グラブル!~クールボケな団長とゆかいな仲間たち~  (黒猫館長)
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第一話「クールボケな団長とゾーイ」

 グランブルーの空を駆け、世界を旅する者たち騎空団。これはある変わり者の団長「グラン」とその仲間たちの物語だ。

 

 騎空艇「グランスルース」私たちが乗っている船であり生活の場である。この船はもうすでに全空に名をとどろかせている。数々の星晶獣を倒し、世界を救った英雄グランそしてその仲間たちは今や生ける伝説だ。そんな彼らが今どうしているかというと、

 

グラン「アバター倒した…メタトロン…倒したグリリン倒した…シヴァ…めんどい。」

 

 グランは小休憩の中そうぶつぶつと独り言をつぶやいていた。そこに飲み物を渡そうと褐色の女性が現れる。グランの仲間であり戦友である調停者「ゾーイ」だ。

 

ゾーイ「あとシヴァ一匹だ。頑張れ団長!団長なら十分も絶たずに木っ端みじんだ。」

 

グラン「グリリンのことかー!!!」

 

ゾーイ「ひゃうっ!」

 

 その声にグランははっと正気に返り、ゾーイに謝罪した。

 

グラン「すまんゾーイ。ちょっと自分の髪が金髪になって丁寧口調で強すぎる中尾さんと戦っている幻覚が…。」

 

ゾーイ「いつものことだし気にしなくていい。そら団長半汁。」

 

グラン「ああ。ごきゅごきゅ。行ってくる。」

 

 グランは杉玉を片手に立ち上がり気合を入れるために頬をたたいた。

 

グラン「行くぞテメエら!あの雑魚からアニマはぎ取ってやれ!」

 

リリィ&カリおっさん&エウロペ「「「おー!」」」

 

 そうして四人はシヴァ狩りに出掛けるのだった。

 

 十分後

グラン「うへもう死ぬ。…これでアニマ二個はひどい。」

 

ゾーイ「お疲れ。」

 

 シヴァとの交戦によって熱くなった体をゾーイが氷で冷やす。全属性に変化させることができる「レゾルーション」を応用したものだ。グランはほとんどすべての戦いに出なければならない。故に毎日こうして一日の終わりはこうして疲れ果てて倒れてしまうのだ。ゾーイ箱の姿を見るたび心が痛む。彼女が戦えるのは基本的に「光」と「闇」のみ。すべての重荷を共に背負えない罪悪感が彼女にはあった。昔はもっと…。

 

グラン「…zzz。」

 

ゾーイ「寝てしまったな。」

 

 布団を持ってこようと思ったが彼に手を握られてしまって動けない。

 

ゾーイ「まったく甘えん坊だな。そこだけは変わらない。」

 

 全空の英雄と呼ばれようとも例えいつか「世界の敵」となろうともきっとここだけは変わらないのだろうと思うと笑みがこぼれる。そして彼が冷えすぎないように彼を抱きしめる。

 

ゾーイ「力不足かもしれないけれど、どうかこれからも私を頼ってほしいなんて…傲慢かな。」

 

 きっと遠くない未来別れの日が来るだろう。だけどそれまでそれまでは彼のそばに居続けたい。そう思って目を閉じた。

 

 

 

 

 気が付いたらほかの女性団員でおしくらまんじゅう状態だったのは言うまでもない。眠りこける団員たちの下敷きになったグランが苦しそうに言う。

 

グラン「ゾーイ…助けてさすがに息ができん。死ぬ…。」

 

 そういうんじゃないんだけどなあ…。

 



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第二話「天司長の仕事」

 サンダルフォン、かつてはグランたちと敵対していたが、尊敬するルシフェルを殺した墜天司ベリアルと黒衣の男ベルゼブブへの復讐とルシフェルから託させた思いを胸に今はグランの団に所属している。そんな彼は

 

グラン「しばらくこの仕事はお前に任せる。」

 

 今日からグランに重要な仕事を任された。

 

サンダルフォン「ここはいったいなんだ?」

 

 騎空艇のある一室の扉を開けるとそこは全く違う世界だった。多くの人間又それ以外の者たちでにぎわっている。どう考えても普通じゃない。

 

グラン「ここはある多次元空間の一つだ。多くの者はここをサポ石選択と呼んでいる。」

 

サンダルフォン「サポ石選択?」

 

グラン「俺たちの持つ召喚石、この力を貸し出して報酬を得るいわばサイドビジネスだ。ほかの次元の強力な召喚石を持つ者との縁も結べる。やって損のない仕事だ。サンダルにはここで光属性の召喚石の管理を頼みたい。あの変態堕天司が現れるまでまだ時間もあるし、ここで見聞を広げるがいい。」

 

サンダルフォン「団長、そのサンダルって呼び方やめてくれないか?」

 

グラン「そうか。で、サンちゃんお前に管理を任せる召喚石だが…。」

 

サンダルフォン「待て団長!なぜそうなる?」

 

グラン「なんだサンディ。まだ不満か?」

 

サンダルフォン「あの変態を思い出すから…それは…。」

 

グラン「泣くな。前から思ってたけどお前は結構豆腐メンタルだな。(それにベリアルのこと嫌いすぎだろ)…まあいい。お前の呼び方については次回の議題に挙げておく。で、本題だ。手を出せ。」

 

 グランから手渡されたものは縄だった。

 

サンダルフォン「なんだこれは?召喚石は確か星晶のような…。」

 

ルシフェル「やあ。」

 

サンダルフォン「る、ルシフェル様あ!?」

 

 縄の先には拘束されたルシフェルの姿があった。

 

サンダルフォン「だだだだ団長!どういうことだなんでルシフェル様がそれもなぜ縄で拘束されている!?」

 

グラン「この空間では召喚石は実体化している。お前に渡したのがルシフェルの召喚石だったそれだけだ。」

 

 確かにグランに星晶獣の力の一部を譲り受け召喚石にすることでその力を行使できる。ルシフェルの召喚石があることは知っていたがまさかこのような形で再開することになるとは…。

 

グラン「実体化すると逃げ出す馬鹿が一定数いるからな。それを阻止するためにこの縄がある。いいか絶対に逃がすなよ?逃がせばお前のコアはすぐにエレメント化だ。では、頼むぞ。」

 

サンダルフォン「おい団長!」

 

 それを言い残してグランは立ち去ってしまった。サンダルフォンは改めてルシフェルに向き直る。

 

サンダルフォン「ルシフェル様…俺…俺は…。」

 

 いわなければならないことがある。たくさんあるはずなのにそれをうまく紡ぐことができない。かつての過ちの謝罪、気づけなかった愛情への感謝そんな思いたちが心を駆け巡って形を成してくれないのだ。

 

ルシフェル「サンダルフォン。」

 

サンダルフォン「…はい。」

 

ルシフェル「どうだ今の生活は?」

 

サンダルフォン「大変です。団長はあんな感じでいつも振り回されて、団員達も変な奴らばかりで。」

 

ルシフェル「楽しいかい?」

 

サンダルフォン「………はい。」

 

ルシフェル「そうか。そうだろうな。君のあんな顔はあの場所では見たことがなかった。」

 

サンダルフォン「ですが、ずっと寂しかったです。ルシフェル様を失って…あなたに最期まで報いることができずに、ただ仇を返しました。本当に…本当に申し訳ありません!」

 

ルシフェル「それは私も同じだ。ずっと悲しい思いをさせてすまなかった。」

 

 ルシフェルはサンダルフォンの手を握る。涙ぐむサンダルフォンは顔を上げ彼を見た。

 

ルシフェル「団長には感謝しているんだ。こうして君と又言葉を交わすことができるのだから。」

 

サンダルフォン「俺も…本当にうれしいです。」

 

ルシフェル「きっと団長たちとならどんな苦難であっても乗り越えられる。どうかこの世界を彼らから守ってほしい。」

 

サンダルフォン「はい!今度こそルシフェル様のお役に立てるよう全力を尽くします。」

 

ルシフェル「期待しているよサンダルフォン。」

 

サンダルフォン「はい!」

 

女の冒険者「あのー盛り上がっているところ悪いんですけど、ルシフェルさん貸してください。」

 

ルシフェル「まいど!行こうかサンダルフォン。」

 

サンダルフォン「え、えええええええ!?」

 当然態度の豹変するルシフェルにサンダルフォンは驚愕するほかなかった。

 

 それから二人は客の要望に沿って力をふるった。

 

ルシフェル「行くぞ!パラダイスロスト!」

 

ドッカーン!

