GATE コンバインフォース 彼の地にて、斯く戦えり (COTOKITI JP)
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七時間も必要無い

無性にHalf-Life2とクロスオーバーさせたくて見切り発車で書きました()
恐らくすぐエタるでしょう。


俺は、かつての世界の日常を知らない。

 

昔の人々がどのような生活を送っていたのか、どんな景色が広がっていたのか、分かるはずもない。

 

あの日(・・・)の事は話でしか聞いた事がないし、見たことも無い。

 

だけど、それが当時の人々の日常の崩壊だっていうことは理解している。

 

今の日常は、きっと本来いるべきではなかったのであろう存在達と共にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈シティ32 第4区(旧銀座)〉

 

東京、そして銀座。

そこにかつての人々の営みは存在せず、そこにいるのは青色に統一された飾り気の無い服を身に纏う老若男女と、ホルスターに拳銃を提げてその市民達をマスク越しに見張る者達だけだった。

 

 

今からずっと前、地球はある者による侵攻を受けた。

彼らの名は、『コンバイン』。

多次元規模連合組織である彼らは、全ての始まりとも言える『ブラックメサ事件』の直後に地球への侵攻を開始。

人類の抵抗も虚しくコンバインフォースによって地球の主導権を握られたあの戦いはそのあまりの呆気なさから『七時間戦争』と呼ばれている。

 

地球を支配下に置いたコンバインはその圧倒的な武力による圧政を敷き、地球人に最早かつての繁栄は残されていなかった。

 

だが、そのコンバインによる圧政から逃れた者達もいた。

 

「あーあー、やだやだ。 こんな真夏日にまでパトロールに駆り出されるなんてよ」

 

「しょうがないでしょ、CP(・・)なんてコンバインの組織の中じゃ下っ端なんですから」

 

「まぁ、今も今で案外悪くないんだけどな……」

 

銀座の公道を走る黒く塗られた装甲車に乗る二人の男は人間でありながらコンバインに属する人間であった。

 

民間保安軍(Civil ProtectionまたはCP)はコンバインが地球を支配下に置いた後に創設した現地の地球人で構成される治安維持部隊だ。

地球全土がコンバインの支配下にある現在、人々は圧政に苦しめられているが、その苦しみから逃れる唯一の方法がこの民間保安軍に入隊することである。

 

一部の例外(・・・・・)を除き、殆どのシティに住む市民は最低限の栄養しかなく、味気無い糧食しか食べることが出来ないが、民間保安軍に所属する地球人兵士は様々な嗜好品や娯楽等の制限が解除されるのだ。

圧政に苦しむ彼らがこれに飛びつかない筈も無く、事実民間保安軍への入隊希望者は後を絶たない。

 

「しっかし、ここって随分恵まれた所だよなぁ」

 

「どうしたんすか、急に」

 

部活である兵士に装甲車を運転させ、上司である彼は窓の外を眺めていた。

侵略者によって支配されたにしては、このシティはかなり栄えている。

真夏日の為に外を出歩く人は少ないが。

 

時々道路の路肩に民間保安軍の装甲車が停まっており、兵士がマスクを外してクーラーの効いた車内で小休憩を取っている。

 

他には何機かのスキャナーが独特な音を立てながら忙しなく街中を飛び回っている。

 

「他のシティってもっと規制が激しいんだが、ここに至っては呑気に店まで営業してやがる」

 

そう、その一部の例外がまさにここ、旧日本である。

旧日本国内には全部で14の大きなシティがあるのだが、なんとここではまだ一度もレジスタンスによるテロ攻撃やその他の犯罪が行われていないのだ。

 

現在もコンバインはしょっちゅうプロパガンダで日本は世界で最も治安の良い所だと報じている。

 

元々の日本の国民感情によるものなのか、単に力不足だったのかは分からないが、その治安の良さのお陰で良いこともあった。

 

旧日本国内にある全てのシティにおける大幅な規制の緩和だ。

他の国にあるシティとは違って、日本のシティは一般の市民にも嗜好品や娯楽の自由が認められているだけでなく、民間企業や様々な店の活動まで許可されている。

 

コンバインによる厳しい監視付きとはいえ、破格の待遇だった。

 

「確かに、ここじゃ東欧みたいなレジスタンス騒ぎなんて起きませんからねぇ」

 

「こんなに平和だったら、オーバーウォッチなんて寄越さずにCPだけで事足りる訳だ───」

 

そんな時だった。

彼らが謳歌していた平和が崩れ去ったのは。

 

 

 

《銀座付近に展開している全ての車両へ、第6区にて大規模なテロ攻撃が発生。 至急急行せよ》

 

車内無線機から流れた抑揚の無いその声に、空気が凍り付いた。

テロ?このシティ32で?

