ダンジョンに遺志と石を求めるのは至極当たり前の事だろう (古狩人)
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プロローグ:上位者に至った狩人

幾つもの悪夢の夜を過ごし

上位者に至った狩人が求めるもの・・・・

彼がダンジョンに求めるものはただひとつだけだ・・・・

それは・・・


死病に侵され噂を頼りにこの呪われた街にやってきて自分は過去を失った。

 

辛うじて覚えているのは鉄と火薬それらをいじる知識とほんの少しそれらに触れるとき楽しいと感じる心・・・・

 

一体幾体の獣をこれまで狩ってきただろうか・・・・

 

この悪夢に捕らわれ何度となく同じ夜を繰り返し終に自分は街をもてあそんだ上位者を狩り殺した。

 

いくつもの出会いと別れがあった。

 

自分の不覚で幼い少女を死なせてしまったこともあった。

 

家族のために戦った末に獣に堕ちた男も殺したこともあった。

 

呪われた見た目ながらも真に善良な者と友誼を結んだこともあった。

 

既知となった知人の死に目にも会った。

 

嘘と猜疑の多い町で唯一ともいうべき者が獣となった時その命を狩りとったこともあった。

 

血と狩りに酔った別の自分の末路というべき者と殺し合った。

 

自分の知識欲を満たすため幾人もの犠牲者を作り出した狂人も殺したこともあった。

 

ただ弱者を守りたかった狂人を殺したこともあった。

 

醜くおぞましい獣に堕ちたかつての英傑も殺したこともあった。

 

最初の狩人の弟子とも殺し合った。

 

そしてその最初の狩人とも殺し合った。

 

更には全ての元凶ともいうべき上位者とも殺しあってそして殺した・・・・否『狩った』

 

そしてその果てに己も上位者へと至った・・・・至ってしまった・・・・

 

ならば己のすべきことは何か・・・・・そんなのは決まっている・・・・

 

 

 

 

 

そうダンジョンに潜ることだ!血晶石マラソンだ!己の肉体は余すところなく強化はされている。

 

しかし、そうしかしだ!自分の武器はまだまだ強化できるのだ!最大強化はすでに済んでいる!

 

ならば後はどうすればいいのか?そう血晶石の厳選だ!そして今日も狩人は、俺はダンジョンに潜るのだ!

 

「いってらっしゃいませ狩人様」

 

今日も人形ちゃんは可愛い。イカになりたててで動けない時も世話してくれたし。

 

人形ちゃんは天使。拍手パチパチ。

 

『パチパチ』←真似してる人形ちゃん。

 

人形ちゃん可愛い。

 

よし、今日も気合を入れてダンジョンに潜るぞ!張り切っていってみよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ・・・・・?ここはどこだ・・・・・・?灯もないぞ・・・・?

 

 

 

狩人設定

 

レベル:534

 

体力:99

 

持久:99

 

筋力:99

 

技量:99

 

血質:99

 

神秘:99

 

誓約文字「狩り」

 

過去:プロフェッショナル

君は何らかの専門家である

探偵、教授など、技術が高い。

 

実家が銃工房のため幼いころから機械弄りや工房の作業をしていたため鍛冶師の適性がある。

更に硝石や雷管の作成など薬品類の製造の経験もあり薬師としての適性もある。

過去は忘れてしまっても手になじんだ所作は簡単にはぬぐい切れないものだ。

そうあなたが今まで浴びた血のように簡単にそれが消え去ることはない・・・

 

ステータスがカンストしているため基本的にどんな武器でも扱えるが基本は持久戦を重視した手数の多い武器を好む傾向にある。

 

装備

頭:狩人の帽子

胴:狩人の装束

腕:狩人の手袋

足:狩人のズボン

 

最初期に入手した防具をずっと使用している見た目も気に入っているし何より汎用性が高いためどんな場所でも一定以上の能力を発揮してくれるので自分のスタイルに合っている。

 

 

武器

仕掛け武器:獣狩りの斧・落葉

一対多数の戦いの場合は変形後獣狩りの斧で薙ぎ払い突破し一対一での強敵との戦いでは落葉を用いることが多い。

基本的にハイリスクハイリターンな攻めではなくエキセントリックな啓蒙と行動故に意外かもしれないが堅実な立ち回りの戦闘を行う。

 

 

銃:獣狩りの散弾銃・エヴェリン

灰を使った高火力エヴェリンと散弾銃の範囲攻撃で敵の行動をコントロールする二種類の銃を使い戦う。

 




つづく?


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第一夜:遭遇

イレギュラーか?

一体ここはどこの(聖杯)ダンジョンだ・・・・

もしや未知のダンジョンか!?どんな石が出るのか楽しみだ


一体ここはどこなのか・・・・・いつもダンジョンにはいればそばにある灯はどこにもなく潜った様子もどこか普段のダンジョンや他に潜るダンジョンとも様子が違う。

 

まるで壁面も天井も洞穴のように壁面が露出しているこんなダンジョンは初めてだ・・・・

 

似たような場所といえばあの「狂った女医師」の住処に続く毒沼と地下の洞窟だが幸いここには毒もなさそうだが。

 

まぁ途方に暮れている暇もない。突然訳の分からない場所に移動するなんてヤーナムではよくあることだ。

 

袋に詰め込まれて牢獄に閉じ込められたり、その時は見えなかったが上位者に握りつぶされて瞬間移動するなんてヤーナムではよくあることだ。

 

きっと今回もどこぞのクソ上位者が自分をこの場所に移動させたのだろう。

 

寧ろ自分をここにいざなった存在がいるとしたら楽しみでしょうがない。どんな理由か知らないが自分をはめたのだ。

 

『ならばその代償は血であがなってもらう絶対に』

 

そういえばかつて言われたな「貴公、よい狩人だな。狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている」そう評されたが自分は酔っているというよりはあんな場所酔わずにやっていられるかという場所だ。

 

他人を救おうとすれば返ってくるのは罵声、悪ければ投石のおまけつき。しかも善良な者を救おうとすれば結局自分はそんな善良なる達を救えなかった・・・・

 

こんな悪夢酔っていなければ誰がやっていけるものか・・・・

 

自嘲のため息もそこそこにとりあえず現状打破のためには行動あるのみ行くならば石と遺志を求めて下層に向けて足を向ける。

 

が、そんな意気込みに水を差すような轟音と悲鳴が遠くから響く。

 

トラブルや厄介ごとに突っ込むのは狩人なら当たり前の事だ。

 

殺し合う狩人同士の間に割って入り合力したこともある『鴉羽の彼女』には「お節介め・・・・まぁ助かったよ・・・」などと言われたがこればかりは性分だ。

 

もっともお節介や甘いというなら会ったばかりの見ず知らずの自分に助言を与えるような彼女も同じだろう。

 

さぁ、悲鳴が聞こえるということは強力な敵がいることだろう。

 

獣か?蟲か?それとも血に酔った己の同胞か?そのどれでも構わない・・・・・さぁ自分に・・・私に・・・・俺に狩られろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

地を蹴りつけて疾走すること数刻襲われている一団と襲い掛かる醜悪な蟲。

 

蟲・・・・蟲は潰さないとな・・・・・狩りの誓約をしているが連盟に籍を置いていたこともあったならば蟲は狩らねばな!

 

疾駆し戦場に参戦する。大型の両刃剣を振り回し豪快に戦う半裸の恰好の少女にすれ違いざま声をかける。「協力する」

 

一瞬呆ける少女だが「え!?ありがとう!!」と素早い反応を返す。

 

やはりな・・・・一目見た瞬間からわかっていた彼女は一流の狩人(変態)だと。

 

別の方を見れば彼女によく似た(一部全く似ていない)女性も危なげなく立ち回っている彼女の姉妹だろうか?

 

その戦い方を見ればやはり彼女も同様に一流の狩人(変態)なのだろう。

 

協力してくれた狩人にも血に酔い敵対した狩人にも装備を全くつけず下着のみで敵をなぎ倒すものがいた。

 

アルデオだけを被った全裸の狂人の車輪にひき潰されたのは苦々しい思い出だし、カインの兜だけを被った全裸の千景の使い手が一撃の被弾もなく上位者を狩っているのも

 

とても恐ろしくも素晴らしい光景だった。

 

自分もあのような技量を身に着けたいと努力を重ねたものだ。

 

もっともその格好にだけはまったく憧れもしなかったし真似をしようなどということはなかったが・・・・

 

そういった彼ら彼女らはその見た目とは裏腹に狩に優れとてつもない技量を誇っていた。

 

おそらく彼女たち二人もそのたぐいだろう。

 

まだ年若い乙女と言っても過言ではないがいろんな意味で将来が楽しみだ。

 

「うぇ!?あたしのウルガがあぁぁ!?」

 

悲痛な叫びにそちらの方向を向けば両刃剣を振り回していた彼女の武器が溶解している。

 

「気を付けろ!!そいつらの体液は溶解液になっている!下手に攻撃すれば自分にも武器にもダメージを負うことになる!」

 

金髪の子供が警告の叫びをあげる・・・・・・・ん?子供!?なぜこんな危険地帯に子供がいるのだ!?

 

バカな!?ダンジョンに子供がなぜいる!?ここには狂った狩人やおぞましい怪物・獣が大量にいるのだぞ!?

 

自傷ダメージ?知ったことか!子供を危険にさらすなど絶対にさせん!

 

かつて己の無知と浅慮で守れなかった「あの子」のようなことには絶対にさせん。

 

しかしかといって武器の消耗と損壊は避けるべきと狩人としての自分は冷静に告げる。

 

ならば解決策は単純だ。『仕掛け武器を使わずに仕留めればいい』我々狩人にはそれができる。

 

幸いにも敵の動きはそれほど素早くもない愚鈍な地を這う蟲ケラよ疾く失せろ!!

 

全力で地を蹴り体勢を低くかがんで敵の死角、背後に移動する腰を落とし体に力を溜めて全力を敵に開放する!

 

拳がめり込み衝撃で蟲が体勢を大きく崩す。ここだ!

 

自分がこれまで高めてきた技量と敵対者の弱点を見る目は既にこの獲物の急所を見切っている。

 

不気味に脈動する蟲の身体の中心部。さらに感じるおぞましいナニかそれに向けて全力の貫手をたたき込む。

 

蟲の皮膚を突き破り体液が噴出する。柔らかく不快な体内を突き進み醜悪な内臓を破壊しながら勢いよく急所に向かって突き進み堅いナニかに触れた瞬間。

 

それをつかみとり腕を抜き取り蟲を吹き飛ばす、集団に向かって吹き飛ばし侵攻を妨害するのも忘れない。

 

堅い石だろうか?極彩色で不気味な見た目だがこれは・・・・・?もしや私も知らない血晶石か?!

 

私は歓喜に打ち震えた。人助けもできる上に未知なる血晶石も手に入るかもしれないだと!?

 

こいつらはおぞましい蟲で潰すのだがそう考えるとまるでテーブルに乗った豪華絢爛な食事に見えてきた。

 

さぁ狩ろう。もっと狩ろう。私に・・・俺に血と遺志をよこせ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇぇ!?素手でいった!?めっちゃ溶解液浴びてないあの人!?」

 

「一撃で仕留めてるみたいだけど無茶苦茶な戦い方ね彼。」

 

「たしかに無茶苦茶かもしれないけど、あれだけ素早く敵を掃討してくれるのはありがたいね。どういう意図があって、なんでこの場所にいるのか謎ばかりだけどね」

 

アマゾネス二人の言葉に返すのはロキ・ファミリア団長『勇者』フィン・ディムナ。

 

言葉に出したように、この危機に共闘を申し込んできた謎の男を勿論歓迎したわけではないが団員の命には代えられない。

 

もちろん怪しいことこの上ないし、近くで見ていてもその身を顧みない戦い方はどう考えても常軌を逸しているようにしか思えない。

 

そして何よりおかしいと、危険だと感じているのは。

 

『自分と目が合った瞬間に彼の纏う雰囲気が一気に剣呑さを増した』

 

戦いに投じているならば剣呑な空気をその身に纏うこと自体は全く持っておかしくはない。

 

しかし自分が声をかけた瞬間に。自分を、『ロキファミリアの団長』の『勇者』『フィン・ディムナ』を認識した瞬間に変わったあの空気。

 

そして彼がそばにいるだけで止まらない過去最大級の親指の疼き・・・・・

 

「これは厄介ごとだなぁ・・・・」

 

周囲には溶解液とモンスターが消失した灰・・・・・そしてこちらに近寄ってくる全身を血と溶解液を浴びてボロボロになった怪しい男。

 

共闘にはもちろん感謝しているが彼はいったい何者だろうか?

 

こちらに何か仕掛けをしているのか?団を守るため様々な思考が高速でフィンの脳内を駆け巡る。

 

 

 

 

こうして血と灰の戦場の中でロキ・ファミリアと彼・・・狩人は出会った。

 

つづく?




フィン「ロキファミリアの団長である自分を認識した瞬間に空気が変わった何だこのヤバい雰囲気は!?」

狩人「ファッ!?なんでダンジョンに子供がおんねん!危険が危ない!早く安全にしなきゃ(使命感)」


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第二夜:帰路

猜疑と疑念

嘘と裏切り

そんなものがそこかしこに存在した街ヤーナム

そしてそれは世界のどこにでもありふれたものだ

迷宮都市もそれは例外ではない・・・・


大規模な戦闘の後、私は損傷した狩装具を一部変えていた。といっても同じ狩装具のマントを取り外した換装品に替えただけだ。

 

装備をインベントリから取り出し変えたとき、なぜか周りの者がひどく驚いていた気がするが、街の初期で手に入る装具を好んで装備する私が珍しかったのだろうか?