 

ルシフェル「パラダイスロスト!」

 

ドッカーン!

 

ルシフェル「パラダイスロスト!」

 

ルシフェル「パラダイスロスト!

 

ルシフェル「パラダイスロスト!」

 

ルシフェル「パラダイスロスト!

 

 

 ………

 

ルシフェル「まいどあり!」

 

冒険者「あのこれフレンド申請なんですけど。」

 

ルシフェル「わかりましたお返事は後日、お返しいたします。」

 

 一通りの仕事を終え、二人は息をついた。

 

サンダルフォン「お疲れさまでしたルシフェル様。これ…。」

 

ルシフェル「君のコーヒーか。ずいぶん久しぶりだ。」

 

 サンダルフォンから渡されたコーヒーを口にする。

 

ルシフェル「美味しい。これに関して君にはかなわないな。本当においしい。」

 

サンダルフォン「ルシフェル様…。」

 

ネモネ「お熱いとこ悪いけど、もう帰る時間なのよさー。」

 

サンダルフォン「うお!いつからいた!?」

 

ネモネ「ついさっきさ。サンダルンもちゃんと仕事できてえらいえらい!ネモ姉はなまる上げちゃう!」

 

サンダルフォン「本当に顔に書こうとするな!やめろ撫でるな!」

 

ネモネ「はっはっは!じゃあサンダルンご飯の時間には遅れちゃダメなのさー。行けティターン!」

 

ティターン「グおおおおお!」

 

 ネモネは巨大なマッチョ(縄付き)の肩に乗って戻っていった。

 

サンダルフォン「まったく。」

 

ルシフェル「いい仲間たちができたんだね。」

 

サンダルフォン「…はい。」

 

ルシフェル「帰ろうか。」

 

サンダルフォン「はい!あのルシフェル様、実は最近キリマンジャロという酸味の強い…。」

 

 この再会はきっとただの偶然で望んだ形のものではなかったのかもしれない。だけどこの日はサンダルフォンの2000年以上にわたる人生の中で最上の日であったのは間違いないだろう。もう二度と約束はたがわない。素晴らしい奇跡をくれた団長たちとこの世界を守ることを胸に誓いサンダルフォンの新しい人生は始まるのだった。

 

 

数日後

 

グラン「厳粛なる討議の結果、お前の呼び名が決まった。」

 

サンダルフォン「なんだ?」

 

グラン「ダル君だ。」

 

サンダルフォン「却下。」

 

グラン「ダルく…」

 

サンダルフォン「却下!」

 

 だが新しい生活は苦労も多そうだ。

 

 



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第三話「団長は甘々」

誤字があったら教えてくれると嬉しいです。

あとコメントで感想、話への要望などをくれるともっと嬉しいです。

これから忙しくなるので今のうちにかけるだけ書いているだけなので更新遅くなります。


グラン「神聖滅闇晄!」

 

ギルガメッシュ「グあああああ!」

 

 グランは今日も日課のギルガメッシュ狩りをしていた。ようやく撃破しそのドロップ品を見て変えは顔をしかめた。

 

グラン「なぜ斧が出ない!」

 

 悔しそうに地面をたたき血涙を流す。

 

グラン「もう槍はいいんだようんざりなんだよ!どっちかっていうと斧の方が弱そうじゃんたくさん落としそうじゃん何で出ないんだ!同じ英雄王ならどっかの関さんみたいにゲートから気前よく出してくれよ!」

 

ゾーイ「ま、まあ手に入れてもすぐに使えるわけでもないしそんなに気を張らなくても。」

 

グラン「そうだけど…これで何百回目だ?今だ無凸はないだろ?支配の天秤ですらこのくらいの時には完成してたのに…。」

 

ゾーイ「よすよす。」

 

グラン「oh yeah…。」

 

 

 グランをなだめゾーイは彼らとともにグランスルースへと帰還した。

 

アンチラ「だ―んちょ―!」

 

グラン「なんだ?」

 

アンチラ「はい。」

 

グラン「ん。」

 

 グランは両手を差し出したアンチラの体を持ち上げ抱擁すると、それまでやっていた書類の整理を再開した。アンチラは彼に抱き着き極楽といった表情でそれを堪能している。その姿を見て面白くないのはともに書類を片付けているゾーイだ。

 

ゾーイ「団長、仕事中にそういうのは良くないんじゃないか?」

 

グラン「仕事の邪魔はしないようにしつけてある。この程度なら何の問題もあるまい。」

 

ゾーイ「そうかもしれないが…。」

 

 ゾーイがアンチラの方へ視線を送ると彼女は何も言わずににたりと笑った。なるほどこれが怒りかと自分の感情を認識していると頭に何か柔らかいものが当たった。

 

アニラ「そうかっかしていると可愛い顔が台無しじゃよ?」

 

 そういってきたのはアンチラと同じ十二神将の一人であるアニラだ。お茶を持ってきてくれたようで今ゾーイの頭には彼女の水着でさらに強調された大きな胸がのしかかっていた。

 

グラン「すまんな。収支報告書はできたか?」

 

アニラ「うむ。ちゃんと持ってきたぞい!」

 

グラン「よし。今日はこれであがっていいぞ。だがグリリンがガキどもの相手に手を焼いてたらそっちを見てくれるとありがたいのだが。」

 

アニラ「うむ。じゃが大丈夫か?団長はまだ仕事が多いようじゃが?」

 

グラン「何もうすぐ終わる。ゾーイのおかげで仕事も早いしな。」

 

アニラ「そうかそれならいいのじゃがな。」

 

グラン「…。」カキカキ…

 

アニラ「…。」ジー

 

アンチラ「…。」ぎゅー

 

ゾーイ「ずずっ…うまい。」

 

アニラ「なあ団長?」

 

グラン「なんだ?」

 

アニラ「団長はロリコンなのか?」

 

ゾーイ「ぶふっ!熱っ!」

 

アニラ「大丈夫か!?」

 

ゾーイ「あ、ああ問題ない。」

 

グラン「何故そんなことを?」

 

アニラ「いや、団長は小さい子に妙にやさしい気がしての。それに今だ誰とも付き合ってないみたいだし、もしやそっちのけがあるのかと。」

 

グラン「そうだな、まず一つ言っておく。」

 

アニラ「なんじゃ?」

 

グラン「回復スキルを持つものとしてその言い方は良くない。」

 

ゾーイ「?」

 

グラン「精神医学では「ロリコン」ではなく「ペドフィリア」というんです!」

 

アニラ「!???」

 

グラン「まあいい。このペドフィリアというのは十三歳以下を性愛対象にしている場合に診断されるわけだが、確かに抱こうと思えば抱けるがわざわざ手を出そうとは思わん。可愛がっている間に壊れてしまえば興ざめだしな。」

 

 何やら不穏なことを言っている気がするがアニラは興味深そうにホウホウとうなずいている。

 

グラン「それにガキをむやみに扱うなど男として許されるものではないというのが俺の自論だ。大人はこき使うし、確かに扱いに差があるのは認める。」

 

ゾーイ「それに団長はなんやかんやで女性団員には甘々だぞ?こき使ってくれるけど。」

 

アニラ「うーむそうか。だがなら安心じゃ。大きくなったら相手にされないとあればアンチラが可哀そうじゃからな。」

 

アンチラ「(´∀`*)ポッ」

 

グラン「む…そんなに俺はお前たちに冷たいか?」

 

アニラ「冗談じゃよー。じゃあわしはいくぞ。」

 

 アニラが部屋を出た後、グランは黙々と仕事を続ける。アンチラは気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 

ゾーイ「団長、この書類も頼む。」

 

グラン「わかった。終わったなら先に戻っててもいいぞ?」

 

ゾーイ「断る。団長と二人っきりじゃアンチラが何されるかわかったものじゃないからな。」

 

グラン「そうか。」

 

