オーバーウォーズ (Eitoku Inobe)
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銀河の大戦争

初投稿です


プロローグ

 

ある日銀河は“融合”し一つとなった。

かつてバラバラであった3つの銀河系の三種族は運が良かったのかそれとも神の思し召しかそれぞれのテリトリーの距離が恐ろしいほど近くなったのだ。

三種族の名は[マーハトリアン]、[インティガリアン]そして[ヒューマン(人間)]。

三種族とも突然の事態で激しく動揺しあくまで和平を持ちかける者、軍事力でねじ伏せようとする者、静観を決め込む者などバラバラに分かれた。

最初は話し合いによる解決を進めたがそれを許さぬ者たちがヒューマンの中から現れた。

[イリメリス]と呼ばれる自らが人類の始祖であり優れた神の子であると自負する星の人々だ。

その者たちは会談を邪魔しついには三種族の全面戦争となってしまった。

戦争は長引きいつしか40年近くの時が過ぎていた。

そんな中ついに戦争を止めようと立ち上がる者達が三種族の中から現れた。彼らの地道な努力の末戦争は終結し新たな三種族の国家が生まれ平和を謳歌していた。

しかしそうそううまくいく訳ではなかった。戦争はその後も続いた。三種族が開拓を進めるにつれ多くの種族との戦争があった。

その度その度に国家は疲弊し遂に最悪の事態が起こった。

あの[イリメリス]の者達が国家を乗っ取り新たな

[イリメリス神聖国]を設立他種族やイリメリス以外のヒューマンに迫害を始めた。

だがそんな悪魔のような時代に変革を吹き込む者達が現れた。かつてイリメリス神聖国の全身[銀河連合国]の政治家や軍人、民間人までもが自由を取り戻す為命を捧げついに銀河の半分以上が参加した[大銀河連邦国]が誕生した。

当然神聖国軍と連邦軍は戦争状態となった。

初期は圧倒的な軍事力を誇る神聖国軍が優勢であったが連邦もただやられている訳ではなかった…

 

航宙戦の天才

 

衛星の軌道上に大銀河連邦軍の艦隊が隊列をなし暗く寂しい宇宙を進んでいた。

そんな姿を一人の将校がどこか悲しそうな表情で見つめていた。

将校は艦隊を見てはため息を吐きまた悲しい表情で艦隊を見つめ返していた。その時ドアから一人のインティガリアンが入ってきた。

「上級少将、サヴィゼル上級少将そろそろお時間です」

その将校[ファキャル・サヴィゼル]上級少将は振り向き疲れてるような声で言った。

「ラワル参謀…すまないね今行くよ」

「また星を眺めておいでですか?」

そうラワル参謀は問いを投げかけた。サヴィゼル上級少将は少し苦笑いをこぼしてから問いに応えた。

「いやこれだけの船が全て戦争の為に造られたと思うとどうも滑稽でそして悲しくてね…まあ気にしないでくれ」

その軍人らしからぬ言葉にラワル参謀は思わずため息を吐いた。

「艦隊の司令官がそんなんでどうするんですか」

「そうだね、さて行くとしますか」

 

艦隊の旗艦[レイド級大型戦艦]の[デヴァステトス]で作戦会議が行われていた。

すでにある程度の話し合いが行われている中ラワル参謀はサヴィゼル上級少将を連れ込んだ。

「えぇ先ほども申しました様に我が艦隊は3900万隻、一方的の侵攻艦隊は5100万隻我が方が不利であります」

そう第四小艦隊のグロント准将は説明を始めた。

今回の戦いは連邦領内に我が物顔で進行してくる神聖国艦隊からの防衛戦だ。しかし各地で防衛戦が繰り広げられ連邦軍も各地に欲しいぶんだけの艦隊を送り込めなかった。

それに対し神聖国艦隊は圧倒的な数で進行の歩みを止めなかった。

「今回の戦いに対し小官は撤退を進言いたします、数の上でも圧倒的に不利尚且つ敵指揮官はあの[ボルス・サーヴィン]高級提督です

統計学の面から言っても敗北は必至」

「だからと言って撤退など言語道断!!市民の為にも命尽き果てるまで戦うべきです!!」

そう勇敢なマーハトリアンの第五小艦隊指揮官ダッグフォルト准将は声を大きくし言った。

「だからと言って部下に死ねと言うおつもりですか」

第三小艦隊のゲッター准将は落ち着いた口調で言った。

そんな状況をサヴィゼル上級少将は頭をかきながら眺めていた。するとラワル参謀が仏頂面で言った。

「如何やら上級少将にいい考えがお有りの様ですよ」

するとその場の将校全員がサヴィゼル上級少将の方へ顔を向けた。

サヴィゼル上級少将は困り驚いた表情をしていたがラワル参謀の目は「こうでもしないと言い出さないでしょう」と言うメッセージが込められていた。

「えっと…敵艦隊はその数を利用して包囲戦を敷いてくるだろうその時必ず敵の司令旗艦の守りは手薄になる、その時は我々は艦隊を二手に分け敵の頭上と船底の二方向から攻撃を仕掛けこれを撃破する」

その驚きの戦法にまず異議を申し立てたのはダッグフォルト准将だ。

「ちょっと待ってください!?そんな戦法聞いたことありませんよ!?」

「私も初めて言った」

「しかし相手はあのボルス高級提督、そう簡単に敵艦隊へ近づけましょうか?」

ゲッター准将は顎髭に手を当て考え込んだ。

「大丈夫、確か近くに恒星がある恒星から発せられる熱量に合わせて艦隊を動かせばきっと探知できないさ。すでに哨戒艦に命じて敵艦隊の正確な位置と妨害電波の放出は完了済みさ」

「いつの間に…」

そうグロント准将は絶句した。

「私がただ会議をサボって星を眺めているだけだと思ったかい」

その皮肉を込めた笑みは各将校の緊張をほぐすいい材料となった。

 

その頃神聖国軍艦隊の司令官ボルス高級提督は依然として艦隊を密集させたまま警戒を怠らず進軍を続けてた。

「依然敵艦隊の動き見られません」

「敵領内まであと4500Kmもう間も無く敵センサー圏内です」

「哨戒艦からの報告、この宙域に以上なし」

ブリッジの士官から定期報告を受けたボルス高級提督は妙な違和感を感じつつも作戦を実行した。

「よし作戦開始、各艦第一種戦闘配置のまま艦隊を包囲陣形へ!!」

艦隊は3つに分かれ[ガルザー級主力戦艦]が中央に集結し[ブントル級護衛艦]が艦隊を守る為前方へ後方に[バルトコール級空母]が

そして間の火力を補う為[ヴォホール級重巡洋艦]が配置された。

三段構えの形となった艦隊は敵領への進行作戦を開始した。

「しかしこれほどの数にこの戦術なら敵は恐れをなして逃げ出して行くでしょうね!!」

そうボルス高級提督の副官はどこか興奮した面持ちで言い出した。

「あぁ…だが何かが妙だ…気を抜くなよ」

「ハッ」

恐らくこの違和感に気付いていれば運命は変わっていたのだろう。

どうして敵の艦隊が発見できなかったのか。

なぜこうも易々と領内に進行できたのか。

この違和感が数時間後彼らに降りかかる悲劇となる…

 

観客のいない戦い

 

最初に異変を検知したのは旗艦艦隊のセンサーからであった。

「ん?恒星からのフレアがいつもより広範囲に広がっているなぁ」

「どうせ新型のセンサーが課題に感知しているだけじゃないのか?」

「今が作戦行動中と言うことを忘れるなよ」

そう若手のブリッジ士官を諫めた艦長は観測班に周辺の肉眼での探査を命じた。

だが肉眼での確認は少々時間がかかり発券が遅れた為気づいた頃には悲劇が差し迫っていた。

後方に二手に分かれた敵艦隊がこちらを補足していたのである。

 

