【シュタゲ×リゼロ】 二人の運命選択 (黒鉄ナオト)
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1

2012年 秋葉原

 

山手線に乗り終えた俺は、 秋葉原のラジ館近くにいた。 今日は紅莉栖もラボに来ているとのことで、 久しぶりに、我が助手の顔を拝んでおこうと思った。

 

と、俺がそう思ってると、 携帯にメール音がなった。 世間ではスマートフォンなるものが発売されたと聞くが、 そんなの、機関が我々の行動をいち早く探知する為だろ? 俺は騙されないぞ。

 

「……メール? ……誰だ? 閃光の指圧師か?」

 

**

 

宛先 オカリン

 

Cc/Bcc

 

件名 お使いよろ!

 

 

今日秋葉に来ているのなら、ラジ館で、僕がやっているエロゲのフィギュアを買っておいて欲しいのだぜ。 あ、画像は添付しておくお。

 

 

**

 

……こいつは友達に何を頼んでいるんだ? 俺はゲーマーではない! 俺は狂気のマッドサイエンティスト。 鳳凰院凶真だぞ!

 

「……そんなの自分で買いに行けっ!」

 

**

 

宛先 ダル

 

Cc/Bcc

 

件名 自分で行け。

 

自分で行け、 スーパーハカー!

 

**

 

 

「……よし、 さて、選ばれし者の知的飲料を……」

 

いつもいつもまゆりが居ると限らないからな、 これぐらいは自分で帰る金が最近出来たのだ! ふぅーははははっ……

 

なんだよ、良いところで。

 

「……ダルか」

 

 

***

 

宛先 オカリン。

 

Cc/Bcc

 

件名 それはないぜ、オカリン

 

それは無いお! た、確かに買いに行かなかった僕も悪いけどさ! けど! 僕、もうラジ館まで行きたく無いんだよ〜

 

**

 

と、返してくる。 ……確かに日本は年々暑くはなっていってるが、 そこまでは歩け、ダルよ。

 

「……断る、っと。 送信。 ……また来たぞ!? あいつ、ドラクエでハイを押さないと先に進まないモブキャラか!? ええい! うっとしい!!」

 

流石にしつこいので、無視をすることにした。 許せ、スーパーハカー。

 

 

○○

 

秋葉原も随分と変わった。 新しい建物も増えてきたし、 ラジ館の改築も今年終わったみたいだしな。 ……あれからもう2年か、 早いな。 ……そろそろ、俺も、紅莉栖に想いを告げなければいけないのでは無いか? 俺も紅莉栖も、今の今まで、 言えてないが、 も、もし、助手が俺以外の男を見つけて、そいつと付き合ったら……

 

€€€

 

『ごめん、岡部、私、もう貴方の事好きでは無いわ』

 

『な、何を言うんだ、紅莉栖!? お、俺のことが好きじゃあなかったのか!?』

 

『あら、2年の間も気持ちを伝えないので、よくもまぁ言えたものね。』

 

『ち、違うんだ紅莉栖!! 俺はお前ことが好きだ! 好きだが……』

 

€€€

 

「俺は、紅莉栖、お前のことがぁ……!!」

 

「私のことがなんだ。 」

 

「す……… ………す?」

 

「なんだ。 駅前で変に蹲ってる男が居たら気にはなるし、しかもそれが知人なら尚更気になるわよ。 ……どうしたの? また悩み?」

 

……紅莉栖?

 

 

「な、何故お前が此処に!? ラボにいるんじゃ!?」

 

「あんな暑いところ、そうそう居れるわけないでしょ!? 橋田が働いて少しはラボが良くなったとしてもね! そういえば、珍しいわね、 あんたが私と出会ってすぐに、クリスティーナって言わないの。 いつもあんたなら、こう。

……ふぅーははははは!! 蹲っているわけではない! これは機関を欺く為の偽装! そう! 俺は見つかってはいけない! 何故なら我が名は鳳凰院凶真だからだ! ふぅーははは!! ……っていうでしょ。」

 

と、鳳凰院凶真を熱弁していた紅莉栖は赤面しながらそういう。 確かに、いつもの俺なら紅莉栖のことをクリスティーナと言ってなきゃ可笑しいのだろう。

 

