武偵少女志摩子 (名も無き二次創作家)
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どうして……
おかしい……おかしい……
この世は間違っている!
はやくわたしをマリみて5期が放送されてる世界線に戻しなさい!
公正世界信念
人は自分の行いがいつか自分に返ってくるという考えを持っている。
因果応報、信じる者は救われる。
だがそれは単なる思い込みに過ぎない。
よい事をしても救われない者は救われないし、悪い事をしても救われる人は救われる。
スラム街に自分の取り分の食べ物を他人に譲ってあげる心優しい人がいたとしよう。
そいつは死ぬ。
罪人が刑罰で罪を償ったとしよう。
そいつは多少不自由ながらも新たな人生を始める。
結局のところ、人は安心したいだけなのだ。
報われたい、理不尽にあいたくない。
だから今から良い事をします。そうしたら未来で酷い目にあいませんよね?と。
平穏な未来を求めて、事実無根のそんな思い込みを持ちたがる。
確証バイアスもあるだろう。
人は自分の考えを裏付ける事例に敏感だが、逆に自らの確証を脅かす事例には鈍感になる。
公正世界信念を強く持っていると、それに合致するような出来事が起きた際「やっぱりいい事をした人にはいい事が起こるんだ!」となるが理不尽な事が起こると目を逸らす。
どころか、「いや被害者がそんな時間にそんなところにいるから被害者が悪い!」「被害者の露出が多いから痴漢されるんだ!」「虐められる側にも問題がある」などとすら言い出す者もいる。
自らの公正世界信念が揺らぐのが怖くて必死に理不尽を肯定する理由を探すのだ。
夜中に出歩いていたら誘拐してもいいのか?
露出が多ければ痴漢してもいいのか?
言動に難が有れば虐めてもいいのか?
答えは否。
何かアクションを起こすなら社会のルールに則って行うべきである。
もし公正世界信念が正しいのならば。
世界はすべての人間の行動を余さず観測し、その全てを良し悪し善悪の秤にかけ、その結果を人間一人一人の未来に反映させる機能があることになる。
ちなみに良し悪しも善悪も人間が勝手に作った概念である。
おわかりいただけただろうか。
悪い事をすると悪い事が返ってくる、よい事をするとよいことが返ってくる、というのは幻想なのだ。
何故ならば。
「男子高校生だった俺は気がついたら『マリア様がみてる』の藤堂志摩子になっていたんだがなにもした覚えはない!」
「うお!?突然どうした、志摩子」
憑依!?
志摩子さんの人格を俺という汚物で上書きしてしまった!?
これから展開される姉や妹との百合百合しいあら^~をすべて俺が穢してしまうのか!?
た、大罪ですよこれは……。
すみません志摩子さん。
だがなんとなく。なんとなくなんだけど、もうこのまま戻ることはできないと理解できてしまう。
俺の方も特に親しい人間がいたわけでもないが、人間関係が皆無だったわけでもない。
お世話になっていた恩師や家族に挨拶もできてない。
なのにいつのまにか別の人間として転生させられていた!
とんだ不義理を働いてしまった。
志摩子さんにも、俺のせいでとんだ不義理を働かせてしまった。
実の娘の中身が赤の他人に成り代わられていたなんて知ったらこのパパンは悲しむだろう。
幸いまだバレていない。
ならばこの秘密は墓まで持って行こう。
この人が悲しむのは、志摩子さんも望まないだろうし。
このくらいしかできないけど、これが俺なりの志摩子さんへの
「志摩子、明日の早朝に東京へ発つのだろう?もう準備は終わっているのかい?」
「……東京、明日だったかしら」
東京都武蔵野
マリみての舞台であるリリアン女学園がある場所だ。
もう受験に合格してリリアンに編入が決まった後なんだ。
よかった。リリアンの編入試験は最難関とかどうとかいうし、俺の頭ではまず受からない。
「忘れていたのか、珍しい。
は?
え、とお……、聞き間違いかな?
パッパ今なんと?
「明日は武偵高の入寮日だって最近ずっとそわそわしていたじゃないか。もしかして体調でも悪いのかい?明日は病院に行って、東京に行くのは体調が良くなってからにしよう。折角帰ってきてくれたんだし、そういそぐこともないだろう」
聞き間違いじゃない……だと……。
この世界線の藤堂志摩子は百合の園リリアンではなく鉛玉跳び交う武偵高に通うのか!?
ふざっけんな!時代も世界観もなにもかも合ってないだろ!
志摩子さんは実は口調はそこまでお嬢様然としてないんですよ。
少なくとも「ですわ」みたいなあからさまな語尾は使わないんです。
粗野な言葉使いはしないものの、そこまでかしこまっているわけでもなく。
けっこうそこら辺の一般人と同じ文章で喋ってるんですよ。
でもお淑やかなイメージが強いのは能登さんの物腰柔らかい演技のおかげだと思うんです。
能登かわいいよ能登。
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そうはならんやろ!なってしまったものはしかたがない
※最後の方のAランク云々の部分を修正
スカートのプリーツは乱さないように、紅いセーラーカラーは翻さないように。
それが志摩子さんを乗っ取ってしまった俺のこの世界での嗜み。
東京武偵高新入生にしてこの生徒専用寮の新しい入居者である俺は、ルームメイトと鉢合わせになり呆然と立ちすくんでしまっていた。
武偵高の教師たちは気分屋で放任主義で、なによりいい加減だ。
それは原作でなんとなくわかっていたことだが、まさかここまでとは。
「えと……、ここ男子寮、のはずだけど……」
「……みたいですね。連絡ミスかしら」
ていうか目の前にいるのは『緋弾のアリア』の主人公だった。
Pullllllllllllllll!
時携帯電話が鳴る。
俺は目の前の原作主人公に断りを入れて電話に出た。
知らない番号、このタイミング、もしや?
「はい、藤堂志摩子です」
『あ、藤堂くんですか?どうも初めまして、東京武偵高の校長を務めている緑松
よかった。
学校側も気付いたらしい。
男の俺としては原作主人公と同室っていうのも面白そうだが、この身体は志摩子さんのものだ。
もしラッキースケベで着替えでも覗かれたら申し訳なさ過ぎるし、武偵法9条を破ってしまいそうなので、仕方が無いから学校側の指示に従おう。
男子寮は基本4人部屋で女子寮は基本2人部屋だ。
ルームメイトが男だと身体の面でアレだけど、女なら女で中身がアレだな。
正直どっちもどっちな気もするが俺と志摩子さんと、犠牲にすべきはどっちかってことなら間違いなく俺だろう。
腹はくくった。
志摩子さんのためにも俺は女寮に行くぞ。
『もう女子寮に空きがないのでそのまま男子寮でお願いします。あなたは強襲科ですし、ルームメイトを常から警戒するのもよい訓練になるでしょう。あ、くれぐれも問題は起こさないでくださいね。ではそういうことで』
HA?
「おい、どうした……」
俺の反応に嫌な予感を覚えた
「……」
「な、なんとか言えよ……」
そういえばコイツ、原作で女難の相が出てるとか言われてたよな。
……もしかしてこれおまえのせいじゃね?
ラノベ主人公特有の女難の相に俺が巻き込まれたんじゃね?
「学校側の不手際で女子寮に空きがないそうです。というわけで本日から3年間よろしくお願いします」
「???????」
このときの遠山キンジの顔はあまりに沢山の感情と思考が混ざりあいすぎて、形容することが困難であった。
まあ、ラッキースケベにさえ気をつければ俺としては女の子と同室より気持ちが楽だしありがたい。
女性恐怖症気味の君には悪いけど。
◇◇
「これでいいのか、 」
ここにはいない依頼主への言葉が部屋に染みこみ消えていく。
◇◇
「起きてください遠山さん」
「ん……、藤堂?」
先に身支度を調えてからキンちゃんを起こす。
あれから2週間が経ち、俺たちは共同生活が出来る程度には打ち解けていた。
女嫌いな彼だが、その根本にあるのは性的興奮への恐怖だ。
ならば問題は無い。
志摩子さんの西洋人形の如き容姿は、欲情するには綺麗過ぎる。
あまりの美しさに、邪な感情を抱けないのだ。
そして互いのプライベートを尊重し、ラッキースケベに徹底的に気をつけ、極力肌を出さないようにすれば「エロトークをしてくる男子よりもまだコイツの方がましかもしれない」というレベルには信頼を持ってこられた。
「朝食は煮干しで出汁を取った味噌汁とほうれん草のお浸し、それとひじきの煮物に白米です」
「あいかわらず朝からすげえな……。俺も明日少しはがんばってみるかあ」
食事は日替わりの当番制だ。今日は俺の番。
俺は料理とか特にした覚えはないけれど身体が覚えていたのか割とあっさり出来てしまった。
ちなみにリリアンでは人の名前を呼ぶときに「下の名前+さん」とする暗黙のルールがある。
しかしそれはリリアンに女生徒しかいないからこその文化でもあると思う。
淑女として男性を軽々しく下の名前で呼ぶのはよくない、と思う。たぶん。
わからんけど。
それになんだかしっくりこないのだ。
そんな感じで俺は女性を「下の名前+さん」で呼び男性を「名字+さん」で呼ぶことにしたのだ。
だがこれはあくまで自分ルール。
周りの人にまで求めちゃいけない。
キンちゃんにも正直「藤堂」ではなく「志摩子さん」、最低でも「藤堂さん」と呼んでいただきたいのだが、まあいい。
「よお、俺は
2人で黙々と朝食を食べ、通学バスでは「楽しみだね」「そうだな」程度の軽い雑談をして体育館で始業式を終え教室に入ったら(案の定同じクラスだった)、見覚えのある男に話しかけられた。
武藤剛気。
後の遠山キンジの悪友で、原作では
「おっす、よろしく。俺は遠山キンジ。……一応強襲科」
「ごきげんよう。私は藤堂志摩子です。……私も一応強襲科です」
ほんとうに、なんで志摩子さんは武偵高の強襲科とかいう物騒な専攻を選んでしまったのか。
おしとやかな志摩子さんになにがあった。
まあ、殉職率3%とかいうやばすぎる学科だが、志摩子さんが憧れて自分で選んで入試を受け、その上で合格したのだから俺はその意思を尊重したい。
端的に言って学科を変更する気は無い。
3年間これで行こうと思ってる。
精神は乗っ取っちゃったけど、せめて身体には彼女の望んだことを体感させてあげたい。
「おまえら既に結婚してるってマジ?
KEKKON?
けっこん……結婚か!!
どうしてそんな話に、って部屋がおんなじだからか。
え、もう同棲がバレてんの?
情報科やばすぎんだろ……、まじか。
そのせいかあ。
なんか寮出てから妙に視線が刺さると思ってたんだよね。
「志摩子さんは美しいからみんな見とれてるんだね、しょうがないけどね」とか思いながら「志摩子さんの良さは容姿を含めて自分の良さに気付いていないところだから!周りの目線にも気付いてないふりしなきゃ!」って表に出さないようにしながらも内心うっきうきで登校してきた自分が恥ずかしい。
いや、見惚れてるにしては少しおかしいなって思ってたけど。
あれはそういうことだったのか。
「こいつとは、まあ。学校側のミスでルームメイトになっちまったがそんだけだ。あと俺は色恋とか性的な話とか、そういうのが大っ嫌いだからそういうからかいは今後一切なしにしてくれ、マジで」
「私たちはトラブルで同室になったけれど、高校生らしい健全なルームメイトの関係だから大丈夫。それに私は男性より女性に興味があるからそういう意味でも大丈夫よ」
「な、なるほど……。高校生の男女が同棲してる時点で大丈夫もクソも無いと思うが、触れてくれるなと言うんならそうしよう。藤堂さんも女にしか興味がないなら中身は男みたいなもんだし安心だな。…………ん?今なんて?」
このガバガバ理論で納得してくれた武藤は素質ありますねえ!