 

そして質疑応答が始まる前に私は義憤に駆られ彼らに説教をした。

 

何故このような危険地帯に子供を連れてくるのか?貴公らは正気を失った獣に見えないがなぜそのような暴挙に走るのだ?と。

 

しかし私の義憤は件の子供自身により粉砕されることになる。

 

「えーと・・・・初めまして僕は『ロキ・ファミリア団長』の『フィン・ディムナ』君が言う一団の長をやっている。」

 

驚きである。かなりの規模の集団をこの子供が率いているとは・・・・彼もたぐいまれなる才能があるのだろう。しかしそれはそれこれはこれである。

 

子供が矢面に立つようなことなど緊急事態意外には考えられ・・・・

 

「いや・・・・まぁ僕は小人族だからね・・・・・・見た目は小柄だけどこれでももう40を超えてるんだよ?」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーでもあの反応は笑っちゃったよね狩人くんの顔さぁ!」

 

「呆けるとはああいうのをいうんじゃろうな!」

 

今現在私はアマゾネス出身のティオナという大型の両刃剣を使っていた女の子と、ドワーフの戦士ガレスと談笑しながら地上に向けて帰還している最中である。

 

きっかけは彼女。ティオナがお礼に言いに来たことだ。ヤーナムでは素直に感謝されることこそ少なかった、むしろ罵声と投石がとんでくる事もあったのだが。

 

彼女のように素直に真摯に礼を言われればこちらも嬉しくなってしまう。

 

そこからは私はあまり口数は多い方ではないが、彼女がかなりおしゃべりが好きなようでそれなりに会話は弾んだ。

 

落葉と彼女の使う武器『ウルガ』というらしいが、ともに両刃剣であることもあり武器の話では大いに盛り上がった。

 

その際に仕掛け武器の機構などにも話が波及し、ドワーフの彼ガレスも話に加わってきた。

 

聞くところによればドワーフは鍛冶が得意で手先の器用なものが多いらしい。

 

彼、ガレスも戦士として一流の覇気を纏っているがそれはドワーフの性なのか仕掛け武器のつくりや機構について熱心に質問してきた。

 

余りにも真剣だし話も弾んだお礼に私は自分には必要もない手持ちの強化素材と血晶石を彼に譲渡した。

 

彼曰くこんな素材は見たことがない!とひどく驚いていた。

 

それなりにありふれたものだったはずなのだが・・・・・おそらく彼らは街での獣狩りを主とする一団なのだろう。

 

そして今回はあまり活動を行っていなかったダンジョンに挑んできたのだろう。

 

ならばこれは先達からの餞別だ。『鴉羽』の彼女も助言と共に自分に餞別をくれた。

 

情けは人の為ならずという言葉もあるくらいだ。彼女が自分にしてくれたように私も誰かの助けになるように動くのもいいだろう。

 

悪意と病と獣が蔓延する中でほんのわずかな善意と慈悲。私はそれが何よりも尊いものだと信じているから・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっき協力してくれた人だよね!ありがとう!仲間もみんな助かったよ!」

 

トラブルに巻き込まれた際突然現れた見慣れない装備をつけた冒険者。

 

何故か彼は怒気を発している。周りにいるのは自分の仲間たち同じように修羅場をくぐった者たちだけあって当然ながら彼が放つ気に気付いている。

 

何故彼がこんな気を発しているかはわからない。でも自分と仲間を助けてくれたのは事実だ。ならばお礼を言うのは当然でしょ。

 

一瞬彼は驚いたようにこちらをみつめ、いぶかしんだ様子でこちら対して口を開いた。

 

「貴公らの狩りの動き拝見した、一目見て一流の狩人だとわかる動きだ。

しかし何故貴公らの様な一流の狩人がこのような危険な鉄火場に子供を連れてくるのか?

貴公らは正気を失って血に酔った狩人か?それとも獣の類か?」

 

「誰が獣だコラァ!!ぶっ殺すぞ雑魚がぁ!!!!」

 

後ろでベートが叫んでるけど、それよりも子供!?こんな下層に子供がいるの?どこに?彼は指をさして言った。

 

「そこに居る金髪の子供だ。警告には感謝する。

的確な警句であった、襲われてから左程時間もたっていないだろうに敵の特徴を見抜くとは才覚をかんじる。

しかし如何に才能があれどこんな危険な場所に年端も行かぬ幼子を連れてくるのは看過できん。

それもこれだけの規模の集団ださぞや名のある組織なのだろう?ならば衆目の評判も気にしなければならないのではないか?」

 

彼が指をさす先には・・・・・・団長が、フィンが居た。

 

「えーと・・・・初めまして僕は『ロキ・ファミリア団長』の『フィン・ディムナ』君が言う一団の長をやっている。」

 

滅茶苦茶驚いた顔してる彼。えっと?もしかしてうちのファミリアも団長の事も知らないの!?

 

そっちの方がこっちは逆に驚くんだけど!?

 

驚いてはいるようだけど彼はさらに続ける。

 

「君がこの一団を率いているとすれば見事な手腕だ。素晴らしい才能だ。先ほどのこちらに告げた警句も的確だった。良い眼をもっているのだろう

なればこそ年若い君が今無理をせずとも地道に力を伸ばすべきではないのか?」

 

うん、彼凄くいい人っぽい。言葉の節々から自分より若い人を気遣う感じが零れちゃってる。

 

ただ残念なのは・・・・・。

 

「いや・・・・まぁ僕は小人族だからね・・・・・・見た目は小柄だけどこれでももう40を超えてるんだよ?」

 

そうなんだよねぇ・・・・・・。

 

そのあとの彼の反応というか顔は・・・・目だけしか見えないけど全身がこう言っていた『そんなバカな?』ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「インベントリ?・・・・・・そっからその新しい服だしたんだ?」

「落葉っていうその武器私のウルガとちょっと似てるね!!」

「リゲイン?なにそれ狩人くんのスキル?すっごいねでもあんまり人に自分のスキルの事とか話しちゃだめだよ」

 

アホ妹が共闘者「狩人」と話をしている。言いたいことはめちゃくちゃある。怪しいことこの上ないけど、一応は仲間の危機を救った人間にちょっとなれなれしすぎないかと!?

 

しかし情報を得るうえでは妹の二心のない質疑応答と雑談はこの上なく有用なものだ。

 

隣で団長も彼に対する態度をどうすればいいかちょっと難しい顔をしている。団長!そういう悩んだ顔も素敵です!

 

それにしても伝わってくる内容がすさまじい。特に最初に彼が何気なく答えた「インベントリ」というものだ。

 

装備や武器、道具類を、見えずにしかもあれだけ大きな装備を運べるなんて信じられない。

 

しかも彼の動きからそんなら重さのある物を身に着けてるとは思えない。

 

それは戦闘時に見せたあの動きからも明らかだ。うちのファミリアでも敏捷性の高い二人、アイズ、ベート。その二人とも優るとも劣らない動き。

 

それだけの動きが防具一式分を別に身に着けた上でできるとは到底思えない。

 

つまり彼がもつ「インベントリ」とやらはかなりの重量と量を身に着けた本人に感じさせずに運ぶことができるということだ。

 

隣で団長が同じように事実に気づき難しい顔をしている。あぁ!苦悩する団長かっこいい!

 

更に聞いたこともないような機構の武器や素材も持っているようだ。もしや彼は私たちが知らない領域に踏み込んでいるのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼・・・・自分の持っている力や能力を隠す素振りほとんど見せないね名前こそ明らかに偽名だけど

どう思う?リヴェリア君の意見が聞きたい。」

 

彼、『狩人』は最初の剣呑な雰囲気はこちら側を誤解したとわかったあとすぐに消え今ではティオナとガレスと仲良さげに雑談に興じている。

 

「おそらくだが・・・・示威行動ではないか?でなければあれだけあからさまに自身の持つ能力や武器をひけらかしたり説明はしないだろうな。

もちろんそれ以上の隠している切り札の様なものもあると考えられるがな。」

 

たしかにそれ以外は考えられない。彼の持つ武器はどれも耳に聞こえるだけで強力で凶悪な代物だとわかる。

 

鋭さをもった変形する剣に斧槍のように扱える斧。さらには遠距離攻撃の手段も持っている。

 

これが対ロキ・ファミリア用の武器だというならばかなりの脅威だろう。

 

「だがまぁ警戒は必要だが必要以上の警戒はいらぬ誤解を招きかねないだろう。どんな思惑があれ彼が仲間の危機を救ってくれたのは事実なのだからな。」

 

確かにそうだ。この事それ事体が僕らを陥れるために引き起こしたマッチポンプだということも考えられるが最初の会話からそういう印象はどうも感じられない。

 

「あぁ・・・・なんというかここには珍しく善良な感じはしたな。

むしろ完全なる無関係なもので事実をまったく知らずに彼自身もはめられた可能性もあるのではないか?」

 

それも可能性の一つとしては充分考えられる事だ。だが一つだけ大きな謎がある。

 

「ねぇ・・・フィン、リヴェリア。あの人『一人』でここまで来たのかな?」

 

傍らで事の成り行きを見ていたアイズが尋ねてくる疑問。そうそれだ。それこそが最大の謎だ。彼は言った『こんな危険な場所』と、

 

それはつまりダンジョンの下層それも僕たちが一団を率いているような危険地帯に行き慣れていなければ出てこない言葉だ。

 

だからこその疑念『なぜそんな危険地帯であるダンジョンの下層部に彼は一人でいたのか』

 

その疑念が晴れれば僕としても両手を挙げて彼を賞賛できるのだけれどね・・・・。

 

「ここまで・・・・一人で来れるなんてすごいんだ・・・・ちょっと私も話してくる」

 

は?止める間もなく彼に話をしようと話の輪に入り込んでいくアイズ。

 

頼むから自重してくれ!ベートはベートで彼に対して殺気立ってるいるしどうしてウチの幹部は皆が皆揃いも揃って癖が強いのが多いんだ?

 

「はぁ・・・・・全く仕方ないなあの娘は・・・・・ところでフィン・・・・癖の強い幹部というのは私も入っているのか?」

 

口に出してはいない。けど全部顔に出ていたのか出すような下手な真似はしてないが付き合いの長いハイエルフの副団長は全部お見通しのようだ。

 

 

王族のハイエルフでロキ・ファミリア副団長の九魔姫のリヴェリア・リヨス・アールヴが癖が強くないわけないだろう!?

 

 

あぁもう胃が痛い・・・・地上に帰還したら胃薬を注文したい気分だよまったく・・・・。

 




ディアンケヒト・ファミリア製の胃薬

ディアンケヒト・ファミリアで市販され、一般にも流通しているごく一般的な胃薬。

人の疲労疲弊の負担は内臓に顕著に表れる。

特に胃は食事を消化し明日への活動のため栄養を吸収する重要な器官だ。

しかし疲れた人にも内臓にも休養と薬は必要である。

それは普通の人も勇者と呼ばれるような英雄でも同じである。


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第三夜:秘儀

どんな過去も隠すことはできる・・・・

しかしたった一人だけどんなことも隠すことのできないものがいる

それは神でも賢者でもない・・・

どんな嘘も誤魔化しをしても

己自身は己自身の過去を誰よりも知っているのだから

その傷を覆い隠すことができても己の弱さは己自身には隠せない

真実の言葉であってもそれが人傷つけることは有ろうとも

人を癒すことはない・・・・・世界とは悲劇なのだから・・・



私は今とてつもない絶望の淵にいる。ガレスとティオナ二人と話に花を咲かせていたのだ。

 

そこまではいい。しかし、話の中であまりにも自分の知るダンジョンとの違いに気づいてしまった。

 

『ここは未知の聖杯ダンジョンではない』という事実に。

 

二人に虫を倒した際に抜き取った石について聞くとどうやらこの石は『魔石』と呼ばれギルドという組織に売ることで冒険者は日々の糧を得ているようだ。

 

しかし私には絶望が大きい。聞けば聞くほどに私がいた場所との乖離が激しい。これでは『夢』への帰還はどうすればいいのだろうか?

 

そして何よりここが『聖杯ダンジョン』ではないということが私にとって途轍もなく暗い影を自分の未来に墜としていた。

 

これでは血晶石の厳選が出来ないではないか!?

 

私の悲哀を感じ取ったのだろうか、彼女ティオナはとある提案をしてくる。

 

「もしかして防具を痛めたの気にしてるの?だったら私たちがお世話になってる鍛冶屋さん!ゴブニュ・ファミリアの店に一緒に行って修理してもらおうよ!」

 

そうやって笑顔で提案してくれる。『ゴブニュ・ファミリア』・・・・彼らは『ロキ・ファミリア』前半の部分がおそらく名詞だろう。

 

彼らの掲げる何かの象徴か代表者の名前だろう。

 

「ゴブニュ・・・・ファミリアとはどういうところなのだ?」

 

「えっと?ゴブニュ・ファミリアも知らないの狩人くんは?しょうがない!この美少女ティオナが教えてあげよう!」

 

「なにねぇ胸誇らしげにそらして大声出してやがんだバカゾn・・・ゴッハァァァ!!?」

 

一瞬、彼女の姿がブレ煙のように消えた。速い・・・・まるで秘儀を使った『千景の狩人』や『時計塔の彼女』を思い起こさせる速さだ。

 

失礼な言葉をはいた彼、『ベート・ローガ』に対して強烈な肝臓打ちを放つ。

 

貴公よ・・・・事実というのはただ列挙すればいいのではない・・・・真実が人をキレさせることはあっても人を救ったことはないのだ・・・。

 

「何考えてるのかな?狩人くんは?」

 

視線と彼女自身が持つ武威による重圧・・・ベテランの狩人や強力な獣に優るとも劣らない。

 

「なに・・・貴公の様な可憐な少女が目にもとまらぬ速さで一瞬で距離を詰めて見事な当身を彼に食らわせたのを見てね。

天は二物を与えずという言葉があるが・・・・どうやら貴公には当てはまらなかったようだ」

 

「えぇ?・・・えーーーもうやだなぁ!!狩人くんは口が上手いなぁ!!」

 

バシバシと彼女が背中を叩きながら・・・・正直痛い・・・だが乗り切った。嘘と裏切り欺瞞が満ちたあの街で生き抜くにはこの程度の誤魔化したやすくできなければやってはいけないのである。

 

彼女の話によればゴブニュ・ファミリアとは鍛冶のファミリアで神ゴブニュの元で鍛冶を行っているそうだ。

 

私は希望を見出した!神=上位者!そんな者がつくる装備など興味がわかないわけがない。

 

邪悪な上位者だったり敵対するならば狩るだけだがそれだって遺志や血晶石が手に入る可能性があるのだ!

 

楽しみができたぞ。

 

それにしてもまだ地上への帰還まで時間はある・・・先ほどからティオナの照れ隠しなのか背中への打擲が止まらない・・私の背骨は耐えられるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラブル・イレギュラーはあったものの地上の帰還までもう少しという時、それは起こった複数体のミノタウロスの同時出現と戦闘。

 

我々の戦力ならば接敵しても問題なく対応できるが今回の遠征予想外というのはとことん起きる。

 

「な!?てめぇらモンスターだろうが!!」

 

ベートの怒号が響く。そう、ミノタウロスが上層に向かい遁走を始めたのだ。

 

マズい。上層には新米やレベルの低い冒険者が狩りをしているはずだ。そんな者が推奨レベル2相当ミノタウロスと戦闘になればどうなるかなんて火を見るより明らかだ。

 

「速やかに掃討しろ!上層にいる駆け出しの冒険者が巻き込まれる前に!」

 

「わかったフィン」「クソがぁ!」「遠征がえりなのにぃ!」「団長に文句あんのかコラァ!!さっさと行くわよ!!」

 

素早く飛び出す幹部達彼らに任せておけば問題ない。今回の遠征は本当にいろいろありすぎる。

 

特に一番の悩みの種は彼『狩人』の事だ。今の件も彼が悪意を持ってギルドや街の住人に風潮すればファミリアの醜聞になりかねない。

 

まったく頭が痛い話だ。まぁ戦闘に巻き込んだうえに此方の危機を救ってくれたのが怪しい人物であるのは間違いないがある程度は信用してもいいだろう。

 

僕はまたも巻き込んでしまったことに対して彼に謝罪しようと見まわすが彼の姿は見えない。

 

・・・・・嫌な予感がする。

 

「ラウル・・・・彼は・・・・『狩人』くんはどこにいる?」

 

「あの・・・えっと団長・・・あの『狩人』さんなんですけど・・・・『新人がいるような戦闘区域であいつらが暴れるのは問題なのだろう?微力ながら助力しよう』

って言った一瞬で消えて・・・・あの!止めようとしたんですけど!!あの人滅茶苦茶動き速くって、っていうか姿煙みたいに消えて一瞬で移動して!

