Start Your Engine!!! (黒巛清流)
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なぜ彼女達は出会ったのか
「くそくそくそっ!」
一人の少女が悪態をついていた。
見た目は14歳ほどの中学生、非常に美しく美少女と言ってもおかしくないがその顔を歪めており地団太を踏んでいた。彼女の名前は篠ノ之束。
ISと呼ばれる宇宙空間での活動を想定し開発されたマルチフォーム・スーツを先ほど世界に向けて発表した。
だが、学会で『机上の空論』と一蹴され嘲笑された。その苛立ちをぶつけていると彼女に声をかけるものがいた。
「やぁ、荒れているね」
やけに通る低い一般的に言っていい声が束の後ろから響いた。束が振り返るとそこには一人の男性がいた。白衣を身にまとい髭を生やし眼鏡をかけた30代後半から40代前半ほどの男性だ。
束はその男性に見覚えがあった。先ほどの学会にいた男性で他の奴があきれたような表情をしている中一人だけ真面目な顔で聞いていた男性だ。束は不機嫌を隠そうともしない顔でその男性を睨みつける。
「……何か用?」
「何、先ほどの説明で少し分からない所があってね。どうやら君の造語のようだし気になって仕方ないので聞きに来たというわけだ」
「……ふーん」
束は簡単に用語について解説すると男性はほうと感心した顔で顎に手を当て、ふむふむと首肯した。
「……ねぇ、なんで私のISは理解されないの」
束はなんとなくと言った感じで目の前にいる男性に尋ねた、本当に気分であり特に深い理由はなかったがこの人ならちゃんと聞いてくれると思ったのかもしれない。
男性はふむ…と少し悩むと項目を確認するように言う。
「そうだな……理解するしないの前にまずやり方が良くなかったのだろう。正式な手続きや場を踏まずに突如乱入し一方的に演説して去っていったからね。それに私が来た原因でもあるが君が作った造語が多かったのも原因かな、私の周りの者達も理解しきれてない物が多かった。そして一番が現物がなかったことだね、中学生ほどである君には難しいと思うが用意していればまた変わっただろう。つまり今の状況だと夢想家な少女が聞きかじった論文を手に宇宙探索用のパワードスーツが出来たと世迷言を言いに来たという反応に……」
と男性が束の方を確認すると束は顔を真っ赤にして頬をわずかに膨らませてプルプルと震えていた。
どうやら先ほどの自分を客観視したようで今頃自覚してしまったようだ、確かに客観的に見れば子供の夢をひたすらに語る女子中学生のようなもので傍から見たら恥ずかしくて仕方ないだろう。
男性はやれやれと息を吐きながら言葉を続けた。
「まぁ君の説明や論文を見る限り絵空事と言うわけではないようだね…確かに実現は難しいが不可能でない」
男性は先ほど急に渡された論文を片手に束へと言葉を投げかける、その表情を見る限り確かに理解しているようで時折文章の一部に改善案を送っている。束としても参考になるようで時折感心したような視線を送っていた。束も男性も互いに相手を天才と理解したようでそのまま討論を続けていると男性は唐突に林檎を取り出した。男性はその林檎を前に出す。束は唐突に出された林檎に首を傾げる。いやな顔をしない様子を見ると多少は心を許しているようだ。
「君はこの林檎が地面に落ちるまでどのぐらいかかると思う?」
「え?」
パッと束は計算をした、今ある位置と重力などを鑑みて…
「0.401秒ぐらいだと思うけど……それがどうし」
「見てごらん」
男性が林檎から手を離し地面へ落下した……のだが。
林檎はその場で静止したかのように動きを止める……いや、僅かに下へと落ちているだが見ていると静止しているようにしか見えない。束はその手品のような……いや、束だから気づけた。それが手品でも何でもないことに、そして林檎は20秒ほどの時間をかけてゆっくりと地面へと落ちた。地面へと着く前に男性がその林檎を手で取る。
「これが私の研究している内容でね。重加速と呼んでいる……おっと、自己紹介がまだだったね」
男性はうぉっほんと咳ばらいをすると束に握手を求めるように手を差し出した。
「私の名前はクリム・スタインベルト。しがない科学者だよ」
まだスランプだったらやります。
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命とはなにか