だが、今はそういうのは無しだ。 こういうちゃんとした思考で話を聞いてくれている紅莉栖にちゃんと言わないと……

 

 

「あ、あぁ、問題ない。 それより、我が助手はどうして此処に?」

 

「漆原さんと外食する予定があったから此処まで来ていたのよ。 べ、別に、アンタに会えるかな? って思って来たわけじゃないんだからね!?」

 

「……俺に会いたかったのか?」

 

「な!? なわけないでしょ!? こんな2年前に想いを伝えておきながら、 返答どころか、 何も返さない男に会いたいなんて思うわけ……」

 

「俺は会いたかった。」

 

俺がそういうと、紅莉栖は徐々に赤くなっていった。 此処まで赤くなった姿を見るのは久しぶり…かな?

「いきなりにを言っているんだ己は⁉」

 

「紅莉栖。俺は」

 

 満を期して、俺は俺の愛している女、紅莉栖に、今こそ……

 

「紅莉栖。俺は…… ……なんだよ! ダルのやつ!いい加減自分で…… なんだこれ?」

 

 

***

 

宛先

 

Cc/Bcc

 

件名 愛している

 

 貴方をいつまでも、どんな姿になろうと愛しています。愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます

愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してますあいしてあいしてあいしてあしてあいしてあいしてあいしてあいして

 

**

 

 

「……なんだ、これ……⁉」

 

 これ、誰からのメールなんだ……? 

 

「……何これ。」

 

メールを見て固まっている俺に紅莉栖がメールの中身を見て、紅莉栖は疑いの目を向ける。

 

 

「……ふーん。あんた、この人とそういう関係が?」

 

「な!? ち……違う! 断じて、俺の知り合いにこんな奴はいない! 居てたまるか!?」

 

本当に誰からのメールなんだよ……!? ダルのでもまゆりでも萌香でもないとするなら……

 

 

「ぐうっ!? 」

 

「岡部!? ちょ、ちょっと、どうしたのよ!?」

 

この、感覚は……まさか、リーディング……!?

 

 

***

 

 

瞬間。俺の意識は虚空に追いやられたのだった————

 

 



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02

-

 

--

 

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----

 

9.99999999……

 

 

「……此処は、何処だ?」

 

 

何もない、何も無い空間。 一度シュタインズゲート世界線から離れた時は秋葉原があったが、ここは何も無い、誰もいない。

 

「……とりあえず、歩いてみるか。」

 

本当に何も無いのか確かめてやる……!!

 

 

9.99999998……

 

結論から言えば、 ここは本当に何もない空間みたいだ。 走っても、走っても、先は見えないし、何か人の気配があるとも感じられる事も無かった。 ここは本当に何処なんだ?

 

 

「……食べ物も飲み物もない。 このままでは餓死。 まっしぐらだな…… ……時間も正常には動いてないみたいだ。」

 

携帯を確認したところ。 12時から時間が高速に動いている。 最早目に捕らえる事を不可能であると俺でも分かるぐらいに。

 

「何かしてないと気が狂いそうだ。……ペンは。」

 

普段は何も入れてない白衣にズボン。 そこのポケットを弄ると、ペン、紙、モバイルバッテリー(ダル製)が入っていた。

 

「……何故モバイルバッテリーがあるのだ? 明らかに要らないよな? 俺はまだ世間で騒いでいるぅあーいふぉん……なんて、持ってないしな。 とりあえず、ペンがあった事ラッキーだった。 これで目印を付けられる。」

 

まず、自分が立っている位置に、鳳凰院凶真と書いておくことにする。

 

 

「では、また歩くとしょう。 健闘を祈っていてくれ。エル・プサイ・あっコングルゥ……」

 

 

○○○

 

 

9.99999997……

 

 

……どういう事だ?