アイズさんとかベートさんと同じくらいの速さだったんです!!止める暇なかったんです!すみません!」

 

 

 

全く頭が痛い話だよ・・・・・本気で胃薬と同時に頭痛薬を処方してもらおうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソが・・・・・自分とアイズと並走しながらモンスターを掃討する男『狩人』。

 

遠征中のイレギュラー時にこちらに協力を申し出てきた怪しい男。見たこともない装備品に身を包み自分が有する能力を隠しもしない。

 

覇気のねぇ声もツラも気に食わねぇ・・・・

 

だがそれ以上に気に食わない事がある・・・・自分でも忌々しいことこの上ない。

 

だが認めたくないが認めざるを得ない。戦闘者であるがゆえに解る。解ってしまう。

 

この男『狩人』が自分よりも戦闘者として優れているという事実に。それは隣を並走するアイズも気付いているようだ。

 

まるで第三者の視点で見ているかのような戦闘の立ち回り、自分やアイズに匹敵する力と速さ。

 

クソが!気に入らねぇ!奴がファミリアの危機を救った時、聞きたくもねぇ声が聞こえた気がした。

 

『所詮お前は誰も救えない弱者だ』と、気に入らねぇ!

 

そんなくだらねぇことが頭をよぎったその前に、身なりも身に纏う空気も雑魚の兎みてぇな雑魚が身をすくませて牛野郎の餌食になろうとしていた。

 

二つの風が自分の脇を駆け抜ける。

 

一つは自分が見知った煌めく金、もう一つは見知らぬ不吉さを想起させる黒く昏い風。

 

負けねぇ・・・・・俺は・・・・負けねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィンの言葉に従い私はミノタウロスを追っている。

 

ベートさんと『狩人』さんも一緒だ。残り少ないミノタウロスおそらく最後の一体だろう。

 

そんなモンスターの前に白い兎の様な男の子が固まっているのが見えた。

 

速度を一気に上げて地面を蹴って距離を詰める。その横を私よりも速く『狩人』さんが駆け抜けていく。

 

「動きは止める・・・・止めは任せる」短く告げられた言葉の後更に彼は加速して男の子とモンスターの間に割り込んだ。

 

ミノタウロスが斧を振りかぶりその力を解放するために振り下ろそうとしたその時、空気を振るわす轟音が鳴り響き、モンスターが崩れ落ち膝立ちになる。

 

剣を振りぬきモンスターを切り裂く。よしこれで大丈夫だ。振り向くと二人は体中真っ赤だ。さっきまで白と黒だったはずなのに。

 

「大丈夫ですか?」

 

男の子に声をかけるが反応がない。

 

「だぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

声をかければ男の子は一目散に駆け出した。

 

一体どうしたの?ベートさんはお腹を抱えて大笑いしてるし、狩人さんも笑ってる。

 

ムッとするけど其れよりも気になることがある。さっきの狩人さんの速さ何か秘密があるのかな?聞いたら教えてくれるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獣どもの掃討のために私は二人の者と駆けている。しかしこちらに向ける視線は正反対だ。

 

一つはこちらを敵視するような圧と敵意の様なものを向けられている。もう一つはこっちを興味津々と言った好奇心の様な視線だ。

 

どっちも厄介なことこの上ない。彼らも一流の狩人らしくそんな視線を送ってきつつも戦闘の動きは全く持って淀みない。

 

うーんそれにしても彼『ベート・ローガ』狼人というヤーナムでもいなかった人種らしく最初にあったときは一瞬獣かと思い身構えてしまった。

 

きっとそのせいだろう彼からはあった時から敵意を向けられている。しかたない誰だって初対面の人間に獣扱いされればよい印象は受けないだろう。

 

 

むしろ視線だけ放ってくる彼は随分と常識と良識が備わっている彼は一流の戦士というだけでなく人格面でも一流なのだろう。

 

これがあの街だったなら罵詈雑言に汚物に石を放ってくるだろう。相手も狩人だったら毒メスや水銀弾でも飛んできそうなものである。

 

『ガラシャの拳』とは全く違う体術を用いて使う彼の武装はとっても気になるのでできれば親交を深めてどんな思想の狩人工房で作られた武器なのかどんな仕掛けを有しているのか気になるのだが・・・・・。

 

 

 

順調に獣を狩っていけばおそらく最後の一体であろう獣と相対している一人の狩人が目に入る。

 

年若く小さな兎の様な少年がその身を石のように固めて獣と相対している。普通ならば間に合わない距離だろう。

 

鐘で共闘に応じてみれば既に助力を乞うものが襲われているなどよくあった事だ。

 

『普通』ならば間に合わない。ならば『普通』でない方法。下層でティオナ、彼女の事を見て自分も使ってみた。

 

古い狩人の遺骨『加速』の『秘儀』意志から古い業を引き出す。夢に依って遺志を引き継ぐ、狩人に相応しい。

 

金髪の彼女『アイズ・ヴァレンシュタイン』に止めを刺すよう告げ加速し少年と獣の間に割り込む。

 

獣はその手にもった武器を振り上げこちらに振り下ろそうとしている。だがその鈍重な動き。カモでしかない。

 

懐から取り出した愛銃『エヴェリン』意匠にも凝った逸品である。その見た目こそ装飾品めいて華々しいが恐ろしい威力を秘めている。

 

獣が武器を振り下ろそうとする動きを見切り獣の頭部眼球に狙いを定め水銀弾を放つ。

 

号砲と共に飛来していく弾丸が獣の眼球に突き刺さる。それだけにとどまらず奥にある神経、血管、脳、頭蓋を蹂躙していく。

 

痛みと衝撃により獣が膝をつき崩れ落ちる。既に虫の息しかしこの獣水銀弾一発で殺せるほど貧弱ではないらしい。

 

全く忌々しいことこの上ないなこの獣は。最も貴様は既に終わりだがな。

 

獣の身体に銀の剣閃が閃く。一瞬でこれだけの斬撃を放つとは彼女は『技量・神秘特化』の狩人なのだろうか。

 

しかしそれにしても頭から血を被って血にまみれた獣のような有様になってしまった。

 

となりにいる少年も真っ白だったというのに今はまるで瓶に入った『匂いたつ血の酒』のようだ。

 

「大丈夫ですか?」彼女の声に少年は呆けたようにアイズ・ヴァレンシュタインを認識した。

 

次の瞬間、

 

「だぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

死んだ友人を思い出させるような『叫び』を発しながら一目散に逃げだした。

 

彼は『輝き』の誓約でもしているのだろうか?彼女アイズはきょとんとしている。

 

その様がおかしかったのだろうベート・ローガは腹を抱えて大笑いしている。ついでに間抜けにも頭から血を被った私の事も指をさして笑っている。

 

まぁ血まみれの間抜けな私に自身に頓着のない彼女と助けたもの逃げられたその様。なかなかツボに入る状況だな。

 

苦笑を浮かべ相槌をうつ。さてロキ・ファミリアの面々とも合流し、さっさと地上に帰還だな。

 

 

 

 

 

 

 

 




フロスヴィルト

特殊金属「ミスリル」を加工したミスリルブーツ。第二等級特殊武器。

武器の性能とベートの蹴り技だけでも十分な威力を発揮するが、魔法効果を吸
収し特性攻撃に変換する能力を持つ。

ただしこの装備はベートのもつ魔法の劣化版に過ぎない。

その魔法は己の過去・己の弱さの証。

この武器は己の過去と弱さを隠すための物なのか、それとも敵を屠る牙なのか。

それは誰にもわからない・・・・

そう強さに飢えた餓狼のような戦士である彼自身にさえも今はまだ・・・・


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第四夜:誤解

失ったものは取り戻せる

金も物も誇りもたとえ失ったとしても取り戻せるもの

たった一つ命以外は・・・・


ダンジョンから地上への帰還を果たした私と『ロキ・ファミリア』の一行。

 

今回迷惑をかけた件、パーティの危機を救ってくれたことについて改めて感謝と自分たちの主神『ロキ』に面通しをしてくれないかとフィンに頼まれた。

 

了承するがそれ以上にここは本当にヤーナムとは全く違う場所のようだ。

 

陰気で陰鬱。街全体が昏い帳が落ちたような静寂と不気味な雰囲気だったヤーナムとは真逆。

 

活気にあふれ人の生活の営みがそこかしこに感じられる明るい街____私にとってのまったくの未知『迷宮都市オラリオ』。

 

地上の街の様子に面食らって惚けてしまったようだが要は今回の件のけじめとして直接彼らの代表と会食をしてほしいとのことだ。

 

特に拒否することもない。むしろ今の私には全く持って情報が足りていない。彼らの様な大規模な組織の代表と既知を得られるというのなら此方にとっては願ったり叶ったりだ。

 

時間もかかるとの事で彼らの本拠地『黄昏の館』への招待もされたのだが流石にそれは辞退した。

 

情報が全くないので街の構造の理解のためにしばらく散策をしたい。情報があるとないでは自分の生存に直結するといっても過言ではない。

 

ずれた夢の住人たちが残した『手記』や『遺影』には探索の上で何度も助けられたものだ。

 

時間もたっぷりあることだし明日の夜まで街の構造把握に散策してみよう。場所がわかったらティオナから聞いていた上位者が運営している鍛冶工房を覗いてみるのもいいだろう。

 

名残惜しいのか最後まで自分達の拠点へ誘ってくれたティオナには悪いが優先するべきことは自分の生存のためにする事だ。

 

宴を楽しみにしているとフィンに告げ彼らと別れた。報酬は明日の夜支払うがそれまでの費用として金銭まで頂いてしまった。

 

なんとも律儀な事だ。会食に謝礼金までくれるとはこの街の冒険者というのは狩人とちがってまともな者しかいないのだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがにこちらの拠点に招待するのは露骨すぎたかな。」

 

「当たり前だろう?いくら彼の能力が優れているとはいえ相手の本拠地に誘われて正直に来るなど考えられん。」

 

リヴェリアの意見ももっともだ。だが明日の夜彼を食事に招待することには成功したそれもこちらの主神『ロキとの会食』を約束したのだ。

 

「時間を相手に与えるというのは対策を講じられるということだけど神との会話なら虚偽は不可能だ。これで彼の目的をハッキリさせておきたい。」

 

彼『狩人』に時間を与えてしまうのはこちらの意図に対して何らかの手段を講じることも考えられるがロキと会わせることができれば会話によって彼の真意・目的を明らかにすることができる。

 

言動も行動も善良な冒険者に見えないこともないが彼の持つ常軌を逸した能力の数々がそれを否定する。

 

「まぁ正直言えば純粋に彼には感謝だけしたいよ?でも団長として団員を守るためにはこういう後ろめたいこともしなきゃならない。彼には申し訳ないと思うけどよく知らない誰かに対する気持ちよりも僕は大切な家族を優先する」

 

「もっともだな。それにこっちはまだ彼の名前さえしらないのだからな。」

 

「え?狩人くん?名前無いらしいよ。」

 

「「は?」」

 

僕とリヴェリアの二人は声の方向に向き直りティオナに続きを促す。

 

「彼に名前が無いっていうのはどういうことなんだ?」

 

「なんかすっごい病気にかかって病気を治してくれるお医者さんに治療してもらったらしいんだけどその副作用で昔の事とかほとんど忘れちゃってるらしいよ狩人くん。」

 

そんな重要な情報をさらっと言わないでくれ。

 

「おぉ!そういえば言っておったな。難儀なことだと同情したが本人はそれなりに楽しくやっていると言っておった。その街で人に害を与える獣を狩る『狩人』をしておったそうじゃ。そういったものが沢山居たので自分も周りから『狩人』と呼ばれていたので名前もないし『狩人』と名乗っているといっていたな」

 

「そういう重要なことはさっさと言いなさいよアンタは!!団長がいらん心労重ねちゃうでしょ!!このバカ!!」

 

「バカじゃないよ!!」「うるせぇぞ!!凸凹姉妹!!」「んだとコラァ!!」「誰の胸がえぐれてるって!!」「言ってねぇだろうがぁ!!」

 

「まぁ・・・・物事は取り越し苦労ですめば実際に危険があるよりはいいではないか。」

 

そうだねリヴェリア全く持ってその通りだと思うよ。

 

でももう少し労ってくれてもいいんじゃないか?しかも未知の力をもった冒険者との会食だなんて。絶対になにかちょっかいかけたりいらん事するにきまってる。

 

ロキは策謀や暗闘なんかにはめっぽう強い。だけど地上に降りた神のほとんどが面白い事に。娯楽に飢えている

 

そんな前に謎の冒険者。それも未知の力を持った者との会食なんて・・・・・。

 

はぁ・・・・・なんとか無事に会食が終われるように努力しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキ・ファミリアの一団と別れて私は今様々な場所を散策している。

 

人の営みが感じられる明るい街。活気にあふれた商店とそこに居る商人と客。香ばしい匂いのする料理を売る屋台。

 

そして・・・・・薄汚く不潔で薄暗くじめじめとした路地裏。

 

表の煌びやかな雰囲気などどこに行ったものかゴミや廃材が道の脇につまれ建物の間にあるため陽の光に遮られた薄暗い雰囲気の裏通り。

 

陰鬱で普通の者ならば忌避感を抱くような場所だ。だがそうではないものにとってはこういう場所は身を隠し後ろ暗い企みをするならうってつけの場所だろう。

 

そんなことを考えながら歩き続け裏通りと表通りの境目のあたり開けた場所にて声をかけられた。

 

「もしもし冒険者さん。魔石を落としませんでしたか?」

 

振り向くとそこには薄鈍色の髪をまとめた女給服を着た可憐な少女が手に持った魔石をこちらに差し出して問うている様子だ。

 

何者だろうかこの女給は。

 

彼女がそう言って差し出した手には確かに魔石が乗っている。

 

しかし私が『インベントリにしまっているものを落とす』等ありえない。そして彼女がこちらに向かって差し出している魔石は間違いなく私が所持しているもののどれにも似ても似つかない。

 

無言の私に戸惑っている様子の女給仕に私は一歩踏み出し距離を詰めて問いただす。威圧をこめて『一体何が目的だ?』と。

 

空気がざわめく。それなりの修羅場をくぐっている自分の威圧にたいして怯える様子もなくいたずらが失敗した子供の様な様子の女給に不信感が募る。

 

「ごめんなさい私の勘違いでした実は・・・」

 

謝罪し頭を垂れる彼女と私の間に突如として鋼の銀閃と薄緑色の影が降り立った。

 

「彼女に一体何をしている。」

 

その激情を抑えた口調とは裏腹に抑えきれない殺気と怒気を宿した空色の視線が私を貫いた。

 

心地いい殺気だ。背筋がざわつく。こちらが状況を推移しているのを後ろ暗い事の現れと取ったのか薄緑の襲撃者はこちらに襲い掛かってきた。

 

