道化師は薄く笑う (ピエフ)
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プロローグ

 ここはデュエルアカデミア行きの船上。

 当然のことながら、デュエルアカデミアに入学する生徒たちが、これからライバルとなる同級生達と親睦を深め、時には牽制もしている。

 そんな中、遊城十代、三沢大地はその両性質を含めたような会話をしていた。

 互いを一番、二番と呼び合いながら、自分が一番強いことは譲らないとばかりに意識し合う。それでも雰囲気はピリピリせず、和やかだ。互いに自分の方が強いという自負があるからこそ、余裕があるのだ。

 

「時に十代。君は今から行くデュエルアカデミアのトップデュエリストの情報は知ってるかな?」

「全然知らねぇ」

「アニキ知らないんすか? デュエルアカデミアのトップと言えば帝王っすよ!」

 

 十代の腰巾着もとい弟分の丸藤翔が、代わりに答えた。

 帝王こそ丸藤亮。彼はサイバー流の継承者で、パーフェクト決闘者と呼ばれ、界隈でも実力者として知られている。卒業後はプロ決闘者になることが既定路線とされ、同年代なら知らない人間はいない。

 

「わりっ、初めて聞いた」

 

 訂正、ここに一人いた。悪気なく笑う十代。翔は呆れた。

 三沢は十代のあまりの無知ぶりに苦笑しながらも話を続ける。

 

「翔君の言う通り、帝王がこの学園の頂点だが、それに肩を並べる決闘者も2人いるんだ。1人はキングこと天上院吹雪。もう1人は賢者こと、坂丸銀(さかまる ぎん)。今言った3人がこの学園のトップデュエリストさ」

「へぇー。てことは、その3人を倒せば、俺がNo. 1ってことか」

「アニキ本気で言ってるんすか? 他の2人はともかく帝王に勝つなんて絶対無理っすよ」

「大丈夫だって! 俺のHEROたちなら、帝王もキングも賢者も打ち破れるさ!」

「おいおい、俺を忘れてもらっては困るぞ。自称1番くん」

「へへっ、忘れてねぇって! お前とも決闘したいしな!」

 

 そう言って十代は笑った。

 3人が和気藹々としている時も、船はどんどんと島へと近づいて行く。

 

 □

 

 ここはデュエルアカデミア本島の灯台。

 そこで腕を組みながら島に向かってくる船を見つめるブルー生徒。彼は丸藤亮、帝王と呼ばれる学園の実力者だ。

 

「おやおや亮君、こないところで何されてはるん?」

 

 その背後から訛りの効いた軽快な言葉が聞こえてくる。その特徴的な声と話し方をする人間を亮は1人しか知らなかった。

 

「銀か」

「当たり〜」

 

 ブルーの制服を着崩した、銀髪糸目の男が手を振っていた。彼は坂丸銀。賢者の二つ名で呼ばれ、亮と同じく学園の実力者だ。

 

「それで何をして……なるほどな〜」

 

 銀は亮の身体の先にある船を見て大体を察した。

 

「噂の弟君を見に来たんやな」

「違う」

「誤魔化さんでもええって。厳しいこと言っとるけど、実は亮君が1番弟君に期待してるんやろ?」

「あいつは精神的に幼い。俺はそういう意味でこの学園で生き残るのは無理と言ったんだ」

「論点ずれとるで〜。図星やな」

 

 銀はからからっと笑う。

 亮は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「ところでお前はどうしてここに来たんだ?」

「ブラコンの亮君を弄りに来たんや」

「銀、後でデュエルに付き合え。10戦で許そう」

「冗談やん」

 

 銀は苦笑いで返す。気を取り直し。

 

「……今年の一年生は強い子が多いって聞いたから、興味本位で見に来ただけや」

「たしかにそうだな。中等部首席の万丈目に始まり、明日香に入試試験トップの三沢、そしてクロノス教頭に勝利した遊城十代……今年の一年生は豊作のようだな」

「そこに亮君の弟君も加わるわけやな?」

「銀……」

「はいはい。デュエルならいつでも付き合う付き合う」

 

 言葉を先読みされて亮は拗ねたようにそっぽを向いた。

 