 団長は大体女の子に甘い。甘々だ。いやきっと団全員に甘めだろう。だからこそ自分一人で人の二倍、三倍以上の仕事を平然とこなすのだ。こうしてアンチラのような子供たちは彼に甘えに来るのだ。だが実はアンチラが彼に抱擁を求めたときの合図は彼女が考えたものでも、ほかの子供たちが考えたものでもない。実は団長が盛大に甘やかしている大きな子供がいるのだ。この後彼女と又顔を合わすことになるわけだが、ゾーイにはそれが少し気乗りしない。彼女が嫌いというわけではないし、何とも形容しがたいのだが、彼女と団長が一緒にいると鉛を飲んだような胸中になるのだ。

 

グラン「なんだ?」

 

ゾーイ「何でもない。」

 

グラン「そうか。まああと少しで終わる。愚痴ならそのあとで聞こう。」

 

ゾーイ「私の愚痴は長くなるぞ。」

 

グラン「…いざとなったら漢女に丸投げする。」

 

 ファスティバのことか。彼(女?)ならもしかしてこの気持ちの解消法を教えてくれるかもしれない。今度訪ねてみるのもいいだろう。だがこうして彼の腕をつねるのも悪くない。ちょっと気分が晴れるし彼の温度が心地いいから。

 

 



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第四話「バブ―」

諸事情により全話までの「グランサイファー」の記述を「グランスルース」に変更しました。

更新頻度御幅に下がります。


 夕食は大体みんな決まった時間に食堂に集まり、ローアインたちの絶品の料理を食べるのだ。この時間ばかりは彼らの一番忙しい時間であり、団長を含め多くの団員の至福の時間である。今日も団長とともに夕飯を食べにに来たわけだが、当然のようにそこには彼女が立っていた。

 

シャレム「遅いぞ冒険者。待ちくたびれた。」

 

グラン「待ちたくなければ手伝えばいい。いくらでも仕事はあるぞ?」

 

シャレム「雑務などわたちの仕事ではない。早く来い。料理は頼んでおいた。」

 

グラン「そうか。」

 

 団長は適当に空いていた椅子に座るとシャレムは彼の隣に座る。「ヘレル・ベン・シャレム」、とある展覧会で展示されていた創世記の遺物の中から出てきた謎の女性だ。どうも創世記の時代からずっと眠っていたらしくいまだ時代の変化に対応しきれていないようだ。彼女の一番特徴的な部分はその口にある拘束具だろう。まるでおしゃぶりのようなそれは彼女自身も魔法のエキスパートの集まるこの団の団員たちでさえ完全には外すことができなかった。だが、一人だけそれを一時的とはいえ外せるものがいる。もちろん団長のことだ。

 

 

シャレム「ん。」

 

 

グラン「ん。」

 

 

 シャレムが口元を差し出すと、団長がおしゃぶりをはずす。どうやら団長の魔力を注いでいる間はあれをはずしていることができるようだ。団長は手慣れた感じにハンカチでよだれをふき取りポケットにしまった。その間団長の魔力は削られ続けるのだが、その量は膨大な団長の魔力の総量を三、四時間程度で吸い尽くしてしまうほどらしい。魔力は時間で回復するのできっかり四時間経ったら魔力が尽きるわけではないが、うっかりポケットに入れっぱなしにして次の日干からびていないかと内心ひやひやする。わたしも彼のもう片方の隣に座り料理を待ったのだが、それは思ったより早く来た。

 

ローアイン「はいバブちゃん、トロふわオムレツとオパールエヴィフリットお待ち!」

 

シャレム「うむ。」

 

 「ローアイン」、この団の専属コックの一人でチャラ男トリオのリーダーだ。軽薄な言動に反して彼の料理は気品あふれる絶妙なうまみの均衡を保っているものばかり。この団には切っても切れない存在だ。

 

シャレム「これはお前のだ。わたちのを半分やるから半分よこせ。」

 

グラン「そういうことか、まあ良かろう。」

 

 シャレムは運ばれてきたオパールエヴィを団長の前に出した。彼女が両方食べたかったからがゆえにわざわざ先に料理を注文するなどという一見気の利いたことをしていたのだろう。だが、

 

ゾーイ「私の料理は?」

 

ローアイン「あれゾーイちゃん注文してたべ?わりっなんだったっけ?」

 

ゾーイ「シャレム。私の料理は?」

 

シャレム「ん?いたのか調停者。いたことに気づいていなかったわたちが料理を注文しているわけないだろ。」

 

ゾーイ「…。」

 

 私は副団長だ。誰よりも一日の長い時間団長と一緒にいる自負がある。そんな私がいない扱いだと!?それも大体毎日食事の時は顔を合わせているのに!?確かに何を注文しているのか聞きもしなかった私も悪いが何とも腹立たしい。

 

グラン「チャラ男一号。」

 

ローアイン「なんかっべー感じだけどどうしたダンチョ?」

 

グラン「今日のお勧めは何だ?」

 

ローアイン「アウギュステから新鮮なン二が届いたからやっぱン二丼っしょ!」

 

グラン「ならばそれを頼む。あと食後にプディングを三つだ。」

 

ローアイン「リョ!」

 

 ローアインがキッチンに戻る。

 

グラン「シャレム。」

 

シャレム「なんだ?」

 

グラン「下らん嘘は自重しろ。」

 

シャレム「…わかった。」

 

 団長はテーブルに置いてある小皿にエヴィをとりわけ私たちの前に置いた。

 

グラン「いただきます。」

 

ゾーイ&シャレム「「いただきます。」」

 

 衣をつけ揚げられたエヴィは焼いて食べるのとも、煮て食べるとも違う力強いうまみがあった。その口福でついつい歓声が漏れてしまった。

 

ゾーイ「ん~♡」

 

シャレム「調停者。」

 

 舌鼓を打っているところにシャレムが皿を置いた。取り分けられたオムレツだ。彼女は目線をそらしながら

 

シャレム「さっきは意地悪して悪かった。」

 

ゾーイ「あ、ああ別に怒ってはいないぞ?次から気を付けてくれればいい。」

 

シャレム「ああ。」

 

 彼女の様子は幼子が親に叱られた時のそれによく似ている気がした。それからン二丼も届き、また三人で分ける。これがまた絶品で団長がせっかく三等分したというのに私たちのン二を狙ってくるなど死守するために忙しい夕食になった。

 

ローアイン「みんなお待たせ!トリマこのソースかけてぱくつけばサイコーだぜ!?」

 

 プディングは私の大好物だ。さりげなくこうして気をまわしてくれるあたりさすが私の見込んだ団長だ。

 

ゾーイ「♡♡♡」

 

シャレム「腕が疲れた。食べさせろ。」

 

ゾーイ「!!!?」

 

 その言葉に驚き横を向くと、シャレムが口を開けて団長にプディングを要求する。団長は何のためらいも見せずにそれに応じてプリンをシャレムの口に放り込む。いわゆるあーんというやつだ。

 

ゾーイ「ッむう…。」

 

 団長はたいてい彼女の要求を断らない。確かにこなすのは容易なことばかりだろうが、それが彼女を増長させるとなぜわからないのか。

 

ゾーイ「団長!」

 

グラン「なんだ?」

 

ゾーイ「はい、あーん。」

 

グラン「?」

 

 プディングを乗せたスプーンを向けてくる私に団長は何が言いたいのかわからないという顔をする。

 

ゾーイ「このプリンを食べるんだ!」

 

グラン「このままか?」

 

ゾーイ「そう。」

 

 団長はこちらの要求に応じプリンを口にする。なんとなくそれに優越感を感じてしまう私はおかしいのだろうか?