「初めまして、私はクリム・スタインベルト。君が千冬君でよかったかな?」
「は、はい。織斑千冬です、よろしくお願いいたします…」
私の目の前には今中学生の少女がいる。
名前は織斑千冬、篠ノ之束君の友人だ。先日起きた通称【白騎士事件】のパイロットでもあるらしい、このような少女があのような動きをするとはと驚いたものだ。
私が何故ここに居るかと言うと彼女の教師を勤めるためだ。
これからISというものが広がる以上知識を得ることはとても重要となる、だが知識をまともに扱えるのは束君と彼女とともに研究した私ぐらいだろう。
少なくとも中学を卒業するまでに高校の知識を詰め込みたいところだ。
「私のことは好きに呼んでくれたまえ、では早速だが授業を始めよう」
「は、はいっ! よろしくお願いしますクリム先生!」
そのまま数か月、千冬君に勉強を教えながら私はとある仕込みと保険の準備をしていた。毎晩かかってくる束君の電話を受けながら世界のニュースを見る。
ISの発表を受け、様々な企業が名乗りを上げているらしい。そしていままで見向きもされなかった研究を取り上げられているようだ。
『クリムーどうしたの』
「いや、なんでもないさ。それで次にここだが…」
保険は充分に掛けた、あとは巧く作用するかだが…。
まぁ、なるようになるさ。
「…というわけです。どうか私達の企業に手を貸していただきたい」
他の企業もISを出してしばらく経ったころ自分の研究所で重加速を研究しているととある企業を名乗る者が私へと会いに来た。
私の重加速をISに使いたいと言うことでわざわざコンタクトを取りに来たらしい。話を聞く限り私が束君や千冬君と交流があることは知られてないようだが…。
ISの開発について名乗りを上げた企業は一通り目を通したがこの企業のことは知らない、まともな実績もない企業がIS開発をするには資産が足らないと思うので恐らくこれはダミー企業だろう。きな臭いことこの上ない。そもそもこの研究を他の者に渡す気は全くない、恐らく教えるとしても束君だけだろうな。
「すまないがこの研究を誰かに使わせる気はないんだ。すまないがお引き取りいただきたい」
「………分かりました、もし協力していただけるならこちらに連絡をお願いします」
企業の者は驚くほどあっさりと身を引いた、私は渡された名刺を確認した後握りつぶしゴミ箱へと捨てる。
さて、あのようなものが来ると思うなら…保険を急がなくてはいけないな…。
「…とうとう完成したか」
とある場所にある培養槽とアーマーステーションを見ながら私はそう呟く、使うことがないのを望むが…このままだと使わざるを得ないだろうな。完成するのは約5~6年ほど、順調にいけば彼女達と同じになるね…と、その場を去り。自らの研究所へと戻る。
いつものように代わり映えしない研究室に戻りデータを確認しながら携帯を取り出す、そういえばそろそろ束君に連絡をしなくてはと束君の連絡先を押そうとすると…
研究室の扉が勢いよく開かれた。
「-ッ!? な、なんだ!?」
私がそちらの方に視線を向けるとフルフェイスのヘルメットを被り武装した者が3人ほどいた。
私が突然の来訪者にうろたえているとその中の拳銃を持った男が私に向けて発砲する、乾いた銃声と共に私の腹部が強い熱を持った。
「がぁっ…!」
腹部を抑えて崩れ落ちる。
突然のこと過ぎて自慢の頭の回転力も落ちていた、必死に思考を巡らせながら私の前に立った男に視線を向ける。
「…残念ですよ博士、提案を受け入れてもらえなくて」
「…その声は…あの企業の者か」
どうやら私が研究を渡そうとしないために強硬策に出たらしい。
私には理解できないな、ダメなら別の研究を主題にすればいいものを…。
三人は私には目もくれずひたすらに書類やデータなどをかき集めている。撃たれた場所は急所だ、あと数分もしないうちに私は絶命するだろう。
私は手に持っていた携帯でとある連絡先を押す、1コールもしないうちにその人は電話に出た。
『もっしもーしっ♪ こんばんはくr……何かあった?』
彼女は本当に話が早くて助かる、しかし時間がないので手短に伝えよう。
「すまないがしばらく君に会えそうにない。我慢していただけるかな?」
『…待って、バイタルがかなり不安定。いったいどうしたのクリム!? 状況を説明して!」
「悪いが時間がない、手短に言う。襲撃された、
