真剣でちゃんこに恋しなさい! (ニッケン)
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1話
読んで頂ければ幸いです。
場所は神川学園一年C組。
登校してきた黛 由紀恵は教室の扉を開けて、皆に挨拶する。
「お、おおは、おは、おはようございます!」
緊張で表情が引きつって怖い顔になりながらも挨拶が言えた由紀恵に、
「やったぜ!まゆっち。今日は元気に挨拶出来だぜっ!!」
常に一緒にいる親友、松風(馬形のストラップ)が賞賛の声を上げる。
「おはよう!まゆっち」
1-Cの他の生徒は関わろうとしない由紀恵と松風の腹話術会話を、気にせず挨拶を返してくれたのは大和田伊予。
「伊予ちゃん、おはようございます!」
「松風もおはよう」
「Good morning!」
「あははっ!今日も面白いね」
伊代は同じ一年で初めての由紀恵の友達だ。
「昨日のベイスターズ対タイガース戦見た?」
因みに野球観戦が趣味で、七浜ベイスターズのファンだ。
席について伊予と野球の話をしていると、隣の席の生徒が登校してきた。
「あ、おはよう井ノ中くん」
「お、おおはようごございます」
「おはようだべ」
訛りのある言葉で挨拶を返してくれた井ノ中と呼ばれた男子生徒は席に着くなり、バイト雑誌を開いて熱心に読んでいた。
「あれ、井ノ中くん、バイト探してるの?」
「……ちょっと事情があって、急遽お金が必要になっただよ」
井ノ中は普段は温和でのんびりした雰囲気の生徒なのだが、今日は少し暗く切羽詰まった雰囲気が感じ取れる。
「まゆっち、チャンスだぜ!」
「こら!松風、チャンスなんて不謹慎ですよ」
「……黛さんどうしただ?」
席が隣なだけあって井ノ中は、由紀恵の馬形ストラップと会話するという奇妙な行動に慣れてきていた。
「え、えとその、……私と同じ寮の先輩にバイトに詳しく人や代行業をしている人がいますので、希望に合う仕事を紹介してもらえるかもと……」
「本当だべか?……聞いて貰えると助かるだよ」
「あ、はい。喜んで!」
頼られて嬉しい由紀恵。
「どんなお仕事をお探しですか?」
「給料日払いで力仕事系だと嬉しいだよ、あ!でもオラ狭い場所だと働けないから…」
「あははっ、井ノ中君大きいもんね」
井ノ中は身長190㎝程あり体重は130㎏超えの逞しい体格をしている。
「分かりました。今から聞いてきます!」
「ちょっと待って!もうすぐ授業始まるよまゆっち」
「今じゃなくて良いだよ!」
今すぐ聞きに行こうと教室を出ようとする由紀恵を、慌てて止める伊予と井ノ中。
「そ、そうですか……」
恥ずかしそうに席に戻る由紀恵。
実は由紀恵は前々から井ノ中という生徒を狙っていた。
狙っていたと言っても恋愛的意味ではない、友達になってくれそうな相手としてだ。
井ノ中は体格が大きいのに温和でのんびりした雰囲気でクラスメイトに怖がられるような事はなく(由紀恵と違って)、ニコニコと優しい笑顔でクラスメイトから気軽に声を掛けられることが多い(由紀恵と違って)
他にも幾つが理由があって、由紀恵は井ノ中と友達になりたいと思っていたのだ。
なので仕事を見つけてあげて友達になるチャンスだと思ったのである。
「もう一つの雑誌は料理屋のバイト雑誌?」
井ノ中の机にはもう一つの雑誌が置かれており、その表紙には大きく鍋料理が載っていた。
「これは普通にグルメ雑誌だべ、ちゃんこ鍋屋の特集だからついで買っただよ。バイトも募集してるかもと思ったのは確かだベが…」
「ちゃんこ鍋ですか……そういえば、井ノ中君の下の名前って…」
ちゃんこ鍋と聞いて、あることに気づく由紀恵。
「オラの名前は ヨコヅナ だべ」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
こちらも読んで頂ければ幸いです。
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2話
「お前が井ノ中ヨコヅナか」
「今日は宜しくお願いしますだ、源先輩」
島津寮に住んでおり由紀恵から相談を受けた先輩の一人、源忠勝。
養父が代行業を営んでおり、忠勝も仕事を手伝っている。
「急な頼みを聞いてもらって有難うございますだ」
由紀恵に相談した日の週末に仕事を貰えたヨコヅナ。
「こっちも丁度人が必要だったからだよ、礼を言われることじゃねえ」
無愛想な返事をする忠勝だが、通訳するなら「仕事で丁度人手が欲しかったところで、こっちが助かったぐらいだから礼は必要ないよ」と言う意味である。
「聞いてた通り良い体格しているな。見かけ倒しとかは止めてくれよ」
「精一杯頑張りますだ!」
「頑張るのはいいが、張り切り過ぎて怪我するなよ」
「分かりましただ」
現場に向かいながら、仕事の説明をする忠勝。
「倉庫の荷物を運ぶだけの単純作業だが、荷物は重く数も多い。リフトが壊れたらしくて使えない、絶対今日中に終わらせたいから、人手が必要になったそうだ」
「壊れやすい荷物とかはあるだか?」
「いや、そこまで注意が必要な荷物はないらしい」
そんなやり取りをしている内に現場に着く。
「給料は日給、予定以上に時間がかかっても残業代はでねぇからな」
「分かってますだ」
「それじゃ、さっそく始めるとするか」
「了解ですだ」
_______________________
「よいしょっと!」
荷物を指定の場所に置くヨコヅナ。
「ここの分はこれで終わりましただ。次はどれを運べばいいですだ?」
「………いや、もう全部終わりだ」
「終わりだべか?」
ヨコヅナが不思議そうにしているのは、一日仕事と聞いていたのにまだ、午後2時過ぎだからだ。
「ああ、もう運ぶものはない。依頼主と話をしてくるから、休んでいてくれ」
「分かりましただ」
今回の仕事の依頼人に業務完了の手続きをしてきた忠勝は、
「これ今日の給料な」
ヨコヅナに給料の入った封筒を渡す。
「ありがとうございますだ……」
渡された封筒の中身を確認するヨコヅナ。
「あれ、多くないだか?」
「井ノ中のおかげで早く終わったからな、色をつけておいた、依頼人も喜んでくれてたよ」
「悪いですだよこんなに…」
「勘違いするな、お前の為じゃねぇ」
多めに給料を渡しているのに、お前の為ではないと言う忠勝。
「ウチの代行業にこういった力仕事の依頼は多いからな。今後も井ノ中に頼みたいから繋ぎ代だよ」
「バイトをクビになったから、仕事を貰えるのはオラとしても助かりますだ」
「バイトをクビに……何かあったのか?」
「え、あ~、ちょっと色々、ありましただ」
「…そうか。じゃ帰るとするか」
ヨコヅナが言いたくないのをくみ取って、話を終わらしてくれる忠勝。
その後、忠勝と連絡先を交換してヨコヅナの代行業の仕事は終わりとなった。
_______________________
「ゲンさんお帰り、早かったね」
「源先輩、お、お帰りなさいです」
忠勝が島津寮に帰り、リビングへ行くと直江大和と黛由紀恵がいた。
「ああ、仕事が早く終わってな」
「あ、あの、どうでしたか?、その、今日のお仕事で……」
「仕事が早く終わったのは、黛が紹介してくれた井ノ中のおかげだ。これからも仕事を頼むことにしたよ、良い人材を紹介してくれてありがとな」
「いえいえいえいえっ、私の方こそ無理な相談を聞いて頂きありがとうございます」
「源兄貴の礼とか激レアだぜヤッホイ!」
珍しく素直なお礼を言う忠勝にテンションがあがる松風(由紀恵)。
「井ノ中って、まゆっちがこの前夕食の時に言ってたバイト探してる同級生だったっけ?」
「はい、そうです」
「ゲンさんが勧誘するなんて、よっぽど仕事出来る奴なんだ」
「力仕事はな……だが、その力が半端じゃなかった……」
「へぇ~、凄いマッチョ?」
「いや、あの体型はマッチョとは呼ばないな」
「井ノ中君は、名が体を表してますね」
「ふっ、まさにだな」
「何て名前なんだ?」
「YO!KO!ZU!NA!」
「井の中君の下の名前はヨコヅナです」
「あぁ」
ヨコヅナという名前を聞いて、どんな体型なのか想像するのは容易い。
「確かに力も強そうだ、ゲンさんがそこまで言うならガクトぐらいの力持ち?」
「いや、俺が見るにガクトより上だ。それどころか…」
忠勝は真剣な顔で、
「井ノ中ヨコヅナの力は、川神百代に匹敵するかもな…」
武神とまで呼ばれる相手を引き合いに出した。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
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3話
「ありがとうだべ、黛さん。おかげで継続的に仕事を貰えることになっただ」
月曜日、1-Cの教室で改めて、仕事の仲介をしてくた由紀恵にお礼をいうヨコヅナ。
「いえいえ、私は寮の夕食の時に井ノ中君の話をしただけですから……、井ノ中君は凄いと源先輩が褒めていましたよ」
「……あの人、一見怖そうに見えるけど、良い人だべな」
「はい!源先輩はとても良い人です」
「ツンデレだけどな、源兄貴は」
「エレガンテ・クワットロの源先輩ってツンデレなんだ!?」
話を聞いてた大和田伊予が有名な先輩の意外な事実に驚く。
「あの、そ、それでですね…」
「何だべ?」
いよいよ、目的を遂行しようと由紀恵。
「仕事を紹介した、代わり、という訳では、な、ないのですが…わわわ、私と、ととと」
緊張でいつも通り顔が引きつって怖い顔になる由紀恵。
「な、何だべ?」
その表情に引き気味になるヨコヅナ。
「頑張って!まゆっち」
「いけぇまゆっち」
伊予と松風も応援する。
「わ、私と友達になってください!」
決死の思いで言葉をいえた由紀恵、それを聞いてヨコヅナは、
「え?あぁ、……はははっ、いいだよもちろん」
拍子抜けした感じではあるが、そう言って笑顔を浮かべる。
「本当ですか!?」
「本当だべ。オラの事はヨコヅナって呼んでくれたら良いだ」
「あ、ありがとうございますヨコヅナ君。では私の事もまゆっちと呼んでください」
「分かっただ、宜しくだべ、まゆっち」
「宜しくお願い致します。……やりましたよ松風!」
「やったぜ!まゆっち」
新しく友達が出来た事に喜んではしゃぐ由紀恵、それを見ながらヨコヅナは伊代に話しかける。
「怖い顔するから、仲介料よこせとか言うかと思っただよ」
「あははっ、まゆっちは刀持ってたり緊張で怖い顔になったりするけど良い子だよ」
「そうみたいだべな」
「あ!忘れてました」
急に一人祝いを止めて、松風をヨコヅナへと見せる由紀恵。
「この子は松風と言いまして、その、昔からの私の友達なんです!」
折角友達になれたのに、馬のストラップが友達とか言ったら嫌われるかもと恐る恐るの由紀恵。
でも由紀恵にとって、松風を認めてもらえるかどうかは、とても大事なことだった。
「……そうだべか、宜しくだべ松風」
「ウェーイ!よろしくヨコッち!」
「はははっ、その呼ばれ方は初めてだべな」
「良かったです、松風も認めてもらえました!!」
「祝いの胴上げだ~!」
と松風をポーイ、ポーイと上に投げて一人胴上げをする由紀恵。
「……変わった女の子ではあるだな」
「あはは、そうだね。あ、私の事も伊予ちゃんで良いよ、ヨコヅナ君」
「分かっただ伊予ちゃん、宜しくだべ」
「うん、よろしく~」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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4話
川神学園と天神館との東西交流戦
第一夜、一年生の部
「あ、あの私はどうすれば?」
川神学園一年大将の武蔵小杉に指示を仰ぐ由紀恵、
「じゃ、敵陣に乗り込んで大将倒してきて」
「分かりました、頑張って首級をあげてきます!」
「オラはどうしたらいいだ?」
由紀恵に続いてヨコヅナも武蔵小杉の指示を仰ぐ。
「……誰だか知らないけど、体大きいから本陣の守備しといて」
「分かっただ」
因みに伊予は戦えない為、人数制限の200人から外されている。
「まゆっち、気をつけてだべ」
「ヨコヅナ君も怪我しないよう頑張ってください」
「松風も頑張るだよ」
「オラが戦場を駆け抜けるぜ!」
ヨコヅナも由紀恵もそう言って指示の目的の為に分かれる。
幾ばくもしない内に、天神館の生徒が本陣に迫ってきた。
「敵本陣一番乗り!大将首はこの近藤勇二が頂くぜ」
「アホぬかせ!大将首とるんはこの坂田銅刻やぁ!」
天神館の先方隊の更に先頭の二人が川神学園の本陣目前の通路へ差し掛かると、
その前に一人、大柄な川神学園の生徒が立ち塞がる。
「どけやゴラァ!」
「シバき回すぞ!」
勢いをそのままに襲いかかる二人だが、
「「ぐへぁっ!!」」
相手の両手突きであっさりと吹っ飛ばされる
それを見て、
「本陣の護衛かっ?」
後に続く天神館の先方隊10人が足を止める。
立ち塞がったのは川神学園生徒は、股を広げて腰下ろし、そして片足を高々と、足の裏が天に向くほど高々と上げ、強く地面を踏む。
大地が揺れたかと思う程の轟音。
「ここは通さないだよ」
本陣守備を指示されたヨコヅナである。
「一人で俺らを相手するつもりか?」
「なめやがって、俺がブッ飛ばしてやるぜ」
そう言って前に出てきたのはヨコヅナと同じくらいの背丈でがたいもある生徒。
「天神館ラグビー部の殺人タックルを喰らいやがれ!」
相手の体当たりを正面からブチかましで向かえうつヨコヅナ。
「ぶへぇぁ!!」
あっさりはじき返された殺人タックル。
「相撲か、ノロマなデブなんて俺の敵やない」
ラグビー部を隠れみのに隙をついてヨコヅナの側面に回りこんでいた小柄な男がヨコヅナに襲いかかる。
「俺は天神館の赤い流せぐえぁっ!」
カウンターで張り手を相手の顔面に叩き込むヨコヅナ。
「天神館の生徒は話ながらでないと攻撃出来ないだか?」
隙をついたのにわざわざ知らせてくれる相手に、そんな疑問が口から出た。
「こいつ、デキるぞ!?」
「さすが本陣の護衛ってとこか」
「全員でかかるぞぉ!」
おおぉぉ!!
天神館の先方隊の残り八人が一斉にヨコヅナに襲い掛かる。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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5話
一年の戦いはモニターを通して他の学年も見ていた。
2-Fの源忠勝はモニターで、
「あれは井ノ中ヨコヅナ…」
ヨコヅナの戦いを見ていた。
「井ノ中ヨコヅナって…、この間まゆっちがゲンさんのおかげで友達になれたって言ってた同級生か?」
そう声を掛けたのは、同じ寮で同じ2-Fの風間翔一。
「別に俺のおかげじゃねぇがな、…だが、やはり井ノ中はそうとう強いみたいだな…」
仕事で怪力を見ているだけにヨコヅナの戦いぶりに納得する忠勝。
「ヨコヅナって名前だけに、戦い方も相撲なんだな。ははははっ!」
翔一がいることで他の風間ファミリーと呼ばれるグループも集まってくる。
「あっ!朝のお相撲さんだ」
モニターに映るヨコヅナを見て、そう言ったのは川神一子、通称ワン子。
「知ってるの?ワン子」
尋ねたのは椎名京。
「朝ジョギングの時に、すれ違う事があって挨拶するの。浴衣着てお相撲さんみたいだなと思ってたんだけど……」
「戦い方も相撲だね」
「たっちゃんも知り合いなの?」
「黛の紹介でウチでバイトしてもらってる」
「そうなんだ!?」
由紀恵の紹介ってところにも驚いている一子。
「ゲンさんは、井ノ中がガクト以上の力があるって言ってたものな」
「何だと?ゲン、俺様が一年に力で負けるわけねぇだろ」
更に直江大和と島津ガクトも現れる。
「……ガクトにあんな真似が出来るか?」
忠勝が指さすモニターには、天神館の生徒の頭を鷲掴みにして持ち上げているヨコヅナが映っている。
他の天神館の10人の先方隊は既に地に沈んでいた。
「へ、へへ、あれぐらい余裕だぜ」
言い方的に強がってる感が否めない。決してガクトは弱くはない、普通から考えれば強い。
しかし、
「井ノ中はほぼ無傷だな、良かったぜ……勘違いするなよ、あいつにはこれかも仕事を頼むつもりだったから、怪我されたら困るって意味だからな」
武器を持った者もいる10人を、一人で相手して無傷とはいかないだろう。
「ちょっと待て、更に天神館の生徒が…」
ヨコヅナの映るモニターに更に天神館の生徒がぞろぞろと、その数は…
「オイオイ、50人ぐらいいるぞ」
「主力部隊の一つみたいだな」
「あれを一人で相手するつもりか?」
その疑問に対する答えのように、天神館の主力部隊に、自軍の本陣に行かれないように立ちふさがるヨコヅナ。
そして、
ズガンっ、ドゴォっ、バダァっと天神館の生徒を吹き飛ばしていく。
「「「「…………」」」」
その光景は川神学園の生徒には見覚えがある、特に風間ファミリーのメンバーには……
「本当に姉さん並みに強いくないか?」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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6話
「ほぉ、今年の一年は小粒ばかりだと思っていたが、見処ある者もいるではないか」
2-Sのモニタールーム(Sクラスの一部生徒は川神学園にたくさん寄付金をしているので大画面のモニタールームで一年の対決を見ている)でそう言ったのは九鬼英雄。
「あずみ、あの者のこと分かるか?」
「少々お待ちください英雄様!」
忍足あずみはKパット(※Kパットとは九鬼家が開発したタブレット型端末)を取り出し、生徒のデータを探す。
だが、あずみが目的のデータを見つけるより先に、
「あれは、井ノ中ヨコヅナ…」
モニターに映っている生徒、ヨコヅナの事を知る者がいた。
「不死川、知り合いか?」
ヨコヅナの名前を口にしたのは不死川心であった。
「まっさか~心にクラス以外で知り合いがいるわけないよ~」
ニコニコと酷いことを言うのは榊原小雪。
「おるわ!知り合いぐらい…」
「ではあの大きな一年と知り合いなのですね?」
男の色気を出しながらそう聞いてくるのは葵冬馬。
「…知ってはいるが、知り合いではない」
「ホラ、やっぱり~」
「うるさいのじゃ!!」
「で、一人獅子奮迅の戦いをしてる生徒は誰なんだ?」
ハゲが眩しい井上準が再度、心に質問する。
「あやつは井ノ中ヨコヅナ、不死川の親類が後援会をしている相撲部屋に通っていた者じゃ」
「確かに見たまんま相撲だな」
「此方も相撲は好きなので見学に行ったことがあっての、当時井ノ中は中学じゃったが普通に大人と…それどころか関取とも渡り合っておった」
「それはすごいですね、でも中学卒業して直ぐ、角界には入らなかったのですか」
「……いや、相撲を辞めたと聞いた、ここの相撲部にも在籍しておらぬはずじゃ……有望な日本人力士と期待されておったのじゃがの」
「何でだ、怪我でもしたか?とてもそうは見えねぇが…」
ヨコヅナの戦いぶりを見るに怪我をしているとは到底思えない。
「周りの期待が重くて嫌になったのでしょうかね?」
「理由までは此方も知らん。喧嘩別れして家を出たとだけは聞いていたが…まさか川神にいるとはの」
「あずみ、補足することはあるか?」
「井ノ中ヨコヅナ、クラスは1-C、料理部に所属しているようです」
「相撲部でなく料理部か…得意料理はちゃんこ鍋かな」
準の半分冗談で言ったことだが、間違ってはいない。
「早朝に相撲の鍛練をしているとの情報があります」
「相撲を辞めた訳ではないと?」
「それはなんとも言えません…、一人で鍛練しているとのことなので、体が鈍らないようにしているだけの可能性もあります」
「体が鈍らない程度の鍛錬……で、あれが起こりえるのか?」
ヨコヅナは先方隊に続き、主力部隊の生徒もバッタバッタと倒し、わずかな時間で地に沈んでいる天神館の生徒は30人近い。
「でも、あの一年生優しいね」
だが、そんな光景を見ていながら小雪の場違いな言葉。
「どういう意味ですか?小雪」
「見たまんまだよ~トーマ」
「む、何じゃあれは?」
モニターに映るヨコヅナの戦いに変化があった。
「……女子生徒に取り押さえられている?」
「つうか、乗っかられてるって感じたな」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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7話
場所は一年の戦いの場に戻り、時間も少し戻る、
「もう30人はやられてる!」
「こいつ化け物か!?」
ヨコヅナが天神館の主力部隊に相手に獅子奮迅の戦いを繰り広げている最中。
「後、半分ぐらいだべな」
すでに30人も倒していながら、まだまだ余裕のあるヨコヅナ。
由紀恵に敵大将を討つように指示したことも含め、武蔵小杉の適当な指示は理にかなっていた。
ヨコヅナは守備に向きの戦力だ。
体型的にヨコヅナは逃げる相手を追いかけるよりも、攻めてくる相手を迎え撃つ方が合っている。
それに争いごとはあまり好きではないヨコヅナでも襲い掛かてくる敵には、躊躇いなく攻撃できるというのも大きい。
ただし、襲ってくるからと言って、誰にでも攻撃できるわけではないが…
「なめるなぁ!」
天神館の生徒が竹刀を上段から振り下ろす。ヨコヅナは竹刀をかわし張り手を…
「きゃっ!」
相手の顔前で止める。
「危ないだよ」
そう言って竹刀を持った生徒を押し退ける。
「……!」
押し退けられた天神館の
「他はこいつ無視して、敵本陣に攻め込んで!」
「しかし…」
天神館の主力部隊のリーダーは悩む、ヨコヅナを無視して先に進むことは出来るが、それはヨコヅナ一人に勝てず、逃げ出すに近い行動とも言える。
天神館の生徒として受け入れがたい事実だ。
「こいつはウチ達が食い止めるから!」
「学校の勝利が最優先どす」
だが、学校の勝利よりも優先されることではない。
「……わかった、必ず大将の打つ取ってみせる。行くぞお前ら!!」
オオォォっ!!!
天神館の生徒は5人で逆にヨコヅナをここに足止めし、残りは本陣に攻め込む作戦にでる。
「行かせないだよ」
ヨコヅナは取り囲む生徒を押しのけ、本陣へと行く天神館の生徒を追おうとするが、
「きゃぁっ!」
ヨコヅナが押した女子生徒が派手に転ぶ。
「あ、大丈夫だが?」
思わず足を止めてそう聞くヨコヅナ。
「隙あり!」
倒れた女子生徒はそんなヨコヅナの腹に拳を叩き込む。
その攻撃に顔を歪めるヨコヅナ、別に痛かったわけではない。
「演技だべか…」
派手に転んだのが演技だと分かったからだ。
「あとは追わせないよ」
「勝負がつくまでここにいてくださいね」
ヨコヅナを取り囲む天神館の生徒。
「……どいて欲しいだよ」
「あら、こんなに女子が引き留めてるのに、放って行こうとするなんて酷やないの?」
そう、ヨコヅナを足止めする為に残った天神館の5人は全員女子生徒であった。
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8話
「ゔぅ……」
「ここにいてもらうわよ。
先方隊も含めてここに転がっている天神館の生徒は30人以上。だたその中に一人も女子生徒はいない。
見抜かれているのだ、ヨコヅナが女子には怪我させないように戦っていたことを。
「……怪我しても知らないだよ」
「やってみな!」
そう言ってヨコヅナに襲い掛かる女子生徒達。
ヨコヅナは襲い掛かってくる相手を転がすように投げていく。
傍から見ても実力差は明らかだ、しかし。
「さすがに投げが上手いね…でも、」
「それじゃ私達は倒せないよ」
張り手や、ブチかましは使わず、ましてや怪我させるような地面に叩きつける投げでもない、転がすだけではすぐに立ち上がれる。
「倒せなくても、道が開けばいいだよ」
立ち上がる女子生徒を無視して先へ行こうとするヨコヅナ。
「だから、行かせないってば!」
先へ行こうとするヨコヅナに飛びつく天神館の女子生徒。
「軽いから問題ないだ」
「一人ならそうかもね……みんなも乗って!!」
てりゃー!!!
5人全員がヨコヅナに飛びつく。
「ぐっ…」
さすがのヨコヅナも5人に覆い被さられると少し苦しい。
「……女の子がはしたない…と思わないだか?」
苦しまぎれにそんなことを言うヨコヅナ。
「たくさんの女子に抱き着かれて嬉しいやろ~」
「女子がこんなに引き留めてるのに、放って行こうなんて男がすたりますえ」
「時と場合に、よると思うだよ」
この時、この場合は、敵を放ってすぐ本陣に戻るのが正解である。
「……落ちて怪我しても知らないだよ」
「え!?…ちょ、嘘…」
「5人も乗ってるのに…」
ヨコヅナは女子生徒5人を乗せたまま走り出す。ドスっドスっドスっと歩くよりは速いスピード。
「ほんま、止まんないし…」
「どうすんの?」
「こうなったら……ガブっ」
抱き(乗り)付いている一人がヨコヅナに噛みつく……耳に、
「のわぁ!?、噛みつくのは反則だべ!!」
思わず足が止まるヨコヅナ。
「ほんはふーふははいほ」(そんなルールはないわよ)
「じゃあこっちも……ガブっ」
「ぎゃわぁ!?…そ、それこそはしたないだよ!」
「ほんまはうへしんはほ」(ほんまは嬉しんやろ)
「何言ってるか分からないだ」
噛みつきと言っても、耳を噛みちぎるような力ではないので、そこまで痛くない。
無視して走ろうとしたが、ヨコヅナの足が止まったことで
「ここなら止まるやろ!」
抱き付く場所を足に変えた女子がいた。
しかし、軽い女子一人が足に組み付かれた程度ではヨコヅナは動ける。
「痛い痛い、痛いって!引きずってるて~!」
「痛いなら放したら良いだよ!」
そう言いつつも足を止めてしまうヨコヅナ。
「嫌や!放さへん!」
「どうするべかな……」
困ったヨコヅナが天神館の女子生徒達に翻弄されていると…
テンジンカンノショウリダ~!!、イエ、イエ、オー!!、イエ、イエ、オー!!
「これってもしかして」
「天神館の勝ち鬨!」
「私達の勝ちだっ!」
「やったぁ!!」
「「イエーッイ!!」」
天神館の勝利が確定し、喜ぶ女子達。
「あ~あ、負けただべか…」
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9話
東西交流戦、一年生の部終了後。
「まゆっち、ヨコヅナ君、お疲れ。これタオル使って」
観戦していた伊予が、由紀恵とヨコヅナにタオルを渡す。
「ありがとうございます!伊予ちゃん」
「ありがとうだべ。……いや~、負けちまっただな」
そう言いながら、頬を掻くヨコヅナ。
「オラが敵を喰い止めていたら、違ったかもしれないだな…」
「いえいえいえ、私がもっと早く敵大将を討ち取れていれば…」
「後二秒あればな~」
「……二人とも凄く頑張ってたから責任感じることないよ」
ヨコヅナが敵の攻撃部隊に獅子奮迅の活躍をしていた時、由紀恵は敵の守備部隊相手に獅子奮迅の活躍をしていた。
勝敗を分けたのは、両大将の行動の違い、
天神館の大将は、逃げに徹していたのに対して、武蔵小杉は迎えうったのである。
「ヨコヅナ君って、やっぱり相撲で戦うんだね」
モニターで戦いぶりを見ていた伊代は、相撲の技でヨコヅナが敵を倒していたのでそう言った。
「相撲部に入ってるの?」
「オラは料理部だべ」
「ヨコヅナ君、料理部なんですか」
「ヨコっちの得意料理は、ズバリ、ちゃんこ鍋だな」
「よく分かっただな、松風」
「ふふ、名探偵松風だぜ!」
「あははっ、ヨコヅナ君ってほんとイメージを裏切らないよね」
ヨコヅナ達が楽しく話をしていると、
「あ、おったおった」
「お相撲さ~ん」
「ん?……さっき戦った天神館の…」
天神館の女子生徒5人がやってきた。
「お相撲さん名前何て言うの?」
「オラは井ノ中ヨコヅナだべ」
「はははっ!見た目通りの名前やな」
「じゃあ、ヨコやんだ」
「さっき凄かったね、ヨコやん」
「ヨコやんめっちゃ強いやん」
「逞しい男性はカッコよおすえ」
「ヨコやん連絡先交換しよ」
「あ、うん、…いいだよ」
勢い凄い西の女子達に、圧倒されるヨコヅナ。
「なんかモテモテだね、ヨコヅナ君」
「いきなりイメージを裏切ってきたな」
「あんなに一遍にお友達が、さすがヨコヅナ君」
「あれっ!……ひょっとして」
伊予と由紀恵が見ていることに、天神館の女子が気づく。
「もしかして、どっちかヨコやんの彼女?」
「あちゃ、ウチら厚かましかったかな…」
「あ、ううん、唯の友達だよ」
「いえ、その、と友達です」
「そうなん、怖い顔してるけど…」
由紀恵が怖い顔をしているのは、緊張からであって嫉妬で怒っているわけではない。
「あれ、刀持った女子……ちょっとして本陣落としかけたっていう川神の生徒?」
「ええ!?一人で本陣守備を全滅させた!」
「川神の大将を倒すのが、後二秒遅かったらこちらが負けてたと聞いとりますで」
松風の言い訳は嘘ではなかった。
由紀恵は本当に紙一重のところで大将首を取れていたのだが、それより2秒早く川神学園一年大将武蔵小杉が討たれたのである。
「じゃ君も連絡先交換しようや」
「い、いいいい、いいのですか!?」
「う、うん、顔怖いけど、嫌なら…」
「いえいえいえ、ぜぜぜ是非!」
「うちも交換しよ」
「私も~」
「よろしゅう」
「はははい、喜んで!」
「良かったね~、まゆっち」
荒っぽい東西交流戦だが、本当に交流関係が繋がる行事であった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
こちらも読んで頂ければ幸いです。
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10話
早朝ヨコヅナは森の中で四股を踏んでいた。
「今日も良い感じだべ」
ヨコヅナの相撲の稽古は町中だと近所迷惑になるので、住宅地から離れて森まで来て行っている。
「フォフォ、精が出るの」
そこへやって来たのは、
「鉄心学長、おはようございますだ」
川神学園学長、川神鉄心である。
突然の学長の登場ではあるが、ヨコヅナはさして驚かない。
稽古しているこの森は勝手に入って良い場所ではないのだが、その許可を申請してくれたのが鉄心なのだ。
「うむ、おはよう」
「今日はオラに用だか?」
「いや何、お主が交流戦を頑張っておったからの。要らぬ連中が近づきやせぬかとな」
「あぁ、何か観られてるだな」
ヨコヅナは自分の対する不穏な視線には意外と鋭い。
「ほほぉ、気づいておったか。長くなると嫌じゃろ、わしから言っておいてやるぞ」
「ありがとうございますだ、助かりますだ」
「多少お主の過去を話すことになるが…」
「構いませんだよ、話されて困る過去なんてないですだ」
「そうじゃな」
ヨコヅナが川神に越してきた際、少々鉄心にお世話になっており、事情も知っている。
「稽古続けていいだが?」
「おぉ、すまんの。わしのことは気にせず、続いてくれ」
ヨコヅナは四股を再開する。
「……見事じゃの~」
すり足、張り手、ブチかまし、と基礎鍛練をこなしていくヨコヅナ。
その後、ヨコヅナが相手を想定しての投げ技を練習をしていると…
「ふむ……基礎鍛錬はともかく、投げ技の練習は一人ではモノ足らぬじゃろ、川神院の稽古に参加せぬか?」
鉄心がヨコヅナの鍛錬を見て、そんな提案をする。
「オラは相撲を辞めた身だべ、鍛錬しているのは体が鈍らないようにする為ですだ」
この場合の辞めたは、角界に入る気はないという意味である。
「そんなオラが稽古に参加したら迷惑になるだよ」
「迷惑にならぬとわしが判断したから、誘っておるのじゃがの」
川神鉄心は武術の総本山ともいわれる川神院のトップ。
そんな鉄心の見立てでは…
「寧ろ、他の者達の良い刺激になると思うのでな、どうかの?」
「……う~、どうだべかな」
「そんなに嫌かの?」
正直に言えばヨコヅナは嫌だった、しかし、鉄心には世話になっているのも事実…
「今は色々大変なので、いずれ都合が合えばで良いだべか?」
先送りにする言い方(遠回しに断る時にも使われる)の返事をするヨコヅナ。
「まぁ、無理強いはせぬ……嫌がる理由を聞いても良いかの」
投げ技の練習には相手がいた方が良いとはヨコヅナも思っているし、別に川神院の稽古が厳しそうだから参加を嫌がっているわけではない。
「……怖そうな先輩がいるからだべ」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
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11話
「凄い人達が転入してきたね~」
話題は朝の集会で紹介された、英雄のクローンと九鬼の末妹、その従者の事だ。
「何に驚いていいか、分からないぐらいだべな」
クローン人間、過去の英雄、性別逆転、人の道を渡っての登場、老執事の学生。
ヨコヅナでも驚きだけでお腹いっぱいになりそうだ。
しかし、
「友達になってもらえるでしょうか?」
「まゆっちならいける、余裕だせ」
友達100人を目指す由紀恵は友達になりたいようだ。
「源義経先輩は刀使ってたから共通の話題で仲良くなれるんじゃない」
「っ!さすが伊予ちゃん」
「Nice Idea」
「みんなSクラスって言ってただな」
学年は違うが紹介された転入生はみんな特進クラスである。
「優秀な人達なんだね、Fだったら、まゆっちが仲の良い先輩いたのにね」
「いえいえ、先輩に頼ってばかりでは駄目ですので、自分の力で」
「おぉ~、偉いだな」
少しずつ友達が増えてきて成長している由紀恵。
「じゃあ、お昼休みにでも2-Sに突撃してみる」
「あ、いえ、今日いきなりはさすがに…」
「こういうのは勢い大事だよ、まゆっち」
「でもさ~急がば回れって言うじゃん」
「またそうやって日和るんだから~」
ちょっとずつ成長しているつもりの由紀恵。
「まぁまぁ、今日は注目の的だと思うべから明日以降で良いでないだか」
「そうだね、人がたくさんいたら話かけ辛いか」
「そうです、そうです」
「迷惑かけたら悪いもんな~」
「……オラとしてはわざわざ転入生を狙う必要ないと思うだべがな」
他学年で英雄の転入生を友達にするのは困難と言える。
普通に同学年、というか同じクラスの人を、と思うヨコヅナなのだが…
「それは言わねぇ約束だぜヨコっち」
「そんな約束した覚えはないだべがな」
やっぱり大して成長してない由紀恵だった。
「ヨコヅナ君はクローンの人達にはそんなに興味ない感じ?」
「う~ん……武蔵坊弁慶が男だったら、相撲をとってみたかっただな」
数多いる日本の英雄の中でも怪力無双として名高く、立ち往生の逸話もあり倒れない
男であれば勝負してみたかった思うヨコヅナだが、残念なことにクローンの武蔵坊弁慶は女だ。
「…それは確かに見てみたかったですね」
「武蔵坊弁慶に相撲で勝てたら凄ぇよな~」
「他の男子達はみんな、弁慶が女性で喜んでるけどね…」
女の武蔵坊弁慶はとても魅力的な容姿なので、残念だと思っている男子生徒はヨコヅナを含めても極少数だ。
「武蔵坊弁慶だけでなく、皆さんお奇麗でしたね」
「ヨコヅナ君は転入してきた4人の中でどの女性が好み?」
源義経、武蔵坊弁慶、葉桜清楚、九鬼紋白、タイプは違うが皆美少女だ。
「……見た目だけだと何とも言えないだな」
「無難な回答だな~、ヨコっち」
「面白くな~い」
恋バナ好きの女子に無難な答えは、寧ろ受け入れられない。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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12話
転入初日で反抗する者全員返り討ちにし、1-Sを掌握した九鬼紋白。
「紋様、今日のお昼休みはどうされるのですか?」
元一年トップ武蔵小杉は既に紋白の配下である。
「2、3年でしたら私に案内させてください、紋様」
2-Sの井上準も配下にしていた。
「兄上を含め挨拶等は昨日終わったからな。今日は一年で気になっていた生徒に会いに行く」
そう言って紋白が訪れたのは1-Cの教室だった。
「1-Cですか?」
「ここに面白い人材がいるのでな」
「でもCクラスは普通の人しか……ひょっとして黛さんですか?」
「剣聖の娘だな、もちろん黛もスカウトしたい人材の一人だが、もう一人いる」
「……そんな人いましたっけ?」
首を傾げるムサコッス。
「では入るぞ」
同昼休み、ヨコヅナ、由紀恵、伊予は一緒に昼食を食べていた。
「ヨコヅナ君のお弁当ってまさにドカベンだよね」
机がいっぱいになるぐらい大きいヨコヅナの弁当を見てそう言う伊予。
「腹六分目ぐらいだべがな」
「さすが、ヨコヅナ!」
「大きいのに冷凍食品ではなく全て手作りですね」
「そうだべ」」
「さらにさすが、料理部!」
「よく分かるだな」
「私も毎日お弁当作りますから」
「まゆっちの目を欺くことは出来ないぜ」
「まゆっちのお弁当美味しそうだべな」
「ヨコヅナ君のお弁当も量だけでなく味も良さそうです」
「…なんかちょっと、恥ずかしく思えてきたな…」
ヨコヅナと由紀恵は自作の弁当に対して、伊予の昼食はコンビニ弁当だ。
「何かおかず交換しないだか?」
「良いですね。私はこのロールキャベツをあげます」
「だったらオラは、オクラの豚バラ巻をあげるだ」
ヨコヅナと由紀恵がお互いに交換したおかずを食べる。
「……美味いだ!」
「……美味しいです!」
お互いに相手のおかずを誉め合う二人。
「私も!私も交換したい!」
そんな風にヨコヅナ達が楽しく食事をしているところに、
「我、顕現である」
九鬼紋白が1-Cの教室に入ってきた。
「……いきなり、何だろ?」
「噂の転入生だべな」
「…何かこっち見て視線と止めたぜ」
「え、あれ、こっち来ますよ」
紋白は真っ直ぐヨコヅナ達が座る席へとやってきた。
「フハハハ!目的の相手が二人とも揃っているとは、僥倖であるな」
「「「目的の相手?」」」
三人は周りを見て、目的の相手とやらを探す。
「お前たちの事だ、黛由紀恵、そして井ノ中ヨコヅナ」
「わわわ、私ですか!?」
「オラだべか?」
紋白が1-Cを訪れた理由はヨコヅナに会う為であった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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13話
突然のご指名に茫然としている二人に
「紋様の話を聞く姿勢がなってないわよ二人とも」
「紋様の前では直立不動が常識だろぉ!」
ムサコッスと準の雑魚っぽい台詞を言い放つ。
「は、はいっ!!」
慌てて立ち上がる由紀恵、
「…仕方ないだな」
ヨコヅナも渋々ながら立ち上がる、ムサコッスと準は関係ない、奥で怖い老執事が見ているからだ。
「なな、な何の御用でしょうか?」
「昼食中に悪いな。二人の東西交流戦での活躍、見させてもらったぞ」
東西交流戦の様子はモニターで紋白も観戦していた。
「まままさか、私のせいで交流戦で負けたから…」
「負けた責任はオラにあるだよ…」
「いや、交流戦の戦犯をあえて言うのであれば、ムサコッスだ。二人は気にする必要はない」
「プレミアムな私が戦犯にされてる!?」
「交流戦の結果は今はどうでもよい」
「どうでも良いのに戦犯あつかい!?」
驚愕するムサコッスをよそに紋白は二人に、
「二人は将来の夢は決まっているのか?」
目的の為の質問をする。
「……いきなり、なんでそんなこと聞くだ?」
初対面の相手、それも会って数分、聞き返すのも無理はない、
「質問に質問でかえすな!」
だが、自称紋白の忠臣、井上準が叱咤をする。
「よい。我はスカウトが趣味みたいなモノでな、学園でも有望そうな生徒には声かけていくつもりなのだ」
この言葉を聞いて、(あれ?私スカウトされてない!)とムサコッスは内心思うのだが、今はどうでもいい。
「交流戦を見たからって何も分からないと思うだか…」
「少なくとも二人は普通の生徒50人と戦っても負けないという事は分かったぞ」
「強い人をスカウトしたいだか?」
「いや、あれはきっかけに過ぎぬ、こうして目を見れば色々と分かってくる」
そう言ってヨコヅナの目を真っすぐ見つめる紋白。
「そうだべか……今、オラの目を見て何を考えてるか分かるだか?」
「……ふむ、早く昼飯が食べたい、と言ったところか」
「よく分かっただな」
「オイオイ、紋様に対して失礼だろ」
「そうよ、ちょ~と交流戦で活躍したからって調子乗ってじゃないの?」
「よいのだ、昼飯を邪魔したのは、事実だからな」
「いえ、ここは先輩として俺が指導を」
「はぁ~、……」
ヨコヅナは教室の外に目を向ける。
「俺に何か言いたげだな、赤子」
一瞬にしてヨコヅナの横に移動する、九鬼家従者部隊零番ヒューム・ヘルシング
「あんたみたいな強い人が後ろについてるから、雑魚が調子に乗るだよ」
昼休みを邪魔されてヨコヅナは、本当に気分を害していた。
「そう言いたくなる気持ちは分からなくもないが、人のせいにするのはよくないぞ赤子」
「…雑魚とは言ってくれんじゃねぇか」
準はワッペンを取り外し叩きつける。
「決闘だ!雑魚と言ったんだ受けるよな」(ここで紋様に良いところを見せるぜ)
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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14話
決闘の申し入れに対してとても嫌そうな顔をするヨコヅナ。
「オラは早く昼飯が食べたいってのが、あんたには伝わってないんだべな」
「直ぐ終わらせてやるから心配するな」
「戦う理由がないだ」
「……なら、お前が勝ったら上食券100枚やるよ」
「上食券100枚だべか……」
賞品に反応するヨコヅナ、上食券100枚となれは中々の金額だ。貧乏学生だから仕方ない。
「ただし、お前が負けたら土下座で謝罪してもらうぞ」
「……ルールはどうするだ?」
「ヤル気になったか、…素手での格闘で良いだろ、ダウンして10カウントで負け。もちろんギブアップは受け付けてやる」
「10カウント負けじゃなく、足の裏以外が地に着いた時点で負けのルールなら受けるだよ」
「……そういや、相撲が得意なんだったな、いいぜ一年が相手だ、ハンデをやらないとな」
「決りだべな、……儀式だからやっておくだべか」
納得できるルールに決まったので、ヨコヅナは自分のワッペンを外して、準のワッペンに重ねるようにして置く。
これで決闘を受理したことになる。
「そんじゃ校庭に行くか」
「ここでいいだよ、移動の時間が無駄たべ」
こうしている間にも、昼休みは刻一刻と少なくなっている。
「でも、教師の許可とって審判してもらわないといけないんじゃ…」
直ぐには始めれない事を促す伊予の言葉。
格闘などの負傷する可能性がある決闘は、生徒が勝手に行う事は出来ない。
「それは面倒だべな……やっぱ止めるだかな」
「安心しろ赤子、俺が審判をしてやる」
「ヒュームは特別枠なので、決闘の立会人も許可されているのだ」
特別過ぎる気もするが、下手な教師よりもヒュームの方が、安全性が高いのは事実。
「だったらすぐ始めるだよ」
机などを移動させ、スペースがつくられる。
「いつでもかかってくるだ」
「名前通り横綱相撲ってやつか……俺って普段から結構道化っぽく振る舞ってるからよ~」
何やらいきなり語り出した準。
「クラスでもハゲだのロリコンだのと揶揄されることが多いんだ」
「ハゲは見たまんまだもんな~」
松風の適格なツッコミ。
「まぁ、俺にも原因があるからそれは良いんだけど」
「え!ロリコンは原因があったら駄目だと思うけど…」
伊予の危ない人を見る目でのツッコミ。
「でも、一年に雑魚呼ばわりされんのは違うんだよな」
「その語り、いつまで続くだ?」
ヨコヅナの面倒くさそうなツッコミ。
「実は俺さ…、超強ぇよ」
そこでようやく動き出した準、その動きは周りで見ているほとんどの者が反応できない程速い。
準は普段人前で出さない本気の速さでヨコヅナに拳を叩き…
「うおぁっ!!?」
こもうとして、盛大に転んだ。
