ち上がりは遅いもののカタログスペック通り950m/hを維持する事に成功、速度が乗った状態では不安な挙動を感じられない。

そのまま501JFW基地周辺に浮かべている粗砕気球を目標に射撃テスト、射撃体勢に変えてもジェットストライカーの機動は安定しMK108、BK-5ともに優秀な射撃精度を以て命中。

「凄いぞ!まるで天使に後押しされているみたいだ!!」

そのまま飛行を継続し、各種マニューバの実施飛行に移ろうとバルクホルンがジェットストライカーの魔導式にアクセスした瞬間、彼女の記憶はそこで途切れた。

「バルクホルン!どこまで行くつもりだ!」

「ミーナ中佐、バルクホルン大尉からの応答がありません」

「オイ!バルクホルン大尉が落ちるゾ!!!」

数秒後、コントロールと推力をを失ったバルクホルン大尉は海面に向かって垂直落下し着水、―――巨大な水柱が立ち上った。

 

 

数日後、ミーナ中佐の執務室では普段聞けないような鋭利と言える程の怒号が響いていた。

「どういう事なの!」

「ジェットストライカーにこれまで見つからなかった欠陥があったようです、やはりここでの試験は正解でした」

そう言ってウルスラ中尉は淡白に告げた、バルクホルン大尉は墜落後に501JFWの医療室に緊急搬送、診断結果は急激に魔力を消費した事による魔力欠乏症だった。

「あなた…知っていてやったわね」

「まさか、先日もお伝えした通り私どもの試験ではこの様な欠陥は見当たりませんでした」

「いけしゃあしゃあと……!!」

「止めろ、ミーナ」

「トゥルーデ!」

「おやバルクホルン大尉、どうやら体調は良好の様子、しっかりと休憩をとられたようですね」

確かにバルクホルン大尉は着水直前でジェットストライカーの安全装置が作動、自動的にシールドを展開し海面に叩きつけられる衝撃を緩和したことで重篤な外傷を負う事は避けられた。

さすがのバルクホルン大尉も僅かに眉間に皺を寄せるが、あえて突き放す様な態度はとらない構えを示す、それは既にミーナ中佐がしているのだからこちらが冷静でいなければならない。

「試験の最中にイレギュラーが見つかるのは当然だ、それを無くすために試験があるんだからな」

「ご理解感謝します、至急調整致しますので後ほど再度ご協力をお願いいたします」

「バルクホルン大尉、貴女は自室待機です、これ以上試験の参加は認めません!」

「大丈夫だミーナ、故郷を解放する為ならこの身は惜しくない」

「ゲルトルート・バルクホルン大尉!!!」

「大体試験が終わるまで解放されないだろう、他に誰がジェットを履くというんだ、もう一人寝込ませるような余裕はウチにはないぞ」

「504のウィッチに…」

「落ち着けミーナ、他所の隊員を傷物で返すつもりか?」

「あなたが傷ついてもいい理由にはならないのよ!」

言い合いは続く、ウルスラ中尉は興味なさげにレポート書類をめくっている。

「501JFW司令として命じます、ルクホルン大尉は自室にて謹慎、ジェットストライカー試験は凍結します!!」

「ミーナ中佐―――」

「技術屋風情が軽々しく部隊運営に口を出さないで」

女公爵とも呼ばれる程に凛とした、殺意すら籠もった視線に身じろぎもせずにウルスラ中尉は肩をすくめた。

「失礼いたしました、たしかにこの情報だけでも上層部は納得するでしょう」

「ならば早く基地から出て行きなさい、二度と失敗作を持ち込まないで」

「了解しましたミーナ中佐、それではこれより撤収の準備を―――」

 

 

――――警報が鳴り響く、ネウロイ出現の合図だ。

 

 

「北方第三ブロックにて直接敵影をレーダーで捕らえました、推定高度3500メートル、敵ネウロイはいずれも低空飛行で警戒区域の監視をすり抜けて侵入した模様」

「敵は中型ネウロイ四機、哨戒飛行隊第一班がスクランブル発進済みです」

敵を示す赤い駒が地図に乗る、それに向かい合う様に配置された青の駒を五つ。

「哨戒機がネウロイを確認…レーダーで確認された通り数は四機」

ネウロイは量産されるタイプを除いて基本的に同じ形状はあまり見られない、それはつまり実際に戦ってみなければ敵の性能は分からないと言う事だ。

哨戒機は先行して敵影と状況を確認した後に即反転、情報を後続のウィッチに引き継ぎ即座に帰還する。

「哨戒機が全機応答不能、敵ネウロイの攻撃を受けた模様」

彼等の青い駒は地図から取り除かれ駒置きに戻される、彼等は海に漂うのだろう、当然救助隊は出すが全員の生還は当然望めない。

人類連合軍にとってのエースはウィッチだけではない、歴戦の兵という軍人も確かに存在した。

ウィッチの援護を初めから望めない哨戒飛行隊には人類連合軍の中でも特にエースを集めていた、緊急時には情報が何よりも必要になるのだから当然だった。

当然対ネウロイ戦の経験も積んだエース達が敵ネウロイとの視認距離に入っただけで撃墜された、それも全機。

特殊戦は既に自分達で触れることすら出来ない高度から眺めているだろう、その暴力的なまでの力を大事に抱えたまま。

「ウィッチがネウロイを発見、エンゲージ」

「敵ネウロイが高速で飛来する武装を使用、FAFの資料にあったミサイルらしき物の発射を確認した模様」

「エイラ中尉より報告、クレスピ曹長、マッツェイ少尉が墜落、敵ネウロイの装甲が厚く撃破困難、至急増援を送られたし」

「私とサーニャさんがこれから向かいます、ウルスラ中尉、あなたは飛べるの?」

「ジェットストライカーさえ使わせていただければ飛べます、協力させてもらいますねミーナ中佐」

『いいや、ジェットストライカーは私が使う』

無線を通して聞こえた声は紛れもなく謹慎を命じたはずのバルクホルン大尉だった。

「滑走路にバルクホルン大尉がいます!バルクホルン大尉が離陸!」

「バルクホルン大尉!あなたは謹慎中でしょう!?」

『すまんなミーナ、無線は聞かせてもらった。今更二人が参加しても焼け石に水だ、私なら新兵器も十分に扱える、飛ばせてくれ』

「―――五分だけ認めます、それまでに帰って来なさい!!」

『それだけあれば十分だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

「この野郎!!!」

こちらの命を奪わんとするジャムの照準に捉えられぬ様に固有魔法を間欠的に用いながら立ち回るイェーガー大尉、しかしアウトレンジから飛来する高速かつ追尾するミサイルを無視する事は出来ない。

504JFWから来たクレスピ曹長、マッツェイ少尉はこれまでのヴェネツィアネウロイとの経験不足か序盤でリタイア。

現状ルッキーニ少尉とイェーガー大尉が歴戦のコンビネーションでヘイトを集め、未来予測の固有魔法を持つユーティライネン少尉がミサイルを撃ち落とすに留まっていた。

戦闘が開始して早五分経つ頃には常に全開の魔法力を要求されつつも回避運動を続ける三名の集中力に限界が近づいていた。

しかしそれに値するだけの価値はあった、突如として爆散するネウロイ、ジェットストライカーを履いたバルクホルン大尉が増援として参戦する。

「待たせたな!リベリアン!!」

「イカしてるぜバルクホルン!よっしゃあ!反撃だぁ!!!」

「「了解!!」」

歳若くとも激戦を超えたウィッチ達、そしてこれまで育んで来たチームの結束がここで輝いた。

逃走を始めるネウロイをそれぞれが足止にかかる。撃墜は考えなくていい、三人はそれぞれの持ち味を活かしてネウロイの退路を封鎖する。

再びバルクホルン大尉の持つ長砲身50mmカノン砲、BK-5が放つ一撃がロングレンジからネウロイを貫通して粉砕し二機同時撃破。

一機はバルクホルン大尉の狙撃を免れるがカノン砲の追撃を避け速度を落としたネウロイを他三人が集中攻撃をかけ撃墜、敵ネウロイ残り一機。

バルクホルン大尉は弾切れになったBK-5の砲身を掴む、バルクホルン大尉は固有魔法『筋力強化』を全力で発動しBK-5の剛性を高めながら大きく振りかぶる、ジェットストライカーの最大加速。

「私の仲間を…失わせるかーーーー!!!!」

バルクホルン大尉はBK-5をフルスイング、中型ネウロイは強烈な打撃を受けると中程から折れ曲がり、その装甲の歪みとひび割れはネウロイコアまで達してそれが砕け散ると共に最後の一機は爆散し撃墜された。

「すっごーい!バルクホルン!!」

「やったなバルクホルン!……バルクホルン?」

しかし幸運の女神がほほ笑んだのはここまでだった、全力かつ短時間における魔力を消費した結果は魔力枯渇によるブラックアウト、不幸にも安全装置が作動せず加速は止まらない。

このままジェットストライカーに魔力が吸い尽くされれば魔力の補助すらも失い安全装置が作動しない今、現在の速度で海面に墜落すればコンクリートの上に落ちるのと同じ結果を辿る事になる。

この状況に気付いたイェーガー大尉が全速力で追跡を開始するも速度の絶対差を覆す事が出来ずに距離を離される。

一秒、また一秒と近付くタイムリミット、しかし一歩及ばない、不幸にも安全装置が働かない状態はリミッターすら作動していなかった。

イェーガー大尉の胸中に渦巻く嘆き、そして溢れそうな程の悲哀――――!!!

 

 

「誰か……誰か!バルクホルンを助けてくれ!」

 

 

 

――――その時、フェアリィ星に一陣の風が吹いた。

特殊戦五番隊、B-3雪風がイェーガー大尉のすぐ隣でTARポッドを展開したまま慣性飛行を行う。

突如として現れた雪風にイェーガー大尉は一瞬警戒するも、戦闘機の持つその凄まじい程の能力を501JFWの中で誰よりも理解しているのはイェーガー大尉だった。

「お前…連れて行ってくれるのか?」

雪風は当然無言、イェーガー大尉はTARポッドにしがみ付くと雪風は加速を開始、絶対に手放さないように全力で力を込める。

イェーガー大尉が願ってやまなかった音速の世界、その光景を記憶する間もなく目下にバルクホルン大尉の姿を捉えた。

大尉は再び置き去りにされぬよう、慎重にバルクホルン大尉の体を抱きしめ捉えた、ジェットストライカーの緊急停止用のレバーを大きく引く。

魔力供給の断たれたジェットストライカーはバルクホルン大尉をイジェクト、推進力を失った呪われしジェットストライカーは重力に引かれて海へ落ちていく。

イェーガー大尉は減速しホバリング、バルクホルン大尉の生命反応を確認すると胸元に掻き抱いた。

再び強い風が吹く、雪風はその場に留まることなく引き返していく、数秒もする内に飛行機雲を空に遺して、もうその姿を捉える事は出来なくなった。

イェーガー大尉は妖精の肢体に触れた己の手を見るが何も残っていなかった。風の妖精、その名を冠する戦闘機は戯れの様に表れ、気紛れにその姿を消してしまった。

 




もう一話だけ続きます。

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10話 終

物言わぬオドンネル大尉を乗せたファーンⅡは管制機からの誘導を受けて見事な着陸を見せた、それを見届けた管制機も次いで着陸。

FAFロマーニャ基地、その滑走路には消防隊と救急隊がスタンバイ、ファーンⅡのエンジンが外部からの操作で停止された事を確認すると外部開閉ハンドルを回してキャノピーを開く。

「どいて!ヒュー!」

オドンネル大尉の秘書エイヴァ中尉が救急隊員を押しのけ、コックピットに力なく収まるオドンネル大尉を揺らしながら名前を呼び続ける。

「ヒュー!起きて!しっかりして―――ひっ…!!」

オドンネル大尉のヘルメットのマスクを外すとマスクと口から血が溢れるように流れ出る、呼吸は既に無し、支えを失ったかのように大尉の頭がぐらりと不自然に傾く。

「ヒュー…一言でいいの…大丈夫だって、聞かせて、ねぇ……」

その光景を遠くから眺めるだけの二人、ブッカー少佐は管制機の機体にもたれ掛かり懺悔のようにつぶやいた。

「俺が、間違っていた。無人機を、雪風を制御できるなんて考えは全部」

「ジャック、あんたの責任じゃない、誰が悪いわけでもない」

気落ちする親友にかける慰めの言葉は誰にとっても慰めにならない陳腐なものでしかなかった、銃声が一発、エイヴァ中尉が拳銃を握っていた。

「中尉!何をしている!!」

オドンネル大尉のGスーツに空いた穴から新たに血が流れていく、エイヴァ中尉は失われていく物をかき集めるかの様に大尉の体にしがみ付いていた。

「ファーンに、機械にヒューが殺されるなんて嫌。ヒューは私が殺したの……ファーンなんかに現を抜かす男なんて、死んでしまえばいい……」

エイヴァ中尉は錯乱した、死体を下ろす為に救急隊が近づくと彼女はヒステリックを引き起こし、退けようとする手を振り払い癇癪を起して耳が痛くなる様な甲高い声を上げ暴れた。

FAFロマーニャ基地上空から響くジェット音、雪風が帰って来た。

エイヴァ中尉はその瞳に狂気を宿らせて雪風を睨み、未だ上空を舞う雪風に向けて発砲、機体には掠りもしない。

「お前が!お前が殺した!ヒューを返せ!返せぇ!!!!」

弾切れを起こしてもなお引き金を引くエイヴァ中尉は取り押さえられ拘束、最早言葉にならない絶叫を上げながら運ばれていく。

雪風も滑走路が開いた事を確認すると着陸、ブッカー少佐が駆け寄りすぐさまキャノピーを開きコックピットからオートマニューバ・スイッチをオフ、ファーンⅡとのリンクも解除する。

雪風はそこで初めて目が覚めたようにディスプレイに警告を表示する、外部接続機器に異常あり、ハーネスやホース等の装備が正しく取り付けられていない―――。

ブッカー少佐は雪風に飛ばせる意思がない事を示すように動翼を動かす為に必要な油圧を系統から分離する様にスイッチを押す。

雪風がタキシングしてハンガーに戻されていく、オドンネル大尉が乗っていたファーンⅡもまた。

「ジャック、聞いてもいいかな」

「……何だ」

「俺は前に、ジャムとの戦争に人間が必要かどうか聞かれたんだ、俺は勿論必要だと思うが理由ははっきりしないんだ。あんたなら分かるのか」

「これは、人間とジャムが始めた戦争だ、それを今更別の奴に押し付けるのはおかしいという事だろう」

そう言うものかと、腑に落ちた深井中尉はしかし、と続けるブッカー少佐の言葉に耳を傾ける。

「だが俺は今こうも思う。零、人間が必要ないと本心から思っているのは、きっと機械の方なんだ。俺が雪風を無人で飛ばすなんて言わなければ」

「さっきも言ったが少なくともあんたのせいじゃない、オドンネル大尉だって雪風がファーンⅡを操作してなかったらミサイルで死んでいた」

「それでも話は違ってくる、雪風はあくまでもファーンⅡを守った、大尉は機械に弄ばれて死んだんだ」

「ここは戦場だ、そこでの死は戦死以外あるもんか、意味なんてない」

「しかし雪風はウィッチを助けた、死の意味がなくとも同じ生にどのような違いがあったと言うんだ、何が二人の生死を分けた、何であれ勝手な思惑に殺された事には変わりないんだ」

そう言ってブッカー少佐は黙ってしまった、深井中尉は何もない空を仰ぎ見ていた、妖精に拐われて命を奪われた男の魂は今何処を彷徨っているのか探すかのように。

 

 

 

 

――――戦技フライトは終了、試験内容に一切問題なし、ファーンⅡは実践配備が決定される。

 

 

 

 

「しかし良かったのか?」

「何がですか?」

501JFW基地を出て自分達の部隊に戻るトラック群、その内の一つに乗るグノー大佐はスクラップと化したジェットストライカーを足で小突いた。

「ええ、問題はありません。根回しは既に済んでいますし別チームのジェットストライカー研究はこれで致命的な遅れを産むでしょう」

「『フリップナイト・システム』、魔道回路はもう完成の目途はついているのか?」

「ええ、最終調整を済ませれば物になるでしょう。後は女王を用意するだけです、そちらこそ器の準備は出来ていますか」

「勿論だ、スーパーシルフを超える新たな妖精の女王、後は器に注ぐ中身だけだ」

「素晴らしい」

ウルスラ中尉は胸の前で手を組み神に祈るかのように目を閉じる。

「ジェットストライカーは素晴らしい、()()()()()()()()()()()()()()。ついに『我々』もここまで辿り着きました、故郷を凌辱した憎きネウロイを焼き払う日は近い」

 

 

―――終わらぬ戦争は続いて行く。




6000UA突破!皆さまありがとうございます!
これまでの設定をまとめた方が読みやすいでしょうか、ご意見お待ちしております。
チュートリアルも終わったのでここから色々やって行きますのでよろしくお願いいたします

私のVmaxスイッチがオンになるので感想と評価を心よりお待ちしております。
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三章 未知との遭遇【再編集済み】
11話


私はある時、史上初の統合軍総司令部直属の多国籍組織、統合戦闘航空団第501部隊「ストライクウィッチーズ」へ取材の為に手紙でやり取りしたことがある。

ネウロイ撃墜数世界一位のレコードホルダー「エーリカ・ハルトマン中尉」やスオムスのトップエースの「エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉」も配属されるエース部隊だ。

私は501JFW設立を提言したミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の他に事実上のNo.2である坂本美緒戦闘隊長にも取材の問い合わせをしたのだが、スカウトと物資の補給任務の為基地を離れているとの返答があり直接返答を貰って取材する事は叶わなかった。

しかしそれは現状の戦力では不足であり、態々スカウトしてまで人員を集めているという事で、それほどまでにスペシャルな戦力を揃えねばならない程切迫しているという事ではないのか。

 

(中略)

 

私は手紙の中でヴィルケ中佐にとある一つの質問をした「第501JFWを立ち上げるに至った経緯と問題」である。

中佐は「国が進んで一つになろうとしなかった。ウィッチは国の戦力であり、象徴であり、資産でもあった」と語った。

フェアリィ星では憎きジャムに国を追い出され、蹂躙され、汚染され、人の命が焼かれ、年若いウィッチが戦場を舞うこの時においても国は、人種は、人民は一つになれなかった。

これは人類の油断なのだろうか、もしもそうなら我々はこう言っているに等しい「ジャムは取るに足らぬ、人類に劣る害虫のごとき存在である」と。

 

(中略)

 

今世界には二つの惑星があるが、その星を支配した人類は未だ表れていない。同じように、その星を代表する人類もまた居ないのだ。

だからこそ戦わなければならないのではないだろうか。支配は出来ずとも所有する事が出来る、勝ち続ければここは我々の星だと宣言することが出来る。

私たちは逃げることは出来ない、逃げる場所なんて既に何処にもないのだから。

 

 

『ジ・インベーダー 著:リン・ジャクスン 第3版より抜粋』

 

 

 

 

 

「態々すまないな、ミーナ」

「大丈夫よ、フラウ達も帰って来て501も落ち着いたから」

「……すまないな、私はそちらにすぐに帰る訳にはいかなそうだ」

「むしろ安静にしていて頂戴、いつも頑張っていたんだから少しぐらい問題ないわ」

FAFロマーニャ基地、その特別病棟の一室、そこに坂本美緒少佐は未だ入院していた。

放射線の被曝による病状は即時的に表れる物ではないが、確実に坂本少佐の臓腑を犯すに至った。

その進行は魔法力によって奇跡的に抑えられているが軽度の慢性的な神経障害を患い、魔法力の使用や減少と共に命を緩やかな速度で蝕んで行く死病となった。

結果的に坂本美緒少佐の復帰は見込めず、カールスラントから昇格の辞令が出ていたバルクホルン大尉が少佐に昇格し戦闘隊長を引き継ぐこととなる。

「ミーナ、私はしばらくFAFに交渉へ行く、私に用がある時は特殊戦のブッカー少佐を通してくれ」

「美緒?何で貴女がFAFに?しかも特殊戦って……」

「FAFは私に貸しがあってな、無碍に出来んだろう。安心しろ、私はちゃんと501の味方だ」

「私には言えない事なの」

「すまない、ちゃんと手土産を持って帰るつもりだ、これでも刀を振るだけの女ではないつもりだぞ?」

そしてベッドの上で呵々と気持ちよく笑った、しかしそれも変わって真剣な顔になりミーナ中佐の手を取り囁く様に告げた。

「もし何か困った事があれば特殊戦を頼れ、人類連合軍やFAFも、ネウロイの本当の恐ろしさを理解出来ていない。FAFでも特殊戦は別だ、権力や思惑に縛られない最強の戦闘能力を持つ特殊部隊、お前達をきっと助けてくれる」

特に特殊戦との禍根があるミーナ中佐であってもここでは口を出さなかった、ただ取られた手を握り返す事で坂本少佐の安堵を誘うことはして見せた。

「そこに美緒、あなたは居るの?」

「ああ、私はずっとお前達と一緒だ」

そこからはただ他愛のない話が続いた、思い出話にも話が咲き、ミーナ中佐の時間が許す限り二人の時間は続いた。

「ねえ美緒、約束よ、必ず戻って来て」

「ああ、何があっても戻ってくる。約束だ」

後ろ髪を引かれる思いでミーナ中佐は退室し戦場へ戻る、死と隣り合わせの世界へ。

ネウロイ戦争は人類に被害を与え続けているが、特に被害が重大な戦地がこのベネツィア戦線である。

極端な話、ネウロイは通常兵器でも倒す事は可能だ、コアを撃ち抜くかコアごとネウロイ本体を撃破してしまえばいい、訓練された兵士の命と消費する弾薬に目をつぶれば難しい話ではない。

しかし陸戦型ネウロイと違い航空型ネウロイを撃破するのは陸上からでは難しい、射程範囲外から即死の光線をばら撒く兵器はなんにせよ恐ろしい。

ストライクウィッチーズの任務は例え仲間や友軍が犠牲になろうともこの航空型ネウロイを確実に撃破する事である、特殊戦の在り方とは何とも真逆なのだ。

そんな特殊戦が私達を助ける?ありえないだろう。

しかし例外もあった、話を聞く限り何人かのウィッチが()()()()()()()助られたと聞いた、まったく笑える話だ。

 

 

――――国を守るのが軍人だ、民を守るのが軍人だ、その為に戦うのが軍人だ。

 

 

感謝しよう、仲間の命を救ってくれた事を、しかし真に救うべき国と人間を守ってくれやしないのだ。

様々な国の滅びと民の死を高みから見物するエイリアン共、そう特殊戦だけではない、FAFこそ忌むべき敵だ。

そんな所に美緒を送り出せない、考えなおして貰わなければならない、ミーナ中佐は急いで踵を返して走った、走って走って戻った。

ミーナ中佐が病室を出てから時間にして10分足らず、坂本美緒が寝ていたベッドはもぬけの殻、以降坂本美緒は行方不明となった。

 

 

 

 

 

 

FAFロマーニャ基地、ブリーフィングルームを兼ねたブッカー少佐の執務室にて少佐は新しい意見書をFAF本部に提出した帰りの疲れを癒していた。

特殊戦は偵察と観察が任務であるからして、中立でこそないがこの戦争を俯瞰的に見る事もまた彼の仕事だった。

FAF各基地は各種電波や通信衛星を用いて情報のやり取りが可能だ、非常用のレーザー通信もある、特にブッカー少佐が何を言わずとも特殊戦の情報は各基地の戦術コンピューターによって常に共有される。

情報は膨大であるが、すべて高度な機械知性体によって処理されている、今回抜き出した情報はつまり対ジャム戦において人類はどれ程の戦果と損耗を上げているのかについてだ。

FAFは観察と地球防衛の任務に特化しているが自己防衛の為の戦力も持っている、実はFAFの損耗は人類連合軍よりマシというだけで決して軽くない。

むしろ食料や娯楽物資の提供、技術提供、現地の統合軍と上手くやっているFAF基地は協力して早期に警報を出したり出撃できる範囲でジャムと戦う等とフェアリイ星の統合軍を補助している立場にある。

とは言え国際地球防衛条約に則り積極的な攻勢には参加しない点では嫌われているが、FAF基地周辺の街等は必然的に守られているから現地住民からの反発は余り無い。

そしてFAFの軍人はその大半が前科持ちであるから銃殺の許可と正当防衛は比較的簡単に通る、現地で蛮行を働けば情状酌量の余地はない、先月も一人基地内で銃殺されたが容疑者は正当防衛を主張し不起訴となった、FAFの女は強かだった。

フェアリイ星で特に損耗の大きい戦地がベネツェア戦線だ、先日あったようにファーン二十四機とそのパイロットを一発のミサイルで補給拠点の基地ごと消滅するなど他の戦線と比べて極めて異常だ。

FAF本部としても頭が痛くなる様な数字を見てファーンⅡを優先的に配備する事を決定し、それまでの間は試験的に量産されたファーンが先日十八機納入された。

一部ではFAFを自分勝手な悪の象徴と考える人間も居るがそれは違う、そもそも誰もがジャム戦争がここまで大きくなるとは思っていなかったというのが本音なのだ。

FAFが戦争の一部に介入を始めた際はまだよかった、しかし想像以上の速度で増え侵攻するジャムの勢いを止める事は出来ずに結局今の様に不和を抱えたまま戦争を継続するに至る。

不幸はいくつもあった、我々も悪かったし、相手も悪かった。FAFが攻勢に参加できるように融和政策を講じなかった点、人類連合軍が国際地球防衛条約を改めず、改めを提唱する人間が居なかった点等々。

そして最たる不幸は人類連合軍と言えども、FAFとの話が出来るフェアリイ星人の代表者が居なかった事に尽きるのではないかと地球の国際ジャーナリスト、リン・ジャクスン女史も訴えていた。

そういった意味では各国のエースを纏めた人類連合軍直属の統合航空戦闘団、それを提唱し実現したミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は歴史に残る偉人と言えるだろう。

とは言えども実際に会った時にはいたく嫌われていた、ブッカー少佐もそれを否定したり取り繕うつもりはなかった、彼もまたそれがどうしたと言える人間であるし、それが特殊戦だからだ。

しかしジャムは進化している、それもすさまじい速度で、俺達も変わらなければならない状況に追い込まれている。

昔はファーンだけでジャムと戦えたが今やFAF最強を誇る、そのコストから世界で三十機もないスーパーシルフでさえその存在を脅かされている状態だ。

しかもその内FAFロマーニャ基地にはスーパーシルフが十三機配備されている、これだけでもベネツェア戦線の恐ろしさも分かるだろう、しかもジャム機らしいスーパーシルフの姿を二度も捉えているのだからFAF本部の恐れは相当な物だと思われる。

今回ブッカー少佐が求められている意見書も本部が恐れを解消する為、内容はFAFの次世代型戦闘機とその運用についてだ。

現在FAFでは特殊戦のスーパーシルフを含むFAFの殆どの戦闘機を無人化するプランが主流として進行している。

先日のファーンⅡのフライトテストは実際にジャムを撃墜した事をFAFの中では評価され、戦闘機の無人化は有効であると判断されてしまった。

しかしブッカー少佐は否定的だった、今回提出した意見書には無人機雲耀の危険性と何故特殊戦とウィッチが生還できているのかを纏められている。

特殊戦のスーパーシルフはそれぞれ機械知性体と呼ばれるAIを搭載しているが、実はパイロットの影響を受けて成長する為に同じ物は二つとして存在しない。

ジャムは進化して学習しているのはこれまでの結果から一目瞭然だ、学習しているのだから同じ動きをする機体などすぐに学習され対応し撃墜されてしまう。

ストライクウィッチーズがこれまでの激戦をくぐり抜けて来れたのは各国の開発したストライカーの特性、個人それぞれの固有魔法、経験豊富なエース達の集まりだからこそ、多様的な運用を行う事が出来る為にこれまで生存して来たのだ。

つまり人間の持つ勘や多様性を機械知性体から奪う事は運用としての柔軟性や生存能力を失う事に他ならないという事だ。

よってブッカー少佐は二つ目のスーパーシルフを超える戦闘機の開発について、新鋭機には一定期間、つまりは機械知性体の訓練期間として特殊戦のパイロットを使用して教育させる意見書を提出した。

FAF本部の中央制御コンピューターはこれについて否定的であり、その人間的な多様性こそ機械知性体の処理能力で賄える事が出来ると主張した。

ブッカー少佐はそこで改めて確信した、この学習する機械知性体は人間という予想の出来ない動きをするイレギュラーが面白くないのだ。

それがジャムに対して有効なのだとそれでもブッカー少佐は引き下がらなかった、激戦地であるベネツェア戦線において帰還率百パーセントを誇る人間の反応やジャムにも予想できない動きこそ今の無人機に求められているものだと。

それに無人化を否定しているわけでは無い、この一定期間が重要なのだと重ねて意見した。

これを受けてFAF本部の中央制御コンピューターは部分的に採用、無人機と有人機の新鋭機を制作しこれを最も激戦地であるFAFロマーニャ基地に配備する事を決定する。

完全無人型のシリアルナンバーはFRX-99、識別名はまだ無い、そしてスーパーシルフを超える処理能力と生まれたてのクリーンな機械知性体を搭載する。

これが実際に配備され戦果を上げればパイロットが空を飛ぶことは少なくなりいずれ特殊戦は無人の部隊となる、雪風もまた無人でフェアリィ星の空を飛ぶだろう。

寂し気で儚げな表情を浮かべる深井中尉の顔を思い出すが、頭を振って追い出した。

彼にもまだ仕事はある、有人型の新鋭機FRX-00、未だその詳細は知らされていないがFRX-99を素体とした特殊モデルらしい、そしてFAFが開発した百番目の機体となる。

それに伴いFAFロマーニャ基地に特殊戦の新隊員がシステム軍団から派遣されるらしいが詳細は不明だ、しかしブッカー少佐も深井中尉も今と同じ特殊戦として働けるどうかは分からないのだ、分かった時に考えればいい。

深井中尉のラストフライトは近い、ブッカー少佐は今の内から友にかける言葉を、何か出来る事はないかを考え始めていた。

 

 

 

 

 




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12話

坂本美緒少佐が行方不明になって三日後の事、ミーナ中佐の下に書面にてアドルフィーネ・ガランド中将からの辞令が届いた。

バルクホルン大尉は少佐に昇格の上で戦闘隊長に就任が決定し、501JFWは一人抜けたままの状態で運営される事となった。

「坂本少佐の朝の鍛錬の声がこれからも聞こえなくなるというのは、意外と寂しく感じるものだなミーナ」

「そうね……」

カールスラント四強に数えられるトップエースであるバルクホルン少佐はミーナの執務室で引継ぎを受けていた、とはいえ戦闘隊長の職務に関して坂本少佐が前もって引継ぎのマニュアルを用意していた為それはスムーズに進んだ。

今彼女達が進めているのは今後の対ネウロイ戦についてだ、しかもネウロイのコアを見抜くことが出来る坂本少佐の抜けた穴はとてつもなく大きい。

501JFWは立場的に危うい状態にある、ミーナ中佐は最高の環境と戦力を揃える為に501JFWを立ち上げているがその存在を疑問視されているのだ。

失われていく数字だけを見て上から心無い言葉をかけ、予算を出し渋り、酷い時は賄賂の要求すらある。

それでもここまでやって来れたのはこれまでの成果とミーナ中佐の政治的なバランス感覚、そしてガランド中将を始めとした政治屋の支援を得ての事だった。

しかし人類連合軍が今の501JFW求めるのは結果しかない、結果を出せなければ統合航空戦闘団は解体される。

ミーナ中佐にとってこれは自分だけの問題ではない、統合航空戦闘団の意義を失う事は人類にとって悪手であると信じている。

ミーナ中佐は自分達も大事だがネウロイを倒し平和を取り戻す事を何よりも望んでいる、統合航空戦闘団はネウロイを滅ぼす最強の矛でありシステムだ、これを失えば人類が一つとなり勝利を齎す可能性の一つを失う事を意味する。

対ネウロイの希望とされる501JFWだがネウロイの巣の破壊に成功したのは実は501JFWの成果ではない、トレヴァー・マロニー将軍の狂気の集大成、重秘匿名称ウォーロックの暴走が齎したイレギュラーな成果だ。

敵であるネウロイのコアを兵器に転用した禁忌の無人型戦闘機、ネウロイを遠隔で操作系統をジャックして同士討ちさせ、また一撃でネウロイの巣を破壊する攻撃能力を持った恐るべき兵器。

最終的にウォーロックは暴走し重大な被害を撒き散らす一歩手前で501JFWの連携を以て撃墜、無人の戦闘兵器は忌むべき存在とされネウロイ研究は凍結される、当然公表する事も出来ずに501JFWのプロバガンダとして成果は利用された。

その後502JFWの活躍により更にネウロイの巣を破壊に成功したことから統合航空戦闘団の必要性は見出されたが、ここに来て上層部できな臭い動きが出てきているのだ。

ウィッチが活躍する事を何よりも嫌う人間がいる、それが統合航空戦闘団の最も面倒な敵だ。

結果を出せば黙らせることも出来るが現在最大の激戦地と化しているベネツィア戦線に存在するネウロイの巣を中心に戦力は大きく三つ。

一つはロマーニャの首都ローマの西方に臨時基地を構えた504JFW、アルダーウィッチーズ。

次いでアドリア海側を防衛し、ベネツィアの空戦型ネウロイに対応する501JFW、ストライクウィッチーズ。

そしてロマーニャとヘルウェティア連邦の隣、501JFWがネウロイから解放したガリア共和国に駐在・防衛する506JFW・ノーブルウィッチーズのBチーム

以上の三隊が有事の際に独立して動くことが出来る攻撃魔女部隊JFWの全てである、しかしこれだけの戦力があっても互角以下の状態なのだ。

先手をとれない以上確実に損害を受ける、一部のタカ派が民衆を煽り501JFWにヘイトが溜まる、そしてFAFロマーニャ基地の周辺の街等の現状を比較され各方面からクレームが入る。

その癖他の部隊やFAFを頼るのは軍人の恥とまで言われるのだ、何度司令部を爆撃してやろうかと考えただろうか。

話は戻るが今後のウィッチ出撃のシフト、ネウロイ戦におけるフォーメーションや戦術の対策をバルクホルン少佐と話し合っていたのだが、結局話し合いはとある一言に尽きる。

 

 

―――現状維持は不可能である。

 

 

資材は減り続ける一方、大きな戦果を出すと言う事はそれだけの激戦が起きるという事、ウィッチが以前の様に負傷及び死亡すれば今度こそ501JFWの存続の危機。

最早自分達で出来る事には限界がある、新たな統合航空戦闘団を要求するかFAFの協力を仰がない限り。

「ミーナ、本当にFAFと協力は出来ないのか?」

「何度か上層部に進言したことはあるわ、でも私の持つ権限じゃFAF本部との話し合いすら出来なかった、最終的に人類連合軍の上層部は条約を盾にしてはぐらかされた」

「FAFロマーニャ基地に話はしたのか、他の基地はFAFと上手くやってるんだろう?」

「……それは、まだよ」

思い出すのは特殊戦の人間に対して凄まじく失礼な態度をとってしまった事、それを話せばバルクホルン少佐は呆れた顔をした。

「ミーナ……お前は……」

「ごめんなさい……反省しているわ」

確かに過去の因縁はあるが一部隊指揮官としての態度ではなかったことは自覚している、当然彼等に対する怨念が消えたわけではないのだが。

「だったら謝罪して来るべきだな、ついでに協力も取り付けられればなおいい……気まずいなら私が行くか?」

「いえ、それには及ばないわ。私が行きます、後は頼んでもいいかしら」

「任せておけ」

 

 

 

三日ぶりにFAFロマーニャ基地の地を踏んだミーナ中佐は自らの足で特殊戦の事務所を訪ねていた。

同じFAFの戦術空軍団でもネウロイと戦闘行動を行う戦闘航空軍と特殊戦は部署が違う、そして規模が違えど特殊戦はその一部隊だけでも軍団レベルの戦力と権力を誇っていると聞いていた。

そして501JFWと実際に関わり合うのは主に特殊戦だ、よって今回は特殊戦の戦隊指揮官であるブッカー少佐にアポイントメントを取り実際に会う事が出来た。

ブーメラン戦士達の長、ジェイムズ・ブッカー少佐は表面上は丁寧に、急な連絡にも素早く対応し今日という席を設けてくれた。

「ブッカー少佐……先日は―――」

「ああ、気にしていませんよ、あれぐらい特殊戦ならいつもの事です」

「それでも、大変失礼な態度だと思います、誠に申し訳ございませんでした」

「中佐殿も仲間を思っての事でしょう、特殊戦は憎まれても仕方ありません。ただその在り方だけは譲れません、それだけはご了承下さい」

「はい、失礼いたしました」

肩透かし食わされたような恰好だ、互いを邪見にする態度であれば交渉もしやすいのだがこれでは遣り辛くてしょうがない。

「それで本日の件ですが如何なさいました、501JFWの長がわざわざこんな所へ」

「実は、501JFWと特殊戦の連携を考えています、現状ベネツィア戦線は激化の一途を辿っていますので」

それを聞くとブッカー少佐は顔を曇らせた。

「ミーナ中佐、誠に申し訳ございませんが特殊戦は今後無人部隊になる、貴女の味方になる事は出来ないかもしれない」

「それは……」

「本当に申し訳ない、FAF本部の決定でそれはもう既に始まっている……」

何とも間が悪い、元々特殊戦が私達の味方であった事は無いが数少ないと言えども、そのバックアップの一切が失われるとなれば坂本少佐が抜けた穴を埋める候補が減ってしまう。

「今後、無人となった特殊戦の機体から情報は頂けるのでしょうか」

「……私には分かりません、慰めにはならないかもしれませんが丁度いい事にFAFのシステム軍団から新しい機材が届いています、お見せしましょう」

ブッカー少佐がデスクから取り出した説明書は地球の言語で書かれていた、ブリタニア連邦の言語に似ているがハッキリとは読めなかった、それに気づいたブッカー少佐が翻訳しながら話をしてくれた。

「TAISポッド、目視、熱探知、音探知の三種の情報を常に受信しジャムの出現を確認すると全力で警戒信号を発する早期警戒装置です。ジャムが居ない時は太陽光からエネルギーを回収して充電し、破壊されそうな時は地面に潜ります、上手くいけば再利用が出来る」

「地面という事は、海面では使えないのですね」

「ええその通りです、FAFでは海上の装備は使えませんからね、しかしこれを海岸線に沿って使えば少なくとも陸の上を飛ぶネウロイは発見できる」

「そして海上では特殊戦がネウロイを偵察している」

そして無言、なんともやり切れないような思いだけが部屋を占めていた。

「ミーナ中佐、私はこの前FAF本部にストライクウィッチーズの必要性を訴えてきました」

「何故、少佐が私達の事を」

「貴女は偉大な人間だ、意図していたかは別として貴女の部隊は対ジャム戦に対して凄まじく有効だ。フェアリィ星――失礼、こちらの人間はジ・インベーダーを読むべきだ」

「……FAF本部はなんと答えたのですか」

「今のFAFは人間を排除して戦争をコンピューター化したがっている、よって人間もウィッチも必要なくなると言ってきた。ありえない話だ、これはあくまで人間の戦争のはずなのに」

「少佐達は、どうなるのですか」

「新たに生まれる機械知性体の教育部隊に、転属になるでしょう。興味があるなら見てみますか?」

「見るって何を」

「今後貴女が空で見る事になるであろう次世代の戦闘機、新たな妖精の姿を」

 

 




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13話

ブッカー少佐とミーナ中佐を連れて、ハンガーに案内していると三番機の位置に雪風の整備を行う深井中尉の姿を見つけブッカー少佐は声をかけた。

「零、丁度いい、少し付き合えよ」

「ジャック―――いえブッカー少佐、ヴィルケ中佐殿をお連れして何か御用でしょうか」

「何、先日届いたFRX-99をお見せしようと思ってな、丁度いいからお前も来い」

「了解しました」

FAFロマーニャ基地第三格納庫、整備場を兼ねたこの場所に新型戦闘機が収められている、対応する入庫証をスライドリーダーに通し格納庫の大きなスライドドアが大きな音を立てて開いていく。

優美な白色の戦闘機が一機佇んでいる、戦隊マークやペイントは施されておらずそれは雪風より僅かに小さい。

「FRX-99、スーパーシルフよりも二十パーセント軽い、エンジンの軽量化に成功したおかげだ。双発のマークⅪを搭載する、どんな急激な機動をしても吸気に支障がない」

「バックは出来るのか」

「そんな事は考えられていない、雪風だってエンジンが停止した」

「質問よろしいでしょうか、ブッカー少佐」

「はい、ミーナ中佐」

「この新型戦闘機は一機だけなのですか?」

「ええ、現状では。コイツは試験機で後々現在使用されているスーパーシルフと入れ替えで特殊戦に配属されます、特殊戦は解体ではなくその形を変える事になる」

「雪風はどうなるんだ、ジャック」

「無人の新戦隊に異動になる、これは出世だぜ、とはいえどんな任務に就くことになるかは俺にも分からん」

「いつから特殊戦は無人戦隊となるのですか?」

「明日がラストフライトです、この深井中尉がTAISポッドを指定のポイントに投下したらそれで」

「そうですか…」

勝手な話ではあるがミーナ中佐は目の前が暗くなる様な思いであった、一縷の望みをかけて来たもののそれが不可能であるとされれば猶更。

組織の長であり中佐の階級を得ても彼女はまだ19才、ブッカー少佐達からすれば未成年の子供だ、それをただ追い返すのは気が引けた。

「ミーナ中佐、お時間はありますか?」

「え、はい、ブッカー少佐」

「もしよろしければこちらで昼食は如何でしょう、私達はお互いの事を知らなすぎる」

「あ……はい、ありがとうございます」

「零も来い、雪風の整備は後でも出来る」

「了解しました、少佐」

 

 

 

 

初めて入る特殊戦のブリーフィングルーム兼ブッカー少佐の執務室、そこには雑多に荷物が置かれていた。

窓に面する壁にはブーメランが飾られ、他の壁際にはチェス等のボードゲーム、手芸用の糸とカギ棒、この星の物ではない綺麗な装丁の本等が雑多に置かれている。

「ミーナ中佐、散らかっていて申し訳ないのですがこちらに」

「この荷物は?」

「ああ、この部屋は隊員が暇つぶしで屯する事が多くてその荷物が置きっぱなしになっているんです」

「ですが隊員にも私室があるのでは?」

「ええ、しかしスクランブルの可能性がある隊員は私室では待機出来ませんからね、そういう奴らが暇を潰す為にここに来るんです」

「少佐の執務室で?」

「私が勝手に執務室にしてるんです、それに特殊戦の人間は騒ぐことはしませんからね、静かなものです」

そう言って少佐が私をソファに案内するとFAFの人間が食事を運んできた、スープがまだ湯気を立てている。

プレートには補給が未だ豊富ではないミーナ達にとって豪華な食事が載っていた。

「とても美味しいです、少佐達はいつもこの様な食事を?」

「いえ特別に作らせました、それに豪華と言ってもそれを楽しめる人間でなくてはね、例えば―――」

「ジャック」

「深井中尉は以前豆とピーチを混ぜて食べてたんです、あれ見た時は絶対に俺の部隊に来てほしくないと思いましたね」

「豆とピーチを……?」

「コイツがロマーニャ基地に来たばかりの話です、色々な基地を渡って最後がここだった」

「昔の話だろう、いい加減に忘れろ、何回話すつもりだ」

「深井中尉、豆とピーチは混ぜて食べると美味しいのですか?」

正直想像できない味だ、異世界人の舌と味覚は私達と違うのだろうか?そう考えるもまさに今、口にした食事は自分達からしても十分な味がした。

「……味は覚えていないし今では食べたいとも思わない。ジャムの攻勢が今よりも過激だったころの話だ、俺も雪風も特殊戦に入ったばかりでまだ未熟だった。スオムス、カールスラント、ガリアと戦線を点々として、補給の間に食事と仮眠をとってまた戦場に向かう、何も考えられない、味なんて分かるものか」

