光の戦士の時間旅行 (Apollo 13)
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日常

モードゥナ、レヴナンツトール。

 

巨大な水晶の塔を臨み、多くの冒険者が集うこのキャンプには、とある組織が居を構えている。

その名は「暁の血盟」

これまでにエオルゼア諸国の抱える多くの問題を解決に導き、北方のガレマール帝国による侵略を退けアラミゴ、ドマ両国の独立を達成し、今や英雄と呼ばれるようになった《光の戦士》を擁する者たちである。

そんな彼らは今日も世界を救うべく、エオルゼアの大地を疾駆している…

 

訳でもなかった。

 


 

「だぁぁ、つっかれたぁー…」

 

だらしなく机に腕を放り出しながら、ミコッテ族の女性がぼやいた。

 

「今日は蒼天街行って、子竜ちゃんとおしゃべりしながら道具作るつもりだったのにぃー…」

 

「ごめんなさい、最近は鎮静化していた筈のグナースの塚から異常なエーテル波が観測されたものだから、即応出来たのがイシュガルドにいた貴女だけだったのよ」

 

申し訳無さそうにそう言いながら、クルルがカモミールティーを淹れてくれる。礼を言うそのミコッテの横では、急遽呼び出しに応じてくれたアルフィノ、アリゼー、そしてグ・ラハが、同じく疲労の面持ちで茶を飲んでいた。

 

「なかなか上手くいかないものね…。ここ最近はどの蛮族も蛮神召喚に踏みきっていなかったから、このまま活動そのものも収まってくれると思ったけど…」

 

「どうしようもないわよ、クルル。私達が融和の姿勢を見せても、そうじゃない人間がいる限り蛮神召喚が止まることは無いわ」

 

「そういえばシドとサンクレッドの報告で、ギムリトの帝国兵に目立った動きは無いが、先日既にエオルゼア各地に展開している帝国軍基地に次々と艦艇が着陸したと情報が入っていたね」

 

そう、今回の蛮神ラーヴァナの召喚においても、高地ドラヴァニア近辺で帝国兵の目撃情報が報じられた矢先の出来事だった。

竜詩戦争が終結しドラゴン族との直接的な争いが無くなろうとも、蛮神の存在を否定する帝国軍がいる限り、蛮族側にとっては自分達の平穏は無いも同然なのである。

 

「報告とこの状況からすれば、帝国軍はドラヴァニア近辺で大規模な作戦を実行する可能性が高い、と考えられるわけね」

 

「そこに来て、道中に拾ったコイツだろ?」

 

そう言ってグ・ラハが取り出したのは、小型の雷波通信機だった。テイルフェザーから一度「分かたれし者たち」の集落に寄る際の道で、あちこちに設置されていたらしい。

 

「さっきヤ・シュトラから、同じような物が低地ドラヴァニアでも発見されたと報告があった。かなり広域に設置しているようだ」

 

「となると、もう殆ど準備は完了してるってことかしらね」

 

「蛮神召喚と帝国兵か…。これからちょっと忙しくなるかもしれないね」

 

そこまで話したところで、タタルがケーキを持ってやってきた。

 

「お待たせしまっした、タタル謹製ロランベリータルトでっす!」

 

「ありがとうタタル。んーとっても美味しそう!」

 

「キター!!疲れた時には甘いもの!鉄則だよね!」

 

「ちょっと、さっきまで殆ど喋ってなかった癖に、いきなり元気になりすぎじゃない?」

 

「まぁまぁ、今回は彼女が前衛で一番消耗しただろう?」

 

「俺も今回は急ぎだったから、杖しか持ってこれなかったんだ。すまなかった」

 

「いーのいーの、私も焦って大剣しか持ってきてなかったし、ちょうどこの四人が集まってくれて良かったよ」

 

言いながらミコッテはフォークを持った。

 

「…でもアリゼーのぶんはちょっと取っちゃお♪」

 

「あっ、やったわね!!っていうか貴女のほうが私のよりちょっと大きいじゃない!」

 

「えー?燃える床踏みそうになってアルフィノに助けられたのはどこの誰だっけ?」

 

「ぐっ…!あ、あれはちょっと焦ってただけで…っていうかそれとこれとは別でしょ!?」

 