 

 

「……何故、この文字がある? 」

 

 

俺が驚いている理由は、 先ほど、進んできた地面とは別に書いたはずの鳳凰院凶真の文字が同じように書いて置かれていたからだ。

 

「……ここは俺以外の鳳凰院凶真がいるというのか? ……ありえん。 一般人はこの名前は教えてないし、紅莉栖が自分から名乗るとは思えん。 ダルやまゆりはそもそも言わない。 ルカもフェイリスも萌香も天王寺さんや小動物もそれを書くとは思えない……」

 

今、俺の中で嫌な理論が構築されている。 考えたくもない事実が頭の中で出てきた。

 

「……ここに紙とこの何故か持っていたモバイルバッテリーを置いて行こう。 もし、次にここに来たときに、何もなければ、俺の頭の中にある理論は否定できる筈だ。」

 

 

俺はそう言い、今度は後ろに走ることにした。 頼む。俺の理論が外れていてくれ……!!

 

 

9.99999989……

 

 

「……マジかよ、 そんなの無いだろう……!!」

 

俺の予想は悪い方に的中した。 つまり、 この空間はループをしているという結論に至った、しかも、この空間に何も無いところから、 シュタインズゲート世界線からずれてしまった時は秋葉原が背景にあったから何とか正気を保てたが…… ここは、何も、無さ過ぎる(・・・・・)、真っ暗な空間も嫌だが、こう白いと……気が狂う……

 

 

「……メールを使うか? ……けど、 Dメールや電子レンジ(仮)はないし、そもそも、そんなことは俺が許さない…… …… あまり期待出来ないが、 試してみよう……」

 

そう言い、俺は携帯を置いて、 先程文字を書いた地面の横に正の字を書き、今度は南に歩いてみる。 落ち着け、俺は鳳凰院凶真…… あの夏を乗り越えられた…… だから、平気……だ。

 

 

9.99999983………

 

 

「……ダメ……か。」

 

南に歩いていたと言うのに、 また同じ場所(・・・・)に戻ってきてしまった。……もう、無理なのか? もう、俺はシュタインズゲート世界線に戻れないのだろうか……? 世界線のズレで、俺が追い出された時、あの時は鈴羽がこの事を知っていたから。知っていったから、紅莉栖は俺を助ける為の策を練って、助けてくれた。

 

だが、今回は突発的だった。 それに加えて、 このメールを打った奴の事もわからない為、対策しようがない……

 

 

「……でも、 止まっていたら気が狂う…… だから、歩き続けないといけない…… 俺は、ここで、死ぬわけには……」

 

 

9.99999979……

 

 

9.99999870……

 

 

9. 99994310……

 

--

 

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----

 

 

 

9.00000000……

 

 

「……ここは? ここは何処だ? こんな綺麗な場所、さっきまでは無かった筈……」

 

 

そこにあるのは、星の様な綺麗な空間で、今まで見たことのない空間に辿り着いた。 ……だけど、 俺は、疲れた。歩き疲れた……

 

 

眠い、今まで歩いて疲れたって感情は無かったのに……な。

 

 

***

 

 

「おい! あんた! なんてところで寝てるんだよ!」

 

「……んあ?」

 

「起きた! こんなところで寝ているから驚いたぞ?」

 

「……お前の名前は?」

 

俺が目に入ったのは、短足短髪で、何処かで人を殺していそうな三白眼、オレンジと黒が目立つジャージを着ている少年が目の前に現れた。

 

 

「……こんな状況で自己紹介するのもアレだが、 やるしかねぇよな。 アレを。」

 

「あれ?」

 

「俺の名前は、ナツキ・スバル(・・・・・・・)! 天下破滅の無一文にして、銀髪色のハーフエルフにして、王選候補の1人、エミリアの騎士!!」



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03 ナツキ・スバル

……この男、は、何を言っているんだ? ナツキ・スバル? 聞くからに日本の名前だが…… 王選?? 選挙みたいなものか? 騎士??

 

 

「……頭が痛くなってきた……」

 

「んで、あんたは、何で此処に? まさか一人であの砂漠を越えてきたって感じじゃねぇしな?」

 

「砂漠……? オレはずっと、歩いてここにたどり着いただけだが……?」

 

「は? ……いやいや、ありえないだろ。 こんな所、歩いて来れるやつなんて、あのクソ野郎だけで十分だろうが……」

 

……なんか、訳ありの様だな。この俺みたいに。

 

「……自己紹介が遅れた。俺の名前は岡部倫太郎。 東京電機大学の学生だ。」

 

「とう……!? って事は、かなり年上か?」

 