ナニのとは言わないけど。
教室の中心でりっこりん!りっこりん!と例のコールが巻き起こってる騒がしい教室の後ろの方にある自分の席で、その雑音をBGMにホームルームが始まるのを待つ。
「しまった、シャー芯」
切らしたのか。
「しかたない人ね」
前の席のキンちゃん様が間抜けを晒していたので助けてやる。
初日からシャー芯を切らすなんて、まったく。
「どうして「シャー芯」だけでわかるの?ほんとに夫婦じゃないの?」
少し離れた位置の武藤がなにやら騒いでいたがさほど興味が沸かなかったので鼓膜をすり抜けていった。
俺のとりあえずの目標は、妹を作ることだ。
この学校には
女同士のペアなら戦姉妹、男同士なら戦兄弟と書く。
姉妹。
つまりスールだ。
志摩子さんの
真似たり似せたり尊重することはあっても、そっくりそのままマリみてをなぞる気はない。
ちなみに姉はいらない。
武偵高に通っている女子はみな「お姉さま」としての気品に溢れているとは言いがたい。
殺気なら溢れてるけど。
そんな人の下に立ったら志摩子さんを意識したお淑やかさが矯正されるかもしれない。
しかし俺が上の立場なら逆に下級生にリリアン的な気品を指導できる。
だから妹が、妹だけが欲しい。
戦姉妹契約は1年しか続かないらしいからそこは残念だけど、逆に考えれば妹を一人に絞らなくても良いと言うことだ。
楽しみだなあ。
よーし続き頑張ってかくぞー!
はやくて来週中ですかね。
感想評価ここすきよろしくお願いします!
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私、戦えます!
あの二人はベストパートナーだと思うのですよ。まだ未定ですけど。
オリ主?特定のそういう相手は作れないでしょ。
途中からそんな暇なくなるからね。
※前話の目標がAランク云々のところを変更しましたのでチャックよろしくお願いします。
放課後、キンジと武藤とあの後合流した不知火の3人と一緒にだべりながら校門まで歩いていると女の子に道を塞がれた。
「昨日まで急用で実家いて今朝こっちに帰ってきたんだけどね、藤堂志摩子って女の子が、キンちゃんをたぶらかしたって噂を聞いたの!」
「ま、まて白雪。俺は誰にもたぶらかされていない!誤解だ」
「たぶらかしたとは人聞きの悪い。その発言撤回してくれないかしら」
あー、完全に忘れてた。
そういやコイツの初期ってこんな感じだったっけ。
原作ではもう「対ステルス用お助けキャラ」になってるから忘れていた。
まだこの時点だとヒロインの一人なんだっけ。
「貴女が!キンちゃんを!たぶらかした泥棒ネコ!!!き、き、キンちゃんをたぶらかして穢した罪、死んで償え!!」
「ま、待て!落ち着け白雪!」
「キンちゃんは悪くない!キンちゃんは騙されたに決まってる!」
気圧されたキンジの脇をすり抜けて突っ込んできたバーサーカーモード白雪。
武藤と不知火の2人はいつの間にか消えていた。
やろうども……、俺たちを見捨ててトンズラしやがったな。
「天——ッ誅ゥウウウウウウウウウウウウウ!!!」
はやい。
踏み込み、上段の構え、からの振り下ろし。
どれも素晴らしい練度だ。
生徒どころかそんじょそこらのプロでも反応しきれないかもしれない。
手加減してくれるようにもみえないし、普通なら即死。
良くて病院送り。
ほんとうに素晴らしい振り下ろしだ。
だが、
そんなんじゃ甘いよ。
半歩退いてするりと躱す。
2撃、3撃と続くが同じ事。
スカートのプリーツは乱さないように、紅いセーラーカラーは翻らないように、優雅に動くのが戦場での嗜み。
優雅さは余裕の現れであると同時に相手にプレッシャーを与える武器となる。
「藤堂志摩子を殺して私も死にますぅー!だから死んでよ避けないでよ斬られてよおとなしく天の裁きを受けなさい貴女は禁忌を私のキンちゃんを犯した罪深い許せないいなくなれいなくなれいなくなれいなくなれいなくなれいなくなれいなくなれいなくなれー!!!」
鋭い剣線のすべてを優雅に避ける。
これが、俺がこの世界で強襲科を続けようと思えた理由の1つ。
マリみての志摩子さんの運動神経はそこまでよくなかった。
しかし、この世界では何故か動けるのだ。
それも異常に。
だから、これは油断だったんだろう。
焦って大ぶりになる攻撃とこの身体能力に胡座をかき、この場にいる一人の男を意識から外してしまっていた。
「よすんだ白雪!落ち着いて話をきウワッ!?」
「きゃあ!?」
暴れる白雪を説得しようと白雪の背後に近寄ったキンジが、躓いて彼女の背中に倒れ込んでしまったのだ。
当然押し倒し、さらにラノベ主人公としてこれまた当然(左手だけだが)白雪の胸を揉んでいた。
高校生にあるまじきドえっちなキョヌーをもみもみのもみ。
おそらくキンジくんは自分がなにを触っているか理解できなかったんだろうね。
でもそれは君的に一番やっちゃいけない行動でしょ……。
「ん——ッ!?だ、ダメですキンちゃん様♡こんな往来のど真ん中で、アッ♡こういうことは家に帰って2人きりで——」
「すまない白雪。あまりにも美しい君に見惚れていたら足下が不注意になってしまったようだ」
なっちゃったな。
ヒステリアモードに。
ところで。
押し倒された白雪は顔を護るために反射で地面に
では、さっきまで彼女が握っていた
答えは、“俺の方にすっ飛んできた”だ。
余裕ぶっこいていた俺は剣の持ち手の意思が介在しないこの変則機動に驚いて避けられなかった。
原作ではかの聖剣デュランダルの刀身さえ斬り落とした名刀『色金殺女』。
そんな危険物が、よりにもよって刃を此方に向けて飛んできた。
どんなに運動神経が良くたって、人間なんだから死ぬときは死ぬ。
それは俺の腹に突き刺さり、俺は血を流して崩れ落ちた。
なんてことは無く、俺の腹は無傷だった。
俺の腹を
俺を構成している粒子が刀を構成している粒子どうしの間をすり抜ける間隔——。
これが、俺がこの世界で強襲科を続けようと思えたもう一つの、そして最大の理由だ。
どんなに運動神経が良くたって、俺も人間なんだから死ぬときは死ぬ。
だが、この転生特典?的なものがあればその確率も一気に落ちる。
とても便利な能力だが、極力これは使いたくなかった。
何故なら便利な力には必ず代償が存在するから。
「話を聞いてくれてありがとう白雪。藤堂も、ここはいったん矛を収めてくれないだろうか。……藤堂?」
ヤローがうるさいが身の内から湧き上がる"情動"がかき消してしまい意識すら向けられない。
……そもそも白雪が悪いんだ。
俺はなんにも悪いことしてないのに、彼女気取りのただの幼なじみがしゃしゃり出てきて返り討ちにあった。
俺は何にもしてないのに急に襲われて、飛んできた刀で死にそうになって。
全部コイツのせいだ。
コイツの暴走でとんだ迷惑を被った。
じゃあ、いいよね?
俺の変化に嫌な予感を覚えたキンジが立ち塞がるが、これもすり抜ける。
力を使ったことで、また情動が膨らんだ。
邪魔どころか俺の情動に拍車をかけただけ。
ヒスってる割りに選択肢間違えたね。珍しい。
「な……なに……」
俺の雰囲気が変わったことに遅まきながら気付いてようだが、ほんとうに遅すぎる。
俺はしゃがみ込み、未だ地に倒れていた白雪の頬に両手を当てる。
目の前には若く美しい女性の綺麗な首。
この身体能力で力を入れればあっさり折れてしまいそうだ。
「まさか!?やめ——」
俺はそのまま彼女の唇に貪りついた。
唇を、舌を、口内を
甘くてやあらかくて瑞々しい。
極上の快楽がそこにはあった。
特に彼女の舌を俺の舌に念入りに絡ませた。
勿論唾液も交換した。
女の子のおしっこが聖水だとするならば、唾液は天然水だろうか。
もっと。もっと欲しい。
ぼーぜんとする彼女の口を好き勝手侵略した俺は、しばらくして能力の反動が落ち着いてきたので彼女の口を開放した。
「迷惑料、いただいたからこれでおあいこね」
完全に固まってしまった白雪、キンジ、そして野次馬たちをおいて帰路につく。
正直1、2回分程度の副作用は我慢できる。
5回以上だとマジでやばいけど。
でも今回は向こうが悪かったから我慢する理由がなかった。
だってキンジの彼女でもないのに、同じ部屋に住んでるだけで殺そうとするなんて……ねえ?
あとは野次馬たちに俺がレズビアンだという噂を広めて貰うためだ。
精神が男の俺としてはキンジと噂を立てられるのは正直キツい。
だからこの機会に俺の恋愛・性的欲求対象は女であることを見せつけたかった。
作戦は大成功し、俺は見事女の子たちから避けられるようになったのだった。
違うそうじゃない。
感想評価ここすきよろしくお願いします!
次ははやくても来週中だと思います。
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初めてのお友達
タグを「ある意味勘違い」にしたのはネット小説で主流の「勘違い(ギャグ)」じゃなくて普通に「勘違い(ガチ)」だからです。
例の件からもうすぐ1年。季節は終わりそうに無い冬の終わり。
春休み前最後の登校日だ。寒い。
しかしそんな記念すべき日にもかかわらず、俺は今問題を抱えていた。
いや、今日に限らず年中無休で抱えている問題なのだが。
この1年間、友達が全然できなかったのである。
だから絡みがあるのはキンジ、武藤、不知火の3人だけ。
キンジは星伽の親戚達?姉妹?と知り合いだし、それにこれからどんどん女の子を落としていく。
しかし俺は昔の知り合いがいたとして記憶がないし、現在は生徒達(特に女の子)に避けられている。
端的に言って、俺の交友関係がキンジ以下なのだ。
原作既読済みの方ならわかるかもしれないがこれは驚異的な数字である。
志摩子さんの見た目でこんなのあり得ない。
あり得てはいけない。
みんなに憧れられるどころかむしろ避けられている。
でも自業自得すぎて怒りを向ける先がないのだ。
例の件で、俺は今やすっかり変人扱い。
発情するとマジで視野が狭まるんだな。
あの失敗以来耐性をつけるため特訓したお陰かだいぶ耐えられるようになってきたが、また同じことになるかもと思うと迂闊には使えない。
でもキンジの近くにいれば使わざるを得なくなるんだろうなぁ……。
そういえば、俺は最近キンジと合わせて変人コンビとして知られている。
お互い性的指向に難があり(キンジは女嫌いを拗らせホモだと思われている)、同じ強襲科で、部屋も同じで、そしてどちらも
例の件で付き合ってるだの夫婦だのと言われることこそなくなったものの、これだけ共通点があればコンビ扱いもされるか。
ていうかSってやばくね?
入試を受けたのは本物の志摩子さんなんだけど。
その時に志摩子さんもキンジと同じく教官を倒していたらしい。
明らかにおかしいが、俺は気にしないことにしている。
考えたところでなにがどうなるわけでも無い。
すぎたことだし、それに俺は俺。
志摩子さんとは別人なのだからあまり踏み込むのも本人に悪いだろう。
1人寂しくとぼとぼと寮に帰宅。
ただいまの挨拶が暗い室内に吸い込まれて虚しさがココロに滲む。
今日のご飯当番はキンジか。
まだ帰ってきてないようだが、買い出しにでも行っているのだろうか。
だったら俺も付き合ったのに。
銃のメンテをやっていると時間が飛び、外が暗くなりだした頃に玄関から扉の開く音が聞こえた。
「どうした、早く入れ」
「は、はい!お邪魔しますキンちゃん様」
む?