「そこまで。勝者 井ノ中ヨコヅナ!」
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15話
ヒュームの勝利者宣言に、
「よし!オラの勝ちだべな」
早く終わってよかったと思うヨコヅナ。
「え!いや、ちょっ、今の無し…」
「何が無しだハゲ!どう見たってヨコっちの勝ちだろう!ブー!ブー!」
ちゃんと二人の動きが見えていた松風(由紀恵)のブーイング。
「今のは油断、」
「無様な言い訳はやめろ!恥の上塗りだ!!」
当然ヒュームも二人の動きは見えており、準の言い訳など聞く気はない。
ほとんどの者は準が転んで自滅したと思っている。仮に自滅だとしても足の裏以外が地についたら負けというルールである以上、準の負けに異論を唱える者など……
「ちょっとまったぁ~!!」
ここで出しゃばるのがムサコッスである。
「先輩の仇は私が…」
「やめよムサコッス」
「紋様?」
そんなムサコッスを紋白が止める。
「これ以上昼休みを邪魔するのは忍びない…それにヨコヅナは女子とは戦わんぬ。そうであろ?」
「それを分かってくれてるのは嬉しいだな」
「だが、せっかくだ、先ほどの質問には答えてくれるか?」
先ほどの質問のとは、
「あぁ、将来の夢だべか……」
ヨコヅナは少し言いよどむように言葉を止める。
「私はその、将来の夢はまだ決まってない…です、他にやりたい事が無ければ、父上の後を継ぐ可能性はありますが…」
間を繋ぐ為でもないが、後になって夢がないとは答え辛いので由紀恵が先に答える。
「そうか!ではそのやりたい事が「九鬼財閥で働く」というのはどうだ?」
グイっと由紀恵に迫る紋白。
「え!、あ、その、考えておきます」
「うむ!、では名刺を渡しておく、前向きに考えてくれ」
「あ、はい、……ありがとう、ございます」
そう言って紋白はヨコヅナに向き直る。
「井ノ中はどうだ?まだ一年なのだ、夢が決まってなくとも恥ずかしがることはないぞ」
言いよどむヨコヅナを将来の夢が決まってないからかと思った紋白だが…
「オラは、将来自分の店を持つのが夢、なんだべ」
少し照れくさそうに、将来の夢は言うヨコヅナ。
「ほぉ~!、自分の店を持つか……それはちゃんこ鍋屋か?」
「…本当に目を見ただけで色々分かるんだべな」
「フハハハ、我は人を見る目にはそれなりに自信があるのだ」
「誰でも分かる気が…」
詳しく知らなくても、ヨコヅナという名前と体型的に9割以上がちゃんこ鍋屋の思いうかべるだろう。
「では機会があればお前のちゃんこを食べさせてくれ」
「いいだよ」
「うむ、邪魔して悪かったな、今日はこれで失礼する。フハハハ!」
入って来た時同様、豪快に笑って教室から出て行く紋白。
その後に続こうする準にヨコヅナは、
「ハゲでロリコンだけど超強い先輩、上食券100枚忘れないでくれだよ」
酷い言い方ではあるが、全て準が自ら言った台詞だ。そもそもヨコヅナは井上準の名前を知らない。
「くっ……分かっている」
準はハゲでロリコンだけど決闘での約束を反故にするほど愚かではないし。超ではないが、本当にそれなりには強いので、自滅ではなくヨコヅナに負けた事もちゃんと分かっていた。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
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16話
紋白がヨコヅナ達に会いに行った日の放課後。
場所は2-Sの教室。
「聞いたぞコラ、ハゲ!」
「聞きましたよ、ロリコン」
井上準が座る席の前には、元傭兵&軍人コンビが怒気のオーラを発しながら立っていた。
「あの、おお姉様方、何をそんなにお怒りで…?」
そのオーラにキョどる準。
「あぁん!、分かんねえのかハゲ!」
「とぼけるのは寿命を縮めると知りなさい」
トンファーを取り出す、ドイツの猟犬部隊隊長、マルギッテ・エーベルバッハ。
「え~と、一年に決闘で負けた件ですかね?」
「言葉が足りませんね。「自分から一年に決闘を申し込んでおきながら、無様に負けた件」というのが正しい」
「いやぁ、それは…」
「言い訳出来んのか、タコ」
「……出来ません」
井上準がヨコヅナに決闘で負けたという噂は学園中に広まっている。
現2-Sの生徒は目立つ生徒が多い、準もラジオのパーソナリティーをしていたり、ハゲた頭が眩しかったりとそこそこ学園での知名度が高い。
そんな準が一年に無様に負けたとなれば噂が広まるのも瞬く間だ。
「恥をしりなさい。それでも特進クラスの生徒ですか」
「滑りやすいのは頭だけにしとけよ」
準のむき出しの頭をクナイでペチペチするあずみ。
「こらぁ、準を虐めるな~」
「まぁまぁ、二人ともそう怒らずに…」
「ユキ、若…」
準のピンチに助けに入ったのは、榊原小雪と葵冬馬。
「落ち着いて、話し合いましょう」
「私は元からそのつもりですよ」
そう言ってマルギッテは怒りのオーラを収める、そもそも同じ2-Sの生徒として不甲斐ないと思ってたぐらいで本気で怒ってなどいない。
「私はドイツ人ですが「勝敗は兵家の常である」という言葉も知っています。負けたこと自体を責めるつもりはありません。ですが井上準は、九鬼紋白に良い恰好を見せたいからと決闘を申し込み、相手を侮って不利なルールで戦い、そして負けた」
マルギッテは軍で部下を諭す時のような口調で話す。
「見栄を張って奢り高ぶり敗北。これは戦場においてトップ5に入る程愚かなでありながらも多い敗北理由。そしてそれは戦場に限ったことではありません。そうは思いませんか?」
「…仰る通りです」
「ではこれからは精進しなさい」
元からマルギッテは少し虐めてから、説教をするつもりだっただけ、トンファーを出したりもしたが使うつもりもなかった。
しかし、本気で怒ってないのはマルギッテだけであり、
「私はそんな軽い説教で済ますと思うなよ、糞ハゲ!」
忍足あずみは真剣と書いてマジで怒っている。
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17話
「アタイは別にお前がどこの誰に、どんな無様な負け方をしようが、知ったこっちゃねぇ。2-Sの評価を下げたとしても、小言ぐらいで済ましてやる。でもな…」
マルギッテのは説教であったが、あずみのこれは違う。
「紋様の顔に泥を塗ったとなれば話は別だ」
苦無を準の顔前でちらつかせながら、
「お前が決闘に負けた事で、紋様の評価まで少なからず下がってんだ。その落とし前どうつけんだコラ!」
今にも小指を出せと言いだしそうな目をしている。
準は勝手に紋白の従者ぶっておきながら、紋白が会いに行った相手と決闘して負けた。
これでは転入早々の紋白のイメージが悪くなってもおかしくない。
ただ、これには一応言い訳も出来る。
「いや、紋様は許してくれて…」
準はヨコヅナに決闘で負け1-Cの教室を出た後、すぐ廊下で土下座して「申し訳ありませんでした!」と文字通り地に頭を擦りつけて紋白に謝罪した。
準も迷惑かけた事を重々承知してるからの行動。
それに対して紋白は「頭を上げよ、井上準。我にはちゃんと見えていた。この負けを糧に成長するがいい。フハハハハ」と寛大に許している。
「そうか、紋様が許したんなら、しゃねぇ…」
あずみのその言葉に準は安堵……
「なわけねぇだろ、ボケ!」
出来なかった。
準のむき出しの頭を、苦無で持ち手の部分で殴るあずみ。
「痛っ、めっちゃ痛い」
刃の部分でないだけマシではあるが、鉄製なので本の角で叩く倍は痛い。
「英雄様はてめぇが紋様に迷惑かけたと聞いてから、ちょっとテンションが低くなってるんだよ」
英雄にとって紋白は可愛い妹だ。クラスメイトが妹に迷惑をかけたと知れば、テンションも低くなるだろう。
「どうしてくれんだ、コラ!」
殴った個所をさらに苦無の持ち手の角でグリグリするあずみ。
「痛い、い痛っ」
地味に痛い。
英雄はそもそも人一倍テンションが高いので、周りから見れば寧ろ丁度良くなったぐらいなのだが、真に英雄の忠臣であるあずみからすれば、許されざることなのである。
「落ち着いてください、あずみさん。話し合いましょう」
「頭は目立つから駄目なのだ~!」
葵冬馬は本当に準を助けようとしているが、小雪は終始笑顔である。
「私が聞いた噂では、準は足を滑られせ自滅したと聞いたのですが本当なのですか?」
このまま会話の主導権があずみにあると、暴力が振るわれ続けるのは目に見えているので、冬馬が話をふる。
それに冬馬は準が本当は強い事を知っているし、ロリコンなので紋白の為なら本気で決闘に勝ちに行くだろうことも分かっている。
本気の準がそんなヘマをするとは冬馬には到底思えない。
「準はハゲで滑りやすいから仕方ないよ」
そういって準の頭のツルツル感をアピールする小雪。
「いや、自滅じゃないんだ」
そう準は足を滑られ自滅したわけではない。
「足払いで転ばされて負けた」
相撲の決まり手で言えば【蹴手繰り】である。
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18話
井上準はヨコヅナとの決闘のことを詳しく話す。
「開始早々の足払い……相撲でいう蹴手繰りですね」
学年主席だけに知識の幅が広い冬馬。
「その生徒は本物のRIKISHIなのですか?」
「そういえばマルギッテさんは交流戦の一年の部の時いませんでしたね?」
「私はその時クリスお嬢様と一緒でした」
一年の交流戦時、マルギッテは2-Sのモニタールームにいなかった為、不死川心が話したヨコヅナの詳しい情報を知らない。
「角界に入ってないので本物の力士とは言えませんが、相撲部屋で本格的な稽古はしていたらしいですよ」
「なるほど……RIKISHIではないにしろ、神事とまで言われるSUMOUの稽古を享受していたと言うであれば、井上準が負けるのも無理はない」
フリードリヒ親子の影響で相撲に対する評価が高いマルギッテ。
「そうですね。準に軽率な部分もあったかと思いますが、ここは相手も強者だったという事で、これぐらいで良しとしませんか?あずみさん」
「……確かに井ノ中ヨコヅナとかいう一年は、川神鉄心も目を掛けてるぐらいだ。ハゲが自滅じゃなく、実力で負かされたとしても不思議じゃねぇ」
「というか、あずみはあのおじいさん執事から何も聞いてないの?」
小雪の言うおじいさん執事とはヒュームのことであり、同じ九鬼家従者部隊なのだから、ヒュームから決闘の詳細を聞いてない事の方が不思議と言える。
「あのジジイは、「自分で調べろ」つって何も教えてくれなかったんだよ。だからこうしてハゲに問いただしてんだ」
「え!?…詳細を聞きたかっただけならもっと穏便に…」
「あぁん!」
「何でもないです、すみません!」
「……まぁ、今日の件は相手も悪かったということで見逃してやる」
あずみはそう言って準を許す……と、見せかけて、
「何て言うと思ったかボケ!!」
「やっぱり~!」
「てめぇのせいでアタイは今晩、老人共の山ほどネチネチ嫌味を言われ、徹夜の始末書が確定してんだよコラァ!」
あずみは苦無の刃の部分でとうとう準を…
と、まさにその時、
「フハハハ!我、帰還なり」
「きゃるーん、お帰りなさいませ英雄様☆」
九鬼英雄が戻ってきたことで血の惨事はまぬがれた。
「おや、英雄何かいい事でもあったのですか?」
昼休みの一件を聞いてテンションが低くなっていた英雄だが今は元に戻っている。
「さすが我が友冬馬、分かるか。今しがた行われた、義経と一子殿の一戦まさに見事であった。惜しくも一子殿は敗れたが、それでもあの輝かしい姿は見ている者皆を奮い立たせる」
英雄は校庭で行われていた義経対一子の決闘を見て、テンションを回復させたようだ。
「ん?どうした準、頭頂部の発光ぐあいが乏しいではないか?」
その理由は準の心情を表しているからだろう……、もしくはあずみが苦無でグリグリし過ぎたせいか…
「……英雄、昼休みの紋様に迷惑をかけた件、すまなかった」
改めて英雄にも謝罪する準。
「それで?」
「え?」
「それで、準はどうするのだと聞いている」
準にそう問う英雄にはただの生徒にはない、人の上にたつ者の風格があった。
「俺は…紋様に言われた通り俺は成長する」
英雄の目を真っすぐ見て準は宣言する。
「あの敗北が恥でも何でもないぐらい大きく成長してみせるぜ!!」
そんな準の決意の宣言を
「うむ! 努、その在り方を損なうな」
王のように受け止める英雄。
「帰るぞあずみ、我に続け!フハハハハ!」
「はい、英雄様!どこまでもついていきます!!」
そして英雄はあずみを連れて颯爽と帰っていった。
「さすが九鬼英雄と言ったところですね」
「おかげで助かったぜ」
「でもさっきのはその場しのぎの言葉ではないですよね」
「もちろんだぜ若。生まれ変わった井上準を見ていてくれ」
「ふふ、楽しみにしてますよ」
「僕も準が輝けるように協力するのだ」
「こら、頭をワックスで拭くのはやめなさい!」
斯くして雨降って地固まる的な結果に今回の件は…
「収まるわけねぇだろ、ボケ!」
「ほんと勘弁してください」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
こちらも読んで頂ければ幸いです。
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19話
九鬼紋白の相談を受けた、2-F直江大和の発案で、源義経達の歓迎会が行われることになった。
「大和さん、一緒に手伝ってくるれる、伊予ちゃんとヨコヅナ君です」
「が、頑張ります!」
「頑張るだよ」
「ありがとう、二人の事はまゆっちから聞いてるよ」
そして由紀恵の歓迎会を手伝うという意思に、伊予とヨコヅナの二人も賛同した。
「まゆっちは当日の料理もヘルプで入ってくれるんだって?」
「はい!、あとヨコヅナ君も料理部なので、そっちも手伝ってくれます」
「へぇ~、料理部なんだ」
大和は交流戦での戦いを見てヨコヅナは相撲部だろうと思っていたので、少し意外だった。
「……得意料理はちゃんこ鍋かな」
でも名前がヨコヅナなので冗談でそう言ってみたら、
「はははっ、良く分かるだな」
「誰でも分かるよな~」
「ヨコヅナ君だもんね」
ヨコヅナが料理部だと知った者は皆、得意料理はちゃんこ鍋かな思うし、実際当たっている。
「歓迎会の料理でちゃんこ鍋作っても良いだべかな?」
「ん~、どうだろうな?」
今は初夏であり、歓迎会で鍋料理は微妙な気がする大和。
「メニューは料理担当に任せてるから、話し合って決めてくれ」
なので担当に任せることにした。
「分かりましただ」
「とりあえず今日は設営準備頼むよ」
「はいっ!」「はい」「はいだ」「ウェ~イ」
時は進み歓迎会当日、場所は歓迎会の料理を作ってる家庭科室。
「食材は熊飼先輩が指定して集めたって聞きただ。さすがだべ」
「少ない予算なのに、ほんと凄いわ~クマちゃん先輩」
用意された食材の量と質の高さに、驚きと賞賛の声を口にするヨコヅナと1-Sのオカマ。
歓迎会の料理の食材は、熊飼満(通称クマちゃん)が指定して揃えた食材だ。
「ぼくは直江君に教えただけで、ここまでの量を集めれたのは直江君と買いに行ってくれた人たちのおかげだよ」
謙遜するクマちゃんだが、情報が確かでなければこの結果は生まれない。
食のスペシャリストとまで称される熊飼満、ヨコヅナも含め料理部全員が尊敬する人物だ。
「まゆっち……この三人…」
「分かってます松風、かなりデキます」
ヨコヅナ、クマちゃん、オカマは会話をしながらも、丁寧且つスピーディーに調理をこなしている。
他の料理部員と比べ、この三人の料理の腕前は頭一つ抜けていた。
「私も負けてられません!」
「まゆっちが燃えてるぜぇ」
普段から料理を作る者として対抗心を燃やしながら由紀恵も料理を作る。
「……私ひょっとして、場違いだったかな」
少しでも手伝えることがあるかもと、料理のヘルプにきた伊予は肩身が狭い思いをしていた。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
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19話②
歓迎会の料理を作りながら、
「あ、そうだべ、臨時収入が入ったから、またみんなで食べ歩きに行かないだが?」
部活動の提案をするヨコヅナ。
時間とお金に余裕ある者で、食べ歩きするのは料理部の活動の一つ。自腹なのでもちろん強制ではない。
「あぁ、聞いたわよヨコちゃん。2-Sの先輩から上食券100枚巻き上げたんだって~」
茶化すようなオカマの言葉に、
「人聞き悪いだな、決闘を申し込んできたのも、上食券100枚をくれるって言ったのも相手からだべ」
不満そうに答えるヨコヅナ。
事実ヨコヅナは降りかかる火の粉を掃ったに過ぎない。
「井ノ中君は普段優しいのに、時々暴力的になるよね」
尊敬に値するクマちゃんの言葉にも、
「お腹空いた時の熊飼先輩ほどじゃないだよ」
さらに不満そうに答えるヨコヅナ。
事実空腹の時のクマちゃんは凶暴だ。
「でも食べ歩きは賛成だわ~、どうですかクマちゃん先輩~」
「僕ももちろん賛成」
クマちゃんは一人でも趣味で食べ歩きをしているからスケジュールさえ合えば、断ることはない。
そしてもっとも川神の飲食店を知っているクマちゃんが参加する時点で決定と言って良い。
「まゆっちと伊予ちゃんも一緒にどうだべ?」
「料理部じゃなくても参加していいの?」
「料理部の活動と言っても自腹で食べに行くだけだべ、以前部員以外の人も参加してた事もあるから問題ないだよ」
2-Fの頭にバンダナを巻いたクマちゃんと仲のいい生徒が参加したこともある。
「あら、ヨコちゃん、さりげなく女子を食事に誘うなんて、やるわねコノコノっ~」
「別に他意はないだよ。二人女子が増えたところで一緒だべ」
料理部で美味しい料理を競い合えば、ヨコヅナ、クマちゃん、オカマの男子生徒三人でトップ争いをすることになるのだが、他の部員はほぼ全員女性生徒である。
しかし、ヨコヅナの他意はないという言葉は嘘だ。
「あ、あの、その私なんか参加したら…」
「ちょっと、まゆっち」
いつものネガティブ発言をしようとするまゆっちの脇を伊予が肘で突っつく。
「ヨコヅナ君が友達作りの為に誘ってくれてるんだから、用事もないのに断ったら駄目だよ」
ヨコヅナに他意はあるが、それは別にやましい事ではなく、由紀恵の友達作りの協力だ。
料理の得意な由紀恵なら、料理部員と共通の話題があるだろうと誘っているのだ。
「はっ!そうですね」
「ヨコっちからのパス、スルーするわけには行けねぇぜ、まゆっち」
「ぜ、是是非、参加させてください!!」
「私も参加するよ」
「じゃあ詳しいことは今度改めて決めるべ」
楽しく会話をしながらも、歓迎会の料理は順調に進んでいく。
そんなヨコヅナ達を他の料理部員は調理をしながらも、気になって仕方がなかった。
名の通り力士体型のヨコヅナ、そしてクマちゃんも負けず劣らずの大柄な体格をしている。二人が揃ってだけでも迫力がある。
さらに坊主頭にそりこみの入ったオカマと刀を持って馬のストラップと会話する由紀恵が一緒に料理をしてる光景はかなりシュールと言える。
「あの一角、凄いね…」
「うん、料理の腕もだけど…圧力と言うか」
「オーラが出てるみないな」
「楽しそうに調理してるけども、傍から見ると
「あのメンバーと食べ歩きしたら、目立ちそうだな~」
「クマちゃんも井ノ中君もオカマ君も良い人なんだけどね」
「まぁ、行きたい人だけ行けば良いでしょ」
「クマちゃんのおすすめ店はどこも美味しいから行きたいんだけどな~」
料理部員達は次の食べ歩きに参加するかかなり悩みどころであった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
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20話①
源義経たちの歓迎会は駆け足なスケジュールながらも、ほとんど問題なく開催された。
そんな会場の一角でヨコヅナは、
「よし出来ただよ」
ちゃんこを作って皆に配っていた。
「本当にちゃんこ鍋作ったんだ…」
それを見て少し驚く大和、初夏の歓迎会で鍋料理は微妙という大和の考えは、間違ってはいない。
だが、料理部でメニューを相談し合った時、ヨコヅナがちゃんこを作ることを反対した者はいない
理由は簡単だ、
「う~ん、美味しいわ~。ヨコちゃんのちゃんこ鍋は別格よね~」
「うん、凄く美味しいから僕、いくらでもお替り出来る」
「クマちゃん、歓迎会だからほどほどにね」
「でも、その気持ちは分かる~」
「食べ過ぎて体重増えるみたいな」
料理部は皆知っているからだ、ヨコヅナのちゃんこ鍋が初夏の歓迎会でも食べたいぐらい美味しい事を。
「…わぁ~、美味しいよヨコヅナ君」
「………本当に美味しいです」
ちゃんこを食べた伊予とまゆっちも自然に美味しいと言葉が口から出る。
「私、ちゃんこ鍋って初めて食べたけど、こんなに美味しいんだ」
「いえ、この味は作り手の技術。ちゃんこ鍋を作る練度が高いからです……」
ヨコヅナのちゃんこを真剣な表情で評価する由紀恵。
「あははっ、さすがヨコヅナ君」
「こいつぁ、舌を巻かざるをえねぇぜ!」
「ありがとうだべ」
伊代とまゆっち(松風)の称賛の声に笑顔でお礼を言うヨコヅナ。
「直江先輩もどうぞだべ」
大和にもちゃんこの入った器を渡す。
「ああ、ありがとう」
受け取ったちゃんこを大和も食べる。
「あ、美味しい……」
基本的に直江大和は計算高い人間だ、仮に味が好みでなかったとしても、後の利に繋がる場合や、場の空気を読んで美味しいと言ったりする。
だが、今はそんな他意などなく、美味しいと言葉が出た。
「……クマちゃんやまゆっちが褒めるわけだ。でも、これだと井ノ中はずっと鍋の前から離れられないんじゃないか?」
カセット式コンロで火を使ってる為、鍋の前に一人付いていなければならない。
でもヨコヅナはそれでも良かった。
「構わないだよ、みんなに美味しいと言って貰えてオラも嬉しいから」
「そうか」
ニコニコと本当に嬉しそうな笑顔で言われたら、大和も頷くしかない。
「それに今日は源義経先輩達の歓迎会だべしな」
「そうだな。俺ちょっと義経達呼んでくるよ」
ヨコヅナの言葉から義経達にも食べて欲しいのだと察した大和は、ちゃんこを食べながら、義経達を呼びに行った。
「……何か催促したみたいになっちまっただな…」
先輩をパシらせる感じになってしまってちょっと後悔するヨコヅナ。
「大和さんは察しが良いですからね」
「でも、それが利になると考えての行動だから、ヨコっちが気にすることないぜ!」
松風の言う通り、義経達に美味しいちゃんこ鍋を教える事を利と考えたこその大和の行動である。
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20話②
「料理部の皆さん、今日は美味しい料理を作ってくれてありがとう」
大和に薦められてやって来た義経は、そこに料理部員が集まってると知って改めお礼を言う。
部員達も「いいよ、いいよ」「やりたくてやったことだから」と笑顔で返す。
「ありがとね、美味しい料理ばかりで、川神水が止まらないよ、くぃ」
「確かに学生が作ったにしては高いレベルと言えるだろう」
弁慶と与一もそれぞれなりの感謝の言葉を言う。
「ちゃんこ、どうぞだべ」
義経にちゃんこを渡すヨコヅナ。
「ありがとう、ヨコヅナ君」
「オラの名前知ってるだか…」
「あ!すまない、馴れ馴れしかったな」
「いや、いいだよ、代わりにオラも義経先輩と呼んで良いだか?」
「もちろん、構わないぞ」
源先輩だと忠勝と被ると思っていたのでヨコヅナとしても助かる。
「二人もどうぞだべ」
弁慶と与一にもちゃんこを渡す。
「ごっつぁんです」
「そういや、力士が作る料理は全部ちゃんこと呼ぶらしい」
雑学を披露してから受け取る与一、
源氏トリオがちゃんこ鍋を口にする。
「……おぉ~、美味しいよヨコヅナ君」
「……これはこれは、美味しさのあまり川神水を飲む手が止まりそうだ」
「……確かに美味いな、ちゃんこ鍋屋を将来の夢に持つだけのことはある」
「口に合ったようで嬉しいだよ………でも何でオラの事知ってるだ?」
初対面なはずなのに、下の名で呼ばれたことや将来の夢を知ってる事を疑問に思うヨコヅナ。
「2-Sでヨコヅナ君のことが少し噂になったからな」
「2-Sで……?」
2-Sで噂になる理由が分からないヨコヅナ。
「私達は井上準と同じクラスなのだよ」
「井上準……?」
上食券100枚を貰ったハゲでロリコンの先輩は本名を名乗っていないので、井上準と言われてもヨコヅナには分からない。
「それと紋白からも話を聞いたからな」
「……あぁ、九鬼の…」
そこでようやく合点がいったヨコヅナ。
と、その時、
「フハハハハ!我、顕現である!」
噂をすれば何とやら、九鬼紋白が現れた。
「あ、呼びに行こうと思ってたべが、来てくれて良かっただ」
「思ってより早く機会が訪れたな」
前に会った時、ちゃんこを御馳走する約束をした事をお互いに覚えていた。
「いい匂いをさせてるな、さっそく一杯頂こうか」
「分かっただ」
「俺にも一杯頼むぞ」
紋白の傍には当然護衛であるヒュームも一緒にいる。
「よしと、どうぞだべ」
ちゃんこを二人に渡すヨコヅナ。
「うむ……出し汁は鶏がらか?」
「基本はそうだべ」
「野菜もしっかり入っていて彩もよいな」
紋白は目でも楽しんだ後、まずスープを、それから具材を口に入れる。
皆が注目している中、
「……ううっ!」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
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20話③
「……ううっ!」
胸に手をあて苦しそうに呻く紋白。
「え!紋白!?」
「おい、どうした?」
「大丈夫だか!?」
周りが心配する中、
「う、う…美味い!フハハハハ!」
苦しむ演技をやめて豪快に美味いと宣言する紋白。
「…なんだ冗談か」
「またベタなことを…」
「そういう冗談はやめて欲しいだな、ほんとのほんとに…」
普通の生徒であれば「はははっ」で済ますが、
「ふふふ、紋様は演技がお上手でいらっしゃいますね」
九鬼家従者部隊、序列3位 クラウディオ・ネエロ
「Fuck!騙されちまったぜ」
九鬼家従者部隊、序列15位 ステイシー・コナー
「紋様がこんな悪戯するとは珍しいですね」
九鬼家従者部隊、序列16位 李 静初
一瞬にして九鬼家の執事やメイドに囲まれたら、ヨコヅナでも全く笑えない。
「すまんすまん、一度やってみたくてな」
「俺が見ているのだ、もしもの事などあるわけないだろう」
ヒュームが目の前にいるのに、異物を混入させることなど不可能。
紋白に何も問題が無かったので、ヨコヅナを囲んでた従者達は解散する。
「でも、美味いと言ったのは演技ではないぞ。ヒュームはどうだ?」
「学園一年という事と、安価な材料で作ったことを加味すれば、十分美味いと言うに値するかと」
遠回しな言い方だが、ヒュームも美味しいと思っているようだった。
「辛口なヒュームに美味いと言わせるとは、将来の夢に向けて努力を惜しんでないようだな」
「ちゃんこは小さい頃から作ってたべからな」
「ふむ…モグモグ…」
紋白はちゃんこを食べながら、
「…しかし、「自分の店を持ちたい」ということは、ただの料理人になりたいわけではないのだな」
「そうだべ。他人が決めたルールの下で料理を作るのは疲れるだよ」
この場合の疲れるは、ストレスが溜まるという意味である。
「……言いたい事は分かるが、大手チェーン店が幅を利かす今の情勢で、個人店がやっていくのは厳しいぞ」
「元々簡単とは思ってないだよ」
ヨコヅナの表情は笑みではあるが、その言葉は真剣なモノだと読み取った紋白は、
「フハハハハ!面白い、賭けてみる価値はありそうだな」
「ん?何を賭けるだ?」
「詳しい事は日を改めて話そうではないか、来週月曜日の放課後は空いているか?」
「月曜日の放課後だべか……空いてるだよ」
「では我の為に空けておいてくれ、詳しい話をしようではないか」
「……分かっただ」
紋白の言いたい事はいまいち分からないが、悪い話でもなさそうなので分かったことにするヨコヅナだった。
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21話①
歓迎パーティーが終わった日の晩、
風間ファミリー一同は秘密基地に集まって二次会的なことをしていた。
東西交流戦や、義経達の転入、歓迎会、他にも色々あった一週間を振り返って話している。
「まゆっちは、今日のパーティーで友達出来た?」
という京の言葉に、
「紋ちゃんと番号交換を出来ました、それに一緒に料理をしたことで、料理部の人達とも仲良くなれました。今度川神の美味しい料理店を食べ歩きする話もあるんです」
と、嬉しそうに返す由紀恵、
「おーやるじゃん、料理部の食べ歩きって俺も参加したことあるけど、クマちゃんのおすすめの店だからハズレはないぜ!」
料理部の食べ歩きに参加したことある翔一。
「料理部の食べ歩きはヨコヅナ君が誘ってくれたおかげなんです」
「ヨコヅナってあの歓迎会でちゃんこ鍋作ってた人だよね」
話題が少しだけヨコヅナの事になる。
「あのちゃんこは美味しかったな、さすがRIKISHIの頂点YOKOZUNA」
「本名がヨコヅナらしいから、クリスの思う横綱とは違うけどね」
ドイツ人で力士を高く評価しているクリスティアーネ・フリードリヒに苦笑いでツッコミをいれる師岡卓也。
「でもほんと美味しかったね、私もっとお替りしたかったけど、義経達の歓迎会だから我慢したわ」
「偉いぞ~ワン子」
甘やかすように、一子の頭を撫でる川神百代。
「えへへ~……あ、それと、私朝のジョギングの時にそのヨコヅナ君と会う事があるんだけどね、今日聞いたら早朝に相撲の鍛錬してるんだって」
「そういや交流戦で大暴れしてた一年があのヨコヅナなんだよな」
「今日ニコニコとちゃんこ作ってた時とは大分印象違うね」
「まゆっちと同じで、普段と戦う時でスイッチを入れ替えるタイプかな。姉さんはどう思う?」
武神と呼ばれる百代に戦闘力的な部分を聞く大和。
「う~ん、私が見立てだと…格闘技術を身につけたガクトって感じの戦闘力だな」
「十分すぎるぐらい強いね」
マッチョなガクトは今のままでもかなり強い、さらに格闘技を身につければ、武士娘達とも渡り合えるだろう。
「でも……私はあまり惹かれないな」
「……つまり太った男は姉さんの好みじゃないと」
「ふふっ、それもあるかもしれないな」
百代の「惹かれない」の意味は、「戦いたいと思わない」という意味であるし、本当の理由は別にあるが、どうせ戦うなら太った男より美少女が良いので間違ってもいない。
「そうだ、それそれ!」
「ん?どれだガクト、何が食べたいんだ?」
「私のフライドチキンはあげないわよ、ガルルっ」
「警戒すんなワン子、食いモンの話じゃねえよ……いや、ある意味食いモンの話か…」
「どうしたガクト、バカみたいだぞ」
「みたい、じゃなくてバカだから心配することないよ」
「うるせぇ!、じゃなくて、俺様今日そのヨコヅナって一年を見て凄ぇ理論を導き出したんだ、みんなの意見を聞かせてくれ」
そう言ってみんなの注目を集めるガクト。
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21話②
「モモ先輩と一緒で普通の女子はデブが嫌いだよな」
「嫌いとまで言う女子は少ないだろうけど、日本では標準を大きく上回る肥満体型が恋愛対象としてマイナスという意見が多数だろうな。他の条件が全く同じとした場合だが」
ガクトの言い方が大雑把過ぎるので、大和が修正する。
「でもそのヨコヅナって一年はデブなのに、今日めっちゃ女子から人気あったんだ」
「……ヨコヅナ君は太って見えますけど、デブとは言えないと思います」
「ヨコっち、50m7秒切るんだぜ」
「ホント!?僕より全然早い」
「俺なんて、50m6.4秒だぜ!」
「私は…」
50m走の話になりそうなところを、
「話がズレてるぞオイ!」
ガクトが止める。
「すみませんガクトさん…でもヨコヅナ君は私の友達でして…」
「友達を見下すような言い方されちゃぁ、黙っていられねぇぜ」
「あ、それは俺様が悪かったまゆっち、……え~と、でも太って見えるのは否定しないよな」
「そうですね」
「でだ、クマちゃんも太ってるけど意外と女子に人気あるんだ」
「クマちゃんはスゲェ良い奴だからな」
「女子に人気と言うか男女問わずに慕われてるという言い方が正しいかな」
「ヨコヅナ君もクラスでは男女問わず話しかけられることが多いんですよ」
「そんな二人の太ってる以外の共通点は何だ?」
ガクトの言葉にクマちゃんとヨコヅナを思い浮かべたみんなは…
「「「「「「「「ニコニコ笑顔」」」」」」」」
「俺様もそう思うけど…」
ヨコヅナもクマちゃんも基本装備のようにニコニコ笑顔だ。
「もう一つあるだろあの二人の共通点」
今日の歓迎会で思いつたと言えば、
「料理だな」
「二人とも料理部なんだよね」
「クマちゃんなんて食のスペシャリストだし」
「そう!それだ!」
サムズアップするガクト。
「太ってるというマイナス要素のある二人でも料理が出来たら女子に人気なんだ。太ってるどころか、マッチョな俺様が料理出来たらモッテモテになると思わねぇか?」
これがガクトが導き出したんだ、凄ぇ理論である。
それに対する皆の反応は、
「…間違ってはないと思うぞ、モテ香水を買うよりずっと正しい方法と言える」
「うん、ネットでも料理男子は好印象ってあるね」
「料理が出来たら色々役だつと思うぜ」
「出来ないより出来た方が良いのは確かだな」
「チカリンも家事の出来る男の人が良いって言ってたよ」
「男女関係なく美味しい料理を作れるのは凄いと思うぞ」
「私で良ければ料理教えますよ」
「男料理なら激辛でしょ」
上から大和、モロ、キャップ、百代、ワン子、クリス、由紀恵、京の言葉だ。
皆、ガクトが料理を出来ようになることに反対するつもりはない。
「でも、ガクトが料理作ってモッテモテになれると思うか?と聞かれれば」
一周回って大和の質問に、
「「「「「「「「なれないと思う」」」」」」」」
「容赦ねぇなこのファミリー!」
「「「「「「「「ははははっ!」」」」」」」」
見事なはハモリとガクトの泣きツッコミに今日も笑いが絶えない風間ファミリーだった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
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22話①
日曜日の朝、場所は多馬川の河原で板垣家+1名が鍋を囲んでいた。
「なぁ、もう食っていいんじゃねえか?」
「この美味そうな匂い、増々腹が減って来るぜ」
「もうちょっと待つだよ」
我慢できないとばかりに鍋に箸を入れそうな、板垣天使と板垣竜兵を止め、
「前は飢えを凌ぐ為の鍋だったけど、今じゃ楽しみの一つだねェ」
「美味しいもんね~、ヨコヅナ君のちゃんこ鍋」
「河原でちゃんこってのも乙なものだべ」
板垣亜巳と板垣辰子の言葉にそう答える、板垣家の四人と一緒に鍋を囲んでいるもう一人はヨコヅナだった。
「良い感じに煮えただ、どうぞだべ」
ヨコヅナが出来たちゃんこを器によそい渡していく。
「モグモグっ、ふへぇ!ふへぇ!」
「ガブガブっほふほ、ふへぇな!」
「飲み込んでから喋りな……でもがっつきたくなるぐらい美味しいのは確かだね」
「そこら辺のモノで作ったとは思えないよね~」
「出汁とか仕込みが必要な材料はオラが持って来てるべからな。ここで食材を調達出来るみんなも凄いだよ」
辰子が言った「そこら辺のモノ」というのは比喩ではなく、生えてるキノコや野草、川で釣った魚などが主な鍋の具である。
「執事だかメイドだかが来て金を稼ぐ当てが潰されから、情けないぐらい金欠だ」
「……賭け試合もその影響でなくなったんだべよな」
「そうだよ……無敗記録更新中だったのに、残念だったねェ」
「それはどうでもいいだ、寧ろ捕まらなくて安堵してるだよ」
ヨコヅナと板垣家の交友のきっかけを簡単に説明するとこんな感じだ。
川神に来たばかりのヨコヅナ、知らずに治安の悪い親不幸通りへ、
↓
肩がぶつかったチンピラに絡まれる。
チンピラA「痛ってぇ~、折れたかもしれね~」
チンピラB「治療費払ってもらおうか」
ヨコヅナ「ぶつかって来たのはそっちだべ」
チンピラC「デカい図体してんのが悪いんだろうが!」
↓
金を出せと襲ってくるチンピラABCを返り討ちにするヨコヅナ。
↓
たまたま通りかかった板垣亜巳。
亜巳「やるねェ。いい儲け話があるんだけどどうだい?」
ヨコヅナ「儲け話だべか…」
↓
貧乏で世間知らずのヨコヅナは亜巳についていく。
↓
亜巳「簡単に言えば格闘試合だよ」
ヨコヅナ「試合に出ればお金が貰えるだか」
亜巳「試合に勝てばだよ」
ヨコヅナ「……まぁ、大丈夫だべかな」
あまり深く考えず試合に出場することを了承するヨコヅナ。
↓
観客A「大金賭けてんだ、負けんじゃねぇぞ!」
観客B「見ない顔だな、でもデカいだけだろうな。ここは手堅く賭けるか」
ヨコヅナ「大丈夫じゃない気がしてきただな……」
気づいた時にはすでに遅く、賭け試合の選手としてリングに立っていたヨコヅナ。
↓
リングに上がってくる対戦相手をバッタバッタとマットに沈めるヨコヅナ。
↓
相撲という喧嘩では珍しい戦い方で賭け試合が盛り上がり、大きく儲ける亜巳。
↓
亜巳から少なくないファイトマネーを貰うヨコヅナ。
「おかげで儲けたよ、コレ報酬だよ」
「でも、これって違法賭博じゃないだか?」
「もちろん違法さ……捕まりたくなかったら次回も来るんだよ」
「マジだべか!?」
以降ヨコヅナは、脅迫まがいながらもバイト感覚で賭け試合に通うようになり(選手としてであり賭けた事は一度もない)、板垣家の他の弟妹とも知り合いになる。
ほどなくして、九鬼家の治安強化により賭け試合が開催できなくなったので通う必要は無くなったが、大きな収入源がなくなった為、新しくバイトを探さなくてはいけなくなったのである。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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22話②
「そう言えば、釈迦堂さんは今日はいないんだべな?」
板垣三姉妹が師匠と呼ぶ釈迦堂刑部、前回鍋している時はフラっと現れたが今日はいない。
「師匠は今日バイトだよ~」
「師匠今、梅屋の店員やってんだぜ」
「梅屋の…店員………」
飲食チェーン店梅屋の店員と聞いて、凄い微妙な顔になるヨコヅナ。
「はははっ、そういう顔になる気持ちは分かるぜ」
「でも、賄い目当てで頑張ってるみたいだよ」
「……想像できないだな」
釈迦堂が接客とかしてる姿がまるで想像できないヨコヅナ。
「そう言うヨコヅナは新しいバイト見つかったのか?」
「代行業で力仕事なんかを斡旋してもらってるだ」
「料理店じゃないんだね~」
「厨房が広い店って中々なくて、オラの体を見ただけで面接で落とされるだよ」
「それは仕方ないねェ。将来開くちゃんこ鍋屋は広い厨房にしなよ」
「そうだべな…しっかり資金を貯めないといけないだな」
「店出したらウチも食いに行ってやるよ。金は払わねぇけどな」
「金払わないなら食べに来なくて良いだよ」
「そりゃそうだ」
「「「「「はははははっ」」」」」
普通に仲の良いヨコヅナと板垣家である。
「ふぅ~、食った、食った。ごっそさん」
「今日も美味かったぜ」
「ごちそうさま~」
「美味しかったよ、ごちそうさん」
「ごちそうさまだべ」
河原でのちゃんこ鍋パ?も終わり、洗い物が済んだところで、
「よっしゃ、ヨコヅナ。腹ごなしに俺と、ほぼ全裸で逞しい体をぶつけ合おうじゃねぇか!」
「変な言い方はやめるだよ」
「何も間違った言って事ねぇだろ」
「普通に手合わせって言えば良いだよ……まだ時間があるから、大丈夫だべかな」
一応説明しておくが、今言ってるのは
竜兵はガチホ〇だが、ヨコヅナにその
服を脱ぎ、褌一丁になるヨコヅナ。
「あははっ、ほぼ全裸って言われても否定できないよな」
「お尻丸出しだしね~」
「相撲はそういうもんだべ」
「相変わらず良い体してるねェ、鞭で叩きたくなるよ」
「鞭は本当に痛いからやめてくれだべ」
ヨコヅナはドMでもないので、亜巳に鞭で叩かれて喜んだりもしない。
「俺も脱ぐとするか」
竜兵も服を抜き、褌ではないもののボクサーパンツ一丁になる。
「いつも通り、勝者は敗者の体を好きに出来るってことで良いよな?」
「そんなルールを了承した覚え一度もないだよ!?」
勝ったところでヨコヅナに全く得がない。
何だ彼んだ言いながらも、向かい合うヨコヅナと竜平。
「うんじゃ、ウチが合図だしてやるよ」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
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22話③
「東~、ヨコヅナ~。西~竜兵~」
相撲っぽい言い回しをする天使だが、方角はまるであっていない。
「見合って見合って~」
ヨコヅナは相撲の手合の構えをとるが、竜兵は我流の立ち技形の構えだ。
「はっきよぉ~い…のこったぁっ!!」
本来、相撲に開始の合図はないのだが、そこはノリを合わせてヨコヅナはブチかましに動く。
その体格からは想像も出来ない程の速いブチかましに対して竜兵は、
「オラッ!」
フック気味に拳をヨコヅナの頬に喰らわせる。
唯のデブであれば、これで膝をつくだろうが、
ヨコヅナは唯のデブではない。
ブチかましの軌道は僅かにズレるも、肩で竜兵を吹っ飛ばす。
唯のチンピラであれば、これで倒れるだろうが、
竜平もまた、唯のチンピラではない。
後ろに飛ばされるも、しっかり両足で着地する。
「凄ぇ衝撃だぜっ!」
そう言いながらもダメージがないかのように即座に殴りかかる竜兵。
ヨコヅナも張り手で迎え撃つ。
両者が同時に相手の顔面に攻撃を叩き込む。
そこからは両者足を止めて、拳と掌での殴り合いになる。
「…やっぱてめぇは…最高だぜヨコヅナ…ハハハハっ!!」
殴り合いながら、野獣のように笑う竜兵。
「喋ってると…舌噛むだよ」
そう言うヨコヅナも、少しだけ楽しそうに笑みを浮かべている。
「あははっ!面白れぇ~!」
「よくやるねェ、避けようと思えば避けれるくせに…」
「まぁ~じゃれ合ってるだけだしね~」
ヨコヅナも竜平もその気になれば、攻撃を避けるなり受け流すなりすることは可能だ。
しかしこれは腹ごなしであり、傍から見れば壮絶な殴り合いだが、お互いにとってはじゃれ合いに過ぎない。
「くっ…」
「どうしたリュウ、ふらついてんぞ!」
「情けないねェ、しっかりしな」
「リュウちゃん、頑張れ~」
川神の不良達を暴力で取りしきる竜平、武術の心得がないのにそれが可能なのは天性の高い身体能力を有しているからであり、頑丈さも人並み以上だ。
そんな竜兵でもダメージが足にきだしたのに対して、
「止めたくなったら膝をついたらいいだよ」
まだまだ余裕のあるヨコヅナ。
力士の頑丈さは人並みとは比較にならない。そしてヨコヅナにおいては並みの力士以上、竜兵とは言え肉体の頑丈さを比べ合うには相手が悪すぎるのだ。
「なめんなっ!オラァっ!!」
挑発のような言葉に全力の蹴りを、ヨコヅナの出っ張った腹に叩きこむ。
「食べた直ぐ後だと、ちょっと苦しいだな」
傍からは全然苦しそうには見えず、蹴り足を下げられる前に瞬時に両手で掴むヨコヅナ。
「なっ!?」
そして回転するように、竜兵を振り回す。
「わ、お、おおい~!?」
「これで終わりだべ」
勢いをつけてハンマー投げのようにして、川に向けて放り投げる。
ボっしゃぁ~ん!!