「こら二人とも暴れないの!せっかく淹れたお茶が溢れちゃうわ」

 

「…彼女、本当に疲れてるのか?」

 

「あ、あははは…。流石は我らが英雄殿だね…」

 

テラス席に彼らの笑い声が響く。

レヴナンツトールを拠点にしてから、『暁』の面々はこの高層テラスで話をすることを好んだ。風が通るし景色もよく、何よりキャンプの喧騒がよく聞こえる。彼らの日々の情報収集にはもってこいの場所だったのだ。

 

「ほら、早く食べるわよ!後で特訓付き合ってもらうんだからね!」

 

「えーまたぁ…?私もう疲れたから家に帰りたいんだけど……」

 

「何言ってるの?そんなこと言ってどうせまた木人と格闘してるんでしょ?」

 

「動かない物と人とじゃ感覚違うよぉ……。それに私今暗黒騎士だから、アリゼーのほうがジリ貧になるだけじゃないの?」

 

「ならチーム戦にしましょ?私はアルフィノ、貴女はラハと組むの。これなら互角になるはずよ」

 

半ば強引に話を進めるアリゼーを、タタルとクルルが面白そうに見ていた。

 

「え、えぇ!?私はこれからウリエンジェと話を…」

 

「四の五の言わずに来る!ラハも、それでいいわね?」

 

「あ、あぁ。俺は構わないが…あんたは、俺と組むのでいいのか?」

 

戸惑いながら、グ・ラハはミコッテの顔を覗いた。すると彼女はにっこり笑って、もちろん、と言った。

 

「ごちそうさま!それじゃ行くわよ、ア・ルト!」

 

「あ、ちょっと待ってよ!ンモグッムグッ……ほひほうはま!!」

 

「あ、おい!そんなに急いだら喉に詰まるって!タタルごちそうさま!おーい、ルトー!」

 

「やれやれ、ウリエンジェへの報告は明日だな…。ごちそうさま、美味しかったよ」

 

慌ただしく駆けていく四人を見送り、残された二人は顔を見合わせて大笑いした。

 

 

これは彼らの日常。

過去と未来、多くの人々が命懸けで繋ぎ止め取り戻した、英雄達の日々。

 

 

 

 

『…成る程。警戒はしているみたいですが、随分とまぁ緩みきってらっしゃるご様子ですねぇ…』

 

その日常に少しずつ、そしてまたしても、《影》が忍び寄りつつあった。

 

『…結構、私の【実験】のモルモットになって頂くのに、実に丁度いい…』

 

《影》は、彼らの予想を超える事象を生み出す。

 

『まずは初期段階、彼らを【いつ迄繋ぎ止められるか】…。せいぜい役に立って頂くとしましょう…』

 

 




作者の書きたい欲の吐き出し場です
更新?気分かな


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雪風

「うぅ…」

 

『越える力』が発現した時のようにズキズキと痛む頭を抑えながら、ア・ルトは顔を上げた。

 

「あ、あれ?皆は…」

 

気がつけば、それまで周りにいたはずの人々は居なくなっていた。

自分が居た場所は変わっていないが、さっきまでと景色がどこかズレているような感覚がある。

ぼやけた視界と混乱した頭を、冷たい風が無理矢理起こしに来ているような気がした。

 

「えぇと、確か…」

 

 

 

 

キャンプ・ドラゴンヘッド

 

 

ルトにとっても暁の面々にとっても馴染み深いこの場所に、アリゼー達と訓練終わりに立ち寄ろうという話になった所までは覚えている。

エマネランたちに歓迎され、余興とばかりに雪合戦をすることになり、全員がキャンプの外に出たところで、

 

「……アシエン」

 

黒法衣の人影が、そこにあった。

全員が臨戦態勢をとる中、黒法衣は徐に手を掲げ何かの呪文を唱えた。

その瞬間、ルトが黒法衣に引っ張られる形で宙を舞い…

 

 

 

 

「…思い出せた、けど」

 

