No dream No future (ぬかづけ)
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プロローグ

はじめまして、皆さん。ぬかづけです。
今回が初めての投稿のひよっこですが、なんとか面白い(と信じたい)作品を作ったのでぜひ見ていってください。
この小説のテーマは『夢』。
落第騎士の英雄譚の世界で一つの夢を掴むため奮闘する一人の男の姿を描いた物語です。
では、記念すべき?プロローグどうぞ。


 

 

 人間は、生きていくには糧が必要だ。

 

 それは、大切な人との想い出だったり、子供の頃からの宝物だったり人それぞれだ。

 

 そこから人間は、希望を得て、それを生きる糧へと変換させている。

 

 そして、その中でも人間を大きく動かせる一番の糧は、夢だ。

 

 警察官、消防士、プロ野球選手、パティシエ等、種類によって形や大きさは違う。

 

 だが、全ての夢には、必ずある「共通点」がある。

 

 それは、夢を叶える過程の中で「努力を積み重ねる大事さ」、「困難に出くわした時の大変さ」、「壁を乗り越えていく喜び」を経験していることだ。

 

 得る動機はそれぞれ違えど、この3つを得られた者には、自分の願望を叶えられる力を授けられる。

 

 この内の1つでも経験することができなければ、自らが思い描いている物を掴むことはできない。

 

 それほどまでに人生の中で最も険しく、困難な修羅の道なのだ。

 

 

 だが、その道を通ることができるのは、()()()()()()()()()だけだ。

 

 そもそも自分の夢を見つける事ができなかった者には、その道に足を踏み入れる事すら許されない。

 

 走って、走って、とにかく走り続けた。見えないはずの自分の夢を掴むために。

 

 修羅の道へと足を踏み入れる資格を得るために。

 

 

 だけど、伸ばした手が届くことはなかった。

 

 それも当然だ。自分でも見えない物に必死に手を伸ばした所で、何も得られやしない。

 

 なのに何故、あの時の俺は、存在しない空想の物を掴もうとしたのだろう。

 

 

 

 いや、掴もうとしたんじゃない。目を背けたかったんだ。

 

 いつまでも夢を見つけることができない現状から。

 

 そして、気付いてしまったんだ。

 

 修羅の道へ恐怖を抱いてしまった自分自身の心の弱さに。

 

 

 

 

 

 

 俺は夢を捨てた。

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 寒い&うるさい

 

 今の状態を言い表すならば、この2つの言葉がベストだろう。

 朝早く起きる使命を持つ俺達学生の身体を蝕み、布団という聖域に封じ込める魔力を持つ早朝の肌寒さ。

 その肌寒さに苦しみ続ける俺達にお構いなく、無慈悲に意識の覚醒を促す爆音を発生させる学生の最大の味方でもあり、敵でもある目覚まし時計。

 

 この2つの試練をどうにか突破してから、俺達学生の朝が始まる。

 

 だが、言葉ではそう言いながらも、中々越えられないのが悲しい現実である。

 

 ゆっくりと布団から手を伸ばし、枕元に置いてある電子生徒手帳で現在時刻を確認する。

 この学園に入学してから支給された超便利アイテム。最初名前を聞いたときは、どんな物か全く想像できなかったが、今じゃ学園生活を送る上では欠かせない相棒にまで昇格している。

 

 5時55分

 大体の学生が起きる時刻を表示しているディスプレイを目視した瞬間、俺の脳内で、2つの選択肢が生まれた。

 

 1:辛いが時間なのでそろそろ起きる

 

 2:まだだ。ギリギリまで二度寝して身体を休めよう

 

 ……こんなの迷うまでもなかった。学生として下すべき決断など昔から決まっている。

 

 

 

 二度寝。

 

 (…まあ?時間もかなりあるし?別に2,30分寝ても罰は当たらないと思うんですよ。最大限身体を休める事も学生の仕事だって言うし)

 

 おそらく、この男が思っている休息と世の学生の休息はかなり、いや全く異なるだろう。 

 

 (……仕事なら仕方ない。うん、仕方ない仕方ない。よし、そうと決まったらすぐさま二度寝だ。はぁ~至福しふk――。……ん?)