この反応。 東京電機大学が何処にあるのか知っている態度だな。 全く知らない奴ならこんな反応しないしな。

 

「お前が何歳かによるがな。 ナツキ・スバルは何歳なのだ?」

 

「スバルでいいですよ。 オレは高校生だ。……もっとも、此処に来るまで、不登校をしていたけどな。」

 

「不登校。……聞こえはあまり良くないな。」

 

不登校。それは、この少年が高校で上手くいかなくなったのだろうと、俺は察した。 どこかの未来。ありえたかもしれない可能性で、俺もこうなる可能性もあった。

 

そういう可能性もあったのだ。 俺が、まゆりを元気づける為に生み出した『設定』鳳凰院凶真は、どこに行っても浮いていた。 当然だと、改めて思い返してそう思った。 誰も掛けてきてないのに、携帯を取るフリをして、会話したり、 右手には《何か》が宿っているとか……

 

「……聞かないのか?」

 

「ん?」

 

「あんた。見るからに日本人だろ? 俺も元はここの人間じゃないんだ。異世界転移って知ってるか?」

 

最近よく話題になるジャンルだ。 トラックに轢かれたとか、電車から落とされたとか、不審者に狙われた相手を庇って死ぬとか……

 

「……転移は何か違うんだ?」

 

「転移はそのままの意味だよ。 転移。 つまり、 俺は生きたままここに来たわけ。おけ?」

 

話して数分だというのに、馴れ馴れしい男だな。 ……人のことは言えないが。

 

「意味は理解した。さっきの質問の答えだな? ……俺は特に聞かないよ。理由があるんだろうからな。 これは俺が首を突っ込む問題じゃないってことぐらい分かるよ。 」

 

「流石大学生。大人の対応だな。」

 

「よく老け顔だって言われるよ。」

 

スバルがそういう意味じゃねぇよとツッコミを入れられた。 何故だ。

 

 

**

 

 

「スバル、お前はどうして此処に居るのだ?」

 

「俺は今、此処の世界と繋がっている世界で、奪われた物を全て取り戻す為に、ある塔に向かったんだよ。 その塔の名前はプレアデス監視塔。」

 

……本当に異世界かはともかく。 凄く日本人っぽい人がつけた奴だな…

 

「アンタの思ってること。当ててやろうか? 凄く、日本人が付けた名前っぽい。ってな。」

 

「んな!? 貴様、エスパーか!?」

 

「やっぱりか。

安心しろよ、岡部さん。俺は心を読める訳でも、風を読むだけで嘘を見抜けるなんて事はねぇからよ。」

 

「エスパーじゃないなら、何故、俺の思っている事を!?」

 

こういう時の返し文句は同じことを思ったから。だが……果たして。

 

岡部が身構えるが、帰ってきた答えは想像通りの物だった。それは、この少年、ナツキ・スバルも同じ事を思ったからだそうだ。

 

 

「……奪われたもの。と言っていたな。 スバルよ。 一体、何を奪われたのだ?」

 

「……大切な人を奪われた。」

 

さっきまで陽気に話していたスバルの目が更に鋭くなった。 その目で話した言葉が。

 

 

「大切な人を奪われた」

 

だった。

 

 

***

 

 

「……奪われたという事は、生きているのか? どこぞの桃のお姫様よろしく、連れ去られたって訳じゃないのだな?」

 

「……あれを生きている。なんて、俺は思いたくねぇけどな……」

 

「?」

 

「俺の大切な人、二人居てさ、一人の名前は、さっきの自己紹介で言っていた子なんだ。 名前はエミリア。 王選候補の一人で、 ……要は王様になりたいって事なんだ。 俺はその子の夢の応援をしてやりたいと思ったんだ。 」

 

「……そいつの事が好きなのだな」

 

「あぁ、大好きだ。 つか、大好きじゃなかったら騎士になりたいとか、守りたいとか、応援しねぇだろうが。」

 

「……確かにな。 ……大好きじゃなければ、 身体を張る意味もないからな。……ん? 少し待て。 二人といったよな? スバル。 もう一人は?」

 

今、俺の中でとんでもない理論が考えつつあるのだが……!?