最初に敵艦隊を砲撃したのはダッグフォルト准将率いる第五小艦隊であった。

「よしこのまま前進しつつ砲撃を続行!!敵の背後を狙うは些か心苦しいが仕方ない…手加減は無用!!撃ち尽くせ!!」

その命令と共に高火力を誇る[レイド級大型戦艦]や[ファイング級戦艦]、[ジレス級重巡洋艦]が砲火を強め敵艦を次々と沈めていった。

しかしそれで心が折れるほど敵の艦隊は弱くはなかった。すぐさま体制を立て直し反撃を試みたが事前に張られたシールドにより全て水泡とかした。

また後方艦隊の実弾や魚雷での支援により上下から挟撃された艦隊は次々と爆煙を上げ大破した。

また機動力のある[アポロノーム級軽巡洋艦]や[キュープ級駆逐艦]が物凄い速さで砲撃を躱しビーム砲や魚雷を近距離で叩きつけた。

依然として駆逐艦や軽巡洋艦が存在する利点はこう言う所にあるのだろう。

「よし全機発艦」

そして後方の支援に位置するゲッター准将の[パルサス級空母]機動部隊から発進した[宇宙地上兼用歩行戦闘機=STWF]は次々と

敵のSTWFを撃破し爆撃機タイプのSTWFがついに敵中央に爆撃を開始した。

ボルス高級提督の旗艦も爆撃の被害に遭ったが何とか耐え対空戦闘を開始した。

一機のSTWFがフライトモードからスタンドモードにチェンジし2機のSTWFを両腕の固定ビーム砲で撃墜、腰のビーム砲で一隻の

ヴォホール級重巡洋艦のエンジンに直撃させ両腕をサーベルモードに固定し艦橋を真っ二つに切り裂いた。

その頃攻撃を受けず無傷な前方艦隊は反転し艦隊の“上”に位置する敵艦隊に砲火を集中した。

しかし第四小艦隊の[ディフェイト級護衛艦]が前方に展開し砲撃を完全に無効化した。

護衛艦とは主に艦隊や要塞を通常の船よりより強力なシールドを展開し艦隊を守ると言う船だ。小型な為武装は少ないが防御力で言えばこの船を超える能力を持つ艦船はそうはいないだろう。

そして真後ろに待機していた、ジレス級重巡洋艦とファイング級戦艦が一斉に砲撃を開始し反転した艦隊は壊滅した。

 

すでに敗北を悟ったボルス高級提督はせめて味方に危機を伝えようと連絡を図っていたが妨害電波が強く通信できなかった。

「味方損害率81%!!」

「エドレケン撃沈!!フグラシュトもです!!」

負けたな。そうボルス高級提督は心の中で思った。そしてせめて相手の指揮官と顔を合わせて見たかったなと。

味方の損害率が93%を超えた時突如敵旗艦から通信が入った。

『こちらは第十三防衛艦隊司令官、ファキャル・サヴィゼル上級少将です。あなた方の勇敢な戦いぶり感服致しました、ここで殺したくはない是非とも降伏を」

そう敵司令官のサヴィゼル上級少将は降伏を迫った。

まだ若いな…

彼はどこか驚きと晴れやかな気持ちを持ってその問いに答えた。

「サヴィゼル少将、貴官らの好意感謝する。しかし我々は軍人だせめて貴官らの手で葬って欲しい…」

ふと隣にいる副官や周りの士官の顔を見た。

皆覚悟を決め笑みを浮かべながらボルス高級提督を見ていた。

すまない…私が不甲斐ないばかりにとボルス高級提督心の中で謝罪した。

するとサヴィゼル上級少将もどこか悲しい表情で命令を下した。

『了解した…貴方たちの勇敢な戦いぶりは必ず後世に引き継ぐ。!!全艦最大火力で砲撃一発も外すな!!』

どうやら彼はせめて苦しまず一撃で葬ってくれるらしい。

「ありがとう少将、貴官の紳士な対応あの世への手見上げとして語らせてもらおう」

「こちらもできれば敵同士でお会いしたくはありませんでした…」

ボルス高級提督は小さな声で笑い真っ直ぐモニターを見た。

直後残った全ての艦艇に一発も外さずビーム砲が直撃し全ての船がこの広大な宇宙の藻屑と消えた。

 

「敵旗艦撃沈!!残存艦艇なし」

直後ブリッジは戦闘態勢から常時のモードに切り替わり皆肩の力を落とし声には出さないが喜んだ。

しかしこの男は違った。

「サヴィゼル上級少将?」

「何でもないよラワル参謀…本当に惜しい方を亡くした…」

その重い言葉にラワル参謀も同調した。

「あのような将校、連邦軍内にもそうそういません」

「あぁ…これが戦争…容赦無く人の命を奪う人が作りし悪き物だ」

そう言ったはいい物のサヴィゼル上級少将は実際悩んでいた。その戦争で儲け暮らしている者の一人は自分だからだ。

そんな自分がたまらなく嫌だった。

「上級少将、キャッツ提督の麾下艦隊が別働艦隊の一隊を撃滅したと報告があります、もう一隊も撤退を開始したと」

「わかった、全艦に打電撤退しようとする艦船に一切の砲撃は許さないと」

「了解しました」

ラワル参謀は心中を察し何も言わなかった。そしてそのままブリッジを飛び出したサヴィゼル提督は再び星と艦隊を眺めていた。

彼は窓越しの宇宙が全て今のような戦場になったらどうなるのだろうと考えていた。

一体何名のボルス高級提督のような方を犠牲にすればいいのだろうか…

そしてこの果てしなき戦いに終わりはくるのだろうかと。

しかしいくら考えても答えは出なかった。それでも考え続けた。そして考える事は彼の最も得意とする事だったので何の苦にもならなかった。

 

つづく




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終わらぬ戦い

第二話です!!


 

プロローグ

 

ボルス艦隊の大敗により連邦領侵攻作戦大失敗に終わった。

損害もただなぬものであった。

2000万隻以上を失った多くの上優秀な将校を冥府へと手渡してしまった。

当然イリメリスは黙って見ているほど優しくは無くすぐさま大規模な侵攻作戦を実行に移そうとしていた…

 

サヴィゼル艦隊集結

 

連邦軍上層部から名誉上級中将に昇進を言い渡されたファキャル・サヴィゼルは首都惑星デセップスの軍本部の廊下で一人ため息を吐いていた。

「まさか名誉中将とは…彼らの命を踏み台にした結果がこれか…」

「名誉将官などそうなれるものではありません、もっと自信を持ってください」

そう参謀ラワル准将は相変わらずの仏頂面で言った。

インティガリアンは知性が高く豊かで優れたユーモアの持ち主が多いのだが例外もいるようでラワルがまさにその一人であった。

「まあ…どうやらすぐに戦場に駆り出されるようだがな」

「その件についてですが作戦立案の進捗は」

「私の方で大まかな内容は考えた、細部は君に任せるとして分艦隊指揮官達を呼んでくれ話はそれからだ」

 

「お久しぶりです提督!!」

「アステッセルこないだは本当に助かったよ」

彼は[アステッセル・ニューペル]。サヴィゼル艦隊の分艦隊指揮官の一人で前回の戦いでは哨戒艦や小艦隊を率いた寄せ集めの艦隊でボルス艦隊1700万隻相手に見事な連携で侵攻を阻んだのだ。

実質サヴィゼル艦隊のナンバー2である。

「それで今回はどんな無理難題をふっかけられたので?」

「あぁその件についてだが…」

ゲッター准将やダックフォルト准将、グロント准将達もこちらを見た。

全員次に命を賭ける場がどんな所か、どんな作戦で打って出るか彼らは聞く理由が山ほどあった。

「我々はヒィーゼル中将、チェルス中将を含めた3個艦隊が今回の作戦に投入される総数およそ1億2000万隻」

指揮官達は声を上げて驚いた。

1億2000万隻という大部隊が投入される作戦はあまり類を見なかったからだ。

そしてさらに驚くべき要素があった。

「そして敵艦隊は総数3億隻」

普通の将校であれば戦慄しそこからピクリとも動けなくなっただろう。

今まで神聖国軍は幾度と無く中小規模の侵攻作戦を繰り返して来たが3億隻という大艦隊による作戦はそれこそ類を見なかった。

防衛する味方の3倍弱という戦力の差も十分彼らの恐怖心を刺激した。

「まあいつもの事ながら戦力の差は如何ともし難いが、ここで連中の鼻を折ってやれば当分デセップスの街を眺めながら優雅に茶が飲めるぞ」

冗談まじりに部下の緊張をほぐした。

「では貴方の戦術お聞かせ願いましょうか?“名誉中将”」

艦隊一の怪力男ダックフォルト准将は露骨にサヴィゼルをからかった。その微笑ましい光景に老練なゲッター准将ですら笑みを零した。

まあラワルは相変わらず無表情だったが。

「まあ鼻を折るってよりは鼻をつまむって戦術なんだが…」

 