「ヒャッハー、勝負ありだぜ!!」
「凄い飛んだね~」
「決まり手はジャイアントスイングになるのかねェ」
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22話④
川に放り込まれた竜兵は、
「……服脱いどいて正解だったな。……チっ」
じゃれ合いであったが少し悔しいそうな顔をする。
「また負けちまったか…」
賭け試合でもヨコヅナと竜兵は戦っている。壮絶な激闘の末、その時もリング外に投げ飛ばすという形でヨコヅナが勝利していた。
竜兵にとって、本来であれば腸が煮えかえるほど悔しい事実なのだが、今ヨコヅナと仲良くしているのは、全力を出し切っての敗北だったことと、ちゃんこが美味いからだろう。
「うっしゃ!次はウチと戦おうぜヨコヅナ」
「オラが女性を殴らない事を知ってるはずだべ」
ヨコヅナが賭け試合で連勝ではなく不敗なのは、女性が対戦相手の場合ダメージのある攻撃をせず、時間切れで引き分けになるからな。
「別に良いぜ、ウチが一方的に殴るからよ」
「何も良くないだよ」
天使との手合わせには応じず、服を着て荷物をまとめるヨコヅナ。
「なんだよ!もう帰るのか?」
「用事あるのかい?」
「さっき言った代行業のバイトがあるだよ」
今から一旦帰って準備すれば、丁度いい時間になる。
「そう言えば~、師匠がヨコヅナ君もまた稽古に参加しろって言ってたよ~」
「…嫌だべ、前回参加した時ボコボコにされただけだったべ」
「師匠との五分間手合わせで膝をつかなかっただけでも大したもんだよ」
板垣三姉妹に武術の師事をしている、釈迦堂刑部は元川神院師範代で壁越えの実力者。
成り行きで一度だけヨコヅナも稽古に参加した事があるのだが、特に技などを教えてもらうようなことはなく、手合わせでボコられただけだった。
ヨコヅナは荷物を背負い、
「それじゃ、オラは帰るだよ」
「おう!またちゃんこ鍋作ってくれよ」
「次は負けねぇからな」
「バイト頑張んなよ」
「まったね~」
板垣家に見送られ、ヨコヅナは帰路につく。
その日のバイトで忠勝と顔を合わせたおり、
「井ノ中…何か顔腫れてねぇか?ひょっとして喧嘩か?」
「軽く手合わせしただ、たいした事ないだよ」
ヨコヅナの顔は確かに腫れているが、言葉通りたいしたことはない。
だが、忠勝は訝しげな表情をする。
「……ちょっと小耳に挟んだんだが…」
そう前置きして、
「少し前まで親不幸通りで賭け試合が行われていたんだ。今はもう九鬼財閥のおかげでなくなったけどな」
「そうだべか」
「そこに褌一丁で力士のように戦う奴がいたそうだ」
「そうだべか」
「そいつは期間こそ短いが不敗だったらしい、でも試合であっても女性は殴らなかったそうだ」
「そうだべか」
ヨコヅナは隠し事が得意ではない。
「この春に地方から出てきた奴だろうって言われてたんだが、…井ノ中は何か知ってるか?」
「……オラは賭博は好きじゃないだよ」
嘘は言っていない。質問に対する答えにもなってないが…
「……フ、そうか。変な事聞いて悪かったな……ちょっと待ってろ」
しかし、忠勝は深く追求するような事はせず、
「ほらよ、変な事聞いた詫びだ」
冷えた缶ジュースをヨコヅナに渡す。
「ありがとうございますだ」
「腫れてるところに当てとけ」
「はははっ……源先輩ってほんと良い人だべな」
「勘違いすんなボケ。腫れた顔を依頼人に見られてたら俺が困るからだよ」
ほんとに良い人でほんとにツンデレである。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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23話①
月曜日の放課後、場所は川神学園の屋上。
ヨコヅナは約束した通り紋白と会って話をしていた。
「まずは本題に入る前に…すまないが、井ノ中ヨコヅナという人物について調べてさせて貰った」
「学長から聞いただか?」
「他にも、お前の実家や通っていた相撲部屋にもだ」
「そんな遠くに行かなくても、聞かれたら答えるだよ」
ヨコヅナに知られて困るようなことはない…
「本当か?親不幸通りでの賭け試合で、お前に似た褌一丁の男が戦っていたという情報も入ってきておるのだが…」
「何の事だか分からないべ…」
…こともない。
「フ、嘘の下手な赤子だな」
いつも通り紋白の傍にはヒュームがついている。
「フハハハハ、若気の至りの一つや二つ、九鬼は気にも止めん……それよりもだ、何故相撲を辞めた井ノ中ヨコヅナ」
ヨコヅナは相撲の稽古は続けている、この場合は何故角界に入らなかったのかという意味だ。
「調べたんじゃないんだか?」
「お前の口から直接聞きたい」
そう問いかける紋白には、小さいながらも王の風格があった。
「ちゃんこを作るのも、食べてもらって喜んでくれるのを見るのも好きだからだべ」
「それは、料理店を持とうと思った理由であろう。力士になってからちゃんこ鍋屋を開いても遅くはないし、その方が有利性は高い」
「……情報を集めたんならオラが、兄弟子を
「うむ、そしてその兄弟子は再起不能になったと言う事も聞いた」
九鬼家が集めた情報では、
稽古中にヨコヅナは兄弟子を再起不能になる程の大怪我をさせた。
相撲は危険な格闘技、本気で稽古をしていたらそういう事も起こりえる。
「誰もお前を咎めたりはしなかったが、お前は怪我させた事を気に病み、同じ事が今後も起こりえると危惧して相撲を辞めた」
実家や相撲部屋にまで行って聞いた、ヨコヅナの相撲を辞めた理由がそれだった。
「……付け加えるなら、相撲を続けたらオラも大怪我するかもと怖くなっただよ。元力士という肩書がある方が、ちゃんこ鍋屋を開くのに有利かもしれないだが、大怪我をするリスクの方が大きいと考えて相撲を辞めただよ」
相撲を辞める理由としては一応筋は通っている。
先ほどヒュームにも指摘された様にヨコヅナは嘘が下手だが、
「本当の事を言ってるようだな」
実際全て本当の事だから、嘘とも思われない。
「この話は終わりで良いだか。答えるとは言っただか、楽しい話題じゃないだよ」
「……最後にもう一つだけ答えよ?」
紋白はヨコヅナの目を真っすぐ見て問いかける。
「兄弟子が再起不能になったのは事故か?」
「故意だべ」
ヨコヅナは紋白の目を真っすぐ見返して即答した。
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23話②
ヨコヅナが再起不能にした、兄弟子は周りから「実力はあるが人としてのクズ」と言われるような男だった。
ある日ヨコヅナは偶然、その兄弟子が女性に乱暴してる場面を目撃し止めに入った。
その時は、少し揉めただけで済んだ…が次の日の稽古で、ヨコヅナと一番を取ったその兄弟子は再起不能の大怪我を負う。
これだけを聞けは事件性を考えるが、当時ヨコヅナはまだ角界に入ってすらおらず、兄弟子は番付が十両の実力ある力士。
その一番は誰がどう見ても反則などない相撲であり、その結果で格上の兄弟子が怪我をした。
だからこの件は事故として処理され、皆も事故だと言う。
ヨコヅナを除いて…
「オラは殺すぐらいの気概で相撲をとっただ、だからあれは故意だべ」
正直言えばヨコヅナは兄弟子を再起不能にしたことを大して気に病んでいない。「ちょっとやり過ぎただべかな」ぐらいは思っているが、同じことがあれば間違いなく同じようにする。
「プロを目指す格闘家、それも格上相手との試合であれば……まぁ今ので最後と言ったからな、相撲を辞めた話はこれで終わりだ」
「そもそも、この話し合いの目的は何なんだべ?」
まずは、と言う感じでヨコヅナの相撲を辞めた時の話をしていたが、根本となる話し合いの目的を聞いてない。
とは言え、ヨコヅナでも一応予想ぐらいはしていた。
将来店を持ちたいヨコヅナ + スカウトが趣味の九鬼紋白 + 料理を美味しいと褒めてもらった + 後日の話し合い = その心は
「将来ちゃんこ鍋屋と開きたいという、お前の夢を援助しても良いかと思ってな」
「じゃあ!資金を援助してくれるってことだべか?」
予想が合っていて嬉しそうなヨコヅナ。
「資金もだが……店を持つ為に経営などの勉強もしておるか?」
「え、あ~、勉強しようとは思っているんだべが…何から始めたら良いか分からなくて…」
つまりやってないという事である。
「苦手な勉強は後回しにしているということか」
「そのままズルズル勉強せず三年が過ぎ、碌に経営の知識もないまま行き当たりばったりで店を開いて、潰れて多大な借金を背負う、そんな赤子の未来が容易に想像できるな」
「……嫌な想像だべな」
ヒュームは言うのであれば、もはや未来予知の域にある想像だ。
「そうならぬよう。知識面でも援助してやろうと思っておる」
「おぉ!それはほんと助かるだ!……でもそんなことまでしてもらって良いんだべか?」
「無論タダではないし、援助の話も確定ではない」
紋白はまだ、援助をしても良いかと
「お前には九鬼に雇われてもらう、言わば査定じゃな」
今日の話の本題と言うのであればこれになる。
「……オラがほんとに援助するに値するか雇って確かめるわけだべか」
「もちろん給金は払う。生活費の心配はしなくてよいぞ」
ヨコヅナの経済状況を分かっている紋白、九鬼で雇う以上そんな心配をさせる気はない。
「俺からも言っておくが、仕事の内容は赤子の得意分野ばかりだと思うなよ。九鬼家に雇われる以上、どんな業務であろうとやってもらう」
「だがそれもお前の為だ。店主つまり経営者として成功するには様々な経験をしておくべきだ。時間の無駄になるような仕事はない」
そう言って紋白はヨコヅナに手を差し伸ばす。
「さぁどうする井ノ中ヨコヅナ! 将来の夢の為、九鬼に雇われるか?」
➡ 『九鬼に雇われる』
『お断りする』
選択肢のようなものが出ているが、断る理由を探す方が難しい。
強いて言えば、まだ正式な契約書があるわけではないと言う部分だが、逆に言えば正式な契約の時に嫌なら断れると言う事だ。。
ヨコヅナは迷うこともなく、紋白の手を取る。
「宜しくお願いしますだ、紋様」
「うむ。これから宜しくな、ヨコ」
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24話
火曜日の昼休み、1-Cの教室
ヨコヅナは由紀恵と伊予と昼食を食べながら、
「という話が合って九鬼財閥に雇われることになった」
話題は昨日の放課後の紋白との話し合いだ。
「認めてもらえたら、将来のちゃんこ鍋屋の資金援助してもらえるんですか、良かったですね」
「話し合いの内容が学生の域を逸脱してるけど……相手は九鬼だし、気にすることじゃないか」
料理店を出す為の資産援助の話し合いとか、確かに学生のする話し合いではないが、相手が九鬼である時点でそんなことは些細な事だ。
「でもヨコヅナ君、源先輩の代行業のバイトはどうするんですか?、辞めるんですか?」
「いや、いきなり辞めたりしたら迷惑かかるだよ。源先輩とは昨日の晩に電話で話して、元々シフト制だから、入れる日数は減らしていくだがしばらくは続けるべ、紋様にも許可貰ってるだ」
お金がない時に助けて貰った恩もあるので、辞めるにしても直ぐにというのは道理が通らない。それについてはヨコヅナと紋白、双方の考えは一致している。
「源兄貴だったら「てめぇ一人いなくなったところで何も問題ねぇよ。さっさと辞めて、将来の夢の為に尽力しやがれ!」とか言いそうだな」
「ははは…」
空笑いをするヨコヅナ。電話でまんま同じセリフを忠勝に言われたからだ。馬のストラップにすら見抜かれるほどのツンデレ。
「ところで、ヨコヅナ君今日のお昼、サンドイッチなんだね」
「珍しいですね」
お昼にサンドイッチという定番のメニューが、相撲とちゃんこ鍋のイメージが強すぎて、ヨコヅナが持ってくると違和感がある。
「昨日「得意な事以外も学修しておけ」と、怖い老執事に言われたから挑戦してみただ」
ヒュームが言ったのは、得意料理以外という意味ではない。
「今日も交換しませんか。私はピーマンの肉詰めとチーかまを出します」
「良いだよ」
「私はコンビニのおにぎり、何だけど…」
「良いだよ。カツサンドとBLTEサンドどっちが良いだ?」
「E?…卵焼きが入ってるんだ」
「彩も奇麗ですね。私はBLTEサンドを」
「私は…カツサンドにしよっかな」
因みにヨコヅナのサンドイッチの一個は、具材を食パン二枚で挟んで、四分割したモノだ。
「あ、ミルフィーユカツだ。美味しい!」
「BLTEサンドも美味しいです。ただ…」
「感想は遠慮なく言ってくれて良いだよ、まゆっち」
「はい。食材そのものの話になりますが、気になるのはトマトですね」
「オラもそう思うだ。トマトは少し高いやつを買う必要があるだな……あとマヨネーズは次の時は自分で作ってみるだべかな」
「マヨネーズまで自分で作ろうとか思うんだ!?」
「作るだけなら簡単ですよ、でも市販のモノより美味しいとなると難しいですが…」
「どっかに美味しいマヨネーズを作れる料理人いないだかな…」
残念ながら特別なマヨネーズを作れる、ちゃんこ鍋屋に勤める元宮廷料理人はこの世界にはいない。
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25話
昼休み、飯を食べ終わったヨコヅナには日課がある。
それは昼寝だ。場所は花壇広場だったり屋上だったりその時の気分による。
以前昼休みに紋白達がクラスにやって来た時、ヨコヅナが時間を潰されるのを嫌がっていたのはこれが理由である。
その日は花壇広場の脇にあるベンチで昼寝をしていた。
キーコーカーコーンと予鈴の鐘で、ヨコヅナの意識が目覚めると、
「ふぁ~。……ん?」
お腹に何かが乗ってる事に気づく。
「ヨコ、予鈴がなったぞ、早く起きよ。ペシペシ」
そう言ってお腹に乗りながらヨコヅナの顔を叩くのは…
「紋様、そんなところで何してるだ?」
つい先日雇い主になった紋白だった。
「我は清楚と話をしにな。座ろうと思ったらデカい図体でベンチを占領する奴がいるから、仕方なく上に座ったのだ」
「ベンチは他にもあるだよ」
花壇広場にはベンチが多く設置してあり、昼寝も許可されているからヨコヅナも昼寝場の一つにしているのだ。
「紋ちゃんがお腹に乗っても起きないなんて凄いね」
そう言ったのは葉桜清楚。よく花壇の水やりをしているのでヨコヅナとは顔見知りである。
「紋様は軽いべからな」
ヨコヅナは紋白が落ちないように抱えつつ、立ち上がり紋白を自分の肩へと乗せる。
「おぉっ!フハハハハ、これは良い眺めだ」
「じゃあ、このまま教室にもどりますだよ」
起きてすぐはタメ口だったが雇われる身の為、敬語っぽい口調になるヨコヅナ。
「うむ、行けいヨコ。フハハハハ」
「紋様を落としたら、命も落とすと思え赤子」
ヒュームが一瞬で現れて、怖い事だけ言って一瞬で消える。
「気をつけますだ…」
紋白を乗せながらでも、全く揺らぐことなく普段通りの歩みを進めるヨコヅナ。
「そう言えば井ノ中君、九鬼に雇われることになったんだってね」
「そうだべ。葉桜先輩も九鬼の関係者だったべな」
「そうだよ。これから宜しくね」
「よろしくだべ。まぁでも具体的に何するかは、まだ決まってないんだべがな」
仕事の時に清楚と関わることはあるのだろうかと、ヨコヅナが思っていると…
「いや、ヨコの初出勤日と初業務は決まったぞ」
「決まったですだか…」
「うむ。今度の三連休。泊まり込みになるが、衣食住含め必要なものは全てこちらで用意するから手ぶらでも構わん」
「分かりました。それで何するんですだ?」
「世間一般で言うところの社員研修だな」
新しく雇うヨコヅナに研修を行う、普通の事ではあるが、
「あれ、……今度の三連休で行われる研修って…」
「うむ、九鬼家従者部隊の研修だ」
九鬼家自体が普通ではない。
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26話
昨日投稿し忘れたので、今日は二話投稿します。
九鬼家研修、一日目。
「オラっ!、チンタラ走ってんじゃんねぇ糞虫共が!」
「遅ぇ奴は、ケツに弾ぶち込むぞコラ!」
武器を持った怖いメイド達の罵詈雑言が飛び交う。
その罵倒を受けながら、重い丸太を担いで大勢の九鬼の社員達が山道を走る。
行われているのは九鬼財閥の社員研修。正確には九鬼家従者部隊の補欠、または序列下位で未熟な者が参加する研修だ。
同じように丸太を担いで走っているヨコヅナは、
「なんでオラ、こんなとこにいるだ?」
そう呟くが「それはヨコが九鬼家に雇われることになって研修に参加しているからじゃろ」とツッコんでくれる八大魔将はこの世界にはいない。
「コラァ!何無駄口叩いてんだデブ、玉スリ潰すぞ!」
「紋様からお前も遠慮なくシゴケと言われてるからな!学生だからって優しくして貰えるなんて思うなよ」ガチャ、ダッダッダッ
ヨコヅナの足元にゴム弾が撃ち込まれる。
「……とりあえず、頑張るしかないだな」
ヨコヅナは九鬼家従者部隊に入りたいわけではないが、査定すると言われている以上、課せられた業務は行う以外に選択肢はない。
「……あのヨコヅナとかいうガキ、意外とついて行けてんな。デブのくせに…」
「出身地は田舎で山育ちらしいからな。それにパワー重視に鍛えられた体、丸太を担いでの山道と言うのが逆について行ける理由になってんだろうな」
ステイシーの疑問にあずみが推測を交えて答える。
あずみの言う通り、これが平面でただ走るだけならドべ集団と一緒に走ってるだろうが、ヨコヅナは順位的にほぼ真ん中を走っていた。
「ノロノロ最後尾走ってたら、あのでけぇケツに弾撃ち込んでやろうと思ったのによ、ファック!」
「それはさすがにパワハラになるからやめとけ」
パワハラを言うのであれば、今の時点でも一般ではアウトだが、九鬼従者部隊は軍人基準だからセーフ。
丸太を担いでの走り込みが終わった後も、軍隊式研修は続く。
泥まみれになりながらの匍匐前進。
「てめぇ等みたいなウジ虫は、地べたを這いつくばってんのがお似合いなんだよ!」
「腹がこすれて痛いだな」
ロープを使っての崖上り。
「さっさと登れやカス!、ほんとにケツに弾ぶち込むぞ」ダッ!ダッ!ダッ!
「ロープが切れそうで怖いだな」
最初に言ったように参加しているのは従者部隊の補欠や未熟な者、つまり部隊に入りたい者達や、序列位をあげたい者達だ。
「オラは九鬼家従者部隊に入りたいわけじゃないんだべが…」
それを言っても、
「だから、無駄口叩いてんじゃんねぇつってんだろうが、その出っ張った腹そぎ落とすぞコラ!」
加減してくれるような優しい人はここにはいない。
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27話
九鬼家研修、二日目
ヨコヅナは早朝にいつも通り相撲の鍛錬をしていた。
三日間泊まりこみで研修だが、拘束されるのは約八時間、他に食事や風呂の時間は決まっているが、それ以外は基本は自由だ。
宿舎の近くだと迷惑になるので、離れた場所で四股を踏んでいたヨコヅナに、
「昨日あんだけシゴいてやったのに、自主鍛錬たぁ可愛げのねぇガキだな」
忍足あずみが話しかけてきた。
「おはようございますだ。忍足先輩」
「おはようさん」
「業務時間外だから、稽古しながらでも良いだか?」
「ああ、いいぜ」
ズッド~ン!!
「……お前疲れ残って無いのか?」
地を揺らす程の四股を踏む力強さに思わずそう聞いてしまうあずみ。
「疲れはそんなに…でもお腹が擦り傷で痛いだよ」
ヨコヅナは前日の匍匐前進でお腹が擦れすぎて今は包帯を巻いている。
「あんなに匍匐前進下手な奴、アタイ初めて見たぜ」
「オラはずっと倒れない鍛錬をしてきただよ、伏して動くのが下手なのは当然だべ」
「ははは、そいつは言えてるな…でも、疲れは残ってねぇわけか」
「後半はちゃんこ番だったべからな」
軍隊式は前半の4時間で後半の4時間は夕飯のカレーを作っていたヨコヅナ。
「あの多人数の料理だ、それなりに重労働だろ」
「料理は得意なんだべ、聞いてないだか?」
「聞いてるよ……九鬼家従者部隊に入りたいわけじゃないんだよな」
「そうだべ」
「じゃあ何でお前、この研修受けてんだ?」
「それはオラが聞きたいだよ!?」
思わず四股を踏むのを止めるヨコヅナ。
「ははは、冗談だ。この研修は心身ともに疲れ切った後、通常業務を通常通りこなすってのか基本的な目的だ」
「あぁ~、分からなくもないだな。……それまでに脱落してた人もいただべが…」
心身が疲れ過ぎて、昨日の前半ですでに脱落した者もいる。
「そんな奴はほっとけ、それだけの存在だ」
「オラが脱落してたら、援助の話はなくなっただか?」
「そうかもしれねぇな~……どうするかは紋様が決めることだがな」
何でも彼んでも教えるつもりはないあずみ。
「今日と明日も似た感じだ、その調子なら乗り切れるだろ。アタイは用事あるから戻ってくんのは明日の夕方だけどな」
「忍足先輩はいなくなるんだべか……」
「楽になりそうとか考えてんなら甘ぇぞ。ヒューム卿が様子見に来るって言ってるからよ」
「それはしんどそうだべな…」
ヒュームのシゴキとか考えるだけでも疲れる。
「あと、ステイシーもお前のでかいケツに弾撃ち込みたいって言ってたから気つけろよ」
「…オラも脱落した方が良い気がしてきただな」
「早朝に自主鍛錬してる奴が何言ってやがる」
「日課だべからな」
そう言ってヨコヅナは鍛錬を再開する。
「……ヒューム卿が研修参加を許可するわけだ」
それを真剣な目で見つめるあずみ。
その日の研修では、
「ジェノサイドショット!…どうした赤子ども、早く上がってこい」
「オラオラ!、ビビってんじゃねぇぞ、ウジ虫共が!!」ダッダッダッ
丸太を担ぎながら山の斜面を登る際に、上からはヒュームの繰り出す衝撃破が、下からはステイシーの撃ちだすゴム弾が飛んでくるなど、ハードモードの研修が行われた。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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28話
九鬼家研修三日目
「ようしっ!、これで研修三日目も終わりだ。今日よりお前らはウジ虫を卒業!これからはロックなウジ虫だ!!」
「…ウジ虫なのは変わらないんだべな」
業務終了時間になり、脱落してない全員が集合している。
全員と言っても…
「見てない間に随分と数が減ったなぁオイ」
用事を終えて戻って来たあずみは呆れたような声を出すがそれも仕方ない。
「まったく!最近の赤子共は情けない」
「寧ろよく6人も残ったと私は思うぜ」
二日目からのヒューム式ハードモード研修により、脱落者が続出。
残っているのはヨコヅナを含めてたったの6人、参加人数の十分の一以下だ。
「バイトの学生ですら残っているのだぞ」
「そう言って、若手達に危機感を持たせるのが狙いだろうに…」
九鬼家の従者部隊の研修に参加しているが、ヨコヅナは学生なのでアルバイト契約である。
「フハハハハ、我、顕現である!」
最終日の終了時に現れた紋白は、
「最後まで残ったようだなヨコ……とうっ!」
来て早々ヨコヅナの肩に飛び乗る。
「っと……紋様、こんなところまで来たんですだか?」
「うむ、ヨコが脱落したらその時点で会うつもりだったのだが、連絡が来なくて待ちくたびれたぞ」
「脱落したら、援助の話は無くなるかと思って頑張っただよ」
「マイナス評価にはなるが、脱落しても一発アウトにするつもりはなかったぞ。軍隊式のやり方が合わない者もいるからな」
「そもそもなんでオラは従者部隊の研修に参加させられたんですだ?」
「理由の一つは、根性試し。将来に夢に賭ける思いを測ろうと思ってな……だがヨコを測るには物差しが短かったかな」
紋白が見るにヨコヅナは疲れてはいるが、まだ余裕がありそうだ。他の残った参加者5人はもう立ってもいられないとばかりに、座り込んでいる。
「そんなことないだよ……オラも大変だったべ。特に二日目後半のデータ入力」
「データ入力?……」
研修の一日の後半に行われる通常業務はローテーションで、ヨコヅナが行った通常業務は、一日目飯炊き、二日目パソコン使ってのデータ入力。三日目は電化製品の簡単な組立作業。
「オラはパソコン苦手だから苦労しただよ」
「………フハハハハ、パソコン技能は経営者には必須だから、しっかり身につけるのだぞ」
ヒュームのシゴキよりもデータ入力が大変だったと言うヨコヅナに対して楽しそうに笑う紋白。
「……さっき、一つは根性、と言っただが他にもあるだか?」
「うむ……ヨコは土木工事のバイトで暴力事件を起こしてクビになっておるだろ」
「それも知ってるだか…」
ヨコヅナは代行業のバイトをする前、賭け試合の稼ぎだけでは足らないので、土木工事のバイトもしていた。
「女性にセクハラしてた上司を軽く張り飛ばしたら、クビになって治療費請求されただ」
一話でヨコヅナが「急遽お金が必要になっただよ」と言っていたのはこれが原因である。
「女性を助けようとする心意気は買うが、カッとなって暴力を振るうのは駄目だぞ」
口ではそう言っている紋白だが、今回の研修で罵詈雑言を受けたり、無慈悲にシゴかれたりしても、暴力を振るわないことは確認できたので、問題視する必要はないと判断している。
「……九鬼家の使用人はオラ以上に暴力的だと思うだよ」
ヨコヅナのそんな皮肉めいた言葉に、
「聞こえてんぞデブ」ダンッ
「痛っ……」
ステイシーの銃から放たれたゴム弾がヨコヅナの尻に撃ち込まれる。
「九鬼の暴力は計算されているので問題ないのだ」
「今オラが撃たれたのも計算されてるだか!?」
こんな感じでヨコヅナの三日間の九鬼家研修は終わりとなった。
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ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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29話
「そんな感じで、大変な三日間だっただよ」
九鬼家の研修を終えた翌日、昼休みにヨコヅナは学園の食堂で、
「さすが世界の九鬼財閥ですね」
「社員満足度が高いって聞いてるけど、やっぱり厳しんだね」
「学園に現れる執事やメイドを見れば、普通でない事ぐらい分かるじゃろ」
由紀恵、伊予、さらに不死川心を含めた4人で昼食をとっていた。
「三人はスタンプラリーに参加してたんだべな」
「はい、そのおかげで不死川先輩とお友達になれました」
「う、うむ。まぁ、そうじゃな、言葉にするとむず痒いが…」
「私はまゆっちの応援で参加はしてないけどね」
ヨコヅナが研修を受けていた三連休に川神スタンプラリーが開催され、参加した二人はトップ争いをしたそうだ。
由紀恵は2位、心は3位。その後、心が欲しかったスタンプラリーの景品を由紀恵が分けてあげたのがきっかけで、友達になったそうだ。
「1位は忍足先輩だべか。用事ってスタンプラリーの事だったんだべな…」
「にょほほほ、1位の景品が市長の胸像と知った時の九鬼の顔は見ものじゃったの」
「あのサプライズは驚きでしたね」
「関係あるか分からないけど、あの日の晩から市長が入院したんだって」
入院した市長はうわ言で、「メイドが…メイドが…」と呟いているらしい。
「それにしても、あの不死川先輩と昼食を一緒にする日が来るとは思わなかっただな…」
「……此方のこと覚えておるのか?」
「事前に、「不死川家のお嬢様が見学に来る」ってみんな騒いでたから印象に残ってるだよ」
「ヨコヅナ君と不死川先輩はお知り合いだったんですか?」
昔通ってた相撲部屋に、心が見学に来たことがあるのを説明するヨコヅナ。
「学園でも先輩は目立ってたべから、すぐ思い出しただよ」
「にょほほほ、此方の高貴な雰囲気は否応なしに目立ってしまうからの」
「着物だからだと、九十九神は推理するんだぜ」
「それだけではありませんよ松風。やっぱり不死川先輩の醸し出す雰囲気は他の人とは違います」
「そうじゃろ、にょほほほ」
「不死川先輩がお勧めの食堂のうどんも美味しいしね」
「ほんと美味いだな。食堂はあまり来ないから知らなかっただ」
「普段は蕎麦ですが、私も今日はうどんです」
「まゆっちは場の空気を読めるんだぜ!」
「でも不死川先輩が言う通りとても美味しいです」
「そうじゃろ、そうじゃろ、にょほほほ。今日は此方の奢りじゃ、たんと食べるがよい」
先輩と呼ばれ、後輩によいしょされて、心はとても上機嫌だ。
御三家の一つである不死川家の娘であり、着物と高慢な性格なので一年生から近づき難い先輩と思われているが、
「今後も困った事があれば、此方に頼って良いぞ。にょほほほ!」
寧ろチョロい先輩であった。
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30話
ズドーンと、四股の踏む音が森に響き渡る。
ヨコヅナが早朝にいつものように、相撲の鍛錬を行っていると、
「もうはじめておったか、おはようヨコ」
「感心な赤子だと、評価してやろう」
「あれ、紋様にヒュームさん……おはようございますだ」
突然現れた、紋白とヒュームに驚きながらも挨拶するヨコヅナ。
「こんな朝早くにどうしましただ?」
「うむ、ヨコが普段どんな稽古をしているのか直に見たくなってな。我の事は気にせず続けよ」
「?…面白いものでもないと思うだが」
首を傾げつつも、気にしなくても良いと言うのであれば、稽古を続けるヨコヅナ。
足の裏が天に向くほど高々と上げ、四股を踏む。
ズドーン、ズドーン
巨大な岩を抱えながら、すり足。
ザッザッザッザッ
大木に向かて、左右交互に張り手
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ
一回一回、手合の構えから、大木に向けて渾身のブチかまし。
ドッーン、ドッーン
「ふむ……。ヨコ、毎日これだけの稽古を行っておるのか」
「そうだべ。日課みたいな、ものですだ」
ヨコヅナが相手を想定しての投げ技を練習をしながら、紋白の質問に答える。
「研修の詳細を聞いて驚いたが……なるほどの」
何かを納得する紋白。
「おい、赤子。一人稽古だけでは物足りないだろう、俺が相手をしてやる」
「……お断りしますだ」
とても嫌そうな顔をして、ヒュームの申し入れを断るヨコヅナ。
「俺が稽古をつけてやると言っているのに断るとは随分だな赤子」
「絶対この間の、ジェノ…なんとかかんとか、って技を使う気だべ。あれ凄く痛いだよ、研修に参加してた人達が何人も病院送りになってただよ」
「貴様も病院送りになりたくなかったら、俺のジェノサイドチェーンソーを喰らえ」
「言ってる事が支離滅裂だべ!?」
「フハハハハ、ヒュームは下がっておれ」
紋白はヒュームを下がらせ、
「我なら一撃入れても良いだろ、ヨコ」
そう言ってヨコヅナの前にたつ。
「…何故オラが攻撃されるのかが分からないだべが……まぁ腹に一撃ぐらいならいいだよ」
「フハハハハ、その立派な腹は、最も自信がある箇所でもあるのだな……よし、ではいくぞ」
紋白は一撃を入れる為に構えを取り、
「セイッ!」
ヨコヅナの腹に向けて、渾身の拳を突き出す。ボムンっ!
「……予想以上の衝撃だべな」
紋白の小柄な体格からの予想以上の衝撃に驚くヨコヅナ。が、逆に言えば驚いただけであり…
「むぅ~…全然効いてるようには見えぬの」
紋白の武術は護身の域は出ないが、それでも打撃にセンスがあると言われていたので、悔しそうにしている。
「では次は俺の番だな赤子」
「ヒュームさんの番なんてないだよ」
「……ヒュームの相手はともかくとしてだ、一人稽古だけではやはり物足りぬだろ。どうだ九鬼の訓練に参加しないか?」
「オラが鍛錬しているのは体が鈍らないようにする為ですだ。そんなオラが訓練に参加したら迷惑になるだよ」
以前、鉄心に川神院の稽古に誘された時と、同じように事を言うヨコヅナ。
「でも、研修では格闘訓練も行っていたであろ…」
「あれは、業務だからですだ」
「では、業務であれば訓練に参加するのだな」
「……ヒュームさんみたいな、大怪我しそうな人の相手はしなくて良いなら参加するですだ」
とことんヒュームとの手合わせは避けるヨコヅナ。それも仕方ない、ヒューム相手ではヨコヅナでも怪我する可能性は低くない。
「そうかそうか、では今後そういう業務もあるかもと思っておいてくれ」
「分かりましただ」
「では、学校に遅刻しないよう戻るぞ、ヒューム」
「今日の所はこれで下がってやる赤子。正式に訓練に参加するときは覚悟しておけ」
「また学校でなヨコ」
そんな感じで紋白とヒュームは帰っていった。
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31話
川神学園の放課後、
「我が学園の優秀な生徒をスカウトをしているのは知っているな、ヨコ」
「まぁ、オラもスカウトされた身ですべからな」
ヨコヅナは紋白を肩に乗せながら廊下を歩いていた。
因みに後ろから、
「お供いたします紋様」
「紋様、乗るのでしたらどうか俺に、俺の肩に…」
ムサコッスと準もついて来ている。
「ついて来るのは良いが騒ぐなよムサコッス」
「分かりました紋様」(私ってそんなに騒がしいかな?…」
「井上、お前の肩では狭いし安定もしなさそうだ」
「では四つん這いになりますので、どうか背中にお乗りください!」
「乗らぬ、我は雇っていない相手に乗ったりせぬ」
「ぐっ……九鬼に雇われれば紋様に乗ってもらえる……でも、俺には若の葵紋病院が……畜生俺はどうすればいいんだ~」
悩むロリコンは放っておいて、
「話を戻すが、ヨコは良い人材を知らないか?」
「……オラが紹介出来るとしたら……まゆっちは前に勧誘してましただな」
「うむ、答えは保留だがな……一年はだいたいスカウトし終わった」
「上級生だべか……それなら熊飼先輩ですだな」
「料理部の熊飼満にはもう声をかけたぞ。食のスペシャリストという噂も聞いていたからな」
「熊飼先輩も勧誘済みだべか……他に紹介できる先輩だと…」
「それで何で俺のところに来んだよ、ボケ」
ヨコヅナが紹介したのは忠勝だった。
「こんな感じで口は悪いだが、源先輩は良い人だべ」
「うむ、源忠勝は我も気になっていた。宇佐美代行業を辞めて九鬼に来る気はないか?」
「ねぇよ。スカウトなら他をあたれ」
当然忠勝はスカウトを断る。
「源先輩はツンデレだべから、素直には応じないだよ」
「誰がツンデレだ、殺すぞ」
「金で簡単に動く男にも見えぬしの」
「九鬼財閥なら、宇佐美代行業ごと買い取るとか出来るんじゃないだか…」
「フハハハハ、余裕で出来るぞ」
「何堂々と乗っ取る話をしてんだ、コラ」
目の前で会社の乗っ取りの話をする二人に、怒鳴る忠勝。
「俺の事より、井ノ中はさっさとウチを辞めて、九鬼の仕事に専念しやがれ。お前の夢を叶えるにはそれが正しい事なんだよ」
「こんな感じで、人手が足らなくて苦労することは分かってるのに、後輩の夢を応援してくれる良い先輩なんだべ」
「勘違いすんじゃね。お前のちゃんこ鍋の味を見込んでるから言ってやってんだよ」
忠勝も歓迎会の時にヨコヅナのちゃんこ鍋を食べたからこその発言だが、もはやツンデレのツンの部分が無い。
「うむ……今すぐ、決める必要はない、名刺を渡しておくぞ」
「いらねぇよ。九鬼に雇われる気はねぇつっんてんだろ」
「まぁまぁ、このご時世、会社が潰れることも少なくないだよ」
「ウチは潰れねぇよ。余計なお世話だ」
「分からんぞ。突然、宇佐美代行業の隣に九鬼代行業が出来るかもしれぬしな」
「お前が潰す気じゃねぇか!」
「何かあったらいつでも連絡してくるが良い。行くぞヨコ、とう、フハハハハ」
紋白は押し付けるような形で名刺を渡し、ヨコヅナの肩に飛び乗って笑いながら忠勝の前から去っていった。
「
スカウトと称していたが、ヨコヅナの件は宇佐美代行業から九鬼財閥が人材を引抜くようなものなので、その詫びもふくまれていることを、忠勝はちゃんと分かっていた。
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ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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32話①
場所は九鬼のビル
「久しぶりだな。家族が集合するのは」
「帝様が忙しすぎるのです。もう少し部下に任せては…」
九鬼帝が帰ってきたので、局、揚羽、英雄、紋白は家族団欒で食事をしていた。
帝が子供達に成長したなと声をかけていく。
そんな家族の会話の中で、
「紋も異性の執事をつけて囲って構わないぞ。男を喰らいより力をつけろってやつだな」
帝のそんな豪胆な発言も飛び出す。
「我は小十郎を喰らってなどおりません」
「我も、あずみに手を出しておりません」
従者を喰らう発言に、揚羽や英雄が異議を言って、少し話がズレる間に……
(……異性の執事か……あ!)