聞き間違えかと思ったが、無線の主は確かに『テロ攻撃』と言った。

まさか、ここでも遂にレジスタンスが活動を始めたのか。

 

「……こちら24号車……了解。 直ちに向かう……」

 

「嘘でしょ…………」

 

この無線の内容に部下も唖然としていた。

何しろ今までに経験しなかった事態だ。

 

「兎に角、第6区に向かうぞ」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第6区に着いた頃には現場は阿鼻叫喚のは嵐と化していた。

どこを見ても青、青、青。

通りに逃げ惑う大勢の市民がひしめき合い、そのせいで車両は足止めを食らった。

向こうからはCPがテロリストと交戦しているのか銃声が聞こえてくる。

 

いつまでも通れるようになる気配の無い道路に二人は仕方なく降りて徒歩で向かう事にした。

ダッシュボードからCPの主武装である短機関銃、MP7を取り出し装甲車のドアを開く。

 

「ここからは歩きで行くしかない。 それとマンハック(・・・・・)を忘れんなよ!」

 

「了解!」

 

装甲車から降りた二人は市民の波を掻き分けながら現場まで走って向かう。

今も銃声は続いている。

しかも多分数が増えている事からして敵の規模はそれなりに大きいのだろう。

 

「民間保安軍だ!道を開けろ!」

 

民間保安軍の名を出して、漸く人二人は通れるスペースが空く。

押し寄せる市民にもみくちゃにされかけながらも何とか人の波を抜ける事が出来た。

 

彼らは二人ともレジスタンスなんて連中と戦った事なんて無い。

いつもシティ32をフラフラとパトロールしては決められた時間に戻るだけの単純な日常だったのだ。

 

この通りの先にレジスタンスが、人間がいるのだと思うと緊張が高まり、MP7のグリップを握る力が強くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

《こちら10-37!!敵の数は尚も増大中!!増援を要請する!!》

 

《これ以上抑えられない!!後退、後退し───》

 

ピ──────。

 

ノイズ混じりの断末魔の後に甲高い電子音がマスクに搭載された無線から聞こえてきた。

これが示す事は、兵士の心臓の停止。

即ち、コンバイン兵士の死だ。

 

二人の目に映ったのは、明らかに時代遅れな騎馬兵に槍で顔を貫かれたCPの兵士だった。

それだけじゃない、その後ろから更に大量の騎馬兵とおかしな肌の色をした人間が剣や槍を持ち、鎧を身に纏ってこちらへ殺到していた。

 

騎馬兵の後ろの道路には、斬られ、刺し殺された市民の死体が幾つも転がっていた。

 

「こ、コンタクト!!」

 

そう叫びながら、彼は腰に身に付けていたマンハックを真上に放り投げる。

放り投げられたマンハックは胴体にあるヘリのローターのようなブレードを展開すると、それを高速回転させながら騎馬隊の方へと向かっていく。

 

他の区画でパトロールしていたCPも次々とやって来て、装甲車でバリケードを築いた。

 

「撃て!ここを通すな!」

 

装甲車によるバリケードから身を出した兵士達からの一斉射撃が行われる。

目の前まで迫って来ていた騎馬隊はその一斉射撃によって次々と転倒するが、その後ろには騎馬隊の倍以上の兵士がいる。

 

騎馬隊の動きが止まった頃、そこにいた兵士達は風切り音を聞いた。

それも一つではなく数十、数百という数。

 

それが何なのか分かった頃にはそれは既にこちらに降り注いで来た。

 

矢だった。

弓兵がこちらに向けて数百もの矢を放ってきたのだ。

装甲車の車体に当たった矢が跳ね返り、あちこちに散らばる。

兵士達は急いで身を隠すが、肩や足に矢を受けた者もいた。

 

装甲車の影でやり過ごしていると、唐突に隣にあった装甲車が吹き飛んだ。

その装甲車は車体が何か質量の大きい物が衝突したことによって潰れ、アスファルトの上を滑りながら勢いよく横転する。

装甲車の影に隠れていた兵士が巻き込まれ、装甲車の下敷きになる。

何事かと思うと、矢とは違う何か大きなものが空から降ってきてはアスファルトを凹ませる。

 

「投石器……!?」

 

敵部隊の最後方にいる複数の投石器がこちらへ向けて岩を発射している。

投石によって道路がどんどん歪んでいき、また別の車両に当たって吹き飛んで遂にバリケードが崩壊した。

 

これを好機と見た騎馬隊は突撃を再開する。

CPは既に数人の死者が出ている。

即席の防衛線が崩壊するのは時間の問題だった。

 