「サヴィゼル提督お聞かせ願おう、君の戦術案を」

「はい、ですがこの戦術ではあなた方に一番負担を強いる事になります」

サヴィゼルは一応の確認を提督達に取った。

皆苦悶の表情を浮かべていた。

「かまわん市民を守り神聖国打倒の一歩のためならこの命いくらだって捧げよう」

第十五艦隊のチェルス中将は皆の覚悟を口に出した。

「ではまず敵艦隊は以前と同様に艦隊を分散し作戦に移るでしょう、そこで各艦隊はこちらで予測できる3つのルートを死守してもらいます」

「待て敵艦隊は分散してくるとは限らんぞ、特に前回の戦いを踏まえれば尚更だ」

艦隊指揮官の一人デッサール中将が忠告した。

「ですが敵は大軍、一箇所に集中的に攻撃した所で大軍の利点を活かせません。それに敵は我々の寝首をかきたいのか小惑星帯付近に陣取っています、ここを通るのに大軍では無理でしょう…そして何より重要なのは敵の大将がイリメリスの本国で悠々自適に過ごしていたという事です。そんな坊ちゃんが敗北を活かそうとするでしょうか?私はしないと考えます」

「なるほど、続けてくれ」

「先ほども言った通り敵艦隊は小惑星帯に入ってくるでしょうが本隊は通信状況や指揮系統から見ても安全なポイントから動かないでしょう、そこで各艦隊は分散した艦隊を引きつけつつ我が艦隊で本隊を殲滅し指揮系統を混乱させます」

サヴィゼルの無茶苦茶ではあるが筋の通った戦術はその場の将校達を唸らせた。

さらに彼は雄弁を続けた。

「そこで逃げてくれるもよし、そのまま膠着状態に持ち込むもよし我々に取ってはいいこと尽くめです」

「わかった…貴官の戦術に合わせて艦隊編成を行うだがいいのか?囮の我々より君の方がよほど重役だぞ」

サヴィゼルは少し困った顔をしていたがすぐに表情を変えその憂いを払拭した。

「そんなこと作戦を立てた時から覚悟の上ですよ」

 

連邦艦隊は艦艇の編成を完了し戦場へと赴こうとしていた。

各艦隊指揮官も歴戦の猛者も一兵卒までもが心臓の鼓動を早めながら持ち場についた。

「各艦位置につきました、いつでも行けます」

「よし座標をエンケリスの門へ!!」

連邦軍の軍艦は全て粒子の粒になりその場から消えた。

サヴィゼルを含めた戦士達が戦いの場へ駆けていったのだ。

 

死闘

 

ガス帯紅く彩られた宇宙空間に橙色と黄色を混ぜた色をした光が宇宙というキャンバスを彩った。

彩られた光は戦いの光、人が最も醜いと蔑む殺し合いの光だ。

しかしその光は止むことはなく何十、何百もの光が紅の宇宙に消えていった。

小惑星に隠れた連邦艦隊は次々とて神聖国軍を狙い撃った。

神聖国軍も負けじとシールドを展開し反撃に出た。

あっという間に両者は膠着状態となってしまった。

このルートだけでなく各ルートでも連邦軍はそれぞれ己の職務を全うしようとしていた。

「護衛艦を全面に展開しつつ主力艦は中央に火力を集中、後方艦隊は実体弾で支援攻撃!いいか我々は時間を稼ぐだけでいいんだ…焦るなよ」

中央のルートを死守するフィーゼル中将は冷静に命令を出した。

しかし内心この状況に焦りを感じていた。

(だが敵は我々の3倍…地の利や防衛上の優位があるとはいえいつまで保つか…)

 

「敵艦隊のシールドが強力で十分な損害を与えられていません」

「分かっておるSTWF隊全機発艦!雷撃によるシールド突破を図る!!」

「お待ち下さい、敵は密集しており辿り着く前に対空砲網で損害が…」

「それでもかまわん!!多少の犠牲はやむなし…全機発艦し突撃!!」

後方の[バルトコール]級空母から発進した神聖国軍のSTWF[MF-12/Aバスターファイター]が解き放たれた獣のように広大な戦場を駆け回った。

「敵宙戦闘機発艦を確認!!」

「駆逐艦、軽巡を前方に展開し対空砲網を確立!空母はフリーディフェントを発艦させ後方に退避、各艦は前方シールドから全方位シールドに変更!!」

艦隊は素早く陣形を変えせめり来る敵機から身を守った。

素早い陣形の転換は功を奏し次々と敵のSTWFを粉砕した。後方から戦場に急行してきた連邦軍のSTWF[GG-3フリーディフェント]は素早さとは裏腹の火力でバスターファイターの編隊を次々と崩していった。

優秀なAIとそれを上回る連邦のパイロット達はあっという間に敵を追い返し艦隊を守った。

「提督サヴィゼル艦隊より緊急暗号通信!!『我作戦ヲ完遂ス』…間も無く攻撃開始です!!」

ブリッジの士官達は皆その報告に釘付けにされた。

「何!?ついに…よし敵艦隊を引きつけるぞ全艦凸陣形のまま進軍!!砲火の手を緩めず奴らの鼻っ面をもぎ取ってやれ!」

各艦隊は攻勢に転じた。

もうすぐ勝利が近づいていた、博打のような作戦だが勝てればそれで十分であった。

彼ら軍人は市民と国益、理想の為に命だって賭けるのだ。

 

得たもの

 

「敵本隊まで残り3万km…」

「ついに敵のセンサー範囲内か…我々のカモフラージュがうまく働いてるといいが…」

「察知されていれば敵は呑気に増援を出したりしませんよ」

「各分艦隊、準備完了いたしました」

サヴィゼルはエネルギー消費による熱源の発生を少しでも抑える為電源をカットされたブリッジで士官から報告を聞いていた。

「全艦最大速度で進撃敵の意表を突く」

 

「各艦隊と通信途絶、増援要請からの報告がありません」

通信士官からの報告を受けた全艦隊の指揮を取る[ドルース・シェデルストック]高級大将は顎に手を当てながらため息を吐いた。

「全くこれだから一般階級の成り上がりは…増援をくれてやれ」

彼はものすごい不機嫌な顔でそう命令を下した。

心の中では今口にした言葉以上に分散した艦隊指揮官を罵っていた。

その程度の知恵も回らんのか一般平民はと。

イリメリスは古来から専制政治が行われており上流階級である[神族]と一般階級である[平民]、現在は“一応の所”銀河の全域を支配している為イリメリス出身者ならば[上級平民]と扱われているが神族の者にとっては奴隷同然でありそんな彼らが同じ土俵にいることさえ悍しい事だった。

その例に反さずドルースも多くの平民を馬鹿にし前回戦死されたボルス提督も

「愚かな成り上がり者が無能だっただけ」と言い全く反省を活かそうとしなかった。

その為付け入る隙を与えてしまった。

「センサーに反応…識別信号がない?妙だな…これは…これは連邦艦隊です!!」

「なんだとぉ!?詳しく報告を…」

艦の大きな揺れと共にドルースの声はかき消されてしまった。

そして彼はモニターに目を奪われた。何万隻もの敵艦がこちらに砲撃してくる様を。

 