紋白の頭に最近雇った同級生が浮かぶ。
「父上、付けるのは既存の従者部隊からでなくても宜しいですか?」
「おっ、あえて従者部隊以外を選ぶとは面白いな。どいつだ?」
「井ノ中ヨコヅナと言いまして、我と同じ学園一年生なのですが、最近アルバイトとして雇いました」
「…さすがにバイトじゃ俺のところに……いや、待てよ。この間の研修を最後まで残ったっていう学生か?」
「父上もご存じでしたか!根性試しに参加させたら最後までやり遂げました」
「そうか。……まぁ、俺が聞いてたのは、ヒュームがやらかしたって話をだがな……ヒューム」
名前を呼ばれて、シュタッ、とヒュームが帝の後ろに現れる。
「お呼びでしょうか帝様」
「お呼びだよ、さらに、激おこぷんぷん丸だぞ俺は」
口ではそう言っているが、帝は楽しそうに笑っている。
「年甲斐もなく張り切って、研修を滅茶苦茶にしたそうじゃねえか、弁明はあるか?」
「弁明も何も、滅茶苦茶になどしていません」
「百人近い参加者で、最後まで残ったのがたった6人だってのにか?いつもは少なくても半分は残るだろ」
「帝様もお聞きになった通り、学生のバイトですら残っているのです。脱落したのが、根性のない赤子共だった。と言う事であります」
自分の非を認めようとしないヒューム。
「ははっ!じゅあ証人に聞いてみようじゃねえか。あずみ、ステイシー」
「「はっ、帝様」」
名前を呼ばれて、あずみとステイシーも現れる。
「二人も研修の監督官だったんだろ。説明頼む」
「「畏まりました」」
まず、あずみが一歩前に出る。
「私が監督を務めていました一日目では脱落者は2名、この時点では優秀な方だと評価しておりました。二日目からは私は別の業務の為、ヒューム卿と交代して一時離れましたので続きはステイシーから」
入れ替わるようにステイシーが前に出る。
「ヒューム卿は研修で、
丸太を担いで斜面を登る相手に上から衝撃波を当て叩き落とし。
泥の中を匍匐前進している相手の背中に飛び乗って、頭を踏みつけ。
勝手にメニューを格闘訓練に変更して、一人一人にジェノサイドチェーンソー。
控えめに申しましても……鬼畜の所業です」
鬼畜とまで称するステイシーだが誰も否定しない。
「って言ってるが、違ってる部分はあるかヒューム?」
「………まぁ、
「
「ぐっ…」
いつも偉そうに説教するヒュームが厳罰されるのを見て、
「よっしゃ!」
隠すように小さくガッツポーズをとるあずみと、
「ロックンロール!!」
盛大に腕を掲げるステイシーだった。
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32話②
局は普通に紋白を可愛い娘だと思っている設定で進めます。
「話を戻すが、ヒューム式研修で最後まで残れた、紋の言う学生は根性と耐久力はあるみたいだな」
帝は紋白の従者の話に戻す。
「はい父上、ヨコヅナという名前だけあって、幼い時から相撲部屋に通って鍛えられた力士体型をしております」
「ははっ、相撲は俺も嫌いじゃねぇ」
「その学生、ヒューム卿のジェノサイドチェーンソーを喰らっても膝をつかなかったんですよ。なかなかロックな奴ですよね」
「マジか!?そいつはスゲェな……もしくは、ヒュームが老いてポンコツになってきただけか?」
「ポンコツになどなっておりません……手加減してましたが、その学生の赤子が膝をつかなかったのは事実です、かなり手加減してましたが…」
本気のジェノサイドチェーンソーではないことを、しっかり言い含めるヒューム。
「ほぅ~、ヒュームのジェノサイドチェーンソーを耐えるか、興味深いな。我も会ってみたい」
九鬼家の中で一番の武闘派である揚羽も興味を持つ。
「はは、ヨコヅナの名は伊達じゃねぇってわけか。護衛としては使えそうなわけだな」
「だが紋よ、井ノ中ヨコヅナは将来自分の店を持ちたいのではなかったか、ちゃんこ鍋屋を開業したいという話を聞いたぞ」
そう言ったのは英雄、直接の関わりはないがヨコヅナの事は多少なり話を聞いている。
「はい。なので期間限定の仮専属という事になります、それにヨコヅナは得意不得意の偏りが大きく、総合的には有能の人間とは言えません」
「ならどうしてその者を従者にするんだ?、紋」
「未熟だからこそ、我が育てたいのです父上、フハハハハ」
ババンっ!という感じに宣言する紋白。
「はははっ!良い答えだ紋!何かを育てるのは子どもの情操教育のよい影響を与えるって言うしな」
「帝様、ペットを飼うのとは違うのですよ。未熟な者を執事にして、紋にもしものことがあったらどうするのですか?」
局の心配も当然と言える。可愛い娘が怪我でもしたら大変だ。
「大丈夫だって、ヒュームもフォローするだろうし……あぁ、でもポンコツになってきてんだったな~」
帝のヒュームいじりがまだ続いていた。
「ポンコツになどなっておりません。赤子のフォローぐらい完璧にこなして見せます」
「と言ってるから大丈夫だろ、それに失敗もまた勉強だ」
帝も紋白の事を可愛い娘だと思っているが、子供は失敗して怪我するのも勉強という考えだ。
「よーし紋!俺が許可する、従者の件は好きにして良いぞ」
「ありがとうございます父上!」
ヨコヅナは知らない所で勝手に紋白の仮専属従者の話が纏まる。
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33話①
「と言う訳で、ヨコは我の仮専属従者になる方向で話が進んでいるぞ、フハハハハ」
「……どう言う訳なのか、オラには全く分からないんだべが…?」
紋白はヨコヅナに、
家族での食事中の会話で、父親に「ヨコヅナを従者にしていい?」と聞いたら、「良いよ」と言われたと簡単に説明した。
簡単すぎてヨコヅナには理解できない。
「安心しろ。ちゃんと将来店主になる為の経験値となる仕事もさせてやるぞ。給料も大幅アップだ」
「それは嬉しいだが…でもオラ、従者の仕事がどんなものかも知らないだよ」
「フォローはヒュームがする。もしヒュームに他の仕事がある場合でも、誰かがフォローにつく。ヨコは細かい事を気にせず、始めのうちは我の指示に従っておればよい」
「……でもだべな~」
「まさか、断ったりなどしないだろうな赤子」
いつも怖いヒュームがいつも以上に怖い雰囲気を漂わせている。
「貴様のせいで、俺は減給になったのだぞ」
「何でだべ!?絶対オラのせいじゃないだよそれ!?」
「フハハハハ、確かにヨコのせいにするのはお門違いだな、……だが無関係とも言えぬ」
研修でヒュームが少~し厳しくなったのには、ヨコヅナが関係していた。
少しだけ九鬼家研修の時の話に戻すと、
_______________________
二日目、ヨコヅナは山の斜面を丸太を担いで登る時、先頭集団にいた。
ヨコヅナの走るペースが上がったのではなく、一日目の疲れで他の参加者のペースが落ちたのだ。
そこに坂の上からヒュームの衝撃波、ただ始めは叩き落とすほどの威力ではなかった、その場に膝をつけば耐えれる威力。
だが、ヨコヅナは膝をつくような事はせず、衝撃波喰らいながらも登り続けた。
それを見たヒュームは、
「ほう、赤子にしては、良い足腰をしている。ではもう少し威力をあげるか。フンっ!」
「……ちょっと強くなっただな」
少し威力をあげた衝撃波を喰らってもヨコヅナは膝をつかない。
「ふむ。ヨコヅナと言う名だけに、膝をつかぬことに意地になっているようだな。さらに威力をあげるか。フンっ!!」
「っと……また強くなっただな」
わりと威力をあげた衝撃波を喰らってもヨコヅナは膝をつかない。
「ハハハっ。面白い赤子だ。ならばこれならどうだ。フンっ!!!」
「ぐっ……これは辛い…だな」
かなり威力をあげた衝撃波を喰らっても、ヨコヅナは膝をつかず、
「……でも、何とか倒れず登れだ」
結局そのまま斜面を登り切った。
ここでヒュームは、
「……学生だけ特別扱いするわけにはいかないな」
と考え、他の参加者にもかなり威力をあげた衝撃波を喰らわす。
「うげぁっ!」
「ぐはぁっ!」
「ごぶぁっ!」
しかし、ヨコヅナ以外は膝をつくどころか、斜面を転がり落ちていったのである。
その他のメニューに関しても似たような感じで、厳しさを増していった。
_______________________
「その結果、鬼畜の所業となり研修を滅茶苦茶したとして減給されたのだ。フハハハハ」
「赤子がさっさと膝をついていれば、ああはならなかった。どう考えても赤子のせいだろう」
「どう考えてもオラのせいじゃないだよ!」
細かく説明されても、ヨコヅナのせいではないという結論は変わらない。
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33話②
「それより今は仮専属の件だぞ」
「う~ん…………………」
悩むように首を傾げ、なかなか答えないヨコヅナ。
「…随分悩むの、嫌なら……」
「あ~、断ったら資金援助の話は無しだべか?」
「そんなこと言うつもりはないぞ。まぁ専属従者として頑張る方が、高評価になり援助できる資金も増せるのは確かだがな」
「それならオラとしてもお請けしたいだべが……他に紋様の専属従者になりたい人は沢山いるんじゃないだか?」
「当然だ赤子、従者部隊で紋様の専属希望者と募れば、3桁は軽く集まるぞ」
「だったらオラより、心から紋様の専属になりたいと思っている人を採用してあげるべきじゃないだか?」
九鬼家の研修に参加したヨコヅナは、参加者用の宿舎で従者部隊に入りたい人達、序列位を上げたい人達と一緒に過ごした。
その中には九鬼家の専属従者になりたいと言う人もたくさんいた。
そんな人達を差し置いて、資金援助目当てのヨコヅナが仮とは言え、専属従者になることを申し訳ない考え悩んでいたのだ。
「…なるほどな。そういう考え方をする訳だなヨコは…フハハハ」
ヨコヅナが単純に自分の専属従者を嫌がっているわけでないと分かって、少し安心する紋白。
「では、こう考れば良い。例えばだ……ヨコが将来の夢である、ちゃんこ鍋屋『ヨコヅナ店』を開業したとする。でその『ヨコヅナ店』はまぁまぁ好評だった」
分かり易いようにちゃんこ鍋屋を例え話に出す紋白。
「だが、近くに新しくちゃんこ鍋屋ができ、しかも『ヨコヅナ店』よりも美味しくて客はみんなそっちに食べに行く。……こんな状況になったらヨコはどうする」
「それは……もっと美味しいちゃんこ鍋を作れるように頑張るしかないだな」
「そうだ、それで良い!今回の専属の件も同じだ。新人のそれも学生に専属従者の座を取られた。当然既存の従者達は悔しいだろう。我としてはその悔しさをバネに頑張ってほしいのだ」
「あぁ~…」
「それにヨコが期間限定であるなら「期間終了後こそは自分が」と皆が精進するだろう。だが、同情で専属の座を譲るとその効果はない。つまり九鬼財閥の全体を考えるのであれば、ヨコが請けてくれた方がプラスになると言う事だ」
「九鬼財閥にとってプラスになるんだべか。それならオラも、気兼ねなくお請け出来ますだ」
例え話で少し長くなったが、おかげでヨコヅナは納得して仮専属従の件をお請け出来る。
「さすが紋様だべな、色々考えてますだな」
「フハハハ、これぐらい当然である。上に立つ者は視野を広く、そして先を見なくてはならぬからの。ヨコも店を持つなら、出来るようにならねばなぬぞ」
「……難しそうだべな」
「安心しろ、我の専属になるのだから我が鍛えてやる、フハハハハ」
家族での食事の時宣言したとおり、ヨコヅナを育てて行くつもりの紋白だった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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33話③
「赤子の為に俺も少し、教育してやろう」
「執事としての心得とかだべか?」
ヒュームから怖い雰囲気が薄れている、元々ヨコヅナのせいで減給させられたなどと本気で思っていなかったのだろう、……そうだとヨコヅナは信じたい。
「そんなものは、一晩中語っても終わらんぞ。……先ほどのちゃんこ鍋屋の例えで、ライバル店から客を戻す方法が他にもある、言ってみろ」
「…料理の値段を下げるか、同じ値段で量を増やすとかだべかな、それをお金を払って大々的に宣伝すれば効果あると思うだよ」
「それでは客は来ても利益が上がらないだろう。何より料理が美味しいからライバル店に移った客は戻って来ない」
「…あとは、………ライバル店の評判を落とす、とかだべかな…オラはそんなことしないだが…」
ヨコヅナがするしないは関係なく、ライバル店の評判を落として客を集めるという方法は実際に存在する。
「そうだ。相手の評価を落とす、もしくは邪魔をして仕事を出来なくする、これはどんな業種の競争でも行われる。従者部隊でもだ」
「……つまり、オラの評価を落とそうと仕事を邪魔する従者がいるってことだべか……でも、オラは執事の仕事なんて出来ないから、そもそも低いんじゃないだか……さらに、低くなったらクビになるだか紋様?」
「いや、我が期限までにヨコをクビにするとしたら、それはヨコが将来の夢を諦め、努力をやめた時じゃな」
紋白はヨコヅナを育てようと思って従者にした、努力をする限りはクビにする気はない。
「ミスなどしても気にするな、姉上の専属従者もミスだらけだが、クビになっていないしなフハハハハ」
「そうだべか……だったら、オラの評価を落とす意味なんてないべ。それにヒュームさんがフォローするのに邪魔してくる人とかいるんだべか?」
ヒュームは序列零番、若手纏め役のあずみの更に上、そのヒュームがフォローすると言っているのにヨコヅナの邪魔をする者がいるとは普通思えない。
「もちろん、姑息な真似で邪魔する者がいたら俺が排除してやる。が、正攻法であれば別だ」
「正攻法で邪魔…って何だべ?」
「父上がな、ヨコに不満がある者は、訓練の時に勝負を挑む事を許可してな」
「……あぁ~、なるほどだべ」
ヨコヅナがなるほどと言ったのは、正攻法の邪魔の意味を理解したからではない。確かに九鬼財閥のトップである帝が許可したのであれば、正攻法なのかもしれないが何故勝負を挑むことを許可したのか、理解できない。
ヨコヅナがなるほどと言ったのは、今の状況だ。
「だからオラ、こんなとこにいるだべか…」
今まで紋白とヒュームと話をしなら移動し、ヨコヅナが到着した場所は九鬼のビルにある鍛錬場。
「今日の業務は、集まっている従者部隊序列800位以下の希望者20人との格闘訓練だ」
以前、業務としてなら訓練に参加すると言ったのでヨコヅナも格闘訓練自体に思う所はない。
のだが、
既存の従者部隊20人はヨコヅナを敵意むき出しの目で見ている。
「訓練が辛くて赤子が勝手にやめる分には俺は何も言わんからな」
「皆、本気だからヨコも遠慮する事ないぞ」
新人のカワイガリが行われるようとしていた。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
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34話①
ヨコヅナが鍛錬場で格闘訓練を行っているのと同時刻。
九鬼家従者部隊の若手だけで、特別会議が行われていた。
「――さて、次。紋様の付き人についてだ」
「いきなりですよねぇこれ。井ノ中ヨコヅナ…君ですか」
不満そうに言う桐山鯉。
「食事中に決まったことだが、帝様が許可している」
「ノリで決まった感がかなりあったけどな」
決定が下される場にいた、あずみとステイシーがそう言うが、従者部隊の者達としてはその場のノリで専属を決めないで欲しいところだ。
「ですが、ヒューム卿が完璧にフォローすると言っていたのですよね……零番がそう言っている以上、口を出すことはないでしょう」
「ポンコツ疑惑が出てるけどな~」
「ステイシー、あんまり調子に乗ってると、いつか痛い目見ますよ」
「李の言う通り、この件で従者部隊としてはヒューム卿が責任をもつ、だが、ヒューム卿にも別の仕事で傍にいられない場合もある、その場合は皆でフォローすることになるからしっかり頼む……」
その言葉に対する皆の反応は、トップが決めた事なら仕方ない感が満ちており、否定はしないがあまり良いものではなかった。
「……この件はあずみさんも納得していないご様子ですね」
あずみの表情はほとんどいつも通りだが、桐山はそう指摘した。
「納得はしているさ……小十郎が揚羽様の専属をしてることに比べたらな」
その言葉には皆「あぁ~、確かに」と納得する。
「……今の、褒められてませんよね、自分」
「聞かなくても分かりなさい」
小十郎は隣にいる李に小声で聞くが、李はきつめの言葉を返す。
「アタイは、専属をペット扱いみたいなのが……いや、やっぱ何でもない」
これは唯の私情だと思い、言葉を止めるあずみ。
「…そうですか」
桐山はそれを見抜いたのか、追及はしなかった。
「そういえば、その者…ヨコヅナ君、に訓練で勝負を挑んでも良いという話を聞いたのですが…」
会議に出席しているのだから自分も意見を言わなくてはと思い発言をする小十郎。
序列999位である小十郎も、今鍛錬場で行われている格闘訓練の参加の有無を聞かれていたのだが、会議があるので不参加を伝えた。
「ああ、素手での格闘限定だがな、それに勝っても代わりに紋様の専属になれるわけじゃない」
「ですがそれは、井ノ中ヨコヅナが紋様の専属であることに、不満がある奴は勝負にかこつけてシゴいて良いってことですよね」
「ぶっちゃけた言い方をすればそうなるな」
「そして、訓練が辛くて自主的に専属を辞めたとしても、責任は問われない」
「ヒューム卿の監視下で訓練することが条件だがな…」
「学生相手に、随分酷い許可を出しますね帝様も…」
ヨコヅナを哀れに思う李だが、
「ヨコヅナはあのヒューム式研修も耐えきったから、アタイはその辺心配ないと思うがな」
「マジで頑丈だからなヨコヅナ、ゴム弾撃ち込んでも、デコピンされた程度の反応しかしないんだぜ」
研修の監督官をしたあずみやステイシーは多少のシゴキでヨコヅナが辞めることはないと考えていた。
「今丁度、鍛錬場で訓練している時間ですよね……どうです、様子を見に行きませんか?」
「まだ、会議中ですよ桐山」
「議題はこれで最後ですし、井ノ中ヨコヅナの件は要観察という結論で締めれば大丈夫ですよ」
「ナイスアイディアじゃねえかマザコン、見に行こうぜあずみ」
あずみは少し考えてから、
「そうだな、井ノ中ヨコヅナに関しては要観察という結論以外にないしな……だが、大勢でゾロゾロ行っては邪魔になる。人数を絞るぞ」
鍛錬場で行われている訓練に、あずみ、ステイシー、李、桐山、小十郎の五名が様子を見に行くこととなった。
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34話②
あずみ達が会議を終了し鍛錬場に向っていると、ドゴっ!と外まで音が聞こえてきた。
「ヒュ~!、激しくやってるっぽいな」
「厳しいのは常ですが、新人に怪我させてなければ良いのですが…」
「本当ですね、新人虐めはいけないと母も言ってました」
「口が笑ってますよ桐山。紋様もいるはずですから皆加減してますよ」
「…にしても、鍛錬場の防音はしっかりしてるはずだが…」
あずみが少し疑問に思いながら鍛錬場の扉を開けようとした時、先に内側から誰かが扉を開ける。
「ん…貴様ら会議は終わったのか?」
鍛錬場から出てきたのはヒューム。
「はい、紋様の専属の議題もあったので最後に見学をと思いまして」
「そうか……まぁ、都合がいい」
「……あの、それは?」
あずみがそれと言ったのは、ヒュームの両手にぶら下げている従者二人。
「新入りを〆ようとして、逆に〆られた無様な赤子だ……全く何度俺を医務室に行かせつもりだ」
愚痴を言いながらヒュームはシュパッと姿が消える、医務室へ向かったのだろう。
空いた扉から鍛錬場に入ると、
鍛錬場の真ん中でヨコヅナが従者の一人と対峙していた。
「すでにボロ雑巾、はねぇみたいだな」
「おぉ、あずみ達来たのか、会議は終わったのか?」
鍛錬場に入って来たあずみ達に紋白が話しかける。
「はい紋様。最後の議題は紋様の付き人の件だったのですが、要観察という事になり訓練を見にきました」
「そうか、間に合って良かったな」
紋白の「間に合った」の言葉はつまり、もうすぐ終わりだったということだ。
時間的にはまだまだ余裕がある、余裕がないのは、
「……この格闘訓練に参加の従者は20人のはずですが…1人だけ?」
鍛錬場にいる従者はヨコヅナと対峙している者だけであった。
「他は医務室へヒュームが運んだぞ」
ヒュームは愚痴通り何度も鍛錬場と医務室を往復していた。
つまり、新人に逆に〆られた無様な従者は19人いると言う事だ
「紋様が目をかけているだけの事はあるということですか…」
「目をつけたのは料理の腕だったのでは?」
「それだけなら、専属にはしないでしょ」
シュタッとヒュームが鍛錬場に戻ってくる。
「待たせたな、はじめていいぞ」
鍛錬場の中央でヨコヅナと対峙する従者に注目するあずみ達。
「相手はドキューか」
「ドキュー君は紋様の専属になりたいを前から言っていましたからね」
ヨコヅナが相対しているのは九鬼従者部隊序列800位 ドキュー・レジュメ。今日は集められた従者の中でもっとも順位が上だ。
ドキューは紋白を至高の存在だと思っており、専属従者になる事を目指して頑張っていた。
いかに帝の決定であろうと、ヨコヅナが紋白の専属になることを認められず、反対している従者の一人である。
「いつでもいいだよ」
「チっ、生意気な奴だ……言っておくがこのルールで貴様が勝っても」
「戯言は止めろ赤子。ルールを承知の上でここ来たのだろう」
訓練でのヨコヅナとの勝負には、特別なルールが存在する。
・素手の格闘、反則は目つぶし、金的、噛みつき。
・土俵と同じ広さに床に張ったテープの中で戦う。ただし、ちょっと足が出るぐらいなら負けにはならない。
・足の裏以外が地についた時点で負け。
・勝負はヒュームの監督下でのみ。
相撲を元にしているのでヨコヅナに有利のルールだが、学生相手だから誰も否定しなかった。訓練が始まるまでは…
「ぐっ…はい」
ヒュームの叱責を受け、構えを取るドギュー、構えのベースはキックボクシングで小刻みにステップを踏んでいる。
それに対してヨコヅナは手合の構えではなく、両手を開いて腕を胸前に上げ、腰は少し落としてドッシリとした構えをとった。
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34話③
「オラ!オラ!オラ!」
先に攻撃を仕掛けたのはドキュー、速いパンチの連打をヨコヅナに浴びせる。
「……気合の割に随分腰の引けた攻撃だな」
あずみの言う通りドキューの攻撃は腰が入っておらず速いだけだ。
「捕まる事を恐れているのでしょうね」
「あの体格差では仕方のないとは思いますが……」
ドキューの体格は平均男性を上回るし鍛えているので体重も80㎏を超えるのだが、それでもヨコヅナとは50㎏以上の体重差がある。
それも足の裏以外が地についたら負けのルール、捕まるのを避けるのは当然とも言えるが…
「ジェノサイドチェーンソーを喰らっても倒れない相手に効くわけねぇだろ、そんなもん」
軽い攻撃ではヨコヅナの動きを止めることは出来ない、ドキューの攻撃に対して頭部は守りつつ前に出る。
ドキューは素早いステップで距離を取ろうとするが、テープの張られている範囲は土俵を基準としている為狭い。
「あの狭さではヒット&アウェイも難しいですね」
「……考えてみたらこのルールで力士に勝つのって難しいかもな」
「これは見に来て正解でしたね」
桐山は小さく呟きヨコヅナの動きに集中する。
「オラっ!!」
ドキューはいつまでも逃げ切れないと考え、前に出てくるヨコヅナの足にローキックを叩き込む。
「くっ!?」
痛みに動きが止まる
「足を蹴ったドキュー君の方が痛がっている!?」
「…力士は足腰を最重点に鍛えるからな、肥満体型なのに太ももは鍛え上げられた筋肉が見てとれる」
「下手な蹴りでは寧ろ蹴った方がダメージを負うわけですか…」
痛みで出来た隙を逃さずヨコヅナは相手の腰を掴む。
「くっ、…掴んだら、勝てるなどと思うなよ!オラァっ!!」
ヨコヅナの出っ張った腹にドキューの渾身の膝蹴りが叩き込まれる。
だがしかし、
ドゴォンっ!!
「ぐはぁ……」
ヨコヅナは膝蹴りで片足立ちになったドギューを下手投げで頭から床に叩きつけた。
「…勝者ヨコヅナ」
勝負と言う名目なので一応勝利者宣言をするヒューム。
「あっさり勝ちやがった、相変わらず可愛げのねぇガキだ」
「…今の、先にドキューの膝蹴りがモロに腹に入ってたよな」
「ええ、完璧に…それなのにまるで効いてないかのように投げてました」
「ご立派なお腹は、最も防御力に自信がある場所という事ですか…」
「あのルールでヨコヅナに勝つの、アタイらでも厳しいかもな…」
「ローやミドルへの攻撃じゃあ動きを止めれねェとなると、やっぱ攻めるのは頭部か…」
「ですが、本人もそれは分かっているのでガードが高めでした」
「膝の関節を狙えばローが全く効かないわけではないでしょう。しつこく足を攻めればいつかは倒せると思いますが…」
「その場合、試合範囲の狭さが問題だな…」
「いくらスピードに差があっても、あの中だけで攻撃しつつ捕まらないようにするのは、至難ですね」
真剣に相談するあずみ達を見て小十郎は、
「………あの皆さん、要観察の方向性が違いませんか」
序列最下位の正論なツッコミ。
ヨコヅナが紋白の専属に適任なのかを見に来たのだが、話題はどうやったらヨコヅナに勝てるかになっていた。
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34話④
ドキューとの勝負が終わったので、
「忍足先輩、こんにちはですだ」
あずみに挨拶するヨコヅナ
「おう、頑張るみてぇだな」
「なかなかロックは試合だったぜヨコヅナ」
「……ステイシーさんもお久しぶりですだ」
「なにちょっと嫌そうな顔してんだ、おい」
「お願いだから、今の状態でオラを撃たないでくれだべ」
研修の時ヨコヅナはステイシーに何度かゴム弾で撃たれており、正直苦手意識がある。
「そんなケツ丸出しで何言ってんだ、誘ってんだろ~」ガチャ
「何も誘ってないだよ!?」
今さらになるが、ヨコヅナは褌一丁だ。だがそれを咎める者も奇異の目で見る者もここにはいない。
別にヨコヅナという名前だからでも、相撲を習っていたと知っているからでもない。
褌で鍛錬する者が九鬼家にはいるからだ。
「今後関わる事もあるだろ、他の者も挨拶しとけ」
「私は李静初と申します」
「桐山鯉、マザコンです」
「武田小十郎と言います」
「井ノ中ヨコヅナですだ、よろしくお願いしますだ………マザコン?」
桐山の発言に首を傾げたが、とりあえず自己紹介はすむ。
「それで……まだ続けるだか?」
ヨコヅナは倒れているドキューに聞く。
「う、…グ…」
頭から強く叩きつけられたが、鍛錬場の床は頑丈ではあるものの、割れないように多少の弾力性がある為ドキューは気を失ってはいない。
とは言えダメージは大きく、立ち上がるのもやっとと言った感じだ、
正直に「
「まさか、
それは許されない。というかヒュームが許さない。
「先の試合時間はたったの20秒弱、学生相手に情けないと思わないか、あぁん?」
「つ、つ続けま、す」
「はぁ~、分かっただ」
ドゴォン!!
バガァン!!
ボゴォン!!
その後三回程試合をし、ドキューは立てなくなる。
「また医務室か、まったく情けない赤子共だ」
ドキューを医務室へと持っていくヒューム。
「テメェが強要したからじゃねぇか、ファック」
ステイシーの言う通りヒュームが続行を強要しなければ、少なくともドキューは自分の足で医務室に行けたはずだし、参加した20人全員が医務室送りという事態にはならなかっただろう。
だがヒュームだけが悪いとも言えない。
「つっても、最初の膝蹴り以外何も出来てないに等しいからな、情けないと言われても仕方ないだろうよ」
もし、あずみがヒュームの代わりをしていたとしても、一度負けた程度で
「紋様、今日の格闘訓練は終わりですだか?」
「そうだな……20人では少なかったか…」
「数よりも重さだべかな…従者に太った人は少ないんだべか」
「……唯の警備、護衛にならたくさんいるが、従者にヨコのような立派な腹をした奴はおらんな」
「それなのに、オラは従者で良いんですだか?」
「うむ、父上から好きにして良いと言われておるからの……それじゃ終わりにするかの」
「あ、少し一人稽古したいんですだが?」
「別に構わんが、何をするのだ?」
「せっかく大きな鏡があるから型を見たいだ」
そう言ってヨコヅナは鏡の前で、自分の姿を見ながら、
股を広げて腰下ろし、そして片足を高々と、足の裏が天に向くほど高々と上げ、強く地面を踏む。
ズドーンっと四股を踏む音が響く。
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34話⑤
「オイオイ、新人が物足りないからって一人稽古始めちまったぜ」
「順位800以下で一番強いドキューであれですから、他はもっとあっさり終わったのでしょうね」
「……これは…不味い状況ですね」
「ああ、……不味いな」
「え、何が不味いんですか?」
「分かんねぇのか小十郎。今の状況は「従者部隊の格闘訓練は、こんなもんか…」と新人、それも学生に思われてるってことなんだよ。そんな状況を…」
シュタッ「俺が許すとなどと思っていないだろうな、赤子共」
医務室から戻って来たヒュームがあずみ達の背後に現れる。
「まさか、このまま新人に舐められたままで良いと思っていないだろうな」
「……アタイらがヨコヅナに膝つかせるしかねぇか」
帝が訓練でヨコヅナに勝負を挑む許可をだしたが、それは若手に限定される。
その為ヒュームが自分で相手をすることはできない。あずみ達が入って来たとき「都合が良い」と言ったのはこうなることを予想していたからだ。
「あずみとステイシーと李は駄目だぞ」
だが、話が聞こえていた紋白がそう拒否する。
「ヨコは女性相手に思いっきり戦えないからな、今日参加の従者も男性に限定した」
「……そういえば、交流戦の時もそんな感じだったな」
東西交流戦での戦いを見ているあずみは、ヨコヅナが女性に怪我をさせないように戦っていたのを思い出す。
「て、なると相手出来るのは、桐山か小十郎か…」
「お前が行けよ、マザコン」
「……いえ、限定しているのであれば、今日は私も参加出来ませんね」
「何を言っているのですか、あなたは男でしょう…」
「そっちのではありませんよ。紋様、今日の参加は男性の序列800以下の従者限定ですよね」
「うむ、そうだぞ」
「では私は参加できませんね」
「フハハ、確かにそうなるな」
桐山の序列は42位、今日は限定内でしか勝負を出来ないのであれば、桐山も勝負できないことになる。
「テメェ屁理屈を言いやがって、ただ勝つ自信がねぇだけだろ!」
「……確かに100%勝てるとは言えませんね」
簡単に負けるつもりはないが、今日戦うのはリスクが大きすぎると考えた桐山。
「じゃ、小十郎しかいねぇか……」
「分かりました。私がヨコヅナ君と勝負します」
「うむ、ヨコもう一番いけるか?」
「構わないですだよ」
紋白の言葉にヨコヅナは四股を踏むのを止め、いつもの笑顔で答える。
「チっ、あの余裕の笑みを消してやれ、小十郎」
「従者部隊の本当の恐ろしさを教えてやれよ、小十郎」
「勝てたら揚羽様もお喜びになりますよ、小十郎」
「応援してますよ、小十郎君」
「はい!皆さんのご期待に応えてみせます!うおぉぉぉ!!」
((((期待はしてないけどな…))))
テープ土俵の中で向い合うヨコヅナと小十郎。
「いつでもいいだよ」
「九鬼家従者部隊序列999位、武田小十郎行きます!!」
小十郎の体格もヨコヅナと比べたら圧倒的に小さい。捕まれば勝てないことはドキューとの試合を観ていれば分かるから、真正面から突っ込むようなこと普通はしない。
普通はしないが…
「揚羽様の専属として恥ずかしい戦いは出来ない!うおぉぉ!!」
ヨコヅナに拳を叩き込もうと真正面から突っ込む小十郎。
「真正面から…何か策でも…」
ヨコヅナを倒すための策があるのかと思いそうなところだが…
「あるわけねぇだろそんなもん」
小十郎にそんなものはない。
「うおぁ!?」
ヨコヅナの蹴手繰りで盛大に転ぶ小十郎。
「…勝者ヨコヅナ」
「「「「「やっぱり…」」」」」
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35話
月曜日の川神学園放課後、場所は家庭科室。
「前の三連休は研修でシゴカれて、昨日の日曜日は九鬼ビルで格闘訓練だっただよ」
ヨコヅナは料理部に参加していた。
最近九鬼に雇われたことで忙しいかった事を話すヨコヅナ。
「九鬼に入ると厳しい研修や格闘訓練があるんだね……僕も卒業したらって誘われてるんだけど、どうしようかな?」
紋白からスカウトを受けているクマちゃんだが、厳しい研修や格闘訓練はしたくない。
「従者が行う研修や訓練だから、他の部署の人達はしないと思うだよ」
「そうなんだ、だったらよかった」
「ねぇねぇヨコちゃん。従者部隊にいい男はいるの?」
1-Sのオカマ、本名・花芽怜音がヨコヅナにそう聞く。
「……花芽がいい男と思うかは分からないべが、従者はイケメンが多かっただよ」
「顔だけじゃ駄目よ、体はどうだったの?」
「執事服着てて、直には見てないだべが、みんなかなりソップだっただよ」
「という事は引き締まった体をしてるってことね~。アタシも紋様にスカウトされてるの、今から楽しみだわ~」
オカマではあるが、花芽も優秀な人材なので紋白がスカウトした者の一人だ。
「でもヨコヅナ君、昨日20人以上と格闘訓練して怪我とかしてないの?」
他の料理部員がヨコヅナに聞く。
「オラは怪我してないだよ。…相手はほとんど医務室に行っただべがな」
「わおっ!ヨコヅナだけに、相手をガイにしたみないな」
「…ヨコヅナ君ってイケメンに厳しいよね……九鬼家従者部隊の人達ってみんな強いんじゃないの?」
「昨日は序列の低い人達だけだったからだと思うだよ。でも最後の人は頑丈だっただな…」
最後にヨコヅナと試合をした小十郎は、速攻で蹴手操りで負けた後も何度もヨコヅナに勝負を挑んだ。
小十郎は十数回は床に強く叩きつけられたが最後まで自分の足で立ち上がっていた。
余談で、ヨコヅナは帰った後の事なので知らないが、報告を聞いた揚羽に「なに学生にズタボロにやられておる、たわけがぁ!!」と小十郎は殴り飛ばされ、最終的には医務室送りになっていた。
閑話休題、
「でもあれだよね、専属従者だっけ…になったら、ヨコヅナ君忙しくて料理部来れなくなるのかな?」
「回数は少なくなると思うだが来るだよ、紋様はオラが将来の夢を分かってくれてるべから」
料理の腕を磨く為に料理部に参加することを紋白は反対しない。
「そっか!元々将来のちゃんこ鍋屋の為に九鬼でバイトすることになったんだもんね」
「今日スパゲティ提案したのも何か関係してるみたいな?」
今料理部のみんなが作っているのはスパゲティ料理、提案したのはヨコヅナだ。
「ヒュームさんに得意なモノ以外も練習しとけって言われたから、最近色々な種類の料理を作ってるだ」
「へぇ~あのおじいさん執事、怖そうで近づき難いけど、そうでもないの?」
「いや、ヒュームさんは普通に怖い人だから近づかない方が良いだよ」
「そ、そうなんだ」
その後、料理が完成し、各々が作ったスパゲティを小分けにしてみんなで食べる。
ボロネーゼ、カルボナーラ、ペペロンチーノ、ナポリタン、明太子スパなどがテーブルに並ぶ。
因みにヨコヅナが作ったのはカルボナーラだ。
今まであまり使わなかったチーズを使用するメニューを選んだが、それなりに美味しく作れた。
しかし、一番美味しいスパゲティを選ぶとしたら…
「クマちゃん先輩の作ったボロネーゼ最高に美味しいわ~」
「普通にお金取れるレベルだよね」
「むしろ、その辺の料理店より美味しいみたいな」
「さすがだべな熊谷先輩。何でも美味く作れるだな」
全員一致で食のスペシャリスト熊谷満の作ったボロネーゼである。
「みんなの作ったスパゲティも美味しいよ」
美味しいモノを食べれば人は幸せになれると証明するかのように、料理部はいつも平和である。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
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36話①
川神学園の体育祭は三種類、
通常の体育祭、水上体育祭、球技大会。
今年行われるのは、通常の体育祭。
プログラムが次々を消化されていく。
1年借り物競争、出場している由紀恵は紙を拾い、
「さぁ、何て書いてあるのでしょうか!」
‐友達-
「!…二ヶ月前の私だったら、これを設定した方と鬼と称したでしょうが…」
「今のまゆっちには楽勝なお題だぜ!!」
由紀恵は周りを見渡し、
「頑張れぇ!!まゆっち!」
一番近い友達を見つけて駆け寄る。
「伊予ちゃん一緒に来てください!」
「え、私?うん分かった」
伊予を連れてゴールする由紀恵。
「マロが審査するでおじゃる。見せてみぃ」
「はい、どうぞ!」
綾小路麻呂が由紀恵がら紙を受けて取り、
「友達、お主はこやつの友達でおじゃるか?」
隣にいる伊予にそう問いかける。
「…え?」
それに対して、以外そうな顔をする伊予。
「伊代ちゃん!!????」
驚愕の由紀恵。
「な~んて冗談だよ~。先生、私とまゆっちは友達です」
「ふむ、合格、一位でおじゃる」
「やったー!まゆっち一位だって……あれ、まゆっち?」
「い、伊予ちゃんが…友達…だと、思って…くれて、ない…」
伊予のちょっとした冗談で、放心状態になっている由紀恵。
「冗談だって、ちゃんと友達だからまゆっち!、正気に戻ってよ!まゆっち~!」
1年棒倒し、一年の男子生徒全員参加(ヒュームは除く)で対戦クラスの棒を倒し合う競技。
1-C VS 1-S
Sクラスは特進クラスなので男子生徒の平均した運動能力は、Cクラスより高い。勝敗は見るまでもないかと思われていたが…
「おい見ろよ!1-Cの棒」
「3人もぶら下がってるのに…」
「全く傾いてねぇ!?」
1-Sの猛攻を受けても1-Cの棒は倒れない。
「何よコレ~!棒に根っこでも生えてんじゃないの?」
そんな1-S花芽の発言に、
「根っこなんて生えてないだよ」
棒を直に支えている生徒、ヨコヅナが答える。
棒倒しにおいて、ヒュームがいない時点で1-Sに勝機はなかった。
何故なら、
「ヨコヅナは倒れないからヨコヅナなんだべ」
ヨコヅナがいる為攻撃の人数を多めにした1-Cが先に1-Sの棒を倒す。
『そこまで、1-Cの勝利!』
「「「「「やったー!!」」」」」
歓声を上げる1-C生徒達。
「もう何やってるのよ男子!棒倒しは得点高いのに~」
棒倒しで負けた事を悔しがるムサコッス。
「フハハ、やるではないか1-C。ヨコと黛は敵に回すと厄介な相手だな」
「ヒュームさんが出場できてれば勝てたのに…」
「仕方あるまい、ヒュームは特別枠だからの」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
こちらも読んで頂ければ幸いです。
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36話②
「おっとそろそろ、我らの出場する競技の準備せねばな、行くぞヒューム」
特別枠のヒュームは体育祭でほとんどの種目に出場することが出来ないが、一種目だけ出場を許可されている。
「紋様、俺は無理に参加する必要はないと思うのですが…」
「何を言う、お前も1-Sの生徒だろ、ちゃんと体育祭に参加しなければな、フハハハ」
「……鉄心め…」
ヒュームが出場できる競技、それは…
一年仮装リレー。各クラスの4人の生徒が仮装した格好でのリレー徒競走。
1位でも点数は低いネタ競技だが、何の仮装するかはクラスの自由なので、仮装のクオリティによっては盛り上がる。
実況『今年は飛びぬけてクオリティの高い仮装をしているクラスがあるぞ。1-Sは某人気魔法少女アニメのコスプレで出場だ!』
「フハハハハハ!魔法少女もんしろ☆マギカ、顕現である!」
白とピンクを基調とした魔法少女のコスプレした紋白。
うおぉぉぉぉ!!!