その声まさかの白雪嬢ではないですか。
「お帰りなさい遠山さん。いらっしゃい白雪さん」
気まずいが、まずは挨拶。
志摩子さんの身体を使わせてもらっている身としてこれは欠かせない。
「喜べ藤堂。今日の晩飯は俺の手抜き飯じゃなくて白雪の超ハイレベル飯だ」
「こんばんは、藤堂さん。えへへ、そんな、毎日ご飯を作って欲しいだなんて///」
言ってねーよ、と心の中でキンジとシンクロする。
しかしキンジよ。
まさか飯を作るのが面倒だからって恋する乙女を利用するとは。
貴様地獄に落ちるぞ。
とりあえずキンジにはTVを観ててもらい、俺は白雪に話があったため彼女を手伝いに行った。
話というのは例の件に対する謝罪だ。
あれは向こうに非があった。
そこは変わらない。
しかしあの後大変な事実が発覚したのだ。
それは「大好きな幼馴染であるキンジへのためにずうっと取っておいた初キスを俺が奪ってしまった」という事だ。
そんな……それは許されませんよ(反省)。
武偵が自分から仕掛けた勝負に負けたのだから報復や罰を受けるのは当然だが、限度がある。
キンジによると、彼女に何度も謝られたそうだ。
初キスを奪われてごめんなさい、と。
キンジはなんで自分が謝られてるのか皆目見当もついてなさそうだったが。
まあ端的に言って、俺はやりすぎたのだ。
これは謝罪案件だろう。
「白雪さん、少しお話があるのだけど、いい?」
「な、なんでしょう……」
彼女は魚を捌きながら。
俺は野菜を切りながら話しかける。
彼女と学校で鉢合わせる機会はあったものの、まさか校内で「初キスを奪ってしまってごめんなさい」などとのたまうわけにはいかず。
いや周知の事実なのだがそういう問題でもなく。
結局こちらが謝罪の気持ちをうまく言葉にできずに、痺れを切らした白雪が会釈して立ち去るのがいつものパターンと化していた。
彼女は生徒会役員だから忙しい。
だから校内で無駄につぶせる時間も限られる。
だが今は。
今こそは絶好の謝罪チャンスではなかろうか。
「えっと、今更なんですけど……その、あの時はすみませんでした。後から聞いたのですが大切な幼馴染の為にとっておいた初キスだったそうで……。流石にやりすぎました。本当にごめんなさい」
どもりながらも覚悟を決めてひと息に謝る。
「あ、えっと……ハイ。たしかにキンちゃんのためにとっておいた初キスを奪われたのはショックだったけど、でもあれから時間が経って割り切れてきました。女の子どうしだからノーカン!ノーカウントなの!だから大丈夫!」
同性とのキス。
実際その通りなのだが、そう割り切るにはあのキスはあまりにも性的過ぎた。
まさしく性的凌辱。
キスというか口内を犯したと言った方が適切なほどだ。
しかし約1年の時とともにその感覚も薄れて、ようやくそこまで割り切れるようになったらしい。
この後勘違いで襲った事も謝られ、無事和解した俺たちは友達になった。
友達になってくれた。
対ステルス専用お助けキャラとか言ってごめんよ。
お詫びにキンジとの仲を応援させてくれ。
まあ中空知も同じくらい応援するつもりたが。
ヒロイン使い捨て系ハーレムラノベである緋弾のアリアでは、原作で既にメイン回を終えた彼女に日の目が当たることはおそらくもう無い。
でもキンジとくっついて欲しいと思った彼女たちが使い捨てにされるのはなんだかなぁと思うわけで。
原作は一読者として指を咥え見ていることしかできなかったが今は違う。
今の俺なら彼らの関係に介入できる!
ならば自分の推しカプを実現させたいと思うのは人情だろう。
恋愛的な意味でのカプなら今のところ同率一位で
キンジと中空知
キンジと白雪(new)
次点はまたもや同率で
キンジとネモ
キンジとジャンヌ
て感じかな。
「どうしたの?志摩子ちゃん」
ちゃん……。
恋敵は呼び捨てで仲良く無い人にはさん付けの彼女だが仲が良くて恋敵では無い同性の友人はちゃん付けらしい。
「大丈夫よ。少し考え事をしていただけなの。ごめんなさいね、白雪さん」
「友達になったんだし、呼び捨てでいいよ」
「いいえ、有り難いけどそれはできないの。ポリシーみたいなもので、気を悪くしたらごめんなさい」
「だいじょうぶ。人にはいろいろな事情があるものね。気にしてないから」
「改めて、こんな私でもよければ友達になってください」
「もちろん。喜んで」
この世界で、俺に初めて女の子の友達ができた。
過去の失敗の精算によって未来が切り開かれる。
キンジが白雪をベストなタイミングでオリ主に引き合わせたのは偶然。
彼にタイミングを見極めるほどの器用さはない。でも2人の仲はずっと心配してた。
本当にヒロイン使い捨てかどうかは今後の原作者様次第となるが僕は再び中空知がメインに返り咲く日を夢見てますから!
感想評価ここすきよろしくお願いします。
皆さんの推しキャラとかも教えてください。
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なにかを得るには代償が必要
俺の一日は体臭消しスプレーから始まる。
フルーツやらなんやらの香りで無理矢理上書きする安物ではなく、しっかりとしたお高めのスプレーだ。
同居人のキンジは鼻がきく。
女の子の匂いを勝手に嗅ぎ取って「……女の匂いはヒスルから嫌だ」とか文句たれる様は、まるで車道に飛び出して自ら引かれる当たり屋のごとし。
面倒くさいことこの上ないが一応体臭を消すことには武偵的メリットがあるため問題無い。
人は五感のすべてで無意識レベルに感じ取った情報を元に周囲の人間の「存在感」を察知する。
普段から体臭を消しておくことは強襲科生としてもよいことなのだ。
やってるヤツ俺以外にいないけど。
今日は春休みだがいつ戦闘に巻き込まれるかわからない物騒な職業柄、防刃防弾仕様の制服は手放せない。
本来膝上である
毎回アイロンをかけてきっちりと整えたプリーツが美しい。
これを見る度に、このプリーツを乱すなんてとんでもない!という気分にさせてくれる。
なんちゃってとはいえ志摩子さんロープレにも欠かせない必須アイテムだ。
そんなスカートに足を通し制服に腕を通し、セーラーカラーとスカーフを整えれば今日も完璧美麗な武偵少女志摩子さんの完成だ。
この間わずか8秒。
ラッキースケベを防ぐために着替え時間はなるべく短くしなければならない。
女の子特有の良い匂いを消し、身だしなみを整えつつ肌を隠し、ラッキースケベにこれでもかと警戒する。
これらの努力が実りキンジに同居を許された。
まあ一番の理由は志摩子さんの容姿が「女の子」ではなく「女神」だからなんだけど。
志摩子さんを見て劣情をもよおせる者は、例えサルの中にもいないだろう。
「ごきげんよう、遠山さん」
「おはよ、藤堂」
おや珍しい。
学校もないのに早起きですね。
「まだ6時だけれど。なにか用事があるの?」
「今日はちょっと
……やはりお兄さんの事件でそうとうまいっているようだ。
原作ではルームメイトもおらず誰にも相談できずに精神的にあっさり折れてしまい
しかし、この世界では俺がいた。
それが心の支えになっていたかはわからないけれど、まだぎりぎり転科には至っていない。
しかし、先生に相談してるあたり転科も時間の問題かもしれない。
キンジが転科するのが先か、アリアが来るのが先か。
まあなるようになるでしょ。
例え武偵を辞めても、最終的にはまた武偵高の強襲科に戻ってくるってわかってるからな。
原作主人公として、非日常からは逃げられないのだ。かわいそうに。
でもだからこそ一緒にいて意味がある。
彼の周囲で巻き起こる騒動は、緋弾のアリアの一ファンとして見逃せないよ。
ぴんぽーん
午後になると白雪が来た。
どうやらアポも取らずにキンジに会いに来たようだ。
まあ、アイツに「今日会いに行く」と言うと「来るな」と言われてしまうからアポ取りづらいのはわかるけど。
こんどからは俺に聞いてくれればいいよ。
「おじゃまします」
「お邪魔されます」
相変わらずパイオツカイデー。
なんだこれ。
しかも太ももまでムチムチでえっろいのなんの。
こりゃヒス持ちのキンジが嫌がりそうだ。
ただ「ヒスる=性的興奮の対象=女としてみている」とも取れるわけで。
キンジととくっつきたい彼女にとって、そこら辺を隠すことが正解なのか不正解なのかがわからない。
俺は彼と一緒に住むためにけっして女として見られるわけにいかないから極力肌を隠したり匂いを消したりしている。
だが白雪が同じ事をしたところで、キンジからの印象はよくなるだろうがそこ止まりになりかねない。
協力するといった手前どうにかしたいところなんだが……。
この諸刃の剣、扱いが難しすぎる。
「今日遠山さんは教務科に行ってるの。……お兄さんのことで、ナイーブになってるみたい」
「そう……。この前は志摩子ちゃんと仲直りさせてくれたから、こんどは私がって思ったんだけど」
「ここ最近ずっと悩んでいるみたいだったからね……。なのに私たちの事まで気にかけてくれて。よっぽど貴女のことを大事に思ってるのね。遠山さんは」
真っ赤になる白雪。
美少女のテレ顔はやっぱいいっすね。
適当におだてたかいがある。
このままキンジを使って白雪ともっと仲良くなろう。
この世界初の女の子の友達相手にテンション上がってるな、俺。
でも許して欲しい。こんな可愛い子と話してたら、男なら誰だってテンション上がる。
「遠山さんのことを心配しているのは私も同じなの。今彼はとても悩み、疲れ、押し潰されそうになっている。でも、いくらルームメイトとはいえ私たちの付き合いは僅か1年にも満たない。遠山さんには今、貴女が必要なの……たぶん」
「そ……そんな///私とキンちゃんがご近所でも有名なラブラブ夫婦だなんて///」
だから言ってねえよ。
脳内でハイスピードな妄想が駆け巡っているのか、色々とトんでやがる。
コイツ……やべえ。
まあ、落ち着け俺。
大丈夫だ。
確かに白雪はキンジの事になるとトぶ。
けど、キンジ以外のことに関してなら凄いいい人だ。(粉蜜柑)
例えば、成績は学年トップで友人に頼まれればテスト前に勉強を教えたりノートを見せたりもするらしい。いいなあ……。
生徒会役員であり次期生徒会長としての座も半ば決まっているエリート中のエリート。
超能力捜査研究科(SSR)に所属するAランク武偵で実力も申し分なく人望も篤い。
模範生の代表。絵に描いたような「優等生」。
その後、妄想や曲解が7割くらい入ったキンジとの思い出話を夕方まで聞かせられた。
キッツ……。夢女子かよ……。
キツすぎて口元が引きつるのを抑えきれなかった。
幸いトリップしている白雪には気付かれなかったようだが、志摩子さん風ロープレをするに当たって今からこんなことでは先が思いやられる。
これは……精神修行になるな!(錯乱)
ということでこれからもその夢女子トーク聞いてやんよ。
修行と友情upの一石二鳥だ!
ピロン
『すまん。武藤のバカにむりやり夕飯誘われた。そのままアイツの部屋に泊まってくる』byキンジ
キンジからのメール。
謎の高揚感?のせいで深く考えずに、メールの内容をありのまま白雪に伝える。
「そうなの?じゃあもうちょっとお話できるね♡あ、今日泊まってっていい?」
嘘……だろ……???
やめてくれよ。(高速手のひら返し)
「て、いきなりすぎたかな。ごめんね。図々しくかったよね……。私、こっちにきてからキンちゃんとの思い出話をこんなにできる人が今までいなかったの。だからテンション上がっちゃって……。ゴメンね志摩子ちゃん」
しゅんっ、とした顔でそんなこと言われたら断りづらいだろ……。
でもここはノーと言わねば俺の精神がもたない!
「そんなことないわ。私もお友達とお泊まり会したことなかったから、少し憧れていたの。よければ泊まっていって」
断れなかった!!!
こんな美少女の頼みを断れる男がいるわけないだろ!いい加減にしろ!
まあ、美少女と1つ屋根の下でお泊まりだと思えば多少はね?
俺の計算によると、現役きょぬーJKのお風呂上がりの匂いを嗅げば精神の均衡を保てるはずだ。
午後12時
「それでね、そのときキンちゃんが——」
「なるほどね」
午前3時
「でもね、そのときキンちゃんがこう言ってくれたの——」
「なるほどね」
午前6時
「そうしたらキンちゃんが——これって絶対プロポーズだよね——」
「な、なるほどね」
一睡もさせてもらえない……だと……?
