リディアン音楽院の問題児 (dedicates545)
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クールなロリって良いよね
原作との違いは今のところリディアンが小中高一貫校で、校舎がバカでかくて全寮制って感じです
気だるい陽気の中、午前の終業をつげるチャイムが鳴ると生徒たちは思い思いに昼食の支度へと取りかかる。
晴れた日の中庭は人気の昼食スポットであるが、そんなのどかさをかき消す怒号が中庭中に響きわたった。
「何でその事を知ってるのよぉぉ!!」
「しっ調ぇ!落ち着くデス!」
「調ちゃん!ストップストップ!」
恐らく昼食用であろうナイフを手に、今にも飛び出して行きそうな黒髪ツインテールの少女を、
茶髪の少女と金髪の少女が必死に抑えている。
「何でってさっき君が階段から降りてる所を下からこうやって……」
「うわぁ……」
「……デース」
「消えろぉぉ!この変態ぃぃぃ!!」
「怒ってる姿最高にかわいいよぉ?調ちゃん♥️」
「お前はもう黙ってろ!」
それを聞いた銀髪の少女が発言者の少女のみぞおちにきつい一撃を与える。
「ったく一体どうしたってんだ?まぁ大方こいつに非があるんだろうがよ?」
銀髪の少女、雪音クリスが尋ねる。
「こっ!この変態が!この変態が!!」
「調、一旦落ち着くデスッ、それにナイフを置くデス」
「そうだよ調ちゃん、深呼吸深呼吸」
デスデス言ってる金髪少女、暁切歌と茶髪の少女、立花響が黒髪ツインテールの少女、月読調をなだめている。
「この変態!背後から私の耳元に“今日はピンクに緑のワンポイントが入ってるんだね?とってもかわいい”って!今日私が着けてる下着の特徴囁いてきたんですよ!?」
「ぐふっ……爆乳ロリなんて邪道だ……」
「謳歌、とりあえずお前は有罪だ」
「みんなお待たせー……って、またなの謳歌さん?」
「あっ未来!」
「はい響、お弁当」
「ありがとう未来〜、もうお腹ペコペコだよぉ」
小日向未来は響に弁当箱を手渡し、呆れたようにしている。
「ほっほら!調もあんな人忘れてお弁当を食べるデス」
「切ちゃんがそう言うなら……」
そう切歌に促され調は弁当箱に手を伸ばした。
「おい謳歌!私達もはやくお昼食べるぞ!」
クリスの言葉に、地面にうずくまっていた謳歌は渋々起き上がると一言。
「あ〜あ〜クリスの身体がもっと未成熟だったら良かったのになぁ」
「お前そろそろその口閉じないと針と糸で縫い付けるぞ?」
そんなやり取りをしていると初等部校舎の方角から2つの人影がこちらに向かって歩いて来る。
「みなさーん!」
笑顔で手をふりながら歩いてくる少女と、何かに気付きあからさまに顔をしかめる少女。2人の顔はそっくり瓜二つであった。
「あっ!エルフナインちゃんにキャロルちゃんだ!おーい!」
響がその名前を口にした瞬間、謳歌は脱兎のごとく飛び出して行く。
「あっ!まて謳歌!」
クリスの制止も間に合わず、謳歌は2人の内の顔をしかめた方、キャロルの元に一直線に駆けて行く。
気付いたキャロルが反転し、逃げ出そうとするも時既に遅し。名前を口にした響はばつが悪そうにしている。
「キャ〜ロ〜ルちゃ〜ん♥️」
「ひぃ!!」
キャロルの抵抗むなしく謳歌は軽々とキャロルの身体を抱き抱え抱きしめる。
「あぁ〜今日もかわいいよぉ?キャロルちゃん?この浮き出たあばら骨とその容姿に似合わない口調最高!」
「やめろぉぉ!耳に息を吹き掛けるなぁ!服の中に手を入れるなぁ!オレにさわるなぁぁぁぁ!!!」
それを横目に双子の妹エルフナインは平然としている。
「謳歌さん、こんにちは」
「こんにちは、エルフナインちゃん。今日もキャロルちゃんは最高にかわいいわ♪」
尚も身体をまさぐり続ける謳歌、キャロルは悲痛な叫びをあげる。
「誰かぁ!助けt ひぃ!!スカートの中はやめろぉぉ!」
「いい加減に!しろぉぉぉぉ!!」
何処からか持ってきたバスケットボールを、クリスは謳歌目掛けて投げると顔面に直撃した。
「がっ!」
謳歌は地面に仰向けに崩れ落ちる。
「顔面はひどいよクリス……」
「自業自得だ!バカ!」
「ナイスコントロールですクリスさん(^-^)」
エルフナインが笑顔で拍手をしている。そんな妹とは対照的にキャロルは放心状態といった所。
「ほら!行くぞ!」
「痛っ!ちょっ!まってクリス!引きずらないで!?」
「黙ってろ!」
そのまま謳歌を引きずるようにして、2人は中庭を後にしていった。
そんな一部始終を見ていた切歌は、ある異変に気付く。
「しっ調……?」
よくみると調は顔がひきつり何かぶつぶつ呟いていた。
「あいつ……今度あったら絶対殺してやる……消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ……」
そう呟やきながらお弁当のプチトマトをフォークで何度も串刺しにしている。
「調ぇ!戻ってくるデス!それ以上はまずいデェス!プチトマトさんがぁプチトマトさんがぁ!」
調の肩をゆさゆさ揺らしながら必死にそう呼び掛ける。
「ほらキャロル、しっかり歩いて」
「くそ……やはり姿を見かけた瞬間に逃げるべきだった……」
キャロルに肩を貸しながら、エルフナインがこちらに向かって歩いて来る。キャロルの顔は心の底から疲弊しているという感じであった。
「くそ……何でいつもオレが狙われるんだ? 同じ顔なのになぜエルフナインは狙われない?」
「謳歌さん曰く、僕は“君は何か違う”らしいよ?」
「一体何が違うんだ……」
キャロルはそう嘆くと、また大きなため息をついた。
「キャロルちゃんごめん!」
響が申し訳無さそうにキャロルに謝る。
「……まぁ仕方がないだろう?」
「お詫びにこのおにぎりを1つあげるよ……」
「大丈夫だ、悪いのは全部あいつだからな」
「それに僕とキャロルはそんなに食べられないので」
そんなやり取りをしていると未来が一言。
「にしても、毎回毎回困った人ね謳歌さんは……」
「はぁ……」
そんな全員のため息と共に昼休みは過ぎていく。
ここリディアン女子音楽院は、小中高一貫の私立校である。
そんなリディアンにおいて一番の有名人といえば、卒業生であり今やトップアーティストの風鳴翼、天羽奏、マリア・カデンツァヴナ・イブの3人である。
彼女達に憧れ、リディアンに入学する者が後をたたないほどである。
そんなリディアンにおいて、“悪い意味で”一番有名なのが 謡詠吟 謳歌(うえぎ おうか)である。
高等科三期生であり、雪音クリスのルームメイトでもある彼女は、”性格以外は完璧“との周りからの評価がもっぱらである。
彼女の恋愛対照は女性である。まぁ女子校であるリディアンにおいては稀に有ることなので対して問題ではないのだが彼女の場合はさらに……
「全く……うら若き乙女の背中が傷物になったらどうするつもりだい?」
「お前はどっちかというとうら若き乙女を襲う方だろ」
「ひどくない!?」
先ほど謳歌を引きずってきたクリスは謳歌と食堂で昼食をとっていた。
「お前さぁ……いい加減ああいうのやめろよな……」
「だって可愛いじゃないか♪」
「調やキャロルが可哀想だろうが……」
「まぁ調ちゃんはともかくキャロルちゃんには許可取ってるから」
「謳歌お前……とうとう幻覚見るようになっちまったのか……」
「いや、私まだそんなヤバくなってないからね!?」
今日もリディアンは平和です。
ああ見えて作中で切ちゃんが一番ストレスかかってる気がする・・・
誤字脱字、ご意見ご感想やご指摘お待ちしてます
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激痛プレイ(と思い込んでみる)
ある日の放課後、未来 響 クリスの3人は調と切歌の部屋に集まっていた
「これはちょっとやり過ぎかなぁ調ちゃん……」
響は苦笑いを浮かべながらなるべく調を刺激しないようにしている
「そっそうだね調ちゃん。もっとこう……何て言えばいいのかな?こう……暴力的に解決するんじゃ無くてね?……」
未来も慎重に言葉を選んでいる
なぜ集まったたかと言えば、言わずもながら謳歌の件での相談であった
「? ゴミを駆除するのに何の遠慮が?」
本当に何を言っているのかわからないというトーンで返して来るから怖い
「ちょっと一旦休憩にしようか、私部屋からお菓子とか取ってくるから響も手伝って?」
そう言うと未来は他の3人に目配せして一旦部屋から出るように伝えた
「そうだね!ちょっと行ってくるね調ちゃん!」
「私も飲み物とか取ってくる」
「ちょっと御手洗いに行ってくるデス!」
「あっ……あの……」
「直ぐに戻ってくるから調ちゃんはお留守番お願いね?」
「ちょっと行ってくる」
「行ってくるね!」
「行ってくるねデス!」
4人はそそくさと部屋から出る
「御手洗いなら部屋にあるのに……」
●
「切歌お前……手洗い行くは無いだろ……」
「とっさに良い言い訳が見つからなかったデス……」
「ともかくどうしようか……」
未来が問いかける
「とにかくあのノートに書いてある事を調にさせちゃダメなのデス……」
「まぁ気持ちは分かるけどあれはちょっとね……」
響がそう言うと未来が諭すような口調で言う
「そういう事 調ちゃんの前で言っちゃだめだよ響?またこの前みたいに“あなたに何が分かるんですか!”って言われちゃうよ?」
「うぅ……気を付けてるよ……」
「調ってお前に結構キツいとこあるよな……」
「私てっきり調ちゃんに嫌われてるんだと思ってたよ……」
「でもあの後ちゃんと謝りに来てくれたじゃない」
そんな話をしていると、廊下の向こうから小さな人影が2つこちらに向かって来ている
「キャロルにエルフナインじゃねーか、どうしたんだこんな所まで?」
「こんにちは皆さん(^-^)」
「俺達が高等科に来る用なんてあいつの事くらいしか無いだろ?」
ニコニコのエルフナインに比べ、キャロルは呆れかえったように答える
「謳歌あいつ……」
「謳歌さんまたなにかしたの?」
「まぁしたっちゃしたんだか……」
「とりあえず状況が状況なので来てもらえますか?」
キャロルとエルフナインの案内で4人は初等科と高等科を繋ぐ渡り廊下にやって来た
「あっ!調ちゃんがいるよ!」
「何か手に持ってるデス!」
「なんだあれ?……モップか?」
そこにいたのはモップを手にした調であった
「調!こんな所で何してるデスか!」
「切ちゃん……それに皆さん……」
「調お前、部屋にいたんじゃ……」
「いや……皆さん戻って来ないので探しに来たんですけど……」
調はそう答える 妙に声のトーンが低い
「みっ未来!」
「どっどうしたの響!?そんなに取り乱して!?」
「あっあれ……モップに何かついてる!」
未来は響が指差す方に目をやると、モップの刷毛の部分に赤い物がべったりとついていた
「あっあれってもしかして……」
「血!血デス!血が付いてるデス!」
「っつ!」
嫌な予感がしたクリスは、調の横を通り抜け初等科側の廊下を曲がる
「謳歌!?おい謳歌!」
そこには顔中血だらけになって座り込む謳歌の姿があった
「おいしっかりしろ!!おい!!」
そこに響達が合流し、今の状況に絶句する
「うっ嘘……」
「まさか……調ちゃんが?」
「嘘デスよね……まさか調が、こんな……」
切歌はとうとう泣き出してしまった
「私がっ! もっと 強く止めてればっ 調はっ!」
「切歌ちゃん……」
親友がしてしまった事、それを止められなかった自分の不甲斐なさに切歌は押し潰されてしまいそうになった
「きっ切ちゃん!?どうしたの一体!?」
そこに調がやって来た
「調!どうして!どうして!こんな事……!」
「きっ切ちゃん!?」
「嫌いな人でもやって良い事と悪い事があるデス!」
「切ちゃん落ち着いて!?何を言っているの!?」
「どうして……どうして……」
切歌は調の肩を掴んだまま泣き崩れてしまった
「取り込み中の所悪いが、お前達何か勘違いしているだろ?」
「キャロルちゃん!」
「キャロル、どういう事?」
「それは僕から説明します(^-^)」
エルフナインが元気良く答え、説明を始めた
「あれは僕たちが廊下を歩いていた時でした」
●
「くそ!なんで調理実習のメニューが野菜サラダと味噌汁なんだ?あんなの調理と言えるか!?」
「キャロル?野菜嫌いだからってそんな事いっちゃだめだよ?」
「せめて野菜スープとかにしてくれたら食べられる物を!」
そんな会話をしていると渡り廊下の向こうから猛スピードでこちらに向かってくる人影が見える
「ひっ!」
迫ってくる人影に気付いたキャロルは直ぐに逃げ出したが直ぐに追い付かれてしまった
「キャロルちゃん捕まえた〜❤️」
「うわぁぁぁ!!」
謳歌は軽々とキャロルを持ち上げ、逆向きに肩車をした
「はぁはぁ、濃厚なキャロルちゃんの匂いがするよぉ」
謳歌はスカートの中に顔を埋め、その匂いを肺の中一杯に満たしている
「やめろぉぉ!そのまま喋るな!くすぐったいだろ!」
「スーハースーハー うへぇへぇへぇ」
「こんのっ!」
キャロルは目の前にある謳歌の髪の毛をここぞとばかりに引っ張る
「痛だだだ!髪引っ張るのは反則だって!」
「うるさい!下ろせぇ!!」
キャロルがおもいっきり髪を引っ張ったその時だった
「あぶない!」
謳歌がバランスを崩し、前のめりに倒れるような形になった
「うわぁ!」
「ヤバっ!」
咄嗟に謳歌はキャロルを持ち上げ背中側に持ち上げたが、
そのせいで手を着く事が出来ず、顔から床に叩きつけられてしまった
さらに咄嗟に背中側に持ち上げたキャロルも落ちてくる形になり、転倒とキャロルの体重分の衝撃がもろに謳歌の顔面に加えられてしまった
ゴリッ!
嫌な音が聞こえた
「っ〜〜〜〜!」
謳歌は鼻のあたりを押さえながらもがき苦しんでいる
「おっおい!大丈夫か!?」
「謳歌さんしっかりして下さい!」
●
「そこにキャロルの悲鳴を聞いた私が来たんですよ」
「とまぁこんな感じです(^-^)」
「じゃ、じゃあ調がこの騒ぎを起こしたわけじゃないデスか!?」
「当たり前でしょ?」
話を聞いた一同はしきりに安堵の表情を見せる
「良かった……良かったデェス……」
「本当に良かったね……」
「本当にね……とうとう調ちゃん爆発しちゃったんじゃないかと思ったよ……」
しきりにそう言う一同
「皆さん私の事 悪鬼羅刹の類いか何かだと思ってるんですか?もう!
それに全然良くありませんから!大変だったんですからね!?」
●
聞き覚えのある悲鳴が聞こえて来た 初等科の校舎の方からだった
「キャロル?」
思い当たる節はあった
「まさかあの変態!懲りずにまた!!」
渡り廊下を渡り、廊下にでた所で目にしたのは、顔を押さえながらもがき苦しむ変態と、狼狽えた様子のキャロルとエルフナインだった
「いっ、一体どうしたの!?」
「調さん!謳歌さんが大変なんです!」
近寄った調が見た物は、うめき声をあげている謳歌と床に溜まったおびただしい量の血液であった
「なっ!何よこれ!?」
調はその場に立ち尽くしてしまったが、直ぐに気持ちを切り替えて2人に指示を出し始めた
「とりあえず体を起こして顔を正面に向けるから手伝って!!あぁごめん!エルフナインはティッシュでもトイレットペーパーでも何でもいいから拭くもの持ってきて!!
ちょっと!分かりますか!?」
「……じらべぢゃん?」
謳歌は力なく答える
鼻からは依然おびただしく出血している
「もう!何やってるんですか!痛いですか!?」
「いだい……」
そこにエルフナインがトイレットペーパーとモップを持って戻って来た
「お待たせしました!」
「ありがとう、とりあえず床拭いてもらって良い?」
「分かりました!」
エルフナインは床の掃除を始める
「ギャロルぢゃん……げがはだい?」
謳歌はキャロルを心配している
「あぁ……お陰様でな」
「人の心配してる場合ですか!?もう!あまり喋らないで鼻にこれ当ててて下さい!」
「ごめんねじらべぢゃん……めいわくがげで……」
「私喋るなって言いましたよね?
……私よりクリス先輩にあやまって下さい、きっと物凄く心配すると思いますから」
「……ぞうだねぞうずるよ」
謳歌は力なく答える
調はポツリと話はじめた
「……別に私はどんな人を好きになろうがそれは個人の自由だと思ってます、だけどあなたの場合行動と言動がひどすぎです
……好きな人が居るなら、どうしてもっと上手くやろうとしないのか、私には理解出来ません」
「……」
謳歌は答えない
「おーい、俺はどうすれは良い?」
遠くからキャロルが尋ねる
「怪我とかはないのねー?」
「あぁ──」
「それじゃエルフナインといっしょに誰か呼んできてもらえるー?そのあいだに私はもう少し片付けておくからー」
「わかったー」
キャロルとエルフナインが行った後、調は一言
「……とにかく、あなたを心配する人が居る事を心に留めておいて下さい」
「……」
なおも謳歌は答えなかった
本当はもっと明るい話にしたかったんです・・・
本当に・・・
次回は教師陣が登場(予定)です
次は明るいお話にします・・・本当に・・・
感想ご指摘、ご意見何でも構いません。お寄せ下さい
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ストックホルム症候群
「いやぁ、参ったよ参ったよ」
笑いながら謳歌は話す
「笑い事じゃありませんから!鼻骨折してるんですよ!?」
あの流血騒ぎの際、直ぐに先生達が駆けつけてきた
●
「ちょと通してもらって良い!?」
最初に駆けつけて来たのは高等科の養護教諭の櫻井了子と生徒指導兼クリスと謳歌の担任である風鳴弦十郎であった
「ちょと見せて見て」
了子はそう言うと慎重に患部を見ている
「痛みはある?」
「はい……ものずごぐ……」
了子が謳歌とやり取りしていると、初等科の方から人影がこちらに向かってくるのが見える
「何事ですか?」
「ナスターシャ先生」
ナスターシャ先生と呼ばれた人物は、初等科の養護教諭ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤであった
「何があったのですか?」
「がおがらゆがにおぢまじだ……」
「出血がひどいので恐らく折れているかと……」
「そうですね……我々では詳しく判断しきれますね……」
そう言うとナスターシャは近くにいた響と未来を呼ぶ
「あなた達」
「はい!なんですか?」
「中等科に行って校医のウェル先生を呼んできてくれますか?」
「ウェル先生……ですか?」
「はい、彼は恐らく保健室のほうには居ないと思いますから最初に生物室に行ってみて下さい」
「あの……大丈夫ですか?あの先生で……」
未来が不安を示すと、響も同じく不安を示す
「あの……その……何かちょっと不気味というか」
「まぁ……気持ちは分からなくもないですが、医師免許を持っている者としての自覚は有りますでしょうし……」
「それにうちの学園は私立だから結構お金が良いのよ?特にウェル先生みたいな外部から招聘されてる人はね」
ナスターシャの説明に了子が捕捉する
「つまりわざわざ自分からクビになるような真似はしないと?」
「そういう事」
「分かりました……」
未来と響が中等科に向かうと、しばらくしてウェルと共に戻って来た
「全く……僕は色々と忙しいのに……」
何やらぶつぶつ言いながら謳歌の状態を確認している
「どうですかウェル先生」
「まぁ骨折は間違いなくしているでしょうが、しっかり応急措置してあるから大丈夫でしょう 後は整形して固定しておけばそのうち治るでしょう」
「そうですか、ありがとうございます」
ナスターシャがウェルに礼を言うと、実験があると言ってそそくさと帰ってしまった
「……あれで本当にお医者さんなんですか?」
未来が呆れたように言う
「まぁ彼は医師免許は持っていますが、本職は生物学者ですからね」
「絶対怪しげな薬とか作ってそうじゃないですか……」
未来とナスターシャのやり取りを遮るように了子は言う
「まぁ大事にならなくて良かったじゃない、謳歌ちゃん?これに懲りて少しはおとなしくしてなさいよ?
ほら!弦十郎先生とクリスちゃんも怖い顔してないで肩かして下さい」
『あぁ』
素っ気なく弦十郎とクリスが答える
〔ヤバいヤバいヤバい!これマジギレしてるやつじゃん!!〕
謳歌は内心、鼻の痛みより2人の様子の方がよっぽど恐ろしかった
2日後、流血騒ぎの当事者が集められ、当時の詳しい状況を確認する集まりが持たれた
「ていうか授業中にやるんですね」
「授業サボれてラッキーデェス!」
「放課後とかにやるものだと思ってたよ〜」
金曜日に流血騒ぎがあって、週明けの月曜日の9時から集まりが持たれている
「ていうか謳歌さんひどい顔してますけど大丈夫ですか?」
未来が謳歌に問いかける
「まだ痛むんですか(^-^)?」
「そんなニコニコして言う事じゃ無いだろエルフナイン……」
いつも通りニコニコしてるエルフナインにキャロルが突っ込みを入れる
「いや……ね……」
「大方クリス先輩にこってり絞られたんでしょ」
「自業自得だな」
調とキャロルがそんな事を言っていると予想に反した言葉が帰って来た
「この2日間クリスが口聞いてくれないんだ……」
「口聞いてくれない?」
「とうとう見限られたんじゃ無いデスか……?」
なおも謳歌は続ける
「しかも部屋にも入れてくれないし……何か風鳴先生と部屋で何か色々やってるみたいだったし……」
「あぁ……だから土日泊めて欲しいなんて言ったんですね」
「謎が解けたデス!」
切歌と調が納得したように言う
「えっ?……調ちゃん達この人の事部屋に泊めたの?」
響が驚いたように質問する
「えぇ、今にも泣きそうな顔で“何も聞かずに週末泊めて欲しい”って言われたんです」
「良くOKしたね……」
未来も驚いたように言う
「正直私も調が許可するとは思わなかったのデス!」
「いやぁ……何か見てたら気の毒になってきちゃって……それにこの状態なら流石に馬鹿な事はしないと思ったので……」
「実際何もなかったデス!」
そんな会話をしていると、部屋をノックする音が聞こえて来た
「待たせてしまって申し訳ない」
部屋に入って来たのは弦十郎とクリスであった
共に大きな段ボールを抱えている
「では始めよう 早速だが、今回の件は誰が原因だね?」
「……私がキャロルちゃんにセクハラしたからです」
謳歌がばつが悪そうにそう答える
「そうか……他の皆は何か異論などはないかね?」
各々が大丈夫と意思表示をする
「そうか……謳歌君、君とはクリス君と同様5歳の頃からの付き合いになるが少し甘やかし過ぎたかもしれんな」
「だけど今回ばっかりは心を鬼にする事にした」
弦十郎とクリスの意図が分からず皆ポカンとしている
『謳歌(くん)お前(君)を更生させる』
「手始めにこれは全部処分する」
クリスはそう言うと、段ボールを開けて中身を机に並べる
「何これ……アルバムにSDカードにビデオカメラ?」
「高そうなカメラもあるね……」
それらを机に並べている間に、謳歌の顔はみるみる青くなっていた
「ちょっと、大丈夫ですか?」
調の問いかけに反応出来ないほどである
「中身見てみろよ」
クリスにそう言われ一同で中身を確認しようとするが謳歌が割って入って来た
「ちょっ!ちょっと待って!勘弁して!!」
「あっ!こらっ!」
飛び出した謳歌をクリスは羽交い締めにする
「いだだだ!!クリス痛い!!痛いって!!」
「大人しくしろっ!!」
謳歌を弦十郎に引き渡した、クリスは改めて皆に中身を確認させる
中にはおびただしい数の少女の写真や動画が入っていた
「予想はしてたけどすごいね……」
「私気持ち悪くなってきちゃったよ……」
「キモい!キモ過ぎるデス!」
一同批判の嵐であるがそれもそのはず、謳歌が所持していた写真やデータのほとんどがここにいるメンバーを盗撮したと思われる物であった
「極めつけはこれだ」
弦十郎が取り出した物は鍵がかけられていたであろう箱と、動画ファイルが記録されているカードであった
先程まで暴れていた謳歌の動きがピタリと止まった
「後は自分で話せ」
クリスに促されるも、謳歌は首を左右に大きく振る
「じゃあここで映像流すか?」
先程より激しく首を振る謳歌
「じゃあ話せ」
「……お風呂場」
一同絶句である
「まさかここまでとは……」
「う……気持ち悪くなってきた……」
「謳歌君、君も分かっているとは思うがここまでくるともう庇いようがない」
弦十郎が諭すように言う
「残念だが……謳歌君は今後暫く他の生徒との接触が禁止される、基本寮からの外出や他学年への出入り、初等科と中等科への出入りも禁止だ」
「……はい」
「……それと良い機会だから一度じっくりカウンセラーや校医の先生と面談を……」
「……ちょっと待って下さい」
弦十郎の言葉に調が割って入った
「……つまり何ですか?この人を隔離して更生させると?」
「まぁ……端的に言えばそうなるな……」
「それって変じゃないですか?」
調の言葉からは怒気が感じられた
「どっ、どうしたんだろ調ちゃん……」
「……あれは本気で怒ってるデス」
長い付き合いの切歌には分かる
「さっきから聞いてればまるでこの人が異常者みたいな言い方するんですね」
「まっ、待ってくれ調君!誤解だ!」
「そっ、そうだぞ調!私達はただ謳歌の事を更生させようと……」
弦十郎とクリスが慌てて言う
「また言った!!更生?そんな言葉使うって事は端からこの人の事異常者だって言ってるような物じゃないですか!!」
調は次第にヒートアップしていく
「なんでこの人の人格を全否定するような事しか言えないんですか!? 確かにこの人はどうしようもない位行動が意味不明ですけど? でもそこまで言わなくても言いじゃないですか!!」
まわりは呆気にとられている
「どうしよう……切歌ちゃん、止めないと……」
「いや……あれはもう言いたい事言うまで止まらないデスね……調はああ見えて頑固者デスから」
調はなおも続ける
「それにお2人はこの人と長い付き合いだってさっき言ってましたよね?」
「あっ、あぁ……5歳の頃からだからかれこれ12年程になるが……」
「だったら何でさっきみたいな言葉使ったんですか!!小さいころから、一緒にいた人達に自分を全否定されたんですよ!?どれだけそれが苦しいことか分かりますか!!?」
弦十郎とクリスは言葉が出ない
「調さん、その辺で(^-^)」
エルフナインが調の左手側に立つ
「調の言うとおりだ、俺はそのやり方には承服できない」
キャロルは右手側に立つ
「調さんが言った事も最もですが、そもそも欲求を抑圧して押さえ込められた試しはほとんどありません(^-^)」
エルフナインがいつものニコニコ顔で言う
「だから俺達なりのやり方でやらせてもらう」
キャロルがそう言うと、調はうつ向いている謳歌を引っ張る
「ほら!行きますよ!!」
「とりあえず今日から僕達が謳歌さんのルームメイトになりますね(^-^)」
「ちょっ!ちょっと!」
「早く歩いて下さい!!」
調達はそのまま謳歌を連れて行ってしまった
「しっ、調ぇ!置いてかないでデェェス!」
「響!行くよ!」
「ちょっ未来!うわぁ!」
後を追いかけるように切歌、未来、響が部屋からででいく
「……何やってるのよ弦十郎君?」
「了子君か……」
そこに居たのは高等科養護教諭の櫻井了子であった
「いつから聞いてたんだね?」
「うーん、調ちゃんが怒ったあたりかな?」
「そうか……」
「……だから忠告したじゃない、絶対上手くいかないって」
「あぁ……君の言うとおりだったな……」
2人の会話の隣で、クリスはいつの間にかへたりこんでしまっていた
「……大丈夫?」
「先生……私、間違ってたのかな……」
「今はまだ分からないわ、でもあなたが謳歌ちゃんの事大切に思ってるのは伝わったはずよ?」
クリスはいつの間にか泣いていた
シリアスな上長くなってしまいました・・・
次はもっと頑張ります・・・
次回はフランスにゆかり?のある3人組が登場予定です
感想、ご指摘ご意見なんでも構いません、お寄せ下さい
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増える罹患者
「ちょっ!ちょっと!?調ちゃんってば!」
「黙って着いて来て下さい!」
部屋を飛び出した調達は中等科の寮へと向かっていた
「ここって中等科の寮だよね?」
「うん……でも何で中等科の寮何かに……」
未来と響が思慮していると、寮から誰かがこちらに向かってくるのが見えた
「カリオストロさんこんにちは(^-^)」
「まぁエルフナインちゃん、今日もニコニコね」
出迎えたのは、中等科の寮監であるカリオストロであった
「おっ……お久しぶりです……」
「謳歌ちゃん……聞いたわよ?……クリスちゃんの事はサンジェルマンにお願いしてあるから安心して」
「すいません……」
カリオストロは謳歌をそっと引き寄せると優しく抱き締めた
「待たせたワケダ」
「プレラーティさんこんにちは(^-^)」
そこに現れたのは初等科の寮監、プレラーティである
「キャロル、また危ないことをしたワケダ?」
「うっ……説教なら止してくれ……耳にタコが出来る」
「あまりイザーク先生を心配させるなというワケダ」
プレラーティが来た所でカリオストロは皆を寮に招き入れる
「エルフナインちゃんから話を聞いた時は正直どうなるかと思ったわよ?」
「でもこうして言った通りになりました(^-^)」
2人の会話を聞いていた響は思わず体を震わす
「エルフナインちゃんって予知能力でも持ってるのかな……?」
「そう考えるとあの純真無垢な笑顔も恐ろしく見えてくるね……」
そんな話をしている内に目的地に到着したようだ
「ここが頼まれてた4人部屋よ」
「あっ、あの……4人部屋って一体……」
謳歌の質問に、エルフナインが答える
「謳歌さんさっきも話したじゃないですか(^-^)
今日から僕達はルームメートですよ(^-^)/」
「相変わらず用意が良いなお前は……」
キャロルが呆れたように言う
「もう用意が良いとか言うレベルじゃないよね……」
「驚きを通り越して恐ろしくなってきたデス……」
響と切歌と未来が改めて恐怖する
「ほら!何ぼーっとしてるんですか!入りますよ!?」
「うっ、うん……」
調に促され、謳歌は部屋に入る そこには4人分のベッドが置いてある
「とりあえず部屋は用意したから、荷物は各自で用意してね?」
「はい!ありがとうございました(^-^)」
「それと、転出届けを出していくワケダ」
「分かりました(^-^)/」
エルフナインが元気に返事をする
「しっ、調ぇ……私はどうすれば良いデスか?」
「切ちゃん……ごめんね?暫くこの人と一緒の部屋だから……」
切歌は不安げな顔で訴える
「調がいなかったら大変デス!朝1人で起きないといけないデスし、宿題だって1人でしなきゃデス!それにご飯は誰がつくるデス!調が居ないと飢え死にするデス!」
「お前は少し自分でする努力をしたらどうだ……」
キャロルが呆れたように言う
「キャロルも人の事言えないでしょ?着替え1人で出来ないのに(/。\)」
「おっ、俺の事は今関係無いだろ!?」
キャロルがエルフナインを非難する
「それじゃあ私達の部屋に来なよ切歌ちゃん!未来も良いよね?」
「そうだね、ベッドは私と響は一緒に使ってるから1つ空いてるしね」
「本当デスか!?ありがたいデス!」
そんなやり取りにキャロルはふと疑問を持つ
「ん……?今ベッド一緒に使ってるって言ったか?」
「そうだよ?それがどうかしたの?」
響が尋ねる
「いや……1人1つあるのにわざわざ2人で1つのベッド使ってるのか?」
「そうだけど……何かおかしいかな?」
「普通だよね?」
未来と響は首をかしげる
「私も切ちゃんとたまに一緒に寝るよ?」
「調はひんやりしてて気持ち良いデス!」
切歌と調も同調する
「おっ、俺がおかしいのか……?」
キャロルはそう言うと恐る恐る謳歌の方を見る
「えっ?私はクリスと一緒に……」
キャロルは固唾を呑んで返答を待っている
「寝たい……」
「たい……?」
キャロルはそう繰り返す
「いやぁ……去年までは一緒に寝てたんだけど……今年に入ってから一緒に寝てくれなくなっちゃって……」
「去年までって……お前らの体躯じゃ狭いだろ……」
「そうでもないよ?抱きついて寝るし……」
謳歌の発言に、キャロルが驚愕する
「抱きついてるのか……?」
「普通だよね?」
響が言う
「そうだね、普通だよ?」
「まぁ……切ちゃんもたまに抱きついてくるしね」
「あれ?そうだったデスか?まぁでも問題無いのデス!」
一同がそれに続くように話す
「やはり俺がおかしいのか!?間違っているのか!?」
キャロルが軽くパニックに陥っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた
「邪魔するわよ?」
「サンジェルマンさんこんにちは(^-^)」
「やぁエルフナイン、今日も良い笑顔だわ」
扉をノックしたのは、高等科の寮監であるサンジェルマンである
「謳歌……全くあなたって子は……」
「……ごめんなさい」
サンジェルマンは謳歌の頭を優しく撫でる
「カリオストロとプレラーティが荷物を運ぶの手伝ってくれるようだから行って来なさい」
「うん……分かりました……」
謳歌が行った後サンジェルマンは一同にお礼を言う
「みんな、あの子の為に色々してくれてありがとう」
「いっ、いえ……」
「そんなそんな……」
皆謙遜している
「私達ではあの子に厳しく出来ないからね……
同年代に君たちのような子が居てくれて本当にうれしいわ」
「あの……やけに皆さんあの人と親しげなんですが何かあるんですか?」
「まぁ……あの子達とは長い付き合いだからね、愛着がわいてしまって私達ではあの子を導けないのよ……」
サンジェルマンが憂いげに語る
「12年の付き合いで5歳の頃から、ですか?」
調が尋ねる
「よく知っているわね、誰からか聞いたの?」
「はい、風鳴先生がそう言ってました」
「そう……風鳴先生だけじゃなくこの学院のほとんどの先生は謳歌とクリスの事は自分の家族のようにおもっていると思うわ……」
そう言うサンジェルマンに、調は切り出す
「あの……差し支えなければ教えて頂けませんか?」
「そうね……あの子達の為にも、あなた達には知っていてもらった方が良いのかもしれないわね……」
そう言うとサンジェルマンは話を始めた
「まずクリスと謳歌のご両親の事についてだけど」
「そういえば……見たことないね、クリスちゃん達のご両親」
響が喋り終えるのを見計らいサンジェルマンは続ける
「えぇ、クリスと謳歌のご両親は海外にいらっしゃるのよ」
「なんとなく聞いた事があるデス、確かえぬじーおー?で活動してるって言ってたデス」
切歌は記憶をたどり会話を絞り出す
「えぇ、クリスのご両親は
セーブ・ザ・チルドレンで活動しているわ
謳歌のご両親、お母さんは国境なき医師団で、
お父さんの方は今はバルベルデの停戦監視団でPKO活動中って聞いてるわ」
「バルベルデって……最近まで戦争してた所ですよね?」
南米の軍事独裁国家であるバルベルデ共和国は、民主化を求める反政府組織バルベルデ民主解放軍との戦闘により、最近まで内戦状態にあった国である
戦闘により大量の難民が発生し、また政府軍側がハーグ陸戦条約で禁止されている生物兵器を使用した疑惑が広がっており、今世界で最も人道的危機に貧している国である
「今そこにクリス先輩達のご両親がいるんですか……?」
「そう聞いているわ」
政府軍側は解放軍側に劣勢を強いられ、押し出される形で隣国のガイアナ共和国と仏領ギアナの国境を侵犯、国家間の緊張が一気に高まった
これを受け国連は、安全保障理事会を召集 1973年のスエズ危機以来となる国連緊急軍の派遣を採択した
その後、政府軍側の内通者により大統領が暗殺され、解放軍側との停戦が合意された
停戦により、国連緊急軍はそのまま国連PKOバルベルデ派遣団へと移行され、現在は停戦監視 行政ミッション 難民支援等の活動を行っている
「なんだか全然考えが追い付かないよ……」
「それじゃあクリスちゃんと謳歌さんはご両親とは……」
「ほとんど会えていないわ」
重い沈黙が部屋を支配している 皆どう反応して良いか分からないといった様子だ
「まぁ……それでもクリスのご両親は年に何回か帰国しているわ、……問題は謳歌のご両親なのよ……」
「まっ、まさか12年間帰って来てないなんて言いませんよね……?」
調が恐る恐るサンジェルマンに尋ねる
「残念ながらその通りよ」
サンジェルマンの言葉に一同絶句する
「……12年間もパパ達と会えないなんて、僕だったら耐えられません……」
「そうだな……」
エルフナインは今にも泣きそうになっていた、キャロルも落ち込んでいる
「でっ、でも!ビザとかどうしてるんですか!?少なくとも日本には一瞬でも帰国しますよね?その時に少し時間とか作れないんですか!?」
調がサンジェルマンを問い詰める
「残念ながら、謳歌のご両親は日本人だが国籍はイギリスなんだ、だから日本には帰国しなくて大丈夫なんだよ……」
「そんな……」
サンジェルマンは続ける
「きっと寂しかっただろうに……現にクリスは時々寂しいって泣きじゃくったり癇癪を起こしたりしてたんだけど、謳歌は一言も寂しいなんて口にしなかったし態度にも見せなかったわ」
「謳歌さん……」
「あの子が9歳の時に一度聞いた事があるのよ、“寂しく無いのか”って
そしたらあの子なんて答えたと思う?“きっと私はいらない子なんだよ”って“もう顔も覚えてないし、どこかで元気にしてくれているならそれで良い”って
その時私達は決めたの、私達が出来る事は全てしようって、長い休みだとみんな実家に帰ったりするのだけど、帰る家のないあの子達の面倒は学院の先生達でしたのよ」
「だから皆さんあんなに親しげだったんですね……」
ポツリと調が言う
「だけど、謳歌は大人びた子だったから……まわりから浮いてしまってね……いつもクリスと一緒か、クリスがいない時は本当に1人ぼっちだったのよ」
「そうだったんデスね……」
「だからあなた達の事を聞いた時は本当に嬉しかったの、改めてあの子の事、よろしくお願いね……」
サンジェルマンは一同に深く頭を下げる
その時、ガチャっ!と扉を開ける音が聞こえた
「ただいまぁ……って何この空気……」
謳歌が部屋に戻って来た
「謳歌さん……」
「どっ、どうしたの!?エルフナインちゃん!そんなに泣いて……って!キャロルちゃんも泣いてるの!?」
2人はそのまま謳歌にすがりついて泣いてしまった
「……私、頑張りますから」
「へっ?調ちゃん!?」
調はそっと謳歌を抱き締めた
もうコメディタグ消そうかな・・・・
少し3人組の口調がおかしかったかもしれません・・・
次回はお人形さん達が登場予定です
次回も頑張ります・・
感想、ご意見何でも構いません お寄せ下さい
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菊理媛神
やっと明るめのお話に出来ました・・・
「何か騒がしいですね?」
「今日はお引っ越しだってカリオストロが言ってたゾ?」
会話をしているのは中等科3年のガリィ・トゥーマーンと、中等科2年のミカ・ジャウカーンである
「あら?2人ともどうしたのかしら?こんな所で?」
「どーも、1人リオのカーニバルさん」
「ガリィ……またそんな事言っちゃだめだゾ……」
ガリィの言葉を軽くスルーし、カリオストロは改めて質問する
「で?何してるの?」
「何だか騒がしいんだゾ」
「お引っ越しって、この中途半端な時に誰が引っ越してくるんですか?」
2人の言葉を聞いてカリオストロは以外な声をあげる
「あら?てっきりキャロルちゃん達から聞いてると思ってたのに、聞いてないの?」
「? 何でマスター達が出てくるんですか?」
ガリィが質問する
「何でって……今日引っ越して来るのはキャロルちゃん達よ?」
「聞いてないゾ……」
ミカが困惑しているとガリィが部屋の方に向かっていた
「まぁまぁミカちゃん、直接本人に聞いた方が早いですよ」
「それもそうだゾ」
扉を開けた2人の目に飛び込んで来たのは、泣きじゃくるキャロルとエルフナイン、それを抱き締めた謳歌の姿であった
「…………」
「泣いてるゾ……」
ガリィは暫く固まった後、はっ!と意識を取り戻すと声をあげる
「テメェ!!家のマスター達に何してんだこの変態野郎!!」
「うわぁ!ガリィちゃん!?」
謳歌は自分の置かれている状況を瞬時に理解した
「待って!ガリィちゃん誤解だから!!」
「うるせぇ!テメェ、遂に泣かせやがったな!?変態野郎!!」
「ガリィ!少し落ち着くゾ!」
怒鳴るガリィをミカがなだめる
「た、大変デス!しゅらばデース!!」
「と、止めないと!」
調がガリィと謳歌の間に割って入る
「ちょっと!少し落ち着いて下さい!」
「うるせぇ!毒舌ツインテール!!」
「なっ!?」
ガリィが発した言葉に、響は思わず吹いてしまう
「ふっ……!」
調が鬼のような形相でこちらに向かって来る
「響さん!?今笑いましたよね!?」
「いっ、いやぁ……笑ってないよ……」
なおも調は響に詰め寄る
「嘘です!絶対笑いました!!」
「ごっ、ごめんよ調ちゃん……」
未来と切歌が割って入る
「調ちゃん、私からも謝るから少し落ち着こう?ね!?」
「調ぇ!調まで喧嘩してどーするデスか!」
サンジェルマンとカリオストロも仲裁に入るが、部屋は大混乱に陥っている
「離せ!この馬鹿力ぁ!!」
「離さないゾ!」
暴れるガリィを、ミカが完全に押さえつけている
「キャロルちゃんでもエルフナインちゃんでもどっちでも良いから説明してぇ!」
謳歌は悲痛な叫びをあげる
「響さん!?前から思ってましたけど少し無神経過ぎじゃないですか!?」
「ごめんよぉ……調ちゃん……」
「調ぇ!いい加減にするデス!」
その時だった
「いい加減にしろぉ!!」
部屋に地鳴りのような声が響いた
「風鳴先生に緒川さん?」
「全く……何やってんだお前達は……」
「皆さん、少し冷静になりましょう」
そこに居たのは、風鳴弦十郎と警備室の緒川慎次であった
「風鳴先生、助かりました」
「いや、緒川から連絡があったので来てみたのですが、一体何があったんですか?」
「いやそれが気付いたらこんな騒ぎに……」
カリオストロとサンジェルマンが弦十郎に説明している
「一体何があった?ガリィ」
「げっ!?ファラにレイア……」
そこには緒川と同じ警備室所属のレイア・ダラーヒムと、ファラ・スユーフの姿があった
「2人とも聞いて欲しいんだゾ、ガリィったら話も聞かずに謳歌に襲いかかろうとしたんだゾ」
「この状況なら明らか黒だろうが!」
「だから誤解だってば……」
ファラとレイアは、キャロルとエルフナインを落ち着かせ、事情を尋ねた
「どうやらガリィの勘違いだったみたいですね」
「ガリィ、謳歌に謝るんだな」
ファラとレイアに促されるが、ガリィは黙ったままである
「ガリィ!ちゃんと謝んなきゃダメだゾ!」
「皆さん……私は気にしてないので……」
謳歌がそう言うと、ガリィは半ばやけくそ気味に言う
「あーはいはい!どうせガリィが全部悪いんですよどうせ!すいませんでしたねぇ!!」
そう言うとガリィは部屋を出ていってしまった
「あ!ガリィ!待つんだゾ!」
ガリィを追うように、ミカも部屋を出ていった
「謳歌、妹がすまない……」
「あぁ見えて優しい子何だけれども……」
ファラとレイアが申し訳なさそうに頭を下げる
「い、いえ!本当に私は気にしてないので……」
一方もう1つの喧嘩はと言うと
「調!響さんに謝るデス!」
普段温厚な切歌が、血相を変えて調を叱っていた
「切歌ちゃん良いって、実際私が悪いんだから……」
「調みたいな子はもう知らないのデス!」
そう言うと切歌はそっぽを向いてしまった
調はこの世の終わりのような顔をして呆然としている
「調ちゃん!いっつもごめんね」
響が先に切り出したのは、調が少しでも謝罪を切り出し易くするためであった
「調ちゃんごめんね?ほら、仲直りしましょう?」
響の意図に気付いた未来がすかさず援護する
「響さん……ごめんなさい……私、あそこまで言うつもりじゃ……」
調の声は震え、泣き出しそうであった
「大丈夫だよ!全然気にしてないから!ほら笑った笑った!」
「切歌ちゃんもほら!こっち向いて笑って笑って!」
未来は見ていた、切歌がそっぽを向いた時、とても悲しそうな顔をしているのを
「調……ごめんなさいデェス!」
「切ちゃん……ごめんね」
何とか喧嘩が収まって謳歌はほっとしていた
「ほら、そんな所に居ないで早くこっちに来るワケダ」
プレラーティが誰かを部屋に引っ張り入れる、それは見覚えのある銀色の髪であった
「クリス……」
「謳歌ごめん……私……」
泣き出しそうなクリスを謳歌は抱きしめる
「ごめんねクリス……」
「うん……」
謳歌は昔の事を思い出していた
(昔もよくこうやってたなぁ)
寂しさからよく泣いていたクリスを、いつも謳歌はなだめていた
その時決まって言っていた言葉をふと思い出したのだ
「ほら笑ってクリス、クリスは笑ってる顔が一番可愛いんだからさ」
「……バカ」
そう言うクリスは満面の笑みになっていた
やっとシリアスを脱却出来ました・・・
でも後半シリアスに引きずり込まれそうになってしまいました・・・
次回はモデルがヴァン・ヘルシングにも出てくるあの3人組が登場します
ご指摘や感想等、何でも構いません、お寄せ下さい
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約束≧羞恥
今回も明るめに書けたと思います・・・
引っ越しも無事?終わり、4人は夕食を準備していた
「へぇ、切歌ちゃんは好き嫌いとかないんだ」
「えぇ、私がつくるものは基本美味しいって言ってくれます」
調と謳歌は夕食を作っていた
「クリス先輩はどうなんですか?」
「クリスは好きな物しか食べないからなぁ……」
謳歌は困ったように笑う
「もう……ダメじゃないですか、きちんとバランス良く食べさせなきゃ」
「いやぁ、用意すれば嫌いな物でも食べるんだよねぇクリスは」
調は疑問を投げ掛ける
「? 食べるならそれで良いじゃないですか」
「いやぁ……食べた後ゲーゲー吐いちゃうんだよねぇ……」
2人の会話にキャロルが入ってくる
「吐くって……極端だな……」
「何かどうしても受け付けないんだってさぁ」
「それでも食べるんですか……」
謳歌は答える
「うん……“せっかく作ってくれたのに悪い”って言って食べてはくれるんだけどねぇ……」
「だから嫌いな物は作らないようにしたのか?」
「そういうこと」
「何かクリス先輩らしいと言えばらしいと言うか……」
そんな話をしていると、外出していたエルフナインが帰って来た
「戻りました〜(^-^)」
「エルフナイン、何処に行ってたの?」
調がエルフナインに尋ねる
「はい、ちょっとヴァネッサさんの所に(^-^)」
その言葉を聞いてキャロルはげんなりする
「おい……またあのクソ不味い物つくるつもりか?」
「もう!不味くないもん(`□´)!」
謳歌がフォローを入れる
「まぁまぁ……エルフナインちゃん、楽しみにしてるよ」
「はい!頑張ります(^-^)/」
そうこうしている内に夕食が完成した
「さぁみんな!いっぱい食べてね!」
テーブルに所狭しとならべられた料理にキャロルとエルフナインは目を輝かせる
「おぉ!美味しそうだな!」
「すごいです!まるでお子さまランチみたいです!」
喜ぶ2人をよそに、調は尋ねる
「何でお子さまランチなんです?」
「え?まぁ得意料理だし、喜ぶかなぁって
今日はお礼も兼ねてるから少し頑張ったんだ」
調はさらに続ける
「変わった得意料理ですね?」
「まぁ……得意料理って事は……ね?」
言葉を濁す謳歌 調はふと気付く
「あっ……もしかしてクリス先輩の……」
「そういうこと、内緒だよ?クリスに恥ずかしいから絶対誰にも言うなって言われてるんだからさ」
謳歌は笑いながらそう言う
「ふふっ、わかってます」
調も自然と笑みをこぼした
食事を終えくつろいでいると、湯沸し器が鳴った
「お風呂沸いたみたいだけどどうします?」
調が問い掛ける
「私は最後で良いよ?」
謳歌の言葉にキャロルが怪訝そうに言う
「いや……お前が最初に入れよ……」
「どうしたのキャロル?そんな顔して」
調が尋ねる
「いや……こいつが最後に入ったら“これが……幼女の残り湯……“とか言ってお湯とか飲みそうだなぁって……」
「まさか……いくら何でも流石にそんな事……」
調は謳歌の方を振り向く、謳歌はうつ向いている
「………………」
「ちょっと!?何黙ってるんですか!!そこは直ぐに否定して下さいよ!!」
怒鳴る調を背に、エルフナインが提案する
「それじゃあ皆で一緒に入りましょう(^-^)/」
エルフナインの提案に一同固まってしまった
「……何の冗談かな?エルフナイン」
「冗談だなんて、僕は大真面目ですよ(^-^)」
エルフナインは調にそう答える
「じょ、冗談じゃない!こいつの前で裸体を晒すなんて俺は絶対ごめんだ!!」
食い気味にキャロルが言う
「皆さん、何も僕は理由もなしに言ってるんじゃないんですよ(^-^)?」
エルフナインが説明を始める
「まずですが謳歌さん、誰かと一緒にお風呂に入った事ありますか?」
「? お風呂……そう考えると物心ついてからは無いかも……」
謳歌は答える
「でも、修学旅行とかで他の人と入った事位あるんじゃ……」
「そういう行事参加したこと無いんだよねぇ」
謳歌は答える
「何だよ……参加したことないって……」
キャロルが困惑しながら問う
「いやぁ、うちの両親さぁ、私が入学するとき12年間の学費一括で払ってったらしいんだよねぇ」
「12年間の学費を一括!?」
調とキャロルが驚愕の声をあげる
「ほら、修学旅行とかの旅費って積み立てとかその都度集めるじゃない?
