羽無き天使のオペレーター交流記録 (葉桜さん)
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記録の始まり

アークナイツは初投稿です。
最初ということでかなり悩みましたが、最初はこんなお話から始まり始まり。


 

 

ロドスには、ある問題を抱えた人物がいる。

中度の鉱石病患者のオペレーターだ。

特別なオペレーター、とは言わないが……

 

 

 

 

 

近付きづらい。

 

会話が出来ない。

 

単独行動が多い。

 

命令を聞いているか分からない。

 

意思疎通が困難。

 

人を寄せつけない物言い。

 

 

 

 

誰に関しても平等に悪い口を開き、誰も寄せつけない。

常に孤独を求める、組織の異端。

どれだけ手を差し伸べようと、その手を払う。

言い方を悪くすれば、癌とも呼べるような青年だ。

 

 

 

これは、その青年の記録の一番最初。

彼が、ロドスに馴染んでいくための第1歩の話……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない、整理されていない宿舎の中。

 

 

 

灯りをつけることも無く、静かに。

ソファに寝そべってうつらうつらとする1人の姿。

音もなく、光も無い中でゆったりとしている。

 

 

 

それは、誰もが目を向ける容貌の姿。

美しいなどという褒め言葉よりも……

異常という侮蔑の言葉が似合う姿だ。

 

 

本来2つで1つの羽は、片方無くなっている。

頭上に浮かぶ輪は、壊れたかのようにひび割れて。

その2つとも、黒く染まっている。

 

 

 

彼はサンクタ族だ。

天使でありながら、本当に正真正銘の天使(サンクタ)と呼べるのか……困惑するような容貌。

 

生まれつきの先天的なものか、それとも後遺症とも言える後天的なものなのか。

それを知るものはほとんど居ない。

どちらにせよ、その容姿は彼が普通でないことを示すことは確かだ。

 

 

 

1人しかいない部屋に、もう1人の影が入り込んだ。

 

 

 

 

 

「……アズライル、起きてるかな?」

 

「起きてる。……何の用事だ、ドクター」

 

 

 

呼ばれるがままに、”アズライル”と呼ばれた彼は目を覚ます。

嫌々そうな声色で返事をしながら、渋々体を起こして。

体の節々が痛むと言わんばかりに顔をしかめる。

 

一人しかいない古い宿舎でのびのびとできる時間を邪魔された、とでも思っているのかもしれない。

大きく息をついて、座り直す。

足を組んで、頬杖をつきながら。

態度は相変わらず変わらないまま。

”ドクター”と呼ばれる人物に振り向いた。

 

 

 

 

ーーロドス・アイランド所属オペレーター、アズライル。

狙撃担当であり、ラテラーノ製の銃を扱える数少ないサンクタのオペレーター。

ロドスに加入する前は少人数による傭兵稼業を行っていたらしく、その銃の扱いや戦況を見る目に曇りはない。

強襲作戦や防衛作戦など、戦闘の行われる行動において著しい戦果を上げているオペレーターだ。

 

 

 

数いるオペレーターの中でも、実力が勝る人物。

口数は少なく、人を寄せつけない雰囲気を持つ。

その理由の殆どは、その口の悪さと雰囲気の悪さ……

ロドス内のファイルには、それに連なる事が記載されている。

 

彼は実力よりも、悪評が強い。

確かに、戦場では有難いのかもしれない。

しかし、同時に迷惑でもあるだろう。

 

 

 

そのどれもが、対して良い情報ではない。

それほど彼はよく思われない立ち振る舞いをしている。

そんな人物に、ドクターは直接何かをしに来たのだ。

 

 

 

ドクターは持っている紙袋からゴソゴソと何かを漁り、彼に向けてそれを差し出した。

 

 

 

 

「差し入れだ。任務で疲れているだろうし、良ければ食べてくれ」

 

「……またかよ。別にいいって言ってるだろうに」

 

 

 

つい直前まで、作戦が行われていたのだろうか。

ドクターから渡されたのは焼き菓子だった。

労いという意味でのプレゼントだろうが、興味が無さげに。

渡されたもの自体が嫌いというわけでは無さそうだが……

本人は、あまり受け取る気が無さそうにしている。

また再びソファの上に寝転がる。

またかよ、という言葉から察するに何度か彼はこういうやり取りをしているにもかかわらず、未だに突っぱねているらしい。

 

 

 

 

「まぁ、そう言わないで。任務に報酬は付き物だろう?」

 

 

 

そうでも言わないと、彼はきっと受け取らない。

 

彼は、誰かに気を遣われることを良く思わない節がある。

純粋に、その気遣いを馬鹿にされていると勘違いしているのか……それとも、自分がそれに値するものじゃないと思っているのか。

彼の心情はよく分からないというオペレーターが多い。

それだけ、彼が内面を見せていないということだろう。

 

 

 

悪態をつきながらも、しつこい好意を無下にするのは良しとしないのかぶっきらぼうに受け取ってテーブルに置く。

わざわざ投げることも無く、丁寧に手の届く範囲へ。

 

 

 

「私もアーミヤも、ケルシー先生も……君を心配してるんだ。他のオペレーターと関わりを全く持たないって」

 

「別に心配しなくたっていいだろ……俺みたいな化け物に交流は必要ない」

 

 

 

ロドスの上層部は、彼を心配している。

全くと言っていいほど関わりを持たないオペレーターは彼ほどの物だろう。

誰かが話しかけてきても反応せず、自分から離れる。

必要最低限以外は話さず、近付きそうなら直ぐに拒否する。

 

 

 

コミュニケーションを取らないオペレーターは数居れど、ここまで交流を断絶するオペレーターは彼ほどのものだ。

それゆえか、宿舎に誰か来た場合はほとんど自分の部屋にいることがない。

空き部屋か、はたまた別の場所で時間を潰していることが多い。

 

今回もその例だ。

通常の宿舎ではなく、まだ整理されきっていない宿舎の一角をわざわざ1人で片付けて勝手に寛いでいる。

ロドスとしては、あまり褒められたことではないがドクターはまだ黙認している。

曰く、この部屋はまだ誰も来ていないから大丈夫……との事らしい。

 

 

 

最後あたりの言葉は、自嘲気味に。

この態度は、今に始まったことじゃない。

彼はその風貌が自分のコンプレックスなのか、自分を化物と呼ぶことが多い。

 

 

 

羽を失って堕ちた天使。

人ならざる化け物。

なりそこない。

 

 

 

自分をそういう風に語るのがアズライルだ。

自分が特異だからこそ、関わりは必要ないと乾いた笑いを零した。

 

 

 

 

「……気にしてるのか?悪い噂を……ーー”死神”と呼ばれてる事を」

 

「周りの言うことなんて気にしてない」

 

 

 

死神と言うキーワード。

彼が自分を忌み嫌う理由。

彼の名前の所以にして、彼の汚名。

 

 

 

 

死を告げる天使(アズライル)ーー

 

 

 

死神と。

 

 

 

彼は、死神なのだ。

 

 

 

その天使とは思えぬ異様な風貌。

戦場に立てば躊躇いなく敵を屠る残酷さ。

理想論を切り捨てる冷徹さ。

それは、人ならざる何かが、天使の形を取ったもの。

そんな話が、ロドスの内部では広まっている。

 

 

 