そのまま夢女子トークを朝までノンストップとは流石の俺も想定できなかった。
つ、ツライ……。
寝不足と精神的ダメージのダブルパンチだ。
吐きそう。
「あれ、もうこんな時間だ。あっという間だったね♡」
「あ、はい」
おれとしらゆきのゆうじょうはふかまった。(しろめ)
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欲しい物
ヒロイン使い捨て系ラノベにしてはほんとうに珍しい。
追記:今日は白雪さんの誕生日らしいですね……。申し訳ないが彼女は今回出てきません。
改めて、この身体は異常だと思う。
緋弾のアリアの世界なのに、何故かマリみてのキャラクターである藤堂志摩子に憑依?してもうすぐ一年。
このくらい付き合っていると、この身体のおかしな性能にもあらかた気づく。
まず、白雪相手にも使った粒子間移動。
自分の身体を構成する粒子があるが。
それを、物体を構成する粒子と粒子の間を縫い通過させる。
つまりはすり抜け。
実質物理攻撃無効の変態技だ。
あれって正確には「粒子を知覚する」っていう能力なんだよね。
それを使ってすり抜けている。
最初はこれを転生特典による特別な力だと思っていた。
たが、この身体のスペックを思い知った今では「この身体が元々ソレをできる」線もあるとみている。
次に身体能力。
パワー、スピードは勿論バランス力、反射神経なども人外の域。
常時ヒステリアモード並みといえばその凄まじさがわかるだろう。
そして才能。
銃で精密射撃は当然として、一度仕組みを理解した技は(今のところ)全て再現可能とかいうチート中のチート。
流石に特別な資質(視力6.0とか)が必要な事はできないが、テクニックで補える技ならコピー可能。
だから原作の文章で細かに解説されていたキンジの技も使えてしまうのだ。
布団を出て思考をリセット。
とりあえず着替えよう。素早く。
匂い消しよし!
スカートのプリーツよし!
セーラーカラーよし!
ついでにデリンジャーを懐に入れ、折り畳み式の薙刀も膝下まで伸ばしたスカートの中にしまう。
よし!
今日は昼に峰理子やキンジと食事に行くので準備をしなければ。
教師との相談の上、結局新学期から
その噂を聞きつけたクラスメイト兼探偵科の理子が、キンジに接触してきたらしい。
最初は女の子女の子した彼女を嫌がっていたキンジだが、理子りんから逃げられるはずもなく。
それに探偵科でAランクの理子に学べることや依頼することも多いため、なんだかんだで原作初期みたいな関係に落ち着いていた。
新学期が明日に迫った春休み最終日。
原作では明日、キンジはチャリジャックされる。
その際、犯人である理子は普段バス通学のキンジをチャリに乗せるためにとある細工をした。
部屋の時計・パソコンの時計・腕時計などのすべてのキンジ周辺の時計を弄りバスに乗り損ねさせたのだ。
しかし原作とは違いこの部屋には俺もいる。
そうなると時計の細工がバレる可能性が出てきてしまう。
これを回避するために、今日はなんらかの仕込みをするに違いない。
一応、名目上はキンジの「探偵科へようこそパーティー」らしい。
彼女は今までに何度かこの部屋に遊びに来ており、俺とも顔馴染みだ。
彼女はまだイ・ウーの一員として心を許してくれておらず、おそらく表面上の友人関係でしかないのだろう。
しかし、それでも俺にとってはこの世で2番目に仲が良い女の子なのだ。
ヴラドの件が終わったら是非本当の友達になりたい。
というかヴラドの件には積極的に介入しよう。
理子は吸血鬼であるブラドとその娘のヒルダに酷い虐待をさればがら幼少期を過ごした。
ヒルダは後の百合展開のための布石と考えればまあ許せるが、ブラドは駄目だ。
俺はこの春休みの間、ラノベのキャラクターとしてではなく、現実に存在する一人の女の子として理子を見てきた。
正直対人戦すら経験が乏しいのにいきなり吸血鬼とかいう人外の、しかもイ・ウーの№2と戦うのは不安だし怖い。
しかしそれ以上に憤りがある。
武偵として、友達として、男として、なにより藤堂志摩子として。
見過ごすわけにはいかない。
これに関しては「原作イベントを壊さないように」なんてのたまうつもりはない。
しかしチャリジャックは見逃す。
いや、武偵高の屋上から双眼鏡でも使って見物しとくけどね。
チャリジャックは
それを阻止してしまってはなんにもならない。
キンジには悪いけど、まあアイツも武偵だししょうがないよね。
武偵憲章4条:武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事。
というわけで、頑張ってくれ。
◇◇
「というわけで、~キーくん
「まって、理子さん。ポロリは無いわ」
「いや、そもそもなんだよその昭和のアイドル番組みたいな古くさい名前は!あと“だらけ”って、おまえしかいねえじゃねえか。……あ、藤堂も合わせて二人しかいねえじゃん」
「いまナチュラルにしまりんのこと女の子から除外したね」
「す、すまん。藤堂」
「気にしないで?むしろ嬉しいくらいだわ」
日々の努力が実を結んでいる証拠だ。
「そんなことより、ほんとうに理子さんのおごりでいいの?主役の遠山さんはともかく、私は——」
「おっと、それ以上は言わぬが花だぞしまりん。理子りんこれでも稼いでるから、これくらいの出費なぞ痛くもかゆくもありませーん。どうしても気になるんだったらこんど行くとき奢ってよ」
!!!
理子りんと食事!理子りんとデート!
最高かな?
「是非!是非奢るわ!だからまた一緒にお食事行きましょう」
「お、おう。予想外に食いつかれて理子りん困惑」
「こんな藤堂初めて見たぜ……」
おっと、キャラが崩れてしまった。
いけないいけな。
ここは理子のお気に入りのメイド喫茶の1つらしい。
幾つかあるようなのでここが原作に出てきたあそこかどうかはわからないが、
運ばれてきた料理はなかなかのものだった。
あとメイドがかわゆいのがどうにも最高の地獄って感じ。
変装して一人で来るのなら最高だが、こいつらの前で「藤堂志摩子」をキャラ崩壊させるわけにはいかない。
特に理子は探偵科Aランク件伝説の怪盗の曾孫。
僅かにでも表情に出せば、必ず気付かれると思っていい。
メイドさんを意識しすぎず、意識しないようにしていることもバレないように。
難易度は高い。
しかし問題は無い!
俺ならやれる!
◇◇
藤堂志摩子。
今代オルメスのパートナー、の補欠。
基本的には
性格が合わない可能性も無くはない。
この東京武偵高ですぐにパートナーを見つけられなければ、おそらくだがオルメスはロンドンにとんぼ返りしてしまうだろう。
それでは困る。
オルメスとして完成した状態のオルメスを倒さなければ意味が無い。
歴代オルメスは常にパートナーがいた。
オルメスの力を最大限に引き出すパートナーが。
だから、今代のオルメスにも最高のパートナーを作って貰わなければならない。
その上で!あたしが!オルメスを倒す!
そうしなければあたしは……。
「秋だったら
「へえー、しまりん銀杏好きなんだあ!でもこの店でそうゆう季節限定メニューてきなのは見たことないなあ」
「そうなの、残念」
この店は、どちらかというと“可愛い物が好きな女性”がメインターゲット。
例え季節の限定メニューがあったとしても、銀杏はないよ。
てゆうかしまりんって、ほんとうにつかめないなあ。
校内での彼女の評判は「清楚可憐で立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花(意味深)」らしい。
入学早々ゆきちゃんにキッスをして武偵高にゲキシンを走らせたけど、それからは特にそういうことも無く。
そのまま武偵高生として考えられないくらい楚々とした態度ですごしてる。
強襲科Sランクとして戦果を派手に出しているようだが、戦い方も徹底してスマート。
だからかなあ。
この女神みたいな容姿と相まって、校内ではもう“あこがれの人”として男女問わず人気者だ。
ファンクラブもある。
だけど、しまりんの清楚さはまるでゲームに出てくる市立の有名女学園の生徒みたいに過剰だ。
おかげで武偵高生のような荒くれ者が近づきにくく、遠巻きに眺められている。
本人はそれをどお思ってるんだろう。
案外友達が少ないことを気にしてたりして。
「どうした、理子。このパスタ食わないんだったら残り全部もらっちまうぞ」
「あ!キーくんそれ理子まだ食べてない!ぷんぷんガオーだぞ!」
だいぶいい時間になった頃、いちど解散した。
すでにジャンヌに頼んで時計は弄ってある。腕時計も隙を突いてまったく同じデザインのモノを、時間をずらしてすり替えた。
あとはしまりんをあたしの部屋に連れ込んでキンジを一人にし、遅刻させるだけ。
「今夜は寝かさないぜー!」
「もう、理子さん酔っぱらいみたい」
「えへへへへ。しまりんみたいな可愛い友達が出来てテンションアガってまーす!このこお持ち帰りで!」
「もう、理子さんったら。もう持ち帰られているわ」
「くふふ、そうだったねえ」
「それに、ぐっすり眠れるアロマを焚いてくれているのでしょう?」
あたしとしまりんは、今。
同じベッドの中にいる。
基本女子寮は2人部屋だが、あたしは手を回して一人部屋。
だけどそのせいでベッドが1つしか無い。
収納スペースからあふれ出したフリフリの可愛い服のせいで、来客用の布団を敷くスペースもない。
というのは建前で、本当はキスするためだ。
「仲の良い女の子どうしならこれくらい普通だよ~?」
「え、そ、そうなの……?」
ちょっろ。
「そうそう♡てなわけでお休みのチュー」
「——んッ!!!」
!??
やわっ、あまっ、うわあっ!
「んッ♡んんッ♡んむ♡——」
「——んッ♡」
気がつくとあたしから吸い付いていた。
なにこれなにこれなにこれ!?
こんな、こんな柔らかいなんて聞いてない!
背徳的すぎる……。
しばらくしてようやく気付いたけど、どうやら吸い付いていたのはあたしだけじゃなかった。
しまりんがあたしの唇を、まるで熱に浮かされたかのように夢中で求めてきていた。
情報通りの同性愛者。
しかしいつまで耐えるんだコイツ。
あたしは解毒薬を飲んでるからへーきだけど、あたしの口には睡眠薬が塗ってある。
はやく……、はやく落ちろよお……ッ!!!
すー、すー、すやー
「やっと寝た……」
明日の朝の計画を邪魔されないように、しまりんには睡眠薬を投与したかった。
でも水に入れて飲ませたりしたら、起きたときにいろいろバレてしまう。
できれば眠らせたあとも睡眠薬を盛られたことに気付かれたくない。
オルメスとキンジをくっつける前にあたしの正体に勘付かれるわけにはいかない。
ということで、よく眠れるアロマが充満し、温かいベッドの中で、お休みのキッスをして自然に眠ってもらおうと思った。
そう、“自然に”。
ソフトタッチで終わらせるはずだったのに、しまりんの唇が予想外に良すぎてつい吸い付いちゃったよ。
犯罪者の前で無防備に眠るクラスメイトの美少女。
その貌をついつい見つめてしまう。
「いやいや、あたしにそんな趣味ないし」
明日の朝は早い。
もう寝よう。
全部終わって自由になっても、あたしは犯罪者。
武偵のしまりんたちとは一緒にいられない。
こんな楽しく平和な日常を捨てて、いつかは闘争と裏切りの絶えない日陰者の世界へもどらないといけない。
「……ずっと一緒にいたいよ」
理子は表が素に近い。
だが裏も表もどちらも作られたキャラで、本当の素顔は原作でキンジにドキドキしちゃってる時くらいしか出てこない。
でも、この作品では志摩子との「普通の女の子としての日常」で見せ始めている。
伊達に志摩子さんやってないな。
ところで自分、いろんなヒロインとイベントを起こすも最終的にくっつくメインヒロインは決まってます!的なの大嫌い侍。
ラノベでもラブコメ漫画でも、たいてい一巻の一話で出会う初対面の女の子とくっつきます。
それを考えると、それ以外の女の子とのふれあいはすべて茶番に思えてしまう也。
どんなにB子とラブコメ展開になっても、「はいはい、どうせ最後にはA子を選ぶんでしょ」と。
だから拙者、最初に一話で出会ったA子と良い感じになりつつ、しかし上手くいかずに最終的には他のヒロインとやり直してA子との関係にけりを付ける展開大好き侍。
約束された恋愛なんていらない。
そういうのなら最初っから他人を混ぜるな。
マリみてみたいにスールの契りを結ばせて他人の入る余地を排除して欲しい。
他人の入る余地を残すんならチャンスも平等に残せ。
隙間だけ空けて、でもゴールできるのはA子だけ。
そんな出来レース見せられたって冷めるだけ。
俺はそう思う。
よければ感想欄とかでみんなの価値観きかせて欲しい。
勿論この作品に関する感想でも嬉しいです。
高評価・感想・ここすき お願いします。
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童貞キモいと言われる理由
下着をあさるシーンがあります
そういうの不快なかたはご注意を
畳の匂いが鼻を突き、自分が息をしていることを自覚する。
すっと滑った
坊主頭が似合うその男性、というか父は俺に言った。
「帰ってきてくれてほっとしたよ。理由は結局教えてくれなかったけど——。改めて、
◇◇
……夢、か?