旅費まで頭になかったみたいなんだよねぇ」
薄ら笑いを浮かべながら謳歌は言う
「嘘だろ……?」
「………………」
キャロルは驚き、調は押し黙っている
「いやぁ、先生達がお金出すとかって言ってくれたんだけど、流石に申し訳ないしさぁ」
なおも謳歌は続ける
「終いにはクリスが“私も行かない!”何て言い出してさぁ、大変だったんだよねぇ」
謳歌は笑っている
「そうだったのか……」
「…………」
なおも調は押し黙っている
「……調ちゃん?調ちゃんが怒る事じゃないよ」
「あっ……いえ、……すいません」
調に諭すように、謳歌は言う
「その顔、その時のクリスや先生達にそっくりだったからさぁ」
「……でも、納得出来ません」
謳歌は困ったように笑いながら、調の肩に手を回す
「いーの!で?続きをどーぞエルフナインちゃん」
謳歌はエルフナインを促す
「はい(^-^)では説明します」
エルフナインは説明を始める
「端的に説明すると、謳歌さんは女の子に慣れて無いんじゃないかと思います(^-^)」
「女の子に慣れてない……?」
エルフナインは続ける
「はい(^-^)まず謳歌さんが今みたいな言動を取りはじめたのはいつ頃でしたか?」
「……ちょうど1年前位……かな?」
「あぁ確かその頃からだな、急に俺達に絡みはじめたのは」
調とキャロルが答える
「その頃、何か今までと変わった事はありませんでしたか(^_^)?」
「1年前……あっ」
「何かあったんですか?」
何かに気付く謳歌
「ちょうどその頃からだなぁ、クリスがあんまり相手してくれなくなったの」
「恐らく原因はそれです(._)」
エルフナインは続ける
「恐らく……こういう言い方はあまりしたくありませんが、ご両親のようにクリスさんにも置いていかれると無意識に感じたんだと思います(._)」
「だが……どうして俺達なんだ?」
エルフナインはキャロルの問いに答える
「それは2人がクリス先輩に似ているからだと思うよ(^-^)」
「俺達が?」
「クリス先輩に似てる……?」
エルフナインは謳歌に尋ねる
「多分、昔のクリス先輩もこんな感じの性格だったんじゃないかと(^-^)」
「そう言われると……うん、確かにクリスに似てると思う……」
謳歌がそう答える
「多分クリス先輩に置いていかれるという恐怖から、無意識に謳歌さんが面識のある人の中で一番クリス先輩に似ている2人を選んだんだと思います(._)」
「そうだったのか……」
エルフナインは続ける
「あくまでもこれは僕の仮定ですから……もしかしたら本当に謳歌さんは女の子が好きなだけかもしれませんし、でも確かな事は謳歌さんはあまり同年代の子との関わりが薄いという事です
(^-^)」
「だから一緒に風呂なんて言ったのか……」
キャロルは納得したように答える
「で、でもね?エルフナインちゃん いきなり一緒にお風呂はちょっと……」
謳歌が慌てて言う
「駄目……ですか(._)?」
エルフナインはしゅんとしてしまった
「いっ、いやね?駄目って事は無いんたけどね!?少し心の準備をさせて欲しいというか……それに、調ちゃんとキャロルちゃんに申し訳ないというか……ね?」
(いや、テンパりすぎだろ……でもあんな話聞いた後だと断りづらいなぁ……)
キャロルはそんな事を考えながら調の方を見る
調はうつ向いて難しい顔をしている
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
一同沈黙してしまった
「よし!!」
調は突然大声を出すと、謳歌とキャロルを引っ張り、脱衣場に向かう
「ちょ!ちょっと調ちゃん!?」
(おいおいマジかよ!!)
調は脱衣場に入ると、勢いよく服を脱ぎ始める
「ちょ!ちょっと待って調ちゃん!」
「何ですか!!?私達はルームメートでただ一緒にお風呂に入るだけですから!!良いですね!!?」
調は言ってる間に下着も脱ぎさり、完全に裸になってしまった
「ひゃあ!!」
謳歌はとっさに目を瞑り、床に突っ伏した
「何してるんですか!?たかだかルームメートとお風呂に入るだけじゃないですか!!」
「ちょっと待って!せめて心の準備をさせてぇ!!」
キャロルが慌てて割って入る
「おい!一旦落ち着けって!」
「ていうか何でまだ服着てるのよ!!さっさと脱ぎなさいよ!!」
「はっ!はいぃ!!」
調の剣幕に押され、キャロルも服を脱ぐ
「キャロルちゃんまで!?やっぱり無理ぃ!!」
「何でそんな事ばっかり言うんですか!!私だって恥ずかしいのに!!頑張ってるのに!!」
調が謳歌に叫ぶ
「! ごめん調ちゃ……!!」
思わず目を開けた謳歌の目に、調とキャロルが飛び込んで来た
「しまっ……!」
「目をそらすな!!つむるなぁ!!次そらしたりつむったりしたら私、あなたに強要されたって言ってこのまま外に出ますからね!!」
調の手によって謳歌の頭はがっちり固定されている
(うぅ!!全部見えちゃってるよぉ!!)
謳歌の頭はショート寸前である
「良いですか!?私も出来る限りの事はしますから!!あなたも努力して下さい!!良いですね!?」
「は……い……」
謳歌はあまりの羞恥に気絶してしまった
「助かった……」
「ぜっ、全部見られた……上から下まで全部見られた……」
調は恥ずかしさから顔を真っ赤にしている
「おっ、おい……なんというかその……」
キャロルが言い澱んでいると、調はまたしても大声をあげる
「よし!!もう恐れる事は何も無い!!頑張れ調ぇ!!」
自分に言い聞かせるように、調は決意した
次回はきちんと例の3人組を出します・・・
これは明るいお話で大丈夫ですよね・・・
ご意見ご指摘、感想等何でも構いません、お寄せ下さい
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中臣宅守
始めに、お気に入りにしてくれている方々、
評価をつけてくださっている方々、
感想を寄せてくださった方々、
本当に励みになります、ありがとうございます
「あはははは!」
大笑いしているのは、高等科2年のミラアルク・クランシュトウンである
「そんなに笑わないでよミラアルクちゃん……」
謳歌は抗議する
「いやぁ、だって月読ちゃんの裸見て気絶するって、もう笑うしかないでしょ」
「だって……本当に丸見えだったんだよ?」
謳歌は恥ずかしそうに言う
「で?どーだったんすか?隅々まで見たご感想は?」
「ふぇ!?どうって言われても……」
謳歌の顔はみるみる赤くなる
「先輩って言動の割にはこのての話本当駄目っすよね〜」
「うぅ……」
謳歌は反論出来ない
「でもだからうちの所に来たんすよね?」
「……はい」
謳歌は答える
「では失礼します……」
「どーぞー」
謳歌はベンチに座るミラアルクの顔をベタベタと触る
「何か今日はいつもよりねちっこい触り方しますねー」
「そ、そうかな……」
頬を撫でてみたり、つまんだり、耳たぶを触ったり、頭を撫でたりとはたから見るとかなり危険な構図である
「今日も良い匂い……」
「それはどーも」
終いにはうなじに顔を埋め匂いを嗅ぐ
「……ありがとうねミラアルクちゃん、ミラアルクちゃんが居なかったら今頃発狂してるかもしれないよ……」
「別にいーですよ?先輩の話聞くの面白いですし」
そんな2人を影から覗く小さな人影が1つ
「大変なのです……ミラアルクがピンチであります」
初等科6年のエルザ・ベートである
「あれが噂に名高い変態さんですね……何とかしなくては……」
「およ?エルザじゃないデスか、何してるデスか?」
切歌は木陰に隠れているエルザに声をかける
「暁さん……あれを見て欲しいのであります」
エルザは指を指す
「あの変態……懲りずにまたあんなことしてるデスか!」
「暁さん、ミラアルクを助けるのを手伝って欲しいのであります」
エルザが切歌に依頼する
「分かったデス!」
切歌は二つ返事で了承する
そんな2人の近くを、ガリィとミカが通りがかる
「ガリィ!今日こそきちんと謝るんだゾ!」
「分かりましたってば、うるさいですねぇ」
そんな2人に切歌は声をかける
「ガリィとミカも手伝って欲しいのデス!」
「うわ!急にビックリするゾ!」
切歌は2人に事情を説明する
「話は分かりましたけど……私今からそいつに謝らなきゃないんですが?」
「まずはこの箒で頭をスパーんとデスね……」
切歌はガリィの話を聞いていない
「だからぁ!今からあの変態に謝らなきゃなんねぇって言ってんだろぉがぁ!!」
「お静かに!気付かれてしまいます!」
イラつくガリィをエルザがいさめる
「怪我してるのに頭を叩いちゃ駄目だゾ……」
「そういえば鼻を骨折してたデスね」
ミカが切歌に指摘している
「怪我をしている方に攻撃するのはいけないのであります」
エルザも同調する
「じゃあどうするんだよ!?面倒くせーな!!」
「まぁまぁ、そんなにイライラしてると身体に悪いデス」
切歌の一言にガリィはさらにイライラする
(誰のせいだと思ってんだぁ!この金髪はぁ!!)
「うーん、困ったデス……」
一同は考える
「なぁなぁ、今あの人は何でマスター達と同じ部屋なんだゾ?」
ミカが質問する
「そうデスね、なんだかあの変態をどうにかするとかどうとか言ってたデス」
「じゃあ動画でも録ってマスター達に見せるとか言えば良いじゃないんですか?」
ガリィが面倒そうに言う
「ナイスアイディアなのデス!」
そう言う切歌の後方から人影が2つ
「こら!何をしているんだ!」
切歌と調の担任の藤尭朔也と、高等科で化学の教科を担当するヴァネッサ・ディオダディである
「ふっ、藤尭先生デェス!!」
「切歌ちゃん、今は掃除の時間じゃないか?」
切歌はお説教を受ける
「エルザちゃん?何をしていたの?」
「ヴァネッサ!ミラアルクがピンチなのであります!」
エルザは謳歌達の方を指差す
「あぁ……あれは良いのよ……」
「? どういう事でありますか?」
エルザはヴァネッサに尋ねる
「良いのよ、あれは両者の合意の元行われている事だから」
「そうなのでありますか……」
エルザは腑に落ちないものの、素直に従いその場を離れる
「良いかい?分かったなら掃除に戻るんだ」
「ごめんなさいデス……」
お説教を受けた切歌は、しゅんとしながら掃除に戻る
「君たちは何をしているんだい?」
藤尭がガリィ達に尋ねる
「私達は……」
「いやぁ?特に何でもありません」
ガリィはそう言うと、ミカを引っ張りその場を離れる
「あ、ガリィ!」
「今はやめときましょ、面倒事に巻き込まれますよ?」
その場を離れるガリィ達を見送り、ヴァネッサは改めて謳歌達の元に向かう
「こんにちは、謳歌ちゃんにミラアルクちゃん」
謳歌はヴァネッサに気付き、慌てて身を翻す
「ヴァ、ヴァネッサさん!?こ、これはその……」
「良いのよ謳歌ちゃん、それより2人にお願いがあるのだけれど」
謳歌をスルーし、話を続けるヴァネッサ
「これをエルフナインちゃんに届けて欲しいのだけれど」
ヴァネッサは持っていた段ボールを手渡す
「何だこれ?結構重いゼ?」
「藤尭先生、後はこの子達にお願いするので」
ヴァネッサは藤尭から段ボールを受けとるとお礼を言う
「じゃあ謳歌ちゃんはこっちをお願いね」
「あっ、はい……」
ヴァネッサは2人を送り出した
「ヴァネッサさん、良かったんですか?あの2人に頼んで……」
「大丈夫ですよ、特に危険な物とかでは無いので」
ヴァネッサはそう答える
「いや…… そっちじゃなくて、確かミラアルクちゃんって……」
藤尭はヴァネッサに問う
「良いんですよ、あれはあの子がそう望んだことですから、私達がどうこう言う事では無いですよ」
「そうですね……」
日がくれ始めていた
「それにしても重いね……何が入ってるんだろ?」
謳歌とミラアルクは寮に向かっていた
「あっ、謳歌さーん(^-^)/」
そこにエルフナインが通りがかる
「ミラアルクさんこんばんは(^-^)」
「おうエルフナイン、今日も楽しそうだぜ」
謳歌達はヴァネッサから預かった荷物を、エルフナインに見せる
「エルフナインちゃん、これヴァネッサさんから何だけど……」
「あっ!追加のですね(^-^)」
エルフナインはどこかいつもよりニコニコしているように見える
「それじゃあお部屋までお願いします(^-^)」
謳歌達は部屋まで2つの段ボールを運びいれる
「これでやっと完成出来ます(^-^)」
エルフナインは2人にお礼を言う
「ありがとうねミラアルクちゃん」
「いーえ、別にこれくらいどーてこと無いんで」
その時、ガチャリとドアを開ける音が聞こえた
「帰りましたー あれ?お客さんですか?」
「ただいま」
どうやら調とキャロルが帰って来たようである
「お帰り、調ちゃんにキャロルちゃん」
「邪魔してるゼ」
その背後から大きな音が聞こえた
「なっ、何だよこれ!!」
目をやると、キャロルがしりもちを付いていた
「どうしたのキャロル!?」
調がキャロルに駆け寄る、鞄から荷物が散乱している
「もう……ほら立って?一旦どうしたの?」
キャロルは指を指す、謳歌達が持ってきた段ボールである
「何であんなもんがこんなにあるんだよ!!」
「何だろうこれ、粉……?」
謳歌達が持ってきた段ボールの中には、小瓶に詰められた大量の白い粉が入っていた
「エルフナインちゃん、これ何なの?」
謳歌がエルフナインに尋ねる
「これはですね、5つの味覚を粉末状にしたものなんです(^-^)」
「5つの味覚を粉末に……?」
言葉の意味が分からず、皆ポカンとしている
「はい!!これは廃棄される食材から抽出した甘味・苦味・酸味・塩味・うま味の5つの味覚を粉末状にしたものなんです(^-^)」
「……それで何を作っていたの?」
エルフナインは懐からごそごそと小瓶を取り出す
「まだ試作品ですけど食べてみて下さい(^-^)」
見た目には角砂糖に近い物を3人は受けとる
「どうぞ!!食べてみて下さい(^-^)/」
「それじゃあうちから頂くゼ!」
ミラアルクはためらいなく口にする
「どうですか?ミラアルクさん……」
「どう?ミラアルクちゃん……」
調と謳歌が恐る恐る尋ねる
「……茶碗蒸しの味がするゼ」
『えっ?』
2人は顔を見合せ、恐る恐る口に入れる
「……本当だ」
「茶碗蒸しの味がしますね……」
3人の意見を聞き、エルフナインは歓喜の声をあげる
「本当ですか!?やりました!!この組み合わせは成功です(^o^)」
見たことない程エルフナインは喜んでいる
「エルフナイン?成功ってどういう事かな……?」
「はい!この5つの粉を配合して食べ物の味に近づけていたんです(^-^)/」
エルフナインはそう言うと、キャロルの元に駆け寄る
「キャロル!成功したよ?ほら食べて(^-^)」
「うぅ!!嫌だぁぁ!!もうそんな物絶対食べないぞ!!」
キャロルはこれでもかと拒否をする
「キャロル、そこまで嫌がらなくても……」
調がキャロルに言う
「うるさい!!毎日毎日味見と称して美味いか不味いかも分からない得体のしれない粉の塊を1日何十個も食わされ続けた俺の気持ちが分かるか!!」
「今度は大丈夫だってば(`□´)」
エルフナインはキャロルに馬乗りになり、それを無理矢理口に入れようとしている
「キャロル!暴れないで(`□´)」
「うるさい!離せこの悪魔ぁぁぁ!!」
「ちょ!ちょっと2人とも!!」
やがて取っ組み合いの喧嘩になってしまった為、調が慌てて止めに入る
「あぁ……大変だ……」
止めに入ろうとする謳歌を、ミラアルクは引き留める
「先輩……」
ミラアルクの首からは、高価そうなカメラがぶら下がっていた
「あぁごめんごめん、忘れてたよ」
ミラアルクは謳歌を写真に収める
「本当ありがとうねミラアルクちゃん……どうしても人肌恋しいときがあってさ……」
「別にいーですって、うちもこうして報酬ありますし」
そうミラアルクは言う
「てかまだ雪音先輩と仲直りしてないんすか?もう1年位たちますよね?」
「うん……仲直りというか、原因がわからないというか……本当急にこのての事してくれなくなっちゃってさ……別に日常生活では普通なんだけどね……」
謳歌は続ける
「でもいくら趣味でも練習用の被写体が私なんかで良いの?もっと絵になるような子いっぱいいるのに」
ミラアルクはぼそっと呟く
「いや……むしろ先輩じゃないと駄目っていうか……」
「ん?ごめん、何か言った?」
謳歌は尋ねる
「いっ!いや!何でも無いっす!それじゃあうちはこの辺で失礼します!」
「あっ!ミラアルクちゃん!」
ミラアルクは駆けて行く
「気を付けてねー!」
謳歌はミラアルクを見送る
すっかり周りは日が落ちていた
どうも私は話を重くしてしまう
傾向にあるようです・・・
次回はウクライナ出身の彼女が凱旋する予定です
ご指摘、質問、感想等々何でも構いませんお寄せ下さい
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Fortuna
「一大事デース!!」
「うわ! どうしたの? 切歌ちゃん」
切歌が突然大声をあげる
「マリアが帰って来るデス!!」
「本当!? 良かったね切歌ちゃん!」
マリア・カデンツァヴナ・イヴは風鳴翼、天羽奏と並ぶリディアン出身のトップアーティストである
現在アメリカで風鳴翼、天羽奏と共に活動している
「でもよく休みが取れたね、忙しいのに」
未来が発言する
「翼さんと奏さんも近いうちに一旦帰ってくるって書いてあったデス!」
「本当!? 楽しみだね!」
切歌は思い出したように言う
「こうしちゃ居られないデス! 調にもこの事を伝えて来るデス!」
「あっ! 切歌ちゃん!?」
切歌はそのまま行ってしまった
「調ぇ! 一大事デース!!」
切歌は勢いよく寮の部屋のドアを開ける
「うわっ! びっくりした……」
部屋には謳歌が居た
「なんだあなたデスか……調は居ないんデスか?」
「調ちゃんならエルフナインちゃんとキャロルちゃんと一緒にお買い物だけど……」
謳歌が答える
「そうデスか、調は居ないんデスか……」
「良かったら部屋で待つ……?」
謳歌が提案する
「変態と2人っきりなんて御免なのデス!」
切歌は食いぎみに拒否する
「そ、そうだよね……」
「当たり前なのデス!」
沈黙の後、切歌は異変に気づく
「? どうしたデスか……?」
謳歌が固まって動かない、よく見るとポロポロ涙が流れている
「!? な、何で泣いてるデスか!?」
「ご、ごめんね? 何でも無いから……」
謳歌はそう答えるも、涙は止まらない
「ごっ、ごめんなさいデス! 私が強く言ったからデスか?」
「ちっ、違うのっ、切歌ちゃん、の、せいじゃっ、ないっ、からっ」
謳歌は益々ぼろぼろ泣いている
『ただいまー』
調達が帰ってきた
「切ちゃん? 何してるの……? !?」
調が目にしたのは、ぼろぼろ泣く謳歌とあたふたしている切歌の姿であった
「しっ、調!? 違うんデス! これには訳が!」
切歌が慌てて調に言う
「一体何があったの!?」
調は謳歌に駆け寄る
「わ、分からないのデス! いつもの調子で話してたら急に泣いてたデス……」
困惑する一同、そこにクリスが現れた
「遅かったかぁ……」
「クリス先輩? どうしてここに……」
クリスはゆっくり謳歌に近づくと、あやすような口調で語りかける
「大丈夫だ……大丈夫だから……」
そのまま謳歌を抱きしめる
「ごっ、ごめん、なっさいっ、ごめんなっ、さいっ」
謳歌は泣きながら言う
「大丈夫……大丈夫だ……」
謳歌が泣き止むまで、暫くの時間を要した
「本当にごめんね……」
謳歌は一同に頭を下げる
「あの……本当にどうしたんですか……?」
調が尋ねる
「うん……不定期でなんか涙もろくなっちゃうんだよね……」
「確か高等科にあがった位からだよな?」
クリスが尋ねる
「うん……確かそれくらいだったと思う……」
謳歌が答える
「一回お医者さんに診てもらった方が良いんじゃないデスか……?」
「いや、ウェル先生に診てもらった事あるんだけど、多分ストレスだろうって……」
「あの医者の言う事真に受けて大丈夫なのか……?」
キャロルが怪訝そうに言う
「とにかくよくあることだから……ごめんね迷惑かけて……」
「お前らにそれを伝えようとしたんだが……間に合わなかった」
クリスと謳歌は申し訳なさそうにしている
「分かりましたけど……次からはちゃんと私達にも伝えておいて下さい、ビックリします……」
調が言う、すると思い出したように切歌が言う
「そうデス!調!一大事デス!!」
「マリアが帰って来るんでしょ?」
調が答える
「どうして知ってるデスか!?」
切歌は驚き尋ねる
「切ちゃん……私にもマリアから連絡は来るから……」
「よく考えてみればそれもそうデス!」
切歌は納得したように答えた
1週間後、とうとうマリアが帰って来る日である
「なんだか緊張するのデス!」
部屋に装飾を施しながら、切歌は言う
「そうだね、久しぶりだもんね」
料理を作りながら、調も切歌に同調する
「ていうか私は居て良いのかな……?あんまり接点無いのに……」
「そこそこ知り合いなんだから良いだろ」
謳歌の問いに、クリスが答える
「謳歌さん、お祝い事は大勢の方が楽しいですよ(^-^)」
「エルフナインの言うとおりだ」
キャロルはエルフナインに同調する
「わぁ……!おいしそう……!」
「響?つまみ食いしちゃだめよ?」
響は所狭しと並べられる料理に、目を輝かせる
(やっぱり私は場違いなのでは……)
正直謳歌はあまりマリアと話した事はなかった
クリスが仲が良かった為よく一緒に行動していたものの、特別仲が良いと言うわけではない
(やっぱり何か適当に理由つけて、参加は遠慮しよう……)
謳歌がそんな事を考えていると、部屋をノックし扉を開ける音が聞こえた
「失礼するわ、……皆久しぶりね」
「マリアデース!!」
謳歌が出ていく前に、マリアが到着してしまった
「クリス、あなた全然身長伸びてないわね?」
「うるせぇ!余計なお世話だ」
皆思い思いの言葉をかけている
(あぁ……やっぱり参加しない方が良かったかなぁ……)
謳歌は少し離れた所で見ていたが、ふとマリアと目があい、とりあえず会釈をすると、マリアはにこやかに笑顔を返した
「お腹空きました!早くごはんにしましょう!」
「あなたも相変わらずね」
響の発言に、マリアは微笑む
「それじゃあ乾杯デース!」
『乾パ〜イ』
切歌の音頭で乾杯し、パーティーは始まる
「でもよく休みが取れたねマリア?」
「えぇ、丁度財団の日本支部に来なければならなかったのよ」
マリアの出身であるウクライナは、親欧派と親露派の対立が激化し、首都キエフにて親露派の大統領の改憲に対し、弾劾を求めるデモ隊と治安部隊との間で衝突が起き、多数の死傷者を出す事件があった
その事件により大統領は失脚し、後に民間人殺戮に対する“人道に関する罪”により、国際刑事裁判所により国際指名手配された為、ロシアに亡命したとされる
その後親欧派による新政権が樹立させるも、新露派が多数を占める東部で抗議デモが多発し、3つの地域でウクライナからの独立が宣言された
政府側は独立を認めず、デモ隊鎮圧の為に軍を動員したが、独立を支持するロシアが軍事介入し、ウクライナ東部で紛争状態に陥った
多くの難民が発生し、また陣営問わず、医療施設や民間人が攻撃される被害が報告されている
マリアはこのような状況を憂い、財団を設立した
寄付金や、自らの収益を紛争被害にあった人々の為使用し、支援を続けている
「でも本当に懐かしいわ、先生方もお変わり無い見たいだったし」
パーティーを始めて暫くたった頃、響がふとマリアに尋ねる
「マリアさんって何で歌手になろうと思ったんですか?」
「あっ、それ私も聞きたいと思ってたの」
調も同調する
「いいけど、あまり面白い話じゃないわよ?」
『大丈夫です』
一同の了承が取れた所で、マリアは語りだす
「まず、私の母と祖母はキエフのプリピャチというところに住んでいたのだけれど……大きな事故があって今は入る事が出来なくなっているわ」
「大きな事故?」
皆ピンと来ていないようであった
「プリピャチって事は……避難されたんですね……」
謳歌だけは、そこで何が起きたのか理解していた
「あら、詳しいのね?えぇ、その通りよ」
マリアは少し驚いたような素振りを見せたが、続ける
「色々な所を転々としたと聞いているわ、それで最終的にたどり着いたのが、クロアチアのプレヴラカという所よ」
「えっ……大丈夫だったんですか……」
謳歌は尋ねる
「本当に詳しいのね?えぇ、母達が来たときにはもう既に停戦していたらしいわ」
クロアチアのプレヴラカ半島は隣国、旧ユーゴスラビア連邦共和国との境界にあたる地域である
クロアチアは旧ユーゴスラビアからの独立を求め、紛争に陥っていた
プレヴラカ半島は両国の軍事戦略上重要な地域であった為和平協議の際、緊張緩和の為非武装化された地域である
「プレヴラカに着いて直ぐに祖母が、その2年後には母も亡くなってしまったの、2人とも癌だったわ」
一同静かに話を聞いている
「私達は孤児になってしまったのだけれど、その時面倒を見てくれたのが日本人のご夫婦だったのよ
そのご夫婦に日本語と英語、そして歌を教わったの
奥さんがよく口ずさんでいた歌があってね?私達姉妹はその歌が大好きだったわ」
「マリア!聞いてみたいデス!」
切歌がリクエストする
「そうね……少しだけよ?」
マリアは静かに歌い始める
「♪〜〜〜〜」
(何だろう……すごく懐かしい感じがする……)
謳歌は歌を聞きながらそんな事を考えていた
「とっても綺麗な歌だね響……」
「そうだね未来……」
皆思い思いの感想を口にする
「その後日本に行ける事になってこの学院に入学して考えたの、私の歌で苦しんでいたり悩んでいる人を勇気づける事が出来ればって、これが私が歌手になった理由よ」
「良い話だね」
調が言う
「それじゃあマリアさんが歌手になったのは、その日本人のご夫婦の影響が大きいんですね」
「えぇ、私達にとってあのお2人は恩人だわ、たしかお名前が……珍しい書き方をする名字なのだけれど……」
マリアにキャロルが尋ねる
「どんな字なんだ?」
「えぇ、確か……」
マリアは紙に字を書いていく
「こう書いて“謡詠吟〔うえぎ〕”って読む方なのだけれど……」
「嘘……」
謳歌は、全身が総毛立つような感覚を感じた
難しいお話になってしまいました・・・
なんかもう全然コメディじゃなくて
申し訳ないです・・・
次回も頑張ります・・・
ご指摘、ご質問、感想等々、何でも構いません、
お寄せ下さい
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Δεῖμος
謳歌は全身が総毛立つような感覚を感じた
「? 皆どうしたの……?」
マリア以外の全員が固まってしまった
ガシャン!
後ろで何かが割れる音が聞こえた
「あっ……悪い……」
キャロルが手を滑らせ、コップを割ってしまった様だ
「大丈夫!?」
マリアが立ち上がり駆け寄る
「大変!指切ってるじゃないの!」
その言葉を聞いた謳歌は、反射的に動いていた
「見せて」
謳歌は、メディカルキットを取り出し手当てする
(すごく手際が良いわ……)
マリアがそんな事を考えていると、不意に謳歌が話かける
「それにしても珍しい名字ですね!そのご夫婦!」
「えっ、えぇ、私もその時以来お会いしてはいないのだけれど、お元気にしてるかしら……」
「……少なくとも死んではいませんよ、
きっと……」
謳歌の言葉を聞き取れずに、マリアは聞き返す
「ん?ごめんなさい、今なんて……」
「きっとお元気ですよ!」
マリアはふと思う
(この子、こんなにハキハキ話す子だったかしら……)
「はい、これで大丈夫」
謳歌はキャロルの手当てを終える
「あっ、あぁ……悪いな」
妙な緊張感が、部屋に漂っている
「さぁ皆!名残惜しいけど夜も遅いしそろそろお開きにしよ!」
「そっ、そうですね!ほら響も沢山食べたんだから片付け手伝って?」
謳歌の問いかけに未来が答える
「あの……」
調が謳歌に何か言おうとしている
「調ちゃん、大丈夫だから」
謳歌はそう言うと、台所に行ってしまった
「皆今日はありがとう、本当に楽しかったわ」
「マリア!折角だから泊まって行くデス!」
別れ際、切歌がマリアに提案する
「ありがとう切歌、でも今日中に飛行機に乗って帰らないといけないの」
「そうデスか……残念デス……」
切歌はしゅんとしている
「また帰って来るわよ」
マリアは優しく切歌の頭を撫でる
「マリア、また連絡するから」
「調も元気でね」
マリアは皆それぞれに言葉をかけると、部屋を後にする
「行っちゃったデス……」
ふと未来が異変に気付く
「謳歌さん……?」
謳歌が胸を抑えながらフラフラしている、呼吸も早くなっているように見える
「おい!謳歌!?」
クリスが慌てて謳歌に駆け寄り、身体を支える
「ごめっ、だいじょっ、ぶっ、だかっ、ら……」
謳歌はそう答えるが、益々呼吸が早くなって苦しんでいる
終いには、そのままクリスに身体を預けるように倒れこんでしまった
「謳歌さん!!」
「響さん!誰か呼んできて下さい!」
「わっ、分かった!!」
依然謳歌の呼吸は乱れ、苦しんでいる
「おい!謳歌!しっかりしろ!」
5分後、響が戻って来た
「ウェル先生、早く!」
「はぁはぁ……一体なんだって言うんだ」
響はウェルの腕を引っ張り、部屋に引き入れる
「!? ……いつからこんな状態だ!?」
「5分位前からです!」
ウェルは謳歌の隣に腰をおろす
「アナフィラキシーでは無いな……おい!聞こえるか!?」
ウェルは謳歌に問いかける
「今君は過呼吸の状態だ、応急処置は自分でわかるな!?」
謳歌は微かに頷く
「謳歌!謳歌!!」
クリスは若干パニックになっていた
「おい!側にいる君がそんなのでどうする!今一番苦しいのはこの子なんだぞ!」
ウェルの一喝に、クリスは目を据え、謳歌に声をかけ続ける
「そうだ、ゆっっくり息を吐くんだ」
20分程経つと、謳歌の呼吸は正常に戻った
「良かった……」
一同胸を撫で下ろす
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
謳歌はうわ言の様に呟いている
「大丈夫だ、大丈夫だから……」
クリスは謳歌を抱き抱え、ベッドに運ぶ
「今日はこのまま寝かせておくんだ」
謳歌をベッドに運んだ後、一同はウェルに事情を説明した
「ってことがあって……」
ウェルは苦虫を潰したような顔をしている
「チッ、面倒だな……」
「先生……」
ウェルはクリスに尋ねる
「何故もっとよく注意しなかった?」
「はい……」
「彼女にとって両親の話題はタブーだ、こうなる事は予想出来たはずだ」
ウェルはさらに続ける
「君だって覚えているだろう……12年前、彼女の両親が一度だけこの学院に来たときの事を……」
クリスは押し黙っている
「あの……」
「何だね?」
調がウェルに問いかける
「その話、詳しく聞いても良いですか……?」
「……まぁ良いだろう」
ウェルは語りだす
●
「もう帰られるんですか……?まだ1週間ですよ?」
新築中の校舎の1角、既に完成している教室棟の一室に、風鳴弦十郎と謡詠吟謳歌の両親の三者がいる
「申し訳ありません、次の任地が決まっているんです」
父がそういった、謳歌は今、教室の戸の外でクリスと共に聞き耳を立てている
「なー、おーか、おじさん達なにはなしてるんだ?」
「しー、クリス静かにしてて」
1週間前に両親が突然帰ってきた、それまで謳歌は両親にあった事はなく、両親の写真や仕事について弦十郎から聞いていた
「……お仕事がお忙しいのは理解しています、しかしもう少し何とかならんのですか……?」
「申し訳ありません……あの子をお任せしたきりになってしまって本当に感謝しております」
母がそう言うと、父も一緒に頭を下げる
「おーか、はやくおてがみわたしてあそぼーよ」
謳歌は両親に宛てた手紙を持参していた
「次はどちらに?」
「はい、2人ともクロアチアです」
父がそう言うと、母が続ける
「私はザグレブに、彼はプレヴラカ半島の武装解除監視団へ従軍予定です」
母は話終わると、意を決したように弦十郎に問いかける
「1つお聞きしたい事があります……」
「何でしょうか?」
母が口を開く
「あの子は、私達の事を恨んでいるでしょうか……」
「なっ、何を言ってるんですか!!」
弦十郎が大きな声を出す
「1週間一緒に過ごしました……あの子が何を考えているのか分からないんです……」
扉越しに、母が泣いているのを謳歌は気付いた
「何か欲しい?どこかに行きたい?と聞いても、いつもあの子は“大丈夫です”って言うんです
いつも敬語で話をするんです……
あの子が唯一私に望んだ事が“怪我をした時の応急処置の仕方を教えて欲しい”って……
きっと私の事を恨んでいるんです……
だから当て付けの様にあんなことを望んだんです……
……最後まで“お母さん”って呼んではくれなかった
あの子が何を考えているのか分からない、恐ろしいんです……」
「奥さん!考え過ぎです!第一まだ初めて会って1週間しか経っていないんですし……」
弦十郎がフォローを入れる
「……私はろくにあの子に母親らしい事を出来て居ません、こんな思いをさせてしまう位なら、あの子を産んだのは間違いだったのかもしれません……」
「おい君!」
父が母を諌めるように言う、そして弦十郎はまた大声をあげた
「おいあんた!いくらなんでも言って良い事と悪い事があるだろ!!」
謳歌は持っていた筆箱を落としてしまう
ガシャン!