では、ここはアシエンの術中ということか。

先程から感じている奇妙な感覚も、これが幻であることを『越える力』が感じ取っているからだというなら確かに説明はつく。

だが、そうなるとここに自分だけしかいないという問題が一気に深刻さを増してくる。幾ら異能の力があれど、自分達とは次元の違う完成度を誇るアシエンの魔術には、一人では到底太刀打ち出来ないからだ。蛮神を相手にするとでは格が違いすぎる。

 

「とにかく、脱出する方法を考えないと…」

 

立ち上がり、服に付いた雪を払ったところで、後ろから自分を呼ぶ声がした。

 

 

 

「ア・ルト!こんなところに居たのか」

 

 

その声は、とても懐かしく感じた。

 

 

「キャンプのどこにもいないものだから、心配したぞ」

 

 

その声は、もう聞く事は出来ないものだと思っていた。

 

 

「ん?雪だらけじゃないか。寒いだろう?」

 

 

まさか。

ルトは声の主の方へ振り返った。

 

「………ぁ」

 

 

 

「さぁ戻ろう。あたたかいコーヒーを淹れるからな」

 

声の主、オルシュファンは優しく微笑んだ。

 

 

 

「……ぁぁ」

 

会いたかった。

 

「ぁああぁぁあああ!!!!」

 

もう一度、会いたかった。

 

 

 

 

「ど、どうしたんだ!?ア・ルト!」

 

いきなり抱きつかれ、大声で泣き出されてしまい、さしものオルシュファンも狼狽えを隠せずにいた。

一体何があったというのだろう。今まで多くのものを背負ってきた彼女のことだから、こんなふうに生の感情をぶつけられることはないと思っていた。

故にオルシュファンは今の彼女のことが、どこか哀れなように思えて仕方がなかった。

 

「大丈夫、私はここにいるぞ」

 

泣きじゃくる彼女を支えながら、オルシュファンはルトをなだめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

どういうことだ。

渡されたコーヒーを飲みながら、ア・ルトはまだ混乱したままの頭を精一杯回転させる。

何故、オルシュファンが生きている。

いや、そもそも生きているという認識は正しいのだろうか。アシエンが見せている幻覚の一部という可能性もある。だが、幻というには余りにも感覚が現実的過ぎないだろうか。さっき彼に抱きついたなんか特に…

 

「って何考えてんのぉぉ……」

 

瞬時に顔が真っ赤になるのを感じながら、ズレた思考を修正する。

幻覚にしては妙にリアルな感覚、生きているオルシュファン、どこかズレた景色。

ルトの中である仮説が導き出された時、部屋のドアが開く音がした。

 

「おや、君もいたんだね」

 

「あ、アルフィノ…?」

 

今となっては懐かしい、双子お揃いの服を着たアルフィノがマグカップを持って立っていた。

彼はテーブルにつくと、ルトの視線から何かを察したように話し始めた。

 

「ん、これかい?オルシュファン卿がくださったんだ」

 

「アルフィノ、その格好…」

 

「あぁ、上着を忘れてしまってね。今日も冷えるね、凍えてしまいそうだ」

 

ズズ、とコーヒーを啜り、ほっと息をつくアルフィノに、ルトはある質問をする。

 

「オルシュファンは今どこに?」

 

「ん、彼は今イシュガルドに赴いているはずだ。父君であるフォルタン伯爵を説得するためにね」

 

 

 

その一言に、ルトは確信した。

つまり、ここは。

 

「私達のためにここまでしてくれる。本当に感謝しかないよ、オルシュファン卿には」

 

 

 

ナナモ女王暗殺事件。

そしてクリスタルブレイブの崩壊直後。

 

竜詩戦争終結以前の、イシュガルドということか。

 

 




眠気と戦いながら書いた


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異変

一瞬の出来事だった。

宙を舞ったア・ルトはそのまま雪の中に倒れ込み、元凶たる黒法衣は何をするでもなく虚空に消えていこうとしていた。咄嗟に突撃をかけたが、レイピアは届くことなく空を裂いた。残ったのは動かない彼女と、無力な自分達だけ。

 

 

アリゼーは呆然と立ち尽くした。

後ろではルトを心配する皆の声がするが、それを聞く余裕は今の彼女には無い。

 

(……また)

 