 

ゾーイ「うまいか?」

 

グラン「…ああ。だが気恥ずかしいな。」

 

 ほんのり顔を赤くして目を背ける姿が何となく可愛らしかった。

 

シャレム「冒険者!あーん!」

 

グラン「腕が疲れたのではなかったのか?」

 

シャレム「もう治った。早く食べろ!」

 

グラン「…わかった。」

 

ゾーイ「次は私の方だ。今日は特別に私のプリンもあげよう。」

 

シャレム「私のも特別だ!」

 

グラン「自分で食べろ。」

 

 いつもより二人に優位に立てているようで今日はとても気分がいい。これからもちょくちょくこういうことをしてあげようと思う。大きな子供などに負けてたまるか。団長のパートナーは私だ!そんな気持ちでわたしは団長の餌付けを再開したのだった。



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第五話「水の美姫」

 グランは仲間たちとともに日の六龍「ウィルナス」を狩っていった。杉玉の奥義で幻影をかけ、攻撃力の高い単体攻撃をよけつつ確定クリティカルの超火力で体力を削っていく。

 

カリオストロ「げ、やべぇぞ団長!全体攻撃が来る!今の体力じゃガードしても削り切られるぞ!」

 

リリィ「リリィの回復も間に合わないのー。」

 

グラン「そうか。少々まずいか。」

 

 ルシフェルもリキャストタイムが足りない。万事休すかとも思ったが、

 

エウロペ「テュロス・アジリス!」

 

 神秘的な光の結界が三人を包んだ。展開したのは水の聖晶獣であり、天司「ガブリエル」の使徒、「エウロペ」だ。

 

エウロペ「皆さんのことは私が守ります。ご安心ください。」

 

グラン「よし、全員ガードだ。」

 

ウィルナス「ぐオオオアアアアア!」

 

 ウィルナスの放つ灼熱の咆哮が炸裂する。炎が消えた先にはすでに誰もいない。

 

ウィルナス「!!!?」

 

 すでに彼の背後はとられていたのだ。

 

グラン「終わりだ。ベイルアウト!」

 

 

 戦闘が終わりグランは地面へと寝転がった。宝箱からは大したものも出ない。自分の運のなさにあきれていたのだが、上を見上げればエウロペがこちらを見下げていた。

 

グラン「どうした?」

 

エウロペ「そんなところで眠っては首を痛めますよ団長様。」

 

グラン「眠るつもりはないが…。?」

 

 するとエウロペは地に足を折り、自らの太ももにグランの頭を乗せた。

 

エウロペ「よろしければ、このエウロペをお使いください。」

 

グラン「この岩盤地帯では足を痛めるぞ?」

 

エウロペ「星の獣はこの程度では傷つきませんゆえ。団長様が嫌でなければ。」

 

グラン「…ではしばらくこうしているか。」

 

 目を閉じるグランの頬を撫でながらエウロペは聖母のように笑顔を咲かせるのだった。

 

 それを敵意の目で見つめる双眸が二つ。

 

ゾーイ「何をやっているんだ団長は!?」

 

シャレム「打つか?ケイオスレギオン撃つか!?」

 

カリオストロ「何やってんだよお前ら。」

 

ゾーイ「それを言うべきは団長へだ!こんな荒々しい岩盤地帯でいちゃいちゃ…イチャイチャしやがってぇ!」

 

カリオストロ「なんかキャラが崩れかけてるぞ…。」

 

 するとシャレムがずかずかと地面を踏み鳴らしながらグラン達のもとへ向かった。ゾーイもさすがに止めようとしたが、それを悪い顔したカリオストロに止められる。

 

ゾーイ「止めないでくれカリオストロ!あのままじゃシャレムが本当にケイオスレギオンを…。」

 

カリオストロ「久々の修羅場じゃねえか。団長がどうするか見ものだぜぇ。」

 

 シャレムは二人の目の前に仁王立ちした。

 

シャレム「おい。何を腑抜けたことをしているのだ。」

 

エウロペ「シャレム様。団長様は今小休止をしているところですよ。」

 

シャレム「起きろ。まだやることが残っている。」

 

エウロペ「ですが…。」

 

シャレム「はやくし…。」

 

グラン「くかー…スピ―…。」

 

エウロペ「どうやら疲れがたまっておられたようです。今ならこうして頬に触れても…ご一緒にいかがですか?」

 

シャレム「…。」

 

 シャレムはしゃがむとグランの頬をつつきだした。そして起きないことがわかると両手を使っていじりだす。

 

エウロペ「うふふ。」

 

シャレム「なんだ?わたチの頭を撫でて?」

 

エウロペ「あまりにかわいらしくてつい。」

 

シャレム「かわっ…今だけだからな。」

 

エウロペ「はい。」

 

 

ゾーイ「何も起きないどころかエウロペが二人の母親に見えてきたぞ。」

 

カリオストロ「あれが水の美姫の実力か…。天才美少女の俺様でもああはいかねえ。」

 

 ほんわかとした世界が三人のいる場所に展開していた。先ほどまで死闘を繰り広げた灼熱の岩盤地帯にもかかわらず、団長とシャレムをあんなにも安寧にいざなう彼女はまさに癒しの女神だろう。ゾーイは入り込める気がしないのでしばらく見守ったのちに仕事を片付けに戻ったのだった。

 

ゾーイ「あとで懲らしめてやる。」

 

 団長分の仕事を倍にする計画を立てるのだった。

 

後日

 

グラン「ということで俺がいないときのシャレムの世話係にエウロペを任命することにした。」

 

ゾーイ「まあ本人たちがいいならいいが具体的に何をするんだ?」

 

グラン「何か決まったことがあるわけではないが、この碧瑠璃の杯に魔力が込められるからこれを使って食事をとったり歯磨きさせたり、寝癖を直したり、悪さをしたらしかったりとかだな。団員が増えてきたこともあって手が回らない時も頼もうかと思う。何やら最近仲がよさそうだしな。」

 

ゾーイ「今までそんなことまでやってたのか…。」

 

グラン「まあそれは置いておいて、菓子作りを急ぐぞ。このままでは団全員分が作れん。」

 

ゾーイ「ラジャー。」

 

 もうすぐハロウィンである。団長特性のチョコクッキーは美味しいだけでなく元気になる危ないお薬入り(エリクシール)の特別性だ。今年は大分団員が多いからどうなるだろうか?ちょっと楽しみだ。




次回「やらないか?(ルナール回)」


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第六話「やらないか?」

お気に入り登録ありがとうございます!

ネタがわかって苦手な方はすみません。

全くR制限ある内容ではないですよ。


 今日は待ちに待ったハロウィンだ。団の子供たちも大人もいろんな仮装に身を包んでお菓子の交換を行っている。「トリックオアトリート」と言いながら。

 

サラ「だ、団長さん!」

 

グラン「なんだ?」

 

サラ「トリックオアトリート!」

 

グラン「ではこれをくれてやろう。」

 

 グランはジャックオランタン柄の袋に入ったクッキーの包みを渡す。

 

サラ「ありがとうございます!」

 

グラン「羽目を外すのはいいが、食べ過ぎるなよ。」

 

サラ「はい!…あの団長。」

 

グラン「なんだ?」

 

サラ「どうでしょうかこの仮装?」

 

グラン「ヴァンパイアの仮装か?」

 

サラ「はい!」

 

グラン「悪くない。」

 

 サラは黒いマントに水着と赤いペンダントと、少々露出の激しい格好だ。だが笑うときに見える彼女の八重歯が何ともその仮装にあっている。

 

グラン「だがお前ほどの年ならばもっと明るい色のドレスでもよかろう。今度何か買ってやるか。」

 

サラ「えっ!?いやそれは…。」

 

グラン「嫌か?」

 

サラ「いえ!えっと…うれしいです。団長とお買い物って…。」

 

グラン「予定を開けておく。忘れていたら催促にこい。」

 

サラ「は、はい!」

 

 もじもじと嬉しそうにうつむくサラの頭を一度撫でたグランはほかの団員たちのもとを回るためにその場を後にした。それを物陰から見つめるのはやはりゾーイとシャレムだ。

 

ゾーイ「何を自然にデートに誘ってるんだ団長はあああ!」

 

シャレム「やはり一度撃っておくか?ケイオスレギオン撃っておくか!?」

 

 本当はすぐにでも拘束してお仕置きしたいところではあるが、今日の計画上今グランの前に現れることはできないのだ。もどかしさに震えながらも、監視だけはしてその過程で会う団員にお菓子を配っている。

 

ゾーイ「だが今日は団長にいたずらするという私たちの目的のために、まだ耐えるしかない。」

 

シャレム「わかっている。今はまだクッキーが残っているからな。機をうかがうぞ。」

 

 

グリームニル「あ、団長!トリックオアトリート!」

 

グラン「ようグリリン。これでいいか?」

 

グリームニル「やったーありがとー!でさでさどう?今日の俺ははちょっと違うと思わない!?」

 

 グリームニルは中二病的なポーズを決めそう聞いてくる。

 

グラン「……。」

 