 

 

 

 誘惑に負け、二度寝しようと布団に身体を委ねた瞬間、起きたばかりで余り働いていない嗅覚が今まで嗅いだことのないような匂いを捉えた。

 

 (…あぁ、何だこれ。すっごい良い匂い……。俺お香なんて買ってたっけ…)

 

 この匂いに覚えがない男は、この部屋のもう一人の主であるルームメイトの姿を浮かべた。

 

 (でも、あいつお香なんて買うタイプじゃなさそうだしなぁ)

 

 すぐさまその可能性を切り捨て、少し目覚めかけた意識を再びブラックアウトさせようとする。

 

 (ふぅ…。ま、危なくなったら一輝が起こしてくれるだろうし。安心安心――)

 

 今はまだいないルームメイトにこの先の未来を託しながら瞼を閉じ、二度寝を実行する。

 

 

 (はぁ……。……ていうかこの匂い女の子みたいな……)

 

 彼はそこで、再び静かに落とした。

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 「……んあっ!?」

 

 2回目の眠りを堪能している男の耳に、電子生徒手帳からけたたましく着信音が無慈悲につんざく。

 

 「何だ!何だ!人が気持ちよく寝ている時に……あっ…」

 

 止まる気配もなく鳴り続ける着信音に驚きと苛立ちの念を抱きながら、ディスプレイを覗き込んだ瞬間、起きたばかりにも関わらずせわしなく動いていた彼の脳内が突如停止した。

 

 何が彼の思考を停止させたのか。その答えは生徒手帳に映し出されていた。

 

 理事長

 

 そのたった3文字が短時間で彼の目の前を真っ白にさせ、恐怖のどん底に叩き落すのは容易だった。

 

 「…えっ?なんで?なんで?理事長?」

 

 (落ち着け!落ち着け!何故理事長のようなお方から着信が来るのか……!)

 

 半分考える事を放棄した頭を必死に働かせ、理事長からの着信の理由を推測する。

 

 (考えろ…!考えろ…!)

 

 「ってかまず、出なきゃ駄目だろ!」

 

 いくら理由を探し当てた所で、その本人からの着信に出なくては元も子もない。男は、再び思考を放棄させ、素早い動きで手帳を手に取り、応答ボタンを押した。

 

 「はいもしもしぃ!真田(まさだ)ですぅ!」

 

 通話が開始された瞬間、真田は媚び売りスタイルで乗り切る作戦にした。このスタイルを使えば、大体は被害を最小限に…。

 

 『あぁ、真田。突然ですまないが、理事長室まで来てくれ。早めにな』

 

 

 

 

 

 

 なる訳ねえだろ。 

 

 

 




いかがでしたか。
まさか話のほとんどが睡魔との戦いで埋め尽くされている作品なんてウチ位でしょう(白目)。
しかも、これプロローグだぜ?
次回は少し遅くなりますが、なんとかまた面白い(と思いたい)&ボリューミーな話をお届けしたいと思っています。
では、またお会いしましょう。


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第1話 邂逅

お待たせしました。
待望の第1話ご賞味ください。
だがその先は保証しない。


「ふぅ…。本日の巡回終了っと。」

 

 本日の業務を終え、疲労が溜まった身体を休めるために、ベンチに腰を掛けているのは、ここ破軍学園の数ある施設の内の1つである学生寮の警備員新谷 護(にいたに まもる)

 

「ったく。ホントに広いなぁ、この学園。1回の巡回でここまで疲れんのここだけじゃねえか?」

 

 余りの学園の敷地の広さに思わず愚痴を吐く護。無理もない。ここ破軍学園は、日本に七校ある伐刀者(ブレイザー)を育成する騎士学校の1つであり、その敷地の広さは、東京ドーム10個分である。

 

「はぁ…。でも、ここで働いてもう3年かぁ。早ぇもんだな、時間の流れってのは……」

 

 照らした者に朝の知らせを伝えるかのように、サンサンと輝く朝日を見ながら、この学園での初業務の頃の記憶を懐かしむ。

 

「最初、伐刀者を育成する学校って聞いた時は、長続きする気力が湧かなかったが、やってみると案外他の学校と変わらねぇなぁ」

 

 広場を巡回する自分に、元気よく挨拶してくれる女子生徒。放課後、友人と一緒に近くのショッピングモールへ遊びに行く男子生徒たち。そんな彼等の姿を見ると、護が勤務してきた学校の生徒のように、学業に励みながら青春を謳歌している従来の学生の姿にしか見えなかった。

 

「…でもあんな子たちも、近い将来、お国のために危険な場所で、戦わなきゃなんねぇんだよな…」

 

 護の言う通り、彼等学生騎士は、国家機関の認可を受けた専門学校で「免許」と「魔導騎士」としての社会的立場を取得し、国の非常時には、その身を危険な死地に落とす事もあるのだ。今じゃ戦争も伐刀者の力なくしては成り立たない程、彼等伐刀者の存在は貴重かつ巨大なものになっている。1年で死ぬ伐刀者の数もそう少なくはないのだ。