また届かなかった。

皆を…あの人を守るために刃を研ぎ続けて来たのに。

どれだけ研ぎ澄ましても、届かなければ意味はない。

心を覆う真っ黒な感情は、しかし覆いきる事なくかき消された。

 

「ア・ルト!気がついたか!」

 

アルフィノの声に咄嗟に振り向くと、ふらつきながら立ち上がるルトの姿があった。安堵と、多少の苛立ちとともに彼女のもとへ駆け出す。

 

「ルトあなた大丈夫なの!?ケガは?あのアシエンに何かされた痕跡はない!?」

 

 

「……間に合った」

 

 

「え?」

 

「…大丈夫、大丈夫だから。ありがとう」

 

「あ、ありがとうじゃないわよ!大丈夫ならさっさと起きなさいよ、心配したじゃない!!」

 

「ア、アリゼー…」

 

アルフィノが微妙な表情をする。

自分でも中々に理不尽なことを言っている自覚はあるが、心配させた方が悪いのだと責任転嫁してやる。いつもならすぐに言い返してくるだろうと返事を待っていたが、返ってきたのは

 

「……うん、ごめんね」

 

弱々しい謝罪と、悲しげな笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ足元の覚束ないア・ルトを担いで、グ・ラハはエマネランに通された部屋に入った。

『雪の家』と呼ばれるその場所は、かつて窮地に陥ったルトたちを救うため、イシュガルド四大伯爵家が一人であるフォルタン伯爵と、その息子オルシュファン卿が用意させたのだという。

彼女や暁にとって非常に思い入れの深い場所であることを、グ・ラハはすぐ理解した。

 

 

椅子を繋げて即席のソファを作り、そこにルトを寝かせる。まだ意識はぼんやりとしているようで、目は開いているがどこを見るでもなく上の空のままでいる。

グ・ラハは耐え切れなくなり、『それ』を口にした。

 

「ルト、本当に何も無かったのか?」

 

「………」

 

周りには心配をかけないよう気丈に振る舞っていたが、恐らく自分だけでなく他の皆も気づいていただろう。

 

彼女の雰囲気が、先程までと全く違うのだ。

 

彼女が『ア・ルト・ルナ』であることはまず間違いない。もしアシエンが取り憑いているならエーテルに異常が現れるはずだし、そうであれば自分が気づくことが出来るからだ。

しかし今の彼女のエーテルにそういった揺れは見られない。襲撃によって体内エーテルに多少のダメージは見られるものの、少なくとも彼女の体と精神は正しく結びついている。

 

では今の彼女から感じるこの『違和感』は、一体何なのか。

いつも明るくて、ヤ・シュトラから「ちょっとは落ち着いたらどうなのかしら」とまで言われるほどお調子者な彼女が、今は別人のように静かになって、どこか伏し目がちにも見える。たった一瞬でここまで人が変わることが、普通あるだろうか?

 

 

「…私が」

 

「…?」

 

「……私がしなきゃいけないこと…」

 

グ・ラハは戸惑った。

唐突によくわからないことを言い出すルトは、上の空の表情のままグ・ラハに顔を向けた。

 

「…お願いがあるの、ラハ」

 

「何だ?ルト」

 

 

 

 

「私は世界を救わなきゃいけないの」

 

毅然とした表情になって、ルトは言った。

 

「だから、力を貸して」



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竜詩

過去の世界に飛ばされてから、一週間が経った。

 

「よい、しょ、っと。ふぅ…」

 

世話になっているキャンプの人々の手伝いをしながら、ア・ルトはこれからの事を考え続けていた。

 

 

 

昨日、オルシュファンからイシュガルドへの入国許可が降りたことを知らされた。アルフィノやタタルは浮足立っていたが、ルトの思考はそれ以外の事に飛んでいた。

日付が記憶とズレているのだ。

忘れもしない、自分がイシュガルドに入国したのは霊三月二十三日だ。しかし今は星三月二十日。一ヶ月近くズレている。

加えて、自らの装備も記憶と全く違う。この頃は剣と盾(ナイト)を使っていたはずだが、背中には何故かまだ会得していないはずの大剣が収まっている。英雄の影身(フレイ)にも出会っていないはずなのに、だ。

では何故、自分は暗黒騎士となれているのか。

 

(…過去に飛ばされる前の記憶が、残っているから?)

