ウハウハ作戦、開始します! (ブネーネ)
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辻廉太、ウハウハ作戦幕開けです!

―――まさに青天の霹靂、突如として文科省から送られた書類にはおそましい文章の羅列が並んでいた。

即座に文科省の担当者とのアポを取り付け、討ち入りを果たすべくこれまでに起きた前例や関係する法律を読み漁り理論武装を徹底した。

ついに当日、その諸悪の根源である文部科学省学園艦教育局長との対面を果たす。

「先日の通達通り大洗女子学園は今年度を以て廃校する事に決定いたしました、学園艦も解体される事になるでしょう」

「いくら何でも急すぎます!」

「学園艦は維持費や運営費だけでもかなりのコストがかかる上、どの道来年度分の予算を組まれない学校は運営されません。そして特長や成果のない学園艦から優先的に統廃合する事になり大洗女子学園も含まれる事になりました」

そう言って提示された分厚い書類には文部科学大臣を初めとした役員達のサインと印鑑が並び、読みめていく内に素人の考えは全て潰されていることが分かった。

「ふざけるな!誰がなんの身分でこんな事をするんだ!!」

「私が学園艦教育局長という身分で、本案件の担当者として当たり前の事をしているにすぎません」

彼からは仕事をして当然であるという不遜で非情な態度と、現実から理解を遠ざける哀れな小娘を見る憐憫な瞳だけだった。

「どうにも…ならないんですか…」

柚子が俯きながら力の無いか細い鳴き声がシンと静まった部屋に満ちた、悔しいのだろう、私だって悔しい。

抱えきれないほどの思い出とあの学園艦の校風が私達に幸せな日々を与えてくれたのだ、それを否定して欲しくない、この幸せをこれからの後輩たちに分け与えたいと本気で願っているのだ。

しかしこれ以上頭の固い役人と話しても無駄だろうと思い立ち上がろうとした時、あり得ない言葉を聞いた。

 

「―――実績がなくて廃校になるのであれば実績を作ればいいでしょう」

 

誰の声だ、私達ではない男の声だ、そしてこの部屋に男は目の前の役人しかいない。

「私も学園艦教育局長として大洗女子学園には何度か視察に行っています、世界各国を参考にした学園艦にはない知波単とは違う日本らしさ、特長が無いのが特徴という穏やかな雰囲気があったのを覚えています」

私達は唖然とした、先ほどから涙を流していた二人も今やただ呆然と口を開けて男の顔を見つめるだけで何も言う事が出来ない。

「確かに特長はありませんがそういった特色を持っているのですから後は実績だけです、とは言え今から実績を作るにしても教育艦としての強みが薄いのも事実、であればそんな学校でも文科省の意見を撤回させる事が出来る大きな実績で納得させるのが一番早い」

「何を…言っているんですか」

私の頭は既に困惑でいっぱいだ、だって目の前の男は私達の学園艦を潰そうとしている筈で――――。

「あなた達は廃校を撤回しに来たのではないのですか?」

こいつらは何を分からない事を言っているんだとばかりの態度や表情も変えずに、あくまで淡々と言い放つ男がいる。

「本来であれば大洗女子学園は二学期の修了を以て廃校だったのです、私も撤回は出来なくとも時間稼ぎの為にあと三年程は継続出来る様に意見書を提出したのですが今年度までが限度でした、そして統廃合の件の報告も遅れてしまった事は謝罪します」

そう言って深く、たかが18才の何も力も持たない小娘達に頭を下げた。

「私達の学校が……無くならないチャンスがあるんですか」

「その通りです、こちらをご覧下さい」

そう言って引き出しから取り出したのは先ほどの統廃合の決定書よりも何倍も分厚い書類の束だった。

「文科省はあくまで組織の一つであればこそ切れない関係や縛りというアキレス腱があります、その中でも特に文科省の致命傷となるのが戦車道です」

戦車道、良妻賢母をとなるべく綿々と続けられてきた乙女の嗜み、そして私的公的に関わらず国の中で最大の規模を持つスポーツだ。

「丁度文科省も数年後の戦車道世界大会に向けて日本プロリーグ設立の為に四方八方に手を伸ばしているので利用しましょう、それこそ『高校生戦車道全国大会優勝』の実績を示しさえすれば世間が味方となり廃校は許されない筈です」

「何で……だって大洗女子学園は廃校になる筈で……それに貴方には何のメリットがあるんですか」

「何かおかしい事を言っていますか?あなた達の様な子供が憂いなく健康に育つ場所を用意するのが学園艦教育局長の仕事です」

まさか死の判決を下されると思われた場所で、最大の希望の天啓を受けるとは誰が予想できるだろうか、しかもこの男は文科省という組織の決定を真っ向から否定したのだ。

「大洗女子学園はかつて戦車道が盛んだったと聞いていきます、まずは残っている戦車を探してください。それと戦車道を受講する学校には助成金がでます、その書類の束の中に記入が面倒な部分を埋めた書類が入っていますので忘れずに提出して下さい」

「あなたを信じていいんですか」

「ご自由にしてください、それと戦車道で優勝できない限り廃校撤回の可能性が無い事はお忘れなく」

「……ありがとうございます」

柚子が一転して泣きながら笑う、河嶋はただ只管むせび泣く、私は……決意を固めて目の前の男に宣誓をする。

「ここまで手を尽くしてくれたのであれば、私も絶対に優勝を手に入れます」

「そうですか、頑張ってください」

まるで他人事のように話す彼の瞳にはかすかに安堵の情が浮かんでいた、この人がお膳立てしてくれたチャンスを無駄にしない為に今度は私達が頑張る番だ、泣きじゃくる河嶋を引き摺り退室しようとした。

「少し待ちたまえ」

「はい?」

「私のメールアドレスを教えておきます、おそらく返事は出来ませんがそちらで何かあった時は連絡を下さい」

「ありがとうございます」

「それとこれも」

「へ?」

「これが大洗周辺の融通の効くパーツショップの協力を取り付ける書類、こっちが学園艦の偵察に向かう際に協力してくれる企業の一覧、それに練習試合をする際に必要な手順をまとめた書類、加えて戦車道連盟の――――」

そう言うと役人は引き出しから出るわ出るわ分厚い書類の束が、ここで遂に男の正体に気付く。

 

―――ああこの人、自分の信念なのか役職としての姿なのかは分からないけど()()()()()なんだ。

 

少女は彼と出会えた運命に感謝した。

 

 

 

 

 

少女達が文科省庁から出て行った事を確認すると男はネクタイを緩めて姿勢を崩した。

彼はガールズ&パンツァーの世界を知っている人間だった、少女達の苦難と栄光の軌跡を追いかけ続けた人間だった。

そんな彼がこの世界に記憶を持ったまま来たのは偶然ではあったのだが神に感謝した。

そんな彼が何を望むのか、その崇高なる目的はとは何か。

 

 

――――20年以上前から布石を打ち、その職権を濫用しつつ歴史を改変し、ガルパン少女の新たな一面を収集する事。

 

名付けてウハウハ作戦です!!




言いたいことは分かるが赦しは請わぬ。

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