「深井中尉は、四年前のダイナモ作戦にも参加していたのですね、私も参加して撤退の護衛に当たっていました」

「ダイナモ作戦は特に酷かった、どのジャムも当たり前の様にビームを撃つようになったからな。例え高高度でも狙ってくるから生き残るだけで精一杯だった」

「特殊戦はいつでも余裕だと思っていました、それこそ私達を高みの見物で笑っているものかと」

ネウロイは理不尽だ、ネウロイの出現初期は機関銃の様な攻撃が主だったが、欧州の大規模侵攻の際には陸戦型や空戦型がビームを放つようになった。

ビームに耐えられる装備や建造物は未だ存在しない、その速度は一般の兵士からして狙われた時点で終わり、ネウロイに追われれば逃げる事は叶わない。

そう、『彼』は逃げる事は叶わなかった。

「俺の命よりも情報を持ち帰る事が優先される、そもそも高速離脱の為の機体と自衛目的の武装しかないんだ、他に気を回す余裕なんてない」

「でも特殊戦はウィッチを何度か助けてくれました、あれは何故?」

「俺の意思じゃない、雪風がやったことだ」

「その雪風が決めたのなら、私達を助けてくれるのですか?」

「そうするだろう、ただ何故ウィッチを率先的に守ろうとするのかは俺にも分からない」

「深井中尉は、死ぬのは怖いですか?」

「死ぬのが怖いというのは良く分からないが少なくとも死ぬつもりで戦ってはない、雪風が居て、その雪風が敵がいると言うなら俺は戦う」

私は特殊戦を誤解していた、彼等とて遠くとも戦場に立っている、FAFの損耗の多さは私も聞いているのだ。

そして誤解という誤魔化しは、私は私の心が折れない様に負の感情の捌け口として憎んでいただけだった。

ネウロイは憎い、そして心の底から憎いからこそこれ以上憎めない、だからこそ他の何かを憎まなければならなかった、―――誰も助けてくれないから。

これは懺悔だ、誠意を示すと共に私の後ろ暗い感情を断罪してもらう為の、そして哀れな自分を晒して情けを貰おうとする醜い行為だ。

「私がストライクウィッチーズの結成を決めたのはダイナモ作戦、いえパ・ド・カレーで整備兵として参加していた彼を失ったことが切っ掛けでした」

「彼、といいますと」

「クルト・フラッハフェルト、私の恋人でした」

胸元から唯一残った一枚の写真を取り出す、共に音楽の道を進むと信じていた穏やかな日々、彼さえ生きていてくれれば他に何もいらないと思っていたのに、

「彼は撤退戦の際に放棄された基地に取り残されて死んだと聞いています、私に残されたのは彼からのプレゼントだけ、故郷と仲間の多くを失いましたがそれがトドメになりました」

「中佐、私はジ・インベーダーを読みました、ストライクウィッチーズが当初各国から否定されていたことも」

「その通りです少佐、先程貴方は世界の人間はジ・インベーダーを読むべきといいましたが、こちらではジ・インベーダーが発売されていない事を知っていますか?」

「そうなのですか?こちらの世界の人間にも伝わる様に書かれた本だからこっちでも販売しているものかと」

「私の不満が詰まった本ですから発売どころか存在すら知られていません、そもそもFAFがこちらで販売する本はその大半が人類連合軍によって流通を今でも禁止していますよ」

「おお、なんて愚かな事を、人類連合軍とは名ばかりでしかないのか」

「その通りです、例えばノーブルウィッチーズなんてまさに各国の権力者による思惑の坩堝と聞いています」

「……やはりストライクウィッチーズの結成は奇跡だ、尊敬しますよ」

「全てはネウロイに勝つためです、目先の勝利ではではない、自分達だけの勝利ではない、その為にネウロイに勝つための組織が必要だった」

「分かりました、ご協力しましょう。貴女は一度私達の長、特殊戦副指令のクーリィ准将と話すべきだ」

「特殊戦の副司令と……ですか?」

「私達に出来る事は限られていますがクーリィ准将なら何とか出来るかもしれない、何しろ特殊戦を自ら立ち上げた女傑だ、中佐にも利益を齎してくれるかもしれない」

「ありがとう、ございます……」

「なに、説得してみせますよ、どうせ私もしばらくは暇になる」

 

 

 

 

「随分と優しいじゃないか、ジャック」

「うるさい、元々本部のコンピューターには嫌がらせの一つでもしてやりたい気分だったんだ」

「それが本音か」

ミーナ中佐を送り出し、執務室に戻ってそれらしい文章を唸りながら作成するブッカー少佐を茶化しながら深井中尉は量を多く作るだけを考えられた不味いコーヒーを飲んでいた。

「俺の考えをどうしても認めようとはしない、元々胡散臭い奴だ、除雪隊の隊員が英雄にしか授与されない武功章、マース勲章を授与された件とかな」

「スオムス方面の基地だったか、あれは結局どうなったんだ」

「大々的に授与されたとも、正式にだ、しかしそれが正当であるという理由は誰にも分からなかった」

「そもそも勲章は何処かしらの人間が決めるんじゃないのか、それが何故本部のコンピューターの胡散臭さになるんだ」

「勲章の授与を決定するのは最高参謀の叙勲委員会なんだが、実は人間が決めているんじゃないだ」

「そうなのか?」

「推薦を受けると本部のコンピューターがプロフィールを読み取り、その成果や戦績を元に実績に見合う勲章を決定するんだ」

「知らなかった、勲章には興味はないからな」

確かにこの男なら名誉ある勲章でも文鎮にするか、ベッドの下にでも転がっているだろうとブッカー少佐はふと考えた。

「ともかく不信感を覚えた俺は本部の人間を言いくるめたら、本部の地下コンピューターまで案内されたのさ」

「年甲斐もなくはしゃぐと怪我するぜ、それで?」

常に周囲に興味を持たない様に思われているこの男も、こういう所ではいい性格をしている。

いつものやる気のない顔に若干の興味を乗せた零に促され、自分の手を一度止めて先程手渡された不味いコーヒーに口を付けて続きを語った。

「前に俺が言った事、覚えているか?」

「含意が大きすぎる」

「機械の方が人間を必要ではないと思っているっていう話だ。コンピューターはまるでお遊びの様に勲章を授け、その除雪隊員は勲章に殺された、除雪作業を無人化して機械が操作できるように生贄にされたんだ」

元々ブッカー少佐は機械が嫌いと言って憚らない人物だ、その発言における根本は分からずとも彼は、真に疑うべきはコンピューターであると訴えた。

「それで、結局何が言いたいんだ」

「機械を信じすぎるなという事だ。零、お前は明日のラストフライトが終わったら地球に帰れ」

「俺には帰る場所なんてない」

「他の奴なら喜ぶところ……とは言い切れないが、少なくとも機械に殺されるよりはマシだろう」

「俺は……」

「ああ、それか俺と一緒に管理部でもいいぞ、お前のこれまでの功績を挙げれば大尉位にはなれるだろう。しかし覚えておけよ零、フェアリイ星でも地球でもジャムとの闘いは続いていく」

「―――今は何も答えられない」

「そうか、俺も飛ばない気楽さを選んだつもりだった、それでも気苦労は絶えないがな。お前は雪風から卒業するんだ、この先の事は自分で決めろ」

「ジャック、雪風の整備に戻る」

「許可する、ラストフライトは明日の0900時だ、遅れるなよ」

「了解」

 

 




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14話

「これが雪風のラストフライトだ」

いつもと同じ様に時は過ぎ、遂にこの日が訪れた。

特殊戦五番隊、三番機パイロット深井零中尉、同じく三番機フライトオフィサのリチャード・バーガディシュ少尉。

二人のブーメラン戦士は平時と同じく無表情でブリーフィングルームでブッカー少佐のフライトプランの最終確認を受ける。

「今回の任務は先日伝えた通り自動戦術情報収集ポッド、TAISポッドを指定のポイントに投下する事。終わり次第帰投せよ」

「質問がある、今更だが何故こんなミッションを有人飛行で雪風にやらせる、俺を乗せる必要が何処にある」

それは冷たい声色だったが長い付き合いのブッカー少佐は零の、人間が持つ複雑な感情を混ぜた思いを聞き取った。

どれだけ手を尽くしても、問題を先延ばしにしても―――これが最後だ、雪風が人を乗せて飛べるのは。

「今回飛行するベネツィアの海岸線付近はジャムの警戒空域に近い場所だからだ、何かが起きた時には人間の勘が必要だ」

ワザとらしいと分かる誤魔化しにもブーメラン戦士達の表情は変わらない、いつもと同じだ、今日も彼等を死地に送り出す。

ハンガーにて発進前の最終チェック、それが終われば二人は雪風に乗り込み飛び立つだけになった。

「零、必ず帰って来いよ、これは命令だ」

「いつもと同じ、ジャムが来たら只管逃げて帰るさ」

「帰ってきてまだ空を飛ぶつもりがあるならお前に新しい機体を任せてもいい、今の雪風よりも高性能な奴を」

「FRX-00とやらか、ジャック、俺は雪風以外に―――」

「雪風はもう十分に成長したんだ。雪風はお前の恋人やペットじゃない、FAFの戦闘機なんだ」

「あんたが何も言わずに、今日という日が来なければと思ったよ」

「そうか、だがケジメは必要だ。少なくともお前は今日雪風から卒業する、八つ当たりでもなんでも付き合ってやるさ」

ラダーを昇りブーメラン戦士がコックピットに収まる、雪風の最終有人飛行が始まる。

 

 

 

雪風はタキシングして滑走路の発進位置へ向かう、この段階に至っても俺の心の中で雪風と別れるという事に実感はわかなかった。

考えた事も無かった、最後まで一緒だと信じていたのに生き別れになるとは、―――まるで裏切られた気分だった。

裏切られる、そう、俺が雪風を必要としている様に雪風も俺が必要なのだと信じていた。

スーパーシルフがその腹にTAISポッドを六個抱えてリフトオフ、その少し先に先導して無人の特殊戦機二機が護衛機として飛ぶ。

雪風は自動操縦で任務を遂行する、IFFは味方機を示し、雪風は無人の戦闘機と話し合うかの様に編隊飛行用データリンク。

四十分程飛行してもコックピットの二人は無言だった、今更談笑する仲でもないし緊急時でもないのだから話す必要もない。

雪風は自動で空中給油機とデータ交換を続ける、それを俺はよりにもよって雪風に除け者にされた様に嫉妬を覚えてワザとコントロールスティックを僅か動揺させた。

「いい機体だな、乱気流の中でも安定している」

後席のバーガディッシュ少尉が感心したように呟く、この凪いだ空で乱気流だと?

それは違う、雪風は俺の操作を乱気流の影響による動揺として処理したのだ、俺の操作を無視する為に。

ジャックが度々言っていた事を思い出す、雪風は雪風なりに意識をもっているのだ。

ままならない思いを抱えてずっと生きて来た、俺という存在に必要な物を求めて生き続けている、『世界』に裏切られた時からずっとずっと。

俺が生まれ育った今の地球には本当の意味でのパーソナルなマシンは存在しない、どの家庭にもあるコンピューターは常にネットワークに接続されている。

マシンの中には最低限の記憶領域のみ搭載され、クラウドサーバー内に構築された一定の領域を国民に分け与えられる。

そして誰かが例え下らない雑事であろうともコンピューターに指示すると国の管理する全てのコンピューターに処理が分配される事で演算される、オフラインにして一個のコンピューターを私用するという事は、国の財産を不当に使用するという事で処罰される。

俺にはコンピューターしかないのに、俺の真に望むソフトとハードを合わせたパーソナルコンピューターはいつの間にかくそったれな民主全体主義国家に駆逐されていた。

―――そう言えば俺が作ったマシン、名前はなんだったか。

俺が裁判にかけられフェアリイ星に送られる事を良しとしたのは文化が進んでいない分、原初的だとしても本当のコンピューターが存在するのではと思っての事だった。

しかし俺が思っていた以上に前時代的でコンピューターが生まれるのはもっと後の事だろうと思い落胆している時に雪風に出会って全ては変わった。

雪風は機械知性体という『個』だった、優秀なソフトとスーパーシルフという優れたハードの融合体。

他に何もいらないと心から思えるくらいに夢中になった、そしてそれを最大限に発揮できる戦場を俺は好んだ、俺が戦う理由はそれだけだ、ジャックやミーナ中佐の様な理由なんてない。

「少尉、作戦区域に入るぞ、針路を確認しろ」

「自動のままでいい、あと500キロメートル進んだら高度を下げる。その先はジャムの緩衝警戒空域だ、偵察情報も数回分しかない、イレギュラーに注意」

雪風は給油機から離れて加速を開始、目標地点に近づくと上空に無人の特殊戦機を残したまま超高速低空侵攻を開始。

「少尉、爆撃システムの再チェック」

「了解」

遠くのアドリア海上には暗雲に包まれたジャムの巣が見える、ジャムの前進基地とも言われているが本拠地も資材の搬入経路も詳細不明、出現位置不明のジャムもいる事から全てがジャムの巣から出撃するわけでもないらしい。

よってベネツィアのジャムの巣から半径150キロメートルは警戒空域として特殊戦機だったとしても偵察は認められていない、今回飛行するエリアはそこから更に50キロメートル離れた緩衝警戒空域だ。

雪風は自動でTAISポッド射出地点へ超音速で突入、対地爆撃モードを全自動モードから手動モードに素早く切り替える。

「中尉、何をする気だ?」

「最後なんだ、俺にやらせろよ」

雪風は警報を発する事なくHUDに表示された第一目標に近づくと俺はレリーズスイッチを押してTAISポッドの一機目を射出する。

二機、三機と続けて射出し五機目まで射出、残り一機となったところで後部座席から警戒せよの声。

「TAISポッドの四機目が警戒信号を発信している、しかし雪風の受動レーダーには反応なし」

「早く調べろ」

「これは……中尉!下だ!緊急回避!」

衝撃が雪風まで伝わったかの様な轟音、砂浜を地中から突き破るかの様に急激に表れたジャム戦闘機三機が高速で急上昇して襲い掛かる。

謎を解き明かす暇はない、俺は最後のTAISポッドを投棄すると共にオートマニューバイスイッチとVmaxスイッチをオン、ユーコピー。

雪風に全ての操縦と武装の使用権を譲渡すると急旋回を開始、対ジャム戦闘を開始、アイコピー。

突如地下から現れたジャムは以前の高速ミサイル並の速度でこちらに迫り来る、移り変わる景色が速すぎて目視は出来ないが雪風のドップラーレーダーはジャムを捕捉している。

雪風は短距離AAMを発射するもジャムはすぐさまビームでミサイルを撃ち落とす、お返しとばかりに放たれた高速ミサイルを雪風は急激な機動で回避、パイロット達は一瞬ブラックアウト。

「任務を中止して高速離脱しろ中尉」

「止まらない、雪風は―――戦うつもりだ」

言われるまでに何度か試したがオートマニューバイスイッチが解除されない、雪風はジャムを見逃すつもりは無いらしい。

このまま俺はオドンネル大尉の様に雪風に殺されるのだろうか、次の瞬間ディスプレイに火災発生の警告、緊急脱出せよのサイン、間もなくキャノピーが自動で射出される。

間違いない、雪風は俺と言う存在を邪魔と認識して排除するつもりだ、続いて俺とバーガディッシュ少尉は射出された。

コックピットに内蔵されたパラシュートが開き地上に緩やかに落下する、そこは運よくジャムが飛び出て来たあの砂浜の上だった。

座席から拳銃を取り出し相方の行方を捜す、視界に白い膨らみを捉えると風に流されたのか離れた場所に落ちた様だ。

上空では自分達という枷を外した雪風が獰猛な獣の様に高速のジャムを相手にドグファイトを仕掛けている。

もしかしたら、

しかし何故雪風は自分達を逃がしたのだろうか、確かに俺はあのままでは勝てないと思って脱出するつもりだった、どうせ最後のフライトだから躊躇う事もしなかった筈だ。

もしかしたら雪風はその意を汲んで俺達を逃がしたのかもしれない、あるいは自爆を選ぶ可能性を恐れてすぐさま排除に動いたのかもしれない。

しかし今更どうでもいい事だ、勝敗の行方がどうなろうとも俺達にはもうどうしようもない。

随分と流された相方を追いかける内に上空にウィッチ達が現れた、TAISポッドの受信機はベネツィア基地にも置かれていた筈だからそれで気が付いたのかもしれない。

せめてFAFロマーニャ基地で帰りを待つジャックに連絡を入れる為に無線を貸してくれないかと上空のウィッチに向けて手を振る、上空で偵察している特殊戦機が既に報告をしているかもしれないが義務は果たすべきだろう。

ウィッチが一人降りて来る、ヴィルケ中佐だ、武装した彼女を見ても本当にこれでジャムと戦えるのかと不安にも思う。

「深井中尉、大丈夫ですか」

「体に問題はない、雪風が戦っている、無線機を貸してくれないか、FAFロマーニャ基地と連絡を取りたい」

「私達の使うインカムは魔道具です、私の中継があってもよろしければ」

「それで構わない」

ウィッチ達が用いるインカムを始めとする様々なアイテムは魔力を利用する為に一般人には利用できないらしい、曰く魔力を電源として、更には『電波と同じ様に振舞う』様に調整した魔力を使うかららしい。

「その前に一体どういう状況なのですか?」

「前もって提出した作戦プラン通りにTAISポッドの射出任務中にジャムが現れた、雪風は俺達を排除して戦闘を開始」

「貴方たちはネウロイの警戒空域に侵入しましたか?」

「緩衝空域のみだ、フライトプラン通りに飛んだ、ジャムは突然地下から現れた、どこかに痕跡がある筈だ」

「了解しました、今連絡を―――」

「ミーナ!!危ない!!」

突如として空から響く少女の声、気づけば超低空飛行で飛んだジャムの衝撃波でミーナ中佐は俺諸共弾き飛ばされていた。

咄嗟の判断でパイロットスーツの肩に仕込まれた緊急救難ビーコンを作動させる、砂に塗れながら上下感覚の狂う中で俺が見たのはジャムを追いかけ音速で飛ぶ雪風の姿。

目の前で雪風が発火、対空ミサイルを発射した噴射炎だろう、遠くで起きた爆発の衝撃波で再び弾き飛ばされる、後頭部に衝撃を受けて俺は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクランブルを受けて発進したミーナ中佐、バルクホルン少佐を始めとしたウィッチ五人はネウロイと交戦する特殊戦機を発見した。

援護しようと速度を上げるがネウロイと特殊戦機の動きが激しすぎて誤射の可能性がある為に動けずにいた、以前の様な核兵器と呼ばれる兵器を装備している可能性があればなおさら。

しかし隙がない、せめてこちらに注目を集めようとしても私達の威嚇射撃は無視されている。

かつてない速度で特殊戦機とネウロイが飛ぶ、舞うように攻撃を躱しながらビームと曳光弾の光が明るい空を更に照らす。

あそこに飛び込めるのか?こんな戦いをいつも彼等は潜り抜けて来たのか?

「ミーナ、これでは迂闊に近づけないぞ」

「そうね、様子を見ましょう、総員流れ弾に注意して」

「これあの戦闘機がやられたら私達が相手するの?ヤダヤダー!特殊戦頑張れー!!」

「ハルトマン!!」

しかしここでこのネウロイを逃せば追跡は不可能だ、まず引き離されるだろう、一応の備えとして504JFWにも連絡を入れる準備をしておいた方がいい。

ふと視線を下に向けると手を振る人間がいる、近くにはパラシュートと思われる物体も見えることからFAFの人間だろう。

「あれは、FAFのパイロットスーツに見えますわ」

「え!?じゃあ特殊戦じゃん!あの戦闘機誰が動かしてるんだよ!」

「特殊戦の戦闘機は無人で動かせるのよ」

「無人で動かすのは例の件で禁止になったんじゃないのか」

「それは人類連合軍が決めた事、FAFは関係ないわ。私が確認に行きます、あそこにいる人間を多分私は知っているわ」

ミーナが特殊戦の下に向かった後、二人が幾つかの話を続ける中で状況が動く、ネウロイが突如急降下して猛然と二人に襲い掛かったのだ。

「ミーナ!危ない!!」

「お前達はネウロイを撃墜しろ!ミーナの所へ私が行く!」

「了解!」

煙が晴れた後には誰も居なかった、いくら何でも地上で吹き飛ばされたとして見通しのいいこの場所で見失うとは考えづらい。

シールドが使えるミーナも居たし、何かしらの痕跡すら残らないとは考えられない、もしその上で考えられるとすれば―――。

二人はネウロイにさらわれた?そんな馬鹿な、それこそ御伽噺の魔女じゃあるまいしあり得ないだろう、それでは二人は何処へ消えたのだ。

「トゥルーデ!ネウロイが逃げるよ!!」

「何だと!?」

「少佐!特殊戦機が追撃してるゾ!」

これまで激しく戦っていたネウロイが急に方針を変えるとなれば目的を果たしたという事ではないか、それはつまり初めから人間をさらう事が目的……?

ネウロイの巣に向かって高速離脱するネウロイ、それを特殊戦機は執拗に追いかけ自衛用の武装を全て射出する。

発射されたミサイル四本の噴煙を引いて内二発は三機中の一機を撃墜、残りは再びビームで撃ち落とされ残ったネウロイ二機は反転し特殊戦機に襲い掛かる。

ネウロイと特殊戦機がヘッドオン、それらが機銃とビームを放ちながら交差する瞬間であった。

別方向からのミサイル計八本がネウロイを特殊戦機ごと強襲し、そして全てが爆発した。

上空で待機する特殊戦機のミサイルだった、しかし煙が晴れるとネウロイの姿は影もなく消えた、あの特殊戦機と共に。

「皆いなくなっちゃたよトゥルーデ!」

「全周囲警戒!ネウロイがまだ隠れている可能性がある!ミーナ達を捜索しつつネウロイを排除しろ!」

以降三十分の懸命な捜索を実行するも手掛かりは掴めず後ろ髪を引かれながら一度補給の為に帰投を決定、その後の発進の許可は下りず捜索は一度打ち切られる事になる。

 




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15話

ミーナ中佐と特殊戦の二人、そして雪風の消息が途絶えてからすでに二時間が経過していた。

何かしらの事態が起きた際、己の処理できる事態の範疇にない無い場合は可能性だけでも報告しなければならない、501JFW司令が行方不明になったという事態はすぐさま人類連合軍に報告された。

しかし帰って来たのは『501JFWは総員基地にて待機、捜索及び救護は504JFWが引き継ぐ』という指令であった。

501JFWの至上命令は『ロマーニャ防衛』及び『ネウロイの撃破』である、よって501JFWウィッチをそれ以外で動かすには上層部の命令が必要だった。

それに中佐達が行方不明になった場所も悪かった、ネウロイの巣の緩衝空域の付近であった為に501JFWのレシプロ戦闘機を飛ばす事はかなり危険だ、発見出来ても突如として現れるネウロイから逃げきれない可能性もある。

そしてトラヤヌス作戦で負った傷は想像以上に深い、もしも不意にもう一度同じ悪夢が繰り繰り返されればベネツィアどころかロマーニャ壊滅は必至、故にその再来を皆恐れて余計な刺激を控えているのだった。

更にはミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の死を望む高官の思惑が在るともガランド中将から言われているが裏付けは無い、しかし統合航空戦闘団構想が恨みを買うのは一部の人間にとっては当たり前の話と言えるかもしれない。

例えばトランプで大富豪をしようとして、J以上のカードは勝手に奪われると考えればどうだろうか、せっかく集めた貴重なコレクションを持って行かれたら、ボードゲームで駒を使えなくされたなら何を考えるだろうか。

しかも奪われて勝手に使われ、成果を出せば全て奪った人間の手柄になる、各国としてもウィッチを戦時費用の為に国債を集める為のプロバガンダや出資者の機嫌取り等に使うのが精々になってしまう。

結局の話そうなってしまうと国の信頼よりもウィッチ個人の信頼と発言権が増すばかりとなる、そしていずれ幾らかの年若い娘達が自分達の手間暇かけたキャリアと席を奪いに来るという事になる。

人類全体を救う為のストライクウィッチーズに、未だ若いミーナ中佐に足りなかったのはその配慮と工作の時間だ、せめて利益のすり合わせとストライクウィッチーズというカードの切り方さえ適切に行う事が出来ればこうはならなかっただろう、当然ネウロイ戦争中にそんな余裕は無かったのだが。

全員が悪人や無能であるわけではないのは確かである、でなければ今頃各国の連携は失われて分断しネウロイに擦りつぶされていただろう。

しかし成ってしまった事は仕方ない、後は自分に出来る事をするだけなのだがここに来てまで味方に足を引っ張られるとは思いもしなかった、普段の穏やかに笑うミーナ中佐も陰では自分の想像以上に手ごわい敵と一人で戦い続けてきたのだ。

戦友、あるいは親友失格だなと考えるもミーナさえ戻ればまだ取り返しがつく、その為には絶対にネウロイからミーナを取り戻さなければならない。

話は戻るが懸命の捜索の後、人類連合軍から指令を受けた501JFW所属のウィッチは指令通り待機させた、そして自分達よりも高度な偵察能力を持つ特殊戦の戦隊指揮官の協力を得る為に自分が単身FAFロマーニャ基地に乗り込んだというわけだった。

さすがに命令違反にあたるのだろうが緊急事態という事で自分を納得させた、宮藤軍曹の影響を本格的に受けた様だと皆にからかわれながら送り出されたが変わるという事は悪くない。

「やはり捜索機は、出せませんか」

「ご足労頂き申し訳ないが、事情はこちらも同じだった」

ブッカー少佐との面会はすんなりと通った、自分が着いた頃は大分荒れていたが一息付かせると力ない様子で背もたれに体を預けていた。

曰くFAFの航空戦闘団は部署が違う為に動かせない、特殊戦機は偵察任務以外で動かせない、これを勝手に動かそうとすれば即刻謹慎処分か銃殺刑まであると彼の上司に脅されたそうだ。

それならばと無人で飛ばしていた特殊戦機の映像を解析しても『状況不明、手掛かりも無し』という結果のみ。

FAFが誇る人工魔眼フローズン・アイにも希望的な情報は残されておらず、まるで神隠しだよ、そうブッカー少佐は嘆いていた。

既に三人はMIA判定を受けている、追加の捜索で発見されなければ捜索は打ち切りになるだろう。

「必ず帰って来いと言ったはずだがな、零」

「彼等が帰ってくると、少佐はまだ信じられますか」

「勿論です、だからこそ探しに行きたいのに幾らなんでもこれでは。いっそ空いてる機ならいくらでもあるというのに」

「いざとなれば私も私の権限で哨戒機を動かします」

「こんな状態にもならなければ協力も出来ないとは」

「ミーナ中佐一人に全て任せ過ぎました、少しでも気にかけていればこんな……」

「外様の人間が口を出すようですが、そうかもしれませんね。しかしそれでいいとミーナ中佐自身が考えていたのもあるかもしれません、良くも悪くもね、彼女には背中を預ける仲間もそうだが肩を寄せる味方が必要にも思えた」

「ああ……ミーナ中佐の思い人が亡くなった時に声をかけられなかった私にも責任がある。そうか、ミーナは真っすぐにしか進めなかったんだな……」

「互いにツケが溜まり過ぎましたようですね、バルクホルン少佐」

「ブッカー少佐も苦労をされているようで」

話し合う事もなくなり本格的に無断で発進するする準備でもしておこうかと思った矢先、テーブルに備え付けられていた電話が鳴る。

「はい、ブッカーですが」

『ブッカー少佐、ノイエカールスラント協同技術センターのハルトマン中尉がお見えになっております。如何いたしましょうか』

「協同技術センター……?分かった、俺の執務室まで通してくれ」

『了解しました』

「バルクホルン少佐、申し訳ないが一人来るので対応させていただきます」

「分かりました、私の事は気にせず」

「助かります」

数分後、執務室の扉を開いて現れたのは私のもう一人の戦友の妹ウルスラ中尉だった。

「失礼いたします、ノイエカールスラント協同技術センター所属、ウルスラ・ハルトマン中尉です……あれ?バルクホルン少佐」

「ハルトマン中尉?何故あなたがここへ?」

「今の私は人類連合軍とFAFの協同技術開発センター所属ですから、上から頼まれたものを届けに参りました。ブッカー少佐、確認と受領のサインをお願いいたします」

「これは……FRX-00、協同技術開発センターで作られていたのですか」

「詳細はレポートに記されていますがブッカー少佐の案を受けてFAF本部で製造されたFRX-99を協同技術開発センターにて改造したものがFRX-00になります。それと特殊戦副指令クーリィ准将から言付けを頼まれております」

「伝言?」

「はい、FRX-00が届き次第テストフライトを行う事、そしてテストフライトの飛行ルートは全てブッカー少佐に任せるとのことです」

 

 

 

 

 

 

 

深井中尉が目覚めた時にまず目にしたのは白い天井だった、最初はFAFロマーニャ基地の病室かと思ったが現代的と言えない窓のない簡素な部屋はそれを否定する印象を持った。

自分はフライトスーツとブーツをそのままにベッドに寝かされていた、パイロットスーツのあちこちに備え付けられたポケットは膨らんでおり地図や携帯食料、簡易的なサバイバルキットや拳銃がそのまま残されている。

部屋を見回してみるが簡易的なパイプベッドとサイドテーブルがあるだけ、窓が無い為に自分の居場所は分からない、痛む頭と思い倦怠感をそのままに情報を得る為に立ち上がって部屋をでようかと思った時に扉が開いた。

青白い肌をした女だ、白い服を着ているが看護師だろうか。

「目が覚めましたか」

「……一応な、雪風はどうなっている」

「雪風?ああ、あの機体は整備中ですよ」

「バーガディッシュ少尉は、それとミーナ中佐はどうなっている」

「中佐殿は軽傷ですが少尉は重傷です、残念ですが」

「ここは何処だ」

「病室ですよ、いまヤザワ少佐をお呼びいたします、体調も万全でないのですからベッドに横になっていて下さい」

看護師と思わしき女が出ていき、入れ替わりでFAFの制服を着た東洋人が入って来た。

しかし少佐着ているFAF戦術空軍の制服は色と形の細部が違うような違和感を覚える、それを伝えると少佐は笑った。

「目が覚めた様だが、頭を打ったようだな中尉」

「かもしれないな、衝撃は感じた。それでここは何処だ」

「TAB-14」

「TAB-14だと?トラヤヌス作戦でジャムに潰された筈だ、信じられない」

「地下空間は無事だったのだよ。しかし破壊されている筈という情報も重要でね、ここで周りには内緒で潜伏しながら支援しているわけだ、君達も私達が居たから助けられたのだよ」

「成程な、雪風は」

「燃料が切れてここに降りたよ、すまないがここには燃料が無くてな、そのままになっている」

「FAFロマーニャ基地に連絡を取らせてくれ」

「既に連絡しておいたよ、不時着したが無事だとな、君をよろしく頼むと言われたよ」

「それだけか?」

「それだけだとも。ところで中尉、雪風を整備したいんだが巧妙な保護装置で守られていて困っている、下手に弄れば自爆するだろう」

フライトスーツの胸ポケットの一つに入っている拳銃を意識した、この少佐は何を考えているんだ。

特殊戦の機体は厳重なプロテクトがかけられていて、正しい手順を踏まないと機密保持の為に自爆するのも確かだ、しかしコックピットのボタンを弄ったり機体の整備する位では問題がない筈だ。

「すまないが俺は特殊戦第五飛行戦隊の所属だ、あんたの命令は受けない」

「私は少佐だ、上官の命令は聞き給え」

「直属の上官ではない、おれはブッカー少佐から必ず帰還しろと命令を受けている、ブッカー少佐が自ら命令を解かない限りそれは有効だ、軍規ぐらい知っているだろう」

「知っているが、帰れなくなるぞ?中尉、雪風の電子システムの保護装置の解除方法を教えろ」

「雪風には触れるな、あれは俺の機だ」

「ではここにいつまでもいればいい」

「脅迫するのか?」

「雪風の整備が終わらなければ君は少佐の命令も果たせないぞ?まあいい、まずは体力を取り戻す為に休みたまえ。ここは前進基地故大した物はだせないが、美味い飯を用意させるよ」

そう言い残してヤザワ少佐は部屋を出ていった、やはり雪風が気になって探そうと立ちあがるがまるで雲の中を歩くような非現実感が襲い掛かる、ふらついて膝を付いてしまう。

扉が開いて看護師が戻って来た、俺を支えてベッドに連れ戻した。

「俺は早く戻らなければならない、雪風の下へ連れていけ」

「もちろん、ロマーニャ基地に戻れるようにします、中尉は少し休んだ方がいいわ」

許可の確認や説明もなく腕に注射器が突き立てられる、ゾッとする思いで振り払う前に注射器は抜かれていた。

看護師は無表情に俺を見下ろしていた、おやすみなさいと静かに言ったのは聞こえていた。

瞼が重くなる、俺は帰らなければならないのに、しかし抵抗する事も出来ずに俺の意識は深く沈んでいった。




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16話

再び俺の意識が徐々に浮かび上がる、夢とも現実ともつかぬ違和感で身体は未だに重く意識が朦朧とする。

目覚めたのは先ほど同じ窓の無い白い部屋、しかし雑音の無い部屋というのは異常に聴覚を研ぎ澄ませてしまう。

ずっと低周波の様な、虫の羽音の様な音が頭の中で響くような不快な音、空気でさえ粘度を持っているように纏わりつくような感覚で思考が上手く纏まらない。

そして扉が開く、さっきの看護師がこっちに向かって真っすぐ歩いてくる、ワザと鳴らしているのではないかと思えるほど鋭く靴の音が飛び込んでくる。

まるで腰を振るかの様な歩き方、豊満な胸を見せつけるかのように屈むその姿からは妖艶さよりも怪しさしか感じられなかった。

「緊張しているようです、中尉」

「惚けるな、そろそろ本当の事を言ったらどうだ、ここは何処だ」

「TAB-14ですわ」

「だったらそろそろ外に出たいな、雪風は何処だ」

「雪風は整備中です、勿論中尉が言ったように中枢コンピュータには触れていません、今は射出座席とキャノピーを取り付けています」

「スーパーシルフのユニットが前線基地にあるのか、キャノピーだってスーパーシルフ専用なんだぞ」

「地下工場で成形しているんです、何とかしてみせますわ」

「なぜロマーニャ基地に連絡をとって迎えを呼ばなかったんだ」

「申し訳ございません、通信不能なのです中尉。雪風の通信システムを使うのではどうでしょうか、私達には理解出来ないのです、いたるところに保護装置があるので」

さっきは通信出来たのに今は通信不能?ロマーニャ基地でなくても通じる場所はある筈、その癖に雪風の通信システムを作動せよとの誘いはいかにも胡散臭かった。

「君達は、味方なのか?」

「勿論ですとも、雪風の整備が終われば帰っていただきますわ」

「……喉が渇いたな、水か何か持ってきてくれないか」

「それでは流動食をお持ち致します」

「流動食だと?」

体力の回復にはこれが一番だと看護婦が持ってきた流動食は肉汁と野菜ジュースを混ぜたような酷い味だった。

無理矢理勧められて飲まされても三分の一も飲み込む事は出来なかった、もう結構だとグラスを突き返すと笑って女は外へ出ていった。

扉が閉まった事を確認すると胸元から拳銃を取り出した、口径は九ミリ、マガジンに十三発、スライドを引き薬室に一発装弾される、セイフティを解除。

これはまともではない、いつの日かと同じ、敵でなくても味方ではないならそれは敵だ。

腕につけられた航空時計を見れば既に十時間以上過ぎている、自身もまともや正常とは言えない状態にある、目を覚ます為のきっかけが必要だ、五里霧中を吹き晴らすような何かが。

そうだ、確かバーガディッシュ少尉とミーナ中佐も運び込まれている筈だ、どちらかでも会えればこの状況がはっきりするだろう。

もたれ掛かるように何とかドアまで辿り着き押し込むが開かない、このドアは引くのだと苛つく思いと共に体を起こして何とか扉を開く。

廊下は部屋と違って薄暗かった、部屋を出た途端に胃腸の不快感を覚えて堪える事も出来ずに胃の中の物を吐き出してしまう。

嘔吐しながらも、あの流動食が悪かったのだと脂汗をかきながら思った。

そのまま吐瀉物の上に倒れ込む訳にはいかず何とか部屋の床に倒れ込むことが出来た、先ほど以上の倦怠感と全身の発熱。

しかたなく俺は精一杯の声で看護婦を呼んだ、薄暗い廊下から先程の看護婦が現れる、ここには彼女しかいないのか?

「ウイルス性の疾患でしょう、フェアリィ症ですわね、分裂症に似た症状や幻覚を見たりする」

「違う……そんなものに感染していない」

「安心してください、休めばすぐに良くなりますわ。食欲はどうですか?」

言われれば俺は空腹だった、そもそも流動食もろくに飲めていないし吐き出してしまったからなおさら。

「よかった、食事が合わなかったようなので新しく持って来たんです」

入口に置いたままのワゴンから皿を看護婦は運んで移動式のテーブルの上において俺の目の前に近づけた。

スプーンを手に取って口許へ運ぶ、いい匂いがして美味かった、食事と評価できる料理をここでは初めて口に出来た。

「これはなんだ?」

「チキンブロス」

「チキン?インスタントだとは思えないな、フェアリィ星のチキンか?」

「中尉、あまり急いで食べるとお腹を壊しますよ」

チキンブロスを食べ終わる頃にヤザワ少佐が現れて、食器の下げられたベッドテーブルに小さい機器をを置いた。

「中尉もずっとここでは退屈だろう、雪風と遊びたくはないか?」

少佐の持ってきた小型のコンピューターには雪風の姿が映し出されていた、背景は白くぼやけていてよく分からない、どこかの整備室だろうか。

「このコンピュータはどんな周波数や波形でも作り出せる、雪風と話したければこれを使いたまえ、君なら雪風の保護装置を作動させずにコンタクトを取る方法を知っているだろう?」

「それをモニターをしようと言うのか?これではまるで―――」

ジャムみたいじゃないか、そう言いかけて全身が粟立つような寒気を感じた。

こいつらはジャムだ、間違いない。人間の前に初めて姿を現したジャムなのだ、ジャックが俺が行方不明になって俺をよろしく頼む等などと言って放置するわけがない、嘘だ。

「俺を雪風に会わせろ」

そう言って飛びだそうとした身体を少佐は凄まじく強い力でベッドに押さえつけてきた、その隙に再び看護婦によって腕に注射器が突き立てられる。

「お前達は……何者だ……」

「あなたの仲間ですよ、同じ有機系の」

「ちょいと違うけどな、馬鹿馬鹿しい手違いだった」

「中尉、ごめんなさい。α-アミノ酸D型だったのよね…チキンブロスは美味しかった?あれなら消化できるものね……」

再び意識は闇へ落ちていく、二人の声が聞こえていたが何を話していたのかまでは分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

特殊戦五番隊用のハンガーには漆黒の、蓮の花を思わせる様なフォルムの戦闘機がまるで獣が地に伏すように佇んでいた。

「これがFRX-00ですか」

「はい少佐、我々が最高傑作と認める世界最強の戦闘機、電子戦術魔導戦闘偵察機の一号機です」

「聞き間違いかな、魔道と聞こえたのだが」

「聞き間違えではありません、このFRX-00はFRX-99を有人機に改造した上で『ラムジェットストライカーユニット』を追加で搭載したハイブリッドのジェット戦闘機になります」

「ジェットストライカーを戦闘機に搭載したのか?あれはまだ未完成の技術では無かったのか?」

バルクホルン少佐が驚くのも無理はない、先日ジェットストライカーで生死に関わる事故が起きたばかりなのだ。

「ご安心ください、問題は全て解決済みです。FRX-00は補助としてウィッチの搭乗を前提として開発されましたが、ウィッチがいなくても戦闘機として運用する分には問題ありません」

ハルトマン中尉の説明は続く、本来であればジェットストライカーをファーンⅡに搭載しての実験を考えていたのだが軽量かつ機動性を重要視されるファーンⅡの機体強度では耐えきれず、またコンセプトからも外れる為に一度没案になったらしい。

それをFAFが持つ技術を全て継ぎ込み開発された高速離脱を目的とした新鋭機の話がシステム軍団から伝わり、技術検証機としてストライカー技術を盛り込んだのがこのFRX-00であると。

「色々メリットやデメリットはありますが他の部分はFRX-99と共通の仕様です、本格的な試験飛行の際は私も同乗してサポートしますのでご安心ください」

「自身を担保にするつもりか?ウルスラ中尉は戦闘機の操縦経験はあるのですか?」

「専門家には敵いませんがFAFの短期教育は受けていますよ、電子機器の操作もできます」

「分かった、今回はウルスラ中尉に任せず特殊戦の人間にパイロットを任せよう、俺も一緒に飛ぶ」

「少佐、いいのか?」

「仕方あるまい、今回は他の連中に任せても不安が残るからな。バルクホルン少佐は一度基地に戻ってくれ、何かあれば連絡する」

彼はただ迎えにいくだけだ、ブーメラン戦士は必ず帰る、だから例えどんなに時間が経っても深井中尉達も絶対に帰ってくる。

深井中尉とミーナ中佐にもまだ約束を果たしていないのだ、彼等は失ってはいけない人間だ。ジャムめ、絶対に取り返しに行くぞ。

その覚悟を見て取ったバルクホルン少佐は大人しく引き下がる、今頼れるのは彼等だけなのだから。

「……分かった、幸運を」

「必ず帰りますよ、俺もまだブーメラン戦士のつもりですからね」

時間は過ぎていく、FRX-00がフェアリィ星の空を飛ぶ、頂点に昇った日が落ち切る前に彼等を見つけ出さなければならない。

久しぶりに座る戦闘機のフライトオフィサ席から遥か向こうの地平をブッカー少佐は睨みつけた。

 

 

 




気付いたらUA10000越え、すっごくスゴイ嬉しいです!
多分次で終わります。


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17話 終

何かに呼ばれるかのように俺は再び目を覚ました、やはり先程と変わらず窓のない白い部屋の中。

体調が幾らか戻ったのか先程よりもふらつく事はない、躊躇わずに立ち上がり扉を開けて廊下に出た。

やはり同じ様に薄暗い廊下を片方に進めば行き止まりだった、仕方なく戻って反対側へ向かうと廊下の右側にナースステーションが見える。

左に曲がって幾らか進むとそこには鉄の扉が見えるが非常口だろうか、俺には病人を隔離する為の扉にしか見えない。

俺が出歩いていることに気付いたのか例の如く看護婦が嫌な足音を立てて現れた。

「失礼ですか、御手洗ですか?」

「バーガディッシュ少尉は、ミーナ中佐は何処だ」

「申し訳ございません、少尉は残念ながら……」

「死んだのか、ならミーナ中佐の下に案内しろ」

拳銃を看護婦に向ける、拳銃から装弾済みを示すピンが出ているのは確認済み。

「困りますわ中尉、今の貴方はまだ万全はない、顔色も悪いままですわ」

「そんな事は関係ない、お前はただミーナ中佐の居る場所に案内すればいい」

「ミーナ中佐はフェアリィ症が重く今は眠っていらっしゃるのです、回復を妨げる行為は容認出来ません」

「これは脅しではない、医療器具が揃っているなら多少の傷でも塞げるだろう。もう一度だけ言う、ミーナ中佐の下へ案内しろ」

「……分かりましたわ中尉、しかし絶対に騒いだりしないで下さいね、それと顔を見たら部屋に戻って安静になさって下さい」

「いいだろう」

拳銃は看護婦に狙いをつけたまま、看護婦の後を追ってミーナ中佐の部屋へ向かう。

来た道を戻りナースステーションを越えて俺の部屋の前を通り過ぎたその先に、先ほどまで存在しなかった筈の部屋の扉があった。

見落としたのか、しかしそれはあり得ない筈だ、気怠い体を支える様に廊下の壁を触りながら歩いたはずだからだ。

扉の段差位なら触れば気付く、考えてみれば廊下の長さも違うのかもしれない、再びあの不快な虫の羽音の様な音が廊下に響くような錯覚を覚える。

「こちらになります」

「俺が一人で入る、お前はここから離れて絶対に近寄るな、何かあればすぐに呼ぶ」

「中尉、それは―――」

「交渉するつもりはない、怪我した方が物覚えが良くなるならそうしてもいい」

「……繰り返すようですが、決して騒がない様にお願いいたします」

看護婦が廊下の闇に消えていくまで見送ってから部屋の扉をノック、返事は無かったが扉を開けて入る事にした。

ミーナ中佐は眠っていたようだった。時折うなされる様に身じろぎし、汗をかいたのか額に髪が張り付いている。

少しだけ揺らして声をかけたが深く眠っているようで、この部屋から出たら二度とここへ戻って来れない予感がした俺は仕方なく壁にもたれる様に座って目覚めを待つことにした。

扉のL型のドアノブの上に方位磁石を乗せて誰かが扉を開けようとすれば音で分かるようにして、拳銃を持ったまま警戒しつつ目を閉じる。

友軍を見捨ててでも必ず帰還する事、それが俺に与えられた至上命令だ。

だからミーナ中佐を置いたまま脱出しても誰に責められることもない、ジャムを相手にしては犠牲をなくして勝つことすら危ういのだから。

俺はクルト・フラッハフェルトを知っている、ただし会話をしたわけでも顔を合わせた事はない。

ダイナモ作戦、世紀の大規模撤退作戦、その中でカレーの基地がジャムによって焼き払われた。

俺はそれをジャムのターゲットにならない事を祈りながら上空から眺めていた、ウィッチは上層部の指令によって基地に人間が残っている事を隠して脱出させられた。

基地に残された人間が何を思ったのかは知らない、しかし当時は名前も知らなかった男は一人格納庫から出て上空を飛ぶ俺達に向かって手を振っていた、何かを叫んでいるようだった。

雪風のカメラは彼の姿を鮮明に捉えていたが、彼の発言は雪風の集音マイクを以てしても全く聞こえなかった。

彼は基地と共に焼かれて消えた、俺はただそれをずっと眺めていた。

 

 

 

「深井中尉?何故あなたがここに?」

もしかしたら寝ていた事にも気付かったかもしれない程の静寂の中にミーナ中佐の声が聞こえた事で目を開く、ミーナ中佐の声は掠れていたが体を起こせる程度には余裕が残っているようだった。