2-Sのハゲと同属性の生徒達やアニメ好きな生徒達が歓声を上げる。
しかし、コアなアニメ好き、
「ぬぬ…似合ってないとは言わないが、イメージが違い過ぎるな…」
「そうだね、性格もだけど、何より髪が違うよね」
「…あのコスプレは委員長の方が似合いそうだな」
「あぁ、確かにピッタリかも」
2-Fの大串スグルや師岡卓也などには好評とは言えない。
とは言えそんなのは極一部であり、
「フハハハハハ!さすがは紋、何の仮装なのかは知らぬがとても可愛いではないか!」
観客達の大勢は英雄と同じ意見だ。
「あずみ、しっかり撮影しておけよ、母上や姉上にも是非見せたい!」
「分かっております!英雄様!!」
「そして、クラウディオ!」
「はっ、ここに」
「お前はヒュームを撮影してやれ」
「簡単な事でございます。と言いますか既に撮影しております」
「フハハ、父上なら盛大に笑ってくれるだろう」
「ほほっ、ヒュームのコスプレ姿が見れるとは、長生きはするものですね」
仮装リレーに出場しているヒュームもコスプレをしている、とは言え、魔法少女のコスプレではない。
実況『1-Sのアンカーはマスコットキャラのコスプレだ!』
1-Sから参加の四人のうち、紋白と他二人は魔法少女のコスプレだが、ヒュームのは猫っぽいマスコットキャラクターのコスプレ、正確にはコスプレというより着ぐるみだ。
しかし、キャラの口のあたりが切り抜かれており、ヒュームの顔はしっかり見えている。
鉄心『ホホっ、名付けるなら ヒューべえ じゃな』
わざわざマイクを通してイジる鉄心。
「くっ…鉄心めぇ……」
元々は顔も見えない全身着ぐるみで走る予定だった、だからこそヒュームも参加をOKしたのだ。
しかし、学長である鉄心が、「それでは前が見え辛くて、走ると危ないじゃろ」と指摘し、中の人の顔が見えるように切り抜くことになったのだ。
学長としては言ってる事は正しいが、言うまでもなく、前が見え辛くともヒュームに危険などない、寧ろ完全に見えなくても問題なく走れるだろう。ほとんどヒュームへの嫌がらせに近い。
「ヨコヅナ君あれは…笑いを取りに来てるのですかね?」
「いや…違うと思う、だよ…」
「不機嫌なオーラが可視化してんもんなぁ~」
鉄心やクラウディオなどはヒュームのコスプレをイジれるが、観客達はどう反応していいのか悩みものだった。
因みに仮装リレーの結果は1-Sが圧倒的一位、勝負も話題性も1-Sの一人勝ちであった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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36話③
川神学園体育祭後半。
実況百代『さぁ、川神戦役のはじまりだ!!!!』
解説ルー『楽しみだネ~』
実況が川神百代になり、解説がルー師範代に変わる。
2-F VS 2-Sの川神戦役での直接対決がこれからはじまる。
「それでは、川神戦役の説明にはいる!、勝負は五回!、クジで引いた種目で戦ってもらうぞぃ、それから………」
一通りの鉄心の説明を聞いて、
1-C生徒の観戦場所。
「強制でクラス替えなんて酷すぎです」
「まゆっち、最近はやっとクラスのみんなに理解されつつあるもんね」
「他のクラスに行ったら、また一からだべな……それはともかく、何で他のクラスの生徒を引き入れたいんだべかな?」
「オラが2-Fの先輩達に聞いた限りだと、美男美女を引き入れたいって言ってたぜ」
「…でも2-Fって、エレガントテクワットロが二人いるし、まゆっちの仲の良い先輩達も美人ばっかりだよね」
「人間、身近にあって当たり前になると価値が分からなくなるのかもしれません…」
「…隣の芝生は青く見える ってやつだべかな」
1-S生徒の観戦場所。
「川神戦役とか良いですよね、他のクラスに欲しい生徒はいないけど、活躍したら目立てそう」
「ふむ、面白い勝負だとは思うが……兄上が指名されて2-Fになるかと思うと少し心配だな…」
「…はは、そうですね」(2-Fは勝っても絶対九鬼英雄は選ばないと思うけど)
「でも心配無用か、兄上が率いる2-Sが負けるはずないしの」
「仮にうちのクラスが川神戦役をするとして、紋様は他のクラスで引き入れたい生徒とかいます?」
「……そうだな、1-Cの黛由紀恵とかだな」
「あれ、紋様がいつも乗り物にしてる、大きい生徒じゃなくて良いんですか?」
「選んでも意味がない、ヨコは学力的にSクラスは無理だろうからな」
「一回戦のテーマは、運動神経、参加人数は4人」
鉄心がクジ箱に手を入れ、
「ではクジを引く……でおった、障害物リレーじゃ!!」
わぁぁ~………
実況百代『おっと~、普通の競技だけに、観客の反応が微妙だ』
解説ルー『くじ引きだからネ、仕方ないヨ』
「各々のクラスは、男子2名女子2名を選ぶがよい」
2-F陣営
「ハイハイ、アタシ行くわ!切り込み隊長としてここは任せて!」
「じゃあアタイも出てやるよ、楽勝っしょ!」
「走り高跳び屋で陸上部の僕が出よう」
「しゃねぇな、俺が出てやるよ」
2-S陣営
「おー。なんか面白そう!僕出場する!」
「障害物競走か、やったことないな、義経も出場したいぞ!」
「うむ、後はS組のスポーツ選手でいいであろう」
出場する選手が決まり、
「誰が何番目に走るか決めい、障害物を見てからの変更は出来んぞ」
実況百代『出場選手と走る順番が決まったぞ』
第1走者2-F 羽黒黒子 2-S 源義経
第2走者2-F 走高跳び屋 2-S 庶民A
第3走者2-F 川神一子 2-S 庶民B
第4走者2-F 源忠勝 2-S 榊原小雪
選手が出そろったところで、障害物が用意される。
1-C生徒の観戦場所。
「あ、そこの大きい一年生、ちょっと良い」
「ん…オラだべか?」
「障害物走に協力してくれないかな?お礼に上食券もらえるよ」
「協力?…準備のだべかな。…まぁ良いだよ」
「じゃあこっち来て」
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36話④
「僕のヒーローアカデミア」の二次創作で、
雄英体育祭にヨコヅナが出場する話を書きたくなったので。
「ヨコヅナのヒーローアカデミア」
https://syosetu.org/novel/243199/
を投稿しました。
こちらも読んで頂ければ幸いです。
実況百代『障害物の準備が整い、選手が位置に着いたぞ』
解説ルー『一走目から注目だネ』
第1走者2-F 羽黒黒子 2-S 源義経
スタート位置。
「源義経とか、アタイの相手として不足無しって感じぃ」
「お互い全力を尽くそう。宜しく羽黒さん」
「おう、よしくな」
勝負前に握手を交わす羽黒と義経。
2-F陣営
「戦う前に相手と握手とかさすが義経ね」
「義経ちゃんは良い子ですね」
「勝った場合の指名は義経がいいな」
「でも、弁慶も捨てがたいしな…」
「つか、一走はワン子じゃないんだな」
「羽黒も一走が良いってことでジャンケンで決めたらしい」
「ワン子対義経も見たかったけど……それより一走目の障害物、なんだろ、あれ?」
2-S陣営
「私らの大将はいい子だね~、しかも自らが一番槍だし」
「体育祭ぐらい好きにさせてやらぁ良いだろ」
「でも負けたら一番に指名されそうですよね、義経さんは」
「義経はF組行ったら、「義経のクローンなのに不甲斐ない」つって凄く落ち込みそうだな」
「フハハハハ、負けた場合の事など話し合う必要あるまい」
「英雄様の言う通りです!!」
「それは此方も同感じゃが……一走目の障害物、なんじゃ、あれ?」
実況百代『各走者は二つの障害物をクリアしてもらう、どんな障害物かはスタートしてから紹介するぞ』
解説ルー『ほとんどは置かれている物見れば分かる定番の障害物だけどネ』
「両者位置について…用意」
鉄心の言葉で、義経と羽黒はスタートラインの前で構える。
「スタート!!!」
実況百代『さぁ~両者一斉にスタート。最初の障害物は、平均台。障害物競争では定番だが結構長いぞ』
解説ルー『途中で落ちた場合はやり直しネ』
平均台の前まで来た義経は、
「はっ!」
止まることなく飛び、速度を落とさず平均台の上を走る。
実況百代『さすがは義経!、平均台が障害になっていない!』
「アタイだって!」
羽黒も離されない為に、平均台に乗り走ろうとするが…、
「ぎゃぁっ!」
足を踏み外して落ちる。
解説ルー『義経は簡単にやってるけど難しいヨ、怪我しないようにネ』
2-Fの生徒から羽黒に「無理すんな」「落ち着いて渡れ」と声援が飛ぶ。
実況百代『やり直しの上に、羽黒はゆっくりとしか進めない。義経相手にこのロスは痛い!』
義経は落ちることなく、早々に平均台を渡り切る。
実況百代『義経、難なく平均台をクリア、次へ進む。羽黒はまだ平均台の半分も進めてないぞ』
羽黒を引き離し義経は二つ目の障害物へ、
第二走者にタスキを渡す手前でコースを塞ぐように、
実況百代『一走の二つ目の障害は、コースを塞ぐマントマンを円から押し出すというものだ!』
解説ルー『円は小さいから一歩分も押せば出るけド。マントマンは体が大きく重たいヨ』
実況百代『足以外が出てもクリアなので、相手を倒しても良いが拳で殴ったり、足で蹴ったりは無しだぞ』
解説ルー『押し出せない場合は一分で男子生徒は道を開けるヨ』
義経は2-Sのコースを塞ぐマントマンまで少し距離を開けて一旦止まり、
「スー…ハー…」
一回深呼吸してから、
「ハァっ!!」
全速力で走りだす。
一般生徒では見えないほどの、高速の体当たりでマントマンにぶつかる。
ドンっ!!
「…え!?」
驚愕する義経。
実況百代『なんと!?義経の高速体当たりを喰らっても障害物のマントマンはビクともしない!」
「勢いの良いあたりだべが、体重が軽すぎるだな」
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36話⑤
「ぐぐぅ!…」
義経はマントマンの腰に組み付いた状態から全力で押すが、
実況百代『マントマンを円から押し出そうと頑張る義経だが……やはり、マントマン動かない!』
解説ルー『一分の計測はマントマンに触れた時点から始めてるよ』
「くっ……強い!」
義経はマントマンから離れて距離を取る。
実況百代『義経一旦距離をとったぞ』
解説ルー『一分押し続けても円から出せないと判断したみだいだネ』
マントマンは二人いるが、コースは決められている為もう一人を円から押し出してクリアと言う事は出来ない。
「今度こそ!……ヤァー!」
義経は再度全速力で走りだして、体当たりをする…
ダッ
と、見せかけて、瞬時にマントマンの側面に移動し、
「む…」
「ハァっ!!」
相手の脇腹あたりにぶつかる。
実況百代『義経、また正面からの体当たりと見せて、電光石火の速さで回り込み、横からぶつかった!!』
解説ルー『動きに反応できず、押し出されてもおかしくない速さだけどネ』
「いくら速くても、その程度の力じゃオラは動かないだよ」
「ぐぬぬぅ…」
実況百代『ああっと速さで撹乱して横から押しても、マントマン動かない!』
解説ルー『時間はまだ30秒以上はあるネ』
2-F陣営、
「おお!マントマンに義経足止めされてんぞ」
「今のうちよ、羽黒!」
「でも、焦って落ちちゃ駄目ですよ~!」
「確実に渡り切れよ」
「……だが、追いついても同じようにマントマンに足止めされたら差は変わらないぞ」
「マントマンは二人いる、もう一人が弱い事を祈るしかないな」
「ありえるかな、そんなこと?」
「大丈夫だ!俺の勘がそう言っている!」
2-S陣営
「何だあのマントマン?義経が軽いといっても動かなすぎだろ!」
「…川神院の修行僧とかかもね」
「マントマンの二人ともがそうなら、2-Fも一分足止めされることになるのですが…」
「2-Fの障害物のマントマンは違うっぽいよな、あれ…」
「なんで違うと思うのじゃ?」
「分からんのか、マントでも足元は隠れていない。義経の相手をしている方は裸足だが…」
「もう一人のマントマンが履いてるのは、購買で売ってる運動靴ですね」
「うっしゃ、渡り切ったぜ!ここから逆転してやんよぉ!!」
実況百代『おお!マントマンが義経を足止めしているうちに、羽黒が平均台を渡り切った』
解説ルー『二つ目の障害物マントマンを直ぐにクリア出来たら、本当に逆転できるネ』
源義経がクリア出来ない障害物を、羽黒がクリア出来るわけがないとほとんどの観客が思っていた。
しかし、
「一気に突破してやんぜぇ!!」
実況百代『羽黒走る勢いをそのままに、2-Fのコースを塞ぐマントマンへと突っ込む』
解説ルー『走る姿勢が随分低いネ…』
羽黒は低い姿勢で走っている、足元を狙ってると分かるように…
2-Fコースを塞ぐマントマンはそれも見て、足に組み付かれても大丈夫なように自身も体勢を低くする。
しかし、それは羽黒の狙い通り、ぶつかる寸前、羽黒は上体をあげ…
「オラぁっ!!」
「ぐえぁっ!?」
実況百代『羽黒、渾身のラリアットだぁ!!』
解説ルー『これは良い所にきまったネ』
マントマンは羽黒より背が高かったが、体勢を低くしたことで羽黒のラリアットは的確に喉にきまったのだ。
一撃で倒れて円から出るマントマン。
「しゃーオラぁー!!!」
叫びながら高々と腕を上げでガッツポーズをとる羽黒。
うおぉぉぉ!!
多く観客の想像を覆す、羽黒の活躍に会場が沸き、歓声があがった。
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36話⑥
うおぉぉぉ!!
多く観客の想像を覆す、羽黒の快進劇に会場が沸く。
だが、同時に「反則だろ!ラリアットなんて」「殴ったら駄目なのでしょ!」と苦情も飛んでくる。
しかし、審判の鉄心は、
「OKじゃ!羽黒、障害クリア」
実況百代『審判は羽黒のラリアットを
解説ルー『ラリアットを反則にしたら、義経が体当たりで肩からぶつかったのも反則にしないといけないからネ』
「よっシャー!」
羽黒はガッツポーズをとり、タスキを第二走者に渡す。
「頼むぜ、アタイのリード無駄にすんなよ」
「陸上部の僕に任せたまえ!」
2-Fがリードしそうな状況に、2-S陣営から、
「待つのじゃ、マントマンの実力に差があり過ぎる、不公平じゃろ!」
とクレームがでる。
羽黒の策がはまり、ラリアットが的確に決まったとはいえ、2-Fのコースを塞いでいたマントマンはあっさり倒れすぎだと誰もが思う。
他の生徒からも「そうだ、そうだ!」「公平な勝負にしろ!」と声をあがるが、
実況百代『マントマンは二人とも体が大きいだけで適当に選ばれた学園の一年男子生徒だ……それは間違いない』
解説ルー『マントマン二人の体重はほぼ同じネ。2-Sを不利にしょうなんて考えは一切ないヨ』
百代とルーの言う通り、マントマンは体が大きいから適当に選ばれた一年の男子生徒、二人とも体重は135㎏前後でほぼ同じだ。
障害物に協力してくれる生徒を選んだ委員の者に他意は一切ない、マントマンに実力差があるのは全くの偶然。
だから…
「レース続行じゃ!」
審判の鉄心はクレームを受け入れずレース続行を宣言する。
2-Fの走高跳び屋がタスキをつけ、走り出す。
実況百代『2-Fがリードで第二走がスタート。一つ目の障害物は、網潜り抜け、これも定番の障害物だな』
解説ルー『地味だけど確実に進める障害物だネ』
地面に敷かれた網の下に潜り、匍匐前進の様にして前に進む障害物。普通にやれば足が止まる障害ではないので確実にリードを広げられる。
「走り高跳び屋で陸上部の僕の特技が活かせない…」
逆に普通の学生ではあまり得意不得意の差も出ない。
2-F陣営
「さっすが羽黒、ヒールレスラーの娘なだけあるね!」
「羽黒ちゃん、カッコイイです!」
「頑張れ!陸上部の……名前何だっけ?」
「俺様も知らんが…それより義経は後何秒止まってるんだ?」
「あのマントマンが倒されなければ、20秒近く止まってるはずだけど…」
「相手は2-Sだ、少しでも差を開けときたいところだな」
「一分間耐えきるぜ、あのマントマンは。俺の勘がそう言っている!」
「あわわわぁ…」
追い抜かれ、どんどん差を広げられてるのに自分は進めいない状況に焦る義経。
「ど、どうしたら……」
いくら押しても動かない相手に、どうしていいのか分からなくなり、
その結果、
「ご、ごめん!」
義経が導き出した答えは、マントマンのお腹に手を添え、
「源氏式、発勁!!」
ブォンッ!
「ぐぇっ」
人体からとは思えない衝撃音が会場に響く。
2-S陣営
「おいおい、義経のやつ、発勁喰らわしたぞ。体育祭で使っていい技じゃねぇだろ!」
「先行してたのに逆転されたうえ、進めない状況にテンパっちゃったみたいだね。でもまぁ、発勁も手の平で押してるように見えるから、反則じゃないよね」
「発勁ですか…中国拳法の技でしたっけ」
「内部破壊を目的とした打撃技とかだったはずだ」
「義経の様子を見るに、本気の発勁であろうな」
「それを喰らって立っていられる一年は5人もいないと思われます」
「……お主ら、なんだかんだ言っとるが…マントマン倒れておらんじゃろが!」
発勁は強力な技だ、素手の義経が使える必殺技の一つと言える。
そんな一撃を喰らった2-Sのコースを塞ぐマントマンは…
「痛いだな、お昼に食べたモノを吐きそうになっただ」
そう言ってお腹を摩るだけだった。
「何…だと…!?」
義経はまだ先に進めない。
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36話⑦
でも、弁慶が虐めたくなる気持ちも分かる…
義経必殺の発勁を受けても倒れないマントマン。
「もう一度!」
再度発勁を放つ為、相手の腹に手を添えようとする義経だが、
パンっ
「それはもう喰らいたくないだ」
マントマンは義経の手を払いのける。
実況百代『2-Sのコースを塞ぐマントマン、義経の発勁を嫌がって手で払う……あれは、良いんですか?ルー師範代」
解説ルー『マントマンには反撃しないようにと言ってあるネ。でも発勁を無防備に喰らい続けろ、とも言えないヨ、軽く払いのけるぐらい仕方ないネ』
「くっ、このっ!」
「それは止めてくれだべ」
パンっ
手を添えようとしも、払いのけられる義経は…
パンっ、パンっ、パンパン
「このぉっ!!」
どんどん手をだす速度を増していき、
パンパンパンパンパパパパパパっ!
手を添えるというか、高速連撃の掌底打ちになる。
「ん、あ、痛、速、いだ!」
動かないことには自信があるマントマンだが、義経の高速連撃にはさすがに、払う手が追い付かない。
2-S陣営
「…義経もう自棄になって、掌底で殴りだしたぞ。良いのかアレ?」
「審判の学長が何も言ってないからいいんじゃないかい。……それでも押し出せそうにないしね」
「ほんと凄いですね、あのマントマンは。…さすがは
「一年男子で他にいねぇわな…」
「135㎏のデブと135㎏の力士は全く別物じゃ。どう考えも不公平じゃろ!」
「だが、学校の書類では、1-C男子生徒 料理部所属、でしかないからな。学長の続行判断に異議は出来ないだろう」
「ですが、足止めももう終わりです」
「一分経過!」
鉄心のその言葉を聞いて、マントマンは、
「やっとだべか」
自ら円を出る。
「はぁ、はぁ…」
「通って良いだよ。義経先輩」
「くっ……」
最後まで押し出すことも倒すことも出来ず、義経は悔しさで一杯だったが、今優先するのは第二走の生徒にタスキを渡す事だ。
実況百代『義経、一分経過により障害物クリア。先に進めるようになったぞ』
解説ルー『2-Fは網潜りの障害物をクリアして今から二つ目の障害物ネ』
「うぅ、ごめん!義経のせいで、本当に…」
半泣きになりながら、タスキを渡す義経。
「義経はよく頑張った。あとは任しとけ!」
義経を責めるようなことはせず、カッコイイ台詞を言って、走り出す2-Sの第二走、庶民A。
「うおぉぉぉ!」
気合を入れながら網に潜り進む庶民A。
実況百代『2-Fの二走は既に二つの目の障害物、飴探しだ!』
解説ルー『白い粉の中から手を使わず飴を探すやつだヨ。これも定番だネ』
「走り高跳び屋で陸上部の僕の特技が活かせない…ゲボっゲボっ」
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36話⑧
2-Fの二走、走高跳び屋は早くも遅くもなく、
「はへ、ほへまひは!」(飴、取れました)
「うむ、クリアじゃ」
二つ目の障害物、飴探しをクリアする。
そしてタスキを第三走、一子へと渡す。
「はのんはよ!」(頼んだよ!)
飴が口に入ってるので、ちゃんと喋れてないが
「任せて!」
一子は思いは理解してタスキを受け取る。
実況百代『2-Fの第三走、川神一子へとタスキが渡った!』
解説ルー『リードは十分あるけど、この先の障害物次第で分からないネ』
実況百代『三走一つ目の障害物は、ハードル走!』
解説ルー『ハードルは五個しかないけど、一つでも倒したらやり直しネ』
思いっきり普通の障害で、体育の授業で行われることもあり、
「これぐらい楽勝よ!」
一子の運動能力であれば、余裕でノーミスクリアできる障害物だ。
だが、こういう状況の時こそ、
「更にリードを広げてやるわ!」
人は油断をしてしまう。
ガタッ
「しまった!?」
実況百代『あっと一子、足を引っかけハードルを倒してしまった』
解説ルー『…油断したネ、普通なら余裕でクリア出来るはずだよ』
「ハードルを倒したため、やり直し!」
やり直しになりハードルを起こして戻る一子。
2-Fから「焦るなワン子」「一個一個確実にな」と声援がとぶ。
「今度こそ!」
二回目はハードルを倒さずノーミスでクリアする一子。
実況百代『一子、一つ目の障害物クリア…』
解説ルー『2-Sはまだ飴探しだネ』
リードはまだ十分ある状態で、一子は二つ目の障害物へ、
実況百代『三走、二つ目の障害物は、パン食い!』
解説ルー『吊るしてあるパンを手を使わず取る障害物ネ』
実況百代『パンを食べきったら障害物クリアだ』
解説ルー『急いで喉を詰まらせないようにネ、コース横に水を置いてあるヨ』
この障害物を見て、2-Fの生徒は「ラッキーだね!」「ワン子の得意分野だ」「寧ろワン子の為の障害物と言えるぜ」と喜ぶ。
2-Fの予想通り一子は、
「とりゃぁー!、ガブっ」
一跳びで吊るされたパンを咥え取り、
「ガブガブ…、モグモグモグっ……ゴクンッ、食べました!。あー」
「うむ、クリアじゃ」
あっ、という間にパンを間食し、二つ目の障害物をクリアした。
そして、アンカーの忠勝にタスキを渡す。
「ごめんタッちゃん。ミスして少し詰められた…」
「十分リードしてる。任せろ」
タスキを受け取った忠勝は、一つ目の障害物へと進む。
実況百代『2-Fのアンカーは源忠勝。アンカーの一つ目の障害物は、フリースローだ!』
解説ルー『一個でもゴールリングにボールを入れれたらクリアだヨ』
第四走者の一つ目の障害物はフリースロー。
忠勝は簡易ゴールリングから少し離れた、指定された線の前でボールを構える。
「ハ…」
忠勝の第一投は、
ガンッ…
実況百代『一投目は惜しくも外れた!』
「チっ…」
解説ルー『ボールは取りに行かなくても、次のボールを使えばいいよ』
たくさんのボールが入った籠が近くにあるから、すぐに次ぐを投げれる。
2-Fから「落ち着いて~」「ゲン、左手は添えるだけ…だ」とアドバイスがとぶ。
そして、忠勝の第二投、
スパッ…
実況百代『入った!源、二投目で決めた!』
解説ルー『良い集中力だネ』
「よし!」
忠勝は直ぐに、次の障害物の準備へ
実況百代『さ~、ラストの障害物は、加重ベストとつけてのトラック一周だ!』
解説ルー『最後は自力勝負だヨ!』
加重ベストを付けた忠勝は、全力で走り出す。
その忠勝の走りは、重りを付けてる事を感じさせない程速い。
2-F陣営
「源くん頑張れー!」
「頑張ってー源ちゃん!」
「源殿、ファイト!」
「気合いだ!ゲン、気合い!」
「もうちょっとだよ、頑張れ!」
「ゲンさん!行けー」
「風になれ!ゲンさん!!」
「……………嘘……なに、あれ?」
2-Fの声援に後押しされた、忠勝はラストの直線へ。
ゴールテープは目前、
「よし、勝っ…」
忠勝が勝ちを確信しそうになったその時、
白い突風が隣を通り過ぎ、
「な!?」
先にゴールテープを切った。
「ウェーイ!、ぼっく、1番ー!!」
2-Sのアンカー、榊原小雪。
彼女の足は、人の壁を越える可能性を持つ。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
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36話⑨
実況百代『大・逆・転!ゴール間際までリードしていた源忠勝を追い抜き、先にゴールしたのは榊原小雪、川神戦役1回戦を勝利したのは2-Sだ!!!」
解説ルー『1回戦から接戦で見どころ満載の勝負だったネ!』
ルーの言葉を肯定するように、
ワアァァァ!!!
と、観戦している生徒たちは大盛り上がりだ。
実況百代『最後の榊原小雪の走力は、川神院の者として見ても、目を見張るものがありましたね、ルー師範代』
解説ルー『そうだね。でも私は2-S4人の走者、全員での勝利だと思うネ』
実況百代『確かに、2-Sは二走と三走も、ミスが無くタイムが2-Fより速かったですね』
解説ルー『それに、義経の最初の平均台でのリードがなかったら2-Sは負けてたネ。全員よく頑張ったヨ』
「ありがとう榊原さん!二人も、ほんとにありがとう!うぅ…」
半泣きで…というか普通に涙を零しながらお礼を言う義経。
「泣かなくていいよー義経。マシュマロあげる~」
「そうそう、俺達が勝ったんだからよ」
「言っただろ、義経はよく頑張った。ルー先生が解説してる通りだ」
四人は2-S陣営へと戻る。
「フハハハハ、よくやった四人とも、褒めてつかわす」
「まずは一勝ですね!」
「じ、えーんどじゃな。にょほほほ」
「ユキ、よく頑張りましたね」
「お手柄だぜ、ユキ」
「他の三人もよくやったと褒めてあげましょう」
2-Sは勝利した四人を笑顔で迎える。
そんな中、
「……義経は一人、足を引っ張ってしまった、情けない…」
誰も責めたりしないが、落ち込んでいる義経、
「気にしなくていいよ義経、勝ったんだし、それに4人のうち誰が一走でもあのマントマンに足止めされてたさ」
そんな義経を、仲間であり主従でもある弁慶が慰める。
「でも、義経は義経のクローンだから、多少の困難は乗り越えれないと…」
「パワー系は武蔵坊弁慶のクローンである、私の役目でしょ……義経のクローンだからって関係ないよ」
「でもでも、弁慶がいない時で、もし実践だったら…」
「実践だったら、義経は刀持ってるから何とでも出来るでしょ……はい、反省はここまで、筋力つけたいって言うなら、トレーニング付き合ってあげるから」
「弁慶……うん、分かった。義経はこれから頑張る」
弁慶のフォローで持ち直す義経、だが、
「まぁ…源義経が後輩に全く歯が立たなかったという事実は、学園中の生徒に印象ついちまったけどな」
「うぁぁぁ……」
与一の無慈悲な言葉に、また泣き出す義経、
「与一~!」
「姉御、痛い、苦しい。アルゼンチン・バックブリーカーは止めてくれ」
2-F陣営
「すまん、みんな俺のせいだ…」
「いや、あれは源君でも無理だよ、速すぎだもん」
「そうだよ、タッちゃんのせいじゃないのよ。私が油断してハードルでミスしたから…」
「一回ぐらい仕方ないですよ、ワン子ちゃん」
「そうだぜ、気にすんな!」
「今回は相手が少し上手だった、それだけのことだ」
「倒し甲斐があるっもんだぜ!」
「切り替えていこう」
「2回戦の前に、誰た引抜かれるかだな…」
「さぁ、S組!誰を指名するか選べ!」
「私達が欲しいのは 直江大和君です」
1回戦勝利したS組が引き抜いたのは、F組の直江大和。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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37話
「10秒足止めで上食券10枚、…1分止めれたから60枚貰えるだべな」
障害物競走に協力して戻って来たヨコヅナ。
「お疲れ様です、ヨコヅナ君」
「義経のコース塞ぐマントマン役、大変だったね」
由紀恵と伊予が戻って来たヨコヅナを労う。だが、
「……いや、オラはマントマンじゃないだよ」
バレバレの嘘をつくヨコヅナ。
「ヨコっちしかいねぇって、義経を足止めできる1年なんて…」
「そんなことないだよ。義経先輩は軽いから他にも止めれる人いるだよ」
「軽いって言っちゃってるし…」
「…見た感じだべ」
「お腹は大丈夫なのですか?発勁はかなり危険は技ですが…」
「オラの腹はぶ厚いから大丈夫だべ…」
「オラの腹って言っちゃってるし…」
「……でも、マントマンはオラじゃないだよ」
バレバレなのに認めないヨコヅナ。
「戻って来たかヨコ」
「あれ、紋様、どうしたですだ?」
そんなヨコヅナのところに、1-Sの指定観戦場所をはなれて紋白が来た。
「どうしたですだ、ではない。…よっ、と」
ヨコヅナの肩に飛び乗るように座る紋白、
「こら、ヨコ。我に従者でありながら、何を兄上のクラスの邪魔をしておる」
そう言って肩に座った状態でヨコヅナの頭をぽかっと軽く叩く紋白。
「……オラはマントマンじゃないだよ」
「バレてないと思っておるのか、1年男子で義経を足止め出来る者などおらん」
「いるだよ、きっと……ヒュームさんなら絶対止めれるべ」
確かにヒュームは1年男子に含まれるが、
シュタっ「俺の体重が135㎏もあるわけないだろう」
現れて否定するヒューム。そもそもヒュームは紋白と一緒にいた。
「バレバレの嘘はもうやめろ。兄上のところに謝りに行くぞヨコ」
「オラはマントマンじゃないから行く必要ないべ、それに仮にマントマンだったとしても悪い事は何もしてないですだ」
ヨコヅナは障害物の役目を指示通り行っただけに過ぎない、悪い事は一切していない。
「ヨコが意地悪したせいで、義経が泣いておるではないか」
「だから行きたくないんだべ」
ヨコヅナが頑なにマントマンだったことを否定する理由はこれだ。
1-Cの観戦場所からでも、義経が泣いて落ち込んでいるのが分かっているからだ。
どう考えても泣いている理由はヨコヅナが足止したからだろう。
「自分の体重の半分にも満たない女子を、元力士が本気で相手して悪いと思わんのか」
「相手は英雄源義経だべ、それにオラは一度も角界に入ってないから元力士でもないだ、あとマントマンでもないだ」
「ごちゃごちゃ言っとらんで行くぞ。ヒューム」
「さっさと行くぞ、赤子」
「だから、行かないですだよ…」
義経の後はヒューム相手に動かない事を強いられるヨコヅナだった。
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38話①
ヨコヅナは観戦できない状況にあるが、2-Sと2-Fの川神戦役は進む。
2回戦は、女装化対決で、2-Fの師岡卓也が圧勝、指定された生徒は、葵冬馬。(※大和にしようか、義経にようか、弁慶にしようか、迷っている間に小笠原千花が勝手に指名)
3回戦は、男子限定水着コンテスト対決で、2-Sの九鬼英雄が男を見せて勝利、指定した生徒は葵冬馬。
そして、川神戦役は4回戦へ、
4回戦の種目のテーマは、知と遊び心、
「ではクジを引くぞ……、出おった、
多くの者が「体育祭でやる競技ではないような…」と思う所だが、クジの中には恋愛ゲームなどもあるので、まだマシだろう。
それに川神水は酒ではなく、場で酔えるだけなので問題ない。
「男女の限定はない、両組選手一名を選べ」
4回戦の種目を聞いて、2-Sの陣営では、
「これは私しかいないでしょ」
名乗りを上げたのは、武蔵坊弁慶。
「姉御の為にあるような種目だな」
「普段から川神水を飲んでおるぐらいじゃからの」
「ワハハ、好きなだけあって、弁慶は多種の川神水を熟知している」
「頑張れ!弁慶」
「弁慶なら楽勝だろ」
「弁慶さんは最終戦に出て欲しいところでもありますが、ここで一勝取れるなら良しとしましょう」
皆、弁慶の出場を否定しないし、勝ちを疑っていない。
唯一人、
「いや、楽勝なんかじゃない……それどころか、今までで一番2-Sに勝算のない種目だ」
2-Fから引き抜かれた、直江大和を除いて、
「あれ~、大和は私が負けると思ってる?」
「2-Sで選手を選ぶなら弁慶一択、そこに異論はない……」
大和も弁慶の実力を疑っているわけではない、問題は相手なのだ。
「2-Fからは必ず彼が出てくる…」
4回戦の種目を聞いて、2-F陣営では
「この勝負もらったね」
「負けるはずがありません!」
「これで大和が戻ってこれる」
「相手は多分弁慶が出てくるだろうけど、負ける気がしないね」
「飲べぇに、格の違いを見せてやれ」
勝利を確信している2-Fの生徒達。
相手が誰であろうと、負けるなどと欠片も思っていない。
「なんたってこっちには、食のスペシャリストがいるんだから!」
「出番だぜ、クマちゃん!」
「直江君を連れ戻す為にも、精一杯頑張るよ」
2-Fからの選手は、食のスペシャリスト、熊飼満だ。
4回戦の利き川神水、2-F熊飼満 VS 2-S武蔵坊弁慶。
両者の前には机とその上に番号をふった五つのグラスが並んでいる。
「5種類の川神水を、飲み比べて答えをフリップに書きなさい。正解数の多い方が勝ちじゃ」
鉄心がルールを説明をする。
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38話②
鉄心のルール説明を聞いて、1-C、
「川神水は無色透明なのに分かるのかな?」
伊予を含め、多くの生徒が同じことを思う。
「僅かな濁り具合に違いがありますよ、それに味や匂いに特徴がある種類もあります」
由紀恵のように料理が得意な一部の生徒などは少しは違いが分かる。
「まゆっちなら何種類正解できそう?」
「私も多くの種類を飲んだことがあるわけではないので、1つ、2つしか、正解できないと思います」
「やっぱ難しいよね。でも、武蔵坊先輩は普段から川神水飲んでるし、熊飼先輩も食のスペシャリストって呼ばれてるから、5つ正解とからあるのかな。どっちが勝つと思う?」
「どっちですかね……ヨコヅナ君なら熊飼先輩の実力知ってそうなので、予想出来るかもですが…」
「ヨコヅナ君は料理部だもんね、でも…」
ヨコヅナの方を見る由紀恵と伊予。
「ヨコっち今大変そうだから、聞くの止めといた方が良いんじゃね」
「そうだね……」
「では、飲み比べい!」
生徒達の注目の中二人は、川神水の入ったグラスを手に取る。
熊飼は、グラスに入った川神水を角度を変えて観察し、匂いを嗅ぎ、少しだけ口に含んでよく味わってから飲み、そして、迷いなくフリップに答えを書く。
実況百代『熊飼は、一定のペースで川神水を飲み、そして自信満々の笑みで答えを書き込んでいってるぞ!』
解説ルー『彼は基本、いつも笑顔だけどネ』
弁慶は、グラスに入った川神水を、
「ゴクっ、ゴクっ……ぷはー、美味い!」
と豪快に一気飲み、そして迷いなくフリップに答えを書く。
実況百代『弁慶は一気のペースで川神水を飲み、そして酔った笑みで答えを書き込んでいってるぞ!』
解説ルー『彼女は基本、いつも酔ってるけどネ』
弁慶の飲み方を見て、
「弁慶!全部飲まなくても良いんだぞ!」
と義経が叫ぶが、
「分かってるよ~義経。ゴクっ、ゴクっ……ぷはー」
弁慶は全部飲むのを止めない。
「駄目だって、弁慶お前は5杯で壊れる、少しずつじゃないと…」
「だいじょうぶだよ~よしつね。わたしは、ぜんっぜんよってないよ~、ウィっ」
お互いが、5つの答えを書いたところで、
「では、両者一斉に答えを見せい!」
熊飼の答え 弁慶の答え
1.大吟醸川神水 〇 1.大吟醸川神水 〇
2.獺祭川神水 〇 2.獺祭川神水 〇
3.菊一川神水 〇 3.菊一川神すい 〇
4.鬼殺川神水 〇 4.おにころち △
5.輝虎川神水 〇 5.※qhiかrG@ ×
「うむ、この勝負2-F熊飼満の勝ち!」
実況百代『おお!4回戦は2-Fが勝利だ!!パーフェクトとか、さすが食のスペシャリスト!』
解説ルー『弁慶の自滅でもあるけどネ』
「あへ~、なんへ~?…ウィっ、わはひひゃんと答へかいひゃよ~…ウィっ」
「「「「「「「「書けてねぇよ!!」」」」」」」」
4回戦は2-Fの勝利で、直江大和が指名され戻り、2勝2敗で5回戦へ。
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39話①
「では、最終戦の種目を決めるぞ……クジは、これじゃ!……『ダイス&カード』!!」
最後の種目を聞いて生徒達が首を傾げる。五回戦のテーマは「知力&武力」と言っていたからだ。
実況百代『まるで、ギャンブルのような種目名だが、ルー師範代知ってますか?」
解説ルー『これは昔流行った決闘方法を基にしてるネ。ダイスとカードを使うけド、ガチンコ勝負だヨ』
「では、説明するぞ」
『ダイス&カード』
・選手は5名。
・六面のダイスに名前を書く。
・ダイスの残る一面は「助人」、2-Fと2-S以外のクラスから戦う生徒を選べる※ただし百代、ヒュームは選べない。
・二つのダイスをふり、出た名前の生徒同士で、一分間の素手での格闘勝負。
・勝負前に1~7まであるカードを出し合い、大きい数字を出した方が、勝負の行否を決めれる。※同じ数字の場合もお流れ。
・一度使ったカードは使えない。
・先に三勝した方が勝ち。
鉄心の説明を聞いて、
「ダイスで出た生徒が、負傷で戦えなくなっていた場合はどうなるんですか?」
と2-F直江大和、
「カードで勝負が行われると決まった場合、不戦敗じゃ」
「三勝するまでに、カードがなくなった場合は?」
「また7枚に戻して続行じゃ……他に質問が無ければ、両クラス5名を選べい!」
2-S陣営は、
「私が行ってきます英雄様!」
忍足あずみ、
「私も行きましょう」
マルギッテ・エーベルバッハ、
「正直どうでもいいが、汚名返上ぐらいはしねぇと後が怖いか…」
那須与一、
「にょほほ、此方が出てやるのじゃ」
不死川心、
「私も出場して、大和君とカードの読み合いとか、面白そうですけど…」
「若には危険すぎるな、俺が出るぜ」
井上準、
出場の5名があっさりと決まる。
2-F陣営は、
「俺が行くぜ!」
風間翔一、
「当然私も出る!」
クリスティアーネ・フリードリヒ、
「俺も出るしかないな」
直江大和、
「大和が出るなら私も出る」
椎名京、
と4人は直ぐに決まったが、5人目がなかなか決まらない。
一子や忠勝は1回戦、ガクトは3回戦、と戦える生徒が既に出場済みなのだ。
あーだこーだ言っているうち、
「サル、アンタ出なさいよ。勝ったら好きに指名して良いから」
「え、俺か!?いや、でも格闘なんて出来ねぇぜ」
「出来るだけヨンパチの試合は流れるようにカードを選ぶ。もし戦いになっても1分間逃げ回ればいい、俺もそうするつもりだ」
「そう、そうか…」
「それに格闘なら、女子相手でも触り放題だぞ!ヨンパチ」
「なるほど!……よっしゃ、俺が行くぜ!」
皆に説得され、福本育郎 通称ヨンパチが出場を決め、2-Fも出場の5名が決まった。
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39話②
FとSで合計10名の生徒が中央に集まり、ダイスに名前を書いていく。
「よし、名前を書き終わったの。ではカードを決める者を選べ」
カード決めは、思考の読み合いでもあるので、「頼んだぜ大和」「出番だ軍師」と2-Fは直江大和がカードを受け取る。
対して2-Sは、
「一人に限定しなければならないのですか?」
「いや、途中で交代しても構わんぞ」
「では、ダイスで名前が出た人がカードを決めるという事にしますね」
全員が文武両道なので、一人に限定しなかった。
「では、最終戦を開始するぞ……ダイスを振るぞい、一投目の選手は~」
鉄心が二つのダイスを振る……出た目は、
【福本】 【那須】
実況百代『おっと!いきなり実力差の大きい、組み合わせが出たぞ!!』
解説ルー『そもそも2-Sと2-Fとでは明らかな戦力差があるからネ。カードを上手く使うしかないヨ』
「…やれやれ、いきなりとはな」
与一が前に出て、カートを受け取り大和と対面して立つ。
「正直、与一は川神戦役に出てこないと思ったんだけどな」
と、大和の言葉に、
「お前の言う通りだ。FとSの優劣にも、生徒のトレードにも俺は興味ねえよ。だが、義経も姉御も大衆の面前でカッコ悪い所を見せてるからな。源氏として汚名返上はしとかねぇと、だから」
与一は対決の相手であるヨンパチを睨みながら、
「最低でも、保健室送りは覚悟しておけ」
「おいおいおい、マジかよ~」
与一の言葉に怯えるヨンパチ。
「頼む大和、試合流してくれ~」
相手は武士道プランのクローン、那須与一。素手とは言えヨンパチに勝てる見込みもないし逃げるだけでも厳しい、男だから戦っても何の得もない。
「……ああ、分かっている」
「頑張れ与一!」
義経の声援が聞こえる中、
「両者、出すカードは決まったか?」
鉄心の言葉に頷く大和と与一。
「ではオープン!」
そして、カードは
大和 『4』 与一 『1』
「数字の大きい2-F、どうする?」
「この勝負は流します」
実況百代『あ~と、最初の対決はお流れだ~』
解説ルー『那須与一は『1』だネ、勝てるのに、初めから戦う気なかったようだネ』
「5以上は出すと思ったんだが、4とはな…」
「お前に、やる気のあるセリフは似合わない……それにしても『1』とはな…」
「大和との読み合いは楽しいが…へ、こんな勝負で本気になれるかよ!」
与一はそう叫んで、カードを置いて下がる。
そんな与一の様子を見て、
「あぅ~、やっぱり義経が情けないから、与一はやる気ないんだ~」
と悲しむ義経、しかしそんな考えを、
「違いますよ。義経」
葵冬馬が否定する。
「え!どういうことだ?葵君」
「与一君が言ってたじゃないですか、「こんな勝負に本気になれるかよ」って。弱い相手に本気で戦って勝利したところで汚名返上出来ると思いますか?保健室送りになんてしたら、寧ろ源氏の評価は下がりますよ」
「それは、確かにあり得る…」
「だから、勝負せず、要らない1のカードを消費したんですよ。次ダイスで名前が出た時、本気で戦うに値する相手であれば、頑張ってくれますよ」
「そっか、そうだよね。義経もそう思う!」
「………多分ですけど」
絶対とは言えない。
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40話
「では、二投目じゃ」
鉄心が振ったダイスで出た、名前は
【椎名】 【忍足】
実況百代『これは…なかなか面白い対決だ~!』
解説ルー『どちらも武器を得意とする生徒だけド、素手でも一般人を大きく上回る実力だからネ』
「さて、どれにしましょうか?」
カードを受け取り、わざとらしい素振りで考えるあずみ。
そして、大和も悩みどころだった。
京には勝ち星をあげて欲しいのだが、相手は忍足あずみ。
マルギッテよりはマシかもしれないが、簡単に勝てる相手ではない。格闘の実力だけでなく何して来るか分からない怖さがある。
「1を出して大和」
「京…」
悩んでいた大和に、椎名がそう声をかけた。それも相手にも聞こえる声量で、
「聞こえてますよ~。しかも、それだと私に確実に勝てると言ってみたいに~」
「みたい、じゃなくて、そう言ってるんだけど伝わらなかった?」
無表情で応える京。
「そうですか…分かりました」
それに対して、口は笑っているが目が笑っていないあずみ。
「両者カードは決まったな…では、オープン!」
大和 『1』 あずみ 『2』
「数字の大きい2-Sどうする?」
「もちろん、戦います」
あずみは勝負をすることを宣言。
実況百代『見ごたえありそうな試合が決定した!』
解説ルー『どちらが勝つか予想がつかないネ~』
「では、椎名、忍足の2名は前へ」
「京頑張れ、でも怪我するなよ」
「うん、分かってる大和」
「両者構えて…」
(さっきは随分やすい挑発をしてくれたな、…本当の挑発を教えてやるよ)
構えをとるあずみは笑みを消す。
「はじめっ!!」
京は開始の声と同時に前に、
「てぁー!」
速攻を仕掛ける。
実況百代『京開始に早々前に出た。素早い攻撃の連打!』
解説ルー『忍足は回避に徹してるネ…』
あずみは、京の速攻をのらりくらりとかわしながらも、反撃はせず代わりに、
「一つ教えてやるよ」
戦いの最中でありながら、京だけに聞こえる声量で話しかける。
「必要ない」
京はそれを意識を削ぐ策だと思い、相手にせず攻撃を止めない。
「そう言わず聞けよ。お前らが屯ってる廃ビル…取り壊そうって話が出てるんだぜ」
「な!?」
あずみの言葉に攻撃を止める京。
「武士道プランの一環で、川神で悪さをしている奴等を九鬼財閥が排除してるのは知ってるだろ」
「私たちは悪い事なんてしてない!」
「若者が廃ビルに屯って騒いでるのが、親不幸通りで廃工場に屯ってる不良達と、知らない人から見れば大して変わらないと判断出来るってことだよ。実際、たまにうるさい時があると近所の者が言ってたそうだ。後、武器持ってうろついてる女もいて怖いとか」
「それは……」
否定したくても出来なかった、外からでも分かるぐらい騒いでる時もあるし、武器持ってうろついている女もいるのだから。
「廃ビル取壊しの書類は、要思案の状態だが…」
これはブラフである。全部が嘘ではなく、風間ファミリーが基地にしている廃ビルの近隣の者からの苦情は本当で、会議の時に口頭だけで廃ビルのことも出たが、一子の居場所を奪うなど九鬼英雄が許すわけないのだ。だから書類など存在しない。
だが、動揺している京は思い至らない。
「近所が迷惑してるだけの必要ない廃ビルなんて、さっさと取り壊すべきだよな」
クッキーからの情報で、京が廃ビルの基地を大切に思っていることを知っているあずみ。
あずみの挑発の言葉に、京の表情が一変し、
「お前、死ねよ」
殺気が感じられるほどの、怒りの形相で殴りかかる京、
「忍足流、分身の術」
あずみの姿が忍術で数人に増える。
京は怒りのまま攻撃を繰り出し、実体のないあずみを殴る。
(バーカ、所詮ガキだな)
あずみは分身を隠れ蓑に、京の隙を狙い、
(お前とは潜って来た修羅場の数が違うんだよ)
渾身の一撃を繰り出す。
「ぐはぁっ!?」
渾身の肘打ちが、適格に鳩尾に決り、地に膝を着く…あずみ。
(カウンター!?……こいつ…怒った演技を…?)