いや、ただの夢じゃ無い、気がする。
俺のでは無い、藤堂志摩子の記憶の残骸。
おそらく俺がこの世界の志摩子さんに憑依してしまう少し前の光景。
……この身体になった時、それ以前のこの世界での記憶が全くないから、今のところ憑依だと仮定している。
だが、そもそも俺はほんとうに志摩子さんに憑依したんだろうか。
俺が一方的に乗っ取ったのではなく、互いの魂が入れ替わった可能性。
この世界とこの身体が神的な何者かによって急遽作られ、俺の意識をその身体の中に詰め込んだ、所謂世界五分前仮説の可能性。
可能性を考えだしたら切りが無い。
ヤメだヤメ。
憑依でいいよ面倒くさい。
記憶が無い以上答えは出ないんだ。
窓の外を見れば、日が高い。
だいぶ寝坊したようだ。
そういえば今日は新学期だったけれど、寝坊してしまったものは仕方が無い。
ランチと寝起きの兼用として、優雅にティータイムでも始めようか。
…………ん?
俺は何か、重大な忘れごとをしていないか?
頭の隅に引っかかって出てこないけど、なにかあったような気がする。
思い出せないのならたいしたことでは無いだろう、なんて古典的な展開にはしない。
本当に大切なことだったと思うんだけど……あ!?
「今日は理子がキンジのチャリをジャックする日じゃないか!」
今日の朝、登校時のチャリジャック事件。緋弾のアリアという物語の始まり。
そして今はその日の昼。
『これだけは抑えておきたい原作イベント』のひとつを完全に見逃してしまった。
大戦犯ここに極まれり!
えーと、原作ではどういう流れになるんだっけ。
確かアリアはキンジの部屋に押しかけるんだ。
夕飯がどうのこうのって会話もあった気がするし、夕方には原作の続きが始まるはず。
急いで部屋に戻って準備しないと。
…………その前に理子の下着とか、漁らなきゃ。(使命感)
俺も女物の下着は付けているが、自分のと他人のとではまるで違う。
主に興奮度とか。
急いでいたのか開いた引き出しからブラのヒモが出ている。
あそこに理子の……、ぐへへ。
さてさてそれでは、でっっっっっっっっっ————!?
でけえ。圧倒的にでけえよ、あにき……。
いやあにきってってだれだよとか自分でも突っ込んじゃうくらい頭がこんがらがってた。
一瞬だが、衝撃でまともな思考がブチとんだ。
まずは落ち着け、深呼吸だ。すぅー、はー。
けっして変な意味は無い。
俺はただ、自分が落ち着くために深呼吸をしているにすぎない。
蕎麦を食べるときにまず蕎麦自体の香りを楽しむ蕎麦玄人のように、ロリ巨乳美少女同級生のJKブラジャーを前にしてまず香りから楽しむ下着玄人では決して無い。
ないったらないのだ。
全面は黒のレースがびっしりでゴージャスエロいけど、手触りとしてはざらざら。
触るように出来てないんだから当たり前か。
そして結構固い。そして分厚い。
きょぬーを支えるための装備なんだから当たり前か。
ブラの上からきょぬーを触っても柔らかいなんて童貞の幻想なのだ。
まてよ?
大きいのを支えるのに固く分厚い必要はあるが小さいのを支えるのに固く分厚い必要はないのでは?
つまり、ブラの上からに限定した場合へたにおぱーいが大きいよりもそこそこ、いやすこし小さめのほうが触り心地がやーらかい可能性があるぞ……!?
そこんとこどうなんだ。
ちょうど今日アリアがうちの部屋で風呂に入っていくじゃあないか。
ブラの構造を確かめなくてはならないな。
重要な任務ではあるが今はいったん此方に集中しよう。
心臓のどきどきすら今は心地よい。
青春万歳!とこの状況に五体投地の勢いで感謝感激しつつえっちなブラの裏地に指を這わせる。
ほう……?柔らかいですねえ。
表と比べて手触りの良さに気を使ってあるのがありありとわかる。
そもそも(そーいう漫画によると)、女の子がブラを付ける理由の1つとして乳首が擦れて痛いからというものがある。
ぽっちが当たっても痛くないようになっているんだろうな。
というか普段ここに理子のぽっちが当たっているんだろうな……。
理子のおっぱいを包み込んでいるんだろうな……。
ここに……おっぱい……。
俺は今、理子のおっぱいに間接タッチしている!
摩る手がとまらない。
ブラの裏地に手の甲を当て、もみもみ。
今俺の脳内では、理子のおっぱいとブラの間に手を入れてソレを直接揉んでいる!
だがそこで止まらないのが童貞。
そーいう雑誌によると、女性のブラをスムーズに外せないと良いムードが台無しになってしまうらしい。
ふとそんなことを思い出した俺は、同級生のロリ巨乳美少女JKの黒レースどえっちブラジャーの留め具部分を確認する。
ほう……、引っかけて留めるのですか。
俺のとおんなじですね。
完全に理解した。
とりあえず留め具同士を引っかけて、それをすっと外す。
難しい物なのだという先入観があった。
感想。そう難しいとは思わなかった。
しかし、実際に女性が付けているときは左右に引っ張られていて外しづらいのかもしれない。
自分のはもう慣れた物だが、他人のブラもサラッと外したいものだ。
そんな想像をしながらホックを留めて、外して、を繰り返しているうちに時間が経っていた。
あぶない、また原作イベントを見逃すところだったよ。
急いで戻らなきゃ。
◇◇
ピンポーン。
玄関の呼び鈴が鳴る。
俺はなんとか間に合い、隣の部屋で待機していた。
監視カメラも盗聴器もOK。
自分の部屋なのだ。絶対バレない隠し場所も把握済み。
死角は無い。
ピポピポピポピポピピピピピピピンポーン!ピポピポピンポーン!
うるせえ。
たぶん居留守を使おうとしていたキンジも、これにはたまらないと思ったのか根負けしてドアを開ける。
「誰だよ……?」
「遅い!あたしがチャイムを押したら5秒以内に出ること!」
玄関先にはカメラを仕掛けていない。
だが、それでもわかる。
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原作シーンを見守るはずだったヤツの末路
このためのアンチヘイトタグ
そんな回
「遅い!あたしがチャイムを押したら5秒以内に出ること!」
「勝手に入るなっ!」
「トランクを中に運んどきなさい!」
「——キンジ。あんた、あたしのドレイになりなさい!」
「さっさと飲み物ぐらい出しなさいよ!無礼なヤツね!」
「コーヒー!エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ!砂糖はカンナ!1分以内!」
酷い。
あまりにも酷すぎる。
これがラブコメのメインヒロインってマジ?
不法侵入に不退去罪、奴隷になれ宣言はまあ言葉の綾だとして最後のは完全にアレだ。1分以内にパン買ってこい!て不良がいじめられっ子に命令するやつ。こいつに礼儀は無いのか。何様のつもりなんだ……。
紙の中の、あくまでも「キャラクター」としてならまだ許せた。
だが、同じ世界で同じ人間として相対したらイライラが止まらない。
まあ、俺がキンジと仲良しだと言うこともあるだろう。
最近になってようやく女の子の友達ができはじめたけれど、俺がこの世界でもっとも付き合いが長いのはキンジだ。
一緒に暮らしてるんだから当然だけど。
そのキンジがないがしろに扱われて、面白いはずもない。
仲良しどおしのじゃれ合いとかならいいけど、これはそういうんじゃねえ。
「——出てけ!」
「な、なんで俺が出て行かなきゃいけないんだよ!ここはお前の部屋か!」
「分からず屋にはおしおきよ!外で頭冷やしてきなさい!しばらく戻ってくるな!」
楽しい原作シーン鑑賞会になるはずだったのに……。
もう既に、我慢の限界だ。
「その必要は無いわ」
◇◇
「その必要は無いわ」
突如部屋に響いたのは俺の同居人の声。
いつのまにか、藤堂志摩子がそこにいた。
女神みたいに美人なのになぜかヒスの対象じゃ無いイレギュラーなやつで、性格も優しく家事万能。
強襲科Sランクと物騒な肩書きもあるが、平時はお淑やかで暴力を振るうことなど滅多に無い。
他の武偵女子どももこいつの爪の垢を煎じて飲めと言いたくなるくらい理想の女だ。
俺は将来結婚なんて出来ないと思っていたが、こんなやつもいるのなら可能性は死んじゃいない。
「誰よ、アンタ」
「人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るのが礼儀ではないでしょうか」
と。
藤堂がアリアにもの申した。
頼む、お前だけが頼りだ。その傍若無人な疫病神を追い出してくれ!
……て、俺いっつもこいつに頼りっきりだなぁ。
情けなくなってきた。だが今はそんなこと言ってられん。
アリアを追い出してくれ、頼む!
「あたしは神崎・H・アリア、2年。強襲科であたしのパートナーに相応しい人間を探しに来たの。というわけで今は勧誘中よ。何でこんな時間に男子寮にいるか知らないけど、用事ならまた今度にしてちょうだい」
「ご挨拶ありがとうございます。私は2年生の藤堂志摩子です。この部屋の正式な住人であり、遠山さんのルームメイトです。あなたがこの部屋に無断侵入した時点で私も関係者ですよ?」
さっきからなにかがおかしいと思っていたんだ。
でも、ようやく気付いた。
藤堂が同年代相手に敬語を使っている!
普段物腰が穏やかだから気付きにくいが、藤堂は同年代には冗談でも敬語を使わない。
まるで「同年代と話すときはタメ語」と自分に縛りを付けているような印象を受けるほど徹底的にタメ語と敬語の使い分けがキッチリしている。
そんなあいつが同年代相手に敬語を使うなんて、これは……、なぜかはわからんがとてつもなく怒ってらっしゃる!?
「は、はあ?!あんた女でしょ?なに言ってるのよ……。ふざけるのも大概にしなさい。女子生徒が男子寮に住めるわけないじゃない」
一時的とはいえ住もうとしたお前が言うなよ……。
ま、普通はな。誰だってそう思うよ。
だけどこの武偵高で常識なんて通用しない。
藤堂にはいつも助けられてばっかりだし、ここらで助け船出してやるか。
「おいアリア。藤堂の言ってることはホントだぞ。疑うなら正式な書類を「あんたは外で頭冷やしてきなさいって言ったでしょ!」
とほほ。
しょせんヒスってない俺など無力。
ゴメンよ藤堂。とドアノブを掴もうとした右手が優しく抑えられる。
「だから、その必要は無いと言っているでしょう」
いつまにか藤堂が隣にいた。
「どういうつもり?」
俺のセリフじゃ無い。
アリアのセリフだ。
「ソレは此方の台詞です。武偵の前で堂々と犯罪行為をおこなうなんて良い度胸ですね、犯罪者」
武偵は警察と同じく犯罪者に対する逮捕権がある。
警察と違うのは、戦闘も辞さずに犯人を取り押さえに行く暴力性だ。
市民の安全が第一の警察じゃ戦闘はなるべく回避しなきゃならんからな。
しかし、犯罪者?
「は、犯罪者ってなによ!」
「法の下に正当な住人である遠山さんはアリアさんに対して「勝手に入るな」や「出て行け」と言いました。にもかかわらず貴女はこの部屋に侵入し居座っている。完全に『不法侵入』や『不退去罪』の現行犯です。そしてコーヒーを出せと礼儀知らずな注文までしてくる始末。ホームズ家はそのような教育をするのですか?まるで山賊ですね。親の顔が見てみたいわ」
ずぎゅぎゅん!
2連発銃声が鳴り響いた。
床が!穴あいた!?
人の部屋で発砲してんじゃねえよ!