拳銃を持っていると警戒されるだろうと思いセーフティをかけてサイドテーブルに置いた。

「落ち着いて答えてくれ、自分の名前と階級と所属、生年月日を言えるか」

「……ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、カールスラント空軍中佐、第501統合航空戦闘団指令、1926年3月11日生まれ」

「ミーナ中佐、現状を何処まで理解しているか?」

「……ネウロイに襲われてから今まで気絶していて、さっき目が覚めたところよ、ここは何処なの?」

「一応は病室だ、体調はどうだ、動けるか?」

「ええ、気怠さは感じるけど動けると思うわ」

「ミーナ中佐、固有魔法は使えるか」

「ええ、今やってみるわ」

ミーナ中佐の固有魔法は『三次元空間把握能力』、一定の範囲に存在する人間やジャムの位置を把握できる能力である。

「……おかしいわね、魔法が使えないわ」

「何?ウィッチにそんな事が起きるものなのか」

「滅多に無いわ、例えばの話ですがこの空間にエーテルが存在しなかったら魔法は使えなくなる可能性はあるわ」

「ミーナ中佐、一緒に俺の部屋に来てくれ」

「何かあるの?」

「雪風にコンタクトを取る……落ち着いて聞いてくれ、ここはフェアリイ星じゃない可能性がある」

「……まさか地球へ連れていかれたの?」

「それは無い筈だ、地球に向かう為にはFAFの厳重な審査を突破しなければならない」

二人一緒に部屋を出て俺の部屋に戻る、ミーナ中佐をベッドに座らせて俺はサイドテーブルに置かれた小型のコンピューターを手に取る、画面に映る雪風にはキャノピが取り付けられていた。

「それは?」

「これで雪風にコンタクトを取るが気を付けろ、恐らくジャムが来る、しかも人型のジャムだ」

「人型のジャム?」

「確証はないが人間そっくりに化けたジャムだ、ここから脱出する際に躊躇うようなら置いていく、準備はいいか?」

「待って、もう少し詳しい情報が欲しい」

「恐らく俺達はジャムに攫われた、ここはエーテルが存在しない謎の空間、奴らの目的は雪風か雪風の持つ情報だ」

「分かったわ、それで雪風とコンタクトしてどうするの」

「ジャムを探させる、それで答えが全て分かる」

「……分かったわ、お願い」

小型のコンピューターを操作し雪風とコンタクトに成功したシステム音を確認するとメッセージを作成して発信。

『ジャムを探せ』

《JAM IS NEARBY / DANGER》

小型のコンピューターから発せられるのは、雪風が発した敵が近い事を知らせる警戒音。

小型コンピューターの電源を落とし念のために破壊した、間違いないここはジャムの基地だ、俺達を攫ってここまで連れて来た。

「ねぇ、何で壊してしまうの?」

「雪風の情報を守る為―――」

 

 

 

―――雪風にコンタクトを取るが気を付けろ、恐らくジャムが来る、しかも人型のジャムだ

 

 

 

俺は思わず飛んでその場から離れた、俺は拳銃を()()()()()に向けるが、彼女はまるで気にしていないかのように無表情でこちらを見ている。

俺と違いずっと眠っていた中佐、考えられるのはずっと投薬され眠らせていたのか、それとも()()()()()()()()()()

「ミーナ中佐、一つだけ頼みがある」

「何かしら」

「インカムを渡してくれないか、アンタのインカムなら外とも連絡できるかもしれない」

「……いいわ、こっちに取りに来て―――」

拳銃を発砲、ミーナ中佐の肩に命中して制服に穴を開ける、銃創からは血も流れず黒い穴がこちらを覗くだけだった。

「何をするの!」

「黙れ!ジャムめ!!!」

再度二発発砲、頭部に受けた一発を最後にミーナ中佐の様なものは動かなくなった。

しかし彼女の体に穴が開いたはずなのに彼女からは一滴たりとも赤い液体が流れる事は無かった。

看護婦の言葉がよみがえる、α-アミノ酸D型、確かにあの女はそう言った。

通常の人間はα-アミノ酸L型だ、α-アミノ酸D型は分子レベルで鏡面反転した光学異性体、目の前の中佐はD型ポリペプチドで出来た人間ではない化物なのだ。

扉を開け放ち廊下の奥にある鉄扉を開いて階段を駆け上がっていった、途中でよぎった考えが頭から離れない。

俺が飲まされた流動食は恐らくα-アミノ酸D型で出来た消化できない物質だったのだろう、では消化できるチキンブロスはどこから来たのか。

……恐らくはバーガディッシュ少尉だ、ミーナ中佐だったのかもしれない。

階段の先に四角く光が差し込む出口が見える、そこまでなんとか駆け上がり、そして外へ出た。

異様な光景だった、ベネツィアの前進基地と聞いていたが周りには森林があれど向こうは見渡せず、上にはセピア色の空と分厚い灰色の雲があるだけ、遠くの景色は霞んで消えたかのように何もなかった。

雪風は滑走路の上、地下の出口から四百メートル程の場所に雪風の姿を発見した―――その傍には一人の男が居た。

滑走を全力で走りながら男を呼び止めると振り返る男の姿、その男は深井零だった、深井中尉。

「ジャム!!」

ジャムの深井中尉から撃たれた脇腹に衝撃と激痛を感じるがすぐに応射した、深井零の形をしたジャム人間は崩れる様に倒れて動かなくなった。

脇腹の出血がひどい、なんとか失血を抑えるべく手で強圧したまま雪風に近づきラダーを昇った。

コックピットは無事のようだった、ふと違和感を感じてフライトオフィサ席を見た時誰かが座っていることに気付いた。

「誰だ!」

咄嗟に拳銃を向けるとそこには目を閉じて動かないミーナ中佐が居た、彼女はこちらの声にも反応せずまるで気絶しているかのようだった。

またジャム人間かと発砲しようかと思ったが気付いた、ミーナ中佐の左耳にインカムが装着されていた。

サバイバルキットの中からナイフを取り出しミーナ中佐の指の腹を軽く切ると赤い血液が流れた、少なくとも先ほどのジャム人間ではない。

俺はミーナ中佐のシートのハーネスが正しく取り付けられている事を確認すると雪風のコックピットに収まりエンジンをスタート、ECMを起動、雪風のエンジンが唸りをあげる。

「帰るぞ、雪風」

出血の止まらない俺の身体からどんどんと熱が奪われていくのが分かった、オードマニューバ、マスターアーム・スイッチをオン。

雪風は加速してリフトオフ、後ろを振り返るとまるで世界が崩壊するかの様に空と大地の全てが名状し難い何かに侵食されて消えていく、滑走路に一人だけを残したまま、あの金色の髪、あの姿。

「―――クルト・フラッハフェルト」

急速上昇、Gに押されて身体は更に悲鳴を上げる。突如として差し込む強烈な白い光、そして世界が開いていく。

気付けば俺は雪風と共にベネツィアの空を飛んでいた、どうやらフェアリイ星に帰って来れたらしい。

雪風が全身のセンサーと各種レーダーを駆使しつつ各所と通信を開始してデータの再設定を開始、速度や高度等の情報が環境に合わせた正しいものに調整される。

しかし脅威は去っていなかった、雪風のレーダーが後ろの敵機を捉えていた。IFF応答なし、ジャム製のスーパーシルフ(グレイシルフ)

警告なしのガン攻撃で右垂直尾翼と右エンジンが吹き飛ばされた、最早コントロール不能と感じて制御を手動に切り替えるも操作に反応する能力を雪風は既に持っていなかった、続けて左主翼も中程から破壊された。

雪風は奇跡的に森の木々をクッションにする様にして不時着した、衝撃で一瞬意識が飛んだが奇跡的に命を取り留めた。

ジャムからの攻撃は止んでいた、しかし去っていくのではなく上空でジャムが旋回を続けていた。

「雪風を解析する……つもりか」

俺は今更緊急脱出用レバーを引くつもりは無かった、雪風の自爆スイッチをオンにするが作動しない、自爆スイッチはフライトオフィサ席のスイッチもオンにしなければならない。

フライトオフィサ席にミーナ中佐が座っていることを思い出した、彼女まで巻き込む事はないだろうと考えミーナ中佐の座席を射出した、ここには俺と雪風が居ればいい。

雪風の後部から激しい炎が上がっている、このまま放っておいても燃料タンクに引火して俺ごと木っ端微塵に吹き飛ばすはずだ。

俺はゆっくりと目を閉じた、想像していた通りの、雪風と共に一緒に最期を迎える俺が望んだ終わり方だ。

ディスプレイから警告音、雪風が俺に別れを告げようとしているように思えて、俺は目を開いて霞む視界でディスプレイを捉えた。

味方機接近の表示、高速でこちらへ一機で飛んでくる戦術空軍機のシンボル。

「FRXとやらか……遅かった、遅かったよ」

もう何もかもがどうでもよかった、雪風と死ねるのだ、雪風は俺を裏切らなかった―――。

 

 

 

《LINK-FRX-00・05003 TRANS-CCIF》

 

 

 

「……何?」

雪風はこう言っていた、『特殊戦第五飛行戦隊機であるFRX00に、わたしの中枢機能を転送する』。

「雪風……」

止めろという声は全身の痛みに遮られた、雪風はこの機体を捨てるつもりだ、この俺という存在を捨てて。

ディスプレイに高速で1と0の羅列が流れていく、雪風の中枢情報がFRX-00に転送されていく、俺はそれを止める事が出来なかった。

転送終了の文字は見えなかった、雪風は転送を終えると機密保持の為に、自爆する際に不必要な俺という存在を外に射出したからだ。

射出された座席に付いていたパラシュートが俺を絡めとり、木々に引っかかって俺を縛り付けていた。

止めてくれ、まだあそこには雪風が居るんだ、俺をあそこで死なせてくれ……サバイバルキットのナイフは手元にない、仕舞う暇が無かったから捨ててしまった。

FRX-00がグレイシルフを撃墜した、雪風が放った空中波を受信した可能性があるから念入りに破壊する必要があったのだろう。

FRX-00は急旋回、対地攻撃用の軌道、FRX-00のガンがスーパーシルフに向けて短く火を噴いた。

スーパーシルフは胴体を粉砕されてそのまま燃料に引火して爆発、雪風であったスーパーシルフの金属片がベネツィアの空に舞う。

最早俺の意識は何も捉えて居なかった、存在意義を失われた俺は思考を放棄して意識を手放した。

FRX-00は完全自律飛行で深井零が放っていた救難信号をとらえて504JFW基地に送信した。

そのまま基地へ針路を変更する、FAFロマーニャ基地にFRX-00が帰還、TAISポッド六機の射出に成功、任務達成率百パーセント。

FAFロマーニャ基地の戦術コンピューターはFRX-00を雪風と認める、それはたぶんジャムも同じだった。

気絶したパイロット二人を乗せたまま雪風は自力で格納庫に戻っていく、明日の戦いに備える為に。

ベネツィアの森林地帯にて二名の要救助者を発見、うち一名は重傷の為に応急処置を施した後501JFW基地に運び込まれた。

しかし依然として二人の意識は戻らない。偶に目を開けて、そして閉じるだけ、植物人間や脳死状態ではないが意識レベルがあまりにも低過ぎた。

最先端の医療技術を持つFAFロマーニャ基地に移送されるも回復の兆しが見られず、長期の療養が必要と診断が下りる。

501JFWは一時的に504JFW戦闘隊長、竹井醇子大尉が指揮を取る事となる。

 

任務完了―――ブーメラン戦隊の帰還率、百パーセント。

 




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四章 ナイト・ウィッチ【再編集済み】
18話


深井零中尉とミーナ中佐が救出されて早二ヶ月、彼等は未だに目覚めずにいた。

身体の傷は早期の治療と宮藤軍曹との固有魔法によって全快と言える程の回復を見せたが、問題は意識の方だった。

担当医師曰く植物状態や昏睡とはまた違った状態にある、あくまで極僅かながらも意識が存在し何かしらの刺激を受けると微細な反応を示すらしい。

しかし何に反応するのかは分からず、何を以て回復するのかは検討が付かない状態だ。

「すみません、今日も頑張ってみたのですが……」

「いや、感謝するよ宮藤軍曹。何より深井中尉の命があるのは君のおかげだ」

「すみません……」

宮藤軍曹の固有魔法『治癒魔法』は病気であっても治す事が出来るとの記録があり、直接俺が出向いて協力を願い出た。

今では三日に一度のペースでFAFロマーニャ基地に来てもらい零とミーナ中佐に治癒魔法をかけて貰っている、しかし良化傾向は見られない。

可能性は幾つかある、一つは高次機能を司る中枢神経の治療は不得意である事、もう一つは精神や意志という形に無いものは直せないという事。

そして口にこそ出さないがもしかしたらと思う事もある、恐らく彼等は既に治っていると認識されており、治っているものを治す事が出来ないのではないかと。

それが彼等の身体自身の反応なのか、それとも宮藤軍曹の使う魔法の判定によるものなのかは分からないが、もしそうだとしても一向に事態は全く改善される事はない。

この二か月で状況は幾つかの点で大きく変わっていた。

一つは先日の深井中尉達が一度行方不明になった件で特殊戦が無人戦隊になる案が白紙になった、よって特殊戦は以前と同様に有人機による偵察任務に従事する事となる。

そして以前に提出した特殊戦と501JFWが密接に連携するプランがクーリィ准将によってある程度評価され、参謀会議で承認されるように文章を作成せよとの指令を受けた。

この時非常に面倒な問題が発生した、501JFWと連携するという事はそれを取りまとめている上層部との話し合いが必要になるのだが人類連合軍という組織が協力する際に非常に厄介な組織だと判明したからだ。

それは新世代型ジェットストライカー、ファーンST-W型が完成しこれを501JFWに配備した事に疑問を感じて詳細を調べた結果それが判明した。

ファーンST-W型の開発者及び担当者はノイエカールスラント協同技術開発センター所属のウルスラ中尉だった、公式記録上のレコードホルダー、エーリカ・ハルトマン中尉の実の妹だ。

元々彼女はカールスラント技術省のジェットストライカーの開発部門に所属していたらしいがある日、人類連合軍とFAFの協同技術開発センターからヘッドハントを受けている。

その点については全く問題はない、しかし今回501JFWに配備するに当たって怪しい点が見られるのだ。

ハルトマン中尉は元々カールスラント技術省に居た頃からジェットストライカーを開発していた、それがユニット名Me262V1、バルクホルン少佐が二度も事故に巻き込まれた曰く付きのユニットだ。

そしてMe262V1のテストフライトの結果を受けて他の開発中だったジェットストライカーは安全性の見直しの為に開発が一度遅れる事になる、その遅れている間に完成し実戦に向けて配備されたのがファーンST-W型だ。

そもそも人類連合軍とノイエカールスラント協同技術センターの立ち位置はどこにあるのか。

協同技術開発センターはFAFと人類連合軍による魔導兵器の協同開発の為の組織という事だが、本来の人類連合軍はあくまでジャム戦争において複数の国家間での連携と協力を円滑にするための仲介組織に過ぎない。

武力や資源等はそのまま国の保有するものであるし、人類連合軍に各国に対して干渉を行える権力はない。

しかし意見を通す為に各国への根回しを以て独自に活動する事もある、その一つが人類連合軍直属の統合航空戦闘団だ。

そう、元々人類連合軍は軍や政治に関わる事はあっても軍隊ではないのだ、それがいつの頃からか徐々に軍事力と権力を持つ様になり世界最高峰の戦力である統合航空戦闘団を抱えるまでに至ったのだ。

そして今回のジェットストライカーの件、Me262V1の事故は本当に防げなかったものなのかという事だ。

これがもし故意に引き起こされた事故なら人類連合軍がカールスラント製のジェットストライカーの配備を妨害し、尚且つFAFの技術がを各国に提供せずに独占して自らの組織の強化を図っている事を意味している。

しかもFAFの陰の参謀とも言われる特殊戦のネットワークを以てしても人類連合軍の構成メンバーの全貌や組織の実態を掴めずにいたのだ。

ここから察するに人類連合軍の構成員として名前が分かっている人間は表向きの仕事に準ずる人間か、あるいは窓口でしかない可能性がある。

もしかすればミーナ中佐がこれまで人類連合軍の一般構成員から受けていた圧力などは正体不明の人類連合軍の上層部に対して、人類連合軍が強大な戦力を持つことに対しての八つ当たりを受けていただけに過ぎない可能性すらある。

これではミーナ中佐も報われないだろう、もしも自分の正義が体よく人類連合軍の思惑に利用されていたのであれば。

もしかしたらミーナ中佐は知っていたのだろうか、自分がこれまで戦っていた組織と闇の大きさを。

これを解決する為には人類連合軍の一般の構成員との話し合いでは不可能だ、なにせ一般の構成員の大半は各国の将軍級である。

各国の代表一人一人に根回しをして協力を取り付けるのはFAFであっても不可能だ、ミーナ中佐であっても一人では無理だろう。

つまりストライクウィッチーズの現状を変え、協力体制を整える為にはミーナ中佐を窓口にして501JFWの立ち上げに関わっている人間を辿り上級幹部に話を取り付けるしか方法がない、この様な事情があり501JFWと連携の書類は未だ未完成のままである、何せ人類連合軍の上層部との話し合いの場を設ける為の道筋が不明瞭なのだから。

クーリィ准将がこの事を知らないわけがあるまい、だからあえて一戦闘指揮官でしかない俺にこの件を任せて調べる様に仕向けた、まったく意地の悪い事だと一つ舌打ちをした。

話が戻るが更にもう一つ変わった点がある、FRX-00が正式にB-3雪風として特殊戦に配備された事だ。

先日の深井零中尉失踪事件、あの時零を探す為に飛ばしたFRX-00には特殊戦十三番機パイロットのサミア大尉と俺が乗っていた。

しかし突然FRX-00がコントロールを奪われてとてつもない速度で加速した、その時俺は今までに培ってきた経験によるものなのか嫌な予感がして咄嗟に首と頭を守ったが、ディスプレイを覗き込んで居たサミア大尉は急加速によるGで頚椎を折って死亡した。

コントロールを奪取してFRX-00を自分の所まで誘導した雪風は空中波のダミーを噛ませ、攻撃管制レーダーを用いて己の中枢データをFRX-00に転送した。

雪風と同じ特殊戦機の機能構造体を持つ機体同士だから出来たこの方法でも雪風にとっては油断できない状態だったに違いない、その証拠に転送が完了してまず初めにジャムを即時撃墜している、雪風の情報を他のジャム機に送信されるその前に。

その後雪風は自動操縦で基地に帰投したが、その前にFAFロマーニャ基地に投げかけたメッセージは異質なものであった。

 

〈DE YUKIKAZE ETA 2146.AR〉

 

こちら雪風、基地帰投予定時刻2146、以上。

雪風にとってFRX-00は自らを内包する機体を示すB-3ではなかった、だから自分は自分であると、雪風であるとしか記しようがなかったのだ。

そしてロマーニャ基地の戦術コンピューターはFRX-00を雪風である事を認め、そのまま改めてFRX-00と雪風は改めて特殊戦三番機となった。

 

 

 

「ブッカー少佐、開発ナンバーFRX-00及び形式番号FFR-44MR、メイヴの説明をさせて頂きます」

メイヴは無人機のFRX-99を有人機に改造した上でラムジェットストライカーユニットを追加で搭載し、フライトオフィサ席を換装可能なオプションとしてストライカーユニット型コックピットを取り付ける事が出来る。

これによってメイヴは気化燃料ジェットと魔導ジェットの計四発のエンジンを搭載する事になる、なおどちらも大気が必要であり、ジェットストライカーにはエーテルも欠かせない。

メリットとしてウィッチが搭乗する事によってシールドや強化された固有魔法を使用する事が可能になる上で機体強度を魔力で補強する事が出来る。

さらにウィッチの魔力を使用してジェットストライカーを使用する事で増槽のように燃料の節約が可能となり航続距離も増える。

そして飛行中に条件を満たす場合は新技術のラムジェットストライカーシステムを使用する事で上部二基と下部一基のエアインテークから取り入れた大気からエーテルと酸素をそれぞれ取り入れ、ジェットエンジンとジェットストライカーの燃焼効率を上昇させ短時間ではあるがマッハ3.4まで加速する事が可能になる。

デメリットとして、FRX-99で得られた機体軽量化の恩恵は失われている、ただしその上でもパイロットが首を折って死ぬ程の加速性能を保持しているので有人機としてはそこまで問題は見られない。

またその構造上フライトオフィサ席にウィッチが座る事になるので知識のないウィッチではFOの役目をこなせない、こちらはシステム軍団によって知識を持ったウィッチを用意されているので解決済み。

ジェットストライカーユニットは大気に含まれるエーテルを使用する為に大気が極端に薄い場所と地球では使用不可能、これについては対抗策を準備中。

「等々とあるのですが、一番大きいデメリットがあるのです」

「それは何かな、ハルトマン中尉」

「パイロットが一番機体性能に制限をかけてしまい、それならばとパイロットもウィッチにしてしまうと普通にジェットストライカーを使えばいいじゃないかという話になってしまう点ですね。ただでさえウィッチは貴重なのに、そもそもこの機体はFAFの訓練を受けたウィッチの搭乗が望ましいという点が本来であればとても厳しいのです」

「それはそうだろうな、そもそもFAFにウィッチは居ない事になっているからな」

「はい、なのでこの機体は量産に向いていません、今後もメイヴは限られた数で運用されることになるでしょう」

「君達は、協同技術開発センターはそれで構わないのか?」

「はい、私達としては量産型メイヴの為の技術検証機の意味合いが強いので問題ありません」

「動けば御の字という事か?随分と怖いものを作る、Me262V1の様にならない様に祈るよ」

「今回はFRX-99が元になっていますから新たに欠陥が見つからない限り心配はありません、というより余り言いたくはありませんが新型機には前代未聞の事故は付き物ですよ少佐」

「本当に安心させる気があるのか、気になってしょうがないね」

 

 

 

メイヴは現在無人飛行で偵察任務を行っている、並のパイロットでは雪風を操り切れない。

だから早く零、早く眼を覚ましてくれ。お前がずっと眠っている間に状況はどんどんと変わっているんだ、じゃないとお前、雪風においていかれるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

FAFロマーニャ基地を訪れるのはこれが初めてではない、何度か物資の補給の為に訪れているし物珍しい物を求めて501JFWのみんなで休暇を利用した事もある。

特に異世界の文化を取り入れた物は私達にとってとても興味を惹かれるものだ、眺めているだけでも楽しいし、今も音に合わせて踊る花を見つけてつい足を止めてしまう。

待ち合わせの時間に少々余裕があるのはバルクホルンさんが気を利かせてくれたからで、本来であればすぐに基地に戻り緊急事態に備える所をこうして羽を伸ばさせてくれる、勿論ネウロイ出現予報が低い確率を示している時に限るのだが。

そんなバルクホルンさんの好意に甘えさせて貰いこうして少ないながら小遣いも持ち込んでいる、特に給料を全てガリア復旧に充てているペリーヌさんには紅茶の一つでも土産にしよう。

「み~やふ~じちゃん♪」

「ふえ!?」

首筋に当てられる突然の冷気に体が飛びあがる、勢いよく振り向けばフェルさんが悪戯が成功した子供のような笑顔で体を寄せていた、その手にはおそらくよく冷えた缶コーヒーが一つ。

「アハハ!驚き過ぎよぉ宮藤ちゃんったら!」

「フェル隊長……、さすがにいきなりは駄目ですよ」

「も、もう!びっくりしましたよ……」

先日まで一時的に501JFWに派遣されていた赤ズボン隊の三人がそこに居た、それぞれが手に持つ紙袋を見て恐らく補給で来ているのだろう。

「どう?ミーナ隊長の体調は」

「あまり経過は芳しくなくて…一体何が悪いのかも分からないまま……」

「宮藤ちゃん…」

フェルさん以外の二人も私を慰めるように背中に手を一つ、私とミーナ中佐を慮る様に目線を下げたフェルさんもいつもの勝気な表情を私に向ける。

「偶には息抜きも必要よ宮藤ちゃん、幸いな事にここには色々な物も揃って――――」

その時、フェルさんの声を遮る様にジェット音が一つ、FAFの戦闘機が飛び立っていく音が解放区画に響いた。

「あー…あれさえなければもっと人気が出るだろうにねぇ」

「そうそう!僕も地元でサッカーしてた時も上からゴゴーッ!ってさぁ!!」

「あれは…中々慣れませんよね…」

赤ズボン隊の三人は嫌な事を思い出したかのように溜息を吐く、せっかく私を励まそうとしてくれていたので何だかこちらが申し訳ない気分になる。

「私も比較的地元にFAFの基地が近かったのですが、慣れるものではなかったです」

「あれ?扶桑にもFAFの基地があるの?」

「扶桑海事変みたいな事もあったけど、それ以外は大きな事件は無かったような?」

「坂本さんから聞いた話だと、何でも輸送機を使って輸入した物を運ぶとコストが大きくなるから輸送船の中継地点として設置しているそうです」

「あれ、フェル隊長、FAFは海の乗り物禁止じゃないの?」

「海上における武力及び船舶の武装を禁止しているのよ、輸送船は含まれないわ」

「え!?ネウロイに襲われたらどうするのさ」

「そのためのフェアリィ空軍でしょうが。まあ被害を食い止められない事もあるみたいよ、最近もFAFの補給拠点の基地がミサイル一発で吹き飛んだらしいし」

「あーそれ私も聞いた!戦闘機が十機以上も吹き飛んだやつでしょ?でも基地再建は始まってるし、戦闘機の数が減ったようにも見えないしFAFってスゴイよねぇ、別に素人パイロットだけが乗っているわけでもないんでしょ?」

訓練は一日にして成らず、いつも坂本さんが言っている事だ。天才肌のルッキーニちゃんはともかく501のエース達はそれ相応の経験を積んで前線で活躍している。

「FAFだって人間…やはり無敵の軍隊ではないんですね」

「そりゃあ性能がいいのは認めるわよ、でもそれでネウロイに勝てるわけじゃないって事ね」

「やっぱり僕たちが戦わないとね!でもFAFならネウロイを蹴っても壊れないストライカーとか作れないかな?」

「そもそも蹴るのを止めなさい!!!」

姦しい三人の姿にクスリと失笑する、おかげで落ち込んだ気分も幾らか晴れた。

「皆さんありがとうございます、少し元気になりました」

「宮藤ちゃんには借りが在るからねぇ、困ったことがあったらまた言いなさい」

「ええ、機会があればいつか」

手を振って三人と別れる、時間を確認すれば集合時間まであともう少し、お土産を買う時間はまだ残されていた。

購入した荷物をトラックに積んでもらい運転手に出発の意思を告げるとシャーリーさんとは違う大人しい速度で走り出す、私の膝の上では音に合わせて花がゆらゆらと踊っていた。




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19話

頭を抱えたくなるような問題が未だ山積みのまま今日もデスクの前で固まっていた。

深く悩むたびにFRX-00に乗った時に痛めた頸部が痛む、神経ブロックも考えたが特殊戦の主治医は酒が入った最初の五分間しかまともに働けない。

深井中尉は車椅子に乗ってブッカー少佐のデスクの傍にいた、こうして毎日一時間程は連れ出すようにしていた。

病院に居れば病人だが零は戦士だ、特殊戦のエリアに居ればこそ戦士にふさわしいだろうと俺は考えていた、少しでも多くの刺激を与えて零の目覚めを祈る為に。

気分を変える為にカップを二つ取り出しココアを注いでデスクに戻る、飲むか?と零に聞いた。

零は応えなかった、僅かに目を開けてはいるが身じろぎすらしない。

「特殊戦はFAFの陰の参謀と言われているのにココアを入れるのも洗うのもセルフサービスだ、気の利いた美人の秘書が欲しいものだ、お前もそうは思わないか?」

俺には関係ない、それはあんたの問題だろう、お前ならきっとそう言うだろう。

この二か月の間に零の様子には殆ど変化は見られない、それでも雪風の名前には反応しているような時もあり目を閉じたままでも微かに動く時もあるのだ。

これまでに二度だけ目を開いた事があった、外界との何に零が反応するか知りたかった俺は零の頭に脳波をリアルタイムでモニターし、ロマーニャ基地の何処にいても戦術コンピューターが受信できるように設定した装置を取り付けた。

「零、信じられるか?お前は今特殊戦が誇る戦術コンピューターがモニターしている、それだけお前は注目されているんだ」

俺の声に対してやはり無言、未だに零が外界の刺激に反応しているというデータは取れていない。

しかし自分が話した内容や外で何かが起きた時に脳波と相関を見つけ出す事が出来れば、俺はそれを会話かコミュニケーションだと言えるだろう。

FAFの技術力があっても思考を読み取り言語化する装置は開発されていない、現時点で似たような装置としてはパイロットの視線をメインディスプレイの上に内蔵されたカメラが認識して命令を入力する前に自動で実行する装置はあるが、あれはあくまで蓄積された情報からそれらしい行動を取るだけの簡単なプログラムでしかない。

しかしいずれ開発され思考だけで緊急脱出レバーを引かずとも脱出したり、戦闘機を操作する事も可能になるだろう。

「零、涙ぐましい努力と言われても俺はお前とのデブリーフィングを終えるまでは続けるからな、お前の口から聴きたい事が色々あるんだ」

今日は宮藤軍曹の治療を受ける日だ、それが終われば筋力が低下しないよう他動的にトレーニングを受けさせる。

「なあそろそろ目を覚ませよ、あの時お前は何を見たんだ、空白の数時間の中で。答えろよ、親友だろう、お前は何もおかしくなってないんだ、後はお前が目を覚ませばそれだけいいんだ、頼むよ……なあ……零」

ノック音、俺はとりあえず「入れ」と言ってココアを飲み干した、入って来たのは意外な人物だった

「クーリィ准将」

特殊戦のボス、我らが戦士達の長、特殊戦の実質的なトップであるクーリィ准将だ。

俺はすぐさま敬礼し先ほどまで座っていたデスクの椅子を勧めた、簡易的なソファはミーナ中佐が帰った後に片づけてしまい後はパイプ椅子位しかないこの部屋には気の利いた来客用の椅子はない。

「邪魔したかしら」

「はい、いいえ准将。ただ本日お越しになるとは聞いていなかったもので」

「そうでしょうね、言ってなかったから」

准将は近視用の眼鏡に手をやりながらそう言ってのけた後、デスクの傍に座る零の姿を見た。

「零は邪魔でしょうか、そろそろ宮藤軍曹の治癒魔法をお願いしようと思っていたのですが」

「構わないわ、深井中尉はそのままでいい」

「であれば、零に何か用事でしょうか」

「情報軍が深井中尉をいつまでこのままにするのかと言ってきているのよ」

システム軍団のウィッチの件といい、501JFWの件といい、この人はいつも面倒な事ばかり持ってくる。

「まだ諦めていないのですか、零は特殊戦に必要な人間だ、情報軍には渡せませんよ」

「彼はパイロット、飛ばない人間を置いておけないと突っかかってくるのよ」

「飛びますよ、飛ばせて見せます」

クーリィ准将はデスクの席に座り、俺にコーヒーを淹れるように手の動きで指示をする、熱いブラックコーヒー。

「少佐、貴方が努力しているのは私もよく知っているわ、私も優秀なパイロットを失いたくない」

「そうでしょうとも、情報軍に今の零を渡せば本格的に植物人間にされて情報を引き出す為に非人道的に弄られる事になるでしょう」

「情報軍は苛立っているのよ、中尉がこの様な状態になってからどれくらい経つか分かるかしら?」

「二か月です、准将」

「深井中尉のFAF軍人として扱いはもうじき解消される」

「……退役が迫っているというわけですね、軍役期間が切れる、しかし零は延長を申し出るでしょう」

「本人の意思がなければそれは通らないわ、ただ軍役期間が過ぎた時点で深井中尉は一般人となる、特殊戦に留めておけなくなるわ」

「しかしそれなら零は一般人として日本に戻る筈だ、情報軍ならそれが出来るとでも」

「FAFに協力する一般人としてとか、機密情報の保護の為の処置とかやり様はいくらでもあるわ。勘違いしてはいけない、そもそも軍隊と軍人は正義や秩序の守り手という事ではない。やろうと思えば情報軍は何とでもするでしょう、ただ特殊戦にとっては彼を引き留めておく名目がない。私は特殊戦の司令だが特殊戦の直属の長は戦術戦闘航空団の司令よ、私は特殊戦の副司令でしかない」

「特殊戦は独立した司令部と、各基地における独自の権力を持っているというのに」

「特殊戦が下に見られているのではない、ただFAFはまだ若い、特殊戦が出来るまでFAFの戦争がどれだけ粗末だったか貴方も知っているでしょう。どんどんと膨れ上がっていく己の力に振り回されて内部組織の編成が追い付かないでいる。そして結論から言えば一か月後までに深井中尉を手ばさなければならない」

「その前に深井中尉にサインをさせよ、という事ですか」

「出来るか」

「肉体上は問題ありません、504JFWのウィッチに発見されたのが良かった。早期の応急処置によって一命をとりとめた、実際零は殆ど死体同然だったそうですから」

「貴方には期待している、深井中尉はFAFの銃弾によって負傷していた。バーガディッシュ少尉に撃たれたのか、彼は何処へ消えたのか、中尉が何を見たのか、それが知りたい。特殊戦が出来る事ならなんでもする、結果を出しなさい、質問は」

「ありません准将」

「よろしい」

言い切って初めてコーヒーに口を付ける准将、頷いても立ち上がる様子は見られない。

「それで、本題の方は」

「幾つかあるのだけど、ベネツィア戦線の戦況分析の方はどうなっているのかしら、特にフェアリイ星全体でシルフィードの損傷がここでは特に多くなっている」

「それは後ほどの戦術作戦ブリーフィングでその時にでも」

「貴方の意見を、それも私見を聞いておきたいのよ。その為に態々内緒でここに来たのだから」

ある意味では特殊戦とFAFの危機だった、いつもの余裕と自信に溢れた准将がここまで弱気になるのは特殊戦のスーパーシルフが初めてジャムによって撃墜されたからだろう。

シルフィードの改造機に含まれるが、ほぼ新設計で製造されたフェアリイ星最強の戦闘機であるスーパーシルフ、これが撃墜される事はつまりFAFの戦力そのものがジャムに後れを取っている可能性が出て来たわけだからだ。

確かにこれはマズイ事だ、特殊戦はジャムの情報を偵察し確実に持ち帰る戦隊でなければならない。

「……准将は他の戦線にも目を通されていると思いますがベネツィア戦線は酷いものですよ、他の戦線は一週間に一度ほどの襲撃なのにベネツィア戦線は当然の様に一週間の内に二回以上、しかも数機で編隊を組むような周到さ。高機動型、電子戦型、ステルス型、超高速ミサイル及びミサイルキャリア―型、核武装型、対地爆撃型等と種類も豊富で対応が遅れたという事もありますが問題はそこではありません、それだけならなんとでもなる」

FAFの強みは武装の性能と速度を活かした機動力(モビリティ)だ、アウトレンジからのミサイルでジャムをコアごと粉砕しビームは機動力で躱す、それでも生きていたら数を活かした殲滅戦を行う。

一方でストライクウィッチーズやウィッチの強みは魔力を活かした戦闘スタイルだ、魔力が込められた弾薬は威力が増強された上でジャムの回復を阻害し、敵の攻撃はシールドで防げる。その上でストライカーユニットの空中戦闘機動(マニューバビリティ)はファーンⅡやメイヴを一部上回る程の性能を持つ。

つまりは対ジャム戦においてこれまで負けなかったのは単純に言えばアウトレンジではFAFが強く、ドグファイトではウィッチが有利()()()()()()

それがいつの間にか多種多様で現代的なジャムの出現によって人類の、正確にはベネツィア戦線の優勢は崩れた。

「被害が増えている原因としてはまずジャムの機体強度が向上している点が見られます、これまではミサイルやガトリングの特殊弾頭によって無理やり粉砕していましたが一撃で致命傷を与えるのが難しくなっています。そしてジャムの機動力の向上、これらによってこちらのアウトレンジ戦法を掻い潜りドグファイトに引きずり込まれる事も多くなりました、FAF機は正面以外からも放たれるビームは非常に脅威ですからね」

「シルフィードの撃墜が増えている件についてはどうなっているのかしら、雪風が関係しているのでは?」

「雪風はジャムに自分の情報を取られるようなヘマはしません、雪風の情報を読み取るには雪風と同じ機械知性体の構造と受信したデータをリアルタイムで解析する装置が必要になる、そして雪風の情報を盗み取ろうとしたジャムは雪風によって即撃墜されている。単純にジャムが他のシルフィードから対策を会得したと考えた方が納得できる」

「それではシルフィードがジャムによる被害を受ける原因とは何かしら」

「シルフィードはファーンⅡ等の新鋭機の繋ぎとして量産され、ここ最近何度か合理的な改修を受けている、合理的という事は簡易的になる事で機体強度や他の部分を犠牲にしている、そこから生まれた欠陥を突かれたのではないでしょうか」

「旧式のシルフィードも撃墜されている、これについては」

「機体の問題でなければパイロットの問題でしょう、人的資源の教育と選別は何より時間が必要になる、高性能機を操るパイロットとなれば特に」

「現時点での対策はあるのかしら?」

「言ってしまえばシルフの情報が洩れたとしてもさほど問題ではありません、どの道古いデータでしかありませんから。特殊戦はFRX-101を、出来るならFRX-00を量産しこれを導入すべきだ」

「FRX-101はFRX-00の魔導ユニットを外したFRX-99の有人機型、それはいいけどFRX-00を量産してもウィッチが居ないでしょう」

「ナイトウィッチ、ロンバート大佐から話は聞いていますよ」

「成程、少佐ならストライクウィッチーズか人類連合軍のウィッチを乗せると言うかと思ったが、貴方はそれでいいのね?」

「……ええ、今のところは」

「特殊戦五番隊、戦隊指揮官の貴方は無人部隊ではなく有人機を今後も使っていく、それで構わないか」

「人間は必要ですよ、情報を得る手段は多いに限る。それに人間の直観は精密ではないが正確ですよ、めったに故障しない」

そう言って車椅子に座ったままの零を見る、俺や准将がここまで弱気になっているのはお前がそんなだからだぞ。

「そろそろミーティングね、特殊戦五番隊は今後どうするつもりかしら」

「雪風を飛ばせます、FRX-00を」

「パイロットは」

「無人で、です」

「先程言った事と矛盾している様だけど」

「雪風は他の無人化された機体やFRX-99とは違います。あれは零の血と魂を取り込んだ『雪風』ですよ、雪風だってシルフの損耗が増えているのが自分のせいにされるのは我慢ならない筈だ、ジャムと戦いたくて今頃うずうずしているでしょう」

「了解した、少佐。ジャムに勝つためなら特殊戦は何でもやる、私が許すかぎりなんでもやり給え」

「ありがとうございます、准将」

「それと、ストライクウィッチーズの件だけども調べてみたかしら」

ここでその話が出るとは思わなかったがやはり難しい問題だという事を教える為だったのだろう、実際難しい問題だ。

「もし深井中尉とミーナ中佐が目覚めたなら、そして貴方に覚悟があるなら私がなんとかしてみせましょう」

「出来るのですか?」

「さっきも言った通り貴方に覚悟があるのならね、本当の人類連合軍と関わるというのはそう言う事よ」

「准将は人類連合軍の内情を知っているのですか」

「何も聞かずに覚悟は決まったのかしら?」

「はい、いいえ准将、失礼いたしました」

「冗談よ、人類連合軍も雪風と深井中尉にとても興味を抱いている、それを利用して話を通せば問題ないわ」

やはりフェアリイ星の正体不明の組織、人類連合軍は戦闘力、技術力等あらゆる点でフェアリイ星の勢力を上回るFAFであっても与する事は出来ない組織のようだ。

話を終えた准将はこちらの声を聞く間もなく退室していった、どうやら特殊戦の女王様は調子が戻ったらしい。

准将から言質は取った、明日には深井中尉を雪風に乗せて飛ばせよう、医者からは危険だと言われるかもしれないがそれでもかまわない。

まずは雪風を戦闘偵察任務に復帰させる事から始める。見てろよ零、雪風が戦闘任務に復帰する姿を見せてやるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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20話

501JFWが結成されて初めて就いた任務はガリア戦線、ネウロイの巣から週に一回ほどの頻度で現れる航空型ネウロイの撃墜だった。

あの頃は出来たばかりの組織でダイナモ作戦の傷痕が残るミーナもトゥルーデも皆が焦っていて、初めて会う人間同士の関係も今より浅かった501JFWは非常に危うい状態にあった。

私だって無関係では居られない、それでもミーナとトゥルーデから目を話すわけにはいけない私には出来る事には限りがあって、あの時501JFWに宮藤が来なかったら今このベネツィア戦線で戦い続ける事は不可能だったと思う。

今のベネツィア戦線は異常だった、もしもネウロイを一機でも撃ち漏らせばロマーニャは決して軽くない損害を受けることだろう。

一度ではあったが私達五人を一時とはいえ後方送りにした核武装型ネウロイ、これが例えば重要な補給拠点を爆撃されれば補給は今以上に困窮した事だろう、FAF軍人曰く核物質はネウロイの瘴気の様に土地を汚染するらしいので土地の復旧もかなり時間がかかるという話も聞いた。

私達は魔力の障壁があったから今のところ問題なく復帰したが坂本少佐の病状は重く、無念にもリタイアせざるを得なくなってしまった、僚機を失わない事を目指す私にとっては非常に許しがたい事態だった。

一週間に二回以上、多いときは四回程訪れるベネツィア戦線のネウロイ達、同じネウロイが現れる事は余りないがまたあの核武装をしたネウロイが現れないとは限らない。

どれもこれも自分達の様なエースでなければ越えられない出撃であった、しかし我々の敵はネウロイだけではない。

常に後手に回り、臨機応変を求められる事によって蓄積する疲労とストレス、特に実戦経験の浅い宮藤やリーネ達はそれが顕著に見られパフォーマンスが低下する事もあった。

そして食料やストライカー等の補給が非常に心細くなっていた事、一時期は破損したストライカーや武装を放棄する事すら厳重注意となる有様だった。

しかし補給の件は私の妹であるウルスラ、そしてロマーニャ皇室との関わりがあったルッキーニと504JFW隊長のフェデリカ中佐によって解決の目途がたった。

501JFWが再結成して早四ヶ月、慌ただしく日々が過ぎていっても人類連合軍へ提出される報告書の締めはいつもと同じ、ベネツィア戦線異状なし。

「結構ピンチだよね……これ」

以前ミーナとトゥルーデと話していた様に現状維持は不可能であり、ジリ貧が解消されてもウィッチの替えが効かないのは変わらないままだ。

解決手段は幾つか存在する、一つはウィッチの数を増やす事だがそもそもベネツィア戦線はJFW三部隊による布陣が敷かれている、その上で新たな人材を要求しても上層部はいい顔をしないだろう。

さらに新たに加わるウィッチには幾つかのハードルを超えて貰う必要がある、即戦力であり実力と才能があり、そして何より協調性がある事だ。

任務の特性上少数で動く特殊戦と違って私達には協調性が重要だ、独り善がりのソロプレイは簡単に命を落とす、501JFWの初期メンバーだったラウラ・トート少尉もトゥルーデの苦言によって――不本意ではあったが――異動させられている。

当時のトゥルーデもそこそこ危ない感じだったけどね、あんまり弄ると顔を真っ赤にして怒るから口には出さないけど。

それはともかくそんな人材をみすみす手放す部隊は無く、尚且つ新人をこの激戦地に呼んで教育と援護を行いながら育てる余裕はない。

つまりはこのままの状態で遣り繰りしていく他ない、あれ?結局ジリ貧のままじゃない?

