覚妖怪は仮想世界にのめり込む (五月時雨)
しおりを挟む
さとりはさとる
速度特化更新はもう少し待ってて。
―――二面性。
人は誰しも、表の顔と裏の顔を持っている。
社会的動物である人間は表で人当たり良く、明るく振る舞い、裏では悪感情を吐露する。
いわゆる、『良い子』を演じている。
例え『良い子』を演じていなくても、内心では全く違うことを考える。
例えば、そう。
非常に真面目に授業に取り組んでいるように見えて、実は『面倒』や『早く終われ』なんて考えるのはザラだ。
内気な人間でも、内心では他者に悪態をついたり、見下したりなんて当然のようにしている。
私は、そんな人間が気持ち悪くて。
そんな世界が、私には耐え難くて。
表も裏もない、純粋な人間はいないのかと。
純粋な者だけの、単純な世界は無いのかと。
そう、望み続けている。
◇◆◇◆◇◆
幼い頃。この
人の心が、感情が聞こえる。
外面に表出した言葉ではなく、もっとドロドロして、混沌とした、あらゆる感情が混ざり合った表現し得ぬ情動のうねり。
それが私には知覚でき、そこから表出した、その人間の本音。それが、私には認識可能な言語として聴き取れた。
「……ありがとう。本当にいい子ね」
言祝ぐような、柔和な口調。
優しく私を見つめる視線。
暖かく包み込む両腕。
その全てが。
(気味悪い!気味悪い!気味悪い!私は何も言ってないのに、なんで伝わるのよっ!)
ガンガンと響く母の怒声に、塗り潰される。
この怒声が、実際の『母の声』を伴っていないことは分かっているが、それでも母の声として聞こえてしまうのだから始末に負えない。
母の手伝いをしたくて、母が思った通りのことを、言われる前にやった。
それが一回なら、手放しに褒めてくれた。
二回なら、『よく分かったわね』と微笑んでくれた。
三回なら、『凄いじゃない』と頭を撫でてくれた。
けど四回目には、『ねぇ、なんで分かったの』と怪しんでいた。
五回目には『この子は気味が悪い』と、恐怖が滲んでいた。
六回目には、『おかしい、おかしいおかしいおかしい!』と、母の感情を畏怖が占めた。
七回目は、やる前に「私がやれる事はあるか」と聞いた。『なぜ私が人手がほしい時に都合よく』と更に恐怖が増した。
八回目に、私は言った。「お母さんが思ったことをしているだけなのに」と。『意味が分からない』という困惑の感情が、母を支配した。
幼い私には、なぜ拒絶されているのか分からなかった。しかもこの全てで、表面上は『ありがとう』と優しくお礼を言うのだ。訳がわからない。
私に向けてくる、恐怖に滲む感情か。
私に伝えてくる、優しい言葉か。
どっちの母を信じれば良いのか、私には分からなかった。だから私は、こっそり確かめたのだ。
本来なら私が寝ている時間に、父と母だけになるリビングにこっそりと赴き、ドアの向こうから聞こえる口論に耳を傾けた。
「あの子はおかしいのよ!私が口に出す前に先読みしたかのように全部やってる!気味が悪いわ!この前なんて『思ったことをしている』と言っていたわ。ねぇこの意味がわかる!?あの子は心が読めるのよ。普通じゃないわ!」
……あぁ、そっか。と。その時、私の中にあるのは、確かに落胆だったのだろう。
心のどこかで、期待していたのだ。私が聞こえる『声』は、間違っているのだと。
口に出すその言葉こそが真実で、聞こえてくる
そんな淡い期待は微塵に砕かれて、残ったのは『私は普通じゃない』という決定的な事実。
あぁそうだ。
私はこの時、私の名前の通り
そして、こうなってしまった母を見て、またも
あぁきっと。
私は普通の人間では無いのだろう。
人の心を慮る。それが『人』の限界で、『私』はそれを超えてしまったのだろう。だから心が、感情が聞こえるし、容易に人を傷つけてしまう。
そんな私が、このまま『人の世』を生きて良い訳がない。
いつか絶対に、この能力は人に知られ、人を傷つける。だったら……そう。
「できるだけ、人と関わらずに過ごしましょう」
主人公の名前を一度も出さない大胆さ。
さとりが地霊殿に引きこもってるように、オリキャラのさとりも基本的に引き篭もります。
その理由的な感じのプロローグ。NWO要素皆無とか言っちゃいけない。
目次 感想へのリンク しおりを挟む