グリームニル「あれ?そんなに見つめられるとそれはそれで恥ずかしいんだけど…。」

 

グラン「…そうか。マリス化か。」

 

グリームニル「さっすが団長!せっかくポンメルンからもらった魔晶丼でかっこいい漆黒の風を手に入れたのにみんな気づいてくれなくてさー。」

 

グラン「お前が漆黒の風をつけてもイメージ通り過ぎてインパクトがないんじゃないか?」

 

グリームニル「え、ほんとに!?…じゃあどうすればいいかな…。」

 

グラン「そうだな…。」

 

 

ゾーイ「何やらすごく盛り上がっているな。仮装のために魔晶を使うとは尊敬すべきかあきれるべきか。」

 

シャレム「わたチはあいつは苦手だ。」

 

 

グラン「てことでまずは色のついた風の形を動物に寄せるのはどうだ?」

 

グリームニル「いいなそれ!わが勇猛なる眷属よ、幾億戦の刃となりて敵を蹴散らせ!みたいな。」

 

グラン「うむ。ではこれをまず練習に使え。出来たら報告しろ。」

 

グリームニル「オッケー!」

 

グリームニルはグランに紙きれのようなものを手渡されると意気揚々と帰っていった。

 

ゾーイ「何渡したんだ?」

 

シャレム「子猫のイラスト(グラン手描き)だな。」

 

ゾーイ「絶対グリームニルのためじゃないな。」

 

シャレム「あいつは猫好きだからな。」

 

 するとまたグランが移動を始めたついていこうとすると後ろから声をかけられる。

 

カリオストロ「わーストーカーなんていけないんだー♡」

 

 ハロウィン衣装に身を包んだカリオストロだ。

 

シャレム「ストーカーとは何だ?」

 

カリオストロ「好きな人にずっと付きまとっちゃう変態さんのことだよー。カリオストロも昔から困らされちゃってるんだ。」

 

ゾーイ「そ、そうじゃない!実はだな…。」

 

 カリオストロに事情を説明する。

 

カリオストロ「ほへーそっかぁ。じゃあ、カリオストロがあと何個クッキー持っているか聞いてきてあげるよ。」

 

ゾーイ「本当か!?」

 

カリオストロ「うん!まっかせといて!お礼はお菓子がいいなあ。」

 

ゾーイ「ああなら、もうほかの団員には配り終えたし残りはあげよう。シャレムもいいか?」

 

シャレム「ああかまわないぞ。」

 

カリオストロ「やったーありがとー!」

 

シャレム「で、その猫かぶりはいつになったら終わるんだ?気持ち悪い。」

 

カリオストロ「うっせ!」

 

 

 ゾーイのためにカリオストロは団長の持っているクッキーの数を聞きに向かった。もうほとんど配り終えたようで彼の持っていた袋はほとんどしぼんでいる。大した数ではないだろう。だが聞くだけでは面白くない。せっかくあの二人が見ているのだしにゃんにゃんしまくって嫉妬に狂わせてやるぜ!と意気込んだ。

 

カリオストロ「あ、いたいた。」

 

 グランは何やらベンチ?に座っている。休憩しているのだろうか?こんなところにベンチなどあった覚えはないけれど…。カリオストロはいつもの美少女モードで彼に話しかけた。

 

カリオストロ「団長さーん!トリックオアトリートだよ!」

 

グラン「…。」

 

カリオストロ「?団長さん?」

 

 一時の静寂を終えてグランは口を開く。

 

グラン「よかったのかそんなにホイホイついてきて。」

 

カリオストロ「!?」

 

グラン「俺は、ノンケだってかまわないで喰っちまう人間なんだぜ?」

 

カリオストロ「だ、団長さん?」

 

 カリオストロの心は慌ただしく揺れ動いていた。なんだおかしいぞ今日の団長は!?このセリフってまさか…いや確かに俺は元男だしもしや団長にはそっちのけが!?っていうか俺今誘われてるのか!?

 

グラン「ところで、こいつをどう思う?」

 

 グランが自らの隣にあった、大きな物体にかかっている布を外す。それは等身大の筋肉質な男の像だった。よく見ると飴細工だ。これが今回のお菓子だとでもいうのか。

 

カリオストロ「…すごく…大きいです。」

 

グラン「うれしいこと言ってくれるじゃないの。」

 

 グランはベンチから立ち上がりカリオストロに顔を近づける。

 

グラン「やらないか?」

 

 カリオストロは顔面が沸騰する心地だった。完全に誘われてる!いいのかこれいいのか!?今女の体だし問題ないっちゃないってそうじゃないけど…団長にだったら…。

 

カリオストロ「は…は…。」

 

グラン「これでいいのかルナール。」

 

カリオストロ「は?」

 

ルナール「ええさいっこうだったわ!これでいい耽美絵巻ができそうよ。」

 

グラン「鼻血でてるぞ。」

 

 ルナールが背後から出てきたかと思うと、彼女は鼻血を吹き出しながらペンを走らせている。

 

カリオストロ「え、団長さん…これどう言うこと?」

 

グラン「ああ、ルナールの頼みでな。お前が来たら決められたセリフを言ってほしいと。ご丁寧に絵まで入れて説明された。」

 

 グランはポケットに入ったセリフをカリオストロに見せる。

 

カリオストロ「…。」

 

ルナール「今日の昼にお菓子はいらないからいたずらするって言ったでしょ?でも女の子になった男と屈強な男のからみ…そそるわ。」

 

グラン「あの飴細工はルナールからだ。俺からのはこれだ。」

 

 そうしてクッキーを渡される。

 

カリオストロ「…。」

 

グラン「どうかしたか?」

 

カリオストロ「あ、…。」

 

グラン「?」

 

カリオストロ「アルス・マグナ!」

 

 巨大な衝撃音がグラン・スルース艇内全域にわたって響きわたった。

 

カリオストロ「ふーんだ!バーカバーか!」

 

グラン「?さすがに悪ふざけが過ぎたか?」

 

 ファランクスで何とか被害はないようだったが、あたりを見回してみる。いまだ勢いよくペンと鼻血を走らせるルナールと、倒れているあほが二人いた。

 

グラン「何をしているのだこいつらは。」

 

ゾーイ「はは…団長がカリオストロと…。」

 

シャレム「嘘だ…あいつが男好きなんて嘘だ…。」

 

グラン「世話の焼ける奴らだ。」

 

 グランは二人を担ぎ上げて大きなソファーのある休憩室へ向かった。

 

 

 

 

ゾーイ「う…。」

 

グラン「起きたか?」

 

ゾーイ「ここは?」

 

グラン「休憩室だ。」

 

ゾーイ「…私は確か…。そうだ、カリオストロは!?」

 

グラン「あいつはルナールのいたずらに怒って奥義打って居なくなった。後で何とかする。」

 

ゾーイ「いたずら?」

 

グラン「ああ…つまり…。」

 

 グランはゾーイにも事情を説明する。

 

シャレム「つまりお前は男好きというわけではないんだな!?」

 

グラン「起きたのか。何の話かは知らんが、俺は男だ。同性を性愛対象になどするわけがあるまい。」

 

シャレム&ゾーイ「ほっ…。」

 

グラン「菓子も配り終えたし、そろそろパーティーが始まるだろう。準備をしておけ。」

 

ゾーイ「あ、そうだ団長!」

 

グラン「ん?」

 

シャレム「菓子を配り終えたといったな?」

 

グラン「ああ。」

 

ゾーイ「なら、…」

 

ゾーイ&シャレム「トリックオアトリート!団長!」

 

 二人はグランに向けて手を出した。

 

シャレム「お菓子がないなら」

 

ゾーイ「いたずらするぞ!」

 

グラン「そうか。」

 

 グランはテーブルに置いてあった盆を二人に差し出した。シュークリームだ。

 

グラン「かぼちゃのシュークリームだ。試作だが、悪い味ではないだろう。」

 

ゾーイ「あ、あれ?お菓子はもう配り終えたって…。」

 

グラン「ああ。団員用のクッキーは終わった。これはお前たち用だ。」

 

シャレム「…食べていいか?」

 

グラン「構わん。」

 

ゾーイ「じゃあ…。」

 

 シュークリームを口に入れた瞬間、かぼちゃのカスタードが口の中いっぱいに広がり芳醇な香りととろけるような甘みが二人を襲った。

 