静寂に包まれた校舎の廊下に、大きな音が響きわたる
「おーか、おちたよー?」
クリスの言葉に謳歌は反応しない
「おーか!おちたってば!」
その時、ガラッ!と扉が開く
「謳歌……?」
父と母であった
「謳歌……まさか今の話を……」
謳歌は激しい息苦しさを感じていた
「謳歌!違うの!私がどうかしていたの……!」
母は謳歌に手を伸ばす
謳歌は反射的にその手を払ってしまう
「謳歌……?」
「ごめんなさい……」
謳歌の息苦しさは頂点に達していた
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
謳歌は踵を返すと、全速力で駆け出した
とにかくこの場から一刻も早く離れたかった
このままでは息が出来なくなって死んでしまう
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
とてつもない恐怖を、謳歌は感じていた
●
「その後僕の所に駆け込んで来てね、まぁその時も過呼吸の状態だったんだがね、あれ以来両親の話題が出るといつもこうだ」
ウェルがため息混じりに言う
「それ以来、あの子は口癖のように“ごめんなさい”“大丈夫”と言うようになったんだ
無意識の内に我慢する事を覚えてしまった
そして、自分の心を騙し続けた結果がこれだ」
「……どうにかならないんですか?」
調が尋ねる
「まぁこのままの状態が続けば、間違い無く最初に心が壊れるだろうね」
「そんな……」
一同は押し黙っている
「まぁストレスを極力掛けないようにする事が1番だな、後はあの子が出来なかった事、したい事をさせるのが良いだろう、無意識とは言え今までの“我慢”は相当な物だろうからね」
ウェルの言葉に、一同思慮する
「あの……提案なんですが……」
調が発言する
「旅行とかどうですか……?行った事無いんですよねそういうの……」
「なるほど……良いかもしれないね」
調の提案に、ウェルが賛同する
「しかしそんな急に旅行なんて出来ないだろ……」
キャロルが言う
「それもそうだね……」
振り出しに戻るかと思われたその時、ウェルが口を開く
「手ならあるぞ」
「!? どんな手ですか!?」
調が問う
「雪音クリス、君が頼めば良いだろ?」
「へっ?頼むって一体誰に……あっ!」
クリスは何かに気付く
「居るじゃないか、自分の孫に会えないからって君たちに甘々な人がさ」
クリスは部屋を出る
「ありがとうございます!頼んでみます!」
クリスは駆けていく
鬱展開で申し訳ないです・・・
次回からは明るく書けると思います・・・
お気に入りが50人を越えました
本当にありがとうございます・・・
次回も頑張ります・・・
ご指摘、感想、ご質問等々、何でも構いません、
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PTSD
「これでどうだぁ!」
「あ〜!!藤尭先生UNO言ってないデス!!」
「しまったぁ!」
ここはバスの中、一同は温泉へ向かっていた
「でもどうしたんだろ?急に温泉だなんて……」
謳歌が疑問を投げ掛ける
「別に良いだろ?訃堂のじいちゃんが行けって言うんだから」
「うん……」
クリスの言葉に謳歌は腑に落ちないながらも納得する
(しかし……頼んで半日でここまで用意するとは……)
風鳴訃堂はリディアン音楽院の理事長を勤める人物であり、政財界にも強いパイプを持っているとされる
旅行メンバーは、謳歌・クリス・調・切歌・響・未来・キャロル・エルフナイン・の生徒8人と
引率に藤尭朔也と響と未来の担任である友里あおい
最後に警備室の緒川慎次が同行している
「謳歌さん、いちごをどうぞ(^-^)」
「あぁ、ありがとうエルフナインちゃん」
エルフナインは例の白い粉の塊を手渡す
「うん、ちゃんといちごの味がするね」
「はい!ちゃんとキャロルに毒味して貰ったので(^-^)」
エルフナインの言葉に、キャロルは反応する
「おい!せめて味見と言え!味見と!」
「はいキャロル、あーん」
エルフナインはキャロルの口に例の白い粉の塊を放る
「あーん……うぇぇ……なんだこれ……生臭い……」
「そっかー、マグロのお刺身は失敗かぁ(._.)
はい次、あーん」
そんな感じでエルフナインはどんどん食べさせている
(……何だろうこの可愛い生き物……)
「とか考えてないでしょうね?」
いつの間にか、調が隣に来ていた
「……何でわかったの?エスパー……?」
「とぼけないで下さい、もう大体あなたが考えていることは分かりますから」
調がボソッと言う
「まぁでも、私も可愛いとは思いますけど……」
未だにキャロルは食べている
「何だかんだ言ってキャロルちゃんも味見してあげるんだね」
「そうですね、何だかんだ言っても妹思いなんですよ」
少しの沈黙の後、調が口を開く
「あの……今日は楽しみましょう……謳歌さん」
「うん、ありがと……ん?」
調は立ち上がると席を離れて行く
「それじゃあまた後で」
「うっ、うん……また後で……」
直後、入れ替わるようにして切歌がキャロルを抱えてやって来た
「あの……少し良いデスか?」
「うっ、うん……どうしたの?」
切歌はそのままキャロルを膝の上に乗せ、腰をおろす
「その……今まで酷い事言ってごめんなさいデス!」
切歌の言葉に、謳歌はあわてて否定する
「そっ、そんな!切歌ちゃんが悪いんじゃないよ!全部私のせいなんだからそんな事言わないで……ね?」
「そうやって全部自分のせいにして1人で抱え込むなって言ってるんだ」
謳歌の発言を、キャロルが制する
「その……オレも悪かったよ、今まで……」
キャロルが謳歌に言う
「そんな……かえってごめんね……?」
謳歌に続くように、切歌は言う
「その……これからは仲良くしていきたいデス!良いデスか……?」
「そっ、そんな!……こちらこそよろしくお願いします……」
切歌は満面の笑みを返すと、再びキャロルを抱え席を立つ
「それじゃあ謳歌さん!また後でデス!」
「……また後でな……謳歌……」
(まただ……)
少し呆然としながら謳歌は手を振る
「もう……みんな不器用なんだから……ね?エルフナインちゃん?」
「本当ですよねぇ(^-^)」
今度は未来がエルフナインを抱えてやって来た
「謳歌さん、これをどうぞ(^-^)」
エルフナインは小瓶に入った白い粉の塊を手渡す
「? 今度はなに味かな?エルフナインちゃん」
「いえ、これはブドウ糖です(^-^)」
謳歌は聞き返す
「ブドウ糖?」
「はい、緊張した時とか不安になった時とかに食べて下さい、少しは楽になると思います(^-^)」
エルフナインに続き、未来が口を開く
「謳歌さん、溜め込むだけじゃいつか破裂しちゃいますよ?
……もし誰にも話せないのであれば、私が話を聞きますし出来る限り協力しますから」
「僕も協力します(^-^)」
謳歌は泣きそうになってしまった
「うん……ごめんね?うれしいよ……」
未来はエルフナインを抱え、席を立つ
「謳歌さん、“ごめんね”じゃなくて“ありがとう”って言うようにしましょう?その方がきっと気持ちも楽になりますよ?」
「謳歌さんまた後で(^-^)」
未来とエルフナインは笑顔で手を振る
「うん……また後で」
謳歌も2人に手を振る
「何泣きそうになってんだよ?」
クリスがハンカチを謳歌に差し出す
「あぁ……ごめんねクリス」
「……ったく、今“ありがとう”にしましょう?って言われたばっかりだろ?」
謳歌は困ったように笑う
「そうだね……」
謳歌はクリスに質問する
「訃堂のおじいさんにこの旅行の事お願いしたでしょ?」
「ちぇ、すっかりお見通しかよ」
クリスも困ったように笑う
「訃堂のおじいさんは私がこういう事されるの苦手な事知ってるからね……
それに先生まで引率して授業扱いにするなんてさ、まるで修学旅行だね」
「でも……お前こういうの行った事無いじゃんか……」
クリスが少しすねたように言う
「あぁ、ごめんね?とってもうれしいんだけど、やっぱり私はどうしても申し訳ない気持ちが先に出ちゃってさ……」
「……分かってるけどさ、私だってお前と一緒にこういうの行きたかったんだよ……
学校の旅行の時お前が居なくて本当は寂しかったんだぞ……」
クリスが気持ちを吐露する
「……うん、ごめんね……」
謳歌はまたも泣きそうになっていた
「泣くなよ……お前だって泣き顔は似合わねぇよ」
クリスはそっと謳歌を引き寄せる
「楽しもうな?謳歌」
「うん……ありがとう」
皆それぞれ、新たな気持ちを胸にバスは目的地へと向かう
1人の少女を除いては
明るいお話って難しいです・・・ 暗いお話ならすらすら書けるのにどうしてなんでしょう・・・
もはやこのお話が明るいのかも分からなくなってきました・・・
次回も明るくしたいです・・・
頑張ります・・・
ご質問等あれば出来る限りお答えします
ご指摘、感想等何でも構いません、お寄せ下さい
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蒸気霧
「皆さん、そろそろ到着します」
運転手を兼務する緒川から、車内放送があった
「響、もう着くってよ?」
未来が響に声をかける
「響?響ってば!」
「うぇ……?ごめん未来……どうしたの?」
未来は響に問う
「どうしたの響?もしかして酔っちゃった?」
未来は、呼び掛けに反応がなかった響を案じている
「ううん!全然そんなことないよ!」
「そう?なら良いんだけど……」
未来は訝しみながらも、納得する
「ほら切歌ちゃん、そろそろ片付けないと」
切歌と一緒にカードゲームをしていた藤尭がそう促す
「そうデスね、よっと!」
切歌は立ち上がり、テーブルに散らばったカードを回収していく
「あっ……」
回収していたカードが、前の座席に滑り落ちてしまった
「大変デス!ドロー4が……」
切歌はそう言うと、前の座席の背もたれによじ登り、上半身を下ろしカードを取ろうとしている
「こら切歌ちゃん、危ないから……」
「これくらい平気なのデス!」
藤尭の忠告を聞き入れず、なおも切歌はカードを取ろうとモゾモゾしている
「うーん!もう少しデェス!」
(危ないなぁ……)
そんなことを考えていると、ふと謳歌は気付く
(うっ……下着が見えちゃう……!)
慌てて謳歌は目をそらす
「? どうした?」
「いっ、いゃあ?」
謳歌は声が裏返ってしまった
「どうしたんですか?」
前の座席からひょこっと調が顔を出す
(ばれたら怒られる……!)
「いっ、いゃあ?本当になんでもないから」
また声が裏返ってしまった
「……本当にですか?」
じ──……
調が疑いの眼差しを向ける
(うぅ……そんな目で見ないでよぉ……
てか藤尭先生見てないで切歌ちゃん止めてよ!)
そんなことを考えていると、未来が切歌の上着の裾をぐいっと引っ張る
「もう……ダメよ切歌ちゃん?危ないでしょ?」
「未来さん……でも、ドロー4が!」
切歌が抗議する
「はい!切歌ちゃん!」
響が切歌にカードを手渡す
「おぉ!ドロー4は無事デス!」
切歌が歓喜の声をあげる
「調ぇ〜ドロー4は無事デェス!」
切歌が調に呼び掛ける、反射的に双方が双方の居る方向に目を向ける
謳歌も反射的に切歌達が居る方に目をやる
今思えば、軽率な行動だった
「あっ……」
顔が視線に入ってしまった
「? ……何ドロー4って……」
調はゲームをしたことが無いため意味が分からずにいる
(調ちゃんごめん!)
謳歌はとっさに目の前にいた調に抱きつき視線を遮る
「きゃあ!?ちょっと何ですか!」
「おっ、おい!?何してんだよ!」
謳歌はがっちり調をホールドしている
「およ?何してるデスか〜?」
切歌が謳歌達の居る方へ近づいてくる、未来とキャロルとエルフナインもそれに続く
「ふふっ、何してるんだか」
友里は微笑む、そして気が付く、自分の腕が物凄い力で握り締められている事に
「! 響ちゃんまさか……」
響は力無く頷く、その表情は顔面蒼白であった
「全く……何やってんだか、ねぇ友里先せ…… !」
藤尭も異変に気付く、そして友里と目配せし頷く
「ちょっと!?何処に顔埋めてるんですか!」
謳歌は調に抱きつきながら恐る恐る後方を確認する
藤尭が後方への視線を遮るように立っている
謳歌に気付くと、藤尭は小さく首を振った
「おっ、おい……どうしたんだよ」
クリスは謳歌の行動に困惑している
「あ〜!ズルいデス!私も調にくっつくデス!」
「切歌ちゃん……話をややこしくしないで……」
未来が切歌に言う
「あんなグレートプレーンズみたいな胸に顔埋めても楽しくないだろ」
キャロルが言う
「キャロル、グレートプレーンズだからこそかもよ?(^-^)」
「ちょっと!誰がグレートプレーンズよ!誰が大平原よ!」
調が抗議する
「まずい!聞かれてた!」
キャロルが慌てた様に言った
「響ちゃん、謳歌ちゃんが時間を稼いでくれているからゆっくりで大丈夫よ……」
友里は響を隣に座らせ、声をかける
響の手は小刻みに震えている
「響ちゃん大丈夫よ……
ここはあなたが居た小学校では無いわ、よく顔が似ているけど、あの子はあなたを苦しめた子ではないわ……
大丈夫よ……」
友里は響に声をかけ続ける
「あれ?響……?」
未来が響が居ない事気付く
(はっ!まずい!!)
「きゃあ!?」
謳歌は調から手を離すと、今度は未来に抱きつく
「ほう……?今度はダウラギリか、グレートプレーンズとは比べ物にならないな」
「キャロル?だから聞こえてるからね?」
調はにこやかにキャロルに言う、かえって怖い
友里が背中をさすっていると、響はすっと立ち上がる
「……ありがとうございます、もう大丈夫です……」
そう言うと、響は前方の集団の方へ向かう
謳歌は未来に抱きつきながら、藤尭からのシグナルを見逃さなかった
しかし思わぬ反撃にあう
「離して下さいっ!!」
未来の膝が、謳歌のみぞおちにクリーンヒットしたのだ
「〜〜〜〜〜〜!!」
苦しみながらも、自然に顔を下に向ける事に成功した
「みんな!何してるの!」
「響、何でもないの」
未来は何事もなかった様に平静を装っている
「キャロル?さっきの発言はどういう事かな?」
まるでエルフナインのような笑顔で、調はキャロルを詰問している
「わっ、悪かったって……」
「自業自得だねキャロル(^-^)」
「お前も言ってただろ!」
そんなことをしていると、後ろから声が聞こえてきた
「ほらみんな!もう駐車場に着いてるよ!」
「降りる準備をしてね」
友里と藤尭がみんなに声をかける
「はい未来!荷物!」
「ありがと響」
響達は1番最初にバスを降り、その後に一同が続く
「謳歌……私達も……」
「ごめん……先に降りてて……」
みぞおちを押さえながら謳歌は言う
クリスが降りた後、バスには3人が残っていた
「友里先生……響ちゃんは……」
謳歌が尋ねる
「えぇ……軽度のフラッシュバックね」
「そうですか……すいません……」
謳歌は2人に告げる
「いや……不可抗力さ、それよりそろそろバスを降りよう、これ以上は怪しまれる」
「そうですね……」
3人はバスを後にした
1話見返しましたがこれじゃ1話詐欺ですよねぇ・・・
いつも読んで頂きありがとうございます・・・
次も頑張ります・・・
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ヒヨドリジョウゴ
突然だった
何が気に触ったのか分からなかった
最初は小さな事だった
鉛筆の芯が折れていたり、物を隠されたりした
段々行為はエスカレートしていき、最終的には直接的な暴力に発展していた
しかし両親にはもちろん、教師にも相談は出来なかった
その子とはとても仲が良かった、親友と言っても過言では無い
きっとまた仲良く出来る、話せば分かってくれる
そう考えていた、いや、願っていたと言った方が正しい
しかし、決定的な事があった
全てが明るみになった
彼女は全てを認め、話したと聞いている
それ以来彼女には会っていない
中学に上がる時、転校した
新しく友達と呼べる人にも出会った
入学から1ヶ月程たったある日の事だった
友達が親しくしている先輩達に自分を紹介するという
その先輩の隣にいた人物
その先輩の幼なじみだと言う
ふと顔が目に入る
絶句した
彼女によく似ていた
いや、瓜二つと言っても過言ではなかった
何とかその場は平静を装った
数日寝込んでしまった
担任から校医を紹介された
校医による診察とカウンセリングを受けた
結論から言うとPTSDだった
その先輩とは、よく一緒に行動した
友達に相談は出来なかった、知られたくなかった
会った次の日は必ず寝込む様になってしまった
担任と校医と面談をした
その先輩に打ち明ける事にした
不安だった
担任と校医は、“彼女なら大丈夫だ”と言う
保健室のカーテン越しに話した
その先輩は、怒りもしなければ憤りもしなかった
よくよく話してみると、良い人だった
変わった趣味はしていたけれど
私と会うときはなるべく後ろを歩いてくれた
顔が視界に入らないよう、注意を払ってくれた
2人で会うとき以外は、ほとんど会話をしなかった
皆といるときには、どうしても会話をすると顔が視界に入ってしまうからだ
よく電話で話しをした
たまに2人で会うときは、お面を付けて顔を隠してくれた
その先輩は、常にメディカルキットとAEDを携行していた
何故そんなものを?とは思ったが、あえて聞かなかった
先輩達経由で、今や歌姫と呼ばれる3人の先輩達とも知り合った
先輩は、年上は苦手ともう1人の先輩が言っていた
今は初等科の双子の姉妹に夢中とのこと
特に姉の方にゾッコンらしかった
それと私の1つ下の学年
先輩からみると2つ下の学年の子
黒髪にツインテールの子にもお熱だという
その子は中々に辛辣な物言いをする子だった
その子はどうも私の物言いが癪にさわるようだった
ある日その子が訪ねてきた
隣には、友人と思われる子も居た
目に涙を溜めながら謝罪してくれた
とても良い子達である
それからその子達と初等科の双子の姉妹も私達のグループに加わった
先輩は双子の姉妹の妹の方には興味が無いようだった
ある日姉の方に“1万円あげるから私の抱き枕になって”とわりと真剣なトーンで話していた
流石に私も鳥肌がたった
止めに入ろうかとも思ったが、その子にあっさり
“きもちわるいからやだ”と断られていて思わず笑ってしまった
黒髪ツインテールの子にも3万円でお願いしたらしいが、顔の横スレスレに無言で
コンパスを突き立てられて逃げ帰って来たらしい
そのうち本当に刺されるのでは……と思った
その頃から、あまり友達が一緒に行動しなくなった
特に喧嘩をしたりした訳ではなかった
特にみんなと一緒にいるときには一切顔を出さなくなった
ある日いつものように先輩と2人で話しをした
般若の面を付けていた
目がLEDライトで赤く光るという
夜に出くわしたら卒倒してしまいそうだ
帰り道、友達が廊下の先に居た
ポロポロ泣いていた
訳を聞こうとするが、頑として答えなかった
ただこう言われた
“応援するから”と
言ってる意味がよく分からなかったがそのまま彼女は行ってしまった
進級して科が変わると、あまり話しをしなくなった
そのままなんとなく疎遠になってしまっている
新しく仲良くなった子がいる
彼女も中等科からの編入組であった
寮も同室で意気投合した
今では互いに親友である
名前を小日向未来という
疎遠になったもう1人の友達を、私はあだ名で呼んでいた
「ミーちゃん」
そう私は呼んでいた
赤い髪が特徴の彼女
名前は、ミラアルク・クランシュトウンという
暗めでした・・・
めちゃめちゃスラスラ書けました・・・
次回も頑張ります・・・
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Ordine dei Santi Maurizio e Lazzaro
「調ちゃん……キャロルちゃんだけでもそろそろ……」
「黙ってて下さい?」
まるでエルフナインのような笑顔から、想像出来ないような恐ろしい声色で調は返す
「悪かったって……頼む、もう足が痺れて限界なんだ……」
キャロルが懇願する
「調ちゃん……私が悪いんだからキャロルちゃんは許してあげて……」
「ほぼ同罪ですよ」
ニコニコの笑顔で調は返す
旅館に到着してから、小1時間2人は正座させられていた
「別にオレは本当の事言っただけだろ……」
キャロルがボソッと口にする
「へぇ……この期に及んでまだそんなこと言うんだぁ……」
調が一段と低い声色で言う
「だってそうだろ!?現にお前に胸が無いのは事実だろ!」
「キャロルちゃん!ダメだってば!」
謳歌がキャロルを制す
「………………」
「しっ、調ちゃん……?」
調はおもむろに冷蔵庫に向かう
「そんなこと言うのはこの喉かなぁ……それとも頭かなぁ……」
「ひぃ!!」
調の手には、アイスピックが握られている
「ちょっと待って調ちゃん!それはしゃれにならないよ!?」
謳歌が調を制す
「たっ、助けて!」
キャロルが痺れた足を引きずりながら、這うようにして謳歌にすがる
「しっ、調ちゃん、一旦落ち着こう!?ね?胸なんか無くたって良いじゃない、私は無い方が良いと思うよ?」
ぴたっ!と調の動きが止まる
「……………………ないのよ」
何やらぼそぼそ言っている
「えっ何て言ったの?もう1回言って……」
「そういう嗜好の人に言われても嬉しくないのよ!!」
そう叫ぶと調は、おもいっきりアイスピックを振り下ろす
「ぎゃあああ!!」
「っ!」
謳歌はキャロルに覆い被さるように庇う
どん!
「……?」
鈍い衝撃音がし、恐る恐る謳歌とキャロルは目を開ける
体の何処にも穴は開いていない
「……切歌ちゃん!?」
そこには伸びた調と、埃を払う切歌の姿があった
「ふぅ……危ない所だったデス!」
「ありがとう……助かったよ……」
謳歌は切歌にお礼を言う
「これくらい朝飯前なのデス!」
切歌がそう答えるのとほぼ同時に調が目を覚ます
「ん……私、どうしたんだろ……」
「調!」
切歌は調に駆け寄ると、左右におもいっきりほっぺを伸ばす
「きりふぁんいふぁいぃ」
「悪いことをする子にはおしおきデス!」
ほっぺをつねりながら切歌は言う
「無抵抗の人に武器を使うのはいけないデス!今度からは素手で殴るとかにするデス」
「ごふぇんふぁふぁい、ふぉうふぅふぅ」
切歌は調のほっぺから手を離す
「切ちゃんごめんなさい……」
調はシュンとしている
「これからはこういう事しちゃ駄目デスよ?」
「うん……ごめんなさい……」
一連のやり取りを見ていたキャロルが一言いう
「いや……素手も駄目だろ……」
キャロルが声を発した瞬間、調が物凄い勢いで振り向く
「……何か言いました?」
とっさに謳歌はキャロルの口を押さえていた
「いっ、いやぁ?」
調はそのまま視線をキャロルに傾ける
キャロルは首を左右にブンブンふる
「……そうですか」
調は訝しみながらも、視線を元に戻す
「それより折角温泉に来たんデスからお風呂に行くデス!」
「そうだね……」
調は謳歌の方に視線を送る
「…………」
謳歌は露骨に目線を逸らしていた
「あの……まさかここまで来て温泉入らないなんて言わないですよね……?」
調が尋ねる
「駄目かな……?」
「駄目ですよ!?」
謳歌の答えに、調が突っ込みを入れる
「いや……ていうかオレ達と毎晩入ってるから別に平気だろ……」
「毎晩!?刺激的デェス!」
切歌が驚きの声をあげる
「いや……でも大丈夫だよ……消臭スプレーとかシートとか色々持ってきてるし……」
「何も大丈夫じゃないだろ……」
呆れるキャロルを背に、調は何やら荷物をごそごそしている
「はぁ……こんなこともあろうかと、手は打ってあります」
調は畳の上に何やら並べている
「えっ……?これ私の下着……」
「どうせこんなことだろうと思って持って来ました」
小分けにされた袋の中には、謳歌の着替えが入っていた
「いやぁ!調ちゃんの変態ぃ!!」
「おい!引っ付くな!」
謳歌はキャロルの背に隠れる
「あなただけは言われたくないですから!」
そしてそのまま謳歌を引きずり出しにかかる
「ほら!行きますよ!」
「いやぁだぁ!」
謳歌はキャロルにしがみつく
「痛ててて!おい!引っ張るな!離せ!」
「キャロルちゃん助けてよぉ!」
小柄なキャロルでどうにかなるわけもなく、 そのままずるずる引きずられていく
その時、部屋の戸を開ける音が聞こえた
「何してるんですか……?廊下まで声が聞こえてきましたよ?」
未来である
「未来ちゃん助けて!」
「未来さん手伝って下さい!」
謳歌と調が同時に助力を求める
「あの……話が見えないんですが……」
キャロルが未来に事情を話す
「まぁ……無理矢理は良くないですけど、謳歌さんは謳歌さんでどうかと思いますね……」
「うぅ……みんなひどいよぉ……」
謳歌は皆に背を向け、部屋の隅に座っている
「なぁ……何がそんなに嫌なんだよ?」
キャロルは謳歌に問いかける
「…………」
謳歌は首を左右に振り、答えようとしない
目にはいっぱいの涙が貯まっている
「メソメソするなよぉ……なぁ?」
そう言いながら、キャロルは謳歌の頭を撫でる
「そうですよ……ほら、一緒に行きましょ?」
調は膝を曲げ、謳歌の背中をさすっている
「…………ゃない?」
「? 何ですか?」
調は聞き返す
「私と旅行するの嫌じゃない……?」
「何いってるんですか……嫌だったらまずこの場にいませんよ」
調は諭すように言う
「そうデスよ?気にしすぎデス!」
切歌も同調し、未来も頷いている
「本当に……?」
「もう……だから大丈夫だって言ってるじゃないですか……」
調は謳歌の頭を撫でる
「この中じゃお前が1番年上なんだぞ?あまりメソメソするな」
「うん……ごめんねキャロルちゃん」
謳歌の発言に、未来が反応する
「あっ、謳歌さんまた言いましたね?“ごめん”じゃなく“ありがとう”ですよ?」
「そうだったね、ごめっ……じゃなかった、ありがとう未来ちゃん」
未来は笑みをこぼす
「ぎこちないですね、でも意識して使わないと駄目ですよ?」
「うん……頑張るよ」
会話が切れた所で、切歌が発言する
「それじゃあ!改めて温泉に向かうデス!」
一同部屋を後にする、ふと謳歌は携帯に通知が入っている事に気付いた
「! 響ちゃん……」
響からのメールだった、本文にはこうかかれていた
「 J 」
ー・ー・ー ・ーー・ ー・ー・・ ー・・・
ーーーー・・ ー・・・ー ・ー・ー・ ・ー・
ー・ー・ー ・ー ーー ー・ーーー ーー・ーー
・ーー・ ・ー・ーー ・ー・・・ ー・・・
・ー・ ーー・ー・・ーーー ーー・ー・ ー・
・ー ・ー・ーー・・ ーーー・ー ・・ー・・
ー・・ーー ー・ー・ー ・・ー・・ ・ーーー・
・ー・ー・ ・ーーー・ ・ー ・・ーー ・
・ーー ・ー・ーー・・ ー・・ー ・ーー・
・ーー・・ ー・・ー ーーー・ー
ーー・・ー ーー・・ー・・ ー・ー・・
「何してるんですかー?」
調が謳歌によびかける
「今行くー」
謳歌は調に答えると、急いでこう返信した
「 E 」
ーーー ー・ー
遅くなりました・・・ ごめんなさい・・・
次回も頑張ります・・・
ご質問等あれば出来る限りお答えします
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Syn
遅くなりました・・・ごめんなさい・・・
「もう……何やってるんですか……」
「大丈夫デスか?」
脱衣場のベンチに謳歌は横たわっている
「まさかのぼせてるなんて……」
未来は心配そうにしている
●
「おぉ!広いデェス!」
「切歌ちゃん、危ないから走ったら駄目だよ?」
未来が切歌に注意を促す
「みなさーん(^-^)」
「エルフナイン、先に来てたのね」
調が、エルフナインに言う
「ところで調さん、謳歌さんは何でアイマスク何かしてるんですか( ・◇・)?」
「へっ……?」
調は一瞬、エルフナインの言葉を理解出来ずに固まってしまう
後ろを振り向くと、アイマスクをしてよろよろと壁づたいに歩く謳歌の姿があった
「何やってるんですか!!危ないでしょう!!」
調は思わず、謳歌を怒鳴りつける
「! しっ、調ちゃん……」
調の怒鳴り声に、謳歌はビクッと肩を震わす
「取って下さい!今すぐに!」
「勘弁して……流石に無理……」
謳歌は調に懇願する
「何が無理何ですか!私達の裸なんて見慣れてるじゃないですか!」
「そっ、そんな!見慣れてる何てとんでもないよう……」
謳歌が否定する
「嘘です!始めの方こそ見ないようにしてましたけど、最近横目でチラチラ見てるの分かってるんですからね!?」
調はさらにまくし立てる
「別に見られるのが嫌とか言ってるんじゃ無いんですよ!こそこそ隠れてばれないようにされるのがイライラするんです!見るなら見るで堂々として下さい!」
「だってぇ……」
謳歌はなおもゴニョゴニョ言っている
「おい……こんな所で喧嘩するなよ……」
未来に抱えられながら、キャロルが呆れたように言う
「というか下ろせ、オレはシャワーで良いと言っているだろ!」
「駄目よキャロル、ちゃんと肩までお湯につからないと」
「うぅ……熱いのは嫌いなんだ……」
未来はがっちりとキャロルを抱えている
「はい!じゃあ謳歌さん、後はお願いします」
「ふぇ?」
謳歌は未来から何かを手渡される、感触はぷにぷにとしている
「おい!どこに触ってんだ!」
「これも没収です!」
調はそう言うと、謳歌のアイマスクを剥ぎ取る
「えっ!?ちょっと……!」
謳歌の視界に最初に飛び込んできたのは、金色のモシャっとした物体
「おい!いつまでそうしてるつもりだ!」
そのモシャっとした物体から声が聞こえてきた、どうやらこれはキャロルの後頭部のようだ
「謳歌さーん!ちゃんとキャロルを湯船に浸からせて下さーい」
未来が謳歌によびかける
「えっ、えぇ……?」
謳歌はキャロルの脇に手を入れ、抱えたまま困惑している
「おい……もうお湯に入ってもいいから早くしてくれ……さっさとあがりたい……」
「うっ、うん……」
やっと前に進みだしたが、数歩進んだ所でビクッと体を震わせ、謳歌は立ち止まる
「おい……今度は何だ……」
キャロルが見上げると、謳歌は目をつむっていた
「おい……何して……ん?」
キャロルは、正面のガラスに自分たちが反射して映っているのに気付いた
「見えちゃうからせめてタオルか何か巻いて……」
謳歌は力なくキャロルに請う
「……別に今さら見えたって良いだろ……」
「無理……」
キャロルは辺りを見渡す、タオルはさっきシャワーを浴びてる時に未来に連れ去られた時にそのまま置きっぱなしである
「分かった……じゃあまず回れ右して後ろを向け」
「うん……」
謳歌は慎重に後ろを向く
「そのまま真っ直ぐ歩け」
キャロルは内心不安であった、またいつぞやの廊下の時のように転びやしないかと
「なぁ……1回下ろしてくれ、タオル取って来るからさ……」
「でも……未来ちゃんに頼まれてるし……」
予想どうりの回答が帰って来た
「はぁ……分かったけど気を付けろよ?また顔なんか打ったらシャレにならん」
「うん、分かってる……よぉ!?」
話している矢先に、ズルっと謳歌が足を滑らす
「わぁ!?ほらみろ言わんこっちゃないぃ!!」
キャロルは衝撃に備え身構えるが、何も起きない
「? どうなったんだ?」
キャロルは振り向く
「何やってんだよ……」
クリスである
「クリス?助かったよ……」
「バカ!危ないだろ!!」
クリスは謳歌を怒鳴りつける
「だってぇ……」
「おい!じゃあそこのタオル取ってくれ」
キャロルはクリスにタオルを取って来てもらう
「ほら隠したぞ、さっさとしろ」
「上も隠して……」
謳歌の問いにキャロルは返す
「いや……位置的にお前の腕で隠れてるだろ……」
「うそ!?」
キャロルの発言を聞き、謳歌は思わず手の力を緩める
「わぁ!?落ちる落ちる!!」
「!? ごっ、ごめん」
謳歌が力を緩めたことにより、キャロルは危うく落下しかける
「……はぁ!」
クリスは今にも怒鳴り出しそうだったが、飲み込んだようであった
「ほら……支えてるからちゃんと歩け」
「ごめん……ありがとう」
(周りから見たら異様な光景だろ……これ……)
キャロルは抱えられながらそんな事を考えていた
「ほら……後は湯船だから、あと左向けば壁だから目開けても大丈夫だぞ……」
「うん……ごめんねクリス……」
クリスはそう言うと、皆のいる方へ移動していった
「うわ……ぼやけて見える……」
「ずっと目なんか閉じてるからだバカ」
謳歌は苦笑いを浮かべながら、ゆっくりと腰を下ろす
「なぁ、どれくらい浸かれば良いんだ……?」
「うーん……10分位かなぁ」
謳歌の返答に、キャロルは愕然とする
「10分だと!?長すぎだろ!長くてせめて3分位だろ!?それ以上浸かったらふやけて死ぬ!!」
「そんなカップラーメンじゃ無いんだから……」
それからキャロルは文句ばかり言っている
「何で大体日本の風呂はこうも熱湯ばかりなんだ!!やけどするやけど!!」
「いや……キャロルちゃん、ここのはぬるい方だと思うけど……」
キャロルはさらに続ける
「大体小日向も小日向だ!文化の違いをまるで理解していない!オレの国じゃ基本サウナなんだ!風呂何てもの日本に来るまで知らなかった!」
「そっか……キャロルちゃん達はどこ出身なの」
キャロルは答える
「ノルウェーだ、パパとママはスヴァールバルで働いてた、パパはFAOの研究者だからな」
「という事は“例の場所”で働いてたの……?」
謳歌が緊張気味に尋ねる
「例の場所って貯蔵庫の事言ってるのか?あそこは言葉の通り貯蔵庫だからあそこで研究なんて無理だぞ?」
「そっ、そっか……」
謳歌はちょっぴりシュンとしている
「まぁ……でもたまに入ってたりはしてたみたいだぞ?あとママは記録庫の方で働いてたぞ?」
「そうなんだ!良いなぁ……」
謳歌は心底羨ましそうに言う
「…………」
「キャロルちゃん?」
急に黙るキャロル
「いや……すまん、今の喋り方あいつ……いや、エルフナインに似てるなって思ってな……」
「エルフナインちゃんに?私が?」
謳歌は聞き返す
「オレはあいつとは違ってパパの役にたてないからな……」
独り言のようにそう言ったキャロルは、はっ!と話題を変える
「そっ、そういえばあいつ、暁もノルウェー出身らしいぞ?」
「へっ?切歌ちゃんも?……どうりで綺麗なブロンドだと思った……」
謳歌はあえてさっきのキャロルの独り言に触れなかった
「……〜れでだ、オレはまだ成長期だから野菜はとらずとも成長すると確信していてだなぁ、ん?」
キャロルはいつの間にか1人で喋っていることに気付いた
「おい、どうした?」
返事はない
「おい、寝ちまったのか?とりあえずもう良いだろ上がっても」
なおも返答はない
「おい!いい加減返事くらいし……ろ?」
振り向いたキャロルが目にしたのは、頬が紅潮しきりぐったりと肩に寄りかかった謳歌の姿であった
「おっ、おい!?しっかりしろ!おーい!誰かこっちに来てくれ……!」
●
「だからオレは言ったんだ!熱湯に肩まで浸かるなんて危険だって!」
「いやキャロル……そこはあまり関係無いと思うデス……」
切歌がキャロルに言う
「それより調ちゃん、本当に良いの?私も待ってようか?」
未来が尋ねる
「いえ先に戻ってて大丈夫です、その内目を覚ますでしょうから」
「悪いな調……」
最後にクリスがそう言い、調と謳歌以外は部屋へと戻っていった
「……ん、あれ……ここどこ……?」
「気が付きましたか?」
謳歌が目を開けると、そこには調の顔があった
「調ちゃん……?」
謳歌はそう言うと、後頭部の柔らかな感触に気が付く
「ん……何だろうこれ……!!」
「きゃあ!もう、急に起き上がっちゃ駄目じゃないですか!」
謳歌が恐る恐る振り向くと、そこには調の太ももがあった
「!! まさか私、調ちゃんに膝枕されてたの……?ていうか何でこんなことに!?」
謳歌は混乱している
「もう……お風呂でのぼせて気を失ってたんですよ?はいこれ」
調は謳歌に経口補水液を手渡す
「あっ、ありがとう……もしかしてずっと介抱してくれてたの?」
「もう……こんなもの持ち歩いてる人が気を失うくらいまでお風呂に入らないで下さいよ……」
経口補水液は、謳歌のメディカルバックに入っていた物である
「そっか……ごめんね?ありがと……!!ごめん!今何時!!?」
謳歌は慌てて時間を尋ねる
「えっ!?今ですか?8時30分を少し回った位ですね……」
(そんな!急がなきゃ……きっともう響ちゃん待ってる)
謳歌は立ち上がり、脱衣場を出ようとする
「!? ちょっと!どこ行くんですか!?もう少し安静にしてないと!!」
調が謳歌を制止する
「離して調ちゃん!!」
「駄目です!!急に起き上がっちゃ!!」
謳歌は内心かなり焦っていた、そして焦りという物は、時に人を思わぬ行動に移す
「もう!うるさぁい!!離してって言ってるでしょう!!」
「きゃあ!!」
謳歌とは思えない程の怒鳴り声をあげ、調の手を振りほどいた
(急がなきゃ!急がなきゃ!!)