「今日は寮の歓迎会もあるんやし、明日でええやろ。というか、自分歓迎会のデュエルも担当するのにこんなところで油売ってて大丈夫なん?」

「問題ない。俺は俺のデュエルをするだけだ」

「ふーん。そうかー」

 

 歓迎会で1人心を折られることが決定した。と銀は思った。

 

「まあ、ええわ。ここからじゃ新人君の顔も見えんしそろそろ戻るか」

「俺も戻るか」

 

 どうやら、亮も弟の顔が見え無さそうなので帰るようだ。

 2人は船から背を向け帰ろうとする。しかし、銀は足を止めて船を見て呟いた。

 

「……遊城十代。卒業できるまで無事生きてるとええなぁ」

「どうした?」

「何でもないわ」

 

 呟きなどなかったかのように、銀は平然と返した。

 

 道化師は薄く笑う。

 

 

 



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道化師の仕事

 坂丸銀の過去は壮絶なものだ。

 いや、坂丸銀と呼ぶのはおかしな話かもしれない。なぜならば、物心ついた時には彼は1人だった。

 親も分からないから、名前も分からない、そもそも日本人かも分からない。

 彼は名前を持たない。

 坂丸銀という名前は、日本の学校で使うに都合がいいから付けた名前だ。

 しかし、ここでは便宜上銀と呼ばせてもらう。

 

 銀はとある外国の孤児院で幼少期を過ごした。

 その時の彼は誰とも会話せず、笑顔も見せない今とは真逆の子供だった。

 そんな彼に転機が訪れたのは、とある男との出会いだった。

 ある時、唐突に銀を引き取りたいと言う男が現れた。孤児院側は困惑したが、差し出された大金と扱いに困っていた厄介者を大義を持って追い出せるとあって二つ返事で了承した。

 その男こそパンドラ。

 レアハンター『グルーズ』と呼ばれる犯罪組織のNo.2(マリクを除く)だ。

 

 グルーズは主にデュエルモンスターズのカードを偽造、強奪する組織で、界隈では危険視されている集団だ。  

 そしてそんな集団のNo.2がなぜ銀を引き取ったのか。

 簡単だ。組織の手駒にするためだ。

 グルーズは見込みのある孤児を引き取っては英才教育を施し手駒に加えることをよくしている。とはいえ、英才教育といっても金持ちのようなプロ講師がマンツーマンで教えるような質の高いものではなく、ただ厳しいだけのスパルタ教育だ。

 ついてこれないなら死んでも構わない。そんな残酷なことを平気でする組織だ。

 

 銀も例外ではなかった。

 子供にはハードすぎる特訓を何年間も施された。

 しかし、銀は天性の覚えの早さでその特訓をすべてこなしてみせた。

 見込みがあると引き取ったものの、パンドラでも予想外の成長だった。 

 

 それに味をしめたのかパンドラはデュエルモンスターズだけでなく、自分の奇術師としてのスキルも仕込み始めた。

 銀はそれもすべてこなした。

 

 しかし、ある日を境にパンドラは失踪した。それどころかグルーズの組織自体が壊滅した。

 バトルシティーに参戦した結果、返り討ちにあったのだ。

 武藤遊戯、海馬瀬戸らの手によって。

 

 銀は、グルーズの首領だったマリクから、詫びとしてパンドラのカードをうけとった。どうやら、マリクからは銀はパンドラのことを慕っているように見えていたようだ。

 たしかに技術を授け生きる手段を与えてくれた面で言えば、ほかの人間よりは情はある。しかし、その程度だ。

 噂によれば廃人になったようだが、正直怒りも悲しみも湧いてこなかった。

 

「君はこれからどうするんだ?」

「戻る。生きるべき場所に」

「……君を縛るものはもはや何もない! だから、裏の世界で生きる必要もないんだ!」

「あるさ。分かってるだろ? 僕にはもう表で生きる場所はない」

 

 親も、戸籍もない。

 あるのはデュエルモンスターズの知識と変装技術だけだ。

 彼は裏の世界の生き方しか知らないのだ。

 それ今更表で生きるなど無理に決まっている。  

 

 それからも銀は裏でレアハンターとしての仕事を続けた。

 パンドラから学んだ変装技術を使い、様々な場所に潜入し、その実力で確実に仕事をこなしてきた。

 そしていつしか彼はこう呼ばれるーーー『道化師』と。

 