「全艦砲撃開始、出し惜しむな。第三群は後方から支援を第四群、第五群は作戦通り敵を分断せよ。第六群は包囲網の足掛かりを」

命令と共に勇敢な第四群のキュープ級やアポロノーム級が敵艦隊を分け入るように突撃した。

魚雷やビーム砲で次々と無防備な艦艇を沈め着々と目標を達成していった。

第五群も負けじとレイド級やファング級、ジレス級が持ち前の大火力で大きな穴を開けていった。

第三群の指揮官ゲッター准将は状況を判断し命令を下した。

「全艦に通達、STWF第一、第二中隊を発艦させ敵残存艦艇を叩かせろ」

その直後ヴェサル級とパルサス級から発進したフリーディフェントが次々と孤立した敵艦を一方的に蹂躙した。

このよう社内攻撃により遂に艦隊は分断され包囲陣を取られてしまった。

すると敵の一部が突撃陣形を取ろうとしていた。

「脱出だと?行かせるか!そうだろうグロント?」

『あぁ無論だ、敵の前衛に集中砲火!!一隻も通すな』

ダックフォルト、グロントの分艦隊は脱出を図る敵艦隊に十字砲火を浴びせ次々と宇宙の藻屑に変えていった。

「全く、皆様方だけにいい思いをさせるモンですか!敵艦の中で一番デカくで豪勢なやつを叩け!」

アステッセルはメインディッシュ=機関に狙いを定めていた。

癖の強い分艦隊指揮官達は手柄を上げる為戦果を競い合っていた。

「各司令官に通達してくれ、無茶はし過ぎるなと」

「はっ」

サヴィゼルは困った顔でモニターを凝視していた。

「敵艦隊おそらく損耗率は45%行動不能艦はまもなく半数を超えます」

「そうかならこのまま各個撃破に集中、余計なものは全て流せ」

 

神聖国艦隊は報告にあった通り熾烈な砲火の影響により半数が行動不能または撃破されしかも旗艦[デットウェスⅡ]も被害を受けた。

そのことによりドルースの怒りは頂点に達しており爆音よりも彼の怒声の方が鳴り止まなかった。

「艦隊を再編し突撃!!退路を作り出すのだ!!」

「行動不能艦が7割に到達!!もはや組織的な行動は…」

「だからなんだというのだ!!我々だけでも生き残らねば他の2億4000万隻に乗っている将兵が…」

「超高エネルギー砲きます!!」

「シールドを展開!!」

「間に合いません!!」

ドルースの最期は呆気ないものだった。

目を見開きブリッジに直立不動のままビームの光と共に跡形もなくこの世から消え去ったのだ。

旗艦デットウェスⅡ世もあちこちで煙を立てながら大爆発を起こした。

これが神聖国軍の敗北を決定的なものにした。

狼狽し我先にと逃げ出そうとする残存艦艇は隊列すら組まずに突撃し尽く各個撃破され“全滅”した。

容赦ない砲火により多くの神聖国軍兵士が命を落とした。

それでも連邦側にとっては“当然の報い”であり代わりに領土と市民が守られたことを喜んだ。

ただ一人サヴィゼルを除いて…

 

エピローグ

 

大銀河連邦軍は再び勝利した。

本隊を失い指揮系統が崩れた侵攻軍は神聖国領内に大急ぎで逃げ込んだ。

この戦いではイリメリス側は役9300万隻という多くの艦艇を失い再び痛手と面目が丸潰れになった。

一方連邦国内では勝利による祝賀パーティーが盛大に執り行われていた。

市民、軍、政府全員が勝利の美酒に酔いしれ今回の勝利の立役者であるサヴィゼルを称え英雄と呼んだ。

彼は昇進して名誉上級大将となった。

だがこの一戦だけで戦争は終わらなかった。

神聖国、連邦、お互いにさらなる進行作戦を考えていた。

銀河は3万年たった今でも争いをやめられずにいた。

 

つづく




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要塞攻略

連邦軍は敵軍のエッテンベルク要塞攻略を決意。
サヴィゼル達多くの将兵を戦場へ送り出した。
しかし今回の戦いは泥沼の白兵戦だった…


プロローグ

 

「さて諸君、我々は再び防衛戦に勝利した訳だ…だがそれでも神聖国軍は侵攻作戦をやめないであろう」

大銀河連邦軍の最高司令官[ビュール・バイカルス]大元帥は各元帥達に判断を仰いだ。

「ではよろしいいでしょうか?」

「あぁかまわん、ローグ元帥どうぞ」

彼[アータルセス・ローグ]元帥は席を立ち少し声を大きくし進言した。

「我々は今まで防戦一方でした…だからこそ神聖国軍の要[エッテンベルク]要塞を攻略すべきです!!」

元帥達は騒めきとともに素早く思考を巡らせた。

当然その判断が最適なのは分かっている、しかしどこかでブレーキが掛かっていたのだ。

「しかしだねローグ元帥、あの堅牢な要塞陥せる艦隊は…」

「私自ら行きます」

「だがそれでは君が危険に…」

元帥の一人[ゲーテ・ヴォーグランフ]は彼の身を心配した。

エッテンベルク要塞はイリメリスが連邦領侵攻の為に配備した要塞で全方位を常にシールドで覆われあちこちにビーム砲台が設置されまさに難攻不落の要塞であった。

かつて連邦軍以前の反乱軍が幾度となくこの要塞を攻撃したが全て失敗、どの作戦も多大な犠牲を出して失敗に終わった。

そんな要塞攻略出来るとは到底思えなかった。

「しかしやらねば戦いは終わりません、この要塞を攻略すれば神聖国に対して圧をかけることができ交渉へ持ち込めるかもしれません」

元帥達は頭を抱えていた。

そしてついに決断が下された。

「ローグ元帥貴官は第二主力艦隊を率いエッテンベルク要塞を攻略せよ」

 

鉄の男

 

「えぇ要塞攻略に付き合え?」

「はいローグ元帥の麾下艦隊として作戦に参加せよと」

デセップスの軍事基地のカフェテリアでコーヒーを嗜んでいたサヴィゼルは今までになく嫌そうな表情でその布告を聞いた。

コーヒーや紅茶というのはヒューマン、つまり人類が3万年より昔から受け継がれていたものであり残りの二種族の力も加わり品種改良が進みこの時代まで受け継がれてきた。

その為この時代のコーヒーは殆どの種族の口に合い味もより良いものになっている。

しかしそんなことよりサヴィゼルはラワルからの報告の方が重要だった。

「作戦としては我々が敵駐留艦隊と交戦してる間に突撃隊が司令室を占拠すると言う作戦です」

「はぁでその突撃隊は?誰が指揮を取るんだ?そんな無茶苦茶な作戦命が100個あるか命知らずしか務まらんぞ?」

「突撃隊の隊長は…」

「私が努めさせていただきます」

2人はその屈強な男に顔を向けた。

そのマーハトリアンの男の名前は[フレッサール・レーゼリフ]名誉上級大将。

大銀河連邦軍の地上軍総監で彼自身も[鉄血軍人]や[人肉料理人]など聞くだけで恐ろしい異名を持っていた。

その名前通り彼の分隊だけで100人近くの歩兵を殲滅したと言う逸話があり彼だけでも今まで倒してきたAI歩兵を1000体以上破壊してきたと言う記録を持つ生粋の軍人であった。

「なぜ貴方が…」

さすがのサヴィゼルも彼を前にして些か動揺を禁じ得なかった。

「小官はローグ元帥と少し馴染みがありまして、それに要塞攻略は将官の最も得意たる戦法是非ともと進言したまでです」

「それは心強いですな、それで我々に何か?」

サヴィゼルは彼に問いかけた。

わざわざ話に割って入ってくると言うことは何かあるのだろう。

「はい貴官の部下のダックフォルト准将を少しお借りしたい」

 

惑星フォアガデン、対神聖国軍の最前線基地では多くの兵士が今日も防衛戦、制圧戦、包囲戦、電撃戦といった様々な戦術に適した訓練を口一つこぼさず行っていた。

「最前線のクローンともなれば表情がガラッと変わるね」

そうこの場で訓練している殆どの兵士はある人物から取った遺伝子から生産したクローンなのだ。

しかもかつてのクローンとは違い誕生以前に遺伝子を組み替えより戦闘に特化した戦闘マシンに仕立て上げていた。

また旧タイプのクローンで問題視されていた寿命の問題も体内にある期間ごと注入される成長抑制剤により解決され神聖国軍が使用するAI 搭載型の歩兵よりも優秀だった。

無論各種族の歩兵もそんなクローンに負けじと訓練を続けていた。

「皆小官直属の部下です、各惑星を転々とし多くの戦場を共にしてきました」

すると反対側から彼らよく知るマーハトリアンが歩いてきた。

「ダックフォルト准将であります!!お久しぶりです教官殿」

「教官だって!?」

「えぇ彼は小官の教え子です、何度か戦場を共にしたこともありましてね」

サヴィゼルは結構驚いていた。ラワルはいつも通りであったが内心驚いているに違いない。

「それに私に宇宙艦隊に転属して見ないかと言ってくれたのもレーゼリフ大将のおかげなんです」

「よせあれはお前に才能があったらでなぁ」

「えっと昔話の最中申し訳ないですが本題に移りましょうか?」

 