明らか怒り狂った様だがその太刀筋の速さも正確さも冷静な戦士のものだ。紙一重で彼女の振るう刃を避ける。

 

しかしよく観察するまでもなく一つの事実に直面する。この襲撃者、先ほどの謎の女給と同じ給仕服を着ている。

 

そして可憐な少女を路地裏で威圧する全身黒づくめの狩人である私。

 

・・・・・・・どうみても強盗かもしくは婦女暴行を企てようとする悪漢である。

 

おそらく自分の友人である彼女によからぬことをしようとしていた私から彼女を守るために彼女は戦いを仕掛けてきたのだろう。

 

急激に闘志が萎えてしぼんでいく。完全に誤解だがこのまま戦闘を続けるわけにもいくまい。

 

戦闘を止めるため私は彼女が突き出した刃に向けて掌を差し出した。掌を貫通し血が噴出し路地の石畳に血の花が咲く。

 

私が自ら自分の刃に掌を突っ込ませたことに困惑し硬直した襲撃者の女給の得物を貫通したまま彼女の手ごと抑えて冷静に告げる。

 

「おそらく貴公の勘違いだ。我々の間には誤解が生じている」と、そこからは早かった。

 

早口で事情を襲撃者に説明しそれについて理解していくうちに彼女の顔が赤くなったり青くなったりと落ち込んで黒くなったりとまるで私の使う秘薬のような色にとめどなく変わっていった。

 

そして深い深い沈黙と沈痛な表情をこちらにむけ、

 

「申し訳ありませんでした。」二人そろって深く頭を下げて謝罪した。ふむ、謝罪があるのならば私は許そう善良な者が大切な者を守るために刃を振るった。

 

尊い人の営みのなかで許し生きていくのならば寛容さも必要であろう。

 

最初に私に声をかけてきた彼女『シル・フローヴァ』に謝罪と弁済をするので憲兵への通報を辞めてほしいと懇願された。

 

逆に私を襲撃してきた彼女『リュー・リオン』はたとえ自分がどうなったとしても罪なき私に刃を向けた自分は裁かれても仕方ないと固持した。

 

お互いが相手の事をかばい合い大切なものを守ろうとしている。

 

私は敵対者には容赦はしない。だが善良な者が誤解の果てに自分に刃をむけたとしてもこの身に何事もなければ大したことではない。

 

誤解が解けたのならば自分に罪はないのでとその場を去ろうとすれば何とか謝罪をと引き留められた。

 

ならば明日の夜に待ち合わせがあるのでそれまでの食事と寝床を用意してくれと要求した。

 

彼女らの恰好からして女給のようだしおそらく食事処に勤めているのだろう。これ幸いと明日までの寝床やらいろいろと確保できた。

 

この街に来ての初めての食事どんなものになるだろうか楽しみである。

 

 




疾風の護身用短剣

『疾風』の二つ名を持つ冒険者リュー・リオンがもつ護身用の短剣。

鋭くよく手入れのされた短剣ではあるもののそれは一般的に市販されている武具と相違ない。

だがそこに込められた想いは果てしなく深く重いもの。

私はいつもやりすぎてしまう・・・・・そして私はいつも間に合わない。

しかし次は絶対に間に合わせるそんな想いをもって今日も彼女は刃を身に着ける。

その想いは決意なのか後悔なのか・・・・


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第五夜:謝罪と啓蒙

知識とは武器であり自分の身を守る盾でもある

だが同時に人の身には知られざる知識

知らざるべき知識がある

その知は身を守る盾かそれとも滅ぼす毒か


私は今途方もない悔恨の念を胸に抱いて店への帰路の道を歩いている。

 

同道を歩くのは大切な自分の恩人で同僚のシル。そしてもう一人私が誤って襲い掛かり傷つけてしまった男性『狩人』。

 

二人の間で話が弾んでいるようだがそんな会話の内容など全く頭に入ってこない。

 

 

 

 

 

 

外に店の宣伝とお客さんの勧誘のために出て行ったシルを探し迎えに行くためにダイダロス通り近くを歩いていけば目当てである彼女をすぐに見つけることができた。

 

その時、彼女が相対する人物。最初は今彼女が店の宣伝しているであろうと遠目に見ながら考えていた。

 

黒づくめの男が彼女に対して現役時代の私でさえも背筋に怖気を走らせる様な威圧を放つまでは。

 

頭の中が真っ白になった。その男の放つ圧倒的な威圧に男が持つであろうその暴力の大きさに。

 

次に頭の中を埋め尽くしたのは怒りだった。大切で大好きな恩人を害そうとする男を排除する。

 

 

 

 

 

かつて私は守れなかった。共に戦い同じ誓いを胸に抱いた仲間たちを守れなかった。

 

正義を胸に秘めた遠慮もないけれど自分にとってかけがえのない友を。

 

口悪いながらも自分を心配し。時に技を教わり、時に共に戦い鎬を削り高め合った友を。

 

交渉術や生存術、森にいたままでは絶対に知らなかった事を教えてくれた友を。

 

アリーゼ、輝夜、ライラ、ノイン、ネーゼ、アスタ、リャーナ、セルティ、イスカ、マリュー。

 

掛け替えのない大切な仲間。私はその全てを亡くした。大切だったのに。何よりも守りたかったのに逆に守られた。

 

そして最後には自分の矜持も捨て去った。

 

弱い自分を守るため復讐鬼に身を落とし怒り狂いその感情のままに仲間の仇に刃を振るった。

 

五年前、私は命以外のなにもかもを亡くした。大切な仲間も、その仲間たちと掲げた矜持も。

 

全てなくして命さえも捨てるつもりだった。そんな私を拾い上げてくれた彼女。

 

生きていく術と新しい家と仲間。全部全部彼女が私にもたらしてくれたものだった。

 

そんな恩人の彼女と彼女を害そうとする悪漢の間に割り込み、刃を向け告げる。

 

「彼女に一体何をしている。」

 

努めて冷静な口調で言ったつもりだったが殺気が漏れ出ていたのだろう。男は沈黙し此方の出方を窺っている。

 

その身に帯びた凶器の多彩さは見えるものだけでも多種多様だ。一方此方は手入れをしているとはいえ護身用に身に着けていた短剣一本のみ。

 

守勢に回れば男を抑えきれないと判断し刃を振るい此方から男に仕掛ける。

 

 

 

 

幾たび刃を振るったか最早数え切れないほどだがその全てを男は紙一重で避け続けている。

 

完全にこちらの動きの虚も実も見切られている。全くもって攻撃の当たらない状況に私自身少々焦れている。

 

ここから彼女を逃がさなくては、彼女を守らなくては。戦闘の最中にそんな考えが頭をよぎっていたためだろうか。

 

私は安易に男の急所に突きを放ってしまった。更に男はあろうことか自分の掌を差し出し自ら短剣に串刺したのだ。

 

男の異常な行動に一瞬体も思考も硬直してしまった。その隙を男が逃がすわけもなく串刺しにされたままの手を短剣の根元まで食い込ませそのまま私の手を固く握り込んだ。

 

『しまった!』焦る内心を悟られまいと男をにらみつけるが男が発する威圧感はいつの間にか霧散している。

 

そして男は告げる。

 

「おそらく貴公の勘違いだ。我々の間には誤解が生じている」と続いてシルの言葉が耳に突き刺さる。

 

「リュー落ち着いてってば!誤解なんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今私は『豊穣の女主人』という名の食事処に向けて歩いている。同道するのは二人の給仕服を着た美少女。

 

詐欺まがいのような方法で客引きをしていた彼女『シル・フローヴァ』。

 

そして、今にも自己嫌悪で死にたいと、羞恥で消えてなくなってしまいたいとそんな重い雰囲気醸し出す彼女『リュー・リオン』。

 

私に対して殺害さえ視野に入れ襲撃を仕掛けたがそれらは完全なる誤解で無実の者を一方的に襲いあまつさえ傷害してしまったのだ。

 

謝罪の時にも感じていたが元々真面目な性格なのだろう。それ故に自分の仕出かした過ちを看過できず。

 

自分の中で自己嫌悪と後悔の念が渦巻きそれが無限螺旋のように続いているのだろう。難儀な事であるどうにかできないものだろうか。

 

「ごめんなさい、リュー真面目だからすっごく気に病んじゃって。」

 

隣で道行くシル。彼女が申し訳なさそうに頭を下げてくる。こちらも手傷を負わされたが終わったことであるし誤解であると理解もしてもらった。

 

和解の代償も彼女たちは支払うと言ってくれている。ならば水に流すのも年長者の勤めではなかろうか。もっとも自分の正確な年齢など覚えていないのだが。

 

話を続けていけばフィン達との食事の場所も彼女たちの勤め場所だという。偶然とは怖いものだ。

 

だがそういうことならばと私に妙案が浮かんだ。彼女リュー・リオンはその生真面目な性格から己の仕出かした過ちを許せず懊悩しているのだ。

 

ならばその代償を彼女に支払ってもらうことで彼女の罪悪感をなくせばいいのだ。

 

幸いにして彼女らの勤め先は街でも人気の食事処だという。ならばそれにふさわしい代償を提案すればいいのだ。伊達や酔狂で啓蒙をため込んでいるのではないぞ私は。

 

 

「私に対して贖罪を求めているなら私は君に対して赦しを与えている。だが君が自分を許せぬのなら今から行く君たちの店で君が私に謝罪のために料理を作ってくれ。」

 

自分でも中々に惚れ惚れするほど良い提案だと自負する。彼女には自分を許す機会を与えなおかつ人気であるという店の食事を提供させる。

 

彼女たちへの負担も少なく私も彼女たちも気が晴れるしこの道すがらの空気も軽くなるというものだ。

 

だが何故だろうシルの表情は笑顔のまま凍り付き笑顔のままだが口元は引きつったように見える。

 

リューの方も一瞬言われた言葉に硬直しその言葉を吟味したかと思えば顔から血の気が失せた。

 

そして次には強敵に挑む前の狩人ように決死の覚悟を抱いた顔つきで私の提案を了承する。

 

食事処の女給仕に食事の調理を求めるのは間違っているだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

店の宣伝と店への勧誘に行った娘とそれを迎えに行った娘の二人が客を引き連れて帰ってきた。

 

全身黒づくめで多彩な凶器をその身に帯びたいっそのこと清々しいまでに怪しい男を。

 

聞けばバカ娘が勘違いから襲い掛かり手傷をあたえて謝罪のために店に招待したようだ。

 

大きなため息の後バカ娘の頭頂に拳骨を振り下ろす。うずくまり悶絶するバカ娘を捨て置き客に謝罪と挨拶をすべくカウンターの前に立つ男と相対する。

 

男は多彩な凶器を身に帯びて身軽な防具に身を包んでいる。その姿は堂に入っている。立ち姿は第一級冒険者と言われても違和感はない。

 

目に見えるだけでも重量のありそうな斧を佩いているのに背中に芯を通したように重心にぶれも見えない。

 

これが新人や卸したての武器を装備しているならば立ち姿の重心もずれてしかるべきだがそれも見られない。とんだ厄介ごとが舞い込んできたもんだ。

 

「私はこの店『豊穣の女主人』の主人ミア・グランドだ。どうもうちのバカ娘があんたに迷惑をかけたようだね。バカ娘の監督責任者として謝罪するよ。すまなかったね。」

 

「謝罪はすでに当人たちから受け取っている故必要はない。今日の寝床を用意してもらう話もしている。それに謝罪に彼女に料理を振舞ってもらうので貴女が気に病む必要はない。」

 

今、何かとんでもない言葉が聞こえた気がする。確認が必要だね。

 

「ウチのバカ娘が料理をふるまうっていうがどっちのバカ娘だい?」

 

「貴女の後ろにいる彼女だ。」

 

振り返ればそこには決死の表情をするバカ娘リューが立っている。

 

「ちょ!ちょっちょと待つニャ!!正気ニャッ!?悪いことは言わニャいから辞めとくニャー!」

 

「そうニャ!そんなトチ狂って!自分から毒用意しろとかリューの料理って竈の薪の後始末するって事と道義ニャ!!」

 

「お母さんの店が殺人事件の現場になっちゃうよー!!」

 

更に私とのやり取りをそばだてて聞いていたバカ娘三人が男に詰め寄りまくしたてる。

 

拳骨を三つ、バカ三人の頭に振り下ろす。仲良く三人は悶絶して床を転がっている。

 

「謝罪に料理とはそんな安くていいのかいウチはそれなりに実入りもいいし金銭のがアンタも便利なんじゃないかい?」

 

そう問いかける。

 

「謝罪の品にとって大事なのは品物の質もそうだろうが最も重要なのは品物にこめられた意志だろう。たとえどれほどの高価な品であろうともそこに何の思いも込められていないのではそれは本当にその物品自体の価値でしかない。」

 

そう返されれば二の句は最早告げられない。だが警告というか忠告は必要だろう。

 

「アンタこの店は始めてくるだろう?知らないみたいだから言わせてもらうけどあの娘の料理の腕は良くはないよ?とんでもない代物が出てくるかもしれないよ?」

 

「それでもいい、私は彼女が謝罪の意思を込めて作ってくれる料理を食べたい。なによりそれが誠意だろう。さっきも言ったが私は貴女が思うほど彼女から受けた仕打ちに対して怒ってはいないそんなに難しい料理や時間がかかる類のものでなくて大丈夫だ。」

 

身に帯びた雰囲気と歴戦の兵が使い込んだ得物を携えたその出で立ちからは考えられないほど甘っちょろい言葉を吐く男。

 

まぁそういうのは嫌いじゃないさ。せめて食事の共に私のお気に入りの酒でも出してやろう。

 

後ろを振り向き目を合わせればバカ娘が覚悟を決めてうなずき隣にやってきた。

 

「じゃあ簡単な物って言ってくれるならサンドイッチとスープでいいかい?酒はアタシのお気に入りを提供させてもらうよ。」

 

「構わない。それでは頼む。なにゆっくり彼女の手並みでも見つつ待つさ。」

 

バカ娘、リューは食材を並べ包丁をとりだし料理に取り掛かる。

 

なんでアンタは軽食一人前用意するのにそんな階層主に単身で戦いを挑むような決死の表情をしてるんだい?

 

頼むから何事もなく・・・・何事も起こるわけもないだろうがこの男の胃が無事で済むよう祈っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数刻後・・・・私の前にリューが皿を置いた。

 

「・・・サンドイッチです。」と、そして間を置かずカップを最初に置いた皿の横に置いた。

 

「・・・コーンスープです。」と重い重い口調で。私の記憶は朧気だ。自分の年や出自なども「こうだったか・・・?」という具合に淡く霞んだものだ。

 

だが自分が思うサンドイッチとスープを思い浮かべる。どちらも鮮明に頭に描くことができた。

 

サンドイッチ。穀物で作られたパンで肉や野菜や卵など好みの食材を挟み込んで食べる軽食。

 

コーンスープ。とうもろこしを原料にし牛乳やバターなどで味を調えた黄色の液体。

 

私が知っている知識はその二つの料理はこうだと言っている。私はカウンターに目を落とす。

 

サンドイッチと言われた皿を見る。白い皿の上にはかつては瑞々しい赤・緑を持っていただろう何かの野菜と肉と思われる何かを挟んだパンと思われる物体。

 

それが無残に黒く焼け焦げた様相を呈して乗っている。これは旧市街を表現した創作料理だろうか?