手を振りほどいた反動で、調を突き飛ばしてしまった事にすら気付けないほど、謳歌は焦っていた
この後起こる事を、謳歌はまだ知らない
遅くなりました・・・申し訳ないです・・・
ご質問等あれば、出来る限りお答えします
ご指摘感想等あれば何でも構いません、お寄せ下さい
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猿田毘古大神
“コンコン”と部屋をノックする音が聞こえ、友里は扉をあける
「あら謳歌ちゃん、響ちゃんもう来てるわよ?」
扉の前には、息切れしながら謳歌が立っていた
「すいません!遅くなりました」
「それじゃあ私は暫く出てるから、ゆっくりしてね?」
友里はそう言うと、部屋を後にする
「ごめん響ちゃん!遅くなって」
「いえ大丈夫です、そんなに待ってないですから」
謳歌は例によって般若の面を付けている
「それまだもってたんですか?ていうかそもそも何で般若何ですか?」
「いやぁ、これ訃堂のおじいさんにもらったんだけどね?調べてみたら5万円くらいするみたいでさぁ……捨てるには悪いし、お面これしかなかったんだよねぇ」
ハハハと面を付けたまま笑う謳歌
「あの……今日はごめんなさい……折角の旅行なのに」
「……やめてよ、むしろ悪いのは私だから……ね?」
響が続ける
「謳歌さんが卒業するまでにはって考えてたんですけど……すみません……」
謳歌はおもむろに響の肩を引き寄せ、頭を撫でる
「そんな事気にしなくて良いから、ね?」
響にそう語りかける謳歌、だが響からは意外な言葉が返ってきた
「……謳歌さんって髪触るの好きですよねぇ……」
「えっ、え……?どうしたの急に?」
予想外の答えに困惑する謳歌
「いやぁ……何か手つきが手練れてるというか、いやらしいというか」
「ごっ、ごめん……」
慌てて手を離す謳歌
「あっ……ごめんなさい、別に責めようとしてる訳じゃ無いんです、私は別に気にしませんし
それに謳歌さんってサラサラのストレートが好みですよね?今さら私にどうこうって訳でも無いでしょうから」
「そっかぁ……って!何で私が髪の毛フェチみたいな流れになってるの!?」
それを聞いて、響は不思議そうな顔をする
「えっ?違うんですか?」
「違う!……と思うけど……」
自信無さげに謳歌は言う
「自信無いならもうそうなんですよ?だって謳歌さんって人の事誉める時とか絶対髪の毛の事言うじゃないですか」
「そうかなぁ……」
さらに響は続ける
「謳歌さんが調ちゃんに付きまとってた頃もあったじゃないですか、背後から忍び寄って気持ち悪く笑いながら“サラサラだねぇ”っていって髪の毛に頬ずりしたじゃないですか」
「私そんな変態みたいな事したっけ……?」
謳歌は本当に覚えていなかった
「その後大変だったんですよ?調ちゃんバリカンで自分の髪の毛刈ろうとして、私と未来と切歌ちゃんで何とか止めましたけど」
響は笑いながら話す
「うーん、なんとなく覚えているような……」
「ていうかこの前もベンチで黒髪の子の事ベタベタ触ってましたよね?」
ふと思い出したように響は言う
「へっ?う、うん……
(ベンチ……この前……ミラアルクちゃんの事かな……?)」
「というかよく嫌がられませんね?あんなにベタベタしてて」
響が尋ねる
「うん……良い子だよ
(やっぱり気付いて無いのかな……)」
「もしかして、謳歌さんの事好きだったりして」
響が茶化すように言う
「……響ちゃんはその子の事知ってる?」
謳歌は尋ねる
「? いや、顔はよく見えませんでしたけど、多分知らないと思いますよ?少なくともああいう感じの髪の子は知らないです」
(そっか……“ああいう感じの髪”、かぁ……)
謳歌は納得しながらも、心に残る焦燥感を感じずにはいられなかった
●
「なぁ〜まだなんだぜ?」
リディアン音楽院の理事長室に、ミラアルクは居た
「そう急かすでない、旅券の発行というのは時間がかかるものなんじゃ」
ミラアルクの前には、リディアン音楽院理事長である風鳴訃堂の姿があった
「だからうちは自分の持ってるパスポートで良いって言ったんだぜ?もう1週間もたっちまうんだぜ!?」
「貴様の持っているのは本国の一般旅券じゃろうが、いくら貴様が大使の娘であっても公人ではないのじゃぞ?」
それを聞いたミラアルクは大袈裟に身振りする
「あ〜はいはい!何度も聞いたんだぜその話」
「それゆえ貴様を公人にするため各省庁へ依頼して文書を作成しとるんじゃ、加えて公用旅券までくれてやるのだから少し待て、と何度も言っておるじゃろうが」
訃堂にミラアルクは言い返す
「だけどうちは一刻も早くしたいっていったんだぜ!?」
訃堂は一瞬沈黙するも、ミラアルクの問いに答える
「……貴様があやつの為に動いてくれるのはわしとしても願ってもない事じゃ、わしもどうにかしなければとは思っておったんじゃがな……」
「……先輩が居なきゃ、うちは今頃死んでたかもしれないから……」
訃堂は尋ねる
「あれからどれ程たったかの?もう傷は目立たぬようになっておるようじゃが……」
「今年で7年になる、傷も大分違和感なくなってきたんだぜ……」
7年前、劇物である苛性ソーダを積載したタンクローリーが横転する事故があった
タンクローリーはガードレールと電柱で停止したが、荷台が電柱に激突した為に大量の苛性ソーダが流出した
そこに運悪く居合わせたのが、在日オーストリア大使の娘、ミラアルク・クラウンシュトウンであった
迫るタンクローリーに、とっさに背中を向けたものの、荷台から吹き出した大量の苛性ソーダを後頭部から臀部にかけて、大量に浴びてしまった
焼けるような激しい痛みに、悲鳴をあげていたミラアルクの耳に声が聞こえてきた
その場に居合わせた、謡詠吟 謳歌の声であった
その内容は“動かないで!”というような内容であったとミラアルクは記憶している
謳歌は荷台を見て、積載されているのが苛性ソーダなのを確認すると、付近にあった消火栓を用い、ミラアルクの周りの苛性ソーダを除去した
しかし、謳歌の手持ちのメディカルキットではこれ以上の対処の仕様がなかった
そんな謳歌に声をかける人物が現れた
迷彩柄の服を着ている、自衛隊員のようであった
肩のエンブレムを見て、謳歌は驚きと歓喜の感情を隠せずにいた
肩のエンブレムにはこう書いてあった
「Central NBC Defence Unit OHMIYA」
彼らはさいたま市大宮駐屯地所属の、対NBC兵器対処部隊である、陸上総隊直轄部隊の中央特殊武器防護隊であった
謳歌は苛性ソーダが流出し、怪我人がいることを伝えた
いわば毒物や細菌のスペシャリストである彼らの登場に、謳歌は安堵していた
ふと顔を上げ、周囲を見渡すと、またも信じられない光景が広がっていた
そこには、大量の緊急車両と多くの隊員がいた
いくらなんでもまだ事故発生から5分もたっていないのに、こんなにも警察や消防が集結しているという事実に、謳歌はあっけにとられていた
その中には、東京消防庁化学機動中隊や消防救助機動部隊、警視庁化学防護隊に機動救助隊、さらには赤十字血液運搬車、献血供給事業団の車両などが続々と集結しつつあった
実はこの時、偶然にも事故現場から0.8kmの地点で、国民保護共同訓練における大規模テロ訓練が行われる予定であった
そこに向かう一団が事故現場に通りがかったのである
極めつけは、事故現場から約1.5kmの地点に患者の搬送を終え、燃料補給の為に駐機していたドクターヘリがいたのである
リディアンのヘリポートを使い、ミラアルクは迅速に病院まで搬送された
「……病院で手術してる時に血が足りなくなって、先輩の血を分けてもらって、皮膚移植の時にも先輩から皮膚をもらって……」
「そうじゃったな」
さらにミラアルクは続ける
「事故のあと塞ぎこんでたうちを、先輩は励ましてくれた……あの赤い髪のウィッグだって、先輩がくれた物……」
「…………」
「だからうちは、先輩に返さないといけない」
訃堂は尋ねる
「それはたとえ、あやつが嫌がる事でもか?」
「……それでもいい、それで先輩が幸せになれるなら、うちは……」
訃堂はさらに問う
「本当に良いのか?貴様はあやつの事好いておるのじゃろ?」
訃堂の言葉に、ミラアルクは動きが固まってしまった
「待った、なんでその事知ってるんだぜ!?」
「いや……教師の間ではわりと有名な話じゃぞ?」
そう訃堂に言われ、ミラアルクは驚愕する
「ゆっ、有名ってどのくらい……?」
「そうじゃな……貴様があやつの写真を撮り集めているとか、無人の教室で貴様があやつの体操着に顔を埋めていたとか……」
「わ──!!」
訃堂を制止するミラアルク
「耳元で叫ぶでない!騒々しい!」
「うぅ……恥ずかしいんだぜ……」
ミラアルクは、両手で顔を抑えて耳まで真っ赤になっている
「失礼します」
ノックと同時に、風鳴弦十郎が部屋に入ってきた
「おぉ、出来たか」
「ミラアルク君、これを」
弦十郎は、紙袋をミラアルクに手渡す
中には、緑色のパスポートに封がされた封筒、1枚の航空券が入っていた
「すまない……本来教師である俺たちがやるべき事なのに……」
「やめてほしいぜ、うちが好きでやることなんだから」
弦十郎とミラアルクのやり取りを見て、訃堂が続ける
「気を付けるのじゃぞ?いくら母国の隣国とは言え、見知らぬ土地に年若い娘が1人で赴くのだからの」
「大丈夫だぜ!うちはこう見えて強いんだぜ?」
そう言うと、ミラアルクは理事長室を後にする
(先輩……私、頑張りますから……それがたとえ先輩が望まない事だとしても……私が、先輩を救ってみせます……)
航空券の行き先は、 Zürich と記載されていた
遅くなってしまいました・・・
年末年始忙しくて・・・
かつ、地獄少女が面白くて・・・・
本当にごめんなさい・・・
次回はなるべく早めに書きたいです・・・・
ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・
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"Medal with Red Ribbon"
「痛った……」
謳歌に突き飛ばされる形になった調は、尻餅をついてしまった
「何なのよもう……」
ふと辺りを見渡すと、謳歌の荷物がそのまま残されていた
いつも肌身離さず持ち歩いてるメディカルバックと、今回はかなり大きなリュックも持参していた
「珍しい……忘れて行くなんて」
謳歌は、いつも肩からメディカルバックをかけて持ち歩いてる、授業はもちろんどんな時でも持ち歩いてる為、逆に持っていないと違和感すらある程である
「もう……」
調はため息をつきながら、メディカルバックを担ぐ
「よいしょ……重っ!」
調からしてみれば、かなりの重さに感じられたが、何とか持ち上げ、今度はリュックに手をかける
「いよっ!〜!?重い!!」
リュックを持ち上げようとしたが、びくともしない
「もう!何入ってるのよ!」
「調ぇ〜?」
難儀していると、切歌がやって来た
「! 切ちゃん」
「遅いから見に来たデス、何してるデスか?」
調はリュックを指差す
「謳歌さんのデスか?ところでその謳歌さんはどこにいったデスか?」
「知らない!」
調は頬を膨らませ、そっぽを向いてしまう
「……とりあえず、これを運ぶんデスね?私も手伝うデス!」
「うん……ありがとう切ちゃん」
気をとりなおして、2人はリュックを持ち上げにかかる
『せーの!』
2人で息を合わせて持ち上げにかかるが、わずかにリュックが浮いただけであった
「重いデェス!」
「本当に何入ってるのよ……」
ため息を付く調
「本当に何が入ってるんデスかね……」
2人は顔を見合わせる
「開けてみるデスか……?」
「でっ、でも……勝手に開けるのは……」
なおも顔を見合わせる2人
「気にならないデスか……?」
「気になるけど……」
切歌はさらに調に問う
「きっと謳歌さんなら勝手に見ても許してくれるデス……」
「そうだよね……あの人怒られてるのは何度も見たことあるけど、怒ってるの見たこと無いし……」
「きっと笑って許してくれるデス……」
2人は視線をリュックに向け、ファスナーに手をかける
「どう?切ちゃん」
「う〜ん、何だか色々入ってるデス」
切歌は手に触れた物から順次取り出していく
「本が沢山あるデスね」
「どれどれ?えーと……家庭の医学に輸液の方法?それに救急の手引きに……」
中には10冊程の本が入っていた、どの本にもおびただしい付箋が付いている
「どれどれ?うーん、難しいデェス!!」
切歌は本を1冊手に取り、パラパラ見てみるが、よく分からない
「後は……滅菌アルミックシート?と消毒液にガーゼに……」
「こっちの袋が1番重いデスッ!」
切歌は、中に入っていたビニール袋を持ち上げる、今にも袋が破けてしまいそうだ
中には大量のメダルの様なものと、カラフルな模様の小さな板状のものが入っていた
「これって……」
「何してるの?」
「うわぁ!?」
「デェス!?」
突如背後から声が聞こえた
「おっ、鬼デス!鬼がいるデェス!!」
「きっ、切ちゃん落ち着いて……」
2人の目に飛び込んできたのは、おぞましい表情の鬼のような顔
「まっ、豆デス!豆をぶつけるデェス!!」
「切ちゃん!よくみて!お面よお面!!」
切歌はパニックになり豆を探す
「大変デェス!豆が無いデェス!食べられるデェス!!」
「切歌ちゃん……」
謳歌が切歌の肩を叩く
「あぁ!謳歌さん大変デス!鬼が!鬼が……?あれ?いなくなったデス!」
「ごめん……ここまで驚くとは思って無くて……」
謳歌は切歌に面を見せる
「なんだぁ〜お面だったデスかぁ、びっくりしたデェス……」
「本当ですよ、驚かせないで下さい」
2人は謳歌に不満を漏らす
「はは……ごめんごめん、ところで何してるの?」
指す方には、散乱した謳歌の荷物
「あ!ちっ、違うんデス!これには深い事情がデスね!」
慌てふためく切歌を尻目に、調が続ける
「ごめんなさい……あんまり重かったので中身が気になって……」
「あぁ、別に大丈夫だよ?逆に何入ってた?急な話だったからとりあえず詰めれるだけ詰めてきたんだけど」
謳歌はそう言うと、リュックをひっくり返す
「うわ、やっぱりちょっと整理してから持ってくれば良かったなぁ」
謳歌はぶつぶつ言いながら整理を始める
「何か手伝いますか?」
「あぁごめんね?じゃあそっちを……」
調と切歌も整理を手伝う
「これは何デスか?」
切歌は蛍光イエロー色の無線機の様なものをもっている
「あぁそれはね、PLBっていうんだけど……そうだね……簡単に言うと、個人用救難信号発信器って所かな」
「うぅ……よく分からないのデス……」
切歌が調に助けを求める
「そうね……迷子になったときにそれがあれば、場所を知らせてくれる機械だよ」
「おぉ!便利なのデス!」
「調ちゃん……流石にそれは端的すぎでは……?」
謳歌は苦笑いを浮かべている
「およ?写真が出てきたデス」
例のビニール袋を漁っていた切歌が写真を発見した
「これ……」
「この人、風鳴先生ですか?それに一緒に写ってる子……謳歌さんにクリス先輩ですよね?」
写真にはスーツを着た風鳴弦十郎と、制服姿のクリスと謳歌が写っている
「風鳴先生がスーツ着てるデス!」
「本当だ……それにしても謳歌さん何でこんな仏頂面なんです?ていうかここ、リディアンじゃないですよね?」
謳歌は困ったように答える
「皇居……」
「こうきょ?」
「皇居!?」
調は驚きながらも、質問を続ける
「皇居ってあの皇居ですか!?」
「うん……叙勲された時の写真……」
切歌が謳歌に尋ねる
「何をもらったデスか?」
「紅綬褒章……」
調は携帯を取り出し、検索をかけるとある新聞記事がヒットした
「……秋の叙勲、紅綬褒章に最年少10歳の少女が受賞、タンクローリー横転事故救助活動に尽力……」
「……それ私」
唖然としている調の横で切歌がごそごそ何かをしている
「写真と同じのがあったデス」
切歌がビニール袋から取り出したのは、まごうこと無き本物の紅綬褒章であった
「ちょ!何でこんな物こんな所に無造作に入れてるんですか!?」
「切歌ちゃん、欲しいならあげるよ?」
謳歌が切歌にそう告げる
「本当デスか?何だかよく分からないデスが、カッコいいのデ……」
「切ちゃん!!」
調から何やら不穏な気配がするのを感じ取った切歌は、慌てて手を離す
「本当は貰いたく無かったんだよねそれ……私その時ほとんど何も出来なかったし……私が居なくても助かっただろうし……」
謳歌は続ける
「それなのにみんなして貰え貰えってさ……あのウェル先生も貰った方が良いって……いつもは“君の好きにしろ”って言うクセにさ?」
そう少しいじけた様に話す謳歌に、大きく深呼吸して調は言う
「でも……こんな風に扱っちゃ駄目ですよ?ましてやあげるなんて言っちゃ……」
「うん、ごめんね……」
その時、奥から人影がやって来た
「あっ!謳歌さんこんなところに居た」
未来である
「謳歌さん、お母さんから今度の面談の件で連絡欲しいって」
「未来ちゃん……あれ?携帯電源切ったままだった」
そう言いと、いそいそと電話をかける謳歌
「もう、こんなに散らかして、早く片付けて部屋にもどるよ?」
未来はそう言うと、リュックに荷物を詰めていく
「あの……未来さん今の会話はどういう……」
調が未来に尋ねる
「へっ?あぁ、私のお母さん児童福祉司なの
それより早く片付けるよ
ほら!切歌ちゃんも手伝って?」
夜はまだ始まったばかり
明るくしたつもりですがどうでしょか・・・
次回も頑張ります・・・
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Naturalization
「ところで切歌ちゃん」
「何デスか?」
部屋に戻りながら、謳歌は尋ねる
「さっきどうやって調ちゃんの事倒したの?一瞬過ぎてよく分からなかったんだけど……」
「あぁ!あれはしーきゅーしーデス」
予想外の返答に、謳歌はさらに問う
「それって、軍隊とかが使う格闘術だよね?どうしてそんなの知ってるの……?」
「farは兵隊さんだったデス!」
聞きなれない単語に、謳歌は聞き返す
「far?」
「ノルウェー語で“お父さん”って意味ですよ」
調が答える
「世の中物騒だからって、教えてくれたデス」
「そうなんだ……ていうか調ちゃん、ノルウェー語分かるんだね」
謳歌の問いに、調が答える
「……切ちゃんと初めて会ったとき、切ちゃんノルウェー語しか話せなかったので」
「調に英語を教えて貰った代わりに、ノルウェー語を私が教えたのデス!」
「そうだったんだ……って英語?日本語じゃなくて?」
調が答える
「あぁ……そういえば言ってませんでしたね、私アメリカ産まれのアメリカ育ちなので」
「えっ!?そうなの!?」
謳歌は驚愕する
「母がアメリカ系日本人で、父が日系アメリカ人だったので」
調はそう言うと、ポケットから何かを取り出し謳歌に見せる
「アメリカのパスポートに……在留カード……」
「一応まだアメリカ国籍なんですよ」
切歌も続ける
「私もまだノルウェー国籍デス!」
「そうなんだ……全然知らなかったよ」
調は切り出す
「……実は帰化しようかと思ってて……」
「そうなんだ……でも調ちゃん達って中等科から編入したけど、もしかしてその前から日本にはいたの?」
切歌が答える
「10歳の時に日本に来たデス」
「そっか……じゃあ今年で……」
「はい、5年になります」
謳歌は、疑問をぶつける
「でも……ご両親はなんて言ってるの?5年たっても未成年じゃあ……」
「あぁ……私達2人とも両親は亡くなっているので」
切歌が続ける
「morは私を産んですぐ死んでしまったデス、farは戦争に行って……どこだったデスかね?ア……アフ……忘れちゃったデスが、暑い国デス、そこで死んじゃったデス」
「私も母が兵士だったので……父は……
“ワールドトレードセンター”って言えば謳歌さんなら分かりますかね……」
謳歌は絶句していた
「ごっ、ごめん……2人とも、私、知らなくて……」
もうすでに泣きそうな顔をしている
「あぁ、もう……またすぐ泣く」
調は、謳歌の背中をさする
「だっ、大丈夫デスよ!今さらそんな事気にしないデス!だから泣かないで下さいデス!」
切歌も慌てて謳歌をなだめる
「マム……じゃなくて、ナスターシャ先生が、もし私達が帰化を望むなら、養子縁組しても良いって言ってくれていて……」
「ちょっと迷ってるデス……」
謳歌にハンカチを渡しながら、2人は言う
「そっか……」
「というか……もしやと思いましたけど、案の定国籍取得の条件とかさらっと知ってましたね」
謳歌は、今にもこぼれ落ちそうになっていた涙を拭う
「そうだね……まぁいろんな本も読んだし、いろんな人から話聞いたりしてたし……後はほら、クリスが帰化した時に色々調べたりしたからね」
「クリス先輩は何で帰化したデスか?」
切歌は問う
「私と……」
「えっ?何ですか?はっきり言って下さい!」
調にせっつかれ、謳歌は答える
「私と一緒にずっといれるから……だって」
照れながら答える謳歌
「わぁ……」
「こっ、こっちまで恥ずかしくなってくるのデス!」
謳歌は続ける
「クリスは10歳の時に帰化して、15の時に永住権取得したからね」
「それじゃあクリス先輩にも相談してみようか、切ちゃん……」
「そうデスね……」
そう話していると、遠くから呼ぶ声が聞こえる
「ちょっと、何してるんですか廊下の真ん中で!早く戻りますよ?」
「あぁ、ごめんね未来ちゃん……」
謳歌達が追い付くと、未来が謳歌に尋ねる
「あぁそういえば、クリスちゃんが何だかすごい怒ってたんですけど、何したんです謳歌さん?」
「えっ……分かんない……」
謳歌は振り向く
「何ですか……?私達の方向かれても知りませんよ?」
「何だか電話がどうこうって言ってましたけど」
“電話”という単語を聞いたとたんに、顔が青ざめる謳歌
「……心当たりあるんですね?」
「はい……」
そのまま部屋に到着した謳歌たち
「あの……大丈夫ですか?」
謳歌すっかり意気消沈している
「まだ怒られるって決まった訳じゃないデスからしっかりするデス!」
部屋に入るとクリス、キャロル、エルフナイン、響の4名が居た
クリスの背中に響がおぶさり、キャロルとエルフナインは膝の上に座っている
「いい加減離せお前ら!今から私はあのバカと話があるんだ!!」
クリスが3人に怒鳴っている
「まぁまぁ、穏便に穏便に」
響がなだめる
「まったくだ、温泉に来てまでお前らの痴話喧嘩聞かされる方の身にもなれ」
「誰が痴話喧嘩だ!」
エルフナインも続く
「そうですよクリスさん、見てください、あんなに怯えています(^-^)」
視線の先には、調の背にピッタリ張り付いている謳歌
「ちょっと!息が首にかかってくすぐったいんですけど!」
「だってぇ……」
未来が発言する
「とにかく、何があったのか説明してくれないと……」
向かって左に謳歌と調、切歌
右に響とクリス、キャロルにエルフナイン
中央に未来が入り話し合いの場が持たれる
「で?何があったんです?」
未来がクリスに尋ねる
「謳歌、携帯見せてみろ」
「えっ……何で……?」
嫌がる素振りを見せる謳歌に、未来がさとす
「謳歌さん、出して下さい、ここでごねてもしょうがないでしょ?」
渋々携帯を取り出し、未来に渡す謳歌
「かしてくれ」
携帯を渡されたクリスは、何の迷いもなくパスワードを入力し、携帯を開く
「これが証拠だ」
未来は渡された携帯を見る
「えっと、着信履歴?えっ?不在着信52件……」
携帯には大量の不在着信、うち2件は児童福祉司である未来の母からの物である
「えっと……相手は“風鳴さん”ってこれ、翼さんですか!?」
着信は、現在アメリカで音楽活動を行っている風鳴翼からであった
「先輩、謳歌が鼻折ったって言ったら、一度電話してみるって言ってたんだ」
「どうして出なかったデスか?」
切歌が謳歌に質問する
「だって……」
「だって?」
調が聞く
「怒られるから……」
『へ?』
クリスを除く一同はポカンとしている
「みんなは知らないかもしれないけど……風鳴さんって怒るとすごく怖いんだよ?だから電話とるのためらっちゃって……」
「そのままズルズルここまできたという訳か……」
キャロルが呆れたように言う
「あのなぁ!お前があんまり電話でないから、先輩“もしや電話に出られない程の大怪我をしたのではないか”って、心配して私に連絡寄越したんだぞ!?」
クリスが怒気を強めて言う
「えーっと……つまり謳歌さんが全面的に悪いと……」
未来が結論を述べる
「直ぐに先輩に連絡しろ!いいな!?」
「そんなぁ……」
なおもごねる謳歌
「ほらかせ、俺がかけてやるから」
「待って……心の準備が……」
そんな謳歌に呆れたように調が言う
「もう……そんな事言ってるからいつまでたっても終わらないんですよ?」
「かけるぞ」
キャロルが翼の携帯に電話をかける
♪〜
「ん?」
違和感に気付いたキャロルが、一旦電話を切る
「気のせいか?」
キャロルがかけなおす
♪〜
「近くで鳴ってるよね……これ……」
「そう……だね……」
一同顔を見合わせる
「ここから聞こえるデス!」
押し入れを指差す切歌
「じゃ、じゃあ私が……」
恐る恐る押し入れを開ける未来
「……何してるんですか翼さん……」
「いや……その……何だ……すまない……」
押し入れの中にはトップアーティストの風鳴翼が居た
ついに彼女がやって来ました
次回も頑張ります・・・
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Avañe'ẽ 鳥の Avañe'ẽ 飛ぶ Avañe'ẽ 川
「つっ、翼さん!?」
「皆久しぶりだな……」
押し入れの中には、トップアーティストの風鳴翼
「翼さ〜ん!」
「デェ〜ス!」
響と切歌が翼のもとへダイブする
「おっと」
もはやタックルのような状態を、軽くいなし引き寄せる
「久しぶりだな、立花に暁」
響と切歌を皮切りに、わらわらと翼のもとへ皆が群がる
「おぉ……本当に皆久しぶりだな……少し見ない間に皆背が伸びたな……」
クリスが翼に挨拶する
「先輩、お久しぶりです」
「おぉ!雪音!雪音も少し見ない間に背が……すまん何でもない……」
「おぉい!マリアといい先輩までそうやって弄るのかよ!悪かったなぁ!背が低くて!」
若干おかんむりのクリス
「すまない、冗談だ……!!?」
笑っていた翼の顔が、驚きと共にひきつっている
「……お久しぶりです翼さん」
「久しぶりだな」
「………………」
翼の視線の先には、ぺこりと頭を下げる調に、いつも通りの態度のキャロル、そしてそんな2人にピッタリくっついて目をそらしている謳歌の姿があった
「うっ、謡詠吟!月読から離れるんだ!今度こそ殺されてしまうぞ!!」
血相をかえ、そう叫ぶ翼
「あっ、あの……翼さん……」
「何だ小日向!今取り込み中だ……?」
翼は再び、謳歌達に視線を向ける
「ちょっと!早く翼さんに説明して下さいよ!」
謳歌に訴える調に、キャロルが怪訝を示す
「怒鳴るなうるさい……逆効果だってわかってるだろ?」
「……それで、翼さんはどうしてここに?」
未来が尋ねる
「いや……おじいさまから“そろそろビザが切れるから一度帰国しろ”と連絡があってな」
「それで何で押し入れなんかにいたんだよ……」
クリスがさらに問う
「おじいさまが、“折角だから温泉にでも”と言うので来たのだが、緒川さんに出くわしてな、そこで皆で温泉に来ていると聞いて……」
「驚かせようとして押し入れに入ってたと……?」
未来が翼に続けて言う
「待て!私が考えたのではないぞ!?緒川さんがだな……」
「まぁまぁいいじゃないですか」
響が言う
「そうデス!細かいことは気にしないデス!」
「いつまで居られるんですか(^-^)?」
エルフナインが尋ねる
「明日の夜には日本をたつが、今日はここに泊まる」
「じゃあ今日は遊べますね!」
「デス!」
テンション高めの響と切歌
「まぁ待て、先に謡詠吟と話をだな……ん?」
翼が視線を向けると、先程までそこに居たはずの謳歌がいない
「……謳歌さんならキャロルを抱えてどこかに行きましたよ?」
調が答える
「! あのバカ!逃げやがったなぁ!!」
「待て!雪音!」
部屋を飛び出ようとするクリスを、翼が制す
「……少し落ち着くまで放っておこう、今連れ戻してもまともに話せそうもない」
「おい、どうするつもりだ?」
階段にへたりこんでいる謳歌に、キャロルが声をかける
「………………」
「黙ってても分かんないだろ?」
なおも押し黙る謳歌
「話してみろ、なにが嫌なんだ?」
「…………いてる」
聞き取れず、聞き返すキャロル
「なんだ?もう1回いってみろ」
「……嘘ついてる」
キャロルはさらに問う
「というと?」
「……アメリカの就労ビザって期間が3年あるんだよ?なのにこのタイミングでビザが切れるなんて変だもん……きっと私を怒る為に帰国したんだよ……だからきっと相当怒ってるよ……」
キャロルはため息をつくと誰かに話しかける、相手は謳歌ではない
「ほら」
キャロルが何かを手渡す、どうやら携帯のようであった、そして画面には調が映しだされている
《もう……なんて顔してるんですか》
「調ちゃん……」
「今さら何を言っている、いつもの事だろ?」
キャロルは謳歌の膝に座っている
《ざっと話は聞きましたけど、勘違いしてますよ?》
「えっ……どういうこと?」
謳歌は説明を求める
《謳歌さんが言っている“3年の就労ビザ”っていうのは、“H-1Bビザ”っていって4年制大学の学歴がある人とかが申請できるビザです、翼さんはアーティストとして入国してるので恐らく“Pビザ”を申請してるはずです、これは有効期間は1年ですから》
「そうなんだ……」
「なんだ、結局勘違いか」
キャロルが呆れたように言う
《だから翼さんもそこまで怒ってないと思いますよ?だから戻って一度話しましょう?私もついててあげますから》
謳歌は力なく首を横にふる
《……どうしてですか?》
「私の勘違いだったから余計顔を合わせづらいというか……」
謳歌の煮え切らない態度に、調はヒートアップしていく
《もう!めんどくさいですね!だからそれも含めてついててあげるから一度話してみましょうって言ってるんでしょ!?分かんないんですか!?》
「ごっ、ごめんなさい…………」
「怒鳴るな……うるさい……」
調は続ける
《うじうじしないで下さいよもう!大体誰何ですか!?後ろの子は!》
「うぅ……ごめんよぉ……ん?……後ろの子?」
後ろを振り向く謳歌とキャロル、そこには目をぱちくりさせながらニコニコしている少女の姿があった
「うわぁ!?」
驚いた謳歌は飛び上がり、膝に乗せていたキャロルが落下する
「!? キャロルちゃん!」
手を伸ばすが届かない
「うわぁ!」
そのまま階段から落下するキャロル
「! …………?」
キャロルは衝撃に備えていたが、何も起きない
「マスター……大丈夫なんだゾ?」
「ミカ!?」
キャロルをキャッチしたのは中等科2年の、ミカ・ジャウカーンであった
「お前……何してるんだよ」
「見れば分かるゾ」
ミカはキャロルを抱えたまま、階段をのぼる
「なっ、なんだあれ……」
踊り場に出ると、謳歌に馬乗りになり頬にキスをしまくっている少女の姿があった
「おーか!おーか!」
「ちょ!ちよっと落ち着いて!」
キャロルを下ろすと、ミカがその少女を引き剥がしにかかる
「こら!困ってるからダメなんだゾ!」
「ミカのいじわるぅ!」
その少女の顔を見て、ようやくキャロルが気付く
「あぁ、誰かと思ったらお前か……」
「キャロル!久しぶり!」
仰向けになっていた謳歌が起き上がる
「……久しぶりだね、ティキちゃん」
その少女は、レイア、ファラ、ガリィ、ミカの末の妹であるティキであった
「どうしたの急に?ウルグアイに行ってたはずじゃ……」
「挨拶に来たんだゾ」
ミカが答える
「挨拶って……何の挨拶だよ……」
謳歌とキャロルは、ティキの方を向く
「私ね〜」
「結婚したんだぁ〜〜」
「は?」
「結婚……?」
ティキの発言に2人は目を丸くする他なかった
ミカちゃん良い子・・・
次回も頑張ります・・・
質問等あれば、出来る限りお答えします
ご指摘感想等あれば何でも構いません、お寄せ下さい
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Presidential Medal of Freedom
《うわぁ!》
そんな声が聞こえ、映像が途切れる
「……でない」
リダイアルするが、繋がらない
「どうしよう……」
調は、一抹の不安を覚えた
(まさか……階段から落ちたりしたんじゃ……)
鼻を骨折した件がある、ジリジリと不安が込み上げてくる
(とにかく探さないと……)
調は謳歌達のもとへ向かう為歩き出す
(確か階段はこっちだったはず……)
そう考えていた調は、角を曲がったところで人とぶつかってしまった
「!? すっ、すいません……」
「いや、すまないこちらこそ……」
目の前には、白いタキシードを着た男、調はその男の顔を見て驚愕する
「アダムさん……?」
“アダム”と呼ばれた男も、調同様驚きの表情をにじませる
「……こんな所で英雄の娘と出くわすとは、驚いた……」
立ち上がり手を差しのべるアダム
「……ありがとうございます」
立ち上がりながら、質問する調
「何してるんですか……?こんなところで……」
「少し挨拶にね」
そう答えるアダム、しばしの沈黙
「今は……何されてるんですか?」
「今は国連大使さ、お陰さまでね」
そう言うと、アダムは懐から何かカードのようなものを取り出す、そこには
“ウルグアイ東方共和国 国連大使
アダム・ヴァイスハウプト” と記されていた
「……さっきの呼び方、やめてくださいって前も言いましたよね?」
「あぁすまない、しかし本当の事だ」
「正直……そんなこと、もうどうでもいいです……」
“あの日”
アダムは、常連だった日本食レストランで朝食をとっていた
午前8時46分、轟音が響きわたり店の外に出て見ると、ツインタワーの北棟から煙があがっているのが見てとれた
“何があった”
そう尋ねてきたのは、この店の店主の男
アダムは呆然としながら、指を指す
“娘を任せる”
そう言って、男は煙があがっているツインタワーの方角へ走り出していってしまった
店の中には、幼い少女が1人、不安げにこちらを見つめている
男の妻は兵士で、今はイラクに派兵されていると耳にしたことがあった
朝の早い時間、店には自分1人
しばらく様子を見ていたが、今度は南棟から轟音と共に煙があがった
尋常ではない事態を察した
男の娘を抱え、避難する事にした
“お父さんは?”
しきりにそう尋ねる男の娘をなだめ、自分が勤めていた在米ウルグアイ大使館を目指した
カウンターに、男へ宛てたメモを張り付け店を後にする
大使館へ到着直後、中継映像が崩壊する北棟の映像を捉えていた
ペンタゴンにも、何らかの攻撃があったとの情報も寄せられていた
当初、合衆国政府は“ヒューマンエラーにより旅客機が衝突した”との声明を出していた
しかし現在は、何らかの組織的な攻撃が行われているという認識であった
大使館は大騒ぎであった
とにかく今は在米邦人の安否確認や注意情報の送信
合衆国政府との情報交換
とても子どもを抱えていられる状況ではなかった
“お父さんは?”
しかしながら、そう何度も不安げな顔で尋ねる少女を放っておくわけにもいかなかった
その夜は大使館に泊まった
非常時ということで、大使から許可をもらった
いまだ男との連絡はとれていない
事件から2週間がたった
男の遺体が見つかったとの連絡が入った
その時がきたのだ、少女に事実を伝えなければならない
物静かな少女であった
この2週間、少女は1日のほとんどをニュースを見てすごしていた
そしてこう尋ねるのだ
“お父さんは?”と
気が重かった
この幼い少女には、あまりにも重すぎる事実であったからだ
近づくと、少女が振り向き口を開く
“お父さんは?”
そう聞かれるものだと思っていた
しかし違かった
“お父さん、死んじゃったの?”
”……あぁ”
と答えることしか出来なかった
大声で泣きわめく物と思っていた
しかし、少女はうつむき、声もあげず涙を流していた
そんな少女を、抱き寄せる事しか、自分には出来なかった
事件の最終的な死者数は、実行犯を含め2997人にのぼり、合衆国史上最悪の事件となった
事件から3年後、独立記念日において、男は大統領自由勲章を授与された
あの日の事件発生直後、男は自ら炎上する北棟に入り、人々の避難誘導を行っていたことが分かったからだ
レストランの客で、顔を知っていた人々が証言している
“非常階段で彼とすれ違った”
“煙の中、彼に誘導され避難出来た”
“あの店の店主に、階段を使うよう言われた”
もうひとつ、男と特定出来た要因があった
レストランのロゴが入った、特徴的な帽子を目撃した人々が大勢いたのだ
“この帽子を被った男性に救われた”
そんな証言が、数え切れない程あった
追悼式典には、あの少女のみが参加していた
男の妻、いや、少女の母は、アフガニスタンに出兵したと聞いた
飛び立つ前、妻は娘にこう言ったらしい
“必ずかたきを取ってくる”と
男の名前が読み上げられ、少女が壇上にあがる
大統領から、勲章を首にかけられる少女
少女の顔は、曇ったままであった
「……約束、覚えてますか?」
「もちろんだ、直近ではまず、バルベルデをどうにかしなければならない」
調は、続ける
「ごめんなさい……子どもの戯言を聞き入れてくれて……」
「今の生活を楽しむんだ、後は大人にまかせて、何も気にする事はない」
遠くから声が聞こえる
「アダム〜〜〜」
小柄な女性、いや、少女がアダムに抱きつき、熱いキスをしている
「……そちらの方は?」
「あぁ、妻のティキだ」
ティキは尋ねる
「この人だーれ?」
「あぁ、英雄の娘さ……」
そう答えるアダムの顔は、慈愛に満ちていた
アンケートをとりたいと思います・・
本当はこの作品は1話完結のストーリーをおもしろおかしくやる予定だったんです・・・
なので、本編のもうひとつのルートという解釈で、
新しく物語を書きたいと思っています・・
しかしそうなると作品ごとの投稿ペースは確実に落ちてしまうと思います・・・
皆さんのお考えをお聞かせ下さい
また、新しい作品を書いても良いという方で、何か書いて欲しい題材などありましたら、
お教え下さると、嬉しいです・・・
次回も頑張ります・・・
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Padania Blue
ありがとうございます
「ティキちゃんその人は?」
謳歌が尋ねる
「あのね〜?アダムっていうの!私の旦那さん」
「ティキこちらは?」
アダムも尋ねる
「謳歌っていうの!日本にいた頃仲良くなったの!」
アダムが帽子を取り、挨拶する
「夫のアダムと言います、初めまして」
「……謡詠吟謳歌です」
謳歌がお辞儀して顔をあげると、アダムの後ろから調がひょこっと顔を出す
「あれ……調ちゃん?」
「アダムさん、この人がさっきお話した私の先輩です」
調がアダムに告げる
「えっ……えっ?調ちゃん、お知り合い……?」
「はい、アメリカにいるときにお世話になりました」
戸惑っている謳歌を尻目に、調がアダムに問う
「あの……ていうかその子……ティキちゃん……でしたっけ?明らかに私より年下に見えるんですが……さっき妻って言ってましたよね?」
「あぁ調ちゃん、ウルグアイでは女の子は12歳から結婚出来るから……」
謳歌が答える
「ほぉ……よくご存じで、しかしなぜ私がウルグアイ出身と?」
「ティキちゃんがウルグアイに行っちゃったのは覚えてましたし……
それに……その白いタキシード……
ウルグアイの国連大使、アダム・ヴァイスハウプトさんでお間違いないですか……?」
「その通りです、まぁ今は法律が変わって出来ませんが」
少し驚いている様子のアダム
「……以前インタビュー受けてらっしゃいましたよね、そちらをご拝見してたもので……」
「ね〜何のお話〜?つまんな〜い」
ティキが駄々をこねている
「あぁ、そろそろ行こうか、良かったら君達も後で部屋に遊びに来てくれ、ティキも喜ぶ」
「あぁ……はい……」
「またね〜」
その場を離れるティキとアダム
「大丈夫なんだゾ?」
「何ショボくれてるんだよ」
ミカとキャロルが謳歌の顔を覗きこむ
「いや……何でもない……」
「無理もないゾ、そもそもティキがキス魔になったのはこの人のせいだゾ」
ミカが言う
「はぁ?」
「どういうことです?」
調とキャロルが問う
「ティキちゃん……小さい頃は私と結婚するって言ってたのに……」
「いくつの時の話だよそれ……」
呆れるキャロル
「ティキもこの人にべったりだったんだゾ、この人が“好きな人にはこうするんだよ”とか言ってキスしまくってたんたゾ」
「はぁ……何してるんですかもう……」
ミカが続ける
「ガリィにばれた時は大変だったんだゾ」
「あぁ、だからガリィの奴お前の事目の敵みたいにしてたのか」
納得したように話すキャロル
「あぁ……そういえばティキちゃんが居なくなったあと、ミカちゃんのこと触りまくってたなぁ……」
「……あんまり落ち込んでたからかわいそうに思っただけだゾ……」
そう言いつつ、ミカの頬に手を伸ばす謳歌、その手を調がペシッっと払う
「何どさくさに紛れて触ろうとしてるんですか……」
「ごめん……つい……」
ミカが口を開く
「別に触っても良いけど、ガリィにバレないようにして欲しいゾ、怒ると押さえるのが大変なんだゾ」
「本当?じゃあ遠慮なく……」
「調子に乗らない」
調は謳歌の頭をペシッっと叩く
「あ痛……」
「……それじゃあ私はもう行くゾ」
皆にそう告げ、その場を後にするミカ
「あっ、そうだゾ」
「どうしたのミカちゃん」
ミカが何か思い出したように言う
「……昔より表情が柔らかくなったような気がするゾ、……上手く言えないけど、昔はもっと苦しそうな感じだったゾ」
「へ……?そうかなぁ……?」
謳歌は調とキャロルの方を向く
「そうかぁ?そんなに変わらんだろ?」
「そもそも謳歌さんの顔まじまじと見るようになったのって最近だしなぁ……」
要領を得ない様子の3人
「……まぁどうだって良いんだぞ、それじゃあまたなんだゾ」
「うんまたねミカちゃん」
ミカを見送った3人
「さて……それじゃあ戻りますよ?翼さん達待ってるでしょうし……」
「……やっぱり戻んなきゃだめ?」
「この期に及んでなに言ってんだお前は……」
部屋へと戻る3人、謳歌の足取りは重い
「はぁ……」
「何回ため息ついてんだお前は……」
部屋に入る
「謡詠吟……その、なんだ……鼻は大丈夫か」
「はい……ご心配をおかけしました……」
それっきり会話が途切れてしまった
〈ほら!きちんと翼さんに謝るんでしょ!何してるんですか!〉
〈うん……〉
「…………」
「…………」
しばしの沈黙
「あのー聞きたいことがあるデスが、謳歌さんは翼さんのことが嫌いなんデスか?」
沈黙を打ち破る切歌の発言、緊張感に包まれる室内
「あれ……何か変なこと言っちゃったデスかね……」
「いや……良いのだ暁、私も気になっていたのだ……
謡詠吟……もし私が嫌いと言うならそう言って欲しい、
お前は、常に自分の本心を隠すようなところが有るからな……お前の本心というのを聞かせて欲しいのだ……」
真っ直ぐに謳歌を見つめる翼
そして、翼の問いに首を大きく横に降る謳歌
「本当か……?もし私に気を使っているのなら……」
翼が話終わる前に、激しく首を大きく横に降る謳歌
「そうか……」
再びの沈黙
すると、謳歌の背後から近づく人影
響である
「謳歌さん、言葉じゃなきゃ伝わらないことも有ります、
……それを私に教えてくれたのは、謳歌さんじゃないですか」
謳歌の背中をさすりながら、そう問いかける
「そうですよ?自分が我慢しても、解決しないことだってあるんですよ?」
響と同じように背中をさすりながら、未来も問いかける
「そうデス!ちゃんと言いたい時に言わないと、後悔することだってあるデス!」
「僕達は謳歌さんの味方です(^-^)」
「そうだ、オレたちはお前の味方だ」
「……もう1人じゃないんですよ?」
切歌、エルフナイン、キャロル、調と続く
「大丈夫だ……皆いる」
最後にクリスが、謳歌に声をかける
「…………ずっと、申し訳なかったんです」
ポツリ、と語り出す謳歌
「……私、年上の人が苦手で……
いつからか分からないんですけど……
常に人の顔色ばかり見るようになっていて……
風鳴さんが、私の為に怒ってくれたりしてたのも、本当は心の中では分かっていたんです……
だけど……いざ話そうとすると、喉がキュッって締まってしまうような感覚があって……
本当は、お礼も沢山言いたかったのに、出来なくて……
それが申し訳なくて……
後ろめたくて……
段々避けるようになっちゃって……
ごめんなさい……ごめんなさい……」
泣きながら話す謳歌
「そうか……よく話してくれたな」
そう言うと、翼は謳歌に近づき、優しく頭をなでる
「謳歌さん」
未来が謳歌に微笑む
謳歌は頷き、呼吸を整える
「“翼さん”ありがとうございます!」
「……あぁ!」
アンケート沢山のご回答ありがとうございました
結果を元に、新しい作品を投稿しました
作品名は“リディアン音楽院の問題児(✌️る〜と)”
といいます
こちらは1話完結式で、楽しいお話をあげていきます
作品投稿は交互に行っていく予定です・・
なるべくそれぞれの作品で、間が開かないように投稿していきます・・・
今後もよろしくお願いします
次回も頑張ります・・・
ご質問等あれば、出来る限りお答えします
ご指摘ご感想等ありました、何でも構いません、お寄せ下さい
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そらをかけるしょうじょ
「やってしまったんだぜ……」
途方にくれるミラアルク
日本から飛行機で約13時間、ミラアルクはスイス連邦に降り立っていた
「あぁ……どうしよう……」
何故こんなにも頭を抱えているかと言うと、
チューリッヒ空港に降り立ち、当初の目的地であるジュネーブに向かうため、鉄道を利用したは良いものの
ローザンヌ行きの列車に誤って乗車してしまい
さらには、先の線路が土砂崩れにより寸断され足止めを食らってしまった
「荷物……あぁ!思い出せない……」
ミラアルクは手荷物を紛失してしまっていた
中には、携帯に財布等ほとんどの物が入っていた
「パスポートとかは有るけど……この先どうすれば……」
常々、オーストリア大使である父親から“パスポートとビザだけは絶対に肌身離さず持ち歩け”と言われていた
しかし財布も携帯も無いのではどうしようも出来なかった
「せめて……言葉が通じれば……」
スイス連邦は、26の州で構成される連邦共和制国家である
その為公用語は、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語、ラテン語とされており、州によって、公用語が異なる
ミラアルクの出身である、オーストリアの公用語はドイツ語であるが、ここローザンヌの公用語はフランス語である
「うぅ……寒いんだぜ……」
そもそも当初の予定では、日本から直接ジュネーブに渡航する予定だったのだが
大雪によりジュネーブ空港が閉鎖されてしまい、急遽チューリッヒ空港に行き先を変更し、航空券を用意した
「本当にどうしよう……」
途方にくれるミラアルク
手荷物を紛失の際は、最寄りの警察署に届け出て、最悪大使館に助けを求めることも考えたが
そもそも警察署が何処にあるか分からない
携帯さえあれば、翻訳ツールを使って意志疎通出来るのだがそれも出来ない
かといって大使館に行こうにも
日本大使館は、事実上の首都である連邦都市ベルンに、ジュネーブにも領事事務所があるが、
ここローザンヌは2つの都市の中間に位置し
とても歩いてたどり着ける距離ではなかった
寒さと空腹で、ドイツ語が通じる人を探し出す気力も体力も失っていた
“ガシャン!”
何かが倒れる音が聞こえた
「?」
ミラアルクが視線を向けると、車椅子にのっていたと思われる人が、転倒していた
「! 大丈夫ですか!?」
ミラアルクは、直ぐさま女性に駆け寄り、助け起こす、とっさに日本語で話しかけていた
「えぇ、ごめんなさい……ありがとう」
「どこか怪我とかは?してないですか?」
「えぇ、大丈夫よ、本当にありがとう」
女性はお礼を言うと、電動車椅子を操り、去っていく
「良かった…………ん?