 

「…そろそろ戻るか「先輩ぁ~い!」…ん?」

 

 彼等学生騎士の将来に少し暗くなってしまった気分を振り払うようにベンチから立ち上がった護に、護と同じ警備員の制服を着た男が走って近づいて来た。

 

「お疲れ様です!(まもる)先輩!これどうぞ!」

 

「おう、太一(たいち)か。すまねえな」

 

 護に寮の前にある自販機で買ってきた缶コーヒーを渡してきたのは、今年赴任してきたばかりの新人警備員の太一。

 

「ここでの仕事は少しは慣れてきたか?太一」

 

 護は渡された缶コーヒーのプルタブを開けながら、太一に仕事の調子を聞く。

 

「いやぁ、流石にまだ。……しっかし、本当に広いですねぇここ」

 

「そりゃ将来を担う魔導騎士を育てるための施設だからな。国のお偉いさん方もそれだけ力を入れてるって事だろ」

 

 

 

 破軍学園の広大な敷地を見回しながら、ここに初めて来た時と同じ台詞を呟く太一。その言葉を聞いた護は、太一に学園の案内をした時をふと思い出す。あの時の魂を抜かれたような表情は、今でも忘れられない。

 

「へぇ…。あっ!そうだ先輩!実は今日、痴漢を捕まえたんですよ!」

 

「ほう、そうかそうか痴漢か大したも……は?痴漢?」

 

 思い出したかのようにしてきた、後輩のサラッと事後報告に、護は思わず聞き返した。

 

「はい!第一学生寮の巡回をしていたら、女性の悲鳴が聞こえてきて、その悲鳴が聞こえてきた部屋に駆けつけてみたら、下着姿の女の子の前で上半身裸になっている男がいたんですよ!」

 

 しかも、かなり高いレベルの変態を捕まえたらしい。だが、そんな変態がこの学園に侵入したとは考えづらい。

 

(しかし第一学生寮か…。問題起こすような生徒はいないは……いや待て)

 

 この騒動の黒幕に少し心当たりを感じた護は、太一に1つ質問をする。

 

「その…太一。因みになんだが、その、変態がいたのは、何号室だ?」

 

「えーっと。…405号室でした。」

 

(やっぱり……!)

 

 それを聞いた途端、護の中でこの騒動を起こしたと思われる男の姿が浮かんだ。あいつだ。あいつしかいない。去年この学園で大暴れしたあの男しか。

 

「まさか、赴任した年に変態に出くわすとは、思いもしませんでしたよせんぱ…先輩?どうしました?」

 

「ん?あ、あぁ、何でもない」

 

 護は思わず長考に沈んでしまった脳を落ち着かせるために、残った缶コーヒーを一気に流し込んだ。

 

「でも、変態の割には、結構イケメンでしたし、身体も結構バッキバ「ブホォッ!!」ちょっ!?せ、先輩!?大丈夫ですか!?」

 

 突然コーヒーを噴き出した護に、驚いた太一は護の背中を擦りながら声を掛ける。

 

 護は動揺していた。太一が言った変態の特徴を聞いた瞬間、彼が予想していた人物ではなく、全く別の人物が出てきたからだ。

 

(え!?そっち!?あの暴れん坊の方じゃなくてイケメン君の方!?「あの…先輩」一番セクハラとは縁遠いイメージだが……いや人は見かけによらずって言うしな。女子の身体を見た瞬間、長い寮生活で溜まった欲が一気に爆発して行為に走った。……よし謎は解けた。「あの…先輩」後は……ってなんで部屋に女の子がいんだ「先輩!」)

 

「あぁ、もう何!!」

 

「なんか、聞こえません?」

 

「あ?………あぁ、確かに何か聞こえるな」

 

 再び終わりのない長考のスパイラルに迷い込んでいた護は、太一に指摘され、ようやく今この場に響いている音に気付く。

 

「なんか、叩き付けてる音みたいな…」

 

「いや叩き付けてる音というより、足音か?」

 

 出自不明の音を聞きながら、2人はその正体を探り出す。

 

「何なんですかね?これ」

 

「さあな。どっかで改修工事でもしてるんだろ。さ、そろそろ戻るぞ」

 

「そ、そうですね。はぁ、き、今日も疲れたn「すいませぇぇぇぇん!!ちょっと通りまぁぁぁす!!」うぉぉっ!?」

 

 戻る2人の間を突如一人の男が、猛スピードで過ぎ去った。突然の出来事で2人が何が起きたか理解するのに、それからしばらく経った後だった。

 

「な、何すか!?今の暴走特急列車みたいなの!?」

 