そう思ったあずみだが、
「許さない」
今も京は怒り心頭してるようにしか見えない。
あずみは知らないことだが、普段クールに見える京は、感情で戦闘力が変化するのである。
「私の大切なモノを潰すと言うなら、お前の大切なモノも潰してやる…」
京の視線はあずみの大切なモノに向けられていた…視線の先は当然のあずみの主、九鬼英雄。
意味を理解して、肘打ちの痛みが吹っ飛び立ち上がるあずみ。
「ぶっ殺す!!」
「死ぬのはお前だ!」
この後、滅茶苦茶殴り合った。
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41話
「死ねや!」
「お前が死ね!」
お互いの顔面を怒りのままに殴り合う京とあずみ。
「怖ぇ~」
口に出したのは一人の生徒だが、多くの生徒がそう思っているだろう。
「一分経過、それまでじゃ」
試合時間が過ぎ鉄心が声をかけるが、
「オラァ!」
「ハァッ!」
聞こえていないのか、殴り合うのを止めない二人。
それを見て、
「止めよ!あずみ」
英雄が制止の声をあずみにかける。
「はい!英雄様!」
英雄の声には反応して大きく飛び離れるあずみ。
「京もやめろ」
大和は京に近づき腕を掴んで止める。
「大和、でもあいつが…」
「一旦落ち着け、な」
大和は腕を引っ張り京を自陣へと連れ戻す、駆け寄ってきた風間ファミリー達が怪我の具合を見つつ、京を落ち着かせる。
実況百代『椎名VS忍足は引き分け!予想とは違がってたけど、激しい試合でしたねルー師範代』
解説ルー『そうだネ。途中から力任せの殴り合いになってたヨ』
実況百代『途中何か話してましたからそれが原因でしょうね』
解説ルー『二人とも普段は冷静な生徒なのニ…、よほど気に障る事を言われたんだろうネ』
京とあずみは打撃による腫れは酷いものの、保健室へは行かず続行することになった。
「では三投目じゃ」
鉄心がふったダイスの出た名は、
【助人】 【忍足】
実況百代『何と!2-Sは連続で忍足!』
解説ルー『2-Fは助人だヨ、これは僥倖だネ』
「チっ、連続かよ」
ダメージが回復していないのに、出番がきた事に悪態をつきながら、カードを受け取るあずみ。
「2-Fは誰を選ぶ。助人は同じ生徒を複数回選ぶことは出来んぞ。例え相手が選んだ生徒であっても、次に助人が出た時に選ぶことは出来ん」
「つまり今選んだ生徒は以降2-Sに助人が出ても選べないわけか…」
大和は少し考えてから、
「3-F、松永燕先輩にお願いします」
「うむ、3-F松永、前へ出るのじゃ」
「私を選ぶんだ、大和君」
「すみません。燕先輩を2-Sに選ばせるわけにはいかないので、それに勝てる可能性も高いですし」
松永は転入初日に、本気でないとはいえ百代と互角に手合わせをしており、実力は2-Sの誰が相手でも劣らないだろう。
「松永納豆の販促を手伝いますので、お願いします」
「……それじゃ、もし戦いになって私が勝ったら、更に大和君に貸し一つってことで、どうかな?」
「…はい、分かりました」
「二人ともカードは選んだか」
戦力が低い2-Fとしては助人で勝ち星を上げたいところだ。ただ、大和が7を出したとしても、相手も7を持っているうえ、ダメージも残っているので流れる可能性の方が高い。
そう考えていたが、
「では、オープン!」
大和『7』 忍足『3』
大和の考えとは違い、あずみは持っているカードの中で最低のカードを出した。
「数字が大きい2-F、どうする?」
「…戦います」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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42話
実況百代『またも、試合が決定したぞ。燕VS忍足だ!』
解説ルー『忍足のダメージがどれだけあるかが肝だネ』
対面して立つ松永と忍足。
「そんな状態で勝てる算段があるのかな?」
「負けるつもりで戦うほど、私は酔狂ではありませんよ」
二人が張り付けたような笑顔で会話する間で、
「両者構えて…」
鉄心が合図をだし、
「はじめっ!!」
試合が始まる。
開始と同時に前に出たのは燕、あずみのダメージを考えれば当然。
それに対してあずみは、
「プッ!」
口から何かを高速で飛ばす。
燕は何を飛ばしたのか見えないが足を止め、咄嗟に目を腕でかばう。
その腕に小さいものが当たった。
忍者には口に入れた針や鉛玉を飛ばす技がある。
だが、この試合は武器の使用は禁止のルール。
一瞬視線を審判の鉄心に向けるが、動こうとはしない。
つまりは、反則ではないと言う事だ。
「……なるほど」
一人何かを納得する燕。
「学長、今何か飛ばし」
「大和君必要ないよ」
大和は、あずみが何かを飛ばしたことは分かった為、鉄心に抗議しようとしたが燕が止める。
「何を飛ばしたのか、知りたいですか?」
「ううん、時間ないから説明はいらない」
そう言うと同時に、燕は先ほどよりも速いスピードで前に出る。
「チっ…分身の術!」
あずみは分身の術を使うが、
「はは、やっぱりダメージが大きいんだね。本体がバレバレだよ」
ダメージの影響で、少し注意して見れば誰でも分かるぐらい、雑な分身になっていた。
燕は偽物は無視して、真っすぐ本体のあずみに近づき、腹部に拳を叩き込む。
「がはっ…」
京の肘打ちを受けたのと同じ場所のため、えぐられたような激しい痛みに膝を着くあすみ。
「万全の状態だったら、一分間逃げ切ることも出来たかもね~」
そう言って燕は容赦なく、下がった首筋に手刀を喰らわせ、
「ぐぁっ…」
あずみの意識を刈り取った。
「そこまで!、勝者、2-F助人、松永」
「イエーイ!納豆パワーのお陰で勝てたよー!」
圧倒的勝利と可愛くポーズを取る燕に、ワァァー!と歓声が沸く。
実況百代『燕VS忍足は、燕の勝利。2-Fが先に勝ち星を一つあげた!』
解説ルー『短かったけど、面白い試合だったね』
実況百代『最初忍足が口から飛ばしたのは、…歯の欠片ですかね』
解説ルー『そうだろうネ。前の試合で欠けた歯を飛ばしたんだろうネ。武器じゃないから学長も何も言わなかったヨ』
百代とルーの話を聞いて、大和は何故燕が鉄心への抗議を止めたのかが分かった。
あずみの狙いは時間切れの引き分けで、反則でないのなら時間が止まらないからだ。
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43話
「多分、忍足さんは今日はもう戦えないと思うから、少しは戦力差縮まったと思うよ~」
「ありがとうございました、燕先輩」
「それじゃ、頑張ってね」
そう言っては燕は颯爽と3-Fの観戦場所へと帰っていった。
「では四投目じゃ……何が出るかな、何が出るかな」
ダイスに出た名前は。
【直江】 【不死川】
実況百代『四投目は大和対不死川だ!』
解説ルー『これはカードから難しいネ』
「にょほほ、此方がSの1勝目をあげてやるのじゃ」
心がカードを受け取る。
大和は真面に戦えば心に勝てないことは分かっている。
だが、ここで出したカードは…
大和『2』 不死川『4』
「数字の大きい2-S、どうする」
「『2』とは舐めた事してくれるの、当然勝負するのじゃ」
実況百代『これも勝負が決定したぞ!』
解説ルー『カードは『2』『4』どちらも意外だったネ』
大和と心が対面して立ち、
「両者構えて…、はじめっ!!」
鉄心の合図で試合が始まるが、
「聞きたいことがある」
試合が始まってから心に普通に話しかける大和。
「何じゃ?」
「何故カードで『4』をだした、『7』を出してくれた方が嬉しかったんだがな」
「にょほほ、今までSは『1』『2』『3』と出してきたからの、だから『4』を出したのじゃ。山猿に勝つのに読み合いなど必要ないからの」
「今は1-0でFがリードしているが」
「3年の力を借りてじゃろ、それに今から1-1なるのじゃ」
「そう言えば、この川神戦役を提案したのが不死川さんだと聞いた」
「その通りじゃ」
「それを聞いて俺は疑問に思った、……何故不死川さんがそんなことを提案したのかと…2-Fの生徒を引抜いても何も不死川さんに利などないのでは?と」
「それもその通りじゃ、別に此方はFの生徒などいらん」
「俺は色々なところから情報を集め、不死川さんが川神戦役を提案した理由を推測した」
「ほう、なんじゃ言ってみよ」
「……俺が導き出した答えは、FにSとの格の違いを知らしめる為、となった」
「間違っておるの。
「だが、その目論見は既に破綻している」
「何じゃと?」
「今までの4戦で2勝2敗。互角の状況なんだ、誰ももう格が違うなんて思わない」
「馬鹿を言え、女装対決で勝ったからと言って何じゃ。それに利き川神水は弁慶の自爆じゃ」
「それだけじゃないだろ、最初の障害物競走でも接戦だったんだ」
「あれは、マントマンの差じゃ。もしマントマンが逆だったら…」
会話に夢中になっている心だが、
「不死川心、いつまで話をしているのですか!もう試合は始まっているのですよ!」
「な!?」
マルギッテの言葉に驚いて、鉄心の方を見る。
「開始の合図は出したぞ」
実況百代『ルー師範代、後何秒ですか?』
解説ルー『もう残り20秒切ってるヨ』
「クククッ。こんな簡単に引っかかるとはな」
「このぉ山猿~、投げ飛ばしてやるのじゃ!」
その後、捕まえようとする心の手を、大和は残り時間回避し続け、時間切れで引き分けとなった。
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44話
実況百代『ダイスを4回振って、現在は1-0でFがリード』
解説ルー『残るカードは三枚だネ』
「では、五投目じゃ…ホイっ」
Fでカード決めを任されている大和の心境としては、Sに忍足の名前が出て欲しいところであった。もしくはFに助人。そうすれば、残り三回を凌ぎ、カードを七枚に戻せる。
ダイスで出た名前は、
【風間】 【助人】
大和の希望とは逆にSに助人が出る。
「助人ですか…、私は学園にきて日が浅いので、思い当たる人物がいませんね」
「それなら、俺もだな」
転入して間がない、マルギッテ、与一はクラス以外に知り合いはほとんど居らず、居てもそれは2-Fだ。
「これって、知り合いじゃないと選んじゃいけないんですか?」
準が鉄心に確認する。
「選ぶこと自体は構わん。ただ相手にも拒否権はあるぞ」
「……て事は、やっぱ知り合いになるよな」
「試合になって即降参されても困るしの」
「不死川は誰か……いるわけねぇか…」
「決めつけるでないわハゲ!」
他のクラスに知り合いがいないと決めつける準を怒鳴りつける心。
「にょほほ、此方だって他のクラスに知り合いは居るのじゃ。それも実力的に確実に勝てる者が二人も」
「本当か?」
「うむ、じゃがその内一人は、勝負相手である風間と仲が良いようじゃから、選べるのは一人じゃな」
「それは誰の事ですか?」
「1-Cの井ノ中ヨコヅナじゃ」
「ああ、あいつか…」
準もヨコヅナの事は知っているが、決闘で負けたり、紋白に気に入られてたりと、準としてはあまり頼りたい相手ではなかった。
「アタイもヨコヅナで賛成だ」
「あずみ、もう良いのですか?」
燕との戦いで保健室に運ばれたあずみが戻って来た。
「ああ。つっても戦闘は無理だがな。ダイスでアタイの名前が出て勝負になったら負けだ。ここは勝っとけ」
「…助人で勝つのは気乗りしませんがね」
「相手は3年の助人で勝ったのじゃ、気のすることではない。学長決めたぞ、助人は1-C井ノ中ヨコヅナじゃ」
2-Sの助人として呼び出されたヨコヅナは、
「はぁ、はぁ……オラに、用だべか、先輩?」
「何じゃ、えらく疲れとるの井ノ中」
息も絶え絶えで、見るからに疲弊していた。
「はぁ、はぁ…ちょっと上司のパワハラに、抵抗してただ」
「それじゃ今までの試合、見てなかったのか?」
「そんな暇、なかっただよ…はぁ、はぁ、……忍足先輩どうしてそんなに、ボロボロなんだべ?」
「…アタイのことは気にすんな。それよりヨコヅナにやってもらいたいのは」
ヨコヅナに状況とルールを簡単に説明するあずみ。
「そうだべか。はぁ…分かりましただ。でも、戦う代わりに、お願いがあるだ」
「何だ?」
「紋様と、ヒュームさんに、パワハラ止めるように、言ってもらえないだか」
「……まぁ、勝ったら英雄様に頼んでやるよ」
あずみは何故ヨコヅナがパワハラを受けているの知らないが、勝つ気で戦わせる為にそう言っておく。
「お願いしますだ。はぁ、はぁ、それじゃ言って来るだ」
「カードはこれを出せばよいぞ」
「分かりましただ」
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45話
「双方、カードは決まったかの?」
大和はこの、風間VS井ノ中の戦いはお流れにしたかった。
風間翔一通称キャップは、一般生徒よりは強いが、武道をやっている生徒には勝てない。そしてヨコヅナは後者。
(でもキャップは戦う気満々だからな…)
やっと出番が回って来たのでキャップは、勝てる勝てないなど関係なく試合をするつもりだ。一分間逃げ回るなどもしないだろう。
だからお流れにするには同じ数字のカードを出すしかない。
残り三枚のうち、FとSで同じ数字は『5』『6』。
Sはまだ『7』を持っているので『7』を出された場合は諦めるしかない。
だが他を出す可能性もなくはない。
「決まりました」
「良いだよ」
「では、オープン!」
大和『5』 井ノ中『6』
「くっ、ミスった…」
大和が『5』を出したのを見て、
「にょほほ、引っかかったの」
意地悪く微笑む心。
「数字の大きい2-S、どうする?」
「戦いますだ」
実況百代『5投目も勝負が決まった!キャップVS助人井ノ中だ!」
解説ルー『スピード特化とパワー特化の対決だネ』
対面して立つヨコヅナとキャップ。
「まゆっちの友達らしいが、遠慮はしないぜ」
「必要ないだよ」
「両者構えて……」
キャップは素人なのが分かる適当な構え、ヨコヅナは両手を開いて腕を胸前に上げ、腰は少し落としてドッシリとした構えをとる。
「はじめっ!!」
「行くぜ!」
合図と同時に前にでて、これも素人丸出しで殴りかかるキャップ。
「オラ!」
ヨコヅナはその拳の軌道が腹に向かっているので、防御もせず腹の正面で受ける。予想通り大した威力ではないので、即座にキャップを掴もうと手を伸ばすが、
「おっと、力士に掴まれたら終わりだからな」
ヨコヅナの手はあっさりかわされる。
「オラオラ!」
キャップは更に顔を狙って二連撃を繰り出す。
その攻撃をヨコヅナは、片腕で二連ともはじき、逆の手でカウンターの張り手。
「危ね!…」
キャップは張り手をギリギリでかわし、少し距離を取る。
動きこそ素人だがキャップのスピードは相当なものだ。また、由紀恵や忠勝から話を聞いているのでヨコヅナが一年だからと油断してないのも攻撃をかわせる理由の一つ。
さらに、もう一つヨコヅナの攻撃がかわされる大きな理由があった。
「………」
自分の手の平を見ながら、閉じたり開いたりさせるヨコヅナ。
「ガンガン行くぜ!」
次に顔面に向けて繰り出されたキャップに拳をヨコヅナは、
何もせず棒立ちで喰らう。
「な!?」
ヨコヅナの不自然な行為に驚いたキャップは再度距離をとる。
「何のつもりだ?」
「どうしただ、遠慮せずガンガンくるだよ」
ヨコヅナは質問には答えず、かかってこいと手招きする。
実況百代『一年井ノ中、先輩に対して挑発行為だ!』
解説ルー『試合中は無礼講だネ』
「舐めんな!!」
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46話
キャップが棒立ちのヨコヅナに次々と攻撃を叩き込む。
その姿を見て、
「いけー!風間くん!」
「生意気な一年なんかやっちまえ!」
「風間君、頑張ってー!」
と、生徒達も声援を送り、盛り上がっている。
だが、それは分かっていない生徒達だけだ。
分かる生徒は、一発目で気づいていた。
「にょほほ、あんな攻撃では1分どころか1時間続けても、井ノ中を倒すことは出来んの」
「アイツの頑丈さは、準壁超えクラスだな」
「機会があれば戦ってみたいですね」
「…負けねぇのは分かったが、あれじゃ勝てねぇだろ」
「問題ないぜ。奴はああ見えて抜け目ないからな、機を狙ってるだけだ」
「はぁ、はぁ、こいつ、マジでビクともしねぇ…」
「……はぁ~ぁ、眠くなってきただな」
ずっと連続攻撃を続けた為、息が切れているキャップに対して、全ての攻撃をまともに喰らっていたのに呑気に
実況百代『井ノ中、攻撃が効いてないアピールか!?欠伸をしてさらにキャップを挑発する!」
解説ルー『頑丈な生徒だネ』
「キャップ、そいつを倒すのは無理だ!時間切れで引き分けを狙え!」
大和もヨコヅナの強さが想像以上だと気づき、キャップに指示をだす。
しかし、これは失言だった。
「一年相手に、そんなカッコ悪い事出来るかよ!!」
キャップは少し下がって距離を取ってから、走って勢いをつけ、
「喰らいやがれ!」
ヨコヅナの顔面に向けて全力の飛び蹴りを繰り出す。
「そういうのを待ってただよ」
ヨコヅナの表情が変わる。
最初の攻防でヨコヅナは自分の動きが鈍いことに気づいた、パワハラに抵抗して疲弊しているのが原因だ。
このままだと、一分間避けられ続ける可能性を危惧したヨコヅナ。
だから、棒立ちや欠伸など、挑発行為で確実に一撃で倒せる大振りを誘ったのである。
ヨコヅナは飛び蹴りを半歩斜め前に出てかわしつつ、空中で回避できないキャップの顔面に張り手を叩き込む。
「ぐへぁ!」
ヨコヅナの張り手をもろに喰らい、キャップは受け身も取れず地面に落ちる。
「「「「「………」」」」」
キャップが優勢だと思って騒いでいた生徒達も言葉を失う。
そして、倒れたまま動かないキャップ。
「それまで!!勝者2-S助人井ノ中」
確認するまでもなく、鉄心は勝ち名乗りを上げた。
実況百代『挑発に乗って大技に出たキャップを、井ノ中がカウンターで一撃KOだ!!』
解説ルー『狙い通りの完璧な一撃だったネ』
実況百代『これで1-1で並んだぞ。勢いは2-Sに来ているのか!?』
解説ルー『残ってるカードもFが少し不利だからネ、後の二回は重要だヨ』
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47話
「ふぅ~、やっと解放されただよ」
助人として勝負に勝ったので、約束通りあずみは英雄に話を通してくれ、英雄によって紋白とヒュームのパワハラは止めれらた。
「お疲れ様ですヨコヅナ君」
「ヨコヅナ君お疲れ。大変だったね」
1-Cの観戦場所に戻って来たヨコヅナに、由紀恵と伊予が労いの言葉をかける。
「風間先輩に中盤殴られっぱなしだったけど、大丈夫なの?」
「あれぐらい、全然平気だべ」
「本当に頑丈だね、ヨコヅナ君」
「頑丈じゃないと相撲はとれないだよ……どうしただ?まゆっち」
由紀恵が落ち着かない様子なことに気づくヨコヅナ。
「…すみません、私保健室にキャップさんの容態を見に行ってきます」
「そっか、まゆっちと同じ寮で暮らしてる仲の良い先輩なんだよね」
「あぁ~、悪いだな、友達怪我させて…」
「いえ、勝負の結果ですから、ヨコヅナ君が気にする事は何もありません。ではちょっと行ってきます」
そう言って由紀恵は保健室へと向かって行った。
「寧ろ悪いのはこんな勝負させる学校だよね」
ヨコヅナに気をつかってか、悪いのは学校だと言う伊予。
「……でも、なんかオラ、女子生徒からすごい睨まれてる気がするだべな…」
「ははは、風間先輩はエレガント・テクワットロの一人でだからね。顔面潰したら睨んでくる女子もいるよ」
「あの程度顔面潰した内に入らないだよ、顎の骨が折れた程度だと思うだ」
「十分潰した内に入ると思うけど…」
ヨコヅナにとって顔面を潰すとは、何度も地面に叩きつけて原型が分からなくなることを指す。
「では六投目ゆくぞ…ホイっとな」
鉄心の振ったダイスの出目は、
【福本】 【マルギッテ】
実況百代『あ~っと!ここでFにとって最悪の組み合わせが出た!』
解説ルー『Sはまだ『7』のカードを持ってるからネ』
カードを受け取るマルギッテ。
残っているカードはFが『3』『6』、Sは『5』『7』
2-Fはダイスの運に見放され、かなり追い込まれた状況だ。
「双方、カードは決まったか?」
「私は決まってます」
大和は少し考えた後、
「…決まりました」
「では、カードオープン」
2-F『6』 2-S『7』
「…てっきり『3』を出してくると思ったのですがね」
「少しでもクラスメイトが怪我しない可能性を選んだまでだ」
ここで大和が『3』を出していれば次の回、自動的に勝負の行否権は得たのだが、マルギッテがそれを読んで『5』を出す可能者も十分ある。
ならばと、ヨンパチが怪我しないで済む可能性が少しでもある『6』を選んだのである。
「数字の大きい2-S、どうする」
「もちろん勝負します」
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48話
「ヨンパチすまない、何とか一分間逃げ回ってくれ」
「お、おう、逃げ足には自信があるぜ」
「…頑張れよ」
実況百代『さ~て、戦うのは福本VSマルギッテ、この試合は大体予想出来てしまうが』
解説ルー『決めつけは良くないヨ、…ワタシも否定はしないけどネ』
ヨンパチとマルギッテが対面して立ち、
「両者構えて……はじめっ!!」
鉄心の試合開始の合図が出される。
合図と同時にヨンパチは、
「うおらぁぁ!!…」
威勢のいい声を上げながら走り出す。
マルギッテが居るのと逆方向に…
実況百代『やはり、2-F福本逃げの一手だ』
奇異な行動ではあるが、大方の予想通りの行動だった。
ヨンパチが負けない為にはそれしか方法はない。
しかし、
「ドイツの猟犬から、逃げれるわけねぇだろ」
あずみの言う通り、
「残念ですが、私は逃げる獲物を狩るのが得意なのです」
逃げるヨンパチにあっさり追いつき、足を引っかけ転ばす。
「ぐえっ」
倒れたヨンパチを足で踏みつけ、動けなくするマルギッテ。
「福本育郎、あなたには聞きたいことがあります」
マルギッテにとってヨンパチは勝負するに値しない相手だ、しかし、カードは『7』を出していた。つまりマルギッテはヨンパチとの勝負を望んだと言う事だ。
それにはちゃんと理由がある。
「最近、学園で一部の男子生徒が秘密裏に集まり、盗撮写真などを競売しているという情報を入手しました」
「!?……」
マルギッテの言葉に、大量の汗が出てくるヨンパチ。
「あろうことか、競りにかけられている品の中にはクリスお嬢様の写真も」
「いやそれは…」
「黙りなさい!」
「ぐぁ…」
ヨンパチを踏む力を強めるマルギッテ。
「YESかNOで答えなさい。もし虚偽を答え、後でそれが判明した場合は命はないと思いなさい」
マルギッテは
「クリスお嬢様を盗撮し、その写真を競売に出しているのは、福本育郎、あなたですね」
「い、YES…」
クリスを盗撮し魍魎の宴で売っているのは真実であり、正直に答えるしかないヨンパチ。
「で、でも、クリスの品で卑猥なモノなんてないんだ、本当に!」
これもあながち嘘ではない、武士娘達は隙が少ない為、盗撮と言っても基本日常風景だ。
クリスで言えば、体育のブルマ姿の時や、美味しそうにお稲荷さんを頬張っている時の写真とかだ。
「分かりました…立ちなさい」
踏む足をどけ、ヨンパチに立つように指示するマルギッテ。
「正直に答えたから…許して…」
「ええ、正直に答えた事に免じて……9/10殺しで許してあげましょう」
マルギッテが眼帯を取る。
「Hasen Jagd]
「ぎゅぇあああぁぁぁぁぁぁー!!」
「勝者2-S、マルギッテ」
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49話
実況百代『6投目はマルギッテの勝利で、Sが2勝で王手がかかったぞ。7投目で決まってしまうのか?』
解説ルー『行否権はSにあるから、ダイス次第では即負けだネ』
残りのカードは1枚ずつでFが『3』Sが『5』、数字の大きいSが自動的に行否権を有する。
しかもFはキャップとヨンパチが保健室送りになったので、2/5で負けが確定する。
「では、7投目行くぞ。つまらない決着にはならないことを祈りたいの……ホレっ!」
ダイスの出目は、
【クリス】 【井上】
実況百代『出た名前は、クリス対井上。Fにとって最悪で、観てる方もつまらない出目は避けられた!』
解説ルー『それに勝負になっても、見物の組み合わせになったネ』
「どうじゃハゲ、クリスと戦って勝てるか?」
「クリスは幼女じゃないから容赦なく殴れるが……マルギッテ…」
「クリスお嬢様を攻撃するなど許さない、と私が言うと思っているのですか?」
「「「「思ってる」」」」
「那須与一までが言いますか……正々堂々の勝負に私が口出しすれば、騎士としてのクリスお嬢様の誇りを傷つけることになります。なので私は何も言いませんし、後で報復などもしません」
「そいつは助かるぜ」
「ロリコンにクリスお嬢様が負けるとも思っていませんがね」
「言うと思ったぜ……与一は良いのか?ここで勝負が決まったら、源氏の汚名返上は出来なくなるが…」
「構わねぇよ。参加はしたんだ、文句は言われねぇだろ」
「おい、ロリコンハゲ。あたいも怪我が辛いからここで決めろ」
「誰も名前で呼んでくれねぇ…」
「勝ったら、引き抜く生徒はお前が選んで良いぜ」
「本当か!?」
「ああ、英雄様は川神一子を引き抜きたいとは思ってないし、他もクリスに勝ったなら文句は言わねだろ」
「分かった、必ず勝利しよう」
「クリス、あいつら…」
「皆まで言うな大和。目を見れば分かる、勝負する気だな」
「勝てるか?」
「愚問だな、私が勝たねば誰が勝つ」
「油断しない方がいい。相手、ハゲでロリコンと言われてるけど、多分強いよ」
「心配するな京。騎士クリスは油断などしない」
((自信満々の時のクリスって、逆に心配になるんだよね)な)
「2-S、どうする?」
数字は決まっているので、カード決めは無しにSに聞く鉄心。
「勝負します」
実況百代『勝負になった!、井上はクリスに勝って、ここで川神戦役に決着をつけるつもりのようだ!』
解説ルー『大事な一戦だネ、観てるみんなも目を離さないことをお勧めするヨ』
クリスと井上が対面して立つ、
「両者構えて……はじめっ!!」
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50話
鉄心が試合開始の合図をだし、先に攻撃をしかけたのはクリス。
「はぁああ!!」
気合と共に素早い突きの連打を繰り出す。
その連打を、準は腕で全て防御し、
「せいッ!」
クリスの膝に素早い下段蹴り。
「く……だが、この程度、」
下段蹴りを喰らうもクリスは攻撃の手を止めず攻め続ける。
クリスの攻撃はとても速く威力もある、普通の生徒であれば瞬く間にダウンさせられるだろう。
しかし、
「全て防がれる!?……く」
クリスの攻撃を、準はほぼ完璧に防いでいた。そして、隙を見ては膝に下段蹴りを喰らわせる。
「ハゲのやつ…あんなに強かったのじゃな」
「ロリコンの癖に、クリスお嬢様の攻撃を全て防ぐとは…」
「井ノ中に決闘で負けてから、鍛え直してるって話だ」
「なにより集中力が凄ぇな」
この勝負に勝てたら指名権をもえる井上準は、今までの人生で一番と言って良いほど集中していた。
(勝てば甘粕真与とクラスメイト。勝てば甘粕真与とクラスメイト。勝てば甘粕真与とクラスメイト。勝てば甘粕真与とクラスメイト……)
2-Fの甘粕真与と同じクラスになる為に。
「はぁ、はぁ…」
攻撃をし続けて息を切らしているクリスを見て、
「クリスが負けるのか…」
心配になる大和だが、
「……違うよ大和」
京が否定する。
「はぁ、はぁ…」
「仕留めさせて貰う!」
息切れのクリスを見て、初めて自分から攻撃に出る準。
「セァァっ!!」
一撃で仕留める為、渾身の力で拳を繰り出す準。
しかし、これは功を焦った行為だった。
「あまい!」
「な…」
準の攻撃をクリスは紙一重でかわす。
「仕留めさせて貰うはこちらの台詞だ」
「やっぱり、あれぐらいでクリスが息切れしてるの、おかしいと思った」
京の言う通り、連続で攻撃していたと言っても30秒ほどだ。その程度でクリスは息切れなどしない。
必殺の一撃を叩き込む隙を作る為の演技だったのだ。
「零距離、刺突!!!!」
クリスの必殺技(素手バージョン)が準の腹に叩き込まれた。
「ぐふぁ!!」
「お見事です!クリスお嬢様!!」
「何を喜んでおるじゃ!」
敵であるクリスの必殺技が決まって喜ぶマルギッテに、ツッコミを入れる心。
「それに喜ぶは早いだろ」
「ハゲロリコンはまだ負けてねぇ」
必殺技が極まった事でクリスも勝ちを確信してしまい、それが油断となった。
「俺は!」
「何!?」
「必ず勝つんだぁ!!」
限界突破したロリコンの拳がクリスの顎を捉える。
顎を打ち抜かれ、クリスは膝から崩れるように倒れた。
「ぐ…」
そして準もまた、クリスの必殺の一撃を喰らったダメージと、その上で無理に動いた反動からその場に膝を着いてしまった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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51話
実況百代『両者渾身の一撃を叩き込み、両者ダウン!!』
解説ルー『お互い凄い一撃だったネ』
実況百代『……これは引き分けになるか?』
解説ルー『まだ、10秒あるヨ。どちらかだけが立ち上がれば勝ちだネ』
実況百代『ではカウントしましょうか、ルー師範代』
解説ルー『そうだネ』
『『10!』』
「く…油断した…」
顎を打ち抜かれ倒れはしたが、クリスは意識を失ってはいなかった。
しかし、脳が揺れた為か体が思う様に動かない。
「立て!クリス!」
「立てば勝ちだよ!」
大和と京が大声でクリスに向かって叫ぶ。
『『9!』』
「がは…」
口から血を吐く準。クリスの必殺技を喰らった準は内臓を痛めていた。
両者ダウンでも、負った怪我は準の方が圧倒的に重症だ。
「さっさと立つのじゃハゲ!」
「立たねえと、タマ切り刻むぞ、コラ!」
「立ってください!クリスお嬢様!」
「いや、どっち応援してんだよ」
『『8!』』
「立ってー、クリスー!!」
「クリスちゃん頑張って!」
「立てー!立つんだークリス!」
「根性見せなさいよクリ!!」
「クリスなら立てるよ!」
「騎士の力を見せてやれ!」
2-Fの生徒達はクリスに声援を送る。
『『7!』』
「準ー頑張れー」
「ファイトですよ準」
「フハハハ、根性の見せ所だぞ準」
「井上君、頑張れー!」
「がんばれー、ウィっ」
2-Sの生徒達も準に声援を送る。
『『6!』』
「みんな…心配、するな」
皆の声援を受け、顎を殴られて頭がクラクラするが、クリスは上体を起こし立ち上がろうとする。
『『5!』』
「痛い、が、これ、ぐらい…」
準も痛む体に鞭を打ち、立ち上がろうとする。
『『4!』』
数秒とは言え時間経つにつれ、クリスの方は頭のクラクラが軽減していく。
「これなら…」
『『3!』』
「ごはっ」
一方準はさらに口から血が吐き出す。
無理に体に力を入れて立ち上がろうをするほど、鈍い痛みが増していく。
だが、怪我が悪化すると分かっていても、準は
『『2!』』
「私の勝ちだ!」
一気に立ち上がろうとするクリス。しかし…
「膝が…!?」
『『1!』』
「俺は…絶対に……」
『0!』
ワァァァアアァァ!!!!
生徒達の歓声が学校中に響き渡る。
カウントが終わった時、立っていたのは一人。
「それまで!! 勝者…」
________________________________________
体育祭が終わり、土日を挟んでの月曜日の朝。
川神学園、
「皆知っていると思うが、一応、前で改めて自己紹介しておくか」
担任の呼ばれて一人の生徒が、教室の前に出る。
「甘粕真与です、宜しくお願いします」
川神戦役に勝利した2-Sの教室に、井上準が指名した甘粕真与の姿があった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
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52話
場所は川神学園、体育祭の数日後、
2-Fの教室には、だらけた雰囲気が漂っていた。
「何だ貴様等!その弛んだ態度は!」
担任の梅先生が、ビシっ!と鞭を振るって喝を入れるも、効果は今一つだ。
もともと2-Fは調和が取れていないクラスと言われていたが、今は輪をかけて酷い。
原因は、
「だって、マヨが~」
体育祭の川神戦役で負けて、甘粕真与が2-Sに引き抜かれてしまったからだ。
「宿題の提出率が酷いと、各教科の担当の先生方から苦情が来たぞ」
「いつも委員長が宿題忘れてないか、声かけてくれてたんだよな…」
甘粕真夜は2-Fの委員長だった。Sに行ったので今はもう委員長と呼ぶのはおかしいのだが、癖が抜けないのだ。
「教室の隅も汚れている」
「掃除の時間以外でも、委員長ちょくちょく掃除してたな…」
「花瓶の花も萎れている」
「委員長が水を変えてたから…」
「放課後窓の戸締りも出来ていない」
「委員長が…以下略」
「黒板も汚い」
「以下略…」
次々と出てくる甘粕の隠れた功績。
「貴様等は甘粕がいないと何も出来ないのか!!」
ビシっバシっとさらに鞭を振るって梅先生が喝を入れるも、やはり効果は今一つだ。
前までならこういう場合も、
「みんな、頑張りましょう!」
と、甘粕がクラスのみんなに向けて声をかけてたのだが、
「マヨ~…」
今はそれが無いことで寂しい気持ちになり、逆にやる気がでない。
「失って分かる、身近なモノのありがたみ…か」
クラスの状況を見てそう呟く大和。
「見た目は小さくても、甘粕さんは2-Fにとって大きい存在だったんだね」
「すまない。自分が負けたばかりに…」
体育祭以降元気がないクリス。川神戦役の負けの責任を感じてしまっているのだ。
「クリスの責任じゃないよ」
準との戦いでクリスが負けたことで、勝負が決したのは確かだが、それはただ最後がクリスだったと言うだけの話。
誰もクリスを責めたりなどしない。
「急にS組に編入して、委…甘粕さん大丈夫かな?」
「俺様もちょっと気になってたぜ」
SはFの生徒を見下していたので、心配するのも無理はない。
「いや、それが意外とうまくやってるらしい…」
大和も心配で情報を集めていた。その情報によると、
「初めは甘粕さんを侮辱にする生徒もいたようだが、井上準が駆逐したそうだ」
準が引き抜いたのだ、甘粕を侮辱にする者を許すはずがない。
「友達も出来ている、すぐに義経と仲良くなったらしい」
「ああ、なんか分かる。優しく真面目な性格で、気が合いそう」
「不死川とも、仲良くやってるようだ」
「委員長の懐の深さなら、あの我儘娘にも笑って相手してそうだな」
「九鬼英雄や葵冬馬にも一目置かれてるそうだ」
「成績は常に5番以内だもんね委員長」
「……つまり」
「何も心配する必要はないと言う事だな」
甘粕真夜という人物の凄さを改めて実感した大和達だった。
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ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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53話
川神学園では体育祭の次の行事は期末試験。
競い合いを基本理念とする川神学園では、試験成績上位50位までが廊下に貼り出される。
「期末試験9位だべか…」
ヨコヅナは貼り出された順位表の、
「凄いだなまゆっち」
黛由紀恵の名前を見て驚く。
「ほんとだよね、50位以内どころか、トップ10入りしてるなんて」
因みに、井ノ中ヨコヅナや大和田伊予の名前はない。
「いえいえ、私なんかよりもっと凄い人がいますよ」
「転入して間もないのにスゲェよなー」
由紀恵と松風が言っているのは一位の人物の事だ。
「点数ほぼ満点だもんね」
「苦手な教科とかないんだべかな」
ヨコヅナ達が噂をしていると、
「フハハハハ、我、顕現である!」
一年の期末試験、成績一位の九鬼紋白が現れた。
「紋様も順位表見に来たんですだべな」
「ヨコも来ていたか……とうっ!」
ヨコヅナの肩に飛び乗り、順位表を見る紋白。
「………、ん~、載っておらぬの」
「え、一番上に紋様の名前あるだよ」
「それは分かっておる」
「…あ、ヒュームさんの名前ないだな」
ヒューム・ヘルシングの名前は順位表には載っていない。
シュタっ「俺は特別枠だから、載っていないだけだ」
いつも通りヒュームが突然現れる。
ヒュームも期末試験は受けており、50位以内の成績だが、特別枠なので載ってないのだ。
「我が言っておるのは、ヨコの名前だ」
「オラは50位以内になんて入れないだよ」
「ちょっと5教科の点数言ってみよ」
紋白がそう聞くのでヨコヅナは、国社数理英の点数を教える。
「…予想はしておったが、酷いな」
「大体は平均点だべ、赤点もないだよ」
「平均点は誇れることではない、それに英語は赤点のようなものではないか」
ヨコヅナの英語の点数は40点。39点以下が赤点なので、ギリギリ免れてはいるが紋白からすれば変わらない。
「英語は苦手なんだべ」
「将来ちゃんこ鍋屋を開店するのであれば、英語は必須だぞ」
川神市でも、外国人の観光客は年々多くなっており、ちゃんこ鍋屋なら外国人が来店する可能性は高い。
「これは夏休みのスケジュールに英語の学習を取り入れねばの」
「仕事で英語を教えてくれるだべか?」
「仮とは言え我の専属従者になるのだ、英語ぐらい話せんとな」
九鬼帝に言っていたように、本当にヨコヅナを育てるつもりでいる紋白。
「ヨコヅナ君は夏休みも九鬼財閥でバイトですか?」
「そうだべ。それも泊まり込みで働くだ」
「そうなんだ……まゆっちと料理部の人達も誘って遊びに行こうって話してたんだけど、ヨコヅナ君は無理そう?」
以前、ヨコヅナの誘いで料理部の食べ歩きに由紀恵と伊予も参加して、料理部員とは友好関係を築けていた。
「どうだべかな?紋様」
「心配するな。休みはちゃんとあるし、事前に言ってくれれば調整してやるぞ」
「それは良かったですだ」
「紋様も一緒に遊びに行きませんか?」
勇気を出して紋白を遊びに誘う由紀恵、
「フハハハハ、そうだな。予定が合うなら行かせてもらおう」
「はい!是非」
友達が増えてきて由紀恵も成長しているのだ。
「あと夏休みは川神で、九鬼がスポンサーを務める大きなイベントがあるぞ」
「大きなイベントだべか…」
「うむ、ヨコも活躍できる可能性のあるイベントだ、楽しみにしておくと良い」
「そうですだか。今年は去年までと全然違う夏休みになりそうだべ」
慌ただしかった一学期が終わり、ヨコヅナの想像以上に慌ただし夏休みが間もなく始まる。
ご愛読いただきまして、誠にありがとうございます。
次回は12/30に投稿する予定です。
以降は投稿頻度が週に1日ぐらいのペースになります。
今後も読んで頂けたら幸いです。
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54話
「何度見てもデカい建物だべな」
夏休み紋白の仮専属従者として、泊まり込みでアルバイトをすることになったヨコヅナは、
九鬼財閥のビルの前に来ていた。
「よう!ヨコヅナ」
「おはようございます、ヨコヅナ」
「ステイシーさん、李さん、おはようございますだ」
ヨコヅナを出迎えてくれたのは、ステイシーと李。
「私らがお前の部屋まで案内してやるよ」
「ありがとうございますだ」
「では、こちらです」
二人に案内されて、廊下を歩ている最中、
「フハハ!来たな井ノ中ヨコヅナ!我は歓迎するぞ!」
九鬼英雄が現れた。
「おはようございますだ、九鬼先輩」
「こら、ここでは英雄様とお呼びするように」
「あ、そうですだな。今日からお世話になりますだ、英雄様」
「うむ…」
英雄はヨコヅナに近づき、
「我は男相手にはこれをすることにしている」
「…?」
ぎゅっと抱きしめる。英雄なりの歓迎のハグだ。
「フハハ、横綱を名にするだけあって、抱きごたえがあるわ」
「ありがとう、ございますだ?」
誉め言葉なのか微妙だが一応お礼を言っておくヨコヅナ。
「我はこれから、出かけなければならぬ」
ヨコヅナを放して少し残念そう言い、
「時間がある時にでも、相撲を一番取ろうではないかヨコヅナ」
「はい、分かりましただ」
「では、紋を頼むぞ、フハハハ」
そうして、英雄は去っていった。
そしてすぐ、
「フハハハハ、我降臨である」
「えっと…紋様のお姉さんですだか?」
「九鬼揚羽である」
今度は九鬼揚羽が現れた。
「噂は色々聞いているぞ井ノ中ヨコヅナ」
「今日からお世話になりますだ、揚羽様」
「うむ…」
揚羽はヨコヅナに近づく。
英雄の時のように抱きしめられるのかと、ドキッとするヨコヅナだが、
「その腹、一発殴ってみて良いか?」
揚羽は女性にしかハグしない。
「…え~と、何でですだか?」
「紋の拳ではビクともせず、義経の発勁にも耐え、ヒュームのジェノサイドチェーンソーを受けても倒れない。そんなことを聞けば、殴るしかあるまい」
「いや、殴るしかないことは、ないと思いますだが…」
理由を聞いても理解できないヨコヅナだが、
「まぁ腹に一撃ぐらいならいいだよ」
紋白の時のように軽く了承してしまう。
「フハハ、そうこなくては」
軽く了承したヨコヅナを見て、
(やっちまったな、ヨコヅナのやつ)
(初日から働けなくなる可能性がありますね)
と、思うステイシーと李、それも当然。
ヨコヅナは初対面だから知らないのだ、九鬼揚羽の武の実力は、壁を越えた者と言われている事を…
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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55話
揚羽に腹を一発殴られる事になったヨコヅナ。
「ではいくぞ」
揚羽は一撃を入れる為に構えを取る。その瞬間まるで揚羽の周りの空間が歪んだかのように見えた。
「っ!」
ヨコヅナはそこで気づく、揚羽の武の実力が紋白とは次元が違う事を、
慌てて足を踏ん張り、腹に力を入れるヨコヅナ。
「ハァっ!!」
ボゴンっ!!!!!