彼と共に任務に出た者は、死を目の当たりにすることになる。

それが自身であろうが、敵であろうが、味方であろうが。

幾多もの死を目の当たりにしてしまうという噂が流れている。

恐ろしく、そして無慈悲。

ただ、屍の山の上に立ちすくむ死神。

 

 

 

彼が自分を化物と呼ぶ所以だ。

 

 

 

「なら、どうして他人を避けるんだい?」

 

「化物が近くにいれば、別のオペレーターの作戦行動に支障が出る。それで責任追及を受けたくないだけだ」

 

「そんな事はしない。そういうのは君たちの責任ではないからね」

 

 

 

どうだか、と吐き捨てるように彼は言う。

人は危機に陥れば、何かに責任を擦り付けたくなる。

今はこういっていても、いざ問題が出た時に何を言われるかわかったものでは無い。

そういう風な説明をして、面倒だと息を付く。

過去にそんなことがあったかのような口振りで。

 

 

 

けれど、ドクターは黙った。

うんうん、と頷くだけ。

確かに、その可能性は完全に無くせず……そういう事態もあるということはわかっているのだろう。

けれどそれでも再びドクターは口を開く。

 

 

 

「私は誓えるよ。そんなことはしないと……君は随分と自分を低く見すぎじゃないかな?……思っているほど、彼らは君を悪く思っていないかもしれないよ」

 

「それを確かめる術は無い。その為だけに近づくのも面倒だろ」

 

 

 

周りが彼を悪く思っていないという言葉に訝しむ。

それならば、最初からあんな言葉は出ない。

 

悪気は無いのだろう。

彼は組織という団体を考えた上で発言をしている。

……しかし、深く考えられてはいない。

考え無しとは言えないが、考え込まれているとも言えない。

なんとも、中途半端だ。

まるで、どちらとも振り切れないような。

 

 

 

 

「……そうだね、改めて思うが……君には、もっと交流を持ってもらうべきだ。君は自分を化物だと言うが、周りにそうではないということを知ってもらわなくてはね。そうじゃなければ、君の言うように作戦中の混乱を招く原因になりかねない。なら、常日頃から関わって慣れておかなければならないだろう」

 

 

 

面倒なことを言っている、と彼は小声で呟いた。

しかし、それが間違っていないのも事実。

苦虫を噛み潰したような顔を彼は浮かべた。

ドクターの言う通り、作戦中のコミュニケーションはとても大切だ。それを欠かすだけで重大な事態になりかねない。

その為には、日頃からの交流も必要だ。

人から距離を取りがちな彼の、一番最初に改善すべき点だった。

 

 

 

しかし、本人からしたらそれはストレスでしかない。

周りに耳を傾ければ、良い話など聞こえない。

あるのは、今日は何人殺したのか。

どれ程の死を運んだのか。

そんな話題ばかり。

少なくとも、彼自身にはそう聞こえる。

そんな周りと交流を持とうなどと思うわけもない。

 

 

 

「明日から君にはある程度誰かと動いてもらおうと思う。……宛はまだないが、それが君のためになると信じてね」

 

「チッ……どうせ碌な事にならない。お前だって分かってんだろ」

 

 

 

本人が気乗りしなければ、良い結果は出ない。

物事の結果というのは不思議と本人の気分に左右されてしまうものだと認識している。

それ故に、無理に行われたとしても相手に不快感を与えるだけだと彼は断りを入れた。

 

片や乗り気だったとしても、もう片方が無理無理にストレスを貯めながらでは意味が無い。

人は良い方向に釣られることは無くとも、悪い方向には簡単に靡いてしまう。

そういったことを考えても、彼としてはあまり良く思わないのだろう。

 

 

 

……正直な所、彼が交流を避ける為に無駄な理由付けをしているように見えなくもない。

 

 

 

「これは命令だ、いいね?」

 

「……命令と言われれば何も言えない」

 

 

 

彼もなぜ自分が此処に居れるかは分かっている。

契約の元、ドクター等の指示に従うという条件でここに居座っている。それを反故にするのは筋が通らない。

彼は筋の通らないことは絶対にしないと心に決めている故に、それ以上の反抗は出来なかった。

ただ大きくため息をついて、面倒だと言うだけ。

 

 

 

彼は、とても人との交流が苦手だ。

それは嫌われると思う故の恐怖か。

それとも孤独こそ至高と思う傲慢か。

はたまた、本当にただ手間が嫌なだけなのか。

それを知るのもまた、彼しか居ない。

 

 

 

「じゃあ、早速明日から行ってもらうよ。……もちろん、適任の人も探すよ。なるべく、君を嫌わないような人をね」

 

「何も言わねえ……勝手にしろ」

 

 

 

そんな反応に、表情の見えないドクターは少し頷く。

それが勝手にやるという突き放した意味なのか、それともそれでいいよ、という肯定なのか。

どちらにせよ、彼にとってはどうでもよかった。

明日から、地獄のような場所に変わるのだろうか。

 

 

 

「じゃあ、ゆっくり休んでね。おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漸く嵐のような男が去ったと一息つく。

彼にとっては、ドクターさえも”面倒”の内に入るのだろう。

 

ドクターの居なくなった部屋で、また再びソファに寝転がる。

少し苛立ちがあるのか、その爪先を揺すりながら。

しかし、しばらくするとその動きも収まる。

 

 

 

 

 

「……俺は孤独でいいんだ。……いいや、そうでなければならない」

 

 

 

暗がりでぽつりと、そう呟いた。

突き放すような強い口調でもなければ、適当な口調でもない。

ただ、自分に言い聞かせるような弱い口ぶり。

静寂の中に消え入るように、その音を響かせる。

 

忘れるな。自分は化け物なんだ。

そう彼は自分の中に刷り込んでいく。

羽をもがれ、輪を欠けさせた天使など紛い物でしかない。

様々な過去が、自分を苛む。

自らを、天使と呼ぶことすら腹立たしい。

だから自分は、”怪物”でなければならない。

 

 

 

強迫観念を自分の中に強く刻みつける。

それが、自分を保ちながら周りに迷惑を掛けない唯一の方法だと信じている。

自分が怪物であると認め、そして距離を取れば、誰にも迷惑がかかることは無い。

だから、こうして孤独を選んだのだと何度も彼は唱えた。

自分に、絆など得る資格はない。

 

 

 

 

 

 

 

「明日から……どうやって凌ぐか考えなきゃな」

 

 

 

 

 

 

諦観しきった様な声が、誰もいない部屋に響いた。

 

 

 

 

 

羽と輪を失い、擦れきった天使の青年。

自身の非力と、残酷な争いの中で壊れていき……

化け物と呼ばれ、なりそこないと自分を嘲笑い続けた天使が少しづつ……少しづつ、ロドスの皆と交流を深めていく。

最初は辛いながらも、1歩づつ。

その少しづつの絆の繋がりから、変わっていく話。

 

 

 

 

 

 

その落ちた影は、とても不器用で、優しく。

 

 

 

後に皆はそう、彼をこう呼ぶ。

 

 

 

ーー片羽の天使、と。

 

 

 

 




後書きって結構大変……(?)なので、結構短めに。

今回はオリジナルオペレーターがどのようにして関わっていくか、その導入部分でした。
かなり嫌悪感を抱く方も多そうなキャラとなりましたが、これからの成長にご期待ください。