今うち……日本語……!!」
ミラアルクは女性をおいかける
「あのー!!」
「? あなた……さっきの……」
「日本語分かるんですか!!?」
「えっ、えぇ……私は日本人だから……」
「本当ですか!?良かったぁ……」
ようやく言葉が通じる人を発見し、ミラアルクは地面にへたりこんでしまった
「そう……大変だったのね……」
女性に事情を説明する
「そしたら、私ジュネーブに住んでいるから、今からバスで帰る所なの、一緒に行きましょう」
「えっ!?良いんですか?でも……うちお金が……」
「大丈夫よ、私が払うから、着いたら領事事務所に行きましょう?」
「あっ、ありがとうございます!」
ミラアルクは、女性と共に近くの警察署に赴き、紛失届けを出したのち、高速バスでジュネーブへとむかった
「これで良し」
領事事務所で、手荷物の紛失を届け出た
「何から何までありがとうございます……」
「良いのよ全然、今日は1日フリーだったから
この後はどうするの?泊まるところは?」
「……まだ何も決まって無くて……」
「まぁ、そうよね……もし良かったらうちに泊まると良いわ」
ミラアルクにとっては、願ってもない提案だったが、さすがにそこまでしてもらう訳にはいかないと感じた
「そっ、そんな……そこまでしてもらう訳には……」
「良いのよ、遠慮しないで?それに……もうすぐバッテリーが切れちゃいそうなの、だから押していって貰えると助かるの、ね?」
「分かりました……何から何までありがとうございます」
ミラアルクは、女性が住む家にむかう
〔ショーカ、今帰りかい?荷物を預かってるよ〕
女性の住むマンションに到着した所、フロントで初老の男性に呼び止められる
恐らくここの管理人か何かであろう
〔ありがとう、多分メンテナンスに出してた義足が戻って来たんだわ〕
〔そうかい、で?そちらのお嬢さんは?〕
おそらくフランス語であろう、ミラアルクには会話の内容が分からない
〔えぇ、手荷物を無くしちゃったみたいで……今日泊めようと思って〕
〔そうかい……本当にあんたはそういう事が好きだね〕
〔まぁ、職業病みたいなものかしらね〕
ひとしきり談笑すると、男性はミラアルクに袋を手渡す
「#@$¥=+~;ー゜※‥」
「えっ?あっ、はい……」
男性が何を言ったか分からない、女性に助けを求める
「あぁ、“これ食べて”って言ってるのよ」
「あっ……メッ、メルシー……」
男性は笑顔を返すと、去って行った
「私たちも行きましょう」
「はっ、はい」
女性の部屋に到着する
「お風呂は……あなた出身は日本かしら?」
「いえ、今は日本に住んでますけど、出身はオーストリアなので使い方は分かります」
「そう、なら大丈夫ね、今からお風呂沸かすから、お先にどうぞ」
ミラアルクは入浴を終え、部屋に戻る
「ごめんなさい、そこの棚にあるドライバー取って貰えないかしら?」
「あっ、はい」
ミラアルクは棚のドライバーを取りに向かう、そこには1枚の写真が飾られていた
「? どうかした?」
「あっ、いえ……」
「……娘がいるの、そうね……丁度あなたと同じ位かしら」
心なしか、もの憂いげな表情に見える
そして、ミラアルクはあるものを発見する
「これ……」
「あぁ、それはまだ現場に居た頃に使っていた物よ、義足になってからは本部勤務になったから、使っていないの」
よく見覚えが有るものだった、そこには特徴的な“人”の字のような赤いエンブレムと
Médecins Sans Frontières
の字が刻印されている
そしてその物から、手紙の様なものが滑り落ちる
「あっ……」
ミラアルクが拾い上げると、その手紙には
“おかあさんへ”
と、拙い字で書かれていた
「あら、懐かしいものが出てきたわね……」
女性はそう言うと、手紙へと視線を向ける
「娘がね……くれた物なの、もう随分と経ってしまったけれど……」
ミラアルクは恐る恐る手紙の差出人を確認する
“おうかより”
そう書かれていた
「あの……!」
「? 何かしら?」
ミラアルクは、かなりの鼓動の高鳴りと緊張を感じていた
「お名前……!お名前伺っても良いですか……?」
「あら、そういえばまだ名乗っていなかったわね」
ミラアルクは“ゴクリ”と息をのむ
「私は、ショーカ、謡詠吟 唱歌って言うの、よろしくね」
「……先輩の、お母……さん……?」
目的の人物との思わぬ邂逅に、只ただ呆然とするしかなかった
齟齬が無いよう色々調べてはいますが・・・
何かおかしな部分があればお教え下さい・・・
次回も頑張ります・・・
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ロスト・アルテミス
「あぁ……目が痛い……」
あのあと散々泣きはらした謳歌
「疲れた……なのに全然眠れない……」
個人的にはそんなに泣いてたつもりは無いのだが、皆いわく“1時間以上泣いていた”との事だった
謳歌がやっと泣き止んだあとは、皆で遊んだ
切歌が持参したカードゲームが大いに役にたった
「はぁ……綺麗だなぁ……」
共有スペースのソファーに腰掛けながら、空を眺める謳歌、今夜は満月のようだ
「月見かな?こんな時間に」
「あっ……どうも……」
同じ旅館に宿泊するアダム・ヴァイスハウプトである
「お隣よろしいかな?」
「あっ……はい……」
謳歌の隣に腰かけるアダム
「彼女は……元気にやっているかい?」
恐らく調の事であろう
「あっ……はい、……調ちゃんには助けてもらってばかりで……」
気恥ずかしそうに話す謳歌
「そうだ、これを渡しておいてくれるかい?恐らく彼女の友人の物だろう」
渡されたのは、文字が刻んであるプレートのような物
「これ……認識票ですか?てことは切歌ちゃんの……」
「脱衣場に落ちていたとティキが持ってきてね」
(ヤバい、また泣きそう……)
最近どうも涙腺が緩いようだ
「大丈夫かい……?」
ハンカチを手渡すアダム
「……ごめんなさい、何だか悲しくなってしまって……」
アダムは少し笑みをこぼしながら言う
「どうやら、彼女が言っていた通りの人物のようだ君は」
アダムが続ける
「君が昔の自分に似ている、と話していたんだ」
「はぁ……」
謳歌は困惑しながらも、相槌をうつ
「……彼女の両親の事は聞いているかい?」
「はい……お2人とももう亡くなっているって聞きました……」
「その詳細については?」
アダムがさらに問い、謳歌が答える
「はい……お父さんの方はワールドトレードセンターに居たからって言っていたので、恐らく“あの事件”で亡くなられたのかなと……
お母さんの方は、兵士だって言ってましたけど、詳しいことは聞いてません」
「そうか……彼女の母親は
フロリダ州 アメリカ空軍ハルバートフィールド空軍基地 特殊作戦コマンド 第1特殊作戦航空団 第4特殊作戦飛行隊に所属し
spookyの操縦士をしていた」
謳歌は“何か”を察した
「それじゃあ……」
「彼女の母親は、彼女の目の前で、こめかみに拳銃を放って自殺した」
言葉を失う謳歌
「最初は……彼女を殺して無理心中しようとしたんだ、居合わせた私が何とか止めたが……母親の方の自殺は止められなかった……」
「しっ、調ちゃんは……」
謳歌が問う
「彼女は強い子だ……母親の死、それも無理心中未遂で自殺という最悪の事態でも、耐えていたよ……」
「どうして心中なんて……」
謳歌は困惑している
「彼女の母親は、アフガニスタンのクンドゥーズに派兵されていた、そこで……あの事件が起こった」
●
「せっ、先輩のお母さん……?」
予想外の出来事に固まってしまったミラアルク
ミラアルクの目的地、スイスのジュネーブには国境なき医師団の本部が所在している
各国の支部の連絡窓口として機能しているジュネーブ事務局に赴き、どうにか謳歌の母親と連絡をとろうとしたのだ
その為に日本の公用旅券を発券し、青年海外協力隊の活動の一環として
国境なき医師団の活動の見学及び補助という名目の下、この地に降りたっていた
「……どうかしたの?」
「せっ、先輩!謳歌先輩のお母さんですか!?」
食いぎみに唱歌に詰め寄るミラアルク
「あなた……あの子を知っているの……?」
「うち!あなたに会うためにここに来たんです!」
ミラアルクが言う
「そう……じゃあ日本から来る青年海外協力隊員っていうのはあなたのことね……」
「はい!そういう名目になってます!」
そう言って慌てて口を塞ぐミラアルク
「そう……理事長先生ね……?こんなこと大っぴらに出きるのは……」
そう言って唱歌は続ける
「それで?私に会って何をしようとしていたの?あの子に引き合わせるつもりでいたのかしら……?」
「どうして……連絡とらないんですか?」
ミラアルクが尋ねる
「何でって……あなたも知っているのでしょう?私があの子に何をしたのか、私にはあの子に会う資格なんて無いの……」
「本当に会いたくないんですか……?」
ミラアルクが尋ねると、唱歌は食いぎみに答える
「会いたいわよ!今すぐ会って抱き締めてあげたい……けれど、その事によってあの子が苦しむくらいなら、私は一生あの子に会わないわ
それに……きっと私は恨まれてるから……」
唱歌の目には次第に涙がたまっている、まるで謳歌のように
「そんな事ないと思います……」
「何を根拠に言っているの!?変な慰めはやめて!」
唱歌が叫ぶ
「…………」
ミラアルクは、その場で服を脱ぎ始める
「なっ、何をしているの……」
完全に一糸まとわぬ姿になると、くるりと背を向けるミラアルク
「あなた……それ……」
唱歌は直ぐに気がつく
「うちは、先輩に助けられました」
ミラアルクは事故にあった事、謳歌に救われた事、皮膚を提供してもらった事等自分が知り得る事をできる限り話した
「そっ、そう……とりあえず……服を着ましょう?ね?」
恐らく勢いで脱いでしまったのだろう、状況を確認すると、恥ずかしそうに服を着るミラアルク
「…………」
「…………」
少し気まずい空気が流れる
「……話してくれてありがとう、あの子の事は全然知らないから……」
切り出す唱歌
「これ……」
ミラアルクは部屋にあったバックを手元によせる
「このバック、先輩も同じ物持ってて……分かりますか?」
「! そう……」
そう言って、目に涙をためる唱歌
「……それは、あの子に最後にあった時に置いてった物なの……」
謳歌が肌身離さず持ち歩いている、国境なき医師団のエンブレムが入ったメディカルバックであった
「先輩、これいつも持ち歩いてて……気にはなってたんですけど……」
「謳歌……」
涙を流す唱歌
(似てるなぁ……先輩に……やっぱり親子なんだなぁ……)
「どうですか?一緒に日本に来てくれませんか?」
唱歌に問うミラアルク
「そうね……彼との約束も果たさないといけないしね……」
唱歌は義足を見つめながら物思いにふける
●
突如轟音が鳴り響く
「何!?」
飛び起きる唱歌、時計は午前2時を少しまわっていた
ここはアフガニスタン北東部に位置する唯一の外傷治療施設
国境なき医師団クンドゥーズ外傷センターである
『ショーカ!大変だ!』
飛び込んで来たのは、現地の医療スタッフの男性
『攻撃されてる!多分米軍のAC-130ガンシップだ!!』
『そんな!ついこの間座標を送ったばかりじゃない!!』
クンドゥーズの戦いの最中、戦況が激化したことに伴い、つい先日に米軍とアフガニスタン政府、イスラム原理主義勢力の両陣営に、
病院の正確な位置をGPS座標で送信したばかりであった
『病棟が空爆されてるんだ!!どうすれば……』
『落ち着いて!直ぐに米軍とアフガン政府にコンタクトを取って!動ける人達はとにかく避難して!急いで!!』
戦闘地域における病院施設への攻撃は、たとえ施設が
「人道的機能以外で使用されており、敵にとって有害な活動に関与していても」
国際人道法により禁止されている
『どうしたんだ!?』
唱歌に声をかけたのは、2ヶ月ほど前に倒れていた所を病院に担ぎ込まれていたノルウェー軍のNATO派遣兵であった
足を骨折していたが、今は支障なく歩けるまで回復しており、原隊に復帰するまで病院の手伝いを志願し、唱歌と共に行動していた
『病棟が空爆されてるの!!早く患者さん達を避難させなきゃ!!』
『何だって!?そんなバカな……』
再び轟音が轟く
『おかしい……まだコンタクトは取れないの!?』
この攻撃が、仮に誤りによる物であったとしたならば、直ぐに何らかのコンタクトがあるはずだ
しかしながら、初弾の着弾から既に5分以上経過しているのにも関わらず、空爆は収まるどころか激しさを増していた
『意図的に攻撃しているの……!?』
『あり得ない!完全に機能している病院施設に無警告で攻撃するなんて!』
とにかく今は、一刻も早く患者を避難させなければならない
攻撃が命中した病棟は、大パニックに陥っていた
『動ける人は自力で避難させて!!今は動けない人を優先し……きゃあ!!』
また着弾したようだ
『ダメだ!戻るんだ!!』
あの兵士の声が聞こえた、先ほどの爆撃で何名か外に飛び出したようだ
次の瞬間、飛び出した数名は、ガンシップの機銃掃射を受け、絶命した
中には子供が1人いた
『そんな……』
呆然と立ち尽くす唱歌
『しっかりしろ!!ここはもう持たない!この人達を連れて裏から脱出するんだ!!』
あの兵士の声である、振り返ると恐怖に歪んだ表情の人々がいる
『…………!!』
唱歌は自分の頬を叩く
『ごめんなさい、あなたも一緒に行きましょう!』
『いや、もう少し病棟を見回る』
兵士の発言に異を唱える唱歌
『駄目よ!逃げるべきだわ!』
『議論している余裕は無い!これを』
兵士が手渡したのは、1枚のドックタグ
『もし戻らなかったら、これを娘に』
兵士には、日本人の妻との間に産まれた娘がいると聞いていた
『娘がもう1枚を持っている
名前は……キリカだ
さぁ!もう行くんだ!!』
兵士はそう言い残し、病棟の奥へ消えていった
『ちょっと……!くっ!』
もう一刻の猶予も無かった
『みんな行きましょう!出きるだけ体を低くして!』
唱歌は病棟からの脱出に成功したが、途中足に機銃の掃射を受け、膝から下を切断する重傷を負った
そして兵士は戻ってこなかった
空爆による最終的な被害は、22名が死亡し、30名以上が負傷、34名が行方不明のままになっており
行方不明者の中には兵士が含まれている
●
「そうね……分かったわ」
「えっ!?それじゃあ……」
ミラアルクは問う
「えぇ、行きましょう日本へ、その代わり……
色々あなたに頼ってしまうかも知れないけど……」
「もっ、もちろんです!何でも言ってください!」
日本へ
時間がかかってしまいました・・・
次も頑張ります・・・
ご質問等あれば、出来る限りお答えします
ご指摘ご感想等ありました、何でも構いません、お寄せ下さい
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悪夢
「んー……」
眠り眼をこすりながら、謳歌は目覚める
「重い……」
アダムとの会話の後、部屋に戻った謳歌は妙な心細さから、クリスの布団に潜り込んでいた
しかし目覚めて見ると、左側にはクリスが、右側には響がそれぞれくっついていた
そして、腹部には切歌が頭をのせ、スヤスヤと寝息を立て寝ていた
「動けない……」
首をグリグリと動かしながら、辺りを見回す
「流石にみんな寝てるかぁ……」
それもそのはず、時刻は午前5時を少し回った所
ふと、響に目をやる
「こんなにまじまじと顔見たの久しぶりだなぁ……」
いつもは仮面越しに響を見るため、こんなにも近くで顔を見る機会がなかった
「……」
“ツンツン”
(おぉ……!意外に柔らかい……)
何を思ったのか、謳歌は指で響のほっぺたを触る
そしてそのまま指を唇に運び、なぞる
(ほぉ!ぷにぷに!)
「んー……?」
(ヤバッ!)
慌てて手を離す謳歌
しかし、響はまたスースーと寝息を立てる
(はぁ……危なかった……)
胸を撫で下ろし、天井を見上げる謳歌
(ん?)
視界の上、頭の方に映る“なにか”
「うわぁ!!?」
思わず大声を上げる謳歌
「しー!」
そこには、人差し指を口に当てる調の姿があった
「しっ、調ちゃん……!?良かったぁ……座敷わらしかなんかかと思った……」
「なんです?子供っぽいって言いたいんですか?」
「いっ、いやぁ……そんな訳無いじゃない……あはは……」
朝からどことなくご機嫌斜めに見える
「早起きだね……」
「はい……まぁ、いつもこれくらいに起きるので……」
「そう……私もなんだよなぁ……」
そう言うと、先ほど飛び起きた反動で、3人が体から離れていることに気が付く
「しかし起きないなぁ……」
そう言いながら、クリスには枕を与え代わりにする
切歌は今度は響の足に絡み付きながら寝ている
響には掛け布団を与えた
「エルフナインも起きてますよ」
調が指を指すとニコニコのエルフナインが携帯片手にこちらへやってくる
「おはようエルフナインちゃん」
「おはようございます、謳歌さん(^-^)」
すると、謳歌に携帯を見せるエルフナイン
「綺麗に撮れました(^-^)」
それは、先程の謳歌の行動が刻名に記録された動画
「削除っと……」
「あぁ!ひどいです謳歌さん(`´)」
「エルフナインちゃん……世の中には残らない方が良いものも有るんだよ……」
そう言う謳歌に、調は言う
「大丈夫です、すでに未来さんに送信済みです」
「何も大丈夫じゃないよ!?」
思わず大声を出す謳歌
それに対し、調とエルフナインが非難の表情で口に人差し指を当てる
『しー!』
「あぁ……ごめんなさい……」
恐る恐る尋ねる謳歌
「ところで……その未来ちゃんは……?」
「あぁ、多分ジョギングじゃないかと」
思わず聞き返す謳歌
「ジョギング!?」
「日課らしいですよ(^-^)?」
「へぇ……そうなんだ……」
そう言っていると、謳歌の携帯に通知が入る
「うっ……噂をすれば……」
未来からである
【外、出れますか?】
シンプルなだけに不気味な1文である
「命は大切にしてくだい」
「謳歌さん、お大事に(>_<)」
「ちょっと!縁起でも無いこと言わないでよ!?」
朝のひんやりした空気が顔に刺さる
外に出ると、未来らしき人物の後ろ姿が見えた
「未来ちゃん?おはよう……」
「…………」
しかし、返答が無い
「未来ちゃーん……?おーい……」
謳歌が肩に手をかけた瞬間だった
「うわぁ!?」
突如首がぐりんと回り、鬼が顔を向ける
「ふふ、可笑しい、そんなに驚くなんて」
それは般若の面を付けた未来であった
「未来ちゃん……びっっくりしたぁ〜……」
力が抜ける謳歌
「響をベタベタさわった罰です」
「いっ、いやぁ……あの……その……」
しどろもどろしている謳歌
「ふふっ、そんなにびくびくしないで下さいよ?別に怒ってる訳じゃないんですから」
「へっ……?そうなの……?」
聞き返す謳歌
「もう、皆さん私を何だと思ってるんですか?調ちゃんやエルフナインちゃんも!」
少し拗ねたように話す未来、携帯のメッセージには
《未来さん、きっと悪気はなかったんです》
《早まっちゃダメです\(>_<)/》
そんな内容であった
「じゃあ……何で呼んだの……?」
「……昨日の夜、響と何してたんですか?」
「……へ?」
明らかに先程とは声のトーンが違う
「だから!昨日の夜、友里先生の部屋で2人っきりで何してたのかって聞いてるんです!!」
大声で怒鳴る未来、謳歌の記憶の中で、ここまで大声を上げる未来は見たことがなかった
「みっ、未来ちゃん?何か誤解してるよ……あれはただ……」
「“ただ”何です?」
未来が詰め寄る
「そっ、それは……言えない……」
謳歌は、響が未来に事情を知らせたくない事は、聞かずとも分かっていた
「ふふっ……響もそうでしたよ……“誤解している”だけど“理由は話せない”」
「未来ちゃん……本当に私と響ちゃんは何も……」
謳歌がさとす
「どうして!?ならどうして響は何も言ってくれないんですか!?」
「そっ、それは……」
「……親友だと思ってたのに、そう思ってたのは私だけ?」
「そんな事ないよ!響ちゃんだって未来ちゃんの事……」
「じゃあ!どうして何も言ってくれないんですか!!
私知っているんですよ!?いつも2人でこそこそ会ってるの!どうしてはぐらかすんですか!?どうして……」
未来の言葉は次第に嗚咽がまじり始めていた
「未来ちゃん……本当に何も無いから……ね……?」
そう言いながら未来に手を伸ばす謳歌、未来はそれを払いのける
「やめて!!」
「未来ちゃん!!」
そのまま未来は走り去ってしまった
「未来ちゃん……」
未来は泣いていた
本当はあんなことするつもりは無かったのに
「もう嫌……」
未来には分かっていた、響と謳歌には何も無いことも、謳歌の言葉に偽りが無いことも
「私……最低……」
未来は泣き続けた
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ライスマヤノターボ
「あ〜!着いた〜!」
高速鉄道で3時間余り、ミラアルクと唱歌は、フランスの首都パリに降り立っていた
「それにしても良かったわね、荷物が見つかって」
「はい!本当に良かった……」
領事事務所から連絡があったのは昨日の夕方のことであった
どうやら、ミラアルクの手荷物がパリ11区のオベルカンフ駅で見つかったようだとの事だった
翌日、2人は高速鉄道と地下鉄を用いて、手荷物が保管されている警察署に赴いた
「“どんなものが入っていますか?”ですって」
唱歌に通訳してもらいながら、手続きをする
「う〜ん……どんなものって言われてもなぁ……」
ミラアルクは、幼少より海外に赴くことが多かった為か、余り手荷物を持ち歩かないタイプであった
リュックも機能性重視でシンプルな造りのありふれた物であった
『何か特徴のある物などは入っていますか?』
「う〜ん……そう言われてもなぁ……あっ」
「何かあるの?」
ミラアルクは、“しまった”と内心後悔した
それを話せば、確実に自分の手荷物と証明出来るものは確かに入っている
「いっ、いやぁ……それはその……」
ミラアルクが持ってきたもの
それは謳歌の写真が大量に入ったアルバムであった
いつも撮っている写真や、密かに隠し撮りしたものも含め厳選したものをアルバムに閉じ持ってきていた
(しっ、しまった!先輩のお母さんの前でそんなもの見せれない!だけどあんまり待たせるのも悪いし……)
「大丈夫……?」
唱歌が話しかける
「はっ、はい……全然大丈夫です……」
不思議そうに見つめる唱歌
(だめだ、これ以上は申し訳ない……)
ミラアルクは意を決し、パスポートを入れているウエストポーチから1枚の写真を取り出す
「この人の写真が入ったアルバムが有ります……」
その後の手続きはスムーズにいった
あの後確認の為に、アルバムを1枚1枚唱歌の目の前で開かねばならなかった時は、顔から火が出るかと思うくらい恥ずかしかった
「さてと、この後どうしようか?」
「はい……」
とても唱歌の方を向けない
「パリは初めて?」
「はい……初めてです……」
先程と変わらない調子で唱歌はたずねる
「そう、もし良かったら観光でもして行く?」
なおも続ける唱歌
「あの……」
「どうしたの?調子でも悪くなった?」
ミラアルクの顔色を心配そうに覗きこむ唱歌
「なにも聞かないんですか……?」
「? 何の話かしら……」
唱歌は困った顔をしている
「何の話って……アルバムに大量にあった先輩の写真見て何とも思わないんですか……?」
「えっ?あれ謳歌ちゃんなの……?」
「え?」
「え……?」
『…………』
『え〜っ!?』
(まさか認識してなかったなんて……)
(まさか謳歌ちゃんだったなんて……)
盛大に自爆したミラアルクと、謳歌だと気付かなかった唱歌
『はぁー……』
互いに大きなため息をつく
「あの……見ますか……?」
アルバムを手渡すミラアルク
「ええ……」
アルバムを受け取り、ゆっくりページをめくる唱歌
「大きくなったわね……」
既に泣きそうな唱歌、さすがは謳歌の母親といった所である
「クリスちゃんも大きくなったわね……」
唱歌はミラアルクにたずねる
「これはあなたが?」
「はい……まぁ……」
微笑む唱歌
「とっても良く撮れているわ」
「ありがとうございます……」
「でも……どうしてこれを?」
“きた“そう思うミラアルク
上手い言い訳を思い付かない、もう全て打ち明けてしまおうか……いや、でも……
そんな事をぐるぐる頭の中で考えていると、唱歌がたずねてきた
「もしかして……私に見せようと思って持って来てくれたの……?」
「へ?」
一瞬固まるミラアルク
「はっ、はい!そうなんですよ!ずっと会ってないって伺ってたし……」
「そう……ありがとう……元気そうで良かったわ……」
「いっ、いえ!そんな……」
(良く分からないけど助かった……?)
胸を撫で下ろすミラアルク
「そうそう……話は戻るけど、どうしようか?」
「あっ、はい……パリは初めてですけど……」
「そう、なら決まりね、せっかくだから観光しましょう」
「何だかすみません……」
「良いのよ、せっかくの機会なんだから」
パリ11区には、様々な観光地がある
フランス革命時代に、政治犯を収監していたバスティーユ監獄の跡地に作られたバスティーユ広場
世界三大美術館に数えられるルーヴル美術館
2人はルーヴル美術館に向かうことにした
「これがモナ・リザよ」
「本物初めて見たんだぜ……」
モナ・リザを見て感嘆しているミラアルクを見て、微笑む唱歌
「ふふっ、それが素のあなたなのね」
「あっ、いえ!すみません……」
「良いのよ、そんなに私に気をつかわなくても、敬語が苦しそうだもの」
「やっぱ分かります?父にも散々注意されたんすけど、中々直んなくて……」
終始和やかなムードで美術館をまわった2人
「さてと、そろそろ出ましょうか」
「はい」
美術館を出る2人、すっかり辺りは暗くなっていた
「もうこんな時間だから、今日は泊まって行きましょう」
「え?はい……でも着替えとか持って来てないし……」
「せっかくだから何か買ってあげるわよ?好きなのを選んで?」
替えの下着や洋服を買ってもらってしまったミラアルク
「あの……本当に良いんですか?」
「良いのよ、お金なんて有り余ってるし」
その後ホテルにチェックインした2人は、食事を摂りに再度町へと向かった
2人が選んだのは、現地で人気の日本食レストランであった
「評判が良いだけのことは有るわね、美味しいわ」
「はい、とっても美味しいです」
ミラアルクは切り出す
「あの、本当にありがとうございます、こんなに良くしてもらって……」
「良いのよ?本当に、……正直少しまだ怖いの、あの子に会いに行く事が、でも、あなたから聞いたあの子に会いたいという気持ちもすごくあるの……上手く言えないんだけれど……」
「きっと大丈夫です、先輩も会いたいと思ってると思います」
ミラアルクがそう言い終えた時であった
サッカー中継を放送していたテレビから、異様な音とざわめく観客の姿がとらえられた
この日はパリ郊外にある、スタッド・ド・フランスにて、ドイツ代表とフランス代表の国際親善試合が開催されていた
「何ですかね今の音……」
ミラアルクが唱歌の方を向くと、唱歌は完全に動きが停止していた
「あの……大丈夫ですか……?」
「あっ、いえ……ごめんなさい」
(まさか……ね……)
唱歌の心には、ある疑念が生まれていたが、考えすぎと思い食事を続けた
多少ざわめいたものの、他の客たちも食事を続けた
異様な音がしてから、10分程たった時であった
突如店の外から悲鳴が聞こえた
悲鳴の中には、ガラスが割れるような音と共にこのような音も聞こえてきた
パパパパ パパ パパ パパパパ
何事かとざわめく店内
「どうしたんでしょう……」
そう言い、ミラアルクは唱歌の方を見ると、唱歌は立ち上がり、ミラアルクの手をつかみおもっいっきり引っ張り、ミラアルクに覆い被さるようにして床に倒れた
「えっ……?あの……?」
その時ミラアルクの目に入ったのは、悲鳴をあげる客たちと
自分の手にべったりとついた血と
銃を持った男たちであった
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硝子の鏡 荒野の魚影 霧より出でて蜘蛛を射ろ 先に在りて 過去を夢見る地獄の狩人よ 過日の獲物を現世に映せ
正直心底驚いている
何せあの未来である
誰にでも分け隔てなく接し、慈愛に満ちた笑顔を見せるあの未来を、泣かせてしまった
謳歌は呆然と立ち尽くしている
そして、力なくベンチに腰を落とす
「どうして••私はいつもいつも•••」
今回に関しては相当堪えてしまった
知らず知らずに相当傷つけてしまった事は明白だ
「はぁ••••」
頭を抱え、うなだれる
「いや、今回はお前何も悪くなくね?」
隣から声が聞こえてくる
「••••なに?」
うなだれたまま問う謳歌
「あーあー!メソメソメソメソしてんじゃねーよ、お前のメソメソでここら一帯梅雨入りするわ!」
「••••••臨・兵・闘・者・皆••••••」
「おぉい!いきなり九字を切るなこのやろう!」
謳歌はムスっとしながらそっぽを向く
「おっ?なになに?イライラしてんの?」
顔を覗き込み煽る
「••••何さ、最近居なかったくせに、てっきり奪衣婆にでもなったのかと思ってたのに•••」
「誰が奪衣婆だこのやろう、もし奪衣婆になんかなったらその時はお前も道連れにして懸衣翁にしてやるよ」
なおも続ける
「大体居なかったんじゃなくお前が気づいてないだけだろうが」
「•••うるさい」
不満げにもらす
「•••用がないならどっか行って」
「だからぁ、さっきのはあの女が勝手に勘違いして勝手に癇癪おこしてお前に八つ当たりしてきただけだろぉがって言ってんの」
「違う、私がはっきりしないのがいけなかったから」
大きなため息
「はぁ〜••、はっきりもくそもねーだろあれは、お前はいっつもそうだよなぁ、全部自分のせいにしてよ?なんだ?かまって欲しいのか?ん?」
「•••別にそんなんじゃない」
謳歌は眉間にシワを寄せ、押し殺したように答える
「他の奴らもそうだ、まるでお前を分かっちゃいねぇ、クリスくらいだなお前を理解してんのは、後の奴らはクソばっかりだ」
「•••いい加減にして」
小さくそう嘆く謳歌
「なぁ、だからさ、久々に遊ぼうぜ?あんなゴミみたいな連中とつるむよりよっぽど楽し••」
「うるさい!!いい加減にして!!」
朝の澄んだ空気を切り裂くように、謳歌の絶叫がこだまする
「なんでいつもそうなの!?悪口ばっかり!私の大切な人達にこれ以上非道いこと言わないでよ!!」
「本当のことだろうが」
うつむいたまま叫ぶ謳歌に、怒気を含んだ声が返ってくる
「うるさい!うるさい!もう聞きたくない!お願いだから今すぐ私の前から消えて!」
「チッ••••そーかよ!あんなゴミ連中の方が大切かよ••お望みどうり消えてやるよクソが!」
●
(•••まずい、完全にタイミング逃した••)
キャロルは謳歌の背後で息を殺している
寝起きでトイレに行った帰りに怒鳴り声が聞こえてきたので、ふと目をやると未来と謳歌の口論を目撃したのである
(何だってんだ一体•••小日向が怒鳴ってるだけでも驚いたってのにコイツもか•••)
(大体こいつは一体何にそんなに怒ってる••誰かと話してるのかと思ったが•••)
キャロルには、最初から最後まで謳歌1人の姿しか見えていない
(このままでも埒が明かないしな•••よし!)
●
「••••おい、大丈夫か?」
キャロルの問いかけに‘ハッ’!と振り返る謳歌
「きゃ、キャロルちゃん••ううん、何でも••なんでも••ない••••」
言い終わる前に、謳歌の目からは大粒の涙がこぼれ落ちる
「よしよし•••無理するな、少し落ち着け••な?」
謳歌の頭を優しく撫でるキャロル
「何が有ったんだよ•••」
謳歌の頭を撫でつつ尋ねるキャロル
「みっ、未来ちゃんっ、に、ひどっ、ひどい、こと、しちゃっ、しちゃって、そしたっ、ら、ことっ、ことねがっ、でてきて、みんなのことっ、わるっ、わるくいうから、きえっ、きえろって、ことねにっ」
ボロボロ泣きながら、嗚咽まじりに話す謳歌
(えーっと•••つまり小日向とケンカ?して、コトネ?コトネって誰だよ••そのコトネが酷い事言ってきて自分も酷い言葉を言ってしまったと••••ん?まてまて、コイツ今の今までずっと1人だったよな•••小日向が飛び出してからは確実に1人のハズなんだが•••)
「えーっと•••こんな時に悪いんだがコトネって誰だ?電話でもしてたのか•••?」
謳歌は呼吸を整えながら、答える
「あぁ•••そうだよね•••ごめんね•••えっと•••琴音はね•••」
そこまで言い終えると、‘ハッ’としたように携帯を取り出し、画面を一瞥する謳歌
その手から携帯が滑りおちる
カシャン!!
「おっおい•••落ちたぞ•••」
携帯を拾い上げながら、謳歌の顔を見るキャロル
謳歌は顔面蒼白であった
「私•••なんてことを•••」
うなだれながら、つぶやく謳歌
「おっおい•••何がどうしたんだよ•••」
謳歌は続ける
「今日なの•••」
「何が今日なんだよ•••」
謳歌は続ける まるで救いを求めるように
「10年前の今日なの•••琴音が亡くなったのは••••」
キャロルは、背筋が寒くなるのを感じた
ぜひ感想を•••よろしくお願いします••••
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When one door shuts, another opens.
がんばります
ミラアルクは混乱していた
鳴り止まない銃声、倒れていく客たち
「…………み、……きみ!!」
”ハッ”と我に帰るミラアルク、いつの間にか銃声は止んでいた
「……あれ……?」
「大丈夫かい?怪我は?」
横を向くと、アジア系の男性が英語で呼び掛けていた
「気がついたのね、良かった……」
聞き覚えのある声に振り向く
「記憶が混乱してるみたいだ」
「えぇ……無理もないですね……」
ミラアルクの目に飛び込んで来たのは、左上腕に包帯をグルグル巻きにした唱歌の姿であった
その腕からは血がにじみ出、包帯を染めていた
その瞬間、記憶が“ぶわっ”と蘇った
顔面蒼白になるミラアルク
「大丈夫よ……もう彼らはここにはいないわ……」
パニックになりそうだったが、唱歌に抱き締められなんとか平静を保つことができた
「ごめんなさい……またうち助けて貰って……」
「もう……良いっていってるでしょ、それに千切れてなければどうとでもなるから」
微笑を浮かべながら話す唱歌
「全然笑えないっす……」
街は異質なざわめきに支配されている、人々は皆錯綜する情報に混乱しているようであった
夜の街には、けたたましいサイレンの音が響き渡っている
「あの•••ここは•••」
「あの後••息がある人達と逃げて来たのよ••途中でまた銃声が聞こえて、近くの宿の人が中にって言ってくれてね」
ミラアルクは、まだ思考が追い付いていないようであった
「何が•••何が起こったんですか•••」
弱々しく尋ねるミラアルク
「分からないわ••ただ騒ぎが起きているのはここだけじゃ無いようなの•••」
唱歌が言い終わるのを待って、先程話しかけて来たアジア系の男性が再び話しかけて来た
「日本人の方ですか?」
「あっ•••えっと•••」
ミラアルクが言葉に詰まっていると、唱歌が代わりに答える
「えぇ、私は日本人です、この子はオーストリアの出身ですが、今はご家族の仕事の都合で日本で暮らしているんです、謳••娘の友人です」
「そうでしたか••私も製薬会社に勤めてまして、パリの支社に転属になったんです•••」
男性に改めて礼を言う唱歌
「ミラアルクちゃん、この方が助けてくれてあの場から逃げることが出来たの」
「あっ••そうだったんですね••ありがとうございます•••」
ミラアルクは頭を下げる
ロビーに逃げてきた人達に、宿の従業員たちが温かいスープを配っている
「どう••?少し落ち着いた?」
「はい••」
ミラアルクの背中をさすりながら、唱歌は尋ねる
「しかし•••よくあの時とっさに動けましたね•••とても素人の動きでは無いと思いましたが•••」
店内に銃弾が打ち込まれた時、とっさにミラアルクを庇い床に倒れ込んだが、左腕を撃ち抜かれてしまった
もちろん唱歌は、紛争地帯への派遣経験も何度もあったし、大抵の事では動じないようになっていたが、状況が違いすぎる
武器や、ましてや防弾ベストなど着用していない
撃たれる!そう思った瞬間だった
襟首を掴まれ、2人は物陰に引きずりこまれる
見上げると、1人の男性がいた
「えぇ•••教練がまだ体に染み付いていたようですね、実は以前陸上自衛隊に所属しておりまして」
「そうでしたか••どうりで」
男性は続ける
「実は••ガンを患いまして傷病除隊したんです、幸い完治したのですが、その時使用した薬の製薬会社が今の職場でして」
そして、男性はミラアルクの方を振り向き尋ねる
「つかぬことをお伺いしますが•••以前どこかでお会いした事はありませんか?」
「えっ•••いや•••」
突然の問いかけに、とっさにそう返すミラアルク
男性の顔に見覚えなどないし、明らかに初対面だ
ましてや元陸上自衛隊員に知り合いなど••
「陸上自衛隊におられたんですよね•••?」
「えぇ、埼玉の大宮駐屯地に所属しておりました」
’大宮駐屯地’聞き覚えがあった
あの時の事故で救助にあたった部隊
何だったか、ミラアルクは熱心に謳歌が説明してくれたのを思い出す
「化学防護隊••••」
ミラアルクが、そう‘ボソッ’と呟いた単語に、男性が反応する
「ご存知ですか!?私もその部隊にいたんです」
「あの•••うち、小さい頃事故にあって••タンクローリーが横転して••その時そこの人達に助けられたんです」
ミラアルクが言うと、男性が答える
「あぁ!あの時の女の子ですね?思い出しました!どおりで見覚えがあると思ったんです」
男性は続ける
「良かったです、お元気そうで••」
「はい•••お陰さまで今はほとんど傷も残ってないです•••」
男性に礼を言うミラアルク、するとおもむろに男性が、懐から手帳のような物を取り出す
「妻と娘を日本に残して来ているんです、•••丁度娘はあなたと同じくらいなんです」
男性はそう言うと、手帳の中から写真のような物を取り出す
「自慢の娘なんです」
そう言いながら、写真を見せる男性
ミラアルクは写真を一瞥する
「えっ•••?」
写真には男性とその妻、そしてよく見る顔が写っていた
「ピアノが上手なんです、今は音楽学校に通っていて••」
写真には、いつもの優しげな笑顔を見せる、小日向未来の姿があった
どうか感想、ご意見を•••
次もがんばります
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神薙
キャロルは動揺していた
死んだ?10年前の今日?
「おっ、おい•••どういう事だよ•••」
キャロルは謳歌に恐る恐るたずねる
「ううん、何でもない!」
謳歌は立ち上がると、歩き始める
「おっ、おい!何でもない訳ないだろ!」
キャロルは謳歌を呼び止めるように言う
「もう、何でも無いったら〜」
「うわ!?ちょ、降ろせ!」
謳歌はキャロルを頭上に持ち上げる
「はーい飛行機〜」
「たっ、高い高い!!降ろせ!」
キャロルを降ろす謳歌
「そーだ!キャロルちゃん、未来ちゃん見てない?」
「小日向ならさっきあっちに行ったが•••」
訝しむキャロル、謳歌はそれに気づいたのか、聞いてもいないのに話しだす
「いやぁ〜実は未来ちゃんと喧嘩しちゃってさ〜謝んないといけないからさ〜」
「あの小日向と喧嘩か?」
さらに訝しむキャロル
「う〜ん私が悪いんだけどさ〜」
「それだけ目真っ赤にして何言ってる•••お前は誰と喋ってた、琴音って一体誰だ、言え!」
問い詰めるように話すキャロル
キャロルは何か腹の底からこみ上げるような恐怖を感じていた
今ここで繋ぎ止めておかなければ、暗い闇の底へ、謳歌が引きずり込まれていってしまう
そんな感じがした
「分かんない••」
謳歌が口を開く
「よく分からないから••話せない•••」
「良い、断片的でも良いから話せ•••?」
キャロルは気づく
さっきまでは気持ちの良い程晴れていた
確かに晴れていたのだ
「なっ、何だ••?」
木々はざわめき風が吹き始めた
キャロルは無意識に、父に貰ったルーン文字が刻印されたお守りに手を伸ばしていた
「えー!?何してんのさ!」
突如として聞こえる声
声の主は謳歌
「よりによって!神奈備のお膝元で何やってんのさ!」
謳歌は虚空に向かい話している
「‘ヤバイわw’じゃないから!もう!」
慌てるようにして、謳歌はそのまま館内に消えていく
1人取り残されたキャロル
「はっ?えっ?おっおい!?」
慌てて後を追いかける、キャロルは追いかけているつもりだ
本当に追いかけているつもりだったのだ
「あれ••••何でだ•••」
確かに謳歌を追いかけ、後を追っていた
しかし、館内に入る直前に、気づくと元の場所に立っていた
「くそ!何なんだ••!」
何度か繰り返してみたが、結果は同じ
元いた場所に戻されてしまう
「何なんだよ•••一体•••」
明らかな異常事態に、困惑するキャロル
「キャロルちゃーん!」
声が聞こえる
謳歌の声だ
「なっ、何だ•••コスプレ•••?」
キャロルがそう表現したもの
それは、巫女装束を着た謳歌の姿であった
「大丈夫!?キャロルちゃん、とりあえずこれ!」
「おっ、おう•••」
反射的に謳歌から物を受け取るキャロル
それは御札のような物
「どう?」
「いや•••どう?って聞かれても•••」
そう言いながら謳歌の方を向くと、謳歌はまた虚空に顔を向けている
「本当?やっぱり効くんだなぁ鷺ノ宮さんの護符•••」
空に向かって答えた謳歌は、キャロルの方を向き1言
「キャロルちゃん、終わるまでじっとしててね」
謳歌はそう言うと、手に持っていた鈴のような物を鳴らしながら、踊りを舞い始めた
何やら歌も口ずさんでいるようだ
ポカーンとしながらキャロルは踊りを眺めていた
そしてふと気が付く
いつの間にやら、辺りは最初の時のように晴れ渡り、淀んだ空気も無くなっていた
「どう?大丈夫そ?」
また虚空に向かって話す謳歌
「はぁ!良かったぁ!もう勘弁してよ〜!」
そう言うと、地面にへたり込む謳歌
「おい••何が何やら訳がわからん、説明しろ」
「あぁ••ごめんね?琴音が色々やらかしたみたいでさ」
キャロルはもうこの際、琴音という人物については良いとして、とりあえず話を聞くことにした
「ここって神奈備、えーっと••つまりそういう霊的な力みたいなのが濃い所何だけどね?うーん•••例えばフィンスコーゲンみたいなとことかね?」
フィンスコーゲンは、ノルウェーの有名な心霊スポットであるが、なぜ謳歌がそんなことを知っているのか、等とキャロルは突っ込まない
キャロルは、聞けば何でも答えが返ってくる人間辞書として、謳歌を認識するようにしている
「まぁ、ここがそういう場所だって事は理解したが•••何がどうなったらあんな事になる•••今思い出しただけでも悪寒がする•••」
キャロルは二の腕をさすりながら‘ブルッ’と震える
何せあんな経験は人生で初めてだ
「えっと••かいつまんで説明するとね?ここって周りは山に囲まれてるじゃない?
それぞれの山には祠があって、それで何かしらの結界が組まれてたらしいんだけど•••
イライラした琴音が祠の1つにひびを入れちゃったみたいで••
ちょっと良くないものが染み出してきたって感じかな•••」
「考えうる最悪の自体だな•••」
謳歌は続ける
「あぁでもね?キャロルちゃんがここから出れなくなってたのはその’良くないもの‘じゃなく、ここに昔からいる土着の精霊やらなんやらがこの状況をなんとかしたくて集まってたみたい」
「みたい?」
「あぁ、自慢じゃ無いけど私そういうの琴音以外視れないんだ」
色々ツッコミどころ満載だか、ここはぐっと我慢する
「それで舞を奉納して、精霊たちになんとかしてもらったって訳
あとはこの土地の管理者たちがなんとかするだろうから」
キャロルは大体理解した
「まぁ、大体分かったが••お前こんなものも作れるのか?」
キャロルは、手に持っているお札をしみじみと眺める
ほのかに温かい気がするが、恐らく気のせいだろう
「違う違う、いくらなんでも私じゃ作れないよそんな代物、私じゃただの紙切れになっちゃうよ」
苦笑いしながら答える謳歌
「それは鷺ノ宮さんがつくった護符だからね、効果は折り紙付きだよ」
「で?誰だそいつは」
段々と慣れてきた
的確なタイミングで質問を入れる
謳歌と話していると、自分が賢くなったような気分になる
「あぁごめんごめん、琴音が死んだ後に霊的な状態で姿を見せてさ、あんまりびっくりしたから思わずウェル先生に喋っちゃって••
この後どうなるか、大体予想つくでしょ?」
苦笑いを浮かべながら話す謳歌
「教師たちは大あらわ、あれやこれやとしているうちに知り合った
こんなところか?」
「まぁ大筋としては間違ってないね、
まずウェル先生や風鳴先生なんかは、PTSDを疑ってカウンセリングやらなんやら色々したんだよね
で、この件で私のカウンセリング担当になったのが未来ちゃんのお母さんで児童相談所に勤めてた未歩さん
で、本当に霊的な物が原因の線を疑った訃堂のおじいちゃん何かは、人脈をフル活用してそういうのに詳しい人達を学院に呼んで私に引き合わせてくれたの
何を気遣ったのか、全員年の近い女の子だったなぁ、離れてても高校生くらいだったかな」
「で?これは集められた奴らの中の1人が作ったものだと」
お札、もとい護符をしげしげと見つめながらキャロルは言う
「うん、そういう魔除けとか退魔とかの関係は鷺ノ宮さん谷山さんに原さんから教えてもらったし
舞いに関しては鈴原さんに雨宿さん、宮水さんに
もし憑依とか、魂が抜けたとか、そういう時の心得は、駒玖珠さんと一橋さん
神具とかの扱い方は三枝さん達
あぁ、あと稗田さんが日瑠子殿下連れてきた時は驚いたなぁ」
「日瑠子殿下って今の天皇の事か?」
「うん、まぁ私があった時はまだ4歳だったから内親王だし、今も綾宮さまが摂政についてるけどね?