しかし遂にノイエカールスラント合同技術開発センターから501JFWに支援物資が届いた、こういうのが得意な私の妹が開発した新世代型のジェットストライカーだ。

ファーンST-W型、STはストライカーユニットを意味し、その後にバージョンを示す英字を付けるのだが、初めからWが付けられているのはウルスラが世界初の採用機にはストライクウィッチーズをもじって付けたかったらしくあくまで501JFW専用という訳ではないとの事。

こうして501JFWにジェットストライカーが来たわけだが何せ初の採用となるので実戦のデータが無さすぎる、501JFWでどのように運用されるかも決まっていないのだ。

「あーもーめんどくさーい!!……なんて言ってられないよね」

人には役割というものがあると私は思っている、私が後ろに下がってだらしない姿を見せているのもそういう役割を演じているからだ、7割位は素が出ている気もするけど。

でも今ミーナはずっと眠ったままだ、いつ目覚めるのかも分からない、でもミーナは絶対に帰って来る。

「だからミーナ、私もミーナも分も頑張るからね」

 

 

 

 

 

 

「全員揃っていますね、それでは会議を始めます」

ブリーフィングルームの壇上に立つのは501JFW臨時司令となった竹井醇子大尉だ、ただし臨時司令の内は中佐として扱われる。

竹井大尉もかつては扶桑海事変を乗り越えた古強者であり、坂本少佐と同じくリバウの三羽烏に数えられる扶桑の英雄の一人だ、その英雄に対して不満はない。

本来であればトゥルーデが司令となりイェーガー大尉が戦闘隊長となる筈だが、司令は人類連合軍とのやり取りが必要である為に現状それが可能で501JFWと交流のあった竹井大尉が人類連合軍から推薦されトゥルーデはそれを受け入れた。

彼女もあくまでミーナが戻ってくるまでの繋ぎとしてのスタンスを保っている為501JFWは空中分解せずに維持できている、いずれはこの様な事が起きない様に部隊内で教育が行われるだろう、例えば先述通り気儘なシャーリーが戦闘隊長を出来る様にするとか。

「今回の会議は、ジェットストライカーを501JFWでどのように運用していくかの確認です」

「竹井中佐、ジェットストライカーに切り替える際に何が問題として上げられるのか?」

「そうですね、その話に入る為にはジェットストライカーの利点と欠点を考えねばなりません」

竹井中佐が黒板にその内容を書き出していく、ファーンST-W型は後出されるであろうジェットストライカーの基礎となるべく様々な任務に対応出来る様に開発されている。

各部にハードポイントを備えておりロケット弾やガトリング等の武装や増槽を取り付け可能、そして試験的な装備として疑似魔導針発生装置を標準搭載している。

疑似魔導針は所謂レーダーの事で、訓練が必要だがネウロイの発する特殊なノイズやレーダー波を探知したりウィッチ同士や様々な施設との長距離通信を可能にする、さらに基地からの電波誘導を受ける事が出来るので緊急時でも生存能力が向上する。

さらに統一されたストライカーユニットを使用する事で整備性も抜群だ、非常時であってもニコイチ、サンコイチが出来るので継戦性も向上する。

そしてジェットストライカーの利点と言えばやはりその速度と膂力の強化による火力向上だ、それではジェットストライカーの欠点とは一体何か。

「例えば航続距離と燃費の問題、これはジェットストライカーの欠点というよりはレシプロストライカーが優れているという利点です。サーニャさんの様に夜間哨戒を行う際等の早期警戒機としての任であればレシプロストライカーの方が有効ですね」

サーニャの広域探査魔法ならネウロイ出現時の距離は関係ない、スクランブル発進するウィッチにこそジェットストライカーが必要になる。

加えてジェットストライカーは戦闘力は高いが地上部隊との連携等の汎用性や細かい制動、限られた空間で動く際にはレシプロストライカーの方が有利である。

「威力偵察ならジェットでもいいかもな」

「つまり基本的にはジェットストライカー、特殊な任務ではレシプロストライカーも使うという事だな」

シャーリーとトゥルーデも真剣に考察している、意地を張らなければ気が合う二人ではあると思うんだけど普段がね……。

「一応ジェットストライカーの航続距離を延ばすプランも協同技術センターから届いています、推進剤とロケットブースターを合わせた緊急発進用の増槽、コードネームは【V1】、汎用式非魔力依存の『プロペラントパック』です。後は爆撃機を改造してウィッチを投下するプランもあります。ついでにストライカーユニット二組を横並びに繋げて四発にした二人で装備するユニット案もウルスラ中尉から届いているのですが」

 

えぇ……………。

 

「駄目だろ」

「駄目ですわ」

「駄目じゃない?」

「あの……駄目だと思います」

「赤トンボ*1じゃ駄目なんですか」

「絶対に途中で折れるだろソレ」

「燃費良くても実質一人分の手が減るよね」

おお妹よ、何故FAFの技術力に触れてその発想が出てしまうのだ、悪い技術者に汚染でもされたのだろうか。

「それは忘れるとしてジェットストライカー用の新武装が届いています」

続けて黒板に用紙が張り出される、そこには幾つかの武器の画像と詳細が並べられている。

「まずはカノン砲ですがBK-5 50mmカノン砲の汎用性とメンテナンス性を向上させる為に開発されたMG213 30mmカノン砲です、反動も軽減されリボルバー式になっているので信頼性も上がっています。これは問題なければリネット曹長に使用して貰おうと思います」

「は、はい!頑張ります!」

「次にリトヴャク中尉も使用しているフリーガーハマー及びロケット弾、これは元々優秀な兵器なのでジェットストライカーのハードポイントに取り付けて全員が使える様にするプランが出ています。ウルスラ中尉は任務に合わせてウィンドウ弾やVT信管を搭載したロケット弾等を発射できるように計画中との事です」

「なあ竹井中佐、何でウィッチ用のFAFミサイルを開発しないんだ?」

「単純に技術的問題じゃないかしら、出来るならもうやっているでしょうし」

「成程」

「そしてMK108 2連装30mm機関砲、これはカノン砲と比べて弾数も多いのでこちらを通常は使用する事になるでしょう」

「数で押してくるタイプはどうする」

「その場合はロケット弾の一斉射と機関銃での掃討となります」

「ふむ、ジェットストライカーによって武装と弾薬は多く持てるようになるからな、MG42を置いていく必要もないか」

結論から言えばジェットストライカーにはロケット弾を装備、加えて火力の高いMG213かMK108のどちらかを選択し加えて機関銃も装備するという事だ。

適正で言えば反動を制御できるトゥルーデと天性の狙撃の才能を持つリーネはMG213を使う事になるだろう、しかしこれは実際に運用してみなければならない。

何故ならこれからは積極的なドグファイトではなく、ウィッチ特有の一撃離脱戦法や編隊を組んだ攻撃の場面も多く出て来るだろう。

新たなフォーメーションと訓練メニューを組みなおし、摸擬戦を以て実証するしかない。

習うより慣れよという事だ、実践あるのみ、しばらくはレシプロストライカーで出撃しつつ形が出来たらジェットストライカーで出撃だ。

 

 

「他に質問がある方はいますか?なければ会議を終了します、解散」

 

 

 

*1
扶桑の練習用ストライカーユニット、一つのストライカーユニットを二人羽織の様に装着する




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21話

FAFロマーニャ基地の特別病棟、その特殊戦用の個室の病室でミーナ中佐はずっと眠っていた。私が声をかけても、501の皆の事を話しても。

三日に一度だけ治癒魔法と見舞いの為にベネツィア戦線が忙しい中で皆が私をここへ送り出してくれる、これは何よりも大切で必要な事だからと。

私は病室の花瓶を洗うと新しく持参した花を挿した、ミーナ中佐は頭に機械のセンサーを取り付けられ患者着を着たままベッドの上で寝たきりになっている、私が居ない間は特殊戦所属の看護師の担当が面倒を見てくれているらしい。

ブッカー少佐という特殊戦の軍人さんがミーナ中佐は今難しい立場にあるから回復に専念できるように充実した環境を整えたと教えてくれた。

今日も治癒魔法をミーナ中佐にかけ続ける、もし意識に変化があればモニターに反応がある筈と言っていたが時間をかけても波は水平に近いままだった。

しかしいつまでも治癒魔法をかけるわけにはいかない、似た症状の深井中尉にも魔法をかけなければならないからだ、どちらかが目覚めればもう一人も目覚めさせる事が出来るかもしれないとお願いされたから。

また来ますとミーナ中佐に挨拶をしてから病院を後にして特殊戦の事務所、ブッカー少佐の執務室の扉をノックする。

「どうぞ」

「失礼します」

雑多な荷物が持ち込まれているブッカー少佐の執務室、その窓に近いデスクの傍に今日も深井中尉が車いすに座って佇んでいた。

「宮藤軍曹、今日もよろしく頼む」

「はい少佐、精一杯頑張ります」

使い魔と一体となり治癒魔法を深井中尉に掛け続ける、彼の身体には既に怪我はないので頭に魔法を集中して魔力を込めていく。

十数分に渡る全力での治癒魔法は今日も変化を齎すに至らなかった、元々治癒魔法に絶対の自信があるわけでは無いがここまで変化がないと何よりも申し訳なく感じてしまう。

治療を終了して使い魔と分離するとブッカー少佐がココアの入ったコップを持ってきてくれた、砂糖入りの温かいホットココア。

「今日もありがとう宮藤軍曹」

「はい、いいえ申し訳ございませんブッカー少佐」

「謝る事はない、君は良くやってくれている」

「そうでしょうか、ミーナ中佐も深井中尉もずっと同じままで……」

「同じと言う事はないさ、少なくとも二人が体調を崩す事は無かった。深井中尉の大怪我も傷一つなく見事に塞がっている、特殊戦に欲しい位だ」

そう言って少佐は無意識になのか頬の古傷を掻いていた、非情で冷徹な人間を集めた特殊戦の人間、深井中尉の事を想うブッカー少佐はそうとは思えなかった。

「魔法力がある程度回復するまでゆっくりとするといい」

「ありがとうございます、ブッカー少佐」

「それまではそうだな……宮藤軍曹、少し話を聞かせて貰ってもいいかな」

「私でよろしければ、でも難しい話はあまりできません」

「なに、精鋭部隊の501JFWに所属する君の意見を聞かせて貰いたいんだ、君はジャムについてどう考えている?」

「ジャム……ネウロイの事ですよね」

「その通りだ、君がネウロイについて感じる事や疑問などがあれば是非教えて欲しい」

私みたいな人間に質問を投げるくらいにはネウロイとの闘いは特殊戦としては上手く言っていないのかもしれない、正体不明の敵、人類の敵、それがネウロイ。

「私は元々一般人です、軍学校も出ていないですし元々実家の跡を継いで医者になるつもりでした」

死んだはずの父から届いた欧州からの手紙、そして坂本少佐スカウトを経て私は501JFWのウィッチになった。

「最初の内は飛んで撃つだけで精一杯、私にはネウロイと戦う確固たる意志も無かったんです。だから坂本さんに聞きました、ネウロイって何なんですかって」

最初は険悪な雰囲気だった501JFWの皆、故郷を奪われたペリーヌさんやミーナ中佐達が戦う敵の事が分かれば、何から皆を守ればいいのかを知る事が出来るのかと考えたのだ。

「……坂本少佐は何と?」

「坂本さんは『ネウロイは段々強くなっていく』って言ってました、でもそれが学習からくる進化だけとは思えないって」

「ネウロイは学習していないと言う事かな?」

「分かりません……でも坂本さんはネウロイが本当に人類を滅ぼすつもりなら地球はとっくに滅んでるって言っていました、それをネウロイが分からない筈がないとも」

「それはそうだろうな、FAFとやり合える力を持っているわけだから」

「はい、なので坂本さんはこう結論付けました。『ネウロイは人間が嫌がる事をする習性かそれに基づく何かしらの思惑がある』と」

「…………」

「私には意味が分かりませんでした、でもずっと気になっていて、ブッカー少佐なら分かりますか?」

「……多分、今ははっきりとは言えないが。この話を他の人にした事は?」

「ありません、こんな話をしても変な顔をされるだろうと思って」

「ありがとう宮藤軍曹、とても参考になった」

「いえ、こんな話でよければいつでも」

「そうか、ところで宮藤軍曹、君が戦う理由は見つかったのか?」

「はい、私は皆を護りたいんです」

 

 

 

 

宮藤軍曹が退室した後、深井中尉を看護師に預けて俺は戦術作戦ブリーフィングに参加する為に格納庫へ向かっていた。

ジャムが人間の嫌がる事をする習性とそれに基づく思惑を持つという坂本少佐の言葉、少しだけ俺には思う事があった。

俺はその説を正解とは思っていないが同時に考えさせられることが幾つかあった、それはジャムの思惑を此方が把握する事が出来れば戦局を変える事出来るのではないかという事だ。

そして思惑が在るならジャムには知性がある、もしそうなら我々の様な本能を持つ有機的な中枢神経や合理的を目指す無機的なコンピューターとどちらに近いのだろうか。

これまでの情報やグレイシルフから考えればジャムは機械寄りだろう、しかし蜂や蟻のように多くの個体が一つの生命体の様に振舞う『超個体』としての存在であれば我々人類や有機生命体に近い。

或いは両方を兼ね備えた意思を持った機械と言えるかもしれない、それはまるで―――雪風等に代表される機械知性体の様ではないか。

機械に人間は必要ないと主張し続けたコンピューター、人類を駆逐せんとばかりに襲い掛かるジャム。

ゾっとするような考えだった、それと同時になぜ人類が未だ生存しているのかがより気になった、坂本少佐の考えていたように何故今人間を滅ぼさないのかだ。

きっとそこにジャムに勝つためのヒントがある、そして今その最重要な情報を握っているのが未だ目覚めぬ零なのだ。

俺は戦術作戦ブリーフィングで雪風を無人で戦闘区域にて偵察任務に参加させる事を提案し承認を得た、しかし偵察任務で問題がなければ零を乗せる事は黙っていた。

ブリーフィングを終え高官が退室していく中で俺は情報軍団のアンセル・ロンバート大佐に呼び止められた。

一筋縄ではいかない情報軍団、しかも零の身柄を欲しがる連中だ。俺は一度クーリィ准将に報告に行くフリをしてその場を離れる、クーリィ准将はアイコンタクトで後で全て報告せよと告げて来た。

「お待たせしましたロンバート大佐」

「いえ、突然声をかけたのは私ですから、態々時間を割いて貰って申し訳ない」

アンセル・ロンバート大佐はFAFの暗部である情報軍団の代表とも言える人物だ、実際あまり公に出来ない部分で動いている姿も何度か確認されている。

「深井中尉の容体は如何ですかな?」

「……早急に復帰出来るように努力しております」

「そうしてくれると私も助かるよ少佐、せっかく特殊戦に譲ったナイトウィッチが無駄になってしまうかもしれないからな」

ロンバート大佐は零の復帰を望んでいる?いやそうではない、目覚めようがそうでなかろうが大佐にとっては差がないのだ、むしろ目覚めた方が尋問しやすいと考えているのかもしれない。

「ナイトウィッチ、今度配属されるのは夜間偵察に長けているウィッチなのですか?」

「おや、クーリィ准将から聞いていないのかね。Night()ではなくKnight(騎士)だよ」

「申し訳ございません、初耳でした」

「確かに重要機密の一つではある、仕方ない事だ。しかし余り周りに触れ回らない様にした方が賢明だよ」

「気を付けます、他には何か」

「明日、コードネーム雪風が無人飛行する件で私も是非見学させて頂きたい」

「……了解しました、ロンバート大佐」

「スケジュールは後で伝えるよ、話は以上だ」

「それでは失礼いたします、大佐」

ロンバート大佐が何を企んでいても全ては明日だ、明日雪風の無人飛行を成功させれば零を乗せる事が出来る。

当日にジャムが襲来するとは限らないが雪風を餌にしてでも誘い出す、その後は雪風に任せる事になるだろうが雪風なら何があっても帰還するだろう。

絶対にミスは許されない、雪風のメインコントロールシステムと完全自立飛行におけるアルゴリズムの最終チェックを念入りに行う必要がある。

作業は夜を徹して行われ後は作戦時刻を待つだけとなった、雪風は無人で飛行できるように組まれたプログラムを噛まされてその行動は逐一戦術コンピューターを通してリアルタイムでモニターされる。

ブッカー少佐は最終点検を終えると雪風に対していつも零や他の隊員に投げかけていたように『グッドラック』を入力し離れた。

メイヴに搭載されたエンジンに火が入りタキシング、発進許可と共に滑走路を駆け抜け離陸速度に到達した瞬間に凄まじい速度で急上昇して飛び去っていく。

スクランブル発進でもない偵察任務で雪風はまるで放たれた猟犬のように空の彼方へ消えていった、それを雪風がジャムに関わらない任務から解放され、これまでの鬱憤を晴らすべく振舞っているのだと感じた。

そして深井中尉は目を開いていた、点検から雪風の発進に至る一部始終を格納庫から目を向けることは無かったが零は雪風が分かるのだ。

或いは先程の光景は雪風が零を呼んでいたのかもしれない、零に聞こえる様にジェットを全力で吹かせてまで、早く戻ってこなければ置いて行ってしまうぞとばかりに。

しばらくして雪風が見えなくなると零の瞼が降りてしまったが聞こえていると信じて話しかけた。

「行こう零、雪風の戦う姿を見に行こう」

車椅子を押して零と共にFAFロマーニャ基地の地下に存在する特殊戦の司令センターへ移動した、そこには雪風の飛行状態が送られてくる。

クーリィ准将やロンバート大佐達も既に到着している、後はなるようになれという事だ。

 

十数分後にジャムが出現する。雪風――――戦闘偵察任務開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は生も死もなくここにいる。外に一切の関心を持たず、そして流れる時間すらも無関係だった。

 

 

 

――――目覚めよ、と呼ぶ声を聞くまでは。

 

 

 

 

 

 




少し久しぶりの投稿です!気付いたら総合評価が700PTどころか800PTに到達して感動の嵐です!目指せ1000PT!!!

ちなみにジャム(ネウロイ)とかの設定は既に練り終えているので失踪するにしても公開はすると思います。

私のVmaxスイッチがオンになるので感想と評価を心よりお待ちしております。
その他疑問などがあれば感想やメッセージにて受け付けております。


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22話

FAFロマーニャ基地、地下に存在する特殊戦司令センターに向けて俺は零の車いすを押しながら向かっていた。

エレベーターから降りて司令センターに到着すると出入りする人間の邪魔にならない様に零を入口の脇に寄せた。

特殊戦機とFAFの得た情報の全てが集まるこの部屋では情報の波が押し寄せる、それらを処理しながらイレギュラーに対応出来るスペシャリストがこの一室に集まっている、彼等は特殊戦のスタッフではあるが「社会不適合とされる特殊な性格」を持つパイロットとは違い純粋にその能力と資質のある者だけで構成されている。

「アフリカ方面に設置したAICSがジャムを捕捉、信号を発信した後間もなく信号途絶」

「早期警戒機のレーダーにてジャム捕捉、機数は15、高度10000から警戒エリアに侵入。早期警戒機は安全空域まで退避」

「505th迎撃部隊がFAFロマーニャ基地からスクランブル発進、ファーンⅡ17機が出撃、コールサインはグリフォン」

「B-3雪風、高度17000から戦闘情報収集行動開始」

オペレーター達が次々にアナウンスする中で司令センターの中央には数人の高官が立ちながら話をしていた、クーリィ准将、ロンバート大佐、そしてシステム軍団の制服を着た男。

「話の途中失礼いたします、B-3雪風の離陸が完了しました。深井中尉にミッションの見学の許可を頂きたく」

「許可します」

「君がFRX-99改造の責任者かね?」

「失礼ですが、貴方は」

「システム軍団のカール・グノー大佐だ、君にとっては協同技術開発センター所属と言ったほうが分かりやすいかね?」

「ああ、なるほど。確かに私が責任者です、特殊戦五番隊戦隊指揮官のジェイムズ・ブッカー少佐です」

「君の名前等どうでもいいが、君には納得のいく説明をしてもらいたいと思っていたんだ」

「何の、お話ですか」

「ではハッキリ聞こう、何故態々無人機を有人機に改造するような真似を?無人化は参謀本部やセントラルコンピューターの決定事項だ、君がパイロットの事を想うのであれば協力してくれる筈だがね」

そう言ってグノー大佐は零の下まで歩み寄ると屈んで顔を覗き込むようにして様子を伺っているようだった、深井中尉に取り付けられた脳波計の波は微細なまま、その悲痛な顔は純粋に零の事を慮っているようだった。

「ブッカー少佐、彼を見たまえ。彼はかつて人間は死ぬために飛んでいるようだと言っていた、これ以上悲惨な犠牲を出さない為に必要な事だと思わないかね」

「無人化を全て否定するつもりはありません、しかし少なくとも雪風にはパイロットが必要だ」

「例え何であれこの戦い自体、人間が戦う必要は無いんだ」

「そんなことは無い、いつだって戦っているのは人間の筈だ!」

「その犠牲を無くすのが無人化なのだと言っている!!いい加減現実を見たらどうだ!!」

その一瞬の怒りの間だけ自分の立場を忘れた、全てを機械に押し付けて自分の眼で見ようとしないお前に現実の何が分かるのかと。

「エイヴァ・エメリー中尉、貴方は知っていますか?ヒュー・オドンネル大尉とは好い仲だったそうですが」

「それが、一体どうしたと言うんだ」

「彼女はオドンネル大尉が()()()()後に結局正気には戻らず地球に送り返される事になった、FAFでの業務を遂行不可能と認定されたからだ。今頃彼女は故郷に戻り、彼の遺体は遺族の元に戻る頃だろう。FAFでは良くある話だが彼は何故死んだか知っているか?彼は無人機に殺された」

「それは…不幸な事故だった、今後はそのような事が無いように研究は進んでいる」

「俺だって犠牲を少なくしたいという思いには共感する、とある一面においてコンピューターが優秀な事も認める。しかしあくまで機械は人間の道具に過ぎない、俺達が負うべき責任までも無人機に押し付けるのは違うだろう」

「私にそんなつもりは―――」

「グノー大佐、私は無人機はいいとしてもセントラルコンピューターに全てを任せられない、人間に機械は不要かもしれないが未だ幼い機械には人間が必要だ」

「…ブッカー少佐、君は私に何を期待しているのかね」

「別に、何も。ただ貴方には全てを見届けその責任を負う義務がある、そこから逃げるのは許されない」

俺とグノー大佐の間に差し出されたクーリィ准将の腕とコーヒーの入ったカップ、まさに水を差されたように気持ちが沈められていく。

「ブッカー少佐、熱いコーヒーでも飲んで落ち着いたらどうかしら」

「……失礼しました、准将」

「グノー大佐、FRX-00も参謀本部とセントラルコンピューターの決定事項よ、今更この場所で蒸し返す話ではありませんわ」

「はい、了解しました准将」

一度グノー大佐と離れて呼吸を整える事にする、冷静な会話をする為には後数分を要するだろう。

「B-3雪風、ミッションエリアにて情報偵察中。少佐、申し訳ございませんこちらに」

「何だ、どうした」

「メインスクリーンをご覧ください、雪風からリアルタイムで情報が送信されています」

「雪風からだと?」

司令センターのメインスクリーンに映し出されるFAF基地周辺の戦闘は主に基地レーダー、警戒機や管制機からの情報を基に表示されて数秒ごとに更新される。

他には精々ミッションの各種フェイズの大まかな攻撃行動予定図が表示されるくらいで司令センターでは基地の戦闘航空団から得られる情報を基に戦況を整理し、イレギュラーに対応し、メインスクリーンに大きな変化がない事を祈るのが仕事だった。

それが今メインスクリーンにはリアルタイムで505迎撃部隊とジャムの戦闘が表示されている。しかしこれは異常だ、何故なら雪風は情報を持ちかえるのが仕事だからだ。

つまり雪風は現時点において緊急を要する異常事態が発生していると訴えかけているのだ、メインスクリーンをよく見れば505迎撃部隊は『敵味方不明』である黄色で表示されている。

かつての零が言ったように味方でなければ敵の可能性が高いが505迎撃部隊を後方から追撃しているであろうジャムは敵機を示す赤色だ。

つまり雪風は505迎撃部隊を敵ではないが純粋な味方ではないと訴えかけている、しかし505迎撃部隊は徐々にジャムに撃墜されている、雪風は一体何を考え何を俺達に伝えようとしているんだ。

 

 

 

 

 

「グリフォン3!ロックオンされているぞ!ブレイクしろ!スターボード!スターボード!」

「分かっている――――がっ!!」

グリフォン3が操るファーンⅡはジャムからの攻撃を回避する為に急加速旋回を行おうとした際に突然エンジン出力が低下した。

「何だ!何が起こった!!」

原因は不明だがそれでも何とか急旋回で振り切ろうとするもやはり出力不足により敵の攻撃範囲から逃れられない。

もう終わりかと頭で考えていてもコントロールスティックから手が離れない、当然脱出レバーを引く事も出来ずに本能に従い強く瞼を閉じた。

横から伝わる衝撃、しかし数秒が過ぎても己の意識が続いていることを感じてゆっくりと瞼を開いた。

「―――生きてる」

「グリフォンリーダーよりグリフォン3、ジャムが援護機によって撃墜された」

「……ファーンⅡは援護も優秀だな」

「違う、特殊戦だ」

「特殊戦!?あいつら高みの見物しかしないんじゃなかったのか」

「何であれジャムは全て片付いた、状況クリア、速やかに帰投せよ」

特殊戦のB-3は見慣れない機体だったがやはりファーンⅡよりも高性能な機体なのだろう、いつもこうであればいらぬ被害を減らせるだろうが逆に助けられてしまうと何かしらの思惑が在ると勘繰ってしまう。

「グリフォン3よりタワー、エンジントラブルにより緊急着陸を要請する」

「了解したグリフォン3、いやちょっと待て、B-3が先にアプローチに入っている、報告は受けていないが…」

B-3が降下していく、しかし雪風は滑走路に真っすぐ進入するコースを取っていなかった。

「何をする気だ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ファーンⅡ十七機はジャムの強襲を受けてからものの数分で二機だけになっていた、それも雪風がエンゲージしてジャムを撃墜しなければ全滅していた筈だ。

しかしメインスクリーンには未だ雪風がリアルタイムで送信する情報の表示を続け、ジャムが居なくなっても『交戦中』の表示のまま攻撃モードを解除しない。

そして雪風は加速して移動を開始、FAFロマーニャ基地に向けて何かしらのアプローチを開始する。

『FAFロマーニャベースコントロールよりB-3、クリアランスは与えていない、反転せよB-3』

「B-3、対地、攻撃モード」

「何だと!?」

「ロマーニャ基地に照準しています!」

「攻撃中止を!任務を解除して反転させなさい少佐!」

「出来ません准将、雪風は完全自立制御です。外部からの命令は、受け付けない……」

そんな方法をもしジャム等に悪用されれば無人の戦闘機は戦えなくなってしまう、これは雪風に限らず全ての無人機に言える事だった。

「馬鹿な……」

グノー大佐の呟く声が静かな部屋で大きく聞こえた、彼にはこの現実が見えているのだろうか。

そしてメインモニターに基地を全て包む赤い円とロマーニャ基地を埋め尽くさんとばかりの数え切れないほどの光点がリアルタイムで動きながら表示される。

 

「ジャムだ」

 

微かな声だった。俺は錆びついたようにゆっくりと振り返るが、そこには車いすに座って頭に脳波センサーとトランスミッターを付けた零しかいない。

 

「よく見ろ…ジャムがいるぞ、見るんだ」

 

零は目を開いていた、もしかしたら雪風が情報を送って来た時からメインスクリーンを見ていたのかもしれない。

メインスクリーンに表示されていた攻撃目標が絞られる、雪風の攻撃管制システムが目標を捕捉した。

雪風はその場所に追加で情報を送信し、それを受け取った特殊戦の戦術コンピューターが翻訳してディスプレイに追加で表示される。

 

<敵味方識別-不明> そして <ジャムのニュータイプの可能性:大>

 

「動くものは、全て攻撃する」

 

零の右手が持ち上がる、コックピットのコントロールスティックがある位置だ、武装は雪風が既に選択している。

零の人差し指がゆっくりと力が込められていく、レディ・ガン、そして虚空をクリック。

雪風はFAFロマーニャ基地の地上格納庫に対地攻撃を敢行しロマーニャ基地上空を通過するまでガトリングを斉射し続けた。

 

 

―――地下司令センターは酷く静まり返り、その現実を受け入れられずに居た。

 

 

「そこに、ジャムが、居る」

先程まで身じろぎ一つしなかった零がまるで人形が糸に吊られるかの様に立ち上がる、その際に頭に取り付けられていた脳波センサーが外れて地面に落ちた。

司令センターの全てのメインモニターが表示を切り替える。

 

『YOU HAVE CONTROL FUKAI.LT』

 

静まり返った司令センターに戦術コンピューターが発した警戒音が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこだ――――見えないのか!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びメインスクリーンが切り替わり今度は特殊戦の戦術コンピューターからのメッセージが表示される。

『深井零中尉のコミュニケーションシステムに異常が発生、早急に復帰させ再度攻撃目標を指示せよ』

コミニュケーションシステムだと?つまり戦術コンピューターが勝手に脳波モニターから得た情報を基にシステムを組み上げて零から雪風に攻撃を指示させたというのか。

戦術コンピューターと雪風は、つまり機械知性体は零の頭の中にある情報が必要だった、彼等が言うところのジャムのニュータイプを破壊する為に零に助けを求めた。

その為に彼等は零に目覚めよ、と呼びかけて零はそれに応えた、自分達では何も出来なかったのに。

オペレーター席に備え付けられたマイクを手に取り特殊戦の戦術コンピューターに対して呼びかける。

「目標とはなんだ、何を攻撃しようとしている」

『未知のジャムである、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐が基地に存在する何かしらに対して広域スキャンを行ったが対象は不明であった』

ミーナ中佐も同時期に目覚めていた、基地を包むように表示された円と無数の点はミーナ中佐の固有魔法だったのか。

『そして深井零中尉はB-3にロマーニャ基地へ攻撃するように指示を出した。形態や性能、目的不明のジャムの脅威をFAFロマーニャ基地から感じ取ったと推察される』

「ロマーニャ基地への攻撃は雪風ではなく深井中尉の指示だと言うのか」

『その通りである、B-3は505迎撃部隊の異常はジャムによるものだと判断し緊急回線接続を以て二人に判断を仰いだ。結果二人はロマーニャ基地に存在するジャムが原因であると判断したものと思われる』

「結局原因は分かったのか」

『我々には直接感知できない、深井中尉の判断が必要である。コミニュケーションシステムを早期に復帰させよ』

「深井中尉はブラックアウトした、雪風にそう伝えろ」

『了解した、B-3は505迎撃部隊の異常な急減速の原因の調査を続行する』

いやに素直に戦術コンピューターは手を引いたが零の状態を知る術がない為にそうせざるをえなかったのだろう。

そうでなければ喰い下がってでも零に再び攻撃目標を指示させる事に拘ったかもしれない、しかし零が司令センターに居ながらロマーニャ基地のジャムを発見出来るとも思えず脳波モニターを戻す事はしなかった。

「クーリィ准将、ロマーニャ基地の司令には『誤射』と伝えておくよ」

「……感謝します、ロンバート大佐」

ロンバート大佐はそう言い残して去っていった、クーリィ准将は苦々しい顔をしていたが借りを作るのが嫌だったのだろう。

特殊戦の戦術コンピューターもFAFロマーニャ基地のコンピューターに『誤射である』と伝え数秒後に了解したと返答があり、ロマーニャ基地司令からの音声通信回線は遮断されていた。

そして立ったまま何をする訳でもない様子の零はすぐさま緊急での精密検査を受ける事になった、同様に覚醒していたミーナ中佐の検査も行われる。

雪風はこれ以上の攻撃は無意味であると判断しRTBを基地コンピューターに告げて特殊戦の地下格納庫に帰還した、そして三時間後に緊急の会議が開かれる事となった。




もう少ししたらウィッチが一杯でるようになるので許して下さい!

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23話

「覚えていない?あの騒ぎを全て?」

「正確には、まるで悪い夢を見て居た様だと」

「ふふ、夢なら良かったんだけどね」

今回の事件はFAFロマーニャ基地内部で話を片付ける事が出来ない程の大騒動となった、なにせ雪風の対地攻撃を受けてFAFロマーニャ基地の各所に大量の損害を出したからだ。

滑走路の近くに建てられた格納庫は点検の為に納めされていた機体の爆発に巻き込まれて倒壊し、任務に従事していた人間に死者を含む多くの負傷者を出した。

「参謀会議は如何でしたか」

「散々もいいところ、実質的につるし上げだけどあそこまで見え透いた三文芝居は中々見れないわ」

「三文芝居、ですか」

「ええ、情報軍団のロンバート大佐は証拠をでっち上げて、システム軍団のグノー大佐は形だけの批判を投げて来た。幸いにも今回の件はFAFのセントラルコンピューターによって『暴発事故』として処理されたから気が楽だったけど」

「暴発事故ですか、あれだけの事が起きていながら」

恐らく重要機密であろう書類を准将から手渡されると中にはシステム軍団のグノー大佐の見解として、事故原因は【特殊戦によって行われたシステムの改竄によって発生した】と記されていた。

ただし当時飛行していたのはB-3雪風ではなくB-14レイフであったと作戦中の記録は全て書き換えられており、今回の事件は『システム軍団の無人機飛行実験におけるイレギュラーによって発生した暴発事故』と最終的なジャッジを下された。

つまり今回の特殊戦五番隊と雪風の責任をFAF本部のシステム軍団に押し付けた形になる、しかし気になったのはその後に追記されたシステム軍団は深井中尉の早期復帰を求めるという一文だ。

「何故システム軍団が深井中尉の復帰を要求したのでしょうか」

「責任を引き取ってやるから深井中尉と雪風の件に一枚噛ませろという事でしょう、彼等も深井中尉と雪風の存在が必要不可欠だと考えたのよ」

「ですが情報軍団なら話はまだ分かります、何故システム軍団まで深井中尉に関わろうとするのでしょうか」

「ブッカー少佐、今回起きたこの事故を処理したのは誰か分かるかしら」

「情報軍団ではないのですか」

「FAFのセントラルコンピューター、つまりこの一件は本部の暗黙の了解を得ているのよ。そして今回の事件で一番重要なのは深井中尉が自分よりも雪風を信頼し、雪風と機械知性体がロマーニャ基地に対してジャムと呼んだ事」

「……システム軍団は機械知性体が何を考えているのかを把握しきれていない」

「そう、もしも雪風と機械知性体に異常や問題がないのであれば、FAFにジャムが紛れ込んでいる事になるわね」

考えうる中でも特に最悪なケースであるジャムによるFAF内部の破壊工作、これが罷り通れば今後の戦況は最悪だ。

「私が会議に出ている間に雪風と戦術コンピューターが探っていた505th迎撃部隊の異常な急減速の原因は分かったのかしら」

「505th迎撃部隊はあの後二機とも墜落してしまい文字通り全滅、現在はスクラップになった機体をシステム軍団に回して解析にかけています、雪風の映像記録等も洗ってはいるのですが根本的な原因は未だ不明です」

「そう……深井中尉とミーナ中佐の事情聴取はどうなっているのかしら」

「大まかには調書に纏めました、こちらです」

クリップボードに挟まれた書類には二人の体調や精神状態、そして失踪中に何が起きたかをタイムライン毎に纏められていた。

「これは本当に深井中尉達が話した事なのかしら、意訳ではなくて?」

「はい、一応ボイスレコーダーでも記録していますが概ねその書類の通りかと」

ジャムに攫われた事、深井中佐はジャムの作った人間の姿をした化物を撃った事、深井中尉を撃ったのは深井零だった事、バーガディッシュ少尉はジャムに殺されてチキンブロスにされてしまった事。

「……私も事情聴取に加えて貰うとして、これが本当であればジャムは人間に化けてFAFに侵入している事になるわね、しかしそれを探すのは我々の仕事ではないわ」

「しかし雪風は探し出すでしょう、その為に深井中尉とミーナ中佐を目覚めさせたのですから」

「それでも正常とはいかないようね、この診断結果を見る限りは」

そうなのだ、確かに零とミーナ中佐は目覚めた。しかしグラスゴー・コーマ・スケール*1では正常であり、見当識も十分保たれているのだが二人と話していると違和感を覚えるのだ。

特殊戦隊員に共通するズレた人間性とは違う、聞かれた事には答えるし命令をすればその通りに動くがそれがあくまで指示された事に対して無意識のそれに対応する部分が反応して反射の様に動いているだけのように感じる。

これはミーナ中佐も同様で、意識が回復した事を501JFWの隊員に報告したが彼女達も今のミーナ中佐に会えば恐らく同じような感想が帰って来るだろう。

「つまり完全復帰とはいかないわけね。ブッカー少佐、今はジャムの事を気にするよりも深井中尉達を元に戻す事に集中しなさい」

「であれば二人を雪風に乗せるプランを提案致します」

「許可します、タイミング良くシステム軍団のグノー大佐が無人機のDACT*2に雪風を仮想敵として指名したから利用させて貰いましょう」

「これもシステム軍団に借りを返す為でしょうか」

「それもあるけど今回のフライトテストの試験機はあの『フリップナイト(打ち払う騎士)』なのよ。私のところにもやっと情報が降りて来たの、他の部署から報告が来たのはのは多分ワザとでしょうけどね」

前々から予告されていたナイトウィッチ、正しくはフリップナイト・ウィッチを用いた半自立型の戦闘機の情報が載せられていた。

機体はFRX-00を流用したフリップナイト仕様の機体にウィッチが一人搭乗して運用される、しかしここで重要なのはあくまで機体操縦や任務をこなすのは機械知性体でありウィッチはあくまでサポートに徹するという事だった。

「グノー大佐は確か完全無人型の戦闘機を開発していた筈では」

「FRX-99を制作していた頃ならフリップナイトも無人機になっていたのでしょう。しかし貴方がFRX-00誕生の切っ掛けを作ってしまった。そこにFAF本部と情報軍団と人類連合軍の思惑が入り込んで計画が狂ったのでしょう、だからあんなに貴方に食って掛かったのよ」

「おかしな話だ、有人機を要求した俺には人間は要らないと言われたのに、無人機を要求したグノー大佐は有人機の責任者にされてしまうなんて」

「それを思惑ごとに噛み砕いて整理してみればまた違う景色が見える、今は難しいでしょうけど」

「……とりあえずテストフライトの擦り合わせに入ります」

「よろしい、何か状況に変化があれば速やかに報告する事。退室してよし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は突然、コックピットに座ってコントロールスティックとスロットルを握っている自分に気が付いた。

Gスーツを着てフライトグローブやヘルメットを装着済み、口元にはマスクが装着されており、ディスプレイの表示を見れば高度12000メートルを巡航速度で飛行中であった、オートパイロット。

キャノピーの閉じたコックピットに甲高い警告音が鳴り響いている、外部接続機器に異常あり。

しかしハーネスやホース等の装備が正しく取り付けられている事は搭乗する時に確認されている筈だ、考えられるのはFO席に座る彼女の方に原因がある可能性がある。

「……ミーナ中佐、ハーネス等の装備に異常はないか」

「異常と言われても他の人に取り付けて貰ったから分からないわ、変なところはないと思うけど」

そう言われて初めて原因が分かった、一度自分のハーネスを取り外してから再度装着するとモニターの警告表示が消灯した。

目覚めよ、目覚めよ、目覚めよ、と雪風が俺をずっと呼んでいた、それは正常であるにも関わらずワザと警告を表示させた雪風の声だった。

初めて雪風から呼ばれてジャムに向けて攻撃を指示した時から朧気ではあるが意識はあった、同じ状態にあったミーナ中佐とはミッションの再確認をした方がいいだろう。

「ミーナ中佐、ミッションの内容は把握しているか」

「一応理解はしているつもりよ、ブッカー少佐が無理やり雪風に私を乗せた理由も」

雪風のディスプレイの表示が今回のミッションに関する詳細のデータに切り替わる、俺達の会話を聞いていたようだが随分とこのミッションに関心を持っているらしい。

「深井中尉、一応言っておきますけど私にはジェット機どころかジェットストライカーの操縦経験は無いわよ」

「今回は模擬戦闘任務だ、情報の収集と解析は全て雪風がやる。インテリアを弄らなければ問題ない」

「私はもう目覚めたけど、ここに居る必要があるのかしら」

「丁度いいから俺達がどうやって飛んでいるか体験してみればいい、その特等席からな」

そのまま巡航速度で目的のポイントまで進み今回のフライトテストを上空から観測している空中指揮管制機、FEP-1ACCとのコンタクトを雪風が自動的に開始する。

今回の任務はシステム軍団の開発したフリップナイトと呼ばれるFRX-00のコックピットをフリップナイト仕様に換装した一応は無人機のフライトテスト及びFRX-00を操る俺達を仮想敵とした模擬戦闘だ。

ウィッチではあるが人間を乗せて運用する無人戦闘機という、考えすぎて馬鹿になったのではないかと思うような発想だが恐らくは予算獲得等の目的があるに違いない。

今回の任務では互いに模造の兵装を装備しているだけの非武装状態ではあるが相手のフリップナイトには新型の高性能なレーザー機関銃を模したガンカメラを搭載している。

フリップナイトのレーザーは文字通り光速で、それが当たる距離とタイミングであればカメラでパシャリとなって撃墜判定を貰うと言うわけだ。

その為にフリップナイトのレーザーの照射範囲に入らない事を徹底しなくてはならないのだが、結果から言えば俺は三度撃墜されて任務は終了となった。

「久しぶりだな、深井中尉。一日で三度も撃墜された気分はどうかな?」

確かにブランクはあるし体力も落ちているが俺はまだ飛んでいる、生きているのだから負けていない。

特殊戦の任務の為に製造されたメイヴの特性上あくまでマニューバよりも一撃離脱の為の加速性能に優れている、そもそもジャムとのドグファイトは何よりも避けるべきなのだから今回の勝負はナンセンスなのだ。

だからこの場合はそもそもアウトレンジからのミサイルでフリップナイトかフリップナイトを操る管制機を撃墜すればいい、出来なければ初めからしない。

「好き勝手に言われているわね」

「ただのゲームだ、どうということはない」

「嘘よ、ネウロイとの闘いに絶対はない、気持ちのいい言い訳が思いつかなくて少しイライラしている」

俺の動揺をコントロールスティックが捉えたのか、雪風は以前のように乱気流に巻き込まれたとディスプレイの表示を出した、雪風が俺に一々それくらいで動揺するなと呆れているように思えた。

しかしミーナ中佐は俺に気安く話しかけて来るが一体どうしたのだろうか、俺も気付けば形ばかりの敬語も外れている。

一時はかなり恨まれていた筈だが同じ経験を得てシンパシーを感じているとでも言うのか。

そしてミーナ中佐に言われてしまえば俺も考えている事もある。い高性能な機体に雪風の様な高性能な機械知性体を搭載した無人機はいずれ人間を戦場から駆逐するだろう。

ジャム戦争に人間が必要なのか、ジャックは人間に仕掛けられた戦争を人間が放り出す訳にはいかないと言っていたし、俺も一度は納得したが改めて考えれば答えになっていない様に感じる。

「グノー大佐、一ついいか」

「何だね深井中尉、負け惜しみの一つでも聞かせてくれる気になったかね?」

「もしFAFが無人機だけになったら、人間はジャムに勝てるのか?」

「……人類が存続しているかはともかくいずれは勝てるだろう。それよりも君はまだ、死ぬために飛んでいるつもりなのかね」

「……」

俺の無言から何かを悟ったのかそれっきりグノー大佐が話し始める事は無かった。彼は本当に無人機が必要だと思っていて、確かに無人機は人間を越えていくのかもしれない。

 

 

 

――――それでもあの時、俺を雪風は呼んでいたんだ。

 

 

 

ハッキリとした理由はまだ分からないが、例えそれでも俺はまだ飛んでいたいんだ、この雪風と一緒に。

 

*1
意識の覚醒レベルを示す指標

*2
異機種間空中戦闘訓練




次回でナイトウィッチ編終了です、その次は外伝かジャムの正体編になると思います。

私のVmaxスイッチがオンになるので感想と評価を心よりお待ちしております。
その他疑問などがあれば感想やメッセージにて受け付けております。


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24話 終

アンノウン機を捉えた雪風の警告音がコックピットに鳴り響く、雪風はディスプレイ上のアイコンを敵性だと示す、未確認型のジャム三機が低空からマッハ4で接近中。

「グノー大佐はフリップナイトと共に退避しろ、ジャムは俺達が引き付ける、足の遅い管制機じゃいい的だ」

「そうだろうな、すまないが一足お先に失礼させてもらうよ中尉、グッドラック」

「深井中尉!私達だって武装してないのよ!?」

「そうだ、しかし足がある」

そう、今回の任務では機関砲を含めて一切の武装をしていない、弾がなければ暴発もしないだろうと嫌味を言われたが空いている特殊戦の機体を借りてでも護衛をさせるべきだった。

ジャムが雪風を狙う事など簡単に考え付くだろうに、俺はスティックを操作し急旋回、針路を反転させ管制機からジャムを引き離すように距離を取った。

「ミーナ中佐はロマーニャ基地に報告、至急迎撃機を呼び出せ」

「でも何処を触れば通信出来るか」

「雪風がもう設定している、後は喋るだけだ!」

「わ、分かったわ!こちら特殊戦雪風―――」

最早ジャムの巣に関係なく突如として現れたジャムは高度10000で突如として速度を落とした、ブースターで加速するタイプか?ディスプレイに表示されたジャムの情報が<TYPE-2>、つまり高機動型ジャムに切り替わる。

最近ファーンⅡやシルフィードを多く撃墜するようになった目撃数の多い高性能なジャムだ、そしてジャムの新型高速ミサイルを標準で装備している。

『零!今ロマーニャ基地から迎撃機が離陸した、後十分、いや五分持ち応えてくれ!!』

ジャックの声に答える間もなくジャムからミサイルが放たれる、急遽アフターバーナーで加速するも稼いだ距離をどんどん奪われていく。

ブレイクする際の加速が失われる瞬間が致命的であるため、フェイントを入れてからの降下しながらサイドスリップを敢行し偏差によるタイミングをずらしてジャムの高速ミサイルを回避してから再度加速した。