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毒物と死神の邂逅

あの地獄のような宣告をされた後日。

また使われていない宿舎の一角で寛いでいた。

きっと面倒なことをさせられる。

命令とはいえ、あまり乗り気ではない。

 

 

 

「……どこにいたかと思ったら、やっぱりここだったか」

 

 

 

気づけば、すぐそこにドクターの姿があった。

しかも、俺の寛いでいるソファから顔を出す形でこちらを見ている。なんか腹立つ。

 

と言うより、いつからそこにいたのか分からない。

そもそも、俺はあまり一箇所に留まっていないのになぜ分かったのか……

もう俺の行動はすぐに読まれるようになったのかもしれない。

 

 

「……で?結局俺に団体行動を取れって言うんだろ?」

 

「そうだね……話した通り、君には交流を持ってもらいたい。勿論、それを頼む相手に無理無理なことはしていないよ。了承の上だ」

 

 

 

納得させるような口調で俺に話すドクター。

無理無理に相手を探しているようだったら、少し罵るか1発手が出るかのどちらかだった。

まぁ、そんなことはしないだろうが。

 

ドクターは連れている青いフードを被った女性に挨拶して、と優しく指示をしていた。

彼女が不幸にも俺と関わらなきゃならなくなった者だろう。

 

 

 

「アズリウスと申しますわ。ドクターから、貴方と話してあげて欲しいとお願いされました」

 

 

「……彼女もまた、避けられている。同じ様な立場同士、仲良くできると思うんだが」

 

 

 

俺が人に慣れるためのコミュニケーション計画第一回目。

その相手は、俺と同じく避けられていると言う。

正直な所、それはミスじゃないのかと思った。

避けられているもの同士は、自分から交流を取ろうとなど思うわけが無い。

お互いに距離を取るだけで、無駄な時間が過ぎるだけだ。

 

だが、俺と同じような立場と言うその言葉は訂正した方がいい。俺は人に避けられてもいるし、そもそも人を避ける。

目の前にいる女性は避けられているだけで、本人自体が避けている訳では無い。

その差はかなり大きい筈だ。

自分から人と距離を取る者と一緒くたにされてはたまらないだろう。

 

 

 

「お前は俺よりも先に口を直した方がいいな。その言葉選びじゃいつか敵を作ることになる」

 

「いや、そんな意図はなかった……済まない、言葉選びには気をつけるよ」

 

 

そう陳謝するドクターに首を振る女性。

お気になさらないで、と言う当たりそういう意図として聞いてはいなかったらしい。

悪意を第一に感じる俺とはやはり違う。

まぁ、それならそれで構わない。

本人が気にしていないのなら、それ以上掘り返す意味も無いしこのことに関して責める意味もない。

 

 

 

 

「じゃあ、今日1日よろしく頼むよ。ある程度慣れてほしい。その為に私が呼んだからね」

 

 

 

そう言って、ドクターはこの暗い部屋を後にした。

気まずい空気の漂うこの部屋から、逃げるようにも見える。

……かと言って、止めようとも思わないんだが。

 

 

 

「……立ったままじゃなくていい。ある程度整理してるから寛げるところはあるだろ」

 

「いいんですの?」

 

 

別に俺が整理しただけであって、俺の管轄ではない。

適当にすればいいだろうに。

 

そう言うと、彼女は近くのベッドに腰をかけた。

立ったままはさすがに辛いだろうし、それをそのまま放置するのも気分が良くない。

……自分らしくもないが。

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

暫くの沈黙。

 

 

 

俺から口を開くことなど何も無い。

話すことも無いし、話題を作ろうとも思わない。

そもそもこの計画事態に乗り気じゃないのになぜこうやって放置して改善されると思っているのかが分からない。

 

 

 

「……貴方が”死神”……ですか?」

 

「さあな、だったらどうする」

 

 

 

最初に開いた口がそれだった。

俺の背に付いた、黒い片羽を見ながら彼女は言う。

もはや、片羽と砕けた輪は死神の象徴……

そう言えるような物になってしまった。

 

 

 

躊躇いもなく、遠慮もない言葉にため息を吐いて答えた。

こういうやり取りは珍しくない。

この場所の人間は感がいいのか、それとも戦場で俺を見て確信するのか。

開口一番にそう聞く奴が多い。

肯定も否定もしない。

それが一番楽だ。

 

 

 

別に避けるならそれでいい。

何も言わずにそのまま俺の休憩の邪魔をしてくれなければ。

……とは言っても、そうやって騒ぎ立てる人物には見えなかった。下手に変な奴を連れてこられるよりかはマシかと心で自分を納得させながら、ソファの上で寝返る。

相変わらず居心地が悪いままで、眠れない。

 

 

 

「いいえ、ただ聞いてみただけですわ」

 

「別に不気味に思うんならそれでいいし、離れたきゃ離れればいい。余計な奴(ドクター)に頼まれて俺の所に来たんだろ……俺からは何もしねえよ」

 

 

 

聞いてみただけ、という言葉に意外さを感じてしまった。

普通の奴なら、この時点で直ぐに俺を避けるか……それとも何かしらの怯えた様な、嫌がるようなリアクションを取る。

それならそれで向こうから距離を取ってくれるから楽なんだが。

 

しかし、今目の前にいる女性は何もしない。

本当にただ聞いてみただけという反応だ。

大して話の話題になることも無く、かと言ってこの時間が終わるわけでも泣く。

ただ意味の無い言葉を交わしただけだ。

 

 

 

正直、これでもまだ意思疎通を取ろうとしている方だ。

もしこの部屋に盗聴器でも仕掛けられていたら、ドクターは余計に俺に大して面倒な方法を取るだろう。

上辺だけでも、せめて会話している成りを装わなくては。

 

 

 

「私は無理に来た訳ではありませんわ……私自身、交流は持ちたい方ですの。……逆に、貴方は離れないのかしら。人との関わりを自分から切りに行く人物と聞いているのですけれど」

 

「ドクターの命令じゃなければ今頃1人でゆっくりしてる。ここに居る以上は彼奴の命令を聞かなねればいけねぇだろ」

 

 

 

不思議そうな表情でそう聞いてくる。

まるで煽られているように聞こえる。

俺はどうやらストレスがもう回ってきているらしい。

突き放すような棘のある口調で理由を呟く。

 

 

 

「でも、何だかんだで話してくれていますのね」

 

「命令に従ってるだけだ」

 

「その割には、噂よりも口数が多いようでしてよ?」

 

「……煩ぇな」

 

 

 

そう言ってそっぽを向くように再び寝返った。

……正直な所を言う。

何かを話さなければ申し訳ないという気持ちはある。

 

俺が人を突き放したがっているのは事実だ。

俺が他人と関わっても、他人が俺と関わっても。

碌な事などありはしない……

だから、関わりを切ろうとしている。

 

 

 

しかし、目の前の奴をドクターの命令で下らない事に付き合わせてしまっている故に……申し訳ないという気持ちが欠片くらいはある。更に答えるなら、いくら上層部と言えど、俺と関わると言う苦を強いるのはどうかと思っていた。

俺なんかと関わる時間があるなら、他のオペレーターと話していたほうがいい。

その方が本人のためだろう。

 

 

 