『…ッ! 待って! そこなら5分もあれば…!」
「無理だ、時間がない。今後のことはアーノルドが連絡するだろう」
『待って…っ! 待ってよ…っ! 一人にしないで…っ!』
「貴様っ! 何をしている!」
男の一人が電話をしている私に気付き、自動小銃をこちらへと向ける。
その様子を見ながら私は左手に持っていた
そのスイッチを見た三人を面白いようにうろたえる。
「それはまさかっ!」
「今日の私は少々、機嫌が悪いぞ…っ! ……さらばだ、束」
『クリム…ッ!』
その後、クリム・スタインベルトが所有している研究所が爆発炎上し。焼け跡から身元不明の遺体が三つと、クリム・スタインベルトの遺体が発見された。
クリム・スタインベルトに銃創と身元不明の三人が銃器を所持していたこともあり、事件としてその三人の調査が始まった。
その後、とある企業が謎のISに襲撃され壊滅した。
簡単な関係性
・織斑千冬
教師、色々なことを教えてくれていた。
タイミングが悪くて会えてないが何時か弟にも会わせたい。
訃報を知り思考停止した。
・篠ノ之束
無人機で襲撃。蹂躙の限りを尽くした。
その後、千冬が来たが無表情で涙を流し続けた。
・アーノルド
スタインベルト家の執事、クリムに良くしてくれていた。
続きはまたいつか
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何故「彼」は生まれたのか
ゴボッ…。
そのような音と共に意識が覚醒し目に光が差し込んだ。
視界には淡い緑色の液体で満たされており時折気泡が浮かんでいる。
ぼやけた意識が完全に覚醒すると同時、その水が排水され地に足がつく。
「おっとっと…ふむ、筋力はちゃんとあるようだ」
足に巻かれていた電極が取り外されながら中で浮かんでいた高校生ほどの青年が足をぐるぐるしながら口についていたマスクを外す。
アームで届けられたタオルで体を噴きながら渡された服を着る。
「『ドライブ』現在の日時は?」
彼がドライブと呼ぶとディスプレイの付いたアームが出てきて画面を表示する。
『現在はXX年の1月X日です』
「…何? XX年? 想定より8年も遅い。時間設定をミスったか」
その青年は頭をがしがしと搔きながら息を吐く。彼はラボのような空間にあるテーブルの上に置いてある少し古い携帯を手に取りどこかへ電話をかける。
「約10年…彼女は24歳か…待たせてしまったな。変わってないといいのだが」
電話は問題なく通信状態になりどこかへと繋がる。すると不機嫌と言った声色を隠さないといった女性の声が電話口から響いた。
「…誰、なんでこの番号を知っているのか分からないけどすぐに突き止めて…」
「久し振りだね、束。10年も経てば忘れてしまったかい?」
「…………嘘」
カツンという音と共に何かが落ちる音がして電話口から絞り出すような声が聞こえた。手に何か工具か何かを持っていたようだ。
「嘘…嘘…だって…だって…っ!」
「予定では2年で目覚めるはずだったんだがね。遅くなって済まない」
バタバタという走る音と何かの起動音、そして風を切るような音が聞こえた。その間束はずっと動揺した声を発していた。時間にして約3分、束にかかれば壁にすらならないセキュリティで閉ざされていたはずのエレベーターが起動し、扉が開くと同時に一人の女性が現れた。
「…綺麗になったね、束」
「…くり、む……クリムゥッ!!!!」
女性、束はその青年。クリム・スタインベルトにふらふらと歩きだすが次第に走り出しクリムに抱き着く。
「だいぶ若くなったんだが…分かるのかい?」
「忘れるわけないっ! 分からないわけないっ! ずっと! ずっと!ずっと! 10年間…ずっと苦しかった…っ!」
クリムの胸に顔を押し付け泣きながら腰に回した手に力を籠める。クリムは背中に手を回しながらもとんとんとあやすかのように背中を叩いた。
高校生ほどに見えるこの青年の名はクリム・スタインベルト、研究所でテロリストと共に自爆したその人本人と細胞がほぼ変わらず同じ存在である。彼は25年前に本人の細胞から作られたクローン人間だ。15歳の姿で固定しており知識、記憶などは本体が死ぬ直前までリンクしている。『スワンプマン』と言ったら分かる人には分かるであろう。
束が泣き止み、束がクリムにくっつきながらも情報のすり合わせをする。
「…なるほど、今はそんなことになっていたんだね」