あと私はクセで言っちゃうけど日瑠子殿下は今天皇だから正しくは陛下だからね?キャロルちゃん」
(でた、こいつの悪いクセだ、聞いてもないのに色々説明し過ぎなんだ、いつもは必要最低限しか説明しない癖に、どうでもいい事を話し過ぎなんだ、こういう時にサッと本題を述べた試しがない)
段々と謳歌を理解しつつあるキャロル
さて、どう軌道修正した物かと思慮にふける
(てか若いな•••コイツの2つ下って事はまだ15か••
ん?ていうかオレの国の第2王子もそれくらいだったな••)
「キャロルちゃん?聞いてる?」
「ん?すまん、聞いてなかった•••」
(オレまでこんなんでどうする•••)
自らの頬を軽くペチンと叩いて、気を取り直すキャロル
「あと最後に剣術、これは来栖川さんに姫宮さん、草壁さんに衛藤さんに習ったよ」
「剣術?なんで剣術なんだよ」
「うーん、九字切り護身法や護符が効かなかった時の為っていわれてさ、鷺ノ宮さんの護符が効かないのは相当危険な時なんだけど
大幣(おおぬさ)や神楽鈴じゃ結界や祝詞を正確にしないといけないから、刀にするって皆で決めたらしいけど••」
謳歌は懐から小刀を取り出す
「なんか小さいな•••」
「流石に太刀は私振るえないよ、それに太刀より小刀くらいの方が慣れてない人にはいいんだって言ってたし
衛藤さんは流石現役の特祭隊だけあったけど、草壁さんはそれはもうとんでもなく強かったね
なんか実家から持ち出した刀とか言ってて衛藤さんが興奮しながら草壁さんの刀見てたなぁ
来栖川さんと姫宮さんは衛藤さんと草壁さん程ではないけど強かったけど、なんか付き合ってるとかで事あるごとにイチャイチャしてたなぁ、特に姫宮さん
あぁ、あと••••」
「だぁ!話がなげぇんだよお前は!」
キャロルも同調する
「そうだ!いつもそれくらい饒舌にしろ!」
「そーだ!そーだ!」
さらに続ける
「ベラベラしないで簡潔に話せ!」
「そうだ!そうだ!•••••ん?」
キャロルは気付く
いま自分は誰に賛同しているんだ?と
恐る恐る頭上を向いてみる
「••うわぁぁ!!」
宙に人が浮いている
思わず尻餅をつくキャロル
「え?え?何?キャロルちゃん見えてるの?」
「へぇ、お前以外じゃ初じゃね?」
そのままキャロルを覗き込みながら、ふよふよと謳歌の頭上に移動するそれ
「うっ、浮いてる!浮いてる!」
口をパクパクさせながら、キャロルは言う
「ははっ!なんかコイみてーでおもしれーな!」
「そっか•••視えてるならいっか•••
キャロルちゃん、紹介するよ」
そう言いながら、空を一瞥する謳歌
「え?何?俺すんの?」
「視えてるし聞こえてるなら自分でやってよ」
「それもそーか」
そう言うと、フヨフヨと宙を移動しながらキャロルの顔の前に降り立つそれ
「俺は弓谷琴音、見たとおり死んでっからそんなに気ぃ使わなくていいぞ
•••おーい」
「どうしたの?」
指をさす琴音
「あちゃー•••気失ってる•••」
まぁ、本筋には関わらないですが、名前だけ登場ということで
是非感想お寄せ下さい
頑張ります
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Concordia
いつも超絶不定期更新なこの作品を読んで頂きありがとうございます
ずっと昔、世界が今みたいになるずっと前のこと
この街の谷底に羽のはえた悪魔が棲みつきました
悪魔は炎を吐き大地を揺らし人々を苦しめました
そしてついに砦に住んでいた乙女たちをさらい
地下の迷宮に閉じ込めますけれど娘たちはあきらめず
天主さまから授かった金の角笛で呼び合い迷宮を脱出すると
巨大な蜘蛛のちからを借りて悪魔を倒しその首を討ち取ります
するとその首は激しく炎を吹き上げますこのままでは上にある街は全て燃えてしまう
娘たちは吹き出る炎をおさえるために順番に悪魔の首を抱き続けました
燃えさかる悪魔の首と娘たちに村人たちは毎日水をかけ火は一年経ってようやく消えました
以来村を救った娘たちの霊を慰めるため水かけ祭りを始めたのです
「未来ちゃん•••?」
写真に写っているのは、リディアンの校門の前で笑顔を見せる小日向未来の姿
「知ってるんですか?」
「いや••知ってるというか、隣のクラスで同級生ですうち•••」
双方驚いたようである
「未来は、元気にしていますか?最近帰国出来てい無くて、本来であれば明日帰国する予定だったんですが、それも難しそうですね……」
「はい……元気だと思います……今は旅行に行ってると思います、温泉に行くとかで……」
正直な話、ミラアルクはほとんど未来とは接点が無い
クラスも違えば学科も違う、何より響が未来と親しくなったのは、ミラアルクが響と疎遠になった後である
「あの、お名前をお伺いしても?」
唱歌が切り出す
「あぁ、そうですね、小日向奏一(こひなたそういち)と言います、先程も少しお話ししましたが、元陸上自衛隊員で今は製薬会社に勤めています」
「謡詠吟唱歌です、国境なき医師団で活動しています」
「あっ••えっと、ミラアルク•クランシュトウンです、えっと••オーストリア出身ですけど、今は日本で暮らしています」
各々軽く自己紹介をした
もうどれ位の時間が経っただろうか
病院の待合室のベンチに座りながら、ミラアルクは思う
フランス政府は大統領による緊急会見を開き、各所で起こっている事件は、ジハーディストによるテロであると述べた
大統領は国家非常事態を宣言し、国境の封鎖を行うとした
加えて、‘フランスはテロリストとの戦争に突入した’と、首相が発言、テロに対する対決姿勢を表明した
唱歌は腕を撃たれ出血が酷く、包帯を巻く程度では完全に止血出来ずにいた
唱歌曰く‘貫通しているから大丈夫’などと言うものの痛い物は痛いだろうに
それに、救急隊が到着するまでの間騒ぎに遭遇した
大柄な男性が、赤ん坊を抱えた女性に詰め寄っている
フランス語だったので会話は分からなかったが、男性は女性を宿のエントランスから追い出そうとしているように見て取れた
そして、唱歌が仲裁に入った
「何をしてるんですか!赤ん坊がいるんですよ!?」
女性と男性の間に割って入る唱歌
「誰だあんた!引っ込んでろ!」
なおも女性に詰め寄る男性
唱歌も一歩もひかない
「こいつの頭を見ろ!テロリストの仲間に決まってやがる!」
女性はイスラムの女性が身につける被り物を頭にしていた
「落ち着いてください!ジハーディストとムスリムの人達は無関係よ!仮にこの人がスカーフ禁止法に反していたとしても、それを裁くのは今ではないし、貴方でもありません!」
唱歌は必死に男性を抑えてている
そして赤ん坊を抱えた女性が小さな悲鳴をあげた
そして今にも女性に殴りかかろうとしていた男性も
‘ぎょっ’としたように力を緩め、後ずさる
唱歌の二の腕からは、まるで蛇口から水が出るようにボタボタと血が落ちていた
「いけない!」
そう叫んだのは奏一
そして唱歌はそのまま膝から崩れ落ちた
唱歌が倒れる瞬間、奏一がなんとか唱歌を受け止める事が出来たおかげで頭部を強打せずに済んだのは不幸中の幸いだろう
唱歌は出血性ショック一歩手前の危険な状態であったが、あの後直ぐに救急隊が駆けつけてくれたおかげで、大事には至らなかった
唱歌の血液型は、RHマイナスのAB型という珍しい血液型であったので、直ぐに輸血が出来なかったのだが、直後に自力で意識を取り戻すという驚異的な回復をみせていた
ちなみに言うと、謳歌もRHマイナスのAB型である
「飲むかい?」
ぼーっとしていたミラアルクは肩を‘ビクッ’と震わせる
隣には、飲み物を手にした奏一の姿があった
「あ••ありがとうございます」
「先程意識が戻ったそうです、本当に良かった」
「はい••本当に•••」
しばしの沈黙の後、奏一は語りかける
「•••何か言いたそうだ、私で良ければ話し相手になるが••」
ミラアルクは少し驚いたようにして、奏一に顔を向ける
「すいません••そんなに顔に出てましたか•••?」
「まぁ人の親だからね、それくらい分かるさ•••と、言いたい所だけど完全に感さ、でも当たって良かったよ、我慢は1番いけないよ?」
「•••••••」
よく‘何人か’と聞かれる
決まって自分はこう答える’オーストリア出身‘と
なぜオーストリア人と言わないかと言われれば、よく分からないのもあるが、あまり‘〜人’という例えは好きではないからだ
そもそも父は東ドイツからの亡命市民だ
ピクニック事件
父はオーストリアを経由して、西ドイツに亡命した
西ドイツで母と出会った
母は楽団の専属歌手だった
完全に父の一目惚れだったそうだ
母はオーストリア=ハンガリー帝国時代から続く名家の出だが、歌手の夢を反対され家を飛び出し、ここ西ドイツで歌手をしていた
ベルリンの壁が解放され、東西ドイツの統一がなされると同時期に母の父が倒れたとの知らせが届いた
母の父、私から見れば祖父に当たる人物だが、母の夢を反対した事を後悔していたようで、母の消息をずっと追っていたようだ
最初こそ意地を張っていた母も、父の説得で帰国することになった
祖父は一命こそ取り留めたが、寝たきりの生活を送ることになった
その際祖父は父に婿にならないかと持ちかけた
もう既に家族を失っていた父は、母と相談し婿に入った
数年後に祖父はこの世を去った
祖母も後を追うように亡くなった
そして父が家を継いだ
母の意向もあったが、祖父と祖母の遺言にも父を当主に、と書かれていたそうだ
そして父は外交官になった
父は私に様々な事を教えてくれた
なぜリンゴは甘いのか
雨はなぜ降るのか
歳を重ねるにつれ、父は逆に私に質問してくるようになった
なぜ昼と夜があるのか
なぜ悲しくなるのか
答えが明確なものもあるが、そうでないものもあった
外交官という仕事上、家を開けている方がはるかに多かったが手紙で質問が届き、それを手紙で回答し、帰ってきたときに答え合わせをするという事を繰り返していた
自分に設けたルールとして、‘分からない‘とは書かないことにしていたが、明確に答えられない、もとい自分の考えを述べられない問が1つだけあった
人はなぜ争うのか
以前、なんの気無しに先輩に尋ねた事があった
「うーん、例えばさ、ミラアルクちゃんは写真がすきだけど、写真が嫌いな人の事ってどれ位知ってる?」
「いや••全然知らないですけど•••」
「じゃあさ、写真が嫌いな人がAちゃん、好きな人をBちゃんとして、ミラアルクちゃんの知り合い、そうだね••顔見知りくらいにしておこうか、その2人が言い争いをしていました、理由は分かりません、どっちが悪いと思う?」
「いや••理由が分かんないと•••なんとなくで良いならBちゃんかな••あくまで今の時点ではですけど•••」
「そう それだよ、人間ってさ、自分の嫌いなものだったり、自分の好きな物が嫌いな人の事ってよく知らない人の方が圧倒的に多いと思うんだよね
でも、よく知らないのにただ嫌いとか、自分の考えに合わない人とかって嫌いになるんだよね
これが最終的にどうなると思う?」
「え••?喧嘩••とかですかね••」
「そうだね、それも正解だよね、でもね、最終的にはその人を殺そうとするんだよ、人間って
でもただ殺される人なんて居ないよね?逃げたり、抵抗する人もいるだろうけど、殺そうとしてきた人を殺すって人もいるんだよ
これが、個人から国同士になるとすると、どうなる?」
「戦争•••ですか•••?」
「そう、正解
国じゃなくても、人種の違いや宗教の違いなんかでも争いって起こってるんだよね、今私達がこうして話している間にもね
そして、なぜ争っているのかも分からなくなってくるんだよ
一概には言えないし、私の考えだからあんまり鵜呑みにしないで欲しいんだけどさ
ともかく、よく知ること、これが1番大事だって私は思うけど、答えになってる?役に立てたら良いんだけど••」
「いっいえ!とんでもないです!ありがとうございました!」
帰国した父にその話をすると、父はある事を教えてくれた
かつて、七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家
そう形容された国の事を
そして、そこで起こった出来事を
「どうして•••どうして人は争うんだろう•••」
この日、街中からラ・マルセイエーズの歌声が聞こえていた
●
「急に電話なんてどうしたでありますか?お父さま」
「エルザ••母さんがやられた••」
「どういう事でありますか•••?やられたというのは•••」
「50年前と同じだ••婆さんがやられたときと••」
「!!お婆さまと同じでありますか••まさか•••!」
「あいつだ••50年前の悪夢が再びやって来た•••
魔獣が復活したんだ••!」
ずっと昔、世界が今みたいになる前のこと
世界に罰を与えるために神様が遣わされた天使は
傷つき西の果ての街で翼を休めていました
そんな天使を助けたのは果ての街の砦に住んでいた乙女達でした
自分達を滅ぼすはずの者、けれど傷ついたその姿を哀れに思った乙女達は
巨大な蜘蛛の力を借りて天使を谷の底に匿います
乙女達は溢れ出る血を抑える為に順番に天使の首を抱き続けました
そして天使はそのお礼に乙女に金の角笛を授けます
けれどやがて街の人々は天使の存在に気付き谷底に火を放ちます
乙女達は炎に巻かれ天使は首を落とされて息絶えてしまいました
そんな時ついに天使の軍勢が現れ街の空を覆いつくします
けれどどうしたことでしょう、突然高らかなソラノヲトが響くと
天使達が去って行きます、人々の命を救ったのは
最後の乙女が自分の命と引き換えに鳴らした金の角笛の音だったのでした
ぜひとも感想を・・何卒・・・
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【GG】Primo grado (h.g)(r.g)(t.h)(c.l)(a.m)(e.l)(B.b)(s.?)(c.?)
何故Bだけ大文字かって?1番好きなキャラクターだからさ!
(これが何か気づいてくれると喜びます)
※なお、本編及び戦姫絶唱シンフォギアとは一切関係ありません
「••••ゃん•••」
声が聞こえてくる
「•••くちゃん•••」
何度も聞こえてくる
「••みくちゃん!」
どうやら自分を呼んでいるようであった
しかし、変だ
それは聞こえてくるはずの無い声だったからだ
「未来ちゃん!」
「••••お母さん•••?」
目の前に居たのは、ここにいるはずの無い母の姿であった
●
「ん••••」
目を覚ましたキャロル
「はぁ••••ひどい目にあった」
とりあえず聞きたいことは山ほどあるが、肝心の謳歌が見当たらない
「よー、目ぇ覚ましたか?」
「•••••••••••••うわぁ!?」
天井には、こちらを伺う顔
「アッハ!お前超おもしれーな!」
すっかりキャロルを驚かすのに味をしめている琴音
「いい加減にしろ!毎回毎回心臓に悪いだろうが!」
「まーまーそー怒んなって、それよりお前が手に持ってるソレどーにかしてくれよ」
キャロルが手にしているのは、先程謳歌に渡された護符
「それがあるとこれ以上お前に近づけねーんだわ」
「ほぅ••••?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるキャロル
「なっ••なんだよ•••」
そしておもむろに、キャロルはその護符を丸め、琴音に放る
「痛てててて!!ビリビリするだろテメェ!何しやがる!」
「ハッハ!今までの恨みだ!」
そんなことをしていると、ふすまがガラッと開く
「う〜ねむいデェス•••」
「ふわぁ〜••」
「おい••シャキッとしろ•••ふわ••」
「雪音•••お前も暁や立花の事を言えんぞ•••」
そんな4人の間を縫うように、エルフナインが顔をのぞかせる
「おはようキャロル(^_^)」
そう言いながら、エルフナインはキャロルが投げた護符を拾い上げながら耳打ちをする
「ダメだよキャロル、‘‘消えちゃう’’から(^_^)」
「は••?お前見え••」
「何者だ!!」
翼はそう叫ぶと、足元に落ちていた雑誌を勢いよく放る
「うわ!?」
雑誌は琴音のスレスレを横切る
「•••何かの気配がしたのだが」
「何だよ、先輩も寝ぼけてんじゃねーか」
「いや••確かに気配がだな••••」
琴音はスイ〜っと翼達の横を通り抜け、キャロルの下へと向かう
「相変わらずおっかねー•••」
「いや••別に当たらんから良いだろ••」
琴音いわく、翼は姿こそ見えないものの気配は感じ取れるようで、よくこういうことがあるらしい
「というか、お前何で近づけてるんだよ」
「あれ?そういえば••てかお前護符は?」
いつの間にか、護符と共にエルフナインが居なくなっている
「あいつどこいったんだ••」
「ていうかお前双子だったんだな、初めて見た」
琴音は双子を見るのが初めてだった、二卵性の双子は1度見たことがあるが一卵性の双子を見るのは初めての経験である
「そんなに効くのかあのお札、実感は全く無いんだが•••」
「そりゃあもう折り紙付きだ、なんせあのバケモンみてぇな力の方向音痴野郎がつくったやつだからな」
「そんなもの常に持ち歩いてるのかあいつは••」
「いやぁ?なんか専用のジップロックに入れておけば効果は出ねーらしいぜ?」
「そんななま物じゃあるまいし••」
●
「ねー!つまんないーー!」
「ティキ、静かにしないと駄目だゾ」
朝から騒いでいるティキを尻目に、アダムと調は携帯で衛星放送の国際ニュースを見ていた
「••••••••」
「••••••••」
2人は無言
画面が映し出しているのは、フランスの首都、パリで起きた大規模なテロ事件のニュース
調は無言のまま、スッと立ち上がる
そして壁際に向かうと、思いっきり柱をぶん殴った
2発、3発と加減なく素手で柱を殴る
そして、4発目を殴ろうとした所でようやくアダムに制止された
2人は無言のままである
聞こえてくるのは、ギリギリという音
あまりの事に驚き、ティキも駄々をこねるのをやめていた
無音の部屋に響くのは、調の歯ぎしりの音だった
アダムは回顧していた
あのテロ事件の後、アダムは調を引き取っていた
ある日、調が通う小学校から連絡が入った
調がクラスメイトを殴った
そんな内容の連絡であった
少し驚いている
おとなしい子だった
わがままも言わず、駄々もこねない手のかからない子供だった
1つだけ気がかりだったのは、笑った顔を見たことが無い事だった
彼女を引き取って1年程立つが、一度も自分は見たことが無い
クラスメイトと喧嘩でもして少し叩いてしまったのだろう
そんなことを考えながら車を走らせる
しかし、蓋を開けてみればそんな考えは180度間違っていた
要約すると相手は女の子で、彼女はその生徒に馬乗りになり、顔面を何10発も加減なく殴ったとの事だった
教師が駆けつけて制止したときも、殴っている最中も、彼女はひたすら機械のように無表情だったという
そして今も
教師が原因を聞こうとするも、一切答えず表情1つすら変わらないという
教師は気味悪げに話した
「やぁ」
彼女がいる部屋に入り、隣に腰掛ける
彼女はうつむいたまま
「後で病院へ行こう、痛むだろう?その手」
彼女の拳は氷で冷やされていたが人差し指から薬指の付け根にかけて、赤紫色になり腫れていた
「怒らないんですか•••」
彼女はそうつぶやく
「何か理由があるのだろう?君が無闇に人を傷つけるとは思わない」
調は少しずつ語りだす
「あの子•••私が殴った子の家の車••••」
「車がどうかしたのかい?」
調は慎重に言葉を選んでいるようであった
「あの••••その••••後部座席に南部連合旗が飾ってあったので•••
彼女に自覚は無いだろうけど••多分そういう思想の家庭なんだと思います」
「何かされたのかい?」
「まぁ••小突かれたり嫌がらせされる程度だったから••全部無視しましたし•••
私よりメキシコから来たガブリエラの方が酷かったです
彼女はオセロットの綯血(とうけつ)だから•••
私とガブリエラ以外はみんな白人ですし••」
「そうか••担任は何もしなかったのかい?」
「無理ですよ••あの先生も白人至上主義思想みたいですし•••
態度が露骨すぎて隠してるつもりでしょうけどバレバレです
気づいているのか、それとも当たり前と思っているのかまでは分からないですけど」
調は続ける
「ガブリエラは転校していきました、ネバダに行くって言ってたので••あそこには綯血者のコミュニティがあるって言ってました」
そして、絞り出すように語る
「無駄死にだって•••あの子がお母さんとお父さんの事をそういったんです•••
そして気づいたらあの子を殴っていました••」
アダムは隣に座っている調の方を向きひざまずいて目線を調より下げるとこう言った
「日本に行くかい?•••もし君が良ければの話だが」
「日本••ですか?」
調は言葉につまりながら聞き返す
何故アダムが調に日本行きを提案したかと言うと、もちろん彼女の両親のルーツという事もあるが、もう1つ理由があった
「相互理解により平等と能力差別撤廃の為の新人権憲章」
今国連でアダムが主動で取り組んでいる、綯血者とESP・PK能力者の差別撤廃を示した憲章である
国によっては、綯血者であるというだけで逮捕・勾留されたり、幼年の能力者を拉致し、犯罪の道具にするということが横行していた
そんな中、日本は綯血者や能力者との融和に成功した数少ない国家の1つであった
内務省には、能力者の支援と研究、犯罪や災害の予防を目的とした機関が存在し
国家公安委員会には、そういった人種の犯罪に対処する専門機関が存在し
各行政には、綯血者や能力者に対する専門窓口があり、福祉関係も充実していた
そして、日本のようなケースは少数派と言える
この憲章を批准しているのは、106の国と地域であり、そのほとんどを南米•オセアニア•アフリカの国家が占めている
欧米諸国は前向きな姿勢を見せているものの、慎重な姿勢を崩していない
未だに欧米諸国での差別意識というものは根強く残っている
そんな欧米諸国を特にアフリカ諸国は痛烈に批判していた
「さぁ、病院に行って帰ろうか」
そう言うと、ヒョイっと調を抱きかかえるアダム
「え•••でも•••」
調の不安をよそに、ドアを開けると立っていた教師に制止される
「どちらに行かれるのですか?今から相手方のご両親が参られます」
「帰ったとお伝え下さい」
「それは困ります、とにかく部屋に戻って下さい」
押し問答になってしまった
「あの••私は大丈夫ですから•••」
調はそう問いかけるが、アダムは思いもよらぬ行動にでる
「仕方ありません、ではこれを」
アダムはそう言うと、教師に何かを手渡した
「こっ、これは•••!」
教師が手渡されたのは、100ドル札の札束である
「帰していただければ、あなたにさしあげます」
「いや••しかし•••」
困惑している教師をよそに、さらにアダムは札束を次々と重ねていく
およそ合わせて10万ドルの札束が教師の手に乗せられ、こぼれおちそうになっている
「では失礼」
そのままスタスタと歩き出すアダム
教師は呆然としている
「あの•••」
目を丸くしている調
「さぁ、帰ろうか」
「見せてごらん?」
調は腕を差し出す
「もう子供じゃないんですから•••大丈夫ですって•••」
「年長者の努めさ、気にすることはない」
そう言いながら、指を滑らかに動かす調
「折れてはないようだね、痛みは?」
「無いです、流石にこれくらいじゃもう折れませんよ、何回同じ所骨折してると思ってるんですか」
「それもそうだね」
アダムは微笑を浮かべると、ティキの方に向き直る
「ティキ、直ぐにニューヨークに戻らなければならなくなってしまった、私だけで行くからゆっくりすると良い」
「うん•••」
アダムは身支度を整えると、部屋をあとにする
「お気をつけて」
「あぁ君もね、また機会を改めて食事でも」
「はい、また」
調の右手は腫れていた
●
「無理じゃ」
「そこをどうにかしてほしいであります」
ここはリディアン音楽院の理事長室
対峙しているのは、初等科6年のエルザ・ベートと、理事長の風鳴訃堂
「お願いであります•••このままでは一族が絶えてしまうのであります•••」
「貴様も国境が封鎖されとるのは知っとるじゃろう、気持ちは分かるが無理な物は無理じゃ」
エルザに父からの連絡が入ったのは昨日の事である
母が襲われた
そんな内容であった
傷が深く、危険な状態だという
首都での混乱の影響で、治療が受けられていないという
母を襲った者の正体は分かっている
‘‘ジェヴォーダンの獣’’
世間一般には、そう呼ばれている
今からおよそ250年前に発生した獣害
狼と思われる生物によりおよそ60〜100人もの人々が襲われ、大きな被害がもたらされた
‘‘狼と思われる生物’’というのは、未だに正体が分かっていないためである
獣はウシとほどの大きさのオオカミに似た生物で、広い胸部をし、長く曲がりくねった尻尾はライオンのような毛皮の房で先端まで覆われていたと記述されている
そして、小さく真っ直ぐな耳と巨大な犬歯がはみ出ている、グレイハウンド犬のような頭部をしていたという
獣は全身が赤い毛で覆われ、特筆すべきは黒い縞模様が背中の長さ分あったことだったと言われている
と、されている
「私も両親も、詳しい事は分からないのであります•••
私が産まれ、おばあさまが一族の担う役割を話される前に
獣に殺されてしまったので•••
1つだけ分かっているのは、私達が
【ベート(獣)の一族】と呼ばれているという事だけなのであります」
そういうエルザの頭部には、まるで狼のような耳と、クネクネ動く尻尾のようなもの、心無しか全体的に‘モフッ’としている
「耳が出ておるぞ」
「あぅ••失礼したであります」
そういったエルザは、目を閉じる
暫くすると、耳も尻尾も無くなった
「なに、そう気に病む事はなかろう、貴様は一応狼の綯血ということになっておるだろう」
綯血者の中でも、変身能力を持った者は稀に存在している
一昔前は‘獣人’や‘半人’等という呼び方をされていたが、現在では綯血者に統一され、それらの言葉は差別用語とされている
「しかし••能力を制御出来なくてはいけないのであります」
エルザの場合、感情が昂ったりするとしばしばこういう状態になってしまう
本人はそれではいけないと気を張っているようだが、まだまだ改善の見込みはたっていないようだ
訃堂はお茶を一口含み、ふぅと一呼吸置く
「すまぬが、今回ばかりはワシでもどうにもできん」
エルザの出身であるロゼールは、テロが起きたパリまで直線距離でおよそ500kmとかなり離れてはいるものの、12歳のエルザの渡航を許すわけにはいかなかった
「失礼します」
入って来たのは風鳴弦十郎である
「何じゃ来客中じゃ、ノックくらいせんかい」
「申し訳ありません、それが•••」
いつもどっしりと構えている印象のある弦十郎だが、今回ばかりは焦っていた
「実は、ジュネーブ総領事から先程連絡が入り、ミラアルク君がフランスに出国した記録があると••
現地の大使館でも連絡が取れていないようです
極めつけはこれです」
弦十郎はテレビをつける
映し出されるのは現地のニュース映像である
「なっ••」
病院の待合室だろうか、中継映像にはベンチに腰掛けるミラアルクの姿
「これが20分前の映像だそうです、ミラアルク君の隣りにいる男性に見覚えがあったので調べたところ
高等科2年 小日向未来君のお父上ということが分かりました」
「むぅ•••」
訃堂は苦虫を噛み潰したような顔をしている
その様子を見ていたエルザは、おもむろに携帯電話を取り出す
ミラアルクとは同時期に編入したので、他の生徒より親しくしている
(ミラアルク••••)
ジリジリと不安がこみ上げてくる
改めて電話などしたことも無かったが、意を決して電話をかける
♪〜〜〜〜
小気味よい音楽が聞こえてくる
♪〜〜〜〜
音楽がなり続ける
♪〜〜〜〜
既に1分程たっている
♪〜〜〜〜
『•••••••••エルザ?』
「ミラアルク!?大丈夫でありますか!?」
切ろうとしたすんでのところで繋がった
「今パリにいるのでしょう!?」
『•••え?なんで知って•••』
「とにかく!無事なのでありますね!?怪我とかは•••」
『うえ!??う••うん••私は特には•••••』
「••••••ミラアルク?」
返答の歯切れが悪い
いつものミラアルクであれば、ハキハキと物事を答える
そんな些細な違いを、エルザは鋭敏に感じていた
チョンチョン
肩を誰かに突かれた
「ちと貸してもらえるかの?」
訃堂である
『わしじゃ』
何なんだ次から次へと、エルザから珍しく電話がかかってきたと思ったら今度は理事長先生だ
『怪我は無いのだな?』
「あっ•••はい私は全く•••」
向こうからため息の音が聞こえてくる
『なにゆえこのタイミングでパリにおるのじゃ貴様は•••』
この一言を聞いて思い出す、唱歌に会えたことを話さなければ
「あっ••!あの!そういえばうち•••」
そう言いかけた時だった
「何をしているんですか!安静にしていないと!」
奏一の声だ、何かを制止しようとしている
チョンチョン
何者かに肩をつかれる
「え•••?」
後ろを振り向くと、集中治療室にいるはずの唱歌が立っている
「ちょっとかわってくれるかしら」
「えっ••••と••••はい•••••」
あ然としながらも、携帯電話を手渡すミラアルク
『もしもし•••お久しぶりです、理事長先生』
聞き覚えのある声が聞こえてくる
「うむ•••最後にこうして話したのはいつぶりかの」
『そんな大昔じゃないですよ•••ほら、去年のあの子の誕生日の時に
‘‘そのようなことは自分で伝えんか大馬鹿者!!’’
って怒鳴られたじゃないですか』
穏やかに話す唱歌
「全くじゃ•••貴様も貴様の母親も祖母も、娘の事となるとてんで人が変わったようになる
•••••よく似ておる、全く••いらぬ所ばかり似おって」
『•••••あの子はどうでしょうかね』
「知らぬ、速く自分の目で確かめたら良かろう」
『それもそうですね•••』
電話の向こうで、微笑でも浮かべているのだろう
「あの•••今理事長先生がお話されているのは•••」
明らかにミラアルクでは無い人物と話している
「あぁ、知らないのも無理は無いだろう」
弦十郎が答える
「高等科3年の謡詠吟 謳歌君のお母様で、唱歌さんという
理事長とは謳歌君のひいお祖母様の頃からの付き合いらしい」
「へぇ••••」
ほんの少しだけだが興味があった
以前手違いでミラアルクのカメラのフォルダの中を見てしまったことがあった
フォルダの中には校内の有名人であるあの人の写真が沢山あった
中身を見てしまった事をミラアルクに謝ると、酷く慌てたように
‘‘誰にも言わないで!’’と懇願された
まぁそんな事言ってもなんの得にもならないし、他ならぬミラアルクの頼みである
おそらく好意を寄せているのだろう
恋愛的な意味で
ミラアルクは隠しているつもりかもしれないが、バレバレだ
そんなミラアルクの意中の相手の母親が、理事長先生と電話をしているという
「あの•••どんな方なのでありますか?」
弦十郎にたずねる
「それは難しい質問だ、なんせ私も数回しかお会いしたことが無くてな
そうだな•••謳歌君がいつも肩から下げているバックがあるだろう?」
確かに、言われてみればいつも肩から何かをぶら下げている
「あれは唱歌さんが謳歌君に贈られた物でな、唱歌さんは国境なき医師団に所属していてな、あれは唱歌さんが送られて••••」
「お医者さんでありますか!?」
弦十郎は‘‘しまった’’というような顔をしている
エルザは明らかに感情が昂っているようだ
その証拠に、耳と尻尾が生えている
「あの!!お願いが!!」
「エルザ君•••」
弦十郎はエルザに目線を合わせて諭すように言う
「•••••申し訳ないのであります」
(聞き分けの良い奴で助かったわい•••)
「とにかくじゃ、今は安静にして早く帰ってこぬかい」
『理事長先生、今の声は?』
訃堂は身構える
今ここでエルザのことを言い出せば、確実に行く等と言うにきまっている
『代わって下さい』
「よいのじゃ、とにかく安静にしておれ」
なんとか誤魔化そうとする訃堂
しかし唱歌はきかない
『理事長先生、嘘は嫌いです』
「はぁ•••なぜその鋭さを自分の娘に発揮できんのじゃ•••貴様は」
訃堂はエルザに携帯電話を手渡す
「あの•••••」
「頼みがあるなら話してみると良い、そやつなら力になれるじゃろう」
エルザは目を輝かせる
「良いのですか••••?」
弦十郎がたずねる
「良いも何もああなったら聞かんじゃろうあやつは•••」
訃堂は大きなため息を付く
一旦電話が切れて再度またかかってきた
どうやらビデオ通話のようだ
『エルザー?もしもーし』
「見えてるし聞こえているでありますミラアルク」
そして、横からもう一人入ってくる
「! はじめましてであります!エルザ•ベートと言うであります」
もう一人は、見覚えのある顔によく似ている
『はじめまして、謡詠吟 唱歌といいます
••••よろしくね、エルザさん』
戦姫絶唱シンフォギア10周年ということで、アニメを全て見返しましたが、まじで何なんだこの小説は
って感じですが、応援していただけると嬉しいです
更新も早めにします、いや、出来るだけ、可能な限り•••
本当にすみません••••
Ps.フィロメラとルーシー仲良くなんないかなぁ•••
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すべての魂を紡ぎにしものにして統べるもの 運命の歯車をまわす導き手よ 邪なるものを穿ち 破壊と再生の焔を与えん それを願う我は、汝が一部になりし存在 我が名は四つ羽を持ち 神に最も近しもの
リク•ラク ラ•ラック ライラック
プラ•クテ ビギナル
来たれ 深淵の闇
(アギテー•テネプエラ•アピュシイ)
燃え盛る大剣
(エンシス•インケンデンス)
闇と影と憎悪と破壊
(エト•インケンディウム•カリギニス•ウンプラエ)
復讐の大焔
(イニミーキティアエ•デーストルクティオーニス
•ウルティオーニス)
我を焼け彼を焼け
(インケンダント•エト•メー•エト•エウム)
そはただ焼き尽くす者
(シント•ソールム•インケンデンテース)
奈落の
(インケンディウム)
業火
(ゲヘナエ)
術式固定
(スタグネット)
掌握
(コンプレクシオー)
魔力充填
(スプレーメントゥム•プロ)
術式兵装
(アルマティオーネム)
数価
四〇・九・三〇・七。合わせて八十六
(メム=テト=ラメド=ザイン)
照応
水よ蛇となりて剣のように突き刺せ
急々如律令
荒ぶる螺旋に刻まれた
神々の原罪の果ての地で
血塗れて 磨り減り 朽ち果てた
聖者の路みちの果ての地で
我等は今 聖約を果たす
其れはまるで御伽噺の様に
眠りをゆるりと蝕む淡き夢
夜明けと共に消ゆる儚き夢
されど その玩具の様な
宝の輝きを
我等は信仰し 聖約を護る
我は光 夜道を這う旅人に灯す
命の煌き
我は闇 染まらぬ揺らがぬ迷わぬ
不変と愛
愛は苦く 烈しく 我を苛む
其れは善
其れは拒絶
其れは 純潔な 醜悪な 交配の儀式
結ばれるまま融け合うままに産み落とす
堕胎される 出来損ないの世界の
その切実なる命の叫びを胸に
祝福の華に誓って
我は世界を紡ぐ者なり
千変
逆理の裁者
頂の座
嵐蹄
淼渺吏
煬煽
翠翔
獰暴の鞍
朧光の衣
冀求の金掌
驀地祲
蠱溺の杯
道司
琉眼
千征令
吼号呀
聚散の丁
哮呼の狻猊
放弾倆
駒跳の羚羊
珠帷の剔抉
駝鼓の乱囃
呻の連環
匣迅駕
化転の藩障
翻移の面紗
冥奥の環
虹の翼
甲鉄竜
大擁炉
闇の雫
凶界卵
巌凱
焚塵の関
天凍の倶
戎君
架綻の片
狩人
愛染自
愛染他
探耽求究
彩飄
螺旋の風琴
髄の楼閣
壊刃
戯睡郷
征遼の睟
吠狗首
深隠の柎
輿隷の御者
坤典の隧
瓊樹の万葉
狙伺の疾霆
無比の斬決
絶佳の望蜀
覚の嘯吟
笑謔の聘
纏玩
穿徹の洞
澳汨肢
駆掠の礫
羿鱗
気焔の脅嚇
皁彦士
剡展翅
潜逵の衝鋒
紊鎚毀
頒叉咬
攵申
踉蹌の梢
盤曲の台
筆記の恩恵
秘説の領域
天壌の劫火
炎髪灼眼の討ち手
蹂躙の爪牙
弔詞の詠み手
夢幻の冠帯
万条の仕手
不抜の尖嶺
儀装の駆手
虚の色森
愁夢の吹き手
破暁の先駆
夕暮の後塵
極光の射手
払の雷剣
震威の結い手
冥奥の環
棺の織手
虺蜴の帥
啓導の籟
星河の喚び手
環回の角
殊態の揺り手
憑皮の舁き手
絢の羂挂
鬼功の繰り手
觜距の鎧仗
空裏の裂き手
奉の錦旆
无窮の聞き手
珠漣の清韻
无窮の聞き手
欺蔽の套子
荊扉の編み手
利鋭の暗流
戈伏の衝き手
糜砕の裂眥
輝爍の撒き手
応化の伎芸
骸躯の換え手
布置の霊泉
姿影の派し手
吾鱗の泰盾
犀渠の護り手
殊寵の鼓
晧露の請い手
叢倚の領袖
従佐の指し手
勘破の眼睛
枢機の向き手
祛邪の刻屈
理法の裁ち手
長柯の腕
奔馳の抜き手
闊遠の謡
誑欺の吐き手
訓議の天牛
替移の接ぎ手
突軼の戟
強毅の処し手
賢哲の鑑
精微の解き手
生阜の抱擁
蘇活の撫し手
紀律の按拍
攪和の打ち手
鬼道の魁主
昏鴉の御し手
曠野の手綱
玉紋の騎手
憚懾の筦
群魔の召し手
清漂の鈴
滄波の振り手
弄巧の摽
具象の組み手
爛班の炉
燿暉の選り手
瘴煙の鉦
露刃の巻き手
異験の技工
興趣の描き手
凜乎の涌沸
氷霧の削ぎ手
遍照の暈
焦沙の敷き手
闇の中
月は欠け
大地は凍え
咆哮は木霊し
虚空を切り裂かん
アンケートです
ぜひお教えください
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大人の中でも子供•子供の中でも大人
アンケートありがとうございます
自分でうじうじ考えてるより
聞いたほうが早いですね••
目の前に、母がいる
何故こんなところに
母の顔を見る
明らかに動揺している
父の癌が判明したときでも、私の前では気丈に振る舞っていた母がである
それもそうだろう
母には一度も見せたことのない姿だったからだ
「未来ちゃん••••」
こんな母の顔を見るのも初めてである
母は児童福祉司
父は陸上自衛隊員
そんな2人の間に私は産まれた
物心ついた時から、両親には心労をかけたくないと思っていた
仕事上、父と母はよく家をあける
そんな2人に代わって、中学に上がる頃には家事全般をこなせるようにはなっていた
ただ料理というものはどうもうまく行かない時の方が多い
父は治療に専念するため、自衛隊を退職した
何にでもそうだが、病気の治療にはお金がかかる
保険もおりていたが、お金が必要な事に変わりはない
そんな中見つけたのが、今私が通っているリディアン音楽院である
試験に合格して特待生徒になれば、学費が免除される
少しでも助けになれば
そう思った
「お母さん••••」
「未来ちゃん•••どうしたの?どこか怪我をしたの?
それとも何か悲しい事でもあったの•••?」
まずい
早く何か良い言い訳を見つけなければ
校医のウェル先生が遠くに見える
こんなところに母が居るのは、十中八九謳歌さんの事だろう
毎年この日は謳歌さんのカウンセリングをしているから
「う•••うん•••ちょっとね•••でも大した事無いの•••」
流石に苦しい言い訳である事は自分でも分かっているが、これ以上思いつかなかった
感情が昂っているせいか、頭が回らない
お互い黙っていると、母の携帯電話がなる
「もしもし、はい••そうですが•••
外務省••?はい••
はい•••
確かに小日向奏一は夫ですが•••
ニュース?
いいえ••
はい•••得に何も連絡はありませんが•••」
ジッと母の顔を見ていたが、みるみる青ざめていく様がはっきりと見て取れた
「お母••さん••?」
電話を終えた母に話しかける
「未来ちゃん、落ち着いて聞いてね?」
母はかがみながら、私の手を取りそう言った
「お父さんのいるフランスで大きな事件があったみたいなの•••
それで連絡がまだとれないみたいなの
未来ちゃんの方には何かお父さんから連絡はきていたかしら?」
私は力無く首を横にふった
●
「何話してるんだろう•••」
謳歌は遠くから2人を眺めていた
気絶したキャロルを抱え運んだ後、意を決して未来の元に向かったものの、そこには未来の母親の姿があった
琴音の命日にあたるこの日は、児童福祉司である未来の母親との面談が毎年行われていた
それこそ琴音が亡くなった直後は、頻繁に面談とカウンセリングが行われていたが、高等科にあがった頃から年に一回の面談に切り替えていた
「••••何をしているんだ君は」
びくっ!!