俺は面白い話も出来なければ、そもそも良い人間でもない。

人を突き放すことしか出来ないし、不快にさせるだけ。

そんなことに時間を使わせるくらいなら、他のことをさせた方が余程有意義だ。

 

 

 

「……貴方は、私個人をを避けませんのね」

 

「何の話してんだ」

 

 

 

紡がれた言葉の意味が分からなかった。

個人を避けないと言うとそうだろう。

全体的に人との関わりを持たないんだから。

ただ、そういう意味には聞こえない。

 

 

 

「”毒物”の噂はご存知ないのでして?」

 

 

 

……毒物。

戦場において、毒を以て敵を殺す。

そんな戦い方をするオペレーターがいるという話を聞いた。

大きな外傷を付けず、クリーンに殺す。

確かに恐ろしいような話だ。

だが……

 

 

 

「聞きはする。正体なんざどうでもいいが」

 

 

 

別に気にしたところでどうにもならない。

俺はわざわざそれを敵でもないのに特別忌み嫌おうとは思わないし、特異だと思って無理に近づこうとも思わない。

 

噂など、結局は当てにならないのだから。

所詮はただの話。

何処までが真実で、何処までが虚構かも分からない。

誰かが尾ひれを付け、余計なことになるように細工した話などに振り回されるのは馬鹿馬鹿しい。

人のイメージをそこまで掻き乱して何が面白いのか。

俺にはさっぱりわからなかった。

 

 

 

「……そういった話題には無関心ですの?」

 

「興味無いな。別に正体が身近な奴だったとしても変わらない。噂は所詮噂だ。惑わされた所で変に混乱して面倒なだけだろ」

 

 

 

俺に関しての噂は本当だ。

事実であることは変わらない。

 

だが、目の前の人物の噂は本当かどうかなど分からない。

そんなものに惑わされるほど弱い頭ではない。

 

 

 

人と言うのは、何かを誇張して話すのが好きなのだ。

俺に関しても、目の前の女性にしても。

興味を引きたいのか、それとも嫌がらせなのか。

少しでも自分の中の”普通”と離れれば、すぐに悪い様に蔑称を着け、それを批判し、本人に近づかないように警告し。

とても苛立つ。

本人に被害を加えた訳では無いだろうに。

 

 

 

俺は別にいい。

俺が異常なのはすぐ分かる。

むしろ、俺からそうなるように仕向けている。

俺は……そうでもしなければ、余計に酷いことになる。

 

 

 

だが、彼女はどうだ?

別に大して見てくれが可笑しい訳では無い。

特に異常な行動だって見られない。

戦場で見た事が無い故かもしれないが……

 

それとも、俺と同じ様に周りから忌まれるような何かがあるのか。いや、なければおかしいとも言える。

そうでもなければ、そこまで言われるいわれはない。

ただ、それを見ていない以上は何も言えないのが現実だが。

 

 

 

「周りに興味を持っていない故に、自分をしっかり持っていらっしゃるのね……」

 

「誰かの言葉など曖昧で、それが確かな物かも分からない。そんなもので振り回されるのが嫌なだけだ。俺は俺の感覚だけを信頼する」

 

 

 

自分の意思を持つこと。

自分の感覚を第一に動くこと。

戦場で信じられるのは味方ではない。

自分自身だけだと多くの戦場に教わった。

 

これは通常の会話や、普段の行動にも言えることだろう。

今の噂話にしてもそうだ。

他人の事ばかりを信用する者は、悪意ある他人の言葉に惑わされる。しかし、自分の目を第一に信じるものであれば……それはあくまで話半分であり、悪意ある言葉に囲まれた物でも本当の姿を見ることが出来るはずだ。

 

 

 

わざわざそんな風に悪評を広める奴の事など分かりはしないが、そういう奴の思い通りになるのは癪だ。

だからこそ、悪い話は話半分で聞く。

本当は、別に悪い奴でも無いかも知れないだろうし。

 

 

 

「……確かに、言えていますわね。それを体現するかのような方が、目の前にいますもの。貴方の噂も、根も葉もない物ではないのでして?」

 

「俺の噂は事実だ。それは間違いない。……何人も殺したし、何人も俺の前で死んだ。……死神の話は嘘でもなんでもない」

 

 

 

きっと奴は俺も噂と違うと言いたかったのだろう。

 

 

 

だが、それは違う。

俺は全くもって、噂の通りだ。

敵に慈悲は必要ないと思っているし、下手な情は死を招くとも知っている。だからこそ、感情を殺して死を運ぶ。

それが死神の在り方。

 

 

 

そこに関しては、ありのままを語っているだろう。

 

 

 

「他人の噂は信じないのに、自分の噂は否定なさらないの?」

 

「本人が事実と言うなら事実だ。俺は別にそう言われているところに覚えがある。わざわざ見苦しい真似はしない」

 

 

 

彼女は彼女の噂に対して否定的だったのに対し、自分の噂に否定的じゃないことを俺に聞いた。

自分だったら否定する、と言わんばかりに。

 

 

 

俺が気に入らないのは、事実と異なる事を言う者達だ。

俺がもし何もしていないのにも関わらず、民間人を虐殺したなどという根も葉もないことを言うようなら、俺はきっとそれを流した者達に対して非常に口汚く罵るだろう。

 

だが、俺の話に関してはそうじゃない。

事実を確かに述べている。

それにああだこうだと楯突く気は無い。

事実は事実。変わりようの無いもの。

下手に違うと言い張る方が疲れるし、何より面倒だ。

 

 

 

「私からしてみれば、同じことが言えますのに……貴方はそれでも自分の悪評を否定なさらないのかしら」

 

「……別にいいだろ。そんな物は勝手だ。自分の噂をを否定しようが肯定しようが」

 

 

 

不思議そうな視線をこちらに向けてくる。

その視線に耐えられなくて、つい強い語気で答えてしまった。

 

 

 

別に悪評を否定しない事に理由なんて無い。

それこそ、それに関して言い合いになったところで水掛け論になるだけだ。

自分の事は自分でよくわかっている、だから否定しない。

そこに何の文句がある。

人の噂を信じないことに特に損は無いだろうに。

 

それとも、それを頑なに聞くという事は俺と同じように悪く思われたいのか。

人から避けられたいのか。

そんな風にも思える行動だ。

 

 

しかし、そうには見えない。

雰囲気的に、だが。

 

 

 

「……そうですわね。つまらないことを聞いて申し訳ありませんわ」

 

「いい、謝るな。お前の思ったことを聞いただけだろ」

 

 

 

丁寧な言葉で、そんな話を聞いたことに関して謝罪の意を述べられた。

なんだかバツが悪くなって、謝るなと自然に言ってしまう。

別に詮索するなという気が無かった訳では無いが、元からそこまで強く言うつもりもなかった。

悪いのは俺の方だ。

相手は、ただ思ったことを聞いただけだろうに。

 

そう言うと、奴は不思議そうな顔を浮かべた。

俺が何を言っているのか分かっていないのだろうか?