 □

 

 

 そしてグルーズが壊滅してから年月が経った頃、銀にとある大きな依頼が舞い込んできた。

 その依頼主はデュエルアカデミア理事長影丸。

 そして依頼内容はデュエルアカデミアの地下深くに封印されている3幻魔の入手への協力だった。

 ただ、少し奇異だったのはその受理条件。

 実行は約6年後、その間はデュエルアカデミアの生徒として生活することだった。

 期間の拘束はあるが、その間の金は全額負担され達成報酬も申し分ない。

 奇妙に思いながらも、銀はこの依頼を受けた。

 

 そうして銀はデュエルアカデミア中等部に入学した。

 

 学園に入った銀はまず自分の立ち位置を考えた。

 このデュエルモンスターズの世界において1人というのは存外目立つ。対戦相手を有するものゆえ、繋がりができやすいからだ。

 しかし中途半端に群れる人間と一緒になるとボロを出す可能性が高まる。

 そのため理想としたのは群れる必要のない強者との繋がりだった。

 そしてその条件に合致したのが、丸藤亮、天上院吹雪の2人だった。

 

 

 □

 

 

 時は現代に戻る。

 銀は入学式を終えて歓迎会まで1人散歩をしていた。

 あのまま寮にいると歓迎会まで亮のデュエルに付き合わされそうだったから、逃げてきたのだ。

 ぶらりぶらりと歩いていると、アカデミア本館の方から喧騒が聞こえてきた。

 スルーしようかとも思ったが、興味が出たのだ見学しに行くことにした。

 

 声の正体はブルー寮の1年生だった。3人いる内の眼鏡をかけているやつだろう。

 そしてその向かいにはレッド寮の1年生2人。

 アカデミアは徹底的な実力主義。中等部からの成績優秀者はオベリスクブルー。内部進学者、入学試験の成績優秀者はラーイエロー。そして最後に入学試験でギリギリ合格したオシリスレッド。と明確にランク分けがされている。

 寮ごとに待遇もかなり差別されていて、寮の大きさや食事などで差がある。

 そのせいか、上位寮の人間が下位の寮の人間を見下すなんてことも平気でされている。

 おそらく今回もそれ絡みだろう。

 

 放置しても問題ないが、別の人の気配がする。ここで見捨てるのは、面倒なことになる可能性がある。

 そう考えた銀はゆったりと歩いていく。

 

「なんや、ずいぶんと騒がしいなぁ。何かトラブルかいな」

「さ、坂丸銀……」

 

 トゲトゲ頭の生徒が呟く。ほかの2人も恐れ慄いているようだ。

 レッドの2人も同じく……いいや誰か分かっていないようだ。ポカンとした表情から理解できた。

 

「違うんです、坂丸先輩! このレッド2人が学園のルールを理解していなかったようなので、教えていただけですよ!」

 

 眼鏡が媚び媚びな笑顔で説明してくる。

 

「ルールってどんなや?」

 

 銀が聞くとレッド寮のクラゲ頭が答える。

 

「ここのデュエルリンクを使おうと思ったら、ここはブルー生徒しか使えないって言われた」

「ふーん」

 

 ちなみにそんなルールはない。他の寮の生徒が使うといちゃもんをつけられるから、暗黙の了解でブルー寮の生徒しか使わないだけだ。

 とは言え、そんな正論を言っても彼らには響かないだろう。

 それにこれはいい機会だと思った。

 なぜなら、彼らが揉めていたレッド寮の生徒のクラゲ頭は遊城十代。クロノス教諭を倒し、影丸にも要注目しておけと念押しされている人間だ。一度力を見たいと考えていたのだ。

 

「じゃあ、僕とデュエルしようか?」

「マジで! やった!」

「どういうつもりですか坂丸先輩!?」

「別にいいやん。ブルー寮の僕が誘うなら、君らの自分ルールにはひっかからんやろ?」

「ぐっ」

 

 3人は自分ルールと皮肉られ憤慨するが、3年生のトップクラスの実力者に言われてしまえば簡単に言い返せない。プライドが高いのは厄介だが、明確な上下関係があると楽だ。

 ウッキウキな十代は颯爽とリンクに上がり、銀もそれに続く。

 