突如背後から声をかけられ驚いてしまった
「ウェ、ウェル先生•••びっくりした••••」
後ろを振り向くと、いつもの苦虫を噛み潰したような顔をしたウェルが立っている
「一体何なんだその格好は••」
「あっ、いやぁ••何ってそりゃ巫女服ですよ••はは••」
謳歌はすっかり忘れていたが、今は全身巫女装束である
(危なぁ、このまま未来ちゃんの所に行くところだった••)
別に巫女服で行った所でどうという事はないのだが、色々ややこしい事になりそうな予感がする
「あの••未咲さんと未来ちゃんは何話してるんですか?」
「プライベートだ、僕が知るわけ無いだろう」
そう言い終わったウェルが、軽く舌打ちをする
「チッ、面倒な奴に見つかった」
「ぞんないな言い方は相変わらずだな、君も」
振り向くと、やはり全身白のタキシードに見を包んだアダムが立っている
「あ、どうも•••」
「やぁ、昨日は眠れたかい?」
軽く挨拶を交わすと、アダムはウェルの方へ向き直る
「この子を見てくれないか?少し指が腫れているようでね」
アダムに隠れて気が付かなかったが、背後に調の姿が見て取れる
「おはよう調ちゃん」
そう言うと、調はいぶかしげな表情でこちらを見ている
「おはようございます、なんですか•••それ?コスプレですか?」
「なんでみんなして巫女服をコスプレ呼ばわりするの•••」
ウェルが横槍を入れる
「君は神職でもなんでも無いだろ、だとすればそれはコスプレだ」
アダムはお構いなく話を続けている
「また例のごとく指を痛めつけてね、任せたよ」
「全く•••君はいつも自分を主軸においた話しか出来ないのか?」
アダムは調の方へ向き直る
「それではまた、きちんと見てもらいなさい」
そう言うとスタスタと歩き出していってしまった
「全く•••君も君だ、毎回毎回•••」
なれた様子で調の指を診ているウェル
「あの••••お知り合いなんですか?あの人と••」
大きくため息をついてウェルは答える
「あぁ、残念な事に大学の同期だ
この子も幼い頃から知っている
毎回毎回指を折って僕は治療させられていてね」
「人を骨折魔みたく言わないで下さい」
調はムスっとしている
「毎回指を折ると言うと•••?」
「少々壁を殴りまして」
「壁を殴る•••?指が折れるくらい壁を殴る?どういうこと••」
ウェルが声をかける
「ほら、終わったぞ
確かに折れてはいないようだが安静にするように」
「ほら、こんなふうに折れない指になったんですから結果オーライです」
「いや、頻繁に折ってた方が問題なんだけど••」
真面目にタイトル考えるの大変•••
どうつければいいのん•••
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いすみさんのおふだ
かわいいですよね••••
どれくらいの方がわかるか分かりませんが•••
「なぁ、言いたくなかったら答えなくて良いんだけどさ」
「んー?なんだよ改まって」
旅館特有の長い廊下を歩きながら、キャロルは琴音に問う
「その•••お前って何で死んだのかなぁって
いや••言いたくなかったら全然いいんだけどさ
言わなくて•••」
キャロルは、姿が見える以上もっと知っておかなければいけないと思い、こんな質問をしたのだが
やはり止めておいた方が良かったかなとちょっぴり後悔していた
「んー?白血病だよ白血病」
「そっか•••」
「今お前、(病死か•••てっきり事故死かと思った)って思っただろ」
キャロルは驚いたようである、どうやら図星のようだ
「お前、精神感応かなんかか?」
「俺にESPはねぇよ、第一こちとら霊体だぞ?バカかお前」
そう琴音が答えた時、ふとあることにキャロルは気がつく
「ていうかお前、10年前に死んだんだよな•••?」
「だからそうだって言ってんだろうが」
妙だ
「にしてはお前、デカいよな•••それこそ雪音や謳歌と同じくらいに目えるが•••」
「んぁ?なんか成長してるんだよなぁ」
「ゆっ、幽霊が成長•••?」
そんなことを話していると、廊下の先から声が聞こえてくる
「だから!落ち着けってば!」
「返して下さい!それがないと僕は!」
「なっ、なんだぁ?あれ」
廊下の先にいる人物は、どうやらクリスとエルフナインのようである
「返すも何も、これあいつのだろ!?なんで持ってるんだって聞いてるだけじゃねぇか!いて!おちつけってば!」
そして、こちらがわに気付くエルフナイン
「うわぁ!でたぁ!」
そして、一目散に反対側へと駆けていく
「おっ、おぉい!」
キャロル自身、エルフナインがあのように取り乱しているのは初めて見る
そして、琴音の方を見るキャロル
キャロルの方を見る琴音
琴音を指差すキャロル
自分自身に指を差す琴音
そしてそのまま、すい〜っと壁を抜け、廊下の先へと先回りする
「うわぁ!やめて下さい!あっちに行って!」
壁から頭だけ出した琴音に懇願するエルフナイン
もちろんクリスには琴音が見えていないので、突然エルフナインが発狂したかのようにうつってしまう
「おい」
「あ、丁度良いところに、どうにかしてくれよ、エルフナインが変なんだ」
クリスが指をさす方を見ると、エルフナインの頭上をクルクルと回る琴音の姿
そして震えながらうずくまるエルフナインの姿があった
「俺がなんとかしておくから部屋にでも戻っててくれ」
「大丈夫か••••?」
「これでも俺は双子の姉だぞ、アイツの事は誰よりも分かっているつもりだ」
クリスは心配そうにしている
「あぁ、あとそれは置いていってくれ」
キャロルが指をさしたのは、例の御札もとい護符である
今は透明な袋のようなものに入っている
「これか、でもな••••」
「それ、謳歌から預かってるんだ、だから置いて行ってくれ」
クリスは釈然としない様子であったが、護符をキャロルに渡すとその場を去っていく
「それから先輩もう少ししたら出るって言ってたから」
「あぁ、直ぐに戻る」
クリスを見送り、目の前にいる妹に声をかける
「おい、もういいぞ、どうせ演技なんだろ?」
上げてたいた悲鳴を‘‘ピタッ’’と止め、ムクリと起き上がるエルフナイン
「えへ、分かっちゃった?」
「お前は幽霊なんかに驚かないだろ」
そして、琴音の方にクルッと向き直るエルフナイン
「ご挨拶が遅れました、エルフナインと言います
見ての通り僕たちは双子でキャロルが姉です」
「おう••弓谷琴音だ、よろしく」
この様子を見ると、さっきまでの態度は本当に演技だったらしい
「ちぇ、せっかく驚かす相手が増えたと思ったのによ」
不満げに漏らす琴音
「ないない、コイツに限って幽霊を怖がるなんてあり得ん」
「キャロル、僕を何だと思ってるのさ」
キャロルは、自分より遥かに学に優れたこの妹を、時々恐ろしく感じることがある
恐ろしいと言っても、それは純粋な恐怖ではなく、どこか得体のしれないものを目の当たりにしたような恐ろしさである
だがそこは双子の妹である
自分の分身とまでは言わないが、とても大切に思っている
「で?何だってこんなことになったんだ?」
「いやね、僕としたことがキャロルから貰った護符をクリスさんに見つかっちゃってね?」
「貰ったって••どちらかというと奪っただろお前•••」
エルフナインは続ける
「うん、実はある人から護符の交換を頼まれたんだ」
「ある人から交換?」
「まぁ、ある人というかこれを作った人だけどね
そろそろ交換時期なんだって」
「なんだよ交換時期って•••
そんな電化製品じゃあるまいし•••」
そこに横槍を入れる琴音
「まぁ、放っておくと消えて無くなるからなそれ」
「は?どういうことだよ••」
「言葉のままだ、もう少しすればそれから火が出て消えて無くなる」
ジップロックから古い護符を取り出し、新しいものと入れ替えるエルフナイン
「はいキャロル、これ謳歌さんに渡しておいて」
新しい護符が入ったジップロックを受け取るキャロル
「じゃあ僕はこれを梱包して送らないといけないから」
「おう•••」
エルフナインを見送り、若干の疎外感を覚えながらも、謳歌を探しに向かうキャロルであった
シンフォギアの数ある2次小説のなかでも
異端と自負するこの作品をいつもありがとうございます
まじでシンフォギア要素皆無ですが、がんばります
話は変わって、ふと
これは件のクロスオーバーと呼ばれるものなのでは?
と思いましたがどうでしょうか•••
実は以前もタグをつければ?
と言われたことがあるのですが•••
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境目
幽霊を信じるか
私は信じている
いや、‘‘信じさせられた’’と言ったほうが正しいだろうか
昔、ある難民キャンプでの出来事を話そう
国境なき医師団で活動している私にとって、‘‘死’’という物はいつも付きまとって来る
全ての命を救えるわけではない
覚悟は常にしているつもりだが、救えなかった時のやるせなさには今でもなれない
特に子供の死という物は、娘がいる私にとってとてもこたえる物であった
もうすっかり日が暮れたある日のことである
難民キャンプの人達と共に夕食の準備をしていると、遠くの方に人影が見えた
今振り返ってみると、暗闇の中人影が見えること自体おかしいのだが、私は吸い寄せられるように人影の方へ向かっていった
「そんな所でなにをしているの?」
私は人影に向かってそう呼びかける
返事はない
もう一度呼びかける
返事はない
ふと気がつく
人影が1人から3人に増えている
私は人影に向かって歩きだしていた
手を振っているように見える
そして、やっと姿が見えてきた
見覚えのある顔だった
以前、別の難民キャンプにいた夫婦と子供であった
3人は笑って手を振っているように見える
そしてある事を気がつく
子供の事である
その子供は、もう死んでいるという事だった
私がこの手で最後を看取った
その子供が目の前にいる
そう気づいた瞬間
私は気を失った
後から聞いた話によれば
真っ暗闇へ何か言いながら歩いていく私の姿を多くの人が目撃していたらしい
そして、数時間戻って来なかったため
総出で探しに出ていた所、暗闇の中に倒れていた私を発見したそうだ
途中、探しに出ていた人達の中で‘‘死者の列’’を見た
という人が数人いたそうだ
‘‘死者の列’’というのは、この辺りに伝わっている伝承で
亡くなった者があの世に行くときに出来る葬列とされている
生者が不用意に死者の列に近づけば引きずり込まれ、魂を連れ去られてしまうという
目撃した男性はこう語る
「とても恐ろしい光景だった、黒い人型の影のようなものが長い列を作り行進していた
直ぐに死者の列だと直感したよ
祈りの言葉を発しながらその場を離れた
もう少し近づいていたら俺はここにいないかもしれない」
少数部族のシャーマンだという老婆の元に連れてこられた私は、体を清められ、こう告げられる
「あんたは少々魅入られやすい体質のようだね
なぁに、あんたが会った者たちは危害を加えようとしたわけじゃないさ、ただあんたに礼を言いたかったのさ
ただ充分気をつけるんだよ
全部が全部そういうのとは限らんからね」
幸いなことに、未だにその手のものに危害を加えられた事はないものの、極稀にそういった者たちにでくわすことがある
「っていう昔話だけど••大丈夫?」
「えっ、あっはい••••」
バスに揺られながら、唱歌はミラアルクの顔を覗き込む
冷や汗をかき、目尻には涙が溜まっている
「もしかしてこういう話は苦手だったかしら」
「はっ、はい•••得意ではないです•••」
ミラアルクはそう言いながら、ブルっと身を震わす
「そう、ごめんなさいね、でも、恐れは付け入る隙を与えてしまうから、気をしっかりもたないとね
•••もう着きそうね」
バスが標識の横を通り過ぎる
標識には、ロゼール県のある村の名前が記されていた
いつもありがとうございます
さてご質問ですが
皆さんは謳歌の容姿のイメージとかありますか?
まぁ特に何をするわけでもないですが
あえて今まで容姿の情報は書いていないので
もし教えてくれる人がいたら感想覧やDMなどでもいいので
教えてもらえると嬉しいです
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感謝と憎しみと
「その•••大丈夫?その指••」
「別に、対して痛くもありませんし」
調の指は湿布と包帯でグルグル巻にされている
「別にこんな大げさな事じゃありません」
「だったらこんな怪我はしないでくれ、毎回毎回迷惑してるんだ」
ウェルが包帯を巻きながら抗議している
「別に、頼んでません」
調はイライラしているように見てとれる
「あの」
「ん?何調ちゃん」
ジーっと謳歌を見つめる調
「また何かありましたね?」
「え•••?それはどういう•••」
調は大きくため息をつくとこう言う
「隠しても無駄です、もう顔が何かあったって言ってます」
「はは•••そんなに顔に出てるかなぁ••
調ちゃんやっぱりエスパーじゃないの?」
調は謳歌の言葉に怪訝な表情を見せる
「あの、前にも言ってましたけどそのエスパーって言うのは••」
「あぁ、ごめんごめん、エスパーっていうのはESPとPK能力を持った人たちのこと」
調はなおも質問する
「そんな言葉聞いたことないんですが•••
この前はなんとなくスルーしましたけど•••」
謳歌は笑いながらこう答える
「そりゃあそうだよ、だって私が作った造語だからね」
「ですよね?どうりで聞いたことないと思いましたけど••」
「なんとなくだけどさ、‘‘能力者’’なんて言い方好きじゃなくてさ
ESPを文字ってエスパーってよんでるんだ
なんとなくこっちのほうが響きもかわいいでしょ?」
笑いながら話す謳歌
「そうですか、まぁかわいいかどうかはちょっとわかんないですけど、アダムさんが聞いたら喜びそうです」
「そういえばもう帰えられたの?なんだか挨拶がてら観光とか言ってたけど」
少し調の表情が曇る
「はい•••パリでテロがあったとかで、アダムさんだけニューヨークに戻られました」
謳歌は現地フランスのニュースサイトを確認する
「同時テロ•••パリ••そっか••だから•••」
「••••どうかしましたか?」
「あっ、うん•••いや、未来ちゃんのお父さんって、確かパリにいたはずだからさ•••」
そう言った謳歌の目線の先には、頭を撫でながら未来を抱擁する未咲の姿が映っていた
親という物はみなああなのだろうか
自分には到底理解出来ないものである
「ねぇ調ちゃん•••」
「なんですか?」
謳歌はどこか上の空である
「親ってみんなあんな感じなのかな••••?」
「••••まぁ、娘と心中しようとする母親よりはましですよ」
はっ、とする調
まずい、本当はこんなこと言うつもりじゃなかったのに
また泣かれてしまう
恐る恐る謳歌を見る調
ところが、泣くどころか話を聞いているかすら怪しい佇まいである
「•••••••••」
しばらく無言でいた調だが、思いっきり振りかぶり
謳歌の背中に強烈な平手打ちを見舞う
パァン!!
「!!痛ったぁ!?」
「なにボーッとしてるんですか、未来さんに用があるんでしょう?ほら行った行った」
謳歌の背中を文字通り押す調
「あ、うん••ありがとうね調ちゃん」
「はぁ••別に感謝されるようなことはしてないんですが」
去り際に調は謳歌に問う
「さっきの質問の答え聞いてました?」
「えっ?質問•••?••••ごめん全然覚えてないんだけど•••
私何か聞いたっけ•••?」
「いえ、別になんでもありません
ほら、行った行った」
謳歌を送り出した調
「はぁ•••」
調は小さくため息をついた
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子どもたち
遅れちゃってごめんなさい
珍しくとても緊張している
こんなに緊張しているのはいつぶりだろうか
いつもはへらへらとごまかしてきたが、今回ばかりはそうはいかない
「あっ、あの•••」
そう言いながら、未来とその母である未咲にぺこりと頭を下げる謳歌
「あら••ごめんなさいね謳歌ちゃん、もうそんな時間だったかしら•••」
いそいそと時計を確認しながらベンチから立ち上がる
「いや、その•••違うんです未咲さん、未来ちゃんに用があって•••」
「未来ちゃんに?そう•••
じゃあ、終わったら連絡ちょうだいね
じゃあまた後でね未来ちゃん」
「うん•••」
未咲は未来の頭を撫でるとその場を後にする
「••••••••」
「••••••••」
その場を支配する沈黙
だがいつまでも黙ったままでいるわけにもいかない
意を決して喋りだす
「••••未来ちゃんってさ••かみゅのきぇきゅれいらよれ」
噛んだ
思いっきり噛んだ
もう最悪!私のバカ!こんな大事な時に噛んだよ!
だって緊張したんだもん!
口の中パサパサだし!?
心臓バクバクだし!?
はぁ••••
ひとしきり心の中でそう叫んだ後、隣に座る未来に視線を移す
「•••••!!」
ベンチの肘掛けに突っ伏してぷるぷるしている
「あの•••未来ちゃん•••?」
なおも突っ伏しぷるぷるしている未来の背中を、人差し指でなぞってみる
「くっ••!あははは!」
するとどうだろうか、お腹を抱えて笑いだした
「みっ、未来ちゃん•••?」
突然の出来事に困惑する謳歌、なおも未来は笑い続けている
「すいません••ふふ••あんまりおかしくって••」
謳歌が自らやってきたということは、さっきの件で何かしらの話があってのことだろう
謳歌はやさしい性格だ、怒っている所など見たことがない、だがさっきの自分の態度はあまりにも酷いものだったから
ひょっとすると厳しい言葉をぶつけられるかもしれない
と、未来は身構えていたのだが、怒っている感じは皆無だし思いっきり噛んだと思ったら顔を覆ってうなだれているしで、謳歌らしいと言えば謳歌らしいのだが、そんな様子を見ていたらなんだかおかしくなってきてしまった
というのが事のてんまつである
「なんだかごめんね?しまり悪くて••」
謳歌は苦笑いを浮かべながら少し恥ずかしそうにしている
「いえ、•••こちらこそさっきはごめんなさい」
「ううん、私は全然構わないよ?」
少し間をおいて、未来は話し始める
「私•••親友ってものに憧れていたんです•••」
未来の言葉に?マークを浮かべる謳歌
未来ならば、対人関係も良さそうだし、自分なんかよりよっぽどそういう関係に到れると思ったからだ
「どうしてって顔してますね、まぁ•••確かに疑問に思うのも分かります
私って、‘‘友達’’や‘‘友人’’って呼べる人は沢山居るんです
だけど•••‘‘親友’’って呼べる人いなかったんです
上辺だけの関係じゃない、そんな‘‘親友’’が欲しかった••
そして響に出会ったんです•••
初めて親友って呼べる人に出会えたんです••
だけど、いつも怖かった••
いつか響に見限られるんじゃないかって•••
本当に怖かった••
だから、謳歌さんと響が会ってるのを知って、取り乱してしまってあんな酷いことを•••
•••贅沢な悩みですよね」
謳歌は未来を引き寄せ、優しく頭を撫でる
「うん、よく頑張ったね、えらいえらい」
「あっ、あの•••」
当惑している未来をよそに、謳歌は続ける
「未来ちゃんさ、あんまり人に甘えたこと無いでしょ?
甘えられた事は多いと思うけど
未咲さんが言ってたよ?いつも未来ちゃんは気を使ってるって」
「•••そうかもしれません」
「うちに編入する時だって、1日何10時間もピアノの練習してたって
合格出来たけど腱鞘炎になって3ヶ月くらい両手使えなかったんでしょ?
だけどそんなときでも私達夫婦に気を使ってって未咲さん言ってた」
未来はバツが悪そうに答える
「えぇ、2人とも忙しいので•••」
「もう少し甘えてほしいってよ?せっかく親子なんだからそんな他人行儀なことしちゃだめだよ」
自分がこんなことを人にアドバイスするなど滑稽なことこの上ないが、人は人自分は自分だ
未来の家庭はある種‘‘普通の家庭’’だ
それぞれ形こそ違えど親子の絆なる物は存在していると考える
なぜそれを自分に当てはめて考えられないのかと聞かれれば、答えは簡単
そもそも親子という認識がないからであろう
愛情のかけらも感じないし、会いたいかと言われれば、全く興味がない
心底どうでもいい
憎んでいるわけでもない
そもそも憎むほど関わったことがないからそんな感情微塵もわかない
本当にどうでも良かった
だがどういうわけか、両親の話題になると決まって過呼吸を起こす
過呼吸の時の記憶はいつもおぼろげにしか無いが、どうやらうわ言のように‘‘ごめんなさい’’と言っているらしい
校医のウェルが言うには、‘‘トラウマになっているのだろう’’と
厄介なことこの上ない
苦しいし、周りに迷惑をかけてしまう
本当に勘弁してほしい
しかし、ただ1つ自分を産んでくれたことにだけは感謝している
結果的に今のみんなと出会えたのは両親というよくわからない存在が自分を産んでくれたから
それだけは感謝してもいい
「あの•••」
「あぁ••ごめんごめん、とにかく私は気にしてないし、未来ちゃんはもう少し人に甘えてみるといいよ」
そう言うと、謳歌は立ち上がる
「行こう未来ちゃん、風鳴さんもそろそろ出るだろうし
今日で旅行も終わりだから、楽しもうね」
そんな二人の様子を釈然としない表情で、琴音は見つめていた
旅行編はこれにて終幕です
ていうか交互に書いてたから超読みづらかったですよね
更新も遅いし・・・
次回からはミラアルクちゃんと唱歌のお話の続きです
感想あったらぜひ・・・
よろしくおねがいします
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魔獣の村
パリから約500km、高速鉄道とバスを乗り継ぎ、唱歌とミラアルクはロゼール県にあるとある小さな村にやってきていた
目的はエルザ・ベートの母親であるキルスティン・ベートの怪我の治療である
バスはレ・ウバックという村のバス停に停まる
バスを降りると、30代後半くらいの男性が近寄ってきた
【はじめまして、あなたがショーカさんですか?】
【はい、ではあなたが••】
【はい、キルスティンの夫でエルザの父のヨセフ•ベートです
大変なときにありがとうございます
本当に感謝します】
そう言いながら握手を交わす2人を見つめているミラアルク
なんせミラアルクには何を話しているかさっぱりである
ふと、バス停の後ろにある大きな木が目に入った
木の根元には、何やら石碑のようなものが建てられている
案の定、これもフランス語なのかさっぱり何が書いてあるのか分からない
「それは慰霊碑だよ」
不意に、そう日本語で話しかけられた
「はじめまして、エルザから聞いているよ
ミラアルクさんだね
エルザの父のヨセフです」
「あっ、はい•••ミラアルク・クラウンシュトウンです」
目的地であるエルザの家までは、ここからさらに30分ほど車で走った所にあるらしい
そしてふと、のどかな風景の中に不釣り合いな物が目に入る
ところどころ民家の塀の上や柵の周りに、有刺鉄線が巻き付けられている
最初は防犯の為かとも思ったが、それにしたら少し仰々しい気がする
「それは昔の名残だよ」
そう話してくれたのはヨセフである
「昔狼が原因で大勢の人が亡くなったんだ、あのバス停の慰霊碑も最初に狼に殺された女の子を弔う為に当時の村の人達が建てた物ときいているよ
今でも年配の世代はああして狼に襲われないようにしている家が多いんだ
若い世代はあまりそういうことはしていないけどね」
昔エルザがこの話題を話していたのを思い出した
基本的に自分は怖い話はてんで駄目である
特に幽霊なんかは冷や汗が出るほどだ
エルザが話していたこの話は、通称‘‘ジェヴォーダンの獣’’
と呼ばれているらしい
実際にあった事件の話のようで、映画にもなったりしているそうだ
大勢が狼に殺され、その姿形から‘‘魔獣’’との噂も出ていたとのこと
旧ジェヴォーダン地方、現在のロゼール県
エルザの出身地であるこここそが、魔獣騒ぎの舞台だった
そしてここレ・ウバック村は、最初の被害者の女の子が殺された村だということ
村の近くで行方不明になり、後日内蔵を食い荒らされた状態で発見されたという
そこで怖くなり、エルザの話を遮ってその後の話は聞いていない
15世紀には、首都のパリが狼の群れに襲撃されたとの話も残っているようで、何にせよ昔から狼による被害は深刻だったようだ
「おまたせしました、見えてきました」
そうヨセフが声をかける
「それから•••上に何かしら羽織ることをオススメします
なければ後ろのトランクにコートが入っているので、それを使って下さい」
外気はまだ冷たさを感じられないし、特別今日が肌寒いという訳でもなかったが、家に近づくにつれその言葉の真意が明らかになった
「到着しました、足元に気をつけて下さい
滑るかもしれませんから」
目の前に広がっているのは、一面凍りついた木々と家屋の姿だった
出来る限り定期的に投稿がんばります•••
分からない事とかあったら聞いてください
感想あれば••••ぜひ••••••
よろしくおねがいします
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凍りついた家
一瞬、その光景を見て固まってしまった
冬でもない、寒くもない
それなのに地面と家の外壁部分が異様に凍りついている
家の周りはというと、なんの変哲もない牧草地が広がっているばかりである
この家の敷地を境界として、内側だけがこのような状態になっているようだ
そんなことを考えていると、ヨセフと唱歌はもうすでに家の玄関付近に進んでいってしまっていた
慌てて後を追おうとしたら、案の定凍った地面にズルリと足を滑らしてしまった
「おっと••••」
しかしそこは自慢の体幹で直ぐに体制を立て直す
自慢の体幹とは言うものの、体幹を鍛えた理由は謳歌をどんな体制でもブレずに盗撮するためという極めて不純な理由であったが、お陰様で元々の運動神経の良さも相まって体育の成績は優秀だ
「どうぞ中へ」
2人に追いついて、家の中に入る
そして、また違和感を感じる
が、唱歌がそのまま家の中に入っていってしまったので自分も後に続く
エルザの母キルスティンがいる寝室へと案内される、しかし部屋の中に入ろうとしたとき唱歌に制され、外で待っているように言われた
その時は横顔しか見えなかったが、まるで別人のような顔つきに変わっていたのをミラアルクは見逃さなかった
どうしたものかと廊下に立っていると、数分してヨセフが部屋から出てきて、リビングに案内された
「どうぞ、かけていて下さい」
そう言われ、ソファに浅く腰掛ける
正面の壁際には、かなり古いものと思われるドラグーンマスケットが飾られている
「それは、祖父の祖父のものでね」
ヨセフはそう言いながら、ホットミルクをミラアルクへ手渡す
「魔獣退治にこの地に来た竜騎兵の兵士と祖母の祖母が婚約したときに送られたものらしくてね、代々受け継がれているんだ」
「そうなんですか•••」
ミラアルクはヨセフの話を聞きながら、家の中に入った時の違和感の正体に見当がついていた
外は地面や壁面が凍りつくほどの冷気にさらされているのに、家の中は全く冷気を感じないという所だった
室内は、程よい心地がいい温度になっており、空調機器や、暖房がついているわけでもないようだ
家の敷地に入る前の気候と似通っているようである
そしてふと窓の方に目をやると、そこには奇妙な光景が広がっていた
窓の外はいたって普通の民家の庭が広がっている
どこも凍りついていない
「気づいたかい?」
ヨセフはそう言うと、おもむろに窓に近づき鍵を開けて窓を開く
「あ、あれ••••?」
窓を開けると、中に入る前の凍りついた庭が見て取れる
ヨセフに呼ばれ、近くで見てみても変わらない
「不思議だろ?この窓は特に普通の物なんだがね」
苦笑いを浮かべるヨセフの言うとおり、特に窓に貼っているとか映像を流しているといった訳ではないようだ
そして何より、窓を開け放っているのにも関わらず、全く冷気が室内に流れ込んできていない
「窓枠から手を出してごらん?」
ヨセフに促され、そー••っと窓枠から外に手を出してみる
「••••冷たい••ですね••••」
窓枠から手を出した瞬間、手が一気に冷気にさらされた
何度か繰り返したが、窓枠を境界として中と外とで別世界にいるような奇妙な感覚に陥った
そして、ヨセフが窓を閉めるとそこにはのどかな庭が広がっている
「•••エルザが産まれてからなんだ、外は一面凍りついているのに中からはそれがわからない、室内は寒くもない
本当に不思議だったよ
最初は村の商店がある方の地区に住んでいたんだけれども、引っ越さざるをえなかったよ
村の人達が気味悪がってね
悪魔に憑かれたとか、呪われているとかね
教会に通ってみたりしたけど意味はなかったよ
それでこんなへんぴな所に来たわけだけどもね」
そこまでヨセフが話した所で、廊下から唱歌が現れた
「とりあえず治療は終わりました、ヨセフさんはこちらへ
••••ミラアルクちゃんはもう少し待っていてね」
唱歌はそう言うと、ヨセフと共に廊下の先へと消えていった
ここまで生き残っている方はどれ位いるのでしょう•••
何にせよ早めに投稿します
感想あったら是非•••
よろしくおねがいします
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欠ける月
大遅刻でした•••
少しだけ、ほんの少しだけ
ヨセフの事が怖いと思ってしまった
怒られたとかお化けとか、そういう怖さではなかった
何というか、何か得体のしれないものに対する恐怖と似ている気がする
それに唱歌の様子も少しおかしい
おかしいというと少し自信がないのだが、妙に落ち着いているというか••あの凍りついた家を見ても、表情1つ変わらなかった
唱歌は俗に言う‘‘視える体質’’だと言うので、あれくらいの事は日常的なのだろうか
自分にはとてもじゃないが耐えられそうじゃない
「••••ラアルクちゃん••••ミラアルクちゃん?」
「あっ!はっはい!」
今は村の商店が立ち並ぶ地区のレストランに向かっていた
ヨセフが頑なに、‘夜は人がいる所に居たほうが良い’と譲らなかったのだ
キルスティンの怪我の事もあるので唱歌は固辞していたが、家主がそう言っているので仕方なかった
宿にはヨセフから連絡を入れると言っていたので、まずは食事という話になった
「•••ここにしましょうか」
「はい」
小さなレストランだったが、平日の夕方だったので対して混雑はしていなかった
老夫婦と20代くらいだろうか、作業着を着た男性が食事をとっていた
【•••••いらっしゃい】
店主だろうか、カウンターの中から50代くらいの男性が声をかけて来た
【2人です••••••何か?】
【•••••••いや、奥の空いてる席にかけてくれ】
壁際奥の席に腰掛ける
(うぅ•••まぁ全部フランス語だよね••••)
残念ながらメニューは全てフランス語だった
まぁ特に観光地では無いようなので致し方無い
唱歌をチラリと見てみると、バチっと目があった
「読めないわよね、説明するから隣に座ってくれるかしら」
「•••すいませんいつも」
申し訳無さそうにしているミラアルクを見て唱歌はクスッと笑う
久しぶりに笑った顔を見たかもしれない
料理はバッフ・ブルギニョンという牛肉の煮込み料理とガトー・ド・サヴォアというレモン風味のケーキを注文した
料理を待っている間、聞けずにいた事を聞くことにする
「あの•••大丈夫なんですか?エルザのお母さん•••」
「そうね•••おなただけでも先にここから離れた方がいいかもしれないわね•••」
大分間をおいて、唱歌はそう答えた
一体何を言っているのか、質問とは全く違う答えが帰ってきたので困惑してしまった
「あの•••それはどういう意味で•••」
ガシャン!
大きな音に思わず驚いてしまった
「•••••••••••」
テーブルの上には注文した料理と、あの無愛想な店主が立っている
【メ••メルシー••••】
ミラアルクが知っている数少ないフランス語である
なおも無愛想な店主は‘ジッ’っとミラアルクを見つめている
【•••••••••••あんた‘‘混じり者’’か?】
「?•••••あの•••」
店主が何を言っているか分からないので、例によって唱歌に助けを求めようと視線を向けた
しかし、視線の先には立ち上がり店主と対峙している唱歌の姿
表情こそ穏やかだが、何か不穏な気配を感じる
【おぅおい!ビルぅ!なにやってんだよぉ!】
店主の男の肩に手を回し、喋りかけてきたのはカウンターに居た20代位の男性であった
右手には、ビールと思われる瓶を手にしている
【••ジャストル少し飲み過ぎだぞ】
【うるせぇよぉ、それより何かわい子ちゃんにガン飛ばしてんだよぉ】
【••••はぁ、分かったから席にもどれ
••••悪かったな】
ビルと呼ばれた店主は唱歌に一瞥すると、カウンターへと戻っていく
「悪かったなぁ、あのおやじは料理の腕は一流だが無愛想でいけねぇ許してやってくれぇ」
そう語るジャストルと呼ばれた男は、流暢な英語で話しかけながらミラアルクの肩に手を回している
「いえ••••あはは••••」
完全に酔っ払っているようである
呼気のアルコール臭がすごい
【ジャストル、いい加減にしておけ】
そう言いながらビルはジャストルをミラアルクから引っ剥がし、カウンターへと追いやる
【なんだよぅビル、まぁいいかぁ•••またなぁお嬢さぁん••】
カウンターについたジャストルはそのまま寝てしまった
【悪かったな••こいつはサービスだ】
そう言われた事を唱歌から伝えられ、ジュースのようなものを差し出された
後から分かった事だが、出されたジュースはオランジーナという物らしい
日本でもたまに飲んではいたのだが味が違うので気が付かなかった
フランスの物は日本の物と比べ甘さには劣るものの、炭酸が強く果肉がたっぷりと入っていて飲みごたえがある
「あの••さっきあの人なんていったんですか?」
よく煮込まれた牛肉を頬張りながら聞いてみる
「聞きたい?あまり面白い話じゃないわよ?」
そう言われてしまうと気が引けるが、聞いておかないとなんだがスッキリしない
「はい、聞かせてください」
飲み物を口にして、一呼吸おいてから唱歌は話し始める
「彼は、あなたが綯血じゃないかって言ったのよ
それに、あの単語はあまりいい意味で使われる言葉ではないの」
そこまで話を聞いて、どうしても疑問点が残る
100歩譲って綯血者を嫌煙したり忌み嫌うのは仕方ない、もちろんいけないことだ
物心ついたときに父から1番最初に教わったことだ
だが同時にヨーロッパでは未だに差別的な言動をする人がいるということ、悪しき風習だということを父から常々言われてきた
日本ではほとんどそういう差別は見られない
世界を見ても非常に稀なことだ
そしてなにより自分は綯血でもなんでもないが、どこで綯血と判断したのか
それを唱歌にたずねようとしたその時であった
プツッ!
「へっ?」
突然目の前が真っ暗になってしまった
キョロキョロとあたりを見回すと、窓から月明かりにてらされた場所はぼんやりと視認できた
停電だろうか?窓際に移動し外を見てみても、あたりの商店や民家からは明かりが確認出来なかった
そして、この暗闇をわずかにてらしている月の方へと何気なしに視線を向ける
「•••••••••何•••あれ••」
ミラアルクの目に映るそれは、4方を砕かれまるでひし形のような形になった、奇怪な月の姿であった
オカルトやホラーは好きな方です••
ジワジワお気に入りにしてくださる方がいて嬉しい限りなのですが•••
楽しんでもらえているのか不安なところです•••
なるべく定期的に投稿します••
何かあったら聞いてください••
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魔獣と月と
期間が空いてしまい••••本当に申し訳ありません
「何•••あれ•••」
目に映るそれは、本当に月と呼べる代物なのだろうか
それとも自分の目がおかしくなってしまったのだろうか
そんなことを考えているとある音が耳に聞こえてくる
それは動物の鳴き声と機械のような音が混ざりあったような奇妙な音色であった
窓のあたりで周囲を見渡して見ても、その音色の主と思われる物はどこにも見当たらない
そんなことをしていると、誰かに肩を‘‘グイ’’っと掴まれ押しのけられる
【•••••••••••••】
正体はビルと呼ばれた店主であった、そして肩には大きな銃を担いでいる、どうやら猟銃のようだ
【おい爺さん、あんたらはジャストルとこのお客人と一緒に店に居てくれ、俺は村長の所に行ってくる】
奥の席に座っていた老夫婦にビルはそう言うと、窓の上に付いていたブラインドのような物を1つ1つ下ろしていく
それは鉄製で出来ており、ブラインドというより鎧戸やシャッターと言った方が良いかもしれない
「行きましょう、ミラアルクちゃん」
そう声をかけられ振り向くと、唱歌と老夫婦、そして唱歌の肩を借りるように立っているジャストルと呼ばれた青年が待っている
【いいか、朝になるまで何があっても絶対に戸は開けるな】
ビルはそう言い残すと、猟銃を構えながら店を後にした
ミラアルク達5人は店の二階にあたる居住スペースへと避難することにした
階段をのぼり終えた所で、ミラアルクはあるものを目にする
それは1枚の写真であった、そこには5歳くらいだろうか
女の子と女性、そしてビルと思われる男性の姿が写っていた
「それはビルのむすめじゃよ•••」
振り絞るように語るのは、老夫婦の夫
「ジャンヌと言ってなぁ•••可愛らしい子じゃった•••」
「あなた•••」
妻の老婦人が諌めるように声をかけたが、老夫はそのまま続ける
「あの魔獣は••全てを焼き尽くしてしまった•••そして今度はヨセフの娘も•••」
老夫はそこまで言うと、ふぅ••と息をついた
「•••さぁ早く中へ」
ジャストルと老夫婦を先に部屋に入れた唱歌は、ミラアルクへ部屋に入るように促す
「さぁ!ミラアルクちゃんも」
「あっ、はいっ!」
ミラアルクが部屋に入ろうとした瞬間だった、廊下の窓ガラスが一斉に吹き飛んだと同時に、ミラアルクも吹き飛ばされた
何が起きたか分からなかった、目に映るのは天井と、何か必死に叫んでいる唱歌の姿である
おかしい
身体が動かない
目も霞んでよく見えない
耳もよく聞こえない
身体が冷たい
なんだか寒い
そのままミラアルクは、暗闇の中に沈むように意識を失った
私は本屋ちゃんと師匠(マスター)派です
なるべく早く投稿いたします
何かありましたらご質問下さい
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少女と血と従者と
ジョーが12歳だったのが1番びっくり
ここはどこだろう
なんだかとてもねむたい
あたまがぼんやりする
そういえば
わたしはだれだろう
なまえ•••わからない••••
なむたい••••
このままねむりたい
❨••••だめよ❩
•••••あなたはだれ?
なんだかとてもねむたいの•••
ねむらせて••
❨ここに来るのは早すぎるわ
本来いるべき場所にお還り
いい子だから❩
「•••••••ん•••••••••」
最初に目に入ったのは、見知らぬ天井
身体がきしむ、身体じゅうの骨が今ならボキボキなりそうだ
「••••!ミディ!」
すぐ横から、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「待ってなさい、直ぐに先生がくるから」
「••••父さん•••?」
紛れもないそれは父の姿であった
父が何故ここに?という疑問をもったが、直ぐに出ていってしまった
段々意識がはっきりしてくると、自らの現状が目に映るようになった
1つは、様々な管や機械に繋がれているということである
直ぐにはなぜこんな状態になっているのか分からなかったが、時間とともに少しずつ記憶が戻ってきていた
確かあのレストランの2階で何かに吹き飛ばされて••••
そう思いだした瞬間、全身がブワッ!と総毛立った
そう、確かに私は‘‘何か’’に吹き飛ばされた
その‘‘何か’’を一瞬だけ視界に入れたのを思い出したのだ
それは、窓枠いっぱいの‘‘巨大な目’’であった
アンバー・琥珀色・金眼
私の目を構成している色の1つ
そしてそれはこう呼ばれている
通称‘‘Wolf eyes(狼の眼)’’と
「ミラアルクちゃん!」
ガラッと戸が開かれ、部屋に入って来たのは唱歌である
「ごめんなさい、私がもっと気をつけていれば•••でも•••目が覚めて本当に良かったわ•••」
その日はそのまま1日精密検査だった
そして翌日、身体に繋げられたあらゆる管やら機械やらが取り外され、病室も一般病棟に移された
そして何より驚いたのは、私が1ヶ月も昏睡状態だったということだ、これは唱歌さんから後々聞かされた
実際あのとき何があったのか、中々唱歌さんは言いたがらなかったが、父に話して貰うよう頼んだ
父も私が病院に担ぎ込まれた翌日に、病院にやってきていたらしい、母は連絡こそ受けていたが顔面蒼白になり倒れてしまったらしい、今はもう大丈夫そうだ
そうだ、というのも電話で話したとき母は泣きじゃくり会話にほとんどならなかった為だ
父から母の体調は大丈夫と聞いただけだからだ
そして、肝心のあのとき何が起こったのかだが、唱歌さんは先に説明することがあると言い、1枚の紙を私に手渡した
それはなんの変哲もない私の身体データであった
「あの•••これが何か•••」
「ここを見てみて?」
唱歌が指を指したのは、血液型の項目
「はぁ•••って•••あれ••••?」
訳が分からず、改めてまじまじとそれを見てみると1つの違いを見つけることが出来た
そこにはそう書かれていた
BLOOD TYPES AB(Rh-) ZWIRNS BLOOD ○
(血液型) AB(Rh-) 綯血判定 ○
CLASSIFICATION VAMPIRE
分類 吸血鬼
※Possibility of having different abilites
※異能を有する可能性有り
「綯血って•••それに吸血鬼!?」
かなり混乱していた、綯血ということにも驚いたが何より分類が吸血鬼だということだ
綯血の中でも最上位の希少カテゴリーである吸血鬼
世界でも片手で数えるくらいしかいない
そしていずれも、一国の軍隊規模の異能を有していると言われている、エスパーともまた違うらしい
「あのときあなたを襲ったものは、私には巨大な黒い影にしか見えなかったの
気付いたらあなたが吹き飛ばされていて、首から大量に出血していたの
左右の頸動脈がスッパリ切られていてね••
私は出血を抑えるので手一杯だったの、でも止血しきれずにいたら突然あなたが起き上がったの」
唱歌の話を半ば上の空で聞いていたミラアルクだったが、なんとなく覚えているような気がしていた
「起き上がったあなたはそのまま窓を突き破っていったわ
空を飛んでね
そして、黒い影の塊に突っ込んでいったの
そして、影は消えたわ」
少し間をおいて、ミラアルクは話す
「あの•••にわかには信じられないんですけど•••」
「無理も無いわね、でも私もあの老夫婦も青年も、討伐隊を引き連れて戻ってきた店主さんに、村の人達も目撃しているの」
「そう•••ですか••••」
1つミラアルクには疑問があった
それは今までなぜ綯血の判定が引っかからなかったのかということだった
それは直ぐに唱歌から説明があった
「綯血の判定はね、小さい時に稀に判定に引っかからないことがあるの、ましてや10年程前の検査でしかも希少種の吸血鬼
引っかからなくても無理はないわ
そして、ミラアルクちゃん
あなたは謳歌ちゃんから輸血を受けているわね
それでより判定が困難になった
そして、あのとき首から大量に出血して、生命の危機に瀕して覚醒したんだと思うわ」
言葉がでなかった
「ごめんなさい•••本当は黙っておくつもりだったのだけれど••」
「あっ!いえ、ちょっとびっくりしたというか•••整理がつかなくて•••綯血だからショックだとかそういうんじゃないので••」
唱歌は少し微笑んでから、ミラアルクを抱き寄せる
「そう•••あなたのお父上の話していた通りだわ
あの子は綯血だからといって悲観したりしないって
いい子に育ったわね•••」
唱歌はそう言うと、カバンから何かを取り出しミラアルクに手渡す
それは1冊の本のようだが、全く読めないしみたことのない文字だった
「黒い影が消えた後に、あなたの隣に落ちていたの
私も見たことがない文字で誰も読めなかったのだけれど••」
そして、ページをパラパラめくっていたその時だった
「••••••••へ?」
正面に何か現れた
それには見覚えがある
「狼••••?」
びっくりしたが、1つ気づいた
「ミラアルクちゃん?どうしたの?」
唱歌には見えていない
狼はゆっくりゆっくりミラアルクに近づいてくる
動けない•••!
とうとう狼はミラアルクの真横まできてしまった
襲われる•••!