シャレム&ゾーイ「ほああ…。」

 

グラン「どうだ?」

 

ゾーイ「すごくおいしいぞ!」

 

シャレム「うむ。」

 

グラン「ならよかった。」

 

 その時のグランの顔は珍しくも微笑んでいた。慣れていないせいで顔が熱くなってしまった。いたずらができなかったのは残念だが、これのおかげで大満足だ。

 

グラン「それでだ。」

 

ゾーイ「ん?」

 

グラン「トリックオアトリート?」

 

 ハッとする。自分の周りを見渡してもお菓子の袋らしきものはない。そういえばカリオストロに残りは全部上げてしまったんだった。

 

ゾーイ「えっと今はないな…。」

 

シャレム「…。」

 

グラン「ではいたずらだ。」

 

 グランは何やら魔道具のようなものを取り出した。とてつもない魔力が込められていることが傍目でもよくわかる。

 

シャレム「な、何をする気だ?」

 

グラン「なに、ペットを量産するだけだ。」

 

 

 

 

 それからしばらくして団内のハロウィンパーティーが始まった。

 

ローアイン「今日のパーティー楽しんでいきましょー!」

 

エルセム&トモイ「うぇーい!」

 

 いつも以上に豪華な食事がテーブルいっぱいに並べられ、団員たちは和気あいあいと会話を弾ませながらそれを楽しんでいる。

 

アンチラ「んーおいしー!」

 

ヴァジラ「こっちもうまいぞー!」

 

アニラ「ほれケチャップがほっぺについておるぞ。」

 

ヴァジラ「あ、ありがとー!」

 

 

グリームニル「うわーあああ!お菓子食べ過ぎてうまそうなご飯が食べられないよおおあああ!」

 

シヴァ「自業自得だろう。」

 

ブローディア「そうだぞ。いついかなる時も食べられるよう腹を鍛えなければ…。」

 

シヴァ「!?」

 

 

 そんな中グランは

 

ゾーイ「にゃー!にゃーにゃにゃー!」

 

シャレム「にゃーにゃー…にゃーん。」

 

 猫耳を身に着けたゾーイとシャレムとをお供に料理をあさっていた。

 

コルル「かわいいでゴンす!」

 

エウロペ「耳に触ってよろしいでしょうか?…ん…やわらかい。」

 

シャレム「にゃ…。」

 

 今の二人はグランの制作した猫耳型の魔道具のせいでネコ語しか話せなくなっている。いまだネコ語から人語への翻訳機能はできていないのだが、いずれは猫と完全に対話が可能になるだろう。また大量の魔力を使って拘束しているので、二人はグランが許可しない限り猫耳を外すことができないのだ。

 

グラン「どうだこの魔道具は?」

 

セン「すごくかわいいです!これを使えばソラ君(若い猫)とも話せるようになるんですか?」

 

グラン「それにはもう少しかかりそうだが、最終的にはそうしようと思っている。」

 

ソラ「にゃにゃんニャー!(すごい技術じゃないか!さすが団長だ!)」

 

グラン「む?そうか。」

 

セン「っていうかソラ君の言葉が普通にわかる団長って一体…。」

 

グラン「ということで今晩はお前も人語禁止だ。語尾には必ずにゃんといえ。」

 

セン「どうしてそうなるんですか!?…にゃん。」

 

グラン「お前のそういう律儀なところは気に入っているぞ。」

 

ゾーイ「にゃにゃにゃにゃんにゃにゃーん!(何センの頭を撫でているんだこのたらし!)」

 

グラン「さて、あとは…。」

 

 

 吠えるゾーイの頭も撫でて落ち着かせると、グランはこの陽気な場で唯一不機嫌な顔をしている彼女に会いに行った。

 

グラン「カリオストロ。」

 

カリオストロ「あ?なんだよ?」

 

グラン「酒だ。」

 

カリオストロ「あっそ。」

 

 グランはカリオストロの前にグラスに注がれた葡萄酒を置く。

 

グラン「悪かったな。今日は悪ふざけが過ぎた。」

 

カリオストロ「あっそ。」

 

 カリオストロは葡萄酒を一気にあおるとまたそっぽを向いた。

 

グラン「だが、意外だな。お前はこのようないたずらには慣れている方だと思っていたが…。」

 

カリオストロ「慣れていただあ!?」

 

 ガンとテーブルをたたく。

 

カリオストロ「慣れてるわけねえだろ封印されるまでずっと研究ばかりでそんな経験皆無だっつうの!」

 

 グランが再び注いだ葡萄酒を再度あおる。

 

カリオストロ「こちとらな!本気で一晩共に過ごす覚悟までしたんだぞ!そんな乙女心をもてあそびやがって!お前じゃなかったら今すぐぶっ殺してやるとこだ!」

 

グラン「一晩共に過ごす?」

 

カリオストロ「そうだよ!」

 

グラン「そんなことがしたかったのか?別に構わんぞ。」

 

カリオストロ「は?」

 

団員達「!!!!?」

 

 カリオストロはリンゴになった顔面など気にする暇もなく問い直す。

 

カリオストロ「お前本気で言ってんのか?」

 

グラン「ああ。まあお前が男の姿ならさすがにないが。今のお前なら構わんぞ。」

 

カリオストロ「………本気なんだな。」

 

グラン「ああ。」

 

カリオストロ「っじゃあ今日はお前のところに行くからな!もう撤回させないぜ!?」

 

グラン「わかった。」

 

カリオストロ「っつう(//∇//)!」

 

 するとカリオストロは逃げるようにその場から離れてしまった。

 

ゾーイ「にゃんやnyなにゃnyななn!」

 

グラン「もはやネコ語にもなってないぞ?」

 

ジン「まさか団長の守備範囲がそれほどとは…。」

 

グラン「?」

 

カタリナ「私もビィくんと…。じゅるり。」

 

ビィ「ひぃ!?」

 

シャレム「にゃん…にゃ…にゃにゃにゃん…(嘘だ…あ…あいつがあんな猫かぶりと…?)」

 

エウロペ「シャレム様!?シャレム様-!?」

 

セン「だ、団長さん⁉シャレムさんが泡を吹いて倒れちゃいました!」

 

グラン「まったく、騒がしいやつらだ。そこら辺のソファーに放り込んでおけ。あとビィ超逃げて。」

 

 その日団員たちは大いに盛り上がった。二人の会話の内容は瞬く間に広がり、グランとカリオストロの関係を疑う者が続出するも、それを直接聞けるものはなく、疑問の残るままパーティーは幕を閉じるのだった。ゾーイはグランを攻撃しようとしたところでシヴァ、エウロペら聖晶獣組に取り押さえられた。

 

ソラ「にゃにゃにゃんにゃんにゃにゃんニャン(また変な誤解が生まれてるぞ。何とかしてやったらどうだ?)」

 

ルシオ「彼ならこのまま放っておいても大丈夫でしょう。それにこのままの方が面白そうですよ?」

 

ソラ「にゃんにゃーにゃんんにゃにゃにゃにゃん(ったくいい趣味してるぜ。ある意味一番いたずらに成功したのは意図せず団長だったようだな。)」

 

ルシオ「それにしても、あなたは思った以上にクールですね。」

 

 

 そうしてグラン達のハロウィンは終わりを告げるのだった。




コメント感想ありましたら励みになります!といっても更新速度はこれからも下がります。すみません。


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第七話「モニカ潜入」

リーシャ「私、団長さんが苦手なんです。」

 

 

 秩序の騎空団の船内でモニカはリーシャに相談を持ち掛けられた。リーシャは以前グランらの乗る「グランスルース」に同乗し世界の危機に立ち向かった一人であり、秩序の騎空団の団長代理だ。こちらでの業務があらかた片付いたことからまた彼らのところに行くはずだったのだが、どうも彼女は乗り気でないらしい。

 

 

モニカ「グランが苦手?」

 

 

リーシャ「苦手というか、私が嫌われているというか…。なのでその…。」

 

 

 リーシャは歯切れ悪くうつむいた。

 

 

モニカ「彼が誰かを嫌っているところなど見たこともないが…気のせいじゃないのか?」

 

 

リーシャ「…。」

 

 

モニカ「何かあったのか?」

 

 

リーシャ「団長はいつも私と話していてもそっけなかったですし…秩序の騎空団の職務のために一度団を出るといった時も…。」

 

 

回想

 

リーシャ『…ということでしばらくお暇をいただきたいのですが。』

 

グラン『そうか。好きにしろ。』

 

リーシャ『えっ?』

 

グラン『さっさと行くがいい。お前の仕事があるのだろう?』

 

 

回想終了

 

 

リーシャ「私は口うるさいですし…出会い方も最悪でしたし、団長は私のことを嫌っているんです。だからあそこに行くのは迷惑だと…。」

 

モニカ「う―む…。」

 

 モニカは頭をひねる。リーシャは仮にとはいえ彼らの団に入団しているわけで今は貴重な労働力を失っている状態だ。彼女がこのまま蒸発することもできるわけだが秩序の騎空団の団員としてあまりに不義理なものだろう。だからと言って、このまま無理やりリーシャを行かせてもあまりいい結果はないだろうし、どうするべきか?