「ミーナ中佐、シールドは使えるのか」

「ええ、使えると思うわ」

「シールドは飛行に影響を与えるのか」

「飛行そのものには影響はないわ、ただしシールドに衝撃が加われば機体が弾かれる」

「分かった、いざという時は頼む」

「でもいつシールドを張ればいいか分からないわ、周りが殆ど見えないのよ!?」

「レーダーを見ろ!!」

そう言い合っている間にもジャムは距離を縮めて来る、スロットルレバーを前へ押し込みながらレバーのスイッチを押し込む。

するとメイブの前進翼は基部から回転して後退翼に切り替わり、主翼の上反角も鋭く稼働し高速機動モードに移行した事をディスプレイに表示される。

〈MODE RAM-AIR〉

再びアフターバーナーを起動させマッハ2.6を突破した時点でメイブの機体上部に備えらた2基の吸気口を開きラムジェットを解放する、凄まじい急加速による衝撃波によって機体から空気が剥がれて安定を失い暴れ始めるが高速で学習した雪風が動翼を操作して機体を安定させる。

ジャムと命を賭けてドグファイトをするつもりはないが自分と雪風、そしてミーナ中佐を含めて無事にロマーニャ基地まで帰投しなければならない。

先に基地に帰還しようとしているグノー大佐をターゲットにさせない為に俺達は基地に向かって飛ぶことが出来ない、しかしいつまでも逃げ続けるわけにはいかない。

何より燃料がもたない、それでも猟犬に追われる獲物の如く逃げ続けるしかない。しかしその時思いもよらない異常事態が発生する、スロットルは全開のままだったが突如として()()()()()が発生したのだ。

警告音と共にディスプレイ上でmaster caution light(システムの故障及び異常)が点灯し左右のエンジンが異常な状態にある事を知る。

しかし思考を放棄してはいけない、原因の調査とリカバリーは既に雪風が開始している、その上で俺が出来る事をしなければすぐに死を迎える事になる。

 

<AICS MANUAL CONTROL>

 

「ミーナ中佐!ジェットストライカーを全力で稼働させろ!!」

「了解!」

幸いにも魔導ジェットエンジンは生きていた、メイヴが息を吹き返すかのように速度を取り戻す。しかし安定飛行を保っているとはいえジャムを相手に出来る程の推力までは確保できなかった。

何とかジャムの射線上に留まらないように旋回して回避を試みるが最短距離で動くジャムに距離を詰められる、再びミサイル警報。

「シールドを展開しろ!」

俺が言い切る前に半透明のシールドがミサイルとの間に展開され、俺はいずれ訪れる衝撃に対して備える、ジャムの高速ミサイルがシールドに衝突する余波を受けて機体が弾き飛ばされ錐もみ回転しながらストールする。

雪風が自動的にオートパイロットを作動させ何とか水平飛行を取り戻すも速度を大分失ってしまった、雪風のドップラーレーダーが上を取ったジャムを捉える。

幾度目かのミサイル警報、命中すれば再びストールして失速した上に高度が足りない今度こそ墜落する可能性がある、しかしシールドがなければ一瞬で火の玉になるだけだ。

時間が緩やかに流れていく、あの時と同じだ、グレイシルフに放ったミサイルが直近で爆発したあの瞬間と。

 

<DE TX-1 AMATSUKAZE / COVERING B-3 YUKIKAE & FUKAI.Lt>

 

上空でジャムから放たれたミサイルが爆発、見上げれば先程摸擬戦で競いあったフリップナイトが飛んでいた、そして何かしらの方法でミサイルを迎撃したらしい。

俺達は見た、フリップナイトのコックピットキャノピーが突如として吹き飛びそこから現れた一人の影を。

FO席に座るミーナ中佐と同じくGスーツを着込み足にストライカーユニットを装着したフリップナイトウィッチ、大きく違うのは頭の殆どを覆う様な無機質なヘルメットと頭からつま先まで黒で統一されたその姿だろうか。

一瞬止まっていたような時間が音と共に元に戻ってくる、フリップナイトウィッチはその両腕で構えた重機関銃によってジャムを牽制しターゲットを引き受けた。

「ミーナ中佐、あのウィッチがジャムの気を引いている間に今から雪風の異常を直す。ジェットストライカーの出力はそのまま、シールドもスタンバイ」

「了解!」

あのウィッチは迎撃機よりも早く俺達を迎えに来た、つまり俺達が逃げ切れない限りあのウィッチは命の危険に晒され続ける。

雪風はAICSによって異常が発生したと原因を突き止めたが何故か自己解決を行わなかった、エアインテークを操作するプログラムは速度や高度に比例して自動でインテークのブレードの位置を調整するシステムだ。

つまりAICSは雪風のメインコンピューターが直接管轄していない数少ないシステムである事を思い出す、コックピットのインテリアからキーボードを取り出しAICSのテストプログラムを呼び出す、AICSを高速モードで固定。

雪風からの警告、飛行中にテストプログラムを起動させるなというメッセージ。

それならばとランディングギアを下ろす、空気抵抗の増えたメイヴは減速し俺は雪風とメインコンピューターに飛行を継続する意思がない事を操作で伝える。

再度キーボードに手を置きAICSのテストプログラムのコードを直接入力してマニュアルで作動させる、AICSを高速モードで固定。

 

―――怖がるな、雪風。

 

<AICS INTAKE.POS SS>

 

スロットルを全開で固定、燻っていたフィーニクスエンジンが蘇り一気に息を吹き返す。

フリップナイトがこっちに来たという事はグノー大佐は無事基地に辿り着いている筈だ、ロマーニャ基地からの迎撃機も来る、戦闘を継続する必要はない。

「B-3よりTX-1、B-3は安定飛行を取り戻した。迎撃機が次第に到着する、貴官は退避しろ」

「ネガティブ、時間稼ぎは終わり、ジャムは全て撃墜する」

何だと?俺は十分ジャムから十分離れた位置から戦闘空域を確認する。

タイプ2のジャム三機相手にたった一人で戦えるのか?しかしそれはあっけない結末を迎える、フリップナイトウィッチはジェットストライカーのランチャーからロケット弾を一斉射した。

それがロケット弾にしてはあっけない爆発をすると先程まで精密な連携をとっていたジャムが突然隊形を乱した、そして連携を失って失速したジャムを鴨撃ちの様に一機ずつ撃墜していったのだ。

<LAYER BY LAYER / SOUND BOMB>

俺は雪風のメッセージでウィッチが発射したロケット弾から放たれたEMPに似た電子妨害兵器の余波を雪風が受けていたことを知る、ただし電子戦においても最高峰であるメイブの対電磁防御を突破する事は無かったようだが。

いずれにせよ状況はクリア、B-3 護衛機と共にRTB、任務達成率100%。

 

 

 

 

 

 

 

特殊戦のブリーフィングルーム、ジャックの執務室と化しているこの部屋に戻ってくるのは大分久しぶりに感じた、ずっと眠っていたのならほんの一瞬の様に感じるだろうに。

ミーナ中佐は帰還後に一度別室に案内されFAFからの協力要請という事で事情聴取を受けている、しかしクーリィ准将が付き添っている様だから面倒な事にはならないだろう。

「なあジャック。あんた、あまつかぜって知ってるか?」

「ああ、あのフリップナイトのパーソナルネームか。雪風の元になった駆逐艦の姉妹艦だ、雪風の妹だよ」

「そうなのか」

「しかしいい名前を貰ったかもしれないな、天津風も激戦を潜り抜けてなんとか故郷に帰って来た艦だ。天津風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿しばしとどめむ」

「何だそれは」

「おいおい百人一首で聞いたことないか?現代風に言えば『天を吹く風よ、天上界と地上を結ぶ雲の中の通り道をしばらく吹き閉ざして塞いでおいてくれ。あの美しい娘達が舞っている姿があまりに美しく、しばらくそのまま見ていたいのだ』となる」

「……まるでウィッチだな」

「詩的だな、だが乙女なら雪風だってそうだろう、あんまり無碍にするとまたフラれるぜ」

「うるさいな……ところで雪風にもそういうのあるのか?」

「あるにはあるがそうだな…百人一首ではないが雪風の名前が出る本にはこうある、『もろ声に 鳴くべきものを 鶯は 正月ともまだ知らずやあるらむ』」

「それだけじゃ分からないよジャック」

「フムン、だがこの和歌よりも前の部分が大事でな。詳細は省くが未だ雪と風の吹くような寒い季節、ふと静かな夜に美しい月を見て八月からもう会えなくなった浮気性な旦那を思い出すんだ。奥さんはずっと涙を堪えていたが耐えられなくなったんだな、結局彼女は鶯の居ない暗く寂しい夜に一人泣き続ける事になった」

「寂しい歌だな」

「ちなみにこの和歌が出て来るのが蜻蛉日記というんだが百人一首に選ばれた和歌は『歎きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る』。嘆きながら一人で孤独に寝ている夜が明けるまでの時間がどれだけ長いか知っていますか?貴方は知らないのでしょうね、という意味だ」

「あんたはその知識を何処から仕入れて来るんだ」

「前に別れた嫁が日本に詳しくてな、まあそこから色々とな」

「成程な、日本人より日本に詳しいかもしれない」

「たまたまだよ」

人に歴史ありとは言うがジャックについて俺も知らない事が多くあるのだろう。それはその筈だ、今まで他人に興味を持つ事なんて無かったのだから。

雪風のコックピットの中で覚醒してからなんというか、目覚めすぎると言わんばかりに景色が違って見えた気もする。

ブリーフィングルームに響くノックの音、ジャックが来客を招き入れると一人の少女が現れた。

 

「失礼します、本日より特殊戦に配属となりましたフリップナイトウィッチ、天津 風(あまつ ふう)少尉です。よろしくお願いいたします」

 

 

こうして特殊戦は新たなスタートを切る事になる、世界で一番過酷な戦場に新たな風が吹く、God bless you(汝に幸あれ)





四章終了です、一度ここで一区切りとして外伝とか色々進めていきたいと思います。
皆さまのおかげで目標の総合評価1000PT達成する事が出来ました!すっごくすごいです!!

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五章 バンシーの哭き声【再編集済み】
25話


ベネツェア戦線は本日も激戦なり、なれどベネツィア戦線異状なし。

ベネツィアの南方に位置する501JFWベネツィア基地ではとある問題が発生しようとしていた。バルクホルン少佐は暫定的に本国から少佐へ昇進の辞令を受けているが、実は正式な手続きを踏んでいないのでカールスラントの司令本部に正式に処理を済ませる為に一度基地を離れなければならなかった。

正直バルクホルン少佐は凄まじく渋っていた、一度戻れば数日はプロパガンダに利用されて拘束される事が眼に見えていた事と数日間基地を空ける事にかなりの不安を覚えていた。

ミーナ中佐は未だFAFからの取り調べ中、坂本少佐は実質異動済み、501JFW隊長代理として504JFWの竹井醇子中佐*1は基地に残っている筈だったがここで更に問題が発生する。

ミーナ中佐が意識を取り戻した事で竹井中佐も近いうちに501JFW司令代理の任を解かれる、よって一度人類連合軍及び西部方面統合軍に引継ぎの処理と501JFW内情の報告する為に出頭するよう指令があったのだ。

かくして保護者不在の問題児を多く残して哀れなバルクホルン少佐はそれはもう酷い顔をして出発していった、ちなみに一刻も早く帰還できるようにジェットストライカーの積み込みを竹井中佐に願い出たがファーンST-W型は501JFWにしか配備されていない上に機密が多く盛り込まれていた為に許可が下りなかった。

トラヤヌス作戦の時の様なネウロイの大規模侵攻が久しく起きていないが、それでも501JFWがかつて解放したガリア、ヘルウェティア、オストマルク、ロマーニャの何れにおいても一進一退の膠着状態が続いている。

その中で501JFWは対処の難しい飛行型ネウロイを狩るスペシャル達だ、ここベネツェア戦線では週に二から三回程ネウロイが襲来する。

ネウロイ撃墜の為にスクランブル発進した日を一日目として当日と二日目の日の昼までは魔力回復にあてる為に休憩となる、そして二日目の午後と三日目までは訓練や補給任務、その他必要があれば出張や遠征等に割り当てられる。

そして隊長不在、戦闘隊長不在、残った最高尉官は勝手気ままなイェーガー大尉、何も起こらない筈もなく。

「買い出しじゃんけんだー!!!Are you ready!?」

「「year!!」」

こうなった、あえて言うのあれば501統合航空戦闘団に所属するウィッチは501JFW司令部直属である機械化航空歩兵軍団*2という一部隊でしかない。

司令の許可の下に基地全体の備品や食料を輸入する分にはウィッチ隊が自ら動くことは無いが個人的な物や娯楽の品については自分で出向いて購入する必要がある、501JFW及びその周辺では物資が中々届けられない状態にあるので酒舗を設ける事も出来ていないのだ。

しかしこれは重要な業務である、戦場において娯楽は必要ではないがその重要性は誰もが知っている。

人は過酷な戦場においては数日の内には狂うが訓練すれば二、三週間は戦い続けられる、しかし軍においては兵が前線で戦い続ける事が出来る期限が設けられている。

それは特別休暇であったり、配置転換であったり、あるいは兵役の期限であったり、もしも兵がそれまで生き残っているのであれば何かしらの期限を以て一度兵は安息の時間が設けられる。

人間は娯楽があれば意気揚々と動ける、娯楽が無くとも食事があればある程度は戦える、食事が無くともプライドや信念があればなんとか動く事が出来る。

しかしそれでも、例え満たされていても人間は極度のストレス下に置かれると正気を失い正常でなくなってしまう。正常でない兵士は例え数か月、またその先の数か月でも戦い続ける事が出来る。

戦場において正常でないリミッターが壊れた兵士は戦い続ける、しかしそれがいつの日にか重大なミスを誘発する。

だから人間には、優れた兵士には信念が、食事が、そして娯楽が必要になるのだ。

「つまり買い出しとは、人間に与えられた権利であり!義務であり!これを妨げる事は許されない行為である!!!」

「シャーリー!!カッコイー!!!」

「ヒューヒュー!!」

「ありがとう!!ありがとう!!皆!!!」

椅子の上に立ちあがり渾身の思いを込めた演説をやり遂げたシャーリー、基地に残ったウィッチ全員のスタンディングオベーション、溢れる拍手と感心の眼差し。

先達のウィッチによる迫真の演説、他人の心を揺さぶる言葉遣いと身振り手振りが齎す臨場感、文句なしのスピーチであった。

 

 

「でもシャーリーさんは買い出しには行かせませんよ?」

「え?」

 

 

一瞬で冷めていく空気、昂る感情と共に流したシャーリーの涙*3が一瞬で引いていく。

「ナンデ?」

「いや今はシャーリーさんが最高責任者ですよ?上官の命令は聞かないと」

「私も人の事言えないけど宮藤には言われたくないなぁ!?」

これまで可愛がってきた部下からの突然の裏切り、流石は扶桑人、自分の都合以外では上司の命令は絶対だ。

「バレなきゃ大丈夫だから!きっと!多分!メイビー!パーハップス!プロバブリィ!!!」

「ちなみにシャーリーさんが仕事を放棄したらハルトマンさんに仕事が振られますよ?」

「何で私だけ!?……まさか!?」

何でという事はない、残ったウィッチでサーニャ中尉は夜間哨戒に備えて仮眠中、リネット曹長はともかくペリーヌ中尉は空いた時間はガリア復興の為に割くと501JFW再結成時に決められている。

そういった理由でそもそも空いている人間はエーリカ中尉しか居ないのだ。ただしエーリカ中尉が特別暇人という訳ではない、彼女には彼女の仕事がある、彼女は二度寝とお菓子だけの天使ではないのだ。

「だったら最高責任者権限で一日仕事はお休みだ!!」

「友よ!それはまずい!!」

「なーに安心しろハルトマン、あの堅物カールスラント軍人が居ない今の内にしか出来ない事が―――」

『いつからお前はそんな命令が出せる程偉くなったんだ?享楽的なリベリアン』

「と、少佐殿も仰っています」

「宮藤ぃ!!それは無しだろぉ!!!」

口で言っても分からないリベリアン、それを分かっていたバルクホルン少佐はあらかじめ何かがあった時はインカム*4で連絡するように宮藤に指示を出していた。

事実バルクホルン少佐が飛行機にのって数十分しか経っていないのにこの始末である、決して広くはない飛行機の中でバルクホルン少佐の怒声が響き渡る、宮藤軍曹は上官の命令を遂行したに過ぎなかった。

結果的に買い出しはハルトマン中尉、エイラ中尉、ペリーヌ中尉の計三人に決定した、買い出し先はロマーニャFAF基地である。

そしてイェーガー大尉は拘束、各種書類整理を執行する事となった。

 

 

 

 

 

 

「シャーリーさーん、休憩ですよー」

「待ちくたびれたよ宮藤―!早く縄を解いてくれー!!」

文字通り拘束されたイェーガー大尉は司令室にて書類の処理を続けていた、今回は余程重い罰則が予告されていたからか真面目に勤務していたようだった。

「久々に書類なんて弄っていると肩が凝ってしょうがないよ」

「私が揉みましょうか?」

「それじゃあお願いしようかな!……宮藤?一応言っておくが肩だぞ?」

「分かってますよー」

少々の時間をおいてからブレイクタイムが始まった、リネット曹長と一緒に作ったクッキーとコーヒーだ、ちなみにコーヒー豆はミーナ中佐の物を使用しているのでバレると罰則を受ける。

「それにしてもシャーリーさんは凝りませんねぇ、いえ肩は凝ってましたけど」

「さすがに真面目に仕事したら疲れるさ。だがな宮藤、一ついい事を教えてやろう、一度や二度位の命令違反とか素行不良ぐらいじゃウィッチはクビにはならない!!」

「私命令違反で不名誉除隊受けたんですけど」

「むしろそれは温情さ、じゃなきゃストライクウィッチーズに戻って来れるもんか。あれは戦う理由を全うした宮藤が日常に戻る為の方便さ、あの時はどの道501は解散だったし」

「うーん…そうなんでしょうか」

「何とかなるもんだよ意外とな。私なんて少尉任官後に原隊でストライカーユニットを無断改造して遊んでたら処罰としてストライクウィッチーズに捻じ込まれて、今では廃品同然のトラックやソードフィッシュ*5を適当な名目でレストアして私用したりバイクやらユニットを改造して遊んでネウロイ落としているだけで大尉だぜ?」

「やりたい放題が過ぎますよ!?」

「アッハッハ!冗談だよ!本当にそれだけだったら私はここに居ないさ、私には私の役割があって、それを熟しただけさ」

実際高く積まれていた資料の大半の処理が終わっていた、これなら夕方には全ての処理は終わるだろう。

「一応偉くなれば好き勝手出来ると思ってたけど上手くいかないもんだ、やっぱり必要なのは理解のある上司と部下だな」

「シャーリーさんが真面目に働けば皆も理解してくれると思いますよ?」

「止めて!そんな穀潰しみたいな扱いしないで!!」

「というより何でウィッチになろうと思ったんですか?」

「ん?前に言わなかったっけ?」

「いえ確かに聞いたんですけど、正直シャーリーさんだったらウィッチにならなくても勝手にストライカーユニットを組み上げて飛んでそうだなーって」

「宮藤ー?軍属の人間以外がストライカーユニットを使ったら即刻逮捕だぞー?」

正確に言えばストライカーユニットの無断使用及び無断改造は軍属であっても処罰の対象になる、しかしウィッチは貴重である為そうそう厳罰を受ける事がないのは先述したようにイェーガー大尉が言う通りである。

ちなみにFAFであれば所属する人間は大抵前科持ちで、FAFで勤務する事自体が刑の執行のようなものなので即軍法会議からの処刑が速やか行われる厳しさが存在する。

一方で同僚に突如として射殺されても正当性さえあれば*6死んだのは犯罪者だし仕方ないよねという別方面の緩さも存在する、よってFAFにおいて私怨を持ち込まれる事は大変危険であり、階級に関係なく気楽にやろうという風潮は自己防衛の意味もあるのかもしれない。

それはともかくストライカーユニットと銃火器があれば簡単にテロ行為を起こせるので余程の事がない限り厳重に管理されている、故に形が残っている状態でストライカーユニットが民間人の手に届くところに廃棄される事はない筈である。

「まあFAFの方からちょっとばかしチョロまかした事はあるけどな」

「何してるんですか!?銀蠅は犯罪ですよ!?」

「バッカお前人聞きの悪い事言うなよ!ちょっくらFAFでポーカーしてたら負けた分を払えない奴が居てそいつがくれるって言うから貰っただけだ!」

「絶対マズイ奴じゃないですか!何も誤解してないですよね私!?」

「だから違うんだって!FAF軍人にとってはこの星の機械は最新のモデルでも大体がレトロ扱いなんだよ!だから懐古趣味の奴が買い込んで改造して遊んでるなんて良くあるんだよ!」

「成程、つまりはこの星のマシンを譲って貰っただけだと」

「そうだよ、後ろ暗い事なんて無いんだ」

「でも最新モデルを改造してるならFAFのパーツとか使われてませんか?それを貰ったら一緒なんじゃ……」

「………~~♪」

「密輸と同じ手口じゃないですか!!」

「違うんだ!私は悪くない!勝手に紛れ込んでいたんだ!!」

「それは窃盗犯の言い分ですよね!?」

「アッハッハ!!」

「笑っても誤魔化せないですからね!?」

 

 

 

 

 

 

宮藤と談笑しながら思い出す過去の事、欧州に発生したネウロイは海を挟んだ合衆国にとっては正に対岸の火事そのものだった。

私の故郷は本当に何もないド田舎だけど()()()()()()()場所だった、私の家は貧乏って程でもないが家の仕事をただ手伝うのもなんとなく違うんだよなって、何も変わらない故郷でずっと考えていた。

しかしある時何もない田舎にも特別目立つ施設が出来上がった、それがFAFの施設だった。

ただしFAFと言っても前線にあるような基地じゃなくて、教育軍団とかシステム軍団が管理する新人の研修センターや、武器と航空機を開発したりテストフライトするような後方の施設だった。

家の手伝いをしながら、或いはスクールの帰りに空を見上げて空の向こうに飛び去っていく飛行機を何度も見た。

太陽の光を遮る為に目元に当てた手の指の間から見えるその機体が、空の彼方に消えていくまでずっと。

 

 

―――ああ、なんか遠いなってなんとなく思った。

 

 

それでも退屈な日々、熱中する何かもない自分にとって興味を惹かれるものがあそこには在った。

私は両親に頼み込んで何日かはFAFで働きたいって頼み込んだ、FAFだって一般区画の売店とかの仕事は募集していたからな。

そこで働きながらちょこちょこっと基地の入れるところを廻っていたんだ、勿論FAF専用の区画には入れなかったけど滑走路に面したフェンスぐらいなら近寄れた。

あれは確かファーンだったな、なんて貰ったFAFのパンフレットを見ながらずっと眺めてた。

あれ、いいなぁって思ったよ。農薬を散布する為に飛行機に乗ったことはあるけどさ、どう考えてもこの世界にはないデザインとその性能に震えたよ。

人と武器を積んだ全長約16.5メートル弱の戦闘機が高度58000フィートまで飛んで行くんだ!あの戦闘機の速度ならほんの数十分で私の故郷から飛び去って行けるんだ、もっともっと先の世界まで!!

それからさ、戦闘機という凄まじいパワーとスピードに惹かれたのは、そして絶対にあれに追いついてやるって思ったんだ。

当時のファーンの速度はマッハ0.8、少なくとも亜音速を越えられる様にならなきゃいけない。

アルバイトの金だけじゃ足りないからFAFの軍人から賭博で金を巻き上げながら独学で勉強したよ、飛行機に関する参考書だって取り寄せた、これってこの世界からしたら未来の技術だから本当に良かったのか疑問だったけど。

数年後に自分で組み上げたバイクで走ったボンネビル・ソルトフラッツでの当時の世界記録を超えて時速178.24マイル*7を樹立したがファーンまだ遠く及ばない。

そもそも1000ccのバイクじゃあ限界がある、だったら次の目標を達成しに行くしかないだろう?

大丈夫、もう準備だって出来てる。FAFのお節介なオッサン達から教わった技術と知識があれば募集要綱が緩んだ軍の採用試験くらい簡単に滑り込める。

私は、私が組み上げたストライカーユニットで戦闘機を追い越してやる、それが叶ったらまた次の夢さ。

 

そして今では当時憧れていたファーンを履いている、これまで使っていたP-51とそのマーリンエンジンも気に入っていたけど今のストライカーユニットもお気に入りさ。

ちょっと改造するのは惜しいというか勿体ない気もするけど私の憧れに手が届いたんだ、これって最高だね。

それでもこっそりP-51の改造は続けてるんだ、いつしかレシプロストライカーでファーンを超える為に。

それが出来たら、次はファーンでシルフィードに勝とうかな。

 

 

もしもそれが出来たら、また次は―――。

 

 

*1
本来は大尉であるが501JFW司令代行中は中佐として扱う

*2
広義のストライクウィッチーズ、或いはウィッチ隊

*3
目薬によるものである

*4
魔導インカム、魔力で動作する

*5
フェアリイ社製の三座複葉の雷撃機

*6
正当性の有無は最終的にFAFの検事が判断する事なので結局は言い分がどうであれ都合の良いように処理されるのだが

*7
時速286.9キロ




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26話

買い出し組がFAFロマーニャ基地に来たのは食料等の購入が目的でもあったが、やはりミーナ中佐の様子を見に行くのが一番重要だった。

ミーナ中佐は既に退院しており体調的には問題ない状態だった、それでも中佐がFAFロマーニャ基地に残留しているのは501と特殊戦の融和計画を進める為であった。

中佐は現在、特殊戦に割り当てられている宿舎の一室に泊まりながら他の軍団から何とか情報を手に入れようと必死の取り調べを受けていた、何せ一度501JFW基地に戻ればFAFは手が出せなくなる為である。

先日のFAFロマーニャ基地にて起きたジャムの内部工作、当時のファーンⅡの異常はAICSによるモノと判明しそれを弄る事が出来る可能性は二つ挙げられた。

一つはジャムが遠隔による電子戦によってAICSのプログラムを不調にさせる事、もう一つは直接人かコンピューターによってAICSに異常が出るように細工をする事。

前者は非現実的である可能性が高い事とメイヴに搭載されたFAF最高峰のECCMを突破してプログラムの改変や物理的な操作が行われた可能性が低い事から一度見送られている。

よって後者である可能性が高いがプログラムの改竄はロマーニャ基地のコンピューターによって否定された為、AICSの改変は人間の手によって行われたと判断されていた。

FAFではメンテナンスや給油等の整備に関して誰がいつ行ったかのデータが電子的に記録されている、よって誰が戦闘機の整備を行ったか判明しているのだが先日の事故で戦闘機ごと容疑者の地上要員が吹き飛んでしまった。

吹き飛ばす前に拘束すれば良かったのだがジャムが紛れ込んでいる可能性が判明した瞬間に要請した雪風と特殊戦の戦術コンピュータによって対地攻撃の認可が通ってしまった。

AICSは飛行前であれば異常を示さない為破壊された機体の解析は遅々として行われている状態であるそして容疑者を絞り込めてもそこからの発展が難しい。

FAFのシステム軍団や情報軍団、管理部の保安局等は今見えざる敵と戦い続けていた。

「ミーナ!調子はどう?」

「エーリカ!それに皆も。……ごめんなさいね、基地を長く空けてしまって」

「いえ、気にしないで下さいミーナ中佐。私達だってネウロイのせいで基地を空けてしまった事もありますし」

「あれは……仕方ない事よ、本当に貴女達が無事でよかった」

「ミーナ中佐はまだ戻って来れないのカ?」

「ええ、ちょっと話が長引いちゃって。でも別に辛い事は無いわよ?坂本少佐も協力してくれてる事だから」

「え?坂本少佐がお出でになってますの!?」

「少佐は今人類連合軍とFAFの間に立って色々動いているみたいね、いつかまた会えるかもしれないわよ?」

突如として消えた501JFW元戦闘隊長の坂本少佐は秘密裏にFAFとの交渉役として動いていた、しかし実際のところは人類連合軍に対しての諜報活動の任に就いているのだろうとミーナ中佐は考えていた。

元々人類連合軍は自らとして動く事は余り無い、人類連合軍直属の各JFWはともかくとして戦場には統合方面軍、FAFの技術を利用する時は協同技術開発センター、そして補給等の操作を行う際は別名義の組織が動かして世界中の動きをコントロールしている。

今回の特殊戦と501JFWの融和案は人類連合軍が望む限り通るだろう。そして坂本少佐は言うのだ、私達は仲間なんだ、一通り情報を吐き出しやがれと。

そして恐らく坂本少佐は今、人類連合軍、特殊戦及びFAF、501JFWの三重スパイとなっている。つまり人類連合軍がこの融和案を認可するという事は人類連合軍が公然とFAFにスパイを送り込める口実となる。

善意と悪意のせめぎ合い、状況を改善しようとする全てが人類連合軍の掌の上で転がされているだけにすぎない、それこそ私に対するこれまでの圧力すらこの融和策の為に利用する為である可能性すらある。

正直なところ胃薬と向精神薬の服用が多くなっている、いつだって逃げ出したい気持ちで一杯だ、それでもこの役割を続けるのはそれが私に課した誓いだからだ。

ネウロイから故郷を取り戻しクルトの墓を作ってやらねばならない、そうしなければ私も彼も平和の安寧で微睡む事は許されない。

「そう言えばミーナってここで何やってるの?」

「501JFWの今後を考えて特殊戦と連携を取ろうと思っているの、その打ち合わせをしているのよ」

「特殊戦と協力なんて可能ですの!?」

「いつも見ているだけだもんナー、いやバルクホルン少佐とかミーナ中佐とか何度か助けられてるけどさぁ」

「特殊戦はそういう部隊だもの、彼等は彼等の仕事を熟しているだけなのよ。それを嫌うのはお門違いだわ」

「ミーナってさぁ、変わったよねー。―――誰よりも特殊戦を嫌ってたのにさぁ?」

思わずミーナ中佐の体が硬直する。確かにその通りだ、特殊戦のスーパーシルフを凶鳥(フッケバイン)と呼び特殊戦を死神と言い放ったかつての自分とは大違いだと自覚はしている。

エーリカ・ハルトマンという少女はそのいつもの態度とは裏腹に観察眼に長けていた、その彼女が言い切るのであれば言い逃れする事は不可能だろう。

私が彼等に対する認識が明確に変わったのは恐らく重秘匿案件であるX-11案件*1に巻き込まれて失踪したあの時から、そして長い眠りから目覚めた時から。

眠りから覚醒した自分は余りにも目覚めすぎていた、ズレていた感覚がまるで調和を取り戻した様な曖昧な浮遊感。

あの異常な空間は恐らく五感で構成される世界とは別の要素を含めて構成されていた、あるモノがなく、ないモノがある世界だ。

それは深井中尉も同じだろう、恐らく中尉と私は同じ経験を通して同じ価値観を共有した、そして何より深井中尉という人間の一部を知った。

果ての無い白い部屋で檻に入れられて横になる翅の生えた女と鉄格子を挟んで檻の外で座り込む深井中尉、深井中尉は立ち上がれば何処へでもいける、そして彼は彼女の檻を開く鍵を握っていた。

「確かにそうだけど……誤解も解けたしもういいのよ、今はそれどころじゃないから」

「そぉ?だったらいいけどさー」

部屋に響くノック音、この部屋に用事がある人間は限られている。

「どうぞ」

「失礼します、ミーナ中佐。……おや君達は」

「ええ、501JFWのウィッチです。紹介するわ、この方は特殊戦五番隊の戦隊指揮官のジェイムズ・ブッカー少佐です」

「初めまして少佐、私はペリーヌ・クロステルマン中尉ですわ」

「エーリカ・ハルトマン中尉です」

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉だ、よろしく少佐」

「ああ、よろしく。ミーナ中佐、少しくらいなら時間を作ってもよろしいのですが、如何しますか?」

「いえ、このままで構いません。皆は席を外して頂戴、ごめんなさいねせっかく顔を出してもらったのに」

「大丈夫、ミーナの具合も良さそうだし」

「ええ、お忙しいのであれば私達は失礼いたします」

「じゃあなミーナ中佐、また来るからなー」

三人が退室したあと、ブッカー少佐が溜息を吐く音がハッキリと聞こえた。

「何か面倒な案件ですか?ブッカー少佐」

「いや、あのように幼い少女達が戦場に出ていると思うとな……何年経っても違和感が拭えないよ」

「あら、私は違うのかしら?」

「い、いや。ミーナ中佐は大人びているからな、実際話していても年齢不相応に思えるよ」

「色々言いたい事はありますけど、大人になるしかなかったもの、そうじゃなきゃ政治なんてやってられないわ」

「そうだな、だが君はまだ子供でいられる。平和になったらやりたい事はないのか?」

「そうね…ベルリンを、そして故郷を取り戻したら退役して歌を歌いながら故郷の復興でもしようかしら」

「ああ、それは良いな。俺も平和になったら地球で百姓でもやるかな、畑ばかりの何もない故郷でブーメランでも飛ばしながら」

「深井中尉は戦争が終わったらどうするのかしら」

「あいつはそんな事を考えてもいないだろう、しかし今にして思えば地球に帰れば面倒な事になるかもしれないな」

「そうなの?」

「アイツは色々な事を知りすぎた、地球に帰れば今のミーナ中佐とは比べ物にならない扱いを受けるだろう。そう考えれば零はもうここで戦い続けるしかない、逃げるところなんてもう何処にもない」

「なら、帰らなければいいのではないかしら。平和になったらこの星で暮らせばいいのよ、ジャムがいなくなってもすぐにFAFが無くなる訳ではないでしょう?」

「……そうだな、だったら俺もこの星で生きていくのもいいかしれんな」

「ならコンサートのチケットを用意しておくわ、二人で是非聞きに来て」

「勿論だ……さて、その為の仕事をしよう、人類連合軍からの命令が届いた」

「そう、遂に融和計画が始まるのね」

FAF特殊戦五番隊と501JFWの融和計画、通称プロジェクトマリッジとしてFAF本部、人類連合軍ともに連名で認可が下りた。

組織は501JFW司令部直属の特殊戦という形で運用される、特殊戦と501JFWの立場は対等であるがそれでも501JFWの下に就くのは地球防衛国際条約を順守する為である。

そしてマリッジプロジェクトには協同開発技術センターも参加する、501JFWと人類連合軍が母体である限りFAFでは持てない陸海の装備を開発し運用できる為である。

つまり上手くいけば501JFWと特殊戦用の陸上偵察及び強襲部隊や最新のフリゲート艦や空母等を運用できるかもしれないという事だ。

「なお、この計画を実施するにあたり俺とミーナ中佐は大佐に昇格する。俺は二階級特進の前払いだ、仲良くやろうミーナ大佐」

「ええ、よろしく頼むわ」

「ちなみに特殊戦五番隊の戦力はそのまま引き継ぎだ、そして深井中尉は大尉に昇格して特殊偵察ウィッチ隊*2の隊長となる、本人は大層不服そうにしていたがな」

「レコンウィッチ隊ね、内訳は?」

「雪風を始めとして直掩のレイフ一機とフリップナイトを三機の計五機。メンバーは深井大尉とナイトウィッチ一人+α。そしてメイヴのFOは適宜変更する、場合によっては501のウィッチが乗る事になるだろうが殆どないだろうな」

「理由は?」

「だれもFOの経験はないだろう?それにこれを見てくれ、これが新たに開発されたフリップナイトの詳細だ」

先程から手に持っていた書類を受け取り流し見ながらページをめくる。

「恐らく今後は素質のあるウィッチと一定の水準に満たないウィッチは将来的にフリップナイトシステムを運用する事になるだろう。フリップナイトの魔力のタンクとして」

「……良く言えばどのようなウィッチでもネウロイと一定以上に戦う事が出来るシステム、ウィッチの戦力を均一化する事で扱いやすくする」

「人類連合軍が作ったシステムだ、いずれ全体的に採用されるかもな」

「結局メイヴのFOは空席なの?」

「いや、一時的に天津少尉が搭乗することになる。実はフリップナイトがまだ揃っていなくてな」

「ワンオフ機ともなればそうでしょうね、それで他には?」

「いや特にない。おめでとう大佐、これでFAFから釈放だ、その資料を持たせるから帰りの機の中で読むといい」

「ありがとうブッカー大佐、今後ともよろしく」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

*1
人型ネウロイに関する案件の総称

*2
Special Reconnaissance Witches Force




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27話

「ミーナ隊長!お帰りなさい!!」

「ええ、宮藤さんただいま。あら?司令室でシャーリーさんが仕事してるなんて……竹井中佐とバルクホルン少佐は何処へ?」

「ええと、竹井さんは人類連合軍の本部で、バルクホルンさんはカールスラントの司令部に行ってます」

「なる程、それじゃあ帰りが遅くなるわね、シャーリーさんも代行ありがとう」

「いやぁ!二人がいないから仕方なく!そう仕方なくやっただけですから!」

「まさかシャーリーさんに書類仕事が出来るなんてね、今度から予習として仕事を幾らか任せようかしら」

「え゛!?」

本人は隠す事もなく嫌な顔をするが当然だ、これからプロジェクトマリッジが始まりこれまで以上に忙しくなるのだから。

「シャーリーさん、仕事は粗方済んだのかしら?」

「はい、勿論であります中佐殿!」

「私は今日付けで昇進して大佐よ、それに補給の物資に個人の品を混ぜてたら営倉行きよ?」

「ほんの出来心です!大佐殿!」

「ちゃんと提出できる書類だけ残して後片づけをしなさい。私は一度自室に戻るわ、私宛の書類とか届いていたかしら?」

「そのあたりは竹井中佐とバルクホルンが処理していました!」

「そう、なら問題なさそうね。それじゃあ後はよろしくね」

久しぶりに戻った自室には所々少しばかり埃が溜まっていた、数ヶ月ぶりに帰って来たのだから無理もない、それに機密事項に触れる物もいくつか置いてあるのだから入出は許可されなかったのだろう。

プロジェクトマリッジは竹井中佐から引継ぎを受けてからになるだろう、私も空けていた間の業務の処理とリハビリをしなければならない。

とは言えども私が居ない事は人類連合軍は知っているのだから私でなければならない案件は振られていないだろう、だからもしあるとすれば明日からだ。

とりあえずはトゥルーデが早く戻れるようにカールスラントの司令部に連絡を入れておく事、部屋の空気を入れ替えて布団とシーツを取り換えながら今後の事を考える。

プロジェクトマリッジ、ブッカー大佐から手渡された資料によると特殊戦の能動的協力を得られる様になるという。

そもそもFAFの一般の部隊の戦闘機は基地周囲の偵察と迎撃のみ地球国際防衛条約において許可されている、よって501JFWと協力できる戦闘機は特殊戦にしか存在しない。

そして今回のプロジェクトにはフリップナイトシステムの実戦テストとして攻撃に参加する事を許可されている。

501JFWはいつも通りに任務を遂行し、特殊戦は偵察に従事、レコンウィッチ隊は501JFWの許可を得て特権*1の下に戦闘の援護を行う事が出来る。

一例で言えばウィッチ五人で出撃中、計五機からなるレコンウィッチ隊は偵察用の一機から二機を残して余ったフリップナイトを増援として動かす事が出来るという訳だ。

これならウィッチの数が限られている今でもローテーションに余裕を持たせる事が出来る、実質的な戦力の増強だ、本音を言えばあと半年は早く欲しかったのだが。

しかしこれまでと変わらず襲来するネウロイに対して迎撃しか出来ないのであれば根本的な解決には結びつかない、ネウロイの巣に対しての一大攻勢が必要だ。

統合方面軍は融通が利かずに非協力的にも思えるが無能ではない、方向性は違ったがかつての重秘匿名称ウォーロックもガリア解放の為の兵器であった事は間違いないのだから。

それ程までにトラヤヌス作戦の影響は大きかったのだ、一つの国の人民の殆どが退避しその隣国に至るまで余波を齎したあの事件は。

何はともあれ一度特殊戦の人間とウィッチ達の顔合わせをするべきだ、大々的にパーティーを開くのもいいかもしれない、人類連合軍の確実な協力を得た今であれば補給も潤っている。

今晩の食事の時にでも予め軽くプロジェクトマリッジについて触れておこう、方向性だけ決めておいてトゥルーデが帰って来る頃に始められるようにするのがいいだろう。

これからの未来が明るくなる事を祈りながらベネツィア基地の廊下を歩いて行った。

 

 

 

しかしそんな少し浮ついた気分もすぐに落ち込む事になる、それが次の日の朝の出来事であれば猶更。

「しばらく501JFW基地に来られない?」

「ああ、特殊戦としての協力はするが俺とレコンウィッチ隊はしばらくFAFロマーニャ基地で留守番だ」

「他の特殊戦のメンバーは強力してくれるの?」

「特殊戦機にB-14レイフを付ける、自由に使ってくれ」

特殊戦の暗号回線にてブッカー大佐からの連絡、態々この回線を使用するという事は他の者には聞かせられない何事が起きている。

「君にこうやって話を打ち明けるのは、君が信頼できる人間と信じているからだ」

「機密保持は徹底してるわ、FAFの方で何か問題でも?」

「バンシーⅣ、知っているか?」

「FAFが空に浮かべている空中空母でしょう?……ちょっと待って、まさか占拠だとか蜂起されたとか言わないわよね?さすがに国際問題になるわよ」

「そういった話じゃないと信じたいがちょっと面倒事がな、FAFが調査に入るんだがそれに特殊戦が協力する事になった」

「そう……それじゃあパーティーは延期ね」

「出鼻を挫くようで申し訳ない。一度落ち着いたら成大にやろう、ブッカースペシャル、最近は中華にも手を出してるんだ」

「ふふ…楽しみにしているわ」

通信終了、特殊戦の面子を紹介できないのは残念だがこっちも受け入れの準備をしなくてはいけないので猶予が出来たと喜んでおこう。

「ミーナ中佐、失礼します」

「ああ、竹井大尉。私が留守の間ありがとうございました」

「いえこれぐらい、私達は501JFWにお世話になってばかりでしたから」

「流石は扶桑の三羽烏ですね、よく501を運営して下さいました」

「それはミーナ中佐が残してくださったウィッチの性格や得意不得意をまとめたマニュアルがあったからですよ……ミーナ中佐はこうなる事を予想しておられたのですか?」

「そうね……ベネツィア戦線に来てからは色々あったから」

「報告書や戦闘記録は拝見させていただいてますよ、ミーナ中佐の苦労は相当だと思います」

「知ってくれている人が居るだけでも報われるわ、504JFWは大丈夫なのかしら?」

「504JFWはメンバーの構成上、ロマーニャの政府の発言力の影響が大きいですから、現時点でもロマーニャ皇室のバックアップで何とか動いている状態であまり独立した部隊という気がしないのです」

「私達もロマーニャ皇室に随分と助けられているから……足を向けて眠れないわね」

504JFWはロマーニャ皇室直属の精鋭部隊である赤ズボン隊が構成員の大部分を占めている、よってロマーニャ軍のバックアップを優先的に受ける事が出来るのだ。

しかしその反面ロマーニャ政府の言いなりになっている場合もある、主任務がロマーニャ防衛であることが幸いだが。

トラヤヌス作戦に501JFWや502JFWではなく504JFWが選ばれたのはその地理的な近さと潤沢な支援、そしてロマーニャという国として実績を得るという思惑だったのかもしれない。

もしトラヤヌス作戦が成功すれば計三部隊がそれぞれネウロイの巣を破壊したという実績に加え、カールスラント、その先のオラーシャ解放作戦の為の道も開く事が出来た。

けっして無謀な作戦ではなかった筈なのだ、ネウロイの巣がネウロイに奪われるなんてイレギュラーさえなければ。

「竹井大尉はこれから基地に戻るのかしら」

「ええ、ウィッチは貴重ですから。501JFWが羨ましいです」

「もしかして、人類連合軍の上層部から聞いたのかしら?」

「ええ、プロジェクトマリッジ。504JFWのウィッチにも協力を要請するかもしれないと言われました」

「504JFWに協力を?」

「はい、どうやらプロジェクトマリッジはヴェネツィアのネウロイの巣攻略作戦の為のプランでもあるようです。トラヤヌス作戦の再来が起これば統合航空戦闘団一つでは太刀打ち出来ませんから、人類連合軍はFAFを利用してでもネウロイの巣破壊に動くつもりでしょう」

「つまり総攻撃の日は近い、ということね」

「オペレーション・ニフ…人類連合軍はX-11案件同様に何か強力な兵器を持ちだすかもしれません」

「X-11……トラヤヌス作戦の際に情報を得たのね、確証はあるのかしら?」

「攻略作戦について知ったのは美緒の報告を受けたからです、『後で知る事は先に知っても問題ではない!!』と笑ってましたよ」

「それって大問題よね?」

「ええ、一応説教しておきましたが美緒にとっては馬耳東風で……」

というより総攻撃による攻略作戦について私が聞いていないのだが、美緒は何を考えて動いているのだろうか。

何にせよ特殊戦の協力が無ければプロジェクトマリッジは無く、それが無ければ攻略作戦であるオペレーション・ニフもないのだから備えて待つくらいの事しか出来ない。

成るように成れという事だ、何かあれば人類連合軍を問い詰めてでも動けばいいだけの事、それぐらいの裁量権は持っている。

今日と言う日に足踏みをしていられない、カールスラント奪還の為にまずは自分の体力と勘を取り戻す事が先決だ。

ファーンST-W型にも慣れなければならない、今日もシャーリーさんに協力してもらうとしよう。

恐らく決戦の日は近い、そしてそれが今後を決める。

 

 

―――攻略作戦の失敗とはすなわち、ロマーニャ及びベネツィアの奪還を無期限で諦めるという事と等しいのだから。

 