と声を荒らげたかったが、アリアの“マジギレ”って感じの顔に気圧された。
「……取り消しなさい。確かにあたしの行動も悪かったわ。でも、あたしの家や親を貶さないで!」
「確かにご家族への悪口は品がありませんでしたね。言い過ぎました。御免なさい」
藤堂が頭を下げる。
だがその態度は毅然とした物で、目も鋭い。
謝罪は本心からだろうがまだ言いたいことがあるっぽい。
家族、か。
確かに俺も馬鹿な失敗やらかすことくらいいくらでもある。
でも、それで家族まで悪く言われるのは嫌だ。
俺だけじゃなく、たぶん誰だってそうだ。
今この瞬間、俺とアリアと心から反省し謝罪した藤堂の3人の重いが1つなり、この言い争いが落ち着いた。
だが俺の予想通り、藤堂がアリアにお小言を1つぶつける。
「しかし、それと今回の無礼な振る舞いはまったく別ですよ」
「うっ、わかってるわよ……。志摩子と、ついでにキンジも。……悪かったわね。あたし焦ってたみたい」
焦っていた……?
なにか差し迫った事情でもあるんだろうか。
「日本には『急がば回れ』という言葉があるのよ。逼迫した事態でこそきっちり話し合う必要があるかと思うの」
「……そうね。もうこんな時間だし、また明日来るわ」
そう言って玄関に向かうアリアの手首を掴み、藤堂が口を開いた。
「日本には『善は急げ』という言葉があるのよ。何か解決策が浮かんだからキンジに会いに来たのでしょう?それなら今すぐ話をするべきじゃないかしら」
「どっちよっ!」
突っ込んだアリアは悪くない。
俺も思わず心の中で突っ込んじまったぜ。
◇◇
危ない危ない。アリアと不仲になるところだったぜ。
それにこのまま追い出して、何かの間違いでキンジとアリアのペアが不成立になる可能性も無きにしもあらず。
俺が自然に2人の話に立ち会って誘導できるのは今このタイミングしかない。
アリアの母親の事情はセンシティブだから、話を明日に改められたら本来部外者の俺が混ざれないかもしれん。
そう考えると、やはり今この場で話し合ってもらう必要がある。
お話の結果。
キンジは今朝アリアに助けられた借りがある。
だが一年後には普通の高校に移りたい。
アリアは是が非でも母親を助けたい。
そして時間が無い。
ということで、来年の4月までにアリアの母親を助けるためにイ・ウーと戦う事を決めたキンジ。
これからキンジは数々の死線をくぐり抜けることになる。
頑張れキンジ。負けるなキンジ。
「あたしとキンジと志摩子、全員
ゑ?
「たしかにな。でも後衛のアテなんてないぞ、俺」
「安心しなさい。一人心当たりがいるわ」
ちょま、ちょ待てよ!
勝手に俺が戦力にカウントされてるのなんで!?
アリアの母親の事とか、かなり親密でセンシティブな会話をしたからなのか?
それで妙な仲間意識ができちまったのか?
キンジ以外の仲間を受け入れるのは2巻の内容だろ!
1巻の内容を省略したツケだろうか?
まあ原作シーンを間近でみられるのなら悪くないか。
ということで翌日には俺が白雪、アリアがレキを勧誘してバスカービルが殆ど揃った。
後は理子だけだな!と意気込む俺。
しかし、このとき安易に原作メンバーに混ざり距離を詰めすぎたことを少しだけ後悔することになるなんて、このときの俺は思ってもいなかった。
仲良くなればなるほど辛くなるものもある。
それに俺が気付くのは、もう少し先のお話。
作者「睡眠薬を盛られたお返しに漁るのはセーフ!家主のいぬ間に家捜しは仲良しなら普通!!」
勘の良いガキ「じゃあ命の恩人が押し入ってくるのもギリセーフじゃね?」
作者「……俺に書き直せと?エタるぞ(脅し)」
勘の良いガキ「ええ……(困惑)」
作者「それに親密度が違います!」
勘の良いガキ「親密なら下着を漁っていいんですか?」
作者「……でも童貞があの状況になったらしゃーないやろ。むしろやらなかったら元男要素死んじゃうし。そして今回のヘイトは原作読んでるときからずっと思ってたことだから絶対やりたかったの!!」
勘の良いガキ「その結果アリアへの怒りに説得力が無くなっても?」
作者「今調べたところ、下着を漁るだけでは犯罪にならない可能性が出てきましたね。また、迷惑防止条例の卑猥行為の禁止にも公共の場において人を羞恥させたり不安にさせたりしなければ抵触しないらしいです(早口)」
勘の良いガキ「……ふーん。で?」
作者「ですから主人公は別に犯罪行為をしたわけではないため、アリアへの発言もおまいうとは言えないのではないでしょうか!」
勘の良いガキ「いいんじゃない?それで読者が納得してくれるのなら」
作者「うっ、」
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後輩
あとほんとはカルテットが終わってから白雪・志乃の戦姉妹が結成されるがここでは既に結成済み。
アリアは逆にキンジよりはやくあかりに出会ってるはずだが、原作1巻であっさりイギリス帰りをきめたりと違和感あるのキンジとの出会いのあとに戦姉妹結成したことにしました。
待機:いつも書き忘れちゃうけど誤字修正ありがとうございます!
「この間、あたしにおもしろい
!?
「
アリア、白雪、おまえら……。
ふたりそろって自慢か!!?
「しかも、
合宿。
あの時期か……。
(詳しくは緋弾のアリアAAをみて欲しいが、)つまり1年生が実践形式の授業にむけて、チーム全員泊まり込みで特訓するわけだ。
「でもあたし、ちょっと用事あるのよねえ……。様子見に行ってあげたかったんだけど、無理そうなの。あと、峰理子も来るらしいのよ。チームメイトのインターンの子が、あいつの元戦妹らしくって」
アリアはまだ理子が武偵殺しだとは気付いてない。
しかし、御得意の勘でも働いたか理子のことを少し気にしているようだ。
だからまだ俺たちのチームに理子を誘えていない。
ブラドの件が終わるまでは無理だろうな。
「私も用事があるの。可愛い
ちょっとしか出てこなかったけど、たしかにAAで白雪は
戦妹のほうも白雪に懐いていたみたいだし。
しかし用事があって力になれないと来たか。
……これは、俺が1年にパイプを持つ良い機会なのでは?
「私なら用事も無いし、代わりに様子を見てきていいかしら」
ここらで本気出さないとまずい……。
とりあえず理子りんに電話だ。
「もしもし理子さん?志摩子だけれど。今度のあかりちゃんたちの合宿の様子、見に行くことになったの。理子さんも行くのでしょう?よければ一緒に行かない?」
『ごめ~ん。あたしも用事ができちゃったんだよねぇ』
え?
『代わりにしまりんが行ってくれるんなら助かるよー!』
理子はAAで、あかりのことをアリアを映す鏡としてみていた。
4対4のあとに起こる夾竹桃襲来イベントと同時に、理子はアリアに仕掛ける。
そのための下調べとして彼女はあかりにも注目していたはずだが……。
一体どうして。
AAで用事なんて無かったし、十中八九嘘だろう。
理子が来なくなった理由。
AAとの違いは……
俺?
俺……が、避けられてる?
いやいやいや。
そんな馬鹿な。
きっと本当に用事ができたんだ。
そうに違いない。
よし、気を取り直して準備するぞ!
◇◇
「まずは自己紹介から。私は
私は原作にもいないモブみたいな存在だから後輩達にも知られていないかも、と思ってアリアとの関係とか話したんだけどな。
少なくともSランクってことで同じ強襲科のライカには知られていたらしい。
この人が、あの……!て顔が言ってる。
一応あかりも強襲科のはずだが……。
うん。案の定知らないっぽい。
主人公特有のあれだ。
「知らないのか?」と周囲のキャラに解説させて読者に説明するための、戦略的無知。
またの名を大人(作者)の都合という。
「やっぱSランクってすげーな。人脈もSランクだ。あの藤堂志摩子先輩に稽古付けてもらえるなんて!」
「ライカ、知ってるの?」
おっと、寸劇が始まった。
新キャラが出たときのお約束だし、一応聞いといてやるか。
だが、普通は相手に聞こえないようにやるもんだろ。
小声でもこの距離じゃまる聞こえだよ。
「むしろなんでお前はしらねえんだよ。藤堂先輩っていったら、アリア先輩や遠山キンジ先輩と並ぶ強襲科の
「と、遠山キンジ……!」
「確か入学時点で既にSランク、なんですよね。そのお三方は」
「シノちゃんも知ってるの!?」
「有名なお方ですから」
「ですの」
「麒麟ちゃんまで!?」
「清楚可憐で立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花(意味深)。白雪お姉さまに勝るとも劣らない素晴らしい先輩だという噂です」
「い、意味深って?」
「うふふ……」
一区切りついたかな。
「武偵は常在戦場。そして情報を制す者が戦いを制す。日頃の情報収集は大切だから、身の回りには常にアンテナを張るの。
よろしくね、と微笑んでおく。
「「「「よろしくお願いします(ですの)」」」」
あいさつは大事。
武偵は実力主義だ。
そして、大抵上級生の方が強いので結果的に縦社会でもある。
こうして俺たちの『ドキッ!女の子(後輩)だらけのお泊まり会!』が始まった!
……ネーミングセンスひでえな。
「とは言っても本番は月曜日。今日合わせても金土日の三日間。あれもこれもは詰め込めないから高千穂班対策をやっていくわね。まずライカちゃん」
「ちゃん……。は、はい!」
「強い子ほど同じく強い敵にマークされやすいから、敵を倒すのは困難になるの。つまり、強い子ほど仲間を信じて時間稼ぎに徹する必要があるわ。私が敵役をやるから凌ぐ練習よ」
「うっす!」
「志乃ちゃんは双子を抑える役目がいいわね。おそらくライカちゃんの相手は陽菜ちゃんだから、ポテンシャル的に双子を同時に相手取れるのは志乃ちゃんくらいなの。ちょうどメイドさんが双子みたいだし協力してもらいましょう」
「はい!」
あかりがしょんぼりしている。
今のは「(
しかし事実だし、これは取り繕ってもしょうが無い。
「麒麟ちゃんは……特にないわね」
「ええ!?」
自分はどんな特訓が課せられるのかとわくわくしてた麒麟ちゃんの顔が曇る。
だが安心してくれ。
高千穂班対策としてはなにもないが、君には根本的にやって貰わなきゃいけないことがある。
「麒麟ちゃんはまず体力。それと疲れた状態でも頭を回せるようにすること、かしら。直接戦うだけがチーム貢献じゃ無い。あなたがこのチームの頭脳よ」
「……頭脳、ですの!?」
「学年が1つ下というだけで物怖じしてちゃ駄目。個人個人の自力が相手より低くても、作戦や機転次第で幾らでも格上を倒せる。あなたがその役目を担うの。今すぐは無理でしょうが、いつかは世界中の誰よりもこのチームを上手く運用できると豪語できるようになってね?」
「は、はいですの!」
「あかりちゃんは……まずバランス力を鍛えたいから、乗馬マシーンを使いましょう」
「乗馬マシーン、ですか?」
「そう」
いや、俺も正直よくわかってない。
なんで理子はそんなピンポイントな指示が出せたのか。
あかりは4対4の本番でたしかにバイクを使ったが、まさかあれは理子が誘導した?
さすがにAAのことまではうろ覚えだ。
つまり今、あかりに乗馬マシーンをさせる明確な理由を呈示できない。
故に……
ビシッ!