「そういえば自己紹介がまだやったな。僕は坂丸銀。ブルー寮の3年や」

「じゃあ、銀さんだな! 俺は遊城十代、よろしくな!」

「よろしゅうな」

 

 自己紹介も程々に2人はデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!!」」

 

 十代LP4000

 銀 LP4000

 

「僕の先行やな、ドロー。僕は召喚僧サモンプリーストを守備表示で召喚」

 

 召喚僧サモンプリースト 守1600

 

「サモンプリーストの効果を発動。手札から魔法カードを捨てることで、レベル4のモンスターを一体特殊召喚することができる。僕は魔導書整理を捨てて、デッキから王立魔法図書館を守備表示で特殊召喚や」

 

 王立魔法図書館 守2000

 

「僕は永続魔法魔術師の右手を発動、そして魔法カードを発動した時図書館にカウンターを一つ乗せる。カードを一枚伏せてターンエンドや」

 

 銀 手札2 LP4000

 

「へへ、魔法使い族デッキか。相手にとって不足なしだぜ! 俺のターンドロー、俺は手札から魔法カード融合を発動! 俺は手札のバーストレディと

ファザーマンを……ってあれ?」

 

 さっそくフェーバリットモンスターを登場させようとしたのだが、発動したはずの融合が消えてしまった。

 十代が唖然とする中、銀は飄々とした様子で。

 

「残念。魔術師の右手の効果発動。このカードは自分フィールド上に魔法使い族が存在する場合、1ターンに一度相手の魔法カードの効果を無効にして破壊する。ごめんな〜、融合は失敗や」

「なんだって!?」

 

 低レベルモンスターを融合で強化するのがコンセプトの十代にとって、その効果は相性が悪い。

 

「さすが坂丸先輩!」

「ああ、アニキの融合が封じられちゃったっす! これがブルーの実力」

「馬鹿言うな。俺たちなんて目じゃない! あの人は『賢者』の二つ名を持つ、あの帝王に並ぶとさえ言われている実力者だ! 貴様らレッド如きが勝てるはずがないだろ!」

「『賢者』って、三沢くんが船の中で言ってた!?」

 

 その会話は十代にも聞こえたようで。

 

「やっぱり銀さんってすごい人だったんだな! デュエルする前から、何となく強そうとは思ってたけど!」

「そんな呼ばれ方もされてるらしいなぁ〜。まあ、そのあだ名ダサいから、僕は好きやないんやけど。それで十代君、ターンはまだ君やで」

「おっと、わりぃ。俺はファザーマンを守備表示で召喚。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 E・HEROフェザーマン 守1000

 

 十代 手札3枚 LP4000

 

何も知らず相手しているのは実力者と知っても気落ちせず、むしろワクワクしている様子。そのメンタリティーにクロノスを倒した一因があるようだ。

 

「僕のターンドロー。僕は永続魔法、魔術師の結界を発動。そして魔法カードを発動したから図書館にカウンターが乗る。さらに強欲な壺を発動、2枚ドローや。そして図書館にもう一つカウンターが乗る。そして図書館のカウンターを3つ取り除いて、カードを1枚ドローや」

 

 手札が一気に4枚に増えた。

 

「僕はサモンプリーストを生贄にして手札から沈黙の魔術師ーサイレント・マジシャンを攻撃表示で特殊召喚や」

 

 沈黙の魔術師ーサイレント・マジシャン 攻1000

 

「沈黙の魔術師の攻撃力は手札×500ポイント上がる」

「……てことは2500かよ!?」

 

 沈黙の魔術師ーサイレント・マジシャン 攻1000→2500

 

「バトル! 沈黙の魔術師でフェザーマンに攻撃や!」

 

 フェザーマンはあっさりと破壊された。

 

「フェザーマンが破壊された時、リバースカード、ヒーローシグナルを発動! 俺はデッキからワイルドマンを攻撃表示で特殊召喚するぜ!」

 

E・HEROワイルドマン 攻1500

 

「モンスターを残したんか、やるやん。あ、ついでに言っておくけど、沈黙の魔術師も1ターンに1度魔法カードを無効にする効果があるからな」

「いい!? マジかよ!? てことは俺は1ターンに2枚魔法カードを無効にされるってことか!?」

「そゆこと〜。突破できるように頑張りや〜。僕はカードを1枚伏せてターンエンドや」

 