揚羽の強烈な正拳突きがヨコヅナの腹に突き刺さる。
「がはっ…」
表情が苦悶にゆがみ、衝撃で後ろに一歩分程下がるヨコヅナ。
しかし、
「…今のはほんとに痛かっただ」
「フハハハ、さすがは紋が選んだ従者だけのことはある」
「オイオイ、マジかよ!?」
「あれを受けて倒れないのですか!?」
ヨコヅナは腹を摩ってはいるし、痛みに顔を歪めているが、膝をつくほどではない。
「殴った詫びと、我の一撃を耐えた褒美に金平糖をやろう」
「…ありがとうございますだ」
何故金平糖?と思いながらも、お礼を言って金平糖を貰うヨコヅナ。
「我はこれから出かけなければならぬ。時間があるときにでも、手合わせしようではないかヨコヅナ」
「お断りしますだ」
英雄と同じようなことを言っているが、揚羽の誘いはしっかり断るヨコヅナ。
「我の誘いを断るとは、生意気な新入りだな、まぁよい」
ヨコヅナの返答を軽く流し、
「では、紋を頼むぞ。フハハハ」
最後も英雄と同じ事を言って揚羽は去っていった。
「まさに紋様の兄姉って感じだべな」
英雄と揚羽を見て誰もが思う感想を口に出すヨコヅナ。
「ヨコヅナ、お腹は大丈夫ですか?先に医務室に行きますか?」
「いえ、ちょっと痛みますが、大丈夫ですだ」
「揚羽様の突きを喰らって、ちょっと痛むだけとかロックに頑丈だな」
ヨコヅナが大丈夫と言うので、用意されてるヨコヅナの部屋へと向かう三人。
「…ほんとにこんないい部屋使って良いんですだか?」
案内された部屋を見て、驚くヨコヅナ。
「はじめは共同生活と相場が決まっているのですが」
「紋様の仮専属ってことだからいきなり個室だ。それもキッチン付き」
ヨコヅナの部屋は広いだけでなく、豪華なキッチン付きが設置されていた。
「紋様が料理の練習ができるようにと設置してくださったのですよ」
「とても有難いですだ」
夏休み泊まり込みの話が出た時から、
「料理の練習は出来る環境にしてやるから心配するな。フハハハ」
と言われていたので、共同用のキッチンがあるのだと思っていたが、
紋白はヨコヅナの為にキッチン付きの個室を用意してくれたのだ。
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56話
「おう井ノ中ヨコヅナ」
部屋に忍足あずみが入って来た。
「おはようございますだ。忍足先輩」
「仮とは言え従者部隊だ、先輩は止めとけ」
「それじゃ忍足さんで良いですだか?」
「まぁいいだろ。……どうした、腹痛ぇのか?」
ちょっとお腹を摩ってるヨコヅナにそう聞くあずみ。
「さっき、揚羽様に腹を殴らせてほしいと言われて、深く考えず応じてしまっただ」
「で、殴られたわけか。相手が揚羽様じゃしゃあねぇな」
「揚羽様結構本気だったのに、こいつ膝をつきもしないんだぜ」
「小十郎だったら、吹っ飛ぶほどの一撃だったと思いますよ」
「マジか!?相変わらず頑丈だな」
改めてヨコヅナの頑丈さに驚くあずみ。
「……だとすると今後も殴られそうだな」
「え!?」
「間違いないな」
「残念ながら否定出来ませんね」
あずみの言葉にステイシーと李も頷いて肯定する。
「断ったら駄目なんですだか?」
「殴らせろなら断れるが、稽古に付き合えだと基本無理だな」
さっき、「手合わせしよう」と言われてヨコヅナは断っていたが従者としての業務であれば本来断れない。
「ヨコヅナは紋様の仮専属のだから、本当に嫌なら紋様に相談するんだな」
その後あずみは業務の説明をし、「二時間後からお前が正式に傍につきな」とヨコヅナに指示して、ステイシーと李に「後はお前達頼んだぜ」と言って軽やかに去っていった。
「まずは、着替えですね」
部屋にはヨコヅナが着る執事服が用意されていた。
「ヒュームさんが来てるのと同じ形の服ですだか?」
「デザインは全く同じです。サイズは全然違いますが」
「仕立て屋にサイズ伝えたら、「力士にでも執事をやらせるのですか?」って言われたらしいぜ」
ヨコヅナは立派な力士体型なのでそう言われても不思議ではない。
「それじゃ今これに着替えな」
「分かりましただ」
ヨコヅナは服を脱ぎだすが、
「…」
「…」
「出て行かないんだべか?」
「気にせず着替えてください」
「さーて、どう初心な反応してくれんのかな」
そうステイシーと李は楽しそうな笑みをしているが、
「反応も何も、一度見られてるだよ」
ヨコヅナは二人を気にせず、服を脱ぎ褌一丁になる。
「稽古の時だけじゃなく、普段から褌なのか」
「英雄様もそうですから、褌派の人はそうなのかもしれませんね」
以前従者部隊と格闘訓練をしていた時に、褌姿は観られているし、ヨコヅナは褌姿を他人に見られたところで恥ずかしいとは思はない。
ヨコヅナは執事服に着替えた後は、建物の中を案内してもらい、紋白と合流する時間となった。
「おおヨコ。今日から宜しく頼むぞ」
「はいですだ、紋様」
「執事服を着た感想はどうだ?サイズは合っているか?」
「サイズは合ってますだ。ただ、鏡で自分の姿を見て違和感が凄かったですだ」
「フハハ、始めはみんなそうらしいぞ、なぁお前達?」
紋白は李とステイシーに声をかける。
「はい、私も最初は戸惑いがありました」
「私も初めて着た時「こんな格好で私は何やってんだ?」って声が出ちまったぜ」
「でも直ぐ慣れますよ」
「そうそう」
「元暗殺者と元傭兵がこう言っておるのだから、ヨコも直ぐに慣れる安心しろ」
「そうですだか」
「よし、では我の部屋に行くとするか…とうっ!」
学園にいる時のようにヨコヅナの肩に座る紋白。
「ステイシーと李は普段の業務に戻ってよいぞ」
「分かりました。失礼します紋様」
「失礼します。頑張れよヨコヅナ」
そういってステイシーと李は去っていった。
部屋についた紋白とヨコヅナ。
「ヨコヅナの腹は良い背もたれになるの」
部屋では紋白はヨコヅナの肩ではなく膝に座っていた。
「今日は挨拶まわりにしようと思っておったのだが、父上は海外、母上は大阪、姉上と兄上も入れ違いで出かけてしまった。だから今日はのんびりお喋りでもするかな」
「そうですだか。英雄様と揚羽様にはここに到着して直ぐの時に会いましただよ」
「お、出かけ際で間に合っていたか、何か話したか?」
「少しだけ、英雄様にいきなりハグされましただ。ちょっと驚きましただ」
「フハハ、兄上は男の新人相手にはいつもやっているからな」
「揚羽様には腹を殴られましただ。痛かったですだ」
「フハハハ、我がヨコの頑丈さを話した時、殴ってみたいと言っていたからな……というか、姉上に殴られても平気なのかヨコは?」
「平気じゃないだよ。今でもちょっと痛いですだ」
「…ニコニコ笑顔でそう言れても、平気にしか見えぬ」
「そういえば、英雄様に時間がある時に相撲をとろうと言われましただ。接待勝負した方が良いだか?」
「わざと負けたりはしなくともよいが、怪我はさせないように気を付けるのだぞ」
「分かりましただ。後、揚羽様にも手合わせしようと言われましただ。断って良いだか?」
「う~ん、兄上の相手はするのに、姉上の相手はしないというのもな……姉上にグローブを着用してもらえば、ヨコなら何とか相手が務まるのではないか?」
「……どうだべかな?揚羽様の強さは次元が違うと思いますだ」
「フハハハ、そうだな、姉上は女性としては世界最き……」
「ん?どうしましただ紋様?」
「いや、何でもない、……ワハハ、我の今日の習い事も武術の鍛錬だったのだ。もともとは護身で習い始めたのだが、今の目標はヨコに膝をつかせることだ」
「ははは、それはおっかないですだな」
この後、本当にのんびり過ごし、他に
ヨコヅナの仮専属執事の初日は問題なく終わった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
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57話
ヨコヅナが紋白の専属従者として働き出して五日が過ぎた。
どのような業務をヨコヅナが行ったかというと、
一番多いのは直江大和の協力のもと、紋白と川神中を回っての九鬼で将来働く人材集めだ。
他は、
ちゃんこ鍋屋の経験になると言われ、梅屋の厨房でヘルプ要員として働いたり、
期末テスト成績発表後に言われた英語の学習だったり、
従者部隊の希望者と格闘訓練をしたり、
などなど、四日目までは細かいミスは多々あれど、ヨコヅナは問題なく働いてた。
しかし五日目、ヨコヅナは問題を起こす。
「痛ぇだろうが!このデブ!」
「オラは止めてくれと言っただよ!」
ステイシーと喧嘩になったのだ。
「オラッ!」
ヨコヅナの顔面を殴るステイシー。
「痛っ………この…」
ヨコヅナは拳を喰らいながらもステイシーの腕を掴み、
「ちょっと強くいくだよ!」
腰投げでステイシーを投げ飛ばす。
「ぐっ……テメェ」
受け身を取りはしたが、結構背中が痛かったステイシー。立ち上がり直ぐにヨコヅナに殴りかかる。
ヨコヅナも今度は回避しつつ捕まえれるよう動く。
しかし、
「ぐっ!?」
「がっ!?」
お互いが相手に触れる前に、一時停止したかのように動きが止まる。
「何を暴れているのですか?」
九鬼家従者部隊序列3位、クラウディオ・ネウロの糸によって捕縛されたからだ。
「それで、喧嘩の原因はなんなのだ?」
廊下で正座しているヨコヅナとステイシーの前で仁王立ちして聞く紋白。
脇に、クラウディオとヒュームがいる。
「ステイシーさんがオラを銃で撃つだよ」
「実銃じゃねえよ、弾もゴム弾だ」
「銃は銃だべ」
「お前にとってはデコピンぐらいの…!」
「ステイシーお前は黙っていろ」
「うっ…」
ヒュームに殺気の籠った声で注意され言葉止めるステイシー。
「ヨコ、続けよ」
「はいだ」
事の発端は英語の学習時、教師役を務めたのは時間が空いていたステイシーだった。
ヨコヅナは英語が苦手だ、というか苦手だからわざわざ紋白が学習の時間をもうけたのだが、ステイシーはお仕置きと称してヨコヅナを銃で撃った。
ステイシーの言うとおり、実銃より威力の低い特殊な銃で、弾もゴム弾ではある。ヨコヅナはそれで撃たれて痛がりはするもデコピンを喰らった程度だ。
英語学習時は、仕事なのに勉強を教えて貰っている立場と、間違える自分が悪い、と考えて我慢していた。
だがそれ以降、からかい半分でステイシーは銃でヨコヅナを撃つようになったのだ。
「オラでも銃で撃たれるのは嫌だべ」
撃たれてもデコピンを喰らった程度だが痛いモノは痛いし、銃で撃たれるというのはダメージ以上に恐怖がある。
止めて欲しいとは言ってもステイシーは聞かず、
ヨコヅナが「これ以上撃つなら力ずくで止めるだよ」と言ったら、「やってみろよ、ノロマなお相撲さん」と答えたステイシー。
「だから、銃を持つ手を張り飛ばしただ」
ステイシーは、ヨコヅナのパワーと頑丈さは一目置いているが、スピードはないと認識していた。
しかし、威力よりも速さを重視したヨコヅナの張り手は、油断していたステイシーの予想を超えたスピードで、銃を持つ手を張り飛ばした。
そして逆ギレしたステイシーが「痛ぇだろうが!このデブ!!」と殴りかかり、
「ステイシーさんは強いから、仕方なく投げ飛ばしただ」
というのが喧嘩の原因からの全貌である。
「……ふむ、なるほど。ヨコの話は分かった。次ステイシー、何か事実と違っている点や補足する点はあるか?」
「あ、えぇ~と、その、銃は威力の低い特殊なやつでして、怪我をしないように尻を狙ってますし…」
「では、ヨコの話に嘘はないわけだな……その銃はあるか?」
「銃はこちらに」
回収していたステイシーの銃を見せるヒューム。
「我は銃に詳しくないので、弾を確認してくれ」
「………、確かに弾はゴム弾です」
「もちろんですよ、実弾だったら今頃ヨコヅナの尻はハチの巣に」
「そうか。…ヨコは我の専属だから我がやるべきだが…慣れてなくては狙いが定まらず逆に危険か」
「お任せください紋様」
「そうだなヒュームに任せる、ではクラ」
「分かっております、紋様」
クラウディオは糸を操作し、正座しているステイシーの態勢を変える。
ヒュームに尻を向けるような態勢に、
「え!?あ、ちょ…」
ステイシーが何か言う前に、パンっ!とヒュームは銃を撃つ。ステイシーの尻に向けて。
「痛がぁぁっ!!?ちょ、ちょっ」
「どうした?デコピン程度なのだろ」
「いやそれは、ヨコヅ…」
パンッ!とまた言い終わる前に撃つヒューム。
「ぎゃぁぁぁあっ!!!」
ヨコヅナだから撃たれてもデコピンを喰らった程度の反応だが、常人が撃たれれば尻であっても痛くて転げ回るぐらい威力がある。
「尻をハチの巣にするには何発必要だろうな?、どう思うクラウディオ」
「そうですね…50発程でしょうか」
「いやいや、この赤子の尻はデカいからな、100発は必要だろう」
悪魔のような老執事二人の会話にステイシーは震えながら、
「ハチの巣は言葉の綾で、そんなに撃ってな…」
「貴様には聞いていない」
さらにパンッ!とステイシーの尻に向けて弾が発射される、しかし、
「オラはそんなことは望んでないだよ」
ヨコヅナが庇うように手を射線上にいれ、弾を手の平で受ける。
「ヨコヅナ……」
「今後オラを撃たないでくれたらそれでいいだよ」
銃で撃たれ喧嘩になったとは言え、別にステイシーに同じように撃たれて欲しいとまではヨコヅナは思っていない。
「まったくヨコは甘いな。しかしそれは駄目だ」
紋白はあえて感情を殺したような声で言う。
「明らかに非はステイシーにある、信賞必罰は重要だ。誰もやりたくてやっているわけではない」
「それはそうですだが…」
「女性相手だからとそれを蔑ろにしていては組織は成り立たん。将来店を持ちたいなら憶えておけ」
「…分かりましただ。でも本当に100発とかは撃たれてないだよ。過剰な罰は良くないと思いますだ」
「フハハ。確かにな、では何発撃たれた?」
「え~と……無意味に撃たれたのは…5発ぐらい、ですだ」
英語学習の時を含めるともっと撃たれているが、それは除きからかい半分で撃たれた数を言うヨコヅナ。
「ふむ、分かった。後のステイシーへの罰は任せて良いか、ヒューム」
「ええ、お任せください」
「場所は変えて頼む」
その言葉を聞いてクラウディオは拘束の糸を解き、
「畏まりました紋様。行くぞステイシー」
ヒュームはステイシーの襟後ろを掴み引っ張っていく。
「赤子に免じて、銃で撃つのは30発にしておいてやろう」
「え、30だべか!?、3発じゃないんだか?」
ヨコヅナが撃たれたのが5発で、既にステイシーは2発撃れているので、残りは3発だと思ったヨコヅナだが、
「何事にも利子はつけないとな」
「10倍になる利子とか暴利すぎだべ」
「それに、銃での30発は罰のみの話だ」
ヒュームは理由を聞く前から殺気立っていた。確かに、普通会社で新人と喧嘩で暴力など理由関係なく問題行動ではあるがそれだけではない。
ヒュームはステイシーに鋭い視線を向ける。
「最近ステイシーは調子に乗っているようだからな」
「い、いえ、そんなことは…」
「俺の事をポンコツだと言いふらしてると聞いたが」
「そそ、そそれは…」
「今回の赤子へのパワハラといい、しっかり再教育してやる。こんな銃がデコピンに思えるほどな」
「ひいぃぃっ!!」
悪魔そのものの笑顔を浮かべながら、
「さぁ、ロックンロールにいこうじゃないか!」
「いぎぃやぁぁぁぁぁあっ!!!」
ヒュームはステイシーを引きずりながら去っていった。
「……「誰もやりたくてやっているわけではない」、は嘘だと思うだ」
「ヒュームも心を鬼にしているのだ」
「ほほ、そうです。ヒュームも
その後、明らかに非はステイシーにあるものの、事前に紋白なりあずみに相談していれば問題は起こらなかった可能性は高いと判断され、
ヨコヅナは罰として、1週間の便所掃除を言い渡された。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
こちらも読んで頂ければ幸いです。
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58話
「あーもう痛ってぇ、ヒュームのクソジジイ。しこたまシゴキやかって」
ヒュームによって鬼畜どころか悪鬼羅刹の所業とも言えるシゴキを受けたステイシーはズタボロだ。
「自業自得ですよ、仮とは言え紋様の専属であるヨコヅナに新人イジメみたいな真似をして」
「全くだ、アタイのいない所で問題起こしやがって、序列1位ってだけで寝耳に水でも老人共からグチグチ言われんだぞ」
ヨコヅナと喧嘩した話を聞いた、李とあずみは労わるどころ反省が足りないと言った口ぶりだ。
「傭兵時代とは違うなんて、今さら言わせんなよステイシー」
「でもよ、日本の一般企業でも尻を叩くとかするんだろ」
「それは直に尻を叩くわけじゃねぇよ」
「しかも叩くどころか銃で撃ってますからねステイシーは」
「威力の弱い特殊な銃で弾もゴム弾だぜ」
「それをケツに30発も撃たれて、腫れてデカケツになってんだろ」
ステイシーはうつ伏せになってお尻に氷嚢を乗せている。
「マジで30発撃つとか、あのクソジジイ本当に頭ん中ポンコツなんじゃねぇか…」
「そんなこと言ってるから、拷問のような指導を受けたのでしょ」
「しかも一回で終わりじゃないらしいからな」
「うげぇ~」
ステイシーは今後も続く拷問のようなヒュームの指導を思い浮かべて悲痛な表情になる。
「ちゃんこ出来ただよ」
出来立てアツアツのちゃんこ鍋をテーブルに置くヨコヅナ。
「こんな真夏になんで鍋なんだよ」
「いきなり押しかけてきて、文句言わないでほしいだな」
実はあずみ、ステイシー、李がいるのはヨコヅナの部屋だ。
ヨコヅナの部屋を訪れた理由はちゃんとある。
「そうですよ、それにステイシー」
「文句の前に言う事があんだろステイシー」
あずみと李の言葉に少し恥ずかしそうに頬をかきながら、
「…銃で撃って悪かった、二度としねぇよ。それと庇ってくれてありがとな」
訪れた理由はヨコヅナに謝罪の感謝を伝える為だ。
「お互い様ですだ。オラも張ったり投げたりして、すみませんでしただ」
ステイシーの暴力に抵抗しただけではあるが、女性に暴力を振るってしまったのでヨコヅナも謝罪する。
「ヨコヅナは良い子ですね」
「次からステイシーにパワハラされたら遠慮なくアタイに相談しろ」
「分かりましただ」
「もうしねぇつってんだろ」
「それが信用出来たら苦労しねぇよ」
謝罪が終わり4人でちゃんこ鍋を食べる。
「お!美味いな」
「本当ですね、紋様が認めただけあります」
「うめぇうめぇ、夏に鍋ってのもいけんな」
ヨコヅナのちゃんこ鍋に舌鼓を打つお姉さま方三人。
「そう言っても貰えてうれしいだよ。……そう言えば忍足さんはオラに話があったんじゃなかったですだか?」
ステイシーがヨコヅナの部屋を訪れているのは謝罪の為で、李はその付き添いのようなもの。
あずみも上司として付き添ったのは確かだが、ヨコヅナは今朝、まだステイシーと喧嘩する前にあずみに仕事が終わってから話があると言われていた。
「あ~まぁ、九鬼での仕事はどうだ?やっていけそうか?的な話をするつもりだったんだがな……」
そこでステイシーを睨むあずみ、
「先輩のパワハラが酷いってことは分かった」
「何だよそれはもう済んだ話だろ」
「お互いに和解しても、事実は無くならねぇんだよ。ステイシーの件は抜きとして、どうだ?」
「やっていけそうかはまだ何とも言えないだが、辞めたいとは全然も思ってないですだ。業務の半分以上はオラの将来に役立つことで、ありがたいと思ってますだ」
「ヨコヅナは期間限定の専属でかなり特殊なタイプだからな」
九鬼帝が「何かを育てるのは子どもの情操教育のよい影響を与える」とか言って、食事の時に決まったのだから、ヨコヅナは特殊中の特殊だ。
「ただ、執事らしい事は何もしていないべから、これで良いんだべかな?、とは少し不安に思いますだ」
「ヨコヅナに執事スキルは求められていませんよ」
「それに紋様を肩に乗せて移動したりと専属従者としての仕事はしてんじゃねぇか」
「あれは専属従者の仕事に含まれるんだべか?」
「アタイが英雄様を人力車に乗せて移動するのと同じようなもんだから、専属の仕事と言えなくはないな」
「そうだべか」
一応従者の仕事をしていたことに少し安心するヨコヅナ。
「……他に紋様とは、何かあるか?」
「何か……紋様からパワハラとかってことだべか?そういうのはないだよ」
「そうじゃなくてだな」
言いよどむあずみ。それを見て李が、
「あずみはヨコヅナと紋様の男女としての進展具合を知りたいのですよ」
「な!?李、テメェなんで?」
「それぐらい察せれます」
「バレバレだっての。ヨコヅナ、あずみはお前に「紋様とヤったんか?」って聞きてぇんだよ」
「そこまでは聞く気ねぇよ!……いや、まぁ、話せるなら聞くが…」
パワハラではなく今度はセクハラみたいな質問ではあるが、
「つまり、紋様と恋愛関係にあるのか?と聞いてるだべか……そういうのはないべ」
「そうか…」
「なんだよ面白くねぇな、一緒に風呂入るとか、添い寝するとかしてねぇのかよ」
「あ、それならしましただ」
「してんのかよ!?」
ヨコヅナはいかがわしい事は一切していないが、紋白とお風呂に入ったり昼寝ではあるが一緒に寝たりもした。
「なんか、関取は付き人に背中を流してもらうものだ、と聞いたらしくて、「風呂で我の背中を流せ、フハハ」と命じられましただ」
「さすが紋様豪胆でロックだな~」
「紋様って新しく知った情報に影響受けやすいですからね」
「添い寝は昼寝の時ですだが、紋様が‘となりのトトラ‘のように大きなお腹で寝てみたいと言って、お腹に乗られましただ。でも「思ったより寝にくい」と言ってすぐ降りたべが」
「あははは、そりゃ~いくらヨコヅナの腹が立派とは言え、トトラみたいに寝るのは無理あるわな」
「…そうか。仲の良い兄妹レベルって感じかぁ」
「兄妹っつうより、ペットと飼い主に思えるけどな」
「卑猥な感じがしないのは確かですね」
男女で風呂に入ってたり、一緒に寝ていると聞いてもヨコヅナと紋白だと卑猥な印象を受けないし、事実何もない。
「ペット扱いは嫌だよな~。……でも、一緒に風呂入ったり寝たりしてんのか…」
「羨ましいんだろう~あずみ」
「英雄様はペット扱いはないですが、どこまでも主従ですからね」
「うるせぇ。アタイは……」
「何だよ?はっきり言えよ~。ヨコヅナ酒だせ、あずみに黒糖焼酎で私はバーボンだ」
「無いだよ」
「ああん?じゃビールで良いよ」
「だから酒が無いだよ。あっても料理酒だべ」
「何でねぇんだよ?ちゃんこ鍋屋だろ!」
「オラが未成年で、ここはちゃんこ鍋屋じゃないからだべ」
すでに酔ってるのではないかというようなステイシーのボケにツッコむヨコヅナ。
「では私が取ってきますよ」
「本当にここで飲む気だべか?」
「ええ、美味しい料理もありますので」
そう言って李は酒を取りに部屋を出ていく。
「じゃあヨコヅナはつまみ作れ、フライドポテトな」
「アタイは出し巻玉子」
「……これもパワハラじゃないだか?」
「将来ちゃんこ鍋屋を開いたら、酔っ払いに絡まれることもあるだろ、その予行練習だよ」
「……はぁ~分かっただよ」
溜息をつきながらもキッチンへ向かい、指定のつまみを作くったヨコヅナ。
「お、ポテト良い感じにサクサクだぜ!」
「この出し巻も美味いな。味も焼き加減も」
「ヨコヅナはちゃんこ鍋以外の料理も上手なのですね」
以降ヨコヅナの部屋では、週一ぐらいで酔っ払い対応の予行練習が行われるようになるのだった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
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59話
8月3日の七浜スタジアムは、夏の暑さ以上の熱気が会場を満たしていた。
「トーナメントで戦う選ばれし16チームの入場です!」
実況の田尻耕の声が選手達のいる通路にも聞こえる。
チーム名を呼ばれ次々と会場へと入場していく。
そして、
「力士と剣士、日本の古来からの武が手を組んだ。井ノ中ヨコヅナと黛由紀恵の『不倒天剣』だっ!!」
呼ばれたヨコヅナと由紀恵も会場へと入場する。
ワアァァァと客の歓声を聞きながらヨコヅナは、
「なんでオラ、こんなとこにいるだ?」
「それは私たちが若獅子タッグマッチトーナメントに出場している選手だからですよ」
「今さら何言ってんだヨコっち?」
「いや、なんかこういう時は言わないといけない気がしたんだべ…まゆっち達は気にしなくていいだ」
はじまりは夏休み前までさかのぼる。
「若獅子タッグマッチトーナメントと名付ける事にした」
全校朝礼で川神鉄心が、毎年8月の行う川神武闘会を、今年は特別規模をでかくして開催することを説明する。
鉄心の次に、ヒュームとクラウディオが説明を引き継ぐ。九鬼財閥がスポンサーだからだ。
大会の説明を聞きながらヨコヅナは、
「紋様が言っていた「大きなイベント」ってこの事だべかな」
「そのようですね。ヨコヅナ君も活躍できると言ってましたし」
「まゆっちとヨコヅナ君でチーム組んで参加してみたら、良いとこまで行けるんじゃない?」
ヨコヅナと由紀恵が強い事を知っているので、二人でチームを組むことを提案する伊予。
「まゆっちとヨコっちなら優勝だって狙えると思うぜ」
「松風、強い先輩方も参加するんですから、簡単に優勝は出来ませんよ」
松風も伊代の提案に賛成する、松風が賛成と言う事は何だかんだ言いつつも由紀恵も賛成ということだ。
「頑張ってみる価値はありそうだべな」
景品の「九鬼財閥での重役待遇確約」、それを得られればちゃんこ鍋屋援助のプラス要素となるかもと考えるヨコヅナ。
「まゆっちはオラとチームで良いだが?」
「はい、ヨコヅナ君なら心強いです」
大会が発表された直後でありながら、あっさりとヨコヅナと由紀恵で組むことが決まった。
「それじゃチーム名決めないと」
「チーム名だべか…『チーム1-C』とかで良いんじゃないだか?」
「いやそれクラス名だから」
「そんじゃ『まゆっち&ヨコっち』でどうよ」
「なんか漫才コンビの名前みたいだよ。もっと二人の特徴をあらわさないと」
「二人の特徴ですか…『チーム料理好き』とかですかね?」
「確かに二人とも料理好きだけど、出場するのは武闘大会だから」
「……オラこういうの苦手だべ」
「私もです。伊予ちゃんは何か案ありますか?」
由紀恵に聞かれて伊予が「う~ん、横綱…倒れない、剣聖の娘…剣の天才」と頭をひねり、
「閃いた!『不倒天剣』どうカッコ良くない?」
「ちょっと大胆不敵過ぎませんか?」
「他のチームもきっとそんな感じの名前だって」
「負けたら恥かくけど、それぐらいの方がやる気出るんじゃね」
「……そうだべな。じゃあ決定だべ」
こうしてヨコヅナと由紀恵のチーム『不倒天剣』が誕生した。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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60話
8月2日、七浜スタジアム前で待ち合わせしていた由紀恵達と合流するヨコヅナ。
「おはようだべ」
「おはようございます。ヨコヅナ君」
「ウィーっす、ヨコっち」
「ヨコヅナ君おはよう」
「まず受付に向かうべ」
ヨコヅナ達は当日の選手受付を済ますために受付所へと向かう。
歩きながら、伊予がヨコヅナの見て、
「紋様は一緒じゃないんだね」
「紋様は何かやる事あるらしいだ」
今日ヨコヅナは紋白とは別行動だ。
「あれ、紋様も出場するの?」
「いや、紋様は出場しないだよ。でも英雄様は出場するらしいだ」
「九鬼先輩ですか…」
「オラ思うんだけどさぁ、スポンサーが選手として出るって変じゃね?」
「対戦相手が戦いにくいもんね。ヨコヅナ君なんて九鬼に雇われてるんだし」
松風や伊予が言う事ももっともだがヨコヅナは、
「英雄様は仮にオラに負けたとしても、文句は言わないと思うだよ」
九鬼ビルで住み込みで働くようになって、少ない時間だが何度か英雄と話した印象から、正々堂々の勝負で負けたからとて、英雄が相手を恨むような人ではないとヨコヅナは分かっている。
「紋様には小言を言われるかもだべが」
ただそれもスポンサーや九鬼財閥としてではなく、兄が大好きな妹としてで駄々をこねる程度だろう。
「戦う事になっても相棒の方を倒せば怪我もさせずに済むだよ」
「九鬼先輩は誰と組んでるのですか?」
「ハゲでロリコンの人だべ」
「あぁ、あの人か」
「だったら楽勝だなぁ」
そんな話をしている内に
「あそこが受付ですね」
受付へと到着したヨコヅナ達。
「ん、おう。ヨコヅナじゃねぇか」
そこでヨコヅナは予想外な知り合いと出会う。
「釈迦堂さん、こんなところで何してるだ?」
釈迦堂刑部、板垣家と交流がありその関係でヨコヅナも知り合いになった、それに最近、
「バイトだよ」
「梅屋以外でも働いてたんだべか」
ヘルプ要員してヨコヅナが行った梅屋で一緒に働いたりもした。
「俺も元々九鬼の紹介であの梅屋で働いてるからな。今日は逆に俺がヘルプ要員だな」
釈迦堂は選手ではなく、観客への被害防止や不正行為の監視が役目だ。
「そっちの嬢ちゃんがヨコヅナの相棒か?」
由紀恵に視線を向けて聞く釈迦堂。
「そうだべ」
「……へぇ~、こいつはまた面白いチームだな。受付しな」
受付を済まし、会場へと向かうヨコヅナ達、釈迦堂が別れ際、
「店長が忙しい時、またヨコヅナにヘルプで来て欲しいと言ってたぜ」
「はは、紋様に伝えとくだよ」
「おう、よろしく頼むわ」
賄い目あてと聞いてたが、釈迦堂の真面目な梅屋の従業員っぷりに驚いたりしたヨコヅナ。
「あの人、相当の実力者ですね」
珍しく真剣な表情の由紀恵、ヘラヘラしてるおっさんにしか見えないが釈迦堂の実力を見抜いたようだ。
「滅茶苦茶強いだよ。オラも稽古で5分だけ手合わせしただが、ボコボコにされただよ」
「ヨコヅナ君より強いんだ」
「真剣勝負だと万が一にも勝ち目はないだな。釈迦堂さんより強い人なんて指の数もいないと思うだよ」
「そんなになんだ!?」
「大会にあのレベルの選手はいますかね?」
「どうだべかな……義経先輩達も出るみたいだべが、まだあの強さじゃないと思うだよ」
「確実に一人、エキシビションマッチで戦わないといけない武神がいるけどなぁ~」
「あれって優勝賞品じゃなくて、罰ゲームだとは思うだよ」
「あはは、言えてる」
「今大事なのは、優勝した後の事ではなく今日の予選を勝ち抜く事ですよ」
エキシビションマッチの事を言い出したのは松風なのに、由紀恵に諭されると言うズレたやり取りなのだが、
「そうだべな」
「今日だけでも3回勝たないといけないしね」
このメンバーではよくある話だった。
試合の時間となり、
「私は観客席で応援しているから頑張ってね」
「はい、頑張ります」
「行って来るだよ」
伊予と別れヨコヅナと由紀恵はステージへと向かう。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
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61話
若獅子タッグマッチトーナメント開幕ッッッ!!!
実況『第5試合目の対戦カードはこちらになります。不倒天剣VS仁王兄弟!』
ヨコヅナと由紀恵の一戦目の相手は、
「我らは仁王兄弟」
「優勝して気に入った女を嫁にするけんのぉ」
胴着を来たゴツイ男二人だ。
実況『川神さんは同じ学園の不倒天剣のお二人をご存じですか?』
川神百代は今回は解説としてマイクを持っていた。
百代『はい、黛由紀恵とは友達ですし、井ノ中ヨコヅナも一学期目立ってた一年。ただこの二人の本気の実力は未知数ですね』
実況『なるほど、不倒天剣とはなかなか豪胆なチーム名ですが、相応しい実力なのか見せて頂きましょう』
「相手は男二人、まゆっちは下がっててだべ」
「…ヨコヅナ君が女性を殴らないのは知ってますが、私は男性を攻撃出来ますよ」
「女性二人の場合はまゆっちに任せるかもだべから、ここはオラだけで戦うだよ」
「……分かりました。危なくなったら加勢します」
実況『それでは試合開始ーっ!』
「兄貴、相手の女なかなか良い体じゃけぇの」
「ワハハ、嫁候補の一人に入れとくか」
ゲスな視線を由紀恵に向ける仁王兄弟に、
「どこ見てるだ。あんたら二人はオラ一人で相手するだよ」
かかって来いと、手招きするヨコヅナ。
「ああん?、図体だけじゃなく態度までデカいガキだな」
「こいつ、女の前だからってカッコつけてるけぇのう」
「思い知らせてやるぞ弟よ!」
「そうじゃけの、兄貴!」
仁王兄弟は一斉にヨコヅナに殴りかかる。
兄の拳は顔面に、弟の拳は腹に叩き込まれる。
実況『おおっ!いきなり仁王兄弟の攻撃が井ノ中選手をとらえた!!まともに喰らったがこれは…』
百代『いや、まともに喰らったようにも見えますが、井ノ中はあえて額と腹で受け止めた。よほど耐久力に自信があるのでしょう』
「さすが武神、よく見てるだな」
百代の解説を正しいと証明するようにヨコヅナは間髪入れず、両手で仁王兄弟の顔面を鷲掴みにする。
そして
「なん!?」
「だと!?」
片腕ずつで仁王兄弟を持ち上げる。
「クソっ、こいつ!」
「ある得ないけぇの!」
顔を掴む手を剥がそうと仁王兄弟が抵抗するもヨコヅナは意に介さない。
「ふんっ!!」
ドゴンッ!!とヨコヅナは持ち上げた仁王兄弟を後頭部から床に叩きつける。
実況『井ノ中選手、持ち上げた仁王兄弟を床に叩きつけたぁ!!!』
百代『あれはもう立てないな』
仁王兄弟はピクピク痙攣して立ち上がる気配はない。
実況『第5試合目は不倒天剣チームの勝利!!パワー自慢の仁王兄弟を圧倒的パワーで粉砕しました!!!』
実況『第15試合目の対戦カードはこちらになります。不倒天剣VSニャニャ&チャリス!』
「ニャニャがんばるよ!」
「優勝して、私強さ、示します!」
ヨコヅナ達の二戦目の相手は、外国人女性二人のチームだ。
実況『ニャニャ&チャリスは祖国では名の知れた武術家女性らしいですね』
百代『外国人さんの参加が多いと、世界規模って感じがして嬉しいですね』
実況『まさに国際武術試合と言った対決、どちらが勝利するのか!』
「今回は女性二人なので私が相手をします」
「確かに女性だべが…一試合目の二人よりも強いと思うだよ大丈夫だか?」
「大丈夫です、任せてください」
「ヨコっちは昼寝でもして待ってな」
「はは、さすがに昼寝はしないだが、まゆっちに任せるだよ」
実況『それでは試合開始ーっ!』
「刀持ってる、侍戦ってみたかった、私が女の方の相手します」
「え~、ニャニャも侍と戦ってみたい」
試合が始まったのに、どちらと戦うかで揉めている二人に、
「揉める必要はありませんよ。私一人でお二人の相手をしますので」
ゆっくり歩きながらそう言う由紀恵。
「むー、ニャニャの事舐めてるなー」
「後悔は、遅いぞ」
「ニャニャは最強だぞ!」
「私こそ最強!」
実況『一戦目と逆で不倒天剣は黛選手だけが前に出る。それを挑発ととったニャニャ&チャリスの二人が一斉に襲い掛かる!』
ニャニャはカポエラ使い、チャリスはエスクリマ使い、どちらもスピード重視の武術家だ。
「セイセイセイセイ!!」
「せやぁああああ!!!」
実況『速い速いニャニャ&チャリスの連続コンビネーション攻撃!!』
百代『……確かに速いし武術の腕前もまずまず、だがまゆっちには及ばないな』
「当たらない!?」
「全てかわされる!?」
高速コンビネーション攻撃をかわし、
「驚いている暇はありませんよ」
由紀恵は刀を抜く、斬撃は一閃だけ、
「うぎゃ」
「がはっ」
一閃だけだが、ニャニャとチャリスの二人ともが倒れる。
実況『ニャニャ&チャリス倒れた!?よく見えませんでしたが、刀を抜いているところを見るに、斬ったのでしょうか川神さん』
百代『そうですね、峰打ちですが。一振りで二人の顎を的確に打ち抜きました。あれはもう立てません』
実況『第15試合目は不倒天剣チームの勝利!!さすがは日本の誇る剣聖の娘、外国の女性武術家を神速の斬撃で完封しました!!!』
実況『第25試合目の対戦カードはこちらになります。不倒天剣VSザ・プレミアムズ!』
ヨコヅナ達の三戦目の相手は、同じ川神学園、しかも同じ一年。ザ・プレミアムズは武蔵小杉と骨法部のアンディーで組んだチーム。
「武蔵さん…」
「黛さん、私と組まなかった事後悔させてあげるわ」
由紀恵はムサコッスにチームを組まないかと誘われたのだが、既にヨコヅナと組んでいたから断ったのだ。
実況『外国人も多く、参加資格は25歳以下ですが、この大会学生の活躍が目立ちますね』
百代『くじ運の関係もありますが、みんな頑張ってますね』
実況『川神学園一年チーム同士の対決!本選に残るのはどちらのチームなのでしょうか!?」
「ムサコッスの方は任せるだよ、まゆっち」
「はい。骨法部の人はヨコヅナ君にお任せします」
実況『それでは試合開始ーっ!』
開始と同時にヨコヅナと由紀恵はお互いに離れるように左右反対方向に歩く。
実況『一戦目からそうですが、不倒天剣は完全に男女で戦う分担をしているようですね。作戦でしょうか?』
百代『…どうでしょうね。深い考えは無いように思いますが』
「丁度良いわ、私も黛さんと一騎打ちがしたかったし、アンディー君はあの大きい人お願い」
「分かった」
「相撲の使い手で、見た目通りパワーが凄いから気を付けてね」
「骨法はノロマな相撲に、負けたりなどしない」
ムサコッスとアンディーもヨコヅナ達に合わせて男女に分かれる。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
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62話
「さぁ、黛さん!川神学園一年最強を決めましょうか!」
武蔵小杉ことムサコッスは入学当初から決闘を挑みまくり、一時は「一年で一番強いかも?」と言われていた。
だた今は一年最強は間違いなく、
「一番強いのは1-Sのヒューム・ヘルシングさんだと思うのですが…」
「特別枠の生徒は含まなくて良いのよ!!」
言われるまでも無く一年でヒュームが最強なことぐらいムサコッスは身をもって知っている。
「最近、一年最強(ヒュームは除く)は1-Cの黛由紀恵か井ノ中ヨコヅナじゃないのかって言う人達がいるみたいなのよ」
東西交流戦でのヨコヅナと由紀恵の活躍は緩やかに広まっており、さらにヨコヅナは九鬼紋白の従者になったり、体育祭で活躍したりと目立っていた。
「そして井ノ中ヨコヅナに聞いたところ、黛さんの方が強いって言うのよ」
正確に言うとムサコッスは「本当の一年最強がヨコヅナか由紀恵」という噂を聞いてヨコヅナに決闘を挑んだのだ。
しかしヨコヅナは一年最強なんかに興味はなく、何より女性と決闘する気など全くない。
それを言ってもムサコッスは簡単には引かなかったので「ヒュームさんを除いての一年最強はまゆっちだべ」と言ってしまったのだ。
でもこれは決闘を避けるための嘘ではない、ヨコヅナの本心だ。
「確かにヨコっちが相手でも真剣ならまゆっちの方が強いよな」
「まず戦うことがないと思います」
由紀恵も女性なのだから当然ヨコヅナは進んで戦おうとはしないし、由紀恵も友達とは戦おうと思わない。
「と言う事だから黛さん、正々堂々素手で勝負よ!」
ビシっとカッコイイ感じで言うムサコッスだが、
「大会のルールで許可されているので武器対素手でも正々堂々になると思うのですが?」
「そ、それはそうだけど、黛さんも後で「刀を使ったから勝てた」なんて言われたら嫌でしょ!」
「別に嫌とか思ったりしませんよ…」
由紀恵は、「刀は己が魂」と思っているので、「刀が使ったから勝てた」と言われても嫌だと思ったりはしない。
「ですが、分かりました素手でお相手します」
結果に差はないので、持っていた刀を丁重に床に置く由紀恵。
(やりっ!素手ならいけるわ!)