最初から右手にパームしていた4つの小石を、それぞれの額に投げる。
ライカは裏拳で叩き落とし、志乃は右腕で受けた。
麒麟は顔に傷が出来るのを防ぐ訓練でも受けているのか、状況を理解しないまま反射でヌイグルミのジョナサンをかかげて防いでいた。
「あかりさん!」
「あかり!」
そして当然のようにあかりはおでこに直撃。
そのまま後ろにこけてこてん、と尻餅をつく。
「それと常在戦場の意識。強い武偵と弱い武偵の違いはそれの有無なの。敵は変装してあなたたちの身近な人と入れ替わっているかも知れない。ロッカーの首の位置にピアノ線が張ってあるかもしれない。道ですれ違った人が急に背後から襲ってくるかもしれない」
「そ、それは……。でもそこまでいったら」
尻餅をついたまま涙目で声を上げるあかり。
他の子達もなにか言いたげだ。
俺もだいぶ染まってきたな。
前は年下の女の子に石投げるとかあり得なかったし。
「異変や違和感を敏感にキャッチするのよ。例えば、私は右手で小石を4つもパームしていたのだから手のひらの動きがずっとぎこちなかったでしょう?」
「え。あ、はい」
「じゃ、早速訓練を開始するわね」
よし!ごまかせた。
◇◇
理子直伝の
だがその程度の衝撃を大気に逃がせずしてなにがSランクか。
掌底突きは手を痛めにくいし筋力が無くても一定のダメージを保証してくれるという点で、小柄でCVRの麒麟ちゃんに向いている。
拳よりもリーチが短くなるが、彼女の場合“一定ダメージ”はその欠点を補って余りある。
内臓への衝撃を受け流しているから、ぺちぺちと可愛い音を立てて俺の胴に手のひらを突き出す麒麟ちゃん。
クソ可愛い。
こんなちっちゃ可愛い女の子にぺちぺちされたらテンション上がっちゃうのが男の悲しい性なんですよね……。
ライカとの特訓が割とガチなので、彼女に準備運動というかウォーミングアップというかをさせている。
その間俺が暇なので麒麟ちゃんの面倒をみているのだ。
可愛いし。
お手々ちっちゃい可愛い……。
しかし表情には出さない。
「終わったっす」
お、と思って振り向くとそこにはむっすり顔のライカ。
嫉妬とか可愛いかよ。
大丈夫。百合の間には割り込まないって。
「それじゃあ麒麟ちゃんはランニングに移ってね。ペース落ちたり私が止める前に走るの辞めたら……ライカちゃんの唇でも奪ってしまおうかしら」
「「んな!?」」
「はいよーいどん」
「ちくしょうですのー!」
反論の隙も与えず開始の合図。
麒麟ちゃんには佐々木邸のお庭を走ってもらう。
その最中にもあかりたちの様子をチェックして頭を動かしてもらう。
「愛されてるわねえ。こっちも始めましょう、ライカちゃん」
「……うっす」
「日曜の夜までに私から合格判定を貰えるように頑張りましょうね。もし出来なかったら麒麟ちゃんの唇を私が貰うわ」
嘘である。
もし出来なかったら、じゃない。
出来るようにさせるのが俺の役目なのだから。
これはただの発破。
先程も言ったが、俺は百合の間に割り込む趣味は無い。
「……ッ!!」
しかし、瞬間。イノシシのように突っ込んできたライカ。
それを流れる水のようになめらかに
ライカは受け身も取れずにスッ転んだ。
「うぎっ」
「挑発にかかりやすすぎ。あの子が貴女の弱点だって、敵に教えているようなものよ。貴女の役目は守備であり時間稼ぎ。無理に攻めてやられるのが一番やっちゃいけないパターンでしょう」
「うっす!」
流石
すぐに起き上がって構えてきた。
しかし、私は既にそこにいない。
軽い助走をとり強く踏切を行い、手を付きながら足を思いっきり振り上げたのだ。
所謂ロンダート。
正式名称、側方倒立回転とび1/4ひねり後ろ向き。
その改良版。
通常は二次元的な移動をする動きであり、少なくとも自分の身長より上に跳ぶことは無い。
しかし、俺は足を上げる瞬間に重心移動を駆使して跳びあがり、ライカの上空を取っていた。
勿論スカートのプリーツは乱さないように、紅いセーラーカラーは翻さないようにしているので全力で素早く行った。
素早くスマートに動けば慣性の法則(たぶん)で服が乱れないのだ。
ドンッ!
腕を輪っか状にして落ちると、その輪からライカの首が生える。
俺は足をたたんでいるため足が地面についていない。
着地にかかる衝撃をすべて彼女の肩に押しつけたのだ。
押しつけたのは肩だが、ダメージは足まで貫通してるだろうな。
そして背中にへばりついた私のせいでバランスを崩して後ろに倒れ込みそうになるライカだが、反射的に肘鉄を繰り出してくる。
いい反応だけど、それはへばり付きが甘い相手にしかきかないよ。
俺は彼女にだいしゅきホールドをして完全にへばりついているため、肘鉄もたいした威力が出ていない。
そのまま首を
「今の、着地の衝撃を肩ではなくそのまま首にかけていれば即死だったわよ。集中して」
「うッ……、す」
逆転の一手が無いことを確認して首を放してやる。
そうとう苦しかったらしく、復活にはしばらくかかりそうだ。
ふらふらと起き上がろうとする彼女の腕を取り、彼女を地に押さえつける。
しかし、先程とは違い俺が上でライカが下。
つまり覆い被さっている。
「それともしばらく
「!???」
できるだけ妖艶チックにしたかいがある。
ふりふりした女の子しか好きじゃ無いはずのライカが真っ赤だ。
そして麒麟ちゃんに目を向ける。
もう限界なのか?と。
それはちゃんと伝わって、彼女は落ちてきたランニングのペースを戻していく。
「……さっきからどういうつもりなんですか」
「ごめんなさい。ちょっと確かめたいことがあったの」
「確かめたいこと……?」
「貴女たち、お互いが足かせになってるでしょ」
麒麟ちゃんはまだましだが、ライカが酷い。
夾竹桃襲来イベントにおいて、ライカは麒麟ちゃんを信じられず敵の策にまんまとはまってしまう。
「例えば何らかの理由で連絡を取り合えない状況で、麒麟ちゃんが敵の女に
「そ、それは……」
彼女は答えることが出来ないでいた。
本当は冷静でいられると言いたいのだろう。
信じられると言いたいのだろう。
自分の役割に従事できると言いたいのだろう。
しかし、断言できないのだ。
それが答え。
彼女の性格から、意地を張って「出来る」と言いだす可能性も考慮していたんだけどね。
手間が省けてよかったよ。
「貴女たちは、互いが互いを思い合えている。人間関係としては良好ね。でも
「……いざというときの判断を誤らないため、てやつですか」
「そうよ。そしてそれは戦姉妹にも同じ事が言えるの」
「もっと他人行儀になれ、と?」
「正しくは“溺愛しすぎるな”かしら。可愛い子には旅をさせよという言葉があるのだけれど、それができるのは可愛い子を旅に送り出す勇気と必ず試練を乗り越えて帰ってきてくれるという信頼が必要なの。それがないと、いざというときの判断を誤るわ。さっき貴女が私に無理に攻撃を仕掛けてしまったように。麒麟ちゃんは確かに
「……はい」
おっと。
ライカの説教をしていたら麒麟ちゃんが限界を超えていた。
これ以上走らせても無意味だな。
「麒麟ちゃん、ランニング終了にしましょうか」
ドサッ
と無言で倒れて息を必死にする彼女は、本当に頑張ったと思う。
返事ができないほど極限まで体力を振り絞ったわけだ。
俺はライカに休憩を言い渡し、麒麟ちゃんのもとへ駆け寄る。
「志乃ちゃんの仕上がりはどう?愛沢姉妹を相手にできる練度だと思う?」
こっからが本番だぞ。
一度見た敵の動を記憶から掘り起こし。
そこから実力を予測して。
現在の佐々木志乃の動きを分析して。
そこから彼女の仕上がりをはじき出して。
愛沢姉妹の実力予想とすりあわせる。
これを体力使い切ったこの状態で行う。
正直キツいと思うが、追い詰められたときほど“チームの頭脳”が大切になってくる。
「ッ……、はぁっ……、まだ、ですの……。あの程度の反撃は通用しない……ですの……」
「1+2×3は?」
「7」
よし。
今はこの程度でいっかな。
今度は麒麟ちゃんに休んどくよう言ってライカの元に戻る。
あ、勿論麒麟ちゃんにみんなの様子を把握しながら頭を回し続けるようには言ったけど。
「おまたせ」
殺気も出さず、のんきに近づいて腹に拳をぶち込もうとしたらぎりぎりで防がれた。
俺の見た目のせいか、相手が油断しやすいんだけどね。
こちらのゆるゆるな雰囲気につられてポケーとしちゃうんだよね、みんな。
でもさすがはBランク。
間合いに入ってから少し遅れて気がついたみたい。
俺がナイフ持ってたら致命的な遅れだが、今みたいに素手なら及第点かな。
1年でこれとか、将来が楽しみだ。
そのまま右手を掴まれてひねられそうなので、すぐさま鼻っ柱にお見舞いする。
腰も動かしてないし体重移動もしていないので威力はないが、その分
咄嗟の防御態勢でバランスを崩したライカに防ぐ術は無い。
また、拳は相手の肉の薄いところに当てるとかなりのダメージになる。
例え腕の力だけでのカスパンチだろうと、鼻っ柱に拳骨は効くだろう。
「さきほどから思っていたのだけれど、口数が少ないわよ」
ちょうど足下に小石が落ちてたので、遠くでひぃひぃと息を乱しながら腰を振るあかりにぶつけてやる。
常在戦場の意識はまだまだみたいだ。
「……っ」
他所に意識を向けた俺を見て隙だと思ったのか、背後から鋭いスライディングで俺の足を狙ってくる。
とみせかけて手を付き跳ね上がるライカ。
狙いは側頭部!
俺はそれを右手でキャッチするが、ライカはそのままアサルトライフルを抜き至近距離で発砲してくる。
掴まれることを見越していたか。
通常、相手を逃がさしたくないときは自分が相手を掴む。
しかし、この子は相手に自分を掴ませて相手の位置を固定した。
強襲科なら割と当たり前に習うことではあるが、実践で咄嗟に使えるのはたいしたものだ。
明らかに2年生レベル。
実戦の無い付属中学じゃあ培えないこのセンス、生まれつきだな。
すかさずの発砲も含めていい動きだ。
だが当たらん。
ライカは蹴りを放ったとき、俺の右手に左足を掴まれた。
宙ぶらりんなわけだ。
そして俺は振り向きざまに、咄嗟だったから利き手で掴みにいった。
結果、身体を少しひねることになってしまったのだ。
だからどうせならとそのまま180度回転して肘鉄を食らわせ地面に落としてやる。
あの場面は、掴んだらすぐさま放り投げるのがセオリーだがそうしなくてよかった。
それを狙ってたみたいだし、放り投げるより銃の方がはやかっただろうね。
まあ、銃弾で今更どうなることもないけど。
……改めてこの身体のスペックは異常だな。
「今のはよかったわ。あと先程の話の途中なのだけれど、戦闘で稼ぐ1分と会話で稼ぐ1分はまるで違う。無知な振りをして相手の知的優越感を刺激し長々と語らせたり、後は相手の目的を聞いたり」
「……普段はもっと会話しますよ。でも、今はさすがにそんな余裕ないっす」
受け身を取って落下ダメージを防いだライカが立ち上がる。
「相手が強いほど会話が欲しいの。今だって、戦闘が始まったら1秒粘るのにも一苦労でしょ?でも今みたいに会話をしているときは凄く時間を稼げてる」
「……たしかに。しかも口数が減った時点ですでに気圧されて、精神的にも負けてるんですね」
そうゆうこと。
さあ、続きを始めましょう。
超難産。
めちゃくちゃ時間かかった。
一応upしたけどこんな感じでよいのだろうか。
ところで前書きで原作とAAの違和感というか噛み合わないところの話をちらっとしましたが、他にもそういうのけっこうあって。
3日内解消規則(スリーデイズキャンセル)がその最たる物かなって。『戦姉が戦妹を護れなかったから契約破棄』って、そんなアホな!と。武偵は自立せよ。要請なき手だしは無用の事 って武偵憲章にもあるし、戦姉は戦妹を導くものであって護るものではないと思うんだけどなあ。
解釈違いですわ。
結局その後全く出てこない死に設定になっちゃったし。
絶対物語を盛り上げるためにその場で作った思いつき設定でしょ、て思ってる。
まあ個人の感想ですが。
はしやすめにつぎはごちうさの方書くかな……。
難産すぎてちょーつかれた。
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ワザマエ
4対4のために特訓するあかりたちに稽古を付けてあげた。
あの後、1年たちは無事に高千穂班に勝利したらしい。
微力ながら、そのお手伝いができて嬉しいよ。
だが、俺も慈善事業屋じゃあ無い。
当然報酬を期待して彼女たちを手伝った。
そしてその報酬はすでに俺の手の中にある。
そう、ライカちゃんのアドレスを手に入れたのだ!