 

 

 

「……話し疲れた。俺は面倒な奴だと分かっただろ?だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言おうとした時、無線に通信が入った。

向かい側に目を配ると、偶然と目が合った。

何とまぁタイミングが悪い。

目を合わせる事には慣れていない。

また気まずくなってきた。

 

はぁ、と息を吐いて無線に応答する。

 

 

 

「……なんだ、急に通信を入れて。命令は聞いてるぞ」

 

「ああ、済まない。そこに関して心配が無いわけじゃないが……この通信はそういう意図で入れたものじゃないから安心して欲しい」

 

 

 

あ?と素っ頓狂な声を出す。

こういう時は重要な事柄だろう。

軽口を叩いてはいるが、声は違う。

真剣な時の声だ。

 

 

 

「近辺にレユニオンが活動していることが確認されたらしい。今はある程度偵察してもらっている状態なんだが……アズライル、アズリウスを連れて現場に向かって貰えないか?ちょうど良く連携を取るための訓練だと思って頼むよ」

 

 

 

静かに舌打ちをした。

 

訓練とはまぁ……

実戦を訓練と言うとは、かなり呆けたか。

しかも相手はレユニオンだ。

下手をしたら、オペレーター内に死傷者が出る。

そんな物を訓練と言うだろうか?

気楽な事だと呆れながらも、命令を反故には出来ない。

 

 

 

「お前は俺を馬鹿にしているのか?訓練と一緒にするな。実戦とあらば上手くやるしかないだろうが。慣れてない事だとしても……」

 

「まぁ、そう言うと思ってた。指示はこっちで出すから安心してくれ。……アズリウスも、戦闘経験は浅いとはいえ力になってくれるはずだ。よろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

戦闘経験が浅い。

その言葉に、恐ろしい不安感を感じた。

戦闘経験の浅い者は、その分危険だ。

どんな状況になったら、どんな行動を取るべきか。

そのパターンが頭の中に完成されきっていない。

危機的状況において、最悪の結末を招くかもしれない理由に成りうる。

 

足手まといになるとか、そういう問題ではない。

もっと別の不安が、俺の中に渦巻いている。

 

 

 

 

「……どうされましたか?」

 

「戦闘だ。すぐ近く。……お前を連れて現場に向かえだとさ」

 

 

 

呆れたように答える俺に、動じることなく準備を始める。

通信が入った時から何となく察していたようだ。

苛立ちを隠せないまま、ソファから立ち上がる。

 

 

 

戦闘経験が浅い相手を連れながら上手く戦えるだろうか。

俺には正直、自信が無い。

基本的には単独行動が多かった。

援護をしろと言われる時は、人知れずひっそりと。

自分は施しを受けず、他人には施しを受けさせる。

それが俺のやり方だ。

 

しかし、今回はその通りには行かない。

共に行き、共に戦う。

その感覚など知っているわけもない。

孤独を選んだ俺には無縁だからだ。

 

 

 

それでも、連れていく以上は……

責任というものが付きまとう。

下手な失敗は許されない。

 

 

 

「……大事なことを1つ言っとく」

「何でしょうか」

 

 

一言だけ告げた。

1番大切なことを。

 

 

 

「死ぬのだけはやめろ。……死体の処理は勘弁だからよ」

 

 

 

何を言ったか理解出来なさそうな奴を置いて……

早く行くぞ、とその足を進めた。




一番最初の交流するオペレーターはアズリウスでした。
名前が似ていて、忌まれ仲間でもあるので仲良くできるのでは?と一番最初に来ました。


嘘です。作者が好きだから最初に出しました。
でも仲良く出来そうというのも嘘じゃないんです。
(見苦しい言い訳)


次もアズリウスとのお話です。
次回をお待ちください。


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戦場の黒羽

「戦場はここか」

 

「恐らくは。戦闘音が近いですわ」

 

 

 

戦場を見渡せる高台に、2人の人影。

片や青いフード付きのパーカーに身を包んだピンクの髪に特徴的な青い目をした女性。

片や黒いコートを着込んだ、暗い青髪に銀の瞳をした黒い片羽の天使。

ふたつの影は、その下を見下ろしていた。

 

 

駆けつける前に、まずは状況の把握が必要だと彼女を連れてここまで来た。

周りを把握するということは、ある程度の敵の行動の予測が着くかもしれない。

そうなれば、俺達だけでも有利に立ち回れる。

 

 

 

情報というのは目に見えないが、確かに戦況を有利に変えてくれる大切な一要素だ。

ドクターが大事な部分を見逃しているということは無いだろうが、俺達でも戦況を把握しておく事に損は無い。

 

 

 

だが、来る途中で厄介な事が起きた。

 

 

 

ドクターからの通信によれば、相手がこちらを察知し攻撃を開始してきたらしい。

その場にいる人員で何とか応戦してはいるが、狙撃班と医療班が負傷、術師はこの場にはいない。

今は残った先鋒、重装、前衛班で何とか凌いでいるらしい。

 

 

 

対応するのがどうやら遅かったらしい。

我ながら情けない限りだ。

しかしそうなった以上、下手に焦って交戦すれば余計に自分の首を絞めるだけだ。

 

 

 

 

「頭数が多いな」

 

「先鋒オペレーターや重装オペレーターでも処理が間に合っていませんわ……術師オペレーターと狙撃オペレーターが負傷でもしたのかしら……」

 

 

 

現在見える景色からは、大量の武装をした白ずくめの人間。

 

 

 

俺達の敵……レユニオン・ムーブメントの構成員。

 

構成員の種族は問わず、構成員に共通することはただ一つ。

鉱石病の感染者という事だけだ。

奴らは感染者の権利や自由を訴えて暴動を起こして各地の都市を荒し回る、言ってしまえばただのテロリストだ。

 

 

 

ロドスと同じくして、感染者の救済を目的としながら、奴らは非感染者に異様とも呼べるほどの加虐性を持つ。

 

ウルサスなどが行ってきたことを鑑みれば当然の報いと言えなくもないが、彼らにとってはどこの国の人間だろうが関係はない。

 

 

 

非感染者は全て悪。

 

 

 

それが奴らの考え方だ。

 

ロドスは非感染者と感染者の共存を目指し、最終的に鉱石病の治療方法を確立させることによって、感染者を救わんとする組織だ。同じ目的でありながら、方法は全く違う。

 

 

 

そのやり方の違い程度で、命の奪い合いが起きる。

なんとも下らない話だ。

人間とは、何時の時代も結局は力によってのみ全てを解決する。弱き者は何も出来ない。

それが世の真理だ。

 

 

 

「……負傷したってんなら、早く片付けた方がいいな。さっさと治療に取りかかれるのもそうだが、あの数じゃ時期に防衛網をすり抜ける奴が出てくる」

 

「ええ。早急に加勢が必要でしょう」

 

 

 

今戦線を維持している先鋒や重装、前衛達の数は決して多くない。1人が空いてできる人数も限られている。

それに比べて向こうは質より数だ。

数で押されてしまえば、対応しきれず防衛網が崩壊しかねない。それだけならまだしも、最悪1人のオペレーターに寄って集り死んでしまうなんて事態だって有り得る。

 

 

 

それだけは起こさせたくない。

絶対に。

味方の死体を見るのは気分が悪い。

 

 

 

まだ問題点はある。

 

狙撃オペレーターが負傷した事。

これに基づくと、敵にも狙撃手が居るという事だろう。

そうすると、安易なことをすれば俺達も死にかねない。

同じ轍を踏むのは勘弁だ。

 

まずは、自分達が有利に動けるような場所を探す。

とは言っても、ドクターもどう動くかの算段が付いていないわけではないだろう。

指示を仰ぎつつ……どう動くか、どう戦うか。

地形や状況と向き合いつつ、それを組み立てていかなければ。

 