 沈黙の魔術師 攻2500→2000

銀 LP4000 手札2

 

 笑顔でえげつないことを軽く言ってくる。

 とはいえ、デッキの主軸である魔法カードが使えないのは十代にとっては苦しい状況だ。  

 普通の人間なら戦意喪失してもおかしくないが、十代にそんな発想は一ミリもない。むしろこの状況を楽しんでいる様子だ。

 

「いくぜ! 俺のターンドロー! 俺はサイクロンを発動!」

「魔術師の右手の効果で無効や」

「まだまだ! 俺はRーライトジャスティスを発動」

「じゃあ沈黙の魔術師の効果で無効にするわ」

「へへ、これでもう魔法は無効にできないな? 俺はフィールド魔法摩天楼スカイスクレーパーを発動する!」

 

 フィールドがアメコミの街のような景色に変わった。

 

「あちゃー、これは無効にするタイミングミスったわ」

「いくぜ、俺はワイルドマンで沈黙の魔術師に攻撃だ。そしてスカイスクレーパーの効果発動。自分のE・HEROが攻撃する時、そのモンスターの攻撃力が相手モンスターよりも低い場合、そのモンスターの攻撃力を1000アップする」

 

 E・HEROワイルドマン 攻1500→2500

 

「いくぜ、ワイルドスラッシュ!」

 

 沈黙の魔術師は、ワイルドマンの大刀に一刀両断された。

 

 銀LP4000→3500

 

「沈黙の魔術師撃破だ!」

「やるなぁ、十代くん。こうもあっさりと沈黙の魔術師を突破してくるとは思わなかったわ。でもなぁ、沈黙の魔術師にはもう一つ効果があるんや」

「もう一つの効果......?」

「沈黙の魔術師は相手の効果、戦闘で破壊されたときデッキから『サイレント・マジシャン』モンスターをデッキから召喚条件を無視して特殊召喚することができる。僕はデッキからサイレント・マジシャンレベル8を特殊召喚する」

 

 サイレント・マジシャンレベル8 攻3500

 

「攻撃力3500だって!?」

 

 十代も驚きを隠せない。

 

 

「かの有名な青眼の白竜が3000だというのに、それ以上の攻撃力のモンスターをこうもあっさり出してくるとは......」

「さすがは賢者ということか」

 

 上から、青一年の言葉だ。

 

「俺はこのままターンエンドだ」

 

 十代 LP4000 手札1

 

「僕のターンドロー」

「サイレント・マジシャンでワイルドマンに攻撃や」

「ぐうあああ!」

 

 十代 LP4000→1500

 

(さすがにここまでかな)

 

 銀はここからの逆転は難しいと考える。

 十代は手札が1枚。フィールドにはスカイスクレーパーがあるだけだ。

 対して自分のフィールドにはサイレントマジシャンとブレイカー、図書館さらには魔術師の右手がある。この状況を崩すのは至難の業だ。

 普通の一年生よりは才能を感じるし、実力もそこそこある。だが、はっきり言って亮には遠く及ばない。影丸が注目しておけというほどの実力は感じなかった。

 さすがに戦意喪失しているかと十代の顔を見るが、十代は戦意喪失どころか笑っていた。

 

「ずいぶん楽しそうやん」

「だってさ、だってさ! こんな強い相手とデュエルしてるんだぜ! しかもこの学園には銀さんと同じくらい強いやつがまだ二人もいるんだろ? もうわくわくが収まらねえよ!」

「ふーん。自分、気持ち悪いなぁ」

「なんでだよ!?」

「ああ、すまんすまん。いい意味でや」

 

 どんなに追い詰めてもまったく追い詰めた気分にならない。むしろ追い詰めるほど十代のペースで進んでいる気さえしてくる。この空気を銀は一度だけ感じたことがあった。

 

「僕はターンエンドや」

 

 銀 LP3500 手札2枚

 

「俺のターンドロー! 俺はモンスターをセットしてターンエンドだ」

 

 十代LP1500 手札1

 