ぐへへ。
1年への足がかりだ。
後輩達の中でも彼女の面倒を重点的に見ていたのもこれが狙いだったのだ。
志乃ちゃんは白雪と繋がっているから俺の不純な動機がバレたときにダメージがでかい。
あかりの知り合いはたぶん既に殆どが彼女に墜ちているだろうから効率が悪い。
麒麟ちゃんは中学生だから論外。彼女の知り合いでインターンってのはいるのかいないのか。
兎に角これも効率は最悪。
そこで白羽の矢がたったのがライカだ。
彼女はあかりや志乃ちゃんと比べても2年との繋がりが薄い。
そして“強くて格好いい女子”として女子人気は高いがあかりのような異常さはない。
ふふふ。
完璧な人選と作戦だな。
俺は仮にもSランクなので「暇なときがあったら訓練に付き合ってあげる」と言ったらあっさりゲットできた。
ちょっと無防備すぎやしませんかね?
あ、今俺志摩子さんなんだ……。
じゃあしかたないか。
志摩子さんにアドレス訊かれたら男女関係なく嬉々として教えるわな。
そして特訓と称してライカと遊んだり、俺の戦妹にふさわしい1年生を紹介してくれよと直球で頼んでみたり。
それなりの交流を深めつつかなりの時が過ぎていった。
そして今は理子のANA600便ハイジャックもとっくに終わって、ブラドの館に潜入する次期である。
ハイジャックはどうあがいても野次馬出来なかったので武藤達と一緒にわちゃわちゃやるだけで終わってしまった。
まあ、武藤達の様子も原作にあったんだから、原作イベントに立ち会ったと言えるだろう。
話を戻そう。
そろそろキンジ達が紅鳴館に潜入する時期なのだが、具体的な日にちがわからん。
当たり前だ。
原作3巻くらいだったと思うけど、あれ読んだの何年前なんだよって話。
けど問題無いだろう。
原作と違って俺たちは既に
イ・ウーの構成員と直接対決であったのなら俺と白雪とレキは呼ばれないかもしれない。
だが今回はむしろ、(理子の想定では)鬼の居ぬ間にということなので呼ばれない理由が無い。
人手を多くしてできるだけ素早く行いたいだろう。
細かい日付を覚えていなくても、理子から招集かかるだろうし気にしなくて大丈夫。
それよりも目の前の仕事に集中しなきゃね。
「志摩子先輩!お待たせしました!」
お、来た来た。
女子にしては高めの身長。
金髪をポニーテールにまとめており一見男勝りだが、その実誰よりも女の子な可愛い後輩が。
「ライカちゃん」
振り向きざまに、所謂“髪の毛を耳にかけるポーズ”!
ふんわりと微笑むのも忘れない!
おらッ、志摩子さんフェイスでの渾身のスマイルやぞ喰らえ後輩!
クリティカルが入ったのだろう、赤面して怯むライカ。
反応が素直すぎる。
もっといじりたい。
けどやり過ぎると嫌われちゃうかもしれないのでこの辺にしとこう。
俺たちはこれから武偵のお仕事なのだ。
俺たち武偵は掲示板に貼ってある依頼書から良さそうなモノを選んで申請する。
その依頼書には人数や武偵ランクなどの条件が記載されており、俺が手に取ったモノは『人数2~4、武偵ランクがB以上で肉弾戦ができる人』というものだった。
そこでライカに電話したら即OK貰えたってわけ。
ちなみに内容は空手の組み手相手。
かなり実戦的な流派で、柔道や剣道など空手以外の武道をやっている人達とも手合わせをしてもらっているらしい。
確かに実戦で、相手が同じく空手の動きをしてくる確率はとても低い。
本来は強襲科のBラン武偵向けの依頼であり、依頼主もそれを想定していたはずだ。
まさか命の危険も無いこんなお安い仕事をSランクが受けるとは思うまい。
門下生は高校生中心なので時間は19時から22時の3時間。
それを3日間やって1人九千円、つまり時給千円である。
3日間で1万円いかないとか普段のSランクの任務額からするとありえない。
時給1万でもおかしくない。文字通り桁が1つ違う。
だが俺はお金より可愛い後輩とのスキンシップタイムが欲しかった。
実戦を強く想定しているため男女混合というところもポイント高い。
さりげなくお触りも楽しめちゃうわけだ。
え?ライカ本人じゃなくてライカに紹介して貰った戦妹候補と来い?
残念ながらまだ「これだ!」という子がいないのだ。
スールの誓いを交せるような……、こう、なんていうの?お淑やかで、俺のことを「お姉さま」もしくは「志摩子お姉さま」と呼んでくれるようなそんな感じの子。
おのれあかり許さん。
そんなわけでライカとデートなのだ。
◇◇
「そこまで。勝負あり!」
ライカとデート出来たのは学校から道場に行くまでの道のりだけだった。
道場についてそうそう手荒い
実戦的流派だからって、いちおう空手なのに不意打ちまで教えてんのかよ。
と思ったが教えてるわけではないらしい。
ただ、いろんな人達と手合わせする過程で“自分に合っていると思う技”があればモノにしろというのがここの教えらしい。
武偵とも対戦させてるみたいだし奇襲するようなスタイルの人と戦う事があっても不思議じゃあ無いな。
変な癖付かないの?ときいたら「その時は指導する」と師範殿。なるほどね。
挨拶が終わったら、その後は貸し出された胴着に着替えて片っ端から組み手してる。
おらよッ!
「ゴハッ!?」
「そこまで。勝負あり!」
一番強い門下生でも
ライカでもなんとか全勝を続けている。
まあ、強くならなきゃ死ぬ俺ら武偵と好きで学んでるこいつらとじゃあそもそものモチベが違うしな。
一般の高校生なら充分すぎるほど強いけど。
……充分というか不必要なほど強い。
彼等は何と戦っているんだ?
とりあえず全員と組み手し終わったんだが……。
次は制服に着替えなおしてもう一周するか?
貸し出しの胴着は着ても着なくてもよかった。
俺は着替えるの面倒だし制服のままでもよかったのだが、ライカの胴着姿が見たくて着替えることにしたのだ。
そのライカは今、武偵ランクで言うところのぎりぎりCくらいの女の子とやっている。
女の子が力強い踏み込みとともにライカのガードをかいくぐるような右ストレートを放った。
ダンッ!と音を立てる踏み込みと共におっぱいが揺れる。
で、でかい!
お、正拳突きを躱したライカが距離を詰めたぞ。
密着!密着してますよ奥さん!あら^~
胴着によってパツンパツンになってるおっぱい同士が触れるか触れないかの距離感……あ!今触れた!
ふふふふふ。
しかし、あの女の子は拳の動きがコンパクトなスタイルだから、密着されるとただでさえ控えめな拳の威力が完全に死んでるな。
ライカは彼女の、ここからの対応力を見たかったんだろう。
しかし先程の正拳突きは
そのまま攻撃力の無い拳を無駄に振るっている間にライカが投げ技で決めた。
良い感じじゃん。
組み手が一段落していったん休憩になったので、ライカに声をかけに行こうとしたら師範代さんがこちらにやってきた。
「お疲れ様です。流石
「お疲れ様です。いえいえ、こちらこそ良い刺激を得られました。流石実践主義です」
例えば、いっけん床も平らで周囲になにも無いように思えるこの稽古場でも、俺の汗や照明など外的要因を利用していく姿勢は見習いたい。
今までこういう場所は地形を利用できない典型的な場所だとすら思っていたが認識を改める必要がありそうだ。
……こいつらがやっているのは本当に空手か?
まあいっか。
「ははは。しかしSランクには些か退屈でしょう。宜しければ一戦いかがです?」
「……いいのですか?門下生達の前で」
「あなたは持てる範囲のすべての手段を用いて戦う。わたしはあくまでも“空手“の範囲で戦う。そういうことです。なんなら武器の使用もご自由に」
なーにが、空手の範囲で~だ。
おまえらにとってどこまでが空手かわっかんねえよ。
気を練って弾を撃ってきても驚かねーぞ?
そういえば、武偵高の教師はなぜか女が多い。
大人の男と戦うのはけっこう珍しいぞ。
これも貴重な体験になるな。
「よろしくお願いします」
さて、勝負を受けたのはいいがどう攻めたものか。
相手は
こっちから言った方が良いんだろうか?
それともまずは受けてみるべき?
うーん、と棒立ちで悩んでいると正拳突きがとんできた。
右足の親指付け根を軸に回転させる。
指先を内側に巻き込むように回転させると、左足が勝手に後ろに下がって
それで身体をずらして避けたわけだが、今の拳はいつも受けてる
最短距離をただまっすぐに。
それだけを目指してひたすら、愚直に努力を積み上げたのが伝わってきた。
「今の避け方は初めて見ましたね。武道に限らずほとんどのスポーツは最初から
「初めから半身をとってしまうのは、特にカウンタータイプの人とかはもったいないと思います。半身を取る動作そのものが回避になりますし、そのままカウンターに繋げやすいですし」
「常人の反射神経ではモロに攻撃を貰ってしまうだけですね」
そうか?
少なくともおまえらなら普通に出来そうだけどな。
「今度は此方から参ります」
とりあえず思いっきりぶん殴ってみた。
当然右腕でガードされるが当たり前なので淡々と次に繋げていく。
今俺の拳は彼の太い右腕に触れている。
今度は右足の指先を外にひねるように回して腰も回すように入れる。
身体ごと少し右回転した手の平が彼の腕を捻り弾く。
この間僅か1秒足らず。
隙だらけになった顔面に向かって、裏拳をたたき込む!
バシィンッ!
音が響く。
当然それは、俺が師範代さんの顔面に一撃を入れた音。
ではない。
柔らかすぎる身体から繰り出される超近距離ハイキックで脳みそを揺らされそうになった俺は、とっさに裏拳を解除して後ろに下がっていた。
今の音は彼が空気を蹴った音だったのだ!
……いやいやいや、おかしでしょ。
鞭じゃ無いんだからさあ。
「今の右手一本で強引に攻撃し続ける動きも空手にはありませんねえ。空手は基本的に左右交互の拳を順番に打ちますし蹴りもあります」
「それが自然だと思います。そしてその常識を踏まえた上での不意打ちだったのですが、失敗してしまいました」
嘘だ。
いちいち知的なコメントしてくるからソレっぽく返してみただけです。
本当はそこまで考えてません。
「では次は此方の番ですね。とっておきをお見せしましょう。もしこれをノーダメージで受けきることが出来れば報酬額に色を付けましょう。具体的にはゼロを1つほど」
ほう?言ったな?
吐いた言葉は取り消せないんだが?
「いつでもどうぞ」
「では、参る!」
一見すると普通の正拳突きだが……なにかあるのか?
先程とは逆に左足を前に出した半身で、前に出ている左腕でガードする。
凄まじい衝撃だが、これより凄いのをいくらでも受けてきた。
この程度ならすべて地面に流してしまえる。
勝ったな!
俺はそう思い、衝撃が腕から肩に伝わった瞬間。
「んッ!?」
肩が爆発した。
正確には衝撃が肩で爆発したのだが、体感的には同じだった。
「な、なんですか……?今のは」
曲芸か?
「今のは中国武術の
?????????
す、すまない。
彼が何を言っているのか俺は理解できない。
しかしそれを表に出したくは無い。
志摩子さんのキャラが崩れちゃう。
「なるほど。だから衝撃が内部に直接来たんですね。まるで体内で衝撃が爆発したみたいでした」
発勁は筋肉や脂肪を貫通して内臓に直接ダメージを与えることが出来る。
しかし腕を伝って肩にダメージを、なんて出来るとは思えない。
どうなってんだ……?
「発勁では精々衝撃の箇所をずらす事くらいしかできません。例えば胃の辺りに打って衝撃を心臓に通す、などですね。しかし正拳突きに昇華すればこのとおり。これが“空手”の神髄なのです」
空手ってなんだよ。
俺の知ってる空手と違うけど。
もうめちゃくちゃだよ。
「残念ながら、報酬は変更なしということで」
残念なものか。
むしろラッキーだよ。
ライカと一緒に受けるということ以外は簡単すぎてつまらん仕事だと思っていたが、どうやらおもしろいことが学べるらしい。
「ちなみに、元々の発勁を見せてくれたのは君たちと同じ武偵だったよ。峰さん、知ってるかい?」
「理子さんですか!」
世間って狭いな。
普通に驚いたわ。
俺はこの後、なんとかその技を使えるようになった。
ただ、それに夢中になってライカといちゃいちゃできなかった(泣)。
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