そう思ったときだった
「••••••••我が主、真祖の血を継ぎし少女よ
わが名はスコル
古の盟約に従いそなたを主と認め参上した」
「•••••••••狼が••••••••喋った•••」
この日1番驚いた
これから後書きは元ネタの紹介に使おうとおもいます
(本編もまともに更新できてないのに元ネタ紹介回なんて一生投稿出来ないと思ったので•••)
まずは手始めに27話 神薙 にて
謳歌の為に集められた同世代の女の子達の元ネタを
鷺ノ宮••鷺ノ宮伊澄(ハヤテのごとく)
谷山••••谷山麻衣(ゴーストハント)
原••••••原真砂子(ゴーストハント)
鈴原••••鈴原泉水子(RDG レッド•データ•ガール)
雨宿••••雨宿まち(くまみこ)
宮水••••宮水三葉(君の名は)
駒玖珠••駒玖珠都(神霊狩/GHOST HOUND)
一橋••••一橋ゆりえ(かみちゅ)
三枝••••三枝みこ(かみちゅ)
稗田••••稗田柚子(朝霧の巫女)
日瑠子••日瑠子殿下(朝霞の巫女)※原作のみ登場
来栖川••来栖川姫子(神無月の巫女)
姫宮••••姫宮千歌音(神無月の巫女)
草壁••••草壁美鈴(11eays)
衛藤••••衛藤可奈美(刀使ノ巫女)
君の名は以外はみたことあるのでぜひ見てみてください
(ネタじゃなくまじで君の名はは見たことないんです••)
伊澄さんは冗談抜きでクソ強いです•••
(アニメだと方向音痴キャラのイメージが強いんですけどね••)
ご質問等あればお寄せ下さい
頑張ります
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クラスメート
いやー…
また期間空いちゃってごめんなさい…
シェルバネスクさんカッコよかったです
もぉ毎回神回で全員推しと化しました
「月読さーん、お客さーん」
クラスメイトにそう告げられて、教室の入り口の方に向かうと、そこにいたのは3年生の先輩
「ごめんね~調ちゃん、謳歌ちゃんどこにいるか知らない?」
そう言いながら、申し訳無さそうに質問をしてくる
「いえ、分かりません」
「そう、ごめんね~休み時間に」
そう言いながら、名も知らぬその先輩は去っていく
ふぅと軽く息をつくと、調は席に戻っていく
「また謳歌さんのクラスの人デスか?」
「うん、多分そうみたい
もぉ•••毎回毎回疲れちゃった」
ここの所、よく謳歌さんのクラスメイトが良く訪ねてくるようになった
皆決まって謳歌さんの居場所を知らないかと聞いてくる
さっき切ちゃんに多分と言ったのは、明確に謳歌さんのクラスメイトか分からないから
1部を除いてあまり面識は無い
でも、私の事を‘‘調ちゃん’’等と呼ぶのは確実に謳歌さんのクラスメイトだろう
少し前に、同じように訪ねてきた謳歌さんのクラスの委員長さんに理由を聞いてみた事があった
「あの•••最近よく先輩のクラスの方達がよく訪ねてくるんですが•••」
「あら••ごめんなさいね、用件は••私と一緒かしらね?」
三編みの髪にメガネという いかにもな容姿をしている委員長さんは申し訳無さそうに苦笑を浮かべている
「ほら••そろそろ学院祭があるでしょ?」
リディアン音楽院の学院祭は、1週間という期間の間に初・中・高等科の全校合同で行われる
内外から人を招き盛大に開かれるこの学院祭は、観覧客だけでなく、大学や企業などといった所からも人がやってくるので、それはそれは賑やかである
現職総理大臣が開会式にやってきて祝辞を述べたりする
そんな行事である
「•••••••••出ないと思いますけど?」
「•••そうよねぇ••」
委員長さんはため息をつき少しうなだれている
「最後だからみんなで一緒に参加したかったんだけどね」
そういえば、こういった行事の時は期間中一切絡んで来なかったことを思いだした
「ほら、私達のクラスはずっと変わっていないしね?
だからみんなで決めたの、最後くらいは一緒にって」
‘‘変わっていない’’というのは文字通りそのままの意味
このリディアン音楽院は、初等科が共通クラス
中等科から専攻と学科ごとにクラスが編成されている
通常、数字表記のクラス(例 3-1)は声楽科
アルファベット表記のクラス(例 3-A)は器楽科
以上のように分類されている
謳歌さんがいるクラスは少し特殊なクラスで、これまで1度もクラス替えが行われていない
生徒の数も15人しかいない
(謳歌さんいわく´うちのクラスは全員で38人だよ?´との事
面倒なのでスルーしたけど)
クリス先輩に謳歌さんを除いたら13人
クラスの読み方も少々変わっている
3-0O こう書いて´´さんのぜろおー´´
教室は並びで端にある
以前1度だけ教室に入ったことがあるけど、人数の割にはそんなにガランとしていない印象だった
謳歌さんいわく
「それぞれ私物が多い」
とのこと
「委員長さん」
こちらに声をかける少女が1人、廊下の先から歩いてきた
「そろそろ授業が始まりますよ?」
「先生、謳歌ちゃんは居ましたか?」
「いいえ、残念ながら」
´先生´と呼ばれた少女は、視線を調の方へ向ける
「あなたが´調ちゃん´だね?
この前はレーゲンとデヴィッドを助けてくれてありがとう
後はアーサーから先日は失礼したと伝言を受けているよ
これはデヴィッドから、まぁ作ったのはエイプルだけれども」
´先生´はそう言うと、綺麗な包みに入ったクッキーを手渡してきた
この前、この私よりも少し小柄なこの´先生´を
廊下でうずくまっている所を介抱したのは記憶に新しい
声をかけたら酷いスラヴ訛りの英語で何か言われたが聞き取れなかった
かと思うとシクシクと泣き始めてしまった
そして発せられたのはつたない英語
つたないと言うのはカタコトではなく、子供が使うような言い回しだったから
持ち物の教科書から、謳歌さんのクラスの人だと分かったので
何とかなだめて連れていった
「あら……」
廊下の先からこちらを一瞥する人物
謳歌さん、クリス先輩、委員長さん
そして私が知っている人がもう1人
「調ちゃんに……デヴィッドね?」
「ジュリアさん……丁度良かった」
ジュリア・V・マイヤーズさん
リディアンに転入した時からお世話になっている人
ジュリアさんもアメリカ出身で、親御さんの仕事の都合で日本に住んでいるらしい
デヴィッドと呼ばれたその人をジュリアさんに預けて、戻ろうとした時だった
「調ちゃん、後からアーサーか´先生´が訪ねる思うけどびっくりすると思うけど安心してね」
「?はい……」
後日、教室に訪ねてきた人物がいた
「私はアーサー
先日はデヴィッドとレーゲンが失礼した
2人に代わり礼を言いに来た」
そう言いながら戸の前に立っていたのは、先日私がジュリアさんに預けたデヴィッドと呼ばれた先輩だった
「便宜上、ビリーという名になっているが、大体は私と´teacher´、そしてレーゲンがリーダーだ」
早口だがしっかりとした、そして滲み出る上流階級出身を思わせるイギリス英語で彼、いや彼女?は私に語りかけてくる
「1つ君にも助言しておこう
水はWater(ワーラー)ではなくWater(ウォーター)だ
しっかり発音したまえ」
「はぁ……」
「ではこれで失礼する」
そう言うと、アーサーと名乗った先輩は教室を後にして行った
そして今目の前にいる人もまた、容姿は同じだけど雰囲気というか感じが違う
「あ……あの……どうお呼びすれば良いですか?」
「ん?あぁ、そうだね
みんなと同じように´先生´と呼んでくれると助かるよ
そうしないと揉めそうだからね
なんせ謳歌ちゃんのお友達の´調ちゃん´だからね」
「はぁ……」
頭が大分混乱しているけれど、とりあえずこの先輩の事は´先生´と呼べば良いらしい
「それじゃあ月読さん、クラスのみんなには私から行っておくから
´先生´いきますよ」
「それじゃあまた´調ちゃん´」
そんな事を考えながら、メッセージ欄をチェックする
今日は何度かメッセージを送っているが5件中全て既読無視されている
あまり詮索はしたくないけど、今晩謳歌さんを問い詰めよう
あと今朝からずっと既読無視してる件もあわせてじっくりと
そうしないとストレスが溜まっちゃう
ただでさえ急に私達の教室と前の廊下だけ強化ガラスになっちゃったから窓を叩き割ってストレス発散出来てない
大体クラスのみんなも大げさなんだ
ちょっと血が出るくらいだし、窓も自分で直ぐに直せるしガラスだって買ってあるから平気だって言ってるのに
それに最近ボクシング同好会と空手クラブからの勧誘がしつこいし……
あ……晩御飯はどうしよう、キャロルはあんまり野菜食べないからなぁ……バランスよく食べて欲しいんだけど
謳歌さんには冷めても美味しい物にして……
お説教もあるし……
そんな事を考えながら、調は午後の授業の為に教室を後にした
3-00 クラス名簿 (部外秘 持出厳禁)
1.謡詠吟謳歌(うえぎおうか)
2.雪音クリス(ゆきねクリス)
3.近衛文絵(このえふみえ)
4.一条実里(いちじょうみさと)
5.ジュリア・ヴィクトリカ・マイヤーズ
6.ソフィー・アレイクシス・ハミルトン
7.王苺音(ワンメイイン・おうめいおん)
8.カヤ・ムヴイルワ・ムベキ
9.クロエ・ノーブル
10.ルチアナ フランカ・アルマグロ レメス
11.アレクサンドラ・エカテリーフォン・クロイツェル
12.アイーシャ・アル=ガイス
13.中島亜夜(なかじまあや)
14.イングリット・アレクサンドラ・グリクスブルク
15.ビリー・ミーガン
(16.アーサー※)
(17.レーゲン※)
(18.アラン)
(19.トビー)
(20.デニー)
(21.デヴィッド)
(22.クリスティーナ)
(23.クリストフ)
(24.アレナ)
(25.先生[teacher]※)
(26.フィリー)
(27.ケビン)
(28.ウォルト)
(29.エイプル)
(30.サミュエルソン)
(31.マークス)
(32.スティーブン)
(33.リーシェン)
(34.ジェイス)
(35.ロビー)
(36.シェーン)
(37.マーティー)
(38.ティミーヌ)
元ネタ紹介コーナー
今回は、未来の父 奏一の元ネタ
こちらは TVドラマ 相棒 season7 8~9話 「レベル4」
というお話が元ネタです
亀山巡査部長最後の事件にふさわしいお話になっています
ちなみに作者が1番好きなお話は
season14 第17話 「物理学者と猫」というお話になります
端的に言えばループ物です
日本人が大好きな´シュレディンガーの猫´が物語の核です
相棒の話はかなりの数ありますが、かなり異色なお話です
気になった方は見てみて下さい
早めに投稿頑張ります
質問ありましたらお聞き下さい
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isolated(隔離された~)
また大分間があいてしまいました・・・
頑張ります
「あ、そこ違うんじゃない?」
「えっ?」
「ミラアルクちゃん就学ビザじゃなくて外交ビザでしょ?」
学院から数km先
今日は先輩と役所に来ている
日本に戻って来るのには、あれから更に2週間程かかってしまった
身体の方はなんの問題も無かったけれど、テロ対策で税関のチェック体制が大幅に強化されてしまった為、用意してもらったパスポートの方が引っかかるかもしれないとかで根回しに時間を取られてしまった
「はい、新しい紙
ていうかミラアルクちゃんってハンコとか有るの?
無ければ捺印でいいらしいけど」
「あっ、ありがとうございます
一応ありますけど
大分仰々しいっすけど・・」
今は綯血者用の書類を10枚ほどかいている
どうやら私は綯血になったらしい
しかも世界に数人しか居ない吸血鬼だそうだ
「あの先輩、ここはどう書けば・・」
「ん?どれどれ・・えーっと?
[血液供与の意思確認]?
毎月行政から血液の支給があります・・・」
少し考えてから、先輩はこういった
「ミラアルクちゃん、血って飲みたい?」
「美味しいんですか・・・?」
思わずそう答えてしまった物の、こればかりはどうしたら良いのか判断出来なかった
血が支給される綯血は、主にノミや蚊、コウモリやウサギの1部の吸血動物だという
伝承上の生き物としては、南米のチュパカブラ
そして吸血鬼
「うーん、学院にそういう人達のサークルがあるから紹介するよ
今回ばかりはアドバイス出来ないしね」
そう言うと先輩は窓口の方に紙を持っていき、何か係の人と話している
綯血になって何か変わった事があるかと言われれば、特にそんな事は無かった
強いて言うなら、少し肌が弱くなったくらい
と言っても、元々火傷の関係で肌はあまり強い方でも無いのであまり関係なかった
クラスメートも何ら変わり無く接してくれている
むしろ心配してくれている
これが欧米であればアウトだろう、どちらかと言えば差別の対象と言うより畏怖の対象としての孤立だろうが
吸血鬼の綯血はヨーロッパに2人、そして中米に1人の合計3人である
「お待たせ~とりあえずこれで大丈夫だって」
そう言う先輩を尻目に、足元に目を向ける
【終わったか、長かったな】
俗に言う、脳に直接話しかけられている状態というやつである
【うん、今日はお終い】
私も声に出さずに返す
俗に言う、脳に直接話しかけている状態というやつである
足元にいるのはいわゆる狼である
名前はシフ
吸血鬼である私の眷属らしい
本当の名前は別にあるが、眷属の契りをかわす時に新たに名前が必要だったので名付けた名前だ
由来は何かのゲームに出てくる狼らしい
先輩に狼と言えば?と質問した時に教えてもらった名前でそれくらいしか分からない
そして私にしか見えていない
「あっ!」
前をよく見ていなかったので、通りがかった人とぶつかってしまった
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「いえ・・こちらこそ前をよく見ていなかったもので・・
ん?」
「げ・・」
ぶつかった女性は私の方を見ていない
よく見るとうちの制服を着ているようだ
「貴方!いったい今まで何処をほっつきまわっていたんですの!?
あれ程校外に出る時はクラスの誰かに一言声をかけてからと言っていますのに!
貴方がそうやって突然居なくなったり授業に出ないからわたくし達が貴方をいじめているだの避けているなどと言う誤解を先生方に与えるのです!
大体貴方はいつもいつも・・・はっ!」
すごい剣幕でまくし立てたその女性は、周囲を見回した後少し小声になりながらこう言った
「場所を移しますわよ・・・」
「はぁ~・・・」
「何´面倒な奴に見つかった´みたいな態度をとっていますの!」
あまり人通りが少ない路地裏にやってきた
依然私とぶつかった金髪の女性は、先輩に詰め寄っている
対する先輩は心底めんどくさいといったような表情を浮かべている
【ミラアルク・・】
【どうしたのシフ】
【すまんが少し離れる、この女・・近くにいると少し不味そうだ】
そう言うとシフはビルの壁面を駆け上がっていった
「あんまり怒鳴んないでよ、悪い癖だよ?」
「っ!貴方に言われたくありませんは貴方に!」
「まぁまぁ、お2人ともその辺で」
先輩達の間に入ったのは、金髪の女性と一緒にいたやけに姿勢が良い黒髪の女性である
立っている時は、かかとをピッタリつけ、手はへその少し上位で組んでいる
背中に支柱でも入っているのでは無いかと思うほど、綺麗な姿勢の人物だ
「実里!そうやって甘やかすからいつも同じことになるのです!」
「ソフィーさん、今は謳歌さんもお1人では無いようですし・・」
「・・・それもそうですわね」
ソフィーと呼ばれた女性は、こちらに向き直すと手を差し出してきた
「とんだ醜態をお見せしてしまいましたわ、わたくし
ソフィー・アレイクシス・ハミルトンと申しますわ
このおバカさんのクラスメートですの」
「公爵令嬢が人に指を指すもんじゃないよ」
「うっ、うるさいですわね!」
1通りのやり取りが終わるのを待って、今度は実里と呼ばれた女性がお辞儀をしながら自己紹介をする
「はじめまして、一条実里と申します
ソフィーさんと同じく、謳歌さんのクラスメートです
よろしくお願いします」
「あっ、はい、ミラアルク・クランウンシュトウンです
あの・・今日は私の為に先輩付き合ってくれて・・
なのであんまり怒らないでください・・」
「ミラアルク・クラウンシュトウン・・
では彼女が?
・・・なんでそれを先に言わないんですの!」
「いや、言う暇なかったじゃない・・・」
ソフィーと呼ばれた先輩は改めてこちらに向き直しながら、ポッケから何かをとりだす
「ミラアルクさん、我が父
アバコーン公爵並びにガーター騎士団団長である
ジョシュア・ハミルトンより
騎士勲章叙勲に関する親書を預かっています
これを」
取り出したのは一通の手紙のようだ
今どき珍しく蜜蝋で封がしてあるようである
「・・やっぱり叙勲するんだ?」
「えぇ・・古くからの慣例らしく・・
お父様からもそれしか聞かされていません」
「今回は日瑠子様も先帝であるお母様から団員資格を引き継ぐ形で叙勲されるので式典に参加します」
この3人が何を言っているのか、ミラアルクにはさっぱり分からない
「へぇ、綾宮さまよく海外に行くの許したね」
「はい、本来であれば成年されるのを待ってからだったらしいのですが、特例で許可がおりたと
あとは私と文絵さまがご同行するよう仰せつかっています
綾宮さまなりのお心遣いなのでしょう
日瑠子さまと歳が近しいのは摂家のなかでも私と文絵さまだけですから
あとは、謳歌さんにもご同行をお願いするときいています」
「えぇ・・何にも聞いてないんだけど」
「日瑠子様はそれを聞いて大層お喜びだとのことですよ?」
「無論わたくしも参加いたしますわ!」
「・・・行くの辞めようかなぁ」
「なんですって!?」
このままでは当事者なのに完全に置いてけぼりだ
「あっ、あの~・・・イマイチ話が見えないんですけど・・」
「そうですわね・・積もる話はとりあえず学院に戻ってからいたしましょう
実里、お願いできるかしら」
「えぇ、もちろん」
そう言うとソフィーさんと先輩は実里さんの方に掴まった
「ミラアルクさんもどうぞ」
どうぞと言われても・・・
そう頭の中で言いながら同じように肩に掴まる
その瞬間だった
「へ?」
気が付いたらいつの間にか学院の正門前に立っている
「あぁ、お話していなかったですね
私、´エスパー´なんです
瞬間移動の」
元ネタ紹介コーナー!
調の父の死の原因となった´あの日´の出来事は
9.11 アメリカ同時多発テロがモデルとなっています
既にお分かりの方もいらっしゃるとは思いますが
この物語の中の出来事や人物は大体に元ネタが存在しています
クンドゥーズ病院空爆も、実際に起こっている出来事です
もちろん謳歌とクリスのクラスメートも大体モデルが居ますが
それはおいおいお話するとして
ここまで読んで下さっている方々には感謝しかありません
のろのろ更新、増える登場人物、もはやシンフォギア既存のキャラクターより多くなってしまいそうですが
これからも楽しんでいただけるよう頑張ります
ご質問等あれば聞いてください
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ちとせ
あけましておめでとうございます
雪音クリスは悩んでいた
どうすれば謳歌を学院祭に参加させる事が出来るのか
「みんなで頼めばきっと出てくれるネ!」
そう言うのはクラスメートの王苺音
「メイインさん?それで出てくれるならこんな苦労はしていないのですよ?」
冷静にそう諭すのは、イングリット・アレクサンドラ・グリクスブルク
愛称はイリーシャである
「イリーシャさんの言う通りね、そもそも開催期間まで謳歌さんを捕まえられるかどうか・・」
そう懸念の色を示すのはアレクサンドラ・エカテリーフォン・クロイツェル
こちらの愛称はエリーシャである
「そもそもどうしてこうも出たがらないのだろうね、
そこの所どうなのよクリス」
「・・・ただのわがままだろ!最終的には私が何とかする」
アイーシャ・アル=ガイスの問にやや投げやりに答えるクリス
ちなみにアイーシャは愛称ではなく本名である
威勢よく答えたは良いものの、本気で嫌がった場合どうしたものかとクリスは頭を抱えていた
これでも昔に比べたら授業には顔を出すようになったし、突然居なくなったりすることもかなり減ったのだ
たとえ居なくなっても、大概の場合 学院図書館かウェル先生の所に居たので探し出して連れ戻すのは簡単なことだった
「亜夜、そういえばクロエ達は?」
委員長の中島亜夜はクリスにそう尋ねられると、ため息混じりに眺めていた携帯から視線を外す
「なんでも迷ったみたいね、ウォルトに案内を頼んだって」
非常に広大なリディアン音楽院で、迷子は珍しいことでは無かった
総面積10.6km2、敷地内に飛行場や病院に様々な商店が立ち並んでいる
それだけ広ければ移動に難があると思うかもしれないが、校内を走る路線バスに、極めつけには敷地内を循環する地下鉄もあったりする
「亜夜、念の為確認ですが ''社''の方へは近づいてないのね?」
「大丈夫よ、そう言うと思って1番最初に確認済」
近衛文絵はそう聞いてふぅ..と少しばかり息をふく
''社''とはリディアン音楽院の約3割にあたる面積を占める北東に広がる広大な森の事である
周囲を巨大なしめ縄、もとい八丁標に囲われたその森は、どこか不気味な雰囲気を醸し出しており、立ち入りが厳しく制限されている
立ち入れるのは、皇族と摂家の当主とその子供、そしてわずかな神職関係者のみである
学院ができた頃に1度、一般の生徒が立ち入って呪われたとの噂もあり、生徒たちの間では畏怖を込め''黒い森''と呼ばれている
亜夜は自分の手元から教室を一瞥すると、安堵の表情でクラスメート達にこう伝える
「みんな朗報よ、ソフィー達が謳歌ちゃん見つけたみたい
今正門に飛んできたって」
「瞬間移動能力者・・・」
思わずそうつぶやいてしまった
「えぇ、初めてご覧になりますか?」
「あっ、はい・・ごめんなさい
少しビックリしちゃって」
ミラアルク自身、能力者にはいくらか会った事があるがテレポーターは初めてである
「でもすごく便利そうですね、この学校広いから楽そうです」
「えぇ、ただ残念ですが校内ではテレポート出来ないんですよ?」
「超能力対抗装置があるからね」
「ECM・・・ですか?」
あまり良く知らないが、能力者の能力を制限するものだっただろうか
「あぁ、何も全く使えないとかそういうものじゃないからね?」
「えぇ、どちらかと言えば外からの侵入に対するものですもの」
「それにエスパーの皆さんには
超能力対抗対抗措置装置が配られているので、緊急事態の場合は生徒のみが能力を行使できます」
つまり外からの防御は完璧という訳だ
「そういう事、じゃあ私はここらへんで」
そう言いいながら、謳歌はきびすを返してこの場から離れようとしたが、首根っこをガッシリとソフィーに掴まれる
「お待ちなさい!何をどさくさに紛れて逃げようとしてますの!」
「まぁまぁ、後で教室顔出すからさ」
「そう言って来た試しが無いからこうしてるのです!!!」
「いやうるさ・・・・ん?」
そんなやり取りをしている2人に、かすかに声が聞こえてきた
「おーい、あけてー」
微かだが、確実に人の声である
それも2人には聞き覚えのある声だ
「ねぇ・・クロエの声が聞こえる気がするんだけど」
「わたくしにも聞こえていますわ・・・」
2人はそのまま耳をすます
「ここだよー、ここー」
やはり間違いない、どこからか声が聞こえてくる
「わたくしの聞き間違いでしょうか・・・
このマンホールからクロエさんの声が聞こえる気が・・」
「同感だよ・・・・」
2人の表情を一言で表すのならこの言葉がピッタリだろう
´´またかぁ・・´´
「謳歌にソフィーだ、やっほー」
開けたマンホールから出てきたのは
クラスメートのクロエ・ノーブルであった
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てぃぼると
重い女さおりん大好き
「クロエ・・・ここどこ・・・」
「カヤ・・そんな事このおてんばさんが分かると思う?」
「それを言わないでよルチアナ・・」
カヤ・ムヴイルワ・ムベキとルチアナ フランカ・アルマグロ レメスはお互いため息をついた
謳歌を探す
という名目の元この広い学院の探索に出ていたが、案の定迷った
「暗いねー!」
原因は前をスキップしながら進むクロエ・ノーブルである
「おーいクロエー、危ないぞー」
アーサーに出会えたのは不幸中の幸いだった
アーサーにウォルトを呼んでもらって道案内をして貰っている
「しかし何なのこの謎空間は・・」
4人が今いるのはひたすら真っ直ぐに伸びた地下通路だった
常に動き回るクロエを追いかけていて、気づいたら八丁標を超えて森の中へと入って来てしまっていた
2人の脳裏によぎったのは呪いの話ではなく、同じクラスの
近衛文絵の事である
「これ・・バレたら絶対怒るよね文絵・・」
「怒られて済むものなら是非そうしたい物ね・・」
「それを言わないでよ・・・」
クラスで1番怖いのは誰か?と聞かれれば、迷わず文絵と答えるだろう
以前五摂家を揺るがす一条家のお家騒動があった時には、近衛家に代々伝わる刀を持ち出し教室に立てこもり、大立ち回りを演じた
その時の刀は今でも教室の後ろの壁に飾られている
そんな事を考えていると、前を進んでいたウォルトが歩みを止める
「ぷぎゃ!?」
「あーほら、危ないって言ったじゃん」
勢いあまってクロエがウォルトとぶつかってしまった
「うえーん!いたいよぅ・・」
「クロエ、少し静かに」
「あら?アーサーどうしたの?」
アーサーは3人を定間隔に設けられている約1.5m程のくぼみに誘導すると声を潜めるように促す
「せまい~」
「アーサー、どうしたのさ急に」
「向こうで何か光ってるわ」
確かに真っ直ぐな一本道の向こう側が光っている
どうやら車のヘッドライトのようだ、それも1台や2台ではなく車列をくんでこちら側に近づいて来ている
「通り過ぎるまでここで待つんだ」
アーサーはそう言うと、車の方を注視している
ここは大人しくアーサーに従った方が良さそうだ
カヤとルチアナはお互いにかるく頷く
しかしここにはもう1人居ることを、2人は失念していた
「ん''~!せまーい!」
「あっ!こらクロエ!」
飛び出すクロエ、そして突如目の前に現れた小柄な少女を避けようと、急ハンドルとブレーキをかける車
それに続き後続の車も次々と停車する
そして車の中から次々と降りてくる人物達は
同じ格好をしており、肩の部分には五三桐のエンブレムに
【公 宮】の文字
車列とクロエを遮るようにして、ある者は刀の切っ先を向け、またある者は拳銃の銃口を向けクロエと対峙している
「動くな!!」
鋭い声が反響すると同時に、カヤとルチアナが割って入る
「ちょっと待った!そんな物騒な物で何するつもりさ!」
「飛び出した事は謝りますが、少し話を・・・」
2人の言葉に答える事無く、ジリジリと距離を詰めてくる
「私達に手を出せば、国際問題になりますよ!」
「そうだ!プラチナ止めるぞ!」
気付くといつの間にか囲まれている、万事休すかと思われたその時だった
「やめよ!」
空間いっぱいに響いた声は、全ての動きを止めた
「謳歌にソフィーだ、やっほー!」
マンホールを開けると、ひょこっとクロエが顔を出す
「クロエ・・何してるの?」
「謳歌の事探してたら迷っちゃったんだ~あと謳歌にお客さんだよ」
マンホールから出てきたクラスメートはそう言いながら、連れの2人を引き上げる
カヤとルチアナは疲労困憊といった様子だ
「毎度大変ですわね・・」
ソフィーが呆れ気味に言うとカヤとルチアナが口を開く
「謳歌さん・・・あなたの交友関係どうなってるの・・」
「大変なのはクロエだけで充分・・」
「はぁ・・」
いまいち要領を得ないので、クロエに詳しく聞こうとした時だった
トントン
誰かに肩を叩かれた
「?」
振り向いて見ると、そこにはまるで平安時代に居そうな格好をした青年が佇んでいる
「・・・・・・・・・」
「久しいの、こうして顔を合わせるのは」
謳歌は目をパチパチさせるている
「ごめん、幻覚が見えてるみたいだから一発引っぱたいてくれない?」
「は?嫌ですわよ・・で、この方はどなたですの?」
謳歌はもう一度振り向く
「・・・・出たーーーー!!」
「ちょっと!なんなんですの一体・・」
謳歌の叫び声を聞いて、実里がテレポートしてきた
「何かすごい声が聞こえましたがどうしま・・・・」
テレポートしてきた実里は佇む青年を見て動きを止める
「おう一条の、騒動以来か?久しいの」
そう言われた実里はソフィーの方に振り向く
「ソフィーさん大変申し訳ありませんが、幻覚を見ているようなので頬をビンタしてもらえませんか?」
「嫌ですってば!なんなのですか2人とも、いったい全体どなたなのですかその方は!」
「依瑠仁さまだよ・・」
謳歌の返答に、少し考えるソフィー
「?その名前どこかで・・・」
「綾宮依瑠仁さま・・日瑠子さまの摂政を務めておられる方です・・・」
「はい!?今何と・・・」
「ですから・・摂政殿下にあらせられます」
「いかにも、摂政綾宮依瑠仁である
よろしゅうの御学友」
ついにシンフォギアキャラが登場しないお話が爆誕しましたが気にせずがんばります
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雛人形
遅くなりました~
「・・・で、何しに来たんですか依瑠仁さま」
マンホールから突如現れた摂政綾宮依瑠仁
騒ぎになる前に実里の能力で教室までテレポートしていた一行
緊急用のECCMを使用したので実里は警備室に言い訳をしに行った
「まぁそう急かすでない、・・少々喉が渇いたから先に自動販売機にでも・・・」
そう言いながら依瑠仁は教室を出ようとしたが、近衛文絵に制止される
「綾宮さま!教室から出ないで下さい!!」
「何じゃ、すぐ近くじゃから良かろう」
「こ・こ・は!女子校なんです!それに見つかったら綾宮さまが大変なんですからね!」
そんな2人の様子を、少し戸惑いながらミラアルクは見つめている
よく分からないまま成り行きで一緒に着いてきてしまった
「大丈夫か?まぁ無理もねーか」
「クリス先輩は知り合いなんすかあの人と?」
「うーん・・知り合いっつーかなんて言うか
面識はあるけど昔は人見知りだったからな・・・」
「あーあ、昔はあんなに密着し合ってたのになぁ」
「うるせぇ!張り倒すぞ!」
幼い頃のクリスはと言えば、いつも謳歌の背中にくっついて隠れているような子供だったので謳歌の知り合いは大体クリスも知り合いである
「あの・・・廊下まで声が響いていますが」
教室の戸が開き実里が入ってきた
「あー、実里ちゃん大丈夫だったー?」
教室の奥から謳歌が少し大きな声で訊ねる
「はい、謳歌さんと違って優等生ですから」
ニコっと笑いながら実里は答える
「うわ!出たー・・黒実里ちゃん」
一条実里は過度に礼儀正しい性格である、たとえ相手が初等科の学生であっても決して敬語を崩さず必ず膝を曲げ相手の目線に合わせ話をする
加えて五摂家の序列第2位である一条家の者である事が拍車をかけ、色恋に目覚めはじめた中等科の生徒達からは、一条家の家紋になぞらえて
"藤姫様"などと呼ばれている
そんな実里であるが、クラスメート達には少し砕けた態度になる
それはひとえに近衛文絵の尽力があったからなのだが
「実里!手伝って!綾宮が教室から出ようとする!」
文絵の声は良く通る
「文絵?あまりそのように激しく動いては駄目ですよ?スカートを履いているんですからね?」
実里は本人の前では文絵の事を呼び捨てで呼んでいる
理由は単純明快で、そうしないと文絵は極端に不機嫌になるからである
通せんぼをする文絵と実里の横から声をかける人物が1人
「摂政殿下、よろしければ飲まれますか?」
そう言いながら紅茶のペットボトルを差し出したのはイリーシャである
「おぉ、よいのかの?」
「祖父から先日の御礼を預かっていますので後ほど」
イリーシャとの会話が終わると、綾宮はミラアルクへ話しかける
「君とは初めましてだね、摂政の綾宮依瑠仁です
どうぞよろしく」
「??よろしくお願いします・・・」
そのまま流れで握手を交わしたミラアルクだが、明らかに綾宮の口調が違う
困惑していると謳歌から助け舟が出る
「綾宮さまー?あんまりミラアルクちゃんで遊ばないでくださいよー?」
「まぁまぁこっちが素だから良いじゃないか謳歌ちゃん?」
「うへー·····今そう呼ばれると気持ち悪いですよ依瑠仁先生?」
お互いがお互いをからかうように言うと、クリスが説明を入れる
「一瞬だけ先生してたんだよこの人」
そう指をさしながら言うクリスに綾宮は不満を漏らす
「まぁ君とは今の方が当時より話しているけどね」
「はいはい、早く本題に入った入った」
教室の中央に綾宮、それを囲むように着席する一同
「では進行は私、中島亜夜が務めさせていただきます
では綾宮殿下、どうぞ」
委員長の亜夜が他のクラスメートを一瞥した後綾宮に視線を移す
「うむ、では話すが....」
(あ、口調もどってる)
ミラアルクはそんな事を考えながら、綾宮の発言に傾聴する
「陛下をしばらく預かって欲しいのじゃ」
「で?ここでしばらく生活すると」
「はい・・・・」
謳歌は縮こまりながら弱々しく答える
調はニッコリしているが確実に激怒しているだろう、その証拠に今晩の夕食はハンバーグだが、謳歌の夕食は白米と皿にてんこ盛りにされた生のブロッコリーである
「返信をしなかった件は仕方ない事なので良いとして・・
今晩からって何ですか!今晩からって!
急すぎるにも程が有ります!何でもっと早めに相談してくれないんですか!?あれですか!?学校からのプリントを当日の朝に出す小学生ですか!?」
かなりの早口でまくし立てながら調は謳歌に詰め寄っている
「おーおー、また始まった」
「キャロル、先にお風呂入っちゃお」
2人ともこんな状況には慣れっこである
「だってだって!私だってついさっき聞いて仕方なく・・・」
指をいじいじしながら若干不服そうに答える謳歌
「摂政だか何だか知りませんが連絡先を教えて下さい!」
「いやいやいや!さすがに調ちゃんでもそれはちょっと!」
謳歌に詰め寄る調は完全に頭に血が上ってしまっている様子
このままでは直接文句を言いに御所に乗り込みそうな勢いである
ヴーー ヴーー ヴーー
調の携帯がなっている
携帯を一瞥し一言
「少し失礼します!」
そのまま台所の奥へと消えていく
「もしもし?どうしましたか?こんな時間に・・・」
少し声が漏れ聞こえて来る
こんな事もあろうかと、予めアダムさんに頼んで調ちゃんに電話して欲しいとお願いした事を実行してくれているらしい、ベストタイミングだ
そんな事を考えていると、調ちゃんが戻って来た
心無しか少し落ち着いたように見える
「えーっと・・すみません、少し言いすぎました」
「ううん、私こそ・・急な話だしそんなに気にしないで」
少し驚いた、ここまで態度が軟化するとは
いつもなら1時間は怒鳴りっぱなしなのに
後から聞いた話だと、珍しく少し叱られたみたいだ
調ちゃん曰く、アダムさんに叱られる事なんて片手で数える位しか無いらしい
でも掴みどころの無いあの人が調ちゃんを叱る姿が想像出来ない
少し気になる
「でも!何かあったらきちんと報告して下さい
何かあったら大変ですから
もちろんキャロルとエルフナインにもですからね
謳歌さんだけの部屋じゃないんですからね」
「うん、分かった
あぁ、あと綾宮さまから敬語は使わないで欲しいって言われてるからよろしくね
なるべく普通の同級生として接して欲しいんだって
調ちゃんは同い年だし
殿下は学校とか通われた事ないからさ」
ピンポーン
調がうなずくとほぼ同時に、部屋の呼び鈴がなった
「お、もう着いたかな」
2人は玄関の明かりを点け、戸の鍵を開ける
「陛っ・・、日瑠子さんを連れてきました」
「えっと・・大丈夫?実里ちゃん」
クソ真面目こと一条実里は顔面蒼白と言って差し支えないほどひどい顔をしている
というのも綾宮からの敬語禁止令が出て、なおかつ呼称も年上だからとの理由で呼び捨てかちゃん付け固定を言い渡され激しい心労に襲われている
本人を前にしなくてもどうしても駄目だった
呼び捨ては論外、ちゃん付けも厳しいとなり妥協案でさん付けの呼称になったが胃痛がすごいらしい
なんせ彼女はクソ真面目だからである
そして、滞在先が謳歌達の部屋になった原因でもある
「久しぶり、大きくなったね」
「えぇ本当に、久しいですね謳歌殿・・
いえ・・謳歌さん」
そのまま流れる用に日瑠子の頭を撫でる謳歌
調は反射的にその手を蹴り飛ばそうとしたが思いとどまった
それはあまりにも日瑠子が満面の笑みだったからだ
「紹介するよ、ルームメイトの調ちゃん」
「えっと・・月読調です」
調は現天皇という地位にある日瑠子を目の前にし、少し不思議な気分になっていた
「話は謳歌さんからかねがね聞いています
至らぬゆえ迷惑をかけるやもしれませぬが
どうぞよしなに」
調は、そう言いながら差し出された日瑠子の手を取った
なかなか筆が進まず申し訳ありません
モチベーションアップの為にいっぱい褒めてください
質問あればお寄せ下さい
次回も頑張ります
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表裏一体
遅くなりました~
【次のニュースです
政情不安が続く南米のバルベルデ共和国への追加の国連平和維持部隊派遣を巡る国連安保理の緊急会合が開かれ、賛成5 反対10で否決されました
1ヶ月前の停戦後も偶発的な衝突が続いており、依然危険な状態が続いています
賛成に転じたのはアメリカ等の5つの常任理事国で、全ての常任理事国が賛成しての決議の否決は初めてのケースです
否決に至った大きな要因として、ウルグアイのアダム・ヴァイスハウプト国連大使の存在が指摘されています
ヴァイスハウプト大使は白いタキシードという奇抜な出で立ちで注目を集め、綯血者や能力者の差別撤廃へ向けた条約を推し進める等して途上国を中心に強い支持を得ています
一方で慎重な立場を取っている先進諸国との軋轢も噂されており、発言に注目が集まっていました
ヴァイスハウプト大使は理事会において次のように指摘しています
「PKFとは名ばかりのアメリカ軍の紛争地派遣は、悪戯に戦況を泥沼化しかねない、合衆国政府はバルベルデの紛争解決とは何か別の意図があり、強引に話を進めているように思える」
これに対しアメリカのデビッド・バニングス国連大使は······】
つけっぱなしにしているTVからのニュース音声に、調は耳を傾けていた
調から見て左右にキャロルとエルフナイン、正面に日瑠子と謳歌
謳歌は後ろのソファに腰掛け足の間に日瑠子を入れて肩のあたりに手を置いている
「それじゃあ改めて紹介するね、エルフナインちゃんとキャロルちゃん見ての通り双子だけど口が悪い方がキャロルちゃんだから」
そう言いながら日瑠子の髪の毛をいじいじとイジり始める謳歌
「おい、初対面の相手になんて紹介の仕方してくれてるんだお前は」
風呂上がりでまるで茹でダコのように赤くなっているキャロルは抗議しているが、謳歌はかまわず続ける
「でこの怪訝そうな表情を浮かべながら私に若干ガン飛ばしてるのが月読調ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・・」
ジッ············
「あっ、あの・・・」
調は無言で日瑠子を凝視している
そんな調を見て、日瑠子は戸惑いながら背中側に居る謳歌に助けを求める
「だいじょーぶ大丈夫、あれは別に怒ってる訳じゃないから、ちょっと緊張してるだけ」
「人に指を指さない」
調は立ち上がり、日瑠子の顔をぺたぺた触っている謳歌にそう言うと、日瑠子の腕を取りグイっと引っ張り上げる
そしてそのまま手を引き元々自分が座っていた場所の隣に座らせ、日瑠子と正対し諭すように話し出す
「いい?あれを調子に乗らせちゃダメ
放っておくと下着の中まで手を突っ込んで来るんだから」
横にいる謳歌に指をさしながら至って真剣な表情で話す調を、ポカーンとしながら日瑠子は聞いている
「そぉ!こーんな風にね!」
いつの間にか調の背後に謳歌が回り込んでいた
そして抱きつきながら調の服の中に手を突っ込んでいる
「ちょ!ちょっと!どこ触ってるんですか!」
「よいではないかーよいではないかー」
そう言いながら、調の身体をまさぐる謳歌だったが、そう長くは続かなかった
「い"だだだだ!」
調は謳歌の小指を掴みながらあらぬ方向へとへし曲げようとしている
「あんまり調子にのるとこのままその鼻みたくへし折りますよ!」
「痛い痛い!ちょっギブギブ!本当に折れる!」
突如繰り広げられる光景に若干困惑する日瑠子
「心配ない、あんなの日常茶飯事だ」
「そうなのですか・・?」
「調さんは怒らせちゃダメです、じゃないと大変な事になります」
キャロルとエルフナインが日瑠子に耳打ちすると、調から怒号が飛んでくる
「そこ!ある事ないこと吹き込まない!」
「・・・おまけに地獄耳だ」
キャロルは、呆れたように呟いた
「すっかり遅くなっちゃった・・」
ミラアルクは理事長室を目指し、廊下を急いでいた
唱歌絡みで話があると訃堂から呼び出しを受けていた
「うわっ!」
廊下を曲がったところで、出会い頭に誰かとぶつかってしまった
「っ~!ごめんなさい!大丈夫ですか・・・・って・・ひび、立花ちゃん・・」
「ごめん・・大丈夫だから・・」
ぶつかった拍子に散らばったであろうプリントを拾い上げると、響はそそくさとその場を去っていってしまった
「あっ・・ちょっと・・」
響が去っていった方角を見つめながら、ミラアルクは少し複雑な心境になりながらも、先を急ごうとした時だった
「事務局の方は問題ないのでしょう?では・・」
薄暗く、ややオレンジ掛かった光が僅かに差し込む人気のない教室から聞こえる声に、ミラアルクは歩みを止めた
【あれ、この声どこかで・・・】
ミラアルクはその声に聞き覚えがあった、それも今日聞いている声
「会社からの干渉は出来るだけ抑えて頂戴、後は砦の連中だけど・・・」
薄暗く、教室の奥にいる人物の顔は見えなかったが、ミラアルクは声でその人物を特定するところまで来ていた
【えーっと、誰だっけあの先輩のクラスメートの・・ジェニーじゃなくて・・ジュリスでも無くて・・えーっと・・確かジュリアさ・・・】
その時だった
「がっ・・・・・!」
いきなり下腹部に激しい衝撃が加わったと同時に、片腕をひねられ床に突き伏せられてしまった
「誰!」
会話をしていた人物の声が教室に響く
「ちょっと・・もう少し気をつけてって言ってるよね」
ミラアルクは自分を押さえつけている人物の声にも聞き覚えがあった、声色こそ違うが間違えない
それもついさっき聞いている声
「何その反応、もしかして知り合い?勘弁してよ、処分するのはこっちなんだから・・」
ミラアルクは押さえられている頭を必死に動かし、その人物の容姿を確認する
「っ・・!」
その人物と目が合った
いや有り得ない、さっき会ったばかりだしそれに・・
「あなたは誰・・!」
絞り出すように言ったミラアルクは、まだ自分の目を信じられずにいた
「あぁ、どこかで見たことあると思ったら、あいつの昔の友達の・・・」
なおもミラアルクを押さえているその人物は、少し声のトーンを下げてこう言い放つ
「なにもこの顔も声も名前も、あいつだけのものじゃない」
その人物の容姿は、ミラアルクもよく知っている
「ヒビキ、私の名前は立花ヒビキ
もう1人の、とでも言っておこうかな」
XDやってないんで口調とかは許して・・
早めに更新出来るように頑張ります
質問等ありましたらおよせください
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