 

 

『アズライル、到着はしたか?』

 

「現地にはもう着いてる。状況を確認中だ」

 

 

 

無線に入る通信。

呼び出し主は察しの通り、現場を指揮するドクターだ。

 

落ち着き払った声だが、状況が宜しくないのは一目で分かる。現に急かすような通信を入れていることからも、あまり時間をかけたくないということが伝わってくるだろう。

 

 

 

『見ればわかると思うけど、この人数じゃ戦線を維持するのは難しい。相手にも狙撃手が居る……そいつに負傷させられた人が大半だ』

 

「だろうな。もしも戦力を追加投入するにしたって、裏の奴を始末しない限りはどうしようもならねえって事か……面倒臭い」

 

 

 

まずは敵の狙撃手を討たなければ。

放置していても戦線の負担が増えるだけだ。

こちらの戦力は直ぐに削られてしまうし、何より動きづらい。

敵の狙撃手の邪魔臭さは嫌という程分かってしまう。

 

奴らは状況のコントローラーの一部だ。

甘く見れば事態を悪化させる。

それこそ、今のように。

 

 

なら、どう対処すべきか。

視界に入れば正確な狙いで撃たれる。

奴らの射程は相当広い。

俺達の射程は、すなわち奴の射程。

考え無しに向かえば、先手を取られた方が負ける。

 

 

 

『……アズライルがいるなら察しは着いていると思うが、君達のいる場所から数メートル南東に丁度いい草むらがある』

 

「茂みに隠れ、気付かれず仕留めるのが最適解……ということでして?」

 

『そう言う事だ。敵は今油断してる。狙撃オペレーターを完全に潰したと思い込んでいるだろう。奇襲は難しくないと思っているよ』

 

 

 

怪我の功名とでも言うべきだろうか。

確かに見る限り、周りの警戒が薄れている。

 

前衛に剣を持った構成員が5人、盾を持った構成員が2人。後ろにはクロスボウを装備した構成員が3人と、杖を持った術師が2人。

後ろを警戒している素振りは無く、後衛もその照準は対応しているオペレーター達に向いている。

完全に今は前線を突破することに注力しているようだ。

今のうちに潜伏しつつ行動を起こせば、被害を少なく相手に打撃を与えられる可能性が強いだろう。

 

 

 

狙撃手の負傷は褒められたものじゃないが、回り回って良い方向へと風向きが変わっていることも事実だ。

この好機を逃す訳には行かない。

 

行動を起こすなら、確実に今だ。

これ以上の時間の猶予もない。

 

 

 

『急ぎ指定のポイントに付いてくれ。そこから後衛の排除、後に戦線の支援を頼む。やり方は君たちに任せよう』

 

「了解。作戦行動に移る……行くぞ」

 

 

そう言って、即座に行動に移る。

ひとまず、作戦の立案を完全に行うにも、もっと戦場の近くに行く必要がある。遠くからでは見えないものもあるからだ。

指定されたポイントまで向かえば、立案後の行動も早く起こせる。

 

 

 

 

 

「相手はそこまで訓練を積んだ兵隊じゃない。ただの烏合の衆だ。だが、数では明らかに俺達の不利だな」

 

 

 

そこで浮かべた作戦は……

 

 

 

「正面切って撃ち合うなんてやってられねえ。裏を取って首を掻く」

 

 

 

闇討だ。

いくら頭数があろうと、強さがあろうと、警戒心が無い物は影の手に葬られる。

喉元に突き付けられた刃に気づかなければ、そのままその刃が喉を突き刺し、切り裂くことも可能だ。

視覚や聴覚に繋がる警戒心は、それほど重要なのだ。

 

 

 

それを欠いているなら、踏み込んで殺すことも容易なはず。

気づけるはずの殺気に気づかない者は遅かれ早かれ死ぬだけだ。

 

 

 

しかし、さらに問題がある。

 

 

 

「俺の銃は静かに殺す事には向かない。発砲音で確実にバレる」

 

 

 

アーツを利用して銃弾を打ち出す、そういう仕組みを組み込んでいるのがサンクタの扱う守護銃だ。

しかし、そうすればアーツを発動させた際の音が響くのは想像するに難くないだろう。

大きな銃声を鳴らせば、確実にこちらの存在に気づかれる。

1回で完全に殲滅はできない。

自分の持つ獲物は少し特殊だが、それを加味しても闇討には向かない。

 

今回は自分一人じゃなく、連れがいる。

それをどう使うかを考えるべきだ。

 

 

 

しばらく考え、出した答えは……

 

 

 

「俺が陽動を行う。目的は前衛への負担の低減だ。こちらに注意を向ければ、対応する数は減る……だが、それだけじゃ解決にならねぇ」

 

 

 

狙撃手が陽動を行えないことは無い。

陽動とは、つまりを言えば相手の気を引ければいい。

どの役割であろうが、本命を担っている者でなければ誰だって行える簡単な事だ。

 

 

 

「そこでお前に動いてもらう。お前はここに待機して、俺が撃ち始めてから少し時間が経った頃に攻撃を行え。俺が陽動している間に、お前の扱う毒で確実に仕留めろ。銃よりも静かに、そして致死性の高い毒を仕込んでいるダーツなら気付かれずに始末できるだろうと踏んでの事だ」

 

 

 

毒は大きな外傷を伴わず、体内から確実に身体を蝕み、そして最後に死に至らしめる恐ろしい物だ。

外傷は小さく、そしてスマートに役割を果たす毒矢は、ステルスや闇討にはうってつけだ。

場所や状況によっては、刺さった痛みはあれどどこから毒矢を撃たれたかなど分かりづらいだろう。

そのボルトがコンパクトであればあるほど。

 

 

その特性を活かせば、アズリウスに危害が加わらないようにしつつ、確実に敵の頭数を潰していける。

正直に言えば、本人の長所を生かした1番理想的なやり方だろう。

そうすればこちらもこちらで集中しやすいというものだ。

 

 

 

「互いの位置は確実に把握しておけよ。位置をロストしたら援護も何もねえ」

 

「了解しましたわ」

 

「……行動に移る。時間が無いからな。一応無線でも合図は送る」

 

 

 

それだけ伝えて、向かい側の草むらへと向かう。

つい先程までいた場所よりも確かな距離があり、尚且つ遠すぎない。身を隠すのに十分な背の高さの葉に身を潜めながら、1番良いポジションへと身を動かす。

 

面白い事に、つい先程の観察で理想的な立地を見つけた。

高台にあり、なおかつ身を隠せる場所だ。

ここならばもし見つかっても撒くことが出来るだろう。

さらに言えば、高台という事で銃の有利な位置だ。

 

 

 

戦術的には完全優位を取れるが、如何せんこちらは1人と伏兵のもう1人。

数では完全に負けている。

油断すれば直ぐにあの世逝きだ。

気を抜くことは許されない。

もちろん、失敗も許されない。

 

 

 

 

 

 

数分後、所定の位置に着いた。

 

 

 

『誰か!そろそろこっちも耐え切れそうにない!』

 

 

 

助けを求める声がする。

もう少し、もう少しだけ耐えろ。

 

 

……そろそろアズリウスも準備は整っただろう。

迅速に、確実に。

それが求められる結果だ。

失敗は許されない。

 