「ここで攻撃モンスターを引けば僕の勝ちやな。ドロー......残念、魔導書整理や」

「よっしゃー! ラッキー!」

「じゃあ、僕は魔導書整理を発動して、デッキの上から三枚を確認する。ふむ、じゃあ魔導戦士ブレイカーを一番上にするわ」

 

 これで次のターンに何とかしなければ十代の負けが濃厚になった。

 

「サイレント・マジシャンでセットモンスターに攻撃や」

 

 伏せられていたのはバーストレディ。守備力は800のため当然破壊される。

 

「これで僕はターンエンドや」

 

 銀LP3500 手札2

 

「俺のターンドロー! 俺は魔法カードE・エマージェンシーコールを発動」

「右手の効果で無効や」

「サンキュー。俺は強欲な壺を発動! カードを二枚ドローするぜ」

「またミスったわ~」

「いいカードが来たぜ! 俺は天使の施しを発動カードを3枚ドローして2枚捨てる。そして今捨てたE・HEROネクロダークマンの効果発動このカードが墓地にある時、手札のHEROを生贄なしで召喚できる。俺はE・HEROエッジマンを召喚だ!」

 

 E・HEROエッジマン 攻2600

 

「さらにミラクルフュージョンを発動。墓地のワイルドマンとエッジマンを融合する。現れろ、E・HEROワイルドジャギーマン!」

 

 E・HEROワイルドジャギーマン 攻2600

 

「ワイルドジャギーマンは相手のモンスターすべてに攻撃できる。ワイルドジャギーマンでサイレント・マジシャンと王立図書館に攻撃だ!」

 

 スカイスクレーパーの効果でワイルドジャギーマンの攻撃力は3600になる。

 

 銀LP3500→3400

 

「よし! サイレント・マジシャンを倒したぜ!」

 

 

 ーーーGAME SEtーーー

 

「ええ!?」

 

 突然ディスクから出された通告に十代は目を丸くする。

 銀の方を見ると銀はデッキの上に手を置いていた。サレンダー、つまり自ら負けを認めたのだ。

 

「降参や」

「何でだよ! 銀さんのLPはまだ全然......」

「さっき魔導書整理を使った時出たカードじゃ逆転は無理や。だから僕はサイレント・マジシャンを倒されたらお手上げだったんや。君の勝ちや、十代君」

「勝ち? マジでやった!」

 

 譲られた勝利でないと自覚した十代は喜びをあらわにする。

 

「すごいっすよ兄貴! 三年生に勝つなんて!」

「坂丸先輩がレッドに負けた......!?」

「嘘だ!」

「現実や。デュエルなんて勝ち負けある競技なんやからそんなおかしいことないやろ」

 

 認めようとしない一年生に銀はわからせるように言う。

 

「じゃあな、十代君。次デュエルするときは負けないで」

「おう、俺もまた銀さんとデュエルぢたいぜ!」

 

 十代はそこで何かを思い出す

 

「あ、忘れてた。......ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 お決まりのきめ台詞を言った。銀は手を振りながらその場を後にした。

 

  

 □

 

 

 銀が本館から出ると、後ろから気配を感じた。

 振り返ると女の子が立っていた。整った顔に、強い目と長い金髪が特徴的だ。

 

「あやアスリンちゃんやん。おひさ~」

「その呼び方はやめて」

 

 ピシャリと言われてしまう。

 少し怒っているようだ。理由は大体察しがつくが、銀はわざと惚ける。

 

「そんなに怒らんでもいいやん。たしかにダッサイあだ名やと思うけど」

「そのことに怒ってるわけじゃないわ。さっきのデュエルは何? あんな適当なデッキで挑んで、しかも負けるなんて……」

「ええ〜これでも頑張って考えたんやで。歓迎会で新入生の心を折らん程度に勝負できるデッキ。うまい感じにいい勝負できてよかったわ」

「それにあの状況、魔術師の結界を使えばドローできて逆転の可能性もあった。あと、2枚の伏せカードは何だったの」

「魔球師の賄賂とマジシャンズ・サークルや」

「呆れた……どっちも使ってばあっさり勝ってたじゃない」

「まあまあ、ええやん別に」

「……銀、あなた何がしたかったの?」

「んー。僕はちょっと新入生と遊びたかっただけやで〜」

 

 と、答えになっていない回答をして、銀はその場を去った。

 

 

 



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