 

 

*1
地球国際防衛条約による:特権とは作戦行動中にのみ自己判断においての行動を許可するものである、ただし同時に対ネウロイ戦においては人類連合軍が主導である為その作戦や任務内容を順守する義務を負うものとする、これに著しく反する場合FAF及び人類連合軍合同の軍法会議において処罰するものとする。




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28話

「バンシーⅣの飛行戦隊の全滅が確認された、お前が直近で偵察に行った任務の飛行隊だ」

「俺が見た時はジャムの戦隊が全滅したと思ったんだが、雪風だって見ている」

「お前と雪風は正しいよ。バンシーⅣの飛行戦隊がジャムを撃墜して帰還する際にそれは起きた、バンシーⅣは戻って来た子機を全て攻撃したんだ」

ブッカー大佐は照明を落としてブリーフィングルームに備え付けられているプロジェクターを起動した。

バンシーⅣ、正式名称はバンシー級原子力空中空母四番艦、全長687m、全幅1400m、自重は9650t、搭載機40機を擁する()()()()だ。

技術試験の為のバンシーⅠと着陸訓練用のバンシーⅡは空中空母としては運用されず、バンシーⅢは建造中に電子機器等の変更を受けた為にバンシーⅣが実際に運用される就役としては一番となる。

現在フェアリィ星ではバンシーⅢとバンシーⅣが運用されており、主にFAF基地周辺の迎撃と偵察でしか戦闘機を運用できないフェアリィ星の各基地の為にバンシー級は各基地の間の死角を埋める防空網外環部の要として非常に重要な立ち位置を占めている。

つまりFAFの戦闘機が基地の周囲しか動けないのであれば基地が動けばいいという発想で運用されていて、これを失う事は暗闇の中に懐中電灯一つだけで放り出される事と同じになってしまう。

「バンシーⅣに子機が戻る前にバンシーⅣの原子炉に異常有りとの警報が出て搭乗員は全て退避している、子機に攻撃する時にはバンシーⅣには誰も乗っていなかった。バンシーⅣは今も無人で飛びながら近寄る機体には迎撃を行っている」

「それで?その事が俺に何の関係がある、俺に過失でもあったか?」

「FAF本部としてはバンシーⅣに何が起きているのかを知っておきたい、FAF情報軍は乗員の誰かがバンシーⅣのプログラムを書き換えたのではないかと疑っている」

「フェアリィ星の敵はジャムだけじゃない、フェアリィ星か地球の工作員が自分の利益の為にFAFに忍び込んでいるというわけだ」

「馬鹿な事を言うな、俺達の敵はジャムだ」

「だったらバンシーⅣはジャムに占拠されたんだ、撃ち落とせよ、それで終わりだ」

「お前、本気で言っているのか?」

「工作員と言えば違う、ジャムと言えば信じられないと言う。少し前のあんたならまずは考える位はするだろう、何を怯えているんだ、戦場から離れすぎて耄碌したのか?」

「俺は怯えてなどいない」

「どうでもいいよ、バンシーⅣの事も俺には関係ない。大体飛行戦隊の奴らだってマヌケなんだ、バンシーⅣが攻撃して来た時点で攻撃すればいい、俺だったらそうする。俺と雪風を害するモノを俺は許さない、あのグレイシルフと同じだ、攻撃してくる奴は全部俺達の敵だ」

ジャムとの戦争は人間を機械にする、特殊戦はどちらかと言えば人間として生まれてしまった機械の様な人間の集まりだがこの深井零という男もその一人だった。

しかし深井零は今俺達と言った、元々自分と雪風にしか興味を持たない男が心変わりを見せたのだ。

彼は何かに気付いてジャム戦争で生き残る為には自分の力だけでは不可能な事を確信した、だから自分と別の存在である何かが必要であると無意識に訴えているのだ。

「深井零大尉、貴官には出動命令が出ている。准将のサイン付きだ、現時点を以てバンシーⅣ事件の調査に向かう事」

「何故俺が行かなければならない、特殊戦の仕事ではないだろう」

「零、お前は軍人だ、軍人が動くのは命令があるからだ、それを誤解するな。一々下の人間の意見や要求など聞いていられる程FAFには余裕はない」

「つまりあんたにとっても青天の霹靂という訳だ、だから八つ当たりするんだな、俺は一体どうすればいいんだ」

「靴にでも当たれよ、おっと壁に穴を開けるなよ、始末書はお前に回してやる」

「地球からの八つ当たりには、ジャムを蹴飛ばせばいいわけだ」

「その通りだ。深井大尉およびレコンウィッチ隊『ミラージュ』は威力偵察が元々の任務の一つである、よって今回の任務はバンシーⅣに威力偵察を行い状況を確認し問題があればそれを解決する事だ」

スクリーンの表示が切り替わる、現在のバンシーⅣの状態とその外観の映像が流れている。

「バンシーⅣは以前と変わらずに無人で、いや誰かが潜んでいるかもしれんが飛行中だ。この映像はB-6ミンクスからSSL*1の暗号通信を経由してリアルタイムでバンシーⅣをモニターしている。この任務にはFAFの情報軍団が動いている、これがもしジャムの仕業ならそれでいい、機械のエラーなら直せばいい、しかし原因がもし人間であれば事は重大となってくる。フェアリィ星人ならともかく、地球人であれば最早FAFだけの問題ではなくなる」

「フェアリィ星人ならいいのか」

「もしもフェアリィ星人やFAFの関係者であればFAFに楯突いた犯罪者として簡単に処罰できる、しかしこれが地球人となれば問題だ。FAFはFAF軍人以外の地球人に対してはそう簡単に処理出来ない、確実に何処かの国や勢力と衝突しFAF対地球の様相を呈する事になる」

「FAFはジャムよりも地球の方が怖いんだな、いつも以上に形振り構わずというわけか」

「地球では今でもFAFを解体すべきだという人間も居る、FAFこそジャムではないのかとか言い出す始末だ。地球はいい気なもんだ、こっちが命を削って戦っている間に出た本に何て書いてあるか分かるか?ジャムは実在する、そんな事を態々初めから書かなければいけないんだ、呆れて声も出なかった」

「成程な、地球にとってはFAFもフェアリィ星人もジャムも変わらないというわけだ、少なくともフェアリィ星の飯を食った俺達もフェアリィ星人だと思っているに違いない」

「フムン、黄泉戸喫(よもつへぐい)か?伊邪那岐(いざなぎ)伊邪那美(いざなみ)の?」

もしもフェアリィ星が伊邪那美であれば、伊邪那美自身と産道である超空間通路を焼き尽くしながら火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)であるジャムが産まれ伊邪那岐である地球に殺されるだろう。

しかし伊邪那岐と伊邪那美の御子神である火之迦具土神はその血と死骸から新たな神を生み出したとされる、それを元に考えればジャムを倒しても新たな火種がばら撒かれるかもしれない、嫌な想像をしてしまった。

「地球からみたら俺達は手の付けられない怪物に見えるという事だ、ジャムも俺達もフェアリィ星人も区別するに値しない。だからジャムと同じ様に退治する、そう考えれば難しい話じゃない、俺達だってジャムを殺した後の事なんて考えていないからな」

「いずれにせよそうならないようにFAF情報軍は動いている。どうしたんだ零、最近随分と喋る様になったじゃないか」

「ジャムは強敵だというのが実感できたというだけだ、任務内容の続き、頼むよ」

「まったく……ともかくミラージュ隊はバンシーⅣに接近して雪風だけが乗り込む、バンシーⅣは武装を使い切った事を確認されているから迎撃の心配はない。無事バンシーⅣ内に侵入出来たらそのまま異常の原因を探る事、アビオニクスの相棒を一人付けるから電子機器についてはそいつに任せてもし工作員を発見した場合は無効化して捕縛しろ、鎮圧用のテーザーガンを追加で用意する、それでも駄目ならせめてバンシーⅣに閉じ込めておけ」

「俺はそんな訓練は受けていない、誰かが射殺を許可する前に殺されるつもりはない」

「分かってるよ。特殊戦は必ず帰ってくる、その為なら好きにしろ、銃殺刑にならない程度には庇ってやる」

「貧乏くじを引かされた気分だ。それで?どうやってバンシーⅣに侵入すればいい、飛行中のフライトデッキに着陸してコックピットから降りた瞬間に吹き飛ばされたじゃ話にならない」

「安心しろ、それもちゃんと考えてある。ちょっとついてこい、今回のお前の相棒を紹介しよう」

二人はブッカー大佐の執務室を出て特殊戦の地下格納庫に移動した、格納庫の駐機エリアに偵察に出掛けた何機分かの空白が出来ていたがそれ以外の機は整備を受けていたり、或いはコードを通して機械知性体が情報の分析を行っているのだろう。

B-1の駐機エリアに収まっている雪風にも整備員が追加で装備を取り付けているのが見えた、前もって指示しておいたものだが作戦には十分間に合うだろう。

「雪風には一応ワイヤーアンカー射出装置を取り付けた、少なくともこれで雪風が滑り落ちる事はない、それに加えて―――おい、零」

雪風のFO席には一人の男が手元のPDAを弄りながらインテリアを操作していた、それを見た零は一足飛びで移動式のステップを駆け上がり男に声をかける。

「お前、何をしている」

「あ、あの……」

「降りろ!!」

「はい!すいません、転送中のミッションデータの確認をしたくて……」

「零、階級が同じとはいえ先任だぞ。紹介しよう、今回一緒にバンシーⅣに行ってもらうシステム軍団のトム・ジョン大尉だ。こっちはこの雪風のパイロット、深井零大尉」

「よろしく、深井大尉、僕の事はトマホークとでも呼んでください」

そう言って握手の形に手を伸ばしたトマホーク大尉に目もくれず零はメイヴに異常が無いかを調べる様に近づいて行った、トマホーク大尉は苦笑いを浮かべるだけで特殊戦なら仕方ないと言わんばかりで浮かせた手を気まずげに下ろした。

「トム・ジョン大尉、怪我の調子はどうだ?」

「もう大丈夫です、バンシーのシステム周りの事じゃ他人に任せられませんから」

「零、大尉はアビオニクスの天才だ、雪風のプログラムもトム・ジョン大尉が手掛けたんだ」

「あんたが?」

「手掛けたなんてとんでもない!それに手掛けたと言っても一部でしかありません。僕は唯の技術屋ですよ、この怪我だってこの前テストフライトに出かけてこの様です」

零は珍しい程に瞼を開いて大尉の顔を見つめていた、そして驚いた事に零は大尉の下に近寄ると無言のまま手を伸ばした。

「あ……ありがとう深井大尉、先ほどは誤解させて申し訳ありません」

「こいつは驚いた、トム・ジョン大尉、こいつは雪風としか握手した事のない男だ、高性能の機械しか信頼していない」

「そうですか……それじゃあ僕も機械だと思われたのかな」

そう言ってトム・ジョン大尉は寂しそうに笑った。

 

<LINK SCS / TRANS COPL>

 

突如として雪風の肌をなぞる様に赤い縞模様の光が流れていく、それを見て興奮したようにトム・ジョン大尉が機体を見下ろすようにして叫んだ。

「ジャム・センスジャマー!すごい!搭載した機体を見たのは初めてです!!」

「警戒パターンだな。……ん?どうした?」

「向こうがシルフで、こっちがジャムに、か」

「違いない……鼬ごっこだな」

 

<CHECK ON DANGER .LT>

 

「ブッカー大佐、少しこちらへ」

突如として格納庫に響く少女の声、レコンウィッチ隊に所属する天津風(あまつふう)少尉だろう、B-14天津風(あまつかぜ)の整備をしていた筈だが何か問題があったのだろうか。

そう思って下を見て見ればフリップナイトウィッチ用の黒色の戦闘スーツを着込んだ天津少尉がまさにそのまま、全身が赤く光っていた。

「突然天津風とスーツ一式が光だしたのですが少佐は何かご存知ですか?」

「それはジャム・センスジャマーだ、FNウィッチのスーツに採用されていたのは俺も知らなかったが」

「はい、私も知りませんでした。それではこの辺で異常はないのですね?」

「異常はない、おそらくは天津風も動作試験の為に作動させただけだろう、今回の任務にも同行するからな」

「……了解しました、お騒がせして申し訳ございませんでした。それでは失礼いたします」

随分と慌てて近寄ってきた割にはあっさりと去っていく天津少尉を見送ってから二人に向き合った。

「よし、それじゃあ零にはバンシーⅣについての資料を渡しておくから読み込んでおくように。作戦開始時刻はFAFロマーニャ基地にバンシーⅣが近づいてくる明日の1400時だ、ブリーフィングルームに集合しろ、質問が無ければ解散して良し」

 

*1
特殊戦スーパーリンカ




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29話

―――本当の私とは一体何者なのだろうか。

 

スオムス義勇独立飛行中隊のウルスラ軍曹、カールスラント技術省のウルスラ技術中尉、それとも人類連合軍のウルスラ中尉?

私がいつ、私になってしまったのかは今でも見当はつかない。分かっているのは私のたった一つの望みを叶える為にこうして掌の上で踊らされようとも抗おうとしている事。

無事昇格の手続きを終えて戻って来たバルクホルン少佐を含めたウィッチ全員を講堂とも言えるような501JFW基地のブリーフィングルームに呼び集めて貰う。

人類連合軍から正式にプロジェクトマリッジに関する情報の開示許可を得た為、人類連合軍の名代として派遣されている私がその発表を行う事となった。

「全員資料は手元に渡っていますか?問題がないならこのまま始めさせて頂きます」

プロジェクトマリッジ、FAFの一部隊である特殊戦五番隊と人類連合軍直属の第501統合航空戦闘団の蜜月のような関係を願い組まれたプランである。

「ウルスラ中尉、具体的には何が変わるんだ?」

「特殊戦に新たに部隊が追加される事で501JFWが特殊戦から直接的な支援を受ける事が出来ます。レコンウィッチ隊『ミラージュ』、各種ストライカーを用いて空と陸から支援を行う事が可能なウィッチ部隊です」

「ちょっと待て!何でFAFにウィッチが居るんだ!!」

「そうですわよ!あり得ませんわ!!」

「それにつきましては機密事項に当たるので中尉である私からは何とも……責任を負う覚悟があればFAFまでよろしくお願いいたします」

FAFに軍籍を置くFNウィッチ達ではあるが、実はその存在は人類連合軍を除いて非公開でありFAFを管理する国連にも公開されていない。

レコンウィッチ隊を501JFWの下に置くのは公式記録の上では人類連合軍のウィッチとして扱う際に都合がいいからだ。

例えば天津少尉を始めとするFNウィッチはFAFでは一介の軍人或いはフリップナイトの生体ユニット、人類連合軍では一般のウィッチとして扱われる事になっているが彼女達の正体が露見する場合は秘密裏に処分される。

つまりFAFでは天津風とは機体の事でありそのような軍人は存在せず、人類連合軍はFAFとは無関係のウィッチが戦死したとして発表するだろう。

本来彼女達は悲惨な生い立ちを経て過酷な生活を送る筈だった、それを私が持てる権限を以てFAFから譲り受けて出来る限りの援助をしているのだ。

勿論素直に聞いたところで答えるつもりは無い、例えこの様な事実を知ったところでただ知るだけだ、暗部を知らない人間に出来る事等何もない。

「……分かった。もういい、続けてくれ」

「了解しました。レコンウィッチ隊は空戦においてはFAFの戦闘機、或いはジェットストライカーを使用する事が可能です」

手元のリモコンを操作してフィルムを切り替える、スクリーンに映し出されるのは機械化航空歩兵(ストライクウィッチーズ)には馴染みの薄い陸戦用ユニットの試作品の詳細が映し出される。

「共同技術開発センターが製造した試作品である強化装甲陸戦ストライカーBAX-4です、武装は主にガトリング砲。これまでの歩行脚は両脚部に装着しますがBAX-4は全身を覆う様に装着します。各パーツは脊柱を模したメインフレームを介していますので全身の装甲を一つのユニットとして扱う事が出来ます。これにより全身の筋肉の動きを補助して筋力、瞬発力を向上、全身のユニットをサスペンションの様に扱う事で高所からの落下や衝撃に対しての耐久力を向上、装甲も対ネウロイ装甲の試作型を利用する事で防御力を向上、四輪の装輪ユニットよって悪路でも走破可能、BAX-4は各種オプションを搭載可能なので空挺降下から滑空しての奇襲、後方からの火力支援、偵察、牽引車を装備して人員輸送、補給、陣地構築などの汎用性も兼ね備えた新世代型の戦闘偵察陸戦脚です」

「スゴイ!!」

「画期的どころか革新的だ!これは何両使えるんだ?」

「三両のみです」

「何故だ?これを量産すればそれこそ戦場で優位に立てる性能だろう?」

バルクホルン少佐の言うとおりなのだが、それが出来ない理由というものがある。

「仰る通りだと思いますがBAX-4の純粋な戦闘力は低いのです、少なくとも一両二両では大規模戦闘での戦局を変えられません。そしてコスト的問題が大きいのです、試作型対ネウロイ装甲に加えて通常の歩行脚よりも遥かに多いパーツ、BAX-4の運用に耐えられる素材の確保、製造と整備両面でのコストの高騰が抑えられません、予算を下さい」

「じゃあ何で作ったのー!?」

「ルッキーニ少尉、こういうモノは予算がある内に作れるものを作っておかないと技術の発展なんて出来ないんですよ。まあ人類連合軍もFAFも金持ち父さんではありませんからね、そもそも資金を得て権力を振るえない様に常に制限を受けていますし仕事をして収入を得ていても資産で言えば僅かばかりのものです」

「ウジュ……わかんない」

「親の手伝いをして貰った少しのお小遣いとアルバイトだけで一人暮らしをしているようなものです、その上で税金等で収入を減らされて貯金も碌に出来ずに何とか生きている状態ですね」

「うっわー……そう聞くとえぐいなぁ」

「そうは言っても実際にBAX-4は出来ているわけだろ?予算は何処から出ているんだ?」

「ウィッチ用の戦闘機開発すると言って予算を貰って、元々あった戦闘機を改造して浮いたお金で作りました」

「うわセコイ!」

「どの組織でもやってる事ですよ、とりあえず開発すると言って適当に兵器を作って余った予算を流用するんです」

「あー……ウルスラがこの前持ってきた試作品*1とかストライカー*2って予算獲得の為だったんだ!」

「ソ、ソウデスヨネエサマ、アタリマエジャナイデスカ

「ウルスラ中尉、声が震えているぞ」

別に失敗兵器ではありませんし、ただ時代を先取りしすぎただけですし、それにそれで浮いた予算があるから無駄ではありませんでしたし……。

「ではBAX-4をグレードを落として量産できないのか?」

「であれば安い既存の歩行脚を量産した方が元を取れます、BAX-4は破壊力に秀でた歩行脚ではありませんから」

「だったら何が得意なんだ?」

「機動力と小回りを活かした市街地や施設、森林等の見通しの悪い地域の制圧ですね、やろうと思えばパルクールも出来ますよ。他にも要救助者の救援活動も行えます」

「なんだか…対人間用の兵器みたいダナ…」

事実その通りではあるが兵器は使い方次第である、真に厄介なのはネウロイよりも人間なのだからいざという時に動ける人間と兵器が必要だ。

人は陸の上の生き物だ、ウィッチだっていつまでも空に浮いているわけにはいかない。その点でBAX-4の性能はお墨付きだ、ガリアの市街地、アルンヘムに潜伏していたネウロイの駆逐を命じられた際には三十分も経たずに殲滅して見せたのだから。

「ともかく、これで501JFWは対地戦闘においても有利をとれます」

「成程な、それで?他に何か特記事項はあるのか?」

「あとは資料をお読みいただければと思います、その上で質問がある方はどうぞ」

「ハーイ!」

「どうぞ、イェーガー大尉」

「レコンウィッチ隊の装備は私達でも使えるのか?例えばこのフリップナイトって奴とか!!」

「規格はユニバーサル仕様ですのでウィッチであれば乗る事自体は可能ですよ、まあ501JFWの皆様が乗るような事はないでしょうが」

「何で!?」

「何分機密事項が多くて…皆さまの新装備を作る予算が溜まったらまた検討しますのでご容赦と予算を下さい」

「ウルスラ……どれだけ予算が欲しいのさ……」

「そうよね……予算は大事よね……」

「うわ!?ミーナに飛び火した!?」

政治や統合軍と交渉できるのは今現在ではミーナ大佐のみ、いざとなれば予算獲得の為のキャンペーンも必要になるだろう。

基地の見学とか時期に合わせた祭りとか、あとはサインやレコード、その気になればグラビア本等もあるだろう、504JFWの隊長のセクシーカレンダーが確か裏で取引されていましたし。

「ゴホン、他に質問はありますか?」

「特殊戦との連携という事だが、合同演習等は行うのか?」

「ええ勿論、色々と実際に運用してみないと分からない事も多いでしょうから。後程マニュアルもお渡しします」

「了解した」

「他にはありますか?……無ければ終了します。何か分からない事があれば私はしばらくFAFロマーニャ基地とこの基地を行き来しますので気軽に聞いて下さい」

 

 

 

 

今日の仕事は終わりだ、後は精々共同技術開発センターから送られるレポートに目を通して今後の為に根回しをする位だろう。

少なくともこの基地でやる事はもうない、そうなれば出来る限りは早めにここを離れたい、何故なら―――この人に会わなければならないから

「ウルスラ」

「……お姉さま」

僻地に飛ばされた私とは違う真の天才、輝かしい功績と勲章を誇るレコードホルダー。私は姉を誇るべきだ、しかし今の私は誰よりも姉を恐れている。

「ウルスラ、少し痩せた?」

「最近、忙しかったものですから」

「そうなんだ?ダメだよ、ちゃんと食べないと。ウルスラは熱中すると周りが見えなくなるからね」

「そうですね、実は最近睡眠も余り取れていなくて」

「ホント!?ダメだよーウルスラ、私なんて二度寝してトゥルーデに怒られてばかりなんだから!」

「フフ…お姉さまは変わっていませんね」

そう何も変わっていない、変わったのは――――私だ。

強い姉さま、優しい姉さま、人気者の姉さま、そんな彼女の私の全てを見透かす様な目が何よりも恐ろしい。

「すいません姉さま、この後行かねばならない所があるのでこれで失礼します」

「ん、分かった。ゴメンね引き留めて」

「すいません…それでは」

あの人が私をウルスラと呼ぶたびに心が震える、早く行かなくちゃ、私がこらえきれなくなる前に。

 

 

「ウーシュ」

 

 

それでも、大好きな姉さまから呼ばれればこの足は止まってしまう。

「辛くなったら、いつでも来ていいからね」

「姉さま…ありがとうございます」

「ん、それじゃあね!ウルスラ!!」

私に背を向けて去っていく姉さま、いつだって私の先を歩いて私を連れて行ってくれた姉さま。

私はもう姉さまの知っているウルスラではないかもしれない、それでも姉さまを護り、その力になれるなら私は一向にかまわない。

ストライクウィッチーズや特殊戦に協力するのもその為だ、私は世界の何を犠牲にしても姉さまを助けたい。

私は今日も世界の闇の中で抗い続ける、それが例え誰かを裏切りその思いを踏みにじる行為だったとしても。

*1
O.V.A1を参照、曲射銃身、対空誘導弾、空中火炎放射器、音波砲の事

*2
O.V.A1及び20話を参照、メッサーシュミット Bf109z ツヴァイリンク




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30話

「フェアリィ星の空から見る地上は良いなぁ、故郷とはまた違った異邦の景色、まるで遊覧飛行だ。ジャムさえいなければもっと楽しめたんですけどね」

「確かにここが地球ではないという事を忘れそうになる。だがここは戦場だ、浮かれて居られる場所じゃない」

「そうでした、貴方達はこの空でずっと戦っているんですね」

「それが任務だからな、別にフェアリィ星と地球を守りたいなんて高尚な考えなんてない」

「そりゃあ僕だって地球が自分達の物だから守りたいなんて気持ちがあるかなんて言われればノーです、僕は僕なりにやりたい事があって故郷を飛び出してここまで来たんですから」

「あんた、トマホークと呼んでくれって言っていたな」

「ええ、僕はインディアンの血を引いてます、カナダの居住区で産まれてそこで過ごしていました」

「ジャムと黒曜石の矢で戦う、なんてことしないよな」

「さすがにそれはありませんが、故郷でもそういうのはあくまで一部に過ぎません、文化の保存って奴ですよ。それでも心意気というのかな、そういうのはずっと受け継がれているんです」

「インディアンは気前がいいとは聞くが、どうなんだ?」

「そういうのは余り意識していませんでした。でも祖父は常々言っていました、自分の腹に入ったものだけが自分の物、それ以外のものは誰のものでもない、食事は皆で食べるもので一人だけお腹いっぱいになる奴は仲間じゃないってね」

「そう言われれば地球は誰の物でもないな、俺の腹には地球は大きすぎる」

FAFロマーニャ基地を出発してから数十分、ここで一度空中給油を行ってからバンシーⅣに向かう。

キャノピーの向こうでミルキー1から伸びた給油用のホースが揺れながら雪風のタンクを燃料で満たしていく、ディスプレイに映る給油中の表示を眺めながらふと呟いた。

「あんたの爺さんは、いい事を言った。俺のいたところでは人の腹に手を突っ込むような奴らばかりだった」

「そうなんですか?深井大尉は確か日本の産まれでしたよね?」

「そうだ」

「僕も日本に行こうとした事があるんですよ、入国はさせて貰えませんでしたが…」

「何故だ、確かに閉鎖的な国だがそこまで厳しいわけでもあるまいし、何かやらかしたのか?」

「僕の心臓は人工心臓なんです、僕はある意味サイボーグなんですよ。僕の心臓は原子力で動いていて―――とは言っても被曝はしませんよ?ごく少量のものです、動力源として核の熱を利用しているだけのものですから」

「成程な、馬鹿げた話だ、自分達だって核を持っているくせに」

「それでも核は核なんですよ、彼等にとっては。いい心臓なんですよ、少なくとも生活の中で気にする事もない。だけど……時々僕は自分が機械になったように感じるんです、自分が人間じゃないから入国させられないと言われた気がして」

「そんな奴らは、放っておけばいい。一々そんな事を気にするな、アンタはアンタだろう、それで十分じゃないか」

そう言うと後ろから失笑の声が聞こえた、そんなつもりは無いが何か笑われる様な事を言っただろうか。

「何が可笑しい」

「……深井大尉って、意外と優しい人ですね。特殊戦の人間は氷のハートを持った非情な人間の集まりだと聞いていましたから」

「その通りだ、そうでなければ特殊戦の任務は務まらない。俺は雪風以外の物を護るつもりはない、それが例え地球だろうとも」

俺の脳裏にかつての恋人を思い出す。とは言ってもどんな女だったかは今となっては去っていく後ろ姿しか思い出せない。

「あなたは勇敢でもある、僕の祖父と父も勇敢な戦士でした。だから僕にも戦士の血を流れているんだってよく父は言い聞かせてくれたけど僕は駄目だったなぁ、小さい頃から弱虫で他人と争うのはどうしても好きになれなかった。でもトマホークって呼ばれるのは気に入っているんです、何だか自分が勇敢なったような気がして」

「あんたが本当にただの弱虫なら今ここで俺とアンタは雪風に乗っては居なかっただろう。自分の故郷を飛び出す勇気とアビオニクスの優秀な腕と頭脳がある。アンタが手掛けた雪風があるから俺はまだ生きている、尊敬するよ」

「そんな事初めて言われました、僕はただ自分が機械みたいだと思う内に機械に共感と興味を覚えただけですよ。それに故郷を出たのはアビオニクスの仕事がなかったからです、仕方なくなんですよ」

「あんたは立派だよ、自分のやりたい事をやれる人間はそうそう居ない」

雪風から給油完了の電子音が鳴り、給油していたホースがミルキー1に引き込まれていく。

サンクスとコールを送り再び雪風を加速させる、バンシーⅣまで間もなくだ、俺はマスターアーム・スイッチをオンにする。

「ここから気を抜くなよ大尉、ここから先は本当の戦場だ」

「了解しました」

「アーマメントコントロールは入れてあるな、このままバンシーⅣに接近して着陸する」

そして互いに無言のまま進む事数分後、フェアリィ星の外気圏に浮かぶ戦術航法支援衛星からの緊急通信が入る。

<PAN,PAN,PAN.DE FTNS.CODE U,U,U.AR.>

「貴殿は危険に接近している、バンシーⅣはまだ敵と認識されていないのか」

「バンシーⅣに敵なんていませんよ」

「それは、今に分かる」

更に接近すると雲海の上を漂うように浮かぶバンシーⅣの姿を大きく捉えた、バンシーⅣの上方には特殊戦機のスーパーシルフが張り付いて偵察任務を実行している最中だった。

『B-6よりB-1、現在バンシーⅣは通信不能なれどそれ以外については異常は見られない』

「こちらB-1よりB-6、サンクス、ミンクス。これより作戦フェイズを第二段階に切り替える」

『了解した、FUEL BINGO』

バンシーⅣの上を旋回しながら自分の眼でも異常が無いかを確認する、IFFにも異常なし、バンシーⅣの制御コンピューターに向けて識別コードを送信すれば着艦許可がおりる。

「どこにも異常はなさそうですね」

「油断するな、バンシーⅣの子機は正式な着艦要請を行ったにも関わらずに撃墜されている」

「一時的なコンピューターのバグでは?」

「何にせよ調べなくてみないと分からん。アンタの仕事だぜ」

雪風からバンシーⅣに着艦を求める信号を送信すると150ノットで進むバンシーⅣのハッチ表面に存在するエアブレーキの様な装置が動き、空気抵抗を受けてベクトルをそれぞれ左右に変えた力がドーム自体のモーターと合わせて巨大な格納庫のゲートを開いていく。

オートパイロットをオフにして着陸態勢に入る、相対速度は20ノット、ランディングギアを下ろし着陸に備える。

バンシーⅣの滑走路から伸びる拘束装置のアームがランディングギアの前輪を捉えてそのまま着陸しブレーキを掛けながら滑走路上に雪風を降ろす、タッチダウン。

雪風をバンシーⅣのエレベーターまで誘導し、ロウデッキに存在するバンシーⅣの格納庫まで降りると天井がスライド式の隔壁で閉まっていくのが見えた。

雪風をワイヤーアンカーでエレベーターに固定することに成功すると座席の下からアサルトライフルを取り出して格納庫に降り立った。

格納庫に降りた雪風はその機能を停止していなかった、新たなエンジンの換装と共に搭載された二次パワー電源ならエンジンが停止していても一時間は稼働したままにしておける、雪風は到着と同時に独自に原因を調査する為にバンシーⅣのコンピューターにアクセスしているようだった。

俺は格納庫にスポッティングドリーを見つけると射撃、アサルトライフルを一弾倉分打ち切り破壊した。

警告無しで射撃した事に驚いて耳を塞ぐトマホーク大尉を後目に弾倉を交換、テーザーガンを何時でも撃てる様に安全装置を外しておく。

「いきなりどうしたんですか深井大尉、ただのスポッティングドリーじゃないですか」

「雪風を動かす必要はない、余計な事はさせない」

「だからと言っても壊す必要はないじゃないですか」

「さっきも言ったがここは戦場だ、武装くらいしておけ」

そう言って予備の拳銃をトム・ジョン大尉に投げて渡す、危なっかしい手つきで受け取ると渋々とパイロットスーツのポケットに収める。

「こんなもの、必要ありませんよ」

「どうだかな、まずはハイデッキのブリッジに向かうぞ」

汎用システムアナライザーを確認しながらエレベーターは使わずに足を使ってブリッジを目指す、バンシーⅣは確かに飛行しているのだが一切の物音が感じられない、換気システムすら停止しているように思えた。

バンシーⅣのブリッジは無人だった、乗員は全員退艦しているので当然ではあるのだがこの巨大な空中空母は全て自動でバランスの調整や航路のコントロールを行っている、きっとこのまま人間が居なくても飛び続けるのだろう。

「嫌に静かだ、静かすぎる。ターボエンジンの音すら聞こえない」

「バンシーのエンジンは古いけどいいエンジンですよ、僕と心臓と同じだ」

トム・ジョン大尉は自分の人工心臓とバンシーのエンジンを同じように感じている、そして先程は機械に親しみを覚えていると言っていた。

「あんたは機械が好きなのか」

「そうですね、様々なメカニズムやシステムに幼い頃から興味がありました、どんな機械にも作った人間の思いが込められていると思うんです」

「だったら、雪風はどうなんだ」

「雪風は、最早人間の手に負えるものではなくなってしまった。STCと貴方の経験が作り出した世界に二つと無いスペシャルモデル。実際久しぶりに雪風のシステムを触れてみたら中身が複雑怪奇に絡み合っていて理解の範疇を超えていました、でもそれでいいと思うんです」

「いいって、何がだ」

「雪風は確かに何を考えているのか人間には分からないかもしれません。それでもジャムを倒す為に善かれと思ってやっている筈です、それが最善であれば雪風は自爆だってする。でも実際は機械に善意も悪意もありませんよ。機械は込められた思いに対して自分なりに行動しているだけ」

「………」

「貴方は一度雪風と腹を割って話し合う必要がある、問いただすでもシミュレーション飛行でもいいんです、雪風がもしも何か間違いを起こそうとしたり、イレギュラーな事が起きて対応出来なくなった時に貴方が見守りながらそっと導けばいい。それが雪風を飛ばす貴方の役割でしょう」

「……あんたと、もっと早く出会えていれば」

 

 

―――やめて、もっていかないで。ぼくの、マシン。

 

 

何かが変わっていただろうか、もしもを考えるのは馬鹿らしいとは分かっているがそれでもと考えてしまう自分がいるのだ。

「今からだって遅くはありませんよ。僕たち、友達になれると思うんです」

「ならさっさと仕事を終わらせて基地でビールでも飲もう、あんたとはもう少し話してみたい」

「いいですね、それは素敵だ」

 

 




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31話

「ウルスラ中尉、出撃準備が完了しました」

「了解しました、指示があるまでバンシーⅣから一定の距離で待機していて下さい」

「了解」

現在バンシーⅣには深井大尉達が侵入している、それを現在外部から観測しているのがミラージュ隊の支援隊だ。

 

第一段階、特殊戦のスーパーシルフによってバンシーⅣの外部偵察

 

第二段階、深井大尉及びトム・ジョン大尉によるバンシーⅣの内部の偵察、異常があれば解決に向けて動く事。

 

そして第三段階、第二段階の成功またはイレギュラーが発生した場合に残った戦力を以て雪風と乗員二名を無事に回収する。

 

現在バンシーⅣを直接視認できる距離にて無人操縦で飛行中のフリップナイト一機と私達が乗っている大型輸送機を改造したC-31S『スレイプニル』が待機している、もしもバンシーⅣの内部で問題が発生した際にはBAX-4を装着したFNウィッチが突入して事態の収拾にかかる手筈だ。

今回のミッションで恐らくネウロイが介入してくるだろう、これまでの雪風に起きた事態を考えれば簡単に想像できる。

むしろブッカー大佐は分かっていなかったようだがこの任務の最大の目的はネウロイを誘い込む事も考えられている、バンシーⅣと引き換えにしてでもジャムとコミュニケーションをとる為に。

なおこのミッションを企てたのはクーリィ准将とロンバート大佐だ、正確にはロンバート大佐が何かしらを企てていたのを知った准将が計画を横取りしたのだ。

もっと言ってしまえばロンバート大佐が計画を横取りされてもいいように計画を組み、准将に計画を奪われても漁夫の利を狙えるようにしたというのが正しいか。

何はともあれ准将の許可の下に我々は雪風と二人の装備したアナライザーの状態を監視しながら待機している。

現在飛行中のC-31Sは特殊戦の空中基地としても運用できるように大改造が施されている、運用の問題上フローズンアイこそ搭載していないが長距離通信の中継を行えるように大型の回転式レーダードームを装備したり、機械知性体程ではないが情報解析の為に十分な性能を持ったコンピューターも搭載しており空飛ぶ前線司令部に相応しい機体だ。

他の機材が詰めなくなるがやろうと思えばフリップナイト三機を格納できる、主翼と胴体部を含む各部の換装が可能なこのC-31Sの汎用性とキャパシティの賜物だ。

今回は突入用の機材の為にフリップナイトは積んでいないが、やろうと思えば501JFWのウィッチ全員と補給物資を積んでウィッチの魔力が続く限り支援する事も出来るのだ。

おかげでまた予算を使い切ったので人類連合軍かFAFから予算が下りるまで装備の開発は延期中である。

それはともかくバンシーⅣには異常は見られない、雪風から送信されている解析のログを漁っても致命的な問題は発生していない様に思われる。

しかしネウロイは来る、むしろ既に潜伏しているだろう、ネウロイには人の嫌がる事をする習性があるからだ。

バンシーⅣという厄介な火種を利用しない筈がない、そして恐らく潜伏しているネウロイもまた対象にとって致命的な攻撃を仕掛ける事が予想されている。

 

<check on danger Lt.>

 

―――そして、それは現れた。

 

「ウルスラ中尉、雪風が異常を発見した模様です。ジャムセンスジャマーを展開、メッセージを受信した深井大尉はバンシーⅣのロワデッキに向かっています」

「深井大尉はバンシーⅣの原子炉区画へ向かった模様」

「フリップナイトと当機もジャムセンスジャマーを展開させて下さい。総員警戒態勢、このままバンシーⅣに接近します、異常が明確に確認出来次第ウィッチを突入させます」

「了解」

そうは言ったが最早状況は確定的、雪風が基地に対地攻撃を行った時と同じだ。

「ブッカー少佐、こちらスレイプニル、雪風が異常をキャッチしました」

『こちらでも確認した、ジャムか?』

「十中八九、ジャムでしょう。雪風も特殊戦です、自分を脅かす状況でなくジャムが関与していなければ自分には関係ないですませるでしょうから」

『ストライクウィッチーズを動かすか?』

「501JFW基地の防衛はレイフと待機のウィッチに任せてミーナ中佐の固有魔法をお借りしたいと思います」

『分かった、要請してみよう』

「スレイプニルはこれより先行してBAX-4を投入します」

『大丈夫なのか?ジャムを刺激する事にならなければいいが』

「もし雪風と二人を狙っているなら以前の様に妖精空間に隔離するか既に動いている筈です。バンシーⅣがネウロイに乗っ取られればそれこそ侵入が困難になります」

『了解した。俺も突入のプロじゃないからな、貴官に任せる、ただし全員生きて戻って来い』

「ありがとうございます、大佐」

『グッドラック、エンド』

ブッカー大佐の許可を得たならすぐさま行動するべきだ、スレイプニルの後部にある格納庫にて突入前のブリーフィングを始める。

「皆さん、出撃の許可が下りました。最優先目標は雪風と深井大尉の救出、次にジャムの情報を得る事が出来る物資の回収です」

「了解しました、作戦と装備はこのままで?」

「プランAのままで行きます、その後は臨機応変に行きましょう。それでは突入の準備を、スレイプニルをバンシーⅣへ」

スレイプニルが加速を開始、バンシーⅣの直上に付けた状態で機体をバンクさせる。

それと同時に下方に傾けた側の格納庫のゲートを開く、先程雪風が格納庫に降りた際に滑走路のゲートは再度閉鎖したまま開く様子が見られない為、強制的にゲートを貫通して侵入する。

格納庫からせり出す様に展開されたのは突入用に設計された円筒状のロケット、対地下施設突入用ロケット『アンダーバンカー』だ。

元々は名前の通り地下にある施設に突入する為の兵器だ、バンカーバスターの様に深く潜り込み任意の位置でロケットを停止させることで直接地下にウィッチを送り込む事が出来る。

今回はバンシーⅣの構造データを入手している為ゲートとミドルデッキを貫通させて直接ロワデッキに存在するバンシーⅣの格納庫まで突入する。

一応衝撃吸収用のサスペンションやゲル等の緩衝材を搭載している為衝撃で乗員が負傷する事は余り無いがそれでも一定の体格と訓練が必要である、しかし今回は訓練済みでありBAX-4を使用するのでその心配はない。

「バンシーⅣ、迎撃行動みられません」

「アンダーバンカー、データ入力完了、行けます」

「了解、ウルスラ中尉……いえ、()()()()()、突入します」

「―――了解、カウント3、2、1…射出!!」

アンダーバンカーが固定されたままロケットブースターに点火、推力の確保が出来た時点で切り離されて放たれた矢の如くワイヤーを引いてバンシーⅣの外装に穴を開けた。

バンシーⅣのゲートとミドルデッキの甲板を貫いた瞬間にグラウンドブレーキと呼ばれる貫通防止用のフックを展開し格納庫に楔の如く突き刺さる事で急停止、ロケットの中はすさまじく揺さぶられるがバンシーⅣの内部に無事侵入した。

ロケット下部がパージされ天津少尉が飛び出すと同時にクリアリング、ジャムセンスジャマーを展開した雪風を確認。

「クリア」

そしてスレイプニルからワイヤーを伝って装備を格納した小型コンテナが下りて来る、中から銃器やシールド等を取り出して装備しワイヤーを切り離す。

「このまま深井大尉とトム・ジョン大尉を救出に向かう、なにかあれば秘匿回線で通信、通信終わり」

BAX-4は足底部のゴムパッドとそのサスペンションの吸収能によってカタピラを下ろした高機動モードでも無ければ足音や駆動音一つしない、それも相まってバンシーⅣの酷く静かな空間はいっそう不気味だった。

マスターキーは預かっている、電子ロックされた鉄扉を開けて中央区画まで進めば後はどうとでも進める、一先ずは階段を駆け上がりブリッジまで向かった。

さすがに限られた空間の中でガトリングは使用できない為に取り回しのいいアサルトライフルに換装している、アナライザーとリンクさせた頭部を覆うようなヘルメット一体型のHMDにマップを表示させながらブリッジまで駆け上がる。

状況クリア、ブリッジは無人で静かさを湛えたままであった。

しかしトム・ジョン大尉が見当たらない、周囲を見渡すとブリッジの壇上にある電算室に向かう壁面のドアが開いたままになっていた。

ラダーを昇って電算室に侵入するも人の気配はなし、忽然と置かれたままの端末が置かれているだけで―――。

バンシーⅣが揺れる、先程まで静かだったのが嘘だったかの様に下層からエンジン音が響き渡る。

「スレイプニル応答せよ、こちら天津少尉。電算室で作業していた筈のトム・ジョン大尉は行方不明、バンシーⅣが突然様子が変わったが何があった」

『こちらスレイプニル、バンシーⅣが加速を開始、針路も予定航路から外れている。このままでは重力に引かれて落下します』

「了解、プランCに移行する」

『了解』

 

 

 

 

「全くさぁーFAFの問題なんだからFAFが解決すればいいのに」

「既にFAFは動いているわ、でももしもの問題が発生した時に動けるウィッチは私達だけなのよ」

「それはそうだけどさぁ?」

「いい加減にしろハルトマン、どうせ言っても変わらん」

「はーい、りょーかい」

「それにしてもバンシーⅣが狙われるなんて」

「核ミサイル一発で大惨事だ、バンシーⅣが落ちたらどうなるか予想もつかん」

ブッカー大佐からの要請を受けてミーナ大佐を初めとするウィッチ達は六つの軌跡をロマーニャの空に残して飛び続ける、目標はバンシーⅣ及び潜伏するネウロイ。

 

―――バンシーⅣのロマーニャ最接近まで残り30分。




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32話

特殊戦、地下司令センターではハチの巣をつついたような大騒ぎの状態にあった。

「バンシーⅣ加速中!針路が変わります!」

「バンシーⅣが加速した事により軌道を外れて降下を開始しました。上昇は不可能です、落下コースを算出中」

「何だと!?一体どういう事だ!」

バンシーⅣは特殊な方法で空を飛び続けている、第一宇宙速度まで加速させることで地球の重力と重力から脱出しようとする遠心力とが釣り合い地球周回軌道を回り続けている。

つまり人工衛星と同じ様に()()()()()()()()()()()()のだ、よって規定のコースから外れたりすれば重力に引かれて降下してしまう。バンシーⅣは揚力を得て飛行しているわけでは無いので上昇する力はない。

あれは落としてはいけないものだ、その大質量が齎す破壊と核による汚染はもしもロマーニャに落ちれば国は亡ぶ、近隣に残った住人達を含めて大虐殺が起こる。

「コース算出、FAFロマーニャ基地防衛権に侵入確立50%!ガリア、ベネツィアに落下の可能性もあります!!」

「FAFロマーニャ基地コンピューターがデフコン2発令、STCはFAF本部のミサイル軍団にICBNの発射を要請中!」

「ふざけるな!まだ二人が捜査中なんだぞ!!FAF本部に回線を繋げ!」

FAF本部のオペレーターに怒鳴り込みながらもミサイル軍団の責任者を呼び出す、しかし回答は既にミサイルの発射体制に入っておりセントラルコンピュータの許可を撤回できない限りミサイルは発射されると返って来た。

「ふざけるな!もういい!」

FAFのセントラルコンピュータが自分の意志を曲げない事は散々理解している、目的を達成する為なら絶対に判断を取り下げる事はしない。

「深井大尉に通信を繋げ!大至急だ!!」

「申し訳ございません!バンシーⅣが雷雲に入ってしまったようでスレイプニルとも通信が途絶してしまいました!」

「何でもいいからさっさと繋げ!」

「す、すいません!SSWの指向性を上げてみます!!」

「零!聞こえるか!零!!」

『――――ジャック…』

「零!無事か!?今すぐそこから離れろ、ICBMが発射される」

『ジャック、ジャムが、バンシーⅣが、いや』

「大至急離脱だ!トム・ジョン大尉を連れて―――何だって?零!?」

 

 

 

 

それは現実離れした光景だった、粘性を持った物体が蠢きながら溢れ出て辺り一面を覆いつくそうとしている。

時折怨嗟の声が聞こえるようで、マーブルの模様が眼窩と口腔を形作るようで、しかしそれは現実と共に近づいてきた。

「ジャムは人間の――――複製を作っている」

『零!おい零!』

自分でも分かる程の震えた声だった、同じく震える手でアサルトライフルを構えるも無駄だと悟る。

「深井大尉、早く逃げて下さい」

音もなく上から降って来た人影、全身をジャムセンスジャマーで覆ったパワードスーツに身を包んだ天津少尉だった。

「隊長、もうじきここはミサイルで破壊されます。プランCは失敗です、私が殿を務めます―――耳を塞いで!」

BAX-4のランチャーから射出されたグレネードが爆発し甲高い音が区画内に響き渡る、特殊な音波で電磁パルスと似た効果を齎すLBL音響爆弾。

ジャムの泥の様な物体の表面が粟立つがそれでも波自体は止まらない、しかし明らかに先程よりも動きが鈍っている、そのままもう一発LBLグレネードを放ち俺達は離脱する。

『零!ICBMが発射された!それと聞け!STCから回答があった、ジャムの破壊工作についてだ』

「それがどうした」

緊急用に設けられた長い長い階段を駆け上がる、日頃からパイロットとして体は鍛えているが戦闘機に乗っている自分と肉の身体を動かす自分の意識の乖離が激しい。

ここで死ぬわけにはいかない、もっと速く、息が段々と上がってくる。目の前を行く天津少尉は飛ぶように階段を駆け上がっているというのに。

『ジャムが人間を使って工作を行う場合の条件だ。かつて任務において被撃墜歴を持ち、或いは一定期間消息を絶った者』

それは俺の事か?そんな今更な情報が一体何だと言うんだ、俺の事をFAFが罠にでも嵌めようとでも言うのか。

 

 

 

―――僕は唯の技術屋ですよ、この怪我だってこの前テストフライトに出かけてこの様です。

 

 

―――警戒パターンだな。

 

 

―――それではこの辺で異常はないのですね?