「では行ってまいります」

敬礼し白い軍服に身を包んだ10名の将校は目の前のバイカルス大元帥に敬礼した。

「では再度確認です、本作戦には最前線の三個宇宙艦隊と第二主力艦隊合わせて九個宇宙艦隊が投入されます。最高司令官としてローグ元帥、そしてラスタール・サルキス中将に

ルドードス・サルキス中将、サヴィゼル大将、ベルリンフ中将、アウェール中将、

シュルメイ中将、ゲデーレ中将、ヴィサン大将、突撃隊指揮官はレーゼリフ大将、

そして突撃隊120万名が参加します」

九個宇宙艦隊に120万名の大軍。

そして大軍ゆえ負けるわけにはいかなかった。

「イリメリスの独裁から解き放たれる為民主主義復活の為諸君らの奮闘に期待する」

デセップス星系の各惑星上空には3億6000万隻の大艦隊が宇宙という名の大海原に出航しようとしていた。

ブリッジでは士官達が忙しくキーボードをタップし予備の操縦桿を握り不測の事態に備えてていた。

そして遂に全艦が配置についた。

「座標位置エンケリスの門、転送後の座標はエッテンベルク2-9」

「各システム異常なし、思考固定完了転送システムを起動する」

艦隊は粒子の粒となり戦場へと消えた。

 

血の道

 

エッテンベルク要塞には一人の勇猛果敢な指揮官がいた。

フェルリック・フォン・ゼネイン高級大将だ。

しかし彼は少々性格に難があり勇猛で知れていたが部下の進言を聞かない節があり

陰では[害虫大将]と貶されていた。

この日もそうであった。

「大将エンケリスの門で巨大なエネルギーを観測しました」

「ほう、反乱軍め一体何を…」

「大将!!ワープ航路より敵艦隊の艦影あり!!数は…3億隻以上!!」

「なんだとぉ!?」

すると何もない宇宙空間から無数の軍艦が姿を現しその殆どの船が熱線を浴びせてきた。

当然常に全方位をシールドで守られているエッテンベルク要塞には無意味だったが防戦一方というのはゼイネン大将の望む所ではなかった。

「全艦隊出撃!!私の旗艦も出せ!!」

「お待ちください、この状況で要塞から司令官が不在なのは危険です!代わりに私が行きます」

副官や周りの将校達は彼を止めたが好戦的な彼を止めることはできなかった。

「この要塞がそう簡単に突破されるか、渡すが直々に反乱軍に引導を渡してやる」

不穏な空気を司令室に残したままゼイネン大将は戦場へと急行した。

 

「各艦敵を引きつけつつ微速後退!!駐留艦隊を引き離すんだ」

各艦隊はそれぞれローグ元帥麾下の元忠実に任務をこなしていた。

その中でも特に戦果を上げていたのはラスタール、ルドードス、サルキス兄弟であった。

サルキス兄弟は両方とも見事な艦隊運用の手腕を持ち兄弟ということもあってか両者の連携力は凄まじいものであった。

「よし前面にレイド級、ジレス級を展開火力を埋めつつ他の艦隊の援護をする」

「なるほどさすが弟だ、我々は奴の艦隊の後ろに突き実体弾で援護する」

両艦隊は互いを支えつつ全艦隊の後退を援護した。

互いに入れ替わりつつ損害を分散し火力に薄みを出さないよう入れ替わる時に補給を怠らなかった。

彼らの息の合ったコンビネーションにより神聖国艦隊は付け入る隙がなく次の手を決めかねていた。

また敵に損害を与えられない事にゼイネン大将の怒りを募らせていた。

「敵駐留艦隊引き離しに成功しました!!」

「よし、全艦隊包囲陣を展開して敵を包み込め!」

後退をやめ前進を始めた連邦艦隊は砲撃と共に開戦の火蓋を切った。

駐留艦隊1億隻に対して連邦艦隊は3億6000万隻以上数の上では明らかに有利であり尚且つ各艦隊の見事な動きによりすぐさま神聖国艦隊は手詰まりになってしまった。

しかし本当の戦いはこれからだった。

「さてと…全艦最大出力でシールドを展開強襲揚陸艇を突入させろ」

サヴィゼルの艦隊は砲撃をやめシールドを展開しながら敵の側面を通り過ぎていった。

当然突破させまいと駐留艦隊は抵抗したがサヴィゼル艦隊のシールドに阻まれ取りこぼしてしまった。

とは言えまだ要塞の砲台があった為さほど深くは追わなかった。

だがこの判断が仇となった。

なんと揚陸艇は全て駆逐艦並みのシールドを展開し全て防いだのだ。

その小型さから主砲などは存在せず反撃はなかったが十分感嘆に値する物であった。

そしてさらに目を疑うものがあった。

本来要塞は通常の艦船と同じく防御シールドが展開され突破は不可能であった。

特にエッテンベルク要塞はさらに磁場シールド、物理的なシールドの三重高層になっている、だがこれが最も簡単に破られたのだ。

「揚陸隊は成功したか…レーゼリフ頼んだぞ…」

そう古き友人に託すと彼は彼にできることをした。

 

揚陸艇からすぐさまアーマーを着込んだ突撃兵たちが現れた。

要塞内は警報が鳴り響いいていた。神聖国兵達はアーマーを着る暇もなくただブラスターを構え各ルートを死守していた。

だが彼ら突撃達を倒すことはできなかった。

アーマーは頑丈で数発の弾丸では致命傷を与えることができず侵入を許してしまった。

特に素早く侵入してきたのがレーゼリフ名誉上級大将の部隊だった。

まさに鬼神とも言うべきその隊は止まる事なく歩兵を撃ち倒し通路を血で塗装して行った。

「全隊このまま前進!!怯むな[ヒューズリック]の神は我らとともにあるぞ!!」

そう武神の名前を挙げ士気を高めるレーゼリフの前についにアーマー付きの歩兵が現れた。

『貴様は…レーゼリフだな?貴様のような赤虫が我が同胞をすり潰し肉体を弄んでいると考えると虫唾が走る!!ここで死んでもらおう!!』

先頭の兵が銃剣の剣先を思いっきり突き立ててきた。

それは無意味に終わった。

ひょろりと交わすとレーゼリフは己の銃剣を思いっきり敵の脳天に叩きつけた。

先ほどまで彼に差別的な口調で突進してきた愚か者は何も言わず崩れ落ちた。

どうやら残りの歩兵は皆怖じけずいたらしい。

後退りを始めた。

だが逆にその敵兵の死体を掴んだレーゼリフを目に前にし覚悟を決めたのか彼らは皆突撃を始めた。

しかし容赦無く胴や首、脳天に剣を叩きつけられその鮮血を撒き散らし倒れた。

彼の部下達も迫り来る敵兵を迎え撃ち返り討ちにしてやった。

中でも特に凄まじかったのがダックフォルト准将だ。

彼は近接戦においても類稀な才能を発揮しレーゼリフと同等の戦果を上げていた。

だが戦果というのは些か綺麗すぎるかもしれない。

当然相手は生命体だ。

どこかを斬れば流血が飛び散る。

それは当たり前のことだ。

その当たり前は戦いが終わった戦場を無慈悲に流血の道に変えてしまう。

こうしてる間にも自由のため戦う連邦軍の突撃兵達は己の血を敵兵の血を壁に叩きつけていた。

先頭が圧倒的連邦軍の勝利で終わる頃には司令室まで繋がる通路は全て様々な鮮血に彩られていた。

 