 

 

「もう一人はレムって言うんだ。 俺がお世話になってる貴族の所のメイドさんでな。 会った頃は凄く俺に冷たかったんだ。 」

 

「冷たかった?」

 

「その子に姉にラムって言う姉貴が居てな、 その二人はさ、鬼なんだよ。 鬼族。 男ならこの言葉で唆る(そそ)だろ?」

 

「俺はそうでもないな。 俺はそういう、イセカイモノ? はあまり読まないんだ。 」

 

「へぇ、意外だな。 岡部さん。そう言うの好きだと思うんだけどな。」

 

そう言われると確かに前まで好きで読み物として好んで読んでいたかもしれんが……

 

「ある事件があって、そういう世界が移動する話があまり好きじゃなくなったんだ。 読むなら世界観がずっと同じままの話が今の俺好みだ。」

 

「……話を続けてもいいか?」

 

「すまんな、話の腰を折ってしまって。それで、そのレム?という子とどういう関係なんだ? スバルは。」

 

「あぁ、そうだな。レムとは————」

 

スバルは懐かしそうにその子、レムの話をした。 話を聞くだけで、性格が思い浮かぶ。 かなり優しい子なのだと。 スバルの事を心から信頼している事。 あぁ、まるで……

 

 

「まゆりみたいだな……」

 

「え?」

 

……どうやら声に出てたみたいだ。



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04 レム

 

 

「まゆり? まゆりってだよ? 岡部さん」

 

「口が滑ってしまっただけだ。 気にするな。 それより続きをだな…」

 

「……後でしっかり問い詰めるからな? …えーと、で、どこまで話したっけ?」

 

確か、

 

「スバルがエミリアを助けるために白鯨っていう魔物を倒し、 マジョキョウト?のところで終わっているな。」

 

「OK、おーけ、そこからだな?」

 

「あぁ、お前の武勇伝。聞かせてくれ」

 

その後スバルに、「あと、魔物じゃなくて、魔獣な?」と突っ込みを入れられた。 ……いや、どっちでも良いだろ!?

 

 

***

 

 

「んで、俺がオットーっていうやつに頼んで、 リーファス街道っていう所に飛ばしてもらって、魔女教の手下だったケティの竜車に積まれた火の魔石をだな。」

 

「火の魔石とは、聞くからに炎の魔法の石という解釈になるが、それで良いのか?」

 

「説明がめんどくさいからそれはパスな?」

 

オイッ

 

「続けるぞ。 火の魔石を竜車から下ろした俺は、その世界の乗り物で、さっきも出てきたと思うけど、 地竜のパトラッシュに乗って、堕とした白鯨の亡骸にそれを放り投げて、その場から逃げようとしたんだが。」

 

「したんだが? ……なんだ、気になるではないか。」

 

「逃げ遅れて、 火の魔石の爆発に巻き込まれちまったんだ。」

 

「!?」

 

爆発に巻き込まれた!? 普通の人間なら重症だぞ……!? なのに、なぜ無事なのだ……?

 

「その時は俺もだめだと思った。 けど、パトラッシュが庇ってくれてんだよ。 パトラッシュは俺を庇ったせいで大火傷負っちまったけど、俺も生きてたんだ。 」

 

「そのあとはエミリアと仲直りして、 俺の本音をちゃんとあの子に伝えたんだ。 その時は泣きながら嬉しいって言ってくれたんだ。 その笑顔を見ただけで、俺は今までの苦労を忘れられたよ。」

 

「それもこれも、レムのお陰なのだな。」

 

「……あぁ、あの子が俺をあの場所で再起させてくれなきゃ。あの時、あの子が。……レムが、俺の事を『レムの英雄』って呼んでくれたから。俺は立ち直れた。 絶望的な運命に立ち向かうことができたんだ。

前までの俺なら、俺一人でどうにかしょうとして、一人で勝手に傷ついて、勝手に自分だけがその運命に立ち向かう事が出来るって、傲慢にも思っていたから…」

 

それを語るスバルの顔はどこか、懐かしむ様な素振りを見せながらも、その時に言われた言葉を思い出し、噛み締めるかの様に語った。

 

「俺はエミリアも大切だが、レムも大切なんだ。 二股なんて最低なのは分かっている。けどよ、それでも、俺は二人が大切なんだ… だから、最悪って言われるつもりで、エミリアに、レムが俺の事を好きって伝える気だったんだ。」

 

「だった? ……だったってどうして過去形なんだ? どういうことだ? レムは王都に行ったんだろ? 協力を求めたクルシュ……って人と共に、ならだったって言わな」

 

「レムって誰って言われたんだよ。 …….エミリアに」

 

……は?