 

モニカ「わかった。ならしばらくお前を船団長代理として任命する。私の代わりに職務を果たすように。」

 

リーシャ「え?私がモニカさんの代理ですか?」

 

モニカ「そうだ。その代わりに私がお前に代わってグランたちの元へ行く。ついでにお前の言っていることが本当かも確かめてくる。」

 

リーシャ「え…。」

 

モニカ「わかったな?」

 

リーシャ「…はい。」

 

 

 グランスルース

 

エウロペ「では、仮入団希望ということでよろしいでしょうか?」

 

モニカ「ああ。」

 

エウロペ「承認しました。現在団長は所用で出れないようですので、先に船内の案内をさせていただきます。」

 

モニカ「所要?まあグランのことだから忙しいののは承知している。」

 

エウロペ「いえ、現在ゾーイ様達に軟禁れています。故に数日は面会不能かもしれません。」

 

モニカ「はっ!?」

 

エウロペ「どうかいたしましたか?」

 

モニカ「いやなんでそんなことに!?」

 

エウロペ「実は昨日のハロウィンの夜に団長様とカリオストロさまが同衾の約束をいたしまして、今日の朝カリオストロさまをゾーイ様らが問いただしたところ…。」

 

 

今日の朝

 

ゾーイ『カリオストロ!何も無かったろうな!?』

 

シャレム『昨夜はどうだったんだ!?答えろ!』

 

カリオストロ『…。』

 

 カリオストロは顔を少しそらして手で口を隠し小さくつぶやいた。

 

カリオストロ『すごく…よかった…。(´∀`*)ポッ』

 

回想終了

 

エウロペ「というわけで二人は団長を有罪とみなして軟禁しているのです。」

 

モニカ「なっ!?カリオストロ殿はグランとそんな関係に!?」

 

エウロペ「まあそれはないでしょう。カリオストロさまはいまだ呆けてしまっていて詳細はわかりませんが、団長様は相手が望まれない限り性的な関係を持とうとはされない方ですし、カリオストロさまに誘う度胸はないですから。」

 

モニカ「そうなのか…。グランは無事なのか?」

 

エウロペ「団長様は全空の最強の武人の一人ですから大丈夫だと思いますよ。相手がゾーイ様とシャレム様ですから完全な保証はできかねますけれど。」

 

モニカ「わかった。団長へのあいさつは又にするよ。」

 

 どうもグランのリーシャへの好感度を調べるのは後になりそうだ。

 

エウロペ「はい。では、船内案内に移らせていただきます。」

 

 エウロペは船内の地図を広げ説明を始めた。

 

エウロペ「まずは基本生活に必要になる施設をご紹介します。まずこちらが宿泊室、まだ使われていない部屋がありますのでそこを借りていただいて自室として使用していただけます。月額七万五千ルピです。」

 

モニカ「…?」

 

エウロペ「次にローアイン様らが営む食堂、朝食は固定で昼食、夕食はメニューから注文してご利用いただけます。朝食は食券をご購入いただいて、昼食夕食はメニュー表の料金を随時お支払いいただきます。」

 

モニカ「…。」

 

エウロペ「こちらが浴場です。朝七時から夜十時までご利用いただけます。月額三千ルピです。」

 

モニカ「…。」

 

エウロペ「その他さまざまなレジャー施設、バーなどがありますがどれも有料ですのでご注意ください。また団の維持費として毎月十万ルピ徴収いたします。モニカさまの今月分は入団時にいただきますのでご了承ください。」

 

 モニカは内心冷や汗を土砂降りに流していた。秩序の騎空団は基本的にすべての施設が無料なのだ。リーシャから特に聞いてなかったのでてっきりここも同じだと大した金額を持っていない。残りは稼げばいいと思っていたし、正直今の懐状況では入団料でギリギリ、部屋を借りる金もなかった。

 

エウロペ「ちなみに十八歳未満のお子様はすべての施設のご利用が無料です。部屋は集団の子供部屋となり依頼の選択は子供たちを統括する保護者様とともに受けねばなりませんが受けることが可能です。…そういえばモニカさまのご年齢をうかがっておりませんでした。お若く見えますがおいくつでしょうか?」

 

モニカ「14歳だ。」

 

 十年以上さばを読んでしまったモニカだった。リーシャに知られれば秩序的に抹殺されかねないが、苦肉の策だったのだ。

 

モニカ「すまんリーシャ…。」

 

エウロペ「?では、手続きも終了いたしましたので子供部屋にご案内しますね。」

 

モニカ「ああ。」

 

 そうしてサバ読み提督モニカはグランたちの団へ入団を果たしたのだった。

 



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第八話「子供部屋長アンチラ」

 モニカは団の子供部屋に案内された。四人ほどが一部屋に割り振られ共同生活しているようだ。モニカもちょうど余っていた部屋へに入れることになる。

 

アンチラ「こんにちはエウロペさん。どうかしたんですか?」

 

 子供部屋から顔を出したのは猿耳のエルーンの少女だ。かの有名な十二神将が一人猿神宮のアンチラである。

 

エウロペ「ごきげんようアンチラ様。今日は新しく入団された方をお連れしました。アニラさまはいらっしゃいますか?」

 

アンチラ「アニラ姉はクエストに行っているからいませんよ。えーっとその人…たしか、モニカさんですよね?」

 

モニカ「あ、ああ。今日からしばらくの間世話になる。」

 

アンチラ「へー、モニカさんってもっと大人なのかと思ってましたよー。」

 

モニカ「ぎっく!」

 

アンチラ「ぎっく?」

 

モニカ「い、いやなんでもない。よろしくなアンチラ。」

 

アンチラ「はい。よろしく。」

 

エウロペ「ではアニラさまがいらっしゃるまでモニカさまにはここでくつろいでいただければと思います。アンチラ様、しばらくモニカさまをお願いできませんでしょうか?」

 

アンチラ「大丈夫ですよ!今日はオフですからね。」

 

エウロペ「ではよろしくお願いします。モニカさま、また後程。」

 

モニカ「あ、ああ分かった。」

 

 エウロペが出ていくとアンチラとモニカは再び向かい合う。

 

アンチラ「改めまして、僕はこの部屋のリーダーのアンチラと申します。」

 

モニカ「私は仮入団することになったモニカだ。」

 

アンチラ「モニカさんっていくつなんですか?」

 

モニカ「…十四…。」

 

アンチラ「年上ですね。すごーいおっきい。」

 

 視線の方向に気づきモニカはばっと上半身を隠すように背ける。

 

アンチラ「ヒューマンなんですよね?」

 

モニカ「角があればドラフだとよく言われるよ。」

 

 そんなことから雑談が始まった。アンチラはまだ十歳そこらだというのにとてもしっかりした子だった。

この団での生活のノウハウや、施設の使い方、依頼の受け方などとても参考になる。

 

アンチラ「えーっと、あとは団長へのスキンシップの仕方は大事ですよね。まず部屋に入り込んだら…。」

 

モニカ「待て待て待て!」

 

アンチラ「どうかしましたか?」

 

モニカ「なんで団での生活に団長とのスキンシップが大事なんだ!?確かに彼はここの最重要人物だが…。」

 

アンチラ「だってこの団に来る雌の入団理由なんて大体団長目当てじゃないですか。」

 

 アンチラは笑顔でそう返した。モニカは絶句する。

 