 

次にコーンスープと言われたカップをのぞき込む。黒く煮えたぎったように泡立つそれに私は漁村を想起させる。

 

彼女が出してくれたのは私も知らない聖杯素材だったのだろうか?

 

 

…我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う、知らぬ者よ、かねて血を恐れたまえ。警句を忘れてはいけない。

 

 

現実逃避は辞めよう。女主人ミアの警句を忘れていた。前を見れば羞恥だろうか?恥じ入るように顔を真っ赤に染め俯いたリューが給仕服のすそを握りしめて立っている。

 

すそを握りしめるその両手は小さな切り傷や火傷でいっぱいだ。

 

隣にいる主人のミアはあきれ返っているのかこめかみに手をやり頭を振っている。

 

先ほど私に詰め寄ってきたうちの二人。獣の耳の生えた猫人の二人アーニャとクロエは腹を抱えて爆笑している。更にミアに頭に拳骨を落とされ今度は頭を押さえて悶絶している。

 

詰め寄ってきたもう一人淡い茶髪の店員ルノア。彼女は引きつった顔をしながらも目で訴えてくる「アンタ・・・これ食べるの?」と。

 

ミアの隣で申し訳なさそうに頭を下げつつ苦笑を浮かべるシル。

 

誠意には誠意をもって答えなければならない。自分が鐘を鳴らした時も鐘に呼ばれたときも共闘するものの誠意には誠意をもって尽くしたのだから。

 

サンドイッチを手に取り口に運ぶ。堅い・・・・そして苦い・・・・炭と化したそれを咀嚼するが炭化し焼け焦げたそれは旧市街の焼け焦げた建材といわれても誰も疑わないだろう。

 

次にカップを手に取り一気に喉に流し込む。熱い・・・・灼熱の溶岩のようなスープを喉に流し込む。流し込んだ後に口中に残るのは得も言われぬ苦みだ。

 

だがなぜだろうか。その見た目も味も食材に対する冒涜としか思えなかったが食事を終えた今はどうだろう?

 

頭にかかった霧がすべて晴れたかのようにすっきりとした気分だ。

 

世界が煌めき星々の瞬きが美しい。全ての空間が色づき生きとし生けるものすべてを祝福しているかのようだ。

 

頭の中に重く何かが蠢くような音が鳴り響く。

 

瞳・・・・宇宙・・・・空・・・・・あぁゴースあるいはゴスム・・・・・・そうかやはり宇宙は空にあったのだな。

 

美しい森人の娘よ、泣いているのだろうか?

 

食事を終えて用意してくれた彼女に礼を述べ寝床の用意がつくまで少し眠ると告げ店の奥ばった席に腰を下ろし意識を落とす。

 

狩人の夢に行けるわけではないが何故か良い夢が見れそうな気がする今はそんな気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様・・・・うまかった・・・・あんなもの美味しいわけがないのに・・・」

 

 

彼『狩人』が食事を終えてひと眠りすると奥の席に引っ込んでいった。私は彼が食事を終えた後の皿を洗いながら彼の言葉を反芻している。

 

自分でも自分の料理の腕が壊滅的だということは知っているそれでも何とか謝罪のために。

 

なによりも赦しをくれた彼のためになんとか真面な物を提供したいと頑張ったのだ・・・・そう頑張ったのだ結果が伴わなかったので意味がなかったが。

 

「うまかった・・・・そんな訳があるはずがない」

 

彼はそう告げた。そんなことあるはずないのに・・・・・礼を述べる彼の姿を思い出すと顔が熱くなる。

 

「何顔真っ赤にして皿洗ってるニャ?」

 

不意打ちに尋ねてくるアーニャに驚き思わず語気があらくなってしまう。

 

「赤くなどしてません!ちょっと彼について・・・・狩人さんの事を考えていただけです。」

 

不意を突かれたせいか余計なことまで口走ってしまう。

 

「あーアイツかぁ良くリューの料理完食したニャ~。」

 

首肯しながら同様の思いを抱く自分が情けない。

 

「たぶんだけどアイツ。リューに惚れてると思うニャッ!」

 

「なっ!?そんな馬鹿なことがあるわけないでしょう!!」

 

大声で叫ぶ。どこの世界に無実の自分に襲い掛かりあまつさえ手傷を負わせてきた相手に惚れる相手がいるというのか。

 

「え~でもそうでもなきゃリューの料理を完食するなんて絶対無理だと思うニャ~。」

 

「それは・・・・・」

 

たしかに自分のあんな料理とも呼べない料理を完食するなんて!でもそれは彼が誠意ある対応をしてくれただけであって彼が私に好意を持っているなんてそんな世迷言を!

 

それこそ彼に失礼だろう!

 

「たしかにあんな毒物を完食するなんて恋人が作ったものでも普通の男なら遠慮するとこだニャ。」

 

「それに憲兵沙汰にして大騒ぎにせずに内々で許してくれたんでしょ?器もなかなか大きいし優良物件だね。」

 

勝手な事ばかり言って!それにそんなまるで品評するような物言い彼に対してあまりにも失礼だ!

口を開き彼女らを叱責しようとしたときまたもアーニャが爆弾を投下した。

 

「あ~でもひょっとして!リューの方がアイツに惚れてるんじゃニャいか!!」

 

「なっ!?そんなこと!!」

 

とっさに言い返せず口ごもってしまう形勢は三対一向こうがさらに勢いずく。

 

「マジでニャ!こりゃおもしろいニャ~。それにアイツ絶対金持ってるニャ!装備も滅茶苦茶凝ってるけどあんまり金には執着しないタイプだニャ。リュー頑張って落としてアイツの財布握っちまうニャ!」

 

「あー確かにそれっぽいわ。それにお母さんとの会話聞いてるかぎり装備も立ち振る舞いも第一級冒険者くらいの力量はありそうだけど人格はかなり真面そうね。優良物件だし本気で墜としにかかるなら協力するわよ。」

 

だから勝手な事ばかり言って!本気の怒鳴り声をあげようとする。だがその前に、

 

「客人が寝てんのにわめくんじゃないよ。このバカ娘共!」

 

ミア母さんの怒声と拳骨が私たちにもたらされる。私は痛みに蹲り下を向く。

 

足元に靴が見え見上げるとそこにはとてもとてもいい笑顔をしたシルがいた。それはもうとてもとてもイイ笑顔だった。

 

「リュー!私、リューの恋!応援するね!!」

 

ちがう!私は彼の事を!狩人さんの事を好きになったりなどしていない!

 

大声で否定するが顔に集まる熱はどうにも引いてはくれない。私は一体どうしてしまったんだ?




疾風の軽食セット

『疾風』の二つ名を持つ元冒険者、豊穣の女主人の店員リュー・リオンが作ったサンドイッチとスープの軽食セット。

しかし火を入れ過ぎたせいかだろうか。

その料理はどちらも焼きすぎて、焦げてしまい最早炭といっても過言ではない。

私はいつもやりすぎてしまう・・・・食材に贖罪してもまだ足りない。

そんな彼女の頭には女主人の拳が今日も落ちる。

美しい森人の娘よ、泣いているのだろうか?


使用すると一時的に攻撃力と毒物耐性が劇的に上昇するが、一方で守備力が下がり一定時間体力が減り続ける。

啓蒙を1得る。



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第六夜:脱兎

逃げた先に楽園などはありはしない

生きるために目の前にあるのはいつだって戦場だ

生きるため生き抜くためには強くあらねばならない

甘い夢に逃げ込んでいる暇などありはしない

たとえ狩人の帰る場所があの悪夢だとしても




ポトリ、ポトリと美しい少女の持つナイフでそぎ落とされた物体が床に重なっていく。

 

私の隣で可憐な美少女が持つ鈍い光を放つナイフが淀みなく彼女の手の中で踊りその無残な姿をさらし己の身体を削られてその残骸が床に堆積していく。

 

そして現在、彼はその無残な姿を晒している。私と彼女、リオンの間にある籠の中で。

 

「何か言いたいことがあるのではないですか?!」

 

顔を真っ赤にして声を張る彼女。そう私と彼女は現在世話になっている食事処『豊穣の女主人』の仕込みの為に芋をむいている。

 

昨日私は店の店主ミアから食糧庫の一部を借りて寝床として一宿一飯を頂いた。

 

今回の件は此方が貸した分を返してもらった形だが互いに良い関係を築きたいと思っていた私が朝の仕込みの手伝いの申し込みをしたところ彼女は快諾してくれた。

 

朝の仕込みは店員の仕事らしいので他にもやる人間がいるので先に腰を下ろし芋の皮むきをしながら待っていれば彼女がつい先ほど訪れ一緒に皮をむいていた次第だ。

 

だがどうやら彼女は不器用というより料理全般が苦手のようだ。必要以上にその身を削られた芋達は群衆にその身を貼り付けにされた獣共のように無残な姿を籠の中でさらしている。

 

無難な言葉で「誰にでも得手不得手はあるものだ。」そんな気の利かぬ言葉しか掛けられない。

 

私の知る短刀の使い手でも『鴉羽の狩人』に負けず劣らずの技量で白刃を振るえる手腕を持っているのに何故料理においてはここまで不器用なのか啓蒙を持つ私でも理解しえない。

 

やはり世界は神秘と謎に満ち溢れているのだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュー!朝の仕込みは任せるニャ~!」

 

朝の仕込み前に掃除をしていると突然そう切り出された。

 

「今日は私とあなたがやる予定だったはずではないのですか?」

 

疑問をそのまま口に出せば返ってくる答えは別の口からそれも予想だにしない事が告げられた。

 

「あー、あの狩人さんが朝の準備の手伝い申し出てくれたんだよ。そしたらミア母さんが承諾して朝の芋の皮むき頼んだみたい。もう先に作業始めてるみたい。」

 

告げるルノアの隣からクロエが更に言葉を私に投げかけてきた。

 

「ん~、アイツ顔は隠れてたけど目元とか声からしてかなりの美形の気がするニャ~。後ろから見た感じ中々いい形の引き締まったモノをもってたニャ!ただあと15、いや10若ければドストライクなんだけどニャ~、ミャーの趣味からはちょ~っと外れてるから。リュー!頑張っておt・・・・・ウゴ!?」

 

くだらない妄言と悪趣味な性癖を垂れ流す同僚(バカ)の懐に潜り込みその鳩尾に拳を叩きこむ。

 

昨日の狩人さんとのやり取りで少々カンが研ぎ澄まされていたのであろうちょっと力が入り過ぎ少し鋭く彼女の鳩尾に入ってしまったようだ。

 

しかし昨日あんな物を食べさせてしまった手前顔を合わせにくい他の誰かに代わって貰えないか思案していると後ろから両肩に誰かの手が乗った。

 

「リュー!これはチャンスだよ!」

 

後ろを振り向けば満面の笑みのシルが居た。とても輝かしい笑顔なのだが私はその笑顔から不吉な物しか感じられない。

 

「昨日のリベンジで家庭的なところをアピールするチャンスだよ!それに真面目に仕事をして健気な女の子だってところを狩人さんに見せて好感度を稼がなくっちゃ!」

 

そう言って嬉しそうに言ってくるシル。何故か彼女は私が狩人さんに恋していると勘違いしているようだ・・・いったいどうやって彼女の誤解を解けばいいのか。

 

「ニャ~・・・・まぁそれよりもリュー。とりあえず昨日の事改めて謝ったほうがいいんじゃニャいかニャ?このままだと印象最悪ニャ。」

 

聞き捨てならない言葉である。どういう事かと問いただす。

 

「だって勘違いから行き成り殺傷レベルの攻撃してきて詫びたと思いきや行き成り毒料理だされたらニャ~。ミャ~なら喧嘩売られてると思うニャ。」

 

自覚があるがいくら同僚で友人でももう少し言い方があるのではないだろうか?私の料理を一体何だと思ってるんだ!

 

「毒物ニャ。」「かまどの後始末ニャ。」「食べれば耐異常の発展アビリティが発現しそうな代物。」「アハハ・・・・」

 

言うに事欠いて!そんな魔導書みたいな料理があるわけないでしょう!シル!笑ってごまかさないで!

 

こうなったら名誉挽回です!私はやればできる子だってアストレア様もかつて言ってくれました!見ていてくださいアストレア様私は自分の堕ちた名誉を必ず取り戻して見せます!

 

そして現在私の目の前には無残な芋の残骸が散らばっている。大型のモンスターに蹴散らかされた犠牲者のように。私は心の中でかつての主神に詫びた。

 

幼い子供を見守る親のような優しい目で此方を見つめる狩人さんの視線。それは今の私にとって敵対者の放つ矢や魔法のように私の心に突き刺さり荒らしていく。

 

そんな彼は静かに呟くように私に語り掛ける。

 

「こいつの芽は毒になる。君のような優しい娘はそれを気にするあまり必要以上にやりすぎてしまう、それは見様によっては欠点だ。だけどそれ以上に優しいからそうなってしまうのだろう?誰にでも得手不得手はあるものだ・・・・ならば君は自分にできることをやればいい。支え合える仲間がいるのだしね。」

 

そんな言葉をかけられて一体どうすればいいのか?本当に昨日から思考がまとまらない。私は一体どうすればいいんでしょうかアストレア様?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は仕込みを終え昼の昼食を店でご馳走になった。朝の食事どころか昼も頂くわけにはいかないと思ったが店主から

 

「まだまだこっちの方が借りがでかいんだから受け取っときな。」そう告げられて有難く昼食もご馳走になった。

 

夜の仕込みまでは手伝いもさせられないとミアに言わたれた後。

 

私はひと眠りしフィン達との会食より少し前に彼らの予約席の傍のカウンターでミアが昨日出せなかったというお気に入りの酒を嗜みつつ彼らを待っている。

 

それにしてもこの店は本当に繁盛しているようだ客の入りは満員御礼。店内は人々の明るい声と喧騒で生き生きとしている。

 

そうこうしていると、店の中がにわかに色めき立った。

 

「うっひょー!別嬪ぞろいじゃねェか!」「馬鹿野郎!あのエンブレムが見えねぇのか!?」「道化師のエンブレム・・・!」

「ありゃロキ・ファミリアだぞ。死に急ぐバカじゃねぇなら下手なことするんじゃねぇ。」

 

どうやら待ち人来たるようだ。振り返り入り口を見れば小柄な金髪の少年がにこやかに片手を挙げながら挨拶してくる。

 

「やぁお待たせしたかな?以前言っていた通り。今日はウチの主神ロキもつれてきたんだ。改めてウチの代表から君に謝罪と礼を述べるためにね。」

 

彼がそういうと私の前に一人の人物が出てくる。店の前からずぅっと感じていた彼らとは異なる大きな存在感を持った上位者。

 

露出の多い服装の人物が声高らかに口を開いた。

 

「はーじめまして!今回はウチの子ら自分にめっちゃ迷惑かけたみたいでほーんま!堪忍な!もう今日は無礼講やさいかい好きなだけ飲み食いしたって!自分が望むんやったらそれなりに謝礼金も弾むしな!あ!せやけどいくら無礼講言うてもウチがいくら美神やからってな。この清い乙女の身体はアカンでぇ~!」

 

テンションが高い、情報量が多すぎるぞこの上位者。それにしてもこの上位者。まともに?話は通じそうだがこんな上位者は初めてだ。この上位者には年齢や性別の概念があるのだろうか?