 

一瞬そう考えたが即座に否定する。仮にそうだとしても、先人達の記憶(ソウルクリスタル)が手元に無ければ説明がつかない。しかし今、手元にはそれがある。

つまり『私』という意識が入ってくる前、恐らくこの『ア・ルト・ルナ』はここに至るまでに、既に暗黒騎士としての技能を会得していたのだろう。

 

そんな諸々のズレを纏めていくと、少しずつ置かれた状況が見えてくる。つまり『この世界』は、自分の歩んできた惑星ハイデリンではないということだ。

そこまで考えた所で、ルトは一つの仮説を導き出した。

 

(……次元の超越)

 

今よりずっと先の未来、『第八霊災』と呼ばれる時代の人々は、自らの、そして世界の希望を繋ぐため、長い年月をかけてある秘術を大成させた。

それが『時空超越』

次元を超えて時間を遡り、死する運命にあった『ある一人の英雄』を救うため、次元の向こう側にある並行世界にすら到達させる、人智を超えた大魔法。

 

では、これがアシエンの手に渡ったとしたら?

確かに、『オリジナル』と呼ばれる純古代人であったアシエン達は、全て消滅している。その場面をルトはこの目に焼き付け"覚えている"。

しかし時空超越の秘術大成は、同時にあることを証明した。してしまった。

 

『並行世界は存在し、それぞれ似て非なる歴史を歩んでいる』

 

陳腐な言い回しをするなら『可能性は無限大』という言葉が、そのままの意味で世界に存在することを証明したのだ。

ならば、アシエンがその秘術を手にするという可能性すら、或いは現実のものとなるだろう。

 

アシエン達による歴史の改ざん。

ア・ルトはこの事態の根幹をそう予測した。

 

 

 

「ア・ルト!そろそろ休んだらどうだい?」

 

ふいに後ろから声をかけられて、ルトは少し驚いた。声の主はアルフィノだ。どうやら休憩用に珈琲と菓子を持ってきてくれたらしい。

 

「あ…うん。ありがとう」

 

「どうしたんだい?顔色が優れないようだが」

 

「え?そ、そうかな」

 

とぼけてみせるが、アルフィノの表情は怪訝なままだ。確かにこの一週間、体を動かしていないと思考が纏められず、ほとんど毎日手伝いをし続けていた。近隣の魔物退治なんかもしていたおかげで戦闘に関してはかなり余裕が出来たが、そもそもまともな休息を取っていない気がする。

 

「手伝いもほどほどにね。明日はいよいよイシュガルドへ入国だろう?今日は早めに休むんだ」

 

「…そう、だね」

 

微笑みかけてくれるアルフィノにぎこちなく笑みを返しながら、それでもルトは心にかかる真っ黒な靄を払うことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇都イシュガルド。

雲海にそびえ立つ城塞都市国家。

ここでは、千年にわたり仇敵ドラゴン族との戦いが続いている。

人呼んで『竜詩戦争』

今もその爪痕は街の至るところに存在し、人々は明日をもしれぬ日々を送り続ける。

 

 

 

「随分と、手荒い出迎えだね」

 

皇都へと続く長い通廊を進みながら、アルフィノかそう呟いた。当日になって生憎吹雪に見舞われ、厚着をしていなければ凍えてしまいそうな状態で、それでもルトとアルフィノは歩みを止めなかった。

『暁』の灯火を守るために。

 

 

聖徒門を抜けたところで待ち受けていたフォルタン家の使用人に案内され、ルト達はフォルタン伯爵邸に通された。

中にはオルシュファン、そして現当主であるエドモン・ド・フォルタン伯爵がおり、凍えきったルト達を歓迎した。

 

「ひとまず、イシュガルドの現状は理解していただけたと思う」

 

ソファに腰を落ち着けながら、伯爵はそう切り出した。ここに案内されるまでに、使用人とイシュガルドの各地を巡りながら、この国が置かれた状況をあらかた説明してもらっている。それが何を意味するのかも。

 

 

「単刀直入に言おう。この国はもはや、戦争が出来る状態にはない」

 

 

 