オーバーウォッチ(・・・・・・・・)の連中はまだ来ないのか!?」

 

「大丈夫だ、もうすぐ来るぞ!」

 

今回のテロは街中でなんの前触れも無く発生した。

その為にCPもオーバーウォッチも対応が遅れたのだ。

とはいえ、相手は所詮訳の分からない中世の軍隊だ。

地球よりも技術力に優れているコンバインに適う相手ではあるまい。

 

《こちらヘルダイバーから第6区の全CPへ、戦闘は我々が引き継ぐ。 よく持ちこたえた》

 

バリケードを突破しようとしていた騎馬隊が突然真上からの機銃掃射によって薙ぎ倒された。

上を見ると、甲殻類の甲羅のようなものを纏った航空機が第6区のあちこちでホバリングしていた。

 

「ドロップシップ……オーバーウォッチか!」

 

「やっと来やがった!」

 

ドロップシップのコンテナに搭載された機銃の銃口が敵兵に向く。

直後、独特な銃声と共に光弾が凄まじい連射速度で放たれる。

光弾は敵の盾や鎧を容易く貫き、皮膚を食い破って内蔵を抉る。

 

あの機銃の構造も光弾が放たれる原理も知らないが目の前で敵兵が人間からただの肉塊に加工されていく所を見てしまえば、嫌でもあれの威力が分かってしまう。

 

通りにいる敵をある程度片付けると、ドロップシップは降下し、着陸した。

ドロップシップの腹に抱えられていたコンテナ後部にある扉が開き、中から続々とCPの兵士より重装備な兵士達が出てくる。

 

彼らがCPよりも上位である、『オーバーウォッチ』と呼ばれる組織だ。

CPと違って彼らは、肉体改造を施されて強化された兵士だ。

その強化は、内臓から骨格に至るまであらゆる所に施されている。

コンバインはプロパガンダで、彼らオーバーウォッチの事を進化した新人類、『ホモ・サピエンス・コンバイヌス』と呼んでいる。

 

民間保安軍よりも上位の組織であるということは、勿論装備も充実している。

 

「おっ、あれが例のパルスライフルか」

 

オーバーウォッチの兵士達が所持する火器、パルスライフル。

コンバイン独自の技術で開発されたこの兵器はCPを除く全ての組織に配備されており、コンバインの主力小銃である。

 

当然MP7なんかよりあっちの方が性能はずっと高い。

露出した薬室と撃針が特徴的である。

リロードは銃内部に搭載されている小型のアームが自動的にやってくれる為、とても使いやすいそうだ。

 

未だ応戦しているCPにオーバーウォッチも加わり、パルスライフルによる射撃が行われる。

 

それだけじゃない。

ドロップシップ以外の航空機がこちらに向かって来ていた。

 

《こちらガンファイター、上空より航空支援を行う。 爆発に巻き込まれるなよ》

 

ビルの影から飛び出てきたのは、『ハンター』と呼ばれるコンバインの攻撃ヘリ。

ハンターはその場でホバリングすると、機首下の機銃をチャージした。

チャージする音が鳴り止むと、まるで竜が炎を吐くかのように光弾がばら撒かれる。

 

騎馬隊どころかその後方にいる未知の知的生命体すら蜂の巣にし、通りが着弾による砂塵で見えなくなった。

 

《デリバリーの時間だ。 離れろ》

 

デリバリー、という事は恐らく爆撃を行う気なのだろう。

無線に従い、オーバーウォッチの兵士と共にその場からそそくさと退散する。

 

ハンターは未だ煙の立ち込める通りの真上まで移動すると、胴体から何か球状の物体を投下した。

その物体は地面と接触した途端に爆発し、最早生きているかすらも分からない敵を粉微塵に吹き飛ばす。

 

巻き上げられていた煙が爆発によって更に広がり、通りの状況は確認出来ない。

 

ハンターは攻撃の手を止め、真上でホバリングしたままである。

あちらも生き残りを探しているのだろう。

 

《……こちらガンファイター、敵兵に生き残りはいない。 この通りの安全は確保された》

 

「おいおい、全部アイツがやってくれちゃったよ」

 

飛び去っていくハンターを眺めながら、彼は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この事件から数日後、コンバインは異世界と繋がる門、『ゲート』の存在を公表した。

そしてそれと同時にこうとも言った。

 

「ゲートの先には地図に無い未開の地が存在する。 我々はそこの調査を行う作戦を既に立てている」

 

……と。

 

この事件と同時刻、別世界線に存在する銀座に於いても同様の事件が発生。

 

この門は、本来繋がることの無かった二つの世界を繋げてしまう事となった。

 

 

 




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