「第五要塞砲網応答途絶!!」

「第三通路が突破されました少将!!」

兵達の悲鳴に似た声が司令室中に響き渡る。

代理の司令官として残された副官の少将は後退りしていた。

強すぎる。

あまりにも敵が強すぎる。

敵の突入隊が侵入して戦闘が開始されてからすでに2時間と少し経っていたがすでに要塞内の3割近くが機能を失っていた。

「どうする…このままでは増援到着前に要塞は陥落するぞ…!」

「分かっているだが…第二区画、第八区画の兵を第一区画周辺に展開するんだ!!」

少将は緊急策として命令を出した。

「どの道間に合わんぞ…!?」

「分かっている…だがこのままでは」

「少将!!第一通路が突歯されました!!」

2人は振り返った。

第一通路はこの要塞司令室に最も近い通路だ。

ここが突破されるということはすでに敵がすぐそこまで迫って来ることを示していた。

そしてきた。

「どけぇい!!」

「何!?」

「グハッうゔ…」

扉を警備していた2人の兵が斬り殺された。

アーマーを着た大男はまっすぐ少将達の方へ向かっていた。

「あっああ…あぁヒィィ!!」

少将はあまりの恐怖により顔を引きつらせ叫び声を上げて逃げ出したが一足遅かった。

軍服の襟元を掴まれ首筋に銃剣の剣先を付けられた。

「貴様が要塞指揮官だな?悪いが来てもらうぞ」

「ちっちがう!!私は要塞指揮官ではない!!本当の指揮官は今駐留艦隊にいる!!信じてくれ!!」

必死に弁解する少将の顔を見てレーゼリフがこう言い放った。

「ならば貴様でもかまわん今すぐ言え要塞は降伏すると」

「そっそんなこと言えるわけ!」

怯えながら反論する少将にレーゼリフは剣を近づけた。

「別に貴様でなくともかまわんそこにもそこにも代わり居るしなハッハッハ」

「分かった…降伏する…」

その瞬間司令室内に後から続いてきた突撃兵達が一斉に飛び出した。

「遅かったなダックフォルト」

ヘルメット越しからニヤつく彼に思わずレーゼリフ大将もニヤついてしまった。

「すでに閣下には連絡を入れておきました」

「仕事が早い」

2人は思わず大声で笑った。

それは神聖国軍の兵から見れば気味の悪く恐ろしい姿だったのかもしれない。

 

未だ駐留艦隊と連邦艦隊の交戦は続いていた。

ゼネイン大将のおかげか数の少ない駐留艦隊もだいぶ反撃していた。

だが士気の高さと事前に組まれた作戦の綿密さには敵わずまた一隻、また数百隻と見方の数が少なくなっていた。

すでに1億隻存在した駐留艦隊は7000万隻にまで減っていた。

「提督ダックフォルト准将より要塞司令室の占拠および降伏に成功したそうです!!」

思わずサヴィゼルの顔も緩んだ。

「よし敵艦隊に降伏を呼びかけろ」

「わかりました閣下」

その1分後的の全艦艇に幸福の呼び掛けが広まった。

当然艦隊を指揮するゼネイン大将のもとにも繋がっていた。

「降伏だと…要塞が陥落しただと…」

彼は思わず唖然とし椅子にも垂れ込んだ。

そこから何か独り言のようなものを呟いていた。

「閣下どうなさるおつもりですか…?」

「死ぬのだ」

「はっ?」

「全員神帝陛下の恩顧に報い斬れない罰を受けるため全艦突撃し死ぬのだ」

「何を言い出すのですか…」

艦長は震えた声で言い出した。

「敗北の恥辱に塗れ本国へ戻ることなどできぬ!!我らはここで名誉の死を受けれるのだ!!させれば戦いの神[オーテルト]の」

「味方艦が数千隻離脱していいきます!!」

「何!?」

モニターに映し出された映像はゼネイン対象の精神を逆撫した。

砲撃もしない敵に情けなく降伏しているのだ。

気がつけば逃げ出す艦は数万隻近くに届いていた。

「撃て…裏切り者を抹殺し我らも死ぬのだ!!」

命令通りゼネイン大将と近くの艦が一成に無防備な味方艦に発砲した。

シールドも展開していない艦は爆発を起こし残骸だけとなった。

「敵艦隊逃亡する間に発砲している模様です」

「護衛艦に逃亡艦を防衛させ全艦で攻撃する敵艦隊に最後の一撃を加える」

レイド級の大型砲塔がゼネイン大将の艦に一斉発射した。

全方位からの攻撃には耐え斬れず最後まで戦うことを選んだ数万隻の艦隊は一瞬で全滅した。

この戦いにおける連邦軍の損害は艦艇数千隻と歩兵数万名のみだった。

戦術的にも戦略的にも大勝を収めたこの戦いは侵攻作戦失敗で動揺する神聖国内に多大なダメージを与え今後の侵攻を一切取りやめることになった。

だがこのひとつの戦いで神聖国と連邦の今後の戦争を完全に終結させるわけではなかった。

 

エピローグ

 

「おぉ生まれたか!!」

これが僕の最初に聞いた声だった。

まだ完全に機能してない視覚機能を使って僕は声の主を見つめた。

「うむよく生まれてきたよ…いやわしも嬉しい…」

その初老の老人は自分の子でもないのに僕を抱き抱えて喜んだ。

だが僕が“このタイプ”に生まれてきたのは間違いかもしれない。

だって僕に与えられたものは権威だけなのだから…

 

つづく




如何でしたでしょうか?


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星々の彼方へ

イリメリス神聖国は恐るべき兵器[転送直撃砲]を製造。
直接連邦首都を攻撃しようとしていた。
故郷を守る為勇敢なパイロット達が今立ち上がる。


 

プロローグ

 

「要塞が陥落し我々は連邦領に対する侵攻拠点を全て失ったわけだ…ケーニルベルク、ジュルデルク、エッテンベルク、レーレンベルク…全て陥落した」

神聖国の政務宰相[ウィルヘム・フォン・ツァール]は少人数で議会を開き今後のことについて話していた。

そう精力的には神聖国優勢であっても連邦誕生時からの戦闘で勝利したことはほとんどあらず日に日に神聖国軍の犠牲は増すばかりであった。

「このままでは他の加盟国が離反しかねません、最悪民衆の反乱も…」

とセイウス・セクター管理官[イェール・フォン・モッブルハイマー]。

セクター管理官の彼は特に内部での反乱に注意を払っていた。

「うむ…だが全ては軍務宰相次第ということだろう…」

「ギリン宰相がどうかされたのですか?」

モニターが開いた。

思わず参加した高官達は声が出なくなってしまった。

「どうやらうまくいけばこの戦争我らにも勝機があるぞ」

 

国家の繁栄

 

大銀河連邦首都惑星デセップス。

三大種族最後の民主主義国家であり領土的に三大種族の息がかかっている部分では

大銀河連邦4、イリメリス神聖国4、中立国2といった形だ。

しかし大銀河連邦は転送用の“門”となっている要塞を全て確保しており勢力図の優位は連邦へと傾いて行った。

それを統治する上院、下院、評議院と呼ばれる3つの議会制により国家を運用している。

今日はそんな評議院の議会が開かれていた。

 

「現在の人口増加率は昨月と比べ3.45%増加しており各星系の開拓率は19%上昇、納税率も1.2%上がっております」

財務大臣の[オロストリア・ジョーガン]大臣は現在の状況を手短に報告した。

実際亡命者や出生する者が増え連邦の人口は緩やかに増えつつあった。

「では続いて国防大臣どうぞ」

国防大臣[ヤルフ・トレーニル]はその秋麗な顔とは裏腹に元軍人で政治的な能力も高かった。

「はっ我が連邦軍は皆様ご承知の通り神聖国最後の侵攻拠点エッテンベルク要塞の攻略とD-4宙域の解放に成功いたしました」

思わず評議員達から感嘆の声が上がった。

ここまで戦果を上げてくれると他の成果が霞むというものだ。

「それで今後の戦略ですが軍部から出された案によると敵領への侵攻ではなく防衛に徹するべきだとの案です」

「だがこのまま一気に敵国を攻撃することも可能ではないかね?」

国土交通航路開拓大臣の[ハーヴェス・ジェネルディ]大臣は反対の意見を述べた。

だが決して全否定しているわけではなくあくまで別の視点からの意見だった。

「ですがその場合敵に地の利を与え何の戦果もなく無為な損害を与えることに繋がりかねません」

「失礼、軍事的な話も重要ですが基盤となる産業にも注目していただきたい。現在我が国内の食料自給率はほぼ100%ですが件の要塞で手に入れた捕虜数千万名を食わせていくのにも相当の食料が必要です」