 

「な、何を言っているんだ。 人がほんの数時間で忘れられるものか! 人は記憶をそんなに簡単に忘れたりは…」

 

「ここは異世界。……何が起きてもおかしない…って、改めて実感した事だったよ。 ……後から聞いた話。

 

その時に怠惰の大罪司教…… ペテルギウス・ロマネコンティとは別の大罪司教がクルシュさん達を襲ったんだよ。 白鯨の後だったからみんな万全で戦える状態じゃ無かった、 その二人の大罪司教に白鯨で生き残った人の半数も死んだ……らしい。 」

 

「……」

 

俺は聞いているだけなので、想像でしかないが、死ぬかと思った戦いで生き残ったのに、横から出てきたやつに殺される。 なんて、笑えない話だ。

 

 

「その二人の大罪司教の名前は覚えているのか?」

 

「覚えてるよ、なんなら一人倒しているしな。……それがあのくそ野郎ならどれほどよかったか……」

 

「スバル……」

 

スバルの目的は奪われた物を取り返すと言っていた。 その一人がレムということなのだろう?

 

「……俺は眠っているレムの前で誓ったんだ。 いつか、お前の英雄が迎えに行くって。 待っていろって…な。」

 

……

 

「かなり、波乱な人生を送っているのだな…… スバル」

 

「俺もそう思うよ、何でこんなことになったんだか。」

 

「でも、後悔は」

 

「後悔はしてねぇよ。 ……いや、後悔はあるっちゃあるんだが、俺は此処に来れてよかったと思っているぜ。 好きな子(エミリア)も出来たし、こんな俺を好いてくれてる(レム)とも出会うことも出来たんだ。 転移する前の世界ではずっと出来なかった親友や悪友、弟分まで出来たんだ。 だから俺は後悔してねぇ。 自分何度も傷つこうと、あの子達を守るためなら俺は何でもする。……それぐらいの気持ちはあるってことさ」

 

……俺は、ここまで覚悟を決めていられるだろうか……? スバルとは経緯は違うが、俺もそんなことはあった。

 

最初はただの便利な発明品という気持ちで電話レンジ(仮)開発した。思えば、あの時にあんな発明をしていなければ、俺は苦しまなくて済んだだろうし、まゆりも紅莉栖も死ぬ事は無かった。 ルカに悲しい思いもさせなかっただろうし、フェイリスも自身で蘇った父と別れる必要もなかった。

 

鈴羽は帰れない片道のみのタイムマシンに乗らずに済んだ。……俺が、全員の運命を狂わせたと言っても過言ではないと、……しかし、あの夏、あの日々が無ければ、俺達は出会わなかった。 俺が、あいつを、紅莉栖を好きだと思わなかった。大切な人がまゆり以外に出来るとは思わなかった。

 

俺は自身の行った行動を愚かだというが、俺の行ったことで出来たことに後悔はない。

 

この少年の様に後悔は無いと言えるだろう。

 



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05 プリステラ

「その話を聞いた上で、敢えて聞こう。 ナツキ・スバル、お前はどうして此処に居る? プレアデス監視塔に登っていたのではないのか?」

 

「まぁ待てよ岡部さん。 まだ話は終わってねぇよ。 次はどうして、俺達がこの塔。プレアデス監視塔に来ることになった訳をよ。」

 

そういえば、まだ経緯を聞いてないな。

 

「聖域の問題を解決して、ベア子……大精霊ベアトリスと契約して一年ぐらい経った頃、 王選候補の一人、 アナスタシアさんから使者が来たんだ。」

 

アナスタシア。話に聞いていた他の王選候補か、確か、ここはスバルに白鯨、魔女教討伐に傭兵団を貸した所だな。 兵団一つ貸し与える程かなり大きい陣営なんだろうか。

 

「使者の名前はヨシュア・ユークリウス。 アナスタシアさんの騎士、ユリウスの弟だ。 最初は名前を知らなかったから驚いたけどな。」

 

話を聞くに、スバルはそのユリウスという男をあまり好いていないのだろう。 だが、節々、認めている様な言葉を話しているが……

 

…成る程。 これがツンデレか。ツンデレ乙!