 

情報量の多さから困惑し少しぼんやりとしながら整理のために上位者を見つめながら告げられた単語を呟いた。

 

「美人・・・?乙女・・・・?」

 

すると先ほどまで穏やかだった目の前の上位者が突然荒ぶりだした。

 

「お前!今どこみて言うたんや!!ウチかて乙女やろが!!なんや女は胸か!!胸のない女は女ちゃう言うんかワレ!!誰の胸が無いねん!!しばくぞ!!」

 

なるほど私は理解した。さてはこの上位者おそらくあの『悪夢の主』と同じ類か。わめき叫ぶ自称乙女の後頭部に彼らの副団長が拳を落とした。

 

痛みで蹲る上位者と入れ替わるようにフィンが割って入る。

 

「すまない。ちょっとウチの主神はアレだけど礼の気持ちは本物だ。とりあえず今日は楽しんでくれ狩人。改めて先日はありがとう。」

 

礼節に乗っ取り礼を述べるフィン。だが私は彼が手を胃にあて口元が引きつっているのを見逃さなかった。

 

組織の運営というのはどこも大変なのだろう。『連盟』の長だった彼も人知れずそんな苦労をしていたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そいつを初めて目にした瞬間の感想は「なんやこいつは?」それだった。

 

あらかじめ団員から情報は集め取った。善人やら甘ちゃんやら腕達者な奴やら隠し取らんのか持っとる武器やらなんやら情報は団員から集めるだけ集めたつもりやった。

 

せやけど初対面でこいつと相対したとき感じたんはこいつの底知れなさや。

 

深海のように深く昏く。まるであの空のように果てしない。そんな感想が思い浮かぶ。

 

道化の真似してかき乱してみたものの相手はホンマに全然底しれん。

 

嘘を言うてるわけでもないし誤魔化しとるわけでもない。

 

ただ一つ『わからん』。こいつにはウチの。神の権能が通じとらん。そして本能的に感じる。コイツはウチ等を『神を殺しきれる』存在やと。

 

酒を飲ませて情報引っ張ろうおもても全然酔わへんし。こっちが先につぶれてまいそうや。

 

ティオナとかガレスはまぁ友好的そうやから結構喋ってアイツも会話しとるけど普通に会話しとるだけでなんも怪しいとこも無い。

 

せやけどこの言い知れん恐怖。この男はあの『槍』のように自分を『殺す』だけの能力があるとウチは本能的に確信しとる。

 

コイツはヤバイと。

 

そうやって思考の渦に沈んどったせいやろか、うちの子のアホな言動を完全に止めるのが遅きに失してしもた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝落とし物を拾ってくれた女の人、シルさん。彼女に誘われ彼女が働いている店で食事をとっている。

 

店主、ミアさんはシルさんから此方の事を大げさに聞いていたのだろう、山ほど料理をこしらえてくれる。

 

その勢いに圧倒されながら久しぶりのまともな料理に舌が喜ぶのを感じる。頑張って一人でも稼いで今度は神様と一緒に食事に来ようと誓う。

 

食事をしていくらか時間がたったころだろうか、店員さんの一人が店中に響くように声を上げた。

 

「ご予約のお客様ご来店ニャ!」

 

金髪の小柄な男の人と赤毛の女性?を先頭に数十人の冒険者たちが『豊穣の女主人』に入ってくる。

 

先頭の二人が彼らの取っていた予約席の傍で一人の男の人話している。

 

「あの人は・・・・・・・!」

 

僕の目に映るのは黒と金。自分を助けてくれるために颯爽とまるで英雄譚の主人公の様に怪物の前に躍り出た黒い男性。

 

そして恐ろしい怪物を一瞬で切り裂き敵を屠った麗しい金の美姫。まるでおとぎ話のような二人の邂逅シーン。

 

そんな二人に助けられたのに僕は御礼さえも言えずにその場を逃げ出した。情けなくて消えてしまいたい気分だ。

 

「ロキ・ファミリアさんはうちのお得意様なんです。彼らの主神、ロキ様が大層この店の事を気に入られたみたいで。ちょっぴりお触りがひどいんですけどね」

 

笑いながらシルさんが告げる言葉に僕は内心飛び上がった。

 

頑張って稼いでここに通い詰めていればアイズ・ヴァレンシュタインにまた出会うことが出来るんじゃないかと。

 

僕は目の端に彼女と彼を入れながらこれからの展望考えながら食事を楽しんでいた。

 

あの人が声を発するまでは。

 

「よっしゃぁ!おい!アイズ、そろそろ例のあの話、みんなに披露してやろうぜ!あのバカ話をよ!」

 

「あの話……?」

 

「あれだって!帰る途中で何匹か逃げた牛野郎共!最後の一匹お前と狩人野郎が5階層で始末したろ?」

 

五階層のミノタウロスと聞き僕は自分の身体がすくむのを自覚した。

 

「そいでよ、その時いた兎みてぇな真っ白い雑魚!いかにも駆け出しの新人のひょろくせぇ餓鬼が逃げたミノタウロスに追っかけられてて!そんでアイズが細切れにしたくせぇ牛の血を浴びて、真っ赤なトマトみてェになっちまったんだよ!そこの狩人野郎も一緒にな!」

 

一部の人たちは苦笑いや困惑した表情を浮かべている。ほかにいる冒険者の人も渋い顔をした人もいるみたいだ。

 

 

「それでよ?そいつ叫びながらどっかに行っちまってよ、ウチの御姫様、助けた相手に逃げられてやんの!情けねえったらねぇぜ!雑魚が命が惜しいならダンジョンなんざ潜ってんじゃねぇよってな!」

 

肩が震える。情けない。恥ずかしい。羞恥で顔に血が集まって熱くなっていくのがわかる。

 

「あの状況では仕方がなかったと思います。」

 

反論の声が上がる。そこに在るのは憧れの金。それに続くようにして、彼を叱責する声が続く。

 

「いい加減にしろベート。そもそも17階層でミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。恥を知れ。」

 

「せやで、ええ加減にしとき、なんぼ何でも言いすぎやで酒がまずぅなるわ。もうやめときや酔いすぎやでベート。」

 

だけどあの人の言葉は止まらない。

 

「あァ?!ゴミをゴミと言って何が悪い!アイズ、お前はどう思うよ。例えばだ、俺とあのトマト野郎ならどっちを選ぶっていうんだぁ?おい!」

 

「ベート、キミ酔ってるね?」

 

喧騒は激しさを増していく、それと同じように僕の心臓は早鐘の様に鼓動する。

 

「聞いてんだよ、アイズ!お前はもしあの餓鬼に言い寄られたら受け入れるのか?そんなはずねぇ!自分より弱くて軟弱な雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんざありゃしねぇ!他ならないお前自身がそれを認めねぇ!雑魚じゃ釣り合わねぇんだ、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインにはなぁ!」

 

限界だった。自分の弱さと情けなさと悔しさ。それらがない交ぜになっていても居られたくなかった。

 

この悔しさを、みじめさをどうにかしたかった!ぐちゃぐちゃになった心のまま席を立ちあがり出口に向けて駆け出す。

 

出口の扉をくぐり外に飛び出そうとした瞬間!ぐいっ襟首を誰かにつかまれて店内に引き戻されてしまう。

 

「貴公。勘定もせずに店の外に出るのはいただけないぞ?」

 

僕の服をつかむ黒ずくめの人。それは自分を怪物から助けてくれたもう一人の人物黒い『狩人』と呼ばれる男性だった。

 

「若者がはやる気持ちを抑えられないのは理解するがいき急ぎ過ぎて思わぬ落とし穴に陥ってしまうのは見過ごせない。まずはやるべきことをしたまえ。」

 

そういい彼は僕をミアさんとシルさんの前に連れて来た。

 

そうだった。勘定も忘れてなんて失礼な真似をしてしまったんだ僕は!腰を勢いよく曲げ頭を下げる。

 

「ごめんなさい!食い逃げするつもりじゃなかったんです!申し訳ありません!」

 

「別にいいさちゃんと払うならね。二度目は許さないし次はこいつをお見舞いするよ。」

 

「大丈夫ですよベルさん!気にしてませんから。それよりもこっちこそ嫌な思いさせちゃってごめんなさい・・・・」

 

拳をかかげてあきれたように告げる店主さんと申し訳なさげに目を伏せて此方に謝るシルさん。悪いのは僕の方なのに。

 

「それと!やるんなら表でやりな!」店主さんが声を投げかける。その方向を向けば『狩人』さんがロキ・ファミリアのテーブルに近づいていくのが見えた。

 

目を店主さんに戻せば大きく深いため息をついている。

 

バシャバシャ・・・・店内に水音が響き渡る。もう一度『狩人』さんの方を見れば狼人『ベート』と呼ばれていた冒険者の人に頭から大きなジョッキに入った水をかぶせていたようだった。

 

店内を異様な空気が包み込む。

 

「てめぇ・・・・どういうつもりだ!ブチ殺されてぇのか!血まみれ狩人野郎がぁ!!」

 

あのミノタウロスよりもさらに恐ろしい威圧と怒声が店内を響かせる。

 

「貴公は酒に酔いすぎだ・・・・少々頭を冷やすがいい。」

 

「上等だ!!表に出ろブチ殺す!!」

 

二人の影が店の外に消えていった。

 

 

 

 

 

 




ギルドの支給用短剣

ギルドが新人用に支給している数打ちの短剣。

武器として見るべきところはなにもない。

新米で金もない冒険者以外は使うものなどいないだろう。

数打ちで粗悪な品であるため使い方を誤ればそれはいとも容易く折れてしまうだろう。

しかし冒険者にとって本当に大切なのは折れてしまわないくじけぬ心である。


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第七夜:血闘と傷と牙

戒められし、悪狼の王。
一傷、拘束。二傷、痛叫。三傷、打杭。飢えなる涎が唯一の希望。

川を築き、血潮と交ざり、涙を洗え。癒さぬ傷よ、忘れるな。

この怒りと憎悪、汝の惰弱と汝の烈火。世界を憎み、摂理を認め、涙を枯らせ。

傷を牙に、慟哭を猛哮に、喪いし血肉を力に、解き放たれる縛鎖、轟く天叫。

怒りの系譜よ、この身の代わりに月を喰らえ、数多を飲み干せ。その炎牙をもって平らげろ。


会った時から気に入らなかった。

 

その覇気のねぇ眼も、何を考えていやがるかわからねぇ面も、他を圧倒するようなその力も。

 

だが何よりも気に入らなかったのはその在り方だった。

 

酒に酔ってバカな事口走ったのは自覚している。だがコケににされてそのまま引き下がれるかよ!

 

その気に入らねぇ面に思い切り拳をぶち込んでやる!店の外に出て喧嘩を売ってきた雑魚に相対する。

 

「血塗れ野郎!!覚悟はできてんだろうなぁ!!ぶっ飛ばす!!」

 

苛立ち塗れの感情のまま叫ぶ。気に入らねぇ。澄ましたその面が、涼しい顔と態度が。

 

頭に血が上るのを感じる。まるで俺の事などなんら障害になりえないと。そんな態度が癪に障る。

 

「貴公の内心、計りかねるが言葉は選ぶべきだ。そして貴公もまた成長の途上だという事を知るといいだろう。」

 

野郎の言葉が耳に入った瞬間、頭の中が真っ白になる。だが次の瞬間思考を埋め尽くしたのは憤怒だ。

 

てめぇは・・・・『成長の途上』。そんな事は知っている。だがてめぇみてぇな野郎に。何も知らねぇ雑魚が見透かしてんじゃねぇ!

 

怒りのまま野郎に・・・・狩人野郎に手加減無しの全力の蹴りを見舞うために地を蹴り。

 

俺は野郎に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

石畳が割れ、ベートが狩人くんに襲い掛かる。拳撃と蹴撃の嵐、自分でも守勢回れば一撃二撃容易く貰ってしまいそうなほどの無数の乱打。

 

狩人くんはその嵐の中心にいながらその全てを紙一重で避け切っている。

 

周囲には自分も含めたファミリアの仲間に野次馬の冒険者が何人もいる。

 

だけどおそらく本気であろうベートのあの猛攻を一切の被弾をせずに避け切るなんて真似をこの中にいる者の中で出来る人物がいるだろうか?

 

自分には出来ないと思ってしまう。同じレベルである姉ティオネも、敏捷の高いアイズでも、もしかしたらレベルが上の団長でも無理かもしれない。

 

振るう拳と脚から放たれる圧がベートが本気であるという事を十二分に感じさせる。

 

それら全てを事も無げに躱し続けている狩人くん。彼は一体どれだけの力を秘めてるんだろう?

 

猛攻に対して一切の反撃もせず攻撃を回避しつづける狩人くんにベートも焦れていたのかな。

 

攻撃の手を止め盛大な舌打ちの後距離をとって怒声をあげる。

 

「てめぇ・・・ケンカ売ってきといて舐めてやがんのか!!撃ってきやがれ!獲物を抜け!雑魚の上に腰抜けなのか!鼠みてぇにちょろちょろと!

てめぇが雑魚じゃねぇってんなら!俺を発展途上だなんだと宣う強者だってんなら!俺をぶち殺してみやがれ!!」

 

激昂するベートの咆哮(こえ)が周囲を震わせ狩人くんが足を止めて静かにベートと相対する。

 

「貴公のような良い狩人が誤解と疑心の果てに埋もれ行くのを見ているのは忍びない。だがこれ以上は貴公に対する侮辱となるだろう。私も本気を出す。」

 

そういって狩人くんが取り出したのは二つの武器。右手には大きな大きな鉈。自分の得物、ウルガに負けず劣らない重厚で一目見て凶悪な威力を内包させる見た目をしている。

 

左手に持つのはまるで装飾品の様に飾り付けた武器。狩人くんがエヴェリンと呼んでいた遠距離武器だ。

 

二つの武器を手にした狩人くんは明らかに放つその圧を増した。

 

その雰囲気はとても談笑していた彼とは思えないほど悍ましく、恐ろしい。たった一人なのにまるで階層主のようだ。

 

それはベートも感じているのだろう。狩人くんの放つ圧に身構える。

 

そして石畳を踏み砕き再びベートは狩人くんに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見下しやがって。気に入らねぇ!こっちの攻撃は全部躱される。

 

攻撃の後の隙にいくらでも反撃の機会はあったはずだろうが。舐めやがって、イラつくまま俺は目の前のクソ野郎に言葉を叩きつける。

 

「てめぇ・・・ケンカ売ってきといて舐めてやがんのか!!撃ってきやがれ!獲物を抜け!雑魚の上に腰抜けなのか!鼠みてぇにちょろちょろと!