 

 

 

『トム・ジョン大尉は、ジャムが作った人間のコピーの可能性がある!!』

 

 

 

 

俺達は雪風の待つ格納庫まで走り抜けた、先程まで静かだったバンシーⅣの腹の中はまるで血液が流れる音の様に機体が震動する音が響いていた。

トム・ジョン大尉―――トマホークは格納庫に辿り着いていた、ぼうっとした力ない姿で何も無い筈の向こうを見ていた。

視線の先を辿ると、そこにはスーパーシルフが居た。何故こんなに目立つ物を俺達は見逃していた、恐らく今もこいつを見なければ気付かずに素通りしていたのかもしれなかった。

グレイシルフが妖しく光を放つ、トマホークは光に導かれるように寄っていく。グレイシルフのエンジン音が響く、聞きなれたフェニックスエンジンの音じゃない。

「ジャムだ!撃て!」

「了解!!」

「そこから離れろ!トム、そいつはジャムだ!分からないのか!!!」

「!?」

曳光弾の光を伴って俺達のアサルトライフルから銃弾が斉射される、グレイシルフのエンジン音は止まらず徐々に甲高い音を響かせる。

出口のないバンシーⅣの格納庫の中でグレイシルフがふわりと上に浮かんだのを見ると、グレイシルフはまるで幻だったかの様に消えてしまった。

格納庫の中は元の明るさと静けさに戻っていた、俺を呼ぶトマホークの慌てふためいた声が俺の耳朶を刺激する。

「大尉、今のは…僕は何故ここに…僕はアイツと何をしていたんですか!?答えて下さい!大尉!今のジャムと僕は一体どういう関係で―――!」

「戻ろう、トマホーク」

「大尉…どうして」

「全員生きて帰るのが俺に与えられた任務だ、それだけだ」

「あなたは……」

「急ぐぞ、まもなくバンシーⅣはミサイルで撃沈する、脱出しよう」

何を言い含められているかは知らなかったが、ウィッチ達は静かに俺達の決定に従った。

全員で走って主格納庫の雪風の下まで辿り着きエレベーターコントロールを動かすも動作しない、サブコントロールを操作するには外部電源が必要だ。

俺は雪風に乗り込んで右エンジンから始動させる、無事に両のエンジンの始動を確認したトマホークはサブコントロールに予備電源のケーブルを繋ぎエレベーターを稼働させた。

俺達が格納庫に入る為に通った通路を封鎖していた重厚な隔壁がひしゃげて、中から先程の人間擬きのヘドロが溢れ出て来るのを見た、あれに捕まれればお終いだという恐怖もまた感じられた。

「よし!さっさと脱出するぞ、はやく雪風に乗れ!……トマホーク?」

「大尉、貴方はいい人ですね」

「何を言っている!早く乗るんだ!」

<crew protection system ON>

雪風のシートに内蔵されたモーターが俺のハーネスを引き絞り俺をシートに引きずり込む。強い力だった、人間の力では解除出来ない。当たり前だ、雪風の機動にも耐えられなければ意味がない。

「リフトを止めろ!早く乗るんだ!」

「特殊戦の人ってもっと冷たい人だと思っていました。でも貴方は人間だ、いつまでも氷のハートじゃいられない」

「だったら友達を見捨てるなんて事を俺にさせるな!!早く来い!トマホーク!!!」

「さようなら、大尉。バイバイ、零」

「トマホーク!!!!」

 

 

「零、僕は――――」

 

 

リフトは上がり切りトマホークの姿は見えなくなった、雪風は操作を受け付けない、アイハブコントロール。

「お前はトム・ジョン大尉の救出に行け!」

「はい、いいえその命令には従えません。与えられた任務にはトム・ジョン大尉の生死は含まれていません」

「ふざけるな!」

そうも言い合っている内に雪風はバンシーⅣのコンピューターにアクセスして甲板ゲートを開いてワイヤアンカーを切り離す、そのまま風圧を機体で受けてふわりと浮かび上がらせ最大加速で離脱する。

最大推力で雪風がバンシーⅣから離れていく、雪風のディスプレイにバンシーⅣに向けて発射されたICBMの予想到達時刻が表示される、命中まで残り15分。




今年最後の投稿です、今後は仕事が忙しくなるので投稿が遅れる場合があります。

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33話 終

それは雷雲を突き破って現れた、全幅1400mのバンシーⅣの雄大なその姿、遠近感が乱れる程の巨大な鉄の鳥が空に浮かんでいる。

「ちょっと待って!?私達ロマーニャから来たよね!?何でバンシーⅣがこっちに向かって飛んでいるのさ!!」

「飛ぶと言うより…こっちに落ちて来てませんか!?」

「特殊戦からの報告は無かったわ!通信妨害?いや先程まで通信出来ていた…?」

「ウルスラァ!どうなってるのさ!!」

『ああ、姉さま。申し訳ございません、イレギュラーな事態が立て続けに起こりましてそちらに集中していました』

「それは後でいいわ、現状を報告して頂戴」

『バンシーⅣがネウロイに乗っ取られました、深井大尉達は脱出済み、あとはバンシーⅣを撃ち落とすだけです』

全幅1400mの巨体と9650tの質量は7.92x57mmモーゼル弾では止められないだろう、例えここにリーネさんとサーニャさんが居ても焼け石に水だ。

『ご安心ください、FAFからICBMが発射されています。これでバンシーⅣを木端微塵にすれば最悪の状態は回避できます』

「私達の任務は、ICBMの撃墜阻止かしら?」

『その通りです、その為にストライクウィッチーズはネウロイの警戒を―――』

『それは困るなぁ、ミーナ』

インカムに割り込む男の声、ブッカー大佐でも深井大尉でもこれまでに会ったいけ好かない高官の声でもない。

親し気に私の名前を呼ぶ男は――――()()()()()()()()()()

「クルト……あなたは…死んだはずじゃ…」

『そうだね、だからこそずっと傍に居たよ。今だってホラ、君の目の前に居る』

私の目の前には大空とバンシーⅣしかない、固有魔法を使って内部を走査すればバンシーⅣの中に慣れ親しんだ気配を感じた。

「あなたはそこにいるのね?」

『そうだよ』

『止めて下さいミーナ大佐、ICBMが残り10分でバンシーⅣを撃墜します』

「五分だけ、五分だけ消えないで」

「ちょっと待て!突然どうしたんだミーナ!」

「ミーナ!!」

「ミーナ大佐!!」

「貴方達は動かないで」

501の仲間を置いて私はファーンを加速させる、いくら近づいてもバンシーⅣの大きさが変わらない様に見える程の巨体。

バンシーⅣからの迎撃等は見られずあっさりと近付く事が出来た、バンシーⅣを上空から旋回して観察するとゲートに穴が開いているのが見えた、ミラージュ隊が侵入する際に開けた穴だろうか。

いつでもシールドを張れるようにMG42を構えながら降下していく、バンシーⅣの格納庫にタッチダウン、格納庫には薄暗く広々とした空間が広がっていた。

激しい戦闘があったのか重厚な隔壁が破られたような跡もあり、―――彼の気配を除いて―――気配を感じられない空間というのは只管に不気味であった。

「銃を下ろしてくれないか、ミーナ」

「嫌よ、貴方の口から直接話を聞かせて貰うまでは」

相手の発言を受け入れた時点で立場が明確になる、交渉とは自分の要求とスタンスを崩さない事だ。

クルト・フラッハフェルト、数年前に失った恋人、しかし彼の姿は当時の服装も含めて何も変わっていない様に見えた。

奇跡的な再会なのに今はこうして銃を向けている、彼は以前のように穏やかな表情で私に話しかける、私の呼吸の乱れを悟られないように問い詰める事にした。

「それで、何を聞きたいんだい?」

「貴方がいなくなってから、全てよ」

「今日が久しぶりの再会だよ、それまで僕は死んでいた」

「嘘よ、雪風が居なくなったあの日にも貴方は居た。深井大尉が言っていたわ」

「それは違うよ、あれは深井大尉がみた幻覚さ」

「どういう事?」

「深井大尉は特別な目を持っている、他の人には認識できない物も彼には見えてしまう。あの時は君の話に引っ張られて人影を僕だと勘違いしているだけさ」

「今の貴方は幻覚ではないという事かしら?」

「僕は多分君にしか見えない、だから僕は幻覚以外の何物でもない」

「あなたはネウロイなの?」

「ネウロイの手下と言う意味では、そうだよ」

彼の言葉を信じるならば先程の通信はトゥルーデやエーリカには聞こえていないのかもしれない、幻聴を聞き前触れも無く飛び出して幻覚と会話する私は既に精神異常者という事か。

「嘘ね、全部嘘」

「僕の言葉が信じられないかい?」

「私を遺して勝手に死んだ時から貴方はずっと嘘つきなのよ」

「そうだね、僕は嘘つきだ。でも本当の事だってある、君に贈ったドレスと歌は本当の僕が遺した最後の思いだ、大事に受け取ってくれ」

一瞬頭の中が白熱し引き金に掛けた指が一瞬力が入る。その姿で、その顔で、その声で私の思い出を汚すな。

相手の言葉を信じてはいけない、目の前の男はネウロイだ。死人が生き返るのであればこの世の常識など全てが覆ってしまう。

「時間が無いわ、貴方の目的は?」

「コイツをネウロイの巣に落とすのさ、これだけの質量がぶつかればネウロイの巣だって壊せる」

「貴方の嘘なんて私にはすぐに分かるのよ、ネウロイの貴方なら殺せるわ」

「君の方こそ嘘をつくのを止めた方がいい、僕は君の嫌がる事が分かるんだ、君に僕は殺せない」

舌打ちを何とか堪えた、人を小馬鹿にした態度が何より私を苛立たせる、そして何よりその言葉が私の本音を捉えていた事が何よりも癪だった。

「時間の無駄だったわね、私は帰るわ」

「まあ待ちなよ、一つだけいい事を教えてあげる」

「……つまらない事を言うなら容赦はしないわ」

「これは本当の事さ。実はこの作戦を考えたのは僕たちじゃないんだ。天と地が交わる時―――」

突然の銃声と彼の身体から膿の様な粘液が撒き散らされた。呆然とした顔と驚愕、射線を追ってみれば全身を漆黒の装甲で覆ったを赤い光を波打たせた人型の生物がそこに居た。

X-11の初期型かと思ったが、よく見ればそれがBAX-4を纏ったミラージュ隊のウィッチだと分かった。

『話は終わりましたか?大佐』

「―――貴女が強制的に終わらせたのでしょうウルスラ中尉」

『五分経ちましたので、いい加減そこから離れて下さい』

「……ええ、分かってますとも」

バンシーⅣの格納庫から離脱、彼の姿形は既になく水たまりの様になった粘液が残るだけだった。

さようなら、もう二度と会えない人、もう二度と会いたくない人。

「ミーナ!何故勝手に行動した!脱出できなかったらどうするつもりだったんだ!」

「ごめんなさいねトゥルーデ、私が行かなくてはならなかったの」

「…話は後で聞かせて貰うぞ」

「ええ、いつか話すわ。ウルスラ中尉、ICBMの残り到達時間は」

『残り二分です』

「バンシーⅣに攻撃は…駄目だよね」

『今軌道をずらされるとICBMが無駄になる可能性があります』

「見てるだけ…ですのね」

「いつでも動けるように準備しましょう、504JFWもローマ防衛の為に既に備えているわ」

「もしもの時は、だね」

一秒一秒が過ぎていく中、いつもは大した感覚もなく過ぎていく120秒が凄まじく長く感じた。

そして遂にその時が来た、ICBMの単弾頭再突入体がマッハ21でバンシーⅣに着弾する―――その直前でバンシーⅣが黒色の肌に覆われる。

命中したICBMの爆風が胴体を貫通するもすぐに傷跡を埋める様に損傷が修復されていった、X-11における空母赤城同様、ネウロイに乗っ取られた証だ。

『バンシーⅣは健在、更に加速を開始。目標はベネツィアのネウロイの巣、到達まで推定20分です』

「ミサイルが飛んできたの気付きませんでした…いや気付いたら命中してたというか…」

「失敗ね…ウルスラ中尉は504JFWに状況を報せ!501はネウロイと化したバンシーⅣを撃墜する!」

『それは許可できません』

「……それは誰の判断かしら」

『人類連合軍です、もし余計な行動が原因でロマーニャにバンシーⅣが落ちればロマーニャとFAFとの政治問題になります』

「ただ見ているだけの方が問題になると思わないのかしら?」

『ロマーニャにバンシーⅣを落とさない事が重要なのです、ミーナ大佐のおかげでネウロイの目的がネウロイの巣にバンシーⅣを落とす事だと分かりました』

「それが欺瞞であると考えないの?今ならまだ落とせる、落として見せる」

『ローマに落ちると判断した時は我々も最終兵器を出します、オペレーションニフ用の決戦兵器ですが止むを得ません』

オペレーションニフ、ベネツィアのネウロイの巣を落とす為の総攻撃による攻略作戦、それを失うという事だ。

「それっておかしくないかしら、もしこの事態を予測出来ていたなら問答無用で最終兵器を持ち出してでもバンシーⅣを落とすべきだった。これは人類連合軍とFAFが起こした不祥事よ」

『その通りです、ですので501JFWは関係ありません。501JFWは撃墜に失敗した、それでいいのです』

「もしあなたの言葉を信じるのであれば、バンシーⅣは元々ネウロイの巣に落とすつもりだったのね。そしてネウロイはそれを受け入れた!それがオペレーションニフの内の一つの作戦なのね!?」

『それを大佐が知る必要はありません』

「ふざけるな!!!!」

それは事実上の背信行為であり、回線を通して会話を聞いていた全員が絶句していた。

「貴女達は!世界を救おうとか戦争を終わらせるなんて考えてない!厚顔無恥で誰よりも傲慢!ネウロイと取引?悪魔に私達の命を売り渡して自分達は利益を貪って!いいわ、それがあなた達の考えならば私達はバンシーⅣを撃墜する!最悪の事態だけは回避して見せる!!」

『それは私達に対する反抗とみなしてもよろしいでしょうか』

「何とでも言いなさい、あなたの思い通りにはさせない」

『そうですか、それではさようなら』

その言葉を火切りにして私達の装着していたファーンは突如として同時に飛行術式を形成出来なくなり海面に向けて落下を始めた、シールドを張って損傷は免れたものの一度海に落ちれば離陸は叶わない。

「ウルスラ中尉!!!」

「ウルスラァ!!一体何をするのさ!!」

『これぐらいの備えはいつだってしていますよ、貴女達は人類連合軍の駒です、意にそぐわない駒は必要ありません』

「貴女は……貴女達は!絶対に地獄に落としてやる!!」

『そうですか、それでは餞別代りに最後に一つだけお教えしましょう。プロジェクトマリッジは特殊戦と501JFWが連携を取る為のプロジェクトではありません』

 

 

 

――――大いなる天と地の婚姻、それこそがプロジェクトマリッジの真の内容です。

 

 

 

プロジェクトマリッジはこの時の為に作られた隠れ蓑、その上でこの作戦に最適とされた私達は作戦遂行の邪魔にならない為の捨て駒だった。

こうなる事はあらかじめ決まっていた、恐らく人類連合軍とFAFの何処かの派閥の結託して行った事だ。

真の目的はバンシーⅣをネウロイに譲り渡す事、抱えきれないほどの核物質と共に。

「私達は…今まで……何の為に」

『後ほど救出艇を向かわせますが501JFW隊員は全員拘束します、それではごきげんよう』

それを機に通信は途絶えた、バンシーⅣはネウロイの巣に墜落しすさまじい衝撃と津波を引き起こすが巣の周りの住人はとうに避難している為に被害は最小限に留められた。

私達は人類連合軍の兵士によって拘束、反抗の意思が見られれば無警告での射殺すると告げられ一人ずつ軟禁される事となる。

オペレーションニフは予定通りに決行、総攻撃の日は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャック、キャビン内のシステムをチェックしてくれないか。妖風が眼にしみる、涙が止まらないんだ」

 




あけましておめでとうございます。
多分次の章くらいで一度終わりになると思います。
次はストライクウィッチーズ×ディエンビエンフーのクロスオーバーを書けたらなぁと思っています。

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六章 地球へ
34話


501JFW基地に軟禁されてから数日、決まった時間に食事を出されるだけで人類連合軍は私達に手を出す様な事はなかった。

 

この部屋にはベッドしかなく、新聞やラジオといった外部への、或いは外部からの情報はシャットアウトされていた。

私の誓いを汚され、誇りを踏みにじられ、結局のところ人類連合軍とネウロイに己を辱しめられただけだった。

退屈な時間だった、これまでの激動の時間がまるで嘘だったかの様に虚無の心には流れゆくだけの時間が煩わしかった。

そんなちっぽけな私に最後に残ったのは歌だった、幼い頃から歌い続け、クルトと共に音楽の道を志した日々。

 

 

 

頬を撫でる柔い感触 今も甘やかなその記憶は

語り合った夢の分だけ 脈を打つ痛みになる

 

傷跡 何度も爪を立てて

癒えてゆくこと 拒んだ

 

時よ流れないで 少しだけ

貴方を思い出に 閉じ込めたくない

ああ 失われたあの日々は

まだこの胸に 鈍い光揺らめかせてる

 

 

 

一人の観客もいない部屋で、たった一人で歌い続ける。何も見ず、何も聞かず、何も考えずに口から漏れる音が歌詞をなぞるだけの歌。

「ミーナ大佐。面会です」

「……まるで犯罪者の様な扱いね」

「私からはなんとも言えません、如何致しますか」

「面会を希望しているのは誰?」

「特殊戦五番隊のブッカー大佐とフカイ大尉であります」

「……特殊戦?」

 

 

 

 

 

最近関わる事が多くなって忘れていたが本来特殊戦は他人と関わる事を嫌う、あるいはコミュニケーションに難がある傾向にある人間を集めた組織だ。

よってプロジェクトマリッジが欺瞞であり501JFWが事実上の無期限活動停止にある以上関わる事はないと思っていた。

「ここでの会話は全て録音されますのでよろしくお願いいたします」

人類連合軍の士官に案内された――とは言っても自分の基地であり私は司令なのだが――部屋の扉を開けると

「どうもミーナ大佐」

「……」

いつもの態度と変わらないブッカー大佐と帽子を被ったまま俯く様にして椅子に深く座る深井大尉がいた。

「お久しぶり……という程でもないですね」

「バンシーⅣ事件からまだ数日だからな、本当はすぐにでも来たかったんが特殊戦でもごたごたしていて遅れてしまった」

「成程、本日はどの様なご用件でしょうか」

「デブリーフィングだよ、俺達はまだ仲間のつもりだ」

一瞬声が詰まった、この会話を聞かれれば彼等も人類連合軍やFAFに不当な扱いを受けるのではないかと危惧した。

「……大佐、しかし私はもう戦えません。人類連合軍が許しはしないでしょう」

「だとしても事件の結末位は知っていても損はないだろう」

「そうですね、自分の関わった事がどういった結末を迎えたのか本音で言えば気になります」

「結論から言えば大変危険な状態にある。バンシーⅣはネウロイの巣と激突したが巣は無傷だった、むしろバンシーⅣの衝突によって発生した津波の方が辺り一帯に齎した被害が大きい位だ。しかし解せない部分が幾つか見つかった」

「どういう事でしょうか」

「一つは空海地のいずれからも核放射性物質や放射線が検出されなかった事、もう一つは砕け散った筈のバンシーⅣの破片が想像以上に少なかった事だ」

「……ネウロイの巣がバンシーⅣを吸収した?」

「ネウロイの巣は雲で覆われているからな、特殊戦と言えども流石に近寄れずカメラ映像だけでの解析には限界がある」

「最低でも核物質は奪われたという事ですね」

ネウロイの放出する有毒物質である瘴気と核放射性物質の齎す被害を考えれば悲惨な状況が簡単に想定できる、確かにこれは最悪の状況だ。

「ブッカー大佐、FAFは最悪の状況をどの様に想定していますか」

「FAFにとっての最悪は地球に被害が及ぶ事だ、それ以外は許容される」

「大佐自身の考えとしては如何ですか?」

「俺か?流石に規模が大きすぎて想像もつかん、ウルスラ中尉を捕まえて吐かせない限りはな」

ウルスラ中尉、人類連合軍の尖兵、数々の陰謀や策略を熟し続けた謎の多いウィッチ。

「元々何処にいるか分からない人間だ、特殊戦ではウルスラ中尉の捜索のためにスーパーシルフを動かす案もある」

「録音されてますよ」

「聞かれて問題がある内容でもない、表立って歩いて偵察機に見つかる様な人間でもあるまい」

「他に何かありますか?」

「オペレーションニフの詳細が発表されたが……まあこれも欺瞞だろうな」

オペレーションニフ、ネウロイの巣攻略の為の一大反攻作戦。

かつてネウロイの巣が破壊された時、ガリアでは重秘匿名称ウォーロックによるネウロイのコアの共鳴作用を用いてネウロイを同士討ちさせて殲滅した。

そして東部方面司令軍と502JFWがネウロイの巣――分類的には超大型ネウロイ――であるグレゴーリ攻略戦の際には列車砲を用いてこれを撃破せんとした。

つまり攻略作戦とは用いる事が出来る最大火力で殴り、失敗したら高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するという杜撰にも程がある大攻勢の事である。

成功した時のリターンが大きいそれは、それだけ人類がネウロイに対して余裕がない事の表れだった。

人類連合軍がもう少しでも協力してくれればそれぞれの局面でも結果が変わってくるのだろうがウォーロックの件にも一枚噛んでいるだろうから信用はできない。

「作戦は通例通り、決戦兵器を用いての総攻撃だ。504、506JFWが決戦兵器を護衛しFAFも人類連合軍からの要請で特例として攻勢に参加する」

「人類連合軍がバンシーⅣを巣に落としておいて、恥も知らずにFAFへの協力要請?しかもFAFが認めたのですか」

「バンシーⅣ事件は事故扱いだ、それに前例があればFAFの制限が一つ外れる事になる、FAFとしては歓迎だろう。制限があったからこそ仕方なくバンシーⅣを飛ばしたという建前が今後必要なくなるのだからな」

「誰も彼も自分勝手だわ、結局どっちもどっちなのね」

「それはそれ、これはこれだ。軍隊に正義はなく、正義であってはいけない」

「私がした事もいけない事?」

「矜持はあって然るべきとは思うがね」

そう言うとおもむろに机の上に置いてあったレコーダーを掴むとおおきく振りかぶって壁に叩きつけ、念入りにレコーダーを踏んで破壊した。

「ブッカー大佐!何をしておられるのですか!!」

「すまない、虫が居たんだ。ジャムかもしれない」

「そんなもの、ここには居ませんよ!」

「ジャムは居るさ、どこにでも。すまないな士官殿、さあ一緒に新しいレコーダーを取りに行こうじゃないか」

「予備なんてありませんよ」

「杜撰だな。今度FAFのレコーダーを貸してやる、話した覚えのない事まで録音できるいい奴をな」

そう言うとブッカー大佐は士官の首を脇で抱える様に絞めながら抵抗できない士官を引き摺って部屋の外へ出ていった、部屋には私と深井大尉だけが取り残された。

完全にこれは暴挙だ、しかしFAFの中でも高い権限を持つ特殊部隊の長の一人に文句を言える人間はここには存在しなかった。

「俺はどうでも良かったんだが、ジャックが気を利かせたみたいだ」

「気を利かせた?深井大尉が私に話をしたい事でも?」

「ああ……そうだな、何から話せばいいのか」

そう言うと深井大尉は口ごもってしまった、彼も特殊戦の例に漏れず人との会話は苦手らしい。

彼との接点は少ないがその分濃度で言えば濃い方だろう、それこそフェアリィ星で特大のイレギュラーを共に体験した仲だ、それ程長い時間ではなかったがある程度の時間をおいて深井大尉は口を開いた。

そんな彼が私に話したことがあると言ってきた事に私は多少なりとも興味を持った、どうせ何処にも行けずやる事もない身だ、時間は有り余っている。

「ミーナ大佐、トマホークが作戦行動中行方不明(MIA)になった」

「トマホーク?特殊戦の人?」

「違う、システム軍団のトム・ジョン大尉。この前のバンシーⅣの調査で同行した」

成程、それならばきっと何か問題があって救出が出来なかったのであろう。その上バンシーⅣはネウロイに乗っ取られてしまっていた、普通の人間であれば生還は絶望的だ。

「トマホークは死んだ、俺はもう何人も軍人や民間人を見殺しにしてきた、アンタの恋人もだ。それでも何も感じなかった、それなのにトマホークが死んだ時俺は泣いたんだ」

「長い付き合いだったのかしら、だとすれば変ではないと思うのだけど」

「いや、会って数日も経っていない。それでもトマホークは良い奴だった」

人の付き合い、そしてその友好は時間と共に比例するものではない。おそらく彼は正に一生の友を得たのだろう、それを失えば悲しむのは分かるがそれが本題とは思えない。

「大切な人が死ぬのは悲しい事よ、何もおかしい事はない」

「違う、そうじゃないんだ。元々俺は他人なんてどうでもいいと思ってる、性能が低い奴らなんかは特に。でもトマホークは友達だ、俺と雪風の関係を認めてくれた人間だった。そう、アイツは人間だったんだ」

「それで?」

「俺にはこの感覚が分からない、俺自身が一体どうしてここまで動揺しているのか分からないんだ」

「その、トマホーク大尉を失って悲しいとは思うのね?」

「その通りだ」

「なら話は簡単、貴方は『恐れ』を知ったのよ」

「恐れ?俺が、一体何を恐れると言うんだ」

「貴方は雪風に執着していて、性能の悪い人間は嫌いだと言う。それは何故?」

「俺は人と話したり動物の相手をすると嫌われるんだ、それが何故かは分からない。俺の相手を出来るのはコンピューターだけだった、それだけだ」

「トマホーク大尉と会話して、どう感じたの?」

「不快ではなかった。何より俺に理解を示してくれた、俺にとっては最高の理解者だった」

「他の人、ブッカー大佐以外の人間と話す時はどう?」

「正直に言えば面倒だ、一々相手が何を考えているのか理解しようと考えるのは辟易する」

「それが恐れよ」

「……何だと?」

やはり思った通りだ、深井大尉は機械ではない、ベクトルが偏っているが感じる心を持っている。

「コミュニケーションとはそういうものよ、相手が何を考えていているかを想像してそれに共感する能力。深井大尉はその能力があまり得意ではない、自分の関心を持った事にしか貴方はイメージを構築しない」

「それがどうした」

「それよ、貴方が元々そうなのか事情があってそうなったのかは知らない。貴方は非情で自己中心的な人間だった、そのままの意味で貴方は自分のことしか考えていない。しかしそれは貴方なりの処世術だった、生きていくうえでその生き方が無難だと思っている」

「そんな事は考えた事もないが、それで?」

「さっきも言った通り、人には相手に共感する能力がある。コミュニケーションをとって相手を理解しようとする働きよ、でも貴方は相手の思っていることや考えている事を想像出来ない。貴方は会話をしていても言葉を解読する事しかせず、それが普通だから相手の事を考えた発言をしない。だから相手側にしてみれば共感を得られない人は面白くないし、貴方は相手の事を理解できないから嫌悪という形で相手を恐れているのよ」

「つまりどういう事だ」

「分からないかしら?そうね……乱暴な言い方だけど、貴方にとって人間はジャムだったという事かしら」

「……――――」

「何を考えているか分からない、貴方にとっては突然怒り出したり不快感を露わにする生物。だから貴方は人間を見殺しに出来る、だって知らない人間は貴方にとってジャムだから。貴方とブッカー大佐が上手くやれるのはブッカー大佐の共感力が貴方に対して優れているから、チャンネルがあっていると言ってもいいかもしれない。貴方にとってブッカー大佐やトマホーク大尉はジャムじゃない、ジャムじゃない人間は怖くないわ」

「……」

「深井大尉、貴方は理解出来ない存在を本能では怖がっている。そして何より自分を理解してくれる存在を本心では求めてる、貴方が高性能の機械を求めるのはその一部の表れだと私は思っている」

「……」

「深井大尉、私が貴方とこうして話していられるのは私が相手が何を考えているかを二手三手先を読むように考える人間だからよ。そういう意味では裏で面倒事を考えている反吐が出る様な高官共と比べて裏のない貴方は話していてとても気楽よ。でも相手の考えを理解するのが不得意な貴方にしてみれば他人とのコミュニケーションは恐ろしいもの、貴方は大切な人間の死を以て自分に恐れる心を持っている事を自覚してしまった、ただそれだけの事よ」

「だが俺は他人と話す事に恐れは覚えていない」

「貴方は死ぬことが怖いかしら?」

「そんな事は考えない、死ぬときは死ぬ、そういうものだろう」

「なら貴方が恐れを抱く相手がすぐ近くにいる、そしてそれに関わらなければいけない事にストレスを感じているのね」

深井大尉は再び無言、深井大尉は恐らく彼は雪風を恐れているのだ、それを伝えたところで今の状態では否定されるだけだろうが。

「参考になった、あんたは優秀な人間だ、上司が皆あんたのような人間だったら良かったんだがな」

「あら、ブッカー大佐はいいのかしら」

「ジャックは別だよ、分かって言ってるだろ?」

「さっきよりは、人の事を考えるようになったみたいね」

「練習だよ、あっていたか」

「貴方にはまだまだ補習が必要よ」

「ありがとうミーナ大佐。そろそろ俺は行く、ジャックの帰りが遅い、今頃司令室で暴れているかもしれない」

「それは怖いわね。早く行ってらっしゃい、相手を怖がらずに真摯に向き合えばいい、それだけでいいのよ」

「了解、大佐殿」

形ばかりの崩れた敬礼、深井大尉は退室し私は元の割り当てられた部屋に戻された。

そうして静かな部屋に溜息を吐くが憂鬱な気分はいつの間にか、少しばかり晴れていた。

今なら明るい歌も歌えるだろう、頭の中で幾つかのタイトルを思い浮かべながら今後の未来が明るくなるように祈りを込めてそれにふさわしい曲を歌い始めた。




いつの間にか30000PV達成!皆さまありがとうございます!!

最近はジャムと深井零の研究ばかりしている気がする。

私のVmaxスイッチがオンになるので感想と評価を心よりお待ちしております。
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35話

いつか見たその果ての無い白い空間、その中には鉄格子が嵌められた檻があり俺と翅の生えた女は鉄格子ごしに俺の背中にもたれ掛かっていた。

檻の中に囚われた彼女の表情は見えない、薄い一枚の頃も以外は纏っていなかったがその女性的ななだらかなフォルムと透明感のあるその羽は正に妖精と形容するにふさわしい姿をしていた。

そして俺の手には鉄格子を開く為の鍵があった。それを無くさない様に握り込み胸元に寄せた、もう大切な物を何も失わないように。

彼女は何も言わない、何かを伝えようともせずただそこに居た、まるでそれが当然だと言わんばかりに。

彼女は何者なのか、何を望んでいるのか。それは自分自身に対しても同様の事が言えた。

俺はここに居る、彼女もまた同じ様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕と深井大尉って実は前にも会っていたって知ってましたか?」

「何?それは知らなかった」

「あはは…そうですよね、基地の中で会う人間の事を一々覚えて居たらキリがない」

バンシーⅣの中、アサルトライフルを構えながら警戒してブリッジに向かう途中、ふと思い出した様にトマホークは語った。

「ロマーニャ基地の格納庫で厄介な奴に絡まれまして、それをブッカー大佐に仲裁して貰ったんです」

「そういえば、そんな事があったような気もする」

「本当は僕がケリを付ければ良かったんでしょうけど、僕はもう人を傷つけないって決めたんです」

「あんたは志願してこっちに来たんじゃないのか?地球で何かやったのか」

「僕がインディアンだったからだ。何かをしたつもりは無かった、それでも向かうが僕に絡んでくるんだ、人工心臓になったのはその時のいざこざでね」

「心臓の病気じゃなかったのか」

「喧嘩になって相手のナイフが心臓を一刺し、心臓は取り換えで人工心臓の為に僕の家族は家や家財を売り払った。情けなかったよ、母は泣いてたし父は僕の事は戦士とは呼ばなかった。僕がアビオニクスを学んだのはお金が欲しかったというのもある、故郷じゃ大した金は稼げないし家にも居づらかったんだ、僕は強くはなかった」

「そうだったのか」

「とある国のとある民族の末裔、僕にとってこの肌の向こうは全て敵だった。僕は一度日本への入国を却下された話はしましたよね、その時とある人権団体の人間が僕に話しかけて来たよ、『不当な扱いは赦せない』とか『泣き寝入りするべきじゃない』とか好き勝手言っていた。あいつらは何も判ってない。僕は日本に入国できなくて傷ついたんじゃない、僕は世界に否定されたんだ、クソッたれで身勝手な人間の作った社会が僕という人間を異物として扱うんだ」

「分かるよ、分かるんだ、トマホーク」

ここがバンシーⅣの中で、任務中でなければよりわかり合えたのかもしれない。

「ありがとう大尉、僕は貴方と話していると楽しい。貴方は人を区別しない、等しく興味を持たない、それが僕にとって何よりも居心地がいい」

「そうか、そう言われたのは初めてだ」

「そうですか」

 

 

 

 

 

 

 

――――零、僕は……人間ですよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は自室のベッドで目を覚ました、寝汗をかいたのか体に布が張り付く感覚が気持ち悪く感じた。

自室にはシャワールームは無いので着替えを持って移動する、大きめに作られた共用のシャワールームの中では何人かが使用していたが特殊戦の人間に話しかける者は皆無だった。

頭からシャワーを浴び続け、汗が洗い流されても先程の悪夢の後味は消えなかった。バンシーⅣから生還して早数日、あの寂しげで無理やり作った様な顔がリフレインして離れない。

トマホーク、お前は確かに人間だった。この世界の誰よりも、お前は優しくて尊敬できる人間だった。

じゃあ俺はどうだ?例え誰に後ろ指を指されようとどうでもいいと思っていた、他人からの評価なんて俺には関係なかった。

俺にとって関心があるのは雪風だけだった、俺にとって雪風が全てなのだから、雪風にとっても俺が全てなのだと信じて疑わなかった。

 

―――貴方は会話をしていても言葉を解読する事しかせず、それが普通だから相手の事を考えた発言をしない。

 

つまり俺の半生とは独りよがりの連続だったという事だ、それを雪風は感じ取って一度は俺を拒絶した。

今でも手が震える事がある、俺にとっては人生最大のショックだった。コンピューターは俺を否定しないからこそ俺はマシンにのめり込んだんだ。

俺と世界を結び付けていたのは雪風だった、だから雪風に拒絶された俺は世界との繋がりを断った――――目覚めよという声を聞くまでは。

そしてフリップナイトとの摸擬戦でのエンジン不調の際には俺にマニュアルで異常を取り除けとメッセージを示した、それはそれは俺という存在を知覚し俺に助けを求めている様に感じたのだ。

 

 

―――貴方は一度雪風と腹を割って話し合う必要がある。

 

 

俺にとって雪風はあくまで高性能のマシンを搭載した戦闘機に過ぎなかった、しかし既に雪風は人間の手に収まるマシンではなくなってしまっていた。

俺は今一度、雪風を真に知らねばならなかった。

 

 

 

 

 

あれから雪風は常に格納庫に居た、俺達ミラージュ隊は501JFWの支援部隊として動くがその501JFWが機能不全を起こした為だ。

ジャックとしてもせっかく造り上げた協力関係を崩すのは憚れるようで、それ以来俺には出撃命令は与えれていない。飛べと言われればいつでも飛ぶつもりではあるが今はそのような時ではないとも感じていた。

雪風は特殊戦の格納庫の中でSTC(特殊戦戦術コンピュータ)とのアクセスを行っていた、特殊戦機は電源の供給を常に受けているので四六時中己の能力を万全に発揮する事が出来た。

何時もの様に点検を終わらせるとPDAを持ちコックピットに乗り込んだ、雪風のインテリアを操作すると雪風のバックグランドで動いているコマンドの羅列が滝のように流れていった。

読める範囲で読み取ってみれば雪風がSTCにデータの要求を行っているのだと分かったがその内容は分からなかった。

なのでPDAからSTCにアクセスし、雪風が今何をしているのかを問いかけてみた。STCからは『雪風は現在戦術シミュレーションを実行中』と帰って来た、しかし何を考えているのかはSTCにも不明の様だった。

雪風は元々対ジャム戦の遂行という至高命令を根幹とするマシンだ、そういう意味では雪風の行動は分からない物でもない、むしろ当然の働きなのだ。

グレイシルフとの初遭遇時、雪風は自ら不明機を敵とみなして戦闘行動を行う事を認めた。

ファーンⅡのテストフライトの際には雪風は自己の生存とジャムを撃墜する為にオドンネル大尉を犠牲にした。あるいはオドンネル大尉が乗っている事を気にしていないのかもしれない、雪風にとってはああするのが最善でありそこにパイロットが乗っていようと関係なかったのだ。

そしてあの日、雪風はオートマニューバ・スイッチがオンになった状態で俺とバーガディッシュ少尉を強制的に排除した。

あれは何故だったのだろうか、常に強くなっていくジャムとの戦闘で俺が付いていけないと思ったのだろうか。

そうだとしてもオドンネル大尉の無視する事が出来ただろうし、事実雪風は俺の操作を受け付けなかった。

その上で俺や少尉がコントロールを奪い返そうとするのを雪風が嫌ったと言えばそれまでだし、実際あの時のジャムとの戦闘では恐ろしい程の性能を発揮した。

俺には雪風が何を考えているのか分からない、だがそれは分かろうとしなかったという事でもあるのだ。

 

 

―――雪風は確かに何を考えているのか人間には分からないかもしれません。それでもジャムを倒す為に善かれと思ってやっている筈です。

 

 

そうだ、雪風は何も変わっていない、自分に与えられた役目を全うする為に全力なのだ。

今だって待機中の筈なのにジャムに負けない為にシミュレーションの中で全力で戦っている、自分の判断は正しかったのか、或いはジャムとは一体何かを探る為に。

雪風はただの機械じゃない、雪風は戦う為に生まれて来た、そして俺と共に戦いを続け今に至る雪風という存在を作り上げたのだ。

もしかしたら雪風は独り立ちしたかったのかもしれない、ある程度の経験を積みセントラルコンピュータは無人化に切り替えようとしていたからそれに乗ったのかもしれない。

無人機として活動してもパイロットの操作以上に戦闘機をコントロールできる事を経験した、そしてパイロットの存在意義を疑った。

俺はそれが分かっていなかったし、自分ではない他の存在を分かろうとはしなかった。恐らく雪風はそれを脅威と認めた、そしてあの日俺を邪魔な存在として排除したのだ。

俺がもしも、もっと雪風の事を知ろうとしていればそうはならなかったのだろうか。

 

 

―――相手を怖がらずに真摯に向き合えばいい、それだけでいいのよ

 

 

「俺は、雪風が怖いんだ」

言ってしまえば簡単な事だ、俺が雪風を理解しようとしなかったから、雪風も俺を理解しようとしなかったのだ。

ああ、そうだ。俺にはそうする義務があったんだ。雪風には雪風なりの考えがあって雪風の世界観を持っている、俺はそれを認めてやれば良かったんだ。

俺は相手の事を分かろうとはしなかったし、したことも無かった。真に相手に向き合うという事をしたことが無かった。

敵であろうと、味方であろうと、分かろうとしなければ始まらないのに俺は相手を認めるという事をしたことがなかった。

 

 

 

―――貴方が見守りながらそっと導けばいい。それが雪風を飛ばす貴方の役割でしょう

 

 

 

「ああ、分かってるよトマホーク……本当は気付いていたんだ」

失ってしまった友を思い出して俺は静かに涙を流して泣いた、こんな時、お前なら慰めてくれるのか?