 

 

「……攻撃を開始する。早過ぎず、ある程度の感覚が空いたら攻撃を始めろ」

 

 

 

それだけ告げて、弾を込める。

引き金に指を掛けて……

ただ引くだけ。

 

 

 

アーツの炸裂音と共に、黒い光が伸びた。

 

 

 

 

 

「ぐぁっ!」

 

「どうした!」

 

「う、撃たれた!狙撃手や術師は片付けたんじゃ……!」

 

 

 

俺の守護銃は特殊だ。

これは源石弾にアーツエネルギーを纏わせ、殺傷力の増幅となるように改造が施されている。

 

銃器の解明は未だにされていないが、コピーをする技術はある。ならば、そのコピー品を無理無理に分解・改造を繰り返し試行錯誤することは出来る。アーツを纏わせる機構にすれば、上手くいって弾道の変更、下手をしてもアーツと同等の威力を出すことが出来る。

 

 

 

他のサンクタより扱いが卓越した訳では無いが、それでも十分な力を発揮できる改造だ。

長い時間を掛けて、無理にでも改造した意味はあるだろう。

 

 

 

「……!上だ!新しい狙撃手が出てきやがった!上のどこに居やがる!」

「ロドスのクソ野郎め、さっさと往生しろ!」

 

「……チッ……ガチャガチャ煩えな、とっとと黙れ馬鹿共」

 

 

 

草むらで自らの位置を煙に巻きつつ、銃弾で確かに一人一人に多少なりとも手傷を負わせる。

高く鳴り響く炸裂音が戦場を包む。

もちろん、その音の出処が分からない様に立ち回っている。

ヒット&アウェイ……的確に攻撃し、即座に隠れる。

これだけの動作を繰り返すだけでも、補助や陽動になる。

 

 

別の場所に移りはまた撃ち、そしてまた移る。

そうすることで、相手は一定の場所を狙い続けられずにこちら側に目を奪われる様になる。

ただでさえ邪魔臭い羽虫が刺してきたら、誰だって退治しようと躍起になる。

そうすれば、確実にこちらを向く。

より上手く隙を作り出してやれるだろう。

 

 

 

「今だ、そろそろ注意が完全にこっちに向く。毒矢を放ってやれ」

 

「分かりました。引き続き陽動をお願いしますわ」

 

 

 

淡々とした声で、潜む隠し刃に合図を送る。

本命は俺じゃない。

こちらに気を取られていたら……

見えざる手に命を刈り取られるだけ。

あまりに愚かにこちらを撃ってくる奴に、鼻で笑った。

お前は視野が狭いようだな、と。

 

 

 

「我が蜜液が、汝に死を齎さん……」

 

 

 

無線越しに聞こえた、囁くような決めゼリフ。

その甘ったるい声とともに、敵に変化が現れる。

 

そう、苦しみ始めた。

毒はそれこそ外傷はないが……

それを取り込んでしまったものの苦しみは大きい。

段々と自分の体が侵されていく感覚。

息の出来なくなる感覚。

余りの恐怖に脅え、そして余計に自分の首を絞める。

 

 

 

毒は、綺麗にして醜い。

楽に死ぬための毒もあれば、苦しめるための毒もある。

綺麗に見せておきながら、その裏側では計り知れないほどの苦痛を味わせる、恐ろしい物。

だからこそ、”毒物”は忌み嫌われるのだ。

 

 

 

「が……あ……」

 

「ぉぇ……!ど、毒……がぁ……!?」

 

「なん、で……!こいつら……!」

 

 

 

次々と苦悶の声を上げて息を引き取る者たち。

もがく様に首に手を当て、苦しみながら倒れていく。

普通の人間なら、吐き気を催してしまう光景だろう。

想像し難くない死の感覚が、彼らを襲う。

 

 

 

凶行に及ばなければ、そう苦しむこともなかっただろうに。

哀れみと呆れの混じった溜息を吐きながら、絶え間なく銃弾の雨をふらせ続ける。

雨にしてはとても横殴りで、あまりの痛みを伴うものだが。

 

 

 

「銃弾が飛び交って身動きが取れん!」

 

「がっ……!に、逃げろ……!」

 

 

 

喚き、瓦解していく集団。

いとも簡単に崩壊するとは。

所詮は烏合の衆だとよく分かる。

 

 

 

「……奴らは崩壊寸前だが、油断はするなよ!」

 

 

 

銃声にかき消されないように、確かな声でそう伝える。

最期の一息を止めるまで、気を抜くことは許されない。

戦いは、虫一匹残っているだけでも終わらないのだ。

 

 

 

弱り、抵抗できそうにもない相手に対して引き金を引く。

一瞬でも隙を見せてはいけない。

それが弱ったふりだったら?

それが降参するふりだったら?

そこから、凶弾が飛んでくることだって有り得る。

 

 

 

息の根は必ず止めなければ。

危険な芽は摘み取っておかなければ。

そう言い聞かせ、死にかけている者にも容赦なく引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

「そっちは片付いたか?」

「ええ、こちらは殲滅致しましたわ」

 

「済まない、助かったよ」

 

いつの間にやらドクターが俺の背後に現れた。

咄嗟に銃口を向けて撃ちそうになってしまった。

心臓に悪いことはやめて欲しいものだ。

何より、敵と間違えかねない。

 

 

助かったという言葉に首を振った。

俺がこういうのは柄では無いと思われるが、今回の作戦は俺よりもアズリウスの方が良い仕事をしていた。

 

今回の戦いで確かに重要な役割を果たしたのは紛れもない事実だろう。非常に楽になって助かった。

……ただ、表に出して調子に乗られても困る。

ただ、何も言わないまま黙るだけ。

 

 

 

「まだ完全に終わったわけじゃない。気を抜くな」

 

「ええ……ですが、もう敵の姿はほとんど見えませんわ」

 

「虫の息の敵が殆どだ、後は処理だけだが……」

 

 

 

そんなもう終わったような口ぶりをする2人。

もし残された罠があったらどうするのだろうか?

もしも脅えて出てこれなかった伏兵がいたならば?

最悪の事態は、常に考えておくべきだ。

 

 

 

そう……下手をすれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!アズリウス、危ない!」

 

「っ……!?」

 

 

 

響き渡るドクターの声。

それは、目の前の人物に向けた警告。

 

 

指揮する者の目に映るのは、1人に向けてその照準を合わせている雑兵の姿だ。

壊滅しかけていた中、1人だけ逃げた残兵だろう。

1発だけのボルトを番え、引き金を引く寸前。

 

 

 

「死んでしまえ、ロドスのクズめ……!」

 

 

 

既に指は掛けられている。

誰か動けないのか。

このままでは手遅れになる。

誰もがそう思った。

 

 

 

その矢は、確かに放たれた。

 

 

 

彼女の視界は急転した。

何かに引っ張られるような感覚と共に。

彼女はもたれ掛かるように倒れた。

 

 

 

もう一度顔を上げてみれば、空より舞い落ちる黒い羽根のような光。明るみでありながら確かに暗いそれが、辺りに舞っていた。神々しくも、穢れたような。

黒い天使の羽根が。

 

 

黒く淡い光。

それを生み出したものなど、考えなくても分かるだろう。

この場にそれを持つ者など、一人しかいない。

あまりに不自然な片羽、砕けた輪。

そこまで見れば、正体などすぐに分かるはずだ。

 