由紀恵とムサコッスは会話しているが、試合は始まっている。
なので、ヨコヅナとアンディが既に戦闘を始めている。
「ふぉあたぁぁぁー!!」
アンディの気合を上げた猛攻。
「……なるほどだべな」
それをヨコヅナは冷静に手ではたき捌く。
実況『アンディ選手の激しい連続攻撃を井ノ中選手全てはたき落としています。見た目のよらず素早いですね井ノ中選手』
百代『体型から井ノ中は動きが遅そうですが、反射速度は常人より速いですね。本場の力士もデカいだけでノロマだと番付は上がれないらしいですし』
実況『それにしても一戦目と違って防御に徹してますね井ノ中選手、何か作戦でしょうか?』
百代『…作戦が必要な相手とを思えませんがね」
「意外とやるな。ならば」
アンディは下がって距離をとり、
「喰らえ、斬影拳!!」
アンディの必殺の一撃を、
「拳じゃなく肘じゃないだか…」
ツッコミを入れながら、あっさり手の平で受け止めるヨコヅナ。
「もう終わりにするだ」
動きが止まったアンディの腰の帯を掴む。
そして体を開きつつ腰投げの要領でアンディーを頭から床に叩きつける。
「うぁっ…」
投げ一発で立てなくなるアンティ。
倒そうと思えばヨコヅナはいつでもアンディを倒せた。そうしなかったのは作戦などではなく、観察していたのだ。
「共通点はあるだが、別物だべな」
相撲と骨法は起源を同じとするいう説を聞いた事がありちょっと骨法に興味があったヨコヅナ。
掌底打ちを多用するところや、すり足での歩法など「確かに相撲との共通点もあるだべな」とか観察しながら考えていたから、ちょっと決着が遅くなっただけだった。
そして、ヨコヅナがアンディを倒したのとほぼ同時に、
「ぐぁっ…」
由紀恵は一撃のもとムサコッスを倒した、描写する必要がないぐらいあっさりと。
男女で別れたが同時で決着がつき、
「そっちも終わっただかまゆっち」
「ええ、ヨコヅナ君と同時でしたね」
「今さらだべが、一人倒せば勝ちだから、無理に二人とも倒す必要ってないだったべな」
「そうですね。まぁ武術の試合ですから文句を言う人はいませんよ」
「そうだべな」
ヨコヅナと由紀恵は近づきながらお互い手を上げ、
「何にせよ…」
「これで…」
パシンっ!
「本選出場だべな」「本選出場ですね」
笑顔でハイタッチをして、本選出場を喜んだ。
実況『三戦目も圧倒的勝利で『不倒天剣』本選出場です』
実況の言葉を聞きながらモニターに映る、ヨコヅナと由紀恵を知性チームの松永燕が鋭い目で見ていた。
「また厄介なチームが本選残っちゃったなぁ」
「厄介なチームって、まゆっちと井ノ中のチームの事ですか?燕先輩」
「大和君は二人と知り合いだったね」
「ええ。まゆっちは友達ですし井ノ中とも最近九鬼の人材紹介でよく会います。確かに二人とも強いですね」
「ただ強いだけじゃないんだよね。モモちゃんが最初に言ってた「本気の実力が未知数」、あれって伸びしろが見えないって意味だよ多分」
「伸びしろが見えない……確かに一年ですけど、俺達と一つ二つしか違わないですよ」
「…あの二人の性格、凄く真面目だけど世間知らずで、他人と感覚がズレてたりしない?」
「え、まぁそうですね……試合を見ただけでそんなこと分かるんですか?」
「今日の試合だけでの推測じゃないけどね。二人とも幼い時から厳しい基礎鍛錬を毎日欠かさず行ってきたってのが見て取れるんだよ」
「…真面目な二人ならそうでしょうけど、強くなりたいなら当たり前なのでは?ワン子も師範代になるために毎日頑張ってますよ」
「あの二人は強くなる明確な目標あるの?」
「……ん、あ~、まゆっちは父親の後を継ぐかもだけど、井ノ中はちゃんこ鍋屋を開くのが将来の夢って言ってましたね……何で鍛えてるんだろ?」
「たまにいるのよ。常人がついて行けない程の基礎鍛錬をさしたる目標もないのに習慣化してる、感覚がズレた強者って」
「それでも一心に武術を頑張ってる人に比べたら…」
「そこは悲しいかな武術って才能の世界だから」
「二人が天才ってことですか?」
「黛さんは天才だと思うけど、井ノ中君って男の子は秀才ってとこかな」
「本選で当たったら勝てますかね?」
「大和君が井ノ中君を引き付けてくれたらね」
「…捕まったら即アウトっぽいですけど、頑張ります」
「うん、モモちゃんに回避を鍛えられてる大和君なら大丈夫だよ(まぁ、黛さんだけでも無傷じゃ勝てなさそうだから、他に負けてくれることが一番だね。だけど勝ち上がってきたら……)」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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63話
8月2日 若獅子タッグマッチトーナメント本選。
田尻耕のチーム紹介されながら本選に残った選手たちが入場した後、巨大モニターにトーナメント表が映りだされた。
だがそれは仮の組み合わせで、30分後の正式発表までに互いの合意があれば位置を変えることが出来るとの説明があり、30分の交渉タイムとなる。
「予選は楽勝だったけど、本選はくじ運悪いね…」
ヨコヅナ達も伊予を含めての作戦会議。
「一回戦は清楚先輩と与一先輩の『桜ブロッサム』だべか」
「勝てても二回戦は『知性チーム』か『デス・ミッショネル』のどちらかですね」
『不倒天剣』の位置は一回戦第四試合、かなり激戦区のクジを引いてしまった。
「でも交渉すれば変わって貰えるみたいだよ」
「オイオイ、伊予ちゃんよ~、誰にモノ言ってんだい。まゆっちに交渉なんて出来ると思ってるのかい?」
言葉のチョイスがおかしい松風だが、知り合い以外とはコミュ障の由紀恵には交渉が出来るとは思えない。
「オラも交渉とか苦手だべ。そもそもこの位置じゃ誰も代わってくれないと思うだよ」
「そうだね。このまま勝ち上がれる作戦考えるしかないね。本選でも男女分けて戦うの?」
「一回戦はオラが与一先輩、まゆっちが清楚先輩の相手するってことで良いだか?」
「でも清楚な清楚先輩は予選で逃げるしかしてないから、二人で那須与一を倒せば良いと思うぜ」
葉桜清楚もクローン英雄のはずなのだが、武人には見えず予選でも戦って敵を倒していたのは与一だけだ。
「そうだべな。弓矢相手は戦いづらいべからな」
力士にとっては弓兵は天敵とも言えるだろう。
「清楚先輩が戦わない場合は二人で与一先輩を狙うとするべか」
「…清楚先輩が積極的に戦う可能性ってあるのかな?」
伊予には清楚が戦うイメージが浮かばない。だがヨコヅナや由紀恵から見れば、
「多分戦えば強いだよ、あの人」
「そうですね。逃げてるだけでもその動きは素人とは一線を画してましたからね」
清楚であっても決して弱いとは思えない。
「それじゃ、一回戦は清楚?な先輩の動きにも警戒しつつ、二人で中二病の弓兵を狙うって作戦でいくぜ!」
松風が大雑把に一回戦の作戦をまとめる。大雑把であっても細かく決めようもないので誰も否定はせず決定となる。
「『知性チーム』と『デス・ミッショネルズ』はどっちが勝ち上がってくるかな」
ちょっと気が早いと思いつつも二回戦の相手はどちらになるかの話題になる。
「……『デス・ミッショネルズ』だと思うだよ。二人とも強いべからな。松永先輩は相当強そうだべが、直江先輩を狙われたら勝ち目薄いと思うだ」
「直江先輩は回避をモモ先輩に鍛えられてますので、簡単にはやられないと思いますが……武蔵坊先輩の相方の人は強いのですか?」
予選の板垣辰子の戦いは、由紀恵から見れば警戒に値するものではない。
だが、板垣家と知り合いのヨコヅナは一度だけ本気の辰子と手合わせをした事がある。
「強いだよ。辰さんと戦う場合は本気になる前に速攻で倒す必要があるべ」
「本気になる前にですか…」
「本気になったらまゆっちが負けるって言いてぇのかぁ?」
ヨコヅナの言い方に不満そうな声を上げる松風。表情を見るに由紀恵も同じ心境のようだ、まぁ同じなのは当前なのだが、
「負けるとまでは言わないだよ」
「……無傷で勝つのは難しいという意味ですか」
「二回戦で怪我したら優勝は厳しいべからな」
トーナメントで四回も勝たなければ優勝できないのだから、怪我しないことは重要だ。
「でもそれなら『知性チーム』VS『デス・ミッショネルズ』の勝者も無傷じゃないかもしれないよ」
「そうですね……」
「武人としては万全な状態の相手と戦って勝ちたいけどな~」
相手が怪我をしていれば勝ちやすくなるだろうが、武人としてはそれを幸運とは思えない。
「怪我するのを願ったりはしないだが、今回は優勝することが目的だべからな」
「ヨコヅナ君は優勝を狙っているのですね」
大会の話を聞いた時も昨日の予選でも「いけるところまで頑張るべ」という感じだったヨコヅナだが、今日は真剣に優勝に狙っているようだった。
「そりゃ、出場するからには狙うは優勝でしょ!」
「それもあるべが、優勝出来たらさらに将来の援助をしてもらえる約束を紋様としただよ」
「なるほど、それなら当然ですね」
「よっしゃ、そういう事ならまゆっちも全身全霊で頑張るぜ!」
「ありがとうだべ」
「いえいえ」
由紀恵的にも友達の夢を手助けする為という目的がある方がやる気が出る。
「それじゃ優勝目指して頑張ろう~!!」
「「「おう!」」」
30分が経ち、
「こちらが正式な組み合わせとなります」
変更後の正式なトーナメント表がモニターに映りだされる。
『知性チーム』と『地獄殺法コンビ』の位置が入れ替わっていた。
それを見てすぐに察する。
「……状況悪化しただな」
「そうですね」
『不倒天剣』の位置はトーナメントの中でも各段に勝ち上がるのが困難な組み合わせになってしまった。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
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64話
「勝者・デスミッショネルズ」
実況の田尻耕、通称大佐が一回戦第三試合の勝利者宣言をする。
「やっぱりデスミッショネルズだべな」
「それも無傷での圧倒的勝利ですね」
「10秒かかってねぇもんな~」
「優勝候補とまで言われてるね」
次が自分達試合の為通路で観戦していたヨコヅナ達。
「まぁ、二回戦の事は一回戦勝ってから考えべ」
「そうですね。行きいましょう」
「まゆっち、ヨコヅナ君頑張ってね!」
伊予に見送られ『不倒天剣』が武舞台へと上がる。
反対側の通路でも、
「二回戦進出おめでとう!弁慶ちゃん」
「ありがとうございます。清楚さん」
「姉御が負けてくれた方が俺等には…」
「何か言った与一?」
「いや、おめでとう姉御」
「二人の相手は『不倒天剣』だったね、後輩相手に一回戦負けなんてしたらアルゼンチン・バックブリーカーだよ与一」
「勝っても負けても姉御にプロレス技をかけられるのかよ」
「弁慶ちゃんなりの応援だよ」
「そうそう、気合い入れていかないと私がプロレス技をかける前に…痛い目見るよ」
「…痛いのは嫌だから、頑張るしかねぇな」
「清楚さんも怪我しない程度に頑張ってください」
「うん、足を引っ張らないように頑張るよ」
入れ違いでクローン同士で激励しつつ、『桜ブロッサム』も武舞台へと上がる。
「不倒天剣対桜ブロッサム! 両チーム前へ」
お互いが開始位置まで進み、
「清楚先輩、与一先輩、よろしくお願いしますだ」
「よ、よ宜しくお願いします!」
「こちらこそよろしくね、ヨコヅナ君、黛さん」
「まぁ、お互い怪我しない程度に頑張ろうや」
川神学園の先輩後輩として声を掛け合う両チーム。
そして、
「では第4試合、いざ尋常に…勝負ッッッ!!」
大佐の色々と変わるかけ声で試合が始まる。
開始と同時に桜ブロッサムは大きく下がって距離をとる。
弓兵の与一がアタッカーなので、予選から同じ戦法だ。
それに対してヨコヅナと由紀恵は左右に別れるように移動する。
解説石田『予選では不倒天剣は男女で戦う相手を分けていたな。この試合でも同じ戦法をとるつもりか?』
本選からは天神館十勇士の石田三郎も解説席に座っている。
解説百代『いや、闘気は二人とも那須与一に向けられている。不倒天剣は二人がかりで与一を倒しに行くつもりのようだな』
解説石田『……解説だからと言って、選手の策をバラすのは不味かったかな」
解説百代『関係ないさ、那須与一には分かっているだろうからな』
百代の言う通り、与一は向けられる闘気でヨコヅナと由紀恵が自分一人を狙っている事を察していた。狙っているだけでなく勝つ気満々だという事も、
「可愛げのねぇ後輩達だぜ」
「あの二人、試合が始まったらまるで別人だね…」
試合前に声を掛け合った時は、ヨコヅナはニコニコと、由紀恵は緊張した面持ちだったのに、今は打って変わって二人とも武人の表情だ。
「清楚先輩はもっと下がっててください」
そう言って与一は弓矢を構え、
「怪我しない程度に、と言ったが訂正するぜ。怪我しないように気をつけな!」
本気で戦いに集中し闘気を高める。
(…さすが英雄)
(マジで強いだな…)
ヨコヅナと由紀恵は警戒しつつ左右から慎重に少しづつ距離を詰める。
通路では次が試合の為『源氏愚連隊』が観戦していた。
「あの与一が本気だ!?」
珍しい与一の本気の闘気を感じて驚く義経。
「まゆっちは強いし、井ノ中って一年もかなりデキるからね。余裕は一切ないと思うよ」
義経のパートナー椎名京も真剣は表情で試合を観ている。
「椎名さんならどう戦う?」
京は与一と同じ天下五弓、義経よりも与一の考えが分かるだろう。
「不倒天剣が左右に離れたのは、一方に矢を放った隙にもう一人が与一を倒す為」
「それなら隙を作らないように、動きながら速射で矢を多く…」
「ううん、威力のない矢ではいくら放っても倒せないと思う。だからやるとしたら一矢目で一人を足止め、近づいてきたもう一人を仕留める」
「……どっちを先に?」
「それは私には予想出来ないかな……那須与一がどっちを脅威に思っているかだね」
一矢目をヨコヅナに放った場合、由紀恵の速さなら二矢目までに剣の間合に入られる可能性がある。
一矢目を由紀恵に放った場合、ヨコヅナの耐久力なら二矢目で倒せず捕まえられる可能性がある。
(どちらを先に射るか…、迷うまでもねぇな)
京の予想は概ね当たっている。
一矢目で一人を足止め、二矢目でもう一人を仕留めると与一も考えている。
ただし一矢目でどちらを狙うかを迷ってはいない、そして狙う理由は脅威に思っているからでもない。
理由を先に言ってしまえば、ヨコヅナも九鬼ビルで寝泊まりしていてどういう人間かを知っているからだ。
与一は矢の先を由紀恵に向ける。
それを見て由紀恵は身構え、ヨコヅナは前に出る。
しかし、それは、
「真面目なヨコヅナなら引っかかると思ったぜ!」
((フェイント!?))
与一は瞬時に狙いを変えヨコヅナに矢を向ける。
ヨコヅナは反射的に頭部を守る為に腕を上げる。
弓から矢が放たれる。
「ぐっ…」
矢に射られたのはヨコヅナの脛、さすがのヨコヅナも激痛に顔が歪み動きが止まる。
だが、それは不倒天剣の作戦通りではある、由紀恵は矢を放たれた隙に与一との距離を詰める。
しかし、それも、
「あんたも真面目なんだな」
与一の想定内、
由紀恵の剣の間合に入るよりも早く与一の弓は狙いが定まっていた。一矢目を放って後瞬時に体の向きを由紀恵の方へと変えていたのだ。
中二病でも英雄のクローン那須与一。
矢が狙い通りヨコヅナの脛に当たったのかどうかなど、結果を見るまでもなく矢が指から離れた瞬間命中することが分かっていた。
そして、最初のフェイントに引っ掛かり由紀恵が身構えた分のロスを含めると、仕留める為の弦を引き絞り力を溜める時間には十分だった。
「終わりだ!」
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65話
「
中二病っぽく決め台詞を口にすると共に矢を放つ与一。
しかし、与一の予想通りなのはここまでだった。
放たれた矢は並の剣士を仕留めるには十分だったが、今相対しているのは剣聖の娘、黛由紀恵。
「はぁぁあーっッ!!」
由紀恵は斬撃で飛んできた矢を弾き飛ばす。
(この距離で矢を弾いただと!?)
由紀恵の実力は与一の予想を大きく上回っていた。必勝のつもりだった為、その後の対応にも遅れる。
「やぁぁっ!!」
「クソっ」
続く斬撃で、バキッ、と弓が破壊される。
「逃しません!」
弓を犠牲にして危機を逃れた与一。
「剣士とは戦い慣れてるんだよ」
義経との稽古する事もある与一は、由紀恵の追撃を凌ぐ。
だが、忘れてはいけない、この試合はタッグマッチ、
(!?…ふざけんなよ)
気配を感じ振り向く与一に、
(脛に喰らったら姉御でももうしばらくは…)
「不意打ち御免だべ」
動けないと思っていた、ヨコヅナのブチかまし。
「ぐはぁっ」
吹き飛ばされる与一。
「ヨコヅナ君、足は大丈夫なのですか?」
「痛いだが大丈夫だべ」
ヨコヅナが動けるのはフェイントを入れた為僅かに精度が鈍り矢は骨からズレていたという理由もあるのだが、
それでも常人なら立てなくなるほどの威力だったで、ヨコヅナでなければ大丈夫などと言えないだろう。
「でも……浅かったみたいだべな」
視線の先では、与一が立ち上がろうとしてた。
「さすが英雄ですね」
「勝つ為には仕方いだな、仕留めに行くだ」
「はい」
立ち上がりはしたが、与一は立っているのがやっとと言った感じだ。
「与一君!」
与一のピンチに傍観してた清楚もさすがに動く。
「頼むだまゆっち」
「分かっています」
清楚へは由紀恵が向かい、ヨコヅナは与一を仕留めに行く。
「行かせません」
「どいてー!」
行く手を阻む由紀恵を清楚は押しどける。由紀恵の想像を遥かに超える強い力で、
「なっ!?」
吹っ飛ばされる由紀恵。
「えぇ!?」
進路上にいたヨコヅナは足を止め、飛んできた由紀恵を受け止める。
受け止めた衝撃でズズーっとヨコヅナの体が下がる。
「大丈夫だか?まゆっち」
「……はい、ありがとうございます。ヨコヅナ君」
ヨコヅナのお腹がクッションにならなければ危なかった由紀恵。
「驚きですね、これほどとは…」
「戦ったら強い、どころじゃなさそうだべな」
葉桜清楚の脅威的な力を前に、勝負が解らくなったと察するヨコヅナと由紀恵。
「葉桜先輩!?…」
ヨコヅナ達だけでなく、与一も面食らっていた。清楚が唯者じゃないことは分かっていたが驚きを隠せない。
「大丈夫与一君?」
ヨコヅナ達から与一を守るように前に立つ清楚。
「あ…えと……」
与一は少し考えた後、
「駄目ですね。左腕がイっちまってます」
立ち上がれはした与一だがブチかましを喰らった左腕のダメージは重く、例え勝っても今日はもう弓を引くことは出来ないだろう。
「先輩にまで怪我させるわけにはいかないですから(俺の第六感が言っている。このまま先輩に戦わせるのは良くないと…)、降参していいですかね?」
「私は…っ!……」
清楚は何かを言いかけ、しかし思い直し、
「……そっか、残念だけど仕方ないね」
いつもとは違う笑顔で与一に答える清楚。
「審判、ギブアップだ」
「そこまで!、勝者『不倒天剣』っ!!!」
勝利者宣言を聞いて、
「清楚先輩とは戦わなくて済んだみたいだべな」
「そうですね。……ちょっと不甲斐ない勝ち方です」
解説百代『那須与一が手を上げてギブアップ。一回戦第4試合は『不倒天剣』が勝利したぁ!』
解説石田『やけにあっさり負けを認めたな。相手を突き飛ばしたのを見るに葉桜清楚もかなりの強者のようだが』
解説百代『弁慶達と稽古してて、見た目より力持ちと自分で言ってたからな。でも清楚ちゃんが怪我するところは見たくないから賢明な判断だ」
解説石田『私情丸出しだな。解説としては勝者を褒めるべきか、あの矢を打ち落とした神技、さすが剣聖の娘と言ったところか』
解説百代『それと足を負傷しながらも井ノ中ヨコヅナの強烈なブチかまし。与一は完全に足止したと思っていただろうからな、井ノ中は頑丈さだけなら準壁超えと言えるな」
解説石田『チーム名『不倒天剣』は大言壮語ではないということか。これは二回戦デス・ミッショネルズとの試合が楽しみだな』
解説百代『ああ、デス・ミッショネルズを優勝候補と言ってしまったが、不倒天剣が勝っても不思議ではない』
解説を聞きながら試合が終わった武舞台は、
「負けたぜ。脛に喰らって平気とはな」
「一対一だったらオラに勝ち目ないだよ。あと平気じゃないだ足痛いだよ」
「黛さん強いね、さすが剣聖の娘」
「いえいえ、そんな…葉桜先輩に押し飛ばされた時は驚きました」
不倒天剣と桜ブロッサムが闘いの後にお互いに相手の武を称え合い握手を交わす。
「俺達に勝ったからには、優勝とまでは言わねぇが二回戦は勝ってくれ」
「二回戦?相手は弁慶先輩だべ」
「デス・ミッショネルズを応援しなくて良いのですか?」
「弁慶ちゃんもヨコヅナ君達に負けたら、怒られなくて済むって与一君は思ってるんだよ」
「アルゼンチン・バックブリーカーを喰らっちまうんでな」
「ははは…まぁ一応優勝狙ってるべから、言われなくても頑張るだよ」
「ふっ、やっぱり生意気な後輩だな」
「ふふ、それじゃ優勝目指してがんばってね」
「はい!」
「頑張りますだ」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
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66話
「まゆっち、ヨコヅナくんおめでとう!勝てて良かったね!」
武舞台から戻って来た二人に祝いの言葉をかける伊予。
「かなり危なかっただよ」
「紙一重でした」
「怪我は大丈夫?」
「私は突き飛ばされただけなので大丈夫ですが…」
「ヨコっちが足に受けた矢は、常人だったら立てなくなる攻撃じゃねぇか?」
「痛いだが大丈夫だべ。二回戦も戦えるだよ」
「あ、怪我した人は川神院の医療班に治療してもらえるって聞いたよ」
「では医務室に行きましょう、ヨコヅナ君」
「……必要ないだよ。大丈夫と言ったべ」
「でも診てもらった方が」
「オラは医者とかが苦手なんだべ」
「苦手って……注射が怖いとか?あはは、そんなわけ」
「………(
「「「
「与一!、怪我は大丈夫か?」
武舞台の降りた来た与一を心配する義経。葉桜と椎名もいる。
「騒ぐんじゃねぇよ義経。これ以上くだらない大会に付き合いたくねぇから大怪我のフリしただけだよ」
「もう!与一君、義経ちゃんに心配かけたくないからって~〔パシっ〕」
「痛たぁぁっ!!!」
「早く医務室行ったほうがいいね」
「清楚先輩、与一を助けてくれた有難うございます」
「そんな……私が初めから戦っていれば…」
「…い、いや、もともと先輩は戦わないって話だったから」
「そうです。清楚先輩に責任はありません」
「まゆっちを突き飛ばしたあのパワーがあるなら……私が口出す事じゃないか」
「与一、仇は義経が討つからな」
「…ふっ、義経は姉御が負けると思っているのか?」
「『不倒天剣』の二回戦の相手は『デス・ミッショネルズ』弁慶ちゃんだよ」
「え!?、あ、いや、弁慶が負けるなんて義経は思っていないぞ!」
「…『不倒天剣』と戦うとしても決勝だし、そもそも私達これから一回戦だし」
「とりあえず今は目の前の試合だけ考えろ義経」
「そうだった!?危うく試合相手を軽んじるところだった」
「頑張ってね義経ちゃん。椎名ちゃんも」
「はい!」
「はい…(葉桜先輩って強いオーラあるな…)」
「フハハハ、ヨコと黛が与一に勝ったか」
「短かったですが見どころある試合でした」
客席でヨコヅナ達の試合を観ていた紋白とクラウディオ、それと1-S達。
「この私に勝ったのだから、当たり前だわ」
「小杉、あんたは黛さんに瞬殺されてたじゃないの~」
「素手での戦いに同意してもらった上でですな」
「あれは…一瞬だけど紙一重の勝負だったのよ!」
「フハハ、紙一重かは知らんが確かに黛は強い、四天王有力候補であるな」
「紋様ぁ、ヨコちゃんはその四天王候補じゃないのぉ?」
「ヨコは武道四天王の称号に興味ない。ちゃんこ四天王の称号なら欲しいと言っておったがの」
「ブレないわねぇ。ヨコちゃんは」
「上位入賞した場合の権利も、
「資金援助ですか?……でもそれは現金を景品にするとの同じような…」
「若者相手だから、現金ではなく現物や待遇だと聞きましたな」
「うむ、だから援助するのは資金ではなく人材にした」
「人材…料理人ってことですか?」
「いや料理人ではなく会計担当だ。……ヨコは期末の数学テストで平均点にすら届いておらんでな」
「「「「それは酷いですね」」」」※特進クラスのS組では平均点ですら恥ずべき点数。
「そんなヨコからすれば、九鬼が推薦する会計担当は、大会で上位入賞して欲しい権利ということのだな」
「…上位入賞って、ヨコちゃんは正確には何位になればいいの紋様?」
「ヨコと交わした契約は最低でもベスト4以上。つまり次の対デス・ミッショネルズ、弁慶に勝つ事が最低条件になる」
「武蔵坊弁慶に勝つ事が最低条件とか、ハード過ぎだわぁ…」
「フハハ、花芽はヨコを応援しているのだな」
「同じ料理部だものぉ。好みのタイプとは違うけど大切なオトモダチよぉ」
「では花芽は、将来ヨコが経営するちゃんこ鍋屋で働きたいと思うか?」
「他にやりたい事が無かったらってところかしらねぇ。料理部の皆も冗談半分によく言ってるわ、「やりたい仕事に就けなかったらヨコちゃんに雇ってもらおうかな」って」
「…そうか(ヨコにも人の上に立つ素質は少なからずあるようだな)」
「紋様は誰を応援しているのですか?」
「フハハハ、我が応援するのは『フラッシュエンペラー』に決まっておろう」
「「「あぁ~、確かに決まってますね」」」
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67話
大会は順調に進み(ミステリータッグが九鬼揚羽とヒュームだったというサプライズもあったが)、二回戦第二試合。
実況百代『さぁ、注目の試合が始まるぞ!優勝候補の一つ『デス・ミッショネル』VS英雄那須与一を破った『不倒天剣』だ!』
実況石田『井ノ中はこれまで女性とは戦わないようにしてたみたいだがこの試合はどうするのか』
実況百代『さすがにまゆっち一人に戦わせたりはしないだろう。それに弁慶はヨコヅナとやる気のようだしな』
『デス・ミッショネル対不倒天剣! 両チーム前へ』
武舞台で向かい合う両チーム。
「やぁ、ヨコヅナ君。負けないよ~」
「辰さん、珍しくやる気出してるだな」
試合前でもお互いニコニコ笑顔で話すヨコヅナと辰子。
「それに弁慶先輩も」
普段の弁慶はものぐさなイメージが強いのだが今日は、いや、今は特にやる気が感じられる。
「一つ提案してもいいかな」
弁慶はそう言ってガズンッと錫杖を武舞台の中央に突き刺す。
「ここを中心に左右に分かれて一対一で戦わないかい?」
「…どっちがどっちと戦うだ?」
「私対ヨコヅナ、辰子対黛でどうかな」
弁慶の提案はヨコヅナ達としても悪いものではない。元々どちらかをヨコヅナが足止めしている間に、もう一人をまゆっちに倒してもらうつもりでいた。
そして辰子が本気にならなければ、弁慶よりも倒せる可能性は高いと考え、
「いいだよ。まゆっち、辰さんは任せるだ」
「はい、ヨコヅナ君も気を付けて」
「辰子、相手の女の子強いけど少しの間お願いね」
「うん、わかった~」
話が纏まったところで、お互いが左右に分かれる。
解説百代『どうやら両チームで話し合って一対一を二つ行うようだぞ』
解説石田『タッグマッチの意味がなくなるが、まぁどう戦うかは本人達の自由だからな』
「オラとの一対一を望んだのは、与一先輩の敵討ちだべか?」
「それも含まれてるかな、何より体育祭で義経が泣かされちゃってるからね」
「オラはマントマンじゃないべ」
「それを素直に信じるのは義経ぐらいだよ」
体育祭の障害物リレーで敗北感を味わった義経は、九鬼ビルに住むようになったヨコヅナに手合わせを申し込んだ事があった。だがヨコヅナが「オラはマントマンじゃないべ」と言ったら「そうなのか!?みんながヨコヅナ君だと言っていたからてっきり。誤解してすまない」と簡単に信じたのだ。
「ヨコヅナが悪いわけじゃないけど、折角の機会だから主の屈辱を晴らさせてもらうよ」
『では二回戦第二試合も張り切って、レディゴーッッ!!』
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68話
試合開始と同時に、
「まずは力比べといこうか」
弁慶は素早く近づき両手を出す、
ガシっ!
ヨコヅナもそれに合わせるように両手を出して組み合い、手四つになる。
ピシっ!ギシっ!!
両者の動きは止まっているが、踏ん張る力の反動により石造りの床に罅がはいる。
「…凄い力だべな」
「…ヨコヅナもやるね~」
解説百代『ほぉ、弁慶相手に互角とは、大したものだな井ノ中』
英雄武蔵坊弁慶相手に押されも投げられないもしないヨコヅナを見て感心する百代。
解説石田『…弁慶は予選で島を軽々と放り投げていた。井ノ中は島より重くパワーもあるだろうが…、それだけが理由ではないな』
解説百代『ああ、井ノ中が弁慶と互角な一番の理由は技術だ。さすが力士と言ったところか』
百代の解説通り、手四つの状態は単純な力比べにも見えるが実際は、押す押されない投げる投げられないの技術は重要。
弁慶はヨコヅナぐらいの体重の相手なら放り投げる事は可能、そうさせないようヨコヅナは技術を使って互角に渡り合っているのだ。
「ところで、杖を突き刺しまま素手なのは、オラに合わせて、くれてるんだか?」
「まぁね、汚名返上もしないといけないから、一年相手に武器を使って勝っても、意味がない」
「英雄だから、勝ち方にも、拘るって事だべか」
「もし私に、土を付けることが出来たら、負けを認めてあげるよ」
「その言葉、忘れないでくれだべ」
一方、由紀恵対辰子は、
「ヤァーっ!!」
由紀恵が連続の斬撃を繰り出す。
「わぁっ、うぁっ、痛っ痛っ」
辰子は全てを捌ききれず、何撃か喰らうも、
「このぉー!」
力の籠った拳を繰り出す。
由紀恵は回転するように拳をかわししつつ、その勢いのまま辰子の延髄に攻防一体の斬撃。
「わ、危ない~!」
しゃがんで紙一重でかわす辰子。
「この子ほんとに強いよぉ~」
一応由紀恵が優勢ではあるが、
(…急所への攻撃は的確に防がれる。それにあの拳、一発でももらえば危ないですね)
直ぐに倒せるほど実力差はない。
観客席の紋白は、
「少々舐め過ぎのように思えるな…」
その言葉を聞いて、
「今耐えてるだけでも凄いですけど、さすがに武蔵坊弁慶相手に真向勝負は無謀ですよね」
武蔵小杉はヨコヅナが弁慶相手に正面から組んだ事を指摘したのだと思った。
だが、
「我が言っておるのは逆だ、正確には相撲を舐めている言うべきか。…もしヨコが弁慶にも勝ってしまったら…少々複雑だな」
「ヨコちゃんが勝っても紋様は嬉しくないのぉ?」
「我の専属従者であるヨコが勝つ事自体は嬉しい。だが武士道プランの意義が下がってしまう」
「そうですね。ヨコヅナ君は唯の学生でしかありませんから」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
こちらも読んで頂ければ幸いです。
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69話
弁慶は横目に辰子の様子を見て、
「どうやら悠長にしている暇はなさそうだね」
由紀恵に辰子を倒される前にヨコヅナを倒さなくてはいけない。そう思った弁慶は手四つの状態のまま、蹴りを出そうと僅かに重心を変えようと…
「っ!?」
その瞬間弁慶は体勢を崩され僅かに膝が落ち、蹴りが出せなくなる。
「力士相手に簡単に組んだこと後悔するんだべな」
解説石田『互角どころか井ノ中の方が押している!?』
解説百代『…力の流れを把握しているな』
「この程度で、調子に乗らないことだね!」
押し返そうと力を込める弁慶。それに対してヨコヅナは左腕は引きつつ右腕の肘を弁慶に向けるように振る。
弁慶は咄嗟に右手を離す、ヨコヅナが手首の関節を極めようとしている事を察したからだ。
ヨコヅナはまだ掴んでいる左をさらに引き、一本背負いで弁慶を投げる。
「なんのこれしき!」
弁慶は投げの力に逆らわず、ヨコヅナの背で側転するようにして足から着地する。
「次はこっちの番だよ、ヨコヅナなら本気でも大丈夫だよね!」
ドスンっ!と弁慶の強烈な中段突きがヨコヅナの腹に突き刺さる。
が、
パスンっ!と間髪入れずヨコヅナの張り差しが弁慶の耳を捉える。
「腹と違って鼓膜は鍛えれないべ」
動きが止まった弁慶に素早く組み付くヨコヅナ。
右ハズ押し左おっつけの形で弁慶をドンドンと押していく。
「くっ…この…」
弁慶は何とか踏み止まろうとするが、背骨を伸ばされせられてる状態では力が入らない。いかに怪力であろうと力が入らない体制では押されてしまう。
解説百代『おっとこれは…井ノ中は弁慶を場外に押し出すつもりか?」
解説石田『相撲と違って場外に出ても、10秒以内に戻れば負けにならないのだから意味ないだろ』
石田の言う通りこの大会のルールでは場外に押し出すなど意味はない。
だが、弁慶は「土を付けることが出来たら負けを認める」と言ってしまった以上場外に出されるわけにはいかない。
「ハァーっ!!」
全力をもって踏み止まろうする弁慶。
「っ!??」
突如天地が逆転する。
全力で抵抗する弁慶にヨコヅナが完璧なタイミングで掬い投げを繰り出したのだ。
ダンっ!と背中から叩きつけられる弁慶。
解説石田『なんだと!?あの弁慶が床に叩きつけられた!?』
解説百代『見事な掬い投げだったな。相撲なら井ノ中の完勝だ』
倒れている弁慶を見下ろしながら、
「解説の言う通り相撲ならオラの勝ちだべ。まぁ武舞台は石造りだから土はついてないべがな」
「……はぁ~、まいったねぇ。汚名を返上どころか上積みしちゃったよ」
弁慶はゆっくり立ち上がり、
「審判、降参するよ。私達の負けだ」
自分の敗北を審判に伝える。
「そこまで!!勝者『不倒天剣』!」
優勝候補のデス・ミッショネルを下し、ヨコヅナと由紀恵は三回戦進出を決めた。
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70話
解説石田『何で弁慶は降参したんだ?ダメージは大したことないと思うが』
解説百代『一対一を提案した同様、二人の間で約束でもしたんじゃないか。相撲で負けたら試合でも負けを認めるとか。弁慶は場外に出ないように抵抗していたしな』
解説石田『真面に戦えば勝てる相手だっただろうに…。見てる方は少し物足りないな』
解説百代『同感だが、本人が負けを認めた以上他人がどうこう言える事じゃない。それに相撲でとは言え武蔵坊弁慶に勝った井ノ中は十分賞賛に値するだろう』
解説石田『それは俺も否定しないがな。『不倒天剣』は大会一のダークホースと言ったところだな』
解説百代『ああ、準決勝も楽しみだ』
「ごめんね辰子。勝手に負けを認めちゃって」
「ううん、いいよ~。私も痛いからこれ以上戦いたくなかったし~」
由紀恵と戦っていた辰子は中々にボロボロだ。逆に由紀恵は怪我一つない。力を開放していない辰子では倒されないだけで精一杯、負けでも良いから早く終わって欲しかった。
「ヨコヅナ君お見事でした」
「弁慶先輩が本気だったら勝てなかったと思うべ…」
ヨコヅナは鈍痛が残る腹に手を当てる。
「勝ち方に拘ったけど手を抜いたつもりも無いよ。ヨコヅナが強いから勝ったのさ」
「…先輩からの褒め言葉として受け取っておきますだ」
「ほんと強かったよ~」
「私の方も何度もヒヤっとさせられました」
一回戦同様、不倒天剣はデス・ミッショネとお互いに相手の武を称え合い握手を交わす。
「準決勝は勝っても良いけど、優勝はしないでね」
「はは、決勝は多分義経先輩だろうべからな」
「準決勝は『知性チーム』、強敵との連戦が続きますね」
「頑張ってね~」
試合を観ていた知性チームの会話。
「『不倒天剣』が勝ち上がって来たね…」
「『デス・ミッショネルズ』よりはマシな相手じゃないですか?」
「井ノ中君は大和君を狙ってくると思うよ。今の戦いを見るに捕まった時点で…それどころか小指一本引っかかっただけでも石作りの床に叩きつけられるのが確定するね」
「…頑張って逃げます」
「それしかないね。井ノ中君は女性を傷つける事を極力避けるてるから私には攻撃してこないだろうし」
「あとは燕先輩がまゆっちに勝てるかですね」
「今なら私の方が勝率高いと思うよ」
「おぉ~!さすが姉さんと互角に手合わせした燕先輩」
(でも、無傷で勝てる相手でもないんだよね。決勝もあるし、その後のエキシビションこそ私にとって本番。何とか隙をついて無傷で勝たないと…)
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