「……あぁ、あいつか」

 

 困惑する太一と裏腹に、護は先程の男を知っているようだった。

 

「え?先輩さっきの人誰か知ってるんですか?」

 

「…まあな。…太一、ここを案内した時に言った話覚えてるか?」

 

「へ?…ええと……なんでしたっけ?」

 

「はぁ…。ほら去年起きたあの事件の…」

 

「あー…あぁ!!あの!!ってあれが!?」

 

「そ。あれが噂の《暴れ勇者(ランプレイバー)》だよ

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

「はぁ…はぁ………つ、着いた…」

 

 (おそらく)理事長からの怒りのお呼び出しを喰らった真田は、半分パニックに陥りながらも部屋から飛び出て、見た者から暴走特急列車と称される速さで理事長室へ駆け出した。

 

「はぁ…はぁ……もう、ここ広過ぎ…はぁ…こんなに、走ったの、久々…」

 

 ヨロヨロと廊下を歩きながら、学園の異常な敷地の広さに思わず突っ込みを入れる真田。

 

「はぁ…もうちょっと、優しい造りに、してくれても、いいじゃない…」

 

 入学当初の頃は、目的地に着くまでひどい時は2時間もかかってしまい、放課後はほぼ毎日反省文と教師からの説教のWパンチを食らっていた。

 

「はぁ…はぁ…け、けどなんとか、俺、一人でも、行けるように、なったな」

 

 密かに自分が成長している事を実感しつつ、ついに理事長室の前に辿り着いた。ここまでのタイム約34分。……大目に見よう。

 

「ふぅ………よし」

 

 荒い呼吸を整え、理事長室の扉の手前に行きノックをしようと腕を上げる。

 

「…………待て」

 

 だがここで、真田ある問題に直面した。してしまった。

 

「………ノックって何回だっけ…」

 

 大問題だ。致命的だ。この男、急な展開のせいか国際標準マナーで定められているノックの回数を忘れてしまった。

 

「確か3回がトイレノックで、2回が……なんだっけ。……あれそもそもトイレノック3回だっけ…」

 

 おそらくこの瞬間、理事長室の前でノックについて苦悩している人類は、この男くらいだろう。

 

「ええと、2回と3回の2つだっけ………あ、でも確か4回も……あぁ!もう!どれだぁ!?」

 

 こうして悩んでいる内に、時間は刻一刻と進んでいっている。このままでは、何かしらのペナルティを科せられてしまう恐れがある。

 

「……よし!今は緊急事態なんだ。……緊急時ならノック無しでも許されるかもしれない……うん!きっとそうだ!」

 

 あろうことかノックもせずに突っ込む暴挙に出る計画を練り始めた。

 

「…よし、扉を開けたらすぐさま謝罪と詫びの言葉を入れて、土下座。このコンボでひたすらゴリ押しだ」

 

 しかもその後の保険まで掛けようとしている。この男、実にせこい。

 

「ふぅ……チャンスは一回限り…。……落ち着け、大丈夫だ…!」

 

 全然大丈夫ではない一連の動きを脳内で何度もシュミレーションする。

 

(この作戦が成功する確率……限りなく100%に近い…!)

 

 何を基準にそう判断できたのだろうか。かなり無謀な作戦が正攻法に思えてしまう程、彼は追い詰められているのかもしれない。

 

「……よし、いくか…!」

 

 成功の確信を感じた真田は、再び扉の前に立ち、ドアノブに手を掛ける。

 

「……全身全霊……真っ直ぐに……突き進む……!」

 

 不安と恐怖に怯える心身を奮い立たせ、覚悟を決める。

 

「……っしゃあ!!」

 

 そして勢いよく目の前の扉を開け、作戦を実行に移した。

 

「お待たせしましたぁ!真田 宏伸(まさだ ひろのぶ)!ただいまとうちゃ……」

 

「問答無用よ!このド変態!」

 

「ち、ちょっとステラさ……あ…」

 

 

 

 

 体が浮いた。……いや、浮いたんじゃない。

 

 これは、多分、吹っ飛ばされたんだ。

 

 ……ん?なんで吹っ飛ばされたかって?

 

 多分ノックもせずに入ったからじゃないかな

 

 ……え?そもそも何故ノックもせずに入ったかって?

 

 …………ハハハハハハ

 

 

 

 なんでノックしなかったんだろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
長い時間を掛けてじっくり煮込んだ第1話は?
今回だけでオリキャラを2人程追加してしまった罪をお許しください。
この分は、次の話の面白さで返してみせますので……。
では、またお会いしましょう。


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