 

あまりに気の抜けた声がすぐそこから聞こえる。

何が起きたのか分かっていないのだろう。

 

 

 

……だから嫌だったんだ。

だから乗り気じゃなかったんだ。

 

 

気の緩みは、命が散る原因になりかねない。

それが一瞬だったとしても、その気の綻びから死はやってくる。

そう、今のように。

死ななかったとしても、苦しい傷を追う。

しかし……

 

 

 

不運か幸運か、皮肉にも”死神”が死から遠ざけてしまったが。

 

腕に鋭く先端がが掠めた。

それだけでも傷となり得るが、その痛みなどどうでもよかった。

 

なぜこの体が動いたかは分からない。

……いや、分かろうとも思わない。

それで良い。

 

彼女に被害がなくて助かった。

誰かが死ぬのは勘弁だ。

死体の処理は面倒だし、何より……

 

 

 

とても夢見が悪い。

 

 

 

「くたばれ」

 

 

 

目の前の白マスクに守護銃の口を向け、引き金を引いた。

 

 

 

誰にも顔を見られないように。

誰にも、この心を悟られないように。

最大限に表情を殺して頭に一発。

黒い光が、真っ直ぐにそれを貫いた。

 

仮面を貫き、風穴が空いた。

仮面の中の様相など、見たくもない。

殺さなければ、殺される。

それが戦場だ。

戦いに慈悲など無い。

殺して生き残ったものが勝ちなのだから。

 

 

 

躊躇などせず、必ず撃ち殺す。

強いて言うならば、それが数少ない慈悲だと信じて。

 

 

 

「……アズライルさん」

 

「気を抜くなと言った筈だろうが。……1歩間違えればあの世行きだったぞ」

 

 

 

 

向けた視線はとても鋭い。

抜き身の刃の如く、脅すような視線を向けた。

 

当たり前だ。

戦場で気を抜くなんて一番やっては行けない。

油断や気の緩みが死を呼ぶ。

それが自分の身だけに降りかかるのならまだいい。

下手をしたら、その周りさえも巻き込む。

そんなことになったら、大惨事というレベルではない。

 

 

 

そもそも、叱っている相手に怪我をしない様に言ったはずだ。

死ぬなよと釘を指したはずだ。

そこまで言えば、普通は気を張るのでは無いのだろうか?

仕方ない所もあるのかもしれない。

だが、死んでからじゃ遅い。

だから、とても強く当たった。

 

 

 

「いつでも俺が助けられる訳じゃねえんだよ。……死んだらそこで終わりだ。自分の命の価値を理解しろ」

 

 

 

そう吐き捨ててしまう。

忠告をしっかり聞かなかったという怒りもある。

けれど、こんな言い方はないときっと言われてしまう。

 

 

……こんな調子では、恐らく俺が他のオペレーターとの関係を改善するのはほぼ無理に等しいだろう。

そもそも、俺自身がそんなに反りが合うやつが居ない。 

合わせようとも思わない。

 

こんな物言いも変える気は無い。

こういうやり方でしか、俺は人の意識を変える方法を知らない。

だから、あえて強く当たる。

そうしなければ……いつか犠牲が出ることになる。

 

 

 

それは避けたい。

できる限りは。

死なないに越したことはないのだから。

 

 

 

「……残りは?」

 

「今の所は……見えませんわ」

 

 

 

寄りかかるような体制になっているアズリウスに、周りを確認させる。もちろん、気づかない俺ではない。

敵はほぼ殲滅。しかし、まだ何処かにいるかもしれない。

警戒を解くな、そういった意味で問いかけた。

 

 

 

「ついさっきので本当に最後だったらしい。お疲れ様……助かったよ、2人とも」

 

「お前もお前で気を抜くな。本当に最後かどうかは分からないだろうが。遊園地のアトラクションに来てるんじゃねぇんだ……それに、今は俺やアズリウスだったから良かったが……お前が負傷したらそれこそ洒落にならねえ」

 

 

 

この能天気は、と少し思ってしまった。

本当に最後の言葉が信じられず、未だに警戒を続ける。

二度あることは三度ある。

そうしたら、今度こそ怪我では済まない。

アズリウスもそれは分かっているはずだ。

そして、奴も分かるはずだ。

 

 

 

「彼の言う通りですわ……帰還するまでは気を抜かない方が良ろしいかと」

 

「……確かにその通りだ。2度あるとも限らない……済まない、アズライル。最後まで警戒を解かずに行こう」

 

「分かればいい。同じことを言う面倒さが省ける」

 

 

 

また大きくため息をついて、銃を構え直す。

少しでもおかしな部分があれば、すぐに引き金を引ける体制に。下らない損害は少しでも減らす。

それが一番楽な道だ。

 

そう、警戒を解かないままで居ようと……

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……?」

 

 

 

体が少し強ばった。

 

 

 

いや、少しだけではない。

段々と、体の感覚が無くなっている。

変な感覚で、膝を付いてしまう。

立っていられなくなってくるくらいに力が入らない。

いや、違う。力が入っているかどうかさえ分からない。

 

 

 

「っ……傷か……?」

 

 

 

倒れる前に何処かに楽になれる体制はないか。

このまま倒れてしまうのは良くない。

恐ろしく動かない体を無理無理に動かして、何とか寄りかかれる場所で座り込む。

 

 

 

とても酷く目の前が歪む。

 

 

 

鉱石病が悪化したか?

この短期間でそれは無いだろう。

 

失血性ショックか?

傷を負ったとはいえ、そこまでの深手ではない。

 

 

 

ならば、何なのだろうか。

 

 

 

 

「アズライルさん……!?これは……」

 

 

 

……もしや。

嫌な予感が脳を巡る。

まさか、彼女がいる時に限ってこんな物を貰ってしまうとは。

 

 

 

「この症状、麻痺毒ですわ。無茶をしているのはどちらですか……早急に戻り解毒にかかります、その間に応急処置を……少々お待ちくださいまし……!」

 

 

 

毒。

身体を内から蝕む異物。

 

 

 

まさか、感染者の人権を訴えるだけだった団体がこんなものまで使うようになるとは。

あまりに滑稽だ。

何が権利だの人権だの。

お前たちがやっているのは殺しだろうに。

こんなものまで用意しているなら、言い逃れなどできない。

奴らはもう殺人集団だ。

 

 

だが、それを裁けるものもいない。

だからそれを止めるのが俺たちの役目だと言うのに。

そんな1人がこのザマでは、戯言もいいところだ。

 

 

 

微かに聞こえる、助けた者の焦りの声。

ああ、馬鹿だなと思ってしまう。

死ぬなと言っておいて、一喝までしておいてこの有様とは。

とても無様で笑えてしまう。

 

馬鹿らしい。

慌てふためく蛙の姿が見える。

……そんな急がなくてもいいのに。

慌てず確実に手を尽くして死んだのなら、別に誰も責めなどしない。そこまで焦らなくても別にいいと言うのに。

 

 

 

本当に、馬鹿らしい……

 

 

 

 

 




極遅投稿なのにこのクオリティ……
リアルが忙しかったんです……(言い訳)

結構駆け足だったかもしれない……
戦闘回は書くのが難しいですね。

次回は戦闘の後日談。


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