「うん、おかげで今私は指名手配犯」
「なるほど…元々の予定としては君と同世代になってサポートする予定だったのだが…今の歳だと一夏くんと同い年ぐらいか…」
「だったらIS学園に行ってみない?」
「IS学園?」
聞くと束が開発したISの操縦者を育成する学園らしい。10年ほどでそのような学園が出来るとは驚きだな。束は専用のISを作ろうかと目をキラキラさせるが私は手をとある方向に向ける。そこには赤と白と黒で構成されたものがあった、部分ごとに見ると車のパーツのような雰囲気を感じるが一見すればそこには『IS』がそこに存在した。
「え、なにあれ!?」
「私がISを見て開発した『AI搭載型高機動マルチスーツ ドライブ』だよ」
「……んー、確かに少しISとは少し違うね。あ、これもしかしてここのコア変えると性能まで変わるのかなこれ。空中もいけるけど陸上特化型だね。タイヤも付いてて本当に車みたい」
実際車をモチーフにした機体だ。フォームチェンジが特徴的で大きく分けると通常の『IS型』屋内での戦闘を目的とした『
「基本的には『ドライブ』と呼んでくれ」
『よろしくお願いいたします』
「ずっと前から作ってたんだ、ならIS学園に入れるね。今はちょっと面倒な状況だからこうして…」
「新しい男性操縦者が見つかった…」
織斑千冬はその男性操縦者がいるという面会室へと向かっていた。
相手は織斑千冬との会話を望んでおり他の人には目に入らないようにしてほしいとのこと。
「おまけに束が後見人…面倒ごとの予感しかしないな…」
この男も何者だ…と面会室に到着し、山田真耶を下がらドアを開けて入った。
中には簡素な机と椅子が二客だけ置かれており奥の椅子には一夏と同い年ぐらいの青年が座っており柔らかな笑みを浮かべている。千冬は警戒しながら椅子に座った。底知れぬ雰囲気に少し君の悪さを感じながらも手にあるろくに何も書いていない資料を眺めながら問いかける。
「…まず、君の名前を聞かせてもらえるか」
「…クリス、クリス・スタインベルトという」
「…っ」
ピクリ、と千冬の眉が動いた。
「それは本名か?」
「いや、本名はクリム・スタインベルトだ」
「-ッ!」
その瞬間、千冬はクリムの胸ぐらをつかみ上げた。その名前は千冬にとって家族と言っても差し支えのない恩師の名前だった。容姿は似てはいるがどう見ても一夏と同じほどの年齢、恩師に子供がいたとも親族にもこのような子はいなかった。ならこいつはなんだ、何が目的だ。束は何を企んでいる。
胸ぐらを掴まれたクリムは特に慌てる様子も見せずにその手を軽くつかむ。
「流石にすぐには信じられないだろう、千冬くん。君の…」
「黙れ…! 何者かは知らないな先生の真似を…!」
「『君の長所は家族のことを大切に思えることだ、だが家族は一人だけではない。束も…私もだ』」
「…え?」
そのセリフは今でも思い出せる。中学生の時、家族のことで揶揄されて落ち込んでいた私に先生がかけてくれた言葉だ。一夏以外全て敵だと思えた時も先生が亡くなってしまった時もこの言葉を思い出して束や周りの人と頑張った、おかげで今の私がある。先まで連絡を取ろうとしていた束にはいまだに忙しいのか返信がないがもしかして…。
そう思うと同時、私の目から涙があふれた。その瞬間、私はもう気づいてしまったのだと思う。彼が、先生が何故か若い姿になり私の目の前にいる。
「なんで…先生が…」
「詳しい事情は今から話そう、10年振りの会話を楽しもうじゃないか」
「…はいっ!」
しばらくの間、面会室には楽しげな声が聞こえた。
それから約3か月後、入学式が終わって少し経った頃 学年別タッグトーナメントが終わった頃。副担任の山田真耶が気まずそうに言った。
「え、えっと…て、転校生が来まーす…」
ざわつく教室、合宿や夏休みすら始まるこの時期に転校してくる。どうみてもおかしい。
更に教室に入ってくる生徒にさらに驚く。
シャルのように中性的でもなく男性的な身体と容姿を持ち、銀フレームの眼鏡をかけた青年は自己紹介を始めた。
「クリス・スタインベルトだ、二人目の男性操縦者としてよろしく頼むよ」
その瞬間、教室に黄色い歓声が飛んだ。
出来ました、この後は1~2話挟んだ後合宿編に行きます。
入学式からだと長くなるなって思いましたので
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