農林水産大臣の[ケーテル・ハナヘルト]は食料面の問題も提起した。

「やはり当分は国土開拓に力を回すべきかと…」

熱い議論が交わされる中女性大統領[マルセナス・アルベト]がなだめた。

「ここはひとまず休憩を取りましょうか」

 

連邦評議院が議論を重ねている頃サヴィゼル艦隊はなんとイリメリス領に侵入していた。

なぜか。

それは神聖国軍に潜むスパイから恐ろしい情報がもたらされた。

神聖国軍が惑星を一撃で破壊できるエネルギー砲を転送システムに乗せて発射する最新兵器を開発したというのだ。

そんな兵器が実在していたら戦争どころではない。

そのため急遽特例措置としてサヴィゼル艦隊が派遣されたのだ。

そして長い張り込みの末ついに製造されている造船所を発見した。

「それで情報は本当なんだな?」

ラワルは頷きタブレットの情報を読み上げた。

「間違いありません、偽装哨戒艦AB-3からの報告によると既に造船所自体が砲台へと改造されているそうです」

「連中め恐ろしい兵器を…それで対空砲網と敵STWFの数は掴めたか?」

「はい対空砲網数はそれほどでもありませんが問題はSTWFの数が計測できないことです」

その言葉はサヴィゼルを少し不安に陥れた。

だが考える前に目的の場所へと辿り着いていた。

「失礼するよ」

「ファキャル・サヴィゼル名誉上級大将とラワル・クロイツ上級准将です」

「お待ちしておりましたぜ」

目の前にボードゲームをしながら待っていてくれた2人の男は[オリッジ・プラティーズ]と[レルク・ハイウェルカー]。

共に人型兼航空戦闘機STWFのエースパイロットであり両者の撃墜スコアは合わせるとほぼ小規模の艦隊の艦載機分ほどであった。

そんな2人に何の用件がってここに来たのか。

「君達には例の大砲を破壊してもらいたい」

「無茶言いますねぇ敵の情報もよくわからないのに突っ込めと」

オリッジは鼻で笑った。

だがそれは諦めてるわけではなかった。

「無論的の構造上の弱点はこちらで把握している、しかし不明瞭な点はまだ多い…本当にすまなく思っているよ」

「でもやらなきゃいけないんでしょう?」

サヴィゼルは静かに頷いた。

「まあ多少無茶苦茶な方が俺は楽しめますね」

「こいつもこう言ってるようですし部下達もその方が楽しそうですし?」

レルクは聞き耳を立てている扉の向こうの部下達に声をかけた。

ぞろぞろと部下達が頭をかきながら現れた。

「自分らも手柄を立てられるならどんな戦いだってこなしますよ」

「たく…ということで提督早速作戦を」

思わずサヴィゼルは笑ってしまった。

頭をかきながら彼は作戦を話し始めた。

 

神聖国領惑星パルテクス。

かつてマーハトリアンの神話で船の神ヨリフがこの地に伝説の船[パルテクス]を残したという伝説から付けられた惑星である。

その為パルテクスは連邦軍の艦にも数多く名付けられていた。

だが今では神聖国軍の旧侵攻軍が役目を失いただ駐留していた。

その中にサヴィゼルに敗北を喫したボルス提督の生き残り達もいた。

彼らの鑑定はわずか数千万隻ほどとなっていた。

その中の1人[バステル・ラウルッツ]は駐屯基地で1人黄昏ていた。

「やあ」

「えっと失礼ですが貴官は…」

服装と階級章からしておそらく上官だろう。

「おっと失礼僕の名は[アレクス・フォン・キャルゼー]大将、一応艦隊指揮官とこの基地の補給主任をやっている」

「小官はバステル・ラウルッツ高級准将であります!!」

律儀に敬礼するバステル准将を彼は宥めた。

神聖国でもかなりの変人扱いのアレクス大将はあまり敬礼などを好まない。

「まあまあ確か君は名将ボルス提督の分艦隊司令官だったね?」

「はい…ですが閣下は名誉の戦死なされ…」

そこからの生き残りの部下達はまさに地獄のような日々を送った。

大恩ある上官を失っただけでなく敗北者という恥辱の汚名に塗れた。

元来ボルス提督は平民や上級平民問わず部下に優しかった為その後ろ盾を失った彼らは更なる苦しみを受けた。

だがそれでも生きてきたのだ。

そんな中の1人にアレクス大将は問いかけた。

「君は今の神聖国の体制についてどう思う?」

「えっ…今というより以前からこのヒューマンだけがいや“イリメリスヒューマン”だけが特権階級を持つのは疑問でした」

「うむそれで?」

「今は一層強く感じております…なぜイリメリスだけが神の子なのでしょうか?イリメリスの中でも名門の出だったボルス提督でさえ敗北し戦死なされました…そんな我らがなぜ特別なのでしょうか?」

アレクス大将は静かに頷いていた。

「君のいうことは最もだ、僕も早くこの“フォン”から解放されたい」

「それはどういう…」

「君には少し話があるんだよ」

 

暗いコックピットに光が灯され外の世界とつながった。

[GGF-3フリーディフェント]

イリメス大戦の時大銀河連邦で使用されているSTWF。現在使用されている神聖国のSTWFの「MF-12/Aバスターファイター」よりも戦闘力、汎用性が優れており、一部のパーツを換装させる事で近接戦、中距離戦、長距離戦に特化した機体にできる。

連邦軍の機体の2/3はAI制御だが1/3の機体はすべて優秀な“命を持った”パイロット達が搭乗している。

レルク、オリッジの機体もそうだった。

『こちら管制室からフェニクスリーダーへ』

「こちらフェニクスリーダーオリッジ出撃するぜしっかり勝利の杯を用意しておいてくれよ」

『はいはいフェニクス中隊全機出撃どうぞ」

「了解出るぜ!!」

36機のフリーディフェントが眩いエンジンの光と共に宇宙に飛び出した。

パルサス級はさらに艦載機を発艦させた。

「フェニクス中隊、オーディン中隊、バルサ中隊、ジーニス中隊、ハルク中隊想定宙域まで後12分」

「とりあえず第一派でうまくやってくれると良いが…」

「念のため第二派、第三派を想定宙域に待機させてあります」

「いつの間に」

思わず参謀長の素早すぎる手腕に少し驚いた。

相変わらず腹の中で何を考えているかわからない男だ。

だからこそ頼もしくもあるんだが。

「さてあの大砲どう出てくるか」

 

海の宇宙

 

「ん?妙だな…センサーに障害か…」

「なんだと?念の為哨戒機を出せ、考え過ぎかもしれんが敵が構えている可能性もある」

士官は頷くと哨戒用のバスターファイターを数機差し向けた。

現在の指揮官[コークルス・フォン・ギリン]軍務宰相は見事に蓄えられた顎髭を触った。

「この砲台絶対に奴らには知られてならん」

軍務宰相権限で無理やり開発したこの[転送直撃砲]はようやく78%が開発されあと少しで愚かな連邦を叩き潰せるのだ。

彼は己が押すスイッチから放たれる一撃が反逆者どもを葬り去る瞬間を想像した。

考えるだけで優越感が全身を駆け巡る。

「哨戒機-9の信号が途絶」

「周囲に高濃度の粒子乱雲を確認」

「なるほどな哨戒機は全機帰投、だいぶ脅かされたものだ」

そう言い捨てると彼は笑みを深くした。

だがこの判断は間違いだ。

すでに連邦軍のSTWFが喉元まで迫っていた。

 