その言葉がすんなり受け入れられるほど、ルトは落ち着き払っていた。

既にイシュガルドは壊滅寸前の状態にあるのだ。ひと目見ただけでもわかるほどに。

 

雲霧街は人の気配すらないほどに崩れ落ち、上層の貴族の邸宅ですら崩壊寸前のものまで見えた。

神殿騎士団は先の防衛戦で多くの兵が死に、組織としての戦力は最早払底しつつある有様だった。

この状態で、もしまたドラゴン族が襲撃してこようものなら、恐らくイシュガルドは壊滅するだろう。

 

そう、これもズレが生じていた。

そしてそれが、自らの体験したことのない更なる地獄を生み出すことは、想像に容易いことだった。

 

「頼む、英雄殿。この国を、救っては貰えないだろうか」

 

 

 

 

 

 

ラストヴィジルと呼ばれる高層テラスから、ルトはクルザスの雪原を眺めていた。

 

これから、どうすればいいのか。

自分の記憶が役に立たなくなったことで、その記憶通りに行動することは意味が無くなってしまった。この先イシュガルド、いやエオルゼアを救うための方法は、恐らく1つだけ。

 

戦争を終わらせる。

しかも、最小限の犠牲で。

 

勿論、自分ひとりでは不可能だ。あくまでルトは一兵卒と何ら変わりのない『個人』の戦力だ。それこそ、多人数の指揮なんて小隊レベルでしかやったことのない人間が、いきなり先陣に立って命令したところで上手くいくはずがない。

だがそれを、彼女の「光の戦士」という面が許さない。

先の事件以来追われる身になったとはいえ、人々の心にはエオルゼアを救う「光の戦士」というイメージが、ルト自身のものとして焼き付いているだろう。

 

逃げ場はない。

私が「英雄」として、立たなければならない。

 

 

 

 

重く、潰れそうになった体を、誰かが支えてくれた。

 

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「……オルシュファン」

 

 

――あぁ、なんて大きくて、安心できる人だろう。

思えば彼は、ずっと自分と対等に接してくれた人だ。

英雄だなんだという呼び方ではなく、ただ『友』だと、胸を張って隣にい続けてくれた。

私のかけがえのない大切な人。

 

 

 

(……死んでしまうのかな)

 

また、私を一人にして。

 

(……笑ってくれと、言うのかな)

 

また、私を守って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、オルシュファン」

 

 

「ん、どうした?友よ」

 

 

「私ね、目標が出来たよ」

 

 

 

 

 

「絶対に、誰も死なせない」




蒼天編割とうろ覚え


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議論

謎のアシエンの襲撃から一日。

急遽ア・ルトの招集で石の家に帰還した暁の面々は、彼女が語る言葉を信じることが出来なかった。

 

「この世界はもうすぐ"塗り替えられる"。そうなる前に、あのアシエンを止めなきゃいけない」

 

塗り替えられる。

滅ぼすでもなく、霊災を起こすでもなく。

想像がつくはずなく、まして現実味などありもしない唐突な話に、その場にいた全員が困惑した。

見かねたヤ・シュトラが口を挟む。

 

「…待ってア・ルト、それじゃ話が見えないわ。もっと詳しく説明して頂戴」

 

「…わかった」

 

少し面食らった表情になりながら、ア・ルトは自らが『超える力』で見たという事を語り始めた。

 

 

「あのアシエンの狙いは、『歴史の改ざん』だった。かつて水晶公…グ・ラハが行ったような時空超越をつかって、この世界の過去も未来も書き換えるつもりなの」

 

 

語られた事実に、誰もが絶句する。

 

「そんな…第八霊災が起こる未来は回避されたというのに……」

 

「過去も未来も書き換えるって…それじゃ、私達が認識している『今』はどうなるの?まさかもう変わってたりしないわよね?」

 

「大丈夫だよアリゼー、まだこの『今』は書き換わってない。でももう時間はない。相手の狙いがわかっている以上、行動を起こすのも『今』しかないの」

 

 

ルトのその言葉を皮切りに、シャーレアンの賢人たちは議論を開始した。

 

「…まず、状況を整理しましょう。ア・ルト、その歴史の改ざんはどのようにして進められていたの?」

 