てめぇが雑魚じゃねぇってんなら!俺を発展途上だなんだと宣う強者だってんなら!俺をぶち殺してみやがれ!!」

 

言葉を受けクソ野郎が応える。

 

「貴公のような良い狩人が誤解と疑心の果てに埋もれ行くのを見ているのは忍びない。だがこれ以上は貴公に対する侮辱となるだろう。私も本気を出す。」

 

言葉と共に野郎が得物構える。右に鉈か・・・?左に牛野郎の脳天を攻撃した遠距離武器を装備した。

 

そして得物を手にした瞬間から野郎の雰囲気が変わった。階層主の様に重く。呪道具(カースウェポン)の様に禍々しく悍ましい。

 

それでいて触れれば容易く肌を貫くような、そんな鋭利の刃のような圧。

 

俺はその圧に身構え息を整え野郎に攻撃をぶち込むため本気の踏み込みのまま奴に飛び込む。

 

だがその機先を制するように野郎が右腕を大きく振るう。遠い間合いの全く射程外のその行動とは裏腹。

 

右手に持った鉈が分断されて、まるで大型のモンスターが振るう尾の様に足を刈ろうと地を這うように近づいてくる。

 

その攻撃の回避と更に距離を詰めるため低く素早く跳躍し野郎のそのスカした面に蹴りを叩きこんでやる。

 

だが跳躍し蹴りのモーションに入ったときにはもう遅かった。左手に持つ遠距離武器を構える野郎。

 

完全に読み切られた!気づいたときにはもう遅かった。

 

轟音と共に蹴りを放とうとしていた足を衝撃が貫き血花が咲く。

 

衝撃に体勢を崩し膝立ちで野郎の前に崩れる。悪寒が走る。思い起こすのはダンジョンでモンスター共を屠っていた野郎の技だ。

 

素手でモンスターの体内に腕を打ち込み内臓を引きちぎりぶち殺す。悍ましい必殺の一撃。この隙を野郎が見逃すはずがねぇ!

 

衝撃が腹に走る!野郎の貫手が深々と腹筋を貫き刺さっている。どうするか考える前に頭に衝撃が走り俺は意識を明滅させつつフッ飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よすんだ!!狩人!!!」

 

フィンの危機感が満載された声がウチの耳に届く。

 

せやった!あれは聞いとった技や!又聞きやけど『内臓攻撃』たしか相手の内臓を引きちぎり致命傷をあたえる。

 

そんな凶悪な攻撃がうちの子に放たれとる!アカン!下手したらベートが死んでまう!

 

焦りとは裏腹に狩人は貫手を容赦なく放った。せやけどそのまま聞いとった凶悪な技をベートに放つ思とったら腹に刺した貫手を抜いて蹴りを顔面に見舞った。

 

考えとったよりもマシやけどそれでも凄まじい威力を秘めた蹴りを受けベートは石畳の上をけたたましい音をあげて転がっていく。

 

そしてその勢いのまま壁に叩きつけられ意識も朦朧としていただろう顔をあげた。

 

前に立つのは武器を構えとる狩人。その狩人が静かに告げる。

 

「貴公の負けだ。」

 

静まり返る群衆の中に狩人の声が響き渡る。それに返すのは怒れるベートの声やった。

 

「なんで・・・てめぇは俺を殺さねぇ!!てめぇは強者だろうが!だったら弱ぇ奴をぶちのめせ!力のままに蹂躙しろ!踏み砕け!俺を舐めてんのか!憐れんでやがんのか!見下してんじゃねぇ!!」

 

ベート・・・・・怒った口調。せやけどそれはどこかまるで理不尽に駄々をこねる子供の泣き声の様にウチには聞こえた。

 

そんなベートに狩人はまるで大人が子供を諭すような優しい口調で返事を返す。

 

「ならば貴公も本気を出せ。」

 

と、まるでベートの傷(切り札)を知っているかのように話す。

 

「貴公こそが本気をだせ。貴公ほどの狩人がこれだけのはずがない。貴公はまだ若く未熟だ。だが自分の言葉を誤魔化して甘えるのは辞めることだ。優しさは美徳だが強者に甘えは許されぬ。優しさを乞うな。過去も傷も乗り越えるために最も必要なのは己自身の意志だ。」

 

ベートは血反吐を石畳に吐き出し立ち上がる。戦いの素人のウチの眼から見ても一目瞭然の満身創痍の状態で立ち上がる。

 

立ち上がるベートに驚くウチ。せやけどもっと驚いたんはその口から紡がれるベートの言葉やった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『戒められし、悪狼の王。』

 

痛みをこらえて立ち上がり口にするのは呪文の詠唱。

 

『一傷、拘束。二傷、痛叫。三傷、打杭。飢えなる涎が唯一の希望。』

 

自分の傷を弱さを想起させるその忌まわしき呪文。

 

『川を築き、血潮と交ざり、涙を洗え。癒さぬ傷よ、忘れるな。』

 

逃れられない過去と消えない痕。

 

『この怒りと憎悪、汝の惰弱と汝の烈火。世界を憎み、摂理を認め、涙を枯らせ。』

 

自分の弱さの象徴、逃避の証。

 

『傷を牙に、慟哭を猛哮に、喪いし血肉を力に、解き放たれる縛鎖、轟く天叫。』

 

それでも、強くあろうと、今度こそは誰も失くさぬように失わないために自分が心のうちに望んだ力。

 

『怒りの系譜よ、この身の代わりに月を喰らえ、数多を飲み干せ。その炎牙をもって

平らげろ。【ハティ】!!』

 

炎が四肢を覆い燃える。激しく激しく燃え盛る炎が夜を明るく照らし出す。自分の傷も今この炎に照らされて明らかにされている様だ。が今はそんな事はどうでもいい。

 

こいつに、この男に証明しなければならない。俺は、ベート・ローガは弱者ではないと。甘ったれた雑魚ではないと。戒めも何もかもを解き放ち全てをだしきり絶対にこの男に己を認めさせると。

 

証明してやる俺は、ベート・ローガは強者だと。魔法も武装も力もすべてを出し切りその全力を狩人に解き放つ。

 

その為に腰を落とし力を溜める。

 

回りからフィンやロキやババアの声が耳に入ってくるがそんなもん頭には入ってこねぇ。

 

相対する狩人は二つの得物をしまいまた違う武器を構えて此方を待ち受けている。月を思わせるような青白い光を放つ幅広の大剣。

 

フェイントもタイミングも何もない。石畳を踏み砕き砕きながら奴に疾走する。自分の存在、全力を込めて拳を野郎に解き放つ。

 

同時に奴もこちらの攻撃に向けて迎撃のために大剣を振るう。奴の武器が蒼い波動を放ちながら俺の拳と炎と拮抗する。

 

負けねぇ!絶対に負けたくない!こいつにだけは絶対に負けたくない!

 

鍔勢りあう拳と剣。互いに相手を蹂躙しようとする紅蓮の炎と蒼い波動。

 

拳の骨が砕け痛みが走る。蒼い波動の衝撃が全身を打ち腹に受けた刺傷、全身に刻まれた裂傷から血を吐き出させる。

 

それでもそんな痛みには負けねぇ!絶対に勝つ!野郎の剣が放つ波動と自分が受ける損傷を吸収し炎がその勢いを更に増す。

 

「---------------------------!!!!」

 

声にもならぬ咆哮と共に野郎を・・・・狩人を打ち倒すために拳を押し込み力を入れる。

 

だが、その拳を弾き飛ばしながら野郎の大剣が振り切られる。

 

蒼の爆発の奔流が俺を飲み込み衝撃に頭が揺さぶられ血を吐き出しながらぶっ飛ばされる。

 

意識が朦朧としながら頭に去来するのは【負けた】という実感。

 

そしてなぜだろう、死んだはずの・・・・族長の・・・・オヤジの笑顔が俺の頭に思い浮かんだ・・・・・。

 

もはや指一本も動かせない・・・・・吹き飛ばされ遠くに見える野郎と・・・・狩人と視線が交錯する。

 

「次は・・・・負けねぇ・・・・!」

 

声が届いたかはわからない。だけど覇気のねぇ野郎のその目がほほ笑んだように感じて俺はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よせ!ベート!!」「辞めんか!!馬鹿者!」「よさんか!!」「やめんかい!アホー!」

 

ウチ以外の幹部連中。ベートの魔法を知る面々が口々に叫ぶ。

 

ベートの傷。その魔法の特性、その神髄【損傷吸収】。それをあんな満身創痍のボッコボコの状態でつこてもうたらどないなる思てんねん!

 

詠唱を終えたベートの四肢は激しい炎に包まれる。こんだけ離れとるのに熱風が肌を焼く。それほどの火力を放ちながらそれと相対するのはあの狩人。

 

さっきまで持っとた二つの得物をいつの間にかしまい、今は大剣を両手で構えとる。

 

素人目に見ても業物やと一目でわかる蒼白い光を放つ威容を持った大剣。

 

それを後ろに引き襲い掛かろうとするベートを迎え撃つべく半身で構える狩人。

 

冗談や無いで!?どう見ても本気のベートが放つ最大級の攻撃とそれに匹敵する武器を構える狩人。そんな二つがぶつかり合うたらどんなことになる思ってんねん!

 

「辞めぇ!!ベート!!」再び挙げた静止の声も届かずベートの姿は紅蓮の炎の線を残し掻き消える。

 

耳を震わす金属同士の激しい衝撃音の先。紅の炎と蒼の波動が互いを蹂躙せんとぶつかり合う。

 

拮抗して数秒。響き渡るベートの咆哮。激しく燃え盛る紅蓮の炎を食い破り蒼い爆発と衝撃がベートを覆い喰らいつくす。

 

吹き飛ばされ、転がり意識を失くし倒れるその姿。拳や足の骨は砕け一部肌を貫きその白い身を露出させている。

 

全身には夥しい裂傷が刻まれ体中を血で染めている。まさしく満身創痍。瀕死の重傷。そんなベートに近寄る狩人。

 

まだやる気なんか!?そんな危惧をしとるその間にベートと狩人の間に誰よりも早く団長。フィンが立ちはだかる。

 

「これ以上はさすがにやらせない例えベートに非があったとしてもだ。」

 

ウチも数えるほどしか知らんフィンの覚悟を決めた本気のその目。レベル6『勇者』の本気を受けて狩人は穏やか優し気に言葉を告げる。

 

「手当をするだけだ。」と懐から小さな鐘を取り出すと横たわるベートの隣に立ちその鐘を鳴らす。

 

すると狩人の身とその鐘から光が放たれベートの傷が見る見るうちに癒えていく。

 

なんや!?この光は!?神威!?いや神威とはまた違う。けどよくわからん力。せやけどそれを行使するこの男は一体何者なんや?

 

疑問がウチの頭の中を埋め尽くす中、狩人は傷の癒えきったベートの様子を見て鐘を仕舞うとフィンに言葉を紡ぐ。

 

「良い狩人を育てるのは難しい。見守るだけでは成長せず、突き放せば終わってしまう。若者を導くのは先達者の務め。部外者の私などよりも貴公ら仲間の言葉の方が伝わるだろう。」

 

その言葉に態度には出さんがウチも狩人の目の前におるフィンも驚愕する。極短いその時間しか接しとらんはずのベートの隠したその内情をこの男は見抜いとると。

 

どんな化け物じみた洞察力しとんねん此奴!わけわからん力も持っとるしホンマは正体隠したどっかの神ちゃうんか!?

 

「君は優しいね。肝に銘じておくよ。大事な家族のことだからね。」

 

先ほどとはうって変わって穏やかな表情で返すフィン。それに返す狩人。

 

「私も昔は幾度となく死に打ちのめされ、貫かれ、焼かれ、撃たれ、切り裂かれ、落とされ、喰らわれた。だがそんな時に先達者たちの助力に助けられた。私もそう在りたいと思っただけさ。」

 

先ほどまであれだけ激しい戦闘をした人間と同じ人物だとは思えぬほど穏やかな口調で答える狩人。

 

「もう一つ野暮用を片付ける今日は騒がしくしてすまなかった。」

 

そう言って去っていく狩人。

 

ふと目を落とし意識を失くし横たわるベートに目をやる・・・・・ウチも顔に笑顔を浮かべる。

 

「見てみフィン。」

 

振り返ってベートの顔を覗き込み苦笑を浮かべるフィン。

 

「あんだけ大暴れして暴れまわっとったのに見てみぃこの寝顔!」

 

「これは・・・・」口元を抑えて笑いをこらえるフィン。

 

「あんだけ大暴れしてどんだけ迷惑かけてんのよコイツ!」「全くだ。」怒りながらも顔に笑顔を浮かべるのはティオネとリヴェリアや。

 

「ベートばっかりずるい!ずるい!」と不満を口にしながらも楽し気なティオナ。

 

「今度は私も狩人さんと戦いたい」と決意を表すアイズ。

 

ガハハと腹を抱えて大笑いするのはガレス。

 

横たわるベートは血や泥でその身を汚して凄まじい戦闘があったことを感じさせる姿をしている。

 

だけどその寝顔は、遊んで遊んで遊び疲れて泥だらけでそのまま寝てしまった。そんなまるで幼子のようなすっきりとした安らかな顔だった。

 

「まぁでも皆に迷惑と心配かけたお仕置きはせんとあかんなぁ。」

 

ウチも含めて周りの家族も笑みが浮かぶ。

 

「皆!ベートに悪戯や!何してもかまへんウチが許すで!」

 

笑い声が挙がり空気が綻ぶ。

 

やっぱりウチの家族は最高やな!

 

よっしゃ!やっぱりここは寝てるもんへの悪戯の定番と王道をウチがみせたるか!




額に【肉】

古来から伝わる寝顔に対する最もポピュラーな悪戯書き。

古典的とされるがやはり王道中の王道といえる。

その他にも【笑】【バカ】【アホ】など様々なバリエーションが存在する。

なお人を呪わば穴二つ。

寝顔に対する落書きをする者は自分自身もいずれその復讐に身を焼かれるのを覚悟しておかねばならない。

酒につぶれる道化の神の額に書かれたのは【壁】という文字だったのを知るのは誰だったであろうか。



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第八夜:助言

幼いころにあこがれた物語の英雄たち

英雄譚に焦がれて焦がれて少年は歩みを進める

その様を見て炎に向かう蛾と嘲るか

それとも・・・・・


「すごい・・・・」

 

目の前で起こった戦い。

 

初めて見る。冒険者と冒険者の本気の戦い。

 

まるで物語で見たあの情景の様に。何度も自分が夢想したそんな夢の様な光景が。

 

でも現実は甘くなかった。僕の前で起きた戦いは、物語では感じられない闘争の恐ろしさを僕に感じさせた。

 

自分が直接向けられたわけでもないのに感じる。殺気、圧迫感、恐怖。

 

猛攻の数々と振るわれる武器。そして流血。自分が傷ついたわけでもないのに思わずみ身がすくんでしまう。

 

情けない。今倒れている人、ロキファミリアのベートさん彼が言った通りだ。

 

こんな情けない僕が【剣姫】の。【アイズ・ヴァレンシュタイン】の。彼女の隣に立てるわけがない!