アンチラ「モニカさんは違うんですか?」

 

モニカ「いや私は…。」

 

 あくまで団長にリーシャについて聞き…つまり団長が理由だった。

 

モニカ「そうです…。」

 

アンチラ「ですよねー。でも団長って忙しいことが多いですからそれこそゾーイさんやシャレムさんみたいな幹部の人じゃないとなかなか一緒にいれないです。そんな団長と仲良くやるためのノウハウですよ。」

 

モニカ「う、うむ。」

 

アンチラ「今日は団長部屋に監禁されてるみたいですし、試しに実践してみましょうか。」

 

モニカ「実践!?」

 

 

 アンチラに連れられ子供部屋の奥に隠れた謎の扉をくぐった。そして長い薄暗い通路を歩いていく。

 

アンチラ「これはね、子供部屋利用者しか知らない秘密のルートなんだよ。これを使えばどこの部屋にも直接入れるんだ。」

 

 アンチラは誇らしげにそう語る。モニカは唖然とするほかない。

 

モニカ「ほかの団員は知らないのか?」

 

アンチラ「団長以外は知らないと思いますよ。子供部屋のみんなは口が堅いし、団長はどうでもよさそうだったから話してないみたいです。」

 

モニカ「そうか…。」

 

 隠し通路があること自体には大して驚かないが、それを知っているのが子供ばかりというのはおかしな話だ。本当ならば万が一の事態のために極力隠されているべきというのに。

 

モニカ「アンチラが最初に見つけたのか?」

 

アンチラ「はい。僕は結構古参なんですよ。」

 

モニカ「すごいなアンチラは。」

 

アンチラ「えへへ。」

 

 可愛い。

 

アンチラ「そろそろ団長の部屋です。ほかに人もいるかもしれないのでそっと行きますよ。」

 

モニカ「わかった。」

 

 もはや、それこそいたずらして遊んでいる子供の心境で少し楽しくなってきた。アンチラが扉を開けると、その先は暗かった。促されてそれに続いた。服らしきものがたくさんぶら下がっている。

 

アンチラ「よっと。」

 

 さらに扉があり、それを開けると、

 

モニカ「おお!」

 

グラン「ん?」

 

 ベッドで眠りこけるシャレムと、机でペンを走らすグランがいた。どうやらここはクローゼットだったらしい。

 

グラン「アンチラか。」

 

アンチラ「団長来たよー。あとモニカさんも一緒。」

 

グラン「ム?」

 

 グランはこちらを見ると

 

グラン「そうか。」

 

 大して興味のなさそうにまた手元の書類に目を向けた。何とも気まずい気持ちだったのだが…。

 

アンチラ「だんちょー!はい!」

 

 アンチラはためらう様子もなく仕事をするグランに近づくと両手を広げる。

 

グラン「ん。」

 

 するとグランはアンチラを抱き上げ、自らの足に彼女を座らせるとまた仕事を再開した。アンチラはというと団長に抱き着きご満悦だ。私としては状況が理解できずに呆然とするしかない。私の認識していたグランの像とそれはかけ離れていたからだ。別に彼に人としての情がないといいたいわけではない。彼は自らの信念の元人々に救いの手を差し伸べる英雄である。

 

 だが彼は言い方は悪いが、冷徹だ。目的の為ならば手段を択ばず、他人に興味がなく、その戦いぶりを見た人々からは戦場の悪魔とすら言われる男だ。ゾーイやエウロペ、ビィなど愛想のいいほかの団員たちがいなければ彼は全空の脅威と今も誤解されたままだっただろ。その誤解ゆえに昔我々秩序の騎空団と対立したのが彼と私たちの最初の出会いであるわけだ。

 

 そんな彼がこうして年端の行かない子供をやさしく抱きしめている光景は驚きであった。

 

アンチラ「モニカさんどうかしましたか?」

 

モニカ「え、いやなんでもない。」

 

アンチラ「団長はこうして頼めば抱っこしてくれますよ。精神安定に最適ですから、団長が大丈夫そうなときは頼むといいと思います。」

 

モニカ「そ、そうか。」

 

アンチラ「堪能したー。ありがとね団長!」

 

グラン「別に構わん。」

 

 アンチラはグランの膝から降りる。

 

アンチラ「じゃあ先に戻ってますから、用事が終わったら戻ってきてください。そこのシャレムさんに気づかれないように。」

 

 アンチラはベッドの上で寝ているシャレムを指さした。全く気付かなかった。

 

モニカ「わかった。ありがとうアンチラ。」

 

アンチラ「いえいえ。では。」

 

 アンチラはまたタンスに入っていった。なるほど彼女が部屋長になった理由がよくわかった気がした。明朗快活そのうえ機転が利き行動力がある。将来有望な子だ。

 

モニカ「さて…。」

 

グラン「それで、何の用だ?」

 

 グランは手を止めこちらを見る。

 

グラン「子供がいると話しづらいもののようだが。」

 

 どうしてそんなことが分かったのかむしろ気になるが今はいい。大体グランだからで説明がつくレベルである。

 

モニカ「ああ一つ目は…。」

 

グラン「座れ。そこに椅子がある。」

 

モニカ「ああすまん。」

 

 モニカは椅子に座る。

 

モニカ「聞きたいことがある。」

 

グラン「なんだ?」

 

モニカ「リーシャのことだ。リーシャのことを団長はどう思っている?」

 

グラン「そんなことを聞きに来たのか?」

 

モニカ「そうだ。」

 

 グランは少し考えるとその回答を口にした。

 

グラン「あれは青いな。」

 

モニカ「青い?」

 

グラン「ああ。あれは勤勉だ。法を重んじ自他ともに厳しく律する。強い意志を持ち、行動する力がある。団内管理など、あいつがいるととてもやりやすい。才能もあるだろう。だが、余りに潔白が過ぎる。人のよどみをまだ理解していない。」

 

 法を守れば幸せになれるわけではない。個人の損得のために法を侵すものは少なからずいるだろう。時にはやむを得ない事情があることもあるだろう。その時、ただそれを罪として罰すれば、敵を多く作る。人はついていかない。秩序の騎空団として団員を引き連れることはできても、世界の人々を引き連れることはできん。多くの争いを作るだろう。故に、最悪を避けるための柔軟性、そして清濁併せ呑む覚悟を持つ必要があるだろう。それに耐えられるかはわからん。

 

グラン「うちの一団員としてならあのままでも十分助かるのだがな。あれの立場才能を考えれば、やはり穢れを知らねばならんだろう。だからその過程で壊れんように支援できればいいと思っている。」

 

モニカ「…。」

 

グラン「以上だ。」

 

モニカ「そう…か。」

 

 彼は私以上にリーシャのことを考えていたと思う。前から頭が固すぎる、その程度にしか考えていなかった。実力もついてきたし、このまま成長すれば父親の跡を継ぐ立派な人間になれるだろう。そう楽観視していた。だが、彼は今のまま行けば起こりうる危険を理解し、その予防策まで思案していたのだ。むしろ自分が恥ずかしい。

 

モニカ「ならやはり、団長はリーシャを嫌ってなどいないわけだ。」

 

グラン「?理由があるまい。」

 

モニカ「ははっそうだな。」

 

グラン「あれにはさっさと仕事を終わらせてくるよう言ったはずだが、まだ残っているのか?」

 

モニカ「そんなこと言ったのか?」

 

グラン「ああ。仕事があるならさっさと行けとな。先ほども言ったとおり、あれがいると団の管理がとてもはかどるのだ。うちの団員でもあるのだから独占は困る。」

 

モニカ「…なるほど。」

 

グラン「?」

 

 リーシャが言っていたさっさと行けと言われたというはなしはこれか。グランからすれば、さっさと行って仕事を終わらせて帰って来いということだったのだ。そうわかるとリーシャの心配が馬鹿らしくなって笑ってしまう。

 

モニカ「グラン、君は少し言葉が足りなすぎる。」

 

グラン「何の話だ?」

 

モニカ「いやなに、もうすぐ終わるさ。私からも伝えておくよ。さっさと仕事を終わらせてこっちに来いってね。」

 

グラン「ああ。それで、まだ話があるのだろう?」

 

モニカ「ああ。それは…。」

 

 

 全空の脅威「ジータ」とその騎空団についての話だ。



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