俺は思い返せる中で泣いたのはこれが初めてだった、もしかしたら俺は今初めて生まれたのかもしれない。

雪風、俺はもう何かを失いたくない、お前もだ、その為にお前が必要なんだ。

雪風、お前はジャムを倒す為に造られた、確かにそこに人間を護れと言う命令はない。

しかし俺は敵じゃない、俺がまだお前にとって有用であるのなら俺に心を開いてくれ、―――お前の声を聞かせてくれ。

 

 

 

 

 

 

深井大尉が泣いていた、その事実は雪風のインテリアに内蔵されていたカメラだけが捉えていた。

特殊戦のデータベースには、記録されていなかった。




気付いたらランキングに入っていたのですが…なぜランキングに入っていたが不明です。(困惑)


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36話

かつての謹慎の時と同様にデスクワークを熟しながらジャックの補佐を務めていた俺にそれは何気なく訪れた。

「俺が地球に?俺の任務は威力偵察だろ、地球に宣戦布告でもするつもりか?」

「そんな訳あるか、クーリィ准将からの直々の指令だ。スーパーフィーニクスMk.XI、新しく雪風に搭載される新造のエンジンのテストだよ」

正しくはFNX-5011-D(VC)、スーパーフィーニクスMk.XI、軽量かつ大推力のエンジンが売りのフィーニクスエンジンは優秀だったが雪風を始めとした機械知性体がシステム軍団のコンピューターシミュレーションで予想もしていない動きをする為に急遽アップグレードされた。

「優秀なエンジンだったがそれを扱う機体がじゃじゃ馬すぎた。確かにメイヴは丈夫で如何なる姿勢でも制御を失わない良い機体だがエンジンを納めるケーシング周りや支持部分の負担が大きすぎたんだ」

「そんなに雪風は損耗してたのか」

「お前なぁ…メイヴの高機動高出力でサイドスリップしたり急旋回を何度も繰り返せばガタの一つくらい来る、場合によっては機体そもそもに罅が入ることだってあり得た」

「それなのに推力を更に向上させるのか、これを思いついた奴は戦闘機は真っすぐ飛ぶモノだと思い込んでるんだな。戦闘機はロケット花火じゃないぜ」

「勿論それに見合った補強はされている、それにコイツを作ったのはコンピューターだ」

「じゃあコンピューターがバカになってる、ジャムに何枚かCPUを抜かれたんだ。今度は本部の地下に潜入するか、俺は御免だがあんたならやったもんな、もう一度位どうだ?」

「馬鹿げた話だがセントラルコンピューターがおかしいのは俺も同感だ、人の命をなんとも思っていない」

正しくは各分野の技術者が要求するスペックをコンピューターに入力し、コンピューターはそれに対して結果を返す、それを現実的な内容に手直しするのが技術者の仕事だった。

しかしメイヴの性能は人間が耐えうる環境を最早超えていると言っていい、メイヴに載せられるのだからレイフやフリップナイトにも載せられる。

この結果を返したシステム軍団のコンピューターは恐らく戦闘機の無人化を諦めていない、未だ人間を排除する思想から抜けていないのだ。

「それで?何故クーリィ准将がサインした、何故このエンジンテストが特殊戦に持ち込まれたんだ」

「お前はFAFどころかフェアリィ星まで騒がせ過ぎたんだ。味方のスーパーシルフを撃墜し、ジャムの基地へ誘拐され、処罰は免れたとは言え味方の基地に発砲、無人の雪風を操りテストパイロットの殺人容疑、今度はバンシーⅣの墜落の容疑者と来た。システム軍団はこれらに対して雪風に出頭を命じて、それを准将が断ると実力行使一歩手前まで行くところだった」

「言いがかりだふざけやがって、やっぱり貧乏くじだったじゃないか。どうせロンバート大佐の差し金だろう、くそ不味いコーヒーばかり飲まされて頭がハイになってるんだ」

「濡れ衣だという事は分かっている、だから一度雪風を避難させようという事になったんだ、ついでに俺とお前を乗せてな」

「ジャックも行くのか?ここを放り出して?」

「シフトは既に組んである、黙ってても奴らは飛ぶさ。逆にお前、向こうの人間と話せるか?」

「無理だな。しかしFAFが国連から独立していると言ってもよく国連が認可したもんだ、武装は無しとか言わないよな?」

「フルパッケージ、名目は自衛の為だ。至極真っ当なクルージング、ドンと構えて行けばいい」

とは言え久しぶりの地球だ、お互いに思う所が無いわけでは無い。

しかし任務は既に組まれており上から降りてきている、後は臨機応変にというのは特殊戦では鉄板だった。

「なおこの任務は対外的には秘匿任務となっている、余り口外はするな。出発は明日の1000時、遅れるなよ」

「了解」

 

 

 

 

 

ロマーニャの空、しばし慣れ親しんだ空、こうして離れるのはFAFロマーニャ基地に配属されて以来初めての事だった。

この空にはエーテルと呼ばれる物質が含まれるそうだが呼吸する分には分からない、少なくとも肺がやられたり腕が増えたり、目が見えなくなることは無かった。

今回のミッションで雪風が装備した兵装一覧の中に、コンフォーマル・エーテル・タンクという一文を見た時にふと思い出したのだ。

「ジャック、人はいつか自分の力だけで飛べるようになると思うか」

「それはウィッチがストライカーを使わずにという事か?それとも鳥のように翼を生やしてか?」

「どっちでもいい、どうなんだ」

「いずれ自力で飛ぶ人間も現れるだろう、その可能性はある。だが永遠に表れないのであれば結果論だが答えはノーだ」

「可能性と言うのはなんだ」

「勿論ウィッチの存在だ、今俺達が空を飛ぶには全幅14.52mの翼が必要だが彼女達は箒一本あればいい。お前ダーウィンの種の起原を知っているか」

「それは知らないが進化論なら聞いた事がある、環境に適応して生物は変化するって奴なら」

「間違ってはいないが重要な要素が抜けている、『環境に適応して変化した生物だけが生き残る』という点だ。変化は確かに起こり得るがそれを次世代に受け継がれていかなければ絶滅する」

フェアリィ星では正気の保証は無く、狂ってしまえば後は死ぬだけ。成程、俺が今生きているのはフェアリィ戦争、そして特殊戦に適応しているからという訳だ。

「ウィッチは絶滅危惧種か、いや人類そのものがそうなんだな」

「人類が人類の夢を見る為には今を勝ち続けるしかない、そうすればお前自身が自力で飛ぶ可能性も残るだろう。飛びたいのか、雪風と」

「パラシュートが要らなくなるからな」

「初めから雪風に負ける事を考えるな、傷付く事を恐れるな。お前は幾度と窮地に立たされても雪風に乗っている、その意味を考えろ」

意味なんてあるものか、あればどれだけ気が楽だった事か。

『B-1、こちらプーマー。給油完了したぞ、ドローブを分離する』

「こちらB-1、了解した、プローブを格納する」

『給油完了、グッドラック、ブーメラン』

「サンクス、ミルキー1、グッドラック」

雪風の腹を満たした所で俺達は任務に戻る、給油機から離れた雪風を超空間通路に向けて前進させる。

「ジャック、FAF本部に戦術航法支援衛星経由でミッションコード送信」

「了解、コード送信完了、承認コード受信」

「了解、これより超空間通路へ突入する」

地球とフェアリィ星の南極を繋ぐ超空間通路へ行くためには、一度アウストラリス連邦*1に設置されたFAF基地本部から離陸した空中給油機から給油を行う。

そしてその間にFAFの本部では前もって提出されたミッションデータと送られて来たミッションコードを照合し、セントラルコンピューターの承認を以て最終的な許可が下りる。

このプロセスを通さないと南極周辺に浮かぶFAF南極防衛洋上基地から警告無しで対空攻撃が行われる、もしもFAFの中でも最も分厚い対空砲火に挑みたい奴がいればここをオススメする。

「Q.N.H is decreasing quickly.Check.after 60 seconds over IP.―――On cource, now」

柱の様に地表から昇る超空間通路には竜巻の様な上昇気流が螺旋を描いて渦巻いている、これを突破して侵入するには渦巻く雲とその気流の中を潜り抜ける他ないがその辺りは雪風が適切なルートを指示する為それに従う。

 

「Fuel《燃料確認》」

「19.0」

「Warning light.check《警告灯確認》」

「Check normal《正常》」

「Oxygen《酸素残量確認》」

「Oxygen check.OK《正常》」

「Oil pressure《油圧確認》」

「Normal《正常》」

「Exhaust temperature《排気温度》」

「800…normal《800度、正常》」

「OK.20 seconds befor inrush.《突入20秒前》」

「indicated air speed 500knots《速度は500ノット》」

「Check electrification voltage《帯電電流確認》」

「now,300mV and increasing《現在300mV、増加中》」

「gate insight,inrush.《超空間通路に突入する》」

 

俺達は雪風ごと超空間通路に突っ込んだ、そして絶えず変化する環境に合わせて雪風の計測計の表示が定まらずに変わっていく。

そう言えばこうして超空間通路を潜るのは二回目になる筈だが、初めての頃はどの様に感じていたのだろうか。

犯罪者を送り込むのだから外の見えない輸送機に詰め込まれていたのは覚えているし、そもそも外の環境などどうでも良かった、世界の何処に居ようとも何も変わらないと思っていた。

それはこうして世界を移動する体験を得ていなかった、今までの現実感の無さはこういった事情も関わっているのだろう、つまりフェアリィ星はあくまで地球の延長線上としか考えていなかった。

これから俺は本当の意味で世界を越える、本当の現実がこの通路の先にある。しかしそれが本物だという事も、この先に世界が存在する事も誰も保証出来ない。

突如として視界が晴れる、雪風が地球の環境に合わせて計器を調節開始。

 

 

 

 

「……無事に、着いたようだな。どうだ零、久しぶりの地球は」

「ただいま、なんて気分じゃないよジャック」

 

 

 

 

 

*1
地球のオーストラリアに相当する




久しぶりの投稿です。
またこの話を投稿する前にこれまでの話をかなり誤字脱字や表現、内容を変更したり追加したりしました。
一度読み返す事をオススメします。

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37話

「ミッションの再確認だ。今回のエンジンテストはスーパーフィーニクスエンジンと魔導ジェットエンジン、そして魔導ラムジェットブースターの性能テストだ」

「一応聞くが、これは武力示威行為にならないか?」

「だからどうした、これは正当な任務であり、一機分の燃料と装備で戦闘機が出来る事なんてたかが知れているさ。FAFが架空の軍隊として扱われているのに批判されるのはむしろ都合がいい、寝惚けた頭を蹴飛ばしてやれ」

「捻くれているな、俺には分からん」

燃料の問題が解消したところでオーストラリアのFAF基地から飛行許可エリアのデータが転送され雪風がそれを受諾する。

「まずは魔導ジェットエンジンからだな、こいつが動かなければ他のテストも出来ない」

「了解、系統切り替え、コンフォーマル・エーテル・タンクの回路を開く」

雪風の胴体下部のアタッチメントに固定された特殊なユニットであるコンフォーマル・エーテル・タンク、これは特殊な鉱石――水晶の一種――に魔力を充填しウィッチやエーテルの存在しない環境でも魔法を使う事が出来るように開発されたものだ。

ただしメイヴには簡易的なストライカーユニットのみ搭載している為に、魔法は使えず純粋な推力としか扱えない。

「テストを開始する、加速するぞ」

「徐々にな、急に吹かすなよ」

「俺よりも雪風が上手くやるさ」

系統を切り替え魔導ジェットエンジンに日が入り、空気抵抗による一瞬の揺れの後に加速を開始。フィーニクスエンジンとは毛色が違うがそれでもジェット音がコックピットに響くのが面白かった。

「最高速度でマッハ0.8、補助の出力としては高性能だな」

「TCS上でも計器は正常に作動している、一度落としてジェットエンジンに戻せ」

「了解」

ジェットストライカーが正常に作動した事を確認すると再びの系統切り替え、スーパーフィーニクスエンジンのテストに移る。

「巡航速度、1.6、最高速度はマッハ3.3、確かに速度は向上しているが大きく変わった点は感じられない」

「信頼性はそのまま、メイヴの機動に耐えうる剛性を重視しているからな」

ファーンⅡに載せるには勿体ないエンジンだ、素直で追従性の高いお利口なエンジン。

「何にせよこれで二つ終わりだ、次に移る前に一度給油したいな。今更だが燃料が持たないぞ、空中空輸機は出てるんだろうな」

「安心しろ、丁度今日本海軍の空母が超空間通路の監視任務に就いている、燃料だってたんまりと載せているさ」

「日本海軍の空母に協力を要請するのか?」

「国際条約があるんだ、無理とは言わせないよ」

 

 

 

 

 

 

 

「レコンウィッチ隊は総攻撃前に敵情視察に出て貰います。任務が終わり次第最高速度でここまで戻ってくるだけ」

FAFロマーニャ基地にクーリィ准将自ら訪れるのも慣れたものだ、毎度彼女を乗せて飛ばす特殊戦のパイロットには一縷とは言え同情の気持ちが無いわけでもない。

「敵情視察ですか?ネウロイの巣に?」

「いえ、貴女が向かうのは501JFW基地。STCはそこにジャムが潜んでいると判断した」

「501基地に…?まさか」

「ストライクウィッチーズを救出する。内部構造は元より人類連合軍の士官の配置等はこの前ブッカー少佐が501基地に訪問した際に確認してもらったから」

「ジャムはいますか」

「いるでしょうね、だからこそ我々が動く事が出来る」

彼女は潔癖な人間ではなかった、使える物は何でも使う。それが例えジャムであっても、私であっても。

ウルスラ中尉が天津風少尉として特殊戦に居られるのは彼女の監視下にあっての事、人類連合軍と情報軍団のスパイであろうとも関係なしだ。

「今作戦の現場指揮はあなたに任せます、BAX-4も使用を許可し速やかに内部を制圧すること」

「了解しました、准将」

 

 

 

 

「本当にいいんですかね」

「任務に従うのが軍人でしょう?イトウ少尉」

C-31S『スレイプニル』とフリップナイト三機は現在FAFロマーニャ基地に向けて飛行中、目的は制圧の為基地レーダーを気にする事無く進んでいく。

「それより本当に基地を制圧するんですか?この少数で?」

「この星で特殊戦に勝てる軍隊など存在しませんよ、偵察部隊のオペレーターとしては実感は薄いでしょうが」

天津風少尉改めウルスラ中尉は既にコンテナから取り出したBAX-4を装着済み、バックパックからは重厚な物理シールドをワイヤーで懸架し、右手にはスラッグ弾の代わりにゴム弾を装填した、回転式弾倉を装着済みの20ゲージ鎮圧用ショットガンが握られている。

「それではミッションの再確認を、まずは地球防衛国際条約に則った降伏勧告を行い、次いで私が単騎で即時突入を行います。抵抗が見られた場合はフリップナイト及びスレイプニルの全兵装を以て制圧、ストライクウィッチーズを救出します」

「一人で突入して本当に大丈夫なんですか?」

「ウィッチに勝てる人間がいるとでも?」

「それにもしもストライクウィッチーズの人達が人質に取られでもしたら」

「ウィッチに勝てる人間がいるとでも?」

「……僕達必要でした?」

「大義名分が必要なんですよ、私にも、ストライクウィッチーズにも」

スレイプニルが基地の防衛圏内に侵入するとベネツィア基地から通信が入る、若い男の声だった。

『こちらはベネツィア基地、特殊戦のIFFを出しているFAF機に告ぐ。貴機は当基地の防空警戒エリアに接触している、速やかに針路を変更せよ』

「こ、こちらFAF特殊戦五番隊所属の特殊偵察ウィッチ隊ミラージュです。現在ベネツィア基地にジャムが潜伏しているとの情報が入り、こ、これより強制捜査を行います!!」

『な、何だと!?それは越権行為だ!FAFの偵察部隊にそんな権限が―――』

イトウ少尉の弱気ながらの宣戦布告に通信機から焦りと怒りの声が響く、向こうからすれば寝耳に水だろう、そして明らかにこれは基地に残った人間に処理できる責任問題ではなかった。

「地球防衛国際条約第十二条、FAFは対ネウロイ戦における偵察及び観察、戦闘行動において特権を持つものとする。よって我々は条約に則りこれより突入を開始します」

『ふざけるな!それは人類連合軍の認可があってこそのものだ!こんな暴挙が許される筈がない!貴様らは軍法会議で裁かれるのだぞ!!』

「それまでに人類連合軍が残っていればいいですがね」

『な、何だと!?』

「ネウロイに与する組織がネウロイでなくて何だと言うのですか。先日のバンシーⅣ事件を切っ掛けに各国の首脳部と統合方面軍は協議の結果、人類連合軍を敵性勢力とみなして解体を決定しました」

『知らん!私達は聞いていないぞ!!』

「貴方達は生贄です、人類連合軍が悪であったと示す為のね。しかしここで無駄に抵抗を起こして本当に罪を犯すなら全員鎮圧した後に実刑が下されるでしょう」

『そんな話が、まかり通る筈が……』

「武装解除し、全員投降しなさい。そうすれば悪いようにはしません、事情聴取の後に開放されるでしょう」

そして数分の無言の後に人類連合軍の士官は投降を選択する旨を告げる、通信機の向こうで言い合う声が聞こえるがここからが私の仕事だ。

「どうせ抵抗するので、鎮圧しつつ救出に向かいます」

「え、ああ。その…ご武運を」

何故かイトウ少尉の顔が引き攣っていたように見えたが、ともかく早急に任務を果たさねばならない。

スレイプニルのサイドハッチが解放される、少なくとも機銃掃射の洗礼を受ける事は無いようだが用心に越したことは無い。

バンシーⅣの突入の際にも使用したアンダーバンカーロケットに乗り込み基地の居住ブロック辺りに着弾、突入に成功する。

突然の騒音に驚き、事情を未だ知らされていない人類連合軍の士官がこちらに即時発砲を行うが拳銃では物理シールドを突破する事は出来ない。

こちらもショットガンを急所を外して応射する、ゴム弾と言えど命中すれば容易く骨折する威力を誇る一撃を受けて士官達は蹲る様にして倒れ込んだ。

「貴方達の上官は降伏を選択しました、無駄な抵抗は止めて下さい」

そう言い残してウィッチ達が押し込められているだろう部屋に向かう。外来の出入りの管理が容易であった為に基地内部の警戒は緩く、人員も装備も脆弱であった為に突破は非常に簡単だった。

基地内部の動きを掴むために優先して救助に向かったのはミーナ大佐の部屋だった、扉を蹴破り侵入するとそこには部屋の角で構える大佐が居た。

「侵入者は貴女だったのね、ウルスラ中尉」

「どうも、助けに来ました」

「あれだけの事をしてよくもまあいけしゃあしゃあと言えたものね、今度は何を企んでいるのかしら」

「信用されていないのは当然の事です、しかしそろそろ外の空気を吸うのも悪くはありませんよ」

「……そうね。それで?今度は何処に連れていかれるのかしら?」

「特殊戦です、FAFロマーニャ基地」

「―――は?」

憎々し気な顔つきが一瞬で変わる、そして優秀な彼女の思考が先日訪れたブッカー少佐と深井大尉の訪問が今日の為の任務の一貫であったと結びついただろう。

そう言えばウルスラ中尉が天津風少尉として特殊戦に所属していると言うのはミーナ大佐達は知らないのだった、正確には多重スパイなので所属しているからと言って味方とは言えないのだが黙って置く事にした。

「私の事は信用せずとも、特殊戦は信用できませんか?」

「……いいわ、ついて行きましょう」

「了解しました、全員を救出後に脱出しましょう」

そして部屋を続け様に蹴破りウィッチ達を救出、途中バルクホルン大尉との掴み合いも発生したが無事トラックを奪って脱出に成功した。

入れ替わる様に504JFWが基地に残された士官達を拘束して連れ出し、後日非公開の軍事裁判に掛けられる事となったが後に無事解放されたかについて記録は残っていない。




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38話

地球の南極海ではジャムの侵略に備える為、定期的に交代で各国の海軍による超空間通路の監視が続けられていた。

今のシフトでは日本海軍がその任に当たっており、アドミラル56の艦長である南雲少将はこの退屈な任務を一刻も早く終わらせて本国の地を踏む事を首を長くして待ち望んでいた。

既に御伽噺と成り果てたジャムの脅威など今更怯える程でもなく、異様なシルエットの超空間通路はこうも見慣れてしまえば飽きるというもの。

何の得にもならない任務だった、緊急時の出撃に参加する事も出来ず、碌な補給も届かず碌な実績も付かない碌でもない任務に従事させられるというのは彼にとって甚だ遺憾であった。

彼の唯一の望みといえば面倒事を起こさずにただこの任務を完遂する事だけだった、しかしイレギュラーは起きるというもの。

 

 

―――将来に備え、FAFの主力機であるシルフィードのエンジンを地球大気圏内においても最高の性能を発揮できるスーパーフィーニクスエンジンⅪに換装する。後日テスト機を地球の南極へ送るのでよしなにされたし、テスト機は特殊戦第五飛行戦隊機、雪風。パイロットは深井零大尉、ジェイムズ・ブッカー大佐―――

 

 

この通告は当然自分達の管轄では処理できず、国連を通した正規の発表だったという事で世界を大いに騒がせた。

FAFの存在を成大なジョークとして捉える者、FAFの反乱だと面白おかしく書き出す者、FAFとジャムの情報の少なさに驚きダークウェブに乗り出す者、FAFの名を騙り国連の新兵器のテストの隠れ蓑にしていると陰謀論を囁く者、そして――――。

 

「本日は急な申し入れで申し訳ございませんが、お時間を作っていただき誠に感謝いたします、南雲少将」

「こちらこそ、この度世界で最もFAFに詳しい貴女をお招き出来て非常に光栄だ。アドバイザーとしては申し分ないな、何もない所だがゆっくりしていくといい」

国際ジャーナリスト、リン・ジャクスン女史。ことFAFとジャムの分野において生き字引と言える程の知識を持つ世界きっての変わり者だ。

記者会見の後もここに留まる事を選び、そしてFAFの姿を捉えあわよくばコンタクトを取りたいそうだ。

それは一体何の為に、悪質なパパラッチやジャーナリストなら飯の為だと言うのかもしれない。

しかし彼女なら自身が出版したジ・インベーダーの収入でそこそこ暮らして行けるだろう、暇つぶしに読んだことがあるがSFとしてなら大作だった。

日本には毎年夏から秋にかけて何度も台風が来て被害を齎す、数年に一度は大地震が起きてこれもまた重大な被害を齎す。

これらの脅威に対策をしていないわけでは無いが、食い止めた事は一度も無い。

例え明日世界が終わるとしても一人の人間には何も出来る事などないに等しい、これは諦観ではなく人としてごく当たり前の感覚だ。

何故ここにきてわざわざ話を掘り返すのだ、対ジャムに対する専門家、フェアリィ空軍が設立されているのだからそれでいいではないか。一人の人間としてジャムやフェアリィ星人というのはリアルではないのだ。

「艦長、FAFの機体が当艦に給油の要請を出しています」

「給油だと?こっちで勝手に遊んで喉が渇いたらドリンクのオーダーか。日本海軍はホテルのルームサービスじゃないんだぞ」

「それでも、許可を出すべきです少将。国際条約は元より、FAFの要求は度を過ぎた要求でない限り受け入れる義務がある」

面倒な女を残してしまったと南雲少将は思った、彼女は変わり者はではあるがフェアプレイを尊重する精神性がある。

その本心が念願のフェアリィ星人との対面を果たす事だとしても彼女の前では迂闊な事は出来ない。

「分かっていますともジャクスンさん。FAF機に受け入れの準備がある事を伝えろ、給油の件についてもだ」

「は、了解致しました」

監視も兼ねた誘導機がアドミラル56から二機発進、即座にFAF機とコンタクトを取り着陸コースに誘導を開始する。

「宇宙人のお出ましだ」艦上のスタッフの誰かがそっと呟く。

現状の戦闘機とは違うフォルムのそれは甲板上の滑走路に近づいても着陸の為の減速が見られなかった。

しかし次の瞬間FAF機の主翼が動くのを見た、それが空気抵抗を受けて機体が軽く上昇した後に減速して数メートルの高さから真下に落ちるのも見た。

そしてFAF機はスポッティングドリーも必要とせずに自走して空いた駐機エリアに機体を納めるとコックピットのキャノピーが開く。

白一色のフライングスーツとヘルメットで彼等の表情は伺えない、辺りに配置されていたスタッフも自分達の手を止めて彼等に視線を向けている。

彼等がヘルメットを外す、しっかりと人間の頭だった事に一抹の安堵を覚えると後部座席に座っていた金髪の男が鈍った英語で此方に語りかけて来た。

 

「FAF特殊戦五番隊所属、ジェイムズ・ブッカー少佐です。艦隊司令にお取次ぎを願いたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球の海とフェアリィ星の海の違いは良く分からなかった、強いて言えば南極の海には人の生活の匂いが無い位で。

着陸の後に給油の許可を得る為に面会を希望するもかれこれ数十分は放置され続けていた、その間俺達は談笑にふける訳にもおかずに佇むばかりで退屈の一言に尽きた。

「いつまで待たせる気だ、俺達を焦らしたって何もでないぜ」

「確かに、まあ俺達は外様の人間だ。こういう歓迎も珍しくはあるまい、ようこそ地球へ…って訳にはいかないさ」

「何ともまあ、みみっちい事だ」

「言葉遣いに気を付けろよ」

ジャックは俺の言葉を否定はしなかった。トマホーク、確かに日本は閉鎖的だ、それとも世界が閉鎖的なのかな。

メインエンジンを落として二次パワーだけで稼働している雪風もFAFロマーニャ基地の様に無制限にバックアップを受ける事は出来ず、精々飛行中に得られたデータと己の持っているデータを組み合わせて地球の環境に合わせたセッティングの構築に専念していた。

雪風は地球でも戦うつもりでいるのだ、そう作られたから、己の存在意義に全力を注いで。

メイヴの機首に達筆に書かれた雪風の文字を撫でてみる、エンジンが止まっているからヒンヤリとした温度をグローブ越しに返してくる、それは本当の意味で雪風に触れるという事ではない。

歩み寄るって難しい事なんだな、きっとそれは誰にとっても。

「こんにちは」

メイブのフレームの隙間から届く女声、聞き覚えの無い気安い声が突然現れた。

「素晴らしい機体ね、蓮や百合を思わせる様な優美な曲線。特殊戦だけのスペシャルモデル、FRX-00はいまや正式配備されてFFR-41MRになったんでしたっけ」

「……そうだったか?ジャック」

「そういう事になっている、随分とお詳しい事だ」

FRX-00はFRX-00であり、F(フェアリィ星における任務に従事)R(偵察)X(研究機)の100番目のモデルである。

確かに正規の任務に従事しているが、未だに機体識別コードが研究機のままなのはシステム軍団が最新鋭機である雪風の試験を終了していない事に由来する。

確かに正式配備されればFFR-41MRと呼ばれる事もあるだろうが、これは欺瞞でありジャックは訂正しなかった。

「あら、ごめんなさい。つい浮かれてしまって、私はリン・ジャクスン、フリーのジャーナリストをしているの」

「リン・ジャクスン…。―――あ、ジ・インベーダー!!」

「光栄だわ、FAFの、それも特殊戦の人と直接お会いできるなんて」

「意義あるお仕事ですよ、私はジェイムズ・ブッカー。あいつは深井零、この雪風のパイロットです」

「スノウ・ウィンド? スノウ・ストーム(吹雪)のことかしら」

「違う。雪風は、雪風だ」

例え些細な違いだとしても俺はそれが許せなかった、何よりもそれが雪風の事だったからつい声を出してしまった。

かと言って話す事も無いのだからすぐにその場を離れようとした。

「そう、ユキカゼ。なんだか不思議な響きね」そう言って彼女は微笑む。

「そうだ、雪風なんだ。他の何者でもない」

 




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39話 終

「それにしてもジャクスンさんがここに居ると言う事は」

「ええ、勿論。取材に来たの、良かったら少しお時間貰えないかしら」

「もうしばし待たされそうですし、構いませんよ」

彼女は毛皮のコートからノートとペンを取り出した、その中身に一縷の興味をそそられたが中を見せて貰える事は無いだろう、それだけ彼女の手帳一冊に内包された価値は計り知れない。

「大佐達は今回エンジンテストという事で来訪されたとFAF広報からの発表で聞いています、貴方から見て性能はいかがでしたか?」

「エンジンテストはまだ終了していないが、現時点においては成功と言えるだろう」

「FAFのエンジンテストを地球で行うに至った経緯はご存知ですか?」

「さあ、それは分かりかねます。しかし、もしかしたらと思う事もある」

「それは?」

「地球がまだ、本当に存在しているのか。それを確かめたくなったのかもしれません」

「それは、誰が何の目的で」

「一部を除いてFAF軍人の誰しもが思うかも知れません。郷愁ではなく、ごく当然の疑問として」

ジャクスン女史はノートに記録を残していく、その筆の動きを見るからにかなり詳細に。

ボイスレコーダーも使用しているだろうがこちらの発言を一語一句逃すまいとする彼女の姿勢には好感を覚える。

「ブッカー大佐は特殊戦五番隊の所属でしたね」

「ええ、そうですが」

「貴方の基地はロマーニャ基地にあると聞いています、ストライクウィッチーズは、ミーナ中佐はお元気でしたか?」

「ええ、今じゃ昇進して大佐ですよ。あの年で大佐だ、FAFでも見る事は出来ないでしょう」

「将官クラスには、確か所謂エリートしか進めないのでしたっけ」

「ええ、自ら志願すれば中尉、それ以外は少尉から始まるのと一緒で」

裁判での実刑としてフェアリィ星に送られて来た俺や零とて少尉任官からスタートだった、それが今では俺は大佐、零は大尉だ。

これも異例なスピードでの出世だがこれ以上は見込めないだろう、階級に拘るわけでは無いが俺も彼女もイレギュラーな事は確かだ。

「ミーナ大佐には中々コンタクトが取れないの、彼女から貰った手紙は貴重な資料になったわ。翻訳が少し必要だったけど誠実であろうとする彼女の思いは伝わって来たわ」

「翻訳?」

「フェアリィ語はそれなりに修めているつもりだけど、ネイティブな部分は未だ怪しくて。もう少し目にする事が多ければ私も慣れるのだけど」

フェアリィ語はフェアリィ星で広く使われている公用語だ、不思議な事に英語と似通った言語体系でありFAF軍人はFAFに配置される際の初期講習でフェアリィ語を機械を用いて脳に直接叩き込まれる。

しかしそれでネイティブに話す事が出来るわけでは無く、向こうから聞くと片言や方言の様に聞こえるようだが。

FAF軍人は作戦時において英語を基調としながらフェアリィ語も操る、その上基地に戻ればFAF軍人は人種も文化も違い、なおかつ大抵の者が前科持ちだ。

いずれ話すのが面倒になり、形容詞を省いた端的な会話が主流となった、そちらはFAF語と呼ばれている。

「それにしても、ブッカー大佐はミーナ大佐とお知り合いだったのですね」

「ええ、しかし何故?」

「あの人はお元気ですか?と聞かれて見知らぬ人なら、知らない素振りを見せるものですよ」

彼女もジャーナリストだ、話術の一つや二つくらいは当然だろう。

手袋ごしに笑う彼女は嫌味なく悪戯を成功させたように笑う、敵意を感じないという関わり合いは()()()()()ものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ブッカー大佐、司令がお会いになるそうです。至急司令室までご同行を」

「―――了解しました。じゃあ行ってくるぜ零、お行儀よくしてろよ」

「あんたこそ、年甲斐もなくはしゃぎすぎるなよ」

そんな言葉にジャックは手を振るだけで答えた、そして銃器を持った日本海軍の軍人を堂々と引き連れ司令室へと向かっていったのだ。

「今の地球人はみんなあんな感じよ。争うべきはジャムなのに、今では人間同士でジャムを口実に争いをしているの」

「まるであんたは、地球人じゃないような言い方だな」

その言葉に目の前の女は目を丸くした、無自覚だったのだろうか。

「だがフェアリィ星人でもないな、アンタは素直すぎる」

「素直、とは自分の事を思った事は無いけれど。フェアリィ星人は素直じゃないのかしら」

「フェアリィ星に行くやつが素直な奴とは思えないな、あんただってそれだけジャムに入れ込むならFAFに来ればいいだろう」

「それは……」

「冗談だ、やはりあんたは来るべきじゃない。あっちじゃ正気の奴から死んでいく」

「そう…。フェアリィ星では少女が空を飛ぶそうね。妖精をこの目で一度見て見たいと思った事があるの、それはもしかして幻覚の類なのかしら?」

そう言って俺をその瞳に捉えた、俺を通して向こうの何かを見るかのように。

「現実というのものが、俺は偶に分からなくなる。だがジャムが存在する事が事実であるようにウィッチもまた存在している、誤魔化しきれない現実のものとして」

「その言葉が聞けただけでも私の存在の価値を信じる事が出来る。皆も最初は恐れていたの、人類の脅威として。それがいつしか忘れてしまったのね、架空の存在だっただなんて」

そう言って彼女は手帳を仕舞った、彼女の視線は遠く、超空間通路を眺めている。

「私はジャムが何よりも恐ろしい、自分でも分からないのよ。初めはただ、何故これ程ジャムを恐れるのか、何がこれほどまでに恐れを抱かせるのを知りたかっただけなの。その内家族や旦那にも見放されて、それでもこうして筆を執っているの」

「ジャムが怖い、か」

「貴方は怖くないのかしら?」

「俺が恐れたのは雪風だけだ、それ以外はいつだって誰とだって戦い続けて来た。雪風がいればこそ、俺は戦える」

「成程、優秀な機械知性体なんでしたっけ。昔、父がフェアリィ星の万年筆をプレゼントしてくれたの。今でこそフェアリィ星産の物品は禁制品に等しい扱いだけど、昔はそうではなかった」

「懐古主義者には大人気らしいな。向こうでも車や絵をコレクションしている奴がいるよ、その為にFAFに来る変わり者もいる」

「そうみたいね、とてもいい筆よ、インク詰まりも引っかかりもない芸術品とも言って程の品質。今でもこの万年筆を愛用している、私の信念が込められているといっても過言じゃないわ」

「ペンは剣よりも強しか?確かに俺や雪風よりもレポートを上手く書きそうだ。成程、それがアンタの戦う武器なんだな」

「貴方は特殊戦の人間だと聞いていたけど、話してみるものね。それにいい声をしてる、落ち着くわ」

目の前のリン・ジャクスンは再び俺から目を反らして超空間通路を見つめた。彼女は超空間通路の向こうに何を思い浮かべるのだろうか、少なくとも俺やジャックと同じとは言うまい、しかし彼女の目でしか見れないものもあるのだろう。

「ジャムは現実として存在している、私はFAFこそ地球人の集団だと考えているの」

「地球は誰のものでもない、俺も地球の為に戦ってるだなんて考えていない」

「そうね、その通りだわ。地球を代表するという自負は傲慢でしかない。それでも、立ち向かっていくしかない。私はここで戦い続けると決めたの」

「それならあんたこそ、地球人に相応しい。あんたは、そのままがいい」

「ありがとうフェアリィ星人、願わくば貴方も貴方のままで」

 

 

 

 

 

 

「待たせたな、いやに時間を取られた」

「給油が始まっても帰ってこないから捕獲されたかと思ったよ。その姿を見るに標本には成っていないな、解剖はどうやら免れたようだ」

「上官侮辱罪は親告罪じゃないぞ、覚えておくんだな。まったく地球の言語は小言が多くてかなわん、馬鹿野郎と一つ言うのにどれだけ時間をかけるんだ」

「こっちの歓迎はお上品だな、あんたもテーブルマナーは達者だろ?」

「せめてサンドイッチ位の気軽さにしてほしいものだ、ナイフとフォークを渡されたら少しはつついて見たくもなる」

「やったんだな、いい加減にしろと言う癖に自分はこれだものな」

アウェイな土地でもこの余裕と軽口は流石の特殊戦とでも言うべきだった、なんとも頼もしい姿だ。

対ジャム戦のスペシャリスト達、彼等になら人類存続の為の希望を託してみたくなる。

「ジャクスンさん、子守をありがとうございました。こいつが失礼な事をしませんでしたか」

「深井大尉はとても誠実でした、おかげで有意義な時間を過ごせました」

「はあ…」

隠そうともせず疑わしい視線を深井大尉に向けるブッカー大佐、そんな姿も微笑ましく思える。

空母に突如として鳴り響くアラート音、『超空間通路より未確認不明機が接近中、繰り返す、超空間通路より未確認不明機が超空間通路より接近中!!』

「俺達が地球に滞在している内はFAF側からの渡航は禁止されている。ジャムだな、いけるか?零」

「当然だ、雪風もやる気だろう」

駆けだすようにブッカー大佐が雪風に乗り込む、深井大尉もそれに続くが雪風の機体の上で立ち止まる。

機体の上に立つ深井大尉の後ろ、開いたままの透明のキャノピーが深井大尉の背中と重なり、それが陽光を反射して妖精の翼のように見えた。

「さようなら、地球人」

「ええ、さようなら。フェアリィ星人」

おそらくブリッジと通信しているブッカー大佐が怒鳴り散らし、深井大尉が素早くコクピットに乗り込みキャノピーが閉まると声は一切聞こえなくなる。

雪風は滑走路まで自走し、凄まじい速度で加速し離陸。それが空の点になるまで見送ると空で幾つかの爆発が確認できた。

彼等はFAFのオーストラリア基地に滞在する予定だった筈だが、対ジャム戦が行われた以上はフェアリィ星の基地に帰投するのだろう。

空母の甲板の上に居ても分かる程のざわめきで、恐らく程なくして船を降ろされるだろう。

その前にこの感覚を忘れぬ内に書きとどめておくべきだと邪魔にならない場所で手帳を開いて思いの丈を書き連ねていく。

今でこそこんな時代だけれどもそれでも私は希望を持っている、人間にがっかりする事もあるけれどいつかはきっと――――。

 

 




次回こそストライクウィッチーズ出ます!本当です!!!


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七章 オペレーションニフ
40話


俺達が不当に拘束されていたストライクウィッチーズを解放したことで大義名分を得たFAFと各国の政府は人類連合軍を強制的に掌握し、人類連合軍の解体を決行した。

しかし一夜明けて慎重に行われたFAFは西郡方面軍との協議の結果、総攻撃の為に配置した方面軍を今更戻す訳にもいかずオペレーションニフは通常通りに決行される運びとなった。

しかしフェアリィ星の経済、政治、軍事において多大な影響を及ぼしていた人類連合軍の接収、それは民間人の預かり知らぬ所で世界の構造が変わろうとしていた。

「秘密結社ね、陰謀論信者の口癖だと思っていた」

「秘密結社というのはそう珍しいものではない、ごく普通に世界の至る所に存在している」

「もしかしてあんたも陰謀論信者とか言わないだろうな」

「そうじゃない、隠し事というのは誰だってあると言う事だ。むしろ秘密結社が結成されるのは至極当然とも言える。零よ、何故人類連合軍が秘密結社だったのか理由が分かるか?」

「バンシーⅣを落とす組織はまともじゃない、まともじゃないなら秘密結社にもなるんだろう」

「それもそうだが……人類連合軍は世界のどの国にも所属していなかった、もしも何処かに所属していれば利権が絡んで実現しなかったからだ」

何時もの様に知識をひけらかすジャックの姿に俺はいつものが始まったのだと思った、この男は哲学の信奉者で物事の真実の姿を求めている。

それは恐らく本当に信じられる物がないと言う事の裏返しである様にも思う、ジャックにとって目に映り耳で聴き自ら触れる物は恐らく真実ではないのだ。

だからこそジャックは生きているし俺も特殊戦も未だベネツィア戦線で戦い続けて居られるのだ、潔癖な生き方にも思えるが彼はそれが出来る男だった。

「リン・ジャクスンも言っていたな、地球人やフェアリィ星人という人類の代表者が居ないのは人類同士で未だに歩み寄れていないからだって」

「そうだな、国家に中立というのは難しい、統一政府などはほぼ不可能と言ってもいい。つまり世界に対して中立である為に人類連合軍は秘密結社でなければならなかった、そして目的は不明だがこのフェアリィ戦争に貢献していたのは確かだ」

「真のフェアリィ星人の先駆けか、それが何故バンシーⅣを落とす」

「俺にも分からん。しかしこれが切っ掛けで人類連合軍が各国が無視できない脅威となり、各国が介入して解体されるわけだが組織は残った。人類連合軍は例えるならグローバルな株式会社になった訳だが、問題は誰がどれ程の株を買い占めたかだ」

「その口ぶりだと……FAFか?」

「その通り、貿易会社となった人類連合軍の株の50%をFAFが保有する事になった」

「馬鹿げている、それをフェアリィ星が認めたのか?」

「人類連合軍が落としたバンシーⅣ一機を建造するのにいくらかかると思っている、と主張したいところだが各国はバンシーⅣの件については無関係を主張するだろう。しかし各国の将官の多くが関わっていた以上無視することは出来ない。そして歴史を重ねた分FAFは最早この世界の一部だ、世界のパワーバランスを崩してはならない。だから各国の味方ではなくジャムを敵視するFAFが適任だと認めさせたらしい」

「FAFはフェアリィ星での経済的活動を禁止されている筈だろ?その為に態々俺達の給料をFAFが独自の通貨で管理してるじゃないか」

FAFに所属する人間は非戦闘員や派遣された企業のスタッフであっても軍属という扱いでありFAFから給料が出る。

これは巨大な需要を生む事で地球の経済に利益を齎すし、自給自足をさせない事でFAFの反乱を防ぐ意味合いがある。

「そりゃあ人類連合軍の金をFAFがくすねたら問題だが稼いだ分をフェアリィ星に還元する分には問題ではない。それに地球の資源だって無限じゃない、いずれは自給自足に切り替わるか独立するかで結果は変わらない。FAFはいずれ起こるであろう事態に備えて保険を用意したいって考えなのかもな」

「それを国連がFAFに反乱の兆しありと認めたら、FAFは自ら国連を裏切った事になるんじゃないか」

「それは……そうなるだろうな」

「狂ってる……しわしわ婆さんは、ミーナ大佐は何か言っていたのか」

「准将曰く、『ジャムに負けないならば何でもいい』と。ミーナ大佐は自分達を脅かすようなら手段を択ばないだとさ」

「楽観的だな、羨ましいよ」

「俺達が悲観的過ぎるのさ、そろそろブリーフィングに向かうぞ。全てはこのミッションが終わってからだ」

 

 

 

 

 

FAFロマーニャ基地の大会議室にて関係者を集めてブリーフィングが行われる、特殊戦も今回は戦力の一部として集められ会議室の中程の列の席に収まっていた。

様々な事件が起きたがオペレーションニフは遂に決行に移る事になる、作戦の大まかな要綱は以下の通り。

 

1、決戦兵器『大和』を投入、その防衛と露払いとして501JFW及びFAFの戦力を投入する。

 

2、決戦兵器によってジャムの巣のコアを破壊しベネツィア及びロマーニャを解放する。

 

3、失敗した場合は随時対応、衛星兵器やICBM等の武装も許可され最大戦力を以てネウロイの巣のコアを撃破する。

 

他にもミッションの詳細な説明が加えられるが、幾つか疑問を覚えた俺は隣に座るジャックに小声で問いかけることにした。

「ジャック、何故戦力を逐次投入するような真似をするんだ。決戦兵器とやらはFAFの総力よりも優秀なのか?」

「俺もお前も随分と聞き飽きた地球国際条約の影響だろう、フェアリィ星人が自分でジャムを倒せなきゃどの道この星に未来はないんだからな」

「フェアリィ星がFAFに乗っ取られるって話か、前にも聞いたよ」

「ほう?誰からだ?」

「しわしわ婆さんだよ。FAFが行きつく先はフェアリィ星を乗っ取るか、あるいは現状維持かとな。現状維持などあり得ない、お互いに銃を持てばいずれ暴発するに決まっている」

「そういう話題はここでは黙っておけ。しかしお前がFAFとフェアリィ星の未来について話るなんてな、どういう心境の変化だ?」

「俺は目の前の敵だけを倒せばいい、それでジャムに勝てると思っていた。しかしジャムに勝つためにはそれだけでは駄目だと思っただけだ」

「フムン、お前は成長したな。それが特殊戦にとって喜ばしい変化だといいのだが」

「他人の理想を押し付けられても俺の知った事ではない。俺は俺だ、やりたい様にやる」

「前言撤回だ、お前は立派な特殊戦の戦士だよ。今となっては羨ましくもある」

そう話している間もブリーフィングは続くが結局決戦兵器の詳細な情報は不明のままであった。

もしかしたらFAFの中に紛れているであろう何れかの勢力に所属するスパイや人型のジャムを警戒しているのかもしれない、バンシーⅣで地球のスパイ疑惑が流れた後だから警戒するのも無理もないだろう。

実際少なくとも人型のジャムは間近に存在するのだ、それが何処まで侵食しているかは分からず終いだが既に地球まで侵攻していたとしても誰も気づくまい。

最終的に特殊戦はまずレコンウィッチ隊『ミラージュ』と特殊戦機五機を戦闘偵察任務に従事する事となった。

作戦決行は決戦兵器大和の最終調整が終わる二日後、それまでは特殊戦がネウロイの巣の警戒にあたり非常事態には前倒しでスクランブル発進もあるという事になった。

ブリーフィングは説明のみで終わりとなりそのまま解散となった、俺達はそのまま特殊戦のブリーフィングルームに再集合し501JFWの面々と改めてブリーフィングを行った。

 

 

 

バンシーⅣ事件によってジャムが核武装を行っている可能性が高い、しかし核の放射能に耐えられるのはウィッチとウィッチの魔力を利用できる兵器のみである。

つまりネウロイの巣に接近して活動が可能なのはFAFの中でもミラージュ隊だけだ、よって他のFAFの攻撃はアウトレンジからの遠距離攻撃かベネツィア、ガリア、ロマーニャ方面に向かうジャムの撃墜に絞られる。

また強力な放射線はいくらRX-00が他の機体と比べて電子機器を厳重に防御していたとしても電子回路を焼かれる可能性があるので注意する事、パイロットの健康被害は言わずもがなだ。

「つまりネウロイの巣に私達10人だけで攻め込むのね」

「あくまで陽動がメインだ、それにレコンウィッチ隊も協力する」

「えー、戦闘機でネウロイに勝てるのー?FAFの機体って結構ネウロイに負けてない?」

ルッキーニ少尉の言う事も確かだ、この戦争でFAFが優勢になった事は一度も無い。ベネツィア戦線でもFAFは多数の機体を失っている。

「俺達はスペシャルだ、特殊戦だからな。それにアンタ達の隊長を救出したのは俺達、いや深井大尉の功績だぜ?」

「それは……まあ、感謝しているがそれとこれとは別だろう」

「まあアンタ達の戦闘機がスゴイってのは分かるけどねぇ、ネウロイの巣でちゃんと掩護できるのか?」

「それは私から説明します」

「あー!!ウルスラァ!!!!」

「ウルスラ?私は特殊戦の秋津風( あきつ ふう)少尉です。人違いでは?」

「どうみてもウルスラじゃん!」

「お姉さまは細かい事を気にしすぎですよ」

「ホラお姉さまって言った!!」

いつもの見慣れた白衣を纏うウルスラ・ハルトマン中尉、しかしストライクウィッチーズからすれば彼女達を裏切った人物だ。

彼女は現在特殊戦所属のパイロット兼特殊戦のメカニックとしてレイフやメイヴ等の魔導エンジンの調整を行っている。

彼女は元々協同技術開発センターの所属ではあるが、それ以上に人類連合軍の下で暗躍していた過去があるが元々FAFは彼女を取り入れる予定だったようで特殊戦に匿われていた。

「ウルスラ中尉……よくもまあ色々とやってくれたわね」

「ちゃんと助けたじゃないですか、私だって大変だったんですよ?」

「いい加減にして貴女の正体を明かしなさい、一体本当の貴女は何者なの?」

 

 

 

「……では改めて。私はノイエカールスラント合同技術開発センター、FAF特殊戦第五戦隊、そして507JFW『サイレントウィッチーズ』所属のウルスラ・ハルトマンです」

 

 

 




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