 

だから僕はもう負けないために、強くなるために、彼女の隣に立つに相応しい強い自分になるためにダンジョン。

 

決意を新たに今からダンジョンに向かおうとする僕に後ろから声がかかる。

 

「逸る気持ちを抑えられないのは若者の気持ちも分からないでもないが、そう急くな少年。」

 

低く少しだけ籠った男性の声だった。振り返るとそこには自分を助けてくれたあの黒い影。さっきまで激闘を演じていた狩人さんがそこに居た。

 

「貴公・・・・行く気なのだろう。」

 

それは疑問ではなくて確認の声だった。

 

僕は肯く。もう歩みを止めたくない。こんな情けない僕ではいられない。強く、強くなりたい。

 

だからダンジョンに行く。こんな弱くて情けなくて小さい自分と決別するために。

 

今度は逃げずに目を逸らさずに。狩人さんと向かい合うこと数秒。不意に狩人さんが微笑んだ気がした。

 

「ならば貴公の探索に同道しよう、助言はするが共闘はしない。まずは貴公が己のみでやるだけやってみたまえ。」

 

僕は驚く。だってそんなことをしても彼には何のメリットもないし僕には報酬も払えない。

 

「ありがとうございます。でも僕は貴方に払う報酬なんてありません。それどころか僕は貴方に御礼さえ・・・・」

 

口に出して気付く。そうだ、僕はこの人に命を助けられたんだ。

 

そのお礼も満足に言えてない。命の恩人に御礼さえもまともに言えないような僕が強くなれるんだろうか。

 

そんなことを考えて俯いていると頭の上に誰かの手が置かれる。

 

「後悔できるという事は命あっての物種。なればそれを糧にして次に生かせばいい。何もなせず次がないことなどよりもよほどそれはいい。」

 

慰めの言葉だった。でも彼が続ける言葉はそれだけではなかった。

 

「危機的状況から即座に離脱できるというならばそれも一種の才能だ少年よ。生き残るための最適解は経験によってその道を増やしていく。

危機的状況で新人の君ができる最適解は闘争ではなく逃走だ。次の戦いに備えるために逃げることは逃避ではなく戦略だ。」

 

「それに誰も最初から強者などどこにもいない。私も、私の先人の狩人達も、彼も彼女も誰も彼も皆。全て歩み始める場所は同じだった。君と同じ場所から始めた。

そして私は先達者たちから無償の助言をかつてもらった。だからそれを今度は別の歩み始めた者に返す。

もし君がそれを恩に感じるのならば次は君が別の【誰か】に返してやってくれ。世界とは悲劇だけではないのだから。」

 

そんな言葉をそんな助言を。だから僕は今度は目を逸らさず彼に応える。

 

「ダンジョンではありがとうございました。僕はまだ弱くて、情けなくてあなたに返せるものは言葉以外何も持っていません。」

 

情けない言葉だ。でもそんなざまでも今はいいと彼はいいと言ってくれた。でも!そんなままでは僕はいられない!

 

「だから僕は強くなりたい!助言をいただけるのでしたらお願いします!必ずお礼はいつかお返します!」

 

厚かましい言葉だと思う。そんな僕に彼は優し気に告げる。

 

「それでいい、それに礼などいらぬよ。ではダンジョンに向かおう。」

 

そうだ!強くなる!僕はあの人たちと同じ場所に行くんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼人のベート・ローガ。彼との戦闘のきっかけになった少年『ベル・クラネル』。

 

狼人の彼の『発破』に見事にその身を奮起させてダンジョンに向かおうとする少年。

 

狼人の彼の言葉が周囲に対する発破、もしくは危険への回避であろうことは彼の人格からある程度察していた。

 

酔っていたのか言葉の取捨選択が限りなくアウトな物だったため思わず水をかぶせてしまった。オマケに彼を怒らせてしまい戦闘にまで発展する。

 

しかしそんな状況でも手加減を忘れない彼は真に助言者と言えるのではなかろうか。見習いたいものである。

 

そんな彼の発破に思惑通りに反応しダンジョンに向かおうとする少年。ふむ生き急ぐと思わぬところでつまずいてしまうぞ少年。

 

ここは私も彼や『鴉羽』の彼女のように新人の彼に助言をしようと。

 

声をかけて振り向く少年の眼。今はまだまだ弱い彼のその眼。でもその瞳には『確かな意志』が宿っていた。

 

思わずポーズを決めて返したくなるほどの未来に向かう強い意志。私はその決意に応えるため少年と共にダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

少年がゴブリン、コボルトと呼ぶ二足歩行の獣共。自分にとって左程脅威とはならないが小柄な少年はそれらを全力を使って狩っている。

 

「少年、生物に対する攻撃の際、渾身を尽くす必要はない。確かに少年は非力かもしれんが生き物であるならば急所を穿てば十分致命傷だ。

それほどの全力では君の持久がもたない。」

 

一言、二言と助言を言えば、元気よく素直に返事を返してくる少年。素直で純心そうで少々心配になってしまうほどだ。

 

苦戦も特に無く助言のおかげか持久力の温存もできたのだろう。息もさほど上がっていない少年。

 

「では更に行くか。」と告げれば「はい!よろしくお願いします!」気持ちいい威勢がよくて大変結構な返事だ。

 

下に降りれば獣共の群れも変わるダンジョン・リザード、フロッグ・シューターと呼んだ四つ足の獣共。

 

特に蜥蜴の様な爬虫類の獣は壁、天井を地面と変わらず縦横無尽に駆け回るその動き。そして舌による遠距離からの攻撃を繰り出してくる単眼の蛙の様な獣。

 

遠距離と近距離の攻撃の凶悪な組み合わせは私もかつて苦戦を強いられたことがある。

 

『ヘムウィックの墓地街』銃を使用する獣と犬どもに阻まれた。その際は木立や墓石を遮蔽物にして弾避けにして走り寄ってくる犬どもをなで斬りにしたあと銃を持った獣に近づき止めを刺した。

 

しかしこの迷宮にはそんなものはない。だが幸いにして蛙の獣の舌には個体差によるだろうが明確な射程距離が存在する。

 

ならばその射程外に離脱して追いつこうと寄ってくる蜥蜴共を各個に葬ればいい。

 

「少年、囲まれぬように一ヶ所にとどまるな。一対多の戦闘で多数を相手取る手段が無いなら離脱して一対一の状況を複数回こなせばいい。

臆するな少年。その脆弱な獣共は君の力で十分に相手できる。」

 

声に応じて力強くうなずく少年は獣共に背を向け走り出す。それを追いかける愚かな獣共。

 

振り返り身構える少年はとびかかる蜥蜴の攻撃を躱しナイフを突き刺し、あるいは切り裂き屠っていく。

 

炎に向かう蛾のように獣共が少年に屠られてゆく。

 

炎と呼ぶにはまだまだか弱く小さな少年の火種。過去を失くした自分の胸にもなんとなく熱くさせるようそんな彼の様。

 

少年は蜥蜴共全滅させた後、更に蛙共に攻撃を仕掛けてゆく。舌による攻撃を見切り転がるように避けたりして獣共との距離をつぶし短剣を突き刺し屠っていく。

 

助言の一つ二つで著しい成長具合だ。本人の才能もあるが他人の言葉を素直に受け入れることができる精神性。

 

今はまだ未熟で一つ間違えば大きな過ちになりかねないそれ。だが言い換えればそれは器が大きいという事だ。

 

成長の楽しみな少年の背中を見ながらまた一つ下の階層に降りてゆく。

 

そしてたどり着いた6階層目。降りてしばらくすると私たちの前に私以上に全身黒ずくめのまさしく影の様なモノ達が現れた。

 

「ウォーシャドウ・・・・新米殺しです。」

 

『新米殺し』名前から察せられる。いわばあの獣は新米の狩人の登竜門。一種のふるいの様な強力なモンスターなのだろう。

 

少年はここまでほとんど休息も取らずに連戦をしてきている。私は彼に問うた。引くか行くかと。

 

少年は応える。行くと。無謀ともいわれるかもしれない青臭い若者の挑戦。少年が武器を手に影と対峙する。

 

あぁ・・・・勇ましいな少年。その在り様がどこか懐かしく羨ましくもあった。

 

そんな少年の戦うその背を私は見守ることにする。

 

 

 

 

 

 

僕は狩人さんと一緒にダンジョンに入った。

 

ダンジョンでは狩人さんは一緒に戦うわけじゃないけどいろいろとアドバイスをくれる親切な人だった。

 

エイナさんとは全然違うけれどそのアドバイスは的確で何にも考えずに戦ってた時よりもずっと戦いやすかった。

 

あの時物語の英雄みたいだと錯覚した狩人さんの前でかっこ悪いところを見せたくないっていう意地もあった。

 

それを差し引いてもアドバイス通りに動けば前よりも余力を残してモンスターを倒すことができた。

 

上手くできれば狩人さんは表情はあんまり変わらないけど明るく優し気な雰囲気で応えてくれる。

 

そうして僕は6階層にまで降りて来た。そして僕らの前に影が現れる。

 

全身が真っ黒で僕と同じくらいの大きさの人型。十字の形異形の頭に手鏡みたいな丸いパーツがはまっている。

 

「ウォーシャドウ・・・・新米殺しです。」

 

呟くそのモンスターの名前に思い出す。『新米殺し』。ギルドでも新人が最も躓き警戒しないといけないと注意を受けた上層の強力なモンスター。

 

現れた影とはまた別にダンジョンの壁から別の影が現れてくる。格上のモンスターそれも一体二の形勢不利。

 

隣にいる狩人さんが問いかけてきた。

 

「少年引くか?それとも行くか?」

 

答えは決まっていた。「行きます!」こんな所では止まっていられないんだ!

 

前に進みモンスターと対峙する。一匹のウォーシャドウが腕を伸ばして爪を振るう。

 

紙一重でそれを避けるがもう一方の敵が僕を挟むように後ろから爪を伸ばしてくる。

 

身をかがめ攻撃を躱したところに最初のウォーシャドウが新たに攻撃を仕掛けてきたためナイフで攻撃を防御したため足が止まり敵の挟撃を許してしまった。

 

大きく跳躍して飛びのき攻撃を回避する。代わりに攻撃を受けたダンジョンの床が割れ敵の攻撃力の高さを実感させられる。

 

『戦えている?』そんな疑問が僕の中に湧いてくる。

 

このモンスターは格上のモンスターのはずだ。だけど攻撃は見えている。

 

ダンジョンに潜り始めて立った半月足らずの駆け出しの僕がこんな強敵と渡り合えるなんて。

 

狩人さんのアドバイスもあるんだろうけど僕が急激に強くなっているんのか・・・・こんなに急に?

 

この間の更新で急激に膨れ上がった能力の異常な数値のおかげなのか?

 

でも格上二体との戦いはそんなに甘くなかった。鋭く伸びてくる敵の拳を利き腕の方に受け体勢を崩してナイフを取りこぼし倒れてしまう。

 

止めを刺そうと敵が倒れる僕へ攻撃が迫る。

 

頭に浮かぶ四つの姿。

 

吠える狼の勇ましい立ち姿。黒い風を思わせ自分の前に立つ大きくて黒い背中。そして憧れた金の剣士と大切な家族の顔。

 

終われない!こんなところで僕はつまずいてる場合じゃないんだ!

 

痛みを無視して立ち上がり攻撃を避ける。敵の攻撃後の隙に全力で顔面に拳を振りぬく。

 

あの狼人、ベートさんなんかの足元に今の僕では及ばないだろうけど僕の全力を込めた拳はウォーシャドウの顔面を貫いた。

 

振り返り取りこぼした武器を拾いもう一対のウォーシャドウの懐に潜り込んで思い切り胸を切り裂いた。

 

魔石を切断されたウォーシャドウは灰となりその姿を消していく。

 

「ハァ・・・・ハァ・・・ハッ!」

 

格上との対決で思った以上に消耗していたみたいだ全身に疲労感がひろがって息が上がる。

 

脇腹が痛み喉が渇く。でもダンジョンはそんな僕の状況を鑑みてくれるような優しい存在ではない。

 

_ビキリ_

 

周囲から罅割れるような不快な異音が複数鳴り響く。

 

モンスターが一斉に生まれる・・・・囲まれる!?

 

それでも・・・・・やってやる!

 

たどり着きたい高みがある。こんな場所で躓いているわけにはいかない・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は諦めなかった。自分よりも格上の獣を二体相手にしてそれを見事たおし切った。

 

更には新たに壁から生まれてきた数体の獣共。そいつらに囲まれながらも彼はその全てを倒し切った。

 

攻撃を受けて傷を作ってもあきらめず私の助言を生かして囲まれないように立ち回り。

 

一体、一体づつ敵の数を減らしていった。屠った影の残した刃を拾い。

 

即興でナイフとの二刀流で手数を増やすと同時に武器の消耗を抑えるなど気転も効いているようだ。

 

疲労で回避ではなく防御が多くなってきた少年。

 

片方で敵の攻撃を受け敵が足を止めたその隙をもう片方の武器で攻撃する。

 

疲労しているからこそ楽な方法を、今ある最適解を知らず知らずのうちに選択しているのだろう。

 

そして数刻・・・・最後の一体であるモンスターに止めを刺した少年は疲労からであろう。

 

その場に座り込んだ。

 

近づく私に気づく少年が顔をあげ呟く。

 

「狩人さん・・・・・僕強くなりたいです。」

 

怪我で彼の身体は全身ズタボロ。身に纏う服も引き裂かれ肌が露出してしまっている部分もある。

 

転げまわって回避したせいで場所をとわず砂で薄汚れている。

 

そんな彼のそのボロボロの薄汚れたその姿の中で彼の瞳。

 

その瞳が強い意志を宿して光り輝くように燃えていた。

 

「なれるさ。では今日はここまでにして帰ろう『クラネル』。」

 

根拠など何もないような無責任な言葉だ。それでもきっとこの『少年』、いやこの『男』はきっと強くなる。

 

肩を貸し少年を立ち上がらせて家路につこうとする。

 

「ベル。ベルでいいです狩人さん。僕絶対に強くなってみせます。」

 

疲労からその声にはダンジョンに潜る前ほどの元気はなかったが確固たる決意が伝わる言葉に応える。

 

「そうか・・・じゃあ『ベル』君の家に帰ろう。」

 

「ハイ!!」

 

今度は元気よく笑顔で答えるベル。

 

この少年に、この男の成長に期待するのは絶対に間違ってはいない。そんな風に思わせるような会心の笑みだった。

 

 

 

 




ウォーシャドウの指刃

ウォーシャドウのドロップアイテム。

様々な武器の素材としても有効な素材ではあるがこのアイテム単体でも

武器として扱えるほど鋭い。

多くの冒険者の血を吸ってきたその刃を今度は冒険者が武器として振るう。

狩って狩られて冒険者と怪物の無限ともいえる闘争は一体いつ終わるのだろうか・・・・


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