アクロバットな飛行でスリルを楽しむオリッジとエネルギーを考慮して慎重に進むレルク。

2人は間反対の性格であったが互いに認め合う所があり互いに背中を預けられる存在となっていた。

「オーディン2周囲に敵機はいないな?」

小惑星群を避けながら進むレルク機は部下のオーディン2に問いかけた。

『いや周囲に敵の哨戒機が…恐らく敵は通有心妨害に気付いている模様です』

『バレてないんだろならこのまま行くぞ』

さらにスピードを上げるオリッジを全機が追いかけた。

小惑星群を抜けた先には目標の造船所があった。

「目標発見、オーディン12は艦隊に連絡を他の全機は」

『作戦開始だろ行くぞ!!』

レルクが言い終える前にフェニクス中隊の全機が最高速度で造船所に突っ込んだ。

「おい待て!!ちぃ全機行くぞ!!」

それに続くように他の4個中隊も続いた。

まだ敵は気が付いていないようだ。

今が好機とばかりにフェニクス中隊は敵の対空砲網に攻撃を加えた。

優秀なパイロットとIAは36機分の対空砲を破壊した。

「よしこのまま大砲をぶっ壊す!!いや待て…どうやら手厚いお出迎えが来たようだぞ」

数百機を超えるバスターファイターが砲撃と共に連邦軍を迎え撃った。

「全機迎え撃つぞ!!」

冷静なレルクの判断と共にフリーディフェントとバスターファイターの空戦が幕を開いた。

ある1機のバスターファイターが変形し長剣型のビームソードをレルクの機体にぶつけようとした。

レルク機は素早く変形すると左足で蹴りを加え敵機の体勢を崩した。

今度は逆にレルク機が両腕のビームソードをバスターファイターの胴部分を切り裂いた。

素早く爆発から逃げ切りソードを解除し単発モードのビーム砲で迫りくる2機のバスターファイターを撃墜した。

一方のオリッジは未だに航空モードを解除せず戦闘機のまま敵機を迎撃した。

さすがエースとだけあってか航空モードでも3機の敵機を火球に変えた。

「おいレルクいるか?」

『もちろん、これからどうする?』

2機は航空モードのまま2人合わせて3機のバスターファイターを撃墜し造船所の壁に叩きつけた。

「このまま一気に敵の大砲に突っ込む」

『我々もお供しますよ』

後続には戦闘を切り抜けた数十機のフリーディフェントの編隊が対空砲と敵機を撃墜していた。

「よし全機ん?…エネルギー反応…まさか!!」

おりじは何かに気付き隣のレルク機に思いっきりぶつかった。

その直後何もなかったはずの空間から莫大なエネルギー砲が放たれた。

レルク機はオリッジ機が体当たりした為何のダメージも無かったがオリッジ機はシールドを展開したのにも関わらず機体は半壊、後続機も3機消滅してしまった。

『まさか…例の大砲…』

「レルク…俺はすまんが戦線を…」

『わかった気をつけろよ』

「すまねぇ…」

オリッジ機は戦線を離脱した。

しかしこの一撃で敵はどこからでも攻撃し放題ということが明確になった。

この事実は少なからずパイロット達の恐怖心を刺激した。

だがそれでも彼らは前に進んだ。

 

「掃射完了敵機3機撃墜、1機戦線を離脱」

ギリン宰相は笑みを深くした。

「二射目の用意を今度は必ずや敵機を殲滅してくれる」

「エネルギー充填率21%」

「よし発射」

ギリン宰相はスイッチを押した。

直後再びビーム砲が転送され迫り来る敵STWF隊に牙を向いた。

敵はまたしても器用に回避し今度は1機しか撃墜できなかった。

「やりおる対空砲で敵機を狙いつつバスターファイター隊で再び近接戦を敵が立ち止まったところを一挙に仕留める」

「よろしいのですか?それでは我が軍にも多少の損害が」

「気にするな中将その程度はやむおえん、チャージ急げよ」

ギリン宰相の笑みはますます深くなった。

今にでも大声で笑い出しそうだ。

だが再びギリン宰相は失敗を犯した。

撃墜された1機とはまた別に敵機が“消えている”ことを…

 

レルクは駆けた。

敵の砲撃の第二射目が放たれた瞬間本隊とは別のルートに向かっていた。

こちらのルートの方が対空砲も少なく距離的にも近かった。

ではなぜ使わなかったのか?

「やっぱりあったか…敵の“格納庫”」

そう敵の格納庫がすぐ近くにあるからである。

当然大量のバスターファイターがすぐに出撃しレルク機を追いかけた。

反撃することの出来ない以上レルクはさらに速度を上げ後方にシールドを展開した。

「小うるさい小蝿どもめ!!」

そうコックピットの中で毒付いたが当然聞こえる筈もなくましてやAI搭載機には全く意味をなさなかった。

目標に近づくたび敵機が増えていく。

その光景はまさにイナゴと呼ばれる生物の群れが大移動をしているようだった。

敵機の一斉砲撃でだんだんシールドが破れかかって来た。

彼は諦めている訳ではなかったが流石に限界を感じていた。

次の瞬間シールドが破れ警報音が鳴り響いた。

「ちっ!!どうするこれから…」

1人自問していた瞬間別の警報音が鳴り響いた。

敵機がこちらを完全にロックオンした音だ。

もはやこれまでか…

そう思った瞬間突如警報音が消えた。

『こちらフォックスリーダー助けにきたぜ』

『ラワル准将の言うとおり待機していて正解でした』

小惑星帯から姿を現した味方機はレルクを襲ったバスターファイターの群れに攻撃を加えた。

航空モードを解除したフォックスリーダーの機体がレルクの後ろに着いた。

『任務があるんだろう早く行け』

ビームを乱射しながらフォックスリーダーは敵機を撃墜した。

「すまない」

短く礼を述べるとレルク機は最大加速度で敵機まで向かった。

数秒後レルク機は壁にビーム砲をあて目標に侵入した。

「あれが…」

航空モードを解除しスタンドモードで敵の弱点であるエネルギータンクと転送装置を確認した。

「食らえっ!!」

彼は操縦桿のスイッチを押すとバックパックに補助装備として付けたミサイルを一斉に発射した。

自動追尾型のミサイルが転送直撃砲が納められている格納庫中に飛散し爆発を起こした。

レルクは素早く自機を変形させ脱出を図った。

彼が開けた穴から抜け出ると穴から爆炎が上がった。

どうやら作戦は成功したようだ。

 

造船所内ではエネルギータンクの崩壊により爆発の手があちこちに広がっていた。

また損傷を受けたエネルギーコアと転送装置が異常を起こしエネルギーをあちこちに逆流させた。

当然被害は造船所内全てに広がった。

「エネルギータンク、エネルグーコアが損傷!!まもなくこの造船所は崩壊します!!」

「ばかな…総員退避!!退避だぁ!!」

司令室から逃げ出そうとした瞬間扉から爆炎が噴き出し司令室と造船所は木っ端微塵に爆破されてしまった。

神聖国軍ナンバー1である軍務宰相は自らが建設した転送直撃砲と共に一生を迎えた。

 

「奴がやりやがった…全く大した野郎だぜ」

半壊した機体の中でオリッジは思わず微笑んだ。

『友軍機を確認、帰投して来ます!!』

「よし俺達も引き返すぞ」

『了解』

「フェニクスリーダーより通信、作戦成功…敵造船所は完全に崩壊した模様です!!」

デヴァステトスのブリッジで歓声が響き渡った。

任務中だが多くの士官がその場でガッズポーズをし声を上げ喜び同僚とハイタッチをしていた。

サヴィゼルも思わずほっと一息つき帽子をとった。

「哨戒隊を展開し周辺の状況確認を」

「さすがだ、味方機を収容後周辺確認、そしたらさっさと撤退だ」

どうせラワルはハイタッチなどしてくれないだろうから仕方なく側にいた通信士官とハイタッチした。

少なからずラワルも勝利を喜んでいるだろう。

全く喜ばない人間など存在しないのだから。

 

この勝利は連邦評議院にも伝わった。

「連中はそんなものまで…悪魔め!」

「この事実は少なからず中立国に影響を及ぼすでしょう」

「では情報省から銀河中に」

情報大臣の[ジャリス・ウィーリンザー]大臣が早速行動し始めた。

「我々は常に脅威にさらされている…」

マルセナス大統領は両手を組み話し始めた。

「市民を守るためには私達も決断する必要があるかもしれません」

大統領の言葉は大臣達に重く沁み渡った。

そう己を守る為時に彼ら彼女らは決断する必要があった。

 

エピローグ

 

バステルは夜中の基地内で1人考えていた。

彼もまた決断に迫られていた。

彼は彼の部下とそして今は亡き者のために…

 

つづく




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