「詳しいところまではわからない。けど確か、『波』がどうとか言ってた気がする」

 

「『波』…?エーテルの波長がどうとか、次元の狭間での時空の揺れとか、そういうことか?」

 

「いえ、相手がアシエンである以上そのような人間的な、彼らの言うところの『なりそこない』的な問題は持ち合わせていないでしょう。それよりも私は、それとは別に気になることがあります」

 

そう言って、ウリエンジェは自身の疑問を呈する。

 

「そも、かのアシエンは如何にして歴史を塗り替えるのでしょうか」

 

「それは、時空超越をつかって…」

 

その答えに、彼は目を鋭くした。

 

「そう、そこです。もし時空超越をしたとして、その歴史は"書き換わるのでしょうか"?」

 

「…なるほど、そういうことか」

 

「そうね、私もそこは気になっていたの」

 

皆がウリエンジェの問いに首を傾げる中、サンクレッドとヤ・シュトラが納得した様子で、ウリエンジェの疑問に追随する。

 

「グ・ラハ、今お前の中ある魂は第八霊災が起こった未来のお前の記憶を受け継いでいるな?」

 

「あ、あぁ。魂はこちらの世界の俺だが、記憶は確かに受け継いでいるよ」

 

「なら聞くが、お前が時空を超える時、お前が元いた世界は『消滅していた』か?」

 

その問いにグ・ラハは一瞬首を捻ったが、すぐに答えた。

 

「……いや、してない。少なくとも俺は、そういう現象を認識していない、はずだ」

 

「…やはりな。こいつはかなり面倒な事になった」

 

「ど、どういう事なの?」

 

理解が追いつかないという表情で聞くアリゼーに、ウリエンジェが答えた。

 

 

「グ・ラハの答えが正しいとすれば、第八霊災が起こった未来の世界は消滅していない、つまり存続しているということになります。しかしそれでは、私達が認識している『今』、つまり第八霊災を回避したこの世界と、矛盾が発生してしまうのです。」

 

「『祖父殺しのパラドックス』というやつだ。例えば今から、誰かが時空を超越して過去に行き、若い頃のルイゾワ様を殺したとする」

 

「なっ、サンクレッド!」

 

「落ち着け、例え話だ。もしルイゾワ様が過去で殺された場合、アルフィノとアリゼーは『生まれてくるのか』?そして『今』存在している二人は『消滅するのか』?」

 

「そ、れは……」

 

「…なるほど、『多元世界解釈』か」

 

そこで、ようやく状況を飲み込めた様子のアルフィノが、更に議論を重ねた。

 

「私達が認識している世界の『外』に存在する、同じような世界の羅列。いわゆる並行世界(パラレルワールド)と呼ばれるものだね。エーテルを通して、この世界と似たような世界が幾重にも重なり合って出来ていることを"観測"しようとした学説を、大学で読んだことがあるんだ」

 

「加えて、蛮神『アレキサンダー』の件も記憶に新しいわね。階差機関を用いた未来予知…。今はもう研究は出来なくなってしまったけれど、あれはもしかすると『多元世界』を独自に解析して、その先の未来を読み解くものだったんじゃないかしら」

 

「…もしお祖父様が殺されたとしても、それはここではない『別の世界』で起こった事になるから、現在の私達は消滅したりしない、ってこと…?」

 

アリゼーの答えに満足した様子で、ウリエンジェはこれまでの話を纏めていく。

 

「つまり私達が存在しているこの世界と、第八霊災が起きた世界は別の次元であり、歴史が書き換わったのもこの世界での事。第八霊災が起きた世界の歴史は、書き換わっていない」

 

「あちらの世界が消滅していないことは"観測"出来ている訳だしな。『時空超越で歴史は書き換えられない』ということで、間違いないだろう」

 

「ちょ、ちょっと待って!それじゃ、アイツはどうやって歴史を改ざんしようとしてるの?時空超越で書き換わらないなら、他に方法なんて……」

 

「ある」

 

アリゼーの疑問を、ア・ルトはキッパリと否定した。

 

「この世界でたった二つ、時間に干渉できるものがある」

 

それは。

 

 

「『重力』と『エーテル』」




なお自分で何書いてるかわかってない模様


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