 

 

「ヨシュア……アナスタシアさんの目的は水門都市プリステラでパックと再契約が出来る輝石を見つけたって言う報告を受けたから行くことにしたんだ。 何処で漏れたか、何故、漏れた? って気持ちが多かったなぁ、 あの時、パックが契約を破棄した事を知っているのは俺たちだけなのに。」

 

それは確かに驚くし、相手を疑う。 俺も、紅莉栖が好きだって事を周りにバレたら…… ……既にバレてね?

 

「んで、俺達はパトラッシュとオットーが連れていた地竜を連れて、水門都市プリステラに向かったんだ。 ほーんとうに凄かったぜ!? イメージするならイタリアだ。 あれに近い。」

 

「そ、そうか」

 

イタリアが知らないなんて、口が裂けても言えない。 ……ダルやまゆり、紅莉栖辺りならどの辺か分かるんだろうが…

 

「それで、アナスタシアさんが取っていた旅館に泊まったんだ。かなり大きかったぜ、まんま日本の旅館って感じだった。

しかも、お風呂に浴衣付きと来た。 水門都市を作ったのはホーシンっていう人らしいんだけどさ。

俺絶対、日本人だと思うんだよ。 岡部さんはその辺どう思う!?」

 

「いや、そう言われても。」

 

行ったことも見たこともないから知らんわ!

 

「んで、その旅館で色々再開があったんだよ、フェルトやラインハルト。 クルシュさんにフェリスにヴィルヘルムさんにな。 あの時は思ったぜ、なんで、こんな人達が此処に?ってな。」

 

ライバルであるはずの王選候補の人たちがその旅館に集められていたのか、恩を売る算段なのか、少なくとも、商人(あきんと)達は何か自身に得になること……つまり、メリットが無ければいけないのだ。

 

「んで、各々の目的は次々判るわけだ。 クルシュさん達は暴食。……レムやクルシュさんを襲った大罪司教の情報があるって聞いて、此処に来たんだ。 アナスタシアさん達はそれを餌に出してきたんだ。 クルシュさんに恩を売る為に。……あくまで、俺の見解だぜ? それだけが真実と思うなよ。岡部さん。」

 

いや、それを聞いて、どう足掻いてもそう言う目的です。 本当にありがとうございました。

 

「って、暴食ならスバルにも因縁があるではないか。……その詳細は聞かなかったのか?」

 

「聞いたよ。 ……というか、クルシュさんが共有してくれたんだ。 自分だけの話にしておくわけにはいかない的な。」

 

記憶を失っても、その気高さは健在というものか、 忘れても、心では覚えてる的なあれか。

 

「……紅莉栖が、口癖のように言っていたな。 忘れないで、どの世界線に居ても、一人じゃない。 私がいる……だったか。」

 

あれの言葉で自分がどれほど救われていたのか、

 

「岡部さん?」

 

「あ、あぁ、すまない。話の腰を折ってしまったな。 続けてくれ」

 

「気にするんなよ、岡部さん。……で、何処まで言ったかな…… ……そうだ、暴食についてのことだ。」

 

「暴食の話が聞き終わった俺達は、温泉に行ったんだ。 すっごく! 良かったぜ! 岡部さんも呼びたいぐらいにな、……まぁ、今はそんなこと言えないんだけどな。」

 

「何か、訳でもあるのか。」

 

「それはこれから聞いていればわかる話だよ。 んで、風呂上がりの晩飯に俺たちは、『ダイスキヤキ』ってもん食べたんだ。」

 

「だいすきやき? 何だそれは」

 

名前を聞くからに、スキヤキの類だろうが……

 

「これさ、俺も見た後に驚いんたんだけどよ、 それ、名前に反して、お好み焼きなんだよ!」

 

「……はぁ!?」

 

はぁ!? スキヤキなのに!?

 

「ダイスキヤキなんだ。 可笑しいだろ?」

 

可笑しいも何も、なぜ、異世界にそんなのものが……

 



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